緋弾のアリア~白銀と緋色~ (ほにゃー)
しおりを挟む

プロローグ

緋弾のアリア。

二作目の投稿です。

アリアがオリ主のヒロインの作品って少ないので、書いてみました。

では、どうぞ


武装探偵、通称:武偵

 

近年増加する凶悪犯罪に対抗するために新設された国家資格で、武偵免許を持つ者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察に準ずる活動が可能になる。

 

と言えばいい風に聞こえるが、実際は金さえもらえば、迷い猫・犬探しからテロリストの制圧もやる何でも屋だ。

 

そして、その武偵を育成する教育機関が武偵校。

 

学科は大きく分けて

 

強襲学部の強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)

諜報学部の諜報科(レザド)尋問科(ダギュラ)

通信学部の通信科(コネクト)情報科(インフォルマ)

探偵学部の探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)

兵站学部の車輌科(ロジ)装備科(アムド)

衛生学部の衛生科(メディカル)救護科(アンビュラス)

研究部の超能力捜査研究科、通称:SSR、特殊捜査研究科、通称:CVR

 

以上の14の学科があり、生徒はこの学科から一つ自分が専攻する学科を選ぶ。

 

各国の武偵校によっては独自の学科もあるが、基本はこの14の学科である。

 

そして、武偵にはランクがあり、ランクはE・D・C・B・A・Sで格付けされる。

 

入学試験の結果でランクが与えられ、その後は民間からの有償の依頼解決の実績や学科の各種中間・期末試験の成績によって変動する。

 

またランクにはRも存在し、そのランクは世界でも7人しかおらず、その実力は小国の軍隊を1人で壊滅出来る程と言われている。

 

そして、レインボーブリッジ南方に浮かぶ南北およそ2キロメートル・東西500メートルの人工浮島に設立された東京武偵高校。

 

ここにはある武偵が居た。

 

強襲科(アサルト)Sランク武偵。

 

特徴的なプラチナブロンドの髪に、驚異的な俊足。

 

あらゆる事件も瞬時に解決するその迅速な行動。

 

そして、二つ名の“迅雷”

 

故に彼はこう呼ばれる。

 

白銀(しろがね)の閃光”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましが鳴り響き、一人の少年が目を覚ます。

 

身体を起こし、欠伸を一つ。

 

ベッドから起き上がり、洗面所へと向かう。

 

顔を洗い、プラチナブロンドの髪の毛の寝癖を直し、寝間着代わりのジャージから制服に着替える。

 

冷蔵庫から冷凍チャーハンを出して、レンジで温めて、それを朝食にする。

 

「今日から二年か……一年って思った以上に早いな……」

 

そんなことを思いながら、彼、鏑木紅はチャーハンを胃袋に納めると同時に、玄関のチャイムが鳴る。

 

「もうそんな時間か」

 

そう呟きながら、玄関へと向かい、扉を開ける。

 

「あ、コウ君、おはよう」

 

「おはよう、白雪」

 

星伽白雪。

 

武偵高の生徒会長にして、この部屋の主の幼馴染である。

 

自分より身長の高い白雪を見上げ、コウは言う。

 

コウは身長が低く、その背は150cmあるかないかのギリギリの身長だ。

 

そのため、殆どの人間とは見上げる形で会話をする。

 

「キンジならまだ寝てるから上がりなよ」

 

「うん、お邪魔するね」

 

白雪が入るのを確認してから、コウは小さい歩幅で寝室へと向かう。

 

そして、二段ベッドで眠る親友を起こす。

 

「キンジ、白雪が来てる」

 

「ん~……もうそんな時間か」

 

遠山金次。

 

キンジとコウは入学した時からの親友で、キンジが

 

キンジはのっそりとした動きで、ベッドから起き上がり、服を着替えはじめる。

 

「あ、キンちゃん!おはよう!」

 

白雪はキンジの姿を見ると、花が咲いた様な笑顔を浮かべる。

 

「その呼び方、止めろって言ったろ」

 

「あっ……ごっ、ごめんね。でも私……キンちゃんのこと考えていたから、キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんって……ごっ、ごめんね。ごめんねキンちゃん、あっ」

 

慌てる白雪にキンジは溜息を吐き、文句を言う気を失う。

 

「てか、ここは男子寮だぞ。あまり軽々しく来るのはよくないぞ」

 

「で、でも、私昨日まで伊勢神宮に合宿で言ってたからキンちゃんのお世話できなかったし」

 

「そう言うのはいい」

 

「で、でも……」

 

「あーもう、分かったから!」

 

そう言ってキンジは白雪が持ってきた弁当を食べる。

 

重箱に入った一目で手間のかかる料理と分かるおかずを見て、キンジはお礼ぐらい言っておこうかと思う。

 

「えっと、いつも悪いな、白雪」

 

「えっ、あ、キンちゃんもありがとう……ありがとうございますっ!」

 

と何故か白雪が言い、三つ指をついて深々と頭を下げる。

 

その際、制服の胸元が少し弛んで、白雪の深い谷間が覗いており、黒いレースの下着が見える。

 

キンジは顔をそむけたが、ひたすら何かに耐えているような顔をする。

 

コウはと言うと、そんなことに気付かず、平然とコーヒー(砂糖とミルク入り)を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から二年生だね!はい、防弾制服と拳銃」

 

白雪はキンジに防弾制服の上着と、キンジの愛銃“ベレッタM92F”を差し出すと、キンジは憂鬱そうな表情を浮かべ、上着を羽織、銃をホルスターに納める。

 

「始業式位、帯銃しなくてもいいだろ」

 

「キンジ、それは校則違反だぞ」

 

コウは自身の装備、特注品のタクティカルナイフ二本を腰のケースに仕舞い、ショルダーホルスターにAMTハードボーラー二丁を装備する。

 

「コウ君の言う通りだよ。“学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける”。ちゃんと守らないと。それに、武偵殺しの模倣犯が出たりするかも出し……」

 

“武偵殺し”とは、名の通り武偵を狙った殺人犯で、武偵の車や自転車、バイクに爆弾を仕掛け、短機関銃(マシンガン)を装備したラジコンヘリで追い回し、最終的に海や崖に着き落とす。

 

そんな手口の奴だ。

 

犯人は捕まったが、模倣犯が出ないとも限らない。

 

「私、もしキンちゃんに何かあったら………」

 

そう言って白雪は目に涙を浮かべ、泣き出しそうになる。

 

「あー分かった!分かったから!」

 

キンジは机の引き出しから愛用のバタフライナイフを取り出し、手慣れた手付きで動作確認を、上着に仕舞う。

 

「ほら、これでいいだろ」

 

「キンちゃん、凄い!やっぱり先祖代々、正義の味方って感じだよ」

 

「……止めてくれよ、白雪。ガキじゃあるまいし」

 

キンジは吐き捨てる様にそう言う。

 

「白雪、お前は先に学校行っててくれ。俺はメールチェックしてから行く」

 

「あっ、ならお掃除とかお洗濯とか……」

 

「いいから」

 

「じゃあ、キンちゃん、後でメールくれると嬉しいです」

 

と言い、白雪は出ていった。

 

「だってさ、キンちゃん」

 

「お前までキンちゃん言うな」

 

キンジがメールチェックをしてる間、コウはスマホを弄り時間を潰していた。

 

時間がどのぐらい経ったか分からなくなった頃、キンジは突如声を上げた。

 

「しまった!コウ、バスに間に合わない!」

 

「はぁ!?」

 

コウがスマホで時間を確認すると、時刻は7:58。

 

完全に乗り遅れていた。

 

「チャリで行くぞ!コウ、急げ!」

 

「分かった!」

 

コウとキンジは駐輪場まで一気に降りると、キンジは自転車を出し、コウはその後ろに乗る。

 

「チャリの二人乗りとか、武偵じゃなけりゃ許されないな」

 

「ただし、緊急事態に限るだろ?」

 

「今は緊急事態だ!」

 

そう言って、コウを乗せ、キンジは自転車を漕ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、二人はバスに乗り遅れたことを後悔し、悔やんだ。

 

何故なら、二人は出会ってしまったからだ。

 

神崎・H・アリアと………………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1弾 出会い

キンジが運転する自転車の後ろに座りながら、コウは風を感じていた。

 

ぼーっとしながら風を身体に浮けていると、背後から何かが近づいて来る音に気付いた。

 

「キンジ、後ろから何かが近づいて来てる」

 

「何かって何だ?」

 

コウは後ろを向き、その何かを確認する。

 

そして見えたのは無人のセグウェイと、それに取り付けられたスピーカーにイスラエルIMI社傑作の短機関銃(サブマシンガン)UZI。

 

UZIの銃口が二人に向けられる。

 

「その チャリには 爆弾が 仕掛けて ありやがります」

 

スピーカーからネットで有名なボーカロイドで作った人工音声が流れる。

 

予想外の事にコウとキンジは思わず固まる。

 

「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると 爆破 するで やがります」

 

「キンジ」

 

「なんだ?」

 

「絶対、減速するなよ」

 

その瞬間、キンジはあらん限りの力で自転車を加速させる。

 

「助けを 求めたり ケータイを 使った場合も 爆発 するで やがります 」

 

「なんなんだよこれは!?」

 

「つまりあれだろ!武偵殺しの模倣犯だ!」

 

コウはそう叫ぶと、自転車のサドルを調べる。

 

そこには確かに爆弾があった。

 

「キンジ!どうやら本物だ!イタズラなんかじゃない!」

 

「マジかよ!」

 

キンジは叫びながらも自転車を漕ぐ。

 

「爆弾は!?」

 

「型まで分からないけど、爆弾はプラスチック爆弾!大きさから考えるに…………自転車どころかビルの解体にも使える量だ!」

 

「くそっ!なんでこうなるんだよ!コウ、なんとか出来ないのか!?Sランク武偵だろ!?」

 

「Sランク武偵が皆万能と思うな!確かにこの程度なら解体できるけど、自転車に乗りながら不安定な足場で解体なんか出来るか!それに、解体をしようとしたら爆発する可能性もある!てか、それ言ったらキンジだって元Sランク武偵だろ!なんか解決策考えろよ!」

 

「Sランクじゃない!()Sランクだ!それに、今の俺に何かを求めるな!」

 

「ああ、そうだったなコンチクショー!」

 

コウは叫びながら頭の中で解決策を考える。

 

「キンジ、取り敢えず今は、周りへの被害を出さない方向で考えよう。この時間なら、第二グラウンドが空いてるから、そこまで移動するんだ」

 

「わかった」

 

キンジは自転車を全力で漕ぎながら、自転車を第二グラウンドまで向ける。

 

そして、第二グラウンドに差し掛かったその時、二人は信じられない物を見た。

 

第二グラウンドの近くにある建物。

 

強襲科(アサルト)の女子寮。

 

その屋上に一人の少女がいるのを。

 

何をしてるのかと思ったら、少女は突如、屋上から飛び降りた。

 

その行動に、キンジはペダルを踏み外しそうになるが、なんとか持ちこたえる。

 

少女は事前に滑空準備をしていたパラグライダーを広げ、コウとキンジ目掛け降下してくる。

 

「バ、バカ!来るな!この自転車には爆弾が!」

 

キンジがそこまで言い掛けると、少女はパラグライダーを方向転換させ、両足の太腿のレッグホルスターから銀と黒の大型拳銃、コルト・ガバメントを抜く。

 

「そこのバカ共!頭下げなさい!」

 

そして、少女は銃を発砲する。

 

放たれた弾丸は全てセグウェイに当たり、セグウェイは大破し、そのまま横転した。

 

拳銃の平均交戦距離は7mとされている。

 

だが、少女のいる位置とセグウェイの距離はその倍以上離れていた。

 

おまけにパラグライダーと言う不安定場所から、二丁拳銃の水平撃ち。

 

そんな芸当がコウ以外に出来る奴がいたことにキンジは驚いた。

 

少女はガバメントを仕舞うと、そのまま二人に近づく。

 

「ま、待て!この自転車には爆弾が!」

 

「バカ!」

 

少女はキンジの頭を踏みつけ言う。

 

「武偵憲章1条!仲間を信じ、仲間を助けよ!行くわよ!」

 

そう言うと、少女は二人の頭上を飛び、パラグライダーのブレークコードにつま先を引っ掛け、逆さ吊りの姿勢になる。

 

「キンジ、ハンドルを離したらすぐに僕に捕まって。そして、何があっても離すな」

 

「ああ、くそ!昨日見たアニメ映画かよ!」

 

そして、二人と少女が近づいた瞬間、コウは少女の両手首を掴み、少女はコウの両手首を掴む。

 

キンジは素早くハンドルから手を離し、コウにしがみ付く。

 

乗り手のいなくなった自転車は徐々に減速をし、そして、大爆発を起こした。

 

爆風は三人を巻き込み、三人はそのままグラウンドの隅っこにある体育倉庫へと吹っ飛ばされる。

 

パラグライダーは途中で木に引っ掛かり、もぎ取られ、三人はそのまま体育倉庫の扉を破壊し、中に突っ込んだ。

 

「い、イテェー………!」

 

キンジは地面にうつ伏せになりながら言う。

 

体育倉庫に突っ込んだと同時に、キンジはコウの腰から手を離してしまい、そのまま体育倉庫の地面に叩き付けられた。

 

キンジは今でこそ、探偵科(インケスタ)と言う、比較的まともな学科に在籍しているか、一年の二学期までは、強襲科(アサルト)に在籍していた。

 

そこで鍛えられた肉体のお陰で、地面に叩き付けられても平気だった。

 

「そうだ!コウとあの子は!」

 

二人の事が気になり、キンジは両手に力を込め起き上がる。

 

そして、コウと少女が自分の真下にいることに気付いた。

 

それも至近距離で。

 

「可愛っ……!」

 

言い掛けた言葉をキンジは飲み込む。

 

(あ、危ない……思わずコウの事を可愛いと思っちまった………)

 

キンジは額の冷や汗を拭き、息を吐く。

 

(自分の親友を可愛いと思うとか……どうかしてるだろ。そうだ、これは不意打ち。不意打ちで思わずそう思っちまっただけだ………てか、この子とセットだと、凄い絵になるよな………)

 

「へ、変態!」

 

コウと少女のセットが思いの外いい感じだったと思ってると、突然アニメ声が響いた。

 

下を向くと、先程の少女が顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。

 

キンジは何故少女が変態と言ってるのかを考えた。

 

片方は身長150以下で小学生にも見えるコウと小学生(?)もしくは中学生(?)の少女を押し倒してるように見えるキンジ。

 

そして、顔が至近距離。

 

見方によってはキンジが二人を襲ってる様にも見える。

 

「いや、違っ!?誤解だ!」

 

キンジは誤解を解こうと、声を上げた。

 

その瞬間、突如UZIを搭載したセグウェイが七機現れ、銃声が響き渡る。

 

「キンジ!」

 

「伏せなさい!」

 

すると銃声で目を覚ましたコウとその少女がキンジを押し倒し、AMTとガバメントを抜く。

 

「な、なんなんだアレは!?」

 

「決まってるでしょ!武偵殺しの玩具よ!」

 

少女はそう叫び、ガバメントを抜いて、発砲をする

 

コウもAMTを発砲し応戦する。

 

そんな中、キンジは一人違う事を感じていた。

 

(コウって小さくて華奢な感じがするのに、意外と胸板しっかりしてるんだな……って、俺は何を考えてるんだ!てか、この子の胸が顔に………!だけど、この二人をセットで見ると、本当にいい絵になるし、二人の匂いが合わさってなんかいい感じに…………!)

 

コウと少女に押し倒されながらキンジはこんなことを思っていた。

 

そして、自分の中の血流が加速するような感覚を感じた。

 

コウと少女の応戦でセグウェイは一旦引き上げる。

 

「終わったのか?」

 

コウがマガジンを変えながら、少女に尋ねる。

 

「いいえ、一時的に追い払っただけよ。すぐにまた来るわ」

 

少女はコウの質問に答えながらマガジンを変える。

 

「そうか、なら上出来だ」

 

「へ?」

 

キンジは突然二人を自分の腕に乗せるようにして持ち上げ、立ち上がる。

 

「よく頑張ったね。ご褒美に、二人をお姫様と王子様にしてあげよう」

 

「なっ!?」

 

「………え?」

 

少女はキンジの突然の行動に混乱し、コウは何故?っと思った。

 

二人をマットレスの上に置き、二人の手から銃を取り、ホルスターに仕舞う。

 

「あ、アンタ!急になんなのよ!?急に態度が変わって………!」

 

「やれやれ、ここは死角だって言うのに。弾が勿体ない」

 

戻って来たセグウェイが体育倉庫の中に向け、UZIを発砲してるのを見て、キンジはそう言って、入口に向かう。

 

「危ない!撃たれるわよ!」

 

「二人が撃たれるよりマシさ」

 

「だから!なんでさっきから急にキャラ変えてんのよ!なにするつもり!?」

 

「二人を守る」

 

キンジはベレッタを抜いて笑う。

 

その光景にコウは、キンジに対して引いた顔をする。

 

銃声が収まり、キンジは七機のセグウェイの前に姿を現す。

 

キンジを認識したセグウェイは、キンジの頭部に向け発砲。

 

(狙いは頭部。正確だな………だが!俺には当たらない!)

 

キンジは弾丸を躱すと、ベレッタを向け、弾丸を七発発砲。

 

弾丸は寸分の狂いなく、UZIの銃口に吸い込まれるように飛び、UZIを破壊した。

 

ベレッタをホルスターに戻し、キンジは体育倉庫に戻る。

 

すると、少女は何故か跳び箱の中に隠れていた。

 

「べ、別に感謝なんかしないわよ!あんなの、私一人でどうにもなったし………ほ、ホントのホントなんだからね!そ、それに!アンタ、私とソイツの事、襲おうとしたでしょ!これは犯罪よ!」

 

少女は爆風の衝撃でホックの壊れたスカートのファスナーを締めようとする。

 

それを察しだキンジは、自分のズボンのベルトを取り、少女に渡す。

 

「それは悲しい誤解だ。俺は高校二年になるんだ。幾ら何でも、年の離れた中学生を襲う訳ないだろ。それに男にも興味は無い。コウは俺の友人だ。友人の、それも男に対してそんなことするわけないじゃないか」

 

「わ、私は!中学生じゃない!」

 

少女は地団駄を踏んで言う。

 

「キンジ、幾ら何でも失礼だろ」

 

見かねたコウがキンジに注意する。

 

「その子はインターンで入って来た小学生だよ。ごめんね、えっと………アリアちゃんか」

 

コウは少女の胸元にあるネームプレートを見て、名前を確認する。

 

「アリアちゃんは凄く優秀なんだね、将来が楽しみだ」

 

コウは腕を組んで頷く。

 

「………助けるんじゃなかった」

 

少女もといアリアは震えながら、ゆっくりとガバメントを抜く。

 

「私は………高二だ!」

 

そして、コウに向かって発砲する。

 

「うおっ!?」

 

コウは後ろに下がり、足元に撃たれた弾丸を回避する。

 

すかさずコウはアリアに接近し、銃を持ってる手を掴み、そのままトリガーを押す。

 

ガバメントから残りの弾が全部撃たれ、スライドがオープン状態になる。

 

すると、アリアは銃を捨てると、そのままコウを背負い投げで投げ飛ばす。

 

「徒手格闘……!バリツか!」

 

コウは一瞬でアリアの使った技がバリツだと分かり、地面に着地する。

 

「逃がさないわよ!私を侮辱したこと、後悔させて………あれ?」

 

アリアはマガジンを交換しようとスカートに手を入れるが、マガジンが見当たらず首を傾げる。

 

「探し物はこれかな?」

 

そう言うキンジの手の中には、アリアのガバメントのマガジンがあった。

 

「ああー!私のマガジン!」

 

「ほいっ」

 

キンジはそのままマガジンを遠くに投げ飛ばし、すぐに回収できないようにする。

 

「もう!許さない!ひざまずいて泣いて謝っても、許さない!」

 

アリアは銃をホルスターにしまうと今度は背中から刀を二本抜いた。

 

「強猥男とそこのチビは神妙に―――っわぉきゃっ!?」

 

するとアリアは謎の悲鳴を上げて、転ぶ。

 

地面にはアリアのガバメントの弾、45CPA弾が散らばっていた。

 

「ごめんよ、ちょっとばら撒かせてもらった」

 

キンジは45CPA弾を見せながら笑う。

 

「コウ、行こう」

 

「あ、うん」

 

呆気にとられたコウは、頷きキンジの後を追う。

 

「逃げるな!この卑怯者!」

 

アリアは刀を杖にし、立ち上がり叫ぶ。

 

「でっかい、風穴開けてやるんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、後に“(エネイブル)”と呼ばれる遠山キンジ。

 

後に“緋弾のアリア”として世界中の犯罪者を震え上がらせる鬼武偵、神崎・H・アリア。

 

そして、“白銀(しろがね)の閃光”と呼ばれる最速にして最強の武偵、鏑木紅。

 

硝煙のニオイが漂う、最低で最悪の出会いだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2弾 挨拶に銃声を

「キンジ、大丈夫か?」

 

教務科(マスターズ)に今朝の事件を説明した後、コウはキンジに尋ねた。

 

キンジの性格が突如変わったアレはヒステリア・サヴァン・シンドロームと言い、性的興奮によって、βエンドルフィンが一定以上分泌されると神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させ、その結果、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する。

 

遠山家の人間が持つ特異体質だ

 

キンジの家系、遠山家は代々この力を使い、正義の味方を生業として来た一族だ。

 

時代と共に、その仕事は違って生き、今は、武偵としてその力を使っている。

 

だが、キンジはこの力を嫌っており、今ではかつて夢見た正義の味方になることも嫌っている。

 

だからこそ、コウはキンジに声を掛けた。

 

「ああ、まぁ大丈夫だ」

 

「でも、キンジがあんなチビで興奮するとは思わなかったよ。もしかして、そう言う趣味でもあるのか?」

 

「んなわけあるか。アレは不意打ちだったからだ」

 

そう言って誤魔化すキンジだったが、本当の事は言えなかった。

 

コウとアリアが自分の上にのしかかり、アリアのクチナシの様な匂いと柔らかい体、コウの意外と逞しい体と中世的な顔だち、そして、周りから見れば可愛い女の子と男の子。

 

そんな要素があり、キンジは性的興奮に陥り、ヒステリアモードになったなどと、言えば、コウとの友人関係がどうなるかは目に見えていた。

 

だからこそ、キンジは本当の事は言わずにいた。

 

「そんなことより、早く教室に行くぞ。くそっ、事件に巻き込まれて遅れたなんて言い笑い者だ」

 

「大丈夫だよ。これぐらい、武偵じゃ日常茶飯事だし」

 

そんな会話をしながら、二人は教室に向かう。

 

「よぉ、キンジ!コウ!今年も、車輌科(ロジ)の武藤剛気様が同じクラスだぜ!」

 

教室に入ると二メートルほどの身長がある男が二人に声を掛ける。

 

武藤剛気。

 

車輌科のAランク武偵で、乗り物と名のつくモノならなんでも乗りこなすことが出来る武偵で、コウとキンジの友人でもある。

 

キンジは武藤を無視し、自分の机に座ってうつ伏せになる。

 

「どうしたキンジ、星伽さんと一緒のクラスじゃなくて悲しいのか?俺は悲しいぜ」

 

「………武藤、今の俺に女の話をするな」

 

そう言ってキンジは何も話さなくなった。

 

「武藤、僕の席は何処?」

 

「コウは俺の左隣だぜ」

 

「ありがと」

 

お礼を言って、席に座る。

 

席はコウ、武藤、キンジと言う順になっている。

 

「やぁ、コウ君」

 

するとコウの左隣の生徒、不知火亮が声を掛ける。

 

不知火亮。

 

コウと同じ、強襲科(アサルト)のAランク武偵で、イケメンかつ礼儀正しく真面目な性格の常識人で、武偵では珍しい人格者。

 

格闘・ナイフ・拳銃どれも信用できるバランスの良いスキルの持ち主で、対テロ活動にも優れている為、コウもよくクエストなどでは手伝ってもらったりしてる。

 

「不知火か。おはよう」

 

「うん、おはよう。なんか大変だったみたいだね」

 

「まったくだよ。キンジの家に泊まりに行ったら、このザマだよ」

 

「何があったか知らないけど、お疲れさま」

 

不知火に労われ、コウは取り敢えずキンジ同様机にうつ伏せになって倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、私、あの二人の間が良い」

 

突如そんな声と共に、クラス中が騒がしくなる。

 

何事かと思い、コウは顔を上げると、そこには今朝あった少女、神崎・H・アリアがそこにいた。

 

アリアはコウとキンジを指差し、そう言った。

 

コウとキンジは何故こうなってのかを考え、口を開けてると、武藤が騒ぎ出す。

 

「よかったな、コウ、キンジ!よく分からんが、お前らに春が来たぞ!先生!俺、神崎さんと席変わります!」

 

「あらあら、最近の子は積極的ね。じゃ、武藤君、席を変わってあげて」

 

担任の高天原ゆとりはおっとり笑いながらそう言う。

 

アリアはすたすたと歩き、キンジにベルトを投げ渡す。

 

「キンジ、ベルト返す」

 

そして、今度はコウの方を振り向く。

 

「コウ、アンタにはこっち」

 

コウの机の上に、コウのナイフを置く。

 

コウは腰のナイフホルダーに手を伸ばし確認すると、そこにあるはずのナイフが無いのに気付いた。

 

コウが投げ飛ばされた時、ナイフを落としたていたらしい。

 

「どーも」

 

コウはそう言い、ナイフを仕舞う。

 

「理子分かった! 分かっちゃった! これフラグばっきばっきに立ってるよ」

 

その時、一人の女生徒が、がたんと席を立つ。

 

「キー君ベルトしてない!そして、ベルトをツインテールさんが持ってた!これ謎でしょ!謎でしょ!でも理子には推理で来た!できちゃった!あれ?コーちゃんのナイフは何かな?あ、そっか!分かっちゃった!」

 

大体アリアと同じくらいの小柄の少女の名前は、峰理子。

 

探偵科(インケスタ)Aランクの武偵で、おバカキャラで有名。

 

制服もゴスロリ風に改造している

 

キー君やコーちゃんは理子が命名でもある。

 

「キー君は彼女の前でベルトを取る何らかの行為をした!そして、彼女の部屋にベルトを忘れてきた。でも、コーちゃんがそこにを乱入!そして、彼女と!3P!つまり、3人は彼女を挟んでドロドロとした恋愛の真っ最中なんだよ」

 

「き、キンジとコウがこんな可愛い子といつのまに!」「キンジは影の薄い奴だと思ってたのに」「3Pなんてふけつだわ!」「コウ君が汚された!」「キンジ×コウだと信じてたのに!」「でも、ロリショタもいいかも!」

 

武偵高では、専門学科のお陰で、多くの知り合いがいたり、学科同士の繋がりで仲が良い者もいる。

 

そのため、まるで事前に打ち合わせしたかのように息がぴったりだったりする。

 

「たっく……!」

 

キンジが周りのアホさ加減に呆れて溜息を吐いてると三発の銃声が鳴り響く。

 

キンジが銃声の方を見ると、ガバメントを抜いたアリアと、AMTを抜いたコウが発砲していた。

 

二人は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「れ、恋愛だなんてくったらない!」

 

「恋だの愛だの、そんなことしてる暇があったら特訓でもしろ!」

 

武偵高の校則では射撃レーン以外での発砲は必要以上にしないとなっている。

 

つまり、決してしてはいけない訳ではない。

 

将来的に武偵として銃撃戦が日常茶飯事になる生徒達の為に、常日頃から発砲音に慣れさせるためでもある。

 

しかし――――――――

 

「全員憶えておきなさい!」

 

「次、そんな馬鹿げた事言う奴は!」

 

「「風穴開けるからな(わよ)!」」

 

新学期の自己紹介で発砲をしたのは後にも先にも、コウとアリアが初めてである。

 

(しっかし、息がぴったりだな。二人とも………)

 

そんな事を思いながら、キンジは再び溜息を吐く。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3弾 奴隷宣言

休み時間になると、キンジはコウを脇に抱え、教室を飛び出した。

 

そして、その後をクラスの男子は全速力で追い掛けた。

 

理由はもちろんアリアとの関係だった。

 

そういう話題が苦手で嫌いなキンジはとにかく逃げた。

 

逃げた先は屋上。

 

ドアの陰に隠れ、キンジはコウを下ろすと一息つく。

 

「ふぅ、なんなんだアイツは?」

 

「さぁ、なんだろうね」

 

「見た感じ強襲科(アサルト)だろ。コウ、お前は知らないのか?」

 

「僕、三学期からイギリスの方で長期間の出張に行ってたから知らないよ。帰って来たのだって一週間前だし。その頃には春休みに入ってたから強襲科(アサルト)にも顔出してないからね。でも、不知火から転校生の話は聞いてた」

 

そう言ってコウはスマホを操作する。

 

「凄い女の子の転校生が来たってね。それが、あの子だなんて知らなかったけど」

 

「不安定なパラグライダーからの二丁拳銃の水平撃ち。しかも、コルト・ガバメントなんて反動の強い銃を片手で撃てる。おまけに平均交戦距離の倍近い距離からの精密射撃。間違いなくSランクだ」

 

「ピンク髪のツインテールでチビで二丁拳銃と二刀使いで、チビで検索すれば誰かすぐにわかるだろうね」

 

(今、チビって二回言ったな……………)

 

その時、屋上の扉が開き、コウとキンジは扉から死角になってる場所へと移動する。

 

「あれは……うちのクラスの強襲科(アサルト)の女子か」

 

キンジは強襲科(アサルト)の女子特有の短いスカートを見て溜息を吐いて言う。

 

「ねぇねぇ、周知メール見た?」

 

「見た見た。武偵殺しの模倣犯だってね」

 

「てかさ、この被害に遭った武偵ってコウとキンジじゃない?」

 

(流石は武偵高。噂が広まるのが早いな)

 

キンジは変に納得しながらそっぽを向く。

 

「二人も不憫だよね。新学期の初日に模倣犯の被害に遭って、おまけにアリアに目を付けられるとか」

 

「そう言えば、さっき情報科(インフォルマ)で二人の資料漁ってたの見たよ」

 

「私も二人の事聞かれた。特にコウの事。キンジの方は昔強襲科(アサルト)で凄かったって言ったけど」

 

「じゃあ、コウの事は?」

 

「コウの事は二つ名持ち(セカンドホルダー)で、武偵高(うち)で最強の武偵って言っといた」

 

(言うほど最強でもないんだけど………)

 

コウはそう思ったが、実際の所、東京武偵高において、コウと互角に渡り合える存在はいない。

 

唯一可能とすれば、ヒステリアモードになったキンジか、まだ正確な実力の別っていないアリアだろ思われる。

 

「キンジとか女嫌いなのによりによってアリアとか最悪だよね。アリアってさ、ヨーロッパ育ちだかなんだか知らないけど空気読めてないよねー」

 

「でもでも、アリアってなにげに男子の間では人気あるみたいだよ」

 

「あー、そうそう。3学期に転校してきてすぐファンクラブできたんだって。写真部が盗撮した体育の写真、万単位で売れるヤツもあるって聞くし」

 

「特に水泳とか新体操の奴は高値で売れてるらしいよ」

 

そんなどうでもいい情報を聞きながら、キンジは思った。

 

(どうやら、神崎は武偵高の中でも、一際浮いてる存在なんだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になると、キンジは再びコウを脇に抱えると、窓から教室を飛び出た。

 

窓枠にベルトのワイヤーを引っ掛け、地面に降りると走り出す。

 

全員から逃げ遂せると、キンジはコウを下ろして一息つく。

 

「今日は散々な一日だ」

 

「全く持って同意するよ」

 

「俺は部屋に帰るが、コウはどうする?今日も泊まって行くか?」

 

「いや、今日は自分の部屋に帰る。また明日」

 

コウはキンジにそう言い、強襲科(アサルト)男子寮へと向かう。

 

基本強襲科(アサルト)の男子寮は二人~三人の部屋となっているが、コウは三人部屋を一人で使っている。

 

何故かというと、強襲科(アサルト)の男子は何かと喧嘩っ早い連中が多く、ことあるごとに銃を抜いて喧嘩をする。

 

テレビのチャンネル争いから、寝床決め、入浴の順番等々、日常に置いて銃声が止む事はあまりない。

 

一年の時、チャンネル争い中に、ある生徒の撃った弾がコウの脇腹に直撃した。

 

その結果、同居人だった二人は教師に泣きついて、部屋を変えてもらった。

 

それ以降、コウの同居人になる者は現れず、コウは三人部屋を一人で使っている。

 

何があったのかはコウとその二人しか知らないが、誰一人として何があったのかを語る者はいなかった。

 

「久々の我が家だ」

 

コウはそう言うと、鞄と上着を放り投げると、AMTとナイフを取り出す。

 

AMTを分解(バラ)し、簡易メンテをし、ナイフを砥石で砥ぐ。

 

日課となってる作業を淡々とこなしていく。

 

最後にマガジンに45ACP弾を込め、銃に装填し、ホルスターに入れるとコウは今朝の事件の事を考えた。

 

「武偵殺しの模倣犯はなんで僕とキンジを狙ったんだ?いや、もしかしたらキンジだけを狙ったのか?爆弾もキンジの自転車に仕掛けられてたモノだしな………でも、だからと言って僕が狙われてないって訳でもないし」

 

その時、イインターホンが鳴り、コウは推理を中断し玄関に向かう。

 

「誰だ?」

 

扉ののぞき窓から外を見ると、そこにはアリアがいた。

 

「な、なんでアイツが!?」

 

コウは、アリアの急な来訪に驚き、後ろに下がる。

 

「………居留守使おう」

 

アリアと関わると碌なことが起きないと察したコウは、リビングへと戻る。

 

それでもインターホンは鳴り続ける。

 

「うるさいな……」

 

そう呟きながら、スマホを弄っていると今度は銃声が聞こえた。

 

「な、なんだ!?」

 

慌てて玄関に戻り、外の様子を見ると、アリアはガバメントを抜き、防弾製の扉に向かって発砲していた。

 

「何してんだ!?このチビ女!」

 

「誰がチビ女よ!てか、居留守使ってんじゃないわよ!こっちは急いでんのよ!」

 

「だからって銃で部屋の扉を撃つな!」

 

「だったら、さっさと開けなさいよ!」

 

そう言うとアリアは、部屋の中へと入って来る。

 

「あ!勝手に入るな!」

 

「その荷物!中に入れときなさい!」

 

アリアはそう言うと、居間の方へと向かい玄関にはコウとアリアの荷物だけが残った。

 

「なんで僕が………」

 

コウは文句を言いながら、荷物を部屋の中に入れると居間に向かう。

 

アリアは部屋の様子を見て、コウに尋ねる。

 

「コウ、他に人は?」

 

「皆、僕との同居は嫌だからって僕だけだよ。それで、神崎は一体何の用?用件言ってさっさと帰れ」

 

「それはアンタの返答次第よ。それと、あたしの事はアリアでいいわ」

 

そう言ってアリアはコウの方を振り向く。

 

「コウ!アンタ、あたしの奴隷になりなさい!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4弾 子供の喧嘩

奴隷。

 

アリアの口から発せられたのはこの言葉だった。

 

「お前……頭の中まで小学生かよ」

 

そんなアリアにコウはそう言った。

 

「だ、誰の頭が小学生よ!」

 

「常識でモノ言え!今のご時世奴隷になれとかふざけんな!小学生でもそんなこといわねぇよ!」

 

「アンタ本当に失礼な奴よね!人の事小学生呼ばわりして!アンタだって、十分チビじゃない!」

 

「チビじゃねぇし!これからでっかくなるからいいんだよ!」

 

背の低い男女が口喧嘩をしている。

 

内容が内容の所為か、その光景はただの小学生同士の喧嘩でしかなかった。

 

そんな二人の喧嘩を終わらせたのは、二人の空腹音だった。

 

二人が沈黙する。

 

結局、空腹音の所為で喧嘩する気が無くなった二人は、晩飯を食べることになり、近くのコンビニまで来ていた。

 

コウはカップ麺とおにぎりを数個手に取るとレジで会計を済ませる。

 

すると、隣のレジではアリアがももまんと言うももの形をしたあんまんを大量に購入していた。

 

「お前………そんなもんばっか食ってるから小さいんじゃねぇの?」

 

「あんたこそ、カップ麺なんて栄養の無いモノ食べてるから小さいんじゃない?」

 

「はぁ?カップ麺舐めるなよ。お湯淹れたら三分で作れる即席料理。時間と勝負の武偵にはぴったりだろ。おまけにうまい」

 

「カップ麺なんてお湯を一々沸かさないといけない分時間がかかるじゃない。その点ももまんはすぐに食べれるし片手でも食べられる優秀な料理だわ」

 

互いに睨み合いながら会計をすませる。

 

なお、コンビニを出るまでの間、二人はずっと口喧嘩をしていた。

 

二人の年齢を知らないコンビニのバイト店員からしてみれば、中の良い小学生同市にしか見えなかった。

 

「てか、普通に考えて奴隷になれってなんだよ?お前は、僕に何を望んでるんだ?」

 

同じ食卓で晩飯を食べていると、コウはカップ麺をすすりながら、おにぎりを食べ、アリアに尋ねる。

 

「決まってるでしょ。強襲科(アサルト)であたしとパーティー組みなさい。つまり、わたしのチームに入りなさい」

 

アリアはももまんを食べながら言う。

 

「なら、お断りだ。僕は誰とも組まないし、この先組むつもりもない。一時的なパーティーを組んでも、チームに入るつもりはない」

 

「いいから入りなさい。アンタが入らないとキンジもパーティーに入れれないんだから」

 

「はぁ?どう言う意味だ?」

 

アリア曰く、コウの所に来る前にアリアはキンジの所にも訪れていた。

 

そして、同じように奴隷になれっと言ったが、もちろんキンジは断った。

 

するとアリアがコウもパーティーに入れるつもりなのを知ったキンジは、コウのある事情を知っていたため、コウがパーティーに入るなら考えてやると条件を付けた。

 

アリアはそれを受け入れ、こうしてコウの所に来た。

 

「キンジの奴………人を売りやがったな………!」

 

キンジに対して怒りが湧いてると、アリアはソファーにどかっと座る。

 

「ともかく!アンタが首を縦に振るまで、ここに居座るから」

 

「はぁ!?ふざけんな!今すぐ出ていけ!」

 

「絶対嫌!長期戦は想定済みよ!」

 

そう言ってアリアはトランクを指差す。

 

トランクの中身はお泊りセットだ。

 

「出てけ!」

 

するとアリアはコウに向かってそう言う。

 

「はぁ!?ここは僕の部屋だぞ!出て行くならお前だ!」

 

「分からず屋にはお仕置きよ!暫く外で頭冷やしてきなさい!」

 

「どっちが分からず屋だ!出て行かないならこっちにも考えがあるぞ!」

 

「なによ!」

 

「力づくだ!」

 

「上等よ!」

 

二人は銃を抜き、発砲する。

 

Sランクの武偵同士による喧嘩は最早喧嘩と言うより、デスマッチだった。

 

どっちらかが倒れるまで銃を撃ちあい、拳や蹴りの応酬。

 

そして最後は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こにょ~わからじゅや~!」

 

「ふぉっちふぉそ~!」

 

互いの頬を引っ張り合い、小学生並の喧嘩にまで落ちていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5弾 一緒に任務

「起きなさい!」

 

「あぶなっ!」

 

翌朝、コウの眠りを妨げたのはアリアの蹴りだった。

 

コウは咄嗟に攻撃の気配を感じ取り、両手をクロスさせ、アリアの一撃を防御した。

 

「なんのつもりだ!」

 

「朝ご飯!出しなさいよ!」

 

「んなもんあるか!朝はご自由に!」

 

「お腹空くじゃない!」

 

「すかせとけ!バカ!」

 

「バカですって!」

 

コウはアリアと格闘戦を繰り広げながら制服を着替え、装備を整える。

 

「お腹減った!減った減った減った減った減った減った減った減った減った減った!!」

 

「あ~もう!うるさい!これでも食っとけ!」

 

コウは鞄に手を突っ込み、携帯食として持ち歩いてるスティック状の健康食品をアリアの口に突っ込む。

 

アリアは口に突っ込まれた健康食品をもそもそと食べながら大人しくなる。

 

「アリア、お前は先に出ろ。僕は後から出る」

 

「なんでよ?」

 

「ここは男子寮だぞ。女子のお前と一緒に出たら変に思われるだろ」

 

「そう言って逃げる気ね!」

 

「同じクラスの隣の席で、おまけに同じ学科だろ!どう逃げろって言うんだよ!」

 

「やだ!コウはあたしの奴隷だ!」

 

そう言ってアリアはコウの腕を掴む。

 

「は・な・せ!」

 

「い・や・だ!」

 

コウはアリアの腕を振りほどこうと、アリアはコウの腕を離さまいと、玄関で再び騒ぎ出す。

 

結局コウはバスをまたしても逃し、自転車で登校した。

 

なお、その際にアリアが後ろに乗せろと言って来て、断ったが、このままだと遅刻しかねないと判断し、しぶしぶ後ろに乗せて登校した。

 

その光景を見て、バスで登校中だった武偵校生たちは何故かほっこりしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上、アリアに付き纏われるのが嫌なコウはなんとかしてアリアから離れようと考える。

 

武偵高は一時間目から四時間目までは普通の一般校ど同様に普通科目の授業があり、五時間目から専門科目に別れて実習を行う。

 

本来ならコウも五時間目は強襲科(アサルト)の実習を受けるのだが、武偵校生は一定の訓練期間の後、民間から有償で依頼(クエスト)を受けることが出来る。

 

コウはそれを利用してアリアから一時的に離れ、なんとかしてアリアへの対抗策を考えることにした。

 

最初はキンジにも手伝わせようとしたが、キンジはキンジで既に依頼(クエスト)を受けていたので、コウは一人で依頼(クエスト)を受けることにした。

 

「コーウ」

 

コウが探偵科(インケスタ)棟から出て見たのはアリアだった。

 

コウは口元を引き攣らせながらアリアに尋ねる。

 

「な……なんでここにいるんだ?」

 

「コウがここにいるから」

 

強襲科(アサルト)の授業、サボって良いのかよ?」

 

「あたしはもう卒業に必要な単位は揃ってるもんね」

 

出鼻をくじかれたコウは膝から崩れ落ちた。

 

「それで、アンタなんの依頼(クエスト)受けたのよ?」

 

「お前には関係ないだろ」

 

コウはそう言うと、アリアを無視して校門を出る。

 

「いいから教えなさいよ。風穴開けるわよ?」

 

「……たっく………麻薬取引現場の取り押さえだよ。0.5単位で報酬十万円。」

 

「ふーん……ちょうどいいし、アンタの武偵活動見せなさい」

 

「断る」

 

「風穴開けるわよ?」

 

「上等だよ。やれるもんならやってみろ」

 

互いに睨み合い、喧嘩腰になりながらも結局、アリアも同行することになり、二人は取引現場に向かった。

 

コウとアリアの二人は取引現場とされる、倉庫に着き身を潜めていた。

 

互いに一言も離さず、取引の時間を待っていると、その時間が訪れた。

 

スーツにアタッシュケースを持った男が同じスーツを着た二人の男と共に現れ、そして、今度は外人が三人、アタッシュケースを手に現れた。

 

男たちは一言、二言会話をすると、互いに持っていたアタッシュケースを交換した。

 

そして、中身を確認する。

 

片方のアタッシュケースには札束がぎっしりと入っており、もう一つのアタッシュケースには白い粉が詰められた袋がぎっしりとあった。

 

「間違いなくクロね」

 

「ああ。アリア、ここまで来たなら最後まで付き合ってもらうぞ。僕に合わせろ」

 

「何言ってるのよ?アンタがあたしに合わせなさい」

 

「はっ……!寝言は寝てから言え………行くぞ!」

 

そして、コウとアリアはAMTとガバメントを手に、男たちの前に現れる。

 

「そこまでだ!」

 

「武偵よ!大人しくしなさい!」

 

男たちは一瞬驚くが、コウとアリアの姿を見ると、急に笑い出した。

 

「武偵と聞いてみりゃ、とんだ子供じゃねぇか!」

 

「こんなチビの武偵がいるとは驚きだぜ!」

 

「子供は家に帰っておねんねしてな」

 

男どもは二人を相手にする価値も無いと判断し、笑い続ける。

 

すると、二人の銃を持つ手の力が強くなる。

 

「だ、誰が………!」

 

「あん?」

 

「誰が子供よ!私は高ニだ!」

 

アリアは大声を上げ、男どもの足元に発砲する。

 

「うをっ!?」

 

「このガキ!」

 

一人の男が銃を抜き、アリアに向かって発砲しようとしたその瞬間、一発の銃声が響く。

 

男の銃は弾き飛ばされ、銃がカラカラと音を立てて、滑る様に転がる。

 

銃を撃ったのはコウだった。

 

「誰が………ミジンコマイクロウルトラドチビだ!」

 

もう一丁のAMTを抜き、相手の武装を全て弾き飛ばすと、今度はナイフを抜く。

 

そして、眼にも止まらぬ早さで次々と男たちの足や手を斬り、戦闘不能にする。

 

「す……凄い……」

 

アリアはコウの戦いを見て、そう思った。

 

何が凄いのかと言われたら答えれないが、とにかくコウの戦いは凄いとしか言い様が無かった。

 

怒りで我を忘れた様な戦いではなく、怒りながらも頭の中は冷水の様に冷え、冷静で物事に対処している。

 

そして、何より凄いのはナイフでの近接戦だった。

 

相手の行動不能を狙い、手と足に狙いをつけ、ナイフを振り、それでいて眼にも止まらぬ速さ。

 

まさに“迅雷”の二つ名と“白銀(しろがね)の閃光”の呼び名の如く、その動きは一瞬だった。

 

「くっ、くそがっ!?」

 

その時、倒れていた男が足に隠し持っていた小型の拳銃を取り出し、アリアに向ける。

 

アリアはガバメントを抜き、反撃しようとするが、相手との位置が悪く、反撃ができなかった。

 

やむを得ず、防弾制服で弾丸を受けようとしたが、男が引き金を引くよりも早く、コウがナイフを投げ、肩に当てる

 

そして、そのまま男の顔を蹴り飛ばし、意識を奪う。

 

「これ以上抵抗しない方が身の為だ。大人しく塀の中で自分の罪を反省するんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、中々上出来だったわ」

 

犯人たちを全員検挙し、警察の人間に引き渡した後、コウとアリアは帰路についていた。

 

その途中でアリアはコウにそう言った。

 

「あれぐらい、褒められるようなことじゃない。むしろ、あれぐらい出来て当然なんだよ」

 

「そうかもしれないわね。でもさ」

 

アリアはコウの方を見ながら、そして、笑って言った。

 

「あたしを助けてくれたとき、少しだけかっこよかったわよ」

 

それに思わずコウは顔を赤くする。

 

「………武偵憲章1条“仲間を信じ、仲間を助けろ”。僕はそれに従ったまでだ」

 

「あっそう」

 

「………ったく、腹減ったな。僕は飯食って帰るから、お前は自分の部屋に帰れ」

 

「なら、あたしも付いてくわ」

 

「付いてくんな。お前はコンビニでももまんでも食ってろ。そして、太れ」

 

「アンタこそ、カップ麺ばっか食って不摂生になってハゲろ」

 

口喧嘩をしながらも、結局二人仲よく、学園島にあるファミレス“ロキシー”で、夕食を食べていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6弾 一度きりのパーティー

麻薬取引の現場を抑え。0.5単位貰った翌日、コウはキンジと共に探偵科(インケスタ)女子寮前の温室に来ていた。

 

「やっほー!コーちゃーん!およっ?キー君も一緒なんだ」

 

二人を出迎えたのは理子だった。

 

「相変わらずの改造制服だな。なんだ、そのフワフワは?」

 

キンジが理子の回想制服を指差して言う。

 

「これは武偵高制服・白ロリ風アレンジだよ!キー君、いい加減ロリータの種類ぐらい覚えようよぉ」

 

「キッパリと断る。たっく、一体何着制服持ってるんだよ……」

 

「そんな事より、理子。アリアの情報を教えてくれ。ほら、報酬」

 

コウはそう言って理子に持っていた紙袋を渡す。

 

「うっっっわぁ―――――!“しろくろっ!”と“白詰草物語”と“(マイ)ゴス”だよぉー!」

 

紙袋の中身はR15指定のギャルゲーだった。

 

本来なら理子の年齢でも買えるのだが、理子はコウやアリアと同じぐらいの身長の為、店員から中学生と判断されたらしく、販売してもらえなかった。

 

そこにコウからある依頼が来た。

 

その依頼とはアリアに関する情報だった。

 

理子は探偵科(インケスタ)のAランク武偵で、趣味が覗きに盗聴、盗撮、ハッキングなど武偵向けである為、情報収集能力が並外れて得意。

 

だから、コウは理子にアリアの調査を依頼した。

 

その報酬として、コウは理子から買えなかったゲームを代わりに買って来てもらう事を頼まれた。

 

尚、コウの見た目でも買えなかったので、キンジが恥ずかしい思いをして買って来た。

 

そしてキンジは買ってきた代わりに、コウが買った情報を聞くことになり、ここにいる。

 

「あ、これとこれはいらない。理子、こういうの嫌いなの」

 

そう言って、理子はコウに“(マイ)ゴス”の続編のソフトを二つ渡す。

 

「どうしてだ?同じ作品だろ?」

 

「違う。2とか3ねんて蔑称。個々の作品に対する侮辱。嫌な呼び方」

 

「あっそ。分かったからアリアの情報をくれ」

 

「あい!」

 

コウが近くの策に座るのを見てキンジもその隣に座り、理子も座る。

 

コウと理子は足が地面に付かず、膝下がぷらぷらしている。

 

「でもさ、コーちゃんなんで理子にアリアの情報頼んだの?彼女なんだし、自分で直接聞けばいいのに」

 

「だ、誰が彼女だよ!こっちはアイツに付き纏われて迷惑してるんだよ!」

 

コウは顔を真っ赤にして言う。

 

「えー?でも二人がデキてるって噂だよ。キンジはアリアに振られて、アリアはコーちゃんと付き合ってるって。朝、二人が腕組んで寮から出て来たとか、自転車に二人乗りで登校とか、一緒にご飯食べたり、コンビニで仲良く買い物してたりとかで、アリアのファンクラブの男子が“コウ殺す!”って大騒ぎになってるもん」

 

「いいから、本題に入れ」

 

「はーい。んと………まずランクだけどコーちゃんと同じSだ。二年でSって片手で数えられるぐらいしかいないんだよ」

 

「それは僕もキンジもなんとなっく察しがついてた。他には?」

 

「理子よりちびっこなのに、徒手格闘もうまくてね、流派はボクシングから関節技まで何でもありの………えっと、バーリ、バーリ………バリツゥ……」

 

「バリツ。バーリ・トゥードだろ」

 

「そうそれ!てか、コーちゃんなんで知ってるの?」

 

「僕にも色々あるんだよ」

 

そう言ってコウはそっぽを向く。

 

「拳銃とナイフはもう天才の領域。どっちも二刀流と二丁拳銃。両利きなんだよあの子」

 

「それも知ってる。」

 

「じゃ、“二つ名”は?」

 

「“二つ名”?アイツ、“二つ名持ち(セカンドホルダー)”だったのか?」

 

双剣双銃(カドラ)のアリア」

 

武偵用語で二丁拳銃や二刀流のことをダブラと言い、英語のダブルから来てるとされてる。

 

カドラは四つ(カトロ)から来ており、四つの武器を使うと言う意味の二つ名とされる。

 

双剣双銃(カドラ)か………それなら、コウも双剣双銃(カドラ)だよな」

 

キンジはコウの方を見て言う。

 

「確かに、ナイフの二刀流で、銃も二丁拳銃だけど、僕は銃よりナイフでの近接メインだから双剣双銃(カドラ)とは違うよ。それに、俺には“迅雷”の二つ名があるだろ。………二つ名が付くってことは、実績もそれなりなんだよな。その辺はどうなんだ?」

 

「そこはスゴイ情報があるよ。今は休職してるみたいだけど、14歳の頃からロンドン武偵局で武偵としてヨーロッパ各地で活動しててね、その間、一度も犯罪者を逃したことないんだって」

 

「逃がしたことが………ない?」

 

キンジがその言葉に反応する。

 

「狙った相手は全員捕まえてるんだよ。99回連続、それも一度の強襲で」

 

犯罪者の逮捕などの仕事が武偵に回ってくる時は、たいてい警察の手に負えない相手が押し付けられる。

 

武偵はしつこく何度もその犯人を追って、やっと逮捕するのが普通なのだが、アリアは一発逮捕している。

 

コウ自身、何度か一発で犯人を逮捕したことはあるが、99回連続一発逮捕はしたことが無い。

 

「ふーん……どうやらアリアは飛んだ化けモノみたいだね」

 

((それをお前(コーちゃん)が言ますか?))

 

キンジと理子は同じことを思い、心の中で呟く。

 

「じゃ、体質とかは?」

 

「うーんとね、お父さんがイギリス人のハーフで、お母さんが日本人だよ」

 

「てことは、クォーターか」

 

「そう。で、イギリスの方の家がミドルネームの“H”家なんだよね。すっごく高名な一族で、おばあちゃんはDame(デイム)の称号を持ってるんだって」

 

Dame(デイム)って、イギリス王家が授与する称号じゃないか!ってことは、アイツ貴族かよ!」

 

「そうだよ、リアル貴族。でも、アリアは“H”家の人達とはうまくいってないらしいんだよね。だから、家の名前を言いたがらないんだよ。理子は知っちゃってるけどー」

 

「その“H”家ってのは?」

 

「理子は親の七光りとか大ッキライなんだよ。知りたかったら、イギリスのサイトでもググればアタリぐらいつくんじゃない?」

 

「話すのと聞くのは兎も角、読むのは苦手なんだけど………」

 

「がんばれやー!」

 

理子はコウの背中を叩こうと、腕を上げる。

 

コウは叩かれる前に避け、柵を降りる。

 

そして、手元が狂った理子は、誤ってキンジの手首を叩き、キンジの腕時計を地面に叩き落とす。

 

キンジが拾い上げて見ると、バンドの部分が壊れていた。

 

「ご、こめぇーん!」

 

「別に安物だしいいよ。台場で1080円で買った奴だ」

 

「だめ!依頼人(クライアント)の持ち物壊したなんて、理子の信頼に関わっちゃうから!」

 

依頼人(クライアント)は俺じゃないぞ」

 

そう言うキンジの手から壊れた時計を引っ手繰り、理子は胸元に入れる。

 

その光景にキンジは目を逸らす。

 

「で、コーちゃん、他に聞きたいことある?」

 

「いや、もういい」

 

コウはそう言って、キンジを連れて温室を後にする。

 

「あ、キンジ。今日、キンジの部屋に泊めて」

 

「は?別にいいが……なんでだ?」

 

「部屋に戻るとアリアがいるんだよ。戻りたくない」

 

「ああ、そういうことか。別にいいぞ」

 

キンジからの許可をもらい、コウはキンジの部屋へと向かう。

 

「お帰り」

 

そして、キンジの部屋のリビングのソファーでアリアが寛いでいるのを見た。

 

「ど………どうしてここにいる……?」

 

コウは口元を引き攣らせながら聞く。

 

「アンタが今日、部屋に帰ってこないでキンジの部屋に行くから待ち伏せしてたのよ」

 

「どうしてわかったんだよ?」

 

「勘よ」

 

その言葉にコウは呆れながらソファーに座る。

 

キンジは台所に向かい、水を飲み、アリアは髪を弄って枝毛の処理をして、身嗜みを整えていた。

 

「流石は貴族様だな。身嗜み一つにも気を許さないんだな」

 

「……へー。あたしのこと調べたんだ」

 

コウの嫌みに対し、アリアは嬉しそうに言う。

 

「武偵にとって情報は命綱だからな」

 

「それで?他に何か分かったことはあるの?」

 

「今は休職中だが、ロンドン武偵局の武偵で、14歳の時から活動している。そんでもって、イギリスの貴族。ランクはSで、武器はガバメントの二丁拳銃と、小太刀の二刀流。二つ名は二丁拳銃と二刀流なことから“双剣双銃(カドラ)”と呼ばれていて、今まで犯罪者を一人も逃したことは無い。こんな所だ」

 

コウは先程理子から聞いた情報をすらすらと言う。

 

「確かにその通りね。でも、この間、一人……いえ、二人逃したわ。生まれて初めてよ」

 

「へー。お前が取り逃がすなんて、よっぽど凄い犯罪者なんだな」

 

「アンタとキンジよ」

 

「は!?」

 

「ぶっ!?」

 

アリアの言葉に、コウは声を上げ、キンジは水を吹く。

 

「お、俺とコウは犯罪者じゃないぞ!」

 

「アンタ、あたしに強猥したじゃない!コウは不敬罪よ!」

 

「はぁ?!チビって言った位で不敬罪かよ!」

 

「ともかく!キンジはあたしから逃げ出すことが出来た!コウは、あたしと互角で渡り合いう事が出来る!アンタたちなら、もしくはアンタたちのどっちかならあたしの奴隷に出来るかもしれないの!だから、あたしとパーティー組みなさい!キンジは強襲科(アサルト)に戻りなさい!」

 

「あ、あの時は偶然逃げられただけだ。俺はただのEランクの武偵だよ!」

 

「うそ!アンタの入学試験の成績、Sランクだった!」

 

そのことを持ち出され、キンジは悔しそうにする。

 

「とにかく!今は無理だ!」

 

「今は?ってことは、条件があるのね!教えなさい!」

 

その言葉に、キンジは思わず顔を赤くする。

 

キンジをヒステリアモードにするには、キンジを性的に興奮させる必要がある。

 

アリアはそのことを知らないために、そう軽々しく言った。

 

「教えなさい!奴隷に上げる賄い代わりに、手伝って上げるから!教えて……教えなさいよ、キンジ………!」

 

その瞬間、キンジは無意識のうちに、アリアを突き飛ばそうとした。

 

これ以上、アリアに迫られれば、ヒステリアモードになってしまいそうだから。

 

そして、同時に、忌々しいあの記憶が蘇りそうだったから…………

 

だが、キンジの手はアリアを突き飛ばすことは無かった。

 

キンジの手をコウが止めていた。

 

「キンジ……落ち着け……大丈夫だから……」

 

「コウ………ああ、すまない………」

 

キンジは落ち着きを取り戻し、ゆっくり手を戻す。

 

「………アリア、一回だけだ」

 

「え?」

 

「一回だけ、お前とパーティー組んでやる。そんで、最初に起きた事件を一つだけ、お前と一緒に解決する。それと、キンジ」

 

コウはキンジの方を見て、言う。

 

「キンジも一度だけ強襲科(アサルト)に戻って」

 

「なっ!?どうしてだよ!大体、俺があそこに戻りたくないのはコウも知ってるだろ!」

 

「知ってるよ。だから、転科じゃなくて自由履修で強襲科(アサルト)の授業を取るんだ。そして、キンジも、僕と一緒にアリアと一回だけパーティーを組んで、最初の事件を一件だけ解決する。それでどうだ?」

 

キンジとアリアの二人に尋ねる様に言う。

 

二人は何かを考える様にした後、頷く。

 

「いいわ。あたしには時間が無いし、その一件でアンタたちの実力、見極めることにする」

 

「俺もいいぞ。一件だけ解決してやる。どんな小さい事件でも一件だぞ」

 

「ええ。どんな大きい事件でも一件よ」

 

「分かった」

 

「手抜きなんかしたら、風穴開けるわよ」

 

「ああ、約束する。全力でやってやる」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7弾 明日無き学科

強襲科(アサルト)  通称:明日無き学科

 

武偵とって死とは常に隣り合わせの存在。

 

その中でも、強襲科(アサルト)は死に最も近い学科と言える。

 

強襲科(アサルト)の卒業時生存率は97.1%。

 

つまり100人中3人弱は、生きてこの学科を卒業することが出来ない。

 

任務中もしくは訓練中に死亡しているからだ。

 

キンジは一年の二学期にある出来事をきっかけに強襲科(アサルト)を止め、一年の三学期から探偵科(インケスタ)に転科したので、約四ヶ月ぶりの帰還だ。

 

そして、コウも三学期からイギリスの方に長期任務で出張しており、更に帰って来てから一度も強襲科(アサルト)に出向いてないので、コウも四ヵ月ぶりだ。

 

「はぁ~………まさかまたここに戻って来るなんてな………」

 

「覚悟を決めなよ、キンジ。一回だけ解決すれば前の日常に戻れるんだから」

 

「………そうだな」

 

発砲や剣戟の音が響く専用施設の扉を開け、二人は中に入る。

 

二人が中に入ると、それまで騒がしく戦闘訓練をしていた者たちは次々にその手を止める。

 

「……キンジだ」

 

「……本当だ」

 

「コウもいるぞ……」

 

「帰ってきてたのか………」

 

一瞬の静寂、そして―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーう、キンジ!お前は絶対帰ってくると信じてたぞ!さぁ、ここで1秒でも早く死んでくれ!」

 

「まだ死んでなかったのか。お前こそ、俺よりもコンマ1秒でも早く死ね」

 

「キンジー!やっと死にに帰って来てくれたか!武偵はお前みたいな間抜けから死んでくからな!」

 

「なら、なんでお前は生きてんだよ」

 

郷に入り手は郷に従え。

 

強襲科(アサルト)では、互いに死ね死ね言うのが挨拶なのだ。

 

キンジの帰還に全員が喜んで死ね死ね言う。

 

そして、コウはと言うと………

 

「コウ、帰って来たか!てっきりイギリスでくたばったと思ったぞ!」

 

「誰がくたばるかよ。テメーこそ、俺がいない間にくたばってると思ったぜ」

 

「大丈夫だったか?相手を殺してないよな?」

 

「僕より犯罪者の心配か?」

 

キンジ同様、他の生徒に絡まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウとキンジが強襲科(アサルト)棟に来る少し前、二階のトレーニングルームに二人の女生徒が居た。

 

一人は間宮あかり、アリアの戦妹(アミカ)で、Eランク武偵。

 

もう一人はあかりの友達のBランク武偵の火野ライカ。

 

「志乃、行っちゃったな」

 

「うん、そうだね……戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)の形式にも色々あるんだね」

 

「恐山で山籠もりさせるなんてヘンな戦姉(アミカ)だぜ」

 

ライカはトレーニングを終え、床に寝転ぶ。

 

「まあ志乃がいない間、あかりはアタシが独占出来るけどな……ウヘヘヘェー」

 

そう言うと、ライカは指で写真を撮るように構え、あかりを見上げる

 

「うわー、白木綿(しろコットン)。ガキっぽ」

 

「ッ!?」

 

あかりは自分のスカートの中を覗かれていると知ると、慌ててスカートを抑える

 

「パンツと言うよりぱんちゅだぜ」

 

「こらー!」

 

「ぱんちゅ~~丸見え~~」

 

「バカライカ!ローアングラー!金払え!」

 

トレーニングルームで追い掛けっこを始めていると、不意に他の生徒たちが騒ぎ出す。

 

「おい聞いたか?キンジが強襲科(アサルト)に帰って来るって!」

 

「マジかよ!キンジって遠山キンジだよな?」

 

強襲科(アサルト)の首席候補って言われてたキンジが!」

 

その言葉にライカは急に止まり、あかりはライカにぶつかる。

 

「遠山キンジ………あの人が帰って来るのか………」

 

「キンジ?誰それ?」

 

キンジの名前を知らないあかりは首を傾げる。

 

「あかりは知らなくても仕方ねぇよ。あかりがインターンで入って来た頃には、探偵科(ンケスタ)に転科しちまったし。去年は強襲科(アサルト)でSランク武偵だった。入試で教官を倒したらしい、伝説の男だよ」

 

「い……一年でSランク!?」

 

「……プロ武偵に勝てる中坊なんてバケモノだろ」

 

キンジが一年でSランク、しかも入試で教官を倒したってことにあかりは震える。

 

「おい!キンジだけじゃないぞ!コウの奴も帰って来るってよ!」

 

「コウ!?コウって、あの鏑木紅か!?」

 

「ああ!間違いねぇ!」

 

「か、鏑木紅まで帰ってくるのかよ…………」

 

「鏑木紅?誰それ?」

 

コウの名前も知らないあかりはまた首を傾げる。

 

だが、今回は違った。

 

あかりの言葉にライカはこけそうになった。

 

「あのな~………遠山キンジの事は知らなくても、鏑木紅の事を知らないのは問題だぞ!」

 

「そ、そんなになの?」

 

「当たり前だ!あの人は、遠山先輩と同じSランク武偵で、そんでもって“二つ名持ち(セカンドホルダー)”だぞ!」

 

「“二つ名持ち(セカンドホルダー)”!?」

 

あかりは驚いた。

 

それだけ、まだ武偵高生で“二つ名持ち(セカンドホルダー)”であることは凄い事なのだ。

 

「“迅雷”って二つ名だけど、二つ名より、通り名の方が有名だ」

 

「通り名?」

 

「“白銀(しろがね)の閃光”。どんな事件も、とてつもないスピードで解決することから、付けられた名だ。犯罪者の間じゃ、銀髪の武偵を見かけたら、諦めるか死ぬしかないって言われてる。最強にして最速の武偵。一年の三学期からこの間まで、イギリスの方に長期任務で出張してたんだけど、噂だとイギリスのとある巨大麻薬組織を一人で壊滅させたらしい」

 

「そ、そんなに凄い人が………」

 

「二人ともあったこと無いけど、顔は知ってる…………あれだよ」

 

そう言ってあかりとライカはトレーニングルームを出て、二階から一階を見下ろす。

 

そして、ライカが指さした先には、強襲科(アサルト)の生徒にもみくちゃにされてるキンジとコウがいた。

 

「あれが遠山先輩で、銀髪の小さい方が鏑木先輩だよ」

 

「な、なんかイメージと違う………それに、鏑木先輩……背が小さい………」

 

「それ鏑木先輩には禁句だぜ。昔、一度見たけど、背の事を弄った生徒が半殺しにあってたから」

 

そのことに、あかりは思わず共感した。

 

背が小さいことを弄られるのは背が低い者にとってはこの上ない侮辱だからだ。

 

同じ背が小さいあかりだからこそ、共感できたのだ。

 

そう思った直後、一人の生徒が急に声を上げた。

 

「はぁ?そんな奴が最強最速の武偵かよ?」

 

制服を着崩し、髪を金髪に染めた男がコウを見てそう言う。

 

コウをもみくちゃにしていた生徒たちは動きを止め、その生徒を見る。

 

その男は一年の強襲科(アサルト)の生徒で、Aランクの武偵。

 

一年でAランクと言うだけでも凄いため、その男子は調子に乗っており、一年の中でリーダーを気取ってる奴だ。

 

「おい、お前一年だな。別にお前が俺の事をどう思おうが勝手だが、口の聞き方には気を付けろ」

 

コウは全員を押し退け、男子の前に立つ。

 

「うるせぇんだよ!“二つ名持ち(セカンドホルダー)”だが知らねぇけどよ、チビのクセに調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 

ソイツの言葉に、その場にいた全員がゲッ!?っとした顔になる。

 

「ば、バカ!お前、いますぐ謝れ!」

 

「早く謝らないと大変なことになるぞ!」

 

慌てて他の一年が、叫ぶが、男はハッ!っと言って笑う。

 

「なんで俺が謝らなきゃいけないんだよ?そもそも、こんなチビでSランクになれるんだから、Sランクって案外チョロインだな。これなら俺もすぐにSランクになれそうだ」

 

へらへらと笑いながら言う、ソイツにコウはゆっくりと近づく。

 

「おい、一年。俺にはどうしても我慢できないことが三つある」

 

「あ?」

 

「一つは人の話を聞かない奴、二つ目は俺を身長ネタで弄る奴………そして――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Sランクの名を軽々しく口にする奴だ」

 

コウの殺気が込められた言葉に、その場にいた全員が恐怖した。

 

「丁度いい、一年の男子共、全員俺に掛かってこい。全員まとめて相手してやる」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8弾 ゲーセン

コウの言葉に全員が騒めく。

 

「いや、いくらなんでも………」

 

「一年の男子って50人位いなかったか……」

 

「Aランクも何人かいたぞ……」

 

「Sランクと言えども、全員相手は………」

 

一年の男子たちはいくらSランク相手だからと言って、一年の男子全員で一斉に掛かるのはと、躊躇っていた。

 

「安心しろよ。たかが一年程度集まった所で、俺に手傷負わせることは出来ねぇよ」

 

その言葉に、一年男子たちはいくらなんでも自分たちの事を舐めすぎてると思い、騒ぎ出す。

 

「いい加減にしろよ、先輩よぉ!」

 

「Sランクであの“白銀(しろがね)の閃光”だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

「上等だ!アンタをフルボッコにしてやんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし!全員死ぬまでやり合え!」

 

あの後、コウの殺気に気付いた強襲科(アサルト)の担当教師の蘭豹が現れ、事情を聞き、コウVS一年男子の模擬戦が行われることになった。

 

蘭豹曰く、「Aランク取ったからって調子に乗ってる一年もおるし、丁度ええから武偵高(うち)がどんなところか教えたれ」とのことで、あっさりと模擬戦を許可した。

 

そして、蘭豹は嬉々としながら、愛銃のM500を発砲し、開戦の合図をする。

 

その合図と共に、一年男子は殺気を出しまくり、銃を全員が抜く。

 

「囲め、囲め!囲んで一斉射撃だ!」

 

先程の男子は一年男子のリーダー格だったらいく全員に命令をする。

 

そして、コウを取り囲み、銃を構える。

 

「………はぁ」

 

その光景にコウは溜息を吐く。

 

「よし!今だ!撃て!」

 

そして、一年達は一斉に発砲する。

 

コウの居た場所に一斉に銃弾が当たる。

 

だが、そこにコウはいなかった。

 

「なっ!?アイツ………一体何処に!?」

 

リーダー各男子が騒いで辺りを見渡すが、コウの姿処か、誰一人立っている者はいなかった。

 

「…………はっ?」

 

そして、気付いた。

 

自分以外、闘技場内に立っている者がいないことに。

 

他の男子たちは全員が地面に倒れ、気絶している者もいれば動けない者もいた。

 

「理解出来たか?これがお前らとSランク武偵の差だ」

 

リーダー男子が振り向くとそこにコウはいた。

 

両手にナイフを持ち、目は相手を斬り殺さんと言わんばかりの眼差しを向けていた。

 

「俺の足の速さには誰も追付けない。お前、今の俺の動き見えたか?」

 

ゆっくり近づくコウにリーダー男子は恐怖し、震える。

 

「お前ら程度にやられる程Sランクは甘くない。だからこそ、Sランクの名は重いんだ」

 

そして、コウが踏み込んだ瞬間、コウはリーダー男子の背後に立ち、首にナイフの峰を押し付けていた。

 

「Sランクの名を軽々しく口にしたこと後悔して死ね」

 

リーダー男子はその言葉で失神し、そのまま地面に倒れた。

 

「基礎からやり直しな。テメェはそれからだ」

 

ナイフをホルスターに仕舞い、コウは闘技場から出る。

 

時間的にちょうどいいぐらいだったので、コウはそのまま強襲科(アサルト)棟を出て、家に帰ろうとする。

 

「コウ、帰るのか?」

 

「キンジか。そっちはもういいのか?」

 

「ああ。銃の訓練ぐらいはしたかったんだが、アイツらの相手してたら時間がなくなっちまったんだよ」

 

「流石は強襲科(アサルト)の元主席候補生。人気だね」

 

「嬉しくも無い。それに、どちらかと言えば、主席候補はお前だろ」

 

「Sランクで“二つ名持ち(セカンドホルダー)”の奴が主席候補なんて役不足すぎるって理由でそっちにお鉢が回ってきたの忘れた?」

 

「そうだったな。そうだ、理子の奴からこの間の時計壊したお詫びってことで、ゲーセンのコイン引換券貰ったんだが、お前も来るか?」

 

「ゲーセンか。いいよ。偶には」

 

キンジとそんな会話をし、コウはキンジと共にゲーセンに向かう。

 

すると門の所で、アリアが立っていた。

 

「アンタたちって人気者なのね。ちょっとビックリしたわ」

 

「あんな奴等に好かれたくない」

 

「僕のは人気とは違う。ああして、僕の事をからかってるけど、全員、何処か僕から一歩引いた位置にいる」

 

「それはなんとなく分かる。実力差が誰も合わせられないからでしょ。でも、あたしよりはマシでしょ。あたしなんか、誰一人近寄ってこないし。まぁ、あたしは“アリア”だからいいんだけど」

 

普段と違うイントネーションで自分の名前を読んだことにキンジが首を傾げる。

 

「確かオペラの“独唱曲”って言う、一人で歌うパートのことをアリアって言うんだっけか?」

 

「へー、良く知ってるわね。その通りよ。あたしはずっと一人ぼっち。何処の武偵高でもそう。ロンドンでも、ローマでもそうだった」

 

「へー……で、ここで俺とコウを奴隷にして“トリオ”にでもなるつもりか?」

 

アリアの方を見ずに、キンジがそう言うと、アリアはクスクスと笑った。

 

見ると、コウもクックックッと、笑っていた

 

「あんたも面白いこと言えるんじゃない」

 

「面白くないだろ」

 

「面白いわよ」

 

「同じく。中々に良いセンスだと思うよ」

 

「お前らのツボが分からん」

 

「やっぱりキンジ、強襲科(アサルト)に戻ったとたんちょっと活き活きし出した。昨日までのアンタはなんか、自分に嘘ついてるみたいで、どっか苦しそうだった」

 

「そんなこと……ない」

 

キンジはまるで本当の事を言われてるかのような気分になり、足を僅かに速める。

 

「それより、アリア。僕はキンジとゲーセンに寄って帰るからお前は一人で帰れ。てか、パーティー組んでやるから俺の部屋から出ていけ」

 

「バス停まで一緒ですよーだ」

 

あっかんべーをして、アリアは笑う。

 

相変わらずの憎まれ口だが、コウが自分とパーティーを組み、キンジが強襲科(アサルト)に戻ってきたことが嬉しいらしく、上機嫌だった。

 

「ねぇ、ゲーセンって何?」

 

「ゲームセンターの略だよ。知らないのか?」

 

「帰国子女なんだからしょうがないじゃない。………あたしも付いてく。今日は特別に一緒に遊んであげるわ。ご褒美よ」

 

「はぁっ?ご褒美だ?罰ゲームの間違いだろ。そんなのごめんだね」

 

コウはそう言って、キンジの前に出て足を速める。

 

すると、アリアもそれに合わせて足を速めてコウの隣に並ぶ。

 

そして、コウが更に足を速める。

 

それにつられてアリアも足を速める。

 

「付いてくんな!」

 

「やだ!」

 

「お前のツラなんか拝みたくねぇんだよ!」

 

「あたしもアンタのバカ面なんか見たくない!」

 

「じゃあ、付いてくんな!」

 

「絶対やだ!」

 

結局二人はキンジを放置し、真横に並びながら走ってゲーセンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ゲーセンまでコウとアリアは競争をし、結果は引き分けだった。

 

その後を遅れてキンジが到着する。

 

「はぁ……はぁ……ん?何コレ?」

 

アリアは膝に手を着きながら聞いて来る。

 

「ん?……ああ、それか。それはUFOキャッチャーだ」

 

「UFOキャッチャー?子供っぽい名前ね。ま、どうせアンタが行くような店のゲームなんて、下らないに決まってるけど」

 

アリアは馬鹿にするような表情で、ガラスケースの中を覗き込む。

 

中にはライオンの様なヒョウの様な動物のぬいぐるみがはいっている。

 

すると、アリアは突如ガラスケースにへばりついた。

 

「おい、どうしたんだよ?」

 

「…………」

 

「なぁ、おいってば」

 

「………………」

 

「そのぬいぐるみがどうかしたのか?」

 

「……………かわいー………」

 

そのセリフにコウはずっこけそうになった。

 

アリアらしくないセリフに驚いたからだ。

 

口を逆三角形にして、涎を垂らしてる姿は誰が見ても、“双剣双銃(カドラ)のアリア”とは思わないだろう。

 

「欲しいならやってみればいいだろ」

 

「やり方わかんない………」

 

「難しくなんかねぇよ。小学生にだって出来るし」

 

「すぐにできる?」

 

「なら、教えてやろうか」

 

アリアは首を勢いよく縦に振る。

 

コウは百円を入れて、アームを操作するボタンの説明だけをした。

 

説明を受けたアリアは、財布を取り出し、百円を入れて、ボタンを押す。

 

だが、狙いが悪くぬいぐるみは前足をちょっと上に上げただけだった。

 

「い、今のは練習だから!」

 

「はいはい」

 

二度目の挑戦。

 

またしてもアームはぬいぐるみのしっぽを引っ掛けるだけで、取ることはできなかった。

 

「ちなみに五百円入れると六回できるぞ」

 

「うるさい!次こそ、取れる!」

 

そして、三度目も失敗。

 

アリアはムキになり、次から次へと百円玉を入れまくり、百円が無くなると、千円札を両替しては、ゲームの繰り返しを続けていた。

 

「どいてろ、見てらんねぇ」

 

アリアが三千円ほど使った所で、コウはアリアをどかし、百円を入れる。

 

「ただアームを動かせばいいってもんじゃねぇんだよ。こういったゲームは大抵アームの力が弱いんだ。だから、取りやすい位置を見極めて、外れない位置にアームの先を引っ掛ける」

 

アリアに教えながら、コウはアームを操作して、ぬいぐるみを捕まえる。

 

すると、見事ぬいぐるみはアームに引っ掛かり、釣り上げる。

 

しかも、ぬいぐるみのしっぽに、下のぬいぐるみのダグが引っ掛かって二匹釣り上げていた。

 

「つ、釣れてる!」

 

アリアが声を上げる。

 

コウもまさか、一発で釣れるとは思っておらず、しかも、二匹も釣れるとは思ってなかったので驚いた。

 

「コウ!放したりしたらタダじゃおかないわよ!」

 

「ここまできたら僕にはどうすることもできないって!」

 

二人が固唾を飲んで見守る中、アームが動き、ぬいぐるみを穴に落す。

 

その時、穴の入り口付近で体を半分ほど出していたぬいぐるみに引っ掛かり、ぬいぐるみは合計で三匹釣れた。

 

「やった!」

 

「おっしゃ!」

 

三匹の同時ゲッドにコウとアリアは喜び、そして、無意識に笑顔でハイタッチをした。

 

「「あ」」

 

目と目が見開き合う。

 

そして、慌てて互いにそっぽを向く。

 

「ま、まぁコウにしては上出来ね!」

 

取り出し口からぬいぐるみを三匹取り出しながら、アリアは言う。

 

見ると、タグにレオポンと書かれていた。

 

「かぁーわぁーいぃー!」

 

アリアは三匹が破裂しそうなぐらいを思いっきり抱きしめる。

 

そんな珍妙な生物の何が良いんだがっと言いたげな目をしながら、コウはアリアを見つめる。

 

(アリアの奴………あんな表情も出来るんだな。てか、あっちの方がアリアの本当の姿なのかもな)

 

そう思いながら、コウはあることを思った。

 

(………本当はお前の方が自分に嘘ついてんじゃねぇのかよ…………)

 

「コウ!」

 

「ん?」

 

そんなことを考えていると、行き成りアリアに声を掛けられ前を向く。

 

「はい!一匹上げる!アンタの手柄だしね!」

 

ツリ目気味の目をにっこりと細めるアリアに、コウは思わず赤くなる。

 

「(くっそ………本当にコイツ、見た目だけは可愛いな……)お、おう」

 

レオポンを受け取り、コウはそれが携帯ストラップだと気付く。

 

「キンジ!アンタにも上げるわ!仲間外れは可哀想だしね」

 

「そうかい、ありがとよ」

 

キンジはコインでコインを落として遊ぶゲームをやりながら受け取る。

 

それを見ながら、コウは自分のスマホのケースを外し、それを付けようとする。

 

それを見たアリアも自分の携帯を取り出して、レオポンを付けようとする。

 

そして、キンジもゲームを終えて、レオポンを携帯に付けようとする。

 

紐が中途半端に太く、中々穴に通らず、三人は苦戦する。

 

「先に付けた方が勝ちよ、コウ、キンジ」

 

苦戦していると、アリアがそんなこと言い出す。

 

「なんだそりゃ、ガキかお前」

 

「やったわ、入りそう」

 

「こっちも入るぞ。お前には負けねぇ」

 

「私だってアンタには負けない」

 

互いに口喧嘩をしながらストラップを入れようとするコウとアリア。

 

そして、最初にストラップを付けれたのは―――――

 

 

 

 

 

「あ、入った」

 

キンジだった。

 

「な!?」「に!?」

 

キンジに先を越され、さらにムキになる二人。

 

そんな二人を見ながら、キンジは缶コーヒーを飲む。

 

そして………

 

「「入った!」」

 

二人ほぼ同時にストラップを付けれた。

 

「僕の方が一秒早かった」

 

「私の方がコンマ一秒早かった」

 

「じゃあ、コンマ0.1秒」

 

「0.01秒」

 

「0.001秒!」

 

「0.0001秒!」

 

「どっちでもいいだろ…………」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9弾 戦姉妹

あの後、喧嘩が一段落した後、キンジは探偵科(インケスタ)の男子寮に帰り、コウとアリアも寮へと帰った。

 

二人とも、強襲科(アサルト)なので必然と寮への方向は同じである。

 

その帰り道の間、コウとアリアは互いを罵り合い、口喧嘩をしていた。

 

「じゃ、あたしこっちだから。じゃあね、マイクロ武偵」

 

「ああ、またな。ミクロ武偵」

 

互いに笑顔で中指を立て合い、別れる。

 

強襲科(アサルト)所属の武偵高生にとって死ね死ね言うのはもはや挨拶である。

 

そこに中指を立てる行為を加えると非常に仲が良いとされている。

 

もっともそれは、一部の武偵高生の間で流れてる噂のため、二人は知らなかった。

 

「………まだ付いて来てる」

 

コウはスマホを操作し、画面を見るフリをしながら、後ろを見る。

 

(短めのツインテールに、東京武偵校(うち)の女子制服……動きからして強襲科(アサルト)だな。でも、ランクは対して高くない。Eランク、良くてDランクか。顔は見たことないから一年か。銃もスカートの裾から見えてる。あの形状はUZI、そして持ち運べるサイズとあの体格からしてマイクロUZIってところか)

 

一流の武偵は一枚の写真からその人物の特徴を読み取ることができる。

 

また相手が犯罪者ならどんな技を使い、どんな武器を使うかも読み取れる。

 

コウは後ろ向きで、しかも、スマホの画面に映っただけの姿でそれを瞬時に見抜いた。

 

(上勝ち狙いか?いや、一年男子を全員返り討ちにした今、狙ってくるとは思えない。なら、別の目的か?……………一応問い質すか)

 

コウはそのまま寮から離れ、徐々に人気の無いところに移動する。

 

もちろん、尾行してる女子もそれに続く。

 

そして------------

 

「ここなら誰も来ないぞ。姿を見せたらどうだ、一年?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏑木先輩、凄かったなぁ………」

 

あかりはそんなことを呟きながら体育館を後にしていた。

 

Sランクとは言え、Aランクも何人かいる一年の男子全員を一瞬で倒し、最後の一人を言葉と威圧のみで気絶させたコウの戦いは凄いとしか言いようがなかった。

 

「私も、あんな風になれるかな………」

 

あかりには夢がある。

 

それは戦姉(アミカ)であるアリアのパートナーになり、一緒に武偵として活動することである。

 

でも、自分のランクはEランク。

 

武偵としては底辺であることは自覚していた。

 

だが、それでもアリアは自分を評価し、戦妹(アミカ)にしてくれた。

 

それでいくらか自分に自信がついていた。

 

そんな時だった。

 

Sランクの実力を目の当たりにしたのは。

 

そして、気づいていしまった。

 

自分はまだアリアの実力の一部分しか知らないということに。

 

本当に、自分はアリアみたいになれるのか………

 

「ううん!きっと大丈夫!いつか私だって!」

 

嫌な想像を吹き飛ばし、あかりは拳を握り締める。

 

その時だった。

 

アリアが校門の近くで立っていた。

 

あかりはアリアに声をかけようとしたその時だった。

 

ちょうど、そこにコウとキンジの二人が現れた。

 

あかりは思わず身を隠した。

 

そして、アリアが二人と親し気に歩いているのを目撃してしまった。

 

だが、すぐにSランク武偵のコウと、元強襲科(アサルト)主席候補で元Sランクのキンジならアリアと知り合いでもおかしくないと判断する。

 

しかし、二人といるアリアは何処か楽しげな雰囲気があり、徐々にあかりは疑念を募らせた。

 

そして、三人を尾行することを決めた。

 

ゲーセンのいくまでの間、アリアとコウは口喧嘩をしながら競争をし、ゲーセンにつくと喧嘩しながらもクレーンゲームで遊んでいた。

 

(な、なんなのあの二人………)

 

仲が良いのか悪いのか。

 

あかりにはそれがよく分からなかった。

 

気が付けばアリアのことより、コウのことが気になってコウのことを付けていた。

 

だが、尾行の仕方が下手過ぎて完全に気づかれていた。

 

そして、自分が人気の無いところに誘導されていることに気づいていなかった。

 

「ここなら誰も来ないぞ。姿を見せたらどうだ、一年?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら誰も来ないぞ。姿を見せたらどうだ、一年?」

 

コウが呼びかけると、あかりは大人しく姿を現した。

 

「一応東京武偵校(うち)の生徒の顔は全部把握してるつもりだけど、流石に一年の顔まではまだ知らないからな。名前、聞かせてもらえるか?」

 

「……間宮……あかりです」

 

「間宮あかり……そっか……」

 

コウはそう呟いて、頭をかく。

 

「で、学校から俺をずっと付けてたのはなんでだ?」

 

「……気づいてたんですか?」

 

「はっきり言うが、お前、尾行下手くそだぞ。あれじゃあ、探偵科(インケスタ)のEランクにだって分かるぞ」

 

まさか自分の尾行がバレていたとは思っていなかったあかりは、内心ショックを受けていた。

 

「で、俺を付けてた理由は?まさかと思うが、上勝ち狙いか?」

 

「ち、違います!私は……」

 

中々話を切り出そうとしないあかりに、コウは若干イラつき始める。

 

「言わないなら俺はもう行くぞ。こっちも暇じゃないんだよ」

 

そう言って立ち去ろうとする。

 

それを見て、あかりはようやく決心し、理由を話した。

 

「だってズルイです!あたしは戦ってようやくお近づきになれたのに、アリア先輩が自分から追っかけるなんて!どういう関係なんですか!」

 

あかりの口から出た言葉に、コウはぽかんとした。

 

そして、ため息を吐いた。

 

「またアイツかよ。関係も何も、訳合って一時的にパーティー組んでやってんだよ」

 

「い、一時的に?」

 

「そうだよ。これで満足か?分かったらもう俺を尾行するなよ。たっく、こっちはただでさえアリアに付き纏われて困ってるってのに。いい迷惑だよ」

 

コウが何気なく言ったその一言。

 

それがあかりの琴線に触れた。

 

あかりは、アリアを尊敬してる。

 

いや、尊敬を通り越して心酔とも言えるレベルで憧れている。

 

だがらこそ、今の言葉を聞いた瞬間、コウに対して怒りが沸いた。

 

アリアに付き纏われて困ってる。

 

挙句、それがいい迷惑。

 

自分が尊敬してやまないアリアをそう言う扱いをするコウが許せなかった。

 

「………〝迅雷”とか〝白銀(しろがね)の閃光”とか呼ばれてどれだけ凄いか知りませんけど………………貴方なんかよりアリア先輩の方がずっと凄いんですから!」

 

思わず、そう口走ってしまった。

 

そして、言ってから気づいた。

 

自分がとんでもないことを言ってしまったと。

 

東京武偵校に限らず、武偵校は上下関係がかなり厳しい。

 

少しでも上級生に舐めた態度を取れば、どうなるかは目に見えてる。

 

「……………お前」

 

コウが口を開く。

 

あかりは思わず身構えた。

 

CQCを食らわせられるか、銃弾が飛んでくるか。

 

はたまた別の何かか………

 

とにあかくあかりは身構えた。

 

だが、いつまでたっても何も起きず、恐る恐る目を開ける。

 

すると、そこには口を手で押さえてるコウがいた。

 

「鏑木……先輩?」

 

「クッ……ハハ…………アーアハハハハハハハハハハ!」

 

なんとコウは急に笑い出した。

 

「いや、悪い!一年の、それもEランクに正面から、こんなに真っすぐ本音をぶつけられたのは初めてでよ!お前、結構面白いな!それに、中々に戦姉(あね)想いだ!気に入ったよ」

 

「は、はぁ~………あれ?私、アリア先輩の戦妹(アミカ)って言いましたっけ?それにランクも……」

 

「ああ。顔は知らなかったけど、お前の名前は知ってたんだよ」

 

「え?」

 

「葛城蒼。知ってるだろ?お前と同じクラスで、同じ強襲科(アサルト)の」

 

「は、はい。友達、ですけど」

 

「蒼は俺の戦弟(アミコ)なんだ。で、聞いてたんよ。お前のこと。その時、ランクを知った。で、この前、蒼からアリアについて聞いた時、お前がアリアの戦妹(アミカ)って知った」

 

理由を説明すると、あかりは納得した表情になる。

 

「で、さっきの話だけど、俺とアリア、実際に戦ったことはないが、恐らく、戦ったらあっちが勝つと思うぞ」

 

「え!?」

 

あかりはまだ驚いた。

 

何故なら、コウが自らアリアに負けると言ったからだ。

 

「仮にも同じSランクだから、技量の差はそんなに無い。でも、アリアは14歳の頃からイギリスで武偵として活動してる。つまり技量は同じでも実戦経験の差でアリアに軍配が上がるんだよ。でも、勝負は時の運もある。絶対にアリアが勝つって断言はできない」

 

「…………………」

 

「ん?なんだよ?」

 

ぼーっとしてるあかりに、コウが声を掛ける。

 

「いや、その、アリア先輩のこと、ちゃんと評価してるなって思って」

 

「まぁ、アイツに迷惑を掛けられてはいるが、武偵としてアイツは優秀なのは分かる。ムカつく奴でも認めるとこは、認めんだよ、俺は」

 

そう言ってコウは早口にそう言い、そっぽを向く。

 

(あ、この仕草……似てる、アリア先輩と)

 

あかりはふとそう思った。

 

アリアは素直になれない一面がある。

 

それは戦妹(アミカ)であるあかりは知っていた。

 

素直になれない時や照れ隠しするとき、アリアは顔を赤くし、そっぽを向いて、早口になる癖がある。

 

よく見ると、コウも耳が赤かった。

 

(なんとなくだけど、アリア先輩と、鏑木先輩が喧嘩してる理由がわかった気がする)

 

そう、つまりは似た者同士だからだ。

 

それを理解するとあかりは思わず笑っていた。

 

「な、何笑ってんだよ?」

 

「あ、すみません!あの、鏑木先輩。さっきは失礼なこと言って本当にすみませんでした」

 

あかりは先ほどの無礼をしっかりと詫びる。

 

「別にいいよ。怒ってねぇし。それとコウでいいぞ。鏑木は呼びにくいだろうしな」

 

「はい、コウ先輩。あ、私のこともあかりでいいですよ」

 

「そうか。じゃあ、あかり。改めてよろしくな」

 

「はい!」

 

こうしてコウとあかりは知り合った。

 

尚、このことを知ったアリアは

 

「ふ~ん、アンタ。あたしのこと認めてるんだぁ。へ~」

 

「おいおい、勘違いするなよ。俺が認めてるのはお前の武偵としての実力であってお前そのものじゃねぇからな」

 

「あら、奇遇じゃない。あたしもアンタ武偵としての力は認めても、アンタそのももは認める気ないから」

 

「「………………………」」

 

「「上等だ(よ)!!」」

 

といった具合に、変わらず喧嘩になっていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10弾 最初で最後の任務

スマホのアラームで、コウが目を覚ます。

 

目を覚ます際に、時計を止めようと伸ばした手がスマホに付けたレオポンストラップを握り締めていた。

 

握り締めたレオポンをしばらく眺めると、うるさいアラームを止め、起床する。

 

「あ、そう言えば昨日、平賀さんに銃のメンテ頼んでたんだっけ」

 

身支度を整えていると、ふと愛銃のAMTをメンテに出していたことを思い出し、コウは舌打ちする。

 

「仕方ないか、今日はこっちを持ってくか」

 

コウはベットの下からガンケースを取り出し、そこに収められた二丁の拳銃を取り出す。

 

蒼と紅色のコルト・ガバメント。

 

コウには師匠が一人いる。

 

コウだって元からSランク武偵だったわけじゃない。

 

地道に場数を踏んで、努力を重ねていったからこそ、Sランクになったのだ。

 

そして、そんな自分を師事してくれた武偵が一人いた。

 

このコルト・ガバメントは、〝迅雷”の二つ名をもらった時に、その師匠から貰った物だ。

 

特殊な金属を使っているらしく、世界に二つとない銃とのことで、コウはその豪華さに気後れし、あまり使っていなかった。

 

常日頃からにメンテをし、試し打ちも定期的に行っているので使うには問題はなかった。

 

マガジンに45ACP弾を込め、装填する。

 

ガバメント用のホルスターを取り出し、それを装備する。

 

「そう言えばアリアの銃もガバだったな…………あの体で、よくもまぁ、反動の強いコイツを撃てるよな」

 

完全に「お前が言うな」状態だが、今ここにそれをツッコむべきキンジはいない。

 

準備を終えると、コウはいつもの健康食品を一つ口にくわえると、外に出る。

 

雨が降っていたので、ポンチョを被って学校へと向かう。

 

傘を使うのもいいが、コウはいつ何処で襲われるかもわからない状況で、両手が塞がるのは避けたいため、雨の日でもこうして両手が常にフリーになるようにしている。

 

学校に向かって歩いていると、スマホに着信が入る。

 

相手はアリアだった。

 

「どうした?」

 

『コウ!アンタ、今何処にいるの!?』

 

「どこって、今ちょうど強襲科(アサルト)女子寮の前通ってるけど」

 

『なら、強襲(アサルト)棟も近いわね!すぐにC装備で女子寮の屋上に来なさい!』

 

「すぐに行く」

 

通話を切ると、コウはすぐに強襲(アサルト)棟に入り、C装備に着替える。

 

「コウ!」

 

「キンジ、お前もアリアに呼ばれたのか?」

 

「ああ、事件らしい。小さな事件だといいんだが………」

 

「C装備の時点で、それは諦めるんだな」

 

装備を終えると、コウとキンジは足早に女子寮へと向かう。

 

屋上につくと、アリアもすでにC装備に身を包み、無線機で何処かに連絡を取っていた。

 

そして、屋上の扉近くに座り込んでるヘッドホンを付けた少女と、その隣に立つ少年に気づく。

 

少女の名前はレキ。

 

キンジとコウの同級生で、狙撃科(スナイプ)のSランク。

 

少年の方は、志木縞嶺二。

 

レキと同じ狙撃科(スナイプ)のAランク。

 

だが、実質ランクはS同然で、レキとコンビを組んでる狙撃手でもある。

 

「嶺二、お前も駆り出されたのか?」

 

「よぉ、コウ。レキと登校中に神崎から連絡が入ってな。俺とレキに後方支援(バックアップ)を頼んできた」

 

「レキ一人でも十分なのに、お前もいるんだったら安心して背中を任せられるよ」

 

嶺二の胸をたたき、コウは笑う。

 

それと同時に、アリアも通信が終わる。

 

「時間切れね。……これだけの戦力なら十分だわこの5人パーティーで追跡するわよ」

 

「追跡って何をだよ?そもそも、何の事件だ?」

 

キンジがアリアに質問をする。

 

「バスジャックよ。アンタの寮の前に7時58分に停留した武偵高の通学バスがね」

 

「なっ!?犯人は車内にいるのか!?」

 

緊迫した状況だと理解し、キンジが尋ねる。

 

「分からないけどたぶんいないでしょうね。今回のバズジャックの犯人は、あんたの自転車に爆弾を仕掛けた犯人と同一犯。武偵殺しの仕業だわ」

 

「随分と情報が早いな。どうやって分かった?それと、警視庁と東京武偵局の方は?」

 

今度はコウが尋ねる

 

「奴は毎回減速すると爆発する爆弾をしかけて自由を奪い、遠隔操作でコントロールするの。でも、その操作に使う電波にパターンがあって、あんた達を助けた時もその電波をキャッチしたのよ。それと、警視庁も東京武偵局も動いてるわ。でも、相手は動き回るバスよ?準備が必要だわ」

 

「ちょっと待て!武偵殺しは逮捕されたはずだぞ?」

 

「それは真犯人じゃないわ。とにかく!事件はもう、起きてる!作戦目的は車内にいる全員の救助!」

 

「リーダーをやりたきゃやれ!でもリーダーなら状況をもっとちゃんと説明しろ!どんな事件にも武偵は命を賭けてんだぞ!」

 

「武偵憲章1条仲間を信じ仲間を助けよ!被害者は武偵高の仲間よ!それ以上に説明はいらないわ!」

 

「お前、そんな事件の背景もわからずに、どう動けって………」

 

「キンジ、諦めろ」

 

コウがキンジを止める。

 

「今ここで、そんなこと言い合ってもしょうがないだろ。この話は、この事件を片付けてからにするぞ」

 

「コウ………ああ、わかった」

 

キンジは大人しく引き下がる。

 

同時に、上空から一台のヘリがやって来る。

 

「こんなものまで用意するとは、流石はSランクでリアル貴族様。スケールが違うな」

 

「なんだったら、跪いて今までの私に対する侮辱を謝ってもいいのよ?」

 

「はっ、言ってろ。……でもまぁ、しくじりそうな時ぐらいはフォローしてやるよ」

 

「その言葉、そのまま返してあげるわよ」

 

そう言って二人は互いの顔を見ずに拳をぶつけ合う。

 

「「任務開始(ミッションスタート)だ(よ)」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。