インフィニット・オーケストラ (剣とサターンホワイト)
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資料集
資料1:ガンパレード・オーケストラとは… 


知っている人が少ないことが予想されるガンパレード・オーケストラ、略してガンオケ

ここではそんなガンオケを、極薄の知識量ではありますが私なりに紹介してみようと思います

少しだけガンパレード・マーチのことについても触れますゾヨ


事の発端は1945年、所謂"第二次世界大戦"の最中に起きた。

 

我々、リアルワールドの人間が知るこの大戦の大まかな結果は、アメリカ・イギリスを中心とした連合軍の勝利である。米軍が日本の広島・長崎に原子爆弾を使い、今日日本が唯一の被爆国とされたこともご存知だろう。

 

だが、ガンパレ・ガンオケの世界では違う。第二次世界大戦があったところまでは同じだ。しかし、明確な勝敗がついたわけでも、和平交渉が成功し闘いが終わったわけでもない。では何があったのか?黒い月の出現と、それに伴う人類の天敵の登場である。

 

人類の天敵、人はこれを"幻獣"と呼んだ。神話の獣の名を与えられた、実在することはあり得ないとされていた存在である。姿形は様々あれど、共通点は口を持たず生殖もせず、赤い眼を持つ。突然姿を現し、身に蓄えられた栄養が尽きるまで活動し、死して幻へと消える。活動目的はわかっておらず、わかっていることと言えば人を狩るように行動していることだけ…要はただ人を狩る人類の天敵。

 

人類は人類同士の戦いの決着をつける前に、幻獣と言う共通の敵を倒すため、何より自分達の生存のために(幻獣)(相手国の人類)と手を組んで戦うことを余儀無くされた。

 

しかし幻獣は予想よりも遥かに強く、人類もまたこれに抗い続けるため、戦いはどんどん長期化していき、ついには50年を超えた。戦いの中で人類は次第に追い詰められ、1997年4月、幻獣との戦闘が始まって52年、大多数の死者を残し、ついに人類はユーラシア大陸から姿を消した。

 

さて日本はというと、幻獣がユーラシアを主に攻めていたせいか、何とか制圧されることもなく、人類の生活もまだ保てていた。ユーラシア陥落時に残った人類の生存圏は日本の他に、南北アメリカ大陸の一部とアフリカ大陸の一部ということになっている。

 

そんな人類最後の楽園となった日本にも幻獣の魔の手が伸びる。ユーラシア陥落から5ヶ月後、九州に幻獣の大群が上陸。これにて日本も戦場へと変貌していく…。

 

1998年。ユーラシアを攻略した勢いそのままに、幻獣はここでも優勢に侵攻し、人類は予想外にも記録的な大敗を喫する。この事態を重く受け止めた政府は翌年までに2つの法案を可決する。

 

1つは熊本県の要塞化。熊本に今ある戦力を結集させようと言う作戦。これにより幻獣軍は如何に九州の他の県を陥落させようとも、この熊本要塞を攻略しなければ常に後刃を向けられることになるはずである。

 

もう1つは14歳~17歳の徴兵年齢に満たない学生を学籍のまま投入、学兵として大人の兵士が完成するまでの間、時間稼ぎとして戦場へ送り込むことである。もっともこの作戦はほんの一時しのぎに過ぎず、長くは持たないだろうと多数の政治家は思っていた。

 

しかし、またしてもここで予想外の出来事が起こる。その学兵たちで組まれた小隊の1つ、5121小隊が大活躍。幻獣の攻撃を凌ぎきり、夏の自然休戦期(幻獣は大概5月後半~8月終盤は出現しないとされている。幻獣軍がユーラシア攻略後、すぐに日本に進撃せず5ヶ月経ってから上陸したのもそのため)まで耐え抜いたのだった。

 

この活躍や、部隊での騒動を描いたのがPS用ソフト"高機動幻想ガンパレード・マーチ"である。

 

思わぬ反撃を受けた幻獣は九州攻略を断念。別の箇所の攻撃へ移行する。

 

北海道。この世界での北海道は、滝川の人工石油工場をはじめとし、日本最大の策源地とされていた。もちろん、そんな所には厳しい警備体制が整えられているものである。しかし、皆さんご存知の通り、北海道と言えば周囲を海に囲まれた島のような土地である。航空機を使った空輸は燃料の浪費が激しいため多用することが出来ないので、資材を運搬するのは基本的に鉄道が主である。

 

その鉄道輸送の中継地点である青森。ここは北海道との連絡橋があり、もちろんそれらを守護する部隊も配置されている。だがしかし、九州での防衛成功による思わぬ余波とでも言うべきか、手薄になっていたところを幻獣軍に攻め込まれたのだ。手薄なところを攻める、これ即ち兵法の基本。幻獣たちはそれを心得ていたのだ。

 

しかし、弱点を突いたつもりの幻獣軍側にも思わぬ邪魔が入る。それはこの地域ならではの大雪である。大雪は彼らの進軍の妨げとなり、特に大型の幻獣を出撃させることが出来ない。それに対し人類側には冬季装備が充実している。大雪により戦車が出撃しにくくなることも事実ではあるが、元々石油を使う車両は少なかったため大した問題にはならなかった。

 

そんな青森で戦いに巻き込まれた少年少女たち。その部隊の1つに"ヒロイン天国"と呼ばれる部隊がある。今作に登場する竹内優斗や岩崎仲俊が所属する部隊である。彼らは部隊内で協力し、時には喧嘩もするが、春…3月が来るまで耐え凌ぐことが出来るのか…。

 

この"ヒロイン天国"の活躍や騒動を描いたのがPS2用ソフト"ガンパレード・オーケストラ 白の章 ~青森ペンギン伝説~"である。

 

ちなみにガンパレード・オーケストラは、広島の山岳騎兵部隊"シュークリームナイト小隊"の奮戦や騒動を描いた"ガンパレード・オーケストラ 緑の章 ~狼と彼の少年~"、幻獣からも味方からも忘れ去られた島、小笠原の父島で黒い月の謎に迫る"第211天文観測班"の活躍や騒動を描いた"ガンパレード・オーケストラ 青の章 ~光の海から手紙を送ります~"、そして先程紹介した白の章の3本からなる3部作構成となっている。




くどいかもわかりませんが、これはあくまで私の認識におけるあらすじです。

もし、もっと詳しい話、あるいはもっと正確な話を知りたい場合は…

すみません、丸投げするような形になりますがご自身で各々お調べください。

しかし…こんなに時間を食うとは思ってなかった…
(書き始め:9/7 投稿:10/1)


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資料2:登場人物紹介 α社編

どーも、束さんにどんな立ち回りをしてもらうか全く考えてなかった剣とサターンホワイトです。束さんがISにおけるキーキャラと言っても過言じゃないのに…。

えー今回は主人公とα社編に登場した半オリキャラの紹介回ということになります。…紹介になってると良いんですけどね…

※'19/12/01追記
致命的な欠陥が発覚したため、一部登場人物の設定を変更しました(詳しくは活動報告:“一部登場人物の年齢設定の変更について”を参照)。


主人公ズ

 

竹内優斗(たけうちゆうと)

年齢:15歳

身長:164cm

体重:50kg

髪色:黒

目の色:空色

 

今作の主人公その1

 

ガンパレ世界的紹介

元々空を飛ぶことが夢だった彼は飛行学校に入ることを目指し、行く行くは航空軍に配属されるとばかり思っていた。しかし現実は甘くなく、彼が配属されたのは陸軍だった。己の非運を嘆くこともあったが訓練や軍務を怠ることはなかった。

そんな彼の評判は「いつもニコニコしている」「人が良くて騙されやすい」「仕事を真面目にこなしている」とそこそこ良好な様子。しかし恋愛面についてはそううまくはいかず、「あまり好きなタイプではない」「軽い人だよ」という声もある。ある女子生徒に「付き合わない?」と言ったところ、右パンチと回し蹴りを貰ってしまったらしい。…これはさすがに竹内が軽率すぎたか…。ついでに言えば彼は女心に疎いところがあるらしい。

そんなある日、ある調査をしていたところ、謎の2人組に銃撃されて命を落とした。…はずだったが…?

 

IS世界的紹介

ある調査をしていたところ、謎の2人組に銃撃されて命を落とした。…はずだったが、どういうわけだかこのIS世界で目を覚ました。その後、雑用としてα社に住み込みで働くことになったが、織斑一夏がISを動かした後に行われた全国男性IS適性テストでIS操縦者としての適性があることが判明。つまり、彼の空を飛ぶ夢はISに乗ることで叶ったのだった。以降、彼は雑用からテストパイロットへ異動。最近では代田のスパーリングに付き合わされてるらしい。

 

筆者補足

一応本作の竹内の性格はゲーム版45%、ドラマCD版45%、アニメ版10%の割合に出来たら良いな…と思う。

要するに、竹内は純粋少年(ピュアボーイ)なのだろう。お人好しで、女心に疎い、悪く言ってしまえば鈍感。…何となく一夏に似てる気がしなくもない…と思ったのは私だけだろうか…。

ガンオケ白の章を既プレイの方なら疑問に思われるのが彼の年齢。18歳ではないかと思われるかもしれないがそれはあくまでもゲーム版での話。ドラマCD版にて岩崎が「君は僕より1歳も年下なんだから」という発言があり、本作ではその設定を採用。詳しいことは私にもわからない。

また竹内は私が初めてガンオケをプレイした際、最初にシナリオ一周したキャラクターであり、何とも言えない愛着があるため本作の主人公に採用。理由は他にもあるがそれは後に投稿する活動報告「インフィニット・オーケストラこぼれ話」をご覧いただきたい…。

 

私的名台詞

「こりゃ、今日は大無茶大会だ…」(アニメ版第9話『戦火のかなた』より)

 

岩崎仲俊(いわさきなかとし)

年齢:16歳

身長:168cm

体重:66kg

髪色:灰色

目の色:茶色

 

今作の主人公その2

 

ガンパレ世界的紹介

生まれてまだ間もない頃に両親に捨てられ、その後しばらく親戚の家をたらい回しにされた。その時に大人たちの醜い本音を散々見てきたらしく、曰く「子供相手だと思って、よく目の前で色々言われたなぁ」とのこと。そんな生活が続いた5歳のある日、同い年の女の子に拾われる。それ以来彼はその子、山口葉月の家の食客、つまり居候となった。

それから年月が流れ1999年。岩崎はたかりの名人として名を馳せた(?)過去から「食客世界の三冠王」を自称し、ついたあだ名が「青森県在住の遊牧民」。ある時から、山口葉月の家に帰ることが減り、代わりにクラスメート1人1人(女子含む)の家に月1ペースで泊まるようになる。おそらくこれが遊牧民と呼ばれる所以だろう。…もはや居候のプロである。

また岩崎は情報収集が大得意で、「どんな天才探偵をも遥かに超える調査能力がある」と噂され、「ゴシップの帝王」「学園最強の情報通」などの異名を持つ。さらに性質の悪いことに誰にでも情報提供をしてしまうが、本人曰く話して結果良くなるかは考えて情報を提供してるらしい。

そして岩崎と言えばよく「すみません、お金を貸してください」と借金しに来ることでも有名。明確な額は定かではないが本人曰く「僕は借金が多い」らしい。またそのお金の使い道は、クラスメートは誰1人として知らない。わかることは、「貸すことができない」と言われればあっさりと引き下がり、借りることが出来たときは「ありがとうございます。誓ってこのお金はみんなの役に立てます」と礼を述べた上でしっかり誓いを立てることくらいだ。

ここまで見てみて、一見嫌われそうな要素満載な岩崎だが、不思議なことに彼の悪い噂が流れたことはない。それは彼が周りの皆に助けられていることを自覚しているからだろう。だから知り合いの誰かが風邪を引いたと知ったときはその人の家に現れて薬を用意したり、看病をしたりする。そんな憎めない性格が悪い噂が流れない理由になっているのかもしれない。

一方恋愛面でも浮いた話がない。決して見た目も悪いわけではないし、性格が悪いわけでもない。考えられる原因は2つ。まず1つは、山口葉月の存在。彼女が岩崎に最も近い異性と言えるだろう。昔からずっと一緒にいるせいか、今さら噂にはならないのかもしれない。もう1つは岩崎本人がそういったことを遠ざけてるのかもしれない。彼は恋をしてしまい、その後手ひどい振られ方をしてしまったというとても苦い過去がある。それがトラウマとなってしまい、以来彼はその手の話から自らを遠ざけているのではないかと思われる。

岩崎は竹内が襲撃される数日前に死体で発見された。時を同じくして、所属する部隊や学校には「伝説のスパイが死んだらしい」という噂が流れたのだった。

 

IS世界的紹介

竹内が発見される3日ほど前にα社の正門近くで倒れているところを発見された。目が覚めた後、社員全員の前で己の真実を語るも、信憑性がないと切り捨てられ、軟禁状態にされる。後に竹内が発見された時に同じ状況であること、説明内容も概ね同じであることを受け、社長及び社員全員から謝罪をされた。その後竹内と同様に、雑用としてα社に住み込みで働くこととなったが、織斑一夏がISを動かした後に行われた全国男性IS適性テストでIS操縦者としての適性があることが判明。以降、彼は雑用からテストパイロットに異動。しかし彼は「どうせ動かせるなら整備も自分で出来る方がいい」とメカニックも志望したため、代田同様テストパイロットとメカニックを兼務することに(代田と違い彼はメカニックを重視)。現在、林と西を師として整備の猛勉強中。

 

筆者補足

彼の性格はドラマCD版55%、ゲーム版45%の割合を目指しています。え?アニメ版はどうしたって?あれは他2つに比べると…性格が違いすぎるので除外!

私が思うに、彼の頭髪が灰色になったのは幼少期の出来事が原因じゃないかと。メディアでは綺麗な銀髪に見えなくもないが、実際は白髪の混じった黒髪だったりして…。

さて、彼はガンパレ世界で「すいません、お金を貸してください」と多くの借金を重ねてきたが、お金を貸すイベントの後で弾薬が補充されていることからみんなから少しずつ借りたお金で弾薬など部隊に必要なものを買っていると思われる。が、その借金は死んでIS世界に世界移動したことで結果的に()()()()()()()()()模様。

不安材料は寮生活になって、居候ができなくなってしまうこと。千冬寮監を相手にしれっと誰かの部屋に泊まりにいくのはさすがに危険すぎるでしょう。

また、ガンパレ世界では借金を理由に恋愛を避けていたこともあったが、上記の通りこの世界では借金はないし、山口葉月の存在もない。過去のトラウマを乗り越え、新たな愛を見つけることは出来るのか…?

え?ソックスハンター?こいつの正体はソックスゴンドワナだ?はて、何のことやら…(すっとぼけー

 

私的名台詞

「はい。誓って僕の力は、みんなの役に立てます、葉月さん」(ドラマCDvol.1 chapter4『デェトの約束』より)

 

半オリキャラのα社員たち

 

紫波勝司(しばしょうじ)

年齢:27歳→37歳(※)

モデル:芝村勝吏

 

α社副社長(実際は社長)

 

概略

竹内と岩崎を異世界人ではないかと仮説を立てた人。そんな異世界人2人に仕事場と寝床を提供した寛容な人物(岩崎を軟禁状態にはしたけど…)。

 

板内沙羅(いたうちさら)

年齢:28歳→38歳(※)

モデル:ウイチタ更紗

 

α社社長(実際は副社長)

 

概略

紫波とはまるで夫婦のような関係。社長とは言いつつも実際の仕事は紫波の補佐などなので正直あまり目立っていない。

 

平智子(ひらともこ)

年齢:24歳

モデル:原素子

 

α社メカニック平班班長

 

概略

整備班の曲者揃いの面々を取りまとめる班長。オンオフの差が激しく、オンの時の彼女はこれ以上無く頼りになる存在なのだが、オフの時の彼女は物凄い勢いで人をからかってくる。

何故か竹内をえらく気に入り、時々セクハラ紛いなスキンシップをとってくる。

…何か図らずも楯無さんに似ちゃった気がする…。(by筆者)

 

林青子(はやしせいこ)

年齢:22歳

モデル:森精華

 

概略

平に憧れてα社に入社。頭に巻いたバンダナがトレードマークのメカニック。

平を除けば整備の腕はNo.1。基本的に対応は素っ気ない。義弟の西と共に岩崎の師となる。

 

西太介(にしたいすけ)

年齢:19歳

モデル:茜大介

 

概略

α社のメカニックで、竹内たちが加わるまでは平班の中では一番下っ端だった。実は林の義弟。義姉の林と共に岩崎の師となる。

 

代田薫(しろたかおる)

年齢:22歳

モデル:田代香織

 

概要

α社のメカニック兼テストパイロット。岩崎とは違って彼女はテストパイロットに重きをおいている。もともと喧嘩に明け暮れていた不良少女。しかし整備の腕を学生時代の先輩である平に買われてα社へ入社。本人は整備に対して消極的だったため、平が「テストパイロットなら仕事を理由に喧嘩ができる」みたいなことを言って唆した結果、テストパイロットも兼務することに。最近は対戦相手(喧嘩相手)がおらず退屈していたが竹内がIS操縦者としてテストパイロットになった後、ときどきスパーリングに付き合わせている。

 

石山田比呂己(いしやまだひろみ)

年齢:不詳

モデル:岩田裕

 

概略

一言で言えば謎の人物。平によれば整備の腕は確からしいが、それを打ち消すように奇行を繰り返し代田に暴力的ツッコミを入れられている。不思議なのは彼の年齢を誰1人として知らないことである。




…本当はCVも入れたかったんだけど禁止事項に引っ掛かると思ったので、ギリギリ踏みとどまりました。実際記入しても大丈夫なのだろうか…?もっとも、半オリキャラ7人は「モデルキャラと同じ」と誤魔化す予定でしたけどww

もし気になる方がいれば、主人公2人はそのままキャラ名を、半オリキャラ7人はモデルとなったキャラ名を検索すれば出てくるかもしれません。今ここで1つだけ言えるのは、ガンパレ・ガンオケに出演する声優さんはなかなか豪華だということ。ついでに私のキャラクターチョイスが激しく微妙であることが露呈するかもwwww


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資料3:登場人物紹介 クラス代表戦編

どーも、鼻づまりで寝付きが更に悪くなっている剣とサターンホワイトです。杉花粉め……何故人類を苦しめるのか………。

…とまぁ、花粉への恨み節は一先ず置いといて、第1章の登場人物紹介です。基本設定がガバガバなので、原作とは異なる部分が多少あるかと思いますが、その時は感想欄にツッコミをズバッと入れておいてください。言い訳をしたり修正したりするかもしれません。


主人公

 

竹内(たけうち)優斗(ゆうと)

 

所属:α社、IS学園1年1組

一人称:基本的には「僕」

 

本作の主人公その1

 

3人の男性IS操縦者の1人。

 

元々は別世界(ガンパレ世界)の人間だが、何故かこの世界(IS世界)に行き着き、IS開発会社"α社"の社員に救われる。

 

空を自由に飛ぶ夢を長らく抱き続けてきたが、ISに出会い、その適性があったことでその夢が叶った。現在は新たな夢を探しつつISの猛勉強中。

 

基本的に温厚で丁寧な物腰だが、敵と見なした者に対しては冷ややかな態度をとることもある。不測の事態が起こると慌てふためいてしまう……という設定を考えていたが筆者の腕がアレなためうまく表現できていない。

 

1年1組に配属され、織斑一夏と知り合い、同室の谷本癒子と仲良くなり、一度は敵対したセシリア・オルコットと紆余曲折を経て友人になるなど、持ち前の人の良さでほどよくクラスに溶け込めている。

 

また数少ない男子生徒と言うこともあり、彼の性格も手伝って女子からの人気もそれなりにあるが、ろくな恋愛経験もモテた過去も無かったせいか、その手の類いの話に疎いところがある。

 

"精霊手(しょうろうしゅ)"と言う不思議な技(曰く「絶技」)が使えるが何故使えるのかは不明。

 

 

岩崎(いわさき)仲俊(なかとし)

 

所属:α社、IS学園1年4組(クラス代表代理)、IS学園生徒会庶務(雑用とも言う)

一人称:基本的に「僕」

 

本作の主人公その2

 

竹内を表主人公とするなら、岩崎は差し詰め裏主人公と言ったところか。

 

3人の男性IS操縦者の1人。

 

竹内と同じく別世界の人間。彼もまた何故かこの世界に行き着き、α社の社員に救われる。

 

竹内とは年齢は違うが戦友であり親友、そして彼の兄貴分。

 

1年4組に配属されたことで更識簪と知り合い、妹の身を案ずる更識楯無と知り合う。

 

話術に長け、楯無をうまい具合に言いくるめて生徒会庶務に就任する。……尤も、上が有能すぎて今は雑用の仕事がないらしい。

 

恋愛話に関しては竹内のように疎いということはなく、人並み程度。そのため、この手の相談をされることが増えてきているらしい。

 

担任の誉田の命令で4組のクラス代表代理でクラス対抗戦に出場。一夏や鈴音と協力し乱入ISの撃破に貢献する。

 

余談だが、何かと不思議な言い回しが多い岩崎だが、特に「うんうん」や「やあやあ」など繰り返し語が彼の口癖で、筆者は「結婚式のスピーチには向かないんじゃ…」とか勝手に思っちゃっている。

 

 

1章からの登場人物

 

織斑(おりむら)千冬(ちふゆ)

 

所属:IS学園1年1組(担任)

年齢:24歳

 

御存知、言わずと知れた史上最強のIS操縦者。正確に言えば彼女は1章からではなく、序章から登場している。

 

自他共に厳しい性格で、当然実弟にも容赦がなく、およそ教師とは思えない言動が目立つ。が、IS学園には彼女を尊敬する者が多いため、反乱の気配はまるでなく、現に1年1組の法律であり絶対的存在。尤も、反乱を起こしたところでものの1時間…否、30分足らずで鎮圧されてしまうのがオチだろう。

 

それでも弟の一夏の事は大事に思ってるようで、彼の初勝利の際は厳しいことを言いつつも内心思いっきり祝福していたとか。

 

ちなみにプライベートは一夏曰く「けっこうズボラ」らしく、寮の自室は足の踏み場もないくらい散らかっていた。

 

 

山田(やまだ)真耶(まや)

 

所属:IS学園1年1組(副担任)

年齢:筆者推定22歳

 

ゆるふわを地で行く副担任。こちらも序章から登場している。余談だが名前が回文になっている。

 

厳しさ一辺倒の千冬とは逆に優しく生徒を見守っている。しかし単に甘いわけではなく言うべきところは言う。

 

元日本代表候補生という肩書きを持つが、ときどき発動してしまうドジと生来のあがり症のせいであまりそうは見られていない。事実、一夏と岩崎の入試の対決の時は壁に激突して自滅してしまうと言うヘマをやらかしてしまっている。現時点(1章終了時点)において1年1組の生徒の中で彼女の実力を知る者はまともに対戦できた竹内だけだろう。

 

 

織斑(おりむら)一夏(いちか)

 

所属:IS学園1年1組(クラス代表)

年齢:15歳

 

お馴染み、原作主人公。彼もまた序章から登場している。

 

本当は藍越学園を受験するはずだったが、不運と偶然が積み重なり、史上初の男性IS操縦者となってしまった。

 

性格は熱い一面も持ち合わせているが基本的には温厚。誰にでも優しく接することができる。その分け隔てない優しさは彼の知らぬ間に女性たちを魅了していく。

 

上記の性格に加えて見た目の良さ、さらに千冬の弟と言うこともあり女性にモテモテで実際何度か告白されたこともある。が、本人はそうは思っていない。所謂、鈍感くんである。「付き合う」も男女の交際のことではなく「買い物に付き合って」と受け取ってしまい、散っていった想いは数知れず。ある人物の言葉を借りることになるが「バカ。トーヘンボク。鈍いうえにお人好しのバカバカバカ」とはよく言ったものである。

 

IS学園に入学するまで姉である千冬が教師をしていることを知らず、彼女が教師であることが馴染めないのか、「千冬姉(ちふゆねえ)」と呼んでは「織斑先生と呼べ!」と返されるのが入学1ヶ月足らずで定番(茶番?)となってしまっている。

 

小学生の頃から幼馴染みの篠ノ之家の剣道場に通い剣道を習っていてその頃は箒より少し強かったらしいが、中学に上がってからは生活費を稼ぐためにアルバイトをしていたため、IS学園で箒と再会したときには剣の腕はすっかり鈍ってしまい彼女を失望させた。

 

筆者曰く「何か妙に不幸キャラになってるような気がする…」らしい…。

 

 

篠ノ之(しののの)(ほうき)

 

所属:IS学園1年1組

年齢:15歳

 

一夏のファースト幼馴染みの剣道少女。千冬を除けば一夏のと関わりが最も深い人物。

 

何を隠そうISの産みの親・篠ノ之束の実妹。一度そのことでクラスメートに問い詰められ、それに対して大声で「あの人は関係ない!」と言ってしまったことにより現在孤立気味。現時点で1組で喋ったことがあるのは一夏、竹内、セシリアのみである。

 

実は小学生時代から一夏に想いを寄せていて、転校で離れることになってもなお想い続けていたという一途なところも。剣道を続けていた理由も「一夏とまた会えるかもしれない」というこれまた一途な理由だが……。

 

しかし肝心なところで素直になれず、それでいて一夏の鈍感な性格も手伝ってその想いは全くと言って良いほど彼には伝わっていない。と言うのも彼女自身割りと短気な性格ですぐに手が出てしまい、酷いときには木刀や竹刀、さらには真剣まで出てくることもあるのでこれじゃあ伝わるものも伝わらない。

 

それどころか一夏への想いが強すぎるがゆえに妙なことを引き起こすことがある。本作でもISの訓練の手始めに行った剣道の手合わせで一夏の鈍りが発覚するや否や剣道の訓練にすり替わり、また謎のIS襲来時も一夏に喝をいれようとピットゲートに駆け付けるも自分がその敵ISに狙われそうになったりとどうにも空回りしている模様。

 

筆者によると一夏ほどではないが彼女も妙に貧乏クジを引かせてしまっている気がするらしい…。

 

 

セシリア・オルコット

 

所属:IS学園1年1組、イギリス代表候補生

年齢:15歳

一人称:「私」と書いて「ワタクシ」と読む

 

イギリスの貴族の少女。入学当初は高飛車な性格で何かにつけてエリートであることを主張していた。

 

本作では語られることはなかったが、過去幼い頃から父親の情けない姿を見てきたため、さらにISの出現に伴う女尊男卑の風潮も手伝い「男=情けない」という認識が刷り込まれてしまった。その認識は一夏に肉薄され、竹内に敗れたことで改められる。

 

それからは誰を見下すこともなくなり、代表候補生として一夏の訓練を手伝ったり、一般生徒の避難を手伝ったりと協力的になる。

 

 

谷本(たにもと)癒子(ゆこ)

 

所属:IS学園1年1組

年齢:15歳

 

竹内のルームメートになった女子生徒。序盤から竹内を応援すると言ったり彼の訓練に協力したりとかなり友好的。

 

しかし1章の後半に差し掛かるにつれて出番が減少してきている。

 

ちなみに何故彼女を竹内のルームメートにしたのかと言うと、単に気紛れというのもあるが、筆者が布仏本音や相川清香が同室になる小説を見たことがあっても、谷本癒子が同室になった小説を見たことがなかったためだとか違うとか。さらにまだ他に理由があるらしい。

 

 

3年生の先輩さん(仮称)

 

所属:IS学園3年

年齢:おそらく17歳

 

一夏と竹内がセシリアと対決すると聞いて、彼らのコーチになろうと近づいてきた。が、箒が「篠ノ之束の妹」であると聞いてスゴスゴと退散していった。後に竹内が箒のコーチを受けてないことを知ると「彼へのアタックは続けてればよかった!」と後悔していたそうだ。

 

筆者曰く、彼女をコーチとするストーリーにしても良かったがそれには良い名前が思い付かず、結局この登場人物紹介でも仮称となってしまっている。

 

 

相川(あいかわ)清香(きよか)

 

所属:IS学園1年1組、ハンドボール部

年齢:15歳

 

竹内や一夏のクラスメートで癒子の親友の1人。竹内とはその癒子を通じて仲良くなる。

 

癒子同様竹内に友好的で彼の訓練にも協力する。ハンドボール部に入ったらしく、またその才があったのか、竹内の訓練に協力した際には彼を怯ませるスローイングを放つ活躍を見せた。

 

 

布仏(のほとけ)本音(ほんね)

 

所属:IS学園1年1組、IS学園生徒会書記

年齢:15歳

 

竹内や一夏のクラスメートで癒子の親友の1人。清香同様、竹内とは癒子を通じて親しくなる。また、生徒会にも所属しており、岩崎とはそこで知り合う。

 

ニックネームを着けて呼ぶのが特徴で、竹内を「タケッチ」と、岩崎を「岩プー」と呼んでいる。

 

本編ではまだ明かされていないが、実は更識家に、とりわけ簪に仕えるメイド。

 

 

誉田(ほんだ)悦子(えつこ)

 

所属:IS学園1年4組(担任)

年齢:30歳

 

1年4組の担任教師。ガンパレード・マーチの本田節子をモデルとした半オリキャラ。

 

割と派手目な格好をしているが実はちょっとお茶目で生徒思い。ギャグを言うのが好きだがセンスがちょっとばかり古いのか、生徒たちにウケた試しがない。しかし自分のギャグに笑わない者がいるとすぐ手に持ったアサルトライフルが火を噴くため正直始末が悪い。

 

筆者が面倒臭がって書いていないため、何故代表候補生である簪に代わって岩崎をクラス対抗戦に代表代理として出場させたかは謎。

 

 

更識(さらしき)(かんざし)

 

所属:IS学園1年4組(クラス代表)、日本代表候補生

年齢:15歳

 

岩崎のクラスメートでルームメート。黙々とモニターと格闘している少女。

 

日本代表候補生だが一夏たち男性IS操縦者の出現により専用機が未完成。姉である楯無と何やら確執があるのか、1人でISを組み立てたとされる姉に対抗し自分も1人で組み上げようとする。そのために無理をしすぎて毎日疲弊して寮の自室に帰ってきていた。見かねた岩崎の説得により無理な作業はしなくなったらしい。

 

 

更識(さらしき)楯無(たてなし)

 

所属:IS学園2年、IS学園生徒会会長、ロシア国家代表

年齢:16歳

 

2年生にして生徒会長。そしてロシアの国家代表。今作本編ではまだ語られていないが、IS学園における生徒会長は学園最強の証。文武両道、才色兼備、この2つの四字熟語がよく似合う人物。それでいて結構気さくな性格で堅苦しい呼び方をされるのはお好みではないご様子。

 

妹の簪のことを可愛がっていたが現在は距離を置かれている。そのため簪を気にするあまり彼女のどこかに盗聴器らしきものを仕掛けてしまうなどストーカー染みたことをしてしまう。ある意味簪が彼女の数少ない弱点の1つと言えるだろう。

 

簪の所属する1年4組の教室に仕掛けられた盗聴マイクのことを問い質すため岩崎に接触。しかし彼の話術に逆に飲まれ、半ば言われるがままに彼を生徒会に引き入れる。

 

 

布仏(のほとけ)(うつほ)

 

所属:IS学園3年、IS学園生徒会会計

年齢:17歳

 

3年生で本音の姉。のほほんとした妹とは違ってキビキビとした生真面目な性格。その生真面目さであっという間に仕事を片付け、雑用にほとんど仕事が回ってこないくらい有能。恐らく現時点において学園の生徒で唯一楯無にまともに意見できる存在。

 

妹と同じく彼女もまた更識家に仕えるメイド。彼女は主に楯無に仕えている。

 

 

(まゆずみ)薫子(かおるこ)

 

所属:IS学園2年、新聞部(副部長)

年齢:16歳

 

一夏のクラス代表就任パーティに乱入してきた新聞部副部長。基本的に我が道を行く。

 

簡単に「テキトーに捏造しとく」と言ったり、レコーダーの予備を忘れたりと「学園内限定とはいえジャーナリストとしてはどうなのか?」と竹内に(脳内で)ツッコまれてしまう。

 

ちなみに初登場の際彼女が言った「賑わうところに我ら在り」は筆者がよくある台詞を適当に取って付けた今作オリジナルのキメ台詞。……こらそこ、センス悪いとか言わない、本人が一番わかってるんだから。

 

 

(ファン)鈴音(リンイン)

 

所属:1年2組(クラス代表)、中国代表候補生

年齢:15歳

 

一夏のセカンド幼馴染のチャイナガール。小学5年から中学2年までの間を共に過ごした。

 

自他共に認めるほどフットワークが軽く、IS学園に来たときもボストンバッグ1つでまとまるほど。

 

転入前夜に道に迷っていたところを、通りかかった岩崎に声をかけて道案内をさせたことで彼と知り合う。

 

実はちゃっかり一夏に告白していたと言う事実が判明、しかしその一夏は別の意味として捉えてしまっていたらしく、つまるところ告白とすら思われていなかった。そのことを岩崎にぶちまけたところ、「そんな遠回しな言い方じゃ彼に伝わるわけがない」と一蹴されてしまう。それ以来相談事は岩崎を頼るようになり、結果として「改めて一夏に()()()()()()()()()()告白をすること」を目標とする。

 

しかし鈴音も箒同様ここ一番で素直になれず、頭に血が上ると口より先に手が出るタイプ。実際今作でも一夏にビンタを見舞ってしまったとのこと。そんな彼女が恥ずかしさを振り払って真正面から一夏に「好き」の二文字言える日は来るのだろうか…。




前書きでは「ツッコミがあれば感想欄に」と書き、修正もするかもしれないと言いましたが、基本的に本作はこの設定でやっていくと思いますのでよろしく。

そしてふとあることに気づいてしまった……。何に気づいたのか?それは私の活動報告「ふと思ったんだが……」をご覧ください。


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序章 異世界転生? α社編
序-1:突然の終劇 さらばヒロイン天国


この小説を書くにあたり、疑問に思ったのは

「ハーメルン利用者のうちガンパレード・オーケストラを知ってる人ってどれだけいるのか?」

自分の稚拙な文章力でも多少なりガンオケに興味を持っていただけるとありがたいなと思います。


時刻は午前2時、ある建物から銃声が響く

 

「ぐぅ…」

 

不意討ちを喰らい苦しむ男…否、少年

 

「…竹内優斗(たけうちゆうと)、貴様は色々と深く知り過ぎた…」

 

銃を持った男が無機質な声で言う

 

「…これ以上探られては我々の作戦に支障が出る」

 

その仲間の男も出てきて竹内優斗と呼ばれた少年に銃を向けながら言う

 

「よって、貴様にはここで死んでもらう、精々天国に逝けるように祈ることだな…」

 

竹内は先程撃たれたことによる痛みと銃を向けられていることによる恐怖で動くことができない

 

バン! バン!

 

2つの銃弾が竹内の頭と心臓に撃ち込まれ、彼は力なくその場に崩れ落ちた

 

謎の二人組は竹内が死んだことを確認すると、もうこの場には用はないと足早に立ち去って行った

 

この後夜が明ける直前になって竹内の死体は発見され、彼の死は知人達に知らされることになる

 

当然、彼が在籍していた第108警護師団、通称ヒロイン天国小隊にもその知らせが届いた。

 

その日の朝のホームルーム。担任教諭の小島空(こじまそら)が悲しげな表情を浮かべている

「…竹内くんが、今朝死体で発見されました。

どうやら、幻獣共生派の卑劣な攻撃に巻き込まれたようです。

司法解剖などがあるので、葬儀の日時は不明です。」

 

普段から真面目で勤勉、遅刻などとは全く無縁であった竹内優斗がまさか遅刻を…などと、噂に満ちていた教室だったがその訃報を聞くと、教室は一瞬の静けさに包まれた後、ざわざわとざわめきだした

 

実は、この数日前にクラスメートの1人、岩崎仲俊(いわさきなかとし)が死んでいるのが発見されたのだ。その傷が癒えぬうちにもう1人仲間を失うことになったのだ。それも、両方とも戦死ではなく事件や事故に巻き込まれての死亡だ。残された者達の悲しみややりきれなさは計り知れない…

 

「みんな、突然の事で辛いのはわかる。岩崎のこともあったしな…。だが、悲しんだって岩崎も竹内も生き返らない。なら、俺たちにできることをやろう。第一に、この戦いでアイツらの分まで生き残るんだ。生き残って、向こうで見てくれているであろうアイツらを安心させるために…それが残された者の務めだ」

 

空の一声で下がりかけてた教室の士気が少し上がった

 

「さ、授業を始めるぞー」

 

こうして一時の非日常はあっという間に日常へと帰していく

 

しかし、これで話は終わりではない

 

むしろこれを引き金に動き出すのだ

 

この()()()()()2()()()()()

 

某所…

 

「先輩大変です、わが社の正門前に人が倒れています」

 

「またなのぉ? まったくなんでわざわざうちの前で倒れるのかしら」

 

「フフフフフフフ…これで二人目。もしかしたら明日の天気は…人間! フハハハハハハハ…ゴファ!?」

 

「馬鹿言ってねぇで、さっさと助けに行くぞ! このままそこで死なれたら、こっちも目覚めが悪くて敵わねぇ…」

 

「…にしても、状況は数日前と全くと言って良いくらい同じ…ただ事じゃないねこりゃあ…」




いきなり死んでしまった主人公その1と、すでに死んでいた主人公その2

しかし、「亡くなった2人と共に」とはどう言う事なのか?

そして最後に現れた5人の正体は? また、彼らの目の前にあらわれたのは果たして…


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序-2:予想外の再起 そして再会

お待たせしました。
続きをようやく書き上げました。

しかし、ISを原作としてあげているのにまだまだIS要素は皆無。機体はおろか、原作キャラもまだ誰も出てきません。

ですが、今後必ず出てきます。

その前に、今回はオリキャラがたくさん出ます。私考案の完全なオリジナルではなく、マーチ出演キャラをもじった(それもかなり簡単で分かりやすいもじり方)という…コホン

苦手な方は申し訳ありませんがブラウザバックをおすすめします。

大丈夫だという方…さぁ、物語へようこそ…


「うわぁ!!」

 

その日、少年は久々に目を覚ました。

 

そこは彼にとっては見知らぬ場所だった。少なくとも自分の部屋にしてはあまりに綺麗すぎる。もっとも、彼の元々の部屋も散らかっている訳ではないが…言うならば、ここはホテルの一室のような感じなのだ。

 

ガチャッ

 

「!!」

 

誰かが入ってきた。

 

「あ、気がついたのね、良かったわ」

 

その人…女性は入ってくるなり目覚めている少年をみてそう声をかけた。状況が全く飲み込めていない少年はその人に尋ねてみることにした。

 

「あの~、ちょっとよろしいですか?」

 

「ん?なぁに?」

 

「すみません、ここは天国ですか?」

 

「…………(ポカーン)」

 

一瞬、空気が死んだ…少なくとも少年の方はそう思った。

 

「す、すみません!冗談が過ぎました!それで、えーと…」

 

「アハハ!もう面白いこと言ってくれちゃって~もうこのこの~♪」

 

言うが早いか、女の人が少年に抱きついてきて頬擦りまでしてきた。

 

「わっ! な、何ですか!?」

 

少年はベッドから逃げる間もなく、女性に捕まってしまい、されるがままな状態になっている。またこの女性、思いの外強く抱き締めているせいで、簡単には引き剥がすことができない。

 

ついでに言えばこの女性、遠目で見てもなかなかの美人だが、近くで見ても物凄い美人なのだ。ある意味、健全な男子ならば普通は喜ぶべきところなのかもしれないが、状況が全く飲み込めず、それどころじゃない。すると、

 

「先輩、そこまでです!彼もビックリして困ってるじゃないですか」

 

バンダナを頭に巻いた女性が入ってきて、少年にすり寄っている女性を引き剥がした。よく見るとバンダナの女性の他に、長い髪の女性が1人、小柄の男性が1人、そしてもう1人、見るからに怪しい人がいた。

 

「ごめんごめん、だって『ここが天国か』って、嬉しいこと言ってくれたんだもん♪ あそうそう、自己紹介もまだだったわね。私は(ひら)智子(ともこ)、ここα社(アルファしゃ)で整備主任と開発を担当してるの。よろしくね竹内(たけうち)優斗(ゆうと)くん!」

 

「はぁ…何で僕の名前を…?」

 

彼…竹内優斗の疑問はもっともである。自分は今さっき目を覚ましたばかりで、さらにさっきまで平にすり寄られていたため、まともに自己紹介などできていないはずである。もちろん、この人たちの中に知り合いはいないし、自分だって有名人ではないはずだ。

 

「ごめんね、竹内くんが眠っている時に君の身元がわかるものを探してて…見つかったのがこの学生証だったの」

 

そう言って平は小さなカードのようなものを見せた。それは間違いなく竹内の学生証だった。

 

「いろいろと気になる点があるんだけど…まぁ、その辺は後で話してもらうとして、まずは自己紹介を済ませちゃいましょ。じゃあ、林さんから1人ずつやっていってね」

 

「はい…改めまして、(はやし)青子(せいこ)です。このα社で機体整備を担当しています」

 

バンダナを頭に巻いた女性は林というらしい。

 

「この子ったら凄いのよ、入社以来どんどん整備の腕をあげて、今や私をも追い越しそうでヒヤヒヤしてるの」

 

「そんな、先輩やめてくださいよ。私なんて平先輩に比べたらまだまだですよぅ…」

 

「んもぅ、そんなに謙遜しなくても良いのに~♪」

 

からかうような口調で林をイジる平。

 

竹内がポカンとしていると

 

「…義姉(ねえ)さん…林は平さんをすごく尊敬してるんだ。だからあぁやって誉められるといっつもこうなる…あと平さんの性格も、オフだったらあんな感じ…」

 

と、小柄の男性がボソボソと教えてくれた。なるほど、それならあの照れ具合も納得がいく。

 

「僕は西(にし)太介(たいすけ)、α社のメカニックで、この中じゃ一番の下っ端だ。あと義姉さんと苗字が違うのは…気にするな」

 

西の苗字について聞こうと思っていた矢先、本人に釘を刺されて出鼻を挫かれたことと、目の威圧感に負けてしまったことにより、竹内は聞こうと思った質問を飲み込んだ。

 

次は、先程からしかめ面をしている長髪の女性だ。女性に言うべきことかはさておき、力強そうな腕をしていて、ガタイも良さそうだ。

 

「あー。代田…代田(しろた)(かおる)。テストパイロット兼メカニックだ…あーあ、強い女でも降ってくればオレの喧嘩相手にでもなったかも知れねえけどな…」

 

あくびを噛み殺しながら彼女…代田薫は自己紹介をした。

 

「代田さんは元々はメカニックとして誘ったんだけど、『それじゃつまらない』って言って乗ってくれなかったの。だから、『テストパイロットも兼任』って言った途端に目の色を変えて食いついてきたの。今じゃほとんどテストパイロットメインで、整備の方はからっきしになっちゃったけどね」

 

そう言ってきたのは先程まで林をからかっていた平だった。思う存分からかい倒したからか、真面目な表情の中にもどこか満足げな様子も伺える。その一方、からかわれていた林はというと…どんなからかわれ方をしたのか、ゼェゼェと最早肩で息をしている。

 

「ケッ…ほっとけ」

 

代田の方はというと、図星を言われて面白くないからか、それともからかいの対象が自分に来るのを躱すためか、そっぽを向いてしまった。

 

そして残る1人…そう、あの物凄く怪しい人物が残っていた。その人は顔に妙な化粧を施し、腰を高速でクネクネさせている。美麗な平とは全く異なる意味で目立っていた。男か女かも判別するのが難しい…竹内はそう思っていた。

 

「…オイ、石山田(いしやまだ)

 

代田が怪しい人物…石山田に声をかけた。

 

「てめぇいつまでそうやって踊ってやがる…とっとと自己紹介を済ませろ」

 

「フフフフ、いよいよ私の番ですね。ようこそ、α社へ…私がこの会社のボスで…ゴフア!?」

 

自己紹介もまだなのに変なことを口走った石山田だったが、その瞬間代田によって思いきり殴られ、壮絶に血を吐き、動かなくなった。

 

「…あの…流石にやりすぎなんじゃないですか…?」

 

一連の流れに圧倒されていた竹内が声を絞り出すようにツッコんだ。

 

「…放っておけ、どうせしばらくしたら復活する…オレは先に行ってるぜ…」

 

代田は気絶した石山田を引き摺ってこの場を後にした。

 

「竹内くんが心配するのもわかるけど、彼ってああいう人なの。だからあんまり気にしないでね」

 

「は、はぁ…それで結局、石山田さんはどういう人なんですか…?」

 

石山田(いしやまだ)比呂己(ひろみ)、α社のメインメカニックの1人。」

 

「腕は間違いなく一級品なんだけど…さっきも見た通り、見た目と性格に物凄い癖があってね…」

 

「一言で言ってしまえば、奴は変態だ」

 

バカと天才は紙一重とはよく言ったものだが…竹内はそう思ったがそれはひとまず置いておくことにした。

 

「あ、そうそう、君が目覚めたら社長たちの前に通すように言われてたの忘れてたわ」

 

平が思い出したかのように言い出した。

 

「歩けるかしら?無理なようなら松葉杖も車イスもあるし…なんなら私が肩を貸してあげるわよ…?」

 

平は冗談めかして言った。竹内は慎重にベッドを降りた。

 

「…!いえ、どうやら自分でしっかり歩けるようです。…せっかく色々と用意してくださったみたいですが、大丈夫です!」

 

「そう?残念…さ、こっちよ」

 

平に案内されるままに一行は社長のいる場所へと向かっていく。しかしその途中…

 

「あ、平さん。そういえば竹内が目覚めたらあいつも連れてくるようにって、言われてましたっけ?」

 

これまた西が思い出したかのように切り出した。

 

「そうだったわね、じゃあそっちは西くん、林さん、彼の方は任せてもいいかしら?」

 

「「はい、わかりました」」

 

二人は声を揃えて別の道へと進んでいった。

 

「あのー、『彼』とは?」

 

事情を全く知らない竹内が平に尋ねた。

 

「竹内くんが発見される数日前に我が社の前に倒れていた男の子のことよ。…そういえば服装が少し似てるわね…まぁいいわ。さ、ここよ」

 

そうこうしているうちに社長のいる部屋の前についたようだ。

 

「さっきも言ったけど、君の事について気になることがたくさんあるんだけど、それは社長たちも同じはずだから、そこでいろいろ吐いてもらうわよ♪」

 

「は、はぁ…」

 

結局最後まで平にからかわれっぱなしの竹内だった。

 

「平です、社長。竹内くんが目を覚ましたので連れて参りました」

 

「ご苦労、お前も此奴の話が気になるならこの部屋で待機せよ」

 

「ハッ」

 

扉が開き前に進むと、奥の方にいかにも偉そうな人が2名いた。1人は強面で大柄の男性、もう1人は仕事のできそうな女性だった。ちなみに脇の方には先に来ていたと思われる代田と石山田(いつの間にか復活していた)がいた。…石山田は性懲りもせず腰をくねらせている。その様子に代田は完全にあきれ果てて、ツッコミを入れる気も失せたようだ。平は頭を下げると、代田たちの横に並んだ。

 

「目覚めてすぐだと言うのに来てもらって申し訳ない。俺はこのα社の長、紫波(しば)だ」

 

「副社長の板内(いたうち)です。お体の方はもう大丈夫ですか?」

 

「はい、もう大丈夫です。…もうご存知かと思いますが、竹内優斗です。この度は見ず知らずの自分を助けていただき本当にありがとうございます」

 

「なに、当たり前の事をしたまでの話…礼には及ばぬ」

 

それぞれ、三者三様のあいさつを済ます。すると、

 

「西です、社長。????を連れて参りました。」

 

西と林が到着したようだ。しかし、扉を挟んでいるせいか、誰を連れてきたのか、竹内には聞き取れなかった。

 

「ご苦労、通せ。お前たちも脇に下がっておれ」

 

「「ハッ」」

 

扉が開き、西、林、そして二人に連れてこられた男が入ってきた。灰色の髪、竹内とそんなに変わらない背格好、そして何より竹内とほぼ同じ服装…竹内はこの人物を知っていた。同時に、相手の男も竹内のことを知っていたらしく、目を見開き、竹内の名を呼んだ。

 

「た…竹内くん…?」

 

そして竹内も大層驚き、その男の名を呼んだ。

 

「い…い…岩崎(いわさき)くん!?」




思わぬ再会を果たした竹内と岩崎。

お互いが知り合いであることを知った紫波社長は2人にこの世界の情勢を教え、さらにある提案を持ちかける。その提案とは何なのか…?
そんな中、世界を驚愕させる事件が起きる!


そんなわけでどうも、剣とサターンホワイト(自称)です。予想以上に長くなってしまいました、そして文章もめちゃくちゃ、尚且意味不明…時間がかかった上にこの出来って…(汗)

実は冒頭に少年(竹内)の独白がつらつらと続いていたわけですが、何を言いたいのか(言わせたいのか)さっぱりパーになってしまったので、バッサリカットしましたw

一応予定では次回、原作キャラを出そうと思っているのですが…出番がわずかになるかも…

また、今回で現時点私が考えていた非原作キャラは全員出たので、次回に入る前にキャラ紹介を挟むかもしれません。

しかしそれがいつになるのか、私にもわからない…下手したら年が明けるかもわからない…

でも、まだまだ投げ出したりはしません。ペースは激遅ですが、なんとか次回も書き上げていきたいと思います。


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序-3:僕たちは異世界人!? すべてが動き始める珍事

お待たせ致しました。

今回もまた執筆に手こずり、アイディアが浮かんでは消えを繰り返し、気がつけば前回投稿より1ヶ月を軽く超えてしまっていると言う…。何とか年内に投稿できただけマシと言うことにしましょう…。

また作者の超個人的都合によりキャラ紹介回が後回しになってしまいました、申し訳ありません。次回以降の投稿になります。

そしてようやく原作主人公が(名前だけ)登場。…本格的な登場はこれまた先の話になるでしょう…。

それでは、心の準備はいかがでしょうか?少しでも苦手意識を感じられた場合は直ちにブラウザバックをすることをおすすめします。

大丈夫だという方…ようこそ、我が作りし物語へ…


竹内優斗(たけうちゆうと)岩崎仲俊(いわさきなかとし)。2人は年齢は違うが、戦友であり親友だった。岩崎が仕事をサボる宣言をすれば、ほとんどの場合竹内が代わりに仕事を片付ける。竹内が天然回答をすれば、これもほとんどの場合は岩崎がゆる~くツッコミをいれる。そして何より戦場に出れば、互いに背中を預けられる存在。そんな間柄だった。…後者2つはともかく、最初のはそれでいいのか竹内よ…。

 

岩崎が死んだことは竹内に大きなショックを与えた。どんな事件・事故に巻き込まれたのか、その詳細が語られることは一度たりともなかった。あまりにも謎の多い親友の急死にモヤモヤを抱えたままの日々を過ごしていた竹内だったがある日、小隊長から「上層部の不正を調べている」という話を聞く。岩崎の死の真相に近付けるかもしれないと思った竹内はこの件の調査を買って出る。調査1日目でかなりの情報をつかんだ竹内だったが、数日後の調査中に謎の二人組に遭遇、その後の展開はご存知のことだろう(序-1参照)。

 

そして話の舞台はα社の応接室に戻る。竹内優斗と岩崎仲俊。お互いもう会えないものだと思っていた親友に、今こうして再会できたのだ。再会できた喜び、なぜここにいるのかという疑問、その他様々な感情が複雑に入り交じる。

 

「な、何で岩崎くんがここに!?死んだって聞いてたのに…」

 

竹内が先に我に返り、最大の疑問を投げかける。

 

「う、うんうん…実はよくわからないんだ。林さんたちの話によると…α社正門前で意識不明になっていたらしいんだ……そういう竹内くんこそ、どうしてここにいるんだい?」

 

岩崎が大まかな説明をしたあと、同じ疑問を竹内に返した。

 

「実は…岩崎くんが死んだってなったあとに僕も死んじゃって…って思ってたんだけど、僕はさっきこの建物の中で目が覚めて…」

 

竹内も大まかな説明をした。

 

結局お互いにわかったことは、共に死んだと思ったら生きていたこと、今は何ら問題なく動けること、気がついたらα社にいたこと、この3つだ。

 

「ふむ、やはりお前たちは知り合いだったか」

 

今までのやり取りを見ていた紫波(しば)が確信したかのように声をかけた。周りにいた平や他の社員たちもどこか納得した表情だ。

 

「まずはお前たちに聞きたいことがある。お前たちの素性を知るためにいろいろと探らせてもらったことはすでに聞いただろう。その上で尋ねるが…お前たち、所属はどこだ?」

 

「…?青森邪麻田(あおもりやまだ)中学高等学校ですが…」

 

「僕も同じ学校です」

 

紫波の質問に竹内と岩崎は答えた。

 

「青森邪麻田中学高等学校…?似たような名前の学校ならあるが、そんな学校はない」

 

紫波の一言に竹内は驚いた。

 

「そんな!?何で!?だって…」

 

「まぁまぁ竹内くん、落ち着いて落ち着いて」

 

岩崎が慌てふためく竹内をなだめる。

 

「…まぁいい、次の質問だ。お前たちは…その…青森邪麻田…?そこで、何をしていた?」

 

「僕たちは青森で学兵をしていました」

 

竹内が何の躊躇いもなく答えた。

 

「学兵だと?」

 

聞き慣れない単語に紫波が尋ねた。

 

「はい、学籍のまま兵士…僕たちはこう見えても、陸軍の軍人です。僕たちの学生証を見たのでしょう?そのことも載っていたはずですが…?」

 

岩崎の発した言葉に周りがざわついた。先ほど紫波が言った通り、竹内と岩崎の素性はα社の社員全員に知れ渡っているが、まさか本当に軍人であると、それも自らの口からはっきりと断言されるとは誰も思っていなかったようだ。

 

「確かに軍所属であるとは書いてあったが、本人の口から確認しておきたかったのでな…少し興味が沸いてきた、もう少し話を聞かせてもらおうか」

 

竹内と岩崎は語り始めた。何と戦っていたのか、何故戦っていたのか(両方とも資料1を参照)、そして自分たちの最期を…。

 

「僕は謎の二人組に銃で撃たれて力尽きて…次に意識を取り戻したのがさっきまでいた部屋でした」

 

「僕も大体似た感じですね。竹内くんと違うところは僕の場合、相手が何人いたか確認する前に意識を失った…ほぼ即死ってところですかね」

 

「そうか…」

 

紫波は2人の話を聞きながら実に荒唐無稽な話だと思った。

 

何をバカなことを、この国は太平洋戦争に敗れたし、黒い月も見たこともない、ましてや幻獣とか言う未知の生命体など今の今まで聞いたこともない。

 

しかしそれと同時に紫波の脳裏に1つの仮説が浮上した。はっきり言ってそれこそ荒唐無稽な話だが、もしその仮説が正しければ大体の辻褄が合うことになる。

 

「…これは今までのお前たちの話を聞いていて浮上した仮説だが、お前たち2人はこことは別の世界から来た異世界人…あるいは転生者ではないか?」

 

「え?」

 

「どういうことでしょうか?」

 

2人が尋ねた。

 

「所謂平行世界というやつだ。まずお前たちのいたとされる学校がない…これはさっき言ったな。次にお前たちと戦っているという幻獣とかいう生命体、そんなものは少なくとも今まで出たという証言もニュースもない。そして次…お前たち、窓の外を見てみろ。窓の近くにいるやつは窓を開けて場所を空けてやれ。これは実際に見てもらった方が早い…」

 

竹内と岩崎は言われた通り窓に近付き外を見た。確かに街を見ると、幻獣と戦いがあったようには見えない。ふと竹内が空を見た。どんな世界でも、青空は変わらない…と思っていたが次第に妙な違和感を感じた。岩崎も同じことを考えていたのか、空を見上げて顔をしかめた。

 

空にあるものは太陽、雲…そしてたまに飛び交う鳥や航空機。大抵はこんなものだろう。だが異世界人(仮)である2人には何かが足りなかった。そして竹内はそれに気付いた。

 

「黒い月がない…!」

 

その声を聞いて岩崎も黒い月を探してみるが、結局見つけることはできなかった。ちなみに方角が間違っているということもなく、現に2人にはその位置から太陽が確認できる。

 

「気が付いたか…そう、竹内が言った通りこの世界にはお前たちの話に出た黒い月というものはない。今は沈んでいて見えないだけだと思うかもしれないが、少なくともここにいる人間は今まで一度も見たことがないとのことだ」

 

紫波の説明が終わると異世界人(仮)の2人は無言のまま窓を閉じた。

 

「お前たちの話では別の世界(所謂ガンパレード世界)で死んだ、だが何故かこちらの世界(所謂IS世界)で目を覚まし、しかも五体満足でケガ1つなく存在する。目覚めるまでの記憶もはっきりしている。そこで俺はお前たちが異世界人、又は転生者だという仮説をたてた。尤も、原因や原理など詳しいことはわからんがな…」

 

なるほど、そう言われればそうかもしれない…。自らの生存の謎を抱える2人は紫波の仮説に賛同した。尤もこれ以外の説が出てこなかったこともあるが…。

 

「それでは、今度はこちらの情勢を話すとしよう…」

 

紫波が続けて語り始めた。この世界は"インフィニット・ストラトス"、通称"IS"と呼ばれる世界最強の兵器が開発され、大流行していること。元々宇宙空間での活動を想定されたものであるが、開発者の意図に反して兵器的な運用が主となってしまっていることも語られた。

 

また、このISには"女性にしか動かすことができない"という致命的な欠点があるために、女尊男卑の社会を作り上げてしまったこと。このα社も紫波が実質的な社長であるが、公には板内が社長ということにされている。

 

そして、このα社もIS開発の一端を担う会社であること。先ほど竹内に自己紹介をした平たち5人のメカニックもISの開発にとどまらず、修理・改造も請け負っているという。

 

「とまぁ、こことこの世界の情勢はこういったところだ…さてお前たち、無事回復した直後でこんなことを言うのは少しばかり気が引けるが…この後行く宛はあるのか?」

 

そう。紫波がこの事を気にするのも当然である。竹内も岩崎も、この世界では天涯孤独と同じ状態。さすれば行き着く答えは当然…

 

「ん~…ないですね」

 

「あ…僕もない…です…どうしよう…」

 

…となるわけである。岩崎は淡々と、竹内はまずいことを思い出したようにそう言った。

 

「そうだろうな…そこで、俺から今後のことについて提案がある」

 

「「??」」

 

「その前に岩崎、先日の非礼を詫びよう、申し訳なかった」

 

紫波が頭を下げた。それに倣って隣にいる板内を筆頭に社員全員が頭を下げた。

 

実はこの数日前…岩崎が目を覚ました日、今この時と同じようにα社社員全員の前で聞き取り尋問が行われたのだが、あまりに突飛な話で誰も聞き入れなかったのだ。

 

「そこで…まぁなんだ、その詫びの意味も兼ねてだが…ここで住み込みで働くと言うのはどうだ?もちろん無理にとは言わぬ。だがここに残るというのであれば今後の支援は約束しよう…当然多少の雑用はやってもらうが…悪い話ではなかろう?」

 

この申し出に2人は一瞬戸惑った。しかし、ここまでいろいろ面倒を見てもらったのに何のお返しもなくここを立ち去ると言うのはあまりにも無礼だろう。そう思うとすぐに答えが出た。

 

「わかりました。皆さんの助けになれるように頑張ります」

 

「機械の整備なら多少の知識がありますし…これからまたお世話になります」

 

「…決まりだな」

 

紫波がニヤリと笑った。すると今度は平たちの方を向き、指示を出した。

 

「平班、改めてこの2人の世話係に任命する。こやつらが何か困っていたら教えてやれ…いいな?」

 

「承知しました」

 

平は快く引き受け、他4名も承諾した。

 

「では事情聴取はこれにて終了、各々持ち場へ戻れ。竹内と岩崎は平たちについて行って指示通りに動け、お前たちは仕事を覚えることが仕事だ!」

 

この一言でこの場は解散、竹内と岩崎はここα社で雑用として新たな生活をスタートさせるのであった。

 

 

そして話は飛んで数週間後…

 

まだわずかにぎこちない部分はあるが、竹内と岩崎は雑用の仕事を難なくこなせるようになってきた。清掃業務は言うに及ばず、整備道具の整理整頓、その他諸々。

 

ちょうど仕事に慣れてきたそんなとき、2人の運命が大きく変わる出来事が起きる。

 

この日も雑用の仕事をこなす竹内と岩崎。上司となった平たちも竹内たちの面倒をしっかりと見てくれている。それに応えようと、2人もどんどん仕事を覚えて平たちを手助けする。

 

竹内は仕事に精出しながら前にいた世界ではそれほど味わえなかった平和というものを噛み締めていた。

 

一方その頃、とある街の多目的ホールでは異様な空気が立ち込めていた。そこはこの日、ある学園が試験会場としている部屋なのだが、そこにはこの場にいる試験官全員が目を疑う光景があった。

 

「な…そんな…何で男がISを…」

 

試験官の注目を集めるのは1人の受験生。その受験生はISを身に纏っていた。

 

…これが女性なら何ら問題はない…そう、女性ならば。しかし、目の前にいる受験生は誰がどう見ても男性だった。

 

彼の所持品の鞄を見る限り、その受験生の名は"織斑一夏(おりむらいちか)"というらしい…。




突如現れた男性IS操縦者。これを機に"第2の織斑一夏"を見つけるべく、世界中で男性IS適正テストが行われることに。それはもちろん、竹内たちのいるα社でも実施されることに。α社に適正者はいるのか?


はいどうも、剣とサターンホワイトです。…一応言っておきますが元阪神のサターホワイト投手とは無関係です。え、誰もそんなこと聞いてない?ソウッスカ…

長くなりました…今回の話も、前回の投稿からも…。んでもってまたしても文章がぐちゃぐちゃ、毎度お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません。

さて次回こそはキャラ紹介回を…とも思うのですが章の終わりにまとめてやっちまおうとも思っている私もいるわけで…今言えることは次回以降の投稿になるということ、それだけです。

それではまた次回に…


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序-4:第2の織斑一夏を見つけ出せ! …って、あれ?

前話と前々話が長かったんじゃない。資料1と序-1が短かっただけで、これくらいがこの物語じゃ適量だったんだ…。

えー読者の皆様、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

はい、4話+資料1つ書いてようやくこの小説の適量が見えてきました。これからほとんどの場合はこれくらいの文字数になると思われます。…相変わらず読みにくい出来になっていると思われますが…

それは置いといて序章4話、始まります

わずかでも苦手意識を感じた場合、早急にブラウザバックすることをおすすめします

ようこそ、我が世界へ…

※あとで読み返した際に、設定的な矛盾を発見したため修正しました(1/22)


「へぇ~…『世界初の男性IS操縦者現れる』ねぇ…」

 

織斑一夏(おりむらいちか)がISを動かしてしまったその日の夜、仕事終わりの竹内優斗(たけうちゆうと)は自分にあてがわれた部屋で岩崎仲俊(いわさきなかとし)と共にこの日のニュースを見ていた。この部屋、普通に生活するのに必要なものは大方揃っていて、テレビももちろん備え付けてある。この日は岩崎が今日の成果や明日の確認、あるいはテレビでも見ながら世間話その他諸々をしようと竹内の部屋を訪ねた次第である(注:ちなみに岩崎の部屋にももちろんテレビやその他必要なものは揃っている)。しかし今日はどのチャンネルも織斑一夏のIS起動騒動を取り扱っている。それほど、男性がISを動かしたことが世界を驚かせたということであり、今や織斑一夏はちょっとした有名人である。

 

「しかしまぁこの織斑一夏って人も大変だね。聞けば彼、藍越学園を受験するはずだったらしいけど間違ってIS学園の試験会場に入っちゃって、んでもって誤ってそこにあったISに触れたら動かした…要は不運と偶然が積み重なって引き起こされたようなものだよ。それにしても、どうして織斑くんは会場を間違えたんだろうね」

 

まず岩崎の疑問に答えると、織斑一夏は受験日であるこの日に限って、まさかの寝坊をしてしまったのである。その後どうにか市立ホールにたどり着いたが、今度は藍越学園の試験会場を探し出さなければならない。しかしこの広いホールで目的の一部屋を見つけるのに一夏には時間が足りなかった。そこで彼は「次に入った部屋が大体正解の部屋だ!」という所謂当てずっぽう作戦を使い、近くにあった扉を開いた。これが大きな間違いだった。一夏が扉を潜り抜けた先にあったのは、目的の"藍越(AIE"T"SU)学園"ではなく、"IS(AIESU)学園"…世界唯一のISに関する教育機関だったのだ。

 

…というのが真実なのだが、これを知るはずもない竹内は「さぁ…」と首を捻ることしかできない。

 

『なお、政府はこの事態を受け数日以内、早くて明後日にも男性IS適性テストを各都道府県で行うことを明言しました』

 

ニュースキャスターが最後に適性テストのことを伝え、次のニュースに移った。

 

「このIS適性テストって僕たちも受けるんですかね?」

 

竹内がやや興奮したように尋ねた。

 

「うーん…僕は出来ることなら受けたくはないけど…そうもいかないだろうなぁ」

 

対して岩崎は気乗りしないのか、どこか落胆したように返した。

 

この2人の反応の違いには理由があった。まず岩崎の落胆の理由は、彼がかなりの平和主義者であることにある。元来暴力を嫌う性格である岩崎は前にいた世界でも戦闘班(ラインオフィサー)ではなく整備班(テクノオフィサー)に回された。もっとも戦時中で戦闘班に欠員が出ることもあったため、ピンチヒッターとして戦闘に加わることはあったが、それでも両手で数えられるほどの回数しかない。それくらい戦うことには消極的なのである。さらに今はISを取り扱うα社で雑用をしている。当然ISの危険性や破壊力、そんな情報も耳に入ってくる。もし自分が適性者だったら、この平和を手放さなければならないかもしれない…岩崎はそう思っている。

 

一方、竹内も平和主義者であることは変わり無い。彼も上司である(ひら)西(にし)からISの危険性その他諸々はしっかり聞いている。それに勝る興奮の理由は、ISの持つ飛行能力にある。

この竹内優斗という男、夢は航空パイロットとなって空を飛ぶことであり、実際これまでも翼のあるもの(例:紙飛行機やラジコン飛行機など)なら自由に操っていた。自分の大きな夢を叶えるために飛行学校を経て航空軍に入ることを志していた。しかし、戦時中ということもあり燃料は貴重品、さらに国内の石油工場での製造も追い付かない状態である。これでは軍を動かすことも難しく、大半の学生に航空軍入りを諦めさせるしかなかった。竹内も泣く泣く航空軍入隊を断念、陸軍の『第108警護師団第3連隊第2大隊第4中隊第1小隊』、通称:3241ヒロイン天国小隊に配属されたのだった。陸軍、ひいてはヒロイン天国にも一応航空機…ヘリコプターはあったが、死亡のリスクが高いと搭乗を制限され、ここでも空への夢を断たれることになった。その後竹内は飛行学校入学のために身に付けた機体整備の知識を見込まれて、岩崎同様整備班へと回された。大空への夢路を閉ざされたことは悔しかったが、それで自分の仕事を疎かにして良い理由にはならない。竹内はその悔しさを拭い去るように仕事に打ち込んだ。しかしどれだけ整備や訓練に打ち込んでも、出撃不能の戦闘員に代わって戦場に出て多くの敵を撃破しても、やっぱり空を飛ぶ夢を消し去ることは出来なかった。そして月日が流れ、いろいろあってこのIS世界へ迷い込み、ISの存在を知った。しかしそれと同時に、女性にしか動かせないということも知り、またしても空が遠のいたと思った。その矢先に今回のIS騒動、さらには今後実施される男性IS適性テスト。竹内にとってはまたとない大チャンス。彼は「もし自分に適性があった場合、本格的にISの勉強を始めるのもいいだろう」と考えている。

 

翌日、竹内と岩崎は仕事の合間に適性テストの情報収集を始めることにした。まずは実施日。これは朝礼の時に紫波(しば)から話があった。

 

「先日、男子中学生がISを起動したというニュースは知ってるな。その一件により男性IS適性テストが全国で行われる。IS委員会からの連絡によると、我が社では明後日の午後に実施される。男性社員はその事を頭に入れておけ。いいな」

 

次にテスト内容。これは女性に聞くしかない。竹内は平に話を伺うことにした。

 

「平さん、少し聞きたい事があるのですが…」

 

「ん?私に?良いわよ、何かしら?」

 

余談だが平は何故か竹内をやけに気に入ったらしく、話し掛けられた時など他の人にくらべて妙に反応が良い。

 

「ISの適性テストっていったいどういったことをやるんですか?」

 

「適性テスト?そうね…シミュレーターで自分がどういった戦闘タイプが向いているかを調べるテストだけど…ん~今回は男の人がISを動かせるかどうかが焦点になる訳だから、今はそんなに身構える必要はないんじゃないかしら?」

 

「なるほど…メモメモ…じゃあ、僕たちが用意するものは何かありますか?」

 

そして必要な持ち物。忘れ物をして受けられないなんて事になってはあとが大変だ。竹内は真剣な顔でメモを取ろうとしている。しかし…

 

「そうね、今回は特にないかな。あってもそれは会社の方で用意するものだったり向こうの方で用意してくれるものだったりするから、キミたちはその身1つあればOKよ♪」

 

用意するものはない。そう聞いて力が抜けたのか、竹内は少しよろけてズッコケる仕草を見せた。

 

「…わ、わかりました。ありがとうございます」

 

体勢を立て直し、深々と頭を下げ礼を言った竹内は持ち場に戻った。

 

「ん、また分からないことがあったらいつでも来てね。おねーさんがまた色々教えてあげる。ふふっ♪ …なんちゃって」

 

平のからかうような一言が聞こえ、竹内がまたズッコケそうになった。

 

一方、竹内が平に弄ばれていたちょうどその頃、岩崎も(はやし)に同じようなことを尋ねていた。そしてその答えはほぼ平が答えたものと同じ内容だった。違いと言えば、平のようにからかうような言い回しではなく、生真面目な林の性格が伺えるキビキビした受け答えというところくらいだろう。こうして異世界人2名は適性テストの情報を手に入れ、気持ちをそこへ向けるのであった。

 

そしてテスト当日…

 

「それではα社男性IS適正テストを行います。男性社員、及び紫波副社長は順にこのIS・打鉄に触れてもらいます。なお、時間短縮のために3人ずつ受けてもらいます」

 

試験官らしき人物がテスト方法を説明している。しかし内心彼女は「ISなんて男が動かせるはずもないのに…面倒臭い…」と思っている。所謂、女尊男卑思考に染まったIS絶対主義者である。もっともこういう考え方の人が多いのがこの世界の常、α社にそういう人が少なかっただけのことである。

 

「ではまず紫波勝司(しょうじ)副社長、石山田(いしやまだ)比呂己(ひろみ)、西太介(たいすけ)、以上3名は前へ」

 

最初は竹内と岩崎にとってかなり近い3人が呼ばれた。各々自分の目の前に鎮座する打鉄に手をのばす。しかし…

 

「…反応なし、次!」

 

過去に数回ISに触れたことがあるこの3人、そのいずれもISは無反応だった。今まで反応がなかったものが突然動くようになるはずもなく、3人は敢えなく適性なしとなった。しかしこうなることが分かっていたのか、3人とも「まぁ、こんなもんだろ」といった表情を浮かべて下がっていった。

 

この後も男性社員の適性テストは続くが、適性者は1人も現れず。とうとう残るは竹内と岩崎の2人のみ。

 

「竹内優斗、岩崎仲俊、以上2名は前へ」

 

緊張した面持ちで打鉄の前に出る2人。そして一呼吸おいてそれぞれ目の前にある打鉄に手をかざした。すると、今まで見てきたものとは違う現象が起きた。

 

かつて味わったことのない不思議な感覚。続いて頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。

 

「(えっ? 何? 何!?)」

 

「(……………)」

 

予想外の事態に内心冷や汗ダラダラの竹内に、何やら悟ったような表情を浮かべる岩崎。すると打鉄が強く発光したので、2人は思わず目を閉じた。

 

しばらくしてから竹内が目を開けると、打鉄は目の前から姿を消していた。

 

「(あれ?)」

 

代わりにかざしていた手には籠手と言うべきか、装甲というべきか…いずれにせよ、そこには鋼鉄が纏われていた。そして改めて己の身体を見てみると、手だけでなく脚や胴体にも纏ってある。「共にテストを受けているはずの岩崎くんは?」ふとそんなことを思った竹内は岩崎のいる方を見た。ちょうど同じことを考えていたのか、岩崎も竹内の方を見ていた。しかしその姿はまるで自分と変わらない。岩崎も竹内と同じような装甲を纏っていた。どうやら頭にもヘッドセットらしきものが着いている。

 

「(これってつまり…)」

「(…動かしちゃったってことだろうなぁ)」

 

この時やっと竹内と岩崎は、自分たちがISを起動させ、身に纏っていることを理解したのだった。




てんやわんやの最中、1人の試験官がとある人物に連絡をする。

「そうだ、あの人に連絡を…!」

またIS適性者となった竹内と岩崎も男性適性者である織斑一夏同様、世間に報道されて一躍時の人となる。

「フッ、全くお前たちに驚かされたのはこれで何度目だろうな…」

そんな2人に更なる転機が訪れる。

「お前たち2人には、IS学園に入学してもらう」

続く

オッス、オラ、剣サタ(略称)

2017年初の投稿となります。が、今年も私の文章力の向上は望めないでしょう。

が、構うものか、私は我が道を進むのみ。

一先ず次で序章は終わりになるという風に考えています。句切りがついたら皆さんお待ちかね(?)の登場人物紹介をしようと思います。

では次の話で


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序-5:まさに追い打ち 転機に次ぐ転機

前回、中途半端なところで話を切ったために、今回の話を書くのに手こずって、今投稿するまでに1ヶ月以上かけた愚か者は、どこのどいつだ~い?…私だよ!!(古ッ←

………

はい、またまたお待たせしました。序章:α社編の最終話です。

いよいよ始まります、気分を害されても自己責任でお願いします。その前にブラウザバックを。

大丈夫だという方。毎度ありがとうございます。

ようこそ、我が物語へ。


男性IS適性テストが行われているα社の大広間。ちょうど今、被験者最終組である竹内優斗(たけうちゆうと)岩崎(いわさき)仲俊(なかとし)両名のテストの真っ最中。のはずだが、彼らがIS・打鉄に触れその身に纏った後、訪れたのは沈黙だった。男がISを起動させると言う、この世界ではあまりに現実離れしたその光景に、この場にいるすべての人間が言葉を失ったようだ。その沈黙が場を支配して数秒後、今度は堰を切ったように慌ただしくなった。

 

「…ハッ!? い、板内(いたうち)社長! この2人がISに触れたことは!?」

 

「い、いえ…少なくとも私の前では…教育係の平班!この2人にISを触らせたことは!?」

 

「いえ、この2人には工具や部品の管理を主にやってもらっていたのでISそのものに触れる機会はなかったはずです。みんな、この2人にISを触るように唆したことはある?」

 

「ねぇな」

 

「ないね」

 

「ありません」

 

「フフフフフ、以下同文ですゥゥゥ」

 

…何やら責任の擦り付け合いのような構図になってるが気にしてはいけない。

 

「! そうだ、あの人に連絡しなくては…!」

 

1人の試験官が端末を取り出し、どこかと連絡を取っている。一方渦中の2人、竹内と岩崎は纏ったISの解除方法がわからず、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「…はい…それで…えーと…はい…わかりました、少々お待ちください」

 

試験官は一度話を切って通信機を置き、竹内たちの方に振り返った。

 

「適性者2名、あなた方の今後に関することです。こちらへ」

 

竹内と岩崎は試験官の指示に従い、指定された場所に座った。そこにはモニターやらインカムが用意されており、2人はインカムを装着するようにと指示を受けた。ついでにそこでISの解除方法を教えてもらい、やっと2人は身軽になった。

 

「モニター入れます」

 

試験官がモニターの電源を入れる。竹内と岩崎はインカムを装着し、モニターに何かが映るのを待っている。やがてモニターに1人の女性が映し出された。

 

『なるほど、君たちが新たな男性IS操縦者か』

 

その女性は2人を見据えてこう言った。…どうやら今女性が映し出されているこのモニターは言わばテレビ電話の映像出力装置のようだ。

 

「はぁ…まぁそうですけれど、あなたは?」

 

竹内が受け答え、モニターに映る女性に尋ね返す。

 

『……私は織斑千冬(おりむらちふゆ)、IS学園で教師をしている』

 

「IS学園?…それに織斑千冬って…(しかもこの声…)」

 

竹内と岩崎はα社の雑用という仕事をするにあたり、仕事の合間を縫ってIS世界の歴史や世界情勢の勉強もしていた。歴史とはいっても第二次世界大戦途中まではほぼ同じ内容であったため、現代史に近いようなものだ。

 

もちろん、ISの勉強を進めていけば"織斑千冬"という名前は必ず出てくる。もっとも、写真などは載っていなかったので竹内たちは千冬の顔を知らなかった。そんな有名人が今、目の前のモニターに映っているため竹内は戸惑っているのだ。

 

さらに竹内を長考に誘ったのは千冬の声である。竹内が千冬のことについて知っているのは、その名前と彼女の打ち立てた偉業"第1回IS世界大会の優勝者"ということだけである。逆に言えば、それだけしか知らない。すなわち、竹内は千冬の声を知っているはずがない。そういうことになる。しかし、竹内はこの声に何故か聞き覚えがあった。※1:後書き参照

 

「(どこで聞いた?いや、少なくともこの人の声は初めて聞いた。ならこの違和感は?)」

 

竹内が思考の渦に呑まれかけたその時、

 

「うんうん、電話中だから考え事ならあとにした方がいいよ竹内くん。…失礼しました、僕は岩崎仲俊と申します」

 

岩崎が竹内の肩を叩き、現実に引き戻した。

 

「じ、自分は竹内優斗です。それで、僕たちの今後に関わる話とお聞きしたのですが、それはどういうことですか?」

 

岩崎に倣って竹内も自己紹介をして、千冬に話の続きを促した。

 

「その前に1つ聞きたいことがある。君たちの年齢は?」

 

「15歳ですけど…?」

 

「僕は16歳です」

 

「ふむ、ならばちょうど良い…単刀直入に言おう、君たち2人にはIS学園に入ってもらう」

 

「IS学園に…ですか?」

 

「フム…ちなみに、もし断った場合はどうなるのでしょうか?」

 

岩崎が尋ねた。

 

「君たちもIS会社に所属している身なら知っていると思うが、ISは本来女性にしか動かせない代物だ。世界最強の兵器の唯一にして致命的な欠陥部分と言われている。それを男である君たちが動かしてしまったのだ。欠陥解消のための実験ネズミにされるのがオチ…最悪の場合、生きたまま解剖されるかもわからんな…」

 

「「…!?」」

 

「しかしIS学園に入れば、そういう輩から君たちを守ることが出来る。…もう一度言う、IS学園に入学するならば君たちの身の安全は保証しよう」

 

竹内と岩崎はほぼ同時に頭を抱えた。まさかこんなことになるとは…と。特に竹内は数日前このテストに臨むにあたりワクワクしていた自分の考えの甘さを呪っていた。しかし、事の重大さを理解しても、やっぱり自分の夢に嘘をつけない自分もいることも事実。彼は悩みに悩んで答えを出した。

 

「わかりました、自分をIS学園に入れてください」

 

「…強迫するような形になってしまって申し訳ない…それで岩崎くんはどうする?」

 

一方岩崎はもう一度この世界について考えていた。

 

――この世界は平和とは言いがたい。ISの出現と白騎士事件を発端に、世界中でISの開発がされるようになった。しかし、その多くが開発者の意図に反する兵器的運用で、最強の兵器と祭り上げられている。今でこそスポーツの1つとされているが、結局人を簡単に殺せる代物であることに変わりない。

 

さらに話をややこしくしているのがISにおける唯一の欠陥部分、女性しか動かせないこと。これにより女性の立場が圧倒的に優位となり、政治でも企業でも女性の進出が目立ち、その煽りを喰らった男性陣は次第に中心から末席に追いやられ、今となっては「男と女が戦争したら1ヶ月かからず女が勝つ」というのが世の認識となっている。

 

そんな中、自分が男性IS操縦者として生ける実験動物となったとき、この礎の上に本当の平和は訪れるのか?否、来ないだろう。末席に追いやられた男たちがこれを皮切りに逆襲を始めるか、そうはさせないと女たちが先んじて自分を殺すか、そのどちらかになるかもしれない。そもそもこの貴重な実験台を逃す手などあるはずもなく、この争奪戦で最悪戦争に発展しかねない。

 

そんなことでせっかく助かったこの身を犠牲にするのは流石にもったいない――

 

「…言われるまでもありません、僕だってまだ命が惜しい…その話、乗らせてください」

 

「わかった…あぁそれと言い忘れてたが、君の場合は16歳だが2年生に"編入"ではなく、竹内くんと同様に1年生として"入学"という形になるが、それで構わないか?」

 

「はい、お願いします」

 

その後は入学試験として行われる模擬戦闘などの説明が続いた。岩崎は相槌を打ちながら、竹内は常備しているメモ帳に肝心な部分を書き留めながら真剣に聞いていた。

 

「こちらからの説明は以上だ。2日後の14時、テスト開始に遅れないように」

 

「「はっ、承知しました」」

 

2人は千冬の放つオーラに、軍に所属していた頃を思い出したのか、無意識の内にしっかり敬礼をしていた。

 

「…敬礼はいらん、ではまた2日後に会おう」

 

千冬にツッコまれて自分たちが敬礼していたことに気づいた2人は、不思議に思いつつもインカムを外し、その場を後にした。

 

――時は流れて2日後…

 

α社でIS基礎の手ほどきを受けた2人は今、IS学園の第3アリーナのピットにいた。

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

先に戦うのは岩崎だ。その身にはラファール・リヴァイヴが纏われている。曰く「うんうん、僕の場合は近接戦闘よりは距離を取っての戦いの方がやりやすいと思うからね」とのこと。

 

「はい、ご武運を」

 

竹内はまだISを展開せず、岩崎の準備を手伝っていた

 

「岩崎、カタパルトに乗れ。そこからフィールドへ飛び出せ」

 

「了解です、織斑先生」

 

千冬の誘導に従い、岩崎はカタパルトに乗る。

 

「…どうなることやらッ!」

 

リヴァイヴがカタパルトが打ち出され、アリーナを駆る。反対側にはリヴァイヴを纏った山田真耶がすでに待ち構えていた。

 

「い、岩崎くんですね、担当しけ…試験官の山田真耶です」

 

真耶は生来のあがり症からか、緊張して声が震えてしまっている。

 

「あ、はい、よろしくお願いします……あの、声震えてますけど大丈夫ですか…?」

 

「ハ、ハイ!大丈夫です!私は試験官ですから!」

 

これじゃあどっちが試験官だかわかったものではない。これは真耶が緊張しすぎているのか、それとも岩崎が落ち着きすぎているのか…恐らくその両方だろう。

 

「これより、岩崎仲俊の入学模擬戦闘を開始する」

 

2機のISが武器を取り出し、今、戦いが始まる!

 

――数十分後…

 

第3アリーナにあったのは、目を回して倒れている真耶と、それを見据える岩崎だった。結論から言えば、岩崎仲俊は模擬戦に勝利した。山田真耶の自滅という何とも締まらない結末で。

 

始めこそは、銃でお互いを牽制しつつ好機を窺う好勝負を予感させた。しかし近接戦闘を仕掛けようとした真耶がブレードを手に取り岩崎に突撃するも、岩崎がこれを回避。すると勢い余って真耶はそのまま壁に激突。

 

「それまで!勝者、岩崎仲俊」

 

このアナウンスにより、岩崎の勝利が決定。目を回して気絶している真耶を前にして、どうしたものかと岩崎は考えているところだった。

 

一方その頃、管制室

 

「ハァ…(真耶はまたやらかしたのか…)」

 

千冬は試合の感想を言う代わりにため息をついた。先日にも模擬戦闘をした際、真耶は緊張のあまり今回と全く同じ凡ミスをやらかしていた。その相手は言わずもがな、織斑一夏である。

 

「岩崎、悪いが山田先生をつれてピットに戻ってくれ」

 

ひとまず真耶に目を覚ましてもらわなくては話が先に進まないので、岩崎に彼女を連れてくるように指示を出す。また共に試合を見ていた竹内にも声を掛けた。

 

「竹内、山田先生が回復されるまで時間が掛かる…その間しっかりと準備を整えておけ」

 

「は、はい…!」

 

竹内は竹内で呆気にとられていたのか、決着がついた数十秒は口をあんぐりと開けて固まっていた。

 

やがて岩崎が真耶を抱えて戻ってきた。待っていた千冬に真耶を引き渡し、自分は竹内の準備の手伝いにかかった。

 

「あー…どうでした? 実戦は…」

 

竹内が聞き辛そうに尋ねた。

 

「うんうん、やっぱり怖いね。今回は山田先生の自滅に助けられたけど、自滅してくれなかったらあと3分と持たずにこちらがやられていただろうね…いやはや」

 

「!」

 

予想外の答えに驚く竹内。

 

「やっぱり世界唯一のIS教育機関と言うだけあって、先生方も相当強い…竹内くん、『人は見かけによらない』ってよく言うよね。山田先生のおっとりとした見た目に騙されてはいけない…」

 

「…わかりました…」

 

岩崎の忠告に竹内の表情は真剣なものに変わっていった。

 

――しばらくして…

 

「竹内、山田先生が回復された。準備が整い次第、カタパルトに乗れ。岩崎がやったようにしてフィールドに出ろ、いいな」

 

千冬から真耶が復活したことを伝えられ、竹内の準備もちょうどよく終わった。

 

「じゃあ竹内くん、頑張って…Good luck!」

 

岩崎が敬礼しながらエールを送る。

 

「…LOGです、行ってきます」※2:後書き参照

 

竹内もそれに応えるように敬礼を返した。そしてフィールドへ飛び出していった。

 

岩崎の時と同じように、すでに真耶は対戦者が来るのを待っていた。竹内が出てきたのを見て、ゆっくりと彼の正面に行き相対する。

 

「竹内くんですね。先程はお恥ずかしい姿をお見せしてすみません…改めまして、担当試験官の山田真耶です」

 

そこにはもう先程のような「あがり症に苛まれてガッチガチになった山田真耶」はおらず、堂々とした「試験官山田真耶」がいた。

 

「は、はい!竹内優斗です。よろしくお願いします!」

 

一方、形は違えど久々に戦場に出た竹内はやや緊張しているようだ。

 

「フフッ、そう硬くならないでください。余計な力を抜いて楽にした方がいいですよ?」

 

表情の硬い竹内に真耶がアドバイスを送る。ある意味これが本来あるべき試験官と被験者の関係なのかもしれない。

 

「これより、竹内優斗の入学模擬戦闘を開始する」

 

千冬のアナウンスが入り、いよいよ試合開始だ。

 

竹内は真耶のアドバイスを受け、無駄に入ってる力を抜くために深呼吸をした。真耶も一呼吸おいて武器を取り出す。

 

次の瞬間、真耶が仕掛けた。岩崎の時と同じように最初は銃で距離を取りつつ攻撃するようだ。しかし竹内は武器を持たず、素早い動きで銃撃をかわしていく。

 

「…ッ! 速い!」

 

真耶は竹内のスピードに一瞬怯んだがすぐに冷静さを取り戻し、竹内の回避先を予測して射撃する。ゆっくりとしかし確実に竹内を追い詰める。そしてついに、真耶の放つ銃弾が竹内を捉え始めた。1発、2発、弾が当たる度に竹内のリヴァイヴのシールドエネルギーは削られていく。

 

「くッ…(このままじゃ何も出来ずに撃墜されるのを待ってるようなものだ…そうだ!)」

 

その時、竹内はある策を思い付いた。あまり有効とは思えない策だったが試す価値はある、そう思い行動に移した。

 

竹内は両手にグレネードをコール、それを真耶の前後、左右に放り投げる。あくまで投げるところは彼女の周囲で、本人には当てない。真耶がグレネードから離れようとするも、竹内が進行方向を先読みしてまた新たなグレネードを投げる。やっぱり、真耶に当たらないように。しばらくして放ったグレネードが爆発する。真耶から離れた位置に投げられてはいるが、爆発で起こる爆煙や巻き上げられた土煙で真耶の周囲の視界は悪くなった。そう、竹内の策はグレネードの爆発により起きる煙を利用して煙幕を作ることだった。

 

「煙で何も見えない!?」

 

いかにISがハイパーセンサーを搭載していようと、これだけ視界が悪ければ相手の位置を特定するのに時間を要する。そこで真耶は煙幕から脱出を図るが、脱出出来そうなところで新たなグレネードが放られてまたまた煙が立ち上る。その時不意に銃弾が真耶のリヴァイヴの装甲を掠めた。当然竹内が撃ったものである。煙幕に混じって、銃弾まで混ざってきて、それはさながら砂嵐のようだった。真耶は一旦煙幕からの脱出を諦め、竹内の位置情報を捉えることを優先した。

 

一方、グレネード攻勢で優位に立った竹内。煙幕が濃すぎて真耶が見えないのは彼も同じはずだが、さっきから投げているグレネードは的確に真耶の進行方向を塞いでいる。それは真耶が動くと出来る気流の筋を見つけていたからである。それを見つければその気流の先頭に真耶がいるということになり、真耶の進行方向の予測が可能になる。お陰で竹内は的確に真耶の煙幕からの脱出を阻むことができたのだ。今では両手にグレネードだったのが右手にグレネード、左手にライフル銃と、射撃と爆撃の両方を行えるくらい余裕が出てきたようだ。

 

だが所詮一時凌ぎでしかない策。真耶のリヴァイヴがようやく竹内の位置を捉え、煙幕の中から狙撃した。当然それに当たるまいと竹内は回避行動を取る。しかし逃げた先がまずかった。

 

「しまった!?」

 

竹内が狙撃を回避した先には真耶が放ったと思われるグレネードが飛んできていた。突然のことにパニックに陥った竹内は思わず左手に持ったライフル銃でグレネードを打ち返そうとした。何とか当てることは出来たがさほど距離のないところで爆発。

 

「うわあ!」

 

為す術無く爆撃を貰った竹内は体勢を立て直そうとするが、すぐさま真耶が接近してきた。その手にはブレードが握られている。

 

「これなら避けられません!」

 

そう言いながら真耶はブレードを思いっきり振り下ろした。彼女の言う通り体勢を崩しかけていた竹内にはブレードを躱す術もなく、竹内は大地に沈んだ。同時に彼のリヴァイヴのシールドエネルギーが底をついた。

 

「それまで!勝者、山田真耶」

 

千冬のアナウンスが入り、竹内は地面で大の字になったまま、自分が負けたことを悟った。「絶対に勝てる」とも、「勝つ自信がある」とも思ってはいなかった。むしろ「負けるだろう」とばかり思っていた。それでも、心のどこかでは「勝ちたい」とは思っていた。しかし、それなりに善戦したとはいえ、結果はこの有り様。勝利を逃してしまい、悔しくないはずがない。

 

「あ~あ、勝ちたかったなぁ…」

 

彼は呟いた。しかし、その表情は穏やかなものだった。しばらくすると、真耶が駆け寄ってきた。

 

「竹内くん…?…あの…大丈夫ですか?」

 

彼女はおずおずと尋ねた。もしかして、自分はやり過ぎてしまったのではないかと。そんな心配を払拭するように竹内がようやく上体を起こした。

 

「はい、大丈夫です。模擬戦、ありがとうございました」

 

「なかなか良い動きをしていましたよ、竹内くん。それから…」

 

真耶は竹内に右手を差し伸べ、満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「IS学園へようこそ、竹内くん!」




IS学園入学を控えたのある日、休暇を貰った竹内たち平班の面々。彼らは街へ繰り出し、竹内と岩崎に生活必需品などを買い与える。

そして、ついに始まったIS学園での学生生活。そこで竹内はいよいよ織斑一夏と対面する。

※1:竹内が千冬の声に聞き覚えがあったのは青森邪麻田のクラスメートでガンオケ白の章の主人公石田(いしだ)咲良(さら)と声優が同じ人だから(所謂中の人ネタ…もっとも声の高さが全然違うが…)

※2:"LOG"とは、竹内が八戸を離れる士官から教わったという「了解」を意味する言葉で、「かっこいいから」という理由で竹内がよく使っている。しかし、同じく「了解」を意味する「ラジャー」は"roger"と綴られるため、同じように略すならば"ROG"が正しいと言えよう。
おそらく竹内の言う"LOG"は、
 ①竹内の勘違い
 ②教えたGIのミス
 ③本家ガンオケの単なる誤植
のいずれかということになる。

こんにちは、剣とサタホワ(略称適当)でございますよどーも

…はい、またまた遅くなりました。そして長くなりました…最高記録更新の6869字です。千冬の説明と入試だけでどうしてここまで長くなったし。うへぇ…。

長くなってしまったことで、私の文章力の無さがもろに出てしまっていると思います。戦闘描写のところなんかもうグデグデかと…。うわぁ…。

ちなみに当初の予定ではここで竹内と一夏が対面し、岩崎は翌日以降に入試を受けるという算段でしたが、何かが違うと感じ、一夏を先に受けさせ、後日2人がうけるということに…。

また、竹内vs真耶は一夏と共に受けさせても岩崎と共に受けさせても真耶が勝利するように考えていました。一足先に真耶に花を持たせたかったので。

それにしても主人公ズのキャラが死んでる気がしてならない…今の予定では学園に入れば何とか生きてくるはずだけど…こういうときに己の無力さを呪うぜ全く嗚呼嫌になる…。

いよいよ次回はIS学園に入学!の前に登場人物紹介。いかに今まで竹内たち2人の個性が死んでいたかが見えてくると思います。

ではまた次回に…


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第1章 新生活の始まり クラス代表戦編
1-1:つかの間の休息 始まる学園生活


私の投稿が遅い理由。

スマホでの投稿と言うのもあるだろうが一番の原因は単に私の集中力の無さだろう。もう少し集中力があればもう少し間隔を詰めることは出来そうだが…

さあ今回からは新章に入るゾイ!

苦手意識、その他この作品に対し負の感情が芽生えた場合は早めにブラウザバックすることを先に言っておくぜ、気分が悪くなってもこちらじゃ責任持てないからな!

大丈夫だと言う方、私の平行世界(パラレルワールド)へようこそ!


ここはα社から大分離れた市街地のショッピングモール。そこに我らが主人公、竹内優斗(たけうちゆうと)岩崎仲俊(いわさきなかとし)、プラスほか数名の姿があった。この日はIS学園入学前最後の休日。これを利用して買い物に来ていた。

 

竹内たちがα社正門前で倒れているのを発見されてもう1ヶ月近くが経とうとしている。それなのに彼らは自分の私物をほぼ持っていないことを全く気にしていなかった。もっとも本人たちは雑用やISの基礎勉強、実技訓練など、多忙ゆえ気にする余裕がなかっただけなのだろうが。それを気にした平は、紫波や板内に相談してみたところ、「この休みを使って買い揃えてはどうだ?費用のことなら我々が用意する」と言われ、そのアドバイスを受けて2人を街案内のついでと買い物に誘ったのだった。

 

そんなわけで今、竹内と岩崎の手には…

 

「……………」

「……………」

 

衣服を始めとして生活必需品、本人希望の物、ついでに会社から頼まれた品物等を入れた袋でいっぱいになっている。

 

「ん~っと、次は…」

 

一方身軽な平はまだ何かを買うつもりなのか、キョロキョロとあちこちを探している。

 

「えっと、平さん?今度は何を…?」

 

「ん?そうね、今度は…あ、あった!携帯電話よ、ケータイ」

 

携帯電話。昨今の日本では誰しも持ってて当たり前の代物。高校生ともなれば、携帯電話の所持率は9割以上、もしかしたら10割にも上るかもしれない。

 

しかし1999~2000年の、それも別世界の中高生だった竹内と岩崎は「携帯電話」と聞いてもいまひとつピンと来ていないようだ。

 

「う~ん…僕たちが持っていても、身内でしか使わないと思いますけど…」

 

「なぁにいってるのよ、今時ケータイなんて通話出来るだけじゃあ時代遅れよ!いろいろ出来るから、持っておいて損はしないはずよ」

 

そんな話をしながら一行はケータイショップに入っていった。

 

―――――――――

 

「いらっしゃいませ~」

 

「すみませ~ん、この子たちに最新機種を紹介してくださ~い」

 

その後は、ショップ店員の説明が続いた。通信機としてはトランシーバーや無線などしか使ったことがなかった2人は、その説明を聞いて驚くことばっかりだった。

 

「へぇ~…ケータイっていろいろなことが出来るんですねぇ…こりゃもはや、情報端末の1つだ…」

 

「うんうん、これだけ便利なら平さんがおすすめするのもよくわかるね。いやはや、これは便利だ…」

 

最新式のケータイを手に2人は関心のあまり「へぇ~」やら「ほぉ~」と言ってばっかりだ。

 

「決まりね♪おいくらになるのかしら?」

 

――夕暮れ時

 

ようやく一行はα社に帰ってきた。

 

「ん~…ふぅ…お疲れさま、2人とも」

 

平が運転を終えて伸びをしながら車を降りた。

 

「いえ、平さんこそ運転お疲れ様でした」

 

「その上何から何まで、本当に…本当にありがとうございました」

 

2人もそんな平を労い、礼を言った。

 

「いいのよ、これくらい♪それよりせっかくの休みだったのに、無理言って連れ出しちゃってごめんね?疲れてない?」

 

「そうですね…言うほど疲れていませんから大丈夫です」

 

「まぁ、確かに疲れてないと言えば嘘になりますけど、こういう遊び疲れはしばらくなかったので、むしろ心地良いくらいですよ」

 

「あら、そう?じゃあ、竹内くんには後でマッサージをしてもらおうかしら?」

 

「え…えぇ!?」

 

竹内は顔を赤らめた。

 

「アハハハッ冗談よ、じょ・う・だ・ん♪」

 

平は笑うと竹内の額を指でつんつん突いた。それを聞いた竹内は「なんだぁ、冗談でしたかぁ…」と、ホッとしたのか、ヘナヘナと脱力したようだ。

 

「いやいやぁ竹内くん、冗談で助かったんじゃあないかい?」

 

「え?まぁ確かに…」

 

「ちょっと、それどういう意味かしら?」

 

岩崎が竹内をからかっていると、それが平にも聞こえてしまったらしく、やや不機嫌な様子で割り込んできた。

 

「えっと、それは…その…」

 

マズイところを聞かれたと思った竹内はあわてふためいて言葉がうまく出てこない。

 

「あーいや、決して悪い意味じゃないんですよ。平さんみたいに美しい人をマッサージするのは恐れ多くて出来ないって事ですよ。僕たち男って奴はバカですからねぇ…ちょっと力を入れただけで、その美しさを壊してしまうのではないかと、思ってしまうのですよ。そうだよね竹内くん?」

 

「あーはい!その通りです!」

 

「そう?まぁいいわ!それより、明日もお仕事や訓練があるんだから、今日はもうゆっくり休んで、明日に疲れを残さないようにしてね」

 

「「…ホッ…」」

 

岩崎がどうにか上手いこと丸め込み、窮地を脱出。2人は揃って安堵の溜め息を吐いた。

 

「(それにしても…よくもまぁ相変わらずあれだけ口から出任せがスラスラと出てくるなぁ…でもまぁ、そのお陰で今回は助かりましたけどね)」

 

岩崎を横目で見ながら、竹内は先程見せつけられた岩崎の話術に舌を巻いていた。同時に、その話術のお陰でピンチを脱することができたことに感謝していた。

 

「さ、竹内くん。部屋に帰ろうか。今日最後の大仕事だよ」

 

彼らの前には今日買った品物の山がドッサリ。これを自分の部屋まで運ばなくてはならない。しかし、それを手で運ぶにはなかなか時間がかかりそうだ。

 

「…台車か何かを借りられるといいんですけどね…」

 

「そうだねぇ…じゃ、僕は荷物番やってるから借りてきておいで」

 

「はぁ…わかりました」

 

その後、無事に台車を2台借りることが出来た竹内は、岩崎と共に各自荷物を自室へ運び込んだ。そして台車の返却場所を知らない岩崎に代わり、竹内は再び台車を返すためにα社内を駆け回るのだった。

 

こうして竹内と岩崎はこの世界で初めて充実した休日を過ごしたのだった。

 

――数日後…IS学園入学の日

 

「…………………………」

 

ここはIS学園の1年1組の教室。その教卓の真ん前で切羽詰まった表情をした生徒がいた。その人こそ、世界初の男性IS操縦者、織斑一夏(おりむらいちか)である。

 

「(……これは………思っていた以上にキツい…………!)」

 

彼は今、己に突き刺さる多くの視線と、のしかかってくるプレッシャーと戦っていた。…が、どう見ても劣勢である…。

 

さて、今のこの教室の状況を説明しよう。彼の席は教卓の真ん前。注目を浴びること間違いなしの席だ。そして他の生徒はと言えば…女子、女子、やっぱり女子。

 

それもそのはず、ISを動かせるのは女性のみというのが世の常、IS学園は実質女子高だった。しかし、偶然ISを動かしてしまった彼もこの学園に入ることを余儀なくされた。謂わば女の園に放り込まれた彼は、同性の仲間がいないことの心細さ、更に物珍しさやその他諸々の感情が入り雑じった視線を浴び、精神的に相当参っていた。

 

「(………俺の後に男性IS操縦者が2人も現れたって聞いたから、そいつらと一緒のクラスになれたらと思ってたんだが、それっぽい人がいない…………)」

 

彼の希望は、自分の後に発見された2人の男性IS操縦者のどちらか、もしくは両方と仲良くなることだったがそれらしき人物はまだ来ていないのか、それとも別のクラスに配属されたか、とにかくここにはいないため、その希望も絶たれてしまった。

 

「(箒ーーーーーーッ!助けてくれーーーーーーーーーーッ!)」チラッ

 

一夏は最後の希望とばかりに、ポニーテールの女子生徒に視線を送るも…

 

「……………………」プイッ

 

…視線を逸らされてしまった。

 

「は~い、皆さん揃ってますね?それではSHRを始めますよー」

 

一夏が絶望しかけたとき、1人の女性が入ってきた。

 

「え~改めまして、皆さん入学おめでとうございます。私はこのクラスの副担任の山田真耶です。1年間よろしくお願いしますね!」

 

真耶が笑顔で挨拶する。…が、ほとんどの生徒は唯一の男子生徒である一夏を注目していて、真耶に対しては全く反応がなく、一方注目の的の一夏は突き刺さる視線とプレッシャーに疲弊しそれどころではない。詰まるところ、真耶の挨拶には誰も応えなかったのである。…嗚呼…哀れなり山田真耶…。

 

「うぅ…そ、それでは自己紹介に参りましょうか…番号順で…」

 

誰も返事をしてくれなかったことがショックだったらしく、真耶は若干涙目になっている。

 

一方、一夏はもう一度先程の女子生徒に視線(別名:助けてくれ光線)を送ったが、またしてもそっぽを向かれてしまった。

 

「(…何だよ、それが久しぶりに会った幼馴染みに対する態度かよ…って言うか俺、アイツに嫌われてんのかな…)」

 

短時間で2度も視線を逸らされてはそう考えてしまうのも無理はない。一夏が俯きつつ思考の渦に呑まれかけたその時…

 

「織斑くん?織斑くん!」

 

「は、はい!?」

 

真耶の声が聞こえ、一夏は我に返った。その様子にクラスメートはクスクス笑っている。

 

「あのー…大声を出しちゃってごめんなさい。けど自己紹介、織斑くんの番なんだよね…。自己紹介、してくれるかな?」

 

「あぁはい、やりますからそんなに謝らなくても…」

 

そう言って一夏は立ち上がり、みんなの方を向いた。

 

「えっと…織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

名前だけ言ってみたが、それで終わりにしてくれる雰囲気ではなくなってしまった。「もっと何か言ってくれ」と言っているような視線を一夏に突き付ける。その視線を浴びて一夏は困ってしまった。

 

「(やばいな、これじゃ暗い奴ってレッテルを張られてしまう…ならば…)」

 

覚悟を決めたのか、一夏は思いきり息を吸った。それに呼応するようにみんなの期待も高まる。しかし…

 

「以上です!」

 

結局この重苦しい雰囲気には勝てず、無理矢理自己紹介を打ち切ってしまった。クラスメートのほとんどが拍子抜けしてしまったのか、ズッコケている。

 

「あ、あれ?」

 

その様子に一夏が戸惑っていると…

 

――パァン!

 

「いでっ!?」

 

何者かに殴られてしまった。殴った犯人を見るために彼が振り返ると、そこにはスーツ姿の女性がいた。

 

「ゲェッ!?関羽!?」

 

その女性を見た一夏は混乱でもしたのか、そう叫ぶと…

 

――パァン!

 

「いだぁっ!?」

 

「誰が三国志の英雄か、バカ者」

 

…またしても殴られてしまった。察するに先程の一発もこの人によるものと考えてもいいだろう。

 

…余談だが、この時この教室にいる全員(当事者の2人は除く)が「何故関羽?」と思ったとか思わなかったとか。

 

「織斑先生、もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「いえ、副担任ですからこれくらいは」

 

真耶とのやり取りを終えると、女性は生徒たちの方を向いた。

 

…さて、読者の皆さんはこの女性が誰なのかもう気付いているだろう。では満を持して名乗っていただこう。

 

「諸君!私が担任の織斑千冬だ!君たち新人を1年で使い物にするのが仕事だ。逆らっても良いが言うことは聞け。いいな!」

 

そう、この人物は織斑千冬。ISに携わるものなら誰もが知っている世界最強のIS操縦者だ。ついでに言えば、先程彼女に殴られた織斑一夏の実姉である。それにしてもとても教育者とは思えない発言であるが…

 

「キャーーーーーーーー!!千冬様!本物の千冬様よ!」

 

「ずぅ~っと前からファンでした!」

 

「お姉様に憧れてこの学園に来ました!北九州から!」

 

…この耳をつんざく大歓声である。

 

「…毎年毎年よくもまぁこれだけ馬鹿者が集まるものだ…感心すらしてしまう。…それとも何だ、私のクラスにだけ集中させているのか…?」

 

呆れつつ千冬がぼやいたが…

 

「キャーーーーーーーーーー!!もっと叱って!罵って!!」

 

「そしてつけあがらないようにしつけて!」

 

…とどまるところを知らぬ歓声、それどころかますます盛り上がっている。…さすがに世界最強の人気は凄まじい。

 

一連の流れを見ていた一夏は、このノリに全くついていけず…

 

「(うわぁ…千冬姉のカリスマすげぇ…っていうか何だ『しつけて』って…)」

 

…はっきり言えばドン引きしていた。

 

千冬はため息を吐くと再び一夏の方を向いた。

 

「…で?挨拶もまともに出来んのかお前は」

 

その剣幕に怯みつつ一夏は弁解しようと

 

「いや、千冬姉…俺は」

 

と言いかけたところで…

 

――パァン!

 

「い゛でっ!?」

 

「織斑先生と呼べ」

 

…またも殴られてしまった。ここが教室であり互いに今は教師と生徒と言う間柄になるので当然と言えば当然のことである。よって一夏も…

 

「…はい、織斑先生…」

 

と返すしかない。

 

また、この一件で2人が姉弟であることが露呈し羨む生徒がちらほら。

 

「え、織斑くんて…まさか千冬様の弟?」

 

「そっかぁ、世界で3人だけしかいないIS操縦者っていうのもこれが関係して…」

 

「いいなぁ、代わってほしいなぁ…」

 

更に盛り上がる教室。

 

「静かに!」

 

――シーン…

 

鶴の一声とはこの事か、千冬の一声であれだけ賑やかだった教室が物音1つしないくらい静かになった。これも千冬のカリスマ性のなせる技だろう。

 

「さて、自己紹介の途中のようだが、諸君に話しておくことがある」

 

一瞬教室がざわついたがすぐに静まり、千冬の言葉を待った。

 

「先日行われた男性IS適性テストで2人の適性者が見つかったことは皆知っていることだろう。その内の1人がこのクラスに入ることになったので紹介する。入ってこい」

 

千冬は廊下にいる誰かに入ってくるように促した。その人はドア付近で一度立ち止まり、頭を下げてから教室に入って、千冬の左隣まで来て正面を向いた。

 

2人目の男子生徒の登場によりまたまた教室内がざわついている。

 

「静かに!…竹内、自己紹介しろ」

 

千冬に言われて男子生徒…竹内は「はい」と返事をして咳払いをすると自己紹介を始めた。

 

「はじめまして、皆さん。僕は竹内優斗です。趣味は…空を眺めること。空を飛ぶことが僕の夢…だったんですが、それはISを操縦できるようになったことで叶っちゃったので、今は新しい夢を見つけることが目標です。よろしくお願いします」

 

竹内は自己紹介を終えてもう一度頭を下げた。

 

今、新しい世界で新しい学生生活が始まる…。




1年1組の一員になった竹内は持ち前の人の良さでクラスメートと打ち解け、同じ男子生徒の一夏とも仲良くなる。しかしクラス代表を決めるとなったとき、1人の女子生徒が男子2人に不満を募らせ決闘を持ちかける。そして放課後、岩崎も含めた男子生徒3人は学生寮での新生活を迎えることになる。

to be continued...

皆の衆、オイッス。剣とサターンホワイト(長い名前だなぁ…)でござる。

いやぁ、またまた中途半端なところで区切ってしまった…これじゃあまた次回の投稿が遅くなる…。

ガンパレとかガンオケなどをやってると、「この人たち、鞄も何も無しでどうやってアイテム持ち歩いてるんだろう…」とときどき思ってしまう…。このゲーム、食料など回復アイテムは言うに及ばず、体操着や柔道着などの衣服類、突撃銃や弾薬と言った武装の類い、果てには金塊まで普通に持ち歩くからなぁ鞄とか何も無しで(・・・・・・・・)。まぁ気にしちゃいけないところか。

えー、恐らく来るかと思われる質問
 Q.入学後の岩崎はどうした?
 A.結論から言おう、1組にはいない。今はそれしか言えねぇッス。

 Q.何故竹内は途中で入った?
 A.次回説明するから。焦ってはいけない。もっとも納得のいく説明が出来ると思っちゃいないけど。

その他、質問があれば感想欄へどーぞ。答えられる範囲で答えますぜ。…ってことは答えられない、或いはわからないこともあるので、聞けば必ず答えが出るとは思わんでくれや。

…あぁ、それにしてもまたグダグダ…あ~あ…。


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1-2:入学の日 竹内side

千冬さんと空先生が同い年(24歳)という事実!…だからどーしたって話ですが…。

さあ、続きでござる。嫌悪感を感じた場合は早いうちに引き返すよろし。

ダイジョーブ…否、大丈夫だと言う方。ようこそ我が世界へ…


――時は少し遡り30分前、IS学園会議室。

 

入学式終了後、竹内優斗(たけうちゆうと)岩崎仲俊(いわさきなかとし)両名は千冬に呼び出されていた。

 

実は男性IS操縦者の複数出現により、学園側にも問い合わせが殺到。その対応に追われ、竹内と岩崎の2人の入るクラスが前日まで決まっていなかったのだ。そんなギリギリの状態だったのでクラス分けの張り紙に2人の名前はなく、やむを得ずこのように呼び出され謝罪と説明を受けた次第である。

 

また織斑一夏はこの2人より先に発見されたのが幸いしたのか、殺到する問い合わせにまだ対応できていた頃に彼に関する手続きはすべて完了し、張り紙の1年1組の欄にしっかりと名前が記載されていたので、一足先に教室に行けたのだった。その結果彼は2人より長い時間好奇の目に晒される羽目になったわけだが…。

 

「竹内くんは織斑先生に、岩崎くんは誉田(ほんだ)先生についてそれぞれ教室へ向かうように。ではこれにて解散」

 

理事長がそれぞれの担任に指示を出し、この場は解散となった。

 

――数分後、1年1組付近、移動中

 

竹内と千冬、岩崎と誉田と呼ばれた教師は途中一切の会話もなく、教室まであと少しというところまで来ていた。

 

「では織斑先生、我々はこちらですので…」

 

「はい、それでは」

 

「竹内くん、じゃあまた放課後に会おう」

 

「うん、岩崎くんも頑張って」

 

それぞれ声を掛け合い、誉田と岩崎はさらに先へと進む。

 

「以上です!」

 

―――ズコッ!

 

その時、やたらと大きな声とズッコケる音が廊下にまで響いてきた。竹内は何事かとビックリしたが、千冬は何があったかを理解し、ため息を吐いた。

 

「はぁ~…まったくあのバカは…竹内、しばらく待ってろ。私が呼んだら入ってこい。いいな」

 

「えっ?あ…はい!」

 

竹内の返事を聞いて千冬は教室へと入っていった。

 

~side of 竹内~

 

ここで待ってろと言われましても…。あ、どうも皆さん。こういう形でお話しするのは初めてですね、竹内優斗です。今しがた織斑先生につれられてここまで来たのですが…。現在織斑先生より待機命令を受け、教室からは見えない位置(こちらから教室の中は概ね見える位置)で待機中です。それにしても今自己紹介を終わらせたのが織斑一夏くん…だよね?僕と岩崎くん以外の男性IS操縦者の…。ふとここで、岩崎くんがいる方を見てみる。…どうやら岩崎くんも、待機中のようだ。僕の視線に気付いて軽く手を振ってくれて…

 

――パァン!

 

!?何、今の音!?…あ、織斑先生が織斑くんを殴ったのか…でも今の音…どーやったら出るんだろう…。

 

「ゲェッ!?関羽!?」

 

――パァン!

 

「いだぁっ!?」

 

「誰が三国志の英雄か、バカ者」

 

…何故関羽…?そりゃ織斑くん殴られるよ…

 

「諸君!私が担任の織斑千冬だ!君たち新人を1年で使い物にするのが仕事だ。逆らっても良いが言うことは聞け。いいな!」

 

うわぁー…まるで軍人さんだ。でも凛としたオーラがもろに出てて…

 

『キャーーーーーー!!』

 

わっ!?何だ!?耳が痛いっ!

 

「千冬様!本物の千冬様よ!!」

 

「ずぅ~っと前からファンでした!」

 

「お姉様に憧れてこの学園に来ました!北九州から!」

 

「…毎年毎年よくもまぁこれだけ馬鹿者が集まるものだ…感心すらしてしまう。…それとも何だ、私のクラスにだけ集中させているのか…?」

 

…なるほどすごいなぁ、み~んな織斑先生のファンみたいだ。…けど当の本人はすごい迷惑そうだ。何かあったのかな…?

 

「キャーーーーーーーーーー!!もっと叱って!罵って!!」

 

「そしてつけあがらないようにしつけて!」

 

……………。な、何と言うか…熱狂的ですね…。て言うかこれだけ騒げば絶対他のクラスにも聞こえてると思うんだけど…。廊下にいる岩崎くんにも聞こえてそうだ。そう思って僕はもう一度彼の方を見た。

 

岩崎くんも廊下から自分の教室の様子を窺っているようだ。多分、僕と同じように待機命令が出ているのかもしれな…

 

――ズドドドドドドドド!!

 

――ビクッ

 

………。じゅ、銃声ぃ!?

 

…………ともかく、向こうの方で何かあったのは間違いないようだ。あんなに肩をビクッとさせて驚く岩崎くんは初めて見た…。

 

…っとそうだ、こっち(1組)こっちっと。

 

「…で?挨拶もまともに出来んのかお前は」

 

それにしても織斑先生、厳しいイメージあるけど取り分け織斑くんに厳しいなぁ…。…ん?『織斑』?そんなにありふれた名字ではないはず…もしかして…。

 

「いや、千冬姉…俺は」

 

――パァン!

 

「い゛でっ!?」

 

「織斑先生と呼べ」

 

「…はい、織斑先生…」

 

…やっぱりご親戚…それも姉弟でしたか。まるで小島兄弟(※後書き参照)みたいだ。あの兄弟と違って上の人が厳しいみたいだけど…。

 

「さて、自己紹介の途中のようだが、諸君に話しておくことがある。…先日行われた男性IS適性テストで2人の適性者が見つかったことは皆知っていることだろう。その内の1人がこのクラスに入ることになったので紹介する。入ってこい」

 

それじゃ、行きますか。僕は教室に入る前に一度礼をして織斑先生の横についた。

 

~竹内side out~

 

――そして時は戻り、教室。

 

「はじめまして、皆さん。僕は竹内優斗です。趣味は…空を眺めること。空を飛ぶことが僕の夢…だったんですが、それはISを操縦できるようになったことで叶っちゃったので、今は新しい夢を見つけることが目標です。よろしくお願いします」

 

竹内の自己紹介が終わると静寂が教室を支配した。しかしそれもわずか数秒の話で…

 

「キャーーーーーー!!」

 

「男子が2人も!」

 

「しかも2人ともなかなかの良い男よ!」

 

「見て見て、竹内くんの肌!白~い!」

 

「おぉ、神様…この私めをこのクラスに入れてくれたことを心より感謝いたします…!」

 

…歓声を皮切りに、またも教室内は大盛り上がり。

 

「静かにしろッ!」

 

――シーーーーン…

 

千冬の一声であっという間に教室はまた静まり返る。この様子に竹内も苦笑いを浮かべるしかない。

 

「えーっと…じゃあ竹内くんの席は後ろの方の空席のうち好きなところを使ってください」

 

真耶に言われて竹内は空席を探した。空いている席は窓際の列、中央の列、その隣の列(廊下側に)でいずれも一番後ろである。竹内は窓際の一番後ろの席を選び、そこへ向かう。席について、近くの席の人に「よろしく」と愛想良く挨拶している。

 

「では織斑くんの次の人から、自己紹介を再開してください」

 

――SHR終了後の休み時間。

 

一夏はすっかり疲れきってしまい、机に突っ伏していた。

 

「………………」

 

無理もない、竹内もいるとはいえ、好奇の視線に晒され続けてもう1時間と少々。極端に女子が多いという慣れない環境もあってか、かなり参っている様子だ。

 

「えーっと、その…今大丈夫?」

 

そこへ竹内が話しかけてきた。彼は今、挨拶回りをしているところだった。

 

「ん…?あぁ、何とかな…動物園の珍獣の気持ちがわかったような気がする…」

 

「アハハハ…全くだね。…では改めて、竹内優斗です、よろしく」

 

「俺は織斑一夏。同じ男同士、仲良くしようぜ」

 

互いにどちらからともなく右手を差し出し、ガッチリと握手をした。

 

「ちょっといいか…?」

 

その時、1人の女子生徒が割り込んできた。彼女は長い髪を緑色のリボンでまとめて、所謂ポニーテールにしている。当然、竹内にはこのような知り合いはいない。

 

「…箒か?」

 

「えっと、織斑くんの知り合い?」

 

どうやら一夏の知り合いのようだ。

 

「あぁ、篠ノ之箒っていって俺の幼馴染みだ」

 

「なるほど…よろしく、篠ノ之さん」

 

「…篠ノ之箒だ、こちらこそよろしく頼む…それで一夏を借りたいのだが、その…構わないか?」

 

箒は一夏と話がしたいらしく、竹内に許可を求めてきた。

 

「あぁ、俺はいいけど…いいか優斗?」

 

一夏が遠慮がちに尋ねた。

 

「えぇ、もちろん僕は構いませんよ。他の人にも挨拶したいですし」

 

そんな2人に対して竹内はあっさりと了承した。

 

「…悪いな、じゃあまたあとで」

 

一夏はそう言い残すと箒と2人で教室を出ていった。

 

竹内が2人を見送っていると…

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「え?」

 

また別の生徒に声をかけられた。金髪の縦ロール。こちらは竹内も知っている人物だった。

 

「これは失礼しました。イギリス国家代表候補生のセシリア・オルコットさんとお見受けしますが、相違ないですか?」

 

「しっかりとこの私の事をご存知のようですわね。それ相応の態度というものもわかっておられるようですので、それに免じて先ほどの無礼には目を瞑りますわ」

 

丁寧な対応を見せる竹内に対し、セシリア・オルコットは気を良くしたように言った。彼女のように、男性に対し高圧的になる女性はこのご時世珍しくない。これもまたISの誕生の副産物である女尊男卑の考え方によるものである。

 

「もしよろしければ、ISの事でわからないことがあれば私がご教授して差し上げてもよろしくてよ。何せこの私、入試で唯一教官に勝利したエリート中のエリートですから!」

 

セシリアが胸を張って自慢する。しかも「唯一」を強調している。竹内は素直にすごいと思い感心していたが、「けど…」と切り出した。

 

「せっかくの申し入れですが、その事について今は保留とさせてはもらえないでしょうか?僕自身出来るところまでは足掻いてみたいんです。オルコットさんだって、代表候補生としてのやるべきことがあるでしょうに、さらに僕なんかのために時間を割いていただくのも大変でしょう?…ですから、もし本当に行き詰まったときはお願いしてもいいですか?」

 

「あら、男にしては殊勝な心がけですわね。よろしいですわ、せいぜい足掻いて見せなさい」

 

セシリアはそれだけ言うと満足して自分の席へ戻っていった。竹内も時計を見て席に戻った。その後次の授業の本鈴がなり、同時に一夏と箒の2人が慌てて教室へ戻ってきた。

 

―――――――――

 

「…悪いな、早速こんなことになっちまって…」

 

「いいってことだよ、でもまさか捨てちゃってたなんて…」

 

2限目が終わった後の休み時間。竹内は一夏に入学前にもらった参考書を見せつつ、授業の復習をしていた。

 

実は先程の授業で、一夏が自分の参考書を古い電話帳と間違えて捨ててしまったことが判明したのだ。千冬にまたまた殴られてしまうも、参考書を再発行してもらえる事になった。…1週間で覚えろと言う条件付きで。それではあまりに可哀想だと、竹内が授業後にこうして共に復習することにしたのだ。

 

「ねぇねぇ、竹内くんて意外と攻めだったりして?」

 

「いやぁわからないわよ、いざとなったら織斑くんが主導権を握って…」

 

「ちょ、アンタ鼻血出てる!」

 

…この様子を見た少数の女子生徒が何やら少々よくない想像をしているようだ。しかしここは教室と言う狭い空間、いくら声を潜めても完全にバレないのは無理な話でその話は本人達にも聞こえてしまうわけで、その話題の2人は勉強をする傍ら、顔を引きつらせてしまっている。

 

「少し、よろしいかしら?」

 

「あ?」

 

そこへまたもや割り込む声。竹内はちょうど1時間前に聞いたこの高飛車な言い回し。そしてその声。

 

「オルコットさん…どうかなさいましたか?」

 

そう、セシリアだった。

 

「あら竹内さん、私は今織斑さんに話しかけているのです。それにしても何ですのその反応は。この私に声をかけられるだけでも光栄なことですのに、それ相応の態度と言うものがあるのではないかしら」

 

どうやらセシリアは前の休み時間にいなかった一夏にわざわざ挨拶しにきたようだ。そのためすでに挨拶を済ませている竹内は今の彼女には"out of 眼中"なわけで、さらに身分をわきまえない(とセシリアが勝手に思ってる)一夏に少し腹が立ったようだ。

 

「ああ悪いな。俺、君が誰だかわからないし。優斗、知り合いか?」

 

一夏が竹内に話を振ったので、竹内がそれに答えようとするが…

 

「私を知らない!?このセシリア・オルコットを!?イギリスの代表候補生にして入試首席の、この私を!?」

 

それよりも早くセシリアが机を叩きながら捲し立てる。竹内はその様子に「もしも勉強してなかったら自分もこうなっていただろう」と思い、勉強を見てくれたα社の上司達に心の中で大袈裟なほど感謝していた。

 

「質問、いいか?」

 

一夏が小さく挙手しながら切り出した。

 

「フン、下々の者の要求を聞くのも貴族の務めですわ。どうぞ、よろしくてよ」

 

セシリアが調子を取り戻し、一夏に質問を促す。

 

「だいひょーこーほせーって何だ?」

 

一夏の質問にセシリアはおろか、この会話を聞いていた周囲の生徒、さらには竹内までもがズッコケた。

 

「あなた!本気でおっしゃっていますの!?」

 

「おう、知らん。優斗、何だよそれ」

 

せっかく取り戻した調子も今の質問によりまたも崩されてしまったセシリア。もうすごい剣幕だ。対する一夏は…何ともまぁ堂々としたものだ。同じ質問を竹内にもしている。竹内は起き上がって「コホン」と咳払いをして質問に答え始める。

 

「…説明しましょう。国家代表というのは織斑くんもご存じですよね…。代表候補生とは読んで字のごとく、国家代表の候補のことを言います…。行く行くは国家代表にもなれる可能性のある優秀なIS操縦者ってことです」

 

「なるほどな、サンキュ」

 

竹内の説明で一夏はようやく理解した。

 

「そう、つまりエリートなのですわ!」

 

セシリアはまた調子を取り戻した。

 

「本来ならば私のような選ばれた人間とはクラスを同じくすることも幸運…奇跡的なことですのよ。もっとその現実を理解していただける?」

 

このセシリアの主張に、竹内は「それは流石に言い過ぎじゃあ…」と思った。

 

「そうか、それはラッキーだ」

 

一夏は今の物言いに腹が立ったのか、感情を込めずに言った。

 

「……馬鹿にしてますの……?」

 

しかしそれは彼女の神経を逆撫ですることになり、状況はさらに悪くなる。

 

「ともかく!何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね。世界で3人だけの男性IS操縦者の1人だと聞いていましたが、とんだ期待外れですわね!」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが…」

 

一夏はセシリアに聞こえないように呟いた。

 

「しかしそれでも、私は優秀ですから!あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。わからないことがあったら…まあ、泣いて頼まれれば教えて差し上げてもよろしくってよ。何せ私、入試で唯一教官に勝利したエリート中のエリートですから!」

 

…これは彼女の殺し文句だろうか。先程間近で聞いた台詞に対し、一夏はどう答えるのか…と竹内は様子を伺う。

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官…」

 

「…………は?」

 

一夏は何事もないように言った。セシリアは当然食い付き、竹内もビックリした。

 

「倒したって言うか…勝手に壁に突っ込んで動かなくなったって言うか…」

 

「(…って、それは倒したとは言わないんじゃ…それに何か聞き覚えのある決着だ…)」

 

この会話に深く関わっていない竹内は冷静にそんなことを思っていた。

 

「…私だけだと聞きましたが…」

 

「女子では…てオチじゃないか?」

 

ショックを受けたセシリアは声を絞り出すように言い、一夏は事も無げに返した。

 

「………あなたは……あなたはどうなんですの………?」

 

「…え…?僕ですか……?」

 

まさかここで自分に飛び火するとは思っていなかった竹内は少し戸惑った。

 

「そうですわ!先程は何も言ってませんでしたが、あなたはどうなんですの!まさか、あなたも……」

 

「そういや気になるな、どうなんだ優斗?」

 

…何故かまるで2対1の構図になっている。

 

「いやぁ…ぼ、僕は残念ながら負けてしまいました…まぁ勝てるとは思っていませんでしたし、事実終始劣勢でしたし…」

 

竹内は冷や汗ダラダラになりながら答えた。

 

「…フン、そうでしょうとも」

 

口ではこう言っているものの、内心ほっとしているセシリア。

 

「と に か く !!そもそも…」

 

ここからさらにセシリアの小言が続くとみんなが思ったその時…

 

―――キーンコーンカーンコーン…

 

次の授業開始のチャイムがなった。

 

「くッ…まぁ良いですわ、また来ますので逃げないで下さいまし!」

 

そう言って彼女は自分の席に戻った。

 

「(また来るのかよ…)」

「(逃げるといってもどこにでしょうか…?)」

 

「「(それにしても、疲れた…)」」

 

休み時間なのに、ちっとも休めなかった2人であった。




※小島兄弟:ガンオケ(白)の登場人物。兄の(そら)(24歳)と弟の(こう)(17歳)の兄弟。織斑姉弟とは違い兄がフリーダムな性格でその分弟がしっかり者。

フフフ…。すばらしい…私の仕事は、すばらしいィィィ!…ウソですごめんなさい…。どーも、近頃はガンオケから離れてガンパレをプレイ中の剣サタ(ネタ切れ)です。

予告じゃ入寮までやるつもりでしたが、あまりにも長すぎて文字数が5桁に到達してしまったので、苦肉の策として途中で切ることに…。…クソゥ…。

ということで今回は次回予告なし。ではまた次回。


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1-3:不穏な雰囲気? 入学初日の男たち

主人公小島航verが書きたい…と思ったり、マーチから短編でも1つ書こうかな…なんて思ったりしちゃってるけど、今はこっち…インフィニット・オーケストラが優先だ!

そんなわけで、前回の続きでござる。

ちょっとしたキャラ崩壊が起きてるので、嫌悪感その他マイナス感情を感じたらブラウザバックで早く逃げた方がいいッスよ。

OKと言う方、毎度有難う御座います。ようこそ私の描く平行世界(パラレルワールド)へ…


――3限目開始時刻

 

「早く席につけ、授業を始める」

 

千冬が戻ってきて生徒に着席を促す。

 

「まずこの時間は再来週に行われるクラス対抗戦に出場する、クラス代表を決める」

 

「先生、クラス代表って何をするんですか?」

 

1人の生徒が質問した。

 

「クラス代表はそのまんまの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…ま、クラス長だと思ってくれていい。ちなみにクラス対抗戦はクラスの実力の推移を測るものだ。現時点ではどのクラスとも大した差はないだろうが、競争は向上心を生む。1度決まったら1年間は変わらないのでそのつもりで。…あと自薦他薦は問わないぞ」

 

千冬の説明が終わると、少し教室内がざわついた。大方、誰がいいかを相談しているのだろう。しばらくすると1人の生徒が手を挙げた。

 

「はいっ!私は織斑くんがいいと思います!」

 

「えぇっ!?お、俺ぇ!?」

 

急に自分の名を出され一夏は焦った。

 

「あ、私も!」

 

最初の推薦から賛成票がどんどん入っていく。

 

「はーい!じゃあ私は、竹内くんがいいと思いまーす!」

 

「えっ、僕?」

 

竹内もまさか自分が選ばれるとは思っておらず、少し驚いた。

 

「織斑と竹内か…他にはいないか?いないならこの2人で多数決を採るが…?」

 

「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらないぞ?!」

 

採決をとる雰囲気になったとき一夏が焦って抗議した。しかし…

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。お前も選ばれた以上覚悟を決めろ」

 

「いや…でも…」

 

「それとも何かお前は。推薦した人たちの厚意を無げにするつもりか?」

 

「うッ…」

 

そこを言われると一夏とて何も言えなくなってしまう。一方、竹内は…

 

「(うーん…自信はないけど、せっかく推薦してくれたんだ。なら、頑張ってみようかな)」

 

…すでに覚悟を決めたようだ。

 

「待ってください!こんなの納得できませんわ!」

 

その時、割って入る声があった。最早耳馴染みとなったこの言葉遣い、セシリア・オルコットである。

 

「このような選出は認められません!大体男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間も味わえとおっしゃるのですか!?」

 

彼女の叫びはまだまだ止まらない。

 

「実力からいけば、私がクラス代表になるのが当然。それを物珍しいという理由で極東の猿にされては困りますわ!それに私はこの島国までISの修練をしに来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

セシリアの主張はいつしか日本そのものへの侮辱になっていた。

 

「!?」

 

その時、竹内はセシリアを見るクラスメートの目が冷えきってることに気付いて少し怯んだ。しかし、熱くなったセシリアはそれに全く気付かず、彼女はさらに捲し立てる。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らすこと自体、私には耐えがたい苦痛で…」

 

ここまで言いかけたとき、

 

「って言う割りには、日本語お上手ですよね…」

 

竹内がポツリと呟いた。頭の中で考えていたことが口をついて出てしまったようで、本人も「あ」という表情をしている。

 

「………………!!」

 

しかしそれは彼女にとって皮肉以外の何物でもなかった。

 

「何言ってるんだよ優斗、そうじゃねえだろ!」

 

流石にこれには一夏もツッコミをいれる。そして今度はセシリアの方を見て…

 

「それにお前も『文化としても後進的』って、イギリスだって世界一不味い料理何年覇者だよ!」

 

トドメの一言を放った。彼もまたセシリアの発言に腹を立て、我慢の限界に来たのだ。

 

「…あなたたち…この私を…私の祖国を侮辱しますの…!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろう?」

 

「んー…僕はそういうつもりはないんですけど、言いたいことが少し…まずはオルコットさん、周りをよくご覧ください…」

 

竹内は立ち上がって口を挟んだ。そしてセシリアに周囲を見回すように言った。セシリアは言われた通り周りを見ると…

 

―――ジトー…

 

「…!?」

 

ほぼ全員の生徒が彼女に冷ややかな視線を向けているのにようやく気付いた。

 

「それだけじゃない、先生方の顔もよーくご覧ください…決して目をそらしてはいけません…」

 

クラスメートの雰囲気に呑まれたセシリアは竹内の言葉に逆らえなくなり、言われた通り千冬と真耶の方を見た。千冬は不機嫌度5割増な表情でセシリアを睨み付けているし、真耶は逆に物凄く悲しげな顔をしている。

 

「ほぅ、それは私たちに対する侮辱と受け取ってもいいのだな?」

 

「あ、その…いえ、そんなつもりは…」

 

ドスの利いた千冬の声にたじたじになるセシリア。千冬の威圧感は教室の中央辺りにいるセシリアに向けられたものだが、教卓の真ん前の席の一夏をもその余波で萎縮させている。後に彼は「あんなに機嫌の悪い千冬姉は初めて見た」と語っている。

 

「オルコットさん…あなたはさっき、ここではやってはいけないことをやってしまった…それはこの国…日本を侮辱することです。日本を侮辱すること、すなわち、僕や織斑くんを含めたクラスメートの大半と、このクラスの担任で元日本国家代表の織斑先生、そしてあなたが使っているISを開発した篠ノ之博士を侮辱するに同じ。そういうことを理解した上での発言ですか?」

 

「くぅ…」

 

セシリアはようやく、自分の発言の重大さに気付いた。

 

「確かに実力から言えば、あなたがクラス代表をすべきでしょう。ですが人望を失ったあなたが代表になっても、誰もついては来ない。これじゃ代表でもリーダーでもない、ただの独善者ですよ?僕や織斑くんが気に入らないならそのことだけ言えばいいのに、そうやって余計な敵を作る必要もないでしょう?」

 

「……………ッ!!」

 

セシリアは悔しくて怒りに震えてる。しかし竹内の言う通りなので何も言い返すことは出来なかった。

 

「あとこれは2人に言えることですが、互いの国の悪口を言い合うこと自体ナンセンスですよ。僕たちはクラス代表を決める話し合いをしているのに、関係のないことで互いの足の引っ張り合いをしているなんて、おかしくないですか?」

 

「………」

 

「え…?」

 

竹内に言い負かされたセシリアを「ざま見ろ」と思いながら見ていた一夏だったが、急に矛先が自分に向いたことに驚き、軽くショックを受けた。

 

「………本当は穏便に話し合いで決めたかったんですが、どうもそんな簡単に済む状況じゃなくなってきましたね。…いっそのこと、実際に戦って白黒はっきりつけた方がいいのではないでしょうか?……すみません織斑先生、勝手に長々と喋ってしまって……」

 

竹内は千冬に謝り、椅子に座った。冷静になって「少し言いすぎたのではないか」と、今の自分の行いに反省をしている。

 

「フン、そんなことは別に構わん。それでオルコット、お前の演説などもう聞くつもりはない。この選出方法に納得がいかないのならお前はどうするつもりだ?」

 

「…もちろん、立候補しますわ。そして、あなたたちに決闘を申し込みます!」

 

セシリアが一夏と竹内を交互に睨む。

 

「…あなたたち2人を倒し、このセシリア・オルコットこそがクラス代表にふさわしいことを証明して見せましょう!」

 

彼女はすごく張り切っている。どうやら、地に落ちた己の人望を、決闘に勝つことで取り戻そうと目論んでいるらしい。

 

「ああいいぜ、四の五の言うより分かりやすい」

 

「…焚き付けたのは僕ですしね、やりましょう」

 

一夏も決闘に賛成と声を張り上げ、竹内も了承した。

 

「それで、ハンデはどれくらい必要ですの?」

 

余裕たっぷりにセシリアが尋ねるが…

 

「ハンデなんかいらねえよ」

 

「僕もです。むしろ、ノーハンデマッチを希望します」

 

一夏と竹内はその申し出を突っぱねた。すると…

 

『ワハハハハハハハ!』

 

大半のクラスメートが笑いだした。

 

「2人ともそれ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かったのは昔の話だよ」

 

「そうだよ、ハンデつけてもらいなよ」

 

そして今度は2人にハンデをもらうように促す。

 

「男に二言はない。ハンデは要らない」

 

一夏は言いきった。

 

「それより、皆はいいんですか?これはクラスの代表を決める戦いなんですよ?自分達のリーダーをそんなテキトーなやり方で決めちゃって良いんですか!?もしも仮に…仮にハンデをもらった僕や織斑くんが勝ったとしても、オルコットさんはもちろん皆だって『ハンデがあったから…』って、納得しないでしょう?」

 

「………」

 

竹内の指摘を受け、みんなさっきまでの笑いは消え、押し黙った。どうやら図星らしい。

 

「僕だってハンデをもらって勝つより、本気で戦って負けた方がスッキリします。ですからオルコットさん、手加減も遠慮も一切無用です。僕が気に入らないのなら、全力で潰していただいて結構です。僕も全力で抗ってみせますので…!」

 

完全なる宣戦布告。教室には異様な空気が立ち込めている。

 

「話はまとまったようだな。では対決は1週間後の月曜日、場所は第3アリーナ、クラス代表候補者3名による総当たり戦を行う。各々対決に向けてしっかりと準備をしろ。ではこの議題については以上、授業に戻る」

 

千冬が締め括り、通常の授業に戻った。しかしそのあとずっと教室の空気は何となくピリピリしていた。

 

――そしてその日の放課後。

 

1年1組の教室には竹内と一夏の2人だけが残り、今日の授業の復習をしていた。

 

「…全然わからん…何でこんなに複雑なんだ…」

 

頭を抱えつつも、なんとかこなしていく一夏。竹内もまたともに参考書を見ながらさらに理解を深めていく。

 

「失礼しまーす…って何だ君たちだけかぁ」

 

しばらくすると岩崎が教室に入ってきた。

 

「…誰だ?」

 

「あ、岩崎くん。どうかしたんですか?」

 

一夏は突然の来客に疑問をもらし、竹内は親友の来訪にどうしたのか尋ねた。

 

「うんうん、誰と尋ねられれば自己紹介をしなければ…僕は岩崎仲俊、君と同じ男性IS操縦者だ。あと年齢は君より歳上の16歳だけど、気にせず接してくれたまえ。そして何しにここへ来たのかと言えば、織斑先生が僕に話があるらしく、1組で待ってろって担任の誉田先生に言われたのでここに来たんだよ」

 

「あ、3人とも揃っていたんですね」

 

岩崎が説明を終えたちょうどその時、真耶と千冬が教室に入ってきた。

 

「えっとですね、3人の部屋が決まりました。これがお部屋の鍵になりますので、なくさないでくださいね」

 

真耶が事情を説明しながら3人に鍵を渡す。

 

「俺たち男子の入寮はまだ先だったはずじゃありませんでしたか?前に聞いた話じゃ1週間は自宅から通学してもらうって話だったと思うんですが…」

 

「本当はそのつもりでしたが、事情が事情だけに一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです」

 

一夏の疑問にも、真耶は丁寧に答えていく。

 

「部屋番号を見たところ僕たち3人ともバラバラの部屋のようですね…さっき無理矢理部屋割りを変更したって言ってましたけど…まさか女の子と相部屋ですか…?」

 

「…ごめんなさい…岩崎くんの言う通り、女の子と相部屋です…」

 

真耶が申し訳なさそうに言うと、竹内と一夏の顔が青ざめた。

 

「「(それって結構マズいんじゃ…?)」」

 

対して岩崎は小さくため息をついた。

 

「う~ん…そういうことなら仕方ないですよね。何せ世界唯一のIS教育機関ですし、国際的な問題も色々あるでしょうしね、うんうん」

 

彼は真耶を励ますように言うと、今度は青ざめた2人を見て

 

「ってことだから、君たちも理解してあげようよ。なぁに、しばらくの辛抱さ。そうですよね?山田先生」

 

「は、はい!1ヶ月もすれば調整が利くと思います」

 

「ね?3年間のうちのたった1ヶ月我慢すれば良いだけの話だ。だからそんな青い顔はしない!先生方だって大変なんだから」

 

「「…は、はい…わかりました…」」

 

岩崎の口調は決して荒くも厳しくもないのだが、妙な威圧感があった。それゆえ、2人は首を縦に振るしかなかった。

 

「えーっと…部屋の事はわかりましたから、とりあえず荷物を取りに家へ戻ってもいいですか?」

 

一夏が開きっぱなしだったノートを閉じながら尋ねた。

 

「あ、いえ、荷物なら…」

 

「私が手配しておいた。着替えと充電器があれば十分だろう。他に必要なものがあれば休日にでも取りに行け」

 

真耶の言葉を遮り、千冬が言った。一夏は手配された荷物の内容を聞いて苦笑した。

 

「竹内、岩崎、お前たちの荷物もすでに送られて、今はそれぞれの部屋にある。あとでお礼を言っておけよ」

 

「「はい、わかりました」」

 

さらに真耶の説明は続く。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時から7時、寮の1年生食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど、残念ながら3人はまだ使えません」

 

「え?何でですか?」

 

一夏が少し残念そうに尋ねる。

 

「あー織斑くん?ここはほぼ女子高みたいなものだよ。僕たち以外はみんな女の子…ここまで言えばわかるよね?さもないと、鉢合わせちゃうよ」

 

岩崎が説明した。それを聞いた一夏はその状況を想像してしまい、顔を赤く染めている。

 

「お、織斑くん!?女の子と一緒にお風呂に入りたいのですか!?いけませんよ!」

 

真耶が暴走してしまった。どうやら真耶も岩崎の言った説明内容を想像してしまったようだ。

 

「い、いえ!入りたくないです!」

 

「ええっ!?女の子に興味がないんですか!?それはそれでまずいのでは…」

 

一夏は誤解されてはまずいとすぐ否定するが、言い回しが悪かったのか、真耶はさらに暴走する。

 

「「………………」」

 

一方、蚊帳の外におかれる形になった竹内と岩崎は真耶の暴走に関して何もすることができない。自分(達)では手に負えないと判断したようだ。

 

「山田先生、落ち着いてください」

 

そんな真耶を止めたのは千冬だった。今のたった一言で真耶の大暴走を止めてしまった。その様子に男子生徒3人は呆気にとられていた。

 

「私たちはこれから会議だ。お前たちも早く寮へ帰れ」

 

「道草しちゃダメですよ、まっすぐ帰ってくださいね」

 

そう言うと教師2人は教室を出た。

 

「…道草食うような距離、ないよな?」

 

「うんうん、要するに余計なところには行くなって事だろうね」

 

「はぁなるほど…僕たちも寮へ行きましょうか」

 

3人それぞれ一言ずつ漏らすと、ようやく帰り支度をして家路(寮路?)についた。

 

―――――――――

 

「なぁ、2人はIS学園(ここ)に来る前からの知り合いなのか?」

 

帰り道、一夏が竹内と岩崎に尋ねた。

 

「え?まぁそうだけど、また何で?」

 

「いや、何か2人とも初対面にしては仲良いなって思ってな…そうだ。岩崎さんのこと『トシさん』って呼んでいいですか?」

 

「うんうん、もちろん構わないよ」

 

そんな話をしながら歩いているときだった。

 

「ねぇ、そこの君?」

 

後ろから誰かに声をかけられた。声のした方へ振り返ると、そこには水色の髪に赤い瞳の女子生徒がいた。

 

「そこの灰色の髪のキミ、ちょっとお姉さんと話していかない?」

 

誘っている。誰が見てもそう思うであろう様子だった。

 

「誰だ?」

 

「さぁ…?岩崎くんの知り合いですか?」

 

「いやぁ僕も知らないなぁ。ただ…」

 

「「ただ…?」」

 

「うんうん、何となく心当たりはあるかな…」

 

男3人が目の前に現れた人物について議論している。すると…

 

「ん?なになに内緒話?お姉さんにも教えて?」

 

「「うわっ!?」」

 

なんとその彼女は気配を消して3人に接近してきた。いつの間に近くにいたのかと、竹内と一夏は声を出して驚いた。

 

「ふむ…織斑くん、竹内くん、君たちは先に行ってくれ。どうやらこの人は僕にだけ用があるらしい」

 

岩崎は覚悟を決めてその女子生徒の指示に従うことにした。

 

「あ、そうだ」

 

彼女はそのまま岩崎を連れていこうとしたが、ふと思い出したように足を止めた。

 

「IS学園へようこそ、3人の男性操縦者さん。在校生を代表して歓迎するわ!」

 

女子生徒は歓迎の挨拶をして扇子を広げた。そこには「祝・入学」と書いてある。

 

そして彼女は岩崎をつれてどこかへ行ってしまった。

 

竹内と一夏は状況が飲み込めず、しばらく固まっていたが数秒後我にかえり、寮へと急ぐのだった。

 

―――――――――

 

「えーっと、俺の部屋は1025室…だから…ここか。優斗は?」

 

「僕は1030室のようだからもうちょっと先かな?」

 

「そうか、まぁ割りと近くて良かったぜ。じゃ、あとでな…」

 

「って、ちょっと待った!」

 

一夏が部屋に入ろうとしたその瞬間、竹内がそれを止めた。

 

「わっ、何だよ?」

 

「いや、せめてノックはした方がいいんじゃないかな?君だけの部屋じゃないんだから」

 

それを聞いた一夏はここがどういうところかを思い出し、自らを恥じた。

 

「あーそうだった!止めてくれてありがとな」

 

そう言って今度はノックをしてしばらく待った。竹内はそれを確認してから自分の部屋に向かった。

 

―――1030

 

竹内は自分の鍵の番号と部屋の番号を確認し、扉をノックした。

 

「はーい」

 

10秒待たずして中から同室の女子生徒らしき声が返ってきた。

 

「今日から同室になるものですが…」

 

「!?ちょ、ちょっと待ってて!」

 

竹内が中に入っても良いか尋ねようとしたが、相手は竹内の声を聞くなり慌てた様子でそれを遮った。

 

――ガサゴソ、バタバタ、ガタゴト

 

「……………」

 

大慌てで片付けでもしているのか、物音が通路まで響いてくる。

 

「よし、入っても良いよー!」

 

数分後、ようやく入室許可がおり、竹内は「失礼します」と言って中に入った。

 

「いらっしゃい、竹内くん!」

 

「君は…」

 

そこにいたのは同じ1年1組所属…

 

「谷本さん?」

 

「あ、名前覚えててくれたんだ…エヘヘ。竹内くんがルームメイトになるって聞いて、ビックリしちゃった」

 

谷本癒子だった。微笑みながら竹内を出迎える。

 

「えっと…1ヶ月で部屋の都合がつくって山田先生がいってたから、それまでの間よろしくお願いします」

 

竹内が礼儀正しく挨拶をした。

 

「よろしくね、そんなことより早いうちに荷ほどきしたら?」

 

しかし、同い年で堅苦しいのが苦手な癒子は未開封の段ボール箱を指さし、荷ほどきを促した。竹内もそれを見て「そ、そうですね」と彼女に流されるように荷ほどきを開始した。

 

そしてそこから数分がたった頃…

 

「えっとさ、竹内くん…クラス代表のことだけど、セシリアを相手にハンデ無しで戦うって…本当に大丈夫?勝算とかあったりするの?」

 

癒子が話しかけてきた。クラス代表決定戦の事についてのようだが、数時間前の授業中のようなバカにしたような口調ではなく、純粋に竹内の事を心配しているような口調だ。

 

「ハッキリ言って、勝算は何もないですね…僕と彼女じゃ経験値が違いすぎる。ISもこのまま訓練機で戦うことになると今度は性能差も出てくる…最悪運を味方につけるしか…勝ち目はないでしょう…」

 

「…じゃあ1つだけ教えて?今回は織斑先生が『推薦された者に拒否権はない』って言ってたけど、もしも辞退が許されるなら辞退してた?」

 

癒子が尋ねると、竹内は「う~ん」と少し考えてから…

 

「いや、推薦されたのであれば、辞退はしなかった。僕のことを代表に相応しいと思って推してくれたのだから、僕にはその期待を背負う義務がある…どんな思惑があったにしてもね」

 

…と、真剣な表情で言い切った。

 

「ふーん…じゃあ、私は竹内くんを応援するよ。頑張ってね!」

 

癒子は笑顔でエールを送った。

 

「…ありがとう。さっきも言った通り勝てる見込みなんてないけど、みんなをガッカリさせないようにベストを尽くす。…それにまだ1週間も日数がある、できることは全部やるよ!」

 

竹内も笑顔で、それでいて力強く応えた。

 

ちなみにこうして竹内が癒子と仲良くなっている間、一夏はと言えば同室になった箒と何やらトラブルを起こしていたとか…。

 

「一夏ァ!!貴様と言う奴はァァアアア!!!」

 

「ちょっ、待てぇ!誤解だぁ!!」

 

…やれやれ。




クラス代表決定戦に出る一夏に、なんと政府から専用機が与えられることになった。一方竹内には…。そして次の月曜日に行われるクラス代表決定戦に向け、一夏と竹内は別々に鍛練をして「お互い今より強くなって戦おう」と約束をする!

どーもー、ガンオケ白の章をプレイすると高確率で菅原乃恵留をクラスメートに入れている剣とサターンホワイト(花粉症)です。

うーん…セシリアに対しての竹内くん…あのくだりはちょっとやり過ぎた感が否めない…。…けど、彼に言わせないと誰も言わないだろうしなぁ…。

あ、ちなみに竹内くんがセシリアに言った「日本語上手い」発言、私が実際に思ったことを代わりに彼に言わせました。あれだけ日本を嫌うような発言の割りにはずいぶんとまぁ日本語が堪能だなと思ったわけですが…こういう作品において一番ツッコんじゃいけないところですよね…。

そして今回の目玉(…になるのか?)その1、一夏と岩崎の対面。岩崎に対し一夏をタメ口で喋らせるか、それとも敬語で喋らせるかも迷ったところ。最終的には敬語にしました。一夏くんならこの辺の礼儀はわきまえるでしょ。

ちなみに岩崎くんサイドのお話も話数が溜まり次第書こうかなと思っています。彼が何組に入ったのか、また彼が件の女子生徒に連れていかれた理由が明らかになるでしょう。

そして何より目玉(?)その2、竹内くんのルームメイトが"7月のサマーデビル"こと谷本癒子になるとは誰も夢にも思うまい…。と、ルームメイトにしたのは良いけど…彼女のキャラがつかめていないのでまたまたこの先苦労するかもね…。いやぁ見切り発車って恐ろしい…。

最後に、一夏と箒のシャワー上がり鉢合わせ事故なんだけど…あれはノックしたところで避けられた事故とは思えないのです…。ゆえに今作ではこの始末。また一夏くんは今回の主人公ではないので深くは掘り下げない方向でござる。

では、また次回お会いしましょう。


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1-4:残された期間は1週間 訓練開始!

UA1000突破!こんな拙作にこれだけの方がどういう形であれ来てくれたことに感謝!…もっともこの1000のうち50~100ほどは私が"見回り"と称して踏んだものですが…


翌日の早朝。

 

竹内が先に目を覚まし、欠伸を噛み殺しつつ体を起こした。2つのベッドの間に立っているついたてで隠れていて癒子の姿は見えないが、まだ眠っているようで可愛らしい寝息をたてている。竹内は彼女を起こさないように静かに部屋備え付けのシャワー室へ行った。

 

シャワーを浴び終え、制服に着替えて部屋に戻ってくると…

 

「あ、おはよー竹内くん…ふああ~…朝早いのね~…」

 

ちょうど癒子が目を覚ましたところだった。まだ眠いのか、挨拶が欠伸混じりだ。

 

「おはよう。まだ朝御飯の時間まで少しあるから、準備はゆっくりできるよ」

 

「うん、じゃあシャワー浴びてくるから…のぞかないでね♪」

 

癒子が茶目っ気たっぷりに付け加え、竹内は「の、のぞきませんよ!」と慌てて返すしかできなかった。

 

―――――――――

 

その後、癒子と竹内は朝食をとるために食堂へ来ていた。

 

「おはよー…って、何でアンタ竹内くんと一緒にいるのよ」

 

「そうよ、抜け駆け禁止って言ったじゃない」

 

癒子の友人と思しき人物に遭遇する度に恨めしそうな視線を向けられたが、癒子はあっけらかんとして

 

「ゴメンね~でもしょうがないの♪私、彼と同室なのだ~♪」

 

と言ってのけた。その様子はどことなく嬉しそうだ。

 

「くぅ~!そうか竹内くんは癒子と同室だったのか~!」

 

「織斑くんも篠ノ之さんと同室だったしな~…いいな~羨ましいな~」

 

みんな口々に羨ましがる。しかし、渦中の人物・竹内優斗はみんなが何を羨ましがっているのか理解できず、さっきから「アハハハ…」と愛想笑いを浮かべつつ、「みんな何の話をしているんだろう…」とか思っている。

 

――――――――

 

「なぁ…いつまでそうやって怒ってるんだよ」

 

「…別に怒ってなどいない」

 

「顔が不機嫌そうだが…?」

 

「生まれつきだ」

 

竹内が朝食が盛られたトレーを持って空席を探していると、相手の機嫌をうかがう一夏の声と、それを突っぱねる箒の声が聞こえてきた。

 

「おはよう織斑くん、篠ノ之さん」

 

2人の周りには空席がそれなりにあったので、竹内は近くの席に座り、2人の会話に割り込んだ。

 

「お、優斗か、おはよう」

 

「……………おはよう」

 

2人は挨拶を返したが、反応がそれぞれ明らかに違う。特に箒は不機嫌オーラがもろに出てる。

 

「織斑くん、彼女どうかしたんですか?」

 

竹内が声を潜めて一夏に箒の様子を尋ねた。

 

「あぁ、俺が昨日ちょっとやらかしちまって「…お・り・む・ら?」うっ…悪い、これ以上は聞かないでくれ…」

 

一夏が事情を説明しようとしたが、箒の剣幕に気圧されて何も言えなくなってしまった。その様子に竹内は頭上に"?"を浮かべている。

 

「あ、竹内くんいたいた」

 

「お、織斑くんもいっしょだ~」

 

「ご一緒してもいいかな~?」

 

そこへ、癒子をはじめとした1年1組の生徒数人がやってきた。

 

「う~ん…僕はいいけど…」

 

竹内は先に座っていた一夏と箒のことを考え、「お2人はどうですか?」といった感じに目線を送った。

 

「俺も構わないぜ」

 

「…私も構わん、ちょうど食べ終えたところだ…私は先に行くぞ織斑…」

 

一夏はあっさりとOKを出したが、終始不機嫌だった箒は空になったトレーを持ってさっさと行ってしまった。

 

「…何があったかわからないけど、あとで誠心誠意ちゃんと謝った方がいいよ」ヒソヒソ

 

「ぐっ…そうだな」ヒソヒソ

 

見かねた竹内が小声で一夏にあとで詫びをいれろとアドバイスを送る。

 

「うわ、織斑くんってすごい食べるんだ」

 

「竹内くんも見かけに反してなかなかたくさん食べるのね」

 

一方、男子2人のトレーを見た女子生徒たちがその量を見て驚いたように言う。2人ともなかなかの量だ。

 

「え?あぁ、まあ…1日のエネルギー源だからね」

 

「っていうか女子はそんなに少なくて大丈夫なのか?」

 

一夏たちも女子のトレーを見て尋ねる。男子2人に比べると、皆揃って量が明らかに少ない。

 

「いやぁ、私たちは~…」

 

「えへへ、体型とか気にしてるから~…」

 

「お菓子とか間食してるし~」

 

こんな感じで和気藹々とした雰囲気になってきたところで…

 

「いつまで食べてる!」

 

響き渡る声。それは竹内たち1年生の寮長もやっている千冬のものだった。

 

「食事は迅速に効率良くとれ!遅刻した者にはグラウンド10周させるぞ!」

 

この一声によって、食堂にいるみんなの食べるスピードが格段にアップした。

 

その甲斐あってか、この日遅刻したものは1人もいなかったらしい。

 

―――――――――

 

数分後。SHRが終わる直前にまた千冬が思い出したように言った。

 

「そうだ織斑、お前には専用機が与えられることになった」

 

「はい?」

 

一夏は訳がわからない様子だったが…

 

「嘘ッ!?1年のこの時期にッ!?」

 

「それって政府からの支援が出るってこと!?」

 

「いいなぁ~…私も専用機欲しいなぁ~…」

 

代わりにクラスメートたちがざわざわし出した。

 

「あれ?竹内くんのはないんですか?」

 

1人の生徒が尋ねた。

 

「静かに!竹内のISだが、彼はIS企業α社に所属している。故に専用機もそこから用意される。現在開発中と前に聞いたが…竹内、お前は何か聞いていないか」

 

千冬が竹内に尋ねた。

 

「は、はい。入学前に聞いた話では早くて今週末、遅くて来週中には完成すると言ってました。また仮に来週の代表決定戦までに間に合わなくても、企業の方から量産機を貸し出してもらっています。それで参戦しますので、問題ありません」※詳しく(?)は後書き参照

 

「わかった。完成し次第、カタログスペックを提出するように」

 

竹内の話を聞き、納得した千冬は授業に戻ろうとした。その矢先…

 

「あの~…篠ノ之さんってもしかして、篠ノ之博士の関係者ですか?」

 

1人の生徒が質問した。この時、竹内は箒の動きがピタッと止まったように見えた。

 

「……そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」

 

千冬はあまり来てほしくなかった質問が来てしまったことで、誰にも気付かれぬようにため息を吐き、その質問に答えた。この質問が来てほしくなかった理由。それは…

 

「えっ!?すごい!ってことは、このクラスには有名人の身内が2人もいるってこと!?」

 

「ねえねえ、篠ノ之博士ってどんな人?やっぱり天才?」

 

「篠ノ之さんもIS詳しいの?今度操縦方法教えてくれる?」

 

…このように生徒たちが興奮して箒に詰め寄るからである。篠ノ之束が()にとってどういう存在かを全く考えずに…。

 

「あの人は関係ない!」

 

耐えられなくなったのか、癇癪を起こしたように箒は大声で叫んだ。その声に唖然とする生徒たち。

 

「…大声を出してすまない…しかし、私はあの人じゃないから何も教えられることはない…実際どこにいるのか私にもわからないんだ…」

 

箒はみんなに謝ると気まずそうに窓の外の方を向いてしまった。みんなも困惑気味に席に戻っていく。

 

「…あー、では授業を始める」

 

こうして一時の騒ぎは収まった…微妙な空気を残して…。

 

―――――――――

 

時は少し飛んで昼休み。

 

「へぇ~、何か1組は入学早々、大変なことになってるみたいだねぇ」

 

竹内は岩崎と共に昼食をとっている。竹内は今日までの騒動を岩崎に話しているところだ。

 

「ところで、岩崎くんのところは?」

 

竹内は岩崎の近況を尋ねた。

 

「うんうん、実はね…」

 

岩崎が答えようとしたとき…

 

「優斗、トシさん!一緒に昼食っていいか?」

 

箒を連れた一夏がやってきた。

 

「やあ~、うんうん、もちろんいいとも」

 

岩崎はあっさり一夏の提案を受け入れ、竹内も賛成した。

 

「話は竹内くんから概ね聞いたよ、いろいろと大変なことになってるみたいだね」

 

「う…まぁ、そうなんですけどね…」

 

「…一夏、この男はいったい…」

 

岩崎と一夏が軽いやり取りをしてすぐ、箒が一夏に尋ねた。

 

「そうか、箒は初対面だったな。この人は…「やあやあ、自己紹介が遅れてしまって申し訳ない。僕は岩崎仲俊。同学年ということで仲良くしておくれよ」…ということだ」

 

一夏が箒に岩崎を紹介しようとしたが、岩崎が自分で勝手に自己紹介を始めてしまったため、一夏は少し拍子抜けしてしまった。

 

「あそうだ、せっかくだしお近づきの印に…これをあげるよ」

 

すると岩崎はポケット探り何かを取り出すと、それを箒に渡した。

 

「はぁ、どうm…!?////」

 

箒は渡されたものを見て茹で蛸の如く赤面した。何故ならその手には"恋愛成就"と書かれたお守りがあったからだ。

 

「そうだそうだ、織斑くんにも昨日あげようと思っていたのにいろいろあって渡せてなかったね。君には…これをあげるよ」

 

「あぁ、ありがとうございま…す?」

 

一夏も岩崎から貰ったものを見て、お礼の台詞に疑問符がついてしまった。彼の手には"厄除御守"と書かれたお守りがあった。ちなみに何故か妙に厚い。

 

「なぁに、お礼なんて要らないよ。僕はこれからみんなの世話になるだろうからね」

 

押し付けも甚だしいところだが、岩崎本人は大変満足していた。一方、この件ですっかり蚊帳の外に置かれてしまっていた竹内は

 

「(いつの間に岩崎くんたら神社に行ってたんだろう…?)」

 

と頭によぎった疑問について考えたり、

 

「(僕も初対面の時にもらったなぁ)」

 

と過去を懐かしんだりしていた。

 

「それはそれとして、そこの男2人!君たちこれからどうするつもりかな?まさか無策のまま代表候補生とやり合おうなんて考えてないよね?」

 

「うっ…それは…」

 

急に岩崎に元の話に戻され、彼の質問に一夏は言葉を詰まらせた。岩崎の指摘通り、対策などロクに考えていなかった。

 

「何よりまずやることはISをもっと詳しく理解すること、そしてISに慣れる為に訓練を重ねること、またISの動きに体がついていけるように自分自身の訓練も必要…うーん…」

 

竹内はやるべきことを考えながら頭を抱えた。α社に戻ることができる休日ならともかく、それができない平日では教えてくれる人がいない。

 

「そうだ!なぁ箒、俺にISのことを教えてくれよ、このままじゃトシさんの言う通り、何もできずにオルコットのやつにやられちまう!」

 

一夏は至って真剣に頼んだが…

 

「ふん、安い挑発に乗ったお前が悪い。それにどこかの誰かが唆したりしなければ、少しは穏便に済んだものを…」

 

「「うっ…」」

 

箒の言葉は厳しいものだった。一夏だけでなく竹内にも飛び火している。

 

「ねぇ、君たちって噂の新入生でしょ?」

 

突然、割り込んでくる声が聞こえた。その声の主は胸元のリボンを見る限り同学年の生徒ではなく、昨日岩崎を連れていった女子生徒でもない、4人とも全く知らない人だ。

 

「中でも今話題なのは…黒髪のキミとキミ、織斑くんに竹内くんよね?」

 

「は、はぁ…」

 

「あの、何で僕たちのことを…?」

 

一夏は上級生の勢いに圧されて曖昧な返事を返すのがやっとで、竹内がなぜ自分達のことを知っているのかを尋ねた。

 

「だって今度君たちがイギリスの代表候補生と戦うことになったって有名になってるよ」

 

彼女の話を聞き、一夏と竹内は女子の情報伝達の早さに恐々とし、岩崎は逆に感心した。

 

「そこでなんだけど、私が君たちのコーチをしてあげる」

 

「「えっ!?」」

 

彼女の提案は2人にとって願ったり叶ったりなものだった。

 

「必要ありません、私が頼まれましたので」

 

しかし、その提案を箒が冷たく退けてしまった。

 

「あら、そう?でも君1年生だよね?私、3年生~♪」

 

上級生はなおも食い下がり、自分の赤いリボンを見せつける。

 

「そういうことだから、私なら君じゃ教えられないことまで教えられるのよ」

 

彼女は自信満々に箒に言った。

 

「ご心配なく…私、篠ノ之束の妹ですから」

 

「!?そ、そうなの…それじゃあしょうがないわね…」

 

箒の反撃の一言にさすがに上級生も驚き、スゴスゴと引き下がっていった。

 

「そういうことだ一夏。今日から放課後は空けておけよ」

 

「えっ、いいのか?」

 

「いいと言っている」

 

こうして、一夏に箒がコーチとしてつくことが決まった。

 

「じゃあ優斗はどうするんだ?なんならどうだ、一緒に」

 

「う~ん…せっかく誘ってくれたところ悪いけどその話、断らせてもらうよ」

 

竹内は一夏の提案を断った。

 

「2人いっぺんに教えるんじゃ篠ノ之さんも大変だろうし…それに一応僕たちもライバル同士になるわけだから、せっかくなら別々に訓練して、お互い強くなってから戦おうと思うんだ」

 

「…わかった、俺も箒との訓練で強くなってみせるぜ!その時は正々堂々と戦おう!」

 

一夏は"ライバル"という言葉に感動し、竹内の案に乗ることにした。そして2人は拳を合わせた。

 

「箒、改めてよろしく頼むぜ!オルコットにも、優斗にも負けられないからな!」

 

「わかった、私がお前を強くしてやる!」

 

やる気を見せる一夏と箒。

 

「それじゃあ僕はしばらくは1人で頑張ってみるよ」

 

「おや?てっきり僕に訓練の手伝いを頼むものと思っていたけど、いいのかい?」

 

「それも少し考えたんですけど、岩崎くんのクラスに情報が筒抜けになるかも知れないですし…そもそも手伝う気ないでしょ?」

 

「いやぁ~ハハハ、バレてたかぁw」

 

対していまひとつまとまりに欠ける竹内と岩崎。竹内は他クラスの岩崎に頼らず、まずは1人で試行錯誤することを決めたようだ。

 

対決まであと6日。IS初心者の2人はどんな訓練をこなし、どのようにしてイギリス代表候補生のセシリア・オルコットに挑むのか…?




箒と共に訓練する一夏。対する竹内は1人で訓練をしていたが、やはり1人では限界があった。この状況を竹内はどう対処するのか…?そして週末、1週間ぶりにα社に戻ってきた竹内は新たな力を手にする。
to be continued...

※実は竹内と岩崎にIS操縦者適性があることが判明したあと割りとすぐ、2人に専用機開発の話は出ていた。そして専用機が完成するまでの間、2人には練習機としてα社製量産型ISが貸し与えられていて、竹内は操縦訓練に、岩崎には整備訓練に使っている。本当はこのことはもう少し早く書きたかったのだが、書き進めるうちにタイミングを失ってしまい今になって書く羽目に…

どうも、緑の章の動物兵器に名前をつけるとき担当声優の他の役名を付けている剣サタです。…これで意味わかるかな…?

例…主:竹内優斗=CV:福山潤さん→動物兵器の名前=ルルーシュ(略称:ルル)

と、こんな感じです。私の陳腐な頭じゃこんな風でしか名前が思い付かないもので…。

竹内くんに限らずガンオケのキャラって朝の6時くらいにはとっくに起きてそうだよね、7時に家を出れるくらいだし。ただ緑の章はあと1時間…いや、30分早く行動できても良さそうだよね。青の章は…知らん!(青の章未プレイ←)

岩崎くんの御守ネタ、これは執筆中に思い付いたネタです。ちなみに竹内くんが彼からもらった御守、それは当然(?)安産のお守り。『借金で買ったものだけど気にしないでいいよ』。そう言うなら最初からそういうことは言わんでくれ、かえって気になるから…。

コーチを買って出た先輩。最初は彼女に竹内くんのコーチをやってもらおうと考えてたんですが、そうなると新たに名前を考えなければならなくなり、いい名前が思い付かなかったので退散させました…ゴメン、先輩さん。

しかし…なんか回を追う毎に作りが雑になってる気がする…ゴメン、読者の皆さん。こんな作品ですがまた次回も読んでください!質問があれば感想欄に、答えられれば答えます。

ではまた次回お会いしましょう、サラバダー。


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1-5:決戦へ向けて 新たな力

…前書きって何書けば良いんだろ…(←今更感丸出し)

ま、今までテキトーに書いてきたし、これからもテキトーに書いていくんだろうな、うんうん

そんなわけで、始まります。例によって、わずかでも苦手意識を感じられた方は早めのブラウザバックをおすすめします。

そんなことはないという方、ようこそ、剣とサターンホワイトのクセ強めの世界へ…


―――パーン!

 

―――バシッ!バシッ!

 

放課後の剣道場。

 

今日もこの道場から竹刀の音が響いている。

 

しかしこの日は部活動があるわけではなく…

 

「面!面!胴ッ!」

 

「うわぁ!」

 

…箒の指導の下、一夏が訓練に励んでいた。…はずだったが…?

 

「………弱い………」

 

一夏を圧倒した箒が声を震わせて呟いた。

 

「何故だ!何故お前はこんなにも弱くなっている!?」

 

すると今度は大声を出して一夏に詰め寄った。彼女の記憶の中の一夏は、自分よりも僅かにだが強く、もし順当に剣道を続けていたなら、この手合わせもこんなにすぐには終わらなかっただろう。だが現実の一夏はあっという間に自分に敗れた。あまりの弱さに拍子抜けすらしている。久々に一夏との剣を交えた戦いをもっと楽しみたかったのに、こうもあっさりと終わらせてしまった幼馴染みに箒は悲しみ、そして怒った。

 

「い、いやぁ…中学の時はバイトとかしてたからさ…」

 

しかしそれも彼の事情を考えれば多少は仕方のない事なのかもしれない。読者の皆さんもご存知の通り、織斑一夏は物心つく前に両親に捨てられ、姉である織斑千冬に育てられてきた。姉の負担を少しでも減らすため、アルバイトをして生活費を稼いでいた。

 

「…それで、中学の時は何部に所属していた?」

 

「帰宅部だ!それも3年連続皆勤賞だぜ!」

 

アルバイトをするために時間を使う一夏は、当然部活動などしている時間はなかった。数々のアルバイトをこなしてきたその体はそれなりに逞しいものになっていた。しかし、剣道に限らず実力とは何もしなければ落ちていくもの…しばらく剣を握らぬ内に鈍ってしまったのだった。…しかし、何もドヤ顔で言うことじゃなかろうに…。

 

「……叩き直す」

 

「ほ、箒さん…?」

 

「その鈍った腕と根性を叩き直す!今日からみっちりこの私が貴様をしごいてやる!」

 

「…………………」

 

箒に何らかの火が点いたらしく、この時からISの特訓はどこかへすっ飛び、剣道の特訓にシフトチェンジしていった。その事を一夏も、箒も全く気付かずにいた…。

 

―――――――――

 

一方その頃。

 

1人で訓練することにした竹内は、トレーニングルームに来ていた。ISのコーチがいない以上、1人でも出来るトレーニングを行うことにしたらしい。

 

「どれからやろうかな…」

 

このトレーニングルーム、様々な器具が取り揃えられていて、まるでスポーツジムのようになっている。

 

竹内はとりあえず学兵時代の訓練を一通りやってみようと、ルームランナーでのランニングを1時間と30分、休憩がてら鏡の前での瞑想を30分、最後にサンドバッグを使った打ち込みを1時間、というメニューを組んでやってみることにした。

 

「さて、はじめますか」

 

―――――――――

 

3時間後。竹内は難なくすべてのメニューをこなしたが、簡単すぎて手応えがないとも思っていた。要するに、早くも1人での訓練に限界を感じ始めていたのだ。どうしたものかと考えようとしたが、ふと時計を見るともう6時を回っていた。昨日真耶から聞いた話ではもう食堂が開いていて、1時間もすれば閉じてしまうとの事らしい。

 

「(ちょうどお腹も空いてきたしな…考えるのは後でも出来るから、今は腹ごしらえしますか)」

 

そう思った竹内は、トレーニングルームの隣にあるシャワー室で軽く汗を流してから食堂へ向かうのだった。

 

―――――――――

 

竹内は夕食を食べ終え、部屋に帰ってきた。入る前に扉を数回ノックする。

 

「はーい!」

 

「谷本さん、竹内です。入って大丈夫ですか?」

 

「うん、いーよ!」

 

癒子からOKの返事が来たので中に入ると…

 

「ヤッホー、竹内くん!」

 

「お邪魔してるのだ~」

 

彼女の友人らしき女子生徒が遊びに来ていた。

 

「あぁ、いらっしゃい。えーっと確か同じクラスの…」

 

相川清香(あいかわきよか)だよっ!」

 

布仏本音(のほとけほんね)だよ~、しっかり覚えてね、タケッチ~」

 

2人の女子生徒、清香と本音が自己紹介をした。

 

「いやぁゴメン、まだ顔と名前が一致しなくって。よろしく2人とも。ところで布仏さん、"タケッチ"って僕のこと?」

 

「うん、"竹内"だから"タケッチ"だよ~」

 

こうして竹内は2人の女子生徒と知り合いになり、さらに新たに愛称をもらった。

 

「ところで竹内くん、1人で特訓してるって噂で聞いたけど、実際のところどうなの?」

 

癒子が竹内の訓練状況について尋ねてきた。

 

「あーそれなんだけど…1人じゃどうにも効率悪くて…特にISを使ったトレーニングは土曜日になるまでは望めないし…」

 

「ふーん…何か手伝えることないかな~」

 

「うーん…特には…あ、そうだ!」

 

竹内に良案が思いついた。

 

「お、何なに?何かいい方法でも思いついたの?」

 

「ねえねえ、私たちも何か協力できる?」

 

「ワクワクッ♪」

 

癒子たちも竹内の案に興味津々だ。

 

「うん。だけどそれには人数が多い方がいいから…明日の放課後、僕の訓練を手伝ってくれる人を募るよ。詳しいことはその時話すから、今はまだ秘密ってことで…」

 

「むぅ~気になるなぁ…」

 

「まぁいいじゃない、明日になればわかることだし。わかったわ、じゃあ明日の放課後は空けておくわ!」

 

「私も明日なら大丈夫だから行っちゃうよ~」

 

「もちろん私も行くわ」

 

相川清香、布仏本音、そして谷本癒子、この3人の参加が決定した。

 

「ありがとう3人とも。あそうそう、なるべく動きやすい服装をして来てね」

 

「「「ハーイ!」」」

 

その後4人は消灯時間ギリギリまで談笑し、時間が来ると清香と本音は帰っていった。

 

―――――――――

 

翌日の放課後。

 

「みんな聞いてください!」

 

竹内が声を張り、クラスメートのほとんどが竹内に注目した。

 

「手が空いてて、僕の訓練を手伝ってくれるっていう人は、この後動きやすい服装で、グラウンドに来てください!」

 

この一言で手の空いているクラスメートは大急ぎで教室を飛び出していった。

 

「優斗の奴、いったい何をするつもりなんだ…?」

 

この光景を見ていた一夏は不思議そうに呟いた。

 

――――数分後。

 

「お待たせしました」

 

竹内がグラウンドに来ると、癒子たちを含めて8人のクラスメートが来ていた。4月ということもあってか、動きやすい服装ということでみんな上下学校指定のジャージ姿だ。

 

「えっとまず最初に、集まってくれてありがとう。これから訓練の一環としてみんなと中当てドッジボールをやろうと思います」

 

それを聞いたみんなの頭上には"?"が浮かぶ。

 

「ただし、いくつか独自のルールを適用します。まずその1、内野は僕1人で、外野は皆さん全員でやります。その2、僕は原則キャッチはしない、基本的に回避だけします。その3、使うボールは…これです」

 

竹内はルール説明をしながら使うボールであるテニスボールを見せた。

 

「その4、制限時間は…そうだな…5分!5分で1セットとしよう。以上!ここまで何か質問ある人?」

 

竹内が質問の有無を問うと、女子生徒は少し互いに話し合った後、1人が手をあげた。

 

「えっと、何で中当てなの?」

 

その質問が来ると竹内は「あー…やっぱりそう来るかぁ」と苦笑いした。

 

「これは僕の反射神経を鍛える訓練にしようと思ったんだけど、どうせなら楽しくやろうと思ってレクリエーション形式で中当てにしてみたんだ。他に質問がある人は?」

 

別の1人が手をあげた。

 

「じゃあ、テニスボールを使うのは?球が小さくて避けやすいじゃない」

 

「いや、小さい分スピードが出やすくてかえって避けにくくなるんだ。生半可な反射神経じゃなおさらね。それに速いから素手でのキャッチも難しい。だからテニスボールを採用したんだ」

 

竹内の返答が終わると「へぇ~」と言う声がその場を占めた。

 

「そういえば昨日さ、『多い方がいい』って言ってたけどそれってどういうこと?」

 

癒子が新たな質問をしてきた。

 

「うん、そこら辺は後で説明するつもりだったんだけど、僕が1セット…5分間ボールを避けきれたら、次のセットの時にボールを増やそうと思ってね。ただ、人数分以上の球だと捕るのと投げるので大変だろうから、どうしても投げ手の人数が欲しかったんだ」

 

癒子は納得したように頷いた。

 

「じゃあもしも私たちが当てることができたらどうするの?」

 

「そのセットはそこでおしまい。休憩を挟んで同じボール個数で再スタート…かな?」

 

次の質問にも竹内は答えたが、質問者である女子生徒はどこか不満げだ。

 

「そうじゃなくてさその…ご褒美みたいなのが欲しいなぁなんてw」

 

彼女はそう言いながら悪戯な笑みを輝かせた。

 

「うっ…ご褒美か…考えてなかったな…」

 

竹内は少し考えるとこう言った。

 

「わかった。じゃあ僕に当てることが出来た人に、1人につき2つまでお好きなデザートを奢りましょう!」

 

「おおっ!」

 

竹内の提案に歓声が上がる。

 

「ただし、僕も本気で逃げ回るよ!だからみんなも全力で当てにきてください!」

 

竹内は自分を含めたこの場にいる全員を奮い立たせるためにこう言ったが…

 

「「「………………………」」」

 

みんなはすでに目の色を変えて虎視眈々と竹内を狙っている。

 

「(う、うへぇ~…)」

 

この様子に竹内は怯んでしまった。後に竹内はこの時の彼女たちの目を「まるで集団で狩りをするメスライオンのようだった」と手記に残している。

 

「そ、それじゃ始めるよ。ヨーイ、スタート!」

 

いつの間にやら作ったコートに全員配置につき、竹内の掛け声でゲームが始まった。

 

―――――――――

 

開始2分半後。

 

まだ、竹内は女子生徒の投げるボールには当たっていない。が、予想以上に彼女たちの投げるボールは鋭かった。とりわけいい球を放るのは…

 

「えぇいッ!!」

 

相川清香である。昨夜聞いた話では、ハンドボール部に入部したらしい。それもあってか、球の違いはあれどその手から放たれるボールはこの中の誰よりも速い。

 

「うおっ!」

 

竹内も清香の投げるボールは特に警戒して対処している。

 

しかしこの後は特にこれと言った見せ場もなく、最初の5分間は終わってしまった。

 

「5分経過!1セット終了だ!みんな、休憩にしよう!」

 

竹内がタイムアップを告げ、みんなを一休みさせる。

 

「あ~あ、当てられなかった~…」

 

女性陣は少し息を切らせながら近くの椅子に座った。惜しい投球もあった中結局誰1人1度も竹内に当てることができず悔しがっている。

 

「でもみんなすごい良い球を投げて僕ビックリしたよ。あと2分続いてたら当たっていたかも」

 

竹内がお世辞抜きに感想を述べた。

 

「でも、まだまだボールは1個。次からは2個使えるから次は当てるわよ!」

 

一番いい球を投げてた清香が竹内に挑発的に言った。

 

「僕も頑張って避けてみせる!ここからが本番だ!」

 

それに呼応するように竹内も言った。

 

「っと、そろそろ休憩終わり、次のセットはボール2つでいくよ!」

 

次のゲームの開始を知り、全員再び配置についた。

 

「それじゃあヨーイ、スタート!」

 

―――――――――

 

しかし、ボールが1個と2個では当然勝手が違う。竹内はボールを回避するのに四苦八苦している。飛んでくる球は2個。その2個は同時に投げられることもあれば、タイミングをずらして投げられることもある。さらに同じタイミングで投げられても、投げ手が違えば球の速さや軌道も大なり小なり違いが出てくる。これを躱すのはボール1個の時よりスタミナの消費が激しい。

 

それでも竹内にボールはいまだにかすりもしていない。竹内がしっかりと2個のボールを目視できる位置に陣取り、それを確実に躱しているからだ。

 

そしてそのまま残り1分を切ったところ。

 

「(よし、このまま行けばこのセットもクリアできる…!)」

 

竹内がそう思ったとき…

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

清香がボールを持って跳び上がった。そしてそのまま投球フォームに入った。それはさながらハンドボールのジャンプシュートのようだった。まだまだお世辞にも完璧とも、華麗ともいえない未熟なフォームだったが、竹内をビックリさせるには十分だった。清香は勢いよくボールを投げた。

 

「ハァッ!!」

 

高いところから放たれたボールは地表を行く竹内目指して一直線。

 

「うわあぁっ!?」

 

しかし清香を誰よりも警戒していたことが幸いしたか、竹内はなんとか逃げ切りその球には当たらなかった。それでもここまでの最速球を目の当たりにし、竹内は驚愕の色を隠せないでいた。

 

「それっ♪」

 

「…あ」

 

その時、竹内の近くにいて尚且つボールを持っていた本音が竹内にボールを当てた。彼が清香の球の威力に度肝を抜かれ、その分もう1個のボールを確保していた本音への警戒が緩み、その隙に当てられてしまったようだ。

 

しばらく呆気にとられていた竹内だったが、ハッと我にかえり…

 

「……ぼ、僕が当たってしまったのでこのセット終了!外野陣、女子チームの勝ち!!」

 

結果を伝えた。

 

なお、この後も竹内は何度も挑戦したが、残り1分間の壁でもあるのかその時間で毎回当てられ、最終的にはこの日この訓練に参加した女子生徒全員に約束のデザートを奢ることになったのだった。

 

「タケッチ~、ゴチになりますのだ~♪」

 

「あ…あはははは…」

 

幸せそうにデザートを頬張る女性陣。その微笑ましい光景を見ながらも、己の未熟さに最早渇いた笑いしか出ない竹内だった…。

 

―――――――――

 

日付は少し飛んで土曜日。

 

この日竹内は岩崎と共に、α社に帰ってきた。

 

「うんうん、たかだか1週間ぶりだというのに、ずいぶんと懐かしい感じがするなぁ」

 

「何をまた年寄り染みたことを言ってるんですか、早く行きますよ」

 

竹内は岩崎にツッコミを入れながら社屋へ歩を進める。ちなみに竹内がα社に戻ることを報告すると、平と代田がやたらと喜んでいたとか何とか…。

 

―――――――――

 

中に入ると、平が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさーい竹内くん!」

 

「うわぁっ!?」

 

…竹内だけを。竹内を見るや否や早速抱きついてきた。

 

「あらら~…相変わらずの溺愛っぷりですね」

 

岩崎が冷静にツッコんだ。

 

「あら、岩崎くんもお帰りなさい。あぁそうそう、竹内くんの専用ISが完成したわ!だから早く整備室に行ってきた方が良いわね。せっかくだし岩崎くんも見ていく?」

 

「そうですね、うんうん。しっかりとこの目に焼き付けさせてもらいますよ」

 

―――――――――

 

3人が整備室に来ると…

 

「…来たか」

 

α社社長、紫波勝司が待っていた。

 

「紫波社長、お久し振りです」

 

竹内が挨拶し、岩崎もペコリと一礼する。

 

「挨拶は無用だ…そんなことより竹内、すでに平から聞いたと思うがお前の専用機が完成した。石山田、代田、持ってこい」

 

紫波の指示で呼ばれた2人が台車を押して入ってきた。

 

「フフフフフフフ…素晴らしい!私の仕事は、スバラシイィィィ!!」

 

「うるせぇバカ!いいから押せ!」

 

…相変わらずの石山田と代田のド突き漫才に、竹内と岩崎は苦笑いしている。2人が押してきた台車の上には、布の掛かった物体がある。その布を外しながら紫波が紹介した。

 

「…これがお前の専用機"汐風(しおかぜ)"だ」




自分の専用機"汐風"を手に入れた竹内。そこへ代田が「マジで()り合おうぜ」と戦いを挑んできた。そしてついに迎えた決戦の日。竹内、一夏、セシリアはどんな戦いをみせるのか…?

to be continued...

どうも、クセ者作者です。やっぱり書く度作りが雑になってる気が…。

さて、竹内くんが行った中当て。これにはISでもなく、ガンオケでもない元ネタがあります。ドラゴンボールで悟飯が悟天に石を投げてもらいそれを避ける、あの修行です。察しの良い方はとっくに感づいてたかな?

またその前に、相川さんとのほほんさんが竹内くんと仲良くなりました。この2人と谷本さんは基本的にいつもつるんでるから遅かれ早かれこうなるよね。で、地味に苦労したのがのほほんさんが名付ける竹内くんのニックネーム。最終的に"タケッチ"になりましたが、どんなニックネームにするか、そしてその候補のうちどれにするか、かなり悩みました。いやはや…。

さあ、またしても中途半端なところで切ってしまったぞ私。こりゃあまた次回手こずるぞ…。


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1-6:トレーニングinα社 負けないために…! 

何だかインフィニット・ストラトスの原作11巻が発売されたみたいだけど…原作を読んでいない私には関係ない話…
ボクはボクで好きなようにお話を書き進めるだけなんダナ(失礼←

さぁ、「こんな無礼者の作品なんて読めるか!」と仰る方、悪いことは言わないのでブラウザバックでお早めに引き返した方が良いッスよ…

気にしないと仰ってくださる方、偏屈作者の偏屈世界へようこそ


今、竹内優斗の目の前には彼がかつて見たことのないISがあった(もっとも竹内はISをそんなに見ていないのだが…)。

 

「…これがお前の専用機"汐風"だ」

 

「(これが…僕の専用機…"汐風")」

 

紫波の説明を聞きながら竹内は自分の専用機となったISをじっと見ていた。

 

「代田から聞いたが、お前は飛行操縦や空中での機体制御が非常に上手いらしいな」

 

そう、温和な性格の竹内が、攻撃的な性格の代田に唯一勝るもの…それが飛行能力だった。元々竹内は空軍入りを夢見て、いずれはそこで大活躍することを信じて疑わなかったほどである。つまりどういう形であれ、空を飛ぶことに関してはこれ以上ないほどに勉強してきたのである。それがIS操縦時の飛行能力に反映されているようで、とにかく空中での動きの良さは群を抜いていた。

 

「この機体はそんなお前の特徴やクセをデータとして取り入れた。うまく立ち回ることができれば空中で敵無しになれるやもしれんな…ともかく、思いっきり空中戦を楽しんでこい!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

竹内は嬉しそうに礼を言った。

 

「じゃあ、初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を始めるので、竹内くんはこちらへ」

 

林の指示に従い、竹内は汐風に近づいた。

 

「これからよろしく、汐風」

 

―――――――――

 

設定が終わった汐風を手に、竹内はバトルコロシアムへ向かっていた。先程代田に「設定が終わり次第来い」と言われたからだ。一方竹内も、代田に何やら用があるらしく、道を急いでいた。

 

「遅くなりました」

 

竹内がコロシアムに入ると、代田が仁王立ちで待っていた。

 

「ああ、本当に遅かったな。まぁ来るなら何だって構わねぇけどな」

 

そう言うと代田は屈伸やら伸脚やら準備運動を始めた。

 

「今日来てもらったのは他でもない。お前も専用機を手に入れたわけだ。そこで…どうだ、本気(マジ)でオレと()り合わねぇか?」

 

「えぇっ!?」

 

代田の提案に、竹内は驚いた。

 

「オレはな竹内、昨日お前のISが完成するってのを聞いて、さらにお前が帰ってくると聞いてな、1度本気で戦ってみたくてウズウズしてんだよ…さぁ、そのISを展開しろ!お前と汐風(そいつ)がどれだけ出来るか、このオレが試してやる!」

 

代田が自分のIS"清純(せいじゅん)"を展開した。竹内は少し考えてから

 

「わかりました。ですがこれが終わったら僕の相談に乗ってください」

 

と言って汐風を展開し身に纏った。

 

「よし、そう来なくっちゃな!いいぜ、この試合(ケンカ)が終わったら相談でも何でも聞いてやる!行くぞ!」

 

代田が竹内に向かって突っ込んできた。武器も何も持たずに。

 

「うわわわっ!」

 

それがいつもの手だとわかっているのに、竹内は代田の気迫にビビり、後ろに飛び退いた。その時、竹内は飛び退いた移動距離にいつもとの違いに気がついた。普段使っていた量産ISを使っていたときはせいぜい3mくらい飛び退いていたのだが、汐風を使っている今同じぐらいの力で9mほど飛び退いていた。

 

「チィ!こんのぉぉおおお!」

 

すかさず代田が追撃してくる。いつもならこの追撃で1,2発くらいもらってしまうのだが、いつもより距離がある分出方を見る余裕がある。

 

「(見えるッ!)」

 

竹内は代田の拳をヒラリヒラリと躱していく。

 

「クソッ!いつもならここで確実に当ててるのに!」

 

拳を避けられた代田が悔しそうに呟く。

 

「(あの代田さんを相手に近接戦闘は危険だ…ナイフで切りつけるなんてもってのほか、こちらが当てる前に見切られて反撃をもらってしまう…)ならば!」

 

竹内はマシンガンをコールした。

 

「ええい!」

 

竹内は再び距離をとると、代田へ向けて乱射した。こうして距離をとって弾幕を張ることで代田の得意な近接戦に持ち込まれないようにしようと考えたのだ。しかし…

 

「ヘヘッ、そんなことじゃこのオレは止まらねぇぜ!」

 

銃弾などお構い無しに代田は突っ込んできた!その予想外の動きに、竹内は思わず怯んでしまった。

 

「ウォラァ!」

 

その隙を逃すほど代田は甘くない。代田は拳を握り、思いっきり竹内を殴った。竹内は殴られはしたが、後ろに飛ぶことによってその衝撃を逃がした。

 

「ケッ!どうした!そんなモンなのかテメェの本気ってやつは!」

 

代田が大声で語りかける。

 

「逃げてばっかじゃ、相手のシールドエネルギーを先に0にすることは出来ない、勝つことなんざ出来ねぇぞ!ビビってねぇで、もっと本気出してかかってこい!」

 

代田の一喝で竹内はハッとした。

 

「…代田さん…お陰で目が覚めました…腑抜けててすいませんでした…気合い入れていきます!」

 

「オシ、来い!」

 

―――――――――

 

数分後コロシアム近くの整備室。

 

代田が自分のISの調整をしている。

 

「代田さん、コーラ買ってきました」

 

「よし、ご苦労。そこら辺に置いとけ」

 

竹内が赤いラベルのペットボトルを持って入ってきた。勝負の結果竹内は負けてしまい、勝った代田に飲み物を奢る羽目となったのだった。

 

「…で?オメーの乗ってほしい相談って何なんだ?」

 

代田が竹内に尋ねた。

 

「はい、実はですね…」

 

竹内は次の月曜日(この日の2日後)にクラス代表決定戦があること、その対戦相手が織斑一夏とイギリス代表候補生のセシリア・オルコットであること、その他色々な事情を説明し、彼らに勝つにはどうしたらいいのかを尋ねた。

 

「なるほどなぁ、織斑千冬の弟にイギリス代表候補生と…まぁ、何とかならないでもないぜ」

 

「えっ、本当ですか?」

 

代田の答えに竹内は期待を込めて聞き返した。

 

「こういうのはまず、相手のバトルスタイルを理解する。まぁオレみてぇに出たとこ勝負ってのもおもしれぇが、オメー向きじゃねぇしな…」

 

代田はコーラを一口飲んだ。

 

「織斑千冬の弟のデータは無い。ぽっと出だし、何より世界初の男のIS操縦者だからな。だが代表候補生なら資料はゴロゴロ転がってるはずだ」

 

「なるほど、つまり…」

 

「あぁ、相手のできることを調べて、それをさせない手を打てば、勝つ可能性は格段に上がる。ケンカだろうがゲームだろうが、コトを優位に進めるには敵のやりたいことをさせず、自分は好き勝手やりたい放題やることだ。そのためにはまず頭で戦闘パターンを覚え、次に実戦で体に染み込ませ、そこから対抗策を練り上げる!」

 

「…!」

 

2人の顔つきが変わった。

 

「オメー、明日も戻ってくるんだろ?」

 

「はい、そのつもりです」

 

「今日と明日の2日間しかないが、やるっきゃねぇ!行くぞ!」

 

「ハイ!」

 

2人はまず、セシリアのISについて調べることにした。

 

―――――――――

 

一方その頃、岩崎は…

 

「ほぅ、思ってた以上にいい調整がなされているじゃないか。これなら出撃可能どころか出撃準備万端だな」

 

「ほんとね…私も初めて整備した時もここまで上手くできなかったのに…」

 

別の整備室で、課されていた課題を林、西、石山田に見てもらっていた。課題は「各々預けられたISを調整し、出撃可能判定をもらえ」というものだ。

 

「いえいえ、石山田さんが貸してくださったメカニックサポートマニュアルのおかげですよ。あれがなかったら手も足も出ませんでしたよ」

 

「フフフフフ、なんならそのままパクっちゃっても構いませんよ?何せ私にはもう必要ありませんからねぇ」

 

「…オメいつの間にそんなん渡してたんだ…?まぁそれはさておき、次の課題だ」

 

西は置いてあったライフル銃を手にとって岩崎に差し出した。

 

「これはお前に預けてたIS備え付けの銃だ。こいつをお前の思う通りに改造してみろ」

 

「ちょっと太介、もうそんなところやらせちゃうの?」

 

林が西の出した課題に食いついた。普通ならこの課題は入社して半年以上経ってから出されるものだからだ。

 

「ああ、その通りだ義姉さん。こいつの腕なら、もう基礎を重ねる必要はない。もう基礎は出来上がっているからな」

 

「それはそうかもしれないけど…」

 

林はまだ納得がいってないようだが…

 

「面白そうですね、是非やらせてください」

 

岩崎はニヤリと笑いながら快諾した。

 

「よし、期限は無しでいい。出来次第見せてみろ」

 

「はい、了解です」

 

岩崎は敬礼してみせると銃を量子変換して仕舞い、この場をあとにした。

 

―――――――――

 

さて、代田と共に対策を練ろうという竹内。セシリアの戦い方を研究する中、竹内は彼女の攻撃方法にある感情が沸き上がっていた。

 

「あぁ?どうした、震えちまってよぉ。もうビビったのか?」

 

代田が竹内の様子に気づき声をかけた。

 

「い…いえ、そういう訳じゃないんですけど…」

 

竹内はそれを否定した。

 

「まぁいい…いいか、ヤツの攻撃はほとんどが射撃攻撃だ。相手から距離を取り、レーザーライフルで狙い撃ち、そして4機のビット兵器で死角をついた攻撃。かといって、接近しようとすればミサイルでドカンっつー寸法だ」

 

「……………」

 

「だが、どのデータを見てもアイツが近接戦闘をしているところは無かった。ここから考えられることは接近戦においてまだ公開していない奥の手があるのか、それとも単に苦手なだけか…とにかく、勝つためにはアイツに接近戦を仕掛けるのが有効だろう。いいか、ヤツの撃つレーザーやミサイルをお前のスピードで掻い潜り、直接攻撃を叩き込む。これを徹底的にやるぞ」

 

代田はそう言うと席を離れ、出口へと歩いていく。

 

「10分間の休憩の後、バトルコロシアムで訓練開始だ。それまでISを調整するなり、しっかり休むなりしておけ」

 

そう言い残し、代田は去っていった。彼女にとってここまで頭を使う仕事は久し振りだったので、休息を必要としていたのであった。

 

竹内は返事をすると自分のISの調整にかかった。

 

――10分後

 

ISの調整を終えた竹内はピットのカタパルトで代田が戻ってくるのを待っていた。しかし、いくら待っても代田は姿を見せない。どうしたのだろう…。竹内がそう思ったその時。

 

『こちら代田、聞こえるか竹内ィ!応答しろ!』

 

代田がオープンチャネルで話しかけてきた。

 

「は、はい!こちら竹内!代田さん、今どちらに…」

 

『そんなことはどうでもいい!…オメー、コロシアムにいるんだろうな?』

 

竹内は慌てて応答し、代田にどこにいるのかを尋ねようとしたが、逆に彼女からコロシアムに来たのかと確認をとられた。

 

「います…カタパルトにですけど…。これから何をするんですか?」

 

『対策訓練だ…まだ飛び出すんじゃねぇぞ』

 

代田がそう言って一呼吸おいた。

 

『いいか、今このフィールドの至るところに砲台が設置されている。それはオレの操作で一斉射撃が始まる…このようにな!』

 

代田が説明を句切ると一時の間を空けて四方八方から雨のような銃弾が放たれ、フィールドはまさに戦場と化した。しばらくすると代田は砲撃を止め、説明を続けた。

 

『使用できる武装はナイフのみ!今からオメーはナイフ一本でこの無法地帯に飛び込み、多くの弾を避け続けろ。一定時間凌ぎきれば、ターゲットが現れる。そいつを近接戦闘で潰せ!』

 

「はい…わかりました」

 

竹内は自信無さげに、だが真剣な顔で答えた。

 

『よし、フィールドに出て5秒後だ。5秒後に砲撃を開始する。…自信を持て、お前なら出来る…!』

 

代田の言葉に後押しされ、竹内はフィールドに飛び出していった。そしてフィールドに出て5秒後…

 

『よっしゃあ!行くぜェ!』

 

代田の掛け声と共にフィールドはまたまた銃弾砲弾の雨あられとなった。カタパルトから見てたさっきとは違って今はその真っ只中にいるため、弾を避けなければならない。

 

「はっ、くっ…うわっ!?」

 

竹内は縦横無尽に飛び回る。前方からの弾は簡単に避けられるが、後方からの攻撃にはまだ対応しきれず、30秒に十数発もらってしまう。

 

『同じ場所に留まるな!止まればその瞬間が的になる!常に動き回れ!敵のロックを振り切れ!』

 

代田のアドバイスが飛び、竹内は実行に移す。するとどうだろう。十数発もらっていた後方からの攻撃が、2分に1発程度に抑えられるようになってきた。

 

――そしてひたすら避け続けること50分…。

 

これだけの時間連続でISに乗ったことの無かった竹内はもう疲れの色を隠せなくなってきた。その証拠に飛行移動にキレがなく、訓練開始当初はビシッビシッと回れていた旋回行動も今になっては小回りが利かず下手をしたらコロシアムの壁に激突しそうになっている。しかしここで…

 

『ターゲット出現、接近してヤツを潰せ!』

 

代田のオペレートと同時にターゲットシンボルが現れた!竹内は何とか残りの力を振り絞り、フルスピードで砲台の攻撃を振り切り、ターゲットに接近。勢いそのままにナイフで切りつけた。

 

『よし!それまで!休んでいいぞ!』

 

その声を聞いた竹内は力なく着地し、ISを解除してため息をついた。

 

『今日はこれをあと2,3回やる。ISとお前自身ゆっくり休めておけ』

 

「ハァ…ハァ…わかりました」

 

竹内はもうクタクタだったが、あの嵐を凌ぎきったことは自信になった。もっと動きを良くすれば…。竹内の頭の中は疲れたことよりも、どうやったらうまく躱せるかを考えることでいっぱいだった。

 

―――――――――

 

そして訓練は続き、気付けばもう午後6時。

 

「よし、今日はここまでだ!」

 

「ハァ~…」

 

代田が終了の号令をかけると、竹内は糸が切れたようにへたり込んだ。

 

「なんだぁ?こんなにヘトヘトになりやがって、だらしねぇなぁ…体力つけろよ?」

 

「いえ…体力には自信があったんですが…慣れないことをやったもので…疲れちゃいました」

 

「あっそ、まぁそういうことなら明日は今日よりは大丈夫だろ…んで?お前はこの後どうするんだ?」

 

「えぇ…今日はもう学園に帰りますよ、外泊届は出してませんし」

 

「そうか…ゆっくり休めよ」

 

「はい…今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 

竹内は代田にお礼を言ってバトルコロシアムを出た。

 

この後竹内は岩崎と合流し、共に学園へ帰宅。なお夕食の時間に間に合わないことに気付き、近くの小料理屋で食事をしてからの帰宅となった。

 

―――――――――

 

そして翌日。この日も竹内は代田と訓練するために、岩崎は上司たちに課題の銃改造のヒントをもらいにα社へ向かった。その結果竹内はさらに自信をつけ、岩崎は改造に向けての参考を数多く得ることが出来、2人にとってはなかなか充実した土日となったのだった。

 

―――――――――

 

そして、ついに迎えた決戦当日。クラス代表の候補者がそれぞれの思いを抱き戦いに臨む。

 

「…なぁ、ISのことを教えてくれるって話はどうなったんだ…?」

 

「…………………………」フイッ

 

「目を逸らすな!」

 

…果たしてどうなることやら。




ついに決戦。3人の候補者がそれぞれの思いをアリーナにてぶつけ合う!第1試合は一夏vsセシリア。しかし、一夏の専用機がまだ届いていない!試合開始までに間に合うのか…!?

続く…

注)一応言っておきますが代田さんはいわゆるオレっ娘です…基本的には。

どーも、作中の進行スピードが思っていたより遅いことに気付いてしまった剣とサターンホワイトです。←

やっぱりというべきか、予想通り手こずりましたね。もっとも私自身執筆を忘れていたって言うのもありますが(コラコラ←)。

竹内くんは専用機"汐風"を手に入れましたが岩崎くんの専用機は?ご安心(?)ください、まだ完成してないだけでこれから出てくるはずです。

…でもって、セシリアさんとブルーティアーズの資料を探ってる途中、ある感情が沸き上がったという竹内くん。今回は特に語られませんでしたが…先に言っておくとどうしてもやりたいネタがあるんです。大した内容じゃありませんが、ガンオケを既プレイの方には共感してもらえるだろうと踏んでいます。

しかしやっぱり作りが雑だな…私に文才とか表現力がもっとあればこんなことにはなるまいに…。

えー、毎回チラシ裏まで来てこの作品を読んでくださる皆さん、いつもありがとうございます。次回の更新はいつものことながら本当にいつになるかはわかりませんが必ず書き上げるので、これからも宜しくお願いします。


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1-7:激突 クラス代表決定戦!

ふと思った。ガンオケのキャラには何故誕生日が設定されていないのか。せいぜい菅原さんが夏生まれと言及されてるのみである。ガンパレのキャラにはみんな設定されているのに……1人変な奴いたけど。

そんなことはさておき、今回はいよいよクラス代表決定戦!まずは一夏VSセシリアです。

読んでてこの作品に苦手意識その他負の感情を募らせた場合、速やかなブラウザバックをおすすめします。

そうでない方、お待たせしました。ようこそ、我が物語世界へ…


「…なぁ、ISのことを教えてくれるって話はどうなったんだ…?」

 

「…………………………」フイッ

 

「目を逸らすな!」

 

ここは第3アリーナのピット。決戦を控えISスーツに身を包んだ一夏が箒に抗議している。

 

「仕方ないだろう…お前のISはまだ届いていないし、訓練機だって簡単には借りられないし…」

 

「でもISの知識とか基礎とかそういう事もあっただろ?」

 

「…………………………」フイッ

 

「だから目を逸らすなって!」

 

「あれ?織斑くんに篠ノ之さん、どうかしたの?」

 

竹内が入ってきた。こちらもすでにISスーツを来ている。

 

「あ、優斗か。実は箒にISのことを教えてもらうはずだったのに、ずっと剣道の特訓ばっかりだったんだ。その事について今聞いてみたんだけど…」チラッ

 

「……………」フイッ

 

「…こんな感じで目を逸らされちまうんだ…」

 

「…あららら…けど織斑くんも参考書再発行してもらってたけど、あれは読んでみたりはしたの?」

 

「あぁ、俺も1人でやってみようと思って読んでみたんだけど、…さっぱりワケがわからねぇ…」

 

「…あちゃー…」

 

ここまでの経緯を聞いた竹内は呆れるやら心配するやら…。

 

「ま、まぁそれだけ剣道をやってきたんだから、実戦でも剣道の立ち回りがしっかり出来れば接近戦は何とかなるんじゃないかな?」

 

「そ、そうだ一夏、竹内の言う通りだ!」

 

「……………」

 

竹内が明らかに同情していることと、箒が竹内に便乗して自分の失態を無かったことにしようとしているのが、一夏にも見え見えだった。彼は文句の1つでも言ってやりたかったが、2人に八つ当たりするのも何か違う気がしたので、代わりに2人にバレないように小さくため息を吐いた。

 

また、彼の心配事はこれだけではない。

 

「(それにしても…俺のIS、いつになったら来るんだ?)」

 

そう、まもなく試合だと言うのに、彼の専用機が届いていないのだ。専用機を諦めて訓練機を借りに行こうかと考え始めたその時…

 

「おおおおおおお織斑くーーーーーーん!!!!!」

 

真耶が慌てた様子で駆け込んできた。

 

「や、山田先生、落ち着いてください、こういうときは深呼吸、はい吸ってー、吐いてー…」

 

一夏が真耶に深呼吸を促す。

 

「すぅ~…、はぁ~…」

 

一夏の号令に合わせて深呼吸をする真耶。

 

「吸ってー…はいここで止める!」

 

すると一夏が真耶に息を止めるようにと言った。ほんの出来心と言うか、ノリ(悪ノリ?)というか、とにかく冗談で言ったのだろう。

 

「ッ……………!」

 

しかし、真耶はこれを真に受けてしまい本当に息を止めてしまった。

 

「……………」

 

まさか本当に止めるとは思わず、一夏は呆気にとられた。

 

「…………………!!//////」

 

まだ忠実に息を止め続けている真耶。しかし酸欠になってきたのか、次第に顔が赤くなっていく。

 

「やっ山田先生!も、もう息をしてもいいです!…って言うかしてください!このままじゃ窒息してしまいますよ!?」

 

竹内が焦ったように言った。

 

「…プハァッ!…ハァ…ハァ…」

 

やっと新鮮な空気を吸うことが出来た真耶。相当苦しかったのかまだまだしゃべれそうにないが、みるみる顔色がよくなっていった。その様子に竹内がホッとした次の瞬間…

 

――パァン!

 

「目上の人間には敬意を払え馬鹿者!」

 

千冬の怒号と何かが叩かれる音がした。竹内が音のした方へ振り向くと、そこにはいつの間にか仁王立ちする千冬と、頭を押さえてうずくまる一夏がいた。また千冬の手には出席簿があり、この様子から竹内は大体の事を察したようだ。

 

「イタタタタタ…ち、千冬姉…」

 

――パァン!

 

「『織斑先生』だ、学習しろ。さもなくば死ね」

 

一夏が何か言おうとしたが、千冬によって制圧されてしまったようだ。

 

「ところで、どうしたんですか?そんなに慌てて」

 

真耶の復活したところを見計らって竹内が尋ねた。

 

「あぁそうでした。届きましたよ、織斑くんのIS!」

 

「え、本当ですか!」

 

一夏は喜んだ。これで少しはまともに戦える。しかしその喜びに浸る時間は10秒もなかった。

 

「急げ織斑。アリーナの使用時間は限られている。すぐに準備!ぶっつけ本番でモノにしろ」

 

千冬に急かされ、一夏はすぐに準備にかかった。

 

―――――――――

 

搬入口の扉がゆっくり開く。その向こうには汚れなき白のISが鎮座していた。

 

「これが織斑くんの専用IS、"白式"です!」

 

真耶が説明した。

 

「早く装着しろ。時間がないから初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)は実戦でやれ。出来なければお前は負ける…わかったな」

 

千冬に促されて一夏は白いIS・白式に触れた。するとISが反応し、一夏の身体に装着されていく。

 

「…どうだ織斑、気分は悪くないか?」

 

「大丈夫です、織斑先生」

 

「そうか…ではカタパルトから出撃しろ。…悔いは残すな、行ってこい」

 

「! はい!」

 

一夏は千冬から言葉をかけてもらい勇んでカタパルトに向かった。そして乗る前に深呼吸してもう一度箒や竹内のいる方へ振り向いた。

 

「箒、行ってくるぜ」

 

「ああ、勝ってこい…!」

 

まず箒の激励を受け

 

「優斗、あとでいい試合をしようぜ!」

 

「うん!」

 

竹内にも声をかけた。そしてカタパルトに乗り、ゲートの開放に合わせて出撃していった。

 

―――――――――

 

一夏がアリーナに飛び出すと、すでにセシリアが待ち構えていた。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

相変わらず挑発的な台詞を並べるセシリア。

 

『それでは第1試合、織斑一夏VSセシリア・オルコット、試合開始!』

 

アナウンスが流れ、ブザーが鳴る。しかし、両者とも睨み合ったまま動かない。

 

「あなたに、最後のチャンスを差し上げますわ」

 

セシリアが一夏を指差し口を開いた。

 

「チャンス?何だよチャンスって」

 

一夏が表情を変えずに尋ねた。

 

「この私が圧倒的な大勝利を収めることは自明の理。ですからボロボロの惨めな姿を晒したくないと言うのであれば、今すぐこの場で謝るのであれば許してあげないこともなくってよ」

 

何やら取引を持ちかけているようだ。そう言いつつも一夏に照準を合わせる。その事は一夏の白式にも伝えられている。

 

「…そういうのはチャンスとは言わないな。それに、優斗も言ってただろ?『本気で戦って負けた方がスッキリする』って。俺もそれに関しては同意見だ」

 

「そう?残念ですわ。それでは…………」

 

交渉決裂。すなわちそれは…

 

「お別れですわね!」

 

開戦を意味する。セシリアは狙いをつけていたレーザーライフルを一夏に向けて撃った。

 

「うおっ!?」

 

…来ることはわかっていたのに身体が反応しきれずにその一撃をもらってしまった。すかさずセシリアの追撃が一夏を襲う。

 

「さぁ、踊りなさい!私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

次々とレーザーを撃ちまくるセシリア。それはさながら雨…レーザーの1発1発がまさに蒼い雫のようだ。

 

「くっ、武器は!?」

 

このまま黙ってやられるわけにはいかない。そう思った一夏は武装一覧を呼び出したが、使用可能武器は近接ブレード…ただこの1つだけ。

 

「くそッ、これだけかッ!?…だが素手でやるよりかは良い!」

 

武装の少なさを嘆く暇はない。一夏はブレードをコールし、セシリアに向かっていく。

 

「中距離射撃型の私に、近距離格闘武器で挑もうとは………………笑止ですわ!」

 

セシリアは向かってくる一夏を迎撃する。

 

この後しばらくの間、一夏はセシリアの攻撃をかなりもらいつつも、何とか凌いでいくことになる。

 

―――――――――

 

開始から30分を越えようというところで、互いに戦闘行為を一時的に止めた。片やまだまだ余裕綽々なセシリアのブルー・ティアーズ、片やボロボロの一夏の白式。

 

「ここまで闘い抜くとは…褒めて差し上げますわ」

 

「…そりゃどーも」

 

「そんなあなたに敬意を表し…これで終わりにしますわ!」

 

セシリアが言うとブルー・ティアーズから4基のビットが放たれた。これがセシリアの専用ISの特徴、本体と同じ名を持つBT兵器。

 

「行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

セシリアが指示を出し、ビットが四方から一夏を狙い撃つ。一夏は何とかビットからのレーザーを躱すが…

 

「そこ!もらいましたわ!」

 

今度はセシリアのライフルが一夏を狙う。

 

「こうなればッ!」

 

このまま終わるわけにはいかない一夏は回避したときの勢いを利用しセシリアに突っ込んでいく。この奇策が功を奏したか、辛うじてライフルの射撃を阻むことができた。

 

「なっ!?無茶しますわね…ですが!」

 

セシリアがもう一度ビットを飛ばし一夏を襲う。しかし一夏はこの時、あることに気づいた。

 

「そうかわかったぞ!」

 

今度もレーザーを躱しきり、ブレードを振り抜いた。間合いに入っていたビットを1基打ち落とした。

 

「なんですって!?」

 

想定外の事実にセシリアは驚きを隠せない。その隙に一夏が斬りかかってきた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ…!」

 

セシリアは後方に下がって一夏のブレードを回避し、またビットを一夏に差し向ける。しかし…

 

「この兵器はお前が指示を送らないと動かない。しかも…」

 

一夏が指摘しながらまたビットを1基落とし、残りの攻撃もしっかり躱した。

 

「その間お前は他の攻撃ができない。なぜならビット(こいつ)を制御するのに意識を集中させなければならないからだ!そうだろ?」

 

「……………ッ!」

 

「ヘッ、どうやら図星のようだな」

 

自分が指摘したことに何の反応も返ってこなかったことから、一夏はそれが図星であると判断した。

 

「(よし、これでようやく希望が見えてきたぜ)」

 

―――――――――

 

一方その頃、一夏側ピット

 

「よし、よく見抜いた!行け、一夏!そのまま畳み掛けろ!」

 

箒が嬉しそうに声援を送る。

 

また、少し離れたところで竹内もこの試合を見ていた。

 

「(なるほど、そういう機能で動いていたのか…それを見抜くとは…ただ者じゃないようだね、織斑くん)」

 

竹内は一夏がビット兵器の仕組みを見抜いたことを大いに評価していた。

 

「(だけど安心するのはまだ早い…オルコットさんはまだあの武器を使っていない…油断しちゃダメだ)」

 

そう、対策を練ってきた竹内はまだセシリアが使っていない武器があることを知っている。嬉々として声援を送る箒のように手放しで喜ぶことは出来なかった。

 

―――――――――

 

更に一方その頃、管制室

 

「すごいですねぇ織斑くん、とてもISの起動が2回目とは思えません」

 

こちらでも真耶が一夏を絶賛してた。しかし千冬の表情は相変わらず厳しいものだ。

 

「…あの馬鹿、調子に乗ってやがるな…」

 

「えっ?」

 

「織斑の左手、握ったり開いたりしているだろう。あれはアイツが調子に乗って浮かれてるときによく出る癖だ。あの癖が出るとき、決まってアイツは単純なミスを犯す」

 

「へぇ~…さすがご姉弟…」

 

千冬が一夏のことをしっかり理解しているのを見た真耶はその事に感心した。

 

―――――――――

 

そして再びアリーナ、戦闘中

 

「残るは2基!」

 

試合が再び動き出す。一夏がもう一度セシリアに仕掛ける。そうはさせじとセシリアも残ったビットとライフルを駆使し一夏の接近を阻もうとしたがその2基のビットも撃墜されいよいよ一夏が最接近してきた。

 

「(獲った!)うぉぉぉぉ!!」

 

さぁいざ一太刀浴びせようとしたその時!

 

「………かかりました!」

 

「何ッ!?」

 

セシリアの表情がニヤついた。ブルー・ティアーズの腰辺りにあるアーマーが動き、先端に空いた穴が一夏を捉えた。

 

「お生憎様、ブルー・ティアーズは6基ありましてよ!」

 

その2基はこれまでのと違ってミサイルだった。一夏は急な展開に対応できず、爆炎に消えた。

 

―――――――――

 

「一夏ッ!?」

 

箒が悲痛な声をあげる。

 

「…ッ!」

 

竹内も表情を歪めた。思わず体に力が入り、手は握り拳を作っていた。

 

しかし、たった1人だけ一夏の無事を確信する人物がいた。

 

―――――――――

 

「フッ…機体に救われたな、馬鹿者め」

 

それは誰あろう、織斑千冬だった。そんな彼女の呟きに真耶は不思議そうな顔をしながら千冬に振り向いたがすぐにアリーナへ視線を戻した。

 

―――――――――

 

煙が晴れていく。その中には一夏がいた。

 

『初期化と最適化が終了しました。確認ボタンを押してください』

 

「……?何だこれ?」

 

一夏の頭に情報が流れ込む。訳もわからないまま、一夏は指示に従いモニター中央のボタンを押した。すると、白式の装甲が輝いたかと思うと新たな形を作り上げていく。鈍い白の装甲は純白の輝きを放ち、より洗練された形になっていく。極めつけは今まで受けた装甲の実体ダメージがすべてなくなっていた。

 

「まさか一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あなた、今まで初期設定だけの設定で戦っていたと言うの!?」

 

セシリアが驚きの声をあげる。

 

「よくわからないけど、ようやくこの機体は俺専用になったようだな」

 

一夏が呟く。すると白式のモニターが開いた。

 

『近接特化ブレード"雪片弐型"』

 

それは今一夏が握っているブレードの説明だった。

 

「(雪片って確か、千冬姉の…)」

 

説明を見ながら一夏はこのブレードのことを考えていた。

 

雪片弐型…弐型ということは当然前身とされる代物がある。それがかつて千冬が使っていたと言われる"雪片"である。彼女が国家代表だったとき、並み居る強敵をなぎ倒し、IS使いの頂点に立った際に使われた唯一の武器だ。そんな雪片の後継型である雪片弐型が今、弟の手に…。

 

一夏はニヤリと笑った。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

ブレードの刀身が2つに分かれ、中心からエネルギーの刃が発生する。

 

「でももう守られるだけの関係は終わりだ…俺も、俺の家族を守る」

 

「あなた…何を言って…?」

 

一夏の独り言はセシリアにも聞こえているが、セシリアには何のことだかまったくわからない。

 

「まずは千冬姉の名を守るさ!」

 

一夏が決意を固め、雪片弐型を振りかぶる。そして困惑しているセシリアに向かって突っ込んでいった。

 

「だからさっきから何の話を…ああもう面倒ですわ!」

 

付き合いきれぬと業を煮やしたセシリアは残っている武器で一夏にトドメを刺そうとする。しかし、心を決めた今の一夏には何の脅威でもなく、すべての攻撃を斬り払い、今度こそセシリアを捉えた!

 

ビィーーー!!

 

…と思ったところでブザーが鳴った。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

次に聞こえたのが勝者を告げるアナウンスだった。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「なにっ!?」

 

「…はい?」

 

『…えっ?』

 

戦っていた一夏とセシリアはもとより、ピットから見ていた箒と竹内をはじめ、この試合を見ていた観客席の全員も訳がわからない様子だった。

 

冷静に見てみると、振り下ろされた一夏の雪片弐型のエネルギーブレードが消失している。またセシリアにはこの一太刀を浴びた様子が一切ない。

 

一夏が白式の状態を見ると、シールドエネルギーの残量計が0を指していた。

 

―――――――――

 

「何で俺は負けちまったんだ?」

 

ピットに戻ってきた一夏はまだ納得出来ずに呟いた。無理もないだろう、一次移行(ファースト・シフト)してからはノーダメージだった。それなのに何故シールドエネルギーが底をついたのか全く解せない。

 

「武器の特性を考えずに戦うからだ」

 

彼の疑問に答えたのは様子を見に来た千冬だった。隣には真耶もいる。

 

「お前の武装である雪片弐型だが、こいつの能力は自分のシールドエネルギーを糧とし、バリア無効の攻撃を可能とする、言わば諸刃の剣だ。エネルギー残量が少ない状態で使えばまともな攻撃を当てる前に敗北する」

 

「そうか、だから白式のシールドエネルギー残量がいきなりゼロになったのか…」

 

千冬の説明を聞いて一夏はようやく納得したようだ。

 

「くよくよしてる暇はないぞ、お前にはまだ竹内との試合が残っている。それまでにISの調整や補給をやっておけ」

 

「はい…でもどうやるんだ…?」

 

一夏はやり方がわからず困った。

 

「それなら私がサポートしますね」

 

真耶が助け船を出し、一夏は作業に取りかかった。

 

「竹内、次の試合までにはまだ時間がかかる。最終確認を怠るなよ」

 

「わかりました」

 

竹内も自分のISの状態を確認することにした。

 

―――――――――

 

一方その頃、一夏たちとは反対側のピット

 

ピットゲートにはセシリアがISを展開したまま佇んでいる。

 

「…………………」

 

彼女はどうにも腑に落ちない様子で一夏たちのいるピットを睨み付けていた。

 

「…この私が……エリートの私が…あんな男に……それも初心者に………あそこまで肉迫されるなんて……」

 

納得できなかった。確かに慢心はあったかもしれない。だがそれを差し引いても自分が圧勝するはずだった。そして認めたくなかった。エリートたる自分が初心者に、何よりも男に負けそうになったことを、相手の自滅に助けられたことを。

 

「……竹内優斗………簡単に行けるとは思わないことです…………!」

 

そう呟くとようやくISを解除し、ピットに引き上げていった。彼女もまた竹内との試合に備えて補給をしなければならなかった。




一夏とセシリアの試合は、セシリアに軍配が上がった。次は竹内と一夏、男子同士の対決。否が応にも注目度が増す。そんな中、汐風と白式が激突する!
to be continued...

どーも、剣とサターンホワイトと名乗る変な奴です。遅くなってすいません、遅くなったついでに活動報告も更新しました。よろしければそちらもどうぞ。

久々にアニメ版ガンオケを見ましたが…竹内くんの「こりゃ、今日は大無茶大会だ…」の台詞が好きすぎるwwww

それにしても、インフィニット・ストラトスとガンパレシリーズ両方に携わっている声優さんが自分が思っている以上にいましたね。それでもわかっているだけで10人にも届きませんが…まぁそんなもんか。

えー最後に、更新のことについて大雑把にですが言っておきたいと思います。今作は最低でも月1回、良くて2回の更新を目指してやっていきたいと思います。遅いと思うかもしれませんが、どうぞお付き合いください。


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1-8:史上初の対決 竹内VS一夏

まもなく初投稿('16/09/01)から1年が経つと言うのに未だに(リン)さんすら出てこないと言う、この超スローペース。いくら序章のα社編があったからとは言えあまりにも遅すぎる。と喚いたところでこのペースは結局変わらないだろう。したがって今後も恐らくこの超ノロノロでお話は進んでいきます。

この作品に負の感情を抱いた方、早めのブラウザバックをおすすめします。

そんなことはないと言う方、ようこそ剣サタの世界へ…


一夏とセシリアの対決から10分が経過した。竹内は一足先に最終確認を済ませ、アリーナで待機していた。その竹内の最初の対戦相手は一夏だ。先程のセシリアとの試合、敗れはしたものの国家代表候補生を相手にあと1歩と言うところまで追い詰める善戦を見せた。ひょっとしたら、姉譲りの高いポテンシャルを秘めているのかも知れない。竹内はそう考えていた。

 

しばらくして、一夏がアリーナに姿を見せた。

 

「待たせたな優斗!」

 

一夏の白式は純白の輝きを取り戻し、竹内の前に立ちはだかる。

 

「機体の調整はもういいのかい?」

 

「あぁ…でなければ出て来ないさ」

 

竹内の問いかけにニヤリと笑いながら答える一夏。先程の試合とは違う異様な雰囲気が2人を取り巻く。

 

純白の機体に青いラインが施された白式と、黒灰色の機体にマゼンダレッドのラインがあしらわれた汐風。奇しくも、2人のISの色は対をなしていた。

 

―――――――――

 

「あれが竹内くんのIS…」

 

管制室の真耶が竹内の汐風を見て呟く。

 

「竹内対織斑…IS史上初の男対男の試合、後世に残る試合になるやも知れんな」

 

隣で立っている千冬が呟いた。その手には汐風のカタログスペックがある。

 

「(ナイフに拳銃…これはα社製のISの共通装備と聞いている…そして機関銃(マシンガン)にミサイル…少ないが悪くない武装だ。…しかしわからんのは手首辺りにつけられた円盤(ディスク)だ…ともかく、お手並み拝見と行こうか…新参会社α社…!)」

 

―――――――――

 

また竹内と一夏の対決を一目見ようと観客席には1年1組の生徒だけでなく、他クラス、他学年の生徒、さらには2人とはほぼ接点のない教師たちも観戦に来ている。

 

「…何かやり難いな…」

 

「…そうだね…」

 

まだこの学園の雰囲気に慣れない2人はこのようすにどうしても戸惑ってしまう。

 

『第2試合、織斑一夏VS竹内優斗、試合開始!』

 

そんなことはお構いなしに試合開始が宣言される。竹内が深呼吸し、マシンガンをコールした。

 

「でも、勝負は勝負だ織斑くん!僕は君に勝つ!」

 

「俺だって、もう負けるわけにはいかない!行くぞ優斗!」

 

一夏も雪片弐型を握り、竹内に斬りかかろうと正面から突っ込んできた。しかし、竹内はマシンガンを撃ちながら後ろに下がる。

 

「(織斑くんの武器は恐らくあのブレードだけ、つまり接近戦が主となる。相手のやりたいことをさせないためには…まずは距離をとることだ)」

 

竹内は代田から教わった通り、一夏に好き勝手攻撃させないために、出来る限り距離をとった。すぐにまた一夏が迫ってくるが、竹内は冷静にマシンガンで弾幕を張りながら間を広げる。ついでにチマチマと少しずつではあるが白式のシールドエネルギーを削っていく。

 

「(少なくとも距離をとっていれば近接攻撃は出来ない。そして今まで見たところあの剣からは放射系の技もないようだ…現時点で考えられる遠距離攻撃はその剣を投げること…だけど唯一の武器を投げるとは考えにくい…)」

 

竹内はマシンガンを乱射しながら、一夏がどうやって自分にしてくるだろうかを考えていた。そしてそのあらゆる方法の対抗策を練っていた。しかし、彼は自分の戦い方がまたしても後手後手に…代田の言う"腑抜けた"戦い方になっていることに気付いていない…。

 

「(くそッ、これじゃブレードがいつまで経っても届かない…)」

 

対して、今まで竹内に攻撃を全く当てられていない一夏は少し焦り始めていた。

 

「このままじゃジリ貧だ…こうなれば…」

 

彼は呟くと、唯一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)を発動した。再び雪片弐型の刀身が別れ、白いエネルギーブレードが姿を見せた。一気に片をつけるつもりのようだ。

 

「(落ち着け…オルコットの時とは違って、攻撃は優斗のいる方向からしか来ない…それならさっきよりはやり様はあるはずだ…!)」

 

だが決して冷静さを欠いているというわけではないようだ。彼は一呼吸おいて竹内の右側に回り込んだ。しかし、当然竹内もただ見てるだけというわけではなく、マシンガンの乱射を止め、一夏の動きに合わせて銃を構える。

 

「今だ!」

 

右に右にと回り込んでいた一夏が急に突っ込んできた。実は一夏は右に回り込みながら竹内に気付かれないように距離をすこーしずつすこーしずつ詰めていたのだ。そしてある程度近づいたところで斬りかかってきた。

 

「ッ!?」

 

竹内は突然の事態に反応が遅れ、何とか回避しようとしたが一夏の雪片のエネルギーブレードが左手を掠った。竹内はマシンガンを数発撃って反撃しつつ、もう一度後ろに下がり大きく距離をとった。竹内の撃った弾は一夏の手や胸の装甲に直撃し、その衝撃に一夏は怯んだ。

 

竹内が汐風の状態を確認すると、シールドエネルギーが減っていた。しかしただ減っていたわけではなく、掠ったとは思えないくらいのエネルギー量が減っていた。

 

「(掠っただけでこれだけ持っていかれるのか!?…やっぱり近付いて戦うのは危険だ…!)」

 

竹内は改めて白式の近接戦闘の危険性を知り、またまた大きく距離をとった。一夏は雪片を握り直すと、さっきと同じように竹内の右に回り込みつつ距離を詰めていく。竹内は一夏から目を離さず、慎重に彼の動きを見極めている。

 

「ここだ!」

 

一夏が突っ込んできた。しかし今度は竹内も慌てることなく…

 

「そうはいかない!」

 

後ろに下がりながら右肩の上にあるミサイル砲を2発撃った。

 

「なっ!?」

 

皮肉にも今度は一夏が慌てることになった。何とか1発目のミサイルは斬り伏せたがその時には2発目が目の前にあり、打ち落とすことも避けることもできず直撃。何とかシールドエネルギーは残り、一夏本人も地面に着地した。しかし、残りわずかのシールドエネルギーは、もう長くは戦えないことを意味していた。

 

「(白式のシールドエネルギーも残りわずか…次の一撃を当てないと俺は負ける…)」

 

「(掠っただけであの減り方…織斑くんの次の一太刀を浴びれば僕の負け…)」

 

「(だったらあいつが反応する前に…)」

 

「(ならば彼が近づいてくるその前に…)」

 

「「(決着をつけるッ!)」」

 

互いの考えがまとまり、一夏が雪片を握り直し、竹内がミサイル砲の狙いを定めた。

 

そして試合が再び動き出す。

 

竹内が先に一夏目掛けてミサイルを撃った。もっともこれしきの攻撃では相手を撃ち落とすには至らず、実際一夏もあっさりミサイルを躱した。もちろんそれは竹内もわかっている。だから竹内は一夏の回避先を予想し、そこにもミサイルやマシンガンを撃ち込む。その予測は見事に的中し、砲弾が一夏に襲いかかる。

 

「(このままじゃやられる…!何とかここから加速ができれば…!)…うおっ?!」

 

一夏が悪足掻きで白式をいじると、白式が急にスピードを上げた。そのスピードで竹内の放った銃弾砲弾を振り切り、勢いそのままに竹内に突っ込んでいく。

 

「ゆうぅぅぅぅとぉぉぉぉぁぁぁぁ!!」

 

竹内が気づいたときにはもう一夏がわずか数センチまでに迫っていた。一夏は雪片を思いっきり振り抜いた。竹内は咄嗟に両腕を前でクロスさせ防御体制をとったが、零落白夜を発動させた雪片を前にそのガードは何の意味もなさず…

 

ビィーーー!!

 

『試合終了。勝者、織斑一夏』

 

ワァーーーーーーー!!

 

沸き上がるアリーナ。試合は先にシールドエネルギーがなくなった竹内の負けで決した。ただ、そう時間が経たない内に白式のシールドエネルギーも底をついた。

 

「…勝った…のか?………あ……あぁ…………ヨッシャーーーーー!!!」

 

最初は自分の勝利がいまひとつわかってなかった一夏だが次第に実感が沸いてきたのか、雄叫びをあげた。

 

「おめでとう、織斑くん。良い勝負だったよ」

 

汐風を解除した竹内が駆け寄ってきて一夏の勝利を祝福した。

 

「ありがとう。優斗もなかなか強かったぜ。オルコットとの試合、頑張れよ」

 

「うん!」

 

2人は真剣勝負の約束をした時と同じように互いの拳を合わせた。

 

「織斑くーん、おめでとー!」

 

「竹内くんもかっこよかったよー!」

 

鳴り止まぬ歓声、観客席のクラスメート達は惜しむことなく2人に賛辞を送る。

 

『おーりむら!おーりむら!おーりむら!』

 

『たーけうち!たーけうち!たーけうち!』

 

それぞれのコールが響き渡るアリーナを、2人は照れ臭そうにしつつもそれぞれのピットへ引き上げていった。

 

―――――――――

 

同じ頃、管制室

 

「織斑先生。弟さんの初勝利、おめでとうございます」

 

真耶が一夏の初勝利を祝して千冬に言った。

 

「いや、あれはほぼ竹内の判断ミスだろう。アイツのISなら、織斑のあの急加速も容易く躱せるだけのスピードがあるはずだ。それに織斑も相手のミスに助けられての勝利じゃまだまだ未熟。どちらともISをしっかりと使いこなせていない何よりの証拠だ」

 

しかし千冬の言葉は相も変わらず厳しいものだった。

 

「厳しいですねぇ~…」

 

「当然です」

 

とは言うものの…

 

「(だがどんな形であれ、勝利は勝利だ。よくやった、一夏…)」

 

と、目を閉じて内心素直に弟の勝利を祝う千冬だった。




一夏との対決に惜しくも敗れてしまった竹内。しかし、彼にはくよくよしてる暇はない。次はセシリアとの対決だ。代田との訓練の成果を遺憾なく発揮する竹内にセシリアの様子が変わる…そしてそれと同時に竹内にも異変が!

to be continued...

どうも、ガンパレシリーズとISシリーズの共通点を何故か躍起になって探す偏屈作者、剣とサターンホワイトです。

つい先日、生意気にもこの作品のオープニングテーマとエンディングテーマでも考えようと思ったら、ISのOPとガンオケ(青)の主題歌の歌手が同じだと言うことを思い出しました。…そっちに頭を持っていかれて、結局は何1つまとまりませんでした…。

さぁ、今回のハイライト。なんと言っても竹内くんと一夏くんの対決。IS史上初の男vs男の戦い。いかに女性優位のご時世といえど、どうしても注目を浴びちゃいますよね。まして片やブリュンヒルデの弟。これだけでも注目度は高いでしょうに。

軍配は一夏くんに上がりましたが…彼、緊急事案の勝利ばっかりでこういう試合での勝利ってあったっけ?…私の記憶では、試合の度に緊急事案が発生していずれも試合としての決着がついてなかったような気が…。…強いて言うなら入試の山田先生との対決か…。

さて、プロットの時点では次の試合は竹内vsセシリアになるはずでしたが、私が考える展開で最終戦が竹内vs一夏では締まらないと思ったので、急遽予定を変更してセシリアさんとの対決は最後に回しました。…別に今回の竹内vs一夏が締まらないと言いたい訳じゃないけど…

…やっぱり、戦闘描写は手こずりますね…どうにも思うように進まなくて行けねぇや…お陰でただでさえ雑な作りなのに尚更雑になってしまったよ…すみません毎度毎度…。心の広い読者の皆さん、こんな雑な作者の雑な作品ですが、今後ともよろしくお願いします。


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1-9:クラス代表決定戦最終組 竹内vsセシリア

今月は調子の良い月だったのか、2度目の更新です。…相変わらず文章はズタズタなんですけどね。

さぁいよいよ最終組、竹内とセシリアが激突!結末や如何に…!

この作品に対し何かしらの負の感情を抱いた方、気分を害されてもこちらでは責任は負いかねますので早めのブラウザバックをおすすめします。

それ以外の方々、どうぞゆっくりと我が世界をお楽しみくださいませ…


竹内と一夏の戦いの決着がついたとき、セシリアはと言うと…

 

「フフフ…竹内優斗…知識のない織斑さんにすら負けるとは…やはり大したことは無さそうですわね…」

 

自分のISの調整をしつつ、竹内の敗北をほくそ笑んで見ていた。

 

「…ですが、先程のようなことがあっては困りますわね…ならば…」

 

彼女はさらに念入りにISのチェックをした。

 

―――――――――

 

竹内が汐風の補給を終えた頃、彼は一夏と戦ったときとは違う緊張感に苛まれていた。

 

「………………」

 

竹内の脳裏に過るのはセシリアのレーザー攻撃にミサイル攻撃。思い出すと身震いがした。

 

「ん?どうした優斗、震えてるぞ」

 

応援に駆け付けてきた一夏が竹内の様子に気づき、声を掛けた。

 

「あぁ…うん…大丈夫…」

 

竹内は努めて微笑んで見せてカタパルトへ向かった。

 

「そ、そうか…頑張れよ」

 

一夏はサムズアップで竹内を見送った。竹内もサムズアップを返し、フィールドへ飛び出していった。

 

―――――――――

 

竹内がフィールドに出るとセシリアもちょうどカタパルトから射出されたところだった。

 

セシリアが竹内を発見すると、物凄い形相でターゲットを睨み付けた。その目にはただの対抗心だけではなく、明らかな憎しみが込められていた。

 

「……あなたを……完膚なきまでにねじ伏せ…私こそが!クラス代表に相応しいと言うことを証明します!」

 

「…僕も推薦してくれたみんなの期待を背負っているのでね…もう負けるわけにはいきません」

 

早くも敵意剥き出しのセシリアとやや緊張した面持ちの竹内。

 

『第3試合、竹内優斗VSセシリア・オルコット、試合開始!』

 

試合開始が告げられると、セシリアは一気に距離をとってレーザーライフルを連射した。

 

「あなたにチャンスなど与えません…すぐに終わらせて差し上げますわ!」

 

武装を呼び出す暇さえなく、竹内にいくつものレーザーが降り注ぐ。

 

「…光栄ですね、代表候補生が僕なんかに本気で相対してくれるとは…!」

 

「減らず口を…!踊りなさい!私とブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

竹内が強がりをみせつつ最初の攻撃を避けると、セシリアの攻撃がさらに激しさを増した。一夏にしたときよりも攻撃の間隔が狭く、次々とレーザーが竹内に襲いかかる。

 

「フッ、フッ、ハッ…」

 

しかし竹内は汐風のスピードを駆使してこれらをすべて躱した。躱しきったところでようやくマシンガンをコールした。

 

「ならば…行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

次の攻撃手段のBT兵器がセシリアの指示と共に飛んできた。

 

「言いましたわよね、『あなたにチャンスなど与えない』と!」

 

セシリアが叫ぶと、ビットは順々にレーザーを放った。だが…

 

――スカッ

 

    ――スカッ

 

それが汐風の装甲を捉えることも、それどころか掠めることもなかった。これもひとえに癒子たちクラスメートとのレクリエーションや、代田考案のトレーニングの賜物といえよう。

 

今のセシリアには一夏と戦ったときのような傲りはもうない。それなのに一向に攻撃が当たらないことに焦り、彼女は続けざまにミサイルを2発撃った。

 

「…ッ!」

 

竹内はこれも躱そうとしたがこのミサイルは追跡弾だったようで、いくら避けても追いかけてくる。竹内はスピードを上げてミサイルから距離をとり、ある程度離れてから反転し、マシンガンで2発とも撃ち落とした。

 

「…な、何故…」

 

これには流石にセシリアもショックを受けた。レーザーライフルによる攻撃、ビットによる攻撃、奥の手とも言えるミサイル攻撃、自分が得意とする攻撃のすべてがあの男には通用しなかったのである。自分が見下していた種の人間に全く歯が立たず、彼女の焦りはさらに募る。

 

「(この私が…踊らされている?あの男を踊らせていたはずのこの私が…踊らされている…?)」

 

一方、戦況的には優位に立っているはずの竹内だが、彼には心の余裕などなかった。いくら対セシリアの策を練ってきたとはいえ、彼女の方が実力が圧倒的に上…竹内がそう思っていると言うのもあるが、余裕を持てない理由は他にあった。

 

「(レーザーにミサイル…クッ…ろくな思い出がない…)」

 

それはセシリアのISの攻撃手段だった。レーザーにミサイル…それは竹内がこの世界に迷い込む前に戦っていた人類の天敵・幻獣の、それもかなり強力な幻獣が使ってきた手段である。竹内自身はもともと整備班所属だったが、戦闘班からそういった話は常々聞いていたし、また自らもピンチヒッターとして戦闘班に加わり、直にその攻撃を体験したこともある。身体を貫かんとする強力なレーザー、直撃せずとも着弾時に破裂し周囲を巻き込むミサイル。これらの攻撃…特にミサイルにやられた友軍の兵士も数多く、学兵もこれにより長期入院という戦線離脱を余儀なくされたものもいる。故にレーザーやミサイルは竹内たち多くの学兵のトラウマとなっていた。

 

いかに自分がミサイル兵器を使っていようとも、向かってくるミサイルに恐怖心を拭い去る事はできず、セシリアの攻撃は竹内のトラウマを蘇らせるには充分だった。それゆえ竹内は、録画映像だろうがモニター越しだろうがセシリアがミサイルを撃つ度に体が強ばり、表情を険しくしてしまうのだった。

 

―――――――――

 

セシリアは竹内の回避能力に舌を巻き、竹内はセシリアの攻撃手段にトラウマを抉られ、試合は膠着してきた。

 

「ねぇねぇ、セシリアと竹内くん、どっちが勝つと思う?」

 

ここは観客席。クラスメートの1人が、両隣の友達に勝利予想を尋ねた。

 

「そりゃあセシリアでしょ。セシリアは織斑くんに勝ってるわけだし、竹内くんはその織斑くんに負けてるし…竹内くんに攻撃させないまま、セシリアが押し切っちゃうんじゃないの?」

 

「でも、さっきからその攻撃が一切当たってないでしょ?…私はね、ひょっとしたら竹内くんが勝っちゃうんじゃないかなぁ~…て思っちゃうのよね」

 

どうやら彼女らの予想は割れているようだ。すると突然、最初に質問を投げかけた女子生徒が声を張り上げた。

 

「でもちょっと待って!もし竹内くんが勝ったら全員1勝1敗になっちゃうけど、その場合クラス代表はどうなっちゃうの?」

 

「「あ」」

 

どうやら肝心なことを忘れていたようだ。

 

―――――――――

 

一方その頃、管制室。

 

「ところで織斑先生、もしもこの試合竹内くんが勝ったら候補者の全員が1勝1敗で並んでしまいますけど、その場合クラス代表はどうやって決めるのでしょうか…?」

 

真耶も同じことが気になっていたらしく、千冬に尋ねた。しかし千冬は一切表情を変えずに…

 

「…もしもそうなった場合、特に何もなければ後日改めて投票によって決めてもらう予定です。そのためにクラス全員で試合観戦してもらっている…勝ち負けだけではなく、それぞれの戦術や技能を考慮し、誰が代表に最も相応しいかを自分達で決めてもらいます」

 

…と説明した。恐らく、そうなるということも計算の内に入っていたのだろう。

 

―――――――――

 

さて、アリーナではセシリアが次の攻撃を仕掛けていた。まずは先程のミサイルを2発。これに竹内も先程と同じようにスピードを上げて距離をとり、ある程度距離をとったら振り返り、狙いをつけて撃ち落とそうとした…しかし、それこそセシリアの狙いだった。撃ち落とすときに後ろへ振り返る。その時はスピードが落ち、格好の的となる。

 

「(かかった…!)」

 

セシリアは声に出さずに喜びながらレーザーライフルの引き金を引いた。

 

しかしここは竹内の反応速度がまだ上手だった。彼は何とかレーザーを躱し、追尾してくるミサイル1発が身代わりとなって爆発した。その爆風に煽られて少し吹き飛ばされたが、その最中代田との訓練での教訓を思い出した。

 

「(…そうだ、確か『同じ場所に留まるな、止まればその瞬間に的になる。常に動き回り、敵のロックを振り切れ』だったっけ…)」

 

頭の中で教訓を唱えると、竹内はブーストの出力を上げてアリーナ中を飛び回った。残ったもう1発のミサイルがその竹内を追い回すが追い付けない。その間に竹内はマシンガンを仕舞ってナイフを呼び出し、ミサイルを切り墜とした。そして速いスピードでセシリアに迫り、近くを通過する度にナイフによる攻撃を当てていく。みるみる削れていくブルー・ティアーズのシールドエネルギー。

 

「(……認めない……認めませんわ………私が……男に負けるなど………)」

 

セシリアの動きが今までより小さくなった。

 

「(よし、このまま…)」

 

それを見て、竹内はいよいよトドメを刺さんと再接近を試みる。しかし…

 

「認めるものですかぁぁあああ!!!」

 

「うおわぁぁぁああああ!?な、何だぁ!?」

 

セシリアの叫びに竹内は驚いて急停止し、接近を中止した。ただし単に彼女の気迫に気圧されたからということだけではない。

 

「…!?(…何だ!?彼女にまとわりつく黒いものは…!?)」

 

竹内の目には何故かセシリアの体に黒いモヤがまとわりついているように見えた。恐らく、この試合を見ている生徒や先生、まとわりつかれているセシリア本人にも見えてはいないだろう。竹内は「何故自分はこんなものが見えているのだろうか」と考えてしまい、攻撃することはおろか、教えであった「常に移動し続けること」すら忘れてしまっていた。セシリアにとってまたとない攻撃のチャンスだ。

 

「そこぉ!」

 

セシリアはミサイルを何発も撃ち込み、立て続けにレーザーライフルを乱射、さらに4基のビットを竹内の周囲に展開した。

 

「!?しまっ………!」

 

竹内が気付いたときにはもう遅かった。大量のミサイルにレーザーの雨あられ…竹内はとっさに防御体勢をとったが一夏戦の時と同様、ガードとしては役に立っていなかった。

 

「うわぁぁぁあああああ!!!!」

 

竹内と汐風の姿は爆発に飲み込まれた……。

 

―――――――――

 

『……………さ…』

 

竹内の耳に誰かの声が届く。だが、ハッキリと聞き取ることができない。

 

『…ざ……な…い……イ……ト…』

 

声質から女の子の声のようだ。竹内はこの声を知っているような、知らないような…何とも微妙な感じがした。

 

『目覚めなさい…パイロット』

 

ようやくまともに聞き取ることができた。どうやらこの声の主は自分に意識の覚醒を促しているようだ。そう思った彼はゆっくりと目を開いた。

 

目を開くとそこは先程まで自分がいたアリーナではなかった。それどころかここには壁もなければ地面もない、空色をした空間だった。

 

「……ここは………?」

 

『お目覚めのようですね』

 

竹内が辺りを見回していると先程の声が聞こえた。しかし、周りには誰もいない。

 

「君は誰…?どこにいるんですか?」

 

『……貴方の手を前に……』

 

謎の声は竹内の質問には答えず、新たな指示を出す。竹内は言われるがまま手を前に伸ばした。

 

『…その光を手に宿すのです…』

 

すると伸ばした竹内の手の前に突然青白い光が現れた。しかし、『宿せ』と言われてもどうしたらいいかわからない竹内はひとまずその光に手をかざしてみた。すると竹内の両手に光が入っていく。

 

『……これは何物をも殺さぬ為に建造されし、何もかも殺すプログラム……何かわからないことがあればその光が教えてくれる……それであの子をどうか救ってください……』

 

謎の声がそう言うと、空色だった空間がだんだん暗くなっていく。

 

「これは……あ、待って!あなたは本当に一体誰なんですか!?」

 

空間が消えそうになる中で竹内はもう一度謎の声に誰なのか問いかけた。

 

『……安心して、私は貴方と共にある者……』

 

謎の声はそれだけしか答えなかった。しかし、竹内には何故かその声の主が微笑んでるような気がした。空色の空間が消えていく……………。

 

―――――――――

 

終わった…この攻撃で何もかもが…これで自分は誰の文句なくクラス代表になれる。正直あの男2人には肝を冷やされたが、それでも勝ってしまえばこちらのもの。

 

「織斑先生!早くこの私、セシリア・オルコットの勝利宣言を!」

 

セシリアは待ちきれず、管制室の教師たちに勝利宣言を要求した。

 

『……残念だがオルコット、それはまだ出来ない』

 

しかし千冬はそれを拒否した。

 

「な、何故ですの!私はこのように対戦相手を倒し勝利したのですよ!」

 

『あぁ、そうだろうな…だがお前は勘違いしている。私は「まだ」出来ないと言っただけだ。何故ならお前の対戦相手は……』

 

千冬の説明中、アリーナの煙が晴れていく。

 

『……まだ……』

 

薄れていく煙から、現れる黒灰色とマゼンダレッドの装甲。

 

『……戦えるからだ』

 

完全に煙が晴れ、そこには汐風を纏い先程と同じ防御体勢をとった竹内がいた。ただ1つ違うところがあった。汐風の手首に備え付けられた円盤(ディスク)、そこにブレードが2本、プロペラのように展開されていた。それもさっきまで回ってたのか、ゆっくりと回転が止まろうとしていた。

 

「(…これが盾になって…ダメージを和らげたのか……ありがとう、汐風…)」

 

竹内は出会ってからまだ日の浅い愛機に心の中で礼を言うと、円盤に展開していたブレードが量子変換により姿を消した。そして改めてセシリアとブルー・ティアーズに向き直る。

 

「……………クッ」

 

対してセシリアは倒したと思ったときの糠喜びによる羞恥、倒れなかった竹内への憎悪、そして倒し損ねた自分への不甲斐なさで表情がこれ以上ないくらい歪んでいる。

 

―――――――――

 

観客席のクラスメートの1人があることに気づいた。

 

「ねぇ、竹内くんのISを見て!両腕が…」

 

その一言でみんなは竹内に注目した。

 

「な、何あれ…?」

 

「腕に…両腕に青い光が………」

 

―――――――――

 

「…織斑先生…あれは…」

 

真耶が竹内の腕の光について千冬に問いかける。

 

「もしかして…汐風の唯一仕様特殊能力(ワンオフ・アビリティー)でしょうか…?」

 

「……その可能性も否定できませんが、今それを断定することは出来ません」

 

千冬はそう答えて、アリーナから決して目を離そうとしない。

 

―――――――――

 

ところ戻ってアリーナ。竹内とセシリアが睨み合っている。

 

「(………よろしいですわ……もう一度…………完膚なきまでに倒して差し上げますわ……………!!)」

 

セシリアはもう一度ミサイルとレーザーを大量に撃ち込んだ。竹内はこれを見てこの日何度目かの回避行動に移った。しかし、セシリアもこの攻撃にすべてを懸けているのか、今までにないくらいの弾幕を張っている。竹内の飛行能力でも避けきれない弾もちらほら増えてきた。その時…

 

―――避けることの出来ない弾は敢えて光る拳で迎え撃て

 

こんな情報が竹内の脳内に流れ込んできた。「そんな無茶な…!」竹内は一瞬そう思ったがすぐに「どうせ当たるなら…!」と考えを改め、早速避けられそうにないミサイルが来たので、思いきり拳を叩きつけた。

 

するとミサイルは爆発せず、最初から存在しなかったかのようにその姿を消した。

 

―――――――――

 

「ね、ねぇ…今ミサイル消えなかった…?」

 

「み、見間違いじゃないかしら…」

 

目が点になる観客たち。

 

―――――――――

 

「えぇっ!?」

 

「ほぅ…」

 

ビックリする真耶とピクリとも動じない千冬。

 

―――――――――

 

その後も竹内は持ち前の飛行能力と光る拳のコンボで次々とセシリアの弾幕を掻い潜っていく。

 

「(……こ、こんなことが……相手はもう武器を持っていない…それなのに……何故私ともあろう者が……こんな丸腰に等しい男相手に……体が震えるのでしょうか…)」

 

恐怖に駆られ、セシリアの弾幕も徐々に薄まっていく。そしてついに竹内が弾幕を抜け、セシリアの目の前に辿り着いた。

 

―――この少女につく黒きモヤのようなものはお前の光で取り払う事が出来る……対象に掌を向けよ

 

またしても竹内の脳内に情報が流れ込む。竹内は言われた通り右の掌をセシリアに向けた。すると、セシリアが反応する間もなく竹内の掌を中心に魔法陣が展開された。

 

「なッ…!?」

 

「えッ…!?」

 

これにはセシリアはもちろんのこと、使用者である竹内も驚いた。それでも竹内は決してセシリアから掌を逸らさなかった。竹内の周りが青く輝き、魔法陣の中心部分から紅い光球が放たれた。光球は一直線にセシリアの方へ向かっていき、あっという間にブルー・ティアーズに直撃した。

 

「きゃあああああ!!……………」

 

セシリアは少しの間悲鳴を上げると意識を失った。一方竹内は、光球の行方を見ていた。今の光球によって彼女にまとわりついた黒いモヤが取り払われたことを確認し、ホッとした。しかし…

 

『きゃあああああああああ!!!』

 

観客席から悲痛な声が上がった。何事かと辺りを見回すと、セシリアが気を失ったまま落下していくのが見えた。下は地面、シールドエネルギーを失ったブルー・ティアーズは徐々に解除されていき、このままではセシリアが生身のまま地面に激突してしまう!!

 

「ッ!!」

 

竹内は汐風をフルスピードで飛ばし、セシリアを追った。元々機動力の高い汐風、竹内はあっという間にセシリアに追いつき、そのまま彼女を抱き止め、ゆっくりと着地した。

 

ワァーーーーーーーー!!

 

『試合終了。勝者、竹内優斗』

 

竹内が着地すると試合終了のアナウンスが流れ、竹内の勝利を告げた。しかし、観客席はアナウンスを聞く前から沸き上がっていた。皆が竹内の行動に感心し、称賛を贈っていた。




何とかセシリアに勝利した竹内。しかし汐風や腕の光の事で千冬と真耶に呼び出されてしまう…。そして、結局全員が1勝1敗で星が並んでしまったクラス代表決定戦。果たして誰が代表の座を射止めるのか…?

to be continued...

どうも皆さん、直近のネタは思いつかないのに大分あとのネタばかり思いついてしまう剣とサターンホワイトです。忘れないようにメモに残しています。

さて、こんなノロノロで物語終了になるのは何年あとになることやら……

さて、汐風の円盤が初仕事をしました。…結構微妙なところですがね。この使い方はビーストウォーズのダイノボットの回転盾、もっとわかりやすく(?)言えばVガンダムに出てきたゾロやシャッコー、あれなんかについているビームローターを元ネタにしています。

そして竹内くんに起こった不思議な出来事。…突っ込んでいきたいところですが今回は敢えてノータッチで…。薄々どころか完全に感付いていらっしゃる方もいるかもしれませんが、私からはまだ何も言うことが出来ないッス。

…それにしても今回もまたずいぶんと強引にまとめたような気がする…まさに力で捩じ伏せたって感じで…。だから後半…取り分け終盤なんかもう文章メチャクチャでわけがわからなくなってるやもしれません。不器用ですみません、ですがこれが剣とサターンホワイトという偏屈作者なんです。

こんな作者ですが次回もお楽しみに…。

追記
さて、今回判明した竹内くんの所謂"対ミサイル恐怖症"。これは私がガンオケプレイ中に発症したものを竹内くんにも…ガンオケをプレイしていればミサイルの恐怖は味わっているはず…と私は勝手にそう思っているのですが…。そういえば竹内くんは今回で克服できたのかな?…できてないでしょう、うん(ヲイ←


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1-10:嵐の後の告白 呼び出された竹内

祝 インフィニット・オーケストラ 連載開始一周年!

………などと盛大に祝うには遅すぎたストーリーペース。1年経ってもシャルロットさんやラウラさんはおろか、鈴音さんもまだ出て来ず…

あ、そういや"オトナのストレッチマン"に岩崎くんとシャルロットさん(…の中の人)が出ましたね。いやぁお二人ともエロい良い声で…

サブタイだけ見れば甘い展開がありそう!……あれ?確か予告ではそんな話じゃなかったはず……どういうこっちゃ?それは読んでみればわかること。

何らかの負の感情が沸き上がってきた場合、早めのブラウザバックをおすすめします。

そうでない方々、お待たせいたしました。多少文章が雑な部分がありますがご容赦くださいませ。


第3アリーナは沸きに沸いていた。今年現れた3人の男性IS操縦者の内の1人である竹内優斗が、イギリス代表候補生セシリア・オルコットに勝利したのだ。それだけではなく、ISを強制解除されて生身のまま落下していくセシリアを竹内が寸でのところで救い、その行動に全員称賛の声をあげていた。

 

竹内はセシリアを抱きかかえたまま、彼女が呼吸していることを確認するとホッとし、そのまま通信機能を使った。

 

「管制室、応答願います。こちら竹内。管制室、応答願います」

 

―――――――――

 

その管制室では真耶と千冬が先ほどの試合について話し合っていた。

 

「竹内くんのあの光…飛んできたミサイルを一瞬にして跡形もなく消してしまいましたね…あれは一体何なのでしょうか…?」

 

「…資料にこの類いの記述がない以上、開発元や本人に話を聞く外あるまい…竹内をここに…」

 

『管制室、応答願います。こちら竹内。管制室、応答願います』

 

その時、竹内からの通信が入った。すぐに真耶が気付き、返答する。

 

「竹内くん、山田です。どうなさいましたか?」

 

『…オルコットさんが気を失ったままなので、医務室に運んできます』

 

真耶が返事をしようとしたら千冬が割り込んできた。

 

「わかった、いいだろう。しかし、私たちもお前に聞きたいことがある。オルコットを医務室へ運び次第、管制室に来るように」

 

『…わかりました、織斑先生』

 

竹内は一瞬言葉を詰まらせるも了解し、そこで通信は切られた。

 

―――――――――

 

「…それでは、彼女のことをよろしくお願いします…」

 

竹内は校医の人に事の次第、セシリアの現在の容態を自分でわかる範囲で説明した。そしてセシリアをベッドへ寝かし、後のことを校医に託して医務室を出ようとしたその時…

 

「………お待ち……ください…………竹内さん……………」

 

セシリアの呼び止める声が聞こえた。

 

「オルコットさん…!…良かった、目を覚ましたんですね…!」

 

竹内は安堵の表情を浮かべてベッドの横へ向かった。

 

「…私は…あなたたち日本人に大変失礼なことを言ってしまいました…あなたにも…それなのに……なぜあなたは…私を助けてくださったのですか…?」

 

セシリアは途切れ途切れになりながらも尋ねた。

 

「………人を助けるのに、理由なんて要りませんよ。まぁ強いて理由があるとするなら……もう僕の知ってる人が死ぬのが嫌だった…それだけです」

 

竹内は微笑んで答えた。

 

「それに1週間前のことなら、僕もいろいろ言い過ぎてしまって…ごめんなさい」

 

「そんな…あれは私が…」

 

今度は真剣な表情で頭を下げた竹内に、セシリアは自分が悪いと続けようとしたが、竹内がそれを制した。

 

「…悪かったと思うのなら、明日みんなにちゃんと謝りましょう。みんないい人ですから、きっと許してくれますよ!…だから、あなたと僕の間の問題は解決してノーサイド。それでいいですか?」

 

「…わかりました…」

 

「では、僕はこれで…」

 

今度こそ竹内は医務室を出ようとした。

 

「…竹内さん!」

 

しかし、またしてもセシリアに呼び止められた。

 

「…?」

 

「その…ありがとうございました」

 

「…どういたしまして」

 

セシリアが照れ臭そうにお礼を言った。それを聞いた竹内はもう一度微笑んで会釈をし、今度こそ…今度こそ医務室を後にした。

 

―――――――――

 

数分後、管制室

 

コンッコンッ

 

「織斑先生、山田先生、竹内です。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「…あぁ、入れ」

 

千冬が入室許可を出し、竹内が「失礼します」と入ってくる。

 

「思ったよりも遅かったな…何をしていた?」

 

予想よりも遅い竹内の到着に千冬は理由を尋ねた。

 

「すみません。オルコットさんが目を覚ましたので状況の確認その他諸々してきたので遅くなりました」

 

竹内は素直に遅れてしまった理由を述べた。

 

「なるほど…わかった。…では本題に入る。お前の使っていたIS…取り分け、あの青い光についてだ。あれはあのISの唯一仕様特殊能力(ワンオフ・アビリティー)なのか?」

 

「ワン…オフ…?」

 

「ワンオフ・アビリティー。文字通り唯一仕様の特殊能力のことです。身近なところで言うと、織斑くんの零落白夜がそうですね」

 

聞きなれない単語に竹内は戸惑ったが、真耶がすぐにフォローを入れてくれたため、何とか理解できた。

 

「大概、ワンオフ・アビリティーが発動した場合は情報モニターに表示が出る。お前にはそういう表示はあったのか?」

 

「………いいえ、ありませんでした」

 

千冬の問いに竹内は首を振った。

 

「そうか…」

 

「あの…何かまずいことでも…?」

 

やや物々しい雰囲気に竹内がおずおずと尋ねた。

 

「あぁ…ミサイルを爆発させずに消し去ってしまう、恐ろしい代物だ…お前が故意にそんな愚かな真似をするとは思わないが、万が一と言うこともある…だから我々はお前のその光について知っておく必要がある…竹内、その光は何なのかを説明しろ」

 

竹内は頭を抱えて少し考えた。そして考えがまとまり、千冬たちにこう切り出した。

 

「わかりました…とは言っても僕自身完全に理解しているわけではないので、わかる範囲での説明になります」

 

「あぁ、わからないことを聞いても仕方がないからな…それで良い」

 

竹内の断りを受け、千冬はそれでも構わないと続きを促す。

 

竹内は1つ呼吸をおいてから話を始めた。

 

「ではまずあの光が何であるかをお話しする前に、前提として先生方に知っておいて欲しいことがあります。…僕の正体についてです」

 

「何?正体だと…?」

 

「…僕は…元々この世界の人間じゃありません」

 

「な、何だと!?」

 

「え、えぇっ!?」

 

竹内の思わぬ告白に、普段から素直な反応を見せる真耶だけでなく、感情があまり顔に出ない千冬ですら動揺を見せた。

 

「…どういう事だ…?」

 

竹内は説明した。この世界とは歴史の違う自分が元々いた世界の情勢、学兵として幻獣なる敵と戦っていたこと、そして…いつこの世界にやって来てしまったのかを…。図らずもそれはα社で問い詰められたときにした説明とほぼ同じであった。

 

「…不意打ちを喰らって、トドメも刺されたはずですが…どういうわけか僕は意識を取り戻し、その時にはすでにこの世界に来ていた…また聞いた話では意識を取り戻す3日前、僕はα社の正門付近に倒れていたそうです…これが僕の真実であり、僕の正体です」

 

「「……………………」」

 

思いの外重苦しい内容に2人の教師は言葉を失った。

 

「……………あの~……続けて大丈夫ですか…………?」

 

すっかり呆けてしまった2人の教師に竹内は尋ねた。

 

「あ、あぁ…それでお前はその年齢でα社で働いていたわけだな…すまない、続けてくれ」

 

千冬が一足先に現実に戻り、また千冬の声で真耶も戻ってきた。竹内は「はい、それでは…」と言いかけたところで咳払いをした。

 

「…本題に戻りましょう。あの青い光のことですが、あれは恐らく…"精霊手(しょうろうしゅ)"と呼ばれる絶技ではないかと思います…」

 

「?…しょう…ろうしゅ…?…ぜつぎ……ですか?」

 

聞きなれない単語に真耶が聞き返した。

 

「はい。…僕も詳しいことは全然わからないんですが…人伝に聞いた噂によると『万物の精霊が手に宿り、その精霊が力を発揮する際に青く輝いて見える』…らしいです…これは人の体に宿ると聞いているので、ISの機能云々の話ではないと思います」

 

「…そうか、なるほど…」

 

千冬は少し考えてから竹内に向き直りこう告げた。

 

「ひとまず、青い光…否、精霊手だったか…その件についてだが、緊急時以外での使用を禁止する。あれは得体が知れない分、危険性が高い…私が許可を出すまでは使うな」

 

「……わかりました」

 

竹内は素直にうなずいた。

 

「…よし、では我々からは以上だ。もう戻っても良い」

 

「…その前に先生方、僕の正体についてですが…」

 

話が終わり、退室許可を出した千冬だったが、竹内が新たな話を切り出した。

 

「…できればみんなには僕の正体については言わないでほしいのですが…情報開示については…織斑先生、山田先生、御二人の意思にお任せします」

 

竹内が真剣な目で訴える。

 

「…織斑先生…」

 

真耶が千冬の様子を伺う。

 

「……………わかった。この事は今は我々の胸の中にしまっておこう(…と言うより、あまりにも突飛で人には言えんな…)」

 

「ありがとうございます!」

 

千冬が秘匿してくれることに、竹内はお礼をいった。

 

「…話は終わりか?ならお前も早く寮へ戻れ。ゆっくり体を休めた方がいい」

 

「はい、失礼します」

 

竹内は会釈をして管制室を出た。

 

「…………はぁ、青い光のことを尋ねるだけだったはずが、まさかこんな話を聞いてしまうとは………」

 

「えぇ……私、何だか疲れてしまいました………」

 

「私もです…山田先生は先にお休みになってください、私にはまだやることがあるので…」

 

千冬はそう言うと残っていた冷めたコーヒーを飲みほし、管制室を後にした。

 

―――――――――

 

「はい、今夜一晩ここで休めば、明日の授業には朝から参加できるようになりますよ」

 

「そうですか、では一晩オルコットのことをお願いします」

 

ここは医務室。千冬はセシリアの様子を見に、また校医にセシリアの状態を聞きに足を運んだのだった。

 

「オルコット、気分は悪くないか?」

 

千冬はベッドで体を起こしているセシリアに声をかけた。

 

「大丈夫です……織斑先生、クラス代表のことで少しお話が…」

 

―――――――――

 

翌日、1年1組のHR(ホーム・ルーム)

 

「これで1年1組のクラス代表は織斑一夏くんに決定しました!あ、"1"繋がりでちょうどいいですね!」

 

真耶が笑顔で告げた。クラスメートが拍手や歓声で盛り上がる。

 

「…何でだ!」

 

一夏は納得が行かず、思わず叫んだ。

 

「今言った通りだ、馬鹿者。昨日の試合終了後、オルコットはクラス代表の立候補を取り下げ辞任した。オルコットの場合は推薦されたお前たちとは違って()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎん。それ故、誰かの厚意を無げにすることもない。…そして残ったのは織斑と竹内と言うことになるが、直接対決でお前は竹内に勝っている。故にお前が代表になるのが相応しいという判断になった」

 

「ぐ……」

 

しかし、一夏の抗議はあっさり千冬に論破されてしまった。

 

「とにかく、クラス代表は織斑一夏で異存はないな」

 

全員が肯定の返事をした。

 

「織斑先生、少しだけお時間をいただいてもよろしいですか?」

 

突然セシリアが声をあげた。

 

「………いいだろう」

 

千冬が許可すると、セシリアは立ち上がり、教室全体を見渡した。

 

「……先日は皆さんの祖国を侮辱してしまったことをこの場を借りてお詫び申し上げます。本当に…申し訳ありませんでした!」

 

そう言ってセシリアは頭を深く下げた。

 

「いいよいいよ、気にしないで」

 

「そうそう、ちゃんと謝ってくれたわけだし」

 

「それに、良い戦いも見せてもらったしね」

 

クラスメートのみんなは特に気にしていないようでニコニコと許した。

 

「竹内さん、織斑さん、あなたたちにはもっとひどいことを言ってしまい…本当にすみませんでした!」

 

今度は竹内と一夏に頭を下げた。

 

「…僕のことならもういいのに…僕の方こそ、言い過ぎてしまいました、ごめんなさい」

 

「…俺もよく知りもしないのにイギリスのことを悪く言って、本当にすまなかった…。これから改めてよろしくな」

 

「…はい!」

 

それぞれが己の非を認め謝罪したことにより、この教室に蔓延っていたピリピリした雰囲気は消え、1週間ぶりに穏やかな雰囲気が戻ってきた。竹内は、みんなに許されて安堵しているセシリアを見て、心の中で呟いた。

 

「(ね、みんないい人だから許してくれたでしょ?)」




うんうん、何事も丸く収まって、一件落着な訳だ。良かったねぇ竹内くん。さぁ、次のお話は僕の番だ。竹内くんたちが活躍している裏で、僕は僕でいろいろあったのさ。その一部始終を"エピソードof岩崎"として教えてあげよう。

to be continued...

どうも、懐かしい物好きな剣とサターンホワイトです。今回の次回予告は、特別に岩崎くんにやってもらいました。

……サブタイから漂う甘い展開なんて全くありませんでしたね…シリアス展開でした。

ひとまず前回言いそびれた誤算から…

誤算:銃撃をメインと考えていた竹内くんが拳闘士になってしまった。

まぁ、あの絶技を使う以上仕方のないことですが、私が思っていた以上に拳闘士になってしまいました。

ちなみに…もう聡い人にはバレてると思いますが、竹内くんの青い光、やっぱりというべきか精霊手でしたね。こんな感じで使えるようになって良いのか精霊手、そこは私の独自解釈で誤魔化していくしか…(コラコラ←

…てな訳で、竹内くんの精霊手はしばらくの間封印されることになりますぜ

クラス代表は原作通り一夏くんが就任、セシリアさんはみんなに謝罪し、竹内くんと一夏くんも自分の非を認めて謝罪、結果すべてが丸く収まり万々歳。これでいいのだ!

さて、次回は番外編ですが、どうぞよろしく!


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1-EX1:エピソードof岩崎vol.1 遭遇の章

長らくお待たせいたしました。前回の更新からおよそ1ヶ月半………。今までになく手こずりました。

おまけに長ったらしくなってしまったので文章が過去最悪なことになっていると思います。

ここまで聞いて読む気が失せてしまった方、気が変わらないうちにブラウザバックのUターンをおすすめします。

それでも構わないと言う方、荒廃しきった剣とサターンホワイトワールドへようこそ…


やあやあやあ読者のみんな、僕がかつて食客世界の三冠王として名を馳せた岩崎さ。岩崎仲俊(いわさきなかとし)。………決して沖俊(おきとし)ではないよ。いやぁ、最近はIS学園の学生寮に入ったから、誰かの家に厄介になることもできなくてねぇ。え?それなら誰かの部屋に泊まりに行けばいいって?うんうん、それも考えたんだけどさ、寮長さんがとても厳しい人だからね、今は警戒中と言うことで、それも控えているのさ。

 

さて話が大分ズレてしまったけど、今回は僕のお話だ。いつもは竹内くんたち1組の話ばっかりだけど、その間に僕が何をやっていたのかをちょっとだけ教えちゃうよ。それじゃ、作者の剣サタくん、あとよろしく!

 

――――回想開始――――

 

OK了解、それではまず入学の日から振り返ろう。

 

入学式のあと、岩崎と竹内は千冬に呼び出され、会議室を訪ねていた。クラス分けの張り紙に彼ら2人の名前が載っていなかったことを謝罪され、今後のクラスの事について説明を受け、そして担任の教師を紹介された。

 

その後、会議室を後にした2人は各々担任に連れられて教室へ向かっていた。

 

「では織斑先生、我々はこちらですので…」

 

「はい、それでは」

 

「竹内くん、じゃあまた放課後に会おう」

 

「うん、岩崎くんも頑張って」

 

教師同士、生徒同士それぞれ挨拶を交わすと竹内と千冬はその場に残り、誉田と岩崎はさらに先へ進んだ。

 

―――――――――

 

竹内と別れてから10秒と少々、そこには「1-4」と記されていた。

 

「オレが呼んだら入ってこい、それまでは廊下で待機だ」

 

「はい」

 

誉田はそう言うと先に教室へ入り、岩崎は廊下の教室から見えない位置(ただし岩崎からは教室の様子が概ね見える位置)で待機することになった。

 

何の気なしに1組の方を見ると竹内がこちらを見ていたので、岩崎は軽く手を振った。それを見た竹内も手を振り返そうとしたのだろう、手を顔の横まで持ち上げようとしたその時…

 

――パァン!

 

ビクッ!

 

「(おや?竹内くん…何かびっくりしてる…まぁいいか)」

 

竹内がビクッとしたのを見て少し不思議そうな顔をするが、特に気にすることなく岩崎は4組教室に視線をやった。中では誉田が深呼吸や咳払いを繰り返していた。そして最後に大きく息を吸って…

 

「オッス!オラ誉田!!」

 

と言い放った。しかし…

 

「……………」シーン

 

「……………」シーン

 

「……………」シーン

 

誰1人笑いやしない。これを廊下から見ていた岩崎も「うんうん、こんなにスベった自己紹介を見たのは初めてだ…」と後に振り返っている。

 

すると、自分の渾身のギャグが受けなかったことに腹を立てた誉田がどこからともなくマシンガンを取り出し…

 

――ズドドドドドドドドド!!

 

ビクゥッ!!

 

天井に向かって乱射した。その様子に今度は岩崎がビクッとなった。

 

「いいかテメーら。俺は誉田。(ほん)()(えつ)()。お前たちのボスだ。ガハハハハ…何だ、笑え」

 

何故かいきなり笑いを要求する誉田。

 

「あ…あははははは…」

 

わけのわからない生徒たちは微妙な笑いしかできず、虚ろな笑い声が教室に響いた。

 

――チャキ…

 

「元気がない!」

 

そんな笑い程度では満足できなかったのか、誉田は更なる笑いを要求した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…あは…あーっはっはっはっは!!」

 

訳もわからぬままあの鉄のかたまりの餌食にされては敵わない、それなら嘘でも大笑いだ…そんな気持ちでみんなやけくそに大笑いした。

 

「(…おいおい、そりゃただの脅迫でしょうが…)」

 

岩崎はその様子に誰にも聞こえないような声で突っ込んだ。

 

「よぉし!若ぇ奴は元気が一番だ!」

 

「(…やれやれ、自分で煽ったくせによく言いますよ…って、おろ?)」

 

誉田の発言に半ば呆れていた岩崎だったがそんな時、唯一ピクリとも笑わない生徒がいるのを見つけた。その彼女は何やらモニターと格闘しているようだ。誉田のジョークには一切耳を傾けず、この様子じゃ恐らく先程の銃声も彼女の耳には入っていないだろう。

 

「んじゃ、自己紹介でも…っと、その前にだ。テメーら、今年は男のIS操縦者が3人も現れたってのは知ってるよな?」

 

急に振られた話題にみんな一瞬ザワッとした。

 

「本当ならその内の1人がもうこの教室にいて、お前たちと馴染んでいる頃だったが、学園側の不手際により今この時間からの合流となった。…オイ!入ってこい!」

 

誉田に呼ばれ岩崎はゆっくりと1年4組の教室に入った。

 

――ウソ、本当に男よ…!

 

――なかなかイケてる顔じゃない?

 

――そう?何か変なこと考えてそうにも見えるけど…

 

生徒たちが入ってきた岩崎を見てコソコソと評価する。

 

「よし、自己紹介はお前からだ」

 

誉田は隣にいる岩崎を指さした。岩崎は釈然としないながらもクラスメートみんなの方を見据え、大きく息を吸った。

 

「やあやあやあ、皆さん初めまして。岩崎仲俊と申します。ひょんなことからISを動かせることが判明し、この学園に入学することになりました。以後どうかお見知りおきを…」

 

彼は礼儀正しくお辞儀をした。

 

「んじゃ、オメーの席は…………更識の隣の空席だ。あの水色の髪で眼鏡を掛けているヤツの隣ナ。…オメー、あいつにヘンなことするなよ」

 

誉田が茶化し、みんながクスクス笑い、岩崎が「そんな事しませんよ」と苦笑いする。そんな中でも更識と呼ばれた彼女はちっとも笑っていなかった。

 

「…………よろしく、更識さん」

 

岩崎はようやく自分の席に着き、今もなおモニターと格闘している隣の席の少女に声をかけた。

 

「…………よろしく……………更識簪……………それから……………苗字で呼ばれるのは……………好きじゃない……………………」

 

彼女は脇目で岩崎を見るとそれだけ言って再びモニターに目をやった。

 

「そっか、それは失礼しました」

 

岩崎は先程彼女…更識簪の事を苗字で呼んでしまったことを詫びた。

 

「………別にいい………次から気を付けてくれれば…………」

 

簪は今度はモニターから目を離さず…つまりは岩崎を全く見ずに答えた。どうやらこの子は最低限の受け答えはしてくれるようだ……岩崎はそう評価した。

 

―――――――――

 

その後は特に何事もなく、あっという間に放課後。みんな荷物をまとめて次々と教室から出ていく。

 

「あぁそうだ岩崎、テメーに言い忘れていたことがあった」

 

不意に誉田が参考書を熟読している岩崎を呼んだ。

 

「?」

 

「1組の織斑先生が、お前に話しておくことがあると仰っていた。用がないなら、早く1組へ行っておけよ」

 

伝えるべき事を伝えた誉田はソソクサと教室を出ていった。彼女もまた職員会議に行かなければならなかったのだ。

 

「……………」

 

自分以外に誰もいなくなった1年4組の教室。岩崎は本当に誰もいなくなったのか、もう一度周囲を確認する。………その動きが怪しすぎて悪目立ちしてしまっているが、本当に誰もいなかったので何の問題にもならない。

 

「(……よし)」

 

周りの目の確認を終えた岩崎は自分の席に戻り、机の下に何かを仕掛けた。そして何事もなかったようにその場を去った。

 

この数分後、彼は他2名の男子生徒と共に織斑千冬・山田真耶両名から急遽学生寮での生活を余儀なくされたことを伝えられることになる。

 

―――――――――

 

「ねぇ、そこの君?」

 

岩崎が竹内優斗・織斑一夏と共に寮へ向かう途中、何者かに声をかけられた。振り返るとそこには水色の髪に赤い瞳の女子生徒がいた。

 

「そこの灰色の髪のキミ、ちょっとお姉さんと話していかない?」

 

灰色の髪……明らかに岩崎の事を指定している。

 

「誰だ?」

 

「さぁ…?岩崎くんの知り合いですか?」

 

「いやぁ僕も知らないなぁ。ただ…」

 

「「ただ…?」」

 

「うんうん、何となく心当たりはあるかな…(あの姿…それにネクタイの色………恐らく簪さんのお姉さんだろう…だとすると妹さんの事か、それとも教室に仕掛けたアレの事か…)」

 

岩崎が謎の誘いを受けたことに、3人の男子生徒はこの人物が誰なのか議論を始めた。ただ岩崎だけは彼女は何の事で自分に用があるのかを予想していた。

 

「ん?なになに内緒話?お姉さんにも教えて?」

 

「「うわっ!?」」

 

突然女子生徒が議論に乱入し、完全に背後をとられる形になった竹内と一夏は声を出して驚いてしまった。

 

「ふむ…織斑くん、竹内くん、君たちは先に行っててくれ。どうやらこの人は僕にだけ用があるらしい」

 

岩崎は真剣な表情になって、彼女についていくことにした。

 

「あら、話が早くて助かるわ。じゃあついてきて、こっちよ…あ、そうだ」

 

女子生徒は早速岩崎をつれてどこかへ行こうとしたが、突然何かを思い出し足を止めた。

 

「IS学園へようこそ、3人の男性操縦者さん。在校生を代表して歓迎するわ!」

 

彼女は3人のいる方へ向き直って、手に持った扇子を広げながら歓迎の挨拶をした。ちなみにその扇子には何故か「祝・入学」と書いてある。

 

「それじゃ行きましょ♪」

 

そして彼女は岩崎にウィンクしてついてくるように促した。岩崎はその指示に一切抗うことなく従った。

 

―――――――――

 

空き教室

 

中に誰もいないことを確かめ、女子生徒が岩崎を招き入れる。

 

「うんうん、ここなら人通りも少ないし、話をするにはお誂え向きね♪」

 

「そのようですね…それで、僕に何の用ですか?」

 

岩崎が尋ねると、女子生徒の表情が真剣なものに変わった。

 

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は更識(さらしき)楯無(たてなし)。2年生でこの学園の生徒会長よ」

 

「…これはこれはご丁寧に…岩崎仲俊です」

 

「よろしく。ところで……」

 

楯無がポケットから何かを取り出し、岩崎に見せた。小さな機械のようなものだ。

 

「………これを1年4組の教室に仕掛けたのはあなたね、岩崎仲俊くん?」

 

岩崎は差し出された物体を数秒見つめ…………

 

「……………ハァ…………」

 

…………ため息をついた。

 

「………えぇそうです…僕が仕掛けました」

 

そしてあっさりと自らの犯行であると白状した。

 

「ふ~ん…やけにあっさりと認めたわね。…調べてみたところ、盗聴器のようなものだと判明したんだけど……年頃の女の子の会話を盗み聞きして、一体どうするつもりだったのかな~?んっ?んっ?」

 

楯無は「秘密が女を綺麗にするのよ」とからかい、岩崎の顔を覗き込みながら彼の反応をうかがった。しかし、岩崎はいつも通り飄々とした様子で言い返した。

 

「…決まってるじゃないですか。試したんですよ、この学園のセキュリティをね」

 

「……は?」

 

全く予想もしていなかった答えに、楯無は素で聞き返してしまった。

 

「うんうん、何て言ったって今年は僕やさっきの2人といった特殊ケースな生徒がいるわけだ。織斑先生は僕らを実験動物にしようとする輩から守ると(おっしゃ)ってくださいましたが、その防衛能力を確かめてみないことには安心できません。そこで僕は自分の机の下にその機械…盗聴マイクを設置させていただきました。それからどれくらいで気付くのかを測っていたんですが…まさか1時間足らずで見破られるとは…でも十分信用できることがわかりましたので」

 

「……どうにもウソ臭いわね……本当にそれだけの理由でこんなものを仕掛けたのかしら?」

 

「…………」

 

「…………」

 

ただならぬ空気が2人を包み込む…。

 

「………やはりこのまま終わってはくれませんでしたかww…………さっき言ったことも事実ですが、『誰かの会話が入ってくれないかな』と思ったのも否定しません」

 

「フフッ、やっぱりね。このIS学園では、それぞれの開発会社の機密の話もすることがあるの。悪いことは言わないから、盗聴器を仕掛けるのはやめた方がキミのためよ」

 

楯無が諭すように言った。

 

「そうは言われてもですねぇ…今の世の中生き抜くためには、情報戦を生き抜くことが重要。しかし、完全アウェー状態の僕が普通に情報をかき集めたところで、すでに情報戦線の最前線からは大きく遅れてしまっている…なら、多少強引な手を使わざるを得ない。その結果、僕が用いた強引な手が盗聴マイク(それ)です。」

 

しかし、岩崎はやめるつもりは全くないようだ。

 

「それに、盗聴器(この手)の類を用いているのは、あなたも同じじゃないんですか?」

 

「…ッ!………何のことかしら?」

 

続けて発せられた岩崎の言葉に、楯無はわずかに動揺を見せてしまった。

 

「いやいやぁ、更識生徒会長…あなたは1年4組所属、すなわち僕のクラスメートである更識簪さんのお姉さんであるとお見受けしますが…妹さんの事が心配で心配で堪らなかったのでしょうなぁ。僕ァこういうことに関しては妙にカンが良くてね…この類のものの気配を察知できるんですが…まさかあんなところに仕掛けるとは…このことを妹さんに伝えたら、あなたのこと幻滅しちゃうだろうなぁ~…」

 

「や、やめて!それだけはやめて!」

 

楯無はどこかへ行こうとする岩崎の前に慌てて立ち塞がり懇願する。

 

「…………まぁ僕も鬼じゃありませんからね………まずは、これをお聞きくださいよ」

 

岩崎は制服の胸ポケットからイヤホンを取り出して楯無に渡した。どういうことかわからぬまま、楯無はそのイヤホンを自分の耳に装着する。

 

『えーっと、俺の部屋は1025室…だから…ここか。優斗は?』

 

『僕は1030室のようだからもうちょっと先かな?』

 

「!!…これって…まさか!」

 

そこから聞こえてきたのは2人の男性の声。それも数分ほど前にわずかながら聞いたような声だ。

 

「先ほど僕と共にいた男子生徒の声が聞こえましたね?」

 

岩崎が楯無の心を見透かしたように言った。

 

「そう、これは竹内くんの制服に仕込んだ盗聴マイクからの音声……」

 

「……どうしてこれを私に……?」

 

楯無は疑わしげに尋ねた。

 

「うんうん、ズバリ単刀直入に言うとですね…僕を生徒会に入れてください。その音声はそのための手土産です」

 

岩崎はあっけらかんと言ってのけた。何かを察した楯無は顔をしかめた。

 

「どういうこと?友達の情報を売って、自分だけ助かろうって算段?」

 

けしからん事だと楯無が問い詰める。しかし、岩崎の表情は笑っていた。

 

「フッ、まさか…その逆です。僕がこの音声を持って生徒会に入れば、僕たちはほぼ生徒会の監視下に置かれることになります。つまり、これで僕たち2人はもう下手な行動が出来なくなります。(もっと)も、竹内くんは真面目な性格ですから、変な真似をするとは思いませんがね…それに……」

 

岩崎が意味深に言葉を区切り、一呼吸おいた。

 

「僕たちは互いに互いの秘密を握っている。普通どちらかが裏切ろうものならその秘密を暴露すると言う…まぁ底意地は悪いがそんな常套手段がある。けれど今回は僕が1つ、先輩が2つの弱味を握っている。これでどちらかが謀反したところでこちら側の不利になる。つまり、僕はあなたを裏切れない、そう言うことです」

 

「………なるほど、そういうことね」

 

岩崎の説明を聞き終えた楯無は、クスクス笑いだした。

 

「わかったわ。キミのその(したた)かな性格に免じて、特例として生徒会への入会を認めます!」

 

「……ありがとうございます」

 

「でも!変なとこをしたら……………………わかってるわね?」

 

「……………えぇ、しかと肝に銘じておきますとも」

 

こうして、岩崎の生徒会入りが決まった。

 

「……それにしても、鎌をかけるための演技だったのに、まさか本当に妹さんに盗聴器の類を仕掛けていたとは驚きましたよ…」

 

岩崎がポツリと呟いた。その呟きが楯無の耳に入り、驚いた様子で岩崎に詰め寄った。

 

「…!?じゃあ、さっき言ってた気配がどうのってところは…」

 

「うんうん、まあ察知することもあるけど非常に稀であって、少なくとも今日のところは何も感じませんでしたね…感じることがあっても、見抜けたのは3~4割程度、残りは完全に空振りでしたけどね」

 

「あ…はは…私ともあろう者が……演技に騙されるなんて……」

 

ショックのあまり楯無は俯いてしまった。

 

「あー…じゃあ僕、今日はもう帰っても良いですかね?」

 

「え?今日は来てくれないの?」

 

「えぇ…まぁ実は、今日急遽学生寮に入寮することになりまして…その荷解きも今日のうちに終わらせたいので…」

 

「ふーん……それじゃあ仕方ないか…それじゃあ明日の放課後にいらっしゃい、歓迎会を開くからさ」

 

「それはそれは……ありがとうございます。ではまた明日改めて御挨拶に伺いますね」

 

岩崎は小さく頭を下げてからこの空き教室を去った。

 

――――回想終了――――

 

やあやあやあ、再び岩崎だよ。そんなわけで僕は生徒会の仲間入りをしたんだ。いやぁ、その翌日の歓迎会はなかなか楽しかったよ、布仏先輩の淹れてくれた紅茶は美味しかったし、布仏妹さんからは"岩プー"ってあだ名をもらったし。うんうん、何となく懐かしいこのあだ名でまた呼んでもらえるとは…。

 

ちなみに4組のクラス代表の事なんだけどね、……代表そのものは簪さんが務める事になったんだけど……誉田先生の突然の思い付きで、今度の対抗戦には僕が出ることになっちゃって……いやぁ、参った参った……。うーん…α社の方からは量産機整備の課題があったのに、この上生徒会の活動や対抗戦に向けての訓練にまで時間を取られるとは…って、その時は徹夜も覚悟したね…。

 

あーそうそう、徹夜と言えば僕の寮のルームメートがさ…何の因果か因縁か、隣の席の簪さんだったんだけど…彼女、この1週間のほとんどが僕より大分遅くなってから帰ってくることが多かったんだ。うんうん、原因は恐らく…否、間違いなくあの事だろうね…。

 

――――回想開始――――

 

岩崎の生徒会におけるポジションは、名目上は庶務…要するに雑用ということになったが、会計の布仏(のほとけ)(うつほ)があまりにも有能であったため、雑用の仕事すらない状況となってしまった。そんな訳で歓迎会があった日から2日後の放課後、岩崎は空いた時間の有効活用にと、整備室を訪ねた。林らα社の上司から出された課題を先に片付けることにしたようだ。課題の内容は、壊れかけのISを整備・調整し、再び出撃出来るようにすることである。

 

整備室に入ってきた岩崎を見て、周囲の生徒がざわつく。

 

「うわっ、男の子だ!」

 

「噂の3人の男子生徒の1人?」

 

「あの髪の色…外国人?」

 

「あれ?確か3人とも日本人の名前だったよ?」

 

「そんなことより、男なんかにISの整備なんてできるのかしら?」

 

岩崎はそれらの言葉をすべて無視して空きスペースを探した。しばらく進むと空きスペースがあったが、その近くには本音もいた。

 

「やあやあ本音さん、ここで会うとは思わなかったよ」

 

「おー、岩プーじゃないか~奇遇だね~」

 

波長が合うのか、一昨日の歓迎会で2人は大分仲良くなったようだ。

 

「ところで、整備室で整備もしないで何をしてるんだい?」

 

そう、他の生徒はここ整備室で各々ISの整備をしているが、本音は工具すら手に持たず佇んでいた。

 

「わたしは~…かんちゃんの様子を見にきたのだ~」

 

「かんちゃん?」

 

聞き慣れない呼び名に岩崎が尋ねる。

 

「かんちゃんはたっちゃんさんの妹だよ~」

 

「………なるほど」

 

"たっちゃんさん"と呼ばれる人物を知っていた岩崎は今の一言で"かんちゃん"なる人物が誰なのかを察した。

 

「彼女がどうかしたのかい?」

 

「それが~…ちょっとついてきて~」

 

「…おいおい!?」

 

本音は岩崎の手を取り、2つ隣の整備エリアへ引っ張っていった。そこでは、簪が1人で黙々と作業を続けていた。

 

「……彼女、何をしているの?」

 

作業中の簪を見て、岩崎が小さな声で本音に尋ねた。

 

「…………かんちゃんは1人で自分の専用ISを組み上げようとしているの」

 

「ISを組み上げようと…って、1人で何とかなるものなのかい?」

 

岩崎は驚いた。専門知識もまだそんなにないだろうに、ISを組むと言う困難に挑んでいると言うことに。

 

「……たっちゃんさんは1人で自分のISを組み上げたらしいけど……普通なら出来ないよ……。でもかんちゃんにとっては()()()()()()()()()()()()ってことが問題で~…」

 

「……でも待てよ?彼女は日本の代表候補生だったはずだ。確か代表候補生には専用機が国から与えられるはず。それが未完成の状態で渡されるのもおかしい話だよね……」

 

「……それがね~…」

 

本音は、簪に起こったことをかい摘まんで話した。曰く、織斑一夏がISを起動させたことにより、彼のデータを採取すべく簪の専用機の開発を後回しにされた。曰く、楯無と簪は現在仲違い中、簪が1人でISを組もうとしている理由は概ね姉への反骨心。…とのこと。

 

「…へぇ…なるほどね(…こりゃ、思っていたより厄介な問題のようだ…)」

 

「ごめんね~、岩プーには関係ないことなのに…」

 

「……こっちがいろいろと尋ねた事もあるしね、気に病む必要はないよ」

 

「それでなんだけど~…かんちゃんのこと、少しお願いしてもいいかな~?」

 

本音が神妙な面持ちで岩崎に頼んだ。

 

「……わかった。君たちじゃあ目の届かないところもいろいろとあるだろうからね。…僕のできる範囲で最善を尽くしてみるよ」

 

「おぉ~ありがと~岩プー」ダキッ

 

「ぅおっとっと…」

 

本音が感動のあまり岩崎に抱きついてきた。岩崎は少しバランスを崩したが、何とか踏みとどまった。

 

「えへへ、じゃあかんちゃんのことよろしくね~」

 

そして本音は足早にこの場を去っていった。残された岩崎はひとまず、自分の課題を先に片付けようと自分の整備スペースに戻った。

 

――――回想終了――――

 

うんうん、簪さんは誰からの援護も必要とせず、1人で頑張っているんだ。帰りが遅いのも、整備室の開放時間ギリギリまで残っているからなんだね。

 

それで布仏妹さんに簪さんのことを頼まれて二つ返事で引き受けちゃったけど…実際のところ、彼女とはまだまともに会話したことないくらいに打ち解けてないんだよなぁ…。ま、なるようになるかな。

 

さて、その頃の竹内くんと言えばクラス代表の候補者の1人としてトレーニングに励んでいた頃だったね。この前もクラスメートの子たちと一緒にトレーニングしてたりしたし、α社に帰って代田さんにみっちりしごかれてたよ。それで1年1組のクラス代表決定戦が行われたのを僕も見に行ったんだ。次はその時の話だよ。

 

――――回想開始――――

 

決戦当日の日。みんな一夏や竹内の戦いをその目に焼き付けようと、観客席は満席だった。岩崎も観戦にやって来たのだが空いている席はなく、後ろの方で立ち見することにした。

 

「だ~れだ?」

 

その時、急に岩崎の視界は何者かの手に遮られ、何も見えなくなった。しかし岩崎は少しも慌てずに…

 

「…2年生の更識楯無生徒会長殿」

 

と無駄にお堅い呼称で答えた。

 

「ブー!そんな堅~い呼び方じゃあ不正解だぞっ!」

 

しかし出題者はその答えが気に入らず、目隠しを外してはくれなかった。

 

「……………じゃーたっちゃん先輩」

 

岩崎は今度は棒読みで答えた。

 

「う~ん…棒読みなのが気になるけど…まぁいいわ、正解にしてあげる」

 

出題者(楯無)は不満げだったがようやく岩崎を解放した。

 

「それで、会長さんもこの3連戦を観戦に?」

 

「えぇ、そうよ。どれほどの実力があるのかを見に来たの」

 

「……なら、僕と大体同じですね。僕も彼らの戦力調査に…」

 

とそうこう話しているうちに、一夏vsセシリアの対決が始まった。

 

――第1試合終了後

 

「……」

 

「……」

 

そして試合は決した…白式のエネルギー切れという幕切れで。観客席の皆は思わぬ結末に呆然としているが、岩崎と楯無は違った。

 

「………うんうん、何て言うか…締まらない終わり方でしたね」

 

「そういうこともあるわよ。だからパイロットは自分の扱う機体についてよく知っておかなくちゃいけないの」

 

「なるほど…(でもあれだけ代表候補生を追い詰めるとは……こりゃ、今後まだまだ伸びてくるかも)」

 

岩崎が一夏の評価をしていると、アリーナには竹内が入場してきた。

 

「ねぇ、確か彼って仲俊くんと仲良かったよね?どういう戦い方をするか知ってるの?」

 

当然のように隣を陣取っている楯無が尋ねた。

 

「いやぁ実は…僕ァ竹内くんと対決したことも、それどころか彼の戦いを見たこともないので、そういったことはわかりません…ですが」

 

「ですが?」

 

「彼は戦いじゃなくて、空を楽しむ……これだけは言えます」

 

「…?」

 

楯無が首を傾げている一方、アリーナでは一夏が入場し、今までにない雰囲気に変わっていく。

 

――第2試合終了後

 

一夏と竹内の対決は一夏に軍配が上がった。しかし勝敗とは関係なく2人の男子生徒には惜しみ無い歓声が降り注ぐ。

 

「…さっそく伸びてきたわね、一夏くんは…偶然とは言え瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させるとはね…」

 

楯無が感心して言う。

 

「…(竹内くんはISの機動力を活かしたヒット&アウェイ作戦…か。…彼はまだまだ使っていない武器もある…次の試合も要チェックだ)」

 

岩崎は竹内の戦いをしっかりと脳に焼き付けた。

 

数分後、ようやく第3試合の準備が整い、両候補が入場してきた。

 

「………?(あり?何か…ミス・オルコットがおかしな雰囲気…?)」

 

このとき、観客の誰も…楯無すらも気付かなかったが、岩崎だけはセシリアの異様な雰囲気に気付いた。

 

――第3試合終了後

 

「危ない!」

 

楯無が叫んだ。セシリアのISが空中で解除され、そのまま落下していく。観客は悲鳴をあげている者もいれば、目を固く閉じている者もいる。しかし、竹内がなんとかセシリアを救い、観客の悲鳴は再び歓声に変わり、竹内の人道的な行動に拍手が贈られている。

 

「へぇ…、なかなかカッコいいところもあるわね、優斗くん」

 

楯無がポツリと呟く。

 

「そうよね、仲俊くん…って、おーいどうしちゃったのかな~?」

 

楯無は岩崎に話を振ってみたが、その岩崎は隣で驚いた様子で茫然としていた。

 

実は岩崎は、竹内の腕が青く光出した辺りから言葉を失い、目を見開いたまま固まっていた。

 

「(あれは………精霊手……!?何でそんな技を…いつの間に習得したんだ、竹内くんは…!?)」

 

「仲俊くん?仲俊くんったら!」

 

「!?…あぁ…会長さん、どうしたんですか?」

 

岩崎は楯無の呼び掛けでやっと我に返った。

 

「『どうした』って、それはこっちのセリフよ、さっきから固まっちゃって……」

 

「…すいません、竹内くんの青い光の事について考え事を…」

 

「……確かに気になるわね、あの光といい、突如出現した魔法陣といい……どういう機能なのかしら」

 

「いえ………あれは少なくともISの機能ではありませんよ……ミサイルそのものが消せるなんて、有り得ないですよ」

 

岩崎が冷めた口調で言った。

 

「………何か知ってるような口調ね」

 

「えぇ、せいぜい4~5割程度ですが」

 

「……なら、知ってることを教えてもらえるかしら?」

 

「………常識じゃあまりにも考えられないことですからね…僕1人の意向じゃ教えられませんね」

 

「………じゃあ」

 

「えぇ、彼本人に聞くといいでしょう。僕も口利きをしますので……」

 

それだけ言い残して、岩崎はアリーナをあとにした。

 

――――回想終了――――

 

………あとで聞いた話だけど、1組のクラス代表は織斑くんになったらしい。やっぱり彼の対策はまず、近付かず近寄らせず…だね。

 

それで竹内くんのことだけど、早い方がいいかもね。僕も精霊手の事について聞きたいし、会長さんにも知っておいてもらう必要がある…。………………この際だ、会長さんには僕たちの正体を知っておいてもらおう。どうせ竹内くんも、織斑先生たちには明かすと思うし…。

 

……と、僕の話は今回はここまで。また話題が溜まったら教えてあげるよ。それじゃあまた………。

 

――――モシモシ、タケウチクン?




この日は実践授業。展開、飛行、急停止……何かをする度に歓声が上がったり怒号が飛んだり……ありゃ?そして放課後は食堂でクラス代表就任パーティで大盛り上がり。一方その裏で、岩崎は一足先にある人物に会う。

to be continued...

どーも、ジョージ・ルーカスですwwwwwwww違うかぁwwww

…はい、ものいいの吉田サラダ氏は置いといて、お久し振りです、懐かしい物好きの剣サタです。いやぁ、手こずった…長かった…文字数がついに5桁に到達してもうた…燃え尽きたぜ……でも月1の更新は守れてよかった……。

竹内くんが奮戦している間の岩崎くんはおおよそこんな感じだったんです。かなり雑になってしまいましたが………。

岩崎くんのルームメート、誰にしようか全く無策だったんですよね。簪さんか、のほほんさんか、それとも別のモブか…結局簪さんにしたんですけどね、これでいいのかなぁと思わなくもない。

ちなみに、のほほんさんが岩崎くんにつけたあだ名、知ってる人は知ってるよね。竹内くんの時はかなり悩んだけど、岩崎くんの場合はあっという間に「これ!」って決まりました。

…ダメだ、書き上げた後で後書きを書く元気もない………なので、何かツッコミがあれば是非感想欄に……苦しくも痛々しい応答で対処しますよ

それでは、また次回お会いしましょう


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1-11:嵐の前に宴 つかの間の平穏

ついにUAが2000件突破しました!このような稚拙な作品にどんな形であれアクセスしていただき本当にありがとうございます。これを励みに精進していきたいと思います。

………とは言うものの、今回も相変わらず雑な文章になってしまっていると思います故に、そこら辺はご注意ください………


この日は初の実技授業の日。…とは言っても、今日実践するのは専用機持ちだけで、他の生徒はそれを見学するというものだ。

 

「ではこれより、ISに置ける基本的動作を専用機持ちに実践してもらう。専用機のない者はしっかりと見て学ぶように。では織斑、オルコット、竹内。まずはISを展開して見せろ」

 

千冬に指名された3人は前に出てくる。

 

「時間は限られている、急げ。熟練のIS操縦者は展開まで1秒と掛からないぞ」

 

千冬が3人を急かし、3人は急いで自分のISを展開しようとする。セシリアが先に展開を終え、一夏と竹内がそこから少し遅れて展開する。

 

「…まぁ3人とも及第点だ。だが織斑と竹内はもっと早くできるはずだ。精進しろ……次は飛行操縦をやってもらう。準備が出来次第飛べ」

 

千冬の指示を聞いて、竹内は待ってましたとすぐに飛び立った。続いてセシリアが、最後に一夏が浮上していく。しかし、試合の時とは違い、一夏の飛行はフラフラと頼り無げだ。

 

「何をやっている。スペック上ではブルー・ティアーズより白式の方が出力が上だぞ」

 

一夏の頼りない飛行に千冬の声がとぶ。

 

「……そうは言われてもなぁ…『自分の前方に角錐を展開するイメージ』って何だよ、さっぱりわかんねぇ…」

 

一夏はぶつぶつ呟いた。わからないことを考え続けているせいか、どんどん高度が下がっていく。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージでしかありませんわ。自分にやり易い方法を模索する方が建設的でしてよ」

 

セシリアが一夏の近くに寄ってアドバイスを送る。ちなみにセシリアはあの謝罪の後、竹内と一夏のことをファーストネームで呼ぶようになり、対応も柔らかいものとなり、入学当初の高飛車な性格がウソのようにすっかり丸くなった印象だ。

 

「そうか…でも空を飛ぶ感覚そのものがまだあやふやなんだよなぁ…。大体何で浮いてるんだこりゃ?」

 

一夏の考え事は深まるばかりで出口がまったく見えてこない。

 

「あら、説明しても構いませんけど長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

 

「………わかった、説明はしてくれなくていい」

 

一夏はひとまず思考のるつぼから抜け出し、飛ぶことに集中することにした。余計な考えを捨てたお陰か、少し高度が上がってきた。

 

「……………それにしても、何でアイツはあんなに元気なんだ…………?」

 

一夏の視線の先には、2人の遥か前を行く竹内。

 

「………きっとユートさんはご自身に合ったイメージをお持ちなのでしょう。…私でも追いつけないのが、少し悔しいですわ」

 

「悔しい」………そうは言うものの、セシリアの表情は実に穏やかなものである。

 

一方その頃、先を行く竹内は全力で空を楽しんでいた。何度も言うが、竹内は元々航空機パイロット志望。空を飛ぶイメージを思い描くことなど、彼にとっては容易いこと、空を飛ぶことで楽しそうな笑顔も溢れ出てしまうほどだ。速いスピードで飛び回り、綺麗にターンを決め、このまま放っておけば宙返りやスピンまで繰り出しそうな勢いだ。

 

『竹内、もうその辺にしておけ。お前の飛行操縦は"基本的"という概念を大きく逸脱している』

 

「あ…はい、ごめんなさい!」

 

千冬のストップがかかり、竹内はスピードを緩めて一夏たちと合流した。その直後…

 

『いつまでそこにいる一夏!早く降りてこい!』

 

箒の怒号がこだまする。3人が下の様子を見ると、どうやら箒が真耶のインカムを強奪し、それを使って叫んだようだ。

 

「それにしてもつくづくISはすごいなぁ、こんな高いところからでも地上の様子が鮮明に見えてる!」

 

「……ホントだ。箒のまつ毛までしっかり見えるぜ……あ、箒が千冬姉にド突かれてる」

 

男子2人がISの性能の高さに改めて感心してると、千冬から通信が入った。

 

『お前たち、無駄話している暇はないぞ。次は急降下からの完全停止をやってもらう。1人ずつ順番に、目標は地上から10cmだ』

 

新たな指示が入り、気を引き締める3人。

 

「では、私から失礼させていただきますわ」

 

そう言ってセシリアが先に急降下を始めた。竹内と一夏はその様子を上から見ている。そしてセシリアは見事に空中で止まった。停止位置の誤差も1~2cmに収まっている。

 

「うまいもんだなぁ」

 

一夏が他人事のように言う。

 

「………僕もあんなにうまく出来るかな」

 

竹内は先程の楽しそうな表情から一転、緊張しめ引きつった顔になってしまっている。

 

「じゃあ、次は僕がいくよ」

 

今度は竹内が落下を始めた。みるみる落下スピードが上がり、地面が近付いてくる。

 

「……!!」

 

竹内は「ここだ!」と言うところで勢いを殺し始めた。やがて地面が間近に迫ったが、何とか着地することなく空中で止まることが出来た。しかし…

 

「地上から23cm…初めてにしてはまずまずだが、勢いを殺すのが早すぎる。もっと訓練に励め、その誤差はまだまだ小さくすることが出来る」

 

「はい」

 

竹内が自分の結果を聞いて、ゆっくりと着地する。すると後ろから物凄い爆音がした。その方向を見ると、地面にクレーターが出来、その中心に一夏が埋まりかけていた。一夏が落下の勢いそのままに、地面に激突したのである。

 

「…誰が地上に激突しろと言った、馬鹿者が…。グラウンドに大穴を開けてどうする」

 

千冬が呆れつつツッコミをいれる。

 

「………すみません」

 

一夏がクレーターから這い出し、申し訳なさそうに謝る。しかし、体には傷らしい傷は一切見当たらない。

 

「情けないぞ一夏、あれほど私が教えてやっただろう」

 

一夏の体たらくに箒が不満そうに言う。確かに一夏は代表決定戦の後、箒のコーチの下でISを使った訓練も行っているが…

 

「…………」

 

一夏は一夏で何か言いたそうに箒を見る。

 

「……お前、今何か失礼なことを考えているだろ?」

 

その視線に気付き、箒が言う。すると一夏がピクリと反応してしまった。どうやら図星だったようである。

 

「やはりか!大体お前と言う奴は昔からだな…」

 

「まぁまぁ抑えて抑えて、今は織斑くんが無事だったんだから、それで良いじゃないですか」

 

箒の小言が始まろうとしたところで、事態の悪化を察した竹内が2人の間に入り仲裁にあたる。

 

「…………」

 

調子を狂わされたのか、箒は何も言い返さず引き退がった。

 

「……織斑、次は武装を展開してみろ」

 

千冬の新たな指示が出る。

 

「流石にそれくらいは自在に出来るようになっただろう」

 

「は、はあ……」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

一夏は返事を訂正すると横を向いて右手を前に出し、左手で右手首を掴み集中した。やがて掌から光が放出されて形を成し、剣となった。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次、竹内!」

 

「はいっ」

 

千冬の評価に一夏はがっかりした。だが同時に「千冬姉はこういう人だ…」と己を納得させるしかないことを悟った。

 

そんな一夏を尻目に、竹内はまずは射撃武器の機関銃を展開。そしてそれを一旦しまい、今度は近接武器のナイフを展開し、誰もいない方を向いて構える。

 

「……織斑よりかは早かった。だが、結局はそれだけだ。遅いことに変わりない」

 

「…はい、精進します」

 

竹内は千冬の評価を聞くと一礼して後ろに下がった。

 

「次、オルコット」

 

「はい」

 

最後の1人セシリアは、余裕たっぷりに返事をして左手を横に突き出した。一瞬光ったと思ったら、すでにレーザーライフル"スターライトmkⅢ"がその手にあった。ポーズもバッチリ決まり、展開スピードも前の一夏や竹内と比べても明らかに速い。

 

「流石に代表候補生、良い見本となる素晴らしい動きだった………と言いたいところだったが、何だそのポーズは。銃身を横に向かって展開して…一体何を撃つ気だ?正面に展開できるようにしろ」

 

「で、ですが、これは私のイメージを纏めるのにはどうしても必要な……」

 

「直せ。いいな」

 

「……はい」

 

しかしそのポーズは実戦的ではないと千冬に切り捨てられてしまった。

 

「オルコット、近接武器を展開してみろ」

 

「は、はい」

 

"近接武器"…この単語を聞くと、さっきまで余裕綽々だったセシリアの顔が急に強張った。すぐさまレーザーライフルを収納すると、近接戦闘用武器を取り出そうとした。しかし、今度はいくら待っても何も起こらない。

 

「……………っ!」

 

「…まだか?」

 

内心頭を抱えながらセシリアを急かす千冬。

 

「す、すぐです!………あぁ、もうっ!"インター・セプター"!!」

 

いくら経っても何も起こらず、結局焦れったくなったセシリアは武器名を口にすることでようやくショートブレードが現れた。

 

「………こっちは初心者並みだな。実戦でも相手に待ってもらうのかお前は?」

 

千冬が呆れ気味に問う。

 

「じ、実戦では近接戦闘の間合いには入られません!ですから、何の問題もありませんわ!」

 

セシリアが弁解する。

 

「ほう、そう言う割には初心者である織斑との対戦では簡単に懐を許していたように見えたが?」

 

「あ…あれは…その…」

 

しかしそれも千冬の鋭い指摘に打ち砕かれ、セシリアには為す術がなくなってしまった。すると彼女は、一夏の方を恨めしそうに睨んだ。

 

『あなたの所為ですわよ!』

 

…プライベート・チャネルでの文句込みで。

 

「………何でだよ………?」

 

一夏からすればとんだとばっちりである。…この男、今日のこの授業ではとことんツイてないようだ。

 

するとここで、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「時間だな。今日の授業はここまで。織斑はその穴を直しておくように、解散」

 

一夏は改めて自分が作ってしまったクレーターを見る。…この穴を1人で元に戻すのは骨の折れる大変な作業だ。そこで一夏は助けを求めようとまず箒のいた辺りを見た。まだ箒はいたが、不機嫌そうに顔を逸らして去ってしまった。ならばと今度はセシリアのいた辺りを見たが、そのセシリアもすでにいなくなっていた。気付けばクラスメートのほとんどが帰ってしまっていた。しかし…

 

「みんな行っちゃったね……でも、僕も手伝うからそんなに気を落とすなよ、ほら」

 

竹内だけは違った。彼はシャベルを2本持って一夏のもとへ駆け付けた。

 

「あぁ優斗………ありがとな……」

 

一夏は心の中で涙を流して喜び、竹内への友情評価が大きく上がったことは言うまでもないだろう。

 

―――――――――

 

その日の夜、食堂。

 

「織斑くん、クラス代表就任おめでとー!!」

 

「おめでとう!」

 

「おめでと~♪」

 

一夏が食堂に入ると、クラスメートの女子に無理矢理テーブルど真ん中の席…所謂お誕生日席に座らされた。一体何が始まるのかと警戒していたら、鷹月(たかつき)静寐(しずね)の一声でみんなから祝福の言葉をかけられる。

 

「え?あぁ…ありがとう」

 

一夏は戸惑いながらも礼を言った。

 

「今日の『織斑一夏1年1組クラス代表就任パーティ』、盛り上がって行こうぜー!!」

 

『イエェェェェェェェェェェェイ!!』

 

「じゃあ主役の織斑くん、乾杯の音頭を何か一言添えてよろしくぅ~☆」

 

「え!?」

 

雰囲気に圧倒されていたところで、急にまた話をフラれて一夏は驚く。しかもいつの間にか手元にはコップがあり、すでにジュースも入ってる。一夏はコップを持って立ち上がった。

 

「えー、…俺なんかにこのクラスの代表が務まるかわからないけど、精一杯頑張ります。…乾杯!」

 

『カンパーイ!!』

 

シンプルにまとめた一夏の乾杯の挨拶。その後はみんな飲めや食えやの大わらわ、中には歌い出す者までいたとか。

 

しばらくみんなでパーティを楽しんでいると…

 

「……賑わうところに我ら在り……どうも~新聞部で~す!注目の新入生に取材したくやって参りました~!」

 

カメラやボイスレコーダー、メモ帳などを携えた新聞部の部員たちが乱入してきた。中心人物と思しき女子生徒が一夏と竹内を見つけると、「こっちこっち!」と他の部員を呼びつつ2人に近付く。

 

「はいは~い!君たちだね、織斑くんと竹内くんは。あぁ、私は2年の(まゆずみ)薫子(かおるこ)。新聞部の副部長をやってまーす。はいこれ、名刺ね」

 

「あ、ども…」

 

「これはどうも…」

 

薫子の勢いに圧倒され、小さく礼を言うしか出来なかった。

 

「ではではズバリ織斑くん!クラス対抗戦への意気込みを一言、どうぞ!」

 

そんな男子2人の戸惑いなど何処吹く風、薫子の勢いは止まらず、一夏にボイスレコーダーを向け迫る。

 

「えっと、何と言うか…とにかく頑張ります」

 

「えー…もっと良いコメント頂戴よ~。『俺に触れると火傷するぜ!』みたいなキメ台詞とかさ~」

 

やっぱりこれもシンプルに…と言うか当たり障りのないコメントで乗り切ろうとした一夏だったが、当然それで引き下がるはずもない薫子。彼女はさらに一夏からコメントを引き出そうとする。

 

「自分、不器用ですから…」

 

「うわ古っ、前時代的!!まぁいいわ、テキトーに捏造しておくから」

 

それは学園内とは言えジャーナリストとしてはいかがなものだろうか…竹内がそう思っていると、薫子が今度は竹内に狙いを定めた。

 

「続きましては竹内くん!IS学園に入った感想はいかがかな~?!」

 

「え?そうですね…」

 

竹内は何と言えばいいのか答えに詰まったが、周りを見回してから改めて…

 

「…良い仲間たちに出会えて、楽しく過ごせています」

 

と答えた。すると、クラスメートたちが「イェーイ!」と盛り上がりをみせる。

 

「お、なかなか受け答えが良いね。じゃあもう少し質問しちゃおうかな…」

 

手応えを感じた薫子はメモ帳をパラパラめくり、さらに竹内に質問をぶつけた。中には竹内が回答に困るものもあったが、どうにかすべての質問を凌ぎきった。

 

「うん、これで良い記事が書けそう!ありがとね竹内くん!」

 

「…い…いえ、どういたしまして……」

 

色々と聞き出せて大満足の薫子と、初めてのインタビューに少し疲れた様子の竹内。薫子は上機嫌で次なるターゲットを探し、そして見つけた。

 

「じゃあ最後にセシリアちゃん、あなたも何かコメントちょうだい」

 

そのターゲットはセシリアだった。薫子はやっぱりボイスレコーダー片手にセシリアに迫る。

 

「あまりこういうのは好きではないのですが、仕方ないですわね、コホン…では、まず私がどのようにして…」

 

と、渋ったふりをしつつもノリノリでセシリアが語り始めたが…

 

「…あーゴメンね、長くなるんだったらいいや、写真だけちょうだい」

 

薫子に強制的に切られてしまった。

 

「さ、最後まで聞きなさぁーい!!」

 

当然セシリアは憤慨するが…

 

「ゴメンゴメン、竹内くんのインタビューが思いの外長引いちゃって、もうボイスレコーダーの容量がパンパンなのよね、生憎今は予備もないし…」

 

…と薫子が釈明する。セシリアの憤りは収まらなかったが、自らを無理矢理納得させるよりほかなかった。

 

「じゃあ写真撮るから、3人ともそこに並んで」

 

薫子が今度はカメラを持って撮影の指揮を執る。

 

「注目の専用機持ちだからね!ん~と並びは…代表の織斑くんを中心に、その両隣を竹内くんとセシリアちゃんが挟むように…そうそう、良い感じだわ」

 

3人は薫子の指示通りのポジションに着いた。

 

「それじゃあ撮るよ~、35×51÷24は~?」

 

薫子がやたら数字の大きい計算式で、3人の注意をカメラに引き付ける。

 

「えーっと…2?」

 

3人を代表して一夏が自信無さげに答える。

 

「ブブー!74.375でした~!」

 

薫子が悪戯な笑顔でシャッターを切った。竹内は思わず「なんじゃそりゃ!?」とツッコミながらズッコケそうになったが辛うじて踏み留まった。

 

「ありゃ?」

 

不意に薫子が不思議そうな声をだし、もう一度一夏たちの方を見た。するとそこには撮影するはずだった一夏たち3人だけではなく、他のクラスメートたちも紛れ込んでいた。"篠ノ之博士の妹騒動(命名:筆者)"でクラスから浮き気味だった箒も、ちゃっかり入って一夏の近くをキープしている。この事から、全員がしっかり入るように調整し直し、図らずもクラスの集合写真(教師抜き)が撮影され、新聞部は満足気に帰っていった。

 

宴はこの後も続き、9時過ぎまで大いに盛り上がった。

 

ちなみにその集合写真は、後日1年1組の教師・生徒全員に配られたとか。

 

―――――――――

 

一方、竹内たち1年1組の面々が就任パーティで盛り上がっていた頃、岩崎が整備室から出てきた。同じ体勢が続き、カチコチに凝り固まった体をほぐすように腕を回し、欠伸をした。

 

彼が寮への道を歩いていると…

 

「あぁもう!!この学園広すぎるのよ!どこがどこなんだかさっぱりパーじゃない!!案内人の1人もいないなんてどうかしてんじゃないの!?」

 

甲高い声が聞こえた。岩崎が声のする方向を見ると、ボストンバッグを提げた小柄な少女がいた。

 

「あ、ちょうど良かった…ちょっとそこのアンタ!総合事務所って場所まで案内してくれる?」

 

彼女は近くにいた人影に気付き、誰かもわからずその存在に声をかけた。

 

「……僕?」

 

「そう。っていうかアンタ以外誰もいないじゃない…って、男!?」

 

そこで彼女はようやく自分が声をかけた人物が男であることに気付いた。

 

「あれ?男性IS操縦者は3人ってニュースはとっくに知れ渡ってるもんだと思ってたけど…」

 

「あぁ…そうだったわね…」

 

「それで…総合事務所だっけ?うんうん、こっちの方だね。ついておいで」

 

「ありがとっ」

 

2人は暗い道をわずかな灯りを頼りに歩き出した。

 

「アタシは(ファン)鈴音(リンイン)。中国の代表候補生、リンで構わないわ」

 

「へぇ、中国から来たのかい?ようこそ日本へ…けどその割りには随分と身軽だね」

 

「フフン、フットワークの軽さがアタシの長所なのよ♪それに日本に来るのも初めてじゃないしね」

 

「ふーん…僕は岩崎仲俊。1年4組所属、よろしく」

 

「ナカトシ…呼びにくいからトシって呼ぶわ、よろしく。ところでトシ、織斑一夏って人知ってる?」

 

「うんうん、もちろん知ってるとも。クラスは違うけど、噂はいろいろと聞いてるよ」

 

「ふーん…例えば?」

 

「例えば?そうだなぁ…」

 

岩崎は夜空を見上げながら少し考えた。

 

「うんうん、もう1人の男子生徒と一緒になってイギリスの代表候補生に喧嘩を売ったとか、クラス代表になったとか…あとよく聞くのは、彼がとんでもない朴念仁だってことかな…あぁ、あくまでも噂だけどね」

 

「そう…」

 

「…?」

 

急に顔を伏せた鈴音に岩崎はどうしたのかと思ったが、少し考えてその理由を察した。やがて、目的地が近付いてきた。

 

「さぁ、ここが総合事務所だ。ここから先は自分で何とかやれるよね」

 

「うん…ありがとね、トシ」

 

「礼には及ばないさ、じゃあね」

 

岩崎はそう言って寮へ帰っていった。残された鈴音はそのまま入寮の手続きをした。

 

明日にでも一波乱起こるかもしれない………。




2組のクラス代表となった凰鈴音が1組に宣戦布告にやって来た!クラス対抗戦に向け、さらに気を引き締める一同。ところがその日の遅く、竹内と岩崎が寮への帰り道を歩いていると、1人涙を流す鈴音の姿があった。彼女にいったい何があったのか…?

to be continued...

どうも、意外と病弱な剣とサターンホワイトです。頭痛持ちです、花粉症(恐らくスギ花粉)です、さらには現在鼻詰まりです…持病を読者に暴露してどうするんだ私は…。

何と言うか…長ったらしいくせして全体的に消化不良って感じがしますね今回は。まだまだ私の腕が未熟ゆえ…どうもすみません。

さて、そんな1-11を振り返ってみましょう。まずは初の実技の授業、空での竹内くんは誰よりもイキイキしています。理由はあえて言う必要はありませんよね。しかし、結局のところ竹内くんは「空を飛ぶ以外能がない」のである…あら、どこかで聞いたフレーズ……。ともかくそれ以外の事は素人レベルでしかないのだ。…代田さんの特訓がまだまだ必要かな?

そして就任パーティーですが…あまりにも主役である一夏くんを蔑ろにし過ぎましたね、ほとんどが黛先輩に持っていかれたと言うか。反省反省…。

そして本作始まって1年ちょっと、ようやく原作における3人目のメインヒロイン、凰鈴音さんが登場。岩崎くんに一足お先に遭遇。………遅い、遅すぎるぞ!私の執筆スピード!

この調子で、シャルロットさんとラウラさんが出てくるのは本当にいつの事になるのやら…。

それでも、前書きにも記した通り、こんな拙作もついにUA2000件に到達しました。ありがとうございます。いまだに未熟者の剣サタではございますが、今後とも「インフィニット・オーケストラ」をどうぞよろしくお願いします。

【緊急……でもない告知】

速水くん視点のガンパレード・マーチ1話完結小説を本作と並行して手こずりながら執筆中。公開予定は未定。


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1-12:再会のチャイナガール 晴、一時雨

どうにも思った通りに書き進められない…他の書き手の皆さんもこんなジレンマ(?)を抱えつつ執筆しているのでしょうか…?

それはさておき、今月2度目の更新です!


パーティーがあった日の翌朝。

 

「おはよーございまーす」

 

竹内と一夏が教室にやって来ると、みんな何やら集まって話し合っている。何人かが彼らの存在に気付き、挨拶を返す。

 

「おはよっ竹内くん、織斑くん。ねぇねぇ、2人は転校生の噂知ってる?」

 

「転校生?こんな時期にか?」

 

「まだ新学期が始まって1ヶ月も経ってないのに…それにここに転入するのってとても大変だって聞いてるけど…」

 

そう、竹内の言う通りIS学園に転入するには試験はもちろんのこと、国家からの推薦が必要となり、簡単に入れるものではない。が…

 

「それがさぁ、中国の代表候補生らしいのよ」

 

「へぇ~…」

 

代表候補生ともなれば知識もバッチリ、恐らく試験は難なく突破し、国家からの推薦だってよほどのことがない限りもらいやすいだろう。

 

「(中国か……そういえばアイツは元気にやってるかな……)」

 

一夏は中国と聞いて、1年前に別れた知り合いを思い浮かべる。

 

「……それで、その転校生はこのクラスに来るのか?」

 

回想を終えた一夏が尋ねる。

 

「うぅん、2組の子たちが何か慌ただしかったから、どうも2組らしいよ」

 

「ふーん…どんなやつなんだろ」

 

「……気になるのか一夏」

 

不意に後ろから声がした。声の主は箒だった。

 

「篠ノ之さん…おはよう」

 

「「おはよう」」

 

「……あぁ、おはよう。それで、どうなんだ一夏?」

 

みんなと挨拶を交わした箒は再び一夏を問い詰める。

 

「まぁ、そりゃあな」

 

一夏は曖昧に答えた。

 

「気にしている余裕なんぞお前にはないだろう。お前はもっと強くなって勝たねばならんのだからな」

 

箒が喝を入れるように入った。

 

「そうそう、織斑くんには勝ってもらわなくっちゃ!」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

それに便乗するようにクラスメートたちが一夏に発破をかける。フリーパスとはこのクラス対抗戦の優勝商品で、優勝クラスはこれにより半年間学食のデザートが無料になるという代物だ。スイーツに対する飽くなき欲を以前垣間見た竹内は苦笑いした。

 

「でも専用機を持ってる人がいるのって、うち以外じゃ4組だけだから、そこさえ気を付ければ何とかなるんじゃないかな?」

 

1人のクラスメートが思い出したように言う。

 

「………その情報、古いよ!」

 

その時、教室の出入口の方から誰かが割り込んできた。一斉にその方向を見ると、そこにはツインテールの女子生徒が腕を組んで仁王立ちしていた。一夏がその彼女に近づく。

 

「お、お前…鈴…なのか…?」

 

「そう。中国代表候補生凰鈴音。今日は2組のクラス代表としてアンタたちに宣戦布告しに来たって訳!」

 

彼女…鈴音は指を差したポーズを取りながら宣言した。堂々とした出で立ち、鈴音は小さく笑みを漏らし、内心では「決まった…!」と思っている。

 

「…プッw…何を格好つけてるんだよ、全然似合ってねえぞw」

 

しかし一夏はそんな鈴音を可笑しく思い、不覚にも吹き出してしまった。

 

「なっ…!何てこと言うのよアンタってヤツは!」

 

吹き出した一夏に鈴音は大声で抗議する。一夏は笑いを堪えながら「わ…悪い悪いw」と詫びる。箒の一夏を見る目が厳しくなった。

 

「えっと、織斑くん?その人は?」

 

竹内が遠慮がちに一夏に尋ねる。

 

「あぁ、コイツは…」

 

「ちょっと待って!」

 

「え?」

 

一夏が鈴音のことを紹介しようとしたが、その鈴音によって遮られる。彼女は竹内を見定めるようにジー…っと見ている。

 

「……………」ジー...

 

「………あの?」

 

「ふーん、アンタが…」

 

「…?」

 

鈴音は10秒ほど竹内を見続け、1人で何か納得したようだった。竹内は一体何のことか丸っきり理解できず、頭上に"?"を浮かべる。

 

「おい」

 

その時、鈴音の後ろから声がした。

 

「何よ!?」

 

気が立っていた鈴音はその声に乱暴に対応する。が…

 

――パァン!

 

如何せん相手が悪過ぎた。声の主は我らが絶対的存在、織斑千冬。そして今の音は千冬が鈴音に放った出席簿での殴打によるもの。およそ普通の出席簿では出ない音がするほどの力で打たれた鈴音は涙目になるほど痛がり、この光景を見ていた全員が「うわぁ…」とか「痛そう…」などと哀れんでいた。

 

「もうSHRの時間だ。お前も早く教室に戻れ」

 

「イタタタ…ち…千冬さん…」

 

「学園では『織斑先生』と呼べ。そして早く退()け。いつまで出入口を塞ぐつもりだ?」

 

「はっはいー!すみません!」

 

いかに気の強い鈴音でも、千冬には敵わないようだ。"ピューッ"と擬音がつくような勢いで千冬の前から退いた。そしてもう一度一夏を指差して

 

「ま、また後で来るからね!逃げないでよ一夏!」

 

と言い残し、足早に2組に帰っていった。

 

一夏始め1組のみんなも急いで自分の席に戻り、ホームルームが開始された。

 

―――――――――

 

………なお、

 

「…では篠ノ之さん、教科書の23Pから朗読をお願いします」

 

「(一夏め…あの女とどういう関係なのだ……まさか…つ、つ…付き合って)」モヤモヤ

 

――パァン!

 

「ングッ!?」

 

「授業には集中しろ!」

 

箒は鈴音と一夏の関係がえらく気になって授業どころではなくなってしまい、度々千冬に出席簿で打たれ、しまいには彼女だけ追加の宿題をもらってしまったとか…。

 

―――――――――

 

「これも全部貴様のせいだ!」

 

「……あのなぁ、そんなに俺を悪者にしたいのか………?」

 

無茶苦茶なことを言う箒に一夏が呆れながら言う。時は昼休み、楽しい楽しいランチタイムである。一夏は竹内と箒、そして岩崎と一緒に食堂へ向かっていた。ちなみになぜ岩崎がいるのかと言えば、一夏が「紹介したい人がいる」と誘ったからである。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

食堂に着くと鈴音が朝と同じように仁王立ちして待っていた。

 

「券売機の前に立ったら他の人の邪魔になるだろ?」

 

しかし、一夏は受け流すように立ち位置のことを指摘した。

 

「わ、わかってるわよ!アンタが遅いからここで待ってたんでしょ!」

 

鈴音が券売機の前から退きながら言う。どうにも朝から筋書き通りいかない鈴音であった。

 

そして5人は席に着き、ようやくゆっくり話ができるようになった。

 

「それにしても久しぶりだなぁ鈴。いつ日本に戻ってきたんだ?っていうか、いつ代表候補生になったんだよ」

 

「いきなり質問ばっかりしないでよ!アンタこそ何IS動かしちゃってるのよ、ニュース見たときビックリしたんだから!」

 

攻撃的な口調だが、鈴音の顔は楽しそうに見える。

 

「…一夏、そろそろその女との関係を説明してもらいたいのだが…?」

 

その様子をずっと見ていてモヤモヤを募らせた箒がついに口を挟んだ。

 

「まさか…つ…つ、付き合っていると言うことはあるまいな!」

 

ザワッ…

 

箒の声が大きすぎたせいか、周囲の女子生徒がざわつく。

 

「べ、べべべ別につつき付き付き合ってる訳じゃ…」

 

鈴音が顔を赤らめしどろもどろになりながら答えを返そうとするも…

 

「あぁ、付き合ってる訳ないだろ。ただの幼馴染みだ」

 

一夏がズバッと言い切った。あまりにあっさり言い切ったため、鈴音が恨めしそうに睨み付ける。

 

「幼馴染み……だと…?」

 

聞き慣れた単語に箒が反応する。

 

「あれ?幼馴染みと言えば篠ノ之さんもだったよね?その篠ノ之さんが彼女を知らないって…」

 

竹内が一夏にどういうわけか尋ねた。

 

「あぁ、箒とは入れ替わりだったからな。箒がファースト幼馴染みで、鈴がセカンド幼馴染みってやつだ。確か箒が引っ越していったのが小4の終わりで、鈴が前に転校してきたのは小5の始めの方。んで、国に帰ったのが中2の終わり頃。だからこうして会うのはほぼ1年ぶりってことになるな」

 

一夏はみんなに説明を終えると鈴の方に向き直り、

 

「鈴、こっちが箒だ。前に少し話しただろ?小学校からの幼馴染みで、俺が通ってた剣術道場の娘」

 

箒を紹介した。

 

「ふぅ~ん…アンタがその箒って訳ね…これからよろしく、箒さん?」

 

「あぁ、こちらこそよろしく」

 

互いに挨拶を交わす箒と鈴音。だがどう見ても雰囲気は良いとは言えない様子だ。

 

「……見たまえよ竹内くん、まさしく三角関係の構図だよ」コソコソ

 

岩崎が小声で話しかけてきた。

 

「そう……みたいですね……。……でも佐藤くん、鈴木さん、渡部さんの三角関係(※)とは何か様子が違うように見えますけど……」コソコソ

 

「そりゃあそうだろうとも。あの3人の場合とは違って、こっちは織斑くんがフリーな分、尚更性質が悪いのさ」コソコソ

 

(※:佐藤(さとう)尚也(なおや)鈴木(すずき)真央(まほ)、そして渡部(わたなべ)愛梨沙(ありさ)………この3人の三角関係については後書きを参考にされたし)

 

「あー…鈴?」

 

一夏は睨み合いを続ける鈴の注意を引き、竹内と岩崎の方を指した。

 

「こっちの2人が俺と同じ男のIS操縦者だ。黒髪の方が同じクラスの優斗」

 

「どうも、竹内優斗です」

 

軽く会釈をする竹内。

 

「そして灰色の髪の人が…」

 

「1年4組の岩崎仲俊でしょ?トシとは昨日会ったから知ってるのよ」

 

「え、そうなんですか?トシさん」

 

一夏が岩崎に尋ねる。

 

「あぁ、本当だよ。昨日の夜…そうだね、君たちがパーティーを楽しんでるぐらいの時に会ってね。道案内を頼まれたよ」

 

「そういうことっ♪」

 

岩崎の話を聞いて、一夏はようやく納得がいった。

 

「それで、アンタが優斗ね。一夏と一緒になって、イギリスの代表候補生にケンカ売ったって言う…」

 

「ウッ…まぁ否定はしないけど…その話って、そんなに噂になってる?」

 

竹内が苦虫を噛み潰したような顔をして尋ねる。

 

「さぁね、アタシはトシから聞いただけだし」

 

「おや?鈴さんが織斑くんについて聞いてきたんじゃなかったっけ?」

 

「へ?俺の?」

 

予想外なところで自分の名前が出てきたことに、一夏はビックリした。

 

「俺の噂なんか聞いてどうしようってんだよ」

 

「な、なななななな何でもないわよ!それよりアンタ、クラス代表になったんだって?」

 

鈴音が慌てて話題をすり替えた。

 

「アタシがISのコーチしてあげる。だから放課後はアリーナで特訓よ!」

 

「その必要はない、私がすでについているからな。他のクラスの奴の施しは受けん」

 

鈴音の申し出に一夏が答える間もなく、箒が割り込んでスッパリ断る。

 

「アンタじゃなくて一夏に聞いてんの!どうなの一夏!」

 

しかし鈴音は箒を相手にせず、一夏に早く答えるよう急かした。すると箒も自分の意見を通そうと一夏に詰め寄る。

 

「あー…」

 

一夏は完全に困り果ててしまった。

 

「あはは、まぁまぁ…」

 

「はいはいそこまで、織斑くんが困り果ててるじゃないか」

 

それを見かねて竹内と岩崎が仲裁に入った。そして様々な意見飛び交う話し合いの末、鈴音のコーチの件はクラス対抗戦が終わるまではお預けという結論が出されたのであった。

 

―――――――――

 

その日の放課後。竹内は岩崎に連れられて生徒会室へと赴いた。岩崎によれば、「会長さんが君に聞きたいことがある」とのことだった。どんな話だったかはまた別の話で…。

 

そんなわけで、生徒会室に思いの外長居しすぎた彼らはそのままそこでご馳走になり、ゆっくりと寮へ帰っている途中だった。しばらく行くと…

 

「…グスッ………ヒクッ……」

 

鈴音が独り、涙を流して泣いていた。竹内が声をかけようとしたが、岩崎がそれを制した。

 

「な、何ですか…腕、掴んだりして」

 

「僕ァ思うんだけど…今はソッとしておいてあげた方がいいと思うなぁ…こんな人気(ひとけ)のないところで泣いているんだ。ここは涙が枯れるまで泣かせておいて、僕たちは行こう」

 

「……全部……聞こえてんのよ………バカ」

 

岩崎は竹内を連れてこの場から立ち去ろうとしたが、鈴音に見つかってしまった。

 

「やれやれ、見つかってしまったか……話しかけてきたってことは、話を聞いてほしいってことだよね?わかった、聞こうじゃないか…竹内くん、お金はあとで渡すから何か適当に温かい飲み物を買ってきてくれ」

 

数分後、竹内の買ってきたお茶を飲みつつ、鈴音は語り出した。彼女の話によれば、かつて日本に来たときに一夏とある約束をしたそうだ。その内容は「料理の腕が上がったら、毎日アタシが作った酢豚を食べてくれる?」という、プロポーズともとれるものだ。それを数分前、一夏に覚えているか尋ねたところ、彼はなんと「酢豚を奢ってくれる」と解釈したらしく、これに鈴音は激昂。彼にビンタ一発を見舞ったあと、ここで涙してた訳だとか。

 

「ねぇ、どう思う!?」

 

話している間に一夏に対する怒りの感情が再び沸き上がり、鈴音はヒートアップする。

 

「僕は思うんだけど、織斑くんが100%悪いとは言えない気がするなぁ」

 

「なっ、何でよ!」

 

岩崎の答えに鈴音はムッとした。てっきり自分に賛同してくれるものだと思っていたのに、違う意見が出てきたからだ。

 

「確かに、彼は聞きしに勝る唐変木だ。正直、今の話を聞いて僕も驚いている」

 

「でしょ!?」

 

「そう…もっと悪く言えば、織斑くんは君の想いに1ミリも気付かなかった…とんだスットコドッコイだ。だがそんな彼の鈍感ぶりを知らぬ君ではあるまい。幼馴染みという間柄なら尚更お互いのことはよく知ってるはずだ。そこで聞こう、何故そんな遠回しな告白をしたのかな?」

 

「そ、それは…」

 

岩崎の問いは、鈴音の怒りの炎を一瞬にして鎮めた。

 

「竹内くんも僕が解説を入れなければわからないくらいの回りくどい言い回しだ。…もっとも、彼もこの手の話題には疎い方だけどね…。とにかく、そんな彼とほぼ同類と言える織斑くんが違う風に捉える可能性だって十二分に有り得たわけだ」

 

岩崎の言う通り、竹内は岩崎の「酢豚を味噌汁に置き換えて、その状況を想像してごらん」などの解説がなければ理解できていなかった。その鈍さを自覚した今、竹内は全く口を挟めないでいた。一方鈴音は岩崎の問いかけに対し答えることができず、ただ唸るだけしかできない。

 

「……まぁ、だいたいわかるよ。告白する…自分の想いを告げることはとても勇気が要ることだ。……恥ずかしかったんだね」

 

「………」コク

 

鈴音は顔を真っ赤にして無言のまま頷いた。

 

「やっぱりそうか、うんうん…でもね、そんなことじゃ彼は恐らく一生気付いてくれないよ」

 

「…!!」

 

「さっき君が言ったように『付き合ってください』を『いいぞ、買い物くらい』と返す彼のことだ。これを超えるくらいにストレートに言わないと気付いてくれないだろう。…ついでに僕に言わせれば、『付き合ってください』も遠回しの告白でしかないね」

 

「………じゃあトシ……アンタなら何て言うのよ……」

 

鈴音がブツブツと尋ねた。

 

「……うんうん、こういうのは人に聞くべきではないと思うんだけどねぇ……」

 

岩崎は渋って言おうとしない。

 

「参考程度に聞くだけよ、さあ」

 

鈴音は食い下がった。

 

「やれやれ……僕だったら『好き』って言葉はまず間違いなく使うだろうね。やっぱり変に言葉をいじるよりはシンプルで伝わりやすいはずだし」

 

「…………」

 

『好き』……この2文字がスッと言えたらどんなに楽なことか……鈴音は更に赤くなって固まってしまった。

 

「そんなことより、これから君はどうするんだい?」

 

岩崎は鈴音に今後のことを尋ねた。

 

「……そうね、やっぱりしばらくは口利いてやらないことにするわ」

 

「そうかい…まぁ、そこは君の思う通りにすればいいさね」

 

「そうさせてもらうわ…いろいろとありがとねトシ、優斗」

 

鈴音は2人に礼を言って自分の部屋へ帰っていった。心なしか少し元気が戻ったようだ。

 

「………岩崎くん、この事を織斑くんに伝えた方が良いですかね………?」

 

竹内は親切心からそう提案した。

 

「おっと竹内くん、それは止めておいた方がいいね。そういうのは野暮ってものさ」

 

岩崎がやや語気を強めて言った。

 

「で、でも…」

 

「君が親切でやろうとしているのはもちろんわかってる。けどそれは出過ぎたマネ、ありがた迷惑でしかないんだ。これは織斑くん本人が自分で気付かないと意味がないんだ。いいね?」

 

「…わかりました」

 

釈然としない様子を見せながらも、竹内は引き下がった。

 

「(やれやれ……鈍感な友達を持つとこうも苦労するもんかねぇ…竹内くんに織斑くん……この純粋少年達(ピュアボーイズ)、今後もいろいろと手こずることになるだろうな……)」

 

岩崎は竹内を見ながらそう思った。そして今度は鈴音が歩いていった方向を見ながら…

 

「(リンさん…君がこれから行くべき道は…1つ:もう一度彼に告白できるだけの勇気が持てるまで自分を磨くこと、2つ:逆に相手側から告白させるように彼に自分を印象付けること、そして3つ:それら両方ができないならいっそ彼を諦めること……まぁ3番目の道は彼女の性格からして選びそうにないけど……どの道を選ぶにしても後悔はしてほしくないね…)」

 

と思いつつ、誰にも聞こえないようにこっそりため息を吐いた。




クラス対抗戦の特訓に行き詰まってしまった一夏。そんなある日、彼は千冬からあるテクニックを教わる。一方、一夏に対する怒りを募らせ鈴音が再び宣戦布告に現れる。…が、ひょんなことから状況は更に悪くなる…!クラス対抗戦、果たして無事で済むだろうか…?

to be continued...

佐藤(さとう)尚也(なおや)鈴木(すずき)真央(まほ)渡部(わたなべ)愛梨沙(ありさ)の三角関係:ガンオケ白の章において最も有名な三角関係ではないかと思われる。作品によって多少の差異はあれど、佐藤・鈴木の組合せに渡部が横槍を入れるというパターンが多い。

どーも、イワッチのボイスでいちいち笑ってしまう剣サタです。何故彼が喋るだけで笑ってしまうのか…私の笑いのツボがおかしいだけだろう。

さて、今回は『エピソードof岩崎』でもないのに岩崎くんが目立ってたような気がしますね。まぁ話の内容が内容だけに、竹内くんは食いつけませんしね…。

ちなみに名前だけ出てきた佐藤、鈴木、渡部。ガンパレ世界で時を同じくして3人同時にくしゃみしたとかしなかったとか…蛇足。

あ、そうだ…岩崎くんが絡んできたかわりに、セシリアさんが今回全く登場しません。彼女にだって、彼ら以外の別の友好関係があるはずです。まだ誰かに惚れた様子も有りませんし…。

そして最後に岩崎くん、ドラマCD版では鈍感な級友になかなか苦労していましたが、今回も鈍感少年に四苦八苦することになりそうです。それも2人もいるから、倍苦労すること請け合いでしょう…ナム…。

どうやらしばらくは竹内くんより岩崎くんの方が目立ちそうですね。それではまた次回御目にかかりましょう。それでは皆さんごきげんよう。


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1-13:つかんだコツ つかめぬ心

……全国にわずか1桁しかいない剣サタファンの皆さん(そもそもファンなんているのだろうか?)、1ヶ月以上お待たせして申し訳ありませんでした。ようやっとの更新です。

例によって気分など悪くされた場合、即刻ブラウザバックをすることをおすすめします。


クラス対抗戦が近付き、各クラスの代表は本戦に向けてスパートを掛ける。しかしそんな中、一夏の特訓は遅々として進んでいなかった。箒のコーチングだけではどうしてもわからない部分があり、教科書や参考書の説明もいまひとつ理解するには至らなかった。竹内やセシリアもときどき来ては協力したが、彼らにもそれぞれやるべきことがあるため、いつまでも一夏たちに付きっきりというわけにはいかず、一夏は完全に行き詰まってしまった。

 

「あ~あ、結局今日も何も掴めなかった…」

 

一夏は焦ると同時に、協力してくれるみんなに申し訳なかった。落胆して寮の廊下を歩いていると…

 

「どうした織斑。クラス対抗戦への策はあるのか?」

 

寮長の仕事中の千冬に遭遇した。

 

「千冬姉…いや、どうにも何も掴めなくて……」

 

「『織斑先生』と呼べと言っている………ちょっとついてこい」

 

千冬は仕方ないといった風にため息を吐き、歩き出した。一夏もそれに従い、ついていった。

 

―――――――――

 

連れていかれた先は千冬の部屋だった。

 

「…?どうした、入ってこい」

 

「……………」

 

いつまでも入ってこない一夏を急かすように千冬が言う。それでも一夏は入室を躊躇ってしまう。……無理もないだろう、その部屋にはまさに足の踏み場もない状態だったのだから……。

 

「……その前に……部屋の掃除をした方がいいと思うんですが………」

 

一夏はこの一言を絞り出すのが精一杯だった。

 

―――――――――

 

そんなわけで急遽、千冬の部屋の掃除が行われた。と言っても主に掃除しているのは一夏の方で、千冬は最低限自分の衣類などを片付けるだけだった。

 

「すまんな、わざわざ掃除してもらって」

 

「…………」

 

そう思うなら自分で少しずつでもやろうぜ…と思う反面、こういうところは変わってないなぁ…と半ば安心にも似た感情が一夏の心を駆け巡る。

 

「それで、俺をここへ連れてきたのは何でなんだ?」

 

「あぁそれはな…これを見ろ」

 

千冬はノートパソコンの画面を一夏に見せた。

 

「これは以前、代表決定戦でお前が竹内と戦った時の映像だ」

 

そう、そこには数日前行われたクラス代表決定戦、第2戦の様子が映し出されていた。今ちょうど、一夏が反撃のミサイル攻撃を喰らったところだ。すると、千冬が映像を一旦止めた。

 

「お前が覚えるべきは瞬時加速(イグニッション・ブースト)だ。お前はこの戦いで使っていたな」

 

「はぁ?俺そんなの使ってたのか?」

 

一夏は聞き慣れないテクニックを使っていたとは思わず、驚いて聞き返した。

 

「……やはり無自覚だったか……。だが使ったのは事実……この後だな」

 

千冬はやや呆れ気味にため息を吐き、そして再び動画を再生させた。

 

画面では竹内が一夏の回避先を見切り、そこにミサイルやマシンガンを撃ち込んでいた。しかし、その攻撃が一夏に当たることはなかった。…というより、一夏はすでにそこにはいなかった。白式はスピードを上げ、竹内の汐風にあっという間に迫る。

 

………

 

画面内の対決に決着がつき、千冬はノートパソコンを閉じた。

 

「……あれが瞬時加速だ。この時は偶然出来たのだろうが、自在に使えるようになれば間違いなくお前の力になるはずだ…だが勘違いするな、瞬時加速を覚えたからといって、必ずしもお前が勝てるという理由にはならない」

 

「お、おう…!」

 

希望の光が見えた一夏はやる気をみなぎらせ、気持ちを引き締めた。

 

「……お前は単純だからな、『これを使えれば俺は勝てる』そう思ってたんじゃないのか?」

 

「ぐ…そ、そんなことは…」

 

ない、と一夏は言い切れなかった。

 

「やれやれ……お前はもう少し戦術というものを考えて戦った方がいい。が、そこまでは私も教えられん。仮に教えたところでお前に合う保証はないし、何より私では思い付かない戦術をお前が思い付くかもしれん。これからの訓練ではそういうことを意識してやってみろ」

 

「……わかった。ありがとう千冬姉!」

 

一夏は千冬に礼をいって彼女の部屋を出た。

 

「フッ………まったく、我ながら甘いものだ」

 

1人綺麗になった部屋で自嘲気味に呟く千冬だった。

 

―――――――――

 

翌日以降、一夏の特訓は目標を見つけたことにより少しずつ充実したものになっていった。瞬時加速の訓練を重点的に行い、その他にも箒とは近接戦闘、セシリアとは対遠距離系武器の対策、そして竹内とは空中での機体制御の訓練をこなして着実に実力をつけていき、予想よりも早く瞬時加速を習得した。

 

「どうだ、大分サマになってきただろ?」

 

一夏が箒、セシリア、竹内に問いかける。

 

「そうですね、最初の頃と比べると動きにキレが出て参りましたわね」

 

セシリアは彼の成長具合に賛辞を送る。

 

「当然だ!この私が指導しているのだからな!」

 

箒が得意満面に言う。

 

「…でも箒さんの説明では全く理解が出来なかったようですが?」

 

「なっ……貴様の説明でもアイツは混乱してたではないか!」

 

セシリアの鋭いツッコミに箒が逆ギレして捲し立てる。

 

「まあまあ落ち着いて!確かに瞬時加速はマスターできたみたいだけど、訓練はまだ終わってないから」

 

事態の悪化を恐れた竹内が慌てて2人の仲裁に当たる。そう、まだこの段階では瞬時加速をモノにしたに過ぎず、やることはまだまだあるのだ。先日一夏が千冬に言われた戦術面の向上。この問題の解決はまだ見えてこない。

 

「まずは相手の攻撃を貰わないことが一番だと思いますわ。自身のシールドエネルギーを糧に発動する零落白夜をお持ちの白式でしたら尚のこと、余計なエネルギー消費は避けたいところですわね…」

 

「そうだよな…肝心なときに発動できないんじゃ、セシリアと戦ったときと同じことになっちまうし…」

 

「なら、まずは相手の攻撃にどう対処するかを考えるべきだな。回避専念か、防御専念か」

 

「そうそう、それによって戦い方も自ずと確立してくるはずだよ」

 

……この調子で、一夏の戦術特訓はつづくのであった……。

 

―――――――――

 

そんなある日……。

 

「……やってるわね」

 

一夏の特訓中、そこに鈴音が現れた。

 

「なっ…!り、鈴!?」

 

「貴様!コーチの件はクラス対抗戦が終わってからだと言ったはずだ!」

 

思わぬ来客の登場に一夏は驚き、箒が抗議の声をあげる。

 

「うっさいわね、アタシだって敵に塩を送るほどお人好しじゃないわよ」

 

鈴音は抗議を受け流し、一夏の方に歩を進める。

 

「………」

 

「…な、何だよ」

 

無言で近付いてくる鈴音に対し、変に警戒する一夏。

 

「……この間ビンタした事は謝るわ、ゴメン…。アンタは一応約束があったこと自体は覚えていたのに……」

 

「あ…あぁ」

 

いきなり謝罪をしてきた鈴音に一夏は呆気にとられた。

 

「俺も…「でも!」!?」

 

そして一夏も何かを言おうとしたが、それは鈴音によって遮られる。

 

「アンタ、どうせアタシが何で怒ったのか全くわかってないんでしょ?そんな状態なのに『俺も悪かった』って言って丸く納めようとしたんでしょ?そうやって謝られてもね、こっちは全然スッキリしないのよ!」

 

「……………」

 

鈴音の言ったことが図星だったのか、一夏は黙ってしまう。

 

「……だから……アタシはアンタをブッ潰す!徹底的にね!!」

 

「な、何ぃっ!?」

 

「…クラス対抗戦、覚悟してなさい!アンタを倒して、アタシの言いなりにしてやるわ!」

 

「……!…じゃあ、俺が勝ったらあの約束の意味、教えてくれよな!」

 

「…っ!いいわ、やってやろうじゃないの!」

 

鈴音は怒鳴ると、肩を怒らせて去っていった。……もうお互い、後には退けないような雰囲気になってしまった。

 

「「(……どうしてこうなっちゃうんだよ(のよ)…!)」」

 

2人の幼馴染みは偶然か必然か、同じことを考えていた。…ケンカがしたかった訳じゃない…久し振りに会って、色々と話がしたかった…。しかし現実は……。

 

結局この件が尾を引いたのか、一夏はこの後集中力を欠き、この日の特訓は中止となってしまった………。




鈴音との和解の糸口が見えぬまま、クラス対抗戦の日を迎えた一夏。初っ端からその鈴音との対決となってしまう。「ブッ潰す」そう宣言した鈴音に対し、一夏は特訓の成果を出しつつ何とか渡り合っていく。しかし次の瞬間、予期せぬ事態が2人を襲う!

to be continued...

どうも、先日久し振りに白の章をプレイした剣とサターンホワイトです。いやぁ、動きが緑と比べてもっさりしてらぁ…。

それにしても私はあの2人(一夏と鈴音)をどうしたいんだろうか…ちょっと自分で思ってたのと違う形になってしまい、その余波を受け一夏の貧乳発言が挟めなくなってしまう始末。あ、ちなみに鈴さんはこの後岩崎くんに「またやっちゃった」と泣きついたとか…蛇足。

そして前書きでも申した通り、前回の更新より1ヶ月以上も間を空けてしまったこと、その割にやたらと短く内容が薄いこと、合わせてお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。


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1-14:必然の対決 突然の出来事

明けましておめでとうございます。今年も応援よろしくお願いします。

さぁ、新年1発目はクラス対抗戦から…そう言えば去年の1月ってどんな話書いてたっけ?……まぁいいや、それじゃあ、いってみよー!


クラス対抗戦の日。結局あれ以来鈴音はまた口を利かなくなり、特訓中のアリーナにも現れなくなった。鈴音が何を望んでいるのかわからない一夏は、ずっとモヤモヤしたままこの日を迎えたのであった。

 

さて、今一夏はピットにて第1試合に向けて準備の最中である。ちなみに第1試合は一夏vs鈴音という組み合わせになっている。

 

「悩んでいるようだね」

 

そんな彼の後ろから掛かる声があった。

 

「トシさん…!?」

 

岩崎仲俊、愛称『トシ』。IS学園で3人の男子生徒の1人で、一夏の友人でもある。

 

「じゃあ、4組の専用機持ちって…」

 

「あぁ、もちろん僕()()()()()

 

「……え?」

 

「間に合わなかったんだよ、僕の専用機は。加えて言えば、僕はクラス代表でもない」

 

「……は?」

 

一夏はさっぱり意味がわからなかった。……無理もない、元々このクラス対抗戦に出場できるのはクラス代表のみ。それなのに己の目の前にいるこの男は代表ではないと言い切ったのだ。

 

「じゃあ何でここに?」

 

「なぁに、担任の命令で『代表代理で出ろ』って言われて出てるだけさ。ついでに僕ァ第2試合に出るための準備があるからねぇ」

 

岩崎は何でもないように言った。

 

「……って、ちょっと待って下さいよ、俺が悩んでるって…」

 

「だって今の君の顔、明らかに戦いに赴く顔じゃないからね。…と言うか考えてることが顔に出過ぎだよ、君の場合は」

 

言われて一夏は妙に納得してしまった。以前箒に文句があることを表情から見抜かれたことがあったからだ。

 

「まぁ悩みかどうかはさておき、今は戦いに集中しないと。さもないとリンさんにボロ雑巾にされちゃうよ」

 

「う…それは嫌だな……よしッ!」

 

一夏は自分の顔を2,3度ほど叩き、気持ちを切り替えた。ちょうどその時……

 

『第1試合、1年1組vs1年2組…出場選手はアリーナへ入場してください』

 

アナウンスが流れ、一夏はカタパルトに立った。

 

「じゃあトシさん…俺、行ってくるぜ!」

 

「うんうん、ベストを尽くすんだよ」

 

互いに言葉を交わし、一夏は出撃していった。

 

―――――――――

 

一方…

 

「織斑くん、大丈夫ですかね…?」

 

「ここしばらくは特訓に身が入っていないとお聞きしましたが…」

 

「…………ッ」

 

3人の男子生徒のうち、唯一試合に出ない竹内はセシリアや箒、その他クラスメートの皆と共に観客席にいた。竹内とセシリアは気掛かりである一夏の話をしていた。彼らは諸用により、鈴音乱入以降の特訓には参加できなかったが、特訓の様子は見学に行った人たちの噂話を聞いていた。曰く「よく壁にぶつかっている」とか、「なんかフラフラしてる」とか。

 

そんな中、箒は会話には一切加わらず、ただただじっとアリーナを見ていた。

 

―――――――――

 

さて、場所は戻ってアリーナ。一夏が出撃すると、すでに自らの専用機・甲龍(シェンロン)を纏った鈴音が待ち構えていた。

 

「来たわね、一夏!」

 

「あぁ…お前、約束忘れてないだろうな?」

 

「…アタシとの約束を間違って覚えてたアンタにそれを聞かれるなんてね…アンタこそ、この勝負の結果次第でどうなるのか分かってるわよね?」

 

「あぁ…俺が負けたら、お前の言いなりになるってやつだろ?」

 

「そうよ…で、アンタが勝ったらあの約束の意味を教える…けど、勝つのはアタシだからそこは関係ないわね!」

 

「俺を侮るなよ鈴!確かにお前に比べりゃ俺はズブの素人かもしれないが、俺だってみんなと特訓してきたんだ!」

 

互いに闘志をぶつけ合う。どうやら臨戦態勢に入っているようだ。その証拠に2人ともすでに武器を手に持っている。

 

『1年1組vs1年2組、試合開始!』

 

試合開始のアナウンスが流れると同時に2機のISはぶつかり合った。白式の雪片弐型と甲龍の青竜刀・双天牙月の鍔迫り合い、時折火花が飛び散る。

 

「っ…何てパワーだ…」

 

「アンタこそ…ねっ!」

 

鈴音が双天牙月の重さを活かして白式諸共雪片を押し退ける。一夏はなんとか体勢を整え着地する。そこに鈴音が畳み掛けるように接近し、勢いそのままに斬りかかった。しかし、単純な剣の腕なら一夏に一日の長がある。これを何とか見切り、雪片で受け止めた。それでもただでさえ大きな双天牙月、そこに接近時のスピードも加わり、振り下ろした際の破壊力は凄まじいものだ。

 

一夏は重い一撃を凌ぎきり、一度距離を取ろうと後ろへさがった。そしてそこから再接近を図ろうと飛び立ったその時…!

 

「そこッ!」

 

鈴音の声と共に肩アーマーが開く。この様子に一夏は何かを察したか、突っ込むのをやめて右へ方向転換をした。その数秒後衝撃音がし、一夏がその方向を見るとそこにはひどく抉られた地面があった。

 

「な、なんだこりゃ…?」

 

何とか躱す事はできたが、一夏は何が起こったのか頭がついていけない。

 

「へぇー、初見で避けるなんてなかなかやるじゃない。この龍咆は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに…けど、今のはジャブだからね!」

 

軽く説明したあと、鈴音はさらに攻撃を仕掛ける。一夏は襲い来る龍咆を必死に躱し続けた。

 

―――――――――

 

「な、何だあれは…!?」

 

一方その頃、観客席では箒が抉られた大地を見て驚きの声をあげた。

 

「…ねぇ、今のって凰さんが何かやったの?」

 

その他クラスメートたちもざわつき出す。

 

「……『衝撃砲』ですわね」

 

セシリアがみんなの疑問に答えた。

 

「衝撃砲…?」

 

「えぇ、私のブルー・ティアーズと同じ第3世代型兵器ですわね…中国でも搭載していらしたとは…」

 

セシリアの説明を聞いて、みんな心配そうに戦況を見つめる。

 

―――――――――

 

鈴音はなおも龍咆で攻め続けるが、一夏が回避に集中し始めた事もあり、なかなか決定打を与えることができない。とは言え、見えない攻撃を回避し続けることは容易ではなく、クリーンヒットはなくとも掠り当たりの回数は増えていく。

 

「あぁ~もう、ちょろちょろと!!」

 

元々気の短い方である鈴音、我慢が出来なくなり今までより大きな一発を放った。この一撃で優位に立ち、そのままラッシュを叩き込めば自分の勝利は揺るぎない。そう思った。

 

「ここだ!」

 

しかし、今度は一夏が瞬時加速を仕掛けた。まるで龍咆が見えているかのような回避だった。

 

「そんなっ…!?」

 

想定外の事態に鈴音は驚いて固まってしまった。

 

「勝負はこっからだ!」

 

一夏が啖呵を切り、改めて雪片弐型を構える。鈴音も双天牙月を握り直す。そして両者一斉に飛び出そうとしたその時…!

 

――ドォォォォォン!

 

何かがシールドを突き破って現れた。

 

「うわぁ!な、何だ?!」

 

謎の存在の落下してきたことで砂塵が舞い上がり、肉眼で見ることができない。

 

『試合中止!織斑!凰!直ちに退避しろ!』

 

千冬の指示が飛んだ。次第に観客席がシェルターに覆われていく。

 

「…何だ…何なんだよあれは…」

 

一夏は急な状況に呆気に取られてその場に立ち尽くしている。

 

「一夏っ、何やってんのよ!?試合は中止よ!早くピットに戻って!」

 

そんな一夏に、鈴音が通信を入れる。同時にモニターには所属不明ISにロックされたことが表示される。

 

「(あれがIS…?アイツにロックされてるのか…?)」

 

「一夏、早く!」

 

なおも動こうとしない一夏を鈴音が急かす。

 

「お前はどうするつもりだよ?」

 

ようやく鈴音の声が届き、一夏は彼女に聞き返す。

 

「アタシが時間を稼ぐから、その間にアンタは逃げなさいよ!」

 

鈴音が双天牙月を構えながら言う。恐らく龍咆の砲身も乱入ISの方を向いていることだろう。

 

「ふざけるな!お前を置いて俺だけノコノコと逃げるなんてできるかよ!」

 

「バカ!アンタの方が弱いんだからそうするしかないでしょ!」

 

またも始まってしまった言い争い。すると敵ISは鈴音に向けて何かを撃った。

 

「!!」

 

「危ねェッ!」

 

いち早く一夏がそれに気付き、鈴音に向かって突進する。その甲斐あって、2人は敵ISの攻撃を躱すことができた。一夏はモニターに表示された今の攻撃についてのレポートを見た。

 

「…ビーム兵器かよ……それもセシリアのヤツより出力が断然上だ…!大丈夫か、鈴!」

 

「あ、ありが……って、何してんの放しなさいよ!」

 

「わっ、バカ暴れるなって!」

 

鈴音が暴れるのも無理はない、彼女は今一夏に抱き抱えられているのだ。それもご丁寧に所謂"お姫様抱っこ"でだ。気になる男にそんなことをされて冷静でいられるほど鈴音は大人じゃなかった。そんな彼女が暴れるせいで、一夏の飛行高度はどんどん不安定なものになっていく。それでも一夏は敵の攻撃を何とか掻い潜り、攻撃が止んで一息ついたところでやっと鈴音を解放した。

 

その時、通信が入った。

 

『織斑くん、凰さん!今すぐアリーナから離れてください!』

 

それは管制室の真耶からのものだ。

 

『あとは教師部隊が、あのISを抑えます!だから2人は早く撤退を…!』

 

真耶は必死に2人に撤退するように促す。しかし…

 

「ですが先生、アイツはシールドを破ってここに乱入してきました。今ここで俺たちが逃げたら、他の生徒のみんなに被害が出てしまう……だから俺たちが残って食い止めます!」

 

『そ、そんな!ダメです!生徒の皆さんに何かあったら…』

 

真耶がそこまで言いかけたとき…

 

「来るわ!」

 

「ッ…!」

 

敵ISのビームが襲い掛かる。

 

「あっちはやる気満々みたいね…やるわよ、一夏!」

 

「おう!」

 

2機のISが乱入者との攻防を開始した。

 

―――――――――

 

「もしもし織斑くん!?聞こえますか!?凰さん!?」

 

真耶が必死に呼び掛ける。が、通信を切られているのか、2人ともまるっきり反応がない。

 

「……本人たちがやると言っているんだ、やらせてみよう」

 

ため息を吐きつつ千冬がいった。

 

「織斑先生…何を呑気なことを」

 

「落ち着け、コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするのだ」

 

千冬は新しくコーヒーを入れる。そしてスプーン2杯の白い粉をそこに混ぜる。

 

「あのー、…織斑先生?それは…」

 

「何だ?」

 

千冬がそのコーヒーを飲もうとカップを口元へ運ぶ。だがそれは…

 

「非常に申し上げにくいのですが…それ、お塩ですけど……?」

 

「…!?」

 

千冬はすんでのところで手を止めた。そう、真耶の言う通り、千冬が混ぜた白い粉。それは砂糖の隣に置いてあった塩だった。……それにしてもいったい誰がこんな紛らわしいもの同士を並べておいたのか……?

 

―――――――――

 

少し時は遡り、観客席では…

 

「な、何!?」

 

「攻撃が逸れたの?」

 

「隕石が落ちたの!?」

 

突然の事態に、多くの生徒が慌てふためいている。

 

「何がどうなっていますの!?」

 

「シールドを突き破って何かがっ…!?」

 

セシリアと竹内もビックリして頭が回らない。

 

『観客席にいる生徒は直ちに退去、避難せよ』

 

避難を促すアナウンスが流れ、生徒が出口に向かって殺到する。しかし、また問題だ。一向に人の数が減らない。

 

「どうかなさいましたの!?」

 

セシリアが出口付近まで人の波をかき分け、周囲の生徒に事情を尋ねる。

 

「セシリア!?ドアが開かないの!」

 

「何ですって!?」

 

実はあのISが乱入した後、遮断シールドのレベルが4となり、出口となる扉が全てロックされたのだ。お陰で現在、誰1人逃げられない状況となっているのだ。現在、3年生の精鋭たちがシステムクラックを実行中である。

 

「仕方ありませんね……皆さん、お下がりください!」

 

セシリアはブルー・ティアーズを展開し、ビット兵器の集中砲火でドアを破った。そこから付近の生徒は脱出していく。

 

「ユートさん、ユートさん!」

 

セシリアはISの通信機能を使って竹内に呼び掛ける。

 

『は、はいっ!』

 

「どうやらこの人混みの原因は閉ざされた扉ですわ。私たちで扉を破りますわよ!」

 

『えっ!?そんなことやっちゃっていいんですか!?』

 

「この非常事態ですのよ!皆さんの避難が優先ですわ!」

 

『…!わかりました!』

 

竹内は意を決して承諾した。

 

『それで、僕はどこから解放すればいいでしょうか?』

 

「そうですわね…私は北側へ回りますわ、ユートさんは南側からお願いしますわ」

 

『了解!』

 

竹内の返事を聞いてから、セシリアはもう一度「お願いしますわ!」と言ってから通信を切り、次の扉の解放に向かった。

 

竹内も無断でISを使うのは少々気が引けたが、「この緊急事態だ…話せば先生方もわかってくださるはず…」と自らに言い聞かせ、汐風を展開。"LOCKED"と表示された扉に向かい、順次解放していく。

 

だがこの時、このゴタゴタに紛れてただ1人全く別の方向に走り込んだことを、セシリアも、竹内も、誰も知らない…。

 

―――――――――

 

さて、謎の乱入者と激闘を繰り広げる一夏と鈴音。なかなか一夏が攻撃を当て切れず、戦いが長引いていた。その中で一夏は妙な違和感を感じていた。

 

「なぁ、鈴。アイツの動き…何かおかしくねぇか?何て言うか…機械じみてるって言うか…」

 

「何言ってるの?ISは機械なんだから当然じゃない」

 

「そうじゃなくて…あれには人が乗ってるのか…?」

 

「ハァ?当たり前じゃない。ISは人が乗らないと動かな……」

 

そこまで言いかけたとき、鈴音も一夏の言う違和感に気付いた。

 

「……確かに変ね、こうやってアタシ達が話してるときも、全然攻撃してこないわね…まるで興味があるみたいに聞いてるような………」

 

「…だろ?」

 

そう、先程からこの敵IS、追い討ちを仕掛けて来ない。が、鈴音は首を振った。

 

「でも無人機なんて有り得ない。ISは人が乗らないと動かない…そう言うものだもの」

 

敵ISが立ち上がり、2人を見据える。

 

「…仮に…仮にだ、仮にあれが無人機だとしたら……」

 

一夏が呟くように言う。

 

「無人機だったら何だって言うのよ?」

 

「……全力で攻撃ができる」

 

一夏が不適に笑った。

 

「俺が合図したら衝撃砲を撃ってくれ、最大威力でな」

 

「いいけど当たんないわよ?」

 

「良いんだよ、当たらなくて」

 

2人の作戦が纏まり、いざ作戦開始と行こうとしたその瞬間…!

 

「一夏ァァァァアアアアア!!!」

 

「!?」

 

予想外の人物の声が耳に入った。その声の主は一夏に喝を入れようと駆け付けた篠ノ之箒だった。ピットゲートに立ち、息を弾ませている。彼女は大きく息を吸った。

 

「男なら………男なら!それくらいの敵に勝てなくて何とする!」

 

すると敵ISが箒の方に向き、ビーム兵器の狙いを定めた。

 

「あの馬鹿ッ…!箒、逃げろ!」

 

一夏は箒を助けようと飛び出した。しかし敵ISとも、ましてやピットとも距離がありすぎる。瞬時加速を使おうにも、チャージする時間もない。

 

「クッソォッ……!」

 

一夏の脳裏に絶望的状況がよぎる。その時、ISを展開した何者かが箒の前に立ち塞がり、敵ISに向けて2発銃撃を行った。その射撃は正確で、不意を突かれる形となった敵ISの右腕のビームの発射口に撃ち込まれ、暴発を起こした。一夏たちが驚いていると、2人に通信が入ってくる。

 

「もしもーし?生ーきてるかーい?」

 

緊迫した場には場違いな呑気な声。モニターに映る灰髪。

 

「「トシ(さん)!!」」

 

そう、α社製量産IS"鳴狐(めいこ)"を纏った岩崎だった。

 

「トシさん!箒は!?」

 

「もちろん無事さ。今はちょっとビックリして腰が抜けてるみたいだけどね。とにかく、彼女の事は僕が何とかするから、君たちは戦いに戻ってくれ」

 

「了解!箒を頼みます!」

 

彼の言う通り、箒は岩崎の後ろで座り込んでいる。岩崎は目線だけ箒の方に向けた。

 

「い…岩崎……」

 

「彼らにはああ言っておいたけど、本当に大丈夫かい?」

 

「あ…あぁ…」

 

箒は何とか返事をするとゆっくりと立ち上がった。

 

「ここは危ない、君も早く避難した方が良い」

 

「な、何だと!?私は…」

 

一夏から離れたくない箒は反論する。が、

 

「残るってかい?腰を抜かすほど驚いていた人の台詞とは思えないなぁ」

 

「ぐっ…」

 

岩崎の一撃で脆くも崩れてしまった。さらに岩崎の言葉は続く。

 

「それに生身の君がここにいるんじゃ、彼らだって戦い難いだろう。守りながら戦うのは、ただ普通に戦うより大変なことなんだ。…もうすでにここは戦場なんだ。ここだって、流れ弾が飛んできたりで絶対に安全だなんて事は無いんだ」

 

「ッ………」

 

もはやぐうの音も出ない箒。

 

「だから早く逃げるんだ、いいかい?…あぁそれと、こんな事をしたことに関する、うまい言い訳を考えておくと良いかもね」

 

「…………くっ………わかった……」

 

箒は悔しそうに避難していった。

 

その頃、一夏と鈴音は先程の作戦を実行した。

 

一夏が合図を出し、鈴音が衝撃砲の準備をする。すると、一夏が衝撃砲の射線軸に入った。

 

「ちょっ…バカ!何してんの!退きなさいよ!」

 

「いいからやってくれ!早く!」

 

こうしている間にも、敵ISは残った左腕で2人を狙う。このままでは、あともう少しでチャージが完了してしまう…。

 

「……あーーーーもーーーーーー!!どうなっても知らないわよ!!」

 

鈴音はやけくそになって龍咆を撃った。それは当然一夏に直撃するが、一夏はその砲撃を瞬時加速の推進力に変え、通常の瞬時加速より明らかに早いスピードで敵ISに向かっていく。さらに一夏は衝撃砲に撃ち出されると同時に唯一仕様特殊能力、零落白夜を発動した。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

迷いなく一夏は敵ISの残った左腕を切り落とした。しかし、敵ISが一夏を蹴り飛ばして反撃した。

 

「一夏ッ!?」

 

鈴音が叫んだ。一夏は敵ISの乱入時に出来たクレーターの縁に叩きつけられる。両腕を失ったISが一夏にトドメを刺そうと近づいてくる。だが……

 

「……狙いは?」

 

一夏がニヤリと笑って尋ねた。

 

「うんうん、完璧だね」

 

その声に答えたのは岩崎だった。彼はスナイパーライフルの狙いを付け、引き金を引いた。弾は敵ISの胴体を貫き、敵ISの動きが鈍る。

 

「僕に出来るのは残念だがここまでだ。鈴さん、あとは任せたよ」

 

「!!わかったわ、トシ、ありがとう!一夏、何とかそこから離れて!!」

 

「OK…!」

 

一夏は残った力を振り絞り、クレーターから脱出、その間に鈴音が代わりに近付き、龍咆の照準を合わせる。

 

「これでおわりよ!」

 

鈴音も持てる全ての力を龍咆に込め、敵ISに撃ち込んだ。やがて敵ISの動きは止まり、戦いは終わりを迎えた。

 

「やれやれ……ところで、よく僕が狙撃しようとしていることに気付いたね」

 

岩崎が一夏に言った。

 

「へへっ、何故かはわからないけど、トシさんなら狙っていてくれるって思ってたんです!」

 

「それよりトシ、アンタなんでここに…」

 

鈴音が尋ねた。

 

「目の前で篠ノ之さんが飛び出していったんだ。なら僕がいかないわけにはいかないだろう。それに、君たちの試合の後は僕の試合だったんだ。だから、ISはいつでも動かせる状態にあった…そう言うことさ。さぁ、早く戻ろう。この事を早く先生方に報告しなくちゃね」

 

――――後に、織斑一夏、凰鈴音、岩崎仲俊、セシリア・オルコット、竹内優斗、篠ノ之箒が織斑千冬に呼び出されたが、一夏と鈴音は今回の件の当事者としての事情聴取が、岩崎は事情聴取とISの無断使用の件で口頭での注意がなされた。セシリア、竹内も同様の注意を受けるも、扉破壊の件は緊急事態ゆえお咎め無しとなる。その一方、1人勝手な行動を取り、さらに一時的とはいえ事態を混乱させた箒には反省文10枚の罰が下されることとなった…。

 

なお……

 

「……どうだ?」

 

「えぇ………やはり無人機でした……登録されていないコアです」

 

敵ISを解析してわかったことはこれだけで、他のことは一切わからなかったようだ。…尤も、千冬は誰の差し金か薄々見当がついているようだが……。

 

一方……

 

「……そう言えば……鈴、試合後の約束のこと、どうする?」

 

一夏が帰り際、思い出したように言った。

 

「あー…そうね……あんなことになっちゃったことだし……無しってことにしましょ。あぁなんだったらあの約束のことも忘れてくれちゃって良いわ!」

 

「えっ?いやそれは……」

 

「いいの!アタシが忘れなさいって言ってるんだから忘れなさいよ!!」

 

「わわ、分かったから急に怒るなって…!」

 

「何だよー」と言いながら先を行く一夏の背中を見詰めながら鈴音は

 

「(もう一度…あの時以上の勇気が出せるようになったら…その時はちゃんと言うんだから…あの2文字(『好き』)を……)」

 

新たな決意を胸に抱き、学生寮へ帰っていくのであった。




いやいやぁ、一時はどうなるかと思ったけど、これでまたまた一件落着!…と言うわけだね。それじゃあ、次は僕の番だ。織斑くんが特訓してる裏で僕に起こったことを教えるよ。「エピソードof岩崎」でね。

to be continued...

どーも明けましておめでとうございます、知らん内に首に切り傷ができてた剣とサターンホワイト、縮めて剣サタでーす……カマイタチにでも遭ったのかね……。あ……後書きに書こうと思ってたネタがいっぱいあったはずなのに忘れちまったい……。

ならば言いたいことを言っておきましょう。前にもチラリと言いましたが作者は原作小説をあまり読み込んでいません。せいぜい古本屋の立ち読み程度でしか読めていません。それ故、ISストーリーはアニメ版を軸にして書き進められていくと思います。だから今回箒さんは放送室じゃなくてピットゲートにいたんですね…。…そうだ、これが後書きに書くネタの1つだった…。

そして前書きに書いた去年の1月に上げた話は何だったのか?答えは……「序-4:第2の織斑一夏を見つけ出せ!…って、あれ?」でしたね………。

遅ッ!!!Σ( ̄□ ̄!)

こんなことで今年中に完結するのか……しないな。

とまぁ、こんなワタクシですが何卒今年もよろしくお願いします。

【追記】

書きたかったネタを思い出したので軽~く追記。

もう薄々感付いていらっしゃる方もいるとは思いますが、今回の次回予告も岩崎くんにやってもらいました。ボキャブラリーがないのは私のせいです。すみません…。

ちなみにこちらは没になったネタですが、竹内くんが幻視技能を駆使して不可視のはずの龍咆の砲身及び砲弾が見える…というネタを考えていました。没になった理由は簡単、またまた私のボキャブラリー不足が原因です。そんな状態で事情の説明なんてさせてみろ、「竹内くん…変なものが見えるんだってねぇ…」って、周りから白い目で見られること請け合いでしょう。というわけで、静かに観戦させました。


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1-EX2:エピソードof岩崎vol.2 援助の章

皆さん、大変長らくお待たせいたしました……インフィニット・オーケストラ~エピソードof岩崎~です。

月1更新を目指すと言いましたが…なかなかどうして早くも折れそうです……。

前回以上に手こずっていて最後の方なんかほぼやっつけでやってしまった感が否めない………。

また、時間をかけすぎたこともあって、内容が薄いだけじゃなくごちゃごちゃになってしまっているかも知れませんのでご容赦ください…。


やあやあやあ、読者の皆さん。僕は岩崎仲俊。作者の剣サタくんによると、この"エピソードof岩崎"は1つの事件が片付いたら1話書こうって決めてたらしいんだけど、実はこのタイミングであるかどうか微妙なところだったんだよね。何せ前回からそんなに間がないし、しかも僕も僕でそこそこ目立っちゃってるからね。終いにゃISまで乗っちゃってたし。けど、書くことが無いわけじゃないからやっぱり書こう…ってことになったらしいんだ。

 

それじゃあ、冗談やメタ発言満載の前置きはこれくらいにして、そろそろ本編へ進もうか。

 

――――回想開始――――

 

それは1組の面々が一夏のクラス代表就任パーティを行う数時間前のこと。岩崎は授業が終わるとすぐ整備室へ向かい、以前西から出された課題…ライフル銃の改造に取り掛かっていた。彼はこの日までに先人たちの資料を読み漁り、石山田からもらったマニュアルを解読し、資材をかき集め、どういった改造を施すかの構想を練り上げていた。それを形にする作業がこれから始まるのである。

 

とはいえ、彼にはどうしても気にかかることがある。そう、クラスメートでルームメートの更識簪のことである。数日前、布仏本音に「かんちゃんを頼む」と言われて快諾したものの、以来挨拶程度にしか言葉を交わせていないのだ。岩崎がこの数日で新たにわかったことは、彼女の帰宅時間が日に日に遅くなってることと、それに比例してどんどんフラフラしてきていることだ。入学当初は就寝時間までの空いた時間に端末で何か見ていたようだが、最近は帰ってきたらすぐ眠りに就いてしまうのだ。

 

「(………このまま放っておくと……壊れちゃうよなぁあの子………)」

 

岩崎は何とかしてあげたかったが、話すきっかけがつかめず、結局時は無情にも流れていくのである。

 

午後6時前。岩崎は空腹を感じ、一度作業する手を止めた。まもなく夕食の時間、今から向かえばちょうど食堂が開く頃だろう。彼は整備スペースの整理をして、必要最低限のものだけをもって整備室を出た。出る前に簪の様子を確認した。彼女は岩崎のことなど全く気にも留めず、黙々と作業を続けている。その手際の良さに感服しながら岩崎は食堂へと向かった。

 

―――――――――

 

岩崎が食堂で夕食を食べていると、女子生徒たちが慌ただしくテーブルを動かしたりと、何かの準備を始めた。「どうしたのだろう」と様子を窺っていると、知り合いの本音が声をかけてきた。

 

「やーやーやー、岩プーではないか~」

 

「やあやあやあ、こんばんは本音さん。何やら慌ただしい様子だけど、この後何か…」

 

そこまで言いかけて岩崎は本音の手にあるものをみた。色々な種類のお菓子、ついでに彼女の頭にはとんがり帽子が乗っていた。

 

「…パーティでもあるのかい?」

 

「えへへ~、オリムーのクラス代表就任パーティを執り行うのだ~」

 

オリムー?あぁ、そういえば織斑くんが1組のクラス代表になったって噂で今日は持ちきりだったね。岩崎はそんなことを考えながら本音の話を聞いていた。

 

「岩プーも一緒にどうかな~?」

 

オリムーもタケッチも喜ぶよ~、と本音は誘い続ける。

 

「いやぁせっかく誘ってくれたのに悪いけど、今日のところは遠慮させてもらうよ。やることがあるし、それに……」

 

岩崎はそこまで言うと周りの目を確認し、本音に顔を近付けるようにとジェスチャーを出した。本音は不思議に思いつつも彼に従い顔を近付けた。

 

「………簪さんのことも気になるからね……申し訳ないことに君からあの話を聞いて以来、全く進展がないし………」

 

「!……そっかー……ゴメンね岩プー……」

 

本音は自分が厄介事を押し付けてしまっているのではないかと思い、謝った。それに対し岩崎は首を振り、

 

「なぁに…僕が何もできなかっただけで、君が謝ることじゃないさ……。……まぁとにかく、そういう訳だから今日はクラス水入らずで楽しむといい。………さぁ、僕はもうそろそろ行くとするよ」

 

空っぽになった食器をトレーに乗せて席を立った。本音は手を振って彼を見送った。

 

整備室に戻る途中ふと岩崎は足を止めると、何を思ったのか…もうすぐ整備室だと言うのに突如違うところに向けて歩を進めた。

 

―――――――――

 

数十分後、岩崎は整備室に戻ってくると早速簪の様子を見に行った。彼女は未だ黙々と作業を続けていたが、その作業スピードは明らかに前に見たときより落ち、何となく足元もフラフラと覚束無い。

 

実のところ、彼女は岩崎がいる間には食堂に姿を現していない。岩崎が整備室に戻る際にもすれ違うことはなかった。つまり彼女は夕食もとらず作業を続けていたことになる。

 

そう…今にして思えば、岩崎が夕方の食堂で簪の姿を見かけたのは初日だけで、それ以来全く顔を合わせていない。だからと言って夕食を食べていないということにはならないが、日に日にふらつき具合が増していることや今日のような様子が数日続いたことを考えれば、食事を抜いて無理をしていると考えるのが自然だろう。

 

「こんばんは、簪さん」

 

ついに岩崎は声をかけた。

 

「………何か用?」

 

簪は興味がないのか、岩崎の方には一切目をやらずに答えた。

 

整備室(ここ)に来る度によく見かけていたからね。それにいつもフラフラになって帰ってくるのも気になっていたし…でもその理由が今日完全にわかったよ……ずっと1人で頑張ってきたんだね」

 

そう言いながら岩崎は簪に近づいていく。

 

「差し入れを持ってきたよ。それにそろそろ休みを入れないと、体が悲鳴を上げるんじゃないかな?」

 

彼は手に持ったレジ袋を差し出した。中には購買で買ってきたのか、ハムとレタスのサンドイッチやペットボトルのお茶が入っている。するとようやく簪は作業の手を止めた。

 

「……せっかくだけど、いら…」クゥゥゥゥ……

 

簪は差し入れを一度見てから「いらない」と断ろうとしたとき、タイミングが良いのか悪いのか…彼女の腹の虫が弱々しくもハッキリと悲鳴をあげた。

 

「……………/////」カァァァァァ…

 

簪はその音を聞かれたのが恥ずかしかったようで、顔を赤らめて俯いてしまった。

 

「………うんうん、どうやら身体の方は正直みたいだね。それに、僕は何も『もう作業をやめろ』と言ってる訳じゃないんだ。ちょっとでも休みをとってくれれば良い、それだけさ」

 

岩崎は少し戸惑うもにこやかに休憩を促す。

 

「…で、でも……」

 

それでもなお簪は作業を続ける意思を見せる。

 

「………それに、今休憩を入れた方がこのまま続けるより作業効率が良くなると思うよ。現に今の君はどう見てもフラフラだったし、もし倒れてしまった場合は回復するまでの間は作業ができず、それこそ完成が遠のくことになりかねないからね」

 

「………わかった………」

 

ついに簪が折れ、岩崎から差し入れの入った袋を受け取った。

 

「本当はパンよりお米の方が腹持ちが良いからおにぎりでも良かったんだけど、具の好みの差が激しいからね。サンドイッチならよほどの事がない限り大丈夫だと思ったんだけど………どうかな?」

 

「………ううん、大丈夫。……ありがとう。…………あの……」

 

簪はお礼を言ってサンドイッチを食べようとしたが、口元まで運んだところで止めてしまった。

 

「何だい?」

 

岩崎が聞き返す。

 

「………その…そんなに見られていると、その…………食べ辛いんだけど……」

 

そう、簪の言う通り岩崎は簪の事をにこやかに見ていた。ハッキリ言って食べ辛い。……読者の皆さんも他人の食事をじーっと見るのはやめましょう。

 

「あぁ、ごめんごめん。でも…僕がいなくなったらまたすぐ作業を再開するんじゃないかなって思っちゃってさ」

 

「そ、それは………」

 

そうしようとは思っていなかったようだが、すぐに否定しない辺りその考えは簪の頭に少なからずあったらしい。

 

「ん~、でもそれで食べないんじゃあ元も子もないし………うん、ちょっと先に食べてて。すぐ戻ってくるから」

 

そう言うと岩崎は突然整備室を飛び出した。簪は呆気にとられて30秒ほど固まってしまった。

 

――数分後

 

簪がひとり岩崎からもらったサンドイッチを食べていると、その岩崎が戻ってきた。その手にはペットボトルと何かの小袋を持っている。

 

「……それは?」

 

簪が小袋の事を尋ねた。

 

「あぁ、お菓子だよ。お茶と一緒に自動販売機で買ってきたんだ。よかったら食べても良いよ」

 

ほら、と岩崎が見せた小袋は確かに簪もよく知るお菓子のそれだった。

 

「まぁそういうことで…僕が簪さんのリフレッシュに付き合うついでに、君には僕のリフレッシュに付き合ってもらおうかな~…なぁんてね。互いに飲み食いしている状態だったら、食べ辛さも多少は紛れるんじゃないかと思ったんだけど…」

 

いや、簪の言う食べ辛さはそう言うことではないだろう……が、簪はこのどこか必死な年上男性の姿に思わず笑みをこぼした。

 

―――――――――

 

そんな訳で急遽、整備スペースの片隅という何とも似つかわしくもない場所で始まったお茶会……のようなもの。

 

「…ねぇ、岩崎くんは…そんなにのんびりしてていいの?」

 

ここまで会話らしい会話がなかった2人が、簪が岩崎の作業状況について尋ねた。

 

「あぁうんうん、僕のことなら平気さ。別に締切があるわけじゃないし。それにしても……」

 

岩崎は簪が組み立てているIS"打鉄弐式"を見た。外見はほぼ組み上がっているように見える。

 

「このIS、君が1人でここまで組み上げたんだよね?」

 

「う、うん…まだ完成にはほど遠いけど……」

 

「いやいや、すごいことだと思うよ。僕はISに触れるようになってからまだまだ日は浅いけど、ISを組み上げるのは大変だって聞いてるからね」

 

岩崎は渇いた喉にお茶を流し込む。

 

「……そこまでして1人で頑張る理由って……何かあるのかい?」

 

「…!…………」

 

岩崎が然り気無い感じで尋ねたが、簪は再び口を閉ざしてしまった。

 

「………そう、無いなら無いって即答するはずなのにそれをしないことを考えると、やっぱり理由はあるみたいだね。けど今は言いたくないってところかな?うんうん…わかったよ、言いたくないんじゃ仕方ないね……今聞くのはやめておくよ」

 

頑張る理由があることはすでに本音から聞いていた岩崎は、簪本人がどう思っているのかを知りたかった。だが本人が口を割らないのではどうしようもない。岩崎はあっさりと引き下がった。

 

「それじゃあ簪さん、僕はそろそろ行くけど、倒れない程度に頑張るんだよ」

 

「あっ、待って!お茶とサンドイッチとかのお金…」

 

岩崎が自分の作業に戻ろうと立ち上がると、簪は慌てて財布を探し代金を払おうとするが…

 

「あー良いってお金なんか…僕の奢りってことで僕が勝手にやったことだから…ね」

 

岩崎はそれをやんわりと拒否した。

 

「でも…」

 

「どうしてもお礼がしたいなら、もう無理な作業はしないこと!それと疲れたらすぐに休むこと!この2つを約束してほしい。…じゃあね」

 

「………はい」

 

岩崎は手を振り自分の作業スペースへ戻っていった。簪は「何故自分は彼の言うことを素直に肯定したのだろう?」と今になって考えつつ、残ったサンドイッチやお菓子をお茶と共に流し込んだ。

 

この後、一足先に作業を切り上げた岩崎が中国からの転校生・凰鈴音に遭遇し、総合事務所までの案内を頼まれることになるが、それはまた別の話…。

 

――――回想終了――――

 

うんうん、結局彼女の思いは分からずじまいだったわけだけど、本人があの様子じゃ無理に踏み込むわけにもいかないからね。あぁそうそう……あの日以来、簪さんはフラフラになるまで頑張ることはなくなったんだ。……相変わらず帰ってくるのは遅いけどね。それでも、端末で動画を見る元気はあるくらいだから……まぁいいかな?

 

さて、それじゃあ次の話に進もうか。リンさんと会った翌日、彼女は1年2組に正式に加わり、織斑くんからも紹介を受けた。そして放課後に何かあったみたいだけど……今回のお話はそこじゃないんだなぁこれが。そりゃ放課後に起こったことには違いないんだけど…。

 

本題はこっち。その日の放課後、僕は竹内くんと生徒会室へ赴くことになっていた。何故そんなことになったのか、その事も話さないとね。

 

――――回想開始――――

 

♪~~

 

竹内の携帯が鳴り出した。この日はクラス代表決定戦の翌日で、明日の準備を終えた竹内がゆっくりしようと思っていたところである。ちなみにルームメートの谷本癒子は現在大浴場にて友人たちとともに入浴中である。

 

竹内は電話に出た。

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし、竹内くん?』

 

「岩崎くん?」

 

―――――――――

 

電話の相手は岩崎だった。彼は先日、生徒会長の更識楯無に「竹内くんと話がしたいのであれば自分から口利きをしておく」と言う約束を交わしていた。そしてこの日、銃改造の資料整理の合間にこの約束を思い出し竹内に電話をかけた次第である。

 

ちなみにこの時は時系列的に一夏の就任パーティーより前の話、つまり岩崎がまだ簪とまともな会話が出来ていない頃であるため、ルームメートである簪はこの日も整備室に籠って奮闘中、すなわち今部屋には岩崎1人しかいない。

 

「……先日の戦いぶり、見させてもらったよ。うんうん、ナイスファイトだったね」

 

『へへ、ありがとうございます……って、まさかそれだけを言うためにわざわざ電話した訳じゃないですよね?』

 

「あははは、流石、僕の親友!僕と言う人がわかってきたじゃないかww」

 

岩崎はひとしきり笑い飛ばすと咳払いをした。

 

「じゃあ本題に入ろうか。君、ミス・オルコットとの対決の時に……不思議な技を使ったね?」

 

『……やっぱりその手の話になっちゃうか……はい、使いました。あれは恐らく……精霊手じゃないかと』

 

電話口の向こうの竹内は予想通りという反応をしていた。そしてそのまま自分の推測を岩崎に伝えた。

 

「ふむ、やっぱりか………あぁそうそう…実は僕、色々あって生徒会に入ったんだけど、生徒会長さんがその技の事について話が聞きたいんだってさ。覚えてるかな?入学初日、寮に向かう途中の僕らに声を掛けた水色の髪をした先輩」

 

『………あぁ、あの時のあの人が……それにしても岩崎くんが生徒会にだなんて……いつの間に』

 

「うんうん……さっきも言った通り、色々あったのさ。それはさておき、会長さんは早い方が良いって言ってるんだけど、いつが空いてるかな?」

 

『そうですね……最も近い日だと明後日が空いてますね』

 

「そうか、ちなみに生徒会室の場所はわかるよね?」

 

『うん、マップを見れば問題ないと思います』

 

「よしよし…んじゃ、明後日の午後のホームルームが終わったら生徒会室に来てくれ」

 

『わかりました』

 

「…………まぁ早い方が良いとは言ったけど、多少遅れても問題ないと思うよ。実はああ見えて結構ユル~い人だからさw」

 

『………へ?』

 

「要するに、"生徒会長"って肩書きにビビって硬くなる必要はないってことさ、それじゃあおやすみ~」

 

『は、はぁ……おやすみなさい』

 

竹内は不思議そうに電話を切った。

 

―――――――――

 

「……そんなわけで、彼は明日ならこちらに来てくれるそうです」

 

「そう…報告ありがとう、仲俊くん」

 

翌日の昼休み、岩崎は昨日のやり取りの報告をしに生徒会室を訪れていた。

 

「それで?仲俊くんは何を熱心に読んでるのかな?」

 

楯無は岩崎の読んでる書物に興味を持った。ちなみに彼らの周りでは虚がせっせと忙しそうに仕事をしている。

 

「……まぁ、マニュアルみたいなものですよ」

 

「ふーん……ねぇねぇ、ちょっと見ても良いかな?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

岩崎は自分が見てたページに栞代わりの紙切れを挟んでから楯無にその本を手渡した。初めのうちはクスクス笑いながら読んでいたが次第に笑顔は消え、代わりに驚愕が彼女の顔面を支配する。

 

「なっ、何よこれ!?一部文章に変な語尾や言い回しが書かれてること以外はとても良い整備マニュアルじゃない!?あなたこれをどこで手に入れたの!?」

 

あまりにも良質な代物であったことに、楯無は思わず岩崎に詰め寄った。

 

「……α社の先輩整備士から貸していただいたものですが……」

 

「α社?そういえば仲俊くんと優斗くんはα社所属だったわね。どういった経緯で協力を得られるようになったのかしら?」

 

「………その事については僕からはなんとも……明日竹内くんが話してくれるでしょう」

 

「えー明日までお預けぇ?つーまーんーなーいー!」

 

話が聞きたい楯無は駄々をこね始めた。一応同い年とは言え、先輩のこの行動に岩崎は正直困った。しかしすぐさま…

 

「お嬢様、彼の話が気になるのはわかりますが、次の授業は移動教室じゃありませんでしたか?」

 

仕事を切り上げた虚が助け船を出した

 

「えっ、もうそんな時間!?…こうなったら……」

 

「お嬢様?まさか授業をサボろうなどとお考えでは…?まったく、私たち生徒の長たる貴女がそんなことでは他の生徒に示しがつきません。何よりそれを認めるわけにはいきません」

 

「あははは……それに僕も話さないとは言ってませんから、ただ1日待ってください」

 

「わ、わかったわよぅ…じゃあ明日楽しみにしてるからねー!」

 

岩崎と虚の説得により、楯無はようやく今日のところは諦めてくれたようだ。彼女は急いで生徒会室を後にした。

 

「やれやれ…虚さん、助けていただきありがとうございました」

 

「いいえ…岩崎くんも早く次の授業の準備をした方が良いわ、戸締まりなら私がしておきます」

 

「いやいやぁ、重ね重ねありがとうございます、ではお先に失礼します」

 

岩崎は虚に礼を言って出ていった。

 

―――――――――

 

そして迎えた楯無による聴取当日。岩崎が生徒会室に向かっていると、前方を歩く縮こまった背中が見えた。それは緊張からビビってしまっている竹内の姿だった。

 

「竹内くん!」

 

岩崎が声をかけると竹内はビクッとした。

 

「なんだ、岩崎くんでしたか…はぁビックリした」

 

竹内は声を掛けた相手が岩崎であることを知ると心底安心した。

 

「何だい何だい、だらしがないなぁ。大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても。別に取って食われるワケじゃないんだから」

 

「…そう言われましても…」

 

竹内はまだ不安げだ。

 

「彼女に会ってみればわかるさ、そんなに緊張すると余計に疲れるだけだって」

 

とは言われても元々真面目な性格の竹内、「そんな態度でいては舐めた奴と思われないか」という不安が彼の頭を支配する。

 

「ところで竹内くん、織斑先生にはあの技の事はもう言ったのかい?」

 

岩崎が話題を変えて再び話しかけてきた。

 

「えぇ…自分が何者であるかも含めて、担任(織斑先生)副担任(山田先生)には粗方話しました」

 

「そうかぁ、…僕も担任の先生や織斑先生には話しておいた方が良いのかもなぁ…」

 

やがて、2人は生徒会室に着いた。竹内は深呼吸してから扉をノックした。

 

――コンッコンッ

 

『はーい、どうぞ入っちゃってー』

 

中から入室を許可する声が聞こえた。その声に従い竹内は「失礼します」と言って入った。

 

――――――――

 

「いらっしゃい、よく来たわね優斗くん。久しぶり♪」

 

楯無がからかうような笑みを浮かべて出迎える。

 

「はぁ、お久し振りです…そう言って良いのか微妙なところですが…」

 

竹内は畏縮しつつ答えた。

 

「会長さん、例の件ですが…」

 

「えぇ、虚ちゃんや本音ちゃんたちには休みを言い渡してあるから、今日は余程の事がない限り君たちの他は誰も入ってこないはずよ。……それから仲俊くん、何度も言うけど私の事はもっとフレンドリーに呼んでよ」

 

相変わらず堅い呼び方をする岩崎に楯無はブーブー文句を言う。対して岩崎は竹内に「ね、言った通りだろ?」と目で語りかけてから

 

「いやいやぁすいません。まだ僕自身慣れてないって言うのもありますけど、そこに約1名"生徒会長"に呼び出されて緊張のあまりガッチガチになっちゃってるのが居るので…」

 

と言った。楯無は緊張している竹内(その約1名)を見て「なるほどね」とすぐに理解した。

 

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私の名前は更識楯無。『たっちゃん』とか、親しげに呼んでね♪」

 

楯無はニコニコと自己紹介をした。

 

「は、はぁ……竹内優斗です」

 

対する竹内はまだ緊張が解けないのか、たどたどしく名乗った。

 

「それじゃあ早速だけど…今日呼ばれた理由は仲俊くんから聞いてるわよね?」

 

先程までの人懐こい笑顔から一転、真剣な表情になり本題に入る楯無。

 

「はい……先日のセシリアさんとの対決において僕が発動した腕の青い光のこと……これについてですよね?」

 

その様子に呼応するように竹内の顔付きも引き締まる。

 

「そう……わかっているなら話が早いわ。じゃあ何の捻りもなく尋ねるけど………あれは何なのかしら?」

 

「……あのー、これと同じ質問を先生方からも受けたんですが、やっぱり答えないとダメですか?」

 

竹内が遠慮がちに尋ねた。

 

「うん、答えないとダメ」

 

有無を言わせない楯無の答えに竹内は覚悟を決めた。

 

「……わかりました、それなら僕もその時とほぼ同じ回答をしますが…」

 

竹内は以前千冬に述べたときと同じ説明を始めた。岩崎も補足程度に口を挟む。何度も言うがほぼ同じ内容のため、ここでは割愛させていただこう…。

 

「……と言うわけなんです」

 

「ふーん…その証拠は?」

 

「え?」

 

説明を終えた竹内に、楯無は何と証拠を要求してきた。

 

「君たちが学兵で、幻獣って言う存在と戦っていたと言う確固たる証拠がほしいの。確かに大変だったと思うけど、口だけの説明じゃちょぉっと信じられないかなぁって…」

 

予想外の要求に竹内は困った。この事を証明する証拠なんて……

 

「うんうん、じゃあこれが証拠になれば良いんだけど……はい、学生証」

 

あった…?岩崎は何かを取り出し楯無の前に提出した。それは竹内もよ~く知ってるものだった。

 

「これは……IS学園の学生証じゃないわね…」

 

「えぇ、それは竹内くんの話に出た、前の世界での僕の学生証です……当然青森邪麻田高校なんて学校、この世界には存在しないはずです」

 

そう、それは竹内・岩崎両名がかつて所属していた高校、青森邪麻田高校の学生証だった。岩崎はこれを御守り代わりに肌身放さず持っていたのだ。

 

「ふーん…それでちなみに…この…ひゃく…よくちょう…って読むのかしら?…って言うのは何なの?」

 

「"百翼長(ひゃくよくちょう)"…まぁ言ってみれば、学兵における階級ですかね。確か百翼長で…えーっと……」

 

「うんうん、少尉クラス…だったかな?」

 

百翼長……普通に生活していたら絶対耳にしない単語である。それについて楯無が尋ね、竹内が答え、岩崎がそのフォローをする。

 

「う~ん…ホントだわ、似たような名前の学校はあったけど…この字の"あおもりやまだ"はないわね……」

 

楯無が端末で青森邪麻田高校を調べるが、以前紫波が言った通り"青森邪麻田"という高等学校は存在せず、どんなに探しても検索にヒットしない。

 

「……わかった、君たちの話信じるわ」

 

「「ありがとうございます」」

 

竹内はようやく話を信じてもらえてホッとした。

 

「それにしても、まさか君たちが異世界人だったとは……それで優斗くん、その…精霊手…?は今後どうするつもり?」

 

「はい、その事ですが織斑先生の許可が出るまで使用を禁じられました。ですから僕の意志では好き勝手に発動できないのでご安心ください」

 

「そう?なら良いわ」

 

そしてこの後、彼らは楯無と様々な会話に興じ、気がつけば相当長居をしてしまった。楯無はお詫びの印として2人に夕食を御馳走することとなる。

 

またその帰り道、1人涙を流す凰鈴音に遭遇することにもなるがそれは本編にて……。

 

――――回想終了――――

 

これで、竹内くんの秘密は織斑先生にも、そして楯無会長さんにも知れ渡ることとなったとさ…え、僕?もちろん、僕も正体を明かしたよ。楯無さんには竹内くんが話してくれたし、それでもって織斑先生にも、あの後にね……。

 

――――回想開始――――

 

クラス対抗戦。クラスの代表者が己の技量、戦術、その他すべてをぶつけ合うイベント。ピットの一角には岩崎の姿があった。普通ならクラス代表が出場するところだが、今回は特例として参加が認められたのだった。

 

また、岩崎には試してみたいことがあった。以前、西太介と林青子から託された一挺のライフル銃。この銃の改造を課題として出されていたが、岩崎は空いた時間を有効に活用し、何とスナイパーライフルへ改造し、完成させたのだ。しかし完成したのも昨日の話、まだ試運転も行っていない。そこで今日の試合で隙があればどこかで使ってみようと目論んでいた。

 

そんなわけで彼は一夏と鈴音の試合を横目で見ながら、自分のISの最終調整にも余念がない。

 

「………よしっ、これで不自由なく動けるだろう!」

 

と調整を終えたその時…!

 

――ドォォォォォン!

 

「…!?」

 

大きな音がした。そう、謎のISの乱入である。アリーナでは一夏と鈴音が先程までの険悪ムードはどこへやら、共闘して敵ISを引き付ける。岩崎はこのスナイパーライフルの出番だと、すぐさま自分のISを展開し、ピット内から狙いを定め始めた。

 

しかしただでさえ動き回る敵ISを狙うのも難しいのに、加えて一夏や鈴音も飛び交っている。このままでは一夏たちを誤射してしまう可能性だってあるため、下手に引き金を引くことも出来ない。結局岩崎が何も出来ない間に一夏の何度目かの攻撃が外れた。

 

だがその時岩崎にとっても大きなチャンスが訪れた。一夏と鈴音が何やら話をしている時、敵ISは攻撃の一切を行わず、むしろ彼らの話を聞いているようだった。お陰でターゲットを狙いやすくなり、岩崎は引き金を引こうとした……。がその時……

 

「一夏ァァァァアアアアア!!!」

 

何者かが岩崎の前を横切り、岩崎は思わず銃を引っ込めた。横切ったのは言わずもがな、制服姿の箒である。

 

「男なら………男なら!それくらいの敵に勝てないで何とする!」

 

その直後、敵ISが箒に向けてビーム兵器を構える。

 

「(マズイッ…!!)」

 

岩崎はピットを飛び出し、箒の前に立ちはだかった。

 

「(落ち着け、相手は今もろに的を見せてくれてるんだ…そこを狙い撃つ……!)」

 

岩崎はすぐに敵ISのビームの発射口に狙いを定めて発砲した。銃弾は見事に発射口に撃ち込まれ、敵ISの右腕は暴発を起こした。岩崎は一安心して一夏たちに連絡を取った。

 

「もしもーし?生ーきてるかーい?」

 

―――――――――

 

「では解散。それから篠ノ之、以後勝手な行動は慎むように」

 

「……はい……」

 

謎のISが3人によって撃破された後、この事件に大きく関わったメンバーは千冬に呼び出され、事情聴取や注意などを受けた。それも終わって解散となり、そろりそろりとみんな管制室を後にする。しかし岩崎だけは帰ろうとせず、その場に留まっている。

 

「……織斑先生」

 

「ん、どうした岩崎。お前も早く寮に戻った方がいい」

 

「……その前に1つお話があります」

 

「……何?」

 

「竹内くんが先生に自らの正体を明かしたと言う話を聞きまして、それに関連する話です」

 

「何だと?……わかった、そこに座れ」

 

そんなわけで、岩崎と千冬は机を挟んで向かい合う形になった。

 

「……それで、話は何だ?」

 

「……実は、僕も竹内くんと同様…否、全く同じ事情の異世界人です」

 

「!!……なるほどな」

 

「………もしかして、気付いてました?」

 

思いの外薄い反応に岩崎が小声で尋ねる。

 

「いや、気付くとかそういう確信めいたものではないが、竹内が話してくれたときに『もしかしたら…』と言うのはあったな」

 

「なるほど、さすが織斑先生」

 

「ん…ちょっと待て、竹内と同じってことは…お前は竹内の精霊手の秘密について何か知ってることはあるか?」

 

岩崎の発言に引っ掛かりでも感じたのか、千冬が尋ねた。

 

「……残念ながら僕もそれほど知ってる方ではありませんので……ただ恐らくですが、彼が精霊手を使えるようになったのはIS学園(ここ)に来てからです。それは間違いありません」

 

「そうか……わかった」

 

結局、千冬は精霊手についてまともな情報を得ることが出来なかった。

 

「この話はくれぐれも内密に………って、先生方は竹内くんの話した内容を誰かに話したりは……?」

 

「いや、まだ誰にも話していない。情報開示は任されてはいるが、本人は出来るだけ話さないでほしいとのことで、アイツの正体を知っているのは私の知る限りでは直接話を聞いた私と山田先生だけだ」

 

「そうですか……わかりました、では僕の正体のことも彼と同じように任せても構いませんか?」

 

「……わかった。話はそれで終わりか?」

 

「はい。お聞きいただきありがとうございました」

 

「あぁ、お前も早く戻れ。私はこの後やることがある」

 

「はい、では失礼します」

 

――――回想終了――――

 

そんなわけで、僕の秘密も無事カミングアウト成功!ということになったわけだ。だからと言って何かが変わるわけじゃないんだけどね……。

 

おっと、今回はここまで。僕はこれからα社に戻るんだ。その理由は…本編の次回。




この日は休日。一夏は1度自宅の様子を見に地元へ戻り、旧友と再会する。一方竹内と岩崎もそれぞれ報告のためにα社へ戻った。そこで2人は紫波がある電話をしているのを見かける。そして更に翌日、転校生が1年1組に入ってくる。

to be continued...

どーも、花粉の季節の到来に頭を痛めている剣とサターンホワイトです……。って言うかリアルで頭痛ぇッス…。

えー、遅くなってごめんなさい!どうにもエピソードof岩崎は手こずっていかんなぁ……。前回もエライ字数と時間食ったし、今回もまたしても10000字越えました。

……正直エピ岩、必要なのだろうかとも思いましたが……まぁ、またやっていこうかと思います。

さて、一先ずこれにて『第1章 新生活の始まり クラス代表戦編』は終わり、次回から第1章の登場人物紹介を挟んだ後に新章に入ります。……実は次の章の方が書きたいネタがいっぱいあると言うね……。どんなネタがやりたいのかは書いた後に紹介するかもしれません。お楽しみに

ではまた次回にて。


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第2章 新しい仲間 2人の転校生編
2-1:IS少年たちの休日 新たな出会い


どーも、花粉症ゆえ春先は出不精に磨きがかかる剣とサターンホワイトです。

今回から新章突入です。あぁ、手こずった………。

今回から岩崎くんの専用ISも登場します!………そういえば汐風の待機形態考えるの忘れてたなぁ………あーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!(狂


この日の学園は休日。普段は勉学や訓練に追われる学生たちがゆっくり羽を休ませられる貴重な日である。

 

そんなわけで竹内と岩崎は朝早くに学園を出て、α社へ向かっていた。竹内は汐風の動作に関する報告、岩崎は課題の改造銃の報告をするためである。

 

α社の正門を潜れば平智子の熱烈なタックル(竹内限定)、石山田比呂己の不思議な踊りのショー、その2人をどうにかして止めようとする林青子と代田薫、遠目から飽きれ顔の西太介。相変わらず個性豊かな平班の面々が総出でお出迎えである。

 

―――――――――

 

その後、竹内は汐風の動作報告のために岩崎と別れた。岩崎は以前西から課された銃改造の課題、その報告のために整備室へ足を運んだ。

 

「………と言うわけで、僕はライフルをこの通りスナイパーライフルへ改造しました」

 

「なるほど…ありきたりと言えばありきたりだが、なかなかいい改造じゃないか。スコープまでつけて、完全に狙撃仕様だな…」

 

西が評価を下すと何を思ったのか、彼は急に黙りこんでしまった。岩崎が不思議に思っていると、西は静かに口を開いた。

 

「…………岩崎、お前に言っておくべき事がある。そのライフルについてだが、僕は以前『お前に預けたIS備え付け』と言ったが………悪いな、あれはウソだ」

 

「ウソ?」

 

「あぁ、そのライフルの真の持ち主は………お前のISだ」

 

「……?…僕に預けたISのではなくて?」

 

「あぁ」

 

「僕のISの武装?」

 

「そうだ」

 

西の言葉の意味を理解できず、岩崎は首を傾げた。

 

「………すいません、ちょっと意味がわからないんですが……」

 

「………言葉足らずだったな、すまん……もう一度正確に言うぞ、いいか?お前が改造したライフル銃の所有主は、お前に預けたIS・鳴狐ではなく、まもなく完成を迎える()()()()()I()S()だ」

 

「…!?…僕の……?」

 

西の言葉の意味を理解すると、岩崎は柄にもなく驚いた。

 

「あぁ、もともとお前のISと竹内のISはほぼ同時期に開発が始まったが、お前の方はいろいろと手こずらされてな……そこでIS本体と武装は別に開発されることになった」

 

「なるほど、それで僕にライフル銃の改造を…」

 

「そうだ。ライフルを備え付けることは決まっていたが……せっかくメカニックになったんだ。自分のISの武器を自分で作り出すって言うのも悪くないだろう?」

 

「えぇ、まぁ……そういえば、別のISの装備を量子変換できるものなんですか?」

 

「それか……普通ならできないな。そもそも他のISの武器・装備を使うことは原則できない。けど今回はお前のISが未完成だったこともあり、特例で鳴狐の拡張領域(バススロット)量子変換(インストール)させた。だがお前の専用ISが完成すれば、改めてそっちの武装として登録され、以降鳴狐や他ISではお前が使用許諾(アンロック)しない限り使うことはできなくなる」

 

「………なるほど」

 

西の説明で岩崎はようやく納得がいった。そのとき……

 

「太介、ついに完成よ。岩崎くんもついてきて」

 

林がISの完成を告げに現れた。それに伴い、西と岩崎も林についていった。

 

―――――――――

 

ここは以前竹内が汐風の初期化と最適化を行った場所、シミュレータールーム。そこに竹内と岩崎を含めた平班の面々が集っていた。岩崎が新ISの初期化・最適化を行うのだ。もうすでに目の前にその新ISが鎮座している。

 

「……ずいぶんゴツい感じですね……(…それにこの感じ……何だろう、何となく見覚えが……)」

 

岩崎の言う通り、汐風や鳴狐に比べると装甲が厚めでゴツい見た目になっている。それだけじゃなく、岩崎はその見た目が何やら頭に引っ掛かっているようだ。

 

「そうね………さぁ、岩崎くんはこっちに来て」

 

平の指示に従い、岩崎は準備にかかった。

 

「ところで、このISの名前は何ですか?先程から『岩崎くんの専用IS』とか、『新IS』という呼び方しかされてないので気になったのですが……」

 

「「「ッ………」」」

 

竹内がこのISの名前について尋ねた。すると、平、林、西の顔が引きつった。

 

「「「?」」」

 

その様子を見て竹内、岩崎、代田が首をかしげた。この3人はISの開発に大して関わっていないので事情を全く知らないのだ。ちなみに石山田も開発に携わった1人であるが、そんなことお構いなしに不思議な踊りを踊っている。

 

「そ、それがさ……大急ぎで作業してたものだから………名前のことをすっかり忘れてたみたいで…………実はまだ決まってないのよ」

 

「「「…………………」」」

 

平が言いにくそうに説明した。その説明を聞いた3人は呆れて開いた口が塞がらなかった。

 

「フフフフフフ………でしたら簡単なことですよ、今決めてしまえば良い。ちょうど持ち主となる岩崎もいることですしねぇ……クハハハハハ!」

 

1人ずっと不思議な踊りを続けていた石山田が口を挟んだ。決して間違っていることではないのだが………

 

「うるせーーーー!テメェはもう少し静かに喋れねーのか!!」

 

「グホァッ!?」

 

……………いつも通り代田に沈められてしまった。壮絶に血を吐き倒れ、動かなくなった石山田。代田はそのまま石山田を引っ張っていった。

 

「……コホン、まぁ確かに石山田さんの言う通りですね。平先輩、ここは彼の意見を採用して岩崎くんに決めてもらいましょう」

 

「そうね、それでいきましょ!岩崎くんもいいでしょ?」

 

「はい、構いませんよ」

 

だが石山田の()した意見は林と平の心に響いたのか、その方向で話が進められることになった。

 

「ですがその前に、最適化までやっても良いですか?名前をつけようにも、今アイディアが不足していまして………」

 

…と言う岩崎の要望により平班協力の下、新ISの最適化が急ピッチで行われた。最適化を終えた新ISは白緑色の全身装甲(フル・スキン)に似たような色の装飾、そしてメットのバイザーに当たる部分には目を思わせる2つの丸が施されている。

 

「(うーん……やっぱり見覚えが………)」

 

そんな中、岩崎のこのISに対する既視感はますます深まっていく。また竹内もその見た目に既視感を感じていた。

 

「(あれ?何かこのフォルムにこの色使い……どこかで見たことあるような………)」

 

思い出せそうで思い出せない、このモヤついた感覚が不愉快であるため、必死にその「何か」を思い出そうとする2人。その所為でか、2人の表情が徐々に曇っていった。

 

「あの……どうしたの?何か気にいらないところでもあった?」

 

どんどん曇っていく2人の顔を見ていて心配になってきた平が尋ねた。

 

「いえ…このISの見た目にちょっと見覚えがあるような気がして………竹内くんは?」

 

「………僕も同じ理由ですね、このフォルムに既視感があるようなないような……」

 

「そう?私はそんなことないけど………あなたたちは?」

 

平は林と西に尋ねてみた。

 

「既視感ですか?そんなものありませんよ」

 

「えぇ……むしろここまで装甲の厚いISを組んだのも初めてですから、見覚えなんてあるはずがありません」

 

この義姉弟も見覚えなどはなく、むしろこのフォルムは斬新だと言う。

 

「あ」「思い出した!」

 

先ほどまで頭を抱えていた2人がほぼ同時に突然大声で言った。すると2人は同時だったことにキョトンと顔を見合わせると、岩崎はニヤッと笑って竹内に話しかけた。

 

「竹内くん、多分だけど……僕たち同じこと考えてたりしないかい?」

 

竹内も口角をあげて言う。

 

「えぇ、多分ですが……同じことでしょうね」

 

「ねぇ、ちょっと、いったい何の話を……」

 

「「ホワイトスノーだ!」」

 

「へ?」

 

「そうだホワイトスノーですよ、この色と形は!」

 

「うんうん、しかもこの装甲の厚さ、どっちかと言えば2型丙だね、懐かしいなぁ」

 

2人だけで会話がどんどん弾んでいく中、その事情を知らない平班メンバーはすっかりおいてけぼりを食らってしまっている。

 

「………おいお前たち………平さんが困惑して固まってしまってるぞ、早いところ説明してやれ」

 

ようやく西がツッコミを入れて説明を要求する。

 

「あぁすみません、ホワイトスノーって言うのはウォードレスの一種で…」

 

「その前にウォードレスと言うのは、端的に言って僕らの世界にあったパワードスーツのようなものです」

 

2人は自分達のわかる範囲でウォードレスやホワイトスノーのことについて説明した。

 

「ふーん……そういうこと……。それにしても、あなたたちの世界にあったものに似たものを私たちが作るだなんて、すごい偶然ね!」

 

平が興奮気味に言った。

 

「けど、結局名前はどうします?まさかそのまんま『ホワイトスノー』と名付けるわけにはいきませんしねェ……(異世界とは言え、商標的にも何かマズそうだし……)

 

しかし岩崎はまた頭を抱えた。頭に支えていたものの正体がわかっただけで、まだ当初の問題である新ISの名前決めの方が何も解決していないからだ。

 

「でしたら、それをそのまま和風にした『白雪(しらゆき)』でどうでしょう?………字面的に織斑くんの『白式』や『雪片』とカブっちゃいますけど……」

 

すると竹内が1つの案を提示した。

 

「悪くないわね!さすが竹内くん!」

 

平があっさりと賛同の意を示した。

 

「…そうですね、私も賛成します」

 

「…他に案も出てこないし、それでいいよ」

 

林・西義姉弟も賛成のようだ。

 

「うんうん……確かに字面が似てるところは気になるけど、悪くない案だね」

 

岩崎も納得の笑顔だ。

 

「それでは、岩崎くんの専用ISの名前は『白雪』でよろしいですか?」

 

『意義なし!』

 

こうして新ISの名前は『白雪』に決定した。

 

―――――――――

 

その数分後、岩崎と竹内は紫波のもとへ向かっていた。久々に戻ってきたので挨拶に行くためだ。

 

やがて紫波がいるとされる部屋に近付いた。いざノックしようとしたら、中から声が聞こえた。紫波1人の声しかしないため、どうやら電話中らしい。

 

「―――――――――」

 

しかしそれは聞きなれない言葉だった。少なくとも日本語ではないようだ。

 

「英語でもないようですし…」

 

「うんうん、多分フランス語じゃないかな?」

 

「あなたたち、そこで何をしているの?」

 

2人が紫波の話す言語について考えていると、大量の書類を携えた板内が声を掛けてきた。

 

「あぁ副社長、お久しぶりです。久しぶりに帰ってきたので社長に一言挨拶をと思ってここへ参りましたが、その社長は今電話中みたいで……ところで社長が話してる言語って……」

 

岩崎が事情を説明した上で紫波の使用言語について尋ねた。

 

「………フランス語ね。彼、学生時代にフランスに留学してたことがあるの。多分その時の友人じゃないかしら?」

 

これを口火に、板内は紫波の過去を少しだけ2人に教えてくれた。

 

その後岩崎と竹内は、電話を終えた紫波への挨拶を終え、彼らはα社を後にした。

 

―――――――――

 

一方、こちらはとある大衆食堂。この2階の一室にもう1人の男性ISパイロット、織斑一夏の姿があった。そしてもう1人……

 

「へぇー、鈴の奴がねぇ…」

 

一夏の悪友、五反田(ごたんだ)(だん)。ここは彼の家、彼の部屋で、上記の大衆食堂とは彼の家族が営む五反田食堂である。今2人はテレビゲームに興じているところである。

 

「あぁ、鈴が転校してきてくれて助かったよ。男が俺以外にもいるとは言え、話し相手少なかったからなぁ」

 

「そういうもんか…?…あぁそうだ、鈴と言えば……」

 

「鈴が何だよ?」

 

「……いや、やっぱ言わないでおくわw」

 

「何だよ、気になるだろ」

 

ゲームをしながら思い出話(?)に花を咲かせていると……

 

「お兄!」

 

乱暴に扉が開かれ、そこには女の子が1人いた。片足をあげている辺り、彼女が扉を蹴って開けたのだろう。

 

「お昼できたよ、早く食べに来なさ……い、一夏さん!?」

 

だが彼女は一夏を見るなり顔を赤らめて驚いた。

 

「あ、蘭。久しぶりだな、邪魔してるぜ」

 

そんな彼女に一夏は挨拶する。

 

彼女の名は五反田(らん)。弾の1歳下の妹である。蘭はふと自分の姿を見た。キャミソールにホットパンツ…しかも前をしっかり閉めていない…ついでに頭もボサボサ……はっきり言ってだらしなく、どう見ても人前に出るにはラフすぎる格好である。彼女は一旦陰に隠れて直せる身なりを直し、そして今度は顔だけ覗かせた。

 

「い、いやぁ…来てたんですか…?」

 

「今日はちょっと外出。家の様子見てくるついでに寄ってみたんだ」

 

そう、一夏もこの日は休日と言うこともあって久しぶりに自宅に戻り、また旧友のもとを訪ねたのだった。

 

「蘭…お前なぁ、ノックぐらいしろよ」

 

弾が妹の行動に注意をしようとするが、逆にその蘭は兄を物凄い形相で睨み付けていた。実は蘭、一夏に所謂お熱であり、そんな彼にこんなだらしない格好を見せることになってしまい恥ずかしいやら、来ることを教えてくれなかった兄に腹が立つやら……。

 

「………何で言ってくれなかったのよ………!」

 

「あ、あはははは…………い、言ってなかったっけ……?」

 

そんな妹にたじたじの兄。どうやらこの兄妹のパワーバランスは妹に分があるらしい。

 

―――――――――

 

1階、食堂。一夏と弾は昼食を食べている。

 

「やっぱり厳さんの料理はウマイな」

 

この料理を作ったのは、五反田食堂の店主で弾・蘭兄妹の祖父、五反田(げん)である。歳は80を超えているが、浅黒い肌に筋骨隆々の腕がそれを感じさせない。そんな彼は厨房から弾たちの様子をじっと見ている。

 

「一夏さん、その…ゆっくりしていってくださいね」

 

食事中の一夏に蘭が話しかけた。

 

「……服、着替えたんだな。どっか出掛ける予定?」

 

「あー、いえ…」

 

一夏の指摘通り、蘭は先程のラフな格好から着替えていた。ボサボサだった頭も綺麗にまとめ、その姿は清楚な印象を与える。

 

「…デートか?」

 

「違いますッ!」

 

一夏がからかうように言ったが蘭に食い気味に否定されてしまう。そんな様子を見た弾が

 

「……お前って学校でもそんな調子なんだろうなぁ」

 

と呆れ気味に言った。

 

「はぁ?何の事だよ?」

 

当然何の事かわかってない一夏はそれについて尋ねるが……

 

「何でもねェよ……鈴も気の毒に……

 

と弾にはぐらかされてしまう。

 

「こんにちはー」

 

「こ、こんにちは」

 

その時、五反田食堂に2人の来客が現れた。

 

「い、いらっしゃい!」

 

「いらっしゃいませ!」

 

五反田兄妹が店員のような対応をするが…

 

「と、トシさん?それに優斗?なんでここに?」

 

「フッ…来よったか、小僧ども」

 

明らかに毛色の違う反応を示す者が2名。

 

「やあやあ厳さん、またまた来ちゃいました。やあやあ織斑くん。ここで君に会うとは奇遇だねぇ」

 

来客の1人、岩崎が華麗に応対する。となるともちろん、来客のもう1人とは竹内になる。

 

「い…一夏さん、この2人のこと知ってるんですか!?」

 

「爺ちゃんも知ってるのか!?…ってか、爺ちゃんが客をあんな親しげに出迎えるところ初めて見たぜ…!?」

 

そんなやり取りを目の当たりにしてビックリする五反田兄妹。五反田食堂は数分の間、一種の混沌(カオス)と化した。

 

―――――――――

 

「弾、蘭。この2人が俺と同じIS学園の男子生徒だ。灰髪の人が岩崎仲俊さん。本人は気にしていないようだけど、一応言っておくと年上な。それでこっちの黒髪の人が竹内優斗。クラスメートでもある」

 

「「は、初めまして……」」

 

「それで優斗、トシさん。この2人は俺の中学からの知り合いの五反田弾と、妹の蘭だ」

 

「うんうん、よろしく」

 

「よろしく」

 

落ち着きを取り戻した食堂で、一夏が双方を紹介する。

 

「ところで、何でうちの爺ちゃんとそんな親しげなんだ?」

 

弾が一番気になっていたことを尋ねた。

 

「あー、実は僕ら何度かここを訪ねていてですね…」

 

「うんうん、厳さんから孫が2人いることは聞いていたけど…君たち兄妹とはことごとくニアミスしてたみたいだね」

 

彼らの話によれば、厳は初めて訪ねたときから好意的に接してくれたらしい。しかし、何故そこまで良くしてくれるのかまでは、彼らにもわからないとのことだ。ならば本人に聞いてみようと厳に聞こうとするも……

 

「ふん、俺が誰を気に入ろうが俺の勝手だろうが」

 

と言ったのがやっとで、その後は頑なに口を閉ざし、結局答えを聞き出すことはできなかった。

 

その後5人は一緒になって街へ繰り出し、交流会と題してボウリング大会やカラオケ大会が開かれ、大いに盛り上がった。

 

―――――――――

 

その日の夜。竹内が生活する1030室では今、彼のルームメートである谷本癒子が荷造りをしていた。

 

「……何だか僕がこの部屋を乗っ取っちゃったみたいで申し訳ないなぁ」

 

「良いって良いって!ほんと竹内くんって変なところ気にするよね」

 

実はこの数分前、真耶がやって来て癒子の引越を告げたのだった。癒子は少々残念そうではあったがすぐに引越の準備に取りかかったのだ。

 

「ねぇねぇ竹内くん、これからは時々遊びに来ても良いかな?」

 

あらかた荷物をまとめ終えた癒子が尋ねてきた。

 

「うーん……次のルームメートにもよるけど……僕は基本OKだよ」

 

「わかった、ありがとう。それじゃあ明日教室でね~!」

 

癒子は竹内の答えに満足げに頷き、真耶について1030室を出ていった。

 

ちなみに同じ日、更識簪・篠ノ之箒の両名もそれぞれ岩崎仲俊・織斑一夏との同室を解除されたことも表記しておこう。

 

―――――――――

 

休日明けの月曜日。

 

今日から1週間が始まるとなると憂鬱がったり、テンションが上がらなかったりする者もいるが……

 

「おはようございまーす」

 

「あ、竹内くんおはよー!」

 

「おはよー」

 

「おはよう、竹内くん」

 

……1年1組にはそういった者はおらず、みんな元気一杯である。

 

「おはよう諸君、席につけ!」

 

やがて生徒全員が教室に集まったのとほぼ同時に千冬が真耶を率いてやって来た。みんな急いで自分の席に戻る。

 

「えー今日から訓練機を使った実習授業が始まる。ISスーツは今日からが申込日なので各自のスーツが届くまでは学校指定のものを使ってもらう。忘れた者は学校指定の水着で、それもないなら下着で受けてもらうのでそのつもりでいろ。質問その他あるものはいるか?」

 

「(………要するに忘れ物をするなと言う解釈でよろしいんですよね、織斑先生……)」

 

千冬のとんでも発言に竹内は首を振りつつ脳内でツッコんだ。

 

「……無いようだな、では私からは以上。では山田先生」

 

「はい、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります!このクラスに転校生が入ることになりました!それも2名です!では、どうぞ!」

 

ガラッ....

 

「…………」

 

「失礼します…」

 

真耶の合図で2人の転校生が入ってきた。1人は長い銀髪をした小柄な少女。そしてもう1人は金髪を後ろで束ね、男子生徒用の制服に身を包んでいた………。




新たにIS学園1年1組に転校してきた金髪の少年・シャルルと銀髪の少女・ラウラ。ラウラはいきなり一夏にビンタを見舞ったり他の生徒を無視したりと様々な問題行動を起こす。一方、シャルルとは温厚なもの同士あっという間に打ち解け仲良くなる。そんな2人を加えての初の実技授業、どんな授業になるのか……?

to be continued...

どーも、ハクション大魔王です……違うか。冗談はさておき剣とサターンホワイトです。

えー今回になって突然岩崎くんの専用機が現れて驚いていらっしゃる方……私の腕の悪さが原因でどうもすみません。

その他毎度お馴染みの拙い文章の羅列となっております……いつもいつもすみません本当に……。

さていよいよこの2人の登場、シャルルとラウラ。さーて、どうしてやろうかこの2人……フフフ。(ヲイ←

……しかし後書きもどんどん雑になってるような……気を付けなければ………

ではまた次回で………


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2-2:転校生大騒動 シャルルとラウラ

ようやく花粉の時期も過ぎまして、私自身恨み言を言う回数が減る時期でもありますが、どうやら今年は花粉と同時に喉をやらかしたらしく、咳がこの1ヶ月強ほど治まりませんでした。……何て言うかね、無駄に年食った感じ……否、それも違うな……まぁいいや。

何はともあれ、インフィニット・オーケストラ2章2話、始まるぞよ!

気分など悪くされた場合は早めのブラウザバックを!


1年1組の教室。ここにこの日、新たに2名生徒が加わることになった。所謂転校生と言うものである。しかし、そのうちの1人がクラスの生徒全員の目を引くことになった。何故なら、1人の転校生は男子生徒用の制服をまとっていたからだ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多くあると思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

金髪の少年、シャルル・デュノアが礼儀正しく自己紹介した。

 

「お……男………?」

 

誰かが呟いた。新たな男性IS操縦者の出現に半信半疑の様子だ。

 

「はい、ボクと同じ境遇の方がこの学園にいると聞いて本国より転入を……」

 

その呟きにもシャルルは丁寧に対応しようとするが………

 

『キャーーーーーーーーーーー!!』

 

「えっ?」

 

クラスの大半の女子生徒の黄色い声に掻き消され、その様子に圧倒された彼はひきつった笑みを浮かべる他なかった。

 

中性的で整った顔立ち、アメジストのように綺麗な紫色の瞳、そんな外見と良い意味でギャップのない可愛らしい声、そして紳士的な立ち居振舞い……これほどのハイスペックな異性を目の前にして、彼女らが黙っていられるはずがなかった。

 

「4人目よ!4人目!」

 

「今までの3人とはまた違うタイプの子!」

 

「今年は当たり年ね!」

 

「ホントね!もう最高!」

 

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんよ~」

 

真耶がおろおろとしながらこの教室を静めようとする。

 

結局千冬が一喝することでみんなはようやく静かになったが、もう1人の転校生である長い銀髪の少女はこの様子を冷ややかな厳しい目で見ていた。

 

「そ、それでは自己紹介を……」

 

「……………」

 

真耶は彼女に自己紹介をするように促すが、まるで真耶の声が聞こえていなかったように反応がない。その証拠に、もう目を閉じて腕を組み、「自分には関係ない」といった態度だ。

 

「…ラウラ、挨拶しろ」

 

「はい、教官」

 

「……ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではないし、お前もここではただの生徒の1人だ。織斑先生と呼べ」

 

「わかりました」

 

だがラウラと呼ばれた彼女も、千冬の言うことには素直に応じた。しかしそのやりとりはどこか不思議なものだった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「………………」

 

「………………」

 

「あの……い、以上ですか……?」

 

「………以上だ」

 

「………………」

 

名前しか言わぬ自己紹介、真耶が他にないか尋ねても「ない」と冷たく突っぱねる。さっきまでのシャルル(フィーバー)はどこかへ吹っ飛び、今度はラウラの放つ凍てつくようなプレッシャーが教室を占拠する。

 

ラウラは一夏を見るとつかつかと彼に近付いた。

 

「……貴様がッ……!」

 

彼女は憎々しげに呟くと右腕を振り上げ……

 

―――バシンッ!

 

「…い?」

 

……ビンタを見舞った。あまりに一瞬の出来事で、打たれた本人もまだ理解が追い付いていないようだ。

 

「私は認めない……貴様のようなのがあの人の弟であるなど……認めるものか……!」

 

ラウラは小さい声で、しかしはっきりと言った。その言葉にも、そして視線にも明らかな憎しみが込められていた。

 

「い、いきなり何するんだよ!」

 

「…フン」

 

ようやく自分が打たれたことを理解した一夏が抗議の声をあげるも、ラウラはそれを無視して空席に向かっていった。ラウラが教壇から降りたことで、先程までのプレッシャーはなくなったが、これまでの一連の流れのせいでさらに不穏な空気がこの場を占める。

 

「あー…ゴホンゴホン」

 

千冬が咳払いし、みんなの注意を引いた。

 

「ホームルームは以上だ。各員、すぐに着替えて第2グラウンドへ集合しろ。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!それから織斑、竹内!デュノアの面倒を見てやれ!」

 

「わかりました!」

 

千冬はこの後の授業についての連絡事項などを伝え教室を出た。竹内は千冬の指示に了解の返事をしたあと、一夏のところへ行った。

 

「顔…大丈夫?」

 

「優斗……あぁ、大丈夫だ」

 

「あの~…」

 

竹内と一夏が先程のビンタの痕を確認しているとシャルルが話しかけてきた。

 

「織斑くん…と、竹内くん…だよね、初めまして。ボクは…」

 

彼は2人の名前を確認するように言った後、改めて自己紹介をしようとするが……

 

「あー挨拶は後!女子が着替えるから、今はとにかくここを出ないとな」

 

一夏が遮りシャルルの手をとった。

 

「!」

 

「行くぞ、優斗」

 

「OK!」

 

そして3人は教室を飛び出した。

 

―――――――――

 

「俺たち男子は、空いてるアリーナの更衣室で着替え」

 

「そう、実習の度にこの移動だから、早いうちに慣れてね」

 

「う、うん……」

 

廊下を早足で移動しながら一夏と竹内が説明する。

 

「……えと」

 

シャルルが何か言いたげに呟く。

 

「何だ?トイレか?」

 

それを察した一夏がそう尋ねるが…

 

「違うよ!」

 

食い気味に否定されてしまう。

 

「……その……」

 

「手…」と言いかけたところで……

 

「あーーーーー!!」

 

シャルルの噂を嗅ぎ付けた他クラスの生徒が彼らを発見した。

 

「噂の転校生はこっちでーす!」

 

「えぇい者ども、出合え出合えィ!!」

 

ここは武家屋敷か!とツッコむ余裕もなくあっという間に彼らは包囲されてしまった。

 

「うわぁ…黒髪の2人も良いけど、デュノアくんの金髪も綺麗ね~」

 

「見てよ、織斑くんとデュノアくん、手ェ繋いでる!」

 

「IS学園男兄弟の末っ子は可愛い癒し系!うん、イイ!」

 

「賑わうところに我ら在り!新聞部が噂の転校生にインタビューにやって参りました!」

 

みんな集まっては口々に言う。他クラスどころか、薫子を筆頭に他学年の生徒まで嗅ぎ付けて来ている……。

 

「クソッ、囲まれたか……」

 

「うん……どうしよう……」

 

このまま一人一人を相手にしていては、間違いなく遅刻は免れないだろう。だが突破しようにも、人の壁が厚すぎて、これもまた多大な時間を要するだろう。一夏とシャルルが途方に暮れていると……

 

「2人とも、ここは僕に数秒時間をくれないかな?」

 

竹内が2人の耳元で囁いた。

 

「お前……何か手があるのか?」

 

「うん…ちょっと強引な手だけどね…僕が右の手で『来て』の合図をするから、それまで耳を塞いでおいてくれるかい?」

 

「………わかった。どんな方法かはわかんないけど、他に案もないしな……ここは優斗に任せよう!」

 

「うん、頼んだよ」

 

話はまとまり、一夏とシャルルは手筈通り耳を塞いだ。

 

「みんな聞いてください!」

 

竹内が声を張り上げた。すると、みんなはワクワクしながら竹内に注目した。

 

「(上手くいくかな……えぇい、ままよ!)」

 

竹内は内心ビクビクで作り笑いもヒクついているが、どうやらまだそこは誰も気付いていないようだ。彼は意を決した。

 

「………すみません、何でもありません!!」

 

「………」

 

――ズッコーン!

 

ものの見事に全員ずっこけた。言った本人と、耳を塞いでいる2人を除いて。それを見た竹内は右手で合図を出した。それと同時に、気が引ける思いを押し殺しこんな指示を出した。

 

「今だ!人垣を飛び越えるんだ!」

 

「よーし!」

 

一夏は指示を聞いてすぐに飛び出した。そして見事に全員飛び越え、包囲網を突破した。包囲していた女子生徒がずっこけてる分高さがなくなり、距離も思いの外なかったのが幸いしたようである。だが耳を塞ぐ際、繋いでいたシャルルの手も離してしまい、一夏1人だけで先に飛び越えてしまった。それに気付いたのはその後のことだった。

 

「さぁ、デュノアくんも!」

 

「え、でも……」

 

竹内がシャルルにも飛び越えるように促すが、シャルルは自分の跳躍力に自信がないのか、それとも人を飛び越えていくことに気が引けるのか、いずれにしろ躊躇して動こうとしない。こうしている間にも時は流れ、コケてた人たちもやがて立ち上がるだろう……。

 

「……男に抱かれる趣味なんて持ち合わせてないだろうけど……やむを得ない……!」

 

竹内はシャルルに向かって突進した。そしてそのまま彼をやや強引に抱え込んだ。

 

「えっ、ちょっ!?」

 

「お詫びなら後でいくらでもする、だから今は大人しくしててください……!」

 

「…!」

 

シャルルは突然のことに思わずジタバタしたが、真剣な顔をした竹内に落ち着くように諭され、抵抗をやめた。

 

「……いいかい?これからこの人混みを飛び越えるから、しっかりつかまってて」

 

竹内が囁いた。

 

「うん…」ギュ…

 

シャルルがそれに従って竹内の首に腕を回した。竹内はそれを確認するとスピードをあげ、渾身の力を込めて飛び上がった。一夏ほどの飛距離は出なかったが、2人の体重がさほど重くないことが幸いしたのか、何とか誰を踏むこともなく包囲網の突破に成功した。竹内は着地すると迅速に、且つ丁寧にシャルルを降ろした。

 

「あ、ありがt…」

 

「お礼も後!今は遅刻しないことを最優先に考えよう!」

 

「う、うん!そうだね」

 

お礼を言おうとしたシャルルだが、竹内にはそれを聞いている余裕がなく、先を急ぐように言った。

 

「待たせたね織斑くん、さぁ、行こう!」

 

「おう!」

 

「ま、待ってよぉ!」

 

3人は大急ぎで第2アリーナの更衣室へ駆け込んだ。

 

―――――――――

 

「ここまで来ればもう大丈夫だな……」

 

「うん、とりあえず一安心だね……」

 

息も絶え絶えになってようやく彼らは最初の目的地である第2アリーナの更衣室にたどり着いた。

 

「けど、シャルルが来てくれて助かったよ」

 

不意に一夏がシャルルに話しかけた。

 

「え、何が?」

 

「優斗もいるし、俺たちの他にももう1人男子がいるけど、それでもやっぱり周りは女子ばかりだから、何て言うか…けっこう息苦しくてな。男が1人増えるだけでもなかなか心強いもんだぜ」

 

「そうなの?」

 

シャルルが竹内に尋ねた。

 

「確かに肩身の狭さは常々感じるよね……そりゃまぁ、僕ら男子がこの学園にいること事態が異常事態だから仕方ないと言えばそれまでだけど……」

 

竹内も一夏の意見に同意した。

 

「何はともあれ、IS学園へようこそ。僕は竹内優斗」

 

「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく、一夏、ユート。ボクのこともシャルルで良いよ」

 

「わかった」

 

「こちらこそよろしくね、シャルルくん」

 

どうやらこの3人は上手く打ち解けることが出来たようだ。

 

「……って2人とも、のんびりしてる場合じゃないよ!」

 

竹内が時計を見て叫んだ。授業開始の時間まで残り5分を切るか切らないかだった。

 

「げっ!?ホントだ、急いで着替えねぇと…!」

 

言うと同時に一夏は服を脱ぎ始めた。

 

「うわっ!?」

 

シャルルが大声を出した。

 

「ん?まだ着替えないのか?早く着替えた方がいいぜ、俺たちの担任は時間にうるさいのなんの……」

 

「あーうんうん!着替えるよ!けどその……向こうを向いててね!絶対こっち見ちゃダメだよ!」

 

シャルルが早口で捲し立てる。

 

「あぁ…わかったけど……シャルルはじっとこっち見てるよな」

 

「見てない!見てないよ!」

 

シャルルは一夏から目を逸らした。

 

「?」

 

一夏はわけがわからず首をかしげた。

 

結局、シャルルは2人から少し距離の離れたところで着替えた。彼は着替えを終えるとホッとしたのか、息を吐いた。

 

「何だ?もう着替え終わったのか?」

 

それを察した一夏が声をかけた。

 

「う、うん!」

 

「早いなぁ……何かコツでも……って優斗も着替え終わってるのか!?」

 

隣にいる竹内も着替えが済んでることに気付き、一夏は焦り始めた。

 

「うん。今日は実戦授業があるってわかってたから、制服の中にISスーツを着てきてたんだ。2人も今度からはそうした方がいいと思うよ」

 

「そっかぁ、それなら裸を見られる心配もないし…」

 

「……授業直前でこうして焦ることもなくなるしな……その手があったか、俺もそうすればよかった……」

 

シャルルは名案の出現に喜び、一夏はそれを考え付かなかったことを後悔した。

 

「あ、そうだ……シャルルくん、さっきの事なんだけど……」

 

今度は竹内がシャルルに話しかけた。

 

「え、何のこと?」

 

「……包囲網突破のとき、緊急事態とはいえいきなり抱き抱えたりしてゴメン!男に抱かれる趣味なんてないだろうに……」

 

竹内は床に打ち付けるような勢いで頭を下げた。

 

「いやいやいやいや!そんなに謝らなくても!」

 

「でも……」

 

シャルルはそんな竹内を止めようとするが竹内はまだ食い下がる。

 

「うー…じゃあ今は良いから、お詫びの内容は保留ってことにしてくれるかな?」

 

「うん…それなら…」

 

半ばシャルルが折れる形となり、この場は収まった。そうこうしているうちに一夏もようやく着替え終わり、3人はグラウンドへ向かった。

 

―――――――――

 

「ではこれより、格闘及び射撃を含む実戦訓練を始める!」

 

『はい!』

 

第2グラウンド。ここに1年1組及び2組の生徒が集められ、実戦授業が行われている。

 

「まず戦闘を実演してもらおう、オルコット!凰!」

 

「「は、はい!」」

 

「専用機持ちならすぐに始められるだろう、前に出ろ!」

 

千冬の指名により、2人の代表候補生が前に出てくるが……

 

「はぁ~…何でアタシが…」

 

「こういうのは何だか見世物にされてるような気がして、気が進みませんわねぇ…」

 

と、2人はぶつくさ言っている。

 

「そう言うな、実力者の宿命だ……」

 

千冬が面倒臭がる2人に囁いた。……その言葉には妙な重みが感じられた。

 

「それでお相手は?このまま鈴さんが相手でも構いませんが?」

 

「ふん、面白いじゃない、返り討ちにしてやるわ!」

 

千冬の言葉でとりあえず己を納得させた2人は各々ISをまとい、互いに挑発する。

 

「慌てるなバカ共、対戦相手は……」

 

千冬がそう言って対戦相手の紹介をしようとしたその時、キィィィィンと大きな音がした。

 

「あああああああああ!!」

 

続いて誰かの叫び声が聞こえた。その声の主は量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶だった。ここから察するに、叫び声の前の大きな音はISの出した音だろう。

 

「ど、退いてくださ~~~~~~~い!!」

 

どうやら何か操作を誤り、制御不能に陥ったらしい。彼女はそのまま落下し……

 

「………え?うわぁぁぁぁぁ!?」

 

……1人反応が遅れた一夏の近くに墜落した。舞い上がる砂煙。

 

「や…山田先生……またですか……」

 

竹内が呟くようにツッコむ。ちなみに彼はシャルルを連れて退避させるので手一杯で一夏を助けるには至らなかったようだ。

 

「ゆ、ユート?『また』って?」

 

シャルルが竹内のツッコミに疑問を呈する。

 

「あぁ、シャルルくんは初めてだったね…山田先生は腕は間違いなく良いはずなのに、たま~にこうした失敗をしちゃう時があるんだ」

 

「ふ~ん…」

 

竹内がシャルルに説明をしている最中、砂煙がようやく晴れてきた。煙の晴れたそこには、落下してきたはずの真耶に何故か覆い被さるように一夏が倒れていた。しかもこれまた何故か、彼の右の手は真耶のふくよかな胸に置かれていた。

 

「あ、あの……織斑くん……?」

 

「………え?あっ……!?」

 

顔を赤く染めた真耶に呼び掛けられ、一夏は目を開けた。そこでようやく己が置かれた状況について理解した。

 

「その……困ります………仮にも教師と生徒ですし……その、こんなこと………あ、でもこのままいけば……織斑先生が義理のお姉さんに………それはそれで魅力的な………///」

 

真耶は真耶で何やらとんでもない妄想世界に出発してしまったようだ。一夏は慌てて彼女の上から退き、大慌てで距離をとった。しかし、騒ぎはこれで終わってはくれなかった。

 

――ガキィン!

 

また何かの金属音。一夏が恐る恐るその音がした方を向くと……

 

「ひっ!?」

 

小さく悲鳴をあげた。そこには怒りに顔を歪めた鈴音の姿があった。その手には連結した双天牙月がしっかりと握られている。

 

「いぃぃぃぃちぃぃぃぃかぁぁぁぁ!!」

 

彼女は一切の容赦なく手に持ったそれを一夏目掛けて投げ飛ばした。一夏はなんとかその場から逃れようとするも、鈴音が投げた青竜刀はどんどん迫ってくる。

 

――ドゥン! ドゥン!

 

突然銃声が響き、直後双天牙月が地面に刺さった。2発の銃弾が双天牙月を弾き、一夏への直撃を妨げてくれたのだ。ではその立役者は一体誰なのか……?

 

「……織斑くん、ケガはありませんか?」

 

それは何と真耶だった。彼女はいつの間にか妄想世界から帰還し、回転しながら飛ぶ双天牙月を見事に狙い撃った。しかし一夏を気遣うその表情はいつもの優しい副担任のものだ。

 

「は、はい……ありがとうございます……」

 

一夏は目の前の光景を信じられなかった。否、一夏だけでなく、普段のドジっ娘真耶を知っていた生徒たちも今の状況を飲み込めずにいた。

 

「山田先生は元代表候補生だ。このくらいの射撃など造作もない」

 

千冬の解説に驚く者が多数。

 

「昔のことですよ、それに結局は候補生止まりでしたし……///」

 

それに対し真耶は赤くなって謙遜する。

 

「……では始めるぞ、小娘ども」

 

茫然としていたセシリアと鈴音に千冬が模擬戦闘を始めようとする。

 

「え、でも2対1で……?」

 

「さすがにそれは……」

 

2人で1人を相手にするのは気が引けるのか、セシリアと鈴音は遠慮がちに言う。

 

「心配には及ばん、今のお前たちならこのハンデがあってもすぐに負ける」

 

そんな2人に千冬がそう言った。その言葉は2人の神経を逆撫でし、セシリアと鈴音はムッとした。今にも牙を向きそうな雰囲気だ。

 

「悔しかったら結果で示してみろ、始めるぞ………」

 

千冬がそう言うと、3人は臨戦態勢に入った。千冬は右の手を高く掲げ……

 

「では…………始め!」

 

素早く振り下ろし、模擬戦の開始を宣言した。舞い上がる3機のIS。鈴音とセシリアが真耶に仕掛け、真耶はそれを軽々と凌いでいく。

 

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あ、はい。山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』、第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期第3世代にも劣らない物です。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」

 

千冬の急な指名にも難なく答えるシャルルに、竹内はかなり感心していた。シャルルはなおも解説を続けようとしたが千冬が「そのへんでいい」と止めた。

 

ちょうどその時、模擬戦の決着がついたのか、セシリアと鈴音が墜落させられた。

 

「……うぅ、私としたことが……」

 

「アンタねぇ、何を面白いように回避先読まれてるのよ!」

 

「なっ!?それを言うなら鈴さんこそ、無駄にバカスカ撃つからいけないのですわ!」

 

見苦しくも言い争いを始める2人。もっとも、コンビネーションが全くなってなかったのだ。互いに思うことだらけであろう。それは真耶が着地した後も続いた。

 

――バシッバシッ!

 

「そのくらいにしとけ、馬鹿共」

 

見かねた千冬が例によって出席簿で2人を叩くことにより、ようやく言い争いが止まった。千冬は今度は生徒全員の方を向き、

 

「これで諸君にも、教員の実力が理解できたことだろう。以後、敬意を持って接するように」

 

と告げた。

 

―――――――――

 

時は少しだけ進み、グループに別れてのIS実習。専用機を持つ者がグループのリーダーとなり、他の生徒の指導に当たる。汐風を持つ竹内もリーダーとしてぎこちないながらも、まだISに不慣れな女子生徒に指導する。

 

「そう、その調子………よし、ここでストップ!しゃがんでから交代しよう」

 

一夏のいるグループで、コックピットが高い位置で固定されてしまうという事象が起こってしまったことから、竹内のグループでは「しゃがんでからの交代」を徹底化、「次の人の事を考えて」をモットーにしていた。

 

また、一夏が箒をコックピットまでお姫様抱っこで運んだとあらば……

 

「竹内くん、私たちもアレをお願いしたいんだけど……」

 

当然竹内のグループでもそれをねだる女子生徒がいたが……

 

「えーっと………それは構わないけど、全員やるとなると相当時間が掛かって多分休み時間に差し掛かっちゃうと思うけど……」

 

と、やんわり断った。頼んできた女子生徒は残念そうだったが、ただでさえ着替えで休み時間を削られるというのにこれ以上減らされては敵わないとしぶしぶと諦めたようだ。

 

やがて、自分のグループの実習が一段落つき、竹内はふと全体を見渡してみた。どのグループも順調に実習してるように見える………たったひとつのグループを除いて。他のグループは活発にISに乗って実際に機体を動かしてみたりしているが、そのグループは訓練機の打鉄の周りをウロウロしたりオロオロしているだけで、中には涙目になってしまっている生徒もいる。何故こんなことになっているのか?それはこのグループのリーダーがあのラウラ・ボーデヴィッヒだからだ。今朝の一件で、1組の生徒は彼女を警戒・恐怖する者も居り、その事が2組の生徒にも伝わり、どう接していいかわからなくなってしまっている。それに対しラウラはラウラで腕を組んで目を閉じ、またも「自分には関係ない」という様子で完全に無視を決め込んでいる。

 

「あのー……ボーデヴィッヒさん……?」

 

竹内がラウラに声をかけた。しかし彼もまた他のクラスメートと同様にラウラを警戒する1人であり、呼び掛けたその声はかなり及び腰なものとなっていた。

 

「……ふん、貴様か……何の用だ」

 

ラウラは竹内を鋭く睨み付けた。

 

「うっ……その……授業はちゃんと受けないとダメだと思うんですが……グループのみんなも困ってるみたいだし」

 

怯みながらも竹内はラウラに忠告する。

 

「……貴様に指図される(いわ)れはない。第一なぜ私がコイツ等の面倒を見なければならない?……そんなにコイツ等のことが気にかかるなら貴様が面倒を見ればいい、私もこんな面倒事は御免だ……」

 

それだけ言い残してラウラはどこかへ去ってしまった。残ったのは、元々彼が見ていたグループの女子生徒数名と、ラウラが見るはずだったグループの女子生徒数名。竹内の忠告は結局、自分の状況をさらに悪くするだけだった。普通のグループの倍の人数の実習を見なければならなくなり、竹内が大分困っていたところ……

 

「あら、どうしたんですか竹内くん?」

 

実習の様子を見て回っていた真耶が通りかかった。竹内は真耶に事の経緯を話した。

 

「そうでしたか……わかりました!先生もお手伝いします!」

 

それは竹内にとってこれ以上ないくらい心強いものだった。真耶の提案により竹内の負担は軽減され、ラウラのグループのメンバーも無事に実習を受けることができたのであった。




実戦授業後の昼休み、一夏の提案でみんなで屋上で昼食をとることに。おかずの交換会が行われることになったが………。また、IS特訓中の一夏に、ラウラ・ボーデヴィッヒが襲撃。果たして………

to be continued...

どうも、春は地味に嫌いな剣とサターンホワイトです。……………花粉症なのはもとより、花粉の時期を過ぎれば結構な割合で風邪を引くのよ……そりゃ季節に悪意はないって、村田の彩華(さいか)ねーさんも言ってたけどさ……。

さて、まずは転校生の自己紹介。ラウラのビンタ時に竹内が割って入るシナリオもありましたが座席の位置の問題により没に……

続きまして、野次馬からの逃走中。竹内が使った「みんな聞いて!」からの「何でもない」、ガンパレプレイヤーなら知ってて当然とも言える常套テクニック!これが書きたかったネタの1つでした。うんうん、満足満足。ちなみにこれを竹内くんに仕込んだのは平さんと石山田さんだったりする。(という設定)

続きまして、ドジッ娘真耶こと山田先生の墜落事故。これも竹内が真耶を助けようとする、というシナリオがありましたがISなしで助けられるとは思えず、さらにISを使って助けようものならば「前回のクラス対抗戦のあとに『勝手にISを使うな』と言われたのにまだ懲りてなかったか」となってしまうと思ったのでこちらも没に……

しかし、またもや何か無理矢理纏めたって感じだな……まぁいいか。

何かツッコミたい事があれば是非感想欄へ。

ではまた今度……

………サブタイあれでよかったのかなぁ……


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2-3:不意をつく食物、襲撃する銀髪少女

うーむ、この辺のネタは序章や1章を書いている頃からそれなりにネタがあったはずなのに思いの外執筆スピードが上がらない……やっぱり可視化すると所謂「何か、違くね?感」が出てきてそこでまた思い悩むのが原因かと。以上、言い訳でした。

ついにあの人のアレとその人のソレが直接対決(?)!え、何の事だって?それは読んでのお楽しみ。


実戦授業後の昼休み。

 

「なぁ優斗!今日の昼は屋上で食べようぜ!」

 

着替えを終えて更衣室を出ようとした竹内に一夏が提案する。

 

「あ、いいね。そうしようか」

 

竹内は喜んで受け入れた。

 

「じゃあ俺はみんなを集めてくるから、優斗はトシさんを誘ってくれないか?シャルルに紹介もしたいし」

 

「わかった。来てくれるように言ってみるよ」

 

一夏の頼みも聞き入れ、竹内は岩崎を探しに向かった。

 

―――――――――

 

ところ代わって屋上。この日は天気もよく、かと言って日差しが強いと言うこともなく、まさしくポカポカ陽気だ。そこには一足先に一夏、シャルル、箒、鈴音、セシリアがいた。ただ箒と鈴音はどこか不満そうな顔をしている。

 

「どういうことなんだこれは?」

 

誰がどう聞いても不機嫌そうな声で箒が一夏に問う。

 

「だってみんなで食べた方が良いだろ?それにシャルルも転校してきたばかりで右も左もわからないだろうし」

 

「………それは……そうだが……」

 

それを言われると……といった様子で箒は黙ってしまう。

 

「あー…ボク、同席しても良いのかな?」

 

ただならぬ雰囲気に、シャルルが遠慮がちにそうこぼした。

 

「いいって、男子同士仲良くしようぜ」

 

対して、箒たちの放つプレッシャーに全く気付いていない一夏はお気楽に言う。

 

「やあやあやあ、待たせたかい?」

 

「すみません、遅くなりました」

 

そこへ、岩崎と竹内が遅れてやって来た。

 

「お、来た来た。シャルル、この人がさらにもう1人の男のIS操縦者の岩崎仲俊。トシさんだ」

 

一夏が岩崎を紹介する。

 

「あーはいはい、君が噂の……僕は岩崎仲俊。よろしく頼むよ」

 

「シャルル・デュノアです。シャルルで良いよ」

 

2人はどちらからともなく握手をした。

 

「(ん…?)」

 

その時、岩崎は妙な違和感を感じた。

 

「ん?どうかした?えーと……」

 

「…いや、何でもないよ。それから、僕の名前『ナカトシ』が言いにくいんだったら、織斑くんやリンさんみたいに『トシ』って呼べば良いよ」

 

岩崎はその違和感を誤魔化して答えた。

 

「っていうか、もうシャルルのこと噂になってるんですか?」

 

一夏が割り込んで尋ねてきた。

 

「あぁうんうん、女子の噂の回りの早さは本当に脱帽ものだね。『かわいい子が転校してきた』とか、『地に舞い降りた天使だ』とか…あ、あと個人的に気になったのが『IS学園男兄弟に末っ子誕生』って、僕たちいつの間にか兄弟にされてるよ」

 

「……マジで?」

 

「あーそういえば今朝の野次馬の中にも兄弟がどうとか言ってた人がいたような……」

 

予想以上に色々言われてて驚きを隠せない一夏と竹内。

 

「何でも僕が長男、織斑くんが次男、竹内くんが三男ってことになってるらしいよ。詰まる話、シャルルくんは四男って位置付けになるワケだね。あとは『○○系』って話もしてたような気もするけど……忘れちゃったなぁ」

 

『…………』

 

噂の内容も去ることながら、ここまで語れる岩崎の情報収集能力に開いた口が塞がらない一同であった。

 

―――――――――

 

そんなこんながあった後の昼食の時間。

 

「へぇ~、織斑くんも弁当作ってきたんだ」

 

岩崎が一夏の弁当を見て感心したように言う。

 

「千冬姉が外で働いている分、俺が家のことを一頻りやって来たので。ってか、トシさんも優斗も自分で?」

 

一夏は自分の家庭事情を話した。そして今度は逆に岩崎と竹内の食べているものを見て同じように尋ねる。岩崎は2段弁当、竹内はサンドイッチ(三角形)を作ってきたようだ。

 

「うんうんまぁね、僕自身こう見えても美食家の端くれって言うのもあるけど、僕もよく家事手伝いしてたからね、料理は割りと出来るよ」

 

「僕はあまり料理はしないけど……まぁこれくらいなら何とか」

 

「ねぇ一夏」

 

男3人が料理の話題で盛り上がりかけた時、鈴音が一夏に声をかけた。手には自分のとは別にタッパーを持っている。

 

「これ食べてみる?」

 

タッパーのふたを開けるとそこには……

 

「うわぁ、酢豚だ!」

 

一夏が興奮気味に言う。

 

「前に一度食べてみたいって言ってたでしょ?トシと優斗もどう?」

 

……これを皮切りに……

 

「コホン……一夏、私も今日の弁当を少々作りすぎてしまったので……分けてやらないでもないぞ」

 

「でしたら皆さん、私の作ったサンドイッチも食べてくださいな、イギリスにも美味しい料理があることを知ってほしいので……」

 

箒とセシリアも自作の料理を食べてくれと名乗り出る。

 

「よぅし、ならここはオカズ交換会といこうじゃないか」

 

この岩崎の発言により、先程までの異様な空気が嘘のように賑やかになり、互いの料理を食べ合った。しかし、そんな楽しい雰囲気は束の間のことだった。

 

「…!?」

 

「…!!」

 

「ちょ、ちょっと2人ともどうしたの!?」

 

シャルルの焦った声に、全員がシャルルの視線の先に目をやった。見れば一夏と竹内の顔が真っ青になっている。そんな彼らの手には長方形に切られたサンドイッチの食べかけが……。しかし……

 

「な……何でもないぜ……」

 

「そ……そうそう……強いて言うなら……喉に詰まりかけたと言うか……」

 

本人たちは気にするなと言う。が、どう見ても何でもないようには見えないし、喉に詰まったとかそんな風にも見えない。

 

「うんうん、彼らが持ってるサンドイッチの切り方を見ると、これはミス・オルコットのサンドイッチだね……ミス・オルコット、僕にも君のサンドイッチを分けてはもらえないかい?」

 

「は、はい……それは構いませんが……」

 

セシリアは戸惑いつつもサンドイッチを渡す。

 

「……トシ……それ、マジで食べる気?」

 

「……悪いことは言わん、やめておけ」

 

「なっ!皆さん私のサンドイッチを何だとお思いでいらっしゃるのですか!」

 

自分がせっかく作った料理をまるで危険物扱いする鈴音と箒にセシリアは怒った。

 

「まあまあ抑えて抑えてミス・オルコット……たまたま織斑くんたちが喉に詰まらせただけかも知れないじゃないか。だから君たちね、このサンドイッチが危険なものだともう決めつけるのは良くないよ」

 

 そんなセシリアを岩崎が宥める。また、確かめもせず危険物扱いをした鈴音と箒をたしなめ、サンドイッチにかじりついた。

 

「……ん………ふむ……なるほど」

 

彼はそれだけ言って、顔色を一切変えずにサンドイッチを食べきった。

 

「ちなみにこれ、味見とかはしたのかい?」

 

「え?いえ、皆さんに先に食べていただきたくて……ですが、ちゃんと本を見て作ったので大丈夫なはずですが……」

 

「そうかそうか……あぁせっかくだ、自分でも食べてみたらどうだい?」

 

突然、岩崎はセシリアにサンドイッチを食べるように促した。

 

「へ?でしたらご感想を……」

 

「いいからいいから」

 

セシリアは感想を求めたが、岩崎は半ば無理矢理推し進める。ついにセシリアが折れ、自分のサンドイッチを口に含んだ。すると次の瞬間、セシリアの顔が一夏や竹内と同じように青ざめていった。

 

「……………」

 

「わかったかい?君はこれを人に食べさせていたわけだ」

 

セシリアは口許を押さえながらなんとか頷いた。

 

話を纏めるとこうだ。セシリアは確かに料理本を見てサンドイッチを作った。だが彼女が見たのはサンドイッチの作り方ではなく、写真のみである。だから見た目は確かに美味しそうに出来上がったが、挟んだ具は奇想天外なものばかりで、味はお世辞にも美味いと言えるものではなかった。そうとは知らずに食べた一夏と竹内、そして確認のために食べたセシリアは、そのとんでもない味に顔を青くした次第である。

 

「……じゃあ何でアンタは平気な顔してるのよ、トシ……」

 

鈴音が呆れ気味にツッコんだ。そう、作った本人をも含めて3人もの犠牲者を出したサンドイッチを食べて、この男(岩崎)は平然としているのである。

 

「いやぁ、『何で』と言われてもねぇ……まぁ強いて言うなら、僕ァちょっとやそっとの味じゃあ動じないんだ……昔いろいろあってね……」

 

「………確か……古くなったものなんかを食べても普通にピンピンしてましたよね………」

 

その時、竹内が横から入り込んできた。

 

「まぁそうだねぇ、胃袋もいろいろあって鉄のように頑丈なのさ……って、竹内くん…もう大丈夫……には見えないね」

 

……心なしか少し顔色が良くなったようにも見えるが、まだまだ青さも残っていて、岩崎の言う通りまだ大丈夫そうには見えない。

 

「えぇ、まぁ………ゴホッ……実は彼、調理実習でクッキーを作ったときに各班から失敗作を回収しに回ってて……それであとで聞いてみたら『もったいないから失敗作をありがたく頂いた』って……」

 

「いやぁだって失敗したとは言え、せっかく作ったのをそのまま捨てるのはもったいないなぁって思ってね。んでもってちょうどお腹も空いてたから食品は無駄に捨てずに済むし、僕のお腹も満たされる……一石二鳥な訳だ」

 

「……………」

 

妙に論点がズレてる気がしないでもないが、一同は岩崎の過去に何があったのかを想像し、言葉を失った。

 

 ―――――――――

 

その日の夜。

 

竹内が同居人(ルームメート)のいない自室で授業の復習をしていると、

 

――コンッコンッ

 

部屋のドアがノックされた。

 

「あ、はぁ~い」

 

こんな時間に誰だろう……竹内はそう思いながら戸を開けた。するとそこには……

 

「あ、竹内くん。まだ起きていたんですね、よかった」

 

竹内が現れたことに安堵する真耶と……

 

「こんばんは、ユート」

 

大荷物を抱えたシャルルがいた。

 

「山田先生に、シャルルくん…それにその大荷物……もしかして………」

 

「はい、今日からデュノアくんもこの1030室で生活することになりますので、仲良くしてくださいね」

 

「わかりました」

 

竹内が快諾すると、真耶は安心して「ではまた明日」と言って去っていった。残された2人は互いに改めて「よろしく」と言い合い、部屋に入っていった。そしてその後はシャルルの荷解きがあったり生活ルールについての話し合いをしたりで、あっという間に消灯の時間となり、2人は眠りに就いた。

 

 ―――――――――

 

ところがその数時間後……

 

「……………ん?ん~…………」

 

眠っていた竹内が突然目を覚ました。辺りはまだ暗く、日の差し込んだ様子もない。そこで竹内がケータイの時計を見た。

 

「………午前3時………微妙な時間に起きちゃったなぁ…………」

 

いつも5時~6時には起きている竹内にとって、ここから二度寝をする時間的余裕はまだまだある。しかしそれはあくまで寝付けたらの話で、目が冴えたままでそのまま朝を迎える事だってある。一先ずこのままじゃ寝付けないと考えた竹内は、渇いた喉を潤すべく洗面所へ向かった。

 

「…………」グビグビ、プハァ

 

冷たい水が彼の体を内側から程よく冷やし、それがまた何とも心地良い。

 

 目的を終え、再び眠ろうとベッドに戻ると……

 

「………グスッ」

 

 すすり泣くような声が聞こえた。

 

 隣の部屋の声などが聞こえることはあっても、すすり泣き程度の声ならば霊でもない限りこの部屋以外のものが聞こえることなどあり得ない。そして幸いにも今回の発生源は霊などではなく、隣のベッドで眠るシャルルだった。

 

「………ヒグッ」

 

 現在この部屋の光源は常夜灯(所謂オレンジ色の電球)のみだが、そのわずかな光でもわかるくらい、彼の目元は涙で濡れていた。竹内はシャルルが何か悪い夢でもみているのかと考えていると、

 

「………おかあ……さん………」

 

シャルルが寝言を漏らした。

 

「(……そうか…考えてみれば彼は……日本に住んでて日本の学校に通ってる僕たちとは違って、住み慣れた国を離れて、頼る宛もなく文化の違う国で生活することになって、不安でいっぱいなんだろうな……)」

 

それが例え15歳の少年だとしても、不安に思う思わないは個人差である。それが今、寂しさとなって出てしまっているのだろう………ならば彼のために何が出来るか?それは彼の寂しさを少しでも癒せるように全力で彼と向き合い、彼に接すること。それがクラスメートであり、ルームメートであり、何よりも友達である自分の役目だ………と、竹内は考えた。

 

竹内はシャルルの目元をタオルで優しく拭うと、「僕が彼の助けになるんだ」と決意を新たにした。…………のは良いものの、流石にこの時間では何をすることもできないので、本来の起床時間までもう一度眠ることにした。

 

―――――――――

 

そして夜が明け、太陽が顔を出す頃……

 

竹内は一足先に目を覚まし、この日の分の弁当を用意していた。………もっとも、弁当というのはサンドイッチのことであるが………。

 

ちょうどそれが出来上がる頃……

 

「ん~……おはようユート……」

 

シャルルがアクビを噛み殺しながら声をかけてきた。

 

「おはようシャルルくん。……何だかまだ眠そうだね……もしかして、夢見でも悪かった?」

 

「えっ、何でわかったの?」

 

竹内自爆。

 

「あー…えーと、その……実は僕、昨日の夜中に一度目が覚めちゃったんだけど、その時のシャルルくんはうなされてたんだ。……いや、うなされてたのとは違うなぁ…悲しそうだった……?まぁとにかく、そんな感じだったんだ。だからそうかなって思ってね……」

 

「…………」

 

シャルルの表情が曇りを帯びてきた。

 

「……シャルルくん、何か困ったことや辛いことがあったら僕に相談してほしい。あまり役に立たないかもしれないけど、一緒に悩むことぐらいはできるはずから……」

 

「ユート……」

 

「あぁもちろん僕に相談し辛いこともあるだろうから、その時は僕じゃなくて岩崎くんや織斑くん、篠ノ之さんたち、それに先生方にだって相談すれば良い。みんな優しいから、きっと力になってくれるはずだよ」

 

懸命にシャルルを励ます竹内。その甲斐もあり……

 

「……うん、ありがとうユート。優しいんだね」

 

シャルルの顔に笑顔が帰ってきた。あまりに真っ直ぐでキレイな笑顔だったため、竹内は思わず照れてしまった。

 

「い、いやぁ、お礼なんていいよ。…まだ会って1日にも満たないけれど、僕はシャルルくんのことを友達だと思ってる。だから君が困ったときに、僕は君の力になりたい…そう思ってる。……まぁ、僕1人にできることなんてたかが知れてるけどね」

 

「そういうところがユートの優しさなんだね……ボク、顔を洗ってくるよ」

 

シャルルはそう言って洗面所へ行った。竹内は「なぜ自分はあんなにも照れたのだろうか?」と疑問を抱きつつサンドイッチを切り分けた。

 

―――――――――

 

ある日の放課後。今日も今日とて第3アリーナでは一夏たちがISの特訓をしている。

 

そこへ……

 

「ほぅ…貴様も専用機持ちらしいな………ならばちょうど良い、私と闘え!」

 

自らの専用ISを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒが現れた……。

 

「…いやだね、理由がないし」

 

対決を望むラウラに対し、一夏はそれに応じようともせず、あっさりと断った。

 

「………ならば闘わざるを得ないようにしてやる……!」

 

するとラウラの右肩にあるレールガンが火を吹いた!まさに不意をつかれた格好となった一夏は反応が遅れ、その場を動くことができない!そんな最中も砲弾はなおも迫ってくる……!果たして一夏はどうなってしまうのか……!?




襲い来るラウラ。彼女が一夏に固執し、倒さんとする理由は何故なのか……?一方、シャルルは何かを思い詰め、竹内に「話したいことがある」として一夏と岩崎を呼んでくるように頼む。彼の口から語られる話とは一体……?

…どーもどーも。年がら年中モヤモヤ、剣とサターンホワイトです。今回も最後結構無理矢理締め括ったような……その辺は次回冒頭で詳しく(?)やる予定なのでご了承願いたい……ワー,モノヲナゲルナー

さて、2-3話を振り返っていこう。まずはシャルルくんと岩崎くんのご対面。岩崎くんは何かを感じたようだが現時点ではまだその正体には気付けなかったご様子。

続きまして、岩崎くんの証言により明らかになった"IS学園男兄弟"という妄想設定。末っ子については前回にチラッと出てましたが……お気付きになられただろうか……?そう、「可愛い癒し系末っ子・シャルル」とのことだとか……。ちなみに残り3人は「クールなミステリアス系長男・仲俊」「真っ直ぐな熱血系次男・一夏」「優しい穏和系三男・優斗」ということになってるらしい……。

そして続きまして、私がやりたかったネタの1つ「岩崎の鉄の胃袋VSセシリアの手作り料理」。ぶっちゃけこれがやりたかったがために岩崎くんを登場人物に追加したとかしなかったとか……(笑)。軍配は鉄の胃袋に上がりました。
しかし鉄の胃袋は腹を下さなくなるだけで、味覚には影響しないということではないかと思うようになってしまう。そこで思い付いたのは岩崎くんの過去を捏造した本作オリジナル設定を追加すること。詳しい話は2章が終わり次第投稿する"登場人物紹介 2人の転校生編"の岩崎くんの項目に記載する予定なのでそれまでお待ちいただきたい……ワー,イシヲナゲルナー
またちなみに岩崎くんが美食家の端くれを名乗っていたのはゲーム本編の初期所持アイテム"月刊裏の美食会"に由来する、これまた本作オリジナル設定である。

さらに続きまして、シャルルくんの入寮の件。原作と違い本編では竹内くんのルームメートとなりましたが、この選抜理由は「同級生(クラスメート)で同性」という条件によって一夏と竹内に絞られた後、「竹内の方が問題を起こさないだろう」という担任(千冬)副担任(真耶)の判断である。
夜中に一度目が覚めちゃった竹内くんは、シャルルくんの涙に気付く。彼なりにいろいろ考えて決意を新たにしたが、皆さんご存じの通りシャルルくんの涙は竹内くんの思ってるようなものではない。……まぁ、多少はそうかもしれないけど。

そして最後。いろいろと端折っちゃったけどラウラ襲来。端折った部分は後書き冒頭で記した通り、次回の頭に書き込む予定ですので、その時をお茶の染みに……じゃない、お楽しみに!


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2-4:忌み嫌う理由 明かされる秘密

この辺から設定ガバガバになります……。開き直る形にはなってしまいますが、結局見切り発車ですから……。

そんなわけで、「何かここおかしくね?変じゃね?」ってのがあれば教えていただけると幸いです。

しかし今回は話の内容としてはカタツムリの移動速度並に進んでいないのだが………


時はわずかに遡り、ラウラ襲撃数分前。

 

「えぇっとね、つまり一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を理解していないからだよ」

 

最近一夏はシャルルから色々と教わるようになった。何故なら彼の説明は丁寧でわかりやすい。

 

他の例をあげると……

 

 

例1:篠ノ之箒

「いいか一夏!そこはズバーッといってだな、そこからこう、ガキッドカッと………」

 

…………擬音ばかり、要は自分の感覚でものを語っているため、教わる側には伝わりにくいだろう……。

 

例2:凰鈴音

「何となくわかるでしょ?感覚よ感覚……はぁ!?何でわかんないのよ、バカァ!」

 

もはや説明を放棄してるとしか思えない、完全に感覚的な説明………クラス代表戦も終わってせっかく一夏のコーチをできるようになったのに、この説明はないだろうに………。

 

例3:セシリア・オルコット

「いいですか?防御の時は右半身を斜め上前方に5度、回避の時は後方に20度、ですわ!」

 

こちらは逆に論理的すぎていて理解が追い付かない。……マシーンやロボットじゃないんだからそこまで細かく正確にはできないだろう……。

 

 

……といった感じで、はっきり言って一夏はこれまでコーチに恵まれなかったのである。それに比べたらシャルルの説明の方が遥かにわかりやすく、同性ということもあって一夏はシャルルにコーチを求めることが多くなった。そんなわけで………

 

「………ったく、なぜ私の説明でわからないで、アイツの説明でわかるんだ……」プクー

 

「………ちゃんと教えてやってるじゃないの、何なのよもう………」プクー

 

「……ア…アハハハ……」

 

一時的にコーチを外され、箒と鈴音は面白くなさそうに頬を膨らませている。そんな様子に竹内は困ったように笑うしかなかった。

 

―――――――――

 

ちなみにセシリアだが、この日はアリーナに姿を見せていない。実はみんなで屋上で昼食を食べた日に、自分の料理の腕をイヤと言うほど思い知らされたセシリアは後日、なんと岩崎に頼んで料理を習うことにしたのだ。

 

――――回想開始――――

 

「あの時、私がいかに愚かだったのかを思い知りました…………お願いします!私に料理を教えてください!」

 

セシリアは深く深く頭を下げて頼んだ。岩崎はビックリした顔から次第に表情を曇らせて尋ねた。

 

「うーん………僕、大したことは教えられないし、そのくせ味にはかなりうるさいけど………それでもいいかい?」

 

「構いません!それを承知の上でトシさん、あなたにお願いしたいのです!」

 

どうやらセシリアの意志は固く、岩崎が承諾するまでここを動かないようだ。

 

「………わかった。けど、僕の予定と君の予定、さらに調理室の空き時間………この3つの条件が重なる日じゃないと本格的なことは教えられないよ。申し訳ないことに、僕にもいろいろと事情があるからね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

やがて岩崎が折れる形となり、セシリアの料理上達作戦が始まった。

 

――――回想終了――――

 

それから数日、2人の予定が合う日に岩崎はセシリアに料理の基本を教え込み、セシリアの疑問に答えたりした。そして調理室の都合がついたこの日、初の実習が行えるということで、ISの訓練には顔を出せないということらしい。その様子は、また別の話ですることにしよう。

 

―――――――――

 

さて、IS訓練に視点を戻すと、一夏がシャルルからアサルトライフルを借りて射撃訓練をしようしている。

 

「えーっと……構えはこうか?」

 

「もうちょっと脇を閉めて……そう、そんな感じ」

 

シャルルが一夏の後ろから支えるような格好でサポートする。あまりにも密着して補助をしていたため、好奇やら羨望やらさまざまな眼差しが2人に降り注ぐ。

 

やがてターゲットが現れ、一夏はそれを撃ち抜いた。するとすぐさま次の的が現れてそれも撃ち抜く。この繰り返しで5つの的を連続で撃ち抜き、その合計点が表示された。今回はシャルルの補助もあってかなりの高得点だった。

 

「おぉ…」

 

「どう?」

 

感心する一夏にシャルルが感想を求める。

 

「まぁ…なんか、あれだな。とりあえず速いって感想だ……お、そうだ、優斗もやってみろよ!」

 

「え、僕?」

 

唐突に話を振られ、竹内は戸惑った。

 

「だってお前の汐風は射撃系武装が多いだろ?ひょっとしたら何かコツがつかめるかもしれないと思ってな、他人がやってるのを見るのも勉強の一環。だろ?」

 

「そうだね、それにボクもユートの今の実力を見てみたいし……」

 

「………わかった。とりあえずまずは………?」

 

流される形ではあったが、竹内が射撃訓練をやろうと武器をコールしようとするが、その前に彼の視線はある一点に集中することになった。

 

「?」

 

「どうしたんだ?」

 

一夏は動きが止まった竹内を不思議に思いながらどうしたのかを尋ねた。

 

「いや、ちょっと見慣れないISがいて……」

 

竹内の答えに、シャルルと一夏も同じ方向を見てみる。そこはカタパルトの射出口であり、何者かが佇んでいた。

 

「あの黒いIS?」

 

「……のようだな……えーっと乗っているのは……」

 

「銀色の長髪に眼帯……って、ボーデヴィッヒさん?!」

 

―――――――――

 

3人が黒いISの存在に気付いた、ちょうど同じ頃……

 

「ねぇ、ちょっと………」

 

彼らの訓練を見に来ていた生徒たちもその黒いISに気付いた。

 

「嘘っ、あれってドイツの第3世代型じゃない!?」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

彼女らも自分なりの情報網を駆使してその正体を確かめる。

 

―――――――――

 

そして場面は戻り、前回終盤。黒いISの操縦者ラウラ・ボーデヴィッヒは地上の一夏たちを見下ろしている。

 

「ほぅ……織斑一夏……貴様も専用機持ちのようだな………ならばちょうど良い、私と闘え!」

 

「…いやだね、理由がないし」

 

ラウラが勝負を持ちかけるも、一夏はあっさり断った。

 

「……貴様に無くとも、私にはある!」

 

だがラウラはなおも食い下がる。

 

「なら今月末の学年別トーナメントで闘えばいい、何も今やる必要はないだろ?」

 

それでも一夏は乗ってこなかった。そんな反応を受け業を煮やしたラウラは……

 

「………ならば闘わざるを得ないようにしてやる……!」

 

ISの右肩についているレールガンを発砲した。まさかいきなり撃ってくるとは思ってもみなかった一夏は完全に反応が遅れてしまった。そんな一夏を守ろうと、シャルルが一夏の前に出てくるが……

 

「……ぐっ……!?」

 

「ユート!?」

 

機動力で最も秀でた汐風を纏った竹内がさらに前に立ちはだかった。しかしいかに機動力に優れていようとも、それを操る竹内の反応速度はまだまだIS素人に毛が生えた程度でしかなく、彼はシールドを展開させる前に直撃をもろに喰らったのである。

 

「ふん、自らを犠牲にそいつを庇うか……貴様は『臆病者』だと思っていたが、どうやら評価を改める必要があるようだな……己の命を無駄に投げ捨てる『愚か者』とな!」

 

「なっ、ボーデヴィッヒ……お前!!」

 

「ま、待て、待つんだ織斑くん!」

 

ラウラに竹内を酷評され、腹を立てた一夏が突っ込もうとするも、それを制したのは他でもない竹内だった。

 

「何で止めるんだよ!お前はあんなこと言われて悔しくないのかよ!」

 

「悔しくないはずないだろう…!けど僕らがいくら叫んだところで、現状彼女の評価は変わらないだろう……それに実力的にもおそらくボーデヴィッヒさんの方が上、もしこのまま何の策もなく突っ込んでも、返り討ちに遭う可能性の方が高い!」

 

竹内が熱くなる一夏を何とか抑えようとしていると……

 

『そこの生徒!何をやっている!』

 

アリーナ監視役の教師が放送で呼びかけた。

 

「……ふん、今日のところは退いてやる」

 

今はこれ以上ことを大きくする気がないのか、ラウラはその放送を聞くとISを解除し、もう一度一夏たちを睨むと立ち去った。

 

―――――――――

 

その日の特訓終了後、一夏とシャルルは更衣室で着替えようとしているところだった。

 

「一夏…大丈夫?」

 

シャルルが心配そうに声をかけてきた。

 

「ん?あぁ…俺のことなら大丈夫だ。けど俺のことより優斗の方が心配だ……」

 

「………そうだね」

 

その竹内は今、訓練の後片付けに手間取っていて、まだこの場にはいない。

 

「じゃあボク先に行くね」

 

一夏がISスーツの上を脱いでいると、シャルルがISスーツの上に制服の上着を羽織るだけの状態で着替えを終え、自室へ帰ろうとした。

 

「え、ここでシャワー浴びていかないのかよ?」

 

「う、うん、自分の部屋のシャワーを使おうかなって……ユートにも伝えておいて……」

 

「何だよ、たまには一緒に着替えようぜ?」

 

シャルルが先に更衣室を出ようとするが、一夏が回り込みそれを阻止した。

 

「え、いや…ボクは……」

 

「そうつれないこと言うなよ!」

 

固まるシャルルの肩を一夏が抱き寄せる。……尤も本人は肩を組むという感覚でしかないのだが…。

 

……さて、ここで彼らの格好について少し振り返ろう。一夏は先程記した通り、ISスーツの上を脱ぎ、上半身裸の状態。そしてシャルルについても先程記した通り、ISスーツの上に直で学園の制服の上着を軽く羽織っただけ。つまるところ2人とも薄い格好をしているのである。そんな状態で2人は今、密着しているわけで……

 

「う、うわあああああああああ!!」

 

そんな状況に耐えきれなくなったのか、シャルルは一夏の腕から逃れ、悲鳴をあげて走り去った。

 

「な、何だ?」

 

いきなり逃げられた形になった一夏はおいてけぼりを喰らっている。

 

「あ、いたいた……今シャルルくんが逃げるように走っていったんだけど……」

 

ここでようやく後片付けを終えた竹内が、シャルルと入れ替わるような形で更衣室に入ってきた。彼の疑問に、一夏が説明をすると……

 

「……えーっと……こういうことはあまり聞きたくないんだけど……」

 

竹内は渋い顔でこう前置きをした。

 

「何だよ?」

 

「うん………織斑くんって……もしかして『そっち系』の人なの……?」

 

「はぁ?何だよそれ?」

 

「………これもあんまり言いたくないから『そっち系』って伏せてたんだけど……じゃあストレートに、『君は同性愛主義者か』って尋ねたんだけど……」

 

「はぁ!?そんなわけないだろ!?」

 

竹内からのとんでもない質問に一夏は全力で否定した。

 

「…だ、だよね……まぁ今の質問は冗談にしても……」

 

またも妙な前置きをする竹内に、一夏が「って冗談かい!」とツッコんだ。

 

「君のやったことはそれに準ずる発言だったってことさ……何より、嫌がっている相手の気持ちを無視して…ってのは感心しないよ。もし僕が彼の立場だったら……そうだね、次に会う時からちょっと距離をとっちゃうかも」

 

「うっ……そんなにマズかったのか?俺のやったことって……」

 

「……シャルルくんが僕と同じ考えをしているなら、かなりマズイかと……正直僕もちょっと引いてるし……」

 

一夏は自分の発言のマズさにようやく気付き青ざめた。

 

―――――――――

 

その後一夏は竹内と別れ、1人学園を歩いていた。彼は道々、転校初日のラウラに叩かれた方の頬を擦りながら彼女のことを思い出していた。

 

「(アイツは確か、俺をあの人の弟とは認めないと言った……。あの人って言うのは、千冬姉のことだろうな。それにアイツは、千冬姉のことを『教官』と呼んでいた……ってことは、アイツは千冬姉がドイツで軍の教官をしていたときの………)」

 

そんなことを考えながらしばらく行くと……

 

「答えてください、教官!何故こんなところで!」

 

「何度も言わせるな、私には私の役目がある。…それだけだ」

 

例の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが千冬に何かに答えるように訴えてた。対して千冬は全く取り合おうとせず、流すように答えている。一夏は木陰に隠れ、そのやり取りを聞いてみることにした。

 

「こんな極東の地で、何の役目があると言うのですか!お願いです、教官!我がドイツで、再びご指導を!ここではあなたの能力は半分も活かされません!」

 

「…ほぅ」

 

どうやら彼女は千冬にもう一度ドイツ軍の教官になってもらおうと引き抜こうとしているようだ。

 

「大体、この学園の生徒は、教官が教えるに足る人間ではありません!危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている…!そのような者達に、教官が時間を割かれるなど……」

 

「……そこまでにしておけよ小娘」

 

「ッ!?」

 

千冬が突如、ラウラの話を遮った。

 

「少し見ない間に偉くなったな……15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る……」

 

「わ、私は……!」

 

千冬の見透かしたような言葉に、どんどんラウラの旗色が悪くなり、口数が減る。

 

「寮に帰れ、私は忙しい…」

 

「……くっ!」

 

ラウラは言いたいことがまだまだあったはずなのに何も言えず、そのまま走り去った。千冬はラウラが遠く見えなくなったのを確認すると……

 

「そこの男子!」

 

「ギクッ」

 

気付いていたのか、一切振り向かずに何者かが、それも誰が隠れているのかを言い当てた。一方、バレていないと思っていた一夏は隠れているのがバレて心臓が止まりそうになるくらいビックリした。

 

「盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」

 

「な、何でそうなるんだよ!千冬ね「学校では『織斑先生と呼べ』と言っている!」………は、はい」

 

異常性癖と言われ、一夏は当然抗議したがいつもの調子で「千冬姉」と呼んでしまい、そこを指摘されてガクッとうなだれてしまった。

 

「くだらんことをしてる暇があるなら自主訓練でもしろ。このままでは、月末のトーナメントで初戦敗退だぞ」

 

「わかってるって!」

 

「…そうか、ならいい……」

 

千冬はそう言って去ろうとしたが……

 

「なぁ、待ってくれ!」

 

一夏が呼び止めた。

 

「さっきの……ボーデヴィッヒが言ってたことだけど……『千冬姉の弟とは認めない』って……あれってやっぱり、俺のせいで千冬姉が2度目の優勝を逃したことを……」

 

「終わったことだ、お前が気に病む必要はない。ではな……」

 

一夏は何かしらの真相を尋ねようとしたが、千冬はこれにもまともに答えることはなく、そして今度こそ彼女は去っていった。残された一夏は、過去を振り替えると共に決意を新たにするのであった。

 

―――――――――

 

ちょうど同じ頃……

 

「………なるほどね」

 

誰かが1人、納得したように頷いていた。

 

―――――――――

 

一方、竹内はといえば……

 

――コンッコンッ

 

「シャルルくん?僕だけど、入っても大丈夫?」

 

自室の前に着き、先に帰っているであろう同居人に入室許可を求めた。しかし、いつまで経っても返答がない。それもそのはず、竹内はその理由を今になって思い出した。

 

「(…っとそうか、織斑くんが言うには確か『先にシャワーを使う』だったっけな…)」

 

竹内は鍵の掛かりを確かめ、「ただいま」を言って中に入った。中に入ると、廊下にいたときにはあまり聞こえなかったシャワーの音がはっきりと聞こえる。その音が、竹内にあることを思い出させた。

 

「(しまった……確かボディーソープを切らしてしまったんだったっけ……)」

 

竹内は自分が使っている机の脇から新しいボトルを取り出した。それを手に取り、竹内は洗面所の扉をノックした。シャワーを使う音がするので当然リアクションはないが、相手は裸を見られることを嫌がるシャルルである、そのため竹内はかなり慎重になる必要がある……と思っているのだ。

ましてやこの件で一夏に気を付けるようにと注意を促したのがわずか数十分前のこと。自分が無作法に扉を開けるという愚行を行っては何にもならない。

 

さて、シャワー使用中ということがわかった竹内は洗面所の扉を開け、今度はシャワールームの扉をノックした。

 

「ひ、ひゃい!」

 

すると中にいるシャルルはビックリして変な声をあげてしまった。

 

「あーちょっとゴメンよ…ボディーソープ、切れていたでしょ?新しいヤツ、ドアの前に置いておくから……」

 

「う、うん、ありがとう…」

 

 

竹内は言った通りボトルをドアの前に置き、すぐに洗面所を出た。

 

――――数分経過――――

 

やがて止めどなく聞こえていたシャワーの音が止んだ。シャルルが着替えているんだろうな…と、竹内は思った。

 

「……ユート……」

 

音が止んでからしばらくすると、竹内を呼ぶ声が聞こえた。もちろんそれはシャルルの声だが、ついさっきまで聞いてた明るく元気な彼の声ではなく、いつぞやに聞いた悲しげな声だった。竹内はすぐに洗面所の扉の前に行った。

 

「どうしたの?」

 

扉は開かれることはなく、ただシャルルが寄り掛かっているのか、ギシギシという音が響き渡る。

 

「………話したいことがあるんだ。君たち男の子みんなに。だから、一夏とトシを呼んできてくれる?」

 

「………うん……いいけど、何で急に………」

 

「いいから早く!」

 

「は、はい!了解しました~!」

 

突然、男子メンバーを呼ぶように言われた竹内。理由を問おうとしたが、シャルルに急かされて竹内は大慌てで一夏と岩崎を探しに行くのだった。

 

――――さらに数分後――――

 

竹内は何とか岩崎仲俊と織斑一夏の両名を呼び出すことに成功し、1030室に戻ってきた。戸をノックして、中から入室許可の声がして、それに従い部屋に入る。入室人数が3人であること以外はいつもと何ら変わらないことだった。…………ここまでは。

 

「連れてきたよ、シャル……ル……くん?」

 

竹内は目の前の光景に絶句した。続いて入ってきた一夏も己の目を疑い、岩崎も言葉を失った。

 

目の前の人物は確かにシャルルの顔をしていて、上下ジャージ姿であったが、その胸元に目をやると、男の大胸筋と言い張るにはかなり無理のある、むしろ女性特有のそれと思しき膨らみがあった。

 

「来てくれてありがとう…………それと、今まで騙しててゴメン………これがボクの本当の姿なんだ………」

 

数時間前まで"シャルル・デュノア"を名乗る少年と思われていたその人は、誰がどう見ても女性の姿をしている。彼……否、彼女はその事を打ち明け、3人に頭を下げて詫びた。しかし、この場にいる全員がそのことを完全に理解するまで多少の時間を要するのだった………。




シャルル・デュノアは女だった。どういう事情なのか、そして今後どうするのかを彼女に問い質す。そんな中、竹内はあることに引っ掛かりを感じる………。
一方で、トーナメントが近付くというそんな時期にまたしてもラウラ・ボーデヴィッヒの襲撃が発生する!

to be continued...


どうも、何とか月1更新を守ることが出来そうでホッとしている剣とサターンホワイトです。

ここ最近では類を見ないくらいの体調不良に何度も襲われ、何度か6月の更新を見送ってしまおうかと思いました…。まぁ結果として更新を優先し、タグや今回の前書きにある通り見切り発車という形に相成りましたが、こんな出来の悪い文章や構成になってしまうくらいなら更新が遅れた方がマシではないかとも思うわけで………。

そこで来月以降、もしかしたら更新ができない月が出てくるかもしれません。そこで、もしそんな状況になってしまった場合、月最終日に活動報告で「今月休載のお知らせ」とでも載せておきますゆえ、どうかご了承願いたく候う……

ではまた……


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2-5:どうする?どーすんのこれ?どーすんのよ!!?

みなさん、大変長らくお待たせしてしまって誠に、誠に申し訳ありませんでした。2章5話、ようやく更新です。が、それに当たり1つ報告が……

先月末の活動報告をご覧になったのなら薄々お察しの事かと思いますが、前回の予告分を1話でやるにはあまりにも文字数を使いすぎたために、分割することにしました。それでも今回は分割調整した結果5桁に届いてしまいましたが……

それでは例によって、気分など害された場合は直ちに閲覧を中止し、ブラウザバックすることわおすすめします。

あ、ちなみに今回のサブタイは十数年前に流行ったCMから……


竹内は目の前の出来事にまだ理解が追い付いていなかった。シャルルから明かされた秘密「ボクは本当は女の子だったんだ」……今まで信じて疑わなかった事実が覆され、頭の中が真っ白になった。

 

「お、おい優斗……」

 

隣の一夏もそれは同じようで、竹内に話しかける声も動揺しているのが見え見えだ。

 

「な、なんだい?」

 

「お前さ、部屋を間違えたんじゃないか?」

 

一夏はこの現実を受け入れらないあまり、妙なことを言い出した。

 

「……いや、そんなはずはない……と思うけど……」

 

「じゃああれだ!この人はシャルルの双子の姉か妹なんだ。実はシャルルと一緒に転入してきて、んで今シャルルを訪ねてきたんだな」

 

「な、なるほど…」

 

「ボケが長い!それにボクに兄弟姉妹はいないよ!ユートも簡単に納得しないで!」

 

一夏と竹内の無駄に長いコントにシャルルがツッコミを入れた。

 

「2人とも、現実を受け入れよう……この人が紛れもなくシャルル・デュノア、君たちのクラスメートだ」

 

「「………………」」

 

「ト、トシはトシで落ち着きすぎじゃない…?」

 

現実逃避する2人を岩崎が宥める。そんな岩崎の冷静さが気になり、シャルルはそのことを尋ねた。

 

「あーうんうん、実を言うと僕ァ初めて会った時から薄々『そうなんじゃないかな』って思ってたんだ」

 

そう、岩崎は薄々感付いていたのだ。確かに数分前にこの部屋に入ったとき、シャルルの姿を見て言葉を失いはしたが、驚いた様子はなくむしろ「やっぱりな…」と納得のいった感じだった。

 

「え、えぇぇ!?」

 

「マジですか!?」

 

「…さ…さすが岩崎くん…」

 

ほぼ見抜いていた岩崎に驚きを隠せない3人。

 

「……何で教えてくれなかったんですか」

 

今度は一夏が非難交じりの目をして尋ねてきた。

 

「うんうん、それはその時はまだ確信が持てなかったからさ。結果として事実だったけど、本人にも事情があるかもしれないのに、変に騒ぎ立てるのはデュノアさん(この子)に悪いだろう。そ れ に、その様子じゃ言ったところでどうせ信じなかったんじゃないのかい?」

 

「う……」

 

が、岩崎の反撃に遭い敢えなく撃沈してしまう。

 

「まぁ何にせよ、この話をするにはまず一旦全員が落ち着くことが必要だ。そこでお茶を淹れようと思うんだけど……竹内くん、そういうわけだからこの部屋のお湯とお茶っ葉、あとついでに予備の湯呑みもちょっと使わせてもらうよ?」

 

「あ、はい……わかりました……」

 

――――と言うわけで数分後――――

 

「ホイ、お待たせ」

 

一同は岩崎が用意した緑茶を頂くことにし、飲んでは岩崎にお礼を言ったり感想を言ったりしている。

 

やがて、それぞれの湯呑みの底が見えてきた頃……

 

「さぁて、そろそろみんな落ち着いた頃だよね。それじゃあ本題に戻るとしよう」

 

"落ち着く"を通り越して緩んでいた一同の顔が引き締まった。

 

「まずは……デュノアさん、男装をするほどの事情ってやつの説明を頼めるかい?」

 

やはりまずは事の起こりを知る必要がある、そう踏んだ岩崎はまず事情説明を尋ねた。

 

「……うん」

 

どことなく浮かない表情をしていたシャルルだったが、覚悟を決めたか、深呼吸をした。

 

「……実は、実家からの命令でね……」

 

彼女の話によると、彼女はデュノア社社長の一人娘で、その社長から男装を命じられた。さらに彼女の口からまたもとんでもない事実が明かされる。

 

「………ボクはね……父の本妻の子じゃない……愛人の子なんだ……」

 

「「「!!」」」

 

ただ事ではない様子に、3人は物凄く驚いた。

 

曰く、2年前に彼女の母親が亡くなった際にデュノア社長に引き取られ、その後の検査でIS適性が高かった事が判明し、非公式にテストパイロットをやらされていた。それでも、社長である父と話をしたのはたったの2回程度、時間にしても、1時間にも満たないらしい。おまけに本妻とされる女性からは泥棒猫呼ばわりされた挙げ句叩かれるなど、事実上居場所がない状態だったとか。

その後、デュノア社の経営状況は悪化、それは第3世代型ISの生産の目処が全く立っていないことによるものらしい。この会社は世界シェア第3位を誇る量産型IS"ラファール・リヴァイヴ"があるが、結局それは第2世代型、最新型のIS開発の目処が立たない会社に国からは支援できないと、最悪開発許可まで剥奪されると言うところまで追い詰められているとのこと。

 

「それが、君の男装にどう繋がるんだい?」

 

岩崎が優しく尋ねた。

 

「………簡単なことだよ、ボクを男と言うことにしておけば、その存在だけで広告塔になる……それだけじゃない、同じ男子なら君たち特異ケースにより近付くことが出来る……そう、ボクは君たちのデータを盗んでこいって言われてる……要するに、君たちをスパイをしに来たんだ……」

 

「…………」

 

一夏は何か思うところがあるのか、険しい顔つきとなった。

 

「なるほどね……君が男装をしなければならなくなった理由は、間接的とは言え僕たちにもあるのか……」

 

対して岩崎はボソッと呟いた。

 

「………本当の事を話したら少しだけ気が楽になったよ。ボクの話を聞いてくれてありがとう。それと、今まで黙ってて……ううん、騙しててゴメン…」

 

シャルルは溜まりに溜まっていたものを概ね吐き出し、ややスッキリしたような表情となった。だがそれも一瞬、謝罪をするときには申し訳なさからか、また曇ったような顔色となった。

 

「いやいや、こちらこそ本当の事を打ち明けてくれてありがとう。………ところで、君はこの後どうなるんだい?」

 

「…………そうだね……3人にもバレちゃったし、本国に戻されて、良くて牢獄行きかな………」

 

「…………ふざけるなよ………」

 

ここまで黙っていた一夏がついに口を開いた。

 

「一夏?」

 

「……俺も子どもの頃、千冬姉と一緒に両親に捨てられたんだ………」

 

「っ!」

 

「……へぇ、そんなことが……」

 

「俺のことは良い、今さら会いたいとも思わないし、会って話すことも何もない!そんなことよりシャルル、お前はここにいればいい」

 

「お、何か考えがあるのかい?」

 

一夏が力強くシャルルに言った。キョトンとして声がでないシャルルに代わって岩崎がその方法を尋ねる。そんな岩崎に一夏は「当然!」といっておもむろに生徒手帳を開いた。

 

「IS学園特記事項第21項:本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。………これなら少なくとも3年生の3月までは安全だ。それまでに何か策を練ればいい」

 

「なるほどねぇ、その手があったか……」

 

「特記事項って55項もあったのに、よく覚えていたね」

 

「…へへっ、こう見えて勤勉なんだよ」

 

一夏の出した案で、事態はよくなる。そう思ったのもつかの間……

 

「確かに良い案かもしれない……けど織斑くん、その作戦には致命的とまでは言わないが、いくつか穴がある」

 

岩崎が喜びムードに水を差すような一言を告げた。

 

「なっ!?なんですか、その穴って!?」

 

自分の案にケチをつけられ、一夏はムッとして岩崎に尋ねた。

 

「まず1つ・彼女の秘密は僕ら4人だけの秘密と言うことになるが、その秘密を守りきれる保証がない」

 

「はぁ?そんなの簡単じゃ……」

 

「果たして簡単と言えるかな?みんなはシャルル・デュノアの美貌に魅せられて気づいていないみたいだけど、立ち居振舞いがどうみても女の子のそれだったよ。僕でも気づけたんだ、僕より鋭い人ならもうとっくに気づいているはずさ………僕の見立じゃあ……そうだね、織斑先生にはもうバレていると思うよ」

 

「………でも千冬姉なら……」

 

「そう、織斑先生なら何ら悪いことにはならないだろう……けどもしも彼女の事を良く思わない者がこの秘密を知ったら………」

 

「だから!そうならない為にも俺たちが守っていけば「甘いね」何ッ……!?」

 

「嘘を貫くと言うのはかなりエネルギーを消耗するものだ。自然にしてるつもりでも、隠そう隠そうとして次第に動作がぎこちなくなり、そこからボロが出る……。竹内くんみたいな正直者には結構な苦行だ。それにね織斑くん……前に僕が『君は考えてることが顔に出やすいタイプだ』って言ったのを覚えているかい?秘密を守ろうって言うのに、その癖は致命的だよ?」

 

「………くっ……」

 

一夏は岩崎の言葉を否定したかったが、出来なかった。前にも岩崎に指摘されたことがあったこの癖は、まだ治っていなかった。

 

「2つ・この学生寮は日本の所謂お盆や年末年始の時期は誰1人として残ることはできず、ここを出なければならない……所謂閉寮期間ってやつだね」

 

「そ、その時は俺たちの家に………」

 

「おいおい、根本的なことをド忘れしてるんじゃないのかい?そうするにはここを出なければならないんだよ?その間は僕らが責任を持って彼女を奇襲や誘拐犯その他から守らなくちゃいけない。けど、それだけの実力なんて僕らにある?」

 

「………うぐっ………」

 

「まぁあってもなくても、僕たちみんなで4人……相手に数で攻められちゃ多勢に無勢……歯が立たないだろうね。今から訓練しようにも、僕たち()()()()()()ほぼ()()()()()で足並み揃えて()()()()()でやらないと、僕たちのうち誰もが夏休みを安心して過ごせやしないだろうね」

 

岩崎の言うやることの多さに、一夏は目が回りそうになった。

 

「3つ・君はこれ以上彼女を苦しめるつもりなのかな?」

 

「………はぁ………?」

 

まだ何か言われるのか……一夏は気が遠くなりそうになった。

 

「さっき彼女が言ってたよね。『本当の事を話したら気が楽になった』って。あとこれは僕がさっき言ったことけど、嘘を貫くことは思った以上に大変なことだ。主に精神的にキツいものがあるね。……それなのに織斑くん。君のその作戦はせっかく気が楽になったって言う彼女を、また苦しめるつもりかい?」

 

「………………っ」

 

「せっかく出してくれた意見だけど、この作戦は何の解決にもなってない……むしろ、問題を先送りにしているだけだ」

 

「………」

 

一夏はここまで言われるとは思っておらず、これまでの岩崎の評価にもう正直心が音を立てて折れそうだった。シャルルも一夏の策の穴を岩崎からさんざん聞かされ、表情がまたしても落ち込んでしまった。

 

「さて…さっきからずっと黙ってるようだけど、竹内くんは何か良い案を思い付いたかい?」

 

次なる意見を求め、岩崎はシャルルが秘密を明かして以降、一言も発していなかった竹内に声をかけた。

 

「…………………」

 

しかし竹内は今の岩崎の言葉が聞こえていなかったのか、すっかり考え事にハマりこみ、心此処に在らずといった様子だ。

 

「オイ、優斗!」

 

「っ!?あ、はい、何でしょう?」

 

一夏が少し乱暴に呼び掛けることで、ようやく竹内が反応を見せた。

 

「お前なぁ、シャルルの一大事ってときに……もっと真面目にやれよ!」

 

「………ごめん………どうしても引っ掛かることがあって………」

 

一夏は緊急時にのんびりしているように見えた竹内に腹を立て、強く当たってしまった。対して竹内は、一夏の言っている通り自分に落ち度があることがわかっているので特に反論もせずすぐ謝った。

 

「それにしても…普段はどちらかと言えばすぐ決める方の君が、1人でここまで深く考え込むなんて、なかなか珍しいね」

 

一方で、岩崎は竹内の考え事に興味を持ったようだ。

 

「そこまで引っ掛かることって何か、教えてはくれないかい?」

 

「ちょ…トシさん!そんな無駄話をしている余裕は……」

 

「まぁまぁ織斑くん、焦らない焦らない。ふとしたところから彼女を救い出すヒントが出てくるかもしれないだろ?」

 

「………くっ……っ」

 

一夏がそんな話を聞く余裕はないと抗議した。しかし岩崎に諭され、しぶしぶ彼に従うことにした。

 

「さぁ、聞かせてくれよ竹内くん、君の引っ掛かりとやらを」

 

改めて岩崎が問う。

 

「………気を悪くしたらごめん、僕が気になっているのは………デュノア社長の事だよ」

 

「……っ!」

 

『デュノア社長』この単語が出てきた瞬間、シャルルの身体がピクッと震えた。

 

「ほぅ、そのデュノア社長がどうしたんだい?」

 

「はい………その、デュノア社長は本当にシャルルく……じゃない、シャルルさんを邪険に思っていたのかなって………」

 

「「「……………」」」

 

1030室に妙な間が空く。

 

「何を今更な事を言ってるんだ!だから今シャルルがこんな目に遭ってるんだろう!」

 

「だけど……」

 

「自分の子にこんなことをさせる親だ!まともじゃないに決まってる!」

 

一夏はまるで自分の事のように腹を立てて捲し立てる。

 

「!…………じゃあ聞くけど、織斑くんは何でそこまで言い切れるの?」

 

「っ……それは………」

 

竹内からまさか反論されるとは思わず、一夏は怯んでしまった。

 

「……それは……」

 

「シャルルさん、デュノア社長……否、君のお父さんのことはどれくらい知ってる?」

 

「え?えーっとぉ…………」

 

シャルルは急に話を振られて戸惑った。

 

「さっき少し言ったけど、父の存在を知ったのはお母さんが亡くなってからなんだ……だから知ってることと言えばボクの父であることと、デュノア社の社長であることと……あと名前…これくらいかな…?」

 

「(要するに全然知らないってことか……)わかった、ありがとう」

 

竹内はそれだけ言ってもう一度一夏に向き直った。

 

「事情があったにしろ、社長の実の娘であるシャルルさんが多くを知らないんだ、となるとそれ以上に社長に詳しい人はデュノア社の社員……いや、一番詳しいのは本妻の人でしょう。日本人で数ヵ月前までIS会社と一切関わりのなかった織斑くんが、フランスのIS会社の社長さんのことをそれ以上深く知っているとは思えない。だからデュノア社長のことをそこまで悪く言い切るのはおかしいと思うんだ」

 

「くっ…………それならお前はどうなんだよ、優斗。お前だって、デュノア社の社長が善人だと言う証拠でもあるのかよ!」

 

「ないよ。僕だってデュノア社長のことは全然知らないからね、証拠なんてあるはずがない……だから、織斑くんの言う通りのひどい人なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない………いずれにしろ、この話は結局憶測の域を越えず、これ以上の議論は意味をなさない」

 

「っ…………」

 

いつになく強めに当たってくる一夏に対し、竹内もらしくなく冷たい対応をとっている。このままではまともな話し合いもできず、シャルルを救うどころではなくなってしまう。そのシャルルもそんな2人をみてオロオロしてしまっている。

 

「はいはいそこまで……織斑くん、何をカリカリしてるんだい?」

 

みかねた岩崎が間に入り、まずは一夏に話を聞いた。

 

「…………別に俺はカリカリなんか」

 

「いいやしてるね。主に僕が竹内くんに話を振った辺りから特に。そんなに自分の意見が通らなかったのが悔しいのかい?」

 

「……!!」

 

一夏の表情がギクッとなった。どうやら、そういうことらしい。

 

「やれやれまったく……子どもじゃないんだからそんなことで拗ねるんじゃないよ、みっともないったらありゃしない……」

 

「……………」

 

一夏は罰が悪そうに顔を逸らした。

 

「竹内くんも、織斑くんの怒りが不当なものだとしても、その態度はないんじゃないのかい?君らしくもない」

 

「…………」

 

竹内も決まりが悪そうに目を逸らした。

 

「いいかい?彼女の秘密を正式に知っているのは僕たち3人だけなんだよ?それなのに内部分裂なんて起こしてみなよ、星の数のような人間を相手にするのに3人だけでも大変なのに、連携もとれず個別でやるとなったら僕たちは全滅、デュノアさんも二度と陽の目をみることはなくなってしまう………」

 

「「……………」」

 

「それじゃあ本末転倒だ。だから内輪揉めはよそう。2人とも、デュノアさんを助けたいんだろ?だったら今は個人的恨み辛みは棚上げしよう」

 

岩崎はまず竹内と一夏に仲直りを求めた。シャルルは心配そうに行く末を見守っている。

 

「……嫌な態度をとって、ごめんなさい……」

 

先に竹内が謝り、右手を差し出した。

 

「……俺の方こそ、当たり散らして悪かった……」

 

一夏も己の非を詫び、竹内の握手に応じた。これで男子生徒グループ(仮称)での内部分裂は回避された。

 

「よし、それじゃあ話を戻して……竹内くん、さっき君は『デュノア社長が善人か悪人かを議論するのは憶測の域を出ず意味をなさない』って言ってたけど、それならここからどうするんだい?」

 

岩崎が仕切り直しとばかりに尋ねる。

 

「…………真実を知る、そのためにシャルルさんとデュノア社長とで直接話をする必要がある。仮にも血の繋がった父娘なのに、まともな会話がないって言うのも寂しいじゃない?だから決別するにしても、元の鞘に収まるにしても、1度真正面から話をした方がいい……と、僕は思う」

 

「っ!」

 

「ふむ」

 

「な、何!?」

 

デュノア社長と話す……竹内が切り出した危険とも思える方法に、三者三様の反応を見せるシャルルたち。

 

「そんなことをしたら………もしも相手が俺の言った通りの悪人だったら………」

 

中でも一夏はデュノア社長に対する不信感が強く、直接対談に難色を示した。

 

「そう、そこが問題なんだ……もし相手が織斑くんの言う通りの人物だった場合、最悪シャルルさんを危険に晒す事になりかねない……そこで、僕たち4人とは別に仲介役が必要になる」

 

「仲介役ねぇ……誰か候補とかはいるのかい?」

 

「うん……まず条件は………」

 

竹内の考える理想の仲介役の条件

・自分達のことをよく知っている人

・相手方のこともよく知っている人

・それなりの地位・知名度・実力のある人

・フランス語を通訳できる人

 

「………ってのを考えているんだ。で、これらの条件がほぼ揃った候補者が2人ほどいるんだけど………」

 

「2人って……まさか、そのうちの1人は千冬姉か……?」

 

「……うん、その通り……織斑先生だ。僕たち4人の事情をまとめて詳しく知っている人は、担任であるこの人を置いて他にいないだろう」

 

「それなら、山田先生は?俺たちの副担任だし、あのIS技術もあるし、地位だって……」

 

どうも一夏は千冬を仲介役にすることに難色を示しているようだ。そこで、代わりに真耶はどうかと候補にあげた。

 

「うん……山田先生も候補の1人だった。確かに山田先生は元日本代表候補生……、けど本人も言ってた通り候補生止まりで国家代表にはなれなかった。……こういう言い方したら失礼かもしれないけど、結局山田先生は一教師でしかないんだ……」

 

竹内が1度深呼吸をした。

 

「でも織斑先生はちがう、確かに今は教師だけど、元日本国家代表で、第1回モンド・グロッソの総合優勝者。実力、地位、知名度、どれを取ってもNo.1だ。そんな人が僕らのバックについてくれれば、これ以上ないくらい心強いと思ってる……あくまで岩崎くんの見立だけど、シャルルさんの正体にも気付いているって話だし……あとはフランス語についてだけど……世界を相手に戦ってきた織斑先生ならそこもあまり心配はないとは思うけど………織斑くん、織斑先生が何ヶ国語話せるか知ってる?」

 

「俺がそこまで知ってるはずないだろう?……けど千冬姉のことだ、かなりの言語を扱えるかもしれない……」

 

「けどさ竹内くん」

 

岩崎が割り込んだ。

 

「確かに織斑先生は僕らの事はよ~く知ってると思うけど、先方の事も詳しいっていう確証はあるのかい?」

 

「……えぇ、実はそこが問題なんです」

 

岩崎の鋭い指摘に、竹内の顔が渋くなった。

 

「唯一の懸念する点が、織斑先生がどこまでデュノア社の件について知っているか……これは僕らじゃ知りようがない……」

 

「………」

 

ここまで割りと饒舌だった竹内が言葉に詰まる様子を見せ、またも暗い空気が立ち込める。

 

「……そこで、と言うか……まぁ、とにかくもう1人の候補者の話をしたいんだけど……理想……いや、欲を言うと、織斑先生と次の候補の人、どちらか1人じゃなくて、2人で仲介役をやっていただければ……と思ってる」

 

「それで、その候補者って……」

 

「……僕の知り合いに紫波って人がいるんだ。α社の……副社長のね」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

竹内の考えがわかったのか、岩崎はニヤリと笑った。

 

「……え、何?どういう事?」

 

「俺たちにもわかるように言ってくれよ」

 

一方、シャルルと一夏は何の話か訳がわからずちんぷんかんぷんだ。

 

「うんうん……実は数日前α社に一時帰還したとき、紫波さんの過去の話を聞かせてもらったんだ。彼には学生時代、フランスへの留学経験があるらしくてね。んで、その時に出てきた友人の名前の1つが………『アルベール』だ」

 

「…ッ!」ピクッ

 

アルベール……その名前を聞いたとき、シャルルがピクリと反応を見せた。それを知ってか知らずか、岩崎は話を続けた。

 

「紫波さんの話によるとそのアルベール氏、今はIS会社の社長をしているらしい……」

 

「……!?」ドキッ

 

またも反応を見せるシャルル。

 

「さて織斑くんデュノアさん、2人に問題だ。この"アルベール氏"とは何者か?」

 

「はぁっ!?」

 

「……………」

 

岩崎の無茶振りともとれる急な問題に一夏は声をあげた。対してシャルルは言葉が出なかった。

 

「そんなの俺が知るわけ……」

 

「………アルベール・デュノア………ボクの父の名前………」

 

一夏が回答を諦めようとしたところに、シャルルがうわ言のように"アルベール氏"について答えた。

 

「な、何だって!?じゃあつまりデュノア社の社長で……」

 

それに引き続き、一夏が答えのピースを嵌めていく。

 

「そう、そしてその人はIS会社α社の副社長・紫波勝司氏のフランス留学時の友人と聞いた。さあさあ竹内くん、これらの情報から導き出した君の答えは?」

 

「紫波さんほどデュノア社長を知る人は僕らの身近にはいない。つまり紫波さんにちゃんと事情を説明して、仲立ちしてもらうことが出来れば、デュノア社の実態も見えてくるかもしれない……そういうことだよ。それにフランス語についても何の問題もない。なかなか流暢に話をしていたよ」

 

「「……なるほど……」」

 

シャルルと一夏はようやく竹内の狙いを理解した。

 

「うんうん……まぁたしかにそう言えば聞こえは言いかもしれないけど、要はコネを使えるだけ使って何とかしようってことだね」

 

「……身も蓋もないけど……まぁ、そういうことです、はい……」

 

またも岩崎の鋭いツッコミが入り、竹内はたじろいだ。

 

「…で、いつ実行する……ん?」

 

岩崎が実行日を確認しようとしたその時、岩崎と竹内のスマホがなった。岩崎がいち早く確認すると……

 

「……いやいやぁ竹内くん、『渡りに船』とはこの事を言うのかね。君も今来たメールを見てみるといい」

 

ニヤリと笑って竹内にメール確認を促した。その指示に従い竹内も見てみると、彼の目付きが少し鋭くなった。

 

「なるほど、デュノア社長が訪ねてくる……と」

 

「何だって!?」

 

「いつ!?」

 

竹内が呟くと一夏とシャルルが食い付いてきた。

 

「今月の最後の土日だ。恐らくこの2日間のうちどちらかがデュノア社長との直接対決の日になるだろうね」

 

「…………」

 

この日はまだ月半ば。デュノア氏来訪まであと2週間弱といったところだ。

 

「岩崎くん、紫波さんへの交渉は頼んでいいですか?織斑先生の方は僕がやりますので」

 

「了解、任せておくれよ。……となると……デュノアさん、今週の土日と来週の土日はなるべく予定を空けておいてくれ」

 

「え?………うん、わかった!」

 

「なぁ優斗、トシさん!」

 

話がまとまりそうになったところで、一夏が割り込んできた。

 

「なんだい?」

 

「その……千冬姉や紫波って人に頭下げに行くとき、俺も連れてってくれ!俺だってシャルルのことは大事な仲間だと思ってるし、このまま俺だけ何もしないってのは気が収まらないんだ、頼む!」

 

一夏は真剣に頭を下げた。

 

「僕は構わない……むしろ織斑先生を相手にするから心強いしありがたいよ」

 

竹内はすぐ快諾し……

 

「うんうん、わかった。紫波さんに君が来ることも知らせておくよ。許可が下りるかどうかはわからないけどね」

 

岩崎も条件付きながら了承した。

 

「よし、それじゃあ僕は明日、さっそく織斑先生に掛け合ってみるよ……織斑くん、シャルルさん、それでいいね?」

 

「おう!」

 

「わかった!」

 

「じゃあ僕は僕で紫波さんに掛け合ってみる。詳しい日程の調整とかね………さぁ、大変なのは明日からだ。僕たちは何としてもデュノアさんの秘密を守らなければならない……もし失敗してしまった場合、彼女は二度と陽の目を見ることはなくなってしまうかもしれない……」

 

「「「…………………」」」

 

改めてことの重大さを岩崎に言われ、みんなは表情を引き締めた。

 

「……竹内くん、織斑くん、君たちもしっかり腹括って頑張ってくれよ……彼女の命運は僕らに掛かってると言っていい……2人とも嘘を吐くのが苦手みたいだからね」

 

「「…………」」

 

2人は気まずそうにうなずいた。その時……

 

コンッ、コンッ

 

「竹内くん、晩ごはん食べに行こうよ!デュノアくんも一緒にどう?」

 

1030室にノックの音が転がり込む。続けて竹内を呼ぶ声。1年1組のクラスメートで、竹内の元ルームメートだった谷本癒子の声だ。それだけではなく、シャルルにもお誘いの声が掛かる……しかし、今のシャルルを人前に出すわけにはいかない。竹内は想定外の事態にどうしたら良いのか頭の中が真っ白になってしまった……。

 

「(どうする?どうしよう僕……どうしよう!!?)」

 

彼に残された選択肢は?そして何を選ぶのか……?




to be continued...
(前回の予告分が終わっていないため次回予告はなし)

どうも、手を抜きたくないという理由で更新を怠り、結果投稿したのがこの出来の低さ、己に絶望しかできない作者・剣とサターンホワイトです………お待たせしてしまって申し訳ありませんでした!(ジャンピング土下座)

個人的に、インフィニット・ストラトスの二次創作小説で最もオリジナリティが出るのがこのシャルル・デュノアの正体バレのところだと思っています。それだけに力を入れてやりたいところでしたが……結果はこの有り様……何か突っ込みたいことがあれば是非感想欄へ、すべてにとは言えませんが対応します。

近々続きも投稿します、ではまた……


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2-6:気まずい雰囲気 からの………?

前回のあらすじ

4人目の男子生徒として転入してきたシャルル・デュノアが、本当は女子だったことが判明。そこから彼女の身に何があったのかを聞き、急遽対策会議が行われる。途中で一夏と竹内が仲違いをするも、何とか分裂することもなく、最終的には竹内の意見でデュノア社長と直接話をする方針に決まった。そこまで持っていくための準備の話もまとまったところで、突然ノックの音が転がり込んできた。

今回の話はここから始まる………


コンッ、コンッ

 

「竹内くん、晩ごはん食べに行こうよ!デュノアくんも一緒にどう?」

 

1030室にノックの音が転がり込む。続けて竹内を呼ぶ声。1年1組のクラスメートで、竹内の元ルームメートだった谷本癒子の声だ。

 

「あ、はーい!ちょっと待ってて!」

 

とっさに竹内はそう答えたが、かなり慌てている。

 

「ど、どうしましょう………」

 

竹内の焦りが一夏にも感染し、この2人はもうまともな判断ができなくなっていた。

 

「はいはい2人とも落ち着いて……とにかく、今の女の子な格好のデュノアさんを人前にさらすわけにはいかない。そこで……デュノアさん、布団に入って病気のふり、織斑くんは近くで看病してるふり。その準備が出来たら竹内くんはドアを開けて応対して、最初だけ応対してくれれば後は僕が何とかするから」

 

岩崎の指揮の下、3人は所定の位置についた。準備が整い岩崎が竹内に目で合図を送ると、竹内は扉を開いた。

 

「や、やぁ谷本さん。あはははは………」

 

「?」

 

この時、癒子は竹内の様子がおかしいと思ったが、今は気のせいだと思うことにした。

 

「ね、早く行こうよ!……で、デュノアくんは?」

 

「あ、はい…シャルルくんはその……」

 

「やあやあ、せっかく誘いに来てくれたところ申し訳ないけど、デュノアくんは急に体調を崩してしまったんだ。きっと知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたんだろうね」

 

「……ゴホッゴホッ」

 

「あー大丈夫かシャルル……」

 

岩崎が横から割り込み、シャルルが体調不良ゆえに一緒に行くことができない旨を伝えた。その流れに乗ってシャルルが咳き込み、一夏がその心配をする様子を見せる。が、読者の皆さんもご存知の通りこれは演技である。

 

「そうなの?それは残念……お大事にねデュノアくん」

 

「うん……ありがとう……ゴホッゴホッ……」

 

「それでも今は大分楽にはなったみたいだけどね……まぁそんなわけでご覧の通りデュノアくんのことは残念ながら諦めた方がいい。でもその代わり……と言っちゃなんだけど竹内くんは行くことはできるし、織斑くんを連れていけばいいんじゃない?」

 

「えっ、でも……」

 

「その代わり、僕がここに残って彼を看てる。病人を1人にしておくわけにはいかないからね」

 

「……俺は別に誘われてないんだけどなぁ」

 

「あぁその事なら平気、後で織斑くんも誘おうと思ってたから!」

 

と、そんなわけで竹内と一夏は癒子と共に食堂へ夕食を食べに行くこととなった。

 

「あぁそうそう行く前に1つ頼みが…後で僕とデュノアくんの分のご飯、持ってきてくれるかい?」

 

「あ、はい」

 

「わかりました」

 

「それじゃあデュノアくん、それからえーと……」

 

「岩崎仲俊だ、うんうん、よろしくたのむよ」

 

「こちらこそよろしくね、谷本癒子よ。……じゃあデュノアくん、岩崎くん、この2人借りていくわね~!」

 

「うんうん、行ってらっしゃい。僕らのご飯よろしくね」

 

「は~い!」

 

そうして癒子は一夏と竹内を連れて行った。岩崎はそれを見届けた後、部屋に戻り……

 

「……うんうん、もう起きても大丈夫だよ」

 

布団に潜っていたシャルルにそう囁いた。するとシャルルも体を起こし、布団から出てきてため息をついた。

 

お互いしばらく黙っていたが……

 

「その……ありがとう、いろいろと……ボクなんかのために……」

 

シャルルがお礼を言った。

 

「いやいや、礼は不要さ。僕ァいつもみんなの世話になってるからね、当然のことをしたまでさ。だから礼なら竹内くんや織斑くんに言ってあげなよ。彼らの方が君を守ろうと頭抱えてたからねぇ。僕なんて、彼らの意見に多少口出ししただけさ。実際、僕が口を挟んだせいで危うく2人が仲違いを起こすところだったしね……」

 

それに対して岩崎は少々申し訳なさそうに言った。

 

「……ところで、異性の振りをするのは大変だったんじゃないのかい?」

 

少しの間を置き、岩崎がこんなことを切り出した。

 

「うん……すごく大変だった。それを誰にも話せず、相談できなかったのがまた辛くて……」

 

シャルルは正直な己の気持ちを答えた。彼女自身不思議に思うくらい、その顔に涙は全くなかった。

 

「そうか…………実はね………僕も少し前にワケ有って、女の子の振りをしなければならないときがあったんだ」

 

「えぇっ!?」

 

岩崎の突然のカミングアウトにシャルルは大きな声で驚いてしまった。トシの体格なら確かにやや背の高い女性くらいで何とかなるかもしれないがその声はごまかせないんじゃないのか?否、むしろそういう経験があったからこそ自分の変装を見抜けたのか?

 

その事が気になって、シャルルは恐る恐る尋ねた。

 

「バ……バレなかったの……?」

 

「うんうん、結論から言えばバレはしなかったね。幸運?なことに、僕の場合は特定の人の前でだけ女の子の振りをすればよかったし、女装もする必要はなかったから、恐らくは君よりは楽だったね………けど、やっぱりいい気はしなかったね……ただの冗談のつもりだったのに、まさか真に受けるなんて……」

 

「……って、トシはなんで女の子の振りをすることになったの?」

 

岩崎はシャルルの質問に答えると共に当時を思い出してか、苦笑いを浮かべている。そんな岩崎にシャルルはなぜそんなことになったのかを遠慮がちに尋ねた。すると…

 

「そうだね、それも話しちゃおうか」

 

岩崎は事の経緯を話した。ここで内容も記したいところだが少々ややこしい話ゆえ、涙を飲んで割愛とさせていただく。(※後書き参照)

 

長い話を終えた岩崎は、自分の湯呑みに新しくお茶をいれた。シャルルにも「飲むかい?」と尋ね、肯定の返事が来ると彼女の湯呑みにもお茶を注いだ。

 

その後、岩崎とシャルルは色々なことを話した。互いのクラスや身辺で起こったことや今後のこと、そして今ここにはいない一夏や竹内のこと。取り分けシャルルは竹内のことについて岩崎に多くのことを尋ねてきた。

 

話し込んで30分後、竹内と一夏が岩崎とシャルルの分の夕食を持って1030室に戻ってきた。

 

「た、ただいま戻りました……」

 

「………………」

 

「おかえり………って、どうしたんだい2人とも?そんな顔して」

 

ところが夕食を食べて戻ってきたと言うのに2人の顔からは疲れがにじみ出ていた。

 

「それが……食堂入ると箒と鈴のヤツが俺の顔を見るなりケンカをおっ始めて……」

 

「それで僕たちもどんどん巻き込まれて……ところでケンカの原因って何だったっけ?」

 

「さぁ……?あいつらに聞いてみても教えてくれなかったし……」

 

……この2人の解釈と実際の様子には少々乖離があるため、ここは天の声が説明しよう。

 

――――回想開始――――

 

まず一夏と竹内が谷本癒子その他女子生徒と食堂に入ると、すでに箒と鈴音が夕食を摂っていた……()()()()()()()。ところが一夏が入ってくるのを見るや否や、己の近くの席に連れていこうと双方が一夏の腕を取り、大岡裁きの子争い状態。だが今回はそこで終わらなかった。

 

「篠ノ之さんたちだけいつもズルい!たまには私たちにも譲ってよ!」

 

癒子はじめ、1組の生徒の大半がこの争いに乱入。だが……

 

「うるさい!お前たちには竹内がいるだろ!それで我慢しろ!」

 

「あんたたちには優斗がいるんだから、それで十分でしょ!?」

 

ライバルとは時に思わぬコンビネーションを産むものである。共通の敵が現れたときなどが良い例で、まさに今がその時である。彼女らは竹内をエサにして自分たちの争いに決着をつけようとした。

 

「織斑くんと先に一緒にいたのは私たちでしょ?それをいつもそうやって横取りしようなんてひどいんじゃないの!?」

 

女子生徒たちも日頃いつも一夏をとられてる鬱憤でもあるのか、1歩も引き下がらない。そこからは大半の女子生徒たちも巻き込んで不毛な言い争いが続いた。一夏の子争い状態も相変わらず継続中で、彼は「あー」も「うー」も言えない状況である。

 

一方、オマケ扱いされた竹内と、言い争いに参戦しなかった少数の女子生徒たちは……

 

「……あれ、止めた方がいいよね?」

 

「そうよ、他の人の迷惑だし」

 

「織斑くんも腕辛そうだし……けどあの騒ぎを僕らで止められるかな…?」

 

不安を抱えつつも何とか騒ぎを静めようと仲裁に当たった。だが一般女子と温厚な竹内の力ではヒートアップした女の争いを止めることができず、結局彼らも騒ぎの渦に巻き込まれていき、通りすがりのラウラ・ボーデヴィッヒに遠目から「……くだらん、バカ共が……」と鼻で笑われる始末。

 

最終的には………

 

「……お前たち、まだそんなに元気が余っているのか……」

 

この学園の法律を取り締まる(………と噂される)織斑千冬が現れ、その圧倒的オーラでこの場を収めることとなった。

 

「今度このような騒ぎを起こしたらその時は……わかっているな……?」

 

『………』コクッ

 

最後の一言には言葉では表せないくらいの重みや凄み、その他諸々があり、この場にいた全員の背中に冷や汗を流させるのには十分すぎるほどだった。

 

結局千冬の裁定の下、箒と鈴音は元の席に戻され、一夏と竹内はその2人のどちらからも遠い席に、残りの女子生徒たちは一夏たちとも箒や鈴音からも関係のない席に座ることを指示され、当然全員それに抗うこともできず、雰囲気の悪い中の食事となってしまった。

 

その後、竹内と一夏は岩崎とシャルルの分の夕食をもらいにもう一度カウンターへ行き、

 

「先程は騒いでしまってすみませんでした……」

 

と調理師の人たちに謝った。調理師の人たちは「若い証拠だ」と笑って許してくれたが、同時に「ホコリが舞って料理に入ってしまっても困るから次からは気を付けるように」と注意もした。

 

やがて盛り付けられた皿が次々と運ばれ、すべての料理が揃うと、2人は料理の乗ったトレーを食堂を後にした。

 

――――回想終了――――

 

といった次第である。もっとも……

 

「(そういうことだろうなぁ……)」

 

やはりと言うべきか、岩崎にはすでにお見通しだったそうな。

 

「まぁ何があったかはさておき、僕もデュノアさんもお腹ペコペコだよ。早くそのご飯ちょうだい」

 

……と言うことで、一夏の持ってきた料理を岩崎が受け取り、竹内の持ってきた料理はシャルルがいつも使っている机の上に置かれた。

 

ところが……

 

「うんうん、ありがとう織斑くん。さ、僕は今日のところは帰るとするよ」

 

「えっ?ここで食っていかないんですか?」

 

岩崎は突然帰ると言い出した。その事に驚きを見せたのはなぜか一夏だった。

 

「ちょっと1人で考えたいことがあるんだ。ところで、織斑くんも早いところ帰った方がいいんじゃないのかい?」

 

「え、何でまた……」

 

岩崎は帰る理由を話したあと、今度は一夏にも部屋に帰るように促した。一夏はこれにも疑問を呈した。

 

「仮にもシャルルくんは体調不良って事になっているんだ。あんまり遅くまで長居し過ぎると嘘と見破られる可能性も出てくる。もし見破られたとなってくると、作戦どころじゃなくなってしまうからね」

 

「うっ……確かにそれはまずい……わかりました。じゃあ優斗、シャルル、そういうことだから俺も帰るわ。おやすみ」

 

自分の行動のせいで作戦がおじゃんになってはどうしようもない。そう考えた一夏は岩崎に言われた通り、この日は自分の部屋に帰ることにした。

 

「はぁ……おやすみ」

 

「おやすみ、一夏」

 

竹内とシャルルに見送られ、一夏は一足先に1030室を後にした。

 

「んじゃ、僕も行くよ。2人とも、これからはくれぐれも変なことをして、デュノアさんの正体がバレるような事はしないでくれよ。織斑くんにも言ったけど、作戦どころじゃなくなっちゃうからね。それじゃ、おやすみ」

 

岩崎も自分の夕食を持って出ていった。残ったシャルルと竹内は……

 

「…………」

 

「…………」

 

いざ2人きりになると妙な緊張からか、どちらも口を閉ざしたまんまである。が、しばらくすると……

 

クゥゥゥ……

 

「あ…///」

 

シャルルのお腹が鳴った。

 

「……まずはご飯を食べようか……お腹空いてるでしょ?」

 

「……うん……///」

 

竹内に促されて、シャルルは料理が置かれてる机に向かった。

 

「………!」

 

だが料理を見た瞬間彼女の顔がひきつった。竹内が持ってきたのは焼き魚定食。まだ箸に慣れてないシャルルにとっては非常に厳しい食事になってしまった。それでもシャルルは何とか食べようとするも、割り箸を割る手も、その後の箸を持つ手もプルプル震えてどうにも覚束ない。

 

「あ…もしかして、お箸苦手だった……?」

 

「うん……練習は一応してるんだけど………」

 

何度も何度も箸でつまんでは落とすを繰り返してしまっているシャルルを見て、竹内は申し訳なくなった。

 

「ゴメン、スプーンやフォークを貰ってくるよ」

 

彼は表面上穏やかに見えたが、内心では自分の配慮不足を責めていた。その申し訳なさからフォークなどを取りに行こうとしたが、

 

「え?いいよそんな、そこまでしなくても…」

 

シャルルがそれを遠慮するように止めた。

 

だがこのままではせっかくの料理が冷めてしまうくらい時間がかかりそうなことは2人も薄々気付いてた。かと言って、竹内が大急ぎでスプーン・フォークを持って来るにしても、その間シャルルはお預け状態となり、戻ってくる頃には結局料理が冷めてしまうことには変わりなかった。どうしようかと2人して頭を悩ませていたその時、シャルルが名案を思い付いた。

 

「じゃあさ、ユートが食べさせてよ」

 

「……はいぃっ!?」

 

その案とは、竹内がシャルルの手となって食べ物を口へ運んで食べさせると言う小っ恥ずかしいものだったため、竹内は思わず声をあげて驚いた。

 

「ほら、それならユートがもう一度食堂へ行かなくて住むし、ボクもご飯が温かいうちに食べれる!……ちょっと恥ずかしいけどね……///

 

「………えっと念のため聞くけど、僕に拒否権は………」

 

「ないよ!だってあの時のお詫びとしてやってもらうんだもーん!」

 

「………わかったよ、確かにあの時のお詫びはまだしてなかったからね………」

 

「あの時」とは、竹内がシャルルを抱き抱えたときのことである。シャルルはその時、「お詫びなんていい」と断ったのだがそれでは竹内がどうしても首を縦に振らなかったので、この件は保留となっていたのだ。(2-2話参照)

 

そういうことなら従わざるを得ない。竹内はシャルルから箸を受け取った。

 

「それでまず何が食べたい?」

 

「じゃあね、最初はご飯がいいなぁ」

 

「ご飯だね、んじゃ……あ、あーん……」

 

「あーん……」パクッ

 

ハッキリ言って竹内は恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなかった。そこから来る緊張からか、手が震えていつものように安定して箸を扱うことができない。それでもシャルルとは違ってつまんだ物を落とさずいられるのは、長年箸を扱ってきた経験が生きているのだろう。

 

「……おいしい」

 

「そ、それはよかった……つ、次は何がいい?」

 

「うーんと次は……」

 

シャルルは次に食べるものを選んで、竹内が自分の口に運んでくるのを待った。竹内はその時の彼女の顔が、今まで見てきた中で一番楽しそうだという印象を受けた。

 

こうして、シャルルはやっとこの日の夕食にありつくことができたのであった。また竹内はこの後、シャルルの箸修行にも協力をすることとなる。




to be continued...
(今回も前の予告分が終わっていないので次回予告はなし)

う~む、どうも無理矢理感が否めない。まぁいいか(←コラ

次回でやっと予告分を終わらせられるかと思います。これも早めに上げられるかも知れません。ではまた

追記:って、本編中に(※あとがき参照)って書いたのに注が何もないじゃないか!

申し訳ありません!ってなわけで……

※ぶっちゃけて言えば、吉田遥のキャライベントの岩崎関連イベントである。しかしいくらなんでもあれを女と信じるのはさすがに無理がありすぎる気がすると思っているのは私だけではない………はず


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2-7:見えない壁 AIC

この章が終わる頃には竹内くんと一夏くんのヒロインが固まってくる予定です……あくまでも予定です、言い切れないのが少し残念……。




――――シャルルが正体を明かしてから2日後、

放課後の第3アリーナ――――

 

鈴音が1人でトレーニングの準備をしていると、そこにセシリアもやって来た。

 

「あら、私が一番乗りかと思いましたのに」

 

「残念でしたっ♪アタシはこれから学年別トーナメント優勝に向けて特訓するんだけど」

 

「私も全く同じですわ♪何より最近皆さんとご一緒する機会が減ってしまって、そろそろ遅れを取り戻さなくてはと思ってましたの」

 

―――――――――

 

優勝……彼女らがそこに執念を燃やすのにはワケがあった。

 

実は、ここ最近1年生の間ではある噂で持ちきりになっていた。それは「今度の学年別トーナメントで優勝すれば男子生徒の4人のうち誰か1人と男女交際できる」という、本人の意思度外視のものである。

 

もちろん火のないところに煙は立たぬ、噂の素となった出来事がある。

 

――――回想開始――――

 

それはシャルルとラウラが転校してくる前日……そう、部屋の都合がつき、今まで男子生徒と同居していた女子生徒が引っ越すことになった日である。

 

癒子が引っ越すことになったのと同じように、1025室の篠ノ之箒も引っ越しを余儀なくされていた。その去り際に、彼女はあることを一夏に宣言した。

 

「その……今度の学年別トーナメント……私が優勝したら………つ………付き合ってもらうぞ!!」

 

それだけ言った後、彼女は一夏が完全に理解する前にすたこらさっさと去っていった。

 

――――回想終了――――

 

だがそれを目撃した者がいて、そこから次第にこの話が伝わっていく。さらに悪いことに何をまかり間違ったのか、噂はどんどん膨らんでいき、終いには竹内や岩崎、シャルルをも巻き込んだ話になってしまった。この事態に、結果的にとは言えこの噂の発端となってしまった箒は「何故こんなことに……」と頭を悩ませる日々を送ることになってしまったのだった……。

 

―――――――――

 

そんなわけで、話は戻って第3アリーナ。噂の真偽はともかく、そして目的が何であれ、優勝にかける思いは紛れもなく本物。ライバルになるであろう2人は、早くも互いを意識している。

 

「ねぇ、この際どっちが上かハッキリさせない?……この間の借りもあるし」

 

「ええ、私も全く同じことを考えていましたわ……この間の借りがありますしね」

 

彼女らの言う"この間の借り"というのは、2人でコンビを組んで戦った真耶との模擬戦のこと。お互いに「相方さえ良ければもう少し満足に戦えたのに……」と思っているらしい………。(2-2話参照)

 

そうこうしているうちに2人はそれぞれのISを展開し、いざ勝負!と言うところで、突如2人に向かって砲弾が撃ち込まれる!

 

「ッ!」

 

だがそこは流石に代表候補生、2人とも見事に躱してみせる。そしてすぐさま弾が飛んできた方向や自分たち以外の存在を探るとその人物がいる方を見た。そこにいたのは………

 

「アンタは………!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ………!」

 

そう、黒いIS"シュバルツェア・レーゲン"を身に纏ったラウラ・ボーデヴィッヒだった。レールガンの発射口から煙が上がっているのを見ると、先程の砲撃は彼女のものと考えて間違い無さそうだ。

 

―――――――――

 

一方その頃、竹内たちはと言えば………

 

「………そうかそうか、織斑先生は参戦してくれる方向……と」

 

「えぇ、場所や日程が決まったらまた連絡するように、とのことです」

 

4組の教室に集まって、昨日、岩崎を除く3人が千冬に例の作戦について交渉した際の報告をしていた。曰く、交渉前は先日騒いだ件もあり引き受けてもらえるか不安で心臓バックバクの冷や汗ダラッダラだったが、しっかりと経緯を説明して頼み込んだところ、何とか仲介役を引き受けてくれる手筈となり、彼らは千冬の懐の深さを改めて実感したとか。

 

「僕も僕で、話をつけておいたよ」

 

その一方で岩崎も昨日のうちに紫波に電話し、週末に4人でα社を訪ねると言う旨を伝えていた。

 

「それで織斑くんも行きたいって話だったけど、紫波さんに話してみたら『重要部に行かないと誓えるなら来ても構わない』ってさ……まぁこれは君に限らず来訪者全員に言ってることらしいけどね」

 

「本当ですか、よかった……」

 

これで一夏のα社行きが叶うこととなった。

 

「……とまぁ、僕からはこんなもんかな……いや、もう1つあった……これは次のトーナメントの話なんだけど……」

 

岩崎がもう1つ連絡事項を伝えようとした。しかし……

 

「第3アリーナで代表候補生3人が模擬戦やってるって!」

 

「え、ホント?」

 

「見に行こう!」

 

何やらそのアリーナでは騒ぎが起きている模様。女子生徒たちがそれを見ようとアリーナへ走り出している。

 

「代表候補生3人?」

 

「3人ってことは……」

 

「うんうん、恐らくセシリアさん、リンさん、それからドイツの……」

 

「ボーデヴィッヒさん、でしょうね……」

 

「俺たちも行ってみようぜ!」

 

一夏の提案に全員賛成し、4人は第3アリーナへ向かうのだった。

 

―――――――――

 

4人がアリーナに来る頃にはそれなりに野次馬も来ていた。その中には……

 

「箒!」

 

騒ぎを聞き付けたと思われる篠ノ之箒の姿もあった。

 

―――――――――

 

フィールドではセシリアと鈴音がラウラを相手に戦っている。

 

「喰らえ!」

 

鈴音が龍砲を放った。しかし……

 

「無駄だ!このシュバルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな!」

 

それはラウラに直撃することはなかった。

 

―――――――――

 

「龍砲を止めやがった!?」

 

龍砲の威力を身をもって知っている一夏が驚きを隠せずに言った。

 

「AICだ……」

 

シャルルが呟いた。

 

「なるほどね…あれがあるから、彼女は避ける素振りも見せなかったのか」

 

続いて岩崎も納得したように言った。

 

「A…I…C…?」

 

「……ってなんですか?」

 

一夏と竹内が尋ねた。

 

「シュバルツェア・レーゲンの第3世代型兵器、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー……」

 

「うんうん、慣性停止能力とも言われているんだ。今のリンさんの龍砲もそれによって止められたと考えた方がいいね」

 

シャルルと岩崎が説明し、一夏が「へぇ~」と漏らす。

 

「……お前、本当にわかっているのか?」

 

あまりに気の抜けた返答に箒が確認するように尋ねた。

 

「…今見た。それで十分だ」

 

それに対して一夏は力強く答えた。一方、竹内は今の説明だけじゃまだ納得がいかないのか、まだ戦いの様子を見ている。

 

―――――――――

 

鈴音はなおも龍砲を撃ち続けるがことごとくすべてAICに止められてしまう。

 

「…ここまで相性が悪いなんて……うわっ!?」

 

鈴音が悔しそうに呟いた。すると甲龍に何かが巻き付いた。ラウラが放ったワイヤーブレードだった。

 

「フン……この程度の仕上がりで第3世代型とは笑わせる……」

 

ラウラが余裕たっぷりに言った。すると今度はそこにレーザーやミサイルの雨が降り注ぐ。セシリアのブルー・ティアーズのビットによる総攻撃だ。しかしこれもビットの動きを見切られ、AICで停止されてしまう。だが……

 

「動きが止まりましたわね!」

 

セシリアはその瞬間を狙っていた。スターライトmkⅢでラウラを狙いを定めている。

 

「貴様もな!」

 

対してラウラも余裕綽々で右肩のレールガンの狙いをつける。そしてほぼ同時に発射した。互いの弾はちょうど2人の中間で衝突し、爆発を起こした。するとその時、爆煙に紛れて何かがセシリアに接近してきた。それは先程ラウラが捕らえた、鈴音の甲龍だった。ワイヤーに捕まったまま、セシリアの方に投げ飛ばされたのだ。セシリアが気付いた時にはもう鈴音がすぐそこに迫っていたため、回避する間もなく2人は激突してしまった。

 

―――――――――

 

「ああ!」

 

あまりに痛々しい光景に一夏が声を上げた。

 

「……ッ!」

 

竹内も声には出なかったものの、鈴音とセシリアの激突の瞬間には目を逸らすように固く閉じてしまった。

 

そう、この2人の反応からもわかる通り、最早この戦いは"模擬戦"などと言う生易しいものではなくなっていた。

 

―――――――――

 

叩きつけられて、まだ動けないでいる鈴音とセシリアにラウラが近づいた。ようやく鈴音が動けるようになり、もう一度龍砲でラウラを撃とうとする。

 

「甘いな、この状況でウェイトのある空間圧縮兵器を使うとは………」

 

だがラウラはあくまでも余裕で龍砲をレールガン1発で破壊した。

 

「!」

 

だが次の瞬間、一瞬の隙をついてセシリアがミサイルを撃ち込んだ。

 

「っ!?」

 

さすがのラウラもこれには驚いた様子を見せた。そしてそのままミサイルは爆発した。

 

「……こんな至近距離でミサイルだなんて、無茶するわねアンタ……」

 

その爆発から何とか逃れ、鈴音が呆れたように、それでいて感心したように言った。セシリアも体勢を立て直し、「苦情はあとで」と制した。

 

「けど、これなら確実にダメージが……」

 

未だ晴れぬ爆煙を眺めて相手の様子を窺うセシリア。やがて、煙が晴れてきた。

 

「…っ?!」

 

しかし、セシリアと鈴音はその光景を見て言葉を失った。何故なら……

 

「終わりか?………ならば、私の番だ……!」

 

ダメージを負った様子が全く見られないラウラが姿を現したからだ。そしてラウラはまたしてもワイヤーブレードを射出した。今度は何と2人の首に巻き付いた。

 

「「………っ!!」」

 

首が絞まってしまっては、もうまともに戦うことなど出来ない、こうなったら後はラウラの独壇場だ。鈴音を殴ったり、セシリアを蹴っ飛ばしたり……。何よりワイヤーがラウラのシュバルツェア・レーゲンと繋がっているため2人は逃げることも出来ず、そのワイヤーを引き千切ろうにも簡単に切れるはずもなく、それどころか首が完全に絞まらないように抗うのがやっとだった。だがその抵抗も次第に弱まり、ワイヤーが2人の首を確実に締め上げる。

 

すると、やられている2人の目の前にあること示すウィンドウが表示された。

 

- 警 告 -

生命維持警告域超過

 

それは、命の危機を表すものだった。だが、首を絞められている苦しみに耐えるので精一杯で、2人はそれを見ることも出来ない……。

 

―――――――――

 

「非道い!あれじゃシールドエネルギーが持たないよ!」

 

シャルルが叫んだ。その隣で一夏が息を飲み、竹内もラウラの一撃が入る度に目をギュッと閉じて見るのも辛そうにしている。

 

「うんうん、もしもダメージが蓄積して、ISが強制解除されるような事になれば……2人の命に関わるほどの大変なことになるね」

 

岩崎も最悪の状況を想定した。フィールドではラウラの一方的な殴打がまだ続いている。次第にダメージに耐え切れなくなった2人のISにはひびが入ったり、最悪砕けて壊れたりしている。そんな様子を見て、箒はあることを考えていた。

 

――――回想開始――――

 

箒はかつて、一夏と共に剣道を習っていた。しかし白騎士事件の後、箒は重要人物保護プログラムにより、転校・引越を余儀なくされた。それは即ち、一夏との別れを指していた。

 

両親とも離ればなれ、姉は已然行方知れず、執拗な聴取や監視を受けることもしばしば……だが、箒は転校先でも剣道を続けた。剣道こそが一夏との唯一の繋がり……そう信じて、彼女は剣の道にのめり込んだ。

 

そしてある年の剣道の大会では優勝するほどの実力を身に付けていた。だが、喜びはちっとも沸いてこなかった。何故なら対戦相手の選手が跪いて涙を溢しているのを見てしまったからだ。その時彼女は、自分がただ相手を叩きのめすだけの、憂さ晴らしの剣道をしていたことを悟り、そんな己を醜く、最低だと思った。あれはただの暴力で、強さとは違うものだとも後に振り返った。

 

この学園で一夏と再会したとき、彼はその時の優勝を称えたが、箒は久々に一夏を目の前にしたこともあって素直に喜べず、複雑な心境だった。

 

そんなことがあって、箒はもう二度と強さを履き違えないようにと、心に誓ったのだった。

 

――――回想終了――――

 

箒はその時の自分と、今のラウラが似ている……否、むしろ同じじゃないかと重ねて見ていた。

 

そんなことなど露知らず、一夏はもう見ていられなくなり、バリアを叩きながら

 

「やめろ、ボーデヴィッヒ!やめろぉぉぉおおお!」

 

と叫んでいる。その叫びが聞こえたのか、ラウラは一夏の方を見て冷たくニヤリと笑った。

 

「…!アイツ…………!!」

 

その意味を悟った一夏は一旦バリアから離れ、制服のまま白式を展開した。そして白式の力を使って、バリアを破り、そのまま飛び出していった。

 

―――――――――

 

「その手を離せぇぇぇ!」

 

一夏は叫びながらラウラに突っ込んでいった。しかし次の瞬間、彼にとって予想外の出来事が起こった。

 

「!?」

 

あともう少しでラウラにブレードを降り下ろして攻撃ができる……と言うところまで近づいたところで、彼は急に身動きがとれなくなった。

 

「(な……何だ……体が………動かない…!)」

 

動かない……そう、シュバルツェア・レーゲンのAICだ。あれは単なる目に見えないシールドなどではなく、対象を任意に停止させることのできるものである。先程彼は「今見た。それだけで十分」と言っていたが、それだけではわからないこともある…ということを今、身をもって体験していることだろう。

 

だがラウラの意識が一夏に向いた事により、セシリアたちへの注意が削がれてワイヤーが緩み、彼女らはようやく解放された。同時に彼女らのISも限界を迎えたのか、自動的に解除された。

 

「感情的で直線的、絵に描いたような愚か者だな」

 

そんなことなど気にも留めず、ラウラは一夏に対する感想を述べた。

 

「…っく」

 

一夏はまだ身動きがとれずにもがいている。

 

「やはり敵ではないな。この私とシュバルツェア・レーゲンの前では、有象無象の1つでしかない、消えろ!」

 

ラウラは言い切ってレールガンの砲門を一夏に向けた。織斑一夏、絶体絶命のピンチ!その時、上空から銃弾の雨が……!するとラウラはそれを避けるために一夏に張っていた停止結界を解き、回避行動に移った。

 

「一夏、離れて!」

 

先程の銃弾はシャルルのアサルトカノンから放たれたもので、シャルルがラウラに突っ込んでいく。

 

「雑魚がッ!」

 

憎しみの対象を潰す絶好の機会を逃してしまったラウラは、苦虫を潰したように言う。一夏はこの隙に鈴たちを…と思って彼女らのいるはずの方を見たら……

 

「優斗!トシさん!」

 

そこにはすでに竹内と岩崎が救助に来ていた。

 

「この2人のことなら僕たちに任せて!大丈夫、2人とも意識はある!」

 

竹内がセシリアを抱えて飛び去り、

 

「僕たちはこのままこの2人を医務室に連れて行く、織斑くんはデュノアくんと一緒にあの子を止めてくれ!」

 

岩崎も少し遅れて鈴音を抱えて飛び去った。

 

「!わかった!ありがとう2人とも!」

 

一夏は竹内たちに礼を言って、再びラウラに向き直る。

 

―――――――――

 

時は少~しだけ遡り、一夏が飛び出したとき……

 

「あぁっ!」

 

「一夏っ!」

 

「え?織斑くん!?」

 

シャルル、箒、竹内が三様に声を漏らした。

 

「はぁ、やれやれしょうがないなぁ」

 

一方岩崎はため息をついた。そしてその分の空気を吸い込むと……

 

「篠ノ之さんはすぐ織斑先生を呼んできてくれ。恐らくあの子を制御できるのは織斑先生しかいない」

 

「わかった、任せろ!」

 

「デュノアくんは織斑くんの援護を!僕たちの中で一番実力のある君なら、僕たちの誰よりも上手く彼をフォローできる」

 

「了解!」

 

「そして残った僕と竹内くんでセシリアさん、リンさんの救出、及び医務室への搬入。……それで竹内くん、申し訳ないんだけど2人のところまでは僕を引っ張ってくれないかい?僕のIS、装甲が厚い分、機動力がからっきしなんだよねぇ……」

 

「わかりました、もちろんいいですとも!」

 

「ありがとう、それじゃあ行動開始!」

 

てきぱきとその場にいた3人に指示を出した。そして岩崎の号令を機に箒は千冬を呼びに、残った3人はそれぞれISを展開し、一夏が破ったバリアの穴からそれぞれの役目を果たしに飛び立った。

 

―――――――――

 

「(……私に専用機があれば……!)」

 

千冬を探す途中、箒はそんなことを考えていた。力のない自分が悔しい、一夏と並んで戦えない自分が悔しい、だが専用機があれば……しかし、

 

「(……今は私のやるべき事を、早く千冬さんを呼ばなくては…!)」

 

任せろと言った手前、余計な考え事をしていて手遅れになっては皆に申し訳が立たない。箒は無い物ねだりを一旦止め、千冬探しに集中することにした。すると彼女の前方から探していたその人、千冬が刀を持って現れた。

 

「千冬さん!ボーデヴィッヒが、アリーナで……!」

 

箒が事情を説明しようとしたら……

 

「……あぁ、わかっている。生徒たちの騒ぎを聞いて、まさかと思って来てみた……それと、学校では『織斑先生と呼べ』と言っている……!」

 

「!……すみません……」

 

千冬はすべてわかっていた。アリーナで起こっていることも、箒が自分を名前で呼んだことも。

 

「退け、アイツを止めに行く……」

 

「は、はい……」

 

千冬はそれだけ言い残し、アリーナへ向かっていった。

 

―――――――――

 

こちらはセシリアと鈴音の救助に向かった竹内と岩崎。竹内の汐風で、あっという間に倒れている2人のもとにたどり着いた。岩崎は小さく礼を言って、すぐに鈴音の安否を確認しに行った。竹内も、セシリアの状態を確認する。

 

「セシリアさん……?セシリアさん……!」

 

「リンさん、起きるんだ。意識を強く持って」

 

竹内と岩崎は呼び掛けたり、肩を軽く叩くなどしてセシリアたちに意識の覚醒を促した。すると……

 

「………ん………ト……シ…………?」

 

「……無様な姿を………お見せしてしまいましたわね……ユートさん………」

 

2人の意識が戻った。その事に竹内と岩崎はホッとしつつも……

 

「いえ、そんなことより命が助かってよかった……今、医務室に連れて行きますので、もし途中で痛くしてしまったらごめんなさい!」

 

「竹内くんの声が聞こえたかい?彼の言う通り、無事とは言えないかもしれないけど、意識があるみたいで何よりだ。さぁ、医務室に行くから、しっかり掴まっててくれ」

 

緊張の糸を切らすこと無く、それぞれ怪我人をだき抱えた。

 

「優斗!トシさん!」

 

その時、一夏の通信が入ってきた。助けに行こうとした矢先、竹内たちがすでにいたことに少し驚いているようだ。

 

「この2人のことなら僕たちに任せて!大丈夫、2人とも意識はある!」

 

「僕たちはこのままこの2人を医務室に連れて行く。織斑くんはデュノアくんと一緒にあの子を止めてくれ!」

 

竹内と岩崎はセシリアたちの安否や今後やるべき事を一夏に伝えた。一夏のお礼の言葉も聞くこともなく、彼らはそこから最も近いピットに向かって飛び立った。

 

―――――――――

 

そして時は戻り、一夏&シャルルvsラウラ

 

今度はシャルルのリヴァイブの左腕がワイヤーブレードに捕らわれてしまった。シャルルは残った右腕でライフルを撃つなど抵抗するが、それもAICに止められてしまい、それどころか引っ張られ、2人の距離はジリッジリッと詰まっていく。

 

「おもしろい、世代差というものを見せつけてやろう!」

 

ラウラが左手首からプラズマ手刀を出現させる。これを見た一夏は、シャルルを助けようと大急ぎでラウラに接近する。しかしそれも間に合わず、ラウラがプラズマ手刀でシャルルにトドメを刺そうと飛び掛かった!

 

「くぅッ!」

 

間に合わなかった一夏が悔しさをにじませる。しかし、ラウラの手刀はシャルルに届かず、何者かによって止められた。

 

「…!?教官!?」

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる……」

 

「………千冬姉……?」

 

そう、千冬がI()S()()()()()ラウラを()1()()()止めたのだ。

 

「……模擬戦をするのは構わん。だがアリーナのバリアまで破壊する事態になられては、教師として黙認しかねん。この戦いの決着は、学年別トーナメントで着けてもらおう」

 

千冬の裁定が下り、

 

「教官がそう仰るのでしたら……」

 

ラウラは素直に聞き入れ、ISを解除した。

 

「織斑、デュノア、お前たちもそれでいいな?」

 

千冬は一夏とシャルルにも確認をとった。

 

「あ、あぁ……」

 

「……教師には『はい』と答えろ、馬鹿者……!」

 

「は、はい!」

 

相変わらず姉として応対する一夏に釘を刺す千冬。それはさておき、一夏はOKらしく……

 

「……ボクもそれで構いません」

 

シャルルも指示に従った。

 

「では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止する!解散!」

 

これにより、この場は収まることとなった。




ケガをした鈴音やセシリアを見舞いに、医務室を訪ねた竹内たち。すると彼らを追って多くの女子生徒が流れ込む。そして週末、竹内たち4人はα社へ紫波との交渉に向かうのだった。

to be continued...

どーも、いつも心に千葉!滋賀!佐賀!……などと言ってる場合ではない剣とサターンホワイト(脳内故障気味)です。いやぁ、ついに2-4の予告分が終わりまして少しホッとしているところです。

いやぁ前回までに話を分けたところ、今回の話は4人でアリーナに向かうところで終わりということになっていましたが、それではあまりにも短すぎるため話を膨らませた結果……連休中にあげる予定がその連休を過ぎてしまいました……あ~あ………。

しかし、執筆が終わり更新したと言うことは……そう、次なる物語の執筆がまた始まるのだ……できれば今月中にもう1話いきたいところ……だがウマイこといかないのが世の常……次の更新は本当にいつになることやら……こんなテキトー筆者ですが、今後ともよろしくお願いします。


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2-8:決意を新たに……結成、2つの男子ペア

うーむ、30話近く投稿してて今さらな話だが………このクロス企画、両作品の知名度に差がありすぎてちゃんと皆さん楽しめてるのかふと疑問が沸いたわけですが………それでも、UA3000件以上、お気に入り登録が15件(いずれも'18/10/31現在)もあるのは本当にありがたい気持ちで一杯であります。皆さんどうぞ今後ともよろしくお願いします。

と言ったのは良いけど、前回の予告した範囲では本文が長くなり過ぎてしまったので、またまた分割してしまいました。欲張ったつもりはないのですが文章を書いていると自然に文字数が嵩んでしまって……いやぁ執筆って難しい……。

さて、お礼と愚痴はこのくらいにして、本編をどうぞ!


さて、ここは医務室。竹内と岩崎が、セシリアと鈴音の様子を見ている。そこへ……

 

「トシさん、2人の様子は!?」

 

一夏が勢いよく入ってきた。少し遅れてシャルルも到着する。

 

「まぁまぁ静かに、ここは医務室なんだから……で、2人の様子だけど、ご覧の通りさ」

 

「「……………………」」

 

岩崎は騒ぎ立てる一夏を咎めつつ、ケガ人2名の様子を見せた。2人ともあちこち包帯を巻かれ、動き辛そうだ。そして何より、いつもなら2,3言ほど強がりを言ってるところだが、今回の件は流石に堪えたのか、2人とも一言も喋らず、表情も暗い。

 

「それで、ボーデヴィッヒさんとの決着は?」

 

一夏とシャルルを除く4人は決着を見ることなく医務室に来たため、その結果を聞くべく、今度は逆に竹内が一夏たちに決着の行方を尋ねた。

 

「……織斑先生が止めに入って、『この決着は学年別トーナメントで着けろ』って……でもボクも一夏も全然敵わなかったよ……」

 

「……そう」

 

シャルルが少し悔しそうにしながら答えた。実際シャルルも満足に攻撃を当てられたわけではなく、あの戦いではセシリアの至近距離ミサイルでビックリさせる程度が関の山だった。

 

セシリアたちのケガの様子、そしてシャルルでも歯が立たなかったと言う事実。それだけラウラ・ボーデヴィッヒの壁が厚くて高いと言うことを表している。

 

「………織斑くん……シュバルツェア・レーゲンとの戦闘データ、後で僕にも見せてくれないかな?」

 

「優斗……どうして……?」

 

空気が重さを帯びてきたとき、竹内が決意したように顔を上げ、一夏にデータを見せてくれるように頼んだ。

 

「……学年別トーナメントで決着を着けるんだよね?それなら僕にもボーデヴィッヒさんと当たる可能性がある。だから対処法を考える必要がある。そのために、戦闘データがどうしても必要なんだ。……それに、今回ばかりは彼女のやったことを許せそうにない……」

 

「……ユート……」

 

怒りからか、竹内の手は固く握られ、震えていた。

 

「………わかった。だけどアイツを倒すのは俺だ!アイツが俺との決着を望んでいた、俺がアイツと向き合わなくちゃダメなんだ……だから俺にもその特訓をやらせてくれ!」

 

一夏にも"打倒・ボーデヴィッヒ"の決心がついた。

 

「じゃあ、ボクも手伝うよ!2人より3人、人数が多い方がいろいろ出来るしね!」

 

シャルルにも、

 

「……でしたら、……ッ……私も……!」

 

「えぇ……やられっぱなしじゃ………ッ……終われないしね……!」

 

ケガをして今まで暗かったセシリアと鈴音にも、闘志に火がついた。

 

「(……君たちはまだ休んでた方が良いんじゃないかな……)えーっと、盛り上がってるところ失礼するけど、今回のトーナメントについて1つ聞いた話があるんだ。さっきもそれを言おうとしたんだけど……」

 

岩崎が割り込み、トーナメントについて話をしようとしたところで……

 

――ドッドッドッドッドッ……

 

「ちょっと待ってください!……何か聞こえません?ほら、足音みたいな」

 

遠くの方から大きな音がしてきた。

 

――ドッドッドッドッドッ……

 

「……そうだね……こっちに近づいてる……?」

 

――ドッドッドッドッドッ……

 

シャルルの言う通り、足音らしき音は次第にこちらの医務室に近づいており、

 

――バァン!

 

またも勢いよく扉が開かれ、大量の女子生徒が流れ込み、竹内たちはあっという間に囲まれてしまった。首もとのリボンを見る限り、全員1年生のようだ。

 

「なっ、何ですか一体!?」

 

「えーっと……ケガ人もいるから、なるべく静かにしてね」

 

6人を代表して、竹内とシャルルが注意を促し、この騒ぎの原因について尋ねた。すると……

 

『これ!』

 

全員が全く同じ用紙を見せてきた。すると岩崎が「それについて今話そうとしたのに……」と誰にも聞こえないほどの小さな声で呟き、頭を抱えた。

 

「なにこれ?」

 

「えーっとなになに?『今月開催される学年別トーナメントについて』?」

 

「『今回開催される本トーナメントは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。なおペアが出来なかったものは、抽選により選ばれた者同士で組むものとする。締切は』……」

 

「とにかく!私と組も、織斑くん!」

 

「私と組んで、デュノアくん!」

 

「私は、竹内くんと組めたら嬉しいなぁ…なんて!」

 

「じゃあ岩崎くんは是非、私と!」

 

みんな口々に「自分と組んで」と竹内たち男子生徒に頼んできた。だが、一夏と竹内はどうしても首を縦に振ることができなかった。その理由は、奇しくも2人とも全く同じだった。

 

「「(もしもシャルル(さん)が女子と組んで、秘密がバレるようなことになるとまずい……だったら俺(僕)がシャルル(さん)と組んだ方が……)」」

 

そう、2人ともシャルルの正体が露見することを恐れていたのだ。もしそうなるくらいなら自分と組んだ方が危険が少ない。2人がその考えを実行しようとした、そのわずか数秒前に彼らより先に動き出した人物がいた。

 

「いやいやぁ、こうして僕たちをパートナーにしたいって来てくれたことは、本当に光栄なことなんだけど……」

 

岩崎だ。

 

「ちょっと遅かったね、実はもう僕たちで組むって決めちゃったんだ。織斑くんはデュノアくんと、竹内くんは僕とね……だから今回はごめんなさい。もし次の機会があって、それでまた僕たちの内の誰かをパートナーに選んでくれるのなら、その時は……是非」

 

彼は持ち前の巧みな話術を用いて、ペアがもう決まったから組むことができない旨を伝え、「機会があれば……」とフォローも加えた。すると……

 

「まぁそういうことなら仕方ないか」

 

「他の女子と組まれるよりかはいいしね」

 

「男子同士って言うのも絵になるしね」

 

「何より今回は無理でも、まだ組むチャンスはあるかもしれないし!」

 

みんなあっさりと諦めて、医務室から退室していく。

 

「……トシさん、よくこの短時間でこれだけの出任せが思い付くよな……」

 

一夏が小声でシャルルと竹内に言った。

 

「うん……そうだね……」

 

「……本当に。……何かこう……尊敬出来るよね……」

 

シャルルも呆気にとられつつ同意し、竹内に至っては尊敬の念すら感じるようだ。とりあえず、これで一安心とホッとしたところに……

 

「一夏!アタシと組みなさいよ、幼馴染みでしょ!」

 

「はぁ?」

 

鈴音が一夏に、

 

「ユートさん!クラスメートとして、ここは私とペアを組んでくださいませ!」

 

「えっ、僕!?」

 

セシリアが竹内に、それぞれペアを組むように要求した。しかし、

 

「ダメですよ」

 

本人たちが答える前に、いつの間にか来てた真耶がその要求を止めた。

 

「お2人のIS、ダメージレベルがCを超えています……トーナメント参加は許可できません!」

 

真耶は手元の資料を見ながら、止めた理由とトーナメント参加を認めないことを説明した。恐らくこれを伝えるために来たのだろう。

 

「そんな!アタシ十分に戦えます!」

 

「私も納得できませんわ!」

 

ついさっき闘志に再び火が灯ったばかりの2人は真耶に抗議するが……

 

「ダメといったらダメです!当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じますよ」

 

今日の真耶は2人の押しにも負けずキッパリと拒否した。

 

「そうそう、それに君たち自身だってそんな状態だ。明日から早速訓練に復帰したところで、満足に動けないだろうし、ケガの癖が残って一生それと付き合うことにもなるかもしれない。悔しい気持ちはわかるけど、はっきり言って今の君たちじゃいくら実力があっても、タッグパートナーからすれば旨味はまったくなく、むしろマイナスでしかない。君たちが100%の実力が出せない分、その穴埋めをするのがパートナーの仕事になる……けど、君たちの実力がありすぎる分埋める穴が大きすぎて、それがパートナーの負担になるからね。……そう言うわけで、僕も山田先生と同じ意見かな。ISの修復もそうだけど、君たち自信の体もしっかり治療しないと……」

 

岩崎も真耶に同調して、セシリアたちの参加を止めた。

 

「トシさん?……それはちょっと言い過ぎじゃ……」

 

少々きつめのことを言った岩崎に一夏が小さく抗議したが……

 

「……わかったわよ……それで負けるんじゃ意味ないし……(優勝したら、その娘が男子と付き合うのよね……)」

 

「……悔しいですけど、トシさんの言う通りですわね……(それだけは阻止しなければ……)」

 

セシリアと鈴音は渋々とではあったが、トーナメントの参加を諦めた。だが何やら思惑があるようで、互いに目配せすると……

 

「そのかわりアンタたち、絶対優勝するのよ!」

 

「私たちの分まで頑張ってくださいな、心から応援しますわ!」

 

4人に必ず優勝するように発破をかけた。

 

「は、はい……!」

 

「ま、任せておけ……」

 

「2人の気持ちに応えられるように頑張るよ」

 

竹内、一夏、シャルルは言葉通りの意味として捉えたが……

 

「(……なるほど、あの噂のために意地でも出ようとしてたのか……)ベストを尽くすよ、そうすれば自ずと結果はついてくるさ」

 

岩崎だけは彼女らの思惑に気付いたようだ。

 

「フフッ、美しい友情ですわね」

 

その様子を真耶が微笑ましく見ていた。

 

―――――――――

 

数分後、面会時間終了により、セシリアと鈴音を校医に任せて、一夏たち4人は寮へ帰ることにした。その道中…

 

「ねぇ、トシ……」

 

シャルルが岩崎に話し掛けた。

 

「ん?何だい?」

 

「あの……医務室で言ってたペアの組み合わせだけど……」

 

「うんうん……あ、もしかして組みたい相手でもいた?」

 

「いやっ、そういうことじゃなくて!」

 

「?」

 

「その……どうしてその組み合わせになったのかなぁって思って」

 

どうやら先程医務室で述べられた組み合わせの根拠を問いたいようだ。一夏も「あ、それ俺も気になってた」と興味を示した。

 

「あーうんうん、その話をするにはここじゃちょっとね……竹内くんデュノアくん、晩ごはんの後でまた君たちの部屋に集合ってことにしても構わないかい?………君たちの部屋(そこ)なら()()も………ね?

 

岩崎はこの意見が身勝手なものだとわかっていたが、竹内とシャルルに「察してくれ……」と目で訴えた。

 

「うん、わかった。いいよ」

 

岩崎の意図を察したシャルルはすぐに承諾し、

 

「…シャルルくんがいいって言うなら、僕も断る理由はないので、いいですよ」

 

少し遅れて竹内もOKを出した。

 

「うんうん、それじゃあまず一旦各々の部屋に戻って、晩ご飯を食べ終えたら1030室に集合……でいいかい?」

 

「「「了解!」」」

 

「よしよし、じゃあここで一旦解散して、また後で会おう」

 

……と言うわけで、この場はこれで解散となった。

 

――――そして数時間後、1学年学生寮・1030(臨時会議)室――――

 

「うんうん、全員揃ったね。んじゃ、始めようか」

 

岩崎がお茶を注ぎながらミーティング(?)の開始を宣言した。

 

「さっき出た、『何でデュノア・織斑ペア、竹内・岩崎ペアという組み合わせにしたのか』という質問についてだけど……まず、デュノアさんの正体がバレてはいけない。だから彼女は女子生徒と組むより、僕たち3人のうちの誰かと組んだ方がバレる心配は少ない。これは僕たち全員の共通認識でいいね?」

 

岩崎が確認をとった。3人は揃って頷いた。

 

「じゃあ僕たち3人のうち誰と組むのかって話になるんだけど、僕としてはさっき医務室で言った通り、織斑くんがいいかなって思う」

 

「俺……ですか?」

 

一夏が自分を指差して尋ねた。

 

「そう、君だ。織斑くん、白式の武装ってさ、近接ブレード1本だけでしょ?つまり近距離戦闘しか出来ない、そうなってくると剣の届かない距離に逃げられて、その距離をキープされたまま射撃とかされたら、もう手の施しようがなくなるわけだ……まぁ、最悪剣を投げると言う手段もないわけじゃないけど、織斑くんの場合は本当に息詰まった時に奇策としてしか使わない方がいい。何てったってそれの他に武装が何もないんだ、投げた後は丸腰になってしまうからね。……だから、中~遠距離をカバーできる人とペアを組むのが理想的だ」

 

一夏の白式、その武装は近接ブレード・雪片弐型ただ1つ。相手に接近できれば何の問題もないが、必ずしも接近できるとは限らない。さらに言えば数少ない男性IS操縦者、加えて"ブリュンヒルデ"こと織斑千冬の弟ということもあり、一夏の注目度は学年で1,2を争うほど高い。ともなれば、一夏が近接攻撃しかしてこれないことはとっくに学年全体に知れ渡ってること請け合いだ。そこで、一夏のパートナーには彼の痒いところに手が届くタイプ、つまり中~遠距離を広くカバーできるタイプが最適である………というのが岩崎の見解である。

 

「でも、僕も竹内くんも遠距離か中距離、どちらか片方しかカバー出来ない。一方デュノアさんなら、全距離に対応できる豊富な武装、そしてそれらを素早く切り替えて扱う"高速切替(ラピッドスイッチ)"をはじめ様々な技術がある。これなら織斑くんの手の届かない距離はバッチリだ」

 

なるほど…3人は納得した。

 

「次の理由だけど、最近は君たち2人一緒に訓練することが多いそうじゃないか」

 

「まぁ、そうですね……シャルルの説明が一番分かりやすいですし」

 

「うんうんなるほど……まぁ理由はともかくとして、長い時間一緒にやって来たってことは、互いの手をある程度知っているってことだ。必ずしもそうとは言わないが、よく知ってる者同士が組めば、そんなに知らない人と組むよりかは連携を取りやすいだろう……ちなみに、僕と竹内くんが組むのも、これと同じ理由さ」

 

そう、岩崎と竹内はこの学園の中では互いを一番よく知っている。さらに言えば、共に過ごした時間はシャルルや一夏との時間の比ではない。ゆえに、完璧にとまでは言わないが、互いの考えそうなことは概ねわかる。言い方を変えれば、お互い他の誰よりも連携を取りやすい。岩崎がこの2つの組み合わせを思い付き推奨するのも、この考えによるところが大きい。

 

「あと織斑くん、君は前にデュノアさんのアサルトライフルを借りたことがあるそうじゃないか。いざとなればそれも活用できる。君が近接戦闘しか出来ないだろうと思っている相手の裏を掻くことが出来るだろう。そういうわけで、織斑くんにはデュノアさんがペアとして相応しいと考えたんだ。正直言って、織斑くんにもデュノアさんにも悪い話じゃないと思うけど……君たちの意志はどうかな?」

 

いくら悪い話じゃないと言っても、本人たちにその気がなければ良い方の結果はまずついて来ない。ということで岩崎は一夏とシャルルにその意志があるのか尋ねた。

 

「俺は構いません。むしろシャルルがついてくれるなら、百人力ですよ!」

 

「うん……そこまで信頼してくれるのなら、ボクもそれに応えなくちゃ!」

 

その問いに対して、一夏は迷いなく、シャルルはその一夏にほだされる形で承諾した。

 

「よし、竹内くんもそれでいいね?」

 

「はい、改めてよろしくお願いします」

 

竹内も同意し、これで組み合わせに関する問題は解消し、ここに2つのペアが誕生した。

 

「うんうん、僕のわがままに付き合わせるような形になってごめんよ。けど、僕は今回に関してはこれがベストの組み合わせだと思ってる。ただし、いかにベストとは言え、僕たちの実力はまだまだ未熟。ケガをして僕たちに想いを託したセシリアさんやリンさんにいい報告が出来るように、明日からはそれぞれペアで訓練して、戦術や精度を磨いていこう。特に、ボーデヴィッヒさんにはみんな負けたくないよね?」

 

『ボーデヴィッヒ』……この名が出たとき、全員の顔がより真剣なものになった。

 

「何の考えもなしに彼女に挑めば、それこそあの2人と同じ轍を踏むことになってしまう………それだけは避けなければならない。となれば、シュバルツェア・レーゲンのAICについて何か対策を考えなければいけないね」

 

岩崎はここでチラリと時計を確認した。

 

「(時間がないな……)他の生徒を無視できるくらいの実力は僕らにはないけど、AICを無視しての優勝はあり得ない。彼女は必ず僕らツーペアのどちらか、或いは両方の前に立ちはだかるだろう。だからAICの対策について考える必要があるんだけど……」

 

「「「………(ゴクッ)」」」

 

「そこは明日から各々ペアで何とかしてもらうしかないな!」

 

3人ともずっこけた。意味深な溜めがあったので、何か重要なことを言うのかと思ったらこの始末。早い話が拍子抜けしてしまったのである。

 

「いやぁだって考えてもみてくれよ、僕は織斑くんみたいに剣を扱えないし、竹内くんもデュノアさんみたいに多くの武装を素早く切り替えながら戦う技術もない。君たちに出来ることが、僕たちにも出来るとも限らないからね。あと時計を見てもらうとわかると思うけど、残念なことに今日はタイムアップらしいよ」

 

そこで3人は岩崎に言われたように、時計を確認した。思いの外時が経っており、消灯前点呼の時間までもう残り10分を切っている。

 

「……そろそろ戻らないと、マズイ……ですよね……?」

 

「あぁ、マズイね……てなわけで竹内くん、明日から頑張ろう!お休み!」

 

「は、はぁ……お休みなさい……」

 

最後に言いたいことを言いたい放題言うだけ言って、岩崎は帰っていった。

 

「お、俺も千冬姉にどやされるのは御免だから、早いところ帰るとするぜ、じゃあお休みっ!」

 

一夏も慌てて帰っていった。………この展開、なんかデジャヴが……。(by天の声)

 

ともかくこれにてこの日の臨時会議は終了、竹内とシャルルも寝支度を整え、眠りに就いたのだった。




前書きにも書いた通り、前回の予告分が終わってないので、次回予告は無し。

以前活動報告に、「『主人公1人じゃ話が組み立てられない』という理由で竹内、岩崎両名を主人公にした」と記しましたが、「学年別トーナメントのタッグで男子生徒1人が溢れるのを防ぐために主人公を2人にした」という理由があったのを思い出しました。……何を言ってるのかわからない?大丈夫、私自身何を言ってるのかわかってない!

今回の後書きは以上!執筆を一旦終えると壊れてしまう作者・剣とサターンホワイトでした!


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