つよきす 愛羅武勇伝 (神無鴇人)
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登場人物紹介

原作キャラ(主要人物)

 

対馬レオ

本作の主人公、2年生。

幼少の頃に乙女さんに負かされ、リベンジを決意したことをきっかけに空手を始める。

高いセンスでメキメキと実力を付け、当時は期待の新星として将来を嘱望されていたが中学時代にある事件をきっかけに障害沙汰を起こし破門され、通っていた中学も半ば強制的に転校させられる。

その後中学卒業を機に地下闘技場に足を踏み入れる。

超人的な戦闘力を持つチャンピオンクラスのファイターとの実力差に一度は挫折を味わうも、ジョン・クローリーの訓練を経て実力を大幅にアップさせ、闘技場のミドル級チャンピオンに君臨するに至り、ついには乙女さんにリベンジするという悲願を達成する。

性格は割と軟派で原作と比べて(スバルほどではないが)飄々とした面が強い。

非常に身軽で抜群のバネを持ち、戦闘ではスピードと手数で圧倒する戦法を得意とするスピードファイター。

パワー面は乙女さんより少し劣るが握力だけなら乙女さん以上。

原作同様テンションに流されることを嫌うが、それでも自分がテンションに流されやすい性分という事実は受け止めており、勝負事などに関してはテンションに流されることを一切躊躇わない。

強くなるという事にはかなり貪欲。

両親は現在外国にいる。

身長・175cm

好きなもの(事)・ボトルシップ 強くなったと感じる瞬間

嫌いなもの(事)・テンションに流されること 下衆野郎

好きな食べ物・スバルの手料理

大切なもの・教官から貰ったサングラス ボトルシップコレクション

戦闘スタイル・空手主体マーシャルアーツ

趣味・ボトルシップ作り トレーニング

特技・軽業 けん玉

口癖・『コノヤロウ』

取得タイトル・地下闘技場ミドル級チャンプ 地下闘技場ブラスナックルトーナメント優勝

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・鉄装拳

    我流連撃・風林火山

    トルネードアッパー

    メガスマッシュ

    アイアンクロー

    残像拳

    テキサスコンドルキック

    スパイラルレッグボマー

    ライトニングラッシュ

    修羅旋風拳

    気掌旋風波

    爆風障壁

    獅子王乱舞

    蒼天空烈弾

キャッチコピー・『疾風迅雷の若獅子』

 

 

鉄乙女

レオの従姉、3年生。

実直で厳格、かつ堅物な性格の竜命館風紀委員。幼い頃からレオの姉代りの様な存在。

拳法部主将を務め、超人的な戦闘力を持ちその実力はレオとほぼ同等。

自堕落気味なレオを当初は見くびっていたが予想を遥かに上回るレオの実力を見てレオへの認識を改め、レオとの戦いに敗れてからはお互いに良きライバルとして認め合う関係になる。

原作同様年功序列に拘る傾向が強いが、レオに敗れた事をきっかけに少し薄れている。

身長・160cm

3サイズ・B83W56H63

一人称・私

血液型・A型

強気属性・規律(生真面目)

好きなもの(事)・努力 家族

嫌いなもの(事)・軟弱なもの 雷

好きな食べ物・おにぎり

大切なもの・家族、愛用の刀

戦闘スタイル・鉄流拳法

趣味・風呂(中で歌うタイプ)

特技・制裁蹴り、説教

取得タイトル・拳法全国大会優勝

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・真空鉄砕拳

    青嵐脚

    疾風突き

    波動光弾

    降龍脚

    残像拳

    千烈乱舞

    零気光撃弾

    地走流弾

    爪嵐撃

    滅式

    滅・真空鉄砕拳

キャッチコピー・『鉄の風紀委員』

 

 

蟹沢きぬ

レオの隣人兼幼馴染で対馬ファミリーの一員、2年生。通称『カニ』

底抜けに明るい性格で色んな意味でおバカ。

非常に口が悪く誰に対してもタメ口で超が付くほど短気で負けず嫌いだが根は単純でおだてに弱い。

背が低くて貧乳、きぬという名前、これら全てにコンプレックスを抱いており、それを指摘されるとキレる。

しかしその反面誰にでも分け隔てなく接し、常に前向きなため男女問わず友達は多く、地味に男子からモテる(ただしすべて断っている)。

なごみとは犬猿の仲でいつも喧嘩ばかりしている。

気は強いが涙腺が緩いためすぐに泣く。ただし本人は「泣いてない、泣いてないもんね!」と言って否定している。

レオが道場を破門された一件から近衛素奈緒の事を激しく嫌っており、原作以上に関係は最悪。

家庭内では優秀な兄と比較され出がらし扱いされているが本人は全く気にしておらず、日々楽天的に生きている。

身長・149cm

3サイズ・B79W50H79

一人称・ボク

血液型・B型

強気属性・快活

好きなもの(事)・面白いもの

嫌いなもの(事)・おばけ 椰子なごみ(嫌) 近衛素奈緒(憎) 自分の名前と幼児体型

好きな食べ物・海軍カレー

大切なもの・デッドグッズのコレクション

戦闘スタイル・喧嘩

趣味・ゲーム デッドのCDを聞くこと

特技・タメ口

力・☆☆

速・☆☆☆☆

技・☆

防・☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆

知・☆☆

必殺技・タメ口

    喧嘩殺法タコ殴り

    跳び蹴り

    ヘッドスピンアタック

キャッチコピー・『愛すべき馬鹿』

 

 

霧夜エリカ

レオのクラスメート、竜命館の生徒会長、2年生。

世界有数の大企業「キリヤカンパニー」の令嬢で日米ハーフ。米軍基地内に自宅(邸宅)を構えている。

容姿端麗で頭脳明晰、更には運動神経抜群だがその反面性格は傲岸不遜で傍若無人。更に美的センスもおかしく、たまに変なものを欲しがる一面もある。

しかし自分に正直なその姿勢から高いカリスマ性を持ちファンは非常に多い(敵も多いが……)。

おっぱい大好きなおっぱい星人で可愛い女の子によくセクハラをしている。

レオと悪友の様な関係でレオが通う地下闘技場は彼女の実家が経営しており、同時に霧夜家のボディガード選抜施設でもあるため、そこを通じてレオと親しくなった。

偶に乙女や館長から武術指導を受けているので戦闘力も結構高く、並のチンピラでは相手にもならない。

身長・165cm

3サイズ・B84W57H86

一人称・私

血液型・A型

強気属性・高飛車・傲慢

好きなもの(事)・佐藤良美 宝石 猫

嫌いなもの(事)・芸術(美的センスゼロ)

好きな食べ物・チョコレート

大切なもの・よっぴー(良美)

戦闘スタイル・マーシャルアーツ

趣味・セクハラ

特技・命令

力・☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・お嬢様キック

    お嬢様デッド・エンド

    お嬢様ネリチャギ

    お嬢様バイシクルアタック

    お嬢様ファイヤーストリーム

    ライジングサン

    ブレイブトルネード

    ローリングファング

    ローリングトマホーク

キャッチコピー・『傍若無人なカリスマ姫』

 

 

椰子なごみ

レオの後輩、1年生。

なごみという名前とは正反対に無口でクールな性格。

静寂を好み他人からの干渉をとことん嫌っており、自分に必要以上に干渉する者には容赦なく罵声を浴びせる。

ナイスバディで美人で誰にも媚びない態度をエリカに気に入られ、エリカの指示を受けたレオから生徒会へ勧誘される。

当然干渉を嫌う彼女はこれを頑として拒否、飄々とした態度のレオに苛立つが後に不良に絡まれている所をレオに助けられ、借りを返すという名目で生徒会への入会を承諾する。

普段はつけないが近眼なので目を使う仕事の際は眼鏡を着用している。

蟹沢きぬとは犬猿の仲。

身長・170cm

3サイズ・B87W57H88

一人称・あたし

血液型・O型

強気属性・孤高

好きなもの(事)・静寂

嫌いなもの(事)・干渉 蟹沢きぬ 対馬レオ

好きな食べ物・辛いもの

大切なもの・母 父(故人)

趣味・料理(秘密)

特技・ガンつけ 罵倒

力・☆☆☆

速・☆☆☆☆

技・☆☆

防・☆☆☆☆

体・☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・罵詈雑言

キャッチコピー・『孤高のクールビューティー』

 

 

佐藤良美

レオのクラスメート、竜命館の生徒会長、2年生。

エリカの親友でレオのクラスの委員長。

温和な性格で誰にでも心優しく接するため、学内では人気が高い。

しかし時折腹黒い一面を見せる事も……。

身長・158cm

3サイズ・B88W59H88

一人称・私

血液型・A型

強気属性・???

好きなもの(事)・霧夜エリカ 暖かいもの

嫌いなもの(事)・寒さ 裏切り

好きな食べ物・うなぎ料理

大切なもの・エリー(霧夜エリカ) 

趣味・家事全般

特技・サポート 家事全般

力・☆☆

速・☆☆☆☆

技・☆

防・☆

体・☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・さりげなく止めを刺す

キャッチコピー・『温厚可憐、時々腹黒』

 

 

近衛素奈緒

レオの中学時代のクラスメート。2年生。

責任感と正義感か目茶苦茶強い2−A所属の演劇部部長。

乙女さん以上に堅物で融通の利かない性格で納得のいかない物事には徹底的に反発する。

過去のある事件からレオに対して一方的に嫌悪しており、カニをはじめとする対馬ファミリーとは今もなお険悪な関係で、特にカニとの関係は最悪すら通り越している。

身長・163cm

3サイズ・B79W53H77

一人称・アタシ

血液型・O型

強気属性・主人公嫌悪系

好きなもの(事)・頑張る事 鉄乙女

嫌いなもの(事)・意志を貫けない事 霧夜エリカ

好きな食べ物・ピーナッツバターつき食パン 豆乳

大切なもの・正義

趣味・演劇

特技・演劇

力・☆☆☆

速・☆☆☆☆☆

技・☆

防・☆☆

体・☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆

必殺技・強気な態度

    威厳の無い説教

キャッチコピー・『頑固一徹強気っ娘』

 

 

橘瀬麗武

 母の形見である刀『地獄蝶々』とレオを狙い竜命館に乗り込んできた松笠海軍総司令・橘幾蔵の一人娘で龍命館館長・橘平蔵の姪。

橘家に伝わる銘刀『曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』を操る剣士。

「力こそ全て」という考えを持ち、独裁政治で我道を邁進するクーデレ少女。

原作と違いレオとは面識があり、レオに対して既に恋愛感情を持っている。

長い期間海の上で生活し、己を磨き抜いていたため乙女さんとまともに渡り合える程の戦闘力を持つが、その反面おつむはイマイチ。

身長・159cm

3サイズ・B82W54H83

一人称・私

血液型・B型

強気属性・クーデレ

好きなもの(事)・リボン ナイフ 絶対的な力 対馬レオ 

嫌いなもの(事)・弱い奴 非力な奴 数学関係の教科

好きな食べ物・レーション ミネラルウォーター

大切なもの・愛用の刀『曼珠沙華』

戦闘スタイル・剣術 軍式格闘術

趣味・リボン集め ナイフ集め 一人黒ひげ ダーツ

特技・ダーツ

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆

必殺技・迅雷脚

    閃光斬

    獣王拳

    断空連脚

    神突

    鉄装剣

    死殺技・鳴雷

キャッチコピー・『雷鳴の白銀剣士』

 

 

大江山祈

 竜命館の英語教師でレオ達の担任。

美人で巨乳の女教師である事に加え、常に飄々として他人に媚びた態度を取らないため男女共に人気は高い。

しかし授業はスパルタで日常生活でも度々毒舌を吐くので(主にフカヒレなどがその犠牲になっている)恐れられてもいる。

レオやカニでさえ彼女には逆らえない。

占いや魔術など奇妙な特技を多数持っている。

性格は基本的に面倒くさがりで生徒会の顧問になっているのも仕事中に堂々とサボれるという理由から。

2−Aの担任である霧島あかりとは敵対関係のため、2−Cと2−Aの仲が悪い一因になっている。

原作では攻略ヒロインの一人だったが本作では彼女のルートを作るか否かは現在未定である。

身長・155cm

3サイズ・B90W59H90

一人称・私(わたくし)

血液型・AB型

強気属性・天然

好きなもの(事)・可愛い生徒 動物 童話 

嫌いなもの(事)・面倒くさいもの

好きな食べ物・駄菓子

大切なもの・姉の写真

趣味・ペットと遊ぶ ドライブ

特技・占い まじない 人相見

力・☆

速・☆

技・☆☆☆

防・☆☆☆

体・☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・黒魔術

    4と3/4チャンネル

キャッチコピー・『2−Cの女帝』

 

 

伊達スバル

レオの親友であり、幼馴染。2年生。対馬ファミリーの一員。陸上部所属の中距離ランナーで部内ではかなり期待されている実力者。

言葉遣いが粗暴で男子からは恐れられているが、長身でイケメンのため異性受けは良い。

基本的に他人に無頓着で常に飄々としており、他人がどうなろうと構わないというスタンスだが気を許した相手には惜しみない友愛を示す情に厚い男。

喧嘩もかなり強く、生徒会の中では(かなり差はあるが)レオと乙女に次ぐ戦闘力を持つ。

陸上での挫折をきっかけに酒びたりになった父親を激しく嫌っており、自分に父親と同じ血が流れていることさえ嫌悪している。

普段は売春まがいのバイトで金持ち女の夜の相手をして金を稼いでいる。

身長・182cm

一人称・オレ

血液型・O型

好きなもの(事)・ブルマ 母子相姦

嫌いなもの(事)・父親

大切なもの・仲間

戦闘スタイル・喧嘩

趣味・家事 裁縫

特技・家事全般

力・☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆

知・☆☆

必殺技・爆裂拳

    タイガーキック

キャッチコピー・『情に厚いアウトロー』

 

 

鮫氷新一

レオの幼馴染。2年生。通称『フカヒレ』。

対馬ファミリーの一員。スケベでお調子者、二次元をこよなく愛するオタクでレオの悪友。

超がつくほどのヘタレで二次元に逃避しやすい典型的な駄目人間。

本人は女にモテたいと心から願っているが自分の欲望をストレートに口に出したりする等のお下劣な悪癖を持っているため女子からの人気は極めて低い。

女にモテる為なら悪巧みからストーキングまで何でもやってのけるが基本的に浅知恵なので全て失敗する。

しかし決して悪人ではなく、どこか憎めない存在。

戦闘力は非常に低いが精神的なタフネスと生命力だけは凄い。

美人だがドSな姉がおり、かつてトラウマになるほど苛められた経験があり、彼の最大の弱点となっている。

トラウマ克服のため『女は男に尽くすべし』といった持論を掲げてはいるがその持論を実現できた例は一度たりとも無い。

身長・170cm

一人称・俺

血液型・A型

好きなもの(事)・二次元 美人 金

嫌いなもの(事)・生意気な女 姉

好きな食べ物・美人の手料理(食べた事は無い)

大切なもの・愛用のギター

戦闘スタイル・喧嘩

趣味・ゲーム インターネット ギター

特技・ギター

力・☆

速・☆☆☆(逃げ足だけは通常の2倍)

技・☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆

知・☆☆☆

必殺技・ストーキング

キャッチコピー・『皆の心の友』

 

 

 

サブキャラクター

 

村田洋平

2−A在籍の男子。拳法部所属。

学年2位の学力を持つ秀才で拳法部内でも乙女さんに次ぐ実力者。

霧夜エリカファンクラブ会員。

レオやスバルをライバル視しているが、まともに相手にされることは少ない。

不細工な顔の妹が12人いるという地獄育ちの男として有名。

実力派だが感情に流されやすい面が強いため、一度窮地に立たされると実力を発揮できなくなってしまう弱点を持つ。

一人称・僕

身長・170cm

血液型・AB型

好きなもの(事)・凛々しい女性

嫌いなもの(事)・いじめ

大切なもの・仲間 妹達

戦闘スタイル・拳法

口癖・「難儀だな」

趣味・ファンクラブ活動

特技・世話焼き

力・☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・ハイキック

     ガトリングガン

キャッチコピー・『2−Aの理性を持った狼』

 

 

西崎紀子

2−A在籍の女子。広報部所属。

気が弱く口下手だががんばり屋な性格の少女。

かわいい系で意外と運動神経も良く、スタイルも良いため男子からの人気は高い。

作者である神無鴇人はつよきす3学期プレイ中に何度か彼女に戦慄を感じている。

身長・160cm

3サイズ・B86W58H86

一人称・わたし

血液型・O型

好きなもの(事)・カメラ

嫌いなもの(事)・数学

大切なもの・友達

口癖・「くー」

趣味・写真撮影

特技・写真撮影

力・☆

速・☆☆☆☆

技・☆☆

防・☆

体・☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆

必殺技・意外なところで見せる天然ぶりと抜け目無さ

キャッチコピー・『2−Aのマスコット娘』

 

 

橘平蔵

竜鳴館館長。拳法部顧問。

レオと乙女をはるかに上回る戦闘力を持つ竜鳴館最強の漢(おとこ)。その実力は米軍に「彼が戦争に参加していたアメリカは負けていた」と言わしめるほど。

厳格そうなイメージと外見とは裏腹に柔軟な思考を持ち、特に「侠」「義」「漢」の3つの内、これらの単語が一つでも入っていればどんな陳情でも認めてしまう。

豪快かつ熱い人柄から生徒達(特に体育会系)からは慕われている。

身長・185cm

一人称・儂(わし)

血液型・B型

好きなもの(事)・漢気

嫌いなもの(事)・現代人の軟弱さ

好きな食べ物・肉

大切なもの・漢気

戦闘力測定不可能

必殺技・不明(存在そのものが必殺技)

キャッチコピー・『生まれるのが遅すぎた竜』

 

 

土永さん

 祈先生のペットの人語を解するオウム(カニからはよくインコと間違えられている)。

元々は露店で10円で売られていた所を祈先生に買い取られ、彼女のペットになった。

嘘か真かは不明だが祈先生の家の洗濯物は彼が担当しているらしい。

シニカルな性格で自分が非現実的な存在であるにも関わらず非現実な事が嫌いな現実主義で度々人生に役立つ話を語る(しかしその内容は昭和初期)。

世界の果てで彼の同族を見たという情報があるが真意の程は定かではない。

乙女さんに惚れているが成就することは決して無い。

一人称・我輩

好きなもの(事)・サングラス

嫌いなもの(事)・非現実的な事 夢見がちな亀公

好きな食べ物・鳥のから揚げ 焼き鳥

大切なもの・愛用のサングラス

特技・渋い声で人生論を語る

力・☆

速・☆☆☆

技・☆

防・☆

体・☆☆

知・☆☆☆☆☆☆

必殺技・嘴で突く

キャッチコピー・『謎の怪鳥』

 

 

 

ゲストキャラクター

 

ジョン・クローリー

龍虎の拳シリーズのキャラクター。

元海軍のパイロットで『蒼い疾風』の異名を持つ歴戦の勇士。

愛用のプロペラ機の修理費を稼ぐため日本での格闘訓練合宿の教官を請け負い、レオを超人的なファイターに育て上げる。

身長・182cm

血液型・B型

好きなもの(事)・空を飛ぶ事 60&sロック

嫌いなもの(事)・辛い食べ物

好きな食べ物・ゼリービーンズ スコッチケーキ

大切なもの・愛機『FIRE BOY』

戦闘スタイル・マーシャルアーツ+オリジナル殺人術

趣味・飛行機の操縦

特技・飛行機の操縦

戦闘力測定不可

必殺技・メガスマッシュ

    フライングアタック

    スパイラルレッグボマー

    オーバードライブキック

    スピニングクラッシュ

    メガスマッシャー

    アトミックスマッシュ

キャッチコピー・『死を呼ぶマッド・ネイビー』

 

 

柊空也

『姉、ちゃんとしようよっ!』からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。

数年前に破天荒な父(養父)によってサウスタウンの極限流空手道場に入門させられ、そのままそこで約半年間修行して格闘技に目覚め、格闘として家て大きく成長する。日本に帰国後は地下闘技場のスーパーウェルター級チャンピオンとして君臨していた。

現在は実家のある鎌倉に帰郷したためチャンピオンの位を返上し、狂犬(マッドドッグ)の地下闘技場からは引退。鎌倉の実家で6人の姉と共に暮す傍ら、空手教室の講師を勤め、格闘バー「PAOPAOカフェ日本・鎌倉支店」のチャンピオンに君臨している。

レオと錬の二人とは階級が違うがそれぞれライバルとして認め合い、鎬を削りあった間柄で今でも時折連絡を取っている。

戦闘力はレオとほぼ互角。レオ達三人の中では最も正式な修行期間が長いため技の錬度とキレはピカイチ。

余談ではあるが彼の師匠であるリョウ・サカザキとその父にして極限流創始者、タクマ・サカザキは空也を極限流師範代にしようと考えている。

一人称・俺

職業・空手教室の講師

好きなもの(事)・馬 バイク(二つとも師匠の影響)

嫌いなもの(事)・害虫(特に自分が育てた野菜に害を成す奴)

好きな食べ物・納豆(師匠の影響)

大切なもの・姉達

戦闘スタイル・極限流空手(+我流アレンジ)

趣味・鍛錬 バイク 家庭菜園(作った野菜は大概姉(三女)に持っていかれる)

特技・家事全般 氷柱割り ビール瓶切り

取得タイトル・元地下闘技場スーパーウェルター級チャンプ PAOPAOカフェ日本・鎌倉支店格闘トーナメント優勝

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・虎煌拳

    虎煌撃

    虎咆

    飛燕疾風脚

    暫烈拳

    覇王翔吼拳

    龍虎乱舞

    真・天地覇煌拳

    絶・龍虎乱舞

キャッチコピー・『天をも越える昇龍(のぼりりゅう)』

 

 

上杉錬

『君が主で執事が俺で』からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。

数年前、仕事で日本に滞在中だった韓国人のテコンドーチャンピオン、キム・カッファンと出会い、数ヵ月間テコンドーを学び、それから数日後、酒びたりで家庭内暴力を振るっていた父親(泥酔状態)をテコンドーの技でKOして姉の美鳩と共に家出する。

それから約1年半の間地下闘技場と日払いのバイトで生活費を稼いでいたがふとしたきっかけから七浜市に邸宅を構える久遠寺家に拾われ、その屋敷の執事兼ガードマンとして雇われる。

執事生活の中、自分と姉を連れ戻しに来た父と再会するがこれを一撃の下に撃退、いつまで経っても進歩しない父に呆れ自分自身の手で父を更生させることを決意、久遠寺家当主・森羅に頭を下げて無理矢理父を久遠寺家の雑用として雇わせる。

現在は更生(というか調教)の甲斐もあってか父はまともな職に就き酒もやめて錬、美鳩とも和解している(本人曰く『まともに生きる事の喜びと大事さがよく解った。だが錬にはもう二度と逆らいたくない』との事)。

現在は執事の仕事に専念するため引退しているが当時は闘技場スーパーミドル級チャンピオンの座に君臨し、レオ、空也と共に『三獣士』と呼ばれていた程のファイターだった(引退後も久遠寺家の使用人頭と三女の専属使用人を相手に鍛錬しているため実力はまったく衰えていない)。

師匠であるキム・カッファンを人間としても格闘家としても非常に尊敬し、彼の影響で「悪は決して許さず、可能な限り更生させる」という考え方を持っている。

そのため度が過ぎた悪戯や倫理に反した行為をする者には(たとえ目上の人間であろうが)説教をする癖を持つ。しかし周囲の人間からはそんな面を含めて彼を気に入っている(レオ曰く『良い意味で正義馬鹿』)。

いずれは自分の手でテコンドーの道場を開くことを夢見ており、現在はキム・カッファンに正式に弟子入りして通信教育でテコンドーを一から学びなおし、道場を開く資金を貯金している。

余談ではあるが師匠のキムによって現在進行形で更生中の脱獄囚の巨漢と元通り魔のチビからは教育者としては錬の方が上と見られている。

一人称・俺

職業・久遠寺家執事兼ガードマン

好きなもの(事)・正義 仲間

嫌いなもの(事)・悪 身勝手な暴力

好きな食べ物・焼肉 チヂミ キムチ

大切なもの・久遠寺家の人々 姉 使用人仲間 正義

戦闘スタイル・テコンドー

趣味・カラオケ

特技・説得力と勢いのある説教 我慢

取得タイトル・元地下闘技場スーパーミドル級チャンプ 七浜市格闘技大会優勝

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆

必殺技・飛翔脚

    飛燕斬

    天昇斬

    半月斬

    灼火脚

    鳳凰脚

    鳳凰飛天脚

    零式鳳凰脚

    我流・鳳凰乱舞

キャッチコピー・『悪は更生、正義の荒鷲』

 

 

直江大和

 真剣で私に恋しなさい!からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。15歳。

幼い頃、海外旅行中にマフィア同士の抗争に巻き込まれかけた際に武術家にして薬剤師のリー・パイロンに助けられ、彼の強さに憧れて弟子入りを志願する。

それから長期休暇などを利用して彼の元で中国拳法と鉄爪術、薬学を学び、その結果超人的な実力を得た過去を持つ。

彼の最大の目標は幼馴染にして自らの姉貴分、川神百代を超えることにあり、今なお鍛錬に励む日々を送っている。

レオとはストリートファイトで知り合い、地下闘技場における先輩後輩の間柄である(ただし、闘技場は義務教育中は参加できない規則なので、中学卒業後に参加予定)。

薬学の知識が深く、彼の作る傷薬の効果は抜群であり、レオ達も度々世話になっている(ただし有料)。

師匠であるリー・パイロンの影響で途轍もない程のドSであり(元々Sの素養があったが師匠の影響で一気に開花した)、敵対する者には全くと言って良いほど容赦無く嬲り尽くす危険な男。

しかしその反面、心を許している人間には優しく、仲間思いな一面も見せる(少なくとも敵対さえしていなければせいぜい偶にドSな悪戯をする程度)。

身体能力では、身軽さ以外はレオ達に一歩劣るが(身軽さだけならレオにも匹敵する程)、多彩な技と戦術・知略で敵を翻弄する策士で総合的な戦闘力はレオ達にも決して引けは取らない。

一人称・俺

好きなもの(事)・切り裂き甲斐のある相手

嫌いなもの(事)・仲間や家族を馬鹿にする奴(もしそんな奴がいたら八つ裂きにすると公言している)

好きな食べ物・肉まん 餃子(師匠の中華料理嫌いだけは何故か理解できない)

大切なもの・仲間 家族 ペットのヤドカリ

戦闘スタイル・中国拳法+鉄爪術

趣味・ヤドカリの飼育 爪磨き 新薬の開発 薬草摘み

特技・傷薬の調合 知略戦

口癖・『ケケケケ……』『ケ〜ケッケッケッ!!』

力・☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・空転爪

    百裂脚

    百烈拳

    華中鷹爪激

    華中猛脚襲

    飛翔旋風撃

    真空空転爪

    華中飛猿爪

    ブラッディハイクロー

    スクリュードライバー

キャッチコピー・『飛猿軍師』

 

 

大倉弘之

 借金姉妹シリーズからのゲストキャラクターで同作品の主人公(設定は2から)。レオ同様魔改造済みキャラ。19歳。

元地下闘技場のファイターでボクシングの使い手。錬とは闘技場時代にチャンピオンの座を賭けて闘ったライバルでその実力は錬とほぼ互角。

闘技場でも名の知れたファイターだったが、17歳の時に恋人が出来たため、本格的に学業と貯金に専念することになり引退している。

レオ達とは同じ中学出身であり、対馬ファミリーの2歳年上の先輩。中学卒業後のレオに闘技場を紹介したのも彼である。

元々は父が開業医という裕福な家に生まれたが、父の再婚相手とうまくいかず家を離れるようになった過去を持つ(腹違いの弟ができた途端に冷遇され続け、中学時代に義母の殴って歯をへし折り、それ以降半絶縁状態)。

自分同様に親の件で暗い過去を持つスバルや錬とは仲が良く、現在も飲み友達の間柄。

自称「ドSで不良のロクデナシ」でベタベタした馴れ合いは好まないが、根がお人よしの善人の為、人の良さが透けて見える好青年。

恋人である香純との結婚資金を稼ぐためにデイトレードとバイトに明け暮れる日々を送っていたが、錬の誘いを受けて久しぶりに現役に復帰。

ボクシングとテコンドーという真逆のコンビで優勝を狙う。

ちなみに、恋人の香純とは自他共に認めるほどお互いベタ惚れ。

一人称・俺

職業・デイトレーダー

好きなもの(事)・香純(恋人) 香帆(香純の妹)

嫌いなもの(事)・父親 義母

好きな食べ物・香純の手料理 ビール

大切なもの・香純(LOVE) 香帆(LIKE) 弟

戦闘スタイル・ボクシング

趣味・デイトレード

特技・デイトレード

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・ハリケーンアッパー

    ブラストアッパー

    スマッシュボンバー

    ローリングアッパー

    プラネットゲイル

    バニシングラッシュ

    コークスクリューブロー

    ナックルキャノン

キャッチコピー・『愛に生きる拳闘士』

 

 

鹿島ゆうじ

 相姦遊戯からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。14歳。

空也が講師を勤める空手教室の門下生。

元々は格闘技と無縁の生活を送る少し弱気な性格の普通の少年だったが、実の姉である鹿島ゆりとお互いに恋愛感情を持ち合い、禁断の関係(近親相姦)になってしまった事がきっかけで姉を守るための力を欲し、空手教室に入門した。

空手を学ぶ傍ら、独自に棒術を習得し(過去の映像資料などから技を盗み独自に磨いた)、まだまだ発展途上ではあるがその実力は高く、防御技術に関しては空也も一目置く程ずば抜けて高い資質と才能を秘めている。

ゆりを守るという決意と覚悟は本物であり、たとえ両親に勘当されてでもゆりを守り、幸せにする事を誓っている。

血の繋がりが無いとはいえ、自分と同じように姉と恋愛関係にある空也には色々と世話になっており、彼の事を実の兄のように慕っている。

一人称・僕

好きなもの(事)・ゲーム

嫌いなもの(事)・難しい漢字

好きな食べ物・ラーメン 玉子焼き

大切なもの・姉

戦闘スタイル・棒術(三節棍)+空手

趣味・読書 ボードゲーム

特技・バッティング

力・☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・旋風棍

    飛翔旋風棍

    集点連破棍

    雀落とし

    ホームランショット

    リフレクトシュート

    虎煌拳

    飛燕疾風脚

    ハリケーンホームラン

    デストロイスタッド

キャッチコピー・『ショタ属性の棒術使い』

 

 

羽丘ふぶき

 新体操(真)からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。17歳。

中性的な顔つきが特徴で女に間違えられやすいがれっきとした男。

普段は温厚で優しい性格だが、その裏には男性特有の荒々しい内面を秘めており、一度見境がなくなると超が付くほどサディスティックで残忍な性格に豹変する。

子供の頃はその中性的な顔つきが原因でいじめられていたが、ある時自分の最大の理解者である姉の羽丘みくを馬鹿にされた事に激怒して自分をいじめていた者達を近くにあった2本の棒で滅多打ちにして全員を顔面陥没の半殺しにするという事件を起こし、それ以降現在の優しさと凶暴さが合わさった二面性の強い性格になる。

彼が起こした傷害事件は自分が姉を守らなければならないという使命感を植え付け、中学卒業と同時にジョン・クローリーによって行われた訓練合宿(レオが参加した合宿とは別で内容もレオが受けたものと違い、短期間で多少簡易的なもの)に参加、そこでジョンにカリスティックの才能を見出され、ジョンの親友が使っていた棒術の映像資料などからカリスティックのテクニックを習得する(つまり本人達は知らないがレオとは兄弟弟子の関係にある)。

しかしそんな中、全寮制の学校に通う姉が音信不通になるという事件が発生し、独自に調査を開始する。

その結果みくは彼女の同級生である白河トモミに監禁されている事を知るがトモミのバックには日本有数の大企業である白河グループが付いており、逆にトモミから彼女が発案した『闇の新体操』という女性の淫らさを競うという淫乱極まりないスポーツの調教師(コーチ)をすることを強いられ、同級生の藤宮小雪を調教する羽目になってしまう。

しかしふぶきは調教師としての生活の中、小雪と恋人同士となり、彼女と協力してトモミの弱みを握り、逆に彼女を篭絡することに成功する。

その後、トモミの立場を利用して彼女の専属ボディガードという確固たる地盤を手に入れ、現在は姉と恋人の小雪、そして奴隷兼恋人その2となったトモミと共に悠々自適に暮らしていたが、瀬麗武からの要請で久しぶりに武器を取り、その実力を発揮する。

大和以上に危険な人物だが、基本的に根は善人であり、恋人である小雪とトモミの事は(アブノーマルなプレイを好んで行うものの)大切にしている。

一人称・僕

職業・現役高校生兼白河トモミ専属ボディガード

好きなもの(事)・調教し甲斐のある奴 過激なプレイ

嫌いなもの(事)・奇麗事 低俗なプライド

好きな食べ物・スポーツドリンク

大切なもの・小雪 トモミ 姉

戦闘スタイル・棒術(カリスティック二刀流)+マーシャルアーツ

趣味・過激なプレイ

特技・調教 拷問

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・グランドブラスター

    クロスダイビング

    スピニングランサー

    ブラスターウェーブ

    ストームエルボー

    パロスペシャル

    スクラップフェイス

キャッチコピー・『狂気の男の娘』

 

 

小野寺拓己

あねいも2nd stageからのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。18歳。

上妻の地下闘技場に所属するファイターでミドル級チャンピオン。プロレス技と骨法(優一の見様見真似で覚えた)をミックスした独自の戦闘スタイルを駆使して戦う。

非常に身軽かつ絶妙なバランス感覚を持っており、そのジャンプ力はレオをも超える。

1000万人に1人と言われる気を性質変化させて亜空間を生み出すレアな能力を持っており、その能力でレオと乙女を追い詰めた。

何よりも飛ぶ事を愛し、常に己の飛翔力に磨きを掛け続ける求道者でもある。

上妻地下闘技場のスポンサーである霧島重工の社長令嬢姉妹とは幼馴染で、次女の霧島皐月と交際しており、婚約も秒読みに入っている。

好きなもの(事)・青空 空を飛ぶ時の爽快感

嫌いなもの(事)・陰険な野郎

好きな食べ物・ハンバーガー

大切なもの・皐月(恋人)

戦闘スタイル・プロレス+骨法

趣味・スノーボード 飛ぶ事

特技・スノーボード 三角跳び

取得タイトル・上妻地下闘技場ミドル級チャンプ

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・ベルリンの赤い雨

    ハンブルグの黒い霧

    スペースファルコン

    スペースラッシュ

    フォーディメンションキル

    エナジーブラックホール

    人間火玉弾

    人間ポールダンス

    キン肉バスター

    飛翔拳

    ツインヘッドクラッシャー(タッグ技)

    NIKU⇒LAP(タッグ技)

キャッチコピー・『亜空の鳥人』

 

 

山城優一

FUTA・ANE〜ふたあね〜からのゲストキャラクターで同作品の主人公。レオ同様魔改造済みキャラ。17歳。

上妻の地下闘技場に所属するファイターでスーパーウェルター級チャンピオン。

不知火流骨法の門弟であり、次期師範代候補の一人。

抜群の気のコントロールセンスを持つ技巧派で影分身を操る分身殺法の使い手。

拓己とは闘技場でトップの座を争うライバル同士であり互いに切磋琢磨し合う親友。

老若男女問わず他者と打ち解ける事が出来るフランクな人柄で男女問わず友人は多くい。

日英ハーフで陸上選手の恋人がいる。

好きなもの(事)・鍛錬 若葉(恋人)とのデート

嫌いなもの(事)・チャラチャラした奴

好きな食べ物・若葉(恋人)の手料理

大切なもの・若葉(恋人) 姉達 叔母

戦闘スタイル・不知火流骨法

趣味・陸上競技(主に恋人が出場しているもの)の観戦

特技・人手の要る仕事 一人組み手 アクロバット

取得タイトル・上妻地下闘技場ミドル級チャンプ

力・☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・飛翔拳

    斬影拳

    幻影不知火・飛影

    空破弾

    超裂破弾

    影分身(セパレートシャドウ)

    八蹴空破弾

    八蹴超裂破弾

    ツインヘッドクラッシャー(タッグ技)

    NIKU⇒LAP(タッグ技)

キャッチコピー・『幻影の骨法使い』

 

 

 

オリキャラ

 

半田紗武巣

プロローグに登場。レオのタイトル防衛戦の挑戦者。19歳。

タイのチェンマイで学んだムエタイを武器に戦うファイター。

新人つぶしで勝ち星を稼いでいたがレオとの対戦では手も足も出ずに敗北。キザな性格で派手なパフォーマンスを好み、自他共に認める美形で自分の顔と実力にかなりの自信を持つナルシストだが、格闘家としてのプライドは持ち合わせており、レオに負けた後は打倒レオを目指して鍛錬に励み、新人つぶしからも足を洗っている。拳法部一年のハンサム大野とは従兄弟。本編での扱いからかませ犬としての印象が強いがその実力は本物であり、実力的にはスバル以上。

名前の由来はハンサムから。

身長・179cm

一人称・私

血液型・A型

好きなもの(事)・美しいもの 薔薇

嫌いなもの(事)・下品な奴

好きな食べ物・トムヤンクン 紅茶

大切なもの・衣装コレクション

戦闘スタイル・ムエタイ

趣味・薔薇の手入れ

特技・ワイクー(ムエタイの踊り)

力・☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆☆☆☆

必殺技・ジャガーキック

キャッチコピー・『美男子ムエタイファイター』

 

 

士慢力

『レオの勧誘奮闘記 その1』に登場。

エキシビジョンマッチでのレオの対戦相手。23歳。

身長2mを超える巨漢のヘビー級ファイター。

サンドデスマッチでレオのスピードを封じようとするが殆ど通用せず、逆にレオの頭脳プレーで足場を固められ、敗北する。

パワーだけなら乙女さんにも匹敵するがスピードはそれ程でもなく技は荒削りで戦術も全体的に力任せなため総合的な実力はレオや乙女さんには劣る。

しかし実力自体は高く、レオに多少なりともダメージを与えるなどその実力は侮れない。

モデルはキン肉マンに登場するリキシマンから。

身長・202cm

一人称・俺

血液型・O型

好きなもの(事)・相撲 遊園地

嫌いなもの(事)・幼虫全般

好きな食べ物・ちゃんこ鍋 メロン

大切なもの・マワシコレクション

戦闘スタイル・相撲

趣味・稽古 遊園地めぐり

特技・力仕事 腕相撲

力・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

速・☆☆☆☆☆☆

技・☆☆☆☆☆

防・☆☆☆☆☆☆☆☆

体・☆☆☆☆☆☆☆☆

知・☆☆☆☆

必殺技・合唱捻り

    張り手

    居反り投げ

キャッチコピー・『地下闘技場の横綱』

 



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プロローグ 獅子をも凌駕するレオ

 人生の分岐点は?と聞かれれば俺は間違いなく即座に三つ思いつくだろう。

 

一つ目…アレはガキの頃、当時ガキ大将的な近所の男子に喧嘩で勝った俺は好い気になって従姉に挑戦し……完膚なきまでに叩きのめされた。

そして馬にされた挙句……「くちごたえするなコンジョーナシ!くやしかったらわたしにかってみろ!」と言われた。

 

 

”上等だコノヤロウ……何年掛けてでも強くなって泣かしてやる!!”

 

 

 と、まぁこんな子供染みた復讐心から格闘技を始めた訳だが、いざ始めてみるとコレがなかなか面白い。

特に自分が以前より強くなったと実感した時は何とも言えない快感だったりする。

 

次に二つ目…あれは中学の頃…………当時の友人だった近衛素奈緒が同じクラスの不真面目な馬鹿共相手にいざこざを起こし、俺はそれに首を突っ込んで……その結果俺は周囲から「ハッスル君」なんて不名誉な仇名を貰い、逆上した馬鹿共が俺の知らない所で近衛に手を出し、それにブチ切れた俺はそいつ等全員入院する程の大怪我を負わせ、長い事世話になった道場から破門された。

あの馬鹿共をぶちのめした事に全く後悔なんてしていないが一つだけ分かった事があるとすれば、テンションに流されると碌な事にならないって事ぐらいだな。

コレばかりは今でも嫌な思い出だ。

 

そして最後に、中学卒業を機に足を踏み入れたこの世界…………。

 

『さぁ、本日のメインイベント、ミドル級のタイトルマッチだぁ!!』

 

 それは…………地下闘技場だ。

 

『赤コーナー、勝てば新チャンピオン誕生、ココまでなかなかの勢いで勝ち星を稼いできました、美男子ムエタイファイター、半田(はんだ)紗武巣(さむす)選手!!』

 

 観客に大袈裟にアピールする半田、見た目通りキザな野郎だ……。

 

「青コーナー、現ミドル級チャンピオンにしてブラスナックルトーナメント優勝経験を持つ若き獅子、対馬レオ選手!!」

 

「レオーー!!負けんじゃねえぞ!!そんなキザ野郎、速攻でぶっ潰せ!!」

 

「そうだそうだ!!俺はそういう顔の奴が本気でムカつく!!」

 

「そりゃお前の私怨だろ」

 

 観戦している幼馴染達の声援と言う名の喚き声に冷静なツッコミを入れる我が親友。

とりあえず声援に応える様に軽く手を振る。

 

『さぁ、いよいよゴングです!!』

 

 司会の声の直後、ゴングによる金属音が鳴り響いた。

 

「ハッ!セイ!であぁっ!!」

 

 ゴングと同時に仕掛けてくる半田。拳とエルボーの連携が俺に襲い掛かる。

 

『おおっと早くも半田選手得意のコンビネーションだ!!』

 

「よっ、ほっ、とっ……」

 

 得意のフットワークで全て回避。うん、大変よく出来ました俺。

「ええい!ちょこまかと!!私の拳で沈みたまえ!!」

 

 業を煮やして突撃戦法に切り替えてきた。だが……。

 

「ラァ!!」

 

 カウンター気味に拳を繰り出し、相手の鼻っ柱に叩き込む。

 

「がっ!?」

 

 効果あり!半田の奴は鼻血を出して仰け反った。

 

「おのれぇっ!!私の美しい顔によくも!!!!」

 

 うわ……リアルに聞くと本気でイタイな、その台詞。

 

「喰らえ!必殺、ジャガーキック!!」

 

 一回転ジャンプしながらの踵落としを繰り出す半田。

 

「馬鹿が……」 スピードも勢いも今一つ、それじゃ俺には勝てない。

相手の足を受け止め、がら空きになった腹に渾身の力を込めた拳を叩き込む。

 

「うぐぇぇっ!!」

 

 豪快な音とうなり声とともに半田はマットに沈む。

勝ち星を稼いできた割に大した事無いな、この手の連中はアレだ。新人潰して勝ち上がってきたって奴……たまにいるんだよな。

レフェリーが近づいて様子を見る。普通ならココでカウントを取るんだが……その必要は無いようだ。

 

「勝者、対馬レオ!」

 

 試合終了を表すゴングが鳴り響き、観客席から歓声が聞こえてくる。

そんな中俺は静かに半田に近づいた。

 

「次ぎ戦(や)るときはキッチリ腕磨いて来い、新人潰しなんてセコイ真似せずにな」

 

 俺の言葉に半田は力無く頷いた。

 

「さてと……」

 

 俺は観客からの歓声に応えるように右腕を高々と上空に突き上げた。

 



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対馬レオの日常 登校風景

NO SIDE

 

 対馬レオは健康優良児である。

道場で空手を習っていた頃の習慣で、日頃から筋トレを欠かさす事無く続け、筋力は落ちる事無く維持され、レオの肉体は丈夫そのものである。

それに加え、寝る前は常に20分ほどのストレッチを毎日欠かさずやっているため、睡眠は基本的に熟睡。

故にレオは怪我以外で医者の世話になる事はほとんど無い。

しかし、そんな彼も意外と寝起きは普通だったりする。決して遅くも早くも無い。

人間には睡眠欲という三大欲求の一つがあるし、何よりレオは早寝などしない。

そんな彼を目覚めさせる役割を持つのは目覚まし時計、そして……。

「おい、起きろ坊主、起きないなら俺のドギツイのぶち込むぜ」

 

「ん……ああ、分かった、起きる」

 

 目をこすりながらレオは起き上がる。

レオを起こしたその赤髪長身の男の名は伊達スバル……レオの幼馴染の一人で親友である。

某自動車修理工のナイスガイみたいな台詞を口にしているが基本的にノーマルなので安心して友人関係を結べる男である。

 

「先行ってるぜ、いつも通りカニ起こして来い」

 

「了解」

 

 それだけ言ってレオは服を着替え、一度家を出て隣の家に向かう。

 

「お姉さん、おはようございます」

 

 家の前に居る女性(マダム)に声を掛ける。

どっからどう見ても『お姉さん』なんて歳じゃないがコレは社交辞令である。コレを言わないと後が怖いのだ。

 

「レオちゃん、いつもすまないねぇ、あんな出涸らしのためにいつもいつも……よかったら嫁にもらってくれない、アレ?」

 

「俺にいきなり『舞空術を教えてくれ』なんて言う娘はちょっと……」

 

「そうよねぇ、私が男でも絶対嫌だもん」

 

 そんないつも通りの会話をしてレオは2階へ上がる。

扉を開けるとベッドに寝そべる少女が目に映る。

典型的な幼児体型、栗色のショートヘア、恥も外聞もなく丸見えのパンツ。

コイツが出涸らしこと蟹沢きぬ、通称カニである。

蟹沢家の長女であり優秀な兄と違いどうにも頭の出来がイマイチで両親から出涸らし扱いされ、ほとんど放任されている(といっても別に家族中が険悪という訳では無い)。

ちなみに彼女は自分の下の名前がお気に召さないらしく、下の名前で呼ばれるとキレて暴れまくるので取り扱いには要注意である。

 

「Zzz……」

 

「お~い起きろ出涸らし、いつまで馬鹿面晒してる気だ?」

 

「……やっぱ……ボクって可愛いよねー」

 

 実に器用な寝言。レオは時々彼女の馬鹿さはある意味凄いと思ってしまう。

取り敢えずそろそろ起こさないと自分まで遅刻してしまうのでさっさと起こす事にする。

いつも通りカニの頭を掴んで軽く少しずつ力を加えていく。レオの得意技の一つ、アイアンクローである。

 

「いででででででででで!!!!」

 

「よぅ、起きたか」

 

 丁度カニの意識がハッキリし始めたところで手を離す。

 

「んーー、おはよう…………」

 

 先程の痛みも忘れて再び寝ぼけ眼になるカニ。鈍いと言うか図太いと言うか…………。

 

「じゃあ、20分後、二度寝したら置いてくからな」

 

「んーー、分かった…………」

 

 多分分かっていない…………。

しかしレオはそんな事気にしない、何故なら泣きを見るのはカニであって自分じゃないのだから。

 

 

 その後、スバルがおせっかいで用意してくれた朝食を食べて支度を済ませて家を出る。

カニは来て……ない。どの道予想していた事である。

 

コレによって至る結果→レオはカニを置いていく。

 

一見冷たい選択に見えるがレオはそんな事気にしない、何故なら泣きを見るのはカニであって自分じゃないのだから。

大事な事なので2回言いました。

 

 

 

レオSIDE

 

 やはり朝のこの時間は通学路であるドブ坂通りは非常に静かだ。

どの店もまだ開店前なので仕方ないと言えば仕方ないが……。

 

「ちょっと待てやぁああぁーーーーーーーー!!!!」

 

 静けさをぶっ壊すチビが一人、カニだ。

 

「おお、やっと来たか?」

 

「来たか?じゃねぇよ!!ボクを忘れんじゃねぇよ!!余りにも大事な存在だろうが!!」

 

「お前か遅刻しないかで言えば俺は遅刻しない方を取るんでな」

 

「そこはボクを選べ!!」

 

 無茶言うな。

 

 

 

NO SIDE

 

5分後

 

「よぉ、レオ」

 

 ジュースを買いに行ったカニを待っていると現れた猿面の眼鏡男、鮫氷真一(さめすがしんいち)。

格好良いのは苗字だけ、他は全く駄目。

彼の事を説明する言葉があるとすれば

『ヘタレ』

これ以外に無いだろう。

 

「何か今遥か天空の誰かに悪口言われた気分なんですけど」

 

「気にするな(いつもの事だろ)」

 

「そんな事よりさぁ、聞いてくれよ俺昨日ケイコちゃんとデートの約束を……」

↑言っておくがコレはギャルゲーの話である。

 

「オメェのギャルゲー談義なんて聞きたかねぇよ」

 

 いつの間にか戻ってきたカニが盛大な毒舌を炸裂させる。

 

「うっせえよチビ!お前にケイコちゃんの良さが分かってたまるか!!」

 

 実に下らない事で言い争う二人だった。

 

 

 

レオSIDE

 

「ん?」

 

 騒ぐ二人の馬鹿を無視して先に進もうとした時、俺の六感がこっちに迫ってくる殺気を拾い取った。

 

「っ!!」

 

 乗っていたMTB(マウンテンバイク)を飛び立つように乗り捨て、背後から鋭い蹴撃が繰り出される。

 

「っ…………」

 

 即座に反応し、ブリッジのように体を反らして回避。

 

「チッ!」

 

 襲撃者は一瞬舌打ちして肘鉄を繰り出してくるが…………。

 

「フンッ!」

 

「グ……!やるわね…………」

 

 腕を付かんで捻り上げ、関節を極める。

 

「相変わらず朝っぱらから随分な挨拶だね、姫」

 

「あら、コレくらい対馬君には挨拶代わりでしょ?」

 

 襲撃者の名は霧夜(きりや)エリカ、通称『姫』。

俺の通う学園、竜鳴館の生徒会長にして世界に名立たる霧夜グループの令嬢。

頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗にして高いカリスマ性を持ち、人の上に立つ器を持った女だ。

ただしその性格は傲岸不遜で傍若無人。味方も多けりゃ敵も多く、竜鳴館には親姫派と反姫派の二大勢力があるほどだ。

故にその姫と言うあだ名は尊敬と皮肉両方の意味がある。

彼女とは半年程前からこんな風に物騒な挨拶を交わす様になったのだがそれはまた別の機会に……。

 

 

 んで、そんなこんなでようやく校門にたどり着いたわけだが。

 

「…………」

 

 何故か日本(ポン)刀を持っている風紀員の前を通り登校。

しかし、最近妙にあの風起因から視線を感じるんだよな。

どっかで見たことあるような気がするけど…………誰だっけ?

 

 

 

おまけ フカヒレ、男の涙

 

 カニとの下らない言い争いを終えたフカヒレはレオとエリカの(自称)スキンシップをじっと見つめていた。

 

「畜生、レオの野郎……あんなに姫に障りやがって…………悔しくなんかないぞ」

 

「本心は?」

 

「悔 し い で す ! !」

 




感想ですが、自分は携帯版でアクセスしているので返信がかなり遅れると思います。


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対馬レオの日常 学園生活

レオSIDE

 

 現在竜鳴館は朝礼中、姫の演説が終わり、艦長のありがたいお言葉の時間に入る。ココで生徒達は全員緊張した面持ちになる。

今この場で居眠りでもしている奴がいるとすれば、脳に異常があるか自殺志願者のどちらかだ。

 

「男子は男気を!女子は女気を!磨き、青春を謳歌せよ!竜鳴館館長、橘 平 蔵!!」

 

 マイクも使わずに響く馬鹿でかい声、その声の主こそ竜鳴館館長、橘平蔵(たちばなへいぞう)だ。

185cmという長身と丸太のようにでかくがっしりとした筋肉、右目と鼻の頭に刻みついた傷跡と長い髭を蓄えたその顔、全身から出る威圧感、まさしく豪傑そのものだ。

俺の目標としている人物でもある。いまだ独身という点を除いて…………。

 

 

 

「ふわぁ〜〜……」

 

 長ったらしい朝礼が終わり教室に戻りながら欠伸を掻く。

 

「でっかいあくびねー、みっともない」

 

「ん?姫か……」

 

「そんなテンション低い人は見ててうざったいから消えて欲しいかなー」

 

 声をかけて早々これだ……いつもの事だけど。

 

「はい、薔薇をあげる、香気で目を覚ましなさい」

 

 何処からともなく薔薇を取り出し俺に投げ渡す、いつも思うが本当に何処から出してんだこの薔薇。

 

「相変わらず妙な特技をお持ちのようで」

 

「お嬢の嗜みよ、ポーズをとったら薔薇ぐらい出せなきゃ」

 

 解らんなぁ……。ま、俺には無縁の話しだからどうでもいいけど。

 

「じゃ、こっちはチャンプの嗜みだ」

 

 貰った薔薇を軽く指で弾く。直後に薔薇は四散し、文字通りバラバラになり、そのまま風に乗って窓の外に飛んでいく。

 

「わぉ、薔薇がバラバラって奴?綺麗だけどネタは古いわね」

 

 古い言うな、薔薇しか材料が無いんだから仕方ないだろ。

 

 

 

NOSIDE

 

 本日は学生達(一部除く)にとって憂鬱な日である。

『中間テストの結果』という鋭利な刃物で精神を抉られ、クラス中が阿鼻叫喚の図に早変わりである。

さて、我らが主人公レオの結果はというと……。

 

古典 まぁまぁ

現国 無難

歴史 それなり

 

(我ながら何て無難な出来なんだ)

 

 例えるなら特徴が無いのが特徴、学業のジムカスタム、それがレオである

「フカヒレ、歴史で勝負だもんね」

 

「せめてフカヒレには負けねぇべ」

 

「負けたら人間として終いやからなぁ」

 

 そっして今この時だけはフカヒレは人気者になる。

馬鹿の代名詞カニ。

授業中は消しゴムのカスを集めている田舎の匂いが染み付いた立ち絵つきの脇役イガグリ(本名?知らん)

カニに劣らず成績低空飛行者、褐色関西弁娘、浦賀真名(うらがまな)。

その他大勢の成績の低い者達が挙(こぞ)ってフカヒレに非常に低レベルな戦いを挑むのである。

 

 それに引き換え……

 

「エリー、また満点?勝てないなぁ」

 

「当然でしょ、何?よっぴーは1問間違え?」

 

 姫こと霧夜エリカとその親友にして2―Cの委員長、佐藤良美(さとうよしみ)。

こっちは余りにもハイレベルすぎる。

 

(この落差は何?)

 

 レオはそんな事を呟いた。

 

 

 

レオSIDE

 

 結果発表と言う名の地獄の後、昼休みに入りフカヒレをパシってパンを買いに行かせて昼飯を済ませ(ちなみに、カニの奴は先程低レベルな戦いを共に戦った戦友の浦賀さんと浦賀さんの親友で留学生の楊豆花(ヤントンファー)さんと一緒に食った)、その後残りの授業をクリアしてようやく帰りのHRになる。

しかし……担任教師がまだ来ない。

 

「祈りちゃん、まだ来ないのかなぁ……」

 

「来るの遅いよな、大方また職員室でくっちゃべってるんだろうけど、現実の女はこういう所がイヤだよなー」

 

「その発言、フカヒレは人生終わってるね」

 

「よっぴー、帰っていい?」

 

「よっぴー言わないでよぅ」

 

 佐藤さんは基本的に姫以外によっぴーと呼ばれるのは否定的だけど、もうその呼び名が定着しているのでクラスメート殆どはおろか担任にすらよっぴーと呼ばれてしまっている。

ま、そこら辺はもう諦めるしかない。

 

んで結局イガグリの奴が姫に先制を呼びに行かされ、数分かけてようやく担任が姿を現す。

 

「皆さん申し訳ございません、遅れてしまいましたわ」

 

 絶対申し訳ないなんて思って無い…………。

高校教師、大江山祈(おおえやまいのり)。

俺達の担任で担当は英語。美人で居乳ということで男子生徒の人気は抜群。媚びた態度を取らず飄々としているので女子生徒からの人気もある。

大江山と言う苗字は地名で紛らわしいので皆は祈先生と呼んでいる。

ただし教育方針はスパルタである。

 

「祈センセ、何してたのさ?」

 

「職員室でお茶をしてましたらいつの間にやらこのような時間でしたの」

 

「ま、お前たち若造は忍耐ってモンをしたねぇからな、たまには待ってみる、と言うのもいい経験だろう、コレも教育の一環だよ」

 

 祈先生の肩に止まるオウムが饒舌に喋る。

この鳥公の名前は『土永さん』、祈先生のペットだ。

普段は空に居るがたまにああして一緒に行動している。

ちなみに声質はかなり渋く、古臭い知識で説教するのが得意技だ。

 

「それでは早速HRを始めますわ、プリントを配りますので回してくださいな」

 

 ……進路希望調査か。

 

「いいか、お前たちはとっくに義務教育終わってんだ、進学しない者はもうすぐ世間の荒波に揉まれて生きていかなきゃいけねぇ、たまにはそのとろろみてぇな脳ミソ真面目に使って、自分の将来について考えてみろ、分かったな?ジャリ坊どもが」

 

「……と、土永さんが言ってますわ」

 

 相変わらず鳥の癖に痛い所突いてきやがるぜ。

 

 

 

 放課後

 

「どっかで遊んで帰ろーっ」

 

 カニがピョンピョン飛び跳ねる。元気が有り余ってるな。

 

「帰宅部の活動開始と行きますか」

 

 フカヒレよ、帰宅部に活動なんてあるのか?

 

「んじゃ、オレは陸上部行くとすっか」

 

「がんばれよアスリート」

 

 スバルは陸上部期待のホープである。

 

「……テメェらも部活がんばれよ」

 

「おうよ。全身全霊をかけて帰宅してやんよ」

 

「帰宅部には帰宅部で辛いところあるんだぜ? 陸上部の連中にはわからねぇだろうがな」

 

「はっ、そりゃあわかりたくもないがよ、一応聞いてやるよ。なんの苦労があんだ?」

 

「あるね。陸上部や空手部……部活の連中が一生懸命やってる中、俺たちは悠々と帰宅、そして家に帰ってふと、ある考えがよぎる……俺はこのままでいいのか? 青春をダラダラ無駄にしていないか? いや、まだ本気出していないだけ。俺はやればできる子って言われてるんだからな」

 

 ……

 

「うーん、でも真面目に自分の将来を考えるとハッキリ言って怖いぞ。とりあえず、ゲームでもして気を紛らわせよう!……って、こんな自分に気づかないフリ……で、ごくまれに自己嫌悪するわけよ。苦労というより苦悩ね」

 

 そりゃ苦悩じゃなくて単なる逃避だ。しかもニート思考の。

 

「……あぁ、そりゃあツレーな。せいぜい悩んでくれよ。じゃあな」

 

 スバルは呆れ顔で踵を返した。

 

フカヒレを表す言葉がもう一つあった、それは『ダメ人間』だ。

 

「あれ? 俺の意見ダメだった?」

 

「ダメ人間の国家代表だなお前は」

 

 いや、本当マジで。

 

「伊達君、再見(ツァイツェン)」

 

「伊達君、部活頑張ってやー」

 

「はいはい」

 

 浦賀さんと豆花さんを始めとした女子がスバルに声を掛けていく。

スバルはイケメンだから基本的に女子の人気は高いのだ。男子からは怖がら(疎ま)れているが……。

 

「くそっ、スバルの野郎、男子からは怖がられているクセに、女子の人気が高いんだよなぁ、アウトロー気取っちまってさぁ」

 

 もてない男の僻みはみっともないぞ、フカヒレよ……。

 

「あ、ひとつ断っておくけど、うらやましくなんかねぇよ? 本当だよ?」

 

「実はうらやましいんだろ」

 

 フカヒレはコクリとうなずいた。素直な奴だ。

 

「まぁ、スバルは顔がいいからね。クラスNo.1」

 

「結局顔なんだよなぁ。でも俺だって悪くないと思わない? 眼鏡っ漢(こ)だしさ」

 

 お前はその眼鏡がマイナス要素になってるのに何故気付かない?

いや、つけようがつけまいが変わらんけど。

 

「フカヒレは遠回りに言うと、ブサイクのカテゴリーに入ると思うよ」

 

「……それ近道で言うとどうなるんすか?」

 

「言って欲しいんなら言うけど、遠慮なく」

 

 やめとけ、お前が遠慮無しに言ったらフカヒレは死ぬ。

 

「あ、やっぱやめて下さい、勘弁してください」

 

「まぁ、黙ってればそれほどでもないんだけど。しゃべるとダメオーラを発散するんだよねぇ君は」

 

「いいんだ。俺には二次元があるもん、結構いいもんだぜ」

 

「はい、この時点で負け決定」

 

「言ってる傍からコレですよこのダメ人間は……」

 

 俺とカニの容赦ない毒舌にフカヒレはort状態になったのであった。

 

 

 

 靴箱のある玄関に到着したところで、フカヒレが突然キョロキョロとしきりに辺りを見回し始めた。

 

「何、ついに妖精見えちゃったん? レオと一緒に病院行くか?」

 

「いや、何か視線感じない?」

 

 視線?そう言われてみれば、確かに後ろの方から感じないことも無い、ただこれは妙な気配だ、敵意も熱意も無い無機質な気配。

とりあず無視して様子を見るか。

 

「そうかな? どうも誰かが俺を見ている気がするんですが」

 

「誰もフカヒレなんか見ないよ、時間の無駄じゃん」

 

 ばっさり切り捨ててカニは靴箱の小扉を開けた。

 

「いや、この鋭い視線……確かに感じる……」

 

 コイツの察知能力は時々俺より高くなってしまうから怖い。

 

「少なくともお前に思慕の情を抱いているようなものじゃないから気にするな」

 

「新一です、親友にまた馬鹿にされたとです……」

 

 再び落ち込みだすフカヒレ。喜怒哀楽の激しい男である。



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対馬レオの日常 夜&二日目

レオSIDE

 

 俺達の生まれ育ったこの街、『松笠』。

名前の由来はこの地に固定保存されている連合艦隊の旗艦名から。

人口は約45万人。東京湾入口、関東の南東部に位置する、産業、港湾、観光の都市である。

米海軍・自衛隊の基地が点在し、異国情緒溢れる街として広く全国に知られている。

街には外国人や観光客、若者が多いため、ゲーセン、カラオケ、ビリヤード、ダーツ、ボウリング、クラブ、その他諸々、興施設には事欠かない。一種の歓楽街である。

都心まで一時間足らず、比較的おしゃれなイメージで尚且つ自然が多い。非常に魅力的な街だ。

 

 

 あの後ゲーセンで遊んだ俺達は家の近くで一旦別れた。

 

「お帰りなさい、あなた」

 

「ああ、ただいま」

 

 家に入るとスバルが飯を作りながら待っていた。

いっておくが別に怪しい関係とかじゃない。

俺は料理できないというほどではないが別に得意って訳でもない。

せいぜい肉と野菜炒めたり玉子焼きを作ったり出来るぐらいだ。

逆にスバルは不良っぽい外見に似合わず家事万能。作る料理は目茶苦茶美味い。

スバルの家は対馬家の三つ隣。

スバルの父親は将来を嘱望されていた陸上選手だったのだが、事故だかケガだかで挫折、後は酒びたりの女びたり。

結果母親は家を出てスバルも父親がいる家には帰りたくないらしく、父親と同じ空気を吸うのも苦痛と本人は語っている。

そんな事情で俺の家で飯を造って一緒に食うわけである。

大体週3〜4日くらい。俺は資金と場所を提供し、スバルは食材と技術を持ち寄る。

わかりやすいギブアンドテイクな関係だ。

 

「今日は野菜もこんもり入った牛カルビと、ネギの味噌汁、きくらげとフキのごまネーズだ」

 

「最高だぜ、何でお前女に生まれなかった?」

 

「フカヒレみたいな発言すんなよ」

 

 地味に傷つくぞその言葉……。

 

 その後カニとフカヒレも家に来て暫く駄弁り、9時を回った頃で家を出る支度を開始した。

 

「あ、そういえば今日だよね、防衛戦」

 

「ああ、骨のある奴だと良いんだけど」

 

 これから行く所は俺のバイト先、地下闘技場だ。

 

 

 地下闘技場……とだけ聞くと聞こえが悪いが、正確には違う。

地下にあるバー『狂犬(クレイジードッグ)』、そこで行われる格闘ショーだ。

ショーといっても勝負自体は真剣勝負そのもの、ファイトマネーだって出る。

賭博もやって無いから合法だし、ルールもプロの総合格闘技と同じだ。分かりやすく言えばハイレベルなアマチュア格闘技って所だ。

客もかなり多く、遠くから来る人間も居るほどだ。松笠の隠れた名所である。

ただしファイターの実力もピンからキリ、俺の実力は闘技場に登録しているファイターの中でもトップクラスでミドル級チャンピオンなため、互角に戦える人間は少ない。

チャンピオンクラスの実力者であれば俺と互角以上の奴はいるんだが、如何せんそんな実力者はなかなかいない。それに他のクラスのファイターとは早々戦えないし、最近はつまらない防衛戦ばっかりだ。

 

「今回の対戦相手だけど、半田紗武巣とかいうキザ野郎だぜ、新人潰して好い気になってるって噂だ」

 

 何処で仕入れたのかフカヒレが対戦相手の情報を教えてくる。

新人潰しか…………あんまり期待できないな。

 

『さぁ、本日のメインイベント、ミドル級のタイトルマッチだぁ!!』

 

 で、試合になった訳だが……試合内容に関しては割愛させてもらう。

プロローグで語ったし…………。

 

 

 

NO SIDE

 

 現在時刻午後一時ジャスト。

夜の松笠にたたずむ一人の女。

長身で鋭い目つきだが整った顔つきに抜群のプロポーション。

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 

 その美貌に釣られて男が声をかけてくる。何処からどう見てもナンパだ。

 

「消えろ……潰すぞ」

 

「う……」

 

 目で威嚇して追い返す。たいていの人間はコレで尻尾を巻いて逃げる。

 

「小物が……つまらないな」

 誰にも聞こえないような小さな声で彼女、椰子(やし)なごみは呟いた。

 

 そして一日が終わる。

 

 

 

レオSIDE

 

 校門が閉まる直前、あわただしくかける人影が二人、俺とカニだ。

 

「ったく、また遅刻ギリギリだ、懲りもせず朝デッドなんかしやがってこのチビは」

 

「うっせー!デッドを聴いて一日が始まり、デッドを聴いて一日が終わる、これがボクのライフスタイルだもんね!つーか誰がチビじゃ!?」

 

 こんな感じで今日もまた遅刻ギリギリで登校。どうにかならんのかね、カニの朝デッドは…………。

 

 

 

 本日はテストの成績順位の発表日。全員廊下に張り出される結果に釘付けになる。

 

1位 霧夜エリカ 800点

 

 オール満点である、さすが姫。

 

「やっぱ姫って頭いいよね……」

 

「ああ…………」

 

 俺もカニも感嘆の声を上げる。

ちなみに俺の順位は丁度真ん中辺り。カニは……聞くな。

 

 

 

 一時間目は英語。祈先生の担当教科だ。

普段はおちゃらけな祈先生だが授業は厳しく、スパルタなので私語も居眠りも厳禁だ。

 

「フカヒレさん、のんびりしてますわね、このままですと、二年生をもう一回、ですわ」

 

 男子から先に呼ばれて、答案と一緒に祈先生の一言をもらう。

 

「伊達さん、貴方ならもっと出来るはずです、期待していますわ」

 

 それは賞賛、慰労、叱責、脅迫、激励と実に様々。

 

「対馬さん……点数はまぁまぁですがあまりに特徴がなくてつまらないですわ、もう少し正解か間違いを増やしてください」

 

 俺は訳のわからん言葉だった。

 

「続きまして女子、浦賀さん、まだまだですわ」

 

 無表情。

 

「カニさん、期末には一寸の虫にも五分の魂を、期待してますわ」

 

 呆れ顔。

 

「霧夜さん。言うことなしです。相変わらず素晴らしいですわ」

 

 笑顔。祈先生は表情をコロコロ変えて答案を返していく。

 

「よっぴー、ひっかけ問題にひっかかってくださってありがとう。点数自体は素晴らしいですわ」

 

「先生までよっぴー言わないでくださいよぅ……」

 

 諦めよう佐藤さん、もうそれが定着してるんだ。

 

「祈先生って人によってコメント露骨に違うね……」

 

 確かにな…………丁寧な言葉遣いなのだが、言っていることがかなりシビアである。

 

「くそっ、またフカヒレの点数見て心の傷を癒すぜ」

 

「フカヒレ君は何点だったのかなぁ、彼には負けたくないなぁ」

 

 点数の低い連中の声が聞こえてくる。フカヒレよ、お前は本当にこういうときだけは人気者だなぁ。

 

「なお、通常は30点以下なら赤点追試ですが、英語のみ、50点以下の場合から追加プリントをやっていただきます」

 

「ええぇーっ」

 

「その課題をやってこなかった方は……残念ながら“島流し”にしますわ」

 

 良かった、俺68点で…………。

 

 

 

 そして昼飯、本日は毎週恒例の学食30円引きの日だ。

 

「先行くぜ、よっとぉ!」

 

 スバルが先行して2階の窓から飛び降りる。

 

「じゃ、俺も先行くわ、じゃあな臆病者(フカヒレ)」

 

「あばよ臆病者(チキン)」

 

 俺とカニも飛び降りる。

普通に危ないが俺とスバルは運動神経が高いし、カニは体が軽いから全く問題ない。

フカヒレだけは無理。

 

「ちっくしょう、俺を仲間はずれにしやがって!!」

 

 そんな声が聞こえたような聞こえなかったような……。

 

 

 

 大学食は竜鳴館の名物の一つだ。

野外には海も見えるテラスがあり、そこで食う飯は格別だ。

 

「それにしても、島流しか……流されるのは欲望だけで充分だよね」

 

 水平線の先に見える小さな島、竜鳴館所有の無人島、『烏賊島(いかじま)』だ。

祈先生が言っていたように成績不良者や素行不良者は、あの島に流される。

そこで性根を鍛え直されるのが、通称『島流し』。大学食と並ぶ竜鳴館の名物である。

以前典型的なツッパリヤンキーが、島流しにされ、戻ってきた時には聞き分けの良い子に変わり果ててしまったという話だ。

こんな破天荒な学園なのにド派手な不良がいないのは、こういうのが抑止力になっているのが大きい。

 

 

「じゃ、俺集会あるから」

 

 フカヒレがそう言って席を立つ。

集会とは霧夜エリカファンクラブの集会である。フカヒレはその広報部隊所属。

親(ファン)でも反(アンチ)でもない俺から見ればよく分からない集会だ。

 

「あ、そうだレオ、お前も来てくれ、出頭命令が出てるんだ」

 

 は?

 

「何で?」

 

「ほら、お前姫と割と仲良いじゃん、お前と姫の関係について確認したいって皆が言ってさぁ」

 

 面倒くせぇ……。でも変な噂立つのも嫌だし、仕方ない行くか。

 

 

 

「まずは広報部隊、研修〜今日までの姫の様子を報告してください」

 

「うす、相変わらずテストはオール100点、2位に影も踏ませずぶっちぎりトップっす」

 

 親衛隊長の言葉にフカヒレが答える。

 

「また、のどが渇いたといってそこら辺の男をパシリに使ったり…………」

 

 …………よくもまぁ一つの話題でココまで騒げるなぁ。

まぁ当然と言えば当然か、姫にはそれだけのカリスマ性と実力があるし、かく言う俺もあそこまで自分を貫ける彼女を結構尊敬しているからな。

 

「で、そろそろ本題に移るけど、対馬君」

 

「あ、はい?」

 

「君は姫とはどういう関係なんだ?」

 

 姫との関係…………。

 

「悪友かな?姫の事尊敬はしてるけど別に恋愛感情は持って無いし」

 

「本当か?二言は無いな」

 

 俺の言葉に細目にオールバックの男が訝しげに訊ねてくる。確かこいつは2−Aの……。

 

「ああ、少なくとも今の俺にそういう感情は無い、安心しろ村越」

 

「村田だよ!村田洋平(むらたようへい)!!村越って誰だ!?」

 

 ああ、そうそうコイツ村田だ。

ついでにその後ろに居る女子は写真係で村田と同じクラスの西崎紀子(にしざきのりこ)だっけ。

 

「おいおい、お前村田知らないの?2−Aの秀才で地獄育ちの男で有名じゃん」

 

 フカヒレが背後から小声で話しかけてきた。

 

「地獄って何が?」

 

「村田洋平には12人の妹がいてアイツに懐いているらしい」

 

「それ天国じゃないのか?」

 

「ただ、全員すんごくブスなんだ」

 

「地獄だ!!」

 

 何て意味の無い設定なんだ……村田洋平恐るべし。

 

「で、写真係の可愛い女の子が西崎紀子、2−Aのマスコットみたいな娘で写真が趣味で広報委員会所属」

 

「やけに詳しいな」

 

「村田とは1年の時同じクラスだったし西崎さんは可愛い系として名を馳せている、つまり2人とも2−Aの有名人なんだよ、お前がそういうの無頓着なんだ」

 

「ふーん……ま、別にいいけど」

 

 どーでも。

 

 

 んで、ようやく長い集会が終わり俺も解放される。

 

「あ、やっぱりココにいたわね」

 

「なんだ近衛、お前アンチ姫じゃなかったか?」

 

 げ……嫌なのが来た。赤髪ツインテールでいかにも強気って感じの顔、俺の最も忌まわしい記憶の当事者の一人、近衛素奈緒(このえすなお)だ。

近衛のほうも俺と喋る気は無いらしく俺と目が合っても一睨みしてきただけで終わったが……。

 

「おいフカヒレ、いい加減レオ返せ〜〜」

 

 うわ、カニの奴なんてタイミングの悪い。

 

「ん?げ、何でツインテールがココに居んだよ?」

 

 詳しい説明は省くが、カニと近衛は目茶苦茶仲が悪い。その近衛がココに居るのに気付いてカニは一気に不機嫌になる。

 

「何よ、私だって来たくて来てるわけじゃないわよ、第一いきなり突っかかってくるってどういうつもり?」

 

 近衛の奴もますます不機嫌に……。

 

「ハッ!自分のそのぺったんこな胸にでも聞けよ赤毛猿、来たくないなら来んじゃねぇよ」

 

「何ですってぇ!!」

 

 あーあ…………やっぱりこうなるか。

 

「アンタ本当にトサカに来る!!」

 

「けっ!ボクはお前の存在自体が気に入らないんだよ!!お前の所為でレオはなぁ……」

「カニ!!」

 

「……ッ!ご、ゴメン」

 

 俺の怒声にカニは口を滑らせかけた事に気付き、引き下がる。

 

「戻るぞ」

 

「う、うん…………悪ぃ、レオ」

 

「いいんだよ、次から気をつけろよ」

 

軽くポンポンとカニの頭を撫でるように叩き、俺達は屋上を後にした。



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オアシスでの出来事 辛口キング(クイーン)登場!!

レオSIDE

 

 放課後、今日は英語の補修があったので遅くなり、空はもう夕方になっていた。

その後スバルとフカヒレの二人と合流し、カニのバイト先であるカレー専門店『オアシス』で晩飯という事になった。

 

「いらっしゃいませーっ……って、何だフカヒレ達か」

 

 この松笠市の名物はカレー。

キャッチフレーズは『カレーの街、松笠』。

町中にはカレー屋が数多く点在しこの『オアシス』も例外ではない。

 

「ご注文はお決まりですか?“可愛いウェイトレスの気まぐれオススメコース”なんていかがでしょうか?」

 

「そのコースは福神漬け大盛りとか来るからイヤだね、ビーフカレー甘口」

 

「チキンカレー辛口、ライス大盛り」

 

「ポークカレー辛口、ルー多めで」

 

「ノリの悪い……日本人はこれだから、ちょっとはインド人のテンチョーを見習えってんだ」

 

「HAHAHA」

 

 落書きみたいな顔をしたターバン男(店長)がカレー作りながら笑う。

あれ本当にインド人か?

 

「店長の名前はアレックスって言うんだ」

 

 絶対インド人じゃない……いやいや、そんなのどうでもいい、要はココのカレーが美味いか否かだ。

カレー好きのカニがまかない目的でバイトに入っただけあってこの店のカレーはかなり美味い。まぁ、じっくり味わおう……。

 

「いらっしゃいませーっ……ゲゲッ!」

 

 来客を知らせる鐘に素早く反応したカニが、突然硬直した。

 

「……」

 

 シャギーのかかった長い黒髪、鋭い切れ長の瞳に背丈は170センチを超えているだろう。

細身のジーンズに赤いスカジャンという格好は、活動的というより攻撃的に映るが、それを差し引いてもかなりの美人だ。

 

「おっ、美人!」

 

 それも顔にうるさいフカヒレが認めるほどの美人だ。

 

「て、テンチョー!辛口キングだ!」

 

 おい、女にキングは無いだろ……。

 

「OH!落ち着きマショウ、カニさーん、まずはオーダー、デース」

 

「……ご注文は?」

 

「超辛スペシャルカレー、チャレンジ」

 

 キングはクールに答えた。

 

「超辛スペシャルカレー入りましたー!」

 

 あ、アレをか?

 

「超辛スペシャル……おお、完食すればタダ、何度でもチャレンジ可能ってコレか」

 

「以前俺、あれにチャレンジして一口でダウンしたんだけど……変な汗出たよ」

 

 超辛スペシャルカレー。俺も挑戦した事はあるが……。

一般人なら一口で炎上、三口で発狂、そこから先は地獄で、次の日もトイレで地獄。

俺でさえ七口が限界だったんだぞ!!

 

「シィイイィット! おそらくまた食べられてしまいマース。ここは白旗あげまショウ!」

 

「くっ……それしかねーのか……。だから何度でもチャレンジ可能は無限コンボ喰らうからやめようって言ったのに」

 

 早くも諦めモード、あの女マジで完食したのか?

 

(ニヤリ)

 

 あ、笑った…………どう見ても嘲笑だが。

 

「笑いやがったなあのアマぁ!ちょっと胸がデカそうだからっていい気になりやがって!構わないやテンチョー、完食されたらボクの給料から差っ引いていいから、勝負を受けよう!」

 

 さすがカニ、勝算が無くても諦めない蛮勇の持ち主だ。

 

「そこまで言い切るならいいデスけどー。すでに一回完食されてるのに勝算とかソウイウノあるんデスかー?」

 

「なぁに、香辛料を限界まで入れれば大丈夫、火ぃ吹くから」

 

「ソレ、普通に致死量デスよー」

 

「構わないっしょ、別に」

 

 鬼だ、カニの皮被った鬼がココに居るよ……

 

「味を落とさずに、コレ以上辛くするの大変なんデスけどねー、わかりましター」

 

 いや、止めろよ店長……。

 

「ってわけで、超辛カレーお待たせしましたー」

 

 王の卓に置かれたのは、赤味の強いカレー……………ブクブクと気泡が上がって、ありゃ最早カレーじゃねぇよ。

 

「いただきます」

 

 一切の動揺も無く、キングは超辛カレーを食べ始めた。

 

(もぐもぐ)

 

 一口、二口……ぜ、全然ダメージを受けてない…………。

 

「やっぱりおいしい」

 

 そしてこの台詞である。

 

「おいおい、平然と食ってるぞ、何者だありゃあ」

 

「味覚、絶対ぶっ壊れてるぞ…………」

 

 俺もスバルもあいた口が塞がらなかった。

俺でさえ七口で敗北したあのカレーをああも簡単に…………くそぅ、プライドが傷つくぜ。何のプライドかは知らないが

 

「よっしゃ、今こそ俺がやりたかったことを実行してやる。おい、バカ面してるウェイトレス!」

 

 ?…………フカヒレの奴何する気だ?

 

「んだよ、ダメ人間」

 

「あの美人に、セイロンティーを」

 

「その出来の悪い脳みそでも、“あちらのお客様からです”って言うのだけは忘れるなよ!」

 

「いいよ、セイロンティーね」

 

 ニヤリと笑ってカニが準備に取り掛かる。またよからぬことを考えて……。

 

「サービスのホット・セイロンティーですぅ!ちなみに、あちらの眼鏡をかけたお客様からです」

 

 ほらやっぱり……あの超辛にホット・セイロンティーって……死にかねんぞ。

 

「ばっ……辛いもん食ってんだから普通アイスだろ、なんで湯気出てんだよ」

 

「ン……グツグツしてていい、カレーに良く合う」

 

 カニの期待は大いに裏切られ、キングは悠々とセイロンティーを飲み干す。

 

「そんな馬鹿な……。喉を火傷させて殺すつもりで熱したのに」

 

「おいしかった。全部食べたから無料ね」

 

 恐ろしい女だ…………。

 

「ウアァゥ……その通りデース。ありがとうございましターっ!」

 

「セイロンティーごちそうさま」

 

 帰り際にそう言った。ただしぶっきらぼうにであるが。

 

「あっ、いえいえどういたしまして………………へへへ、あのコと会話しちゃったよ」

 

 あの程度で喜ぶか、コイツはコイツで別の意味で凄い。

 

「くぅっ……負けた……、完食された……」

 

 結局、カニはバイト代から超辛カレーの代金を差っ引かれたのであった。



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再会 鉄の風紀委員、鉄乙女!!

レオSIDE

 

 走る、疾走する。

本気を出せばもっと凄い速さを出せるが、如何せんカニをつれている以上見捨てるわけにはいかない…………いや、見捨てても良いんだけどそれだと後が厄介になる。

え?何故俺がこんなに急いでいるかって?

決まっている、寝坊して遅刻寸前だからだよぉ!!

俺とカニだけじゃない、スバルとフカヒレもだ(結局いつものメンバー)。

そして…………。

 

「無情だ……」

 

「くぅ……見事に校門閉まってるじゃん、こうなると遅刻届貰うしかないんだよね?」

 

「いや、俺は納得しないぞ、折角頑張って走ったのに、こうなったらフォーメーションで裏側から入ろう!」

 よし、久しぶりにやるか。

校舎の裏側に回り込み外壁の前に立つ。並の人間ならこの高い壁を飛び越えるのは無理。だが俺達は4人で連携すれば簡単だ。

まず俺とスバルをジャンプ台にカニとフカヒレが壁を上る。

続いてスバルが俺をジャンプ台に壁を上り、最後に俺が単独で壁を飛び越える。

コレでも俺は日払いのバイトで軽業をやってたりするので某Wの名無しの少年並に身軽なのだ。

何はともあれコレで全員潜入成功。後はこのまま何食わぬ顔で校舎に入れば万事解決だ。

 

「そこの4人、ちょっと待て」

 

 後ろから凛とした声が聞こえた。

だがまだ後ろは振り向かない。顔を見られるわけにはいかない。

 

「どうするよ?」

 

「当然、逃げる!!」

 

 一斉に逃げ出す俺達4人、しかし……。

 

「止まれ、止まらないと制裁を加える」

 

「おい、何か言ってるぞ」

 

「止まれって言われて止まる馬鹿はいねぇよ」

 

「俺も逃げ足だけなら自信があるぜ」

 

 こいつらは頼もしい事を言ってくれているが……何だ?妙な不安が……。

 

「警告に従う気は無いと判断した……実力行使だ」

 

 !?まずい、あの女!!

 

「止まれ、皆!逃げても無駄だ!!」

 

「ふむ……賢明な判断だ」

 

 一瞬女の殺気が薄れた。

 

「何言ってんだよ!諦めたらそこで試合終了だろうが!!」

 

「俺は逃げ切るぞ!!たとえ友(レオ)を見放しても!!」

 

 カニはいつも通りとして、フカヒレお前は最低だ。

 

「坊主が血相変えて止めてんだぜ、止めた方がいいんじゃね?」

 

 さすがスバルよく分かってらっしゃる。

 

「ぶげらっ!?」

 

「うぎゃ!」

 

 もう遅いけど…………。しかしこの女、どこかで…………。

 

「一撃で終わりか……」

 

 アレは、たしか……ガキの頃。

 

「根性無しが」

 

 !!

お、思い出した。アイツは、あの人は……

 

 

『くちごたえするなコンジョーナシ!くやしかったらわたしにかってみろ!』

 

 

「お、乙女さん?」

 

「ん?レオ、お前ようやく思い出したのか?」

 

 やっぱりだ……。

 

「知り合いか?」

 

「従姉だよ……」

 

「は?それって前に言っていたあの……」

 

「ああ、あの鉄乙女(くろがねおとめ)さんだ」

 

 俺の運命を変えた張本人だ。

 

 

 

 で、説教タイム突入と相成った。

 

「本来、こういうものは同じ学年の風紀委員が注意するのが筋なのだがな、あいつはもう、自分では抑えられないと言っている」

 

 クソ、2年の風紀委員(名前知らない)め、アイツの方がよっぽど根性無しだ。

 

「なんだよ!じゃあ俺が感じてた視線ってこの女のだったのか!」

 

「この女、だと?」

 

「ひっ、ひぃぃいいいっーー!?」

 

 いかん、フカヒレのアホがトラウマ発動してやがる。

フカヒレこと鮫氷新一には姉が一人いる。彼女はとても美人だが、筋金入りのドSであった。

フカヒレのトラウマは相当重く、下手にトラウマが蘇ると恥も外聞も気にせず泣き叫んでしまうほどに……。

ちなみに、現在フカヒレの姉は家を出ており、東京で働いている。

 

「お前たちは特に違反が多い。とりあえず今週見た限りでは、屋上への侵入、廊下の爆走、図書館での飲食、下校時間の超過、漫画持ち込み……だな」

 

「畜生……偉そうに説教しやがって……」

 

「止めとけ、相手が悪すぎる……闘技場で言えばチャンピオンクラスだぜこの人」

 

 小声で恨み言を呟くカニを諫める。

 

「うぅ……」

 

 悔しそうに唸るカニ。普段なら絶対噛み付いているだろうがチャンピオンクラスが相手では相手が悪すぎるという事は俺という実例を持って痛感しているのだ。

 

「しかしレオ、まさかこんな形でお前と久しぶりに話す事になるとは」

 

「うん、まぁね」

 

 というか、さっきまで乙女さんだって気付かなかったから。

 

「まったく、今の今まで忘れているとは、嘆かわしい……生活も少々自堕落気味みたいだしな」

 

 ヤバ……説教の矛先が俺に。

 

「ほぅ、派手にやっているようだな、良いぞ良いぞ」

 

 あ、館長登場。

 

「館長、おはようございます」

 

「おはよう、鉄、今日も指導か?」

 

「はい、先輩として後輩を導いていました」

 

「うむ!な ら ば 良 し !ビシビシ鍛えてやれ」

 

 さすが館長、ノリが体育会系だ…………。

 

「では皆、今日も勉学に励めよ!」

 

 そう言って館長は去っていった。

 

「まぁいい、とにかく近い内にお前の家を訪問するからそのつもりでな」

 

 マジですかい…………。

 

「そろそろHRだ、さっさと行け」

 

「はい……」

 

 やっと解放された。

 

……………ん?

 

「よっと、セーフティー!壁越えクリア!」

 

 姫…………。

 

 

 

NO SIDE

 

 昼休み

 

「畜生ぉっ!!黒豆おかめの野郎!ゼッテー仕返ししてやる」

 

 完璧な逆恨みであるがカニの闘志はみなぎっていた。

 

「戦闘力がレオと同等でも不意を付いて痛手を喰らわせればアイツのプライドはズタボロじゃあ!!」

 

 最早勝つことよりも一矢報いることに主眼が置かれている。

 

「フカヒレ、お前も来い!!」

 

「は、俺?やだよ、ああいうタイプねーちゃんに似てて怖いんだよ」

 

「いや、やられっぱなしだからこその克服でしょ?やられっぱなしの君でいいかい?」

 

「そ、そうだよな、確かに俺のイズムに反する」

 

「フカヒレがいつも主張してる事は何さ」

 

「女の子は男に尽くすべし!コレは古来からの鉄則である!」

 

 どこが?

 

「勘違いしている女は教育してやるッ!」

 

 ツッコミ所満載の理論でフカヒレは燃え上がる。

 

 

 フカヒレのこの主張は数年前に遡る。

当時のフカヒレはクラスメートの女の子を自分のガールフレンドにしようとして告白した、しかし…………

 

「フカヒレ君ってザリガニの臭いがするからイヤ」

 

 見事玉砕。

 

「そんな……俺本気だったのに……」

 

「何泣いてるの……やだ、気持ち悪い……」

 

 フカヒレはレベルが上がった!女を殴れるようになった。

 

 

 とまぁ、こんな感じである。

 

「ま、そんなわけで俺は女子供には容赦しねぇ」

 

「言ってる事は最低だけど今はそんなフカヒレが頼もしいなっ!」

 

 そんなこんなで馬鹿二人は勝ち目の無い戦いに出陣する。

そんな様子をレオとスバルは呆れ顔で見つめていた。

 

 

 そして……

 

「いくら強いといっても女子は女子!男子の腕力の前には……」

 

「制裁!!」

 

「ぐっぼぁぁああ!!!」

 

 フカヒレ、気絶して廊下でお寝んね状態。

 

「この役立たずが地面にキスしてな!!」

 

 更にカニの容赦ない追撃が入る。

 

「おい小さいの、もう気絶しているぞ……というかソイツはお前の仲間じゃないのか?」

 

「お前じゃないやい、蟹沢っていうちょっと微妙な苗字があるんだからなっ!それに小さいって何だコラ!!」

 

「そんなに気にする事か?顔がそれだけ可愛ければいいじゃないか」

 

 乙女は何気なく言ったつもりだろうがこの『かわいい』という言葉はカニの脳髄まで響いた。

 

「…………乙女さんってさぁ、よく見たら結構格好いいね」

 蟹沢きぬ、陥落……。

 

 

 

 そして翌日の木曜日

 

 

 

レオSIDE

 

 現在俺は乙女さんに何時(いつ)リベンジを挑むか+リベンジのための適当な口実を考え中だ。

 

「対馬君、鉄先輩が呼んでるよ」

 

 向こうから来ちゃったよ……。また説教か?

 

「スバル、30秒後に電話頼む」

 

「あいよ」

 

 それだけ聞いて廊下に出る。

 

「ん、来たか……」

 

「うん、で、何か用?」

 

 ジャスト30秒、やれ!スバル!!

 

「ああ、すでにご両親から話は聞いているだろうが、私が明日から……」

 

 〜〜♪

携帯に着信が入る。さすがスバルだ、時間ぴったり。

 

「あ、ちょっとゴメン、もしもし…………え、マジで、うん分かった……ゴメン乙女さん、急用入った」

 

「ん、そうか?まぁいい、どの道週末にまた会うんだからな」

 

 よし、華麗にスルー出来たぜ。

 

 しかし俺はまだ知らなかった。この時乙女さんが話そうとしていたのは非常に重要な事実だという事を。

 



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雪辱日和

レオSIDE

 

 本日は毎週恒例の館長による授業、『心』を学ぶ独自のカリキュラム、その試験結果発表である。

 

「うむ、全員出席か、実に結構」

 

 いや、アンタの授業をサボる命知らずはココにはおらん……。

 

「いつの世になっても体が資本であるのに変わりはないからな、それではこの間の試験を返却する!全員、戦場で敵を倒す兵士のように元気良く答案を受け取るように」

 

 …………ノリが最早戦時中だ。しかし口がそんな事は裂けても言えない。

 

「俺、これだけは点数いいんだよな」

 

 フカヒレは試験の名前を書く欄、男・女の男の部分に二重線を引き、『漢』と書くアホだ。

だが、これをすると館長は5点アップしてくれる。それで良いのか?

だが問題は結構面白い。『問1 お前の主張を書け』や、『問2 百人の命と一人の命、どっちを助ける?』など。

 

「とりあえず百人って書いたら○もらったよ」

 

「気分にもよるけど、もちろん両方助けるわよ、私、結構欲張りだし」

 

「一人と百人、その百人が他人で一人がダチだったとしたら、オレは一人だね」

 

「美人だけ助ける。後は自力で生き延びてくれ」

 

「うーん、私わからないって書いたらバツだった……どっちが正しいかわからなくて……」

 

 上からカニ、姫、スバル、フカヒレ、佐藤さんである。人それぞれ色んな考えがあるというのがよく分かる。

え?俺はなんて書いたって?

『出来る限り多くの命を助ける、100人も1人も関係なし、ただし助ける優先順位は選ぶ』だ。

 

「ま、若い内は色々やってみるが良い。恋愛、旅、スポーツ、勉学、何でも構わん」

 

 何だかんだ言ってもこの人の言葉には重みがある。それがこの竜鳴館のクオリティの一つなんだろうな…………。

 

「いずれそれがお前たちの『力』になるだろう、例えば、儂(わし)のように体を日々鍛えていれば、熊九頭までなら素手で倒すことも可能になる」

 

(それはアンタだけだ)

 

 まぁ2〜3頭ぐらいなら何とか出来る自信はあるが…………。

 

「もし、日々がつまらぬ。日常がつまらぬ。毎日が同じことの繰り返しで何か刺激を求めている者がいたら、儂のところへ来い儂が心身を鍛え、面倒を見てやろう」

 

 それはそれで面白そうだが怖いと言う思いが強いので止めとこう…………。

 

 

 

 ようやく一日の授業が終わって帰りのHR。今日は中間考査の結果の総括。

 

「2−Cは7クラス中4位と、問題児揃いにしてはまずまずではありました」

 

 祈ちゃんよ、仮にも担任ならそういう発言は控えてくれ。

 

「ですが、仇敵である2−Aには及びませんでした」

 

 祈先生とA組の担任は対立関係にある。テストの成績でよく賭けをしているから、それに負けるのが癪らしい。っていうか俺達を勝手に賭けの対象にしないでよ…………。

 

「霧夜さんのワンマンクラスと言われては皆さんも心外でしょうし、ここは一つ期末で順位昇格を狙おうではありませんか」

 

 アンタの懐のためにか?

 

「ここで土永さんから一言」

 

「いいか、テストなんてただの記号だ。生きるための知識として通用するのは多くない……だが、しっかりやっといていい点取ってりゃ進路も増える、くだらねぇがこれが日本のシステムだ、ま、がんばれや」

 

「……と、土永さんが言ってますわ」

 

 正論だが……オウムに言われたくねーよ。

 

「あくまで私が言ったのではなく、オウムが鳴いただけ、というのお忘れなく」

 

 そしてこの台詞である。この人はこういう所が抜け目無いんだよなぁ…………。

 

 

 

 

 そしてまた、夜のダベり。

暫くはタイトルマッチも無いので皆でのんびり出来るぜ。

 

「しかし、乙女さんか……俺のねーちゃん程酷くは無いけど、同情するぜ」

 

 姉にトラウマの有るフカヒレが俺を哀れむような目で見てくる。

 

「まぁ、確かに規則正しい分うるさいからな……昔は恐怖の対象だったからな」

 

 ま、いずれリベンジするつもりだけど…………。

 

「そうそう、分かる分かる、姉ってさぁ、怖いだけなんだ、人の体兵器で実験に使うしさ、背中に爆竹入れたりするんだぜ」

 

「そりゃお前ん家のねーちゃんだけだ」

 

 たまに恐ろしくなってしまう。あの時リベンジを誓わなかったら俺はフカヒレの同類になってしまったのではないかと…………。

 

「あ……あ……あ……やべぇ記憶が蘇ってきた……!」

 

 突然フカヒレが震えだした。トラウマモード突入だ。

 

「あーあ、トラウマが発動しちまった」

 

「こうなると放置しておくしかないね」

 

「うわーん!止めてよお姉ちゃん、いくら声が似ているからって僕をM字ハゲにしないでよう!」

 

「難儀な奴だな」

 

 フカヒレがトラウマから解放される日は……来ないだろうなぁ…………。

 

 …………あ、そういや乙女さんが明日会うとか言ってたけど、家に来るのか?

…………ま、いっか。

 

 

 翌日……つまり土曜日の朝。俺は目を覚まし休日の恒例である片手逆立ち腕立て伏せを開始する。左右それぞれ100回で1セット、コレを3セット繰り返す。ちなみに普通の片手腕立てなら高速でも1000回は普通にイケる。

コレを始めてもう結構経つ、割と続いているんだがどうにも俺は筋肉が付き難く、そのため割りと細身だ。

ま、そのおかげで無駄な筋肉が無く今みたいに身軽になれたんだけどな。

 

「98、99、100……よし、まず1セット」

 

『ピンポーン』

 

 

「?……はーい、今出ます」

 

 丁度1セット終わった頃、呼び鈴が鳴った。

 

「おはよう」

 

 乙女さん…………本当に来ちゃったよ。

 

「おはようごさいます……………」

 

「うむ、盟約どおり、私は今日からここで暮らす」

 

 は?

 

「あの、それはどういう……」

 

「その間の抜けた顔は寝起きだな……私は勝手にやるから、顔でも洗っていろ」

 

 そのままズカズカと家の中に入っていく乙女さん。

 

「……取り敢えず顔洗おう」

 

 冷水で顔面を濡らして頭を落ち着かせる……よし、落ち着いた。

そして結論→うん、やっぱりおかしい。

 

「ちょっと待った!何でいきなりそんな話になってんの!?ココで暮らすってどういう……」

 

「聞かなかったのか?私はここに卒業まで逗留する」

 

 逗留って古い言い方だな……って違う違う違う!!

 

「ご両親から話を聞いていなかったのか? 元々はそっちからの頼みだったハズだが……」

 

「頼みって何の……?」

 

「疑問文の応酬だな」

 

 誰がそうさせた……。

 

「レオはどうにも頼りないからビシバシ鍛えてやってくれと言われてな、空手も破門されてしまったと聞いたしな、私もお前には鍛錬の必要ありと感じた、だからココに来た」

 

 …………。

 

「本来ならお前が鉄家に来れば話は早いのだが、爺(じじ)もいるからな……だが、私の実家は東京だ、通学には遠すぎる、実際私も朝早くから電車を乗り継いで通学していたが、家が遠くて不便だったからな、だが、ここなら徒歩十分だ、私だって空いた時間を好きに使えるし、お前も引っ越さなくてすむ、家賃も無いし正直悪くない話だと思ったぞ」

 

 さいですか…………。

 

「受験勉強もここでするの?」

 

「私は推薦狙いだ、成績は問題ない、むしろ学校が近くなり、より風紀委員や部活に精が出せる、推薦狙いには丁度いい」

 

「でもさ、推薦狙いが男と同居してるってマズくない?」

 

「私とお前が赤の他人ならそれこそ大問題だがな、親戚同士で何が問題なものか」

 

「乙女さんのご両親はなんて?」

 

「もちろん両親も同意の上だ」

 

「俺の同意は?」

 

「……お前、私が嫌なのか」

 

 嫌って程じゃないが、今すぐ同意しろと言われてもなぁ……。

 

「乙女さんはそれで本当にいいの?俺と一つ屋根の下だよ?」

 

「私は一階の客間、お前は二階、さほど気にならん、第一軟弱なお前ごときに襲われるほど私はやわではない」

 

 ん?聞き捨てならん言葉があったが……まぁいい、まずは……。

 

「ちょっと待ってて、親に確認する」

 

 

 ……………………結果、両親も同意でした、ハイ。

 

 

「どうだった?」

 

「『伝えるの忘れてた』と」

 

 なんつー親だ。

 

「コレで問題ないな」

 

「まぁね、俺の意志以外は……性格合わないと思うよ、俺テンションに流されるの否定派だから、主導権が俺にあるっていうなら話は別だけど」

 

「その性格を含めて鍛え直すんだ、軟弱とテンションに流されない事は違う」

 

 …………へぇ、そう言う。

 

「言ってくれるじゃん……でもさ、俺だって意地ってもんがあるんだよ、少なくとも古い情報だけで心身ともに俺を舐めきってる人と一緒に住みたいとは思わないね」

 

 俺が挑発的に笑って見せると乙女さんは余裕綽々と言った感じに笑みを浮かべた。

 

「随分自信満々だな、何ならかかってくるか?一撃でも入れることが出来ればお前の勝ちにしてやる」

 

 舐めやがって……!だけどリベンジマッチとしては悪くない!!

 

「それじゃ…………!!」

 

 一瞬で距離を詰める。コレが俺の宣戦布告だ!!

 

「!?」

 

 乙女さんの表情が一瞬で驚愕に変わる。その隙を見逃しはしない!!

スピードを乗せた左フックを乙女さんの眼前で寸止めする。

 

「!?(み、見えなかった……だと)」

 

 寸止めとはいえ思わぬ一撃に狼狽する乙女さん、当然だ、油断しきっている状態で俺のスピードは捉えられない。館長クラスであれば話は別だが……。

 

「『男子三日会わざれば刮目して見よ』……それは俺にも当てはまるんだぜ」

 

「…………レオ、お前」

 

「ルール変更して戦(や)る?戦(や)るって言うなら本気出さないとね、お互いにさ」

 

 挑発的に笑ってやる。もう俺はアンタに駄馬と呼ばれていた俺じゃないんだ。

 

「…………お前への認識を改める必要があるな」

 

 静かに此方を睨みつけてくる乙女さんに俺は表情を引き締める。

 

「ココじゃ何だし、場所移そうか……」

 

「そうだな、学園の道場で戦(や)るぞ、あそこなら今日は人がいないから思う存分戦(や)れる」

 

 上等、白黒はっきり付けてやるよ。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

 街を歩いていたら妙な光景を見た!

レオと乙女さんが二人揃って歩いてやがる。

しかもレオの表情、滅多に見せない戦闘モードだったし!

なんか凄い事になりそうだ、カニとスバルにも知らせねぇと……。

 

 

 

エリカSIDE

 

 突然頭に何か妙な感覚が走った。虫の知らせって奴かしら?

 

「学校の方?何かビッグイベントな予感♪」



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激突!!〜若き獅子の咆哮〜

レオSIDE

 

 更衣室で愛用のボクサーパンツに着替え、道場にて乙女さん(こっちは拳法着)と相対する。しかし……。

 

「何でこうなってんの?」

 

「私に聞くな」

 

 周囲にはカニ達+姫、更には館長まで居る。館長は審判を買って出てくれたからいいとして…………。

 

「うぉおおおお!いつかはやると思ってたけど遂に始まるぜ最強のドリームマッチ!!」

 

 興奮してはしゃぐカニ、うるさい…………。

 

「まさかこんなに早くレオがリベンジに挑むなんてな、俺の予想じゃあと1ヶ月ぐらいは掛かると思ってたのに」

「乙女センパイに何処まで持つかしら?」

 

 姫、俺が負けること前提で考えるなよ。

 

「いや、レオはああ見えて強いぜ、普段喧嘩なんてしないが見えない所で相当場数踏んでるからな」

 

 皆口々に言いたい事言いやがって。

 

「では、準備は良いな?」

 

「いつでも構いません」

 

「こっちも」

 

「うむ……ルールを確認しておくぞ、噛み付きと目潰し、急所への集中攻撃は無し、それ以外は特に問題ない」

 

 そいつは良いお互い全力で闘(や)り合えるってもんだ。

 

「では…………始め!!」

 

 館長の怒声と同時に俺達は互いに踏み込んだ。

 

 

 

乙女SIDE

 

 両者同時に踏み込む。先に仕掛けたのはレオだ。

 

「ラァッ!!」

 

 とてつもなく速い拳が連続して私に襲い掛かる。

 

(!?……速い!)

 

 すかさず腕でガードするが……は、速過ぎる!!ガードが追いつかない。

 

「クッ……」

 

 数発喰らってしまった、なんて鋭い拳だ……。

 

「だが、パワーは私が上だ!!」

 

 レオの拳に耐え、カウンター気味に此方も拳を繰り出す。

 

「グゥッ……」

 

 掌で受け止めるがレオは苦悶の表情を見せる。

 

「痛ってぇ、ったく、何てパワーだよ……」

 

 一旦距離を取り合い、レオは私の拳を受け止めた手を振りながら言う。

「そっちこそ、とんでもないスピードだな、軟弱という言葉は撤回してやる」

 

 認めざるを得ないな……コイツはもう根性無しだった頃のレオじゃない。

だが、勝つのは私だ!!

 

 

 

レオSIDE

 

「準備運動はコレで終わり、こっからは本気(マジ)で行くよ」

 

「いいだろう、こちらも存分に行かせてもらう」

 

 再び構えてじりじりと距離を詰め、一定まで近づく。

 

「ハァアアアアア!!」

 今度は乙女さんが先に仕掛けてきた。

とんでもない威力の右ストレート、正面突破か?当然身を屈めて避ける!

 

「墳っ!!」

 

 ゲ!?読まれた!膝が目の前に!!

 

「チィッ!」

 

 さっきみたく掌で防ぐが、勢いは大して衰えず俺の手諸共顔面に入る。

 

(痛っでぇ……)

 

 手がクッション代わりになったとはいえかなり痛い。まともに食らえば大ダメージは必至だ。

 

(けど元は取った!)

 

「うわっ!?」

 

 すかさず乙女さんの足を掴んでドラゴンスクリューで投げ飛ばし、ダウンさせる。

 

「もらった!!《テキサスコンドルキック!!》」

 

 起き上がりを狙って両膝蹴りによる奇襲を叩き込む。

 

「ウグァッ……クソ!」

 

「うわっ」

 

 一瞬苦悶の表情を見せる乙女さんだが即座に俺の身体を掴んで投げ飛ばし、俺は背中から床に叩きつけられる。

 

「「……………………」」

 

 お互い無言のまま体勢を立て直し睨み合う。

 

「「!!」」

 

 直後に二人同時に踏み込み、拳を連続して繰り出し合う。

 

「ダァアアアア!!!」

 

「ウラァアアア!!!」

 

 お互いにラッシュの応酬。乙女さんのパンチは凄まじいパワーと重さがあって威力で言えば確実に俺の上を行っている。

だが俺のパンチには乙女さん以上の手数とスピードがあり、尚且つスピードによる鋭さが加わり、乙女さん程ではないにせよ威力も高い。

 

「ハァッ!!」

 

「ウラァッ!!」

 

 お互いのストレートが顔面に入り、俺達は面白いように同時に仰け反った。

 

「クッ……やるな……」

 

「……そりゃ、どーも」

 

 暫く続いた殴り合いが一区切りし、軽口を叩きあう。

 

「そろそろ本気で行かせて貰う!!」

 

 乙女さんがまた俺に襲い掛かってくる。俺は再び迎え撃つが……。

 

「!?」

 

 パワーがさっきより上がっている!?ヤバイ、押し負ける!

 

「ハァアアアアア!!」

 

「ガッ……!」

 

 乙女さんの蹴りにガードを崩され、乙女さんはそのまま俺の胸板を踏み倒した。

 

「ゲハァッ!」

 

「もらった!!」

 

 ダウンした俺に馬乗りになって俺の顔面にパンチの連打を浴びせてくる。

 

「うわ、顔面をモロに……」

 

「こりゃヤバイぞ……」

 

「さすがに乙女センパイが相手じゃここら辺が限界なのね……」

 

 言いたい放題なギャラリー。

 

(畜生……まだ、負けてたまるか!!)

 

 両手でガードして耐える、耐え続ける。

 

「これで終わりだ!!」

 

 乙女さんがフィニッシュと言わんばかりの拳を振り上げる。たぶんガードも突き破るほどの渾身の一撃だろう。

 

(今だ!!)

 

 大振りになった隙に乙女さんの頭を掴み、渾身の力で締め上げる。

 

「グァアアアアアッ!!!!」

 

「ぬぉおおおおお!!!!」

 

 更に力を込めながら乙女さんをマウントポジションから引き離す。

 

「出たぜ!レオの十八番(オハコ)、アイアンクロー!!」

 

「グゥゥ…………こ、この!!」

 

「おっと!」

 

 蹴りを繰り出して俺を引き離そうとする乙女さんだったが俺はすぐにアイアンクローをはずしてそれを回避する。

 

「クゥ…何て握力だ、今のはかなり効いたぞ……」

 

 頭を抑えながら乙女さんは唸り声を上げる。

 

「へへ……俺も握力なら乙女さんのパワーにも負けない自信があるんでね…………次はこっちが本気を見せてやるよ」

 

 両手の指先に力を集中させる。見せてやるぜ、とっておきのあの技を。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオが指先に力を集中させた直後、その変化は周囲にも伝わった。

外見自体は何も変わらない。しかし何かが変わったのが空気を通して伝わってくる。

 

「むぅ……あの技は……まさしく鉄装拳(てっそうけん)!」

 

 百戦錬磨の武人である平蔵は直感でレオの技の正体を見抜いた。

 

 

「《鉄装拳》

 かの豊臣秀吉によって行われた刀狩によって民衆は武器を持つ事を固く禁じられた。

そこで生み出された二大活殺術が身の回りの日用品を武器と化して戦う無限流活殺術とそれに対を成す鉄装拳である。

その極意とは、氣で己の肉体をコントロールし、鉄装拳の名の示す通り自らの手足や体を鉄の如く硬く強化する事にある。

強化された肉体は拳や脚はあらゆる物を打ち砕く鈍器となり、手刀は鋭い刃物と化す、文字通り『人間凶器』と呼ぶにふさわしい肉体となる。

なお、現在でも硬く握り締めた拳を『鉄拳』と呼ぶのはその名残である。

 

                         民明書房刊 世界・男の拳大全より」

 

 

(クッ……何という闘志だ、コレがレオの本当の力なのか?)

 

 流石の乙女も戦慄を隠せない。今までこれ程の闘志を燃やす相手はそうそうお目にかかれるものでは無い。

 

(あれを避けるのは……無理か、悔しいがスピードも手数もアイツの方が上だ、ならば……真っ向勝負だ!!)

 

 元々逃げの一手は彼女の性分ではない。

それならばと正面から迎え撃つ事こそ美徳と考えるのが彼女、鉄乙女なのだ。

 

「行くぜ!!」

 

 俊足ともいえる速度でレオは乙女に接近し凄まじい速度の蹴りを見舞う。

 

「グゥッ……!!?(な、なんて硬さと鋭さだ)」

 

 まるで鈍器で殴られたような感覚に乙女は一瞬ではあるがたじろいでしまう。

そしてそれを逃すほどレオは甘くは無い。

 

「うぉおおおおおおお!!!!」

 

 咆哮と共にレオは両拳で乙女の顔面を乱打する。

 

「グ……ガッ!!?!」

 

 凄まじい連打に瞬く間に乙女はサンドバック状態になってしまう。

 

「こ……の…………舐めるなぁあああーーーーーーー!!!!!」

 

 だが乙女の目はまだ死んではいない。乙女が反撃に移り再びラッシュの応酬に入る両者。しかしその凄まじさは先ほどのものの比ではない。

両者の拳が、脚が、相手に噛み付くように襲い掛かり、瞬く間に互いの傷が増えていく。

 

「うぉらぁあああああーーーー!!!!」

 

「甘い!!」

 

 レオの右ストレートをかわし、乙女はレオの頭部をヘッドロックで捉え、そのままレオをブルドッキングヘッドロックで床に叩きつける。

 

「ブッ!……こ、の…野郎!!」

 

 ダメージを受けつつもレオは乙女の髪を掴み、ヘッドバットを叩き込む。

鉄装拳で強化したヘッドバットである。その威力は絶大だ。

 

「ぐあぁぁぁ!!……クゥッ」

 

 お互い顔を傷だらけにし、体中ズタボロになりながも二人の立ち上がり、その目は未だ闘志に燃えている。

「喰らえぇ!!《波動光弾!!》」

 

 遠距離からの気による遠当てが乙女の両手から繰り出される。

 

「甘い!!《修羅旋風拳!!》」

 

 乙女の遠距離攻撃にレオは両腕を高速回転させて自らの腕に竜巻を纏わせる事により、攻撃力を増加させた拳で叩き落す。

そんな二人の様子にギャラリー達も開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

「ハァハァ……ココまで私がボロボロになってしまうとは…………見直したぞ、レオ……」

 

「ハァハァ……見直したって言うならさぁ、降参してくれない?」

 

「冗談言うな、弟に負けるなど私のプライドが許さん」

 

 レオの軽口に乙女は笑みを浮かべながら答える。

それを見てレオも僅かではあるが笑った。

 

 

 

レオSIDE

 

「お互いもう限界の様だな、次で一撃で決めさせてもらう!」

 

 乙女さんがそう言いながらゆっくりと構える。

 

「はぁああああ…………!!」

 

 クッ……空気を通じて凄まじさがビンビンに伝わってくる。

何だよこりゃあ、俺の鉄装拳と似ているが威力は段違いだ。

俺の鉄装拳は汎用性を重視しているのに対して、アレは純粋な攻撃特化型だ。

それに加えて乙女さんのパワー、まともに喰らえば俺でもノックアウトは必至。

避けるか?…………いや、それを許すような乙女さんじゃない。

なら、やるべき事は一つ、危険な賭けだがやるしかない!!

 

「だったらこっちも切り札使うまでだ……」

 

 静かに体と両手に残りの力を込める。

 

「行くぞ……鉄流奥義、《真空鉄砕拳(しんくうてっさいけん)!!!!》」

 

 とんでもない勢いで乙女さんの拳が俺の体を狙って迫り来る。

まだだ、まだ動くな……チャンスは一瞬、それに懸ける!!

 

「喰らえぇえええええーーーーーー!!!!!」

 

 乙女さんの拳が俺の体に吸い込まれるように入る。

 

「そこだ!!」

 

 俺の体にパンチが入るその直前、俺はカウンターの要領でそれを繰り出した!!

 

「《気掌旋風波(きしょうせんぷうは!!!!)》」

 

「な!?うわぁぁぁぁ!!!!」

 

 お互いのストレートがほぼ同時に入ると同時に俺の右腕から強烈な竜巻が吹き荒れる。

気掌旋風波……己の拳から凄まじい竜巻を生み出し、相手を吹き飛ばす俺の切り札だ!!

 

「カハッ!」

 

 吹き飛ばされた乙女さんは壁に叩きつけられダウンする。

俺も乙女さんの一撃を喰らってしまってはいるが旋風波による竜巻がクッションの役目を果たしてくれたお陰でなんとか立っていられる。

 

「ぐ……ま、まだ…終わりでは……」

 

 だが、乙女さんはそれでも立ち上がろうとする。

まだ終わりじゃない。止めを怠る事は敗北に繋がる。

俺は乙女さんの両足を掴んで再びダウンさせる。

 

「『天使のように細心に』そして……」

 

 そのままジャイアントスイングに捉えて振り回す。

 

「『悪魔の様に大胆に』だ!!」

 

「グゥ…ゥゥ……」

 

 そのままぶん投げ、直後に間髪入れずに接近、再び掴みかかりローリング・クレイドルで三半規管を狂わせる。

 

「クッ……ドリャァアアアア!!!!」

 

 さっきまでの傷や必殺技でのダメージによる痛みを訴える体に鞭打ち、エアプレンスピンで上空に投げ飛ばし、天井に激突させる

 

「これで……ラストぉおおおおお!!!!」

 

 落下する位置に立ち、直立不動のまま拳を振り上げる!!

 

「《我流連撃・風林火山》…………」

 

「ガ……ハッ……」

 

 乙女さんが気を失ったのを確認し、俺は彼女を降ろした。

 

「そこまで!勝者、対馬レオ!!」

 

 館長が俺の勝利を宣言する。俺は……勝った……!

 

「は、ハハ……勝った……勝ったぞぉぉーーーーーー!!!!」

 

 乙女さんに勝った。その歓喜に俺は腹の底から叫んだ。

 



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雨降って地固まる

NO SIDE

 

 闘いが終わってから数十分後、気絶から目を覚ました乙女の姿はシャワー室に在った。

 

「負けてしまったか…………」

 

 シャワーから流れ出る水が傷に染みる度に負けを実感してしまう。

 

「昔のままだと思って慢心した報いか……アハハ」

 

 自嘲気味に笑みを零す。しかしその表情は儚く、悲壮感溢れるものだった。

 

「くっ……うぅ…………」

 

 自嘲的な笑いが次第に嗚咽に変わる。

 

「畜生…………畜生っ………………!!」

 

 声を押し殺しながら乙女は敗北の悔しさに涙を流す。

しかしせめてもの抵抗で叫んだりしない。あくまで声を押し殺しながら咽び泣く。

 

「……このまま終わりはしない、私はもっと強くなる!!」

 

 思いっきり泣いた後、乙女は強い意志を孕んだ瞳を取り戻す。

ただ泣くだけでは終わらない。負けの中にも好敵手を得たと言う喜びを見出す、それが彼女、鉄乙女の強さなのだ。

 

 

 

レオSIDE

 

 試合の後、カニたちは先に帰り俺も一休みした後帰る支度をする。

 

「痛てて……う〜〜こりゃ明日全身筋肉痛決定だな」

 

 勝利の代償は結構重い…………でもまぁ、長年の悲願が達成できた訳だし、よしとするか。

 

「まだ居たのか?」

 

 不意に後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには私服に着替えた乙女さんが居た。

泣いた直後なのか真っ赤に充血した眼や顔中に貼った絆創膏や湿布を見るとさすがに悪い事をしてしまったと思ってしまう。

「何心配そうな顔してるんだ、お前は私に勝ったんだ、もっと胸を張ったらどうだ?」

 そう言って俺を叱咤してくる。立ち直りが早いというか器が大きいと言うか、何だかんだ言ってそこら辺はまだまだこの人には敵わないと思う。

 

「今回は私の負けだが、次は負けんぞ」

 

 やや挑発的な笑みを浮かべて俺に手を差し出してくる。

 

「上等、ただし怪我が完治してからだけどね」

 

 そう言って苦笑いしながら俺は差し出された手を握った。

 

 

 

「あ、そういえば、結局俺ん家に住むって話どうすんの?」

 

 いつの間にか勝負云々になっていたのですっかり忘れていた。

 

「ん?そういえばそうだったな、まぁ、どっち道勝負に勝ったのはお前だし、お前が決めれば良いさ」

 

 う〜ん、一人暮らしを取るか、乙女さんを取るか……正直気楽な一人暮らしを捨てるのは惜しい、だけど……。

 

「一緒に暮らす、かな?そっちがそれで良いならだけど」

 

「……」

 

 驚いたように目を見開く乙女さん。え、何?そんなに意外?

 

「意外だな、てっきり断るとばかり思っていたが」

 

「ズタボロにしといて言うのも変だけど、別に乙女さんが嫌いって訳じゃないから、勝負(リベンジ)と家族愛は別物ってね」

 

「そうだな、私もそれは同じだ、これからよろしくな、レオ」

 

 そう言って乙女さんは俺の方を向いて満面の笑顔をみせてきた。



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歓迎会

レオSIDE

 

 乙女さんとの壮絶な試合の後、流石にズタボロになったその日は無理なのでその翌日の日曜日、全身筋肉痛の体に鞭打って引越しの作業を終え、その日の夜はスバルが作った豪勢な飯を5人で囲みながら乙女さんの歓迎会となった。

 

「よし、宴もたけなわということで隠し芸行こうぜ」

 

「はーい! 1番蟹沢きぬ、モノマネいきまーす」

 

 ?……カニの奴誰のモノマネする気だ?

 

「テンションに身を任せるなんて俺はゴメンだぜ……」

 

 ……オイ。

 

「次ぎ戦(や)るときはキッチリ腕磨いて来い、新人潰しなんてセコイ真似せずにな」

 

「それが、この俺だというのか?ええ、オイ」

 

 ムカついたのでカニの頬を引っ張りあげる。

 

「ふは、はひほふるははへ(うわ、何をする離せ)」

 

「いや、コレ似てるぜ」

 

「っていうかそっくりで面白」

 

「特徴を良く捉えているな」

 

 え?俺ってこんなんなの?流石に凹むぞ。

 

「よし、次は私がやろう」

 

 2番手は乙女さんか、それじゃ、コレ渡さないと。

 

「はい、コレ」

 

 そう言って俺は乙女さんにリンゴを手渡した。

 

「?なんだこのリンゴは」

 

「片手で握りつぶすんでしょ?」

 

「『乙女』がそんなことできるか!」

 

 怒鳴り声と同時に乙女さんの手の中にあるリンゴはグシャリと粉々に砕け散った。

結局してるじゃん……。

 

「うわ、スッゲェ……」

 

「……まぁ、これは置いといてだな」

 

 リンゴの欠片を食べながら乙女さんはこちらに向き直る。

 

「私がやるのは手品だ、この10円玉が2つに増える」

 

(手品?乙女さんて昔から不器用だったはずじゃ……)

 

 手の平に10円玉を握り締める乙女さん。

 

「ワン、ツー、スリー!」

 

 手を開く。中からは1枚だけの10円玉が……。

 

「1枚のままだけど」

 

「く……また失敗か……何故だ!?」

 

 無念そうに乙女さんは10円玉を握り締め、10円玉は見事に2つにへし曲がった。

 

「うわぁ、二つに折れた!?」

 

「底知れない人だな、こんな芸レオや館長以外で出来る人が居るとはな」

 

 っていうか…………。

 

「手先が不器用なのに手品なんて何故?」

 

「む……それは秘密だ、それよりレオお前も何かやったらどうだ?」

 

 え、俺?

 

「お、そりゃ良いぜ、その次はスバル、そして締めは俺が格好よく決めてやるよ」

 

 さりげなく取りを手に入れて格好付けようとしてるよコイツ…………。

 

「おいレオ、ちょっと耳貸せ」

 

 カニが俺に何か耳打ちしてくる…………………成る程、そりゃ良い。

 

「主(ぬし)も悪よのぅ」

 

「オメェ程じゃないぜ、へっへっへ…………」

 

 さてと、それじゃやるか。

手の平サイズのゴムボールを5個持ってきて準備に入る。

 

「フカヒレ、ちょっと来てくれ、お前の力が必要だ」

 

「ん、何々?俺の力が必要?しょうがないなぁレオは」

 

 網に掛かった馬鹿が一匹。チョロイもんだぜ。

 

「対馬レオ、ジャグリングしながらフカヒレを屈服させます」

 

「ちょっ、お前何言って!?」

 

「レオ、お前ジャグリングなんて出来たのか?」

 

 乙女さんはジャグリングの方に目が行ってフカヒレの事はガン無視だ。

 

「ちょっ、無視しないでよ乙女さん!」

 

 逃げようとするフカヒレを抑えながら俺は5つのボールを使ってジャグリングを始める。

 

「姉ちゃんが帰ってくるぞ、今すぐお前の所に戻ってくるぞ」

 

「ちょ、何言ってんだよ、やめろよ…………」

 

 フカヒレに聞こえるように『姉ちゃん』という言葉を連呼する。

 

「ほぅ、コレは中々大したものだな、今度私にも教えてくれ」

 

「うわーん!やめてよお姉ちゃん!飲尿健康法なんて僕で試さないでよぅ!しかもそれ犬のオシッコだよぅ!!」

 

 馬鹿の声が聞こえた気がするが、気のせい気のせい(笑)。

 

 

 

 一通り騒いで宴も終わりとなり、後片付けの時間となった。

 

「ところでレオ、お前は彼女とかいないのか?」

 

 乙女さんが唐突にそんな事を訊ねてきた。

 

「いませんよ」

 

 何故かフカヒレが嬉しそうに答えた。

 

「坊主もモテないって事は無いんだがな……女性ファンも何人かいるんだが、何だかんだでコイツ奥手だからな」

 

 え!?

 

「おい、女性ファンって……初耳だぞそんなの」

 

 いや本当にマジで。

 

「は?知らなかったのかよ!?お前闘技場の女性客に結構人気なんだぞ」

 

「何ぃいい!?本当かよスバル、俺も知らなかったぜ」

 

「どーいう事かじっくり教えろや、レオテメェ!!」

 

 なんでフカヒレとカニまで反応するんだ?つーか、俺も全然知らないから。

 

「お前この前の試合の後、女の客に花貰ってたろ」

 

「は?アレそういう意味なのか?」

 

 知らなかった……。

 

「成る程、奥手に加えて鈍感か、コレなら彼女が出来るのに時間が掛かるというものだ」

 

 乙女さんは乙女さんでなんか納得しちゃってるし。

その傍らでフカヒレは血の涙を流し、カニは不機嫌オーラを醸し出していた。

 

「しかし、お前たちは何だかんだで仲が良くていいな……明日の放課後、ちょっと連れて行きたい所があるんだが、教室で待っててくれないか?」

 

「どこスか?」

 

 興味深々な様子でフカヒレが訊ねる。

 

「それは行ってのお楽しみだ」

 

 何か微妙に気になるな。

 

…………こうしてそれなりに楽しい歓迎会は終わった。

 

 

 

「所で、伊達は何故あんなに料理が得意なんだ?」

 

 家事の役割分担の話の途中でふと思いついたのだろうか、乙女さんが聞いてきた。

 

「嫌な家庭の事情だよ、母親が家出てるし、父親とも仲が悪いから」

 

 それを聞いて乙女さんは何か言いたげな顔になるが俺はそれより先に話を続ける。

 

「俺達みたいにまともな親が居る人間には完全には理解できないけど、世の中どうしようもない親っているから、中学の時の先輩にもそういう人いたし……そういう人の心の傷ってさ、乙女さんや俺が考えてるよりずっと深刻なんだよ」

 

「だが……いや、やめよういくら親しい人間でもそいつの家庭環境に口を出す権利は無いしな」

 

 確かに……。こればっかりは当事者で解決しなきゃいけない問題だ。

 

 

 

 

 

現在の対馬家におけるヒエラルキー

 

乙女(一応年功序列で)≧レオ=スバル>>>冷蔵庫>>>カニ>>>ボディーソープ>>>>越えられない壁>>>>>断崖絶壁>>>>>>フカヒレ



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番外編 修行時代〜My Teacher is Mustang Man〜

今回は龍虎の拳からゲストキャラが登場します。


レオSIDE

 

 懐かしい夢を見た。約1年前のあの日々の夢を…………。

 

 

 誰にだって挫折する事や壁にぶち当たる事は多い。

それを乗り越えることが出来るか否かは、その人間の実力もあるが、壁の大きさにもよる。

俺がぶち当たった壁は……余りにもでかかった…………。

 

 

 俺が地下闘技場へ出入りし始めて3ヶ月……元々空手で鍛えていた事もあり、俺は3ヶ月と言うスピードでチャンピオンへの挑戦権を得た。

しかし…………その闘いで俺が得たものは、無様な敗北だった。

それもそのはず、この地下闘技場に登録されている闘士(ファイター)の実力はピンからキリ。

しかしその中でもチャンピオンクラスの実力は余りにも大きすぎるのだ。

AからEにランク付けするとすれば当時の俺の実力はB。

コレだけ聞けばあと一歩なんて思われるかもしれないがそれは違う。

それぞれのランクの強さを説明すれば。

 

E→街のチンピラ

D→格闘経験者(下級)

C→格闘経験者(中級)

B→格闘経験者(上級)

A→超人(乙女さんに近い)

 

 俺は痛感した。所詮自分はスポーツレベルの格闘技で遊んでいるだけの甘ったるい人間だという事を…………。

このままBランクで小金(しょぼいファイトマネー)を稼ぐだけで終わってしまうのか……それも仕方ないのかと思ったのも事実だ……だけどそれ以上に勝ちたかった。

テンションなんかに身を流すのは馬鹿のする事だってのは解ってる、だけどそれでも勝ちたい。

コレがただのトラブルなら波風立てずに終わったって良い、だが勝負事だけは話は別だ!!

そんな時だった、フカヒレの奴がある一枚のチラシを持ってやってきたのは……。

 

「コレ見ろよ、『元海軍大佐による格闘訓練合宿、米海軍・自衛隊の基地で開催!!軍人、民間人問わず参加者募集!!』だってさ、コレで一気に魅力アップだぜ!」

 

 ……元海軍大佐、面白い話だと思った。

その大佐とやらがどれほどのものか分からない。だけど強くなれる可能性が少しでもあるならそれに懸ける。

俺とフカヒレはコレまで溜めていた貯金を断腸の思いで下ろし、夏休みを返上する覚悟で基地へと向かった。

 

 

 

NO SIDE

 

 合宿にはかなりの人数が集まった。

レオとフカヒレ以外の民間人はもとより、軍所属の軍人も日米関係無く集まっている。

 

「スゲェ人数だな……」

 

「ああ、よくこれだけ集まったもんだ…………お、来たぜ」

 

 プロペラの回転音とエンジンの爆音と共にヘリが着陸し、中から一人の男が現れる。

緑色のノースリーブの軍服を纏い、オールバックにまとめた金髪に彫りの深い顔つきをした男だ。

 

「お、おいアレって……『青い疾風』じゃないか?」

 

 誰かがそう言ったのを聞いてレオは目を見開く。

現在は退役しているがかつてアメリカ海軍に所属していたエースでその戦闘力は常人を遥かに超えていると聞く。

 

「フッ、随分と暇人が集まったもんじゃねぇか……俺がお前達の教官を務めるジョン・クローリーだ」

 

 その名を聞いた誰もが驚きと確信の表情を浮かべる。

そう、彼こそが『青い疾風』の異名を取る歴戦の勇士、ジョン・クローリーなのだ。

 

「長ったらしい説明は趣味じゃないんでな、早速訓練を始める、ただ言っておくが無理だと思ったり訓練に付いていけないと感じた奴はさっさと失せてもらって構わん、地獄の訓練で構わんと言う奴だけ残りな」

 

 その言葉に動いたものは一人としていない。

いや、フカヒレだけは少し迷っているようだが……。

 

「全員参加だな、良い度胸だ…それじゃ、お前等全員コレを着ろ」

 

 ジョンが取り出した物は黒いシャツだった。

何がなんだか分からないと言った様子で参加者達は次々とその服を受け取るが……。

 

「ぬぉお!!重てっ!!」

「当たり前だ、ソイツは訓練用の錘(おもり)入りのシャツだからな、つべこべ言ってねぇでさっさと着ろ!!」

 

 ジョンの一喝に参加者達は次々とシャツを着ていく。

 

「よし、それじゃ全員、この基地の周囲を兎跳びで一周しろ」

 

「ゲェェッ!!む、無茶な!!」

 

 フカヒレを始めとした軟弱な連中は即座に弱音を吐く。

基地の周囲は数キロの距離がある。フカヒレのような体力の無い人間に出来るようなものじゃない。

 

「無理だったら帰れ、邪魔になるだけだ」

 

 当然そんな軟弱な意見など一蹴され、参加者達は次々に兎跳びを開始する。

 

 

30分後

 

「俺もうダメ……帰る」

 

 脱落者第1号、フカヒレこと鮫氷新一。

そしてフカヒレの脱落を境に次々と脱落していく参加者達。余談だが1日目にして半数近くが脱落した。

そんな中レオは只管(ひたすら)兎跳びを続けていた。

レオは確信していた。この訓練をクリアすれば自分は強くなれると……。根拠などどうでもいい、しかし今日であったあの教官からはそれを信じることが出来るほどの強さを感じる、ただそれだけだ。

 

(それだけで十分……)

 

 この合宿は大当たりだ……レオは心の中でそう呟いた。

こうして、レオの地獄とも言える特訓は始まったのである。

 

 

 

レオSIDE

 

 2ヶ月間に及ぶこの合宿は、文字通り地獄だった。

訓練方法は様々だったがいくつか例を挙げるとすると……。

 

 

その1 超高速ベルトコンベアマラソン

 

 文字通り超高速で動くベルトコンベアの上を走る。足が追いつかなければ後ろに設置してある電流が流れる壁に激突して強烈な電気ショックを喰らってしまう。

 

「ぬぉおおおおおおお!!!!!」

 

 死に物狂いで走る。後ろから「ギャアア!!!!」なんて悲鳴が聞こえてくる度に必死になってしまう。

 

「もっと速く走れ!ゴールにぶっ殺したい奴がいると思えば楽なもんだろうが!!」

 

 一番ぶっ殺してぇのはアンタだよクソ教官が!!

 

 

その2 地獄懸垂(じごくけんすい)

 

 体に通常の2倍の錘を付けての懸垂。

規定回数をクリア出来なければ熱湯風呂へダイビング。

 

「197、198……」

 

 こ、コレきつ過ぎる…………。

 

「熱ぃいっ!!!!」

 

 また一人落ちた…うわ、目茶苦茶熱そう……。

落ちるのはもっと嫌だーーーーーー!!!!

 

 

その3 教官との組み手

 

 訓練直後のズタボロの状態で教官と組み手である。

 

「メガスマッシュ!!」

 

「グギャアアア!!!!」

 

「フン、口ほどにも無い」

 

 教官の突き出された両手から光の塊が飛び出し、俺をぶっ飛ばした。

っていうか気って本当に飛ばせるんだな……。

 

「だがまぁ、俺にメガスマッシュを使わせた事だけは褒めてやる」

 

「お、押忍……」

 

 

と、まぁ……こんな感じで訓練は続いていく。

しかし人間のなれというものは凄まじく、合宿終盤にはいつの間にかこの地獄そのものと言える訓練も普通にこなせるようになっていた。

ちなみに……合宿に最後まで残っているのは俺一人だけだったりする。

 

 そして合宿最終日……今回は卒業試験として教官から出されるある課題をこなさなければならない。

その課題とは……熊とのタイマンだ。

 

「……む、無茶苦茶だ、技なんて碌(ろく)に教えてもらってないのに…………」

 

 そう、俺が今回の訓練でやってきた事は全て肉体改造、技なんて気のコントロールとそれによって使用可能な遠当て(飛び道具)『メガスマッシュ』しか教えてもらってない。

教官曰く「技なんて気の利いた物は自分で覚えろ」との事だ。

 

「よーし、始め!!」

 

 俺の意思など無視して教官が空砲を鳴らし、熊が俺に襲い掛かってくる。

 

「や、やるしかないのか…………」

 

 襲い掛かってくる熊公に俺は身構えた。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオと熊のタイマンが始まり数十分、遂に決着の時が来た。

 

「か……勝った……?」

 

 軍配が上がったのレオだった。

レオ自身驚いている。死にたくない一心で熊と闘い、熊の持つパワーに怯みながらも、レオはその攻撃の殆どを見切り、最後は自らの腕で熊を投げ飛ばしてしまったのだ。

 

「ま、マジで強くなった…………のか?俺は……」

 

 驚きを隠せ無いレオ、しかしやがて徐々にではあるが心の中を喜びの感情が満たしていく。

 

「は、ハハ……や、やった……俺は…………」

 

「喜ぶのはまだ早いぜ!!」

 

「!?」

 

 突然何者かの声がレオの喜びの声を掻き消し、それと同時に何かがレオに襲い掛かってきた。

 

 

 

レオSIDE

 

 それは一瞬だった、突然教官が襲い掛かってきたのを認識した俺の体は瞬時に反応し、教官の顔面に裏拳を繰り出していた。

そしてそれを怯む事無く顔面で受け止め、その衝撃で教官のサングラスは吹き飛んだ。そして直立不動のまま笑みを浮かべ、一言こう言った。

 

「よし、合格だ!」

 

 え?合格って……?

「お前は今の不意打ちに反応する事が出来た、戦場じゃ不意打ちなんざ日常茶飯事、そしてお前はそれに対処できる力と熊をも倒す屈強な肉体を手に入れた、十分及第点だ」

 

 ……つまり俺は、今度こそ完全に合格したって事か!!

 

「対馬レオ、よく俺の訓練に最後まで付き合った、ココまでやる事が出来るとは思わなかったぜ」

 

「押忍!ありがとうございました!!」

 

「ではたった今を以って全訓練を終了する!!」

 

 教官の宣言と共に遂に俺はこの地獄の訓練を終えたのだった。

 

 

NO SIDE

 

 そして、翌日

滑走路ではジョンがヘリに乗り込もうとしている。

 

「対馬!」

 

 そういってジョンはある物を投げ渡した。それは彼が先日まで着けていたサングラスだ。

 

「貴様が俺を殴ったときに吹っ飛んだサングラスだ、俺は傷物は好まんのでな、餞別代りに貴様にくれてやる」

 

 それだけ言ってジョンはヘリに乗り込み、そして最後に一言こう言った。

 

「次に会う時は敵同士だ、それまでに俺と互角ぐらいにはなっておきな!」

 

 その言葉にレオは無言のまま敬礼で返す。

レオにとっては敬礼など自分の柄じゃないが、こうする事が最大の礼儀だとレオは感じていた。

そして離陸するヘリの中でジョンも笑みを浮かべながら敬礼をしたのであった。

 

 

 

 そしてこれから約3ヵ月後、対馬レオは地下闘技場においてミドル級チャンピオンとして君臨する事となり、そして現在に至るのである。



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生徒会入会

レオSIDE

 

 え〜、昨日から従姉との同居を始めた対馬レオです。

現在朝食なんですが……メニューはおにぎり(形は歪)、乙女さんの手料理。

っていうか、乙女さんはコレしか作れないのだ。まぁ、これはコレで美味いけど……。

 

「晩飯、俺が作るよ……」

 

「ん?料理できるのか?」

 

「一応、肉じゃがや玉子焼きぐらいはね、後は炒め物とか……手の込んだ料理はスバルに任せていたから」

 

「そ、そうか……(に、肉じゃがに玉子焼き……どれも私が失敗してきた料理じゃないか)……い、一応私も時間があれば作ろう、お前だけに任せきりは不公平だからな」

 

 ……料理のレパートリーを増やした方が良さそうだ。

 

 

 

NO SIDE

 

 そして放課後、昨日の言葉通りレオ達は乙女に連れられてある場所へ向かっていた。

竜鳴館に数多くある道場を通り過ぎ、着いた場所は……。

 

「もしかして連れて行きたい場所って、学食?」

 

 口火を切ったのはカニだ。

 

「ああ、そこで待ち合わせしているのはそこの隣の主だがな」

 

「それって竜宮の事?」

 

 竜宮とは生徒会執行部の独立した木造建物の事である。

代々の生徒会長(女性)がそこで生徒会の運営を行っているのでその名が付いた。

つまり、待ち合わせしている人物とは……。

 

「乙女センパイ、こっちこっち」

 

「あれ?もしかして?」

 

 予想通り、生徒会長霧夜エリカとその親友佐藤良美である。

 

「ああ、私はこの4人を生徒会メンバーに推薦する」

 

「は?」

 

 突然予想もしてなかった事を言われ、レオは軽く混乱する。

 

「う〜ん……ま、いいんじゃない」

 

 姫、あっさり承諾。

 

「コレどういうこと?」

 

「聞いての通りだ、お前達を生徒会執行部のメンバーに推薦した」

 

「なんでまた?」

 

「うむ、つまりだ……」

 

 端折って説明するとこんな感じだ。

 

現在の生徒会執行部メンバーは3人。

霧夜エリカ(生徒会長)

鉄乙女(副会長兼風紀委員)

佐藤良美(書記)

 

以上三名。要するに人手不足である。

 

「他にメンバー居なかったっけ?」

 

 フカヒレが珍しく至極真っ当な質問をした。

 

「目障りなんでクビにしちゃった」

 

 なんともまぁ、傍若無人な理由である。

 

「問題なんて無いわよ、私の決めた事は絶対だし」

 

 傍若無人な理由パート2(←またかよ!)。

 

「それでも姫は人望はあるからな、面接には何人も来る……だが、能力は悪くないはずなのに片っ端から落としていく」

 

 呆れ半分で乙女が補足した。

 

「気に入れば取るわよ、気に入らないだけ」

 

 傍若無人な理由パート3(←もういいっちゅうねん!)。

 

「じゃあ何でオレ達四人合格なんだ?」

 

 レオ達の疑問をスバルが代表して訊ねる。

 

「そこら辺は貴方達を推薦した乙女センパイから聞いてみたら」

 

 そう言われて視線は乙女の方へ移る。

 

「陸上部の伊達は別として、基本的に暇そうだったからな、レオも闘技場に通ってるらしいが、どうせ夜までは暇だろう」

 

 なんか嫌な理由である。

 

「あはは、暇人だって、バカ丸出しー」

 

 カニは自分もそれに含まれていることに気付かず笑い飛ばす。

 

「だが大きな理由は違うぞ、お前たちは何だかんだで普段罵り合いながらも信頼し合っている、欲しいのはチームワークだからな」

 

「だ、そうよ……私の方は面白そうってのが一番の理由かな?」

 

「安直な理由だね……」

 

 最早呆れて物も言えないレオ。

 

「でも重要な事でしょ?」

 

「佐藤も異論は無いか?」

 

「はい、4人増えれば助かります」

 

 良美が優しい笑顔を見せ、なんとなくレオはそれに癒された。

 

「4人の了解は取ってなかったわね、どうする、手伝う?」

 

 レオは少し考える、レオとしては夜まで暇なのは間違いないし生徒会に入るのは別に問題ない。

それに美人揃いの生徒会に入ると言うのも悪い話じゃない。

 

(あれ?断る理由無いじゃん)

 

 あっさり結論が出てしまうレオであった。

 

「俺は別に構わないけど、スバル達は?」

 

「俺、陸上部に所属してるんだが」

 

「そこら辺は考慮するわ、要は頭数だから、まぁ少しは仕事してもらうけどね」

 

 スバルもほぼ問題なし。さて、他は……。

 

「うーん、かったるそー」

 

 さすがは蟹沢きぬ、予想通りダメ人間的な答えである。

 

「ふーむ、私がOK出したのに断られるのも癪だし・・・・・・良いわ、竜宮(職場環境)を見てから決めてもらうから」

 

 そう言って姫は立ち上がり、竜宮へと足を向ける。

 

「私は道場に顔を出してから行く、さっき覗いてみたら部員達め、気合が入ってなかった」

 

 鬼の居ぬ間に何とやら……拳法部員の連中にレオは心の中で合掌した。

 

 

 

レオSIDE

 

 執行部の建物、『竜宮』は2階建て、1階はハッキリ言って物置同然だった。

イベントなどで使われる備品が積み上げられていた。

しかし2階はというと……。

 

「はい、ココが職場」

 

「なにぃ、ほとんど一軒家じゃん!」

 

 カニの言う通り1階とはエライ違いだった。

机や椅子は勿論台所やソファ、パソコンからコーヒーに茶菓子まで完備されている。

その上漫画や雑誌まで置いてある、文字通り好き放題だ。

 

「成る程ね、姫が時々授業サボる時って」

 

「ええ、ココで寝てるわ、先生も来ないしね」

 

「そりゃ美味しいな、俺も使っていいのか?」

 

 おいおいスバルよ、いくら部活補正があるとはいえお前はサボれるような余裕は無いぞ。

 

「結論は出たか?」

 

 あ、そんな話してると乙女さんが戻ってきた。

 

「乙女センパイが来たし、丁度良いわね、対馬君はさっきOKだって言ったし、他の3人も結論を聞かせてくれない?」

 

「はっ!答えは当然出ているんだぜ!最初からな!(こんな美人揃いの執行部聞いたことが無いね、絶対入る)」

 

 あ〜あ、邪念だらけな考えが丸分かりだぜ、フカヒレさんよ。

 

「ボクもやるよ、条件が気に入ったからね」

 

 カニは物に釣られた典型だな。

 

「そんじゃ、どこまで力になれるか微妙なモンだが、オレもやってみるかな」

 

 コレで全員参加か。

 

「コレでまとまったな」

 

「一気に4人か、景気良いわね、それじゃお茶会でもやりますか、よっぴー、お茶」

 

 と、まぁこんな感じで俺達は生徒会執行部に入会した。



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初仕事

レオSIDE

 

 え〜、どーもおはようございます、先日生徒会に参加した対馬レオです。

今日も乙女さんに起こされ、今は顔を洗って学園に行く準備をしている。

 

「今日は弁当いらないんだったな」

 

「うん、学食で食うから」

 

 こんな会話を終えて乙女さんは朝の時代劇のオープニングだけ見て一足先に学校へ行った。なんでも本人曰くコレを聞くと風紀委員として身が引き締まるらしい。

んで、朝飯だが……。

 

本日の朝食メニュー

肉じゃが(レオ作、昨日の晩飯の余り)

おにぎり(乙女さん作)

 

 またおにぎりか……いや、美味しいから良いんだけどね。ああ、なんか褒めてやりたい、肉じゃがという彩りを加えた自分自身を。

 

 

 

 そして授業。現在は祈り先生の担当、英語の時間だ。

 

「Zzz」

 

古今東西命知らずなバカというものは居るものであり、よりにもよって祈り先生の授業で居眠りをしているバカが居る。

そう、愛すべき馬鹿、カニだ。だが俺は優しいから起こさずそっとしておいた。

 

「ふぁ……よく寝た」

 

 あ、起きた。

 

「お目覚め?ではお仕置きの時間ですわ」

 

「げぇっ!!」

 

「約20分寝ていたので20P(ページ)分の宿題をご用意しますわ」

 

「えぇえ、20P!?ま、負けてください先生」

 

「ダメと言ったらダメですわ」

 

 あくまで上品な笑顔を崩さない祈先生。その笑顔が逆に怖い……。

 

「それをやってこない場合……島流しになります」

 

「や、やる、ボク喜んでやります!」

 

 これぞ祈先生の授業の実態である。

勝手な真似する奴には厳しい刑罰が下される。俺でさえ恐怖を隠せない……。

 

 

 

 そして放課後、生徒会にて……。

 

「で、それぞれの役職だけど、対馬君は副会長、カニっちとフカヒレ君は会計監査、伊達君はよっぴーの補佐、つまり書記ね、仕事についてはよっぴーか乙女センパイに聞いて」

 

「副会長ね、要するに乙女さんの後任って訳」

 

「ああ、これで私も風紀委員に専念できるからな、分からない事があれば遠慮なく聞いてくれ、私がしっかり教育してやる」

 

 なんだか知らんが乙女さんはやる気満々である。

ちなみにカニとフカヒレの会計監査の仕事は殆ど名ばかり、要するに二人とも事務職においては戦力外通告である。

スバルは適任だ、アレで結構気配り上手で几帳面だしな。

 

「それじゃあ、早速仕事に入ってもらうわ」

 

「何すりゃ良いの?」

 

「ファーストミッション・人材登用、折角4人入ったんだし、ココで一気に生徒会の頭数をそろえたいのよ、会計のポジションが1つ空いてるし、それにふさわしい人物をスカウトしてきて頂戴」

 

 成る程ね、会計か……しっかりしてそうな奴が良いな……俺達じゃ無理だ。全員ちゃらんぽらんだし。

 

「スカウトするとしたら、やっぱり優秀な人材?」

 

 しっかり者と言えば近衛を思い浮かべるが、アイツはダメだ。

アイツは超が付く程のアンチ姫だし、何よりカニがアイツの事を嫌って…………いや、憎んでるからな……。

 

「とりあえず美人で胸が大きそうなのがいいわ」

 

「はぁ……」

 

 佐藤さんが溜息を吐く、実は姫はおっぱい大好きなおっぱい星人なのだ。

 

「あと、1年生が好ましいわ」

 

 また条件が増えた……。

 

「それじゃ、士気向上のために霧夜スタンプ帳を授けます」

 

 PCゲームショップとかで配布してそうなカードが配られる

 

「何だこれ?」

 

「成果を挙げるたびにスタンプ1個押してあげる、全部溜めるとどんな願いでも一つかなうという凄い特典があるわよ、勿論私の出来る範囲でだけど」

 

「ど、どんな願いでも適う!?」

 

 そりゃ凄いな。

 

「ど、どんな願いでも……チキンカレーお腹いっぱいになるまで!」

 

 安っ!カニ、お前安すぎるぞ。

 

「新品のフライパンが欲しいな……」

 

 家庭的だ、それでこそスバル。

 

「姫とデートしてぇ!」

 

「デートか……ええ、『考慮』してあげるわ、今ならお得期間でよっぴー付き」

 

「ええ!?」

 

「メッサすげぇ、両手に花かよ!もうその日は帰れねぇよ!」

 

 おい、フカヒレよ……姫は『考慮』すると言ったんだぞ、政治家の使う常套手段だ……はっきり言って非常にきな臭い。

つーか揃いも揃って皆安上がりだなぁ、おい……俺の友達って物欲主義者ばっかり……。

 

「対馬君は何か望み無いの?」

 

「俺?俺はそうだな……サウスタウンに行きたい」

 

「それってあのアメリカにあるっていう?」

 

「うん」

 

「サウスタウンか……7歳の頃に翁に連れて行ってもらったことがある。あそこは良いぞ……凄まじい強さを誇る武道家達が沢山居る」

 

 乙女さんも認めるほどの強者揃いの街にして武道家達の社交場。武の道を歩む者なら一度は行ってみたい場所だ。たしか教官もその街の出身だった筈。

 

「もしくは、全員でモツ鍋でも囲んで宴会かな」

 

「あら、急に庶民的になったわね?本当読めない男……コレだから対馬君は飽きないわ」

 

 俺はアンタのお気に入りのおもちゃかよ?

 

「それじゃ頼んだわよ、タイムリミットは1週間」

 

「任しといてよ!」

 

 既に臨戦態勢なフカヒレ。威勢『だけ』は一人前だ。

 

「それじゃ行くか」

 

 

 

NO SIDE

 

 さて、生徒会に入会して初仕事を任されたレオ達だが……

 

「本来なら飼い犬にはならない俺たちだけど」

 

「霧夜スタンプは是非ともほしい、ってことで気合入れて探そうよ!」

 

「ココまで意見が一致するのも珍しいな、オイ」

 

「人を動かすのは物欲で釣るのが一番って事だ」

 

 実際その通りである。大概の人間は物欲でいとも簡単に動いてしまうものなのである。

 

「ま、俺だけ抜けるのは寝覚めが悪いからな、部活が味丸までは協力すっからよ」

 

「一年の可愛い子を連れて行けば良いんでしょ?どういう風に動こうか?」

 

「それだったら俺に任せてよ」

 

 真っ先にフカヒレが答える。やる気満々のようだ。しかし……。

 

(((不安だ……)))

 

 殆ど当てにされてなかった…………。

それでも他に意見を出すものがいなかったので渋々レオ達はひとまずフカヒレに従い校門の前に移動する。

 

 

「ココで女の子が来るのを待つわけだ、で、その娘がイケてるようなら俺が声をかける、そのままキャッチして生徒会室へってね、シンプルだけど有効な作戦だろ?」

 

 たしかに有効である。フカヒレでは不可能という点を除いてだが。

 

「ナンパ作戦なら、美形のスバルでしょ」

 

「いや、かには慣れてるだろうけどスバルだと始めてみた人は怖がる可能性が極めて高い」

 

 それは人によりけりなのだがフカヒレは決してその事を悟らせないように断言する。

 

「かといってレオは初対面相手にベラベラ喋れる性格じゃない、つまりは俺に任せとけって事」

 

 あくまで自分が行くという事は譲らないようだ。

 

「そこまでいうなら(勝手に)行け」

 

「任せな、カッコイイ所見せてやるよ」

 

 意気揚々と突貫するフカヒレ。果たして彼は勧誘という名のナンパに成功するのだろうか?いや、ほぼ確実に不可能である(笑)。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

 スバルは女子に人気があるし、レオは細マッチョで引き締まった肉体(からだ)だから地味にもてる(本人に自覚は無い)からなぁ。

俺の女にするんだから先にあいつ等に惚れられちゃ厄介だぜ。

恋愛とは戦争だ、抜け駆け上等よ。

 

 

 

NO SIDE

 

 フカヒレが邪な考えに浸っていた時、一人の女子が校門の前に近づく。

 

「あっ、早速来たよ、アレなんてどうよ?」

 

「魅力度たったの5……ゴミだ」

 

 酷い言い様である。

 

「そこまで悪くないだろ?」

 

「姫が53万ぐらいあるから、せめて4万ぐらいはほしいんだよ」

 

「オメー自分がオゲチャのくせに好き放題言うなぁ」

 

 カニが珍しく至極真っ当な意見を出す。

 

「男なんてそんなもんさ」

 

 フカヒレがさわやかな笑顔で開き直る。全面否定できないのが少し悲しい所だが…………。

 

「次のはどうだ?」

 

「太ももがむちむちしていいな、でも唇が厚ぼったいからボツだ」

 

「さらにその次、今来たのは?」

 

「顎がしゃくれてる」

 

 もう言いたい放題である。高望みもココまで来ると見苦しいのを通り越してしまう。

 

「贅沢すぎ……」

 

「じゃあ、アレぐらいにしておくか」

 

 ようやくフカヒレは狙いを定める。なかなか可愛い二人組みの女の子達だ。

完全にフカヒレの趣味で選んでいるが。

 

「本当にやれるのか?」

 

「安心しろって、言葉の書く当選ならお手のもんだ、やったるで!!」

 

 はい、この時点で既に失敗フラグ。

 

「ねぇ君たち、ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

「生徒会に興味ない?」

 

「生徒会長には興味があります」

 

「そっか、あのさ、生徒会長がキミたちみたいな可愛い娘と一緒に仕事したがってるんだ」

 

「あ、あなたも生徒会の一員なんですか?」

 

「ああ、俺は鮫氷新一、シャークって呼んでね、鮫って言ってもキミたちを食べたりしないから安心してね」

 

 だんだん話がおかしな方向へと向かっていく。

 

「食べるっていやらしい意味と違うぜ?」

 

 完全に自爆である。

 

「なんであいつはああも自爆するかね?」

 

 カニの疑問に誰も答えることが出来ない、恐らくフカヒレ本人にも。

 

そうこうしているうちに、妙な展開になっているようだった。

 

「あ、あのぉ……」

 

「だからさ、ハァハァ……ちょっと来るだけでも……な、いいだろ」

 

「え、遠慮しておきますっ……」

 

「それともなんだぁ?先輩の頼みが聞けないってのか? 竜鳴館はワリと縦社会なんだぜ?」

 

 あっーと、フカヒレ遂に強攻策に出た。

 

「そ、その」

 

「いいじゃないか、なな?親には内緒だぜ?」

 

「「アホかテメェは!」」

 

 おーっと!?フカヒレのあまりに馬鹿な暴挙に業を煮やしてカニとスバルのツープラトン・ミドルキックがフカヒレに炸裂だぁーー!!

 

「ふぎゃあああ!!!」

 

「いっぺん死んどけ、お前は!!」

 

 さらに吹っ飛んだフカヒレをレオが待ち受け、レッグラリアートで華麗に止めを刺した!!

 

「あべしっ!!」

 

 強烈なキックにフカヒレはその場に崩れ落ちる。

その姿はまさにモンゴルマンに成す術無く倒されたミスターカーメンを髣髴とさせる無様さであった。

 

「あースマン、今起こったことは忘れてくれ、ビスケットあげるから」

 

「「い、いえ……///」」

 

 何故か一年女子二人はレオを見て顔を赤らめていた。

たまにではあるが対馬レオはこんな風に本人の知らない所でフラグを立てて行くのである。

そして数分後、うめき声とともに、フカヒレは立ち上がる。

生命力だけならゴキブリ並みである。

 

「おぉぁ……痛ぇ、邪魔すんなよな、あと少しだったのに」

 

「どこがじゃーい!」

 

「グベッ!!?」

 

 カニの逆水平チョップが、フカヒレを再びダウンさせた。

 

「お前ただの変態だったぞ」

 

「完全に怯えてたじゃん、一年生」 

 

「わかったわかった、興奮してたことは認めてやる、でもさ……なんか俺、女の子を見るとすぐに頭の中でそいつを裸にしてるんだよな」

 

 ココまで来るともう救い様が無いのを通り越して最早この男が何なのかさえ分からない。

 

「もういい……それ以上しゃべるな」

 

「次は真面目にいくさ、よし、単独で行動してるあの娘を狙うぜ」

 

 フカヒレ、再出撃。しかし……。

 

「HEY彼女、今一人?」

 

「何コイツ。キモ〜イ」

 

 はい、秒殺。フカヒレは肩を落としながら戻ってきた。

 

「つっかえねぇヤツだなぁ、このキモ野郎」

 

「お前、チビのクセに態度でかいんだよ!」

 

 カニのダメ出しが引き金となり、フカヒレはやり場の無い怒りをかににぶつける。

 

「んだよ、相手にされなかった腹いせにボクの悪口を言おうってんだ! サイテー!」

 

「落ち着けって……こんな挑発に乗ってたらフカヒレの同類に思われるぞ」

 

「うわ、それ最悪、絶対嫌だし」

 このままではまたくだらない乱闘になるのでレオはカニを止める。

当然フカヒレの名誉など無視した止め方だが誰も咎めはしない。そもそもフカヒレに名誉なんてものがあるのかさえ疑わしい。

 

「畜生!!こうなったら今度こそ女をゲットしてやる!!」

 

 ヤケクソ気味に再び特攻するフカヒレ。

 

下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというが、弾丸そのものが発射の衝撃に耐えられず粉々に砕けてしまえば何の意味も無い。

フカヒレはまさにその典型と言えよう。そしてその事に当の本人は全く気付いてないので余計に性質が悪い。

 

「ねぇねぇキミたち、ちょっといいかな?」

 

「……」

 

 今度はガン無視である。

 

「あの……キミ話聞いてる?」

 

「……」

 

「てめぇ! それほど美人でもないくせに、お高くとまってるんじゃないぞ!」

 

 完全に無視を決められてフカヒレは遂に逆ギレする。本当に最低な男である。

最早これはナンパではなく単なる精神的な通り魔だ。

こんな奴を周囲の人間が放置しているはずも無く…………………。

 

「あいつです、あいつがなんかワタシを飢えたケダモノの目で見てるんです」

 

「ほう」

 

 先ほどフカヒレを秒殺した女生徒が日本刀を持った女、つまり乙女を連れてきた。

それを眺めながらレオ達は一応有人としてコレからフカヒレが歩むであろう地獄を思い浮かべ、心の中で静かに合掌……したかどうかは定かでは無い。

 

「おい鮫氷」

 

「うるせぇっ、俺は女でもグーで殴れるんだぞ!……って乙女さん!」

 

「制裁!」

 

 その言葉と共に見事な蹴りがフカヒレに炸裂した。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 何故かお礼を言うフカヒレ。意外と体育会系なのかもしれない。

 

 

 

数分後

 

「――俺も仕事のためとはいえ、ちょっとはしゃぎ過ぎたって言うか……スイマセンでした」

 

「以後、気をつけるようにな。生徒会の問題にもなりかねんのだぞ」

 

「怒られちゃった、うふふ」

 

 なぜか嬉しそうに笑うフカヒレ。どうやらMの兆候があるようだ

 

 

 フカヒレのナンパ勝負、その結果は…………………負け!!

 



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年下のあの娘は色んな意味で辛口だ

レオSIDE

 

 さて、フカヒレのアホが暴走した所為でこれ以上のナンパ作戦は無理と判断し、俺達は生徒会室へ戻った。

 

「あらあら」

 

 何故かそこには寛いでいる祈先生の姿があった。

 

「なんで俺の祈先生がここにいるの?」

 

「さりげなく大胆な発言ね」

 

 フカヒレの妄言に姫が突っ込む。あの姫に突っ込ませるとは……。

 

「私、フカヒレさんみたいな人は仕事でない限り声もかけたくありませんの。ごめんなさいね」

 

 相変わらず笑顔できつい事をさらっと言うなぁ……

 

「ま、こんな状態で始まる愛もあるさ」

 

 しかしフカヒレはとてつもなくポジティブだった。

 

「祈センセイは生徒会執行部の顧問なの」

 

「顧問といっても運営方針に口出しはしませんわ、生徒は自主性を尊重し、すべてをお任せします」

 

 祈先生の性格からしてその言葉は単なる建前。実際は丸投げの放任主義……。

 

「誰かいい人見つかったの?」

 

「残念ながら」

 

「まぁ初日だしね。ちょっと気が早かったかな」

 

 相変わらず佐藤さんは優しいなぁ、癒されるぜ。

とりあえず俺のほうも新しい作戦を開始するか。

 

「佐藤さん、一年生の名簿とかある?」

 

「あるよ……はいこれ。この棚にあるのが資料だから、好きに見ていいよ……読み終わったら元の場所に戻しておいてね」

 

「ありがとう」

 

 佐藤さんに礼を言って、名簿を開く。

当然の事ながら一年生の名前、住所、所属する部活まで全部書いている。

 

「一年の名簿見て適当に決めようぜ、作戦か?」

 

 俺が名簿を開いたのを皮切りに皆が俺の周りに集まる。

 

「ああ、まず文化系か帰宅部を狙わんと、体育会系とヤンキーっぽい名前を避ける。単純な消去法だけど少しは効率が上がるだろ」

 

 忙しい運動部とかじゃ執行部を手伝う余裕はない。ヤンキーなんか論外。

 

「でも、いい作戦だね、ちょっと知識ひけらかして悪いけど、名は体を露にするって言うじゃない?大人しそうで、かつ可愛くて、先輩の命令だったら何でもしてくれそうな名前の子を選ぼうよ」

 

 名前だけでそこまで分かれば苦労はせん。

 

「オイ、面白い名前があったぞ。これどうよ?北海道牛子。所属は手芸部」

 

「おぉ、いいねぇ。でっかそうだねぇ。胸なんかきっとホルスタインだぜ」

 

 ま、とりあえず見に行ってみるか。

 

 

 

数十分後

 

 偵察を終えた俺達の顔はきっと今凄く疲れた表情をしている事だろう。

 

「オージーザズ、胸どころか顔までホルスタインじゃねぇか」

 

「人ってのは目鼻の配置の気まぐれであんな風になっちまうものなのか……」

 

 何か黄昏たい気分だ……。

 

「もうすぐ陽が落ちるね……ね、ね、せっかく四階にいるんだし屋上いかない?こっから見える夕陽キレイだからさ」

 

 グッドアイデア、たまにはカニも良い事を言う。

 

 

「うわぁ!キレイキレイ」

 

 本当に良い眺めだ、カニがはしゃぐのも解る。

何だかんだでカニって結構センスあるんだよな。

 

「ロマンチックだねぇ、夕陽見てるとギター弾きたくなるんだよな俺」

 

 フカヒレも感慨深い表情で夕日を眺める。

 

「あれ?ボクたち以外に誰かいるよ」

 

 カニが指差した方を見てみると確かに人がいた。端正な顔つきでやや釣り目の女だ

ん……?あの女どっかで…………。

 

「あれも一年の女子だね」

 

「……」

 

 視線を感じたのか、一年生は一瞬ちらりとこっちを向いたが俺達に興味は無いらしくすぐに目を逸らした。

 

「あ!?あれカレー屋を荒らしてくれた女だ……ボクたちと同じ学校だったんだ」

 

「あー、オアシスの」

 

 漸く思い出した。彼女はカニのバイト先のカレー屋で俺が7口でギブアップした超辛カレーを平らげたあの辛口キング(女だからクイーンか?)だ。

 

「気に入らないヤツだけど、同じ学校だったとはね。これは楽しくなってきたなぁ」

 

 カニは嫌な笑顔で、指関節をバキボキと鳴らす。

 

「先輩として色々教えてあげたい気分だねぇ」

 

 ……絶対喧嘩売る気満々だよ。全くこの甲殻類は……。

 

「しかし、あれで一年か……なんか貫禄ねー?」

 

「ああ、大物っぽいな」

 

 背は女にしちゃかなり高い、170cmぐらいか?

しかも鋭い目つきで結構威圧感がある。フカヒレ程度の人間なら簡単に怯ませることも出来るだろう。

 

「よーし、決めた!あいつを生徒会にスカウトだ!!」

 

「おいおい正気ですか?」

 

 やめとけフカヒレ、お前じゃ120%無理だ。

 

「一年だし、美人じゃん。胸大きそうだし」

 

「オメー外見しか見てねーだろ」

 

「今、神が俺に囁いたんだよ、この娘にしろとっ!」

 

「それ邪神?」

 

 どっちかって言うと低級霊だろ。コイツじゃ邪神でさえ囁くのを面倒臭がる気がするぞ。

 

「だってあの後ろ姿見てみろよ、なんか寂しいから誰か私を抱いて光線を放ってると思わない?」

 

「えー? そうかぁ? オレには逆、他人は近づくな光線に見えるんだがなぁ」

 

 たぶんスバルの方が全面的に正しい。 

なんというか、人を寄せ付けない嫌気オーラが漂ってるもん。

 

「大丈夫!なんたって俺は彼女にセイロンティーをおごったんだからさ、面識はある。余裕だぜ」

 

 一回コイツのこの頭の中をのぞいてみたい…………いや、やっぱり嫌だ。こちまで脳みそが腐る。

 

「400円から始まる恋もあったっていい!お前たちはここで待機、キスまで行っても指をくわえて見てるんだぞ」

 

「どこをどう計算したらキスまで行くんだよ」

 

「俺もとうとう彼女持ちかぁ……おいカニ、帰ってきたら俺の顔、携帯で撮影してくれよな、一仕事やり終えた男の顔だからさ」

 

 いや、戦いに敗れてしょぼくれた男の顔だよきっと。

 

「ねぇ、ちょっといいかい」

 

 フレンドリーに話し掛けるフカヒレにキングは無言で、そして面倒臭そうに振り向いた。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

「パワー計測!」

 

 俺の身体に内蔵されたおっぱいスカウターを起動する。

75……76……78……何ぃ!!まだ上がるだと!?

 

「は、87……だと」

 

 バスト87……最近の1年生は化け物か!?

やってやる、やってやるぞ!!必ずこの女を俺の手に!!

 

 

 

レオSIDE

 

「俺は2−Cの鮫氷新一。シャークって呼んでくれ、趣味は天体観測。わりと自然好きなんだ、好きな昆虫はコーカサスオオカブト、あの威風堂々とした角になんか親近感」

 

 勝手に自己紹介してるよ。この時点で失敗フラグだな。

 

「見苦しいよなぁ……」

 

 スバルが溜息混じりに呟く。いや、本当に見苦しいよ。

 

「あのさ、君、生徒会って興味ある?」

 

「ありません」

 

 あ、即答だ。

こりゃダメだ、諦めて戻って来いフカヒレ。今ならまだ軽傷で済むぞ。

 

「実は生徒会では明日の学校を担うフレッシュな人材を募集しているんだ。カリスマ生徒会長、霧夜エリカの下でがんばってみる気はない?」

 

 諦めの悪い奴だ……。どうなっても知らんぞ……。

 

「ありません」

 

 冷淡な返答だ。思いっきり拒絶してるよ。

フカヒレは一瞬たじろぐがそれでも諦めきれない様子だ。

 

「でもほら、生徒会の名簿見たけど部活無所属なんでしょ?青春を有意義に使う意味でも、生徒会どうかな?」

 

「仕事内容は簡単だよ、難しく考えないでいい」

 

「消えてください、興味ないです」

 

「ぐ……だ……だったらさぁ!俺と付き合ってみればいいじゃない!」

 

 カッと目を剥き、フカヒレは叫んだ。あーあ、やっちゃったよ……。

 

「新たな世界が生まれるかもしれないじゃない!」

 

「……」

 

「俺についてこい!」

 

 誰もついて行こうと思わないよ、お前じゃ……。

 

「テンパって前後不覚になってるな」

 

 それでもなおフカヒレは食い下がる。そして遂に辛口キングが口を開いた。

 

「気持ち悪い」

 

「キモ……?ちょっと待って、俺のどこが気持ち悪いんだよ!」

 

 どこがって……行動、言動、性癖etc…………挙げればキリが無い。

 

「しつこい」

 

「ひっ」

 

 キングの一睨みにフカヒレは小さく悲鳴を上げた。さっきまでの威勢は何処へやら……。

 

「潰すぞ」

 

「ひぃぃいっ!」

 

 キングの威圧にフカヒレは小走りで逃げ帰ってきた。

 

「うっ、うわぁああああぁあんっ!チクショー!」

 

「♪〜〜」

 

 カシャカシャと電子音を鳴らしながらカニはフカヒレの無様な姿を携帯写真に収めていた。

 

「なぁに写真撮ってんだよ、このメス豚がぁ!」

 

「んだよ、そっちが撮れっつったんだろっ!」

 

 コレばかりはカニの言うことが全面的に正しい。

 

「スバルゥ!あいつシめてくれよ!」

 

 あーあ、フカヒレの奴、いつものことながら錯乱しちゃったよ。

 

「落ち着け」

 

「おやおや精神的に参っちゃいましたかこのゴミは。ほんっと使えないクズだよね」

 

「女の子に厳しい事言われると、姉へのトラウマが発動してしまうからな……本当に難儀なヤツだ」

 

 仕方ないからフカヒレは放置だ。

 

「ちょっとボク行ってくるよ」

 

 お?今度はカニか?

 

「説得?」

 

 無理だろ、カニじゃ……フカヒレよりはマシだろうけど。

 

「まさか、あんな胸デカそーな女いらねーよ」

 

「それ私怨入ってるだろ……どうする気だ?」

 

「フカヒレはカスだけど、一応二年だよ?目上の者に対するハウトゥーを語ってあげるのさ、平たく言えばヤキ入れ」

 

 カニはテクテクと歩いていった。

 

「揉め事になったら止めるぞ」

 

「ほぼ確実に揉めるぜ、カニは」

 

 あの性格だからな……

 

「よっ、辛口キング、ボクのことは当然覚えてるよね」

 

「あぁ……鈴木さん」

 

「誰それ?ねぇ誰?」

 

 わざとらしく間違えるキング。あーこりゃ完全に挑発してるな。

 

「ボクだよ、カレーハウス“オアシス”の可愛いウェイトレス!」

 

「あぁ……」

 

「こ、言葉遣いには気をつけなさいよ、ボク二年だから」

 

 年齢で自分を上に見せようとしているかにだが、容姿も言動もそれをマイナスしてしまっている。

 

「縦社会とか嫌いなんだけどね? それでも先輩に対する最低限の“敬い”は社会でやっていく上でとても必要だと思うんだよね、そこをいくとキミはまだまだそういうところが欠如してると思うんだよな〜ボクは」

 

 お前が言うなお前が。

 

「……」

 

「いや、これは心配してるんだよ先輩として」

 

「……」

 

「まぁ、ここは一つボクがキミの淀み腐った精神を叩き直してあげるよ」

 

 淀み腐ってるのはお前だろ。

 

「だからとりあえず大学食でジュースでも買ってき――」

 

「うるさいな」

 

 キングがカニの量頬を掴んで引っ張りあげる。

 

「んは!?」

 

「お似合い」

 

「ははへははへ!」

 

「聞こえない、しっかりしゃべって『先輩』」

 

「ぐおおおおおお!」

 

 あーあ、ダメだこりゃ。

それから少ししてキングはカニを解放した。

カニは涙腺がもろいので、もう涙目だ。

 

「うくっ……う……めぇ……夕陽の中で死ねるとはなかなかオツだなぁ、オイ!」

 

「結構いい性格してるぜ、あの女……思ったより結構子供だなあいつも」

 

 このままじゃ面倒な事になりそうなのでスバルと共に今にも飛び掛らんとしているカニを取り押さえる。

 

「そこまでにしとけや鈴木さん」

 

「そうだぜ鈴木さん」

 

「だーれが鈴木さんじゃボケェ! いいから放せ!こいつの命(タマ)だけは殺(と)ったる!」

 

 じたばたと暴れるカニ、まさに荒ぶる獣だな。

 

「騒がしいので、失礼します『先輩』」

 

 『先輩』の部分を強調している。あからさまに嫌味を込めた呼び方だ。

 

「取り付く島がないな」

 

「ああ……」

 

 世の中ああいう人間もいるんだな……。

 

「ボクが……ボクがコケにされたままなんてぇ!」

 

 怒り冷めやらぬカニは、ポケットから手帳を取り出して何か書き込みはじめる。

なぜかそのページには俺の名前があり、今その下に『一年のクソ生意気な女』と追記された。

 

「それ何?」

 

「ボク的、殺したるリスト」

 

 げげ…………こいつ俺に殺意まで抱いてたのかよ?恐ろしい奴だ。

 

「殺すというより屈服させるっていうのが目的かな、乙女さんは良い人だったけど、アレは絶対悪だね、いずれボクの子分にしてイジメまくってやる!」

 

 無理だと思うのは俺だけだろうか?

 

「次回!ボクのものすごい復讐!」

 

 …………なんか今遥か遠くから『勝手に次回予告するな!!』っていう声が聞こえたような気が…………誰の声だ?(←作者の声だ)

 

 

 ってな訳で今回の生徒会人材発掘作業……失敗。

 

 

 

NO SIDE

 

 今日もまた夜が来る。さて本日の対馬家の晩飯は……。

 

「……握り飯だ」

 

「……頂きます」

 

 本日の晩飯担当は乙女だが、また料理が上手くいかなかったらしい。

もはやレオは呆れる事さえ忘れてしまう。

 

「そういえば、副生徒会長の仕事ってどんなの?」

 

「あぁ、基本的に姫のサポートだ」

 

「……姫のサポート」

 

 あの姫にサポートが必要かといわれると非常に微妙なのだが。

 

「ただ姫はあの通り仕事が完璧だから、副会長は飾りのようなものだな、だから私は風紀委員と掛け持ちできるんだ」

 

 要するにレオも重要な仕事をする必要は全く無いということだ。

 

(何かカニやフカヒレと同列っぽくて少しショック)

 

 実際はそんな事は無いのだが(少なくともかにやフカヒレよりは仕事は多い)話だけ聞くとそんな風に思えてしまう。

 

「姫の言うことを聞いておけば問題ないが……まぁ、わからないことがあれば、その都度私に聞け」

 

「うん」

 

「で、いい人材は見つかったか?」

 

「収穫ナシ。六月からは本気を出すよ」

 

「そうか、まぁ頑張れ」

 

 何だかんだ言っても乙女は激励の言葉を忘れない人である。

 

(しかし、人材登用か……思っていたよりずっと厄介な仕事だぜ)

 

 握り飯を食べながらレオはふとそんな事を考えていた。

 

 

 そして食後はしばしの休憩の後、レオと乙女によるスパーリングだ。

といっても自宅を壊すわけにも行かないので軽い打ち合い程度なのだが。

 

「破!!」

 

「っ!!」

 

 乙女の繰り出す蹴りを上半身を反らしながら何度も回避する。

 

「でぁっ!!」

 

「甘い!!」

 

「チィッ!!」

 

 すかさず反撃に移るレオ。目にも留まらぬ速さの蹴りが薙ぐ様に乙女を襲うが乙女はそれをガードし、直後にそれを掴みレオを投げ飛ばそうとする。

しかしレオも負けてはいない。空いた足で再び蹴りを繰り出し自らの足を掴む乙女の腕を蹴飛ばし投げから脱出する。

とても軽いとは言えない内容ではあるが二人にはコレで軽い方らしく、お互いに山道を散歩した程度の汗しか掻いていない。

 

「明日はエキシビジョンマッチだったな、差し支えるのもなんだ、コレぐらいにしておくか」

 

「そうだね」

 

 普段は大雑把だが何だかんだ言って乙女さんは気配り上手だなと思うレオであった。



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レオの勧誘奮闘記 その1

レオSIDE

 

「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ先に飛んできたぁ」

 

 またかよ…………。

にしても土永さん、久しぶりの登場だな……。

 

「遅刻多いぞ祈センセー!」

 

「まぁまぁ落ち着けヒヨコども。我輩は、ピーピー鳥みたいに騒ぐ奴が嫌いなんだ」

 

 鳥のお前が言うな。

 

「ありがたい話でも聞かせてやろう。……いいか、俺が若い頃、桃は高価なデザートでなぁ……」

 

 土永さんって昭和初期生まれ?

 

 

 それから数時間後、鉢巻先生による体育の時間……

 

「皆、元気かい?笑顔は大切だよ」

 

 目の前に居るジャージ姿のキモメン、鉢巻先生。

女子生徒の人気は(一部の物好きを除いて)壊滅的だが男子生徒からはその柔軟な授業姿勢から慕われている。

 

「僕は柔軟な授業制度がモットーでね、どうだろう?今日はやけに暑いし、もう女子の見学ってことで、日々の潤いになると思うんだ」

 

「異議ナーシ!」

 

 みんなの意見はフカヒレがキッチリ代弁してくれる。こういう時フカヒレは便利だ。

 

「それでは早速応援に行こうじゃないか。いいかい?笑顔で応援するんだ」

 

 そんなわけで体育館へ移動。

ブルマ姿の女子達がバレーボールに興じている。良い目の保養だぜ。

 

「いい眺めだ。職権って素晴らしい響きさ」

 

 全くだ、女子からの非難はフカヒレと鉢巻先生が一身に受けてくれるし、言う事無しだ。

 

 

 そしてその日の放課後。

 

「対馬クン達は引き続き人材の捜索、登用」

 

「サー・イエッサー!」

 

 その場で1年の名簿を開く。

 

「さて、どいつから勧誘してやろうかな」

 

 フカヒレが名簿を隅々まで見つめる。

 

「おっ、良い名前発見!1−Bのこいつはどうよ?」

 

「ん、どれどれ?」

 

 『椰子なごみ』か…………。

 

「きこなごみ?」

 

 カニ……お前コレぐらい読めろよ……。

 

「オマエ、ほんとよくココ受かったな。オレでも読めるぞコレ」

 

「『ヤシ』だろ、椰子(やし)なごみって読むんだよ」

 

 俺がカニに説明している内にフカヒレはいつの間にかにやけ始める。

 

「『なごみ』だなんて、きっと癒し系だぜ?その名前だけで俺の心も和んだもん」

 

「部活は?」

 

「帰宅部、無所属だな」

 

 これなら部活が忙しいって理由が無い分引き受けてくれる確率も高くなるな。コレで言ってみるか。

 

「椰子って何か南国のイメージだよね、きっとぽかぽかとあったかい心を持った子なんだぜ、そしてその名の通り体は果実のように甘い」

 

 その発言はどうかと思うぞ。

 

「んで、このゴミのような世の中で、疲れている俺の心をクリーニングしてくれるの」

 

「ゴミのような世の中っていうか、フカヒレがゴミそのものなんだけどね」

 

「うっさいよ、お前」

 

 おいおい酷い言い様だな……否定はしないけど。

 

「さっさと行こうぜ、早く行かないと帰宅しちまうかもしれん」

 

 俺達は生徒会室から出陣した。

 

 

 

エリカSIDE

 

「さーて、どんな仕事ぶりかちょっと見てくるかな」

 

「気になるの、エリー」

 

 そりゃあね……昨日校門で眼鏡をかけた猿顔の二年生が一年女子を獣の目で見てた、なんて届け出が来れば仕事ぶりも不安になるわよ。

 

 

 

レオSIDE

 

 1−Bの教室前に来た俺達だが、ココで非常事態発生。なんと椰子なごみの正体は昨日の辛口キングだった。何つー偶然だよ。

 

「しかし、屋上の時もだったけど本当に誰も寄せ付けてないな」

 

 スバルが目を細める。確かに入学2ヶ月でココまで孤立している奴も珍しい。

いじめられっ子ってわけでも無さそうだし、やっぱり自分から誰とも関わろうとしないタイプだ。

 

「あの女はやめよーぜ?何かあぶねぇよ」

 

「まーそうだな」

 

 元々アクの強いメンバー多いし。

 

「でもやめるとなると惜しいよなぁ…………」

 

 フカヒレはまだ未練たらたらのようだ。

 

「おいおい、お前昨日ビビってたじゃないか」

 

「確かにねーちゃんに少し雰囲気似てて怖いけどさぁ、それを差し引いても余りある美人だし、俺のトラウマ克服のチャンスでもあるんだよ!しかも上手くいけば仲良くなれるかもしれないだろ!」

 

 そういうトラウマってゆっくり治したほうが効果的なような気がするんだけど…………。

 

「でもよ、アイツはやめといた方が良いって……」

 

「だって俺……女の子に触りたいんです」

 

 何て無垢な奴なんだ。世の中の男が心の奥底に隠し持っている欲望をこんなにストレートに言うことが出来るとは……。

なんて恥知らず、何て図太さ。コイツの精神力は元々穴だらけで最早何処にも攻撃する余地が無い。

まさに失うものは何も無し!!

 

「……でもお前ロリコンだろ?」

 

 昔そんな事言ってたし

 

「ちょっと違うな、正しくは『ロリコンでもある』だ、ノーマルだって勿論いけるよ、祈先生みたいな巨乳大歓迎だし」

 

「要するに何でもいけるってか……」

 

「ある程度顔が良けりゃな」

 

「…………」

 

 もう何処にどう突っ込めば良いのやら……。

そんな時不意にスバルが口を開く。

 

「おっ……あの女席を立ったぞ」

 

 また屋上に行くみたいだ。

 

「完璧決まりだね、アイツ友達いないね、間違いないよ」

 

 何故か中国人っぽいイントネーションで喋るカニ。

それにしても……。

 

「あのさ、姫……さっきから何で俺等を尾行してるの?」

 

「あら、やっぱりばれた?さすが対馬君」

 

 そりゃばれるよ、そんなに欲望むき出しの気配じゃ。

 

「気付いたか?」

 

「いや…全然」

 

「あんなのレオや乙女さんぐらいにしか分からねぇよ」

 

 他の3人は驚いているようだが、それはまぁ今のところ関係ないので無視。

 

「今の娘……すごくいい人材よ、あの媚びない感じ、フテブテしい態度が最高ね、美人だし、一年生にあんなレアものがいるとは思いもよらなかった……是非とも登用成功させてね、成功したら霧夜スタンプ一気に三つあげちゃうから」

 

 そういうと姫は足取り軽く去っていった。

 

「……おい、どうすんだ?お姫様えらく気に入ったらしいぜ」

 

「スタンプ3個となりゃ、行くしかあるまい」

 

「生徒会に入れてこき使いまくるのも悪くないね」

 

 物欲主義者は本当に素直だ。

 

「でも俺とカニは昨日の事が在るから悪評あると思うんだよね」

 

 フカヒレにしては珍しくまともな意見。となると俺かスバルが行くしかないか……。

 

それから話し合いの結果、俺が一対一(サシ)で行く事になった。

 

 

 

 そして遂に来ました、攻撃フェイズ。

 

「やぁ、ちょっと良い?」

 

 意を決して話しかける。

 

「…………」

 

 返事無し…………まぁいいや、言いたい事だけ言っちまおう。

 

「あー、椰子さんだよね?」

 

「…………」

 

 面倒臭そうに振りかえってっくる。一応聞いてはいるようだ。

 

「俺は2年の対馬、一応生徒会で副会長やってる、君の事は名簿でちょっと調べさせてもらったんだけど」

 

 俺がそれだけ言うと椰子はジロリと俺を見つめた。

あー、こりゃフカヒレがダメになるわけだ。

 

「まー、単刀直入に言うと、生徒会に入ってくれない?」

 

「拒否します」

 

 即答だよ……。ま、予想はしてたけどね。

舌戦で勝てるとは思えないが……まぁやれるだけの事はしておくか……。

 

「生徒会入ってくれ」

 

「嫌です」

 

「会長に気に入られてるんだ君は」

 

「それが何か?」

 

「だから言わせて貰う、生徒会入って」

 

「これ以上あたしに話しかけないでください、気持ち悪いです」

「昨日の駄眼鏡よりマシだろ?」

 

「そんな人覚えていません」

 

 取り付く島がねぇ…………。

圧倒的な拒絶感。一応敬語を使ってる辺り最低限の礼儀はあるようだが逆にこの敬語が更なる壁を作っている。

 

「あんまりしつこいのでこっちから失礼させてもらいます、センパイ」

 

 あーあ、行っちゃった。今回は無駄骨か……。

あ、そろそろ俺帰らないと、今日エキシビジョンマッチだし。

 

 

 

 取り敢えず帰宅。そして今日はいつもより少し早めの晩飯。

戦前に食ってキッチリ精をつけなければ。

 

「夕飯だ、たんと食って精をつけろ」

 

 やはりメニューは握り飯。今日は焼きホタテが入っている。

 

「こっちは何?サーモンで米を包んであるの?」

 

「ああ、美味いぞそれも」

 

 バリエーションが多いので意外と飽きずに済む。

 

「すまんな、明日こそは上手く作って見せる」

 

「上達はゆっくりでいいよ、千里の道も一歩からって言うし」

 

「期待して無いような言い方だな……」

 

 いや、実際してないから。口には出さない分俺って優しいよな。

 

「コレ食って30分ぐらいしたら行くから」

 

「ああ、分かった……私にやられるより先に負けたら承知せんぞ」

 

 なんとも格闘家らしい激励だった。

 

 

 

実況 SIDE

 

 さて、こちら狂犬(マッドドッグ)に、設けられた特設リングでは、本日のメインイベント、無差別級エキシビジョンマッチが行われようとしています。

 

「赤コーナー、ミドル級チャンピオン、『若き獅子』、対馬 レオ!!」

 

 対馬選手が入場してきました。

対馬レオ、現ミドル級チャンプ、格闘スタイルは空手主体のマーシャルアーツ。

打撃、投げ、関節技等全体的に高い精度を誇る技を持つが、最大の武器は身軽さから来るスピードとジャンプ力。得意技はナックルパートとアイアンクロー。

 

「青コーナー、ヘビー級ファイター、『地下闘技場の横綱』、士慢(しまん) 力(りき)!!」

 

 士慢選手、化粧マワシを着けて堂々と入場してきました。

士慢力、ヘビー級ファイター、格闘スタイルは相撲。タイトルは未取得だがヘビー級チャンピオンを相手に善戦した実績を持つ。

身長2mを超える大巨漢で自他共に認めるパワーファイター。得意技は張り手の猛打と合掌捻り。

 

対馬選手、自分より一回り大きい巨漢であるある士慢選手にどう戦うか?

士慢選手、対馬選手の猛烈なスピードとジャンプ力をどう捌くか?

なお、本日のエキシビジョンマッチは士慢選手の提案により、リング全体が砂場となっている『サンドデスマッチ』で行われます。

さぁ、いよいよゴングまであと僅かです!

 

 

 

レオSIDE

 

「どりゃああぁぁぁ!!」

 

 ゴングと同時に士慢が突撃してきた。すぐさま俺は回避行動に移るが……。

 

「ッ、足場が……」

 

 床が砂だから足場が悪い、一発喰らってしまった。

痛ぇ……腕の筋力だけなら乙女さん並みか?

 

「ガハハハハ、引っ掛かったな!硬いマットの上なら兎も角、砂が足場じゃテメェの身軽さも発揮できまい!!それを考えてのデスマッチだぜ!!」

 

 勝ち誇ったように笑いながら士慢は再び張り手を繰り出してくる。

 

「フン!」

 

 二度も同じ攻撃は喰らわない。上半身を反らして避ける。

 

「そらそらそらぁーー!!」

 

 連続して張り手を繰り出す士慢、だがこんな攻撃乙女さんのパンチに比べれ全然遅い。

 

「見え見えだぜ、関取野郎!」

 

 隙を突いてローキックを喰らわせる。

 

「ぬぐぁっ!!」

 

 思わぬ反撃に士慢は怯む、その隙を突いて一気に攻め立てる。

 

「オラッ!オラッ!!オラッ!!!オラァッ!!!!」

 

 ボディブロー、膝蹴り、前蹴りと連続して腹部に集中的に叩き込み、そしてラストに巴投げを決める!!

 

「うぐぇぇっ……!」

 

 床(砂の上)に叩きつけられ呻き声を上げる士慢。

あとはそのままフルボッコで相手を連続して踏みつけまくる。

 

「身軽ってのはなぁ……単に走ったり飛んだりするだけじゃないんだよ、これでも攻撃スピードと手数の多さには自信があるんでなぁ!!」

 

 踏みつけながら言い放ち、一気にニードロップで止めを刺す。

ところが……。

 

「テメェ、嘗めてんじゃねぇぞ!!!」

 

「うわっ!?」

 

 士慢は俺のニードロップを受け止めて、そのまま俺を抱え上げ、ボディースラムで砂上に叩きつける。

なんてタフな野郎だ。

 

「身軽だろうが何だろうが捕まえちまえばこっちのもんじゃい!!ぬおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 雄叫びを上げながら再び俺をつかんで何度も連続してボディースラムを繰り出す。

 

(チッ……こうなったら)

 

 繰り出されるボディースラムに俺は上手く受身を取ってダメージを抑える。幸い床は柔らかい砂だ、このまま防御に集中しておけば……。

 

「どりゃあああ!!!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

 過剰に痛がる振りをする。

まだだ……もう少し……。

そのまま二度三度とボディースラムを受け続ける、そうしていく内に床はどんどん平らになっていく。

 

「読み通りだ!!」

 

「ブッ!?」

 

 勝機を見出した俺はボディースラムから脱出し、今までのお返しとばかりに士慢の顔面にドロップキックを喰らわせる。

 

「大男総身に知恵が何とやらってな……床を見てみな」

 

「何だと……し、しまった!!」

 

「何度も叩きつけてくれてありがとよ、お前の馬鹿力のお陰で足場が固まったぜ」

 

 そう、まさにそれこそ俺の狙い。たとえ柔らかい砂でも何度も叩けば凝縮されて硬くなる。コレで足場は充分確保できた。

 

「何度も叩きつけてくれた礼だ、速攻で決めてやるよ!!」

 

 硬くなった足場を活用してスピードが乗った攻撃で一気に畳み掛ける!!

 

「オラオラオラオラァァァァッ!!!!」

 

「ガッ、ぐえぇっ!!?」

 

 いくらタフな体が自慢の士慢でも本領発揮した俺の連続攻撃にはかなりのダメージを受ける。

 

「これでラストぉっ!!」

 

 コーナーポストに追い詰めて、相手の背後に回り、そのまま後頭部に膝をあてがい床に叩きつける!!

 

「ゲハァッ!!」

 

 その直後に士慢はピクピクと痙攣し、やがて気を失い、試合終了のゴングが鳴り響いた。

 

「パワーとタフさだけじゃチャンプにはなれない、覚えておくんだな」

 

 

○対馬レオ―士慢力●

11分28秒、KO勝ち 決まり手、カーフ・ブランディング

 

 

 

 俺の試合が終了して30分ほど経ち、ほかのエキシビジョンマッチもすべて終了した。

さ〜てと、良い汗もかいたしそろそろ帰るか。

 

「……ん?」

 

 ふと見知った顔を見つけて立ち止まる。

 

「椰子?」

 

 夜の街の片隅で一人たたずんでいる。何やってんだ?

それからしばらく遠くから見守ってみたがアイツはただ突っ立ているだけ。たまに来るナンパ男を睨みつけて追っ払う以外は何もしてない。

 

「何やってんだか……」

 

 気にはなるがアイツ個人の問題だし、そろそろ帰らないと乙女さんに怒られそうなので俺は何も言わずに帰宅した。



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レオの勧誘奮闘記 その2

レオSIDE

 

さて、前回相撲取りには力でねじ伏せて勝ち、後輩の女との舌戦で惨敗したわけだが、今回はそのリベンジと相成りました。

 

「ンマー驚き、昨日こてんぱんにやられて懲りたんじゃないの?」

 

 わざとらしくあきれたような声を上げるカニ。

 

「スタンプ3つを諦めるにゃ惜しいだろ」

 

「はっ、これだから物欲主義者はやだやだ、オメー達もうちょっとボクみたいに無欲な人間になろうよ」

 

 どの口がそんな世迷い言を言えるんだ?お前とフカヒレが一番の物欲主義者だろうが。

まぁいいや、取り敢えず、物で釣ってみよう。

 

 

 しかし勢い良く生徒会室を出たのはいいが誰もついてこなかった。しょうがない、また俺一人で行こう。

べ、別に寂しくなんかないぞ!……なんか空しくなってきた。

 

 

 

NO SIDE

 

攻撃フェイズ

 

「よう、また会ったね」

 

「誰?」

 

 なごみは速攻で拒絶の意思を顕にしている。しかしそんな事でへこたれるレオではない。

 

「大学食で話さない?あそこのほうが眺めいいよ」

 

「結構です、消えてください」

 

「そう言わず話ぐらい聞いてくれ、ジュースおごってやるから」

 

「奢って貰う理由がありません」

 

「この前の侘びと先輩の顔立てるということで納得してくれや」

 

「そこまで言うならセンパイの顔を立てます」

 

 ようやく交渉の席に着いた。台詞だけで9行も使わせやがって……ゲフンゲフン。

 

「ま、単刀直入に言うけど……そのタフネスな精神を見込んで頼む、生徒会入ってくれ」

 

「嫌ですね、つまらなそうですし」

 

 再び拒否である。切れ味の鋭いナイフのような眼光でなごみはレオを睨み付ける。

しかしなごみにも誤算はあった。目の前にいる対馬レオという男は殺気云々に対する免疫が非常に強いのだ。

故にレオは全く怯まない淡々となごみの顔を凝視する。

 

「見学ぐらいはしてほしいもんだけどね、何もしない内から逃げられちゃ交渉もはかどらないでしょ」

 

「…………いい加減消えてください、ウザイです」

 

「俺のウザったさなんてフカヒレに比べりゃ可愛いもんだ」

 

 あくまで飄々として態度で返すレオ。原作より強くなってるのは肉体だけでなく精神面も同様である。

 

「潰すぞ」

 

 堪忍袋の緒が切れたのか遂に敬語すら使わなくなるなごみ。

 

「君に潰されるほどやわじゃないけど」

 

 無言のまま睨み合いが続く。そんな空気が数分間続き、やがてなごみが先に動いた。

 

「不愉快です、失礼します」

 

 そのまま屋上を後にする。どうやら今回の舌戦はレオに軍配が上がったらしい。

 

「勝った……!」

 

 なんとも言えない優越感にレオは小さくガッツポーズをする。妙なところで小物である。

 

「いやお前、生徒会に勧誘するんじゃなかったのかよ?」

 

 いつの間にかカニと共にやって来ていたスバルが突っ込みを入れる。

 

「あ、スマン」

 

「いやいやスバル、ココはレオを褒めるべきっしょ!見た?ココナッツのあの悔しそうなしみったれた顔!!」

 

 カニはカニで心底うれしそうな表情だ。

 

「そのとばっちりで俺は思いっきりガンつけられたけどな、ありゃフカヒレだったら絶対トラウマ発動間違いないぜ」

 

 どうにも今回は苦労人なスバルであった。

 

 

 

なごみSIDE

 

 ムカつく、本気でムカつく……。

今までムカつく男なんて山ほど見てきた。

その中でもあの対馬とかいう奴は群を抜いてムカつく。

こっちが何を言っても飄々としたふざけた態度で返して、その上しつこく食い下がって馴れ馴れしくしてくる。

アタシに馴れ馴れしくしていいのは母さんだけだ!

ムカつく、本当にムカつく!

 

 

 

レオSIDE

 

 時間を飛ばしてその日の夜。

再び勧誘に失敗した俺だが、別にまだ諦めたわけではない。

現在俺は乙女さんと一緒にジョギングしながら明日の作戦を練っている。

 

「しかし、お前は本当に速いな、ここまでスピードを出してもまだ本気ではなかろう」

 

「まぁね、身軽さが俺の取り柄だし、その為に軽業とかも覚えたんだから」

 

 筋力(パワー)に恵まれない俺は身軽さに磨きをかけるしかないわけですよ。

 

「女の私より身軽とは、女としてはある意味羨ましいな」

 

「それ言ったら俺だってそのパワーが羨ましい」

 

 お互い苦笑いする。考えても見れば俺達って正反対だよな。

俺はスピードタイプで乙女さんはパワータイプ、性格も俺は軟派で乙女さんは硬派、ついでに言えば性別も違う。

うん、どっからどう見ても正反対…………ん?

 

「椰子?」

 

 おいおい、また見つけちゃったよ。

アイツいつもこんな時間に出歩いてんの?

 

「どうしたレオ?」

 

「いや、知り合い見つけてさ」

 

 あ、椰子と目が合った。

 

「………………」

 

 おもっくそ俺を睨み付けてくる、絶対威嚇してるよ。

 

「知り合いの割には険悪だな?」

 

「まぁ、色々あってね」

 

「何なら会ってくるか?私は先に帰っていても良いが」

 

「いいよ、どうせ明日学校で会うし」

 

 向こうは嫌だろうけど……。

 

「そうか、では続けるぞ。今日は県境まで行くぞ」

 

「OK」

 

 ってな訳でジョギング再開。

 

 

 

NO SIDE

 

 そしてまた翌日の屋上。

レオVSなごみの勧誘舌戦の第3ラウンドが始まる。

 

「懲りないですね、センパイも」

 

「悪いな、生徒会長直々のご命令ですから、文句はそっちに言ってくれい」

 

「生徒会の犬……」

 

「せめて狂犬と呼んでくれ」

 

 再び毒舌と飄々とした対応の応酬。

 

「ま、このままグダグダ雑談を続けるのも何だし今日も単刀直入に言おう、生徒会……」

 

「入りません、センパイが死んでくれれば考えないこともないですけど」

 

「ずいぶん嫌われてるな俺」

 

「そりゃあもう、あの駄眼鏡以上にウザイです」

 

「その言葉はキツイぞ」

 

「それは良かった」

 

 最早なごみは嫌悪を隠すつもりもないらしい。

 

「それに俺が死んだら考えないこともないって、考えるだけだろ?」

 

「よくお解りで」

 

 冷笑を浮かべながらレオを眺めるなごみ。しかしレオも黙って諦める気は無い。

 

「入会してくれたら地下闘技場のチケットやるぞ」

 

「いりません、っていうかそんな所あるんですか?」

 

「あるよ、俺そこのミドル級だし」

 

「為にもならない無駄知識をどうも、そろそろ消えてくれませんか?」

 

「君が生徒会に入会してくれるって言うなら」

 

 あくまでレオも引くつもりは無いらしく、その様子になごみは舌打ちする。

 

「じゃあアタシが帰ります、もし追ってきたら被害届け出しますから」

 

「そりゃ怖い」

 

 そのままレオはなごみを見送る。

 

「今日もまた失敗か」

 

 なごみが去った後レオは静かにそう呟いた。

 

 

 結局また収穫なしに終わったレオの勧誘活動。

一方そのころ生徒会室では良美達が仕事を片付けていた。

まぁ今回はそれ以外特に特筆するようなことは無い、せいぜい姫が芸術のセンスが妙にずれていることが判明したぐらいだ。

 

「あ、ボク達そろそろ帰っていい?今日はドブ坂で夕方からライブやるんだよね」

 

「うん、いいよ後は私で十分だから」

 

「さすがよっぴー、話がわかる!じゃあこれで」

 

 ってな感じにカニとフカヒレも帰る。

 

 

 

レオSIDE

 

 気がつけばもうすっかり夕暮れ。

椰子の勧誘に失敗した俺は生徒会室に戻ったのだが、残っていたのは佐藤さん一人。

 

「他の人達は?」

 

「帰ったよ、鉄先輩と伊達君は部活」

 

 ああ、カニ達はライブ見に行ったのか。俺はそういうのあんまり興味ないからな。

 

「対馬君、もうすぐ終わるから一緒に帰らない?」

 

 お?そりゃ嬉しい申し入れだ。

 

「OK、それじゃ待ってる」

 

 

「そういえば、もうすぐ体育武道祭だよね」

 

 帰り道に佐藤さんがふとそんなことをつぶやいた。

体育武道祭とは平たく言えば運動会だ。ただしその規模は一般と比べ物にならないが。

 

「対馬君は格闘トーナメント出るの?」

 

「いや、あれはスバルに任せる……っていうか俺が出たら大変でしょ?」

 

「あはは……まぁね、でも対馬君って鉄先輩に勝ったんでしょ?対馬君の戦ってる所ちょっと見てみたいかなって思って」

 

「それくらい俺の言ってる闘技場にくればいつでも見られるよ」

 

「うん、それは分かってるんだけどちょっと勿体無いかなって」

 

「何が?」

 

「だって、鉄先輩にも勝ったほどの実力だよ、表で思いっきり目立つことだってできるのに」

 

 ……表で目立つ、か。そういえば長い事そういうの考えてなかったな。

 

「まぁ、一度表の世界で破門された身だし、踏ん切りがつくまではもう少し穴倉で暴れてるよ」

 

 なんか言い訳じみてるけど、それが今の俺の本音だから……。

 

 

その夜

 

 今日は乙女さんが晩飯を『本格的に』作ることになったのだが……。

 

「だぁああああ!!ちょっ、火!!凄い事になってるから!!」

 

 乙女さんの持ってるフライパンから家事寸前の火柱が上がり、あわてて消火。

 

「家を全焼させる気?」

 

「すまない……」

 

「で、何作ったの?」

 

「ラーメン?」

 

 何故に疑問系?

ちなみにフライパンの中身はすでに消し炭と化してしまっている。

 

「って事はつまり」

 

「ああ、夕飯はおにぎりだ」

 

 やっぱり…………。

 

 晩飯を食い終わってから少しして俺はいつものロードワークへと向かった(乙女さんは実家から荷物が届くとかで今日は留守番)。

しばらく走って駅前に差し掛かった頃、俺は見知った顔を見つけた。

 

「椰子……またかよ」

 

 これで三度目だ。アイツいつもこんな時間に街ふらついて何してるんだ?

 

(ちょっとばかし様子を見てみるか……)

 

 正直あの女が普段何してるのか気になる。

 

(売春……は絶対無いな)

 

 アイツの性格上絶対無い。となると親と喧嘩か?

 

 

 

NO SIDE

 

 結構時間が経った。しかし椰子なごみが動く気配は無い。

 

「本当に何やってるんだ?」

 

 さすがに観察するのにも飽きてレオは踵を返そうとしたがその時だった。

 

「ねぇ、ちょっといいかい?」

 

「……」

 

「君だよ、ロングの美人のお姉さんに言ってるんだよ」

 

 見るからにチャラチャラした男が三人なごみに近付いてきた。

 

「なぁ、さっきからずっと奏してるみたいだけど暇なら俺たちと遊びにいかね?」

 

「興味ない」

 

 当然の事ながらなごみはそれを拒絶するが相手のほうもかなりしつこく食い下がる。

 

「な、バンドやってるいい男もいるからとりあえず話だけでもしようよ」

 

「いい男がいなければ帰ればいいYO!」

 

「消えろ、潰すぞ」

 

 より一層拒絶間を強めるなごみだが、相手は精神的にタフなのか単なる馬鹿なのか定かではないがとにかくしつこく食い下がる。

だが、ここで男はひとつ間違いを犯した。

なごみの服、もっと言うなら体に触れてしまったのだ。

 

「あたしに触るな!!」

 

「超痛ぇええええええええ!!!」

 

(ナイスキック)

 

 脛を思い切り蹴られた男はごろごろとのたうちまわった。

 

「ち、キモい連中だ」

 

「テメェふざけんじゃねえYO!いきなり蹴るこたねーだろYO!」

 

 思わぬ反撃にチャラ男共は逆切れしてなごみに絡んでくる。

 

「あーあ、何でああいう手合いはああも一方的に切れるかね?」

 

 半ば呆れながらレオは呟く。

 

「……しょうがない」

 

 さすがに女一人に男三人という状況に見かねてレオはなごみのいる方向へ足を進めた。

 

 

 

レオSIDE

 

 ったく、どうして俺はこうなのかねぇ。

テンションに流されたくないのに結局流さて動いちまう。

 

「ま、勝負事と人助けは特例ってね」

 

 さ〜て、馬鹿の掃除といきますか。

 

 

 

なごみSIDE

 

「ちょっと、おいシカトしてねーでこっちこいYO!」

 

 ウザイな、こんなのバッカリ寄って来る。

 

「待てよ」

 

 そんな時に現れたのは見間違えもしない、アタシの苛立ちの一因である男、対馬先輩だった。

 

「女相手に逆切れはみっともないんじゃねぇの?」

 

 あからさまに馬鹿にしたような態度。明らかに三人組に喧嘩を売ってる。

この人は馬鹿か?いくら格闘技をやってるからって1対3で勝てるとでも思ってるのか?

 

「テメェなめてんじゃねぇYO!」

 

 男の一人が先輩を殴りつけた……ように見えた。

先輩を殴ろうとした男の体は……先輩の体をすり抜けてしまったのだ。

 

「な、何だ?」

 

「残像だ」

 

「へ?ひでぶっ!!?」

 

 突如男の真横に先輩が現れ、男をいとも容易く蹴飛ばしてしまった。しかも蹴飛ばされた男の体は面白いように宙を舞い、そのまま男は伸びてしまった。

 

「な、何だコイツ滅茶苦茶強ぇ!!?」

 

「だ、誰かヒザキさん呼んで……ギャアアアア!!」

 

 それから先はもうワンサイドゲームだった。チャラ男は仲間を呼んで応戦しようとしたが、誰一人先輩に触れる事さえ出来ずあっという間に地に沈んでいった。

チャラ男のトップのヒザキという男に至っては……。

 

「すんませんでした!!本当に申し訳ございません!!もう勘弁してください!!!」

 

 この通り先輩の殺気にビビッて土下座している。

 

「勘弁も何も俺は応戦しただけだからな、そいつら連れてさっさと帰りな」

 

「は、はい!」

 

 去っていく馬鹿共を見ながらアタシは先輩への評価を少しだけ変えた。

 

 

 

レオSIDE

 

「予想外でした、先輩強いんですね」

 

「まぁな」

 

 開口一番に椰子が言ったのはそんな言葉だった。

 

「助けられた、なんて思ってませんが一応借り一つって事にしときます」

 

 は?

 

「おいおい、借り一つって……俺そんなつもりじゃ」

 

「それでも借りは借りです、一方的とはいえ助けられて何もしないじゃ後味悪いですし」

 

「一応恩は感じてるんだな」

 

 ま、コイツがそういうなら丁度良い。

 

「それならさ、生徒会入ってくれよ」

 

「……わかりました、ただし代わりが見つかるまでの代打、という事でなら」

 

「ああ、全然OK!」

 

 どうせ姫は飽きるまで手放さないから。

何にせよこれで目的は達成だ!!

 

 

 

NO SIDE

 

 こうして翌日、生徒会に椰子なごみを加え無事生徒会メンバーはそろった。

 

(それにしても……乙女さん、カニ、姫、椰子、佐藤さん、祈先生、あと生徒会じゃないけど近衛も……俺の周りって強気な女が多くね?)

 

 今にして思えばこの時からレオの波乱に満ちた学園生活の幕開けだったのだろうと後のレオは語っている。



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従姉との日常 風紀委員のお仕事編

レオSIDE

 

 以前の俺の日常はどちらかといえば……大体6割方不規則といえるものだった。

乙女さんと同居するようになってから少し変わり多少ではあるが規則正しくなった……と思う。

 

「起きろ、朝だぞ」

 

「ん?……おk」

 

 いつものように乙女さんに起こされる。

 

「先に下に降りてるぞ」

 

 そう言って1階に降りていく乙女さん。たぶんさっさと朝飯を済ませて学校に行くんだろう。

 

(なんか、おにぎりにも慣れちまったね……もうそれが当たり前って感じで)

 

 人間の慣れってのは本当に凄いな……。

 

 

 とりあえず朝食のおにぎりを食べ終えた後はカニを起こして学校へ向かう。

いつものように校門の前には乙女さんが立っている。

 

「鉄先輩、おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

 校門を通る生徒たちが口々に乙女さんに挨拶する。

 

「やっぱ人望あるよね、乙女さんって」

 

「ああ、威厳ってものがあるからな、乙女さんは」

 

 だからこその風紀委員なんだろうけど。

 

「おい、レオに蟹沢、シャツが出てるぞ」

 

 え?あ、本当だ(ゴソゴソ)。

 

「あはは、バカみてぇ」

 

 お前も出てるだろうが。

 

「そんな入れ方じゃまたすぐ出てしまうぞ、ほらこっちに来い」

 

 乙女さんにシャツを入れられた。なんか恥ずかしい……。

 

 

 

 時間をすっ飛ばして放課後、今日は風紀委員の見回りの手伝いをすることになった。

まずは校門、しかし…………。

 

柔道部員「…………」

 

空手部員「…………」

 

 本来なら武闘派の連中が乙女さんの前ではどいつもこいつも畏まる。

 

「ねぇ、この学校に乙女さんとタイマン張れる奴って俺以外にいるの?」

 

「ん?いるぞ、最もその人が相手では私もお前もまだまだ相手にならないだろうがな」

 

 え、マジで!?そんな猛者がまだいたとは。

 

「それ誰?」

 

「館長だ」

 

 ああ、なるほど……教師を考えに入れてなかった。

 

 

 続きまして3年生の廊下。

 

「てっちゃん、チィース」

 

「こんにちはてっちゃん」

 

 乙女さんの同級生たちが口々に声を掛けてくる。っていうか……。

 

「てっちゃん?鉄だからてっちゃん?」

 

「……ああ」

 

「…………プックックック」

 

「次笑ったらお前でリフティングするからな」

 

 ゲ、それは嫌だな……。

 

「いいじゃん、チャーミングなあだ名で」

 

「お前みたいな反応する奴がいるから嫌なんだ、佐藤の気持ちがよく解る」

 

 佐藤さんも本人の意思とは関係無しにあだ名で呼ばれてるからなぁ。

 

「見回り?ご苦労様てっちゃん」

 

「てっちゃん、跡で料理部顔出してーな、後輩がお菓子作ってるから」

 

「ああ、分かった」

 

 みんな乙女さんに話しかけてくるな。

 

「てっちゃん聞いてよ、うちのクラスの女子でさ、禁止されてるタイプのマニキュアべっとり塗ってくる奴がいるんだけど」

 

「そうか、それは私からよく言っておこう」

 

「ありがと、てっちゃん」

 

 てっちゃん……てっちゃん………………プクククククククク。

 

「あっはははははははっ、ダメだ、笑う所でしょココ、あはははははは!!」

 

「…………レオ、人間誰しも指摘されたくないものがある、私の場合それだ」

 

「あははは……え?」

 

「制裁!!」

 

「フゲッ!?」

 

 制裁蹴りを喰らってしまった。

 

「リフティングのコツはボールから目を離さない事だそうだ」

 

「な、何の!」

 

 紙一重で避ける、一発目は甘んじて喰らったが二発目はそうはいかない!

 

「ほぅ、避けたか、いい度胸だ」

 

「やられっぱなしは趣味じゃないんで」

 

 そのまま蹴りと蹴りの応酬になった。もちろん周囲が周囲なのでお互いに手加減してだが。

 

 

 

NO SIDE

 

「お、おい見ろよあの2年、鉄と互角に渡り合ってやがる!?」

 

「す、すげぇ!何者だアイツ!?」

 

 これが一般人(普通)の反応である(笑)。

 

 

 そして30秒後。

 

 

「今回は引き分けにしておこう」

 

「だね、続きはまた今度って事で」

 

 たった30秒の短い闘いの中にドラマが生まれた瞬間だった。

 

 

 

レオSIDE

 

 俺と乙女さんのキック合戦も終わり、それから先は小さな騒動(お菓子持込み、強引な部活勧誘etc)はあったものの無事に見回りを終えて竜宮に戻ろうとした、その時だった。

 

『キャーーーッ!!』

 

 部室の更衣室から女子生徒の黄色い悲鳴が聞こえてくた。ただ事ではないようだ。

おいおい事件かよ?この平和な日本で。

 

「何かあったのか?」

 

 たまたま近くにいた豆花さんに状況を尋ねる。

 

「盗撮しようとした男がいたみたいネ!!」

 

 そういや竜命館の女子達はガードが固い分レアで値段が高いとかフカヒレが言ってたような……。

 

(しかし、命知らずのアホもいたもんだ)

 

 よりにもよって乙女さん(+俺)がいるってのに。

取り敢えず捕まえるか、新技の丁度良いサンドバッグだ。

 

「盗撮者(ホシ)は……あそこか」

 

 急発進する自転車に乗って逃走を図る盗撮魔を発見!

 

「先に行くよ、乙女さん止め担当お願い」

 

「いいだろう、お前の手並み、見せてもらうぞ」

 

 すぐさま自転車を追いかける。全力で飛ばしているだろうが俺の脚に勝てるよ思うなよ!!

 

 

 

NO SIDE

 

「ワォ、撮影できなかったぜ、さすがにココはガードが固いぜ、まったく変な学校だ」

 

 愚痴りながら逃げる盗撮魔、しかし次の瞬間凄まじいスピードで追いかけて来たレオが彼の前に立ちふさがる。

 

「!?な、なんだコイツ!?」

 

「よぅ盗撮魔、黙って止まれば痛い目に遭わずに済むぞ」

 

 一応警告するレオ、しかし盗撮魔は諦める気は無いようだ。

 

「改造スタンガンを喰らえ、ワォ!!」

 

 スタンガンを構えて突っ込んでくる盗撮魔、しかしレオは簡単に避けてみせる。

 

「きゃわしたぁっ!?」

 

「抵抗するってか?なら俺も遠慮なくやれるってもんだ」

 

 ニヤリと笑ってレオは右手を凄まじい勢いで振り上げる。

 

「トルネードアッパー!!」

 

 レオの振り上げられた腕から竜巻の如き風が巻き起こり盗撮魔を自転車ごと吹き飛ばした。

 

「飛んでるぅ〜〜〜〜〜〜!!!!?」

 

 文字通り校門前に吹き飛ばされた盗撮魔。そしてその体、正確には頭を乙女が受け止めた。

 

「レオの奴中々の手並みだ、そしてよく戻ってきたな盗撮魔」

 

「ヒッ……ギャアアアアア!!!!!!」

 

 そのままアイアンクローで頭を締め付けられ、哀れな盗撮魔はそのまま気絶した。

 

「トルネードアッパーか……私の青嵐脚とどっちが上だ?」

 

 気を失った盗撮魔を放り投げながら乙女はそんな事を考えた。



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従姉との日常 乙女の挑戦編

レオSIDE

 

現在俺達はカニのバイト先であるオアシスにアルバイトをしに来ている。

と言ってもその内容はウエイターや料理などではない。今日は新作カレーの試食会なのだ。

 

「食うだけで金が貰えるとか最高だぜ」

 

 うわべだけの言葉につられた馬鹿がここに一人。試食係ってのはそれなりに責任があるしどんなまずいものでも絶対食わなきゃならないんだぞ。

まぁ、カニの殺人料理に匹敵するものはそうそう無いし、そこまで心配することじゃないが。

 

「というか何故私まで協力しなければならん?」

 

「女性の意見も貴重っスよ」

 

 愚痴気味に乙女さんがぼやき、スバルが見事なフォローで宥める。

 

「なにより、いっぱい食べれる人が必要なんだ。そこら辺は乙女さんってレオよりすごいんだろ?」

 

「まぁな、少なくとも俺よりは食う」

 

 パワーがデカイ分燃料も多い必要があるのか……とにかく飯はすごくよく食べる。俺も常人よりは結構多く食う方だが……。

 

「ついでに言えば寝る時間も多い」

 

 俺以上に健康優良児だからな、乙女さんは。

 

「何をボソボソとしゃべっている?ところで今閃いたんだがな、おにぎりの中にカレーを入れるというのはどうだ?」

 

「……普通にカレーを食ったほうがいい」

 

「む、やはりそうか」

 

 時々天然な乙女さんだった。

するとそのときカニが出てきた。

 

「うぉーい、オメェラ夏の新メニュー試食会・第1弾はこのカレーだ」

 

 なんとも珍妙奇怪なカレーが運ばれてきた。

 

「何コレ?」

 

「メロンカレー、独創的だろ」

 

 オリジナリティがあれば良いって物じゃないだろ……。

 

「まぁ、試食のバイトというのならとりあえずは食べてみないとな」

 

 まじめな乙女さんは先陣を切って食べ始めた。

 

「ン……意外と悪くないんじゃないか?」

 

「そうだな、甘口ならまだ食えるかもしれねぇ」

 

「ふむふむ……よしよし、第2陣、うにカレーだ!」

 

 ……さすがにそれは。

 

「ン……これも意外と悪くないんじゃないか?」

 

 乙女さんは再び嬉々としてカレーを食べる。

この人食えりゃなんでも良いのでは?

 

「第3弾、チャーハンカレー」

 

 だんだん怪しくなってきた

 

「第4弾、チャーハンとカレー!」

 

 最早意味無し。

 

「第5弾、チャーハン!!」

 

 カレーですらねぇ!!

 

 

 その後結局俺たちは色物カレーを10杯食わされた。

 

「何気にうまかったのがチャーハンってどうよ?」

 

 ちなみにスバルとフカヒレは(主に胃と舌が)ナーバスになってるが、俺は多少参ってるぐらいで乙女さんは全然平気だったりする。

 

「乙女さんって『アレ』イケるんじゃね?」

 

 唐突にフカヒレがそんな事を言い出した。

 

「ん?何だ『アレ』とは?」

 

 アレってまさか………。

 

「もしかして超辛カレーか?やめとけって」

 

「あんなの食えるの椰子ぐらいなもんだろ、俺でさえ7口が限界だったんだぞ」

 

 しかし、肝心の乙女さんは……。

 

「ほぅ……レオですら7口で敗走するほどのカレーか、面白そうだ」

 

 既に食う気満々!?

 

「フフフ、コイツは面白れぇ…………テンチョー!!超辛カレー1杯オーダー!!ココナッツ(=椰子なごみ)のときの雪辱を果たすべき時が来たぁ!!」

 

「OK!!最近舐められっぱなしの超辛カレーの恐ろしさ見せてやりマース!!」

 

 向こうも火がついたらしい……。

 

「もうどうなっても知らんぞコノヤロウ」

 

 俺はそういって静かに十字を切った。

 

 

 

NO SIDE

 

 今まさにココ、カレー専門店『オアシス』にて鉄の風紀委員こと鉄乙女が超辛カレーへの挑戦を開始していようとしている。

 

「超辛カレー、お待たせしましたー!」

 

 赤い気泡をぶくぶくと立てた真っ赤なカレー、超辛カレーが運ばれてきた。

 

(な、なるほど……確かに一筋縄ではいきそうも無い)

 

 あまりにも凄い見た目と匂いには乙女でさえ戦慄を隠せない。

 

「フッ、上等だ……鉄乙女、推して参る!!」

 

 気合と共に1口目を口の中に放り込む。

 

「ッッッッッ!!?!?!!!?!?!!?!!!!!???!?!?」

 

 カレーが舌先に触れた瞬間乙女の口の中を凄まじい電流が走った。

 

(か、かかかかかかかか辛いィィィィッッ!!!?!?!!?)

 

 途轍もない辛さに乙女の体中の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。

 

「うわ……」

 

「やっぱりやめた方が良かったんじゃ……」

 

 周囲から心配する声が上がる。しかし……

 

「ま、まだまだ……これしきの辛さで……」

 

 乙女の戦意、未だ衰えず。再びスプーンを口に運ぶ。

 

「□□□□□□□□□□□□ッッ!!!!?!?!」

 

 再び激辛にもだえ苦しむ乙女。最早その叫びは声にもならない。

 

(辛い!辛過ぎる!!だがまだだ、まだ負けるわけには……)

 

 この世のものとは思えぬ辛さに悶え苦しみながらもそれでも3口4口と食べ続ける乙女。それは彼女の生来の負けず嫌い故か、それともレオに勝ちたいという意思の現れか?多分両方である!!そして遂に…………

 

「7口!遂にレオの記録に並んだぞ!!」

 

「す、すげぇ気迫だ…」

 

(あ、あと一口、あと一口で私はレオの記録を超える!!)

 

 そのままスプーンを口に運ぼうとする乙女、しかし…………

 

(て、手が動かん!?)

 

 乙女の手は口に入る手前で止まりブルブルと震えてしまった。

 

(か、体が拒否反応を起こして……)

 

 既に乙女の体、というか舌は限界に来ていた……

 

(も、もうダメだ……並んだだけでも良しとすべきなのでは?)

 

 思わず『諦め』の二文字が乙女の頭の中に浮かぶ。

 

(嗚呼、何か死に掛けって訳でもないのに走馬灯が……)

 

 

 

乙女SIDE

 

 ダメージは遂に走馬灯を見せるにまで至っていた。

脳内に浮かぶはだれよりも強かった祖父への憧れ、拳法部全国大会優勝という栄冠、レオとの戦い、無念の敗北、そして幼き日の修行の日々……その際に祖父が言った言葉。

 

 

『乙女よ、武士にとって真の敗北とは何かわかるか?』

 

『真の敗北?』

 

『それは……自らの弱さに屈した時也!!』

 

 

 己の弱さ、真の敗北……ここで終わるという事はそういう事なのではないのか?

ココで己の弱さに屈してしまえば私はもう武士ではなくなる…………………。

 

 

   嫌だ!!!!

 

 

 終わりはしない!!武士が武士でなくなるのは死よりも恐れるべき事!!

己の弱さは弱音もろとも心のこぶしで打ち砕く!!それが私ではなかったのか!?

 

「私は……負けん……!!」

 

 意を決してスプーンを口の中に突っ込む。

 

(ッッッっっっッッッッッゥゥゥッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッっっっィィィィッッッ!!!!!?!!?!?!?!?!?!?)

 

 口の中に広がる激痛を無理やり抑える。

そのまま…………飲み下す!!!!

 

「は、8口……食べたぞ……」

 

 直後に激しい脱力感に襲われ、私は椅子から転げ落ちるがレオと伊達がそれを受け止めてくれた。

 

「凄いよ乙女さんは、俺の完敗だ」

 

 そういってレオは手を叩く。

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

「オメデトウゴザイマース」

 

 レオに続いて蟹沢が、鮫氷が、伊達が、店長が、皆が私に拍手を送ってくれる……。

 

「ありガッ…………………………………………………………!!?!??!?!!??!?!??!!?!??!!?!!?!??」

 

 か、かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか辛いィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

後から来る、コレ後から来る!!!!!!!!

 

「み、水〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 結局この激辛はこの後数時間続き、その上舌の痛みは次の日まで続き、私は丸一日舌の痛みに悩まされたのであった。




一時間後に登場人物紹介を(第一話部分に)投稿します。
そっちも是非見に来てください!!


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色々と大変な姉弟喧嘩

NO SIDE

 姉弟喧嘩なんてもんは大抵うやむやに終わるもんだけど、この姉弟(従姉弟だけど)の場合色々と大変だったりする……。

……だって二人はぷりきゅ……………じゃなくて超人的な強さだから。

 

 

レオSIDE

 今日の俺は機嫌が悪かった。そりゃもうすこぶる。

なぜなら朝からずっと嫌な事の連続だからだ。

まずカニの寝坊のせいで遅刻。

昼休みに食おうとした定食は近くで騒いでいた馬鹿なヤンキーが誤ってひっくり返してしまい(当然この馬鹿なヤンキーはぶちのめした)、結局その日の昼食は購買に余ってたおにぎりだけ。

育ち盛りの体におにぎり一個はきつく、その後の英語の授業に身が入らず祈先生から補習を貰う始末。

そしてようやく補習を終えてコンビニで空腹を満たし、家に帰った訳だが。

 

「レオ、丁度良いところに帰ってきた。」

 

 何やら不機嫌そうな顔の乙女さんが仁王立ちして待ち構えていた。

 

「何?」

 

「これは何だ?」

 

 乙女さんが取り出したもの……こ、これは!?俺が机の中に隠してたエロ本!!

 

「…………開けたの?机の中、しかも勝手に」

「その前に言う事があるだろ!大体お前はまだ17……」

 

 乙女さんが言い終わる前にエロ本を引ったくって取り返した。

 

「こんなもん年頃の健全な男子なら誰だって持ってるよ」

 

「そういう問題ではない!!」

 

 今度は逆に引ったくられた。

 

「とにかくこういう不健全な物は……」

 

 すぐに引ったくって取り返しけど。

 

「言い終わる前に取るな!!」

 

「ウルセェ!!人の部屋勝手に漁ったコソ泥女に言われる筋合いはねぇ!!」

 

 もう限界……こちとら朝から嫌な事ずくめで腹の虫が治まらないって時に勝手に部屋漁られて堪ったもんじゃねえんだよ!!

 

「貴様……言うに事欠いてコソ泥だと?……どうやら貴様には一度上下関係という物を体に刻み付ける必要があるようだな」

 

 おーおー、鋭く睨んじゃって……上等だコノヤロウ!!

 

「表出ろやねえちゃん」

 

「面白い……この前の借りを今返してやる」

 即座に庭に出て向かい合ったと同時に互いに頭突きを喰らわせ合う。

 

「オラァッ!!」

 

「墳ッ!!」

 

 『ズガァァアンッ』と凄い音が鳴り響くがそんなもん気にする必要無い!!

そのまま何度も何度も頭突きを繰り出し、頭突きの応酬となる。

 

 

NO SIDE

 頭突きの応酬はやがて殴り合いへと発展する。

 

「私はお前をあんな不健全な物を隠すような奴に育てた覚えはないぞ!!」

 

「育てて貰ってねーよ!!」

 

「弟(レオ)のくせに生意気なんだ貴様は!!」

 

「ウルセェ!!時代遅れのサムライ女が!!メインヒロインだからっていい気になりやがって!!」

 

 最早ただの子供の口喧嘩である。

 

「原作ではヘタレのくせに!!」

 

「あー!言った!!とうとうその台詞言った!!そっちだってアニメ版は近衛にメインヒロインの座取られたくせに!!」

 

 これ以上の発言は色々とヤバいので割愛させていただきます。

 

「《真空鉄砕拳!!》」

 

「《修羅旋風拳!!》」

 

 遂に必殺技同士でのラッシュ合戦となってしまった。

当然衝撃の余波で周囲に与える被害はかなり多い。

しかしその事に二人が気付くのはもう暫く後である。

 

 

スバルSIDE

 レオの家が騒がしいから今日はカニの部屋に来た訳だが、カニもフカヒレも窓の外で喧嘩してる二人を観戦している。

 

「どっちが勝つと思う?ボク乙女さんに千円!!」

 

「俺はレオに千円!!弟だって下克上できる!!」

 

 なにやってんだか……。

 

「スバル、お前も賭けろよ」

 

「ん?じゃあ引き分けに千円で」

 

 

NO SIDE

「ハァハァ…………」

 

「ゼェゼェ…………」

 

 1時間ほど殴り合って怒りも治まりはじめた頃、二人は漸く庭がボロボロになった事に気付く。

 

(俺……何やってんだろ、たかがエロ本一つの為に。つーか、流石にコソ泥はまずかったかも……)

 

(……わ、我を忘れていたとはいえやり過ぎてしまった……。たかだか本一つの為にこんな事になってしまうとは)

 

 やり過ぎという事実に気付き、乙女とレオは怒りが急速に覚めていく感覚を覚える。

 

「…………あー、その」

 

「やり過ぎ、たな…………」

 

 くだならい事で喧嘩していた事に気が付くと『自分達は何くだらない事で喧嘩してたんだろう?』と急に恥ずかしくなっていく物である。

 

「ゴメン、コソ泥は言い過ぎた」

 

「私の方もスマン……勝手に部屋を漁ったのは間違いだった。ただ、私も女だからな、ああいう本は私の見えない所で読め」

 

「うん、そうする」

 

 こうして、今回の姉弟喧嘩は引き分けに終わった。

この後、レオと乙女は庭の片付けと自省の為に二人並んで1時間ほど正座していたのはまた別の話である。

 

 さらに余談だが、翌日カニ達は二人の喧嘩を勝手に賭けの対象にしていたのがばれてお仕置きを受けた。



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合宿サバイバルは甘酸っぱい物語?

※本作での生徒会合宿は原作より一週間ほど早いという設定です。


レオSIDE

 

「強化合宿?」

 

 6月ももうすぐ半ばに入りもう随分暑くなってきた今日この頃、姫は突然そんな事を切り出した。

 

「そ、今週の金曜日、生徒会メンバーは特別休暇ということで強化合宿。あと場所は海だから水着も用意しておけって館長が言ってたわ」

 

 海か……。

 

「マジ!?タダで行けるの!?」

 

「当然、館長が私物の乗り物で連れて行ってくれるって」

 

 女性陣にはなかなか好評、実は俺も嬉しかったりする。だってタダだよ。すっげー得じゃん。

 

「海!!それこそまさに男のロマン!!白い砂浜!まぶしい太陽!!そして女の水着姿!!!」

 

 テンション全開な馬鹿(フカヒレ)が一人。

 

「いつも思うんですが、対馬先輩達ってよく鮫氷先輩(あんなの)と友達でいられますよね」

 

 椰子に哀れむ目で見られた。

 

「椰子の言いたい事はよく解るよ、だけどあれでも一応悪人ではないんだ」

 

「…………」

 

 余計哀れむような目で見られた……。

 

「生徒会全員で行くのか?」

 

「当然♪もちろん全員強制参加」

 

「チッ……」

 

 強制と聞いて椰子が舌打ちした。バックれるつもりだったのか?

 

「という訳で、全員金曜日は空けとくようにね♪」

 

 強引に決められてしまいました。

 

「よっしゃあ!水着買いに行くぜ!!フカヒレ、荷物持ちよろしく」

 

 カニは既に行く気満々。早速フカヒレをパシる。

 

「は!?ふざけんなよ!俺は他の女の子達が水着を買いに行くのを手伝いに……」

 

「いらな〜い、よっぴーと一緒に行くから」

 

「私もそういうのはエリーで間に合ってるし」

 

「既存の物で十分です」

 

「私も水着は間に合っている」

 

「私、フカヒレさんさんみたいな人は仕事でない限り声もかけたくありませんの。ごめんなさいね」

 

 フカヒレの野望は脆くも崩れ去った。

 

「レオぉ、スバルぅ、助けてくれ〜〜」

 

「行ってらっしゃ〜〜い」

 

「せいぜいこき使われてこい」

 

 俺たちはフカヒレを見捨てることを選んだ。悪いなフカヒレ。

 

「薄情者ぉ〜〜!!」

 

  叫びも空しくフカヒレはカニに連れ去られた。

 

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで時間をすっ飛ばして金曜日になりました。

 

 

 

 朝9時、松笠公園(集合場所)

 

 集合場所に着いたら既に(遅刻魔の祈先生を含めて)全員集合していた。

 

「1人も欠けずに来たな、結構結構。では出発するぞ」

 

「ヘイゾー、乗り物って何だ?ダンプか?それともトラック?」

 

「ふふ……いずれ分かる。ついて来い」

 

 自身ありげに笑う館長。何だかワクワクしてきた。

 

「こ、これは!?」

 

 なんとその答えはクルーザー。すごいスピードであっという間に陸がどんどん見えなくなっていく。

 

「こりゃスゲーぜ!!このスピード!普段自分の足で出すスピードを超えるこの速さ!!テンション上がって血が騒ぐぜ!!」

 

 最高の気分だ!!

 

「何か対馬君、キャラ変わってない?」

 

「ああ、アイツってスピード重視の男だからこういう速い乗り物になるとハイになっちまって……軽いスピード狂なんだ」

 

 おいコラそこ(よっぴー&スバル)、陰口叩くなよ、スピード狂で悪いかコノヤロウ。

 

「ヘイゾー、この船どこに向かってんの?」

 

「竜鳴館の所有島、烏賊島である」

 

「……へ?」

 

 一気にテンションが冷めた。

 

「そ、それって島流しの場所じゃないか!」

 

「へー、私行くの始めて。楽しみだな」

 

 姫、そんな楽しんでる場合じゃ……。

 

「今回の目的は海水浴ですわ」

 

「あそこの海は綺麗だからな、せいぜい派手に遊んで親睦を深めるが良い」

 

 そうか、それならまぁ…………。

 

「お!見えてきたぞ」

 

 乙女さんの声を聞いて前方に目を向ける、確かに烏賊島だ。

 

「まぁ、島流しじゃないなら悪い様にはならないか……」

 

 

 

NO SIDE

 

 生徒会メンバーの予想に反して烏賊島はなかなかに風光明媚な島だった。

 

「うわ、こりゃスゲーな」

 

 スバルが思わず感嘆の声を上げてしまう。

文字通りに白い砂浜に青く透き通った海は環境汚染問題著しい現代日本においては驚愕に値するものがある。

 

「野生の動植物も多い、良い島なんだ。近々この島をリゾート化するという話を聞いてな、自然が壊されるのを忍びないと思った儂(わし)が大枚はたいて購入したわけだ」

 

 何ともダイナミックな美談である。

島一つが一体どれ程の価格で購入できるものなのか?筆者には想像もつかない。解るのは一般人ではとても払える額ではないという大金であるということだけである。

 

「あっちに小屋がある。水着にはそこで着替えるといい」

 

「じゃ私達はそこで」

 

「あれ、俺達は?」

 

 言わずもがなの事をわざわざ聞くのかフカヒレよ?

 

「そこら辺の岩場で着替えなさいよ」

 

 当然の事ながら姫にそう言われてしまうフカヒレであった。

 

 

 そして全員着替え終わり、水着姿のお披露目となるわけだが……。

 

「よしレオ、まずは……」

 

「へっ、言わなくても分かってるよ」

 

 水着に着替え終わり声をかけてきた乙女にレオはニヤリと笑って見せる。

 

「ふっ……それでこそだ」

 

「闘士たるもの好敵手(ライバル)と海でやる事といえば一つ!」

 

 互いに挑発的に笑い海へと駆け込む。

 

「まずは早泳ぎで勝負だ!!」

 

「上等!!俺のスピードについて来られると思うなよ!!」

 

 そのまま猛スピードで沖の方へ泳いでいってしまった。

 

「うわ、速っ!?」

 

「もう見えなくなっちゃった……」

 

 エリカと良美が唖然とした表情で呟く。

 

「あの二人本当に人間ですか?」

 

「多分な、少なくともレオは昔からあれだけ凄かったわけじゃない」

 

「うん、昔はスバルよりちょっと強いぐらいだったからね」

 

「あらあら、対馬さんがあれほど凄い方だったなんて、これは是非体育武道祭のトーナメントに出ていただかないと」

 

「ダークホースだから相当儲けが期待できるってか、あの二人よりお前の方が恐ろしいぜ」

 

 誰もが二人の超人的な身体能力に呆然となっていた。

 

「来て良かった!俺はこの光景を目に焼き付けることを誓う!!」

 

 いや訂正しよう、一人だけ変態的な思考の渦に入るものがいた。

 

 

 来て早々主人公とヒロインが海に入って勝負することになったわけだが、他のメンバーは割と普通に今の状況を満喫していた。

 

「バカンスの真髄は骨休めですわ」

 

「右に同じ、たまにはこういうのも必要だわ。今日は意見が合いますね、祈先生」

 

「とか言いながらナチュラルに私の胸を触らないで下さいます?」

 

「ちぇ、よっぴーサンオイル塗って。ついでにおっぱい揉ませて」

 

「何でそうなるの?」

 

 エリカと祈は日光浴。良美はそんな二人の肌にサンオイルを塗る。

 

「そら、行ったぞカニ!」

 

「どりゃあ!!ファイナルアトミックアタァッーーーーク!!!!」

 

「ぬぉわ!?拾いきれねぇ!!」

 

「チッ、やっぱりこんなの(フカヒレ)を味方にしたのは間違いだった」

 

 カニ、スバル、フカヒレ、なごみの4人はビーチバレーに興じる。

一方、平蔵はいつの間にかどこかに消えていた。

 

 

 そして夕方。

 

「お、帰ってきたぞ」

 

 海から出てきた二人の男女の姿をスバルが確認する。レオと乙女だ。

 

「いやぁーなかなか面白かったぜ」

 

「ああ、外洋に出るとカジキだの鮫だの色々いるな」

 

「何やってたんだよ二人とも?」

 

 内容が色々と凄い会話に思わずスバルは二人に尋ねる。

 

「まずは早泳ぎで競争、これは俺が勝った。その次はどっちが深く潜れるか競い合ってこっちは乙女さんの勝ち」

 

「あとは鍛錬がてら海水浴を満喫させてもらった。時折鮫やカジキが襲ってきたが全部追い払ったな」

 

 人間離れした海水浴に皆再び唖然となる。

 

「やっぱり化け物?」

 

「失敬だな、実際の漁師も同じ方法で難を逃れたんだぞ」

 

 なごみの呟きに乙女が反論する。

 

「鮫は鼻が急所なんだ、襲ってきたらこぶしで鼻を撃て」

 

「こうかっ」

 

 乙女の鮫対処法を聞いてカニはフカヒレの鼻を一切の躊躇いもなく殴る。

 

「ザクっ、鮫といっても俺を殴ってどうす……!」

 

「まぁまぁ、このような感じでしょうか?」

 

 今度は祈がフカヒレを殴る。教師としてこれは少々問題なのでは?

 

「グフっ!」

 

「いや、こうだ」

 

 哀れフカヒレ、挙句には乙女にまで殴られる。

 

「ドムぅっ!」

 

「いや、もっとこうスピードつけて……」

 

「ギャン!!!」

 

 しまいにゃレオに止めを刺されたフカヒレ。

凄惨な光景だが何故かコミカルになってしまうのはフカヒレクオリティというものだろうか?

 

「い、いじめだぁっ、スクールバイオレンスだぁ!」

 

「いや、でもいろんな女の子(レオ除く)に殴られてるんだぜ」

 

「あ、そうか。イヒヒッ」

 

「うわ、何か気持ち悪いぞコイツ」

 

 変態の性(さが)というものか、途端に避けられるフカヒレ。現実は非情である。

 

 

 

レオSIDE

 

 フカヒレがMの兆候を見せたその頃、何かを担いだ館長がやってきた。

 

「おーい、バーベキューセットを持ってきたぞ、やはりアウトドアといえばこれだろ」

 

「おおっー、ヘイゾー話がわかるじゃん」

 

「うむ、儂(わし)は生徒想いだからな」

 

 こんなにサービスが良いとは……なんか悪い予感がしてきた。

 

「せっかくのご好意だから、ありがたく頂きましょうか」

 

「んじゃ、ちゃっちゃっと用意するか」

 

 スバルはテキパキと動き始めた。

それに伴い他の連中もバーベキューの準備に入る(祈先生は除く)。

俺も手伝うか……。とりあえず薪でも割ってこよう。

 

「館長、薪ありますか?」

 

「向こうに置いてある、好きに使うといい」

 

「了解」

 

 早速薪置き場に行って適当に数本取り出す。

 

「よっと…………フンッ!!」

 

 薪を空中に放り投げて落ちてきた薪を気合と共に手刀で割っていく。

 

「こんな所だな」

 

 手ごろな大きさになった薪を担いで俺は皆の下へ向かった。

 

 

「それじゃ、これからもよろしくって事で乾杯」

 

 肉がこんがり焼きあがり、姫の音頭で全員乾杯する(ジュースだけど)。

 

「美味ぇ!!やっぱ肉サイコーだぜ!!」

 

「あ、カニテメェ!それ俺がキープしてた肉だぞ」

 

「食べながら喧嘩するな、みっともないぞ。それから野菜もちゃんと食べろ」

 

「味付け良いな、これやったの椰子か?」

 

「はい、そうですけど」

 

 こんな感じに騒がしくも楽しく飯の時間は過ぎていった。

 

 

「あー、食った食った」

 

 満腹感に酔いしれて砂浜に座り込む。

するとそんな時、俺はある事に気付いた。

 

「あれ、館長は?」

 

 館長がいない、不思議に思って辺りを見回すと……。

 

「あ、いた!……って何で一人でクルーザーに乗ってるの?」

 

「よーし、では帰るぞ。…………儂(わし)だけな」

 

 んなぁっ!?

 

「おーい、館長ー!俺達まだ乗ってませんよ!!」

 

 フカヒレが叫ぶが館長はまったく動じない。

 

「それでいいのだ、お前達はここに残れ。これは島流しだ、この島で2日間生き延びよ!日曜の夜に迎えに来るのでな!」

 

 し、島流し…………嘘だろ。

 

「ちょっ、何で!?」

 

「お前達は高い能力を持ちながらも協調性に欠けている。ここで集団生活の重要性を学べ!」

 

 そんな…………。

 

「それって私も該当するの?」

 

「姫……オメーが一番協調性ないだろ」

 

 どの口がそんなことを言う。

「だって一般人に合わせて天下なんて取れないし」

 

 必要最低限すらない人間に天下は取れません。

 

「ココに小型艇があるそれで脱出だ!!」

 

 スバルが小型艇の方へ駆け寄る。しかし……。

 

「フンっ!」

 

 『ズガァアアアン』という豪快な音と共に小型艇は爆散してしまった。

 

「あ、あの距離から気で破壊しやがった」

 

 数百メートルは離れてるのに……俺や乙女さんでもこれは真似出来ん。

 

「で は さ ら ば だ ! !」

 

 行っちゃったよ……。

 

「私、一緒に本土に戻る筈でしたのに、裏切られましたわ」

 

 祈先生……アンタもグルだったんかい。絶対同情してやらん。

 

「それにしても、生徒を無人島に置き去りかよ」

 

「まぁ、いい。泳いで帰れば問題なかろう」

 

「却下で」

 

 乙女さんの意見を姫が一蹴した。

 

「俺と乙女さん以外無理だよ」

 

「いや、気合でどうにかなるだろ」

 

 なるか!

 

「乙女センパイ、もう少し常識的に考えてください、皆がいるんだし」

 

「ひ、姫に常識について語られてしまった……」

 

 乙女さんが凹んだ。

 

「追い討ちかけるようで悪いけど、泳いで戻ってもあの館長の事だから強制的に島に戻される可能性もあるんじゃ……」

 

「そ、そうだった、弟に気付かされるとは……」

 

 余計凹んだ。

 

「ま、こうなった以上せいぜいこの状況を楽しみましょ。幸い水だけは向こうの小屋の中にたくさん用意してあったし」

 

 とりあえず死ぬ危険は無いか。

ま、姫じゃないけどせいぜいこの状況を楽しませてもらうか。

 

 

 翌日(島滞在2日目)

 

「ふわぁ〜〜〜〜、よく寝た」

 

 いい具合に日陰になってる部分を見つけてそこに野宿した俺はぐっすり眠ることができた。

 

「お前俺たちより熟睡じゃねぇか、よく眠れたな」

 

「あんなの大佐の訓練で使った宿舎と大差ねぇよ」

 

 完全な石造りのたこ部屋で雑魚寝。しかも布団は滅茶苦茶薄いからな。その点こっちは地面がやわらかくてまだマシだ。

それにしてもフカヒレまで熟睡だったのは意外だな。思ったより適応力が高いのかもしれない。

 

「あ、対馬君、おはよう」

 

 佐藤さんが声をかけてきてくれた。和むぜ……。

 

 

「さて、これから食料集めについて決める訳だけど」

 

 全員(祈先生除く)起床してさっそく食料集めの相談になる。

 

「まず魚だけど、小屋の中に釣竿があったので私と伊達先輩で釣ります」

 

「椰子、お前釣りできるのか?」

 

「人並みには、もし釣れなかった時は先輩達に素潜りで取ってきてもらいますので」

 

 俺と乙女さんは保険ってか。

 

「じゃあ私とよっぴー、カニっちとフカヒレ君がそこら辺で山菜集めね」

 

「俺と乙女さんは?」

 

「私達は森の奥まで行って食料を探そう」

 

 なるほど、危険地帯担当か。

 

「あと、連絡用にこれ皆に配っとくから、何かあったら連絡してね」

 

 姫がトランシーバーを俺たちに渡してきた。

 

「かなり上等な奴じゃん。ところで、祈先生は?」

 

「爆睡中、あの人朝弱いってもんじゃないわね」

 

 役立たねぇ先公だなぁ。

 

「ま、非常食持ってきてるから許してあげましょ」

 

 哀れ土永さん……。

 

 

 

土永さんSIDE

 

「ふぇっくしょい!」

 

 何だぁ、誰かが我輩の噂でもしてるのかぁ?

ふっ、人気者は困るぜ

 

 

 

レオSIDE

 

 さっそく森の奥へと繰り出した俺達。

予想外にも山菜やきのこは結構多く、食料に不自由はしなくて済みそうだ。

 

「思ったより危険ではないな。これならほかの者が来ても大丈夫だろう」

 

 確かに急斜面はあるけど大した問題じゃなさそうだし、大丈夫だろう。

 

「じゃあ、もう少し探してから皆のところに戻……ん?」

 

 突然鼻先に水滴が落ちてきた。

それを皮切りに2滴3滴と水滴が落ちてくる。

 

「雨か?」

 

「おいおいマジかよ」

 

 どんどん雨足が強くなってくる。

 

「通り雨だろう、天気予報では晴れといってたはずだ」

 

 しかし、コイツは結構降ってるぞ。

 

「こりゃどっかで雨宿りしたほうが良いんじゃ……うおっ!?」

 

 突然でかい音と共に雷が落ちた。

 

「こりゃひでぇ……乙女さん、一旦どっかで雨宿りしようよ」

 

「あ、ああそうだな……よし、さっさと行くぞ」

 

 ?……なんか動揺してねぇか?

 

「どうしたの乙女さん?何か様子変だけど」

 

「へ、変なことなど無い!お前の気の所為だ!!」

 

 そう言ってそそくさと歩いていく乙女さん。

 

「ちょっと、そっち急斜面が近いから気を付けた方が……」

 

「う、うるさい!そんなの私の勝手……」

 

 その時、再びデカイ音を立てて雷が鳴った。

 

「!?……うわっ!!」

 

 突然の雷に乙女さんお体が一瞬緊張し、その弾みで足を滑らせバランスを崩し、斜面の方へ倒れ込んでしまった。

 

「乙女さん!!」

 

 慌てて駆け寄って乙女さんの腕を掴むがココで俺はミスを犯した。雨で地面が滑りやすい事を失念していたのだ。

 

「「うわああああっ!!!?」」

 

 結果、俺と乙女さんは二人共斜面を転げ落ちてしまった。

痛てて、何とか怪我はせずに済んだみたいだけど……ん、何だ唇に何か柔らかい感触が……。

 

「「!!?」」

 

 え、え!?こ、これどうなってんだ!?何で俺の眼前に乙女さんの顔が!?

ってか、この感触って……乙女さんの唇?

 

「う、うわっ!す、済まないレオ!!」

 

 茫然自失としている俺に乙女さんは飛び跳ねるように離れる。

……って言うか……お、俺…乙女さんと…………き、キス……しちまったのか?

 

「い、今のは事故、事故なんだからな!」

 

「う、うん……分かってる」

 

 取り敢えず俺達は近くに洞窟を見つけ、そこで雨宿りすることにした。

 

 

 

NO SIDE

 

「うん……俺と乙女さんはこっちで雨宿りしとくから。姫達は?…………全員無事?分かった、じゃあ後で。雨止んだら戻るから」

 

 トランシーバーでエリカに連絡を取り、レオは乙女の向かい側に座り込む。

 

「乙女さん、大丈夫?」

 

「あ、ああ大丈夫だ!」

 

 気丈な態度とは裏腹にその表情はいつものような覇気が無い。

 

「もしかして乙女さん、雷苦手なの?」

 

「そ、そんな訳あるはず……!?」

 

 強がって見せた途端にまた雷が鳴り響き、乙女の体が強張る。

 

「やっぱり、苦手なんだ……」

 

「そうだ……お前にだけは知られたくなかった」

 

 観念したかのように乙女は自分が雷が苦手だという事実を認めた。

 

「なんでまた雷を」

 

「あれは、私が7、8歳の頃……尊敬していた爺様が雷に打たれて全治2週間の大怪我を……あの無敵だった爺様がだ」

 

「いや、大自然に人間が勝てたらそれはもう人間じゃないから、むしろよく全治2週間で済んだね」

 

 そりゃそうだ、普通だったら即死である。

 

「それでも、私にとって無敵の象徴だった爺様があんなに簡単に倒されてしまった事を考えると……」

 

 トラウマは結構深いようである。

 

「情けない、本当に情けない。お前を鍛え直すと言っておきながらいざ勝負すれば負かされて、挙句の果てにはこの有様だ。姉の威厳などまるで無いではないか」

 

 目に涙を浮かべながら膝を抱えて乙女はうずくまる。

そんな彼女にレオは静かに近付き乙女の隣に座る。

 

「そんな事無いさ、乙女さんは十分に威厳があるよ。俺なんかよりずっとしっかりしてるし、人望もあって人を従えるだけの求心力もある。大体、苦手なものなんて誰しもあるし」

 

「だが……」

 

「それに俺は、威厳の無い人間の命令なんて聞いてやらないから。その俺が威厳あるって言ってるんだから気にする必要なんて無いよ」

 

 乙女の肩に手を置きながらレオは優しく笑いかける。それを見て乙女も少しだけ笑顔になる。

 

「ハハ……弟に慰められるなんてな……」

 

「傷心してる女を慰めるのは当然の事でしょ?」

 

「ありがとう……レオ」

 

 

 

乙女SIDE

 

 まさか弟に慰められるとはな。レオはああ言ってくれたが、姉としての威厳も何も無いではないか。

……でも、たまにはこういうのも悪くは無いかもな。

そういえば、レオの手……ずいぶん大きくなったな。昔は私より小さかったのにこんなに大きくなって……。

………………って、何を考えているんだ私は!?従弟(おとうと)相手に。

や、やはりさっきの事故(キス)で変に意識してしまっているんだろうか?

 

 

 

レオSIDE

 

 一時間ほどして雨は上がり、俺達は洞窟を出た。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「あ、ああ」

 

 な、なんかぎこちない……。やっぱあんな事があってどうにも意識してしまう。

つーか俺いつの間にかテンションに流されてたし……。

 

「あ、あのなレオ」

 

「ん、何?」

 

「その……さっきの事故の事だが、あれはあくまで事故だからあまり気にするな、私もできる限り気にしないようにするから」

 

「う、うん分かった」

 

 たぶん、しばらくは無理だと思うけど。

あと、実は内心それ程嫌な思いはしていないというのが俺の本音だが、これは秘密にしておこう。

 

 

 それから、色々と大変なこともあったけど、何とか今回の合宿は無事終了し、俺達は帰路についたのだった。

 



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約束

NO SIDE

 

 今日は土曜日。普段なら学校は休みなのだが生徒会メンバーは5日後の体育武道祭の打ち合わせで学校へ登校しなければならない。

 

 

「めんどくせーなぁ、何でボク達まで登校しなきゃいけないんだよ?」

 

 カニが自分の立場も忘れて愚痴る。

 

「愚痴んなよ、今日は打ち合わせだけだから楽なもんだろ」

 

 レオの言う通り今日の生徒会活動はあくまで今後の打ち合わせのみであり、肉体労働担当のカニ、スバル、フカヒレの三人は必要ないといっても過言ではない。連絡事項さえ知ってくれればいいので形式上生徒会質に居るだけである。

レオ自身今日はそれほど時間をかけずに打ち合わせだけさっさと終わって何事もなくそのまま家に帰ると思っていた。

しかし、レオの予想は本人も想像していない形で裏切られることとなる。

 

 この日、学園は少々慌ただしかった。

レオたちが学園に着いた時掲示板の前には体育会系の部活動生を中心に人だかりができていた。

 

「おい、どうしたんだこの人ごみは?」

 

 思わぬ人ごみに驚きながらもレオは近くにいた一人の男に声をかける。

(プロローグを含めて)第4話以来久しぶりの登場となる村田洋平だ。

 

「ああ、館長からのお達しでな、今年の体育武道祭のボクシングトーナメントが中止になったらしい」

 

「嘘!?メインイベントなのに!?」

 

「ああ、だが驚くのはそこじゃない。確かにトーナメントは中止になったが、代わりに男女自由参加の異種格闘技の団体戦を行う事になった」

 

「マジで!?」

 

 レオはすぐさま人ごみの中に入り掲示板を確認しに向かう。

 

『体育武道祭についての重要なお知らせ。

今年度のボクシングトーナメントは中止し、代案として異種格闘技戦を行う

・試合は各軍に分かれての5対5の団体戦、3本先取形式。

・参加希望者は男女、部活、学年など一切問わない。

・受付締切は火曜日。その翌日の水曜日に各陣営の代表5名を決める予選を行う。

 己の力に自信を持つ参加希望者を待つ           竜鳴館館長、橘 平蔵』

 

「なるほどな、コイツは凄いことになりそうだ」

 

 確認し終えてレオはそう遠くない未来に激戦を予感してニヤリと笑った。

 

 

 

レオSIDE

 

「……と、いう訳で月曜からそれぞれの担当で体育武道祭の準備って事で。何か質問ある人はよっぴーにでも聞いて、以上」

 

 一時間もかからずに会議は終わり、俺達はさっさと帰る支度をする。

 

「レオ、話がある。ついて来い」

 

 乙女さんが静かに、しかし有無を言わさず俺にそう言った。

 

(やっぱり来たか……)

 

 こうなる事はさっきの張り紙を見て予想できていた。俺は無言のまま乙女さんについて行く。

 

「レオ、例の体育武道祭での団体戦の知らせは見たか?」

 

「見たよ、男女問わず……って所とかしっかりと」

 

 俺の答えを聞いて乙女さんは満足そうな表情を浮かべる。

 

「それなら話が早い。私が何を言いたいか分かるな?」

 

「まぁね、でも折角だから口で言ったほうが格好良いと思うけど?」

 

「……レオ、私はお前と戦いたい」

 

 乙女さんからのストレートな挑戦に俺は思わず気持ちが昂り、笑みを浮かべてしまう。

乙女さんとは先月の戦いの後も何度かスパーリングなどで闘い、勝ったり負けたりを繰り返している。

しかしその戦いはあくまで非公式、公式な勝負は先月の一戦だけだ。

正直な所、乙女さんと一緒に暮らしながらも、もう一度あの時のように戦いたいと思っていた。

 

「臨むところだ、俺も乙女さんと戦いたい」

 

「決まりだな」

 

 お互いに笑い合い、ガッチリと握手を交わす。

 

「体育武道祭までの間、私は実家に戻らせてもらう。キッチリ修行を積みたいのでな」

 

「OK、俺も勝負の日まで修行に専念させてもらうよ」

 

 その後、俺と乙女さんは団体戦にエントリーし、それぞれの修行場所へ向かった。

修行期間は今日を含めて5日間、それまでに徹底的に自分を鍛え上げて見せる!!



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特訓!!

今回はきゃんでぃそふと&みなとそふとファン必見のゲストキャラが登場します。


乙女SIDE

 

 拳法部での仕事を終え、私はそのまま実家へと戻った。

実家に戻って最初に行わなければならないことがある。私の祖父、鉄陣内(くろがねじんない)への挨拶だ。

 

「爺様……鉄乙女、修業の為ただいま帰りました」

 

「乙女か、話は既に聞き及んでいる。主の目的、対馬レオとの闘いであるな?」

 

「はっ!かつての敗北を糧に雪辱を晴らすべく、己を鍛え直す次第であります」

 

「うむ…………乙女よ」

 

 突然時事様は私の顔を覗き込む。

 

「何か?」

 

「いい面構えになったのぅ」

「え?」

 

 唐突にそんなことを言われ思わず困惑してしまう。

 

「好敵手を得たからか?」

 

 好敵手……か。確かにあの戦いの後、私もレオもさらに強くなったと思う。

アイツに負けたのが悔しくて、もっと強くなりたくて……修行に明け暮れた日々を思い出し、忘れかけていた『高みを目指す心』を再び燃え上がらせた。

 

「そうかもしれない……いえ、きっとそうです!私はレオに勝ちたい!そしてもっと強くなりたい!!そう思うようになったのはレオのおかげです」

 

「フフフ……その意気や良し!!すぐに着替えい、修行を始める!!」

 

「はい!!」

 

 すぐさま胴着に着替え、修行の準備に入る。

覚悟しておけレオ、私は今より更に強くなってお前との戦いに臨む!!

 

 

 

レオSIDE

 

 さて、さっそく家に戻って修行の準備に取り掛かるわけだが、相手はあの乙女さんでしかも鉄家直々の修行を受けるはず。生半可な修行じゃとても勝ち目は無い。

 

「となると、手は一つだな」

 

 俺は携帯を取り出してある男に電話する。

 

「よし、大体こんな所か」

 

 準備を終えた俺は、奴との待ち合わせ場所へと足を進めた。

 

 

 

 数十分後 とある峠にて

 

 待ち合わせ場所に選んだこの峠は急カーブが多いため走り屋からも敬遠されている人通りも少なく、喧嘩にはうってつけの場所だったりする。

そんな峠に俺は原付で先に到着し、待ち合わせていた奴を待っていた。そして数分後にそいつはやってきた。

 

「お、来たか」

 

「来たかじゃねーよ、巴姉とデート中だってのに呼び出しやがって」

 

 茶髪に中性的な顔をした男が近付いてきて早々悪態をつく。

 

「良いだろ別に、俺が電話した時だって丁度ナニを済ませてたくせに」

 

「ま、そうだけどよ」

 

 こいつの名前は柊空也(ひいらぎくうや)、以前は俺と地下闘技場で鎬(しのぎ)を削りあった階級違いのライバルでかつてはスーパーウェルター級のチャンピオンだった男だ。ちなみに流派は極限流空手。

現在は鎌倉の実家に帰郷しているため狂犬(マッドドッグ)の闘技場からは引退しているが、鎌倉の繁華街に存在する格闘バー『PAOPAOカフェ日本・鎌倉支店』のチャンピオンに君臨している。

あとこれはまったくの余談だがコイツには血の繋がりの無い姉が6人いて、コイツの彼女はその四女だとか……。

 

「で、何の用で俺を呼んだんだ?まさか旧交を暖めようなんて訳無いだろ?」

 

「ああ、実は今度の金曜にデカイ勝負があってな、それまでにどうしても実力を付けておきたいんだ」

 

 俺の答えに空也はニヤリと笑う。

 

「なるほどな、さしずめ俺はそのスパーリングパートナーって訳か?しかも毎日」

 

「ああ、更に加えるなら物凄くハードな。ついでに言うならお前とも久しぶりに戦(や)りあいたかったからな……錬の奴も呼ぼうとしたんだが、あいつ結婚式控えてるし……」

 

「ああ、そういやアイツもうすぐ式だったな……まぁいい、戦(や)ってやるよ」

 

 そこから先は言葉など要らない。お互い服を脱いで上半身裸になって構える。

 

「行くぜスピード狂野郎」

 

「ああ、来いよシスコン野郎」

 

 お互い同時に踏み込んで会心の一撃を叩き込む。

 

(相変わらず重いパンチだぜ。しかも腕は落ちてないどころか上がってやがる)

 

(コイツまたスピード上がったんじゃねえか?)

 

 なんて事を考えながら俺達は戦い続ける。

 

「《修羅旋風拳!!》」

 

「《飛燕疾風脚!!》」

 

 俺の旋風拳に空也は気を纏った跳び蹴りで応戦し、お互いの技は相殺される。

 

「チッ、腕は鈍ってないって訳か」

 

「そっちこそ、伊達に現役続けてないってか?」

 

 軽口を叩きながらも俺たちの攻防は続く。

 

「《テキサスコンドルキック!!》」

 

「《虎咆(こほう)!!》」

 

 今日から武道祭まで毎日、飯と寝る時間以外の全てが修行だ!!

 

 

 

NO SIDE

 

 体育祭に向けて始まったレオと乙女の特訓。

ここからはダイジェストでお送りいたします。

 

 

 

まずは日曜日

 

レオSIDE

 

 あの後空也とは夜中まで戦い続け(結果は4勝3敗1分)、取り敢えず一度帰宅して今夜また再戦という事になった。

そのまま家に帰って泥のように爆睡、その後10時頃に目を覚ました俺は朝食をさっさと済ませて独自に修行を開始する。

 

「ハッ!!」

 

 気をコントロールして鉄装拳を発動し、この状態をずっと維持し続け、その上訓練用の錘入りのジャケットを着ながら筋力トレーニング。

片手腕立て伏せ、人差し指一本での逆立ち、宙吊り腹筋、二の足に石版を乗っけての空気椅子。とにかくなんでもやる。

しかも精神と体力両方消費するのでかなりキツイ。

この修行にノルマは無い。限界まで続けてその後少し休み、また同じ事を繰り返す。これで徹底的に体力と気の絶対量を底上げする!

 

 

 

乙女SIDE

 

 私が今行っている修行、その内容はうさぎ跳びだ。

しかしただのうさぎ跳びではない、背中に錘を背負い、周囲から飛んでくる投石を一切避けず瞬時に気を集中させて防御する。

前回のレオとの戦いで私は自身の必殺技である『真空鉄砕拳』の弱点である攻撃の際に体が無防備になってしまうという点を突かれ負けた。そういう意味では今回の修行は大いに意味がある、気のコントロール精度を上げれば真空鉄砕拳の弱点克服も可能なはずだ。

 

「大分様になってきたのぅ。乙女よ、一度休憩じゃ。次は2倍の投石で行う」

 

「はい!!」

 

 

 

月曜日

 

レオSIDE

 

 この日の夜、俺の特訓に新たなスパーリングパートナーが加わった。

 

「よぅ、俺だけ除け者は酷いんじゃねぇか?」

 

「錬!?」

 

 やや釣り目気味の顔をしたコイツの名は上杉錬(うえすぎれん)。空也同様元地下闘技場のファイターで当時のスーパーミドル級チャンピオンだ。格闘スタイルはテコンドー。

ちなみに現在の職業は七浜市に邸宅を構える久遠寺家の執事兼ガードマン。しかも久遠寺家の長女(当主)と婚約して結婚式を2週間後に控えているという超リア充だ。

 

「お前、式が近いから来れないんじゃなかったのか?」

 

「安心しろ、準備なら殆ど終わってるから休暇もらってきた。それにダチの真剣な頼み断ってちゃ師匠にどやされるちまうからな」

 

 相変わらず師匠譲りの真っ直ぐさだぜ。

 

「嬉しい事言ってくれるぜ。それなら早速始めようぜ!」

 

「久しぶりにやるか、バトルロイヤル?」

 

「元からそのつもりだ!!」

 

 そのまま一気に三者三様に攻撃を仕掛けあう。

 

「《虎煌拳(こおうけん)!!》」

 

 先制を取った空也の右手から気の塊が錬に向かって飛ぶ。

 

「甘いぜ!!《飛翔脚(ひしょうきゃく)!!》」

 

 気弾を跳んで回避しつつの上空からの連続強襲蹴り。錬の得意技『飛翔脚』だ。

 

「くっ……グァッ!」

 

 ガードしようとする空也だが全て捌く事が出来ず蹴りを数発顔面に受ける。

 

「《ライトニングラッシュ!!》」

 

 ここで今度は俺が仕掛ける。得意のスピードを生かした拳の弾幕だ。

 

「オラオラオラオラオラァァッ!!!!」

 

「がぁっ……テメェ!!」

 

「遅い!!」

 

 反撃に移ろうとする錬だがもう遅い!一気にフィニッシュの回し蹴りを決めようとする。

 

「これで…「《覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)!!》」……!?」

 

 しまった!錬に気を取られすぎた!!

空也の両手から馬鹿でかい気の塊が俺と錬をまとめて打ち落とそうと飛んでくる。

 

「クッ!」

 

 あわてて回避しようとするが……。

 

「お前だけ避けようとしてんじゃねえ!!」

 

「ぬわっ!?テメェ、離せ!!」

 

 錬に足を掴まれてしまった。何とか振りほどこうとするが間に合わない!!

結局俺たち二人とも空也の攻撃を喰らってしまった(ガードはしたけどそれでもダメージは結構ある)。

 

「畜生が、仕切り直しだ!!」

 

「おうよ、まだまだこれからだ!!」

 

「上等!!」

 

 修行という名の三つ巴の戦いは始まったばかり……。

 

 

 

乙女SIDE

 

 学校から帰ってすぐに爺様との修行を開始する。

 

「今日は我が門下生と戦ってもらう」

 

「はい!誰が相手でもやり遂げて見せます!!」

 

「うむ……では」

 

 爺様が手を叩くと数十人ほどの門下生が道場に入ってくる。

 

「この者達一人一人のの実力はお前より一回り下だろう、だがその実力決して低くはない。これから全員と連戦してもらう」

 

「はい!!」

 

 連戦か、体力と持続力の勝負だな。

 

「まず一人目、来い!!」

 

 私の言葉に一人目の男が前に出る。それなりに修羅場を潜ってそうな顔をした男だ。

 

「始め!!」

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 開始の合図と同時に男が殴りかかってくる。確かにスピードもパワーも十分だ。だが……

 

「レオのスピードはこんなものではない!!」

 

 男の拳を避けつつカウンター気味に相手の顎を打ち上げる。

 

「グベッ!!」

 

「次!!」

 

 次に前に出てきたのは全身筋肉質な大柄な女だ。

 

「ハァアアアア!!!!」

 

「クッ……」

 

 両手を掴まれ力比べの体勢に持ち込まれてしまう。

 

「力で私にかなう者なんて居ない!!」

 

「それは……どうかな?」

 

 いきなりの力比べに困惑し、僅かに押されてしまったがそんなものは大した問題ではない。徐々に押し戻していく。

 

「そ、そんな!?私が力で押されて……」

 

「私も力には自信があるのでな!!」

 

 そのまま壁際まで押し込み、隙を突いて鳩尾に膝蹴りを叩き込む!!

 

「ウゲェッ!」

 

「《降龍脚(こうりゅうきゃく)!!》」

 

 私の一撃に怯み、力が抜けたその隙に私は上空に跳び上がり、上空からの強襲蹴りを見舞う。

 

「ガッ!!……」

 

「よし、次の者来い!!」

 

 

 

火曜日

 

レオSIDE

 

 さて、本日で修行も大詰めとなった(ちなみに明日は体力温存のため軽い筋トレのみの予定)。

今まで修行をしながら考えていた新技の完成させるため、俺は空也と錬に協力してもらっている。

そして時間は深夜3時を回った頃…………。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

『ズガァァァアアアアアン!!!!』

 

 やった……遂に完成だ。

 

「グッ、うぅ……………こ、コイツは効いたぜ」

 

「ああ……二人同時に防御してこの有様だ。まともに喰らっちゃひとたまりも無いな」

 

 やった、やってやったぜコノヤロウ!!

 

 

「空也、錬。色々付き合わせちまって悪かったな」

 

 修行も終わり、俺は修行に付き合ってくれた二人に礼を言う。

 

「水臭ぇ事言うな、俺たちにとっても良い修行だったんだ」

 

「俺達にココまでやらせたんだ、絶対勝てよ」

 

「ああ、分かってる」

 

 二人の激励を背に俺は帰路についた。

 

 

「しかしレオの奴、この短期間であんな技思いついちまうなんてな」

 

「ああ、俺達も新技の一つや二つ考えないと追い抜かれるぜ」

 

「だな……錬、折角だから最後にもう一勝負していくか?」

 

「ああ!」

 

 俺が帰った後、二人がそんな会話をしていたのはまた別の話。

 

 

「ただいま〜〜」

 

 そしてようやく帰宅。誰も居ないのに「ただいま」って言うのは何か寂しい気もするが……。

この後はシャワーを浴びてそのまま就寝。

 

「はぁ〜〜、疲れた」

 

 …………何か、家が妙に広く感じるな。乙女さんがいないからか?

……………………って、何考えてんだ俺は?

ついこの前まで乙女さんと同居してたから、いつの間にかそれが当たり前のように感じてしまっていたのかもしれない。

 

 

 

乙女SIDE

 

 今日で修行も最終日。私は最後の修行として昨日の倍の数の門下生を相手に戦う。

そして残り10人ほどになった時、私はこう告げた。

 

「ええい!いちいち一人一人相手にしていては煩わしい!残った全員まとめてかかって来い!!」

 

 私の言葉に残りの門下生の一人が爺様に目を向け、爺様はそれに頷く。『構わない』という合図だ。

爺様の承諾と同時に10人の門下生達が私を取り囲む。

 

「来い!私は逃げも隠れもせん!!」

 

 一斉に襲い掛かってくる門下生達を相手に私は身構える。

 

「見せてやる、修行の成果をな」

 

 そう、この修行で生み出した新たな技を……。

 

 

 そして数分後

 

「ハァハァハァ……」

 

 目の前には私によって倒された門下生の面々。

最後の10人組み手も新技を駆使することによって何とか全員倒すことができた。

 

「乙女よ、見事新たな技を会得したようじゃのぅ」

 

「はい!」

 

「うむ、ではこれにて今回の修行を終了とする!」

 

 爺様の声と共に今回の私の特訓は無事終了した。

 

 

 

 漸く特訓を終え、床に着いた私はかつてのレオと戦いに想いを馳せる。

 

(レオ、昔は根性無しだったのに、いつの間にかあんなに強くなっているなんてな)

 

 負けず嫌いな奴だったが、それがあれ程の強さを持つまでに至るとは……従姉(あね)としては誇らしい限りなんだがな。

同世代の相手に味わった初の敗北の味、だが決して無意味なものではない。

 

「レオ、お前のお陰で私はまた強くなれたんだな……」

 

 レオ、お前は今どうしている?お前もきっと以前より強くなったのだろう?そう考えると柄にも無く今から興奮してしまいそうになってしまう。

…………あれ?何か私、レオのことばかり考えてないか?

いかんいかん、これではアイツを意識しているようでは…………い、いかん!一瞬それも悪くないと思ってしまった!!

あー!もう!!何考えてるんだ私は!!

こういう時は闘う事を考えて落ちつくんだ!…………よし、落ち着いた。

 

「お前との勝負楽しみにしているぞ。……おやすみ、レオ」

 

 この場には居ないけど、私は今頃対馬家に居るであろうレオに向けてそう言い。静かに目を閉じた。

 

 

 

NO SIDE

 

 翌日の水曜日。竜鳴館にて東軍、西軍それぞれ別々の時間に団体戦の予選が行われた(両チームのメンバー構成は当日まで誰にも明かされない規則である)。

 

結果……

 

東軍

 

先鋒 山手淳(テコンドー部員・1年生)

次鋒 志村仁一(空手部員・2年生)

中堅 日上順子(拳法部・3年生)

副将 村田洋平(拳法部・2年生)

大将 鉄乙女(拳法部・3年生)

 

 

西軍

 

先鋒 ハンサム大野(拳法部員・1年生)

次鋒 海鶴正人(ボクシング部員・3年生)

中堅 霧夜エリカ(生徒会・2年生)

副将 伊達スバル(陸上部・2年生)

大将 対馬レオ(生徒会・2年生)

 

北軍

 

モブキャラ5名

 

南軍

 

モブキャラ5名

 

以上20名、体育武道祭メインイベント・異種格闘団体戦『ドラゴンファイターズ』参戦決定!!

 



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波乱の体育武道祭、開幕!!

レオSIDE

 

 遂に始まった体育武道祭1日目(まぁ、俺個人にとっての本番は2日目だが)、天気は快晴、絶好の体育祭日和とはこの事だ。

体育武道祭は東西南北4つの軍に分かれて対決する竜鳴館トップクラスの大イベント。

それ故に竜鳴館は朝っぱらからお祭り騒ぎ状態だ。

さらに大規模なこの行事はローカルだがテレビ中継までされるからみんな張り切っている。

ちなみこの武道祭の目玉、団体戦『ドラゴンファイターズは』は特別行事なので2日目に行われる。

ルールはトーナメント方式、まず東軍対北軍、西軍対南軍が行われ、その勝利チームが決勝戦で戦う。

つまり俺と乙女さんが戦う機会は明日という事である。

 

 話は戻って、遂に体育武道祭は開幕。

さまざまな競技で選手達がしのぎを削りあう(補足・可能な限り複数エントリー可能)。

 

「3年女子バレー、優勝は3−A!東軍!」

 

 全学年A組は東軍、つまり乙女さんの所属チームだ。

 

「よし、1000億ポイントはもらった!!」

 

 点数も豪快……。

 

「さすが乙女さん、やってくれるぜ」

 

 勝負は明日だってのに今からウズウズしてしまう。

 

 

 

NO SIDE

 

 その後も各選手達はそれぞれの出場科目で活躍していく。

 

女子障害物競走 蟹沢きぬ・優勝

 

「よっしゃあ!楽・勝!!」

 

 

女子リレー 霧夜エリカ・優勝(圧勝) 近衛素奈緒・2位

 

「ま、こんなところね」

 

「クゥ……こんな奴に……」

 

 

女子二人三脚 霧夜エリカ&佐藤良美・優勝(圧勝)

 

「当然、竜鳴館一のベストカップルだもの」

 

「あはは……(苦笑)」

 

 

3年騎馬戦バトルロイヤル 鉄乙女・優勝(大圧勝)

 

「東軍は負けん!!」

 

 

ホームラン競争 イガグリ・2位

 

「くそー、2−Aの丸刈りに負けたべ!」

 

 

 さて、我等が主人公レオは……。

 

「それでは、男子走り高跳びを開始する」

 

対馬レオ、出場科目『走り高跳び』。

 

「フッ、対馬が相手か。面白い勝負になりそうだ」

 

 そう言って声をかけてきたのは2−Aの村田だ。

 

「何だ、お前もか村雨?」

 

「村田だよ!どこの名刀だそれは!?」

 

 お決まりのボケがあったものの競技は開始される。

先行は村田だ。

 

「悪いが勝負は速攻で終わらせてもらう!1m40cmで!!」

 

 いきなり勝負に出た村田。1m40cmのバーを見事に飛び越える。

 

「村田洋平、1m40cm合格!」

 

「よし!!」

 

 会心の結果に勝利を確信する村田。

しかしレオは冷静にこう言い放つ。

 

「じゃあ俺は1m55cmで」

 

 その場の空気が一気に騒然となる。

 

「な、何だと、僕の記録より15cmも上じゃないか!?」

 

 周囲が困惑する中、レオは静かに準備に入る。

 

「ば、馬鹿な……出来るわけが無い。強がりに決まっている!」

 

 殆どの人間が思っていることを村田が代弁する。

 

「村田、勝負ってのは決着がつくまで勝ち誇ることなんて許されないんだぜ。それを今教えてやる」

 

 レオのその言葉の直後、開始のピストルの音が鳴り響きレオは凄まじいスピードでバーへ接近し、そして跳び上がった。

 

「な!?……ば、馬鹿な」

 

「す、スゲェ……」

 

「ま、まるで飛んでるみたいだ」

 

 誰もがその飛翔に心奪われた。レオは軽々とバーを飛び越え、そのままマットに両足で着地した。

 

「対馬レオ、1m55cm合格!!」

 

 次の瞬間西軍から歓声が上がる。それはそうだろう、誰もが村田の優勝を確信するなかでそれを見事に覆す大逆転を見せたのだから。

 

「くっ……ま、まだだ!まだ終わっていない!!」

 

 それでも勝負を捨てきれない村田も1m55cmに挑むが……。

 

「村田洋平、1m55cm不合格!」

 

「ち、畜生……」

 

 無情にもバーは音を立てて地に落ち、村田以外の者も同じように1m55cmの壁に敗北していった。

 

「そこまで!優勝、対馬レオ!!」

 

男子走り高跳び 対馬レオ、優勝(大圧勝)

 

「ま、ざっとこんなもんだな」

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオの奴、今のジャンプ力で一体何十、いや何百分の一の力だ?

フフフ……今からワクワクしてくるではないか。

 

 

 

レオSIDE

 

 数多くの好勝負が展開され、1日目は終了。勝負は明日に持ち越しとなり、俺たちは一度帰宅する。

 

「乙女さんはどうするの?今日も実家?それとも俺ん家?」

 

「今日からはお前の家に戻らせてもらう、明日も早いし、何よりお前と同じ条件で戦いたいからな」

 

 見事なまでに正々堂々としたスポーツマンシップ。くぅ〜〜、早く闘いたい!!

 

 

 

 んで、帰宅。そして晩飯。さ〜て、そのメニューは……。

 

「トンカツ入りおにぎりだ。これで体力をつけるぞ!」

 

 やっぱりおにぎり……………………でも。

 

「何か久しぶりに食った気分」

 

「そうだな、私も修行中は家族に任せきりだったからな。こうやってお前とおにぎりを食べるのも懐かしく感じてしまう」

 

 何かしっくりくるなぁ……やっぱ乙女さんと一緒に居るのが当たり前になっちまってるな、俺。



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決戦!ドラゴンファイターズ!! その1

レオSIDE

 

「これより、体育武道祭メインイベント、ドラゴンファイターズを開始する!!」

 

 体育武道祭2日目、遂に始まったドラゴンファイターズ!!

館長の宣言によって戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「ではまず1回戦、東軍対北軍、両陣営選手前へ!!」

 

 乙女さんを筆頭とした東軍メンバーとその対戦相手である北軍のメンバーがリングに近付く。

 

「ルールは先鋒から大将戦までの5本勝負3本先取。たとえ決着がついても希望さえあれば敗戦した軍のでも最後まで戦うことを許可する」

 

 つまりどっちみち乙女さんと闘うことはできるって事か、ありがたい限りだ。

 

「それではこれより試合を開始する。東軍先鋒・山手、北軍先鋒・今井、リング中央へ……始めぃ!!」

 

 開始の合図と共にゴングが鳴り響き、ドラゴンファイターズの幕は上がった!!

 

 

 

NO SIDE

 

 結果を端折って言えば、東軍VS北軍は東軍の快勝に終わった。

北軍の敗因を挙げるとするならば乙女の存在と焦り過ぎにある。

鉄の風紀委員こと拳法部主将、鉄乙女の存在は北軍の士気を下げるには十分すぎるものがあり、戦う前から北軍の士気は下がっていたといっても過言ではないだろう。

もちろんチーム戦である以上北軍にも勝てる可能性はあった。しかし乙女を相手にすることを恐れる北軍は勝負を焦り、結果敗北。労せず東軍は2回戦へ駒を進める。

そして第2戦、レオ率いる西軍の試合が始まる。

 

 

 

レオSIDE

 

 さて、俺達の出番になり、俺達はリングへと向かう。

 

「見ろよ、姫が出てるぜ!!」

 

「伊達君が副将?大将だと思ってたのに……」

 

「お、おいあの2年、前に鉄と互角に蹴り合ってたやつじゃねぇか!?」

 

 観客からさまざまな声が聞こえてくる。と言っても殆どの話題がスバルと姫だけど。

 

「西軍先鋒・大野、南軍先鋒・島田、リング中央へ」

 

 さっそく先鋒戦が始まる。西軍(こっち)の先鋒は拳法部一年のハンサム大野(本名は知らん)、敵側は空手部の3年生だ。

結果は実戦経験の豊富さが上回り大野の負け、あ〜あ早速1勝落としちゃったよ。

つづく次鋒戦は西軍(こっち)の勝ち。まぁここら辺はモブ同士の戦いなので語る必要も無いだろう。

そして続く中堅戦と副将戦だが……

 

まず中堅戦。

 

「お嬢様キック♪」

 

「ぎゃうっ!?」

 

「勝者、霧夜エリカ!」

 

 姫、圧勝……負けた相手は何故か嬉しそうな顔で倒れてる。

 

そして副将戦。

 

「うおりゃぁぁぁ!」

 

「ふぎゃああぁっっ!!」

 

 スバル圧勝。これで3勝1敗で俺達の勝ちが決まった。

 

「まだ続けさせてください!このままやられっぱなしは御免です!!」

 

 南軍大将は諦めが悪かった。一矢は報いたいようだ。

 

「良かろう。では西軍大将・対馬、南軍大将・上原、前へ!」

 

「しゃーねぇな、行くか」

 

 俺は準備運動がてらリングに上がった。

 

 

 

NO SIDE

 

 リングに上がったレオに南軍の大将である上原はニヤリと笑う。

 

「久しぶりだな、対馬。俺のことは覚えているだろ」

 

 戦意を剥き出しにレオに話しかける上原。しかしレオは……

 

「誰?」

 

 シリアスそうなシーン台無しである。

 

「上原だよ!上原始(うえはらはじめ)!!中坊の頃同じ道場に通ってただろ!!」

 

「…………ああ、居たなそんなの」

 

「フッ、分かってるぜ対馬、そうやって俺をいらつかせる戦法だろ。だが俺にそんな手は通用しないぜ!」

 

(いや、本当に忘れてたんだけど)

 

 上原始……彼はレオと同門の道場で空手を学んだ男であり、レオを一方的にライバル視しているがレオに勝ったことは一度も無い男である。

 

「始め!!」

 

 戦闘開始のゴングが鳴り響く。先に動いたのは上原だ。

 

「喰らえ対馬ぁ!!」

 

 渾身の正拳突きがレオに向かう。しかし残念ながらレオと上原の実力差は中学時代と比べて遥かに開いているのだ。

故に上原はレオがカウンター気味に繰り出した鳩尾への一撃を避けることなど出来ない。

 

「うげぇぇっっ!!?!?」

 

 恐らくこの時上原は自分に何が起きたのかまったく理解できなかっただろう。

気がつけば胃液を吐いて倒れていた……と言った感覚で上原はマットに沈んだ。

 

「勝者、対馬レオ!!」

 

 会場が騒然とするなか平蔵の勝利宣言により試合は幕を閉じ、歓声が巻き起こった。

 

「結局準備運動にもならなかったな……」

 

 そして20分の休憩後、いよいよ竜鳴館史上最大の戦いへのカウントダウンが始まる。

 

 

 

レオSIDE

 

「皆さーん!いよいよドラゴンファイターズ決勝戦、東軍対西軍をはじめまーす!!優勝チームにはドカンと3千億ポイントが加算されますので、細かいことなど気にせず派手に戦(や)っちゃってくださーい!!なお、実況はこのボク、竜鳴館のマスコット、蟹沢きぬが……」

 

 カニの突っ込みどころ満載な実況によって遂に始まった決勝戦。というかアイツで実況大丈夫なのか?

 

「解説は鎌倉で空手教室の講師をしている柊空也さんを呼んでまーす」

 

 く、空也!?

 

「何か見物に来てたら頼まれたんだが……」

 

 ご、ご愁傷様としか言いようが無い。

 

「さーて、それでは早速先鋒戦、テコンドー部期待の新星、山手淳!」

 

「押忍!」

 

「対するは拳法部屈指の美形、一回戦での敗北の汚名を挽回出来るか、ハンサム大野!」

 

 汚名を挽回してどうする?

 

「必ず勝つ、竜鳴館一のイケメンはこの僕だ!!」

 

 いかん、勝つことに躍起になってカニの間違いに気付いてない、これヤバイぞ。

 

「さぁ、今こそ覚醒の時!リューメイファイト、レディー、ゴー!!」

 

 

 

NO SIDE

 

 先鋒戦、山手VS大野。

一気呵成に攻める先方を得意とする大野は開始直後、一気に派手に攻め立てる。しかし山手はその一撃一撃を確実に防ぎ、隙を見つけては強烈な蹴りを大野に浴びせる。

 

(こりゃ、負けたな……)

 

 開始数分でレオは大野に勝ち目が無いことを見抜く。

 

「まったく、格好に拘り過ぎるなといつも言っているというのにあの馬鹿は……」

 

 背後から聞こえてきた聞き覚えのある声にレオは振り向く、そこにいたのは……。

 

「半田?半田じゃねぇか?」

 

 プロローグ以来全く登場していなかったこの小説第一のオリキャラ、半田紗武巣である。

 

「おお対馬、久しぶりだな」

 

「ああ、何でここに?」

 

「いや、大野(アイツ)は私の従弟でね、アイツが今回の団体戦とやらに出ると聞いて、見に来たわけだが……」

 

 そこまで言って一度会話が止まる。山手の蹴りが大野の下顎に入ったのだ。

 

「こりゃ決まったな」

 

「ああ、あの馬鹿者め、次の訓練は倍だな」

 

「勝者、山手淳!!」

 

 東軍、1勝。

 

 

 

レオSIDE

 

「勝者は東軍の山手淳!堅実な守りと攻めに軍配が上がったぁーー!!」

 

 出鼻挫かれたなぁ、こっからどうなる事か……。

 

「つづきまして次鋒戦、空手部のエース、志村仁一!!対するはボクシング部の暴れ牛、海鶴正人!!」

 

 うん、まぁこれもモブ同士の戦いだな。

 

「お〜〜い、レオ〜〜」

 

 そんなことを思っていたらまた誰かから声をかけられた。

 

「錬、お前も来てたのか」

 

「ああ、森羅様や他の皆も一緒にな」

 

 空也が来ていたからもしかしたらと思っていたが案の定だ。

 

「どうするんだ?俺が見た限りじゃお前のチームの次鋒、あの志村とかいうやつより弱いぞ」

 

 やっぱり錬もそう見るか。

 

「多分負けるだろうな、パワーだけなら海鶴も負けちゃいないけどアレは完全に力押しだけで戦うタイプだ」

 

 それに比べると対戦相手の志村は全体的にバランスが良く冷静に相手の弱点を探りながら戦うタイプ、はっきり言って相性悪すぎ。

 

「そこまで!勝者、志村仁一!!」

 

「決まったぁーー!!9分25秒テクニカルノックアウト、これで東軍早くも2勝だ!!」

 

 そしてやはりこの結果。俺達の予想通りこっちの2敗目。

 

「おいおい、大丈夫かよお前のチーム?」

 

「残り3戦全部勝てばいい」

 

 俺が笑ってそう言うと錬も笑った。

 

「お前らしいな。じゃ、頑張れよ」

 

 

 

NO SIDE

 

「さぁ、次は中堅戦、もう後が無い西軍はここで巻き返したいところ、果たして西軍は勝つことができるのか」

 

「さ〜て、私の出番ね」

 

 立ち上がり、リングへと歩いていくエリカ。その表情には一片の緊張も無い。

 

「西軍中堅、竜鳴館が誇る頭脳明晰容姿端麗文武両道のカリスマ生徒会長、霧夜エリカ!!」

 

 紹介と共に意気揚々とリングに上がるエリカ。観客からの黄色い声援が巻き起こり、エリカはそれに手を振ってアピールする。

 

「対する東軍の中堅は拳法部3年の特攻隊長の異名を持ち、アンチ霧夜エリカの筆頭女戦士、日上順子!!」

 

 対戦相手である女が無言のままリングに上がり、敵意むき出しでエリカを睨み付ける。

彼女の名は日上順子、拳法部内の女子の中では乙女に告ぐ実力者であり拳法部副部長の女だ。スレンダーな体つきと釣り目だが整った顔つきで男女問わず人気は結構高い。ただし彼女のコンプレックスである貧乳を指摘すると一気にキレて凶暴化するので恐れられてもいる。

そして彼女も他のアンチ霧夜エリカの例に漏れずエリカを強く敵視する人間の一人だ。

 

「さぁ、今こそ覚醒の時!リューメイファイト、レディー、ゴー!!」

 

 開始のゴングが鳴り、順子は身構える。

 

「あんたは前から気に入らなかったんだ、今日ココで叩き潰させてもらうよ!!」

 

 宣戦布告と共にエリカに襲い掛かる順子。激しい攻撃が連続してエリカを襲う。

 

「へぇ、アナタやるじゃない。これで胸が大きければ完璧」

 

「ッ……殺す!!」

 

 コンプレックスを指摘され、順子の攻撃が鋭さと勢いをを増す。

 

 

「日上選手すさまじい連続攻撃だ!」

「あれは軍隊式格闘技(サバット)がベースだな、確実に相手にダメージを与えることを主眼においている」

 

 

(予想以上ね、激しい攻撃の割に隙も少ない。この娘やるじゃない)

 

 順子の攻撃を防御、もしくは回避しながら冷静に分析するエリカ。しかしその表情はどこか楽しそうだ。

 

「それじゃ、そろそろ反撃いきますか」

 

 軽くステップを踏むように構えを変え、エリカは臨戦態勢に入る。

 

「何をごちゃごちゃ言ってる!!」

 

 順子から正拳突きが繰り出される。

 

「シッ!」

 

 しかしエリカは体勢を低くして正拳突きを回避すると同時に順子の体に蹴りを叩き込む。

 

「グッ……!」

 

「アナタちょっと無骨すぎるわ、女の子ならもう少しエレガントに闘いなさい」

 

「う、うるさい!!」

 

 蹴りによるダメージも忘れて再びエリカに襲い掛かる順子。しかしエリカの余裕は崩れない。

 

「わぉ、結構速いじゃないアナタ。でも残念、私のほうが速いのよね」

 

 そう呟くと同時にエリカは順子の攻撃より早く蹴りを繰り出す。

 

「クッ…速い!?」

 

 

「おぉーっと、霧夜選手ここから一気に反撃か!?」

「あれは……カポエラか?しかもなかなか技のキレだ」

 

 

「ちょっとだけ見せてあげるわ、私の本気」

 

 不適に笑みを浮かべエリカは息もつかせぬ連続攻撃を繰り出す。

 

「グァッ!?く、クソォッ!!」

 

 反撃の間も与えないエリカの連続攻撃に順子は先ほどまでの勢いを失い、瞬く間に体力を奪われる。

 

「サービスよ、私の必殺技見せてあげる……《ローリングファング!!》」

 

 逆立ちしながらの回転キックが順子の顔面に直撃する。

必殺の一撃を受けた順子は成す術なくダウンしてしまう。

 

「そこまで、カウントを取る」

 

 順子のダウンと同時に平蔵がリングに上がり、カウントを数える。

順子も立ち上がろうとしたものの、無情にもカウントは10を迎える。

 

「これまで!勝者、霧夜エリカ!!」

 

「ま、当然よね」

 

 西軍、1勝!!

 

 

 

スバルSIDE

 

 お姫さんが勝ってさっきまでの敗戦ムードが少し改善され、いよいよ俺の出番となった。

 

「スバル、負けんなよ!」

 

「おう、勝って来るぜ!!」

 

 セコンドのフカヒレからの声援に応え、リング上の洋平ちゃんと睨み合う。

 

「副将戦!東軍は2−Aの理性を持った狼、村田洋平!対する西軍は陸上部のエースにして情に厚いアウトロー、伊達スバルだ!!」

 

「伊達、貴様とようやく決着を付けるときが来たようだな」

 

「いつの間に俺はお前のライバルになったんだよ?」

 

 ったく、コイツは勝手にライバル意識を持つから困る。

 

「リューメイファイト、レディー、ゴー!!」

 

「去年のトーナメントでの借りを返してやる!!」

 

 即効で仕掛けてきた洋平ちゃん、勇ましいねぇ。

 

「悪いが俺も負けられないんでね!」

 

 負けじと俺も攻撃、お互い顔面にパンチが入る。

 

「チィッ……」

 

「グッ……クソ!」

 

 

「おおっーと!いきなり相打ちだ!!」

「ダメージは村田のほうが大きいな、パワー勝負なら伊達の方に分がある」

 

 

「チッ、やはりパワーでは適わんか。ならば手数で!!」

 

 洋平ちゃんが連続でラッシュを繰り出してきた。

 

「出たぁーー!!村田選手必殺のガトリングガン!!」

 

 相変わらず大した弾幕だ、だが……。

 

「!?」

 

 俺はガードを固めながら洋平ちゃんのこぶしの弾幕の中に突っ込んでいく。

 

「ば、馬鹿な!血迷ったか!?」

 

 ハッ、違うね!!

 

「こんなラッシュ、レオのに比べりゃ子供だましだ!!」

 

 弾幕を突き破って懐に入り、洋平ちゃんの顔面に渾身の一撃を叩き込む!!

 

「グハッ!!」

 

 俺の一撃に思わずダウンする洋平ちゃん。表情には焦りが見え始める。

 

 

「……決まったな」

 

 

 解説席の空也がそんな事を呟くのが聞こえたが今はそんな事どうでもいい。

 

「く、クソ!まだだ!!」

 

 立ち上がって再び俺に殴りかかる洋平ちゃん。

こちも迎え撃ち、殴り合いになる。

 

「今だ!!」

 

 しばらく殴り合って突如洋平ちゃんが仕掛けてきた。洋平ちゃんの必殺技ハイキックだ。

 

「見え見えだぜ!」

 

 俺は姿勢を低くしてそれを回避する。

 

 

「ああっーと!!村田選手、必殺のハイキックを避けられてしまったぁーー!!」

「当たり前だ、あんな焦った状態で大振りな技が当たる訳無いだろ」

 

 

「終わりだ!!」

 

 隙の出来た洋平ちゃんに俺は立ち上がる勢いでアッパーを放つ。

 

「うぐはっ!!?」

 

 綺麗にクリーンヒットした俺のアッパーに洋平ちゃんはそのまま大の字になって倒れた。

 

「そこまで!勝者、伊達スバル!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 これで2勝2敗の五分と五分。レオ、前座はキッチリ決めてやったんだ、大将戦は任せたぜ!!




登場人物紹介にキャラを追加しました。


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決戦!ドラゴンファイターズ!! その2

NO SIDE

 

 今まさに竜鳴館史上最大にして最高の戦いが始まろうとしている。

当人以外の生徒達(一部除く)の誰もが乙女によってレオが秒殺されると思っていながらもこれから戦いが行われるリングから目が離せなかった。

そんな一般生徒達はこの後行われる戦いに本能的に胸を躍らせていた。

 

 

2−C応援席

 

「けど次の相手は鉄先輩かぁ、対馬も気の毒やで」

 

「まだ分かんないヨ、対馬君て実は凄く強いネ」

 

「そんなに強いんか?」

 

「そういや対馬が戦ってるところなんて見た事ねぇべ」

 

「せやな、豆花(トンファー)は見た事あるんか?」

 

「一度だけ、そりゃもう凄かたヨ」

 

 

 

3−D応援席

 

「おい、お前どっちに賭けた?」

 

「鉄に決まってるだろ。この学校であいつに勝てる奴なんて館長以外にいるかよ」

 

「だよなぁ……山下、お前は」

 

「俺?対馬って奴に賭けた」

 

「は、マジでか!?」

 

(ククク……俺は知ってるんだ。あの男、対馬レオは鉄相手に互角に蹴りと蹴りの応酬を演じた猛者だって事をな。頼むぜ対馬、全財産お前に賭けてんだぞ俺は)

 

 

 

素奈緒SIDE

 

 村田の試合が終わって十分後、鉄先輩と対馬の試合が始まる数分前、村田は目を覚ました。

 

「よーへー……大丈夫?」

 

「あ、ああ……なんとかな……次の試合は」

 

「まだよ、どうせ鉄先輩が勝つんだから見る意味無いでしょ?」

 

「あ、ああ……だが、何故か気になるのでな」

 

 何が気になるんだか……どうせあの対馬(ふぬけ)の事だから10秒も持たずにボコボコにされるのがオチなのに。

 

「おい上原、お前対馬に賭けたって本当か?」

 

「ああ、アイツは絶対強いって!」

 

 あ!あいつ等賭けは違反なのに!!

 

「ちょっとあんた達!」

 

 私は賭けをしている連中に文句を言おうと一歩前に出る。

 

「戦って分かったんだよ!アイツ絶対破門された後も鍛え抜いてるって!!」

 

 …………え?

 

「ちょ、ちょっと!それどういう事!?」

 

「ゲ!ジャスティス近衛!?」

 

「対馬が破門って、アイツ自分から空手辞めたんじゃ!?」

 

「はぁ?何言ってるんだ?アイツが空手辞めたのは傷害沙汰起こして破門になったからだぞ」

 

 そ、そんな……それじゃあ対馬は……。

 

 

 

レオSIDE

 

「さぁ、皆さん!遂にこれが最後の戦い!!泣いても笑っても全てが決まる一戦が始まろうとしています……ドラゴンファイターズ最終戦!鉄乙女VS対馬レオ!!!!」

 

 いよいよ試合開始時刻となり、俺と乙女さんはリングに上がる。

 

「レオ!負けんじゃねぇぞ!!」

 

「勝ったら霧夜スタンプ5枚上げるわ、絶対に勝ちなさい!」

 

「対馬君、頑張ってー!」

 

「頑張れレオ、お前がナンバーワンだ!!」

 

「私の懐のためにも是非勝ってください」

 

 皆からの声援(約一名おかしいのがいるが)に俺は無言のまま親指をグッと突き出して応える。

 

「赤コーナー、竜鳴館風紀委員長にして拳法部主将、鉄の風紀委員の異名を持つ学園最強の女……鉄乙女!!!!」

 

 選手紹介と共に来ていた上着を脱ぎ、胴着姿になる乙女さん。ファンからも黄色い声が上がる。

 

「青コーナー、乙女さんの従弟にして、かの青い疾風、ジョン・クローリーによる地獄の扱きを生き残り、彼の弟子を名乗ることを許された若き獅子……対馬レオ!!!!」

 

 今度は俺の紹介だ。俺は無言のまま右手の握り拳を上空に突き出した。乙女さんほどではないが結構な声援が聞こえてくる。

 

「さぁ、最後は従姉弟同士の対決、果たして勝利の女神が微笑むのはどっちだ!?」

 

 カニの実況を余所に俺たちはリング中央で向かい合う。

 

「レオ……お前とココで戦う日をずっと待っていた。前回のようにはいかないぞ」

 

 乙女さんは俺に向かって拳を突き出してくる。

 

「上等、こっちも負ける気は無い!」

 

 突き出された拳に自らの拳を当て、俺たちは互いに構える。

 

「さぁ、いよいよ試合開始!開始のゴングは館長自ら鳴らします!」

 

「周囲のことなど気にしなくても良い、双方悔い無きよう全力で戦え。準備は良いな?」

 

 ゴング代わりの銅鑼(どら)を持った館長の問いに俺たちは同時に頷く。さぁ、早く始めてくれ。

 

「それでは最終決戦!リューメイファイト、レディー……」

 

「GO!!!!」

 

 館長の馬鹿でかい声と銅鑼(ゴング)の音が鳴り響いた。

 

 

 

NO SIDE

 

「ハァァーーーー!!!!」

 

「ダァァーーーー!!!!」

 

 ほぼ同時に踏み込み互いの拳がぶつかり合う。

 

「チッ!」

 

「クッ!」

 

 反発するように同時に一度後方に飛び退き、直後に乙女が仕掛ける。

 

「《疾風(はやて)突き!!》」

 

 一瞬で距離を詰めた正拳突きがレオ目掛けて繰り出される。

 

「!?」

 

 誰もが乙女の拳がレオに入ったと思った、しかし入ったと思った瞬間乙女の拳はレオの体をすり抜けた。

 

「残像か!?」

 

 レオの得意技『残像拳』によって回避された乙女の疾風突き。そして当のレオは……

 

「上!?」

 

 乙女が察知すると同時に上空からレオが襲い掛かる。

 

「《スパイラルレッグボマー!!》」

 

 足に気を纏わせて錐揉み回転しながら凄まじい勢いで落下してくるレオ。見様見真似で習得した師匠であるジョン・クローリーの必殺技『スパイラルレッグボマー』だ。

 

「クッ!!」

 

 乙女あわてて回避、マットに穿たれたレオの技でリングに穴が開く。

さらにそこを狙って乙女が動く。

 

「《真空鉄砕拳!!》

 

 早くも必殺技を繰り出す乙女。とてつもない威力の拳がレオに迫り来る。

 

「甘い!」

 

 しかしレオは一切動揺する事無く乙女の腕を掴んで拳を止める。

 

「もう見切ってんだよ、その技」

 

 そのままがら空きになった乙女のボディにレオの膝蹴りが繰り出される。

 

「同じ轍は踏まん!!」

 

 しかし乙女は瞬時に気を脚に集中させてレオの膝蹴りを自らの脚で受け止める。

 

「前回のようにはいかないと言った筈だぞ?この技の弱点は既に克服している」

 

「らしいね、前より何もかもレベルアップしてるじゃん。やっぱり爺様直々の修行は伊達じゃないって事?」

 

「お前こそ、まだ本気ではないのにこれ程とは、大したものだなレオ」

 

 お互いに一旦距離を取り合い、相手の上がった実力を賞賛し、そして戦慄する。しかしレオと乙女の表情(かお)は笑っている。

なぜこんな状況で笑ってしまうのかは本人達にも定かではない。

 

(たぶん……)

 

(本能だな、ファイターとしての……)

 

 それだけ理解して二人は一度職員席に目を向ける。

 

「館長、穴開いちまったからリング取っ払ってもらって良いですか?」

 

 レオの頼みに平蔵は満足げに笑みを浮かべる。

 

「良かろう、存分に闘うが良い!!」

 

 

 

 平蔵によってリングが取り払われるなか、観客席ではこの僅かな時間に巻き起こされた攻防の凄まじさにざわめきが起こっていた。

 

「す、スゲェー!!レオも乙女さんも滅茶苦茶スゲェーー!!!」

 

 実況も忘れてカニが騒ぐ。

 

「やっぱ凄いな……」

 

「っていうか前より凄くなってね?」

 

 スバルとフカヒレも開いた口が塞がらないといった感じだ。

 

 

「す、凄い!めっちゃ凄いで!!」

 

「対馬……あんなに凄かったべか?」

 

「前より強くなてるネ……」

 

 

「う、嘘だろ!?鉄とまともに渡り合ってるぞあの2年!!」

 

「やっぱり俺の予想は正しかった!!いやそれ以上だ!!」

 

 

「くー……すごい……」

 

「く、鉄先輩と互角、だと……か、勝てないはずだ……あれ程実力の相手では」

 

「嘘……あれが、対馬……なの?」

 

 

「凄い……あれが空也の言ってた例の友達?」

 

「うん、しかし対戦相手も凄いな……(あ、錬達も二人を凝視してる)」←解説席から帰ってきた。

 

 

 

 そしてリングが取り払われ、文字通り大地の上で二人は再び構える。

 

「今度はこっちから行くぜ!!」

 

 レオが動き乙女に掴み掛かり脇腹に膝蹴りを入れる。

 

「ぐっ……この程度で!!」

 

 即座に乙女も反撃に移り、レオと同じように相手の肩をつかんで脇腹に膝蹴りを入れる。

「チッ……根競べか!?上等!!」

 

 そのまま互いに相手の脇腹に蹴りを入れ合う。この状態になれば先に体勢が崩れたほうが一気に不利になる。

 

「オラァッ!!」

 

「フンッ!!」

 

 互いの膝が脇腹に何度も叩き込まれる。気で防御しているとはいえ確実にダメージは蓄積されている。

 

 

「両者一歩も引きません!っていうかさっきから蹴りが入る度に鈍器で殴ったような音が聞こえるのですが二人とも骨は大丈夫なのか!?館長、この勝負どう見る!?」

「力は鉄、スピードによる鋭さは対馬に分がある。これではどっちが先に体勢を崩してもおかしくない」

「つまりこれは体力の削りあい!果たして先に崩れるのはどっちだ!?」

 

 

「こ、のぉぉぉっ!!!!」

 

「喰らえぇぇぇっ!!!!」

 

 両者フィニッシュと言わんばかりの渾身の一撃が双方に叩き込まれる。

 

「グッ……クソ……!」

 

「これ程とは……だが、貰ったぞ!!」

 

 体勢が二人同時に崩れる。しかし僅かにレオの方が深く崩れ、そこを狙って乙女が逸早く体勢を立て直し、レオに蹴りを繰り出す。

 

「嘗めるな!!」

 

 だがレオも負けてはいない。乙女が蹴り繰り出すと同時に足に力を入れて無理矢理な体勢のまま乙女に体当たりした。

「グゥッ……抜かった、お前のスピードを甘く見ていた」

 

「乙女さんこそ、とんでもないパワーだ。後一瞬でも体当たりするのが遅れていたらマジでやばかったよ」

 

 両者ダメージはほぼ同じ。もはやこの戦いの勝者は誰にも予想できない……。

 

 

 

レオSIDE

 

 取っ組み合いは取り敢えず引き分け……ま、ただの蹴り合いで決着がつくなんて思ってないけど。

 

「そろそろ本気で行くぜ」

 

「ああ、私もだ」

 

 身体全体に気を巡らせ、全身(特に手を重点的に)を強化する。

 

「《メガスマッシュ!!》」

 

「《波動光弾!!》」

 

 同時にお互いの掌から気の塊が撃ち出され、ぶつかり合う。

互いに押し合う俺の気と乙女さんの気。しかしそれを余所に俺達は再び突撃する。

そして弾が相殺し、消えるのと同時に俺と乙女さんは再び接触した。

 

 

 

NO SIDE

 

「《獅子王乱舞!!》」

 

「《千烈乱舞!!》」

 

 レオの拳が、乙女の脚が、目にも留まらぬ速さでお互いに襲い掛かる。

ある一撃は相手に打ち込まれ、また一撃は防がれ、相殺し合う。

 

 

 殆どの観客達にはレオと乙女の手足は捉えきれずいつの間にか二人共傷が増えていくように見えていた。

 

「ぜ、全然見えねぇ……二人ともどんだけ速ぇんだよ!?」

 

「村田!お前鉄先輩と同じ拳法部だろ?あの二人の動き分かんないの!?」

 

「分かる訳無いだろ!!あの二人の戦いは僕達の常識なんてとっくに超越しているんだぞ!!」

 

「対馬……何であの時……」

 

 

 

レオSIDE

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 そのまましばらく殴り合い続ける俺達、そろそろフィニッシュをかけるか……。

 

「行くぜ!《修羅旋風拳!!》」

 

 渾身の一撃を繰り出した。

 

「!?」

 

 しかし俺の狙いとは裏腹に乙女さんのバックステップで俺の一撃はかわされてしまった。

クソッ、ミスったか!?

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオの一撃を避け、私は好機とばかりに手に気を集中させる。

 

「《地走流弾!!》」

 

 地面に拳を殴り、地を這う気弾を飛ばす。

 

「ヤベェ!」

 

 あわててレオは上空へ飛び上がって回避する。だがそれこそが私の狙いだ!!

 

「今だ!!」

 

「!?……しまった!!」

 

 いきなり飛び上がった状態では(たとえ気を使用しても)急な方向転換は不可能!そこさえ狙えば確実に当たる!!

 

「喰らえぇぇ!!《爪嵐撃!!》」

 

 両手を合わせ全身を錐揉み回転させて突進する。

狙いは完璧、回避は不可能だ!!

 

「《爆風障壁!!》」

 

「な!?」

 

 突然レオが腕と体を同時に捻り、直後に竜巻がレオの体を守るように包み込む。

 

「くっ、その程度の竜巻で!!」

 

 私は竜巻に真正面から突撃するが軌道がずらされてしまう。

 

「クッ……」

 

 それでも私は攻撃の手を緩めず、必死に爆風に抗う。

 

「ダァアアアアア!!!!」

 

「グッ!」

 

 そして私の体がレオを通り過ぎようとした時、私の手はレオの脇腹を掠めた。

 

「ガハッ!?」

 

 だがレオも擦れ違いざまに私に膝蹴りを入れてきた。

お互いダメージで追撃が出来ず、そのまま地面に着地し、一旦距離を置く。

 

「相変わらずとんでもないパワーだ。正直甘く見てたよ」

 

「貴様こそ大した抜け目無さだ。ここまで腕を上げていたとはな」

 

 ここまで互角とは……。

 

(こうなったら……)

 

(使うしかない、この日のために編み出したあの技を!)

 

 

 

NO SIDE

 

 覚悟を決め、睨み合うレオと乙女。両者とも気を高め、全身に力を込める。

 

「見せてやるぞ、私のとっておきをな」

 

 先に動いたのは乙女だ。

 

「…………」

 

 乙女の身体中の気が一度静まる。しかしその姿はどこか凄味がある。

 

「ハアアアアアァァァァ!!!!」

 

 そして乙女がその気を開放した時、凄まじい覇気と共に空気が震え、乙女の身体は蒼い気に包まれる。

 

「《鉄流奥義・滅式!》」

 

 鉄流奥義・滅式……それは気を爆発的に高め、全身を極限まで強化する鉄家の奥義!

 

(最も今の私では戦闘時では大した時間は維持できない。だからこそ次の一撃で決める!!)

 

 乙女は静かにレオを見据え、そして構える。そんな乙女に対してレオは冷や汗を流しながらも身構え、気を高める。

 

「行くぞレオ!!」

 

「ああ、来いよ!!」

 

 言い終わると同時に乙女はレオに駆け寄る。

そしてここで遂にレオが動いた。

 

「《気掌旋風波!!》」

 

 乙女目掛けて繰り出される爆風にも近い竜巻。

 

「無駄だ!今の私にその技は通用しない!!」

 

 しかし乙女の勢いは全く緩まない。竜巻など意に介せずレオに迫りくる。

 

「これでいいんだ!!」

 

 しかしレオの狙いはそこではない。レオは突然駆け出し自らが生み出した竜巻の中に飛び込んだ。

そして飛び込むと同時にありったけの気を足に集中させ錐揉み回転する。

竜巻による風圧とレオの回転、この二つが組み合わされた相乗効果によってレオの体はすさまじい破壊力を持った弾丸となる。

 

「「勝負!!」」

 

 レオと乙女……凄まじい破壊力を持った至高の技を携えた両者が遂にぶつかり合う!!

 

「うぉおおおおおおおーーーーーー!!!!《蒼天空烈弾!!!!!》」

 

「喰らえぇえええええーーーーーー!!!!《滅・真空鉄砕拳!!!!!》」

 

 

 二人の肉体がぶつかり合ったその時、会場に凄まじい風圧と閃光が走った…………。



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決戦!ドラゴンファイターズ!! その3

NO SIDE

 

 レオと乙女、互いの持つ最高の技と技がぶつかり合って起こった閃光、そして舞い上がる砂埃……観客達は二人の様子を知ろうと目を凝らす。

 

「い、一体これはどういう事だぁーー!?二人はどうなってしまったのだぁーーーー!?」

 

 唖然とする会場でいち早く我に還り実況を続けるカニ。それを皮切りに観客達はざわめき始める。

やがて砂埃が晴れ、視界が良くなったと同時に二人はその姿を見せた。

 

「だ、ダウン!!二人ともダウンしています!!あのすさまじい奥義を以ってしても決着は着かないというのかぁーーーーー!!?」

 

 レオと乙女は、両者共倒れていた。

互いの最高の一撃はお互い相手に甚大なダメージを与え、吹き飛ばしていたのだ。

 

「か、カンチョー!この場合、どうすんの?」

 

 カニの言葉に試合の最高責任者である平蔵に観客達の視線が移る。

しかし……その時だった。

 

「へっ……おいおい、お前ら……」

 

「勝手に終わらせるな……まだ……」

 

「「決着はまだ、着いてない!!!!」」

 

 言葉と共に傷だらけの体を無理矢理起こし、レオと乙女は立ち上がった。

 

「た、立ったぁぁぁーーーー!!立ち上がったぁぁぁぁーーーー!!!!二人はまだ闘うつもりだぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」

 

 傷だらけの体に鞭打ち、二人は静かに歩み寄った。

 

 

 

素奈緒SIDE

 

「ま、まだ闘うつもりなの?」

 

 全身傷だらけになっても闘おうとする対馬と鉄先輩を見て私は無意識の内に声を出した。

 

「もう良いでしょ!?これ以上やったら二人とも危険よ!!ねぇ対馬!あんたが強いのは分かったから!!鉄先輩も!これ以上やったら二人とも死んじゃう!!」

 

 しかし私の声も空しく二人は歩み寄り、再び構えた。

 

「二人ともやめて!!どうしてそこまでして闘わなきゃいけないの!?」

 

 

 

レオSIDE

 

 乙女さんを目の前にしていつの間にか俺は笑みを浮かべていた。

不思議だ、こんなにボロボロで肋骨の2、3本は確実にイッてるってのに、戦意は下がる所かどんどん上がっていき、気持ちは昂ぶっている。「もうやめて」なんて無粋な声が聞こえてきたがそんなもん無視だ。

 

「この勝負に引き分けなど無い。そうだろう、レオ?」

 

 気がつけば乙女さんも笑っていた。その目は俺と同じように戦意に溢れている。

 

「当然、どっちかがぶっ倒れるまで続けてやらぁ」

 

 言い返して再び構える。たとえ骨が内臓に突き刺さろうが絶対に諦めねぇ!!

 

「二人ともやめて!!どうしてそこまでして闘わなきゃいけないの!?」

 

 また無粋な声が……理由か……。

 

「理由なんか必要ねぇ!!」

 

「目の前に好敵手がいるから……闘士が闘う理由などそれだけで十分!!」

 

「「御託も大義も、必要無い!!!!」」

 

 その言葉と共に俺たちは互いにその拳を振り上げた。

 

 

 

NO SIDE

 

 二人の拳がそれぞれの顔面に打ち込まれ、それを皮切りに次々と攻撃を繰り出しあうレオと乙女。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

 レオが殴る、乙女が蹴る。互いの攻撃一つ一つが確実に相手に打ち込まれる。

最早二人に防御も回避も技も必要無い。ただひたすらに己の体力と精神力が続く限り殴り合い続ける。

 

「こ、のぉぉぉぉ!!!!」

 

 乙女の膝蹴りがレオのボディに叩き込まれる!!

 

「ガハッ!!……クソッたれがぁぁぁぁ!!!!」

 

 口の中にたまった血を吐き出し、倒れそうになりながらも足で踏ん張って喰い留まりダウンを防ぐレオ。そのまま渾身の頭突きを乙女の鼻っ柱に見舞う!!

 

「グゥァッ!!……ま、まだまだ!!」

 

 整った顔を鼻血で汚しながらも乙女はその右手を握り締め、レオの顔に叩き込む!!

 

「嘗めるなぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 しかしレオも負けてはいない!乙女の右ストレートを顔面に受けながらもそれに耐え、自らも右ストレートで殴り返す!!

 

「「ハァハァ…………」」

 

 満身創痍の二人。それでもその戦意は衰える事を知らない……。

 

 

 

「二人ともやめて!ねぇやめてってば!!」

 

 ズタボロになって尚闘い続けるレオと乙女に対して素奈緒は悲痛な叫びを上げ続ける。

彼女以外にもこの戦いの凄まじさと血生臭さに一部の生徒からも試合中止すべきという声が上がり始める。

 

「無駄だ、もう止める事なんて出来ない」

 

 素奈緒の背後から宥めるように村田が声をかける。

 

「何言ってんのよ!!このままじゃ二人とも……」

 

「誰も止められないさ。それに見てみろ、あの二人の顔を……」

 

 村田に促され素奈緒はレオ達の表情を見つめる。

 

「え、何で……何で笑ってるの?」

 

 レオと乙女……二人は今、笑っていた。まるで友人と遊びまわる子供の様に。

 

 

 

レオSIDE

 

「ガハァッ!!…………ヘヘ、ハハハハ!!」

 

「グァッ!!…………フフ、ハハハハ!!」

 

 もう何発殴り何発殴られたかも分からない。お互い全身ズタボロで顔中痣だらけで痛くて堪らないっていうのに、笑いが止まらない。

 

「レオ、お前は最高だ……最高の好敵手(ライバル)だ!!」

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ、乙女さん……こんなに熱くなる勝負は生まれて初めてだ!!」

 

 言葉を交わした直後また殴り合う俺達。ヤベェ、楽しくってしょうがない!!

 

 

 

NO SIDE

 

 レオと乙女の殴り合いはいつまでも果てることなく続く。

その闘いに技も何も無い。ただ力と力、体力と気力のみを競う勝負。

壮絶で血生臭い、優雅さなんて微塵も無い。それでもその闘いには人を惹きつける何かがあった。

気がつけば今までの試合中止を訴える声は消えうせ、観客達はその闘いに魅了されていた。

 

「行けぇぇぇ!!レオォォォッ!!!!」

 

「しっかりしろぉぉ!!弟属性の底力を見せるんだぁぁぁ!!!!」

 

「鉄ぇぇぇ!!拳法部の意地を見せてやれぇぇぇ!!!!」

 

「てっちゃん!!頑張れぇぇぇ!!!!」

 

「対馬ぁぁぁ!!負けんなぁぁぁ!!!!」

 

「鉄先輩!!頑張れぇぇぇ!!!!」

 

「そうだ!立てぇぇぇ!!二人とも頑張れぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 声援が湧き上がる。最早二人の闘いを止めるものはどこにもいない。

会場中の誰もがレオを、乙女を、あるいは両者を応援していた。

 

 

 そして長く続く闘いもやがて終結の時が訪れる。

 

「ハァ、ハァ……(ヤベェ、頭ボーっとしてきた)」

 

「ハァ、ハァ……(クソ、意識が……ぼやけて……)」

 

 互いに体力の限界を感じ、覚悟を決めるレオと乙女。

 

(次で最後の一撃だ!!)

 

(これで決めてみせる!!)

 

 表情を引き締め、互いにその右拳に残りの力全てを込める。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

 

「「これで最後だぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!」」

 

 

 ありったけの力を込めた一撃が繰り出された。

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 レオと乙女の最後の一撃に観客達の声援は止み、会場中を静寂が支配する。

そして当の二人はその相手の拳を顔面で受け止め、直立不動のまま動かない。

だが…………。

 

「ぐ……ぁ……」

 

「れ、レオ!?」

 

 先に体が傾いたのはレオだ。そのまま重力に引かれるように体勢を崩し、膝を付く。

 

「こ、これは……鉄の勝ち……」

 

「い、いや、待て!!」

 

 レオより数秒遅れ、乙女が体勢を崩す。

 

 

そしてそのまま鉄乙女は…………倒れた。

 

 

「お、乙女さんが倒れた…………」

 

「あ、ああ……レオは膝を付いてるだけ……………………って事は」

 

 会場中が一つの結論を出したとき、橘平蔵は静かに立ち上がる。

 

「そこまで!」

 

 平蔵の手によって試合終了の銅鑼(ゴング)が鳴ったと同時に会場中が歓声が鳴り響いた。

 

 

 

レオSIDE

 

 ギリギリの勝利だった。あと少しでもパンチの入るタイミングが違えば、勝敗は違っていた。だけど……

 

「ハァ、ハァ……か、勝った……やったぜ、コノヤロウ……!」

 

 この壮絶かつ最高の闘いを制した。その喜びを俺は噛み締めた。

 

 

 

乙女SIDE

 

「う……ん……」

 

 周囲からの歓声で私は目を覚ます。

目に映るのは膝を付きながらも倒れずに意識を保っているレオの姿。

そうか……。

 

「また、負けてしまったか……」

 

「乙女さん……」

 

 私に気付き、レオは私の方に目を向ける。

 

「不思議な気分だ……負けて悔しい筈なのに、それ以上に清々しい気分だ」

 

 以前負けた際は悔し泣きしたというのに、今回は全然違う。

 

「そりゃ、ここまでボロボロになって体力も精神力も全部使い果たせば、そんな気分にもなるさ」

 

「勝っておいてよく言う……」

 

「解るよ」

 

 レオは少し強い口調で私の言葉を遮る。

 

「だって俺が乙女さんの立場でも同じ事思う筈だから」

 

「……そうだな」

 

 レオの言葉に納得し、私は痛みを堪えながら体を起こす。

 

「対馬、鉄、二人ともよく戦った。儂はお主らを誇りに思う」

 

 館長がレオの勝利を宣言するためこっちに近付いてくる。

 

「館長、その役目は私に任せてもらいませんでしょうか?」

 

 私がそう言うと館長は満面の笑みを浮かべて頷く。

承諾を得た私はレオの腕を掴み、その腕を天高く突き上げさせる。

 

「レオ……お前の勝ちだ」

 

 私がレオの勝利を宣言したのと同時に会場中が大喝采に包まれた。



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戦の後は……

今回は真剣恋からあの男が……


レオSIDE

 

 戦いが終わった後、俺と乙女さんは保健室に担ぎこまれた。

今頃校庭では閉会式が行われているだろう。

 

「二人とも全身打撲で擦り傷と痣だらけ、おまけに肋骨何本か折れてるわ……あんた達よくココまでやれるわね」

 

「「すいません……」」

 

 保険医の先生に呆れ顔で睨まれ、俺達は謝罪するしかなかった。

 

「対馬さん、お客様ですわ」

 

 説教を覚悟していたところに祈先生登場。ナイスタイミングだ。

でも客って誰だ?

 

「ずいぶんズタボロになっちまいましたね、先輩」

 

「大和!?」

 

 俺より少し年下の少年がビニール袋片手に保健室に入ってくる。

こいつの名前は直江大和。以前ストリートファイトで知り合った俺の後輩だ。

ちなみに格闘スタイルは中国拳法で鉄爪を武器として使っている。

 

「お前も見に来てたのか?」

 

「はい、しっかり見させてもらいましたよ。……っていうか俺だけ修行に呼ばないって酷くないですか?」

 

「悪ぃ、でもお前新薬が完成直前で動けなかっただろ?」

 

 大和の言葉に苦笑いしつつ言い訳する。コイツにはファイター以外に薬剤師も目指していて薬物の知識はプロ顔負けだ。

コイツの師匠の本業も薬剤師だからな……。

 

「まぁ、そうですけどね……それはともかく、傷薬持ってきましたよ。きっちり二人分」

 

「マジか!?そいつはありがてぇ!!」

 

 コイツの調合する特製傷薬は効果抜群。あっという間に治っちまうからな。

 

「二人分って、私の分もか?」

 

 今まで蚊帳の外だった乙女さんがようやく声を出す。

 

「当たり前です。ココに湿布と一緒に置いていきますからちゃんと使ってくださいよ。骨折の方は先輩達なら毎日牛乳飲んで煮干でも食ってりゃ一ヶ月もせずに治るでしょうし。まぁ、安静にしておくことですね。それじゃ俺はこれで」

 

「え?金取らなくていいのか?」

 

「今日は無料でいいですよ、良い試合(もの)見せてもらいましたから」

 

 それだけ言って大和は去っていった。

 

「あの男、かなり出来るな。気で分かったぞ」

 

「うん、アイツの実力は相当なもんだよ。来年から闘技場に登録するらしいから次期スーパーウェルター級チャンピオンは確実って言われてる」

 

「そうか、一度闘ってみたいものだ」

 

 そう言って乙女さんは大和の置いていった傷薬と湿布に手を伸ばす。

 

「あ!乙女さんちょっと待って!!」

 

「え?」

 

 俺が止めようと声を上げたのも空しく乙女さんは傷薬を自らの傷口に塗ってしまった。

 

「ひぎぃぃぃっぃぃぃぃぃっ!!!?!?!」

 

 あ〜あ、遅かった。

 

「な、何だこれは!?目茶苦茶染みるぞ!!」

 

「あー、やっぱりか……アイツ、物凄いドSだから……わざと染みるように作って……」

 

「あ、あの男…………次に会った時は絶対蹴っ飛ばす!!」

 

 大和の奴、よりによって乙女さんから恨みを買うなんて……なんて命知らずな奴……。

 

余談だが乙女さんが悲鳴を上げた頃、近くで「ケケケケ」と笑う少年を誰かが見たとか見なかったとか…………。

 

 

 

 ひとまず薬を塗り終え(かなり染みたけど)、俺達は外に出た。

空は夕焼けで赤く染まり、校庭では体育武道祭の締めであるフォークダンスが行われていた。

 

「もうフォークダンスか、レオは行かなくていいのか?」

 

「相手いないし」

 

 女子は殆ど誰かとペア組んでて残ってるのは男だけ、男同士で踊るとか絶対無理。

 

「なら私と踊るか?」

 

「へ?」

 

 な、なんと意外な申し出。

 

「い、良いの?俺で」

 

「ああ、お前となら全然構わないさ」

 

「それじゃあ……」

 

 俺は乙女さんの手を取って校庭のほうに向かう。

 

「俺こういうの慣れてないから下手かもしれないよ」

 

「心配するな。私も経験など殆ど無い」

 

 軽口を叩きあいながら音楽にあわせて踊りだす。

……ヤベ、何か妙に意識して顔が赤くなって思わず目を背けてしまう。

 

「れ、レオ……私とじゃ嫌だったか」

 

 俺の反応を見て乙女さんがそんな事を言った。

 

「い、いや全然!」

 

「そ、そうか?でも私は、手とか肉刺(まめ)だらけでごつごつしてるし、あんまり女らしくないし……」

 

「そんな事無いよ、その……こうやってると乙女さんだって十分女の子らしい所があるってのがわかるし、普段だって……雷苦手なところとか……」

 

「そ、それは言うな!!」

 

 足踏まれた……。

 

「あはは、ゴメン」

 

「まったく……でもまぁ、そういう風に言ってくれるのは嬉しいぞ。ありがとう」

 

 顔を真っ赤にしながら乙女さんはぶっきらぼうに礼を言った。

 

「顔赤いけど、大丈夫?」

 

「こ、これは違う!その……夕日の所為だ!お前こそ真っ赤ではないか!」

 

「お、俺のも夕日の所為だよ!」

 

「そ、そうか……そうだよな」

 

 無理矢理納得させるように乙女さんは会話を締めくくる。

 

「…………でも、こうやってお前と踊るというのも何だか新鮮だな」

 

「うん、こういうのも悪くないね」

 

「そうだな」

 

 こんな感じにいろいろありながらも俺達はダンスを楽しんだ。

 

 

 

フカヒレSIDE

 

 畜生、レオの野郎!乙女さんとダンスとか羨まし過ぎるぞ!!

 

「ち、畜生……対馬め、鉄先輩の手なんか握りやがって……くそ、泣かない、泣くもんか!」

 

 そして俺は何故か余ってしまった村田とペアを組む始末。

誘おうとした姫は佐藤さんとペア。椰子は男とペアになるのは嫌だとかで近くに居た女子と(ほぼ無理矢理)組んで、西崎さんは近衛とペア……カニですらスバルと組んでいるのに!!

 

「何で俺は村田(こんなの)と組まなきゃいけないんだ!!」

 

「こっちの台詞だ!!というかさっきから暴れるな!!ちゃんと合わせろ!!」

 

「うっせーよ!!お前にこの気持ちが解ってたまるか!!」

 

「うわっ!ば、馬鹿!!そんな風に動くと」

 

「どわぁぁぁぁっ!!」

 

 俺たちは互いの足に躓いてそのまま転んでしまった。

 

『ぶちゅっ』

 

 !!?!?!?!?!?

(………………こ、この唇に当たる感触……ま、まさか?)

 

 おそるおそる目を開ける……そこには村田の顔が。

 

「「ぎぇぇぇぇぇええぇぇっぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 鮫氷新一、通称フカヒレ

 村田洋平、通称2−Aの理性を持った狼

 

 これが二人のFirst Kissだった。

 

「「おえぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」」



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変わる予兆

レオSIDE

 

 体育武道祭での乙女さんとの壮絶な戦いから3日が経った。

骨折の方はまだ療養中だが、他の傷は大和特製の傷薬のおかげであっという間に治り、俺はいつも通りカニと一緒に学校に登校(もちろん遅刻ギリギリで)したわけだが……。

 

「鉄先輩、おはようございます!!……あ、あのこれの手紙読んでください!!」

 

「あ、ああ……」

 

 登校してまず見た光景が男女問わず多くの手紙をもらって難儀している乙女さんの姿だった。

 

「うわ、乙女さんモテモテ……」

 

「半数は同性だがな……」

 

 カニが唖然とした感じに声を漏らす。

乙女さんが貰った手紙の枚数はすさまじく、既に紙袋一杯の量が……。

……何か、面白くねぇな。

 

「おいレオ、そのポケットと鞄一杯の手紙とか包み紙は何だ?」

 

 そんな事を考えていると乙女さんに呼び止められた。

 

「え、これ?さっきいろんな女子から貰い続けて……」

 

 ちなみに手紙の内容はまだ読んでいない。包み紙のほうはクッキーなどのお菓子類のようだが……。

 

「まったく、手紙はともかく菓子類は持ち込み禁止だというのに……」

 

「あ、あの、対馬君!」

 

 乙女さんと会話していると突然背後から声をかけられた。

誰だっけ、この女の子?たしか隣のクラス(D組)の娘だったような……。

 

「こ、この前の体育武道祭凄く格好良かったよ!!」

 

「え?あ、ああ……ありがとう……」

 

「じ、じゃあね!」

 

 女の子はそのまま顔を真っ赤にしながら逃げるように校舎へ走り去ってしまった。

 

「ほ、ほぅ……お前も結構モテているではないか」

 

「え、そう?」

 

 あれそういう意味なの?いや、そんなまさか……。

 

「どう見たってそうだろうが!」

 

「ケッ、どーせ体育祭の活躍で出る人気なんて一時でしかないんだよ!1ヶ月もすりゃレオの人気なんてあっという間に逆戻りに決まってるもんね!」

 

 ……な、何で二人してそんなに不機嫌になるんだよ?

 

「まぁいい、菓子類は生徒会室の方で放課後まで保管するから校門を閉めるまでここで待ってろ」

 

「うん」

 

 こうして俺は本鈴まで身柄を拘束されることになってしまった。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオが生徒会室へ行っている頃、2−Cでは……。

 

「おいおい、何だよこれ!?」

 

 教室に入って早々フカヒレがある一転を指差して騒ぎ立てる。それはレオの机だ。

レオの机の引き出しの中には物凄い量の手紙と包み紙が詰め込まれていた。

 

「殆どファンレターの類だろうな、あれだけ活躍すりゃ当然だ。この分だと下駄箱にもぎっしりだな」

 

 かく言うスバルも何枚かファンレターを貰っていたりする。

 

「不公平だぁ!俺達は同じ対馬ファミリーじゃねぇか!なのにこの差は何だ!?」

 

「オメーは元々女子から人気なかっただろーが」

 

「それにレオは元からモテないって訳じゃないしな」

 

 悔しそうに騒ぐフカヒレをカニとスバルの冷静な突っ込みで嗜める。

 

「フカヒレ、オメェの机にも何通か手紙入ってるべ」

 

「何!?それを早く言えよ!!」

 

 イガグリからの報告にフカヒレはすぐさま自分の席に直行。そして引き出し中をのぞく。

 

「おお!本当に手紙来てる!!しかもピンクの封筒にハートのシール!!遂に我が世の春が来たぁぁ!!」

 

 その台詞はCV的にスバルが言うべきであるがそんな事フカヒレは気にしない。

嬉々として手紙の封を開ける。

 

「フカヒレにラブレターなんて……ありえねぇべ。何かの間違いだ!!」

 

「いやぁ〜遂に俺も彼女持ちか……悪いなクラスのモテない男諸君!」

 

 そして手紙を読み始めるフカヒレ。しかし……

 

 

『拝啓・鮫氷新一様

 

 俺達と一緒に肉踊る官能の世界へ逝こうぜ!!

 

                     筋肉同好会一同』

 

 

「おいおい、フカヒレ固まってんぞ」

 

「うわ……見ろよこの手紙」

 

 カニがショックのあまり硬直するフカヒレの手から手紙を奪って周囲の見せびらかす。

 

「これって原因は絶対あの事故やろうなぁ……」

 

「男同士でキスしちゃたからネ……」

 

「フカヒレぇ……流石に同情するべ」

 

 クラス中から同情と哀れみが篭った視線がフカヒレに送られる。

 

「やめろぉ!そんな目で俺を見んじゃねぇよ!!同情するなら愛をくれ!!特に女子!!」

 

 しかしそんな同情もフカヒレのこの一言で一気に消え失せ、女子達はドン引きしてフカヒレから離れていく。

 

「う、うわぁぁ〜〜〜ん!!探さないでくれぇ〜〜〜〜!!!!」

 

 フカヒレは泣きながら走り去っていった。

 

「皆さ〜ん、HRの時間ですわ」

 

 フカヒレと入れ替わりに祈が入室してきた。

 

「祈センセ〜〜、フカヒレの奴心に大ダメージを受けて逃げちゃいました」

 

「あらあら、それは大変ですわ。ですがフカヒレさん一人のために貴重な時間を無駄にしたくはありませんので、このままHRを始めましょう」

 

 さりげなく酷い事を言う教師である。しかし誰も文句は言わなかった。

 

 

 

乙女SIDE

 

 貰った手紙や菓子を生徒会室に保管し終え、私はレオを一足先に教室に行かせた。

 

「まったく……よくもまぁこんなに貰ったものだ……」

 

 この様子じゃ多分教室や下駄箱の方にも……。

 

「……面白くない」

 

 何故か知らないが変な不快感が込み上げてくる。

……意識、しているのか?レオの事……。

 

「ん?」

 

 レオへの手紙の中に見知った名前を見つけ、それに目を向ける。

 

『日上順子』

 

アイツもか……今日の練習いつもより厳しくしてやろうか?

 

 

 

レオSIDE

 

 ただいま昼休み中。俺は今の状況は……。

 

「対馬!鉄先輩との勝負めっちゃ凄かったで!!どこであんなに鍛えたん?」

 

「対馬ぁ……オメェ本当はスゲェ奴だったんだな……何だか急にオメェが遠く感じるべ」

 

「対馬先輩!今日からは兄貴と呼ばせてください!!」

 

「対馬君……私の手紙呼んでくれた?」

 

……質問攻めという名の地獄だ。

 

(…何でこうなった?)

 

 スバル曰く「あれだけ活躍すれば当たり前」との事だが嬉しい反面、結構キツイ……。

 

「ねぇねぇ対馬君、鉄センパイの肌に触った感想は?」

 

「何で姫まで質問攻めに参加してるの?」

 

「面白そうだから♪」

 

 …………こういう愉快犯もいるから困る。

乙女さんはどうなんだろ?やっぱ俺と同じように質問攻めか?いやでも乙女さんの場合元々強い事は知れ渡っていたからそれほどでもないか?

 

「対馬……」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある声がして振り向くとそこに居たのは……。

 

「近衛か……何だ?」

 

 まさか近衛から話しかけてくるなんて、珍しい事もあるもんだ。

 

「アンタに話があるの……」

 

 

 

乙女SIDE

 

 私は届いたファンレターの処理に追われていた。

自分に送ってくれた手紙だ。無碍に扱うわけにもいかないし熱心に書いてくれた者やある程度親しい者には返事はキッチリ書かなければならない(というかそうしないと私の気が済まない)。

 

「ふぅ……これで大体半分ぐらいか」

 

 ひと段落着いたところで一息吐いて廊下に出る。しかしどいつもコイツもよくもまぁ、こんなに……。

 

「ん?」

 

 別校舎の方にレオの姿を見つける。何故か近衛も一緒に歩いて屋上の方へ向かっている。

屋上……二人きり……まさか告白!?

いやいや、何を不埒なことを考えているんだ私は……。それに従弟(おとうと)に彼女が出来るなら姉として祝福してやるべきだろう。

 

(だ、だが……いや、でも……何なんだこの胸騒ぎと不安は!?私がレオを意識しているとでも…………)

 

 心の中で否定しようとするが出来ない。逆に合宿の時の事故(キス)と体育武道祭でのフォークダンスを思い出してしまって顔が熱くなる。

 

(そ、そういえば近衛は私を慕っていたみたいだし、武道祭の一件でレオの事を変に恨んでいるのかもしれない。もしそうだったら私がフォローしないといけないな。これは盗み見なんかじゃなくて従弟の心配だ)

 

 心の中でかなり苦しい言い訳をしながら私はレオ達の後を追い、屋上への入り口から彼らの様子を伺うことにした。



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レオSIDE

 

 近衛につれられて屋上に上がる。今日は椰子の奴は居ないため屋上には俺と近衛の二人きりだ。

 

「で、話って何だ?」

 

 思いつめた表情の近衛に尋ねる。

 

「空手、破門されたんでしょ?」

 

 …………そういう事か。

 

「いつ知ったんだ?」

 

「体育武道祭の時、上原って奴が言ってたのを聞いて……それで昨日中学の先生にも聞いて……」

 

「そうか……」

 

 知られちまったか……。

 

 

 俺が近衛と知り合ったのは中学の頃、昔から近衛は正義感が目茶苦茶強く、素行の悪い奴を度々注意しては揉め事を起こしていた。

そして2年前のあの日、近衛はいつものように同じクラスの素行の悪い連中に注意していたが、そいつらはかなり性質が悪く、注意されたのに逆切れして集団で近衛に手を出す様な連中だった。

当然俺はそれを助けたわけだが、その結果俺は「ハッスル君」なんて不名誉なあだ名を付けられた。

だが本当に問題なのはこの後だ。

 

俺が知らないところで馬鹿共は近衛に闇討ちをかけやがったのだ(今となってはレイプされずに済んだのがせめてもの救いだ)。

その事実を知った俺は当然そいつら全員叩きのめした。

暴力沙汰を起こした俺だったが、その時は近衛の証言のおかげで破門は免れ、警告のみですんだ。

しかし事件はこれだけでは終わらなかった。

 

中学生活最後の文化祭の出し物(劇)の準備でその事件は起きた。

近衛は中学最後の文化祭のため張り切った。そりゃもう周囲の連中の数倍は熱くなっていた。

しかしそれゆえに近衛はクラスでも浮いた存在になり、日を追うごとに周囲との摩擦は強くなる一方。

挙句の果てにはいじめにまで発展する始末。

 

その頃にはもう手遅れだった……どちらかが引かない限り絶対に解決しないという程に。

正直言って見ていられなくなった俺は、近衛を身を引くように進言したが、それが原因で俺たちは大喧嘩。

そしてその裏で以前俺が叩きのめした馬鹿共は周囲との関係が悪い事を利用して再び近衛を闇討ちしようという計画を立てていた。

その事を近衛との口論の後で偶然知った俺は…………キレた。

 

気が付けば俺はそいつら全員に襲い掛かっていた。

馬鹿共をぶちのめした時の事はあまり覚えていない。気が付けば俺は自分の拳を返り血で真っ赤に染め、足元には馬鹿共が血まみれになって転がっていた。

馬鹿共は全員全治3ヶ月以上の大怪我。その内一人でリーダー格の男は片目を失明していた。

 

もうどうする事も出来なかった。

事件の後、運良く非は相手側にあったことが証明されたが、やった事はやった事。

警告されたにも関わらず傷害沙汰を起こし、しかも一人を失明させる程に痛めつけた俺に道場にも学校にも居場所なんて無かった。

事件を起こしたその日に俺は道場から破門され、学校からは転校するように命じられた。

俺は学校にせめてもの願いをと、自分は自主的に空手をやめて転校したとクラスに伝えてもらった(俺がぶちのめした連中については事故ということにしてもらった)。

もしも俺が近衛のために傷害沙汰を起こしたと近衛が知れば彼女は絶対に自分を責める。ただでさえクラス中から疎まれていた彼女にこれ以上のダメージを受ければ本当に近衛はダメになりかねないと思ったからだ。

これ以上彼女に鞭打つような真似はしたくなかったし、周囲と言い争うよりも俺一人恨まれりゃそれで良い。

学校側もわざわざ事件が起きたと公表するのも面倒と思ったらしく承諾してくれた。

そして俺は現在に至る……。

 

 

「ごめんなさい……」

 

 しばらく間を置いて近衛は俺に謝罪してきた。

 

「何で謝るんだよ?」

 

「だって!私の所為でアンタは破門されたんでしょ!?」

 

 やっぱりそう考えちまうか……。

 

「俺が勝手にやった事だ、お前の所為じゃない」

 

「でも、私が一人で勝手に突っ走った所為で!!」

 

「そうじゃないよ、お前は間違ってない。多分、クラスの連中もな」

 

 あの時どっちが間違っているのかなんて分からない、クラスの連中はもう少し力入れてよかったと思うし、近衛だってある程度妥協すべき点はあったと思う。つまりどっちも間違ってないし正しくも無かった。

といっても、今更考えてもしょうがないけどな。

 

「悪いのはお前でもクラスの連中でもない、騒ぎに託けて下衆な真似しようとした奴等だ」

 

「だけど!…………私、アンタの事全然信じようともしなかった!!それだけじゃない、アンタの気持ちを知りもしないで勝手に逃げたと思い込んで罵り続けて……私最低よ、蟹沢達が私を嫌うのも当たり前じゃない……」

 

 まるで懺悔するかのように近衛は涙を流す。

 

「お前が負い目に感じることなんてないよ、カニ達には俺が黙ってるように言ってただけだ。俺が一人で勝手にやって勝手に背負い込んだ。ただそれだけだ」

 

「でも……でもぉ……」

 

「だから泣くな。お前の正義感が強い所、俺は嫌いじゃないんだから、これでお前が変わっちまったりしたらそっちのほうが夢見が悪くなる」

 

 落ち着かせるように俺は近衛の頭を撫でる。

 

「それにさ、せっかく和解出来た訳だし、また前みたいにダチに戻れたら良い……なんて」

 

「でも私、蟹沢たちに……」

 

「和解したってんなら問題ないって、アイツらあれで結構良い奴等だし」

 

「本当に良いの?」

 

「俺が良いって言ってんだから良いに決まってるだろ。でもまぁ、次はもうちょっと周りも見ろよ」

 

「うん……」

 

 俺の言葉にうなずいて近衛は俺の胸に抱きついてきた。

 

「お、おい!?」

 

「ゴメン、今だけ泣かせて」

 

「……好きにしろ」

 

「ありがとう………ウッ、ク……ヒック…………ウアアアアアァァァァ!!!!」

 

 塞き止めていた物が崩れ落ちるように近衛は俺の胸で盛大に泣いた。

 

『ガタッ』

 

「え?」

 

 出入り口の方から物音がしてそっちに目を向けると誰かが走り去っていく姿が見えた。

 

「乙女、さん……?」

 

 

 

乙女SIDE

 

 頭の中が真っ白になった……近衛に抱きつかれるレオの姿を見たくなくて私はその場から逃げるように走り去った。

どこに行こうとしていたのか自分でも解らない。気が付いた時には竜宮の物置部屋に入ってその場に座り込んでいた。

レオはただ近衛を慰めていただけ……そんな事は解ってる。解っている、けど…………。

 

(何でこんなに嫌な気持ちになるんだ?何でこんなに悔しいんだ?)

 

 何で……何でこんなに涙が止まらないんだ!?

 

「うぅっ……うぁ…………レオ…………」

 

 分かってる、これは嫉妬だ。

私は近衛に嫉妬しているだけ……いや、近衛にだけじゃない。女子からの人気が増えた時も、レオがファンレターを貰った時も、私は嫉妬していた。

もう自分を偽れない……従弟(おとうと)だとか家族だとか、そんなの事は言い訳でしかなかった。

 

「私は……レオが、レオの事が……」

 

 心の中で答えが出る。今までずっと心の奥底に押し込み隠し続けていた、たった一つの答え。

 

 

 私は……鉄乙女は、対馬レオに恋をしている



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俺の想い、私の想い

レオSIDE

 

 屋上で一瞬だが乙女さんの姿を見た俺は近衛と別れ、乙女さんの後を追って竜宮まで来ていた。

 

「乙女さん……」

 

 気を探って物置部屋の前に立つ。

 

「!……レオ!?な、何でココに?」

 

 俺が現れたことに驚く乙女さん。明らかに動揺している。

 

「乙女さんが屋上の入り口に居るのを見つけて……」

 

「そうか……」

 

「何で、あんな逃げる様に……」

 

 言いながら俺はドアを開けようとするが……。

 

「開けるな!!」

 

 突然乙女さんは大声を上げ、俺は思わずその手を止める。

 

「盗み見したのは謝る。だが、今は一人で居たいんだ……戻ってくれ」

 

「けど……」

 

「頼む……(こんな表情(かお)、レオにだけは見せたくない)」

 

 乙女さんの声は……泣いていた。

その悲痛な声に俺は何も言えず、その場を離れるしかなかった。

 

 

「…………クソッ!!」

 

 竜宮を離れて俺は悪態をつく。

ムカついていた……自分の情けなさに。

……乙女さんが、大事な従姉が泣いているのに俺は何も出来ないのか……。

 

”大事な従姉?それだけか?”

 

 突如として俺の中の何かがそんな事を言い出した。

 

(それだけって……どういう意味だよ)

 

”本当は抱きしめたかったんじゃねぇのか?近衛の時みたいに”

 

(それは……)

 

 俺は乙女さんの事を、どう思っているんだ?

 

 

 

NO SIDE

 

「あ、あの…対馬先輩!」

 

 レオが物思いに耽っている時、突然背後から声をかけられる。

 

「え?あ……君は?」

 

 思考の渦から引き擦り出され、レオは声がした方へ目を向ける。

声の主はやや小柄だが目は大きく、可愛らしい顔つきで髪型はボブカットの少女だ。

 

「1年の平井唯菜です」

 

 名前を聞いてレオは思い出す。

平井唯菜……彼女は1年生の中でもトップクラスの美少女として名を馳せている少女だ。

その手の話には疎いレオだったが、以前フカヒレが告白しようとして失敗したことがあるのでわずかに覚えていた。

 

「何か用?」

 

「あの……放課後、空いてますか?」

 

 頬を赤く染めながら彼女はレオに聞いた。

 

 

 

乙女SIDE

 

 放課後になって、私は速めに校門の見張りを切り上げて部活動に専念していた。

校門に居ればレオと顔をあわせてしまう可能性が高いからだ……。

情けない……レオと顔をあわせるのが、レオに自分の思いを知られる事が怖くて私は逃げているだけだ。

 

(とんだ根性無しだな、私も……)

 

 心の中でそう自嘲しながら何もかも忘れようとして身体を動かす。ちなみに今は拳法部の全員との組手だ。

 

「次の者、来い!!」

 

「く、鉄先輩……もう全員倒れています」

 

「あ……そ、そうか」

 

 いつの間にか全員倒してしまったようだ。

 

「今日はずいぶん張り切ってますね……やっぱり、対馬にリベンジするんですか?」

 

 『ズキリ』……と、レオの名前を聞いて私は心が痛むのを感じた。

 

「あ、ああ…一応、武闘家としては負けっぱなしというのは気に入らないしな……だが、今はそんなこと関係ないだろう」

 

「す、すいません」

 

 半ば強引に会話を打ち切って私は一人その場を離れ、鍛錬用の竹刀で素振りを始める。

だけど……レオの事が頭から離れることはなかった。

 

 

 やがて部活も終わり、帰路に着く。

 

「…………レオ」

 

 もうすぐ家に着く。だけど家に近付けば近付くほど、私の足は遅くなっていく。

レオに会いたいと思っている、だけど会うのが怖い……もし私の思いがレオに知られて拒絶されてしまったら……そう思うと怖くて、自然と私は家から離れていく。

 

「私らしく……ないな」

 

 普段の私なら突撃あるのみ、なんて考える(かもしれない)が……今の私は近衛の一件ですっかり臆病になってしまっている。

 

「どうすればいいんだ?」

 

 公園のベンチに座りながらつい独り言を漏らす。答えてくれる相手なんていないのに……。

 

「乙女さん」

 

「!?」

 

 突然声をかけて驚いてしまった。

そこにいたのは今最も会いたくて最も会いたくない人物だった……。

 

「レオ……」

 

「乙女さん」

 

 近付いてくるレオに私は思わず後退ってしまう。

 

「な、何の用だ?」

 

 ダメだ、来ないでくれ!今お前と顔を合わせたら自分が抑えきれなくなってしまう。

 

「話があるんだ」

 

「私に話すことなんか無い!帰ってくれ!!」

 

 レオに自分の気持ちが知られてしまうことが怖くて、私はその場を離れようとする。

 

「っ!?」

 

 しかしそれはレオに強引に腕を掴まれて遮られてしまった。

 

「大事な話なんだ」

 

 真剣な面持ちで私を見るレオに私は抵抗できなくなってしまう。

 

「俺、告白されたんだ」

 

「!!」

 

 頭の中が真っ暗になった。それと同時に絶望が心を支配し、目から涙が溢れそうになる。

 

(だ、ダメだ!泣くな!!たとえ失恋したってレオは大事な弟分なんだ、従姉として祝福しなければ……)

 

 必死に涙が流れるのを堪え、無理矢理笑顔を作る。

 

「そ、そうか……良かったな。相手は誰なんだ?」

 

 私が感情を抑えてつむいだ言葉にレオは静かに首を横に振った。

 

「断ってきたんだ。俺、他に好きな人がいるから」

 

 

 

レオSIDE

 

〜数時間前〜

 

 午後の授業が終わり、俺は平井さんとの約束通り待ち合わせ場所である屋上に来ていた。

 

「話って何?」

 

 正直今の気分じゃあんまり気が乗らないのだが約束を無碍にする訳にもいかないしなぁ……。

 

「あ、あの……」

 

 平井さんは何故か頬を赤らめながら俺を見てくる。

 

「わ、私……以前から対馬先輩の事格好良いと思ってて……」

 

 え?

 

「それでずっと前から対馬先輩に憧れてて……この前の体育武道祭でその気持ちがますます強くなって……」

 

 お、おい……これってまさか……。

 

「私、対馬先輩が好きなんです!!付き合ってください!!」

 

 思わぬ告白に絶句してしまった。生まれて初めて女の子から告白されてしまった……。

 

「俺の事、そんな風に思ってくれるのは嬉しいよ。だけど……」

 

 こんな可愛い娘に告白されるなんて、普通なら凄く嬉しく感じるはずだけど……。

 

”何で………………………………じゃないんだ”

 

「でもゴメン……俺、平井さんの想いには応えられない」

 

 俺のその答えに平井さんの表情が失意に染まっていく。

 

「どうして……ですか?」

 

 涙を堪えながら平井さんは俺に理由を聞いてくる。

 

「それは……」

 

 俺は静かにその理由を話す。彼女が勇気を出した告白を断ってしまったんだ。

そんな俺がココで逃げるような資格はない。

 

「……そうですか」

 

「……ごめん」

 

「謝らないでください。私嬉しいです、先輩が本音で喋ってくれて……」

 

 罪悪感がこみ上げてくる。俺は……

 

「早く行ってください」

 

「え?」

 

「泣き顔、見られたくないんです」

 

「ゴメン……ありがとう」

 

 俺は静かに平井さんに謝罪し、そして深く感謝し、屋上を後にした。

 

 

 そして今、俺は公園にいた乙女さんを見つけて、彼女の目の前にいる。

俺は最低かもしれない……平井さんが一生懸命勇気を出した告白なのにそれを嬉しいと感じなかった。

平井さんから告白された時、こう思ったんだ。

 

『何で目の前にいるのが乙女さんじゃないんだ』と……

 

 それで気付いた。

 

俺が……俺が本当に好きなのは……彼女にしたいのは……。

 

「俺が好きなのは…………乙女さん、なんだ」

 

 顔が熱くなって、頭の中が何も考えられなくなる。

ただ感情のままに本音をぶつける事しか出来ない。

 

「いつ好きになったとか、何がきっかけとか全然分からない。だけど……俺は乙女さんの事が好きなんだ!だ、だから、その……彼女にしたい、俺と付き合ってほしいんだ!!」

 

「れ、お……」

 

 俺の告白に乙女さんの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

 

 

乙女SIDE

 

 もう、止まらなかった。

レオからの告白に私は今まで溜めていた涙を流し、レオの胸に飛び込んでいた。

 

「乙女、さん?」

 

「レオ……私も、お前の事が、大好きだ!!」

 

 抱き疲れて困惑するレオに私は溢れんばかりの想いを口にした。

そんな私をレオは抱き締め返し、優しく頭を撫でてくれた。

 

凄く幸せな気分だ……。

 

「レオ……」

 

「乙女さん……」

 

 それからしばらくの間抱き合った後、私達の顔の距離は自然と縮まり、そして……

静かに、音も無く私達の唇は重なり合った。

 

 

 

レオSIDE

 

 それは一瞬なのか永遠なのかも解らない不思議な感覚だった。

ただ一つ解ることは、それは凄く幸せな感覚だったと言う事。

乙女さんとの口付けは、ただそれだけで満たされるような甘美な行為だった……。

 

「帰ろうか……」

 

「ああ……」

 静かに手をつないで家に帰る。

無言の帰宅……だけど言葉なんて必要無いほどに俺達の心は今繋がっていた。

 

「キス……してしまったな」

 

「うん……」

 

「これで晴れて恋人同士だな」

 

「そうだね」

 

 部屋に戻って軽く言葉を交わし、乙女さんは俺に肩を寄せてくる。

 

「レオ、私は今、凄く幸せな気持ちだ」

 

「俺もだよ」

 

 それからまた抱き合って、見詰め合って、またキスして……。

そうしている内にまた胸が高鳴っていく。

 

「乙女さん……」

 

 俺が少し強く乙女さんを引き寄せると乙女さんは一瞬緊張したように体を強張らせるも抵抗する事は無かった。

 

「レオ?」

 

「俺……乙女さんが欲しい……」

 

「私も……本当は結婚するまで取っておこうと思ったが、我慢できない……」

 

 顔を真っ赤にしながらも乙女さんは俺を受け入れてくれた。

俺は静かに乙女さんの着ている制服のボタンにその手をかけた……。

 

 

 

………………………………………………………

………………………………………………………

………………………………………………………

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオとの行為は私にとってもレオにとっても今までに経験したことの無いほどの快感だった。

さすがに膜が破れたときはかなり痛かったがそれを差し引いても最高の快感だ。

 

「シーツ、染みになってしまったな……」

 

 レオの腕を枕に私はそうつぶやいた。

 

「構わないよ。っていうか良い記念に……痛テッ」

 

「変な事言うな、恥ずかしい。ちゃんと洗っておけよ」

 

 レオの冗談を腕を抓って叱る。

 

「まったく…………レオ」

 

「ん?」

 

 レオの体に自分の体を密着させ、ありったけの思いを込めて抱き締める。

 

「もう離さないからな、レオ」

 

「俺もだよ、乙女さん」

 

 レオの逞しい体に包まれながら私は途方も無い幸せを感じた。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

フカヒレSIDE

 

 あ〜〜暇だなぁ〜〜。

カニの部屋に来てゲームで対戦したまでは良いんだがもう飽きちまったし……。

 

「つーか何で僕の部屋?レオの部屋に行けばいいじゃん」

 

「いや、何か嫌な予感がするんだ。今レオの部屋に行ったら見てはいけない光景(もの)を見て悲しみの余り町中を走り回ってしまうような気がしてな」

 

 イヤ、マジで……。

 

「は?何だよそれ?」

 

「随分ピンポイントな予感だなぁ……けど悪い予感ほど当たるって言うし、今日はカニの部屋で良いんじゃねぇか」

 

 おお!流石スバル!話が分かるぜ!!

 

「フカヒレの予感なんてアテになんねーよ!どーせレオだって暇してるだろうし行っちゃおーぜ!!」

 

 そう言ってカニは窓からレオの部屋へ飛び込もうとする。

 

「お、おい!ちょ待てよ!」

 

「フカヒレがキ○○クの真似してもなぁ……」

 

 うっせーよ!!

 

「おーい、レオーー!!どーせ暇なんだろーー一緒に騒ごう…………ぜ………」

 

「おいおい、どうしたんだカ…………ニ」

 

「………こりゃまた、何とまぁ……」

 

 俺達の目に映ったのは乙女さんとキスしているレオの姿……しかも、裸で……。

 

「「う、うぉぉぉぉおおおあああああああぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」」

 

 ショックの余り、俺とカニはその場から逃げるように走った。

 

 

 

NO SIDE

 

 走り去ったフカヒレとカニは町中を絶叫して走り回った。

カニはショックの余りバイト先のカレー専門店『オアシス』に飛び込んで店長をぶん殴って激辛カレーを平らげ、そしてフカヒレは一人海に向かって叫んでいた。

 

「何故だ!何故なんだ!!何故じゃあーーーーー!!!!何でレオと乙女さんがああなってるんだよ!?何でレオがいつの間にか彼女持ちになってんだよ!?何で俺だけ童貞のままなんだよぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 フカヒレの魂の叫びは拡声器よりも響いたらしい。

 

後にこれは松笠市の都市伝説『絶叫童貞男』として未来永劫語り継がれていくこととなる。



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人前でいちゃつかなきゃバカップルではない?答えは否!!

レオSIDE

 

 初夏の眩しい日差しで俺は目を覚ます。時計を見ると午前6時。いつもよりかなり早起きだ。

そして俺の隣には一糸纏わぬ乙女さんの姿が……。

 

「ん……レオ?」

 

「おはよう、乙女さん」

 

「お、おはよう……///」

 

 目を覚ました乙女さんは俺の顔を見て昨日の夜を思い出したらしく表情(かお)が一気に真っ赤になってしまった。

 

「結ばれたんだよな……私達」

 

「うん」

 

 昨夜は本当に凄かった。

フカヒレ達に見られるというハプニングはあったものの、あの後も結局何度も求め合って……。

 

「あんなに求めてくるなんて……ケダモノめ」

 

「乙女さんだって、結局受け入れたじゃん。イッた回数も乙女さんの方が1〜2回多かったし」

 

「うぅ〜〜……年下の癖に」

 

 妙に悔しがって拗ねた顔をする乙女さん。だがそれがまた……

 

「ゴメン、めちゃくちゃ可愛いんですけど」

 

 思わず頭を撫でてしまった。

 

「こ、コラやめろ!私の方がお姉ちゃんなんだぞ!」

 

「いや無理、可愛過ぎるもん」

 

 いや本当マジで。

 

「むぅ〜〜、お前がそうならこっちにも考えがあるぞ」

 

 そう言うといきなり乙女さんは俺の顔を両手で掴んでキスしてきた。

 

「んむぅっ!!?」

 

「ん……ちゅ…………れろ」

 

 しかも舌入りときた!?

 

「ぷはぁっ……どうだ参ったか!」

 

「参りました……お詫びに俺からも……」

 

 お返しにこっちもキスしてやった。

 

「んんっ!?…………ずるいぞお前」

 

「ずるくて結構、スッゲー幸せだから」

 

 このままずっとこうしていたいけどそういう訳にもいかない。乙女さんは風紀委員の仕事があるし俺は飯の支度をしなければいけない(今日は俺の担当)。

取り敢えずそれぞれシャワーを浴びた後、飯を済ませて着替え、乙女さんは一足先に登校する事になった。

 

「じゃあ、先に行ってる」

 

「うん、また後で」

 

 別れ際にもキスしました。

ヤベ……傍から見たら絶対バカップルに見えるよなぁ(←当たり前です)。

ま、いっか。人前でイチャつかなけりゃ問題無いし。

 

 

 そしてカニを起こしに蟹沢家へ。

 

「お姉さん(←社交辞令)、カニを起こしに来ました」

 

「あら、レオちゃん。いつも悪いわねぇ……よかったらあの出涸らし嫁に貰ってくれない?」

 

「すいません、俺もう彼女いるので」

 

「あら本当!?昨日あの娘が絶叫してたからまさかとは思ってたけど……チッ」

 

 いや、最後の舌打ちは何!?まさか本気でカニを俺の嫁にする気だったのか!?マダム恐るべし……。

 

 

 まぁ、取り敢えずマダムをスルーしてカニを起こしに来た訳だが、いつものようにカニはグースカと爆睡中。

 

「オラ起きやがれカニ雑炊」

 

「zzz……レオォ〜〜、オメー何処にイく気だよぉ〜〜?」

 

 ……コイツ、昨日の事をまだ引き摺ってんのか?

 

「いい加減起きろ、チビが!」

 

 必殺、鼻フックデストロイヤー!!とか言ってみたり……。

 

「もがががががが!?テメェ!どういう起こし方してんだよコラァ!!!!」

 

「だったらさっさと起きろや、俺は今日6時には起きたぞ」

 

「ケッ、どーせ昨日乙女さんとやりまくってそのまま寝ちまったもんだからシャワー浴びるために早起きしたんだろ」

 

(ギクゥッ!!)

 

 不機嫌な表情で鋭い事を言いやがる。

 

「大方家出る前にも乙女さんとキスでもしたんじゃねーのか?」

 

「な、何でそこまで!?」

 

「お、おいおい……適当に言ったのに当たったの?どんだけお盛んなんだテメーは?」

 

 今日のカニは鋭すぎる……。

 

 

 こんな感じにカニの部屋で一悶着起きたものの、その後は途中でスバルとも合流していつも通り登校。何故かフカヒレは来なかったが……。

そしてHR……。

 

「皆さん、おはようございます」

 

 珍しく祈先生は遅刻してこなかった。いつもこうなら良いのに……。

 

「祈センセー、フカヒレの奴まだ来てません」

 

「先ほど職員室のほうに連絡がありました。フカヒレさんは傷心中のため今日はお休みです。ちなみに昨日の夜海に向かって叫ぶ猿顔の男がいたとかいなかったとか……」

 

 フカヒレェ…………。

 

「んだよフカヒレの奴、まだ立ち直ってねぇのか?情けねぇ」

 

「そう言うなよ、アイツはレオより先に大人の階段上ってやるって息巻いてたんだ……無駄なのになぁ」

 

 俺の所為か?俺の所為なのか?

 

「え、何?フカヒレが休んだのって対馬に関係あるん?」

 

「そういや今日の対馬は何か雰囲気違うべ」

 

「首筋に赤い痣があるのも気になるネ」

 

「私のタロット占いで対馬さんを占ってみたところ何度やっても出てくるのは『恋人』のカード、しかも全て正位置」

 

「え、それってつまり……」

 

 クラス中が一つの結論に達しようとする。

ちなみに上記の台詞は上から浦賀さん、イガグリ、豆花さん、祈先生、佐藤さん。

そして最後に残った人物がその解答を答える。

 

「つまり、対馬君に彼女が出来て、そのまま大人の階段も昇っちゃったってワケ」

 

 姫…………大正解…………トホホ、もうバレちゃったよ。

 

 

 

NO SIDE

 

その後 昼休み 屋上にて

 

 レオと乙女は二人並んでベンチに座り込む。

しかしその表情は……やつれていた。

 

「あ〜、まさかこんなに早く」

 

「私達の関係が知れ渡るとはな」

 

 HRの後、レオは質問攻めに遭い、乙女は乙女で勘の良い友人から初体験を済ませた事を簡単に見破られ、結果それを知ったファンが大暴走してしまう有様。

同じような騒ぎが同時に二箇所で起きるという事態に陥り、学園内の殆どの人間が『レオと乙女は付き合っている』という事実に気付いてしまった。

 

「今日の質問攻め、昨日より凄かった……おかげで精神的にもうボロボロ」

 

「私の方も、ファンが雪崩れ込んできて、それを落ち着かせる為に余計な労力を使って……体力的にはともかく精神的に……」

 

「「はぁ〜〜」」

 

 二人そろって同時にため息を吐く。

 

「でもまぁ……結果的に公認のカップルになれたのは良かったけどな」

 

「うん、それはある」

 

 でも結局二人だけの世界に入ってしまい、いつの間にか手を握って寄り添いあうレオと乙女。

 

「今日の部活って何時に終わる」

 

「そうだな……6時ぐらいだと思う」

 

「それなら俺も生徒会の仕事それくらいで終わるから一緒に帰ろうか」

 

「ああ、良いぞ。というか仕事が無くてもそうするつもりだろ、お前は」

 

「あ、バレた?」

 

 ……………………最早何も言うまい。

 

 

ちなみにこの光景をひたすら冷めた目で見つめる者がいた。

 

 

 

なごみSIDE

 

 まったく……屋上に入ろうとしたらこの光景……。

鉄先輩…………あなただけは生徒会でも戦闘力以外は割とまともな部類だと思っていたのに…………。

 

「バカップルが…………」

 

 見てて不愉快極まりない…………仕方ない、教室で不貞寝でもするか。

 

「というかこんな形で出番貰っても嬉しくないんだよ、馬神無(ばかみな)のダメ作者が……潰すぞ」

 

『おいコラ!メタ発言すんな!!っていうか馬神無って何だよ!?せめてちゃんと馬鹿神無って言え!!併せ技は何か腹立つ!!』

 

 天の声みたいなのが聞こえてきた気がするけど知ったことじゃない。

だって馬神無だから。

あ〜もう馬鹿ばっかり…………。



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愛の試練?いや、これはむしろワンサイドゲーム

レオSIDE

 

 生徒会の雑務を終えた頃、時間は午後5時半を回っていた。

 

「レオー、今日帰りにゲーセン寄ってこうぜ!」

 

「悪ぃ、今日俺乙女さんと帰る約束があるから」

 

 カニからの誘いを丁重に断って荷物をまとめる。

 

「何だよ付き合い悪ぃな……あーもうやだやだ、コレだからカップルってのは……」

 

「落ち着けって、付き合い始めのカップルなんて大体そんなもんだろ。じゃあな、レオ」

 

 不機嫌なカニを宥めながらスバルも下校。

さて……俺はどうするかな?とりあえず拳法部の様子でも見てくるか……。

 

「あ、あのー、対馬君……」

 

 俺が部屋を出ようとしたときに佐藤さんが声をかけてきた。何か困惑しているようだ。

 

「どうしたの?」

 

「何か、こんなのが入り口に挟まってたんだけど」

 

 そう言いながら一通の封筒を取り出しす佐藤さん。

その封筒に書かれているのは……

 

 

 

乙女SIDE

 

「だぁああああーーーーーー!!!!」

 

「甘い!!」

 

「ウグッ!!」

 

 襲い掛かってくる女子部員の攻撃を軽くかわし、カウンターの一撃を打ち込む。

それにしても今日は変だな……何だか対戦相手の女子部員の大半が妙に殺気立っているような気がするんだが?

 

「鉄!次は私だ!!」

 

 他の者より一層強い殺気を出しながら次の対戦相手に日上が名乗りを上げた。

 

「さっきから気になっているんだが、何故そんなに殺気立っている?」

 

「そんな事……アンタが抜け駆けしたからに決まってんでしょうが!!」

 

 何故か怒り心頭の様子で日上は私に殴りかかってくる。

 

「抜け駆けって何の事だ?」

 

「対馬の事に決まってるだろ!!私は3ヶ月も前から狙ってたのに!!」

 

 こ、コイツ……そんなに前からレオの事を……。

 

「情けない男ばかりの中で数少ない強くて逞しいあんな良い男、そうそう見つからないのにぃ……たかが1ヶ月ちょっと同居してるだけのアンタに掻っ攫われるとか、これが怒らずにいられるか!!」

 

 ……たかが、だと?

 

「日上、お前の気持ちは解かるし申し訳ないとも思う。だけど……私がレオと共に過ごした時間を『たかが』などと言われる謂れは無い!!」

 

「ふぎゃっ!!」

 

 怒りを込めた私の拳に日上は一撃でノックアウトされた。

 

「ち、畜生……骨折が完治してない今なら一撃ぐらい入れられると思ったのに……」

 

 フン、肋骨が折れようがそう簡単に弱くなるほど私は甘くは無い。

 

「さぁ、次は誰だ?」

 

「鉄先輩!」

 

 突然佐藤が血相を変えて飛び込んできた。

 

「どうした?」

 

「実は、対馬君宛てにこんな手紙が……」

 

 

『果たし状

我々は貴様が鉄乙女と付き合うなど認めない。

屋上にて待つ。

来ないのであれば直接貴様の家に襲撃をかける』

 

 

「何だと……」

 

 男子にもいたのか……私達が付き合うことに文句を言う輩が……。

 

「レオはどうした?」

 

「お、屋上の方へ……(うわ、絶対怒ってる……)」

 

「そうか。村田!」

 

「は、はい!!」

 

「少しの間席をはずす、後は任せた……」

 

 私は感情を抑えながら静かに屋上へと向かった。

 

 

 

NO SIDE

 

 余談ではあるがこの時道場にいた誰もがこう思った。

 

(ああ、もうすぐ屋上が地獄絵図に変わる……)

 

 

 

レオSIDE

 

 屋上に上がった俺を待ち構えていたのは10人近い男達だった。

 

「来たな……悪の根源、対馬レオ!!」

 

 いきなり突っ込み所満載な言葉が飛んできた。

 

「何言ってんだお前らは?」

 

「とぼけるな!汚い姦策で鉄先輩から勝利を奪ってその上手篭めにするなど、我々『鉄乙女ファンクラブ』は絶対に貴様を許さんぞ!!」

 

 ……コイツら本物の馬鹿だ。

 

「よって我々は貴様に天誅を…ぐべぇっ!!」

 

 いい加減鬱陶しいので取り敢えず殴る。

 

「姦策とは随分くだらねぇ言い掛かりつけてくれるなぁ、そんなに三途の川渡りたいのかコノヤロウ」

 

「クッ……お、おのれ、何してる!全員掛かれ!!奴は手負いだ!全員で掛かれば絶対勝てる!!」

 

 リーダー格の男の号令と共に馬鹿共が一斉に襲い掛かってきた。

 

「死ねぇぇ!!」

 

 背後からバットで襲い掛かってくる馬鹿Aの攻撃を軽く避けて鼻っ柱に肘鉄をぶち込む。

 

「ひぎゃっ!?」

 

「はい一人目」

 

 続いて襲い掛かってきた馬鹿Bの頭を掴んで近くにいた馬鹿Cの頭に叩きつける。

 

「ひでぶっ!?」

 

「あべしっ!?」

 

 そしてラストは馬鹿Dの体を持ち上げて残りの馬鹿全員目掛けて投げ飛ばす

 

「「「「「「くぁw背drftgyふじこlp;@:!!?!?!?」」」」」」

 

 見事全員にぶち当たって馬鹿共は全滅。その光景はまさに人間ボーリングだ。

 

「そ、そんな……肋骨が折れてるはずじゃ……」

 

 運良く意識を失わずにいたリーダー格の男が怯えながら声を上げる。

 

「ああ、今でも折れてるぞ。その程度で雑魚にやられるほどやわな鍛え方してないってだけの話だよ」

 

「ち、畜生……卑怯者の分際で」

 

 まだ言うか……ん?

 

「ほぅ、では私はその卑怯な手口に後れをとったという事か」

 

「く、鉄せんぱ…ぶぐえぇっ!!」

 

 馬鹿の顔面に乙女さんの制裁蹴りが叩き込まれた。

 

「私を慕ってくれるのはありがたいが……私の人生で最高の闘いを侮辱し、その上怪我人を大人数で襲うなど愚の骨頂。……覚悟は出来てるだろうな?」

 

「ヒィィィッッ!!お、お助けぇぇぇぇっぇぇっぇぇぇっぇ!!!!」

 

「聞く耳持たん!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 この日、鉄乙女ファンクラブは乙女さん自身の手によって壊滅した。



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花嫁修業と初デート

乙女SIDE

 

 私、鉄乙女にはある重大な悩みがある。

え、それは何かって?

 

 

容姿……違う。これでも平均以上はあると密かに自負している。

金銭……それも違う。実家からの仕送りは節約できているし偶にバイトもしているのでコレといった不自由は無い。

彼氏(レオ)との関係……それは絶対ありえない!!今でもレオとは毎日最低3回は(実際はもっと)キスしている!!

夜の営み……それも絶っっっっっっっっ対ありえない!!!!レオには抱かれるたびに毎回イかされて…………って何を言わせる!!

機械音痴……い、一応それも悩みではあるが、今は関係ない。

 

ではいったい何か?それは……

 

 

 本に書いてあった通りの時間になったので私は恐る恐る鍋の蓋を取る。

 

「うぐっ!?こ、この臭いは……」

 

 出てきた物は最早原料の名残も無い真っ黒な物体。

 

「く、くそぉ……」

 

 肉じゃが作り、今日もまた失敗……これで通算44回連続失敗だ(肉じゃが以外の料理を含めると3桁は軽く超える)。

 

 

 私の悩み…………それは料理が全くダメという事だ。

 

 

 11日後の7月17日にはレオとの初デートが控えている。

友人から聞いた話ではこういう時の必需品は手作り弁当だと聞いて張り切って練習してはいるがこのザマでは……。

こうなったら、多少プライドを捨ててでも……。

 

 

「……と、言う訳だ。頼む椰子!私に料理を教えてくれ!!」

 

 年下に教えを請うのは気が引けるが、最早そんな悠長なことは言ってられない。

 

「はぁ……事情は大体分かりましたが、何故私なんですか?」

 

「この前の合宿で自炊した時お前の作った食事は凄く美味かったからな。それに伊達ではレオに知られてしまう可能性がある。当日まで秘密にしておきたいからな」

 

「まぁ、そこまで真剣に言うなら構いませんけど、教えるからには半端な真似はしないし徹底的にやりますよ。それでも良いなら」

 

「ああ!全然構わない!!むしろそうしてくれ!!」

 

 必ずこの欠点を克服するんだ!!そしてレオに美味い弁当を作ってみせる!!

 

 

 

レオSIDE

 

 付き合い始めて2週間近く間が空いて初デートは遅くね?なんて思われるかもしれないが俺達は学生である。

この時期はテスト勉強で忙しいし、乙女さんは拳法部主将の仕事がある。

俺は俺で鳶職のバイトと闘技場でのファイトマネーで初デートと夏休みの軍資金作りに奔走している(だが家では乙女さんとはキッチリいちゃついてる)。

……それにしても鳶職のおっさん達が俺のこと尊敬するような眼差しで見てくるんだが

、一体何がどうなってんだ?

 

「なぁ対馬の兄ちゃんよ、お前さんこのままウチの会社に就職しねぇか?兄ちゃん程この職向いてる奴いねぇよ」

 

 おいおい、勧誘かよ……俺はただ金鎚(かなづち)無し(というか必要無い)であちこち跳び回って釘を打ってただけなのに。

勿論丁重に断ったよ。だって俺まだ学生だし。

 

 

 

乙女SIDE

 

 さて、ここからは私の花嫁修業の風景になるわけだが……。

 

「皮剥きと米握る事しか出来ないんですか、あなたは?」

 

「す、すまん……」

 

 学校が終わった後椰子の家で猛特訓……なのだが椰子は私の余りの低レベルさに呆れ果てている。

 

「ハッキリ言いますよ。今のあなたの作る料理は生ごみを通り越して有害物質です」

 

「うぐぅっ……そんなハッキリと」

 

「事実です。異論は認めません」

 

 そんなに酷いのか?ためしに私は先ほど自分で作った料理を少し口に含んでみる。

 

「ふぐぅっ!!?ゲホッ、ゲホッ!!」

 

 な、何だコレは!?不味い!不味過ぎる!!

 

「お解かりいただけましたか?」

 

「……しっかりと」

 

 確かにコレは毒だ……。

私はこんなものしか作れないのかと思うと泣きそうになってくる。

 

「とにかく、私が教えるからにはキッチリ美味しいと思える料理(もの)になるまで一切手は抜かないし、それが出来るまであんたにも敬語は使わない。それで良いな?」

 

「た、頼む……こんなんじゃ嫁に行けない」

 

「本格的な指導は明日からやる、今日はもう帰れ」

 

 こうして私の椰子によるスパルタ料理地獄は始まった。

ココから先はダイジェストだ。神無の奴がそこまで細かく書ける自信が無いのでな。

 

 

7月7日

 

「まな板ごと包丁を切るな!!この馬鹿力が!!」

 

「うぅ……すまない」

 

「キッチリ弁償してもらうから」

 

 

7月8日

 

「だから力任せになるなって言ってんだろ!!料理を戦場と勘違いしているのか!?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

7月9日

 

「今何を入れた?」

 

「いや、隠し味を……」

 

「素人がそんなものを入れるな!!」

 

 

7月10日

 

「何で皮ごとなべに入れてる?」

 

「いや、火にかければ問題無いだろ」

 

「問題大有りだ!!」

 

 尻を思いっきり蹴られた……少し痛い。

 

 

7月11日

 

「塩入れすぎだ」

 

「いや、この時期は塩分を消費するから多めに……」

 

「どこの世界に瓶一本分全部入れる奴が居る!!」

 

 

7月12日

 

「何とか生ごみ程度にはマシになってきたけど、まだまだ」

 

「ぐぅ……あれだけ努力して生ごみレベル……」

 

 流石に物凄く凹むぞ。

実家に居た頃弟に厳しく接して反発されたが……今更になって弟の気持ちが解ってしまった。

琢磨、すまない……。

 

「教育は鞭だけじゃダメということか」

 

「何今更そんな事理解してるんだか。それに私がやってることは教育じゃなくて指導と矯正だから。やめたかったらいつでもどうぞ。所詮鉄先輩の料理に欠ける情熱なんてその程度って事ですから」

 

 ぐっ……こ、コイツ…………絶対やめるものか!!

 

 

7月13日

 

「もっと細かく気を配れ!アンタは大雑把過ぎるんだ」

 

「わ、分かった!」

 

 

7月14日

 

「ようやく見かけだけはまともになってきたけど、味付けがまだ疎か。今日と明日で仕上げるぞ」

 

「ああ!!」

 

 

7月15日

 

「あともう少し。不味くは無いけど美味しいという程でもない」

 

「よ、よし!!」

 

 

そして7月16日

 

 遂に特訓最終日を迎えた。

私は意を決して完成した料理を椰子に差し出す。

椰子は無言のままそれに箸で掴み、口に運んだ。

 

「ど、どうだ?」

 

「……自分で食べてみてください」

 

 そう言って椰子は私の方に箸を差し出す。

 

(ま、まさか不味いのか?)

 

 不安に駆られながらも私は恐る恐るその料理を口に含む。

 

「!?…………………………………………美味い」

 

 普通に美味しい。椰子や伊達には到底敵わないが十分食卓に出せるレベルだ。

 

「ここまで出来るようになればもう十分ですね。まぁ、おめでとうございます」

 

「あ、ありがとう………うぅっ」

 

 思わず泣いてしまった。

あれだけ料理がダメでトーストすら作れなかった私が……こんなまともな料理を……。

 

「な、何も泣く事はないと思いますけど、まぁ……せいぜいデート頑張ってください」

 

「ああ、ありがとう椰子」

 

 これで弁当対策は万全。かならず美味い弁当を作ってみせる!!

そ、そして……で、出来ることなら、『アレ』を……。

 

 

 

レオSIDE

 

 いよいよデート当日。この日は天気も快晴で文字通り絶好のデート日和だ。

しかし……やばい、柄にもなく緊張してしまう。

 

「お、おまたせ、レオ」

 

 私服に着替えて準備が出来た乙女さんが姿を現す。

ん?何か良い匂いが……。

 

「香水つけてるの?」

「あ、ああ。変か?」

 

「いや、全然。むしろ良い匂い」

 

 乙女さんなりに精一杯おめかししたんだろうなぁ……。そう考えると結構嬉しかったりする。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「ああ」

 

 少しぎこちないけど手を繋ぎながら俺達はデートに出発した。

 

(あれ?何か今日の乙女さんの手、切り傷とかが多いような?)

 

 

 最初に向かったのはデートの定番であるゲーセンだ。

機械音痴な乙女さんだが流石にクレーンゲームやクイズゲームぐらいは出来るのでまったく問題なく楽しめる。

 

「なるほど……この技は意外と実戦でも使えるな」

 

 意外と乙女さんは格ゲーにも興味深々だった(プレイしたのは俺だけど)。

他に特筆すべき事といえば……。

 

 

『カキィィーーン!!』

 

 

「レオ見てみろ、またホームランだぞ!」

 

 乙女さんがバッティングマシーン(店内最高速の剛速球)で全球ホームランという記録をたたき出した事ぐらいかな?

ちなみにホームランを決めてはしゃぐ乙女さんは滅茶苦茶可愛かった。

すまん空也、錬……今までお前らの事を密かにシスコンって馬鹿にしてたけど、もう俺にそんなこと言う資格は無い。姉属性は最高だ!!

 

 

 そして昼食の時間となり、ベンチに座って昼飯を食うことになったのだが……。

 

「れ、レオ!こ、これ……」

 

 何と乙女さんが弁当を出してきた!?

 

「お前のために早起きして作っておいたんだ」

 

 そう言って蓋を開けるとそこにあったのは……。

 

(ふ、普通に完成した弁当、だと?)

 

 嘘だろ……消し炭料理しか作れなかった乙女さんが……。

 

「椰子に教わって、やっとまともに作れるようになったんだ。だ、だから、その……食べてみてくれ!」

 

 ……そうか、だから手に傷跡が。

それに年功序列とかに拘ってるのにプライドを捨ててまで俺のために……。

 

(ここまでされて食わないとか、ありえねぇだろ)

 

 たとえどんな味でも俺のために努力してつくってくれたものを無碍にするなんて出来っこないからな。

 

「(パクッ)…………あれ?美味い……マジで美味い!!」

 

「ほ、本当か?」

 

「うん、全然イケるよ!!」

 

 これが今の今までおにぎりしかまともに造れなかった人の料理とは思えない程美味い!

 

 

 

乙女SIDE

 

 よ、よかった。プライド捨てて椰子に教えてもらった甲斐があった!よ、よし……今こそ『アレ』を……。

 

「ほ、ほらレオ……口を開けろ」

 

「へ?」

 

 私の言葉にレオは間の抜けた表情を見せる。

クッ……この鈍感め。

 

「お、お前な!こういう時にやるべき事は一つしかないだろ!!」

 

「え、えぇ!?」

 

 ようやく察したらしくレオは一気に赤面してしまった。

 

 

 

レオSIDE

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

乙女さんが弁当を作ってきてそれが予想外にも美味くて、その上カップルの定番である『あーん』をしてくれるだと!!

幻覚とか催眠術とかの類じゃない、全くの真実であり現実!!

 

「ほ、ほら!は、早く『あーん』ってしろ!!」

 

「ちょ、え?ま、マジで!?っていうかココ人前」

 

「そ、それは……私だって恥ずかしいが……で、でもお前が相手なら、これくらい……」

 

 ちょ…その恥じらいながらの上目遣いは反則だろ!!ただでさえ嬉しいのが余計嬉しくなって恥ずかしいという感情が消し飛んでしまうだろ!!

も、もう無理……外聞なんてもうどーでもいい。

 

「じゃ、じゃあ……あーん……(パクッ)。目茶苦茶美味いよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 そしてこの嬉しそうな顔。

も、もうやめてくれ!俺の精神的ライフはもう0だぞ!!

 

「じゃあ……今度は私に、してくれるか?」

 

 グハァァッ!!!!お、俺……幸せすぎておかしくなりそうだ。

このランチタイム……俺は無事でいられるのか?

嗚呼、こんな光景フカヒレにでも見られたら俺一生恨まれるなぁ(恨まれたところで大した問題はないけど)。

 

 

 

 まぁ、その後は買い物とかで色々と楽しんで、デートの最後の締めくくりはこれまた定番の観覧車(もちろん隣り合わせで座ってる)。

 

「普段暮らしてる町でもこうやって見るとなかなか絶景だな」

 

「うん」

 

 今は夕暮れだから夜景とはまた違った風情があってこれがまた良い。

……渡すなら、やっぱ今だよな?

 

「乙女さん、コレ」

 

 俺はこっそり買っておいたある物を乙女さんに手渡す。

 

「え?これ……ネックレス?」

 

 それはシロツメクサ(花言葉は約束)を象った装飾品が付けられたネックレスだ。

 

「初デートの記念って事で、俺からのプレゼント」

 

「い、良いのか?」

 

「うん。最初は思い切って指輪にしようかなって思ったんだけど、俺はまだ学生だし、だから責任取れる歳になった時に改めて指輪を渡す印って事で」

 

「レオ……」

 

 俺の言葉に乙女さんは頬を赤く染めながら俺に寄り添い、手を握ってくる。

 

「私だってまだまだ未熟だ。こんな私だけど、これからもずっと一緒に居てくれるか?」

 

「勿論」

 

「ありがとう。……これからもよろしくな、レオ……」

 

 寄り添ってくる乙女さんとキスを交わし、手を握り合う。

そのまま観覧車が下に着くまで俺達は寄り添い続けていた。

 

 

 

 

おまけ

 

フカヒレSIDE

 

 やぁ、皆の心の友達、シャークこと鮫氷新一だ。

おいコラ、誰だフカヒレなんて呼んだ奴は!?あ、ゴメンナサイ、石投げないで。

 

 気を取り直してTake2、俺が今何してるかって?それは合コンの相手をイガグリと一緒に待っているんだ。

フフフ、スバルを餌に呼び出して(勿論スバル本人は呼んでない。呼んだら俺の存在が霞むから)数合わせでつれてきたイガグリを引き立て役にして女を落とす!!

まさに完璧な作戦(プラン)!!

しかし……

 

「えー、伊達君来ないの?じゃあ、や〜めた」

 

「私も〜」

 

「他の二人全然ダメダメだし」

 

 ち、畜生……なんでだよぉ〜〜〜〜!?

 

「泣くな、フカヒレ。ゲーセンでも行って憂さ晴らすべ」

 

 しかもイガグリに慰められて余計惨めだ。

畜生!こうなったら格ゲーで乱入して無限コンボで憂さ晴らしだ!!

 

 そして早速ゲーセンで憂さ晴らし開始!

小学生のガキが一人プレイで好い気になってる所に乱入してそのまま無限コンボだ!!

ガキは外で遊んでろバーカ!!

 

「おい、見ろよあいつ。ガキ相手にみっともねぇなぁ」

 

「本当だ、サイテー」

 

 へっ、何とでも言え。今日の俺はもうこれ以上落ちることも無い程にどん底なんだよ!

 

「ほ、ほら!は、早く……ってしろ!!」

 

「ちょ、え?ま、マジで!?っていうかココ人前」

 

 ん、何だ?聞き覚えがある声が……ってレオと乙女さんじゃねぇか!?

 

「じゃ、じゃあ……あーん……(パクッ)。目茶苦茶美味いよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 あ、アハ…アハハハハハハ!!!

俺は…………俺はこの期に及んでまだどん底に落ちてなきゃいけないのかぁーーーーーーーーーー!!!!??!?

 

「フカヒレェ……何でだろうな?オラ、何故か涙が止まらねぇべ!」

 

「俺もだ………」

 

「「ウォォオオオオオオオオオン!!!!」」

 

 俺達はお互いに肩を抱き合い思いっきり泣いたのだった。




今夜12時頃に18禁版を投稿する予定ですのでそちらも是非見に来てください。


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強敵出現!?終了式の大乱闘!!

2学期からあのキャラが……


???SIDE

 

 この日をずっと待っていた。

これから乗り込む場所で手に入れるべきものは二つ。

母様の形見、地獄蝶々をこの手に掴み、私が地獄蝶々の所持者となる。

そしてもう一つ……私だけでなく、父様をも認めさせる才を持った強き男。

数ヶ月前の闘いから奴の顔が頭にこびり付いて離れない……その男とまた会える。

今でも思い出せるあの闘争心に満ちた力強い瞳。貪欲なまでに強さを求めるその精神。

そして強さの中に秘めた優しさ…………ハッ!?いかんいかん、私としたことがトリップしてしまった。

 

「フフ……待っていろ、地獄蝶々…そして対馬レオ!!」

 

 

 私は必ず手に入れてみせるぞ!!

乗り込む場所……その名は竜命館!!

 

 

 

レオSIDE

 

 本日は終了式。漸く1学期も終わりを告げて明日からは夏休みに入る。

つまり乙女さんと思いっきりイチャイチャ出来るって事だ!!

そう思うと教師達の長い言葉も祝福のファンファーレに聞こえてくるから不思議だ。

 

「チッ、浮かれやがって……」

 

「頭にくるぜ……友達に彼女ができるってのはよ」

 

 カニとフカヒレは僻み全開だが、この際それは無視しても大丈夫だろう。

 

「お前らも夏休みなんだからもう少し嬉しそうにしたらどうだ?」

 

 

「その嬉しさを半減させてる本人が何を言うか!!」

 

「落ち着けよ、浦賀さん見てみろ」

 

 スバルに促されて浦賀さんを見てみると…………

 

「ウチはもう終わりやぁ〜〜」

 

 絶望の淵に立たされていた。

 

「何があったんだ?」

 

「あぁ、真名の奴テストで赤点取ったんだよ。しかも英語でさ」

 

 ゲゲッ!よりによって祈先生の科目で……。

 

「かろうじて島流しは免れたけど、夏休みの半分近くが補習地獄になるんだって。アイツアホだぜ、祈ちゃんの科目で赤点なんか出しやがって」

 

「スバルみたいに部活補正があればまだ何とかなったのになぁ……」

 

 

 なんというか……ご愁傷様です、浦賀さん。

さ〜て、もうそろそろ学校も終わるし、今日は生徒会の仕事も少ないし、どうしようか…………ッ!?

 

(これは……デカイ気が……近付いている?)

 

 肉眼では見えない程の距離でも分かる程の気が二人分。

しかもその片方は館長とほぼ同等だと!?

 

(それにこの気……前にどこかで)

 

 

『ズガァァァァン!!!!』

 

 

 俺がそう思っていると馬鹿でかい轟音と共に校庭にドデカイ軍艦が出現した。

 

 

 

乙女SIDE

 

 人ごみを掻き分け、私は騒動の発端の下へ足を進めていた。何なんだ?大きな気を感じたと思ったら突然軍艦が現れるとは……。

それにあの艦……正確にはその中から感じる大きな気の持ち主二人、その片方に対して何故か言いようのない不快感を感じる。

まぁいい、今はあの軍艦を調べるのが先決だ。

 

「お、おい!誰か出てきたぞ!!」

 

 軍艦の中から人影が現れる。透き通るような長い銀髪にやや釣り目だが整った顔つき、そして何より背中に背負った日本刀が一際目立つ女だ。

 

「地獄蝶々……まさか来て早々見つかるとは、私の運も捨てたものではないな」

 

 女は私の持つ日本刀『地獄蝶々』を一瞥して不適に笑った。

 

「貴様、何者だ?」

 

「私は橘(たちばな)瀬麗武(せれぶ)、その地獄蝶々(かたな)を、貰い受けに来た」

 

 刀を引き抜き、私を見据えながら構える侵入者、橘瀬麗武。

 

「断る、と言ったら?」

 

「力ずくでも手に入れるまでだ」

 

 なるほど、分かりやすくて良い。

それにコイツから感じる不快感の正体を知る良いきっかけにもなる。

 

「出来るものなら……やってみろ!!」

 

 地獄蝶々を抜くと同時に橘に接近、同時に橘も踏み込んだ。

 

「万物、悉く切り刻め!地獄蝶々!!」

 

「天上より赤く染め上げろ!曼珠沙華(まんじゅしゃげ)!!」

 

 互いの一喝と共にすさまじい金属音が鳴り響き、私たち二人の持つ刀の刃はぶつかり合った……。

 

 

 

レオSIDE

 

 俺が校庭に駆けつけた時、既に乙女さんは侵入者と闘っていた。

 

(やっぱり……彼女だったのか!)

 

 突如校庭に現れた軍艦と少女には見覚えがあった。

まさか学校に乗り込んでくるとは……。

 

(とにかく一旦止めるか)

 

 無粋と思いながらも、俺は二人の闘いを止めるべく、闘ってる二人の間に気弾を飛ばし、そのまま二人の間に割って入る。

 

「「!?」」

 

「乙女さん、橘さん、二人ともこの勝負少し待ってくれ」

 

「対馬か……久しぶりだな」

 

「レオ、この女と知り合いなのか?」

 

「うん、春休みの時にちょっとね……」

 

 

 遡る事4ヶ月前、俺は春休みを利用して筏(イカダ)を使って武者修行の旅に出ていた。

当初の予定では適当な無人島(烏賊島)にテントでも張って野生の猛獣を相手に修行しようと思っていたのだが、この軍艦に遭遇し、ある条件と引き換えに居候させてもらっていた。

その条件とは艦の主の娘である橘さん、そして戦闘員達の訓練に付き合うスパーリングパートナーになれというものだった。

俺にとっても良い修行になる条件だったので俺は快諾し、それから暫くの間俺は春休みをこの軍艦で過ごした。

 

 

「とりあえず、ココに来た目的を説明してもらえますか?橘司令!!」

 

「フハハハハハハハハ!!!!」

 

 豪快な笑い声と共に軍艦の天井を突き破って飛び出してくる漢が一人。

この軍艦の主にして松笠海軍司令官、通称『松笠の古狼』。そして橘瀬麗武の父親でもある男…………その名は橘幾蔵。

竜命館館長、橘平蔵の実の兄だ。

 

「久しぶりだな、対馬レ……」

 

 

『ズルッ』

 

 

「オォォッッ!!!?」

 

 着地に失敗して幾蔵司令は盛大にこけた。

 

「こけた……」

 

「うん、こけたね……」

 

 俺と乙女さんを含めた周囲は呆然とし、橘さんは頭を抑えている。

 

「こけてなぁーーい!!断じてこけてない!!」

 

 そしてこの台詞だ。余計滑稽に見えるだろ、そのリアクションじゃ……。

 

「相変わらずだな、兄者」

 

 お、館長登場。

 

「フン、貴様もな、愚弟よ」

 

「いずれ来るとは思っていたが、少々早すぎではないか?」

 

「儂(わし)とてそうは思ったが、少々予定が繰り上がってな」

 

 何か勝手に話が進んでるし……。

 

「館長……話が見えないのですが、橘さん達は何をしにココへ?」

 

「それは私が言おう」

 

 ココに来て橘さんが口を開く。かなり真剣な様子だ。

 

「私がココに来た目的は二つある。一つは既にその女に……」

 

「その女とは何だ。私には鉄乙女という名がある」

 

 何か乙女さんの態度が妙に刺々しい……。

 

「……鉄には言ったが地獄蝶々を手に入れる事、そしてもう一つは……」

 

 突然橘さんは俺を凝視してきた。え?何だ?

 

「対馬。お前を私のものにする事だ!!」

 

 はいぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?!?!?

 

「ななな、何を言って……」

 

「何をって言葉通りだ。お前ほどの男が我が隊に加われば即戦力になる。それに……お前とならば子孫を残しても私は構わないと思ってるし、だから……その、私の婿に……」

 

「と、言うことだ。対馬よ、我が隊に入るがいい。少尉の席を既に用意してあるぞ」

 

「痛デデデデデ!!!!」 

 

 な、何か幾蔵司令が泣き笑いの複雑そうな表情で俺の肩を物凄い力で掴んでくるんですけど!?

 

「ちょ、ちょっと待て!!俺には彼女が居るんだぞ!!!!」

 

「な、何……だと」

 

「ソーバーーッド!!おい小僧。貴様瀬麗武という者がありながら他の女に現を抜かしていたのか!?」

 

 突如宙に浮かぶ亀らしき生物が現れる。

この亀公は権田瓦さん。橘さんの非常食(ペット)だ

 

「誰だ!?その腐れ女は誰だ!?某(それがし)が成敗してくれる!!」

 

 このクソ亀……ぶっ殺したろか?

…………と、思っていたが俺が手を下す前に俺の隣に居た人物が権田瓦の体を掴んだ。

 

「私だが、それがどうした爬虫類」

 

 底冷えするようなドス黒いオーラを纏い、乙女さんクソ亀を睨み付ける。

ヤベェよ、これ絶対キレてるって……。

 

「ひ、ひぃぃぃ……お、お助け……」

 

「フンッ!!」

 

 亀公の命乞いも空しく、乙女さんは円盤投げの要領で権田瓦さんを投げ飛ばした。

 

「ソーーーーーーーーーバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッド!!!!」

 

 権田瓦さんは星になった。

 

 

 

乙女SIDE

 

 私は今……キレていた。

陳腐な言い方だがそれ以外に言葉を思いつかない。

だが……これ程までに他人に怒りを感じたのは生まれて初めてだ。

 

「貴様……地獄蝶々だけでは飽き足らず対馬までも私から奪うか……どうやら命はいらんようだな!!!!」

 

「こっちの台詞だ。私のレオに手を出すなど……そんなに死にたいというなら望み通りにしてやる!!!!」

 

 再び刀を抜いて構える。館長の姪といえど絶対許さん!!

 

 

 

NO SIDE

 

 戦場と化した校庭。一方その光景を見守る一般生徒達は……。

 

「ヤベェよ!乙女さんマジ怖すぎだろ!!おいココナッツ、お前盾になってボクを守れ!!」

 

「ふざけるな、そんなこという暇があったらさっさとここから離れろ甲殻類」

 

「おい、フカヒレ!お前もさっさと逃げろ!!巻き添えになったら本当に死にかねないぞ!!」

 

「うわぁぁ〜〜〜〜ん!!やめてよお姉ちゃん!!靴の裏についてたガムなんて噛みたくないよぅ!!」

 

「いかん、トラウマ発動してやがる」

 

 全員乙女の怒りに恐怖し、必死に彼女達と距離を開けようとしていた。

 

 

 

 そして平蔵と幾蔵の兄弟は……。

 

「兄者……複雑なのは解るが怒るのか安心するのかハッキリせい」

 

「ぬぅぅ……瀬麗武を振るなどと……だが嫁に行かずに済むと思うと…………」

 

 父親はかなり複雑であった。

 

「いい加減にしやがれコノヤロウ!!人の意見無視しやがって!!俺は乙女さん一筋なんだよ!!誰が軍人になんてなるか!!」

 

 流石にレオも我慢の限界を感じたらしく怒鳴り声を上げる。

 

「聞いたか橘、レオは私以外と付き合う気は無いんだ。命が惜しいならさっさと諦めて詫びを入れろ!そうすれば制裁蹴りの2、3発で許してやるぞ」

 

「ふん、それが何だ。力づくで奪って振り向かせればいいだけの話だ!!」

 

 乙女と瀬麗武の間では凄まじいバトルが展開していた。

 

 

 

乙女SIDE

 

(チィッ……肋骨がまだ完治してない状態では少し厳しいか……)

 

 橘の攻撃を受け流し、反撃に転じるがいまいち威力に欠ける攻撃しか出せない。

先の体育武道祭でのレオとの闘いで折れた肋骨はまだ完全には治ってなかった。

せめてあと2〜3日時間があれば……。

 

「どうした?その程度か!!」

 

 橘の刀が振り下ろされる。クソッ、癪に障るがコイツは手負いでどうにかなる相手ではない!

「《修羅旋風拳!!》」

 

 そこに突然レオが割って入ってきた。

 

「悪いけど加勢させてもらうよ、乙女さん。こっちは肋骨折れてんだ、2対1でも卑怯とは思わないでくれよ」

 

 無粋なまねをしてくれる。だが今回ばかりは文句は言えんか。

 

「ならば対馬よ、貴様はこいつらでも相手にしておけ」

 

 館長の兄上がパチンと指を鳴らすと50人程の男達が軍艦から飛び出してきた。

 

「対馬レオ!貴様はこの橘幾蔵揮下の戦闘部隊が相手だ!!」

 

 クソッ!この状況で……。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 !?

 

 

 

NO SIDE

 

「誰だ!?」

 

 突然乱入してきた声に部隊の一人が声を上げる。

 

「問われて名乗るもおこがましいが、ガキの頃から姉に囲まれ、惚れた女もこれまた姉よ。姉の魅力を語らせりゃ、数日程度じゃ終わらぬ漢。柊空也とは俺の事だ!!」

 

「さてその次に控えしは、阿呆な親父を蹴り倒し、姉と二人で一蓮托生。結婚控えた今もなお、忘れちゃいねぇぜ姉への敬い。上杉錬とは俺の事だ!!」

 

「さてどんじりに控えしは、幼き日より姉御に憧れ、姉御目指して一直線。爪と薬はちょいと染みるぜ。直江大和とは俺の事!!」

 

「「「我等、姉魂(シスコン)三人衆、姉属性を愛する者として、同志対馬レオを助太刀に参った!!」」」

 その漢達は柊空也、上杉錬、直江大和!!

何故か白波五人男風に登場!!

 

 

 

レオSIDE

 

 まさか空也たちが助太刀に来るなんて……。

 

「お前等、どうしてココに……」

 

「馬鹿でかい気を感じて気になってきてみれば、泥沼みたいな展開になってたんでな。同じ姉属性に惚れた者としては、お前の味方をするべきだと思ったんだよ」

 

 空也……すまねぇ。

 

「ってな訳だ。俺達4人対雑魚50人。文句は無いだろ?」

 

「良いだろう、だが一つ訂正だ」

 

 リーダー格の男が合図すると軍艦から更に多数の男達が現れた。

 

「こっちは200人だ!!我々を雑魚呼ばわりしてただで済むと思うなよ!!」

 

 せこい真似しやがって……。だが……。

 

「何人でもまとめて面倒見てやるよ、かかって来な!!」

 

 俺からの挑発に敵部隊は一斉に襲い掛かってくる。

4対200の乱戦の火蓋は切って落とされた!!

 

 

 

NO SIDE

 

「一人頭50人って所か。ま、こいつら程度なら問題ないな」

 

 姉魂三人衆最年少である大和は面倒くさそうにそう呟く。

 

「ほざけガキが!!」

 

 血気盛んな戦闘員の男、夏葉次郎(通称ナッパ)が大和に殴りかかる。

しかしその拳は大和に当たることなく空を切り、夏葉の視界から大和は消えていた。

 

「ッ……ど、何処に?」

 

「遅いぞ、ナッパ」

 

「な、なぁっ!?」

 

 大和は男の頭上に立っていた。夏葉がそれに気付いた直後大和は夏葉の人中(鼻と上唇の間にある急所)に蹴りを叩き込んでいた。

 

「グギャアアッ!!?」

 

 なすすべなく夏葉は吹っ飛ばされ、そのまま気を失う。

気を失う直前、夏葉はこう思った『何で俺のあだ名知ってるんだ?』と……。

 

「やっぱこの程度か。さ〜て、次は誰が気絶したい?」

 

「ふ、ふざけやがって!全員掛かれぇーー!!!」

 

 恐怖を振り払うように戦闘員達は大人数で大和に襲い掛かる。

しかし、大和の余裕は崩れない!

 

「フン……《空転爪(くうてんそう)!!》」

 

 向かってくる多数の敵に大和は突撃すると同時に錐揉み回転しながら両腕に装着された鉄の爪で敵を切り裂き、吹き飛ばした。

 

「ギャアアアアアアア!!!!」

 

「な、何やってるんだ!早く捕まえろ!!そんなガキ捕まえちまえばどうって事ないだろ!!」

 

「む、無理だ……早すぎて捕らえきれない!!」

 

「そ、そんな……グギャアアアア!!!!」

 

 戦闘員達の抵抗空しく大和に襲い掛かった戦闘員達は一人残らず大和の鉄爪の前に倒れていった。

 

「ケケケケ……切り裂き甲斐のねぇ連中だなぁ」

 

 倒れていく敵たちを見据えながら大和は爪に付着した返り血を舐め取り、ながら不適に笑った。

 

 

 

「ったく、俺は一対一(サシ)の闘いが専門だってのに」

 

 などとぼやいてはいるが錬の周囲には既に30人近くの戦闘員が倒れていた。

 

「ち、畜生!このヤロォォォーーーーー!!!!」

 

 何とか生き残っている戦闘員の一人、岩山力男が錬にナイフで襲い掛かるが簡単に避けられ逆にナイフをはじき落とされてしまう。

 

「この際だ、これで決めてやる!《飛燕斬(ひえんざん)!!》」

 

「ゴブォッ!!!」

 

 錬のサマーソルトキックが岩山の顎に叩き込まれ、岩山の体は中を舞う。

そして落下する岩山に錬は渾身の蹴りを放つ。

 

「吹っ飛びやがれぇ!!!!」

 

 凄まじい爆音と共にサッカーボールのように蹴り飛ばされた岩山の体は他の多数の戦闘員を巻き込みながら校庭内に置いてあるサッカー用のゴールネットに投げ込まれたのだった。

 

 

 

「く、クソ……化け物め!」

 

 地面に這い蹲りながら戦闘員の一人、佐野山誠一は空也を睨み付ける。

 

「化け物とは失敬だなぁ、お前らが弱すぎるだけだ。体ちゃんと鍛えてんのかお前等?」

 

「き、貴様ぁ!!軍で俺達が受けた訓練を否定する気か!!」

 

 怒りに身を任せながら佐野山はぼろぼろな体に鞭打って立ち上がり、空也に襲い掛

かる。

 

「分かってないな、本当の強さってもんは入ったことを後悔するほどの地獄に飛び込み、それを乗り越える執念の持った者のみが手に入れられるんだ!」

 

 空也は佐野山の攻撃をいとも簡単に受け止める。

 

「俺と錬は生き抜くため、レオと大和は目標を超えるため……己の体を鍛え抜いたんだ!!お前等みたいに教科書通りの訓練しかしてない生温い軍人とはワケが違うんだよ!!!」

 

 佐野山の怒りをかき消すほどの気迫を醸し出しながら空也のパンチが佐野山の鳩尾に叩き込まれる。

 

「ゴフゥゥッ!!」

 

 凄まじい威力の一撃に膝を付く佐野山。そして更に空也の追撃が加わる。

 

「あばよ……《覇王翔吼拳!!》」

 

「グギャアアア!!!!」

 

 空也の両手から放たれた巨大な気弾は周囲の敵を巻き込んで佐野山を吹き飛ばした。

 

 

 

レオSIDE

 

 空也達がそれぞれ活躍する中、俺も結構な数の敵を倒していた。

ま、こいつらの実力は精々俺が以前戦った半田と同じぐらいだ。肋骨が折れていてもどうにかなる。

 

「ば、馬鹿な……我々がこんなに簡単に……全滅などと……」

 

 俺の目の前で戦闘部隊の隊長は信じられない物を見たかのように後退る。

最早先程まで威風堂々としていた筈の戦闘部隊200人は隊長を残して全員ぶっ倒れていた。

そして……。

 

「おいコラ、忘れ物だぜ。《トルネードアッパー!!》」

 

「ヒィギャアアアアア!!!!」

 

 現時点を以って戦闘部隊は全滅した。

 

 

 

乙女SIDE

 

「ダァアアアアアアッ!!」

 

 刀身が押し合う体勢のまま、私は橘を弾き飛ばそうと力任せに押し込む。

 

「チッ!」

 

 バックステップで自ら後方に下がる橘、今だ!

 

「《青嵐脚!!》」

 

 高速の蹴りによって生み出される真空波を橘めがけて撃ち出す。

 

「破っ!!」

 

 しかしその一撃も橘の気で一瞬にしてかき消されてしまった。

クソ……肋骨が折れてるだけでこうも弱くなってしまうとは……。

 

「……なるほど、手負いとはいえ大したものだ。ならば……」

 

 突然橘は刀を鞘に納める。

 

「何のつもりだ?」

 

「フン、手負いの貴様から対馬と刀を奪っても意味など無い。勝負は預けさせてもらう」

 

 ……そこら辺は館長の姪というわけか。なかなか堂々とした奴だ。

 

「良いだろう、いずれ必ず決着を付けてやる」

 

 

 

レオSIDE

 

 橘さんが矛を収めた事で何とかひとまず収拾した闘い。しかし決着がついたわけではない。

 

「対馬よ、瀬麗武の事は抜きにしても我が隊に貴様が欲しいのは事実。そこでだが、後日貴様らと瀬麗武、改めて決着を付けるというのはどうだ?」

 

「分かりました」

 

「私も構いません」

 

「では、その日時と場所だが……」

 

「それについては儂(わし)から提案がある」

 

 館長が横から口を挟み、懐から一枚のチラシを取り出す。

 

 

『松笠・鎌倉・七浜合同プロジェクト 無差別級タッグマッチ武術会!!

                優勝賞金・100万円 副賞・熱海温泉旅行』

 

 

「1ヶ月後に行われる大会だ本来なら拳法部の合宿にと思っていたが、お主らの決着を付ける舞台には丁度良いであろう」

 

 確かに……。しかも優勝すれば乙女さんと温泉旅行に行けるし。

 

「その案、乗りました。私にとっても対馬と地獄蝶々をまとめて手に入れる良い機会です」

 

「私も異論はありません、レオが誰のものかを身の程知らずに教える良い機会です」

 

 乙女さんと橘さんはまだ火花散らしている……。

 

「フン、では1ヵ月後にな……今の内にせいぜい対馬と思い出でも作っておくんだな」

 

「貴様こそ悔し泣きの準備でもしておけ」

 

「「フン!!」」

 

 女のバトルって怖いな……。

 

「レオ、私と組め!あいつに私たちの関係を見せ付けてやるんだ!!」

 

「う、うん……」

 

 とても断りきれない……まぁ、断る気なんて最初から無いけど。

あ、そうだ!

 

「空也、錬、大和。ありがとな、助かったぜ」

 

「気にするな、どうせ1ヵ月後は敵同士なんだ」

 

 え?

 

「お前、まさか……」

 

「ああ、出るぜ。俺もその大会にな」

 

 マジかよ?

 

「俺も出るぜ。丁度新婚旅行を何処にするか迷ってたからな」

 

「俺も、新薬の開発資金が欲しかったところだし」

 

 錬と大和も出る気満々だ。コイツは面白くなってきたぜ!!

 




登場人物紹介にキャラを追加しました。

……大和はもうオリキャラに近いなと思う今日この頃。


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それぞれの1ヶ月

今回は筆者の趣味全開なゲストキャラが多数登場します。


NO SIDE

 

 波乱の終了式の日から一夜明け、レオや乙女を始めとする闘士達はそれぞれの時間を過ごす事になる

タッグマッチの武術会までの1ヶ月間。それまで彼らはどのように過ごすのだろうか……。

 

 

 

case1

 

 とある繁華街、その中にある古ぼけた雑居ビルの地下にあるパブ『りとるうぃんぐ』。

カウンターに座り、隣り合わせで酒を飲み合う男が二人。

一人は武術会参加希望者、上杉錬。

そしてその隣で酒を飲む男の名は大倉弘之(おおくらひろゆき)。元地下闘技場のファイターでボクシングの使い手だ。

 

「で、俺とタッグを組みたいと?」

 

「ああ、俺のテコンドーとお前のボクシング。なかなか面白い組み合わせだろ」

 

 錬の言葉に笑みを浮かべて弘之はグラスに残ったビールを呷る。

 

「確かに面白そうだがよ……良いのか?俺引退して結構経つぞ。」

 

「よく言うぜ、全然鈍ってなさそうなくせによ」

 

 笑いながら錬もビールを飲み干す。

錬も多少は気の概念を学んでいる。弘之の持つ気はファイターだった時期と比べてまったく衰えてなどいない事など丸分かりだった。

 

「それによ、お互いこれから結婚して父親にもなっていく身だ。自分の子供に誇れる物を一つぐらい作っとくのは悪い事じゃねぇだろ」

 

 先程の軽快な笑みから一転、錬は真剣な表情になる。

 

 大倉弘之……彼もまた数ヵ月後に結婚を控え、所帯を持つ事となる人間だ。

弘之にも心の底から愛する女性がいる、そしてその女性と自分の間に生まれるであろう命(こども)が誇れる親でありたいと思っていた。

 

「ったく、正義馬鹿の癖して口が上手くなりやがって……いいぜ。組んでやろうじゃねぇか。そのかわり香純の説得はお前がやれよ」

 

「ゲゲッ……」

 

 余談ではあるが弘之の恋人(婚約者)である宮森香純(みやもりかすみ)はかなりのヤキモチ焼きである。

たとえ嫉妬の対象が男であっても…………。

 

 翌日、錬の勤務時間外にてトレーニングに励む二人の姿があった。

なお、錬の左頬にくっきりと紅葉型の痕があったのはまた別の話。

 

 

 

case2

 

 とある路地裏、時間は既に午前0時近く。普通ならこんな時間に路地裏に人がいるのはおかしいがこの日は違った。

 

「こんな時間にこんな所に呼び出して、何の用ですか?」

 

 路地裏の真ん中、壁にもたれかかりながら立っている人影が一人……直江大和だ。

 

「あ〜ら、随分なご挨拶じゃない。せっかくタッグパートナーになってあげようと思ったのに」

 

 大和の背後に現れるもう一人の人物。

 

「本気で言ってるんですか?アンタじゃ俺や先輩達の実力に及ばないって事ぐらい自分で分かってるでしょう?霧夜エリカさんよ」

 

 路地裏に佇むもう一人の人物、霧夜エリカに対して大和は嘲笑を浮かべる。

 

「ま、そう言われるとは思ったわ。けど、そこら辺の対策はバッチリよ。もちろん絶対勝てるなんて言わないけど、アナタの戦術と知略が加われば結構イケると思うんだけどなぁ〜〜」

 

「結構な自信で……けど俺にはアンタと組む理由が無い。せめてメリットの一つぐらいは欲しい所だけど」

 

「もちろんあるわよ。賞金も副賞もアナタが独り占めで構わないわ。私は乙女センパイや可愛い女の子のおっぱいが揉めればそれでいいから。っていうかそれが武術会に参加する理由だし」

 

 何とも不純な動機である。しかしその答えに大和は楽しそうに笑う。

 

「ケケケケ……成る程な。アンタも俺と同じ人種(ドS)ってワケか。良いぜ、その条件乗った!胸揉まれてヒィヒィ言ってる女を拝むのも悪くなさそうだ!!」

 

「フフフフ…………」

 

「ケケケケ…………」

 

 ドSの真髄此処に極まれり……。

二人はがっちりと握手を交わした。ある意味最凶の二人が手を組んだ瞬間だった。

 

 

 

case3

 

 鎌倉のとある空手道場………現在ここでは柊空也のタッグパートナーの選考会が行われていた。

内容は至ってシンプル。一対多数で空也と戦い、それ相応の実力を示すことが出来れば合格だ。

この空手道場は通常の空手道場と比べてかなり特殊であり、『空手は強くなるため通過点に過ぎない』という理念を持ち、空手以外の格闘技を学ぶのも自由とされている。

故に挑戦者達の闘い方は多種多様。中には武器を持っている者もいる。

しかし既に挑戦者の殆どが空也に手も足も出ず敗れ、残り一人を残し、皆倒れ伏していた。

 

「ダァアアアアーーーーー!!」

 

 唯一残った棒術使いの少年、鹿島(かしま)ゆうじは子供とは思えない力強さで棍による一撃を繰り出すが空也の素早い反応速度には追いつかず、バックステップで回避されてしまう。

 

「今だ!」

 

 しかしゆうじの攻撃はまだ終わっていなかった。

 

「クッ!?」

 

 ゆうじの棍に仕込まれていた仕掛けが発動し、棍は突然伸びて空也の頬を掠めた。

ゆうじの使う棍は関節棍であり、内部にチェーンが仕込まれているためある程度の伸縮が可能なのだ。

 

「まさか、関節棍だったなんてな。今の今まで隠し続けて、その上今の駆け引きも悪くなかった……強くなったな、ゆうじ」

 

 攻撃を掠めた際に流れた血を拭いながら空也は笑う。

 

 鹿島ゆうじは空也が講師を勤めたのと同時期に入門した門下生だ。

入門当初はやや弱気な性格の少年だったものの、高いセンスと人一倍強い粘り強さと強さへの執着で自分の課す鍛錬をこなし、今では門下生の中トップの実力者となり、空也も彼に一目置いていた。

 

「よし、ゆうじ……お前合格!!明日からの鍛錬はスペシャルメニューになるから覚悟しとけ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

case4

 

 松笠市内のとあるマンションの一室で橘瀬麗武はとある場所へ電話をかけていた。

 

『はい、こちら白河ですが』

 

「橘という者だ、白河トモミに変わってくれ。瀬麗武からと言えば問題無い」

 

 電子音の後に受付嬢らしき女性による応対に対して瀬麗武は淡々と用件を伝える。

 

『は、はい……分かりました。少々お待ちを』

 

 多少戸惑いながらも受付の女性は言われた通りにする。

そして数分後……。

 

『もしもし、白河だけど』

 

 目的の人物が電話に出る。

電話の相手の名は白川トモミ。日本でもトップクラスの財閥である白河グループの令嬢だ。

 

「久しぶりだなトモミ。お前に頼みがある。」

 

「何よ?さっさと用件言って。私忙しいんだから」

 

 苛立たしげに用件を促すトモミ。どうやら何かの最中に電話してしまったようだ。

 

「1ヵ月後に行われる武術大会のタッグを組む相手がいないのでな、羽丘を貸してくれ」

 

『はぁ!?冗談じゃないわ!!ダメよ!ふぶきだけは絶対ダメ!!』

 

 癇癪を起こしたかのように声を荒げるトモミ。彼女にとって『羽丘ふぶき』という人物は相当手放したくない人物というのが分かる。

 

「3ヶ月前に貴様の実家の企業の機密を持ち逃げしようとしたやつを捕まえるのに協力してやったのは誰か忘れたのか?」

 

「グ……それは……」

 

 トモミが苦虫を噛み潰したように口ごもる。痛い所を突かれたようだ。

 

「安心しろ、別に奪う気など毛頭無いし対馬以外の男になど興味は無い。あくまで数日ほど戦力として借りるだけだ。何ならお前も武術会に観戦しに来れば良い」

 

「…………分かったわよ」

 

 不服そうにそう言うとトモミは電話を切った。

 

 

 電話を終えてトモミは自室へ戻る。

部屋の中では中性的な顔の少年と大人しそうな少女が全裸でベッドに横たわっている。

自分の専属ボディガードの少年、羽丘(はねおか)ふぶき、そしてその同級生で恋人(その1)の藤宮小雪(ふじみやこゆき)だ。

そしてトモミもまた全裸だった。

 

「武術大会だって?」

 

 ふぶきはトモミを見据えながら怪しく笑う。どうやら電話の内容はお見通しらしい。

 

「そうよ。瀬麗武の奴がタッグパートナーになれって」

 

「そう、それじゃあ」

 

「きゃっ……んんっ!?」

 

 小雪を抱き寄せてそのまま唇を奪う。

 

「ぷはっ……もう、ふぶきちゃん大胆なんだから」

 

「いいじゃん、別に」

 

 甘い空気を作り出すふぶきと小雪。そんな二人をトモミは羨ましそうに見る。

 

「ちょっと、小雪ばっかりずるい!私にも……」

 

「待ちなよ、トモミさん」

 

 自分にもしてほしいと望むトモミを突然ふぶきは制する。

 

「トモミさん……さっき僕の事呼び捨てにしてたよね?ヤッてる時は僕の事どう呼べって言ったか忘れたの?」

 

「そ、それは……」

 

 気まずそうに視線をそらすトモミにふぶきは近付き、残忍な笑みを浮かべながらトモミの顔を掴み、視線を無理矢理自分の方へ向ける。

 

「ほら、言いなよ。今の自分の立場をさぁ。言わないと今日はお預けだよ」

 

「い、言います!言いますからそれだけは許して!!……私、白河トモミは羽丘ふぶきコーチの恋人(その2)で奴隷です!!だから私を抱いてください!!」

「はい、よく出来ました。小雪ちゃん」

 

 トモミの赤裸々な発言にふぶきは満足げに笑みを浮かべると小雪に目配せする。

 

「はい、ふぶきちゃん♪」

 

 小雪も満面の笑顔で棚からロープを取り出し、トモミを縛り上げる。

 

「今日は二人ともとことん可愛がってあげるよ。明日から忙しくなりそうだし」

 

「ああ……嬉しいです。コーチぃぃ…………」

 

「ふぶきちゃん……私にもしてぇ……」

 

 以下自主規制。

一つだけ言う事があるとすれば、これは何とも歪な一つの愛の形である。

 

 

 

case5

 

 あの乱闘から5日後、ようやく肋骨が完治したレオと乙女は今、乙女の実家である鉄家を訪れ、修行に励んでいた。

当初は門下生全員と戦っていた二人だが、既にレオと乙女の実力は門下生では相手にならない程に上がっていたため、二人の祖父である鉄陣内との組み手を行う事になった。

 

「ハァアアアアアアッ!!!」

 

「ダァアアアアアアッ!!!」

 

 咆哮と共にレオと乙女の双方から強烈な一撃が繰り出されるが、陣内はまるでビクともしない。

 

「……フフ、悪くない一撃よ。だがまだまだ……青い!!」

 

 陣内が軽く腕を一振りする。ただそれだけで突風が吹いたかのような風圧がレオ達を襲い、吹き飛ばす。

 

「どわぁぁっ!!」

 

「ぐぅぅっ!!」

 

 圧倒的な暴風に成す術なく二人は吹き飛ばされてしまう。

 

「ハァ、ハァ……滅式を用いてもこのザマとは……」

 

「ハァ、ハァ……俺も……フルスピードだってのに、爺様相手じゃ歩いているも同然だよ」

 

 文字通り力の差は歴然だった。

レオと乙女を超人とするなら陣内は超人を超える化け物……その強さは橘幾蔵・平蔵兄弟をも上回る。

しかし……

 

「だが……まだやれる!!」

 

「俺だって……やられっぱなしは趣味じゃない!!」

 

「フフフ……それで良い。闘士の真の価値は愚直なまでに強さを求める姿勢にある!!さぁ、来るが良い!!この陣内、いつまででも付き合おうぞ!!!」

 

 たとえ敵わなくとも二人は立ち上がる。今よりももっと強くなるために!!

 

 

 

 そして月日は流れ、遂に運命の日がやって来た。

 

「よし、行くぞレオ!!」

 

「おう!!」

 

 お互いに青と白を基調とした同じデザインの胴衣を見に着け、決戦場へと赴く。

それぞれの維持と誇りを賭けた闘いが今始まる!!

 

 

 

おまけ 鉄家の人々

 

レオSIDE

 

 午前中の修行を終え、昼食の後はしばらく休憩。

乙女さんは買出しのため外に出ているので俺は縁側で西瓜(スイカ)を食いながら寛がせてもらっている。

しかし鉄家の人達は皆俺が乙女さんと互角になってたことに驚いてたな……。琢磨(乙女さんの弟)の奴なんて『数少ない俺と同じ一般人がぁ〜〜!!』とか言って嘆いてたし……。

 

「レオ、隣良いか?」

 

「あ、叔父さん。どうぞ」

 

 俺がのんびりしていると隣にかなり(っていうか滅茶苦茶)強そうな人が来る。

この人の名は鉄義雄(くろがねよしお)。乙女さんの父親だ。

 

「レオ……」

 

「は、はい」

 

 な、何だ?妙に真剣な表情だぞ……。まさか今ココで『お前は娘にふさわしいのか?』とかいう話になるのでは?

 

「乙女とはいつ頃結婚する予定だ?子供は何人作る?」

 

「ブッ!!?ゲホッゲホッ!!」

 

 なな、何聞いてんだこの人は!?思わず飲んでいた麦茶を噴出してしまった。

 

「ななな、何を気の早い事を!?」

 

「冗談だ。そんなに慌てるな。……だが、お前には感謝してる。乙女があそこまで女らしくなって、その上より強くなれたんだからな……まぁ、生真面目すぎるところがあって面倒を掛けることもあると思うが、乙女の事を頼むぞ」

 

「押忍、絶対幸せにして見せますよ」

 

 俺にとってもそれが幸せだからな。




大倉弘之は『借金姉妹』シリーズ(設定は2から)
鹿島ゆうじは『相姦遊戯』
羽丘ふぶきは『新体操(真)』
からのゲストキャラクターです。


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武術会開幕!!

NO SIDE

 

 タッグマッチ武術会が開催される会場は東京ドーム。

普段は野球などで使用されるグラウンドも今は予選で使用する大型リングが一つ置いてあるだけ。

大会は数日をかけて行われ、選手には宿泊施設として近くのホテルの一室が与えられている。

なお、大会の内容はテレビ放送もされる(予選と本戦1回戦はローカル、準決勝以降は全国ネット)。

参加チーム数は120組、総勢240人という大人数だ。

その中には当然ながらレオ達の姿もあった。

 

 

 

レオSIDE

 

 いよいよ始まった武術会。

面倒くさい開会式の演説を漸く終えて今は予選の抽選会だ。

予選のルールは15組ごとに分かれての大型リングの上でのバトルロイヤル形式。

チームメンバーが2人とも戦闘不能になった時点でそのチームは失格という殲滅戦。

残り1チームになるまで戦い残った1チームが本戦に出場できる。

これを全8回A〜Hブロックに分けて行う。

俺達はDブロック(4戦目)なのでそれまでの間スタンドで観戦する事になったわけだが……。

 

「何故貴様がレオの隣に座っているんだ?橘……」

 

「私の勝手だ。いずれ我が隊の一員となる者と親睦を深めて何が悪い」

 

 俺を挟んで乙女さんと橘さんが女のバトルを繰り広げているんですけど……。

橘さんのタッグパートナーは興味が無いのか無表情で棒を磨いている……。

 

「…………(チラリ)」

 

 いや、たまにこっちを見て同情するような視線を送ってくる。

 

「両手に花とはなかなかやりますね、先輩」

 

 俺が精神的に参っていると突然背後から声がかけられる。この声は……

 

「大和か……何の用だ?」

 

 コイツの事だから絶対……

 

「からかいに来ました(ニッコリ)」

 

「右に同じく♪」

 やっぱり……っていうかコイツ姫と組んだのか……何て性質の悪いコンビだ。

 

「ま、というのは冗談で本当はただ愚痴りに着ただけですよ」

 

「いや、それはそれでちょっと……」

 

「聞いてくださいよ……姉さん(川神百代)ってば借金してる相手から急に明日中に金返せって言われて出場できなくなっちゃって」

 

 話聞けよ……しかしまぁ、これで優勝への障害が一つ減ったが……。

 

「ああ、そうかい。分かったからさっさとその口閉じろ。飼ってるヤドカリ丸焼きにするぞ」

 

「ああ!?やれるもんならやってみやがれ!!ボトルシップ全部ぶっ壊れてもいいならなぁ!!!!」

 

 ……オイ、コイツ今何て言った?

 

「テメェ!ぶっ殺されてぇのか!?このドS猿が!!」

 

「黙れ!スピード馬鹿が!!」

 

 コノヤロウ……試合開始を待たずにここでぶっ殺して……。

 

 

『ガンッ』×2

 

 

「アガッ!?」

 

「フゲッ!?」

 

 と、突然頭を殴られた……一体誰が…………。

 

「大和、少し落ち着け」

 

「ったく、久々に顔見たと思ったら何やってんだよ対馬」

 

 錬……そ、それに……。

 

「大倉先輩!?」

 

 俺の中学時代の先輩、大倉弘之だ。しかも錬と同じ選手用のナンバープレートだと!?

 

「錬、お前大倉先輩と組んだのか?……よく彼女さん説得できたな」

 

 あの人って相当嫉妬深かったような……。

 

「ああ、まぁな……代償も大きかったがな。トレーニングが終わるたびに『弘之に怪我させた』とかいう理由ででビンタを喰らいまくって……」

 

「も、もういい……それ以上言うな」

 

 聞いてるだけで鬱になりそうだ……。

 

「ところで空也達は?」

 

「ああ、少し前に一度会ったけど……ん?おい、アレ」

 

 大倉先輩が指差した方向には……何故かフカヒレが……。

 

「HEY彼女!どこから来たの?俺さぁ〜、もうすぐ予選に出場するから良かったら是非見てくれ!!」

 

「ちょっと、やめてよ!私弟の応援に来たんだから!!」

 

 フカヒレは女をナンパしていた。

 

「鮫氷の奴、この大会に参加していたのか?」

 

 呆れた表情で乙女さんが呟く。フカヒレじゃあっという間に負けて終わりだろ……。

 

「とりあえず止めにいくか……見てて気持ちのいい光景じゃないしな」

 

 そう言って乙女さんがフカヒレのところへ行こうとしたが……。

 

「姉ちゃんから離れろ!!」

 

 突然やや小柄な少年がフカヒレに棒を突きつけてきた。

 

「ヒッ……て、てて、テメェ闘(や)る気か!?おお、俺はこの大会の参加者だぞ」

 

「だからどうした?僕だって同じ事だ」

 

 あのガキ、歳の割にかなり強い気を持ってるな……案外強敵かも。

 

「おい、あのガキ空也のパートナーだぜ」

 

「マジで!?」

 

 どうりで強そうなはずだ……。

 

「おい、フカヒレ。何やってんだよ?」

 

 とか話してたらスバル登場。

 

「スバル、フカヒレ。お前ら何やってんだ?」

 

「おお、レオか。フカヒレの奴に頼み込まれて出場(で)ることになっちまった」

 

 なんて無謀な……。

 

「だってさぁ、予選でもテレビ放送されるわけだし、一人二人倒せば地元でそれなりに有名になれるだろ。そうすれば女にモテて……」

 

「お前じゃ一人倒すのも無理だろ」

 

「いや、それは弱ってる奴を武器で殴れば……」

 

 それでも不可能な気がするのは気のせいではないはずだ……。

 

「おーい、ゆうじ。もうすぐ俺達のブロックの番だぞ」

 

 フカヒレの浅知恵に呆れていたら今度は空也登場。どうやらAブロックの試合が終わってBブロックの番が来たようだ。

 

「あーあ、早速本戦出場のチャンスは潰えたな」

 

「って事はスバル……お前等もしかして……」

 

「ああ、Bブロックだ」

 

 あらら……予選落ち決定だな。

 

「死なないようにな」

 

「俺は大丈夫だが、フカヒレが」

 

「スバル!諦めたらそこで試合終了だぞ!!いくら空也が相手でも疲れきった所を狙えばどうにか……」

 

 ダメだこりゃ。完全に自分が女にモテるようになると信じきって正常な判断が出来なくなってる。

 

「一応死なないようにサポートしてやれ」

 

「分かった」

 

 それだけ言い残してスバルはフカヒレと共に会場へ向かって行った。

 

「あ〜あ。フカヒレ君、滑稽で面白い人材だったのに。死んじゃったら何も無いじゃない」

 

「弄り甲斐のある人だったのに……惜しい人を亡くしたな」

 

「死ぬ前にキッチリ更生させてやりたかった……」

 

「短い再会だったな。アイツにもソープぐらい連れて行ってやるべきだったか……」

 

「ふむ、対馬の友人なら黙祷の一つでも捧げるべきか」

 

「ああいうの一度痛めつけてみたかったのに……」

 

「お前等、もう少し死人を労わってやったらどうだ」

 

「いや、まだ死んでないから……」

 

 乙女さんまでボケるとは……。(ちなみに上記の台詞は上から姫、大和、錬、大倉先輩、橘さん、ふぶき、乙女さん、俺だ)

 

 

 

NO SIDE

 

『これより、Bブロックの予選を行います!!』

 

 アナウンスによって予選開始が告げられる。

リング上にはフカヒレとスバルの姿もあった。

 

「おいフカヒレ、お前本当に大丈夫なのか?お前じゃ本当に大惨事になりかねないぞ」

 

「安心しろって、実は俺服の下に防刃チョッキ着けてんだよ。これさえあればどうにかなるって。スバル、俺の後ろは任せたぞ!!」

 

(俺はお前に背中預けられない……っていうか預けたくないんだが……)

 

『始めぇぇーーー!!!!』

 

 開始の合図と同時に選手達は一斉に近くにいる敵に飛び掛った。

 

(よし!まずは逃げ回ってあとは弱ってそうな奴を背後から持ってきた木刀でタコ殴りに……)

 

 早速よからぬ事を企むフカヒレ。しかしそこに近付く一つの影が……。

 

「おいフカヒレ!!そっち誰か行ったぞ!!」

 

「ゲゲッ!まだ始まったばっかりなのに、一体誰だよ!?」

 

「見つけたぞ変態」

 

 先程フカヒレと一悶着起こした少年、鹿島ゆうじだ。

 

(何ださっきのガキか。コイツなら俺でも倒せる!!)

 

 完全に外見だけで判断しているフカヒレ。自分が下手すれば小学生にも負けかねない程弱い事などすっかり忘れ去っている。

 

「二度と姉ちゃんに手を出せないようにしてやる」

 

「中坊が高校生に勝てると思ってんじゃねーぞ!喰らいやがれぇぇ!!!!」

 

 木刀で殴りかかるフカヒレ。しかしその動きはまるで隙だらけだが。

 

「フンッ!!」

 

 気合と共にゆうじは棍を振るう。

 

 

『ガシャァァン!!!』

 

 

 一瞬にしてフカヒレの木刀は砕け散った。

 

「んなぁ!?」

 

 現実味を欠いた光景にフカヒレは驚愕する。そんなフカヒレにゆうじはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ヒッ!(や、やばい……ぶちのめされちまう!!)」

 

 戦意が一気に萎えてふかひれはあっという間に逃げ腰モードに突入するが……。

 

「隙ありぃーーー!!!」

 

 その時、別の選手がゆうじに襲い掛かった。

 

(やった!助かった!!)

 

 フカヒレは見ず知らずの選手に心のそこから感謝し、自分が助かる事に歓喜したが……。

 

「邪魔」

 

「もんぎゃああぁぁーーー!!!」

 

 名も無き選手(モブ)はゆうじの裏拳一発でノックアウトされてしまった。

 

「ヒィイッ!?」

 

 フカヒレはこの状況になって漸く色ボケが醒めて自分がどういう人種を相手にしているかを理解した。

 

(だ、だが俺には防刃チョッキが……)

 

 

『ドカァッ!!』

 

 

「うぐえええ!!!」

 

 防刃チョッキなどまるで役に立たない程の威力でフカヒレの鳩尾をゆうじの棍が直撃し、フカヒレは胃液をぶちまけた。

しかし倒れる前にゆうじに体を棍で支えられた。

 

「姉ちゃんに手を出してこんなもんで済むと思うなよ」

 

「ヒィィッ!!スバル助け……あ」

 

 スバルに助けを求めようとするが……。

 

「あー、すまん。やっぱ空也には勝てねぇわ」

 

 すでに空也によって倒された後だった。というか既に選手の4割近くが空也によって倒されていた。

 

「覚悟はいいか変態……《大旋風!!》」

 

「ひぃぃぎゃあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 ゆうじは棍をフカヒレの服に引っ掛け、そのままジャイアントスイングのように周囲の敵を巻き込みながら回転した。

 

「あ゛っーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

そしてフィニッシュとしてフカヒレは場外まで投げ飛ばされたのだった。

 

 

鮫氷新一&伊達スバル チーム名『ワイルドメンズ』 予選敗退

 

 

 

レオSIDE

 

 案の定というか……Bブロックは空也達の独壇場だな。

開始1分もしないうちに半数は倒されて残った敵も空也達に手も足も出ずって感じだし。

そしてフカヒレ……死んでない事を祈る。

 

「しかしうまい具合に全員バラけたな」

 

 試合を眺めながら錬が口を開いた。

俺達は何の因果か全チーム見事に別々のブロックになった。

 

俺と乙女さんはDブロック

姫と大和はEブロック

橘さんとふぶきはGブロック

錬と大倉先輩はFブロック

 

 ってな具合に全員見事にバラバラ。戦うのは本戦以降って訳だ。

 

「私たちは運良くバラバラだが他はそうでもないぞ。ほら、あれを見てみろ」

 

 乙女さんが指差した先にはCブロックの選手達だ。

 

「あれ?拳法部の連中じゃん」

 

「ああ、合宿の名目で参加したんだが……大半がCブロックとHブロックに集中してしまったんだ」

 

 あらら……。

 

「おい、Bブロック終わったぞ」

 

「お、早いな……」

 

 ま、空也達なら当然か……。

 

「それじゃ、私達も準備しておくか……いつまでも悪い虫に引っ付かれていてはレオも窮屈だろうしな」

 

「フン、今の内にほざいていろ、本戦ではその減らず口さえ叩けなくなるのだからな」

 

 乙女さん達は未だにいがみ合っている。……うぅ、居心地悪ぃ〜〜。

結局この直後、乙女さんに引っ張られる形で俺は試合の準備に向かったのだった。

 

 

 当然の事ながら、俺と乙女さんは何の苦も無く軽々と予選を突破。

続くEブロック以降も大和や橘さんのチームの独壇場。あっという間に決着がついて皆本戦出場を決めた。

 

「しかし……予選とはいえ、歯応え無いのばっかりだな」

 

「言えてる……もう少しマシな相手はいないのかねぇ〜〜」

 

 Fブロックの連中が戦ってる間、俺はアイスを食いながら空也達とベンチで寛いでいた。

 

「でも……自意識過剰かもしれないけど、僕達と互角以上の人なんてそうそういないと思いますけど……」

 

「まぁ、それは分かっているが………お、Hブロック始まったみたいだぜ。一応見とくか?」

 

「そうだな、一応村田の奴が出てるみたいだし」

 

 この時、俺達はまだ気付いてなかったHブロックの戦いが更なる強敵との出会いになる事を……。

 

 

 

NO SIDE

 

『これより、Hブロックの予選を行います!!』

 

 会場では既にHブロックに参加する全チームがリングに上がり、準備を完了していた。

 

『始めぇぇーーー!!!!』

 

 試合開始と同時に竜命館2年生、村田洋平はタッグパートナーの志村仁一(空手部員・2年生)と共に近くにいた選手に襲い掛かる。

 

「フンッ!!」

 

「グガッ!?」

 

 開始早々敵選手の一人を沈めた村田。志村の方も早くも敵を一人倒したようだ。

 

「よし!このブロックには大した敵いねぇぞ!!」

 

「ああ、本戦に出る絶好のチャンスだ!これは逃せん!!」

 

 うまくいけば自分がライバル視しているレオに挑戦することが出来るかもしれないので村田はかなり張り切っている。

ところが……

 

「うぉわぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

「何だ?……ッ!?」

 

 突然上空から悲鳴が聞こえ、目を向けた村田の視界に異様な光景が広がる。

一人の茶髪の男が他選手を2人ほど両手で掴み数m上空に跳び上がっているのだ。

 

(な、何だアイツは!?人間二人を抱えてあのジャンプ力だと!?)

 

「そらよ!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁあーーーーー!!!!」」

 

 茶髪の男はそのまま掴んでいる二人の他選手をリングめがけて投げ飛ばす。

投げ飛ばされたザコ二人は隕石の様に落下地点の周囲にいる他選手達を巻き込みながらマットに叩きつけられた。

 

「ば、馬鹿な!?こんな芸当が出来るのは鉄先輩や対馬レベルでなければ……」

 

 落下してきた人間隕石をかろうじて避けながら村田の脳裏にある一つの絶望的な仮説が浮かぶ。

 

(ま、まさか……奴の実力は鉄先輩と同レベルだとでも言うのか!?)

 

「がぁっ!!」

 

「し、志村!?」

 

 村田が呆気に取られているとまたしても悲鳴が聞こえてくる。しかもその声は自分のタッグパートナーである志村の声だ。

いや、志村だけではない。他にも多数の選手達が一人の黒髪の男によってマットに倒れ伏している。

そして彼らを倒した黒髪の少年の胸につけられたナンバープレートは先程の茶髪の青年と同じ物だった。

 

「き、貴様ぁ!!よくも志村を!!」

 

 パートナーを倒された怒りに身を任せ、村田は黒髪の青年、山城優一(やましろゆういち)に飛び掛り、得意技のハイキックを見舞おうとするが……。

 

「遅いぜ」

 

「な!?」

 

 優一は余裕を崩す事無くハイキックを受け止めると村田の体を軽々と上空へと投げ飛ばした。

 

「拓己、もう一人行ったぞ!」

 

「おう!」

 

 優一の声と共に彼のタッグパートナーである茶髪の青年、小野寺拓己(おのでらたくみ)は空中で村田の身体を上下逆さまの状態でキャッチするとそのまま村田の身体を両腕を交差させて掴み、直後に体勢を反転させ両脚を自分の足でフック。

その状態でリング目掛けて一気に落下する!!

 

(う、動けない!?)

 

「《フォーディメンションキル!!》」

 

「ぐげぁぁっ!!!!」

 

 そして村田は凄まじい勢いでマットに脳天を叩きつけられた。

最早この時、村田は立ち上がる事はおろか、意識を保つすら出来なかった。

 

 

 

レオSIDE

 

「…………」

 

 圧倒的な力で村田達を倒した二人組を俺達は無言のまま見据えていた。

 

「かなり出来るな、アイツ等」

 

「うん」

 

 乙女さんの言葉に同意する。

正直言って空也や錬達以外のチームは完全にノーマークだったけど、まさかこんな隠れた強豪がいるとは……。

そういえば松笠以外にも地下闘技場はあるらしいし、あの二人はそこから来たのかもしれない……。

どっちにしてもこの大会、簡単には優勝できそうにないな。

 

「レオ、お前笑ってるぞ」

 

 乙女さんに指摘されて気付いた、俺笑ってるよ……でも……。

 

「乙女さんだって笑ってるじゃん」

 

 っていうか俺達全員あの二人の実力に興奮して笑ってるし……。

やっぱり俺達は根っからのファイターってワケか……。

ヘッ……面白ぇじゃねぇか。それでこそ戦(や)り甲斐があるってもんだ……。

だが……

 

((((((((勝つのは俺(私)達だ!!!))))))))

 

 

 

NO SIDE

 

そして全予選が終了し、いよいよ本戦トーナメントの時が来る。

 

Aブロック代表 士慢力&半田紗武巣

Bブロック代表 柊空也&鹿島ゆうじ

Cブロック代表 日上順子&冬島香苗

Dブロック代表 対馬レオ&鉄乙女

Eブロック代表 霧夜エリカ&直江大和

Fブロック代表 上杉錬&大倉弘之

Gブロック代表 橘瀬麗武&羽丘ふぶき

Hブロック代表 小野寺拓己&山城優一

 

かくしてココにベスト8が出揃った!!




小野寺拓己は『あねいも2nd Stage』
山城優一は『FUTA・ANE〜ふたあね〜』
からのゲストキャラクターです。

登場人物紹介にキャラを追加しました。


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本戦開始!!愛に生きる拳闘士VS千の技を持つ女

レオSIDE

 

 予選が終了し、本戦に出場する8チームが決定。

本戦開始を前にして組み合わせの抽選とチーム名の登録が行われようとしていた。

 

「チーム名……考えてなかった」

 

「ああ……すっかり忘れていたな」

 

 チーム名を考えるのを完全に忘れ去っていた俺達は今更になって考えている。

 

「どうする?もう時間が無いぞ………そうだ!ヴァルキリーズというのはどうだ?私の名前乙女だし」

 

「いや、戦乙女(ヴァルキリー)って俺男だから!!」

 

 どうやら乙女さんにネーミングセンスを期待するだけ無駄らしい。

 

「そ、そうか……なら…………ダメだ、思い浮かばん!!レオ、お前は何か無いのか!?」

 

 え、俺?そうだなぁ……俺の名前と……乙女さんの刀で…………。

 

「え〜と、じゃあ……獅子蝶々とか?」

 

「…………」

 

 俺の答えに乙女さんは呆然としている。そんなにダメだったか?

 

「良い……凄く良いぞ!!」

 

 大ウケだったようだ。

何とかチーム名が決まった俺達は急いで登録し終え、ようやく抽選会となった。

 

「えー、それではAブロックから順に係員の指示に従ってくじを引いてください」

 

 係員に促され順番にくじを引いていく。俺達の引いた番号は8……第4試合って事か……。

 

 

 

NO SIDE

 

「ただいま組み合わせが決定しました!電光掲示板をご覧ください!」

 

 くじ引きが終了し、電光掲示板にトーナメント表が映し出される。

組み合わせは以下の通り。

 

 

 

第一試合 ザ・リバーシブル(上杉錬&大倉弘之)VSハイペリオンギャルズ(日上順子&冬島香苗)

 

「女二人が相手とは、フカヒレに恨まれそうだな」

 

「ま、ウォーミングアップにゃ丁度良いだろ」

 

「チッ、鉄と決着つけたかったのに……」

 

「結構いい男じゃん、虐め甲斐がありそう」

 

 

第二試合 エスズキングダム(霧夜エリカ&直江大和)VSサラマンダーボーイズ(柊空也&鹿島ゆうじ)

 

「中性的な顔つき二人でしかも片方はショタ!小説(BL)の良いネタになりそう」

 

「ケケケケ…………」

 

「まさか大和と当たるとはな……師匠から因縁まで受け継いじまったか?」

 

「何か……あの金髪の人、僕達の事変な目で見てるような……」

 

 

第三試合 ビッグ・ジャガーズ(士慢力&半田紗武巣)VSウォーリアーズ(橘瀬麗武&羽丘ふぶき)

 

「ヘッ!体格差で捻り潰してやるぜ!」

 

「いや、この大会では体格差なんて大してアテにならんと思うが……」

 

「フン、1回戦など眼中にない、本命は次の戦いだ」

 

「あ〜あ、歯応えのなさそうな連中」

 

 

第四試合 D&Iハリケーンズ(小野寺拓己&山城優一)VS獅子蝶々(対馬レオ&鉄乙女)

 

「なかなか手強そうな相手だな、予選なんかよりずっと楽しめそうだぜ」

 

「ああ、1回戦早々面白くなりそうだ」

 

「村田達の仇を討ちたいってワケじゃないけど……」

 

「竜命館の生徒として黒星はきっちり返上しないとな!」

 

 

 

『それではこれより、1回戦第1試合を行います。出場選手以外は控室の方へお下がりください』

 

 アナウンスの案内に錬達を4人を除いた選手達はその場を後にする。

 

「試合は通常のタッチ形式のタッグマッチ。カットは5カウント以内で。ダウン10カウントでKOとなりKO判定が出た選手はリングから退場となります。チームメンバーのどちらかがKOとなった時点で決着です。リング外に出て20カウント、もしくは降参(ギブアップ)の場合も同様です。よろしいですね?」

 

 審判員のルール確認に錬、弘之、日上、冬島の4人全員が頷き、それを見た審判は表情を引き締めて運営側に合図を送った。

 

 

 

「さてと、どっちが行く?」

 

「俺に任せな。俺は喧嘩売ってくる奴は老若男女(恋人と友達は除く)区別しねぇ」

 

 リバーシブルの一番手は大倉弘之で決定。

 

「よーし、じゃあまず私が……」

 

「ダ〜メ、私から出る」

 

 先陣を切ろうとした順子だったが香苗に肩を掴まれて止められる。

 

「ちょっ、何で!?」

 

「はっきり言うけど、順子じゃあの二人の相手は無理。多分あの二人……いや、本戦に出てる殆どの連中がアンタが戦いたがってる鉄って娘とほぼ同等ね。」

 

「嘘でしょ!?」

 

 香苗の推測に順子は驚愕の表情を浮かべる。

順子も拳法部の一員として鉄乙女の桁外れな戦闘力は良く知っている。

そんな実力を持つ者が多数出ているなど俄には信じられない事だ。

 

「だから私が行くわ。順子、アンタはサポートしなさい」

 

 それだけ言うと香苗はロープを飛び越えてリングに立つ。

 

(それにああいう不良っぽいイケメン、屈服させて跪かせたいし♪)

 

 という本音があったのは秘密である。

冬島香苗……実は根っからの女王様気質のSである。

 

『それでは第1試合、ザ・リバーシブルVSハイペリオンギャルズ……試合開始!!』

 

 実況のアナウンスがそう告げた直後に、試合開始のゴングが鳴り響いた。

 

 

 

弘之SIDE

 

「さ〜て、久々の公式戦だ。楽しませてもらうとするか」

 

 意気揚々と俺は相手を見据えて構える。それに応えるように相手の冬島も構えるが……。

 

(?……何だ?コイツの構え)

 

 一目で分かるほどに冬島の構え方はレオにそっくりだ。

 

「行くわよ……《メガスマッシュ!!》」

 

「!?」

 

 思わぬ行動に一瞬面食らってしまった。

メガスマッシュはレオが使う技……なのに何故コイツが?

 

「クッ!」

 

 多少反応が遅れながらも何とか気弾を回避。

しかしそこを狙って冬島は飛び掛ってくる。

 

「まだまだ!《ムササビの舞》」

 

「うおっ!?」

 

 これはKOF常連の不知火舞の技!?

 

「貰った!!《飛燕疾風脚!!》」

 

 回避した隙を突かれて今度は極限流の技が俺に迫ってくる。

 

「クソが!!」

 

 避ける暇が無いからすかさずガードして受け止めて弾き返す………………ん?

 

「驚いてるようね。私が色んな流派の技を使う事に。私はね、他人が使った技を見抜いて真似るのが得意なの。大概の技は一度直接見ればその技のコツ、タイミング、角度も簡単に見抜けるってワケ」

 

 聞いてもいないのに勝手に解説を始めやがった。自己顕示欲が強い女だな……。

 

「今出した技も過去のKOFの映像や竜命館の体育武道祭で見て覚えた技よ」

 

「なるほどな、『千の技を持つ女』ってのを繁華街で聞いた事があるが、お前の事か」

 

「そうよ、ビビっちゃった?」

 

「いや、全然……むしろ拍子抜けだ」

 

 俺の台詞に冬島の表情が一瞬固まり、こめかみがピクリと動いた。分かりやすい奴。

 

「拍子抜け?面白くない冗談ね」

 

「冗談かどうか試してみるか?ほら、来いよ。大技出してみろや」

 

「跪かせてあげようと思ってたけど…………そんなにご所望なら望み通りボロ雑巾にしてあげるわ!!《爪嵐撃!!!!》」

 

 挑発に乗って錐揉み回転しながら突っ込んでくる冬島。

なるほど、レオの彼女が体育武道祭で出した必殺技か、良いチョイスだ。だがなぁ……。

 

「《ハリケーンアッパー!!》」

 

 向かってくる冬島に竜巻を飛ばして迎え撃つ!!

 

「そんな竜ま……え?キャアアアアア!!」

 

 威勢良く突っ込んだ割りにあっさりと冬島は吹っ飛ばされる。

ま、当然か。この程度の実力じゃな。

 

「な、何で?この技は対馬レオの爆風障壁も(完全ではないとはいえ)突き破った技なのに……」

 

「まだ解らねぇのか?お前の技を盗む観察力とテクニックは一級品かもな。だがどんな強力な技だろうとそれを使う人間に実力が伴ってなけりゃただの劣化コピー、オリジナルには到底及ばない。要するにお前は技だけの器用貧乏なんだよ!!見て呉れだけで中身が伴わないハリボテ技なんかじゃ俺は倒せないぜ!!」

 

「ば、馬鹿にするなぁぁーーーー!!!!」

 

 俺の言葉に図星を指されてキレた(というか現実逃避しただけ)冬島は拳に気を集中させて襲い掛かってくる。

 

「ぶっ殺す!!《真空鉄砕拳!!!!》」

 

「馬鹿が……オラァ!!!!」

 

 繰り出される拳に俺は自らの鉄拳を見舞った。

 

「(ニヤリ)……手応えありだ」

 

「グ……ギャアアアアアアアッ!!!!」

 

 俺のパンチで冬島の指の骨は折れ、冬島はその強烈な痛みにのた打ち回る。

 

「じゅ、順子………た、助けに……来なさいよ」

 

 冬島からの要請に今まで呆然と俺達を見ていた冬島の相棒の日上がリングに入ってくる。しかし……

 

「おっと、そうはいかねぇぜ」

 

 即座に錬がカットに入る。日上も応戦しようとするが実力差が如実に出て攻撃は一切当たらず、逆にみぞおちに錬の膝蹴り(たぶん手加減してる)が入る。

 

「グゥッ……!」

 

「弘之!アレやるぞ!!」

 

「おう!!」

 

 蹲る日上を余所に錬は合図送り、俺達はリング中央にお互いの相手を投げ飛ばす。そして……

 

「「せーの!!」」

 

 俺のラリアートと錬のレッグラリアートによる挟み撃ちが冬島と日上の首下にぶち込まれた!

変形型だがクロスボンバーの完成だ!!

 

「がぁっ……」

 

「うぐぁ……」

 

 クロスボンバーをもろに喰らった冬島と日上はそのままダウン。

直後に試合終了のゴングが鳴り響いた。

 

 

 

NO SIDE

 

『つ、強い!!強すぎる!!予選で他チームを圧倒していたハイペリオンギャルズが手も足も出ずに敗北!!強すぎるぞザ・リバーシブル!!!!』

 

 決着を告げるゴングが鳴り響く中、錬達の驚異的な強さを目の当たりにした者達の歓声が響き渡った。

 

○ザ・リバーシブル―ハイペリオンギャルズ●

決まり手、変形クロスボンバー

 

 

 

レオSIDE

 

 選手用観戦室

 

 錬、それに大倉先輩……。

 

「強くなってるな……以前よりずっと」

 

「ああ……」

 

 相手は技に溺れていた所があるとはいえ俺や乙女さんの技を真似できるほどの力量はあった筈……それをああも簡単に……。

 

「でも勝って当然でしょ。あの冬島って娘なら私でも勝てない事もなさそうだし」

 

「何よりあの女、S属性として失格。ドSはドSとして振舞いたいからこそ日々の精進を怠ってはならない……それを怠る奴にSの資格は無い」

 

 ドSコンビからは酷評されてるハイペリオンギャルズ。

つーか大和、お前Sに一家言持ってたんだな……。

 

「さーて、次は俺達だな。ゆうじ、準備しに行くぞ」

 

「ハイ!!」

 

 そう言って空也達は控え室へ向かう。

 

「私達も準備しましょうか。一筋縄じゃいきそうにない相手だし」

 

「OK、久々に大暴れできそうだ……ケケケケ」

 

 姫と大和も立ち上がり、観戦室を後にした。

 

技のキレ抜群の空也と実力未知数のゆうじのサラマンダーボーイズ。

飛猿軍師の異名を持つ大和と竜命館きっての天才頭脳を持つ姫のエスズキングダム

 

どっちが勝つにしても凄い戦いになりそうだ。



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智略と技の攻防戦!!

レオSIDE

 

『これより、一回戦第二試合を開始いたします!!』

 

 第一試合を錬と大倉先輩のザ・リバーシブルが快勝し、20分ほどの休憩を挟んで第二試合の時が来た。

既にリング上では大和と姫のエスズキングダム、空也とゆうじのサラマンダーボーイズが準備を完了していてた。

 

「レオ、お前はどっちが勝つと思う?」

 

 俺達の中では空也たちと付き合いが最も短い乙女さんが訊ねてきた。

 

「戦闘力で言えばサラマンダーボーイズに分がある。大和もかなり強いけど身体能力がまだ発展途上だから純粋な戦闘力は空也には劣るし、姫は他の3人とかなり差を空けられている。……だけど大和と姫にはそれを補う智略と戦術がある」

 

「となると、その戦術がどこまで柊達に通用するかが鍵だな。しかし……何か引っかかる」

 

 エスズキングダムの方を見ながら乙女さんは訝しげに呟く。

 

「引っかかるって何が?」

 

「大した事ではないと思うが、姫の服装だ」

 

「服装?確かにそれは俺も思ったけど」

 

 姫が着ている服は私服やブルマ姿(乙女さんや館長に手ほどきを受けるときは大概この服装)ではなく、なぜか錬と同じ胸元に『猿』と書かれた中国風の拳法着だ。

 

「まぁ、姫って美的センスがおかしい所があるし……姫らしいといえば姫らしいと言えるけど」

 

「ああ、だがどうにも違和感がな……姫のようなプライドの高い人間がタッグパートナーとはいえ簡単にお揃いの服を着るのか?」

 

 言われてみれば……う〜ん、解らん。

 

 

 

NO SIDE

 

 第一試合の興奮も冷めきらない中、いよいよ第二試合のゴングが間近となった。

 

「大和が相手とは……師匠の親父の代からの因縁がココまで続くとなると運命すら感じるな」

 

 感慨深く空也はそう呟いた。

空也の師であり兄弟子でもある男、リョウ・サカザキと大和の師、リー・パイロン。そしてリョウの父にして空也のもう一人の師、タクマ・サカザキとリーの養父リー・ガクスウ。

彼等はその昔、サウスタウンにおいて父子二代に渡り拳を交えた間柄であり、今まさにその弟子達がぶつかり合おうとしている。

まさに因縁と言う他無いだろう。

 

『それでは第2試合、エスズキングダムVSサラマンダーボーイズ……試合開始!!』

 

 そしていよいよ戦いの火蓋は気って落とされた。

 

 

 

空也SIDE

 

「まずは俺が行く。ゆうじ、敵の実力をしっかり見とけよ」

 

「はい、気をつけて」

 

 まずは俺が先陣を切ってリングに上がる。

相手側の一番手は霧夜エリカ……要芽姉様(上から2番目の姉で弁護士)の仕事を手伝った時に会った事があるけど、彼女の実力はスバルの奴と大差無かったはず……それに気付かない阿呆とも思えないが……とりあえず様子を見てみるか。

 

「シッ!」

 

 開始早々に霧夜が先制攻撃の蹴りを放ってきた。

 

(……速い!?)

 

 回避しながら驚愕する。以前体育武道祭で見た時より遥かにスピードも鋭さも上がってる!

 

(だが、俺には及ばない!!)

 

「ぐっ!」

 

 カウンター気味にパンチを繰り出し霧夜を弾き飛ばす。

 

「ッ!!」

 

 しかしココで大和が乱入して霧夜の援護に入ろうとする。

 

「させるか!!」

 

 しかしこっちもゆうじが乱入して大和を止めに入る。

 

「(ニヤリ)……!!」

 

「うわっ!?」

 

 しかし突然大和は体の向きを変えて俺ではなくゆうじに飛び掛り、二人はそのままリングの外で揉み合いになる。

 

「ゆうじ!」

 

「大丈夫です。そっちをお願いします!!」

 

「分かった!!」

 

 ゆうじの無事を確認し、俺は再び霧夜の方へ向き直った。

 

 

 

ゆうじSIDE

 

 リング上での闘いを空也さんに任せて僕は場外で大和さんと対峙する。

歳は僕と殆ど変わらないけど空也さんが一目置くほどのファイターだ、油断は出来ない。

 

「行くぞ!」

 

 まずは様子見だ。駆け寄って袈裟斬りのように棍で殴る。

 

「チッ!!」

 

 紙一重で避けられる。だけどまだまだ……。

 

「《旋風棍!!》」

 

「グッ!?」

 

 棍を回転させながら再び突撃。大和さんは鉄爪で防ぎながら後ろへ飛び退く。

 

「ッ!!」

 

 バックステップの直後、即座に体勢を立て直し大和さんは飛びかかり、僕の懐へ入ろうとする。

 

「甘い!!」

 

 すぐさま棍を手放して地面に落とし、相手の鳩尾に膝蹴りを叩き込む。

 

「カハッ……!」

 

「棒術だけが僕の取り柄じゃないんだ!《暫烈拳!!》」

 

 怯んだ相手に拳の連打を叩き込む。

イケる!空也さんが一目置く程の策士でも策を出す前に畳み掛ければ勝てない相手じゃない!!

 

「これでラス……」

 

 

『むにゅ』

 

 

「へ?」

 

 あ、あれ……何だ?この感触……男にしては妙に胸が…………。

ま、まさか…………!?

 

 

 

空也SIDE

 

 霧夜との闘いは当初こそ霧夜が一気呵成に攻めてきたがやがて身体能力の差が表れ始め、今では霧夜は防戦一方になりつつあった。

 

「悪いが一気に決めるぞ!《飛燕疾風脚!!》」

 

 ダメージを受けた相手が怯んだ隙を見逃さず一気に跳び蹴りで畳み掛ける。これで決まりだ!!

 

「空也さんダメだ!!そいつは……」

 

「え?」

 

「もう遅ぇよ。《空転爪!!》」

 

 ゆうじが何かを叫んだと同時に霧夜がそう呟いた。

いや、この声は霧夜じゃない。この声質は大和だ!

 

「しまっ……ぐぁぁぁぁ!!!」

 

 気付いた時にはもう遅く、大和は隠し持っていた鉄爪を装備したその腕で俺の胸板を切り裂いた。

 

「ケ〜〜〜〜ケッケッケッ!!引っかかりやがったな、最初から俺達は入れ替わってたんだよ馬〜〜鹿!!」

 

 師匠譲りの悪役笑いと共に大和は顔に付けていたマスクとカツラを引っ剥がし、服の中に入れたパッドを取り外した。

 

「空也さん!……クソ!!」

 

 慌てて俺を助けようとリングに向かってくるゆうじ。しかしそうはさせまいと大和も動く。

 

「ハァァァァ!!」

 

 大和の気合の声と共にリングを気の壁が覆い、ゆうじの行く手を阻んだ。

 

「《我流・気闘障壁》……これでリングは完全に遮断された。あとは空也先輩、戦闘権を持つアンタを倒せば俺達の勝ちだ」

 

 畜生……最初からこれが狙いでゆうじを場外で戦わせたのか。

完全にやられたわけじゃないがさっき胸に喰らった一撃はかなりのダメージ……やばいなこりゃあ……。

こうなったら……覇王翔吼拳を使わざるを得ないかもな。

 

 

 

レオSIDE

 

「なるほど……違和感の正体はこれだったのか」

 

 完全に決まった大和の策を目にして乙女さんは一言漏らす。

まず姫に変装した大和がリング上で空也と戦う。格下が相手だと思わせて油断させ、気闘障壁に必要な分のエネルギー戦いながら溜め込む。

次に大和に変装した姫がゆうじを場外に誘い出し、リングから遠ざける。

つまり最初から姫の役目は足止め。全ては空也に手傷を負わせ、孤立させるための布石。

 

「あの障壁を破るには術者のエネルギー切れを待つか、それ相応の威力を持った気の技でなければ無理だ。だが大技というものは威力が大きければその分隙も大きい。完全に試合のペースは直江が掴んでいるな」

 

「うん、空也はかなりのダメージを受けてるから時間切れは期待できない。となると大技で突破するしかない。空也はかなり不利だ……だけど」

 

 それでもアイツはそう簡単に負けるようなタマじゃない。

なぜならアイツは柊空也、天をも越える昇龍だから。

 

 

 

NO SIDE

 

「この技そんなに長続きしないんだ、即効で決めさせてもらいますよ空也先輩」

 

 不適に笑いながら大和は両手に付けた鉄爪を構えて跳び上がる。

 

「切り刻んでやるよ!《華中飛猿爪(かちゅうひえんそう)!!》」

 

 凄まじい勢いで回転しながら空也めがけて突っ込んでくる。

 

「ぐああぁぁぁぁ!!!」

 

 目にも留まらぬその速度のその攻撃は傷付いた身体の空也に避ける事は不可能。瞬く間に空也の身体に無数の切り傷が刻まれる。

 

「一撃だけだと思うなよ……《気爪跳弾陣(きそうちょうだんじん)!!》」

 

 だがこれで終わるような大和ではない。回転したまま自らが生み出した気の壁に跳ね返り縦横無尽にリング内を飛び跳ね、再び空也の身体に斬撃を叩き込む。

 

「ぐがあああぁぁぁぁ!!!!」

 

「空也さん!クソ!!」

 

 空也が傷つけられる一方でゆうじは懸命に障壁を破壊しようと棍で障壁を殴りつけるがまるで効果が無い。

「ゆうじ……お前はそこにいろ。霧夜が余計な邪魔しないようにな」

 

「で、でも……」

 

「…………」

 

「……分かりました」

 

 なおも心配するゆうじを空也は真剣な眼差しで見詰める。その表情を見てゆうじは空也が何を言わんとしているかを理解し、頷く。

 

「ごちゃごちゃ喋ってる暇は無いぞ!!」

 

 しかしそんなことはお構い無しに大和の斬撃が空也を襲う。

 

「グゥッ……いい気になってられるのも今の内だぜ……」

 

 幾度と無く襲い掛かる斬撃に耐えながら空也は構え、気を蓄える。

 

「覇王翔吼拳か……確かにそれなら障壁は破壊出来るな。だがその技は威力がでかい分隙も大きい。俺に当てることが出来なきゃどっち道アンタの負けだ」

 

「だろうな。だけど逆に言えば当てさえすりゃ俺の勝ちって事だろ」

 

 不利な状況の中でも空也は笑みを浮かべて大和を見据える。

 

「一撃に賭けるってワケか。なら俺も次で決めてやるよ。行くぜ!」

 

 掛け声と共に再び回転しながらリング内を飛び回る大和。

そのスピードは先ほどの比ではない。予告通り次で止めを刺す算段だ。

 

「……………」

 

 空也は直立不動のまま動かない。ただ静かに構えながら機を待つ。

 

「とどめだ!喰らえぇぇーーーー!!!!」

 

 そして遂に大和が動いた。空也めがけて一直線に襲い掛かる!!

 

「(今だ!!)《覇王翔吼拳!!!!》」

 

 大和が攻撃を仕掛けるその一瞬、空也の両手から巨大な気の塊が放たれた!!

 

「かかったな!!」

 

 しかし、自らに迫りくる気の砲弾のを前にして大和は笑った。

空也がそれに気付いた時、気弾は大和のからだをすり抜けてしまった。

 

「残像拳!?」

 

「大正解。これで終わりだ!!」

 

 空也の背後から勝利を確信した大和の声が聞こえる。

大和は笑みを浮かべたまま空也に飛び掛る。

 

「ああ、終わりだな……ただしお前がな!!」

 

「!?」

 

 しかし勝利を確信していたのは空也も同じだった。

不自然な空也の態度に大和は覇王翔吼拳の飛んだ先を見て、そして愕然とした。

障壁が破壊され、尚も飛び続ける気弾の先にはゆうじが棍を構えて立っていたのだ。

 

「《リフレクトシュート!!》」

 

 そのままゆうじは気の砲弾を棍で大和めがけて打ち返した。

 

「しまっ……がああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 大和がそれに気付いた時には既に遅く、ゆうじによって打ち返された気弾は大和に直撃し、大和は上空へ吹き飛ばされた。

確かに鹿島ゆうじは空也達と比べて基礎能力は劣っている。だがそんな彼にも一つだけ誰にも負けないと自負できるものがあった。

それは防御。敵の攻撃を防ぎ、飛び道具を跳ね返すなどの防御という面においては空也たちをも上回るテクニックを秘めていた。

 

「ゆうじの技をもう少し調べとくべきだったな……コイツでラストだ」

 

 落下してくる大和を前に空也はありったけの気を拳に集中させて構える。

 

「極限流一撃必殺奥義……《真・天地覇煌拳(しん・てんちはおうけん)!!》」

 

「グォァァァッ!!!」

 

 驚異的な威力を込められた正拳突きが大和の体に鉄杭のように打ち込まれる。

その破壊力はまさに一撃必殺と呼ぶに相応しい。

 

「カ……ハッ……」

 

 極限流の奥義を続けざまに喰らっては流石の大和も立ち続けることは出来ず、そのままダウンした。

 

「カ、カウントをとります……1……2」

 

 凄まじい戦いに呆然とするレフェリーだったが、大和のダウンと同時にカウントを数え始める。そして……

 

「9……10!!勝者・柊空也!!!!」

 

 遂にカウント10を迎え、試合終了のゴングが鳴り響いた。

 

●エスズキングダム―サラマンダーボーイズ○

決まり手、真・天地覇煌拳



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狂気の男の娘

NO SIDE

 

「う……ん……」

 

 第2試合が終了して数分後、大和は医務室で目を覚ました。

 

「あ、起きた?」

 

 隣のベッドから包帯を巻いたエリカが声をかけてくる。

起き上がろうとする大和だったがそれと同時に体中に鈍い痛みが走る

 

「……負けたか」

 

 痛みによって空也との戦いを思い出し、敗北を自覚した大和は静かにそうつぶやいた。

 

(ケケッ、俺もまだまだ修行が足りないか。また一から修行のやり直しだな)

 

 自嘲気味な笑みを浮かべ、大和は右手を強く握り締める。

しかしその瞳には強い決意を孕んだ光が宿っていた。

 

 

 

レオSIDE

 

 一回戦も後半に入り、次の試合は橘さん達のチームの出番だ。

不本意とはいえ橘さんは俺の今後に関係する人物なのでこのチームの実力には大いに興味がある。

それで敵情視察……というわけではないが二人の闘いを乙女さんと共にじっくり観察してみることになったんだが……。

 

「…………」

 

 乙女さんが物凄い殺気を出しながら橘さんを睨み付けてるため周囲の人間はかなり引いている。

 

「…………フン!」

 

 ゲゲッ!!橘さんがこっちに気付いて乙女さんに向かって中指を立ててる!?

こ、これは所謂『FUCK YOU』の意思表示……。

 

「クク……クククク……あの女、何処までも私をコケにしなければ気が済まんようだな」

 

 や、ヤベェよ……乙女さん口元じゃ笑ってるけど目が全然笑ってない。

 

「ならばこっちにも考えがあるぞ!!レオ!!」

 

「へ?んんっっーーーー!!?!!?」

 

 突然乙女さんは俺の顔を掴んでキスしてきた!?しかも濃厚なヤツを!!

ある意味嬉しいけどこれはまずいのでは……。

 

「く・ろ・が・ねぇぇ………!!」

 

 やっぱり…………。

 

 

 

乙女SIDE

 

 フン、橘の奴め、私とレオの絆の深さを思い知ったか!!

 

「鉄ぇーー!!貴様、殺す!!」

 

「上等だやってみろ!!」

 

 刀を構えて向かってこようとする橘にこちらも刀を抜いて観戦席(選手用)から飛び出して身構える。

もう大会などどうでもいい!今ココで橘と決着を付けてやる!!

 

「待てよ」

 

 しかし突然一人の男が私の前に立ちふさがった。

 

「……え?」

 

 そしてそれと同時に視界が一瞬真っ暗になり、気がつくと私の体は空を舞っていた。

 

 

 

レオSIDE

 

 それは一瞬だった観戦席を飛び出した乙女さんの体が一瞬死角になり、その一瞬のうちに乙女さんの体は上空へと移動していた。

いや、移動されていたというべきか。目の前には俺達と一回戦で当たるD&Iハリケーンズの一人、小野寺拓己の姿があった。

 

「今の……お前が?」

 

 落下してきた乙女さんをお姫様抱っこでキャッチしながら俺は小野寺に訊ねる。

 

「ああ、まぁな。俺達と戦う前に余計な体力使われちゃつまんねぇからな。ましてや折角の上妻と松笠のミドル級チャンプ同士の戦いだ。それをふいにするのはゴメンだ」

 

「上妻……そうか、お前『鳥人』か」

 

「ああ、そうだ」

 

 上妻の地下闘技場に関して噂は聞いた事がある。そしてその闘技場の中で1、2を争う実力者で鳥人の異名を持つ男、それが目の前にいるこの男、小野寺拓己か……。

 

「いい機会だ。松笠と上妻のミドル級同士、どっちが上か決めようじゃねぇか」

 

「ああ、首洗って待っとけ」

 

 少しながら言葉を交わして小野寺はその場から立ち去った。

 

「乙女さん、悪いけど橘さんとの決着は準決勝まで待って……」

 

 話を終えて乙女さんのほうに目を向けるが……。

 

「レオにお姫様抱っこ…………///」

 

 ………最早何も言うまい。

敢えて言う事があるとすれば、目茶苦茶可愛すぎるよ、乙女さん。

 

 

 

ふぶきSIDE

 

「放せ!離せと言ってるんだ羽丘!!あの女を殺る!!」

 

「落ち着きなよ。失格になったら橘家の恥になるでしょ?向こうも落ち着いたみたいだしさ」

 

 鉄という人に斬りかかろうとする橘さんを抑えながら僕は着ていた上着で橘さんをコーナーポストに括り付ける。

 

「貴様!何をする!!」

 

「また暴れられたら困るから、しばらくそこで頭冷やしなよ」

 

「あの……君達、もういい?」

 

「はい、すいません。面倒かけちゃって」

 

 レフェリーに一言謝罪して僕はリングに上がる。

 

「おいおい、良いのか?パートナーを縛り付けちまってよぉ」

 

「構わないよ。アンタ等程度なら僕一人で十分だし」

 

「何ぃ!?」

 

 雑魚の分際で挑発してくるデカブツ(士慢)にこっちも小馬鹿にしたように嘲笑ってやる。

これだから嫌なんだよね、身の程知らずの馬鹿ってさ。相手の実力も分からない癖に自分を大物に見せようとする。

 

『それでは第三試合、ビッグ・ジャガーズVSウォーリアーズ……試合開始!!』

 

 さ〜て、どう料理するかな?

 

 

 

NO SIDE

 

「このオカマ野郎がぁーーー!!!!」

 

 試合開始の合図と同時に士慢は得意の張り手の乱打をふぶき目掛けて繰り出す。

 

「フン……芸の無い攻撃だね」

 

 しかしその攻撃は一撃として当たる事無く空を切る。

 

「この野郎!!ちょこまか動いてんじゃねぇ!!!」

 

 何度避けられても休む暇無く士慢は張り手を繰り出す。

しかしこの一撃もまた空振りに終わる。

そしてその隙を突いてふぶきは士慢の真上に跳び上がった。

 

「そんなにお望みなら動かないであげるよ。ただし……叩きのめされるのは君の方だけどね」

 

 士慢の肩に乗り肩車の体勢のままふぶきは士慢の頭部目掛けて肘を振り下ろした!

 

「グッ!テメ……ガッ!!」

 

「喋ると舌、噛んじゃうよ」

 

 続けざまに二発、三発とふぶきは肘鉄を士慢の脳天に叩き込んでいく。

 

「グガッ!!……グェァッ!!ウグァ……」

 

 凄まじいエルボーの連打がまるで暴風雨のように士慢の脳天に打ち込まれていく。

先程まで威勢の良さを見せていた士慢も今ではマットに膝を付き、顔面を夥しい量の血で染め、ただエルボーを喰らい続けるだけのサンドバック状態だ。

 

「ホラホラホラァッ!さっきまでの減らず口はどうしたんですかぁ!?」

 

「ウ…グ…ァァ……」

 

 常人なら目を覆う程の惨状の中でもふぶきは攻撃の手を全く緩めない。むしろ士慢を痛めつける程にその表情は残忍な笑みに歪んでいく。

 

「士慢!!貴様、もうやめろ!!」

 

 ふぶきのあまりにも残虐な闘いぶりに見兼ねた半田がふぶきに飛び蹴りで襲い掛かるがいとも簡単に回避されてしまう。

 

「何?選手交代?交代するのは良いけど片付けといてよ、そのボロクズをさ」

 

「き、貴様ぁ!許さんぞ!!」

 

 タッグパートナーを罵倒された怒りのままに半田は殴りかかる。

 

「遅すぎだね」

 

「な!?」

 

 しかしその拳も吹雪には当たる事無く逆に掴まれてしまう。

 

「つまんないからもう終わらせてもらうよ……!!」

 

 掴んだ腕を引き寄せながら半田の顔面にふぶきは頭突きを叩き込む!

 

「ウグァッ!!」

 

「これで終わりじゃないのは、解ってるよねぇ?」

 

 直後にふぶきは腰部のホルスターに収納された二本の短棒を取り出し、怯んだ半田の顔面を殴り飛ばす!!

 

「ブッ!!」

 

 しかしふぶきの攻撃は一度だけでは終わらない。そこから先はまさに先程の惨劇の再現も同然だった。

 

「アハハ!!自慢のそのイケメン、ぶっ潰れたらどんな気分かなぁ?」

 

 相手の流血で返り血が飛ぶのもお構い無にふぶきは半田の顔面のみを殴り続ける。

その表情には一切の慈悲の欠片も無い。

ただ血に餓え、血を求める悪魔の笑みを浮かべ、ふぶきの凶行は続く。

 

「ガハ……お、の……れ」

 

 遂にダウンする半田。それでもプライドと気力、そして仲間を叩きのめされたことへの怒りで立ち上がろうとする。

 

「まだ、終わって……な……フゴォッ!!!?!?」

 

 立ち上がろうとする半田にふぶきはただ無慈悲に半田の口目掛けて蹴りを見舞った。

 

「…………」

 

「やっぱつまんないなぁ……この程度じゃ」

 

 白目を剥いて気絶した半田を見下ろしながらふぶきはそう呟いた。

 

「そ、そこまで!!勝者・羽丘ふぶき!!」

 

 審判の声と試合終了のゴングが会場内に空しく響いた。

 

●ビッグ・ジャガーズ―ウォーリアーズ○

決まり手、フェイスクラッシュキック(顔面蹴り)

 

 

 

スバルSIDE

 

「な、何なんだよありゃあ……」

 

 カニやフカヒレ達と一緒に観客席で試合を観戦していた俺は余りにも陰惨な試合を前に戦慄して一言漏らした。

俺も他人と喧嘩する時相手を殴る事に躊躇はしない方だが……あそこまで残忍じゃないぞ。

 

「ひ、酷い。酷すぎるわよ、こんなの!!」

 

 近衛の叫びを誰もが無言で肯定する。この試合は余りにも血生臭過ぎる。

西崎さんに至っては既に失神している。

 

「あ、あんなのが相手でレオも乙女さんも大丈夫なのか?それに一回戦では村田を倒した奴等と戦わなきゃいけないんだろ」

 

 フカヒレが何とも情けない声を上げる。自分が戦うわけでもないのに。

 

「オメー等揃いも揃って何弱気になってんだよ!!戦う前からレオと乙女さんが負けるみたいなこと言ってんじゃねぇよ!!」

 

 カニの怒鳴り声に周囲が静まり返る。

 

「そ、そうよね。応援してる私達がこんなんじゃ鉄先輩達も思いっきり戦えないしね」

 

「カニにしては良い事言うぜ!よっしゃ!俺が鮫氷家に伝わる必勝の舞を!!」

 

「やめろ!!あれただの裸踊りだろうが!!」

 

 カニのお陰でいつもの調子が戻りやがった。

 

「カニ、お前凄ぇな」

 

「ん?何か言った?」

 

「いや、何にも」

 

 

 

NO SIDE

 

「相変わらず悪趣味な戦い方だな」

 

 試合が終了した直後、瀬麗武(縛っていたふぶきの上着は無理矢理引きちぎった)が渋い表情でふぶきに声をかける。

 

「悪趣味おおいに結構、これが僕のやり方だから」

 

 皮肉を意に介す事無くふぶきは選手用の観戦席に足を向ける。

その先には次の試合にて戦う獅子蝶々とD&Iハリケーンズの姿があった。

 

「次はどっちかなぁ?フフフフ……」

 

 すれ違い様に不敵な笑みを浮かべながらふぶきは去っていく。

その姿をレオ達は無言のまま見つめていた。

 

 

 

レオSIDE

 

 羽丘ふぶきか……。橘さんも恐ろしい奴をパートナーに選んだもんだ。

 

「油断できないな……しかし、その前に目の前の難敵をどうにかしないとな」

 

 乙女さんが真剣な眼差しで口を開く。そうだ、まず一回戦を突破しなければアイツと戦う事も出来ない。

 

「ところで乙女さん、もう落ち着いた?」

 

「ああ、お陰さまでな。色々すまなかったな」

 

「良いよ。乙女さんの可愛い一面見れたし」

 

「そ、それは言うな!」

 

 俺の返しに乙女さんは顔を赤くして反論する。それがまた何とも可愛い……。

 

『間も無く、一回戦第四試合を開始します。出場選手はリングの方までお願いします』

 

「よし、勝ちに行くぞ。レオ!!」

 

「おう!!」

 

 試合開始を前にして俺達は気を引き締め、リングへと向かった。



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変幻自在!亜空と影の脅威!!(前編)

レオSIDE

 

 第三試合までが終了し一回戦第四試合、いよいよ俺達の出番だ。

俺と乙女さんはリングに上がり、二つのコーナーポスト越しに対戦相手の二人と相対する。

 

「しかし上妻か……松笠以外にも闘技場があったとはな。レオ、お前はあの二人について何か知ってるのか?」

 

「いや、俺も噂程度にしか……他の闘技場の事は存在以外あまり知られていないんだ」

 

 ちなみにこれにはれっきとした理由がある。

 

元々地下闘技場は非合法にも近い施設。

そこで体面を保つために形式上は『大企業要人のボディガード選抜のための施設』という名目で運営している。

そこで一番問題になるは闘技場同士による抗争だ。

松笠には霧夜カンパニー、上妻には霧島重工と闘技場にはかなり大きいスポンサーが就いている。

これでもし闘技場同士の抗争なんて事になったらそれは大企業同士の抗争にも発展する可能性がある。

それを防ぐために日本中の闘技場には不可侵条約が結ばれている。

極稀に偶然別の闘技場の選手同士が喧嘩などになったり、今回の俺達の様になった場合も企業は一切関与しない事でそれぞれの企業は勢力の均衡を保っているのだ。

 

『これより、一回戦第四試合を開始いたします!!』

 

 そうこうしている内にいよいよ試合開始の時が間近に迫ってきた。

相手側の一番手は……予選で志村を一撃で倒した山城優一だ。

 

「よし、私が先に行く」

 

「乙女さん、油断しないようにね。たぶん相当強いよ、アイツは」

 

「ああ。任せろ!」

 

 強気にそう言い放ち、乙女さんはロープを飛び越えてリング内に立った。

 

 

 

乙女SIDE

 

 試合開始のゴングと共に私と山城はリング中央で構え、睨み合う。

 

「……骨法か。随分と珍しい技を使うな」

 

 山城の構えに思わずそう漏らす。

骨法とは主に忍者が用いると言われる武術だ。

空手やボクシングなどのメジャーなものと比べ、一般人には余り名は広まっていない。

 

「珍しいからって嘗めてかかると怪我じゃ済まねぇぜ」

 

 私の言葉に山城は挑発的な笑みを浮かべる。

油断する気など更々無い。油断と慢心は敗北の親、レオとの闘いから学んだ事だからな。

 

『それでは第四試合、D&IハリケーンズVS獅子蝶々……試合開始!!』

 

「行くぞ!《斬影拳!!》」

 

 開始と同時に山城が仕掛けてきた。

 

(早い!!)

 

 一瞬にして間合いを詰め、残像を伴なう程の素早い踏み込みからの肘打ちが私の胸板目掛けて迫り来る。

 

(だが、早いといってもレオ程ではない!!)

 

 紙一重で左手で肘打ちを左手で防ぎ、開いている右手でカウンター気味にストレートを繰り出す。

 

「おっと」

 

 だが相手の反応も素早く、身を屈めて私の拳を回避する。

 

「《昇竜弾!!》」

 

 そのまま山城は両腕を曲線を描くように振り回しながらの打撃を繰り出す。

 

「グッ!」

 

 体をそらして何とか回避するがわずかに体を掠めてしまう。

 

「《幻影不知火・飛影!!》」

 

「な!?……グアァッ!!」

 

 一瞬で私の背後に!?その上蹴りを見舞ってきた!

クッ、コイツ……瞬発力が半端じゃない。

 

「クソッ……嘗めるなよ……」

 

 吹っ飛ばされながらも体勢を立て直して気を整える。

 

「何する気か分からんが、速攻で倒す!《飛翔拳!!》」

 

 私を逃がすまいと山城は気弾を撃ち出してくる。だが……

 

「《波動双光弾!!》」

 

 山城の気弾に私も気弾で返す。

私の気弾は山城の気弾とぶつかり合い、そしてそれを突き抜けた!

波動双光弾は気弾を二重にして放つ波動光弾の発展技。一発の威力が同じなら間違いなく私の気弾が打ち勝つ!!

 

「ウグッ!!」

 

「さっきのお返しだ!!《疾風突き!!》」

 

 気弾を喰らって仰け反る山城のボディに追い討ちの正拳突きを叩き込む!!

 

「ゲホッ!!」

 

「(よし行ける!!)《零気光撃弾(れいきこうげきだん)!!》」

 

 鳩尾への一撃に怯む山城へ零距離からの気弾を撃ち込む!!

しかし……。

 

「ッ!?」

 

 突如として私の体は背後から何者かに捕まれて持ち上げられ、私が放とうとした気弾は見当違いの方向へ飛んで行った。

馬鹿な!?山城(コイツ)のパートナーである小野寺は場外から動いていないし遠距離からの気弾を放ったようなそぶりも無かった。第一そんな真似をしてもレオがカットに入る筈だ!

 

「!?……グァッ!!」

 

 ジャーマンスープレックスでマットに叩きつけられる直前私は見た。

 

「か……影分身、だと」

 

 私の体を掴んでいるのは他ならぬ山城優一本人だった。

 

 

 

NO SIDE

 

「チィッ……まさか一回戦から影分身(コイツ)を使う事になるとはな」

 

 攻撃を喰らった鳩尾を抑えつつ優一は体勢を立て直す。

影分身……それは自身の気を練り合わせることにより実体を持った分身を生み出す技である。

先程の反撃方法はいたってシンプル。乙女が追撃を加えようとした時咄嗟に乙女の背後に影分身を生み出し、そのままジャーマンスープレックスで投げ飛ばしたのだ。

 

「こんな技を持っているとは……厄介な奴だな、貴様は!!」

 

 影分身による拘束を振り解き、乙女はそのまま分身体を蹴り飛ばす。

ダメージを受けた分身体はあっけなく崩れ去り消滅してしまう。

 

「所詮は気で作った人形か、力はある程度真似る事が出来ても強度はそれほどでもない」

 

「まぁな、だが汎用性は高いぜ」

 

 乙女と向かい合いながら優一は静かに笑みを浮かべながら再び影分身を生み出す。

その数は本体の優一を加えて8人。その8人の山城優一が乙女を取り囲む。

 

「ココからは本気だ!再起不能になっても恨むなよ!!」

 

「面白い、かかって来い!!」

 

 再び戦闘体勢に入り、優一は分身体と共に乙女を取り囲み、襲い掛かる。

 

「行くぜぇ!!《空破弾(くうはだん)!!》」

 

 まずは一人目の優一が仕掛ける。気を纏ってのドロップキックを繰り出す。

 

「チッ!」

 

 しかしこれは回避。しかし二人目が背後で待ち構える。

 

「やられる前に!」

 

 優一が仕掛けるよりも先に乙女は素早く相手の体を掴んでマット目掛けて投げつける。

しかし他の分身体二人がマットに激突する前に優一の体をキャッチして激突を防ぐ。

 

(チッ…流石にそう簡単に消えてはくれないか。……だが、影分身を七体も動かすとなればそれ相応の集中力が必要の筈。ならば一人一人の攻撃を確実に捌いていけば必ずチャンスは来る!!)

 

 続けて残り三人の内の一人が乙女に飛び掛り、拳を繰り出す。

 

(速い!本体か!?だが……!!)

 

 速すぎるとも思える本体からの直接攻撃のタイミングに一瞬面食らいながらも乙女は繰り出された拳を受け止め、そのまま優一を引き寄せ、肩固めに捕らえ、一気に頚動脈を締め上げる。

 

「ウグア…!」

 

 乙女は持ち前の怪力で締め上げを強め、優一の顔からは血の気が失せ始め、苦悶の表情を浮かべる。

 

「完全に捕らえたぞ!この体勢なら分身体や小野寺に邪魔されてもお前を盾に出来る!!」

 

「そ、それは……どうかな?」

 

 苦悶の表情の中に優一は笑みを浮かべだす。

そして次の瞬間、突然優一の両肩から何かの異物が”生えてきた”。

 

「な!?」

 

 流石の乙女も目をギョッと見開いて驚愕する。

優一の肩先から生えてきたもの、それは紛れも無い”人間の腕”だ!!

 

「俺の影分身はただ人数を増やすだけじゃない!こうやって器用に体の一部だけを分身させる事も出来るんだぜ!!」

 

 叫びと共に優一は影分身で生成した二本の腕で乙女の顔面を殴り飛ばし、肩固めから脱出する。

 

「ガッ……!!」

 

「貰ったぜ!!《八蹴空破弾(はっしゅうくうはだん)!!!》」

 

 思わぬダメージに怯む乙女を取り囲み、優一は分身体を含め8人一斉に乙女目掛けて空破弾を放った!!

 

「クソッ…まだだ!」

 

 しかし乙女の闘気は未だ消えない。自分に襲い掛かる攻撃を見据え、全身に力を蓄える。

 

「《爆発波!!》」

 

「!?…うわぁああ!!」

 

 優一の八方からの蹴りが命中しようとしたその刹那、乙女の全身から文字通りまるで爆発するかの様に気が放出され、優一は吹き飛ばされ、分身体は全て消え去った。

 

「喰らえぇぇーーーー!!!!」

 

 吹っ飛んだ優一の顔面に乙女は追撃のローリングソバット(空中後回し蹴り)を叩き込んだ!!

 

「ふぐぉおお!!!」

 

 鼻っ柱にクリーンヒットし、優一は思わず仰け反る。

しかしそれでもまだダウンはしない。倒れそうになる体を足で支え、鼻血を拭いながら乙女を睨み付ける。

 

「チッ……今のでダウンしないか……これ程出来る奴とは」

 

「ケッ……こっちの台詞だ」

 

 まさに一進一退……互いに一歩も譲らぬその戦い。

しかしこれはこの戦いの前半でしかない。

 

 

 

乙女SIDE

 

「乙女さん!」

 

 レオが私の方に向かって手を伸ばす。選手交代(タッチ)を求める合図だ。

長くなりそうだし、ココは一旦退くべきか……

 

「ああ、分かった。頼んだぞ、レオ!」

 

 私はこれに同意し、獅子蝶々側の戦闘権はレオに移る。

 

「優一、俺達も交代だ!」

 

「ああ」

 

 そして山城も小野寺と交代し、戦いはレオと小野寺の一騎打ちへと変化していく。

 

 

 

NO SIDE

 

『若獅子』対馬レオと『鳥人』小野寺拓己……互いに獣の異名を冠する両者、果たして軍配が上がるのは?

 

 

 



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変幻自在!亜空と影の脅威!!(中編)

レオSIDE

 

 乙女さんの戦いが一段落し、今度は俺の戦い。

相手は『鳥人』と呼ばれる小野寺拓己、どれほどの実力かは分からないが少なくとも山城と同等は間違いない。

チッ……一回戦から面倒なのと当たったもんだ。燃える展開だけどな。

 

「…………」

 

「…………」

 

 お互いに構えてジリジリと距離を詰めていく。

 

(なんだコイツの構え方、山城と似ている。コイツも骨法の使い手か?)

 

 小野寺の構えは多少違うものの山城とほぼ同じ。違いがあるとすれば攻撃に重点が置かれている事ぐらいだ。

 

「行くぞ!!」

 

 最初に仕掛けてきたのは相手側からだ。気を纏った手刀を繰り出してきやがった。

 

「っ!?」

 

 紙一重でこれを回避。しかし胴衣を掠めて胴衣がスッパリと切り裂かれる。

なんて切れ味だ……っていうか。

 

「テメェ!折角の乙女さんとのペアルックを!!特注で高かったんだぞ!!」

 

「知るか!もう一発喰らいやがれ!!《ベルリンの赤い雨!!》」

 

 再び手刀で襲い掛かってくる小野寺。だが……

 

「同じ技が二度も通用するかぁ!!《修羅旋風拳!!》」

 

 一回喰らえば相手の攻撃スピードは大体分かる。コイツの攻撃スピードも結構速いが俺ほどじゃない!!

ならばコイツと同時に攻撃を繰り出せば俺の方の分がある!!

 

「グハッ!」

 

 予想は的中し俺の拳の方が僅かに早く小野寺の顔面を捉え、小野寺を吹っ飛ばした。

 

「もう一発喰らいやがれ!!」

 

 吹っ飛ぶ小野寺を追いかけるように接近し更に追い討ちを狙う。しかし……

 

「《スペースファルコン!!》」

 

「な!?フゲッ!!」

 

 床に激突する寸前、小野寺はくるりと一回転して一瞬の内に体勢を整え、カンガルーキックを放ってきた。

 

「まだまだ行くぜ!!」

 

 直後に小野寺はロープを踏み台に高く跳躍し俺目掛けて急降下してくる。

クソが!迎撃してやるぜ!!

 

「(ニヤッ)甘いんだよ!」

 

「!?」

 

 落下してくる小野寺目掛けて繰り出した俺の拳は小野寺に受け止められた。

だが驚くのはそこではない。小野寺は俺の拳を掴み、そのまま逆立ちしているのだ。

こんな芸当を可能にするにはずば抜けた身軽さとバランス感覚が要求される。正直言って俺や大和でもこれは真似出来ない。

 

「クソッ!」

 

 急いで掴まれた拳を振り解こうとするが小野寺は素早く掴んでいた拳を離し、今度は俺の頭の上に両手で着地する。

 

「スピードじゃともかく、身軽さは俺の勝ちのようだな。《ハンブルグの黒い霧!!》」

 

「グアァッ!!!」

 

 そのまま顔面にドロップキックを叩き込まれた。

 

「お寝んねするのはまだ早いぜ!!」

 

 俺が倒れるよりも早く小野寺は俺に飛びつき、俺の体に脚を絡めてそのままぐるぐるとポールダンスの様に回転していく。

 

「人間ポールダンスだ!!」

 

「うおぉぉ!?」

 

 そのまま凄まじい遠心力で回転を続け、俺は頭を両脚で挟まれた状態で投げ飛ばされた。

だが……!!

 

「この程度で、終われるかよ!《気掌旋風波!!》」

 

 体勢なんか気にせず旋風波を撃ち出す。ただし狙いは小野寺じゃない、その反対方向だ!

 

「!?」

 

「喰らいやがれ!!」

 

 ロケット噴射の要領で俺は小野寺目掛けて吹っ飛び、そのまま相手の腹に肘鉄を叩き込む!

 

「グオォッ!!!」

 

 思わぬ一撃に苦悶の表情を浮かべる小野寺。だがこれだけじゃ終わらない!

すぐさま小野寺の背後に回りこんで頭部を掴んで延髄に膝を押し当て、そのまま床に叩きつける!!

 

「さっきのお返しだ!《カーフ・ブランディング!!》」

 

「グゲァァッ!!!!」

 

 よっしゃ!完全に決まった!!こりゃもうKO……

 

「野郎……ふざけやがって……!」

 

 ……なワケ無いか。この程度でKO出来りゃ苦労は無いし。

さ~て、仕切り直しといくか!!

 

 

 

スバルSIDE

 

 レオ達の戦いが白熱するなか、俺達竜命館の面々もレオ達の戦いに見入っていた。

 

「凄い……鉄先輩や対馬を相手に互角だなんて」

 

「しかも、あのスピード最速のレオが身軽さで翻弄されるなんてボク初めて見たよ」

 

 確かにあの小野寺とかいう奴の身軽さは尋常じゃない。

だがジャンプ力では負けててもスピードではレオも負けてない筈だ。

 

「おいフカヒレ、レオが戦ってんのにお前何携帯弄ってんだよ!」

 

 カニがフカヒレに怒鳴る。レオが戦い始めてからフカヒレは携帯とにらめっこを続けてやがる。

 

「いや、レオが戦ってるあの小野寺って奴さ、俺聞いた事あるんだよ。それを調べてて……あ、出たぞ!!」

 

 対戦相手のデータが出たらしく、俺達はフカヒレの携帯端末を凝視する。

 

小野寺拓己

年齢・18歳

格闘スタイル・骨法+レスリング

上妻地下闘技場ミドル級チャンピオン

凄まじいジャンプ力とバランス感覚を持つ事から『鳥人』の異名を取るファイター。

また、亜空間殺法と呼ばれる謎の格闘術を使うとも言われている。

備考・霧島重工の次女と交際中との噂あり。

 

「鳥人……それに亜空間殺法ってなに?」

 

「俺達に聞かれても困る」

 

 近衛の言葉にとりあえず突っ込む。まぁ、思わず訊ねてしまうのも無理は無いがな。

 

「な、何だと!!霧島重工って言えば日本有数の大企業じゃねぇか!!その令嬢と付き合ってるなんて……許せん!!レオォーーーー!!殺れぇぇーーーー!!!ぶっ殺せぇぇーーーーーーーーー!!!!!」

 

「オメーが死んでろ!!」

 

「もんぎゃぁぁーーーーーーーー!!!!」

 

 また始まったよフカヒレの悪ノリが……とりあえずカニが蹴っ飛ばしてくれたから良いものの…………フカヒレよ、そんなんだからお前は万年ギャグキャラなんて言われるんだぞ…………。

 

 

 

NO SIDE

 

 前哨戦を終え、再び構え合うレオと拓己。その姿には先程以上に気が漲っている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者無言のまま静かににじり寄る。

 

「「……ハァアアアアアアッ!!!」」

 

 そして同時に眼を”カッ”と見開き、お互いに殴りかかる。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

「だぁああああああああああ!!!!」

 

 超スピードでの拳の弾幕がぶつかり合う。

この状態に持ち込まれれば物を言うのは純粋なパンチ力とラッシュの速さだ。

 

「もらったぁ!!」

 

「グァ!」

 

 軍配が上がったのはレオ、パワーは互角ながらスピードではやはりレオが勝っていた。

渾身のパンチが拓己に叩き込まれ、拓己は後方へと弾き飛ばされる。

 

「クッ……まだだ!!」

 

 しかしすぐさま拓己は体勢を立て直し、リングロープの反動を利用し宙高く跳躍した。

 

(た、高い!なんてジャンプ力だ!?)

 

「俺が何故『鳥人』と呼ばれるか……その訳を教えてやるよ。行くぜ!!」

 

 そのまま拓己は急降下。凄まじい落下スピードでレオ目掛けてドロップキックを放つ。

 

「ッ!!」

 

 だがレオも持ち前のスピードと反射神経を活かし、これを紙一重で回避する。

しかし、これだけで終わる拓己ではない。

 

「まだまだぁ!!」

 

「な!?グアァ!!」

 

 突如拓己は体を上下反転させ、両手で着地すると同時にレオ目掛けて再びドロップキックを繰り出したのだ。

さすがにレオも続けざまにこられては反応もわずかに遅くなってしまい、二撃目をモロに喰らってしまう。

 

「お楽しみはこれからだぜ!《スペースラッシュ!!》」

 

「グァァッ!!」

 

 続けざまに三発、四発と四方八方からのドロップキックの連打がレオを襲い、立て続けにレオを蹴り飛ばす。

このような芸当を可能にしているのは拓己の並外れた身軽さとバランス感覚による機動力。そして着地から攻撃へ繋げる対応の素早さがあってこそ出来るものと言える。

これこそがまさしく彼が『鳥人』と呼ばれる所以なのだ。

 

「トドメだぁ!!」

 

 フィニッシュとばかりに上空から猛スピードでのドロップキックがレオの顔面目掛けて迫り来る!

 

「クソ……好き勝手やりやがって」

 

 ダメージを受けた体に鞭打ち、レオは己の右腕に力を集中させる。

 

(またあの竜巻を出す技か。だが無駄だ!いくら威力があろうと所詮は一直線に竜巻を飛ばす技、攻撃を中断して避けるのは容易い!!)

 

 拓己の予測は半分的中していた。

たしかにレオが出そうとしているのは『気掌旋風波』である。しかし、拓己が読み違えたもう半分はある意味致命的なミスだった。

 

「《旋風散波弾(せんぷうさんはだん)!!》」

 

 レオの拳から放たれた竜巻。だがそれは一本ではなく五本に拡散したものだ!!

 

「な!?うぉああああああっ!!!!」

 

 予想外の竜巻の多さに拓己は成す術なく飲み込まれ、体勢を崩してしまう。

そしてそこを狙ってレオが一気に接近する!!

 

「喰らえぇぇーーーー!!《修羅旋風拳!!!》」

 

「ガハァッ!!!」

 

 レオの渾身のストレートが拓己の顔面に叩き込まれる。そしてそのままレオは両手に気を集中させる。

 

「ダメ押しにもう一発喰らっとけ!!《メガスマッシュ!!》」

 

追撃の気弾が零距離から拓己の体に撃ち込まれ、拓己はリングへとまっ逆さまに落下していく。

 

 

『ズガァァァァン!!!!』

 

 

 轟音と共にリングに煙が舞う。

誰もがこの時レオの勝利を確信し、リング上にはKOされた拓己の姿があると思っていた。

 

しかし……。

 

「!?……い、いない!?」

 

 拓己の姿はリングに無かった。

 

「ど、何処に行ったんだ?」

 

 コーナーポストでレオの戦いを見守っていた乙女も突然姿を消した拓己に戸惑い、拓己の姿を探そうとしているがまるで見つからない。

気配を探ろうにもその気配すら感じられないのだ。

 

 

(拓己の奴、遂に『アレ』を使ったか。これは俺も動く必要があるな)

 

 レオ達が戸惑うなか、拓己のパートナーである優一は不敵な笑みを浮かべ、静かにその場を静観していた。

 

(見せてやるぜ、俺達の亜空間コンビネーションをな!!)

 

 

 

 突如消え失せた拓己の行方は?そして優一の言う亜空間コンビネーションとは……。

 

 



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変幻自在!亜空と影の脅威!!(後編)

今回はかなり無茶しすぎた……。


レオSIDE

 

「消えた……だと」

 

 突然消え去った小野寺に俺は戸惑っていた。

今まで気配を消して隠れる奴は何度か見たことがある。

だがどんなに気配を消しても所詮は人間のやる事、集中して気を探れば見つけることは可能だった。

しかし、今回は違う。気配も気もまるで感じない、こんな事は初めてだ。

レフェリーも訳の分からない事態にどう判断するべきか戸惑っている。

 

「どこに行きやがったんだ!?」

 

 焦りは冷静な判断を狂わせる。この時俺は背後に突如現れた謎の黒い影に気付かなかった。

 

「レオ!後ろだーーー!!」

 

「!?」

 

「もう遅い!!」

 

 乙女さんの叫び声にあわてて振り向くがそこには虚空にできた黒い穴の中から小野寺が飛び出し俺の延髄目掛け蹴りを放ってきた。

 

「かはっ!」

 

 焦りで無防備になっていた俺は成す術無く延髄にとび蹴りを叩き込まれてしまった。

 

 

 

NO SIDE

 

 延髄斬りを叩き込まれたレオはそのままふらふらと倒れ込む。

延髄は人間の急所、そこに強い衝撃を食らえばいくらレオでも数秒間はまともに動けない。

 

「レオ!」

 

 レオを救出しようと乙女はすぐさまロープを飛び越えてリングに上がろうとする。しかし着地地点にまたしても黒い穴が広がる。

 

「な、何だ!?」

 

 驚く乙女を嘲笑うように穴の中から優一の分身体が現れ、乙女の体を拘束した。

 

「こ、これは!?」

 

「教えてやるぜ!コイツは亜空間への入り口……ブラックホールだ!!」

 

 乙女の疑問に答えるように優一(本体)がリングに飛び込むように上がり、それと同時に乙女の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

 

(あ、亜空間だと……まさか、そんな事が)

 

 膝蹴りを受け、ふらつきながら乙女はかつて祖父から聞いた話を思い出す。

気というものは修行次第でその性質を炎や水などに変化させる事が出来る。

その究極の形態といえるものが気で亜空間を作り出すという技である。

しかし亜空間を生み出すという神業にも等しい技を扱うには生まれつきの適正が必要不可欠、それは適正だけでも100万人に1人、さらにそこから武術の道を歩むか否かで考えれば1000万人に1人いるかいないかだ……。

 

(馬鹿な……眉唾だと思っていたが……まさか、こんな……)

 

「おっと、倒れるのはまだ早いぜ。俺のブラックホール殺法はこれからが本番なんだからな」

 

 驚きを隠せない乙女。

しかし拓己と優一はそんな事お構いなしに追撃を仕掛けようとする。

 

「クソッ、野郎!!」

 

 ふらつきながらもカウンターを喰らわせようとするレオ。

しかし拓己は自らの足元にブラックホールを生み出し、もぐら叩きのもぐらが身を隠すかのように姿を消す。

そしてそれと同時に優一は影分身を二体生み出レオと乙女の身体を羽交い絞めにして拘束し、自らもブラックホールの中に飛び込む。

直後にブラックホールが二つに分離しながらレオと乙女の真正面に配置される。

 

「な、何をする気だ?」

 

「俺の作った亜空間にはこういう使い方もあるんだ!《人間火玉弾(ヒューマンキャノン)》、発射(ファイア)!!」

 

 虚空から響く拓己の声と共にブラックホールから拓己と優一の身体が砲弾のように飛び出す。

 

「うぐぁっっ!!」

 

「ガハッ……!!」

 

 砲弾と化した2人の身体はレオと乙女に直撃、凄まじい衝撃と激痛にレオたちはのた打ち回る。

 

「一気に決めるぞ、優一!!」

 

「ああ!分かってる!!」

 

 拓己はレオを担いで空中高く飛び上がり、レオをツームストンパイルドライバーに固めて落下し、優一はその真下で乙女をベアハッグに捕らえたまま拓己目掛けて飛び上がる。

 

「「《ツインヘッドクラッシャー!!!》」」

 

「がぁっ!!……」

 

「ぐぁ!!……」

 

 凄まじい勢いで互いの脳天同士が叩き付けられる。

拓己の落下と優一のジャンプによるスピードが合わさった絶大の破壊力にレオと乙女の脳天から夥しい量の血液が流れ出す。

 

「ぐ……ぁ……」

 

「ぁ……ぅ……」

 

 レオと乙女の口からうめき声がこぼれる。立て続けに繰り出される攻撃によるダメージと大量の出血でレオと乙女はもはや昏倒寸前だ。

 

「さーて、料理の仕上げといくか」

 

「こっちは準備完了だ、さっさと来な!!」

 

 拓己の声に呼応するように優一はレオと乙女の身体を掴む。

 

「亜空間の中で寝てな!!」

 

 そして、2人は拓己目掛けて投げ飛ばされた。

 

 

 

レオSIDE

 

「ハァァァ……!!」

 

 投げ飛ばされた俺達を待ち構える小野寺の右手の気に気が集まり、またしてもブラックホールが形成される。

ヤバイ、何とか避けないと……。

 

「吸引してやるよ!バキュームみてぇにな!!」

 

 小野寺の気が急激に高まっていく。そしてそれと同時にブラックホールが凄まじい吸引力で俺達を吸い込もうとする。

 

「うぉおおお!?」

 

 な、なんだこの吸引力は!?これじゃ逃れられない!!

このまま吸い込まれちまったら俺たちはリングアウト負け……どうする!?

 

(乙女さん、だけでも……)

 

 ダメージを受けた身体でも俺の気掌旋風波なら直で当てればここから脱出させる事ができる筈。

それに……惚れた女をむざむざ無様な姿に出来るかよ!!

 

「ウオオオオォォォォォォォォ!!!!」

 

 身体に残った力を搾り出し、俺は旋風波を乙女さんに向けて零距離から放った。

 

「ぐぁっ…れ、レオ!?うわぁぁ!!」

 

「乙女さん!俺は必ず脱出して復帰する!だからそれまで何とか繋いでくれ!!」

 

 ブラックホールの射程範囲外に乙女さんが吹き飛ばされるのを確かに確認し、俺は亜空間の中へと吸い込まれた。

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオの旋風波のおかげで小野寺のブラックホールから逃れる事ができた私はリング外に吹き飛ばされた。

 

「れ、レオは!?」

 

 すぐさま私は起き上がりリングに上がるがそこにレオの姿は無い。

あるのは敵の姿……小野寺拓己と山城優一の二人のみ……。

 

(そんな…レオが……)

 

 大切な弟分で…大切な恋人で……誰よりも大好きな男。

そんな彼に助けられるだけで、私は何もできなかったなんて……。

 

「チッ……まとめて片付けてやろうと思ったのに最後の最後で味な真似しやがって」

 

「そう言うなよ。これで2対1、俺たちが圧倒的に有利だ」

 

 忌々しそうに吐き捨てる小野寺を山城が宥める。

だがそんな光景など見ても今の私は何の感情も沸かない。

たった一つの感情を除いては……。

 

「おい、鉄とかいったな、見ての通りお前のパートナーは亜空間の中だ。ギブアップするなら今の内だぜ」

 

「ふざ…けるな……」

 

「ん?」

 

「ふざけるなぁぁっーーー!!!」

 

 私の中に残った感情……それは怒りだ。

怒りの赴くままに私は小野寺に飛び掛りその顔面を殴り飛ばした。

 

 

 

NO SIDE

 

「グオァッ!!?」

 

 乙女の鉄拳をまともに喰らい、拓己は後方へ吹き飛ばされた。

 

「野郎!《飛翔券!!》」

 

 拓己が吹っ飛ばされた直後に優一が二体の分身と共に一斉に気弾を乙女目掛けて撃つ。

 

「邪魔だぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

「んなぁ!?嘘だr…ぐがっ!!」

 

 しかし乙女はその気弾を腕ではじき返し、逆に気弾は優一(+分身体)に直撃してしまった。

 

「だぁぁーーー!!!」

 

 しかし乙女は攻撃の手を緩めない。即座に優一に駆け寄り優一の足を掴んでそのまま優一の全身をマットに叩きつけた。

 

「グゲァッ!!……な、何てパワーだよ、コイツは……」

 

「誰がギブアップなどするか!!獅子蝶々にはまだ私が残っている!!レオのためにも絶対に貴様達を倒す!!」

 

 その瞳を怒りに燃やし、乙女は拓己と優一、2人を相手に飛び掛った。

 

 

 

レオSIDE

 

「うぐぅ……な、何だよココは」

 

 上も下も無い異次元空間。

うぉぉ……全身が圧迫されて、身体が捩れそうだ……アイツ(拓己)が作った亜空間だから俺が苦しい思いをするのは当たり前か……。

 

「だ、だがこれがあくまでアイツが気の性質変化で作ったものなら……こっちも気を使って空間をこじ開けることが出来る筈」

 

 だけどそれには相当の量の気を溜め込む必要がある。時間は掛かっちまうがな。

脱出するのが先か、俺の体力がなくなるのが先か……どっちにしてもやるしかない!

 

 

 

NO SIDE

 

「《ベルリンの赤い雨!!》」

 

「《空破弾!!》」

 

 拓己と優一の同時攻撃が乙女に襲い掛かる。

しかしそんな猛攻をものともせず、乙女は二人の攻撃を受け止める。

 

「こんなもの、避けるまでも無い!!」

 

 二人の身体を掴んだまま乙女は両腕を振り上げ、凄まじい勢いで二人の身体と身体を叩きつける。

 

「グエェッ!」

 

「グァァッ!」

 

 乙女の怪力で叩きつけられた衝撃は半端なものではなく、拓己と優一はそのまま力無くマットに倒れ込みそうになるが乙女の勢いは止まる事を知らず二人の身体をさらに振り上げ、マットに叩きつけた。

 

「ガッ…ハッ……」

 

「う…おぉ……」

 

 強烈な衝撃が身体を穿つ様に叩き込まれる。

乙女の怒涛の猛攻の前に拓己と優一は苦悶の表情のまま呻き声を上げる事しか出来なかった。

 

 

 

「す、凄ぇぜ!アレならレオがいなくても乙女さん一人で勝てるんじゃね?」

 

「ああ、これならレオも自分を犠牲にした甲斐があったってもんだぜ!」

 

 孤軍奮闘する乙女の姿に観客席のカニとフカヒレは興奮して騒ぐ。

しかし他の竜命館メンバーの表情は今一つ冴えない。

 

「おい、スバルに近衛!お前ら乙女さんが圧倒してるってのに嬉しくないのかよ!?」

 

「そ、そりゃあ鉄先輩の活躍は嬉しいけど……何か、いつもの鉄先輩じゃないような気がして」

 

「……まずいな」

 

 冷ややかになりつつある空気の中、スバルが発した一言はさらにその場を凍りつかせた。

 

「まずいって、どういう意味だよ?」

 

「乙女さんのあの猛攻はレオがやられた事への怒り、つまり今の乙女さんはキレてるんだ。俺と洋平ちゃんの試合を思い出してみろ。アイツは挑発に乗りやすくて短気だから興奮すると攻撃は激しくなるが防御や回避が疎かになりやすい」

 

「解る気がする。今の鉄先輩、一方的に相手を殴ってるけどあの状態で反撃されたりしたら……」

 スバルの言葉を肯定するように素奈緒は表情を曇らせた。

 

 

 

 素奈緒達の心配を他所に乙女の猛攻は続き、拓己達を二人まとめてキャメルクラッチに固め、顎と背骨を極める。

 

「うぐがぁぁ…!」

 

「勝負ありだ!さっさと降参してレオを開放しろ!!さもなければこのまま背骨を折る!!」

 

「馬鹿が…墓穴掘ったのはお前だ!!」

 

 優一がニヤリと笑みを浮かべたその瞬間、優一肩から影分身による腕が生え、乙女の両目に指を突き立てた。

 

「ぬあっ!?(め、目潰し!?)」

 

 思わぬ一撃に乙女は相手から手を離して両目を手で押さえる。

その隙を見逃す優一ではなくそのまま乙女の首を掴んで締め上げる。

 

「ゲホッ!」

 

「漸く隙見せやがったな。これで終わりだぜ」

 

 乙女の身体を捕らえて拓己は上空に飛び上がり、アルゼンチンバックブリーカーに極めて上下逆さまのまま落下した。

 

「《逆(リバース)タワー・ブリッジ!!》」

 

「ギャアアァァ!!」

 

 背骨を極められ、その上拓己の全体重がのしかかった状態で乙女はマットに叩きつけられ、悶絶する。

 

「これでラストだ!優一、やれ!!」

 

 乙女が悶絶するのも気に留める事無く拓己は優一の方へ乙女の身体を投げ飛ばす。

待ち構える優一は影分身で八人に分裂して乙女を取り囲み、一斉に襲い掛かる。

 

(くそ…もう一度爆発波で……)

 

「同じ手喰らうかよ!《八蹴超裂波弾(はっしゅうちょうれっぱだん)!!》」

 

「グガアァァッ!!!」

 

 空破弾の強化版とも言うべき強烈なドリルキックが乙女の抵抗を嘲笑うかのように突き破り、八人分の必殺技が乙女を打ちのめした。

 

「終わりだ…」

 

 優一のその言葉と共にマットに倒れ込む乙女。しかし……

 

「…っ……クッ」

 

 乙女は倒れなかった。倒れる直前ロープを掴んでボロボロの身体を必死に支え、ダウンする事無く対戦相手の二人を睨みつけていた。

 

「!?…嘘だろ」

 

「ハァ、ハァ……わ、私の負けはレオの負け。私を信じて後を託してくれたレオを裏切る事になる。こんな様にもならん負け方でレオの気持ちを裏切る様な真似など、それだけは……それだけは絶対に出来ん!!」

 

 どれだけ傷付いても決して折れない乙女の闘志。

その闘志は優位な立場であるはずの拓己と優一は恐怖を与える程のものだった。

 

「チッ…優一!こうなったらツープラトンで一気に止めだ!!」

 

「よし!」

 

 拓己が乙女を担いで飛び上がり優一がそれに追従して飛び上がる。

そのまま拓己は乙女をキン肉バスター、優一はOLAPの体勢に捕らえる。

 

 

 

「ゲェッ!あの技は!?」

 

「両腕、両肩、首、背骨がガッチリ極まってやがる!」

 

「あ、あんなの喰らったらいくら乙女さんでも……」

 

 拓己達によるツープラトンを目にして観客席のフカヒレ達は悲鳴を上げる。

最早乙女に技を返す余裕が無いのは火を見るより明らかだ。

 

「…ッ、対馬ーーーっ!何やってんのよ!アンタ鉄先輩の彼氏なんでしょ!?アンタしか鉄先輩を助けられないのよ!!早く戻ってきなさいよ!対馬ぁーーーーっ!!!」

 

 絶体絶命の危機の中、素奈緒は藁にも縋る思いで最後の希望に向かって力の限り叫んだ。

 

 

 

乙女SIDE

 

「これで……」

 

「終わりだぁーーーー!!」

 

「「《NIKU⇒LAP!!》」」

 

 小野寺と山城にガッチリと身体を固められたまま私の身体はマットへ落下していく。

だ、ダメだ……両手両足の自由を奪われて体力も底を尽きかけている私にもう技を返すだけの余力は無い。

 

(レオ、すまない……)

 

 自分の情けなさを心の中で詫び、私は観念して目を固く閉じた。

だがその時だった……

 

「…ッ、対馬ーーーっ!何やってんのよ!アンタ鉄先輩の彼氏なんでしょ!?アンタしか鉄先輩を助けられないのよ!!早く戻ってきなさいよ!対馬ぁーーーーっ!!!」

 

 近衛の叫び声が響いたの直後、覚えのある気が感じられた。

疾風のように鋭く、獅子のように猛々しいこの気は……。

 

「テメェらぁぁーーーー!!その手ぇ、離しやがれええぇぇーーーー!!!!」

 

「ふぐぉぉっ!!」

 

 突如として空間が割れるように穴が開き、その中から飛び出す一人の男が私を捕らえていた山城の顔面を殴り飛ばす。

その男は……

 

「れ、レオ!!」

 

 亜空間に閉じ込められたはずのレオだった。

 

 

 

レオSIDE

 

 ふぅ〜〜、何とか間に合ったな。

気を溜め込むのに時間が掛かったが漸く抜け出せたぜ。

 

「馬鹿な!?こんなに早く脱出するなんて!?」

 

 俺の脱出の早さに驚く小野寺、その隙が命取りだ!

 

「乙女さん!」

 

「ああ!」

 

 闘志を再び漲らせ、乙女さんは思いっきり身体を捻る。

キン肉バスターには単独では相手の両腕と足首が空いてしまうという欠点がある。そこを突けば……。

 

「しまっ……!!」

 

 乙女さんによって体勢が上下逆さまにひっくり返され、そのままマットに二人の身体は落下。

その衝撃が小野寺の首と背骨に一気に掛かる。

 

「ぐげぁぁ!!」

 

「ち、畜生……」

 

 先程俺に殴り飛ばされた山城が体勢を立て直して俺に襲い掛かろうとする。だが遅いぜ!!

 

「《ライトニングラッシュ!!》」

 

 山城が反撃に移るよりも早く俺のボディブローの連打が山城の身体を穿つ!

 

「ガアアァァ!!」

 

 俺の攻撃に怯んで無防備になる山城。『アレ』をやるなら今しかない!!

 

「乙女さん!今こそあの技だ!!」

 

「承知した!行くぞレオ!!」

 

 互いに向かい合って相手を掴んだまま飛び上がり、自らの膝を相手の延髄にあてがう。俺の得意技、カーフ・ブランディングだ。

 

「「《テキサス・エルドラド!!》」」

 

そして体勢はそのままにパートナーの方向へと突っ込むように落下、そのまま敵同士の脳天をかち合わせる!!

 

「あぐっ……」

 

「う…かっ……」

 

 小野寺と山城、二人の脳天から血が流れ、二人はそのまま白目を剥いてマットに沈む。

直後にレフェリーがカウントに入り、勝敗を決する秒読みが始まる。

 

「9……10!!勝者・獅子蝶々!!!!」

 

 カウントを終え、俺たちの勝利を告げるゴングが鳴り響いた時、会場は歓声に包まれた。

 

●D&Iハリケーンズ―獅子蝶々○

決まり手、テキサス・エルドラド




これで他のサイトで出した分は全て投稿しました。
次回からは完全新作となります。

次回は明日の0時投稿する予定です。


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しばしの休息

NO SIDE

 

 第4試合をレオと乙女が制した事で一回戦の試合全てが終わりを告げた。

 

「拓ちゃん!拓ちゃん!!」

 

「優一、しっかりして!!」

 

 医務室に担ぎ込まれた拓己と優一に彼等の恋人らしき少女がそれぞれ付き添い、ベッドに横たわる二人にそれぞれ涙声で呼びかける。

 

「はぁ……おい、そこの二人」

 

 そんな光景を眺めながら乙女とレオは二人の少女に声を掛ける。

 

「そいつ等が目を覚ましたら伝えてくれ。……『次はサシで戦(や)ろうぜ』ってな」

 

 レオの言葉に少女たちは一瞬非難するような視線をレオ達に向けるが、直後にその表情は驚愕に変わる事となる。

 

「……ぅ……当たり、前だ」

 

「……次は……勝つ」

 

 気を失っているはずの拓己と優一はレオ達の言葉に反応し、僅かに笑みを浮かべて見せた。

その表情には一片の怨恨も無い。ただ全力で戦い、己の力を出し切った者の清々しさがそこにはあった。

 

「おう……いつでも待ってるぜ」

 

 二人からの返答に満足気な表情を浮かべながらレオ達は包帯を巻き終え、控え室へと向かった。

 

 

 

乙女SIDE

 

 応急処置を終え、私達は準決勝についての説明を受けるために控え室へ戻った。

既に控え室には1回戦を勝ち上がった他のチームが待機しており私達の到着で全員集合となった。

 

「ふん、随分ボロボロだな。そんな状態で私に勝てるのか?」

 

 控え室に入って早々橘が憎まれ口を叩く。

 

「ふん、こんな怪我すぐ治る。お前こそ油断してると怪我するだけじゃ済まんぞ」

 

 こいつにだけは絶対に負けん!準決勝で必ず決着をつけてやる!

 

「それでは、全員揃いましたので準決勝について説明させていただきます」

 

 やがて係員が明日の準決勝の内容について案内を開始した。

 

 

 

NO SIDE

 

「準決勝は変則ルール『同時進行タイマン方式』で行われます。開始時刻は明日の14時です」

 

 ルールの内容を要約するとこうだ

 

・タッグチームメンバーがそれぞれ2つのリングに分かれて相手チームの者と1対1で戦う。

 

・試合は同時進行で行われる。

 

・相手タッグチームのメンバー全員を戦闘不能にすれば勝利。

 

・1勝1敗になった場合、両タッグの勝者同士が戦い決着をつける。

 

・対戦相手は自由に決めて良いが、揉めた場合はくじ引き。

 

 つまり試合は3本勝負による殲滅戦という事である。

 

「それなら私達の対戦カードは決まりだな」

 

「ああ、お前を倒して対馬と刀を手に入れるのにこれほど良いルールは無い」

 

「じゃ、僕達は決まりって事で」

 

「ああ、俺も構わないぜ」

 

 即効で私達の対戦カードは決まった。

 

「俺達はどうする?」

 

「どっちでも良いぜ。どっちでも楽しめそうだ」

 

「ならくじで良いか」

 

「そうですね。僕もそれで良いです」

 

 空也達の対戦カードもくじ引きで決定し、準決勝の対戦カード全てが決定した。

 

 

第1試合 ザ・リバーシブルVSサラマンダーボーイズ

上杉錬VS柊空也

大倉弘之VS鹿島ゆうじ

 

第2試合 ウォーリアーズVS獅子蝶々

橘瀬麗武VS鉄乙女

羽丘ふぶきVS対馬レオ

 

 

 

レオSIDE

 

 準決勝についての説明やその他諸々が終わり、俺達はホテルに戻り明日の戦いに備えていた。

 

「くぅ〜〜っ!!や、やっぱり染みるな……直江の傷薬は」

 

「まぁね、その分効果は抜群だけど」

 

 部屋に入った俺達は先の試合での受けた負傷箇所に大和特製傷薬を塗っていた。

結構手痛くやられたけど、まぁ傷薬のお陰で明日の戦いに支障は無いだろう。

それにしても大和の奴……こんな時にあんなにぼったくりやがって(←結構な額の金を取られた)。

それでも払った金以上の効果は期待できるが……。

 

「……レオ」

 

「乙女さん?」

 

 不意に乙女さんは俺の手を強く握りながら声を掛けてくる。

 

「私はお前を絶対に離さない。だから、絶対に勝つぞ!やるからには完全勝利だ!!」

 

「おう!」

 

 絶対に負けない。乙女さんが俺を離さないと心に決めたのと同様、俺も乙女さんを離さないと心に誓ったのだから。




これでストックはラストです。
次回からは不定期かつ亀更新になると思います。

登場人物紹介に拓己と優一の紹介を追加しました。


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鉄拳の猛攻VS鉄壁の守備

NO SIDE

 

 遂に始まった準決勝。第一試合はザ・リバーシブルVSサラマンダーボーイズ。

錬と空也の試合は早くも決着が付こうとしていた。

昨日の試合でのダメージが最も残っている空也が相手なら長期戦に持ち込めば有利な展開に持ち込めるだろうが錬はあえて短期決戦を狙い一気呵成に攻め込んだ。

錬にとっては運や策で勝つよりも対等な条件で勝負を決める事の方が重要なのだ。

 

「《鳳凰、飛天脚!!》」

 

 空也の顎目掛けて繰り出される錬の蹴り上げ。

空也はそれを寸での所でガードするがその強烈な一撃は空也の身体を宙に浮かせる。

「ぐぅっ……!!」

 

「行くぜ空也ぁ!《我流・鳳凰乱舞!!》」

 

 空中にて繰り出される錬の凄まじい連続蹴り。

鞭と金棒を足し合わせたような衝撃が嵐のように空也を襲う。

 

「グ……オォォ……嘗め、んなよコラァ!」

 

 無数の蹴りの中、空也は己の右拳に渾身の力を込める。

 

「これで、ラストォッ!!」

 

「ぬぉおおおおおおっ!!《真・天地覇煌拳(しん・てんちはおうけん)!!》」

 

互いに鉄杭のように穿たれる両者の渾身の一撃に会場中の視線が釘付けとなる……。

 

「こ、これで……58戦22勝22敗……」

 

「……14分けか」

 

「「ガフッ……!」」

 

 二人揃って血反吐を吐き、反発しあう磁石のように二人は逆方向に仰け反り合い、そのままダウンした。

 

「……両者(ダブル)KO!ドロー!!」

 

 準決勝第一試合のファーストバトル、錬VS空也の戦いは引き分けに終わった。

戦いの行く末は弘之とゆうじに委ねられた。

 

 

 

「オラァッ!」

 

「クッ、これぐらいで!!」

 

(チィッ……コイツ、ガキの癖してどんだけ固い防御だよ?)

 

 試合開始から数分、未だ両者共に一撃の有効打も与えられない展開が続き、予想をはるかに上回るゆうじの防御の堅牢さに弘之は内心悪態を吐く。

 

「《焦点連破棍!!》」

 

 ゆうじの棍から一点への集中連打がカウンター気味に繰り出される。

 

「ぐぁっ!」

 

 ゆうじのカウンターを避けきれず、弘之は顔面に痛恨の一撃を受ける。

 

「クソが……!」

 

 本戦出場者最年少の少年に先制打を決められ、弘之は表情苦々しく口元の血を拭った。

 

「ガキが、舐めやがって!!」

 

 口調を荒々しくしながら弘之は再びゆうじへ殴りかかる。

 

「(パワーで押し切ってやる!)《ブラストアッパー!!》」

 

「っ!」

 

 弘之の衝撃波を伴うアッパーがゆうじの身体を棍ごと打ち据え、ゆうじの身体は上空へ吹っ飛ばされた。

しかし表情を歪めたのはゆうじよりも弘之の方が強い。

 

(クッ……手応えがねぇ!?完全に入る前に自分から飛び上がりやがったのか!?)

 

「今だ!《逆さ雀落とし!!》」

 

 食う龍で上下逆さまのままゆうじの棍は関節部を伸ばして弘之を中距離から殴りつける。

 

「ぐがっ……ち、畜生が」

 

 相手の鉄壁以上とも言える防御と不覚を取った己を毒づきながら弘之は再び立ち上がる。

試合の主導権はゆうじが握りつつあった。

 

 

 

スバルSIDE

 

「……これはもう、あのゆうじって子の勝ちなんじゃない?」

 

 主導権を握っている空也のパートナー、ゆうじの戦いぶりに近衛はそんな言葉を漏らす。

 

「確かに、あんだけ守りが堅いんじゃ大倉先輩もそう簡単にダメージを与える事は出来ないからな」

 

 あんなに強いガキが大和以外にも居たなんてな……。

 

「ケケッ……馬鹿が、やっぱ素人目じゃその程度の認識か?」

 

 !?……こ、このあからさまな嘲笑とSっ気たっぷりな笑い方は…………。

 

「大和!?」

 

「よぅ、全員雁首揃えてるじゃねぇか」

 

「私が居るのもお忘れなく♪」

 

 大和と姫のドSコンビ……まだ解散してなかったのか。

 

「ちょ、ちょっとアンタ!いきなり出てきてその言い方は無いんじゃないの!?第一アンタ年下でょ!?」

 

「……姫さんよ、誰だこの思いっ切り弄り倒したくなるツインテールは?っていうか弄り倒して良い?アホのフカヒレとは別の意味で弄りたい」

 

「弄るのはともかく弄り倒すのはダメよ、竜命館の生徒は基本的に私のシマなんだから」

 

「こ、コイツ等トサカ来るぅぅ〜〜〜〜っ!!」

 

 ……姫が二人居るみてぇだ。

 

「それで大和、お前はどう見てるんだ」

 

 とりあえず訳の分からない騒ぎになる前に話題を変えておこう。

 

「大倉のダンナ……あの人はただ猪突猛進なだけの馬鹿じゃない。昨日会ったばかりだが目を見れば分かる。感情的な様でしっかり周りを見据えている……追い詰められてるのは、あの鹿島の方かもな。……ケケケケ(笑)」

 

 確かに、大倉先輩ってアレでも有名進学校出身で結構思慮深いからな。

こりゃ一波乱あるかも……。

 

「コラ、私を無視するな!!」

 

「……そのツインテールをシニヨンヘアかお団子にして青のチャイナ服着てピースサインしながら『やったぁ!』って言えば考えてやるよ」

 

「ムッキーーーーー!!姫よりトサカ来るわコイツ!!」

 

 …………見なかった事にしよ。

 

 

 

NO SIDE

 

「オラァッ!!」

 

 弘之の猛スピードの拳がゆうじを狙うも、未だ彼の拳はゆうじの身体に入る事無くすべて棍で防がれてしまう。

 

「っ……喰らえっ!!」

 

 対するゆうじはカウンターをメインに弘之の体力をじわじわと削り、試合の流れを掴んで行く。

しかしその表情には何処となくではあるが警戒心が滲み出ている。

 

(何なんだ?攻撃は全部防げているはずなのに、妙な不安が拭えない……)

 

 ゆうじのファイターとしての第六感が警報を鳴らし続ける。

逆に弘之は劣勢であるにも関わらず闘志はまるで衰える事が無い。

 

(そろそろ感付く頃か……次でコイツの防御を崩す!)

 

 ゆうじの変化を察し、見破ったかのように弘之はニヤリと口元に笑みを浮かべ、右腕から拳にかけて気と力を込める。

 

「歯ぁ食いしばって覚悟しな!《F(フラッシュ)・P(ピストン)・M(マッハ)・P(パンチ)!!》」

 

 瞬時に距離を詰め、弘之の拳が閃光の如く一瞬にして十数発のパンチがゆうじを襲う。

 

「!!……こ、これは」

 

 マッハパンチの名に相応しい音速ともいえる速度のパンチの弾幕を前にゆうじは棍を振るって防御し続ける、が……

 

(ぼ、防御は、間に合う……間に合うけど…こ、棍が……?)

 

 仕込まれたチェーンと気で補強しているはずの棍が徐々に中心から罅割れていく。

 

「これで、ラストだぁっ!!」

 

 そして渾身のアッパーカットが棍とゆうじの顔面目掛けて繰り出され、棍は音を立てて真っ二つにへし折り、そのままゆうじの顎を打ち据えた。

 

「ぐがぁ!?」

 

 下顎に直撃を喰らい、ゆうじは無防備な体勢で中に浮かび上がる。

そしてその好機を逃す程弘之は甘くはない。即座に体勢を整え直し、右拳に一気に気を集中させる。

 

「釣りはいらねぇ……取っておきな!!」

 

 そして落下するゆうじの身体に容赦なく弘之の拳が振るわれ、その刹那、拳に集められた気は砲弾となって零距離から放たれる!

 

「《ナックル・マグナム!!》」

 

 悲鳴を上げる間も無くゆうじの身体は気の砲弾によって吹き飛ばされ、リング外へ放り投げられ、そのまま床に激突するように落下した。

 

「か、は…っ……(やっぱり、強いや。この人)」

 

 一瞬だけ喉の奥から呻き声を漏らしながら、ゆうじは弘之の強さを実感し、意識を手放した。

 

「……そこまで!勝者、大倉弘之!!」

 

 ゆうじの気絶を確認した審判が弘之の勝利を告げ、客席からは歓声が沸きあがる。

歓声がこだまする会場の中、弘之は無言のまま拳を握り締め、右腕を虚空に向けて突き上げたのだった。

 

○ザ・リバーシブル―サラマンダーボーイズ●

勝敗 1勝1分

 

 

 

レオSIDE

 

「流石だな……」

 

 控え室で試合を見ている中、乙女さんは不意にそんな言葉を呟いた。

 

「どっちが?」

 

「両方だ。大倉の剛と知を併せ持った強さ、そして鹿島のどんな技術も通さない防御……あれを大倉が崩せたのは身体能力の差と手数をフルに活かせたからだ。どちらにしても戦ってみたいと心から思ってしまうよ」

 

「……確かにね」

 

 乙女さんに同意しながら俺は自分の掌が汗を掻いている事に気付く。

きっと俺はファイターとしての血が騒ぎ、興奮しているんだろう……。何となくではあるがそう思う。

 

「この大会に参加して良かった。理由はどうあれ、こんなに素晴らしいライバルに巡り会えたんだ。ある意味、橘に感謝しないとな……お前を渡す気はないが」

 

 俺の手を握りながら乙女さんは次に控えた試合に意気込む。

今のコンディションなら、戦うには最適……実力をフルに発揮できるぜ!

 

「行くぞ、レオ!!この戦い、ストレート勝ちで決めるぞ!!」

 

「ああ!!」

 

 俺達はリングに向かって歩き始める。

この大会に参加した最大の目的を果たすために!!

 




約5ヶ月ぶりの更新……完結は近いってのに……どうにもIS×東方の方に執筆が行ってしまう……。

お気に入り登録してくれてる方々、本当すいません。


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疾風迅雷

NO SIDE

 

 準決勝第2試合……レオ、乙女、瀬麗武にとって己の今後を決める決戦とも言える戦いの幕が遂に開く。

 

「対馬選手と羽丘選手はAリングへ。鉄選手と橘選手はBリングへお願いします」

 

 審判からの案内に4人はそれぞれ各々の戦いの場へ向かう。

 

「レオ、信じているぞ。お前の勝利をな」

 

「ああ、俺もね!」

 

「理屈はいらん。勝て、羽丘」

 

「了解。君の結婚話はどうでもいいけど、僕は自分の戦いを楽しませてもらうよ。まぁ、そっちも精々頑張りな」

 

 両陣営それぞれのパートナーに激励の言葉を掛け、それぞれがリングに上がる。

 

「それでは準決勝第二試合、ウォーリアーズVS獅子蝶々……始め!!」

 

 

 決戦の火蓋は切って落とされた!

 

 

 

レオSIDE

 

 激励の言葉を掛け合った俺達は、それぞれリングに上がって対戦相手と相対し、睨み合う。

 

「久々に楽しめそうだ。本気で行くよ」

 

「ああ、こっちもだ。……行くぜ!!」

 

 言葉を交わした直後、俺と羽丘は一気に距離を詰める。

すかさず繰り出される短棒による一撃を左手で受け止める。

 

「オラァッ!!」

 

 防御と同時に羽丘目掛けて俺はエルボーを見舞う。

だが羽丘も棒を逆手に持って難なくコレを防御してみせる。

 

「……(ニヤッ)」

 

「!?」

 

 俺の一撃を防御した羽丘は、笑っていた。

防御した事に対してではない。まるで蒔いた餌に獲物が引っ掛かった様な笑い方だ。

この状況で考えられる攻撃パターンは……。

 

「フンッ!」

 

 案の定頭突きか!?だったら……

 

「ダァッ!」

 

 こっちも頭突きで応戦。

お互いに強烈な一撃が額を打ち込まれ、その反動で背後に仰け反る。

 

「《クロスダイビング!!》」

 

 一足先に体勢を立て直したのは羽丘。

即座に棒を交差させ、文字通りダイビングのように俺目掛けて飛び込んでくる。

旋風波で迎撃……いや、間に合わない!だったら……!!

 

「そりゃあっ!!」

 

 羽丘の真上に飛び上がり、そのまま体を捻りつつ羽丘の後頭部を掴み、膝を延髄に押し当てる!

 

「《カーフ・ブランディング!!》」

 

 そのままマット目掛けて落下。

完全に入った!コレはもう回避不可だ!!

 

「……ククク。間抜けが」

 

 しかし羽丘の口から出た言葉は嘲り。

この時、俺はミスを犯していた。もしも背後を狙っていなければ折れは羽丘の表情を見ることが出来た。

それが出来れば、恐らくこの後の反撃を回避出来ただろう……。

 

「喝っ!!」

 

 羽丘は大きく口を開いて、まるで漫画で悪役が出す技のように口から気を放出して見せた。

 

「うおぉっ!?」

 

 技の反動でジェット噴射のように落下していた俺たちの身体は浮かび上がり、俺は羽丘から振り落とされてしまった。

 

「そらっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

 振り落とした勢いに乗せて羽丘の蹴りが繰り出され、俺はガードする暇も無く顔面にモロにくらってしまった。

 

「クソッ…!」

 

「そこぉっ!!」

 

 間髪入れずに羽丘は俺の肩に跨ってくる。

これは、士慢を倒した時の技か!?それなら……

 

「一回見た攻撃なんざ喰らうかよ!!」

 

「!?」

 

 咄嗟に俺は肘鉄が繰り出されるより前に跳び上がり、その勢いに乗せて体位を上下反転させて振り落とし、羽丘を上下逆の吊天井固(ロメロスペシャル)に捕らえて落下、羽丘の顔面をマットに叩き付ける!

 

「グオァッ!!」

 

 苦悶の声を漏らして羽丘はダウンする。

だがココで攻撃を終わらせちゃ勝てるものも勝てない。

 

「教官の見様見真似だが……」

 

 両腕に気を纏わせ、交差(クロス)させた状態で採掘ドリルのように錐揉み回転しながら羽丘の背中めがけて急降下し、一気に追撃をかける!

 

「《フライングアタック!!》」

 

「アグァァッッ!!……クソッ!!」

 

 追撃を喰らう中、羽丘は棒を一本取り出すとそれをコーナーポスト目掛けて投げつけた。

 

「何!?」

 

 棒はコーナーに跳ね返って一直線に俺へ向かって飛んでくる。

何てコントロールセンスしてるんだよ?

 

「チッ!」

 

 追撃を途中キャンセルして何とか回避するが、棒は頬を掠めて僅かに切傷が出来て血が流れる。

思わず舌打ちしてしまう、やっぱり一筋縄じゃいかないな……。

 

「抜け目の無いやつだ……」

 

「そっちこそ……今のを即座に見抜ける奴なんてそうそういないよ。大佐の技を使うだけの事はある」

 

 え?……大佐って……まさか!?

 

「そう、ボクも去年の春にジョン・クローリー大佐直々に鍛えられた強化合宿経験者さ。どうやら君とは時期が違うようだけどね」

 

「マジかよ……」

 

 コイツが俺の兄弟子だってのか?

面白ぇじゃねえか!!日本じゃ同門対決なんて実現する事は無いって思っていたが、こんなチャンスにめぐり合えるとはな!!

 

「フフフ……考える事は同じか。最初に君の技を見た時は、僕も同じ気持ちだったよ」

 

 口の端を吊り上げて羽丘は笑う。その時、俺は自分も笑っていることに気が付いた。

 

「行くぜ、羽丘ぁぁ!!」

 

「僕を楽しませてくれよ……対馬ぁぁ!!」

 

 お互いに好戦的な笑みを浮かべながら俺達は同時に飛び掛った。

 

 

 

NO SIDE

 

 互いに突撃するレオとふぶき。

その一方で、Bリングでは乙女と瀬麗武の戦いが繰り広げられている。

 

「《獣王拳!!》」

 

「《波動光弾!!》」

 

 瀬麗武の拳から獅子を模した気の弾丸が放たれる。

乙女はそれを避けようとはせず真っ向から向き合い自身も気弾で応戦して相殺する。

 

「「ハァアアアッ!!」」

 

 気弾を放った直後に両者共に距離を一気に詰め、手四つつの体勢で力比べに入る。

 

「ぐぐ……っ」

 

「ぎぎ……っ、クソ!」

 

 徐々にではあるが瀬麗武が押され始め、後方に押し出される。

 

「こ、これが貴様の本気の力というわけか?」

 

「ああ、前回と違って肋骨が折れていないからな、今日は前回とは訳が違うぞ!!」

 

「チッ!」

 

 ニヤリと笑う乙女に瀬麗武は苦々しく舌打ちし、蹴りを繰り出す。

乙女は難なくコレを回避するが瀬麗武は距離を取る事に成功し、一度審判を見る。

 

「おい審判、お互いの合意さえあれば刀などの危険物の使用も認められるか?」

 

「は、はい。一応両者の合意の上であれば」

 

 やや戸惑いがちに返す審判に瀬麗武は満足気に笑う。

 

「ならば……軍曹!!」

 

「ハッ!スタンバイ完了しております!!」

 

 観客席から軍人らしき男が瀬麗武の愛刀、曼珠沙華を投げ込む。

瀬麗武はそれをキャッチすると刀を抜き、再び構える。

 

「貴様も持ってきているだろう?抜け、地獄蝶々を!!」

 

「良いだろう……伊達、蟹沢、鮫氷!」

 

「さ、サー・イエッサー!!」

 

 乙女はコレを承諾し、カニ達に刀を送るよう合図を送るが……。

 

「……待ちな、お前等より俺が投げた方が早い」

 

「え?お、お前らは!?」

 

 目の前に現れた男にカニは驚きの声をあげ、周囲の者達も驚きの表情を浮かべる。

ただ一人、大和のみを除いて。

 

「おー、こりゃまた面白ぇ奴のお出ましだ」

 

「俺が負けた奴がもたついてる所なんて見たくないんでな。それ借りるぞ。」

 

 大和の言葉に包帯と絆創膏で顔を覆った山城優一はニヤリと笑みを浮かべて返し、フカヒレの手から地獄蝶々を拾い上げる。

 

「受け取りな、鉄!!」

 

「感謝する!」

 

 投げられた刀を受け取り乙女も瀬麗武同様刀を抜いて構える。

 

「第2ラウンドだ。勝負だ、橘!!」

 

「行くぞ、鉄ぇ!!」

 

 素手から刀に変え、新たな戦いの火蓋が気って落とされる……。

 

 

 

レオSIDE

 

「《修羅旋風拳!!》」

 

「チィッ!!」

 

 繰り出される俺の拳を羽丘は左腕でガードし、右手で俺の腕を取る。

 

「貰ったぞ!!」

 

「うおぉっ!?」

 

 そのまま羽丘は俺のもう片方の腕も掴み、両腕をチキンウィングに捉えて背中におぶさる様にのしかかる。

 

「うぐぁぁぁ!!」

 

「捉えたぞ!《パロスペシャル!!》」

 

「ぐがぁぁぁ……!!」

 

 そのまま両肩を締め上げられ、足すらもロックされる。

や、ヤバイ……抜けられない!?

 

「無駄な足掻きはやめなよ。この技は通称『アリ地獄ホールド』。一度は待ったが最後、相手の数倍のパワーでもない限りぬける事は不可能だ!!」

 

「ギャアアア!!」

 

 ご丁寧に説明しながらより一層方を締め上げてくる。

畜生が……嫌な性格しやがって……。

 

「ホラホラァ!さっさとギブアップしないと、肩が粉々になっちゃうよぉ!!」

 

 勝利を確信したように耳障りな声を上げる羽丘。

コノヤロウ……そのスカした面、今すぐ変えてやるぜ!!

 

「活ーーっ!!」

 

「!……僕の技を!?」

 

 俺の行動に羽丘は驚く。

コイツが俺のカーフ・ブランディングから逃れたのと同様、口から気弾を発射してその反動で飛び上がって振り解いてやったぜ!!

 

「こちとら他人の技パクるの何て慣れっこなんだよ!!」

 

 元々対馬家ってのは努力次第でどうにかなるが武家の血を薄めてしまう程に運動が苦手な血筋、故に俺はそれを克服するまではずっと他人の技を盗んでそれを使いこなす事でテクニックや力を磨いてきたんだ。

今更コイツの技パクる事なんて屁でもない!!

 

「使えるものは何でもか……嫌いじゃないよ、そういうの。だが、コイツはどうかな!?」

 

 ニヤリと笑って羽丘の2本の棒の先端がバチバチと火花を散らす。

 

「す、スタンガンだと!?」

 

「電流は真似できないだろ!?《ブラスターウェーブ!!》」

 

 スタンガンから放たれる電流が羽丘の気と混ざり合い腕のように伸びて俺の身体を焼く。

 

「ぐがあああぁぁっ!!」

 

「ハハハハ!!悪いねぇ、君もあのデカブツとイケメン野郎と同じようになるのさ!!」

 

 一回所じゃねぇ……何度も何度も同じ攻撃を繰り返される。

そしてその度に俺の身体は電流を浴び、多大なダメージを連続して受け続けてしまう。

 

「チッ……やっぱり持続性とバッテリーに難があるか。だけど、これで終わりだ!!」

 

 出力の落ちたスタンガンに舌打ちしつつ、羽丘は俺の身体を持ち上げ、そのまま飛行機投げで上空高く放り投げられる。

 

「コレで終わりだ。落下してきた時が最後、顔面をスクラップにしてやるよ!!」

 

 落下する俺を待ち構え、羽丘は両腕に握る棒に力を込める。

 

(負けるのか?俺は……こんな所で)

 

 乙女さんとの将来が掛かった戦いで、こんな無様に……。

 

「負けて、堪るか……!!」

 

 ……俺は、負けられねぇんだ!!

考えろ!この状況で使えるものを!武器になるものを!!

電撃喰らってズタボロの身体でもまだ動けるはずだ!!

 

 

 

 

……電撃? 電撃……刺激……蓄電……それだ!!

 

「持ってくれよ、俺の身体!!ハァアアアアアーーーーーッ!!!!」

 

 

 

NO SIDE

 

「な、何だ!?」

 

 落下するレオを狙い打とうとするふぶきの目が驚愕に見開かれる。

レオの身体から浴びたはずの電流が再び走り、鎧のようにレオの身体を覆っていく。

 

(こ、コイツ……今まで喰らった電撃を自分の気とブレンドして即席で気を性質変化させたのか!?)

 

「俺は、勝つ!!勝って乙女さんと添い遂げる!!」

 

「く、クソ!!」

 

「ウォオオオオオ!!《修羅電撃旋風拳ッ》!!!!」

 

 迎え討つふぶきだが、レオは電撃を纏った旋風拳で応戦し、ふぶきの棒を粉々に打ち砕いた。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「本当……良い刺激だぜ、この電撃は!!」

 

「がぁぁっ!!?」

 

 全身に流れる電撃が身体を刺激し、パワーが、スピードが大きく跳ね上がる。

まさに疾風迅雷ともいえるレオの攻めにふぶきはただサンドバッグのように殴られ続ける。

 

(は、反撃する暇が無い!?……た、耐え切るしかない!こんな無茶な戦い方が何分も続いて堪るか!!)

 

 しかし、同時にレオのこの戦法は己の体力を常に削り続ける諸刃の剣でもある。

吹雪とてそれを理解し、可能な限りレオの攻撃を防御して致命的な一撃を避ける。

 

(もうそろそろ限界だ……俺の残りの力全て、この一撃に賭ける!!)

 

 覚悟を決め、レオは右腕にありったけの気を込める。

 

「これで、最後だぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

 そしてレオはその右掌をふぶき目掛けて突き出す。

 

「ぬぁああああ!!!!」

 

 最後の力を振り絞り、ふぶきはレオの一撃を捉え、その腕で防御する。

 

「《排撃(リジェクト)!!》」

 

「何ぃぃっ!?」

 

 ふぶきの防御を突き破り、レオの一撃はふぶきの身体に直撃し、そしてその刹那レオの右掌から溜め込まれた気が爆ぜる!!

ゼロ距離からの気の爆発による衝撃波……それがレオの新技『排撃(リジェクト)』だ!!

 

「グォォォォ!!!……み、見事……僕の、負け……カッ……ハ………」

 

 最後の最後でふぶきはレオへ向けて笑いかけ、賞賛の言葉を送って意識を失った。

 

「勝者・対馬レオ!!」

 

●羽丘ふぶき―対馬レオ○

決まり手 排撃(リジェクト)

 

 

 

レオSIDE

 

「へへ……ギリギリだったけど、やってやったぜコノヤロウ!」

 

 精根使い果たし、俺はマットに座り込む。

流石に疲れちまった……コレ、数日はまともに動けないんじゃ……。

 

「乙女さんは……な!?」

 

 Bリングに目を向けた俺は自分の目を疑う。

俺の目に映った光景、それは……。

 

「う、ぅ……ま、負ける、訳には」

 

 マットに倒れ伏す乙女さんと、それを見下ろす橘さんの姿だった。




久々に更新出来た……。
次はいつになるのやら……。


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トラウマを打ち破れ!全身全霊、血の大激励!!

NO SIDE

 

「ぐ……ク……くそぉ……」

 

「……随分とお粗末な弱点を持っていたものだな。だが勝負は勝負、手を抜く気も攻撃を緩める気も無い」

 

「クッ!当たり前だ……」

 

 マットに這い蹲りながら乙女は唇を噛み締め、必死に立ち上がろうとする。

眼前にはそれを見下ろす瀬麗武の姿がある。

素手での戦いでは押し気味だった筈の乙女がなぜ刀に切り替えてこうも追い詰められたのか、その答えは数分前にさかのぼる……。

 

 

 

数分前

 

「《閃光斬!!》」

 

 一瞬の内に距離を詰め、瀬麗武の曼珠沙華を乙女目掛けて振るう。

閃光斬というその名が示す通り、閃光の如き一撃が乙女を襲うが乙女はこれを地獄蝶々で防いでみせる。

 

「チィッ!ならば……《神突!!》」

 

 瀬麗武は自身の攻撃が防がれた直後、バックステップで一度後退し、間髪入れずに高速の突きを繰り出す。

 

「甘いっ!」

 

 だが、これも紙一重で弾かれ、不発に終わる。

乙女は元々瀬麗武を超えるスピードを持つレオを相手に特訓や試合を経験し続けている為、悪い言い方をすればレオ以下のスピードの瀬麗武の攻撃には、非常に早い段階で目が慣れているのだ。

 

「ハァアアアーーーッ!!」

 

 間髪入れずに乙女はカウンター気味に地獄蝶々による斬撃を繰り出す。

 

「クッ!!」

 

 気合の咆哮と共に振り下ろされる地獄蝶々の一撃を、瀬麗武は曼珠沙華の刀身で受け止める。

 

「ググッ……(お、押される!?クソ!この、馬鹿力が!!)」

 

 徐々に押され、体勢を崩しつつある瀬麗武は内心悪態を吐きながら状況を打破する方法を必死に考える。

 

「(やむを得ん!)……《雷神脚!!》」

 

「!?」

 

 突如として乙女の表情が驚愕の色が浮かぶ。

瀬麗武の脚がバチバチと火花を散らし、雷を纏ったように発光して蹴りを繰り出してきたのだ。

 

「か、雷……うぐぁっ!!」

 

 咄嗟に身をかわそうとする乙女だったが、思いも寄らぬ攻撃に反応が遅れ、右肩に蹴りの直撃を受けてしまい、刀を落としてしまった。

 

「雷の性質変化が得意なのは羽丘だけではない。私もこの手の性質変化は得意なのでな!!」

 

「うぐぅっ……!」

 

 攻撃によろめく乙女に、瀬麗武は更に追撃を加える。

 

「ぐぁ!ガハッ!!」

 

「どうした!?動きがまるで鈍くなっているぞ!私を嘗めているのか!?」

 

 突如として勢いを失った乙女の様子を疑問に感じながらも瀬麗武は攻撃の手を緩めず、電撃を纏った拳と蹴りを乙女に叩き込み続ける。

乙女は気で防御を固めるも、反撃の隙を見せない瀬麗武に防戦一方となってしまう。

 

「言っておくが、電力切れなど期待するだけ無駄だぞ。私は数ヶ月かけて電気を蓄電し、この技を編み出したんだ!始めはクラゲや電気ウナギ、徐々に電力を上げて今では改造スタンガンの電力すら蓄える事が出来る!!……元は対馬に対抗するために編み出した技だが、貴様に勝利して対馬を得られるのであればその甲斐は十二分にあるというものだ!!」

 

 瀬麗武の性質変化による攻撃はふぶきと比べて威力は然程高くないが燃費が良く、持続性が高いため、長期戦にも対応できる汎用性を持っている。

加えて、この技は乙女にとって最悪の相性だった。

 

(く、クソ……、何とか避けないと……だ、だが雷は……)

 

 避けなければジリ貧で負ける……それを理解していても乙女は動けない。

雷を見る度に脳裏に蘇ってしまう。

幼き日、自分の目の前で雷に打たれ、大怪我を負った祖父の姿を……。

誰よりも強く、自分にとって無敵の象徴たる祖父が大自然の怒りにはまるで歯が立たず倒れたあの悪夢……。

今でもそれが忘れられず、乙女の心のトラウマとなって中に深々と刻まれていた。

 

「私の最高の技で止めを刺してやる!《死殺技・鳴雷!!》」

 

 そんな乙女の心中など知るよしも無く、瀬麗武は再び曼授沙華を抜き、刀身に一気に雷と化した気を纏わせ、そのまま乙女目掛けて一気に解き放つ!!

 

「(か、かみなr……)グガァァアアア!!」

 

 自身に真っ直ぐと向かってくる雷に乙女は全身が硬直し、防御も儘ならず瀬麗武の放った雷の直撃を受け、乙女はその場に倒れ伏した。

 

 

 

「この勝負、貴様の負けだ。怯えを見せた者に勝利の機会など無い……観念する事だ」

 

 倒れ伏す乙女の様子に、彼女のトラウマを見抜いた瀬麗武は笑みを浮かべて勝ち誇る。

 

「ま、まだ……」

 

「覇ァァ!!」

 

「ウアァァッ!!!!」

 

 立ち上がろうとする乙女に瀬麗武は容赦なく鳴雷を喰らわせる。

そこに一切の油断も隙も無い。ただ勝つために冷徹に相手を追い詰める兵士の目で瀬麗武は乙女を見下ろす。

 

(負ける、訳には……)

 

 乙女は勝負を捨てまいと必死に立ち上がろうとするが、心身両方へのダメージに、身体はガクガクと震えてしまう。

最早誰もが乙女の敗北を確信していた……。

 

 

 

レオSIDE

 

(乙女さん……!!)

 

 乙女さんが目の前で負けそうになっている……。

そんな光景に俺は拳を血が出るほどに握り締める。

俺だってファイターの端くれ、一対一の闘いに水を差す真似が無粋で流儀に反する事かは解っている。

だけど、こんな時に何もしないでいられるかよ!!

 

「おい、羽丘!起きろ!!」

 

 俺は気絶している羽丘を揺さぶって無理矢理起こす。

倒した相手にちょっとばかし鞭打つようで気は引けるが、背に腹は代えられない!

 

「グ……な、何だ?」

 

「お前、ナイフとか持ってないのか!?持ってたら貸せ!!」

 

「ちょ!?対馬選手、パートナーの試合への介入は……」

 

 俺の思わぬ要求に羽丘は怪訝な表情を浮かべ、審判は慌てて俺を止めに入る。

 

「勝負の邪魔なんて下らねぇ真似はしねぇよ……だが応援だってやり方は色々あるんだ!!」

 

「……水刺すようで悪いけど、刃物は持ってないよ」

 

 クソ!……仕方ない、こうなったら素手でも……。

 

「ホラよ、これ使え」

 

「!?」

 

 背後から突然聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くとそこには虚空に開いた穴が……。

これは、ブラックホール!?って事は……

 

「小野寺か!?」

 

「やるならさっさとやれ、時間無いんだろ?」

 

 ブラックホールから顔と腕を出し、小野寺は俺にナイフを手渡す。

 

「……ありがとよ!」

 

 小野寺に礼を告げ、俺はそのナイフを自身の胸に突き立てた。

 

 

 

乙女SIDE

 

「クソ……クソォ……!!」

 

 悔しさで泣きそうになってしまう。

こんな所で雷へのトラウマが原因で……トラウマを治さずに放っておいたツケがこんな時に限って回ってくるとは、情けなさ過ぎて涙も出ない……。

 

「悪く思うな……コレで終わりだ!」

 

 静かに刀を構え、トドメを刺そうとする橘を前にしても動けない。

これで……終わりなのか……?私は……こんな所で……。

 

「乙女さん!」

 

 だが、そんな時に一際大きいレオの声が会場全体に鳴り響く。

振り向いた先にあったレオの姿に私は絶句した。

 

「れ、レオ……」

 

 レオの胸には刃物で刻まれたかのような大きな傷……いや、文字が彫られていた。

胸の中心に彫られた『闘』の一文字……館長から聞いた事がある。あれは……

 

「血闘援……?」

 

 

『〈血闘援〉

 江戸時代 生命と名誉を賭けた御前試合などで肉親や友人などが声に出して応援出来ぬため胸に“闘”の一文字を刻み、身を以って闘士と苦しみを同じくし、必勝を祈願するという応援の至極である。

 その起源は遠く、鎌倉時代に伝わった中国の兵法書「武鑑」にあるという。

 しかしその胸の傷字は一生残る為、これをするにはよほどの覚悟と相手を想う気持ちが必要である事は言うまでも無い

 

                              民明書房刊 【武士魂】より』

 

「こんな様にもならねぇやられ方して、アンタそれでも俺が惚れた女か!?俺が憧れ、強くなるって誓わせた闘士か!?己の弱さは弱音もろとも心の拳で打ち砕く、それが乙女さんの誇りなんだろう!?だったらそれを最後まで貫いてみせろぉーーーー!!!!」

 

「レオ……!!」

 

 ……本当、従姉(あね)として情けないったらないな。こんな時に従弟(おとうと)に叱咤されてしまうとは……。

まったく、キツイ応援をしてくれる……

 

「だが、お陰で目が覚めたぞ!!」

 

 己の弱さは弱音もろとも心の拳で打ち砕く……それを私自身が忘れてどうする!?

 

「何を訳の分からん事を!喰らえぇぇーーーー!!」

 

 雷が私に襲いかかる……怖い、凄く怖い……。

だが冷静になって考えろ!橘の電撃は所詮奴の作った人工の雷、爺様を倒した雷の数百分の一でしかない!!

そして……私は最速のスピードを誇るレオを相手に互角に戦い、アイツと添い遂げる誓った女、鉄乙女だ!!

 

「見切った!!」

 

 奴の雷が私に命中するその刹那、私は身をかわして回避に成功し、橘の顔面に拳を叩き込む!!

 

「グガァァッ!!」

 

 ダメージは与えたが、ノックアウトには程遠い。

加えて私は鳴雷の防御に費やしたため、それ程気が残っていない。

だが、たった一つ……体術のみだが強力な技を私は知っている。

 

「レオ!これがお前の血闘援への返事だぁぁーーーー!!!!」

 

 

 

NO SIDE

 

「疾(はや)き事、風の如く!」

 

 瀬麗武の足をガッチリと掴み乙女はジャイアントスイングの要領で瀬麗武を振り回す。

 

 

 

「お、おい!あれって!?」

 

 観客席でフカヒレは見覚えのある光景に驚愕の声を上げる。

 

「ああ……間違いねぇよ!」

 

 そんなフカヒレにスバルは笑みを浮かべて頷く。

 

「え、何あれ?鉄先輩のあんな技見た事無いわよ?」

 

「近衛は知らないだろうな、あの技はレオが乙女さんに初めて勝った時に使った必殺技だぜ!」

 

 唯一技の正体を知らない素奈緒にカニが興奮して答えてみせる。

 

「アレで決めるなんて、乙女センパイも良い趣味してるじゃない」

 

そしてエリカは笑う。まるでバトル漫画で主人公が必殺技を決めるシーンを見る子供のように。

 

 

 

 ジャイアントスイングで瀬麗武を投げ飛ばすと同時に、乙女は瀬麗武の身体を追いかけるように飛び、瀬麗武の身体を抱え込むように掴む。

 

「静かなる事、林の如く!!」

 

 そしてローリングクレイドルに捉え、三半規管を狂わせる!

 

「グ、うぅぅ……」

 

 続けざまに出される回転技の連続に瀬麗武は苦悶の声を上げる。

 

「侵略する事、火の如く!!」

 

 だがそんな事で手を緩める乙女ではない。瀬麗武の身体をガッチリと抱え上げ、エアプレンスピンで上空に放り投げた!!

 

「そして動かざる事……」

 

「!?」

 

 瀬麗武はこの時、一瞬だけ見えた乙女の姿に己が目を疑った。

 

(つし、ま……?)

 

 乙女の姿とレオの姿が重なって見える。

まるで、乙女の身体にレオが融合したかのように……。

 

「山の如しぃ!!」

 

「ガハァァッ!!!!」

 

 そして回転しながら落下する瀬麗武に乙女の全身全霊の拳が穿たれた!!

 

(そうか……私が、入り込む隙間なんて……最初から、無かったんだな……)

 

 瀬麗武はこの時、闘士として、そして恋敵として自身の敗北を悟った。

不思議と抵抗は無かった。まるで当たり前の事の様に瀬麗武は自然に敗北の味を受け入れる事が出来た。

ただ、自嘲気味な笑みと僅かばかりの涙を残して瀬麗武は意識を失った。

 

「勝者・鉄乙女!!二本先取により、獅子蝶々の勝利!!」

 

 審判の宣言が会場内に木霊し、直後に観客席からの喝采が会場を包み込んだのだった。

 

●橘瀬麗武―鉄乙女○

決まり手・風林火山

 

●ウォーリアーズ―獅子蝶々○

勝敗 2勝0敗

 

 

レオSIDE

 

「レオ!」

 

「乙女さ……んんっ!?」

 

 勝利を見届け、乙女さんに歩み寄ろうとする俺よりも先に乙女さんは俺に抱きついて人目も憚らず濃厚なキスをしてきた。

 

「ちょっ、人が沢山見て……」

 

「構うものか。お前への想いに比べればこの程度じゃ足りないくらいなんだからな♪」

 

 何か、乙女さん箍が外れてね?でもまぁ、嬉しいけどな……。

 

「大好きだぞ、レオ!」

 

「んっ……俺もだよ」

 

 再び口付けてくる乙女さんに応える様に抱きしめ返す。

色々と嫉妬だの羨望の視線が突き刺さってるけど……ま、良いか。

 

「グッ……!」

 

 キスを堪能してたら胸に痛みが……。

 

「ん?ああっ!?れ、レオ!!血がまた出始めてるぞ!!」

 

 乙女さんが慌てて大声を上げる。

やべ……やっぱり羽丘と戦った上に血闘援は無理しすぎたか?

 

「し、審判さん!早くレオを医務室へ!!」

 

「はいはい……」

 

 呆れた様子で頭を軽く振りながら、審判と救護班の人達は俺を担架に乗せて医務室へと向かったのだった。

 

 

 

NO SIDE

 

 結局、この試合で獅子蝶々は二人共(特にレオ)無理が祟り、決勝戦にはドクターストップが掛かってしまい、錬と弘之が不戦勝で優勝、獅子蝶々は準優勝という結果に終わった。

この後、リサーブマッチとして一回戦で獅子蝶々に敗退したD&Iハリケーンズが再びリングに上がり(ウォーリアーズも推薦されていたが瀬麗武がこれを辞退した)、エキシビジョンマッチでザ・リバーシブルと激闘を繰り広げるが、それはまた別の話……。




無理矢理感がありますが、次回でトーナメント編は終了です。

ご意見ご感想お待ちしています。


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過去最長だ……。



※カオス注意!!


NO SIDE

 

『おぉーーと!!山城選手と大倉選手、まさかのダブルダウンだぁーー!!』

 

 決勝戦が錬と弘之のザ・リバーシブルの不戦勝という思わぬ結果に終わったタッグトーナメント。

その会場では、本来行われるはずだった決勝戦の代わりにザ・リバーシブルとD&Iハリケーンズのエキシビジョンマッチが行われていた。

そしてその頃、本来ならリングに上がるはずだったレオと乙女は……。

 

「ほらレオ、あ〜ん♪」

 

「お、乙女さん……ここ、病室なんだけど」

 

「良いじゃないか。私たちだけなんだから」

 

「それもそうか♪」

 

「あの〜〜、俺達居るんですけど」

 

 病室内で準決勝での負傷を療養しながらすぐ近くにスバル、カニ、フカヒレ、素奈緒が居るのにもお構いなしでイチャついていた。

 

「レオ……胸の傷、痛くないか?」

 

「全然平気、むしろ俺にとっては勲章も同じだよ」

 

「レオ……」

 

「乙女さん……」

 

 二人は今、完全に自分たちだけの世界に入っていた。

 

「ダメだこりゃ。俺達の事なんて全然見えてねぇよ」

 

「腹ん中がムカムカするぜ。イチャついてんじゃねーぞバカップル!」

 

 あまりの甘い空気にカニの野次が飛ぶが……

 

「「…………」」

 

 二人はj自分たちだけの世界に入って見つめ合ったままである。

 

「返事が無い。ただのバカップルのようだ……。そして俺のムカつく気持ちは無限大だ」

 

「うぅ……私の中の鉄先輩のイメージがどんどん崩れていく……」

 

 そしてフカヒレは例によって僻み全開、素奈緒は乙女の普段の態度との圧倒的な違いに嘆く。

 

「ほらレオ、もう一回あ〜ん♪」

 

「あ「あ〜ん♪」……」

 

 この時、きっとフカヒレは魔が差したのであろう。

フカヒレはレオと乙女の間に割って入り、乙女の差し出す箸とおかずに向かって大口を開けた。その行為が地獄の入り口とも知らずに……

 

「何をしてるんだ?テメェはぁ……!」

 

「グギャアアガガガガガガガガァァーーーーー!!!!!」

 

 フカヒレの愚考から僅か0.3秒後、レオの殺人級の握力がフカヒレの頭を鷲掴んだ。

 

「鮫氷……誰にでも邪魔されたくない至福の一時というものがある。それを邪魔するとどうなるのか……教育的指導が必要なようだな?」

 

 そして直後に乙女のパロスペシャルが炸裂!

フカヒレの両腕両肩を凄まじい怪力で締め上げた。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 断末魔の如く叫び声をあげ、フカヒレは僅か1秒弱で泡を吹いてノックアウトされたのだった……。

 

「……試合が終わった昨日の今日だってのに相変わらず騒がしいな」

 

「でもだからこそ面白いじゃない?対馬君と乙女センパイのバカップルぶりはちょっとムカつくけど」

 

「確かにそうだけど、こんなバカップルに負けたって思うと少し泣きたくなるんだけど」

 

 そんな騒ぎの中、病室に新たに入ってくる三人の人影。

エリカと大和、そして準決勝でレオと死闘を繰り広げた羽丘ふぶきだ。

 

「お?大和に姫じゃないか。……それに羽丘も、橘さんはどうした?」

 

「親父さんの艦隊に帰って行ったよ。はいコレ、お二人に手紙」

 

 レオの問いに答えながらふぶきは二人に瀬麗武からの手紙を手渡す。

 

 

『対馬レオ 鉄乙女へ

 

 今回の戦いは私の完敗だ。約束通り対馬の事は諦めよう。

悔しい話だが、お前達の間に私が入る隙が無いという事も痛感させてもらったしな。

まぁ、精々末永くイチャついていろ。

 

 だが、対馬の事は仕方が無いとして、地獄蝶々に関しては話が別だ。

いずれ今回のリベンジと共に地獄蝶々は取り戻す。それを忘れるな。

 

                                          橘瀬麗武  』

 

「なるほど。……これは返事を書かないとな。『いつでも相手になってやる』と」

 

 好戦的に笑いながら乙女は読み終えた手紙を机に置く。

この時、乙女にとって瀬麗武は恋のライバルから純粋な好敵手となっていた。

 

「で、大和と姫はどうしたんだ?っていうか、まだコンビ組んでたんだな……(この二人の性格からして大会終わればお互い用済みとばかりにコンビ解消するとばかり思っていたが……)」

 

 内心でかなり失礼な事を考えつつも問うレオにエリカと大和は快活に笑みを浮かべる。

 

「いやぁ〜〜、大会終われば用済みだとは思ったんですけどね。思いの外ふぶき共々気が合っちゃって」

 

「なのよね〜〜。なーんか同じ匂いがするって言うか、同志を見つけたって言うか」

 

「今度は僕と大和で組んで霧夜さんにマネージャーやってもらうのも良いかな」

 

 三人は仲良く笑い合う。

 

「うぐぇぇ……」

 

 揃ってフカヒレを踏みながら……。

 

【…………ドSトリオか】

 

 この時、この場にいるドSトリオ以外の全員の心の声がハモった。

 

「ま、それはともかくとして……大会ももう終わる事だし、私もこの大会の収入で結構お小遣いが手に入ったから、私達と本戦出場者全員で打ち上げでもやろうと思ったのよ。この大会、霧夜グループも出資してるから」

 

「マジ!?飯名に出るの?焼肉?寿司?」

 

 エリカの提案に真っ先に反応したのはカニだった。

 

「って事は、本戦出場者の親族や友人の女とお近づきになれる可能性も……!」

 

 つづいて反応したのはフカヒレ。相変わらずこういう時の回復力だけは凄まじい。

だがしかし……

 

「大半は姉属性持ちだぞ」

 

「嫌ぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 ニヤニヤしながら大和はフカヒレに耳打ちしてその反応を楽しむ。

 

「面白いね、コイツ(黒笑)」

 

「だろ?弄くり甲斐があるよなぁ……ケケケケ(黒笑)」

 

 意気投合しながらフカヒレを弄る大和とふぶき。

この光景を見た誰もがこう思う『コイツらを敵に回したくない』と……。

 

「チクショー!大和だって自他共に認める猿属性じゃねぇかよぉ!!俺とコイツで何が違うってんだ!?」

 

「飛猿とメガネ猿を一緒にすんな」

 

「ギェェェエエエエ!!!」

 

 触れてはいけない事に触れてしまったフカヒレは、キャメルクラッチの刑に処されたのであった。

めでたしめでたし……

 

「めでたくねーーー!!作者までボケるなぁぁ!!!!」

 

「……何か、この病室」

 

「とんでもないカオスだな……」

 

「最初にカオスな空気作ってたのは対馬と鉄先輩でしょうが……」

 

 混沌の中、素奈緒の突込みが虚しく消えていった。

 

看護師と医者に注意されてこの場が収束するのは、これから約五分後の事である。

 

翌日

 レオ達本戦出場者と、対馬ファミリーをはじめとしたその同伴者達は、霧夜カンパニーが経営する大型居酒屋の宴会場に集まり、大宴会が始まるのだった……。

 

 

 

レオSIDE

 

「それでは、無事大会終了を祝して……」

 

『かんぱーい!!』

 

 姫による乾杯の音頭で宴会は開始され、参加者は皆それぞれ酒や会話に花を咲かせる。

 

「美味ぇーー!!このカルビめちゃくちゃ美味ぇぜ!!」

 

 カニは真っ先に食い気に走り出す。

まぁ、目の前に出された食い物が焼肉(しかもかなり上等なヤツ)じゃカニの反応はある意味当然だが……。

 

「しかし、本当に美味いな。すまんが、ロースとホルモンの追加を頼む」

 

「かしこまりました」

 

 橘さんも満足そうに肉を食って……ん?

 

「「橘(さん)!?」」

 

 艦隊に帰ったはずの立花さんの姿に俺と乙女さんの声が見事にハモった。

 

「お前、橘司令の下に戻ったんじゃなかったのか?」

 

「宴会に招待されたのでな、父様から許可をいただいて来た。手紙を贈った昨日の今日で少し格好悪いが、焼肉は魅力だ」

 

 思いの外、短い別れだったな……。

 

「Hey彼女!誰の連れ?俺と一緒に飲まない?」

 

「え?いや、ちょっとそれは……」

 

 フカヒレは早速ナンパか。

あれ?あの娘って……

 

「俺の義妹に何か用か?フカヒレ……」

 

「げぇっ!大倉先輩!?」

 

 ああ、大倉先輩の彼女の妹か……。

フカヒレの奴、フラグを建てたな……悪い意味で。

 

「お前に香帆はやらん!」

 

「グハッ!」

 

 フカヒレは制裁(拳骨)を喰らった。フカヒレが戦闘不能になりなりました……ってか。

元々戦力外だけど。

 

「レオ、そろそろ良い焼き加減だぞ」

 

「お!本当だ。それじゃ、今回は俺が……はい、乙女さん。あ〜ん♪」

 

「コイつめ、この前は人前じゃ恥ずかしいと言っておきながら」

 

「伝染(うつ)ったんだよ、乙女さんの想いと情熱が」

 

「嬉しい事を言ってくれる。だったら私は今まで以上にお前の事を愛してやるぞ」

 

「じゃあ、俺はそれに全力で応えるぜ!」

 

 そして俺は乙女さんと人目も気にせずにイチャつきました♪

 

この時、俺達はこの後の更なるカオスを知る由も無かった。

 

 

 

NO SIDE

 

 そこそこに時間が経ち、宴会も中盤に入った頃、突如としてある人物が立ち上がり会場全体に聞こえるように声を上げ始めた。

 

「それじゃ、本日のメインイベント!王様ゲームやるわよ!いっておくけど本戦参加者と竜命館のメンバーは強制参加よ♪」

 

「面白そうじゃねぇか。けど、人数多いからくじ作るの大変じゃね?」

 

 姫の突拍子も無い発案に大和が口を挟むが姫はにやりと笑みを浮かべて見せた。

 

「大丈夫、参加者全員の名前を書いたルーレットでやれば問題無し!ついでに王様の命令は犯罪行為以外なんでも自由。そして絶対!!」

 

「面白そうじゃん!ボク参加する!!」

 

「俺も!(上手くいけば女の子と……イヒヒ)」

 

「強制参加なんですか?」

 

「強制参加よ♪」

 

 周囲からのさまざまな言葉にエリカは満足げに笑いながら準備を開始した。

そして数分後……

 

「それじゃ、始めるわよ!『第一回スーパー王様ゲーム!!』」

 

 超混沌(スーパーカオス)タイム、スタート!!

 

 

 

1回目

 

 ルーレットが回転を始め、カタカタと音を立てる。

 

「さぁ〜て、誰が王様かなぁ〜〜」

 

 エリカはニヤニヤと笑いながら目を光らせる。

 

(俺になれ!!女とお近づきになるんじゃ〜〜!!)

 

(ボクになれ!!ココナッツを跪かせてやる!!)

 

 物欲に正直な馬鹿二人、フカヒレとカニ。

 

(誰でもいいけど、変な命令をしない奴にしてくれよ……)

 

(何か変な事になってきたなぁ〜〜)

 

 カオスな展開を嘆くスバルと優一。

 

(ケケケケ……)

 

(フフフフ……)

 

 そしてドS達は不適に笑う。

 

そして……

 

「お!そろそろ止まるぞ!」

 

「さぁ、最初の王様は……」

 

 ルーレットの矢印が止まった先の名前は……

 

 

『椰子なごみ』

 

 

「うわ、何でアタシが……」

 

 まさかの展開になごみは不満全開な表情を浮かべる。

 

「まぁまぁ、良いじゃないなごみん。王様になったんだから大抵の事は命令して良いのよ」

 

「……じゃあ私を生徒会から」

 

「今この場ですぐに出来ることじゃないとダメ♪学校じゃなきゃ手続き不可だから」

 

 なごみの考えを予見していたかのように、エリカは即座になごみの言葉を遮る。

 

「チッ……じゃあ、モノマネで良いです」

 

 目論見を潰され、結局は適当な命令に変更するなごみだった……。

 

「それじゃあ、そのターゲットは……」

 

 嬉々としてエリカは再びルーレットを回す。

そしてルーレットによって決定されたモノマネ役は……。

 

 

『山城優一』

 

 

「俺!?俺モノマネのレパートリーなんて一つしか無いぞ」

 

「じゃあそれで良いんでやってください」

 

「……是非も無し、か」

 

 投げやりな感じにモノマネを催促され、数秒ほど間を置いて優一は観念したかのようにため息をついてバッグから(なぜか用意されていた)怒り顔と無表情な顔の二枚のお面を取り出し、顔の両端に挟み込むように取り付けた。

 

「フンッ!!」

 

 そして影分身で腕を左右二本ずつ増やし、六本の腕を持った身体となった……。

 

「……カーカッカッカッカ!!」

 

「なるほど、お前にしか出来ないモノマネだぜ」

 

 引きつった笑みを浮かべながらアシュラマンのモノマネをやってのけた優一の姿にその場にいる全員が何となく納得した表情を浮かべた。

 

 

 

2回目 王様・羽丘ふぶき

 

「これから二回ルーレットを回して、一回目に当たった人を二回目に当たった人がビンタ」

 

【え゛……!?】

 

 ふぶきの命令に一般人メンバーが冷や汗を流す。

ただでさえ規格外な戦闘力を持つ人間が周囲にごろごろいるのだ。

もし自分が叩かれる側になったらと思うと気が気でないだろう。

 

 

「それじゃ、一回目!」

 

 サディスティックな笑みを浮かべふぶきはルーレットを回す。

その結果は……

 

 

『鉄乙女』

 

 

【良かった……】

 

 一般人たちは非常に安堵した。

 

「羽丘テメェ……!!」

 

 しかしレオはふぶきを思いっきり睨み付けたが……。

 

「運が悪かったんだよ。彼女さんが力自慢にひっぱたかれないように祈る事だね。はい、じゃあ二回目」

 

 レオを無視して再び回るルーレット。

結果は……。

 

 

『佐藤良美』

 

 

「わ、私が鉄先輩を?」

 

「あら?これは意外……」

 

「逆だったら危ないけどね」

 

「佐藤さんなら……まぁ、ギリギリセーフか。良かったな、レオ」

 

 思わぬ展開に周囲から驚きとアンドの言葉が漏れる。

 

「結果は結果だ。お手柔らかに頼むぞ、佐藤」

 

「はい、それじゃあ……」

 

 遠慮がちに良美は手を振りかぶる。

この時、良美とその親友であるエリカを除いた者達全員が気づいていなかった。

 

(対馬君は……対馬君は私が先に好きになったのに!!従姉だからって、この……泥棒猫ぉぉっ!!!!)

 

 長い事溜まっていた鬱憤が、誰にも知られること無く爆発していた事を。そして……

 

『パァァァン!!』

 

「はうっ!?(……わ、私、佐藤に恨まれるような事したか?)」

 

 かなり小気味の良い音を立てて、良美のビンタは乙女の頬に炸裂したのだった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 そして普段通りの態度に一瞬で戻り、良美は乙女を心配そうに見つめる。

 

「だ、大丈夫だ。……佐藤、お前思ったより力があるな」

 

 思わぬ痛手に少し狼狽しつつも、乙女は平常心を保ちつつそう答えた。

 

 

3回目 王様・蟹沢きぬ

 

「よっしゃ!じゃあルーレットで当たった奴、かくし芸やれ!パンツと尻(ケツ)で割り箸真っ二つにするヤツ!!」

 

『仮にも女の子が命令する事か!?』

 

 その場にいた全員が下品過ぎる命令に口を揃えて突っ込んだ。

 

「ウルセー!当たった奴(出来ればココナッツ!)は大恥掻きやがれー!!」

 

 ブーイングを気にも留めずにルーレットを回転させるカニ。

結果は……

 

 

『士慢力』

 

 

「ウゲ……俺かよ!?」

 

「チキショー!ココナッツ(なごみ)に当ててやろうと思ったのに」

 

「ぶっ殺すぞこのクソ蟹が……」

 

 当たった奴と当てた奴、二人そろって別々の意味で悔しがるという奇妙な図が生まれた。

 

「ええい、俺も男だ!!やってやらぁ!!」

 

 やけくそ気味にズボンを脱ぎ、士慢はその巨体のでかい尻とパンツ(ブリーフ)の間に割り箸を挟みこむ。

 

「どりゃあああ!!!」

 

 そしてそのままベキリと音を立てて割り箸を割って見せた!

 

(バカでかいケツにしか目が行かねぇよ……)

 

(……カニ、お前どうするんだこの殺伐とした空気?)

 

「……何か、ごめん」

 

 

 

4回目 王様・柊空也

 

「それじゃ、ココは在り来たりだが、当たった奴は自分の一番最近起きた恥ずかしい話を暴露だ」

 

 ある意味安全策とも言える命令に周囲の人間は『やっとまともな命令が来た』と安心感を漂わせた。

 

「それじゃ、そのターゲットは……」

 

 

『冬島香苗』

 

 

 覚えていない意図のために説明。

冬島香苗……彼女は一回戦で弘之に完膚なきまでに叩きのめされたS女である。

(ただし、超ドSである大和曰く『見せ掛けだけの偽のドS』との事)

 

「実は私、この前の試合で負けてから虐められるのも良いなぁ〜って思うように……///」

 

(ゾクッ……)

 

 弘之を見ながら顔を赤らめて恥らう香苗。

しかしそれを睨み付ける女が一人いた。

 

「むぅ〜〜〜〜。ヒロ君!」

 

「え?んむぅっ!!?」

 

 弘之の婚約者、宮森香純は弘之の顔を両手でがっしりと掴んで濃厚なキスをかました!!

 

「ヒロ君は私の旦那さんなんだからぁぁ!!」

 

「そ、そんなぁ……彼女持ちだったなんて……」

 

 命令は安全策でも、相手によっては十分地雷になりえる。

これが王様ゲームの怖いところである。

 

 

 

 この後も様々なお題の数々が会場内をカオスと化していった……。

 

5回目 王様・小野寺拓己 お題・大和とフカヒレによるコサックダンス

 

「オラ!もっと足上げろフカヒレぇ!!」

 

「痛っ!踊りながら蹴るなぁ!」

 

「はい、その状態で後10分」

 

 

6回目 王様・上杉錬 お題・エリカと素奈緒による正義の心得20ヵ条朗読

 

「一つ!正義の戦士は常に実直であれ!!」

 

「「正義の戦士は常に実直であれ!!」」

 

「一つ!更生可能な奴は更生させろ!!」

 

「「更生可能な奴は更生させろ!!」」

 

(うぅ〜〜、なんでこの私が、こんな乙女センパイよりも堅苦しい台詞を……)

 

(これよ!これこそ私が求める正義の在り方よ!!)

 

 エリカはゲンナリと、そして素奈緒は溌剌としていた。

 

 

7回目 王様・直江大和 お題・スバル、錬による声優ネタ

 

「WRYYYYYY!!!!貧弱貧弱ゥゥ!!!!」←ヤケクソ

 

「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!勝利を掴めと轟き叫ぶぅぅっ!!!!」←同じくヤケクソ

 

((何やってんだ俺達は……))

 

 

 

8回目 王様・近衛素奈緒 お題・村田によるカラオケ熱唱

 

版権問題があるため割愛。

 

「僕の出番がぁ〜〜!!」

 

 

そして9回目……

 

「フフフフ……遂に来たわね!この時が!!」

 

『王様・霧夜エリカ!』

 

 待ち続けたチャンスにエリカはニヤリと笑う。

この時、男性メンバーの大半に妙な怖気が走った……。

 

「これから二人、ターゲットを選抜するわ。選ばれた者は皆の前でポッキーゲーム!もちろんキスまでいくのが絶対条件!!」

 

 会場内に戦慄が走る。

 

ポッキーゲーム……二人の人間が一本のポッキーを両端から食べ、やがて唇が触れ合いキスに至るという、王様ゲームの定番だ。

 

 しかし、王様ゲームにおけるポッキーゲームの恐ろしさは、プレイヤーがランダムでセレクトされるという点にある。

即ちそれは、望まぬ者同士によるキス、最悪同性同士でキスをせねばならないという事でもあるのだ。

そしてエリカが望むのは……

 

(腐腐腐……じゃなくて、フフフ……目の前でBLシーンを拝める絶好のチャンス到来!!カメラ持って来て大正解だわ!)

 

 BL好きなエリカが狙うは当然男同士のポッキーゲーム!!

 

「この際一気に決めるわ。一人目はルーレットの矢印。そして二人目はこのダーツの向かう先!それじゃあ、ルーレット……スタート!!」

 

 ポケットから取り出したダーツを構え、エリカはルーレットを回す!!

 

【はずれろぉぉ〜〜〜〜!!!!】

 

 彼氏彼女持ちの者は全員必死になって外れる事を祈る。

 

(俺になれぇぇ!!美少女と初キスだぁぁーーーー!!!!)

 

 モテない男の代表フカヒレこと鮫氷新一は物凄い形相で自分と美女のの当たりを願う。

 

「ルーレットが止まるぞ……!」

 

「これで、決めるわ!!」

 

 そしてエリカの手からダーツが放たれ、的に刺さったその直後、ルーレットは遂に止まった。

その結果は……

 

矢印の指し示す名は『対馬レオ』

ダーツの刺さった場所に刻まれた名は『小野寺拓己』

 

「「ゲェェーーーーーッ!!!!」」

 

「「何ぃぃぃ〜〜〜〜っ!!!!」」

 

「やったぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!」

 

 ターゲットに決まってしまった対馬レオと小野寺拓己。その彼女である鉄乙女と霧島皐月。

そして元凶、霧夜エリカの叫びが同時に木霊した!!

 

 

 

レオSIDE

 

 ちょちょちょ、ちょっと待てぇぇーーー!!

どうすんだよコレ!?男同士でキスとか絶対嫌だぞ俺は!!

それに……

 

「れ、レオぉぉ!!」

 

「拓ちゃん!何でこんな……」

 

「はーい、邪魔しないでね、お二人共。コレはルールなんだからw」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべて乙女さんと小野寺の彼女を制止する姫……。

クソ!姫のBL趣味に付き合わされた挙句、乙女さんの前でこんな事出来る訳ないだろ!!

 

「くそぉ……どうすれば良いんだ」

 

「俺のブラックホールで……いや、ばれずに作るのは流石に無理だ……」

 

 小野寺も必死になって考えるがまるで良い案が浮かばないようだ。

 

「畜生!相手が皐月だったら文句無くやってやるのに!!……対馬、お前は何か思い浮かばないのか?この状況を逆転出来る発想とか……」

 

 そんなもの思い浮かべば苦労はねぇよ。

俺だって乙女さんが相手だったらすんなり受け入れるのに……。

 

「ん?」

 

 自分の思考と小野寺の言葉に何かを感じた。

何だか……とんでもなく大きなヒントを得たような感じだ。

 

(逆転出来る発想……発想、逆転……)

 

 不意に頭の中で何かのピースが音を立ててはまり合う。

俺達が取るべき行動は……。

 

(逆転を発想するんだ……)

 

(何?)

 

 俺は小声で小野寺に話しかける。

俺一人よりも二人で知恵を出した方が良い!

 

(『どうやってキスを回避するのか』じゃなくて、『どうやってルールに抵触せずに俺達でキスするのを回避するか』……それを考えるんだ!)

 

(ルールか……確か『ターゲットに選ばれた者は皆の前でポッキーゲーム』『キスまでいくのが絶対条件』だったな……ん?ターゲット“に”…………あぁっ!!)

 

 !!…………小野寺の言葉に俺も閃く。そうだ、これなら!!

 

「は〜い、それじゃポッキーゲーム、始めるわよ!」

 

 っ…まずい!姫がポッキーを取り出した。

 

(チャンスは一度。ポッキー咥えてスタートの合図が出てすぐだ!!)

 

(応よ、上手くいったら一緒に酒でも飲もうぜ……行くぜ拓己!!)

 

(ああ、抜かんなよ、レオ)

 

 覚悟を決め差し出されるポッキーを受け取って口に咥え合い、俺は乙女さんに、拓己は彼女である皐月さんに目配せする。

幸い今の姫はBLの写真を取る絶好のチャンスを目の前に興奮している。

姫が俺達の作戦に気づく前にやるんだ!!

 

「それじゃあ、スタート!!」

 

((今だ!!))

 

 スタート直後、俺と拓己はすぐにポッキーを半分にへし折った!!

 

(乙女さん!)

 

(皐月!)

 

 そしてすぐに自身の恋人の下へ駆け寄る。

これが、俺達の考えた『ルールを守り、望まぬ接吻を回避する』唯一の方法!!

 

((これを、咥えろぉぉーー!!))

 

 頼む!伝わってくれ!!

 

 

 

乙女SIDE

 

 絶望が一気に驚きと困惑に変わる。一体どういう事だ?

開始直後に突然レオと小野寺はポッキーを真っ二つに折ってこちらへ向かってきたのだ。

まるでレオは私、小野寺は自分の恋人である霧島とポッキーゲームをするかのように……ッ!!

 

(そ、そうか!その手があったか!!)

 

(分かった!分かったよ拓ちゃんの考え!!)

 

 私と霧島はほぼ同時に二人の真意を見抜いた。

ルールの穴を付くのは少々気が引けるが、これが最良の選択だ!!

 

 

 

NO SIDE

 

 レオと拓己……二人の行動に会場内が驚愕に静まり返った。

二人は開始直後にポッキーを真ん中からへし折り、それぞれ自分達の恋人の下へ走り、そのまま恋人の口に折れたポッキーの端を咥えさせ、そのままポッキーゲームに移行し、キスをしたのだ。

 

「え!ちょっ、何やってんのよ二人とも!?」

 

 自身の予測の斜め上を行く展開にエリカは抗議の声をあげる。

だがレオと拓己は揃って笑みを浮かべてエリカを見返す。

 

「ポッキーゲームはしたし、キスもした。……これで俺達は条件を満たした筈だが?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!普通に考えてルーレットで選ばれたターゲット同士がキスするのが普通でしょ!?」

 

 拓己の言葉に対してエリカの反論が飛ぶ。

しかし二人は動じない。まるで勝機を完全にものにしたかの様にふてぶてしく笑う。

 

「たしかに、姫はそのつもりで言ったのかもな。だが、よく思い出してみろ!あの時姫はこう言った!『選ばれた者は皆の前でポッキーゲーム!もちろんキスまでいくのが絶対条件!!』とな!!」

 

「逆に言えばターゲット同士でキスをしろとは一言も言っていない!!」

 

「あ……ああぁぁぁぁっ!!」

 

 今になって自身のミスに気付き、エリカは激しく動揺する。

 

「つまり、俺達がそれぞれ自分の彼女とポッキーゲームをやってしまえばそれで条件クリア!」

 

「これがこの命令の攻略法だ!!」

 

 まるで青いスーツに後ろ髪が尖った髪型の弁護士の如く、レオと拓己は真っ直ぐに人差し指をエリカに向けて言い放つ。

レオ達の脳内において、宴会会場は今や地方裁判所の法廷へと姿を変えていた。

 

「グ…グ……な、直江検事……」

 

「残念だが、アンタは目先の欲望に気を取られ、ミスを犯した。……反論は出来そうにねぇな」

 

 助けを求めるような声を出すエリカに、何故か顔の上半分をバイザーで覆い、珈琲を飲みながら大和は諦めたかの様に返す。

 

「グ……ク…………………………………………私の、負けよ。……でも、BLの生写真を手に入れる夢は、いつか必ず……!!」

 

 逃げ場の無い言葉のロジックに対し、遂にエリカは肩を落として観念し、敗北を認めたのだった。

 

「では、判決を言い渡します……《無罪!》」

 

 そしていつの間にか裁判長役になっている錬によって判決が言い渡される。

果たしてこれは何の裁判なのか、誰が無罪なのか、様々な謎を残したままノリと雰囲気のまま裁判は閉廷したのだった。

ただ、言える事があるとすれば、レオ達は恋人への想いを裏切らずに済んだという事だろう。

 

「っていうか、何この超カオス……」

 

 似非裁判を覚めた目で眺めながら、数少ない常識人である近衛素奈緒はそう呟いた。

 

 

 

その後、色々とありながらも王様ゲームは進み、遂にゲーム残り1回……オーラスを迎えた。

そして王様に選ばれた人物は……。

 

「来た来た来た来た!遂に来たぁぁぁぁ!!俺が王様だぁぁーーーー!!」

 

 その名は、鮫氷新一。またの名をフカヒレという男である。

 

「ゲッ!よりにもよってオメーかよフカヒレ」

 

「コレばっかりは甲殻類に同意。……絶対変な命令になるから」

 

 カニとなごみが珍しく意見を一致させて引く。

しかしそんな事はどこ吹く風、フカヒレは喜々として自分が王様になった事で出来る命令に心躍らせる。

 

「俺の出す命令はコレしかない!ルーレットで選ばれた奴と王様がディープキスだぁぁーーー!!」

 

【やっぱりか……】

 

 予想を悪い意味で裏切らぬフカヒレに会場内の人間ほぼ全員ががっくりと肩を落とす。

そして同時に自分が選ばれないようにっと必死になって祈る……特に女子が。

 

「行くぜぇぇ!!」

 

 そして回される運命のルーレット!

その結果は……

 

 

『村田洋平』

 

 

「「げぇぇーーーー!!」」

 

 まさに悪夢再び、かつての体育武道祭での悪夢が今ココに蘇った瞬間だった。

 

「ままま、待て!やっぱりこの命令取り消s……」

 

(((ニヤリ……)))

 

 慌てて命令を取り消そうとするフカヒレ。

しかし、フカヒレが言い終わる前、瞬時に動く三つの影があった。

 

「おいおいおい、いくら王様でも命令取り消しは出来ないぜぇ、フカヒレ先輩よぉ……ケ〜ケッケッケ!」

 

「君も男なら、もう覚悟決めちゃいなよ。……フフフフ」

 

「もうこの際この二人で妥協するわ♪」

 

 大和、ふぶき、そしてエリカ……ドS三人衆はフカヒレと村田の身体を羽交い絞めにしてゆっくりと二人の身体を近付けていく。

 

「い、嫌だぁぁ〜〜!レオぉ!スバルぅ!助けてくれぇぇ〜〜〜!!」

 

「お前、下手すりゃ乙女さんに不埒な真似しでかす所だったからなぁ……助ける気になれん、諦めろ」

 

「悪い、俺もとぱっちりは食いたくないんだ。洋平ちゃん、身代わりになってくれや」

 

「「そんなぁぁ〜〜〜〜!!」」

 

 無情な結末にフカヒレと村田の嘆きが室内に響く。

しかしそうしている間にも、二人の身体は刻一刻と近付き、遂には文字通り目と鼻の先にお互いの顔が……

 

「「嫌!ダメ!!やめt……」」

 

 

『ぶちゅぅぅぅぅっ!!』

 

 

「「むぎゅあぁぁぁぁぁぁあぁっぁあぁぁっぁ!!!!?!??!??!」」

 

 

 この時、ごく一部を除いて会場内の人間がこの光景から目を背けたのは、言うまでもない。

 

後に残ったのは、真っ白になった二人の姿だった……。

 

 

レオSIDE

 

 騒がしくも楽しい宴会も終わり、参加者は皆と共に帰路に着く。

と言っても、大抵の面子は駅で別れるけどな。

 

「じゃあな、次に戦(や)る時まで、腕落とすんじゃねぇぜ」

 

「今度は絶対に俺達が勝つ!!」

 

「ああ、お前らもな!けど、そう簡単にリベンジされてやるつもりは無いぜ!!」

 

 駅前に着き、俺は拓己と優一のD&Iハリケーンズと再戦の約束を交わし……

 

「戻ったら、また一から修行のやり直しだな。相手が相手とはいえ、一回戦負けじゃ様にならねぇし」

 

「だったら、今度僕とスパーリングでもする?タッグ組む前にシングルで戦ってみたいしね」

 

「良いぜ。どっちが真のドSか決めようじゃねぇか!」

 

「面白そうじゃない。立会人は私がやってあげるわ」

 

 大和とふぶきはもう既にコンビを組むことが確定しているらしい。

姫もノリノリだし……とんでもないタッグが誕生しそうだ。

 

「錬と弘之は、それぞれもうすぐ結婚式だよな?その時は呼んでくれよ」

 

「ああ、日取りが決まったら連絡する」

 

「全員に招待状送ってやるよ」

 

「結婚式か……礼服あったかな?」

 

 空也達は錬と大倉先輩の今後の話に華を咲かせる。

 

「鉄、貴様と対馬にはいずれまた会うだろう。その時はもう一度、正々堂々と戦わせてもらうぞ。そして私が勝って刀を頂く」

 

「ああ、いつでも来い!お前との再戦を楽しみにしているぞ、橘」

 

「楽しみ、か……私もだ」

 

 橘さんは乙女さんに雪辱を果たすことを宣言するが、以前のような刺々しさは無くなって、今じゃお互い好敵手って感じだ。

 

そして俺と乙女さんは皆と別れ、自宅へと向かって歩を進めた。

 

 

 

 

 

 そして一時間後……俺達は無事帰宅し、二人でベッドに腰掛けながら今までのことを振り返る。

 

「なぁ、レオ」

 

「何?」

 

「い、その……何て言うか、格好良かったぞ。大会でのお前の戦う姿も、宴会で機転を利かせた姿もな」

 

 不意に俺に声をかけた乙女さんは、少し頬を赤くしてはにかんだ笑顔を見せてくる。

ヤベ……超可愛い。

 

「そうかな?」

 

「当たり前だ。一回戦でも準決勝でも、何度もときめいたんだぞ。……お前は私の、自慢の弟分で、ライバルで……最高の恋人だ!」

 

 何だろう?……物凄く歯の浮くような台詞なのに、すごく嬉しくて乙女さんの事がより一層愛おしく感じる。

 

「乙女さん……俺もだよ」

 

 想いに飲まれ、俺は乙女さんを抱き寄せて唇に顔を近づける……。

 

「あ、待て……せっかくだから……」

 

 不意に乙女さんが動きを止めて棚からポッキーを取り出して自分の口に咥える。

 

「宴会のときは緊急回避みたいだったから、今度はちゃんとしておきたい。良いか?」

 

「当然」

 

 乙女さんの要望に快諾し、俺は乙女さんの咥えているポッキーの先端を咥える。

そしてお互いにゆっくりとポッキーをカリカリと食べ進み、やがて……

 

「んっ……」

 

「……んむっ………甘いな」

 

 俺達の唇は触れ合い、文字通り甘いキスを堪能した。

 

「もう一回、しようか?」

 

「ああ」

 

 それからポッキーが尽きるまでポッキーゲームを続けたのは言うまでもない。



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有明の戦場 黒の戦士と赤き忍

今回はTINAMIにて連載中の本郷刃さんの作品、
『SAO〜黒を冠する戦士たち〜』
通称、黒戦シリーズとのコラボ特別編・第一段です!!

また、あのゆる〜い百合アニメからあのキャラが……。


レオSIDE

 

 8月もそろそろ半ばに入る頃、

あの大会の後、俺と乙女さんは夏休みの生活を満喫していた。

昼間はデート(海水浴、釣り、映画鑑賞、縁日etc……)に行ったり、二人でまったりと過ごしたり、そして夜は……まぁ、これは言うまでもないな。

あと言っておくが、当然修行や鍛錬、学校からの宿題は疎かにしていない。

俺達みたいに格闘の世界に身を置く者は常に身体を鍛えておかないとすぐ他のライバルに抜かれちまうし、何より向上心を失ってはいけない。

宿題はアレだ。しがらみがあると乙女さんとイチャつけないし、それに乙女さんって真面目だから。

何より祈先生からの懲罰は絶対嫌だ。だってあの人涼しい顔してすっげーキツイ罰を喰らわせてくるから……。

 

「それでよぉ、最近のネトゲって大概VRMMO系のゲームが占めてるんだぜ。中でもこのALOっていうゲームは凄い人気でさぁ……」

 

「それって反射神経使うって話だが。フカヒレにはちとキツイんじゃねぇか?」

 

 今日は久しぶりにスバル達を家に呼んでいつもの面子で過ごしているが、久々に家に集まったというのに、何故か話題はネットゲームの話だったりする。

 

「へっ!なめちゃいけねぇぜ。そこら辺はシステムがフォローしてくれるから俺でも中の上には入る!!」

 

「中の上で自慢できんのか?ボクならトッププレイヤー目指すけどね」

 

 珍しくカニが正論を言う。

確かに中の上では自慢するには微妙だ。

 

「お前らはトッププレイヤーの強さを知らねぇからそんな事言えるんだよ。ALOトップに君臨してるのは“あの”キリトだぜ!!」

 

「マジかよ?あのSAO事件の……」

 

 キリト……ネトゲに詳しくない俺でも聞いたことがある。

ネットゲーム内に千単位の人間が閉じ込められたという怪事件……通称『SAO事件』の被害者であると同時に、そのゲームをクリアして事件を解決に導いたとされる『攻略組』最強の男にして、事件解決の功労者の筆頭と呼ばれるプレイヤーだ。

現実(リアル)でもとある武術の師範代を務める程の実力者という説もあるらしいが……。

 

「SAOかぁ……あの時は本当に肝が冷えたな。フカヒレがあのソフトを買う予定だったらしいけど、購入枠に入りきらなかったお陰で事件に巻き込まれずに済んでよ」

 

 あの時は皆でフカヒレの家に駆け込んだっけ……。

 

「あー、言えてる言えてる。フカヒレじゃ速攻でくたばってただろうね」

 

「流石にフカヒレでも死んでほしくはないからな」

 

「馬鹿にされてるような友愛を貰ってるような……この複雑な感情は何だ?」

 

 なんとも複雑そうな表情のフカヒレ……本当に分かりやすい男だ。

 

「ところでレオ、昨日電話で言ってた既に宿題はほぼ済ませたって本当か?」

 

 しんみりした空気を換えようと、スバルは話題を切り替えた。

 

「ああ、2、3日前に大体はな」

 

「「写させて!!」」

 

 宿題済ませたと聞いた途端カニとフカヒレはこの有様かよ。

 

「……お前ら、少しは自力でどうにかしろよコノヤロウ」

 

「ケッ!さすが乙女さんに勉強教えてもらって成績アップした対馬のダンナは言うことが違うよなぁ〜〜!!」

 

「彼女が出来た上に成績アップとか……くたばりやがれぇ〜〜!!」

 

 ……僻みは理解してやるが、負け惜しみにしか聞こえんぞ(←勝者の余裕)。

 

「蟹沢に鮫氷……他人に頼って丸写しじゃ宿題の意味がないぞ」

 

 二人に呆れながら乙女さんはお茶を持って俺の部屋に入ってくる。

 

「分からん所は私とレオで教えてやるから、自力でやれ。何なら今ココでするか?」

 

「「自宅で自力で頑張ります!!」」

 

 カニとフカヒレは逃げを選択した。

 

「そ、それより、ココにいる全員にちょっと頼みたいことがあるんだけど……」

 

 話を逸らそうとフカヒレは突然別の話題を切り出した。

 

「実は明後日のコミケなんだけど、買出し要員にどうしても人手が見つからなくてさぁ。それに、知り合いのサークルにコスプレした奴連れてくるって安受け合いしちまってさぁ。悪いけど明後日、コミケに付き合ってくれ!頼む!」

 

 フカヒレの頼みに俺達は目を丸くする。

コミケとはコミックマーケットの略称。所謂同人誌即売会だ。

コミケか、それにコスプレ……、ん?……って事は。

 

((乙女さん(レオ)のコスプレ姿が見れるという事に……))

 

 乙女さんのコスプレ……メイド服、魔法少女、巫女etc…………。

 

(レオのコスプレ……新撰組、王子様、超人レスラーetc…………)

 

「「よし、任せろ!!」」

 

 見事にハモりながら俺達は二つ返事でフカヒレの頼みを承諾したのだった。

 

 

 

NO SIDE

 

 レオ達武闘派カップルのコミケ参加が決定したその日、別の場所であるカップルにも同じような事が起きていた。

 

「で、俺達にコミケに参加してほしいと?」

 

「ああ、頼むよカズ。どうしても体力のある面子が欲しいんだ」

 

 都内のとある喫茶店にて……

二人の少年……興田真と村越駿は同じ学生服を着たカズと呼ばれた黒髪の少年に頭を下げて頼み込む。

 

「それは構わないが、何故俺だけじゃなくて明日奈まで?」

 

 黒髪の少年は首を傾げつつ問う。

黒髪の少年の名は桐ヶ谷和人……数年前から約2年間に渡って世間を騒がせた事件、通称『SAO事件』を解決に導いた功労者の筆頭とも呼べる人物……キリトその人である。

それと同時に同時に神霆流と呼ばれる流派に属する武術の師範代でもある。

そして和人が話題に出した少女は和人の恋人(婚約済)、結城明日奈……同じくSAO事件の当事者だ。

 

「そりゃ、もちろんコスプレ要員。お前も含めてな」

 

「今回のコミケはコスプレカップルコンテストと格闘イベントがあるからな」

 

 村越の言葉に和人は(二つの意味で)ピクリと動いた。

 

「ほぅ……そりゃ興味深い」

 

 そして不敵な笑みを浮かべる。

雄として彼女のコスプレ姿を拝める喜びと武門に身を置く者として戦いの場を見つけることの出来た喜びを押し隠しながら。

 

「分かった。明日奈や他のメンバーにも声は掛けておく」

 

「悪いな。恩にきるぜ」

 

 和人からの承諾の言葉に興田達は喜色を浮かべる。

一方で和人は、数日後のイベントを思い浮かべる。

 

(何だか面白そうな事が起きる予感がするな。……クク、良い対戦相手と出会えれば良いが)

 

 

 

レオSIDE

 

 フカヒレからの依頼から2日、俺達は前日の夜(早朝)の内に都内某所の漫画喫茶で時間を潰し、今は朝の4時。

 

「……そろそろ行くか」

 

「おう。乙女さん、カニ、時間だぜ」

 

「zzz……うー、もう行くの?」

 

「んっ……分かった」

 

 仮眠を取っていた乙女さんとカニを起こし、俺達は駅で始発電車に乗って有明へと向かった。

 

「しかし、こんなに朝早くか行かなくてはならんのか?開始時間は10時からだと聞いたが?」

 

「目茶苦茶並んでる人が多すぎて、悠長にしてたらとんでもない事になるんだよ。一応、同人誌を買う目的もあるからね」

 

 一応俺、カニ、スバルは以前フカヒレに付き合わされて何度かコミケに参加している。

確かにアレは相当ハードだ。夏コミだと猛暑の中で長々と行列に並ぶ必要があるから涼しい早朝の内に並んだ方がまだ利口だ。

冬なら防寒着とかでどうにかなるんだがなぁ……。

 

「ま、着けば解るよ。嫌でもね……」

 

 

 

NO SIDE

 

 灼熱の太陽光を浴び、炎天下の中レオ達対馬ファミリーはとてつもなく長い行列に並び続ける。

 

「なるほど……これは、確かにキツイな」

 

 乙女は絞り出すように声を発し、手に持ったドリンクを口に運んで水分を補給する。

 

「暑ぃ〜〜、だから行列って嫌なんだよ」

 

 カニは愚痴りながら地面に敷いたシートの上に寝そべる。

 

「耐えろ……耐えた先には宝(同人誌)の山が俺達を待っている……!!」

 

「そりゃフカヒレにとっては宝の山だろうな……」

 

 フカヒレは煩悩を糧とした忍耐力を見せ、スバルはそれに突っ込みを入れる。

 

「まったく、サークル参加の奴らが羨ましいぜ」

 

 自分達の中に誰一人として絵の描ける奴がいないのが恨めく感じる対馬ファミリーだった。

 

 

 

 

 レオ達がそんな事を考えていた頃、会場内では多くの同人サークルが準備を整えつつあった。

七森中学校ごらく部に所属する4人の少女達もそんな準備に勤しむ者達だ。

 

「結衣〜〜、そっちの椅子取って」

 

 金髪碧眼の少女、歳納京子は黒髪にショートカットの少女、船見結衣にパイプ椅子を並べるよう指示する。

 

「京子先輩、この荷物はどこに置けばいいんですか?」

 

「あ、それミラクるんのコスプレ衣装だから。大事にしといてね♪それ着てカップルコンテストに出るから」

 

「はい!!傷一つつけません!!(結衣先輩と私でカップルコンテストに出て優勝間違いなし!!)」

 

 桃色の髪をツインテールに纏めた少女、吉川ちなつは京子の言葉に『ビシィッ』という擬音が付く程に見事なフォームで敬礼する。

 

「皆〜、飲み物買って来たよ」

 

 最後に現れたのは少々他の3人と比べて薄い印象を見せる赤毛にお団子ヘアの少女、赤座あかりだ。

 

「何か作者さんに酷い事言われた気が!?」

 

「メタ発言はやめとけ。色々と危険だぜ」

 

 思わぬ間のよさを発揮したあかりの背後から一人分の人影が現れる。

黒いヘルメットとプロテクトに身を包み、顔は黒いマスクで隠した男だった。

 

「うひゃっ!?だだ、誰ですかこの戦争男は!?」

 

「そ、その声は……もしかして、大和先輩ですか!?」

 

 真っ先に男の招待に感付いたのは京子だった。

 

「ケケケ……ご名答。久しぶりだな、ごらく部のボーイズ&ガールズ諸君」

 

「いや、ボーイズって……私達女しか居ませんよ」

 

 マスクをはずして顔を出した男の正体は直江大和。

実は大和はごらく部のメンバー(ちなつ除く)と同じ小学校に通っていた時期があり、その時の後輩に当たるのだ。

(大和とあかり達の出身地などに関しては無視でお願いします。突っ込みも受け付けません)

 

「や、大和先輩……どうしてココに?」

 

「ああ、俺も今回は同人誌出す事にしてな。それで調べてみたらお前らも参加って言うから、ちょいと顔見せにな」

 

 先程までの元気溌剌な態度が急速に萎えた様に京子は腰の低い態度になるが、大和はそれを全く気にする事無く返す。

 

「きょ。京子先輩があんなにタジタジに……」

 

「大和先輩は京子にとって同世代で唯一頭の上がらない人だからな……」

 

 普段のトラブルメーカーな京子の姿しか知らないため、唖然とするちなつに結衣は説明補足する。

 

「大和お兄ちゃん、久しぶり〜〜♪」

 

 一方京子とは逆にあかりは上機嫌かつフレンドリーな態度で大和に接する。

 

「……そしてあかりは何故かあの人に懐いている。まぁ、大和先輩って根本的には良い人なんだけど」

 

「??」

 

 要領を得ない説明にちなつは顔に疑問符を浮かべる。

この疑問が解消されるのはこれから約数分後の事である。

 

「ほら、俺のサークルの新刊だ。人数分やるよ」

 

「あ、どーも。じゃあ、私の新刊と交換で……」

 

 大和から差し出された同人誌に、京子は多少緊張しつつも喜色を浮かべ、同じ部数の同人誌を交換する。

 

「悪いな。あとコレ差し入れだ。全員で食いな」

 

 ビニール袋に入った肉まんを机の上に置き、大和は立ち去っていった。

 

「……!?」

 

 去り際、密かにある人物に折り畳んだメッセージカードを手渡して……。

 

「……何か、得体の知れない人でしたね」

 

「ああ、でも悪い人じゃないよ。京子も頭は上がらないけど苦手って訳じゃないみたいだし」

 

 去って行く大和を不思議そうに眺めながらちなつは呟き、結衣はそれにやや遠慮がちに返す。

 

「そうですね。肉まんまでくれるし、結衣先輩の言う通り根は良い人なんですね」

 

 そう言ってちなつは袋に入っている肉まんを一つ取り出し、それを口に運ぶ。

 

「あ!ちなつちゃん待って!!」

 

「迂闊に食べたら……」

 

 肉まんを食べようとするちなつを止めに入る京子と結衣だが、既に遅かった……。

 

「え……ッッ!!??!?か、か…………辛いぃぃぃぃぃィィィッっぃぃ!!??!?」

 

「あーあ……遅かった」

 

「やっぱり出た。大和先輩の常套手段……あの人の差し入れには必ず一つ激辛スパイスが仕込まれているんだ。ちなつちゃんがその洗礼を受けるなんて……」

 

 やはりココでも大和のドSぶりは発揮され、悲鳴に喘ぐ哀れな少女が一人……。

 

「………大和お兄ちゃん」

 

 激辛肉まんの辛さを必死になってジュースで中和しようとするちなつを余所に、あかりは大和から受け取ったメッセージカードを真剣な表情で握り締めた。

カードに書かれた言葉はたった一言……。

 

『格闘イベント、お前が出るのを楽しみにしているぞ』

 

 

 

 

 

 

 再び場所は行列に戻り、対馬ファミリーとは少し離れた位置に陣取る男女が居た。

 

「始発で来て並んでコレだけの人数か……徹夜してる奴もいるだろうな」

 

「え?徹夜って禁止されてるんじゃないの?」

 

 朱に近い茶髪をポニーテールに纏めた寡黙な雰囲気を持つ少年、国本景一。

彼の呆れを含んだ言葉に黒髪のショートカットに眼鏡を掛けた少女が疑問を浮かべる。

景一の恋人である、朝田詩乃だ。

二人はALOにて和人(キリト)と同じギルドに属する仲間であり、景一に至っては和人の同門であり、SAOを共に戦い抜いた戦友の一人でもある。

ちなみに、景一のALO内でのキャラネームはハジメ、詩乃はシノンという名前である。

 

「徹夜だってやり方次第だからな。行列解禁の直前までどこかの喫茶店とかで時間潰してたりするとかさ」

 

「ま、結局は邪道だと思うけどな」

 

 呆れ顔を浮かべながら興田と村越は最前列を眺める。

 

「ま、じっくり待てばいい。俺達の目的はイベントの方がメインだからな」

 

 しかしそんな事はどこ吹く風と言わんばかりに、のんびりとした様子で和人は手元のサンドイッチを頬張る。

 

「和人君のコスプレ……私、コンテスト中に鼻血とか出さなきゃいいけど」

 

『ママなら大丈夫です。ママは本番に強いですから、きっとコンテストでも活躍出来る筈です』

 

 そんな和人を見つめながら栗色の挑発の少女……和人の恋人(婚約者)兼パートナー、結城明日奈(プレイヤーネーム『アスナ』)はやや心配がちに呟くが、彼女の肩に乗せたドーム型の端末『視聴覚双方向通信プローブ』から声が発せられる。

声の主は和人と明日奈の娘同然の存在であるAIの少女、ユイだ。

 

「活躍は大いに結構だが、優勝は私と詩乃が頂く」

 

「言ってくれるなぁ。俺とアスナを前によ……」

 

 景一の挑発的な言葉に和人もまた挑発的に返す。

コスプレカップルコンテスト、そして格闘イベントの開始時刻は着々と迫っている……。

 

 

 

 そして、遂にコミックマーケット開場の時が来た……!!

 

 

 

レオSIDE

 

『走らないでください!新刊の購入は一人3冊までとさせていただきます!!』

 

 開場と同時に参加者はビッグサイト内に雪崩れ込み、凄まじい人の波が一瞬にして出来上がった。

 

「のわぁぁ〜〜〜!!」

 

 悲しいかな、小柄なカニは人並みに飲み込まれてはぐれてしまった。

あとで連絡して、前以て決めておいたポイントで合流しないとな。

 

「ぬぅおおおおぉぉぉ!!!!新刊は俺の物だぁぁ〜〜〜〜!!」

 

 フカヒレの奴、凄いガッツだ……。

普段からもアレぐらいガッツ出せれば万年ネタキャラなんて言われずに済んだだろうに……。

 

「さてと……頼まれてた分はキッチリ確保しておくか」

 

「ああ、行くぞレオ!」

 

 俺と乙女さんもフカヒレに頼まれた同人誌を購入すべく人並みに突貫していった。

ちなみに、フカヒレの奴はこの手の事に関しては抜け目なく、乙女さんに頼んでいた同人誌は全て一般向けのものだったのは後に知った事である。

 

 

 

 そして約一時間後。

 

「あ゛ぁ〜〜……やっと人ごみから抜け出せた」

 

「すまんなフカヒレ。頼まれてた同人誌(もの)、少ししか手に入らなかった」

 

「いやぁ、ちょっとでも買えれば上等だ。最重要の奴はレオと乙女さんが手に入れてきてくれたから」

 

 一先ず全員集まり、俺達は壁際で一息吐く。

紙袋には購入した同人誌が何冊か入っている。

 

「それで、これからどうするんだ?まだ例のコンテストまではかなり時間があるが」

 

「フフフ……決まってるじゃあねぇか乙女さん」

 

 乙女さんの問いにフカヒレはニヤリと笑って別途に持ってきた荷物を開く。

 

「さぁ、皆の衆、更衣室へ!!コスプレパーティーの始まりじゃあぁーーーー!!」

 

 衣装を掲げながらフカヒレは高らかに宣言した。

遂にこの時が来たか……。

 

 

 

NO SIDE

 

 さて、ここで対馬ファミリーの服装を紹介しよう。

 

「俺がシャークだぁ!!」

 

 フカヒレは某野菜王子。

……と言っても、元がフカヒレなので声以外は下級兵士程度にしかならないが。

 

「おお!何コレ妖精キャラ!?可愛いボクにピッタリじゃん!!」

 

 青を貴重とした服と氷を象った羽に大はしゃぎなカニ。

確かにピッタリである。……何故ならそれは東方随一のバカキャラ、⑨(チルノ)のコスプレだから。

 

「WRYYYY!……とでも言えば良いのか?」

 

 スバルは黄色を貴重とした奇抜なファッション。

某ザ・ワールドなカリスマ吸血鬼のコスプレである。

 

(西洋風の乙女さん……有りだ!)

 

(剣士のレオもなかなか良い……!!)

 

 そしてレオのコスプレは漆黒の二刀流剣士、乙女は純白をベースに所々赤のラインが入った西洋風の女剣士……早い話がSAOでのキリトとアスナのコスプレだ。

 

「へへっ、どうだその服?特注で作って貰ったキリトとアスナの衣装だぜ」

 

 二人のコスプレにフカヒレは自慢げに胸を張る。

ある意味実在の人物のコスプレだが、キリトとアスナの名はその筋の人間なら多数の人間が知っているためか、レオ達以外にもキリト、アスナなどの有名プレイヤーのコスプレをしている者はそこそこ多い。

コスプレされている当人達がどう思っているのかは定かではないが……。

 

「SAO公式夫婦って……似合いすぎだろ」

 

「竜命館随一のバカップルに夫婦コス……何か、ココまでくると逆にムカつくよね」

 

「鮫氷、お前なかなかセンスが良いな」

 

「ああ、最高のコスプレだぜ」

 

 フカヒレにしてはかなり珍しく、大好評だった。

 

(お、俺のチョイスが大好評……今の今まで猿だのオゲチャだのと言われていたこの俺が……遂に俺の時代が来た!!)

 

 これで変な方向に調子に乗らなければ完璧なのだが……。

 

「で、次はどこ行くの?」

 

「次は……ココだ。知り合いのサークルが新刊出してるから」

 

 地図を広げてフカヒレは目的地を指差し、一同の次の行き先が決定する。

そこに大きな出会いがあるとも知らずに……。

 

 

 

 

 場所は変わってあかり、京子、結衣、ちなつの4人が運営するサークルではある来客があった。

 

「へぇ……同人アニメか。しかしよく出来てるなぁ」

 

「うん、一瞬企業が出してるのかと思ったよ」

 

 ポータブルDVDプレイヤーに映し出されるアニメを見ながら和人と明日奈は感嘆の声を上げる。

ちなみに、和人達のコスプレは以下の通り。

和人……伊達政宗(戦国BASARA)

明日奈……希月心音(逆転裁判5)

景一……石川五右衛門(ルパン三世)

詩乃……長門雪希(涼宮ハルヒの憂鬱)

興田……孫悟空(ドラゴンボール)

村越……ロックマン(初代ロックマン)

 

「これ全部個人で?」

 

「はい。監督、脚本、原画、声その他諸々……」

 

(延々と動画を書き続ける作業を手伝わされる身にもなってほしいよ……)

 

 景一の質問に魔女っ娘ミラクるんに登場するライバルキャラ、ライバるんのコスプレをした京子は喜々として答える。

一方で同じくライバるん(こちらは変身前)のコスプレをしている(させられた)結衣は内心で愚痴る。

 

「おーい!ラム子ちゃーーん!!君達の頼れるお兄さん、シャークさんが笑顔を携えてやって来t……グェッ!?」

 

 そんな中駆け込んできた某野菜人の戦闘服を着たフカヒレだったが、レオに首根っこを掴まれ、呻き声を上げた。

 

「おお、シャークさん!……もしかしてその人達が!?」

 

 フカヒレの姿に京子は喜色を浮かべて応対する。

ちなみにラム子とは京子のパンネームである。

 

「お、おい京子、あの眼鏡の人誰だよ?……って言うか、大丈夫なのこの人?色んな意味で」

 

 明らかに挙動不審なフカヒレに、コレが通常だとは知らない結衣は警戒して小声で京子に尋ねるが……。

 

「ああ、大丈夫大丈夫。変な人だけど面白いし、悪い人じゃないし。それにこの人ヘタレ属性だから」

 

 1ミクロンの遠慮もなしに京子はフカヒレの無害(?)さを語って見せた。

 

「それよりシャークさん。その人達ですよね?例の……」

 

「おうよ!この前の大会で準優勝した獅子蝶々の二人、とおまけの奴らだ!」

 

「誰がおまけじゃ!!」

 

「ギャン!?」

 

 おまけ扱いされてキレたカニのとび膝蹴りがフカヒレの顔面にクリティカルヒットした。

 

「和人君、この人達のコスプレって……」

 

「十中八九SAOの時の俺達だろうな。今に始まった話じゃないけど……(この二人は……)」

 

 一方で和人達はレオと乙女の姿をじっくりと冷静に眺める。

 

「ん?」

 

「これは……」

 

 レオ達もまた和人達の存在に気付き、常人とは違う雰囲気に興味を示す。

 

「……もしかして、対馬レオと鉄乙女さんですか?」

 

 しばらくの間を置き、和人はレオと乙女に尋ねる。

 

「ああ、そうだ。何で俺達の名を?」

 

「その筋じゃ有名ですよ。タッグ武術会の活躍を知ってる者ならば……」

 

 レオの質問に答えたのは景一だ。

その瞳には先程までとは違い、静かな闘志が見え隠れしている。

 

「知っててくれて光栄だな。だが、お前らも相当な実力と見させて貰った。やはり格闘イベントの参加者か?」

 

「ああ、俺は神霆流師範代桐ヶ谷和人。もし対戦する事になったらよろしく頼む」

 

「同じく国本景一。よろしく頼む」

 

 レオと乙女に和人と景一は笑みを浮かべて自己紹介を交わす。

明日奈と詩乃達は和人たちの思わぬ態度に目を白黒とさせている。

 

「あ、あの……レオさんに乙女さん!!」

 

 しかし、そんな何とも言いがたい雰囲気の中、京子は荷物の中から2枚の色紙を取り出してレオ達に近付き、そして……

 

「ん、どうかしたの?」

 

「わ、私この前の大会テレビで見てました!!サインください!!」

 

 そして京子はペンと色紙を突き出しながら深々と頭を下げ、サインを求めたのだった。

 

「へ?」

 

「私達のサインか?」

 

「はい!!シャークさんがお二人を連れてきてくれるって言うから、色紙(コレ)用意してたんです!!」

 

 困惑するレオ達に京子は目を輝かせる。

実はフカヒレがレオ達を誘ったのはこっちの方が主目的だったりする。

 

「まぁ、俺は良いけど」

 

「私などのサインで良いのなら、それを無碍には出来んしな」

 

 やや困惑しつつもレオと乙女はコレに快諾し、京子は念願の獅子蝶々のサインを手に入れた!!

 

「皆お待たせー」

 

「全くもう、東京に来てまでミラクるんのコスプレしなきゃいけないなんて……(だけどこれで結衣先輩とカップルコンテストに……!)」

 

 レオ達がサインを書き終えた頃、着替えに行っていたあかりとちなつも戻ってきた。

ちなみに、あかりのコスプレはミラクるんの悪役マスコットキャラ『ガンボー』の着ぐるみ(何故かお団子ヘアはそのまま)、ちなつは主人公の『ミラクるん』である。

 

「ぬおぉっ!ミラクるんそっくり!!」

 

 基がミラクるんそっくりなちなつの姿にフカヒレは真っ先に反応する。

だが、一方でレオと乙女、そして和人と景一はあかりへと視線を向ける。

 

(この娘……出来る!)

 

(力強い気を感じる。だけど……)

 

(すぐそこにいる筈なのに気配が薄い……)

 

(まるで、闇に紛れた忍のような、そんな強さを感じる)

 

 上から乙女、レオ、景一、そして和人があかりから何かの力を感じ取る。

静寂と力強さを併せ持つような、何とも形容しがたい力を……。

 

(この人達……凄く強い!戦ってなくてもコレだけのプレッシャー……一人一人が大和お兄ちゃんと互角以上なの!?)

 

 そしてそれはあかりも同じだった。

 

「……それじゃ、俺達はもう行く。次は例のイベントでな」

 

「カップルコンテストでも格闘イベントでも負ける気は無い。正々堂々とやらせてもらう」

 

 やがて和人と景一は口を開き、その場を後にする。

去り際にレオと乙女、そしてあかりにやや挑発的な視線を向けて……。

 

「ああ、望む所だ!」

 

 そしてレオと乙女もまた闘志と新たな好敵手と出会えた喜びを目に浮かべた。

彼らがこの後再会するのは、約一時間後のコスプレカップルイベントの事である。




と、いう訳でゆるゆりからごらく部のメンバーを登場させました。
しかも赤座あかり改変&魔改造、そして参戦……遂に一般アニメにまで手を伸ばしてしまった。

あと、読者の皆!オラに感想を送ってくれぇ〜〜〜〜!!


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バカップル達の挽歌・前編

コラボ第2話です。


NO SIDE

 

 対馬ファミリー、SAO組、ごらく部の3組が邂逅を果たしてから約一時間が経過し、いよいよコスプレカップルコンテストの幕が上がろうとしていた。

 

「しかし、思ったより多いな」

 

「うん、こんなに多いとは……(よく見ると同性カップルもちらほらといるけど、其処の所どうよ?)」

 

 周囲を見回しながらレオと乙女はそれぞれ感想を漏らす。

 

「さっき会った連中(和人達)はかなり強敵になるだろうな。

何となくだが私たちと似た匂いがした」

 

 同じ匂い=バカップルという事である。

 

「フカヒレの知り合いのサークルの娘達も……特にあのお団子の……あかり、だったっけ?あの娘は何出てくるか分からない。

まぁ、コンテストの方に出るかは分からないけど」

 

 二人はそれぞれライバルとの戦いを思い浮かべ、胸を躍らせるのだった。

 

 

 

 一方、ごらく部では……

 

「ちなつちゃ〜ん、私と一緒にコ……」

 

「結衣せんぱ〜い、私と一緒にコンテストに出てくださ〜〜い!!」

 

「え、私?……うん、良いよ」

 

 京子が言い終わる前にちなつは結衣にコンテスト参加を申し込んだ。

 

「…………あかr」

 

 誘おうと思っていた相手に見事に振られ、京子は残ったあかりを誘おうとするが……。

 

「おーい、あかりぃ〜〜」

 

「あ、大和お兄ちゃん」

 

「折角だから俺と組んでコンテスト出ようぜ」

 

「うん♪」

 

 大和に取られてしまった……。

 

ちなみに、大和はサークル活動を手伝いに来た幼馴染の女子数2人からコンテストに誘われたが、

 

『だが断る』

 

 の、一言で断ったらしい……。

 

 

 

「…………」

 

「ラム子ちゃ〜ん、だったら俺と組まない?」

 

 そして余り者となった京子をフカヒレが誘おうとするが……。

 

「負けフラグしか見えないから結構です」

 

「グハッ!?」

 

 身も蓋も無い断られ方にフカヒレはがっくりと肩を落とした。

 

 

 

レオSIDE

 

 参加カップル数35組……なかなかの数だな。

 

『それでは、これよりコスプレカップルコンテストを始めます!!』

 

 司会役担当の男の一声に、いよいよコンテスト開始だ。

 

『第一次審査・コスプレ精度対決!一発芸を披露してコスプレが如何に似合っているかをアピールしてください。観客から選ばれた審査員からの投票で合格点を出したカップルが準決勝進出です』

 

 ……いきなり難易度高ぇな。

俺達の場合フカヒレに選んでもらったコスプレだから剣を使う以外殆ど分からないし……。

 

「むぅ……私も刀だったら自身があるが、レイピアは使った事が無い……。

ん、待てよ?要は剣を使って何か芸をすれば良いのだから……」

 

「あ、そうか!つまり……」

 

 乙女さんの言葉に俺も気づく。

このコスプレの武器を活かした攻略法に……。

 

『それでは、番号札順にステージへ上がってください。

まずは1番のカップル……』

 

 

 

NO SIDE

 

『続きまして、エントリーナンバー4番、桐ヶ谷和人さんと結城明日奈さん。前へどうぞ』

 

 最初に出番が回ってきたのは和人と明日奈。

案内に従い、二人は静かにステージに上がる。

 

「本来は二刀流なんだが……ま、やってみるか。

明日奈、頼む!」

 

「OK!」

 

 和人の合図で明日奈は多数の板切れを取り出し、和人は腰に挿している六本の模擬刀に手をかける。

 

「和人君、行くよ!」

 

 掛け声と共に明日奈は板を和人の方へ一気に放り投げた。

 

「ッ!! 」

 

 一瞬、放り投げられた板切れを見据え、直後に和人は一気に目を見開いて指と指の間に挟んでいる竜の爪如き六本の模擬刀を一気に連続して振るった。

 

『おお〜〜!!』

 

 板切れは全てバラバラに切り裂かれ、観客達から感嘆の声が上がる。

そしてそれに更に追い討ちを掛けるべく、明日奈が一歩前に踏み出す。

 

「さぁさぁ、審査員の皆さん、お手を拝借!

私と和人君の合否は、如何なものか!?」

 

 人差し指を真っ直ぐ観客と審査員達に突きつけ、明日奈はふてぶてしく笑みを浮かべながら問いかける。

 

『うぉぉぉぉ!!合格だぁ〜〜〜!!!!』

 

『合格!合格!』

 

『イイじゃん、合格で!』

 

 コンテスト一次審査から4組目、早くも満点での準決勝進出が決まった。

 

 

『続きましてエントリーナンバー14番。国本景一さん、朝田詩乃さん、前へ』

 

 続くは景一と詩乃。

 

「詩乃」

 

「……分かってる」

 

 詩乃が取り出したのは3つのサイコロ。

それを先の明日奈同様空中高く放り投げる。

 

「…………ズアァッ!!」

 

 一振り……たった一振りだった。

三つの賽が一直線上に重なる一瞬を景一は見逃さず、一振りで賽を三つ同時に真っ二つにして見せた。

 

「……また、つまらぬものを斬ったか」

 

「……見事」

 

 最後に一言決め台詞を言い、二人はステージを後にする。

観客達が再び歓声に沸き上がるのはコレより1秒後の事である。

 

 

「エントリーナンバー21番。船見結衣さん、吉川ちなつさん、前へ!」

 

「先輩!私に任せてください!!一次審査なんか私一人の力で十分です!!」

 

「え?……ああ、うん。任せるよ、ちなつちゃんに」

 

 出番が回って早々、ちなつは結衣に進言して息巻く。

 

(ミラクるんのコスプレをした私ならこの審査の突破は100%確実!

何て言ったって私自身がミラクるんそっくりなんだから!!

そして……突破した暁には結衣先輩と…………)

 

 一次審査後の自分と結衣を思い浮かべ、ちなつは……

 

〜〜〜〜

(ちなつの妄想)

 

結衣「凄いや、ちなつちゃん!たった一人だけの力で審査を突破しちゃうなんて!!

次は私の番だね。準決勝では、私がちなつちゃんを結晶まで導いてあげるよ。

そして……決勝戦では二人で……」

 

ちなつ「ええ、二人で優勝を掴みましょうね!結衣先輩!!」

 

結衣「ああ!だから、勝利の前祝いに……」

 

ちなつ「んっ……結衣せんぱ〜〜い」

 

ブチュ〜〜(=3=)

 

〜〜〜〜

 

 という妄想を爆発させていた。

 

「えへ、えへへへへへ……」

 

『そ、それではどうぞ!』

 

 ちなつの妄想に若干引きながら、司会を務める男性はアピールタイムの開始を宣言した。

 

「(よし、行くわよチーナ!!)

愛と正義の魔女っ娘ミラクるん……」

 

 妄想から現実へ戻り、ちなつは満を持して取って置きのミラクるんのモノマネを披露するが……。

 

「華麗に投入!!」

 

『!!?!?!?!?』

 

 ちなつの見せたポーズはミラクるんのポージングではなく、かつて京子が吹き込んだ全く別のポーズ……所謂『コマネチ』である。

 

『…………』

 

「……ま、間違え、た…………いやぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 殺伐とした空気の中、自身の余りにも恥ずかしいミスに耐え切れず、ちなつは脱兎の如くその場から逃走したのだった。

ちなみに、この時ちなつの逃げ足の速さは、レオ曰く『あいつ、俺より速くね?』と称する程のスピードだったらしい。

 

ちなつ&結衣カップル……不合格(しかも本日最低点数)

 

 

『で、では気を取り直してエントリーナンバー22番。対馬レオさん、鉄乙女さん、ステージへどうぞ!』

 

 そしていよいよレオと乙女の出番が回ってきた。

二人は自分達のコスプレのキャラが如何なるものかは知らないが、それをどう攻略するのか……。

 

(要は剣技を上手く見せれば良い。尚且つ先の二組(和人達)にも対抗できる技を見せる事が必須!)

 

(向こうが模擬刀で直接対象物を切り裂く技なら、俺達は……)

 

 二人は手荷物から前以って空にしておいたペットボトルを前方上空に投げ飛ばし、それぞれ武器を構える。

 

「「遠当てだ!!」」

 

 直後に振るわれる剣とレイピア。

気とスピードがミックスされ、斬撃が飛び道具のように発射され、レオの繰り出した残撃はペットボトルを真っ二つに裂き、乙女の一撃は風穴を開ける。

 

「そらっ!!」

 

「フンッ!!」

 

 更に二人のけりを繰り出し、その風圧でペットボトルを一気に吹っ飛ばす。

そして吹っ飛ばされたペットボトルは数十m先のゴミ箱へと吸い込まれるように入った!!

 

『おおっ!!す、凄ぇぇ!!』

 

『今の飛び道具だよな!?気って本当に飛ばせんのか!?』

 

 三度湧き上がる観客達の歓声。

少々キャラを無視したやり方だったものの、この後本日三度目の満点が出たのは言うまでもない。

 

 

 

レオSIDE

 

『それでは、最後のカップル。直江大和さん、赤座あかりさん。ステージへ!!』

 

 漸く一次審査もラスト一組……と、思ったら大和も来てたのかよ?

しかもさっきの得体の知れない気配を感じさせた女の子(着ぐるみ着用)と組んでるし……。

 

『それではどうぞ!』

 

 視界の人の開始の合図と共に、大和は徐(おもむろ)にガンボーの着ぐるみを着た赤座さんを持ち上げ、そのまま……

 

「どりゃぁぁ〜〜〜!!!」

 

 なんとエアプレンスピンで上空に投げ飛ばした!?

更に大和はすかさず鉄爪を装備し、赤座さん目掛けて飛び上がった!

 

「《スクリュードライバー!!》」

 

 そして一気に錐揉み回転しながらドリルのように赤座さん目掛けて突っ込んでいく。

 

「危ない!!」

 

「あかり!逃げろぉっ!!」

 

「あかりちゃん!!」

 

 赤座さんの友人達は今にも鉄爪の餌食となりつつある赤座さんの姿に叫び声を上げる。

だが……

 

「……赤座流体術《薙旋風(なぎつむじ)!》」

 

 大和の攻撃が命中するその刹那、

着ぐるみの中から赤座さんが飛び出し、回転キックで大和のスクリュードライバーを受け止めた。

ちなみに、赤座さんの靴の爪先にはナイフのようなものが装備されている。

そして赤座さんの服装は……

 

「え!?何あれ!?」

 

「あ、あかりちゃんが、ガンボーから飛び出して……」

 

「あ、あれはまるで……忍者!?」

 

 忍装束……まさか、彼女の正体は……。

 

「そうか、赤座流か……」

 

 俺の後ろにいた桐ヶ谷が静かにそう呟いた。どうやら心当たりがあるらしい。

 

「(ニヤッ)……《フライング・レッグ・ラリアート!!》」

 

 赤座さんの見せた空蝉の術に大和は不敵な笑みを浮かべながらコスプレ衣装を破り捨て(その下からは大和愛用の中国拳法着)、そのまま赤座さん目掛けて蹴りを繰り出す。

 

「《剛力旋風!!》」

 

 だが赤座さんも負けじと蹴りで応戦し、互いに蹴りと蹴りがぶつかり合ってお互いの身体が反発し合うように弾かれる。

 

「リャアァーーーッ!」

 

「ダアァーーーッ!」

 

 次に繰り出されるのは裏拳。

大和と赤座さんは殆ど全く同じタイミング、同じモーションで互いに裏拳を繰り出し、ぶつかり合う。

 

「ハイヤァーーーッ!!」

 

「セヤァーーーッ!!」

 

 そして再び同時に身を翻し、今度は蹴りと蹴りの応酬。

二人はまるで合わせ鏡の如く動き、見る者達を魅了する。

 

「「…………」」

 

 やがて二人は着地し、静かに一礼して演舞を終える。

ジャンプから落下までにココまでハイレベルな演舞をやってのけるとは……。

 

「やはり、あのあかりという女子……ただ者ではなかったな」

 

「うん、あれで演舞レベルだから、本気を出したらどんな強さなんだか……」

 

 大和達の演舞に沸く歓声の中、俺達は早くも後の格闘イベントに胸を躍らせたのだった。

 

 

 

NO SIDE

 

 当然ながら、レオ達は全員一次審査を突破。

そして僅かばかりの休憩を挟み、準決勝が始まる……。

 

「さぁ、いよいよ準決勝です!その内容は……『君のことなら何でも知ってる。超熱愛!恋人達のクイズ大会!!』」

 

 波乱はまだまだ続く……。




読者の皆、オラに感想を送ってくれぇ〜〜!!


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バカップル達の挽歌・後編

久々に投稿出来ました。


NO SIDE

 

『では、これより準決勝『君のことなら何でも知ってる。超熱愛!恋人クイズ大会!!』を開始します!!』

 

 一次審査から10分ほど休憩を挟んだ後、男と女でそれぞれ席を分け、総勢8組で行うクイズ大会がいよいよ幕を開ける。

 

『ルールは簡単。

これから出すパートナーに関する問題に、自身の解答とパートナーの解答を先程渡したボードに書いていただき、正解1つにつき1ポイントゲットです。

なお、複数回答も可能。答えの数と正解数が多いほど点数が増えます』

 

 例を挙げるとこうだ。

・『パートナーと自分の血液型は?』という問題が出る。

・解答欄に『自分・B パートナー・AB』と書く。

・パートナーが『自分・AB パートナー・B』と回答すれば正解となり、それぞれ1ポイントで合計2ポイント。

・ただし、『○○の手料理』などの抽象的な解答はNGとする。

 

『上位3組が決勝進出となります。それでは第1問……』

 

 

 

レオSIDE

 

 説明が終わり、いよいよ始まったクイズ大会。

さて、どんな問題が出てくるか……。

 

『第1問、自分とパートナーの好きな食べ物は?』

 

 まずは無難な問題だな。

乙女さんが好きな食い物っていえば……

 

 

 

NO SIDE

 

『それでは皆さん、一組ずつ答えをどうぞ』

 

 司会者に促されまずはレオ・乙女組がクリップボードを表示する。

 

 

レオの解答

自分(レオ)・モツ鍋 串カツ 出汁巻き卵

彼女(乙女)・おにぎり 肉まん レタス巻き

 

乙女の解答

自分(乙女)・おにぎり 肉まん レタス巻き

彼氏(レオ)・モツ鍋 串カツ 出汁巻き卵

 

『何と!?初っ端から6ポイントを獲得です!

これは他のチームは大きなプレッシャーか!?』

 

 思わぬ得点に驚く司会者と観衆、そして出場者達。

だが、そんな中にも例外はいる。

 

(やるな、アイツら……)

 

(戦闘力もそうだが、相当固い絆でつながっている。これは一筋縄ではいきそうに無い)

 

 そう分析するのは和人と景一。

レオと乙女の息の合った解答に二人への評価と警戒を強める。

 

『では、次は桐ヶ谷和人さんと結城明日奈さんのペア、答えをどうぞ』

 

 気を取り直し、司会の男性は再び回答を促すが……

 

 

和人の解答

自分(和人)・魚の煮付け カレーライス チンジャオロース

彼女(明日奈)・デミグラスハンバーグ ムニエル サラダ ショートケーキ

 

アスナの解答

自分(明日奈)・デミグラスハンバーグ ムニエル サラダ ショートケーキ

彼氏(和人)・魚の煮付け カレーライス チンジャオロース

 

『な、7ポイント獲得!まさかのトップ奪取!!

これは予想以上にハイレベルな戦いになりそうです!!』

 

(出来る……)

 

(予想通り侮れん奴等だな)

 

 驚く司会者、そして先の和人達と同じく警戒から目を細めるレオと乙女。

それぞれ要注意人物を見極めつつも、クイズ大会は続く。

 

※ココからはダイジェスト形式で行かせていただきます。

 

 

『次は……国本景一さんと朝田詩乃さん、どうぞ!』

 

景一の解答

自分(景一)・生姜焼き 焼き鮭 漬物

彼女(詩乃)・アジフライ オムライス シチュー プリン

 

詩乃の解答

自分(詩乃)・アジフライ オムライス シチュー プリン

彼氏(景一)・生姜焼き 焼き鮭 漬物

 

『またしても7ポイント!今日は高得点のバーゲンセールか!?』

 

 

大和の解答

自分(大和)・肉まん 餃子 エビチリ

彼女(あかり)・自家製兵糧丸 ポテチうすしお味 ケーキ

 

あかりの解答

自分(あかり)・自家製兵糧丸 ポテチうすしお味 ケーキ

彼氏(大和)・肉まん 餃子

 

『5ポイント獲得!これも高得点だ!(……もしかしてこれぐらいが普通の点数なのか?)』

 

 一瞬自分の常識の方が的外れなだけなのではと考える司会者。

だが次のカップルは……

 

『3ポイント獲得です。(あ、良かった。俺普通だわ)』

 

 その他のモブカップル、平均2〜3ポイント。

 

 

 

第2問

『自分とパートナーの性格を一言(単語)で表せば?』

・複数解答可

・正解数一つにつき2ポイント

 

 

レオの解答

自分・隠れ熱血 似非ニヒル 努力家

彼女・しっかり者 堅物 華も恥らう乙女

 

(((似非ニヒルって……自覚あったんだ)))

 

 カニ、スバル、フカヒレの心の声がおもいっきりハモった

 

乙女の解答

自分・しっかり者 堅物

彼氏・隠れた熱血漢 根性の漢 努力家

 

 

レオ&乙女 8ポイント獲得

 

「むぅ……一部外したか。だけど、根性の漢ってのは素直に嬉しい」

 

「華も恥らう乙女って……レオの奴、褒めすぎだぞ///」

 

 

和人の解答

自分・ドS 覇王

彼女・かわいい しっかり者 良妻賢母 真面目

 

アスナの解答

自分・しっかり者  真面目

彼氏・クール 覇王 頼れる人

 

和人&明日奈 6ポイント獲得

 

「何か、不正解が割りとあるけど……」

 

「こういう嬉しい不正解ならむしろ大歓迎かも♪」

 

 

景一の解答

自分・寡黙 無口

彼女・クーデレ 物静か 清楚

 

詩乃の解答

自分・物静か クーデレ

彼氏・寡黙 冷静沈着 優しい

 

景一&詩乃 6ポイント獲得

 

「優しい、のか?私は……」

 

「うん、とっても……///」

 

 クーデレカップルはいちゃつく時もクールである。

 

 

大和の解答

自分・ドS 残虐 仲間想い 家族想い 飛猿

彼女・地味 天然 お団子

 

「お兄ちゃん酷い!自覚はしてるけど、それでも酷い!!

しかもお団子は性格じゃないよぉ!」

 

あかりの解答

自分・地味 天真爛漫 天然

彼氏・仲間想い 家族想い 極悪非道 ドS 悪魔超人 残虐超人

 

「お前も大概酷いと思うけどな。俺のどこが極悪非道だ?」←どの口が言うか!?

 

大和&あかり 10ポイント獲得

何気にこの問題にて最高点数である。

 

 

 

第3問

『自分とパートナーのそれぞれ好きな言葉は?』

・複数回答は不可

・正解すれば2ポイント(意味がほぼ合っていればOK)

・一言一句合えば3ポイント

 

レオの解答

自分・疾風迅雷

彼女・気合と根性

 

乙女の解答

自分・気合

彼氏・疾風迅雷

 

レオ&乙女 5ポイント獲得

 

「惜しいな……」

 

「むぅ……一言一句は流石に難しい」

 

 

和人の解答

自分・パートナーに捧げる愛の言葉

彼女・パートナーに捧げる愛の言葉

 

明日奈の解答

自分・パートナーに捧げる愛の言葉

彼氏・パートナーに捧げる愛の言葉

 

和人&明日奈 6ポイント獲得

 

「ねぇスバル、フカヒレ……何かボク今無性にアイツらの邪魔してやりたいんだけど」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

 僻み全開な海鮮コンビ(カニ&フカヒレ)のこの言葉は、ある意味彼氏彼女のいない者達の心の声を代弁していた。

 

 

景一の解答

自分・風林火山

彼女・狙い撃つ

 

詩乃の解答

自分・狙い撃つ

彼氏・風林火山

 

景一&詩乃 6ポイント獲得

 

 

大和の解答

自分・良薬口に苦し

彼女・主人公

 

あかりの解答

自分・主人公

彼氏・八つ裂き

 

大和&あかり 3ポイント

 

「あかり、お前は俺を何だと思ってるんだ?」

 

「……」

 

 大和の問いに、明かりは目を逸らす事しか出来なかった。

 

 

 

第4問『自分とパートナーの口癖は?』

・ルールは第3問と同じ

 

レオの解答

自分・コノヤロウ

彼女・根性無しが

 

乙女の解答

自分・根性無しが

彼氏・コノヤロウ

 

レオ&乙女 6ポイント獲得

 

「よし、完璧だ!」

 

「従姉弟同士なのがココで活きたな」

 

 

和人の解答

自分・ふむ

彼女・和人君

 

明日奈の解答

自分・和人くん

彼氏・ふむ

 

和人&明日奈 5ポイント獲得

 

「漢字まで合否判定に入れるのか」

 

「結構シビアだね」

 

 

景一の解答

自分・……

彼女・チェックシックス

 

詩乃の解答

自分・チェックシックス

彼氏・……

 

景一&詩乃 6ポイント

 

「凄いけど『……』は口癖って言えるのか?」

 

 スバルは一人そう突っ込むが、周りの甘ったるさとハイテンションが入り混じった空気にそれは掻き消された。

 

 

大和の解答

自分・ケケケケ……

彼女・アッカリ〜ン

 

あかりの解答

自分・あかり、○○大好き

彼氏・ケケケケ……

 

大和&あかり 3ポイント獲得

 

「それ(アッカリ〜ン)、口癖じゃないよぉ〜〜!」

 

 

 

第5問『自分とパートナーの趣味は?

・ルールは同上

 

レオの解答

自分・ボトルシップ トレーニング

彼女・入浴

 

乙女の解答

自分・入浴

彼氏・ボトルシップ トレーニング

 

レオ&乙女 6ポイント獲得

 

 

和人の解答

自分・ゲーム

彼女・料理全般

 

明日奈の解答

自分・料理全般

彼氏・ゲーム

 

和人&明日奈 6ポイント獲得

 

 

景一の解答

自分・天体観測

彼女・銃の研究

 

詩乃の解答

自分・銃について知ること

彼氏・天体観測

 

景一&詩乃5ポイント獲得

 

 

「ここまでほぼ互角……いや、1点だけだが対馬と鉄がリードしている」

 

「うん。でも、まだこれから……!」

 

 恵一は得点表を見つめながら重々しく口を開き、詩乃は奮起するように気合を入れる。

 

なお、ココまでの合計得点は……

 

レオ・乙女組 31

和人・明日奈組 30

景一・詩乃 30

 

 1ポイント差でレオと乙女がリードしている。

現状ではこの三組がトップである。

 

 

大和の解答

自分・傷薬の調合

彼女・散歩

 

あかりの解答

自分・散歩

彼氏・傷薬の調合

 

大和&あかり 6ポイント獲得

 

そしてレオ達に次ぐのが現在27ポイントの大和とあかりである。

 

 

 

レオSIDE

 

 その後も多くの問題が出され、現在の順位は俺達と桐ヶ谷、国本の3チームが同率トップ、僅差でそれに大和達がくらいついている。

 

そして……

 

『さぁ、いよいよこれが最後の問題です!

これに正解すれば一気に20ポイント!しかし、不正解なら今までの点数は半分になってしまいます!!』

 

 遂にラストか……どんな問題でも来やがれ!

 

『最後の問題です。

自分とパートナーの最も恥ずかしい秘密は?』

 

(……は?何だと!)

 

 思わず絶句してしまった。

乙女さんの恥ずかしい秘密……そりゃ心当たりはあるが、それをバラさなきゃならないのか?

クッ……そんな真似……!

 

(レオの恥ずかしい秘密……だが、それは……!)

 

(明日奈の秘密、だと?)

 

(和人君、和人君の秘密は……)

 

(詩乃…私は……)

 

(秘密は……その秘密は……)

 

 この時、俺達6人の心が一つに重なった!

 

『それでは、解答をどうぞ!!』

 

 司会の男の言葉が開場に木霊し、選手達はいっせいにクリップボードを表示する。

 

「ちょ、ちょっと!それだけは言わないでって前に言ったじゃない!!」

 

「お前だって俺の目茶苦茶恥ずかしい秘密バラしてるじゃねえかよ!!」

 

「酷い!その秘密だけは守ってくれるって信じてたのに!!」

 

 答えを表示したカップル達は一気に赤面して言い争いだす。

唯一の例外は全く想定外の解答……『知らない』と答えた大和達だけだ。

 

「んなモン有るんなら俺が知りたい」

 

「お兄ちゃんの弱点って、結局何なんだろう?」

 

 

そして俺達は……。

 

『おや?3組程白紙ですが、これは一体……?』

 

 俺達は解答を書かなかった。

理由?そんなのはただ一つ……。

 

「「「「「「俺(私)達の秘密は、俺(私)達だけの物だから!!」」」」」」

 

 大事な彼女の心を無視してまで目先の勝利を得るぐらいなら、俺は喜んで負けてやるぜ!!

これで敗北したとしても、俺はその敗北を誇る!!

 

『こ、これは……何と予想を超えた答え……

分かりました。では……』

 

 司会者は少しの間だが間を置いて、再び俺達に向き直る。

 

『アナタ達3組は……………………大正解です!!』

 

 ……………………え?

ど、どういう事だ!?

 

『目先の勝利や賞金に囚われて愛する者の秘密を暴露するなど言語道断!

答えない事……これこそがこの問題の答えなのです!!!!』

 

 引っ掻け問題だったのか。

 

『アナタ達こそまさにベストカップル!決勝進出決定です!!』

 

 司会者の言葉に会場は俺たちに向けられた拍手の音で溢れたのだった。

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオの奴、私の秘密を負けを覚悟で守ってくれるなんて……思わず抱きしめてやりたくなったではないか///

 

『さぁ、決勝戦は……彼女さんによる愛妻弁当対決ぅ!!』

 

 ………………え?

さ、最悪だぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

NO SIDE

 

 結局、決勝戦の料理対決においては、料理上手な詩乃と、和人曰く『店出してもおかしくないレベル』な明日奈に対して、1ヶ月前に漸くまともな料理を作れるようになった程度の乙女が敵う筈もなく、レオ&乙女の武闘派カップルは3位という結果に終わったのだった(笑)

 

「くそぉ〜〜、この借りは格闘イベントで返す!」

 

 乙女は悔し涙と共に、後に控えた格闘イベントへの闘志を強くしたのであった。

 



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邪魔者をぶっ潰せ!残虐無頼に悪党討伐!!(前編)

NO SIDE

 

 カップルコンテストの興奮も冷めぬ中、会場は既に格闘イベントの準備に取り掛かっている。

そんな中、当然参加する予定の乙女はというと……

 

「レオ、すまない……あそこで料理対決が出てくるとは……もっと練習しておけば…………」

 

 未だ料理の腕が原因で負けた事に気を落としていた。

 

「まぁまぁ、そんな気を落とさないで。

乙女さんの作った飯も結構美味かったから」

 

「それ以前にカニに次ぐ料理下手からあそこまでレベルアップ出来てるだけでも大したもんだ。

前までは練習してなかったからダメだっただけで、意外と今後に期待できるんじゃねぇか?」

 

「そ、そうか?……むぅ、これを機にもっと料理の修業を積むべきだろうか?」

 

 レオとスバルのフォローで乙女は取り敢えず持ち直した。

後に、乙女は料理教室に通い、見事に料理下手から完全に脱却することになるが、それはまた別のお話である。

 

「おーい、ルールブック持って来たぞーー!」

 

 そんな会話の中、フカヒレとカニが格闘イベントのパンフレットの調達を終えて戻ってくる。

それを機にレオと乙女は気を取り直して格闘イベントへ向けて気合を入れなおす。

 

 

ルールは以下の通り

 

・今回の格闘イベントは、自由参加のフリーバトル形式で行われる。

 

・我こそはと言う者がリングに上がり、一対一での真剣(ガチンコ)対決を行う。

 

・それを繰り返し、コミケが終わる1時間前にイベントは終了。

 

・終了(それ)と同時に投票が行われ、イベントにおける名勝負(ベストバウト)を決定し、選ばれたものはMVPに輝き、トロフィーと賞金を受け取るというシステムである。

(ただし、賞金は勝者と敗者に7:3の割合で送られる)

 

・なお、体力が続く限り対戦回数に制限は無し。

 

・武器はお互いの承諾の下、使用可能とする。

 

・制限時間は20分

 

 

 

「ふむ……要は戦いたい奴と自由に戦えるというわけか。ならば好都合だな……!」

 

「だね。向こうもその気みたいだし」

 

 笑みを浮かべながらレオは和人達の方へ目を向ける。

視線の先に居る和人と景一はレオと乙女を見て笑みを浮かべている。

『いつでも相手になってやる』といった挑発的な笑みだ。

 

「イベント開始が楽しみだな」

 

 銃数分後に控えた格闘イベントに、レオ達は皆胸を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

「まだ悩んでるのか?」

 

「あ、大和お兄ちゃん……」

 

 格闘イベントを間近に控える中、俯きがちに難しい表情を浮かべるあかりに大和は声を掛ける。

 

「出たいなら出りゃ良いじゃねぇか。

……お前が何気にしてるかは大体分かるけどよ、もう少しアイツらを信じても良いんじゃねえか?」

 

「…………」

 

 大和の言葉にあかりは沈黙する。

あかりは幼少の頃からある事情により、身体を鍛え上げ、戦闘技術をその身に叩き込んでいた。

当然強敵との闘いを求める闘士としての一面も持っている。

だがそれを表に出した事は殆ど無い。

その力を表に出す事によって今の友人達との関係が変わる事が……下手をすれば終わってしまうかもしれない事があかりは怖かった。

 

「少なくとも京子に結衣、あとちなつって娘はさっきの演舞にビビってる様子は無かったぜ。

京子なんて寧ろ格好良いとか言ってたしな。

…………安心して自分を見せてみろ。それでお前達の関係に何かあったら、俺が全部責任取ってやるからさ。

せっかくの祭だ、楽しんでいこうぜ」

 

 それだけ言い残し、大和はあかりの肩を軽く叩いてその場を後にしたのだった。

 

「自分を見せろ、か……」

 

 大和の去り行く背中を目にしながら、あかりは静かに表情を引き締めた。

 

 

 

格闘イベントという名の祭まであと僅か……。

 

 

 

 

 

 だが、どんなに楽しい祭にも、それを悪用しようとする輩は居るものである……。

この戦いに目をつけた悪意は、レオや和人達の知らぬ所で確かに潜んでいた。

 

「じゃあ、俺が女相手にリングで上手くヤッてるから、お前はその隙に……」

 

「わ、分かった……」

 

 二人の色欲に塗れた男は己が欲望を満たすため……

 

 

「良い?あのポニーテールの国本って奴がリングに上がったらアンタが対戦相手になって速攻で弾を撃ち込んでやるのよ」

 

「分かってるよ。その代わり例の報酬はちゃんと払えよ」

 

 支配欲の塊に身を落とした女は自分の手を汚さずに私怨を晴らそうと動き出す……。

 

 

 

 

 

乙女SIDE

 

「皆さんお待ちかね!本日のメインイベント『コミケwithバトルリーグ』の開幕だぁ~~~!!

さぁ、我こそはと思う戦士はいざリングへ上がれぇ!!」

 

「私!私が出ます!!」

 

 待ち時間を終え、いよいよ格闘イベントが幕を開け、開始宣言と同時に一人の少女がリングに上がる。

彼女は……直江と組んでいた赤座あかりという少女だ。

彼女が一番手か……。

 

「おっと、これはいきなり可愛いファイターの登場だ。

さぁ、この少女の相手は誰だ!?」

 

「俺だ!俺がヤってやる!!」

 

 出てきた対戦相手は高校1~2年生ぐらいの男。

見たところ大した気や実力は感じられないが……。

 

(妙な不快感を感じるな……)

 

 これと似たような不快感を以前に感じた事がある。

あれはそう、橘と初めて出会い、レオを巡って争った時だ。

だがあの時とは違う……寧ろこれは生理的な嫌悪感だ。

 

「何か、嫌な目をしてるな……アイツ」

 

 レオも気付いてるようだ。

何というか……下劣な視線だ。

色欲に塗れているというか、一方的に欲情してるような……。

私を抱く時のレオとは違う。ただ他者を性欲の捌け口にしているだけのような……そんな感じだ。

 

「嫌な予感がするな……」

 

「うん、それ以上に凄い事が怒りそうな予感がするけど」

 

 確かに、あの男の不快感以上に彼女からは凄まじい力を感じる。

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

「さぁ、いよいよ運命の初試合!果たして勝つのは赤座あかり選手か?それとも沢永泰助選手か?」

 

 格闘イベント一戦目に名乗り出た二人――赤座あかりとその対戦相手、澤永泰助(さわなが たいすけ)は、お互いにリング中央にて向き合い、睨み合う。

 

(コイツはいきなり上物だぜ!しかも女子中学生なら力づくで押し倒せる!

そしたら……グヒヒ)

 

(何かいやらしい顔した人だなぁ。今まで4~5人ぐらい潰してきた変態と全く同じ……)

 

 目の前で鼻息を荒くしている泰助を見据え、あかりは冷静に相手を分析する。

 

「あかり~~!頑張れぇ~~!!」

 

「相手は高校生なんだから無茶すんなよ」

 

(皆……私、あかりのいつもとは違う、だけどこれも本当の姿、受け入れられるかどうかは分からないけど、見ていて!!)

 

 一方でリング脇で応援する京子達に対し、あかりはしっかりと覚悟を決める。

 

「レディー……ファイト!!」

 

 そして宣言される開始の合図(ゴング)。

それと同時に真っ先に飛び掛ったのは泰助だ。

 

(まずは胸を揉んで……)

 

「丸見えだよ……」

 

 開始早々に胸を狙う泰助の動きを即座に見切ったあかりは楽々とこれを回避。

そのままの勢いでカウンター気味に泰助の鳩尾にパンチを入れた。

 

「ウゲェぇっ!?」

 

 自分より二周りは小さい女子からの思わぬ強烈なパンチを全くの無防備状態で喰らった泰助は胃液を吐き出しながら後退さる。

 

「今のは手加減してあげた方だよ。

何考えてるか知らないけど、下らない事やらかす前に荷物まとめて消えなよ。

でなきゃ…………潰すよ」

 

 普段は絶対見せない絶対零度の目を見せながら、あかりは腹を押さえて呻いている泰助を見下ろす。

 

「こ、こ…の……ガキィィッ!!」

 

 けれども年下の、しかも少女に痛い目に遭わされた事に安いプライドを傷付けられた泰助はあかりの忠告を無視して襲い掛かってくる。

 

(中学生のガキだから優しくしてやろうと思ってたら調子に乗りやがって!!

先に痛い目見せてから押し倒してやる!!)

 

 逆ギレ同然に泰助は再びあかりに襲い掛かり、あかりの身体を掴んで持ち上げてマットに叩きつけようとするが……

 

「忠告は聞くもんだよ、変態さん……!」

 

「へ?…………うぎゃっ!?」

 

 それは一瞬の出来事だった。

泰助があかりを投げ飛ばそうとしたその刹那、突如として二人の体勢が入れ替わった。

そして、あかりはその小柄な身体には似つかない怪力で泰助の身体を持ち上げ、そのまま泰助をマットに叩き付けたのだ。

 

「赤座流・順逆自在の術……」

 

 呆然とする泰助と観客に聞こえない程のトーンであかりは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

(な、何だよ泰助の奴!やられっぱなしじゃないか!?)

 

 観客の中に紛れながら、澤永泰助の相方である少年、伊藤誠(いとう まこと)は内心毒吐いていた。

本来の計画なら泰助が試合中の事故を装って対戦相手に猥褻行為を行っている内に自分は観客の中から適当な女性の下着を盗撮するという算段だった。

しかし、予想に反して泰助は対戦相手の女子中学生に手も足も出ずにやられているだけという情けない結果だ。

しかもあかりの言動から察する限り、あかりは既に泰助が何をしようとしていたかを察している可能性もある。

そうなれば共犯者である自分の立場も危うい。

 

(こうなったら、盗撮だけ済ませて逃げよう。泰助は見捨てるしかない)

 

 かなりせこい事を考えながら誠はカメラを仕込んだバッグを持って適当な女を見定める。

 

 

 

「一体、何が起きたの?」

 

「恐らく返し技……それも、超スピードの。

相手の勢いと自身の気をミックスしたスピードであそこまでの速度を出せたんだろう」

 

「ああ、だけど、本当に凄いのはそのスピードでアレだけ鮮やかに返し技を決める事が出来た事だな」

 

「あの一瞬でそんな事を……和人君達以外にもそんな事出来る人が居るんだ」

 

 一方で和人達は試合の様子を見ながら思い思いに口を開く。

 

(居た!上玉二人発見!!

……眼鏡の娘は立ち位置的に難しいから、あのロン毛の美人にするか)

 

 そんな中、誠は明日奈に目をつけ、背後からゆっくりと忍び寄る。

そして背後に立って盗撮用に用意した携帯のカメラをセットしようとするが……。

 

「……何をしている?」

 

「っ!?」

 

 突然の出来事に誠は反応出来ずに硬直し、瞬く間に和人に腕を掴まれてしまう。

 

「ナニヲシヨウトシテイタ?」

 

「ひっ!?」

 

 凄まじい覇気と怒気に気圧され、誠は情けない悲鳴を上げる。

 

『パパ、ママ!この人、携帯のカメラを起動しています!

しかも、音が鳴らないように細工しているようです!!』

 

 視聴覚双方向通信プローブからユイの指摘が飛ぶ。

それを聞いた直後に和人は誠を組み伏せ、同時に携帯を押収する。

 

「キサマ、アスナヲトウサツシヨウトシテイタノカ!?」

(訳:貴様、明日奈を盗撮しようとしていたのか!?)

 

「ひぃぃっ!!ま、待ってくれ!

これはアイツに、泰助に頼まれただけなんだ!!」

 

 口調が変わる程の怒りを込めた視線と殺気をぶつけられた誠は一気に萎縮し、自分と泰助の共犯関係を自白した。

 

「お、俺は命令されてやっただけなんだ!頼む見逃してくれ!!」

 

 恥も外聞も無く命乞いする誠。

だがそんな彼を見つめる和人の目はどこまでも冷ややかだった。

 

「実行してる時点で、お前も同罪だ!!」

 

「ふぐぇぇぇっ!!!!」

 

 和人による怒りの鉄拳は誠の顔面を打ち据え、誠の鼻と前歯をへし折ったのだった。

 

「景一、警備員に連絡してくれ」

 

「もうした。すぐに来るそうだ」

 

 

 

 

 

「あ、あの馬鹿!何喋ってんだよぉ!!」

 

 共犯関係を暴露され、泰助は毒吐くが周囲からの視線は真っ白だ。

このままでは警備員が呼ばれて捕まってしまうのは時間の問題だろう。

 

「試合に託けて性犯罪?アイツ最低だな」

 

「そんな事しそうな面構えだと思ったぜ」

 

「っていうか顔キモイし~~」

 

「ぐ……ぐ……ち、畜生ぉぉ!!!!」

 

 周囲からの陰口に自棄になった泰助は突如向きを変えてリングの外に飛び出して逃げようとする。

いや、ただ逃げるだけではない。泰助の逃げた先に居るのは……

 

「え!?ちょっ、何……」

 

 泰助の視線の先に居るのは京子。

泰助は逃げるついでに京子を押し倒して唇を奪おうとしているのだ。

だが、しかし……

 

「お団子バズーカ!!」

 

 目の前で友人に猥褻行為を働こうとする泰助にあかりは左右両サイドで結っているお団子ヘアのお団子部分を取り外してそれを泰助目掛けて投げつけた!

 

「ぶぎゃあぁっ!!!?」

 

「「「やっぱり着脱式!?」」」

 

 投げ付けられ、泰助の歯をへし折ったあかりのお団子に、ごらく部メンバーは思わず声を上げる。

実はあかりのお団子ヘアは鉄球を仕込んだ付け毛であり、あかりはこれを暗器として使用しているのだ。

 

「……ねぇ、今京子ちゃんに何しようとしたの?

っていうか、ナニをしようとしたよね?ねぇ!?」

 

「ひ、ひぃぃ……」

 

 今の今まで絶対に見せる事の無かったあかりからの殺気が泰助の心臓を鷲掴みにする。

 

「京子ちゃんに酷い事しようとしたよね?それで京子ちゃんが傷ついたらどう責任取るつもりだったのかな?」

 

「ひ、ひぃぃぃ!!!!た、たた、助け……」

 

「絶対に許さない……!!」

 

 圧倒的なまでの殺気に泰助は恐怖し、無様な悲鳴を上げて逃げようとするがそれを許すあかりではなかった。

あかりは逃げようとする泰助の首根っこを掴み、空いた右手には燃えるような赤い気を纏わせる。

 

「忍法・火炎蛍……!!」

 

 直後にあかりの右手から炎が吹き荒れ、おびえる泰助を瞬く間に火達磨にして見せた。

 

「ギャアアアアアア!熱ぃ!!熱ぃぃぃっぃいいいい!!!!」

 

 衣服に燃え移る炎に泰助は絶叫し、パニックに陥ったのだった。

 

 

「ちょ、ちょっと!あ、アレは流石にやばいんじゃ……」

 

 観客席でごらく部メンバーの一人である結衣は燃え盛る泰助の姿に結いは戸惑いがちに声を出す。

 

「心配するな。アレは気で作った人工の炎。あかりの意思に応じて温度と燃やす範囲は制限される。

見た目と熱さは派手だが、火傷とかは殆ど無い筈だ。

基本的にあかりはは優しいからな、二度とこんな事出来なくする程度に懲らしめるぐらいで済む」

 

 そんな結衣にフォローを入れたのは大和だ。

大和の言う通り泰助は派手に燃やされて入るものの、実際に燃やされているのは衣服のみであり、身体に残るような火傷は負わないようにあかりは上手くコントロールしている。

(勿論その気になれば泰助の全身を丸焼きにする事も可能だが、あかりはそこまで冷酷ではない)

 

 

そして……

 

 

『キャアアアアアア!!!!』

 

「うわ、小っさ……」

 

「俺の弟より小さいぞ……」

 

 泰助のちんまりとした恥部が観衆の前に晒された。

 

 

「ほらな。火傷とか殆ど無いだろ?」

 

「本当だ。良かった、どんなに強くてもあかりが優しい事に変わりは無いんだ。

……でもこの光景は見るに耐えられない!」

 

「凄い!あかりって実はヒーロー!?

でも早くあの変態(泰助)どうにかして!!」

 

「あかりちゃーん!今日は今までに無いほど目立ってるよ!

だからその汚い汚物(泰助の○○○)をどうにかしてぇ~~~!!」

 

 今まで知らなかったあかりの一面に驚きつつも、あかりの本質(優しさ)は変わっていない事に京子達は安堵し、泰助の裸体にドン引きしつつもあかりを応援したのだった。

 

 

 

 

 

「ひぃぃ……く、来んな!!もうやめてくれぇぇ~~~~!!

頼む!後生だ!!殺さないでくれぇぇ~~~~!!!!」

 

 服を焼かれて全裸にされ、心身共に痛めつけられた泰助はガタガタと震えながら命乞いをする。

そんな泰助を見下ろし、あかりは先程までの殺気を消して口を開いた。

 

「もうこんな事しない?」

 

「しない!絶対しません!!」

 

「約束する?」

 

「約束します!だからもう勘弁してくれぇ!!」

 

「そう、ならこのまま大人しく警備員さんに捕まりなよ」

 

 問いかけに答える泰助に、あかりは背を向けて立ち去ろうとするが……。

 

「こ、の……クソガキがぁぁぁっっ!!!!!」

 

 そんなあかりに泰助は往生際も悪く背後から襲い掛かる。

だがあかりの表情には驚きも焦りも無い。あるのはただ呆れだけだ。

 

「チャンスあげたのに……あかり懲りない人って嫌いだよ」

 

「ふがぁぁぁぁっ!!!!」

 

 襲い掛かってくる泰助の下あごにあかりの蹴りが叩き込まれ、泰助の身体が上空高く浮き上がった。

 

「そういう人には、きっつ~い、お仕置きしないとね!」

 

 目に再び怒気を取り戻し、あかりは服の中から掌サイズの導火線が付いた球を取り出し、それを上空の泰助目掛けて放り投げた。

 

「この特性花火爆弾でね!」

 

 そして、花火爆弾は綺麗な花火を咲かせた……起爆地点は泰助の股間で。

 

「ギギャアアアアアアアアアアッ!!?」

 

「言ったでしょ。絶対に許さないって」

 

 悶絶する泰助の汚い断末魔を背にあかりは今度こそ本当に背を向けてリングを降りたのだった。

 

これより数分後、澤永泰助と伊藤誠は警備員に捕まり、二人揃って警察に引き渡されたのだった。

 

 

○赤座あかり―澤永泰助●

決まり手・花火爆弾

 

 

 




もう気付いている人も多いと思いますが、
伊藤誠と澤永泰助はSchoolDaysからのゲストキャラです。


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幕間 場外乱闘・残虐!極悪!地獄の粛清!!

今回はちとグロいです。


 格闘イベントで沸き立つ会場から少し離れたスタッフルームでは、ある事件が起きようとしていた。

 

「はぁ、はぁ……警察になんて、捕まって堪るかよ!

あのクソガキ!俺をこんな目に遭わせやがって!絶対後悔させてやる!!」

 

「待ってくれよ泰助ぇ〜〜」

 

 澤永泰助と伊藤誠……先の猥褻未遂事件の下手人二人は、警察が来るまでの間スタッフルームに閉じ込められていたが、警備員が所用でその場を離れた隙にドアをこじ開け、脱走を図っていた。

 

(見た限り強いのはあのガキだけ。だったらアイツの連れをタイミング見計らってトイレにでも連れ込んで犯ってやる!

そうすりゃあのクソガキは大ショックを受けるって訳だ)

 

 『懲りる』『反省する』という言葉を知らないのか、泰助は未だに下劣な企みを頭の中で浮かべ、下卑た笑いを浮かべる。だが……

 

「よぅ、性犯罪者どもが雁首揃えて何処に行く気だ」

 

「お、お前は!?」

 

 そこに現れる一人の人影……直江大和だ。

大和は口元ではニヤニヤと笑い、目は冷徹に二人を見据えている。

 

「俺の妹分達に随分嘗めた真似して不快な思いさせてくれたじゃねぇか。あぁ!?」

 

「ゲェッ!ま、まさかテメェ、あのクソガキの仲間!?」

 

「ご名答。ならココに俺がいる理由、解るよなぁ?」

 

 静かに殺気が大和の全身から溢れ出す。

気が付けば大和の表情は徐々に笑みが失せ、目には怒りの感情が加わっていくのが素人目にも解る。

例えるのであれば、それは獲物を捕らえる獣のそれだ。

 

「ひっ……ま、待ってくれ!俺は泰助に唆されただけなんだ!!

それにアンタの仲間の中学生達には手を出してない!!泰助は好きにしていいから俺は見逃してくれ!!」

 

「誠テメェ!!……あれ?」

 

 誠の裏切り行為に激昂する泰助だが、ココである異変に気付く。

目の前に居た筈の大和の姿が消えていたのだ。

 

「俺の信条を教えてやろうか?」

 

「「!?」」

 

 直後に聞こえる大和の声。その声を頼りに二人は大和の姿を見つける事に成功する。

大和は上に居た。上空に跳躍し、両手で手刀の構えを取っていた。

 

「下手人は、共犯諸共ぶっ潰す!!」

 

 そして急降下と共に誠の両肩に大和の手刀が穿たれた!

 

「上海城壁崩しぃ!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアぁぁぁあぁっぁぁぁぁぁっぁ!!!!!」

 

 ただでさえ鋭く強烈な手刀に落下のスピードが加わって、より威力を増したその一撃に、誠の肩から”メキッ”という音が鳴る。

肩の骨が脱臼したのだ。

 

「うがぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーっ!!肩が、肩がぁあぁぁぁあぁああっぁああーーーーーっ!!!!」

 

 凄まじい激痛に誠は絶叫し、のた打ち回る。

一般的に脱臼は骨折よりも痛みが強く、その上癖になりやすい。

デメリットという点ではある意味骨折よりも厄介だったりする。

 

「うる、せーぞ……馬鹿が!!」

 

「ゴェッ!!」

 

  だが、それで終わらせやるような優しさなど、大和は持ち合わせていない。

倒れている誠の口内に蹴りをぶち込み、捻じ込み、顎を粉砕する。

大和の持つ残虐技の一つ『暴獣・口蓋捻り』だ。

 

「主犯じゃねぇからこの程度で終わらせてやってるんだ。

黙って床にキスでもしてろ雑魚が」

 

「ゲ……ガ…………」

 

 当然そんな技を喰らって無事で居られるはずもなく、誠は白目をひん剥いて失神。

それを僅かに見据えた後、大和は誠の身体を脚で払い除け、今度は主犯である泰助に視線を向ける。

 

「ひぃぃいっ!た、助けて……ば、ばば、化け物……!!」

 

 対する泰助は腰を抜かして後退るが、身体の震えが邪魔をして上手く動けない。

 

「さて、主犯格は……どうしてくれようかなぁ?」

 

「ひえぇぁぁぁっ!!

ま、待って!助けて!!許してくれぇ!!!!

金なら有るだけ全部やる!もうあんな真似しねぇから!だからもう勘弁してくれぇっ!!!!」

 

 財布を差し出して床に頭をこすりつけながら土下座する泰助。

最早プライドも意地も全て捨て去り、無様かつ惨めな事この上ない姿だ。

 

「ほぉ、殊勝な心掛けだな。本当に有り金全部くれるのか?」

 

「勿論勿論!靴だって舐めったって良い!!だから許してくれよぉぉ〜〜」

 

「ククク……嫌なこった!」

 

 泰助の懇願を鼻で笑い、大和は泰助の手を踏み躙った。

 

「ウギャアアあっぁぁぁっぁぁーーーーーーーー!!!!!!」

 

 誠の時とは違い、”ベキッ”という音が踏み躙られた手全体から聞こえてくる。

今度は脱臼ではない。文字通り骨折……しかも複雑骨折だ。

 

「正真正銘のクズだなテメェは。クズ野郎の薄汚ぇ金なんぞに価値なんざねぇんだよ。

何より……テメェは俺の前でやっちゃいけない事を三度もやった!!」

 

 泰助の胸倉を掴み、大和は凄まじいまでの殺気を放つ。

 

「ひいぃぃ!」

 

「一つ、あかりはもとよりリングに上がってすらいない京子に手を出そうとした事!

二つ、再起可能な程度の怪我で済ませてやったあかりの思いやりを無碍にして脱走し、挙句の果てに出来もしない復讐を企てやがった事!!」

 

 怒りに比例するように大和の口調はどんどん荒くなっていく。

そしてそれに対して更に比例するかの如く、泰助の表情はますます恐怖の色を濃くしていく。

 

「大人しく警察に捕まっていればあかりの意思を汲んで見逃してやろうと思ったのによ……。

そして三つ目、アイツらを『クソガキ』って呼んで良いのは……俺だけなんだよぉっ!!」

 

「や、やめ……許しt、ぶげらぁっ!?」

 

 この時、最早大和には泰助の命乞いなど聞こえもしなかった。

そのまま一切の躊躇もなく、泰助の髪を掴み、そのまま一気に自らの膝を泰助の顎に叩き込んだ。

 

「うぁがぁぁっぁ〜〜〜〜〜!!!!」

 

 哀れにも、泰助は顎を砕かれるという一生味わいたくない痛みを体験する。

それに耐えられるほどのタフネスなど元々持ち合わせていない泰助は、当然の如く顎を押さえてのた打ち回る。

 

「おいおい、そんな悲鳴出すなよ。もっと聞きたくなるだろうが!」

 

 表情を狂気の笑みに変え、大和は軽くステップを踏むように跳躍。そして……

 

「暴獣・口蓋捻り!!」

 

「ごがぁぁぁっ!!!?」

 

 先の誠同様に泰助の口内に大和の足が捻じ込まれる。だがココから先は誠とは違った。

大和はただ捻じ込むだけには飽き足らず、足を更にグリグリと回転するように捻じ込んでいったのだ。

ただでさえ先程の膝蹴りで痛めつけられた顎にこの行為である。相手が相手とはいえ最早鬼畜の所業だ。

 

「おっと、まだ気絶すんなよ。これからがお楽しみなんだぜ」

 

「ひ!だ、だずげt……」

 

 無理矢理泰助の身体を起こし、左手で泰助の身体を磔にするように壁に押さえつけ、空いた右手に力を込め……

 

「百烈拳!!」

 

「うがああああぁぁあぁあぁ!!!!」

 

 一気にボディ目掛けて拳撃の連打を穿つ様に浴びせ、あばら骨を数本へし折った!!

 

「ガ……ぁ……も、もうやべで……殺ざないで…………」

 

 最早呂律の回らぬ舌で泰助は仰向けに倒れたまま命乞いを続ける。

一方、大和は先程までの怒りと狂気の表情が消え失せ、無表情のまま泰助を見下ろす。

 

「安心しろ。次で最後だ」

 

 感情の篭らぬ声を発し、大和は静かに愛用の鉄爪を右手に装着する。

 

「まま、待っでぐで!ぞ、ぞではじゃでに……」

(訳:「まま、待ってくれ!それはシャレに……」)

 

「誰がシャレでこんな事するか。…………死ね!」

 

「ぎゃあ゛あ゛ぁぁっぁあぁぁぁっぁぁッぁッっっっっぅぁぁあっぁ!!!!!!!!」

 

 一気に殺気を発し、大和は右手の爪を振り下ろし、直後にその場には泰助の断末魔にも近い悲鳴が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和SIDE

 

「あ゛…………ぁ…………」

 

「確かに殺したぜ。テメェの薄汚い心をな……」

 

 目の前で寸止めを喰らって無様に泡を吹いて小便を漏らす澤永に俺はそう言い放ち、背を向けてその場を立ち去る。

後は大会が終わった後にでもさっき調べたコイツらのメアドに『次は無い』とでも脅しのメールを入れて口を封じておけばそれで良い。

 

「ケケッ……やっぱ下種野郎は良い。潰そうが裂こうが心痛まずに済むからな」

 

 俺の仲間に侮辱する馬鹿は誰だろうと許さねぇ。それが猥褻行為なんていう下らねぇ目的なら尚更だ!

コイツ(泰助)はそれをやろうとした。あかりや京子達をテメェ勝手な性欲の捌け口にしてアイツらの女としての尊厳を侮辱しようとした!!

物理的に潰すだけじゃ足りねぇ!コイツの心も尊厳も全部八つ裂きにして踏み躙ってやらなきゃ許せねぇ!!

だからそうしてやった……ただそれだけだ。

 

(命があるだけ良かったと思え。半年も経てば治る怪我で済んでありがたいと思え。

これでまた同じ事をやるというなら、次はこれ以上の地獄を味合わせてやる!!)

 

 残虐と思うなら思え。悪魔と呼びたきゃ呼べ。

 

 

 今の俺には最高の褒め言葉だ……。

 

 

 



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邪魔者をぶっ潰せ!残虐無頼に悪党討伐!!(後編)

※本作のあかりは一人称を『あかり』と『私』で公私使い分けています。




NO SIDE

 

 澤永泰助と伊藤誠による猥褻行為が未遂で終わり、会場は多少の同様があったものの、次の試合へと進行していく。

そんな中、神霆流メンバーの一人、国本景一は喧騒の中で一人僅かにではあるが表情を顰め、小声で一言呟いた。

 

「敵意と殺気が一つずつ。随分とネチネチとした敵意だな。……早めに手を打つか」

 

 恐らく自分に向けられているであろう敵意と殺気に、景一は今後の対処を考え始めた。

 

 

 

あかりSIDE

 

 突然だけど、私……赤座あかりには秘密がある。

いや、この場合私にじゃなくて赤座家そのものかな?

 

赤座家は今でこそ普段は一般的な家庭で日常を過ごしているけど、その実態は一般人とはまるで違う。

赤座一族は……日本が誇る暗部の一つ。

不知火、更識と並ぶ暗部御三家に名を連ねる忍者一族だ。

 

起源についてはかなり古いからココでは割愛するけど、何を隠そう私は赤座宗家の者。

長老のお祖父ちゃんの長男であるお父さんが現当主で、私はその次女に当たる。

 

故に私は小さい時から訓練を受け続けてきた。

でもまだ中学生だから本格的な任務はまだあまり受けた事が無い。まぁ、それはある意味当たり前だけど。

せいぜい何度かチンピラや学校の不正行為を行う教師、近辺の変質者を捕らえたり再起不能にしたぐらいかな?

でも、そういう小さい経験を若い内に積み重ねるのは意外と大事だってお父さんやお母さん達は言ってた。

 

これだけ聞くと私が京子ちゃん達に自分の強さを明かさないのは家柄が理由だと思われるかもしれないが実際はそんな高尚なものじゃない。

(家は基本的に任務内容さえ他言しなければ実力見せるのも正体晒すのも自由らしいから。)

 

実際の所……何年か前に一度、幼い子を狙う変質者を再起不能にした際、一緒にいた当時仲の良かった友達に恐怖され、疎遠になってしまった事が原因。

……ありきたりだよねって自分でも思うけど、トラウマって結構辛いんだよ。

 

京子ちゃん達は……私の事、やっぱり怖がるのかな?

 

「あかり!お前スゲェーよ!!目茶苦茶格好良かった!!」

 

「あんなに強いなんて……何か大和先輩と仲良いのも納得かも」

 

「あの変態ぶっ飛ばしてくれて目茶苦茶スッキリしたよ!!」

 

 …………そうでもなかった。

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 友人達の試合前に大和に言われた言葉通りの、あかりは一瞬面食らってしまう。

 

「あ、あの……怖くないの?」

 

「びっくりはしたけど……それ以上に格好良かったよ!」

 

 おずおずと質問するあかりに、ちなつの口から出る返答は友好的なものだった。

 

「京子の事を守ってくれたんだ。怖がるなんて失礼な真似できないだろ?」

 

「水臭いぞあかり!アレだけの強さがあれば大和先輩に対抗するのも夢じゃ……」

 

 結衣と京子も同様にあっさりと事実を受け入れる。

京子に至っては低レベルな企みを考えているようだが……。

 

「ほぅ、俺に対抗とはなかなか勇気があるじゃないか?ええ、京子ちゃんよぉ」

 

 だがしかし、返り血を浴びて威圧感満々の大和によってそれは潰された。

 

「ひぃ!嘘ですゴメンなさい!!

私本当は先輩の事を心の底から尊敬してるんです~~!!」

 

 結局の所、あかりの強さを目の当たりにしても大和と京子達ごらく部のメンバーはいつもと同じ雰囲気だった。

 

(何か、お兄ちゃんの言う通りだったな)

 

 変わらぬ友人達を見詰めながら、あかりは試合前に大和からの激励の言葉を思い出す。

何も心配する必要など無かった。

大和の言うとおり京子達は信じるに値する友だった……。

そう考えると悩んでいた自分がばかばかしく思えてくる。

そして、それを気づかせてくれた大和への感謝の気持ちがより一層強まっていく。

 

「大和お兄ちゃん」

 

「あん?」

 

 京子を(目茶苦茶)軽く締め上げていた所に、不意にあかりに名を呼ばれ大和は無防備に振り向く。

そこに待っていたのは……。

 

『CHU!』

 

 頬への不意打ち同然のキスだった。

 

「っっ!?……な、な……!?」

 

「「「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!??!?!?」」」」」

 

 あかりの思わぬ行動に京子、結衣、ちなつのごらく部メンバー。

ついでにどさくさに紛れて大和の幼馴染である一子と京の大絶叫が響き渡る。

 

「今日、京子ちゃん達の前で自分を出せたのは、大和お兄ちゃんのお陰だから。今のはそのお礼」

 

「ど、ドウ……イタシマシテ」

 

 さすがの大和も驚きのあまり顔を真っ赤にしてガチガチに硬直してしまったのだった(笑)。

 

 

 

「取り込み中の所悪いが、少々時間を頂けるだろうか?」

 

 そんな騒がしい一幕の中、不意に一人の男があかりに声をかける。

 

「ん?……アナタは、確か神霆流の……」

 

「ああ、国本景一だ。

アナタを赤座家の者として依頼したい事がある」

 

「…………何?」

 

 景一の言葉を聞いたあかりは他の者に気取られない程度に目付きを鋭くした。

 

 

 

 

 

 

 

「…………何時になったら出てくるのよ?あの野郎!」

 

 リングとその近くにいる神霆流のメンバー……牽いては景一と詩乃を遠目で睨みつけながらその女は苦々しく呟く。

この女……遠藤は詩乃と同じ高校の生徒であるが、その関係は決して友好的なものではない。

数ヶ月前まで、彼女は詩乃のあるトラウマを利用し、恐喝行為を続けていた。

ところが、ある時期を境に詩乃は突然それを克服してしまい、それをきっかけに一切の関係を絶たれてしまった。

学園内のコミュニティというものは意外と狭く、この出来事が切欠となり、

 

『遠藤は金づるに反抗されても何も出来ない雑魚』

 

などと言う噂はあっという間に広まってしまった。

一度墜ちた面子というものは思いの外脆く、詩乃の一件から芋づる式に次々と沿道の周囲からは弱者が去っていった。

 

かつて自分に媚を売り、いじめを受けまいと必死になっていた下級生の女子からは「アンタなんか怖くない」と啖呵を切られ、挙句には以前から自分が狙っていた男を掻っ攫われ、

金で学内における後ろ盾の一人になってくれていた生徒会所属の上級生からは「お前とつるんでいるのを見られたくない」と切り捨てられ、学内での孤立をより強める結果となった。

 

そして遂には、自分の取り巻き立った同級生も愛想を尽かして去っていった。

 

 

 

 そんな出来事が立て続けに起きる中で、遠藤が詩乃を逆恨みするのに大した時間は掛からなかった。

 

(アンタは私に金さえ出してりゃ良いのよ!

二度と消えないトラウマ付けて絶対に逆らえないようにしてやる!!)

 

 試合を観戦している詩乃と、その恋人である景一を睨みながら、遠藤は醜く表情を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格闘イベントもあかりの試合を皮切りに他の参加者も集まり、何試合か対戦カードが組まれていった(最も、大半の参加者は一般人レベルなので、試合のレベルはそれほど高くはない)。

そんな中、あかりへの依頼を終えた景一は、軽く全身の筋肉を解しながらリングへ向かって歩き出す。

 

「それじゃ、そろそろ行くか。準備運動も兼ねてな……」

 

「さっさと燻り出して来い。それが終わるまでは俺が責任持って彼女を護衛する」

 

「……頼む」

 

 和人の気遣いに感謝し、景一はリングに上がる。

 

 

 

 

 

あかりSIDE

 

 景一さんがリングに上がり、私は早速不穏な動きをしている者と敵意を出している者を探す。

景一さんから受けた依頼を達成するために……

 

 

 

数分前

 

「敵意?」

 

「ああ、格闘イベントが始まった頃から露骨な敵意を感じてな。

私だけなら対処のし様もあるが、どうにも敵意は詩乃……私の連れにも向いているような気がしてならない。

そこで、一度下手人を誘き寄せようと考えているんだが……」

 

「なるほどね。あかりは下手人を探してホシが行動を起こしたら証拠を掴んで取り押さえれば良いって訳?」

 

 一般人がこんな会話をしたら『厨二病』の一言で片付けられてしまうんだけど、大和お兄ちゃんや景一さんの様な一線を画す戦闘力を持った闘士の語る気配云々の話はかなり信憑性が強いんだよね……。

 

「分かったよ。あかりもこれ以上折角のお祭を台無しにされたくないもん」

 

 

 

 そして現在に至る訳なんだけど……

 

「アイツがリングに上がったわ!早く撃ちなさいよ!!」

 

『うるせぇな!狙いが定まらないから黙ってろ!!』

 

 思いの外簡単に見つかった。

下手人の女は携帯で共犯者に連絡を入れているようだけど……。

 

「こっちも仲間に連絡っと……もしもし、大和お兄ちゃん?」

 

 実行犯は別にいることを確認し、私は(二つ返事で)協力を申し出てくれた大和お兄ちゃん(既に復活済)にメールを送った。

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 試合は当然ながら景一が対戦相手を終始圧倒し、早い段階で素人目にも勝敗の見える展開となった。

だが、そんな中リング脇から景一を狙い、改造モデルガンの銃口を向ける男が一人……遠藤に金で依頼されたチンピラだ。本名は賃衣平男(ちんい ひらお)という。

 

 遠藤の計画はこうだ。

試合中に景一をモデルガンで狙撃して大怪我を負わせる

→目の前で恋人が撃たれて詩乃のトラウマは再発

→後はそれをネタに強請り続ける。

 

 何ともせこくて卑劣な考えだが平男にとってはそんな事どうでも良い。

彼にとっては人一人闇討ちで怪我させれば金が舞い込む美味しい役でしかない。

 

(悪く思うなよ。こっちは田舎から上京したばっかりで金がいくらあっても足りない状況なんだ。

俺の懐のために犠牲になってくれや)

 

 本人自身も結構せこい事を考えながら引き金に指を掛け、銃弾を景一に見舞おうとするが……。

 

「はい、そこまで」

 

「え?グエッ!?」

 

 不意に鼻っ柱にぶち込まれる大和の膝蹴りに、平男はいとも容易く意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 

「何やってんのよのあの役立たず!試合終わっちゃうじゃない!!」

 

 既に平男は取り押さえられた事も知らず、遠藤はわめき散らして携帯で連絡を取ろうとする。

当然その行為は全くの無駄なのだが、自分の計画が失敗するなどと全く考えていない遠藤は自分に迫る危機にもまるで気付かない。

 

「そこまでにしてくれない?見てて凄くイライラするよ」

 

「!?……な、何よアンタh……アガァッァアアアッ!!」

 

 振り返った遠藤の腕を激痛が襲う。あかりに腕の関節を極められたのだ。

 

「グガッ……あ、アンタはさっきの化けm、ギャアアアア!?」

 

「化け物で結構。アナタみたいな卑劣な人間よりずっとマシだよ」

 

 腕へにかける力を強めながらあかりは遠藤を地面に組み伏す。

 

「一つ教えてあげるけど、景一さんはとっくにアナタが何かしでかす事を見抜いていたよ。

まぁ、あんな敵意むき出しの醜い気配出しまくっていれば当たり前だけどね。

だから私が証拠と現場を押さえるように頼まれたんだけど、馬鹿みたいにペラペラと一人で喚いてくれたお陰で物凄く簡単だったよ。

ほら、アナタの共犯者もあの通り……」

 

「ヒッ!」

 

 大和から膝蹴りで鼻を折られた平男の姿を無理矢理見せられ、遠藤は顔を恐怖で引きつらせる。

 

「ついでに……アレも見とく?」

 

 続けてあかりが見せたのは試合に勝利した景一の姿。

しかし彼の視線は真っ直ぐにこちらを向いている。当然明確な敵意の視線を以って……。

 

「ひ、ヒィイィィッ!!!!」

 

 これから起こるであろう地獄を思い浮かべてしまった遠藤には叫ぶ以外に出来る事がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、コイツが下手人とはな……」

 

「遠藤!?……なんでココに?」

 

 一通りの証拠を纏め、警備員に通報を終えた後、会場の隅にて景一達神霆流の面々はあかりと大和の手引きで遠藤達を追い詰める。

 

「おいチンピラ、お前に私を狙撃するように命じたのは、この女だな?」

 

「そ、そうだ……お、俺は金で雇われただけなんだ。

全部喋るし、二、三発殴られるのは仕方が無いけど、せめて穏便に済ませてくれ……」

 

 逃げられないと悟りきった平男は潔く非を認めてせめて穏便に済ませて貰おうと懇願する。

対する景一はやや冷めた視線を向け、やがてため息をついてから口を開く。

 

「潔く警察で全てを話せ。証拠は揃っているんだからな」

 

「あと、これはケイを狙った分……!!」

 

 景一は一先ず自供のみで許すが、恋人を狙われた詩乃はそうもいかない。

先程大和に殴られた平男の鼻っ柱に握り拳で追い討ちを喰らわせた。

 

「グギャッ!!……ウゥ、すいませんでした…………」

 

「さて、次は貴様だ……」

 

 平男への粛清を終え、いよいよ本番とばかりに景一は殺気を強くしながら遠藤へ歩み寄る。

 

「他者のトラウマを再発させようとは、随分と下衆な趣味を持っているようだな?」

 

「ヒッ!ま、待って!!お願い待って!!

そ、そうだわ!アナタ私と組まない?私とアンタが組めば一生金に困らな……」

 

「黙れ……」

 

 見苦しく媚を売って逃げようとする遠藤を、景一は鋭い眼で睨みつけて威圧し、更に一歩近付く。

その様子はさながら死刑の執行人だ。

 

「や、やめてお願い!!何でもするから!!

そうよ!いっその事そんなブスより私に乗り換えて……」

 

「ダマレトイッタノガワカランノカァァーーーー!!!!」

(訳・黙れと言ったのが解らんのかぁぁーーーー!!!!)

 

「ヒィィィィィィィィィ!?」

 

 これ以上強まるはずも無いと思えた殺気がより強くなり、それを直に浴びた遠藤は、最早恐怖で声も出ず、ガタガタと震えるだけだった。

 

「顔も心も醜い醜女が……」

 

 そして景一は一瞬だけその殺気を弱め、腰に挿していた模擬刀を手に取り、居合いの構えを見せる。

 

「や…………や、め………!!!」

 

「キエウセロ…………!!!!!」

 

「ッっッッっ!!!?!??!??!?!?!?!?」

 

 そして、その居合いが繰り出されたその刹那、遠藤は決して抗えぬ絶対的な『死』を体感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオSIDE

 

「す、凄い……」

 

「何という殺気だ……」

 

 遠目で見ていた俺と乙女(事情は既に大和とあかりから聞いている)は目の前で起きた壮絶な粛清を目の当たりに戦慄する。

居合いそのものは寸止めだったが、その殺気を直に浴びた遠藤は恐怖が限界を超えて凄まじい変貌を遂げていた。

髪の毛は老婆のように真っ白となり、顔中に皺が刻まれて一気に十数年分歳を取ったかのように見えた。

 

「っていうか、何か一瞬あの女の首が落ちたように見えたんだけど」

 

「ああ、私もだ……殺気だけであそこまで出来るものなのか?」

 

「出来るよ」

 

 俺たちの疑問に赤座さんが解答してくれる。…………って、出来るのかよ!?

 

「極限まで殺気を強めて、且つ大きな実力差があればね

たぶんあの女の人、本当に首と身体がお去らばした幻覚を感じたはずだよ」

 

「あ~あ、あの女一生、刃物恐怖症と先端恐怖症に悩まされるな。

自業自得だから同情はしないがな。むしろ良い見ものだったぜ。クケケケ(黒笑)」

 

 そんなまねが出来る連中と闘(や)り合う事になるのか。

楽しみだけど少し怖いな……それでもワクワクする方が大きいけど。

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

「あ、あ……ア゛ア゛ァァァァァァァア゛ッッーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「コラ!大人しくしろ!!」

 

 発狂同然の絶叫が響き渡る。

景一の居合い(寸止め)を受けた遠藤は発狂して暴れ、それに手を焼きながら警備員は彼女を連行して行った。

 

「…………すまない詩乃。お前の前で、あんな姿を見せたくはなかったが」

 

「良いの。……何も、言わないで」

 

 卑劣な真似をした相手が対象とはいえ、精神的な意味で抹殺したも同然の行為を愛する女の前で見せてしまい、景一は怒りに身を任せた己の行為を恥じる。

だが、そんな詩乃は景一に寄り添い、何も言わずに手を握ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ その1

「あの娘、大和にチューを……」

「私だってした事無いのに……」

 一子&京……未だ放心中。


おまけ その2

「もしもし、母ちゃん?オラ、青森(そっち)に帰るべ。
東京は恐ろしい所だ。ココで粋がってたら命がいくつあっても足りねぇ」

 賃衣平男……帰郷。
彼は後に実家の米農家を継ぐ事となる。



おまけ その3

「ふむ、ココが父様が言っていた夏の戦場・コミケ会場か……」



「まさか赤座家のお嬢が参加していたとはな……」

「お前の所属流派のライバルだっけ?」



「やっと着いたっすね」

「ココまで来るのは本当に大変でしたね。
僕なんてこれまで何人とぶつかってきた事か……」

「ああ、コミケに懸けるオタクの熱意は凄いと聞くが、その通りだな。
さてと、和人達は……」






 闘士達、そして戦士達はリングへと集っていく…………。




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集え!リングへ!!

今回は準備回です。


NO SIDE

 

 伊藤誠、澤永泰助、遠藤……イベントに便乗して悪質な事件を起こそうとした愚か者達の始末が着き、漸くイベントは本来の姿を取り戻し、レオ達も戦闘準備を開始して自分達の出番を今か今かと待ち構える。

だが、この戦いに臨む闘士、そして戦士達はレオ達だけではなかった……。

 

 

 

 

レオSIDE

 

「……ん?」

 

「どうしたレオ?」

 

 乙女さん達と共に準備運動のストレッチをしていた所に、俺は大きな気配を感じ取った。

 

「でかい気が近付いてきている……」

 

「え?また怪物が増えんのかよ?」

 

「誰が怪物か!……だが、私もそれは感じた。しかもこの気……以前感じた事があるぞ」

 

 カニの失言をツッコミ(という名の脳天唐竹割り空手チョップ)で黙らせながらも、乙女さんも同意する。

確かに感じた事のある気だ。しかも、つい最近……

 

「何だ、お前達も来てたのか?」

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか」

 

「あ!お前らは確か……」

 

 目の前に現れたのは茶髪と黒髪の男が2人。こいつ等は……

 

「D「レッツ&ゴー・マグナムズ!!」……」

 

 俺が言う前にフカヒレの大ボケが決まった……。

 

「違ぁーーーう!!どこの爆走兄弟だ!!」

 

「第一ネタが古すぎる!!

良いか!?俺達はなぁ……」

 

 茶髪の男・小野寺拓己はブラックホールが生成すると同時に、黒髪の男・山城優一がジャーマンスープレックスでその中に投げ落とし……。

 

「D(Dimension)&……」

 

「I(Invisible)……」

 

「あ゛ぁっーーーーーー!!」

 

 直後にブラックホールは上空へと位置を移し、そこからフカヒレは真っ逆さまに墜ちてきた。

 

「「ハリケーンズだ!!」」

 

 そして勢い良く2人のツープラトンキン肉バスターが決まった!

 

「ぐぎゃぁぁっっ!!?」

 

「相変わらずの間抜けが一人逝ったか……フカヒレよ、安らかに眠れ」

 

 相変わらずなのはお前もだ、大和……。

 

「ぎ、が……まだ死んでねぇよ……」

 

 いつもの事だが生命力だけは凄い。ギャグ補正恐るべし……。

 

「んじゃ、改めて……久しぶりだな、拓己、優一。お前らも参加するのか?」

 

「ああ、元々はダチに手伝い頼まれて来たけど、中々面白そうな奴が揃い踏みだしな。参加しない手は無いだろ。

優一の所のライバル流派も来てるみたいだし。ほら……」

 

 

 

「優一さん、お久しぶりです」

 

「おう、あかりも元気そうだな。あかねさんの方はどうだ?」

 

「相変わらずいつも通りです。何か優一さんに彼女さんが出来たって聞いて喜んでましたよ」

 

 

 

 拓己が親指を延ばした先には親しく会話する優一と赤座さんの姿があった。

 

「あの2人、どういう関係だ?」

 

「流派上のライバル関係だとよ。優一はあの娘の姉と戦って引き分けた事があるだとか」

 

 ああ、言われてみれば優一も忍者の技を使ってたからな……。

 

「しかも参加者は俺たちだけじゃないんだよなぁ。……おい、出て来いよ!」

 

「フン、言われずともそのつもりだ」

 

 拓己に呼び出されて一人分の人影が現れる。その姿は……

 

「鉄、対馬……一ヶ月ぶりだな」

 

「「橘(さん)!」」

 

 拓己達同様、タッグ武術会で俺達と鎬を削り合った橘瀬麗武の姿だった。

 

「お前も来ていたのか……まさか、またレオ狙いか!?」

 

 俺を渡すまいと乙女さんは俺の腕を掴んで前に乗り出す。

 

「馬鹿が。今更奪う気などあるものか。父様からこのイベントを薦められて修行に来ただけだ。

まぁ、私としてはお前らと再び戦うのも一向に構わんが……」

 

 挑戦的に笑いながら橘さんは神霆流のメンバー5人を見る。……5人?

 

「増えてる?」

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

「よぉ、やっと見つけたぞ」

 

「いやぁ、夏コミの熱気ってのはやっぱ凄いっスね」

 

「全くです。……僕、もうこの時点で汗だくになっちゃってます」

 

「お疲れさん……ナイスタイミングで来てくれたな」

 

 対馬ファミリーが瀬麗武達3人と再会した頃、時を同じくして和人達の下に3人の男が現れた。

 

茶髪をヘアバンドでオールバックにした蒼眼の青年、十六夜志郎(プレイヤーネーム『ハクヤ』)。」

薄い金髪で左目を前髪で隠した、紅の瞳を持つクォーターの少年、月乃刻(プレイヤーネーム『ルナリオ』)。

薄い黒の長髪を後ろに束ねた茶色の瞳の少年、神城烈弥(プレイヤーネーム『ヴァル』)。

 

 彼らの姿に和人は笑みを浮かべて労いの言葉をかける。

新たに現れた志郎、刻、烈弥……彼らも神霆流に身を置く和人、景一の同門で全員が準師範代級以上の実力を持つ猛者達だ。

ちなみに、彼らも全員彼女持ちであり、今回のコミケには所用があって参加出来ず、コスプレ姿は披露出来なかったが、プライベートでは恐らく二人きりの時は存分にやってるだろう……。

 

「それで、メールに書いてましたけど……まさかあのタッグトーナメントで活躍した人達が本当に来ているなんて……」

 

「ああ、それも赤座家期待の新星(ホープ)を含めて4人、それに今来た3人を含めれば7人だ。独り占めするにはもったいないだろ?」

 

「全くだな。参加出来なかった公輝達には悪いが、盛大に楽しませてもらうか」

 

 好戦的な笑みを携え、和人達はレオ達を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

レオSIDE

 

「お互い、結構な大人数になったなぁ」

 

「ああ、戦う奴だけでも両方合わせて12人。団体戦も出来る人数だな」

 

 それぞれ新たにメンバーを加えた俺達はどちらからともなく近付き、語りかける。

こんな強者揃いなのはタッグトーナメント以来だ。

あれからまだ一ヶ月しか経ってないのに、これだけ凄いイベントに関われるなんてな……。

いや、今回の場合俺達がそういう状況を作った訳だが……。

 

「なら、本当に団体戦やったらどうだ?

俺は元々あかりと戦う予定だし、今回は譲ってやるよ。それなら丁度5人ずつで公平だろ?

良いよな、あかり?」

 

「うん。あかりも戦うならまずは大和お兄ちゃんって決めてたから」

 

 大和達からありがたい申し出に、俺達全員の出す空気が変わる。

全員合意か……面白い!

 

「では、決まりだな」

 

「俺達神霆流と先のタッグトーナメント参加者……こんなに面白いカードはそうそう無い!」

 

 乙女さんと桐ヶ谷を筆頭に双方は合意し、5対5の団体戦がココに決定した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

「それじゃあ、早速先鋒戦と行くか。1番手は頂くぞ!!」

 

 決まるや否や真っ先にリングに上がったのは橘瀬麗武だ。

背中に背負った刀(一応今回は模擬刀)を抜き、臨戦態勢を取っている。

戦いたくてウズウズしているのが丸解りだ。

 

「海軍司令の愛娘にして、雷を纏う剣士か……ボクが行くっす!良いっすよね?」

 

「ああ、行って来い!」

 

 対する神霆流側は月乃刻が立ち上がり、武器である棒を携えてリングへ駆け上がる。

 

「神霆流……父様から話は聞いている。どれ程のものか見せて貰うぞ!」

 

「上等っすよ!」

 

 リングに上がった両者は挑発的に笑いあい、手に持った武器を構えて半歩踏み出し、そして……

 

「橘艦隊司令、橘幾三が娘、橘瀬麗武……推して参る!!」

 

「神霆流準師範代【剛撃】の月乃刻……押し通る!!」

 

 試合開始のゴングと共に、両者同時に飛び掛った!!

 

先鋒戦 橘瀬麗武VS月乃刻……開始!!

 

 

 



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瞬撃の決着

NO SIDE

 

「「ハァアアアッ!!」」

 

 試合開始と同時に互いに突進し合い、ぶつかり合う瀬麗武と刻。

 

「セャァァ!!」

 

 一瞬早く肉薄し、一歩前へ踏み込んだのは瀬麗武だ。

 

「クッ……流石に早いっすね。けど……!」

 

「ぬ?……これは!?」

 

 一瞬でも反応が遅れれば鍔迫り合うまでもなく痛手を受けていたっであろう一撃に冷や汗を流しつつ、刻は両手足に力を込め、徐々に押し返す。

 

(コイツ、何てパワーだ。これは、鉄とほぼ同等のパワー!?)

 

 押されつつある体勢の中、瀬麗武は戦慄を禁じえない。乙女と同等のパワーを持つ者など、そうそう居はしない。ましてやそれが同年代なら尚更である。

少なくとも瀬麗武が知る限り、該当するのは先のトーナメントに出場していた大倉弘之ぐらいである。

 

「戦って早々に、嫌な事を思い出させてくれる、なっ!」

 

 苦い敗北と失恋の記憶に苦虫を噛み潰したように表情を顰め、足に稲妻を纏わせる。

 

「《迅雷脚!》」

 

「クッ!うぐぁぁっ!?」

 

 そして放たれる一閃の蹴り。

咄嗟に棒でそれを防ぐ刻だが、電撃はガードを素通りし、刻の全身にダメージを与える。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

「くっ!」

 

 続けざまに模擬刀を横殴りに振るい、刻に斬りかかる瀬麗武。

だが刻とてやられたままではない。即座にバックステップで後方に下がって回避し、自らの獲物である棒を振るって迎え撃つ。

 

「甘い!」

 

 だが、その攻撃を瀬麗武は逆に利用した。

まず斬撃を止めて跳躍。そして、その勢いで刻の棒を踏みつけ、踏み台代わりにしてより高く跳躍して見せたのだ。

 

「何っ!?」

 

「《弾空連脚!!》」

 

 そこから繰り出される打点の高い連続蹴りが刻の顔面を打つ!

 

「グガァッ!!」

 

「このまま決めてやる!」

 

 強烈な一撃に仰け反る刻を瀬麗武は見逃さない。

一気に止めを刺すべく刀を再び握り直し、得意の電撃を纏わせる。

 

「《死殺技・鳴雷!!》」

 

 刀に纏わせた雷が一気に開放され、刻の身体に獣のように襲い掛かる。

先のタッグ戦で乙女苦しめた大技・鳴雷だ。

 

「グガァァァッ!!………クッ、グ…………!!」

 

「何ぃ!?」

 

 稲妻による強烈な電撃に刻は叫び声を上げる……。

が、刻はそれで終わるような軟な男ではなかった。

一度は仰け反りながらも両脚でマットを踏みしめ、電撃を耐え抜いているのだ。

 

「この程度でやられてたら、準師範代なんて名乗れねぇっす!!」

 

 未だに放出される電撃の中、それを浴びながらも駆け出し、瀬麗武の眼前まで迫る!

 

「くっ!」

 

「かかったっすね!」

 

 慌てて後ろに退避する瀬麗武。だが、刻は獲物を罠に捕らえたかのようにニヤリと笑みを浮かべる。

この時、刻の狙いは瀬麗武ではなかったのだ。

 

「《メテオ・インパクト!!》」

 

 振り下ろされた棒が、瀬麗武の手を……、

より正確に言えば瀬麗武が手に持った刀を打ち据えた!

 

「うぐっ!?

……し、しまったぁ!狙いは武器(こっち)か!?」

 

 

「その通りっす!そりゃあぁ!!」

 

 『バキンッ!』という大きな音を立て、瀬麗武の持つ刀は根元から折れ、刀身と持ち手が切り離されてしまった。

そして、それに驚く瀬麗武の見せた隙を突き、回し蹴りが瀬麗武の身体を穿った!

 

「ぐおぉっ!!…………ま、まさか……模擬刀とはいえ、鉄製の刀が……」

 

「伊達に力自慢を気取ってる訳じゃねぇっすよ!

これでこっちが有利。それでもまだ続けるっすか?」

 

 蹴飛ばされるも、体勢を整え直しながら、驚きの表情を見せる瀬麗武に対して、刻は勝ち誇った表情で語りかける。

そんな挑発に対し、瀬麗武は目を鋭く細め、先程折られた刀の取っ手を握り締めて構える。

 

「フン、甘く見るなよ。

…………ハアァァァァッッ!!」

 

 気合と共に瀬麗武の気が高まり、それが刀に集まって光の刀を作り上げる。

 

「!?……これはまた、凄い技を」

 

「これぞ、《鉄装剣》……本来は刀の切れ味強化の技だが、媒介になる物さえあれば即席で剣を作る事も出来る。

これで一気に勝負をつけてやる!取って置きの新技でな!!」

 

「望む所。こっちも全身全霊で行くっすよ!!」

 

 己の全身全霊を掛け、決着を着けるべく、2人は構え直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオSIDE

 

「……もうすぐ決まるな」

 

「……うん」

 

 乙女さんの言葉に俺達は皆納得するように頷く。

橘さんは鉄装剣で刀を作ったけど、媒体である刀が根元から折れている状態じゃ使用する気の量は大きい筈だ。

そして対戦相手の月乃……ぱっと見では分かりづらいが、橘さんの必殺技を連続して受けていたので総合的なダメージ量は橘さんよりも大きく上回っている。

橘さんが月乃の動きに目を慣らせばダメージを与えるのは困難になる。

つまり、2人とも短期決戦で決めるしかないのだ。

 

「この勝負、先に隙を見せた方が圧倒的に不利だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 武器を構えながら互いににらみ合い、瀬麗武と刻はじりじりと相手との間合いを詰めていく。それは時間にして数十秒程の短い時間だが、当人達と周囲で観戦しているものにはその数倍に感じる。

その間、沈黙がリングとその周りを支配する。

だが、やがてそれも終わりの時を迎える。

 

「「…………勝負!!」」

 

 両者同時にマットを蹴り、それぞれの武器を振りかぶる。

 

「《雷神閃!!》」

 

「《メテオ・インパクト》」

 

 同時に繰り出される二人の必殺の一撃。

鳴雷の時とは比較にならないほどの莫大な稲妻を纏わせた瀬麗武の刀による斬撃の一閃!

そして、刻はそれを先の刀をへし折った一撃……『メテオ・インパクト』で迎え撃つ!

 

「ハァアアアッ!!」

 

「喰らえぇぇーーーーっ!!」

 

 フルパワーで放たれた一撃が轟音を立ててぶつかり合い、一瞬ではあるが鬩ぎ合う。

その一瞬が技同士のぶつかり合いの勝敗を決めた。

 

「っ!!…棒が!?」

 

 技と技のぶつかり合い……軍配が上がったのは瀬麗武!

雷を纏ったその剣は、刻のパワーを上回り、彼の獲物である棒を中央から真っ二つに切り裂いたのだ。

 

「貰ったぁぁーーーーっ!!!」

 

「うぐぁぁっぁっ!!!!」

 

 そしてそのまま勢いに乗せ、刻の身体に斬撃を見舞う!!

 

 

 

 

 

「入った!これで決まりだ!!」

 

「いや、まだ浅い!アイツ、攻撃が当たる直前に身体を逸らしてダメージを軽くしやがった!」

 

 リングサイドで観戦しているスバルが瀬麗武の勝利を確信して声を上げるが、レオがそれを否定する。

勝負はまだ終わっていない……………。

 

 

 

 

 

「これで、最後だぁぁーーーーっ!!!!」

 

 コーナーポストまで追い詰め、先程の攻撃でふらつく刻に、瀬麗武は跳び上がり、空中から二発目の雷神閃を繰り出す!

 

(く、クソ……このままじゃ、やられ……ん!?)

 

 迫り来る一撃を前に、刻はあるものが自分の腕に触れたことに気づき、それを見て目を見開いた。

 

「これだ!!」

 

 それは鉄柱……四方に設置されたコーナーポストを支える鉄柱だった。

まさに火事場の馬鹿力とでもいうべきか、咄嗟に見つけたそれに、刻は逆転の一手を見出した!!

 

「ダァアアア!!」

 

 思い付くや否や、刻は凄まじい腕力で鉄柱を一気に引き抜いた!

そしてそれを盾代わりにして瀬麗武の斬撃を一瞬だけではあるが防いだ!!

 

「今だぁぁーーーっ!!」

 

「っ!!?」

 

 その一瞬こそが勝敗の分かれ目だった。

技を防がれた事で瀬麗武生じた1秒にも満たない僅かな隙。

その隙を見切り、刻は切り裂かれて短棒となった武器を左手に握り、最後の一撃を繰り指した!!

 

「《ヴァイク・インパクトぉっ!!》」

 

「ぐぉぉっっ!!!!」

 

 瀬麗武の胸部の中心へと打ち込まれる渾身の突き。

まさに乾坤一擲にして最後の一撃とも言うべきカウンターが見事に決まった!!

 

「ガッ…ハ……………さすが…神霆流……見事だ…………」

 

 マットに叩きつけられ、息も絶え絶えになりながらも、賞賛の言葉を呟く瀬麗武。

やがて瀬麗武の身体から力は抜け、マットに大の字で倒れたまま気を失ったのだった。

 

「ハァ、ハァ……そっちこそ、見事っすよ。

リングという地形を利用できなければ、負けていたのは僕の方でした」

 

 刻はロープに凭れ掛かりながら瀬麗武の言葉に答える。

その言葉に嘘偽りは無い。彼もまたそれ程に満身創痍だったのだ。

 

 

 

先鋒戦

 

○月乃刻―橘瀬麗武●

決まり手・ヴァイク・インパクト

 

 

 

※鉄柱の使用に関してですが、

ルール上『当人たちの合意さえあれば使用可能』であり、

加えて、瀬麗武自身が負けを認めているので問題ありません。

 




次回予告

先鋒戦を飾り、このまま勢いに乗るべく黒戦チームは、和人と並び師範代の称号を持つ副リーダー・十六夜志郎を次鋒として投入。
対する愛羅武勇伝チーム次鋒は、不知火流の若き分身使い・山城優一が出陣。
果たして、勝負の行方は?

志郎「お前の影分身はたった今完全に見切った!」


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影分身VS脅威の二本鎌!

やっと完成……お待たせして申し訳ありません。

今更ですが、何故コミケで格闘イベントがあるのかをちょっと解説。
本作の世界観において、格闘技はブームになりつつあり、レオ達が参加したタッグトーナメントで松笠や七浜を中心とした都市や県はそれがヒートアップしたって事で。


レオSIDE

 

「大丈夫か、橘?」

 

「ああ……すまない」

 

 第1試合にて敗れた橘さんは、乙女さんの肩を借りながらリングから降りる。

まさか、弱点(トラウマ)を突いたとはいえ乙女さんをアレだけ苦しめた橘さんが負けるなんて……。

 

「ほら、湿布薬だ。貼っとけ」

 

「ああ……」

 

 大和から湿布薬を受け取り、瀬麗武はその場に座り込んで先の戦いで自分を破った刻達を見る。

心なしかその表情は冷や汗を流している。

 

「負け惜しみに聞こえるかもしれんが、奴のパワーは鉄と遜色無いレベルだった。

恐らく、他の面子の戦闘力も私達全員とほぼ同等だろう」

 

 橘さんの言葉は事実だろう。

少なくとも橘さんが戦った月乃って奴と比べて他のメンバーの力量は、どんなに過小評価したとしても同等以上。

確実に苦戦は必至だろう……。

 

「次は俺が行く。一気に巻き返してやる」

 

 次鋒に名乗りを挙げたのは優一。

名乗り出るや否やリングに上がって臨戦態勢を取る。

 

「……なぁ、レオ」

 

「どうした?……ん?」

 

 そんな中、不意にスバルから声が掛かり、俺はある違和感に気付く。

 

「フカヒレ?」

 

 いつもなら騒ぐかボケをかます筈のフカヒレだが、今回は違った。

何やら訝しむ様に桐ヶ谷達を見詰めて首をかしげている。

 

「フカヒレの奴、さっきから妙に大人しいが、どうしたんだ?」

 

「何か変な物でも拾い食いしたんじゃね?」

 

 カニがまたもやアホな推測でものを言う……。

 

「流石にそれは無いだろ?お前なら有り得るが」

 

「んだとゴラァ!!お前ボクの事そんな風に思ってたのか!?」

 

 そう思われて当たり前なことばっかりやってる癖に良く言う……。

 

「さっきの技、見た事ある……」

 

「え?」

 

 カニとのアホらしいやりとりの中、フカヒレの思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。

 

「あれは確か、ALOで……ま、まさか、アイツらって…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 一方、先鋒戦で勝利を決めた神霆流側でも、二番手が決まろうとしていた。

 

「次は頼むぞ、志郎」

 

「任せろ、ココで一気に流れをこちら側のものにしてやるさ」

 

 特注品の二本の大鎌(模造品)を両手に持ち、志郎は優一の待つリングに上がった。

 

「社交辞令って事で、名乗らせてもらうぜ。

俺の名は山城優一。不知火流師範代候補だ」

 

「神霆流師範代・十六夜志郎……通り名は乱撃。いらん世話かもしれんが、素手で良いのか?」

 

「模造品なら素手でも十分戦える。

本物の刃物ならプロテクターぐらいは必要だけどな」

 

「……それを聞いて安心した」

 

 大鎌を得物とする志郎に対し、優一は素手のまま身構え、それに応じて志郎も構えを取る。

 

「行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 やがて闘志が一気に高まり、二人の間に火花が散る。

それが合図となったのかのようにゴングが鳴らされた。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ッ!?」

 

 開始直後に優一が動いた。

持ち前の瞬発力を活かし、瞬時に志郎の懐に入り、右腕を振りかぶる。

 

「《昇竜弾!!》」

 

「グッ!」

 

 振りかぶられた右腕から鋭い一撃が繰り出される。

これを志郎は避ける暇もなく右手に持つ大鎌の柄でこれを防御する。

 

(今だ!)

 

 直後に志郎の背後に優一の影分身が生成され、跳び蹴りを繰り出すが……。

 

「フンッ!」

 

「何っ!?」

 

 直後に優一は驚愕する。

迫り来る攻撃に対し、志郎は振り返る事無く左手に持ったもう一本の鎌で分身を薙ぎ払ったのだ。

 

「そこぉっ!!」

 

「あぐっ!」

 

 その隙を突いて優一の鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。

急所への一撃はより大きな隙を生み、優一の身体は大きく仰け反った。

 

「《クレセイル!》」

 

 更に続けて繰り出される追撃。

さながら三日月を描くが如く、大きく振り下ろされる鎌が優一に迫る。

 

「チィッ!」

 

 だが優一もただやられのを待つお人好しではない。

眼前に分身を精製し、コレを盾にして防ぐ。

 

「《斬影拳!!》」

 

 そして分身を巻き込む形で超高速の肘打ちが繰り出される。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 直前まで分身が目隠しになっていたため志郎の反応は遅れ、胸板への一撃を許してしまう。

 

「まだまだ……!」

 

 形勢逆転し、優一は一気に畳み掛けるべく志郎に飛び掛かる。

 

「《影分身・修羅の型!》」

 

「!?」

 

 再び懐に入るとほぼ同時に優一の両肩からそれぞれ2本、計4本の腕が生えてくる。

元々の腕と合わせて全6本もの腕で身構えるその様相はまさに阿修羅の名に相応しい姿だ。

 

「《阿修羅六道蓮華ーーッ!!》」

 

「うぐぁぁっ!!」

 

 そのまま一気に繰り出される6本の腕による拳撃の嵐。

息吐く間も無い連撃が容赦無く志郎の身体を穿つ。

 

(ま、まるで動きが読めん……避けきれない!?)

 

 フック、アッパー、ストレート、ジャブ……6本の腕から放たれる拳はそれぞれ違う動きを見せ、志郎に動きを悟らせない。

故に志郎は拳撃全てをその身に受けてしまった。

 

「グ……ぐぁ…………」

 

 強烈な拳撃に吹っ飛ばされてダウンし、早くもグロッキー状態になりつつある志郎。

だが優一はそれに情けも容赦もしない。一気呵成に勝負をつけるべく倒れる志郎に追い討ちを仕掛けるべく跳び上がる。

 

「とどめだ!!」

 

 ダウンしている志郎に上空から3本の右腕を振りかぶる優一。

このまま急所に3発同時にパンチが決まれば志郎でもKO、もしくはそれに近いダメージを追うのは必至だ。

 

「くっ!嘗めるな!!」

 

 ここで志郎も反撃に移る。

左手に持った鎌をブーメランの様に優一目掛けて投げ付けた。

 

「うぉっ!?」

 

 カウンター気味に投擲された鎌を優一は慌てて回避する。回避に費やした時間は僅か一瞬だが、その一瞬を志郎は見逃さなかった。

 

「貰った!!」

 

 一瞬の隙を突き、志郎は優一……牽いては彼の右腕目掛けて飛びつき、そして……

 

「腕を増やせば、絶対有利だと思うなよ。こうやって三本まとめて料理すれば!!」

 

 右腕3本を纏めてキャッチし、そのまま勢いに乗せて腕固めの要領で締め上げた!

 

「ギャアアア!!」

 

 腕を締め上げられたまま組み伏せられ、優一の口から悲鳴が上がる。

いくら影分身で作った仮初の腕でもそれを動かしているのは自身の肩である。

即ち、3本の腕が一気に締め上げられれば、肩にかかる負担も3倍だ。

 

(か、解除、しないと……!)

 

 激痛に苦しむ中、優一は分身を解除して分身体の腕を消し、その際に出来た隙間を利用して志郎の腕固めから脱出する。

 

「漸く解除してくれたな。その厄介な腕を!」

 

 待っていたとばかりに志郎は早々に体勢を整え直し、

 

「《ルナクス・オンフェ!!》」

 

 先のお返しとばかりに志郎の技が繰り出される。

鎌を円形に振り回しながらの縦斬りが優一の身体に叩き込まれる!

 

「うぐぁぁぁっ!!!」

 

 強烈な斬撃をその身に受け、優一の身体は大きく仰け反る。

 

「もう一発!」

 

「くっ……《飛翔拳!》」

 

 追撃を仕掛ける志郎だが、優一も黙ってはいない。

迫り来る志郎に対し、の掌から気弾が放ち、コレを迎撃しようとする。

 

「!…《ルナクス・ディーフェ!》」

 

 対する志郎は鎌を回転させ、これを盾代わりにして気弾を弾き飛ばした。

だが防御に費やす僅かな時間を利用し、優一は体勢を立て直し、志郎と距離を取る。

一方で志郎も深追いはせずに先程手放した鎌を回収する。

 

「「…………」」

 

 距離を取り合った二人は一瞬だけ睨み合い、そして……。

 

「「ハアァァァ!!」」

 

 雄叫びにも似た叫び声と共に同時に動き出す。

 

「《デッドクロス!》」

 

「チッ!……ぬおぉぉぉーーーーーっ!!」

 

 今度は志郎が先に仕掛ける。

2本の鎌から繰り出されるは×を描く様な軌道の斬撃。

その斬撃を優一は怯む事無く突っ込み、両腕でそれを受け止める。

 

「肉を切らせて、骨を断つ!」

 

「何っ!?」

 

 ガードした両腕の痛みも気にせず、優一は周囲に多数の影分身を生成する。

そして直後にその内の2体が志郎の両腕に組み付き、動きを封じる。

 

「一気に決めてやる!」

 

 そしてそこから本体を含めた総勢8体の猛攻が開始された!

 

「うぐぉっ!」

 

 まず組み付いた2体が志郎をマットに叩きつけ、倒れ伏す志郎目掛けて他の2体が二ードロップで追撃。

 

「ガアァァッ!!」

 

 更に5体目と6体目が志郎を持ち上げ、7体目がそれを蹴り上げて志郎の身体を宙に浮かせる。

 

「《影分身・死刑執行!!》」

 

 そして仕上げは本体の優一がジャーマンスープレックスを決める!!

 

「グガァァァ!!!!…………く、そぉっ!」

 

 だが、志郎はまだKOされてはいない。

強引に優一の腕を振り解き、そのまま両手に持った鎌を振り回す!

 

「うおぉぉーーーーっ!!」

 

「チッ……無駄だ!」

 

 振り回される鎌に分身体が全て破壊され、優一にも僅かに斬撃は命中するがそれは大ダメージには程遠い。

その上分身は優一の気が尽きるまで無尽蔵に生成できるため、すぐに新たな分身体が生成される。

 

「まだだぁ!!」

 

 しかし、それでも志郎は鎌を振るい続け、優一を分身体諸共攻撃し続ける。

だが繰り返し現れる分身体と疲弊しているとはいえ志郎よりは十分に体力を残している優一では、どちらが有利か火を見るより明らか。

加えて優一の分身は傷跡まで本体とほぼ同じに作られているため、本体へのピンポイント攻撃も望み薄だ。

 

「ハァ、ハァ……っ」

 

「無駄だって、言ってんだろ!《八蹴超裂波弾!!》」

 

「グァァァァッ!!!!」

 

 遂には疲労困憊でふらついてしまった志郎。

そこを見逃さず、優一はトドメの一撃を見舞いに入る。

分身体を含めた8人分の蹴撃が一斉に志郎の身体に叩き込まれた!

 

「ガ……ッ…ぁ……」

 

 打ちのめされ、ズタボロとなった志郎はマットに力なく倒れ伏す、が……

 

「っ!」

 

 だが、志郎はまだ意識を保っていた。

ダメージに震える手でロープを掴み、強引に立ち上がったのだ。

 

「何ぃ!?」

 

「クク……やはりお前も疲弊しているようだな。何とか耐え切ってやったぞ。

そして……お前の影分身はたった今完全に見切った!この勝負、俺が貰った!!」

 

 不敵に笑い、志郎は勝利を宣言する。

 

「……フン!」

 

 それに対し優一は戦慄を覚えるが、それで尻込みするような真似はしない。

再び分身と共に身構える。

 

「そんなフラフラの状態ででかい口叩きやがって……見切れるモンなら、見切ってみろぉっ!!」

 

 渾身の力を込め、一斉に飛び掛かる優一と分身達。

志郎はそれを一瞬睨み、そして……

 

「ハアァァァーーーーーッ!!」

 

 雄叫びと共に狙いを定めた標的目掛け、一気に駆け出した!

 

「本体は、お前だぁっ!!」

 

「!?」

 

 繰り出される志郎の斬撃。

あらん限りの力を込めたその一撃が標的に叩き込まれた!

 

「何、だとぉっ!?」

 

 驚愕の声が耳に響く中、志郎は己の手に確かな手応えを感じる。

そして、それは自身の策が功を制した証だった。

 

「《ヴァンディエスト!!》」

 

 全身全霊最後の力を込めた志郎の必殺技。

8連撃の鎌による斬撃、その全てが優一を襲った!!

 

「がはぁぁぁぁっ!!!!」

 

 志郎のフルパワーとカウンター効果が併さった斬撃が優一の身体を直撃し、その身体を吹き飛ばす。

やがて先の瀬麗武と同様、優一はマットに倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何故……ピンポイントで?

目印になるような傷は全て分身にも模倣していたのに……」

 

「…………」

 

 立つこともままならない中、優一は自分を見下ろす志郎に問う。

志郎は静かに優一に近づいて胸元の傷……小さく乱雑なその傷を指差した。

 

「アラビア語で耳という意味だ」

 

「?」

 

「お前にとってはただの小さい乱雑な……つけた本人も忘れるような傷としか思えんだろうが、その傷はアラビア語の文字を元にしてつけたものだ。

この意味が解るか?」

 

「……そういう事か」

 

 志郎の言葉に優一は全てを察する。

マーキングを悟られないようにするためには相手の認知していないマークをつけてしまえばいい。

さすがに認知していない文字までは模倣する事は出来ないのいだから。

 

「成る程な、大した奴だ……」

 

「お前もな……。だが、今回は俺の勝ちだ」

 

 僅かに目を伏せ、志郎は倒れる優一に背を向ける。

 

だが…………

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは、どうかな!?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 突如としてリング状の”ある物”が動きだし、異変が生じた。

 

「か、影が!?」

 

 動いたもの……それは志郎の影。

いや、正確には志郎の影に擬態した優一の影分身だ!!

 

「《擬態分身・影法師!》」

 

 姿を現した分身体は志郎の首をチョークスリーパーで締め上げる。

それはココに来て優一が見せた最後の足掻きだった。

 

「ぐ、ぁぁ……っ。は、離、せ……!」

 

「ハァ、ハァ……こ、今度こそ、無駄だぜ。もうお前には反撃する余力は残っちゃいない!

このまま絞め落としてやる!!」

 

「がぁぁ……だ、だったら…………お前が、力尽きるまで、耐えて………やる!」

 

 残った気を総動員して分身を操る力を強める優一。

それに対して志郎は必至にもがき、耐え続ける。

ココに来て勝負は持久戦にもつれ込んだ!

 

 

 

 

「頑張れ優一!そのまま絞め落とせ!!」

 

「志郎、負けるな!相手はもう力尽きる寸前だ!!」

 

 

 

 

 両陣営から激励が飛び交う。

最早戦いは意地と意地のぶつかり合い。先に心が折れた方が負けるという状況だ。

 

 

 

 

 そして数十秒後、時間にしてみればごく短いものの、当人たちにとって長い時が経った時、勝敗は決した。

 

「かはっ……」

 

 分身体が消滅する。

それと同時に優一の身体は糸が切れたマリオネットのように脱力し、今度こそマットに沈んだ。

 

「ぐ……ぁ…………」

 

 だが、それとほぼ同時に志郎の身体からも力が抜け、そのまま志郎は仰向けに倒れる。

慌てて審判が駆け寄り二人の様子を見る。そして…………

 

 

 

「両者ダブルKO!引き分け!!」

 

 

 

 審判の口から出た言葉と同時に試合終了のゴングが鳴り響く。

次鋒戦は壮絶な相討ちに終わったのだった。

 

 

 

次鋒戦

 

△十六夜志郎―山城優一△

 

両者KO

 



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最後の切り札!

これが今年最後の更新です!

来年こそは月2ぐらいで更新したい。
っていうか、こっちの更新ペースも上げないと


レオSIDE

 

「アウトロード?」

 

「ああ、間違いねぇよ」

 

 優一の試合が引き分けに終わり、対戦相手の十六夜共々係員に肩を借りながらリングを降りる中、俺達はフカヒレから桐ヶ谷達の秘密を聞いていた。

アウトロード……ALO最強と名高いギルドにしてSAO事件の解決に最も貢献したギルド『黒衣衆』がその名を変えた集団だ。

 

「ネットゲームで最強、現実でもとんでもない実力者か……」

 

「……ネットゲームとは、一体どんなものだ?さっぱり分からん上に想像が出来ない」

 

 ……乙女さん。せめて大まかな内容ぐらい知っとこうよ。

余談だが乙女さんの現時点での機械操作レベルは『携帯の通話とメールが使える。ただしメールは返信するのに1時間は掛かる』程度のものだ。

言っとくけどな、これでも結構レベル上がってんだぞ。

 

「大和、教えてやってくれ。多少鬼軍曹みたいになっても良いから」

 

 厳しいかもしれないけど、最低でも知識ぐらいは頭に入れておかないと今後社会に置き去りにされかねない。

 

「了解。さぁ、耳の穴かっぽじって聞けよ時代錯誤の女武将が!」

 

「ぬぐぐ……屈辱だ!

(けど機械音痴は自業自得だから反論出来ない)」

 

頑張ってくれ、乙女さん。

今夜は思いっ切りベッドの上で慰めてあげるから……。

 

 

 

「しかし、探せば居るんだな。現実(リアル)でも仮想現実(バーチャル)でもハイスペックな奴って」

 

「うん。どうにも『ネトゲ内での強さと格好良さは現実の姿と反比例する』というイメージが強いからなぁ……」

 

「本当、こっちのネトゲプレイヤーとは大違いだよねぇ……」

 

 嗚呼……フカヒレが本気で哀れに思えてきた。

 

「やめろ!そんな目で俺を見るなぁ~~っ!!

っていうか、雑談パートじゃ俺を弄らんと気が済まんのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、何時まで漫才やってんだよ?」

 

「あ、すまん……」

 

 拓己の突っ込みに漸く俺達は現実に引き戻された。

相手側は既にリングに上がって準備万端だ。

 

「フカヒレ、アイツの事分かるか?」

 

「ああ、アウトロードは基本的にALOでも現実と同じ顔付きしてるって噂だからな。

あれは……《閃撃のヴァル》だな。

ギルド……いや、ALO随一のスピードを持つ槍の使い手だ」

 

 閃撃か……つまり閃光の如く速いって訳か。

それにALO最速と来ればやっぱり奴の相手に相応しいのは……。

 

「よし!なら俺が……」

 

「いいや、ココは俺にやらせてもらうぜ!」

 

 リングに上がろうとした俺に、拓己がストップをかけ、そのまま跳躍してリングに上がってしまった。

 

「拓己テメェ!人が折角やる気出してるって時に……」

 

「悪いな、けど俺は一度どっかのスピード野郎にタッグマッチとはいえ黒星付けられてるんだ。

そいつに勝つための予行演習としちゃ打って付けの相手だぜ!」

 

 ……ったく、しょうがねぇな。(←自分も乙女さんにリベンジするために強くなったから言い返せない)

 

「張り切りすぎて連敗地獄に落ちないようにな!」

 

「へっ、当たり前よ!」

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 リングに上がった拓己を見据え、対戦相手の少年、神城烈弥(かみしろれつや)は背負った槍を手に取り、口元に笑みを浮かべて身構える。

 

「予行演習とは言ってくれますね。言っとくけど僕は練習気分で勝てる程甘くないですよ」

 

「すまないな、気に障ったなら謝る。

だが安心しろ、俺は本気でやらせてもらうつもりだ」

 

 烈弥の言葉に拓己も身構え、臨戦態勢を取る。

 

「他の奴らに習って名乗っておくぜ。俺の名は小野寺拓己。通り名は鳥人だ」

 

「神霆流師範代・神城烈弥。通り名は閃撃」

 

 名乗り終えた二人の表情が真剣なものに変わり、リングを中心に場の空気が張り詰めていく。

 

「始め!」

 

「行くぜっ!!」

 

 そして試合開始のゴングが鳴ると同時に拓己が真っ先に動いた。

 

「《ベルリンの赤い雨!!》」

 

「ッ!!」

 

 開始と同時に一気に間合いを詰めて、鋭い手刀による一撃が繰り出される。

烈弥はこれに素早く反応し、槍を盾にして手刀を防いでみせた。

 

「セァッ!」

 

「遅い!」

 

 烈弥はそこからカウンター気味に右脚を振るい、拓己目掛けてミドルキックを放つが、これは躱されてしまう。だが……

 

「《鬼雫!》」

 

「うぐっ!」

 

 続けざまに放たれた目にも留まらぬ速度の突きに、拓己は回避しようとするも反応が僅かに遅れ、槍は拓己の脇腹を掠める。

それによって生じた拓己の隙を烈弥は見逃さない。

 

「《ツイン・スラスト!》」

 

「グハァッ!」

 

 2連撃の突きが拓己の身体を穿つかのように打ち込まれ、拓己の身体は後方へと吹っ飛ばされた。

 

「グッ……くそっ!まだだぁっ!!」

 

 吹っ飛ばされながらも、拓己はすぐに体勢を立て直し、近くのロープを足場にして跳躍。

そのまま勢い良く烈弥目掛けてミサイルキックを繰り出す。

 

「クッ…!」

 

「掛かったな!オラァ!!」

 

 紙一重でキックを回避する烈弥を拓己はすれ違いざまに掴み、そのまま着地の勢いに乗せて抱え上げ、そのままコーナーポスト目掛けて投げ飛ばした。

 

「わわっ!?……クッ、この程度で!!」

 

 だがこれもまた不発に終わる。

投げ飛ばされる中、烈弥は槍をマットに突き立てて勢いを殺し、棒高跳びの要領で体勢を整え直しのだ。

 

(何て野郎だ……!回避や移動のスピードはレオより少し遅いが、刺突の速度はレオのパンチよりも速い!

レオが移動速度なら、コイツは攻撃速度って所か……。

チッ…今のままじゃ分が悪いな……)

 

 ココまで一貫して自分の技を受け流し、潰している烈弥の実力と自分との相性の悪さに拓己は戦慄を禁じえない。

投げ技を主力とする拓己にとって烈弥のリーチの長さ、そして掴む前に一撃を叩き込まれてしまう攻撃速度は非常に相性の悪い相手だった。

 

(仕方ない……久々に“アレ”を使うか)

 

 思考を切り替え、拓己は一度構えを解き、腰を少し下ろして別の構えを取った。

 

 

 

 

 

レオSIDE

 

「何だ?拓己の奴、急に構えを変えたぞ?」

 

 突然構えを変えた拓己に俺達は顔に疑問符を浮かべる。

今までの機動力を重視した構えとは打って変わり、こっちはやけにどっしりとした構えだ。

 

「アレは、相撲に似ているが……少し違うな」

 

「……モンゴル相撲だ」

 

 乙女さんの疑問に背後から優一が答える。

思ったより回復早かったな……。

 

「モンゴル相撲って、拓己の奴レスリング以外にそんなの覚えていたのか?」

 

「ああ、先のタッグマッチじゃ見せる機会が無かったが、拓己は昔モンゴル相撲の使い手から投げ技の基礎のレクチャーを受けていてな。

それとレスリング、そして俺の見様見真似の骨法を足し合わせて今のスタイルを作ったんだ。

言わばこれから見せるのは拓己のファイターとしての原点。防御と投げを徹底した大木の様な戦い方だぜ」

 

 期待の篭った目で拓己を見据え、優一は不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

(雰囲気が変わった?いや、それよりも……まるで隙が無い)

 

 戦闘スタイルが変化した拓己の姿と隙の無さに烈弥は直立不動のまま顔を顰める。

下手に動けば却って隙を作り、そこに付け込まれてしまう可能性があるからだ。

 

「どうした?来いよ……」

 

「挑発されるがままに突っ込むとでも?

生憎隙の無い相手に無策に仕掛ける趣味は無いんですよ」

 

「そりゃそうだな。……なら!」

 

 一瞬獰猛な笑みを見せた拓己は一気に気を高め、そして……

 

「っ!?」

 

「無理矢理来て貰うぜ!!」

 

 烈弥の足下にブラックホールを生成し、落とし穴のようにそこに落とした。

直後に自身の上空に烈弥をワープさせ、そこを迎え撃つ!

 

「くっ!」

 

 しかし、烈弥も持ち前の反応速度を活かして落下しながらも槍を振り下ろす。

 

「甘い!」

 

 だが、コレを拓己は受け流し、烈弥の身体をガッシリと掴んで拘束し、そのまま垂直落下式ブレーンバスターで烈弥の脳天をマットに叩き付けた!!

 

「うぐぁぁっ!」

 

「スピードは有っても直接叩き付けられる技は効果有りだな。そら、もう一発!」

 

 掴んだ手を緩ませず、続けざまに拓己は烈弥を抱え上げて宙高く跳び上がった。

 

「防御重視だからって俺の鳥人殺法は健在だぜ!」

 

「ぐっ!?」

 

「《ザ・タービュレンス!!》」

 

 そのまま拓己は烈弥の両腕を後ろ手に固め、そのまま錐揉み回転しながら一気に落下し、顔面からマットに叩き付けた!!

 

「ウグアァァァッ!!」

 

 凄まじい衝撃に烈弥は意識が一瞬飛びそうになってしまう感覚を覚える。

そして拓己は一気にフィニッシュへと移行する!!

 

「これで……最後だぁーーーー!!」

 

「ぐぐっ……!!」

 

 拓己は烈弥の両足を掴み、ジャイアントスイングでコーナーポストへと一気に投げ飛ばした!!

 

 

 

 

 

(こんな、所で……終わって…………)

 

 豪快に投げ飛ばされ、今まさにコーナーポストに叩き付けられようとする中、並のファイターなら諦めてしまう状況の中で、烈弥の心には諦めの文字は未だ浮かんでいなかった。

寧ろ有るとすれば、それは『怒り』だ。

序盤で攻勢に出ておきながら相手が戦闘スタイルを変えた途端一気に逆転され、今まさに敗北しようとしている。

そんな自分に対して沸々と静かに、しかし瞬く間に怒りの炎が燃え上がり、闘志が全身に満ちていく。

そして、コーナーに激突寸前となったその時それは爆発した。

 

「終わって…………タマルカァァーーーーーッ!!!!」

 

 叫びと共に怒気を爆発させ、烈弥は瞬く間に体勢を立て直して激突を防ぎ、拓己目掛けて飛び掛かった。

 

「何っ!?」

 

 突然の列屋の変化に驚き、拓己は驚きから動きを鈍らせる。

そこを烈弥は見逃さない!

 

「《ダンシング・スピア!!》」

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

 瞬く間に繰り出される5連撃の突きに、拓己はそれを諸に喰らってしまう。

だが、この程度で烈弥の反撃は終わらない!!

 

(こ、コイツ、何処にこんな底力を!?)

 

「ハァアアアアアーーーーーッ!!!!」

 

「うぐぁっ!」

 

 続けて繰り出される息つく間もない連続攻撃。

その疾風怒濤の攻めは先程までのパワー、そしてスピードを大きく上回り、拓己に反撃の隙を与えない!

 

「く、クソッ!」

 

 そんな中で拓己は反撃の糸口をつかもうと、ブラックホールを生成して烈弥との距離を取ろうとするが……。

 

「ッ!」

 

「な!?」

 

 だが驚愕の声を上げたのは拓己の方だった。

ブラックホールが生成されるその瞬間、烈弥は急速に方向転換し、瞬く間に背後に回り込んだのだ。

 

「《ディメンション・スタンピード》」

 

「ガハァァァァッ!!!!」

 

 背後から繰り出された6連撃の突きが拓己に穿つように打ち込まれる!

その強烈な連撃に、拓己は多大なダメージを受け、一瞬のうちに全身はボロボロとなり、呼吸は虫の息と化す。

 

「コレデ、オワリダ!」

 

 そしてそんな拓己を静かに見据え、烈弥は拓己の身体を上空に蹴り上げ、自身の持つ最大の技の構えを取る!!

 

 

 

 

 

「れ、レオ……乙女さん……」

 

 カニが縋るようにレオ達を見詰めるが二人は苦々しい表情を浮かべるばかりだった。

 

「だ、駄目だ……今度こそ、避けようが無い」

 

「あんな状態じゃ、空でも飛ばない限りは……」

 

 

 

 

「……だ…た……ぉ」

 

「え?」

 

 意気消沈する中、突然拓己が何かを呟き、レオ達、そして烈弥とその仲間である和人達は不意に拓己を見詰め直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛ばなきゃ避けられないなら……飛べばいいんだ!!」

 

 一際大きな声を上げ、拓己は自身の身体に残った気を一気に高め、そして……

 

「うおぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

「な……!?」

 

 その光景を見た審判が……。

 

「ま、まさか……!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 レオが、乙女が……。

 

「こ、こんな事が……」

 

「馬鹿な?」

 

 和人が、景一が……。

 

「ひ、人が…空を!?」

 

 そして列弥が驚愕の声を上げる。

 

 

 

拓己の背から生えたあるもの……翼に!!

 

 

 

「き、気で翼を!?」

 

「これが俺の切り札《エナジーウィング》だ!!」

 

 気で生み出された翼を広げ、拓己は空中で静止、烈弥の槍を回避してみせる!

 

「喰らえぇぇーーーーっ!!」

 

「ガッ……!!」

 

 そしてそのまま一気に突っ込み、驚きから冷め切れない烈弥の顔面……牽いては急所である人中に蹴りをぶち込んだ!!

ここに衝撃を受けてしまえば人間は少なくとも数秒の間まともに動けなくなってしまう。そして……

 

「今度こそ終わりだ!!」

 

 そして拓己は本当の意味でフィニッシュを決めるべく烈弥を抱え上げて翼を羽ばたかせ、一気に上昇。上下逆さまの状態で烈弥の両腕を交差させて掴み、直後に体勢を反転させ両脚を自分の足でフック。

その状態でリング目掛けて一気に落下する!!

 

「《フォーディメンションキル!!》」

 

 かつてタッグマッチトーナメント予選で竜命館拳法部の誇る精鋭、村田をマットに沈めた拓己の必殺技が、今再びマットに決まった!!

 

 

 

「が……は……ぁ…………」

 

 そして、その技を受けた烈弥は、僅かに呻き声を上げ、マットへと倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………勝者、小野寺拓己!!」

 

 烈弥の失神を確認し、審判が拓己の勝利を宣言する。

それを聞きながら、拓己はフラフラの身体に鞭打ちながら、静かに右腕を高く掲げたのだった。

 

 

 

 

○小野寺拓己―神城烈弥●

決まり手・フォーディメンションキル

 

 

 




では皆さん、良いお年を!!

来年もまたお会いしましょう!!


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モンキー・マジックVSジャパニーズ・マジック!!(前編)

久々に更新できました。


レオSIDE

 

 拓己が逆転勝利を決めてくれたお陰で戦績は1勝1敗1分の五分になり、次は副将戦。

向こう(神霆流)の残りメンバーは居合いの使い手・国本景一、そしてリーダー格の桐ヶ谷和人。

対するこちら側は俺と乙女さんか……。

さて、どっちが行くか?

 

「…………私は時代遅れなのか?

メールも満足に出来ない私は時代に取リ残サレテシマウノダロウカ?」

 

 ……乙女さんは大和の教育的指導(罵声込み)で真っ白になってる。

こりゃ復活まで後10分はかかるな。

仕方ない、副将は俺がやるか。

 

「こっちは俺が出る。そっちはどっちが出てくるんだ?」

 

 次の試合でチーム戦の勝敗は8割がた決まる。

実力的にはやはり副将は国本だろうが、この試合の重要性を考えれば桐ヶ谷が出る可能性も十分ありえる。

さて、どう出るか……。

 

「次の試合、一つ提案がある」

 

 俺の言葉に答えたのは桐ヶ谷だった。

 

「お互いここまでの戦いで1勝1敗1分。

次の勝負で引き分けにでもならなければ次で勝敗がほぼ決まってしまう。それでは興醒めもいい所だろ?

そこでだ、残ったそれぞれの副将と大将とでチームを組んでのタッグマッチを提案したい」

 

 タッグマッチか……悪くない!

 

「それじゃあ、次の試合までの繋ぎは俺がやってやる。その間に連携の打ち合わせでもしてろ」

 

 そういって口を挟んできたのは大和だ。

言うや否や大和はリングへ上がり、ある人物へ視線を向けた。

 

「来な、あかり!久々に闘り合おうぜ!」

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 大和から指名を受け、あかりはそれに無言で頷いて静かにリングに向かって歩き出す。

 

「ちょっ!?あ、あかり……大丈夫なのか?相手は“あの”大和先輩だぞ!」

 

「そ、そうだよ!あかりが強いのは解ってるけど、よりにもよって“あの”大和先輩とガチバトルなんて……」

 

 リングに上がろうとするあかりに、彼女の友人であり、大和との付き合いも長い結衣と京子は大慌てで止めに入る。

 

「……大丈夫。大和お兄ちゃんと戦うのは、これが初めてって訳じゃないから」

 

「「……え?」」

 

 あかりの答えに目を点にしてしまう京子と結衣。

大和という男の強さと恐ろしさが心底に根付いている二人にとっては、あかりの言葉があまりにも現実味を欠いたものに思えるのだ。

 

「ひ、酷い事とかされなかった?口では言えない事とか……」

 

「ううん全然。それにお兄ちゃんが本気で容赦しないのってさっきの二人組み(誠と泰助)みたいな下劣で卑劣な人だけだから。

それじゃ、行くね!」

 

 戸惑う二人に力強く返し、あかりはリングへと上がっていくのだった。

 

「そ、そんなにヤバイ人なんですか?あのドS男って……」

 

「「まぁ、一言で言えば……鬼(悪魔)だね」」

 

「…………」

 

 顔を青くしながら声をハモらせる京子と結衣。

それに対し、ちなつはただただ呆然とする事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 一方その頃、レオはというと……

 

「ほら、乙女さん。タッグ戦の打ち合わせするよ」

 

「……私ハ時代遅レナノカ?」

 

 乙女は未だに放心中だった。

年下から説教を受けた事で色々と精神的ダメージがでかいようだ。

 

(大和の野郎……やり過ぎだろ。後で一発殴っとくか?

それより、乙女さんだけど……仕方ない、『あの手』で行くか。人前でやるのはちょっと恥ずかしいけど……)

 

 やがてレオは乙女の顎を右手で持ち上げ、そして……

 

「んんっ!?」

 

『おぉーーっ!?』

 

 そのままレオは乙女の唇に口付けた。

その行為に周囲の者達から驚きの声が上がるのはある意味当然と言えた。

 

「れ、レオ……ひ、人前でこんな事……///」

 

「でも、目が覚めたでしょ?」

 

「こ、このバカが……でも、ありがとう……///」

 

 ある種の童話のヒロインの気分を味わい、乙女は赤面しながら恥らうのだった。

しかし、そんな二人を見る者の大半は、その甘ったるい光景に嫉妬の目を向けていた。

 

「ムガァーーーーッ!!」

 

「ギャアア!!俺に八つ当たりするなぁ~~~!!」

 

 そして、哀れにもフカヒレは暴走したカニの跳び蹴りの餌食となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「お前と戦うのも久しぶりだな。しかも今回は観客付きと来た」

 

 心配する友人達を尻目に意気揚々とリングに上がったあかりを大和は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「観客付き?……ハッ!まさか皆の前であかりを晒し者にすr…ウギャッ!?」

 

 大和の言葉に過敏に反応する外野(京子)だったが、大和が指で弾き飛ばした五円玉を額に喰らって強制的に黙らせられる。

 

「外野うるせぇぞ。それとも何か言いたいことがあるのか?ええ、京子ちゃんよぉ……」

 

「い、一生ありません……」

 

「な、なるほど……たしかに鬼で悪魔ですね」

 

「でしょ?」

 

 後輩にも容赦の無い大和の姿にちなつは改めて京子達が大和を畏怖しているかが理解できた。

 

「大和お兄ちゃん、京子ちゃん達に酢の自分を見せるきっかけを作ってくれた事は、凄く感謝してるよ。

でも、勝負は勝負……負ける気なんか無いし、本気で行くよ!」

 

「ケケッ……当たり前だ。寧ろ本気で来る事が感謝の証ってもんだ。

こっちもガチでやらせてもらうぜ」

 

 凶悪なまでに好戦的な笑みを隠す事無く浮かべ、大和は愛用の鉄爪を装着して臨戦態勢を取る。

 

「始m…『ハァッ!』え?」

 

 試合開始の合図を審判が言い終えるよりも先に動いたのはあかりだ。

瞬時に大和の背後に移動し、貫き手を繰り出した。

 

「っ……おいおい、ゴング前の奇襲とは随分な真似するじゃないか?」

 

 だが、貫き手が首元に打ち込まれる寸前、大和はあかりの手首を掴んでこれを阻止してみせた。

 

「影に生きる者は奇襲なんて序の口だよ。それくらい知ってるでしょ?お兄ちゃん……っ!」

 

 手首を捕まれたまま、あかりは口角を吊り上げて不気味に笑う。

直後に捕まれた右手を手首のスナップを利かせて振るう。

 

(っ!?)

 

 この時、大和はあかりの様子に直感的に危険を感じていた。

あかりが手を動かすと同時に素早く掴んでいた手を離して身体を仰け反らせたその刹那、大和の頬が僅かに裂けた。

 

「グッ!(この技は……!?)」

 

 鎌鼬の如く不可視の斬撃。

その恐ろしき技をいきなり見せられて面食らいながらも、大和は脳内で技の正体と対処を猛スピードで思考する。

 

(あの指の動き、そして傷を受けた時の状況……考えられるとすれば、それは!)

 

「それ、もう一発!」

 

 志向する大和を余所に、あかりは再び右手を振るい、再び不可視の斬撃を繰り出す。

それに対し、大和は何を思ったのか、服を脱いでそれを大きく振るった。

 

「……やっぱりな」

 

 今度は大和の身体に傷は付いていない。

一方で大和が振るった自身の服は何故か数箇所ほど鋭利なナイフで刺されたかのような傷が出来ていた。

 

「……凄いね、もう見抜いちゃうなんて」

 

「フン、空気を使った飛び道具か。なかなか面白い技を覚えたじゃねぇか」

 

 大和の観察眼と聡明さにあかりは思わず舌を巻く。

この技の正体は大和の言う通り『空気』である。

その名も《空気手裏剣》……空気を気で包み込んで圧縮し、手裏剣型に形を整えて相手目掛けて投げつけるという技だ。

この時、重要なのは圧縮した空気を気で包み込む際、その気を限りなく薄くする事だ。

そうする事で相手側には投げられた空気手裏剣を目視するのが非常に困難になり、この技は不可視の攻撃と化すのである。

 

「ならこれでどう!?《お団子バズーカ!!》」

 

 即座に判断を切り替え、あかりは先の戦闘で見せた鉄球の仕込まれた二つの付け毛を投げ付けた。

 

「おっと!?」

 

 一投目は凄まじいスピードで真っ直ぐに大和に迫る。

だが、これは回避され、空を切るのみに終わる。

しかし、あかりの本命は二投目の鉄球にあった。

 

「うおぉっ!?」

 

 一投目とは打って変わり、二投目は弧を描くようなきれいな曲線を描いてカーブする。

更に先程の一投目によって生じた大和の死角を上手く捉え、これを回避するのは至難の技だ。

 

「クソッ!」

 

 間一髪の所で、大和は身を翻してこれを迎撃し、鉄爪で鉄球を真っ二つに切り裂いて見せた。

だが、それを見詰めながらあかりは再び口元に笑みを浮かべた。

 

「それ、爆弾だよ」

 

「しまっ……!?」

 

 大和が声を上げる間も無く、切り裂かれた鉄球……もとい、爆弾が爆ぜ、大和の身体が爆風に飲まれた。

 

「す、スッゲー!!あかりの奴、目茶苦茶強ぇ!!あの大和先輩が手も足も……」

 

 予想だにしていない親友(あかり)の猛攻に、彼女を応援している京子は歓声を上げてあかりの完勝を確信した、が……

 

「《真空空転爪!!》」

 

 爆煙の中から勢い良く飛び出し、大和は高速回転しながら鉄爪であかりを強襲する。

 

「グッ!」

 

 大和の素早い攻撃にあかりは完全には回避しきれず、僅かに鉄爪が身体を掠めた。

そして、それによって出来た隙を大和は決して見逃さない。

 

「うぉらあっ!!」

 

 即座に技を切り替えて大和はバック宙の要領で跳び上がり、あかりの方に跨った。

そしてそのまま前方に倒れこむように身体を揺らし、その勢いと足の力であかりを投げ飛ばそうとする。

プロレス技で言う所の『フランケンシュタイナー』である。

 

「《順逆自在の術!》」

 

 だがあかりも黙ってやられはしない。

先の戦いで見せた超高速の返し技で体勢を入れ替え、逆に大和をフランケンシュタイナーに捉えた!

 

「これで…『墳っ!!』っ!?」

 

 そのまま大和を投げ飛ばそうとしたあかりの表情が驚愕に変わる。

勢いをつけて前に倒れこんだにも拘らず、大和の身体は微動だにしないのだ。

 

(な、何て踏ん張り……。まさか、不意を突かれてこれだけの力を出せる筈が……ハッ!?)

 

 そこまで考えてあかりは気付いた。

不意を突かれて出せない力ならば、逆に不意を突かれさえしなければ話は別である。

 

「そう来ると思ったぜ。この返し技は、お前の十八番だからなぁっ!!」

 

 そう、大和はこの展開を読んでいたのだ。

自身の投げ技をあかりは順逆自在の術で返そうとする事を……それを予測していれば対処のし様はある。

そして、大和はあかりを肩車の体勢で担いだまま、一気に跳び上がった。

 

「とっておきだ……しっかり味わいな!」

 

 そのまま空中で上下反転し、一気にマット目掛けて落下する!

 

「《九龍城落地(ガウロンセンドロップ)!!》」

 

「カハァッ!!」

 

 成す術無くマットに激突し、あかりは苦悶の声を上げる。

落下の勢いと大和の全体重をかけた強烈な一撃だ。これでKOされない者は少ないだろう。

 

「そ、そんな……あかりちゃんが」

 

「あ、あんなの喰らったら、いくらなんでも……」

 

 マットに倒れ伏すあかりの姿に、京子達の顔は青褪める。

ピクリとも動かない親友の無残な姿は彼女達に最悪の結末を予想させた。

 

「ひ、人殺s『いや、死んでねぇぞ』……へ?」

 

 絶望しているちなつに対し、大和は不意に言葉を挟んだ。

 

「つーか、いつまで狸寝入りしてんだ?さっさと起きろ、あかり」

 

「やっぱりばれてた?」

 

 その言葉に、KOを確信していた周囲の者達は驚愕する。

KO必至の一撃を受けたはずのあかりが何事も無かったように立ち上がったのだ。

 

「ケッ……大方、激突する前に首周りをさっきの手裏剣の要領で空気を集めて防護してたな」

 

「まぁね。でも、結構ギリギリだしダメージも少なくないよ」

 

 大和の予測の的確さを肯定しつつ、あかりは再び身構え、まだまだ戦闘可能という事をアピールする。

 

「今度はこっちのとっておきを見せる番だよ。お兄ちゃん!」

 

「ケッケッケッ!そう来なきゃ、戦(や)り甲斐がねぇぜ。……来な!あかり!!」

 

 二人の戦いは佳境へ突入する……。

 



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モンキー・マジックVSジャパニーズ・マジック!!(後編)

やっと更新出来た。どんだけ掛かってんだよ……。


NO SIDE

 

互いに小手調べを終えた大和とあかり。

先に大技を見せた大和に対抗し、今度はあかりが大技の構えを取る。

 

「大和兄ちゃん……大怪我しても、恨まないでよね?」

 

「生意気抜かすな。さっさと来いよ……」

 

「なら...... !」

 

大和の言葉に応じるようにあかりはバック宙で身を翻し、大和に向けて右腕を真っ直ぐ伸ばす。

 

「忍法・水鳥羽綸(すいちょううりん)の術! !」

 

伸ばした右腕、正確にはその袖口……更にはポケットや襟元から吹き出る無数の羽。

それらが渦を描くような軌道で大和へと飛んでいく。

 

「っ…… I ?」

 

気を纏って刃の如く鋭さを得た羽が大和の身体を襲い、掠めた羽が大和の肉体に無数の切傷を刻みつけていく。

 

「あ、あかり……こんなに強かったんだ」

 

「もう地味キャラって言えないかも……」

 

その光景に結衣とちなつは感嘆の声を漏らし、そして京子はというと。

 

「あかりいけぇーーっ!そのまま押し込めぇーーーっ! !」

 

「そのドS野郎に毎回弄られる俺達の積年の恨みを晴らしてくれ!斬り刻めぇーーーーっ!!」

 

フカヒレと共に興奮しながら応援し た。

 

「……甘いぜ! !」

 

だが、突如としてこれまで怯んでいた大和が動き出した。

羽の刃に傷つくのを気にせず、そのまま突っ込んできたのだ。

 

「っ! ?」

 

「この程度で俺が倒せると思ってるのか?あかりぃっ! !」

 

余裕の笑みさえ浮かべ、大和は鉤爪を振るいあかりに襲い掛かる。

 

「あぐっ!」

 

繰り出された鋭い一撃が右肩をかすめ、苦悶の声を上げるあかり。

更につ大和は容赦なくあかリの身体を抱え上げ、空中に放り投げる。

 

「華中飛猿爪!」

 

そして、投げ飛ばしたあかりを高速回転しながら一気に接近して追い討ちを喰らわせようとするが……。

 

「今さっきの、言葉の返事だけどさ……」

 

「ん?」

 

不意に口を開き、あかりは大和を見据えた。

そして右手に気を集中させたと同時に口角を吊り上げて笑う。

 

「あの程度で勝てるなんて思ってない……だから、こうするの!」

 

再びあかリの右袖口から噴き出す水鳥の羽。

ここまでは先の水鳥羽綸の術と同じ……ここであかりは新たな動きに打って出る。

右手全体に性質変化で炎と化した気を纏い 吹き荒れる羽に火を放つ!!

 

「奥義・業火羽綸(ごうかうりん)の術! !」

 

羽を導火線として炎が渦を巻き、 大和の身を包む。

更に、先の水鳥羽綸の術によって身体に張り付いた羽にも火が燃え移り、大和の全身は瞬燗に火達磨どしてしまった。

 

「ぐああああっ!!」

 

燃え盛る全身に悲鳴を上げる大和。

だがそれでもあかりは手を緩めず追撃の構えを取る。

大和の持つ智謀知略と精神力、そして狡猾さを知る彼女にとって、如何なる追撃も決してし過ぎると言う事は無い。

 

「くっ、クソ!」

 

「隙あり!!」

 

急いで服を剥ぎ取り上半身裸になって炎を振り払う大和。

その隙を突き、あかりは大和の背後を取って服に仕込んであったワイヤーを取り出し、大和の身体を拘束

そのまま再び上空へと大和共々跳び上がり、そして大和の身体をホールドしたまま錐揉み回転しながら落下する!

 

「赤座流忍体術・表蓮華(おもてれんげ) ! !」

 

凄まじい勢いのまま落下していく大和とあかり。

身を捩って必死に技から抜け出そうとする大和だが、自身を拘束する巧妙に力が入り

難く巻かれたワイヤーとあかりのパワーがそれをさせない! !

 

「グ…ぐっ……!」

 

「無駄だよ!これでトドメえっ! !」

 

大和の抵抗も虚しく、何とか左腕の拘束を解いたのと僅かに落下角度を変えた程度で終わり、やがて二人はリングへと落下し、大和はマットへと激突した。

 

 

 

 

 

「や、やったぁ!あかりの勝ちだ! !」

 

大技を決められた大和の姿に、あかりの親友である京子が歓声を上げ、結衣とちな

つも戦勝ムードに包まれ、表情(かお)に喜色を浮かべている。

 

だが……

 

「ま、まさか……」

 

あかりが浮かべているのは勝利の笑みではなく、愕然とした驚きの表情だった。

 

「ケ、ケケッ……残念だったなあかりぃ.……! !」

 

不敵に笑みを浮かべて声を上げたのはK.O.必至と思われた大和だった。

その左手にはリングロープが握られている。

大和は激突の直前、ロープを掴む事で落下の衝撃を和らげていたのだ。

 

「耐え切ってやったぜ……お前の、必殺技(フェイバリット)をな! !」

 

「うわっ!?」

 

拘束を完全に振り解き、その勢いに乗せてあかりを引き剥がす大和。

その身体にはダメージこそ少なくないものの、まだまだ戦闘には支障が無い程の気で満ちている。

 

「気を大量に消費した大技を以ってしても俺を倒すことは出来なかったようだな?」

 

「クッ……薙旋風! !」

 

大和の挑発に対し、あかりは苦虫を噛み潰しながらも飛び掛かり、回転蹴りを見舞おうとするが、逆に足を掴まれて阻止され、そのままマットに叩き付けられる。

 

「グハぁっ!」

 

「気を消耗しきったん状態じゃ、蹴りの威力も落ちるってもんだ。

良いか?本当の殺人技ってのは……ごういうの 言うんだ! !」

 

”カッ”と目を見開き、繰り出される右拳の連打。

試合前に澤永泰助を血祭りに上げた技の一つ『百裂拳』だ!

 

「ガッ……ハッ.…… !」

 

凄まじい連打に徐々にあかりの身体がマットから離れて浮かび上がる。

やがて、あかりの足とマットの距離が10cmに達しよ泌した時、大和はフィニッシュとばかりに強烈なアッパーカットを繰り出した!!

 

「セリャァーーーーーッ! !」

 

「グアァァツ!!」

 

強烈な一撃はあかりの身体を宙に打ち上げる。

そして息吐く間も無く大和はトドメの必殺技(フェイバリット)を繰り出す! !

 

「秘儀……万里の長城! !」

 

落下してくるあかりに対し、大和は自らもジャンプし、空中で器用にあかりの脚に自分

の脚を絡め、四の字固めの体勢に固め、そのままコーナーポストへとあかりを叩き付けた!!

 

「カハッ……」

 

搾り出すかのような声があかりの口から漏れる。

やがてあかりは大和が体勢を解化同時に力無くコーナーポストにもたれかかる様に倒れたのだった。

 

「そ、そこまで!勝者·直江大和! !」

 

◯直江大和-赤座あかり●

 

決まり手・万里の長城

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

「係員、担架を『やめろ』……え?」

 

係員を呼び出そ泌する審判の肩を掴んで制上し、大和はあかりへと近付いていく。

 

「コイツは、俺が運ぶ」

 

そして、侄帆たあかりを背負い、そのままリングから降りて医務室へと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと君……無茶はやめなさい!君だってすぐに怪我の治療を……」

 

「ケッ!関係ねえよ、そんな事……俺はコイツの兄貴分だからな」

 

「ま、待って!私達も着いて行くよ!」

 

理屈にならない理屈と眼光で係員を黙らせ、大和は歩く。

背にはあかりを背負い、周囲には自身とあかりの身を案じるごらく部の面々に囲まれながら、妹分達と共に……。

 

「う…う……大和、お兄ちゃん…………」

 

「あんまリ 喋るな、傷が開くぞ」

 

やがて目を醒ましたあかりが大和に背負われながら口を開く。

その表情(かお)は穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「やっぱり強いや……大和お兄ちゃんは、本当に……」

 

「バカ野郎、野外試合ばっかで今日初めてリングに上がったばっかりの新米闘士(ベーベーファイター)に負けてちゃ、格好つかないだろうが」

 

「そうだね……でも、次は負けないんだから…… !」

 

「ケッケッケ……上等だ!」

 

お互いに満足気に笑い合い、大和()あかリ()は医務室へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

レオSIDE

 

大和の奴、案外良い兄貴してんだな。

 

「ただのサディストではないという事だな。奴も……」

 

完全回復した乙女さんが大和達を見詰めながら感心したように言う。

まあ、だからこそ大和(アイツ)は人望が厚いんだよなあ。

 

「いよいよ次は俺達だね……」

 

「ああ、勝ちに行くぞ、レオ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

「さてと、行くとするか」

 

「ああ、久々に血が騒ぐ」

 

一方で和人と景も準備を終え、いよいよリングへ上がろうとする。

 

「あ、和人君、ちょっと待って!」

 

不意に和人を彼の恋人のアスナが呼び止める。

 

「ユイちゃん、周りは大丈夫?」

 

『はい、周囲の撮影機器はこっちを向いてないですから。大丈夫ですよママ』

 

ユイに確認を取り、明日奈は不意に和人へと近付き……。

 

「んっ……」

 

そして、そのまま唇を重ねた。

 

「……頑張って」

 

「ああ!」

 

 

 

 

そして景一と詩乃も……。

 

「相変わらずだな」

 

「うん。……あの、景一」

 

和人と明日奈を呆れがちに見る景ーに対し、詩乃は物欲しそ汝目で彼を見詰める。

 

「珍しん、な?人前だというのに」

 

「……伝染(うつ)っちゃったから。明日奈や、向こうのカップルの空気が」

 

伝染(うつ)るか……確かにな」

 

そして二人も他の(バカップル同様、戦前のキスを交わした。

 

 

 

 

 

余談だが周囲の一般人の皆様がこの光景に砂糖を吐いたのは言うまでも無い。

 



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決めろ!新合体技!!(前編)

長々と更新凍結してしまって申し訳ありません。
これから少しずつでも再開して意向と思います。

復活のリハビリも兼ねてるので今回は短めです。


《NO SIDE》

 

 俺達と神霆流との団体戦も中堅戦までが終了。そして、大和とあかり試合も終わり、残す試合は副将と大将同士によるタッグマッチのみとなった。

 

「よし、行くぞレオ!」

 

「応っ!獅子蝶々復活だぜ!」

 

 意気揚々とレオと乙女はリングへ上がり、和人と景一と相対する。

 

「試合の前に、いくつかルールの変更をさせていただきます。

まず、本来試合時間は20分までですが、この試合はタッグマッチと言う事で制限時間内に双方が納得行く結果が出ない可能性を考慮し、この試合に限り制限時間は通常の倍……40分とします。

更に、特別ルールとして、試合はキャプテンギブアップマッチ形式……両チームリーダーは腕にバンダナを巻いてもらい、そのバンダナを奪われた側の敗北とします。

よろしいですね?」

 

 審判の言葉に4人は頷き返し、それぞれにバンダナが手渡される。

 

「こっちは当然俺が着ける」

 

 最初に口を開いたのは神霆流側の和人だ。

相方である景一も異論は無いらしく、無言のまま頷く。

 

「こっちは……乙女さん、頼める?」

 

「良いのか?実力差はあまり無いとはいえ、私はお前に負け越しているんだが……」

 

「それとリーダー云々はあまり関係無いよ。乙女さん年上だし、リーダーシップだって俺よりあるだろ?」

 

「そう言う事なら、分かった。任せておけ!」

 

 そして、獅子蝶々側は乙女がリーダーを示すバンダナを腕に巻く。

これで両チーム共に準備は整った。

 

「よし!まずは俺が行くぜ!」

 

「早速だが、一番手は俺が貰うぞ、景一」

 

 獅子蝶々側からレオ、神霆流側からはリーダーである和人がそれぞれ一番手として前に出る。

 

「準備は良いですね?それでは……始め!!」

 

 闘士達と戦士達……その最後の試合のゴングが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

「「……………………」」

 

 試合開始直後、リングを中心とした周囲の空気は一変した。

リングの中央で向かい合いながら、二人は無言で睨み合っている。

ただそれだけの光景に、周囲の観客達は野次一つ飛ばす事無く固唾を呑んでそれを見守っている。

 

「ハァッ!!」

 

「ッ!!」

 

 静寂を打ち破ったのは両者が同時に繰り出した一撃……拳と剣(模擬刀)がぶつかり合い、直後にお互い弾き飛ばされるように後方へと飛ぶ。

 

「力は一先ず互角、かっ!」

 

 即座に体勢を立て直し、和人は瞬時に駆け出し、左手の剣を逆手に持ち、右手の剣に添えるように並べながらレオとの距離を詰める。

 

霧裂(きりさき)ッ!!」

 

「クッ……!!」

 

 そこから繰り出される回転斬りを跳躍して回避すると、和人のを頭上を飛び越えながら、和人の首に自分の脚を絡めた。

 

「そりゃあっ!!」

 

「うおぉっ……ぐあっ!?」

 

 そのまま着地と同時に脚の力で和人を投げ飛ばした!

プロレスで言う所の投げ技『ヘッドシザース』だ。

 

「まだまだぁっ!」

 

 さらにそこからダウンした和人目掛けてレオは追撃のニードロップを繰り出す。

 

「甘いッ!」

 

 だが、和人はそこからすぐに体勢を立て直し、両手に持つ剣を全方位に振るう。

 

「エンド・リボルバーッ!!」

 

「うおぉっ!?」

 

「行ったぞ、景一!」

 

 そこから放たれる斬撃と衝撃波にレオの身体は吹っ飛ばされる。

そして、吹き飛ばされたその先には景一の姿が……。

 

霾送(まいそう)!!」

 

「グオォォッ!?」

 

 景一の繰り出す居合いの一撃がレオに直撃した!

 

 






――――黒の連携に死角無し!!


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