ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~ (木の人)
しおりを挟む

プロローグ

始めまして、木の人と言います。
何度目かになる新作投稿……気長に頑張ります。


 どうしてこうなった。

 

 今日は必ず訪れる休日、毎日酒を飲み続けている合法ロリは外出、引きこもりは布団の中に引きこもり、唯一の常識人は学園で仕事……つまり俺が一人でいられる絶好の機会だったはずだ。何をするというわけではないが酒臭い合法ロリからのセクハラもない素晴らしい日だったはずなのに……なんで、なんで――

 

 

「あははははは! 楽しいよぉ! もっともっと! もぉ~っと楽しませてぇ!!」

 

 

 ――なんでコイツと殺し合いをしてるんだろうな。

 

 

『いつもの事だろう?』

 

「うるせぇぞ……全く、相変わらずの出鱈目さだなおい。影人形(シャドール)でさえ弾ききれないぞ」

 

『ゼハハハハ! 流石はユニアの宿主だ! どうする宿主様? 降参するか?』

 

「冗談。アイツに負けたら目的が果たせねぇ」

 

 

 身に纏っている鎧の破損個所を修復するのと同時に背後に影人形を作り出す。黒い粘土が人の形をしているそれは顔を半分に引き裂くように一つしか無い眼を開いて真上を見据える。俺もその視線の先を見据えると先ほどから高笑いのような何かをしている光り輝く物体……いや鎧を着た女がいる。

 

 目を瞑りたくなるような光るマントを背に堂々と地面に立つ俺を見下ろしているのは俺の反存在――片霧夜空(かたぎりよぞら)

 

 

「おっ! 立ち直ったねぇ!! いいよいいよぉ! さぁノワール!! もっと熱いのを私の奥底にドスンと叩き込んでみなよ!」

 

「お前、自分の性別を少しだけ考えろ」

 

「嫌だなぁ~私が普通の女の子だってノワールも知ってるで、しょ!!」

 

 

 真上で浮遊していた夜空の姿が消え、数秒も経たずに背後から威圧感を感じる。影人形の拳で襲い掛かってくるであろう蹴りを止めるとその場から轟音が鳴り響く。

 

 目の前のこいつ(夜空)は普通の人間だ。人間という括りのはずなのに中身はそれを覆す……ただの人間が拳と蹴り一つでビルを叩き割れるか? 普通ならできない。それを呼吸するようにやってのけるのがこいつだ。今日も俺の部屋に無断で転移してきては暇だから殺し合おうよと笑顔で言ってきやがった。禁手化状態だから分かりづらいがコイツも合法ロリに近いんだよな……18で身長150前後は拙いと思うぞ? いやそんなことは置いておいてだ――距離を取らねぇと!!

 

 

「そ~れそれそれぇ!!」

 

「ちぃ……シャドォールゥ!!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!』

 

 

 一度距離を取って体勢を立て直すと夜空が笑いながら腕を振るう。たったそれだけで光の球体が弾丸のように、そして雨のように俺に降り注ぐ。この光に一度でも触れてしまえば俺の身体は煙を上げて消滅してしまうだろう……何故ならこいつが操る光は俺の天敵だ。なんせ俺は悪魔と人間の血を引いてるからな……そのおかげで相棒と出会えたんだが今は置いておこう。てか俺が大嫌いな天使と堕天使、そいつ等が扱う光と同性質を操れる夜空の神滅具(ロンギヌス)は頭がおかしい。

 

 だからこそ影人形の拳で全てを叩き落とす。光で吹き飛んでいく箇所も俺の、いや俺と相棒の能力で瞬時に修復が可能だからこその芸当……と言っても雨を全部叩き落せるかと言われたら無理と答えれる。

 

 

「相棒」

 

『ゼハハハハ! 突き進め宿主様!! ユニアの野郎に一撃を喰らわせてやれぇ!!』

 

「上等!!」

 

『夜空。クロムが何かをするつもりですよ』

 

「知ってる! だから真正面から迎え討つ! これぞ王道!!」

 

 

 俺が纏う鎧、それの手の甲に埋め込まれている宝玉から聞こえる相棒の声を聞き今一度覚悟を決める。一度息を吸い、それを吐く。そして強く地面を蹴って背後から魔力を放出し宙に浮かんでいる夜空の元へ真正面から向かう。それは夜空も同じだったようで光を集め、一瞬でビル三階分ぐらいのデカい光球を作り出して放り投げてきやがった――触れれば消滅、だがそれは俺とクロムなら防ぎきれる!!

 

 影人形を前面に出し拳を握らせ前面まで迫ってきた光球を殴らせる。一発、二発、三発、海を割るかのように影人形の拳で光球を防ぎ割りながら夜空の元へと向かう――そしてそれは数秒後に訪れた。突き抜けたのと同時にこぶしを握り締め、影人形ごと殴ると腕に凄まじい衝撃が走った……足だ。夜空の足、黄色い全身鎧に包まれた足が俺の拳の先にあった。

 

 

「タイミングばっちしぃ!!」

 

「うるせぇ! お前の蹴り受け止めるだけで周囲の地面が吹き飛ぶんだよ! 俺の領地を壊す気か!? 」

 

「いいじゃ~ん。此処冥界だしさ」

 

「理由になってねぇ!」

 

 

 夜空の足を掴んで一気に引っ張り俺に近づける。そして空いている拳で胴体を殴ろうと思い振りかぶるとこいつは一瞬で体勢を立て直してある技を繰り出した。

 

 

「ひっさぁ~つ! 貧乳回避!!」

 

 

 俺の拳は夜空の胸の前を通過してカウンターの蹴りを背中に喰らって地面に叩き落された。あれこそ夜空が最も得意とし、既に数百と殺し合いをし続けている中で必ず発動される技……貧乳回避。胸がない、絶壁と言えるほどの夜空の小柄な体だからこそできる回避方法なんだがこれを使われると一つだけ厄介な事になる。

 

 

「よぉ~し回避完了! さてノワール……誰の胸が貧乳だってぇぇぇ!!!!!」

 

「……酷い言いがかりを見た。これで何度目だよ」

 

『自分で言ったセリフを相手が言ったと脳内変換し八つ当たりをする。流石ユニアの宿主だ』

 

 

 背中の痛みを我慢しながら立ち上がると予想通り、夜空がブチ切れていた。自分の胸が壁なのを人一倍気にしているらしく壁、絶壁、無乳という単語が聞こえたならばとりあえず制裁と心に決めているらしい。そのセリフは自分が言っても同じのようで今のように酷い言いがかりと八つ当たりを喰らう羽目になる……牛乳飲めよ。

 

 

「もう怒ったぞぉ! 喰らえひっさぁ~つ!! ろりーたきぃ~っく!!」

 

「いい加減、いい加減さっさと沈んで帰りやがれぇぇ!!!!」

 

 

 轟音を鳴り響かせながら俺を夜空は殺し合いを続ける。

 

 理由なんてないし俺達が殺し合うのにそんなものは必要ない……ただ挨拶をするように全力でぶつかるだけ。既に数百と殺し合ったせいでこの場所の地形が大変な事になってはいるがそこはきっとキマリス領の観光地として宣伝できるだろう。

 

 だから今日も俺――ノワール・キマリスと片霧夜空は殺し合う。




観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と新米悪魔
1話


「……いっつ!?」

 

「我慢してください。もぅ、()()なんですか?」

 

「……なにそのもういい加減にしてくれませんかオーラは? 言っておくが俺は悪くない。今回も前回も前々回もあいつ(夜空)が暇だから殺し合おうよと言ってきたことが原因だからな」

 

「それに付き合う貴方も貴方です。はい、手当ては終わりましたよ」

 

 

 深夜、真面目な人物ならば既に就寝しているであろう時間帯に俺は自分の部屋でとある女性と一緒にいた。時間帯のせいで怪しい感じはするがそんな関係では全くと言って良いほどない……と言ってしまえば悲しいものだが本当にそうとしか言えない。数時間前まで夜空と殺し合いをしていて負った傷を隣に座っている茶髪の女性――水無瀬恵(みなせめぐみ)、通称水無せんせーに手当てをしてもらっていた。大半の怪我は切り傷や打撲程度なので傷薬を塗ってもらえば数日で治るんだが……相手をしてた規格外こと夜空は「うん楽しかった! それじゃまったねぇ~」と一瞬で傷を治してどこかに転移していきやがった。なんなんだよあの規格外! 本当に人間か? 俺はあいつが実は神格でしたとか言われても納得するぞ!

 

 

「いつもごめんな」

 

「別にいいですよ。だって私――貴方の僧侶(ビショップ)ですもの」

 

 

 救急箱を片付けながら微笑む彼女はその言葉通り、俺の眷属の一人の僧侶の位にいる人物だ。

 

 でもよく考えてみたら俺が眷属を持てるのは奇跡に近いと思う。なんせ眷属を持てる上級悪魔の殆どは純血、つまり人間の血が入っていない純粋な悪魔の血が流れている人が多い。無論大半がそれなだけで少数だが転生悪魔、つまりは上級悪魔が他種族を悪魔に転生させた人達もいる。ただしこれは非常に難しく最低条件が冥界に最大限の貢献、そしてその先にある中級や上級になるための試験を突破しなければならない。そんな中で混血悪魔でありながら眷属を持てる上級悪魔――(キング)になれた俺は非常に稀な存在だろう。というより頭の固いことで有名な冥界上層部が許可したものだ。

 

 

『ゼハハハハ! それだけこの俺様が宿る宿主様を他に渡したくなかったんだろうなぁ』

 

「ナチュラルに心を読むな」

 

 

 右手の甲に紋様が描かれ、その部分から声が聞こえる。

 

 この声の主こそ俺の身体に宿る神器(セイクリッド・ギア)に封印されているドラゴン――影の龍(アンブラ・ドラゴン)のクロム。冥界上層部及び現魔王様のお話しでは太古の昔、自分の欲望のままに暴れまわっていた邪龍のコイツと夜空の身体に宿っている陽光の龍(ルーチェ・ドラゴン)のユニアの二体が聖書の神と悪魔、天使、堕天使が協力して封じ込めた存在らしい。これが歴史上第一回目の共闘で二回目がまた存在するが……それは置いておこう。

 

 

『否定することもないだろう? なにせ俺様、地双龍と呼ばれるほどの存在だからなぁ。ゼハハハハ! クロウの野郎よりも有名になるとは気分が良いわ!』

 

「有名もなにも相棒が封印される前に筆頭格が滅んでただけじゃねぇか」

 

『……まぁそういう事にしておいてやろう。俺様、邪龍の中でも空気が読めると定評がある』

 

「嘘つけ」

 

 

 コイツが空気を読んでいる所なんて今まで見たことがないんだが……まぁいいや。でも確かに冥界上層部が相棒を悪魔側の勢力に引き入れたかったのは本当の話だ。二天龍、ドラゴンの中でも別格の存在で相棒と同じく神器に封印された二体のドラゴンの対極の存在、それが地双龍。血縁関係や生まれも違うが神を殺せるほどの力を持った存在という事でそう呼ばれるようになったらしい。もっとも邪龍の筆頭格がまだ生きていたら呼ばれることもない異名だろうけども。

 

 そんな奴が他勢力に回ると厄介な存在になりかねないので混血悪魔だが特例として王と認めるとか上から目線で言ってきたおかげでこうして眷属を持てるようになったわけだが……正直な所、良い所があるのかどうかが分からない。なんせ戦車を与えた奴は毎日樽一つ分の酒を飲む合法ロリ、騎士を与えた奴は引きこもりが大好きで将来は布団と結婚したいとか本気で言っているダメ妖怪、唯一の救いが目の前にいる水無瀬なわけなんだが……これはこれで厄介なんだよ。

 

 

「あ、あの? 私の顔に何かついていますか?」

 

「いや……単に今日はどんな不幸を味わったんだろうなぁ、と」

 

「……学園に向かって歩いている途中で道路に水を撒いている人からバシャァと水を間違えて掛けられました……学園では十回は転ぶしお弁当のおかずを一個は落とすし……なんでなんですかぁ!」

 

「ごめん。それは俺も分からない」

 

『一度神社でお祓いをしてもらった方が良いと思う。割とマジで』

 

「神社でお祓いなんてしたら私が消えちゃうじゃないですかぁぁぁ!」

 

 

 俺の僧侶、水無瀬恵は非常に、ひっじょ~うに運が悪い。街に買い物に行けばナンパをされ、電車に乗れば痴漢被害にあい、雨が降った後は必ずトラックにより水たまりの水を浴びる。転ぶことなんてほぼ毎日で一体全体どうしてこうなっているんだと疑問にすら思うほどの不幸っぷり……そして性格が非常に悪いと定評がある我が相棒ですら同情してしまうほどだ。邪龍に同情される転生悪魔って多分水無瀬ぐらいじゃねぇかなぁ。

 

 

「とりあえず……明日はきっと良い事あるって。だからもう今日は寝ろ、寝ろ」

 

「うぅ~はい……そうしますぅ~……あっ! 明日は登校日ですからちゃんと起きてくださいね! 遅刻とかは許しません」

 

「はいはい。平家にも言っておくよ」

 

 

 水無瀬が部屋から出ていくのを確認してから飲み物を飲むためにリビングに向かう。さて明かりがついていて尚且つこの匂い……やはり起きて飲んでいたか。

 

 

「うぃ~およよ? のわーるじゃないかぁ~めぐみんのおせっきょぉ~はおわったのかぃ~?」

 

「終わったよ。てか酒くせぇぞ……いい加減自重って言葉を覚えろ」

 

「むりむりぃ~んむぅ……ぶはぁ~さいこぉ~おいちぃ~」

 

 

 一般家庭では絶対に見ないであろう樽を片手で持ち上げてラッパ飲みしているのは俺の戦車――四季音花恋(しきねかれん)。見た目は完全に9歳の子供だが年齢は俺よりもはるかに上……つまりは合法ロリ。圧倒的な存在感を放つ樽の中身は酒が入っていてほぼ毎日こいつはこれを飲んでいる。普通に考えたらこれだけの量を飲めば死にかねないがこいつ曰く「だってわらしぃはおにだもぉ~ん」だそうでどれだけ飲んでも体調を崩すこともなく逆に体調が良くなるという謎だ。

 

 というより酒臭いまま俺のベッドに入ってくるのだけはやめろ。朝から酒臭くて吐きそうになる。

 

 そんなことは知らないこいつはお酒美味しぃとか言いながらラッパ飲みをしているわけで……まぁ言っても無駄か。半ば諦めつつ冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いで一口、うん美味い。

 

 

「ねぇねぇ~のわーるってばこうりゅうひとヤリあったんでしょぉ~いいなぁ~ねぇヤろうよぉ~いまならさーびすしちゃうよぉ~?」

 

「お前のサービスはサービス(物理)だろうが。というよりすり寄ってくるな酒臭い」

 

「いいじゃぁ~ん、ほれほれぇ~みせいちょうおっぱいだぞぉ~きしょうだぞぉ~ヤらせてくれるならもんでもいいよぉ?」

 

「生憎お前とまで殺し合いをする気力は持ち合わせていない。てかさっさと飲んで寝ろ」

 

「いけずぅ~」

 

 

 言わせてもらうと絵的に拙いんだよ。先ほどまで風呂に入っていたのか桜色の長髪が地味に濡れていて酒のせいで顔が赤い、そして見た目9歳児が17の俺の足に抱き着いてスリスリと……何度も言おうか。絵的に拙い。本当にいい加減にしてくれねぇかなぁこの合法ロリ……! 毎日毎日セクハラしてきやがって……一回ガチで殺し合った方が良いのかねぇ。上下関係を分からせる的な意味で。

 

 

「いいもんいいもぉ~ん。わたしぃにはぁ~おっさっけぇがあるもんねぇ~」

 

「ダメだなコイツ。誰だよこいつを眷属にしたの」

 

『宿主様だが、しかしあれは同意があったかと言えば疑問に思わざるを得んが気にしても仕方ないだろう。俺様、宿主様がロリコンになったとしても親代わりを止める気は無し。流石俺様心が広い』

 

「……ツッコミどころが多すぎてもう疲れた。四季音、寝る時はちゃんと電気消せよ? もしつけっぱなしで寝てたら一日だけ酒を禁止にするからな」

 

「わかってるよぉ~うぃ、ひっひ、おっさっけおさけぇ~」

 

 

 あれはきっとダメだな。一分後にはすぐに忘れていると見える……まぁいいや。隣町で契約取ってるから資金にはまだ余裕あるし次に言って駄目なら殺し合おう。上下関係を分からせるには拳しかないと相棒が言ってたし間違ってはいないだろう。

 

 四季音に別れを告げて自室へと戻る。ベッドに横になると軽く睡魔が襲ってきた……あいつほどじゃないが確かに布団、ベッドは強敵であり友である。もう全世界の人間や神や悪魔や魔王や天使や堕天使もがベッドの中にいれば戦争とかする気にもならねぇだろう。そういえば明日は学園だからあいつを起こして登校させねぇと……出席日数が足りずに留年とか洒落にもならん。

 

 だがその前に――

 

 

「――相棒」

 

『なんだ宿主様』

 

「俺は……強くなれているか?」

 

『ゼハハハハ! 当然だ。宿主様ほどこの俺様を信用し力を合わせようとするやつは過去の奴らであっても存在はせん。誇ってよいぞ? 宿主様は歴代最強の影龍王として君臨するだろう』

 

「夜空には勝ててはいないけどな……負けてもいないけど」

 

『あれは例外だ。今の宿主様ならば同年代の者には負けんだろう。昔のように襲い掛かってきても再起不能にできるほどの実力を持っている。俺様は空気が読めて性格も良いが嘘は言わん。信じろ』

 

「空気が読めなくて性格が最悪の間違いじゃないか? 言われなくても信じてるよ」

 

 

 俺は悪魔と人間の混血悪魔、対して夜空は生粋の人間。その差は大きいはずなのにどういうわけか決着がつかずに引き分けになる。あいつと戦っているとただの人間にも勝てないほど弱いのかと思わざるを得ないが……相棒が認めてくれるなら今は、大丈夫なんだろう。

 

 そう言えば結構昔に喧嘩を売ってきた他所の純血悪魔は今頃何をしてるんだろうか? 確か俺が混血悪魔で王になれたと聞いていちゃもんを付けに数人がかりで態々キマリス領までやってきてたのは覚えてるが……どうでもいいか。たとえ両手両足の骨が粉になるまで粉砕して体型がちょっと薄くなるぐらいに体の骨もへし折って最終的に心を砕いたとしても悪魔だし生きてるだろう。フェニックス家が作ってる万能薬ことフェニックスの涙もあるしきっと今頃別の新米の王にいちゃもんを付けに行ってるんだろう。この暇人どもめ。

 

 考えても仕方がないから電気を消して就寝する。しばらくは意識があったがそこは世界最強のベッドの魔力だ……いつも間にか眠りについて気が付けば朝だ。この気だるい感じは間違いない……身体の半分が悪魔だから朝は嫌いだ。やる気もなくなるし学園はめんどくさいし……いや自分から通うって言いだしておいてそれは無いか。

 

 

「あっ、おはようございます」

 

「おはよう水無瀬。相変わらず早いな」

 

「朝食の準備をしないといけないので……えっとあの子がまだ寝ているようで良ければ起こしに行ってもらってもいいですか?」

 

「あいよ」

 

 

 自室から出てリビングに向かうとスーツにエプロン装備の水無瀬が朝食を作っていた。別にやれと強制をしたわけではないが俺も四季音もあいつもロクなものを食べないからそれを防ぐためにやってるらしい……なんともありがたい話だ。普段が不幸なだけであって水無瀬は容姿も相まっていいお嫁さんになるだろう。普段の不幸を除けばの話だが。

 

 そんなどうでもいいことは置いておいて顔洗ってさっさとあいつを起こしに行くか。洗面台の前でいつものように顔を洗い、歯を磨く。鏡に映るのは毎日見ている自分の顔。母さん譲りの黒髪に親父譲りのやや鋭い目、そしてこのやる気のない表情。まさしく俺だ……よしいつも通り。そんな馬鹿な事を思いながら来た道を戻って俺の部屋の隣――平家とプレートに書かれている部屋をノックする。しかし数十秒経っても返事なんてないためやはりかと思いつつ扉を開ける。

 

 

「おい、今日は登校日だぞ? いい加減起きろ」

 

「……ヤダ、眠いです、私は此処から出たら死んでしまう」

 

「似た症状の俺は生きてるから大丈夫だ」

 

 

 部屋に入ると目の前には掛布団に包まったなにかがいた……コイツの事を布団の妖精と呼称しよう。

 

 

「ノワールはドラゴンだから生きていられる。私はただの転生悪魔だから死んでしまう」

 

「それで通るなら世の転生悪魔の大部分は死んでるぞ。冗談は置いておいてさっさと起きろ。水無瀬が朝食を作ってる」

 

「……うぅ、ご飯……ノワール、私のおっぱい触っていいから持ってきて。そして学校サボらせて」

 

「……なんでお前も四季音も平気で自分の身体差しだそうとするんだよ。良いから起きろ――さもないと影人形を使って強引に引きずり出すぞ」

 

 

 割とマジな声色で言うと観念したのか布団の妖精はその殻を脱いだ。膝下まではある長い髪は寝癖でぼさぼさ、まだ眠いのか半目の状態で何かを言いたそうに俺を見つめている。

 

 余談ではあるが目の前のコイツ――平家早織(へいけさおり)もまた壁だ。もっとも年上の夜空よりは大きくクロムの言葉を信じるならバストはBカップだそうだ。ついでに言うと水無瀬はCカップで現在も成長中だとか何とか。四季音? あいつはどう考えてもAだろう。

 

 

「変態」

 

「つい先ほどの自分のセリフを思い出せ」

 

「自分で言うのは良いんです。他の人が言うと変態なだけ……つまりノワールは変態」

 

「……なんでお前も――」

 

「光龍妃のように理不尽な八つ当たりなんてしてません。一緒にしないでください心外です」

 

「だから心読むな。たくっ、普段は嫌だっていうのに俺のだけは読みやがって……良いから支度をしてリビングまで来い」

 

「……ワカリマシタ」

 

「すげえ棒読みだが来なかったら四季音と殺し合いさせるからそのつもりでいろよ」

 

「虐待、鬼畜、ロリコン、変態」

 

 

 失礼な言葉の弾丸を浴びながら部屋を出る。俺の心を読んでるなら本気だって事ぐらいは分かってるはずだし大丈夫だろう。

 

 リビングに戻ってしばらく待つと学園の制服に着替えた平家がやってきた。先ほどまで寝癖で酷かった髪は綺麗なストレートになっていて見た目だけならアイドルとして十分やっていけるだろう。中身は引きこもることで頭がいっぱいな残念さではあるが。そんなわけで水無瀬が作った一般的な朝食を食べながらテレビの占い番組を見る。順位は俺が三位、平家が一位、水無瀬が最下位……いつも通りだ。水無瀬に関しては一位であっても不幸だし順位なんて関係ないから困る。

 

 

「四季音は?」

 

「部屋で熟睡中です」

 

「いつもの事。ノワール、醤油取って。代わりにこれあげる」

 

「ソースありがとう。ほれ醤油」

 

「あっ、今日はちょっと帰るのが遅くなりそうですので夕飯の時間が遅れます。間食のし過ぎには注意してくださいね」

 

「りょーかい」

 

「養護教師も大変。不幸でさらに大変。そして遅れる婚期でさらに倍」

 

『不幸すぎて良い相手が居ねぇもんなぁ。俺様、同情するぜぇ』

 

「い、良いんです! こ、恋人はそのぉ……と、とにかく! 不幸もいつか治りますから!! 絶対に治りますから!!!」

 

「やっぱり不幸には勝てなかったよ。というオチになると思う」

 

「否定できないなそれ」

 

 

 これ以上言うと水無瀬がガチ泣きしかねないからこの話題はこの辺で終了。朝食を食べ終えた後は家を出る時間が早い水無瀬は先に学園に出勤、それ以外の俺達は家を出る時間までまったりとする。俺はソファーに座って面白くもない朝のニュースを見ているが平家は俺の膝を枕にスマホでアプリゲームをしている。普段はPCだがこういう時間はアプリの方がいいらしい……俺はよく分からん。

 

 結局最後まで四季音が起きてこなかったので書置きだけして家を出る。学園への通学は基本自転車だ……別に遠くないから歩いても問題ない距離だが辛い、特にこの引きこもりを連れて歩くのは結構辛い。理由なんてこの引きこもりが歩きたくないからだよ。だから平家が荷台に乗って俺が自転車を押して歩く。最初は慣れなかったが今では慣れたものだ。学園にいる奴らからは付き合ってるぅ? みたいな視線と心の声が聞こえると平家が言ってたがどうでもいい。他人の認識をいちいち気にしていたら生きてはいけないしな。

 

 

「ねぇ、ノワール」

 

「なんだ? あと学園が近くなったら偽名で呼べ」

 

「じゃあ黒井先輩……ダメ、違和感ある。ノワール、前々から聞きたかったんだけどなんで駒王学園に通ってるの? あそこって別の上級悪魔二人のテリトリーだよね」

 

「まぁな。なんだ? 何か言われたか?」

 

「うぅん。心の声でノワールに本格的にコンタクトを取りたがってたのが聞こえただけ。だから気になった」

 

 

 何でと聞かれたらどう答えればいいのだろうか……ほら、偶に何かにひかれるとかあるだろ? そんな感じだよ。心読んでるんだから言葉にしなくても良いだろ?

 

 

「うん。でも何にひかれた――二天龍?」

 

「そういう事。最初は分からなかったがある奴に出会ったら答えが出たんだよ……俺はあいつの中にいる存在にひかれたんだってな。多分、相棒を宿していることが原因なんだろうなぁ」

 

『ゼハハハハハ、その仮説は間違ってはおらんぞ。今代の赤龍帝は何かを引きつける事だけは歴代の中でもトップクラスかもしれん。もっともまだ目覚めてはいないようだがなぁ! あの赤蜥蜴はよぉ!』

 

「生憎喧嘩を売るつもりはないから放置だな」

 

「それが賢明。紅の髪の方の上級悪魔がその子を狙ってるし関わらない方が良い」

 

「今すぐ眷属増やしたいというわけでもないしな。というわけだ、そろそろ学園が近いから相棒は黙れ。そして平家は偽名で呼べ」

 

 

 離れた所に見えるのは俺と平家、そして水無瀬の職場である駒王学園。元女子高で現在は共学に変わったが男子の数は女子よりも少ない。理由としては名門らしいからその辺りが絡んでいるんだろう。そしてその場所はただの学校ではなく俺達のような悪魔が裏で支配している場所でもある……悪い事はしていないから安心と言えば安心だ。

 

 そう言えば俺が此処に通うと決めた時に親父がこの地域を治めている家に挨拶に行ったのを覚えているが……正直、片方は顔を合わせたら軽く挨拶する程度、もう片方は同好会絡みの報告などで会う程度だから本当に挨拶必要だったのか今でも疑問に思う。まっ、悪い事してるわけじゃないし契約だってこの地域じゃなくて離れた場所でやってるし問題ないだろう。

 

 

「――帰りたい。声が五月蠅い」

 

「頑張れ……と言いたいが無理そうだったら保健室行けよ。お前は()()なんだからな」

 

「そうする」

 

 

 こうして今日も退屈な一日が始まった。




・王 :混血悪魔
・女王:無し
・戦車:セクハラ大魔神合法ロリ
・騎士:引きこもり(枠1)
・僧侶:不幸体質常識人(枠1)
・兵士:無し

以上が現キマリス眷属です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

「もうヤダ帰りたい」

 

 

 昼休み、俺の隣にいる平家がぐったりとした様子で言い出した。

 

 場所は駒王学園保健室、つまり水無瀬の職場でもある場所に俺と平家は集まっている。理由なんて大したことじゃない……ただ飯を食いに来ただけ。たったそれだけの理由――と言いたいが半分以上は平家がかなり疲弊していたため休ませる意味合いも兼ねてこの場所にやってきていた。

 

 

「女子は辛いなら帰ればいいのにとか可哀想とか彼氏の所行けばいいのにとか心の中で言うし男子は病弱サイコーとかヤりてぇとかここで話しかければ好感度アップとか下種な事しか思わないしもうヤダ帰りたい」

 

「……意識しなかったら心の声は聞こえないんじゃなかったのか?」

 

「そんな事で聞こえなくなるなら最初からやってる……それが難しいから悩んでるんだよ。自分のクラスだけじゃなくて他のクラスからも聞こえるし――何より変態三人衆の心の声が一番キツイ」

 

「だろうなぁ」

 

 

 変態三人衆。それは駒王学園始まって以来の所謂スケベな三人の学生の事だ。俺は別のクラスのため離れた所で顔を見る程度だがエロ本やAVを持ち込んでいたり女子の着替えを覗いたりとやりたい放題のようだ。俺は男だから危害は全くと言って良いほど無いけど女である平家は心の底から辛い事もあるだろう。

 

 そして最悪な事にこの変態三人衆の中に、赤龍帝と呼ばれる二天龍の一体が宿っている事はどうしたらいいんだろうか。

 

 

「放っておけばいいよ。天龍だろうと変態は変態……」

 

「確かにあの子達はやりすぎてますから……学園でも処分を検討していますので近々彼らに通達されるかと思いますよ。それから早織、辛ければベッドで横になっていても良いですよ」

 

「そうするけどできれば早退したい……でも単位が足りなくなる、辛い。病弱設定なのに休めないとかおかしいよ」

 

 

 こいつ(平家)のいう通り、学園では病弱の設定で通している。平家自身の事情によって毎日通学することが困難なためやむなくこの設定をすることになった。

 

 何故なら平家は(サトリ)妖怪の一人で他人の心の声が聞こえてしまうからだ。意識しなければ大丈夫との事だがそう簡単にはいかず出会って眷属にしてから今日まで自分の能力に苦しめられている。確かに他人の心の声なんて最悪で吐き気がするような事ばかりだろう……平家自身の容姿が良いからなおさらそれに拍車がかかるのも事実。隣で水無瀬が作った弁当を食べてはいるが顔色がかなり悪い……此処に通わない方が良いんじゃないだろうか?

 

 

「……自分で通うと言った以上は卒業まで頑張る」

 

「そうは言うが毎回その顔色だろうが」

 

「人混みは慣れてない、だから慣れれば大丈夫。大丈夫だ問題ない」

 

「そ、その顔色で言われても説得力がないですよ? 次の授業まで時間はありますから横になってください。もし無理そうなら担当の先生に事情を説明しますからね」

 

「水無瀬、俺も体調が悪いから説明よろしく」

 

「ノワール君は五体満足で体調不良なんてこれっぽっちもないでしょう? サボリはいけません」

 

「ケチだなぁ」

 

「当たり前の事を言っているだけです。そもそも早織は良いとしてノワール君は自分の教室で食べなさい」

 

「俺様、友達いない、そして此処俺達の部室、何も問題ない」

 

「何時からここは同好会の部室になったんですか……」

 

「最初からだよ。ノワール、友達がいない者同士仲良くサボろう」

 

「そうだな――はいはい、嘘だよ。友達いないのは確かだが自分の眷属が辛そうなのを見て放っておけるか。平家も俺の心の声だけに絞れ、それぐらいならできるだろ?」

 

 

 隣にいる平家は小さく頷いた。他人の心の声を完全に聞こえないようにするのは難しいが特定の人物にだけ的を絞るのは案外簡単な方らしい。ただしその場合はその人物の深層心理や過去の記憶まで覗いてしまうのが難点との事……もっとも俺はその辺りを覗かれた所で嫌悪したりなんてしない。読みたければ勝手にどうぞ状態だ、と前に平家に言ったらバカだよねと真顔で言われたのは今でも覚えている。

 

 

「バカだよ。覚妖怪なんて妖怪の中でも嫌われ者なのに眷属にして好きなだけ心を読めとかキチガイとしか言えない。だからノワールはバカ、大馬鹿だよ」

 

「心配してるのに失礼な奴だなぁ」

 

「……嘘冗談。ありがとう」

 

「……ノワール君って早織に対しては過保護ですよね」

 

「そうか? 自分の眷属の事を考えるのは普通だろ。それに俺も混血悪魔で平家ほどじゃないが昔から純血悪魔の嫌な部分とか見てきたし苦労もしてきた。だから辛い奴を放っておくことは出来ねぇよ。水無瀬も何かあったら言えよ? 一応俺様、お前の主様だから」

 

「クスッ、はい。そうさせてもらいますね。ですがクロムの物まねはやめましょう、俺様とかノワール君には似合いません」

 

「えっマジで?」

 

『ゼハハハ! 俺様と言って似合うのはこの俺様、クロム様のみなんだぜ宿主様よぉ。似合うようになるまでざっと見て数千年後って所か、頑張れ宿主様。俺様、期待して待っているぜ』

 

 

 何故俺様と言うのに数千年も待たないといけないのか理解不能だが確かに自分で言ってみてこれはないわ、と思ったから反論はしないでおこう。

 

 この後は弁当を食べ終えた平家をベッドに寝かせてから保健室を出る。一応出る前に俺の心の声だけ聞いていろよと言っておいたがちゃんとやってるんだろうな? とか思っていたら携帯に『聞いてるよ』と言う一文だけのメールが届いたから問題ないらしい。てかこの部分だけ見ると盗聴している女子からのメールっぽくて怖いな。実際には心を盗聴しているから間違ってはいないが。

 

 

「黒井零樹君。少し良いかしら」

 

 

 何をするわけでもなく教室へと向かっていると珍しく話しかけられた。その人は平家と同じ長い黒髪で眼鏡をかけている真面目そうな美少女、いや美女? とりあえず駒王学園の中でも男女問わずに人気があるのは見た目通りの性格と容姿によるものだろう……あとついでに女の園として有名な駒王学園生徒会の副会長と言う理由もあると思う。

 

 しっかし自分でつけた偽名だが安直だな。ノワールだから黒井、霊気を操るから零樹。うん安直だ。でも生徒会長も似たような感じの偽名使ってるし問題ない問題ない。

 

 

「……構いません。でも真羅副会長が俺に何か用ですか?」

 

「はい。生徒会長から『心霊探索同好会』の活動目的、及び実績などでお話があるようです。放課後に生徒会室まで来ていただきたいのですがよろしいですか?」

 

「分かりました。あと、俺程度に敬語はいらないですよ……では放課後に伺います」

 

 

 会釈をして副会長から離れる。しっかし同好会の活動目的に実績ねぇ……特にやることなんてないんだがなんて説明するべきか。心霊現象なんて簡単に起こせる上、単に平家と水無瀬と一緒にいてもおかしくはないように作った適当な同好会でそこまで力を入れているわけじゃない。となると形式上は同好会に関する事で実際にはまた別の話、かねぇ。

 

 歩いていると平家から『副会長の心を読んだけど悪魔絡みの話をしたいみたい』というメールが届いた。凄くありがたい情報だが他人の心を読むのは苦痛じゃなかったのか覚妖怪。でもあれだよなぁ~まさか美女と美少女が揃っている生徒会がまさか全員俺と同じ悪魔だなんて誰も思わないだろう。しかもトップが現魔王の妹なんだからさらに驚きだ。だからと言って変態という文章のみのメールはどうかと思うぞ引きこもり。

 

 

「おぉ、今日も嫁さんの看病かい? 羨ましいねぇこのこの~」

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 

 教室に戻ってくると特に仲が良いと言いうわけでもない……強いて言えば去年も同じクラスだった男子生徒から冷やかしなのか冗談なのかよく分からないことを言われた。確かに平家が入学してからほぼ一緒にいるがどうしてそんな風に思われるのか謎なんだが? まっ、男子生徒数が女子生徒よりも少ない上、そういった話がこの学園ではあまりないからだとは思うが。

 

 

「いいよなぁ。黒井はあの幻のお姫様と付き合ってるし匙の野郎は男子の夢の生徒会入り……どこで差がついたんだ」

 

「うんうん。どうすればそんな風になるのか教えてほしいんだが?」

 

「知らん。と、生徒会に新しく入った奴いるのか?」

 

 

 それが本当なら驚きだ。なんせ生徒会は全員悪魔、ただの一般人が入れるような場所じゃない……あぁ、だから悪魔絡みの話がしたいのね。そういう事か。あと――匙って誰だっけ?

 

 

「いやお前も去年から同じクラスだろう。匙だよ匙、今は生徒会室に行ってるみたいだがまさか名前知らないとかじゃないよな?」

 

「そんな奴いたっけ?」

 

「……お前、もう少し愛想よくした方が良いぞ」

 

 

 失礼な奴だな。クラスメートとしては軽く話す程度の奴にそんなことを言われる筋合いは無いんだが……どこからかコミュ障乙とか聞こえたような気がする。もっと具体的に言えば保健室で布団の妖精とかしている引きこもりがそんな事を言ったような気がする。お前一度鏡見ろ、きっと俺と同じコミュ障の自分が映っているぞ。

 

 適当に名前も忘れた集団と会話をしていると昼休みが終わった。メールを見た限りでは平家は自分のクラスに復帰したようで少しだけ安心だ。きっと今も適当に授業を聞きながら俺の記憶でも盗み見ているんだろう……ロクな記憶はないと思うが楽しいのかねぇ。まっ、あいつがいいならそれでいいんだけども。

 

 

「失礼します」

 

 

 そして時間は進んで放課後、俺は約束通り生徒会室までやってきていた。扉をノックし、どうぞとの声が聞こえてから中に入ると生徒会役員全員が待ち受けていた。此処だけ見ると俺が何か悪さをしたようにも感じるが品行方正かつ真面目だからそんな事をするわけがない……うん、自分で真面目とか言ってみたけど全然真面目じゃないな。そして品行方正でもない。

 

 副会長の真羅先輩に案内されてソファーに座らされる。目の前には駒王学園生徒会長が綺麗な姿勢で座っている。そしてその後ろには役員が……あれ? 男がいる。あぁ、噂の生徒会入りをした奴か……何故驚いた顔をしているんだ?

 

 

「突然お呼び出しをしてしまってごめんなさい」

 

「生徒会長に呼び出されれば来ないわけにはいかないですよ。心霊探索同好会の活動目的と実績についての話でしたっけ? それに関してはうちの部員の体調が安定次第に心霊スポット巡りをするつもりです――という話をするために呼ばれたわけじゃないですよね?」

 

「えぇ。何かしらの理由がなければ騒がれそうでしたから。今回お呼びしたのはここ最近の駒王町に関する事と……私的だけれども新しく入った子の紹介ね」

 

「態々俺なんかに紹介をしていただけるとは光栄ですね」

 

「同じ学園に通う私と同じ王、キマリス家次期当主、そして影龍王ともなれば紹介しなければシトリー家の名に傷が付きます」

 

「別に傷は付かないと思いますが……そのご厚意には感謝いたします」

 

 

 目の前の女性――支取蒼那、またの名をソーナ・シトリー。俺と同じ元七十二柱シトリー家の次期当主で純血悪魔、そして現魔王の妹の一人。そんな人がただの混血悪魔である俺に眷属を紹介してくれるとは他の奴に知られたら反感を買いそうだ。もっとも手を出して来たら問答無用で再起不能にするけど。

 

 しっかし影龍王、ねぇ。その名は俺じゃなくて相棒を表す異名だからあんまり呼んでほしくはないんだよな。だって相棒が俺なんかと同列に見られててなんか嫌だし……相棒の経歴からすれば俺なんかはその辺のゴミと一緒なんだから。

 

 

「それじゃあ紹介するわ。私の兵士(ポーン)の匙よ」

 

「匙元士郎、って同じクラスだから知ってるよな? でも驚いたぜ……会長からお前も悪魔で王だって聞かされた時は嘘かと思ったぞ――って何だその顔? 初めて会ったような顔だがまさか忘れたとかじゃないよな!?」

 

「すまん。マジで誰だ?」

 

「去年も同じクラスだっただろ!? なんで忘れてるんだよ!? 去年の学祭とか体育祭とかで絡んだだろ!!」

 

「昔の事は忘れることにしているんだ。悪いな――と言うのは冗談半分、今日の昼に初めて知ったよ」

 

「どっちみち忘れてるんじゃねぇか!?」

 

「匙……クラスメートと言えど彼は――」

 

「ただの混血悪魔なんでこのままでいいですよ。生徒会長のように年上ならともかく同い年で畏まってるのもなんか変ですし。それと名乗り返すよ、ノワール・キマリス。生徒会長と同じ元七十二柱キマリス家次期当主で一応王になってる。黒井零樹は学園に通う都合上名乗っている偽名。今は席を外しているが心霊探索同好会に所属してる平家と顧問の水無瀬は俺の眷属、あと一人は実家の領地で大工仕事中だ。日を改めてこちらから紹介に伺わせてもらいますよ」

 

「……マジ? あの大天使水無せんせーが黒井の眷属!? ついでに幻のお姫様も!?」

 

「あぁ、先日、彼女にシトリー領にある病院の破損個所を治していただきました。この場を借りてお礼を言わせてもらうわね」

 

「あいつの仕事なんで気にしなくていいですよ。今後も大工仕事があればいつでもご連絡を……あいつを働かせないと酒代がヤバいんで」

 

 

 俺と平家は学生、水無瀬は教師としてこの学園にいるが四季音は冥界で大工関係の仕事に就いている。そもそもあいつは見た目が小学生だから働くことも出来ず、かといって酒を飲むから学生として通わせることも教師として働かせることも出来ないから仕方がない。それにあいつは鬼の種族で怪力の持ち主だから力仕事はまさに天職と言ってもいいだろう。噂では酒飲みながら働いてるみたいだが仕事はきっちりとこなしてるらしい……真面目なんだか不真面目なんだかよく分からん。

 

 余談だが鬼故のカリスマなのか働き始めて僅か数時間で同僚や上司、部下を纏め上げて必要不可欠な存在になってるらしい。どうしてこうなった。

 

 今なお混乱中の匙君を放っておいて次の話題に移る。今の駒王町の事らしいがなにかあったか? 個人的にはあの規格外が何度も出入りしてるという事と堕天使が潜入している事しか知らないぞ。

 

 

「キマリス君、ここ最近だけれども駒王町に堕天使が潜入している可能性があるわ」

 

「あっ、やっぱりですか。前にうちの眷属の一人がそれらしいものを感じたと言ってましたけど……まだ対処されてないんですか?」

 

「えぇ。基本的に駒王町を治めているのはリアスだから彼女が見つけ次第対応するんだけれど……でも知っていたのね。とすると既に居場所も分かっているのかしら?」

 

「さぁ。あいつが感じただけらしいんでどこにいるかまでは分かりませんよ。それに分かっていたとしても俺は関与しませんから教える意味もないです」

 

 

 知らないというのは嘘だ。実際には既に平家が堕天使の一派が隠れている場所を見つけている……でも言わない。此処は俺が治めている場所じゃないし勝手な事をして怒られたくもない。俺も平家も水無瀬も四季音もごく普通の生活をこの町でしているだけだしな。そんな事を言ってみたら生徒会長が複雑そうな顔をしたけど気にしない、だって事実だし。

 

 

「……まぁあいつ等に手を出す、俺の目の前で誰かを襲うなんて事になったら問答無用で殺すんで安心してください」

 

「戦争の火種にならない程度にお願いね……噂では光龍妃が他勢力相手に暴れまわっているようだから何が発端で戦争になるか分からないもの」

 

「あの規格外、単に暇だからあそぼぉ~みたいな思考でやってるんで気にするだけ損ですよ」

 

 

 確か夜空の奴、北欧からギリシャ、インド、とりあえず手当たり次第に遊びと言う名の襲撃をしてるから他勢力も対策を練ってるらしいな。あんの馬鹿……ちょっとは自重と言う言葉を覚えろっての。そして主神や神相手に死なずに生き残ってるあいつってやっぱり規格外だわ。俺なら普通に数百回は死んでる。

 

 

「……とりあえずこの地域で何かあれば言ってください。俺の力でどうにかなるなら手を貸しますから」

 

 

 先ほどの発言で俺以外の全員が何とも言えない表情をし始めたから話を打ち切る。ついでに言うとそろそろ帰宅時間だ――なんでも平家が遊んでいるゲームのイベントが開始されるとかなんとかで早めに帰るぞとお達しがあった。あいつ一応俺の部下だよな? 何で上司を顎で使ってんの? 別にいいけどさ。

 

 

「え、えぇ。頼りにしているわ。それと同じクラスという事で匙とも仲良くしてもらえるとありがたいわ」

 

「それはお約束はできないかもですね。それでは失礼します」

 

 

 全員に会釈をして生徒会室から出る。そして向かう先は引きこもりが引きこもっている保健室……まっ、今日一日頑張ったんだから許してやろう。水無瀬に先に帰ることを伝えて平家と共に学園を出る。荷台に乗っているというのに早く早く、ハーリーハーリーなどと急かし続けてくるこの引きこもりをどうしてやろうか……!

 

 

「胸なら揉んでもいい。それ以外だと要相談」

 

「それやったら変態発言し始めるだろ」

 

「当たり前」

 

「……全く、困った眷属だよ」

 

 

 だが、何度も言うが頑張ったんだからこれぐらいは許してやろうか。




影の龍クロム →影龍王
陽光の龍ユニア→光龍妃

オリジナルドラゴンの二つ名は以上です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 休日の朝の目覚めは腹部に何かが叩きつけられる痛みから始まった。

 

 

「のっわーるぅ! あっそっぼぉ~!!」

 

「……ぐぅ、うぇ……よ、ぞらぁ!! 闇討ち、とは卑怯だぞぉ……!」

 

 

 痛みに悶絶しながら重い瞼を開けると俺の身体の上、具体的には腹の上に規格外こと片霧夜空が跨っていた。腰元まで伸びている茶髪は寝癖一つなく、まだ夏前だというのに黒のノースリーブに白いミニスカ、そして一際目立つのは首元に黄色い宝玉が埋め込まれている肩から羽織っているマントだ。淡い光のようにクリーム色になる時もあれば透明にもなり、挙句の果てには偶に光りだす摩訶不思議なマント――ぶっちゃけるとこいつの神滅具。それを私服のように常時展開しているのは世界広しと言えどもこいつぐらいだろう。

 

 まぁそんな事は置いておいて跨っている位置が腹でよかった。あと数センチ後ろに下がってたら……俺だって悪魔と人間の混血で男なわけで朝の現象ぐらいはなる。つまりはそういう事だ。位置の関係上、俺の視線の先には夜空のミニスカが存在しているわけでカーテンが閉まっているので部屋が少し暗く、神滅具のマントの光でスカートの中が暗くて見えない。なんという絶対領域、つか見えねぇ。俺の意志を汲み取ってくれるなら少しだけ上に動けよ。そうすれば中が見える……見たいわけじゃないが見れるんなら見るしかないだろう常識的にと言うか悪魔的に。

 

 

「闇討ちじゃないもぉんね! もう朝だし! ほらほら折角私が遊びに来たんだから起きてよぉ!」

 

 

 ボフンボフンと俺の腹の上で上下に浮いたり下がったりする。白か……寝起きとはいえ悪魔の視力を甘く見てはいけない、朝から良いもの見れたなと言うかこれ傍から見たら拙くね? い、一応掛布団越しだし大丈夫大丈夫。と言うより白か……白かぁ!

 

 

「朝から元気だなお前……今何時だよ?」

 

「うぅ~んとねぇ~九時! ちゃんと朝だからね? カーテン開けて確かめる?」

 

「隙間から光が漏れてるから確かめなくても良い。なんだ? 朝っぱらから殺し合いをご所望か? だったらあと数時間後で頼む……今日は休みで一日中寝ていたいんだよ」

 

 

 再び掛布団を被って寝ようとすると恐るべき力でそれを取り払われた。そして再び腹に心地よい重みを感じる……拙い拙い拙い。掛布団越しじゃなくてダイレクトかよ。凄く柔らかくて程よい温度だなおい……てかこいつやっぱり自分の性別を忘れてるんじゃねぇか? 大変ありがとうございます。

 

 

「この私が遊びに来たんだからさっさと起きろぉ! 寝るなんて許さないぞぅ! ほらほら早く起きてよ! もうこのままだとどこかの勢力を潰しかねないくらい暇なんだぞぅ! それでも寝るというならこれだぁ! ひっさぁ~つ! 美少女プレス!」

 

「っ、おい待て! 待て! 腹の上に跨るのは許すが自分の身体ごと乗ってくるな!」

 

「だったら起きろよぉ~と言うより起きてよぉ!」

 

 

 別の所は既に起きてるがそれは言わないでおこう。さて……一つだけ気になったことがあるからそれを確かめようと思う。今の状況は俺の身体の上に夜空が寝そべっている。俺の顔の前には夜空の顔が有り俺の胸の所には夜空の胸がある。それはいい。てかマジで壁だな。かてぇ、なんか思ってたのと違う……じゃないそうじゃない。問題は――この鼻にくるつーんとした匂いだ。おかしいな……女子ってこの匂いはしないんじゃなかったのか? それともそれはただの幻想で実際にはするものなのか?

 

 

「うん? どったの?」

 

「……なぁ、夜空」

 

「はいはい夜空ちゃんですよ! 貴方の宿敵で普通の少女の片霧夜空ちゃんだぞぉ!」

 

「俺の気のせいじゃなかったらあれだが……お前、汗の匂い酷くね?」

 

「――」

 

「お前昨日ちゃんと風呂入ったのか? さっきから鼻につーんとした匂い、がぁ!!」

 

 

 ノーモーション、拳を振りかぶる動作すら無く夜空は俺の顔面に拳を叩き込んできた。よく反応した俺の反射神経! もし遅れてたら俺の顔が貫通して穴が出来てたぜ!

 

 

「は、は、はぁ!? だ、だれが汗臭いってぇ!! お、女の子になんてこと言うんだこの変態ィ!!」

 

「その反応で丸分かりだわ!! 何で風呂入ってねぇんだよ!! 普通入るだろ!? お前性別上女だろ!?」

 

「うっさい!! 昨日はヴァーリが襲ってきて忙しかったの! 楽しかったけど! ちょ~楽しかったけど!!」

 

「あんの中二病の戦闘狂が! 後でぶっ殺す! てかそれ終わってから風呂入れよ!! まずここに来る前に入れよ!!」

 

「だから忙しかったって言ってるでしょぅがぁ!」

 

「忙しくても入れるだろ!! まさかお前、腋とかのムダ毛処理とかもやってませんとか言わねぇだろうな!? もしそうなら今日からお前の事をおっさんって認識するぞ!? てか男の幻想を粉々に砕くのやめてくれません!?」

 

「何さ幻想って!? いーよ! それなら見せてやろうじゃん!! ついでに匂い嗅いでみろよこのやろぉ!! どっからどう見ても綺麗で無臭だからなぁ!! もし臭いとか言ったら消滅させっぞぉ!!」

 

 

 完全に頭に来たのか常時発動している神滅具を消して片腕を上げる。夜空の服装はノースリーブ、つまり袖がない。袖がないという事は必然的に腋が見える。ムダ毛すらない綺麗なものだ、うん? なんで俺は夜空にこんなことさせてるんだ? いや眼福だから文句なんて一言もありませんし本人が見ろとか嗅いでみろとか言うんだったら素直にやらないと相手に失礼だろう悪魔的に考えて。それよりも腋を俺に見せてる夜空がものすっごく可愛い件について。おい写真、カメラねぇのかよ。これ撮りたいんだが? きっと今のコイツの心境は俺と同じく何でこんなことになったんだろうとか思っているんだろう。だがやめない。俺様、悪魔、悪魔は欲望に忠実。ヤバいわー邪龍の気持ちわかっちゃうわー欲望に忠実になるの理解できちゃうわー。

 

 何とも言えない空気の中、俺は夜空の腋に顔を近づけていく。あと少し……! あと少し……!

 

 

「――ノワール君、朝からどうした、んで、す」

 

「あ」

 

「……やべ」

 

 

 自室の扉が開き水無瀬が入ってきた。恐らく彼女の視界には俺の身体に跨って腋を見せている夜空とそれに顔を近づけている変態の姿が見えているだろう。さてさて――説教タイムだなこれ。

 

 俺の予想通り水無瀬が激怒して俺と夜空をその場に正座させた。逃げるのは簡単だがそれをすると今後の俺の食事が酷いことになりそうだから甘んじて受けよう……そしてあの規格外が素直に正座してるのは笑えるんだが? 夜空に説教とか誰が出来るというんだろうか――目の前にいましたね。

 

 

「朝っぱらからなんか腑に落ちねぇ」

 

「女の子の腋を見て匂い嗅ごうとした変態が言っても説得力無い」

 

「うぃ~なになにぃ~のわーるってばおんなのこぉのわきがみたいのぅ~? ほれほれぇ~みせいちょうのわきだぞぉ~みてもいいしなめてもいいよぉ~? ただしおさけちょうだぁ~い」

 

「その手があった。私のも見ても良いけど学園サボらせて」

 

「とりあえずお前ら少し黙れ。水無瀬の目に光が宿ってねぇ……これ以上この話題を続けたら飯が枝豆だけになるぞ」

 

「何故に枝豆、でも確かになりそう」

 

「まめはいやだなぁ~」

 

 

 約三十分にも及ぶ水無瀬の説教から解放された俺はリビングで遅めの朝食を食べようとしていた。平家に四季音は先ほどの俺と夜空のやり取りを知っているため自分の脇を見せようとしてくるがキッチンに立っている水無瀬の姿を見てそれを止める。やべぇすっごく怖い。なにあれ? 今までの大天使水無せんせーと呼ばれる不幸っぷりはどこに行ったの? まっ、水無瀬が怒りで不幸を吹き飛ばしてくれるならそれはそれで良しとして……とりあえず夜空を襲った白龍皇は後で殺しとこう。なんなんだよ俺の周りのドラゴンは! 片や自分の性別を理解してない規格外! もう片方は戦闘大好きイケメン野郎! 死ねばいいのに! 白い方死ねばいいに。

 

 ちなみに夜空は現在お風呂タイム。結局見ることはできたが肝心の匂いをかぐことはできなかった……だがせめて! あの時の夜空の表情だけでも写真に残しておきたかった!! そうすれば俺は十年ぐらい戦えると思う。

 

 

『宿主様、前半の言葉には俺様も同意するぜ。あの白蜥蜴野郎は一度死んどいた方が良いに決まってる。今日の夜辺りに襲撃と行こうか』

 

「オッケー、場所特定よろしく。俺、あいつの居場所知らねぇしな」

 

『旅先で偶然出会っただけだもんなぁ! その時は初対面で殺し合いに発展したが中々楽しかったな!』

 

「あれから一年か……月日が経つのは早いな」

 

「昔を思い出してるようだけどノワール、変態」

 

「……心読むなよ」

 

「聞こえるんだから仕方がない」

 

「さおりんからはにげられないぃ~にししぃ~おっさっけぇ~おっさけぇ~さわらぬおににたたりぃなしぃ~」

 

 

 色々と文句を言いたいが基本的に俺が悪い……みたいだから黙っておこう。

 

 そんなこんなで朝食を作り終えた水無瀬とお風呂タイムが終わった夜空を交えてテーブルを囲む。先ほどまで脇を晒していた規格外は俺の寝間着を身に纏って久しぶりの暖かいご飯だぁと美味そうに食べていた。久々ってお前いつも何食ってんだよ……こいつの食生活は一体どうなってんだ? あとサイズ大丈夫か? 俺とお前の身長差結構あるぞ?

 

 

『申し訳ありません。なにせ一週間ぶりの暖かい食事故に夜空のテンションが上がってしまっています』

 

「この声……ユニアか。マジでお前らの食生活どうなってんだよ?」

 

「うにゅ? 基本的にキノコとか生ごみとか生魚だよ? 私って料理の才能ないからさぁ」

 

「それでよく生きてる。流石規格外、私たちの想像の斜め上を通り過ぎていく」

 

「むしろ一週間前って俺が奢った時じゃねぇか」

 

「その時は助かったよぉ! またお願いねぇ? お礼は体で返すからさ!」

 

「殺し合いだな、りょーかい」

 

「……何故殺し合いと分かっていても驚かないのでしょうか?」

 

「そりゃぁ~のわーるとこうりゅうひぃ~のなかだもんねぇ~うむぅ、ぷはぁ、おいちぃ~」

 

 

 こうして夜空を交えての食事をするのは初めてではない。こいつとの付き合いは既に数年単位だからお腹へったぁとかでここに転移してくることもあるからそういう時は飯を食わせている。そのお礼が殺し合い……至って普通だな。

 

 

「んで暇だって言ってたがどうする? 町でも行くか?」

 

「行くぅ! そうだよご飯食べに来たんじゃなくて遊びに来たんだよ! すぐ行くぞぉ今行くぞぉ早く行くぞぉ!」

 

「せめて飯を食うまで待て」

 

 

 急かす夜空を他所に俺達は水無瀬が作った朝食を食べる。食べ終えるころには夜空が着ていた服の洗濯も終わり魔力パワーと言う名の乾燥機で水気を取ってから本人に返す。俺も部屋に戻って着替えてからリビングに戻ると早く早くと言いたそうな夜空が玄関で待っていた。恐らくこいつに尻尾があればブンブン振り回してるだろう、なんとも想像しやすいがお前はもっと待つという言葉を知らないのか? そんな言葉なんて知らなかったなコイツは。

 

 水無瀬達に出かけてくると伝えてから夜空と共に家を出る。本来ならば一日中寝ている予定だったが朝から素晴らしいものを見れたのでこれぐらいは許そう。今なら変態三人衆が言っていた女子の脇は素晴らしいという発言にも同意できる。絡むつもりは今後無いけど。

 

 

「それで遊びに行くってどこ行くんだよ?」

 

「うんとねぇ~どこいこっか?」

 

「考えてねぇのかよ……相変わらずフリーダムだな。お前、その自由さをもう少し押さえろよ? 他勢力の方々が困ってんだろうが」

 

「迷惑かけてるつもりはないもんねぇ! ただすっごく暇だったからお散歩してるだけだもぉんだ。そしたら酷いんだよ! 侵略だーとか襲撃だーとか言って襲ってくるの! この前なんてとーせんしょーぶつって人が来て戦ったんだけどぉ~えへへ、楽しかった!」

 

『えぇ。流石は初代孫悟空と呼ばれる存在でした。仙術に妖術、夜空が押されそうになるなんて久しぶりでしたよ。いずれまた殺し合いをしたいものです』

 

『羨ましいぜぇ。こっちに来てからお前以外と殺し合ってねぇんだ、いい加減暴れてぇんだよ俺様は。おい宿主様、ちょっと暇つぶしに冥界上層部でもぶち殺しに行こうぜ。あいつらうぜぇから消えても誰も悲しまねぇだろ』

 

「そうすると平家たちが討伐されるから今はダメだ。あいつらが強くなってから殺しに行くぞ」

 

『ゼハハハハ! 一体何十年何百年先になるんだろうなぁ!』

 

「あっ! そのとき呼んでねぇ! 細胞一つ残さないで滅殺してあげるよ!」

 

「お前の神滅具なら魔王でも余裕で殺せるしなぁ」

 

 

 俺の隣を元気に歩くこいつが今も身に付けているマント――光龍妃の外套(グリッター・オーバーコート)の能力の一つ、『10秒間、自由自在に光を生み出す』のおかげで悪魔勢力はこいつの気分次第でいつでも滅ぼされる可能性がある。なんせ生み出される光の性質が天使や堕天使が放つモノと同じという事で悪魔を殺せる上、光が無い闇の中に閉じ込めても問題なしというから質が悪い……正直、影人形で防がなかったらとうの昔に俺は消滅してるよ。ついでに言うとこの規格外、ユニアの話では初めて神器を発動したら禁手化(バランス・ブレイク)していたらしい。流石規格外、どう考えてもおかしいです本当にありがとうございました。

 

 そんな冥界上層部抹殺計画を二人で話しながら街中を歩いていると視界の先でとあるカップルが目に入る。片方は駒王学園変態三人衆の一人、兵藤一誠。俺が学園に通う切っ掛け、二天龍、赤龍帝と呼ばれるドラゴンを宿している男だ。もっともクロムの話ではまだ目覚めてはいない様子でこのままいくと一生目覚めない可能性もあるみたいだが……多分、そうなったら白龍皇がなにかして目覚めさせるだろう。さて問題はそのお相手なんだが――あれ堕天使じゃね?

 

 

「およぉ? 赤龍帝じゃん」

 

「流石にお前も知ってたか」

 

「うん。なんていうんだろう……こぅ、お腹の奥底にトクンと来るような何かを感じたんだよねぇ。それをユニアに言ってみたら赤龍帝が眠ってるって教えてくれたんだぁ」

 

「へぇ。それはそれでいいがもう少し例えを何とかしてくれ……マジでおっさんと認識するぞ」

 

「そんなことしたら冥界滅ぼしちゃうぞ☆」

 

「俺としては両親を見逃してくれるんなら大歓迎なんだがなぁ――はいはい冗談だ、マジでやろうとするな流石にまだ早い。せめてお前が死ぬ一歩手前でやってくれ」

 

「りょうかーい。じゃあ数十年後に冥界滅ぼすねぇ~その時は一緒にやろう! きっと楽しいよぉ!」

 

「……そうだな。確かに面白そうだ」

 

『クフフフフ、楽しみが増えましたね。夜空、その日が来たら思いっきりやりましょう』

 

『ゼハハハハ、封印された時の仕返しには足りんが良いだろう! 塵も残さず消し飛ばしてくれるわ!!』

 

 

 そんな事を話していると携帯に『何バカな事を言っているこの変態、ロリコン、脇好き』と平家からメールが届いた。あいつ今も俺の心読んでるのか、だったら半分ぐらいは冗談だって分かってるだろうに。

 

 そんなことは置いておいてあれ(赤龍帝)の相手の堕天使の件についてだが……堕天使だよな? 試しに隣にいる規格外に聞いてみたら光の反応があるから間違いなく堕天使だよぉと返事を返してくれた。光を操るコイツが言うなら間違いはないみたいだが……あの女、バカか? 離れているとはいえ常時神滅具を展開している夜空がいるってのに全くこっちを見てこないんだが? 堕天使も結構バカな所あるしあれもそんな感じなのかねぇ。

 

 

「赤龍帝に堕天使かぁ。こりゃ死んだね」

 

「初めてのデートが堕天使、その見返りが死なんてありがちだよな」

 

「だねだねぇ~これで赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は堕天使陣営のものかぁ。荒れるねぇ、あっ! そう言えばゴミ箱でこんなチラシ拾ったんだけどこれ何処にある!? 食べたいんだぁ! 奢って!!」

 

「……寿司にケーキに焼肉食い放題ねぇ。期限はまだあるから大丈夫、だな。仕方ねぇから奢ってやるよ」

 

「やったぁ! ノワールぅ大好きぃ!!」

 

『此処まで赤蜥蜴の心配一つしない宿主様とお前の宿主は異常か?』

 

『正常でしょう。そもそも弱いのがいけないんですし気にしてても仕方ないと思いますよ?』

 

『だなぁ。にしても寿司かぁ、食いてぇなぁ』

 

『私達は魂だけの存在ですから食事もできませんしね。忌々しいあの聖書の神め……!』

 

『既に死んだらしいが最後は俺様が止めを刺したかったぜぇ』

 

 

 なんか相棒達が話しているがお互いが対となる存在だし話したいことが山ほどあるんだろう。地双龍、その名で呼ばれるクロムとユニアは二天龍のようにお互いを殺し合う事は――大量にあった。確か大昔にこいつらが暴れまわっていた時はお互い力を合わせていたようだけど神器に封印されてからはその鬱憤を晴らすためにお互いの所有者が理性を失いながらも殺し合っていると聞かされたことがある。だから俺達のように呼吸するように殺し合うけどそれ以外は仲が良いのは長い歴史上でも珍しいことらしい。よく分からんな。

 

 そんな事を思いながら夜空が拾ってきたチラシに書いてあった場所に到着。中々立派な店で休日だからか中には人で賑わっている……平家が来たら卒倒するレベルだな。

 

 

「よく食うなぁ」

 

「だって食べ放題だよ! 食べなきゃ損でしょ! おいしぃ~!」

 

 

 テーブルには夜空が手当たり次第に持ってきた料理の皿がある。普通の女子ならこれだけ食べれば体重計に乗った瞬間に地獄を見ることになりそうだがそこは規格外、どれだけ食べようと動き回るため全消費されるんだそうだ。しかし残念な事にどれだけ食べようと胸が絶壁――

 

 

「うん?」

 

「……何でもない」

 

 

 一瞬だけの殺気、しかも俺だけにしか分からない様に調節したものを浴びる羽目になった。流石にこの場所で暴れられたら面倒だしもう考えないことにしよう。

 

 

「そいえばさぁ~赤龍帝どうするのぉ? 死ぬ前提で話してたけど助けちゃう?」

 

「必要ねぇな。チラッとしか見えなかったが監視役が居たし俺達が出る事も無いだろ」

 

「そっかぁ~ここってノワール以外の悪魔が治めてるんだもんねぇ。じゃっ安心だ、ゆっくり楽しんで死んでいけばいいよ――神滅具持ちは一度辛い目に合う宿命なんだからさ」

 

 

 その言葉を言った夜空の表情は真面目で、そしてどこか悲しげなものだった。その言葉には俺も同意する……俺も夜空も過去に辛い目に合ってる。俺の場合は夜空と比べると天と地の差があるがそれでも辛かったのは事実だ――なんせ一度殺されかけたしな。

 

 

「なぁ~んてね! 暗い話はこれでおしまいにしてさ、これ食べ終わったら殺ろ? 良いよね? 食後の運動に夜までたっぷりぃ! 嫌とは言わせないよぉ!」

 

「別に嫌とは言ってねぇだろ。ただ、食いすぎて途中で吐くなよ?」

 

「そんなこと絶対にないね!!」

 

 

 その後、飯を食い終わった俺達はいつもの場所に転移して殺し合いを始める。寿司焼肉ケーキパワーと称して前回以上の出力と動きをし始めた夜空には少し手間取ったが今回も決着が付くことも無く引き分け……でも楽しかったぁ!! やっぱり夜空との殺し合いは最高だな!!

 

 家に帰って傷の痛みに耐えながら風呂に入り、一息つくためにリビングに向かうと平家が携帯ゲーム機を持ちながらソファーに寝ころんでいた。着ているのは俺の部屋から勝手に拝借したと思われるワイシャツだけと言う物だったがいつもの事なのでもう気にしないことにする――大変良いもの(おっぱい)が見れましたありがとうございます。

 

 この変態という目をした平家から赤龍帝が死んだらしいよと聞かされたが……あぁ、やっぱり死んだかと思った俺は悪くないと思う。




光龍妃の外套の能力の1つ、「10秒間、自由自在に光を生み出す」ですがイメージしやすいのがピカピカの実です。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

「なぁ平家」

 

「今イベント中で忙しい」

 

「どうせ無双してんだろ? 聞きたいこ――」

 

「赤龍帝は死んだよ。いきなり悲痛な波動が飛んできたからそれは間違いない」

 

 

 時刻は放課後、場所は心霊探索同好会の部室と勝手に認定している保健室に俺達は集まっていた。

 

 このお嬢様はベッドに座っている俺の膝を枕にして横になり、スマホでハマっているアプリゲームをやってる。何が忙しいだよ……廃課金してるから無双できるくせに忙しいとか言ってんじゃねぇ。それは置いておいて先ほどの平家の言葉を信じるなら赤龍帝、つまり兵藤一誠は既に死んでいるという事になる。覚妖怪故に色んな感情や心の声を聞いてしまう平家がつまらない嘘を言うわけもないが……それだとこの数日間がおかしなことになるが特に驚くことも無い――多分、悪魔になったんだろうな。

 

 

「多分ね。リアス・グレモリー先輩が眷属にでもしたんじゃない? その割には完全に接触とかしてないみたいだけど」

 

「そりゃそうだ。赤龍帝だぞ? 雑に扱えば爆発しかねない危険物とそう簡単に接触できるかっての。大方、悪魔にして異常が無いか確かめるために泳がせてるんだろうぜ……本人は環境の変化に戸惑ってるみてぇだがな」

 

 

 そう、平家から死んだと聞かされた兵藤一誠は今も生きている。定番ネタの現在幽霊ですと言うオチでも無ければ別の誰かが殺されたというわけでもない。体に大きな怪我も一つ無い状態でこの数日間学園に通ってきている。恐らくデートしていた堕天使に殺されたか致命傷を負った所を監視役の人物に助け出されたんだろう。そして傷を癒すために悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で転生悪魔になった……と言うのがこの現象の答えだろうな。てかそれ以外にあり得ない。

 

 

「昔の恵がまさにそれだった。あの時はお腹が痛くなるぐらいに面白かった」

 

「殆ど分からないはずだった英語とかがいきなり理解できるようになったんだもんなぁ。あの時の水無瀬は確かに面白かったが今はそれとは関係ないから話を戻すぞ。赤龍帝が悪魔陣営に来たという事は他勢力からすれば只事じゃないだろう……赤龍帝と影龍王、二天龍と地双龍の片割れが同時に所属してるんだ。いつ戦争が起きてもおかしくねぇから強引にでも崩そうとしてくるだろうぜ」

 

「当たり前だよ。二天龍や地双龍、先の大戦のせいで三大勢力がボロボロで現在立て直してる最中だもん、一つの勢力だけ核爆弾を複数持ってたら危険視するに決まってる」

 

「そう考えるとあの規格外が良い抑止力になってんだなぁ。他勢力も下手な事すれば夜空の標的にされかねないと理解してるんだろうし……本人はただ遊んでるだけだが」

 

「無自覚な悪意、子供が起こす災害」

 

『むしろそれは俺様が得意としている事なんだがなぁ!! しっかしあの赤蜥蜴、これだけしても宿主に気づかれんとはお笑いものだなぁ! 長い歴史の中で赤龍帝が悪魔になったこと自体が異常だってのによぉ! ゼハハハハ! それは俺様も同じことだがな! いったいどの駒を使ったのか気になってくるなぁ――おい宿主様、あの小娘に会いに言って聞いてこようぜ』

 

 

 なんで態々あの人に会いに行かないといけないんだよ……しかし相棒の疑問は俺も同じだ。二天龍が宿る神器を持つあいつを悪魔にできたという事は複数の駒を消費したに違いない。神滅具持ちを駒一つ消費で転生出来るほど世の中甘くはないはずだしなぁ、あの人は確か既に女王を使ってるはずだからそれ以外……となると。

 

 

「兵士の駒の可能性が高いね」

 

「だな。あの人の女王は冥界でも有名だしそれ以外の駒もこの学園では色々と有名だから残ってるのはそれしか考えられねぇ……臨機応変に対応できる赤龍帝とか悪夢以外の何物でもねぇぞおい」

 

昇格(プロモーション)出来るのが兵士の特権だもんね。対抗するためにノワールも眷属増やせば?」

 

「気が向いたらな」

 

 

 現状、空いている駒は女王、騎士、僧侶、兵士だけどなんて言えばいいのか分からないがピンと来る奴がいないんだよ。四季音も平家も水無瀬も何か感じる事があったから眷属にしたしこの感覚が来ない内は増やすことは無いな。それに下手に変なのを増やしてこいつの負担になるような事になったら本末転倒も良い所だしその辺りも考慮しねぇと……女王候補は既にいるが埋まるのは何時になる事やら。

 

 何故か平家から哀れみの視線で見られてるがお前、俺の心読んでる上にその相手知ってるだろ。だからその視線はやめなさい……断るなし。そんなコントのような事をしながらいつものように自転車の荷台に平家を乗せて家へと帰る途中、ノワールが眷属にした人ならどんなのであれ我慢できると平家が若干嬉しそうな表情で言ってきた。恐らくさっき思った事を読み取ったんだろう……それじゃあお言葉に甘えてピンときた奴を眷属にするかね。

 

 帰宅後、俺達は各々好きな事をしていたが事件は日が落ちてから起きた。

 

 

「はぁ? アイスぅ?」

 

「うんぅ~あいすたべたいからのわーるかってきてぇ~ひっく」

 

 

 水無瀬が晩飯を作っている間、暇だったから俺、四季音、平家の三人で一位がビリに命令できる権利を賭けてババ抜きしていた。命令と言ってもエロ系と本人が嫌がるようなことは無しという健全な賭け事だったが……ムカつくことに俺がビリ、四季音が一位で平家が二位という結果になった。途中から何か変だとは思ってはいたがまさかコイツら結託してやがったな!? 通りで四季音のカードを引く手つきに迷いがなくておかしいと思ってたんだよ! 恐らく平家が仕草などで四季音にカードの配置を教えていたんだろう……なんて無駄な技術を持ってんだ。

 

 隣にいる平家の顔を見るとその顔は笑顔だ。してやったりと言いたそうな顔だ、くそったれぇ!!

 

 

「弱いのが悪いんでしょ? ほらさっさとアイス買ってきなよ」

 

「のわーるもばかだなぁ~さおりんあいてにげーむとかむりげぇでしょぉ~にししぃ、わたしちょこばにらでよろしくぅ」

 

「抹茶味よろしく」

 

「……しょうがねぇな。水無瀬、お前は何かリクエストあるか?」

 

「私ですか? そうですねぇ……じゃりじゃり君をお願いします」

 

「りょーかい、なるべく早く帰ってくるが先に飯食っててもいいぞ」

 

 

 確かに夜空と口癖のように弱い奴、負ける奴が悪い的な事を言ってはいるがまさか自分が言われる立場になるとは思わなかった……! 慢心してた俺のミスかぁ、夜空に知られたら爆笑されること間違いなしだが約束は約束だ。コンビニでアイス買ってくるとしよう。

 

 着替えて財布をポケットにしまってから家を出る。辺りは既に暗いため悪魔としての血が地味に騒ぎ出していた……きっと赤龍帝も辺りから聞こえてくる声とか身体能力が向上していることに驚いているんだろうなぁ。可哀想に、早く自分の身に起きていることを主に教えてもらえると良いな。そんな事を思いながら近場のコンビニに入り、リクエストされたアイスをカゴに入れて会計を済ませる。後は帰るだけなんだが――遭遇しちまった上に思いっきり堕天使に襲われてるじゃねぇか……いや、人払いの結界の存在を感じちまったら気づくなっていうのも無理か。

 

 

「ひ、人ぉ!? いや今はそれどころじゃねぇ!? あぶねぇから早く逃げろってか一緒に逃げるぞ!?」

 

「むっ、人払いの結界を張っていたはずだが……まぁいい、恨むのであれば自分の不運を呪うがいい」

 

 

 日が落ち、暗黒の空から降りてきたのは漆黒の翼を生やした一人の男。高そうなスーツを着て殺す人数が増えるとは思わなかったなど呟いてすっげぇ余裕そうなんだけど――ぶっちゃけ下級堕天使だよな? えっ? マジで俺を殺せると思ってんの? すっげぇな今の堕天使、自分の実力に自信持ち過ぎだろ……と冗談は置いておいて慢心して光を浴びた結果、死ぬとか普通にあり得るからさっさと殺して帰ろう。買ったアイスが溶けるし。

 

 

「へぇ、俺を殺すんだ。あっ、これ持ってて」

 

「お、おう……じゃなくて逃げるんだってば!? あいつ飛ぶし羽生えてるし槍っぽいの投げてきて普通じゃないんだって!! てかお前別のクラスの黒井!? 何で落ち着いてるんだよ!?」

 

「慣れてるし」

 

「ふむ……むっ!? その顔……! まさか影龍王か!?」

 

「大正解。初めましてだね堕天使君? こんないい夜に出会えるなんて不運だとは思わないか」

 

「……ちぃ! 此処で影龍王と出会うとは運が無かったのはこちらの方か! はぐれ! 命拾いしたな! その男に感謝――ぐぅおぉぉ!?!?」

 

 

 翼を開き、空へ逃げようとしている堕天使の背後に影人形(シャドール)を向かわせて立派な翼を引き千切る。何逃げようとしてんの? あんだけ俺を殺す気満々だったのに逃げるとか面白くねぇんだよ。

 

 自慢の翼を引き千切られた堕天使は地面に落ちて激しい痛みに襲われているようだ。そりゃ腕とかを引き千切られるのと同じだもんなぁ――罪悪感とか全然ないけど。堕天使が悪魔を殺すように悪魔もまたそれと同じ、戦争にならない程度にお互いの勢力を削りあう。それが今の三大勢力の常識みたいなもんだろ? 天界も悪魔祓い(エクソシスト)を使って悪魔を呼び出して契約しようとしてる人間を殺したりしてるし、赤龍帝だって堕天使に殺された……んだよな? だから罪悪感なんて一つも感じることも無い。それにこっちだって光浴びたら死にかねないし逃げられて援軍呼ばれるとちょっとめんどくさい、最悪夜空が面白そうとか言って乱入してくる……つまり此処で死んでくれないと色んな人が困るんでさっさと死ね。困るのは俺じゃなくて上の方だけど。

 

 

「き、きさまぁ! 私に手を出せば上の者達が黙っては、ひぃぃ!? う、うでがぁぁぁ!?!?」

 

「だろうね。でも先に悪魔の領地に入ってきたのはそっちで喧嘩を売ってきたのもそっちだ。俺個人に害は無くても同胞に手を出されたら見過ごせないだろ悪魔的に。あと付け加えるなら夜空に知られて遊び(襲撃)に来られて困るのはそっちだと思うんだが……あいつの破天荒と言うか自由っぷりは堕天使陣営も理解してると俺は信じてる」

 

 

 光を放たれない様に影人形の両腕を鋭利なものに変化させて堕天使の両腕を切断。生み出した影人形は大きな一つ目で地面に転がっているゴミ(堕天使)を見下ろしている。その目に感情は無くただ俺の命令のみに従う機械的なものを感じさせていることが相手にとってさらに恐怖を感じる要素になってるみたいだ。うん……こいつ程度なら神器を使う必要もねぇな、霊操(れいそう)で作った影人形だけで十分だ。

 

 

「……お、お前、なんなん、だよ」

 

「後でお前の主に教えてもらえ。それじゃあ堕天使――恨むのなら自分の不運を呪えよ?」

 

「た、たすけ、いやぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

 

 先ほどの堕天使の言葉をそのまま言い、影人形の両腕を元に戻して地面に横たわる堕天使をひたすら殴る。物凄いラッシュのせいか血が飛び、何かが壊れていく音がするも止めることは無い。ただひたすら拳の雨を叩き込んで潰していく……そして完成したのが元が人の姿をしていたとは思えないペースト状のなにか。ふぅ、アイス溶けてねぇよな? もし溶けてたらまた買い直しだしあまりあいつらを待たせたくもねぇが溶ける事は確定か。流石にこのまま放ってはおけねぇし……これぐらいはしても許されるだろ。

 

 影人形を消して赤龍帝に向かい合うと自分の目の前で何が起きているのか理解しようとしているような表情をしていた。だろうなぁ……日常から非日常になったんだから無理はない。だからと言って同情もしないけどな。

 

 

「お前の家どっち?」

 

「……え?」

 

「だからお前の家どっちだって聞いてるんだが? 流石に帰り道、またあんなのに襲われたくないだろ? 送ってやるから教えろ。先に言っておくがあんなこと(惨殺)をするのはさっきのような奴だけでお前の家族とかには手は出さねぇよ。信用出来ねぇだろうが今はしておけ」

 

「……わ、分かった……うぇ、うぇぇぇ」

 

「ついでにあれは見ないことを勧めるぞ。美味しい晩飯食いたいだろ?」

 

 

 今まで普通の生活をしてた人間がいきなり異形に襲われて挙句、人がペースト状になった姿を目撃するとか軽くトラウマになりかねん。それをやったのは半分以上は俺だが反省はしていない。悪いのあっち、あの人の領地に入ってきた堕天使が全て悪い。

 

 残っていると事件になりかねないから魔力で吹き飛ばしてからアイスを返してもらい、軽く歩くこと十数分後に無事に赤龍帝のご自宅に到着。流石にこんな目にあって手ぶらなのは可哀想だったので買ったアイスの内、一個を渡して早く寝ろと言っておいた。なんか言いたい事が沢山あるがどれを言えばいいのか分からないような顔をしてたけどきっと明日にでもあの人が説明してくれるだろ。眷属にしたならそれぐらいはするはずだし堕天使に襲撃されたら泳がせているわけにもいかねぇだろうしなぁ。

 

 

「お疲れさま」

 

「ただいま。堕天使が表立って悪魔を殺しに出てくるとは思わなかった、リクエスト通りのアイス買ってきたぞ」

 

 

 あの後、時間の経過で溶けかけたアイスを此処とは別の地域、俺が治めている領地に転移してそこの路地裏に住んでるホームレスにプレゼントしてから別のコンビニで同じのを買ってきた。勿体なかったというのもあるがホームレスというのは他よりも情報には耳が早いから仲良くしておいても損はない――と夜空が言ってたから試している。その結果は……はぐれ悪魔絡みでお世話になることもあるという素晴らしい事になってるわけで案外バカにできない事を思い知らされた。あとすげぇ仲良くなった、あの人達ってホント知識の宝庫だわ。

 

 

「にへへぇ~ちゅめたいぃ~うまうまぁ」

 

「すいません。遅かったので私たちは先に食べてしまいました……はいどうぞ」

 

「別にいいよ。それと近々、大公から討伐依頼が来そうだ」

 

「――はぐれ悪魔が殺されている? なんか凄い事になってるね」

 

「あぁ。俺の領地に住んでるホームレスの一人が数日前、変な化け物の叫び声や争っている男の声を聞いたらしい。そんでそいつが気になってその場所に行くと映画のような大惨事になってたって話だ……恐らくどっかの馬鹿がはぐれ悪魔を殺したんだろうけど放っておくとヤバい事になりそうだから上に報告したら他の領地でも同じことが起きてるんだと」

 

「同一犯、という事ですね。住んでいる人達は大丈夫でしょうか……?」

 

「俺が治めてる領地は影龍王の名がデカすぎて基本安全だから問題ないとは思うが……もし手を出されたら殺すよ。あの人達、結構いい人ばかりで面白いし」

 

「その代わり心の中は下種だけど。前に会った時、心の中で私の下着何色だろうとか思ってた」

 

「それは仕方ないだろ」

 

 

 お前みたいなアイドル級の容姿を持つ奴がやってきたらそりゃ考えるだろ。男の性だから見逃してやれよ……ついでに言うと俺と一緒の時しか会ってないから襲われることも無い上、もし襲われても簡単に殺害できるぐらいの戦闘力持ってんだろうが。ただし水無瀬は持ち前の不幸でホームレスの方々からは大天使扱いとなっています。いやぁ、サービスシーンを見せ続けたらそりゃそうなるわ。でも悪魔が大天使とかちょっと何言ってるか分かんねぇけど。

 

 

「とうばつかぁ~ねぇねぇのわーるぅ、それきたらわたしにはたからせてぇ~ひっく、さいきんうんどうしてないからあばれたいんだよねぇ~」

 

「別にいいぞ。その代わりちゃんと働けよ?」

 

「わかってるよぉ~おにさんうそつかないぃ」

 

 

 態度的に全然信用できないが戦闘時においてこいつほど信頼できる奴はいない。可哀想に……はぐれを殺してたら鬼がやってくるとか普通に考えても絶対に思わないだろう。

 

 水無瀬が作った晩飯を食べ終えてから風呂に入る。その後は軽く神器の中に意識を落としてから眠りにつく……日課みたいなものだが相変わらず薄気味悪い奴らだ。声をかけても返事なんてしないし虚ろな目だし何を考えてるのかすら分からない。これが歴代影龍王というんだから驚きだ――これ全部相棒が心砕いた奴らなんだよなぁ。よく生きてるな俺。

 

 そしていつもの朝がやってきていつも通りに水無瀬が作った朝食を食べる。平家は今日は引きこもりデー開催なうとか言って部屋から出てくる気配はない。大方ゲームを徹夜でやってるんだろう……ダメ妖怪め。今度月の課金額を増やす代わりに登校しろとか言ってみるか? いや、悩んだ挙句引きこもりを選ぶな。なんてめんどくさい引きこもりなんだろうか……俺も似たような性格してるけど。

 

 

「黒井君、少し良いかな?」

 

 

 時間は進んで放課後、特にこれと言った出来事もなく淡々と授業を受けてようやく帰れると思った矢先にある男子生徒が話しかけてきた。金髪に目元にほくろ、そしてイケメンという世の男が羨むような容姿を持っている男だが……ほらぁ、別のクラスであるこいつがやってきた瞬間に女子たちが騒ぎ出したよ。すげぇなイケメン効果、俺にも分けてほしい。

 

 

「部長からオカルト研究部と心霊探索同好会が合同に行うレクについてお話があるみたいなんだけど来てもらっても良いかな?」

 

 

 残念な事にそんなことを予定してはいないが呼び出しの口実としては十分だな。大方、昨日の堕天使の件を話したいんだろう……あの人直々だと目立つから代わりにこいつが来たって所か。こんな俺にも配慮してくれるなんてありがたいね。

 

 

「あぁ、そういえばそろそろだったな。俺達みたいな部でもない同好会と遊んでくれるなんてグレモリー先輩は心が広いよ」

 

「あはは……オカルトとホラーを探したり研究したりするから部長も面白いと思ったんじゃないかな。それじゃあ案内するよ」

 

 

 周りはともかく、生徒会所属でシトリー眷属の方々は何かを察した様子で俺を見ていた。うん、だったら少し助けてほしいんだけど良いかな……まぁ、無理だよな。でもできれば周りの女子の嫉妬っぽい視線を如何にかしてほしい、なんで男相手に嫉妬の視線を向けてんだよこいつら?

 

 イケメンに案内される事数分、駒王学園の外れにある旧校舎でオカルト研究部の部室に到着。案内してくれたイケメンが扉をノックすると中からどうぞとの声が聞こえる。声は予想通りあの人だ……そのまま扉が開かれ中に入ると数人の男女がソファーに座っていた――おぉ、赤龍帝もいるってことはちゃんと説明を受けたって事か。

 

 

「突然呼び出してごめんなさい。迷惑じゃなかったかしら?」

 

「数日前に生徒会長にも呼び出されて同じ言葉を言われましたけど迷惑じゃないですよ。座っても?」

 

「えぇ。朱乃、彼に紅茶をお願い」

 

 

 ソファーに座り、目の前の紅の髪を持つ美女――リアス・グレモリーの傍らに立っていた人が紅茶を淹れてくれた。なんという好待遇、駒王学園男子生徒が見れば嫉妬の涙を流すに違いない。なんせ目の前の二人ってこの学園ではかなり有名だしなぁ。容姿は素晴らしいに加えて巨乳、うんかなり人気が出るわ。普通なら男限定と言ってもいいのに女子からも人気があるとか流石としか言えない。そして紅茶が美味い。

 

 

「先日は私の眷属の危機を助けてもらった事、この場を借りてお礼を言わせてもらうわ」

 

「パシリにされた帰りに偶然見つけただけですけどね。襲ってきた堕天使はペースト状にして吹き飛ばしましたんで問題ないですよ」

 

「パ、パシリ……コホン。それでも危機を救ってくれたことには変わりはないわ。この子は私の眷属になって日がまだ浅くて悪魔の事をまだおぼろげにしか理解できていないの。私の不注意でもあるけれど失ってしまう危機から救ってくれたんだからお礼はしないとグレモリー家に傷が付いてしまうわ」

 

「生徒会長も同じことを言ってましたけどただの混血悪魔にお礼を言わないだけで家に傷が付くわけないでしょう」

 

「キマリス家次期当主、私と同じ王、そして影龍王。それだけで十分な理由になると思うのだけれど?」

 

「半分以上は相棒のおかげで俺は普通の混血悪魔ですよ。ただそのご厚意は素直に受け取っておきます……それからどうやら体調不良とかにはなってないようだな。流石にあんな惨劇を見せちまったから一割程度は罪悪感を感じてたが問題ないようで安心だよ」

 

 

 何が何だか分からないという表情の赤龍帝に話しかけるとハッとした顔になった。グレモリー先輩から先ほど悪魔の説明をしたばかりと聞かされて正式にオカルト研究部の部員、つまりグレモリー眷属の仲間入りを果たしたそうだ。

 

 

「えっと、昨日はありがとな……てか黒井って偉いのか? なんかさっき王とか聞こえたんだが……?」

 

「えぇ。彼は私と同じ王の一人よ。この学園には……普通の生活を楽しむために通っているんだったかしら?」

 

「そんな所です。あっ、だからって言って敬語とかやめてくれよ? 同年代、それもお前からそんな態度を取られたら周りが誤解しかねないし。普通に砕けた態度でいいよ」

 

「そ、そっか……と言うより部長と同じ王!? という事は眷属持ってるのか!? ハーレムか!? ハーレムなのか!? 顔も良いのにハーレムとか羨ましいんだよこの野郎!!」

 

「何でハーレムに拘ってんだ? 一応自己紹介するけどノワール・キマリス。黒井零樹は通うための偽名、眷属は心霊探索同好会所属の二名と実家で働いてる奴が一人。生徒会長にも言いましたけど後程、改めて紹介させていただきます」

 

「楽しみにしているわ。ならその時は本当にレクでもしようかしら? ソーナの所も一緒に集まってすれば結構面白いと思うのだけど?」

 

「周りから白い目で見られるので勘弁してください」

 

 

 近くでドジ属性持ち女教師と一年生の幻のお姫様が眷属だとぉっ! と血涙を流してる赤龍帝は放っておくとして……魔王の妹であるお二人と一緒にレクなんてしたら冥界にいる他の上級悪魔から何を言われるか分からんな。だからこの人は苦手と言うか……掴み所がないというか、つまりは苦手なんだ。多分あまり話したことがない上、俺がコミュ障なだけだとは思うけども。ついでに言うとグレモリー家は眷属に並々ならぬ慈愛を持っていることで有名でこの人も例外ではない。だから俺を除いた此処にいるメンバーに手を出せばどうなるかなんて考えなくても分かる。

 

 触れただけで消滅する能力持ちと怖すぎるだろ。戦いたくもないわ。

 

 

「さて、あまり長いをすると失礼なのでこの辺で退室させてもらいます。まぁ、あまり関わる機会は無いですが助言程度は出来ますので困ったことがあれば力は貸しますよ。俺自身、貴方と生徒会長と敵対するつもりは全然ないので」

 

「知っているわ。その時は影龍王の力を当てにさせてもらうつもりよ」

 

 

 全員に会釈をしてからオカルト研究部の部室を出る。嫌だねぇ、こう……探り合いと言うかなんというか。眷属全員が気を張っていつでも対処できますって態度が見え見えだったしさ。

 

 

『ゼハハハハ! あの程度ならば宿主様は余裕だろう。しかしあの赤蜥蜴……半覚醒状態か、完全覚醒はまだまだ先よのぉ』

 

「そうなのか?」

 

『恐らくは初めて神器を出現させるときの感情が不十分だったんだろう。今の状態では精々龍の手(トゥワイス・クリティカル)と同程度の出力しか出ねぇな。本来はそれをはるかに凌駕するほどの性能だってのによぉ』

 

「10秒ごとに自身の力を倍加、使い手次第で世界取れる能力だよな」

 

『ゼハハハハ! 俺様も負けてはいないけどなぁ!』

 

「そりゃそうだ」

 

 

 なんせ地双龍だからな。トンでも能力持ちじゃなかったらそうは呼ばれないだろう……その一端があの規格外なわけだがあれは元からおかしいしなぁ。

 

 

「――まっ、あの場では言わなかったけどようこそ、悪魔の世界へってな」

 

 

 とりあえず強くなったら殺し合いたいな、割とマジで。




影人形の出し方はスタンドっぽい感じがイメージしやすいです。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

「さてさてぇ~えものはどっこかなぁ? おっにさんはこっこだっいっますぐでってこいぃ」

 

「出てこいと言われて素直に顔を出すわけないだろ」

 

 

 時刻は深夜、闇に生きる異形共が獲物を求めて動き回る時間帯――と言うわけでもないが普通の一般人ならまず寝ている時間に俺と四季音はとある山奥にやってきていた。俺達が足を踏み入れている山はグレモリー家が治めている領地にある場所ではなく俺が治めている、と言って良いのか分からないがとにかくキマリス家が治めてる場所のもの。田舎というほど何もないわけでもなく、かと言って都会と言うほど発展しているわけでもない。そんな中途半端さが残る町の近くにある山、その奥地にこうして足を運んでいるわけなんだが……隣にいるこの鬼はお遊び気分で軽く手を叩いて出てこいだのと言っている。

 

 何故こんな時間に外を出歩き、この場所にやってきているかと言うと大公――つまりは中間管理職と巷で呼ばれているアガレス家から正式にキマリス眷属にありがたい指令が来たからだ。恐らく数日前にホームレスから聞いた話を上に報告した事が切っ掛けで調査の結果、俺が治めている領地に未だ潜伏していることが判明した……が態々影龍王の支配地域までやってきて逃げないとは勇気があるもんだ。それほど舐められているというのかは本人に聞いてみないと分からないが単に隠れ蓑として十分だと思ってるのかもしれない。とりあえずは『はぐれ悪魔を殺している人物の特定、その目的を聞き出すように』と命令された以上は思いっきりやらないとね。

 

 

「でっものわぁ~るぅ? じぶんのりょうちにしんにゅうされてもきづかないなんてまぬっけぇ」

 

「うるせぇ。結界を張ってるわけじゃないんだ、こんな広い場所を常日頃から監視できるわけないだろ……と言い訳させてくれ」

 

「じゃぁしょ~がないねぇ~ひろいもんねぇここ~にししぃ、おさけのもっとぉ 」

 

 

 そもそも結界なんて張ってたら他勢力にあっ、ここ悪魔いるなと教えているようなもんだしどこの領地も大公から指令があるまではぐれ悪魔の侵入とかには気づかないと思う。むしろそうであってほしい! もし違ったらすっげぇ恥ずかしいなおい……だ、大丈夫! あの人(リアス・グレモリー)だって堕天使の侵入を放置してたしきっと皆気づいてない! 絶対に気づいてないったら気づいてない!

 

 

「……いるな」

 

「だねぇ~てのおとにひかれてきちゃったかぁ」

 

「それは無いと思うが、中々の殺気だな」

 

 

 暗い茂みからこちらを見つめる二つの眼から放たれる殺気は中々楽しませてくれるようなものだった。夜空には遠く及ばないがこれを四季音に取られるのはちょっとやだなぁ、俺だって殺し合いを楽しみたい。だから戦うのは俺でいいかと言う視線を隣にいる四季音に向けてみると――笑っていた。それは幼子が新しいおもちゃを見つけて嬉しくなっているようなものであると同時にこいつは危険だと思わせるような笑み。やっべぇなおい……四季音のテンションが上がってやがる。この状態になるのは俺と初めて出会って三日三晩殺し合った時以来か、目の前の隠れている相手に同情するよ。

 

 俺達と隠れているなにか。お互いが見つめ合う状態が数十秒続き、風が吹いた瞬間――均衡は崩れた。人間とは思えないほどの速度で接近、殺意を帯びた視線とそれを体現している両手で俺達を殺そうとする……がそれはたった一撃で無かったことになる。

 

 

「ぐぅぅぅぅあぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 四季音が拳を握り、大きく振りかぶって空を殴る。たったそれだけで轟音と突風が起こり目の前の大地が数十メートルに渡って抉れた。その衝撃に巻き込まれたであろう"なにか"は大きく吹き飛ばされたが死んではいないようだ……頑丈だな。四季音が加減したからだろうけども力を抜いてこの惨状だ、末恐ろしいな鬼ってのは。

 

 

「――ふぃ~なかなかはやかったからついなぐっちゃったぁ~にへへぇ」

 

「よく加減できたな?」

 

「あったりまっえぇ、あんなたのしませてくれるようなさっきはひっさっしぶりぃ~だから――酔いは抜くよ」

 

「……相手にマジで同情しそうだ」

 

『この小鬼が酔いを抜く、それが如何に恐ろしいかその身を持って体験するだろう。おぉ怖い怖い。俺様、怖くてお漏らししそうだぜぇ』

 

「お前魂だけだろうが」

 

『そりゃそうだ! こりゃ一本取られたぜ! 畜生! 俺様に身体があれば楽しめるってのによぉ!! 聖書の神めェ!!』

 

「怒りの矛先が若干違くないか……?」

 

 

 相棒のボケは置いておいて常時酔っ払い状態でセクハラをしては楽しんでいる四季音が酔うのを止めた、その事が一番重要だ。こいつが酔うのを止めるという事は少しは楽しませてくれる相手と認識したも同然で鬼という種族が持つスペックをこれでもかと見せつけてくる。正直な所……この状態の四季音とはあまり関わり合いになりたくはない。相手が強いほど自分の強さを引き上げるなんてトンデモ性能との殺し合いは疲れるしな。

 

 

「なんっだよ!! 今の馬鹿力!? この俺が押し負けるなんて……! ざっけんなごらぁぁ!!!」

 

 

 吠えるような雄たけびを上げたのは先ほどの四季音が引き起こした衝撃に巻き込まれた"なにか"だろう。月の光に照らされて姿を露わにしたそれははぐれ悪魔と呼ぶには酷く普通すぎた。病的なまでの白髪、背丈は俺よりも少し低い程度で若干だが幼さが残ってる男……そんな奴が怒り、雄たけびを上げながら殺気を放っている。よく見ると犬耳が生えているから犬妖怪か犬の悪魔の血を引いている奴っぽいな。

 

 

「俺は殺されねぇ!! 堕天使に天使に悪魔祓い! そいつらを全部ぶち殺すまでは死ねないんだよ!! 誰だかしらねぇが邪魔すんなぁ!!!」

 

「ほほぉ、中々面白い事いう奴じゃんか。にしし、でも吠えるだけなら誰でもできるからかかってきなよ――遊んであげる」

 

「四季音、俺が代わりに戦うという選択肢があるが?」

 

「殴られたい?」

 

「遠慮しておく」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!!」

 

 

 犬耳男がこちらに向かって突進してくるのと同時に俺は空を飛ぶ。何故なら若干本気モードの四季音が既に犬耳男の真上を取って腕を振り上げてるからだ――ほら来るぞ、トンデモな一撃が。

 

 それを気づいた時には既に手遅れで鬼の一撃が振り下ろされる。轟音と衝撃波、音が遅れてくるほどの殴打は触れることなく犬耳男を地面に叩きつけた。真下の地面は何か巨大なスプーンですくいあげられたように丸い凹みと化しているが……あいつ生きてるか? いや生きててもらわないと情報を聞けないんだが?

 

 

「ぐぅぅぅあぁぁぁぁ!!!!」

 

「へぇ。まだ立つんだ、良いよ良いよぉ!! それでこそ男の子だ。たかがデコピン程度で倒れられちゃ困るしね」

 

「うるせぇぇぇぇ!!! うぅぅぅうおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「……魔力か。となると犬系の悪魔、いや微かに感じるこの妖気……そういう事か」

 

「めっずらしぃ。悪魔と妖怪のハーフなんて見たのいつ以来かねぇ」

 

「ウガァァァァァァァァァ!!!!」

 

「うん? おいおい……自分の魔力と妖力を制御しきれずに暴走してるじゃねぇか。四季音、お前だと加減できねぇから変われ」

 

「えぇ~? これからだってのにしょーがないなぁ――うぃぃ~おさっけおっさっけでぇ~すとれすはっさぁんぅ」

 

 

 文句は受け付けるが今回は目的を聞き出す事が優先だ。どうやらさっきの口ぶりからはぐれ悪魔を率先して殺して回ってるわけじゃなさそうだしな、さて四季音だけで屈服させられるかと思ったが予想外の暴走で俺が動くしかない状態になったか。ありがたいありがたい、俺も身体を動かしたかったし実力を測ってみたかったんだ。

 

 自分の両手に漆黒のグローブを出現させる。見た目は少し厚い革製のもので手の甲には黒い宝玉が埋め込まれている黒一色のこれこそ相棒が宿る神器にして神滅具の一つ、影龍王の手袋(シェイド・グローブ)。昔ならともかく、今はこの状態で出すことはあまり無くなったが目の前の犬耳男が禁手化をするに値するか試してからでも遅くはない。これは慢心とは言わず余裕と言うんだ、だからその負けちゃえ負けちゃえみたいな視線を止めろこの合法ロリ。

 

 

「グウウウアァァァァァ!!!」

 

「さぁ遊ぼうか。きっちり躾けてやるよ」

 

 

 目の前には魔と妖が混じり合い暴走している男。理性を失いながらもその殺意を帯びた視線は俺を貫いている――たった一歩、言葉にするのは簡単だが実際には本当に一歩って言えるのかと思えるほど目の前の男は俺に接近、武器と化した両手の爪を向けてくる。速いな……でも遅い。

 

 伸ばしてきた腕を片手で掴み、そのまま一気に自分の身体を反転させ背負い投げの要領で遠くに飛ばす。先ほどの速度のまま放り投げられたら体勢を立て直すのは普通の奴ならば困難だ……そう普通なら。背中からコウモリのような羽を生やして地面に激突する前に空を飛ぶ。唸り声などから完全に理性を失ってると思ってたがそうでもないのか? それとも戦闘の事だけは冷静に対処できているというだけか……まっ、すぐに分かるか。

 

 

「生憎接近戦は苦手なんでな。だから俺の人形と遊んでろ」

 

『Shade!!!』

 

 

 両手のグローブから機械的な音声が流れる。それと同時に周囲に漂っている霊子を集め、俺の足元に生まれ出た影と混ぜ合わせていく。一秒もかからず俺の背後に影で出来た人形――影人形(シャドール)が感情一つ持たない瞳を開き、相手を見つめ始める。

 

 俺の意志を汲み取った影人形は背後から一気に敵に接近、拳を叩き込もうとする……が犬としての本能かなにかは分からないが後ろに一歩、距離的に言えば数メートル下がって回避しようとする。だけど残念ながら俺の影人形の射程距離の範囲内であり、影龍王の手袋の能力によってそれは格段に延長されてるんだ。逃がさねぇ。

 

 

「グゥ、ウゥゥ!!!」

 

 

 距離が離されたなら一気に近づけばいい。影人形を操作して犬耳男を追撃、ラッシュを叩き込む。手ごたえはあるがどうも硬い……悪魔と妖怪のハーフにしては異常だ。となれば奴は魔力か妖力で自身の身体を強化している可能性がある。身体能力強化系は基礎中の基礎みたいなものだからな――無論俺もできるし人間の夜空もできる。あいつは気を使う仙術だけども。

 

 

「どうした? 防戦一方か? 先ほどまでの勢いはどうしたよ」

 

「マダダァァァァ!!!」

 

 

 犬耳男の自慢の爪、それが俺の影人形を引き裂いた。別にやられたからと言って俺にダメージがあるわけでもないが中々の威力だと思う。軽い突風が俺の所まで飛んできたしな。殺意を帯びた目で地面を駆け、俺の懐に入ってきたが――残念だったな。

 

 

「残念な事に俺の影人形は不死身なんだよ」

 

『Shade!!!』

 

 

 再び影が生まれ人の姿へと変異していく。これこそ影龍王の手袋『10秒間、自由自在に影を生み出す』能力の恐ろしさ。たった十秒とはいえ光の無い空間でも攻撃や防御にも応用できる影を自在に生み出せるこれのおかげで俺の影人形の耐久力やら火力が格段に跳ね上がる。この能力を活かすために何年霊体生成と霊体操作に力を注いできたと思う? 俺の魔力やらなにやらは全部そっち方面に極振り状態だ。その俺が――生み出す時間が長いわけないだろ。

 

 影人形の拳を胴体に叩き込み、新たに生み出した影で犬耳男の身体を拘束。さて……お待ちかねのラッシュタイムだ。

 

 

「うっわぁ~きっちくぅ」

 

「屈服させるにはこれが一番早い」

 

『ゼハハハハ! 今回のサンドバッグはどこまで耐えられるか見ものだなぁ』

 

 

 身動きが取れない相手にひたすら影の拳を叩き込んでいく。逃げたくても俺が生み出す影がそれを許さず、無慈悲なまでに目の前にいる影人形からのラッシュが叩き込まれる。最初は耐えていた犬耳男も時間が経つにつれて動きが鈍くなり、採取的にはボロ雑巾のように動かなくなった。一応加減しながらのラッシュだから死んではいないと思う……動かなくなってるけど息してるし大丈夫だろ。身体能力強化の過程で自分の身体を硬くしていた事に救われたな、それが無かったら数発で永眠してたはずだ。

 

 

「……お、俺は……」

 

「落ち着いたか? 少し話を聞きたいんだが良いか、って拒否権は無いぞ」

 

「だろう、な……アンタ、俺を殺しに来たんだ、ろう。生きるためと、はいえはぐれを殺してきたからな」

 

「その辺を含めて事情を聞かせてくれ。場合によっては殺さなくても良いかもしれない、今から拘束を解くが変な真似はするなよ? 下手に逆らえば怖い鬼さんの一撃が待ってるぞ」

 

「おにさんこわくないよぉう~かわいいぃおにさんだぞぉ~」

 

「……分かった。俺の全力を出しても勝てなかったアンタに逆らう意味もない、犬妖怪らしく素直に屈服させてもらう」

 

 

 敵対する意思が感じられなくなったので拘束している影を消す。もっとも油断させて一撃を入れようとする力すらないだろうけどなぁ。

 

 

「まずは自己紹介させてもらう。ノワール・キマリス、この地を治める事を偉い奴らから言われた王、ついでにお前と同じ混血悪魔だ」

 

「……混血悪魔が王、だと? ま、まさか噂の影龍王ってアンタの事か? そりゃ勝てないわけだ……アンタ、実力の半分も出してなかっただろ?」

 

「どうだろうな」

 

「いや出してなかった。遊ばれてたよ……そっちの鬼の女にもな。何が聞きたいんだ?」

 

「何故はぐれ悪魔を殺して回った? お前、どこかの眷属ってわけでもないだろ?」

 

「……あぁ。俺はアンタ達で言う下級悪魔と下級妖怪の間に生まれただけのタダのハーフだ。偉い上級悪魔が目を付けるほどの存在でもない……殺してた理由は俺を餌としようとしてきたからだ。魔力と妖力を持つ俺ははぐれからしたらごちそうに見えるらしい」

 

「だっろうねぇ~たべればまりょくとようりょくがどうじにてにはいるなんていっせきぃにっちょ~だもの」

 

「なるほど。じゃあ次の質問だ――なんで天使や堕天使、悪魔祓いを憎んでる?」

 

 

 俺の言葉を聞いた犬耳男は激しい憎悪の表情をし始める。出会った当初の言葉通りならこいつは天界勢力と堕天使勢力を憎んでいる……殺したいと思うほどに。その理由が気になってはいたが俺の予想通りなら大切な人を殺されたか奪われたかのどちらかだろう。前者なら文字通り他勢力に殺されて自分だけ生き残った、後者の場合は神器か物かは分からないが奪われたんだろう。両方って線が濃厚っぽいが。

 

 

「……あいつらは俺の、俺の両親を……! 山奥で静かに過ごしていた俺たち家族を殺した……!! 何かをしたわけでもないし迷惑をかけてもない! ただ悪魔だから、妖怪だからって理由で襲ってきやがった!! どっちの勢力が派遣した奴かは分からないが悪魔祓いなのは確かだ!! だからコロス! 強くなって必ずぶっ潰す!!」

 

「その力がお前にあるのか?」

 

「無い! 今はまだよわっちぃ下級だ……でもいつか! どれだけ長い年月がかかろうと必ずぶっ潰して見せる!! だけどそれは無理だ……アンタに負けた。所詮俺はどれだけ頑張ろうと下級止まりの半端者なんだよ……!」

 

「――諦めるのか?」

 

「……え?」

 

「たった一回負けただけで諦められるような事か? それほどお前の中ではちっぽけな感情なのか? 違うよな? そう簡単に諦められないから強くなろうと思ったんだろ」

 

 

 きっと今の俺は酷い顔だろう。それこそ悪魔のような……半分悪魔だから間違ってはいないけど隣にいる四季音がケラケラと笑う程度には酷い表情をしてるだろう。面白い、こいつはさらに強くなると俺の心が、今まで眷属にしてきた時と同じような感覚が襲ってきている。欲しい、こいつがどこまで強くなるか見てみたい。

 

 

「もし生き恥を晒してでも諦められないというなら力になってやる」

 

「……どういう意味だよ」

 

「ようはお前を俺の眷属に加えたいって事だ」

 

「俺が、アンタの眷属に……は、はぁ!? ただの下級だぞ?! アンタを殺そうとした男だぞ!? バカじゃねぇの!? バカだろアンタ!!」

 

「生憎本気だ。ついでに殺そうしたっていうがこいつ(四季音)もいきなり現れて三日三晩の殺し合いに発展、その後で強引に眷属になった奴だから気にしなくていいぞ」

 

「にっへっへぇ~あのときはたのちかったよぉ――それにさ、これ(ノワール)の周りは面白い事ばっかだから損はしないよ。眷属になっちゃうと他勢力をぶっ潰す機会が無くなっちゃうが強くなりたいっていうならこれ以上の機会はないさ。私も保証する。鬼は嘘つかない」

 

「そういうわけでもう一度聞く――俺はお前を眷属に加えたい。どうする?」

 

 

 別に断られようと恨むことも無ければ殺すことも無い。ただ縁が無かった、ただそれだけで終わる。

 

 旅の途中で遭遇し殺し合いをした四季音、神器と不幸によって周りから煙たがれていた水無瀬、覚妖怪と容姿故に襲われかけていた平家。これらと出会えたのがたとえドラゴンの性質によるものだろうと俺は大事にしたい。だからこの縁も大事にしたいが決めるのは本人だ――三人中三人が俺から駒を奪い取って眷属入りをしたのは忘れよう。強引すぎやしないかあいつら……今の姿を見ると考えられないけども。

 

 

「……あ、あははは!! 負けた、負けたよ……犬妖怪ってのはプライドも高いから本当に強い奴じゃないと従うって気持ちにならないんだ。でもアンタには従っても良い、俺はもっと強くなる……強く強く! 言っておくが油断してたらアンタすらぶっ倒すぜ?」

 

「それぐらいじゃないと面白くないだろ。お前、名前は?」

 

「シュンだ。苗字も何もない、ただのシュン」

 

「そっか。じゃあ眷属入りも兼ねて名付けてやる……犬月、犬月瞬(いぬつきしゅん)、今日からお前はただのシュンじゃなく影龍王の、ノワール・キマリスの眷属の一人、犬月瞬だ。俺が弱くなったら問答無用で切り捨てろ。お前が求める強さの踏み台にしろ」

 

「あぁ! 言われなくてもそうすっぜ王様ぁ!!」

 

「いっやぁ~おもちろくなりそうだねぇ~にしし、おさっけうまぁ~」

 

 

 この日、悪魔と妖怪の混血、犬月瞬は俺の兵士になった。駒消費は二つ、今後に期待だな。

 

 家に連れ帰って水無瀬と平家に会わせるとどちらも嫌がる素振りすらせず犬月を歓迎した。水無瀬は仲間が増えたことの喜び、平家は恐らく心を読んで今までの事を感じったことによる同情みたいなものを思ったのかソファーに座る俺の膝を枕に横になりながら「また変なのを仲間にしたね」と呟いた。言葉はともかく嫌とかそういう表情はしていないからちゃんと歓迎してるんだろう。

 

 その言葉が聞こえた犬月が平家に喧嘩を売るという事態に発展、平家が珍しく上下関係を叩き込むと喧嘩を了承という面白い事になったけど。

 

 

「……大丈夫でしょうか?」

 

「俺の眷属だぞ? 犬月も強いとはいえ平家には勝てねぇよ――ほら負けてきた」

 

 

 俺たちが住んでいる一軒家の地下には小さな訓練場がある。そこで平家と犬月が決闘を始めたが数分後に戻ってきた……犬月の敗北によって。普段は引きこもりでも覚妖怪だぞ? 心を読んで先読みとか余裕だしこいつ自身、オールラウンダーで近中遠どれでも得意だから正面から挑めばまず勝てない。だから泣くな……相手が悪かっただけだ、気にし始めたら損だぞ。

 

 

「パシリゲット。ノワール、良い拾い物したね」

 

「わたしもかったからぁぱしりにできるねぇ~にしし」

 

「……負けた、俺が女に負けた……! しかもパシリ、パシリだとぉ……!」

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

 

「よく言うだろ、大丈夫だ問題ない」

 

 

 珍しくご機嫌な平家と女に負けて落ち込んでいる犬月、それを見て爆笑している四季音と本気で心配している水無瀬。中々面白くなりそうだ……あっ、眷属増えたから紹介しないと。前にお二人から眷属紹介されてこっちからも紹介しますとか言ったから良いタイミングだな。

 

 そんな事を思いながら目の前のやり取りを眺め続ける。お前の成長が楽しみだよ――そして強くなって俺を、俺達を楽しませてくれ。




影龍王の手袋
形状:両手に現れる黒い革製の手袋、手の甲に宝玉有り。
能力:「10秒間、自由自在に影を生み出す」「???」

光龍妃の外套
形状:首元に宝玉があるマント
能力:「10秒間、自由自在に光を生み出す」「???」

以上、オリジナル神滅具の能力や形状です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

「ノワール君、いい加減にしてください」

 

「うん? いきなりどうした? また転んだか?」

 

「今日はまだ5回しか転んでません。良いですかノワール君、確かに貴方は私の主で仕えるべき存在です。ですけどこの学園に通っている間は普通の学生なのも事実。いい加減、いい加減クラスの友達とご飯を食べなさい!」

 

「俺様、友達いない。今日、平家休み」

 

 

 昼休み、もはや恒例となった駒王学園保健室に俺はやってきていた。特に怪我や体調が悪いわけでもなく、単に昼飯を食いに来ただけだ。その事がいけないのか水無瀬は年上の先生オーラ全開で俺に注意をしてくるけど……別に良くね? 昼休みに保健室に遊びに来る暇人なんてこの学園にはいないんだし。あっ、俺は暇人じゃなくて友達いないだけだから当てはまらない。

 

「それに水無瀬も此処で飯食ってんだろ? 俺と同じじゃねぇか」

 

「ちーがーいーまーすぅ! 私は此処を治めている先生ですから許されてるだけです。ノワール君も瞬君とご飯食べればいいじゃないですか。同じクラスになったんでしょう?」

 

「あぁ、犬月なら――」

 

「うぃ~す、水無せんせーに王様ぁ? いるっすかぁ?」

 

 

 保健室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってくる。珍しい白髪で少しだけ幼い顔、数日前に俺が兵士として眷属に加えた犬月瞬。そいつが駒王学園男子生徒の制服を身に纏い、弁当が入った袋と炭酸飲料の缶を手に持ちながら俺の真正面の席に座った。

 

 何故こいつが此処にいるかと言うと――普通に転入させた。勿論生徒会長とグレモリー先輩に紹介して正式な許可を貰ってだ。編入先は俺と同じクラス、つまり同学年ってことなんだが……年齢を聞いたら俺と同い年でビックリしたわ。てっきり平家と同じかと思ってたしな。まっ、これはこれで面白いし犬月自身も同学年に男で同じ兵士がいるから楽しくやっていけるだろ。

 

 

「遅かったな」

 

「いやぁ自販機探してたら迷っちゃって……うん? 水無せんせーってばなんでハトが豆鉄砲喰らったような顔してんの?」

 

「さっきまで俺は此処で食べずにクラスの子と食べなさいと説教してたからな。まさかお前まで此処にくるとは思わなかったんだろ」

 

「いやいやいや、昨日も一昨日も来てたっしょ。それにここ心霊探索同好会の部室なんでしょ? んじゃ問題ないじゃん」

 

「ほら、犬月もこう言ってるしもう諦めろ。それかいつもの不幸だって思っておけ」

 

「……うぅ~先生なのに! 先生なのに!! どうして注意しても聞いてくれないのぉ!」

 

「王様、水無せんせーを困らせたらだめだろ。不幸なんだしもうちょっと優しくしても良いんじゃねぇか? あの引きこもりと酒飲みは優しくしなくても良いと思うけどよぉ……あんにゃろぉ! 人の事を犬だのパシリだのと良いように使いやがってぇ……!」

 

「勝てないお前が悪い」

 

「そりゃねぇっすよ!!」

 

 

 眷属入りをしてからこいつ(犬月)は四季音と平家にパシリとして扱われている。片や酒やつまみを持ってこい、片や動けないからコンビニで菓子と飲み物買ってこい等と可哀想な扱いを受けている。本人もそれには不満で「じゃあ俺に勝ったら聞いてやるよぉ!」と喧嘩を吹っ掛けるが普通に負けて言う事を聞かざるを得ない状況になるというね。いや強いんだ、強いんだぞ? 昨日も俺の領地に侵入してきたはぐれ悪魔を俺と犬月、水無瀬の三人で討伐しに行った時なんて俺達の援護無しではぐれ悪魔をノーダメで殺せたし、夜には俺に戦いを挑んでくる向上心もある! でもパシリにしようとしてる奴らがそれよりも強いだけの話で……頑張れ犬月、負けるな犬月。

 

 

「ちっくしょぉ~いいよなぁ、いっちぃ(兵藤一誠)げんちぃ(匙元士郎)はよ、優しい女子に囲まれて俺よりも駒消費多くて……俺なんて眷属入りしたってのに負けてばっかで……うぅぅ」

 

「泣くなめんどくさい。あいつ等が異常なだけだから気にしてたら損だぞ」

 

「それでも気にしちゃうんだって! 水無せんせーは分かってくれるよな!?」

 

「まぁ、気持ちは分かりますね。私もノワール君や花恋、早織のように強くは無いので……瞬君も辛くなったらいつでも言ってね。これでも養護教師で眷属としては先輩ですから何かあったら思いっきり頼ってください」

 

「……大天使水無せんせー、此処に降臨。俺、アンタのためなら喜んで犬になるっす! 何でも言ってくれっす!」

 

「こうしてまた大天使水無せんせー教に新たな仲間が増えましたっと」

 

「なんですかそれぇぇ!?」

 

 

 なにって駒王学園男子生徒で結成されてる派閥の一つだが? 歩くだけで転び、パンチラというサービスシーンを一日一回は必ず男子生徒に見られるドジ属性、養護教師という事で手当てをしてくれる姿が天使に見えるという事から結成されたらしい。初めて知った時は驚いたもんだよ。

 

 それはともかくとして目の前の犬月は同学年に兵士、つまりは赤龍帝と匙君を羨ましいと思っているらしい。気持ちは分からないでもない……犬月は兵士の駒消費二個、赤龍帝は駒消費八個、そして匙君は消費四個で犬月が一番下だからだ。でも仕方がないと思うんだがなぁ……なんせ神滅具持ちと神器持ちだし。それよりも匙君がこっち(ドラゴン)側だとは思わなかった。新しく眷属にしたこいつを紹介しに行った時に兵士という事で意気投合、駒消費の事でなんで俺より上なんだと犬月の疑問に答えるべく出現させた神器がドラゴンの魂が宿っている物だった。

 

 もっとも相棒曰く魂を複数に砕かれて別々の神器として封じられてるから目覚めることは無いだろうとの事だけど。でも身近に俺と同じ邪龍を宿している奴がいるなんて嬉しいね。

 

 

「あぁ~つか、王様にちょっと聞きたいことがあったんだよ」

 

「なんだ?」

 

「いや……今日いっちぃが休みらしくてなんでかなぁとグレモリー眷属のイケメン君に聞いたらはぐれ悪魔祓いに襲われて療養のために休んでるって言われたんだよ。だから――」

 

「ダメだ」

 

「まだなんも言ってねぇよ」

 

「そのはぐれ悪魔祓いを殺しに行こうぜ、だろ?」

 

「おう」

 

「じゃあダメ」

 

「何でだよ!? 悪魔祓いだぞ!? ついでにシスターもこの町にやってきててそいつらと一緒にいんだぜ!? ぶち殺さなかったらこっちがアブねぇだろ!!」

 

「はぁ……聞くがお前はそいつに襲われたか?」

 

「い、いや……襲われてねぇけどそれとこれとは別だろ!!」

 

「此処は俺の治めている領地じゃなくてグレモリー家が治めている領地、そんな所で被害にもあってない俺達が堕天使をぶち殺せば迷惑が掛かるだろ。だから我慢しろ」

 

「……じゃあ、そいつらが襲ってきても逃げろって言いてぇのか!? んな事できるわけねぇだろ!?」

 

「はぁ? 襲ってきたら殺せよ。見敵必殺、サーチアンドデストロイって言葉を知らねぇのか?」

 

「……はい?」

 

 

 アンタ一体何を言っているんだという表情になってるが俺は間違った事を言っただろうか? 襲ってきたなら殺せばいいだろ。なんで俺達が堕天使風情に逃げないといけないんだって話だ……格上ならいざ知らず、下級程度に逃げるわけねぇだろ。

 

 

「い、いや、アンタ今言っただろ!? 我慢しろって!? 言ってること滅茶苦茶じゃねぇか!?」

 

「そうか? 俺は被害にあってない今の状態では我慢しろと言ったと思うが?」

 

「……おぉ、そういえばそうだ。つまりあっちから喧嘩を売られたら殺していいんだな!!」

 

「当たり前だ。堕天使も天使も悪魔祓いも、あとは水無瀬と平家と四季音に危害を加える奴はとりあえず殺しとけ。俺が許す。ついでに言うと俺の領地内だったらいくらでも殺しても良い」

 

「さっすが王様!! 影龍王って呼ばれるだけはあるっすわぁ!!」

 

『ゼハハハハハハ! そう褒めるな! 良い家来をもって俺様、気分が良い』

 

「……良いですか瞬君、貴方から喧嘩を売るような事はしないようにしてください。ノワール君は相手から襲ってきたら対処しても良いというだけですからね。そこを間違わないようにしてください」

 

「うっす! そんじゃぁ飯だぁ! 水無せんせーが作った弁当ならいくらでも食えそうだぜ!」

 

 

 納得のいく答えを聞けたからか、腹が減っていたからかは分からないが弁当にむしゃぶりつくように胃の中に流し込んでいく。

 

 事の発端は赤龍帝がとある民家に契約のために訪れた際にはぐれと思われる悪魔祓いに出会った事だ。その民家にいた住人は惨殺、赤龍帝もあと一歩救出が遅れていたら殺されていた可能性があるらしい。その時、敵対した悪魔祓いの傍にシスターが居たらしいけど……これまた赤龍帝が町で出会った女の子だそうだ。なんという偶然、何という不運と笑う事すら出来ねぇ現状だよなぁ。出会ったあの子はシスターで悪魔の敵でしたなんて赤龍帝も水無瀬以上の不幸属性持ちだなぁ――と言うのを王様会議的なものであの人達から聞かされた。とりあえず惨殺された家族の家に言って悪霊が住みつかない様に霊魂を操ったけど確かに酷い現状だったとしか言えない。犬月がキレるのもよく分かる。俺だってムカついたし。

 

 一般的にシスターは教会、天界陣営に所属している。しかし今回の子はその例から漏れているみたいだな……この駒王町に教会なんて外れにある古くて人が住んでいない所しかない。つまり彼女はその場所に引っ越してきたという事だけど……態々魔王の妹のあの人が治めるこの場所にやってくるか? 邪龍ほどじゃないが悪い事を考えてる奴がいるっぽいなぁ。どーしましょ。

 

 

「この事態をどうするかねぇ。あの規格外の耳に入って潰してくれれば万々歳なんだがそう簡単にはいかねぇよなぁ」

 

「あん? 規格外?」

 

「光龍妃と呼ばれる陽光の龍ユニアを宿した女の子ですよ。一応人間と思われるんですけど色々と規格外なのでそう呼ばれているんですよ」

 

「ほえぇ。強いんすか?」

 

「少なくとも俺が全力で殺し合っても引き分けで終わるぐらいには強い。あと他勢力の主神や神を相手にしても怪我を負う事なく逃げれるスペック持ち」

 

「……マジすか。どんな化けもんなんだよそいつ、ってあぁぁ!! 俺そいつの噂知ってますよ!? 冥界に何度も訪れて暴れまわってるとか何とか!!」

 

「すまん。それって俺と夜空が殺し合ってる時だわ」

 

「……やばい、俺の王様ちょっと色々とおかしい」

 

「失礼な奴だな。話を戻すがあいつが堕天使を殺してくれればこっちの被害は無い上、責任を持つことも無い。だけどあいつ今どこにいるんだ……ここ最近姿を見ないがまさか死んでねぇよな?」

 

「んなわけないじゃん。ちゃぁ~んと生きてるよぉだ」

 

 

 俺の背中に人肌の温度をした硬いなにかが乗っかってきた。その声は先ほどまで話していた規格外――片霧夜空。おいおいどっから現れた……ってこいつ転移できるから好きな場所に現れることができるんだった。俺の顔の真横でえへへと言いたそうな笑みを浮かべ、食いかけだった俺の弁当を強奪して自分の胃の中に流し込んだ。流れるような動作で人の弁当を取るなこの野郎、おっぱいの感触ありがとうございました! いつも通り壁でしたね!!

 

 

「うん美味しいぃ! やっぱり料理できる人って天才だよねぇ!」

 

「……どっから現れたって何なんだよこいつ……! 震えが止まらねぇ……! こんな奴初めて見たぞ!?」

 

「ありゃ新顔じゃん。どったのこれ?」

 

「俺の新しい眷属。駒は兵士」

 

「へぇ~めっずらしぃ、うんじゃあ初対面だ。片霧夜空、至って普通の女子高生じゃないけど女の子だよぉ~よっろしくぅ! んでさ、何話してたん?」

 

「この町に居る堕天使をどうすっかなぁ、と言うお話」

 

「ぶっ殺せばいいじゃん。バカだなぁノワール、考えなくても良い事で悩んでないでちゃっちゃと殺せばいいよ」

 

「お前はどこにも所属してないからそう言えるがこっちは悪魔陣営、あっちは堕天使陣営。下手すると戦争になりかねないんだよ」

 

「なったら全部殺せばいいじゃん――ってね、流石に全勢力と殺しあったら無事じゃすまないし見ないふりがいっちばぁん! かな?」

 

「現状そうするしかないんだよ。なんなら代わりに堕天使殺してくれても良いぞ? あっ、シスターもいるらしいがそいつは攫ってここに連れてきてくれれば少し嬉しい」

 

「そんな事お安い御用だよぉ~と言いたいんだけどさ、今忙しいんだぁ。ヴァーリが戦えって五月蠅くて逃げてる最中なんだよ。もうっ! どうして私の居場所が分かるのかなぁ?」

 

 

 恐らく龍門か何かで探ってんじゃないだろうか? しかし白龍皇……暇ならこっちに来てくれてもいいんだけどなぁ。俺も暇だし戦いならいくらだって付き合ってやるよ。あと言わせてもらうと女の夜空を追い回すとかストーカーです本当にありがとうございました。本当に死んでくれませんかねぇ? あのイケメンだと罪にならないと思うけども……なんか考えたらイライラしてきた。堕天使殺しに行くか。

 

 

「まっいっか! それじゃノワール! ヴァーリと仲良く殺ってくるねぇ!!」

 

「……いつも思うんですけどもう少し言葉を選んでも良いんじゃないでしょうか?」

 

「まるで台風っすね――お、王様? なんか顔怖いっすよ?」

 

「大丈夫だ問題ない。ちょっとぱっかし誰かを殺したくてしょうがないだけなんだ……そうだ犬月、お前堕天使とはぐれ悪魔祓いを殺したいって言ってたよな? よし行くか? いや行くぞ」

 

「待って!! 分かったっす! 俺が悪かったっすからちょっと落ち着いてください!? 何でいきなり豹変してるんですか!? 嫉妬!? まさかの嫉妬!?」

 

「は、はぁ!? な、なんで俺が白龍皇に嫉妬しないといけねぇんだ! あの銀髪イケメン野郎一回死ねばいいのに!! マジで死ねばいいのに!! いやぁ俺様邪龍だから人殺したいなぁ~よし殺して発散させて来るか。はぐれ悪魔祓いだし誰にも迷惑掛からない上、相手の勢力を削れるから最高だな」

 

「やっぱ嫉妬!! 水無せんせー! 王様が嫉妬しておかしくなったぁ!?」

 

「どうして彼女なんですかなんで私じゃないんですか同じ年上だし胸も背も大きいしまだ成長してますし確かにドジというか不幸ですけどそれを受け入れてくれたはずじゃないですかやっぱり幼い子が良いんですか花恋みたいな子や早織のような子がいいんですね……ふふ、ふふふふふ」

 

「こっちも壊れてたぁ!? 正直言ってる事全部聞こえてるけどあえて言わないこの俺って空気読めてるぅ! じゃなくてどうすんだよこれ!? 何でこんな時にあの引きこもりがいねぇんだぁぁぁ!!」

 

『ゼハハハハ。俺様、空気が読める邪龍として定評がある。少し寝るぜ』

 

「寝るなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 そんなこんなで昼休みが終わった。なんでか知らないが犬月は酷く疲れきっていてもう帰りてぇとか言ってたが残念な事にお前は病弱設定じゃないから早退はダメだ。諦めて授業受けろ。

 

 この後は特に何が起きることも無く無事に家に帰宅。玄関からリビングに上がるとワイシャツ姿の平家がソファーに横になりながら出迎えてくれた。開口一番で「変態」と言われたけどそれはお前のその格好の事か? 大変目の保養にはありがたいのでもう少しボタンを外してくださいお願いします、とでも言えばいいか? だから変態と言ってクッション投げるな。あぶねぇし。

 

 

「大丈夫、ちゃんと狙って投げてるから」

 

「クッションは投げてはいけないと水無瀬に教わらなかったか?」

 

「……言われてない気がする。それよりそこの犬っころはどうし、あぁ、お疲れ」

 

「ハハハハハ、疲れたマジ疲れたチョー疲れた」

 

「ノワールも恵も嫉妬の感情に飲まれたらめんどくさいからスルーした方が良いよ」

 

「そういうのはもっと早く言ってくれないですかねぇ!! あと――誰が犬っころだごらぁぁ!?」

 

「アンタ以外に誰がいる。ほらお座り、お手、お代わり、――(ピー)

 

 

 からかうのは良いが女子がその言葉を言うのはやめた方が良いと思うぞ? お前って容姿はアイドル級だし病弱……設定とはいえなんかお姫さまっぽいなと言う理由で同学年やらに幻のお姫様って呼ばれてるんだからその言葉を言ってる所を見られたら幻滅される……あぁ、どうでもいいと。流石だな。

 

 

「――んで、なんで王様のアンタが買い出ししてるんすか?」

 

「唐突に甘い物が食いたくなったからに決まってんだろ」

 

 

 深夜、水無瀬が作った晩飯を食べ終えた後、唐突に甘い物、具体的に言うならシュークリームが食いたくなったから犬月を連れて出歩いている。隣であいつら今に見てろと文句を言っている男は俺が買い物に出かけると聞いた引きこもりからついでにコンビニ限定コラボ品買ってきてと命令(物理)にてパシられた。俺じゃなくて犬月に言う事ほどあの引きこもりは後輩を顎で使うようになってしまった……あれ? これ元からじゃね? 少なくともこいつを迎える前は俺がパシられてたような気がする。き、気のせいか。

 

 

「気持ちは分かりますよ? テレビで美味そうなもんが出てるのを見たら唐突に食いたくなりますけどそういうのって眷属に買ってこさせるんじゃないんですか?」

 

「自分の目で見て美味そうなの買った方が良いだろ。パシられてるお前が可哀想だからなんか奢ってやる、好きなの買え」

 

「マジすか。太っ腹っすね」

 

「なんかお前見てて可哀想になってきてるからな、これぐらいは無いとやっていけないだろ?」

 

「当たり前っすよ。酒飲みと引きこもりにはパシリにされ……文句言えば物理が飛んでくる。鬼はともかくあの引きこもりなんであんなに強いんすか? 接近しようと思ったら離れられて遠距離攻撃、運よく接近しようものなら殆ど攻撃躱されてレイピアで突きくらうし……もしかして王様があそこまで強くしたんすか?」

 

「いや、あいつは元から天才肌なんだよ。俺が教えなくても自分でなんとかするのがあいつだ、四季音よりは弱くても隠れて訓練してるから強いのは当たり前だ。とりあえずお前の目標は本気の四季音と戦っても倒れない事、それが出来たら四季音を倒せ。まっ、お前が強くなればなるほどあいつも強くなるからな。頑張れ頑張れ」

 

「なんすかそのチート性能」

 

「それが鬼だ」

 

「鬼こえぇ――あん? 血の匂い……あいつらからか?」

 

 

 犬月が頭に犬耳を生やして何かの匂いを感じ取ったらしい。そして遠くにいる集団の方に視線を向けたので俺も同じ場所を見ると明らかに普通とは思えない格好とした集団がそこにいた。この時間に出歩くのもおかしいが何よりその格好が――神父服、それが一人なら仕事帰りかとか思いたくもなるがそれが集団でいるとなると話は変わる。

 

 数は十数人、その殆どが怪我をしていて血を流しているそうだ。流石犬妖怪の血が入っているだけあるな、俺は血の匂いとは感じないが犬月はこの距離でも嗅ぎ分けたようだ。

 

 

「――王様」

 

「殺すか」

 

「うっす!!」

 

 

 乱入されるのを防ぐためにこの辺り一帯に結界を張る。と言っても複雑なモノじゃなく外に音や声、人がやってこないようにする簡単なものだ。外からも中からも脆い単純で簡単な結界、今回はそれでも問題は無いのも事実。物の破損は魔力で直せばいいだけだしな。

 

 

「おうおうおうぅ!! こんなところでなぁ~にしてんだ神父様よぉ!!」

 

「な、なんだ……!? ちぃ! 悪魔だと!? 結界を張ったのはお前達か!?」

 

「大正解。なんでこんな時間にぞろぞろと逃げる様に出歩いてるのかは知らないが……怪我を負っているところを見ると悪魔に喧嘩を売って返り討ちにあったって所か。バカだろお前ら、この場所を誰が治めてるかくらい把握しとけよ」

 

「つっても逃がさねぇけどな。喧嘩売ったって事は殺される覚悟があるって事だ――死ねよクソ神父!!」

 

「ええい!! 相手は二人だ!! やれ! 殺せ!!」

 

「雑魚には負けねぇんだよぉ!! 昇格(プロモーション)!! 騎士(ナイト)!!」

 

 

 隣にいた犬月が持ち前の速度、いやそれ以上のもので一気に集団に接近した。先ほどの殺すぞという俺の言葉でこの場所が俺にとって敵の陣地であると察したからこそ兵士の持ち味である昇格を使用したんだろう。あまりの速さに神父様は反応しきれず、あいつの爪と握力によって二人ほど首が飛んだり潰れたりして絶命。仲間の死に戸惑いつつも懐から銃と光の剣を取り出して応戦しようとしている――が無意味だろう。

 

 爪を自らの掌に抉りこませ、その血を妖力を使い斬撃として飛ばして一気に殺害したんだから。

 

 

「俺の援護いるか?」

 

「見て分かんないっすか!? いらねぇよアンタの助けなんか!!」

 

「そうか。なら頑張れ、ただし一人は残しておけよ」

 

「おう!!」

 

 

 僅か数秒で数十人の内、半分が死亡か。中々良いタイムじゃないか? だが残念な事に四季音なら最初の一撃で全員殺してるけど……それは言わない方が良いか。

 

 

「あ、あいつだ!! あいつなら!!」

 

「おっと! お前らの相手は俺だろうがぁ!!」

 

 

 暇そうな顔と態度を取っている俺に銃を向けた一人が犬月によって頭を握りつぶされる。いつの間にか騎士から戦車(ルーク)に変更してるっぽいな。この数日間、俺との喧嘩でその辺を徹底的に叩き込んだからそれぐらいはしてもらわないと困る。兵士の特権は自由自在に王以外の駒全てに成れる万能性、どのタイミングでどの駒に成れば優位に立てるかを教え込んでよかったよ。

 

 結局目の前の神父様は笑う犬月によって一人を除いて惨殺されましたっと。はいご苦労様、適当に四肢の骨折って逃げれないようにしてくれれば後はもうやめて良いぞ……おぉ、言わなくてもやってくれたよこのワンちゃん。やっべぇ、こいつパシリ能力たけぇなおい。

 

 

「王様、今なんか変な事思いませんでした?」

 

「パシリ能力たけぇな、とは思った」

 

「うぐぅ! アンタまでそういうか!?」

 

「事実だし良いだろ。おまたせ、話聞かせておらうか?」

 

「うぅ……ぁ、た、すけぇ……! たすけてくれぇぇ……!」

 

「助かるかどうかはお前次第だ。この中に偶然、フェニックスの涙という万能薬が入ってる。もし俺の質問に答えてくれたらそれを飲ませてやる。勿論危害は加えないしどこにでも好きに逃げろ」

 

 

 上着のポケットを軽く叩いて両手両足の骨が折れて今にも死にそうな神父様を見下ろす。犬月はそんなの持ってましたっけと言いたそうな顔をしてるけど少し黙ってろ。勿論嘘に決まってんだろ? あんな高価なものを持ち歩くほど金持ちじゃねぇよ。

 

 

「無言は肯定と受け取るぞ。じゃあ聞くがお前ら、誰を襲った? もしくは襲われた?」

 

「し、知らない!? 金髪の男に、白髪のガキ! そ、それから赤い籠手の男! れ、レイナーレ様が悪魔と呼んだ!! お、お前らの仲間だろ!?」

 

「レイナーレ、レイナーレねぇ……知ってる?」

 

「いんや。ただの下級っしょ? 俺も下級だけどそんな奴の名前なんて聞いたこともねぇから末端の末端じゃないんすか?」

 

「俺も聞いたことねぇからそうかもな。それじゃあ次はどこから逃げてきた? 外れの教会?」

 

「そうだ! ほ、他の奴は殺された!? た、頼む助けてくれえぇ!!」

 

 

 つまり赤龍帝達が襲撃して神父達を惨殺したって事か? んな馬鹿と言うか面白そうなことをする奴らじゃなさそうだったけどなぁ。特に王のあの人はそんなこと絶対にしない。真面目だもん。となると要因は別にあるかな……はいそうですよねぇー、シスターですよねー。まさか助けに向かうために教会に突撃とか胸が熱くなるような事してくれるじゃないか。

 

 

「なんでも癒す聖女ねぇ。つまりてめぇら――同胞を売ったって事か。堕天使に、その神器っぽい能力を持つシスターを渡しておこぼれ頂戴ってか? どうせ後で犯すつもりだったんだろうが胸糞わりぃな、シスターが死んでも涙なんて流さねぇがこれが人間、神父様のやる事かよ」

 

「神父も所詮男で人間だ。堕天使だって元は天使だぞ? 欲望を持ったから墜ちただけだしそんな事を思ってもおかしくないだろ。はいご苦労様、もう痛いの嫌だろうから一気に治してやるよ」

 

「へ、へへへ! あ、ありが――」

 

 

 魔力の波動で目の前の神父を塵も残さず吹き飛ばす。俺様、悪魔で邪龍だから嘘つきなんだ。でももう痛い思いをしなくなったじゃねぇか――死ねばきっと生まれ変われるさ。タブンネ。

 

 周囲の死体も影人形で一カ所に集めてから魔力で吹き飛ばす。血とか破損個所を消してから犬月に教会にピクニックもとい散歩に行こうかと言ったら首を縦に振ってご機嫌になった。歩いていくのがめんどくさかったから転移で教会入り口まで飛ぶと丁度窓から飛び出してくる人影が見えた――映画みたいな逃げ方しやがって、カッコいいなおい。

 

 

「おんやぁ~? ここにもあ・く・まちゅぅあ~んがいらっしゃったんでっすかぁ? やっべやべやっべぇ~よどうしましょ! 俺っちさっきまで華麗に逃げれると思ってたのに回り込むとか流石悪魔汚いなマジ汚い。死んでくれませんかねぇ~!」

 

 

 おかしな言動と態度を取りながら懐から銃を取り出して発砲。それらは目にも止まらぬ速さで俺達の身体に迫るけど――遅い。

 

 影人形のラッシュで全ての弾丸を弾く。犬月も弾くことを信じていたのか、または分かっていたのかは分からないが持ち前の速度で目の前の神父……ぽい白髪男に接近。自慢の爪を片腕に突き立てて握りしめる……あっ、あれ折れたわ。ボキっと折れたわ。

 

 

「いってぇぇ~!? 痛い痛い暴力反対なんですよぇ!! 死ねこのくそ悪魔!! じゃっちめぇん――とぉ!?!」

 

 

 ウザいから影人形の拳を顔面半分に叩き込んだ。音的に潰れただろうなぁ……うお! 殴られた勢いを利用して光の剣で捕まれた自分の腕を切断、そのまま閃光玉使って逃げていきやがったよ。逃げ足早いなあいつ……どうすっかな、このまま放っておいたらなんかめんどくさいから探すか。

 

 

「いや探しても無理っすね」

 

「あん?」

 

「この周囲からあいつの血の匂いが無くなってます。多分誰かが転移か何かで移動させたんでしょうね……何のためか知らないっすけど」

 

「すると逃げられたってわけか……しばらくこいつ(シャドール)を水無瀬の影の中に入れておくか」

 

「んな事できんのかよ? 王様すっげぇな」

 

「伊達に混血悪魔出身の王、影龍王は名乗ってないさ」

 

 

 家に帰ったら事情を説明して水無瀬の影の中に影人形を仕込んで護衛させておこう。自分で生み出す疑似生命体ながらなんという便利性、と言いたいけど常時魔力使う羽目になるからあまり使いたくは無いんだよな。疲れるし、凄く疲れるし、水無瀬の行動全て丸分かりだし。それはともかくとして他は……いらないか、平家は覚妖怪だから悪意とかには敏感だしさっきの奴の実力なら普通に対処できる。四季音? あの鬼に護衛とか必要かと言われたらいらないと答える自信はある。多分ワンパンで普通に終わる。

 

 教会の入り口で立っていると中から魔力が放たれた感覚があった。うげぇ……これあの人の魔力じゃないか? 死んだな。マジで死んだ、塵一つ残らないで死んだ。かわいそぉ~っと思っておこう。

 

 

「……今の、まさか紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)のものか?」

 

「そっ。なんでも滅ぼすとてつもない性能の魔力。正直禁手化してない状態で相手はしたくない」

 

「その口ぶり……バランスブレイクてのになってたら対処できるって聞こえるんですけども?」

 

「おう。触れたものが滅ぶんなら片っ端から生み出していけば消えないだろ?」

 

「いや理論上ってか確かにその通りっすけど……もう良い、考えると頭いてぇ」

 

「すぐ慣れるさ」

 

「慣れたくねぇ」

 

 

 そんな事を話していると教会の中から赤龍帝、その主のグレモリー先輩が現れた。さらにその後ろからは他の眷属もぞろぞろと……という事は終わったって事かな?

 

 

「あら……キマリス君、こんなところで何をしているのかしら?」

 

「散歩?」

 

「逆に聞かれても困るのだけれど、もしかして堕天使と神父達に用事だったかしら?」

 

「いや全然。甘い物食いたくなってこいつと歩いてたら神父の集団を見つけたんでとりあえず一人を残して他は殺して、そして残った一人から情報聞いてまた殺してからじゃあ他も殺そうかという結論に至り此処に来ただけですよ」

 

「……それってただ殺しに来ただけって事よね?」

 

「簡単に言うとそうなります。ただ残念な事にさっき逃げてきた白髪神父を殺し損ねたのが気がかりですね。もしかしたら他の仲間がいたかもしれないですしもうしばらくは様子見をした方が良いかと。ところでさっき先輩の魔力を感じたんですけどもう終わりました?」

 

「えぇ。此処を根城にしていた堕天使は私が滅したわ。でも他に仲間ねぇ……ソーナにも伝えてしばらくは見回りをした方が良いかもしれないわね。その時は貴方も手伝ってちょうだい、嫌とは言わせないわよ?」

 

「断ったら他の上級悪魔から何を言われるか分かんないでちゃんとやりますよ」

 

「話し終わったっすか? うっすいっちぃ!! 無事だったか――あん? 何でシスターいんだよ? まだ生き残りいんじゃねぇか」

 

「いやいやいや?! アーシアには指一本触れるなよ!? マジで触れるな!! 怪我させるな!! てか犬耳出てる!? 男の犬耳とか誰も得しねぇよ! なんで女の子じゃないんだよ!!!」

 

「はぁ!? 男が犬耳でも良いだろうがぁ!! つかマジで何でシスター庇ってんだよ!? そいつ敵だろう――ごほぉ?!」

 

 

 五月蠅いしご近所迷惑だから腹パンで宙に浮かせてからの影人形による拳ラッシュで静かにさせる。気絶したっぽいが転移で帰れば良いだけだし問題ないな。ただ目の前にいる眷属の方々には引かれたけど。

 

 

「うちの駄犬がスイマセン」

 

「いえ、普通の反応よ。この件についてはまた後で説明するわね」

 

「お願いします。そこのシスターちゃん、うちの馬鹿が怖がらせて悪かった。それじゃあシュークリーム食いたいんで帰りますね」

 

 

 絶賛気絶中の犬月の足を持って転移、仕方ないからシュークリームは明日にしてやろう。

 

 帰ってきた俺と気絶している犬月の姿を見ても水無瀬以外は慌てずにおかえりと言ってきた。お、おう! ただいま!! なんていうか犬月を大事に思ってるのは水無瀬だけのようである……頑張れ犬月、負けるな犬月。とりあえず――死んでないよな?




影人形(シャドール)
形状:丸みを帯びた一つ目の人型。イメージはバーローの人気キャラである全身黒タイツ。
能力:攻防一体かつ変幻自在、他人の影の中にも入れる万能性。ラッシュタイムのイメージはオラオラドラララ無駄無駄ァ。

観覧ありがとうございました!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と不死鳥家族
7話


「――なんか違和感あるっすね」

 

「そうだな」

 

 

 堕天使襲撃事件、いや襲撃されたのは向こうの方だがそんな事件から約一カ月ほど経った。月日が経つのは非常に早いと思うが悪魔としての感覚でなら一瞬のような出来事だ。

 

 そんな日の昼休み、俺と犬月と客人一人はいつものように保健室――ではなく自分のクラスで昼飯を食べていた。何が起きた、とうとう追い出されたかと言われかねないがそんな事ではなく単に水無瀬が職員会議やらなにやらで保健室に入るの禁止と言ってきたためだ。だから仕方なく、非常に仕方ないが自分の教室で机を並べて食べているというわけなんだが……別に水無瀬がいなくても保健室に入っても良くないかと思わなくもない。というより保健室が使えないことを本日、登校している平家がかなり文句を言ってた。

 

 

「確か犬月も黒井はいつも保健室で食ってんだろ? 確かに珍しいな……って俺ってもしかして邪魔か?」

 

「自分から来たくせに何言ってんだ?」

 

「そっそ。だからげんちぃは気にせず食えばいっしょ」

 

「お、おう!」

 

 

 そう、客人と言うのは生徒会長のソーナ・シトリーが率いる眷属の兵士、匙元士郎。通称元ちゃんやらげんちぃやらと言われている同じクラスの男子生徒。犬月とは同じ兵士でクラスが一緒という事から結構仲が良いみたいで放課後にカラオケやら何やらで遊んでるらしい……パシリの癖にコミュ力高くねぇか?

 

 

「それよりあのひき、じゃねぇや。平家っちは大丈夫かねぇ」

 

「何かあったらメールが飛んでくるだろ」

 

「それもそっか。にしても話が変わるけど――アーシア・アルジェントさん可愛くね」

 

「同意。マジ可愛い、すげぇかわいい、もう護りたくなるくらいかわいい」

 

 

 なにやら兵士二人がとある女子生徒の事で盛り上がり始めた。確かにそれは同意しよう……あれは可愛い。

 

 アーシア・アルジェント。例の堕天使事件で駒王町にやってきたシスターであり赤龍帝、兵藤一誠やグレモリー先輩の手により堕天使から救出された女の子。人間や天使、悪魔と言った存在すら癒す事が出来る神器を宿していたため堕天使に騙されたようだが今ではグレモリー先輩の眷属、僧侶の位になっている。その事を俺と生徒会長に紹介してこの学園に通う事になったわけだが――その日から犬月は壊れた。

 

 両親を悪魔祓いに殺されたため天界勢力や堕天使勢力に敵意を持っていたこいつ(犬月)は一カ月ほど前までは「シスター殺すべし、慈悲は無い」という考えだった。しかしシスターちゃんが俺達に紹介された際にあまりにも可愛く、心が清らかすぎたため「この子はシスターだが悪いシスターじゃない。可愛い」と今までの考えを一気に変えやがった……だから平家に駄犬だのと言われんだよ。もっとも彼女だけが例外らしくそれ以外は身敵必殺、サーチアンドデストロイらしいがな。可愛いは正義とはこの事だ。

 

 

「マジでいっちぃ羨ましすぎんだろ……! 俺なんて……俺なんてあの引きこもりや酒飲みからパシリ扱いだってのに何であんないい子がいっちぃの傍にいるんだよ……!」

 

「分かる、分かるぞ犬月……! 俺だって金髪の外国人、しかもかわいいアルジェントさんと仲良くしたい……! 黒井もそう思うだろ!!」

 

「うえ? ま、まぁ男としては仲良くはしたいな」

 

「だよな!! いやぁやっぱりお前も俺達と同じなんだな!」

 

「黒井が俺達と同じと聞いて」

 

「幻のお姫様と付き合ってるのは気に入らんが俺達と同じすけべぇならば仲間入りを許してやらんことも無い」

 

 

 何故か知らないが名前も知らないクラスメートが絡んできた件について。犬月や匙君に交じり可愛い女子生徒談義をし始めたが……離れて良いか? いや離れるわ。なんというか俺は此処までオープンにはなれない。精々むっつりが良い所だ。

 

 くだらない談義を耳に入れつつ弁当を食べていると携帯にメールが届く。送り主は自分のクラスにいる平家からで……あぁ、ギブアップね。

 

 

「あれ? どっか行くんすか?」

 

「あぁ。犬月、次の授業はサボるから適当な言い訳よろしく」

 

「はぁ? あ、あぁ~了解」

 

 

 弁当を袋に入れて教室を出る。向かう先は一学年下、つまりは平家がいるクラスだ。全くあいつは……キツイなら休めばいいものを出席日数が足りなくなるとか言って無理に登校するからこうなるんだよ。あいつが自分の能力を抑えるためにここに通ってるのも分かるが無理して倒れかけたら元も子もないだろう。

 

 そんな事を思いながら平家がいるクラスに到着、俺の方が先輩だから臆する必要もなく中に入る。流石に上級生が入ってきたからか変な目で見られたが気にしない……うげっマジで死にかけてやがる。

 

 

「おい、生きてるか?」

 

「……ムリ」

 

 

 その声は弱弱しく、机に頭を置いていかにも体調が悪そうな様子。大方周りにいる奴らの心の声を聞き過ぎて気持ち悪くなったんだろう……赤龍帝のクラスにあのシスターちゃんが転校してきてから男子生徒が騒ぎ出したから余計にキモイ心の声を感じ取ってる事だろう。

 

 

「死んではいないな。たくっ、無理なら休んでも罰は当たらねぇぞ」

 

「……出席日数、足りなくなる」

 

「はいはいそーですかそーですか。しょうがねぇな」

 

 

 椅子に座り、机に突っ伏している状態の平家を抱きかかえる。所謂お姫様抱っこと言うものだが運ぶならこれ以上のものは無い――その何をするんだという視線止めろ。ついでに周りからのきゃ~やらおぉっやらの声や視線がウザい。これは確かに耐えられねぇわ。

 

 

「保健室まで運んでやるから荷物は自分で抱えてろ」

 

「……此処まで許した覚えはない」

 

「生憎許されなくてもやるのが俺だ」

 

「……知ってる」

 

 

 平家を抱き抱えたまま保健室まで歩く。あまりにも目立っているからか少しだけ平家の顔が赤いがそれは俺も同じだろう。歩く事数分、ようやく目的地に到着したので扉を開けようとすると――開かなかった。そりゃそうだ、中に水無瀬がいないんだもん。だけど残念な事にここに秘密アイテムと言う名の合鍵があるから俺は何時でも中に入れるんだよね。

 

 というわけでオープンセサミ、またの名を開けゴマ。

 

 

「犯罪だよ」

 

「だったら黙っててくれ」

 

「五千円分課金させてくれたら黙っててあげる」

 

「案外安い、いや安くもねぇな」

 

 

 邪魔が入らない様に扉と鍵を閉めてから平家をベッドまで運ぶ。横になったこいつは何かを言いたそうな視線で俺を見てくるが……もしかして座れと? 膝枕しろと?

 

 

「分かってるなら早くやって」

 

「……我儘すぎるだろ」

 

「それが私――もうヤダ男子の心の声なんて聞きたくない。あのシスターはちょろそうとか強気で言えばヤレそうとか兵藤でもいけるなら俺達でもいけるいけるとかもう気持ち悪い……弱り始めた私を見てフラグ立てチャンスとかペロペロしたいとかヤリてぇまじヤリてぇとかもう無理……これならドロドロした女子の心の声の方がまだマシ」

 

 

 俺をベッドに座らせて膝を枕に横になった平家が今までの鬱憤を晴らすかのように捲し立てる。どうやら想像通り同学年の男子の心の声を聞いてダウン寸前だったようだ。確かに先輩に可愛い美少女が転校、それが変態三人衆と一緒に居たら自分でもチャンスがなどと考えてもおかしくはない。高校生なんて恋愛=あれの事しか考えてねぇからなぁ。中身はともかく見た目美少女のこいつもかなり苦労するだろう……最もこの状態でも一般人相手なら余裕で撃退できるだろうが。

 

 

「出来るけどめんどくさい。運んでくれてありがとう、もういいから帰っていいよ」

 

「生憎次の授業はサボるって決めててな。嫌だろうが此処に居させろ」

 

「……寝てる所を襲われても撃退できる」

 

「だろうな。だが王としての命令だ、我慢しろ」

 

「……ありがと」

 

 

 自分の表情が見えない様にそっぽを向いてるがきっと赤いんだろう。マジ可愛いまじかわい、はいはい言わねぇから抓るな。その元気があるなら最後の授業ぐらいは出れるだろ? だったらそれまではマジで寝とけ。お前昨日結構遅くまで起きてたから寝不足でもあるんだろ……徹夜でゲームしてんじゃねぇよこの引きこもり。

 

 

「やらねばならないことがあった。だから仕方がない」

 

「その結果がこれじゃねぇか。はぁ……弁当食いかけだから食っても良いだろ?」

 

「大丈夫だ問題ない――ところでノワール」

 

「あん?」

 

「例の件どうするの?」

 

 

 食いかけの弁当を開くと平家が尋ねる様に聞いてきた。あの件……あぁ、あれね。マジでどうしようかと絶賛悩み中だよ。なんだって混血悪魔の俺が純血悪魔の結婚式のパーティーに出席しないといけねぇんだよ。場違いだろ、文句言われるだろ、断りてぇよ。でも断れねぇよこんちくしょう!

 

 

「フェニックス家の双子姫からのお誘いだもんね。断ったらそれこそ他から文句言われるよ」

 

「だからどうすっかなぁと悩んでるんだろうが。たくっ、高校三年だからって成人の男と女子高生を結婚させようとすんなよ。これだから純血主義ってのは嫌なんだ……ぶち殺したくなる」

 

「……ノワール、そういう恋愛って嫌いだもんね」

 

「あぁ。大っ嫌いでぶっ壊したくなるぐらい嫌悪感バリバリだよ」

 

 

 本来恋愛ってのは好きな者同士でやるようなものだ。それを親が決めたからってあの人と結婚しなさいそうしなさいと言われて納得できる奴がいるか? 少なくとも半分以上は納得できねぇだろう。俺もその内の一人だ。

 

 今の冥界は完全な純血主義、俺みたいな混血悪魔や転生悪魔は表立って差別されるようなことはないが裏では陰口だのなんだのと嫌われている。それは元七十二柱の血が入っていようと変わることは無い。純血悪魔の親は口を揃えて悪魔社会の繁栄のために純血を絶やさない事こそ意味がある、なんて意味分からん事を言っているがそもそも純血だろうと混血だろうと悪魔は悪魔だろうが。なんて柄にもないような事を思っているが親父と母さんを見てたらそんな事を思いたくもなる――だから今の純血主義は気に入らねぇ。

 

 純血悪魔の父と普通の人間の結婚、そして生まれてきた俺と言う混血悪魔。純血主義の上級悪魔からしたら怒り狂いたくもなるような現実だろう。実際親父もかなり反対されたらしい……確か許嫁がいたけど母さんと結婚するために断ったんだけ? それを親父の古くからの親友かつ女王から聞かされた時はカッコいいと思ったもんだ。ただバカですねとは言ってたけど……良いじゃん、カッコいいよ。他の上級悪魔の王なんかよりもずっとな。絶対に面と向かって言わないけど! 言わないけど!!

 

 

「……ノワールって口では殺すとかめんどくさいとかぶち殺すとか言う危険人物だけど中身ってかなり単純だよね」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

「誉めてるんだよ……そこまで両親の事を好きでいられるなんて羨ましい。私だったら無理、自分の心を読んでくる親なんか好きになれない」

 

「……だろうな。なぁ平家、マジでどうしようか?」

 

「出るしかないんでしょ? キマリス家次期当主、影龍王として両家を祝福しないと双子姫がキレるよ」

 

「キレるのは片方だけだろうなぁ。たくっ、親父もなんでフェニックス家現当主と友達なんだよ……マジでめんどくせぇ。なんであの時助けたんだろ……放っておけば招待状なんて届かないってのによぉ」

 

「助けたノワールが悪い」

 

「返す言葉もねぇよ」

 

 

 結構前の話になるが親父に連れられてフェニックス家の領地を訪れていた際に巻き込まれた双子の姉妹――レイヴェル・フェニックスとレイチェル・フェニックスの誘拐未遂事件。元七十二柱キマリス家と同じく名門、いや比べるのが失礼なくらい名門中の名門で起こったその事件を俺は解決してしまった……いやあれは解決したと言って良いのか今でも分からない。でも助けてしまったのも事実……あの時ほどイライラしてた時は無かったからなぁ。

 

 妻は人間、息子は混血悪魔で次期当主。いくら相棒(影の龍)を宿していようと純血主義の悪魔からしたら嫌悪するような存在がフェニックス家の領地を歩いているという事にお偉い方々は表に出さないが視線と言い方で批難してきていた。その対象は俺――ではなく人間の母さんにだ。もっともあの天然はそんな事には全然気づいてはいなかったけども……だからイライラしていた。あの時ほどブチ切れて惨殺せずに我慢できた俺の精神力を誉めてほしい。親父と同じ学校出身でクラスメート、たったそれだけとはいえ仲が良かったせいか今でも関係を続けているようだ……正直、俺もフェニックス家現当主の事は嫌いじゃない。表面上だけかもしれないが俺が次期当主と公表されても批難せずにおめでとうと言ってくれた数少ない家の人だからな。

 

 だからだろう……訪れた先でフェニックス家の双子姫を誘拐しようとした上級悪魔を溜まっていたイライラを発散ついでに半殺しにちまったのは。その結果……勝手にやったというのにもの凄く感謝された。ついでに親父同士の仲がさらに高まっちまったよどうすんだよ!?

 

 

「知らないよ。でもフェニックス家って強いって聞いてるけどなんで誘拐されそうになったのさ」

 

「攫おうとした上級悪魔は炎に耐性がある奴みたいでその当時の双子姫が放つ炎程度なら余裕で耐えれたらしい。そんで他も下手に手を出せば双子姫に当たるからと何もできない状態だったと……いくら不死でも娘を攻撃することはできなかったようだぜ」

 

「なるほどね。でも訪れた先で巻き込まれるなんてノワールも不幸体質だよね」

 

『ゼハハハハハハ! その当時の宿主様は今よりも一回りほど弱かったがそれでも強かった。それにドラゴンを宿している者は数奇な運命に巻き込まれる。それは必然、どれだけ隠れようとどれだけ逃げようとその運命からは逃れられん。それによかったではないか? 助けた事でこちらから頼めばフェニックスの涙を無料でもらえる可能性があるだろうに』

 

「んなこと出来るわけないだろ。あれいくらすると思ってんだ? かなりの高級品だぞ……それを無償で手渡すほどあの人達はバカじゃないよ」

 

「だから――祝福するの?」

 

「そうするしかないだろう。そもそも他人の家の問題にこっちが関与できるわけがないし大方、赤龍帝が何とかしてくれるさ。頑張ればフェニックス程度は吹き飛ばせるだろ」

 

『まだ弱いけどなぁ! それをしたいなら宿主様かユニアの宿主、または白龍皇並みの強さがないとやれんぜぇ!』

 

「あの二人は別格だから比べるな……」

 

 

 片や規格外、片や銀髪イケメンの天才。比べる方が愚かってもんだよ。

 

 

「言えてる。白龍皇は会った事ないけどノワールが強いっていうんだからそいつも規格外っぽいし今の赤龍帝じゃ拳一つで瞬殺だよ――ねぇ、ノワール」

 

「どうした? 今日はよく俺の名前を呼んでくるな?」

 

「偶にはこういう日もある。悩んでいるなら添い寝ぐらいはしてあげる。それ以上は要相談」

 

「……その先ってあれですよね?」

 

「まぁ、あれ」

 

「だったら遠慮しとく。変態と呼ばれたくねぇし――まっ、気を使ってくれるのは助かるよ。あんがと」

 

「……うん」

 

 

 グレモリー家とフェニックス家の結婚。それは俺や生徒会長ですら対処できないほどの出来事だ……だから文句があるなら赤龍帝、お前が何とかするしかないぞ。

 

 でもまずは――招待状が来ない様に祈るしかないな。祈ったらダメージ来るけど。




「戦闘校舎のフェニックス」編が始まりました。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

「――リアスとライザー・フェニックスのゲームが決まったようです」

 

「まぁ、それはこっちの耳にも入ってます」

 

 

 放課後、俺は珍しく生徒会室を訪れていた。理由なんて大したことじゃない――グレモリー家とフェニックス家、その一族であるリアス・グレモリーとライザー・フェニックスが行う婚約を賭けたレーティングゲーム。その日程や今後のことについて話し合いたいと生徒会副会長を通してこの場の呼び出された。向かい合うように俺と生徒会長がソファーに座り、俺の背後には犬月と水無瀬、生徒会長の後ろには匙君達生徒会メンバーが立っている。ちなみに平家は家でサボってます。ゲームし放題とか抜かしてた。

 

 レーティングゲーム、その名の通りレートを賭けて現在冥界で大人気の模擬戦闘。二人の王がそれぞれ集めた眷属を率いて戦い、自身の実力などを見せる絶好の機会であり多くの下級悪魔等が参加を夢見る舞台。本来であれば成人した悪魔でなければ行う事は出来ないものだが……例外はある。両家のいざこざ、あるいは交流などで非公式に行われるゲームであれば成人していようとしていなかろうと関係なく行う事が出来る。ゲーム内容は至ってシンプルで王を含めた眷属全員が同じフィールドに出て相手と戦い、如何に相手の裏をかいて勝利するかがポイント……もっとも特殊ルールもいくつかあるが。ゲーム中は殆どルール無用、つまりはなんでも有りな上、大怪我を負ってもすぐに別の場所に転移させられて治療を受けるため死人は出ない安全設計。ただし撃破されるまでは転移させられないから凄く痛いぞ。

 

 

「まさか婚約破棄のために現役プレイヤーのライザー・フェニックスにゲームを挑むとか思いませんでしたけど……負けますよね」

 

「えぇ……フェニックスが操る炎はドラゴンの鱗に傷をつけ、いかなる傷も不死とも表現できる再生力で塞がってしまいます。いかにリアスが持つ滅びの魔力と言えども彼には勝てないでしょう。個人的には相手である人物は苦手ですけども」

 

「あれ変態ですもんね。でも妹思いの良い奴ですよ? ただハーレム思考の変態なだけで」

 

「それは変態、と言っているのと同じでは?」

 

「まぁ、その通りです。話を戻しますけど何かの奇跡で勝てるとすれば赤龍帝ぐらいでしょうね。ただ最低条件が禁手化(バランス・ブレイク)する事ですけど……正直な所、目覚めて一カ月程度でそれに至ったなら良い意味でバカですよ」

 

「私は純血悪魔ですからその苦労は分からないけれど、禁手化に至るには相応の努力が必要だと聞いています。やはり……難しいですか?」

 

「当たり前ですよ。そんなポンポン禁手化する奴がいたら冥界は大混乱しますって……禁手化は通常亜種含めて一回り以上の力を所有者に与えますから下手をすると理不尽な扱いをしている王を殺すことも可能です。だから神器持ちが修練を重ねた先にある最終到達点……なんですけどえぇと、とある規格外さんは初めて神器を使った時が禁手化していたという化け物なので例外もありますけど」

 

「……そう。私の眷属にも神器を持っている子がいるからいつかは成れるのでしょうね」

 

「むしろ至らなければ中級や上級悪魔に勝つのは難しいですよ。よほどテクニカルに戦わなければね。ただ――俺や匙君、赤龍帝のような奴限定で禁手化に至る裏技が一つだけありますけどね」

 

「っ! 本当ですか!!」

 

「おすすめはしないですよ? なんせ――」

 

『肉体の一部を俺様達に差し出すっつうバカげたやり方だからなぁ!!』

 

 

 生徒会室に俺や生徒会長、眷属達とは違う声が響き渡る。発生源は俺の手、正確には手の甲から発せられている。おいおいいきなり喋るなよ? 目の前の方々が驚いてるじゃねぇか?

 

 

「……まさか、影龍王?」

 

『ゼハハハハハ! その通りだ魔王の妹よ! 俺様こそ宿主様に力を貸す影龍王! 影の龍クロム様だぜぇ!』

 

「五月蠅い黙れ。空気読め」

 

『俺様、空気が読めないことで定評がある邪龍。だから読まない』

 

「前は空気が読めると定評がとか言ってなかったか? まっいいや。すいませんこの馬鹿が勝手に口を開いたせいで話がそれました」

 

「い、いえ……むしろ貴重な経験をさせていただきました。地双龍、その一端である影龍王の声を聞くことができたのですから。それより……先ほどの話ですけれど本当なのですか?」

 

「はい。神器に宿るドラゴンに自分の身体の一部を渡す。それと引き換えに力を貰う――つまりは疑似的な禁手化が出来るんですよ。ただし渡した部位は二度と元には戻りません、一生ドラゴンの腕か足か、または全身か。その姿で生きることになりますね」

 

 

 ちなみに俺はそんなことはしていない。普通に禁手化に至りました……あの規格外と殺し合ってれば嫌でも至るっての。だからもしフェニックスに勝つ事が出来る方法は赤龍帝の力を引き出す事以外には無理。あとはどうにかしてシスターちゃんの持ち物を当てる? いや無理だな。フェニックスの再生力なら普通の十字架や聖水程度のダメージは回復されるし。

 

 あいつらを殺すなら肉体のダメージよりも精神を殺さないと永遠に勝てないもんなぁ。

 

 

「そう、ですか……ではリアスが勝てる可能性はほぼ無いという事ですね」

 

「そっすね。俺や夜空ならともかく、今の赤龍帝じゃ背伸びしても勝てないでしょうし。俺達にできるのは十日後以降に起きるパーティーの準備をするぐらいじゃないですか? 残念ですけど」

 

 

 元々他人の家の事情に関われるほど俺や生徒会長の家は甘くはない。そんな事をすれば貴族社会でもある冥界で孤立しかねないからなぁ……生憎俺もそんな博打はする予定もないしムカつくが傍観せざるを得ない。もし戦わせてくれればあの不死鳥の精神を殺してあげるんだけどねぇ……でもそんな事をすればレイヴェルとレイチェルに怒られると思うけど。いやもしかしたらありがとうとか言ってくれるかもしれない。あいつ等もきっと苦労してる事だろう……知らんけど。

 

 でも生徒会長からしたら諦めろと言われて素直に諦められないだろうな。グレモリー先輩とは仲良いみたいだしあんな妹思いを除けばハーレム思考と結婚したらどうなるか……予想しなくても分かります本当にありがとうございました。

 

 

「……キマリス君は、反対ではないのですか?」

 

「反対ですよ? 今も昔も親が勝手に決めた結婚で一生を失うとか最悪ですし。もっとも俺みたいな混血悪魔と結婚したいという貴族の方はいらっしゃらないんで縁談とは無縁の状態ですよ。だからもしあれ(フェニックス)と戦わせてくれるなら自尊心打ち砕いて引きこもりにさせるぐらいは可能ですけど……親同士が仲良いんで俺も表立って反対が出来ないんですよ。残念な事にね」

 

「そう……ごめんなさい。変な事を聞いたわね」

 

「私のログには何もないんで何を聞かれたか分かりませんね」

 

「……ログ?」

 

「あっ気にしないでください。何も聞いてませんよと言う意味ですので――悪魔が祈るというのもおかしいですけど奇跡が起きるのを待っていればいいと思いますよ。なんせ赤龍帝は二天龍であり力の塊、最高位のドラゴンなんですから」

 

 

 ではそろそろ失礼しますといつものように会釈をして生徒会室を後にする。向かう先は保健室――ではなく自宅だ。既に放課後だし残っている理由もない。ただし水無瀬は仕事があるから学園に残るため家に帰るのは俺と犬月だけだ。ちなみに噂のグレモリー眷属は十日後に備えて山へ修行に行っているらしい。なんという王道なんだろうか――無駄だろうけど。

 

 

「――いっちぃ達、負けるんすね」

 

 

 帰宅途中、犬月がイライラしてるような声色で呟いた。同じ兵士、同じ男、主は違うが同年代の仲間が戦う前から負けるという事にムカついているんだろう。

 

 

「負けるな。生徒会長の前だから優しい言葉で言ってたが正直勝てるわけがない。実戦経験も殆ど無し、付け焼刃の修行程度で勝てる相手だったらフェニックスはゲーム内で無敗を誇ってはいないさ」

 

「攻撃しても再生する不死身の悪魔……勝てる奴って王様以外の悪魔でいないんすか?」

 

「……いや、いるにはいる。サイラオーグ・バアル、冥界の中でも大王と呼ばれる家出身であるその男だったらライザー・フェニックスに勝てるな。俺もそいつとは戦いたくはない――戦えばどっちかが確実に死ぬからな」

 

「サイラオーグ、へぇ。王様がそこまで言うなんてマジで強いんすね」

 

「元々グレモリー先輩が持つ滅びの力はバアル家特有のモノなんだよ。それが政略結婚かはたまた大恋愛の末かは知らないがグレモリー現当主と結婚、生まれてきた子達に引き継がれた。その時から滅びの魔力を持つ者はバアルとグレモリーになったってわけだ。ただしサイラオーグ・バアルは受け継ぐべき滅びの魔力は受け継げなかった……だから自分の身体を鍛えて魔力に頼らないスタミナと武力を手に入れた化け物中の化け物だ」

 

 

 聞いた話ではゲーム未参加とはいえ若手悪魔の中でも最強と呼ばれてるらしい。一度だけパーティーで会った事はあるが確かにそう呼ばれてもおかしくはない実力者だった……あの規格外が戦ってみたいなぁと呟くほどだ。俺が勝つことができるのは"あれ"を使わないとダメかもしれねぇ、禁手化したとしてもガチで死にかけるだろう。

 

 まっ、その人はバアルでありグレモリーじゃないから今回の婚約騒動には表立って干渉はできないだろうけど。

 

 

「そんな人が冥界にゴロゴロいるのか……王様はこのまま傍観状態突入って事でいいんすよね?」

 

「そういう事だ。後でお前のスーツを買いに行くからな、嫌だろうが気構えだけはしておけ。パーティーで喧嘩腰の態度取ったらぶっ飛ばすぞ――相手と一緒に」

 

「いやいやいや?! 俺はともかく相手はダメっしょ!? 王様が一番態度悪いじゃないっすか!?」

 

「冗談だよ」

 

「王様が言うと冗談に聞こえないんだってば!?」

 

 

 そんな事を話しながら何事もなく家に着いた。玄関を開けて中に入るとそこにはいつものようにワイシャツ姿の平家の姿が――ない。あれ? 珍しいな、いつもだったらソファーに寝ころんで出迎えるってのに。

 

 

「にっしっしぃ~さおりんはいまおったのしみっちゅぅ~」

 

「はぁ? あ、あぁ、ゲームか」

 

「そっそぉ~うんむぅ、ぷはぁ。おいちぃなぁ~おっしごとあけのおっさっけぇはかくべつぅ」

 

「大概にしろよ」

 

「この酒飲みにんなこと言っても無駄っすよ」

 

 

 俺も犬月も自室に戻ってカバンや制服を脱ぎ、部屋着となってからリビングの戻った。その途中で平家の部屋の前を通ったが静かだったが何かが動くような物音はした……恐らくヘッドホンをしてゲームしているんだろう。

 

 冷蔵庫から飲み物を取り出してソファーに座ると酒を飲んでいた四季音が酒瓶片手に近づいてきて俺の膝の上に座りやがった。毎回思うんだが何故平家もお前も膝に座りたがる? 結構前に疑問に思って夜空に女の子は膝に座りたがる生き物なのかと聞いてみたら「はぁ? んなわけねぇじゃんバカなの。てか変態の発想じゃん、うわっきっもぉ」という蔑んだ目で言われたのを覚えてる。すっごく興奮しました……じゃないそうじゃない。何が言いたいかと言うと今の四季音の服装はぶかぶかのTシャツ、つまりは見えている。見えてるんだよ大事な部分――と言う名の(おっぱい)がな。

 

 

「みったいならぬごうかぁ~?」

 

「アホか。で? 何で膝の上に座ってる?」

 

「にっしっしぃ~ねぇのわーるぅ、わたしねぇ、あついんだぁ~すっごくあつくてしょうがないぃ~だっかっらぁ――殺ろ」

 

 

 俺の膝に座りながら向かい合い、自分の両手で俺の首を掴みながらそのセリフは絵的に拙いが言いたいこととやりたいことは分かった。連日の犬月との喧嘩が羨ましくなったってわけね……こんの戦闘狂が。

 

 

「拒否権は?」

 

「無いね。だ、だから早くオッケーとか良いぞとか言えよ……恥ずかしいんだよこの体勢はさ」

 

「やらなきゃいいのに――分かった分かった、流石に今の状態で殴られたら防御できねぇ。移動するぞ」

 

 

 転移で冥界、普段夜空と殺し合う場所まで移動する。この場所じゃないとこの鬼の一撃が耐えられない……自宅の地下にある訓練場だと家が崩壊しかねない。

 

 俺から離れていく四季音は酒を捨て、笑いながら指を鳴らし始める。その目は戦う事が楽しくなっている戦闘狂そのもので先ほどの反応から酒は抜いて完全に戦闘状態となっているだろう。もうこの場所はキマリス領の観光地にするべきだな! 規格外と鬼が影龍王と殺し合った場所って言えば物好きはやってくるだろ。

 

 

「先に言っておくけどお前相手だとマジでやるからな。死んでも恨むんじゃねぇぞ」

 

「むしろ手を抜かれたらガチギレするからね。にしし、ワクワクドッキドッキだねぇ!!」

 

「――禁手化」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 この日、約数時間ほどキマリス領で地震が起きた。一撃一撃が大地を壊し、地形そのものを変えていく本気の鬼の一撃と鎧を纏った本気状態の俺の拳、そして影人形の攻撃で辺り一帯が滅茶苦茶になったからだ。風圧だけで地面を抉り、音すら遅れてくる鬼の一撃を生身で何度も受けるのは耐えられないが禁手化状態の俺なら完全に防ぎきることは可能、ただし鎧通し――俺が纏う鎧に傷を付けずに衝撃だけを叩き込む技は勘弁してほしい。喰らったら痛いどころの話じゃない。

 

 そして四季音と殺し合いと言う名の模擬戦もどきをしていると「楽しそうじゃぁん」と何処からともなく夜空が乱入、史上初の影龍王()光龍妃(夜空)(四季音)という謎の構図が出来上がった。かなり加減していたとはいえ夜空が放つ光を拳の風圧だけで吹き飛ばす四季音も大概だが鬼の一撃を受けてもケロッとしている夜空も化け物だと感じたよ。だからお返しだと八つ当たりとかで人の腕とか足を簡単に蹴り落とさないでくれませんかね? 治りますけど! 治りますけど痛いんだよ!!

 

 

「くぅ~楽しかったぁ~!! やっぱり光龍妃は化け物だ、鬼の私でも勝てないっておかしいって」

 

「俺としては悪魔が苦手とする光を拳の風圧だけで弾き飛ばすお前も化け物だと思うぞ?」

 

「加減されてたしセーフセーフ。ノワールとヤリあってる光龍妃の出力だったら片腕消滅してるって。にしし、やっぱりお前達って頭いかれてるね」

 

「うるせぇ――あん? なんでいるんだ?」

 

 

 夜空が楽しかったよと言って去って行った後、俺と四季音は自宅へと転移する。汗かいたしさっさと風呂入るかと思ってたらリビングに珍しく客人がやってきていた……あの、何でいるんでしょうか?

 

 

「お邪魔しておりますわ……お、お怪我をされていらっしゃるではありませんか?! お、お姉様! 早く涙を!」

 

「落ち着きなさい。もうっ、この程度の怪我で涙を使っては相手が困ってしまいますわ。コホン。御機嫌よう、ノワール・キマリス様。アポイントメント無しでの来訪、申し訳ございません」

 

「よぉ混血悪魔くん。俺がやってきているというのに待たせるとはいい度胸だな」

 

 

 目の前には双子の女の子とホスト風の男が立っている。女の子の方は双子だからか顔立ちも似ていて声もほぼ一緒、違うと言えば髪型と平家曰く胸の大きさだそうだ。確かに見た感じ大きさが少しだけ違うのが分かる。堂々とは見ないけど。男の方はどうでも良い。いや本当はダメだけど。

 

 この双子こそフェニックス家の双子姫といわれる女の子で金髪で髪型をドリルのような縦ロールにしているのがレイヴェル・フェニックス、同じ金髪で普通のツインテールにしているのがレイチェル・フェニックス。そしてその後ろにいるのが兄であり現在冥界でも超有名人なライザー・フェニックス。マジで何でいるんですかねぇ?

 

 

「……これはこれはご丁寧に。このような姿で誠に申し訳ない。先ほどまでかの光龍妃と殺し合っていたもので」

 

「やはりか。キマリス領で大きな戦いが行われていると俺の家にまで届いてはいたが……よく無事だったな。毎回やっているんだろう?」

 

「相手が暇だから遊ぼうと言ってきているんで……あの、なんで此処に居るんですか?」

 

「それは勿論、お兄様の婚約パーティーにご招待するためですわ」

 

 

 小柄の体型に似合わない少し大きめの胸を揺らしながら自信満々に答えてくれた。えっと、普通のツインテの方だからレイチェルか。しかし揺れたよ、マジで揺れたよ。夜空……お前、年下の子に負けてるぞ。

 

 

「リアスさまはお兄さまとの婚約には反対されて近々ゲームを行うようですけれど……勝ち目なんてありませんわ。唯一良い勝負ができるのはリアスさまの女王のみですもの。ですから私たちの勝利は確実、急に招待状を送り準備を急がせてしまうのも申し訳ないのでこうしてお兄さまに頼んで連れてきてもらいましたの。キマリス様、こちらをどうぞ」

 

 

 縦ロールの方だから……レイヴェルか。その子から招待状を受け取るけど言わせてほしい。マジで見分けつかねぇ、声はほぼ一緒で顔も似てるから見分けるのって髪型ぐらいか。でも漫画とかでよくある髪型変えて入れ替わりとかされたらどっちがどっちだかわからねぇぞおい。

 

 

「これはどうもありがとうございます。俺の方でもライザー・フェニックスさんの勝利で終わると思っていますんでパーティーの準備だけは進めていましたよ」

 

「良い心がけだ。全く、お前はどうしようもないクソガキだがその辺は身を弁えてやがる。流石はキマリス家次期当主って所か」

 

「お褒めに預かり光栄です。あと、この傷だったらすぐに治るんで心配とかいらないですよ?」

 

「べ、別に心配なんてしていませんわ! た、ただ昔とはいえ恩人が怪我をしているので取り乱しただけです! な、なんですかお兄様にお姉様!」

 

「いやなに、ここに来る前も早く早くと言っていたなぁと思いだしてなぁ」

 

「少しはフェニックス家の一員という事を分かってほしいですわ……気持ちは分かりますけれど」

 

 

 目の前で軽い兄妹喧嘩もどきをされるとこっちが困るんだけど……これで片腕が無い状態で帰って来たらどんな反応をするんだろうと思った俺は悪い悪魔だと思う。半分悪魔で邪龍を宿してるからあながち間違ってはいないけど。

 

 

「とりあえず貴方の勝利を期待していますよ。ただし――ドラゴンの逆鱗にはお気を付けを」

 

「うん? なんだ、お前が俺にアドバイスか? そう言えばリアスの兵士君が持っていた神器もドラゴンだったな……肝に銘じておこう。もっともそれは無駄なアドバイスだろうがな」

 

「でしょうね。ただ言いたかっただけですよ」

 

「ふんっやはりお前は小生意気なガキだよ。邪魔をしたな、俺とリアスのパーティーを楽しみに待っていると良い」

 

 

 そんな言葉を言い残して三人は帰って行った。あのさぁ……招待状を渡しに来てくれるのは良いんだけど喧嘩売りに来たのか違うのかだけはっきりさせてほしい。双子姫がいなかったら殺してたぞ? ゲーム始まる前にフェニックスの王が戦闘不能になる所だったぞ。

 

 ただドラゴンの逆鱗、つまり赤龍帝兵藤一誠が本気でキレたり強い感情を持った時、フェニックスとはいえ無事じゃすまないだろう。そんなことはありえないだろうけどな……目覚めたばっかだし。

 

 

「……あれがライザー・フェニックスって奴なんすね」

 

「そっ、ハーレム思考の変態野郎。でも妹思いという素晴らしい属性も持ってる」

 

「あれ嫌い。あいつの心の声が気持ち悪いし。おかえりノワール」

 

「おう。とりあえず貰っちまったもんはしょうがねぇ、準備だけはしておくぞ――んで風呂沸いてる?」

 

「勿論。さっきまで私が入ってた。今ならなんと私の色んな汁が混じってるよ」

 

「それは心底どうでも良い」

 

 

 フェニックス家の三男と双子姫が来訪するという事態にはなったがようやく落ち着けるらしい。

 

 擦り傷やらで地味に痛かったが無事に風呂を入り終えて寛ぎながら近日行われるグレモリー対フェニックスのゲームの事を考えた。眷属数でも負けているから勝つのはほぼ無理、何らかの奇跡が起きることが勝利の最低条件と言う始まる前から分かっているムリゲーだがあの人達は本気で勝つ気でいるんだろう。だからもしかしたらその奇跡を起こすかもしれない……楽しみに待ってるとするか。

 

 そして時は流れて数日後、俺に、いや俺と生徒会長、名だたる冥界の上級悪魔の耳に届いたのは――ライザー・フェニックスが勝利したという内容だった。うん知ってた。




恐らく次で第二部が終わるかと。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

「行きたくねぇっす」

 

「同意。パーティーとか私を殺そうとしているの? 死ぬよ? あっけなく死ぬよ?」

 

「――我儘言ってねぇでさっさと準備しろ」

 

 

 本日はグレモリー家とフェニックス家の婚約発表パーティーが行われる日であるというのに俺の眷属二名は乗り気じゃない。片方は友人が負けた事にイラつき、もう片方は人混みの中に行きたくないという考えからだ。分かっている……分かってはいるが招待状を受け取った以上は行かないとこっちの問題になるんだよ、だから大人しく俺に付いてこい。

 

 リアス・グレモリーとライザー・フェニックス。双方が行った婚約を賭けてのレーティングゲームはグレモリー先輩の敗北という事で決着がついた。眷属数でも圧倒的に不利な上、現役プレイヤーで不死身のフェニックスに勝つには奇跡が起こらなければならないというムリゲー状態で挑むことになったからあまり驚くような事じゃなかった。むしろ分かっていた、知ってましたと言えるレベルだな。

 

 

「なんで良く知らねぇ奴の婚約パーティーに出て祝わねぇといけねぇんすか。いっちぃ達をボコった野郎なんざ祝福する気分じゃねぇよ」

 

「下種な心の声なんか聞きたくない。引きこもりたいでござる」

 

「どんな理不尽な事があろうとそれが()()の世界なんだよ。いい加減スーツなりドレスなり着ろっての。平家はともかく犬月、お前の気持ちはよく分かる。誰も友人を無敵状態でボコった野郎の事なんて祝いたくもない。俺だって嫌だね。だから聞くぞ――あいつらが本当に諦めたと思ってんのか?」

 

「……どういう、意味っすか?」

 

「考えてみろ。シスターは敵、関わり合いになってはいけません。そんな事は悪魔世界じゃ常識だってのに友達だからとか助けたいとか言って堕天使に襲撃かますような奴だぞ? 一回負けたからってはい諦めますって思えねぇんだなぁ。もしかしたら面白い事が起きるかもしれねぇぞ」

 

「つまり……いっちぃは、あいつら(グレモリー眷属)はパーティーで何かするって事っすね!!」

 

「まっ、ただの予想だよ。ホントに諦めてる可能性も無くはないが――ドラゴンってのは諦めが悪い奴らばっかなんだよ。たとえ上から踏みつけられようと、罵られようと無限の感情と共に立ち上がる。それが俺達ドラゴンを宿す者達だ」

 

 

 感情、生きている人間や悪魔、天使に堕天使、神や魔王。それらが必ず持っているものによって無限とも言える力を引き出せるのがドラゴンを宿した神器の特徴だ。だからホントにもしかしたら笑えるぐらい面白い事が起きるかもしれねぇんだ……もし起こったら爆笑すっかも。

 

 

「ほら早く準備しろ。平家は辛いだろうが俺の心を読んでたら楽だろ? 水無瀬、準備手伝ってやれ」

 

「分かりました。早織、もし辛かったらいつでもここに戻ってきても良いから少しだけノワール君と一緒に出ましょう。それが私たち眷属の務めです」

 

「……しょーがない。がんばる」

 

「にししぃ~おっさっけのみほうだぁいやったねぇ~」

 

「誰も飲み放題なんて一言も言ってねぇっすけどね」

 

 

 そんなわけで俺達全員出席するために着替え始める。俺と犬月はスーツ、平家達はドレスだ。見事なまでに大中小……いや中小小だな。何処の部分かは言わないけれども。

 

 準備が整った俺達はフェニックス領内にある会場へと飛ぶ。豪華と言う言葉が似合うその中へと入り、双子姫から受け取った招待状を受付で見せると中へ入ることを許された。良かったぁ、ここで混血悪魔ですからダメですとか言われたらどうしようとか軽く思ってたけどそんな事は無かった。会場内には多くの貴族悪魔が仲良く談笑しているのが見える……うっわ、すげぇ場違い。

 

 

「あれはキマリス家の……」

 

「影龍王眷属……あれまでも呼ばれていたのか」

 

「良いご身分だ。神器と眷属以外取り柄の無い混血風情が……」

 

「――殺していいっすか」

 

「我慢しろ。どうせ口だけの雑魚、いちいち相手してるのも面倒だ」

 

 

 周りからの陰口なんていつもの事だ。それは平家や水無瀬、四季音も分かっているからこそ何も言わずに黙っている。見渡してみると離れた所にはグレモリー先輩の眷属達が一カ所に集まっていたり、生徒会長とその眷属も別の場所で一カ所に集まっている。なんて言うか――あれは諦めてないな。現に赤龍帝がこの場にいない、それだけで面白い事が起きそうだ。

 

 

「影龍王殿、失礼する」

 

 

 ボーイから飲み物を受け取り今回の主役が来るのを待っていると不意に話しかけられた。その人物は黒髪で紫色の瞳、若手悪魔最強にして大王家――バアル家出身の男。

 

 

「……サイラオーグ・バアル」

 

「いかにも。別のパーティーで会った時以来だな。その顔は周りの奴らからの陰口に飽き飽きしているといった所か」

 

「まあ、そんな感じですよ。まさかこんな所でバアル家の次期当主にお会いし、あまつさえ話しかけられるとは思いませんでした」

 

「俺とリアスは従兄弟だからな。その縁あってこうして呼ばれたというわけだ。今回のパーティーは退屈なものになるかと思ってはいたがこうして影龍王殿に出会えただけで来たかいがある」

 

「は、はぁ。あのすいません……影龍王殿はやめてもらえませんか? 貴方ほどの方に殿呼びは心が痛いです」

 

「むっ、そうか。しかし――この場にいる誰よりも、俺と渡り合える実力を隠し持っている影龍王殿を他の呼び方で呼ぶのは思いつかん。親愛の証とでも思っていればいい」

 

 

 すっげぇ過大評価されてるんだけど……でも若手悪魔最強、大王家出身のこの人に認められるのは嫌じゃない。この人と話しているせいか周りからの視線が痛い上、平家達も恐縮してしまっている。犬月はこいつが的な感じで実力を測っているようだけど――今のお前じゃ背伸びをしても勝てねぇよ。

 

 生まれつき魔力を持たない。それは悪魔としてあってはならない事で他ならともかく大王家、バアルにとっては生まれてきたことすら罪とされるらしい。そんな中で諦めず、上級悪魔が行わないような血反吐を吐く修練の末に手に入れた武力と闘気は他を圧倒するほどのものだ。俺はこの人を尊敬しているし正式な場で戦ってみたいとも思ってる……ただその場合は殺し合いになるだろうけど。止まらねぇよ、絶対にな。

 

 

「本当ならば噂のリアスの兵士を見て見たかったが今回は見れそうにないな」

 

「……いえ、来ますよ」

 

「ほう」

 

「諦めが悪いのがドラゴンを宿す奴の標準装備であり、あれは赤龍帝ですから」

 

「そうか。ならこのパーティーも面白い事になりそうだな」

 

 

 突如この会場の奥、一番目立つところで火花が上がる。そこから現れたのは白いタキシードを身に纏った今回のパーティーの主役――ライザー・フェニックス。パーティーに参列している貴族全員に挨拶をして婚約したグレモリー先輩を紹介すると魔法陣で呼び出した……花嫁衣裳のグレモリー先輩は確かに綺麗だ。でも表情はなにかを諦めたようなもので嬉しそうではない。そりゃそうだ、好きでもない相手と結婚しても幸せなんかじゃないがそれは他の貴族には関係ない。ただ純血の悪魔を残せればそれでいい、古くから続く悪魔の歴史を途絶えさせない事こそが重要で本人の意思なんてどうでもいいんだから。

 

 そんな事を考えているから――こんなことが起きるんだよ。

 

 

「部長ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 会場の扉が大きく開く。そこに立っていたのは赤い籠手を身に付けたこの場にいない男、兵藤一誠。くくく、マジかよ……! マジで乱入してきやがった!! 腹いてぇ……けど、まずは()()を出さない様にしないとな。

 

 

影人形(シャドール)

 

 

 あいつ(赤龍帝)を捕らえるべく衛兵が武器を手に近づいていく。そいつ等全てに影人形のラッシュタイムを叩き込んで左右の壁に吹き飛ばすと周りからお怒りの声が飛んでくる。おいおい……助けてやったんだから許せよ。つか見抜けってんだ。

 

 

「貴様!! まさかあれも貴様の差し金か!!」

 

「混血風情が! 衛兵!! この男も取り押さえろ!!」

 

「アホ。俺の差し金でもなければ邪魔する気すらねぇって。死ぬはずだった奴らを助けてやったんだから誉めてほしいね――おい夜空、テメェだろ? そいつを連れてきたのはよ」

 

「――だいっせいかぁ~い!!」

 

 

 赤龍帝の背後に大きな穴が開く。そこから出てきたのは黒いノースリーブに白いスカート、そして光るマントを身に付けたこの場に招待されていない人物――片霧夜空。またの名を光龍妃であり規格外と呼ばれる女。そいつは屈託のない笑顔、子供のような笑みで俺達……いや、俺の方を向いた。

 

 

「もうっ! 対応早いよノワール!! 赤龍帝を襲おうとした奴を消そうと思ったのにさぁ!」

 

「無関係な奴を死なせるわけねぇだろ。それにお前、此処に居る奴ら全員殺すつもりだったろ?」

 

「あったりまえだよ! 私のお気に入りをゴミ風情が罵っていいわけねぇじゃん。老害はさっさと死んだ方が世のため人のためだって色んな人が言ってるし」

 

「……だから止めたんだよ。んで? 赤龍帝を連れてきてなにする気だ? てかなんで一緒に来た?」

 

「いやぁ~面白い事してたから力を貸してあげただけだよ。それにノワールだって待ってたんでしょぉ~? この子が来るのをさ!」

 

「それは否定しない」

 

 

 周りのお偉い貴族達は俺達のやり取りに対して野次を飛ばすことも無く終始無言だった。うっわ、ビビってやがる……ククク! 夜空が放つ殺気を身に浴びてるせいか標的にされない様に必死じゃねぇか。でもその中でも隣にいるサイラオーグ・バアルは流石だ。その殺気を受けてもなお怯むことは無く、逆に闘志を燃やしている。

 

 この場を力と言う暴力で支配した夜空は軽い足取りで俺の隣にやってきた。理由は簡単――テーブルに乗っている料理を食べるためだ。

 

 

「あ、えと、なんかよく分からないけど連れてきてくれてあんがとな!!」

 

「い~よべっつにぃ。ほら頑張ってお姫様取り戻すんでしょぉ~?」

 

「おう! 俺は兵藤一誠!! リアス部長の兵士です!! 部長を取り返しに来ました!!」

 

 

 俺達のやり取りにあっけに取られていた赤龍帝は気合を新たに啖呵を切った。うわっ、面白れぇ……! あいつマジでグレモリー先輩を取り戻そうとしてやがるよ! 一歩、また一歩と会場内を真っ直ぐ歩いていき立ち止まった先は新郎新婦が並んでいる真ん前。あの腕……おいおいマジかよ! ドラゴンに腕を差し出してやがる!! バカだあいつ! 本当に大馬鹿で――面白れぇ!!

 

 

「き、貴様ぁ……! 此処がどこだかわかっているのか!!」

 

「分かってるよ!! だから部長を取り返しに来たんだろうがぁ!! 返してもらうぞ!! 部長の処女は俺のもんだ!!」

 

「うわっ最低発言。料理おいしぃ~」

 

「お前が面白い事をしてたって言った意味が分かったわ。マジで面白いわあいつ」

 

「でっしょぉ~? んでさぁ、隣にいるアンタって強いね」

 

「噂の光龍妃、この目で見るまでは信じられなかったがかなりの強者とお目見えする。俺はサイラオーグ・バアル、大王家出身の悪魔だ」

 

「知ってる。私が殺し合いたいリストの中に入ってるもん。片霧夜空、またの名を普通の女子高生だよ! よろしくねぇ~」

 

「学校行ってねぇだろ」

 

「うん。だから普通の女の子だね」

 

「光龍妃殿ほどの存在が普通の人間であるならば人間界にいる全ての者はアリのような存在となってしまうな」

 

「違いない。こいつは規格外だしな」

 

「二人ともひっどいなぁ~んでさ、ノワールを馬鹿にしてた奴らなんだけど殺していい?」

 

「流石に魔王様が来たからやめような」

 

 

 こんな騒ぎが起きたからか紅の髪をしたダンディーな男性と一緒に同じ髪色をした方が現れる。その人はグレモリー先輩と似たような雰囲気でこの冥界、いや他勢力ですらその名を知っているほどの人物。悪魔の中でも頂点に位置する四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファー様。

 

 

「――光龍妃君。私が彼を今回のパーティーの余興としてグレイフィアを向かわせたのだが彼女は今どこにいるのかな?」

 

「うん? あの強い女の人だったら怪我一つしてないよ。私がその子を連れて行くぞぉ! って言ったら無言で帰って行っちゃった」

 

「そうか」

 

「さ、サーゼクス様!? 余興とはどういう意味でしょうか!?」

 

「なに。私の妹の晴れ舞台を盛り上げたいと思ってね。ダメだったかな?」

 

「……い、いえ、滅相もございません……!」

 

 

 異議を唱えたライザーだったが魔王様の一言で納得した。いや納得するしかなかった。

 

 誰も冥界を支配する魔王に文句なんて唱えられるわけがないしそんな事をすれば今後の生活が保障できない。でも確かサーゼクス様が言ったグレイフィアって最強の女王の名を欲しいままにしている人じゃなかったっけ? そんな人を無言で引かせるこいつってやっぱ規格外だわ。もっともそんな事をした本人はテーブルに乗っている料理を片っ端から食ってるけど……どんだけ飢えてんだよ。

 

 

「フェニックス家の方にお伝えしていなかった事は大変申し訳ない。しかしドラゴンとフェニックス、それらがゲームではなく真剣勝負でぶつかり合うのは催し物としては申し分ないものかと。どうだいドラゴン使い君? 私の前でもう一度キミの力を見せてはくれないか」

 

「――はい!」

 

「ライザー・フェニックス君。キミが持つ不死鳥の力を私に見せてはくれないだろうか?」

 

「――魔王様のご命令とあらばこのライザー・フェニックス、この身に宿る不死鳥の力をお見せいたしましょう」

 

 

 あの態度……あぁ、もしかして魔王様もグレモリー先輩の婚約には反対なのか? だから催し物と言って公開処刑ともとれる対決を望んでいるような態度を取っているのか。うわっ、やることがすげぇ。

 

 

「ありがとう。ではドラゴン使い君、勝利した暁には何を望む?」

 

「勿論、リアス・グレモリー様を返してください」

 

「良いだろう。キミが勝利したならばリアスはキミに返そう。ただしそれは勝利した場合だ、負けた場合はその願いは叶えられない」

 

「分かっています!!」

 

「よろしい。さて――ノワール・キマリス君、光龍妃君」

 

「ほえ?」

 

「は、はい」

 

 

 いきなり魔王様に名指しで呼ばれるとは思わず声が裏返った。平家がカッコ悪いとか言いたそうな表情だけど仕方ないだろ? 相手は最強の魔王様だぞ? 変な態度取ったら死ぬぞ? 俺の心が!

 

 

「折角の機会だ。キミ達の戦いを見せてほしい。勿論これは私個人の勝手なお願いだから代価を与えよう。富や名声、領地、望むものを言ってくれ」

 

「サーゼクス様!?」

 

「下級悪魔のみならず混血悪魔にまで!? そやつは神器以外取り柄の無い――」

 

「なにかな?」

 

「――なんでもござい、ません」

 

「うわっだっさぁ~うぅ~んと代価ねぇ、その辺にいる奴の命とかでもオーケー?」

 

「それは困るかな」

 

「ケチぃ~じゃあさ、ノワールが私を楽しませてくれなかったらさっき神器以外取り柄の無いって言った奴を殺す。それで良いよね」

 

「おい」

 

「だってムカついたんだもぉ~ん。まっ、楽しませてくれようが飽きさせてくれようが――そこのアンタ、一族もろとも塵一つ残さず殺してあげるから首を洗って待ってろよ☆」

 

 

 実質的な処刑宣言です本当にありがとうございました。俺関係ないじゃん。他の奴も関わり合いになりたくないからか夜空が殺すと宣言した男から離れていく……誰も自分の身が優先だから何もおかしくはない。ただしグレモリー眷属と生徒会長、シトリー眷属はドン引きしてます。俺達? 慣れてるから平気だよ。

 

 

「――ノワール・キマリス君。キミが求める代価は何かな?」

 

 

 スルーっすか? そこの悪魔を殺す宣言されてもスルーですか魔王様?

 

 

「それでは……誠に勝手ではありますが、先ほどの衛兵を叩きのめすという行いを無かったことにしていただければと思います」

 

「えぇ~面白くないなぁ」

 

「クスっ、良いだろう。先の衛兵は勝手に壁に向かっていった。そういうことだね?」

 

「まぁ、はい」

 

 

 しょうがねぇじゃん! 欲しいものなんて特にないしこいつと殺しあえって事自体考えてすらいなかったよ! でもさっきの出来事があるともしかしたら俺の眷属に何か言われかねないし無かったことにしてもらえればありがたいのは本当だ。決して何も思いつかなかったとかではない、お前達を思っての代価だからそういう事にしておけ。良いな平家、お前に言っているんだからな?

 

 そんなわけで俺対夜空、赤龍帝対不死鳥の対決が決まった。最初は赤龍帝達の戦いでこの会場の中央に設置された異空間に作られた場所で戦いを始めた。自分の腕をドラゴンに献上して得た疑似的な禁手化――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)でライザーと渡り合っていたが所詮は疑似的……すぐにガス欠になったらしく鎧が解除された。でもそんな事になっても赤龍帝の目は死んでいなかった、首を絞められ満身創痍の状態で懐から聖水を取り出し――それをライザーの顔にかけた。

 

 

「……威力おかしくないか?」

 

『赤蜥蜴は自身の力を倍加させていく能力とその力を譲渡する事が出来る。今のは聖水に高まった力を譲渡したのさ……ゼハハハハハハハハ!!! 面白れぇ!! 腕を差し出すバカを目にするのは久しぶりだぁ!! 見ろよあの顔を! 格下にやられて瀕死状態だぜ!!!』

 

『無様ですねぇ。不死身と言えども精神力は無限ではない。それを鍛えていなかった彼が悪い』

 

「結論として雑魚なのが悪い」

 

 

 結局最後はシスターちゃんの持ち物である十字架を持ち、聖水を浴びた拳でライザーを打倒して終了。いやはや面白いものが見れたよ……マジで殺し合いたいな。

 

 

「――でっさぁ、見世物だけど本気でいくからねぇ」

 

「――俺達の殺し合いが本気じゃなかったことなんてあったか?」

 

「ない!」

 

「だったらいつも通りだろ」

 

 

 入れ替わるように今度は俺と夜空が特設会場に転移している。後ろを見ると平家達、他にもグレモリー眷属やシトリー眷属などが観戦している。何という見世物、俺達はサーカスの動物か?

 

 

「じゃ、始めるか」

 

「いっつでもいいよぉ~!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 力の解放、神器所有者が至る到達点である禁手化を行い俺と夜空は全身に鎧を纏う。

 

 全身に禍々しいほどの巨大な棘が生えた黒いドラゴンを模した全身鎧――その名は影龍王(シェイド・グローブ)()再生鎧(アンデットメイル)。俺が持つ影龍王の手袋の亜種禁手と呼ばれるもので俺だけの一点物だ。この姿ならば通常時の能力制限が一気に取り払われて圧倒的な力と防御を行使できる……この鎧を纏うという事は俺が本気を出すという事でそれは目の前の規格外も同じことだ。

 

 目の前にいる夜空の姿は背中には輝くマントを羽織り、山吹色をしたドラゴンを模した美しいとさえいえるほどの全身鎧――光龍妃(グリッター・オーバーコート)()(スケイルメイル)を纏っている。亜種ではないとの事だがそれでも厄介だ……能力制限が俺と同じく解除されるしなぁ。

 

 

「――死ねよ!!」

 

「――殺してあげるよ!」

 

 

 一歩、たった一歩で数メートルを飛び拳と蹴りがぶつかり合う。その衝撃は凄まじく、俺達の周りの地面が一気に吹き飛んだがそんなことは日常茶飯事で今更驚くような事じゃない。俺の両手には生み出した影を、夜空の両手両足には生み出した光を纏わせており、お互いがぶつかり合っても消滅することは無い。山吹色のオーラと漆黒に近い黒のオーラが幾重もぶつかり合うたびにこの空間が軋み、周囲が崩壊していく。

 

 

「シャドールゥゥゥ!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

「あははははははは!!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

 

 夜空が無限ともいえる光弾を生み出し、それを雨のように降らせて来る。一つでも浴びたら俺の身体は消滅を始めるほどの光力――それを影人形と両手に纏わせた影を鞭のようにしならせて叩き落す。変幻自在、俺が思い描く姿に変わるこの影はたとえグレモリー先輩が放つ滅びの魔力でさえ防ぎきるだろう……それほどの硬度を持っていると自負している。だから規格外の夜空が放つ光も霊子で生み出された影人形に俺が生み出した影を混ぜることで難なく防ぎ、対処できる攻防一体の武器として扱える。

 

 広いフィールドを移動しながら光の雨を防いでいくがその威力は時間が経つほどに増していく……やっぱり厄介だな!! あいつの二つ目の能力は!!!

 

 

「どうしたのさぁ!! 時間が経つたびに不利になるのはそっちだぞぉ!!」

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

 

 夜空の背中から機械音声が鳴り続けている。それは光龍妃の外套が持つ『光を浴びる事で自身の力を上昇させる』と言う能力が発動していることを意味している。太陽の光、建物の中を照らす照明の光、自分が生み出した光……つまりは"光"というものを浴びていたら無限に上昇していく。あいつが持つ神滅具は無限に光を生み出せる……つまり光を生み出すごとにただでさえバカげているあいつの力が高まっていく。しかも上限が今のところ見当たらないとかふざけてるだろ!

 

 赤龍帝の籠手のように一気に二倍ではなく1+1は2になるように段階的に上がっていくがそれでも厄介だ――それはこっちも同じ事だがな!!

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 両手の甲から機械音声が鳴り続ける。それは影龍王の手袋が持つ『影に触れた存在の力を奪う』という能力が発動しているからだ。地面の力を奪えばその場所は草木が生える事のない土地へ、金属などで作られた建物の力を奪えば腐り始めて崩壊、生きた存在の力を奪えば文字通り"力"が抜けていくような感覚に陥る……そして奪い取った力は全て俺の力となる。夜空のように発動条件が緩いわけじゃなく影に触れさせないといけないが影人形に生み出した影を混ぜ合わせれば攻撃するたびに"影"が触れるため発動条件を満たしてくれる。

 

 白龍皇のように一気に半減させ、その分を糧とするのではなく10-1は9のように段階的に奪っていく。だから迫りくる光の雨を防ぐたびに俺の力となっていくが――叩き落すのめんどくせぇし多いんだよ!!

 

 

「どうする相棒! 流石に長引かせるとこっちが不利だ!」

 

『ゼハハハハハ!! 突っ込め!! 考えるな! 己が信じた感を信じろ!』

 

「オッケー!!!」

 

「うんうん、それがノワールだっもんねぇ!!」

 

 

 一度地面に降りてから一気に夜空がいる場所へと飛ぶ。腕を振るい、無数の光が降り注いでくるがそれら全てを影人形と生み出した影で防ぐ……突破した先で拳を握り叩き込む――が夜空の顔面を捕らえたのと同時に真上から光のガラスのような真四角な物体がギロチンのように降ってきて俺の片腕を切断した。

 

 

「つぅ、ぐあぁ……!!」

 

「いったいなぁもう!!」

 

 

 カウンターの蹴りを受けて地面に落とされる、俺の腕が切断された事で観戦していた誰かが悲鳴を上げたようだけど……このぐらいはいつもの事だからその悲鳴は無意味なんだよ。

 

 影を生み出し、離れた所に落ちている俺の腕を掴むと吸収されるように影に溶けていく。その影を切断された片腕に纏わせるとあら不思議――再生したように元通りになりました。

 

 

「いつ見てもずるいよねぇ」

 

「欠損限定なんだから少しは許しやがれ」

 

「ぜったいそれさぁ! いつか普通の傷も治せるようになるよねぇ!! ずるい! ずるいぞぉ!!」

 

「光浴びるだけで力が上昇していくチートに言われたくはねぇ!!」

 

 

 この再生能力こそ俺の亜種禁手、影龍王の再生鎧が持つ能力。体の欠損限定だが生み出す影によって不死鳥のように再生できるからこそこの規格外とまともに殺し合える。ただし普通の傷までは治せないという微妙に使いづらいものなんだよなぁ……マジで夜空の言う通り治せるようになりたいね。

 

 しかしこのままいくと勝ち負けどうこうよりもこの場所が持たねぇぞ……なんせ度重なるトンデモな威力がぶつかり合ったせいであと少ししたらこの場所が壊れるな。あいつを楽しませねぇと何するか分かんないからどうするか――と言われたら秘密兵器を使わざるを得ないわけで。その顔、驚かせてやる!

 

 

「夜空」

 

「なにぃ~?」

 

「今から面白いものを見せてやる」

 

「――へぇ、ノワールがそんな事を言うって事は私が知らないモノでいいんだよね?」

 

「初公開。眷属の奴らすら知らない事だ」

 

 

 その言葉に平家達が驚いたような声を上げた。うん、だって見せた事ないしな。

 

 

「行くぜ――我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る深き影なり」

 

 

 俺の背後には生み出した影人形。それが腕を組み、俺の足元から這い上がってくる影に貫かれ形を変えていく。

 

 

「我が生み出せし人形よ、笑え、叫べ、幾重の感情をその身に宿せ」

 

 

 影が俺の身体に纏わりつく。泥のように、水のように、形を持たない影が俺と混ざり合っていく。

 

 

「生まれろ影よ、交われ霊よ、我が声に従い新たな姿と成りて生まれ変わらん」

 

 

 言霊を終えた俺の身体に変化が起きる。姿は影龍王の再生鎧のまま、しかし背中には黒い影で出来たマントが羽織られる。そのマントから生きた獣の顔、ドラゴンの首、無数の手を模した影が漏れる様に周囲に散らばっていく……あぁ、そうだよ。その顔だ! 全身鎧で顔は見えないが驚いただろ? 霊体生成と霊体操作、その二つをこれでもかと言うほど鍛錬に鍛錬を重ねてお前を倒すために"あれ"に変わるモノを編み出そうとした先で生まれた()()()だが強くなるという点では成功しているモノでもある。

 

 これこそ俺の新たな戦闘形態――

 

 

「――影龍王(シェイド・グローブ)()再生鎧(アンデットメイル)ver(・イン・)影人形融合(シャドールフュージョン)

 

「ふ、ふふふはははははははは!! なにそれ! なになに! んなもん編み出してたの!! ばっかじゃん! まじでおもしれぇ~あはははははは!! 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の代わりなの!? すっげぇことすんじゃん!!」

 

「生憎覇龍ほどの出力はでねぇよ。いうなればこれは禁手化状態の追加装備だ」

 

 

 片足に力を入れて宙に浮く夜空の真上を取る。あいつが気づいたときには既に遅く無限ともいえる影を、幾重の生物を模した影が纏われた拳を振り下ろして地面に叩きつける。その衝撃で地面に大きく亀裂が入り、フィールドを覆う壁にすら傷が入った。脆すぎないか? ただのパワーアップ状態で覇龍並みの出力は出てねぇぞ?!

 

 

「――ぁ、あぁ、あぁ~!! たっのしぃぃ!! だからノワールの事が好きなんだ! バカだもん! 何するか分かんないもん!」

 

「今の一撃受けてもケロッとしているお前に驚きを隠せないんだが? いや分かっていたけど」

 

「あははははは! 熱くなってきた、凄く熱いよぉ……もっと頂戴! もっともっとぉぉ! だから次の段階にレベルアップだぁ!! いっくよぉ――我、目覚めるは」

 

『夜空!? 待ちなさい!! それを使えばこの空間が!!』

 

『マジかよあの女……どうする宿主様ぁ?』

 

「使うしかないだろ……この姿で覇龍は初めてだがまぁ、なんとかなるだろ――我、目覚めるは」

 

 

 俺と夜空、それぞれが放つオーラがさらに高まった。ぶつかり合っているわけでもなく、ただ向かい合っているだけと言うのにフィールドが壊れていく。でも止まらない……止まれない。こいつが、俺が、俺達地双龍は戦いを止められない!

 

 

「自らの大欲を神により奪われし地双龍なり――」

<再び始まる><遊びと言う名の虐殺が>

 

「自らの大欲を神により封じられし地双龍なり――」

<戦いは終わらない><どちらかが死ぬまでは決して>

 

 

 背後からやめてと叫ぶ声がする。その声の主は平家だ……あぁ、心の声を聞いたからこそ分かるんだよなぁ。でも無理だ、止められないし止まるわけがない。こいつを殺して今日こそ俺が勝利する! ただそれだけのために戦う!

 

 

「――はぁ?」

 

「――えぇ~」

 

 

 しかしそれは叶わない。突如として空間に穴が開き、戦闘フィールドが崩壊していく。やべっ、このままいたら異空間に閉じ込められるからさっさと戻らねぇと……ちぃ! 折角テンション上がってきたってのにこんな終わり方かよふざけんな!!

 

 

「ノワールぅ! ホントに楽しかったから満足まんぞくぅだよ! だからまたやろうね!! 今度は覇龍有りで!!」

 

「また引き分けってのは気に入らねぇが元の場所に戻れなくなったら困るし勝負はまた今度だ! ご希望通り最初っから覇龍使ってやるよ!!」

 

「楽しみにしとくねぇ!!」

 

 

 夜空が開けた転移穴に入り込んで元の場所、つまりはパーティー会場へと戻る。魔王様ももっと頑丈な奴作っててくれよと文句を言いたかったが……言えるわけないですよね。




予想外に長くなったので次でこの章は終わります。
なんで二巻目の内容なのにガチの殺し合いで覇龍使おうとしているんだろうか。

観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

「――なんだこの空気」

 

『ゼハハハハ。見事なまでに静まり返っておるわ』

 

 

 夜空が開いた転移穴を通って殺し合いをしていた特設会場から元のパーティー会場へと戻ると拍手喝采――という事にはなっておらず絶対零度と表現できるほど静かになっており、誰一人として言葉を発してはいなかった。どうしてこうなったと思いたくもなるが恐らく先に行われた下級悪魔(赤龍帝)とこのパーティーの主役であるライザー・フェニックスの戦いで見事赤龍帝が勝利。その後に行われた俺と夜空の試合、いや死合いともいえる殺し合いが悲惨過ぎたか……でも普段キマリス領で殺し合ってる時って大体あんな感じだからなぁ。覇龍まで使う事態になるのは久しぶりだけども。

 

 パーティー会場の空気に戸惑っていると平家が一歩、俺に近づいてくる。その表情は何故か分からないが真剣そのもの……例えて言うならゲームで激レアキャラがドロップでしか出ない時に手に入れるために本気を出すときに似ている。なんという無駄な本気を出すなんだろうか。

 

 

「おかえりノワール。早速だけど怖いから鎧解除して」

 

「うん? あぁ、忘れてた――っ」

 

 

 禁手化を解除すると頬に痛みが走った。理由なんて簡単に説明ができる……目の前の平家にビンタをされた。普段ならばあまり目立つような事はしないが今の平家の顔は涙目で若干ではあるけど体が震えていた。多分、いや確実にさっき使おうとしていた覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に対して怒っているんだろう。

 

 

「バカ、バカじゃないの。大馬鹿……遊びで死ぬ気なの? 何で使おうとした、ねぇ答えてよ」

 

 

 あまり見ないであろう怒りの感情が含まれた声。そんな姿を見たことがないであろう犬月はあっけにとられ、水無瀬や四季音はその言葉に同意するように強い眼差しで俺を見ている。

 

 

「……お前も俺の眷属なら分かってるだろ。俺も夜空も邪龍、地双龍を宿す存在だ。普段はふざけていようと根っこの部分は互いを殺したくて仕方がないんだ、どっちが強くてどっちが弱いのか。たったそれだけを決めるために俺達は殺し合う。そういう運命なんだよ……だから諦めろって言っても無理だよな」

 

「当たり前。私も恵も花恋も瞬もノワールの眷属。勝手に死ぬことは許さないし私達を受け入れたんだったら最後まで責任取ってよ」

 

「――悪かったよ。平家も、四季音も水無瀬も、犬月も。軽率だった」

 

 

 確実に俺が悪いから素直に謝る。恐らく平家が言った事は水無瀬と四季音も同じ思いなんだろう……犬月は何だかよく分からないような様子だけども。

 

 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、それは俺や夜空、赤龍帝や白龍皇が持つドラゴンを宿した神器を持つ者が発動できる禁じられた力。一度使えば神を殺せる力を手に入れる代わりに運良くて寿命の大半を失い、運が悪ければ暴走して死に至る。そんな危険中の危険、禁忌とも呼べるモノを俺と夜空はさっきの殺し合いで使おうとしていたからな。多分だけど覇龍発動時に漏れ出す歴代影龍王と歴代光龍妃の思念を感じ取ったんだろう……いくら別空間とはいえ平家は覚妖怪、耳を塞いでいても邪悪に満ち溢れた声を聞いてしまう。

 

 

「き、キマリス様! う、腕を見せてください!」

 

 

 冷え切った空気を一刀両断するようにフェニックス家の双子姫の片割れ、レイチェル・フェニックス。それがハッとしたような態度で一目散に俺の腕、先ほどの戦いで夜空に一度切断された腕に触り始めた。うわっ、今気づいたけどスーツの腕部分が無くなってやがる……切断されて再生したからかぁ。これ高かったのにどうすっかな。夜空に弁償しろとか言ってもあいつ金持ってないしそもそも「はぁ? いやに決まってんじゃん。まさか体でとか言わないよねうわきっもぉ」とか言いかねん。

 

 

「あれ、あ、あれ……治って、いますわ……?」

 

「さっきの殺し合いを見てなかったのか? 再生したんだよ。流石に切り傷やら擦り傷は治ってないけどな」

 

「そうなのですか……? そ、そのお恥ずかしながらキマリス様の腕を治すために涙を取りに行っていたので、見ていないんですの」

 

 

 俺の腕を触りながら恥ずかしそうに返事をするレイチェル。やべっぇ凄く可愛いなにこの可愛い生き物。純粋すぎないか? お兄さんこの子が悪い人に攫われたりしないか心配に――痛い痛い痛い。わき腹抓るな、冗談に決まってるだろ。だってこの子は既に中級悪魔でその辺の奴には負けないだろうし普通の冗談だよ。ほ、ホントだぞ?

 

 

「ノワール・キマリス君」

 

 

 奥からサーゼクス様が近づいてくる。それを見て先ほどまで俺の腕を触っていたレイチェルは手を放して俺からやや後ろ、平家達と同じ所に移動した。何故だろう……平家とレイチェルから不穏な空気が流れている気がする。

 

 

「サーゼクス様……あ、あの、特設会場を壊してしまってスイマセン」

 

「気にしてはいないよ。見事な戦いだった、これからも冥界の……いや悪魔社会を引っ張っていってほしい」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 頭を下げる。魔王様にそんな事を言われてしまったらふざけた事なんて言えるわけがない。

 

 その後、サーゼクス様は紅髪をしたダンディーな男と一緒にどこかに行ってしまう。あれ? そう言えば今頃気づいたけどライザーもグレモリー先輩もいないな……あぁ、先輩はもしかして赤龍帝が連れてこの場所から離れていったのか。ライザーは……公衆の面前でボコられたから恥ずかしくて引きこもったってところかねぇ。でもそうなるとこの後はどうなるんだ? なんせ婚約しますと言った二人の内、片方は下級悪魔にボコられてこの場にいない、もう片方は下級悪魔に連れられてこの場からいなくなった。こんな事があったらパーティーどころの騒ぎじゃないだろう――どこぞの規格外も乱入してきたしな。

 

 視界の端、夜空に処刑宣言をされた男は酷く取り乱しており精神状態が異常だと察することができる。きっとあいつの事だ……有言実行するだろうしすぐに治るよ。消滅すれば怖いものなんてないだろうし。

 

 

「なぁ、この後どうなるんだ?」

 

「……お恥ずかしい話ですがリアス様も連れ去られてしまいましたので今回のパーティーはお開きとなるでしょう」

 

「まっ、そうだよな。それじゃあさっさと帰るか。此処に居ても場違いなだけだし……今回はご招待いただきまして誠にありがとうございました。この礼はいつか必ずお返しいたします」

 

「そ、そうですか……い、いえ! その通りでございますわ! この私に招待される事など光栄なことなんですわ! で、ですからそれ相応のものでなければ、お、怒りますわよ!」

 

 

 フェニックスの双子姫が納得するほどのものってなんだよ。高価な物とかは興味なさそうだし……よし聞かなかったことにしよう。冗談だ、だから何もしなくていいよみたいな表情はやめろ。流石に招待されて何もお返ししないのは混血悪魔、いやキマリス家次期当主としてダメだろ。おい、誰に言ってんだみたいな顔止めろ。もちろん心を読んでるお前(平家)に決まってんだろ。

 

 パーティーどころの騒ぎじゃなくなったようなので眷属を連れて自宅に転移する。普通だったらこのまま着替えて一息つくところだが少々用事を思いついたので自室の本棚から数冊ほど本を手に取ってから水無瀬達に出かけてくることを伝えて再び転移。向かう先は駒王学園オカルト研究部――つまりグレモリー眷属の根城だ。不在だったら無駄骨だったがそんな事は無く、全員部室内に居たので俺が転移してきたことに驚いた様子だった。

 

 

「く、黒井!?」

 

「よっ、赤龍帝。さっきの試合だが結構面白かったぞ。アポなしでの転移、誠に申し訳ありません」

 

「気にしなくても良いわ。何か用事かしら? それとも私を連れ戻すようにフェニックス家に頼まれたとかならこちらも対処させてもらうわよ?」

 

「生憎そんなめんどくさい事はしない主義ですしパーティーは主役二人が居なくなったんんで終わりましたよ。今回は個人的な用事でして――赤龍帝、お前のその腕を如何にかできると言ったらどうする?」

 

 

 俺がそういうと赤龍帝は驚いた声を上げる。それだけじゃなく他の奴も同じような反応だ……後ろのシスターちゃんなんて今にも泣きそうなんだけどそこまで嬉しい事だったか? な、なんかハードルが上がったような気がするぞ。

 

 

「確かに神器のに宿るドラゴンに献上した部位は決して元には戻らない。だけどその部位を覆うドラゴンの魔力を散らせば数日間は元の状態に戻る。それを繰り返していけば日常生活は問題ないだろう。ほら、これがドラゴン関連の書物だから先輩方にやってもらえ」

 

「お、おう……あ、ありがとな!」

 

「気にするな。面白いものを見せてくれたお礼と夜空に目を付けられた同情だ。あっ、先に言っておくけど俺はその腕の魔力は散らせないからな。相棒とお前のドラゴンは性質が真逆で何が起こるか分かんねぇし」

 

「……ありがとう。このお礼は必ず返すわ」

 

「いりませんって言わなかったですか? 面白いものを見せてくれたお礼と夜空に目を付けられた同情って。だからお礼とか入らないんで……どうしてもっていうなら赤龍帝が強くなったら俺と戦わせてください」

 

「ふ、ふざけんなぁぁ!? お前たちの戦い見てたけど俺より圧倒的に強いじゃねぇか!? 戦ったら確実に死ぬって!?」

 

「大丈夫だ。加減しないから」

 

「しろよ!?」

 

 

 

 この部屋に笑いが起きる。冗談を言ったつもりはなかったが何か面白かったらしい。

 

 でも災難だよな……対の存在で戦う宿命を持っている白龍皇(ヴァーリ)、自分の欲望優先で他人の都合なんて知らない規格外こと光龍妃(片霧夜空)、そして影龍王()。可哀想に……望んでいなくてもこんなにドラゴンを宿す存在に囲まれてる……でも弱い。弱すぎるから強くなってくれ、もっと強く。

 

 

『――何を考えている。影龍よ』

 

 

 声が響く。それは俺や相棒、グレモリー眷属の誰のものでもない声だ。威厳に満ち溢れ、強者を思わせるようなそれは兵藤一誠の腕、赤龍帝の籠手から放たれた。

 

 

『――おやおや、これは宿主の片腕を奪い取った極悪非道の赤蜥蜴ちゃんじゃねぇか。起きてたんだなぁ』

 

『兵藤一誠が俺の声を聞けるぐらいまでには成長したのでな。そして極悪非道は貴様の方だろう』

 

『ゼハハハハハ。何を当たり前な事を言ってるんだぁ赤蜥蜴ちゃんよぉ? 俺様、邪龍だぜ?』

 

『知っている! 貴様……()()俺と白いのの戦いを邪魔する気か?』

 

「お、俺と黒井の手から声が聞こえてくる!? と言うよりこの声って夢の中に出てきたドラゴン!?」

 

「イッセーの中に眠るドラゴン……まさか赤龍帝なの?」

 

「と、いう事は彼から聞こえる声は……!」

 

「――影龍王」

 

 

 

 兵藤一誠、グレモリー先輩、イケメン君、そしてロリっ娘がそれぞれ思った事を言う。周りの驚きを他所に相棒と兵藤一誠の中に眠るドラゴン――赤龍帝は会話を続け始めた。それは知り合いに会った、というよりも宿敵に会ったような……今にも殺し合いが発生しそうなほどの空気を放ちながら。

 

 

『またぁ? 邪魔なんてしてねぇぜドライグぅ、あれは女の取り合いに負けたお前、お前の所有者が悪いだけだろう?』

 

『どの口が言うか! 殺し合う事を進めたのは貴様、いや貴様の所有者だろう! 白いのとの対決も出来ずに死に、新たな宿主に転移した俺の気持ちが分かるか!』

 

『知らんなぁ? 弱いのが悪いんだろう? ゼハハハハハハ! ムカつくなら殺し合うか? テメェの宿主じゃぁ俺様の、歴代最強の宿主様には勝てねぇがなぁ!!』

 

『貴様ぁ……!!』

 

「……おい、仲悪すぎねぇか?」

 

『この赤蜥蜴は数代前の所有者を同じ時代に生きていた俺様の所有者に殺されてなぁ。その事を根に持っていやがるのよ』

 

「大方、赤龍帝の言う通りお前が唆したんだろ? お前が悪いじゃねぇか」

 

『その通りだ今代の影龍王。お前は今までの所有者とは違い理性はまだ保っているようだな』

 

「まぁ、はい。何時まで保てるか分かんないですけど今は保ってますよ」

 

『良いか。そのドラゴンは所有者を殺す。自分を保つんだ――そして俺と白いのの戦いを邪魔するな』

 

『うるせぇ赤蜥蜴ちゃんだなぁ』

 

 

 邪魔するも何も……既に白龍皇に会ってるんですが? 一回殺し合った仲ですけど?

 

 この部屋の空気はドラゴンの会話によって最悪なものになってきたからそろそろ退散しよう。俺は助言もどきをしに来たのであって喧嘩をしに来たわけじゃないしな。

 

 

「……あの、なんかすいません」

 

「い、いえ……これが伝説のドラゴン同士の会話なのね。面白い経験だわ……ふふっ、イッセーに助け出されてドラゴンの会話を聞いて……今日は凄い日ね」

 

 

 眷属の方々が頷いている。確かに凄い日だよなぁ、結婚しようと思ったら助け出されるとか映画の世界の話だよな。

 

 全員に会釈をしてから転移をして家に戻る。そのまま風呂に入って自室でベッドに横になると戦いの疲れが一気に来たのか身体が重くなる。禁手化は呼吸するのと同じだから違うとして……やっぱ影龍王の再生鎧ver影人形融合の使用の反動か。でもあれって影人形を構成する霊子と神器から生まれる影を同時に纏うだけの代物で危険性なんかこれっぽっちもない。

 

 でも実践投入してみて中々使えるな。今後も強い相手には使っていくとしよう。でも可能なら覇龍を昇華、または同じようで違う力を編み出したいがまだ無理だ。俺自身の実力が低すぎる……もっと強くならないとなぁ。

 

 

『恐らく霊子を全身に流し、身体能力を飛躍的に向上させたのもあるだろうが一番の理由は覇龍だ』

 

「だよなぁ。全身に霊子を流した程度で疲れるわけないし……相棒、あのまま覇龍を使ってたらどうなってたと思う?」

 

『考えるまでもないだろう。俺様とユニアが殺し合うだけだ。宿主様かあの女のどちらかが死ぬまでな』

 

 

 平然と答えてくるがその通りの事になっただろうな。どっちかが死ぬまでは終わらない戦い……二天龍のように戦い続ける。めんどくさいようで辛くもない、そんな変な感覚だよホントに。

 

 ベッドに横になっていると扉がノックされた。入ってきたのは飲み物を持ってきた水無瀬、寝間着姿だから地味にエロい。二十代の寝間着姿とか最高じゃね? はい冗談です。

 

 

「水無瀬?」

 

「疲れているんじゃないかと思ってホットミルクを持ってきました」

 

「……あんがと」

 

 

 俺はベッドに座ったままマグカップを受け取る。水無瀬は近くにある椅子に座って自分の分のマグカップを口に付ける……俺も飲んだけど暖かい。熱くもなく冷たくもない、ちょうどいい温度だ。

 

 

「――何か言いたいから来たんだろ?」

 

「――分かっちゃいましたか」

 

「何年お前と、いやお前達と一緒にいると思ってる? パーティー会場で平家にビンタされた時にお前等の顔を見たが平家と同じ顔だったしな」

 

「……では言わせてもらいます。ノワール君、貴方は私の主です」

 

「そうだな」

 

「貴方は私を、この不幸体質と神器で嫌われていた私を受け入れてくれました」

 

「……そうかもな」

 

「ですか、いえ、だから消えないでください。私の前から居なくならないでください」

 

 

 その声は消えそうなほどに小さかったが俺の耳にはハッキリと聞こえるものだった。手に持っているホットミルクが入ったマグカップをもう一度口にする。そのまま昔の――俺の水無瀬の出会いを思い出してみた。

 

 あれは気分が滅入るような大雨の日、何かに導かれるようにこの町よりも遠い、遠いとある町の路地裏に足を運ぶと数人の男に囲まれている女――水無瀬がいた。ただの暴漢と襲われる女、たったそれだけだったはずなのに気が付けば暴漢を叩き潰して女を助け出していた……なんで、どうしてと言いたそうな眼差しをする水無瀬を今でも覚えている。

 

 

『……なんで、助けたんですか』

 

『理由がいるか?』

 

『私は……不幸を招く女です、いてはいけない存在なんです……だから、犯された方がよかったはずなんです……好きにしてください。初めてですけど楽しませるぐらいは出来ます』

 

 

 瞳には諦めの感情を宿し、どこの誰とも分からないガキに抱かれようとしていたのも覚えている。だから着ていたコートを逆に羽織らせたら驚いてたな……あの時の水無瀬の顔は笑えたぞ。

 

 

『なん、で』

 

『泣いている奴を抱くほど趣味悪い性格はしてねぇんだ。不幸、不幸か――あぁ、確かに凄いな』

 

 

 ピンポイントで真上から鉢植えが降ってくるなんて滅多にないはずなのに落ちてた。それも複数だぞ? あり得ないだろってぐらいだ……思い返してみても凄かった。降ってくる物体を影人形で防ぐと座り込んでいた水無瀬はさらに驚いた顔をしたけどいきなり足元から変なのが出て来たらそりゃ驚くわ。でも俺も水無瀬の不幸体質全盛期の凄さに驚いてたぞ。

 

 

『宿主様、この女。神器を宿してやがるぜぇ』

 

『なるほど。それが原因か……俺にまで降りかかるほどの不幸体質か、くくくっ! 面白いな』

 

『面白い……?』

 

『お前みたいなのが居たら楽しめそうだ。あっ、楽しめるってのはそういう意味じゃねぇからな? 日常が非日常になるかもしれないとかいう方の楽しみだ。勘違いするなよ? ついでに言うと俺はお前の不幸だろうとなんだろうと気にしねぇ。むしろどんどん不幸になれ。俺みたいな奴には幸運よりも不幸が良いらしいしな。あと処女は好きな奴にでも取っておけ』

 

『……』

 

『宿主様、この女をどうする? 眷属にするかぁ? 俺様的には面白ければそれでいいんだぜぇ』

 

『そうしたいがなんか諦めてる奴を眷属にしてもなぁ』

 

 

 どうしようかとポケットから僧侶の駒を取り出してあれこれ悩んでいた時だ。諦めの瞳だった水無瀬が突然立ち上がって俺が持っていた駒を取った。あの時ほど何が起きたと思った事は無いな。なんせいきなり瞳に光が、生きる活力を得たとかそんな感じのものが宿ってた……だからだろう。こいつは面白い奴だって思えたのは。

 

 

『いきなりどうした?』

 

『す、いません……でも、これが、呼んでいたように聞こえて……ご、ごめんなさい』

 

『――そっか。なぁ、俺はお前の不幸を受け入れよう、どれだけ不幸が続こうと俺は気にしない。さてニンゲン、ここが分岐点だ。化け物で異常で悪魔な俺と来るか、いつもと変わらない日常を生きるか……お前はどっちを選ぶ?』

 

 

 水無瀬が選んだのは――俺と共に来る方だった。そうじゃなかったら今も俺の目の前にいないしな。しかし思い返してみた思った事なんだが……この時の俺ってカッコつけ過ぎじゃね? なに最後の方のニンゲンと言うセリフ? バカじゃねぇの。なに半裸状態の女を目の前にしてカッコつけてんだよマジでバカじゃねぇの……過去に戻れるなら思いっきり殴りたい。マジで殴りたい。

 

 

「どうしました?」

 

「いや、出会った時は『好きにしてください。初めてですけど楽しませるぐらいは出来ます』とか言ってた水無瀬が今では学校の保険医なんだよなぁと」

 

「っ!? い、いやあれはその、えっと、えっと!? の、ノワール君だってカッコつけてたじゃないですか!! それはもう今とは全然違いすぎるぐらいに!!」

 

「水無瀬。人間には中二病という必ず発症してしまう病気があるんだよ。きっとその時の俺はその病にかかっていたんだ。だから忘れろ」

 

「だ、だったらそのセリフも忘れてくださいよぉ!!」

 

「いやぁ……思春期中の男にお前みたいな美女が言ったら忘れられないだろう悪魔的に。だから俺が生きている間はずっと覚えてるぞ」

 

「へ、変態!!」

 

『ゼハハハハ。男はみんな変態なんだぜぇ』

 

 

 その言葉には同意しかねるけど反論するのはめんどくさい。そんなやり取りをしたせいか二人して笑い出したけどこれはこれで悪くないと思う。

 

 

「ふふっ、ノワール君。戦うのも殺し合うのも良いですけどちゃんと私たちの所に帰ってきてください。じゃないと私も困りますし……一番ノワール君に依存している早織も困りますから」

 

「……善処するよ。飲み物あんがとよ、今日はよく眠れそうだ」

 

「それはよかったです。それじゃあ私もそろそろ休みますね、マグカップを持っていきましょうか?」

 

「頼む――やべっ!?」

 

「えっ――きゃ!?」

 

 

 立ち上がってカップを渡そうとしたら思いのほか疲れが来ていたのか足にガクンとなり思いっきり水無瀬に突っ込んだ。幸い飲み終わっていたから零れる事は無かったけど……事態はそれどころではない。

 

 椅子に座っていた水無瀬に大勢を崩した俺が突っ込んだ。えぇ~はい、俺の顔に水無瀬の程よい大きさの胸が当たってます。柔らかいですマジで柔らかいです俺が思っていたものそのものです。マジで夜空のとか壁か地面かって言いたくなるほど硬かったからな……! これが、胸!!

 

 

「悪い……思いのほか疲れてたらしい――おい?」

 

「――キ」

 

「き?」

 

「キタァァァァァァァァ!!!!!」

 

「うわっ!?」

 

「ラッキースケベイベントキタァァァァ!!! ようやくですよやっとですよやりましたよ私の不幸体質さん! これをどれほど夢見てたことか! 夢を見過ぎて現実に起こらないんじゃないかって思っちゃってましたがそんな事はありませんでしたよ!」

 

「……」

 

「こ、このまま私は自分の不幸体質に逆らえずあんなことやこんなことを……あ、あれ? 何で影人形を――ま、まさかそれを使って私に変な事を!? 良いですよドンとこい、あ、あれ? 何で首根っこを掴んで扉の方に? の、ノワール君!? ノワール君?!」

 

 

 なんだか壊れたようなので落ち着かせるために影人形を使って俺の部屋から出て行ってもらった。しかし柔らかかった、柔らかかった。何度も言おう――柔らかかった。

 

 

「相棒」

 

『なんだぁ?』

 

「女って、不思議だな」

 

『ゼハハハハハ。女とは季節のように移り変わっていくんだぜぇ。昨日、今日、そして明日の顔は違う生き物なのさ』

 

「マジかよ」

 

 

 何だかどっと疲れたのでベッドに横になって眠ることにした。外から聞こえる声なんて知らない、全然知らない。俺様は寝る。疲れたから寝るんだ。

 

 そして翌日、起きた俺の耳に飛び込んでくるように入ってきた事は――冥界でとある貴族悪魔とその一家が家もろとも消滅したというものだった。流石規格外、有言実行かよと思った俺は悪くないだろう。ざまぁとも思ったけどね。




これで影龍王と不死鳥家族編が終了です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と聖剣使い
11話


「お前、マジで何してんだよ?」

 

「なにがぁ~?」

 

 

 グレモリーとフェニックスの婚約騒動から数日、俺は夜空と共に町に繰り出していた。所謂デートと言っても良いかもしれないが残念な事に俺達はそんな関係でもない――殺し愛という意味でなら合ってるのかもしれないけども。

 

 そんな馬鹿な事は置いておいて俺は数日前に冥界で起こった一つの事件を思い出していた。とある貴族悪魔の一族が家ごと消滅するというトンデモな事件。その規模は大天使や堕天使の幹部以上の光で無ければ説明が付かないものだがそんな事をすれば戦争に発展しかねないため両陣営関係者でもない……つまり残っているのは俺の目の前で山盛りのパフェを食っているこの規格外のみ、いやどう考えても犯人はこいつだという事だ。

 

 

「お前が消滅させた貴族悪魔の事だよ」

 

「うにゅ? あぁ! ノワールを馬鹿にしてた雑魚のことぉ? 言った通り一族全て消しといたよ。この私が自分で言った事をやめるわけねぇじゃん」

 

「知ってる。んで? 悪魔側から何か言われたか?」

 

「ぜんぜぇ~ん。怖いのか殺してくれてありがとうとか思ってんのか知んねぇけどなぁ~んにもないよ。なにノワール? そんなくだらない事を聞くために私呼んだの? うわっ暇だねぇ~殺し合う?」

 

「残念な事に殺し合い禁止命令喰らった。守る気はないが怒らせると怖いし今は言われた通りにするつもりだよ」

 

「チキン野郎」

 

「元はと言えばお前が覇龍使おうとしたからだろ」

 

「何言ってんのさ? 私達が殺し合う、つまりドラゴンとドラゴンの戦いだよぉ? 覇龍使わないで何が殺し合いさ?」

 

「全くの正論で俺も同意しかできないな」

 

 

 俺達は地双龍、お互いを殺し合う事で高め合う存在だ。そんな俺達の行う殺し合いがただ殴り合うだけじゃ物足りないし気分が乗って来たら覇龍を使う事も問わない。なんせ俺達は覇龍を制御できる者同士だしなぁ……キマリス領の観光名地予定となってるいつもの殺し場の地形は凄い事になってきてるけどあれはあれで味があると思う。ただ最近親父の顔色が真っ青になってきたような気がしないでもないが。

 

 

「とりあえず悪魔に喧嘩売ったんだ、しばらくは五月蠅いと思うが我慢しろよ。雑魚に殺されないと思うが勝手に死んだら俺の女王として生き返らせるからな」

 

「やなこった。私は悪魔にも天使にも堕天使にもなるきはないよぉ~だっ。私は私、人間として生きたいんだからさ! 良く言うでしょ? 化け物を殺すのは人間の役目ってさ」

 

「――あぁ、そうだな」

 

 

 軽く言ったけど普通に拒否られてどうしたら良いか分かんない。

 

 やはりこいつをぶっ殺して上下関係きっちり判明してから再度言うべきだな……でもこいつが本当に嫌だっていうなら諦めるしかないが。難儀だよなぁ――殺し合いをしている相手を眷属に加えたいと思うなんてさ。

 

 

「ふぅ! ごっちそぉさまぁ! いやぁ~ノワールと一緒にいるとご飯食べれるから良いね、大好きだよ」

 

「大好きなのは俺の財布か?」

 

「当たり前じゃん。私の財布でしょ? でもでもどうしても対価寄越せっていうならパンツくらいなら上げるよ?」

 

「この野郎……! 良いから寄越せきっちり寄越せ、じゃなくて性別上女なんだから恥じらい持てよ」

 

「今さっき寄越せって言った男が何を言う」

 

「男なんだからしょうがねぇだろ。たくっ、他に食いたいものは?」

 

「う~ん無いね! もうまんぷくぅ!」

 

 

 二人分の会計を済ませて店を出る。あのパフェたけぇな……一瞬金額が予想以上でビックリしたわ。

 

 それからは夜空がいつものように転移穴を開いてどこかに行ってしまったので一人寂しく家に帰る。休日だからか珍しく全員集合していたので軽く俺VS眷属という方式で模擬戦を行う事にした……結果から言えば俺の勝ちだが四季音、平家、犬月をサポートする水無瀬の支援能力が少しだけ向上していたに加えて神器の使い方も上手くなってたからちょっとだけ焦ったのは内緒だ。でも対処できないほどじゃなかったから即効で落ちてもらい、残った前線メンバーを軽く遊んで終了。と言っても四季音の奴はコンビネーション主体だったからかなり手を抜いてたから比較的楽だったんだと思うけど。残った犬月と平家はお互い文句を言いながらも連携が取れているし中々良いんじゃないか?

 

 

『ゼハハハハハハ。お前らが束になっても宿主様には勝てねぇんだよ。もうちったぁマトモになれや』

 

 

 夕食時、俺の手の甲から声が聞こえる。その声は言うまでもなく相棒の声で先ほどの戦いの事を言っているのか声だけで見下しているのがよく分かる。流石邪龍、褒めたりしないとはさすがだよホント。

 

 

「このドラゴンマジで殺してぇ……!」

 

「同意。この性格が最低最悪な蜥蜴を如何にかしたい」

 

「それは俺も同意だなぁ。でも水無瀬? お前少し動き良くなってたが何かあったか?」

 

「へっ?! い、いや……その、空いている時間にノワール君がやっているみたいに神器と向かい合ってみたりしてましたから、よ、良かったですか?」

 

「あぁ。犬月や四季音と戦っている間に神器使われたら流石の俺も動きにくいしそれを相手に悟らせずに味方だけに発動を知らせるなんてやるじゃねぇか」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「にしても神器ってぇのはチートの塊っすよね。王様のはかなり別格っすけど水無せんせーのも色々とおかしくないっすか? 逆転ってなんすか? なんで勝手にそうなるんすか?」

 

「水無瀬の不幸の原因だしなぁ」

 

「そ、そうなんですかぁ?!」

 

「だろうね。自分の幸運を不幸に逆転させてるんじゃない」

 

「にししぃ~おおあたりぃ~っていったほうがいいぃ?」

 

「良くありません!!」

 

 

 水無瀬は否定するがどう考えてもそれ以外思い浮かばないんだよ。

 

 逆転する砂時計(ロールバック・ストーン)、それが水無瀬が持つ神器の名前で能力が砂が落ちている間、全てを逆転させることができる。見た目的には普通のどこにでも売ってそうな砂時計三つだけど三角形状に配置して発動すればその中で起こる性質が逆転する……さっきも四季音に砂時計を持たせて配置、能力発動後に逆転という事をさせられたから焦った。マジで焦った。

 

 影龍王の手袋で影を生み出せば逆に消滅し、平家や犬月が魔力を放てば聖なる波動に変わる。だからめんどくせぇ……しかもこれ、砂時計単体を対象にくっ付けても発動するからさらにめんどくせぇ。その場合は取り付けられた奴に行う事の性質が逆転するという結果だが……何で傷を負えば回復するんですかねぇ? ドМなの? ラッシュタイムすれば喜ぶ変態になるのか?

 

 

「とりあえず当面は神器と向かい合って禁手化に至る事だ。そうすれば戦略の幅が広がる」

 

「なんならぁ~のわーるぅとがちばとるすればいいんじゃないぃ~ひっく」

 

「私を殺す気ですか!?」

 

「俺様は、殺し合いなら、加減しない」

 

「何で五七五風なんですか!?」

 

 

 水無瀬を弄りながら今後の構成を少しだけ考えてみる。関係ないが水無瀬を弄るっなんか卑猥だな……冗談だから変態と言う視線を向けてくるな。

 

 

「無理。恵の胸に飛び込んだ変態を変態と言って何が悪い。巨乳死すべし慈悲は無い」

 

「あれは事故だ事故。お前は何日言い続けるんだ……巨乳も貧乳も胸だろうが」

 

「死ね」

 

「なんで眷属から死ねと言われないといけねぇんだよ……まぁいい、とりあえず前線メンバーは揃ってるから次に増やすとしたら後衛タイプだな。水無瀬一人だけだと幅が狭いし」

 

「俺に王様、酒飲みに引きこもり……言われてみれば脳筋まっしぐらって感じになってますね。でも引きこもりは心の声を聞けるのと近中遠なんでもオーケーだから後衛に回せばちょうどよくないっすか?」

 

「私は後衛で良い。目立ちたくないし」

 

「ぜったいにぜんえぇいぃ~これけっていじこうぅ~にしし――もし抜いたら殴るかんね」

 

「そこだけ素になるなっての?! こえぇんだよアンタの素の顔!!」

 

「支援タイプ……ではあの子はどうですか? 聞いた限りだと完全に僧侶にピッタリですよ?」

 

 

 各々が話していると水無瀬が思い出したように言った。あの子、あの子……あぁ、俺をお得意様にしているあいつの事か。でも実家……退魔関係だぜ? いやそれを言ったら何度も呼び出してる時点でダメか。

 

 

「あの子? まさか眷属候補の奴がいるんすか? いや王様だったらあり得ねぇ話じゃないけど……どんな奴です?」

 

「あれ」

 

 

 平家が指を差した先にあるのは我が家のテレビがある。犬月はふざけてんじゃねぇぞと文句を言うが実際には間違ってはいない――映っている奴がそいつだからな。

 

 緑色の髪にショートカット、マイクと派手な衣装を身に纏いステージで煌びやかに踊りながら歌ってる少女。スタイルは水無瀬以上でマジで胸がデカいんだよ。相棒曰くDカップでもう少ししたらEに行くかもしれんとか言ってた。デカいわ。しかも年齢は17歳、はい同い年です。現役女子高生です、現役女子高生です! いや大事だからな? うん、大事な事だから言っただけだ……ですからその視線をおやめください平家様。

 

 

「……まさか映ってる奴とか言わないっすよね?」

 

「いやその通りだぞ?」

 

「……はぁぁ!? あれっすか!? マジですかマジで!? えっうそ!? しほりん!? まじで!? 嘘だろ王様ぁ!! 紹介してください」

 

「……おい、こいつどうした?」

 

「赤龍帝とシトリー眷属の男子に見せてもらったグラビアでファンになったんだってさ。死ねばいいのにこの駄犬」

 

「ま、まぁ……彼女は人気アイドルですから仕方ないと思います、よ?」

 

「そもそもお前、あいつ等と何してんだよ?」

 

「いやぁ~いっちぃとげんちぃとは話が合うんでその流れで。しっかし本物に会った事あるんすよね? マジでデカいんすか? あと引きこもり、後で訓練場な」

 

「デカい、いやグレモリー先輩たちには及ばないが少なくとも水無瀬よりはデカい」

 

「……」

 

「み、見ないでくださいこの変態ぃ!」

 

 

 俺と犬月の視線の先は水無瀬の胸。二十代のこいつよりもデカいって今の女子高生どうなってんだよ……グレモリー先輩たちは悪魔だからノーカンノーカン。流石にこれ以上は平家がブチ切れかねないんでやめておくとしようか。テレビでは話のネタとなっている少女が歌い終わって別のアイドルにバトンタッチしている姿が映っている。そういえば何でアイドル始めたんだろうな? まさか対価作りのためか? ありえそうだな。

 

 そんな和気藹々かどうか分からない夕食を終えて深夜、本来なら眷属の誰かが呼ばれることが多い悪魔の契約で俺をご指名してくる人物がいた。一応影龍王という事で呼び出しの対価が地味に高いらしいがそれでも毎回俺を指名してくる珍しい人間――夕食時に話のネタに上がっていた人物からの呼び出しだ。この契約取りでは俺以外でも呼ばれて、犬月だったら喧嘩が強くなりたい不良から呼ばれる事が多く平家はPCを使ってオンラインゲームやチャットを使った契約をする。水無瀬は癒されたい方々からご指名が多くて四季音は……ロリコンからの呼び出しが多い。場所もこの町ではなく俺が治めている所でやっているからグレモリー先輩たちの邪魔にはならない……流石に此処でやるわけにはいかないだろう悪魔的に。

 

 

「あっ、こんばんは。お久しぶりです」

 

 

 魔法陣を通って呼び出した人物の家、いや部屋へと転移する。the女子と言って良いぐらいに甘い匂いに女の子っぽい小物やら何やらが多いから居づらいと思うのは俺だけじゃないはずだ。

 

 

「久しぶり。また呼ぶなんて本当に暇人だな」

 

「ひ、酷いです……それに暇人じゃありません。最近はCMとか歌番組で忙しいんです」

 

「そのようだな。今日も晩飯食いながらテレビ見てたけどお前が映ってるの見たぞ。相変わらずの人気っぷりに恐れ入るよ」

 

「ほ、本当ですか!」

 

 

 目の前で笑顔になっている女の子だが毎度思わざるを得ないんだけどさ――テレビと違くね?

 

 緑色の髪でショートカット、水無瀬を超える胸、そして現役女子高生アイドルという凄いのかどうかわからなくなってくるこの子だが先ほどのテレビでは元気いっぱい、夜空とは違い本当に! 純粋に元気だなぁと思えてくるような活発さだったが今の俺の目の前には落ち着いた雰囲気の女の子にしか見えない。これが女子……相棒が昨日と今日、明日の顔は違うとか言ってたがマジでその通りだな。

 

 

「番組、見てくれたんですか?」

 

「何も見るものが無かったから適当にチャンネル回したらそれだったんだよ」

 

「それでも嬉しいです。えっと、今日来てもらったのは――勉強を教えてください」

 

「おい現役女子高生」

 

「い、忙しくて勉強できていないんですよ……ダメですか?」

 

「冗談だ。呼ばれたからには教えるがどのような結果であれ対価は貰うぞ?」

 

「構いませんよ」

 

 

 一応俺が通う駒王学園は名門だから成績は比較的良い方だ。この子が通う学校はこの町の普通科の高校で授業の進み方が違うが教科書と教えてほしい範囲を教えてもらったらどうにかなるレベルの所だった。聞けば人気が出るにつれて学校に通う日が少なくなってきて成績が下がってきたらしい……そりゃあんだけテレビ出てたら勉強してる暇なんてねぇよな。

 

 

「チチッ、チチチ」

 

「ん? おぉ、お前も来たか」

 

 

 足元に茶色い体毛をしたオコジョがすり寄ってきた。そいつは俺の服を掴みながら体をよじ登ってきて肩の辺りで休むように止まる……こうしてみると普通のオコジョだよな。中身は全然違うけど。

 

 

「この子も悪魔さんに会いたかったみたいなんです」

 

「普通の動物に好かれるならともかく、()()に好かれてもなぁ」

 

「か、可愛いんですよ!」

 

「それは見れば分かるんだが正体を知っているとねぇ。あっ、そういえば近頃物騒だから深夜に出歩くことはするなよ? なんでも神父が惨殺されることが多いみたいだしな」

 

「あっ、はい。お父さん達からも注意するように言われました……駒王町付近で発生しているんですよね? 悪魔さんは大丈夫なんですか?」

 

「この俺を殺せるのは規格外と他勢力の主神と神レベルしかできねぇよ。だから心配するのは自分の身だけにしとけ。それにお前、毎回俺を呼び出してるが一応こう見えても悪魔の中でも上級悪魔って呼ばれる類なんだぞ? ついでに言うと眷属率いてる混血悪魔で有名人だ。良い意味でも悪い意味でもな」

 

「その辺りもお父さんから聞きました……初めてお会いした時も一番驚いていたのがお父さん達でしたし悪魔さんって凄いんですよね」

 

「凄いというか凄くないと生きていけなかったというか。まっ、お得意様が怪我したりするのは目覚めが悪いから黙ってアイドルしておけ。ヤバくなったら……まぁ、対価次第では呼ばれてやらないことも無い」

 

「――はい。その時はよろしくお願いします」

 

 

 そう言ってほほ笑むこいつはやっぱりアイドルだわ。流石アイドル、笑顔になったら世界一だな。

 

 初めて会った時を思い返してみるとあの時ほど素で驚いたことは無い。なんせいきなり召喚されたしな……今回のようにチラシを媒体にした転移とかじゃなく本当の意味で俺はこいつの両親に召喚された。んで目の前には調子に乗ってる悪霊が居てこいつを含めて満身創痍状態の両親、状況を理解できたからとりあえず悪霊を吹き飛ばしたけどまさか退魔の家系の奴らに呼ばれるとは思ってもいなかった。

 

 目の前のコイツ――橘志保(たちばなしほ)は退魔の家系の一人だ。今は何故かアイドルをしているが持っている霊力はかなり高く下級の妖やはぐれ悪魔程度なら滅することは容易なほどだ。でも俺を召喚した時の対価で後ろ髪持って行ったのはあれだったか? いや助けたのに自分の命を~とかでそのまま了承すると目覚め悪かったし相棒や平家曰く髪は女の命らしいからそれを切ったら命貰ったのと同意だよなとか思いながらそれを対価に貰ったけど……今更ながら髪を対価にとか変態じゃねぇか。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「うん? 髪伸ばさないんだな、てな」

 

「昔は伸ばしていましたけど悪魔さんに対価としてお渡ししてから短くしているんですよ。周りからは失恋とか変な事を言われちゃいましたけど手入れとかしなくても良くなったんで少しだけ楽になりました」

 

「髪切っただけで失恋とか言われるのかよ」

 

「女の子では常識ですよ?」

 

「マジかよ――と、そろそろ時間だな。一応指定された範囲を分かりやすく……纏めたと思いたいが分からなかったら素直に別の誰かに聞け」

 

「悪魔さんの教え方が上手ですから大丈夫ですよ。それでは対価ですけど、こ、こちらをどうぞ」

 

 

 手渡されたのは一つの封筒。中を開けるととあるチケットが二枚入っていた――お、おう! マジかよ。

 

 

「こ、今度駒王町でイベントがあるので良ければ来てください。こ、コホン。それじゃっまたね悪魔さん♪」

 

「やべぇ、マジでアイドルだ」

 

 

 そんなこんなで別れを告げて家に帰宅。さて対価でもらったこのチケットだが……日時は球技大会が終わった辺りだから余裕で問題は無い。だから行くには行くが一枚余るから誰かを誘うべきだが……よし犬月でも誘ってみるか。あいつファンみたいだし。

 

 契約から戻ってきた犬月にチケットを見せて行くかみたいな事を聞くとなんとこの犬っころ、土下座をしてまでお願いしますと言ってきやがった。流石犬、パシリ属性は伊達ではなかった。




逆転する砂時計《ロールバック・ストーン》
形状:普通に売っていそうな三つの砂時計。
能力:性質の逆転。(例として魔力を放てば聖なる波動に、回復のオーラはダメージに等々)
禁手化 「???」

今回から三巻目突入です。
観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

「いやぁ~まさか生しほりんに会う機会が訪れるなんて夢にも思わなかったっすよ。マジであざっす」

 

「お前、それ毎日言ってないか?」

 

「それぐらい嬉しいんすよ。しほりんすよしほりん? 橘志保、元気満タン超絶美少女! そして巨乳――犬妖怪としては是非ともお知り合いになりたいというのは本能なんすわ」

 

「犬妖怪全体に喧嘩売ったなおい。ほれおっさきぃ」

 

「んぁ!? やべぇ!?」

 

 

 放課後、もうすぐ行われる球技大会に向けて俺と犬月は体育館でバスケをしていた。俺としてはさっさと帰りたいところなんだが球技大会はクラス対抗、部活対抗、男女別等々結構分かれているから個人のレベルアップが大事だとクラス代表の名前も知らない女子が語っていた。そのためこうして誠に遺憾ながら貴重な放課後を使って練習――またの名を蹂躙を行っているというわけだ。

 

 数日前に現役アイドルこと橘志保本人からもらったチケットの存在があまりにも嬉しかったのか分からないがテンションが上がり、全世界の犬妖怪の方々を敵に回す発言をした犬月をドリブルで抜いた後、ゴールにダンクを決めて先制点を取る。流石に抜かれた事に苛立ったのか本気出しますよとか言って犬妖怪の速さを発揮してドリブルしてきやがった……けどはい残念でした。

 

 

「はぁ?!」

 

「いくら速くてもお前じゃ俺は抜けねぇよ」

 

 

 コート半分まで戻って反転、今度はゴールに向かってドリブル。抜かれまいとディフェンスする犬月に一気に接近、その後一瞬だけ後退した振りをして一気に抜き去ってから再びダンク。はい二点目っと。

 

 

「相変わらず黒井は身体能力が高いな」

 

「あれで心霊探索同好会なんてやってるのがもったいない。ぜひバスケ部に来てほしいものだ」

 

「しかしそうなると――」

 

「キャー! 黒井君カッコいいぃ!」

 

「凄い! ダンクってあんまりできないんじゃないの!? でもかっこいい!」

 

「犬月君頑張ってぇ!」

 

「――黒井死すべし慈悲は無い」

 

「ついでに犬月も死すべき慈悲は無い」

 

「あとついでのついでで生徒会に入った匙も死すべきだな」

 

「はぁ!?」

 

 

 何やら匙君が大声を上げたけどなんで、だっと! だからそんな単調な動きじゃ無理だっての。

 

 結局俺と犬月の1on1は俺の圧勝で終わった。一応これでもこいつの主だからな、負けるわけにはいかないだろう悪魔的に。

 

 

「マジでボール取れねぇ……どうなってんだよ」

 

「慣れだな」

 

「その慣れってどこからきたんすか……昔何かやってたりする?」

 

「んなわけねぇだろ。心霊探索同好会なんて作った俺がそんなめんどくさい事やると思うか?」

 

「知ってた。んでどうするよ? クラス対抗戦は俺とアンタ、げんちぃとかがいるから圧勝っすけど問題は部活対抗……俺等二人だけなんすよ? あの引きこもりが出れるわけねぇし」

 

「まさか同好会の俺達も強制参加とは思わなかったよ。しかも辞退も出来ねぇ上、水無瀬がサボったら晩飯が枝豆にするっていうし……幸い人数が足りない種目だったら人数補充してくれるっぽいし何とかなるだろ。バスケ程度なら俺達だけでも余裕だろうけどな」

 

「そっすね」

 

 

 比較的平和な放課後は俺と犬月、匙の悪魔三人衆の独壇場で幕を閉じた。いやぁ暴れたな……最後の方なんて俺と犬月VSクラスの男子全員だったけど如何にか一掃できて満足まんぞくぅ。何故か敵に回ってた匙君がこいつら化け物かよ的な視線を向けてたけど勿論化け物に決まってるじゃねぇか。だって俺はドラゴン宿している悪魔だぜ? 犬月も犬妖怪と悪魔の混血、見事なまでの化け物と呼んでもなにも文句は言われないな。

 

 そんな馬鹿な事を思いながら犬月と共に帰宅。深夜になるまで神器の中に意識を落として歴代影龍王の思念と向かい合っていたがそいつ等の心が死んでいたのでこれと言った成果も無かった。さっさとこの歴代思念達を如何にかして覇龍とは別のものを開発したいんだが上手くはいかないようだ。そして目的の時間になったので外出、向かう先は一カ月以上前に堕天使の一派が潜伏していた場所――教会だ。

 

 

『ゼハハハハハ。気になるか宿主様』

 

「まぁな。ここで取り逃がした奴が最近の神父殺しの犯人かもしれねぇし」

 

『今日まで姿を現してはいないしなぁ。片腕を失い顔半分を潰されたんだ、治療のために時間がかかったのも頷ける。して宿主様? 此処で何をする?』

 

「灯台下暗し、もしかしたら逃げた振りをして潜伏してるかもしれねぇだろ? 犬月の鼻を信じていないわけじゃないが匂いなんていくらでも誤魔化せる時代だ、念には念をだよ。俺や犬月、平家に四季音はともかく水無瀬が襲われたら神器が有っても応戦できるかどうかわかんねぇし」

 

『あれは典型的な後衛タイプだしなぁ』

 

 

 眷属達は契約取りに向かっているため俺一人でこの場所に訪れている。理由なんてここ最近発生している神父殺しの犯人を捜すため。一カ月以上前にこの場所で取り逃がしたはぐれ悪魔祓い、ソイツがどうも引っかかる。今の今まで姿を現さなかったがもしかしたら受けた傷が癒えてそいつが神父殺している可能性もある。なんせ一般人を惨殺するような奴だから今更神父の一人や二人程度は鼻歌交じりで殺すだろう。一般人が犠牲になるのは心底どうでも良いが身内に被害が出て怪我とかされると面倒だしさっさと犯人を探して殺そうとか思ってたんだが……マジでいねぇな。少なくとも周囲には人の気配は感じないから中か?

 

 疑問に思いながら壊れた教会の中に入ると教会特有の気持ち悪さが襲ってくる。相変わらず胸糞悪い場所だ、もういらないんだったら壊しても良いのに何で残してんだろうな?

 

 

『大方、聖書の神の存在を誇示するためだろう。残念ながら無駄な事だがなぁな』

 

「死んでるんだっけ?」

 

『その通りだ。宿主様の数代前の奴がその事実に気づいちまってなぁ、口封じに殺されたのは懐かしい思い出よ』

 

「宿主が殺されても怒らないお前は頭がおかしいよ」

 

『褒めるなよぉ、照れちまうぜ』

 

「誉めてねぇし――誰か来る」

 

 

 神様を崇める教会で最低最悪とも言える会話をしていると誰かが近づいてくる気配がした。数は二人、足音からして片方は重いものを持っている……長剣ほどの大きさだな。もう片方は足取りが軽すぎるから武器は無し……いやナイフかその辺りかもしれねぇな。

 

 

『はぐれ悪魔祓いかもしれんぞ。どうする?』

 

「もしそれならまずはお話してから殺す、お話しが出来なかったらならすぐ殺す。それ以外だったらその時はその時の精神だ」

 

『大正解だ』

 

 

 別に隠れてやり過ごす事も無く来訪者を待っていると入り口から二人組が入ってきた。どちらも白いローブを被っていて顔は見えないが如何にも信者ですと言わんばかりの気持ち悪さだ。この感覚的に十字架装備に……得物は聖剣か? だとするとちょっとめんどくさい事になったな。まさかこんな場所に聖剣を持ってる信者が来るなんて思わなかった――向かってくるようなら殺すけど。

 

 

「――あ、あれ? 人がいるなんて珍しいわね」

 

「いやあれは悪魔だな。まさか教会内に入り込む悪魔が居ようとは思わなかった」

 

 

 声からして女、どちらも若いな。しかも初見で悪魔と見抜くって事はそこそこの場数はこなしてるってことになる。

 

 

「――ご名答。ただの一般人じゃなくてアンタらが付けてる十字架で気分が悪い悪魔だよ」

 

「潔いな、普通は隠す場面だと思うが?」

 

「ただの一般人がこんな時間に教会、しかもこんなボロイ場所にくるわけねぇだろ」

 

「だよね。う~ん、貴方の顔ってどこかで見た事あるような、ないような……きっと無いわね! 此処で会ったのは運が悪かったわね! 何をしていたかキッチリと吐いてもらうわよ!」

 

 

 二人の女は何時でも戦闘態勢に入れるように身構えたが俺が悪魔という事でかなり余裕そうだ。やべぇ殺してぇ、マジで殺してぇんだけど……というより教会関係者で俺の事を知らないなんて珍しい、うん珍しいな。なんせあの規格外と週一か週二か週三かはたまた毎日かと言うぐらい殺し合ってるからその手の関係者に顔と名前を憶えられてると思っていたが案外そうでもなさそうだ。

 

 さてどうすっかなぁ、此処で殺すのは非常に簡単だけどできれば敵意がない事をやんわりと伝えて帰りてぇ。あっちから襲い掛かってきてくれるなら喜んで殺すけど流石に面倒事になるからしないよな。非常に残念である。

 

 

「別に。ただの探し物さ」

 

「悪魔が教会に探し物かい? 罰当たりも良い所だな。教会は悪魔の玩具ではないぞ」

 

「知ってる。まっ、言っちまえば悪さする気がない善良な悪魔だよ。マジで探し物、探し人? それしてただけだしな」

 

「――あぁ、なるほどな。つまりは神父を探していたという事か」

 

「はい?」

 

「まさか堕天使と悪魔が手を組んでいたとは思わなかった。この地を治める魔王の妹とやらの眷属か、それともはぐれかは知らないが堕天使と手を組んでいるというのならここで死んでもらおう。それが神を、私たち教会を敵に回した報いだ」

 

「……あのさ、そっちの女勝手に決めてるけど人の話を聞いてたか?」

 

「ごめんなさい。ゼノヴィアって考えるよりも体が先に動くタイプだから……えっと、一応聞くけど本当に、本当に何も悪い事はしていないのね?」

 

「んな阿保みたいなことするわけねぇだろ。神父殺しをして得するのって堕天使ぐれぇだろうが」

 

「口ではいくらでも嘘は言えるだろう。何せ悪魔だ、人を惑わせ堕落させる存在の言う事を聞くとでも? それにだ――この聖剣を目の前に()()の態度を取っているお前を危険視するなと言う方が無理だ」

 

 

 ゼノヴィアと呼ばれた女が背負っている布で巻かれた何かがその正体を露わにした。俺の思った通り長剣の類だったが布が取れた途端に漏れ出した聖なるオーラのせいで吐き気が襲ってくる……この質。まさかエクスカリバーか? 前に夜空からエクスカリバー見てきたよぉとか言ってその光を再現した事があったがそれと全く同じ……でもねぇな。夜空の光の方が強い。伝説の聖剣が持つ光より強いものを出せるとかやっぱりあいつ規格外だわ。そもそもエクスカリバーとか散歩しに行く感覚で見に行くなっての。

 

 聖剣エクスカリバー、確かそれは先の大戦で折れて複数に分かれたと聞いたことがあるがまさか実物を目にすることになるとは思わなかった。という事は目の前の二人はそんなトンデモな代物を渡されるほどの使い手で信者としてはかなり高いランクに位置するって事だ。そんな奴が人の話も聞かないってのはおかしい話だな……こっちとしては殺せるからありがたいけど。

 

 ゼノヴィアと言う名の聖剣使いは得物を握りしめ刃を俺に向けてきた――あぁ、やっぱり死にたいのかこいつ。

 

 

「――んで? エクスカリバーの一端を、その刃を俺に向けてどうする気だ?」

 

「消滅させる。お前からは何か嫌な気が、オーラがするからな」

 

「ぜ、ゼノヴィア落ち着いて! 相手の悪魔は敵意を持ってないんだし此処で殺せば色々と大変な事になるのよ!」

 

「なに、斬ってから考えればいいさ」

 

「こんのお馬鹿ぁ!」

 

 

 自身と同じほどの大きさを持つ長剣を手にそいつは俺に近づいてくる。その顔は絶対の自信に満ち溢れ、聖剣を持つ自分は負けないと思っているに違いない――それじゃあ敗北を味わおうか。

 

 人間にしてはそこそこな速度で俺の前まで接近し、聖剣が持つオーラを輝かせながら大きく振りかぶる――その瞬間を狙い、一秒もかからずに影人形を生成してそのまま女の腹部に左ストレート、その後顔面に追撃の右ストレートを叩き込む。一応人間の女だからかなり加減はしたけど顔面を殴られた勢いは止まらず教会の端の方までふっ飛ばされて壁に激突……自分でやった事ながらひでぇな。でもオソッテキタノハアッチダシコレハシカタナイネー。

 

 

「ゼノヴィア!?」

 

「……ごほっ、み、えなかった、だと……!」

 

「遅い。エクスカリバーに絶対の自信を持つのは分かるけど使い手のお前が弱かったらただの道化だぞ」

 

『ゼハハハハハ! 今のエクスカリバーの所有者はこんなものかぁ。一昔の所有者は宿主様に一太刀程度は喰らわせれるぐらいに強かったというのに。時と言うのは残酷だなぁ』

 

「そんなに強かったのか?」

 

『強い。エクスカリバーに並ぶ聖剣デュランダル、そいつの所有者だった男はユニアの宿主並みの化け物だ』

 

「マジかよ」

 

 

 あんな規格外が昔にも存在したってのか? 嘘だろ……ただでさえあの規格外が手を付けられねぇってのにここにきて同じような奴がいるんだったら世界が混乱するぞ。いや結構マジで。それは本気で上の方々が頭を抱えるレベルだって……はぁ? まだ生きてるならもう八十代かもしれない? んなこと言っても規格外パート2なのには変わりねぇだろうが。規格外ってのは年取るたびに規格外さが増すんだよ。

 

 

「……声、だと?」

 

「ユニア……ユニア、っ!? 思い出したぁ!! あ、貴方ってもしかして――影龍王だったり、する?」

 

「大正解。初めましてエクスカリバーの使い手さん。襲われたから殴ったけど悪いのはそっちだから文句ねぇよな? もしあるならもう一度向かってきても良いぞ――死にたいなら、な」

 

 

 ゼノヴィアと呼ばれた女に近づいていたもう一人の女が地面に膝をつき、先ほど俺に向かってきた女は素顔が露わになった事すら気にせず強い視線で俺を睨みつける。珍しいメッシュを入れた女、少なくとも可愛いと言えるレベルの容姿だ。でも睨むのは良いが少しだけ恐怖が混じってるぞって……あれ? そんなに強い殺気を出してるか? この程度の殺気を夜空に向けても「なにそれ? 殺す気あるの?」とか言われた事あるぐらい弱めの殺気なんだけど膝を折る理由が分からない。何処からかアンタ達が異常なだけだよと言われている気がする。具体的には布団に包まって契約を取っている引きこもり辺りから。

 

 にしてもこの状況、ちと拙いな……個人的には殺害安定なんだがここはグレモリー先輩の領地で俺の領地じゃない。そんな場所にエクスカリバーを持った信者二人が侵入して俺と交戦、はい見事なまでに怒られるパターンだな。つまり今取れる最善の手としてはこの信者さん達とお話しして分かってもらうしかないって事か。

 

 

「さっきも言ったが俺は探し人をしてただけだ。神父じゃねぇぞ? 一カ月前に逃がした白髪のはぐれ悪魔祓いを探してただけなんだよ。それを勘違いして襲ってきやがって……さて、俺もアンタ達もこの場は穏便に済ませてた方がお互いのためだと思うんだよ。うん。個人的には襲われたんだからぶっ殺し安定なんだが戦争を起こしたいわけでもねぇから今回は見逃してやるよ」

 

 

 俺は二人に近づいていくとゼノヴィアと言う女は再びエクスカリバーを握ろとしたので座り込んだもう一人の女、膝に当たるか当たらないかギリギリの所を影人形の拳で殴る。今回は半分くらいの威力だがそれでも喰らえば無事じゃないと、動けば仲間を殺すと思わせるには十分すぎたらしい。

 

 

「だからこの場は()()()悪魔に俺達が偶然出会って共闘した。アンタの傷はソイツから負った傷だ。そうだよな? 間違っているなら言ってくれよ?」

 

 

 殺気を放ちながら二人の目を見てお願いをすると分かってくれたのか頷いてくれた。やっぱり話し合いって最高だな! 戦うよりも話し合う、なんて無駄で意味のないやり取りなんだろうか。ぶっちゃけ殺した方が凄く早い気がする。まぁ――拒否権があったかなんて言われたらないけどね。もし首を横に振ったら殺すとバカでも分かるような態度と殺気だったからな。いやー交渉って楽しいなー。

 

 一応念のため白髪のはぐれ悪魔を近くで見た事あるかと聞いてみると二人は首を横に振った。なら用は無いので気を付けて帰れよと言ってから教会を出て適当な方角に向かって歩く……つかれたぁ。

 

 

『殺さなくても良いのかぁ?』

 

「戦争を起こしたいわけじゃねぇし今は殺さない。だが身内に手を出したんなら戦争を起こしてでも殺す」

 

『俺様的には戦争大歓迎なんだが、宿主様の今の実力じゃあ魔王以外のトップ陣営とは相打ちが妥当か。まだ弱い、まだその時ではねぇなぁ。もっと強くなってからでも問題は無いか』

 

「戦争起こす前提で話すなよ。で? どう見るよ?」

 

『奴らがエクスカリバーを持ってやってくる理由なんぞ知るか。襲撃か暗殺か決闘か、どれかだとしたら相当の大馬鹿野郎よ。魔王の妹の領地にやってきてる事自体バカだがなぁ』

 

「……考えられるのは神父殺しか。あのゼノヴィアって奴、探し人してるって聞いた途端、真っ先に神父って言ってたしな。そしてまた堕天使か」

 

『トップがトップだしなぁ、全ての事件の元凶には堕天使ありと断言しても良いかもしれんぞ』

 

「めんどくせぇ……まっ、とりあえずは後で先輩方に報告しとこうかね――神が死んでるってのにあの信仰心っぽいのには恐れ入るよ」

 

 

 呆れながらコンビニでアイスを買ってから家に帰る。既に犬月達は帰宅していておかえりと言ってきたが平家だけは違った。流石覚妖怪、既に俺の心を読んで事態を把握したってわけね。

 

 

「お疲れ。聖剣使いを相手にした感想は?」

 

「弱い」

 

「そっ、でも面倒な事になったね」

 

「その通りだ。まさか聖剣、それもエクスカリバーの名を冠するモノを持っている信者がやってくるとは思わなかったよ……犬月、こっちから仕掛けるのはアウトな」

 

「……わーってるっす。こっちからは手を出さない、手を出されたらぶっ殺す」

 

「そういう事。神父殺しに堕天使が絡んでるのは分かったがあの信者たちの目的が分からねぇ……興味ねぇけど」

 

「これからまた忙しくなりそうだね」

 

「うむぅ、ぷはぁ~のわーるぅといっしょだとたいくつしないねぇ~にしし、だからすきぃ~」

 

「酒くせぇ!? 寄るなくっ付くな?! うわマジで吐きそう……てか鬼の酒の匂いを俺に嗅がせるな!?」

 

「いいじゃぁ~ん、のわーるものむかいぃ? おにのさけだからひとくちぃ~できぶんよくなるよぉ? ほれほれぇ、みせいちょうおっぱいのかんしょくぅはどうだい?」

 

「……壁だな」

 

「殴るよ」

 

 

 ソファーに座ってアイスを食っていると酒を持った四季音が後ろからくっ付いてきた。背中には本来ならば柔らかいと表現できるモノがあるはずなんだが残念な事に四季音は合法ロリ、夜空と同じく壁の持ち主だから俺の背中には硬い何かが当たっている。おかしい……マジでおかしい……! 四季音が今着ているのは普通のTシャツだからダイレクトで感触が来ると思うのに何故硬い……!

 

 俺の壁発言で酒を抜き素の状態になった四季音が首に手を回してきた。あっ、俺死んだわ。このまま絞殺されるわ。

 

 

「大体私はまだ鬼の中でも若い方なんだ、成長してなくて悪いのか? 胸なんて所詮駄肉、必要ないって分かってるよね? ノワール、ちょっと殺し合おうか。体が火照ってきて熱いんだ、相手してくれよ」

 

「巨乳死すべし慈悲は無い。くっ、これが巨乳……!」

 

「……早織、私の胸を揉むのはやめてほしい、かな?」

 

 

 我がキマリス眷属が誇る二大貧乳が胸の件で突然キレだしたがいつもの事だな。

 

 そんな馬鹿な事をしていながら犬月を見るとイラついているのが分かるぐらい様子が変わっていた。流石にこんな茶番で忘れられるほど天界勢力と堕天使勢力を憎んではいないか。

 

 

「――犬月」

 

「なんすか?」

 

「恨むな、復讐はやめろなんてガキみたいなことは言わねぇが自分で決めた決断だけは迷うな。殺してスッキリすると思ったらそうしろ、分かり合えると思ったらそうしろ、お前の心はお前だけの物だ」

 

「王様……く、クフフ……! ういっす!」

 

「分かればいい――さて四季音、マジでそろそろ手を離せ。死ぬ、死んじゃう」

 

「ヤダね。シテくれるまで離さない」

 

「……もうちっと色々デカかったら嬉しかった、やべっ!? 影人形ゥ!!!」

 

 

 この後、ガチでキレた四季音と共にいつもの殺し場に転移して殺し合いを始めることになった。

 

 やっぱり鬼って強いわ……勝ったけど。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

「――疲れた」

 

「お疲れさん」

 

 

 駒王学園球技大会当日、全学年が勝利のためにありとあらゆる手段を用いて戦いに挑む――わけでもなく純粋に良い所を見せて異性にアピールしたいと思う奴も居たり俺や平家のようにやる気が殆ど見当たらず、早く終わることを望んでいる奴もいる。

 

 現在、校庭ではクラス対抗戦であるサッカーが行われており犬月が敵のクラスの奴ら相手に空を指さし「俺は犬月、つまり犬、犬の素早さ見せてやるぜぇ!」とかよく分からん事を言ってるがきっと周りの空気に当てられたんだろう。さっきから俺の膝を枕にして横になっている平家の視線が阿保らしいと言いたそうなものになってるけどシリアスというか復讐心に囚われているよりはマシだろ? と言うよりお前……自分のクラス行けよ? 此処一応二年生の待機場所だぞ?

 

 

「ヤダ。さっき走って疲れた」

 

「だからって俺の膝枕で寝ようとするな。目立つのは嫌なんじゃないのか?」

 

「それはそれ、これはこれ。なんなら顔の向き反転させて()()あげようか?」

 

「退学になるからマジ勘弁。てかまたエロゲーしてやがったな?」

 

 

 こいつが下ネタいう時は大抵自分のPCでエロゲーをしている場合が多い。確か最近だと涙腺破壊ゲーだと言われていた奴をやってガチ泣きしてたな。部屋から出てきて目が真っ赤になって泣いてたから一瞬何が起きたかと焦ったのは記憶に新しい……今回はどんなエロゲーをしたんだか。そんな事は置いておいてそろそろ辛くなってきたな、うん。何がと言われたら俺と平家がいるのは駒王学年高等部二年生、俺が在籍するクラスが待機する場所だ。そんな場所に後輩で幻のお姫様なんて呼ばれているこいつ(平家)がやってきているだけでも目立つのは当たり前なのに俺の膝を枕、俺のジャージの上を毛布代わりにして横になっている。

 

 つまり何が言いたいかと言うと――

 

 

「誰か藁人形持ってこい、黒井を呪う」

 

「膝枕だけでも羨ましいというのにしてあげる、だと……! なにをするんですかねぇ」

 

「嫉妬で人が殺せたら……!」

 

 

 ――モテない男子生徒達の嫉妬を帯びた視線が突き刺さりまくってるんでそろそろやめてほしい。

 

 

「……ヤダ。私の次の出番はまだ先でのわ、先輩もまだ先。だからまだ枕になってて」

 

「別に良いが辛かったらちゃんと言えよ。ぶっ倒れられたらそのまま襲うぞ?」

 

「――貧乳が好きならお好きにどうぞ」

 

「おい拒否しろよ引きこもり」

 

 

 そんなやり取りをしつつ平家と共に校庭で行われているサッカーを見る。俺達のクラスからはサッカー部数人と犬月、匙君、他は体育の授業でする程度の奴らで構成された選ばれしメンバーが別クラスの奴らを相手に戦っている。なんというか……あいつやっぱ犬だわ。ボールに反応する速度が異常だし足も速いからサッカー経験者すら圧倒するとかもうマジ化け物。匙君とのコンビで敵陣に攻め込んでハットトリックの連続に観客は大盛り上がり、何という事でしょう……女子からの犬月君コールで埋まっております。

 

 

「何で出なかったの?」

 

「めんどい」

 

「だろうね」

 

 

 それ以外に理由はあるのかと聞かれたら絶対に無いと思う。まっ、その代わりにこの後のクラス代表戦でテニスさせられる羽目になったが……何とかなるだろ。

 

 

「あん? なんで引きこもりが此処に居んだよ? テメェさっさと自分のクラスに戻れや」

 

 

 サッカーを終えた犬月が戻ってきて俺の膝枕で横になっている平家を見て呆れた声色で言った。しかし残念な事にこのハイパーな引きこもりはそんな戯言は聞こえませんと言いたそうに「お疲れ様犬っころ。やっぱりパシリだから足早いね」と煽る煽る。喧嘩っ早い犬月と自分のペースを崩さない平家の口喧嘩は毎日聞いてるけどお前ら仲いいよな。喧嘩するほど仲が良いって奴だろ?

 

 

「そんなわけない。犬月先輩、体調が悪いのであまり騒がないでください」

 

「……こんの仮病やろうがぁ……! ま、あぁいいっすよ、この球技大会が終わったら生しほりん見れるんですし! いやぁやる気出ますよねぇ黒井っち!」

 

「お、おぅ!」

 

「――変態」

 

「数分前の自分のセリフを思い出せ」

 

 

 そんなこんなで次はクラス代表戦、めんどくさいが負けるのは嫌だし本気でやるとしよう。

 

 俺の相手は男子テニス部の次期部長と言われているほどの奴だったっけ? あれどうだったっけ……興味ないから覚えてねぇや。さて見た目はグレモリー眷属のイケメン君並みとはいかないがそれでもマシと言えるレベルだけど正直な話、全く接点が無いのと興味ないというダブルコンボでほぼ初対面なんだけどさ……なんで敵意丸出しの視線を向けられないといけないんだ?

 

 

「黒井君。まさかこうして戦う事になるとは思わなかったよ」

 

「あっそ」

 

「う、噂通りだね……まぁいい、一つだけ聞きたいんだが――君は平家さんと付き合っているのかな?」

 

「ご想像にお任せするよ」

 

「……そうか。ならば言わせてもらおう! キミは彼女にはふさわしくない! 此処で打ち倒し彼女の目を覚まさせて見せる!」

 

 

 なるほどね。俺と平家が学園内でくっ付いているから嫉妬してさっきのような視線を向けてきたと……これって俺は関係ねぇだろ? てかアイツの事が好きならさっさと告白すればいいのに。別に俺の女ってわけじゃないからあいつが誰と付き合おうと気にしねぇが……もっとも心読まれて嫌われること間違いなしだってのは俺でも分かる――こいつが平家の名前を言った時の目はゲスな上級悪魔のように見えたしな。大方容姿がアイドル級だから抱きたいとかそんな事思ってんだろうなぁ。こういう時の俺の感は当たるんだ。

 

 視線を横に向けると俺から強奪したジャージの上を抱きしめながら観戦している平家とその近くに座っている犬月が見えた。平家と視線が合うと真っ直ぐ首を縦に振った……当たりですかやっぱりそうですか。あとすいませんけど人のジャージを抱きしめないでくれませんかねぇ? お前の匂いついてドキドキはしねぇけどなんかあれだから犬月に渡せ……無理ですかそうですか。

 

 それじゃあ人間らしい自分勝手な事を言ってる奴にお灸を据えるとすっか。

 

 

「さぁ! キミからのサーブだ! 遠慮はいらないから全力で来るといい!!」

 

「――あっそ」

 

 

 ボールを高く上げ、ラケットの右側に当てて相手陣地に放る。そしてそれは地面に当たった瞬間にスライス回転して本来飛ぶ方向とは逆に飛んで男の頬を掠めた――所謂ツイストサーブ、あれキックサーブだっけ? どっちでも良いけど一点目ゲット。

 

 

「なん、だと……!」

 

「あのさぁ。人の事を相応しくないだのあいつの視線を釘付けにするだの勝手なこと言ったけどさ、別にあいつと友達になるなら構わねぇよ? なれるかどうか知らねぇけど」

 

「……」

 

「だけどな――あいつの事何も知らねぇ癖に自分はちゃんと分かってるみてぇな口で、声であいつの名前を呼んでんじゃねぇよ」

 

 

 人間相手に大人げないとは思ったが少しだけムカついたから全力で自尊心を潰すことにした。その結果が一点も取られることも無く俺の圧勝と言う結末だけど俺は楽しかったから別にいいや。

 

 コート上で真っ白に燃え尽きているような姿をしている対戦相手を尻目に犬月達の場所へと向かう……なんだろうか、周りからの惚れこんでいるんだなぁみたいな視線は? 別に惚れてねぇし付き合っても居ねぇし。

 

 

「お疲れっす、なんかキレてませんでした?」

 

「流石に人間特有の自分勝手な欲にイラついた。んで平家……なんだその今まで見た事ない笑みは?」

 

「なんでもない。うん、何でもないから早く座って膝枕して」

 

「……変な奴だな」

 

 

 きっと先ほどまで行われていた俺様主演の蹂躙オンステージに感動したんだな、はい嘘。あんなもので感動する奴なんて心のどこかが病んでるに決まってる。座った俺の膝に頭を置いて横になる平家だったが聞かなくても分かるぐらいに機嫌が良くなっていた。なんで機嫌が良くなったかなんてこの際どうでもいいし興味もない……こいつが辛くないならそれだけで十分。だから周りからのイチャついているな的な視線はやめてほしい、俺様って豆腐メンタルなんだからそろそろ吐くかもしれない。吐かないし豆腐メンタルでもないけど。

 

 テニスコートで行われている上級生同士の戦い――まぁ、言ってしまえばグレモリー先輩と姫島先輩ペアと生徒会長と副会長ペアの試合なんだけど明らかに漫画の世界にありそうな戦いを繰り広げている。なんなんですかねぇ? シトリー流カウンターにグレモリー流魔動球とかマジでなんなんですかねぇ? 上級悪魔の嗜みだったりするの? やべぇよ俺って何も持ってないから何か作っておけばよかった……キマリス流波動球とかどうだろうか? よしこれで行こう。

 

 

「バカ」

 

「……俺もそう思った」

 

「いやぁ、すげぇっすね。ちなみに王様、全員のパンツ見えましたけど色を言った方が良いっすか?」

 

「頼む」

 

「全員白っすよ」

 

「白かぁ……見せパンだろうな」

 

「当たり前っしょ。そう簡単にパンツ見せるような方々じゃねぇんすから。でもそれだと分かっていても見ざるを得ない男の性……!」

 

「男って難儀だよなぁ」

 

「変態」

 

 

 たとえそう言われたとしても男だから仕方がないんだよ。

 

 先輩方の試合は同位優勝という事で決着がついて種目は部活動対抗戦へと移った。俺達心霊探索同好会はと言うと体育館でバスケをすることになっていたが人数が足りないため本来ならば補充されるはずだったんだが犬月が「俺たち二人で無双できるっしょ」と言ってしまったためにまさかまさかの5対3という結果になった。相手は卓球部だったが運動部である上、平家が激しい運動が人前では無理のため犬月の言う通り俺たち二人で五人と戦わないといけないわけだ。

 

 

「良いか! 平家さんには指一本触れるなよ!」

 

「黒井の奴がキレたらさっきのような結果になる! 良いな!」

 

「先輩! 平家さんをスルーはもはや決定事項ですが残った二人は身体能力が化け物級です!」

 

「俺達は5人! 相手は2人だ! 勝てるさ!!」

 

「――だそうっすよ?」

 

「それじゃあ蹂躙するか」

 

「うぃ~す。つうわけだ引きこもり、ボール持ったら渡せよ」

 

「分かってる」

 

 

 試合開始の合図としてボールが宙高く放り投げられる。それを犬月がジャンプして平家の所に放る……さてここで今の状況を整理しよう。今ボールを持っているのは学園では病弱設定となっている平家、周りから幻のお姫様とか呼ばれているぐらいの美少女だ。そんな奴がボールを持ったら手を出せるか? 答えは出来ません。

 

 

「先輩」

 

 

 平家からボールが回ってくる……さて、蹂躙タイムの始まりだ。

 

 ドリブルで全員を抜いてダンクしたり犬月が放ったボールをそのままゴールに叩き込む。そんな事を俺と犬月で交互に行っていたからか周りからの歓声、特に女子勢のものが凄かった。俺も一応男だから黄色い歓声を浴びるのは気分が良いし、犬月もさらにテンションが上がって動きが良くなるしもう凄まじいの一言だ。匙君から聞いた話では男子勢はガチ引きしてたらしい……なんでだよ。

 

 そんなこんなで部活対抗戦は進んでいき、グレモリー先輩率いるオカルト研究部と優勝を賭けて戦ったが流石に人数差で押し負けてしまい敗北。準優勝になったがこれはこれで問題は無いな……元々優勝には拘ってなかったし少し気になることもあったしな――グレモリー眷属のイケメン君、俺の記憶が確かなら笑みを浮かべてまさしく王子様と言っても良いぐらいの奴だったと思うが終始心がどこかに行っているんじゃないかと思うぐらい様子が変だった。でもあいつの目には俺も心当たりがある――復讐だ。

 

 

「なんか、あのイケメン変じゃなかったっすか?」

 

 

 家に帰ってきて犬月が疑問そうに聞いてきた。やっぱりこいつも感じてたか。

 

 

「心の中が復讐の感情に飲まれてた。どす黒いもので吐き気したよ」

 

「だから体調悪くなったのか……にしてもやっぱ復讐かよ。何があったかは知らないが日常生活であんな目はするもんじゃねぇよ」

 

「……王様は分かってたん?」

 

「俺もあんな目をした経験があるからな」

 

「――ノワールは子供の頃に殺されかけてる。お母さんと一緒に」

 

 

 人の記憶を勝手に覗いてそれを暴露とかマジ勘弁。でもその時は俺も復讐というか似たような感情に支配されたから間違ってはいない。俺と言う存在、影龍王を宿すノワール・キマリスの始まりだからな。

 

 

「それ、聞いても良い奴ですか?」

 

「昔の事だから別に構わねぇよ。7年前か……その日、俺は母さんと一緒に人間界に遊びに来てたんだよ。お前にはまだ会わせてないけど俺の母さんは普通の人間だから偶に人間界が恋しくなるみたいでさ、俺を連れて遊びに出歩いてたんだよ。そんな時だよ――俺達を疎ましく思ってたキマリス家の奴らに襲われて殺されかけたのは」

 

 

 あの時の俺はどこにでもいる普通の混血悪魔だった。神器が宿っているなんて知らなかったし霊操も今のように鍛えていたわけじゃない。何処にでもいる普通の子供だった……ただの遊びだからと親父の眷属も付けずに二人だけで街を歩いていた時に襲われた。邪魔が入らない様に結界を張って周囲を取り囲み、殺意を持った攻撃で俺達を攻撃してきた……ただの人間と混血悪魔の子供、そんな奴らが成人した悪魔に勝てるわけもなく直撃を避けるのが精一杯で逃げ続けた。俺に怪我をさせない様に母さんが必死に逃げていたけどそう長くは続かず、攻撃の余波が当たり地面に吹き飛ばされたのは今でも覚えているし偶に夢に出る。全身から血を流し、片足が吹き飛んでいる親の姿なんてガキからしたらトラウマものだ。

 

 

『怨むならば純血悪魔を唆した貴様の親を怨むがいい』

 

 

 死にたくない、母さんを死なせたくない、あいつらを殺したい。殺しもした事がないガキの殺気なんて意味もなく攻撃が放たれそうになった瞬間――目覚めた。圧倒的な力の塊に、憎悪すらの飲み込むほどの邪悪さを持ったドラゴンの姿が脳裏に浮かんだ。奴らを殺したいならば呼べ、俺様の名前を天高く叫べと吐き気がするほどの気持ち悪さを持った声を聞かせてきた――それを受け入れた俺も俺だけどな。

 

 

「……王様を襲ってきた奴らって、どうなったんすか?」

 

「神器に目覚めたばかりのガキが成人した悪魔に勝てると思うか? あの時の俺が出来たのは母さんが死なない様に攻撃を防ぐ事しかできなかったんだよ」

 

「じゃあ生きてるんすね……言ってくれればいつでも殺しますよ?」

 

「いや死んだよ」

 

「……へ?」

 

『誠に遺憾な事だがその時、俺様と宿主様を救ったのはユニアの宿主だ』

 

 

 あの時ほど言葉にならないって感じた事は無かった。いきなり空から光が降ってきたかと思えば襲ってきた悪魔全員が消え去った……それをやったのは俺と同じくらいの女の子だっていうんだから驚きだ。光ったり透明になったりするマントを羽織り、洗濯とかしてるのかと思いたくなるほどボロボロな服装で俺達の前に降ってきたのは規格外で有名な片霧夜空。この時から絶壁でした。

 

 

「言うなれば影龍王の目覚めと光龍妃との出会いが同時だったんだよ。流石に出会ってすぐ殺し合うとかは無かったけどな」

 

「……なんか、すげぇような、なんつうか……そ、そういえば王様の母さん無事なんすか!?」

 

「無事と言えば無事だよ。その後、親父と眷属が総出でやってきて母さんを治療したからな。フェニックスの涙で怪我と吹き飛んだ片足は治ったけど流石に普通の人間だからな……後遺症が残って吹き飛んだ方の足に力が入らなくなった。そのせいで歩くのが困難になったけどあの天然はそんな事気にしないって言いそうな顔で今日も元気に生活してるよ」

 

「ノワールのお母さんって自分のペースを崩さない人だから。あと人間なのに何で見た目が若いのか今でも謎……しかも巨乳とか羨ましい」

 

「あの、人の母親を妬まないでもらえませんか?」

 

 

 俺だっていまだに謎なんだが流石に妬まれると息子として、な! いやマジでどうして四十代過ぎてるのに見た目二十代で通るぐらい若いのか俺も分かんない。

 

 

「この事件以降、俺の中に相棒が宿っていると知った冥界上層部は他勢力に取られない様に上級悪魔になる道を与えてくれたってわけだ。親父も俺が次期当主になるにあたってキマリス家の中に潜んでいる不穏分子を一斉に排除したおかげで今も母さんは無事だし、邪魔されることなく親父とイチャついているよ……ノワール、貴方に弟か妹が出来るのとか普通に言われそうでマジ怖い」

 

「は、ははは……王様も苦労したんすね」

 

「まぁな。そのおかげで今の俺がいるし夜空とも殺し合えるってわけだ。とりあえずあのイケメン君変化は気になるが俺の眷属じゃないし放っておくとして――犬月、明後日は分かっているな?」

 

「ふっ、生しほりんと会う日っしょ? とーぜん分かってますって!」

 

「今日の球技大会で疲れたから癒されに行くか」

 

「うっす! あの乳を見るためなら今日の疲れなんざどうってことねぇっすよ!」

 

「……変態共死ねばいいのに」

 

 

 そんな事を言われても俺たち男だから仕方がないな。だってアイドルで巨乳で現役女子高生だぞ? これはテンション上がらないとダメだろう悪魔的に。

 

 確か明後日は駒王町にあるそこそこ大きい会場でライブをした後、握手会だっけ? 俺的には契約関連で何度もあって入るが偶にはアイドルとファンもどきという関係で会うのも悪くないだろう。だからそんな機嫌悪いですみたいな顔するなよ? 球技大会中のお前はどこに行った……引きこもったのか。そうかそうか、いつも通りだな。

 

 

「――まっ、なんか嫌な予感がするがいずれ分かるか」

 

 

 その後、水無瀬が持ち前の不幸体質のせいかびしょ濡れで帰ってきた。外はかなりの土砂降りだし仕方ないとはいえ傘を持って行って何故びしょ濡れになるんだよ……でも濡れたシャツが肌に張り付いて下着とかが見えるって素晴らしいと思う。なんか二人ほどから変態と言う視線を向けられたけど何度も言おう――男だから仕方がないんだ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

「みんなぁ~! 今日は来てくれてありがとう!!」

 

「うぉぉ! しっほりぃん!!」

 

 

 隣で犬月が吼える。それは犬のようにワンワン鳴くものではなく目の前のステージで煌びやかな衣装を身に纏い観客である俺達に向かって笑顔を振りまいている天使――もといアイドルに向かって全力で叫んでいる。いや本当に来てよかったわ……球技大会とか堕天使襲撃とかその他諸々の疲れなんて一気に吹き飛ぶぐらいの笑顔だわ。マジで笑顔最高、笑顔がもう神でいいよ。あんな笑顔が神だったら誰も勝てないし戦争する気すら起きねぇだろ悪魔的に。

 

 ステージで全身全霊、一生懸命歌っている橘志保から対価として貰ったチケットで会場入りをしたわけだがその場所は何と数人しか入れないらしい超VIP席みたいな場所だった。確かネットで見た限りじゃ当選率が凄く低かった気がするんだがそれを二枚くれるなんてマジ女神……なんだけど、そのさ、うん。いやイベントは楽しいんだよ? 志保と他数人のアイドルがユニット組んで歌ったり、ソロで歌ったりと見ていて凄く楽しいさ! でもな――

 

 

「どうした影龍王? ステージを見ないのか?」

 

 

 ――なんで此処に白龍皇がいるんですかねぇ?

 

 

「こんな場所に一生縁がないテメェがいるから集中できないんだよ」

 

「それはすまないな。確かに何故ステージで歌っているだけでこれほどの歓声が起こるのか今も理解できないが終わるまでは何もするつもりはない。俺の事は空気とでも思っているといいさ」

 

「テメェみたいなトンデモ野郎を空気に思える奴がいたら見てみたいね」

 

「光龍妃は出来ていたぞ?」

 

「あれは規格外だからノーカンだ」

 

 

 ダーク色が強い銀髪に蒼い碧眼、世の男が羨むほどの容姿のイケメンの名はヴァーリ。二天龍の片割れである白い龍(バニシング・ドラゴン)を身に宿すトンデモな野郎だ。夜空が規格外ならばこいつは天才中の天才と言えるだろう……正直な所、才能面では勝ち目がないかもしれない。でもおかしい、マジでおかしい……戦いとラーメンにしか興味がないこいつ(ヴァーリ)がなんでアイドルのイベントなんかに来てるんだよ? まさかのファンなの? しほりんとか言っちゃうの? ちょっとそんな事を言う白龍皇が見てみたい気がするけどそんなわけねぇわな――大方、志保の神器(セイクリッド・ギア)でも身に来たって所か。

 

 

「とりあえずイベント終わったら付き合えよ」

 

「構わない。俺もキミに用事があったからね」

 

「ならちょうどいいな。付き合いの対価は殺し合いでどうよ?」

 

「それは魅力的だな」

 

 

 なんとも微妙な空気の中、イベントは滞りなく進んでいき現在は握手会の真っ最中。志保を含めた数人のアイドルが横一列に並んで俺達観客は好きな子の所に並び今か今かと握手が出来るのを待っている。本来ならば憧れのアイドルと触れ合えるという事でワクワクドキドキな声を上げる奴が多いと思うが――そんな事は全然なかった。

 

 

「握手会というのはこれほど静まり返るものなのか?」

 

「自分の容姿を少しは気にしろ。テメェみたいなイケメンが此処に居る事自体が罪なんだよ」

 

「それ王様も当てはまるっすよ……他の奴らからしたら二人ともイケメンの部類っすからね」

 

「ふむ……よく分からないな」

 

「一生理解できねぇと思うからさっさと忘れろ」

 

 

 どうやらヴァーリほどのイケメンがこの場にいるのが不思議でならない他の観客たちは一斉に俺達の方を見ている。それはアイドルの子達も例外ではなく、あっイケメンだ! みたいな視線で見つめてきている……イケメン死すべし慈悲はねぇ。マジで話し合い終わったら殺し合おうかな。

 

 犬月、俺、ヴァーリの順で志保の列に並んでいるがかなり目立っているのは確かだ。なんせ他の普通の容姿から言っちゃあれだがキモイ容姿まで幅広い奴らがいるからな。アイドルもヴァーリみたいなイケメンなら喜んで握手するだろうけど他の奴ら相手はちょっとキツイだろうに……志保様すげぇな。普段は落ち着いているのに今はアイドルとしての顔で思いっきり笑顔で握手をしている。俺なら無理。まぁ、そんな事は置いておいて目の前の犬月はかなり警戒しているけど当たり前だ……こいつが白龍皇だって知った時は奇声を上げかけたぐらいだ。普通は思わないよな……そんな存在がこんなところ(アイドルのイベント会場)にいるなんてさ。

 

 

「今日は来てくれてありがと♪ 応援よろしくね!」

 

「――やっべぇマジ可愛い。うわやっぱアイドル最高だわ!」

 

 

 俺の前に並んでいる犬月が志保と握手をしてテンションが上がっている。こいつやっぱり犬だよな……犬っころとか呼ぶとキレるけど俺の目には尻尾がブンブン振っている姿が見える。そして順番は俺の番となり一歩前に出て向かい合うと――

 

 

「来てくれてありがとう! 志保、すっごくうれしいよ!」

 

 

 ――やべぇ、マジ可愛い。うちの酒飲みとか引きこもりとか規格外とかこの可愛さを見習ってほしい割とマジで。ホント可愛い、笑顔可愛い、アイドルってやっぱり最高だな! そのまま握手をすると掌には女の子の柔らかい手の感触と紙のような何かの感触がある……なにこれ? 握手をしながら志保を見ると思わず惚れちゃいそうなほどの笑顔で返された。はい可愛い。

 

 握手を終えてその場から離れた後、手の中にある紙を開くと今日の夜に呼んでも良いですかと言う内容と連絡先と思われるものが書いてあった。そういえばお得意様なのに連絡先交換してなかった……いやその前に現役アイドルからのお誘いだよ、お兄さん嬉しいね。これファンの方々に知られたら殺されるんじゃなかろうか? 襲ってきたら逆に殺すけど。

 

 

「犬月、俺はこれから白龍皇と色々やるからさっさと帰れ」

 

「う、うっす! 王様もお気をつけて……白龍皇ってかなりやばいんしょ?」

 

「あぁ。才能面なら俺は背伸びをしても勝てないと思えるほどの天才だ。正直、殺しあったら勝てるかどうか分かんねぇな」

 

「……なんかあったら呼んでください」

 

「おう」

 

 

 心配そうな犬月を家に帰らせて俺はアイドルとの握手が終わったヴァーリと共に適当な飲食店に入る。その前に言わせてほしいんだけど銀髪碧眼のイケメンであり現白龍皇がアイドルの握手会に並んでいるという事実に少し笑いそうになった。写メ撮っておけばよかったかなぁ。

 

 

「――で? お前みたいな奴がアイドルのイベントに何の用事があってきたんだよ? 奢ってやるから素直に言いなさい」

 

「それはありがたいな。回りくどいのは苦手でね、単刀直入に言わせてもらおう――橘志保が保有する神器にアザゼルが興味を示していてね。それの確認に来たんだ」

 

「アザゼル……神の子を見張る者(グリゴリ)の総督の名前だな。あぁ、そういう事か……テメェ堕天使陣営だったのかよ。通りで俺に会いに来ないで夜空とばかり会うわけだ」

 

「一応ね。アザゼルには昔から世話になっていて頼まれたら断れないんだ。光龍妃に関しては強い相手と戦いたいというのはドラゴンの本能だろう?」

 

「まぁな。んで? あいつ(志保)の神器を見て満足したか?」

 

「独立具現型の神器があの場に居たと言うのなら満足は出来たかもしれないな」

 

「……あいつの神器の特徴まで知ってるのかよ。堕天使陣営は志保をどうする気だ? 事と次第によっては俺も黙ってねぇぞ? 一応お得意様なんでな」

 

「なるほど。影龍王も彼女に目を付けていたというわけか。眷属に加えるのかな?」

 

「そうだと言ったらどうする?」

 

「どうもしないさ。アザゼルも無理やり仲間に引き入れるような事もしない、それに影龍王が狙っているというなら手を引くだろう。元々珍しい神器を持っていたから興味を持っただけだろうし俺が此処に来たのも独立具現型神器の持ち主には何かと縁が合ってね。どんなものなのか見て見たかっただけなんだ」

 

 

 こいつが下らない嘘を言うとは思えないから恐らく本心だろう。たとえラーメンに並々ならぬ拘りを持っているとしても神器や戦闘に関しては素直すぎるからな。その辺は一回会ったっきりの俺でさえ分かるぐらいにな……だからこそ何でラーメンに拘りを持ってるのか理解できない。夜空から聞かされた時は素で驚いたぐらいだぞ――つかなんで夜空とラーメン食べ歩きデートしてるんですかねぇ? 殺されたいんですかねぇ?

 

 それは置いておいて神器が見たかったと言ってるが多分あのオコジョ、楽屋の中にいるんじゃねぇかな? 流石にイベント中も一緒とか無理だしな。

 

 

「影龍王が狙っているならばこちらからは手を出さないことを言っておこう。そうだ、面白い事を教えておこうか」

 

「あん?」

 

「最近の神父殺し、あれを行っているのははぐれ悪魔祓いだよ。コカビエルに唆されたのか自発的に協力しているかは分からないがね」

 

「コカビエル……おい、この町で何をしようとしてやがる?」

 

「先に言っておくがアザゼルは今回の件には関与していない。あれ(コカビエル)が勝手にやっているに過ぎないんだよ。キミもドラゴンを宿す存在だ、何を行おうとしているかなんて予想がつくだろう?」

 

「――戦争か。悪魔と天使ともう一度殺し合いをしようって事かよ」

 

「大正解」

 

 

 なるほど……だからエクスカリバーを持った信者がこの町にやってきてたってわけか。コカビエルほどの存在が魔王の妹が治めるこの町でデカい事をすれば必ず魔王の耳にも入る、それは即ち戦争を仕掛けるという目的を教えるのと同じ事。個人的には戦争が起きても向かってくる奴を殺せばいいから良いからどうってことは無いが……他人が引き起こしたことに巻き込まれるのは癪だな。

 

 コカビエルが何かしようとしているに加えて俺のお得意様も堕天使勢力に地味に目を付けられた。ちょうど支援役が欲しかったから先手打つか……問題はオッケーと言ってくれるかだが言ってみるのはタダだし今日の夜にでも交渉してみるか。

 

 

「んで? その企みに白龍皇様はどうする気だ?」

 

「アザゼルは戦争を望んではいないし俺もコカビエル程度が引き起こす戦いには興味がない。影龍王であるキミが倒してくれるのならば今回は見物しても良いが?」

 

「あの程度なら覇龍を使わなくても問題ねぇし負ける気もない。流石に堕天使の総督相手はちとキツイけどな……教えてくれた礼だ、コカビエルを殺してもいいんならこっちで勝手にやらせてもらうぜ?」

 

「構わない。アザゼルには俺から言っておこう――それでどうする? 戦うかい?」

 

「喜んでと言いたいがそれはコカビエルを殺してからだな。他に頼むものが無ければ会計するけど?」

 

「食事をするほど空腹でもないからね。ごちそうになるよ影龍王」

 

「あいよ」

 

 

 コーヒー二人分の会計を済ませた後、俺達は別れる。堕天使勢力の幹部の一人、コカビエルが駒王町で戦争を起こすために何かをしようとしている……ドラゴンっていうのは面倒事に巻き込まれる種族だな。

 

 

『ゼハハハハ。それがドラゴンよ』

 

「なんだ起きてたのか? 珍しく静かだったから寝てるのかと思ったぞ?」

 

『白蜥蜴と話そうと思ったんだがあの野郎、無視決め込んでてなぁ。だから黙っていたわけよ。それでどうする宿主様? あのアイドル娘を眷属に加えるのかぁ?』

 

「横取りされたくねぇしな。独立具現型神器の所有者って知られた以上、あの子に何が起こるか分かんねぇし俺の支配下に置いておけば一応は安全だろう? ご立派な影龍王って名前があるしな」

 

『ゼハハハハハ!! その通りだぞ宿主様! 悪魔らしく貪欲に、己の好きな事をすればいい! アイドルを独占するのもまた一興よ!』

 

「ゲスい言い方だなぁ。間違ってはいねぇけど」

 

 

 紙に書かれた連絡先にメールを送って適当に時間を潰していると志保からメールが返ってきた。今日は駒王町のホテルに泊まる予定で明日には帰るらしい……まさかアイドルとホテルで密会? うわ何その犯罪臭。凄く悪い事をしている感じがするけど眷属になるように交渉するだけだからセーフセーフ。

 

 

「――相棒」

 

『あぁ。気を付けろよ宿主様』

 

 

 約数時間ほど適当にぶらついて時刻は夜。家に帰っても特にやることが無いので暇つぶしで町の中を歩いていると少し前から誰かに尾行されているような感覚があった。悟られない様に背後を見てもそれらしい姿は見えない……しかし舐めまわすように、殺意を帯びた視線が確かに俺の身体を射抜いている。時間帯も時間帯だし誘い出してみるか……裏路地を通って人気のない場所へと移ってみると先ほどまで姿を見せなかった尾行者と思われる()()が姿を現した。罠だと思っていないのかそれとも知ってなお突破できると思っているのか分からないが男らしいな――性別は女っぽいけど。

 

 

「よぉ、さっきから人の後をつけまわして何の用だよ?」

 

 

 現れた人物に問いかけた。月明かりに反射するほどの銀髪で頭の横で束ねてサイドアップって奴にしている女……年齢は二十代、水無瀬より少し上って所か。日本で銀髪なんて珍しいが西洋人形のようで表情が無表情とかちょっと怖い。

 

 

「――此処に来た以上、気づいていたと判断しています。お初にお目にかかります、駒王町内に存在する神父、または悪魔を殺害するように依頼を受けましたアリス・ラーナと申します」

 

「依頼ねぇ……んで? 俺に何の用?」

 

「影龍王と呼ばれる貴方の実力を測りに来ました。今回の依頼において最も危険視する人物ですので」

 

「ククク、その依頼ってコカビエル? それともはぐれ悪魔祓いか? どっちでもいいが売られた喧嘩は買わせてもらうぞ」

 

「噂通りの戦闘狂と判断します――参ります」

 

 

 目の前の女は両手の指の間に刀身が光の刃となっている短刀を出現させて俺に放る。生成速度から投擲に至る速度が手馴れてやがる……が、これは囮だな。

 

 前方から迫る光の短刀を影人形の拳で叩き落し、背後から迫るであろう者からの攻撃を防ぐべく影を生み出した。そして生み出した影に"なにか"が触れたと思った瞬間、周囲に吐き気がするほどの聖なるオーラがはじけ飛んだ――聖剣かよ!

 

 

「何故、気づきました?」

 

「幻術だって分かってたからな。てか手に持ってる奴……聖剣か?」

 

「肯定。夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)と呼ばれる聖剣の一本です。依頼人より借り受けました」

 

「使えるって事は聖剣使いかよ……しかも神器持ちか」

 

 

 影人形の拳によるラッシュを叩き込んだがまるで霧のように霧散して姿が消えた。気配も無く先ほどまで感じていた殺意すらまるで最初から無かったかのように消えている。呼吸音もしないとなると俺の呼吸に合わせてやがる……暗殺者かなんかかよあの女?

 

 でも――見つけたぜ。

 

 

「っ!」

 

 

 先ほど攻撃した方角に影人形を動かしてラッシュタイムを放つと拳圧で地面が軽く抉れたのと同時に何かが上空に飛んだ音がした。幻術で姿を消して移動したと思わせて実際はそのまま後ろに飛んでいただけだ、戦闘中で誰もが思ってしまう小さな錯覚を利用したみたいだが俺には効かないぜ? 真上を見上げると降り注ぐのは光の刀身をしたナイフの雨、さっきのように幻術を操るとなるとどれかが偽物でどれかが本物だ……でも関係ないよな? 全部叩き落せばいい。

 

 俺の真上全てを覆うように影人形のラッシュで降ってくるナイフの雨全てを防ぐ。最初は手ごたえがあるが今は殆ど無い……幻術か。すると狙いはこっちだな! そう思った直後、俺の死角に聖剣を持った女が潜り込むように接近して一閃――

 

 

「……流石にこの程度では傷一つ負わせられませんか」

 

「生憎、俺の影人形によるガードは天下一品だぜ」

 

 

 ――聖剣の刃と影人形の拳がぶつかり合う。一太刀入れれるかもしれないというチャンスすら防がれたというのに目の前の女は表情を崩さず後方へと距離を取った。今の感じだと防がれると分かってた上で攻撃してきやがったな……全く怖い怖い、聖剣恐怖症になりそうだ。でも強いな……人間にしては戦い慣れてやがる。エクスカリバーを使えるほどの逸材が天界勢力じゃなくて依頼を受けたから殺しに来ましたとかちょっとおかしいレベルだ。

 

 

「現状で貴方を殺すには手数が足りません。今回は引かせていただきます」

 

「逃がすと思ってんのかよ?」

 

「逃げ切ります」

 

「――だったら逃げ切って見せろや!!」

 

 

 加減無しの影人形のラッシュを叩き込むと聖剣で応戦し始めた。女が距離を取れば即座に詰め、光の短刀による雨を降らせばそれを叩き落とす。それを繰り返していると予想外の出来事が起きやがった――酔っ払った普通の一般人が俺と女の殺し合いの場に現れて目撃しやがった。舌打ちをして一瞬だけそっちに意識が向いた瞬間、女は流れるような仕草で男の頸動脈を切断、それ(死体)を道具として俺へと放った。

 

 

「逃がしたか」

 

『ゼハハハハ! だらしねぇぞ宿主様! 慢心した結果がこれじゃあユニアの宿主に笑われるぜぇ?』

 

「言い訳に聞こえるかもしれないがちょっと気になることがあった――あの聖剣、依頼人から借り受けたって言ってたよな?」

 

『だなぁ。という事は教会であったあの聖剣使い共はあれを取り返しに来たと見ていいだろう』

 

「白龍皇からの情報を纏めるとコカビエルは戦争を起こすためにこの町で何かをしようとしている。そして天界勢力が保有している聖剣のいくつかを所有している可能性がある。教会であった聖剣使い達はそれを取り返すためにやってきたかもしれない……要約すると堕天使が悪いか」

 

 

 足元に広がっている元酔っ払いの男、今は四肢と他の骨が砕け散っている死体の姿となったものを魔力で吹き飛ばす。先ほど放ってきたゴミを影人形の加減無しラッシュで吹き飛ばしたからこんな風になってしまった。女もその一瞬の隙を使って脱出していったようだし踏んだり蹴ったりだぜ。

 

 少しばかりイライラしたが志保からのメールが届いたのと同時に頭を切り替えて魔法陣で転移。視界に映ったのはごく一般的なホテルの内装と部屋着姿のアイドル、橘志保の姿。やっぱりさ……謎の犯罪臭がするんだけど気のせいじゃないよね? うわー俺様悪魔だから悪い事しちゃいそーだわー。

 

 

「悪魔さん、今日は来ていただいてありがとうございました」

 

「中々楽しかったぞ。こっちこそあんないい場所のチケット貰ってよかったのか?」

 

「はい。悪魔さんを呼ぶなら一般席よりもVIP席の方が良いですから。あ、あの……今日一緒に来られたお二人は――悪魔、ですか?」

 

「まぁ、そうだな。白髪の弱ヤンキーっぽいやつが俺の眷属でもう片方が白龍皇っていう俺以上のトンデモ野郎だ。でもよく分かったな? 普通の友達を連れてくるとかもあるだろ?」

 

「少しばかり魔力を感じましたので……銀髪の男の人からは怖い、と言って良いのか分からないですけど悪魔さんと同じようなものを感じました。でも白龍皇……あの人がそうなんですね」

 

「二天龍は色々と有名だからな。それで今日呼びだしたのは何か用事か?」

 

「は、はい! えっと、今日のイベントは、どうだったでしょうか……? あっ、えっと! 人払いの術を使ってますんで他の人は入ってきませんので安心、あ、安心してください」

 

「アイドルが人払いの術使えるとかどうなってんだよ」

 

「アイドルですから」

 

 

 流石アイドル。いやアイドルって何だよ? あとすいません……その人が誰も来ませんからいろいろ大丈夫ですみたいな目はやめてほしい。俺も男だからちょっとまずい。さて冗談は置いておいてイベントの感想ねぇ、白龍皇のせいで集中できなかったが楽しかったのは事実だな。

 

 

「楽しそうに歌ってるなとは思ったな。やっぱ笑顔っていいもんだな」

 

「そ、そうですか……よかったです」

 

 

 だからその本当に嬉しそうな表情止めてほしいマジで変な気分になる。相棒も少し黙ってくれないかな? 何が押し倒せだよ? んな事したら平家に知られて殺されるぞ? アイツ地味にヤンデレ属性持ってると俺は勝手に思ってるからな!

 

 そんな事は置いといてだ。こっちはこっちの用事を済ませようか。

 

 

「あぁ~そうだ、ちょっとばっかし交渉があるんだけど?」

 

「交渉ですか……っ!? あのえと、えっと!? きょ、きょうはそのだ、ダメです! 準備も何もしてないのでダメです! で、でもどうしてもっていうのなら――」

 

「いや違う。考えてるのとは全然違うからな? 交渉っていうのは俺の眷属になってくれないかってだけだ」

 

「はい喜んで」

 

「いきなりだから戸惑うだろうがちょっと事情が変わってな……堕天使陣営のトップがお前の神器に興味を持ったみたいで横取りされるのも癪だからこっちに引き込んでおこうかなぁと思ったんだよ」

 

「あの、ですから喜んでお受けしますよ?」

 

「……え?」

 

「いつでも眷属にスカウトされても良いようにお父さんとお母さんは説得済みです。アイドルになったのも私は此処に居ますよとその……アピールみたいなものですしいつでも心の準備は出来てました。ですので喜んでお受けします」

 

 

 衝撃の事実が此処に判明。今まで謎だったアイドルデビューの理由ってそれかい……お兄さん凄く驚いたわ。

 

 というわけで相性がいいと思われる僧侶の駒を渡して無事に眷属に加わったけどなんだろうか……色んな所から苦情が来そうだぞ。主に赤龍帝とか匙君とかその辺りから。犬月はきっと喜ぶだろうな、あいつ犬だし。

 

 

「俺の眷属になっても何かしろとか特にないからアイドル続けるなり自分の好きなようにしてくれ。あっ、でも今この町で起きてる事で少しだけ手伝ってもらうかもしれない」

 

「構いませんよ。私、もう悪魔さん……主様の方が良いです?」

 

「やめてくれ……流石にそれは俺の心が変になる! 普通にノワールでも今まで通り悪魔さんでも何でもいいがそれだけはやめてくれ」

 

「そうですか――残念です」

 

「あん?」

 

「い、いえ! こ、コホン――橘志保! 悪魔さんの僧侶として頑張ります♪ 応援よろしくね!」

 

 

 満面の笑みとポーズ有りで言われてしまったら今日一日の感想として俺はこれだけしか言えないだろう。

 

 アイドルってやっぱり良いね!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

「――んで? どうして此処に来たか説明してくれる?」

 

 

 場所は保健室、時刻は昼休み。俺は保険医専用席に座りながら微弱な殺気を放ち、来訪した二人を見つめていた。その二人は俺が放つ殺気に微かに身体を震わせながら言葉を必死に出そうとしているみたいだけど……やめてくれないその反応? なんかこっちが悪い事をしている感じがして嫌なんだけど。でも俺の後ろにいる男、壁に寄りかかってる犬月よりははるかにマシだけどなぁ。

 

 

「……」

 

「しゅ、瞬君、落ち着いてください」

 

「わーってるっす……王様が手を出していいっていうまでは我慢します」

 

「それ落ち着いてないですから!?」

 

 

 腕を組み、今にも襲い掛かろうとする衝動を抑えながら犬月は殺意を帯びた眼差しで二人を見つめている。その様子に水無瀬は落ち着かせようとしているみたいだがその程度じゃ無理だわな。両親を殺されたっていう怒りと憎しみは言葉程度で払えるもんじゃないし――何より来訪している二人が犬月が大嫌いな天界勢力の方々だからな。だがイラつきの半分はそれなだけでもう半分は別にあるようだけど。

 

 椅子に座りながら俺と犬月からの殺気という洗礼を受けている二人は数日前に教会で会った二人組だ。片方は緑色のメッシュを入れている美少女、もう片方は栗色の髪をしたツインテールでこちらもまた美少女。白いローブを羽織ってはいるが先ほどチラッとローブの中身が見えたけど……まさかのボンテージっぽい服装だったよ。こいつ等がまさかの痴女属性持ちかと思ったのは内緒だ、平家が居たらバレるけどこの場にいないからセーフセーフ。

 

 

「……」

 

「聞こえなかった? なんで此処に来たか教えてくれない? まだ昼飯食ってないからさっさと終わらせたいんだけど?」

 

「は、はい! す、すいません!」

 

「イリナ……いや、気持ちは分かるが私達はただの交渉に来ているだけだ……悪魔祓いが悪魔に怯えていてどうする?」

 

「だって影龍王なのよ! 普通に戦ったら勝てるわけないじゃない! ゼノヴィアだってそれは分かってるでしょ!」

 

「……まぁ、そうだが」

 

「漫才しろって言った――」

 

「言います言います! こ、コホン――数日前、各教会で保管していたエクスカリバーが強奪されました。それを手引きした組織の名は神の子を見張る者、その幹部であるコカビエルと思われます。情報ではこの町のどこかに潜伏しているとされているため私達及び神父を潜入させています……しかし神父は何者かによって殺害されており協力者がいると思われます。教会で貴方が探していたはぐれ悪魔祓い、それが関与していると考えてもいいでしょうか?」

 

「まぁな。こっちも神父殺害の件で面倒事が回ってくる前に片づけたかったが犬月の鼻でも探しきれなくてな。一カ月以上前の話だがこの町に堕天使が潜入してそれに協力していたはぐれ悪魔祓いが今もなお姿を現していないんだよねぇ。片腕切断と顔半分を潰しているから目立つとは思うんだがなぁ」

 

 

 白龍皇の話でははぐれ悪魔祓いが自発的か唆されたとかで協力していると言っていたしあの男でまず間違いないだろう。狂信者っぽかったし俺と同じでやられたらやり返すを信条にしてる性格っぽかったしな。でもこいつらは別の協力者がいることはまだ知らされてないみたいだな……エクスカリバーを使えるほどの聖剣使いをこいつらが知らないわけないしあれほどの実力者だ、危険視してもおかしくはない。だというのに一向に話しに出てこないという事はまだ情報を得られていない――あるいは捨て駒だから与える必要がないって所か。

 

 

「奪われた聖剣は天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の三本です。私とゼノヴィアが所有するエクスカリバーを除いて三本が敵に奪われています」

 

「……三本? 残った二本はまだ無事って事かよ?」

 

「正教会で保管している祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)は強奪から免れています。残った一本は――」

 

「最後のエクスカリバーは前大戦後から行方不明だ。だからこいつらの分を合わせて計六本が現存するエクスカリバーなんだよ。支配の聖剣の事、知らないのか?」

 

「すんません……てっきりエクスカリバー全部天界側が持ってるもんだと……それでも半分は奪われてるってわけっすね。だらしねぇ」

 

「……すまない影龍王、彼の様子が先ほどから変なのだがどうしたんだろうか?」

 

「こいつの両親が悪魔祓いに殺されたせいでお前らの事は大嫌いなのさ。お前らから何かしてこない限りは犬月を襲わせるようなことはしないよ。話を戻すが奪われたのはエクスカリバーだけなんだな?」

 

 

 その言葉に同意するようにイリナと呼ばれた女の子が首を縦に振った。

 

 数ある聖剣の中からエクスカリバーだけを奪い取った? ドラゴンを殺す龍殺しを宿した聖剣アスカロン、エクスカリバーに並ぶ聖剣とされる聖剣デュランダルとか他の聖剣も天界勢力は保有しているはずだがそれを無視してエクスカリバー三本だけ……気になるな。たとえ聖剣を扱う者が少なくとも保有しているだけで天界勢力を弱体化させることは可能だろう。天使と言う種族自体は弱点、所謂エロ攻撃をすれば抗う奴らも多いがそれと同時に堕天する奴もいる。だから悪魔的には天使はあんまり怖くないんだよな……聖剣以外。

 

 

「そっちの状況は理解した。それじゃあ本題だ――アンタ達は俺をどうしたい?」

 

 

 エクスカリバーの事は置いていてここからが本題。天界勢力に属するこいつらが態々生徒会長、そして俺に接触してきたという事は何かしらの考えたあっての事だろう。それが分からないとこっちもやりようがないんだよね――どんな事を言われても断ってコカビエル殺すけど。

 

 

「私達の依頼、いやお願いと言うのは他でもない――影龍王。今回の件に貴方は関わらないでほしい」

 

「はぁ? 何で悪魔の俺達がテメェらの言うこときかねぇといけねぇんすか? 頭大丈夫か?」

 

「生憎本気さ。神側である私達の事情に悪魔が絡んで困るのはそちらだと思う。下手をすれば堕天使と悪魔の戦争に発展しかねない。こちらに被害が無ければ双方がぶつかり合ってくれるのはありがたいがそれは避けたいだろう? そもそも上は堕天使と悪魔、今回で言うならコカビエルと貴方達の誰か、またはほかの人物が手を組んでいると考えているんだよ」

 

「そりゃそうだ。エクスカリバーを失って得するのは俺達だしな」

 

「あぁ。だからこそ上は悪魔と堕天使を信用してはいない。しかし事情を説明せずこの町で暴れるのは侵略行為とみなされてしまうからこうしてこの場に来させてもらった。影龍王、貴方の答えを聞きたい」

 

 

 信用していないねぇ。そんなこと言われたらこっちがどんな事を言ったとしても意味無いと思うんだけど……分かってんのかね?

 

 

「その答えの前に最後に質問させてもらう。コカビエルを討つのは誰だ? 天使長(ミカエル)? それともお前達か?」

 

「私達だ。このエクスカリバーと共にコカビエルを討つ」

 

「俺に勝てなかったお前らが堕天使の幹部、古より聖書に記されたコカビエルを討つのか? くくく……死ぬ気か?」

 

「覚悟の上だ。私もイリナも死ぬ覚悟はできている」

 

「はい。神のために死ねるのなら本望――っ?!」

 

 

 水無瀬と犬月、目の前にいる女二人の呼吸が止まる。神のために死ねるなら本望、死ぬ覚悟はできているか……面白すぎて腹痛いわ。俺程度の攻撃を避ける事も一太刀すら与える事が出来ず、あの程度の殺気にビビってる分際で死ぬ覚悟はできていると来たか――三下風情が舐めた口きいてんじゃねぇよ。

 

 

「今の言葉で俺の答えは決まった。もう話すことはねぇからさっさと帰れ」

 

「なっ!? まだ答えは聞いて、いない……!」

 

「聞こえなかったか? 帰れって言ったんだよ。下級の悪魔や魔物しか殺した事が無い三下が凄い玩具を手に入れて調子に乗ってんじゃねぇよ。お前ら空飛べるか? 飛べないだろ。普通の人間は空を飛ぶことができないのは常識だ。その常識の中にいるお前らはコカビエルには勝てない。相対した瞬間に周囲もろとも光の槍放たれて即死させられるさ」

 

「そ、それは戦ってみなければ――」

 

「戦う前から決まってんだよ。お前らコカビエルをなんだと思ってんだ? 三大勢力が覇権を賭けて争った戦争を生き残ってんだぞ? 数十年生きて経験を積んでいるならまだ分かる。俺や赤龍帝、光龍妃や白龍皇のような神滅具を持っているなら分かる。でもお前等が持っているのはエクスカリバーの出来損ないだろうが。それに言ったな? 上は俺達悪魔と堕天使を信用していないと……だったら俺が言う事なんて信じないんだろ? だから俺の答えは()()だ」

 

「あ、あの! ゼノヴィアはそういうつもりで言ったのではなくて……」

 

「――いや、イリナ。此処は大人しく帰ろう」

 

「ゼノヴィア!?」

 

「元はと言えば私の発言のせいだろう? 此処は大人しく引かないと影龍王に殺される……今の殺気がその答えだ」

 

 

 半分ぐらいの殺気だけどな。夜空の本気の殺気に比べると天と地の差があるけどこいつらからしたら殺されるというほどのものだったらしい。一度夜空の殺気を味合わせてみたい気がする……多分ショック死するぞ? だって俺ですら呼吸って何だっけとか一瞬だけ思うほどの濃さだしな。

 

 二人は渋々といった様子で保健室から出て行った。まぁ、あんな事を言ったけどこの土地って俺のじゃなくてグレモリー先輩のだからあっちが関与しませんとか言ったら俺は何もできないんだけどね。でもコカビエルは殺すわ、だって面倒事に巻き込もうとしてるし白龍皇に殺すねって宣言しちゃったもん。

 

 

「……ノワール君、あんな言い方をして大丈夫なんですか?」

 

「さぁな。でも俺の言った事は間違ってないと思うぞ? コカビエル相手にたった二人、夜空以下の身体能力のガキが挑んでも即効で返り討ちにあってエクスカリバーを盗られるだろ。その後の末路なんて言いたくもねぇが……慰み者にされるぞ」

 

「見た目は美少女、天界側の悪魔祓いなんだから処女確定。はぐれ悪魔祓いや堕天使からしたら極上の獲物っすね」

 

「だから悪者扱いされること覚悟で協力してくださいと言わせようと思ったんだが最後の最後まで言わなかったな。信仰する神は、あぁいや、流石神を信仰する信者様だ」

 

「今何か言い直さなかったっすか?」

 

「気のせいだ。とりあえず飯食おうぜ――午後の授業を飯無しはキツイ」

 

 

 危うく聖書の神は死んでいると言う所だった。流石の俺でもあれはトップシークレットだという事は理解しているから世間にバレるまでは黙っておこう。平家にはバレてるけど……流石に心を読む覚妖怪に隠し事は無理だな。俺の処理的な意味でのおかずやらなにやらもあいつは心と記憶を読んで知ってやがるし。高校二年生の男の秘密を呼吸するように知ろうとしないでいただきたい。

 

 放課後になって帰宅しようとしているとオカルト研究部の部室付近からドラゴンのオーラを微弱ながら感じた……あぁ、もしかして先輩の方にも行ったのか。それは良いんだがなんで戦ってんだ? まさか喧嘩売った? バカでしょ。

 

 

「それで? あの女はいつ此処にくるの?」

 

 

 深夜、夕食を食べ終えてリビングでゆっくりしていると俺の膝を枕にして携帯ゲーム機で遊んでいる平家がそんな事を聞いてきた。あの女……あの女……もしかして志保、じゃなかった橘の事か?

 

 

「当たり前。眷属にしたんでしょ? いつ来るの?」

 

「いや何時って言われても橘の準備が出来次第だが……なんか機嫌悪くないか?」

 

「別に。アイドルに手を出した鬼畜野郎と思ってるだけ」

 

「おい」

 

「にししぃ~ふぁんにころころされちゃうよぉ~? のわぁ~るぅもわるだねぇ~」

 

「鬼畜ドS野郎。いやー犯される―」

 

「清々しいほどの棒読みありがとう。いや……俺だって橘がまさか即答するとか思ってなかったんだぞ? アイドルだぞ? 人気急上昇中のアイドル橘志保が即答だぞ? 驚くだろ」

 

「ま、まぁ……お話を聞いていた限りでは何時かはと思っていましたし私は反対しませんよ――同じ僧侶、若い、明るくてスタイル抜群……か、勝ち目がな、い……!」

 

「恵。今日は飲もう、お酒飲めないけどコーラ出してくれるなら朝まで付き合うよ」

 

「おっさっけぇ~くれるならいつでもつきぃあうぅ~にししぃ」

 

 

 なんだろうかこの疎外感。俺って王だよな? お前らは俺の眷属だよな? なんだか邪魔者扱いされてるようで酷く悲しいです。たくっ、こんな時の犬月はどこに行ってんだか……行動起こすの早すぎんだろ。

 

 

「仕方ないよ。だって犬っころだもん」

 

 

 何という酷い言葉だろうか。

 

 あの悪魔祓いが現れたせいか、または昨日であった銀髪の女の事を伝えたからなのかは知らないが飯を食って部屋に籠りますわと言ってから今も出てきてはいない。つうかそもそも部屋の中にはいねぇしな……転移で外に行ったのがバレバレだし気づかないと思ってのかねぇ。俺を欺こうとか百年以上は早いんだよばーか。昨日出会ったあの銀髪女を逃がさず殺しておけばまだ少しはマシになったのかねぇ?

 

 

「ムリ。復讐は自分の手で付けなきゃ一生悔やむ」

 

「だよな」

 

「でも……ノワール君が出会ったその女の人が――瞬君の両親を殺した人だなんて思いませんでした」

 

 

 橘を眷属にした事を昨日の深夜にこいつらに伝えた時は犬月の喜びようは凄まじかった……けどその次の俺の言葉で一気に真逆の反応を示した。俺が戦った銀髪の女、その特徴を伝えた途端にテーブルを思いっきり叩いて狂気を孕んだ笑みを浮かべて笑い出した。あの時ほど犬月の本性、いや本音を見れたと嬉しく思った事は無い。アリス・ラーナ、その女こそ犬月の両親を悪魔祓いの奴らと一緒に殺した人物らしい。忘れたくても忘れられないみたいで今でも人形のような無表情を夢に出てくるそうだ……大方、今も町中を散策して見つけ出して殺そうとしてるんだろうな。

 

 

「どうするの?」

 

「あん? 放っておけばいいだろ。あいつの復讐だ、殺すも対話するもあいつが決める事で俺達が関与する理由は無い」

 

「ひっどいおうさまだぁ~」

 

「邪龍を宿した(キング)だからな」

 

 

 むしろ俺が良い王だと思っていたのかと聞きたいがきっとこいつらの事だ、最低最悪の王とか言うだろう。普通なら眷属の一人が復讐に走っているなら止めるだろうけど俺は止めない。自分でやろうとした事を止められたら腹が立つだろう……俺だって嫌だ。俺が嫌だから他の奴にも同じことはしない。戦いを挑んで死にかけたら助けるがそれ以外なら不干渉を貫くつもりだ。

 

 

「……やっぱりノワールってバカだね」

 

「ヒデェなおい」

 

「のわーるだもんねぇ~」

 

「ノワール君ですからね」

 

「……相棒、俺の眷属が酷い事を言ってくるんだが?」

 

『ゼハハハハ! 犯せばよかろう? 主従関係を叩き込むならそれが一番よ! 宿主様の前任者共はベッドの上では野獣だったぜぇ? 複数の女相手に満足させるほどの絶倫よ。それはもう――』

 

 

 何だかどうでも良い話をし始めたからさっさと退散しよう。平家や四季音はへぇやらほぉと言った反応だったけど水無瀬は顔を真っ赤にしながら耳を傾けるという処女丸出しの反応だった。お前……眷属になる前に俺に言ったセリフを今一度思い出せ。いや思い出すな、なんだか面倒な事になりそうだし。いや逆レしてくるっていうなら俺は拒まんぞ。いや嘘だから抓るな……痛いから!

 

 結局その日、犬月が戻ってきたのは早朝になってからだった。そのせいで終始眠いだの帰りてぇだのと平家化していたけど自業自得だ。殆ど寝てねぇんだからな。

 

 

「キマリス君。此処に呼ばれた理由は理解できていますね」

 

 

 時刻は飛んで放課後、生徒会室に俺は呼ばれている。この場にいるのは生徒会長のソーナ・シトリー、オカルト研究部部長のリアス・グレモリー、そしてこの俺の三人と二人の女王のみ。俺は女王がいないから俺一人だけの参戦なんだけど……すっげぇ気まずい。お前何してくれたんだみたいな視線が凄く痛い。

 

 

「天界側、エクスカリバーの所有者二人に対する行動ですか?」

 

「その通りです。今回の一件は下手をすれば三すくみの状況に影響が出ます。それは貴方も分かっているでしょう?」

 

「そうですね。下手をすると戦争に発展しかねない……だというのに高圧的な態度を取ったからこうしてお叱りの場を設けたというわけですね。これでも親切心だったんですよ? たった二人でコカビエル相手に死にに行くようなガキを引き留めてあげようとしたんですから誉めてくれても良くないです?」

 

「確かにあの二人でコカビエルに挑めば無事では済まないでしょう。でも此処は私が治める領地で貴方はその領地を訪れている他所の混血悪魔。いくら影龍王の貴方といえども好き勝手は許されないわ。貴方は一体何を考えているのか教えてもらえないかしら?」

 

「そうですね――うちの眷属の一人を楽にしたい、と言ったらどうです?」

 

 

 俺の言葉に驚いたような反応をされたけどこれは本気も本気、所謂本音って奴だ。

 

 

「……どういう意味ですか?」

 

「先日、俺は堕天使の一派に依頼を受けたと思われる女に襲われました。名前はアリス・ラーナ、神器持ちで有りながらエクスカリバーを行使できるほどの実力者。そして俺の兵士、犬月瞬の両親を殺した集団の一人だそうです。そんな事が分かっていた以上、関わるなと言われてはい分かりましたと言えないんですよ。その女を殺すか生かすかは犬月次第ですがこのまま復讐心を持っているよりは自分で決めた事をして納得させた方が良いでしょう?」

 

「そのために私達を巻き込むというの?」

 

「先輩の騎士だって復讐心に染まっているじゃないですか? それを放って置いてる時点で俺と同類だと思いますよ」

 

 

 俺の言葉にグレモリー先輩は黙り込んだ。きっと反論したいが自分の眷属の一人、木場裕斗の復讐心を消しきれていない事は事実だから何も言えないんだろうな……生徒会長はなんだか呆れて頭を抱えてるっぽいけど。頭痛かな? お薬飲んだ方が良いですよ?

 

 

「それに二人とも誤解しているようですけど俺は影龍王ですよ? 最低最悪で、自分勝手で、自己中で、自己満足の塊で、他人の事なんか微塵も考えていない邪龍の宿主ですよ。たとえ間違っているとしてもこれが俺のやり方で誰にも文句は言わせませんし邪魔もさせません。でも流石に戦争を引き起こすつもりはないんで犬月が本気で暴走しかけたら死ぬ一歩手前まで叩き潰してでも止めますので安心してください」

 

「……はぁ、そのような振る舞いをしているから周りから誤解されるんですよ」

 

「誤解させておけばいいと思いますよ? 俺は好き勝手に生きて、好き勝手に夜空と殺し合う生活さえできればそれで良いんで」

 

「悪魔らしいわね。でもそうね……私も裕斗の暴走を止められてはいないわ。昨日もエクスカリバーを所有している相手に殺意を抱きながら戦いを挑んだんだもの。私の領地でキマリス君が何をしようと構わないわ。ただ魔王――いえ、お兄様に迷惑をかけるというのなら私も本気で対処させてもらうわ」

 

「流石に魔王様に喧嘩売るようなバカは夜空だけですよ。そこまで落ちぶれちゃいませんって」

 

「そう信じたいです。ではこのお話はこの辺にしておきましょう……所でキマリス君、貴方は女王を持つ気はないの? このような場で王を支える役目もあるからそろそろ必要になってくると思うのだけど?」

 

「確かに必要ですけど俺の女王候補があまりにも厄介でかなり先になりそうですね。あぁ、でも僧侶は先日埋まったんで後日紹介します。俺的には学園に転入させようとも考えてますがその辺はそいつの了承を得てからになりそうですね」

 

「貴方が選んだ僧侶……興味あるわね。私の僧侶もそろそろ封印が解けても良いと思うのだけれどまだ私の力不足という事かしら」

 

 

 重苦しい空気は一瞬にして和やかな空気に変化した。

 

 さて色々とあるけど犬月……お前はどんな選択をする? 無数の選択肢があるが選ぶのはお前だから好きなものを選べよ。そして決めたなら決して後悔はするな――お前の心はお前だけの物だからな。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

「……お前、良く食うなぁ。何処に入るんだそんな量?」

 

「ふふ~ん、女の子の別腹は異次元なのさ!」

 

 

 休日、普段であれば部屋でゴロゴロしているところを俺は夜空に拉致されていた。いきなり俺の部屋に転移してきて「お腹減ったぞこのやろぉ~暇だぞこのやろぉ~」と飛び掛かってきやがった……その際に今日履いていたであろう黒いパンツが見えたから俺的には非常に満足まんぞくぅなんだが――なんで殺し合いもせずに飯を奢らないといけないんだ?

 

 そんな俺の考えなんて分かっていないであろう規格外様は出来上がったラーメン10杯目を美味しそうな表情で食べている。テーブルの端に山のように積んである皿の殆どがこいつが食べた料理で店員さんが唖然とした表情で運んできたことは言うまでもない。これって最悪、いや確実にカード払い確定じゃねぇか。流石に万は行くだろこの量は……しかしどれだけ食べようとこいつのスタイルが変化することは無い。背も大きくならなければ胸も大きくならない、残念まだ絶壁だ!

 

 

「女の子、女の子ねぇ」

 

「何疑問に思ってんのさ! どっからどう見てもプリティでちょぉ~可愛い美少女じゃん! 目が腐ってんじゃない? 潰しとく?」

 

「やめい。確かにお前は美少女だが女としてやっちゃいけない事をやってるからなぁ。普通の女はメニューを端から端まで頼んで全部胃の中に流し込んだりしねぇよ」

 

「だってどれだけ食べても体型とか体重変わんねぇもんしょーがないじゃん」

 

「全国の女の子に喧嘩売ったなおい。まぁいい……ちょうど良いから聞くがコカビエルがこの町に居ることは知ってるな?」

 

「もっちろぉん! あの雑魚がこの町で本来のエクスカリバーにしようとしてる事ぐらいこの夜空ちゃんには全部お見通しさぁ! 汁うんまぁ~!」

 

「ちょっと待て……今なんて言った?」

 

 

 無視できない発言しやがったぞこいつ。本来のエクスカリバー? つまり七本に分かれたエクスカリバーを元の一本に戻そうって言う意味だよな……そうだとしたらちょっと拙いな。確か本来のエクスカリバーは現在七本に分けられたモノとは比べ物にならないほどの威力を誇っているみたいだからそんなものを天界、堕天使側が手に入れたら悪魔勢力は結構厳しい……今までそれが出来なかったのは天界側の技術が足りなくて仕方なく折れたエクスカリバーを七本に分けるしかなかったわけだ。でも今回は堕天使側の技術で行うっぽいから一応可能……だよな? だって堕天使勢力の技術って結構高いって聞くし。

 

 でもそうなると最後のエクスカリバー、支配の聖剣も既に手に入れてるってことか? マジで戦争起こしたいんだなぁコカビエルの野郎。

 

 

「だからぁ~エクスカリバーを纏める、つまり一本に戻そうとしてんの。なんか一緒にいる司祭っぽいのがそれを望んでるっぽくてさぁ……マジであの禿げ親父、人の太ももばっか見やがって変態かよとか思ったね。ミニスカ履いてる私も私だけど三十超えたおっさんが十八歳のふとももあそこまで見る? まるでノワールみたいに変態だよね」

 

「おいこら。誰が変態だって?」

 

「だって私のパンツ見て喜んでたじゃん。ねぇねぇ、やっぱり黒ってアダルティだと思う? どうだった?」

 

「すっごく良かった。あぁいや、それは置いておくとして司祭? 何で知ってんだよ……おいまさかお前――」

 

「えへっ♪ 暇だったから会ってきちゃった♪」

 

「――デスヨネ」

 

 

 頭の片隅程度には思っていた事だがマジで会いに行きやがったよこいつ。普通の女の子は堕天使の幹部相手に暇だから会いに来ましたとかしねぇっての……こいつは規格外だから良いか。それより問題はコカビエルと一緒にいた司祭って奴の存在だな。本来敵であるコカビエルに協力してでもエクスカリバーを元に戻したいという願いを叶えたいって事は狂信者確定……すげぇな天界側。神様死んでるのに信仰心高い奴多すぎだろ。

 

 

「お前マジで何してんだよ……まさか殺してねぇよな? 白龍皇にコカビエル殺すねハートマークとか言っちまったんだから手を出すなよ?」

 

「うわっキモ。男がハートマークとか付けないでよ気持ち悪いなぁ。今回は何もしないから安心してよ。私も色々といっそがしいぃの! ノワールみたいに禁手化の追加装備だっけ? あんな感じのを開発中で雑魚に構ってられるほど人間の私は時間が多くないもんね」

 

「追加装備……もしかして影龍王の再生鎧ver影人形融合の事か。お前なら数時間程度で出来るだろ?」

 

「そうだけどさぁ~やるからには徹底的に仕上げたいじゃん? 私の禁手って亜種じゃないし魔王や神を殺すなら出力不足なのよねぇ。というわけで付き合ってよ! どうせ帰ってもオナニーするだけで暇でしょ?」

 

 

 失礼な奴だな。平家じゃあるまいしそんな頻繁にしねぇっての……アイツの場合は週七だから比べることも戸惑うレベルだけども。

 

 

「なんでそれ(オナニー)することが確定なんだよ……まぁ、偶にはお前の強化目的での殺し合いってのも悪くないな」

 

「やった!! じゃあ殺し合いが終わったら今履いてるパンツあげるよ。十八歳の脱ぎたてパンツって嬉しいでしょ? オカズとしては申し分ないと自負してんだけどどうよ?」

 

「そりゃもう嬉しいを通り越して家宝レベルだっての。よしやるか! 何時でも良いぜ」

 

 

 今日は普通に暇だったし夜空のパンツ貰えるなら殺し合うしかないだろう悪魔的に。いや割とマジでテンション上がってんだけど! 脱ぎたてのパンツくれるなんて夜空って良い奴だよなぁ……あれ? でもよく考えてみるとこれ平家に見つかったら包丁とかで刺されないよな? あいつってヤンデレ属性持ちだと勝手に思ってるが外れてないと思う。だって橘が家に来ると聞いてからなんでか機嫌悪いんだよ……嫉妬か、嫉妬なのか? 新しい(眷属)が増えたから自分を構ってもらえなくなるとか思ってんのか? なんか可愛いなおい。

 

 いきなりメールが届いたので確認すると「当たり前。とりあえずノワールの机に私のパンツ置いておく」というありがたいのかよく分からなくなる内容だった。ちょっと待て……この場所って家から離れてるから心読めないはずなんだけど? まさか近くにいるのか!? マジでどっかにいるの!?

 

 

「自分で言った事だけどそんなに嬉しいもんなの?」

 

「男だからな。お前が抱いても良いよとか言ってくれた日には他勢力の神々を殺せるかもしれない」

 

「へぇ。じゃあヤル? 処女だけどノワールが私を抱きたいって言うなら処女あげても良いけど」

 

 

 まさかの超展開。夜空が処女だと言う事は少しだけ重要ではあるが今は後者の事を追求するべきだな。マジで抱いて良いの? えっ、頑張っちゃうよ?

 

 

「……マジで? あっいやこのマジでっていうのは処女云々じゃなくてマジで抱かせてくれるのかと言う意味な。あのマジでいいの? 俺童貞だぜ?」

 

「冗談に決まってんだろこの童貞野郎。あっ、一応言っておくけどマジで処女だからね? ホームレスだったけど変なおっさんとかに捧げてるとかねぇから。これでも初めては好きな相手って女の子らしい夢持ってんの。でもノワールが私が処女だっていう証拠が見たいなら確認するぐらいだったら良いよ? 精々オカズにでもするといいさ」

 

「テメェこの野郎、童貞からかって楽しいのかあぁん? でも言ったな? よし家帰るぞ、さっさと見せろマジで見せろ」

 

『夜空。あまり女子がそのような事を言うものではありませんよ』

 

『俺様、久しぶりに宿主様にドン引きしたぜぇ』

 

 

 うるせぇ。男で童貞なんだから脱童貞の機会もどきが来たら誰だってこうなるわ。たとえ不幸体質と酒飲みと引きこもりとアイドルと言うどこかのエロゲーかと思いたくなる女子勢と一緒に居るとはいえまだ童貞なんだよ。そろそろ卒業したいんだからチャンスは掴むべきだろう!

 

 

『歴代影龍王で一番早く童貞卒業をした奴は十三の時だな。美女の年上二人に逆レされてたぜぇ』

 

「そりゃすげぇ。さて冗談は置いておいて――なんかすっげぇ見られてるんだけど?」

 

「だねぇ~赤龍帝とノワールの兵士、あと誰か分かんねぇけど見てるね。殺していい?」

 

「白いローブ着てる女二人だったらいいぞ」

 

「オッケー」

 

「待て待て待て!!! 飲食店で物騒な事言うんじゃねぇ!?」

 

 

 離れた席で聞き耳をしていた赤龍帝がツッコミを入れるべく近づいてきた。いや半分程度は冗談だから本気にしなくても良いぞ?

 

 俺と夜空がこの場所に来てからしばらくすると赤龍帝達が白いローブを着ている女二人と一緒に店に入ってきた。入り口から見える席に座っていたせいか全員に二度見されたけどこっちは今までスルーしてたんだよなぁ。だって絡む理由ないし夜空の相手で忙しいし。結局、赤龍帝達は俺達の席から少し離れた場所で何やら話していたみたいだけど……意識はこっちに向けられてたのは分かっていた。そりゃ光龍妃と影龍王がこんな真昼間からデートしてたら誰だって気になるわ。

 

 それにしても赤龍帝に犬月に匙君に白髪ロリに雑魚聖剣使い二人か……ちょうど男が三人、女が三人だから合コンできるな! 個人的には夜空をお持ち帰りしたい。俺は何を言っているんだろうか? どうやらテンションがおかしくなってきてるみたいだからそろそろ落ち着こう。

 

 

「赤龍帝、休日に会うなんて奇遇だな」

 

「今まで気づいていてスルーしてた癖によく言うな……まぁ、き、奇遇だな! そっちの人もあの、お久しぶりです」

 

「やっほぉ~元気にしてた?」

 

「あ、ハイ……えっとあの時は本当にありがとうございました。おかげで部長を助けることが出来ました」

 

 

 そう言って夜空に向かって頭を下げてきた。あの時っていうのは恐らくグレモリーとフェニックスの婚約パーティーの事だろうけど……前々から思ってたが赤龍帝ってエロに素直なだけで根は真面目だよな。悪い所なんてエロい所だけじゃね?

 

 

「面白いものが見れたからべっつにいいよぉ~だ。なになに? 合コンでもすんの? うわっやるねぇ。どれお持ち帰りすんのさ?」

 

「お持ち帰り……い、いや違いますって!?」

 

「えぇ~しないの? デカ乳二人に――同士(貧乳)発見! 是非あの白髪ロリっ子をお持ち帰りしてよ!!」

 

「――あぁ」

 

「おいこら。何処見て納得したか言ってみ? 今なら玉潰す程度で許してあげる。お前ちっぱいすげぇんだぞ! 感度高いって相場が決まってんだからさ!」

 

「それやったらキマリス家が断絶するわ。感度高い云々は試してみないと分かんねぇからまずは抱かせろよ。玉潰すのはその後なら、まぁ……いやダメだな。お前が俺のガキ産んでくれるなら少しは考える」

 

「んじゃいいや。てかなに? 私を抱きたいの?」

 

 

 凄く抱きたいっす。

 

 

 

「まぁな。とりあえず赤龍帝、こいつの言う事を真に受けてたらツッコミが追い付かないから諦めろ」

 

「お、おぅ……ってあの、黒井、いや黒井さん? 此処での出来事は……その部長には――」

 

「言わねぇよめんどくせぇ。何しようとお前らの勝手だしそれを束縛することはたとえ主様でもできねえんだよ。それが生きている奴の特権だしな。ほら夜空、殺し合うんだろ?」

 

「そーだった! グッバイ赤龍帝! また面白い事したら教えてねぇ~」

 

 

 俺は夜空が食べ尽くした料理の会計を済ませるためにレジへを向かう。そこで見た金額は多分一週間位は忘れないだろう。マジでどんだけ食ったんだよこいつ……! 結局手持ちが足りなくてカード払いになったけど人の金なんだから少しは遠慮しろよ? 無理って元気よく返事すんじゃねぇよ!

 

 会計を終えた後はいつものようにキマリス領まで転移して約束通りに殺し合う事にした。でも残念な事に夜空が思っていたような追加装備もどきを発生させる事が出来ず、今まで通り普通に殺し合うだけだったけど……楽しかったわぁ。腕とか足とか下半身全部吹き飛んだりしたけど再生するから良いやって感じで何度も光に突撃してたのはきっと変にテンションが高かったからだろう。だってパンツ貰えるし。男ってマジで単純なんだなぁと思った事はこれほどないな。

 

 

「王様……ちと話あんだけど」

 

 

 時間が進んで深夜。遅い時間に帰ってきた犬月がシャワーを浴び終わり、一息ついたところで俺を呼んだ。理由なんて考えなくても分かるな……昼間の飲食店の事だろう。

 

 

「なんだ?」

 

「あ、いや……今日からいっちぃとげんちぃ達と一緒にエクスカリバー破壊計画開始すっから帰りが遅くなるっす。だからできれば契約とか……その、しなくていいっすか?」

 

「良いぞ。お前がやりたいって思うんだったらとことんやれ。でも普通隠すだろ? 何でバラす真似したのか教えてくんね?」

 

「引きこもりがいる時点で隠し事なんて無理に決まってるっすよ」

 

「当然。ノワールが光龍妃のパンツを大事に保管した事すら把握してるんだし犬っころの隠し事程度は余裕でお見通し」

 

「お前マジで遠慮しろよ。あとパンツありがとう」

 

「どういたしまして。ちゃんと使ってくれないと怒るよ?」

 

「……そう言えば昼間もそんな会話してましたね。ホント真昼間から話すような内容じゃねぇっすよ? いっちぃやげんちぃなんて半分ドン引きで半分興味津々でしたからね?」

 

「いずれ慣れるから大丈夫だ問題ねぇ」

 

 

 そもそも夜空と話しているとあんな感じの会話になるしな。あいつもう半分以上は女を捨ててるようなもんだし自分から振ってくるんだもん。あれでよく女の子とか言えるよな……見た目だけだろ女の子なんて言えるのはさ。

 

 ちなみに今回の殺し合いと飯奢りの対価として脱ぎたてパンツは無事ゲットした事は言うまでもない。ありがとうございましたぁ!

 

 

「にしても良いのかよ? 赤龍帝と一緒にって事はあの聖剣使い共とも一緒なんだろ?」

 

「……正直な所、ホントは協力したくはねぇっす。でもあの女――アリス・ラーナを見つけ出してぶち殺すためには嫌でも協力した方が見つけやすいと判断しただけだ。この手で八つ裂きにするためにもな……!」

 

 

 殺意を帯びた眼差しでハッキリと言った。復讐、いや負の感情は人を強くするキーの一つだから否定もしないし拒んだりはしない。だけど問題はこいつ……あの銀髪女を殺したら絶対生きる活力を失う気がするな。今の生活も復讐という存在、感情があるからこそのものでそれが失った後なんて考えなくても分かる。

 

 

「王様、俺は俺の心のままに動きますよ。止めてぇなら俺をぶっ倒してください、それぐらいしねぇと止まらねぇっすよ」

 

「知ってるよ。まっ、好きにしろ。俺は俺で勝手にやるしお前はお前で勝手にやる。それでいいだろ?」

 

「それでいっすよ……ちゃんと、ちゃんと帰ってきますから」

 

 

 そう言い残して部屋に帰って行った。帰ってくるか……あぁそうだ、帰ってこい。お前の成長を、お前の力をもっと見せてもらわないと困るんだよ。

 

 

「エクスカリバーの破壊。犬っころの心を読んだけどどうやらグレモリー先輩の騎士のためだってさ。中々ダークな生い立ちみたい」

 

「あのイケメン君が? んな感じには見えなかったがなぁ」

 

「うん。聖剣計画、その生き残り……気持ち悪くなるからあまり言いたくないけど結構悲惨な過去みたいだね。まるで私や恵みたい」

 

「なるほどねぇ。俺の所も大概だがグレモリー先輩の所も大概だよな」

 

「猫又、赤龍帝、堕天使の娘、シスター。そしてイケメン先輩……不幸眷属?」

 

「本人達の目の前で言うのはやめような」

 

 

 多分、いや絶対と言って良いほど約二名ほどは隠してるようだし態々バラすような真似は避けたい。何言われるか分かんねぇしな……でもなんで隠してんだろ? 猫又なのも堕天使の娘なのも俺達の業界じゃ結構普通だろうに謎だねぇ。どうでもいいけど。

 

 

「平家。しばらくは犬月の動向を探っとけ。あの銀髪女に殺されるとめんどくせぇ……あいつが弱いわけじゃないが感情で本来の力を出し切る前に殺されかねん」

 

「了解。めんどくさいけどパシリが居なくなるのは避けたいし今回だけだよ」

 

「頼むわ……んで、橘が此処で過ごす事だけどだ、大丈夫だよな?」

 

「……ノワールが決めた事だからもう良いよ。でも部屋どうするの? 空いている部屋無いんだけどまさか相部屋とかじゃないよね?」

 

「そんなわけあるか。四季音に頼んで改装させるんだよ、既に周りの一般家庭様には拒否権のないお話をしてお引越しの準備してもらってる」

 

「流石悪魔だね。他人の事情なんてどうでも良いというその交渉、痺れるし憧れるよ」

 

「褒めるなよ。と言うわけで近々こういう部屋が欲しいというリクエストを募集すっから何か考えておけよ? 予算は全部親父持ちだから派手にやろうぜ」

 

「お義父さん泣くよ?」

 

「泣かしておけばいいんだよ……どうせ母さんとイチャついてるだろうしな」

 

 

 結婚から約十数年、未だに新婚気分でいられるとこっちが困るというかムカつく。独り身というか彼女いない俺に喧嘩売ってんのかと言いたくなるんだよ……母さんは悪くないけど親父は調子に乗っててなんかムカつくからこれぐらいはしても問題ない問題ない。マザコンではない、もう一度言うがマザコンではない。

 

 

「とりあえず、さっさとコカビエルぶっ殺すか事件起こすまで待つか……どっちにすっかねぇ」

 

 

 個人的には前者だが犬月の成長のためにあえて後者と言うのも捨てがたいが……良いか。しばらく放置して何も起きなかったら探し出してぶっ殺そうか。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

「――エクスカリバー破壊作戦を開始して数日経つが特に何も起きてねぇみたいだな」

 

「だねぇ~のわーるぅてきにはぁざんねんぅかなぁ?」

 

「まぁな。こっちもコカビエルから何かしらの接触があるかなぁとか思ってたけど特にないしな」

 

 

 時刻は夜、水無瀬が作った晩飯を食べ終えた俺はリビングでいつものようにソファーに座りながらテレビを見て寛いでいた。普段であれば平家が俺の膝を枕にして何かしらの事をしているが今回は平家の代わりに四季音が隣に座っている。その手に酒が入った瓶を持ってご機嫌な様子だけど漂ってくる強い酒の匂いで少し、いやマジで吐くかもしんねぇ……本当なら距離を取りたいし逃げたい所だがこの鬼は俺の腕を掴んで逃がさないようにしてやがる。くっそ! 平家は部屋に引きこもってゲーム、水無瀬は風呂、犬月は宣言通り赤龍帝達と一緒に外に出ているから助けも呼べない……唯一俺の心を読んでいるであろう平家はゲーム優先で絶対に部屋から出てこないだろう。そもそもなんで腕掴んでるんだよ? これが肉食系女子の積極性なのか?

 

 てか犬月、いい加減帰ってこい。心優しい大天使水無せんせーがお前のためにレンジで温めても美味しい夕食を作っているんだぞ? マジでいい女だよなぁ、結婚するならこれぐらいの女子力が欲しい。

 

 

「そろそろこっちから探して見っかなぁ。夜空に聞けば場所ぐらいは分かんだろ」

 

「だろうねぇ~こうりゅうきぃはいろんなとっころぉにいってるもんねぇ~にしし、こっかびぇるとたたかうならわったしぃもさんかするよぉ――仲間外れにしたらぶっ飛ばすかんね」

 

「痛い痛い腕折れるっての!?」

 

 

 余程嫌なのか掴んでいる俺の腕を軽く力を込めて握り始める。軽くとは言ったがなんかミシミシと音がしててすっごく痛い。マジで痛いし……流石鬼、かなり加減してもこの握力ときたか。戦車だっていうのもあるだろうけどそれにしたって握力あり過ぎだ。

 

 

「堕天使の幹部と戦えるなんて滅多にないんだ。この私を抜きにして自分だけ楽しもうだなんて思ってないよね?」

 

「流石に思ってねぇよ。どうせコカビエルに賛同している奴らも一緒に出てくるだろうしお前にはそいつらを相手にしてもらおうと思ってる……んだよその顔? 嫌なのか?」

 

「嫌だね。最近おもいっきり戦ってないから身体がねぇ。分かるでしょノワール」

 

「その気持ちはよく分かるよ。だけどコカビエルは俺の獲物だ――いくらお前でも俺の楽しみを奪う事は許さねぇ」

 

 

 四季音の顎下に指を入れてクイッと少し上を向かせる。今のセリフは俺の本心、折角楽しめそうな戦いだっていうのに誰かに盗られるのは我慢ならない。有無を言わさない視線と空気を放っていると何故か知らないが徐々に四季音の顔が赤くなってきた……なんだろう、なんか可愛いな。鬼と言っても見た目は美少女、子供体型なのと酒の匂いさえなければさらに良かったがそれでも美少女だ。というか酒が入っている時と抜いてる時の差が激しすぎんだよ……ギャップが合って良いとは思うけどさ。

 

 

「っ、あ、し、しょうがないね! でも今度強い相手が出て来たら譲らないと、お、怒るかんね!」

 

「はいはい。その時は頼りにしてるよ」

 

 

 顔の赤みを隠すためか酒が入ったボトルを一気に飲み始めた。にしても本当に酒強いよな……鬼と言う種族だからなのかこいつの一族がそうなのかわかんねぇけど昔、親父達と飲み比べをして酔いつぶれる事なく圧勝してたな。眷属にしてから一緒に暮らしてるけど一度もこいつ(四季音)が本当の意味で泥酔、酔いつぶれる所なんて見た事ねぇが……一回だけ俺の目の前で酔いつぶれてくれねぇかなぁ。その時は日頃のセクハラのお返しとして色々と……変な事考えると平家になんか言われそうだし止めておこう。

 

 四季音の様子を見た後はテレビに視線を移す。そこで流れているニュースは『橘志保、アイドル活動休止!』というタイトルがデカデカと前面に押し出されている。今更ながらもっと反対しておけばよかっただろうか……アイツの歌と笑顔に元気付けられた人は多いだろうからなぁ。

 

 

「ノワール君、お風呂空きましたのでいつでも……あら、志保ちゃんのニュースを見ていたんですか?」

 

 

 後ろから水無瀬が話しかけてきた。エロい、いやエロイな……二十代の風呂上り寝間着姿とか高校二年生にとっては目に毒だ。ごく一般的なパジャマだけどそれがエロい。

 

 

「どの局も同じことしかやってねぇんだからしょーがねぇだろ。橘が人気過ぎた結果だが学業優先での休業ってだけでここまで騒がれるもんか? あいつからしたらすげぇ迷惑だろうに」

 

「仕方ないですよ。志保ちゃんの笑顔と歌で元気付けられた人もいますでしょうから。志保ちゃんは大丈夫なんですか?」

 

「問題ねぇよ。事務所の方も休業に関しては認めてるし橘自身もちゃんとテレビで説明したしな。これで不満に思ってる奴はファンじゃねぇよ。でもこれ……休業したのと同時に男と同居とかバレたらヤバいんじゃね?」

 

「ファンにコロコロされるね。にしし! ノワールの女たらしが招いた結果だからどうなるか楽しみだね」

 

 

 確かに色々と拙いだろうが学園内では無理だが外では認識疎外の術を使うらしいからまずバレないとか言ってたな。一応俺の方でもこの家周辺で橘の姿が別人……と言っても少し似ている人程度に見える様にするから大丈夫だとは思う、けどやっぱ不安だな。俺自身も橘志保のファンの一人だからあいつが高校卒業してちゃんと復帰できるように頑張らないと。

 

 テレビのニュースを話のネタにしていると携帯に連絡が入った。ディスプレイに映っていた名前は何という事でしょう……先輩だよ。うわっ、なんだろうすっごく嫌な予感しかしない。

 

 

「――はい、黒井です」

 

『キマリス君。話をしても大丈夫かしら?』

 

「問題ないですよ。それで何か用ですか?」

 

『今から外に出られる? イッセーと小猫、キマリス君とソーナの兵士が勝手な事をしていたの。お灸を据えてあげたいから一緒に来てもらえるかしら?』

 

「分かりました。場所はどの辺です?」

 

 

 あちゃ~バレたか。声からして地味に怒ってるな……可哀想に。こっちは怒る気はさらさら無いがあのお二人は厳しいからねぇ。

 

 グレモリー先輩から場所を聞いて四季音と水無瀬に出掛けてくると伝えてから転移。次に俺の視界に入ってきたのは公園で赤龍帝と匙君、白髪ロリ――そして血だらけの犬月だった。俺がやってきたのと同時に先輩方が転移してきたけどまず目に入ったのが血だらけの俺の眷属だったんだろう……凄く驚いてた。誰だって目の前に血だらけの男が居たらビビるわな。

 

 

「おう、さまぁ……カッコわりぃところ、みせてるっすね」

 

「全くだ。アリス・ラーナにでもやられたか?」

 

「……そっす。四肢のどっかを斬り落とされなかっただけラッキーでしたよ……全然、勝てなかった」

 

「当たり前だ、負の感情丸出しで勝てるほどあいつは甘くねぇぞ。んで? このまま黙って帰る気じゃねぇだろうな?」

 

「んなわけ、ねぇっすよ!」

 

「良い返事だ」

 

 

 影人形を生み出して包帯のように変化させ、犬月の身体に巻き付けて止血を行う……この場にシスターちゃんが居たら回復をお願いしたかったがいない奴の事を考えても仕方がない。周りも突然の事態に驚きを隠せないようだが生憎キレてるわけじゃないから安心してほしい。

 

 

「影人形を変化させて包帯代わりにした。動きにくいと思うが我慢しろよ。犬月、アリス・ラーナはどこに居る?」

 

「……あざっす。あいつの匂いはどこにもねぇけどイケメン君や聖剣使いの匂いを追えば問題ねぇっすよ」

 

「んじゃよろしく」

 

「待ちなさいキマリス君」

 

 

 犬月を連れてこの場を離れようとするとグレモリー先輩に引き留められた。うわっ、めんどくせぇ……黙って逃げて良いかな?

 

 

「どこに行くのかしら?」

 

「犬月と戦った女の所ですよ。何か問題でも?」

 

「あるわ。貴方……イッセーがこのような事をしていた事を知っていたのね。何故止めなかったのかしら?」

 

「止める理由がありますか?」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「個人の自由を奪う事なんて誰にもできませんよ。俺にも先輩にも生徒会長にもね。確かに夜空と飯食ってる時に赤龍帝達が密談してたのを見てましたし犬月からも聞いてました。でも本人たちがやりたいって言ってるんだからやらせておけばいいと判断したまでですよ。それに前に言わなったでしたっけ? 俺は最低最悪で自己中で自分勝手な邪龍様ですよ? 止めるとかめんどくせぇ事するわけないですよ」

 

「そうだけど……でも、貴方も王よ。眷属の行いでもし戦争になったらどうするつもり?」

 

「その時はその時ですよ」

 

「……はぁ、キマリス君。貴方のその考えが間違っているとは言いません――ですがいずれ、その考えは誰かを不幸にします」

 

「不幸、不幸……くくく、くっくく……! あはははははは!!」

 

 

 笑えるな。不幸になるか……生徒会長ってば面白い事を言ってくれるよ全くさぁ! 不幸を通り越して災厄に近い邪龍をこの身に宿してるってのに不幸になる……やっべ腹いてぇ!! もう真面目な生徒会長からそんなギャグ言われると俺もうどうしたら良いか分かんねぇ!!

 

 いきなり笑い出した俺に驚き、いや恐怖を抱いてしまったのかグレモリー先輩も生徒会長も、この場に居る犬月を除いた全ての人物は一歩だけ後ろに下がっていた。

 

 

邪龍()にとって不幸は普通ですよ? 今までずっと不幸だったんですから。ガキの頃に自分の家の奴らに殺されかけて、神滅具宿してる事が分かったら上は掌返し。自分で与えた地位の癖に陰で罵ってあいつ等ホント暇だよな。マジで近い将来あいつらぶっ殺すか……まぁいいや、生徒会長」

 

「……なんですか」

 

「不幸、その程度だったら俺は何度も味わってますよ。よく分かっていないようだから言わせてもらいますけど――ドラゴンを宿してる奴の人生を軽く見てんじゃねぇよ」

 

 

 犬月を連れてこの場から離れる。ドラゴンを宿している奴の運命は酷く残酷だ。強い力はさらに強い力を引き寄せる……良い奴も悪い奴も関係なくな。ガキの頃にキマリス家の奴らに母さんと一緒に殺されかけて運よく夜空に出会い、助けられた。その日から地双龍、影龍王として光龍妃と殺し合う日々が始まったんだ。それが嫌だってわけじゃない……やめたいというわけでもない。俺がムカついているのは自分の価値観で不幸と言う言葉で纏められるのが一番ムカつくだけだ。

 

 犬月も俺の苛立ちが分かっているのか終始無言だった。イケメン君達の匂いを追って案内はしてくれてはいるが言葉は話さない。悪いな……気を遣わせてよ。

 

 

「ほう。これは面白い奴が来たものだ」

 

「黒井君!?」

 

「影龍王……何故此処に!?」

 

 

 案内された先にいたのは傷ついた様子のイケメン君とゼノヴィア、ダメージを負って膝を地に付けているイリナ、それらと相対するはぐれ悪魔祓いとアリス・ラーナ。色々とカオスな状況だが上空で笑みを浮かべている黒い翼が生えた男――コカビエルの存在感がヤバい。背に十の翼を生やして俺の到着が嬉しかったのか狂気染みた表情になっているけどきっと俺も同じだろう。

 

 

「コカビエル。やっと見つけたぜ」

 

「ククク……まさか影龍王が直々に俺の前に立つとはな! この町に来てよかったとすら思うぞ!!」

 

「そりゃどうも。あのさ、アンタを殺す気でいるんだけど良い?」

 

「ほう。俺を殺すときたか! 良いだろう!! では殺し合お――ごほっ!?」

 

「――なるほど、そういう事か」

 

 

 即座に禁手化、影龍王の再生鎧を身に纏いコカビエルに突撃して腹に一発拳を叩き込んだ。その時の感触で全て理解した……目の前にいる男は本体ではない。恐らく幻術、しかもエクスカリバーによって作られた高度なものだ。いわば有幻覚と言うべきか? すげぇなエクスカリバー。それを使っている奴もすげぇけど。

 

 

「コカビエル。アンタ此処にはいないな?」

 

「――よく分かったな。この俺がこんな場所に訪れるわけないだろう? 高みの見物をさせてもらっているさ」

 

「……なんだと!」

 

「きゃっは~! うちのボスがそう簡単に出てくるわけねぇだろ! ねぇねぇどんな気持ち? 見つけて喜んでいたのに実はいませんでしたとかどんな気持ちィ~? つかテメェ!! この僕ちんの美しいお顔を台無し死してくれたあ~くまさんじゃあ~りませんか? し・ね・よ――ぶへえ!?」

 

 

 人の速度じゃない速さで近づいてきたはぐれ悪魔祓いをぶん殴って黙らせる。あらら、顔半分潰れてるのにもう半分も潰れたな。良い男が台無しだぞ? でも殴った時の感触的にこいつは実体だな……コカビエルだけがこの場にいないという事か。

 

 

「状況は不利と判断します。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と共に一度撤退します」

 

「いたい、いたぁ~い! 顔がぁ~つ・ぶ・れ・たぁ!! つかこんのクソビッチ! 何逃げようとしてんだよあぁん? おいてかないでぇ~!」

 

「ククク……影龍王! お前との決着はこの場よりもふさわしい場所で行おう! 場所は駒王学園だったかな? 魔王の妹二人と貴様が通っている場だ、エクスカリバーの集約にはふさわしい」

 

「ま、待て!!」

 

 

 イケメン君の言葉も空しく銀髪女とはぐれ悪魔祓いはどこかに消えた。今の言葉が本当だとするとコカビエルは駒王学園に居るって事か。そこでエクスカリバーを一つにしようというわけね……幻術を使った偽物でこの場を訪れるとは案外用心深いな。流石幹部、やることが小物っぽいけどエクスカリバーの一本を持っていかれたのは最悪だな……エクスカリバーが一本になるための駒が揃いつつある。

 

 地面に降りて一番ダメージが大きいであろうイリナに近づいてみると戦闘服と思われるボンテージっぽい服が破れていて非常に目に毒だ。すげぇ……デカい。俺と同年代でこの発育なの? 平家さん涙目じゃねぇか。

 

 

「このダメージじゃ復帰は無理だな」

 

「そ、そんな事はありません! まだ戦え――うっ……な、ん……で」

 

「貴様! イリナに何をする!!」

 

「足手まといで邪魔になるから気絶させた。聖剣も無くこの傷のままコカビエルを追っても完全に邪魔になるし人質にされたら困る。俺以外の方々はお優しいから人質ごとぶっ殺すという手は考えないんでね……文句があるならかかってこい。まぁ、傷云々って言ったら犬月にも言える事だが休めって言っても聞かねぇしもし仮に人質になったら迷わず殺すから問題なし。さてどうする? コカビエルを追うか此処で俺に気絶させられるかの二択だ。好きな方を選べ」

 

 

 腹パンで気絶させた女を担ぎながら残った二人に殺気を織り交ぜた視線を向けると無言で武器を下ろして頷いた。手も足も出ずに此処で潰されるよりも一緒に追った方が得策……そんな判断が出来ているようで何よりだ。さてこいつをどうすっかなぁ……生徒会長にがん投げしよう。確かこの人の領地って医療が発展してる所だし預けておけば回復するだろう。

 

 二人と犬月、俺と荷物(イリナ)の四人で再び転移、先ほどの公園に戻ってくると何故か赤龍帝と匙君が主二人にお尻ぺんぺんされていた。うわぁ、眷属って言ってもペットじゃねぇんだからそれは無いだろ。戻ってきた俺達に気づいたのか視線をこっちに向けてきたので荷物を生徒会長に放り投げてコカビエルが駒王学園に居るという事を教える。勝手にやるとマジで魔王様に告げ口されてお叱りを受けそうだしな……でも何故だろう。そうなったらあの規格外がこの二人を殺す未来が見える……多分一瞬で死ぬだろう。だってこの人たち弱いし上級悪魔の中では中くらいだし。

 

 そんなわけで橘を除いた俺達キマリス眷属、先輩率いるグレモリー眷属、生徒会長率いるシトリー眷属と聖剣使い一人が駒王学園に集まった。目的は俺達からも伝えられた情報が事実だという事が判明したのでコカビエル討伐戦を開始するためだ。確認作業が必要なほどの嘘を言うほど暇じゃないんだけどねぇ……仕方ないけど。

 

 

「これより駒王学園の周囲を結界で覆います。これで外には被害は出ないでしょう」

 

こっち(キマリス眷属)からは三名ほど結界構築に人員を出す。平家と水無瀬、お前らは残れ。四季音と犬月は俺と一緒に中でパーティーだ」

 

「……あと一人は、もしかして新しい僧侶ですか?」

 

「そういう事。呼んだからもう少ししたら来る……あっ、来たわ」

 

 

 近くの地面に魔法陣が描かれてとある人物が転移してくる。それは巫女装束のような白い着物を身に纏っている俺の新しい僧侶――橘志保。肩にはオコジョを乗せており、少し急いできたのか息が乱れている……その仕草が地味にエロい。その人物の登場に真っ先に驚いたのはグレモリー、シトリー両陣営の兵士二名で目を擦って夢かみたいな反応をしている。確かにいきなりテレビでしか見れないアイドル橘志保が巫女っぽい服装をして魔法陣から出て来たら驚くよな。

 

 

「お、遅れてすみません! 橘志保! ただ今到着しました!」

 

「いやいきなり呼んだこっちが悪いんだし気にしてねぇよ。てかなんでその格好?」

 

「私の戦闘服です。悪魔さんは一度見ていたと思うんですけど……?」

 

「……あぁ、そういえば初めて会った時はその格好だったな。なんせ結構前の事だから今の今まで忘れてた。その服装、似合ってるぞ」

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

「女たらし」

 

「おいこら。いきなりヒデェ事言うな――あん? なんだ赤龍帝に匙君? なにこの肩に置かれた手は?」

 

「黒井……いや黒井様、一つだけ聞かせろ、いや聞かせてください!」

 

「あの……橘志保さん、いやしほりんがなんで此処に居るんだ!?」

 

「俺の僧侶だからに決まってんだろ」

 

「はい! 数日前に悪魔さんの僧侶になりました。橘志保です! アイドル活動は一時休業しちゃったけどよろしくね♪」

 

 

 いつものように素晴らしい笑みとポーズで挨拶をした。うん揺れたね、ホント揺れたわ。マジでデカい。

 

 

「ほんものだぁぁぁぁ!! うぉぉぉぉぉ!!! 会長の兵士やっててよかったぁ!!」

 

「悪魔やっててよかったぁぁぁぁぁ!! お、俺! 兵藤一誠! よ、よろしく!!」

 

「兵藤テメェ! 俺は匙元士郎っていうんだ! よろしく橘さん!」

 

「はい。よろしくお願いします! えっと、近々駒王学園の方にも転入予定なのでよかったら仲良くしてもらえると嬉しいです」

 

「するする! 仲良くしよう!」

 

「俺は生徒会に所属してるから何かあったら言ってくれ!」

 

 

 男二人の異常な盛り上がりに俺達はドン引きだった。流石アイドル……笑顔を崩さない素晴らしい笑みだ。平家から聞いたが心の中でも赤龍帝と匙君の反応は嫌がってるような感じではないらしい。流石アイドル! すげぇ……アイドルの鏡だわ。しかし橘が来ている巫女服っぽい服装だけど機動性を地味に重視してるのか所々に素肌が見えるようになってやがるな。特に腋、腋見えてるよ! いやぁエロいわぁ。アイドルの脇が見放題とか王やっててよかったよ割とマジで。

 

 

「というわけで橘も学園に通う予定なので色々とよろしくお願いします。一応パパラッチとかそこらへんの対応はこっちでもするんで迷惑になるようなことはしないことはお約束します」

 

「お願いします。ですけど……まさかアイドルの方を眷属にするとは思いませんでした。キマリス君の趣味ですか?」

 

「んなわけないでしょ。あいつ、退魔の家系で昔、あいつの両親に召喚された事があってそれが縁で今まで契約のお得意様だったんですよ。ただとある情報筋から堕天使が狙ってるみたいな事を聞いたんで先手を打つために眷属にしました。あの……まさかさっきの事を根に持ってます?」

 

「さぁどうでしょうか」

 

「うわっ、根に持ってるよこの人……おっとそうだ。橘、来てもらってあれなんだが今回は結界構築に力を貸してほしい。長くなるから説明を省くが学園の中に悪人がいるからそれをぶっ飛ばすまで外に被害が出ないように頼む」

 

「分かりました。結界でしたら得意ですし全然問題ありません。悪魔さんのお役に立てるならいっぱい頑張りますね!」

 

「……相棒、俺泣きそう」

 

『良い子だなぁ。どっかの大酒のみやヒッキーも見習ってほしいぜぇ』

 

 

 こんな良い子が俺の眷属でいいんだろうか? いや良いな! 癒し枠が必要だったし何も問題は無い! あと脇が素晴らしいです!

 

 橘は後ろに控えていた平家達と合流して色々と挨拶をしたりしている。うんうん、仲良い事は素晴らしい事だが平家がすっげぇ微妙な顔してる。仲良くしなきゃいけないけどなんか嫌みたいなそんな感じ。橘の心でも読んだんだろうけどあんな良い子が俺みたいなゲスっぽい事を考えるわけねぇのに何であんな変な態度になってんだか……まさか自分より女の子らしい奴がやってきて俺を奪われるとか思ってんのか? やっぱ可愛いなあいつ。

 

 

「コホン。では状況を纏めます。現在コカビエルは賛同する者を連れて駒王学園内に潜伏しています。私たちシトリー眷属とキマリス眷属から水無瀬先生、平家さん、橘さんの三名が周囲に結界を張りますが一時的でしょう。コカビエルが本気を出せばこの辺り一帯を焦土にできますから……リアス、魔王様に報告は――」

 

「……しているわ。お兄様が此処にやってくるまで一時間弱、私達は足止めと言った所ね。今の私達ではコカビエルには勝てないもの……キマリス君、貴方ならコカビエルに勝てる?」

 

「勝ちますよ。あの程度なら覇龍を使わなくても問題ないですが……問題はあの規格外が乱入してくるかもしれないって事です。夜空からは今回の件には関わらないと聞いてますけどやっぱりやめたぁ~とか言って転移してくるかもしれません。そうなればおれは夜空を抑えないと周りが死ぬんでコカビエルを放置する事になりますね」

 

「そう……来ないことを祈りたいわね」

 

「まぁ、それが無い限りはコカビエルはお任せを……先輩、犬月の治療をしてもらいありがとうございました。これであいつも心置きなく戦えます」

 

「戦力は一人でも多い方が良いもの。お礼ならアーシアに言ってちょうだい」

 

「既に言ってますよ。でも王である貴方にも一度、ね」

 

 

 シスターちゃんの神器によって犬月は完全回復している。だから学園内に居るであろうアリス・ラーナともう一度本気で戦えるというわけだ……コンディションは万全で落ち着いている。今度はさっきのような状態にはならないだろう。期待してるぜ俺の兵士君。

 

 グレモリー先輩の騎士、イケメン君も落ち着いている様子だけど心の中はドロッドロだろうなぁ。暴走してうちの眷属に被害が出そうになったら有無を言わさず叩き潰しておこう。聖剣使いの方は……片割れが心配なのか別の方角を見ているようだ。生徒会長の領地にある病院で手当てを受けてるようだし死にはしないんだから殺し合いに集中してほしいよ。

 

 

「――では行きましょう。コカビエルの野望を打ち砕くわよ」

 

「――行くぞ犬月、四季音。俺の楽しみを奪ったら殺すぞ」

 

 

 こうして俺と先輩は眷属を率いて学園内に入っていく。

 

 それは殺し合いの始まりを意味しているが関係ない――普通に殺すだけだしな。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

「こりゃまたとんでもねぇことしてるなぁ」

 

「そりゃエクスカリバーを一本に纏めようってしてるんすよ? これぐらい派手じゃなかったらどうするんすか」

 

「それもそうか」

 

 

 グレモリー眷属と共に堂々と正門から入り進んでいくと校庭に出た。既に赤龍帝と犬月の二人は昇格を行って女王へ変更しているからか普段よりも力が高まっているけど現段階で女王状態が強いのは犬月だな。この辺は悪魔慣れしてるかしてないかの違いだろう……それはそうとマジでとんでもない事をしてんなぁコカビエルちゃん。まさか校庭に魔法陣に描いて聖剣(エクスカリバー)()本地面に突き立てているなんてねぇ。あれ四本? てことは最後の一本の支配の聖剣は手に入ってないって事か。

 

 でも別れていたのを一本にするんだし強力なのは変わりないか。しかも見た感じもうすぐ終わりそうなんだけど……気のせい?

 

 

「イケメン君? あの魔法陣の真ん中にいるのが協力してる司祭様?」

 

「……はい、バルパー・ガリレイ。狂っている狂信者です」

 

「そりゃ狂ってないと狂信者って言わないわな。てかマジで禿じゃん、夜空の太もも見た罪はとりあえず死んで償って貰わねぇとな」

 

「そんな理由なの……貴方、光龍妃とどういう関係なのかしら?」

 

「ごく普通の殺し合うお友達?」

 

 

 本当は違うけどグレモリー先輩に言うならこれで十分。だって呆れて視線を上空に向けてるもん。禿司祭はこの際どうでも良いから俺も目的の人物へと視線を向けると上空にバカじゃねぇかと思えるほどのデカい椅子を浮遊させてそれに座っている悪人面の男――コカビエルがいる。足を組んで余裕そうに俺達を見下ろしているところ大変申し訳ないがそこまで強くないのに何故余裕そうなのか? たぶん四季音でも勝てる……あぁ、どうだろ? 悪魔になって光が弱点になってるし精々互角?

 

 周りを見渡してみると校庭の魔法陣付近に居るのは禿司祭と顔半分を仮面で覆い、もう半分が酷く腫れている白髪の男に犬月が殺したくてたまらない銀髪の女。あれ? 俺がコカビエルを相手にしてアリス・ラーナを犬月、そんではぐれ悪魔祓いをイケメン君か聖剣使いが相手をするとなると……他の奴は観客になるな。うわっ、四季音がキレそう。

 

 

「ようこそ影龍王、そしてサーゼクスの妹よ。俺の名はコカビエル、堕天使の幹部……と、自己紹介はいらないだろう。この場に来てくれたことを感謝するぞ」

 

「えぇ。ごきげんよう墜ちた天使の幹部さん。私はリアス・グレモリー、この土地を魔王様より任された悪魔よ。私の土地で何をしようとしているか知らないけれどこのような事をしてタダで済むと思っているのかしら?」

 

「思ってはおらんよサーゼクスの妹。俺は戦争が起こせれば十分なのさ、さて俺と戦うのは影龍王か? それともサーゼクスか? セラフォルーか? まさかリアス・グレモリー、お前か? 止めておけ、影龍王ならば勝機はあるがお前程度では俺は倒せん。それとも……魔王は来ないとでも言うつもりか?」

 

「魔王様はまだ来られないわ。貴方と戦うのは影龍王よ! 私は……私達はもし彼が貴方に負けた時に魔王様が来られるまでの時間を稼ぐわ!」

 

「ククク……サーゼクスはまだ来ないか。随分と余裕じゃないかサーゼクス・ルシファー!」

 

 

 掌で顔を隠して高笑いをし始めたコカビエルを見て思ったのが……隙だらけじゃね? 夜空や白龍皇だったら会話中でも隙はねぇぞ。やっぱこいつ三下の部類だわ。というより先輩先輩、まさか俺が負けると本気で思ってるんですかね? 思いっきりドーンと背後に文字が出そうなぐらいドヤ顔でしたけど普通に勝ちますよ? だって堕天使の幹部って言ってもピンからキリまでいますし。雷光と呼ばれるバラキエルって人だったらまだ分かんないけども。

 

 俺のそんな考えを察したのか分からないがコカビエルは自身の目の前にデカい光の槍を作り出して俺達の方へと放ってきた。一般的な堕天使が放つモノよりもはるかに巨大で強力、隣にいる先輩は冷汗が出ているのが見ていてわかる。でも言わせてほしい――

 

 

「――弱い。影人形(シャドール)

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!!』

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 禁手化して鎧を纏い、そのまま光の槍へと突撃。こうして近づいてさらに分かる……夜空が放つ光の方が数万倍は強くて威力あるな。流石規格外ってか? 幹部クラスが放つ光よりも強力なものを放つ人間を人間の括りに入れて良いのか分かんねぇ。

 

 背後に影人形を生成、向かってくる光の槍にラッシュタイムを叩き込む。両腕からそれぞれの能力を発動している事を知らせる機械音声が流れ始めて影人形が殴るたびに光が徐々に小さくなっていく。一分も掛けずに槍を防いだ後でコカビエルの方を見るとそいつは笑みを浮かべていた。面白いと、楽しませてくれそうだという事が丸分かりな笑みだ。流石戦闘狂っていうべき? 気持ちは分かるけどね。

 

 

「流石だな影龍王! 光龍妃と殺し合っているからこその力か!! なぁ影龍王? 俺と共に来ないか? 貴様もドラゴンを、邪龍を宿している者ならば闘争がどれほど大事か分かるだろう? 俺と来れば死ぬまで殺し合いが出来――ぐうぅっ!?!?」

 

 

 黒のオーラを放ち、空に軌跡を描きながらコカビエルに接近して顔面を普通に殴る。椅子に座って余裕そうにしているのが俺的に非常にムカつくから顔面に拳を叩き込んだまま体を捻り、雑魚(コカビエル)を地面に叩き落とす。攻撃してきたという事は殺し合いの始まりだって言うのに悠長に会話しようとしてんじゃねぇよカス。なんかイライラしてきたからこの怒りを発散させるために奴が座っていデカい椅子を影で包み込んで能力発動、それなりの硬度を持っていた椅子は数十秒もすればクッキーのように脆くなり自然に崩れ落ちていき最後は砂になった。

 

 

「立てよ幹部様。まさか十数年しか生きてない男の拳一発で沈んだりはしないだろ? ほら早く、早く。堕天使の幹部なんだろ? だったら早く俺と殺しあえよ!」

 

「――ククク! 面白いぞ影の龍!!」

 

 

 地面に落ちた事を無かった事のように翼を広げて俺の前まで飛んできた。さぁ、始めようかコカビエル……殺し合いをさ!!

 

 

「先に言っておくけどテメェ程度が引き起こす戦争には興味ない。暇になったら俺自身で引き起こすさ」

 

「そうか。ならば此処で死んでおけ影の龍よ!! 他の奴も退屈しない様に遊び相手をくれてやる!!」

 

 

 地面に複数の魔法陣が描かれなにかが転移してくるのが見える。それは俺達の身長を軽く超すほどの巨体、首が三本生えている犬――人間界で有名な魔物の一体、ケルベロス。確かに地獄の番犬と呼ばれるほどの魔物で比較的強い方ではあるが……四季音相手だしなぁ。

 

 

「酒飲み! この犬はテメェに任すぜ!」

 

「にしし! ケルベロスが相手かい……こりゃ暇になるねぇ。ノワール、これ終わったら相手してくれない?」

 

「言うと思った。いくらでも相手してやるよ」

 

「ケルベロスを相手に暇に……? いいえ! 確かにこの人数ならば例え地獄の番犬と言えども苦戦することは無いわ! イッセー! 小猫! 朱乃! 裕斗! 私達グレモリー眷属の力を見せつけるわよ! アーシアは後方に下がって治療に専念してちょうだい!」

 

「わっかりました部長! 行くぜ! 赤龍帝の籠手ァ!!」

 

「ふむ……フリード。統合したエクスカリバーを使え。既に統合は完了している」

 

「おっけ~いやぁ、凄いねこの剣!! もう何でも斬れそうだわぁ! 辻斬りの気持ちわかっちゃう俺様ってかっちょいぃ~!」

 

 

 上空に飛んでいるから地上の戦闘が丸見えなんだけど……うわっ、流石にケルベロスと言えどもやっぱり四季音には勝てねぇか。なんかワンパンで数十メートルは打ち上がってんだけど?

 

 

「おいアリス・ラーナァ!!!」

 

「呼びましたか?」

 

「聞かせろ……なんで俺の両親を殺しやがった!? 何の理由で殺したか聞かせやがれ!!」

 

「その問いに対する答えは一つです。仕事でしたから殺しました」

 

「……やっぱりかよぉ! そんじゃ、俺もテメェを殺すのは仕事だぁ!!」

 

「ご勝手に。ですがこの人数が相手となると使わざるを得ませんね――禁手化」

 

 

 まさかの禁手化できんのかよ? うわっ、これ犬月単体じゃちょっときついか? 人間の身で禁手化に至っているという事はかなりの場数を踏んでいると考えて良い。世界の流れに逆らうほどの劇的な変化が無ければ禁手には至れない……犬月、死ぬなよ?

 

 銀髪女の目の前には一本の剣が生まれている。刀身が光の刃でそれ以外は一般的な剣の装飾だ……眩いほどの光の刃の剣を握りしめ、銀髪女は犬月と向かい合う。

 

 

光刃創造(ホーリー・エフェクト)の禁手、光刃を操りし(ジル・ザ・リッパー)切裂姫(・ホーリーパペッター)。この剣で確実に貴方を殺しましょう」

 

「禁手化……王様や光龍妃以外でも出来る奴がいんのかよ……! 舐めてんのか!? 何で一本しか出さねぇ!? さっきみてぇに複数生み出せんだろうが!!」

 

「その問いに対する返答。私の禁手化はこの一本だけです。ですが――」

 

 

 瞬時に犬月の背後に回り込んだ銀髪女は剣を振るう。女王状態だからかかすり傷程度で済んだようだがそれにしても速すぎるな……禁手化としての能力かなんかか?

 

 

「禁手化としての力の全てを一本に集めています。ただの一本の剣だからと言って油断していますと死にますよと忠告しておきます」

 

「――そりゃ、どうもぉ!!」

 

「良い眷属だ。殺気も中々のモノ、影龍王眷属に相応しいと褒めておこうか」

 

「テメェに褒められてもなぁ」

 

 

 神々しいほどの光の槍を複数飛ばしてきやがったので影人形のラッシュタイムで防ぐ。下手に躱すと地面にいる奴らがあぶねぇしな……特にシスターちゃんとか戦闘できないから誰かが護っていないとヤバい。一応その役目は赤龍帝がガードとして近くにいて他の奴らはケルベロスと戦ってるみたいだけどそれでもヤバい事には変わらない。聖剣使いが持つエクスカリバーのお蔭で魔物相手は楽そうなんだけど……すまん、あの程度で圧勝できないとかマジ足手まとい。

 

 なんて事を思っていたら真下からケルベロスが打ち上がってきた。反射的に拳を突き立てて影をケルベロスの体の中に流し込んで力を一気に奪うのと同時に殺したけどあぶねぇなおい……四季音ぇ! テメェなんだその顔!! 惜しいとか言いそうな表情してんじゃねぇよ!?

 

 

「もうちょっと速くした方が良いかねぇ?」

 

「ふざけんなこんの合法ロリィ!! テメェマジで全裸にひん剥いて犯すぞ!! 邪魔すんなって言ったよな!?」

 

「暇なんだもんしょうがないじゃんか。この程度、お酒飲んでても余裕なんだよ、っとはいシュート!!」

 

 

 またしてもケルベロスの頭を掴んで俺に投げつけてきやがった……ふざけんのも大概にしろよこのロリ鬼!! 影人形でコカビエルを相手、俺は片腕に影を集約して黒いオーラ状へと変異させて投げられたケルベロスを掴み影で覆う。先ほどと同じように力を奪うのと同時に缶を潰すように力を入れてケルベロスちゃんを握りつぶして殺害……力の上昇にはなるんだけどめんどくせぇ。マジでめんどくせぇ。

 

 

「……すっげぇ、これが黒井の眷属の力なのかよ」

 

「力だけなら小猫以上だわ……イッセー! 私に力の譲渡を!!」

 

「私にもお願いしますわイッセー君!」

 

「はい! 俺だって何もしてこなかったわけじゃないんだ! 行きますよ部長! 朱乃さん!」

 

「四季音、シスターちゃんの傍から離れるな」

 

「は~いなっと」

 

 

 上空を高速で移動しながらコカビエルを殴る。後ろの方に吹き飛ぶけど逃がしはしない……黒のオーラ状に変異している腕を伸ばして奴の身体に絡みつかせるように掴む。さてもう終わりかなとか思ったら自分の背から生えている翼を凶器に変異させて俺の腕を切断、そのまま距離を取られてしまった。流石に加減しているとはいえ反応速度は中々だな。

 

 腕を再生させて再び地上を見るとはぐれ悪魔祓いとイケメン君が対峙しているのが見えた。流石に四本のエクスカリバーを一本に纏めたからかそれぞれが持つ能力を使えるみたいだな。高速で動いて斬り合ってる二人を見て少しだけ羨ましくなる……コカビエルが予想以上に弱すぎてなんかやる気出ない。

 

 

「俺と戦っているというのによそ見とは余裕だな!」

 

「だってアンタ弱いんだもん。なんかやる気でねぇ……あぁ、そうだ。地面に描かれてる魔法陣からヤバい感じがするんだけどなんかしてるの?」

 

「既にエクスカリバーの統合は終わり、あと二十分もすればこの町が吹き飛ぶんだよ! 防ぐには俺を倒すしかないぞ影の龍よ!」

 

 

 放たれた槍を影人形のラッシュタイムで防ぐ。でも良い事を聞いたな……その顔、驚愕のものに変えてやるよ。ただ問題は出来るかどうか……いや大抵の事は出来ると思えばできるんだし大丈夫だろ。この町が吹き飛んだらその時はその時よ。

 

 

「相棒」

 

『ゼハハハハハ!! 可能だぞ宿主様! 魔法陣の中心に腕を突き立てろぉ!!』

 

 

 コカビエルの胴体に影人形の拳を一発叩き込んで吹き飛ばした後、一気に地上に降りて魔法陣の中心を殴る。地面に突き立てた腕から影を放出して魔法陣全体を包み込むようにするとこの場にいる全員が何をしようとしているんだという顔になった……面白い事だからちゃんと見てろよ?

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!!』

 

 

 影龍王の手袋が持つ能力の一つ、『影に触れた存在の力を奪う』を発動して魔法陣の力を根こそぎ奪っていく。コカビエルを倒さないと防げない? ふざけるな、この程度の術式なら俺の、いや相棒の力なら簡単に壊すことができるんだよ。腕を地面に突き立ててから時間が経つのと同時に魔法陣の光が弱くなっていき、一分ほど経った後に残されたのは先ほどまでの光が失われた魔法陣として描かれた模様。これならたとえ時間が経っても町は吹き飛ばないが……マジで町を吹き飛ばすには十分すぎるモノだなこりゃぁ。上昇率が半端ねぇぞ。

 

 

「なにを、した、何をした影龍王!!」

 

「魔法陣の力を根こそぎ奪っただけだが? これなら二十分経っても魔法陣の所だけが軽く抉れる程度で済むだろ。ねぇどんな気持ち? 自分を倒さないと防ぐ事ができない術式をこんなにあっさりと壊されてどんな気持ち? あはははははは!!! その顔さいっこうぉ!! 最高だぜコカビエルゥ! 堕天使の幹部でも驚いたらそんな顔すんだなぁ!!」

 

「――キサマァァァ!!!」

 

 

 上空を覆うほどの光の槍、もし落ちれば駒王学園は間違いなく跡形もなく消滅するだろうという規模のモノを俺目掛けて放ってきた。周囲の奴ら、いや四季音以外はマジかと言いたそうな表情だ。俺もマジかと思ってる……煽った結果がこれかよ。流石にこれは影人形単体じゃ無理だし二人で防ごうかね。

 

 上空に飛び上がり降ってくる光の槍に向かって影人形のラッシュタイムを叩き込みながら俺は変異している腕を振るって槍全体を影で包み込む。流石にこの規模だと腕が焼ける様に痛いが死ぬほどじゃない……夜空のを防ごうとすればこれの数倍は痛いしな。ついでにさっきから頻繁に色んな所から力を奪い取ってるお蔭で俺の力が上昇してるんだ……今更この程度止められないわけがない。

 

 極大の大きさを誇っていた光の槍は徐々に小さくなっていく。そしてやや時間は掛ったがどうにか力を全部奪い取って消失成功……光のせいで片腕が消滅したけど影を集めて再生する事で元通り。実質犠牲無しで防ぎきりました! でも白龍皇だったら数秒で消せるんだろうなぁ、触れてるだけで半減させれるとかホントチートだわ。

 

 

「……無限の影を生み出し、全ての力を奪い取る。伝説通りの化け物か」

 

 

 禿がボソッと呟いたけど丸聞こえだぜ? というか伝説通りじゃなかったら地双龍とか呼ばれてねぇし。

 

 あまりの出来事にコカビエルもやや放心状態。変化が無いのは犬月と銀髪女、イケメン君と聖剣使いとはぐれ悪魔祓いぐらいか。あいつらの場合は自分の戦いに夢中になっててそれどころじゃないって感じだけども。

 

 

「マジで化けもん、こりゃこの場から逃げた方が良いかねぇ?」

 

「フリード! 貴様には結晶を三つ使っているんだ! 逃げることは許さんぞ!!」

 

「あぁ~ヤダヤダ、勝手に埋め込んでおいてそれ言っちゃうのぉ? 俺っち、今エクスカァ~リバァ~ちゃんもってんのよ? 斬っていいのかな?」

 

「……結晶だと?」

 

 

 イケメン君が疑問に満ちた声を上げた。それは俺も気になった……エクスカリバーを使えるほどの逸材が大量にいるはずがねぇから何かしらの事をしたんだとは思っている。その答えを禿司祭は高らかに笑いながら説明してくれたよ――胸糞悪くならない事だったけど。いや普通だったから拍子抜けって奴?

 

 聖剣計画――聖剣を使うためには因子が必要なのは各勢力も知っている。この計画はそれを持っている奴らを一カ所に集めて因子を抜き出して聖剣を使えるほどの因子に集めるというものらしい。それを体内に埋め込むことで使えない人間も聖剣使いとして所謂転生みたいなものにできるそうだ。ゼノヴィアって奴の口ぶりだとどうやらこの場にいないイリナって奴はそれのお蔭で聖剣を使えるようになったらしい。いやそれは良いんだがそこにいる銀髪女もその口か?

 

 

「もっとも彼女のような天然物もいるがねぇ。ほら、最後の一個だ。既に量産できるほどの研究成果は出ている。欲しいならくれてやろう」

 

 

 流石禿司祭、空気読んだね。なるほど……人工的に増やされた方じゃなくて生まれつき聖剣を使える体質ってわけね。そんな奴が教会に属さないで金で引き受ける殺人鬼もどきとか世も末だな。

 

 光り輝くほどの結晶体、それをイケメン君は重い足取りで近づいてその胸で抱きしめる様に地面に膝をついた。涙を流して懺悔をするように自分の気持ちを独白、先輩たちもその空気に飲まれて戦うのを止めてそれを見つめている――その時だ。ドクンと俺の心臓が強く打った。イケメン君に抱きしめられている結晶から声が響く……伝えたい、彼に力を与えたい、苦しみから解放したいという声が無数に渡って頭の中に響く。うっぜぇ……うぜぇし五月蠅い、はいはいやればいいんだろやれば!!

 

 霊操を用いて結晶内にある霊魂を外へ放出、イケメン君の周囲に幽霊として具現化する。マジで後で何かしらのモノで返してくれよ? 俺がこんな事するのはこれっきりなんだからな!

 

 

「およ? ノワールが空気を読むなんてめっずらしぃねぇ」

 

「頭の中に声が響いて五月蠅いんだよ。はいはい、なんか面白いこと起こりそうだから邪魔は無しな」

 

 

 怒りの感情に包まれているコカビエルを殴って影で拘束、そのまま影人形のラッシュタイムを叩き込む。逃げようとしてるみたいだけど今回は翼を開けない様にしている上、能力で力を奪っているから早くしないと赤龍帝にも殺されるぐらい弱くなっちゃうぜ? あとラッシュタイムを耐えきったらの話だけど。ついでとばかりに禿司祭とはぐれ悪魔祓いも影で拘束して完全にイケメン君が起こそうとしているステージを整えました! 俺って優しぃ~いや他の奴らは逃げられたらめんどくせぇからだけど銀髪女の方は犬月が血だらけになりながらも相手してるから問題ないだろ。

 

 イケメン君は幽霊となった少年少女と話し合い、強い意志を持った瞳でエクスカリバーを見つめる。なるほど――至ったか。

 

 

『そのようだぜぇ。禁手化するぞ』

 

『兵藤一誠、見ておくと言い。これが――禁手に至った者の姿だ』

 

 

 多くの、いやグレモリー眷属の強い声と自身の気持ちが合わさった結果なのかイケメン君の手には一本の剣が握られている。それは輝くほどの光と禍々しい闇が混ざり合ったようなもの……マジでぇ? 光と闇を融合しやがったよ!!

 

 

「……聖魔剣、だと!! なんだそれは!? ありえない……聖と魔の融合なぞあり得るはずがない!! フリード!! 早くこの影を斬り裂け!」

 

「んな事言ってくれちゃっても動けねぇんだっつぅの!! あぁクソ! ちゃっちゃと離せやくそ悪魔ぁ!!」

 

「ヤダ。にしても光と闇の融合ねぇ……面白いもの見れたからもう満足だ。コカビエル? お前との遊びは此処までにするわ」

 

 

 影人形のラッシュタイムを浴び続けたせいで顔面は腫れて四肢の骨とか色んな所が折れてるだろう。弱弱しい瞳で俺を睨みつけてくる。はぐれ悪魔祓いはコカビエルの姿を目にすると負け濃厚と判断したのか統合されたエクスカリバーを変化させて影を切断、そのまま逃走を図ったがイケメン君がそれを許さなかった。エクスカリバーを叩き折る、たったそれだけの思いが禁手まで至ったんだ……俺の影に触れて力を奪われていたはぐれ悪魔祓いじゃ勝ち目はない。いくつかの剣劇の後、エクスカリバーは叩き折られて本人もイケメン君に斬られて終了。この場に残されているのはコカビエルと禿司祭と銀髪女だけだが……もう勝ち確定だな。

 

 

「……戦況は不利と判断。まさかここまでしぶといとは思いませんでした」

 

「あいにく、王様と殺し合ってるんでねぇ!! しぶとさには結構自信あんのよ!!」

 

「そうですか。犬月……貴方は犬月と呼ばれていましたね。この勝負は貴方に譲ります。次は必ず――殺すと言っておきましょう」

 

「逃がすわけねぇだろうがぁぁ!!!」

 

 

 騎士に変更したのか圧倒的な速度で銀髪女に接近するも一閃を受けて膝をつく羽目になり、その瞬間を狙って銀髪女はどこかに転移していった。怒りの咆哮を上げているがあの実力差で生き残っただけでも成長しているって思えばいいさ。よく頑張ったな犬月。

 

 

「アリス・ラーナ……! しかし何故だ……何故このような事が起きている……まさか、く、くひひひ! そうか! そう言う事なのか!! 聖と魔のバランスが崩れているという事は――神は死んでいるという事かぁ!!」

 

 

 うわっ、気づいちゃったよこの人。たったあれだけの事でそれに気づくなんてホント狂ってるな。

 

 

「神が、死んでいるだと……ふざけるなバルパー・ガリレイ!! そのような戯言は――」

 

「聖剣使い? ごめん、それ事実なんだわ」

 

 

 コカビエルを拘束しながら地面に降りる。既にコカビエルちゃんの力は最初に会った時よりも大きく減っていてグレモリー先輩でも殺せるぐらいまで低下している。そんな事は置いておいて今は俺の発言で驚いている聖剣使いとシスターちゃんをどうするかだなぁ……隠しておけばよかったんだけど禿司祭に言われちゃったしもうバラしていいよね? 一蓮托生って言葉あるし大丈夫大丈夫。

 

 

「どうやら先の大戦で聖書の神は四大魔王と一緒に死んでるらしい。俺が知ったのは相棒、影の龍クロムを宿していた前の所有者がその事実に気づいたからね。一般的には神はまだ生きていると伝えられてるようだけど実際はもうお亡くなりになってて存在しないってわけだ」

 

「う、嘘だ……神が、死んでいる……? 嘘を言うな影龍王!! それ以上神を侮辱するならこの場で斬るぞ!! この命に代えても必ず!!」

 

「く、ククク……その、通りだぁ!! 貴様らが崇めている神は先の大戦で死んでいるんだよ!! 貴様らの祈りなんぞ最初から届いてはいないのさ! ミカエルの奴が裏で色々としてるから存在するように見えるけどなぁ……そこの小僧が聖魔剣とやらを作れたのも神と魔王が死んでいるからこそだ!! しかしまさか影龍王が知っているとは思わなかったぞ……この件を知っているのは各勢力のトップとその一部ぐらいだからなぁ!」

 

「まだ話せたんだ。結構タフだな」

 

 

 視界の端で聖剣使いとシスターちゃんが崩れ落ちるのが見えたけど俺のせいじゃない。事実に気づいた禿が悪い。だから先輩方、そんな批難染みた視線止めてくんねぇかなぁ? 殺しちゃうよ?

 

 なんか悪者扱いされてムカつくからさっさとコカビエルをぶっ殺すとしよう。そもそも元はと言えばこいつがこんな事をしなければ神が死んでいるなんてバレる事が無かったんだし。いや、起こしてくれたからこそイケメン君は禁手に至って犬月も一歩前に進むことができたわけだが……あれ? そうなるとコカビエルって良い奴? んなわけねえか。てか白龍皇に殺すねって言ったから殺しとかないとなんか恥ずかしい。お前コカビエルも殺せないのとか言われたらマジでキレそう。

 

 

「んじゃついでにもう一個ネタバラシするわ。コカビエル、今回の企みなんだけどアンタん所のトップは知ってるみたいだぞ?」

 

「……なに?」

 

「白龍皇から言われてね。だから此処で死ななくても身内(アザゼル)から粛清されるってわけだ――まぁ、此処で死ぬんだけどね」

 

「……アザゼルが、知っている……白龍皇、か、影龍王!!! まさかキサマァァァァ!!!!」

 

「殺していいよって白龍皇に言われたからちゃんと殺すよ? まさかとは思うけど殺せないとでも思ってた? 単に遊んでただけで最初に一撃で仕留めれたんだよ。それじゃあ――さようなら」

 

 

 拳をコカビエルの心臓付近に突き立ててそのまま引き抜いた。遊びとはいえここまで時間が掛かったのは色々と手を抜き過ぎたかもしれない……まっ、いっか。ちょうどお迎えが来たようだし。

 

 上空に大きな穴が開く。そこから出てきたのは眩いほどの圧倒的な白い全身鎧を身に纏い、背に光翼を生やしている存在と我らが規格外。あのさ……何でヴァーリと夜空が一緒にいるわけ? そもそもなんだよその丼? まさかまたラーメンデートか!? 俺がこうして殺し合っている間にデートしてたのか!?

 

 

「驚いた。本当にタイミングが合っているなんてね」

 

「でっしょぉ~? だってノワールと私って心で繋がってるもんねぇ。ラーメンうんめぇ~やっぱ白龍皇が選んだ店って最高だね!」

 

「それはよかった。さて影龍王、コカビエルを渡してもらえるかな?」

 

「ほらよ」

 

 

 死体となったコカビエルを近くの地面に放り投げる。ヴァーリはゴミ(コカビエル)を拾うために地上に降りてきたけど……なんで鎧纏ってんの? あぁ、素顔を見せたくないからか。さて残るのは俺の影に拘束されている禿司祭だけなんだけど……これって聖剣使いに渡せばいいのかなとか考えていると夜空がそいつを見た瞬間――禿司祭の頭部が吹き飛んだ。本来あるものが無くなったせいで周囲に赤い液体をまき散らすゴミと化したけど光線、所謂ビームみたいな光を頭部に当てて殺害しやがったよあの野郎……そこまで嫌だったか!

 

 

「お前何してんの?」

 

「変態だもん殺さなきゃダメっしょ? 人の太もも見てオナニーしようとしてる奴は死ぬべきだね。だからノワールも死ななきゃダメだぜ? だって私のパンツでしたんでしょ?」

 

「何で知ってんだよ。いやそれは良い……おい白龍皇! なんで夜空と一緒に居んだ!! 内容によっては今ここでぶっ殺すぞ!!」

 

「光龍妃からお腹が減ったと言われてね。先ほどまでおすすめのラーメン店で食事をしていたんだよ。まさかあそこまで食べるとは思わなかったが……何か不満でもあったかな?」

 

「大ありだが……その分だと会計がすげぇことになっただろうし今回は良いや。さっさとゴミを持って帰ってくれ。さっさと家に帰って寝たいんだよ」

 

「了解した。しかし助かったよ影龍王、俺もコカビエル如き戦うのは疲れるだけで楽しくはないんでね」

 

「だろうな」

 

『――無視か、白いの?』

 

 

 宿敵に相手にされていないからなのかやや怒り気味の赤龍帝――籠手内からドラゴンの声が聞こえる。そう言えば此処に二天龍と地双龍が揃ってるな……すげぇ光景だ。

 

 

『起きていたか、赤いの。どうやら出番はあまりなかったようだな』

 

『宿主がお前達より弱いからな。これからだよアルビオン』

 

『そうか。我ら二天龍、そして地双龍の中で今のお前は弱いぞ? 強くならねば私には勝てない』

 

『ゼハハハハハハ!! 面白い事を言うな白蜥蜴ちゃん! この前は無視してやがったのに相方見つけた途端饒舌になりやがって!』

 

『貴様の声は聞くに堪えんからな。少しは静かにしていろクロム! あと私の名はアルビオンだ!』

 

『クフフフフ! クロムに自己紹介をしても無駄ですよ。ドライグ、夜空は貴方の宿主に興味を持っています。強くならねば殺されますよ?』

 

『あぁ。肝に銘じておこう』

 

 

 此処はいつからドラゴンの同窓会になったんだ? 周りも異常な光景に絶句してるんですけど……約二名ほどさっきの神は死んだ発言で意気消沈してるようだけど俺は悪くない。結局、話が終わると白龍皇は別の所に転がっているゴミ(はぐれ悪魔祓い)を拾って夜空と共に転移穴を使ってどっかに行ったけどなんで一緒に帰るんだよ……いや良いけど、万単位の飯代払わされたようだし今回は許してやろう。

 

 

「さて終わったな。犬月、生きてるか?」

 

「……へへ、王様ぁ。俺って弱いっすね……女一人にすら勝てねぇなんて弱すぎるっすよ」

 

「そうだな。禁手化してたとはいえ人間相手にその様じゃ次に会ったら殺されるだろうぜ」

 

「……そうっすね、だから強くなる! 今度は殺せるように!! もっと強くなるっす!!」

 

「にしし! 良い眼だねぇ~よし分かった。じゃあ私が鍛えてやろう、鬼と戦ってれば人間程度簡単に殺せるぐらい強くなるさ」

 

「……お願い、します。いやテメェより王様の方が強いから王様でお願いします!」

 

「はぁ? 犬風情が舐めた口聞くと叩き潰すよ」

 

「こっちは何も問題なしか。先輩? そっちのシスターちゃんの様子は?」

 

「貴方のせいで強いショックを受けて気絶しているわ。どうしてくれようかしら?」

 

「元凶は夜空によって死んでますけど? 俺はただ補足をしただけに過ぎませんし……それに神の死はいずれバレましたよ。普通に考えれば誰だって気づくような事で隠しきれるような事じゃないですからね」

 

「……この後、色々大変よ。それは分かっているわよね?」

 

「分かってますよ。俺も先輩も神の死を知った以上は魔王様やらなにやらに呼ばれるかもですねぇ。その時は色々とお願いしますよグレモリー先輩。んじゃそう言う事でコカビエル討伐お疲れさまでした」

 

 

 四季音と犬月を率いて来た道を戻る。コカビエルが死んだことで魔法陣も意味は無くなり、エクスカリバーもイケメン君の手によって破壊された。禿司祭は夜空によって殺害されてはぐれ悪魔祓いもヴァーリが持って行った……既にやる事が無くなったからこの場にいる意味もない。学園の入り口付近でシトリー眷属と平家達が待っていたのでコカビエルを殺した事を伝えて家に帰宅。流石にまだ一緒に住んでいない橘は自分の家まで転移させたけど……お役に立てましたかと首を傾げて聞かれたらお役に立ったよと言うしかないだろ! だって可愛いもん!

 

 こうして若干色々とあったもののコカビエルが引き起こした事件は解決した。ただし欲求不満だった四季音が甘い声を出しながら殺し合おうと言ってきたのは言うまでもない……我慢しろよ。




光刃創造《ホーリー・エフェクト》
所有者 アリス・ラーナ
分類 創造系
能力 『光の刃の刀剣を任意に創造可能』

オリジナル神器でこの作品では聖剣創造の下位互換となっております。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

「……マジ?」

 

「え、え? あの、えぇ!?」

 

 

 コカビエルとの戦いから数日が経った今日、駒王学園高等部、俺が所属しているクラスは困惑によって静まり返っていた。現在はSHRの開始時間、本来であればこんな空気になることなく担任のつまらない報告やら何やらを聞いて済む時間ではある。しかし今日に限って、いや今日のこの時間だけはそんな事にならなかった。何故なら――

 

 

「橘志保です。駒王町にはまだ不慣れでご迷惑をお掛けすると思いますが皆さんよろしくお願いします」

 

 

 ――アイドル橘志保、通称しほりんが転入してきたからな。

 

 いやぁ、周りの男連中の反応は面白いわ。夢か? いや幻か? みたいな顔をして橘を見てるけど残念……いや嬉しい事に現実なんだよね。俺の僧侶になった橘自身の強い希望によってアイドルを休業、俺が通う駒王学園に転入させたけど他の奴からしたらなんでしほりんが来るの? みたいな感じで思ってるだろう。犬月や匙君は橘が悪魔で俺の眷属という事を知っているから今回の件も知らされてはいた……けどアイドルとの学生生活を一緒に過ごせるためか非常に喜んでいる様子。おい犬月……お前は数日前の自分を思い出せ? ちょっと元に戻り過ぎだ。

 

 

「えっと、アイドルは学業優先という事で休業していますけどそういうのを抜きにして仲良くしてほしいです。あと、そのテレビより元気ないかもしれないですけど普段はこんな感じ、です」

 

「――良い、むしろ良い!!」

 

「元気なしほりんも良いけど落ち着いているしほりんもまた良い!!」

 

「いやぁ、げんちぃ。生きててよかったっすねぇ」

 

「ホントホント。生徒会入っててよかったとすら思える」

 

 

 どうやらテレビとは違う素の自分を見せた事で男子にも女子にも好印象を持たれたようだ。平家が居たらきっと「女子は妬みまくって気持ち悪い。男子はヤリてぇで五月蠅い」とか言うと思う。そりゃアイドルだもんなぁ……さて、いい加減現実逃避を止めようか。すまん……なんで俺の隣の席空いてるの? あれ? 前まで此処に別の誰かいませんでしたっけ?

 

 

「彼女は色々と大変だからお前らでフォローしてやれ。特にパパラッチなるものが出現する可能性があるが見かけたら生徒会まで知らせる様に。さて席だが黒井の隣だ、まさか()()()とは思わなかったが離れているよりは良いだろ」

 

 

 デスヨネ。いや、一緒に居てもおかしくない様に色々と設定を考えた結果が親同士が知り合いで俺と橘が幼馴染というよくありがちなものになった。個人的には最初の親同士が知り合いだけでよかったと思うんだが橘がどうしてもという事でこうなった……うわぁ、周りからの視線がウゼェ、マジウゼェ。

 

 

「……やりました」

 

「なにが?」

 

「あく、えっとえと、レイ君と一緒に学生生活できるなんて嬉しいなって♪」

 

「――犬月、ちょっと俺の隣にいる子が可愛すぎるんだがどうすればいい?」

 

「いや、良いんじゃねぇっすか? つか周りの野郎どもが嫉妬してますぜ?」

 

「知らん。あぁ、なんか有ったら聞け。一応幼馴染、だしな」

 

「はい。いっぱい頼りにしちゃいますね」

 

 

 可愛い、マジ可愛い。笑顔可愛いし反応可愛いしもう最高だな! ホント、どこかの酒飲みと引きこもりと規格外はこの可愛さを見習ってほしいわ割とマジで。だって女子ってこうあるべきじゃん! 流石俺の偽幼馴染、笑顔がもはや凶器ですね。

 

 そんなわけで男子の嫉妬染みた視線を浴びつつ時間は過ぎていき現在は昼休み、俺と犬月、橘と平家の四人はいつものように保健室に集まって昼飯を食べる事にした。いやぁ辛かった……何が辛かったかって橘の教科書がまだ配布されてないとかよく分からん理由で四時限目まで机くっ付けて授業受けてたんだよ。その際にですね……えぇ、はい、女の子らしい匂いとか地味に密着してきまして非常に困りました。男的にはすっげぇ役得だったけど……てかアイドルが一般男子と密着とか大丈夫か? 拡散とかされたりしない?

 

 

「変態」

 

「開口一番がそれかよ? そもそもなんで機嫌悪いんだよ?」

 

「別に機嫌悪くないし。ただノワールが変態で呆れているだけ。そんなに巨乳が良いか、巨乳なんて年取っていくたびに垂れていく体重増加の原因だよ。貧乳の方が良いよ」

 

「ただの僻みじゃねぇか? 橘もさっきみたいなのはアイドル活動に支障でないか? 結構ギリギリアウトレベルだぞ?」

 

「そうなったら悪魔さんに責任を、その取ってもらいますね? あとアイドルでしたら冥界のアイドルを目指しますから問題ありません♪」

 

 

 責任って結婚ですか? はい喜んで!

 

 

「鬼畜、外道、女たらし」

 

「……テメェマジで帰ったら虐めてやる」

 

「いやー犯されるー」

 

「二人はいつもの事なんで放って置くとして……きっとしほりんなら冥界のアイドルでも通用するっす! 俺達が保証しますよ!」

 

「ありがとうございます。犬月、さん? 犬月君? どちらで呼べばいいですか?」

 

「どっちでも!! なんならパシリでもオッケー!」

 

「おいパシリ、飲み物買ってこいよ」

 

「あぁん!? 引きこもりの分際で俺に命令すんじゃねぇよ!」

 

 

 なんだろう……この保健室も騒がしくなったもんだ。前までは俺と水無瀬と平家の三人だけだったのに今では犬月と橘を加えて五人、俺が作った心霊探索同好会にも所属してくれているから結構な大所帯になったな。大所帯と言えばグレモリー先輩の所にあの聖剣使いの片割れ――ゼノヴィアが騎士として参加したそうだ。聞いた話では禿司祭と俺がバラした神は死んだ発言で教会から異端扱いされて追放された所をグレモリー先輩がスカウトしたらしい。なんという漁夫の利! せこすぎるぜ先輩!!

 

 

「その聖剣使い、まさかのデュランダル持ちだったよね。これはノワール的にはちょっと悔しい?」

 

 

 平家の言う通り、あのゼノヴィアって奴は聖剣デュランダルを持っていたようだ。なんでも今代の担い手だとかなんとかで先のコカビエル戦でも使用しようかと思ってたらしいが俺があまりにも簡単に倒してしまったので使う機会が無かったとの事。これを聞かされた時にもう少し遊んでおけばよかったと思った俺は悪くないと思う。

 

 

「別に。騎士はお前がいるし今の所は増やす理由が無い。もうしばらくは騎士はお前オンリーだよ」

 

「――そうなんだ」

 

 

 だからってどうして笑顔になるんだ? ホントよく分かんねぇ奴だな……さっきまで怒ってたかと思えば今度は嬉しそうになりやがる。可愛いから良いが情緒不安定すぎやしないか?

 

 

「王様の手に残ってる駒って女王に騎士に兵士六個すよね? 騎士と女王は置いておいても兵士ぐらいは増やしても良いんじゃねぇか?」

 

「面白い奴がいたらスカウトするが……今の所、そういった奴がいないんだよ。橘が加入した事で水無瀬とダブル僧侶で後方支援が捗るし前線は俺とお前(犬月)、平家に四季音と充実してるだろ? だから増やす予定はない」

 

「悪魔さんって少し変わってますよね。悪魔業界の事を勉強したんですけど王は女王(クィーン)を先に手元に置くみたいですけど……ここまで手を付ける気は無いですよね?」

 

「当たり前だよ。だって女王候補――もがもが」

 

 

 何を勝手にバラそうとしているのかなぁ? それは俺とお前だけの秘密だろうに。

 

 平家が何かを口走ろうとしたのを止めた事で犬月達は疑問に思ったらしいがいずれ明らかになる的な事を言ってお茶を濁す。別に言っても良いんだがなんだか恥ずかしい……あんだけ常日頃から殺し合ってる夜空を女王に加えようとしてるとか知られたらなんか嫌だ。とりあえず何か別の事で話を逸らさねぇと……あぁ、良いの有ったわ。

 

 

「そういや家帰ったらお前ら驚くぞ」

 

「なんでっすか……あぁ、そういや今日でしたっけ? 家の改装というか増築というかそんなの」

 

「おう。お前らのリクエストした部屋も付くからマジでデカくなるはずだ……てか平家! お前のあの引きこもり特化の部屋は必要か?」

 

「必要。暖かいベッドにディスプレイ複数装備、漫画とエロゲーを納める棚、これで引きこもっても生きていける」

 

「……マジでこの引きこもり如何にかした方がいっすよ。あの、俺のリクエストした部屋もあるんすよね?」

 

「当然だ。水無瀬がリクエストしたキッチン周りは今までよりも高価で使い勝手の良いものになるし犬月がリクエストした特訓室も勿論ある。橘の歌ったり踊ったりしても迷惑にならない防音室もな」

 

 

 ちなみに四季音の場合は酒を補完できる場所、俺の場合は現状維持だ。特に思い浮かばなかったし広い部屋って落ち着かないんだよ……広いよりも狭いのが良いし手の届く範囲で済むならなお良い。

 

 

「ありがとうございます。でも、悪魔さんと一緒に住めるなんて夢のようです! えっと、ご飯とか用意した方が良いですか?」

 

「是非おね――」

 

「い、いえ!! ご飯でしたら私が作りますので志保ちゃんは作らなくていいですよ! もうこれは私の、私の仕事ですから!」

 

「恵……必死すぎ」

 

「気持ちわかりますけどねぇ」

 

 

 何が必死なのか全然分からんが眷属間での仲が深まっていくのは良い事なんだろう。しかし現役アイドルの手料理とか食べてみたいと思うのは男の性というもので……昼飯ぐらいは作ってもらおう。勿論誰もいない時にな! いやぁ楽しみだなぁ! メシマズという属性でもないしマジで楽しみだわ! 何故なら眷属になる前に夜食を作ってもらった事があるからな! 勿論それは対価としてありがたく食べましたとも。

 

 そんな騒がしくも楽しいと言える昼休みも終わって再び授業に入る。五時限目は体育だったので体育館に集合となったけど……男子は大盛り上がりでした。だってアイドルの体操着姿だぞ? デカかったぞ、マジでデカかったぞ。動くたびに揺れるのを見てたら誰だって盛り上がるわ。俺だって揺れるおっぱいを目に焼き付けたレベルだし……きっとクラスの男子共は目に焼き付けてオナニーのネタにするんだろうなぁ。あっ、そう言えばオナニーで思い出したけど先手打っておかないと色々拙いのを思い出した。流石に盗撮とか覗きとかされると橘も嫌だろうし言っておくか。

 

 

「よぉ、兵藤にその他二名。今良いか?」

 

 

 時間は飛んで放課後、俺は犬月と一緒に赤龍帝にクラスを訪れていた。転入してきた橘は生徒会メンバーと一緒に必要な書類やらなにやらがあるとかでこの場にはいない。それは俺的にはかなり好都合だ……流石にこの場に居られるとちょっとめんどくさいしな。周りも俺が赤龍帝に話しかけた事でなんだどうした的な空気を出しているけど安心してほしい……普通に警告に来ただけだから。

 

 近くに居るのはシスターちゃんと橘と同じく転入してきたゼノヴィア、そして変態二人……よし目的の人物は揃ってるな。

 

 

「お、おぉ! なんか用か?」

 

「イケメンのお前が俺達になんのようだ!!」

 

「あん? 警告だけど?」

 

「……け、警告ってなんだよ?」

 

「いやぁ、いっちぃ? 俺達のクラスにしほりんが転校してきたのって知ってるっしょ? 実は黒井っちの幼馴染でさぁ~いっちぃは別としてテメェら二人に変な事されるんじゃないかって心配、いってぇ!? なにすんだよ!?」

 

「なんか言い方がムカついた」

 

「ヒデェ!?」

 

 

 赤龍帝は橘が悪魔だって事は知っているし幼馴染と言う設定も犬月を通じて伝わっている。だから今回の警告は変態三人衆の残った二人、眼鏡とボウズ頭に忠告しに来たってわけだ。赤龍帝も常日頃からおっぱいおっぱいとエロいのは確かだが覗きとか盗撮を率先的にしない事はこっちでも分かってるから一応除外するけど……この二人はなぁ。多分赤龍帝の変態疑惑の大半はこいつらが原因だろうに。

 

 

「犬月も言ったが橘とは一応幼馴染でな。しかもアイドルやってて色々と大変なんだよ……そんな状態なのにお前等に覗きだの盗撮だのされるとどうなるかぐらい分かるだろ? ついでに言わせてもらえば俺の心霊探索同好会にも入部してる……これはどうでもいいか。一応部長でありあいつの幼馴染として警告しに来た。別に仲良くするなとか話しかけるなとは言わねぇけど――あいつ泣かせたらぶっ飛ばすから覚悟しとけよ」

 

「あぁ~ちなみに俺も黒井っちど同じだからそのつもりで……いっちぃは流石にしねぇとは思うけどさ」

 

「黒井貴様! 幻のお姫様だけではなくアイドル橘志保までも独占する気か!」

 

「幼馴染だと!? うらやまけしからん! 彼女持ちのお前がしほりんを独占など許されるはずがない!! それは全クラスの男子がそう思っているぞ!!」

 

「松田、元浜……落ち着けって!」

 

「イッセー! こればかりは落ち着けるはずがない!」

 

「そうだぞ! あのおっぱいをお前は見ているはずだ!! あれを独占しようとする奴を許せるわけがないぞ!」

 

 

 目の前の二人が騒がしくなるも周りにいた普通の方々は静まり返っていた。なんでだろうねぇ? きっと今の俺の表情はウザすぎて殺してぇとかそんな感じだろう。多分周りに方々もそれを察してくれたのかな?

 

 

「……黒井っち、まずは落ち着こう。はい深呼吸!! い、いっちぃ!? ちょ、ちょっとそいつら黙らせてくんね!? このままだとそいつらの命がやべぇ!!」

 

「お、おぅ!」

 

 

 犬月が何か慌てだしてるけどなんでだろうねぇ? ただ普通に殺そうと思ってるだけなんだけど何か悪い? と言うかこいつ等も自分の言ってる事がおかしい事ぐらい気づけよ……ちゃんと言ったぞ? 話したり友達になっても構わないって。なのに何で独占とかって言う事になるんだか……ヤバい本当に殺したくなってきた。流石に赤の他人ならともかく俺の僧侶、身内に対して何かする可能性があるこいつ等だったら居なくなっても問題ないだろう。よし殺そうか。

 

 

「そ、そうだ! 生徒会にいる匙から聞いたんだがしほり、橘さんに何かしたら問答無用で警察に通報されるらしいぞ! だからマジでやめとけって! 黒井も話しかけたりするなって言ったわけじゃないんだし!」

 

「そうだぜ! 黒井っちはちゃんと友達になってもオッケー! 話しかけてもオッケー! でも迷惑かけるなこの野郎と言っただけだからな! はいと言うわけで俺達は帰るぜ!! じゃあないっちぃ!!」

 

「お、おぅ! またな犬月!!」

 

 

 背中を押されて赤龍帝のクラスから退出させられた。まだ言いたい事あったんだが……良いか。今回は赤龍帝の説得に任せるとしよう。

 

 

「……王様、流石に一般人にあんな殺気はダメですって! 他の奴らビビってましたよ?」

 

「いや俺の本気に気づくかなぁと思ってな。盗撮やら覗きやらをする可能性があるのはあいつ等だけじゃねぇけど一応言っておかないとな……アイドルの生着替え写真とか出回ったらあいつも困るだろうし。俺の我儘で眷属になったからこんな風になったんだ、やりすぎなぐらい対応しねぇとダメなんだよ」

 

「言いたいことは分かりますけど……そういや認識阻害の術を家周辺で使うんでしたっけ? あれって大丈夫なんすか?」

 

「俺と水無瀬、橘の三人が共同で組み上げた術式だぞ? 夜空レベルには効かないだろうが一般人相手なら余裕で通用するよ。グレモリー先輩の許可を貰って現在デカくしている俺の家周辺にその術式を展開したし生徒会長の許可を貰ってある年齢を超えた奴限定かつ悪意とか下心を持った奴が近づきにくい結界も張らせてもらった。その辺りの心得があるなら別だが普通の記者やパパラッチ程度なら十分だろ……構築するの疲れたけどな」

 

「王様ってホント器用っすよね」

 

「これぐらいできないと王としてやっていけないんだよ」

 

 

 本当なら悪意やら下種な感情を持っている奴を全て近づけない結界を張りたかったがそれをしてしまうと学生すら近づけなくなるからかなり弱めなものにするしかなかった。外出や登校時には同じ効果を持ったペンダントを身に付けて気づかれない様にしたし多分大丈夫だろう……平家にやりすぎて逆にキモイとか言われたけどその言葉を甘んじて受けよう。だって俺もキモイと思ってるし。でも術式構築関連を昔に親父やセルスから教わっててよかったわ。そうじゃなかったら今回のような時に水無瀬と橘に任せるしかなかったし……サンキュー親父達。

 

 教室に戻ってしばらくすると橘が戻ってきたので保健室で寝ていた平家を拾って一緒に下校。いつものように平家を自転車の荷台に乗せて俺が押している姿に橘はまだ困惑しているが早く慣れれば気にしなくなるぞ? 帰宅途中で橘の姿に気づく奴がいるかなとか周りを見渡してみたが予想通り誰も気づかない様子で少しだけ安心だ……まぁ、帽子と伊達眼鏡を掛けているから分かりにくいのかもしれないけど気づかれないならそれで良い。

 

 そして我が家に近づくと改装、改築、とりあえずデカくなった新しい我が家が見える。おぉ! 中々普通の家っぽい外見だ! これで城とかいう外見にしやがったら四季音を全裸にひん剥いて拘束からの放置プレイをする所だったがそんな事をしなくても済みそうだ。そんな事を思いながら玄関の鍵を開けて扉を開けて中に――

 

 

「おかえり、ノワール」

 

 

 ――入らず扉をすぐに閉める。あれ? なんか変な奴がいた、具体的には高校二年生の息子がいる見た目ホスト風の男がいた。いやちょっと待て……あれ? はぁっ?! 何でいんだよマジで何でいるんだよふざけんじゃねぇよ!! 後ろの方で平家は何かを察した表情を浮かべているが他は頭の上にハテナマークが浮かんでるだろう。俺もそうだ! もう一回開けてみよう……そうだ、きっと夢に違いない――

 

 

「……おかえり、ノワール」

 

 

 ――扉を閉める。これは不審者がいるという事で良いな。そもそもなんであの野郎が此処に居るんだって話だ。もう今日は遊びに行こうか! よしそうしよう!!

 

 

「現実逃避はその辺にしたら? 泣き始めるよ?」

 

「知らん。泣かせておけばいい……あぁ違う、俺の目には何も映らなかった」

 

「……王様? 家の中に誰か、なんだこれ……今気づいたけど結構デケェ魔力を持ってる奴がいやがる……! 近づくまで気づかねぇだと!!」

 

「今まで悟られない様に消していたのかもしれませんね……悪魔さん? 先ほどから慌ててますけどお知り合いの方ですか?」

 

「サードウダロウネー」

 

「ノワール。現実逃避も良いけどあの人が中で泣いてるよ?」

 

 

 平家がさっさと覚悟完了決めて中に入れよと言いたそうな視線を向けてきたからもう諦めよう。橘の何も分かっていなさそうな表情が可愛いからもう少し見ていたかったが流石にこれ以上は……その、なんだ、身内の恥を晒すことになる。

 

 扉を開けて中を見ると先ほどまで入り口付近で待っていたであろう男、俺命名ホスト野郎がガチ泣きしていた。あははははは……死ねよマジで何で泣いてるんだよふざけんじゃねぇよ。

 

 

「おいこら。勝手に家に入って泣いてるとはどういう了見だ? あぁん?」

 

「だってノワールが! ノワールが僕の顔を見ただけで扉閉めるんだよ!? 二回も!! 二回もだよ!? ()()()()悲しいよ!!」

 

「……今、なんかトンでもねぇこと言いませんでした?」

 

「お父さんってもしかして……悪魔さんのご両親ですか?」

 

「……あぁ。みっともなくガチ泣きしてやがるこいつが俺の親父でキマリス家現当主のハイネギア・キマリスだよ」

 

 

 とりあえず玄関先で泣かれていると邪魔だから影人形で首根っこ掴んでリビングまで運ぶ。家がデカくなったからリビングまで遠いかなとか思ったがそんな事は無かった。荷物と不審者を適当な場所に放ってソファーに座る……おぉ、落ち着く。ふかふかで座り心地最高だ。

 

 目の前に放り投げた男の名はハイネギア・キマリス。腰元まである長い茶髪を後ろで一本に束ねて優男の印象がありながらもどこかホストっぽい雰囲気を持っている。見た目がこんなでも母さん一筋で毎日毎日イチャイチャと非常にウザイ。

 

 

「んで? 何でいんだよ?」

 

「う、うん。ノワールの家を新しくしたからどんな風になったのかなと気になってね。デザインとか全部沙良ちゃんとセルスに任せたんだけど中々良いんじゃないかな? 気に入ってくれると嬉しいなぁ」

 

「そんな事は聞いてねぇんだよ。なんで此処に居るんだって聞いてんだ……まさかマジでそんな事のために態々人間界にやってきたわけじゃねぇだろうな? 仕事しろよ」

 

「ちゃ、ちゃんと仕事は終わらせてきたよ! それに息子の家にお父さんがやってきちゃいけない?」

 

「うん」

 

「……即答されたぁぁぁ!」

 

 

 目の前ですっごく落ち込まれると反応に困るんだけど……でもこいつ相手に別の対応とかできねぇしな。

 

 俺の隣に座っている橘が俺の服の袖を引っ張って可哀想ですよと言ってきたから普通の対応にしよう。仕方ねぇなぁ! 我が家の癒し枠にそんな事言われたらこれ以上外道染みた事は出来ねぇよ! 俺の膝を枕にしている平家から変態と言う視線が飛んできてるが無視だ無視。

 

 

「……あぁ、その、だ。ちゃんと何時来るとか言ってくれりゃぁ、まぁ来て良いぞ」

 

「本当かい! だったら今度からちゃんと連絡するよ。でもサプライズはダメだったかぁ、沙良ちゃんにも伝えておかないと」

 

「お義父さん。私は兎も角、他は初対面だから自己紹介した方が良いよ」

 

「あれ? 自己紹介してなかった? こ、コホン。初めましてだよね? 僕はハイネギア・キマリス、ノワールの父親でキマリス家現当主をしているよ。早織ちゃんや恵ちゃん、花恋ちゃんから二人の事は聞いているよ。犬月瞬君と橘志保ちゃんだよね?」

 

「え、あ、はい! 犬月瞬っす!」

 

「橘志保です。よろしくお願いします……あの、お義父様とお呼びしても良いですか?」

 

「勿論! 早織ちゃん達もそう呼んでるし好きに呼んでいいよ。今後もノワールをよろしくね」

 

 

 なんでか知らないが自分の父親でもないのにお父さんと呼んでるんだよなこいつ等……てか親父だけだよな? セルスとか母さんとか蛇女とかいねぇよな?

 

 リビングで親父と話していると仕事終わりらしい四季音が帰ってきた。いつものように酒を飲みながら見取り図みたいなものを渡してきたので確認すると確かに俺達がリクエストした部屋などがちゃんと付いており一般家庭と比べてをかなり広い面積となってた。そりゃ、周りのご家庭を引っ越しさせて面積を広げたんだし当たり前だよな。

 

 

「俺の部屋の隣は平家と水無瀬……あん? 全員の部屋が一カ所に集まってんのかよ」

 

「うん。沙良ちゃんがノワールの部屋の近くの方が皆喜ぶんじゃないかって言ったからそうしたんだよ。やっぱり王と眷属という関係であってもコミュニケーションは大事だと思うんだ。流石沙良ちゃんだよ!」

 

「完璧ですお義父様! ありがとうございますお義母様!」

 

「良い仕事。流石だね花恋」

 

「にしし~わたしぃ~をもっとほっめろぉ~」

 

 

 見取り図的に見るならば部屋順は犬月、水無瀬、俺、平家で俺の手前が橘、平家の手前が四季音か……他の部屋が余っているからこれは今後増える可能性がある眷属分って事だな。にしても母さん……めんどくせぇ事をしてくれたな。別にどうでも良いが俺の部屋の近くでなんで喜ぶと思ったか聞かせてほしい。まさか俺がオナニーしている音とか聞けるとかか? そんなんで喜ぶのは平家ぐらいだろう。

 

 他の部屋は訓練室が地下三階、地下二階には温泉とプール、地下一階には橘がリクエストした部屋とかが付いている娯楽施設。地上一階はリビングで二階は俺達の部屋、三階は来客専用室とかその辺り……結構デカいな。掃除とかが大変そうだ。

 

 

「掃除とかだったら定期的にうち(キマリス家)のメイドがしてくれるから安心して良いよ」

 

「……なんで分かった?」

 

「だってそんな事を思ってそうな顔だったから。ノワールはそういう所を気にするしね」

 

「ちっ。とりあえず家をデカくしてくれてあんがと……これからどうすんだ? 時間あるなら晩飯ぐらいは水無瀬が作ってくれるぞ?」

 

「それは良いね! それじゃあお言葉に甘えて夕飯をごちそうになっちゃおうかな。あっそうだノワール?」

 

「なに?」

 

「今度の授業参観なんだけど沙良ちゃんが見に行くって張りきってたよ? 僕とセルスは仕事で行けないけど護衛でミアも来るから泊めてあげてね」

 

 

 俺の時が止まった。蛇女が来るのは別にどうでも良い、あいつは楽に対処出来るからな……問題は授業参観に母さんが来る? 母さんが人間界に来る? マジで何しに来るわけ? あんの馬鹿野郎!? 自分が人間界に来てどんな目にあったか忘れてんじゃねぇだろうな!? つかなんでそれを知って……平家貴様ぁ!!! そのドヤ顔で全てを察したわ! テメェか! テメェが情報を流しやがったな!!

 

 

「お義母さんに媚びを売るのは当然」

 

「……ま、負けません!」

 

「しほりん! 引きこもりに負けちゃダメっす! 俺はしほりんの味方っす!! とりあえず王様は爆発した方が良い、いってぇぇぇ!? ちょま!? ラッシュタイムは無しっすよ!!」

 

「――ふふっ、ノワールの周りはやっぱり楽しい子が揃うね。良かったよかっ、ぶへぇ?!」

 

 

 このイライラを発散させるために犬月と親父をボコった俺は悪くない。

 

 とりあえず……母さんが来たらちゃんとしないとな。また襲撃とかされたら嫌だし……その、大事な母親だしな。




影龍王と聖剣使い編終了です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と三大勢力
20話


「――温泉さいっこぉ」

 

 

 夏の暑さが出始める時期の深夜、俺は自宅の地下に作られた温泉に入っていた。先ほどまで恒例となった夜空との殺し合いをしてきたせいで切り傷やら打撲やらが痛むがそれでも温泉というシチュエーションだからか痛みが安らいでいく感じがする。マジで温泉最高、俺達キマリス眷属全員が一緒に入ってもまだ余裕があるほどの広さ、サウナ付き、そして足伸ばせる風呂。ホント最高! 温泉って良いよな! 流石にこの時間に一人で入るのはあれだから犬月も誘ってみたけどもう風呂に入ったんでパスと言われてしまい一人寂しく湯船に浸かることになった……あんまりしたくは無いが平家か四季音あたりでも誘えばよかったか? 橘や水無瀬は色々とアウトだがあいつらの裸なら事故は起こらねぇし。

 

 

『ゼハハハハハ。温泉、温泉入りてぇなぁ……身体さえあれば俺様も酒や女で楽しめるってのによぉ』

 

「ドラゴンの癖に温泉入るのかよ?」

 

『ドラゴンと言えども生き物、この世界に生きる生命の一部だ。それに俺様は擬人化できるんだぜぇ? 龍としての姿と人としての姿になれるのだ! 人の姿にならねぇと他種族との繁殖が難しいからよぉ……ユニアの奴も気に入った(おす)を見つけたらとりあえず交尾してから殺してたしな』

 

「……あん? まさか夜空の中にいるドラゴンってメス?」

 

『おうよ。経験人数四ケタのビッチドラゴンだぜぇ』

 

 

 確かに声質的には女っぽいなとは思ってたがメスのドラゴンだったのかよ……確かドラゴンの中でもメスって希少なんじゃなかったっけ? いやそれよりも四ケタって事は千人以上とは子作りしてるってことだよな……それでも子供出来ねぇってドラゴンの遺伝子凄くねぇか。

 

 

『ドラゴンってのは子を宿し難いのさ。なんせ力の塊だ、弱者の子種程度で孕んでいては世も末だろう? ドラゴン自体が長寿な生き物、長い年月を共に生きれない種族とは絶対に結ばれんだろう。ユニアもそれが分かっているからこそビッチになったってわけよ』

 

「へぇ。そう言えば相棒は昔から一緒だったんだろ? ヤッたの?」

 

『んなわけねぇだろう。ユニアを抱くぐらいならば別のメス、いやオスでも抱いた方がマシよぉ。見た目が女の男の娘だったらなお良いなぁ!』

 

「そりゃまた業が深い。そう言えば三大勢力のトップ勢がこの町で会談をするみたいだがどうなると思う?」

 

 

 コカビエルが引き起こした事件が発端となり一度、トップにいる方々がそれぞれの勢力の今後を話し合うとしてこの町に集まるという事を魔王様直々の書面にて知らされた。天界側からは天使長ミカエル、堕天使側からは総督のアザゼルと白龍皇ヴァーリ、悪魔側からはサーゼクス様とセラフォルー様、影龍王の俺と赤龍帝の兵藤一誠、その他両眷属全員だ。グレモリー先輩はこの土地を治める悪魔であり当事者の一人だから事件の全容を説明しなければならないらしいから頑張ってほしい。もっとも俺達キマリス眷属も当事者だから無関係じゃないけどな。

 

 二天龍の兵藤一誠とヴァーリ、地双龍の俺と夜空もこの会談に出席しなければならないらしい。俺はコカビエルをぶっ殺した主犯、赤龍帝も先輩の眷属だから参加するのは当然なんだけどヴァーリと夜空の二人も参加とか大丈夫か? 最悪の場合、会談場所が吹き飛ぶと思うんだけど?

 

 

『どうなるのかねぇ。今まで多くの争いが起きたが三大勢力のトップ共が一カ所に集まる事は起こらなかった。面白い事になりそうだぜぇ』

 

「だろうな……一応夜空には伝えたが暇だったら行くぅ~とか言いやがって今の所参加する気配ゼロ、あいつらしいといえばらしいんだが来なくて何か言われるのもなぁ……まっ、その前に平家をどうするかが問題なんだけども」

 

『覚妖怪故に他者の心を盗み見みちまうもんなぁ。魔王共に聞くかは知らんが会談場所にでも居ようものなら悪意やら何やらを感じ取ってぶっ倒れるぜぇ?』

 

「でも書面には眷属全員で来るようにって書いてたんだよな……俺の心だけに集中させておくか。周りが信じるかどうかは知らんけど」

 

『文句を言われたら殺せばよかろう。ユニアと俺様が手を組めば殺せねぇ奴らなんぞおらんわ!』

 

「それやったら大罪人になるんだけど……いや、そもそも俺と夜空が一緒に戦って勝てるかどうかも怪しいぞ。魔王と天使長、総督は別格だからな。とりあえず平家の事はその時になるまでに考えておくか」

 

 

 覚妖怪故に他者の心を読み取ってしまい各勢力のトップ勢が考えていることが筒抜けになってしまう恐れがある……まぁ、魔王様や天使長、総督レベルの奴らに効くかは分からないが平家が覚妖怪だと知っている魔王様が参加を許している時点で何かしらの対策を取っているという事だろう。

 

 そんな事を考えながら温泉でのんびりと過ごした後は脱衣所に設置されている牛乳とコーヒー牛乳が入れられている冷蔵庫から適当に一本取り出してリビングに戻る。四季音はいつも通りソファーに座りながら酒を飲み、水無瀬と橘がテーブルで何かをやっているのが見える……本とかが並んでるから勉強か? 真面目だねぇ。

 

 

「うぃ? のわ~るぅおふろはいってたのぉ~? ひとことぉいえよぉ~みせいちょうろりぃぼっでぃをみせてあげたのにさぁ。ひっく」

 

「リラックスしてぇのに酒の匂いなんて出されたら吐いてそれどころじゃなくなるんだよ。テメェは黙って酒でも飲んでろ」

 

「ひっどぉいなぁ~いいもんねぇっだ、おっさけおさけぇがわたしのこいびっとぉ」

 

「酒と結婚するならちゃんと役所に書類書いて出せよ。んでそっちはなにしてんだ?」

 

「志保ちゃんに悪魔業界の事を教えていたんですよ。眷属悪魔になりたてですしその辺りはきちんと教えておかないとダメですから」

 

「悪魔さんの僧侶としてちゃんとお役に立てるように頑張りたいので水無瀬先生に教えてもらっていたんです。良ければ悪魔さんも一緒にお勉強、あの、教えてもらえませんか……?」

 

 

 上目遣いで頼んでくるとかマジ反則。いやぁ! やっぱ我が眷属の癒し枠は最高だね!

 

 しかし悪魔業界の事って言われても橘は元退魔の家系、親父さん達も既に別の職に就いているとはいえその辺りは知ってそうなものだけどなぁ。二人の傍に座って話を聞いてみると僧侶としての役割から転生悪魔としての常識、契約取りの種類から中級悪魔や上級悪魔に昇格するまでの流れ等幅広い事を知りたいらしい。それを聞かされた俺は……泣いた、心の中で泣いた。マジで良い子だなぁ! 引きこもりや酒飲みなんて眷属になってからもそんな勉強なんてしてないっていうかそもそも中級や上級に上がる気あるのかとこっちから聞きたくなるというのにこの子って……! 俺をどこまで癒してくれれば気が済むんだ畜生! アイドルって魔性属性でも持ってんのか! 可愛い!

 

 

『しほりんは良い子だなぁ。俺様、肉体さえあれば押し倒したくなっちゃうぜ』

 

「え、えっと……ありがとうございます? あれ違います?」

 

「とりあえず相棒の言う事は放って置け。さっきから温泉入りてぇだの酒飲みてぇだの女抱いて孕ませてぇだの五月蠅いんだよ」

 

『俺様、これほど聖書の神をぶっ殺してぇと思た事はねぇんだぜ? 歴代影龍王は全て人間、宿主様のように悪魔となった奴なんて存在しねぇんだからな。温泉に良い女に退屈しない日常と最高だってぇのに俺様は神器の中……身体が欲しいなぁ』

 

「クロムもいずれ封印が解けますよ。その時に思いっきり温泉を楽しめばいいじゃないですか……その、じょ、女性を抱くとかはダメですけど……ノワール君もダメですからね! ちゃんと同意の上でしないと怒られますから!」

 

「――『好きにしてください。初めてですけど楽しませるぐらいは出来ます』と言ってた水無瀬からそんな事を言われるとはなぁ」

 

「……え?」

 

「あーあーあ!!! し、志保ちゃんは気にしたらダメです! さぁお勉強の続きです! はいやりますよ!」

 

「え? ヤる?」

 

「そっちじゃありません!!」

 

 

 昔、俺に対して言ったセリフを暴露されたせいで水無瀬はかなり取り乱しているようだ。橘も驚きのあまり少し困惑してるようだけど……大丈夫だ、これが日常だと思い込むから。

 

 そんな事を思いながら真面目に橘の勉強を手伝う事にした。だって癒し枠だし、良い子だし! 教えてください悪魔さんとかアイドルボイスで言われたら手伝っちゃうでしょう男的に。と言っても大半が水無瀬が教えていたから俺は横から補足もどきをしてただけだが……俺いる意味ある? 橘的に勉強を教えるのは今までも何回かしてたけど水無瀬が居るし必要は……ありますか、いやぁ! やっぱりアイドルって良いね! にしても橘が契約の種類が気になるとは思わなかった。色々な事情から平家と同じでPCを使っての契約だけど橘的にはちゃんと会って話を聞きたいとか思ってんのかねぇ? 根は真面目だし有りそうなんだがアイドル橘志保が真夜中に一般人のお宅に訪問してこんにちは悪魔ですハートマークとかしたらアウトだろ。エロ系の内容だったらそれ専用の悪魔がいるとはいえ相手が暴走する可能性もなくはない。だって俺が契約主だったら普通に変なお願いするしな!! でも顔が見られなければいいんだから着ぐるみか何か着せれば良いのか?いや声でバレるか。

 

 

「結局、王様のお母さんは来なかったっすね」

 

 

 時間は進んで翌朝、特にこれと言った出来事もなく迎えてしまった授業参観当日の朝、家を出て駒王学園に向かっている途中で犬月が思い出したように呟いた。まぁ、思いたくはなるか……なんせ今日は授業参観だというのに母さんが家にやってこなかったんだし。あんの天然……マジで何する気だ? サプライズで学校で初対面とかしようとしてるんじゃねぇだろうな?

 

 

「来ないなら来ないでありがてぇんだよ。あの天然で外見詐欺が何かしでかす事はねぇんだし」

 

「外見詐欺……ですか?」

 

「お義母さんは見た目若いの。だから外見詐欺」

 

「そうなんですか? でも、悪魔とかじゃないんですよ、ね?」

 

「当たり前だ。そうじゃなかったら俺は混血悪魔じゃなくて純血悪魔になるぞ? いやそれよりもなんで人間界に来るんだよ……昔の事忘れてんじゃねぇだろうな?」

 

 

 母さんと俺が人間界に遊びに来た際にキマリス家の奴らから襲われたってのにあの天然は懲りずにまた来るのかよ……流石に今回は蛇女(ミア)が護衛、俺もあの時とは違って強くなったと思いたいから襲われたとしても対処できる自信はある。それでも不安と言えば不安なんだよ……あれは地味にトラウマだからな。実の母親が血だらけで片足吹き飛ぶ姿をガキの頃に見たら当たり前だと思うけど。

 

 

「多分忘れてないと思う。でもお義母さんだし仕方ないと思う」

 

 

 いつものように自転車の荷台に座っている平家がいい加減諦めなよと言う視線と共に言ってきた。うん知ってる。母さんだしもう諦めようかと思ってる。

 

 何が何だか分からない顔をしている可愛い橘にはあとで説明をするとして――何あれ? 駒王学園の入り口、そこで絶対にいないであろう人物が立ってるんだけど。ついでに言ってしまえば先輩と赤龍帝含めた眷属全員も向かい合うように立っているんですが何をしているんですかねぇ?

 

 

「――やぁ、影龍王。キミとも会えるとは思わなかった」

 

 

 俺がやってきたのが見えたのか話しかけてくる銀髪のイケメン――ヴァーリがやや嬉しそうな笑みを浮かべながら視線を向けてきた。先輩方も俺の方を見てくるけど……なんでこんな時に来るんだっていう視線の数々はなんなんですか? 殺されたいの?

 

 

「そりゃ、此処の学生だしな。お前こそ此処で何してんだよ?」

 

「俺のライバル、兵藤一誠の顔を見に来ただけさ。影龍王、先日のコカビエルの一件は助かったよ。アザゼルも面倒な裁き等をしなくて済んだと喜んでいた」

 

「怒りもしないって事はコカビエルの奴、思いっきり邪魔者扱いされてたんだな。別に殺せたから殺しただけだし礼を言われるほどじゃねえさ。お前にも殺すからねハートマークで言ってた事だしよ」

 

「そうだったな。光龍妃と共に見ていたが流石にコカビエルごときに苦戦はしていなかったようで何よりだよ。もう一度キミと戦いたいところだがアザゼルから会談が終わるまでは戦闘を控える様に言われていてね……光龍妃とも戦えないとなると退屈で仕方がない」

 

「流石戦闘狂。あぁ、会談だけど夜空の奴は来るかどうかは分からんぞ。一応この前殺し合った時に伝えといたが暇だったら行くだとさ」

 

「なるほど、了解した。アザゼルにも伝えておこう」

 

「是非そうしてくれ。んでさぁ、こうしてグレモリー眷属に囲まれてるんだし少しは焦った様子ぐらいはしてくれない? この人(グレモリー先輩)はプライドだけは高いからさ」

 

「ふむ……残念だが無理だな。コカビエルはおろかケルベロス程度にも圧勝できない彼女達に恐れを抱く事なんて出来そうにない」

 

「あぁ~うん、それは俺も嘘だろ弱すぎんだろとか思ったけどほ、ほら! この人って一応魔王の妹さんだから次からは振りだけで良いからしといてくれ」

 

「俺がそのような事をすると思うかい?」

 

「いんや全然。むしろ恐れを抱いたのを見たらマジかよとドン引きする」

 

 

 何やら後ろから文句の声が聞こえてきてる気がするけど無視だ無視。だって事実だろ? 赤龍帝から力を譲渡されて初めて圧勝とか弱すぎて何も言えないんだよね。まぁ、魔王の妹とか二つ名で呼ばれて調子に乗り上級悪魔にありがちな生まれ持った才能に過信して特訓とかしてないだろうから当たり前なんだろうけども。でもせめてサイラオーグ・バアル並みの強さを手に入れてほしいよね……なんで俺はこんな雑魚に下手にならないといけないんだって偶に思っちゃうからさ。

 

 目の前のヴァーリの視線が俺の後ろ、橘に向けられた。そう言えば橘の神器が気になるとか言ってたな……今日は居るし紹介だけさせておくか。先輩が邪魔だけど仕方がない。

 

 

「なんだ? 橘のファンにでもなったか?」

 

「いや、彼女が持つ神器の方に興味があってね。紹介してくれると助かるんだが?」

 

「別にいいぞ。橘、神器(オコジョ)をヴァーリに見せろ」

 

「は、はい!」

 

 

 カバンの中から飛び出したオコジョは橘の肩に乗る。神器の殆どは俺や赤龍帝のように望んだら出現するタイプだし体の部位そのものが神器と言う常時発動型や生き物の姿を模した独立具現型なんてモノはかなり珍しいだろう。

 

 

「なるほど……昔を思い出すな。ありがとう、俺に宣言した通り彼女を眷属に加えたというわけか」

 

「まぁな。流石に堕天使の総督に目を付けられて横取りとかされたくねぇし。というよりそろそろ帰れ、遅刻しちまう」

 

「あぁ、すまない。なら今日はこの辺りで失礼するとしよう――リアス・グレモリー、赤龍帝は貴重な存在で俺のライバルだ。キミも強くならなければ眷属である兵藤一誠に追い抜かれ恥を晒すことになるぞ。もっとも俺に殺されてしまえば意味は無くないけどね」

 

「……えぇ。ご忠告ありがとう白龍皇さん、でもイッセーは殺させないわ! 貴方がイッセーを殺そうとするなら私の命に代えてでも貴方を倒すわ!」

 

「出来たら、の話だが楽しみにしておこう」

 

 

 それを言い残してヴァーリはこの場からいなくなった。さて俺達も教室に行かねぇとマジで遅刻する……一応先輩に挨拶だけしてから同じようにこの場から離れる。その途中で犬月から「ボロクソ言ってましたけど良いんすか?」と聞いてきたが問題ないだろ? だって事実だし。

 

 平家と別れて俺達三人は自分の教室に入る。匙君やら名前も知らないクラスメートが橘に挨拶してくるけどこれはもう見慣れた光景だ。平家からは今の所女子から嫌われているような感じはしないと聞いているけど女って陰気で裏で何するか分かんねぇ生き物だし油断はできない。もし俺の癒し枠を泣かせようものならとりあえず殺す事は確定、これは犬月も同意しているし手伝ってくれるらしい。流石俺の兵士だと褒めてやろう。

 

 

「――あの、黒井っち? なんかものすっごい熱い視線で見つめているお方がいらっしゃいますけど?」

 

「知らない知らない気のせい気のせいマジで気のせい俺は何も見ていない俺は何も感じていない」

 

 

 授業が始まるまであと五分ほど猶予があるが俺はそれどころではない。背後から感じる熱い、別な意味で熱すぎる視線を如何にかして消し去りたい。犬月……話しかけるな! 今の俺は無我の境地とかなんかその辺りのものになるために忙しいんだ!

 

 隣の席の橘は大丈夫ですかと心配してくれるがごめん! 今はそれどころじゃないんだ! マジで話しかけないで!!

 

 

「うわっ、すっげぇ美人……誰の親だ?」

 

「隣に居る紫の髪の子なんて俺達と同じぐらいじゃないか? あと、俺の気のせいかもしれんが黒井を見てないか?」

 

「二人ともなんだろうか、こう、早く気づいてと言いたそうな視線で見ている気がする――また黒井か!」

 

「あの、犬月さん……あく、レイ君の様子が変なんですけど……?」

 

「多分後ろのお二方のせいじゃねぇかな? あの人達が来てから黒井っちがこうなったんだし」

 

 

 大正解。お前らが言ってる美人やら紫髪の女やらは俺の知り合いと言うか身内というか……うん、片方は俺の母親でもう片方はメイドなんだ。そっと、そっと気づかれない様に背後を見ると他の方々とは比べ物にならないほどの美女と美少女が並んでいた。実の母親を美女とか表現したくないがこの際どうでも良い。

 

 清楚な服装に身を包んだ黒髪ロング、片手には足が悪いのか杖を握っている女こそ俺の母親で隣に居るふんわりとした紫髪で巨乳の俺と同じか一つ上に見える奴がミア、通称蛇女。マジで帰ってくださいお願いします……そんな熱い視線を向けないでくださいお願いします。いやその前にマジで蛇女、お前だけは帰れよ! お前のさっさと気付けやごらぁな視線はいらねぇんだよ!

 

 

「はい。それじゃあ授業を開始します。今日は授業参観だから保護者の方や下級生の子達が来られているが緊張せずやっていこう」

 

 

 運命の授業が開始された。この時間は数学、特に面白くも無ければ楽しくもないものだが早く終わってほしいと心から思ったのは初めてだ。まぁ、担当教師自体の教え方は面白いから保護者勢とかには受けは良いだろう。だけど帰りたい。背後から頑張ってみたいな熱い視線を感じます。やめてください死んでしまいます。

 

 

「うん、じゃあこの問題を――黒井に解いてもらおうか」

 

 

 殺すぞこの野郎! なんでこのタイミングで俺に当てるんだよ!! 普段なら断る所だが今日は公開授業と言う名の授業参観、隣に居る我が癒し枠のお声もあってやるしかねぇ! 帰りたい、マジで帰りたい。

 

 

「――で合ってます?」

 

「大正解だ。流石のお前も緊張か? 大丈夫だ、それはみんな同じだ」

 

「あ、はい、そっすか……」

 

「ミア! ノワールがちゃんと答えたわよ! 見た? 見た? 緊張してるなんて可愛いぃ! あっ、ビデオに撮らなくちゃ!」

 

「ちゃんと見てましたから落ち着いてください。あとこっちでは零樹でっすよ」

 

「あら? そうだったかしら?」

 

 

 後ろがうるせぇ!? てかなにさらっと人の本名言ってんだよあの母親は!? 此処に通う時に名前変えたからなと何度も言ったのに忘れてやがる!? はぁ……帰りてぇ。

 

 結局この後も背後から感じる熱い視線とざまぁみたいな視線を浴びながら授業を受ける羽目になった。母さんはともかく……蛇女、テメェ後で覚えてろよ!




今回から「影龍王と三大勢力」編が開始します。
感想ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

「――で? 家に来ないで直接こっちに来た理由を、理由を……離れろっ!!」

 

「もうっ、動いちゃダメよ。折角親子の再会なんだからもう少し息子成分を補充させなさい。はぁ……これよこれなのよぉ、年に数回しか息子に会えないなんてお母さん寂しいの」

 

「だから離れろって言ってんだろうがっ!! おい蛇女! これどうにかしろ!! テメェこいつ専属のメイドだろうが!!」

 

「沙良さまのお邪魔は出来ません☆ メイドとはそうなのでっす!」

 

「殺されてぇのかテメェ!!」

 

 

 昼休み、俺達キマリス眷属五人はとある二人を連れて保健室を訪れていた。現在の状況はと言うと……美女に抱き着かれてます。いや美女って言っても実の母親なんだけど四十超えてるくせに見た目二十代と言う謎がある我が母親――沙良・キマリスに後ろから息子成分補充と称して抱き着かれてる。俺を椅子に座らせてその隣に座って抱き着くという器用かどうかは知らん事をしてくるが……離れてほしい、マジで離れてほしい。何処の世界に母親に抱き着かれて喜ぶ男がいるんだ……? 俺はマザコンじゃねぇしさっさと引き剥がしたいんだが強く出れないのも事実。片足が不自由なこいつ(母さん)を突き飛ばすだのなんだのは流石の俺でも出来ねぇよ。

 

 

「そもそもノワールさまがご実家に帰ってこない事が原因でっす! 親子の感動の再会なんでっすから諦めてください☆」

 

「帰ったらこうなるから帰らねぇだけだ! あぁもうウゼェ! いい加減離れ、離れ……もう好きにしろよぉ」

 

 

 全てに絶望した顔されたらもう何も言えなくなるから止めてくださいお願いします。見ろよ? 犬月と橘が驚きのあまり固まってるぞ……平家と水無瀬は何時も通りって感じだけど見てないで助けてくださいお願いします。

 

 

「お義母さんをノワールから離すなんて所業、私は出来無い」

 

「流石(さとり)でっすね、よく分かっていらっしゃいます☆」

 

「それほどでもない」

 

「あの……色々とツッコミ所が多すぎてあれなんすけど、王様に抱き着いているのがお母さまで良いんすよね? こっちのでっす口調の女誰っすか?」

 

「こちらはハイネギア・キマリス様の僧侶のミア、そしてノワール君に抱き着いている方がお義母様の沙良様です。えっと、沙良様はノワール君を溺愛と言いますか……その、大好きですのでいつもこうなります」

 

「可愛い一人息子なんだから同然よ。恵も早織もお久しぶりね、ノワールと仲良くしてる? この子ったらネギ君に似ないで不愛想だから迷惑をかけてない?」

 

「問題ないですお義母さん、毎日求められて――もがもが」

 

「早織? 何を言おうとしてるのかしら? え、えぇ! 何も問題ないですからご安心くださいませ、おほほほほ!」

 

「もがもが!!」

 

 

 漫才するぐらいならこの状況をどうにかしてくんね? てかキマリス領の実家に帰らないのもこれ(母さん)が滞在中ずっと離れないから帰りたくないだけだ。何処の世界に息子溺愛好き好きオーラ全開の外見詐欺年増と一緒に居たいと思う? あれ……文字にしてみると色々とアウトな気がする。その辺りのマニアにはたまらない感じがするんだけども……気のせいだな!

 

 それはそうと水無瀬? そろそろ平家が死にかけてるから離そうか。

 

 

「この方が悪魔さんの……あ、あの! 私、その、橘志保と言います! 悪魔さんの僧侶になりました! え、えっと……お義母様とお呼びしても……?」

 

「勿論呼んで頂戴。貴方が志保ちゃんね? 話は聞いてたけど私ってノワールに幼馴染の子が出来たらいいなぁって思ってたのよ。ほらこの子って一人っ子だし昔から仲の良い子がいなかったから幼馴染になってくれた貴方にお礼を言いたかったの。ありがとう、これからもこの子の事をお願いね?」

 

「は、はい!」

 

「いや待て、幼馴染って設定だぞ? 分かってるか?」

 

「勿論分かってるわよぉ」

 

「……全然わかってねぇなこりゃ」

 

「なんか王様と真逆っすね……あっと、俺は犬月瞬っす。王様の兵士してます」

 

「初めまして。沙良・キマリスです。ノワールからお話は聞いてるわ、見どころのある子が眷属になったって。これからもノワールと仲良くしてね? あとお母さんって呼んでも良いのよ?」

 

「い、いやぁ、か、考えておきます……」

 

「ハッ!? これは私も挨拶する流れでっすね! ミアでっす☆ ハイネギアさまの僧侶でキマリス家のメイドやってます! 何でも言ってください☆」

 

「んじゃ帰れ」

 

「いやでっす☆」

 

 

 この蛇女……実年齢百歳ほどの癖に女子高生風の恰好しやがって恥ずかしいと思わねぇのか? いやこの発言は冥界に居る女悪魔たちに喧嘩売るから止めとこう。ちなみに俺が蛇女と呼んでいる理由はこいつの種族的な意味でだ。ラミアと人間のハーフだから蛇女。ラミア族ってのは足が蛇のようになっているんだがこいつは半分だけ人間だからちゃんとした足がある……もっともラミアの血を強めれば変化させられるらしいけど。俺よりも百歳ほど年上だが敬意を持った態度なんて絶対に無理、というより笑みがムカつくからぶん殴りてぇ。

 

 

「もう今日は離れたくないわ。このままくっ付いてていい?」

 

「それやったら問答無用で親父に送り届けるが?」

 

「あら? ノワールが家に帰ってきてくれるの? だったらそれでいいわ! 偶には親子三人で暮らしましょう?」

 

「ちっげぇよ!! テメェだけ帰す、帰らせ……今日は家に泊めてやるからマジで離れろよぉ」

 

「……あの王様が手も足も出ないなんて、この人すげぇ」

 

「悪魔さんがあんな風になる所は初めて見ました」

 

「そりゃノワールってお義母さん大好きだし。多分お義母さんをケガさせたら世界滅ぶよ?」

 

「まぁ、大好きと言うよりも大切といった感じですけどね。今までのノワール君の態度を見てたら分からないでしょうけど……私も最初に見た時は驚きましたし」

 

 

 当たり前だろ? 母親だぞ? 大切にしないといけねぇだろうが。

 

 

「そういえばあの鬼はどこにいるんでっすか?」

 

「仕事中だよ。お酒飲んで働いてると思う」

 

「うわぁ平常運転でっすね。とりあえずそろそろノワールさまを助けますね☆ 沙良さま、そろそろ教室に戻らないとノワールさまが遅刻してしまいますよ?」

 

「あらもうそんな時間? まだ半分も補充してないのに時間が経つのは早いわぁ」

 

 

 どんだけ息子成分とやらの蓄積がおせぇんだよ。ようやく抱き着きから解放されたので先に立ち上がって母さんに手を差し伸べる。いや……そのどうしたのみたいな顔止めろっての。良いから気づけってんだよ。

 

 

「……次、平家の教室行くんだろ。案内してやるからさっさと掴まれ」

 

「ノワール……それじゃあ甘えちゃおうかしら。もう優しい息子に育ってくれてお母さんは嬉しいわ」

 

「テメェがその辺でぶっ倒れたりなんだりすると色んな奴が迷惑なんだよ」

 

 

 周りからの微笑ましい視線を浴びつつ母さんの手を取って支えになる。昔の事件のせいで片足が不自由になってからは基本的に蛇女(ミア)が傍に居てサポートしてるけど今日ぐらいは良いだろ……一応息子だしさ。平家の教室に着くまで歩きが他よりも遅い母さんからは迷惑かけるわね的な事を言われたけどこのぐらい迷惑でも何でもねぇよ。むしろセクハラしてくる四季音の方が迷惑だ……つか周りの視線もウゼェ。こっち見んじゃねぇよ。

 

 やや時間は掛かったが無事、平家のクラスに到着した。別に母さんは平家の親ってわけじゃないが地味に溺愛している上、平家自身も懐いてるしもう親みたいなもんだろって感じだ。始めて平家を紹介した時に覚妖怪だってことを説明したら「心が読めるの? 素敵じゃない! 以心伝心出来るなんて夢のようだわ!」と素で言いやがった時は吹き出しそうになったもんだ。流石あの親父と結婚しただけはある。

 

 

「ありがとうノワール。助かっちゃったわ」

 

「だから零樹だって言ってんだろうが……平家、ミア、頼むわ」

 

「お任せされた」

 

「りょーかいでっす☆」

 

 

 母さんを二人に任せて俺達は自分のクラスに戻る。はぁ、これで少しは落ち着ける……なんだよ? その何か言いたそうな視線は?

 

 

「犬月、何か言いたいならさっさと言え」

 

「んじゃ遠慮なく。王様ってお母さんのこと大切に思ってんすね」

 

「……当たり前だろうが。人間なのに身を挺して悪魔の攻撃から俺を護ろうとしてくれた奴だぞ? 原因が俺だってのに親だから当然だって顔して痛い思いして死にかけて……そんな奴を嫌ったりできるかよ」

 

「確かに良い人ですよね……初対面の俺にお母さんって呼んでいいよなんて言う人いませんよ? 白髪でいかにも不良だっていうのに一瞬マジかって思いました」

 

「え? 犬月さんの髪って綺麗ですし私は羨ましいなぁって思いますよ?」

 

「……しほりんマジ女神。いやぁ! もうこれは頑張らないとダメっすね! 何を頑張るか知らねぇけど」

 

「特訓を頑張れば良いんじゃねぇか? まぁ、お母さん発言はあれ(母さん)からすればマジで呼んでほしいと思ってるからお前さえ良ければ呼んでやってくれ……あんな風にしてても自分は人間だから俺達よりも早く死ぬって理解してるからさ、子供に囲まれたいみたいだしさ」

 

「王様……その、が、頑張るっす」

 

「私! お義母様の娘になります! はい!」

 

 

 人間だから早く死ぬのは当たり前、精々長生きしても七十か八十くらいで死んじまう。親父もそれが分かっていながら母さんと結婚したんだよな……あのクソ親父が文句も言えねぇぐらいの笑顔で結婚してよかったなんて言うくらいだ。親父からしたら思いっきり良い女なんだろうなぁ。あと橘様! 手を握らないでください凄く役得です!

 

 ややしんみりとした会話をしながら教室に戻ると他の保護者に交じってこれまた美人が居た。緑色の長髪でなんて言うべきか……橘がそのまま成長して大人のエロさを身に付けたみてぇなそんな感じ。というより橘の母親ですね。いやぁ今日もお美しい!

 

 

「――あら? キマリ、いえ零樹君、志保もどこかでお昼でも食べてたの?」

 

「お母さん!? あ、あれ……今日って来られないんじゃなかった?」

 

「仕事が早めに終わったから来てみたの。お久しぶりです、志保の事で迷惑をかけていないかしら?」

 

「全然全くこれっぽっちも迷惑にはなってませんよ。むしろ俺の存在が迷惑なんじゃないかと思い始めてるぐらいです……えっと、親父さんは仕事ですか?」

 

「えぇ。あの人は忙しいから……貴方はえっと、犬月君でよかったかしら……?」

 

「はい! 犬月瞬と言います! どうぞ犬とお呼びください」

 

 

 跪きながら挨拶してるところ悪いがお前マジか? 相手人妻だぞ? 気持ちは分かるが男のプライドを……無理だな。俺も跪きたいし誰だってそうだろう。いやそれにしても……遺伝子ってすげぇ。一目見て親子だって分かるほど似てるし成長したらこうなるんだろうなって事が分かりやすい。親父さん羨ましいぜ。

 

 でも思い返してみればこの人も橘の親父さんも退魔の家系で俺達みたいな異形と戦ってきたんだよな。今は退魔の仕事を引退して普通の仕事をしてるみたいだけど一回ぐらいは戦ってみたかった……いやそれよりもこの人(橘の母親)がいる職場ってどんなのなんだ? きっとスゲェ人気なんだろうなぁ。だってこのエロさだぜ? 胸デカいし大人の魅力有りで最強属性の人妻……最高じゃねぇか――いや、冗談だから抓らないでくれないか?

 

 

「……エッチです。お母さんじゃなくて私を見てください」

 

「いやそれはそれで問題だろ……あぁ、えっと、一年の方に俺の母親もいるんでもしよければ今晩家にでもどうです? 橘とも話したいでしょうし親父さんもご招待したいんですけど……?」

 

「あらそう……えぇ、ではお言葉に甘えてお邪魔させてもらうわ。お母様にも一度ご挨拶しておきたかったもの」

 

 

 と言うわけで今晩は結構な大人数での食事になりそうだ。俺達キマリス眷属に母さんとミア、橘の両親と数えてみればスゲェな……でも思いっ切り余裕ある我が家もスゲェ。そんなやり取りをしていたせいかクラスの奴らからの視線が凄かった……いやこんな美人親子と一緒の食事とか羨ましいとか思ってんだろうけどウゼェしさっさと消えてほしい。

 

 結局残った授業は母さんがいないので比較的楽に終わった。問題があったと言えば橘の母親があまりにもエロくて美人だから父親勢の視線がそっちに向かってたという事と帰り際に匙君から聞いた魔王様二人が来ていたという事だ。前半は男として納得するしかないが後半はどうでも良いな……身内の方々が三年生に居るから来るのは当たり前だとは思うけど俺には関係ないし。むしろ挨拶に来られたらどうしようとか思ってたけどこっちには来なかったようで一安心だな。

 

 

「――いやはや、キマリス様から食事のお誘いとは光栄です。娘と妻共々お礼を申し上げます」

 

 

 時刻は夜、全員揃った事で小さなパーティーが始まった。料理と作ったのは水無瀬とミアと橘の三人という料理上手な面々、味はかなり保証されている。母さんも自分も手伝うとか言いやがったが足が不自由な奴がキッチンに立ったら色々と危ないので俺の犠牲という大きすぎるモノを支払って阻止した……そのせいでさっきまで息子成分補充と言って抱き着かれたが怪我されるよりはマシだろう。

 

 ちなみに俺の親父は参加していない。仕事らしい……ざまぁ。

 

 

「別にそんな大したものじゃないですけどね。こちらこそ橘志保さんを眷属にしてからご挨拶に伺えてなかったので申し訳ないですよ」

 

「いえいえ。キマリス様はお忙しいでしょうし私達のような者に気を使ってくださらなくても構いません。今後とも、娘をよろしくお願いします」

 

 

 橘の親父さんはやや厳格そうに見える四十代の男だ。そんな人が自分の半分も生きてないガキ相手に頭を下げるとかちょっと困る……いやこの人的には本気で言っているんだろうけどなんというかその、どう反応すればいいか分かんない。

 

 

「もうっ! お父さん恥ずかしいからその辺にして!」

 

「そうよ。折角の美味しいお料理なんだからもう少し楽にしたらどう?」

 

「お、おぉ! う、うん……そうしようか」

 

「にししぃ~のわーるにけいごとかひつようないんだよぉ~だぁ、だってぇえらくないもんねぇ」

 

「でっす☆ ノワールさまに敬語とか死にたくなるんでそろそろタメでいいです?」

 

「テメェらは敬えというかマジで敬語で話せ。四季音! ちゃんと飲む量加減しろよ?」

 

「いぇ~い」

 

「いつも通りだし気にしたら負けだよ。お義母さん、お皿取って」

 

「はいどうぞ。うふふ、こうして大人数で食べるのは良いわねぇ。家だとみんなバラバラで好きに食べてるから新鮮よ」

 

「基本私たちって自由でっすからね☆ 団体行動とか無理無理でっすよ」

 

「それを纏めているノワール君のお義父様は凄いんですよね……ノワール君はお義父様似ですね」

 

「止めてくれ……死にたくなる」

 

 

 なんだろうか、どこからか似てるって言われたら死にたくなるって言われたとガチ泣きしてる奴がいる気がする。具体的にはいつも仕事をしているデスクで。セルス……すまんがポンコツの相手頼むわ。

 

 各々が会話をして料理を食べる。親同士の苦労や悩みもあるらしく母さんも結構楽しんでいるようだ……お互いの息子や娘の自慢話さえなければ俺も橘も凄く楽だっただろう。そんな楽しいパーティーも終わりを告げて女子勢全員が地下の温泉に向かったのでリビングには男三人……何と言うか騒がしい奴らが居なくなって一気に静まり返ったぞ。

 

 

「親父さん、酒飲まないんですか?」

 

「残念ながら酒の類は苦手でして……炭酸飲料を貰えますか?」

 

「どうぞ」

 

 

 俺も犬月も一応未成年だから炭酸飲料を手に持ってるがまさか親父さんが酒が苦手だとは思わなかった。厳格そうだし寝る前の晩酌を嗜んでいるようなイメージだったけどそうじゃないんだな。炭酸飲料の缶を渡して俺達三人で乾杯、傍から見たら男子会と呼べるような光景だ。

 

 

「しほり、あぁえっと、志保さんの親父さんって退魔関係だったんすよね? なんつうか王様の眷属に娘が入るのって抵抗とか無かったんすか?」

 

「退魔を生業としている者にとってはありえないと言われるでしょうな。しかしキマリス様には娘を助けてくださった恩がありますし娘も望んでいましたから親としては反対する理由もありませんよ。それに私も妻も娘がキマリス様のお得意様になりたいと伝えられた時から決めておりましたからね」

 

「……あの、すっげぇ信頼されてるところ大変申し訳ないんですけど、あの、俺って最低最悪な奴ですよ? 普段からぶっ殺すとか言うし態度悪いしもうあんないい子の傍に居て存在じゃないですよ?」

 

「ご自分の母君をあれほど大切に扱っている方が悪い者であるはずがありません。キマリス様の事情は存じております……()()は必要な事でしょう。この場には私達三人しかおりませんから少しは楽にしたらどうでしょう?」

 

 

 過大評価されてるようだけどマジでごめんなさい……そんなんじゃない! いや、自分の立場というか混血悪魔だから舐められたらダメだな的な事は思ってるがそんなんじゃないぞ? 普通の最低最悪自分勝手自己中野郎なんだけど何故此処まで過大評価されてるのか理解できねぇ。あれか? 橘助けたからか? きっとそうだな!

 

 

「確かに周りに女しかいねぇんでこうした空気も大事っすよね。王様、つうわけで無礼講ってことでどうっすか?」

 

「普段から無礼講じゃなかったか?」

 

「あれそうでしたっけ? まっ、いいっすけど――親父さん、どうやったらあんな良い奥さんと出会えるんすか!!」

 

「犬月君……男とはカッコ良さ、誇りを見せれば女子(おなご)はイチコロです。私も若い時はやんちゃでしてなぁ、妻と出会ったのもそんな時でした」

 

「マジっすか! 俺の誇り……あれ? なんか見つからねぇんだけどちょっと拙いかもしんねぇ!?」

 

「生きていく中で誇りは見つかるものです。焦らずゆっくりと進みなさい」

 

 

 誇り、誇りかぁ。俺もねぇなそんなもん……今を好き勝手生きて夜空と好き勝手に殺し合ってれば満足だし。大人になるとこんな風に言えるようになるのかねぇ? 親父さんも修羅場を潜ってきてるっぽいし色々とあったんだろう。でも誇りか、まだ見つかりそうにはないな。結局橘の親父さんと犬月の二人が気が合うのかカッコ良さや誇りについて語り始めたが……やべぇ、混ざれねぇ。いや別に良いんだけど。

 

 まぁ、でも誇りかどうかは知らんけど一つだけ、たった一つだけあの日から決めてる事はある。

 

 

「――母さんを護るってのは誇りなんかね」

 

 

 邪龍を宿す者としては最悪な事だと思うけどたった数十年だしこれぐらいは許してほしいと思う。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

「――いやぁ、悪いねぇ。奢ってもらっちゃってさぁ」

 

「他なら兎も角、堕天使の総督相手じゃどっかに行けって言えませんよ」

 

 

 放課後、俺と平家はとある人物と喫茶店に訪れていた。

 

 悪夢とも言える授業参観も終わりくだらない日常に戻るのかと思っていた矢先の出来事で唖然としたのは言うまでもない……いや誰だってはぁ? みたいな顔ぐらいはすると思う。なんせ俺の目の前でコーヒーを飲んでいる男は堕天使陣営のトップ、アザゼルだからな。いつものように家に帰っている途中で話しかけられて誰だよと思ったらこのおっさんだ……なんでもついさっきまで赤龍帝達の所に居たそうだができればこっちに来ないでくれると凄く助かったんだけどねぇ。隣に座っている平家もすげぇ嫌そうな顔してるし俺も気を抜けないから非常に迷惑だ。

 

 

「若いのに年上を敬う。いいねぇ、ヴァーリの奴もお前さんぐらいに利口になってくれればもう少し楽なんだけどなぁ。昔は良かったが今はくそ生意気に育っちまっておじさん悲しいよ」

 

「白龍皇がたかが堕天使のトップ程度に跪くんなら二天龍は争いを続けたりはしませんよ」

 

「おぉ、言うねぇ。本当ならお前さんの神器、影龍王の手袋をじっくりと見させてもらいたいがお前ん所の覚妖怪の機嫌が悪そうだしちゃっちゃと本題に入っておこうかね」

 

「出来ればそうしてください。アンタと話をしていると老害共(冥界上層部)が五月蠅いしさっさと帰りたいんで早くしてくれません?」

 

「さっきまでの利口さはどこへやらだ……俺が覚妖怪と一緒にお前さんを呼んだ理由ぐらい分かってんだろ?」

 

 

 そう、この男は帰宅途中だった俺と犬月、橘に平家の四人が居たにも拘らず俺と平家のみ呼び出した。独立具現型神器を保有している橘を放置してでも俺たち二人と話したい理由は……考えなくても分かる。もうじき行われる三大勢力の会談に関する事だろう。

 

 

「……会談ですか?」

 

「そうだ。俺とサーゼクス、セラフォルーにミカエル。まぁ言っちまえば各勢力のトップ様が集まる大切な会議に心を読んじまう覚妖怪は迷惑なんでな。誰だって声に出したくねぇ事を読まれたら嫌だろ? 俺達が相手つぅなら猶更な」

 

「俺の眷属を侮辱するなら今ここで殺し合っても良いですよ?」

 

「人の話は最後まで聞けって。いくらヴァーリとタメ張れるって言っても俺には勝てねぇよ。それが分かってるから隙を伺ってんだろう?」

 

 

 確かに今の俺、覇龍を使わない状態の俺だったらこの男に勝つのは難しいかもしれない。影龍王の再生鎧ver影人形融合を使ったとしても付け焼刃程度にしかならねぇな……三大勢力のトップ、かつて行われた大戦を生き残ったほどの実力者に加えてコカビエルが秘密裏に行動を起こさざるを得なかったほどの存在だ。よくて瀕死、悪くて消滅って所か……覇龍使えば普通に殺せるとは思うけど平家が五月蠅くなるしなぁ。とりあえず最後まで話を聞いて無駄だと分かったら殺し合うか。いや流石に会談前はあれだから終わってからになるとは思うけども。

 

 

「さぁ、どうでしょうね?」

 

「たくっ、ドラゴンを宿す奴ってのは分かりやすいのか分かりにくいのかどっちかにしてほしいぜ。会談当日はこれをそっちの覚妖怪に付けてきな」

 

 

 テーブルに置かれたのは一つの首輪のような輪っか。なにこれ? 平家が可愛すぎてペットにしたいとかそんな感じなん? やめとけ、容姿が良いから夜のオカズには困らねぇだろうけど一度飼ったら最後、死ぬまで引きこもって怠惰な生活を続けるからな……いてぇ、いてぇから! 冗談だっての。だからそんな変態って視線を向けるな……そして首輪付けてあげようか的な意味合いの視線もやめてくれ。そんな事すれば橘と水無瀬が五月蠅くなる。

 

 輪っかを手に取って確認してみると何かしらの術式が込められたマジックアイテムのようなものだという事が分かった。結構複雑と言えば複雑か……いや、慣れてる奴が居ればこれぐらいは作れるかもしれないけどアザゼル直々に持ってきた代物だし他とは比べ物にならない貴重な物だろうな。

 

 

「これ付けたらいきなり爆発とかアンタら(堕天使側)に操られるとかじゃないですよね?」

 

「んなことするかよ。こいつは付けている間、妖怪の特性を封じるっていう物だ。覚妖怪に俺達の心を読まれたら困るんでな、封じさせてもらうぜ」

 

「……期限は?」

 

「一日だな。それを越しちまうと封じられた妖力が暴走しちまう恐れがある。人嫌いで有名だってのに人間だらけの学校なんざに通ってんだ、大方自分の能力を抑える特訓って所だろう? いきなり裏技みてぇな代物を渡す事になっちまったがそれだけ俺達も秘密を守りてぇんだ」

 

「だとさ?」

 

「どうでもいい。これ(アザゼル)も本心を言ってるし嘘じゃないと思う。でも私的にはどうでも良い……ノワールが付けろと言えば付けるしペットになれって言えばワンでもニャーでも言うよ? ちゃんと犬耳か猫耳、尻尾も付ける」

 

「なにそれちょっと見たい。あぁ、いやそうじゃねぇな……ちなみに今回の事ってサーゼクス様に許可とか取ってるんですか? 秘密裏に渡されるとこっちも困るんですけど?」

 

「サーゼクスにもミカエルにも伝えてるよ。たくっ、影龍王のお前さんに会うって言ったら自分の眷属のいくつかを見張りにとか言い出すんだぜ? 殺し合いなんざめんどくさくてやらねぇっての」

 

「平家」

 

「嘘は言ってないよ。マジのマジ」

 

 

 うわぁ、サーゼクス様……ただの混血悪魔に自分の眷属を護衛というか見張りに付けるとかやりすぎじゃないですか? そいつ等も纏めて殺されたらどうするつもりだったんだよ……流石に現魔王の眷属が堕天使の総督に負けるとは思えねぇけど。多分死ぬとしたら乱入してくるであろう夜空の手によってか? 総督と殺し合ってればアイツの事だ、混ぜてぇと言いながらやってくるに違いない。

 

 

「ノワール、どうするの?」

 

「当日は付けるしかねぇだろうなぁ。なんならリードもセットでやるか?」

 

「ちゃんと責任取ってくれるなら良いよ」

 

「だったらいいや。まぁ、一応ありがたく頂戴しておきます。お礼はヴァーリとの殺し合いって事で良いです?」

 

「良いと言うわけねぇだろ……ヴァーリも光龍妃と殺し合っていつ消えるのかこっちはハラハラしてんだぜ? いくらアイツでも正体不明、人間と呼んでいいのか分からん光龍妃に負けるかもしんねぇしな。お前さんの周りもお前が異常だって少なからず思ってるだろうぜ? 普段は仲良くしてる癖に戦いの時だけ殺意むき出し、戦った後はまた元通りだ。地双龍はどっちが強いか競い合うっていうがお前らは歴代の所有者から見ても異常なんだぜ? 本気で相手を殺そうと思ってんのか?」

 

「当たり前じゃないですか。そうじゃなかったら何度も殺し合いませんって」

 

 

 言ってみたものの半分ぐらいは女王(クィーン)にしたいから勝利してそれをネタに交渉したい、もう半分は普通にどっちが強くて弱いのかを決めたいから殺し合うて感じだけど。仲良いのは多分……夜空の性格のせいだろうな。面白いものなら何でも飛びつくガキみたいな奴で橘とは違った明るい性格だから余計にそう見えるんだろう。年上なんだからもうちょっとは落ち着いてくれればいいものを……だから胸も絶壁なんだよ。

 

 

「……やれやれ、最近の若者はおっかねぇなぁ。俺の話しはこれで終わりだよ、デートでもホテルにでも好きな所に行きやがれ」

 

「じゃあホテル行こうよ? 一度ラブホに入ってみたい」

 

「ガチで襲って良いなら行くぞ?」

 

「処女だけどそれでも良いなら襲っても良いよ」

 

「むしろ処女を嫌う男がいるのか逆に聞きてぇな……」

 

「じゃあ問題ない」

 

「問題しかねぇからさっさと家帰るか。コーヒー代は払っとくんで勝手にどっか行ってくださいね? 次に学園までやって来たら警察呼ぶんでそのつもりでお願いします」

 

「おぉ怖い怖い。今の所は近づかねぇから安心しろって――しっかし、人嫌いで有名な覚妖怪があそこまで懐くか。ドラゴンってのは不思議だねぇ」

 

 

 くだらない独り言が聞こえたけどスルーしておくか。懐くも何も俺に対する依存率だったらキマリス眷属トップだぞ? 多分だがラブホもペット発言もガチだ。表情や声では冗談だよって言ってる感じだが本音はしてほしいとか襲ってほしいとか思ってるに違いない。究極の誘い受け……何それエロイ。

 

 俺の腕にしがみ付くように歩いている平家の視線は俺のカバンに向けられていた。恐らく先ほど渡された俺命名「覚妖怪封じの首輪」が気になるんだろう……そりゃそうだわな。今まで覚としての能力を抑える努力していたのにいきなりこんなの渡されたんだから気にならない方がおかしい。一度試してみたいが使ったら壊れて当日は使用できませんとかなりそうだし大切に保管しておくのが良さそうだ。

 

 

「おい、くっつき過ぎだ。歩きにくい」

 

「我慢してよ。私だって自転車が無くて困ってるんだから……周りの声が五月蠅いもう嫌だ帰りたい」

 

「俺の心でも読んでろ……そんなに気になるのか?」

 

「うん。だって今までの私の努力が水の泡になる代物だもん。今すぐ壊したいくらい気になってる」

 

「会談が終われば壊して良いがそれまでは我慢しろ。しっかしガチで隙が見当たんなかったなぁ、流石堕天使勢力のトップ。ふざけた格好でも中身は化けもんだ」

 

「……うん。心を読んでたけど圧倒的な自信を感じた、戦う事になっても負けないっていう凄い自信……でもノワールなら勝てるよ――だって私の主様だもん」

 

「うわっ、キモ。鳥肌立った」

 

「……」

 

 

 今の発言にイラっと来たのかしがみ付いている腕を思いっきり締め付けてくる。誰だってそう思うだろ? 普段は引きこもりたいとか言ってるお前がいきなり「私の主様だもん」発言だぞ? 吐き気するし気持ち悪いわ。

 

 

「……これでも、志保と恵に嫉妬してるんだよ」

 

「はぁ?」

 

「ノワールは志保に構いすぎだし恵はラッキースケベイベントがあった、花恋とはまだだけどあれって気のない振りして絶対ノワールの童貞狙ってる。ノワールは私の事を気にしてくれてるけどそれだけ……口では抱くとか犯すとかペットにするとか言うけど実際にやらない。ねぇ? 私ってそんなに魅力ない?」

 

「ばーか、お前に魅力が無かったら夜のオカズでお世話になってねぇよ。毎回チラ見せしてくる胸やら太ももやらをオカズにした回数なんて両手で数えれねぇんだぞ? まぁ、あれだ、今はこの距離感が良いんだよ」

 

「ヘタレ」

 

「うるせぇ」

 

 

 下手に眷属に手を出して険悪な空気とかになったらあれだし……ヘタレじゃない、ヘタレじゃなし! 単に恋だのなんだのより夜空と殺し合っていたいんだよという事にしておいてくれ。まぁ、こいつ(平家)には色々とバレてるからこれ以上は言わないけどな。

 

 俺の心の声を聞いていたのか無言で手を握ってくる。普通のじゃなくて恋人つなぎとか言う奴だ……こいつが此処まで俺に依存する切っ掛けってやっぱりであったあの日だよな……それ以外に考えられねぇ。

 

 

「昔を思い出したの?」

 

「あぁ、お前との出会いをな……あの時からこうなる運命だったんだなぁと思うとちょっと泣けてきた」

 

「仕方ないよ」

 

 

 仕方ないよって自分の事だろうが……いや良いんだけどさ。

 

 あの日は今のように夕暮れの時間ではなくもっと暗く、深淵とも言えるような静けさと暗闇の世界だった。とある情報筋から面白い妖怪がいると聞かされた俺は暇つぶしも兼ねてとある妖怪――覚妖怪が居るという山に足を運んだ。右も左も霧で覆われて変な妖術が張られているのか道なりに進んでも最初の地点に逆戻り……めんどくせぇから影人形のラッシュタイムで強引に突破して進むと面白い光景が見えた――どこかの姫様かってくらい美人な女を複数の男が取り囲んでいるなんて面白すぎて笑いが出たわ。

 

 

『誰だ!?』

 

『何故結界が……いや誰でもいい。どうだいアンタも? この女は覚でなぁ、うざってぇからこれから犯そうと思ってたんだ。見た目も良いしきっと良い声で鳴いてくれるぜ? アンタも一緒にどうだい?』

 

『……下種』

 

『うるせえ!! 人の心を勝手に読んどいて生意気な視線向けてんじゃねぇよ!! よっしそれじゃあいただく――』

 

 

 なんか強姦魔と一緒にされるのが非常にムカついたから全員その場で殺したんだけどそれを目の前で見ていた平家は知ってたという表情だった。

 

 

『あん? 驚かねぇのかよ』

 

『だって私を犯そうとか下種な考えをしてなかったし……普通居ないよ? ウザいから殺すかって即決できる人――ううん、悪魔なんだね。影龍王、ノワール・キマリス……混血悪魔で(キング)、へぇ凄いんだね』

 

 

 人の心を盗み見て教えていないはずの出来事を一つずつ言葉にしていく様は他から見たら気持ち悪いだろう。この時の俺もウゼェなと普通に思ってた。覚妖怪の事は一応知識としては知っていたが出会うのは初めて……だというのによくも初対面でここまでうぜぇと思わせれるもんだと逆に褒めたかった。

 

 

『人の個人情報を盗み見て楽しいか? そんな事してっから他種族に嫌われんだぞ。まぁ、これは覚妖怪共通の事か』

 

『仕方ないよ。だって聞こえるし……へぇ、意外だね。心読んでも怒らないなんて珍しいかも』

 

『そっちが勝手に分かってくれるなら俺としては楽だしな。下手に言葉を選ばなくていいし好きなだけ読めばいいだろ』

 

『……本気、えっあの、嘘言ってないとかバカでしょ……そっちこそだから周りから嫌われるんだよ? もうちょっと愛想よくしたらどうなの?』

 

『ぶっ殺すぞ? でも確かにこれは面白れぇな、おい覚――』

 

 

 多分俺の心を読んでいたからだろう。不意に立ち上がって近づいてきたかと思うと俺の懐から悪魔の駒――騎士の駒を勝手に取り出した。別に油断してたわけじゃなくなにする気だというちょっとした期待で見逃したがそれは当たっていた。その駒を持ってこいつは俺に交渉をし始めたんだよ……この時ほど面白くて笑いそうになったのは悪くないと思う。

 

 

『――マジか?』

 

『眷属にしたいんでしょ? 良いよ、なってあげる』

 

『正気か? もしかしたらお前の容姿目当ての下種野郎かもしんねぇぞ?』

 

『覚に嘘は効かないよ……だって心を読めばそれが本当か嘘かなんて丸分かりだし。だから他からも嫌われるんだろうけど私はどうでもいい。正気かって言ったけど本当だよ、だって初めてだもん。心読んでも良いとか面白いとか……私に好意的な感情を向ける人って今まで居ないから――ねぇ、一目惚れしたから眷属にしてくれない?』

 

『……くくっ、あははははは!! いや面白れぇわ、おい覚妖怪――俺の傍に居ると地獄しかねぇけどそれでも良いんだな?』

 

『少なくとも今よりは天国だよ。それに私の名前は――』

 

 

 あの日からこいつはただの覚妖怪じゃなくて俺の騎士、平家早織になった。

 

 でも思い返してみて一つだけ言わせてくれ……いや言わせろ。これは言わないとダメな気がするから絶対に言うわ!

 

 

「お前、ちょろすぎだろ」

 

「覚妖怪なんて基本ちょろいから仕方がない」

 

「全世界の覚妖怪に喧嘩売ったなおい……いや、お前が騎士になってくれたお蔭でこっちは色々と助かってるが初対面、目の前で普通に殺害現場を見せた男の眷属になろうとか思わねぇだろ?」

 

「言ったでしょ? 私に好意的な感情を向けたのってノワールだけなんだよ……同じ種族の両親でさえ自分の心を読まれたくないから私との関係最悪で他の奴も私の容姿しか見ないで覚妖怪だってのと自分の心読まれたのを知ると怒るし。だから本当に初めてだったんだよ……凄いとか面白いとか、あまつさえ心を読んで良いよとか言う人って滅多に、ううん本当にいないからキュンときた。この人と一緒に居たら私を見てくれる。覚妖怪じゃなくて本当の私を見てくれるって……その結果がこれだよ」

 

「……一目惚れされても今の所は応える気ゼロだけどなぁ」

 

「別に良いよ。正妻とか一番とか狙う気はないし、二番とか三番で十分。ノワールと一緒に居られてノワールと同じものを感じてノワールの膝の上で眠ってノワールの声を聞いてノワールを感じてノワールと一緒に死ねれば私はそれで良い。だからちゃんと生きてもらわないと困る……この生活を知って一人で寂しく死ぬのは嫌だもん」

 

「まぁ、俺も死にたくはねぇな。でも地双龍の運命からは逃れられねぇんだよ、俺を死なせたくねぇなら夜空に勝ってくれるように祈ってろ」

 

「それは毎日してる。あっ、一応言っておくけどね――覚妖怪()ってちょろいけど一歩間違えば簡単に病むから取り扱いは注意だよ。光龍妃や恵や花恋や志保はまあ、うん、良いけど他の女で童貞卒業したらヤンデレモード突入するから気を付けてね。流石に殺傷沙汰はしないけど精神的に追い詰めるからそのつもりでお願い」

 

「うわっ、めんどくせぇ……流石依存率ナンバーワン」

 

「それほどでもない」

 

 

 そんなやり取りをしつつ俺達は自分の家に帰る。ドアを開けると先に帰っていた犬月と橘がやや焦った表情で出迎えてきた。どうやら堕天使のトップと殺し合いを始めるんじゃないかと心配していたらしい……流石俺の眷属、その発想に至るなんて訓練されてきてるな! いや汚染されて来てると言った方が良いかもしれない。

 

 流石に立ち話もあれだからリビングに移動してソファーに座る。当然俺の膝の上には平家の頭がある……橘が羨ましそうな表情してるけどなんでですかねぇ?

 

 

「とりあえず……大丈夫だったんすね?」

 

「あぁ。流石に殺し合うとかはしてねえよ……やりたかったけど」

 

「いやいやいや!? 俺もしほりんもすっげぇ心配したんすからね!! 特にしほりんなんてどうしましょうどうしましょうってウロウロしてたんすから!!!」

 

「えっ? なにそれ可愛い」

 

「だ、だって悪魔さんが、心配だったんですから、ふ、普通です!」

 

 

 やっぱりこの子って癒し枠だわ。いやぁ良いね!

 

 

「――やっぱりラブホ行けばよかった」

 

「アホ。とりあえず今回の接触はもうじき行われる会談でこいつ(平家)対策にマジックアイテムを渡すためだったらしい。魔王様も天使長も了承済みだとさ」

 

「……うっへぇ、この引きこもりってそんなに警戒されてるんすか? たかが覚妖怪ってだけっしょ? なんでそこまで警戒すんのか俺は分かんねぇわ」

 

「お前の言う事には俺も同感だがまぁ、心を読まれたく無いってのは全世界共通なんだろうぜ? 俺としてはどうでもいいけどな、たかが心だろ? それで困るのは偽善者ぐらいで俺みたいな極悪人には痛くもかゆくもねぇ」

 

「同感。死ぬか生きるかの瀬戸際で心読まれる程度なんざちっちぇ事っすよ? いやまぁ、ムカつくことはムカつきますけど嫌いとかはねぇっすわ。むしろ言葉話さなくて言い分こっちは楽だし」

 

「……ホント、単細胞だから嘘も付けないとか一回死んだ方が良いよ」

 

「あぁん!? 喧嘩売ってんのかごらぁ!! 人が折角空気読んでやったってのに……あぁもう良い、こいつがどう思おうが俺は知らねぇっすよ。勝手に心読んで勝手に納得して勝手にどっか行けよ」

 

「えと、えっと……わ、私も早織さんの事は好きですよ! だから悪魔さんの膝枕を代わって、じゃなくてええと、えっと……キラッ♪」

 

「可愛い!」

 

「いやぁ、可愛いっすわ!」

 

 

 アイドルスマイル最高だな! この子が俺の眷属で本当に良かった……もちろんお前(平家)もな。これからも俺のために働いて自分のために生きて楽しませてくれ。

 

 そんな事を思ったら生きるのは良いけど働きたくないと言いやがった。おい引きこもり、働けよ!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

「――うげぇ、トンでもねぇっすね」

 

 

 犬月が上空を見ながらややビビった声色で呟いた。そりゃそうだろ……三大勢力のトップが集まってるんだ、自分の兵を連れてこなきゃ戦争に発展した時に負けるだろ? でも犬月がビビるのは分かる。辺りが闇に染まった深夜の時間帯、俺達が普通に通っていた駒王学園を取り囲むように悪魔、天使、堕天使が群れを成していがみ合ってんだからな。一歩間違えば即戦争、そんなギリギリの綱渡りとも言える三大勢力トップ勢による会談がもうすぐ行われようとしている……すげぇな。

 

 俺を筆頭に犬月、平家、水無瀬、四季音、橘が駒王学園入り口から中に入って新校舎の会議室を目指す。影龍王として有名だからか知らないが上空から沢山の視線を感じる……ウゼェ、マジウゼェ。比較的常識人ポジションの水無瀬と橘は表情が固まって動きも硬い。緊張し過ぎて手と足が一緒に出ているのが妙に可愛らしい。犬月は周囲の空気に圧巻、四季音はいつものように酒が入った瓶を持ってやや興奮気味、平家は……なんだろうな、普段聞こえる心の声が聞こえないからかおっかなびっくり状態とでも言うべきか? 心を読まれていない今なら言える! 可愛いぞ平家!

 

 

「こ、これから三大勢力の偉い方達がお話をするんですよね……? ちょ、ちょっと怖いです」

 

「そ、そうですね……ノワール君、私達は傍に立っていればいいんですよ、ね?」

 

「おう。だからそこまで緊張しなくていいぞ? こいつ(四季音)のように普段通りにしてればいいさ……ところで四季音? その格好ってすっげぇエロいんだけど胸チラとかする予定有る?」

 

「にししぃ~みたいならぁ~みてもいいよぉ? これはゆいしょただしきぃおにのせいそうなんだしねぇ~」

 

「鬼って露出狂の気でもあるの?」

 

「しらなぁ~い」

 

 

 一応大事な会議だから俺達学生組は駒王学園の制服、水無瀬は保険医としての恰好だが四季音は和服……と呼んでいいのか分からないが和の雰囲気が残っている大胆な物を着ている。ブラの代わりにさらしを撒いてその上から羽織を着て胸元を大胆にも開けた状態、そして下はミニスカ……なんだこの露出狂幼女。そう言えば出会った当初もこんなの着てた気がするが正直な所全然覚えてねぇ。でもなかなか良いと思うぞ? 俺的には戦闘になったらさらしが破れて恥じらう姿とか見れたらそれだけでもう満足だ。

 

 

「……ノワールが変態の目をしてる。くぅ、心が読めないってこんなにも辛いなんて……!」

 

「みたいぃ? みせいちょうぼでぇのちっぱいみたいぃ? このまえみたのにのわーるぅのえっちぃなんだからぁ」

 

「――ノワール君、そのお話を少し詳しくお願いします」

 

「――悪魔さん、私、お話ししたいです♪」

 

「単に俺が風呂入ってたら乱入してきただけだ。そもそもこれぐらいは前々からあったぞ? 平家も同じような事してるしな」

 

「ノワールの体って鍛えてるから結構良い体してるよ? でもムカつく事に襲ってこないんだよね。部屋に戻ってオナニーしてるくせに」

 

「襲ったらそのまま人生の墓場行きだしなぁ」

 

「なんつぅか、王様ってヘタレなのか肉食なのか分かんねぇ時があるんすけど? あとこのお二方はどうしたらよろしいでしょうかね?」

 

「放って置けばすぐに治るよ――ノワール、多分明日以降からこの二人も乱入してくるかもだけど襲ったら分かってるよね?」

 

 

 平家や四季音の絶壁なら兎も角、水無瀬と橘のおっぱいを生で見れるとかマジでご褒美じゃねぇか。良いぞ良いぞ! 俺は拒まないからいつでも乱入してこい! アイドルの生乳と保険医の生乳とかマジで天国……おかしい、こいつ(平家)は心が読めないはずなのに何故変態と視線で伝えてくるんだ? まぁ、流石に俺と一緒に居たら分かるか。というよりこれから大事な会議なのにどんな会話してんだろうか俺達は……緊張するよりは良いか。

 

 階段を上って会議室の前までやってきた俺達は一呼吸してから扉を開ける。中に入るとまず目についたのは壁に寄りかかっている銀髪イケメンのヴァーリ、その手前付近に座っているアザゼルだ。一緒のテーブルにはサーゼクス様とセラフォルー様、頭の上に天使の輪っかを付けている金髪優男――天使長ミカエルが仲良くと言って良いのか分からないが座っていた。他には生徒会長と副会長がいるけど夜空やグレモリー先輩がどうやらまだのようだ……よっしゃ! 最後じゃねぇだけラッキーだ。

 

 しかしセラフォルー様が珍しく正装なのは以外だ。噂と言うか冥界とかでは魔法少女みたいな恰好が多いと聞いていたから一瞬誰だみたいな感じになった。これが生徒会長と姉妹なんだから血筋ってすげぇよな。

 

 

「やぁ、影龍王。こういう場で会うと新鮮な気分にならないか?」

 

「まぁな。こういった経験は中々出来ねぇからありがたい……と言っておいた方が色々と問題にならなくて済むからそうしとくよ」

 

「流石に緊張の類は無しか。後ろに居るのがキミの眷属かい?」

 

 

 適当な場所まで歩いてヴァーリと会話をするけど後ろにいる四季音を除いた犬月達は緊張し過ぎて表情が固まっていた。あの平家でさえ慣れない環境(心が読めない)で不安な様子……しかしこのメンツでも表情一つ崩さず普段通りとは流石俺の戦車だな。正直な所、夜空が居なかったら俺の女王になってたのはこいつだもんなぁ。

 

 

「影龍王のノワール・キマリス君とその眷属です。彼の存在は皆さんご存知でしょう?」

 

「えぇ。天界においても要注意人物として認識していますからね。初めまして、天使の長をしているミカエルです。こうして直に会うの初めてですね」

 

「そうですね。ノワール・キマリス、後ろに居るのが俺の眷属です。俺と四季音……あぁ、えっと、そこで酒飲んでる奴以外はこういった場を経験するのが初めてなんでお手柔らかにお願いします」

 

 

 初対面のミカエル相手に自己紹介をするとヴァーリが観察するような視線で四季音を視始めた。なんだ? 惚れたか? んなわけねぇか。

 

 

「……桜色の髪、あぁそうか。アザゼル、彼女がそうなんだな」

 

「そうだ。鬼の中の鬼、人間でも鬼と言えばこの名を呼ぶ奴が大多数なほどの有名な存在――酒呑童子。まさかこの目でその血筋の奴を見る事になるたぁ人生何があるか分かんねぇわな」

 

「……四季音の事、知ってたんですか?」

 

「知ってるも何も影龍王が鬼と三日三晩殺し合ったって話は俺達の間じゃ有名だぜ? 幸い周囲の地形だけが犠牲になって死傷者は出なかったようだがお前等やりすぎだ。たくっ、成長中とはいえ影龍王と真正面から殺し合えるほどの鬼って誰だって調べたら酒呑童子の血を引く奴っていうじゃねえか。ヴァーリが戦いたいと言って五月蠅かったんだぞ」

 

「太古の世界、鬼を率いたほどの存在と戦えるんだ。これほど高揚するものは無いさ」

 

「だそうだぜ?」

 

「にししぃ――酒呑童子って言っても私は分家出身さ。本家の奴は今もどっかで力を蓄えてるかそのまま滅んだかまでは知らないけどね。でも白龍皇からのお誘いならちょっと興味あるよ、一つ手合わせしてみたいねぇ」

 

「殺し合いはこの会談がご破算になったらにしろよ? もっともヴァーリと戦うのは俺だからお前は……外の大群でも相手してろ」

 

「はぁ? 白龍皇と戦わせてくれてもいいでしょ? 邪魔するならノワールから殺して白龍皇と戦うよ?」

 

「俺を殺せるならそうしろよ」

 

「おいサーゼクス、今の悪魔は眷属と殺し合うのがトレンドなのか?」

 

「影龍王眷属は私達の考えでは及ばない領域に居るようだからね。普通の悪魔ならばしないと言っておこうかな」

 

「そりゃノワールだしぃ当たり前じゃん」

 

 

 不意に体が重くなった。もちもちすべすべ肌の太ももが視界に入る……あぁ、俺の真上に転移して肩車状態ってわけか。ありがとうございます! 太ももの感触だけで飯五杯くらい食えそうです!

 

 

「おい夜空、重いからさっさと降りろ」

 

「はぁ? おもくねーし! この超絶美少女夜空ちゃんが駄肉付けてる女より重いわけねぇし!! 良いじゃん、この夜空ちゃんのすべっすべな太ももに挟まれて女の子の大事な所が頭の真後ろにあるんだよぉ? 役得でしょ?」

 

「正直、この会議に来て良かったとすら思えるな」

 

「なら良いじゃん!! てか誰こいつ? こんな……こんな……ねぇ、アンタ何歳?」

 

「え、えっと、あの……十七、です」

 

「――神殺すか」

 

「もう死んでるぞ?」

 

 

 夜空の素晴らしい太もものせいでよく見えないが恐らく、恐らくだが自分のちっぱいと橘のおっぱいを見比べて絶望でもしたんだろう。そりゃ年上の夜空が年下の橘に発育で負けてたらそう思ってもおかしくはない……揉めば大きくなると言うがもし本当なら揉んでやるぞ? ねちっこくだがな!

 

 

「つか新しく眷属増やしたってこの前言っただろ? まさか聞いてなかったのか?」

 

「聞いてたさ! でもなにあれ!? デケェ! 何食ったらあそこまでデカくなるのさ!! 何でこの私が年下に胸で負けなきゃいけねぇの!? あぁもうノワール! ちょっと私の胸揉んで大きくしてよ! 何なら処女奪って良いから!」

 

「マジかよ!? あの、サーゼクス様、セラフォルー様。二時間か三時間ほど離れるんで先に会議始めて、いってぇ!? 平家テメェ!! なにすんだよっ!!」

 

「ちょ!? ゆらすなぁ~!!」

 

「別に。ただ虫がいたから駆除しておいた」

 

 

 いきなりのケツにタイキックとかこいつ女だよな……いやそれ以前に主にタイキックするなっての。というより肩車状態で揺れたというのに頭のてっぺんが素晴らしい事にならないとは悲しい。マジで悲しい。揺れろよ!! 少しでもいいから揺れてくださいお願いします!

 

 

「……あ、あの、犬月さん……あの、その」

 

「えっと、あの人は光龍妃っていう王様の反存在らしいっすよ? 普段はあんな風に仲良いらしいけど殺し合えばガチで遠慮なんてしないで殺し合うっていうちょっと変わった関係っすね」

 

「悪魔さんから規格外とか、その、眷属になる前からそういうお話は聞いていたんですけど……今分かりました……あの人が最大のライバルっ!」

 

「……えぇ。志保ちゃん、その認識で合っていますよ」

 

 

 何故夜空が欲してやまないお胸をお持ちのお二人が嫉妬に近い視線をこいつ(夜空)に向けてんだ? おい平家、ちょっと何が起きてるか……無視!? そっぽ向くとか可愛いな!

 

 

「やはり光龍妃と影龍王は面白いな」

 

「お前の面白いはどんな面白いなんだろうなぁ。おい影龍王に光龍妃、イチャつくのも良いがもうちったぁ静かにしろっての。俺達が目の前に居ても通常運転する奴はお前たちぐらいだぞ?」

 

「はぁ? 堕天使程度が私に指図しないでよ。殺されたいの? てかさぁ~赤龍帝どこよ? まだ来てないの?」

 

 

 恐らく堕天使の総督を堕天使風情と言える人間は世界中探してもこいつだけだろうな。流石の俺でも素の状態でも言えねぇわ。

 

 

「そうだ。きっと忙しいんだろうぜ? なにしてるか知らねぇけど」

 

「ふぅ~ん。ねぇねぇ? ノワールにヴァーリ、ちょっと殺し合いしない? 私達ってかたっ苦しい話し合いとか嫌いじゃん。終わるまで殺らない?」

 

「別にいいぞ」

 

「俺も異論はないな。ふふっ、影龍王と光龍妃、両方と戦えるとは来たかいがあった」

 

「待て待て……ほんっと自由だな。流石にお前さん達が殺し合いを始めるなら俺達は全力で止めるぜ? 下手するとこの町が吹き飛ぶしな」

 

「そうなったらテメェら殺すだけだけど……まっ、いっか。しょーがねぇから女の子らしく待っててあげるぅ」

 

 

 こいつは女の子と言って良いのか分からねぇけど騒ぎを起こさないでくれるんならそれで良い。見ろよ? ミカエルとセラフォルー様がドン引き状態だぜ? 天使長と魔王一人をドン引きさせた人間ってこいつだけじゃねぇかな。あと後ろに居る生徒会長達もドン引きしてるみたいだけどそっちは知らん。

 

 流石に騒ぎ過ぎたから大人しく待っていると扉が開いてグレモリー先輩ご一行が到着。おせぇ、ゆっくりし過ぎだろう……なに? 自分は特別だから遅くなっても問題ねぇとか思ってんの? 俺達でさえ十分ぐらい前に来たってのに数分前とか笑えるな。

 

 

「私の妹とその眷属です。影龍王と共に今回の一件で活躍してくれました」

 

「活躍っつっても犬とじゃれ合ってただけじゃん」

 

「夜空ちゃん、ちょっと黙ろうかぁ。いくら本当の事でも言わないのがお約束だ」

 

「え? マジで? そっかぁーじゃあ仕方ないね」

 

 

 たとえケルベロスとじゃれ合ってただけでも活躍したんだよ。あぁそうだ、活躍したと思うよ。きっとそうだし魔王様も活躍したっていうんだからきっと活躍したんだよ。しっかし改めてみるとスゲェな……目の前には三大勢力のトップ勢、二天龍と地双龍が集まるなんて今後絶対にあり得ねぇぞ。

 

 夜空の小言にサーゼクス様も苦笑の表情を浮かべている。下手に刺激すればこの場に居る半数以上が死ぬから何も言えねぇだろうなぁ……でも事実だし気にしない方が良いと思いますよ?

 

 

「さて、全員集まった所で今回の会談の条件を確認したいと思います。私達は神の不在を知っている、その件を認知しているという前提で話を進めたいと思います」

 

 

 そんなわけで会談開始。ミカエル、アザゼル、サーゼクス様にセラフォルー様が各々の陣営の話を真剣……一部(アザゼル)は冗談か本気か分からない発言をしたりしていたが多分順調に進んでいるんだと思う。夜空は既に飽きたって顔してるけど……まぁ、お前ってこういう話し合いって好きじゃねぇしな。俺も欠伸でそうでちょっと厳しいけどその点生徒会長や先輩は凄いわ。背筋伸ばして真剣に聞いてるもんな。俺は無理、どうぞ勝手に適当に話し合ってくださいって感じだからあそこまでは無理だわ。

 

 話が進んでいくとついに本題であろうコカビエルの一件について話し合う時が来た。サーゼクス様が俺の方を向いてどういう経緯で白龍皇との密約を交わしたのか聞いてきた……え? 普通にアイドルのイベントで会ったからそのまま飲食店行っただけなんだけど?

 

 

「密約、密約かあれ? 普通にアイドル……えっと、俺の眷属に休業してますがアイドルが居ましてその子のイベントに行ったら偶然会ったんですよ。そこに居る白龍皇がつまらなさそうにしてたんで飯に誘ったらコカビエル云々という事になってじゃあ殺すよと言って終わりです」

 

「それに行かせたのは俺の指示だ。独立具現型神器を保有してるってのは前々から情報を得ていたからな。そういった神器とは昔から縁があるコイツを行かせれば何かあるんじゃねぇかと思って行かせてみたんだが……まさか帰って来たら影龍王がコカビエルを殺すと言っていたなんて聞かされたんだぜ? 素で驚いたっつうの。だがこっちとしてはめんどくせぇ裁きだのしなくて済むしありがたかったから干渉しないで放置してたけどな」

 

「こっちもコカビエル程度が引き起こした事件に巻き込まれて迷惑でしたし負けるつもりもなかったので介入してこなくて助かりました」 

 

「そりゃそうだ。お前さんに勝てるのはほんの一握りだろうぜ。ヴァーリか光龍妃か俺達か……全く、今代の地双龍はどっちも変に成長してるからおっかねえ」

 

「つまり悪魔はこちら側に内緒で堕天使と一時的な共闘をしていたと考えてもいいでしょうか?」

 

 

 ミカエルが疑問に満ちた声色で聞いてくる。全員の視線が俺に向いてくるけどめんどくせぇ……いっか。そっちがその気ならこっちだって考えがあるぞ。

 

 

「さぁ、仮に共闘していたとして何か問題でも? そちらにこれと言った被害は無いですし無事にエクスカリバーも戻ってきたんだから批難される覚えはないですよ? 俺達が居なければエクスカリバーは一本に統合されてゴミの玩具になっていましたしね。あぁ、そう言えば俺の所に来た聖剣使いが言ってましたよ? 上は悪魔と堕天使を信用していないってね……その言葉が事実なら俺が言う事なんて信用していないんでしょう? だったら別に良いじゃないですか。天界側の聖剣使いじゃなくて堕天使側の幹部を殺して勢力を少しだけ崩したんですからむしろラッキーだと思いますけど? まぁ、とりあえず以上が白龍皇と会話した経緯やらです」

 

 

 言葉の途中でチラッとだけこの言葉を言った張本人を見る。いやー誰だろうなぁこんな事言った人って。

 

 

「……なるほど」

 

「コカビエルごときが死んだ所で影響が出るとは思えないがな」

 

「うんうん。だってあいつ弱いもんねぇ」

 

「――では次はリアスからも先日の事件を話してもらおう」

 

 

 この空気の中で話すのは非常に苦しいだろうけど大丈夫! 天下のグレモリー先輩ならきっと余裕だよな! だって純血悪魔だし余裕余裕。なんか背後から喧嘩売り過ぎとか言う視線を感じるけど気のせいだな……一応これでも加減したんだぞ? 褒めろよ。

 

 

「――以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の報告です」

 

「ありがとうリアスちゃん☆ ノワールちゃんもありがとうね☆」

 

 

 セラフォルー様、その笑みが怖いです。

 

 俺達の素晴らしい報告が終わった後は堕天使の総督、アザゼルに今回の一件について意見を尋ねたサーゼクス様だったけど流石と言うべきかのらりくらり、本音と適当を織り交ぜての言葉だったから天使長ミカエルでさえ苦笑する始末だ。平家が能力を封じられていなければこの人の心の声を聞いてみたかったが仕方ない……優男の心の声とか多分ゲスだろうけども。

 

 そんなわけで話は進んでいったがアザゼルの口から和平と言う単語が出た瞬間、この場の空気が変わった。そりゃそうだよな……トップに立つ人物が戦争したくない、和平結んで仲良くしようぜとか言ったら誰だって驚くわ。

 

 

「えぇ~? 和平結んじゃうの? つまんないぃ~」

 

「おいおい……こっちとしてもこれ以上小競り合いしてたら滅んじまうんだ。ちったぁ許せよ光龍妃。サーゼクスにセラフォルー、ミカエル、お前たちの意見はどうなんだよ?」

 

「こちらとしても願ってもない申し出だ。次に戦争をすれば確実に滅んでしまう、種の存続を考えるならば和平を結んで手を取り合った方が良い」

 

「こちらも堕天使、悪魔と和平を結びたいと考えていました。勿論これは双方を信頼しての判断です」

 

 

 ありゃ、さっきの俺の発言にちょっとだけイラついた? でもそれ言ったのってそっち側の人物だし俺は悪くないぞ。

 

 ちなみに和平自体はサーゼクス様達は乗り気で話を進めている。頭の上からつまらないぃとか殺し合いできないぃとか文句を言っているのは夜空だけだ。別に殺し合いあったら俺とすればいいだろ? 何時でも相手してやるぞと頭の上にいる夜空を宥めていると話しは別の方向に向かい始めた。どうやら赤龍帝が何かを発言するらしいけど……何言う気だ? なにやらシスターちゃんと話をしてるみたいだけど変な事言って場を凍らせる事だけはするなよ。なんだ平家? そのお前が言うなって視線は……お前やっぱり能力封じられてねぇだろ!?

 

 

「――アーシアを何故追放したんですか?」

 

 

 赤龍帝がミカエルの方を向いてハッキリと言葉を吐いた。追放……追放ねぇ、なにそれ?

 

 

「犬月、追放って何?」

 

「うぇ!? あ、えっと、いっちぃから聞いたんすけどあのシスターって神器のせいもあるんでしょうけど元は聖女って呼ばれるぐらいすんげぇ偉かったらしいんですよ。でも傷を負った悪魔を癒した所を他の奴に見られて迫害された後に追放……みたいっすよ?」

 

「傷を負った悪魔ぁ? 教会に態々現れたってのか?」

 

「いや、場所までは知らねぇっすけど……どうしたんすか?」

 

「バカじゃねーの。何処の世界に傷を負った状態で聖女様なんつう奴の所に出向く悪魔が居るのさ。ありゃら、罠に引っかかったってわけかぁ。世間知らずもここまで来ると笑っちゃうね」

 

「もう少しこっち側の常識を叩き込んでおくべきだったな。つかこれって天界側からしたら大損でこっち側に文句言えるぞ」

 

「だろうねぇ。文句言われる筋合いねぇし単に無知だっただけっしょこれって。本当かどうか知らねぇけどさ」

 

「――どういう、意味だ……!」

 

 

 赤龍帝が怒りの声色で俺達を見た。どういう意味と言われてもそのまんまなんだが? まぁ、説明してやるか。

 

 

「どういう意味も何も罠に引っかかっただけだろって話さ。何処の世界に傷だらけで聖女様の前に出る悪魔が居んだよ? そんな事すれば滅される可能性大だろうが」

 

「……で、でもアーシアは優しいからそれを知ってたかもしれないだろ!!」

 

「優しい? んな不確定なもんのために命賭けるってか? じゃあ聞くぜ――今その悪魔はどこに居る?」

 

「……は?」

 

「だからそのシスターに傷を癒してもらった悪魔はどこに居るんだって聞いてんだよ。お前、自分の主を見てみろよ? その子に癒しの神器を持ってたからシスターであっても眷属に加えたんだぞ? 他の奴も傷を癒せる能力を持つ女が居れば欲しくなるさ。それだけその子に利用価値があるって事は理解しろ……あと犬月から聞いたが癒した所を教会関係者か誰か知らねぇけど見られて追放って所も怪しすぎる。タイミング良すぎるし今日まで接触が無いとかありえねぇ」

 

「そりゃそうだ。うちの末端に居た奴もそいつの神器が強力だったから狙ったに過ぎねぇ。悪魔の駒を持ってる奴なら是が非でも欲しくなるだろうし眷属にすれば冥界で悪魔どもがやってるレーティング・ゲームにおいても優位に立てるほどの存在価値だ。傷を癒してもらってはいさようならってのは文字通りバカのする事だぜ」

 

「……じゃ、じゃあアーシアは……!」

 

「だーかーらーさっき言ったじゃん。罠に引っかかったって」

 

「まっ、あくまで仮説みたいなもんだし不幸だったって考えれば良いだろ。そいつが居たからお前は今その子と一緒に居られるんだしむしろ感謝したらどうだ?」

 

「ふ、ふざけんな!! アーシアが悲しんで辛い目にあって……一度殺されて、感謝なんて出来るわけねぇだろ!! これ以上そんな事言うならぶっ飛ばすぞ!!」

 

「雑魚がいくら吠えても犬の遠吠えみたいなもんだってことに気づけ。もう少し悪魔の事を勉強した方が良いぞ? お前が思っているよりも悪魔ってのは下種で最低で己の欲しか考えてねぇ奴らばっかだ。あんまり言いたくねぇけどお前の王もお前の神器が強力だから手に入れようとしたって考えた方が良いさ……今はどうかは知らねぇけどね」

 

 

 色んな所から殺気だのなんだのの視線が飛んでくるけどどうでもいい。だって事実だろ? 赤龍帝の籠手を宿している奴を見つけたら誰だって欲しくなる。まっ、フェニックス家でのやり取りで大切に思い始めたのは見てて分かるけどな。

 

 一触即発の空気の中、ミカエルが追放した理由を語った。流石天使長、こんな空気でも説明してくれるとはまさに天使だな。男だけど。どうせなら女に天使と言いてぇわ……しっかし天界が管理するシステムに不具合が出かねない神器保有者は即追放とか天使と言う名の悪魔だな。信仰が足りなくなれば機能しなくなるとか欠陥も良い所……なんだけどそれが普通か。

 

 

「さて、面白いぐらいに世界に影響を及ぼしそうな奴らに話を聞こうぜ。赤龍帝の話も面白かったがそっちに関しては俺にしかできない事で返すとしてだ……ヴァーリ、暇そうにしてないで質問に答えろ。お前は世界をどうしたい?」

 

「強い奴と戦えればそれでいいさ」

 

「だろうと思った。んじゃ次は影龍王、お前さんは?」

 

「好き勝手に生きて好き勝手にこいつ(夜空)と殺し合えればそれでいい」

 

「こりゃまた想像通りなこって……光龍妃はどうなんだ?」

 

「うぅ~ん、ノワールと殺し合って私が退屈しなければ他はどうでも良い。だから私の楽しみを奪う奴は誰だろうとぶっ殺すよ」

 

「……どうしてお前らは想像の斜め上を行く事を言わねぇんだ全く。最後に赤龍帝、さっきのやり取りは既に起きちまった事で過去には戻れねぇんだ。いったん忘れて俺の質問に答えろよ」

 

「……えっと、正直、世界をどうこうとか黒井やその人みたいに殺し合いたいとかそんなのじゃなくて……今も後輩の面倒を見て頭がいっぱいなのにこれ以上とかちょっと考えられないです」

 

「なるほどな。しかしお前さんがそう思っていても他は違う。それほど前にお前さん達は世界に影響を及ぼす存在だってこった……しかし分かってなさそうだから簡単に説明してやるとすっかねぇ。赤龍帝、和平を結べばリアス・グレモリーと子作りし放題、逆に戦争になっちまえば一生童貞のままさ」

 

 

 その言葉の瞬間、赤龍帝の表情が変わった。ありゃさっきまでの怒りなんて既に吹き飛んでるな……単純な頭に敬意を表するよ。しかし子作りか……この頬に当たるすべすべもちもち肌の太ももや頭の真後ろに当たる素晴らしいぷにぷに肌の所も自由に触れるんだよな……さいっこうだな!

 

 

「ノワール、なんか赤龍帝が変だけどそんなに子作り大事なん? 前もアンタは私を抱きたかってたけど戦争するより優先するもんなの?」

 

「そりゃ、男イコール子作りだからな。なんだ? 抱いて良いなら今すぐ抱くぞ?」

 

「人間だから死ぬまでには処女卒業したいけどさぁ、今はそんな感じじゃないんだよね。てかアンタって眷属いるんだしそっちで発散しなよ。きっと喜んで妊娠すると思うけどぉ?」

 

「それやったら本格的に下種悪魔だろうが。眷属イコール性処理要員って考えてるバカと一緒にはなりたくねぇな」

 

「ふぅん」

 

 

 そのふぅんは一体どういう意味なのか詳しく聞かせてほしい。抱いて良いのか抱いちゃダメなのかだけでもいいから教えてほしい! マジでそろそろ童貞卒業したいから俺達の利害一致してるしヤろうぜ!! とか考えているのが丸分かりだったのか平家から再びタイキックを喰らう始末。おい……お前本当に能力封じられてるんだよな? 故障か? 故障してるのか!?

 

 

「……子作り。俺には今の所、不要なものだな」

 

「お前さんはもう少しそっち方面にも興味を持ってくれればなぁ。顔は良いのに戦闘、戦闘とどこで育て方を間違えたのやら」

 

「俺は昔からこうだったさ」

 

「そうかい」

 

『――宿主様、気を付けろ』

 

『――夜空、来ますよ』

 

『――ヴァーリ』

 

 

 ドラゴンの声が聞こえた瞬間、世界が灰色の世界に変わった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

「――おいおい、いきなりどうなってんだこりゃぁ?」

 

 

 全身が停止していく感覚に陥ったのでドラゴン、相棒のオーラを強めてみると世界が灰色に変化した。身体に変化が無いか確認してみるがどうやら問題ないらしいが……問題は別にあるらしい。俺の背後にいた四季音を除いた犬月達がまるで石像になったように動かなくなっている。試しに犬月の顔の前で手を振ったり橘と水無瀬のおっぱいを触ってみるが変化なし……やべぇ! 指が埋まるぜ!? 流石に揉み過ぎてバレたらあれだし指で突く程度で終わらせるけどやわらけぇ。流石アイドル! 水無瀬も中々の代物で俺は嬉しいぜ!

 

 

「あんた何してんの?」

 

「おっぱい突いてるだけだが? お前は無事そうだな?」

 

「当然じゃん。そこで固まってる赤龍帝のようにはならねぇよぉ~だっ! にしてもすっげぇ! 周囲一帯を停止させる魔法なんて誰が使ったんだろ!! ノワール! 気にならない?」

 

「停止ねぇ……確かにこいつら(犬月達)が動かない理由はそれっぽいがここまでの規模となると大魔法使いと言って良いレベルだぞ? つか夜空は当然として四季音、お前はなんで無事なんだ?」

 

「変な感覚があったから妖力で全身を覆っただけよ。しほりんとめぐみんのおっぱいつついた事は後でバラしとくねぇ~にしし! おっこられるぅ~よぉ?」

 

 

 四季音に言われた事を脳裏で想像、いや妄想してみるがどう考えても「……あ、悪魔さん、せ、責任! 責任とってください!」とか「の、ノワール君! 胸を触るというラッキースケベイベントをもう一度起こしてください!!」とか言われる未来しか見えない。そしてはい喜んでと言う俺の姿もばっちりだ!

 

 周りを見渡してみると他にもどうやら俺と四季音を除いたキマリス眷属の他にグレモリー先輩のダブル騎士を除いた方々、生徒会長と副会長も同じように固まっていた。片方は聖魔剣、もう片方は聖剣を握ってるからそれの力で停止状態から抜け出したってわけか……俺と夜空、ヴァーリはドラゴンの力によるものだけど赤龍帝が固まってるとかちょっとなぁ。まぁ、ドラゴンとしては一番弱いし仕方ねぇのかねぇ。

 

 

「俺にミカエル、サーゼクスにセラフォルーは当然として動けるのはヴァーリに影龍王に光龍妃、そんで聖魔剣と聖剣デュランダルか。恐らく赤龍帝ももう少しすれば動けるようになるだろう。さて今の状況を確認したいんだが……外を見てみろ」

 

 

 アザゼルの言う通り窓の外を見てみると上空にデカい魔法陣が展開されており、そこからゴミのように黒いローブを纏ったなにかが降ってきていた。あぁ、魔法使いか……となると三大勢力のトップが話し合うと分かっていた上での行動――テロリストと考えて良いな。

 

 

「うっわ、ゴミが大量じゃん」

 

「数も数十って感じじゃなさそうだ。おい、まさかこれを起こすためだけに平家の能力を封じたわけじゃねぇだろうな?」

 

「んなことするかよ。俺だってこの状況になるなんて思っていなかったさ、恐らく奴らはハーフヴァンパイアが持つ停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を力を強化、または譲渡する能力か何かで強引に禁手化させてるんだろう。視界に映ったものの時間を止めるあの神器ならこのぐらいは造作もねぇはずだ」

 

「ハーフバンパイアぁ? 何処に居んのそんな奴? つかどんな奴?」

 

「俺も遠目でしか見た事ないが金髪の美少女のような男だったか? 犬月が膝を折ってありえねぇとか嘆いてたのは覚えてる。そういえば此処に居ないですけどどこに……あぁ、そういうことですか」

 

「はぁ? なんで此処じゃなくて別の場所に置いてきてんの? バカでしょあの牛乳(うしちち)。死ねばいいのに――殺していい?」

 

「それやったら魔王様が怒るからやめような」

 

 

 窓際に立ち、影人形を生成して地上からこの校舎を攻撃している奴らに突撃させる。一発二発、影人形自慢の拳を叩き込んで絶命させていくがどうにもいつもの勢いが出ない……くっそ、射程距離ギリギリだから霊子の体を保つのがやっとか。

 

 俺の頭の上に居る夜空も片腕を突き出して指を鳴らす――それと同時に極大の光線が放たれる。それは真っ直ぐ曲がる事なく進んでいき結界の壁に当たって消えるが先ほどまで地上に居た魔法使いの半分は肉片残らず消滅。これで通常形態なんだもんなぁ。マジで規格外。

 

 

「やっぱノワールって遠距離技無いからこういう時って弱いよね。一個ぐらいは作っといた方が良いよぉ?」

 

「うっせ! 俺もその辺は気にしてるが遠距離はこれでも伸びてる方なんだよ! お前が異常なだけだ」

 

「私は普通だよぉ~だ!」

 

「これが普通なら他は何なんだって話になるが……サーゼクス、そっちはなにか分かったか?」

 

「グレイフィアが調べた所、やはりギャスパー君、リアスの僧侶が居た場所が敵の本拠地のようだ。まさか彼を利用しようとするなんて思わなかった……リアスに申し訳ないよ」

 

「ではどうしますか? 私達が表に出れば短時間で襲撃者を倒す事が出来ますがそうなると……」

 

「こっちから出れば敵の思い通りになる。恐らく奴らは俺達を表に出すことが狙いだろうな、時間を掛ければ停止世界の邪眼の力がドンドン増して俺達ですら停止させられるかもしれん。あのハーフヴァンパイアの潜在能力はヴァーリ並みと考えて良い」

 

 

 そんな話をしていると赤龍帝とグレモリー先輩が動き出した。どうやら先輩は赤龍帝に触れていたから一緒に動けるようになったらしい……運の良いのか悪いのか分かんねぇな。訳が分からないって顔をしているお二人にサーゼクス様やアザゼルが状況を説明すると案の定、先輩がキレた。でも言わせてほしいんだけど……そんな神器を持ってる奴を単独で放置してたアンタも責任あると思うんだけど? 流石にもう言葉では言わないけど。

 

 三大勢力のトップ勢が動けないので誰が元凶(ハーフヴァンパイア)を助けに行くかって話になると真っ先に先輩が名乗り出た。そりゃそうだろ、此処で他人に任せてたら俺はもうこの人を先輩とは呼ぶことは無かった。てか今更だけど最強の女王ことグレイフィア様がいらっしゃったのね……あれ? 何処にいたんだろ? 俺が来た時にはこの部屋に居なかったと思うんだけど……そう言えば真っ先にヴァーリに話しかけてその後は夜空との漫才してたからスルーしてたかもしれない。

 

 

「リアスが向かうとして問題はどうやって旧校舎まで向かうかだね。道なりに進んで邪魔をする魔法使いを倒していくというのもあるがそれだと時間が掛かり過ぎてリアスも疲弊してしまう」

 

「お兄様! 部室には未使用の戦車の駒があります。キャスリングでなら可能ではないでしょうか?」

 

「……なるほど。グレイフィア、キャスリングの転移に合わせて何人か一緒に転移は可能かな?」

 

「この場では簡素な術式でしか展開できませんので……多くても一人かと」

 

 

 流石の魔王様や最強の女王でも転移魔法が使えない状況じゃお手上げか……まぁ、此処に居る規格外様は絶対に問題ないだろうなぁ。だってあれ魔法じゃなくて仙術の類だし。

 

 

「夜空、お前の転移術でどうにかできねぇか?」

 

「出来るに決まってんじゃん。私を誰だと思ってんの? でもやりたくねぇーよぉだ。なんでこの私がガキの尻拭いで手を貸さねぇといけないのさ。元はと言えばこの牛乳が元凶を一緒に連れてこなかったからじゃねぇの? お強い上級悪魔さんなら一人でも余裕っしょ、だからやりませーんてつだいませーん」

 

「おいおい……ヴァーリ、お前も黙ってないで何とか言ってくれ」

 

「良いんじゃないか? そもそも助ける必要があるとは思えない。旧校舎諸共滅してしまえば問題ないだろう」

 

「俺もそれやった方が手っ取り早いんとは思ったがそれやると魔王様の機嫌が悪くなるんだよ。ぶっちゃけ俺も平家が能力封じの首輪付けて此処に来てんのになんで先輩の所だけ不参加オーケーなのか意味分かんねぇからその方法で進めたい。何? 純血悪魔の眷属と混血悪魔の眷属だとそんな差があるわけ? うわっ、考えたら手伝う気が失せた。さっさとそいつ諸共殺そうぜ」

 

「ちなみに手伝いって何する気だったん?」

 

「さっき赤龍帝にちょっと言い過ぎたかなって思ったから詫びも兼ねて四季音を護衛に付けようとな。でもいらねぇよな? だって純血悪魔様だし。夜空、ゴミと一緒に周囲纏めて吹き飛ばすぞ」

 

「オッケー! それなら大賛成だっつぅの!!」

 

「待ってほしい。キマリス君、リアスの眷属の件は私がそうするように伝えたんだ。彼は自分の神器を制御しきれない、この会談で暴走をしてしまえば悪魔側(こちら側)としても困るからね……誤解を与えてしまって済まない」

 

 

 へぇ、神器が制御できない? あははははは! ばっかじゃねぇの。その程度なんて平家は毎日味わってるさ。聞きたくもねぇ同年代のゲスな心の声やら胡散臭い教師の心の声、本当なら耳を塞いで引きこもりたいはずなのにあいつは逃げないで学校に通ってんだよ。まぁ、引きこもってる日の方が多い気がするけどそれでも前に進んでる……目の前の人が魔王じゃなかったら今の言葉を吐いた瞬間殺してたな。

 

 

「……状況は理解しました。でもこれだけは言わせてください。たかが神器を制御できない程度で特別扱いするなら関わらない方が良いですよ。時間の無駄でそいつに変な優越感を与えるだけですから……てか、堕天使の総督に神器が暴走しない、または抑える装置でも貰えばよかったじゃないですか? うちの平家にしたようにね」

 

「耳がイテェが確かにその通りだ。妖怪としての能力を封じる首輪自体は楽に作れたんだが神器ともなると面倒でな。一応ここに試作品二つがあるが先に渡して此処に置いとけばよかったぜ」

 

「ノワール、別にいいじゃん。これが悪魔だって事ぐらい産まれた時から知ってたっしょ? 良い奴ほど裏ではエグイことするのは世界の常識、だから私は悪魔に転生とかしたくないの――だって魔王が身内贔屓してる勢力なんてロクな所じゃねぇし」

 

「……そう言われるとロクでもねぇな。悪魔側から別の勢力に移動するべきかぁ? 上の老害共も俺が王やってると嫌っぽいし」

 

「んじゃ私と来る? ホームレス生活確定だけど全勢力に喧嘩売るのも結構楽しいよぉ?」

 

「そうすっか。正直悪魔側に居るメリットがねぇし……あぁ、でも母さんが人質にされかねないから冥界ぶっ壊せるほど強くなってからにするわ」

 

「にしし! ちなみに私はノワールとならどこに付いても良いよ。私も光龍妃と一緒で楽しければいいしさぁ」

 

 

 地上に湧く虫共(魔法使い)を影人形で駆逐しながらそんな会話を続ける。しかし夜空と一緒に全勢力に喧嘩を売るっていうのはかなり魅力的な話だ。だって夜空と一緒に居られんだぞ? 最高じゃねぇか!

 

 

「――黒井」

 

「あん?」

 

「あのさ、俺って悪魔になってまだ日が浅いしお前みたいに強くもない……だけど! ギャスパーだって本当は此処に来たかったって事は知っててくれ! アイツは女装趣味で女よりも女物の服が似合ってる奴だけど必死に自分の神器を抑えようと必死なんだよ! 目の前の奴が動かなくなって生気の無い眼で自分を見てくるのが怖いんだって言ってた……それが嫌だから必死に頑張ってるんだよ! だから俺の友達を、仲間を悪く言うのだけはやめてくれ」

 

 

 多分これはこいつの本心だろう。なるほど……俺とは真逆だ、誰かのために一生懸命になれるなんて幸せ者だよ。少なくとも俺は無理だ。

 

 

「……お人よしだな。たくっ、俺も神器を宿してる身だ。その苦労は嫌と言うほど味わったさ……まぁ、言いすぎたってのは理解してる。悪かった……ただ俺がキレてんのは人の眷属には無理を強いて自分の身内には甘いって所を見せつけられたからだ。別にそいつに苦労を否定してるわけじゃねぇよ」

 

「……黒井」

 

 

 普通に考えたらキミ達はこれ付けてでも出席、欠席は認めないと先生に言われたのにその先生の身内には辛かったら欠席しても良いよってなれば誰だって俺のようにキレるさ。たとえそれがガキの嫉妬であろうとな。なんつうか、平家の苦労を知ってる身だと余計に頭にくるんだよ……それが魔王様であってもだ。というより様付けるのもめんどくせぇから呼び捨てでいよな。心の中ではもう呼び捨てにしとこう。

 

 でも橘に構い過ぎって言われたが平家にも甘いよな。多分一番過保護にしてる自信はあるから今も停止状態で助かったよ……さっきの流れを見せたら地味に怒るだろうし。

 

 

「たくっ、めんどくせぇな。夜空、お前の気が済むまで殺し合いに付き合ってやるから転移術で目的の場所まで繋いでくれ」

 

「うわっ、やっさしぃ~でもその甘さっていつか自分を殺すよぉ~? まっ、死なねぇと思うけどさ。しっかたねぇからこの夜空ちゃんが手伝ってやんよ。誰が行くん? 名乗り上げないとぶっ殺すよ」

 

「わ、私よ!」

 

「あと俺もだ! 部長一人で行かせられねぇしギャスパーを助けたい!」

 

「ふんふん。うんでそこの鬼も一緒で良いんだよね?」

 

「あぁ。王として命じる、その二人の護衛として手助けしろ……美味い酒奢ってやるから」

 

「――別にいらないよ。偶にはノワールのお願いぐらいはきかないとねぇ。そん代わり! 今日の晩は私を、だ、きぃ枕にしな! 良いね!」

 

「なんだそのお願いは……セクハラすんなよ?」

 

「にしし! 極上の快楽ってのを味合わせてやるから覚悟してな!」

 

 

 セクハラすることは確定かよ。

 

 流石に転送座標があいまいなのか入り口に転移穴を繋いだようで三人は救出するためにこの場から消えた。行く前にアザゼルから赤龍帝用の腕輪とハーフヴァンパイア用の腕輪を渡していたけど……すげぇな。あれ一つで赤龍帝の禁手化の対価代わりになるとかトンデモねぇ代物だ。

 

 そんな事よりも四季音の奴……なんで抱き枕にしろなんて条件を出しやがったんだ? まさかあいつも橘に構いすぎって感じで嫉妬か? 鬼の嫉妬とか怖すぎるんだけど……これでしなかったらガチギレするよな。だって酒呑童子で嘘嫌いだし。マジで詰んでるな。

 

 

「ハーフヴァンパイアは赤龍帝に任せたとしてだ……ヴァーリ、影龍王、光龍妃。お前さん達は外で陽動を頼みたい。いくらテロリストと言えども二天龍に地双龍が出て来たらビビるだろう。影龍王の不満も分かるが今は頭の片隅にでも置いておけよ――ちなみにサーゼクスの所が嫌なら俺の所に来て良いぜ? 幹部クラス以上の席を用意してやる」

 

「ぶっちゃけ悪魔側(こっち)より堕天使側(そっち)の方が居心地良さそうなんで心揺れてるんですけど?」

 

「おうおう存分に揺れてこっちに来い! もちろんお前さんの家族も一緒で良いぜ。駆け落ちしてきた悪魔と人間の夫婦ぐれぇ居ても問題ねぇからな」

 

「アザゼル、彼は冥界を背負う若手の一人だ。不用意な勧誘はやめてもらいたい……たとえ彼が私自身に不満を持っていたとしてもだ」

 

「お前さん達は身内に甘すぎるからなぁ。まっ、考えておいてくれや。聖魔剣とデュランダルの使い手は別方向の敵を頼むぜ。」

 

「分かりました!」

 

「うむ。デュランダルの錆にしてくれる!」

 

 

 魔王様、いや魔王にお願いされたからかこの場で動けるダブル騎士さん達は己の武器を手に外へと飛び出した。正直なところ此処に居てもらった方がありがたいんだけどねぇ。だって邪魔になるし。

 

「――相棒」

 

『いつでも良いぜ宿主様! その怒りを虫にぶつけてやろうぞ! 俺様も先の魔王共の行いにはムカついてるんでなぁ!! 殺して殺して殺しまくるぜぇ!!!』

 

「流石だぜ相棒!!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

「うっわ、殺す気満々じゃん! 良いよ良いよぉ!! 堕天使風情の命令って考えるとイラつくけど今回はノワールに免じてやってやろうじゃん! いっくよぉ~ユニア!!」

 

『えぇ。私達に喧嘩を売ったことを未来永劫後悔するように蹂躙しましょう』

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

「アルビオン。やはり彼らは面白いな」

 

『そうだな。今までの地双龍ではないとだけ言っておこう』

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 俺達は鎧を身に纏う。俺は禍々しいほどの棘が特徴の黒いドラゴンを模した鎧、夜空が山吹色のドラゴンを模した神々しいとも言える鎧、そしてヴァーリは背中の光翼が特徴の純白な鎧だ。俺達が揃って飛び出してきたもんだから魔法使い共はかなり戸惑っている様子だ……いや、夜空が此処に居る事に驚いている? おいおいまさかこの規格外……何か知ってんのか?

 

 

「――まぁ、いいや。とりあえずすっげぇムカついてるから死ねよ雑魚どもぉ!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 片手に影を集めて地面に拳を突き立てる。集めた影を水を床に撒いたように地面に侵食させ、魔法使い共の足を絡めとる。大多数を相手にするなら点よりも面で攻めた方が良い、だからこその広範囲に影を広げたんだ。足を絡めとられたゴミは逃れようと火の玉やら氷の刃やらを飛ばしてくるが影人形のラッシュタイムで防ぐ……ほらほら、早くしないと自分の力どころか生命力すらなくなっちまうぜ?

 

 

「に、逃げろ!? 影龍王の影に触れれば死ぬぞ!?」

 

「は、はなせぇ!! い、いやだ、死にたくないぃ!!」

 

「死にたくないならテロなんかすんじゃねぇよ」

 

 

 地面に広げた影を一気に俺の方まで引き戻す。捕らえているためそんな事をすれば当然、魔法使い共も一緒に俺まで近づいてくる……さぁ、処刑タイムだ。網に囚われた魚を影人形のラッシュタイムでミンチ肉にするため徹底的に叩き込む。慈悲なんていらないし俺はまだ優しい方だ――上空では夜空とヴァーリが大暴れしてるしな。でもなんとなくヴァーリの奴に覇気が無いというかやる気が無いようにも見える……相手が雑魚だからか? 確かにこの程度で取り乱す下級も下級だから無理もねぇか。

 

 しっかし夜空の奴……手当たり次第に光放ってるが旧校舎、にぃ!? 高笑いしながら放った極大の光が旧校舎に向かいそうだったので影を生み出して旧校舎全体を包み込む。かなりの衝撃が建物内に響いただろうが崩落とかはしないだろう……あの野郎! あの中には四季音がいるんだぞ!! 他はどうでも良いが四季音を殺されたらこっちが困るんだよ!!

 

 

「おい夜空ぁ!! テメェ!! 四季音を殺す気か!?」

 

「およ? あっ、ごっめぇ~ん! 適当に撃ってたらそっち行っちゃったぁ」

 

「行っちゃったぁ、じゃねぇんだよ!! あぁもう! ヴァーリ! テメェもちっとはやる気出せや!!」

 

「これでも楽しんでいるんだがな」

 

 

 魔法使いに囲まれて魔法の集中砲火を受けているヴァーリだが障壁で防ぎ、魔力の波動で薙ぎ払った。奴の神器――白龍皇(ディバァイン)の光翼(・ディバイディング)は『触れた相手の力を十秒ごとに半減させる』と『半減した力を自分の糧にする』という二つの能力を持っている。完全に俺の、いや相棒の上位互換だよな……こっちなんてゲームで言う1ずつしか減らせないのにヴァーリは触れるだけで半分減らせるんだしな。さてここで相棒の声を聞いてみよう……どうなってんだよ?

 

 

『宿主様よぉ、確かにアルビオンの奴は俺様の能力の上位かもしんねぇが俺様が得意としてるのは影を生み出す方だ。捕食と呼ばれた能力はついでなんだぜ』

 

「負け惜しみじゃねぇよな?」

 

『ゼハハハハハ!! 全盛期ならば分かるが今の奴は聖書の神に力の大部分を封じられてるだろうぜぇ! 俺様やユニアと同じようにな! だからガチで殺し合えば俺様達が勝つさ。宿主様は最強にして最高、最悪の影龍王だからなぁ!』

 

「褒めんなよ、照れるじゃねぇか」

 

 

 ゴミ(魔法使い)の集団に影人形を向かわせてラッシュタイム、俺は影を地面に広げて逃げ惑う奴らを捕らえて力を奪いつつ一気に引き寄せる。そのまま球体上に影を変化させて捕らえた奴全員を内部でプレス……中から痛いだの死にたくないだの潰れるだのという雑音が聞こえるが気のせいだろう。あっ、ブチュっていった。多分このまま影を消したらトマトジュースが出来上がってるだろうが飲みたくはねぇ。

 

 とか遊んでいたらこの辺り全域に光が降り注いだ。勿論旧校舎にも飛んで行ったので全力で護ったさ! なんで俺があいつら(赤龍帝達)を護らねぇといけねぇんだよ!! こんな事なら四季音を向かわせるんじゃなかった!! てかダブル騎士達は生きてるか? いや生きてるよな! だって先輩の眷属だもんね!

 

 

「うぅ~ん、虫のように湧いて出てくるぅ! ノワール! あれぶっ壊して!!」

 

「だから旧校舎狙うなって言ってんだろうがぁ!! 壊してぇなら自分でぶっ壊せ!!」

 

「めんどい!! てか飽きた!!」

 

「素直なお言葉をありがとう!!」

 

 

 全身から影を上空に伸ばしてゴミが大量に降ってくる魔法陣を包み込む。そして能力を発動して魔法陣の力を奪い取っていくと先ほどまで俺達が居た会議室から奇妙な魔力の波動を感じた。振り向けば褐色肌の美女とアザゼルが外に出てきたんだが……あの褐色誰だ? なんつぅか褐色ってエロいよな。あぁ、違うそうじゃなくて転移魔法が封じられている中でやってきたってことは敵か。

 

 魔法陣を包んでいる影を一旦消してアザゼルの方を向く。

 

 

「おいアザゼルさんよぉ、そいつ誰?」

 

「旧魔王、レヴィアタンの血を引く女だよ。しっかしたった数分でこの惨状かよ……お前達はもうちったぁ加減しろって。特に光龍妃、お前さんは何回旧校舎を狙ったら気が済むんだ」

 

「すぐに助けない赤龍帝と牛乳が悪い! 鬼は……ドンマイ!! つーかそこのおばさんって私をなんだかっていう組織に勧誘してきた奴じゃん。なんでいんの?」

 

「影龍王は想定していましたが光龍妃……! まさか貴方が此処に居るとは思いませんでしたよ。私達の申し出を断ったのでてっきり来ないものかと思っていましたからね」

 

「私は自分の気持ちに赴くままに行動すんの。テメェごときに指図される筋合いはねぇんだよぉだ!」

 

「なるほど……お前達旧魔王派は光龍妃を自分の組織――禍の団(カオス・ブリゲード)にスカウトしたってわけか。残念だったなカテレア・レヴィアタン、こいつは恐らくどの組織、神話体系ですら手元に置く事が出来ねぇ存在だ。唯一それが出来るとするなら……そこに居る影龍王ぐらいさ」

 

 

 はい! 思いっ切り女王にしようと頑張ってます!

 

 しかし禍の団……か、俺は聞いたことも無い名前だが聞く限りだとトンデモねぇ組織っぽいな。しかも旧魔王派って事は前大戦で死んだ魔王の血筋かよ、そんな奴らが参加してる組織のトップってのはどんな奴だ? 並大抵の存在じゃ御しきれねぇぞ。

 

 

「てか夜空、そんな事あったんならもっと前に――っ!?」

 

 

 上空に居る夜空に近づきながら声をかけた瞬間、別の方向から攻撃を受けた。何かが当たる直前に影を生み出して盾にしたが勢いは殺す事が出来ずに地面に落とされた……誰だ、って言っても答えなんか決まってる――ヴァーリ!!

 

 

「防がれたか。流石影龍王だな、意識外からの攻撃ですら反応するか」

 

「……テメェ!! いきなり何すんだよ!!」

 

 

 起き上がって上空に居るヴァーリに吠えるように叫んだ。それと同時に旧校舎から赤龍帝と先輩、四季音が目的の人物を救出したのか出てくるのが視界の端で見える……まっ、あの二人に加えて四季音がいるんだ。雑魚相手だったら無双するだろう。でも今はあいつだ! 意識を逸らしたら殺される……! アイツ相手によそ見なんて出来ねぇからな!

 

 

「ヴァーリ……そうかい、お前が裏切り者か」

 

「なんだアザゼル? 裏切者が居る事を知っていたのか?」

 

「馬鹿野郎。俺を誰だと思ってんだよ? 今回の会談でテロを行うタイミング、ハーフヴァンパイアの所在は外部の奴だと無理がある……だからテロが起きたタイミングで裏切者がいるってのは予想出来てたさ。もっとも俺の予想では光龍妃かと思ってたが――まさかお前とはな」

 

「ふふっ、確かにそうだろうな。俺は光龍妃と出会い、何度も戦う事で己の欲を満たしていた。強者と戦いたいというたった一つの欲をね。でも足りないんだよ、俺の好敵手である兵藤一誠があまりにも弱すぎる残酷な運命に少しばかり悲しんでしまったと言うべきかな?」

 

「そこで私達は彼に声を掛けました。その場に光龍妃が居た事は予想外でしたが白龍皇と光龍妃、どちらか片方か両方でも参加してもらえれば十分でした。あなたが彼を放置していたおかげで今回のテロはスムーズに行う事が出来ましたよ」

 

「……ヴァーリ、お前はオーフィスに下るってのか?」

 

 

 オーフィス、確かそいつは無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と称される世界最強のドラゴンの名前だ。そうか……カオスなんたらってのを率いているのはソイツか。マジかよ、確かにオーフィスほどの存在がトップなら性格に難有りだろうと強者であろうと従うか。

 

 

「協力するだけさ。元々俺が目指す野望はもっと先にあるんでね。それにアザゼルの傍に居るよりもこっちにいた方が都合が良いんだ、好きな時に光龍妃と戦えるからね」

 

「いやぁ~まさかカオスなんたらに入れば私と好きな時に戦えるかもよぉとか言ったらオーケー出すとは思わなかったね。でも毎日はダメだぜ? 私だってノワールと殺し合うっていう大切な義務があるんだからさ」

 

「分かっているよ。俺の方もしばらくは忙しくなりそうなんでね、キミとは戦う時間がなさそうだ」

 

「ありゃぁ~残念。まっ、いいけどねぇ~でもでも私って気まぐれだからヴァーリの組織とか潰しちゃうかも知んねーけど許してね?」

 

「好きにするといいさ。俺はこの組織に愛着を持ってはいない」

 

「……話の横から邪魔すっけどよ。夜空……お前、知っててスルーしてたな?」

 

「うん。だってテロだよ? 面白そうじゃん! 教えちゃうと対策されて私の楽しみが減っちゃうしぃ。でもなんかゴミの集団見たらウザかったしノワールがちょこっと魔王に虐められてたからこうして掌返しでぶっ殺してるんだから帳消しって事にしてくんない? あっ、ちなみにノワールの近くに居る吸血鬼君の所に魔法使い送ったの私だから。ヴァーリに頼まれちゃってさぁ~なんでも従来の転移魔法陣だと足が付くとかなんたらで私のだったら問題ないんだってさ。面白そうだったしコカビエルの時にご飯奢ってもらったからそれぐらいならいっかなぁ~ってね」

 

「……そうかよ」

 

 

 マジで何してくれてんだよこいつ。言ってる事とやってる事が滅茶苦茶でガキの我儘みてぇにコロコロ変わりやがる。いやその前についさっきのハーフヴァンパイアって誰? とか周囲が停止する前のユニアの言葉すら嘘かよ!! 手が込み過ぎてというかこいつ(夜空)だからそうなんだろうって納得しちまったじゃねぇか!! まぁ、夜空の性格とかを一番理解できてるとは思ってたがここまでとはな――やっぱ俺の女王にはこいつしか相応しいのは居ねぇな! さらに欲しくなった!!

 

 

 

「黒井! 大丈夫かよ!?」

 

「問題ねぇよ。悪いな、うちの馬鹿がそっちに迷惑かけてた」

 

「い、いや……でもマジなのか? だってあの人はライザーの時に俺に手を――」

 

「マジだよ。あいつはそういう性格だ。そん時はお前が片腕をドラゴンに献上したのを知って面白いから手助けしてやろうと思っただけさ……面白い事優先で他人が傷つこうが死のうが関係ない。ただ自分が楽しければそれでいいんだよ」

 

「そのとおぉ~りぃ!! でもカオスなんたらってのには入ってないのはホントよ? 私はオーフィスの下で働きたくないし逆に倒したいって派だからさぁ。ごめぇ~んね?」

 

「今更かわい子ぶってんじゃねぇよ。むしろお前で安心したわ」

 

 

 上空に浮いて夜空とヴァーリに向かい合う。俺の背中にアザゼルが背中を預ける形で近づいてくる……まさか堕天使の総督と背中を預ける体勢になるとは思わなかった。でもこいつ等を二人相手は流石の俺でも厳しいが何とかするか。

 

 

「影龍王、カテレアは俺に任せろ。お前さんはちとキツイだろうがそっちを頼むぜ」

 

「自分だけ楽な方を選ぶとかチキンな総督だな」

 

「おうおう言うねぇ。言っとくがカテレアもかなりの実力者だぜ? まっ、お前さんには勝てねぇだろうがな。俺がそいつらと戦わねぇのはヴァーリの渇きを満たせるのはお前さんぐらいだって思ってるからさ。俺が戦った所であいつは何も感じねぇんだよ」

 

「……まっ、だろうな」

 

「それにお前さんにとってもいい経験になるだろうぜ――あいつはルシファーだからな」

 

 

 アザゼルの口から信じられない言葉が聞こえてきた。ルシファー、その名は冥界においても何を置いても重要視されるほどの存在の名前。確かにヴァーリは魔力を使ってたから俺と同じ混血悪魔なんだろうなとは思ってたがフルネームまで聞かなかった……なんか言いたくなさそうな感じだったし俺もただのヴァーリとして殺し合ってた。マジかぁ~フルネームはヴァーリ・ルシファーだったのかよ……そりゃ才能で勝てねぇわけだ。

 

 その言葉で驚いていたのは俺だけじゃなくてヴァーリの隣に居る夜空と地上に居る先輩、そしていつの間にか会議室から出てきた魔王二人とミカエル、そして俺の眷属と先輩の眷属、生徒会長達。どれも信じられない表情をしてヴァーリを見ているけど一番驚いているのは先輩だ……そりゃそうだ。自分の兄がルシファーの名前を与えられたのにここにきて本物が出てきたんだからな。

 

 

「そうとも。影龍王にも光龍妃にも言ってはいなかったがここで明かそう――俺の名はヴァーリ・ルシファー。前魔王の血を引く父と人間の間に生まれたハーフなんだ。俺は白龍皇でありルシファーでもある存在……奇跡と呼ぶにふさわしいとは思わないか?」

 

 

 上空で白龍皇の光翼と悪魔の証である翼を生やしたヴァーリが兜で分からないがきっと笑みを浮かべたまま俺達を見つめている。

 

 純白な光の翼、複数の漆黒の翼を自慢するように見せる奴の姿は……悔しいがカッコよかった。




長くなりそうだったので区切りました。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

「奇跡、奇跡ねぇ……確かにテメェはトンデモねぇ才能の持ち主だよ。俺が嫉妬するぐらいにな」

 

 

 目の前の存在を真似る様に影の翼を背中から生やしてヴァーリと夜空と向かい合う。ヴァーリは確かに天才だ、魔力を操る才能も戦闘技術も神滅具の扱い方すら俺よりもはるか高みに居るだろう。元七十二柱、キマリス家の血を引く混血悪魔と冥界が最重要視するルシファーの血を引いた混血悪魔……どっちが優秀かなんて一目瞭然だ。

 

 

「俺よりもイケメンだしクールぶってる癖に根は熱いとかそういう性格が羨ましい。あと離反して常日頃から夜空と一緒に居られるとか本当に羨ましい。正直俺もそっち行きてぇぐらいに羨ましい」

 

「ふふっ、ならキミもこっちに来るか? 俺は歓迎するぞ? 影龍王と好きな時に戦えるんだ、拒む理由は無い」

 

「俺も冥界上層部の老害共の小言やら陰口を聞かなくていい分、本気でそっちに行きてぇさ……でもな、無理なんだよ。どんだけ望んでも俺の弱みが冥界にある限り俺は悪魔側(こっち)から移動できない。たとえカオスなんたらって所に一緒に行っても弱みを握られるだけだしな」

 

「そうだよねぇ、ノワールってお母さん大好きっ子だし。いくら私でもあの人には手は出せないかなぁ~やったらノワールが命捨ててまで私を殺しそうだしさ」

 

「当然だ。俺の弱み(母さん)だぞ? と言うわけで悲しい事に俺はそっち側には付けないからちょっとだけ付き合ってくれよ――殺し合いたいんだろ?」

 

「――ははっ! あぁ、そうだとも! キミと戦った時に感じた強者に成り得る素養に俺は嬉しかった。光龍妃も今の俺が全力を出せる人物でキミだってそうだ……俺という奇跡の存在と相対出来る存在なんて各神話体系の神ぐらいなんでね」

 

「そりゃそうだ」

 

 

 この天才系イケメンと渡り合える奴なんて今の冥界でも希少だろう。魔王やミカエル、アザゼルにサイラオーグ・バアルくらいか? 俺が知る限りだったらこの人達ぐらいなものだな……あとは夜空と多分俺。赤龍帝ももうちょっとだけ強ければ離反とかしない別な結果になっただろうなぁ。でもヴァーリの気持ちは少しだけ理解できるかもしれない……あいつの過去に何があったかまでは知らないが冥界じゃなくてアザゼルの元に居るって事はつまりはそういう事(不幸があった)なんだろう。だからこその強者への渇望、強くもっと強く、さらなる高みに立ちたいという願いがあるんだと思う……俺も夜空が居なかったらこの場に居ないしここまで強くなれなかった。全ては夜空に勝つためだけに強くなりたいと願い続けていると言っても良い。だから強者と戦って自分を高めたいという気持ちは理解できる。

 

 俺の背後ではアザゼルと褐色女が戦闘を始めた。極大の光の槍やら魔力の波動やらがぶつかり合って振動が凄い。幸いなことに俺の眷属とか赤龍帝達はサーゼクスやミカエルが結界を張って護ってくれているから今の所は被害は無さそうだ……一応感謝しますよ。

 

 

「くっ! オーフィスの蛇を使っているのに何故……何故!!」

 

「やっぱり何か使ってやがったな。いきなり魔力の質が変わったんで何かあるとは思ったが……オーフィスか、奴と取引でもしたのかよ?」

 

「えぇ! 私達の願いを叶えるために取引しました! 神器などという神の玩具に興味を示しているあなたでは私には勝てません! 勝てないはず……なのに!!」

 

「確かに俺は聖書の神が作った神器を研究しているさ。コカビエルの奴や他の奴らも俺の事を異常なコレクター魂だのなんだのって言いやがる。たくっ、俺はあいつらの上司だってのによぉ。さてカテレア、なんでお前がオーフィスから貰ったなにかを使っても勝てないか教えてやろうか? 簡単だぜ――勢力一つを率いている俺が弱いわけねぇってことさ」

 

 

 夜空に匹敵、いや禁手化している状態をはるかに超えるほどの質量と威力を持つ光の槍を褐色女に放つ。そいつを躱すのが無理だと判断したのか防御をするが――煎餅を割るように簡単に割って褐色女の片腕を吹き飛ばした。やっべぇ……強すぎだろ。あれってガチの一撃だよな? 流石堕天使の総督、悪魔相手なら無双出来る実力者だな。

 

 痛みに悶える女に追撃を仕掛ける事も無く懐から短剣を取り出した。光を放てる堕天使が武器? なんか意外だな……でもなんだこれ、ドラゴンのオーラを感じるぞ?

 

 

「冥途の土産にひとつ面白いものを見せてやる。俺は神器を研究しているとさっき言ったよな? その過程で自分でも作ってみたりしてるのさ。誰だって興味があるものがあれば真似てみたくなるだろ? それと同じで俺も神器を真似て自分だけのオリジナル神器を作ってみたってわけだ――それがこいつだ」

 

「……くっ! 噂以上の神器コレクター! それがどうしたというのですか!! 私はまだ、まだ負けてはいない!!」

 

「あぁ、そうだろうな。だからこれで終わらせるぜ――禁手化」

 

 

 その瞬間、アザゼルの姿が変化した。本来、神器は人間にしか宿らない。仮に異形の存在が得る事が出来るのは俺のような混血か他者から奪い取るしかない……だから目の前の光景が信じられなかった。黄金色の全身鎧、一目で威圧を与えるドラゴンのオーラ、多分今の俺は玩具を与えられた子供のように笑っているだろう。面白れぇ! やべぇ俺の中で三大勢力トップ勢の好感度が一気に変わったぜ!! アザゼル様素敵!! キャー殺し合いしようぜー!

 

 

堕天龍の(ダウン・フォール・)閃光槍(ドラゴン・スピア)の禁手、堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧(・アナザー・アーマー)。俺が作った人工神器の中でも傑作中の傑作よ、これを使ったからには負けるわけにはいかねぇぜ? 俺の趣味の集大成だからな!」

 

『宿主様、あれはファーブニルだぜ。なんで封印されてっかはしらねぇけどなぁ』

 

「へぇ。黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)か、そりゃ強そうだ」

 

「ハハハ! アザゼル! なんだ? そんな面白いものを隠していたのか? 凄いな、やっぱりアザゼルは凄いよ。だからこそ戦ってみたかった」

 

「すっげぇー!! 人工神器!? うわすっげぇー! 流石堕天使のトップだね! ノワールノワール!! あれ見てよドラゴンの鎧! 黄金色! 龍王だぜ龍王!!」

 

 

 ヴァーリは今のアザゼルの姿に敬意を表して戦いたいという闘志を露わにし、夜空は子供のようにはしゃいでいる。確かにお前達の気持ちはよく分かるさ……俺だって戦いたいし子供のようにすげーすげーとか言いたいわ。神器を作るっていう発想自体がスゲェしな。

 

 褐色女もビビったのか少しだけ後退するも何かを決意したのか自分の腕を触手のように太く、そして数を増やしてアザゼルを捕らえようとする。確かに魔力量とか色々高いし冥界で遊んでいる上級悪魔だったら余裕で殺せるだろう……でも、それだけだ。オーフィスから何を貰って何がどうなっているかとかは知らないがドラゴンを甘く見ないでほしいぜ。

 

 

「私の命を糧にあなただけでも死んでもらいます!! サーゼクスやセラフォルーを殺せないのは悔いが残ります! しかし堕天使のトップを殺せるならば!!」

 

「そりゃまた俺も褐色美人にモテるなんてまだまだ現役って事か。でも残念だったなカテレア・レヴィアタン」

 

 

 アザゼルは手に持つ光の槍を振るい、斬撃を飛ばす。ただの斬撃ではなく光の斬撃で放ったのは堕天使の頭だ……その威力は比べ物にないものだろう。放たれたそれは褐色女の腕を斬り落として胴体を真っ二つにする。そしてトドメとばかりに槍を投擲して頭部を吹き飛ばして終了……やべぇ強いな。

 

 

「玩具に頼っているのはお互い様だが素の実力差がありすぎんだよ。ふぅ、なんだなんだ? おじさんの戦いを見てるだけかよ? 通りで静かだと思ったぜ」

 

「なんか無粋かなぁって」

 

「うんうん! すっげぇーカッコよかった!! どうやって作ったん!?」

 

「おっ、光龍妃は人工神器に興味を持ったか。良いぞぉ、あとで思う存分見せてやるし教えてやろう――さてヴァーリ、どうする? あと数分程度だがこの状態で戦えるぜ? なんなら影龍王と共闘してもいいぞ」

 

「魅力的な提案だが俺はこっちの方が良いな――兵藤一誠」

 

 

 ヴァーリの視線が地上に居る赤龍帝に向けられた。既に地上に湧いていたゴミ(魔法使い)は彼らによって駆逐されたらしい……犬月も平家も水無瀬も橘も戦闘形態だしな。つかあのオコジョ……狐になってやがる! ですよね! バチバチと電気垂れ流してるけど本来の姿そっちだもんな! 焦げた人間なんて久しぶりに見るんだけどあのオコジョって気性が荒いんだよなぁ。まぁ、俺好みな性格だけどさ。

 

 

「な、なんだよ!!」

 

「今のを見ただろう? 同じドラゴン、正式な神器と作られた偽物であってもアザゼル、そして俺達と比べるとキミは非常に弱い。弱すぎる、俺の宿敵には残念なほどにね」

 

「っ、だからなんだってんだ!!」

 

「俺のようにルシファーの力と白龍皇の力を宿す存在、光龍妃のように人間であって人間でない存在、影龍王のように混血悪魔故に差別を受けながらも俺達と同じ高みに立った存在。しかしキミは普通の人間で転生悪魔、赤龍帝の力を半分も使いこなせていない。つまらない、これが俺のライバルだと思うと涙が出る」

 

「宿敵が雑魚だった時の残念感は尋常じゃねぇからね。よかったぁ~私はノワールがライバルで!!」

 

「同じくお前がライバルでよかったよ」

 

「あぁ、羨ましい。全力を尽くせるキミ達に嫉妬するな。赤龍帝と白龍皇、何度も戦い殺し合ってきた宿敵同士という胸が熱くなるほどの存在だというのに俺のライバルは……キミだ。普通の両親にキミはきっと愛されて育てられたんだろう、その身に異質を宿している事すら気づかないままね。だから俺がキミを強くしようと思う。今よりも強く、もっと強くね」

 

「なんだ? 最強のルシファー様が赤龍帝を鍛えるのか?」

 

「違うさ影龍王――俺が彼の大事なモノを殺す。そうだな、両親なんてどうだろうか? 普通の人間が生きるのは精々数十年ほどだ。つまらない人生を送るよりも息子の兵藤一誠が強くなる材料になれば本望だろう。うん、それが良いな」

 

 

 あぁ~そう言っちゃう? それ言っちゃう? マジかぁ……殺したくなった。無関係だけど殺したくなった。無性に殺したくなったし八つ裂きにしてミンチにして焼却処分したいほどぶっ殺したくなった。

 

 それは俺だけではなく赤龍帝も同じのようで先輩の静止の声すら聞かずに一歩、また一歩と前に出た。その表情は怒りに染まってさっきまでの赤龍帝とは違っている。だよな……大事な両親だもんな。

 

 

「――ふざけんな」

 

「うん?」

 

「なんで、なんで俺の両親がテメェの我儘なんかのために殺されなくちゃいけねぇんだよ!!! ぶっ殺すぞこの野郎!!! ドライグゥ!!!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!!』

 

 

 彼の周囲に高まったドラゴンのオーラが広がり、赤龍帝は赤い鎧を身に纏う。本来ならば対価が必要な不完全の禁手化らしいがさっき渡された腕輪のお蔭で問題なさそうだ。

 

 

「そこ動くんじゃねぇ!! 一発ぶん殴ってやる!!」

 

「ふ、ふふふはははは! アルビオン! 一気にドラゴンのオーラが高まったぞ!! 凄い、凄いな!」

 

『ドラゴンの力を引き出すには強い想いが必要だ。彼の純粋な怒り、それがお前に向けられているんだよ。しかしヴァーリ、気を付けろ』

 

「うん? どうした?」

 

『どうやらクロムの宿主もお前に怒りを抱いたようだ』

 

「そりゃそうっしょ――私でさえ言わなかったんだよ? さっき言わなかったっけぇ? ノワールはお母さん大好きっ子だってさ」

 

 

 その通りだ。今の俺はムカついてムカついてムカつきっぱなしなんだよ。関係ない? 悪いが俺は短気なんでね!

 

 

「おい赤龍帝!」

 

「なんだよ!!」

 

「あの真っ白な鎧着てるイケメンを地面に叩きつけたくはねぇか?」

 

「叩きつけるだけじゃねぇ!! ブサイクになるまでぶん殴る!!」

 

「だったら手を貸してやる!! さっきの挑発は俺もムカついたんでなぁ!! 悪いが加減無しの初っ端から全力全開だ! 我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり! 我が生み出せし人形よ! 笑え! 叫べ! 幾重の感情をその身に宿せ! 生まれろ影よ! 交われ霊よ! 我が声に従い新たな姿と成りて生まれ変わらん!!!」

 

 

 背後に影人形を生成して俺が生み出した影で貫く。言霊と共に影人形の姿を変化させ、生まれ出たモノを纏う――獣の顔に龍の顔、蛇、無数の手、幾重の影が漏れ出したマントを羽織る。影龍王の再生鎧ver影人形融合! 覇龍であって覇龍ではない、そんな夢物語を生み出そうとした欠陥品でも今の俺には最高の強化形態だ!!

 

 

「悪いが今日でそのイケメンフェイスとはさよならしてもらうぞ!」

 

「それが噂に聞いていた禁手の先か……面白い! 兵藤一誠に影龍王、いやノワール・キマリス! 楽しませてくれ! 俺を! 俺達を!」

 

「うわっ、ヴァーリがマジで楽しそうなんだけど。でも仕方ねぇかぁ! うん、私もすっげぇワクワクしてる! そんじゃタッグで勝負だぁ!! そっちは赤龍帝とノワールでこっちは私とヴァーリね! 言っとくけど死んでも恨まないで、ねっ!!」

 

 

 夜空が腕を振るった瞬間、無数の光の雨が降り注ぐ。俺の後ろには平家達が……! ちぃ!

 

 マントを翻し、無数の手を模した影を背後から生み出して降ってくる光の雨を遮る。赤龍帝も俺の背後を飛んで被弾することなくヴァーリに接近しようとしてるらしい……だったら手伝ってやる! 今だけは共闘してやるよ!! 兵藤一誠!!!

 

 

「ドライグ! アスカロンだ!!」

 

『Blade!!』

 

『ヴァーリ、あれは龍殺し(ドラゴンスレイヤー)だ。一太刀でも浴びたなら流石のお前でもダメージを受けるだろう』

 

「当たらなければいいんだろう? っ、凄いな影龍王は! これだけの影を生み出す存在は見た事が無い!」

 

「黒井!!」

 

「突っ込め! テメェの盾ぐれぇにはなってやる!」

 

「分かった!」

 

 

 黒のオーラを纏い、赤龍帝と共にヴァーリに向かう。影と繋がった状態で触れられたら一瞬で半減されちまう……しかも夜空もあっちに居るとなると基本俺が夜空、赤龍帝がヴァーリか、かなりのハンデじゃねぇかって文句言いてぇ!! でも勝ったらそれはそれでカッコいいな!!

 

 光の速さで移動し、俺に殴打を浴びせてくるのは夜空。両腕に影を纏わせて光を纏う夜空と殴り合う……この状態ならば身体能力は倍ぐらいには高まってるし影生成も通常時よりもはるかに超える速度が出せるんだぜ? あと俺の怒りで倍プッシュ!!

 

 

「すっげぇ! ガチギレ状態のノワールってこんなに強いんだ!!」

 

「今までお前がいる前でキレた事ねぇからな!!」

 

「あははははは!! だったら今度から怒らせてみよっかな!! やり過ぎない程度でさ!!」

 

「それやったらマジで殺すぞ!! っ! ヴァーリか!?」

 

 

 影の盾で意識外からの攻撃に反応すると魔力の波動が俺を襲ってきたようだ。放ったのは当然ヴァーリ、赤龍帝の怒りで高まった赤いオーラと龍殺しと呼ばれた剣、いやあれはなんだ? 籠手から刃だけ出てるけど剣で良いんだよな? まぁ、どうでもいいけど宣言通り回避し続けて俺にまで攻撃する余裕があるらしい。くそっ! これだから天才は!!

 

 意識をヴァーリに向けたせいなのか夜空の一瞬の行動を許してしまい、光の剣となった蹴りを喰らってしまった。右腕と右足が切断されて尋常ではない痛みが俺を襲う……地上からは橘らしき声の悲鳴が聞こえてくるが気にしねぇ! 痛みは慣れてる!! 地面に落ちる腕と足を影で掴み、先に足だけ再生。斬り落とされた腕は影の状態に変異させたまま上空目掛けて影を伸ばし、幾重に枝分かれさせる。きっとヴァーリと夜空の視界には異様な黒い枝が上空に現れたように見えるだろう。

 

 

「赤龍帝! 当たっても恨むんじゃねぇぞ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!!!!』

 

 

 枝から影の刃を雨のように降らせ、ヴァーリと夜空を襲わせる。二人は魔力の波動や光の雨で相殺、防ごうとするが簡単に終わるわけがねぇだろ!! 俺が降らせた影の刃は吹き飛ばされた後、飛散した影同士が一つに集まってその姿を影の犬へと変異、再び二人を襲い始める。悪いがこの影には霊子も混ざっているんでね……普通に吹き飛ばした程度じゃ防げねぇ!! 二人も高速移動しながら迎撃するが先ほどまでの雨とは違い今回は影自身が小さな自我を持っている……つまり、喰い殺すまで必ず追いかけるって事さ!

 

 影生成、変異、操作に思考の大部分を割きながらマントを一本の尻尾に変異させ赤龍帝を掴んで振り回す。そう驚くな――最短距離直通ルートで向かわせてやる!!

 

 

「ちょっ!? ナニコレ初めて見るんだけどこんな技!?」

 

「防いでも吹き飛ばしても再生、俺達を追いかけてくるか……なにっ!?」

 

「ヴァァリィィ!!」

 

 

 赤龍帝をボールのように放り投げた先に居るのはヴァーリ。標的目掛けて飛んで行った赤龍帝は左腕を引き、思いっきりヴァーリの胴体をぶん殴った。俺が放り投げた勢いと先のアルビオンの言葉が真実なら龍殺しの一撃、そして赤龍帝の高まった力を全部受けた事になる……流石のアイツでもかなりのダメージだろうな。

 

 

「くぅっ! これが龍殺しの一撃か……!」

 

「ビックリしたけどまだこんなもんじゃねぇぞヴァーリ!! そのイケメン面がブサイクになるまで、うあぁ!?」

 

「悪いがそう何度も喰らってあげるほど暇ではないんだ」

 

『Divide!!』

 

 

 機械音声が聞こえたから恐らく力を半減させられたんだろう……さっきまで高まっていた赤龍帝のオーラが弱弱しいものに変わっている。赤龍帝も自分の身に起きた事とヴァーリからの反撃で地面に落ちるがすぐに立ち上がって自分の力を倍加させる。赤龍帝は倍加、白龍皇は半減。無限に高まる力を無限に減少させる力のぶつかり合いは心が躍る……んだけどそろそろ拙いよなぁ!

 

 夜空を見ると先ほどまでのドラゴンのオーラがさっきよりも倍近く高まっていた。時間が経つたびに力が上がっていくとかマジでチート。光を浴びるっていう限定条件があったとしても地球に住んでいる限り太陽の光やら街の明かりがあるから基本的に上がりっぱなしだ。くそっ、こっちは影で触れなきゃダメだってのに!

 

 

「あはははは!! たっのしぃ!! たのしいよぉ!! そうそう、こういうのがやりたかったの!!」

 

 

 高笑いしながら掌から光線を放って辺り一帯を薙ぎ払うその姿はまるでドラゴン破だ。俺もそれを防ぐために上空に広げた影を前面に展開して盾とする――が予想以上に夜空の力が高まっていたのかものの数秒で影の盾を貫通、頭部半分と俺の半身を消し飛ばしやがった。

 

 

「ぐあぁっ!? いってぇ……!」

 

「はいもう一丁!!」

 

 

 片目しか見えないが一瞬で間合いに入った夜空が笑いながら足を光に変換、そのまま剣のように一閃して俺の下半身を切断。脳みそが半分無くなった状態になり、意識が消えかけたせいで上空に滞空している事すらできず重力に引かれたまま落下。落ちた先は観戦者がいるちょうど目の前――視界の端では橘や水無瀬が近づこうとして止められているのが見える。来るな……死ぬぞ。

 

 

「悪魔さん! 悪魔さん!!」

 

「ノワール君!!」

 

「王様ぁ!!! マジかよ……なんつう戦いだってんだ……!」

 

「黒井!?」

 

「――うるせぇ、そう簡単に死ぬわけねぇだろ」

 

 

 影が集まり、吹き飛んだ頭部に半身、切断された下半身が再生。全くよぉ! いくら不死に近い再生能力持ちって言っても限度があるってのにあの野郎……平気で吹き飛ばしやがって!! てかここまでされると鎧の下が全裸確定じゃねぇか!! ノワール君のノワール君が丸見え状態になっちまったよ! 鎧着てるから平家以外にはわからねぇだろうけどな!!

 

 

『……この再生能力、ユニア。まさかあれは……!』

 

『さぁ、神器の能力なのか()()なのかは彼しか知りませんよ』

 

「凄まじいな。体が吹き飛んでも再生するか……ハハハ! やっぱり楽しいよ! キミとの戦いは!」

 

「でっしょぉ~! すっげぇよね、あの再生能力! フェニックス並み? いやそれ以上?」

 

「大丈夫か黒井! てか体吹き飛んでるのにホントに再生するんだな!?」

 

「欠損限定だから多用出来ねぇけどな。それよりお前はヴァーリに集中してろ……流石に時間が経ち過ぎた」

 

「え?」

 

「夜空の神滅具、光龍妃の外套は光を生み出す能力と光を浴びるたびに力を上昇させる能力がある。ゲームで言うならキャラクターの行動ごとに全能力が1ずつ上がる感じか? 戦闘開始から結構経ってるから既に倍以上には跳ね上がってるし今この時も上昇し続けてるのさ」

 

「……マジかよ。ドライグが言ってたけどヴァーリの神器は半減した力を所有者の限界までしか得られない、それを超える力は翼から吐き出すらしいけどあの人にもあるんだよな!?」

 

「いや、ねぇと思う」

 

「はぁ!?」

 

「アイツの限界点なんざ見た事ねぇんだよ。二日三日一週間、休みなく殺し合った事もあるがあいつは止まる事なく力が上昇してた……分かるだろ? アイツは規格外なのさ。あの体質はどこから来てるのかは知らねぇけどな」

 

 

 白龍皇のヴァーリですら限界点があるというのに夜空には今の所見当たらない。1ずつ上がっていくと言ってもその速度は尋常じゃない……一秒で10以上も上がるとか余裕だろう。マジで規格外すぎて流石の赤龍帝も唖然としてるがお前も同類だぞ? なんで常に倍加していく神滅具が中堅クラスって呼ばれてるか意味分かんねぇ。これはヴァーリにも言える事だけどさ――まぁ、トップが聖槍じゃ仕方ねぇけども。

 

 

「お話ししてるところ悪いけどさぁ!! ほらほらぁ! 続きいっくよぉ!!!」

 

 

 待ちきれないとばかりに俺達に向かって光の球体が無数に放たれる。それだけでさえ面倒だってのにヴァーリも見慣れない紋様を展開して攻撃してきやがった! くっそ! 夜空と一緒にヴァーリの相手までしねぇといけないとかきつすぎだろ!!

 

 俺の足元に影を集中、前面に影の壁を生成して降り注ぐ球体を防ぐ。近くにいた赤龍帝を掴んで現在地から離脱、適当な所で別の場所に放り投げた……一カ所に集まってるとこっちが不利だ!

 

 

『兵藤一誠、このままでは腕輪の効力が切れるのが先だ。速めにケリを付けろよ』

 

「言ってくれるじゃねぇか……正直、黒井が居なかったら負けてるってのにさ!」

 

『お前とクロムの宿主では素のスペックが違いすぎる。あれは歴代影龍王の中でも最強の部類だろう。あの再生能力……いや、あるはずがない。兵藤一誠! 来るぞ!』

 

「マジかよ……!」

 

「ほらほらどうした影龍王! 兵藤一誠! このままでは俺達が勝ってしまうぞ?」

 

「ふざけんなヴァーリ!! 生憎テメェは兎も角として夜空には負けたくねぇんだよ!!」

 

『ゼハハハハ!! 俺様達を簡単に殺せるとは思わない事だなぁ!!』

 

「――やるしかねぇ! 行くぜドライグ! 痛いが我慢しろよ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 赤龍帝に降り注ぐ光や魔力の波動を影の犬で防ぎつつ、俺は夜空とぶつかり合う。黒のオーラと山吹色のオーラを纏った俺達がぶつかり合うたびに地響きやらが鳴り響いているがいつもの事だ。拳で夜空の鎧を壊しても即修復され、俺の体が吹き飛ばされようとも即再生する。今までと何一つ変わらないがそれでも楽しい! 人間でありながら人間ではない夜空とこうして殺し合えるのは凄く楽しい! しっかし頑丈だな……此処まで殴れば折れたりするだろうによ!!

 

 隣では赤いオーラを纏った赤龍帝がヴァーリに向かって突貫していた。放たれる魔力の波動を受けながらも前へ、前へと突き進んでいる……おいおいマジか? 痛いってレベルじゃねぇだろあれは?

 

 

「突撃か、面白いが途中で終わってしまっては――ぐぅっ!?」

 

「おいおい……タッグ戦だぜ? 夜空と遊んでるからって俺を忘れんな!」

 

「影龍王か……忘れてはいないさ。しかし良いのかい? 不用意に近づけばこうなるぞ!!」

 

『Divide!!』

 

 

 夜空を蹴り飛ばして遠ざけた後、魔力を放出してヴァーリに近づいて殴る。流石のアイツも飛び交う影の犬やら光やら赤龍帝に意識を集中してたみたいだな……でも思いっきり殴ったけど大したダメージにはならないようで俺の腕に触れた――その瞬間、今まで夜空の光やヴァーリの魔力の波動の力を奪って高まっていたはずの俺の力が一気に減少した。つぅ! 久しぶりに受けたがマジでチート!! これまでかよ――なんてな、時間は稼いだぜ? 兵藤一誠!!

 

 

「ヴァァァァリィィ!!!」

 

「っ、しまっ!?」

 

 

 回避しようとしたヴァーリの体を全身から影を生み出して拘束、ついでに奪った力を返してもらうために能力発動! 微々たるものだが無いよりはマシだ!

 

 

「サンキュー黒井! ドライグ!! アスカロンに力の譲渡!! 一気にやるぞ!!」

 

『Transfer!!!』

 

「回避が間に合わな、がぁぁ!?」

 

 

 高めた力を片腕の龍殺しの剣に譲渡、そのまま勢いをつけてヴァーリを殴る。巻き込まれたくないから赤龍帝が殴ったタイミングで影の拘束を解除して俺は距離を取る。かなりの威力だったのか純白の鎧が全て崩壊、生身の状態となり流石のアイツも何度も龍殺しを喰らったせいか血を吐いて地面に落下……トンデモねぇ威力だな龍殺しってのは。俺は喰らいたくねぇ……つぅぅ!?

 

 

「もう、夜空ちゃんから目を離したらメッだぜぇ!!」

 

 

 除け者扱いされた事に怒ったのか一つの流星となって接近してくる。即座に影を集めて盾を形成するが先ほど力を半減されたせいで強度不足のため拳一つで簡単に破られ、そのまま俺の胴体を貫通した。あまりの痛さに悶絶する暇も与えたくないのかその状態で腕から光を放って俺の上半身を吹き飛ばしやがった……あぁ、真っ暗だ。何も見えないし何も聞こえない……何故こうして考え事が出来るのかすら不思議なくらいだ……引かれる、こっちに来いと誰かが呼んでいる……死ぬ、死ぬのか? いや、死なない! 死ねないんだよ!!

 

 その決意の結果、あれだけ真っ暗だった視界が明るくなる。ちゃんと周りが見えるし音も聞こえる。フェニックス並みの不死と自負している再生能力が発動して無くなった部位が影となり、元の姿へと戻る。よそ見をした俺が悪いが普通に殺そうとすんじゃねぇよこの野郎……此処で俺が死んだらお前の楽しみが減るんだぜ? もっと長く楽しもうじゃねぇの! あと個人的に魂かなにかが掃除機に吸われるようにどっかに行きそうになる感覚は何度も味わいたくねぇ!

 

 

「……キモっ」

 

「おいこら、何がキモイって?」

 

「いやだって上半身吹き飛ばしても影集まって再生とか異常っしょ。すっげぇキモイ」

 

「殺すぞテメェ!!」

 

 

 光線と影の砲撃がぶつかり合う。ヴァーリに俺の力を半減させられたせいで拮抗することなく影の砲撃が消滅させられていくがそれを受ける事なく夜空に接近する。殴打、蹴り、頭突き、夜空が光を浴びて徐々に力を高めていくに対して俺は影を浴びせて徐々に力を奪っていく。赤龍帝と白龍皇のような派手さは無いが互いを殺すという気持ちだけは負けていないと思う。

 

 何度も、何度も、鎧が壊れようと体が吹き飛ぼうと光と影、二つのオーラが高笑いと共にぶつかり合う。そうした事を繰り返しているといきなり地上から異様な光が辺りを照らし始めた……そんな事が起きたため俺も夜空も殺し合いの手を止めて視線を下へと移すと発生源はどうやら赤龍帝のようで片腕の宝玉が輝いていた……相手をしていたヴァーリの奴も驚いてるけどまさか反存在の白龍皇の力を神器に移してるのか? おいおい死ぬ気か?

 

 

『ゼハハハハハ!!! 大馬鹿が居たもんだ! 相反するアルビオンの力を得ようなんざ考えた赤龍帝はあのガキぐれぇだ!! 普通ならば即死するからなぁ!!』

 

『ですが神器は想いの強さで変化する代物……聖魔剣が存在するならばそれもまた可能』

 

『あぁ。史上初だ、白龍皇の力を宿した赤龍帝の誕生だぜぇ』

 

 

 光が収まると片腕が真っ白の籠手となっている赤龍帝がヴァーリを見つめていた。うわっ、マジでやりやがったよ……でも確実に寿命か何かを減らしたな。でも――面白れぇ! 多分ヴァーリの奴もそう思ってんだろう、って!? あの野郎!! 周囲全部を半減にするあれ使いやがった!?

 

 

『Half Dimension!!!』

 

「な、なんだ!? 周りは小さくなっていくぞ!?」

 

「あの野郎手当たり次第に巻き込む気か! 赤龍帝気を付けろ!」

 

「何が起きてんだよ!?」

 

「ヴァーリが使ったこの技は周囲の物を何でも半分にするんだよ! 下手をするとこっちまで巻き込まれるからドラゴンのオーラを高めておけ! それが無くなったら身長か大事な男の象徴かどれになるかは知らねぇが問答無用で半分になるぞ!」

 

「嘘だろ!?」

 

 

 赤龍帝が自分の股間を抑え始めた。俺は間違った事は言っていない、あの技はマジでなんでも半分にするからやろうと思えばおっぱいも半分にできるだろう……つまりヴァーリが貧乳に目覚めたら世界中から巨乳は居なくなる、あれ? 夜空が喜ぶ世界じゃねぇか? 多分だがちっぱいの方々もヴァーリを応援すると思う。き、気づかなかったことにしよう。

 

 

「……はっ! ヴァーリヴァーリ!!」

 

「どうした光龍妃?」

 

「それってなんでも半分になるんだよね! すんだよね! じゃあデカ乳全部半分にして壁にして!!! 世界中から巨乳を絶滅させるんだよ!! やって! てかやれぇ!!」

 

 

 ピクッと大事な部分を抑えながら困惑していた赤龍帝が反応した。一時の沈黙の後――赤龍帝が突然キレた。鎧に埋め込まれた宝玉が怒りに呼応して輝き出し、連続で自身の力を倍加させる。高まった力は外へと漏れ出し周囲の木々やら校舎やらを吹き飛ばすほどの濃密なまでドラゴンのオーラで今ならば余裕で神すら殺せるだろう。だが言わせてくれ……そこまで!? どんだけおっぱいに執着してんだよ!?

 

 

「っ、力が跳ね上がっただ、ぐぅぅ!?」

 

「ヴァーリ!! テメェだけは生かしてはおけねぇ!! 皆のおっぱいを半分にするだとぉぉ!? そんな! そんな事させるかぁぁぁ!!!」

 

 

 誰のおっぱいの分と涙を流して叫びながらヴァーリを、あの天才イケメンを殴り続けていく姿にあっけにとられた俺達は殺し合う事なくその様子を眺めているしかなかった。うん、無理。なんか横で面白い光景が流れてるのに殺し合うとかマジ無理。あははははは!! ざまぁ! まじざまぁ!! 余裕ぶっこいて逆鱗喰らってやんの!! イケメンフェイス滅びろってんだバーカ!

 

 トドメの一撃とばかりにヴァーリの顔面を殴って地面に叩き落とした後、赤龍帝の視線が夜空へと向いた。お、おい? まさかその勢いのままこいつに挑むか? あぁ、向かってきたからマジでやる気かよ。

 

 

「およ?」

 

「このまえ世話になったけど俺の後輩を危険な目にあわせた! あとヴァーリに余計な事を教えない様に大人しくしててもらうぞ!」

 

「――あははははは!! マジで? マジで私に挑んでくるの? うんうん、いいよぉ!! いい、いい、すんごく良いよ!!」

 

 

 凄く嬉しそうな声と共に光を放つ。勢いに乗った赤龍帝はそれすら躱し、あの夜空に接近して肩に触れる……あん? なんかいま魔法陣みたいなものが見えた気がする。

 

 

「流石に恩人は殴れない! だから――洋服崩壊(ドレス・ブレイク)

 

 

 パチンと赤龍帝が指を鳴らした瞬間、理想郷が見えた。山吹色をした龍の鎧は一瞬にして吹き飛び、生身の夜空――そう全裸の夜空が俺の目の前に現れた。胸は山すらないまな板のようでピンク色の乳首が丸見え……視線を下にそっと下げると綺麗な、そう綺麗なモノが見えた。今までパンツしか見てこなかったがマジで良いものが見れた……そう言えば処女の証見せるとか言ってて結局見せてもらってねぇからそれも見せてほしい。

 

 とりあえず自分の状況が分かっていない夜空をまずは放って置いて赤龍帝を問答無用で地面に叩き落とす。勿論影人形で行うに決まっている。だって俺は今の夜空の姿を脳内保存するという作業をしないといけねぇから動けない。動けないんだから仕方ない。だから地面に落ちてラッシュタイム喰らわせてる赤龍帝の助けろという声は聞こえない。

 

 ちなみに地上の方々には鎧が吹き飛んだ瞬間から影の壁を形成して俺以外に見えないようにしてる。だって俺以外に見せたくねぇし。

 

 

「……へ?」

 

「マジでまっ平ら、平家でもちょっとは山はあるぞ。下も毛が生えてねぇとかホント子供……いや俺は有りだぞ。うん、すっげぇ有り。ロリコンと言われてもお前相手なら甘んじて受けるし叫ぶ。だから抱かせろ、マジで抱かせろ。俺も鎧の下は全裸だから全裸仲間って事でヤろうぜ」

 

「……ねぇ、ノワール」

 

「あん?」

 

「なんで、私、全裸なの?」

 

「知らん」

 

「……い」

 

「い?」

 

「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! み、みるなぁぁぁぁっ!!」

 

 

 今までで聞いたことのない女らしい声を上げながら俺に光を放つ。流石に見入っていたせいで回避する事も防ぐ事も出来ず普通に喰らって地面に落下……問答無用で足以外を吹き飛ばさないでくれねぇかなぁ、むしろ部位が残ってて良かったわ。

 

 再生した後、上空を見てみると夜空の姿は無かった。転移穴でどっかに行ったか……あれだけヤるだのオカズだの処女だのと言っててもマジで女の子してたんだなぁ。とりあえず帰ったらオナニーすっか。勿論オカズはさっきの光景に決定だ。

 

 

「ふぅ。良い光景だった」

 

「賢者タイム入ってないでこれ止めろ!? 死ぬ、死ぬぅ!!」

 

「そう簡単には死なねぇって。夜空の全裸見せてくれたお礼で軽めにしてんだし余裕余裕。んで白龍皇? なんか夜空が女の子したせいで空気ガラッと変わっちまったけどどうする? 続けるか?」

 

「……いや、やめておこう。俺の方もどうやら時間のようだ」

 

 

 ヴァーリの足元に魔法陣が描かれている。なるほど……カオスなんたらって所にお仲間がいるってわけね。

 

 

「楽しかったよ影龍王、何時かまた戦おう。そして兵藤一誠、次に会う時は完全な禁手に至っててほしい。その時こそもっと強く、激しく戦おう」

 

 

 自分勝手な事を言い残してヴァーリはどこかへと消えていた。

 

 なにやらいろいろと言いたいことはあったがもうどうでも良い……夜空の全裸見れただけでもう満足だ。さて――背後から感じる方々をどうやって鎮めるかなぁ。




赤龍帝:掛け算
白龍皇:割り算
光龍妃:足し算
影龍王:引き算

上昇、減少能力のイメージです。
あと、この作品ではアザゼル先生は片腕は失いません。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話

「やっと……終わったぁ」

 

「にししぃ~おっつかれぇ~いやぁつっかれったねぇ」

 

「テメェは酒飲んでただけだろうが……一番体力も怪力も持ってんのによ」

 

「いいじゃぁ~んかぁ、せきりゅ~てぇのおせわしたんだしさぁ」

 

 

 三大勢力の会談、途中でヴァーリの離反と夜空の暇つぶしによってドラゴンを宿した俺達四人による殺し合いに発展したが珍しく夜空が女の子したため、誰も死ぬ事無く無事に終了した。先ほどまで俺達との戦いで崩壊した校舎の修復やゴミ(死体)の片づけなどで居残りをさせられてたが三大勢力の兵隊や俺達キマリス眷属、グレモリー眷属などの頑張りによってわずか数時間程度で終わり、こうして我が家に帰還してきたというわけだ……もっとも三十分ぐらいは橘と水無瀬によるお説教で俺は動けなかったけどね。どうやら片腕が吹っ飛んだり上半身が吹っ飛んだり、挙句の果てには足以外が吹っ飛ぶという光景は流石の橘でもびっくりの連続だったようであまり心配させないでくださいというありがたいお言葉を言われてしまった……でもそれを止めると俺と夜空の殺し合い自体が成立しないから無理なんだよね。

 

 そんなわけで家に帰ってきた俺達は適当に会話をした後、各々の部屋に戻っていった。恐らく犬月達は初めての経験でかなり疲れがあったんだろう……にしても平家が静かだったな。あいつの事だし俺の心の声関連で何か言ってきそうなものだったんだがなぁ?

 

 

「たくっ、まさか橘と水無瀬から説教されるとはな……新入りの橘はまだ良いとして水無瀬は何度も見てるんだし怒る理由なんざねぇだろうによ」

 

「しほりんがおこってたのはぁ~こうりゅうきぃのはだかをみたからっしょぉ~? こいするおとめはねぇ~がまんできないんだよぉきっとぉ」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 説教の内容だが橘と水無瀬と言う我がダブル僧侶、またの名を美乳巨乳コンビからあまり女相手にヤろうぜとか裸をじろじろ見るなとの事。でも仕方ないと思うぞ? だって俺は男なんだから。まぁ、長引いた理由は相棒のせいなんだけどね……二人の説教に思う所があったのかいきなり声高らかに「男だったら女の裸には興味があってもおかしくはぜぇ? ついでに言うと男の娘の裸にも興味があるのも仕方がない! つまり見た目が女だったらとりあえず何でもいいんだよ!」と叫びだした。カッコよかったぜ! 相棒の素晴らしいお言葉は今でも心に響いているぐらいだ!

 

 

「つかそろそろ着替えたいんだが? 女天使すら堕天する俺の肉体美でも見たいのか?」

 

「――はっ、ばっかじゃないの」

 

「いきなり素に戻んなよ。冗談だじょーだん、俺程度で天使が堕天してたら天界勢力は既に壊滅してるっての。まぁ、それは良いとして着替えて良いか?」

 

「言いに決まってるさ。アンタの体をつまみに一杯飲むから」

 

「酒よりオナニーしろっての」

 

 

 ヴァーリや夜空との殺し合いで何度も体をふっ飛ばされては再生を繰り返していたため現在も禁手化状態だ。流石の俺でも全裸で後片付けとかはしたくねぇし……鎧とかは簡単に修復できるんだが中に着ている服とかまでは戻らねぇんだよな。この辺りが優しくねぇ。

 

 鎧を解除して全裸になり、四季音に見られながら部屋着に着替える。なんというか視線に敏感だと自負しているけど思いっきり俺の大事な部分をガン見してるじゃねぇか……流石鬼、堂々としてる。でも顔がちょっと赤いぜ? 酒のせいかなぁ?

 

 

「……うわ、風呂で見るよりすご――違う違う! 違うかんな!! さ、酒が不味くなった! 気持ち悪いもん見せんじゃないよ!!」

 

「俺が風呂入ってる時に乱入してくる奴が何を言ってんだ? こっちはテメェのちっぱいに何度もお世話になってんだからお前も俺のを見てお世話になりやがれ」

 

「なっ、なな! ば、バカじゃないの!! ふんっ! ノワール程度のお、――(ピー)程度でお世話になるわけないだろ! 変な事ばっかり言ってると潰すよ!!」

 

「鬼の怪力で潰されたらキマリス家は断絶するっての。ほら、時間も遅いからさっさと寝ろ……ってそう言えばお前を抱き枕にしないとダメなんだったか?」

 

「とーぜんだよ。約束したかんね! 破る? 破っちゃう? 鬼さん怒るよぉ――じゃなくて、ほら」

 

 

 俺のベッドに座っていた四季音が立ち上がって俺の腕を掴んで強引にベッドの上に寝かせる。そして俺の頭を自身の膝の上に置いてどういうわけか撫で始めた……なんだこの状況?

 

 

「なにこれ?」

 

「もういいさ、もう誰も見てないし聞いてない……あっ、さおりんは聞いてるかな。でも一番先に気が付いてたし何も言わないさ」

 

「……だから何がだよ?」

 

「強がらなくてもいいさ――眠いんだろう?」

 

 

 髪を撫でながら母性ある声色、あぁ……くっそ、なんで見抜かれたんだろうな。犬月も橘も水無瀬も騙せたってのに……なんでこいつと平家は騙せねぇんだよ。

 

 

「――いつからだ?」

 

「アンタの戦車だよ? 終わった後のアンタの顔を見ればすぐに分かるさ。今すぐ倒れたい、でも周りに人がいるから大丈夫な振りをして強がっていないとダメだってね。さおりんだって心を読まなくてもそれぐらいは分かってたはずだよ? だってアンタに依存してるからね。依存ってのは言い換えればノワールをちゃんと見てるんだ、疲れも辛さも悲しさも全部見抜いてるよ」

 

「……そっか」

 

 

 四季音の膝枕のせいか、先ほどまでの殺し合いの疲れのせいか異常なまでに眠い……でもさっきの言葉通り周りに他人が居たから無理をして倒れそうな体を動かして、大丈夫な振りをして強がった。倒れたら俺はあいつ等よりも弱いって思われるのが……嫌だったからな。

 

 

「四季音……俺は、つよかった、か」

 

「あぁ、強いさ。私の主様だ、弱いはずがない。私を倒したんだぞ? 酒呑童子のこの私と戦って勝利したノワールは強い。だから今は休みな……影人形融合ってのは未完成なんだろ? そんなもんをあんだけの殺し合いで使ってあんだけ再生してればぶっ倒れるのは当り前さ」

 

「……あぁ、その、とおり――」

 

「話すな。鬼の膝で今は眠りな」

 

 

 その言葉を最後に俺の意識は失った。

 

 そして誰かに呼ばれるように目を覚ますと……そこは城だった。影のように黒、黒、黒という色しかない影の城。ここで誰に呼ばれたか俺はすぐに理解した――全く、寝かせろよ。

 

 

『ゼハハハハハ。お楽しみの所を悪いなぁ宿主様』

 

「お前が空気を読む性格なんてしてねぇだろ」

 

 

 目の前には一匹のドラゴンが居た。俺が見上げなければいけないほどの巨体、姿は黒の鱗に気持ち悪いぐらい不気味な棘のような突起が無数に生えている四足のドラゴンだ。聞こえる声は吐き気を催すほどの邪念に近いものを感じさせるそいつの正体こそ――俺の相棒、影の龍クロム。

 

 

『俺様だって邪龍の端くれだ。それぐらいの事はするぜぇ? だがあえて読んでいないだけよ。ゼハハハハ! 何故俺様が此処に呼んだか分かるかぁ?』

 

「知らねぇよ。でも此処に来たって事は現実の俺は意識を失ったって事か……四季音の前とはいえカッコ悪いな、くそったれ」

 

『仕方なかろう。影龍王の再生鎧ver影人形融合、あれは失敗作だ。宿主様が求めた理想から生まれた贋作で欠陥品よ。確かに霊力を全身に流す事で身体能力強化、生まれる影に自我を宿らせるというのは面白い発想だが所詮それまでだ。覇龍には届かねぇし宿主様もその様だ』

 

「……あぁ、ヴァーリと夜空、あの二人と殺し合って思いっきり使っただけでこの様だ。あれ以上との相手と今後戦うなら全然足りねぇ」

 

『その通りだぜぇ。宿主様の亜種禁手にはどういうわけか不死能力とも言える再生が宿ったとはいえだ、まだまだ宿主様は弱い。最強だが弱いんだ、俺様はそんなものは認めねぇし今のままで満足するなら今すぐ殺してやる。弱い影龍王なんざ必要ねぇしな――だからこそ問うぞ宿主様、さらに強く、さらに狂気の世界へと足を踏み入れたくはねぇか?』

 

 

 恐らく嗤っているんだろう。俺が分かりきった答えを言う事に期待している……だよな、俺がその答え以外を求めると思ったか?

 

 

「その答えは――Yesだ。もっと強く、俺を下に見た奴らを殺して蹂躙して高笑いできるほどの強さを求めるさ。だからこそ聞くぜ相棒――俺と共に生きるか?」

 

『――ゼハハハハハハハハハッ!!! あぁ! 俺様は宿主様以外に影龍王とは認めねぇ!! 俺様はなぁ、嬉しかったんだぜ? 歴代の奴らは俺様の声を聞いてダメだ、嫌だ、そんな事できないってガキのような正義感で否定してきやがった……でもなぁ、宿主様だけは違った。違うんだぜ、俺様の言葉を聞いて否定する事なんてしねぇで素直に鵜呑みにしやがった! 弱いと思った、雑魚かと思った、クソみてぇな甘ちゃんかと思った。しかし実態はとっくの昔から壊れていやがった!! ゼハハハハハハハ! もっと強く! もっと最悪に! もっと破壊を楽しもうぜ宿主様!! そのためならば俺様は邪龍、いや地双龍として全身全霊を持って力を合わせよう!』

 

「あぁ、力を合わせるぜ相棒。夜空に勝って、ヴァーリにも勝って、赤龍帝にも勝って、最強の影龍王として高らかに嗤おう。だからまずは――影龍王の再生鎧ver影人形融合の進化から始めるか」

 

『あぁ! 確かにそれは欠陥品で失敗作だが現状では俺様達の切り札だ。磨き上げ、さらに昇華させようぜ我が宿主様!!』

 

 

 俺も相棒も誰も聞いていない、誰も見ていないこの空間だからこそ互いに笑いあった。あの日、影龍王の手袋を発現させた日の夜だ……こんな風にいきなり夢の中でこいつに出会った時は驚いた。正直お漏らししたぐらい怖かったな……でも、どこか安心する感じがしたんだ。

 

 

『初めましてだなぁガキ。俺様こそテメェの神器に宿っている影の龍クロム様よぉ! 挨拶したくて呼んじまったぜ! 今日からクロム様とでも呼びやがれ?』

 

『……なんか大きいな』

 

『あん? なんだガキィ? 俺様を見てビビってんのかぁ? ゼハハハハハハ!!! これは最弱な影龍王だなぁ! 最悪だ! ユニアに笑われちまう! あの程度も跳ね返せねぇガキが俺様の所有者かよ! ふざけんじゃねぇ!!』

 

 

 初対面の時は今のように笑いあう事すらなかった。こいつ(相棒)は俺を見下して、俺は俺でなんかデカいドラゴンだみたいな事を思ってた。

 

 

『神器転移のランダムには逆らえねぇ……くそったれが。仕方ねぇから我慢してやるか、おいガキ。テメェは強くなりてぇか?』

 

『……なりたい』

 

『そうかそうかぁ。だったらまずは――近くの奴らを殺す事から始めろ。俺様の能力を使いながらだ、殺して殺して殺しまくる。殺戮の果てにお前が欲する強さを得られるぜぇ!』

 

『分かった。やるよ』

 

『――はぁ?』

 

 

 その時の相棒のマジかよって顔と声は今も忘れてない。いやそれよりも昔の俺って純粋すぎねぇかなぁ……殺していれば強くなれると言われてはい分かりました! だもんな。いや、流石に親父達に止められたせいで殺人はしてないけど止められなかったら本気でしてたんだよな……多分、母さんのあんな姿を見たせいだと勝手に思ってるけども馬鹿だった。

 

 

『おいおいマジかよ。ガキ、テメェは俺様が言った言葉を理解してんのか? 殺しだぞ殺し? テメェは殺人した事あんのか?』

 

『……ない』

 

『だったらなんで俺様が殺せって言ったら殺すっていうんだぁ?』

 

『だって強くなりたい! もっと強く……強く! そのためならどんな事でも言う事聞くし何でもやるさ!』

 

『……ゼハハハハハハハハッ!! 面白れぇ! 初めてだ! 俺様の言葉を聞いて嫌だ、そんな事できねぇなんて偽善者ぶった事を言わねぇ奴は初めてだぁ!! そうか、そうかぁ! ゼハハハハハハハ!』

 

『な、なんだよ! なんで笑うんだ! 俺は変な事を言ってないぞ!!』

 

『違う! 違うぜぇ!! テメェより前の奴らはさっきの言葉を聞いてなんて言ったと思う? そんな事は出来ない、嫌だ、やりたくないなんてクソみてぇな言葉を言いやがったんだぜぇ! 今回もそれかと思ったが……ゼハハハハハハハ! まさか素直に受け止める奴がいるとは思わねぇよ!!』

 

『そうなのか? だってアンタ、あぁ、えっと』

 

『クロムだ、邪龍の中でも最強と呼ばれた影の龍クロム様だぜぇ』

 

『クロムって強いんだろ? なんか見た目も黒一色でカッコいいしさ! 歴代って人は良く分からないけどバカだったんじゃないかな? 俺も多分……頭良くねぇけど』

 

『……ちぃ、調子が狂うぜぇ。俺様を見てそんな事を言いやがったのもテメェが初めてだ。まぁ、なんだ、俺様は邪龍で悪いドラゴン様だぜ? それでも俺様の言う事を聞くかぁ?』

 

『当たり前だろ! だって強くなりてぇもん!』

 

 

 ガキだった、無知だった、あの惨劇を見て弱いと知ってしまったから強くなりたいと心から思ったからこそ目の前の奴の邪悪さに気が付かなかった……いや違うな。知っててそれに飛び込んだんだ。その結果が今の俺達なんだけど俺は後悔なんてしてないしむしろありがとうと感謝するさ。

 

 

『――そうかぁ、ゼハハハハハ! ならば今この時より俺様の宿主様と認めてやる! 必ず宿()()()を強くしてやる! 誰よりも強く! ユニアの宿主を殺せるほどに! 地位や名誉に縋り付く雑魚すら蹴散らせるほど強くなぁ!』

 

『あぁ! もっと強くなる! これからよろしく!』

 

『ゼハハハ、偶にはこういうのも悪くねぇ……あぁ、よろしくな』

 

 

 あの時の相棒は慣れてなかったのかすっげぇ恥ずかしそうな声だったな。邪龍だしそう言うのには慣れてなかったんだろう……絶対に言わないけど昔は相棒の事を父さんと思ってたんだぜ? 親父やセルスとの特訓で失敗しまくった時とか慰めてるのか分からねぇ言葉を言ってきたり的確かどうかわからねぇアドバイスをしてくれたりと頼れる存在だったからな。今は父さんというよりも相棒、背中を預けれる最高のパートナーって感じか。

 

 

『なんだぁ? 過去の事でも思い出してたかぁ?』

 

「まぁな。相棒、一緒に強くなろう。たとえその先に破滅が待っていようと蘇ってでもその先に進み続けよう」

 

『あぁ。邪龍はしつこくて頭がおかしい種族だ。俺様も宿主様も頭がおかしいからなぁ!! 行こうぜ! 覇道の神髄へ!』

 

 

 多分、相棒はかなり嬉しそうな声だったと思う。ようやく理解者が現れた、そんな感じに思えるぐらい喜びに満ちた声だったと思う。

 

 その後、意識が覚醒するように目が覚めた。怠い体をなんとか起こすと酒の匂いがした……視線を横に向けるとベッドの隣でいつものように酒を飲んでいる四季音が居た。その格好は俺のを勝手に拝借したのかワイシャツオンリーという朝には刺激的すぎるものだが……ボリュームが足りねぇ。せめて橘とチェンジしろ。それだったらテンション上がるから。

 

 

「……ぁ、朝か」

 

「おはよう、ホントに疲れてたんだねアンタ。水いるかい?」

 

 

 四季音から水を受け取って一気に飲み干す。流石に昨日はかなり疲弊してたらしく水の冷たさが体に浸透してすっげぇ気持ちいい。

 

 

「サンキュー……悪いな、カッコ悪いところ見せた」

 

「別にいいさ。アンタと私の仲だろう? 今更気にしても遅いさ」

 

「そうかよ。あぁ、四季音?」

 

「なんだい?」

 

「――お前、やっぱいい女だわ。いつか抱かせろよ」

 

 

 それを言い残して部屋から出る。何故かって……俺の部屋でうあぁぁやら奇声を上げ始めた合法ロリから逃げるためだ。アイツって鬼のカリスマが出てる時はカッコいいが根っこは初心なんだよなぁ、中身もカリスマ纏った状態だったらいいのに。

 

 

「あんまり花恋をいじめない方が良いよ。あれって少女趣味の初心な鬼なんだから」

 

 

 リビングに来ると先に起きていた平家がソファーに座りながら携帯ゲームで遊んでいた。朝起きた時も四季音がワイシャツ一枚だったけどどうしてお前も同じなんだ? パンツ見えてるぞ?

 

 

「見せてるから問題なし」

 

「そうかい」

 

「あっ、おはようございますノワール君。今ご飯作っていますから先に顔と歯を洗ってきてください」

 

「あいよ」

 

 

 言われた通りに洗面所で顔を洗い、歯を磨いてついでだからと風呂にも入る。そして戻ると起きてきた橘や犬月、先に起きていた平家と共に朝飯を食べる。四季音はどうやら先ほどのセリフのせいで部屋に引きこもったらしい……おい鬼、いつもの態度はどうした?

 

 飯を食べ終えてそのまま学園に登校、昨日の殺し合いのせいで形も残らず崩壊していた校舎はまるで無かったかのように元に戻っている。そりゃ、頑張ったもんなぁ。主に三大勢力の兵隊たちが。

 

 

「よっ、昨日ぶりだな影龍王」

 

 

 時間は進み、放課後。俺達全員は保健室に集まっていた。理由なんて簡単に説明できる――堕天使の総督が訪ねてきたからだ。どうやら話を聞くと教師としてこの学園に通う事になったらしい……総督が教師とか世も末だな。しかもオカルト研究部の顧問にもなってあいつらの成長を手助けするそうだ。多分この辺りは魔王辺りが妹のためにとかありそうだけどここまで露骨に贔屓するか。

 

 

「まぁ、そう言うな。俺としては赤龍帝と影龍王、どっちも手を貸したいところなんだぜ? どうだ? これを機にオカルト研究部と心霊探索同好会を一つに纏めるってのは? そっちの方が俺としてはありがたいから是非そうしてくれ」

 

「俺がグレモリー先輩の命令を聞かねぇとダメとか死にたくなるんでお断りします。それにオカルトと心霊は違いますから……で? 要件はそれだけですか?」

 

「んなわけあるか。今回俺が来たのは昨日の会談時に襲ってきた集団――禍の団(カオス・ブリゲード)の抑止力の一つとしてお前さんに頼みたいと思ったからだ。実力は昨日の戦いで見させてもらった……たくっ、若手悪魔っていう括りを超えている。魔王の妹ですらお前には勝てねぇだろうな。だからこそテロ対策の戦力としてお前さんに、影龍王眷属に頼みたい」

 

「混血悪魔の眷属に頼らないといけないなんて冥界終わってますね」

 

「全くだ。本来ならば最上級悪魔を含めた成人悪魔が率先してやらなければいけない……だが先の騒ぎで俺の組織の大半が禍の団に入っちまってミカエルの方もまた同じ、サーゼクスの所もだそうだ。皆、今の世界で仲良くしましょうとは考えたくねぇんだと」

 

 

 天使が離反と言うのは世も末だ。どうやら聖書の神が死んだ影響で堕天を逃れる術を知っていた奴らが何名か居たらしい。もっともテロリスト側に入った瞬間に堕天したそうだけども……わずか一日でここまで事態が急変するとはな。だからこそ楽しいんだけども。

 

 

「そこでだ、まだ企画段階だがもうすぐ行われる若手悪魔の会合に集まったお前たち若手悪魔同士での模擬戦をやろうと思う。サーゼクスもその辺りはちゃんとしてるんだぜ? 普段はシスコンだがな。対テロリスト対策として若手悪魔を成長、戦力へと持っていくのが狙いだ。悪い話じゃねぇだろ? お前さんは手を繋いで仲良くしましょうと言うより戦闘の方が興味ある、ヴァーリと同じだから分かってんだよ」

 

「ドラゴンですからね。でも今の若手悪魔と言うと……要注意はサイラオーグ・バアルか、流石の俺でもあの人の拳を受けたら大ダメージは免れないし最悪殺されますからね」

 

「リアス・グレモリー、ソーナ・シトリーは気にも留めねぇってか?」

 

「雑魚に興味を持っても仕方ないですよ。生徒会長の方は四季音のみでも簡単に倒せますし先輩の方は……赤龍帝が厄介ですけど水無瀬が居れば対応できるレベル。だから現状はライバルとは思ってませんよ」

 

 

 赤龍帝対策として自分の名前が出たからか俺の後ろで水無瀬が驚いていた。いや困惑しているところ悪いが当たり前だろ? お前の神器は性質を逆転させるんだし倍加を減少にする事も理論上は可能だろう? もっとも通常形態じゃあんまり意味は無いから夏休み中に禁手化させるけどな。いやぁ、楽しみだわ! あれやこれやで虐めてやる! ぐへへ! とか思ったら平家にキモイとか言われるからそろそろやめるけど。

 

 

「ほう、なるほど……逆転する砂時計(ロールバック・ストーン)か。確かにその神器なら赤龍帝の倍加にも対応できるが持ち主のスペックが足りなきゃ話にならねぇぞ? いやお前さんの事だから……なるほど、夏休み中に禁手に至らせようって事か」

 

「良い機会ですしそろそろ至らせないと俺達が困りますから。俺を護ってもらわないと弱い混血悪魔は簡単に死んじゃいますし」

 

「再生できる癖によく言うぜ。まっ、当日を楽しみにしてるとだけ言っておこうか。時間取らせて悪かったな影龍王――ヴァーリが迷惑かけた礼にいつか一杯付き合ってくれや。そん時はうちの女堕天使を抱かせてやる」

 

「マジで? そういう事なら喜んで一杯どころか何杯でも付き合うぜ。ドラゴンの性欲って地味に馬鹿に出来ねぇからその辺はそいつらに覚悟してもらえるとすっごくありがたい」

 

「おうおう任せとけ! 何回でも連戦するがいいさ!」

 

 

 悪い笑みを浮かべながらアザゼルは保健室から出て行った。どうやらそのままオカルト研究部に向かったらしいけど俺としてはどうでも良い……女堕天使、つまりは美女や美少女! よっしゃテンション上がってきた!

 

 

「変態」

 

「変態です悪魔さん」

 

「男だから仕方がない。犬月、そん時はお前も連れてってやるよ」

 

「――お供いたします王様、地の果て地獄の底までも俺は貴方のパシリとしてお供します」

 

「男ってホント馬鹿ばっか。ところで恵を禁手に至らせるって話は本当だよね? 知ってるけど一応聞いておくよ」

 

「当然だ。貴重な夏休みだぞ? 水無瀬には悪いが仕事は使い魔に任せてひたすら禁手に向かって特訓だよ。言っておくが拒否権はねぇからな? 俺達の背中を護れるのは橘とお前だけだ。夜空も信頼してるがそれ以外は信用してねぇ、お前達が俺達を護るんだ」

 

「は、はい! 私、頑張ります!」

 

「……花恋や早織、志保のように強くはないですけどノワール君の僧侶として精一杯頑張り、いえ護ります。勿論瞬君もね」

 

「へへっ! あざっす水無せんせー! 俺も夏休み中は特訓あるのみ! もっと強くなって必ずアリス・ラーナをぶっ殺す! 王様の事だから合宿みたいなのやるんでしょ?」

 

「あぁ。犬月、平家、四季音、橘の四人にはそれぞれ師匠を付ける。遊びじゃねぇから気合入れておけよ? もし遊んでたらぶっ殺すからそのつもりでな」

 

「あの……私は誰と特訓を、ま、まさか……」

 

 

 多分今の俺はニィと不気味な笑みをしているだろう。心を読んだ平家はガンバと他人事、他二名も気づいたのかうわぁと言う表情だ――そりゃ水無瀬ちゃん、決まってるじゃない。

 

 

「お前は夏休み中ずっと俺の傍で特訓だ。先に言っておくが――マジで殺す気でやるから必ず生き延びろよ」

 

「――ずっと、ずっと一緒……」

 

「恵がずっと一緒と言われて嬉しいような地獄が確定していることに落ち込めばいいか凄く悩んでる」

 

「とりあえず喜べばいいさ。まっ、地獄は先だ。今は……くっだらねぇ日常を楽しもうぜ」

 

 

 これから忙しくなりそうなんだ、つまらねぇ日常で休んで楽しんで殺しを楽しもう。

 

 それから数日後、天使、堕天使、悪魔の三大勢力が和平を結び、今後は協力する事を誓い合った。その名は駒王協定、俺達が通う学園の名前から取られたそれは争いを続けていた勢力が一つになった事を意味している。まるで地双龍と二天龍を封印した時のようにな……まっ、俺はどうでも良いけど。夜空と殺し合ってくっだらない日々を過ごせればいい。

 

 そして――慌ただしくなった一学期が幕を閉じた。




駒王学園高等部 心霊探索同好会
顧問教諭 水無瀬恵(僧侶)
部長 黒井零樹/ノワール・キマリス(王)二年生 残る駒「女王」「騎士1」「兵士6」
副部長 平家早織(騎士)一年生
部員 犬月瞬(兵士)二年生 / 橘志保(僧侶)二年生
戦闘員 四季音花恋(戦車)

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と若手悪魔
27話


「――帰りたくねぇ」

 

「いやいや、昨日いきなり冥界に帰るぞと言ってきたのは王様でしょ? 大慌てで支度したってのにその本人が帰る気を無くされたらこっちが困るっすよ」

 

「その方が焦るだろうなぁと思っただけだ」

 

「ひでぇ!?」

 

 

 駒王学園が夏休みに入った初日、俺達は我が家の玄関前に立っていた。理由なんてさっきの犬月の言葉通り冥界、キマリス領にある俺の実家へと帰るため……なんだけど今朝になって突然帰りたくなくなったんだ。恐らく俺の本能と言うべき部分が帰省すれば息子大好きオーラ全開の母親が襲い掛かって来るぞと言っているに違いない。確かに夏休みは俺も影龍王の再生鎧ver影人形融合を研磨すると決めてたし犬月達も今よりもレベルアップさせるつもりだったさ。しかし、しかしだ! そのためだけに俺が息子成分補充と称した抱き着きの被害にあって良いのか? いや良くない! 絶対に嫌だ! だからもう帰るのやめて引きこもろうぜ? ダメ?

 

 

「ダメ。私もお義母さんとお義父さんに会いたいもん」

 

「私もお義父様とお義母様にお会いしたいです! そして悪魔さんのご実家も拝見したいのでさぁさぁ! 早く行きましょう! 私、冥界に行くの初めてなので……エスコートをお願いします♪」

 

「よっしゃ! アイドルスマイルでやる気出たわ。とりあえず先に言っておくが今日から始業式の前日までは戻ってこねぇからそのつもりでいろよ? 我が家が天国だって思えるぐらい地獄にしてやるからな」

 

「主に恵が地獄だよね。ご愁傷様」

 

「だ、だだだ大丈夫、ダイジョウブデスヨ。私はノワール君の僧侶、僧侶ですから何が起きても大丈夫です。いつもの不幸と思えば何も問題はありません。はい大丈夫です」

 

「ぜぇんぜぇ~んだいじょーぶじゃないねぇ? わったしぃがかわってあげようかぁ?」

 

「お願いします花恋! 私! まだ死にたくありませぇん!! 恋人とイチャイチャしてエッチして幸せな家庭を築きたいですぅ!!」

 

「……王様、流石に水無せんせーが可哀想なんで優しくしてあげません?」

 

「ヤダ」

 

「お、おぅ……即答っすか」

 

「流石外道だね」

 

 

 当然だ。この夏休み中に水無瀬を禁手まで至らせる……何故なら今のままだと水無瀬が一番弱くなって俺達の弱点となってしまう恐れがある。神器使いにとって禁手は最終到達点であり通過点、その先は己が切り開いていくしかない狭き門が禁手だ。折角面白い神器を持ってるんだし至らせないと色々と勿体ないだろ? だから水無瀬には非常に申し訳ないが死んだ方がマシと言う地獄を味わってもらう予定だ。もっともそれは同じ神器使いの橘にも言える事だが橘は橘でやることがある……いずれは禁手に至らせたいけどな。

 

 俺が手を緩める事は無いと知っているからこそ水無瀬は自分よりも幼い体型の四季音に抱き着いて変わってくださいと頼み込んでいる。いやぁ、おっぱいが無乳に当たってるね。ポヨンポヨンと弾力があるクッションを浴びてるからか地味に四季音の表情が引きつってる……鬼を引きつらせるとは流石美乳! 俺も触って弄ってみたい! でも水無瀬よりもデカい橘のアイドルおっぱいの方が俺は興味があります!

 

 

「変態、下種、外道、鬼畜男」

 

「褒めるなよ。ほら水無瀬、泣いてねぇでさっさと立て。決定した事を悔やんでも仕方ねぇだろ」

 

「決定してるから泣きたいんですよ! 私の不幸体質もここまで来ましたか!? もういやですぅ!! こううんがほしいぃですぅ!! 恋人がほしいですぅ!」

 

「ガチ泣きかするほど嫌なんすね……まぁ、気持ちは分かりますけど。水無せんせー!! 何かあったら俺に言ってください!! 貴方のパシリ犬月瞬は何でもします! だから元気を出してください!」

 

「パシリ、お前荷物持ちね」

 

「にししぃ~いいにもつもちがいてらくちんらくちんぅ~あぁ、ぱしり~? 言っておくけど断ったら潰すかんね」

 

「……こんの引きこもりに酒飲みロリが!! 喜んで持ちますよこんちくしょー!!!」

 

 

 四季音に潰されたくないからか泣きながら女子勢の荷物を持ち始めた。流石パシリ、何も言っていないのに俺と橘の荷物も持つとか訓練されてんなぁ。橘本人はちょっと困惑してるっぽいけど気にするな。これがキマリス眷属内での犬月の立場だ……というか橘さん? 貴方、そのお菓子と言うか菓子折りというかお土産の山は何ですか?

 

 

「お義父様とお義母様にお会いするのに手ぶらでは申し訳ないですから。お義母様は冥界から出る事が少ないと聞いていますから主婦御用達の専門雑誌とかファッション雑誌とかいっぱい持っていけば楽しんでもらえるかなと思いまして……ダメでした?」

 

「い、いや……多分喜ぶと思う、うん」

 

「一人だけガチで好感度上げようとしてる必死さに引いてるよ?」

 

「ち、違います! 絶対に悪魔さんは引いてなんかいません!! そうですよね! ねっ! ねっ!!」

 

「ダイジョウブオレハヒイテナイカラアンシンシテイイヨ」

 

「ほら! 悪魔さんもこう言ってくれています! 早織さんも何かお土産ぐらいは必要だと思いますよ?」

 

 

 流石俺だ。見事な棒読みでも騙すことができる! これは俳優稼業もいけるかもしれんな。

 

 

「きっとノワールが俳優になったら女優を食いまくって追放されるよ。それと今は手ぶらだけどいつかノワールの子供という素敵なお土産を持っていく予定だから問題ない。手ぶらってエロい響きだよね、ノワール? 私の手ぶら姿見たい?」

 

「すっげぇ見たいが俺のガキを土産扱いすんじゃねぇよ……そもそもテメェのような引きこもりを嫁にするわけねぇだろ。精々セフレが良い所だっての」

 

「エッチ出来るならそれでもいいよ」

 

「マジで? お前が嫁だと色々と人生終わるがセフレなら話は別だ。俺が童貞捨てたらいつでもヤりに……おっとそろそろ黙らねぇとえっちぃの許しません委員会の橘がキレるからやめようか。んじゃ行くぞ? 影龍王と行く地獄巡りの始まりだ」

 

「おー」

 

「いぇ~い」

 

「荷物おもてぇ……お、おーっす!」

 

「はーい! はい?」

 

「……地獄は、嫌ですぅ!」

 

 

 俺達キマリス眷属は仲良く町へと向かう。そのまま適当な駅に入ってエレベーターに乗ろうとすると橘が普通の駅からいけるんですかという微笑ましい質問が飛んできたのですぐに分かると女天使が堕天するであろう笑みで答える……平家や四季音からは気色悪いと言われたのが非常に解せん。俺だって笑顔ぐらいできるさ、身も毛もよだつほど邪悪なのが笑みが大得意だぞ。これを得意と言わないでなんて言うんだよ……えっ、それは違う? 嘘だぁ。

 

 エレベーターに乗ろうとすると荷物を持った犬月が入らなかったのでその辺で待っていろと言い残して電子パネルに上級悪魔御用達のカードを向けて扉を閉める。そのまま下へ下へと降り続けて到着したのは本来の駅のホームとは少しだけ違うだだっ広い空間――毎回来て思うんだけど広すぎるよな? もう少し狭くても俺が良いと思うぞ?

 

 

「……ここは、どこですか?」

 

「上級悪魔が冥界に向かう時に使うホームだ。悪魔専用となってるから普通の人間は絶対にやってこれない。ただ真下に突き進んでくればいいという次元じゃねぇからな……もっともどこかの規格外は余裕で此処にも来れるし冥界に直接転移も可能というトンデモな事をしてくれてるが。はぁ、めんどくせぇが犬月を迎えに行ってくるからちょっと待ってろ」

 

 

 平家達が下りたのを確認して上のボタンを押すと一分もしないうちに元の場所、言うなれば普通の駅のエレベーター前まで戻ってきた。扉が開くと重そうな荷物を持った犬月が捨てられたワンコのように佇んでいた……マジで犬だ。尻尾があれば悲しみを表現しているぐらいに犬だ。なんだか哀愁が漂っていた犬月をエレベーターに乗せてまた降りる。これ、初見はテンション上がるけど二回目以降は転移魔法陣で問題ねぇから実質初回限定みたいなもんだよなぁ。無視して転移で済ませたいが犬と橘はこのルートを使わないと冥界入りできねぇんだよな……めんどくせぇ。フェニックスとグレモリーの婚約騒動の時は招待魔法陣で行けたというのにこういう時だけ堅苦しいんだから。

 

 そんな事を思いつつ平家達が待つ場所まで戻るとあまりの広さに驚いている橘と微笑ましい表情でそれを見ている平家達が居た。まぁ、退魔の家系とはいえこういう場所に入るのは初めてだろうし仕方ねぇか。合流した後は7番ホーム、キマリス家が保有するオンボロ汽車が停車している所まで移動。眷属を引き連れて歩く事十数分、お目当ての場所に辿り着くと初めて見たであろう犬月と橘が微妙な顔をした……だよなぁ。だって目の前に見えるのは今にもぶっ壊れそうなオンボロだし。なんで親父はこんなもんを冥界行き専用にしたんだよ……もうちっとだけ丈夫そうなのを選んでもよかっただろうに。

 

 

「お、王様? これ、大丈夫なんすか?」

 

「心配になるのは分かるが一応問題はねぇはずだ。なに、ぶっ壊れても冥界のどっかに落ちるだけだし心配すんな」

 

「するっすよ!? いや冥界どんだけ広いと思ってんすか!? てか死ぬわ!!」

 

「ノワール、落下したら抱きしめてね」

 

「わたしもぉ~」

 

「やなこった」

 

 

 汽車に乗り込むと見た目と反して豪勢なものになる。ホント趣味悪いよな……見た目オンボロで中身が豪華って誰得だよ? これで喜ぶ我が母親も凄いがこういう風にした(親父)もスゲェよ。

 

 

「荷物は適当な場所においてお前らは隙に座って良いぞ」

 

「了解……って王様はどこに座るんです?」

 

「残念な事に王と眷属は別々なんだよ。古いしきたりだが護らねぇと五月蠅くてなぁ、だから何か用事があったら一番前の車両まで来い。何もないけど来るのは無しだ――特に平家と四季音、テメェらはマジで来るな。来やがったら全裸にして放置プレイするからな」

 

「どんとこい」

 

「ろりぃ~によくじょーするならべっつにいいよぉ~? おさけぇおいちぃ~おっさっけぇ」

 

「……はぁ、とりあえず忠告はしたからな。犬月に水無瀬、橘に冥界に事を説明しておいてくれ」

 

「ういっす」

 

「あ、はい。それじゃあ、どこから説明しましょうか?」

 

 

 新入りは先輩眷属の奴らに任せて俺は一番前の車両に移動する。犬月達がいる車両は酒やら本やらが多く、暇つぶしのために遊び道具やらテレビが置かれているからぱっと見だとリビングのような雰囲気だが俺専用の車両はそんな事は無い。あるとしてもベッドと書物が収まっている棚、あとは冷蔵庫とトイレぐらいだ……広さ的にも丁度良いしもうこれが俺の部屋で良いよってぐらい居心地がいい。

 

 

「……あぁ~帰りたくねぇ」

 

『ゼハハハハハ! 宿主様の母上様は良い女だぜぇ? あれに好かれて何が不満なんだ? 年か? それとも実母だからかぁ? 昔は親子だからと言って恋愛してはいけねぇなんてクソのようなルールは無かったんだぜぇ。ヤればいいだろう?』

 

「なんで実の母親をそういう目で見なきゃいけねぇんだよ? 単にくっ付いてきて邪魔なだけだっての」

 

『なんだ面白くねぇ。しかし宿主様の弱点である以上、無下にも出来んぞ? 厄介だよなぁ……親子と言うものはよぉ。消し去ってしまえば宿主様はさらに高みへと昇れるというのに人間としての血がそれを邪魔をする……本当に厄介だ。この俺様でさえ母上様に危害を加えようとすら思えねぇんだ。なんでだろうなぁ』

 

「決まってんだろ……情が移ったんだよ。初対面であれからなんて言われたか覚えてるか?」

 

『当然だとも! 「貴方がノワールの中に居るドラゴンなの? 渋い声で威厳があるおじさまね!」だったかぁ? 呆れたぜ。地双龍、影龍王と称された俺様が威厳のあるおじさまだとよぉ! 笑っちまったぜ! 宿主様の中で見ていたが本当に弱い人間だというのにあれ(母上様)はなんであそこまで笑っていられるんだ? 不思議で不思議で仕方がねぇな! あれを物に出来た父上様はすげぇ悪魔だぜ』

 

「そりゃ、キマリス家現当主で純血悪魔だからなぁ。ウゼェけど」

 

『ゼハハハハ! 確かにウゼェが実力があるウゼェ奴だ! 俺様が保証してやろう!』

 

 

 邪龍、それも影龍王の相棒に断言されるとは本当にウザいんだなあいつ……なんだろう、いないはずなのに幻聴で親父の泣き声が聞こる気がする……気のせいだな。うん。

 

 

「――坊ちゃま。よろしいですかな?」

 

 

 ベッドに横になっていると白髪の爺ちゃんが俺の聖域とも言えるこの場所に入ってきた。もう七十は超えていると思われる見た目通り、顔はシワだらけで髪も地味に薄いが親しみやすい感じがする爺ちゃん……別に不審者と言うわけでもなくこの汽車を管理やら運用やらをしている責任者だ。確か此処で働いているのも趣味と言うか暇つぶしとかそんな感じだっけ? あんまり気にした事がねぇから覚えてねぇや。俺が本当に小さい時は遊び相手になってくれた事もある爺ちゃんだけど流石に次期当主と言う立場で高校に入ってからは会う事が少なくなった。最後に会った時なんて水無瀬達を冥界に連れて行く時に此処を利用した時だが流石悪魔、その時から見た目が全然変わってねぇ。親父が言うには初代キマリスが当主をしていた時代から居るらしいから実年齢は相当なもんだろう。

 

 

「あぁ、爺ちゃんか。なんか用?」

 

「坊ちゃまの眷属の中には新しく加わった者の登録の方に入りたいと思いましてな。坊ちゃまの事ですからこちらで勝手にやっても怒らないとは思いますが一度お伝えしてからの方が爺としては安心して行えるのですよ」

 

「安心も何も実年齢数千歳を超えてる実力者に俺程度が難癖つけれるわけねぇだろ。片方は悪魔と妖怪のハーフ、もう片方は退魔の家系出身。冥界の事は水無瀬が説明してるから多分その処置の方法も教えてると思うからスムーズだと思うぞ」

 

「分かりました。では自己紹介も兼ねて向かわせてもらいますよ。ほっほっほぉ、坊ちゃまも女子(おなご)には苦労しないようで何よりですわい。本命はやはり光龍妃ですかな? 爺としては家庭的な水無瀬嬢か坊ちゃまの理解者でもある平家嬢、四季音嬢をお勧めしたいところですがなぁ。それとも全部と言いますかな? それはそれで問題はありませんぞ?」

 

「ぶっ殺されてぇか?」

 

「おぉ、怖い怖い。それでは失礼しますぞ」

 

 

 そう言い残して爺ちゃんは後ろの車両へと向かい始めた。たくっ、水無瀬は兎も角として俺の理解者って何だよ? 誰が誰を理解してるって? 心の声を盗聴してる奴がいるんだし変な事言うんじゃねぇよ。まぁ、理解されてるなぁとは地味に思ってるが絶対に声には出さねぇ。

 

 それから時間が経ち、窓の外の景色が一気に変わる。人間界のような青空ではなく紫色の空、山や川という風景、宙に浮いた街やら何やらもある……ただし海は無い。だから海水浴に行きたい悪魔たちは人間界に足を運んで泳ぐそうだが代わりに滅せられる危険性もあるからその辺は自己責任。あぁ、そう言えば冥界で思い出したが犬月と橘に領土渡さねぇとダメかぁ……動くのめんどくせぇから家に帰ったタイミングで良いな。

 

 

「坊ちゃま。そろそろ到着いたしますぞ」

 

「んぁ? もうそんな時間か……寝たりねぇってのによ」

 

「お家の方でお休まれになってはいかがでしょう? 沙良様もお喜びになられます」

 

「逆に休めねぇと思うけどな」

 

 

 長時間汽車に乗っているからとベッドで横になっていたらもうすぐ着く時間まで爆睡してたらしい。はぁ……もう着くのか。帰りたくないでござる、帰りたくないでござる! とか平家みたいな事言っても仕方ねぇし覚悟を決めるかねぇ。

 

 後ろの車両、犬月達が居る場所まで向かうとゲームで遊んでいたのかかなり盛り上がっているようだった――女性陣のみで。犬月は少し離れた所で哀愁漂う雰囲気でオコジョ(独立具現型神器)と話し合っていた……いや単に独り言を言ってるだけか? おいおい、あんまり新入りをいじめんなよ。

 

 

「いじめてない。パシリがゲーム弱すぎただけ」

 

「はぁ?! テメェと酒飲みが結託して俺を狙い撃ちしてただけだろうが!! さらにしほりんと水無せんせーも味方に加えて俺一人で勝てるかぁ!!」

 

「これも修行だよ」

 

「ぜってぇちげぇ!! あぁ、てか白髪の爺さんが来たんすけどあの人って王様の知り合いっすか?」

 

「おう。初代キマリスが当主をしていた頃から生きてるガチの爺でおれがガキの頃に遊んでもらったまぁ、爺ちゃん? なんか変な機械向けられただろ? 今回はこいつに乗って冥界入りだが次回からは転移で問題ねぇから今のうちに景色を目に焼き付けとけよ」

 

「うぃーす。てかしほりんがさっきから窓の外を見てはしゃいでますぜ……いやぁ、揺れてますねぇ」

 

 

 視線を横に向けると冥界の景色を初めて見て興奮してるのか身振り手振りで何かを表現しようとしているのが見える……確かに揺れている。上や下にボヨンボヨンと揺れている。すげぇ! あれがおっぱいか……素晴らしいものだな。

 

 

「揺れてんなぁ」

 

「揺れてますねぇ」

 

「犬月、ビデオ」

 

「残念ながら持ってきてねぇっすわ。携帯のムービーくらいならありますよ?」

 

「画質悪いから却下」

 

「デスヨネ」

 

「そこの変態二人、もうそろそろ到着みたいだよ――お出迎えも来てる」

 

「はぁ? あぁ、うん。思いっきり到着地点で今の橘のようにはしゃいでる女がいるなぁ……誰だろうなぁ」

 

「いやいや……王様のお母さんでしょ。足不自由なのに大丈夫なんすか?」

 

「多分ですけど……ミアが近くに居ますし問題ないと思いますよ。それにノワール君が帰ってくるといつもあのような事になりますので……その、慣れてしまっていると言って良いかもしれません」

 

 

 前回も前々回も帰ってくると出迎えとして待ってんだよなぁ。足が不自由な癖になんてアクティブなのだろうか……今回は新入り二人が居るから家の中じゃなくて汽車が停車する近くで待機しているみたいだがバカだろ。せめて家で待ってろよ……つかあの蛇女もちゃんと言って聞かせろや!!

 

 目的地に到着したので俺達は汽車から降りる。荷物は犬月持ちだ、流石パシリ! 何も言われずに持つとかも最上級パシリとしてやっていけるぜ。全員が汽車から降りたタイミングで片手に杖を持ってぎこちなく歩いて近づいてくる我が母親に――予想通り抱き着かれました。おっぱいの弾力が凄まじいです。マジで四十代の胸じゃねぇぞおい。

 

 

「おかえりなさいノワール! はぁ、すぅ、はぁ、これよこれぇ! 今日からずっと家に居るのよね? お母さん嬉しいわぁ。皆もおかえりなさい、疲れたでしょ? これに乗ってくるとずっと座ってるから嫌なのよね――あん、もうノワールっ! 離れないの! 今は息子成分を補充してるんだから」

 

「ふざけんな! てか何時から待っていやがった!? 足悪いんだから家で待ってろ!! ミア! テメェも止めろよ!」

 

「ムリでっす☆ 沙良さまを止められる方はこの領地内には存在しません! あっ、おかえりなさいませーノワールさまー。お土産有ります?」

 

「メイドの癖に土産要求かよ? 真面目な橘がちゃんと持ってきてっからさっさと家まで運べ」

 

「イヤでっす☆」

 

「殺すぞこの野郎」

 

 

 おっぱいを揺らしながら満面の笑みを浮かべる蛇女に若干の殺意を抱きつつ、この抱き着いてくる母親をどうしようか考えたが……あらゆる手段を使っても勝ち目がないので考えるのを止める。俺も親父も母さんには勝てねぇもんなぁ。

 

 

「それじゃあ帰りましょう? ネギ君も待ってるわ。ミア、馬車はどこだったかしら?」

 

「既に待たせていますのでご安心ください。それじゃあノワールさまと眷属の方々、ようこそ! キマリス領へ! それでは帰りましょう☆」

 

 

 ミアに案内され、かなり待たされたであろう馬車に乗り込んで我が家を目指すが一言だけ言わせてほしい……引っ付いてくるこの見た目年齢詐欺の母親の魔の手から俺を助けてくれ。流石の俺でも精神力ががりがり削られてそろそろ倒れそう。




今回より「冥界合宿のヘルキャット」編の始まりです。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

「到着しました☆ こちらがノワールさまと沙良さま、そしてハイネギアさまのご実家でっす!」

 

 

 馬車に揺られて数十分、ようやく目的地である俺の実家に到着した。揺れのせいで腰イテェし母さんと平家が引っ付いてくるしもう疲れた……やる事やったら今日は寝よう。馬車から降りた俺達の目の前にはデカく、そしてご立派な城が見える。周りには木々が植えられて自然の雰囲気を持たせつつ、笑いたくなるほど威厳に満ちた城は見る者を圧倒して感動させるだろう……家主である現当主が非常に残念だがな。

 

 初めて来た犬月と橘は目の前の城を見て絶句しているが何度も来ている水無瀬達はやっぱり大きいですよねぇみたいな表情をしているから対比が非常に面白い。そして馬車を降りてもなおくっ付いているお母様、そろそろ離れてください。四十代とは思えないおっぱいの感触でムラムラが止まりません。ノワール君のノワール君がもう大変なんですからマジでお願いします。

 

 

「――でっけぇ、マジでこれ家なんすか……家ってもっとこう、小さいモンじゃねぇの?」

 

「城だって家だぞ? まぁ、デカすぎて母さんが移動するのも一苦労なのが難点だな……初代キマリスはなんでこんな見え張った家を作ったんだ? 俺としては移動もめんどくさいからいい加減取り壊して新しいの作った方が良いと思うんだけどなぁ」

 

「元七十二柱だもん仕方ないよ。そしてそのセリフ、帰ってくるたびに言ってるよね」

 

「まぁな。んじゃさっさと中に入るか。ミア、母さんは俺が引き受けるからテメェは荷物を部屋まで運べ。中にはお菓子や菓子折の土産があるからそれは親父達の所まで持ってこい」

 

「了解でっす☆」

 

 

 荷物を蛇女に任せて俺達は玄関から中に入る。すると目の前には見た目通りと言うべきか豪華な内装でまさしく城だと思わせるような光景だった。そして幻覚だろうか……メイドと執事がお出迎えしてるんだけど? いや平家が到着早々、うわぁみたいな表情をしてたから予想はしてたがあのクソ親父、ここまでするか。態々廊下の端に一定の距離を置いて配置させて立たせるなよ……俺程度にこの歓迎はいらねぇしこんな事させるぐらいなら休みかそれぞれの仕事でもさせておけってんだ。まぁ、現当主の命令ならこいつらは喜んでやるだろうけども。

 

 

「奥様、ノワール様、眷属の方々。おかえりなさいませ」

 

 

 目の前の光景に呆れる、または圧倒されている俺達に並んでいる執事やメイドの中でも別格の雰囲気を放つ男が歩いてくる。長い黒髪をポニーテールのように後ろで結んでいる細目の男、服装は執事服で当たり前だがキマリス家の執事の一人……ただし執事長という立場の男だ。これも予想はしていたがテメェまで出迎えとはホント暇なんだな?

 

 

「よぉ。テメェまで出迎えとはそんなに暇なのか?」

 

「ハイネギア様のご指示ですので暇ではありませんよ――本来ならば私もこの時間は別件の仕事をする予定でしたが急遽、ノワール様がお帰りになるに当たって早めに終わらせる羽目になりました。後で主にきつく言っておいてくださるとこちらは助かります」

 

「了解。ぼっこぼこにして泣かせとくから並んでる奴らを元の場所に戻していいぞ。どうせあのクソ親父の事だ、こうした方が歓迎している事が分かってもらえるとでも言ったんだろ?」

 

「はい。私は彼らの仕事もありますから程々にとは言ったんですがハイネギアが聞かなかったのです」

 

「おい素が出てんぞ。まぁ、変に畏まれてもこっちが困るから別にいいけどよ……親父は?」

 

「ダイニングルームでお待ちです。さぁ、こちらへどうぞ」

 

 

 並んでいた執事、メイドを一声で元の仕事場へと戻してから目の前の男は俺達を案内し始めた。後ろにいる犬月と橘から誰だみたいな視線を感じるけど後で紹介してやるから黙ってついてこい。

 

 長い廊下を母さんの足取りに合わせて進んでいき、ようやくダイニングルームに到着。やっぱり広すぎて母さんの足に負担がかかるだろ……早急にリフォームを要求する! せめて床が目的地まで動くとかその機能を付けろっての……その方が母さんも俺も楽だ。なんせ別の部屋に移動するだけでも数分とかかかるんだぜ? それぐらいしてもらわないとめんどくさくて困るんだよ。

 

 執事服を着た男がダイニングルームの扉を開けて俺達は中に入る。今までと同じく豪華な内装にシャンデリア、歴代当主の顔写真が並んで窓の外には木々による自然の光景が一望できる。そんな中で長テーブルの先にある椅子に座っているのは前に人間界にある我が家に侵入してきた不審者こと我が親父の姿があった。椅子も人数分、いや下手をすると人数以上のものが置かれておりテーブルには夕食という事で一般家庭ではお目に掛かれないであろうごちそうが乗っていた。確かに時間的には合ってるから文句は言わねぇけど普通で良いぞ? 毎回毎回こんなもん食ってたら母さんが太ったとかで大泣きするからやめた方が良い……過去にそれで俺と親父が母さんのダイエットに付き合わされたのを忘れるわけがない。あれは……辛かった!

 

 

「おかえり。長旅で疲れたでしょ? ご飯を用意しているから席に……あれ? ノワール、何その微妙そうというか何か言いたそうな顔は? あ、あれ……もしかして執事とメイドのお出迎えは嫌だった?」

 

「ほぉ。テメェにしては良く気づいたな? 嫌に決まってんだろ……マジでああいうのはやめろ。ウゼェし待っている時間だけアイツらの仕事が長引くんだから今度からは必要ねぇぞ。次に同じことをしたらラッシュタイムを叩き込むからな。セルス、これで良いか? 要望があるならもっと言うけど?」

 

「いえ満点ですよ。ノワール様」

 

「ダメよノワール。ネギ君を泣かせたらメッなのよ? セルスもダメよ? 私の旦那様なんだから困らせたら怒るわよぉ? おこよ、おこ」

 

「これはこれは……申し訳ございません。奥様」

 

「沙良ちゃん!!」

 

「ネギ君!」

 

 

 俺達の目の前で超ド級の年の差夫婦が周りの空気も読まずに抱擁を交わしている。はぁ……ウゼェ。結婚してから何年経ってると思ってんだよ? いい加減倦怠期が来てもおかしくねぇのに新婚の空気が抜けねぇのはある意味スゲェよ。犬月達も何と言うか微妙そうな表情をして俺を見てくるけど今の俺の態度を見て察したらしい。そうだ、これがキマリス家の日常なんだよ。

 

 呆れた様子で全員を席に座らせると橘が持ってきた土産を届けに来たのかミアと別の男がこの場に現れた。短めの茶髪で目が鋭く、見るからに寡黙という雰囲気を持つ奴だ……確かに俺の用事で呼んだけどまさかコイツまで食事の場に来るとは珍しいな。普段なら人が集まる場所には決して来ないのになぁ。

 

 

「コホン。では改めて自己紹介しようかな。僕と沙良ちゃんはもう知ってると思うから省いて……僕の後ろにいるのがセルス、僕の女王だよ」

 

「セルス・ハルファスです。キマリス家に仕える執事でハイネギア様から執事長と言う立場を任されています。主、奥様共々よろしくお願いします」

 

「……ハルファス? あれ? それって元七十二柱の名前じゃなかったですか?」

 

「確かそうだったはずです……悪魔さん?」

 

「お前らの疑問はごもっともだ。そこに居るセルスは元七十二柱ハルファス家の()次期当主だった男だ。あぁ、先に言っておくが今の次期当主じゃなくて昔の次期当主な。ハルファス家はセルスの弟が継いで今は後継者待ちだったか? こいつは純血悪魔の癖に珍しく純血主義が嫌いで家に絶縁状を叩きつけて親父の眷属になった変人中の変人だ。ついでに言うと俺の師匠の一人だがこっちに関しては今はどうでも良いな」

 

「マジで!? 王様の、師匠!? あっ、えっと……そんな事してハルファス家と喧嘩とかなんなかったんすか……? 上級悪魔で次期当主だったんならそれぐらいあってもおかしくねぇっすよね?」

 

「えぇ。一時期はキマリスとハルファス、両家の喧嘩にまで発展しましたが私自身の言葉でそれを治めましたので問題は無いですよ。私の弟が当主を継いで今は息子、または娘が生まれるのを待っている状態ですし今更私程度に構っている暇もないでしょう。ノワール様の師匠ではありますがノワール様が禁手に至り、私とハイネギア様を超えてからは教えることも無くなってしまいましたので一時的にと言う言葉が妥当でしょう。今では勝つ事すら難しいですからね」

 

「にしし。ノワールよりも弱いって言ってもこの男は強いよ。この優男とはねぇ、過去に一回だけ手合わせしてもらったけど楽しかったよ。またやりたいね」

 

「鬼の貴方と戦うのはこちらの身が持ちません。ノワール様で満足してください」

 

「さらっと俺を売るなよ」

 

 

 細目、落ち着いた雰囲気を持つセルスだが偶に毒を吐くことがある。主な対象は親父、幼馴染と言う関係だからかプライベートでは主と執事と言う立場じゃなくて幼馴染同士の立場で過ごしている。親父もセルスも次期当主として交流が有り、学校でも同じクラスと言う腐れ縁だもんな。二人とも今でも珍しい純血主義に疑問を持つ悪魔同士だったがセルスの方が両親からのしきたり等に耐えきれなくなって親父(ハイネギア)に頼み込んで女王になったほど純血主義嫌い。まぁ、そのせいでキマリスとハルファスの間で小競り合いが発生したけど本人が絶縁状を叩きつけて下級悪魔と同じ扱いで構わないと断言した事で終了したけども……本当に変人だよな。俺が言うのもあれだけどさ。

 

 ちなみに過去、セルスと四季音が戦ったがそれは酷いものだった。互いに全力を出し合った結果、周囲が崩壊してあの四季音の片腕が折れてセルス自身も大怪我を負う事態になったしなぁ……二人とも満足そうな表情だったけど。

 

 

「あ、あの……お義父様。あちらの方は……?」

 

「あぁ、紹介するよ。僕の騎士、東雲志月(しののめしづき)だよ。ちょっと無口な所もあるけど皆も仲良くしてほしいな」

 

「……東雲志月、よろしく」

 

「ども。犬月瞬っす」

 

「橘志保です。よろしくお願いします」

 

「……」

 

 

 二人の挨拶に東雲は軽く会釈をする程度で済ませる。あのさぁ……まだ人見知り治ってねぇの? 女が苦手なのは分かるがせめて人見知りぐらいは治そうぜ。俺でさえ他人と偶に話す事があるってのに俺より年上のお前がそれじゃあカッコつかねぇだろ。

 

 

「仕方ないよ。人見知りって結構辛いんだよ」

 

「お前が言うと説得力あるなぁ……二人にはバラすけど東雲は無口で不愛想で何考えてるか全然分からねぇ奴だが単に人見知りで女が苦手なだけだ。悪い奴じゃねぇし実力も保証する――俺が騎士枠で欲しいと思ったほどの奴だしな」

 

 

 これは本当だ。結構前だが模擬戦で戦った時、いつものように影人形を生成して向かわせたら一本の刀で真っ二つに斬られた。手を抜いていたわけじゃないがいきなり縦に真っ直ぐ斬られているのを見た瞬間は笑ったなぁ。人が居なければ強いんだが人見知りと女嫌いのせいで普段は半分程度の実力しかだせねぇのは如何にかしろよ……いや割とマジでトレードも考えてたんだからそこは治してくれ!

 

 

「……俺は、親父の騎士として誇りを持っている。ノワール様の元へは、行けない」

 

 

 こいつも何故か俺の親父、まぁこいつ(東雲)からしたら主を親父呼びするんだよな。口数が少ないとはいえ親父の眷属として誇りを持ってるから俺程度には従わないのは分かってる。だからそんな顔するなっての。

 

 

「だろうな。冗談だよ冗談」

 

「あはは。僕としても志月はトレードできないかな、セルスと同じくらい強いし最近のテロのせいで忙しいからね。他にも眷属が居るんだけど全員その対応に追われて出払っているんだ。ごめんね」

 

「い、いえ! お義父様とお義母様にお会いできただけで十分です!」

 

「あら、志保ちゃんはやっぱり良い子よねぇ。そうだ、お風呂で外のお話しを聞かせてちょうだい。外の話をしてくれるのは恵だけで花恋も早織もあまり外に出歩かなくて話してくれないのよぉ」

 

「覚妖怪は引きこもりだもん……外は地獄……!」

 

「外だと酒が飲めないしねぇ。この見た目だと職質されるから家に居るしかないのぉ~にしし、ごめんよ」

 

 

 そんなこんなで夕飯を食べ終えた俺達は各々に割り振られた部屋に向かう。明日から特訓に入る予定だから今日一日はゆっくり休んでほしいよ――地獄が待ってるから疲れましたって言っても無駄だしな!!

 

 

「お待たせしました。コーヒーをどうぞ」

 

「サンキュー」

 

 

 自室に戻った俺はセルスを読んでコーヒーを淹れてもらっていた。こいつが居れるコーヒーは結構美味いから俺は好きなんだよなぁ。セルスの他にも東雲も呼んで俺と同じようにコーヒーを飲んでいる。周りに人がいないからか凄く楽そうだ。

 

 

「……俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

「明日から俺達の特訓を始めるのは親父を通して聞いていると思う。お前には平家の相手を頼みたい」

 

「……俺が、か」

 

「あぁ。平家は所謂天才肌で何をやらせても人並み以上にはできるがそれまでだ。もう一個上の段階まで持っていきたいからひたすら二人で殺し合ってくれ。遠慮はいらねぇし殺しても俺は文句は言わねぇよ。それにテメェも覚妖怪のアイツなら少しは楽だろ?」

 

「……分かった。殺したらすまん」

 

「別に良いって。セルス、お前には犬月の相手を頼む。こっちも遠慮はいらねぇし壊しました、殺してしまいましたとかになっても問題はねぇ。親父にも俺から時間があれば犬月の面倒を見ろって脅しとくから二人で徹底的に鍛え上げろ。せめて昔の俺並みまでは使えるようにしてくるとスッゲェ助かる」

 

「畏まりました。ノワール様の兵士と聞いてどのような人物かと思っていましたが――確かに伸びしろはありそうです。貴方が期待するのも分かりますよ」

 

「だろ? 完成された奴よりも未完成で放置されてた奴の方が面白い。あと忙しそうだったから呼ばなかったけどミアに橘の相手を頼むって伝えておいてくれ。アイツは犬月達のように前線タイプじゃなくて水無瀬のような後衛タイプ、その辺りの戦い方と魔力の使い道を教え込んでくれとな」

 

「分かりました。水無瀬様はノワール様がお相手するとして……四季音様はどうします?」

 

「そっちは今から交渉する。もしダメだったら……俺が面倒みるよ。普通に毎日殺し合ってればあいつも成長するだろうしな」

 

 

 流石に水無瀬の相手をしながら四季音もとなると俺の修行時間がかなり減るかもしれないが……殺し合いの相手としては夜空よりもちょっと劣るが他よりはマシだ。それに基本的に俺の特訓は神器に潜るか影人形融合形態を維持するかの二択ぐらいだしいつでもできるしな。

 

 俺の言葉を聞き終えたセルスと東雲が部屋から出て行ったのを確認して通信用の魔法陣を展開する。連絡相手は俺の使い魔がお世話になっている存在で俺よりも高い地位に居る――ドラゴンだ。

 

 

『――久しいな影龍王。冥界に戻ってくるとは聞いていたが早かったな』

 

「お久しぶりです。タンニーン様」

 

 

 連絡相手は魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)と称されるドラゴンであり最上級悪魔の一体、タンニーン。その実力は非常に高く、気性が荒く己の道しか進まないドラゴンを纏め上げるほどの存在。正直な所……ドラゴンとしてはかなり先輩だから普段のような口調では絶対に話せない。無理無理、流石の俺でも敬語を使わざるを得ないわ――相棒は別だけど。

 

 

『久しいなぁタンニーンちゃんよぉ。なんだ? まだ死んでねぇのかよ。死にたくなったらいつでも言えよなぁ? 宿主様と俺様が殺してやんよ』

 

『相変わらずだなクロム。いや、昔よりは丸くなったか? 生前のお前ならば俺の言葉を待たずに殺しに来ていただろう』

 

『ゼハハハハハハ! その通りだぜタンニーンちゃん! 俺様、どうやら弱くなっちまったようでなぁ。もう大変なんだぜぇ? 雑魚の相手をしたり魔王のクソ加減を目の当たりにしたりと鬱憤が溜まりっぱなしよぉ! まぁそれはそれで楽しいけどなぁ!!』

 

『そうか。して影龍王、俺に何の用だ?』

 

「明日からうちの鬼、酒呑童子をタンニーン様の領地に居るドラゴンと戦わせたいんです。勿論ドラゴンは殺さず瀕死の状態で留めるように言いますしうちの鬼が戦闘で死んでも何も問題はありません」

 

『なるほど。長期休みを利用して眷属を鍛えようという事だな。良いだろう、俺の領地に居るドラゴン達も大きな争いが無くなった事で退屈しているから酒呑童子ほどの存在ならば相手にとって不足は無いだろう。思う存分戦うが良い』

 

「ありがとうございます……でも自分の領地に住んでいる領民が大怪我するかもしれないのによく許可できますよね?」

 

『それがドラゴンというものだ。闘争こそがドラゴンとしてあるべき姿とも言える。奴らも久しぶりに同族以外と戦う事が出来て興奮するだろうが……中には発情期に入っている者もいる。だからだな、そう言う事になっても恨むなよ?』

 

「全然問題ないんで遠慮なく子作りさせてください。ただ体がちっちぇし胸も無いんで欲情できるかどうかが問題ですけどね。あとあれ(四季音)を簡単に屈服させて抱けるんだったら俺はここまで苦労しませんよ」

 

『だろうな。他の奴にも伝えておこう――久しぶりに話せてよかったぞクロム、宿主を大事にしろ』

 

 

 その言葉を最後に通信が切れる。はぁ、緊張した! 流石に最上級悪魔の一体、しかも先輩ドラゴンで尊敬できる人物と話すのは辛い。主に敬語が辛い! でも四季音の件はこれで解決。あいつもドラゴンと喧嘩できるなんて知ったら嬉しくて股を濡らすんじゃねぇかな? 俺って良い奴だよなぁ! うんうん! 流石影龍王と呼ばれるだけの事はある! 個人的には俺がドラゴンと戦いてぇが今回は譲ってやるんだからマジで感謝してほしい。

 

 そんなわけで時間は進んで翌日、冥界だと太陽が無いから朝だという事が分かりにくいがちゃんと人間界で言う朝の時間帯になっている。魔王達が人間ベースの転生悪魔の事を考慮して時間経過を人間界と同じように調整してくれてるお蔭で俺達は浦島太郎状態にはならないわけだが……せめて太陽の光ぐらいは再現してほしい。朝か夜か判別しづらいし……魔力による光だったら大丈夫だと思うんだがなぁ。

 

 

「よし、全員集まったな」

 

 

 どうでも良い事は置いておいて今からする事に集中するとしよう。目の前にはジャージ姿の犬月達が横一列に並んでいる。その表情はこれから地獄が始まる事を察しているのかかなり真剣なものだ――約一名ほど真っ青になってるけど。

 

 

「前々から言ってた通り、今日からお前らのレベルアップのために特訓をしようと思う。まずは犬月!」

 

「ういっす!」

 

「お前はセルスとの殺し合いだ。キマリス領内にある森の中で朝から晩まで寝ても覚めても殺し合え。セルスにはお前を殺しても良いって言ってるから死ぬ気でやらねぇと二度とアリス・ラーナを殺せなくなるからそのつもりでやれ。あと付け加えるなら親父も偶に参戦するから覚悟しておけ」

 

「――上等! ぜってぇ強くなってやる……絶対に!!」

 

「よし。次は橘」

 

「は、はい!」

 

「お前は基本的にはミアに僧侶として戦い方や魔力の使い方を学べ。退魔絡みで戦闘には慣れてるだろうが悪魔としての戦い方はまだ未熟だ。霊力と魔力、どっちも今より使えるレベルまで高めろ。あとこれは俺からの宿題だが……教科書通りの魔力の使い方じゃなくて自分なりの使い方を見つけろ。いいな?」

 

「――はい。悪魔さんの僧侶として、お役に立てるように頑張ります!」

 

「んじゃ次、平家」

 

「了解」

 

 

 恐らく既に俺の心を読んでいたんだろう……でも一応説明しとかないと周りが分かんねぇからな。特訓中もあいつはあんな事をしてる、だから負けられないとか対抗意識を持たせるのも大事だし。

 

 

「説明ぐらいさせろ……お前は東雲と一対一で殺し合いだ。言っておくが気を抜くと犬月と同様に死ぬからそのつもりでな」

 

「分かってる。ちゃんと生き残るから終わったらご褒美頂戴」

 

「終わったらな……さて四季音」

 

「うぃ~? わたしぃ~はなにするんだぁい?」

 

「お前は特別メニューだ。譲ってやった俺に感謝しろ」

 

 

 魔法陣を展開してとある存在を呼び出す。それは黒い鱗に一本角が目立つ龍の顔、胴体は蛇のように長く手足は存在しない代わりに巨大な翼が生えている一匹のドラゴン――ワイアームと呼ばれる種族にして俺の使い魔。それが出現した瞬間、犬月と橘が唖然とし始めたが恐らくなんでドラゴンが現れてんのって思ってるんだろう。俺の心を読んだ平家は呆れて四季音はそれを見て――笑った。だよな! お前はそういう奴だし!

 

 

「俺の使い魔のヴィルだ。お前は今日からドラゴンの棲み処……タンニーン様の領地に住んでる血の気の多いドラゴンと戦ってもらう。勿論制約として殺すまで戦えとは言わんが相手はお前を殺しに来るし性的な意味で襲いにも来る。処女失いたくなかったら勝ち続けろ」

 

「――にしし! 良いね良いねぇ! そういうの大好きさ! ドラゴンとの勝負なんて私を喜ばせる事をしてくれるじゃないか!」

 

「……てか使い魔って言いましたけどこれぇ!? 使い魔じゃなくて眷属の間違いじゃないんすか!? そりゃ俺達が使い魔をゲットする際に呼ばないわけっすよ!! てか、えぇぇ!?」

 

「お初にお目にかかる。私はワイアームのヴィルと言うものだ。ノワール様、クロム様、お久しぶりです」

 

「おう。今日から四季音を頼むぜ」

 

「分かりました」

 

「ドラゴンさんを使い魔にするなんて悪魔さんって凄いんですね……びっくりしました」

 

「グレモリーの所のシスターもドラゴンを使い魔にしたらしいよ。例外みたいだけど」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「はいはい。無駄口はそこまでだ……最後、水無瀬」

 

「は、はいぃ!!」

 

「お前は今から俺と一緒に別の場所へ移動だ。そこで特訓内容を説明する。他の奴らは師匠の言う事を聞いてちゃんとやれよ? 四季音は……頑張れ」

 

「とーぜん! 思いっきり暴れてくるさ!」

 

 

 説明を終えた俺は水無瀬と共に別の場所へ転移する。その場所とは普段、夜空と殺し合っている場所……さて、始めるか。

 

 

「……ここは、ノワール君と夜空さんがいつも戦っている場所ですよね……?」

 

「そうだ――水無瀬」

 

「はい――ひぃ!?」

 

 

 影人形を生み出して水無瀬の頭の横に拳を突き出す。いきなりの事で水無瀬は反応できず拳が通った後でそれに気が付いた……そして今から行われることも察したんだろう。顔が真っ青に変化していくがそんな事は知った事ではない。

 

 

「あ、あの……ま、さか……」

 

「お前は禁手に至るまで俺と鬼ごっこ(殺し合い)だ。言っておくが加減しねぇぞ? 死んだらまぁ、墓ぐらいは立ててやる。生き残りたかったら自分の神器を変化させろ、出発点に至れ、自分の思いを形にしろ――じゃあ、始めるか」

 

 

 俺達の特訓は水無瀬の悲鳴から始まった。まぁ、頑張れよ……俺の僧侶ちゃん。




ノワール・キマリスの使い魔
名前 ヴィル
種族 ドラゴン(ワイアーム)
見た目は遊戯王「始祖竜ワイアーム」が黒くなった感じです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

「おらぁ! 立ち止まんじゃねぇ!! 態勢立て直して即行動! ぶっ殺されてぇか!!」

 

「い、いやですぅ!!」

 

「嫌ならさっさと禁手しろよぉ! 何日同じ事してると思ってんだ!!」

 

「すいませぇぇんっ!! ひぃっ!? い、いやぁぁっ!?」

 

 

 俺は禁手状態となり影人形を先行させて逃げ惑う水無瀬に向かって拳を放つ。当然死にたくないという気持ちが強いためか水無瀬は自身の前方に三重結界を展開、そして足元には神器――逆転の砂時計(ロールバック・ストーン)を配置して迎え撃つ構えを見せる。影人形の拳が結界に触れたタイミングで能力を発動、結界の力を奪おうとするがそれよりも前に影人形は霧散した……性質を逆転させて「霊子の集合」を「霊子の放出」にでも変えたんだろう。全くよぉ、この芸当が出来るまで一日、鎧を纏った俺の攻撃に対応できるまで一日、そして先ほどの行動を同時に行えるまで三日……つまり五日掛けてこの様だ。加減してるんだからもうちょっとはマシになれっての。

 

 自分を襲ってきた影人形が消えた事で安心したのか一瞬だけ隙を見せたので一気に接近して水無瀬の真横から蹴りを叩き込む。そんな事をすればどうなるかなんて誰だって想像できる――生身の体にはかなりのダメージだろうな。

 

 

「くぅ……うぅ……!」

 

「消えたからって油断すんな。敵が一瞬の隙を見逃すわけねぇだろ? 軽く蹴っただけで骨に異常なんてねぇからさっさと立て」

 

「……は、い!!」

 

「それでいい。この五日間、何とか前よりはマシになったがまだまだ弱い。クソみてぇに弱いんだよテメェは……このままだとキマリス眷属の弱点になりかねない。それぐらい自分でも分かってんだろ?」

 

「……はい!」

 

「お前の取り柄は性質を逆転させる神器と後方支援、たったそれだけだ。犬月や平家、四季音のように前線に出られるわけでもなく橘のように器用でもない。お前、このままだと橘に追い越されるぞ? 雑魚、お荷物、昔の不幸な人生に逆戻りしたくねぇなら死ぬ気で神器を向かい合え!!」

 

 

 影人形を生成、即座に水無瀬に接近させる。流石に迎え撃つのは得策じゃないと今までのやり取りで学んだんだろう……悪魔の翼を生やして宙を飛びながら魔力を変化させた炎や氷柱、雷などを放って弾幕を張ってきた。それらを影人形のラッシュで粉砕しながら追いかけるのと同時に()の影人形を生成、実体を持たせず影として地面を這わせて水無瀬の真下へと移動させた。

 

 追いかける方の影人形――こっちをAとでも呼称しようか。影人形Aが飛んで逃げる水無瀬に追いついて拳を叩き込もうとラッシュの構えに入った――瞬間、先ほどのように形状を維持できずに霧散した。どうやら弾幕として放った氷柱に砂時計を取り付けて反転結界を形成したらしい。へぇ、面白い使い方するじゃねぇの……でも残念ながら下ががら空きだ。

 

 

「――つぅ!」

 

 

 自分の真下から接近してきた影人形Bの拳を二重結界を展開して防ぐ……二重? 今までは三重や四重の重ね掛けだったはずだ。なのにここにきて……あぁ、そういう事か。

 

 

「私はっ! 必ず禁手に至って見せます!! そのためなら痛いのも、辛いのも! 我慢します!! 反転結界!!」

 

 

 微かに見えただけだが水無瀬の指先から砂時計まで細い糸のようなものが繋がっているらしい。なるほど、魔力を糸のように変異させて遠くに放った砂時計を移動させて広範囲に展開、内部の性質を一気に逆転させたってわけか。やるじゃねぇの……でもまだだ、全然足りねぇな。禁手に至るには世界の流れに逆らうほどの強い思いと決意が必要だからこうして俺と殺し合っていれば発現しやすいだろうなぁ、とか思ってたけど案外そうでもねぇのか? いやまだ始まったばっかだしこれからかねぇ。

 

 影人形Bを消失させた水無瀬は砂時計を手に強い意志を感じさせる眼差しで俺を見つめてきた。やる気十分か……良いぜ、とことんやってやる――と言いたいところだが時間切れだ。

 

 

「水無瀬」

 

「はい!」

 

「鬼ごっこは終了だ。家に帰るぞ」

 

「……え?」

 

 

 まさかの展開に困惑する水無瀬と共に実家へと戻ると特訓終わりの犬月達が勢揃いしていた。予め師匠役の奴らにこの時間には家に戻る陽にも伝えていたから当たり前だが……約一名ほど死にかけてるけど大丈夫か?

 

 

「ノワール、パシリが死んでる」

 

「死んで、ねぇ、っすよ……いや、死ぬ、しぬぅ」

 

「にししぃ! だっらしないねぇ! 男ならもっとシャキッとしな! いやぁ~ドラゴンとの何度も戦えるなんてさいっこうだよ! 加減しなくて良いなんてこれほど良いものだったんだねぇ」

 

「凄いです……五日前より妖力が上がってます。犬月さんも前よりもずっと高く……ま、負けていられません! もっと頑張らないと!」

 

「志保も頑張っていると思うよ。でも一番辛いのは恵だよね? どう? 何回死んだ?」

 

「――もう何回も死んでますよぉぉ!! 怖かったぁぁ! ノワール君は手を抜かないし影人形は複数襲ってくるし蹴ってくるし殴ってくるしぃ! 痛いですぅ! うわーんっ!」

 

「恵、おっぱい押し付けてくるか泣くかどっちかにして」

 

「ごめんなさぁいぃ!」

 

 

 先ほどまでの鬼ごっこが辛かったのか水無瀬は平家のまっ平らな胸に抱き着いて泣き始めた。おぉ! 美乳がちっぱいに押し付けられて形が変わってやがる! 何と言う弾力! 俺の胸に抱き着いてきても良いんだぜ?

 

 まぁ、そんな事は置いておいてたった五日、されど五日だ。犬月はセルスとガチの殺し合い、四季音もドラゴン共とガチの殺し合い、平家も東雲との殺し合いで水無瀬も俺との殺し合い……うん。一番平和なのは橘だけだな。いやぁ、別に殺し合いさせても良いがそれをやるのはもっと先だな。今は自分なりの戦い方を学ばせた方が効率が良い。

 

 

「おい、どうよ? 俺の師匠は?」

 

「……つえぇっす。何度気絶させられたか分かんねぇし……こっちの攻撃が当たりもしねぇ、あんなのに勝てる王様ってやっぱ別格っすね」

 

「当たり前だ。セルスは純血悪魔の中でも珍しい自己鍛錬を行ってんだぞ? それに強くなかった俺の師匠なんてやらねぇよ――ただ誇れ。五日間、あいつと戦って音を上げないお前は強くなってるよ」

 

「……褒めるのはまだ、先っすよ! まだ、まだ俺はししょーに勝ってねぇんすからね!!」

 

 

 やっぱこいつは面白い。諦めの悪さと勝利の渇望のみだったら邪龍並みになりそうだ……セルス、マジで強くしろよ。こいつは俺の兵士として頑張ってもらわないといけないからな。

 

 

「あの悪魔さん? 今日は用事があると聞いたんですけど……何かあるんですか?」

 

「うん? あぁ、若手悪魔の会合があるんだよ。時間的に今から向かえば一時間前には到着って所か? とりあえず風呂でも入って正装……学園の制服とか仕事服とかそこらへん着てまた此処に集合だ」

 

 

 俺は犬月を連れて風呂場で汗を流す。たった五日とはいえセルスもガチで鍛え上げる気満々のようだ……橘が言った通り前よりも妖力と魔力が高くなってるのに自分では気づいてないのが笑えてくるな。こいつは才能があるのに今までそれに気づかないで普通に過ごしてきてたんだもんなぁ、いきなり自分の変化に気づけって言っても無理か。

 

 風呂から上がり、学園の制服を着て入り口で犬月と共に待っていると奥から風呂上りの女性陣がやってきた。うん! 風呂上りのためか頬が少し赤いのは何とも言い難い魅力がある。そもそもアイドルの風呂上り姿とかファンの奴らすら見られないお宝映像だもんな……橘が休業してもファンレターとかが届いてるらしいしそれを読んでやる気を出してるとかミアが言ってた気がする。ファンの力で自分を高めるか……根っからのアイドルだな。

 

 

「若手悪魔の会合って前に言ってた気がしますけどどこでやるんすか?」

 

「魔王領にあるルシファードって都市だ。名前ぐらいは知ってんだろ?」

 

「いや、旧魔王ルシファー様が住んでたとかっていう場所ってのは……うへぇ、そんな所に集まるんすか? 王様とグレモリーとシトリーと……あとどんなのが居るんです?」

 

「グラシャラボラス、アガレス、アスタロト。まぁ、この辺りは雑魚だが――バアル、前に会った事あるだろ? サイラオーグ・バアル。この人も若手悪魔だから今回の会合にも顔を出す予定だ」

 

「うわっ、魔王を輩出した家に大公、大王っすか。そんなのと会うなんて前までだったら考えらんねぇっすわ」

 

「私もです。退魔の仕事でも有名な悪魔さんとはお会いする事はありませんでしたから……あの、どんな人達なんですか?」

 

「残念ながら詳しくは知らねぇよ。そもそも混血悪魔の俺が純血悪魔と仲良くできるわけねぇだろ? まぁ、個性豊かな奴らだってのは分かるな。先に言っておくけど会場で俺が何を言われても反応すんなよ? どーせ混血悪魔の癖にとか神滅具頼りの分際でとか言われまくるから反応するだけ無駄だ。右から左に受け流せ」

 

「と言ってる本人が影人形のラッシュタイムを叩き込むにコーラ十本」

 

「おさけぇ~ひゃっぽぉん!」

 

「賭けにならねぇこと言ってんじゃねぇよ」

 

 

 そもそも馬鹿にされたなら殺気放ってぶちのめすからこいつ等の賭けは成立しない。だって俺に勝てるのってサイラオーグ・バアルぐらいだしなぁ……いや、流石にやり過ぎない程度に収めようとは思うけど再起不能にさせちゃったらごめんねテヘペロとかして許してもらおう。

 

 犬月達を率いて汽車にて魔王領へと移動、そこから地下鉄で会場を目指すんだが……面倒なのに捕まった。

 

 

「キャー! 影龍王様よ!」

 

「ノワール様ぁ! 応援してまーす!!」

 

「影龍王! 期待してますぜー!!」

 

「……なんすかこれ?」

 

「ノワールって混血悪魔だけど(キング)になった存在だから下級悪魔、混血悪魔から支持されてる。皆今の冥界特有の純血主義なんてクソくらえって感じなんだけど表立って言えないからノワールを応援して変えてもらおうとか考えてるんだよ」

 

「凄いですねぇ……あ、悪魔さんがどこかめんどくさそうな顔をしています」

 

「キマリス領でも今のように大騒ぎ、と言って良いんでしょうか? 似たような事になりますしノワール君自身もこういった事には慣れていませんから」

 

「そう言えば悪魔さんって蔑まれる事には慣れてますけど褒められると反発するツンデレ属性持ちでした! だ、大丈夫です悪魔さん! 私! ちゃんとわかってますからっ!」

 

「その優しさが痛すぎて泣きそう」

 

 

 別の意味でな!! そもそもツンデレ属性って何だよ!? 俺はヒロインか! そんなのは平家か四季音辺りにでも言っておけばいいんだよ。

 

 

「残念。私はヤンデレ属性持ち」

 

「心読むなっての。あぁ、とりあえず邪魔だからぶっ殺されたく無かったら道開けやがれ。応援ありがとう!」

 

 

 そんなこんなで無事に地下鉄に乗って会場前まで移動できた。はぁ……疲れた。もう帰りたいし水無瀬いじめたいし帰りたい。これが引きこもりの心情なのか……確かに今なら理解できる! 家がどれほど素晴らしい場所なのかとな!!

 

 会場に入ると使用人らしき人物が会釈をしてきた。どうやら他の若手悪魔がいる場所まで案内してくれるようだ……平家から目の前の使用人は心の中で見下してるよとか言ってきたけど当たり前だろ? 混血悪魔が他の純血悪魔と混じって会合に参加だぞ? 此処に来るまでの住民は兎も角、こういう真面目な場所で働いてる奴は大抵そういう奴さ。

 

 

「――どういう状況だよ」

 

 

 使用人に案内されてデカい扉の先に入ると生徒会長と同じように眼鏡を掛けたクールビューティーな印象を持つ女悪魔と顔とかにタトゥーを入れて緑色の髪を逆立てているヤンキーが一触即発の雰囲気で向かい合っていた。少し離れた場所には人の好さそうな優男が眷属と共にテーブルで飲み物を飲んで観戦してるが……マジでどういう状況だよ。いやそれよりもサイラオーグ・バアルや先輩、生徒会長はまだ来てないか……どうでもいいけど。

 

 

「あん? これはこれは混血悪魔の影龍王さまぁだったか? 良いご身分だな! 神器だけで眷属を持てる権利を貰えるなんてよぉ! どうせ後ろの女どもと毎晩アンアンしてんだろ? テメェのちいせぇ物じゃ満足できねぇだろうから俺が一発シコン――がはっ……!」

 

 

 なんかウザいし橘が怯えたから影人形のラッシュタイムを叩き込んで遠くの壁までふっ飛ばす。それを見た奴の眷属は一瞬だけ唖然とするも俺の方を見て弱い殺気を向けて襲い掛かってきた。だからこれは正当防衛という事で夜空をガチで殺し合う時に放つ殺気と共にラッシュタイムを叩き込んで主と同じ所までふっ飛ばす。威力はちょっとだけ加減したからこの後の会合も参加できるだろうが……うちの癒し枠を怖がらせた罪は重いぜ?

 

 

「ぐあぁ……!」

 

「弱いくせにキャンキャンと吠えんな駄犬風情が。うちのパシリでも見習ってろ、あと俺の女をその腐った眼で見ないでもらえますかねぇ……抉り取ってやろうか? あぁん? おらおら、さっきまでの威勢はどうしたんだよ」

 

 

 ラッシュタイムと壁にぶつかった衝撃で動けなくなっているヤンキー悪魔の(キング)の顔を足で踏みつけながら殺気を放つ。踏みつけられる痛みと殺気に怯んで何も言えないようだが……全くよぉ、怯えるぐらいなら最初っから喧嘩売ってくんじゃねぇよ。

 

 

「――影龍王、お礼は言いませんわ。あの程度の輩でしたら私でも対処出来ましたし」

 

「はぁ? なんでアンタから礼なんて言われないといけねぇんだよ。家のメンツなんかに拘ってっからあんな雑魚にいいように言われんじゃねぇの? まっ、アガレスのお姫様の危機を救ったって事で後始末お願いしますよ」

 

「私に命令ですか? 混血悪魔の分際で図々しいにもほどがありますわ。自分でした事なら貴方自身で片づけなさい」

 

「そうするとあいつ等がこの世から消えますけど良いんですか?」

 

 

 壁際の方でヒィッという声が聞こえる。恐らくさっきのヤンキー悪魔の眷属の誰かだろう……確か情報ではグラシャラボラスの本来の次期当主は事故死だったかなんかにあってあいつが代理って聞いてたけど弱すぎる。クソ弱いし王の権力で成り上がっていくタイプ……俺の嫌いなタイプだ。

 

 目の前の女――シーグヴァイラ・アガレスは冷ややかな目で俺を見てくるが冷汗が出ているのが丸分かりだ。流石の俺もアガレスの姫に拳を叩き込むような鬼畜じゃねぇし放って置くけどな。

 

 

「――静かだと思ったら影龍王殿が治めてくれていたか」

 

 

 入ってきた扉から声がする。その声の主こそ若手最強、紫の瞳と鍛え上げられた肉体を持つバアル家当主――サイラオーグ・バアル。その後ろには先輩達の姿もあるがそっちはどうでもいい……が流石若手最強、眷属の質も他とは比べもんにならねぇな。そこのヤンキー悪魔の眷属なんて霞んで見えるし現状、まともに戦えるのは俺か四季音ぐらいか。平家に水無瀬、橘に犬月はまだ成長段階だからギリギリ勝てるか普通に負けるかの二択って感じかねぇ。

 

 

「此処に入って来たらいきなり喧嘩売られたんでぶっ飛ばしました。お久しぶりです、フェニックスの婚約パーティー以来ですね」

 

「あぁ。あれからのご活躍、耳に入っている。堕天使の幹部コカビエルを苦戦無く倒したと聞いた、やはり影龍王殿は強いな」

 

「幹部って言っても雑魚でしたし。これが雷光の異名を持つバラキエルだったら話は違ってましたよ。とりあえずあれ(ヤンキー悪魔)は気絶させましたけど放って置いて良いですかね?」

 

「もうすぐ行事が行われる。スタッフを呼んで手当てぐらいはさせた方が良いだろう。おい、スタッフを呼んで来い! あとはリアスと影龍王殿と茶を飲むからテーブルと飲み物も用意しろ!」

 

 

 流石バアル家次期当主、気迫のある声で空気を一気に変えやがった。俺が吹っ飛ばしたヤンキー達はスタッフに連れられて別室で手当てを受けるらしい。大丈夫大丈夫、加減したからきっと参加できるって! なんか後ろの方で犬月達がドン引きしてる気がするけど気のせいだな!!

 

 そんなわけで御呼ばれをしてしまったため、俺と先輩、後から来た生徒会長、観戦していた優男とアガレスの姫、そしてサイラオーグ・バアルとテーブルを囲んで茶を飲むことになった。今更ながらスッゲェメンツ、魔王の妹二人に大公の姫、大王の次期当主、魔王を輩出した家出身……影龍王って肩書が無かったら俺は場違い筆頭だな。

 

 

「シーグヴァイラ・アガレスです。大公、アガレス家の次期当主です」

 

 

 一番手に挨拶をしてきたのはアガレスの姫、なんというか本当にクールビューティーだな。その冷たい視線で何人のドМを興奮させてきたのやら。

 

 

「リアス・グレモリーよ。グレモリー家次期当主です。以後お見知りおきを」

 

 

 ドヤ顔の先輩は放って置こう。

 

 

「ソーナ・シトリーです。シトリー家次期当主です」

 

 

 お堅い生徒会長が珍しくドレス姿だ……いやぁ、先輩の巨乳と比較するとあまりの壁っぷりに涙が出てくる。姉のセラフォルー様は揉みたくなるほどの巨乳だってのにねぇ、大丈夫だ! きっと成長するさ!

 

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしくお願いします」

 

 

 先ほどまで離れた所で喧嘩を観戦していた優男だが俺の後ろに居る平家がうえぇと吐きそうな顔をしてるから心の声は酷いものなんだろう……というかなんとなく視線が先輩のシスターちゃんに向いてねぇか? 何一目惚れなの? うわぁ、ご愁傷様。

 

 

「ノワール・キマリス。キマリス家次期当主、よろしく」

 

 

 適当な挨拶をすると約数名ほど苦笑する事態になった。別に良いだろ? 仲良くする気ねぇし。

 

 

「俺はサイラーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

 

 そして最後は我らがバアル家次期当主のお方。いやぁ、見事な覇気と堂々とした態度は尊敬したいほどだ。それに……フェニックスの婚約パーティーで会った時よりも強くなっている気がする。流石若手最強、自己鍛錬は欠かさないって事か。

 

 

「しかし影龍王殿がグラシャラボラスの凶児ゼファードルを叩きのめしていたのには驚いた。そのような事になるならばもう少し此処に居るべきだったな」

 

「もうっ、ただでさえ貴方は注目を浴びるんだからもう少し大人しくしても良いと思うわよ?」

 

「俺がそんな事できるわけないでしょう? 先輩だって赤龍帝にデュランダル、聖魔剣と色々と注目を集める存在が多いんですし大人しくしお嬢様してたらどうです?」

 

「お生憎様。私は私よ、お嬢様なんて柄じゃないわ」

 

「ははっ! リアスは確かのお嬢様と呼ぶにはお転婆すぎる。それが良いと言えるんだがな」

 

「もぅ! サイラーグも何を言うの!」

 

 

 和気藹々の自己紹介兼お茶会の時間もすぐに終わり、俺達は別室へを案内された。先ほどボコったヤンキーも何とか回復したようだけどダメージが抜けきっていないのかふらふらな状態だ……そこまで強く殴った覚えは無いんだけどねぇ。

 

 使用人に案内されて通された部屋は異質な空気、よく言えば厳格で悪く言えば見栄っ張りで権力にしがみ付く老害が俺達を見下している空気。個人的には後者の方が正しいと思う。俺達が立っている床よりも高い位置にある席には上役の奴ら、そのまた上には上層部の方々、そして頂点には我らが魔王の姿。今回は四大魔王勢揃いという素敵仕様だ……噂では怠惰な性格のファルビウム・アスモデウス様が居るのは驚きだ。てっきりめんどくさいとか何とか言って欠席するかと思ってたし。

 

 

「よく集まってくれた。この場は次世代を担う貴殿らの確認するための場だ……まさかそのような場で早々に騒ぎを起こす輩がいるとはな。しかも貴様か、ノワール・キマリス」

 

「喧嘩売られたんで買っただけですよ。殺さなかっただけ感謝してほしいものですね」

 

「……まぁ、良いだろう。サーゼクス様、お言葉をお願いします」

 

「忙しい中、集まってもらってありがとう。キミ達は若手悪魔の中でも家柄、実力は申し分のない次世代の悪魔達だ。だからこそ互いを認め、競い合ってもらい力を高め合ってほしいと願っている。既に耳にしている者もいるだろうが現在、禍の団と名乗るテロリストが各地を襲っている。何時になるか分からないがキミ達も戦に投入する事態になるかもしれない……それだけは覚悟しておいてほしい」

 

「――今すぐ、ではないのですか?」

 

 

 踏み込んだ質問をしたのはサイラオーグ・バアル。堂々としていて流石だなと言いたくなる。というか何時になるか分からないがって言ってたけどアザゼル普通に俺達を投入する気満々だったんだけど? まぁ、堕天使の総督と魔王じゃ話が違ってもおかしくないけどさ。

 

 

「敵の戦力はいまだ未知数だ。その状態で未来あるキミ達を戦に投入し、失う事態になってしまっては私達にとって大きな損失になる。だからこそ今は力を付ける事だけに専念してほしい」

 

「……分かりました」

 

「ありがとう。では互いを高め合うとして此処に居るキミ達でレーティングゲームを行ってもらおうと思う。勿論プロが行うルールでだ。今からその説明をさせてもらおうと思う――アジュカ」

 

 

 そこからはレーティングゲームの基礎理論を作り上げたアジュカ・ベルゼブブ様によるレーティングゲームの説明が始まった。もっとも聞かされた内容は王として悪魔の駒を与えられる際に勉強させられたものだったけど……というか魔王の話は聞くけど老害共の話なんて聞きたくねぇんだよ。いい加減さっさと隠居して死にやがれ。

 

 長い、クソ長いとも言える話も終わって魔王サーゼクスが俺達の今後の目標が聞きたいと言ってきた。目標、目標ねぇ……特にないんだけどどうしようか?

 

 

「――俺は魔王になる事が目標です」

 

 

 一番槍は我らがサイラオーグ・バアル。その堂々とした物言いに老害共も驚きながらも否定する雰囲気を出さずに頷いていた。まぁ、この人はアンタらよりも強いしな。

 

 

「――私はグレモリーの当主としてレーティングゲームで優勝する事が目標です」

 

 

 まぁ、当たり障りのない目標。先輩らしいと言えば先輩らしいな。俺もその線で行ってみるか……うんそうしよう。

 

 

「――私は冥界にレーティングゲームを学べる学校を作ることが目標です」

 

 

 空気が凍った。ゲームを学べる学校……生徒会長は老害から学べる学校は既にあるだろうと言う指摘に上級悪魔が通える学校ではなく、俺のような混血悪魔や転生悪魔、下級悪魔が通える学校を作ると堂々と宣言した。正直……侮ってた。すげぇの一言しか出ない。だって面と向かって私は今の冥界を変えるって言っているようなもんだしなぁ。俺としては応援したい目標でなんならキマリス家がシトリー家と協力してでも叶えさせたい目標だ――俺も混血悪魔だからその夢は非常に興味がある。

 

 他の若手悪魔、具体的に言えばサイラオーグ・バアルは少しだけ驚いた表情をしながら生徒会長を見ていた。俺と同じで老害共からいじめられた経験があるからだろう……興味を示してもおかしくはない。しかし現実は非情で最悪だ。

 

 

「ハハハハハハハハハ!」

 

 

 老害共が一気に笑い出す。そりゃそうだ……こいつらは純血主義で自分の権力しか興味のない奴らだ。心の中では魔王すら見下しているだろう。だから俺は――

 

 

「――ぷっ、くくっ、あははははははは!!!」

 

 

 笑いが止まらなかった。全員の視線が俺に集中して匙君や赤龍帝なんかは怒りの表情だ……安心しろ、俺は生徒会長に嗤ったわけじゃねぇから。

 

 

「ほぅ、流石に今の夢物語は貴様でも笑うか。そうだろうな、今の冥界は――」

 

「はぁ? なに勝手に同族扱いしてんの? 俺が笑ったのはテメェら老害のクソみてぇな脳みそ加減に笑いが止まらなかっただけだぜ? いやぁ、スッゲェわ。流石実力はカスなのに権力だけで成り上がった奴らは頭の回転が全然足りねぇ! さいっこぉ! 冥界終わってんな。ホントこれだから旧魔王派が離反すんだよ」

 

「き、貴様ぁ! 言わせておけば神器しか取り柄のない混血悪魔の分際で我らを愚弄――ひぃ!?」

 

「ちょ!? 王様!?」

 

 

 刃の腕をした影人形を数十体生成して魔王以外の老害の首元に突きつけた。余りの出来事に他の若手悪魔はドン引き状態だけど仕方ないねーだって侮辱されちゃったし―面白いし―。

 

 

「だからなに? 神器しか取り柄のない? ハハッ! 面白い事言ってくれるじゃねぇの! じゃあ聞くけどさ……先のコカビエルの事件、あれ解決したのはどこの誰ですか? 誰が殺してあげたんですか? 老害の脳みそでも分かるだろ――俺だろ。本来ならばテメェらが兵隊引き連れてでも止めるべき案件を俺が、俺達が解決してやったんだ。それに神器しか取り柄のない混血悪魔程度に王の地位と悪魔の駒を渡してきたのは誰だったかなぁ? お前等だろ? それともそんな事も忘れるぐらい頭が悪いのか?」

 

「き、貴様……我らにこのような事をして、どうなるか……!」

 

「どうなるの?」

 

「な、なにぃ……!」

 

「だからどうなるのって聞いてるんだけど? なに? 身内に手を出す? それとも王の位を剥奪? 別に良いよ。身内に手を出すっていうなら今ここでテメェらを殺すし王の位を剥奪するなら禍の団に移籍、いや堕天使勢力に行くのも良いな。それにさ……シトリー家次期当主の目標、俺は素晴らしいと思うんだよ」

 

 

 一歩前に出ると老害共は怯んだ。当然だ……ガチで殺す気の殺気を向けてんだしな。

 

 

「だって三大勢力が手を取り合ってるんだぜ? 冥界ではやっているレーティングゲームにそれぞれの勢力が興味を示してもおかしくはない。でも参戦できるのが悪魔、しかも上級悪魔だけってのは各勢力から色々と反感を買いかねないんじゃねぇの? だったらシトリー家次期当主が作った学校で天使、堕天使、悪魔の勢力が一カ所に集まってお勉強、素質のある奴を見出してゲーム参加を許すとかにすれば面白いと思うんだけどさぁ? 多分この程度はバアル家、アガレス家、グレモリー家の次期当主や魔王様も考えれると思うよ? だって神器頼りの混血悪魔の俺でさえ考えれるんだからな。あと下級と言っても俺の兵士のように才能の塊が埋まってる事もある……だというのにやれ伝統だの血筋だのとどうでも良い戯言で若手悪魔の夢を潰すなよ――分かってる?」

 

「な、なにが、だぁ!」

 

「お前らの言葉なんて誰も聞いてないんだよ。今は魔王様に俺たち若手悪魔の目標を伝えているだけだ……自分たちの真上に馬鹿にした女の子の身内が居るのにまさか爆笑するとは恐れ入るよ。いやぁ、お前達って魔王よりも偉いんだな」

 

 

 多分今の言葉の最後には(笑)が付いただろう。喉元に刃を突き立てられながら老害共は真上の席に居る魔王、具体的にはセラフォルー様を見つめ始めた。するとどうでしょう……笑顔だけど激おこ状態のセラフォルー様がいらっしゃるじゃないですか。だっせぇ。雑魚の分際で図に乗るからだよ。

 

 

「ち、違いますセラフォルー様! こ、これはですな……」

 

「じょ、ジョークです! 私達もあの混血悪魔が言った、いえ仰った事は考えていましたとも!」

 

「ソーナ・シトリー! 貴殿の目標は素晴らしいものだ! 是非叶えられるように頑張りたまえ!」

 

「あんなに爆笑してたのに掌返しスゲェな。シトリー家次期当主さん、その目標は俺は応援するよ。もし力が必要ならキマリス家は全力で支援するから考えておいてくれ」

 

「え、えぇ……ありがとうございます」

 

 

 魔王にぺこぺこと謝罪し始める老害共に呆れながら影人形を全て消失させる。と言うより順番的に俺の番か……今ので目標が決まったしさっさと行って次に繋げようか。それにしても周りからのドン引きな視線は何故だろう? 事実を言っただけなんだけどねぇ。

 

 

「色々とお騒がせして申し訳ありませんでした。まぁ、若気の至りって事で許してください。俺は今の生活で満足してますので老害、じゃなかった俺達よりも実力があって頭も良いお偉い方々も尊敬していますから。ちなみにですが俺の目標は老害が消え失せた冥界を作る事です。はい次どうぞ」

 

 

 言ってしまえばお前等邪魔だからさっさとどっか行けと言ってるようなものだが誰もが思ってる事だし別に良いよね。だって魔王様たちも止めなかったし!

 

 

「貴様……! どこまで我らを愚弄するか!!」

 

「何時馬鹿にしましたかぁ? 俺様、事実しか言ってないですよぉ? それに若手悪魔の目標をあそこまで馬鹿に出来るくらいお強いんですし俺程度の殺気にビビるわけないですよね? ただの混血悪魔の殺気程度、鼻で笑って無視できるはずですが?」

 

「……くっ!」

 

『ゼハハハハハハハハ!!! 傑作だ!! 面白れぇ! 面白れぇぞ宿主様!! さて――初めましてだったかぁ? 雑魚の顔なんざ覚えてねぇから初対面か二度目かなんて知らねぇがまぁ、良いだろう。俺様、影の龍クロム様だ。宿主様にビビってるクソ悪魔ども、よぉく聞けよ?』

 

「――影の龍」

 

「へぇ、あれがそうなんだ」

 

 

 相棒が話し始めた事に魔王様、特にアジュカ様とファルビウム様が興味を持ったようだ。話すのは良いけど空気を凍らせるなよ?

 

 

『俺様達は好きで此処に居る。テメェらのルールにも好きで従ってるに過ぎねぇんだよ。雑魚が俺様達を見下すのは我慢ならねぇ! 覚えておけ――悪魔風情が影龍王の邪魔をするな。それさえ守ってればお優しい宿主様はテメェらを殺さねぇから安心しろやぁ! ゼハハハハハハ!! あまりにも脳みそが足りねぇんで俺様からのお優しいアドバイスだ! アバヨ!』

 

『相変わらず空気を読まん奴だ。相棒ももう少し実力があればクロムのように言えたんだが……仕方あるまい』

 

 俺と赤龍帝の手の甲から伝説のドラゴンの声が聞こえたけどまぁ、スルーしよう。俺の素晴らしい目標を聞いて激おこ状態の老害共は魔王に処罰を等と言い始めたけど流石の魔王様、それほど自らの実力に自信があるならばゲームで見せてもらおうと華麗にスルー。きっと苦労してるんだろうなぁ……ちょっとだけ好感度アップだ。

 

 そんなこんなで俺が愉しかった会合は終わり、自宅へと帰る。いやぁ、疲れたね。

 

 

「疲れたね、じゃない。私達の方が疲れた」

 

「ほんとっすよ! マジで何してるんすか王様ぁ!? 上層部に喧嘩売ったらどうなると思ってんすか!? 最悪牢屋行きっすよ!?」

 

「ならねぇよそんなもん」

 

「何でそう言い切れるんすか……影龍王って言っても普通の上級悪魔でしょ?」

 

「ノワールは敗北さえしなければ悪魔側から見捨てられることは無いよ。だって光龍妃を抑える事が出来るのはノワールだけ。それがもし居なくなったら……どうなると思う?」

 

「……冥界が、消滅?」

 

「そうだ。あの規格外のお蔭ってのは癪に障るが先輩たちのようにバックには魔王ってな感じで俺の背後には夜空が居るんだよ。前に冥界の上級貴族が一族もろとも消滅した事件があっただろ? そんな事が起きても冥界は夜空を捕らえようとかはしなかった……恐れてるんだよ。冥界上層部は普通の人間である夜空にビビってる。そしてそれを抑える事が出来るのは俺ぐらい。まぁ、サイラオーグ・バアルも問題ないと思うけどアイツは今の所俺以外では満足しないっぽいし此処から俺が居なくなったら切っ掛け次第では冥界消滅だ」

 

「光龍妃はその場のノリと勢いで行動するからね。だからノワールの存在は大事。でもよかったね? 初戦の相手がバアルじゃなくて」

 

「俺としてはバアルが良かったんだけどなぁ」

 

 

 若手悪魔同士によるレーティングゲーム、その初戦の相手は――アスタロト家だった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

「相棒……!」

 

『あぁ! 宿主様ぁ!!』

 

「――出来たぁぁぁっ!!!」

 

 

 歓喜の声を上げながら地面に大の字になって横たわる。冥界に帰ってきてから約二週間ほど、水無瀬の修行の合間に俺自身の特訓と影龍王の再生鎧ver影人形融合の強化を行っていたが――とうとう完成した! 疲れたぁ!! まさかここまで時間が掛かるとは思わなかった……影人形融合を初めて作った時はすっげぇ簡単だったのにその強化となると今まで以上に俺自身の強化が必須だったとは思わなかった。でも、出来た! 俺だけの武器で俺達だけの切り札!!

 

 

『まずはおめでとうと言っておこうか。やったな宿主様ぁ!! これは俺達の武器になるぜ! ゼハハハハハハハッ!! これを目の当たりにした悪魔共はキャーコワイィ! とか言って引きこもりたくなるほど恐怖を味わうだろう!! 流石俺様の宿主様だぜぇ! 想像をはるかに超える成長っぷりに俺様、涙が出ちゃう!』

 

「ありがとよ……犬月達も死ぬ思いをしてレベルアップしてるのに俺だけ立ち止まったままじゃカッコつかねぇしな。完成させる事が出来てホントに良かったよ……もっとも、一番の収穫は水無瀬が禁手に至った事だけどな」

 

 

 若手悪魔の会合が終わり、アスタロト家次期当主とのゲームが決定してから俺達は今以上に特訓に集中した。理由なんて単純だ――アスタロト家の奴らに圧勝する事。それだけを考えて特訓に特訓を重ねてきた。特に犬月はセルスと親父のコンビ相手に戦っていたが今では四季音と共にドラゴンと殺し合いをしているらしい。何回も死ぬ!? 死ぬっすぅ!? と叫んでいたのは記憶に新しいが……諦めてはいないらしく何度叩きのめしても立ち上がる諦めの悪さがドラゴン達を地味に恐怖させたとか何とか。お前は邪龍か。

 

 平家は東雲が使う「蒼天一刀流」という剣術を完全に会得したらしい。なんでも覚妖怪だから真似るのは得意とか言ってたけどそういう次元じゃねぇだろ……東雲も唖然としてたぜ? でもどこか嬉しそうだったけどな。今は剣術と魔力の扱いを同時に鍛えてるみたいで順調にレベルアップ中だ。

 

 橘は親父の僧侶、ミアともう一人の僧侶であるムキムキハゲに色々教わった結果……アイドルって何だっけ状態になっちまった。いや自分なりの魔力の使い方を考えろって言ったのは覚えているしその結果、あの使い方を思いついたのは素直に凄いと思う。でも……お前ってアイドルだよな? 休業してるとはいえアイドルだよね? 絶対にムキムキハゲのせいだろ!! テメェマジでうちの癒し枠になんてもんを教えてんだよ!! あの犬月でさえ絶句してたんだぞ!! 多分……悪魔や魔物相手だったらよほどのことが無い限り負けないんじゃないかなぁ。あっ、俺でも下手すると死ぬ。マジで死ぬレベル。

 

 そして一番の成長株の水無瀬は俺との鬼ごっこと称した殺し合いの末に禁手に至った。どうやら亜種のようで俺好みの能力に変化しやがった……俺とコンビを組めばやりたい放題できるだろう。禁手に至った時は水無瀬も信じられないという顔をした後、感極まって大泣きし始めて困ったのは記憶に新しい……つい流れで俺の胸を貸したけどやっぱりおっぱいって素晴らしいな! むにゅだぞ? 俺の胸板にあの柔らかいマシュロおっぱいがぶつかって変形したんだぞ? 最高じゃねぇか!! とりあえず時間掛かった罰と称して数分間揉んだけどあれは良い感触だった。マジでマシュマロだった。

 

 四季音? あぁ、アイツはいつも通りだよ。ドラゴン相手に無双して妖力が数倍膨れ上がってた。流石酒呑童子に血を引く存在ってか? 出鱈目すぎんだろ。

 

 

『だなぁ。やっぱりあれは良い女だぜぇ、俺様好みの能力まで発現しやがったんだしなぁ。宿主様、アスタロトなんざ敵じゃねぇ!! 徹底的にいたぶって嗤ってやろう!!』

 

「そうだな。今の俺達は負ける気がしない……でも油断は禁物だ。ルール無用の実戦なら兎も角、ルール有のゲームだからな。審判の判断次第で軽いダメージでも撃破判定されかねない。その辺も注意していかないとダメだと思うぜ……もっとも、犬月達が負けても俺が無双するから別に良いんだけどな」

 

『宿主様に勝てる奴なんざユニアの宿主か白龍皇、魔王のようなトップ勢だろう。あとはサイラオーグつったかぁ? アイツもだろうぜ。ゼハハハハハハ! 宿主様! もっと強くなれ! 歴代最強の影龍王の名に恥じない様にもっともっともっとぉ! ありとあらゆる存在を駆逐しろ! 喰らい尽くせ!! 歴代を俺様達色に染め上げるのも時間の問題よぉ! それさえ完了すれば――出来るぜ。覇龍の強化版がなぁ!』

 

「あぁ。相棒が負の邪念に染め上げた歴代達の半分は俺達色に染め上げた……あと半分か。道は長いな」

 

『あったりめぇよ! 俺様が染めたんだぜ? 楽な道なわけがねぇさ!』

 

「威張るな……ちっ、本当なら少し休んで状態維持の特訓をしたいが時間的にアウトか。たくっ、若手悪魔のためのパーティーって名目の親父世代の交流会になんで出席しねぇとダメなんだよ」

 

『サボっても誰も文句は言わねぇと思うぜ?』

 

「サボったら母さんが五月蠅いんだよ」

 

 

 そんなわけで誠に遺憾ながら参加しないとダメなので特訓を中断、自室に戻ってベッドに横になる。恐らく疲れていたのか一気に夢の中へご招待されて気が付けば昼間だった……でもびっくりしたわ。目が覚めたら右隣に平家、左隣に橘、そして俺の体の上に四季音が何故か居たんだもんな。右は壁、左は素晴らしい、身体の上はお察しですが……せめて橘が体の上に乗れよ!! そうすればノワール君のノワール君が起き上がって素晴らしい事になるから!! ちなみに水無瀬はじゃんけんに負けて潜り込めなかった模様。悲しい。

 

 

「死ねばいいのに」

 

「元はと言えば人が寝てるベッドに潜り込んだテメェが悪いんだろうが。水無瀬と橘はいつでも潜り込んでも良いが壁のテメェらに添い寝されてもなにも嬉しくはないんだよ」

 

「ちっぱい好きな癖に」

 

「生憎、俺が一番好きな女の部位は脇だ。おっぱいも嫌いじゃないけどな」

 

「知ってる」

 

 

 それもこれも四六時中ノースリーブミニスカ姿というどっかの規格外が全部悪い。あそこまで脇を見せられたら好きになるに決まってんだろ……脇ってエロいよな。異論は認めねぇ。しかし橘さん? なぜ貴方はメモ帳か何かに書いておられるんですかねぇ? まさか見せてくれるの? よっしゃテンション上がるわ! いやだからその変態っていう視線止めてくれない? 俺はМじゃねぇから興奮しないぞ。攻められるよりも攻める方が大好きなドSだ。

 

 そして夕刻、準備が整った俺達は汽車に乗って会場であるグレモリー領を目指す。何度か長距離移動用の魔法陣を通って駅に着いた後は俺の使い魔、ヴィルを含めたワイアームの集団の背に乗って空から会場入りをする事にした。なんだかんだで普通に乗り換えとかするよりも速いし騒がれる心配もない……ワイアームと言う種族は飛行が得意だから快適な空の旅も楽しめる。まさに一石二鳥だ。ドラゴンに乗る事が初めてなのか橘は終始興奮していたけどそのせいでおっぱいが縦に揺れていた……素晴らしい。

 

 

「――あれ? タンニーン様?」

 

「むっ、影龍王か。直に会うのは久しぶりだな」

 

 

 あらかじめ決められていた着陸ポイントに到着すると俺達以外のドラゴンの姿があった。圧倒的なまでの力の塊、ドラゴンの中で悪魔に転生して最上級悪魔となった存在――タンニーン様。その近くにはグレモリー先輩や生徒会長、その眷属達が居るけどなんで一緒に居るんですかねぇ? まさかまた魔王か? またシスコンなのか? もう悪魔側から堕天使側に移籍も検討しようかなぁ。

 

 

『ゼハハハハハ。久しいなぁタンニーンちゃん。なんだなんだぁ? なんで赤蜥蜴と一緒に居んだよぉ? テメェが一介の悪魔に構うなんざ珍しいじゃねぇの』

 

「サーゼクスから頼まれたのだ。今は赤龍帝を鍛えているがお前は……言わなくても分かるぞ。強いな、今代の影龍王は歴代の中でもトップクラスかもしれん。昔に会った時よりも成長し続けているようで何よりだ」

 

『あったりめぇよ! 俺様の宿主様は最強の影龍王だ!! 今度のゲームなんざ圧勝よ! にしてもいいのかぁ? 最上級悪魔のテメェが下級悪魔を鍛えるなんざ不公平だぜ? ちったぁ自分で訓練ぐらいできねぇのかよ?』

 

「そう言うな。最弱の赤龍帝が育たねば禍の団との戦いで死ぬかもしれん。そう言った事を考えての判断だろう――まぁ、言いたいことは分かるがな」

 

「……文句言いたい気持ちはありますけどタンニーン様にはこっちの我儘も聞いてもらっていますし流します。領民のドラゴンはどんな感じですか?」

 

「楽しんでいる様だぞ。特に影龍王の兵士の諦めの悪さには畏怖の念も感じる奴もいる。良い眷属だ、酒呑童子共々ちゃんと育てるがいい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 最上級悪魔で先輩ドラゴンのこの人に褒められるのは悪い気はしない。後ろの方では照れた様子の犬月、普段通りの四季音と言う対比が出来上がっている。どっちもドラゴン相手に一歩も引かないで戦いを挑んでるようでタンニーン様の領地に住んでいるドラゴン達はかなりテンションが上がってるらしい。それを聞かされている先輩達はドン引きしてるけど……あっ、なんか赤龍帝だけは共感できる部分があったのか犬月と熱い握手をして抱き合ってる。お互い涙を流しているところを見るとドラゴンと殺し合いをした奴しか分からないものがあるんだろうな。

 

 

「犬月ぃ!! お前も!! お前もドラゴンと戦ってたのかぁ!! 辛かったよなぁ!!」

 

「いっちぃ!! 辛いぜ!! めっちゃつらいぜ! 何度死んだか分かんねぇよぉ!!!」

 

「俺もだぁ! 部長のおっぱいの感触も味わえず山に籠って修行だぞ!? 死ぬって言ってるのに何度も火を吐かれて野宿して……大変だったんだぞぉ!!」

 

「俺もだぁ! ししょーは大丈夫このぐらいでは悪魔は死にませんって言って思いっきり殺す気で来るし酒飲みと一緒の場所でドラゴンと戦ってたらなんか横からぶっ飛ばされてきたのに当たるし! もう死ぬぅ!!」

 

「犬月ぃ!!」

 

「いっちぃ!!」

 

「――すまん、本当にすまんお前等!! 俺も……俺もドラゴンと戦えばお前たちの苦労を分かる事ができるのか……! 会長!! 俺も、俺もドラゴンと戦わせてくださいぃ!!」

 

「匙!?」

 

「げんちぃ!!」

 

「匙ぃ!!」

 

「兵藤!! 犬月!!」

 

 

 なんか男の友情が芽生えてる気がする。いやそれよりも取り乱した生徒会長可愛い。マジ可愛い、これを写メ撮ってセラフォルー様に送ったら感謝されるんじゃないだろうか。

 

 

「感動のシーンをしているけどさぁ、タンニーン様に鍛えてもらえるなんて贅沢にもほどがあるのに泣く要素どこにあんだ?」

 

「ノワールと違うから普通だと思うよ。良いじゃん、どうせ魔王と総督の援助有りで強くなっても評価されない時はされないんだし。きっと最上級悪魔に鍛えてもらったって知られたら色んな所から文句来そうだけど私達には関係ないからスルーしとこうよ」

 

「……本人が目の前に居るのにズバッと言うなぁ。事実だから否定できねぇけどよ」

 

「否定してください……お願いですから否定してください……!! も、申し訳ありません!! よく言って聞かせますから!!」

 

 

 否定とか無理だよ無理。だってタンニーン様がサーゼクスから頼まれたって言ってたしその通りだろ? 此処にはいないがアザゼルも先輩たちの特訓の手伝いをしてるだろうしズルいにもほどがある。これがもし「サーゼクスから頼まれた」じゃなくて「リアスから頼まれた」だったら先輩に対する好感度と尊敬ポイントが急上昇だったんだけど残念ながらそんな事は無いよねぇ。はぁ……死ねばいいのに。

 

 

「……いえ、事実だから気にしなくてもいいわ。でもキマリス君、それは貴方も同じ事よ? いくら影龍王でも評価されなければただの上級悪魔になってしまうわよ?」

 

「あっ、俺は評価とか全然どうでも良いんで。むしろ上級悪魔として扱われてもいないんで低評価だろうとなんだろうと痛くも痒くないんですよねぇ。まっ、今の言葉は魔王様からの支援を受けられない多くの悪魔達からの言葉って事で許してください。タンニーン様がただの下級悪魔を鍛えるなんて滅多にないんですからこれぐらい言われても文句はないでしょ?」

 

「まーた喧嘩売ってるっすよ……まぁ、いっちぃ。王様はお前らの事を嫌ってはいないんで安心しろって。普通にツンデレ体質なだけだからさ。前に偉い悪魔全員に喧嘩売ったのもそれっすからね」

 

「はぁ? 何バカな事言ってんだ? あれは普通に共感できたのに権力に囚われてるアホ共に呆れたからやっただけだよ。良いじゃねぇか、混血や下級がゲームを学べる学校があってもよ。あんな目に合うのは俺ぐらいで十分なんだよ……と言うわけで生徒会長? 前に言った事はマジなんで支援が必要なら遠慮なく言ってください」

 

「……えぇ。影龍王の支持があるなら実現は近いわ。もし実現したら……王として何を学ぶべきかをキマリス君が先生として生徒に教えてもらいたいわ」

 

「ざーんねん。俺が教える事が出来るのは反逆精神ぐらいでそんな大層な事を教えられるわけないですよ。それじゃ先に会場に入るんでこれで失礼を……タンニーン様。もしお時間がありましたら一度手合わせをしていただけると幸いです」

 

「構わん。今代の影龍王がどれほどのものかを確かめてみたいしな。クロム! 珍しくお前が協力しているんだ、見捨てるんじゃないぞ」

 

『ゼハハハハハハッ!! 俺様が宿主様を見捨てるわけねぇだろ! 俺様の息子だぜぇ? 親として傍に居るのは当然なのよぉ! じゃあなタンニーンちゃんに赤蜥蜴! 次に会ったらきっちりと殺してやっから覚悟しとけよ!』

 

 

 先輩方と別れて先に会場内へと入る。本来であれば各御家の方々にご挨拶をするべきなんだろうが俺様の有名度の格は違うからな! 会場入りをした俺達を見て先ほどまで盛り上がっていたのが嘘のように静まり返って全員が俺達を見ている。平家曰く「さっさと出ていけ」だそうだ。流石俺様だ! 晩飯分を食ったら帰るとしよう。特訓優先で此処に来たのも親のためだしな。

 

 それを理解している平家は近くのテーブルの料理を無言で食べ始め、四季音は酒寄越せと叫びながら手当たり次第の瓶や樽を飲み始める。水無瀬は四季音を止めるべく行動を始めるけど無理だろ……だって鬼だぜ? 自分の欲優先で酒があるなら飲みきるまで飲むのが礼儀って考えてる奴だから止まるわけがない。そんな光景を見ていると俺達に遅れて先輩方が会場入り……するとどうでしょう! 先ほどまで静かになっていたのが嘘のように盛り上がりました! いやぁ、美人に弱いってのは人間も悪魔も同じなんだな。

 

 

「すっげぇ人気。流石グレモリーとシトリーってかぁ? 王様の方が強いのにどうしてこんな差があるんすかねぇ?」

 

「純血悪魔と混血悪魔の違いだろ? 悪いな、こんな王様じゃ悪い空気にしかならなくて辛いだろ?」

 

「全然。むしろこっちの方が居心地良いっすわ。王様が主でよかったすよ」

 

「はい! 私も悪魔さんが主様でよかったです! あと、悪魔さんじゃなかったら悪魔に転生なんてしません!」

 

「……変わってんなぁ」

 

「とか言いつつ内心では喜んでいるノワールであった、まる」

 

「嘘言ってんじゃねぇよ」

 

 

 いつの間にか隣に立っていた平家に心で思った事を暴露されてどうしようとか思ったがいつも通りだし気にしなくていいか。しっかし大変だねぇ? 魔王の妹で容姿端麗だから色んな所に挨拶に行かないとダメとかめんどくさいだろうに。その点で言えば俺達は話しかけられる事なんてないから静かに飯だけ食えるからありがたい――と思っていた時期が俺もありました。

 

 

「ご、御機嫌よう。キマリス様、お話ししてもよろしいかしら?」

 

「この私たちがお声をかけたのですから当然受けてもらえますわよね?」

 

 

 空気を読まずにフェニックスの双子姫が話しかけてきた件について。マジでどうしよう……いやそんな事よりもデケェ。ドレス姿だからとある一部分が自己主張してるから目線がそっちに行っちまうよ。背が低いのに何でこんなにデカいんだ? ロリ巨乳って流行ってるの? うっそだぁ!! 俺の近くに居るロリ枠ってちっぱいなのにどこで差が付いた。

 

 

「――当然ですよ。お久しぶりです、レイヴェル様にレイチェル様。フェニックスとグレモリーの婚約パーティー以来ですね」

 

「えぇ。キマリス様もご活躍なされているようで何よりですわ。もっとも私の恩人ならば当然ですけども! 」

 

 

 豊満なお胸を張ってドヤ顔、凄く可愛いです。

 

 

「お噂ではアスタロト家の次期当主とゲームをされるようですわね。キマリスさまならば勝利は確実、私やレイチェルも応援しておりますから敗北などなされないようにお願いしますわ」

 

「流石にあの程度に負ける事は無いですよ。まぁ、応援感謝します」

 

「えぇっ! もし敗北されたならば許しませんわ! フェニックス家の名誉のためにもぜひ勝利を飾ってくださいませ」

 

「……なんでキマリスとアスタロトのゲームの勝敗がフェニックス家の名誉になるんでしょうか?」

 

「色々とありますの。お母様もキマリスさまならば妹を眷属に――」

 

「こ、コホン! コホンコホン!! お、お姉様ぁ? 赤龍帝も会場にいらしたのですしご挨拶されて来てはいかがかしら? えぇ、フェニックス家の双子姫と称されたお姉様なら当然行きますわよね!」

 

「な、何故私が赤龍帝のような下級悪魔にあ、挨拶をしなければいけないの! め、目が怖いわよもうっ。で、でもそうね……下級とはいえ赤龍帝ですもの挨拶をしなければフェニックス家の恥になってしまいますわ。キマリス様、申し訳ありませんが妹をよろしく、よろしくお願いしますわね!」

 

 

 胸を揺らしながら離れていく縦ロールだからレイヴェルだけど……めんどくせぇ! ツンデレがマジでめんどくせぇ!! あの態度は絶対に惚れてるのに気のない振りを見せないといけない、だけど話をしたいっていうのが丸分かりでマジでめんどくせぇ!!!

 

 というよりレイヴェルが眷属云々って言ってたけどまさかフェニックス夫人はレイチェルを俺の眷属に加えようとしてんのか? おいおい正気か? そんな事をしたら冥界中から暴動が起きるぞ?

 

 

「……お姉様のお見苦しい所をお見せしましたわ」

 

「あぁ、うん。赤龍帝に惚れたんだろ?」

 

「えぇ……お兄様を倒した時の雄姿にコロッとですわ。もうっ、姉妹だからと言って此処まで似なくても――ち、違いますわ!! 私は赤龍帝にひ、一目惚れなんてしていません! えぇっ! 私の好みは別ですもの!」

 

「……ノワール。このお姫様が言ってることは嘘だよ。ちゃんと赤龍帝に惚れてるから応援してあげなよ」

 

「マジかよ。えっと、姉妹仲よく、な!」

 

「違いますわ!! 覚妖怪……嘘を言うのも大概にしてくださる? 普段からそのような事をされるから貧相なお胸を持ってしまっているのですわ。嫌ですわぁ、下級悪魔はこれだから困ります」

 

「……肩こりに悩まされなくて楽ちんだし問題ない。それにデカすぎて引かれるよりはマシ」

 

「僻みかしら? あらごめんなさい。私、毎日肩こりに悩まされてしまっていますの……あぁ、分けて差し上げたいですわぁ」

 

「斬り落としてほしいなら今すぐ落とすよ?」

 

「……王様ぁ、なんすかこの空気……!」

 

「持つ者と持たざる者の対立だ」

 

「おっぱいとちっぱいの戦争っすね。俺なら迷わずフェニックスに付きますわ」

 

「デカいもんなぁ。ちっぱいも嫌いじゃないんだけどデカいのを見るとどうしても目が行っちまうし揉みたくなるよなぁ。レイチェルのだったら迷わず揉みたいね」

 

「流石っす王様……! 普通は言いませんよ!? 目の前に居るのに!?」

 

 

 大丈夫だって。レイチェルは平家との口喧嘩もどきで忙しいし聞いてない聞いてない。でもマジでデカいな……レイヴェルも体型の割にはあるけどさ、姉妹でここまで似るもんかね? しっかし赤龍帝もスゲェな。グレモリー眷属の他にレイヴェルまで落とすとは……ドラゴンってやっぱりスゲェな。流石宿すだけでハーレムを築ける存在だよ。

 

 そんな事を考えていると体が重くなった。理由は分かっている……俺の視界には素晴らしい光景が見えているんだからな……! すべすべもちもちの太もも! そして柔らかい感触! 頭の後ろに当たる素晴らしい感触!! はい来ましたー! 規格外の夜空ちゃん登場です!!

 

 

「テメェ、いきなり人の体の上に転移してくんじゃねぇよ。太ももの感触が素晴らしいですありがとう!!」

 

「でっしょぉ? この夜空ちゃんの太ももの感触を味わえるんだから許してね♪ てかぁ!! なぁんで冥界に居んのさぁ!! ノワールの家に行っても誰も居なくて寂しかったじゃん!! あっ、ノワールのベッドなんだけど私の匂いついてるけど気にしないでね。何日か使わせてもらったからさ」

 

「マジかよ。サンキュー夜空、なんなら匂いが抜けなくなるまで使ってくれても構わんぞ。いやむしろ使え! 使ってください!」

 

「えぇ~? そうなるとノワールのオカズになっちゃうしなぁ~? てかマジでなんで冥界に居んの? 探すのスッゲェ疲れたじゃんか!!」

 

「仕方ねぇだろ? 若手悪魔の会合っていうくっだらねぇ行事に呼ばれたんだしよ。てかお前の方こそ音信不通だったが何してたんだよ?」

 

「うん? ヴァーリとラーメン食べて~殺し合いして~オーフィスと遊んで~色々お散歩してたよぉ? てかさぁ! 赤龍帝に一発文句言いたいんだけどぉ!! 私のお気に入りの私服が消し飛んで困ってんだけどぉ!!」

 

 

 俺の肩に座っている夜空はぷんぷんと無い乳を揺らしながら文句を言っている。そう言えば着てる服が今までと違うな……今まではノースリーブミニスカだったのに今着てるのは半袖シャツとミニスカだ。うん? 半袖? おい脇は? 脇はどうした? テメェと会う理由の半分以上はお前の脇を見るためなんだけど何故隠す! いや待て……半袖からチラッと見える脇ってのも素敵じゃないだろうか。どう思う相棒!!

 

 

『ゼハハハハハ。俺様、どうでもいい』

 

「おい」

 

「何がどうでも良いん? つかさぁ――何この空気? うっぜぇんだけど」

 

 

 まぁ、夜空が怒るのも無理はないな。和気藹々、楽しくパーティーしましょうとしている時に光龍妃が現れたんだ。動揺もするし警戒もする……目の前に居るレイチェルも固まってるし犬月達も同様だ。周りに居る貴族悪魔たちも同じような事になってるけどそっちはウザい。部屋の入り口付近では衛兵が待機してるがまさか捕らえようとか無謀な事を考えてるんじゃないだろうな? しかも外に変なのもいるな……気の流れっていうか妖気って言えばいいのか? そんな感じの奴が一点に集中してやがる。しかも最初からじゃなくていきなり現れた感じだな――あぁ、そういう事ね。

 

 

「さぁ? 別に気にしなくて良いんじゃねぇの。夜空、ここにある飯は全部タダ飯だから好きなだけ食って良いぞ」

 

「マジか!! よっしゃぁ! 食べるぅ!! ノワール、皿とってぇ」

 

「テメェ、人の頭に食べかす落としやがったら押し倒して処女奪うからな」

 

「出来るもんならやってみなぁ~うんめぇ!! さっすがごちそうだよね! 最高に美味いぃ!」

 

 

 この野郎……いつか絶対押し倒して孕ませてやるぅ!

 

 

「……なぁ、夜空」

 

「ひゃにぃ~?」

 

「お前さ、外に変なの連れてきただろ?」

 

「ありゃ。この距離でも気づくん? なんか成長してない? まぁ、ぶっちゃけると禍の団の一人を適当な場所に落としたよぉ? ヴァーリに頼まれちゃってさぁ……そうだよ聞いてよノワール!! あのさぁ!! ヴァーリの所にすんげぇ巨乳の猫又がいんだけどこれがマジでデケェの! もうスイカ並みだぜ!? ありえねぇっしょ!! あっ、なんか機会があったらノワールに会いたいって言ってたよぉ? ドラゴンの子種が欲しいんだってさ」

 

「マジで!? おい、マジで巨乳か? 美人か? マジで子種欲しいの?」

 

「らしいよぉ? ヴァーリにエッチしよって言ったら断られたんだって。んで同じくらい強いノワールに目を向けたって事さ。モテるねぇ~うりうり、ふとももサンドぉ」

 

 

 自分の太ももで俺の頭を挟み込む夜空だがなんとなくキレかけてる……嫉妬か! おぉ嫉妬なのか!? よっしゃまだオスとして見られてるって考えて良いな! てか禍の団の一員を落としてきたって何気にとんでもない事してんじゃね? まぁ、どうでもいいけど。

 

 

「……王様、なんか今、禍の団の一人を落としてきたって聞こえたんすけど? いや確かにさっきから外の方で変な妖気を感じるけど……まさかそれぇ!?」

 

「だろうな。でも俺達には関係ないしほら、周りに居る俺達よりも強くて偉い悪魔さん達が成敗してくれるって」

 

「いやいやいや!? そこは止めましょ!? 光龍妃とガチで話し合えるのって王様ぐらいなんだから止めてくださいよぉ!!」

 

「ヤダ」

 

「もうやだぁ! この王様マジで頭おかしぃ!!」

 

 

 失礼な奴だな。俺ぐらい悪魔として、邪龍として頭が正常な奴はいないぞ。このやり取りを聞いていた周りの悪魔さん達は衛兵を呼んで俺達を取り囲んだ。ご丁寧にフェニックスの姫であるレイチェルを護るように俺達から離してな――まぁ、犬死にご苦労さん。

 

 一瞬の光、たったそれだけで俺と夜空を取り囲んでいた衛兵が消し飛んだ。俺の肩に座っている夜空は器用に俺の頭をテーブル代わりに持っていた皿を置いて先ほど衛兵を呼んだであろう貴族悪魔を指パッチン一つで消し飛ばす。この容赦なさっぷりは流石光龍妃だなと褒めたいぐらいだ。

 

 

「うっぜぇ。私がノワールと楽しく話してんのに邪魔すんじゃねぇよ。なんかムカついたからここ消し飛ばすかぁ!」

 

 

 ほらぁ。余計な事をしてくれたから他の上級貴族たちの命も危なくなった。個人的にはどうぞお好きに消し飛ばしてくださいなんだけど双子姫が居るから流石に止めるか。もし来てなかったら止めずに転移して上空から光に飲まれる会場を見たかったなぁ。

 

 

「……余計な事してくれたなぁ。夜空、とりあえず消し飛ばす前に俺と殺し合わないか? 今なら――面白いものが見れるぜ?」

 

「――へぇ。そっかぁ! そんじゃ今すぐ殺し合いすんぞぉ!! にひひ! 面白いもの大好きぃ! だからノワールは大好きなんだぁ!!」

 

「俺もお前の事は好きだぞ。だから付き合ってくれ」

 

「え? ヤダ」

 

 

 おかしい。今の流れだと照れて女の子な夜空ちゃんが見れると思ったんだけど普通に流されたと言うか断られた件について……マジでぇ!? まぁ、はいと言われても困るんだけどさぁ、このなんて言ったらいいの? すっげぇ空しい気分になってんだけどなんだろう……泣きたい。

 

 

「はぁ……夜空、殺し合おうか」

 

「いぇーい!」

 

「……しほりん、さっきの王様が主でよかったってセリフ、取り消してもいい? し、しほりん? あ、あの志保様?」

 

「今のって普通に告白ですよね、えぇそうですよね、きっときっと本気で言いましたよね。確かにお二人は私が出会う前からお知り合いで仲が良いでしょうけどもいきなり言いますか、言っちゃいますか。私、胸には自信あるんですけどもしかして悪魔さんは小さい方が良いのでしょうか? い、いえそんな事はありませんあるはずがありませんとも。本では男の人の大半は胸が大きい人が良いと書いていましたし私の寝間着姿にも興奮してくれていましたからきっと大丈夫、大丈夫です自信を持ってください橘志保。相手は強大でも私は悪魔さんの僧侶なんです。えぇ、僧侶なんです僧侶になったんです」

 

「――せんせー!! しほりんがこわいぃ!! そんな酒飲みなんて放って置いて帰ってきてくださいっすぅ!!」

 

 

 とりあえず俺のテンションと橘の様子が激変、ついでに周りの空気も最悪なので戸惑った様子のレイチェルに今度遊びに行くと言って夜空を肩車したまま会場を後にする。出る前に夜空が思い出したように先ほど消滅した貴族悪魔のご家族と思われる方々を見つめて――光を放って消滅させた。まぁ、自業自得だよな。いやぁ、流れる様に惨殺するのはいつ見ても惚れるね。

 

 

「んじゃ! はっじめよっかぁ!!」

 

「はいはい。言っておくがまだ完成したばっかで未調整だ、お前との殺し合いで調整していくからガッカリすんじゃねぇぞ?」

 

「しないってぇ! さぁ! ユニア!! いっくよぉ!!」

 

『えぇ。始めましょうクロム! 貴方と貴方の宿主が得た新しい力を見せてください!』

 

『ゼハハハハハッ!! 後悔すんじゃねぇぞユニアァ!』

 

「――死ねよ!! 夜空ぁ!!」

 

「――殺してやるよノワールぅ!!」

 

 

 何度もぶつかり合う中で俺は思った……先輩の事を悪く言えないなと。先輩には魔王が居るように俺には夜空が居る……あぁ! 魔王なんかよりも最高に頼りになる奴が傍に居る!!

 

 こうして俺達の特訓期間は過ぎていく。




お願い、死なないでディオドラ!
あんたが今ここで倒れたら、アーシアとの輝かしい未来はどうなっちゃうの?
オーフィスの蛇はまだ残ってる! ここを耐えればノワールに勝てるんだから!

次回、「ディオドラ死す」。デュエルスタンバイ!

※嘘予告です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話

「王様、ついにやってきましたね」

 

「そうだな」

 

 

 駒王学園の制服に身を包んだ犬月は気合十分と一目で分かるぐらいやる気に満ち溢れていた。なんでと聞かれたら今日はアスタロト家次期当主とのゲーム当日、今までの修行の成果を見せつける機会だからな。それは犬月だけじゃなくて巨乳美乳コンビの橘、水無瀬も同じように気合が入っているが……なんか水無瀬の方は緊張も混じってんなぁ。変に気張られてるとこっちに迷惑がかかるしどうにかして元に戻さねぇと……とりあえずそれは後でやるとしてちっぱいコンビの平家と四季音はと言うと至って普通、今まで通りだ。片方は酒を飲み、片方は携帯ゲーム機で遊んでいる。たとえ大事なゲーム当日であろうとそれだけは変わらないしこいつら自身も変えるつもりは無さそうだ……まぁ、変に緊張してるよりはかなりマシだけどな。

 

 しかし統一感を出そうという親父と母さんのアイディアで学生じゃない四季音も駒王学園の制服を着てるけど……似合いすぎだろ。見た目が完全にロリだからか違和感が仕事をしていない、おかしい! マジでおかしい! 水無瀬でさえ自分の年齢的に無理ですと断って私服の上から白衣だってのに俺達以上の年齢を持つこいつが制服を着て似合っているってのはなんかこう、おかしい! でも個人的には有りだ。うん。

 

 

「今まで頑張ってきたんです。悪魔さんのためにも頑張っちゃいます! ちゃんと見ててね♪」

 

「勿論見るに決まってんだろう。むしろお前以外は絶対に見ないと言っても良い」

 

「いやいや!? せめて水無せんせーも見てあげましょ!? 一番修行で頑張ったんですから!? あっ、しほりん! 俺も見てるっすよ!!」

 

「ありがと♪ 志保、頑張るね!」

 

「イヤッホー!! よっしゃぁ!! 犬月瞬気合十分やる気満タン!! どんな奴が来ても負けねぇっすよ!!」

 

「パシリが負けるにコーラ一本賭ける」

 

「う~んぅ、わたしぃはいいかなぁ~かつっしょぉ~? このぱしりぃはつよくなったもんねぇ」

 

「花恋が言うって事は相当だね。それじゃあ取り下げる」

 

「テメェ……人の勝ち負けに賭け事持ち出すんじゃねぇよ!! テメェこそ無様な姿見せたらプギャーと笑ってやらぁ!」

 

「そんな事は起きないから問題ない。それよりも恵、緊張しすぎ」

 

「だ、だって今までと違って色んな人に見られるんですよ!! ノワール君の僧侶としてが、頑張らないと――ひゃん!?」

 

 

 あまりにも緊張しててウゼェから水無瀬のおっぱいを揉む。何度触っても柔らかいマシュマロおっぱいだ。やっぱりさぁ! 変にデカすぎるよりもちょうどいい大きさってのがあるよな!! いやぁ! この揉み心地は最高だな! そんな事を思いながら揉んでいたせいか橘と平家から変態ですみたいな視線を向けられるけど……平家は兎も角、橘のはご褒美です。本当にありがとうございます!

 

 

「なっ!? な、ななな!? なにするんですかぁ!! そ、そういうのはもっと時間が遅くて部屋で二人きりとかですねぇ!! い、いえそうじゃなくてなんで揉むんですかぁ!?」

 

「アホ。お前は緊張しすぎなんだよ……誰が俺の僧侶として頑張れって言った? 他の奴らに言っておくがゲーム中は俺のためじゃなくて自分のために頑張れ。俺なんかのために頑張った所で見返りがねぇんだ、自分のために好きに暴れて楽しんで来い。変に気張るな……安心しろ水無瀬。お前は昔のお前よりも強い。お前はお前の戦いをすればいいさ」

 

「ノワール君……はい、分かりました――あの、そろそろ揉むのを止めてもらってもいいでしょうか?」

 

「え?」

 

「いやぁ、良い事言ってるのにおっぱい揉みながらってのはカッコつかねぇっすよ? ちなみにどんな感じっすか?」

 

「マシュマロだな。ずっと揉んでいたいわ。お前も早く女作って揉みまくった方が良いぞ」

 

「羨ましいっすわぁ……!! 彼女欲しいっすわぁ!!」

 

 

 流石にこれ以上やると水無瀬が発情しちゃうからおっぱいから手を放す。決して、決して橘の目に光が無くなって怖くなったとかじゃない。あのさぁ、笑顔なのに目の光が無い状態だと不気味なんだよ。これがヤンデレ……! バカな!? ヤンデレ属性は平家だけじゃなかったのかよ!

 

 

「残念。志保もヤンデレ属性有り。しかもめんどくさい奴ね」

 

「まじかぁ。別に四肢切断されたり刺されたりしても再生すっから別にいいけどさ……アイドルのヤンデレってご褒美のようでなんか違う気がすんな。まっ、良いか。それじゃあ行くか――適当に戦って帰ってこようぜ」

 

 

 おーと言う全員の声と共に魔法陣で転移、勿論向かう先は予め教えられていたゲーム会場だ。そこで俺達の視界に映ったのはアスタロト陣営とキマリス陣営で別れている陣地のような場所と人数分の椅子、少しは萎えた場所にある変な台に広いバトルフィールドのようなものだけだ。観客とかは全然居ないのに上空に映し出されているモニターは何を確認するものなんだろうな? しかしあの台……あぁ、なんとなく今回のゲーム内容が分かった気がする。マジか? 眷属数の差があるってのにそれやっちゃうわけ?

 

 俺達が到着した段階でアスタロト側は既に待機していたようでなんか仲良く椅子に座っていた。しっかし王以外の奴が全員ローブを羽織っているってのはなんでだろうなぁ? そんなに顔を見られたくないのかと思っていると上空からアナウンスが聞こえてくる。それは今まで身近にいた男の声、ぶっちゃけるとセルスだ。なるほど、今回のゲームの審判役はテメェか。

 

 

『皆様、このたびはアスタロト家、キマリス家のレーティングゲームの審判役を担う事になりました、キマリス眷属女王、セルス・ハルファスです。我が主ハイネギア・キマリスの名の元にご両家の戦いを見守らせていただきます。では先にゲームの説明をさせていただきます。今回両家で行われるレーティングゲームはチーム全員がフィールドを駆け回るタイプではありません。目の前に見えるフィールド、そこで試合方式として戦ってもらいます。勿論場外に被害が出ない様に高度な障壁で覆われていますので思う存分戦ってください』

 

「へぇ、試合形式ってのは楽でいいっすね」

 

「そうでもないぞ。ルールをちゃんと聞いておけ」

 

「うえ?」

 

『では今回用いられるルールをご説明します。王のお二人は目の前にあります台へ移動をお願いします』

 

 

 言われた通りに台へと移動すると六面ダイスと器のようなものが置いてあった。やっぱりダイス・フィギュアかよ……見た感じだとアスタロト側の眷属はフルメンバーの十五。王も居れると十六人の大人数に対してこっちは俺を入れても六人だから約二倍と言って良いだろうな。でもたったそれだけの話で何も問題は無い――雑魚に負けてあげるほど俺は優しくもないし素直でもないんだよ。

 

 

『今回のルールはレーティングゲームでもメジャーな競技の一つ、ダイス・フィギュアです。転生して間もない方も居られると思いますのでご説明しますと人間界ではチェスの駒に価値と言うものが存在します。こちらを基準として「兵士」は価値1、「騎士」と「僧侶」は価値3、「戦車」は価値5、「女王」は価値9となっています。今回のルール、ダイス・フィギュアでは両「王」がそれぞれ六面ダイスを振り、出た出目の合計で出せる選手が決定します。両家の一番低い駒価値はアスタロト家が1、キマリス家が2となっていますのでダイスを振って出目の合計が2からスタートとなります』

 

 

 普通に考えたら二個の六面ダイスを振って1になるなんてありえないから何も問題は無いが……このルールの恐ろしい所は出目の合計までなら何人でも出せるという事だ。仮に俺達が振ったダイスの出目の合計が「6」だった場合、俺達キマリス眷属で出せるのは四季音一人か犬月、橘、水無瀬、平家の中から二人までしか出せない。しかし相手はフルメンバーのため「兵士」を一気に出せる……その場合は兵士が昇格して最大でも女王六人と戦う事になる。つまり何が言いたいかと言うと――こっちが圧倒的に不利ってわけだ。

 

 

「……あのさ、気づいちゃったんだけど言って良いっすか?」

 

「多分当たってるけど言って良いよ」

 

「――絶対に王様を負けさせるためのゲームだろこれ」

 

 

 まぁ、普通に考えたら戦力差があるにもかかわらず数の暴力で攻められるんだからそう思うのも分かる。橘も水無瀬もそれに気づいているからか地味にお怒りモードだ。もっとも平家と四季音はどうでもよさそうだけどな……もちろん俺も同じだ。だって負けるなんてありえないしな。

 

 

『ではここで両「王」の駒価値をお伝えします。まずアスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロト様の駒価値は7、キマリス家次期当主、ノワール・キマリス様の駒価値は12です。こちらは委員会によって評価された数値となっております。今回のゲームでは連続出場を有りとしておりますがこれは両家の眷属数に差があるための処置となっております』

 

「都合の良い理由だなぁ」

 

「まぁまぁ。こういうゲームもプロになれば当たり前になるみたいだよ? 良い経験になると考えればいいと思うよ」

 

「あっそ。クソ委員会とクソ運営の思惑なんて知ったこっちゃないが――雑魚に負けるわけねぇからさっさと終わらせるとすっかねぇ」

 

「……言うじゃないか。僕はアスタロト家次期当主、そして魔王を輩出した血筋だよ? キミに負けるわけがないさ。その大層な自信を粉々に壊せると思うと楽しみで仕方がないよ」

 

「おやおや~優男の口調が崩れてんぞ? まっ、今まで猫被ってたんだろうが俺的にはそっちの方が好みだぜ? ぶち殺した時の反応が楽しみで仕方ねぇしな」

 

 

 煽り合戦もどきを軽く行ってから俺達キマリス眷属とアスタロト眷属のゲームが開始する。セルスのこれに従ってダイスを振ると俺が「4」であっちが「1」だった……出目の合計は「5」か。

 

 

『出目の合計は5ですのでその数の価値まで駒を出す事が出来ます。作戦タイムは五分間、お互いの陣地で相談して決めてください。兵士の方はフィールドに到着後に昇格が可能です。またお互いの陣地にいる間は読心術などの類は無効となります』

 

 

 まぁ、基本中の基本だわな。陣地に戻って平家に視線を向けると首を横に振った所を見ると覚妖怪の能力も無効になってるらしい。しかも相手が見えない様に黒い壁っぽいもので閉じ込められてるからどんな人選で来るかも分からない……どうでもいいけどね、だって既に出す奴は決まってるし。

 

 

「――犬月、橘。お前達二人が出場だ。新入り同士、先輩が楽できるように圧勝してこい」

 

「ういっす!」

 

「はい!」

 

 

 ゲーム専用のイヤホンマイクを付けた二人は陣地内に出現した魔法陣に乗ると目の前のフィールドに転移された。犬月と橘と同じように相手側から転移してきたのは五人、出目の合計と同じとすると確実に兵士だな。当然と言えば当然、誰だって考える戦術だ。恐らく兵士全員を女王に昇格させて数の暴力での袋叩きが狙いなんだろう。

 

 試合開始の合図と同時に相手側の魔力が一気に跳ね上がる。兵士のみが持つ昇格能力で女王にチェンジしやがったな――でも無駄さ。見せてやれ犬月、橘。お前達の実力をな!

 

 

『しほりん。前衛は任せてほしいっす。だから、だから後ろで思いっきり歌ってくれ!!』

 

『はい! いっぱい、いっぱい歌います! 犬月さんを全力で応援しちゃいます! ふぅ、橘志保! 今日だけ特別にアイドル復活だよぉ! それじゃあ一曲目いっきまぁ~す!!』

 

 

 戦闘が始まったというのに我がキマリス眷属の癒し枠、橘志保が行った事は前に出るでも後ろに下がるでもなく――その場で歌う事だった。音楽なんてあるわけがないからアカペラ同然、人間界でやったならば見向きもされないだろう……だけどうちのアイドルは違う! 踊りと笑顔、そして元気いっぱいの声で歌う姿と歌声にどこか体が燃え上がるように熱くなるし目が離せない。流石人気アイドル、普通は考えねぇよ……ホントにさ。

 

 

『うっし!! しほりん生ライブの邪魔はさせねぇぞ!! 狐ぇ!! テメェもしっかり働きやがれ!!』

 

 

 犬月の背中に紋様が描かれている。先ほど橘が触れてマーキングしたんだろう……相手からしたらいきなり戦闘中に歌い出してバカじゃねぇのとか思ってるに違いない。俺だって事前情報無しだったら同じ事を思うしな。でも残念ながらあの()にはちゃんとした意味がある。

 

 敵兵士五人は散開して犬月に三人、後ろの橘に二人と別れて相手をする作戦らしい。ご丁寧にローブまで脱ぎ捨てて嘲笑った表情で二人を見ている。全員女で美人だからドМな性癖を持ってる奴ならご褒美なんだろうけどさ、その……お手本通りでつまらねぇ。そんでもって犬月相手にたった三人? 馬鹿じゃねぇの? うちの兵士(パシリ)を舐め過ぎだ。

 

 

『――言ったろ? 邪魔させねぇって!!!』

 

 

 敵兵士よりも早く移動してその内の一人の頭を掴んで強引に振り回す。流石に敵も当たるわけにはいかないからか一旦距離を取ったが犬月的にはそれが狙いだったんだろう。そのまま一気に橘に向かっていった兵士二人に接近して同じように振り回す……あれって掴まれてる女は痛いし苦しいだろう。でも殺し合いだから仕方ないよねぇ? ゲーム的に何も問題ないしぃ!

 

 橘を狙う兵士を追い払った後は掴んでいた女兵士を上空に放り投げる。それと同時に橘の肩に乗っていたオコジョが前に飛び出して――茶色の体毛をした狐へと変化した。唸り声を上げ、殺意を持った目で狐は上空に飛ばされた奴に接近して首に噛みつきながら雷撃を浴びせる……うわっ、痛そうだし普通なら感電死するレベルの出力だな。とりあえずこれでまずは一人目か?

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の兵士一名、リタイア』

 

『まずは一人目っと。狐、思う存分暴れて良いぜ――ってあっぶねぇ!? 俺は敵じゃねぇぞ!!』

 

 

 近寄るな、馴れ馴れしいと言わんばかりに味方であるはずの犬月に先ほどと同じ威力の雷撃を放つ。やっぱアイツって気性荒いな……橘と何故か俺以外には絶対に懐かねぇって鋼の意志を感じるぞ。でも相手側は狐を驚いてるみたいでちょっとだけ面白いな。独立具現型神器ってかなり珍しいから仕方ないんだろうけどもうちょっとは勉強しておこうぜ?

 

 

『キー君! 志保! 頑張って歌うからね!』

 

 

 キー君と呼ばれた狐は御意と言いたいのか高らかに吠えた。所有者(橘志保)に絶対の忠誠を誓うこの狐の正体こそ俺の僧侶、橘志保が持つ独立具現型神器――雷電の狐(エレクトロ・フォックス)。オコジョの姿の時は何も問題は無いが戦闘時に変化する狐状態だと気性が荒く、俺以外の男が橘に近づくならばすぐに感電死させようとするほどおっかねぇ神器だよ。

 

 犬月と狐が相手一人を消したからこれで二対四、数で見るならまだ不利だが犬月はまだ昇格をしてねぇと考えると戦況は分からない。しっかしスッゲェ効果だな……自分の歌声に魔力を乗せて味方の身体能力を向上させるとか普通は考えつかねぇって。勿論歌っていなければ効果が発揮されず、身動きが取れないから攻撃を受けやすいという弱点があるが……あの狐の守護がある限りはその弱点は意味をなさない。

 

 接近が難しいと判断したからか敵兵士たちは一斉に魔力による攻撃に変更。標的は歌っている橘だが狐は動物特有の殺気を放ちながら橘の周囲を球状に覆う雷撃を展開して迫りくる魔力攻撃を防いでいく。やっぱあの狐の雷って出力おかしいわ……全部防ぎきるっておかしいだろ!? そして攻撃が向かってくるのに怯まない橘も凄いと思うんだ。流石アイドル! きゃーしほりん! 俺だー! 結婚してくれー!!

 

 

『テメェばっかに良い所持ってかれたら俺の立場がねぇんだよ!! 行くぜ雑魚どもぉ!! 昇格! 女王!! そして見ろ! 恐れろ! 泣き叫べ!! これが俺の真の実力だぁっ!!! 魔力に妖力全開放!! モード妖魔犬!!!』

 

 

 犬月の叫びがフィールド上に響き渡る。それに呼応するように犬月の皮膚が赤く変化していき、全身に赤紫色のオーラを身に纏う。あの姿こそセルスと親父、タンニーン様の領地に住むドラゴン達との修行で編み出した犬月だけの切り札――モード妖魔犬。あいつ自身に宿る魔力と妖力を融合させて気合で安定化、身体能力が跳ね上がるのと同時に身に纏うオーラで防御力を高める。やってる事は理解できるしスゲェとは思うんだけどさ……気合でって何? そんなので安定化できるもんなの? 流石俺の兵士だわ! 面白れぇ!!

 

 

『俺は!! 王様の兵士!! 犬月瞬だぁ!! 俺は……俺はぁ!! 最強の(パシリ)になってやらぁ! ぶち殺されたくなかったらさっさと逃げやがれこのやろぉ!!』

 

「流石パシリ。自分で認めちゃってるね」

 

「あぁ。流石俺達のパシリだよ」

 

「瞬君……違いますよね!? パシリって目指すものじゃないですよ!?」

 

「いいじゃぁ~ん。ぱしりぃがいるとらくだよぉ? でもあれって滅茶苦茶辛いんだ。反発しそうなのを気合と言うか理性、本能で抑え込んで強引に安定させてる代物でね。例えるならノワールや光龍妃が使う覇龍に似たもんだよ。出力は全然違うけどさ」

 

 

 モード妖魔犬の原理なんて例えていうなら反発する磁石同士をくっつけているようなもんだしなぁ。恐らくあれが出来てるのも犬月自身の諦めの悪さというか男の意地だろう。相棒でさえあいつは邪龍並みにしつこいし諦めが悪いとか言ったしなぁ。

 

 俺達の感想なんて知った事かと言わんばかりに先ほどまでとは比べ物にならない速度で敵に接近。逃げ遅れた女兵士の腕を掴んでまずは腹パン、怯んだ隙を狙って頭を掴み顔面へ膝蹴り、そしてトドメに妖力と魔力が混ざったオーラを纏わせた拳で地面に叩きつける。エグイ、ひたすらエグイ。でも良いぞもっとやれ!

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の兵士一名、リタイア』

 

『これであと三人かぁ……なっげぇ』

 

『――犬月さん! ちょっと休憩入りま~す!』

 

 

 先ほどまで歌って踊って素晴らしい支援をしていた橘が笑顔で休憩と言うのが聞こえた。あれ? 休憩ってもしかしてあれですか?

 

 

『え? あ、あぁ……入っちゃうんすか? もっと歌ってても良いんすよ? むしろ歌っててください!!』

 

『ごめんなさい。やっぱり私も前に出ないとダメだと思うんです! 悪魔さんに良い所を見せたいんです!』

 

『むしろ歌ってた方が印象いいっすよぉ!?』

 

 

 残念なお知らせが聞こえた。あぁ、幻聴でもなかったし始まってしまうのか……あの橘さん? 俺的にはもう良い所は十分に見れたし揺れるおっぱいも堪能したから何もしなくていいんだぜ? あっ、なんか拳握って頑張りますって表情をしてるから無理だわ。止まらないわぁーうわー無理だわー泣くわー。

 

 パートナーである狐をお供に橘は呼吸を整えてから――前に出た。本来なら後衛で支援が仕事の僧侶が前に出てきたという事に馬鹿が! みたいな事を思ったんだろう。ラッキーと言いたそうに笑いながら女兵士の一人が橘に近づいていく。神器である狐は他の奴が乱入しない様に雷撃を放って弾幕を張り、犬月は掌で顔を隠して絶句状態――おいパシリ、気持ちは分かるが仕事しろ。

 

 

『えいっ!!』

 

 

 女兵士が橘目掛けて拳を放った――のを逆手にとってそのまま一本背負い。地面に叩きつけた後で吐き気がするほどの霊力を自分の拳に纏わせて相手の体の中心を殴る。するとどうでしょう! なんと敵兵士が僅か一発喰らっただけでリタイアですよ! えっと……貴方はアイドルですよね? なんで一本背負いした後で拳握るんですか? アイドルって拳が必要な職業でしたっけ?

 

 

『馬鹿な……一撃だと!?』

 

『嘘でしょ……!』

 

『しほりんが拳を握る姿なんて見たく無かったぁ!! てかやめてー!? それをこっちに向けないでぇ!? 怖い怖い怖い!!』

 

『こ、怖くなんてありません! 普通です! キー君も普通だよって言ってくれてます! あとこの霊力は犬月さんには向けないですから安心してください!!』

 

 

 ごめん。その狐は多分絶句してると思うんだ。でもホントにスゲェな……筋力が無い橘の拳一発で即リタイア判定とか洒落にならない威力なんだけど?

 

 橘が行った事は単純明快、自分の霊力を纏っただけだ。しかしその霊力が問題で――魔に属する者を問答無用で浄化する「破魔」の霊力だから恐ろしい。結構昔の時代だが巫女とかそう言った類の奴らのごく少数が発現する至高の霊力の一つだという事は俺も知っていたし知識としては合った。でもまさか橘が発現するとは思わねぇよ……あんのガチムチハゲ!! テメェのせいでうちの癒し枠が殴り攻撃を覚えちまったよ! 戦力的には問題ないんだろうけどおっかねぇんだよ! マジでアイドルって何だよ!! アイドルが悪魔や魔物を問答無用で滅せられるとか恐ろしいわ!!!

 

 ちなみに俺も試しに受けてみたらガチで死にかけた。相棒でさえ『俺様、しほりんには逆らわないことを誓うぜぇ』と泣いたぐらいだからその破魔の霊力の威力はお察しです。

 

 

『よ、よし!! 残りはあと二人っす!! さっさと決めちゃいましょうぜ!!』

 

『はい! キー君! 頑張ろうね!』

 

 

 敵さんは五人で出場してきたのにあっさり三人を撃破され、残った二人も犬月が放つ血に妖力を込めた斬撃とか橘の破魔の霊力とその神器である狐の雷撃を防ぐ事が出来ずに敗北。二対五という普通に考えたら敗北する可能性がある試合に勝利、俺達の陣地に戻ってきた二人はやりきった、頑張りましたと言う表情で疲れとかは無さそうだ。だろうな……あの程度で疲れてたら今までの特訓は何をしてたんだと言いたいよ。でもお疲れさん。

 

 しかし……アスタロト側の顔がスッゲェ見たい! どんな顔してんだろうなぁ!!

 

 

「勝ってきましたぜ王様! どうだったっすか! 俺の戦い!」

 

「前よりも強くなったな。でも……ごめん。橘のインパクトには負けるわ」

 

「……デスヨネ。王様、俺達のしほりんがどっかに行っちゃったっす」

 

「それもこれも体術を教えたガチムチが悪い」

 

「あ、あの悪魔さん? 一応退魔のお仕事をしていた時も体術は使っていましたよ? お父さんに教えてもらってましたし……あ、あの悪魔さん?」

 

 

 いや、うん……前々から体術を嗜んでいたのは知っていたよ? でも俺の中で橘は退魔師というよりもアイドルと言う印象が強すぎてなんか違う、これじゃないみたいな感覚になってんだよ。マジで何度も言うけどアイドルって何だっけ?

 

 

「今のアイドルは何でもできないとダメなんだよ」

 

「マジか!? アイドルってスゲェんだな。とりあえずお疲れさん。相手は絶句してると思うが胸を張れ、そしてドヤ顔しろ。お前達はあんな雑魚より強いって威張れ――さて、上の思惑なんて無視してこのゲームに圧勝するぞ。」

 

 

 アスタロトとのゲームはまだ始まったばかりだが……負けねぇよ? 精々唖然としながら俺達の勝負を見てろよ。クソ委員会とクソ運営さん達には悪いが空気は読まねぇさ、徹底的にやらせてもらうよ。なんせ俺様、邪龍だからな。




名称 雷電の狐《エレクトロ・フォックス》
形状 茶色い体毛のオコジョ/茶色い体毛の狐
能力 「雷撃を放つ」
所有者 橘志保

ディオドラさんとのゲーム一戦目でした。
橘志保の歌声に魔力を乗せている芸当はレーヴァテイルの詩魔法をイメージしてください。
犬月瞬の切り札「モード妖魔犬」は魔力と妖力を混ぜ合わせて身体能力を向上させるものです。本人もドラゴン等と殺し合っていたのでかなり強くなりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話

「アスタロトの次期当主さん? いきなり兵士五人も撃破しちゃって悪いねぇ。でも魔王の血筋のアスタロト家次期当主様だからまだ余裕だよねぇ? 俺みたいな混血悪魔の眷属に負けたら恥だもんな。しかも俺の眷属ってそっちより少ないからマジで負けたら色んな所から見捨てられるぜ? 頑張れ頑張れ。負けるにしてもせめて俺が出場できるように6の目を出してから倒されてくれよ」

 

「……っ」

 

 

 犬月と橘、キマリス眷属新入りコンビが倍の戦力を相手に勝利したせいか敵陣地側の台に立っている優男の表情が変わっていた。引きつった笑みで先ほどから俺の煽りを無視してるけど内心はイライラが溜まってるだろう。出来ればもっと怒って我を無くしてほしいんだよなぁ……なんせ五人を撃破したと言ってもまだ倍近い戦力差があるから相手のミスを誘うためにこうして煽ってるわけなんだが流石に乗ってこないよなぁ。

 

 審判役のセルスの指示により俺達は再度ダイスを振る。モニターに映し出されたダイスの目は俺が「4」で相手も「4」、合計は「8」だ。俺と四季音以外は出れるか……さてどうすっかな。仮に四季音が出れた場合でも相手の女王を軽く葬ってもらいたいから待機させる予定だったからなぁ。連続出場有りとはいえ連戦は避けたいから手は一つか。

 

 

「8って事は王様と酒飲み以外は全員出れますね。確か連続出場オッケーだったはずなんで俺は準備万端っす!! 何時でも出場出来るっすよ!!」

 

「私も大丈夫です! 先ほどの試合では余裕を残していましたから全然問題ないです!」

 

 

 ダイスを振り終わって自分の陣地に戻ってくると先ほどの試合で大暴れした二人がやる気、いや殺る気十分の表情で出迎えた。確かに連続出場が有りが今回のルールだから問題は無いし仮にさっきのような人数で来られたとしても犬月や橘が居れば余裕だろう……でも残念だがそんな状況であっても俺は別の選択肢を選ぶ。初めての試合で連続出場なんてしたらこいつ等の負担が増えるだけでこっちにメリットが無いしぶっちゃけると気負われると困る。ついでにアスタロト眷属に圧勝するのが目的だってのに疲れで倒されましたとかになったら洒落にならん……と言うわけで新入りコンビはお休みで先輩方に頑張ってもらおうかね。

 

 

「了解。恵、行くよ」

 

「へ?」

 

「おい。せめて俺の言葉を待ってからにしろよ……平家がバラしたが次の試合は平家と水無瀬の二人で行け。出目の合計は8だがご丁寧に丁度にする意味もない。犬月と橘は待機だ」

 

「自分でも感じない疲れが原因で倒されたら嫌なんだってさ。ノワール、本気でやるから引かないでね?」

 

「え? 無理」

 

「……」

 

 

 今の言葉にイラっと来たのか俺の足を軽く蹴ってきやがった。分かってる、冗談だっての。どんな事になろうと引かねぇよ――ただし橘が拳を握って殴りに行く光景をもう一回見たら俺の心は死ぬと思うけどな!!

 

 

「あ、あの! わ、私ですか!? しかも二人だけですか!?」

 

「そうだ。平家とコンビを組んで出場って言っただろ? 別に犬月も一緒に出場させても良いが念には念をってな。安心しろ……お前達二人でも楽勝だから遊びに行く感じで勝ってこい。もし負けたら……そうだな、駒王学園の制服着て俺の部屋で撮影会な。しかもムラムラするようなエロいポーズで」

 

「……」

 

「恵が心の中で葛藤してるよ? 無事に勝ってエッチな事はしなくて済むようにしたいってのと負けてノワールに命令してもらいたいってドМ心で揺れてる。ノワール、恵に頼まなくてもそれぐらいなら私もしてあげるよ? ちっぱいでもエロいポーズとか余裕だもん。きっとオカズになる事は間違いなし」

 

「だ、ダメですよ早織! ノワール君!? ち、違いますからね!! 全然そんなノワール君に命令されて写真撮られたいとか全然思ってないですから!! さ。さぁ! い、行きますよ!! 絶対に勝ちますよ!」

 

「いーやーはーなーしーてー」

 

 

 平家の首根っこを掴んだ水無瀬は転移魔法陣の中に入っていく。ふむ……これは勝っても負けてもとりあえずは俺の部屋で写真撮影会を開催すっか。問題ねぇよな? だって水無瀬って隠れМだし! 楽しみだなぁ!! どんなポーズ取ってもらおうか今から考えて――やめよう。橘様から破魔の霊力が漏れ出しているからこれ以上変な事を言えば殴られる。 流石の俺でも滅せられるのだけは勘弁だからもう黙って試合を観戦しようか! とりあえず家に帰ったらガチムチハゲは殴る!

 

 バトルフィールドを見ると俺達は平家と水無瀬の二人、アスタロト側も二人で出場してきたようだ。片方は先ほどの兵士同様に素手の女、もう片方は槍を携えた女……どっちも美人だ。あの野郎……女の趣味だけは良いじゃねぇの! 恐らく出目の合計からして戦車と騎士ってところか? 俺と同じく合計より少なく出してきた可能性もあるけどさっきの煽りで勝ちを狙ってきてもおかしくない。もっとも――俺達の勝利は揺るがないけどな。

 

 

『恵。片方は任せていい?』

 

『はい! 最初から全力で行きます!』

 

『そうした方が良いよ。ノワールはきっとAVでも見ないようなすっごいの言ってくるから』

 

『うぅ……絶対に負けません!!』

 

 

 あのさぁ……人を変態のように言わないでくれない? せめて、せめて年頃の男の子って感じで言ってください!

 

 

『先ほどの様に勝利できるとは思わない事だ!』

 

『ディオドラ様のために勝たせてもらうわ!』

 

『無理。だって私もノワールに褒めてもらいたいから――殺す気でいくもん』

 

 

 一歩、また一歩と敵の二人に近づいていく。今の平家の雰囲気は今まで見せていたような引きこもりたいなどと言うものではなく――確実に殺すというものだ。自分の手元に魔法陣を展開して一本の刀を引き抜いた……それは四季音と犬月が修行として相手をしていたドラゴン達の内の一体が自分の鱗や折れた牙、爪を素材に態々作ってくれたお土産。その刀身は凍土のように冷たい印象を感じさせる一本の日本刀、その名は龍刀「覚」。名付けたのは持ち主である平家自身だが……ドラゴンの素材でできた刀に自分の種族の名を入れるってどうなの?

 

 そもそもドラゴンが鍛冶仕事するんかいと言うツッコミは無しだ。今のドラゴンは昔とは違うらしい……こっちとしてはありがたいけどな!!

 

 

『――っ! 何という殺気だ……これが、これがキマリス眷属の騎士か!』

 

 

 相手は視線でどっちを相手にするかを決めたようで槍を持った奴が平家、拳オンリーの奴が水無瀬と対峙するらしい……俺の眷属の情報は既に知られているから平家が騎士、水無瀬が僧侶で神器を持っている事も分かっているだろう。でも残念ながらその情報は古いぜ? 今の水無瀬も平家も前以上に成長してるんだ。さっさと勝って次に回してくれ。

 

 試合開始の合図と同時に平家と槍女の姿が消える。騎士同士による高速戦闘のため見えない奴からしたら何をしているのか分からないだろう。もっとも俺達全員は見えているようだけどな……しっかし流石平家だな。相手からの執拗な突きの連打をまるで先読みしているように躱して小さな魔力弾を指弾で撃って相手の顔面に当てる。そうして意識を軽く逸らした後はその隙を狙って足を刺突、的確にふくらはぎを狙った所を見ると相手の機動力を削ぐ作戦か。理に適ってるし騎士の速度はバカに出来ないから当たり前か……まぁ、敵も馬鹿だよな。覚妖怪相手に真正面から挑むなんて無謀だぜ?

 

 

『くぅ! あ、足を……!』

 

『これで移動は困難。早く死んで?』

 

『まだぁ!』

 

 

 騎士同士の戦いも良いが離れた場所で行われてる戦いも面白い事になってる。拳や蹴りといった体術による近接戦を避けるため水無瀬は魔力を炎や水に性質変化させて弾幕を張りながら距離を取っている。敵の一撃で地面が抉れている所を見るとマジで戦車確定だな……しかも魔力攻撃が当たってもビクともしてないから敵自身の耐久力はかなりのものだろう。ここだけ見たら水無瀬が防戦一方と勘違いされかねないが――実はそうじゃない。そもそもあいつの特訓相手は俺だ。あの程度の攻撃なんて優しすぎて止まって見えるだろう……ついでに言うと既に水無瀬の罠にハマってる事も気づかねぇなんて笑えるわ。

 

 

『よく躱す! しかしどこまで持つかな!』

 

『いえ! これで終わりました!』

 

『何が終わっただ! お前の神器は知っているぞ! 砂時計を用いた性質逆転だろう? それさえ気を付けていれば僧侶の貴様には負けん!』

 

『――違います!』

 

 

 体術女から距離を取った水無瀬は静かに息を整えた。逃げることも無く、堂々とした態度に敵は警戒したけど既に遅いんだよ……見せてやれ。お前の新しい力を!

 

 

『確かに私の神器は砂時計を使わなければ発動しません。でも、それは昔の事です――禁手化(バランス・ブレイク)!』

 

 

 手元にある三つの砂時計が黒く輝いた……それは影のように水無瀬を包み込み、私服に白衣と言う衣装から黒のドレスを纏った姿へと変化する。妖艶であり不気味な印象を持つこれこそ俺の僧侶、水無瀬恵が至った亜種禁手――

 

 

黒の僧侶が(ブラック・ビショップ・)反す影時計(シャドークロック)。これが私の新しい力です』

 

『禁手化だと!? そんな情報は――な、なにぃ!?』

 

 

 水無瀬の足元から影が伸び、体術女と繋がった。驚く相手を気にせず水無瀬は手元に影のように黒い砂時計を出現させる……もっとも中は砂じゃなくて液体だけどな。体術女は何かを察したのか距離を取るけど影は繋がったままで離れる事は無い。だから何かをされると焦った表情で水無瀬を見つめるが返ってきたのは冷徹な笑みだった。

 

 

『先ほど、私が終わりましたと言った意味を教えます。貴方には何度も炎や水に変化させた魔力を当てました。勿論あなただけではなく周りにもです』

 

『……ま、まさかぁ!?』

 

『そのまさかです! 反転結界!!』

 

 

 水無瀬が手元の液体時計を反す。するとどうだろうか……影で繋がった体術女の足元からどんどん凍り付いていくじゃねぇか。あははははは!! やっぱ最高だわ!! 俺と相棒、つまり影龍王と殺し合いをしていのが影響して亜種禁手した際に発現した能力は面白い!! 前までなら砂時計を設置しなければいけなかったが禁手中ならば影に触れただけで性質逆転が可能。だから俺との相性は最高なんだよな……俺が生み出す影に水無瀬が生み出した影を混ぜれば広範囲を対象に性質逆転が可能だ。やっぱいい女だよなぁ。

 

 

『凍り付く……熱を冷気に、水を氷に変えているのか!?』

 

『その通りです! そして動きが止まった今なら!! 反転結界!!』

 

 

 体術女の真上から大量の水が降り注ぐ。それは女の体を濡らすだけではなく冷凍庫に入れられた食材のように凍り付いていく……そして出来上がったのは美女の氷像だ。そんな状態になったならこの後に行われる事なんて誰だって予想できる。

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の戦車一名、リタイア』

 

 

 凍死させないために撃破判定が下る。レーティングゲームにおいてプレイヤーはそれぞれのタイプに分けられるが水無瀬は完全なテクニックタイプと言ってもいいだろう。俺や四季音のようなパワー馬鹿なら確実に罠にはめられる戦い方だしな。

 

 早々に戦車を倒された事で槍女が焦りを見せ始めた。突き、薙ぎ払いといった行動が雑になっている……あらら、これは平家の圧勝だな。

 

 

『く、くぅ!』

 

『突き、次は後退からの回転薙ぎ払い。足が痛くて思うように動けない? だから狙ったんだよ』

 

『私の心を……これが、覚妖怪!!』

 

『本当だったらノワール以外の声なんて聞きたくない。だってノワールの心の声って正直で私好みだもん。ノワール以外の奴の声は醜くて聞きたくない。へぇ、貴方って教会出身だったんだ? うわっキモイ……やっぱり私はそっちの王は好きになれないね』

 

『ディオドラ様を……侮辱するなぁ!!』

 

 

 渾身の突き、それすら平家は先読みしているように最小限の動きで躱す。そして槍女の背後に回る途中で相手の槍を持っている腕を斬り落とし、流れる動作で膝裏も斬る。うわぁ……徹底的に動きを封じ込める作戦か。タイマンだと平家に勝つにはかなりの技量が必要だからあの程度じゃ勝ち目は最初っからねぇな。なんせ覚妖怪の読心をフルに発揮して考えを先読み、そのまま対処するのがあいつの戦い方だ。もっとも心が最初から無い相手か読心に動揺することなく突っ込んでくる馬鹿は相手をするのは辛いらしい。

 

 

『さようなら』

 

『ディオドラ・アスタロト様の騎士一名、リタイア』

 

 

 膝をついた槍女を問答無用で一閃。無事に今回の試合も圧勝する事が出来て何よりだ……あははははは!! さて今度はどんな風に煽ってやろうかなぁ!

 

 

「ただいま。頑張った」

 

「も、戻りました!」

 

「水無せんせー! マジでカッコよかったっす! 引きこもりは……どうでもいいや」

 

「パシリに褒められても嬉しくない。ノワール、褒めて褒めて」

 

 

 ぐいぐいと自分の頭を押し付けてさっさと撫でろアピールをしてきた。仕方ないから頭を撫でるとそれを見ていた水無瀬が小さく良いなぁと呟いたのが聞こえたので代わりにおっぱいを揉む。驚いてる様だがこの捻くれている俺様が素直に頭を撫でるわけがないだろ……あのね、このおっぱいの揉み心地が最高なんだわ。マジですっと揉んでいたいぐらい。あぁ、癒されるぅ。

 

 マシュマロおっぱいを堪能してから再び台の上へと移動する。気のせいじゃないかもしれないが相手はかなりイライラしてるっぽい。ざまぁ。魔王の血筋って言っても現魔王と同じ才能を持ってるわけじゃないんだから当然と言えば当然だ。

 

 

「おやおや~? 戦車と騎士を投入してうちの眷属にボロ負けしたアスタロトさんじゃないですか? まじでどうする? なぁ、どうするぅ? このままだと本当に負けちゃうぜ?」

 

「……まだゲームは始まったばかり。何も問題は無いですよ?」

 

「もう中盤なんですけどぉ? ぶっちゃけもう終了まで見えてるんだがまだ始まったばっかなの? 震えた声で言われても説得力が無いが……そういう事にしといてやるよ。どうせ俺達の勝利は変わらねぇんだしな」

 

 

 再びアスタロト家次期当主を煽りながらダイスを振る。モニターには俺が「6」でアスタロト側が「5」の目を出していたが……おいマジで仕事しろよ。俺が出れねぇとかマジで勘弁。ホント使えねぇなこの似非優男……いいや、普通に四季音出して即効で終わらせてもらうとすっかねぇ。

 

 

「四季音。一瞬で終わらせて来い」

 

「うぃ~おっさけぇのみたいしぃはやめにおわらせるぅ」

 

「……この酒飲みの実力だとマジで一瞬で終わりそうっすね。次の試合の準備をしといた方が良いっすか?」

 

「だな。普通に一分もかからねぇだろうぜ」

 

 

 バトルフィールドに視線を向けると俺達は四季音一人、あっちは女三人だ。相手の駒の組み合わせを考えたいところだが――意味は無いか。

 

 試合が開始しても四季音はまるでかかってこいと言いたそうな表情で酒を飲んでいる。この部分だけを見ただけなら隙だらけで舐めているのかと文句を言う奴も良そうだがそれは正しい。なんせ今のあいつは本気で舐めきってるし、ぶっちゃけると雑魚だから手を抜いてやろうと本気で思ってるに違いない。普通だったら警戒して距離を取ったり散開して隙を作ると言った行動をとるべきなんだが敵さんは先ほどから連敗中、王の機嫌も悪いだろうから何が何でも勝利したいという気持ちの方が強いはずだ……だからあんな風に一カ所に固まって文句を言い出すんだよなぁ。バカじゃねぇの?

 

 

『……あなた! 私達を舐めていますの!』

 

『うぃ~? うんうんなめてるぅ』

 

『くっ……いくら鬼と言えどもこの女王の私を――』

 

『飽きた』

 

 

 その言葉の先は聞こえなかった。いや、聞こえるはずが無かった。文句を言い出した敵三名の真上に一瞬で移動して拳を叩き込む……たった一発、音すら遅れてくるほど早く打ち出されたそれは地響きを引き起こして巨大なクレーターを作り出した。戦車としての馬鹿力に加えて連日ドラゴンとの殺し合いをしてたからかなりパワーアップしてるな……あの一撃を受けて立ち上がる奴なんていないし俺達もうん、知ってた! みたいな感想しか出ない。それだけ四季音花恋と言う化け物を止めるのは難しいんだよ……止めれるのってほんの一握りの奴ぐらいだしな。

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の女王一名、兵士二名、リタイア』

 

 

 冷静な審判役の声が聞こえてこの試合は終了。分かりきっていた事だがマジでワンパンで終わらせるとは……流石俺の戦車。そのまま俺達の場所に戻ってきた顔は飽きたという感想しかない表情だったけど気持ちは分かる。だって敵が雑魚だし。むしろお前を楽しませてくれる相手が居たらそれはそれで驚きだよ……さてこれで相手の残りは王と戦車、騎士、兵士が一人ずつに僧侶が二人か。俺の駒価値が12だから下手をすると俺が出場できない可能性が非常に高い上、眷属が戦う姿を黙って見ているという拷問に近い事を味わう羽目になる。できればそれだけは阻止したい! 俺だって戦いたいしなにより早く帰りたいから煽ってでも俺を出場させてくれるように交渉すっか……よしそうしよう!

 

 

「あのさぁ、交渉したいんだが話を聞いてくれねぇか?」

 

「……交渉?」

 

「おう。正直さ……お前ら雑魚すぎてこっちはもうやる気ねぇんだよ。ホント弱すぎ、やる気あんの? もうさっさと帰りたいから次の試合で決着付けようぜ? 勿論タダでとかは言わねぇよ。俺一人と残ったそっちの奴ら全員出場。つまり俺一人でお前ら全員と戦ってやるって事だ。お前も気づいてんじゃねぇの? このままいくと負けるってさ……だからこれを引き受けた方が良いんじゃない? もしかしたら俺達に逆転勝利もあり得るかもしれない。別に断ってくれてもいいんだぜぇ――そん時は混血悪魔にビビったチキン野郎って判断するだけだしな」

 

「――随分自信があるようだね。良いだろう、その挑発に乗ってあげようじゃないか。審判! 次の試合は彼の言う通りにしてもらいたい! アスタトロ家次期当主、ディオドラ・アスタロトは彼の申し出を受け入れたいと思う!」

 

 

 数分間の無言の時間が流れる。大方、上の方に確認を取っているんだろうが……結果は分かりきってるからさっさとしあいさせてくれねぇかな? 上の奴らは是が非でも俺を負けさせたいだろうしこの申し出を受けざるを得ない。このままだとアスタロト側が確実に負けるからな――そして、俺の申し出はどうやら受け入れられたようで次の試合が実質の最終戦でこれの勝者が今回のゲームの勝利者となる。やったぜ!

 

 うきうきしながらバトルフィールドに移動すると優男と残った眷属が全員転移してきた。此処に来る前に平家達から「早く終わらせてね」「王様、帰る準備しとくっす」「悪魔さん……頑張って下さい! 志保、応援してます!」「おさけぇほしぃ~」「ノワール君。あの、帰る準備をしておきますね……」という素晴らしいお言葉を頂いた。ちょっと待ってほしい……応援してくれてるのって橘だけじゃねえか? 何で他が酒だの帰る準備しとくって言葉なんだよ! せめて応援してくれよ!! 王の試合だぞ!? 楽勝とはいえ応援してくださいお願いします!!

 

 

「先に言っておくよキマリス家次期当主……いや、薄汚いドラゴン」

 

「はぁ?」

 

「僕はアスタロト家次期当主、そして魔王の血筋だ。眷属の実力差はあっても僕がキミに、混血悪魔に負けるはずはない! 見せてあげるよ――僕の本気の力をねぇ!」

 

 

 審判役からの試合開始の合図が聞こえると同時に目の前にいる似非優男が放つ魔力が異質な物へと変化しやがった……この感じ、どこかで感じた事がある気がするが――どうでもいいか。

 

 膨れ上がった魔力を見せつける様に似非優男と傍に居る二人の眷属は魔力の弾幕を放つ。さっき感じた魔力量と異質さを考えると似非優男の方はかなりの威力があるだろう……でもな、所詮その程度だ。

 

 

「アハハハハハハ! 防げるものなら防いでみろぉ!!」

 

「――影人形(シャドール)

 

 

 目の前に影人形を生成して俺に当たる部分だけをラッシュタイムで叩き落す。防げるものなら防いでみろ? 鎧を纏わなくても余裕ですが何か? 拳の速さ、精密性は修業前よりも格段に上がってるし俺自身もキマリスの血、つまり霊操の力を一から鍛え治したんだ――その程度の弾幕で俺に傷を付けれると思うなよ?

 

 速く、強く、そして正確に魔力弾を叩き落していく。今までのようにラッシュタイム中に影人形の拳が吹き飛ぶなんて事は無い……相棒の力の本質を理解したからな。今まで俺は霊子と相棒が生み出した影を混ぜ合わせた影人形を生み出してきたがそれは正解であり間違いでもあった……なんせ神器の力ばっかり集中して俺に流れている血の力、霊操の方を疎かにしていたんだしな。確かに霊体生成と霊体操作に極振りしたとはいえまだ未熟だったって事を悟った時は死にてぇとすら思った。でも相棒の力の本質に気が付いて霊操をさらに鍛え上げた事で俺の影人形は次のステージに進むことができた――その結果がこれだ!

 

 

「な、何故突破できない!! これほどの質量ならばその人形は吹き飛ぶはずだ!!」

 

「今まではな。この俺が試合までの間、遊んでいるとでも思ったか? 残念ながら俺は力に貪欲でなぁ、薄汚いドラゴンだからもっともっともっと強くなりてぇのよ。だから鍛え上げた。今の影人形を壊したいなら夜空かヴァーリぐらいの威力でも出しな」

 

 

 俺の言葉に怒ったのかさらに弾幕の濃さを上げやがった……流石に隣に居る奴らまでは上がらなかったが今までだったら影人形は突破されて俺もダメージは免れなかっただろう。でも相棒の力の本質に気が付いた今だったら話は別だ――この程度なら簡単に防ぎきれる。

 

 影人形はチラッと俺を見た後、叫ぶような動作をしてさらに拳を放つ。今よりも速く、先ほどよりも速く、音すら遅れるほどの速度でラッシュを放つ。魔力弾に触れ続けているその拳にヒビすら入らず、欠けもせず、傷すらつかない。何故なら相棒が生み出す影は剣でも槍でも斧でも銃でもない――盾だ。いかなるものも遮断する絶対的な盾。これに気が付いた今の俺と影人形だったらこれ以上の攻撃すら防ぎきれる!

 

 

「もらったぁっ!!」

 

 

 弾幕に集中して無防備だと判断したのか女の一人が真横から飛び込んできた。一撃を入れるべく自らの拳を引き、それを放つ――がそれは叶わない。

 

 

「――あぁぁぁっ!?」

 

 

 伸ばされた女の腕を別の影人形が白羽撮りのように拳で挟んでいる。ここで相棒の影の本質である絶対的な盾の防御力を思い出そうか? 盾って事は硬いんだよ。目の前の弾幕すら防ぎきるほどにな……それに勢いよく挟まれたらどうなる? はい答えは普通に腕が折れます。防御力ってのは時として最強の攻撃力にもなるってよく言うがまさにその通りだ――じゃあ死んでくれる?

 

 影人形Bは折れたであろう腕を離して女の顎下からアッパーのように腕を突き上げる。そして宙に浮いた女の体を拳で思いっ切り挟んでそこからラッシュタイム。ふぅ、まずは一人目撃破っと。

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の戦車一名、リタイア』

 

「……別の人形、だと! そんな――ぶふぁっ!?」

 

「ディオドラ様!? ひっ、うわぁぁぁっ!?」

 

 

 足元から二つの影を伸ばしてそれを媒体に影人形Cと影人形Dを生成。まずは軽く似非優男の顔面を横から殴って後ろに吹き飛ばしてから残った奴らを一発ずつ殴って一カ所に集める。そこから影人形二体で挟み込んでダブルラッシュタイム。自分でやった事だけどさぁ……エグイな。影人形のラッシュタイムって俺の拳よりは弱いけどそれでもかなりの威力はあるしそんなものに挟まれながら前後からの拳の連打を受けたら全身の骨が普通に折れるだろう……これがゲームでよかったね! これが実戦だったら死んでたよ!!

 

 

『ディオドラ・アスタロト様の僧侶二名、リタイア』

 

「これで三体目……あん? 何してんのアンタ?」

 

「い、いたぁいぃ……よくもぉ……よくも僕の顔をぉ!!」

 

「ただ殴っただけでだろうが。まさか一度も殴られなかったってオチか? マジかよ……俺なんて昔から規格外の拳やら蹴りやら光やらを浴びて四肢切断や体の半分が吹き飛んだりしてたんだぞ? 軽めに殴ったんだからそこまで痛くねぇだろ?」

 

「僕の顔を……この、この混血風情がぁ!!」

 

 

 顔を抑えながら似非優男は再び魔力を放ってくるが最初に生み出した影人形、つまり影人形Aのラッシュタイムで防ぎながらB、C、Dの三体を動かして一発ずつ似非優男を殴る。顔面に一発、突き出された腕に二発叩き込んだ……あらら~折れちゃったね。手首から先が変な方向に曲がってるし二の腕もまた同じように曲がっている。すっげぇ折れ方だな……キモッ。

 

 

「僕の腕がぁ!? な、なんでだぁ! 動かせるのは一体だけじゃないのか!!」

 

「はぁ? 別に複数体生み出せるし動かせるぞ? てか一回だけ老害共を抑える時に複数体生み出して見せただろ? まさか忘れてたとかか? それはお前のミスで俺は全然悪くないな」

 

 

 背後、真横から向かってくる女達を影人形で捕らえる。このままラッシュタイムで止めを刺しても良いがちょっとだけ確認したい事があるから俺も切り札を使うとしよう。なんせ夜空相手に使うわけにはいかなかったし実戦でどの程度まで使えるのか試しとかないと今後に響く。実験台よろしくな!

 

 

「さて処刑タイムの始まりだ。禁手化。さて、誇って良いぜ? これを使うのは夜空以外だとお前が初めてだ――我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり」

 

 

 禁手化した後、俺の背後に影人形を移動させると体を構築していた霊子と影が分裂し俺の体に纏わりつく。

 

 

「我に従いし魂よ、嗤え、叫べ、幾重の感情を我が身へと宿せ」

 

 

 纏わりつくそれは以前のように無数の手や獣を模した影が漏れ出す事は無い。黒い膜のような影、それが生まれ変わった影人形の姿。

 

 

「生命の分身たる影よ、霊よ、我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん」

 

 

 周囲の霊子と影が混じり合う黒い膜を纏うこの姿こそ俺の新たな切り札――影龍王(シェイド・グローブ)()再生鎧(アンデットメイル)ver(・イン・)影人形融合2(シャドールフュージョン・セカンド)。鎧を纏う俺の体を覆う影のような膜は強化前のように無駄な放出を行わないから体力消費も少ないし出力も倍以上に上がっている。ついでに絶対防御の影を纏っているから物理攻撃が効きにくいという素晴らしい効果も発揮する……があの規格外には無意味だったけどな。ただこの前の戦いで夜空の奴に見せたらなんか地味になったと言ってたが……まぁ、派手さは無くなったのは確かだな。でも地味でも強いから良いじゃねぇか!

 

 

「なん、なんだよそれ……!!」

 

「特訓の成果? まぁ、どうでもいいだろ」

 

 

 捕えている女二人に両手を伸ばして影を生み出し、それを女の体に纏わりつかせて締め上げる……相手が美女だからなんかエロい事してるようにも感じるけどそんな事は無い。至って普通に()()()を奪ってるだけです。

 

 能力発動の音声が鳴り続けると影で捕えている女達がどんどん干乾びていく。名付けるなら干物女? とりあえず気持ち悪いの一言だ。流石にこれ以上は死ぬと判断されたのか干物となった女達は転移されて撃破判定を喰らう。さて――お待ちかねの処刑タイムの開始だぜ?

 

 

「く、来るなぁっ!!」

 

 

 似非優男は前方に障壁を張るけど俺はそれに触れて「影に触れた存在の力を奪う」能力を発動。強固に作った障壁なんだろうけどたった数秒でガラスのように壊れ始める。相棒の影の本質に気が付いたのと同時に能力の応用にも気が付いた……存在の力を奪い取るって事は有機無機関係なく奪い取る。だったらその力を別の考えで奪えないかと歴代の思念を染め上げた際に思いついた。その結果がさっきの干物女と障壁破壊だ。

 

 干物女の場合は生命「力」、障壁の場合は防御「力」を奪い取る。今までは大雑把に力を奪ってやる! みたいな考えだったけどこうして考えてみれば色々と面白い使い方が出来そうだ。もっとも頻繁に使うのは威「力」を奪うか魔「力」を奪うとかだろうけどな。

 

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だぁ!! 僕は純血悪魔だぞ! オーフィスの蛇も使った! これからアガレスやバアルにグレモリーにシトリーに勝つ予定なんだ! そんな僕が混血悪魔風情に負けるはずが無いんだぁ!!」

 

 

 魔力を練り上げて一発の魔力弾を放ってくる。かなりの高威力っぽいが所詮それまでだ……その程度なんて夜空の光に比べたらつまようじみたいなもんだよ……だから簡単に防いでやる。俺の背後に影を伸ばしてそれを具現化する。今までの影人形のように全身黒タイツみたいな姿ではなく今の俺の姿、影龍王の再生鎧を身に纏った影人形だ。生み出したそれを前方へ移動させて放たれた魔力弾目掛けて拳を放つと――何という事でしょう! 僅か一発で粉砕できました! さっすが俺の()だな! マジで褒めたいわ!!

 

 

「そんなぁ……なんだよ、なんなんだよそれはぁ!!」

 

影法師(ドッペルゲンガー)。俺の影そのものを具現化した影人形だよ。ちなみに出力や実力と言ったものは全て今の俺と同じな」

 

「――へ?」

 

「つまり俺が二人いるって考えればいいさ」

 

 

 ビビりまくって地面に座り込む似非優男の頭を掴んで宙に浮かす。よほど怖いのか涙を流しては鼻水も出しっぱなし……良い男が台無しだ。とりあえず確かめたい事があるから影を纏わりつかせて……あぁ、くっそ……やっぱりさっきのセリフ通りかよ! こいつの腹の中、いや魂の部分に触れてみたがとんでもないものが有りやがる……オーフィスの蛇。どこかで感じた異質さだとは思ったが三大勢力の会談時に襲撃してきた褐色女が放つ魔力質に似てやがる。そういえばさっきこいつはオーフィスの蛇と自白したから間違いなく禍の団の関係者……この試合は色んな奴が見てるから後で色々と尋問されるだろうねぇ。

 

 というより……オーフィスの蛇って奴に触れて力を軽く奪ったせいで吐きそう……気持ちわりぃ。さっさと終わらせっかなぁ!

 

 

「ま、待てよ! 謝る! 薄汚いドラゴンとか混血風情とか言った事は謝るよ!! 土下座もするしなんなら僕の女たちを全員くれてやる!! 処女じゃないが全員美女だ! 具合も良い! どうだ!? い、痛くしないでぇ……! 負けで良い! 負けで良いからぁ!!」

 

「……ウゼェ。お前の女もいらねぇしテメェが使った蛇のせいで体調は最悪だ。だから、うん。めんどくせぇから俺は手を出さない」

 

「ほ、ホント――」

 

 

 影法師をもう一体生み出して挟むように殴る。そしてそのままラッシュタイムを放ち全身の骨と言う骨を砕いてこの気持ち悪さを発散。喜んだようだけど俺はちゃんと言ったぜ?

 

 

「――俺はな」

 

『ディオドラ・アスタロト様。リタイア』

 

 

 誰も影法師(ドッペルゲンガー)が手を出さないなんて言ってない。




禁手 黒衣の僧侶が反す影時計《ブラック・ビショップ・シャドークロック》
形状 所有者は影のように黒いドレスを身に纏い、手元に影で作られた中身が液体時計を作り出す。
能力「影に触れた存在の性質を逆転させる」
所有者 水無瀬恵

名称 影龍王の再生鎧ver影人形融合2《シェイド・グローブ・アンデッドメイル・イン・シャドールフュージョン・セカンド》
形状 影のように黒い膜を全身に纏う。

これにてアスタロト戦終了です。
水無瀬恵の禁手は亜種でノワールと殺し合った事で変異したイレギュラー的存在です。ぶちゃけますとノワールの影響をかなり受けてます。

そしてノワールが編み出した影人形融合の強化体は物理ダメほぼ無効、自分と同じ実力を持った影人形「影法師《ドッペルゲンガー》」を生成、出力等は強化前以上です。能力の応用や影による絶対防御を覚えたりと一人だけ次元が違います……これでも勝てない規格外とは一体……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話

「お、おえぇぇ……」

 

「全くさぁ、オーフィスの蛇の力を奪い取って体調不良とかやめてくんない? 私が偶然ノワールの部屋で爆睡してなかったらどうしてたわけ?」

 

 

 アスタロト家次期当主、通称似非優男とのレーティングゲームを終えた俺達はキマリス領にある実家へと帰ってきた。どうやら先の戦いで似非優男が使用したオーフィスの蛇と呼ばれる力をほんの少し奪い取った影響で体調不良に陥ってしまい……こうしてトイレで吐く事態になっている。いやあの、マジで気持ち悪い。いきなり高熱が出た時のようにふらふらしたかと思えば吐き気が止まらないし、挙句の果てにはドラゴンのオーラが不安定になったからもう最悪だ……偶然夜空が俺の部屋で爆睡してなかったら死んでたレベル。こうして背中に手を置いて仙術を流してもらい嘔吐物と一緒に毒素と言うべきものをトイレに吐き出しているわけだが……凄く落ち着く。流石規格外の仙術だよ。

 

 

「い、意地でも治して、いた……おえぇぇ」

 

「はいはい。吐くか話すかどっちかにしろって。でもさぁ、オーフィスの力を奪うのはお勧めしないよぉ? だってあれは無限の存在だもんね。無限だよ? 分かってる? 上限なんて存在しない圧倒的な力の塊で二天龍や地双龍、聖書の神や魔王すら恐れた最強の存在がオーフィスなんだからさぁ。そんな奴の力を奪い取ったら死ぬに決まってんじゃん」

 

『ゼハハハハハ。その通りだぜ宿主様ぁ! 生前の俺様ならば何も問題は無いが今の宿主様があのジジイの力を奪って自らの力の糧にするのは無理だ。体調不良になった理由を教えてやるとだなぁ、蛇と呼ばれる存在を構築するオーフィスの力を奪い取った。そこまでは良いさ。問題は宿主様がオーフィスの力に耐えきれるほどの器じゃないってわけよ。あれの力によって宿主様の生命力が無限に等しく上昇してキャパシティを超えかけた……ただそれだけだぜぇ』

 

「ヴァーリが言ってたけどさぁ、あの雑魚が使ってたオーフィスの蛇って制限掛けた術式だから雑魚が使っても問題ないんだってさ。でもノワールの場合は術式じゃなくてオーフィスの力そのものに触れたからこんな風になっちゃったってわけ……もう無茶すんじゃねぇよ? 私との決着の前に死んだらマジで許さないから」

 

 

 俺の背中に手を当てながら仙術を流し続けている夜空が心配そうな声色で言ってきた……ありがとう! 心配してくれてありがとう! お前に看病されるならもう一回ぐらい体調不良になっても良いわ!

 

 俺の体内に残っていた毒素と言うべきものは全部吐き出したので洗面台で顔と歯を磨く。流石に嘔吐してそのままってのは嫌だしな……しかしあれがオーフィスの力、全体的な部分の1%にも満たないと相棒は言ってたけど流石無限の龍神、出鱈目すぎる。もし対決した場合はどうやって倒すかねぇ……そもそも倒せんのか?

 

 

『無理だな。あのジジイは死なねぇよ。対決するだけ無駄なのさ』

 

『そうですね。あれはドラゴンでありながら力を求めず、静かな世界で一人で居たいという願望のみを抱いています。禍の団のトップになったのもそれが原因ですよ――次元の狭間、そこに住まう真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)と称されるグレートレッドを倒すため。ただそれだけのために彼らに力を与えているだけです……もっとも他の方々はオーフィスの力を利用しているに過ぎませんけどね』

 

「そうそう。自分達の方が弱いのにあのオーフィスを格下扱いしてんだよ? 馬鹿でしょ。あっ! ちなみにオーフィスはねぇ! 黒髪ロングの幼女なんだよ! 乳首にテープ張って隠してる痴幼女!!」

 

 

 痴女と幼女を合わせて痴幼女ってか? 確かドラゴンも人型になれるっていうしまぁ、幼女の姿になってもおかしくはないか……あれ? でも相棒はジジイって言ってたような? 名前ぐらいは知ってるがどんな姿をしているかとかは知らねぇんだよな。

 

 

『オーフィスは姿を持たない。自分の好きな容姿で俺達の前に現れたりするわけよ。しっかしあのジジイが今度は幼女かぁ! 誰の影響なのかねぇ? おいユニア! その辺どうなんだよぉ?』

 

『知りませんよ。そもそもオーフィスは未来永劫ぼっち属性ですから誰かに影響されてその姿になったとは考えられません。あるとすれば彼女の傍で話し相手になっている白龍皇の影響では?』

 

『白蜥蜴ちゃんってばロリコンだったのかよ! なんだよなんだよ! 人には趣味が悪いだのと言っておいて自分もその口ってかぁ! 次に会ったら煽ってみっかねぇ!!』

 

 

 絶対に違うと思う……あのヴァーリがロリコンだったらちょっと、いやかなり引く。い、いや……待てよ、俺の隣に居る夜空は年齢十八歳の癖に子供体型をしている。つまりロリだ、合法ロリだ。そしてヴァーリは夜空を追い回しているわけで――変態だ!! やっべぇ!! 気づいちゃったよ!! あの銀髪イケメン野郎! 見た目が子供体型のこいつをを追い回すって事はガチのロリコンじゃねぇか!! これは夜空があの銀髪イケメン野郎に食われる前に殺しておこう。赤龍帝と白龍皇の因縁? 知るかそんなもん! 今は俺の精神安定もとい夜空の未来のためにあいつを殺しておくべきなんだ!

 

 

「とりあえずヴァーリは殺しとくか。うん」

 

「いきなりどうしたん?」

 

「何でもねぇよ。悪かったな、仙術流してもらってよ」

 

「べっつにいいよぉ~? ノワールが死んじゃうと私が困るし。でもマジで私の知らない所で死なないでくんない? 死ぬなら私の手で死んでよ」

 

「それはこっちのセリフだ。人間なんだから寿命で死ぬか俺に殺されろ。勝手に変な奴に殺されたり犯されたりしやがったら許さねぇからな」

 

「べーだっ! この私が死ぬわけないじゃん。そんじゃノワールぅ? おやつぅ!! お腹減った!!」

 

「はいはい。おやつでも飯でも何でも食わせてやるよ」

 

「ありがとぉ~ノワールだいすきぃ!」

 

「俺も大好きだ。だから一発ヤラせてくれ」

 

「ヤダぁ」

 

 

 おかしい。今の流れはうん良いよ! とか言う流れだろう! マジで俺の童貞って何時無くなるんだろう……平家辺りにヤラせろって言えば多分抱ける。でもそうなるとめんどくさい事になりかねないんだよなぁ。見た目はアイドル級、ぶっちゃけ胸はどうでもいい、アイツの脇も夜空並みにグッとくるから抱きたいかと言えばYesになる。でも中身がなぁ。

 

 おやつぅと叫びながら夜空は俺の体をよじ登って肩に座る。なんで俺が肩車しないといけないんだよ……太ももの感触が素晴らしいです! ありがとう!

 

 

「よっ。体調は治ったか?」

 

 

 夜空を肩車した状態でリビングに戻ると不審者が居た。スーツを着崩しているチョイ悪風の男――アザゼルだ。

 

 

「なんで此処に居るんですか? 来る家間違ってますよ?」

 

「合ってるよ。俺はお前さんに会いに来たんだ……にしてもお前も無謀と言うか無茶なことするねぇ。ディオドラ・アスタロトが使用したオーフィスの蛇の力を奪おうだなんてヴァーリでもしねぇぞ?」

 

「どんなの使ってんのかなぁって感じでやってみたらあの様です。もう二度とやる気にはならないですね……所でマジで何でいるんですか?」

 

「サーゼクスから頼まれてな。お前さん達キマリス眷属は一応被害者って扱いになるから今後の処置について話しとかねぇとな。ディオドラ・アスタロトだがキマリス、お前さんとのゲーム終了後に禍の団に関与していたため捕らえられた。ゲームで敗北した奴らが転送される病院でな……医療班が即効で傷を癒したから今は取り調べの真っ最中よ」

 

「へー」

 

「……どうでも良いって顔してやがるな。たくぅ、お前さん強すぎるぞ? 若手悪魔という括りに入れて良いのかすら疑問視されてる。今回のゲームにおいてバアル家次期当主、サイラオーグ・バアルとキマリス家次期当主、ノワール・キマリスの二強だと極一部を除いた各勢力のお偉いさん方は声を揃えて言ってるよ。そうだ、これも一応言っておこう――ディオドラ・アスタロトは今後、普通の生活は出来ねぇだろう」

 

 

 その極一部って悪魔側の老害ですよね? 俺の勝手な予想だけどきっと当たってるだろうなぁ。そんでなんであの似非優男が普通の生活できなくなってんの?

 

 

「なになにぃ? ノワールにビビって再起不能?」

 

「それだけなら良かったんだがなぁ。ディオドラは精神が完全に破壊されたと言ってもいいだろう。取り調べをするために連行しようと思ったらお前に襲われていると勘違いして発狂したそうだ。ただ叫んだだけじゃなく魔力による攻撃をしようとしたらしいが……どうやら魔力を練るという悪魔として大事な事すら忘れるほどお前を恐れているようだ。今も取り調べを進めてるが期待できるほど成果は出ないだろう……奴の目に映る人物全てが鎧を纏ったお前に見えているぐらいの精神状態だしな。まぁ、あれだけ力の差を見せつけられた上に前後から本来は死ぬはずの威力で殴られ続ければそうなるわな」

 

 

 なんだろう……犬月達の視線が「やりすぎたんですよ」みたいな事を言ってきてる気がする。でも俺は悪くない! だって殺し合いだし相手を殺す気でやらないと終わらないんだから仕方ないじゃん! 似非優男……ごめんね? 多分今日の晩飯を食う頃までは罪悪感はあると思うから! それ以降は知りません。

 

 アザゼルの話ではディオドラ・アスタロトは次期当主の座を剥奪、アスタロト家当主も責任を取って解任、そしてトドメに魔王を輩出する権利を失ったそうだ。正直どうでも良いな……だって俺達には関係ないし。でも意外だったのはあの似非優男がグレモリー先輩の所のシスターちゃんを罠にはめた犯人だったなんてねぇ。堂々と自分の部屋にシスターちゃんの写真を置いていたらバレるだろ……マジで変態だったんだな。平家が吐きそうになるわけだよ。

 

 そう言えばどうでも良い事だけど似非優男が発狂したらしいが俺と対決した眷属達も同じらしい。ベッドの上で殺される! いやぁ! 助けてぇ! と今も悲鳴を上げてるそうだ。どうしてそうなった!

 

 

「アスタロト家は若手悪魔同士のレーティングゲームから除外。バアル家と対決したグラシャラボラス家も次期当主が戦意喪失した事で同じく除外。残ってるのはお前達キマリス眷属、グレモリー眷属、シトリー眷属、アガレス眷属、バアル眷属だ。そして次のお前達の対戦相手だが――リアス達だ」

 

 

 へぇ。赤龍帝に聖魔剣、聖剣デュランダルが相手なら今日のゲームよりは楽しめそうだ。犬月達も先輩達が相手と知ってやる気を出しているようだ……多分、犬月の頭の中では赤龍帝を倒すってことを考えているだろう。仲が良いし同じ兵士、どっちが上か確かめたいとかだろうなぁ。

 

 

「その目、既にリアス達とどう戦おうか考えているって所か。やっぱりお前さんはヴァーリにそっくりだよ、戦いに関しては手は抜かない所がな」

 

「当然ですよ。悪いけどアンタから先輩方に伝えてほしい――遠慮なんてしない。テメェらの精神が壊れるぐらい殺す気でやらせてもらう、とね」

 

「――あいよ。お前さん達を利用するようで悪いがリアス達にも良い経験になるだろう。今のあいつ等に足りないのは殺意を持って自分達に向かってくる奴との戦いだ。今回のゲームをVIPルームで光龍妃や各勢力のお偉いさんと見ていたがグレモリーとシトリーのゲームよりお前達のゲームの方が評価は高い。特に王のお前さんと僧侶の水無瀬恵、お前達二人の戦い方は面白いと言ってたぜ」

 

「えぇっ!?」

 

「良かったっすね水無せんせー!! なんか、俺まで嬉しくなったっす! あの地獄を乗り越えた結果が出ましたよ!!」

 

「瞬君……うわーん! ありがとうございますぅ!」

 

「……ありがとうございます」

 

「なぁに礼なんていらねぇさ。俺自身も水無瀬恵が持つ逆転の砂時計に興味があるしな。ただでさえ性質を反転(リバース)させる神器ってのは希少だってのに禁手が影龍王の影響を受けているってんだから興味が出ないわけがない! つうわけでキマリス! そして僧侶の水無瀬恵! お前さん達の神器のデータを取らせてくれ! 神器コレクターとしての血が騒ぎだして止まらねぇんだよ! 特に影人形融合2だったか? あれはどうやって作った!? 教えてくれたら美女や美少女の女堕天使共とエッチタイムをプレゼントしてやる!!」

 

「マジで!? アザゼル、それに犬月を連れて行ってもオーケー?」

 

「良いぞ良いぞぉ! 二人まとめて女を知ってこい!」

 

 

 やべぇ……超行きてぇ! 美女と美少女の女堕天使にえっちぃ事をして良いとか最高じゃねぇか! 俺の兵士と書いてパシリと読む犬月瞬は俺の傍に跪いて「王様。この犬月瞬、どんなに険しい道であろうと王様と共に歩みます」と連れて行ってくださいオーラ全開だ。流石俺の兵士だ、欲望に忠実でなにより! いやぁ……でもデータ取られたらグレモリー先輩に教えられるかもしれない! だから断りたい! でもエッチタイムって響きが良すぎてすっげぇ行きたい! 畜生! これが堕天使のトップ、アザゼルの話術か!! この俺をここまで悩ませるなんてやるじゃ――はい、断ります。当然ですよね? はい橘様。断りますからその笑みをおやめください。喜んでしまいます。

 

 

「――大変、大変申し訳ありませんがエッチタイムという素晴らしい響きのお祭りには行けそうにありません。誠に申し訳ありませんがデータ取りもお断りさせていただきます」

 

 

 平家が変態と言いたそうな視線で俺の足を蹴り、橘がえっちぃの禁止ですと横腹つんつん、水無瀬はいまだに号泣で四季音は関与しないとばかりに酒を飲む。そして俺の方に座っている夜空は――お腹減ったぁと叫びだす。そこはもっと違う反応をしてくれませんかねぇ!!

 

 

「王様、分かりますよ……女堕天使! 俺も教会出身は大嫌いだけど女堕天使という響きはエロ過ぎる……! 行きてぇよぉ!! エッチタイムってなんなんだよぉ!!」

 

『ゼハハハハハハッ!! 泣くな宿主様!! 俺様の息子ならば前を向け! 良いか! 女なんざ星の数ほど存在するんだぜぇ! チャンスなんざいくらでもある! だから泣くんじゃねぇぜぇ!! 堕天使の頭よ、一言だけ言わせてもらおうか――俺様、男の娘を所望する』

 

「おい」

 

『クロム、貴方はまだ男の娘好きだったのですか? 良い趣味とは言えませんので即刻考えを改める事をお勧めしますよ』

 

『うるせぇユニア! テメェの童貞好きに比べたらまだ優しいだろうが!! 男の娘の素晴らしさを知らねぇから言えんだよぉ!! アイツらはなぁ……男なのに女なんだよぉ! それが分からねぇのかテメェはよぉ!』

 

『全く理解できませんしする気もありませんよ。そもそも私は童貞が好きなのではなくて初めて交尾をした男の反応が好きなだけです。全く……死んだ方が良いですよ?』

 

『そりゃぁテメェの方だ!! 地双龍同士の殺し合いで俺様が勝利する事が多かっただろう? つまり俺様の方が強いってわけだ!! ゼハハハハハハ! 雑魚は雑魚らしく、ビッチはビッチらしく男の性処理道具になってればいいんだよぉ!』

 

『クフフフフフフ。おかしなことを言いますねぇ? クロム、貴方が勝利する事が多い? 私の記憶では貴方は敗北する事が多かったはずですよぉ? 雑魚は雑魚らしく男に掘られていればいいんですよ』

 

『ゼハハハハハ!』

 

『クフフフフフ!』

 

 

 あのさぁ……喧嘩するなら聞こえないようにやってくれない? 相棒の男の娘好きは昔からだけどさぁ、お前が言うと俺までそういう目で見られるんだよ。残念な事に俺は男好きじゃねぇし普通に女の子大好き。特に脇が大好きな一般的な男子学生だからな? でもグレモリー先輩の所の吸血鬼レベルだったら普通に抱けると思う。

 

 

「掘られればいいのに」

 

「縁起でもない事言うんじゃねえよ。犯すぞ?」

 

「何時でもウェルカムだよ。ノワールが耳元で話してくれれば私は何時でも濡らすよ?」

 

「いらねぇ情報をありがとう。と、まぁ……ついでに言うとグレモリー先輩やシスコン魔王と通じているアンタにこっちの情報を教えると対策を考えてあっちが有利になりそうなんでお断りさせてもらいますよ」

 

「そうかい。まっ、そう言うとは思ってたぜ。お前さんはイッセーやリアスのように俺達を信用してるってわけじゃないからな。でもよ、禍の団のテロが活発化して来たらお前はあいつ等と共に戦う事があるかもしれねぇ……いや、確実にある。二天龍と地双龍は力を引き寄せる性質を持つからこそどんどん厄介事を引き寄せるだろうよ」

 

「でしょうね。それがドラゴンの性質ですし」

 

「そうだ。だから……いきなり信用しろとは言わん。お前のペースで良い、何年何十年経っても良いから俺達を信用してくれや。サーゼクス達四大魔王やミカエル、そして俺もだがお前を信用している。地双龍だからってんじゃねぇぞ? ノワール・キマリスって一人の悪魔をだ。お前さんもヴァーリのように色んな目に合ってきたってのは想像できる……でもな、お前はもう一人じゃねぇだろ。そこにいる光龍妃やお前の眷属が居る。それは紛れもない絆って奴でそいつは必ずお前を強くする。おじさんの言う事は結構当たるんだぜ?」

 

「うわぁ、カッコつけてる。キメ顔うぜぇ」

 

「ひっどい事言うなよぉ。お前がいきなりVIPルームに転移してきた時にどれだけ苦労したと思ってんだ? しかもまた悪魔側の重鎮を消滅させやがって。サーゼクスやセラフォルーが泣くぞ?」

 

「ウザかったあいつが悪い!!」

 

 

 話を聞けばどうやら俺達若手悪魔のゲームを観戦するVIPルームに夜空が単独で転移した時に一騒動が起きたらしい。簡単に言えば頭の固い事で有名な悪魔側の老害が捕らえろと叫びだしたようだ……それを夜空がウザイの一言で光を放って消滅させて黙らせたらしい。流石規格外、どんどん悪魔側のお偉いさんが消えているような気がするがきっと気のせいだろう!

 

 そしてどうでも良いけどグレモリーVSシトリーは予想通りグレモリー家が勝利したらしい。もっとも赤龍帝はヴリトラに負けたっぽいけど。無名の悪魔が赤龍帝を倒すか……これは良い意味で波乱が起きるな。

 

 

「……あの、早織さん? あの人って怖いもの知らず、ですよね……?」

 

「むしろ怖いものが有ったら驚き。散歩と言う言葉で他勢力の領地に侵入して大暴れ、今のようにいきなり現れてウザイと言って問答無用で殺害。善意悪意関係なく自分の好きなように遊んでいるだけだから質が悪い」

 

「悪魔さん……凄いですよねぇ。すっごく強いのに戦えているんですもん……私も頑張らなきゃ!」

 

「多分、志保がどれだけ背伸びしてもこの二人には届かないよ。そう言う次元じゃないしね。可能性があるのは花恋ぐらい?」

 

「にしし。さっすがに私でもノワールと光龍妃には届かないさ。直系の血を引く酒呑童子なら分かんないけどね」

 

「化け物だね」

 

「そりゃ鬼だからね」

 

 

 後ろの方で何か話してるっぽいがスルーして……現魔王と天使長、堕天使の頭が俺を信頼しているねぇ。どうせ相棒の力が自分達にとって役に立つとかそんな感じだろうな。今まで実害と言う実害はキマリス家に殺されかけた事以外は無いけど陰口やらは言われ続けてきたこの俺様がそう簡単に信用しろと言われてはい、分かりました! なんて出来るわけがない。ぶっちゃけると眷属と夜空と母さん以外は信用してない。親父? あんなの信用するぐらいだったらセルスを信用するわ。

 

 

「……まぁ、確かに共闘する可能性もありますけど正直、今のままだと邪魔です。戦場でドヤ顔してるぐらいなら一体でも多く倒してくれと思いますし、魔王の妹やら紅髪の滅殺姫と呼ばれて調子乗るのも良いけど雑魚すぎてマジで邪魔です」

 

「お前さんからしたらそうだろうなぁ。ヴァーリ、光龍妃、そしてお前の三人は歴代の二天龍や地双龍とは違う成長をしている。俺から言わせたらお前達三人は過去、現在、未来において最強の存在だ。イッセーも歴代の赤龍帝とは違う成長をしているがまだまだ弱い。だがお前達を超す存在だと思うぜ?」

 

「う~ん、女の服を吹き飛ばしたりおっぱいの声を聞いたりするってのは面白いけどさぁ。女を人として見てんのって思っちゃうんだよねぇ。てか私を全裸にした罪はマジで重いよ。報復としてグレモリー家を消滅させようかとも考えたぐらいだし」

 

「何でやんなかったんだ?」

 

「疲れてた」

 

「あっそ」

 

「おいおい……疲れてなかったらリアスの実家が滅んでたのかよ。サーゼクスが聞いたら怒るぞ? アイツはシスコンであり親馬鹿だからな」

 

「身内贔屓の魔王がキレても何も怖くないんだよねぇ~まっ、相手にはしたくないけどさ。あいつ……なんか隠し持ってる感じだしね。それに私も処女喪失して子供産むまで死にたくないもぉん」

 

「だから何度も抱いてやるって言ってんだろ? そして俺のガキ産めよ」

 

「私に勝ったらヤラせてあげるし子供産んでやんよ。勝てない内はあきらめなぁ」

 

 

 言ったなこの野郎! ぜってぇ勝ってやる……! 意地でも勝って抱いてやる!! アンアン言わせてノワールもうダメこわれるぅって泣かせてやる!!

 

 

「仲が良くてなによりだ。というわけだ、リアス達とのゲームを楽しみにしてるぜ? 遠慮なんていらねぇから俺達が引くぐらいまで徹底的に叩きのめしても構わん。あいつ等がそれで使えなくなったらその程度だったって事だしよ」

 

「一応、アンタって先輩達を鍛えてるんだろ? そんな事言って良いのかよ?」

 

「先生としてならダメかもな。だが実際問題、これからの戦いでお遊び気分でやられると困るんだよ。イッセーの原動力はエロだがそれが毎回通用するかって言われたら難しい。自分達を軽く殺せるほどの存在と対峙した時に冷静に対処できる能力を身に付けるチャンスを逃すわけにはいかねぇ。リアスやイッセー達にも既にお前達とゲームをすると伝えているが……かなりやる気だったぜ? 余裕ぶっこいてると負けるかもしんねぇぞ。あいつ等の成長力は異常だからな」

 

「ふぅ~ん、ノワール。あの牛乳に負けたら殺すからそのつもりでいてね。言っとくけどマジだから。負けたらキマリス領とノワールの両親が消えると思っててね――私以外に負けるとか死んでも許さない」

 

「知ってる。負ける気はねぇよ……どんなルールかは知らないがグレモリー眷属の中で真っ先に潰さないといけない相手が居るからそいつを潰せばあとは楽勝だ。おっと、敵のスパイが居るのに情報漏らしちゃったーどうしよー」

 

「うわーたいへんだーのわーるがまけちゃうー」

 

「すっげぇ棒読みっすね。ある意味感心しますよ?」

 

 

 いやだって負ける気がしないし。滅びの魔力? 滅びの「力」を奪えば対処可能だし赤龍帝の方も雑魚すぎて四季音ぶつければ余裕。聖魔剣とデュランダルは……犬月で十分だな。とりあえずその時になったら作戦を考えるけど――あのシスターちゃんだけは真っ先に潰そう。てか潰さないと拙い。ダブルラッシュタイムしてでも必ず潰す。

 

 でも俺の考えって見抜かれてそうでいやだなぁ。先輩もシスターちゃんを狙う事は予想してるだろうし……別に良いか。読まれたら力でねじ伏せればいいだけだし。

 

 

「安心しろ。俺は今回のゲームに関しては支援しない。自分自身で考えさせるさ……サーゼクスの方は、まぁ、諦めろ」

 

「それ……色んな所から苦情来ますよ?」

 

「言うな。あいつはこれでも真面目なんだ」

 

 

 真面目に身内贔屓って魔王としてどうなんだよ……いや勝つから良いけど。

 

 言いたい事を良い終えたのかアザゼルは家から出て行った。なんでも似非優男に接触した禍の団を捜索するとか言ってたけど大変そうだなぁ……手伝おうとは思わないけど。夜空も腹減ったぁと叫び出したのでゲーム初勝利と言う名目で親父達も混ざっての大宴会を開催、橘のライブが予想以上に好評でキマリス家執事全員がファンになるという事態や四季音のせいで酒が無くなると言った事件が起きたけど……まぁ、楽しかった。偶にはこういうお遊びも悪くないなってぐらいに楽しかったよ。

 

 色んな事があったが俺達の初めてとなるレーティングゲームは幕を閉じた。




これで「冥界合宿のヘルキャット」編が終了です。
僕らのディオドラさんが再起不能になりました。見える者全てが禁手化中のノワールに見えてSAN値0状態です。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と赤龍帝
34話


「ごめんなさい。始業式だというのに呼び出してしまって……ご迷惑ではなかったですか?」

 

「特に急ぎの用事もなかったですし、生徒会長に呼び出されれば心霊探索同好会部長としては来ないとダメでしょ? なんて言っても「同好会から部活に昇級」になるかもしれないんですから」

 

 

 長かった夏休みが終わり、またつまらない日常の開始を告げる始業式当日の放課後、俺は生徒会長に呼び出されていた。別に俺は優秀で真面目だから学園で悪い事をした覚えはない……まぁ、先のゲームでアスタロト家次期当主を再起不能にした上で精神を完全破壊したのは悪い事になるかもしれない。でも俺的には何も間違った事はしていない、だって普通に戦っただけだしな。だから呼び出される理由なんて特に思い当たる事も……いや、うん。自分の教室に入った時にはもしかしたらとはちょっとだけ思っていたけどまさか本当に呼びだされるとは思わなかった。

 

 

「えぇ。夏休み中にも活動をしていたようですし生徒会宛に活動報告書も提出、部員も増えてきたのですからそれも視野に入れても何も問題はありません。ですが今回は別の要件で呼びましたのでそのお話は後日です」

 

「デスヨネ。なんせ適当に書いた活動報告書ですし。俺が呼ばれた理由は匙君の腕の件ですか?」

 

「……やはり分かりますか?」

 

「まぁ、クラスが一緒ですしいきなり変化があればなんとなく察しますよ。俺は兎も角、周りの一般人は中二病が発症したって認識してるみたいですから問題ないかと思いますけどね。もっとも……かなり弄られてましたけど」

 

「その元凶が何言ってんだぁ!? そもそも黒井が「なぁ、匙君? 静まれ……俺の右腕って感情込めて言ってくれない?」ってセリフが全ての始まりだろ!? あれが無かったら弄られなくて済んだんだよ!!」

 

 

 だって仕方ないじゃん。夏休み明けの初日、片腕に包帯巻いて教室に入って来たら誰だってそう思う。俺もうわぁ、生徒会長のしごきが凄すぎて頭がおかしくなったとか思ったぐらいだし。でも弄られた方がまだマシだと思うぜ? 俺がそのセリフを言わなかったら周りから陰で「匙の奴、中二病だぜ?」とか「うわぁ、きもぉい」とか言われていたに違いない。だから俺は助けてあげたと言ってもいいはずなのに何で文句を言われないとダメなのだろうか?

 

 

「ノリノリでやってた奴が何言ってんだ?」

 

「仕方ないだろ!? やらないと俺が中二病キャラにされかねなかったんだから!! というか黒井!? 俺の片腕どうなってんの!? アザゼル先生からは兵藤と戦った影響だろうとか言ってたんだけどマジか!?」

 

「匙。いくらクラスメートと言えども彼は――」

 

「別にいいですよ。その質問の答えだけどさ、多分その通りだと思うぞ? ドラゴンのオーラが前よりも高まってるし、グレモリーとシトリーのゲーム映像は見たけど赤龍帝の血を吸ったんだろ? だったら確実にそれが原因だ。相手は二天龍、それも最強のドラゴンの一角だから寝ている邪龍の意識を呼び起こすくらいは余裕で出来るだろ」

 

「……マジかよ、ヴリトラってあんまり良い伝説を残してないんだぜ? 目覚めたらどうなるとか分からないか? 先生も邪龍が宿る神器の事なら黒井の方が詳しいとか言ってたから会長に頼んで来てもらったんだよ……流石にこれ以上になると日常生活も苦しいしよ」

 

 

 匙君が包帯を外すと夏休み前までは何もなかった腕に黒い蛇のような痣と腕の一部に宝玉のようなものが現れていた。間違いなくヴリトラの意識が覚醒に向かっているな……邪龍特有のオーラが宝玉付近から微かに漏れているし痣の模様もヴリトラを象徴するものだ。黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)と称される五大龍王の一角、そして相棒と同じ邪龍と呼ばれるドラゴンがヴリトラだ。確か保有する能力も相棒と似たり寄ったりだった気がする。

 

 

『ゼハハハハハ。心外だぜぇ? 黒蛇ちゃんと一緒にされるのは俺様、我慢ならねぇ!!』

 

 

 俺の心の声に反論するように手の甲から声を出し始めた。生徒会長や副会長、匙君達眷属は相棒の声にビックリしたような表情をしたけど俺はいつもの事だし何も驚くことはない。あっ! 匙君もヴリトラが目覚めたら俺や赤龍帝、ヴァーリや夜空のようにドラゴンと会話できるぜ! 友達いなくなっても大丈夫!!

 

 

「だって似てるだろ? ヴリトラって相手の力を吸ったり削ったり、挙句の果てには呪いを与えるってお前から教えてもらったんだぞ? 相棒だって力を奪うじゃねぇか?」

 

『全然ちげぇ!! 俺様のは有機無機関係なく存在の力を奪い取る捕食と称する能力だ! 黒蛇ちゃんは確かに他者と繋がって力を奪うか与える事が出来るがヤツの本質は呪いだ。解呪不可能なほど濃い呪いこそが黒蛇ちゃんの本質よぉ。懐かしいぜぇ、ヤツがまだ生きていた時なんて気に食わねぇ雑魚共を呪い殺してたしなぁ。もっともやんちゃの時期が終わったのかいきなり落ち着きやがったけどよぉ』

 

「ふーん。ぶっ殺した事とかあるのか?」

 

『どうだったかなぁ。生前の俺様はユニアと共に手当たり次第に喧嘩売ってたか覚えてねぇ。ゼハハハハハ! 小僧! ヴリトラが目覚めかけているなんざ今まで無かった事だ! これを機に復活させてみたらどうよぉ? 嫌と言っても無駄だぜぇ? 赤蜥蜴に収集癖野郎、そして俺様が傍に居る以上は嫌でも目覚めるだろうからなぁ!!』

 

「マジかぁぁぁぁっ!?」

 

 

 匙君が絶叫しながら崩れ落ちたけど……そこまで嫌か? ドラゴンの意識が目覚めたら良い事ばっかりだけどねぇ。封印系神器は封じられた存在の意識があるか無いかで強さが変化する性質がある。幸い俺の場合は発現とほぼ同時に相棒の存在を認識できたから今の強さを得られたと言っても良い。今以上に強くなりたいならヴリトラの意識は目覚めさせるべきだ……その方が生徒会長的にもありがたいと俺は思うよ? なんせヴリトラの能力は圧倒的な威力で攻めていくというよりも搦め手で攻めていくタイプで生徒会長の戦い方にはピッタリな存在だ。正直な所、あの赤龍帝を真正面から挑まないで「血を抜く」という搦め手で攻める事を思いついた頭の良さ、戦術家の才能には驚いたよ……もし俺達キマリス眷属と戦う事になったらどんな風に攻められるんだろうとちょっとだけワクワクした。そして最後の方に発動した赤龍帝の技に唖然とした。

 

 泣き崩れた匙君を励ましている女性陣二人、その内の片方は俺と同じクラスの……花、花、だ、誰だっけ……? 生徒会所属で美少女だからうちのクラスからも人気があった気がするけど名前が思い出せない。どうでも良いから忘れておこう。

 

 

「アザゼル先生もヴリトラの意識が近いうちに覚醒すると言っていましたが……宿主である匙は大丈夫でしょうか?」

 

「匙君次第ですね。俺や相棒、夜空やユニア、ヴァーリとアルビオン、ドラゴンを宿す俺達は互いの存在を認めて共に強くなっています。赤龍帝達も同じくね……だから匙君もヴリトラと力を合わせたら今以上に強くなれると思いますよ? 封印系神器の強みは封じられた存在と力を合わせる事が出来るという事ですからね」

 

「なるほど……アザゼル先生は残ったヴリトラ系神器を匙に移植する事も考えているようです。私はあまり詳しくはありませんが匙が強くなるのならばお受けしたいと考えています……キマリス君の意見を聞かせてもらっても良いですか?」

 

 

 ヴリトラ系神器って言うと……確か匙君が持つ黒い龍脈(アブソーブション・ライン)邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)漆黒の領域(デリート・フィールド)龍の牢獄(シャドウ・プリズン)の四種類だったか? 相棒が言うにはそれぞれがヴリトラの能力の一部らしいけど……邪龍ってやっぱ頭おかしいわ。神器四つに魂を分けられても赤龍帝に触れただけで意識が活性化するとかホント化けもん。伝承とかでも邪龍は討伐か滅ぼさないといけないぐらい頭がおかしい奴らだって言われてるしねぇ――その中でも常識人な俺はかなりマシな方だろうな!

 

 しっかし移植ねぇ……あんまり他人の神器を譲渡するとかはお勧めしないんだよな。なんせそれをすると神器自体のスペックがかなり下がるし最悪の場合、元々持っていた能力が消滅する可能性もある。いくらヴリトラの魂が宿った神器同士と言ってもそれは同じだろう……運よく全神器を問題なく移植、無事にヴリトラの意識が目覚めたとしても匙君自身の意識が消えるかもしれない。それどころか匙君の体を媒体に復活か? その辺は神器コレクターらしいアザゼルも分かってるとは思うけど……今のままだと確実に暴走するな。

 

 

「あくまで俺の意見って事で良いなら」

 

「お願いします」

 

「……まぁ、正直な所、俺も神器には詳しいってわけじゃないですが危険だとは思いますよ? 他者から譲渡された神器は本来の性能を発揮しにくい傾向があります。しかも移植する神器が匙君の神器と同じヴリトラ系神器、下手をするとヴリトラが覚醒したのと同時に匙君の意識が持っていかれるかもしれません。邪龍ってのは同族のドラゴンでさえ敬遠され、滅ぼしても魂さえ無事なら何度も復活する化物ですから」

 

 

 だから地双龍と呼ばれた相棒とユニアは神器に封印された。この二体と肩を並べる存在だった邪龍の筆頭格三体は討伐されたらしいけど……邪龍だから復活してそうだよなぁ。かなりの年月が経ってるし。

 

 

「……やっぱり、そうだよなぁ」

 

「匙君、怖いのは分かるがお前の気合次第でヴリトラを手懐ける事も可能かもしれない。だから今の現状ではやってみないと分からないが俺の答えだ。でも匙君なら大丈夫だろ? 格上の赤龍帝に気合で勝ったんだから邪龍の意識ぐらいは楽勝だって! 燃えたぜ、お前の決意。必ず先生になってくれよ」

 

「気合っていうか……あの時は無我夢中だったっていうか、な、なんか照れるな……ありがとよ!」

 

 

 ぶっちゃけると俺の中での好感度は赤龍帝よりも匙君の方が高いんだよ。ゲームの映像を見たけど禁手無しで赤龍帝相手に俺は先生になるという強い気持ち、意志だけで勝った。ホントその映像を見た時はテンション上がったぜ……今までの冥界だったらあり得ない事だったからかなり応援したくなった。マジでシトリー家が学校建てたいってなったら全力で援助しよう。混血悪魔の身としては支援しないといけないぐらいマジで大切な案件だ。

 

 余談になるが赤龍帝と匙君のガチバトルを見ていた犬月は――泣いていた。俺も同じ舞台で戦いたいと本気で大泣きしていた。

 

 

「そんなわけで大した事が言えなくてすいません。でも匙君をさらに強くしたいなら賭けても良いと思いますよ? 強い思い、強い決意は神器を変えます。それは禁手と呼ばれる出発点へと至る大事な感情ですからね」

 

「……えぇ。ありがとうキマリス君、貴方に相談してよかったわ。私達シトリー眷属はリアスに負けましたがこのまま立ち止まるわけにはいきません。私自身の目標のために前へと進みます。キマリス君、ありがとう。それと遅くなりましたがアスタロト家とのゲームに勝利、おめでとうございます」

 

「あぁ、えっと……ありがとうございます? 正直、相手が雑魚すぎて特に面白みも無かったと思いますけど?」

 

「いえ。映像だけでも圧倒的なまでの力の差を感じさせられました……願うなら正面から戦いたくはありません」

 

「そうそう。てか黒井……強すぎだろ! 会長がお前達のゲームの映像見て絶句してたんだぜ!? そんな会長なんて見るの初めてだったわ! なんなんだよ影法師とか影人形とか!! タイマンであんなのを大量に生み出されたら戦うこっちが困るって!?」

 

「そうか? 映像でも言ってたと思うけど影法師(ドッペルゲンガー)は俺とほぼ同じ実力だから倒すのは案外簡単だぜ?」

 

「どこがだよ!!」

 

 

 だって俺と同じ実力を持つ影人形が複数生み出されるって言っても()じゃないんだし倒せるでしょ?

 

 

「影龍王、酒呑童子、妖魔犬、覚妖怪、歌姫、黒姫……それぞれが私達以上の実力者です。今の私達では勝ち目は薄いですが――いつか必ず勝ちます。貴方に、貴方達に勝たせていただきます」

 

 

 良い眼だ、真っ直ぐで……本気で俺達に勝つ気でいる。なんというか新鮮だな……今までは上に居るアイツ等を、夜空やヴァーリしか見てなかったけど偶には下から追いかけてくる奴を気にするのも悪くねぇかもな。

 

 

「――へぇ、それじゃあその時は徹底的に潰してあげるんでアスタロト家次期当主のようにはならないでくださいね? もしそんな事になったら魔王様がガチギレするんで」

 

「勿論です。それと……リアスとのゲームを楽しみにしています。どうやらリアスも貴方に勝つ気でいるようですし案外、良い勝負になるのでは?」

 

「さぁ? 赤龍帝に聖魔剣、デュランダルが居ようと俺達は俺達の戦いをするだけです。向かってくるなら潰す、逃げるなら追い付いてぶっ殺す。ただそれだけですよ……あの、ところでさっき言ってた歌姫とか黒姫ってなんですか?」

 

「あら? 先のゲームを見ていた方が橘志保さん、水無瀬先生をそう呼んでいるんですよ?」

 

 

 生徒会長から聞いた話によると俺達と似非優男達との戦い、グレモリー先輩と生徒会長の試合、サイラオーグ・バアルとゼファードル・グラシャラボラスの試合は冥界全土で放送されていたらしい。俺達の試合を見ていた偉い方々や一般悪魔達が美女、美少女の水無瀬と橘の戦い方が印象に残っているようでそう呼んでるみたいだ……さらっと流したけど犬月も妖魔犬で通ってるんだな? まぁ、あれだけ大声で叫べば印象に残るか。

 

 まぁ、でも仕方ないか。なんせ音楽も無い状態にも関わらず笑顔で歌って踊っておっぱいを揺らしたんだから男性悪魔のハートを掴んでも違和感はない。おかしいな……まさか本当に冥界アイドルになるかもしれないとはねぇ……水無瀬は水無瀬で最初の白衣姿からいきなりの黒いドレス姿にチェンジ、オセロのようにいっきに印象が変わった事が原因だろう。仕方ないね、禁手中の水無瀬ってエロいし男性悪魔のハートを掴んでもおかしくはない……マジでどういうことなの。

 

 ところで平家に何か異名らしきものは無いの? アイツ自身はどうでも良いとか思うだろうが見た目だったらお姫様級だぞ? 中身は残念だけどな!

 

 

「マジすか……」

 

「その反応……まさか知らなかったのですか?」

 

「まぁ、はい。俺達は普通に戦っただけなんでそんな風に呼ばれてたとかは初耳ですよ。そもそも俺達は評価とかあんまり気にしてないですし」

 

「それはそれでどうなんだよ……次のリアス先輩と黒井のゲームはかなり注目されてるっぽいぞ? 黒井も影龍王で有名人だし、リアス先輩も会長と同じで有名人。そのせいなのか俺達はゲームが無いんだってさ。ラッキーと思うべきか残念と思うべきか……はぁ」

 

「マジかぁ。まさかあのシスコン魔王か? うちの妹を有名にするにはこれしかないって感じで当て馬にする気じゃねぇだろうな? もしゲームのルールがこっちに不利な条件だったらとりあえず殺す。遠慮なく殺しても誰も文句言わねぇだろ。どう思います?」

 

「……と、兎に角! 貴方は今も昔も注目されている存在ですから言動や行動には注意を、と言っても無駄ですね」

 

 

 畜生流された! とりあえず生徒会長? そんなの無理無理。俺が礼儀正しく品行方正になったら平家か水無瀬辺りから心配されるしな。しっかし俺と先輩だけゲームで他はお休みねぇ……別に良いんだけど俺を嫌う老害共が何かしそうで怖いな。邪魔するなら邪魔しても構わねぇ。だってそんな事をされても勝つからな……でももし、もし仮に犬月達や母さんにまでその手が及んだら――上層部を確実に消す。徹底的に潰して邪魔する者は全てを殺してでも消滅させる。嫌な目に合うのは俺だけで十分だ。

 

 この後は他愛ない話をして俺は生徒会室から出て、家へと帰る。リビングには部屋着に着替えた犬月達が他愛ない会話をしながらグレモリーとシトリーのゲーム映像を見ていた……真面目だねぇ。俺の眷属にしておくのは勿体ねぇや。

 

 

「おかえり。早く着替えて枕になって」

 

「王を枕代わりにする眷属とかお前ぐらいだぞ? 水無瀬、コーヒー淹れといてくれ」

 

「はい」

 

 

 自室に戻って着替えてからリビングに戻る。そして平家が寝そべるソファーに座ると宣言通り、俺の膝を枕にしてスマホを弄り始めた……サイズがあってないシャツだから乳首見えてるけど役得としてガン見しておこう。相変わらずのピンク色で俺は嬉しいぜ!

 

 

「オカズにしたいならもっと見せても良いよ」

 

「ここ最近は夜空の全裸で間に合ってるしなぁ。コーヒーあんがと」

 

「どういたしまして。シトリー様から呼ばれていましたけど何かあったんですか?」

 

「なんでも匙君の神器に眠るヴリトラが目覚めそうなんでどうしたらいいんですかと相談された。アザゼルも邪龍が宿る神器は俺に聞けとか言ってたんだと」

 

「……あぁ、げんちぃってば腕に包帯巻いてましたね。王様が弄ってましたけどあれ、ガチでヤバかったんすね? なんとなく邪気というか王様に似たものを感じましたけど大丈夫なんすか?」

 

「今の所はな。まぁ、赤龍帝にファーブニル、そして俺と言うドラゴンが近くに居るんだし眠っていた意識が目覚めてもおかしくねぇ。アザゼルが残ったヴリトラ系神器を匙君に移植も考えてるらしいが……その辺は匙君の意志次第だな」

 

 

 水無瀬が淹れたコーヒーを飲みながらスクリーンに映っている映像を見るとちょうど俺が密かに燃え、犬月が男泣きした赤龍帝と匙君のガチバトルの場面だった。匙君は神器のラインを自分の心臓と赤龍帝に繋げながらひたすら殴る、殴る、殴る。映像越しからでも強い意志が感じるほどの強い一撃だ……良いねぇ、真っ直ぐで羨ましい。

 

 

「兵藤さんは悪魔さんと違って禁手に時間が掛かるんですね?」

 

「そういやそうっすね。王様や光龍妃、白龍皇は一瞬だったのに……いっちぃの力が弱いだけ?」

 

「禁手に至って間もないからってのもあるが……相棒曰く、前の赤龍帝も鎧を纏うまでは時間が掛かったらしい。俺や夜空、ヴァーリはある意味例外って言っても良い。赤龍帝を狙うなら禁手化する数分間だ、もし出会ったら絶対に逃がすな――と言っても今回はスルーして良いぞ」

 

「へ?」

 

「の、ノワール君……あの、兵藤君は赤龍帝で、一番先に倒さないとダメだと思うんですけど?」

 

「強いからこそ放置するんだよ。誰だって赤龍帝と聞けば警戒するし意識が集中する、相手もそれが分かってるはずだもん。ノワールはあえて放置して周りから殺していこうって考えなんだよ」

 

「そう言う事だ。あとな……俺が赤龍帝に負けると思いますか?」

 

「ないっすね」

 

「ない」

 

「まけたらぁ~それはそれでおかしいぃっておもうぅ~」

 

「……ごめんなさい兵藤君」

 

「悪魔さんが負ける所が……想像できません」

 

 

 流石俺の眷属、圧倒的なまでに信頼しているなんて泣かせてくれるじゃねぇの。というよりさ……大ダメージ受けても再生するから実質不死身なんだよね。そもそも再生能力持ちに対する撃破判定って謎なんだよ……ライザー・フェニックスもプロ戦では上半身が吹き飛んでも再生して戦闘続行してたしな。だから俺が王をやってる限り負けは無い、なんせ普通に再生しますから! まっ、夜空並みの威力を受けたら微妙だけどな。でも恐らくだが次の試合の審判役は最強の女王ことグレイフィアさんだろう……贔屓で謎判定されたらどうしよう。

 

 

「流石に審判役が贔屓するわけない。したらそれはそれで問題」

 

「だよな。とりあえずこの映像だけで判断は出来ねぇけど……水無瀬、お前は猫又に出会ったら反転結界の中に閉じ込めておけ。性質反転は周囲の気、仙術を練られないようにしろ」

 

「は、はい!」

 

「そっすね……仙術ってのは喰らうだけでこっちの動きが制限されますし。いくら雑魚とはいえ打ち合うのは勘弁だわ」

 

 

 映像からはイケメン君がデュランダルを使ったり聖剣使いがアスカロンを使ったりする場面もあるから俺達とのゲームでもそれを使ってくるだろう。他にも対処するべき人物もいるんだけど……ぶっちゃけ雷光と言う名の普通の雷をドヤ顔で放つ姫島先輩は雑魚だし、吸血鬼は聞いた話だとこのゲーム中は神器使用不可だったらしいから詳しいデータが分からない。もっとも神器が目を媒体にしてるから潰せばその試合中は普通の吸血鬼になるからこっちも一応問題なし。先輩? ぶっ殺せば試合終了だから何も問題なし。

 

 

「とりあえず先に言っておくが――シスターちゃんは確実に潰せ。どんなルールかは分からねぇけど居るだけでこっちが与えたダメージが無くなるから初っ端から潰しに行くぞ」

 

「倒せなくても恵の反転結界なら回復をダメージに逆転できる。でもいない方が良い」

 

「にししぃ~だねぇ。ん、ぷはぁ、潰すんなら私がやっても良いよ? 拳振るえば一瞬だしさ」

 

「……なんか、アーシアちゃんがボコられると考えるとすっげえ微妙なんすけど。あの子、良い子っすよ? か、軽くえいって感じにしません?」

 

「そ、そうです! 私の、と、友達です! や、優しくしましょう!」

 

「ヤダ」

 

「無理」

 

「ざんね~ん」

 

 

 俺、平家、四季音の順で拒否する言葉を言うと犬月と橘は崩れ落ちた。水無瀬は……呆れている。仕方ねぇだろ? 回復役ってのは狙われるのも仕事の一つ、放って置けばこっちが不利になるんだしな。でも回復役なら水無瀬も出来るんだよな……性質変化させずにダメージを与える魔力を逆転させれば理論上は回復の魔力になる。言ってしまえば水無瀬が存在する限り、俺達全員が回復役になれるわけだ。

 

 橘の歌の支援と破魔の霊力による接近戦、犬月の妖魔犬と諦めの悪さ、平家の剣術と先読み、頼れる俺達の酒呑童子こと四季音の馬鹿力、そして水無瀬の反転結界……あれ? 負ける要素が一つも見当たらない。勝ったわ、マジで勝ったわ。どんなルールか知らねぇけど普通に勝ったわ。

 

 

「ごめんアーシアちゃん……マジでうちの王様がごめん!」

 

「アーシアさん……ごめんなさい」

 

「なんで敵に謝ってんの?」

 

「友達だから」

 

「……あっそ」

 

 

 まぁ、犬月や橘、グレモリー先輩達には悪いけどルール次第では一発目からシスター狙いに行くから怒らないでくれ……勝利の世界は非情で卑怯だってことを思い知らせてやるからそれで許してくれ。




今回から「体育館裏のホーリー」編開始です。
未だにレーティングゲームでの再生能力持ちの撃破判定の基準が分かりません。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話

「赤龍帝のクラスに変なのが転校してきたらしいね」

 

 

 二学期が始まってから数日が経ち、特に変化のない退屈な日常を過ごしていたが……それは一瞬で崩れ去った。理由なんて赤龍帝のクラスにコカビエル事件の時にデュランダル使いと一緒に居た聖剣使いが転校してきたからだ。その話自体は昨日の夜中に生徒会長経由で耳にしていたけどさ……なんで転校してくるわけ? 三大勢力が和平を結んで敵対関係では無くなったとはいえ……今更悪魔以外の存在がこの学園にやってくる理由が無いはずなんだけどなぁ。

 

 まぁ、そんな事は置いておいて……此処には居ないが犬月の機嫌が悪くなってるんだが仕方ないか。グレモリー先輩の所のシスターちゃんは可愛い! 清楚! 心が美しい! と言う理由で今まで除外していたけどそれ以外は見敵必殺、絶対にぶっ殺すと心に決めているぐらい教会関係者が大嫌いだ。しかもそれが別のクラスにやってきたんだから犬月の機嫌は最悪だ……うちのクラスの男共は美少女きた! って感じで盛り上がってたけど犬月だけは微妙な反応だったしな。

 

 

「あぁ。昨日の夜、生徒会長から聞かされた。コカビエル戦の時に居た……名前なんだっけ?」

 

「イリナ。紫藤イリナって名前だよ。赤龍帝と幼馴染で教会が生み出した聖剣使いの一人。転校理由は天界側のトップから命令されて派遣されてきたみたい――あと、転生天使になってるみたいだよ」

 

「転生天使?」

 

 

 保健室のベッドに横になりながらスマホで遊んでいる平家が聞きなれない単語を言った。確か天使は聖書の神が居なければ増える事が出来なかったはずだ。一応人間との間に子供を残せるが俺達悪魔や堕天使と違って結構難しいから殆ど増えないのが現状だったはず……エッチしてる間も快楽に流されないようにしないとダメとかちょっと何言ってるか分かんない。エッチしたらどう考えても暴走するだろ? 特に男の方が。女の方は……相手によっては墜ちるんじゃないかなぁ? てかそんな両者にとっても辛い、非常に辛い事をするんだったらいっそのこと人工授精で増やせよと思うんだけどさ……流石にそれだとダメなの?

 

 そんなどうでも良い事は置いておいてだ……転生天使って言う事は天界側も俺達が使う悪魔の駒のようなシステムに手を出したのか? 良いのかそれで? 人間って欲深いからそんなのを天使にしたら一気に堕天するんじゃねぇの?

 

 

「転生天使の条件が信仰深い人なんだってさ」

 

「そりゃまた天界らしい事だな……パンツ見えてるぞ?」

 

「もっと見たい?」

 

「全然。お前の見るぐらいだったら夜空の見たい――てんめぇ……! 枕投げるんじゃねぇよ!」

 

 

 顔面に枕が当たったので投げ返すと難なくキャッチしやがった。この野郎……黒下着を履いているからって調子に乗るんじゃねぇよ! すっごく良いと思います!

 

 

「今日のパンツは勝負下着だもん。ちゃんと見て興奮してくれないとヤダ」

 

「残念ながらテメェのパンツ程度でムラムラするわけねぇだろ。何回お前の裸を見てると思ってんだ?」

 

「いっぱい見てるね。昨日も一緒にお風呂入った時にガン見してた」

 

「そりゃ男だしな。それより体調はどうなんだよ? まさか登校してすぐに体調不良を訴えるとは思わなかったぞ」

 

 

 そう、何故俺と平家が無人の保健室に居るかと言うと――平家が体調不良を訴えたからだ。一時間目の授業が終わったのとほぼ同時に「もう無理助けて」という内容のメールが俺の携帯に届いた。登校してまだ半日も経ってねぇぞと心の中でツッコミを入れながら平家のクラスまで迎えに行き、前の時のように机でダウンしているこいつをここまで運ぶ羽目になった。ちなみに現在の時間は二時間目の授業の真っ最中、俺は犬月と橘に適当な言い訳よろしくと言っているから多分サボっても大丈夫。水無瀬が居ないが……きっと授業が別の仕事でもしてるんだろう。

 

 そんなわけで保健室のベッドで自分が履いているスカートの端をつまんで魅惑の太ももを見せているこいつをどうするべきか……絶対体調不良とか嘘だろ。サボりたかっただけだろ?

 

 

「体調不良は本当。赤龍帝のクラスに転校してきた聖剣使いのせいで男子の心の中が下種すぎて吐きかけた……もうやだぁ帰りたい、なんで夏ってヤる事しか考えない男が多いのか分かんない死ねばいいのに」

 

「容姿は美少女って言っても良いしなぁ。まっ、お前が体調を崩してくれたお蔭で俺もサボれたし次の時間まで寝てろ。傍に居てやるから」

 

「――ありがと。ねぇ、ノワール。実はね、この場所に人払いの結界を張ってあるから誰も来ないよ……今なら誰にも邪魔されずにエッチ出来るよ?」

 

 

 自分のスマホを置き、ベッドの上で仰向けになりながらスカートをめくって黒下着を見せてくる。デザイン的に子作りの雰囲気を底上げする時に履くようなものだな……エロい。いや、ガチでエロい。でもおかしいな……確かにこいつは普段からそっち系の事を言う事はあるが今みたいに本気で誘ってくることはあまり無いはずだ。無かったはずだ……! でも思い返してみれば昨日も一緒に風呂入ってたらちっぱい押し付けてきたりと接触が多かった気がする……あぁ、そう言う事か。

 

 

「――お前、まさか発情期に入ってるのか? それ(発情期)は自分でコントロールできるんじゃなかったのかよ?」

 

「出来るよ。でもめんどくさくなったし偶にはこうして直球でやらないとダメかなって……どう? ヤりたい? 私は何時でも良いよ? なんならここでオナニー見せようか?」

 

 

 スッゲェ見たいけどそれに釣られたら後戻りできない気がする。でもスッゲェ見たい……!

 

 

「残念ながらそういう気分でもねぇんだよ。シチュエーション的には悪くねぇけどさっさとやめないと今月の課金額減らすぞ?」

 

「それは困る。しょーがない、ヘタレなノワールを誘惑するのは光龍妃とエッチした後にするよ」

 

「出来ればそうしろ。というかお前で童貞喪失は死にたくなる――だ、からぁ……枕投げんじゃねぇよ!」

 

 

 顔面に当たった枕を投げ返す。それを難なくキャッチした平家は隣のベッドに放り投げて早く膝枕しろという視線を向けてきた。だから王に命令する眷属ってお前ぐらいだぞと何度言ったら分かるのやら……膝枕する俺も俺だけども。

 

 

「んで? その紫藤イリナの目的は?」

 

「グレモリー眷属とシトリー眷属、そして私達の支援。別に何かの情報を得ようとかは考えてないみたいだよ。後は分かるのは……ノワールにビビってる事ぐらい」

 

「はぁ? アイツになにかしたっけなぁ?」

 

「一回目の出会いで力の差を見せつけた、二回目の接触で殺気を放って追い返した、挙句の果てには傷ついている所を腹パン。これだけやれば怖がられてもおかしくないよ?」

 

「……あぁ、そんな事してたな。雑魚すぎて今まですっかり記憶から消えてたわ。今日の放課後にオカルト研究部の部室で自己紹介もどきがあるみたいで俺も呼ばれてるが……お前のお蔭で知りたい情報が分かったから行かなくても良いよな?」

 

「良いんじゃない? 別にノワールが居なくても問題ないし聖剣使い(紫藤イリナ)も赤龍帝にしか興味ないっぽいからね」

 

「なんだぁ? まぁ~た赤龍帝の奴、女を惚れさせたのかよ? 流石二天龍、男の夢を叶えてくれる魔法のアイテムだな」

 

「ノワールも人の事言えないよ?」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 そんな他愛のない話をしながら保健室で二人きりの時間を過ごし、俺と平家は自分のクラスへと戻る。犬月や橘からは何かあったのかと聞かれたが平家絡みだと説明すると何も言わずに察してくれたようだ……普段から一緒に居るからこいつらもなんとなく想像していたんだろう。だが残念な事にその事情を知らない他の奴らからは「黒井、お姫様との熱い時間は終わったのか」とか「保健室で二人きり、何をしていたんですかねぇ」とか言われたけどな。すっげぇウザかった……かなりウザかった!

 

 

「紫藤イリナです! 教会、というよりもミカエルさまから皆さんの支援をするためにやってきました! 前までは敵同士でしたけど今は一緒に戦う仲間……という事でどうかよろしくお願いします! 本当によろしくお願いします!」

 

 

 そんなわけで時刻は放課後、紫藤イリナ歓迎会もどきが始まってしまいました。会場はオカルト研究部の部室、出席者はグレモリー眷属、アザゼル、生徒会長、そして俺という素晴らしいメンバーだ。魔王の妹二人が歓迎するほどの人材かと言われたら微妙だけど一応……天界勢力からの使者だから問題ないのか? でも個人的には犬月の機嫌が悪くなるからさっさと帰ってほしいけどね。アイツの両親を殺したのはアリス・ラーナだったとしてもすぐに天界勢力や堕天使勢力と仲良くできますかと言われたら微妙らしい。

 

 というより俺が帰りたいんですけど……そもそもこの場所に俺って必要か? 別にサボってもよかったんだが生徒会長からお叱りを受けたくないから出席したけどさぁ……手を繋いで仲良くしましょうって感じが無理、マジで帰りてぇ。

 

 

「紫藤イリナさん。オカルト研究部と生徒会、そして心霊探索同好会は貴方を歓迎するわ。最初は驚いたけれど天界からのバックアップには悪魔側、堕天使側も助かっているわ。これからよろしくお願いするわね」

 

 

 別に歓迎した覚えはないんですけどね。

 

 

「はい! よろしくお願いします! 私! 皆さんと仲良くしたかったんです! 今までは敵対したりしてましたけどもうそんな事はしません! アーシアさん、この前は酷い事を言ってごめんなさい! ゼノヴィアも私に気を使って何も言ってくれなかったのに……いっぱい酷い事を言ってごめんなさい!」

 

 

 紫藤イリナがシスターちゃんとデュランダル使いに頭を下げると二人は気にしていない、これから仲良くしましょうみたいな事を言って和解した。話の流れが全然分からないがきっとコカビエル戦の時に何かあったんだろう。それにしてもこの女……前に見た時とは違って光力を感じるんだがこれが転生天使って奴になった証拠かねぇ? まさか夜空との殺し合いで嫌と言うほど光を浴びまくった事がこんな所で役に立つとは思わなかった。この変化はアザゼルと俺以外の奴は気づいていないか、もうちょっと観察しようぜ?

 

 

「さて紫藤イリナ、お前さんが此処に来たって事はミカエルから聖書の神の不在は聞かされているって考えても良いんだな?」

 

「はい。もうっ、ほんっとぉ~に教えられた時は大泣きしちゃいましたよ!! 全ての父! 偉大なる主がお亡くなりになっていなんてもう生きていられなくなりました! うぅ……思い出しただけでも涙がぁ!」

 

「分かるぞ」

 

「分かります」

 

 

 何が分かるのか全然分かんない。悪魔と言う常識があるから偉大なる主とか言われてもピンとこないし死んだって聞かされても別にどうでも良い……てかざまぁとすら思えるレベルだしな。

 

 涙を拭き終わった紫藤イリナは再び言葉を続ける。天界のトップ、ミカエルがこの町に天使のスタッフが存在しない事を問題視しており、始めの一歩として目の前のコイツ(イリナ)を派遣したらしい。確かに天界勢力は各所でやりすぎってくらいバックアップに力を入れているけど此処までしなくていいんだけどなぁ。だって今まで俺達だけで足りていたし、有事の際は俺達かグレモリー眷属が前で戦えば済む。後始末だって堕天使が発明した道具と悪魔パワーで隠蔽可能……ほら天使さんの役目無いぜ! まぁ、居ないよりは居た方が楽と言えば楽だけどね。

 

 

「そういえばミカエルの奴が言ってたぜ……近々、私のエースがスタッフとしてこの町に訪れるとかってな。確かにこの町は天界に冥界、双方の力が働いているが実際の所、グレモリー眷属とキマリス眷属、シトリー眷属に俺達堕天使だ。その辺りがミカエルの奴も気にしてたが……まさか本当に派遣してくるとはな。しかもあいつがエースって言うぐらいだ――お前さん、何になった?」

 

 

 アザゼルの問いに紫藤イリナは祈りを捧げるポーズを取りながら背中に天使の羽を生やした。なるほど……これがさっきまで感じていた光力の正体か。転生天使って名前通り、人間を天使にするシステムを天界側は手に入れたって考えて良いな。恐らく悪魔側が持つ悪魔の駒の技術を応用したんだとは思うけど神の不在により増える事のない天使をこんな手で増やすとは……それで良いのか天界勢力。色んな所に引っかからない?

 

 

「天使化か」

 

「はい! セラフの方々は悪魔と堕天使の技術を使って人間を天使へと転生させる術を完成させました。私はその第一号としてミカエルさまの配下になりました――本当に名誉な事なんです! あぁ、ミカエルさまに感謝を!」

 

「悪魔の駒の技術と人工神器技術の応用か……面白い事をしてくれるじゃねぇの! しかしキマリス、驚いていない所を見ると覚妖怪経由で知ってやがったな?」

 

「当然です。いきなり天界側から使者がやって来るって言われて何もしないわけないでしょ? 過去の記憶から目的まで、風呂で一番先に洗う箇所まで全部平家から聞いてますよ。勿論転生天使の事も二時間目をサボってた時に聞きました……って何? その、うわぁって顔は? なんか変な事言ったか?」

 

「いや、その……最初は兎も角として最後の風呂云々がちょっとな……」

 

「うん? あぁ、話せって事か。紫藤イリナが昨日一番先に洗った箇所は左腕、そんで次が右腕、また胸が大きくなったぁとか言いながらだったか?」

 

「……えっ、えっ、えぇ!? な、なななんでぇ!?」

 

 

 俺の言葉に紫藤イリナが自分の身体を隠すような動作をする。いやぁ、昼休みに平家が話のタネって事で話してくれたけど個人的には楽しかったわ。ぱっと見でもマジでデカいけど本当にデカいんだもんなぁ……ここ最近の転校生ラッシュ、しかもそれらが美少女揃いだから男子生徒のオナニー率がヤバそうだ。てか暇だからって他人の記憶を盗み見るなっての……それが覚妖怪が嫌われてる原因だろうが。

 

 

「離れた場所ですら心を読む、いや今日までの出来事を把握できるのか。一般的な覚妖怪とは比べ物にならねぇな……影龍王の影響か。キマリス、次のリアスとのゲームだがもしかしたら覚妖怪の能力を封じてもらうかもしれん。その辺は分かってるだろ?」

 

「一応は。俺でさえうわぁって思えるぐらいだし禁止されても文句ないですよ。もっとも俺的にはそこに居る吸血鬼の神器、赤龍帝の洋服崩壊と乳語翻訳(パイリンガル)だっけ? それらの使用を認めたいんですけどね。技が禁止されて戦うとかつまらないですし、負けた言い訳にされても困りますからね」

 

「確かにな。サーゼクスには俺から伝えておこう、両眷属が制限無しで戦うのが理想的だがそうはいかない可能性もある。近いうちにサーゼクスからゲームの詳細を伝えられると思うが……暴れるなよ?」

 

「俺が禁手禁止、もしくは俺達だけ制限有って先輩側が制限無しとかシスコン全開だったら暴れますけどね」

 

「流石にそんな事にはならねぇよ」

 

 

 いやいや、あの人って先輩を勝たせたいと思ってるだろうしやりかねない。だって俺が禁手になったら負けないし。だって再生するんだぜ? 肉体的ダメージは無理だとしても耐久力は邪龍並みだしたとえ赤龍帝が相手でも負けるわけがない。それ以前に……四季音に勝てるかどうかすらこの人たちは怪しいからなぁ。

 

 

「……ミカエルさまから聞いたんだけどイッセーくん、影龍王と戦うんだよね? か、勝てるの……?」

 

「分かんねぇ……キマリス対アスタロト戦の映像を見て研究してるんだけど勝ち筋が見えなくて悩み中だよ。ドライグも今代の影龍王は化け物だって言うぐらいだし……部長も対策を練るのに必死みたいなんだけど作戦が思いつかないみたいだ」

 

「デュランダルやアスカロンといった聖剣でさえ影龍王に通用するかは分からん。今までの人生の中で一番の強敵だよ……」

 

「彼の他にも私と同じ戦車に酒呑童子が居ます。鬼は……相手をしたくはありません」

 

 

 なんか端っこの方で何か話してるが……どうでも良いか。

 

 脱線した話を真面目筆頭の生徒会長が元に戻して転生天使の説明を求めた。聞けば四大セラフとそれ以外のセラフ達にトランプを模した「御使い(ブレイブ・セント)」と呼ばれる十二人の配下を持つ事になったらしい。配役としては悪魔の駒で言う(キング)がミカエル達、女王から兵士までがトランプの(エース)からクィーンとなってるようだ……俺達がチェスだから天使はトランプねぇ。となると堕天使がもし同じのを作ったらオセロか将棋か? まぁ、アザゼルは今の所は転生システムを作る気は無いみたいだけども。

 

 

「へぇ、面白い事したんすねぇ」

 

 

 紫藤イリナの説明会もどきが終わり、俺は自宅に帰ってきていた。あの後、俺達三眷属で紫藤イリナの歓迎会をしようと言う話になったが特に仲が良いわけでもないのでお断りして……代わりに橘と水無瀬を放り込んでおいた。なんか断った時に皆の視線がマジかよみたいな感じだったけど当たり前じゃないの? だって俺、紫藤イリナと仲良くないし……むしろ初対面で敵意向けられたから殺したいぐらいなんだけどさ。まっ、キマリス眷属の常識人枠を代わりに出席させてるから何も問題ないだろう。

 

 

「将来的には悪魔と天使、疑似戦争が行われるんだってさ。やったねパシリ、天使殺せるよ」

 

「……今じゃねぇんだろ? だったらそん時に今の復讐心つうか怒りが残ってたら嬉しいがそれまでにアリス・ラーナをぶっ殺すからもしかしたら薄れてるかもしんねぇ。だから――今じゃないならどうでも良い」

 

 

 なるほど。こいつ自身も悪いのはアリス・ラーナで天界勢力や堕天使勢力は巻き込まれただけって考えてるわけか……全方位に喧嘩売るよりも一点のみに喧嘩売った方がコイツ的には楽なんだろう。今もあの銀髪女を殺すために妖魔犬を磨き上げているし次に出会えばきっと勝つだろう。だが問題は奴の禁手の能力だ……未だに判明しているのが禁手の力を一本に集約、そして高速移動のみ。他にも能力があったら犬月でもちょっと難しいかもしれねぇな……まぁ、勝つから良いけどね。

 

 

「大人になったね。未だに童貞なのに」

 

「……てんめぇ! 悪かったなぁ!! てかテメェも処女だろうが!!」

 

「ノワールにエッチアピールしても襲ってくれないから未だに処女なだけ。今日も保健室で勝負下着見せたのに襲ってくれなかった」

 

「王様……サボってる最中に何してるんすか?」

 

「勝手に見せてきたこいつが悪い」

 

 

 もし俺が夜空で童貞を捨てていたら迷わず襲ってたけどまだ童貞だし、まだ童貞だから襲うわけにはいかなかった。さっさとあの規格外……俺に抱かれろよ。いくらでも頑張れるってのにさぁ!

 

 

「変態」

 

「朝の自分の行動を思い出せ。とりあえず今日から天界勢力が仲間入り、グレモリーもシトリーも歓迎してるから追い返すことができないからまぁ、諦めろ。一応見た目は美少女だし仲良くしても罰は当たらねぇと思うぞ?」

 

「……ういっす」

 

 

 渋々って感じだが一応納得したらしい犬月の不満を発散させるために冥界へと転移していつもの場所で殺し合った。妖魔犬をさらに磨き上げてレベルアップさせたいし、俺自身も魔力と妖力の融合形態は地味に興味があった……だからもっと強くなれ、もっと強く、俺の兵士だったら最強の犬に成れるように頑張ってくれよ?




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話

「――さいっこうだな」

 

「な、にが、ですか? きゃ!? あ、あく、いえレイ君! ちゃんと走ってください!」

 

「ちゃんと走ってますよーうんうんちゃんと走ってるから何も問題ないよー」

 

「棒読みじゃないですかー!」

 

 

 天界からの使者、紫藤イリナが転校してきてから数日が経った。特にこれと言って俺達に何かがあったわけでも無く今まで通りのつまらない日常の繰り返しだ。俺や犬月に平家の三人はあまり関わり合わない様にしてるが水無瀬と橘はすでに友達として仲良くしてるらしい……紫藤イリナ自身のコミュ力が物凄いから転校して日にちがあまり経ってないにも拘わらず、駒王学園が誇る美少女組の一員となり男女問わずに人気が出ている。ちなみに美少女組となっているのはグレモリー眷属女性陣にシトリー眷属女性陣、そして平家と橘だ。水無瀬? アイツは美少女と言うより美女だから……!

 

 

「もうっ! レイ君! お、怒りますよぉ!」

 

 

 どうでも良い事に思考を割いていたら俺とくっ付いている状態の橘からお叱りの言葉が飛んでくる。いやぁ……仕方ないと思うよ? だって変に考えるとね、ノワール君のノワール君がおはようってしちゃうからさ。

 

 

「黒井の動きが鈍いな」

 

「あれは仕方がない。むしろ変わってほしい」

 

「幻のお姫様と付き合っているだけではなくしほりんとも幼馴染……! 兵藤並みに良い思いをしているはずなのに何故か兵藤の方がムカつくのは何故だ……!」

 

「アイツがイケメンだからだろう」

 

 

 現在はもうすぐ行われる体育祭に向けて学園全体で練習中だ。勿論学生である俺や犬月、橘や平家も例外では無く所属するクラスでそれぞれが担当する競技の練習をしているんだが……うん、これは良いものだな! サンキュー匙君! 俺と橘を二人三脚の選手にしてくれてマジでありがとう!

 

 ぴったりと体をくっつけて片足を紐で結び、息を合わせて走っているんだが……ここで思い出してもらいたいのは二人三脚での俺の相方、橘志保は巨乳だという事だ。一緒になって走るたびに隣にある豊満なおっぱいが上下左右に揺れて非常に、非常に素晴らしい! ブラとかしているんだろうが走ればどうしても揺れてしまうのがおっぱいだ……ちっぱいだったら揺れ? 何それ美味しいの? と死んだ目で言うであろうそれを橘はいとも簡単に行っている。すっげぇ役得、合法的に橘の腰に手を回せるし揺れるおっぱいを間近で見れるしもう最高だな!!

 

 

「ちゃ、ちゃんとしてください! ほ、本当に怒ります、よぉ!」

 

「仕方ねぇだろ? 俺が本気出したらお前が付いてこれないんだしよ。これでもちゃんとやってるんだぜ? ただ……お前のおっぱいの揺れが凄くてそっちに目が行ってるだけだ」

 

「っ!? れ、レイく、き、きゃぁっ!?」

 

「ちっ!!」

 

 

 走っている途中で橘が別の所に意識を集中したせいかお互いの足が絡まってしまい体勢を崩してしまう……整備されていると言っても小さい石とかは存在するだろう。俺が怪我をする分には別に良いが橘には怪我をさせられない、目の前でスローモーションのようにゆっくり、ゆっくりと地面に倒れこむ橘を俺の方へと引っ張って後ろに軽く飛ぶ。重力と人間一人を体の上に載せた状態で硬い地面に落ちたせいで一瞬だけ息が出来なくなったが……俺が怪我をする分には問題ねぇ。はぁ……あっぶねぇ、遊びとはいえ真面目にやらねぇと拙いなこりゃ。と言うより良く動いた俺の体……!

 

 

「いってぇ……橘、怪我ねぇか?」

 

「は、はい……ごめんなさい……背中、だいじょ、うぶ……」

 

 

 やけに声が近いと思ったら視線の先、言ってしまえば俺の顔の目の前に橘の顔があった。美少女と表現できるほどの整った顔立ち、胸板には豊満なおっぱいが押し付けられている……これ傍から見たら俺が押し倒されてるようにも見えるんじゃねぇか? アイドルに押し倒されるとかご褒美だな! 橘の方も状況が理解できたから顔色が一気に赤くなっていき――ちょっとだけ顔が近づいてきた。おいぃ!?

 

 

「おい淫乱アイドル」

 

 

 声をかけると我に返ったのかさっきとは逆に離れていった。可愛い。

 

 

「――はっ!? ち、違います! 違いますよ! 決してチャンスとか、えっとえとえと……とにかく違います!」

 

「分かった、分かったから早く退いてくれ。お前に押し倒されたままじゃ起き上がれねぇんだよ」

 

「は、はい!」

 

 

 片足同士が紐で繋がっているため横にズレる形で俺の体の上から退いた。周りに人が居なかったらおっぱいの感触をもっと感じたかったが仕方ないな。体を起こして足の紐を解くと周りで見ていた俺のクラス奴らが走ってきた……転んだから心配になってきたようだけど大半は橘だろうなぁ。

 

 

「黒井! 大丈夫か!?」

 

「背中から地面に落ちたが痛みがあるなら保健室に行った方が良いぞ?」

 

「橘さん! 大丈夫? 黒井君も背中、痛くない?」

 

「俺は頑丈だから怪我とかねぇと思うけど……犬月、背中見てくんねぇか?」

 

「うぃーす」

 

 

 上を脱いで上半身裸となって背中を犬月に見せる。なんか……周りの視線が凄いんだけど気のせい? まさかそんなに酷い怪我してる?

 

 

「さっすが黒井っち。鍛えられた肉体のおかげで怪我一つしてねぇっすよ」

 

「そうか。ちっ、サボる口実が消えたか……こんな事なら橘のおっぱいの感触をもう少し味わっとけばよかった」

 

「相変わらず隠さず言うっすねぇ――感触、どうでした?」

 

「マジでやわらけぇ。例えるならプリンだな」

 

「プリンすかぁ……なんか食いたくなってきたっすね。帰りにコンビニ行きません?」

 

「俺も無性に食いたくなったし行くか」

 

「……やはりこの男は、敵だ……!」

 

「プリンだと……そんな、そんな的確な例えが存在したというのか……!」

 

 

 何故か知らないが男子勢は地面に崩れ始めた。マジで感触的にプリンだったから間違った事は言ってねぇんだよなぁ……水無瀬はマシュマロ、橘はプリン、平家と四季音は――やめよう。これを考えたら後が怖い。一緒に走っていた橘に怪我はないかと聞いてみると自分の身体を少し動かして問題ないですと笑顔で返答してきた。おっぱいが揺れましたよ皆さん。やっぱ体操服って最高だな!

 

 

「おいおい大丈夫か? 離れた所から見てたが背中から落ちただろ? 水無瀬先生の所に行った方が良いぜ?」

 

「それがげんちぃ、うちの黒井っちってばこの肉体美だぜ? 怪我一つしてねぇの」

 

「そ、そうか! なんで上を脱いでるのかと思ったら怪我の確認か。何もないなら良いけど二人三脚以外にも競技に出るんだから怪我すんなよ?」

 

「匙君匙君。なんで運動部の奴らじゃなくて俺が大半の種目に出ないといけないのかな?」

 

「黒井の身体能力が化物級だからだ」

 

「むしろ一種目だけで終わらせてはダメだろう」

 

「黒井、犬月、匙の三人が居れば俺達のクラスの勝利は確実さ!」

 

「すまん。そういう事だから許せ。てか、てかなぁ……! お前も兵藤も羨ましいんだよ! 俺だって、俺だって女の子とくっ付いて二人三脚してみたいわ!!」

 

「そういえばいっちぃはアーシアちゃんと一緒だったっけ? 羨ましいっすねぇ」

 

 

 正直、他のクラスの事なんてどうでも良いが……平家の奴、ちゃんと練習してるんだろうな? 今日も登校してるが病弱設定だから見学か? まさかサボってるとかだったら怒らないといけないな。俺もサボりたいのに自分だけサボるとか羨ましいんだよ。

 

 ふと別の方向を見てみると聖剣使い同士(ゼノヴィアとイリナ)が徒競走をしているのが見えた。うん、揺れているな。天使と悪魔というスペックを発揮してるから速度がすげぇ事になってるけど橘のようにおっぱいは揺れている。これを見る事が出来るのは俺のように悪魔か武を嗜んでいる奴ぐらいだろう。

 

 

「どうかしたんすか?」

 

「いや、おっぱい揺れてるなぁと」

 

「……あぁ、あの二人っすか。確かに揺れてますねぇ」

 

「おっぱいってやっぱり揺れるのが仕事だよな」

 

「引きこもりや酒飲みは揺れませんからね。あれは壁っすよ、まな板っす」

 

「ちっぱいはちっぱいで良いもんだぞ? 四季音の揉んだけど感度高いらしい」

 

 

 一昨日辺りに温泉に入ってたら乱入して俺の横で酒を飲んでいた四季音のちっぱいを揉んでみたら硬かった。多分だが触ったのは骨だったんだろう……硬かった! でも地味に柔らかかった! 四季音もいきなりの事でビックリしたのか持っていた杯から酒を零して何か言いたそうな視線を向けてきたけど目の前で女が全裸になってたら普通揉むだろ? 風呂から上がるまで揉み続けてたら顔真っ赤にしながら偶にはこういうのも良いねぇとか言って風呂場から出て行ったけどさ……流石鬼、懐がデカい。

 

 

「んで? 何の用だよ?」

 

『ちょっと伝えたい事が有ってね……な、なんで怒っているのかな?』

 

 

 時間は進んで放課後、特に用事もなかった俺達は家に帰って各々好きな事をし始めている。犬月は特訓、橘は歌と踊りのレッスン、平家がゲーム、そして俺は自室に戻って晩飯まで漫画でも読もうかと思っていたら――いきなり連絡用魔法陣が机に描かれた。

 

ホログラムのように映し出された人物の正体は俺の親父……いきなり何の用だよ?

 

 

「めんどくせぇ奴から連絡が来たなぁ、とな」

 

『酷い!? お父さんは真面目な話をしようとしてるのに!! 少しだけで良いから聞いてくれないかな? ノワールだけじゃなくて眷属の皆も関係する事だからね』

 

「あん? どういう意味だ?」

 

『実はね、この前のノワール達の試合が冥界全土で放映された事は知っているよね? それが思いのほか高視聴率で早く次の試合が見たいって一般の悪魔達が騒いじゃってね……緊急で特番を組まれることになったんだ。題名は若手悪魔特集、未来を担う若手悪魔の王とその眷属の紹介と言った感じかな? 勿論、僕がこの話をしたという事はノワールにも出演のオファーが来ているってわけだよ』

 

「めんどくせぇ」

 

『言うと思った!! でもこれに出演すれば冥界全土にノワールだけじゃなくて眷属の皆が知られる事になる。つまり早織ちゃん達が中級悪魔や上級悪魔に昇級する可能性が高くなるんだよ! だからお願い出てくれないかな!? 影龍王、いやノワールの出演を望んでいる子供達もいるみたいなんだ!! お願いだよノワール!!』

 

「……はぁ? ガキが望んでる?」

 

 

 母さんとイチャイチャし過ぎて頭がおかしくなったか? あの試合のどこに出演してくださいって言うガキが居るんだよ。むしろお父さんお母さんからは子供の教育に悪いから出てくるな! と言われてもおかしくないほどの試合だったと思うんだけど? まぁ、それは兎も角としてだ……確かに犬月達を紹介する絶好のチャンスと言えるけどさ、あいつ等が昇級したいと本気で思っているのか謎なんだけど?

 

 

『ほら! 特撮やアニメとかでも主役よりも敵役の方が好きって子がいるでしょ? そんな子達がノワールのファンになったみたいでね……だからお願い! お父さんの一生のお願い!!』

 

「無性にヤダって言いたくなった」

 

『酷い!? さ、沙良ちゃんもノワールがテレビに出るよって言ったら喜んでたんだよ!! 本当にお願い! 沙良ちゃんが泣いちゃうから一回だけ! 今回だけで良いから!!』

 

 

 この野郎……俺が母さん絡みになると断らない事は分かってるから利用してきやがった……! あぁくそ、めんどくせぇなぁ!

 

 

「……ちっ、母さんが泣き始めるとめんどくせぇ事になるか。分かった、出ればいいんだろ? でも放送事故になっても知らねぇからな」

 

『ありがとうノワール! さて、録画の準備をしないと! ノワール、日時が決まったらまた連絡するよ!』

 

 

 通信が切れると先ほどまでの騒がしさが嘘のように周りが静かになった。この部屋には俺しかいないから静かになるのは当たり前でもし一人しか居ないのに騒がしかったらそれはそれで問題だ。気分的に読書と言う感じでもないのでリビングに戻ると一人寂しく酒を飲んでいる四季音と飲み物を取りに来たであろう平家の姿があった。犬月と橘は……まだ地下か。

 

 

「志保はレッスン中、パシリは特訓中だよ」

 

「了解。ならお前らにだけ先に言っておくか……平家、コーラくれ」

 

「口移しで良い?」

 

「テメェの唾液入りなんて飲んだら吐くっつうの。普通にコップに入れやがれ」

 

「ちぇっ。ノワール、テレビに出たくないから代わりに抱いて良いよ」

 

 

 なんでお前を抱かないといけないんですかねぇ? 別に恋人じゃなくてセフレだったら問題ないんだが俺はまだ童貞だ……夜空に捧げるまではとりあえず誘惑的なものを断っておく必要がある。ほら! エッチする時に「俺、初めてなんだ」というセリフから「私も初めて、なんだよ……」と繋がるのって素敵じゃん? もし夜空からそんなセリフが聞けたなら俺はきっと神や魔王すら殺せるだろう。

 

 

「キモイ」

 

「おいこら。世の童貞諸君が思ってる事をキモイとはなんだ? サンキュー」

 

「どういたしまして」

 

 

 平家からコーラが入ったコップを受け取る。やっぱり炭酸飲料と言ったらこれだな! ついでにポテチがあればなお良い!

 

 

「にししぃ~それでぇ? てれびってなにさぁ~?」

 

「さっき親父から連絡があってな……なんでも俺達若手悪魔のゲームが高視聴率だったから特番を組むんだとさ。俺は勿論、お前達も参加だってさ」

 

「へぇ~わたしぃ~はおっさけぇがのめればいいさぁ」

 

「私は出たくない」

 

「俺も出たくねぇっての……こういうのは先輩達の仕事だろ? 混血悪魔の俺が出ても恥しか出ねぇよ。でも断ると母さんが泣くらしいから出演拒否も無理……はぁ」

 

「志保に色々と聞いておかないとダメだね。私は何が有っても話さないからそのつもりでいてね」

 

 

 だろうな。平家にとってテレビ出演、言ってしまえば目立つ行動は自分の首を絞める事になる。覚妖怪と言う種族故に心の声が聞こえてしまう場所は死にに行くと言ってもいいだろう。あんのクソ親父……それぐらい分かってるとは思ったが全然分かってなかったか。一応当日は俺の心の声だけ聞くようにして周りの奴らの声は耳を向けないようにしないとな……偏見だけどテレビ局って色々と凄そうだしな。

 

 その後、地下から戻ってきた橘と犬月、仕事から帰ってきた水無瀬にテレビ出演の事を伝えるとかなり驚いていた。特に犬月なんて「俺が、テレビにっすか……ははっ、うっそみてぇ」と自分の頬を抓っていたし水無瀬も「絶対に転ばない絶対に転ばない」と不幸体質を発揮しない様に頑張ろうという気迫を出していた。さて、俺達の中でテレビ出演がある橘はというと……至って普通に「あっ、そうなんですか?」と凄く余裕でした。流石アイドル、大人数の前で踊ったり歌ったりしてたからその程度は余裕ってわけね。

 

 

「――いきなり何の用だよ?」

 

「暇になったから遊びに来た!!」

 

 

 水無瀬が作る美味い晩飯を食べ終えて自室に戻ると何故か夜空が俺のベッドで横になっていた。確かに飯を食ってる最中、あっ、夜空が来やがったなというのは分かってたけど何故俺のベッドで寝ている? そしてその積み上げられた漫画の山はなんだよ……自分の部屋じゃねぇんだから帰る時に片付けろよ。いやその前にベッドに横になってるとパンツ見えるぞ? 俺的には見たいからそのままでいいけどな!

 

 

「お前が暇なのは一年中だろうが……飲み物は?」

 

「いらな~い。まっ、私が今日来たのはヴァーリから伝言頼まれちゃったからさぁ。自分で来ればいいのに立場的に難しいんだってさ」

 

「そりゃそうだ。テロリスト側、しかも白龍皇が俺達に会いに来れるわけねぇだろ……伝言って何だよ?」

 

 

 俺もベッドに座り、そっと、そっと視線を下へと向ける。夜空の恰好はシャツとミニスカ、つまり太ももが見えているし下手をするとパンツが見えるかもしれない……ちっ! 絶対領域か!! 見えねぇ……あと少し、あと少しだけズレてくれ!!

 

 

「なぁに私のパンツ見ようと必死になってんの?」

 

「見たいもんは見たいからな」

 

「ふ~ん、ほい」

 

「あざっす!!」

 

 

 めんどくさそうに自分のスカートの端をつまんで履いているパンツを見せてきた。それは白、前に平家が履いていたアダルトな奴じゃなくて清楚系の純白なパンツ……マジでありがとう! これで俺は生きていけるわ! もうこの際だから襲うか……いや、襲ったら光を放たれて家が吹き飛ぶ未来しか見えないからやめよう。

 

 

「このへんたいぃ~じゃなくてさ! ヴァーリからの伝言だけどもうすぐグレモリーとゲームすんじゃん? その時に禍の団の一派……名前なんだっけ?」

 

『旧魔王派ですよ。夜空、男を誘うのならば仰向けになるべきです』

 

「そうそうそれ! そいつ等がねぇ~ノワール達のゲームに乱入すっかもしれないんだってさ。所謂漁夫の利って奴? 弱った所を一網打尽でぶっ殺す! みたいな?」

 

「へー。別に乱入してくる分にはどうでもいいんだけどな。やってきたらぶっ殺せばいいだけだし」

 

「だろうね。でもヴァーリはなんか許せないっぽいよ? 今の赤龍帝がノワールを相手にどこまで戦えるか見てみたいんだってさ。自分の宿敵、ライバルだから赤龍帝が強くなるのが嬉しいみたい。とーぜん私もノワールの戦いが邪魔されるのは許せないんで当日は仕方ねぇから警備してやんよ。どうどう? 嬉しい?」

 

「嬉しい。凄く嬉しい。だから抱かせろ」

 

「やだー」

 

 

 何故だ……ユニアも男を誘う手順とか教えていただろ? そもそも男の目の前でベッドに横になりパンツを見せたんだったら襲われてもなにも文句は言えないぞ? 襲いたい、すっげぇ襲いたい……! まっ、とりあえずはそれは置いておいてさっきの件を考えるか。こいつとヴァーリは俺と先輩、いや赤龍帝との戦いが見たいからテロリストから守ってくれると……なんという最強の護衛だろうか。歴代最強の白龍皇と光龍妃が守ってくれるほどの価値があるのかと言われたら微妙としか言えないのによくやってくれるよ。いやその前にヴァーリ……お前はテロリスト側なのにそんな勝手な事して良いのか?

 

 

「そんなわけでノワールは安心してあの牛乳をぶっ殺してね? 負けたらマジで承知しないから」

 

「はいはい。お前の期待に応えられるように頑張るよ」

 

「そうしなよ。だってアンタは私のお気に入りだしねぇ~私がぶっ殺すまでは他の誰にも負けちゃダメなんだからさ」

 

「お前こそ俺以外の奴に負けるなよ? 普通の人間なんだから何に負けるか分かんねぇんだしな」

 

「この私が負けるとでも思ってんの?」

 

「いや全然。むしろ魔王ですら殺しそうで怖いな」

 

 

 アスタロトとのゲーム前に殺し合ったけど前に戦ってた時以上に強くなってたしなぁ。マジでこいつ人間かよ……これを殺せる奴がいるなら見てみたいわ。でも――

 

 

「でっしょぉ~? あっ! この続き読みたいからとってぇ!」

 

「はいよ」

 

 

 ――俺から言わせたら肉体が異常なだけで根は普通の女の子なんだよなぁ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話

「の、ののののノワールく、君! い、インタビューって何をすればいいんでしゅか!!」

 

「最後噛んでるぞ? たかがインタビュー程度で何緊張してんだ? 犬月も水無瀬が緊張しすぎだって言ってやれ」

 

「そ、そそそそっすよよよ!! み、みみ水無せんせーはお美しゅうございますです! お、おちつくすすよ!」

 

「テメェも緊張してんじゃねぇよ」

 

 

 親父から聞かされたテレビ局の取材当日、俺の目の前にはガチガチに緊張した水無瀬と犬月の姿があった。私服の上から白衣という保険医スタイルの水無瀬はテレビの取材だからか軽く化粧をして二十代っぽい感じで実にエロい。普段から軽めに化粧とかしてたけど今回のはちょっと違う気がする……そう言えば橘が水無瀬に何か教えてたけど取材とか用の化粧のやり方か? 流石アイドル、普通に手馴れているな。犬月は駒王学園の制服を着ていていつも通りだな。ただ緊張してるのか普段は隠している犬耳が現れていてピコピコ揺れている。なんか可愛いな。

 

 まぁ、初めての取材という事で緊張しまくって噛みまくり状態なわけだが……四季音と橘、平家を見習ってもう少し落ち着けよ? あいつ等、今から取材だってのに酒飲んだりゲームやったり髪型弄ったりしてるんだぞ? 普通に聞かれた事に答えるだけなんだから緊張する意味が分かんねぇ。

 

 

「恵もパシリもそういうのには無縁の生活だったからね。仕方ないよ」

 

「そういうもんか? テメェら、とりあえず落ち着け。下手に緊張とかされるとこっちが恥ずかしいわ……今すぐ落ち着かねぇと水無瀬は裸エプロンで料理、犬月は……どうでもいいか」

 

「そこは俺も何か言ってくれません!? コンビニ行ってアイス買ってこいとかなんか無いんすか!? 水無せんせーの裸エプロン見たいっす!」

 

「流石俺の兵士(パシリ)、欲望に忠実だ」

 

「――おちつきますぅ! なんでノワール君はきんちょうしていないんですかぁ!! 裸エプロンいやですぅ! 緊張しないコツとか教えてくださいぃ!」

 

 

 むにゅりと俺の胸板に水無瀬のマシュマロおっぱいが押し付けられる。うん、実にマシュマロだ。良い弾力で実に揉みごたえがありそうで俺様、最高に嬉しいです! さてそんな事は置いておいて……緊張しないコツって言ってもなぁ。そもそもなんで緊張するんだって俺が逆に聞きたいんだけど?

 

 

「……コツとか言われても俺は昔からパーティーやら色んなものに出席してたから慣れたって言えばいいか? 平家か橘、この馬鹿をどうにかしろ」

 

「水無瀬先生、えっとですね……今日はインタビューみたいですし緊張する必要はないですよ。気持ち的に授業をするみたいに考えていればいいと思います」

 

「むしろ恵は緊張してた方が不幸体質が発揮すると思う。目指せパンチラ」

 

「しないですよぉ! したくないですよぉ!」

 

「いや、でも……水無せんせーだったらいきなり服が吹き飛ぶってハプニングもありそうで怖いっすわ。あっ、俺はもう落ち着きましたんで大丈夫っす!」

 

「にししぃ~らっきぃすっけべぇ~めぐみん。のわーるぅ? わたしぃはおっさっけぇのんでていいぃ?」

 

「別に良いぞ。普段のお前らを見せたら次なんて来ねぇからな。ほら、俺の目の前で裸エプロンの恰好をして写真撮られたくなかったらさっさと落ち着け。それとも犬の恰好で散歩させられたいか?」

 

「……おねがいし、い、いえ! 落ち着きました! 落ち着きましたぁ!」

 

「一瞬だけそれって最高じゃないですか、と悩んだ恵でした、まる」

 

 

 流石隠れМの水無瀬だな。それはそうと……いい加減離れてくれないかな? ノワール君ジュニアが臨戦態勢に移行しちゃうからマジで離れてくれると嬉しい。だって橘様が「悪魔さん? いい加減にしましょうね」と笑顔で訴えてきてますからね! あのさ、破魔の霊力を発現させてから笑顔が怖くなってきてるんだけどなんでですかねぇ? 今までのしほりんはどこに行ってしまったのだろうか――これはこれで俺的には有りだから良いんだけどね!!

 

 水無瀬からの抱き着きから解放された俺は犬月達を連れて冥界へと転移する。俺達が訪れた場所は冥界の都市部にあるビルの地下、ここで俺達は若手悪魔特集なる取材を受ける事になるわけだが……確か此処って冥界の中でもかなりデカい事で有名な場所じゃなかったっけ? なんつうかすっげぇ場違いな気がする。

 

 

「お待ちしておりました。ノワール・キマリスさま、眷属の皆さま。会場へご案内いたします」

 

 

 俺達が転移してきたこの場所は転移魔法陣専用、言ってしまえば来客や社員の方々が利用するスペース。そこでスタッフと思われる女性悪魔が俺達を出迎えた……ふむ、ちっぱいだな。年は俺達よりも上だけどこの膨らみ加減からするとBカップって所だな。いやどうでも良いけども。

 

 スタッフに案内されてエレベーターに乗って上層部へと移動する。ビル内の光景は冥界のテレビ局と言えども人間界と似ているようで橘が懐かしいとか言いながら周りを見渡しているけど……壁に張られているポスターは趣味が悪いと思う。

 

 

「うわっ、すっげぇ……グレモリーやシトリー、バアルにアガレスの(キング)の顔写真が並んでらぁ。あっ! 王様が居るっすよ!」

 

 

 見つけてもスルーしろよパシリ!!

 

 

「相変わらず極悪面だね。惚れ惚れしちゃう」

 

「にしし! さっすが私の王様だぁね! これ貰えないかねぇ~?」

 

「私も悪魔さんのポスター欲しいです!」

 

「わ、私も……」

 

「……お前ら、趣味悪いな。流石の俺でも引くぞ?」

 

 

 その場に立ち止まって壁に貼られた自分のポスターを見ると崩壊した街並みをバックに瓦礫で作られた建物に座り込み、他者を見下しながら嗤っている俺がいた。先に言っておくがこれは俺の趣味じゃない……写真撮影も時に言われた事をその通りにやった結果がこれなだけだ! 何故か一発OKだったけどな!! いやそれ以前に誰が欲しがるんだよこんなポスター!? マジで欲しいって言ってる奴の趣味悪すぎだろ! サイラオーグ・バアルのような威風堂々、強者を思わせる覇気を感じさせるポスターとかグレモリー先輩と生徒会長、アガレスの姫君のような微笑んだりクールな視線だったりするアイドルポスターだったらまだ分かるさ、俺のなんてどっからどう見ても悪役じゃねぇか!! まぁ、王子様風にお願いしますと言われなかっただけありがたいけどね。

 

 周りを見渡してみるが廊下に張られているポスターの大半がグレモリー先輩と生徒会長、アガレスの姫様だな。俺やサイラオーグ・バアルのものも張られているけどこのお三方はその倍以上に張られている気がする……冥界も人間界も美人だったそっち優先だよな。個人的に貰えるなら生徒会長のポスターだな。なんかゾクゾクする。

 

 

『ゼハハハハハ! 流石俺様の宿主様だぁ! 悪役が良く似合う良い男だぜぇ』

 

「まぁ、相棒を宿しているしな」

 

『そりゃそうだ! ゼハハハハハ!!』

 

「キマリスさまのポスターなんですけど凄く好評ですよ! 特に下級悪魔や混血悪魔の方々に大人気で女性悪魔達で作られたファンクラブもあるようですよ?」

 

「まじでぇ……趣味悪いな」

 

「……入らないと!」

 

「志保が変なのに入ろうとしている件について。とりあえずこのポスター欲しい、部屋に飾りたい」

 

「皆さまにお渡しする分として取っておいてますのでお帰りの際にお渡ししますね。さて、こちらがスタジオとなります」

 

 

 なんで取って置いてるんだよと言うツッコミは心の中だけにしてちっぱいスタッフに案内されて入った先は収録が行われるであろうスタジオ。観客席もあるからかなり大々的にやるっぽいな……あっ、この場所の空気に飲まれて水無瀬がガチガチになってきた。犬月も目が泳いでるし結構ヤバいかもしれねぇな。その中でも橘や四季音、平家は普段通りなのは凄い。若干一名ほど吐きそうな顔してるけどきっと周りの心の声でも読んだからだろう……お前は俺の心だけ読んでおけ。そうすれば体調はそれ以上悪くなることはねぇだろ。

 

 

「お初にお目にかかります。私は冥界第一放送の局アナをしている者です。お忙しい中、出演していただきありがとうございます」

 

 

 目の前に現れたのは巨乳の美女。おぉ! デカい!

 

 

「こちらこそ呼んでいただいてありがとうございます。でも、良いんですか? 俺は他とは違って混血悪魔ですよ? あんまり期待したほどの数字とか出ないと思うんですけど?」

 

「いえいえ……皆さんで行われたレーティングゲームの中で最も数字が高かったのはサイラオーグ・バアル様とノワール・キマリス様の試合です。どちらも王自ら戦うものでしたので視聴者の方々は大盛り上がりでした。調べた所、ノワール様はお子さんや下級悪魔、混血悪魔、転生悪魔の方に支持されているようですね。これは赤龍帝の兵藤一誠さんも当てはまりますがこちらは乳龍帝として主にお子さん達から大人気のようです」

 

「……乳龍帝?」

 

 

 なんなんだそのあだ名を通り越して悪口のような二つ名は……? しかし天下の二天龍、その片割れが乳龍帝! 乳龍帝!! くくく、あははははは!! さいっこう!! 今度会ったら言ってやろう!

 

 

『ゼハハハハハハハハハッ!! あの赤蜥蜴ちゃんが乳龍帝! 乳を司る龍帝!! 面白すぎて俺様腹が痛いぜぇ!! これは広めねぇとダメだなぁ!! やっぱり最強の二天龍の新しい異名は周りからも言われねぇとダメだ! ドラゴンとして絶対にそうするべきだぁ! ゼハハハハハハハハ! 乳龍帝! 乳龍帝!! また名をおっぱいドラゴンてか!! 面白すぎて俺様もう無理、しぬぅ! ゼハハハハハハハハ!!!!』

 

 

 相棒が素で爆笑するという珍しい事になるぐらい面白い事になってるな。気持ちは分かるけども!

 

 

「クロムが爆笑しているなんて珍しい」

 

「いっちぃ……! 頑張って生きろよ……! 俺はどんな二つ名であっても友達だからな……!!」

 

「……あの、赤龍帝がそんな風に言われている理由ってなんですか? あの、ちゃんと理由を聞いておかないと泣く存在が居るんで教えてください」

 

 

 主に銀髪イケメン野郎に宿ってる白い龍がな!!

 

 

「は、はい……グレモリー様とシトリー様で行われたゲームで赤龍帝、兵藤一誠さんがおっぱい、おっぱいと連呼していた事がお子さん達に大ヒットしまして乳龍帝おっぱいドラゴンとして大人気なんです。ノワール様はまるで悪の親玉のようだとの事でお子さん達からは乳龍帝が倒してくれるとなっているそうですよ? ただ、その中でも悪役好きな子達からは大人気ですから安心してください!」

 

「それ、安心して良いのか悲しめばいいのか分かんないんだけど?」

 

「いや、でも……王様は悪の親玉ってのは納得っすね。毎回トンデモねぇ事しますし」

 

「むしろヒーローポジションだったらおかしい」

 

「根っからの悪役だもんねぇ~にしし!」

 

「ノワール君……今までの行いの結果ですよ……!!」

 

「悪魔さん! 私! どんな悪魔さんでも一緒に居ますから安心してください!」

 

 

 橘さん? あの、お手を握りながら満面の笑みでグイッと近づいてくるのは良いんだけど否定してくれない? てかテメェら!! 誰が悪の親玉だ!? 誰が根っからの悪役だ!? この最強で最悪な俺様がヒーローポジションでも良いだろ! 昨今ではダークヒーローってのが流行ってたりしたんだぞ!! それで良いだろ!! 赤龍帝風に名付けるなら脇龍王ハーフドラゴンだな! うん、ねぇな。自分で言ってみて吐き気がしたレベルでねぇわ。

 

 そんな事よりも世の子供達よ……俺が赤龍帝程度に負けたらキマリス家の領地が消滅して俺の両親も死ぬんで絶対に負けません。むしろ赤龍帝が負けるから泣く準備だけしておいてくれ。試合終了後に抗議の電話とか来ても俺は無視しますんでそのつもりでお願いします。それにしても橘の手は柔らかいな……流石女の子だ!

 

 

「お、おう。色々とツッコミどころはあるがそれは帰ってからにして……さっさと打ち合わせとかしません?」

 

「あっ、そうですね。では今回は若手悪魔特集という事でお集まりしていただきましたが質問に答えるのは主にノワール様です。やはり混血悪魔でありながら(キング)、そして影龍王という事で注目されていますからね」

 

「あーはい、分かりました」

 

 

 はぁ、めんどくせぇ。こういうのはドヤ顔が得意な先輩とかクールな生徒会長とかがする事だろ……笑いものにされるのがオチだ。そもそも需要があるのは俺の母さんぐらいだぞ? きっと録画とかしているだろうなぁ、恥ずかしいからやめてほしいんだけどね。

 

 

「それから眷属の方にも質問がいくと思います。特に橘志保さん、水無瀬恵さんは歌姫と黒姫ということで人気急上昇ですからね!」

 

「わ、私ですか!?」

 

「そ、そうなんですか……? 歌姫、歌姫……! 嬉しいです!」

 

「しほりん! 水無せんせー!! やったっすね! 俺、俺ぇ! なんかスッゲェ嬉しいっす!!」

 

「おめでとう。私は質問が来ても答えたくないからノワールにパスするよ」

 

「おい」

 

 

 そんな事したら放送事故だろ。適当な事言えば良いんだからそれぐらいはしろ、いやしてくれ。

 

 局アナさんが言うには戦いの場で歌い始めた橘と印象が逆転した水無瀬にファンが出来ており、影龍王眷属の僧侶として注目されてるらしい。この辺りは前に生徒会長から聞いた通りだな……にしても犬月、平家、四季音にも質問があるとはねぇ。二人は兎も角、平家なんて一瞬で試合終了したから特に注目される事なんてないはずなのにな。まさか仕事場の奴らか? ありえそうで怖いな。

 

 

「――疲れた」

 

「そっすね……俺も王様の発言に対するツッコミで疲れたっす」

 

 

 収録が終わった俺達は楽屋でぐったりとしていた。もうマジで無理……なんなのあの歓声? なんで俺が質問に答えるたびに「影龍王様ー!」とか「かげりゅーおー!」と言う声が飛んでくるの? そんなのはグレモリー先輩か生徒会長辺りにしてればいいんだよ!! と言うより犬月? 俺の発言で疲れたって言ったがそこまで変な事は言ってないぞ? 至って普通でいつも通りにお答えしただけだってのにその言い方はダメだと思うぜ?

 

 

「『注目している若手はいますか?』という質問に『サイラオーグ・バアルに白龍皇、あとはシトリー眷属の匙君』って答えたり『リアス・グレモリーさまとのゲームがもうすぐ行われますが今の意気込みをお願いします』という質問には『え? 雑魚相手に意気込みとか無いけど? 強いて言えば試合になるのか不安だから先輩にはぜひ頑張ってほしいって言えばいいです?』とか答えてたらそうなるよ。まさに悪役だった」

 

「普通言わないっすよ? それだけでもあれなのに『これから先の目標は?』って質問に『とりあえず夜空に勝つ。そんでその後にウザい老害共をぶっ殺す』って……ホント、王様って怖いもの知らずっすよね!? もう俺や水無せんせーやしほりんなんかドキドキしすぎて死にそうだったんすからぁ!!」

 

「いや、だって嘘言ったらダメだし俺からしたら普通だろ? いやぁ、お前のお蔭で会場は大盛り上がりだったわ。この王様頭おかしい、今年の冥界流行語大賞狙えるぜ!」

 

「狙いたくねぇっすよ!! それマジの感想だったんすからぁ!!」

 

 

 おいおい……そのセリフが出るたびに会場が大ウケだったのに勿体ない事するなよ。まぁ、うん。確かになんかドン引きしてる感が出てたのは分かるよ? でも本当の事なんだから仕方ないじゃないか! 先輩たちの実力で俺達が負けるわけねぇし……むしろ四季音一人でも全然余裕なんだぞ? 慢心しすぎかもしれないがそれほどあの人達は弱いんだよ。実戦経験が無さすぎるってのもあるんだけど俺達と違って本気で殺し合えないから今より強くなれないんだろうな。俺達は……うん、俺が基本的に不死身だから四季音の本気とか橘の破魔の霊力とか水無瀬の反転結界とかフルで発揮しても全然問題無いからこそ本気で殺し合ってレベルアップが出来る。その違いが実力に出ているんだと思う――あとは自分の血とか種族とか否定してる奴が強くなれるわけねぇよ。

 

 しかし犬月の言い分に水無瀬と橘が同意しているのが気に入らねぇ……そんなに酷かったか? 少し思い出してみるか――

 

 

『ではノワール・キマリス様に質問です。現在注目されている若手悪魔はいらっしゃいますか?』

 

『えーと、サイラオーグ・バアルに白龍皇、あとはシトリー眷属の匙君』

 

『なるほど……二天龍と称された赤龍帝、兵藤一誠さんには注目していないんですか?』

 

『いや、雑魚に興味を持っても意味ないでしょ?』

 

『王様ぁ!? せめてもう少しオブラートに包んでください! いっちぃが聞いたら泣きますよ!?』

 

『あのなぁ、自分にヴリトラのラインが繋がってるのに何も疑問に思わずに戦う奴を注目しろって言われても無理だぞ? その点、匙君には感動させてもらったんでお礼に殺し合いたいですね』

 

『お礼で殺し合いさせられるげんちぃの身になってくださいよぉ! マジで頭おかしいんだから王様はぁ!?』

 

 

 ここまでは普通だな。我ながら素晴らしい回答だったと思う。

 

 

『で、ではリアス・グレモリー様とのゲームが近々行われますが今の意気込みをお願いします』

 

『え? 雑魚相手に意気込みとか無いけど? 強いて言えば試合になるのか不安だから先輩には是非頑張ってほしいって言えばいいです? あぁ、これでお願いします』

 

『すいません! 本当にうちの王様が頭おかしくて本当にスイマセン!!』

 

『パシリ、騒がしいし五月蠅い。だから黙って』

 

『にしし――それ以上騒ぐと潰すよ?』

 

『なんでだよ!? ハイワカリマシタダマリマス!! すんませんでしたぁ!!』

 

 

 ここも普通だな。それにしても犬月のツッコミスキルが冴えわたっていて終始笑いが起きていた気がする……こいつは将来大物になりそうだ。流石俺のパシリ。

 

 

『……えぇ、で、ではこれから先の目標はありますか?』

 

『目標、目標ねぇ……とりあえず夜空に勝つ事ですね。そしてその後は老害共をぶっ殺す事かなぁ? 今のままじゃ俺よりはるかに長生きしている素晴らしい老害共には勝てないですしぃー蹂躙できるほど強くなってからぶっ殺したいと思っていまーす。まぁ、雑魚なんで夜空に勝てば自然とあいつ等も殺せるんですけどね――おいツッコミまだか?』

 

『もうやだ、この王様頭おかしい……俺は! ツッコミ役じゃねぇっすよ!? ってなんで観客の皆さんがえー!? って顔してんの?! こっちがえー!? って言いたいわ!! しほりん! 水無線せんせー! 助けて!!』

 

『……ごめんなさい瞬君、ノワール君はいつも通りだから……何も言えないの』

 

『本当に、悪魔さん……いい加減にしてください……!』

 

『いやいや、だってこれから先の目標って質問だぞ? 嘘言ったらダメだろ。平家、四季音、俺は何か間違ってる?』

 

『全然間違ってない。むしろ惚れ直した』

 

『さっすがぁわたしのおうさまだぁ~にしし!』

 

『――ほら間違ってないって言ってるぞ!』

 

『そいつらも頭おかしいんっすよ!? すいませんでしたぁぁぁっ!!!』

 

 

 ――うん、思い返してみても何も変な所が無い。だから俺は悪くないな!

 

 

「なぁ、思い返してみたんだが何も変なところなかったぞ?」

 

「……ありまくったっすよ。ありまくりでしたよ!! マジでもう少しオブラートに包むって言葉を覚えてください!!」

 

「無理」

 

「ですよねぇぇっ!!」

 

 

 犬月の心の叫びが楽屋中に響き渡った。おいおい、お前も俺の眷属なら分かってるだろ? 俺がオブラートに包むって言葉を覚えるわけないだろ? 言いたい事を言って、好きな事言うのが邪龍なんだからさ。どこまでも自分勝手で最低最悪なドラゴンが俺なんだよ――だから諦めろ。

 

 それにしても思い返してみたが水無瀬と橘の人気ってスゲェな。二人が質問に答えるたびに観客、特に男悪魔達からの声援が凄かった気がする。黄色い声援が上がるたびに水無瀬はビクッとなりながらも質問に答えていたし橘はその声に「ありがと~応援よろしくね~♪」と笑顔で返していた。流石アイドル、その辺のスキルは会得済みでしたよ! でも……平家には疲れたわ。まさかマジで質問の答えを俺に言わせるとは思わなかった。まさかの「めんどくさい、ノワールにパス」を何度も聞くとは思わなかったぜ!

 

 ちなみに四季音は酒を飲みながらちゃんと答えていた。鬼は嘘つかないからその辺は真面目だったけど……酒飲むなよ。

 

 

「あら、キマリス君」

 

 

 収録を終えて楽屋でしばらく休んだ後、自宅へ帰るために廊下を歩いていると目の前から美少女集団……とそれに交じったイケメン一人と出会った。相変わらず今日もクールですね生徒会長。そして匙君? なんかすっげぇ固まってるけど大丈夫?

 

 

「あぁ、生徒会長も収録でしたっけ?」

 

「えぇ。キマリス君達は……もう収録を終えて帰る所ですか?」

 

「そんな所です。もう、疲れました……良い大人やガキから影龍王様ーやらかげりゅーおーやら言われてもうどうしようって言った感じですよ。あっ、ポスター見ましたけど流石生徒会長、お美しいですね」

 

「あ、ありがとうございます。お世辞とはいえ貴方から言われると変な感じですね」

 

「酷くないっすか? 俺だって混血悪魔であると同時に普通の高校生ですよ? これぐらいは言いますって」

 

「いやいや……普段の言動を思いだ、せ、い、犬月!? どうしたぁ!!」

 

「げんちぃ……おれ、つかれた、つかれたよぉぉっ!」

 

「そうか!! 知ってた!! なんか黒井の奴はいつも通りの事してるんだろうなぁって思ってたぞ!! 犬月……あとでコーラ飲もう!! あとお疲れ様!!」

 

 

 疲れた足取りで匙君に近づいた犬月は――泣き始めた。男同士が何かを分かり合いながら友情を育んでいる図はイケメン同士じゃなかったら吐く所だが……この二人ならまぁ、大丈夫だろう。絵的にも何も問題ない。後ろにいるシトリー眷属の女性陣も何かを察したのか同情風の視線を犬月に向けているし生徒会長も一体貴方は何をしたんですかと聞いてきたけどさ、真面目に質問に答えていただけなんだけどそれが何か間違ってた? 平家や四季音は問題無いって言ってるし俺も素晴らしい回答だったと自負してるんだけど?

 

 

「犬月の事は放って置いて生徒会長達も頑張ってください。あっ、匙君! 俺からのお土産で注目している若手悪魔は居ますかって質問に匙君の名前を言ったからきっと質問いくと思うぞ! 頑張れ!!」

 

「黒井テメェ!? 何してくれてんだ!? なんか嬉しいような悲しいようなすっげぇ微妙な感じなんだけど!? でもありがとう!!」

 

「おう。まっ、これに関してはマジだから喜んでくれよ? いつか殺し合おうぜ」

 

「死ぬからお断りします!!」

 

「えぇ~? しょーがねーなぁ。とまぁ、色々と取材は大変だったんでそろそろ帰ります。生徒会長達も頑張ってください」

 

 

 それを言い残して俺達は最初に訪れた地下のスペースへと移動して自宅に転移する。俺と平家、四季音以外は取材の疲れが出たのか温泉に入った後はすぐに部屋に戻ったけどそこまで疲れたかねぇ。俺達三人はまだ元気、スッゲェ元気だから今からえっちぃ事しても何も問題ない。もっともちっぱい二人を抱く気分にはならねぇけども。

 

 

「そこは抱こうよ。ノワールに抱かれる準備は何時でも出来てる」

 

「わたしぃ~はべっつぅにい、いいよぉ~? みせいちょうろりぼでぇのよさをたたきこんでやるぅ~」

 

「お前らで童貞卒業は死にたくなるからさっさと部屋戻って寝ろ。なんだかんだで疲れただろ? 主に平家、吐きそうだったけど大丈夫か?」

 

「何とか持ち直した。もう、死ねばいいと思う。テレビ業界の裏事情をよく知るいい切っ掛けになったよ……志保、よくあの中でアイドルやってたって尊敬した」

 

「そこまでか」

 

 

 大方、プロデューサーや監督の心の声を呼んで枕関係の事を聞いたんだろう。偏見だけどテレビ業界ってそういうの多そうだしな……しほりん、大丈夫? あの狐がいるから多分大丈夫だろうけどなんか心配になってきたよ。よし抱きに行こう!!

 

 

「変態」

 

「どうせぇ~しほりんをだこうとかおもったんでしょ~? このきっちくぅ~にしし」

 

「ヒデェなおい」

 

 

 こうして俺達のテレビ収録は幕を閉じた。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話

「ノワール君。準備は終わりました」

 

「そうか」

 

 

 時刻は深夜、世界が闇に包まれているこの時間帯に俺達は自宅のリビングに集まっていた。俺達学生組と四季音は駒王学園の制服、水無瀬はいつも通りの私服に白衣姿という何時でも戦闘可能な状態で魔法陣の上に立っている。何故なら今日はリアス・グレモリー先輩率いるグレモリー眷属とのレーティングゲーム当日だからな……なんか知らないけど前に放映された若手悪魔特集のせいでさらに注目度が跳ね上がって一般悪魔や他勢力の奴らも興味津々らしい。俺としては楽勝だから特に注目とかされる理由が分かんねぇけど色々あるんだろう。

 

 それよりも冥界の子供悪魔達の大半から負けろと言われているのが気に入らねぇ。しかもテレビ局が大々的に「乳龍帝VS影龍王!! おっぱいドラゴンは悪の影龍王に勝てるのか!?」って感じで赤龍帝が正義の味方、俺が悪の親玉にされてるのがさらに気に入らねぇ。まぁ、邪龍だから間違ってはいないんだけどこれさ……もし俺が勝ったらマジで抗議の電話がキマリス家に来そうで怖いんだけど? そんな事が有っても俺は知らないけどな!!

 

 

「やっといっちぃ達との対決っすね!! 今日まで王様に鍛えられた結果を見せる時!! 友達だからって遠慮はしねぇっす!」

 

「いつも通りに()るだけ。負けたら色々と終わっちゃうからね」

 

「そうだ。格下相手に負けたってなれば夜空がキレてキマリス領消滅、俺の両親も死ぬ。だから勝つぞ――俺達キマリス、いや影龍王眷属の実力を雑魚共に知らしめようぜ」

 

 

 犬月達がおー! と言う風に気合を入れた声を上げる。これで先輩に負けたら冥界上層部は喜んで小言を言ってくるだろう……というより今日まで何も嫌がらせの類が無いのが意外だったな。てっきり手紙かなんかで「グレモリー家との試合に負けなければお前の母親の命はない」とかそういうのがあると思ったんだけど全然なかったもんなぁ。まさか夜空か? もしそうだったら後で飯を奢らねぇとダメだな。そして勝利したぜばーかって言ってやる! 今日のゲームはヴァーリと夜空、最強の白龍皇と光龍妃がテロリストの介入を阻む護衛をしてくれるほどの遊び、あいつらが爆笑するほどの戦いってのを見せてやるよ。

 

 

「――生徒会室?」

 

 

 試合の時間になったためか足元の魔法陣に光が走り、俺達はゲーム会場へと転移させられた。転移の光が収まった後で周りを見渡すとどうやら駒王学園の生徒会室のようだ。窓から見える空は月明かりがあるけど冥界のように紫色の空で星すら見えない異常なものになっていた……流石に俺達が通っている駒王学園で殺し合いなんてしたら近隣に被害が出かねないから偽物の校舎か。

 

 

『皆さま、このたびグレモリー家とキマリス家のレーティングゲームの審判役(アビーター)を担う事になりましたルシファー眷属女王、グレイフィア・ルキフグスと申します。我が主、サーゼクス・ルシファー様の名の元にご両家の戦いを見守らせていただきます。よろしくお願い致します』

 

 

 上空から聞こえてくる放送の声、それは最強の女王と称されるグレイフィア・ルキフグスのものだ。やっぱりグレモリー先輩がいるんだからそうなるよなぁ、むしろここでセルスが審判役だったら驚くわ。

 

 

『今回のバトルフィールドはリアスさま、ノワールさまが通われる駒王学園のレプリカとなります。両陣営、転移された場所が今回の本陣でございます。リアスさまは旧校舎オカルト研究部の部室、ノワールさまは新校舎の生徒会室です。兵士の方は敵本陣付近まで近づかなければ昇格できませんのでご注意ください』

 

「グレモリーの本陣が部室、予想通りっすね」

 

「むしろそれ以外だったら驚きだよ。しっかし変な場所がバトルフィールドじゃなくてよかったぜ……此処なら学生の俺達でも優位に立てる。もっともそれはあっちも同じだけどな」

 

「でも勝つんでしょ?」

 

「当然だ」

 

『今回のレーティングゲームには特別なルールはございません。ノワールさま率いるキマリス眷属の平家早織さまの能力は封印される事はありません。また、リアスさま率いるグレモリー眷属の兵藤一誠さま、ギャスパー・ヴラディさまも同様です。洋服崩壊、乳語翻訳、停止世界の邪眼の使用を許可されております。そしてフェニックスの涙ですがフェニックス家からのご厚意により両陣営に一つずつ支給されておりますのでご確認くださいませ。作戦を練る時間を三十分とし、この間の相手との接触を禁止させていただきますがキマリス眷属、平家早織さまは作戦時間中は本陣の外から出られません。作戦時間中、本陣を特殊な結界で覆い、相手の作戦がゲーム開始まで分からない様にする処置ですのでご了承ください』

 

 

 そりゃそうだ……ここで平家が自由に動けたら先輩の作戦が丸分かりで作戦時間の意味が無くなるしな。それ自体は俺も反対はしないしむしろ同意させてもらおうか。てか制限無しときたか……赤龍帝の技とハーフ吸血鬼の神器が使用可能となると色々とめんどくせぇが何とかするしかねぇな。

 

 とりあえず三十分間は作戦時間という事らしいので俺達も有効に使わせてもらおうかね。

 

 

「悪魔さん、どうしましょうか?」

 

「先輩達は俺達の情報を得ているからそれを基にした作戦でくるだろうな。恐らく序盤はシトリー戦のようにハーフ吸血鬼をコウモリかなにかに変化させて新校舎周辺を飛ばすだろう……神器の使用も出来るから俺と四季音以外は動きを止められるからそこだけ注意して動け。別に見つかっても構わねぇからコウモリを見つけたらぶっ殺せ」

 

「ういっす!」

 

「そんじゃ作戦を言うぞ? まず狙うのは――」

 

 

 犬月達に今回のゲームで真っ先に狙う候補と作戦を伝えると何故か知らないがうわぁって顔をし始めた。いやいや待て待て待て! 普通に狙うだろ!? だって居るだけでこっちが不利になるんだから狙わないとダメだろ!! 平家と四季音はその辺の理解があるからかおっけぇ~やら了解と問答無用で殺す気満々だったけど犬月達は良いのかなぁという表情だった。大丈夫! 実戦と違って死なないから全力で殺しに行っても大丈夫だから!!

 

 というわけで作戦の大部分を伝えた後、犬月達に仕込みをしてから所定の位置に向かわせて待機させる。もっとも平家はゲーム開始までは此処から動けないから俺と一緒で待機だけどな。まさか此処でもこいつに膝枕する羽目になるとは思わなかったよ……ゲームが始まったらちゃんと仕事しろよ?

 

 

「分かってる。ノワールのために頑張るよ」

 

「なら良いがお前はキマリス眷属の要だ。お前がしっかりしないと俺が無双する事になるからマジで仕事しろよ? もし頑張ったらそうだな……特別に首筋辺りにキスマークぐらいは付けてやる」

 

「グレモリーを殺す勢いで頑張る」

 

 

 いつものように本気の口調で言うなっての。だ、大丈夫! キスマークを付けるだけでキスをするわけじゃないから何も問題ない! というよりこいつは報酬が無いとやる気出さねぇしなぁ。この前のアスタロト戦は半分くらい真面目にやってたけど今回は聖魔剣とデュランダルが相手だ……負けないと思うがやる気を出して常時全力状態になってもらわないとね。

 

 そこからは何をするわけでも無く俺の膝を枕にして横になる平家の頭を撫でて時間を潰す。ゲーム専用のイヤホンマイクのおかげで全員と会話可能で既に目的の場所で待機済みらしい……でもなんでだろうなぁ? 橘から「私もキスマーク付けてください」というお言葉が聞こえるんですけども? アイドルにそんな事したら大問題だから諦めなさい。俺だって夜空にするなら兎に角、こいつ(平家)にするのは嫌なんだぞ? はいはい、心を読んで腹パンしないでくれ。

 

 

『時間になりました。ゲームを開始してください』

 

「始まったね」

 

「あぁ、始まったな。頼むぜ――指揮隊長」

 

「りょーかい」

 

 

 グレイフィア・ルキフグスによる開始の合図が聞こえる。先ほどまで横になっていた平家が龍刀「覚」を手にしながら生徒会室から出ていく……さて、平家が生存している限りはこっちの指揮系統は問題ねぇ。三十分の作戦時間、本陣には恐らく先輩とシスターちゃんが居るだろう。あの人の性格上、俺が相手だからと言って本陣から出るとは考えにくいし戦闘能力皆無のシスターちゃんもまた同じ。そうなると残るのは赤龍帝と猫又、姫島先輩にダブル騎士組が俺達を各個撃破して此処に来るってところかねぇ? ハーフ吸血鬼はどう考えても支援役だしその辺でサポートに徹する事だろう。

 

 

『ゼハハハハハハハハッ!! 俺様達が負けるわけねぇだろ宿主様ぁ!! ガキの作戦程度で影龍王を止められるわけねぇんだよ!! 見せてやろうぜ!! 俺様達の、いや影龍王の戦いをよぉ!!』

 

「――そうだな相棒、見せつけようか。誰が強くて誰が弱いのかを世界中に見せつけて分からせよう!!」

 

『そうだ!! 俺様達に敗北はねぇんだ!! ゼハハハハハハハ!! 安心しろ、俺様は宿主様と共にある! さっさと赤蜥蜴をぶっ殺すぜぇ!!』

 

「あぁ、そうだな!!」

 

『ノワール。読み通り、本陣には二人しか居ないよ』

 

 

 ナイスだ平家! やっぱり覚妖怪の読心術はトンデモねぇな……いや、俺の影響を受けてるからかね? 他の覚妖怪よりも広範囲だからこういう時には頼もしい。その分、日常生活が辛いけどそこは頑張れって言うしかねぇな。

 

 

「全員、今から作戦を開始する。良いか? 情を捨てろ、敵は殺せ、友達だの知り合いだのと言う理由で手を抜いたら殺すぞ。俺達、いや自分達を殺そうとしてくる奴を許すな、確実に殺せ――それじゃあ、殺戮の始まりだ!!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 鎧を身に纏い、背に影の翼を展開して生徒会室の窓から外へ出る。目指す場所は敵本陣、オカルト研究部の部室だ。王は本陣に残って指揮をする? 確かにそれが正しい王としての在り方で普通なんだと思う。でもな、俺は違う……混血悪魔だからこそ、純血悪魔とは違うからこそ別のやり方をさせてもらう。本当に勝ちたいなら自分の役割を全力で行ってこその(キング)、これが俺の持論で俺のやり方だ。

 

 隠れる事無く上空を飛んで敵本陣へと向かったせいで地上を移動していたグレモリー眷属やコウモリに見つかったけど気にしない。表情的には拙いと言った感じで空を飛んでいる俺を追いかけてきたが……ラッキー! 個人的に追ってきてくれるなら好都合だ!!

 

 

「――影人形(シャドール)

 

 

 数分も掛からず敵本陣の真上に到達した俺は影人形を生み出して旧校舎の屋根に向かってラッシュタイムを放つ。いくらレプリカと言えども俺の影人形の拳の威力は強い、そして今回のルールで建物を破壊してはいけないというのは無いからこその作戦だ……此処で生き埋めになってゲーム終了とかしないでくれよ?

 

 影人形の拳が屋根を貫き、支えている壁に亀裂が入る。それが何度も行われた事で建物という形を保てずに崩れ落ちていく。建物が崩れ落ちる音が周囲に響き渡り、俺を追ってきた赤龍帝と聖魔剣、姫島先輩がその光景を見て嘘だろと言う表情を浮かべた。旧校舎が崩れ落ちていく中で背後から吐き気がするほどの輝きを纏った剣――聖剣デュランダルを握ったゼノヴィアが斬りかかってきた。

 

 

「――くっ! まさか可能性の一つとして考えていた「開幕と同時に本陣を狙う」事を普通に行うとは思わなかったよ……影龍王!!」

 

 

 振り下ろされたデュランダルの刀身を影で覆ってその場で固定する。押す事も引く事も出来ず、悪魔の羽を生やしたゼノヴィアは抜け出そうとするけど無駄だぜ……俺を誰だと思っている? 最低最悪の邪龍だからこの程度の聖剣で殺そうだなんて無理だ。というわけで反撃いきまーす!

 

 背中の翼の一つを伸ばし、即座に影人形に変換してその拳をゼノヴィアの片足に叩き込む。流石に反撃が来ると思っていたんだろうけど影による拘束で逃げられないようにしたから無理無理。はい! 何かが折れる音が響き渡って女の悲鳴も聞こえました!! まぁ、足を折ってもシスターちゃんが居る限り回復されるんだけどね。でもやらないよりはマシだから折らせてもらったぜ?

 

 

「サブクエの一つ終了。あのさぁ、背後を取るなら聖剣のオーラ消せよ。敵に今から後ろに行きますって教えてるもんだぜ?」

 

 

 ゼノヴィアを捕らえている影を動かして赤龍帝達が居る近くへ叩き落す。高所からいきなり硬い地面に落とされたからか、あるいは折られた足が痛むのか知らないが動きがかなり鈍くなった。この場にいる俺以外の奴の目が敵意に代わって俺を見つめてくる中、崩壊した旧校舎から何かが動く音が聞こえた。よしよし、撃破判定の放送が無かったから分かってたけど生きてて嬉しいよ先輩♪ シスターちゃんも生きててよかったね!

 

 

「……いきなりの先制パンチ、やってくれるわねキマリス君」

 

「そりゃ殺し合いですからね。真っ先に大将を殺しに行かないとダメでしょ?」

 

「えぇ、確かに殺し合いでは間違ってはいないわ。でも、今はレーティングゲームよ! 貴方は自分の眷属の未来を、活躍の場を奪うつもりかしら? 王自らが敵本陣に突撃……それがどれだけ評価を低くするか――」

 

「だからなんです?」

 

「……っ!」

 

「低評価? それが何か意味あるんですかねぇ? 殺し合いもせず、ただ椅子に座ってその家柄だけを見る奴らが決めた評価なんて意味ないでしょ。それに俺が此処に来ちゃいけないってルールは無いしちゃんと今回の審判役も言ってましたよね? 特別なルールは無用で平家や赤龍帝、ハーフ吸血鬼の能力や神器は使用可能、つまり死なないってことを除けば実戦とほぼ同等の条件で戦ってるんだぜ? 俺は間違った事はしてないのに怒られる理由はないっすよ」

 

 

 別に勝ちたいなら開幕と同時に敵本陣に突撃をしてもいいのがレーティングゲームだ。どんなやり方も許容され、各々が最も得意とする戦い方が受け入れられる素晴らしい遊びだからこそ俺はこのやり方をさせてもらった。もっとも遊びの範疇だから特殊ルールって言うクソみたいなものが付いてしまうのが難点だけど仕方ねぇよな。だって本当の殺し合いじゃないんだし。

 

 余裕ぶっこいた態度で地上にいる奴らを見下ろしていると先輩の怒りに呼応するように真上から雷が降ってきた。魔力で作られた雷、その威力は確かに強力でそれ自体も普通の雷ではなく堕天使の光が混じった雷光……と呼ぶものなんだろうけど俺からしたら普通の雷だ。威力も俺にダメージを与えるレベルじゃないしこれを雷光! ってドヤ顔して言うんならその手の使い手に謝ってほしいね。

 

 

「……やはり、防がれますわね」

 

「当たり前ですよ。こんな普通の雷程度で俺を倒せるわけないでしょ? 雷光? ははっ! 冗談言わないでくださいよ姫島先輩!! ただの雷を雷光って……くくく、あははははは!!! 弱すぎ。貴方の親、雷光と称されたバラキエルさんに謝ったらどうですぅ?」

 

「……っ!!!」

 

 

 雷光と言う名の普通の雷とグレモリー先輩からの滅びの力が込められた魔力、赤龍帝からの魔力弾が三方向から同時に向かってくる。スローモーションのように見えるそれを影人形一体だけ生成して前方全てにラッシュタイムを放つ。当然だが相棒の力、捕食と称された「影に触れた存在の力を奪う」能力も発動しているから相手の攻撃を防ぐたびに俺の力は高まっていく。勿論奪ったのは滅びの魔「力」と普通の魔「力」だ。存在の源とも言えるそれらを奪われたらどうなるかなんて子供でも分かる――

 

 

「……無傷かよ、知ってたけどさ!!」

 

 

 ――ダメージなんてあるわけがない。あいつらの目には傷一つ負っていない俺が見えるだろう。勿論その通りでさっきの攻撃でダメージを受ける事は無いから当たり前だけどね。さて、犬月達に仕込んだものが発動したから作戦成功したなと思っていると平家から連絡が入る……了解、よくやった。んじゃ四季音と水無瀬に一発デカイの頼むって伝えてくれ。

 

 

「弱すぎて欠伸が出るな。あっ! 先輩先輩! ありがとうございました!」

 

『リアス・グレモリーさまの戦車一名、リタイア』

 

「……小猫、ま、まさか!!」

 

「くくく、最初っからテメェらなんて狙ってねぇんだよばーか!! あははははは!!! 俺達の目的は仙術を使える猫又でねぇ。こいつが居ると色々と面倒だし仙術の怖さは夜空で分かってたから狙わせてもらったよ。もっともここでシスターちゃんを潰してもよかったんだけど先輩の言う通り、眷属の見せ場を奪ったらダメだし()は見逃してあげますよ」

 

「貴方……! まさか、自分を囮にしたのね!! 王自らが囮になるなんて……普通じゃないわ!」

 

「それじゃあ覚えてください。これが影龍王の(キング)の役割ってね――んじゃさよなら」

 

 

 足元に魔法陣を展開する。勿論行うのはレーティングゲームで戦術の基本となっているキャスリングだ。魔法陣に飲み込まれるように四季音と場所を入れ替えた途端――離れた場所から轟音が聞こえた。お、おぉ! やり過ぎるなよって言ったけどやっぱり鬼の腕力と戦車の馬鹿力が合わさったら加減してもあんな感じになるか。

 

 

「水無瀬、ちゃんとやったな?」

 

『はい! 言われた通りに影を繋ぎました』

 

「よしよし。四季音、お前はしばらく姿を隠せ」

 

『うぃ~りょうかぁいだぁよっと』

 

 

 さて、メインターゲットを始末出来たから後はこっちのターンが続くだけだが……校舎裏か。しかも周りから見えにくい絶妙な位置、周りを見渡してもコウモリは飛んでないから移動できるか。まぁ、見つかっても潰すだけだから全然良いんだけどね。

 

 空へ飛んで新校舎の屋根へと移動すると橘が狐を引き連れて歌う舞台を整えていた。その表情は真剣そのもので相手が知り合いだからと容赦しないと言った感じだ。流石退魔の仕事をしていたアイドル、その辺の切り替えが良く出来てるな。

 

 

「悪魔さん。言われた通り、塔城さんを倒しました」

 

「知ってる。お前達の影に影人形を仕込んで状況を把握してたからな……よくやった。友達や知り合いが相手だから躊躇するかと思ったが普通に倒しやがったな」

 

「勝ちたいですから。勿論悪魔さんのためにです! えっと、あとは此処で歌えばいいんですよね?」

 

「あぁ。俺達の勝利のために歌ってくれ。ガードは俺と狐で受け持つから安心して歌い続けてくれ」

 

「はい!!」

 

 

 正直、先制攻撃が終わったから俺は暇になるし橘の歌を聞いて犬月達の活躍を見ているとするか。平家、二転三転する戦場を柔軟に対応できるように考えながら指揮をしろ。勿論俺からは何もしない、自分で考えろ。もっともやべぇと思ったら俺から指示を出すけどな。

 

 

『了解。ちゃんとキスマーク付けてもらえるように頑張る』

 

 

 はいはい。そんじゃ――頑張ってくれよ。俺はこの高い場所から見物させてもらうからな。

 

 

 

 

「開始から十分、流石にもうグレモリー達は体勢を立て直したよな」

 

「だろうね。でもその間も回復系神器による治療は妨害してたからダメージは完全に抜けてないけどね。恵、あれだけ出来るようになるまでどんな地獄を見たんだろうね?」

 

「多分……死んだ方がマシって思えるぐらいの地獄だったんじゃねぇの?」

 

 

 ゲーム開始と同時に王様がグレモリーの本陣を奇襲してから既に十分ほど経過した。作戦時間中に王様から今回の作戦を聞かされた時は唖然としたね、ホントにこの王様は頭おかしいとさえ思ったぐらいだ。いくら俺でも王自らがゲーム開始と同時に敵本陣を襲いに行くなんて馬鹿じゃねぇのとは思う……でも、それが王様なんだもんなぁ。型破りって言うかこうすると決めたら迷わず行う素直って言うか……言ってしまえばツンデレって奴だ。普通だったらさっきの酒飲みの一撃で敵の半分は仕留められたはずなのにわざと威力を周囲に分散させる一発を放つように指示してたしな……きっと俺達の活躍の場を奪わないための配慮って奴だと俺は信じている。

 

 というよりも水無せんせー……すっげぇよ! 禁手状態で離れた相手に影を繋げて反転結界を使うとか王様にどれだけ虐められたんですか!? ホント、お疲れ様です!!

 

 

「当たり。ノワールの作戦は開幕と同時に奇襲、自分を囮として猫又の戦車を撃破する事。花恋に手を抜いた一撃を指示したのも自分達はお前達を舐めていると煽るため――らしいけど心の中では私達の評価を上げるためだよ。だからちゃんと働けこのパシリ」

 

「わーってるよ!! テメェこそちゃんと働けよ? 水無せんせーだって禁手状態で頑張ってんだからな!!」

 

「分かってる。ノワールと恵のお蔭で流れはこっちにあるからこれを逃す手はないよ。うん、もうすぐこっちに聖魔剣とデュランダルの騎士が来るから私達は応戦、どちらか片方を撃破するよ。恵、聞こえてる? うん、影の一部をこっちに伸ばせたらお願い。デュランダルを完全に封じ込めたい」

 

 

 通信端末で水無せんせーに指示を出しているが流石覚妖怪ってかぁ? 心の声を呼んで戦場全てを把握するなんて馬鹿げている……恐らく俺の心の声も読まれてるはずだがまぁ、もう慣れた。別に読まれても俺は思った事を言ってるだけに過ぎねぇし何も問題ねぇ。

 

 しかし、さっきの作戦がこんなに上手くいくとは思わなかった。引きこもりのお蔭で第一目標の猫又の居場所が分かってたから敵本陣が奇襲されて混乱している数分間にケリを付けたかったけど……どうにかなった。流石しほりん! 破魔の霊力パンチは絶対無敵っすよ!! スッゲェ怖かったけどな!! 「えいっ!」って可愛い声からの非情な一撃は何とも言えなくなっちまう……俺達のしほりんがどっかに行っちまったよぉ! ま、まぁ! 猫又自体は水無せんせーの反転結界のお蔭で仙術を練られないと分かっていても戦車(ルーク)で脅威は脅威だったから一撃で仕留めれたのは嬉しい。もっとも酒飲みの腕力と耐久力以下だったけどな。あと胸は大体同じぐらいだろう。

 

 

「――次は王様の手助けはねぇか」

 

 

 さっきの猫又との戦いで俺達が消耗する事なく勝利できたのは王様が俺としほりんの影に忍ばせていた影人形のおかげだ。大して重くもない拳や蹴りを俺が捌いてしほりんが霊力パンチで決める。それは最初っから俺達の中で決めていた戦いだったけど相手の虚を突く事が出来たのは俺の影の中から現れた影人形のお蔭だ……それに気を取られてくれたからこそ羽交い絞めにして仕留める事が出来た。サンキュー王様!!

 

 

「同じ手は通じないからね。吸血鬼に影人形をパシリが使うのを見られて既に情報が伝わってる。それはノワールも分かってるから消したんだよ。言ってしまえば初見殺し?」

 

「だな。さってとぉ!! 来たぜ!! 俺達の敵がなぁ!!」

 

 

 グラウンド近くの道を歩いていると手前の方から男女二人組がやってきた。片方は金髪イケメン、目元のほくろがなんかエロい。だがイケメンだ! もう片方は俺の大っ嫌いな天界勢力出身……マジでこっちは殺すべきだ。デュランダルなんていうトンデモねぇ聖剣持ってるしな!!

 

 

「やぁ。キミ達の王にはしてやられたよ……小猫ちゃんが倒されてしまった」

 

「うん。最初から狙い撃ちだったし。ねぇ、そんな薄ら笑いはやめてくれない? 気持ち悪い。心の中では怒ってるんだったらそれを出したらどう?」

 

「……はは、流石だね。うん、じゃあそうしようかな――敵討ち、させてもらうよ」

 

 

 イケメン野郎、まぁ、木場っちは聖魔剣を作り出して刃を俺達に向けた。最初っから殺る気で嬉しいぜ!!

 

 

「パシリ、これは私が相手をするからデュランダルをお願い」

 

 

 分かってる。引きこもりは覚妖怪、心が読めるから打ち合いは得意だ。でも例外はある……デュランダル使いの女のような馬鹿というか真っ直ぐな奴とは相性が悪いってのは犬の感で分かる。だから俺がこっちと戦うのは最初から決まってるようなもんだ。別に文句はねぇ! ここでこいつを倒せば王様も喜ぶしな!!

 

 

「と言うわけだ、テメェの相手は俺がする。逃がさねぇぜ」

 

「良いだろう! お前達には良いようにされてしまったからな……仲間の敵討ち、そしてアーシアを危険な目に合わせた事の償いをしてもらおうか!」

 

「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!! 戦場に出て危険な目に合うのは当たり前だろうがぁ!! モード妖魔犬!!」

 

 

 ししょーとの戦いで会得した俺の新しい力、モード妖魔犬を発動する。親父とおふくろから受け継いだ魔力と妖力を混ぜ合わせるトンデモねぇ代物だが……雑魚には雑魚の意地ってもんがあるんだ! こんなもん気合で繋ぎとめてやらぁ!!

 

 目の前の女が持つ聖剣から気持ち悪くなるほどの光力が溢れ出ている。シトリー戦ではいっちぃが持つアスカロンって聖剣を持ってたが今は持ってねぇのか……どっちでもいいか。俺は俺の役割を果たすだけだしな!

 

 

「ハァッ!!」

 

「あっぶねぇ!? おらおらぁ! 当たんねぇぞ聖剣使いぃ!」

 

「ちっ……足が、ええい!」

 

 

 グラウンドに移動して接近戦を仕掛けるが相手は聖剣持ちの騎士だ。その一撃は流石に魔力と妖力のオーラを纏っていてもダメージを受けるほどの代物で下手をすると一発で撃破される恐れがある。ゲームだからどれだけ戦う意思があっても審判役の判断が絶対のルール……くそったれ! というよりまだか……まだっすか水無せんせー! チラッと引きこもりの方を見たけど今の所全然余裕っぽい! だけど俺の方はきついっすよ!? だって聖剣のオーラが地味におっかねぇんすからね!! お願い助けてせんせー!! やったー! きたぁー!!

 

 

「っ、またか……! ええぃ! なんで私の相手は反転能力を持つ者ばっかりなんだ!!」

 

「ゼノヴィア!? っ! 援護に行かせない気か……!」

 

「当然。あっちの猪よりも貴方の方が戦いやすい。もうちょっとだけデートしよ? 相手がノワールじゃないのが残念だけどね。えい」

 

「ここまでの剣術……凄いな、キマリス眷属は!」

 

 

 一本の影が聖剣使いの影と繋がると輝いていた光力が反転、まるでオセロのように真逆のオーラを放ち始めた。流石水無せんせーだ!! 本人は離れた所にいるんだろうけど色んな影を経由して此処まで伸ばしてくれた! ホントどんな地獄を見たんだろうな!? ありがとうございますせんせー!! さてと……しほりんが新校舎の屋根の上でライブしてるお蔭で俺達の身体能力は向上! ついでに妖魔犬でさらに倍! 水無せんせーの支援もあるのに負けたらカッコわりぃ!! 全力全開で行くぜ!!

 

 自分の性質を反転させられて戸惑う相手に一気に接近、魔力と妖力を纏わせた拳を放つとデュランダルを盾にされて防がれた……さっきまで輝いていたのが一気に不気味になってるっすね、ついでに魔のオーラがトンデモねぇことになってやがる! だけどさっきよりはマシだ! 俺の拳もダメージ無し! これでようやくイーブン!!

 

 

「こっからだぜ聖剣使い! 俺は、俺の名は犬月瞬! 王様の最強のパシリだ! 犬らしく飼い主の役に立つためにテメェを殺す!! 覚悟は良いなぁ!!」

 

「良いだろう! 迎え討とう!! デュランダルの性質が反転されたとしても私は、負けん!!」

 

「言ってろ!! 俺達は遊びでやってんじゃねぇんだよ!!」

 

 

 拳を握って接近戦を仕掛ける。相手は大剣とも言えるデュランダルをまるで羽のように軽く振る舞わして応戦してくるが拳、足で捌く。あぁ、そうだ! この程度だったら全然余裕だ! 冥界でドラゴンとの殺し合いをした時はこれよりももっと、もっと、もっと強くて腕が折れるってぐらい痛かった! 王様の一撃なんてそれ以上だ! だから全然強くねぇ!! 怖くねぇ!!

 

 何度同じ攻防をしたかは分からない。相手は片足を庇いながらの動きで隙はあるのに全然突破できないのは単に俺の実力不足だ……へへっ! うちの大天使水無せんせーの妨害が効いてるようっすね! なんせあの酒飲みの一発の後であの場に居た全員の影と連結、反転結界を発動して回復を妨害してたんだからな! 動き回ったりしてロクに治療できなかったんじゃねぇの? ざまぁだぜ!!

 

 

「へへっ!! どうよ? こうも接近させられたらロクに剣も振れねぇだろ?」

 

 

 普通に振れば脅威になるデュランダル、だけどなぁ……おもいっきり振らせないように接近し続ければ邪魔な大剣に早変わりよ! 身の丈以上にデカい聖剣だ! いくら剣技に自信があってもロクに振れなければただの的!!

 

 

「甘いな!! 昔の私ならそれで抑えれただろう! だが今の私は、違うぞ!!」

 

 

 聖剣使いはデュランダルが纏う魔のオーラだけを俺に放ってくる。なるほどね、剣を振れないならオーラだけでも飛ばしてダメージを稼ぐってか!! でも生憎その程度なら今の俺でも簡単に壊せんだよ!!

 

 飛ばされたオーラを殴り続け、何度も接近戦を仕掛ける。くっそ……何度もイメトレしたりシトリー戦の映像も何度も見て研究し尽くしたってのにまだ足りねぇか!! やっぱ昇格無しだと妖魔犬を使ってもこの程度って事か……!! あん? 俺の背後、この方角……やってみっか!!

 

 

「離れた……いや、このチャンスを逃す手はない!! 行くぞデュランダル!! 性質が変わってもお前の威力は変わらない!! はあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 こっちが隙を見せたら迷わずデュランダルの最大出力を撃ってきた。よし! 予想通りだ……ししょー、貴方の教えを今ここでやらせてもらいます!!

 

 

『犬月君。兵士の役目って何だと思う?』

 

『えっ? あーと、昇格したり斥候になったり囮とかになる事すか?』

 

『まぁ、そうだね。兵士のキミは何が何でも昇格を狙わないといけない。兵士の駒の状態で戦い続けると自分が不利になっていくからね。臨機応変に対応できることが兵士の強み、だからゲームが始まったらまずは昇格を狙わないといけないんだ』

 

『まぁ、そうっすよね』

 

『でもね、相手も兵士の強さが分かってるから簡単には昇格をさせてもらえない。必ず、本陣に近づく前に戦闘になると思う。そういう時ね――』

 

 

 あの時はそんな馬鹿な事あるのかよとか思ってたけど今なら分かる……今がその時だ。

 

 勢いよく振り下ろされたデュランダルから放たれたのは魔の斬撃、濃厚とも言えるそれは俺を仕留めるために真っ直ぐ向かってくる……覚悟を決めろ犬月瞬! 俺は誰だ? 俺は王様の兵士! そしてパシリ!! こんな所で負けるのか? いや負けねぇ!! 負けたくねぇ!!

 

 

「く、うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 斬撃に合わせて背後に飛び、斬撃の勢いに押されて真っ直ぐ後ろへと下がっていく。痛い、痛い、痛い痛い痛い!! 魔力と妖力のオーラを前面に集めてガードしてるけどそれでもイテェ……! でも、王様の一撃はもっと、アリス・ラーナに負けた時はもっと痛かった!!!

 

 

「躱さなかった……いや、違う!! この方角は、まさかっ!?」

 

「――その、まさかよ!! 昇格!! 戦車ぅ!!!」

 

 

 デュランダルが放ったオーラの斬撃で飛ばされた先は王様が破壊した旧校舎の近く。両腕が痛い、スッゲェ痛い、でも痛いのは慣れてる!! ししょーが言った!! 本陣に近づけないなら敵の一撃を利用しろって!! まさにその通りだ! 耐えてしまえば敵の一撃なんてエレベーターみたいなもんだ!! これで俺も全力で戦える!!

 

 

「こんな、こんな戦い方もあるのか……ははっ、楽しいな。あぁ、すまない犬月瞬。お前を見くびっていたようだ……お前は気合のある男だ! だからこそここで倒す! イッセーのようなお前をここで倒さねば私達が負ける!!」

 

「いっちぃのような、か。へへっ! なんか嬉しいね……あぁ、嬉しい!! 嬉しいぜぇ!!」

 

 

 勢いよく地面を蹴って聖剣使いに近づく。気合十分! 拳を放つ準備万端!! 一撃を耐えきる準備もオッケー!! その勢いのまま聖剣使いを殴りに行くと引きこもりから何かを言う声が聞こえて――先ほどまで目の前に居た存在が消えて俺の真横でデュランダルを振る体勢に入っていた。

 

 

「――がはぁ……!」

 

 

 防御する事すら出来ず、魔の斬撃を真横から受けてしまった。腕は斬り落とされて胴体には一閃の跡が残る傷跡……何が、何が起きた……!! 俺の視界に映ったのは数匹のコウモリ、なるほど……時を、止められたか、マジではんそくだ、ろ!

 

 

「すまないな。私達も負けるわけにはいかないんだ……影龍王と同じ手を使わせてもらった。卑怯と言うか?」

 

「……ぜん、ぜん! 殺し合い、なら!! どんな手を使っても卑怯じゃねぇんだ!! つぅ……!」

 

「動くな。その傷ではもうすぐ撃破判定となるだろう」

 

『瞬君! ごめんなさい……反転結界が間に合いませんでした……!』

 

 

 気にしないでください水無せんせー……多分、俺の影に一本の線のような影と繋がってるから吸血鬼の停止能力を起動かなんかに反転して解除させてくれたんでしょ? そのおかげで、致命傷は避けられました……! でも、確かにこのままだと撃破判定で退場だ……ここで、一人でも倒さない、と! 引きこもりがやべぇ……!! ダメージがこの程度で済んでるのは戦車の耐久力のお蔭かねぇ……! マジで戦車に昇格しといてよかったと自分を誉めたいね!!

 

 

「――動くな? 無理な事言ってんじゃねぇよ」

 

 

 片腕は動く、足は動く、意識はある、殺す気もある、勝つ気もある!! これだけあって動くなとか無理に決まってんだろ……俺は犬だ、飼い主に尻尾振って喜んでもらうための下僕だ!! どうせ退場するんなら最後の最後までやってからだぁぁっ!!!

 

 

「行くぜ、俺の切り札!! モード妖魔犬!!! 化け犬!!!」

 

 

 全身全霊、最後の一滴までも絞り出すように魔力と妖力を放出する。腕、足、胴体、首、顔、それら全てが変化する。ドンッと地面を体重の重さで凹ませて少し高くなった目線で相手を見下ろす。本来は白の体毛だけどこの状態のせいで赤の体毛になっちまってるがこの姿こそ俺の本来の姿、犬妖怪としての姿で王様にしか見せた事がない本当のとっておきで切り札――そしてモード妖魔犬の本来の形だ!!

 

 

「巨大な犬に変化しただと……! まだ隠し玉があったか!」

 

「ゼノヴィア先輩! あの影のせいで僕の神器が効きません! ど、どうしたらいいですかぁぁ!?」

 

「ギャスパー! お前はもう一人の僧侶を探せ! 残したままでは私達が不利だ!」

 

「うん! っ、ギャスパー君は水無瀬先生を探すんだ! それを部長やイッセー君に!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 

 止めたいがこの傷であんな小さい的を噛み殺す事は出来そうにねぇ……片腕が無くなってるから歩き難い……けどさぁ、それでも前へ! 前へ! 前に進むんだぁぁ!!

 

 牙を見せながら一歩、また一歩と地上を駆け抜ける。デュランダルから放たれる斬撃も躱さない……前へ、前へ、前へ!! 痛い、痛い、痛い! 血が飛んで肉が抉れる。でもまだ判定は下ってない!! 目の前で振られるデュランダル、もしそのまま通せば俺は負ける――だから!

 

 

「なぁっ!?」

 

 

 刃に噛みつく。濃厚なオーラのせいで自慢の牙が痛む、削れる、消滅する、でも! それでも離さない! 絶対に離さない!!

 

 

「っ、うおぉぉぉ!! デュランダルゥゥゥ!!!!」

 

「ううぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 放たれる濃厚な魔のオーラを魔力と妖力を全て口に集約して押さえつける。今にも意識が飛びそうなぐらい痛い、痛い、痛い!! 涙が止まらねぇ!! いてぇよ、いてぇぇよぉ!! でもはなさないぃ!! はなさねぇぇ!! 勝つんだ! 勝つんだ!! かつんだぁぁぁ!!

 

 

「――パシリ、決めな」

 

 

 轟音、まるで空から何かが降ってきたと錯覚するほど大きな音がグラウンド中に響き渡る。その声の主で誰がやったかすぐに分かったぜ……あぁ、サンキューな酒飲み、いや四季音花恋!!

 

 

「うううううぅぅぅぅっ!!!」

 

 

 鬼の一撃の衝撃でデュランダルから手を離したお蔭で一時的に俺の武器となる。聖剣の因子って奴が無いから最大限に使えねぇし反転結界の影響が無くなったから聖のオーラが噴き出てる……いてぇぇぇぇ!? でもまだ、まだなんだぁぁぁ!!

 

 首を大きく振り、体勢を崩している聖剣使いの胴体に咥えているデュランダルと突き刺す。グサリと、刃物で人を殺すように体内へと刃を埋めてく。へへっ、どんなもんだよ……やって、やった、ぜ。

 

 

「ゼノヴィア!!」

 

「――すま、ない木場、私は、負けたようだ」

 

「――へへぇ、おうさ、まぁ」

 

 

 俺は、役目を果たせたっすか?

 

 

『リアス・グレモリーさまの騎士一名、ノワール・キマリスさまの兵士一名、リタイア』




キマリス眷属
犬月瞬:ゼノヴィアと相打ちでリタイア。

グレモリー眷属
塔城小猫:犬月瞬、橘志保、水無瀬恵の手によりリタイア
ゼノヴィア:犬月瞬と相打ちでリタイア。

観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話

『リアス・グレモリーさまの騎士一名、ノワール・キマリスさまの兵士一名、リタイア』

 

「相打ちか……」

 

『ゼハハハハハハハッ!! あのパシリもやるじゃねぇの!! デュランダル使いをぶっ殺すとは最高だぁ!! ゼハハハハハハ!! 男を見せたな犬月瞬よ! 俺様、超嬉しいぜ!!』

 

 

 背後で歌って踊る橘の声をBGMに俺は新校舎の屋根の上でフィールドを見渡していた。悪魔の天敵である聖剣、しかもデュランダル相手に怯むことなく立ち向かって相打ちとはな……よくやった。お前は誇っていいぞ。なんせ自分の役割をきっちりと果たしてくれたんだからな……これでお前の事を貶す奴がいるならば俺はソイツを殺そう。たとえそれが別勢力の奴らや冥界の老害共だったとしても遠慮なく殺してやるさ。俺の兵士は格上の相手に挑んで引き分けた、その事実だけは覆さないし消させはしない。犬月、お前は立派に戦ったよ、立派に自分の役目を果たした上で俺の兵士として十分な働きをしてくれた男だ。あとは俺達に任せて休んでな――ちゃんと勝利してやるからよ。

 

 

「――ふぅ、悪魔さん。少し休憩しても良いですか?」

 

「あぁ。十分以上も歌ったり踊ったりして疲れただろ? しばらく休んでろ」

 

「はい!」

 

 

 さて、これで先輩の残る駒は女王の姫島先輩、騎士の木場裕斗、僧侶のアーシア・アルジェントにギャスパー・ヴラディ、そして兵士の兵藤一誠。対する俺達は四季音、平家、水無瀬、橘……数の上では一人ほど少ないが犬月が相打ちで厄介な聖剣持ちを倒してくれたから何とかなるか。もっとも俺と四季音だけで問題なさそうだけどね。

 

 

『ノワール、花恋のお蔭で無事に離脱できたよ。吸血鬼が恵を探しているけど止めた方が良い?』

 

「だな。四季音」

 

『うぃ~? 別に止めても良いけどさぁ。アイツ、変化してるから本体を見つけないとダメージになんないよ?』

 

「だったらあぶり出すまでだ。水無瀬、新校舎まで戻ってこい、ちゃんと敵に見つかるように移動しろ」

 

『は、はい!!』

 

『そんじゃ私は準備しとくよ。ちゃんとタイミング合わせなよ?』

 

 

 分かってるさ。ちゃんと水無瀬を死なせないようにしねぇとな――さてと、止めるか。

 

 

「影人形」

 

 

 真上から飛来してくる極大の雷光、それに影人形のラッシュタイムを叩き込んで防ぐ。威力的にも十分に魔力を練られた良い一撃で強力だと思うが……俺から言わせたらまだまだ弱い部類だ。夜空の光なんてこれ以上、いや数百倍は強いし痛い。ついでに言うとこの程度の攻撃を防げなかったら最強の影龍王の名が泣くし問答無用で夜空に殺されてる。

 

 近づいてくる人影を見ると背中に悪魔の羽を生やした姫島先輩が笑顔で俺達を見つめていた。白を基調とした巫女装束を身に纏い、雷を迸らせている姿はまさに雷光の巫女と言う異名に相応しいと思う。ついでに笑顔が似合うお方だけど現在の笑顔はちょっと怖い……やっぱり人間が怒った時で一番怖いのは笑顔だよな。俺も橘が笑顔で何か言いたそうにしてる時とかすっげぇ怖いし。

 

 

「あらあら、今のは魔力を強く込めましたのに防がれてしまいましたわ」

 

「まぁ、確かに込められていましたね。魔力が、ですけど。雷光って言うなら堕天使の光をもう少し強めたらどうですか? この程度の攻撃で俺を倒そうとか……舐めてるとしか言えませんよ?」

 

「うふふ。えぇ、確かにそうですわね……でも、私は今の力で貴方を倒しますわ! 雷光よ!」

 

 

 再び放たれる雷光をその場から動かずに影人形の拳で粉砕。やっぱり雷光っていうよりも普通の魔力を変化させた雷だよな……なんで堕天使の力を嫌ってるのか分かんねぇけど使えるんだったら普通に使おうぜ? でもこの戦い方を見た感じだとシトリー戦や今までの戦いと戦闘スタイル的には何も変わってなさそうだ。僧侶寄りの女王、言ってしまえば魔力極振りで紙装甲ってのが俺の印象だけどこの撃ち合いを見る限りじゃ多分当たってるな。女王の駒ってのは騎士、僧侶、戦車の良い所を全部持つ反面、器用貧乏になりがちなんだよなぁ。強い人は強いけどちゃんと育てないと今のように決め手に欠けるしさぁ……でも俺は夜空を女王にするけどな!! あいつの規格外っぷりを見てると女王の駒でも転生できるのか分かんねぇけど!!

 

 橘を背中に隠しながら影人形のラッシュと雷光のぶつかり合いが続く。夏休み前の俺だったら影人形の拳が吹き飛ぶ事態になってただろうが今の俺はあの時より数倍強くなってる……はずだ。夜空と戦うとその辺が不安になるけどきっと強くなってるはずだ。姫島先輩の相手を影人形に任せて俺は地上に視線を向けるとイケメン君が別の所に向かっているのが見えた……あの方向は水無瀬がいる方角だな。よし、ちゃんと見つかってくれて俺は嬉しいぜ!

 

 

「っ!!」

 

 

 飛んでくる雷光をワンパンで粉砕、影人形を姫島先輩に接近させて拳を放つと障壁を展開して防ごうとした……でもさぁ、アンタの障壁って強度弱いよなという疑問の通り、影人形の拳はガラスを割るように簡単に障壁を貫いて姫島先輩胴体に叩き込む。僧侶方面に特化させるのも良いけどさ、女王ならもうちょっと防御、いや戦車の特性に意識を向けた方が良いよ? 今のままだと魔力ぶっぱの雑魚になるからさ。

 

 

「橘」

 

「は、はい!」

 

「命令。そこで飛んでる紙装甲女王をぶっ殺せ」

 

「――はい!」

 

 

 別に俺が倒しても良いんだが橘にも戦闘経験をさせないと今後に響く。け、決してめんどくさいとか思ってない! うんうん! うちの僧侶はグレモリー眷属女王にすら勝てるんだよーって色んな奴らに自慢したいだけ! だって雑魚相手に本気になるとか大人げないじゃない? そうそう、だからこれは一種の橘に対するの試練みたいなものだ!

 

 

『嘘。めんどくさいって思ってる』

 

「……あぁ、そうだよ! 悪いですかねぇ! 影人形のワンパンで落ちる女王相手になんで俺が戦わないといけねぇんだ? あんなのうちの橘さんで十分だ」

 

「あらあら。随分自慢の僧侶さんなのですわね。志保ちゃん、遠慮はしませんわよ」

 

「はい。私は悪魔さんの僧侶です! 悪魔さんのために――貴方に勝ちます! キー君!!」

 

 

 気合十分の橘の背中に悪魔の羽が生える。そして姫島先輩のように空を飛んで空中戦を始めた……白! 白だぜ相棒!! やっぱりうちのしほりんは清楚系の白が似合うよな!!

 

 

『俺様、紐パンだったら興奮してたぜ』

 

 

 流石相棒! その言葉には俺も同意だ! アイドルが紐パン……素晴らしいと思います!

 

 姫島先輩が得意の雷光を放つに対して橘は自分の両手に破魔の霊力を集めてそれを矢のように放つ。あの矢自体も破魔の霊力だから一発でも掠れば悪魔相手だったら大ダメージは免れないだろう。もっともそれ以外の相手、例えば普通の人間が相手だったら霊力自体の威力は低いから撃っても意味無いんだけどな。でも今回の場合は姫島先輩の雷光に「魔」力が混じってるから威力は落ちて無さそうだ……相殺されてるけど。やっぱり歌での支援と並行して遠距離攻撃も鍛えさせた方が良いな。今の橘は歌に魔力を乗せて支援する方向性だから遠距離での撃ち合いにはまだ不慣れらしいし。

 

 

「キー君!!」

 

 

 独立具現型神器の狐が雄たけびを上げて全身に雷を纏いながら姫島先輩に接近する。その目と纏う雷からは確実に仕留めるという強い意志のようなものを感じる。流石は橘大好きな狐だな……それ以外の存在には容赦ねぇ!

 

 

「甘いですわ! 私の雷光は……イッセー君が褒めてくれた雷光はその程度の攻撃では防げませんわ!!」

 

 

 指先に集めた魔力を雷に変換して一気に放つが……さて姫島先輩? その狐は橘が操作しているんじゃなくて狐自体が意志を持って動いているんだぜ? つまり何が言いたいかと言うと――

 

 

「グゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 ――単調な攻撃はその狐にとって障害でも何でもないんだよ。

 

 

「そんな!?」

 

「キー君!! いっけぇ!!」

 

 

 放たれた雷光を難なく躱した狐は前転するように周りながら雷を放出、電流のコマとなって姫島先輩を襲う。ダメージを受けないために障壁を張る姫島先輩だが俺命名紙装甲女王の名は伊達ではなく……かなり必死に防いでいるようだ。えっ? マジで? マジでやってんのあの人? どんだけ魔力極振りなんだよ?

 

 

「くぅ……こ、このままでは、危ないで、すわねっ!」

 

「ええいっ!!」

 

 

 主の言葉に狐は瞬時に真上へと飛ぶ。姫島先輩に襲い掛かる脅威は電気を放つ狐から霊力を拳に纏わせた橘へと変化した……うわぁ、あの子ったら拳を握って障壁殴ってるよ。男らしいけど見たくはなかった!! 障壁に拳を突き立てた橘はそこからラッシュ、ラッシュ、ラッシュの雨を叩き込む。魔力や霊力で身体強化をしているから僧侶の橘でも結構な威力の打撃を行えるらしい……腰が入った良いパンチですね!! 見たくありませんでした!!

 

 そんな事を思っていると水無瀬に仕込んだ影人形に動きがあった。うん? おいおい、まさか残り全員で水無瀬を攻撃とはなかなか大胆な事をしてくれるな――あぁ、停止世界の邪眼は無理だわ。

 

 

『ノワール・キマリスさまの僧侶一名、リタイア』

 

 

 上空からそんな放送が聞こえた。当たり前か……停止させられてからの先輩の魔力攻撃は防ぎようがねぇしこれは怒る事は出来ない。しかしまさかあの先輩が赤龍帝達と一緒に前線に出てきたって事はもうなりふり構ってられないって感じかねぇ? それとも俺が煽ってキレた? なんかそれが当たってそうだな。俺としては水無瀬を撃破させられた事に関しては心底どうでも良い、いや良くないけど撃破された相手の事を考えていても意味は無いからもう忘れよう。本来だったら水無瀬を囮に相手の誰かを新校舎内におびき出してから四季音の一撃で新校舎事撃破しようぜ作戦が出来なくなったのは痛いな……影人形もその時の防御として仕込んだものだしな。仕方ねぇ、隠れている四季音にもう少し大人しくしていろと伝えろ。そんでお前はこっちに来い。

 

 

『りょーかい』

 

「水無瀬先生……!!」

 

「これでゼノヴィアちゃんの分は取り戻しましたわ……志保ちゃん、貴方もここで倒します! 歌と破魔の霊力は脅威ですもの!!」

 

「――はい! 私も覚悟を決めました!! 姫島先輩をここで倒します! 悪魔さん!!」

 

「うん? あぁ、別に良いぞ」

 

「――行きます!」

 

 

 上空から狐の雄たけびが聞こえるのと同時に一つの雷が橘に落ちる。相手の姫島先輩が雷光を放ったわけじゃない……狐自らが雷となって橘に落ちたそれはダメージを与えるものではなく、狐自身が変化した証の雷だ――橘の首筋を護るように茶色のマフラー、それこそ独立具現型神器である雷電の狐の別形態。独立具現型神器所有者の中には神器自体を変化させて武器や防具にする事もあったと調べたら分かったので橘にも同じような事が出来るか聞いてみたら――わずか一日で完成させましたよ! その時は唖然としたね!!

 

 マフラーをなびかせて拳を握り、姫島先輩に向かっていく橘に止めるべく放たれた雷光が襲い掛かるがそれらをマフラーから放出された電気の障壁で防いでいく。改めてみるとさ……アイドルがマフラーなびかせて殴りに行くってどうなの? カッコいいけど! カッコいいけどさ!! なんか違うよね!?

 

 

「なんて、防御力なのかしら……!!」

 

「キー君の防御は鉄壁です!! えいっ!!」

 

 

 橘の拳は姫島先輩が展開した障壁を捕らえ――亀裂を入れた。それを見た姫島先輩は後ろへと飛んで今までで一番デカい雷光を放った。恐らくそれを放って距離を取ろうと考えたんだろうけどうちの橘様はなにをとち狂ったのかその雷光を真正面から受けながら真っ直ぐ進み、破魔の霊力が込められた拳を叩き込んだ。え、えぇ?! 覚悟ってそういう覚悟!? あの、えぇ!? ちょ、ちょっと橘様!? 何してんの!?

 

 

「……いたい、です! でも!! 犬月、さんはもっと、もっと痛い思いをして頑張ったんです!! 私、もこれぐらいは出来ます!!!」

 

「志保、ちゃん……」

 

「これで、終わりですっ!!」

 

 

 ゼロ距離からの破魔の霊力を叩き込まれた事で撃破判定が下る。勿論――相手だけだ。確かに雷光のせいで橘もダメージを受けているが電気の障壁のお蔭か橘の気合のお蔭かは分からないが如何にか撃破判定を貰う事は無かったようだ。ふぅ、冷や冷やさせないでくれ。

 

 

「志保。無理しすぎ」

 

「ご、ごめんなさい……えっと、犬月さんの覚悟を見たら、つい」

 

「可愛く言ってもノワールは絶句状態だよ」

 

「俺様、何も見ていない」

 

「悪魔さん! ちゃんと! ちゃんと見てください!!」

 

 

 どこの世界に拳握りながら雷に突っ込むアイドルを見てキャーカッコいい! って言えるんですかねぇ? 俺達のしほりんは一体どこへ行ってしまったんだ……! きっと全てはガチムチハゲがいらねぇことを教えまくったせいだな! もう一度絶対に殴る!!

 

 俺が絶句状態に陥っていると真下の地面にグレモリー先輩が現れた。ご丁寧にイケメン君、シスターちゃん、ハーフ吸血鬼、赤龍帝を引き連れてだ……まだ赤龍帝は禁手化してないか。流石に長時間は無理だから温存してたって感じかね?

 

 

「……朱乃も倒されたようね」

 

「そっすね。うちの拳系アイドルのお蔭でなんとか倒せましたよ……あのすいません、さっきの光景を見てまだ心の余裕が持てないんで少しだけ待ってもらって良いです?」

 

「ダメよ。ねぇ、キマリス君。お互いの駒が少なくなってきたから総力戦と行かない? 何度も考えたけれどこの戦法以外、貴方を倒せそうにないの。勿論私も後ろで指揮をするなんて事はしない……皆と一緒に戦って貴方に勝つわ!」

 

「あぁ! 黒井!! 小猫ちゃんやゼノヴィア、朱乃さんの敵討ちだ! 行くぜドライグ!!」

 

『気を付けろよ相棒!! 奴は歴代最強の影龍王だ! 気を抜けば死ぬぞ!!』

 

「知ってる!!」

 

 

 なるほど。全部の駒を総動員して俺を倒しに来る作戦か。理に適ってるし先輩らしい脳筋っぷりだよ――俺好みでいい作戦だと思うよ。

 

 

『ゼハハハハハハッ!! 赤蜥蜴ちゃん! いや乳龍帝ちゃんよぉ!! 俺様に勝てるとでも思ってんのかぁ? やーいやーいおっぱいどらごーん!! おっぱいどらごーん!! 俺様の宿主様との力の差を見せつけてやるよ!!』

 

『くっ、う、うおぉぉぉぉぉん! うおぉぉぉぉぉん!! 俺は赤龍帝!! ドライグだ!! 乳龍帝ではない! そんな、そんなドラゴンではないのだぁ!!』

 

『はぁ? おいおい冗談だろう赤蜥蜴ちゃん!! 乳龍帝だろう? おっぱいドラゴンだろう? 良いじゃねぇか!! 乳を司る龍帝って素敵だと思うぜぇ!! きっと世の男共から拝められる存在になるだろう!! ゼハハハハハハ!! さぁ! 来い乳龍帝!! 昔のように楽しい殺し合いをしようぜ!!』

 

『うおぉぉぉぉんっ!! 貴様は絶対に言うと思ったぞ!! 相変わらず性根が腐ってる邪龍め!! それもこれも全部相棒が悪いんだ!! 俺は、乳を司る龍帝なんかじゃない!!』

 

『安心しろドライグ、俺様、ちゃんと、ちゃんと分かってるから』

 

『分かっていない!! その口調のお前は絶対に分かってはいないんだ!!』

 

「なんか、うちの相棒が活き活きとしてるんだけど?」

 

「すまんドライグ……!! 本当にごめん!!」

 

 

 伝説の存在、二天龍と称された赤龍帝ドライグがガチ泣きしているんだけどさ……気持ちは分かる。俺も脇龍王とか呼ばれたら同じ感じになりそうだからな。もっとも相棒はそんな二つ名すら喜んで名乗るだろうけども。

 

 そんなくだらない会話をしていると赤龍帝が鎧を纏った。どうやら此処に向かってくる間にカウントしてたみたいだな……まぁ、どうでも良いや。個人的にはドライグのガチ泣きが哀れ過ぎて何も言えない。うちの相棒がなんかスイマセン。俺は言葉では言わないぞ! ちゃんと心の声で言うからな!!

 

 

「まぁ、あれだ。やるか」

 

「お、おう!! 言っておくけど負けねぇぞ!! 俺だって……俺だって強くなってるん――」

 

 

 影のオーラを纏って一瞬で移動する。その場所は赤龍帝――ではなくシスターちゃんの真上。誰もが、いや平家以外は俺が赤龍帝と戦うと思っていたから妨害される事なく真上を取る事が出来たけどさ……確かに俺は「やるか」って言ったよ? でも赤龍帝と戦うとは一言も言ってないんだよねぇ。何故か驚いた表情をしている可愛いシスターちゃん目掛けて影の砲撃を叩き込むと地響きが周辺に鳴り響く……はい終わり。サブターゲット討伐完了だ。ちゃ、ちゃんと手加減したから許してもらえるよね!! 誰に許されるか知らねぇけどさ、しかしこれでやっと赤龍帝と殺し合える……なんだよ平家? その相変わらずの外道っぷりだねって顔は? 当然だろ? 回復役は真っ先に潰さないとこっちが不利になるんだからな。

 

 

『リアス・グレモリーさまの僧侶一名、リタイア』

 

「ふぅ。んじゃやるか赤龍帝? 何時でも良いぜ」

 

「――あー、しあ」

 

「あん? どうした? 掛かってこないのかよ? 屋根の上から降りてきてやったってのに突っ立ってんじゃねぇよ」

 

「あっ、ノワール」

 

「なんだ?」

 

「どうやら逆鱗に触れたっぽいよ」

 

 

 平家の声と同時に赤龍帝のオーラが高まった。それはヴァーリと夜空のタッグを相手にしていた時よりもさらに強いドラゴンの波動……くくく、あはははははは!! なんだよ! やれば出来るじゃねぇか!!

 

 

「くろいぃぃぃっ!!!」

 

 

 上空に飛ぶと赤龍帝も追尾するように追ってきた。左腕の籠手に内蔵されている聖剣アスカロンに力を譲渡したのかその拳を雄たけび上げながら叩き込もうとしてくる。流石の俺も龍殺し(ドラゴンスレイヤー)なんて喰らいたくないのから影人形を生み出して防御するが……ちぃ、ガチで逆鱗に触れたらしいな。威力がすっげぇ!!

 

 

「なんで、なんでアーシアを攻撃したぁぁっ!!!」

 

「回復役を潰すのは常識だろ?」

 

「アーシアは戦えないんだぞ!!!」

 

「戦場に出てるのに戦えないってのはおかしいだろ……だったらゲームに参加するんじゃねぇよ」

 

「ふざけんなぁぁぁぁ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 無限に力が高まる赤龍帝と無限に力を奪う影龍王()

 

 怒り狂う赤龍帝の突進を影人形のラッシュタイムを叩き込みながら応戦、同時に力を奪っていくがやっぱり夜空と同じく力が高まっていく相手には意味ねぇな……奪ってもすぐに倍加されて元通りだ。龍殺しが宿る片腕に触れないように影人形と共に赤龍帝にぶつかり合うと周囲の景色が衝撃によって吹き飛んでいく。おいおいマジかよ……ヴァーリと殺し合ってた時よりも力が高まってんじゃねぇか!!

 

 アスカロンの刃を出現させた赤龍帝はそれを突き刺そうと突進してくる――

 

 

「ちぃ!! くっそ!! は、離せぇぇ!!!」

 

 

 ――が複数の影人形を出現させて突進を止めて取り押さえる。夜空みたいに馬鹿かってぐらい光を放ってくるなら兎も角、ただ闇雲に突進は俺相手だと自殺行為だぜ? 一応、テクニックタイプを自称してるしな。これが夜空やヴァーリが相手だったらこんな手を使っても即効で消されるだけだけど……今の赤龍帝相手なら普通に通用するか。

 

 

『っ! 相棒!! 今すぐこの人形から離れろ!! 力が吸われているぞ!!』

 

「そんなのすぐに倍加すればいい!! 黒井をぶん殴る!! アーシアを、アーシアを攻撃しやがってぇ!!」

 

『落ち着け!! 吸われているのは相棒の力だけではない!! 鎧を持続させる力……それも奪われている!! このままでは禁手化が解ける!』

 

「嘘だろ!?」

 

『嘘ではない! クロムの力は存在の力を奪う……理論上は可能だ!! しかし前の影龍王もここまでの事は出来なかったはず……相棒! どうやら奴は奪う力を選択できるようだ!! くっ、生前のクロムと同じ事が出来る所有者だと!?』

 

『ゼハハハハハハ!! 言っただろうドライグぅ! 俺様の宿主様は歴代最強だってなぁ!!』

 

「ほらほら。俺を殴るんだろ? だったらさっさと抜け出してここまで来いよ。じゃないと……禁手化が解けるぜ?」

 

 

 真下から赤い魔力が飛んできたので影の翼を展開して遮断する。こっちも怒りで力が跳ね上がってるなぁ……そこまで大事だった? あぁ、大事だったね。でも俺の目の前に連れてきたんだから倒されても文句は言えないぜ? もっともこの場に居なくても四季音に探させて潰したけどな。つまり……置いてこようが連れてこようが結果は変わらないんだよ。はい残念でした!!

 

 

「キマリス君……! 色んな暴言や最初のような戦い方は私も許せたわ。でも、私とイッセーの大事なアーシアを傷つけた事だけは許さない!! ここまで怒らせたのは貴方が初めてよ――消し飛ばしてあげるわ!!」

 

 

 あらら、先輩がガチギレしてやがる。他の所ではイケメン君と平家、ハーフ吸血鬼と橘が戦っているけど平家は兎も角、橘は相手が悪いな……停止させられたらそこで終わりだし。よそ見をしているとまた滅びの魔力が飛んできたので影で防御、お返しに影人形を生成して先輩を殴ると今度は赤龍帝がキレて取り押さえていた影人形を吹き飛ばして向かってきた。何この連鎖? めんどくせぇ!!

 

 

「くぅろぉぉぉいぃぃ!!!!」

 

「うぜぇ……耳イテェから叫ぶな」

 

「うるせぇ!! テメェ!! アーシアだけじゃなく部長まで殴りやがって!!! ぜってぇ許さねぇ!!!」

 

「おいおい。王を攻撃するのはゲームでは当たり前だろ? それ自体否定してんじゃねぇよ……たくっ、主殴られて仲間倒された程度でキレんなよ。殺すわけじゃねぇ、ただの遊びだろ?」

 

「それでも、それでもテメェをぶん殴る!!」

 

『落ち着け相棒!! 怒りに飲まれるな!!』

 

 

 圧倒的な力の塊、赤いドラゴンのオーラで捕えていた影人形を吹き飛ばして真っ直ぐ俺に向かってくる。龍殺しが込められた赤龍帝の攻撃を余裕で躱すがすぐに体勢を立て直して今度は極大の砲撃が飛んできた。真っ赤で赤龍帝の力が込められた良い砲撃だ……でも無駄だけどな。即座に影人形を生成してラッシュタイムを放つと同時に威「力」を奪っていくが……どうやら影人形で防御するその一瞬を狙っていたのか赤龍帝が突進してきやがった。怒りの声を上げた赤龍帝は影人形の足止め程度では止まらず、龍殺しが宿った拳が俺の胴体に叩き込まれた――がはっ……! 初めて、喰らったけどいってぇなぁ!! しかも俺の鎧を全部吹き飛ばすほどの威力かよ!!

 

 連続で殴ろうとしてくる赤龍帝に影の砲撃を浴びせて背後に吹き飛ばし、その一瞬を使って鎧を復元させる。赤龍帝が体勢を立て直す前に背中から生やしている影の翼を多く広げ、影の弾丸を放つ。避けようとする赤龍帝だが足止め用に影人形を生成したからそれを振り切る事が出来ず……無数の弾丸をその身に受けて地上へと落ちていく。俺が影人形頼りの男だと思ったか? 残念、確かに極振り状態だけど自由自在に影を操ればこの程度は余裕だよ。しかし……おいおい、これでリタイアとかやめてくれよ?

 

 

「イッセー!!」

 

「大丈夫です、部長……!! くっそ!! 強い……あの人形から逃げれねぇ……!! がはっ!?」

 

 

 上空から一気に急降下して地面に横たわる赤龍帝を殴る。その衝撃で赤龍帝が纏っていた鎧が吹き飛んでしまうが俺には関係ない……はぁ、つまらねぇ。これで終わりかよ? 夜空やヴァーリと戦いてぇわ。

 

 

「く、ろいぃ……!!」

 

 

 首を掴んで宙に浮かせると苦しいのか呻き声を上げるがこれも俺には関係ない。別の所から先輩の攻撃が飛んでくるけど影の障壁、影人形で簡単に防げるから脅威にすらならない。

 

 

「弱い。マジで弱い。さっきの一撃は確かに効いたぜ? 強い良い一撃だった。でもそれだけなんだよ……何の苦労もしてないテメェが俺に勝てるとでも思ったか? 俺はな、ここまで強くなるのにかなり苦労したんだよ……夜空と戦うために、母さんを護るために、自分を護るために必死で頑張った。赤龍帝、護りたいならもっと強くなれ。このままだと本当に乳龍帝って二つ名で馬鹿にされながら一生を終えるぜ?」

 

「ぐ、ぁ……!」

 

「と、まぁ……これで終わりなんだけどな。病院で仲間が送り込まれてくるのを黙って見てな」

 

 

 首を掴んで締め付けながら止めを刺そうとすると――禍々しい気質をした赤いオーラが赤龍帝から噴き出した。あっ、やべぇ。やり過ぎた……マジでぇ!?

 

 

「イッセー!? どうしたのイッセー!?」

 

「ちぃ!!」

 

 

 近づこうとする先輩を抱き抱えて新校舎の屋根まで飛ぶ。その途中で橘に影人形の攻撃を浴びせてリタイアさせることも忘れない……でも流石平家だな。俺の心の声を聞いていたのか自分から腹に刀を差してリタイアするとはやるじゃねぇの。あと、悪い橘……あとで何か奢るわ。

 

 地上に残されたのはオーラを噴出し続ける赤龍帝の姿。赤い鎧を身に纏い、老若男女の声を吐き出しながら殺意を帯びた目で俺を見つめる。

 

 

「我、目覚めるは――」

《始まった》《始まってしまったのね》

 

 

 その声は不気味だった。本来の兵藤一誠の声に交じってこの場に居ないはずの誰かの声が混じっている。気色悪いと表現できるほどの声色だ。

 

 

「覇の理を神により奪われし二天龍なり――」

《もう止められない》《止める事は誰にも出来無い》

 

 

 呪いの言霊により、赤龍帝の姿が変化していく。あぁ、クッソ……これはゲームしてる場合じゃねぇぞ!

 

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う――」

《全ては影龍王の責任》《敵である影龍王を倒せ》

 

 

 ご丁寧に神器の歴代思念は俺をご指定かよ……ふざけんな! って言いたいが引き起こしたのは俺だよな。ちょっと、いやかなりやり過ぎた……まさかシスターちゃん倒して先輩傷つけただけでこうなるとは思わねぇよ。

 

 

「我、赤き龍の覇王と成りて――」

《憎き影龍王を殺すため、我らは再び滅びを選択しよう!!》

 

「「「「「汝を紅蓮の煉獄へと沈めよう――」」」」」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』

 

 

 俺達の目の前に現れたのは兵藤一誠ではなく、一匹のドラゴンだった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、見た感じ、理性を失ってる所を見ると完全に暴走してるな。これどうすんだよ……ゲーム、いや遊びの範疇を超えてるぞ。というよりさ、これ俺のせいか?」

 

 

 グレモリー先輩を抱えながら新校舎の屋根の上で地上に現れた一匹の怪物を見る。赤い鎧、先ほどまで対峙していた兵藤一誠が纏っていた赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)の面影を残しているが既に別物の存在へと移行している……両腕は鋭利な爪が伸び、背には幾重の宝玉が埋め込まれている翼、体格も人の形とは言えないほど大きくなり顔に至っては角と牙が生えている。もしその姿を見た者はこういうだろう――ドラゴンと。

 

 おいおいマジで勘弁してくれよ……こっちは比較的真面目にレーティングゲームという名の殺し合いをしてたってのに怒りで覇龍使うか? しかも操りきれずに暴走してるしよぉ。もうヤダ、二度と先輩達とは戦わねぇ。絶対に戦わねぇ! 怖いからじゃなくて普通にシスターちゃんと先輩狙っただけでこうなるしめんどくさいから戦いたくない。

 

 

『ゼハハハハハハッ! 兵藤一誠とやらは歴代思念に飲み込まれやがったか。そこまで俺様、憎まれていたのかねぇ? ゼハハハハハハ! 人気者はつれぇぜ!!』

 

「……あぁ、そう言えば何代か前の赤龍帝を殺したんだっけ? しかも女絡みだったか?」

 

『その通りよぉ! 赤龍帝と影龍王、そう呼ばれた男達は同じ女に惚れちまったのよ! どっちが付き合うかって話し合って殺し合いして決めようぜって事になったから――ぶっ殺した。まさかその事をまだ根に持ってる歴代思念ちゃんが居るとはねぇ!!』

 

 

 あぁ、つまり大体同じ状況だったって事か。赤龍帝と影龍王の戦い、そして女絡みが原因でこの状況ってか? おいおい……マジかよ。これって俺のせいか? お、俺のせいか?

 

 

「イッセー……キマリス君、イッセーは! イッセーはどうなって――」

 

 

 抱き抱えている先輩の言葉は続かなかった。新校舎目掛けて突進してきた赤龍帝――いや赤いドラゴンが俺が生み出した影の壁に激突した衝撃でビクッとしたからだ。可愛い。いやそうじゃねぇ!! おっぱい揺れたけどそれどころじゃねぇ!! あの野郎……本気で俺を狙って動きやがったな!! 怒りの対象が俺なんだから当然だけど近くに先輩がいるのに気が付かねぇほどキレてやがるのか。ちっ! 普通の影の障壁じゃ持って数十秒だな……!

 

 

「イッセー!!」

 

「舌噛みますよ。イケメン君! 飛ぶから後ろに付け、四季音!! お前もだ!!」

 

 

 イッセー、イッセーと叫び続ける先輩を連れ去るように上空へと避難するとこのフィールドに残された奴らも俺に続いてくる。襲い掛かってくる赤いドラゴンは妨害していた影の障壁をガラスを割るように豪快に破壊して新校舎へと突っ込んだ。その速度、威力共に先ほどまでの赤龍帝のものとは比べ物にならないもので俺以外の奴が受ければもれなくあの世行きが確定するだろう。四季音でも片腕が折れるレベルって言えばその威力の凄さが分かるだろうなぁ……状況説明と少しでも消耗させるために()()使うか。

 

 

「あまり使いたくねぇけど仕方ねぇな。相棒!!」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 俺が纏う影龍王の再生鎧に埋め込まれている宝玉が一斉に黒く輝き出すと俺の目の前に真っ黒な球体が現れる。それはまるでその空間が無くなってしまっていると錯覚するような黒の球体、いや穴と言うべきものだ。それを前方、新校舎を破壊して轟音と言うべき叫びをあげている怪物目掛けて放つとその姿を覆い隠すように黒いドーム状のものへと変化した……これで数分は稼げるはずだが微妙だな。本来の使い方とは違うしこの技自体も影人形融合2と同時に会得したから練度不足で使い慣れてねぇし。

 

 

「あれは……なにを、したの?」

 

「シャドーラビリンス。外側と内側を断絶し、いかなる攻撃をも防ぐ絶対遮断空間。本来は外側の攻撃を影で拒絶、影の内側にいる俺はその間に体勢を立て直す完全防御技だが何かを捕らえる檻としてならしばらくは持つはずだ……色々と聞きたいんでしょ? この際だ、聞きたい事全部答えてあげますよ」

 

 

 影の中で勢いよく叩く音が聞こえてくるけど今の所は問題なさそうだ……よかったぁ!! 一瞬で壊されてたら自信無くすしな!

 

 

「……え、えぇ。キマリス君、イッセーに何が起きているの……?」

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、封印系神器が持つ禁忌の力と呼ばれるものを赤龍帝……いや兵藤一誠は使った事で今の状態になってる。あれはそう簡単に使いこなせる代物じゃないから使用すればあんな風に暴走するのは当たり前だ」

 

「そんな……アザゼルから聞いたとは言っていたけれど使えるとは一言も言っていないわ! イッセーもそんなものを使う事はしないって……!」

 

「生憎、これの厄介な所は所有者の意志なんて関係ないんですよ」

 

「……え?」

 

「赤龍帝の籠手、白龍皇の光翼、影龍王の手袋、光龍妃の外套、これら四つの神滅具には共通点がある。それぞれがドラゴンを封じ込められた神器で歴代所有者が存在している事だ……俺達の神器の奥底には歴代所有者の思念が眠ってる。赤龍帝が何かの呪文を唱えた時に老若男女の声が聞こえたでしょ? あいつ等がそうです。最悪な事にアイツらは現所有者の強い怒りに呼応して目覚め、呪詛の念で所有者の心を染める――今回はどうやら俺が原因らしいけどね」

 

 

 正直、普通にゲームのルールに従って敵、今回で言うシスターちゃんを倒しただけでガチギレされるとは思わなかったけどな。それだけ大事に思っていたんだろうけど防衛の術も持たずに近くに置いたって邪魔なだけだ。たくっ、めんどくせぇ。これが俺以外の奴だったら何も出来ずに殺されるだけだっただろうな……そう考えるとこの事態が俺と対決中に起きて良かったと言うべきか。これだけの事態、きっと今頃運営側もパニック状態だろう。それどころか不完全とはいえ覇龍の出力にこの空間が耐えられるとは思えないから今すぐでも止めないと俺達もヤバい。

 

 とりあえず先輩にはシスターちゃんに防衛の術か何かを教える様に文句を言おう。そうするべきだろ? こんな事態を引き起こしたんだからさ。

 

 

「……キマリス君、イッセーに、イッセーに私の声は届くかしら……? いえ、彼を止める事は、出来るの?」

 

「無理ですね。完全状態の覇龍なら兎も角、今の兵藤一誠は不完全な覇龍状態。あのままだと命を消費し続けて死にます。えぇ、暴れまわった末に勝手に死ぬんです。俺としては普通にルール通りに戦ったのにガチギレされて覇龍使って暴走されたりと最悪なのでこのまま放って置いても良いんですけどねぇ。あぁ、だからって飛び出さないでくださいよ? 今のアイツは俺以外が見えてないようだし飛び出しても殺されるだけですからね……それでまたキレて出力が上がったら本気で面倒なんでマジでやめてください。今の先輩、いや俺以外はお荷物なので此処で大人しくしてください!」

 

「……どうするつもりなの?」

 

 

 どうするって決まってるでしょ? 何と言うかここまでしおらしい先輩って本当にお嬢様だよな。こんな状況で何を思ってんだって思うけども。

 

 

「――止めないとダメでしょ。俺は兎も角、ヴァーリの宿敵をこんな所で死なせたアイツから何言われるか分かったもんじゃねぇし。四季音! 頼みがある」

 

「私も戦うって言ってもダメって言うんだろう? 仕方ないねぇ、子守りは任せなよ。ノワールは思いっきり殺し合ってきな! でも負けたら光龍妃と同じようにぶっ殺すからね!!」

 

「分かってるよ。俺としても夜空にうちの領地や母さんを殺されたくねぇしな……ちゃんと勝ってくるから雑魚共の面倒を頼むぜ」

 

「……黒井君、今の僕達ではイッセーくんを止められない……ごめん、彼を、僕の友達をどうか助けてほしい……!」

 

「……待って! 私は、私も戦うわ! 私はあの子の王よ! 黙って見ているわけにはいかないわ!! きっと今は届かなくても、呼び続けていれば――」

 

「――黙れ」

 

 

 先輩をイケメン君に荷物を投げる様に放り投げると落とさないように支え始めた。流石騎士ってか? 見た目通りの王子さまでカッコいいね。自分の立場も分かってるしグレモリー眷属の中では比較的真面だよな。こいつが王になればいいのに。少なくとも脳内お花畑のこの人よりはかなりマシになるだろう。

 

 

「黙って見ているわけにはいかない、呼び続けていればきっと応えてくれる。確かに普通だったらそう思うだろうな……馬鹿だろお前? じゃあ聞くけどアンタ、兵藤一誠に殺されたいのか?」

 

「……っ!」

 

「力の差も分からず、呼べば応えてくれると本気で思ってる馬鹿さ加減には笑いしか出ねぇよ。あの声を聞いて本気でそう思えてるのが不思議なぐらいだ……グレモリー先輩、今回のゲームで戦った感想を今言いますよ――」

 

 

 イケメン君に支えられている先輩の胸倉を掴む。そして殺意を込めた視線で先輩の目を真っ直ぐと見ながら俺は次のセリフを吐く。

 

 

「――アンタ、将来誰かの眷属、いや自分の眷属すら殺す事になるぞ」

 

 

 ゲーム中に眷属の一人を傷つけられただけでガチギレする兵士と王、それがどれだけおかしいかこの人は分かってない。どれだけ無茶をしても医療班が退場と同時に治してくれる素晴らしい環境だというのにたった一人、身を護る術を持たせていない僧侶を傷つけられただけで激怒する……その結果がこの覇龍暴走だ。そして今も止めるやり方を間違えて自分を殺そうとしているというのに気が付かない……呆れる。此処で殺してやろうかと思うぐらいムカつくな。

 

 

「影の檻がもうじき消える。だから手短に言いますよ先輩……評価に拘るのは間違ってないさ。アンタは上級悪魔で魔王の妹だから仕方ないって思う部分もある。でもな……殺し合いを分かってないんだよ。今はゲームで次はあるさ! でもな……実戦で次なんてねぇんだよ!! 生きるか死ぬか殺すか殺されるかの二択だけだ! その経験を積ませるのがこの遊びだろ!! ガキのように遊び半分でこれから戦っていこうって言うならここで死ね! 王だったら……自分が出来る事を分かった上で行動しろ!! せめて自分が敵うかどうかだけでも判断できるようになってくれれば色んな奴が安心するからマジでお願いします」

 

「……っ、ぁ」

 

「四季音。任せたぞ」

 

「分かったよ。行ってきな、私の王様」

 

「あぁ。イケメン君? お前は分かってたからあまり強くは言わないけどさ……そこにいる今にも泣き崩れそうな先輩と合わせてこれだけ言っておくわ――()()悪魔如きが、力無き矮小な存在如きの貴様らがドラゴンの殺し合いの邪魔をするな」

 

 

 影の翼を展開するのと同時に再びシャドーラビリンスを四季音達を覆うように発動する。どれだけ持つか分からないが無いよりはマシだ……中で四季音が全力全開の妖力で作った障壁を展開してるだろうから多分、問題ねぇと思う。

 

 そのまま俺は怪物を捕らえるために放った影の檻の手前まで飛ぶ。予想通りと言うべきか……拒絶していた影の空間に亀裂が入り、中から雄たけびを上げたドラゴンが姿を現した。あらあら、トンデモねぇ殺気だ事で……そんなに俺を殺したいのか? 人気者は辛いな。

 

 

「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! ああああああああああああああああああっ!」

 

「口からレーザー、いやビームか? どっちでも良いが俺達、かなり憎まれてるらしいぜ相棒!!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハハッ!!! そうだろうなぁ!! 恐らく兵藤一誠に覇龍を使わせたのは数代前に殺した赤龍帝だ! 女、影龍王、この二つで恨みが爆発したんだろうぜぇ!! ゼハハハハハ! 最高に嬉しいぜ!! 死んでも今日まで恨んでくれてたなんてなぁ!』

 

「こっちは迷惑だけどな!! シャドールゥゥッ!!」

 

 

 元兵藤一誠と言うべきドラゴンの口から放たれる光線を影人形のラッシュタイムで防ぎつつ周囲を飛び回る。一撃が重く、鋭く、そして強力だからこそ防ぐしかない。下手にフィールドの端まで飛んで行って亀裂でも入れられたらこのフィールドが崩壊しかねない……畜生! なんで過去の因縁のせいで俺が苦労しないといけないんだよ!! 根性出して振りきれよ兵藤一誠!! おっぱい好きなんだろ! だったらそれで語り合えばいいだろ!! ごめん無理だよな!! 俺でさえ歴代半分しか染められなかったんだし今のお前程度じゃ普通に飲まれますよねぇ!!

 

 影を無限に生み出し続け、ドラゴンがその場から動けないように足元を固定する。逃れるためにもがき続け、雄たけびを上げるドラゴンを仕留めるべく俺は得意の影人形を生み出した。

 

 

『そうだろうなぁ! 赤蜥蜴の野郎、歴代の思念のせいで奥底に閉じ込められてやがる。だらしねぇ! だから乳龍帝って呼ばれるんだよ!』

 

「全くだ! でも厄介だよな歴代の思念ってのはよ! 一人が暴走したら連鎖的だもんな!! おらぁ!!」

 

 

 無数とも言える影人形のラッシュタイムでドラゴンを攻撃するが――それは一瞬しか行われなかった。何故なら俺が生み出した人形はまるで時が止まったように動かなくなり、赤のオーラで足元の影ごと吹き飛ばされたからだ。おいおい嘘だろ……! 停止世界の邪眼の能力まで持ってんのか!? ふざけんじゃねぇ!! 確かアルビオンの半減も持ってたから倍加と停止と半減? チートもいい加減にしろってんだ!!

 

 

「おい運営! 審判役!! 聞こえてんだったら返事しろ!!」

 

『ノワール・キマリスさま。申し訳ありません……もうしばらく兵藤一誠さまを抑えられますか? 今、救援部隊を――』

 

「いらねぇ!! そんな時間が掛かるほどやる気ねぇ奴らならいない方がマシだ!! 撃破判定の転移はまだ有効だよな!? さっさと答えろノロマ女王!! それとも歳のせいでボケ始めてんのか!?」

 

『っ、勿論です。兵藤一誠さまが暴走状態とはいえゲームは続行されておりますから』

 

「了解! 四季音ぇ!! そこにいるハーフ吸血鬼をリタイアさせろ! どうやらそいつの神器を使って、使ってぇ!? あっぶねぇから黙ってろおっぱい魔人!!」

 

 

 高速で噛みつきに来たようなのでわざと腕を食い千切られてから即再生、影のオーラと化したその腕でドラゴンの首を絞めつけてペットのように移動を阻害する。この野郎……! 腕が千切れるのって結構痛いんだぞ!! 分かってんのか!!

 

 

『リアス・グレモリーさまの僧侶一名、リタイア』

 

 

 よし! これで厄介な停止世界の邪眼は使われないと思う……がぁ!?

 

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!』

 

 

 首を掴んでいるせいで半減の力をダイレクトに受けてしまったようだ……うげぇ、力が最底辺まで落ちやがった……!! というよりさ! これって赤龍帝と白龍皇を同時に相手してるのと同じじゃね? マジでキツイ、いや本気でキツイ! でもたのしぃぃ!!! すっげぇたのしいぃ!! マジサイコー!!!

 

 

「くく、あは、あははははははははは!!! どうした兵藤一誠!! 俺を殺したいならこの程度じゃまだまだ死なねぇぞ!! 本気出せよくそったれ!! とりあえず奪った分は返してもらうぞ!!」

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

「ぐぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! くろいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 本日二度目の倍加と捕食の能力対決は俺の負け。普通に考えて通常禁手と覇龍の出力が同等だとは思ってないけどとりあえず何とかなりそうなくらい取り戻した……うん? なんで俺、覇龍相手に通常形態で戦ってんの? アホじゃね? いや普通に問題無いけど覇龍状態を止めるならこの状態の捕食じゃ無理だ……吸収速度が足りねぇ。奪ってる間に半減されるから――俺も使うしかねぇな!

 

 覇龍の出力のせいか分からないが首を掴んでいる影のオーラが引き千切られる。だから、いってぇんだよと文句を言いながら再生しようとすると口から見える鋭利な牙で俺の首に噛みついて――肉を食いやがった。しかもそれだけじゃ終わらず巨大化した腕で俺を捕らえて口から放つ光線で上半身を吹き飛ばしてきたよこのドラゴン……! 何とか散らばった肉片に影が集まって再生できたけどマジで殺す気か! おもしれぇ!! 上等だよ!! ここ最近は殺し合いの度合いが低すぎて退屈だったんだ! これを機に一気に暴れさせてもらうぞ!! 死んだらごめんな!

 

 

『やるか!! 良いぜ宿主様ぁ!! 覇龍対決、見せつけてやろうぜぇ!!』

 

「ただ殺すだけならこのままサンドバッグになってれば済むが……死なせないためだ! 行くぜ相棒!!」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 再び影の絶対遮断空間を生成、今回は俺が内側へと入りドラゴンからの攻撃から身を護る。さて、始めようか! 久々に楽しくなってきたしよ!!

 

 

「我、目覚めるは――」

《始まるか》《始まったよ》

 

 

 鎧の各所から声が響く。それは赤龍帝と同じく老若男女の声だ……気色悪いと表現できる声色のそいつ等は俺が唱える呪文に歓喜の感情の声を上げる。

 

 

「自らの大欲を神により封じられし地双龍なり――」

《殺せ、奪え、憎め》《破滅こそ全ての真理なり》

 

 

 全身に邪悪なオーラが纏わりつき、俺の体が変化する。影人形融合のような優しいものじゃない、所有者である俺自身すら飲み込もうとする圧倒的な力と欲望、邪念の海だ。

 

 

「夢幻を断ち、無限を望む――」

《力を求めよ》《我らが王の覇道を止める事は許さぬ》

 

 

 背中から大きな翼が生える。雄々しいと表現できるドラゴンの翼、禍々しく鋭利な棘が目立つそれを広げ、この身をさらに龍へと近づける。腕が、足が、胴体が、呪文と共に姿を変えていき力が跳ね上がる。

 

 

「我、影の龍王の覇道を求め――」

《影龍王の勝利と殺戮のために赤龍帝を殺せ!!》

 

「「「「「汝を理性を捨てた狂気の世界へと導こう」」」」」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』

 

 

 禍々しいほどの棘とどす黒い鱗、背には雄々しいほど翼、両肩には目立つほど巨大な宝玉が埋め込まれたこの姿、影龍へとさらに近づいたこの鎧の姿こそ俺の覇龍形態。くっ、はぁ、はぁ! やっぱりまだあっぶねぇ橋を渡ってるよなぁ……! 俺が保有する魔力と霊力が一気に減っていくからなぁ!

 

 自らを捕らえている檻を解き、迫りくる脅威(ドラゴン)を迎え撃つ。両腕を掴み、顔面に頭突きをかまして睨み合う。どうした? お前と同じ土俵に上がってやったんだからもっと嬉しく鳴きやがれ!!

 

 

「ぐぎゅあああああああああああああああああああっ!」

 

「うるせぇんだよぉ! 鳴くしか能がねぇのかテメェは!!」

 

 

 やっぱり耳元で叫ばれると五月蠅いから黙れ。

 

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!』

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 半分にされれば力を奪い返し、それを取り戻すために倍加する。よし! 通常形態と比べて覇龍状態なら捕食の吸収速度が段違いだ! これなら何とかなりそうだな……! ホント、ヴァーリから何か奢ってもらわないと割に合わねぇぞ! ここで宿敵が消えるとアイツ、夜空に向かって一直線になっちゃいそうだから止めないと! 別にこいつ助けなくて良いんじゃねって思うけど俺と夜空の将来のために生きててもらわないとダメなんだ! ヴァーリの興味がこっちに向かってもらうようにな!!

 

 こんな芸当が出来るからこそ伝説の龍、赤龍帝と影龍王と呼ばれる存在だからだろう。俺とドラゴンは上空へと飛び、赤と黒のオーラでぶつかり合う。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も! 殺意しか感じさせない戦場でぶつかり合った。楽しい! 楽しいぜ赤龍帝!! だけどそろそろ終わらせないとお前の命がヤベェからな……決めさせてもらうぞ。

 

 自らの影を具現化、覇龍を使用した俺と同じ姿となった影法師を生成して空を飛翔する巨体を掴み、力を奪いながら地面へと叩きつける。その衝撃で地面が割れて駒王学園のレプリカという地上フィールドが半壊、いや既に形すら残らないでいた。関係ない! これで終わらせるぜ!! もう疲れたんだよと叫びながらマウントを取って一気に決めようとしたその時――ドラゴンの胴体が開いた。スライド音とともに現れたのは一つの発射口のようなもの。なんだ? 何をする気だ? はぁ?! ロンギヌススマッシャー!?

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 全身を彩る宝玉が輝き出し、力を高める音声が鳴り響く。相棒や歴代……今回で言う元凶が言うには覇龍状態の必殺技で放たれたらこの空間すら貫くレベルみたいだな――上等だ! だったらその破壊力を拝ませてもらおうじゃねぇの!!

 

 即座に外側と内側を遮断するシャドーラビリンスを展開、俺達二人を影の檻の中へと閉じ込める。さぁ、始めようぜ!

 

 

「テメェの破壊力が上か! 俺の再生力が上か!! 白黒、いや赤黒(あかくろ)はっきりつけようぜ!!」

 

「くろいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっ!!!」

 

『――Longinus Smasher!!!!!』

 

 

 放たれたそれは赤だった。赤い閃光、圧倒的なまでの破壊力を持った砲撃だった。熱い、熱い、熱い。身が焦げて燃えるような熱さだ。その輝きが終わったのか、それとも熱さで目がやられてしまったのか分からないが目の前が真っ暗の世界しか見えない……あぁ、またか。また俺はこんな世界にやってきちまったのか……引っ張られる、何かに、何かがこっちに来いと囁いている。死ぬのか俺は……死ぬ、死ぬ、死ぬ? いやまだ、まだぁ、まだまだなんだよぉ!!!

 

 目の前に光が見える。赤いドラゴンが見える。何かを放出したのか地面に横たわり一時的に動きが止まっているドラゴンが目の前に見える!! くく、あははははははは!!!

 

 

「残念だったなぁぁっ!!」

 

 

 歓喜の声を上げて胴体に現れた放出口を潰し、空いた腕でドラゴンの頭を掴んで目を潰す。影のオーラと化した身体の一部を無数の腕のように鋭い変化させ、相手が何もできないように両腕両足を貫いて拘束する。死ぬかと思った……マジで死ぬかと思ったぁ!! でも、俺の執念舐めんじゃねぇ!!

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 影龍王が持つ捕食の力で赤龍帝が放つ覇龍の「力」を根こそぎ奪いとる。逃げようとする赤龍帝を力で押さえつけて問答無用に奪い取っていく。それを終えるのにそう時間は掛からず、力も気力も完全に無くなったのか赤龍帝は動く事は無く、巨大化した姿を解いた……呼吸がある、心臓も動いている、生きてるぜ。目を潰したけどこの程度ならフェニックスの涙で治るだろ、多分。

 

 

「イッセー!!」

 

 

 影の檻が消えると同時に先輩の声が聞こえる。俺も魔力と霊力がジュースの缶でいう底に残った雫程度しかねぇけど、何とか意識を強く持ってないとな……! ホント、夜空のようにはいかないよなぁ……!

 

 

「イッセー! イッセー!!」

 

「――ぶ、ちょ、う」

 

「イッセー!! よかった……よかった……本当に、よかった……!」

 

「すい、ませ――」

 

 

 撃破判定が下り、赤龍帝がこのフィールドから消える。はぁ、疲れた……マジで疲れたけどやる事あるんだよなぁ……!

 

 

「先輩、んじゃ、ゲームの続き、しましょうか?」

 

「……え?」

 

「なぁに驚いてんですかぁ? 今、ゲーム中ですよ? アンタ倒さないと勝ちじゃないんでさっさと決めましょうよ? 総力戦なんでしょ?」

 

「そ、その体で……まだ、まだ戦うというの……! 今にも、倒れそうだというのになんで、なんで!」

 

「あははははは! この程度でやめてたら影龍王なんて名乗れないんだよ!! おらどうした!? あんだけボロクソ言われてムカつかねぇのかよ!! 天下のグレモリー様はそれで良いのか? あぁん!?」

 

 

 正直な所、覇龍のせいかさっきの再生のせいか知らないけどスッゲェ疲れてる。うん、俺は天才じゃないからヴァーリや夜空のように上手く覇龍を操れないんだよ。これでも前よりはマシになったんだけどなぁ……!

 

 地面に座り込み、涙で赤くなった目で俺を見据えた先輩は――

 

 

「――投了(リザイン)よ。貴方には、勝てないもの」

 

 

 静かにその言葉を口にした。

 

 

 

 

「――まっ、結果は分かってたけど楽しかったねユニア!」

 

『えぇ。白龍皇の力が宿った赤龍帝、その覇龍ともなれば強力だったでしょう。しかしそれすら跳ね返す彼の実力……夜空、嬉しそうですね』

 

「もっちろぉん! だって私のノワールだよ? 強くないとダメだって!! ねー? そう思わない?」

 

 

 輝くマントと言うべきそれを羽織る少女が見つめた先――焦土と化した地面で潰れた虫のように死を待つばかりの存在が居た。貴族風の出で立ちから高貴な存在と思われる男は四肢が消え、残った胴体には光の柱が杭のように打ち付けられている。いや、それだけではない。彼の背後には十数と言える柱に貫かれているのは似たような服装をした男女(だんじょ)もいる。それぞれが死ぬ一歩手前で止められており、自らの手で死ぬことすらできない状態、普通ではない状況であるが子供のようにはしゃぐ少女にとっては()()なのだ。

 

 

「ご、こぉ、ろ、せぇ」

 

「えっ? ヤダ。まだ殺さないよ? 私のノワールの試合に乱入しようとした旧魔王派の……誰だっけ?」

 

『クルゼレイ・アスモデウスですよ。夜空、もう少し人の名前を覚えたらどうでしょうか?』

 

「無理!! うんうん、でもそんな名前だったね! ねぇ? ただの人間にボコられてどんな気分? 私ねぇ~すっげぇ! すっごく――キレてんだよね」

 

 

 子供のような体格、腰元まで伸びた茶髪の少女は先ほどまでの笑みとは真逆に――無表情になった。その視線の先に何が見えているのかすら分からないほど今の彼女には感情が無い。それに呼応するように羽織ている外套、いやマントが輝き出す。そこから聞こえる声は美しい女性のような声、しかしどこか邪悪さを持っているようなそんな声だ。

 

 

『下級悪魔風情が、権力しか取り柄のない矮小な存在如きが、私達の遊びの邪魔をしないでいただきたい。私達は今を楽しんでいるのです。今この瞬間を、この時間を、この関係を楽しんでいるのです。分かりますか? 旧魔王派の一人、クルゼレイ・アスモデウス。そして――悪魔上層部の方々』

 

 

 そう。クルゼレイと呼ばれた男以外は冥界、悪魔社会で上層部と呼ばれる地位にいる悪魔達だ。現上層部の何名がこの場で串刺しになっているのか分からないがたった一人の少女の手によって殺されかけていることは事実だ。

 

 

「何度も言ってなかったっけ? 私のノワールの邪魔をしたら殺すって? 今までは見逃してやってたけどさ、いい加減ウザくなったから消すね。私のノワールの邪魔はさせないし私の楽しみを奪うなら――死ねよ」

 

『恨むならば彼の敗北を願い、策略に走った己を恨みなさい』

 

 

 パチンと指が鳴る。広い空間にその音が鳴りびいた瞬間――光の柱が音を立て、輝きを増した。彼女が操る光は悪魔の身には毒そのもの。命乞いも叫び声すら上げる間もなくたった一瞬、山吹色の閃光によってまるで最初から彼らが存在しなかったように消し去った。しかし少女はその光景を見て無表情だった顔を笑みへと変えた。子供のように、楽しく遊ぶ少女のように。

 

 

「――よっし! んじゃ~ユニア!! 次は何をしてあそぼっかぁ? ヴァーリも酷いよね!! 途中で帰っちゃうなんてさぁ!! もうラーメン奢ってもらうだけじゃ済まさないぞぉ!!」

 

『彼も色々とあるのですよ。そうですね……彼の勝利を祝ってオカズを提供するというのはどうでしょうか? 個人的にはクロムが居るので凄く、えぇ物凄く嫌ですけれど夜空の思い人ですし私は応援しますよ』

 

「ん~だーめっ! 今はそんな気分じゃないのぉ~だ!」

 

 

 軽い足取りで焼け焦げた匂いが漂う空間を歩く。少女に宿る存在は異常な光景であろうと何も言う事はない。分かっているからだ――この少女にとってこの異常は普通であるという事に。

 

 

「ノワールも強くなってるしこれからもっと楽しくなりそうだなぁ~そう言えば北欧辺りで悪神が何かしそうだった気がすっからそれに便乗でもしよっかな! にひひ! たっのしぃ~なぁ。ノワール、私、楽しいよ。昔よりもずっと楽しいよ。だからもっと、もっともっともっともっともっとぉ楽しませてよ。じゃないと――」

 

 

 少女は笑う。可愛らしく嗤う。それは邪悪と表現すべきものだが確かに笑う。

 

 

「――本当にお母さん、殺しちゃうぞ」




「Shadow Labyrinth《シャドー・ラビリンス》」
ヴァーリが放つ「Half Dimension」と同じ立ち位置。
影で外側と内側を断絶しその間の攻撃を防ぐ絶対防御技。

ノワール君、ヴァーリの興味を夜空から移すために救助開始。
覇龍形態の元ネタはドルゴラモンです。はい、デジモンです。

観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話

「うへぇ。俺がリタイアした後でそんな事が起きてたんすか……よく無事でしたね?」

 

「流石に疲れたけどな。流石の俺も覇龍状態で赤龍帝と白龍皇を同時に相手にしてるような状況はもうこりごりだ。それよりお前、デュランダルと()り合ったってのに随分と元気そうだな」

 

「へへっ、王様の兵士ですからね! これぐらいとーぜんっすよ――いっつ!?」

 

「無理すんな。怪我悪化させやがったら本気で永眠させるぞ?」

 

「そりゃないっすよ王様ぁ!」

 

 

 色々とハプニングがあったがグレモリー先輩とのレーティングゲームを終えた俺は犬月達が搬送された病院へと来ていた。覇龍を使った影響か、それともあれほどの再生を繰り返した影響か知らないが地味に重い足取りで一番重症だった犬月の病室へとやってきたが……案外元気そうで心配して損した気分だよ。悪魔の天敵とも言える聖剣、それもデュランダル相手に体を斬られたり腕を斬り落とされたりとかなりのダメージを負いながらも戦い続けていたあの犬月が体の各所に包帯を巻くだけで済んでいるだもんな……しかも斬り落とされた腕もくっ付いているし。流石冥界でもかなり大きい部類、勤務している医者もかなり優秀と評判、レーティングゲームのプロ戦に出場している王や眷属もお世話になっているわけだ。あれほどの重傷でも時間さえあれば治療できるほどの治癒系統の魔力に秀でた奴らがゴロゴロいるしなぁ。もっとも……ダメージ自体はまだ完全に抜けきってないみたいで体を大きく動かすと痛みが走るようだけどな。たくっ、お前は黙って休んでろ。

 

 

「これでも回復した方なんすよ? なんか、転移した時は医者達も絶句状態だったっぽいんすからね! いやぁ~消滅した牙も斬り落とされた腕も治ってよかったっすわ! それが無いと犬になれないっすからね! いつつ、それはそうと水無せんせーやしほりんは大丈夫なんすか? 引きこもりは気にしてないけどあの二人はなんか、その……ダメでしょ! どうなんすか!?」

 

「俺も知らん。四季音が水無瀬達の病室に顔を出しているけど一番重症だったお前がその状態なんだ、問題ないだろ。まぁ、あとで顔は出すつもりだけどな」

 

「それが良いっすよ。きっと水無せんせーとしほりん、喜びますって! 引きこもりは分かんねぇっすけど」

 

「アイツはきっとふかふかのベッドで寝れる、合法的にサボれるって喜んでると思うぞ」

 

 

 平家で思い出したんだが家に帰ったらあいつにキスマーク付けないとダメなんだっけ? うわぁ、嫌だぁ。夜空だったら喜んでキスマークどころか色んなものを付けるけどアイツ(平家)にするのはちょっと無理。自分で言いだした事だけど無かった事にして――やめよう。変な事をして病んだら俺の身が持たない。

 

 

「引きこもりっすからね。あぁ、そうだ……いっちぃは大丈夫っすかね?」

 

「赤龍帝も怪我は問題無いだろ。お前がその状態になったって事は目を潰された程度であれこれなるわけがねぇさ。悪魔の身体にドラゴン宿してんだぜ? 少し休めばいつも通りの元気を取り戻すさ。もっともそれ以外は深刻なダメージを負ってるだろうがな」

 

「……どういう意味っすか?」

 

「覇龍ってのは禁手のように簡単に使える代物じゃないんだよ。封じられているドラゴンの力を強引に引き出して神に匹敵する力を引き出すのが覇龍だ。一度使えば圧倒的なまでの力を使える代償として使用者の命を問答無用で奪い取っていく……しかも赤龍帝が使ったのは不完全な覇龍、俺と違って別のモノを対価として消費してないから恐らく――悪魔としての寿命の大半を失っただろうぜ」

 

 

 その言葉を聞いた犬月は言葉を失った。当たり前だ……悪魔は長寿の生き物、数百年なんて余裕だし下手をすると万単位で生きていける種族だ。なんせ七十二柱と称される事になった最初の悪魔、言ってしまえば初代とも言える奴らが未だに生きてるしな。聞いた話だと初代バアルはバアル家現当主に命令もどきをしてるとか何とか……隠居してる意味ねぇじゃんって思うんだけどそれほどまでに強いって事なんだろう。そう考えると初代キマリスも同じぐらい強いんだろうな……前大戦を生き残ってるし弱いわけがねぇか。

 

 そんなどうでも良い事は置いておくか。どっかに行った奴を考えても仕方ねぇし。というより覇龍を使って何度も思うのはあの邪念、怨念、執念と言った負の海は手強いって事だ……気を抜くだけで俺と言う存在が無くなってしまうと錯覚してしまうほどの邪悪さ、一刻も早く覇龍並みの出力を出せる代物を作らねぇと何時死ぬか分かったもんじゃねぇ。それに覇龍を使うと平家が五月蠅いから余計にそう思う。

 

 

「悪魔は永遠に近い寿命を持っているが覇龍はそれすら簡単に奪い取っていく。お前も喉が乾いたら飲み物を飲むのと一緒で喉を潤す俺達が覇龍、飲み干されて空っぽの缶や瓶が生命力って考えれば分かりやすいか? ただでさえ白龍皇と称されるアルビオンの半減能力を神器に移植して生命力を失ってるってのに追い打ちをかける様に覇龍暴走だ……多分、百歳を超えるかどうかすら怪しいぞ」

 

「そこまでっすか……な、なんか治す方法とかない、んすか? こんなのって……あんまりっすよ」

 

「一応有るには有るぞ。先輩も運が良いのかそれとも運命として決まっていたのかは分かんねぇけど近くに猫又が居るからな。あいつらは仙術、生命力自体を操る術を使えるからな……それを使えば失った寿命を元に戻すことは可能だ。ただし焦ると逆に死ぬけどな」

 

「お、おぉ! ってことはあの猫又が居ればいっちぃは死なないって事っすね!! よっしゃぁ! いてぇ!? き、きずがぁ……!」

 

「騒ぐからだ。確かにあの猫又は仙術を使えるが夜空ほどじゃない。俺から言わせればあの白髪ロリが使う仙術は泥団子を作ってドヤ顔してるガキレベル、赤龍帝の生命力を刺激しても戻るのはほんのちょっとだろうぜ。ちなみに夜空は生命力減っちゃったぁ~と笑いながら失った分を即回復できるぞ」

 

「それ、もう次元が違いますね。生活に必要な道具を作った偉人レベルっすよ」

 

「うん。その時の俺の心境を理解してくれ……覇龍使ってこっちは瀕死状態だったってのに相手は一気に全快だぞ? ゲームでラスボスが全回復技を使うレベルで唖然としたわ」

 

 

 何時から使えるようになったかは知らないが少なくとも俺と初めて会った時は使えなかったはずだが今の夜空は普通に使ってるしなぁ。しかもそのレベルが馬鹿げているって言ってもいいぐらいだ。生命力を弄るってのは簡単なようで難しいはずなのに簡単にやってのけるしもう規格外すぎて呆れてくる……ホント、マジでなんなんだよアイツ!

 

 

『ゼハハハハハ。あれの中にある生命力は人間という器を超えているからなぁ! 恐らく何度も自分に使い続けた影響だろうぜ? 言っちまえばユニアの宿主の中身は一つの宇宙みたいなもんなのさ! あれほどの膨大な質量を保有しながら形を保てている規格外さには俺様も驚くしかできねぇよ。何をどうしたらあんなのが生まれてくるんだぁ?』

 

「知るか。一応言っておくがやってる事とかは規格外だけどアイツ自身は普通の女だぞ? 少女漫画大好きだしで熱血漫画も大好き、アニメやドラマも大好き、そして殺し合いが一番大好きと言う素晴らしい女だ」

 

「王様。女の子は殺し合いが一番大好きって言わないっす」

 

 

 そうか? 俺達の周りでも殺し合いをしている女はいっぱい居るだろ? だからきっと殺し合い大好きな奴もいるはずだって! でも相棒の言う通り、アイツの生命力は異常だ。覇龍という大きすぎる力を膨大な気を使って安定化させてるけどさすがのアイツでも寿命が減る時もある……でもそれすら即回復だもんな。長寿になるのか短命になるのか危うい橋を渡りすぎだろって思う時もあるぐらいの綱渡り状態。もっとも夜空本人は全然気にしてなさそうだけども。

 

 

「と、とりあえずいっちぃが治るって聞いて安心したっすよ! ゲームじゃ敵同士だったけど友達っすからね……へへっ、よかったぁ!」

 

「たくっ、本気で喜んでんじゃねぇよ。犬月、遅くなったがよくやった。聖剣デュランダルを倒したお前は前までのお前じゃない。ちゃんと強くなってるってことを理解しておけ――強くなったな」

 

「――はい! これからドンドン強くなります! 犬月瞬は王様の兵士でパシリで犬っすからね! 最強の犬族を目指していきますよ!」

 

「おう。でもその前に傷は治しておけよ? ゲームが終わって残る行事は体育祭だ。お前が居ないと俺が頑張る羽目になるからちゃんと治せ」

 

「うっす!」

 

 

 それを言い残して犬月の病室から出る――さて、今度はこの人の相手をしないとダメなんだよなぁ。めんどくせぇけど逃げられる雰囲気じゃないよな。

 

 

「別に中に入ってきても良かったんですよ?」

 

「……入れる空気じゃなかったのよ。キマリス君……少し、話をしたいのだけれど良いかしら……?」

 

 

 病室を出た俺を待ち構えていたかのように廊下に立っていたのはグレモリー先輩だ。普段とは違いこれでもかと言うほど気落ちしており、お転婆姫という印象からちゃんとしたお嬢様と言う印象にジョブチェンジしている。

 

 別に断る理由もないので俺は先輩を連れて病院内の休憩スペースへと移動する。椅子に座って何かを話そうとしている素振(そぶ)りを見せる先輩に自販機で買ったお茶を手渡すと少し驚いた表情でそれを受け取った。なんて言うか……気まずい。別に嫌いなわけじゃないけどなんか気まずい……俺達は別れ話を持ち出そうとしているカップルかってぐらい気まずいからとりあえず買った缶コーヒーでも飲んで落ち着こう。

 

 

「……ありがとう」

 

「いいっすよ。お嬢様のお口に缶コーヒーが合うか分かんなかったんで無難にお茶にしただけですし。それに飲み物有りの方が話しやすいでしょ?」

 

「そう、ね……キマリス君、その、少しだけ話を聞いてもらっても良いかしら?」

 

「どーぞ。流石の俺でも壁と話してろとか言いませんから好きなだけ話してください」

 

「ありがとう……」

 

 

 お茶の缶のフタを開けて一口飲んだ先輩は静かに、まるで懺悔するように言葉を放った。

 

 

「私ね、今日まで何も分かっていなかったんだって思い知らされたわ……イッセーや裕斗、ゼノヴィアという強力な眷属、アーシアという心優しい回復役、小猫、朱乃、ギャスパーという将来性のある眷属が傍に居て私は強いんだと誤解したまま生きていたという事をキマリス君、貴方に気づかされたわ。思えば……私は本当の殺し合いというものを少しも知らなかった……魔王の妹、グレモリー家次期当主、赤龍帝を眷属に加えた(キング)、色んな称賛に近い言葉を言われ続けて慢心していたわ……戦えば誰かが傷つく、当たり前の事なのにアーシアが撃破された時の私はなんで、なぜ彼女を攻撃したのって怒りの感情しか出てこなかった。ゲームでは当たり前なのに彼女は誰も攻撃できないと勝手に思い込んで、貴方に怒って、もう情けないわ」

 

「まぁ、確かにあのシスターちゃんって誰にでも優しいから普通だったら怪我とか負わせるのは躊躇いますよ」

 

「えぇ……イッセーも私もアーシアを大切に思っているから、大事だと心から思っているから怒ってしまった……本当にごめんなさい」

 

 

 重い、重すぎる、空気が重すぎる! いや確かに話を聞く空気だったから真面目に聞こうって思ってたよ? でも重いんだよ! 俺としては至って普通に戦っただけなのに何でこんな重い話を聞かされないとダメなんだよ? マジで帰りたい……帰って良いかな? いや帰らせてくださいお願いします!

 

 そんな俺の心境なんて分かりませんとばかりに先輩は言葉を続ける。

 

 

「お兄様の妹として生まれて私は甘やかされて生きてきたわ。お兄様の眷属、グレイフィア、お母様、グレモリー家の人達、自分は特別だと勘違いしてしまうぐらい多くの人から甘やかされてきたと思うわ……イッセーが居なければ私はライザーと結婚して此処には居なかったでしょう。コカビエルとの決戦も私ではなくライザーが動いていたはずよ……でも、それでもキマリス君はコカビエルを倒していたでしょうけどね」

 

「あぁ~はい、あの程度の雑魚に負けませんよーだって夜空の方が強いですからねー」

 

「えぇ……今までの私達は何だったんだというぐらいキマリス君は強いわ。聞かせてもらえないかしら……? どうしてそこまで強くなれたの?」

 

「……どうしてって言われてもそうするしか生き残る道は無かったんですよ。親父とその眷属、母さん以外は俺を目の敵と言うか邪魔者扱い、存在すら否定されてましたからね。だから生きるためには強くならないとダメだったんですよ……先輩? 言っておきますけど俺は最初から強かったわけじゃない。最初は多分、先輩と同じように甘やかされて生きてましたから」

 

「……そうなの?」

 

「前に言ったような気がしますけど俺、キマリス家に殺されかけたんですよ。母さんと人間界に遊びに来た時を狙われてね。その時の俺は黒歴史認定したいぐらい雑魚だったんで襲撃犯からの攻撃に泣きまくって情けなかったなぁ……はぁ、死にてぇ。本当に情けなかったんですよ? 人間である母さんに護られて、大怪我していくのをただ見てるしかなかったんですから――でもそれが有ったから相棒と夜空に出会えたんですけどね」

 

 

 それが人生で一番の幸運だったと思う。あの時、空から降ってきた夜空を見た時は普通に女神かと間違えるくらい綺麗だった……うん、あのせいで一目惚れしたんだよなぁ。命の危機を救われてコロッと落ちるとか俺はチョロインか! って思えるぐらい一目惚れなんだよな。はぁ……だから夜空を誰にも渡したくないから女王にしたいと本気に思ってるわけだしなんて言うか、俺って独占欲強いよな? 男として最低な部類だとは思うけどアイツを手に入れるため、アイツに追いつくために必死に強くなってここまで来たんだけど未だに届いて無さそうなんだよなぁ! 戦うたびにドンドン強くなっていくしもう本当に規格外! もういい加減抱かせろ! マジで抱かせろぉ!

 

 でも……ここまで俺が夜空に拘る理由はあれしかない。一目惚れしたってのもあるけど出会った時のアイツは人生に絶望したような顔してたからな。我ながらあの子の笑顔が見たいとかいうガキ臭い願いもしたもんだ。今はコロコロと表情を変えるようになったが心の底から笑ったのは見た事がねぇ気がする。なんというか、普段の笑いとそれって別物だと思うし。

 

 

「そこからは夜空が襲撃犯を抹殺! 俺は夜空や色んな奴らと戦っても生き残るためにここまで強くなりましたってわけです。だから全て切っ掛け次第だと思いますよ? 俺が夜空と出会って強くなったように、先輩も赤龍帝達に出会って強くなる、それで良いと思いますけどね」

 

「……そうだと良いわね。少なくとも、今日のゲームで今までの甘さを認識出来たから前に進めそうよ……これから先、私達は戦場に向かう。そこでは簡単に命を落とすかもしれないし誰もが甘いわけじゃない、卑怯な手や私たち以上の実力者と対峙する事もあるかもしれない。それを……イッセーとキマリス君の戦いを見てそう思ったわ……キマリス君から下級悪魔扱いされるのは当たり前よね。だって今までやってきたのは子供の遊びだったんだもの」

 

「あぁ~……すんません。俺って相棒の影響をかなり受けてるからあんな状況になるとプライドが高くなるんですよ。ドラゴンって独特の価値観を持っててめんどくさいんすよ……下級扱いしてまぁ、すいませんって言っておきます」

 

『ゼハハハハハハハ! それがドラゴンなんだぜぇ! さて、リアス・グレモリー。確かに貴様は無知でガキで見た目以外取り柄の無い雑魚だった。しかし自らの弱さ……それを認めた事だけは評価してやろう。俺様達は死すら生温い殺し合いを何度も行ってきた! 何度も、何度も、何度もだ!! もし俺様達を倒そうという意思があるのならば立ち上がれ! 前を見ろ! 腕が飛ぼうと足が飛ぼうとしがみ付いてでも立ち上がれ! 貴様は赤蜥蜴ちゃんを従えた唯一の悪魔だ。誇っていいぞ! ゼハハハハハ! さてどうする? これから貴様はどうするつもりだぁ?』

 

「――決まっているわ。諦めない。もう、子供の遊びは終わったわ……大人になるために前に進む。今の私が出来るのはそれしかないもの……キマリス君」

 

 

 何かを決意した先輩は立ち上がって手を差し出してくる。なんというかやっぱりしおらしい先輩よりドヤ顔してる先輩の方がらしいわ。

 

 

「私は貴方を、貴方達を超えるわ。魔王の妹でもない、グレモリー家次期当主でもない、ただのリアス・グレモリーとして貴方を超えて――倒すわ。だから、いつかまた私達と戦ってほしい。今度はこんなことは絶対に起こさないちゃんとしたゲームを貴方としたい」

 

「――くく、あはははは! そうですか。良いですけど俺と戦う前に倒れないでくださいよ? 今日だってかなり手加減してたんですから加減無しの全力で行くと四季音無双で終わっちゃいますからお気を付けを」

 

「えぇ。分かっているわ……それから、今日は本当にごめんなさい。暗い話しかしてないけれどこれだけはちゃんと、ちゃんと言いたかったから……」

 

「分かってますって。今日は不慮の事故だった、流石に過去の因縁でこんな風になったんだし俺にも責任有りますよ。謝りませんけどね。だから俺に勝って謝らせてください。あの時はすいませんでしたってね」

 

「ふふっ、そうね、必ず貴方に勝つわ」

 

 

 俺も手を差し出して和解の握手を交わす。色々あったけど引きずるほど心は狭くないと思いたいからこれでこの件は終了だ……しかしあの先輩から俺を倒す宣言が来るとは思わなかったよ。生徒会長の時にも思ったけど後ろから追いつこうとしてくる奴を見るのは何と言うか、良いな。俺も負けるかって思えてくるしやる気が出てくる。

 

 和解したので暗い話は置いておいて赤龍帝の容体を聞いてみたら傷自体は完全に治ってるらしい。ゲーム中に配布されたフェニックスの涙を渡して一気に治したそうだ……あっ、やべぇ。平家に渡していた涙回収してねぇぞ! い、いやぁ、うん、気づかなかったことにしておこう。きっとリタイアした時に没収してるでしょう!!

 

 

「犬月の病室前で聞いてたかと思いますけど赤龍帝は寿命、生命力と言えるものを失っているはずです。だから猫又に仙術を使わせて生命力が戻るように促してください。時間は掛かるでしょうけどやらないよりはマシです」

 

「えぇ、小猫にやってもらう事にするわ。キマリス君、色々とごめんなさいね」

 

「気にしないでください。ゲームが終われば敵対関係じゃないんですからね。と言うわけでそろそろ帰りますんでこの辺で失礼します……あっ、赤龍帝に俺は何も気にしてないから謝りに来るなって言っておいてください」

 

 

 それを言い残して先輩から離れて橘達の病室へと向かう。扉をノックして中に入ると三人共元気そうで家に帰る準備をしていたようだ……ちっ! もう少し早く来てたら着替えシーンを見れたかもしれないのか!! 畜生先輩め! あの長話はこれを防ぐためのものか! 何故か知らないが平家から変態と言う視線を浴びつつ水無瀬と橘にお疲れと言って頭を撫でると二人ともどこか嬉しそうな表情になった。うん可愛い。やっぱり女の子には優しくしないとダメだよな! うんうん! 影人形の攻撃を当てるとかやっちゃいけないよねとか思いつつ橘に謝ると何と言う事でしょう……逆に助けてくれてありがとうございましたとお礼を言ってきましたよこの子! 流石しほりん! きゃー結婚してー!

 

 

「さぁノワール、約束の時間だよ」

 

 

 時間は進んで深夜、場所は俺の部屋でとんでもない事態が起きている。待て、待て待て……うん、平家達の病室に行って一緒に家に帰ってきた。犬月はもう少し入院が必要だからいつもの騒がしさが地味に無い事を除けば普通に帰ってきたと思う。いやいやそんな事はどうでも良いから目の前で起きていることをどうしよう……マジでどうしよう。

 

 

「襲えばいいよ」

 

「それが嫌だから困ってんだろうが?」

 

「反応してる癖によく言うね、このこの」

 

 

 勝負下着と言って良いほどエロいもの着けている平家にノワール君のノワール君、つまり男の象徴と言うべきあの部分を足で軽く弄られる。やめろー! 男だから否応なく反応するんだからまじでやめなさい! と言うよりお前を抱くとは一言も言ってねぇだろ? しかし……エロいな。この時間帯に若い男女が一緒に居て片方は下着姿でベッドで寝そべっている。しかも黒だぜ? エロすぎだろ……おかしい、俺って貧乳好きじゃなかったような気がしないでもないけどやっぱり夜空の貧乳大好きだからきっと貧乳好きなんだな俺は! うん、なんか疲れとかが一気に襲ってきてもう何言ってるか分からん。

 

 

「キスマークを付ける、つまりはそういう事だよ」

 

「……意味合い的には合ってる、のかなぁ? はぁ……悪いが覇龍使って疲れてんだよ、だからマジでキスマークだけ付けてやるから普通に寝させろ」

 

「……しょーがない。でも添い寝は必須だよ」

 

「はいはい」

 

 

 というわけで童貞なノワール君はキスマークをどうやってつければいいか分からなかったが……そこは頼れる相棒、邪龍という頭のおかしい存在に教えてもらったので無事に平家の首筋に付ける事が出来ました。流石頼れる相棒! これからもよろしく頼む……具体的には夜空とヤる時にまたお世話になります。その時はマジでお願いします!

 

 

「黒井! その、本当にごめん!!」

 

 

 そんなこんなで体育祭当日、俺は校舎裏で赤龍帝に謝られていた。いやぁ、まさかゲーム翌日が体育祭だったのすっかり忘れてたぜ……そんな事はどうでも良いとしてなんで謝罪いらねぇって言ったのに何で謝って来るかねぇ? 俺的には覇龍対決が出来て満足、凄く大満足に加えて先輩とも和解してるんだし蒸し返さないで欲しいんだよなぁ。でも、これが兵藤一誠って奴なのかね?

 

 

「あの、部長から黒井は気にしていないって聞いたけどさ、やっぱりちゃんと謝りたかったんだよ……本当にごめん! 俺、あの時何が何だか分かんなかったけど黒井や部長達を殺しかけたって事は分かる……本当にごめん!」

 

「謝るなめんどくせぇ。別に気にしてねぇからもう忘れろって……俺的には覇龍対決出来て満足だったし先輩とも和解してるんだ、今更怒る必要がねぇんだよ。少しでも罪悪感があるならもっと強くなって俺を楽しませてくれ。それでチャラだ」

 

「そ、そうなのか……? でも、あぁ! いつか必ず、部長や皆と一緒にお前を倒す! 今度は覇龍なんてものは無しでな!」

 

「それでいい。いきなり呼び出されて何かと思えば……告白されるんじゃないかって内心ドキドキだったぜ?」

 

「するかぁ!? あぁもう、本当に気にしてないんだな……なんて言うか、黒井らしいって言うか、ホント凄いな」

 

「当然だろ? 俺は最強の影龍王だからな。ほら、さっさと戻らないと色んな奴らが困るぜ?」

 

「お、おう!」

 

 

 別に赤龍帝の事は嫌いじゃねぇからこれぐらいでちょうど良いんだよ。

 

 そして自分のクラスに戻ると体育祭が始まった。犬月が徒競走で無双したり匙君がパン食い競争でドジったり借り物競争で平家に連れ出されたりと色々と楽しかった。おい平家……お前のせいで周りからの視線が凄いんだが如何にかしろ! なんで「頼れる人」というもので俺の所に来るんだよ! ま、まぁ! 体育祭だし許すけどさ……!

 

 

「レイ君! 頑張りましょう!」

 

「おう。兵藤、俺達幼馴染コンビが勝利を貰うぜ。」

 

「いや! 俺とアーシアのコンビが勝つ! やろう、アーシア!」

 

「はい! イッセーさん!」

 

 

 こうして青春の一ページとも言える体育祭は続いていく。

 




これで「体育館裏のホーリー」編が終了です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と悪神
42話


「た、たすえけぇ……! たすけ、てぇ!」

 

「ヤダ」

 

 

 時刻は深夜、俺は血の匂いと鮮血が薄汚れた黒の液体に変化している戦場にいた。先ほどから俺の足元で喚いているのは体の至る所が変な方向に曲がって今にも死にかけている男。これから訪れるであろう死から逃れるために自分よりも年下であろう俺に無様に、必死に命乞いをしている……先ほどまで俺を殺そうと粋がっていた気がするんだが適当に骨を折ってやったらこの様だしもうちょっとやる気だそうよ。それを見下すような視線と共に生きたいと藁にも縋る思いで助けを乞う男の頭をタバコの火を消すように踏み潰す、いや叩き潰す。黒い人形のような一つ目の化け物が潰れた果実のような姿となった男を見つめているが何も言わない……俺が生み出して操ってるんだから当たり前か。

 

 

「しっかし……これで此処に居た禍の団の()()共は全滅か。ホント、何回襲撃してくるんだよ?」

 

 

 独り言を呟くように静かに言葉を漏らす。ここ最近、禍の団の所属する英雄派と名乗る奴らからこうして襲撃を受けている。しかも俺や先輩が住んでいる駒王町や三大勢力の重要拠点を狙い撃ちしたように襲ってきやがるからめんどくせぇ。確かに殺し合い、特に戦争としては当たり前だとは思うけどこうも連日で襲ってこられるといい加減にしてくれって思うな。だってこいつら(英雄派)が襲撃してくるたびに俺は駒王町から出て最前線、つまり一番襲撃犯が多い所に出向かないといけないんだからマジで勘弁してほしい……しかも俺が到着すると同時に今まで防衛していた奴らが居なくなるという嫌がらせ付き。マジで魔王死ねばいいのに……なに? 自分の妹がゲームで負けてレーティングゲームの評価も最低だったから仕返しでもしてるの? あれは俺は悪くないと思うんだけどねぇ。まぁ――影龍王の戦い方に巻き込まれないようにしているだけだろうけどさ。一人でも問題ないと思われるぐらい頼られているのかねぇ?

 

 本当ならこの場に犬月達も連れてきたかったが大人数で居ると俺が戦いづらいから毎回一人で大人数と殺し合わないといけない。もっとも夜空との殺し合いに比べたら遊び同然だけどな……人間と有幻覚とよく分からん化け物という組み合わせで毎回襲撃してくるけど俺からしたら雑魚同然、今日も単騎で無双できました! まぁ、犬月達も家で待ってるわけじゃなくて駒王町及び俺が治めている地域に襲撃してきた奴らを対処させてるから実戦経験は積んでいるはずだ。特に俺抜きで殺し合いが出来ると言う絶好のチャンスを是非モノにしてほしいね! 俺が居ない状況、もっと言ってしまえば俺に頼らなくても相手を殺せるという覚悟と強さを手に入れれば俺も安心して戦えるしな……四季音と平家、犬月は問題ないけど橘と水無瀬はまだ足りないからマジで頼むぜ? 特に大事な場面で非情になれるスイッチを見つけないと今後厳しいからな。

 

 

「――いい加減出てきたらどうだ?」

 

 

 本当ならこの場に散らばっている死体を集めて証拠隠滅とかしたいところだが……どうやらまだお客様が居るらしい。さっきから俺を射殺そうとしている殺気を感じるしな。一言、先ほどの言葉を殺気が放たれている部分へと視線を向けると俺の言葉に観念したのか音を立てず、静かに身を隠していた幻術を解いて姿を現した。

 

 

「久しぶりだな。アリス・ラーナ。こんな所で会えるなんて奇遇だね? デートする?」

 

「殺し合い、というデートであるならば喜んでお受けいたします」

 

「おっとそれだったら俺、張りきっちゃおうかなぁ」

 

 

 深夜という時間帯、月明かりで反射して美しいとさえいえる銀髪、それをサイドポニーにした女が光の刀身をしたナイフを指の間で挟み、戦闘態勢に入りながら俺の目の前へと現れた。その女は犬月が殺したいと切に願ってやまない人物――アリス・ラーナ。今日も西洋人形のように無表情でなんか怖い……でも美人だ。胸はスレンダー、言ってしまえばちっぱいだけど平家よりはあるな。そもそも夜空と平家並みの奴の方が珍しいか……そんなくだらない事を考えていると銀髪女の背後に居たもう一人の男が声を上げた。白髪で神父服をしたいかにも私は教会関係者ですって自己主張している男だ……えっと、誰だっけなぁ? なんか見覚え有るんだけど思い出せない……!

 

 

「やっほ♪ 何カ月ぶり? ひっさっしぶりぃ~元気してた?」

 

「……あの、どちらさまでしたっけ?」

 

「おいおい、おいおいおいおい! もうっ! このクソ悪魔ちゃんってば俺っちを忘れちゃったんですかぁ~? やだなもう! 俺っちのこのイケメンフェイスをぶっ壊してくれたスーパー悪魔さんは物忘れが激しいんですかぁ? ふっざけんじゃねぇぞテメェ!! ここまで治るのにどんだけ苦労したと思ってんですかねぇ? あっ! この代金はお前の命で払って貰っちゃうぞ♪」

 

 

 イケメンフェイスをぶっ壊した……あぁ、あの時の白髪神父か。顔が治ってるから誰か分かんなかったぜ!

 

 

「……あぁ、思い出した。あの時の雑魚神父か。おぉ、潰された顔治ったんだな。よかったじゃん」

 

「どうもありがとぉ~♪ じゃあ死ね!!」

 

 

 白髪神父が持つ一振りの刀から聖なる波動が飛んでくる。即座に影人形を生成して拳で吹き飛ばすと今度は上空からナイフの雨が降り注いできた。禁手状態じゃないから一つでも当たると大怪我だなぁと思いながら真上に目掛けて音すら遅れるほどのラッシュを放ち、降り注ぐ雨を撃ち落す。数や量はかなりのものだが俺にダメージを与えようって言うならこれの数万倍持ってこいって言いたいね。でもこの女の実力だったら並みの悪魔は普通に殺されるから出てきたのは俺の前でよかったと言うべきかねぇ? この女は()()だけど。

 

 別の影人形を生成して白髪神父――ではなくアリス・ラーナの方に接近させる。あっち(白髪神父)は雑魚で()()だからあまり脅威にならない。今仕留めるべきは偽物でありながらかなりの実力を持っているこの女からだ。

 

 影人形の接近を視認したであろう銀髪女は無数にナイフを生み出して投擲、あまりの手際の良さに俺も拍手をしたいぐらい綺麗な流れで影人形の動きを阻害、距離を取った。

 

 

「やるな」

 

「お褒めに預かり光栄です。しかし本気を出していない貴方に褒められても嬉しくはありません」

 

「だって雑魚だしな。文句があるならさっさと禁手化しろよ? もっともお前らよりさっきの構成員に混じってた黒いモンスターの方が強いけどな――おっと、白髪神父くん? 聖剣、いや神霊剣を使うならもうちょっと剣術鍛えた方が良いぜ?」

 

「アドバイスありがと! 死ねぇ!!」

 

 

 真上から降り注ぐナイフの雨を影人形Aのラッシュタイムで防ぎ、背後から接近してきた白髪神父の刀を影人形Bで白羽取りをして固定する。銀髪女の方は最初から分かっていたように手際よくナイフを生成し続けるに対し白髪神父の方はやっべと言いたそうな表情になって神霊剣から手を放して距離を取る。まさかマジで今ので決めようとか思ってたわけ? ナイナイ! あの程度の不意打ちで殺そうとか無理だぜ? 犬月ですら殺せねぇよ。やっぱりこいつ雑魚だわ。もうイケメン君や赤龍帝でも殺せるぐらいの雑魚。

 

 

「うっそ、マジで化けもんだねぇ。逃げようかなぁ~ってね!! うん逃げるわ! 別に俺っち英雄派に義理なんてねぇしぃ!」

 

「逃がすと思ってるのか?」

 

「俺っちの逃げ足を甘く見ないでおくんなま、しぃ!?」

 

 

 即座に鎧を纏ってシャドーラビリンスを発動、俺と白髪神父を捕らえる檻とする。この技は外界と外側を遮断して攻撃を防ぐだけじゃなく転移術とかも出来ないようにするからこれで白髪神父は逃げられません……という事を前の襲撃の際に気が付いた。恐らく床にも影が広がっているから転移魔法陣の「力」を奪っているんだとは思うけどこの技自体研磨不足、まだまだ完全に把握しきれていないのが現状だ。多分この技は「外側と内側を完全に遮断して外部からの攻撃を防ぐ」のと「影の檻が消えるまで内部から出られない」という性質を持ってるんだろう……檻と表現してるけど本当に檻のようですありがとうございました……相棒ってやっぱりチートの塊だわ。一度捕えたら逃がさないとかホント邪龍の鑑!

 

 まぁ、今回使ったのは俺のテンション上げと言うわけで――この白髪神父にはちょっとした実験台になってもらうためだ。恨むなら弱い自分を恨んでくれよ?

 

 

「は、はぁ!? なんだこれ、に、逃げれねぇ!? これが噂の影の迷宮ってか! ざけん――」

 

「五月蠅い黙れ」

 

 

 影人形二体によるダブルラッシュタイムで身体の骨と言う骨を砕いて強引に瀕死状態にしてから白髪神父の頭を掴んで「捕食」と称された能力を発動。これさぁ、生きてるのが奇跡ってレベルでボロボロじゃね? やったの俺だけどさ……なんかキモイ。

 

 そんなどうでも良い事は置いておいて奪うのは脳内に刻み込まれた術式の「力」だ。色んな所で構成員を捕らえているが戦闘終了後に禍の団に属していた頃の記憶は無くなっているらしい……恐らく肉体に一定以上の負荷か意識が強制的に失われたのを発動キーにしているんだろう。しかも悪魔、堕天使の力でも失われた記憶を復元するのは現状無理と言う強力な術式だからこれを行った術者はかなりのものだろう。だから実験と言うのは相手の頭……と勝手に思い込んでいるがそれ以外には考えられないのでそこに施されている術式の「力」を奪ったら少しは記憶残るんじゃね? って思ったからやってみようと思う。

 

 数十秒間、白髪男の頭を掴んで力を奪い続けると脳内に施された術式が壊れた。なるほど……脳という部分に施すから繊細な代物、いや違うな。解析されて対抗策を作られるのを防ぐためにわざと壊れやすいようにしてるのか。すげぇなこの術者。欲しい! 相性が良いであろう僧侶はもう埋まってるけど。そんな事を思いながら影の檻が壊れて外に出ると先ほどまで戦っていた銀髪女の姿が無くなっていた。まぁ、当然か……アイツは有幻覚だったしこれ以上戦う理由もないだろうし。

 

 

「――おつかれさん。相変わらずの容赦無さっぷりでなによりだ」

 

 

 月明かりが照らす戦場にアザゼルが常闇のような翼を広げながら降りてきた。相変わらずの浴衣姿、こいつ……もし戦闘が有ったらどうする気だ? いや姫島先輩のように服装を変化させるのかねぇ? 男の変身シーンなんてどうでも良いけどな!

 

 

「捕縛するよりぶっ殺した方が安心ですから。あっ、こいつの脳内に施された術式を壊したんで少しは情報を得られると思いますよ」

 

「……そんな事も出来るとはなぁ。分かった、こっちで尋問しておこう。それよりキマリス、お前から見てこの襲撃はどう思う?」

 

「どう思うも何も――神器使いを禁手に至らせようって言う博打でしょ?」

 

 

 これまでの襲撃犯の中に神器使いが混じっていたしな。俺、つまり影龍王と戦う事で異常なまでの戦闘経験を積ませて強引に禁手に至らせようって言う魂胆だろう……だってこの手は夏休みに水無瀬相手に使ったから相手がやろうとしてる事は余裕で分かる。仮に百人の神器使いを送り込んだとしてその中から一人か二人程度が禁手に至れば十分と言う考えなんだろう……もっとも俺は百人全員をぶっ殺すけどな。だから今日までテロリスト全員ぶっ殺してるわけだし……この白髪神父を生かしたのは単なる実験材料に過ぎないから幸運と言えば幸運?

 

 

「――やはりお前もそう思うか」

 

「当然ですよ。非神器使い、異形のモンスター、そして神器使いが群れを成して何度も襲撃しては防がれているというのに何も対抗策をしてこないのはおかしい。恐らく禁手に至らせる実験と異形のモンスターのデータ取りを兼ねている遊びなんでしょうねぇ。後者は兎も角、前者はうちの僧侶相手にやったのと同じなんですぐに分かりましたし当たってると思いますよ」

 

「そうか。確かにサイラオーグ・バアルや各地で対処している奴らから「相手の雰囲気がいきなり変わった」と言う報告も上がっている。お前さんの考えは当たっているだろうな……影龍王や酒呑童子、赤龍帝にデュランダル、聖魔剣、大王という異常なまでの戦闘力を持った奴らと戦えば使用者自身が確実に生き残る事を望んで至る可能性もある。現にお前さんの僧侶、水無瀬恵もそれで至っているから間違いはないだろう。しっかし……単騎で無双とは流石だねぇ」

 

「俺が来ると防衛してた奴らがどっかに行くんですよ。これってあのシスコン魔王からの嫌がらせって考えていいですよね?」

 

「んなわけあるか。アイツも忙しいんだぜ? 光龍妃が冥界上層部をぶっ殺しちまったから内部でごたごたしてるしよ」

 

 

 知ってる。なんせ体育祭当日の夜に夜空が俺の部屋に転移してきた時に聞いたからな。ホント何してんだよアイツ……そんな面白い事があったんだったら俺も混ぜてくれよ!

 

 冥界上層部の何人かが殺されたため、魔王様達は空いた穴を埋めるべく色々と忙しいようだ。もっともアザゼルは「頭の固い奴らが居なくなってサーゼクス達もやりやすくなっただろうな」と笑いながら言ってるけど……俺もそう思う! だって魔王からしたら自分の命令を聞く素直な奴を上役に出来るし今後の冥界の方針も簡単に出来るだろうから万々歳だろうし!

 

 

「まっ、そんな事は置いておいてだ。キマリス、こんな状況が続いている時になんだが……お前さん、いやキマリス眷属に頼みごとがある」

 

「あの番組に出ろって言うんだったらお断りしますけど?」

 

「そっちじゃねぇよ。実はな、北欧の主神オーディンが日本に来日する。本当だったらもう少し先だったんだが何やら面倒事があったようでな、日程を早めたそうだ。お前達はイッセー達と共にオーディンの護衛をしてもらいたい……お前さん一人で事足りそうだけど念には念をってな」

 

「へぇ。先輩達と一緒ってのがなんかあれですけど……別に良いですよ。主神レベルと会うなんて滅多に無い事だしもしかしたら殺し合えるかもしれないですからね」

 

「流石にやめてくれ。今のお前さんとオーディンが戦えば間違いなく光龍妃が乱入するだろう……北欧の主神対影龍王対光龍妃なんて状況になったら確実に日本が滅んで禍の団のテロ対策どころじゃなくなっちまう。戦いたい気持ちは分かるがここは抑えてくれよ? 代わりにバラキエルと戦わせてやるからさ」

 

 

 おっと、堕天使勢力の中でも武闘派で有名なバラキエルと殺し合っても良いとは嬉しい事を言ってくれるじゃねぇの! 正直本物の雷光って奴を味わってみたいからこれは是非お願いしますって言いたいな!

 

 

「その言葉、忘れないでくださいよ? 後でやっぱりだめぇ~とか言ったら問答無用でぶっ殺しますからね」

 

「分かってる。たくっ、ヴァーリとこういう所は似てるんだもんなぁ。そんじゃ頼むぜ? 日程とかはあとで教える」

 

「分かりましたよっと。それじゃあ帰るんで後始末とコイツをお願いしまーす」

 

「お、おい待て!?」

 

 

 掴んでいた白髪神父をアザゼルに手渡してから即効で自宅へと転移する。だって後始末とかめんどくさいしね! そのままリビングに戻ると寛ぎ状態の犬月達がとある特撮をお菓子などを摘まみながら見ていた。赤い全身鎧を身に纏ったヒーローが悪を倒していく子供向けの特撮番組――乳龍帝おっぱいドラゴン。制作などは全部グレモリー家で行われておりOPなどの歌を作詞作曲は魔王二名と総督という変な方向に力を注いだ力作中の力作番組。キマリスとグレモリーのゲーム終了と同時に放映されたけど冥界の子供達からはかなり好評みたいだな……哀れだな、ドライグ。

 

 ちなみに夜空はこれを見て爆笑、ユニアも何やら悪い事を考えているようだった。マジでアルビオン生きてる? 宿敵がこんな番組の主人公とかになってるしさ、そのぉ、心は大丈夫かなぁ……本当に心配になるんだけど。

 

 

「おかえりっす。王様の方も終わったんすね」

 

「まぁな。お前らも特に大怪我とかは負ってないようだな」

 

「にししぃ~とうぜぇ~ん! あんなのあいてにぃするよりもぉ~のわーるぅをあいてにしたほうが、ひっく、いいもんねぇ~」

 

「むしろ花恋が居て負ける理由が思いつかない。でも頑張った、褒めて褒めて」

 

「はいはい寄って来るなめんどくさい……橘と水無瀬もお疲れさん。どうだ? 血の匂いに満ちた戦場にはもう慣れたか?」

 

「だ、大丈夫だと思います。まだ少し人の、人間の血の匂いには慣れませんけどなんとか、大丈夫だと思います」

 

「人間同士で殺し合うなんてあまり無かった事ですからね……私も多分、大丈夫だと思います」

 

「なら良い。異形やゲームで倒す事じゃなく、「人間」を殺すってのは元人間からしたら嫌悪してもおかしくはない。元から悪魔の俺や犬月、妖怪だった平家や四季音はその辺に関しては最初っから無いけどな。俺の眷属なんだから涼しい顔して殺害できるぐらいにはなってくれよ? 強制はしねぇけどさ。てか、なんでそれを見てんだ?」

 

 

 テレビの画面に視線を向けながら聞いてみるとなんだかんだで面白いからという平家からの返答が飛んできた。まぁ、確かにシナリオも王道中の王道、悪い敵を正義の味方であるイッセー・グレモリーが倒していくってものだし娯楽があまりない冥界、しかも子供相手だったら余裕で人気が出てもおかしくはない。でもさぁ……なんで俺が出る事を望まれてるのか未だに分かんないんだけど! 何度も製作者サイドから俺や親父達に出演依頼が飛んできてるがめんどくさいので断っている。だけどいい加減にしてほしい。だって倒されることが確定してる番組に出たら影龍王と称された相棒の名が泣くしな……だから実家に居る親父を脅、お話をして分かってもらい、母さんも同様に自らを犠牲にして説得したから製作者サイドにはお断りの言葉を言わせている。

 

 まぁ、うん。出ても良いよ? 出ても良いけど公式BADENDなラストをしてくれないとダメだぜ? それだったら出演しても良いって言えるんだけどねぇ。

 

 

「主人公がラスボスに負けて終わる特撮とか誰も見ないよ。私は好きだけど」

 

「あぁ~分かるわ。俺もどっちかって言えばヒーローより悪役の方が好きだし。なんて言うんすかね……悪なりのカッコ良さって言うか振る舞いがなんかグッとくるんすよ。いやでも王道も嫌いじゃないんすけどね」

 

「最後に正義は勝つってか? そもそも最初っから悪役が本気出せば始まる前から全部終わるんだけどな」

 

「それは言っちゃダメっす」

 

 

 ダメかぁ。まぁ、全ての特撮やアニメ、漫画にゲームにおいて禁句だろうし仕方がないか。

 

 

「あぁ、そうだ。このクソめんどくさい状況の中でアザゼルから北欧の主神の護衛を頼まれた。詳しい日程とかはまだ分からないが気持ちだけ準備しておいてくれ。一応グレモリー眷属と合同らしいからその辺りも柔軟に対応してくれ。ちなみに俺は先輩達と一緒だろうと自分勝手にやらせてもらう予定だ」

 

「それにのっかりたぁ~い」

 

「自分勝手最高。だから私も自由にやらせてもらうよ」

 

「……此処に来て結構経つとは思うんすけど、王様と酒飲み、引きこもりの三人ってやっぱ頭おかしいっすよ」

 

「瞬君。慣れです。慣れてしまえば殆どの事は問題ないように感じますから……慣れましょう!」

 

「水無瀬先生が悟っているような表情に……お、お疲れ様です。私も、一緒に頑張りますから元気を出してください!」

 

「志保ちゃん……うわーん! ありがとぉっ!」

 

 

 水無瀬と橘が抱き合っているけどスゲェな。おっぱいがおっぱいとぶつかってそれはもう素晴らしい光景になってやがる……! これがおっぱいサンドって奴か! 夜空や平家、四季音では到底行えない行為だろうな!

 

 

「ちっぱいサンドって言うのもあるよ。花恋と一緒にやってみようか?」

 

「みせいちょうぼでぇ~のすごさをみせってやるぅ~」

 

「なんか響き的に硬そうだな。とりあえずそれは置いておいて水無瀬、なんか腹減ったから作ってくれ」

 

「あ、はい!」

 

 

 こうして俺達の忙しい非日常は過ぎていく。




今回から「放課後のラグナロク」編の開始です。
「Shadow Labyrinth《シャドー・ラビリンス》」は家庭教師ヒットマンリボーン、未来編で登場した裏・球針態っぽい感じです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話

「そういえばげんちぃから聞いたんすけど修学旅行の班って俺と王様とげんちぃの三人らしいっすよ」

 

「へぇ。てかそういえばもうそんな時期か……ここ最近忙しすぎて忘れてた」

 

「いやいや、修学旅行っすよ? 京都っすよ! 妖怪の故郷と言っても良いぐらいの場所っすよ!! 確かに最近は禍の団の襲撃で忙しかったっすけど学校生活の花、それもビッグイベントの修学旅行ぐらいは覚えておきましょうよ!」

 

「正直興味ねぇんだわ」

 

「なんでっすか!?」

 

 

 昼休み、平家と水無瀬を抜かした俺達はいつものように保健室に集まって昼飯を食べていた。目の前の席に座っている犬月がもうすぐ行われる修学旅行を楽しみにしているのか興味無い発言に何やらご立腹の様子だ。でも本当に興味ないんだよなぁ、だって京都だぜ? 天使、悪魔、堕天使の三大勢力が手を結んで和平です仲良くしましょうと言ってるのに京都の奴ら、言ってしまえば妖怪共は今も和平を渋ってるらしいからあまり行きたくないんだよ。しかも京都って変に霊脈とかがあるから頭がおかしくなる可能性大だ……絶対霊魂とかの声が五月蠅くて死にかける未来しか見えない。

 

 

「あのなぁ、京都には「裏京都」っていう場所がある事ぐらい知ってるだろ? 三大勢力が和平を結んでから各地の神話体系や他勢力と仲良くしましょうって言ってる中で京都妖怪は渋ってるのか乗り気なのか分からん態度だ。それにあそこは日本神話の神がわんさか居るから俺達悪魔が出向くと何されるか分からん」

 

「……あぁ、そうだった。でも八坂姫は良い人っすよ? 俺のおふくろが裏京都に住んでた時に世話になったとか言ってましたし。あとすっげぇ美人だってのも言ってました」

 

「そりゃそうだろ? 最強属性と名高い人妻、しかも九尾だぞ? 美人じゃなかったらおかしい……でも、四季音から聞いただけで本人を見たわけじゃないからこれを機に会いに行くのも手か」

 

「さっきまでめんどくさいって言ってたのは王様じゃなかったでしたっけ? あんまりそういう事言ってるとしほりんに怒られますぜってもう怒ってますよ? ぷんぷん状態ですね」

 

 

 だろうな。隣に座っている橘が笑顔になってるし間違いなくおこ状態だ。もうぷんぷんと擬音が出そうなぐらいに怒ってるだろう……破魔の霊力に目覚めてからの橘って怖いんだよなぁ。特に笑顔。普段は笑顔最高って叫べる俺でさえ地味にビビるぐらいの怖さがある。

 

 

「お、怒っていません。悪魔さんが、その、え、えっちな事を言ってるなって思ってるだけです!」

 

「さっきまでの会話の中にエッチな表現がどこにあったか聞きたいが……まぁ、良いか。とりあえず京都の班は俺と犬月と匙君か? 橘は……そう言えばうちのクラスにはシトリー眷属が居たな。そいつ等と組んでくれ」

 

「あ、はい。花戒さんや巡さんからお誘いを頂いてますので問題ないですよ。良ければ一緒に回りませんか?」

 

「ん? 死ぬ思いをして良いんだったら別に良いぞ?」

 

「しほりん、やめましょう。命は大事、うちの王様が頭おかしいのは知ってるでしょ? 京都行って何しでかすか分かんないから一緒に回らない方が良いっす! 犠牲は俺とげんちぃだけで十分!」

 

 

 犠牲って何だよ? 別に京都妖怪と戦おうとか殺し合おうとか九尾と一戦交えたいとか言ってないのになんだその罰ゲーム風の表現は? 流石の俺も京都で暴れる予定は無いぞ? ただ行ってみたい場所があれなだけだ――鬼の頭領、酒呑童子が埋葬されてると有名な首塚大明神。京都と言ったらまずはそこに行かないとダメだろう悪魔的に! だって四季音を眷属にしてるんだぜ? もしかしたら初代酒呑童子が蘇ったりとか血縁者が居て殺し合い出来るかもしれないだろ!! いやぁ、そう考えると京都最高だな!!

 

 

「まぁ、流石に死ぬ思いは冗談だがそいつ等が良いって言うんだったら問題ねぇぞ」

 

「はい! ちゃんとお話をしてみます! 私、京都ってロケとかでしか行った事が無くてちゃんと回るのって初めてなんです! 楽しみです……すっごく楽しみです!」

 

「あれ? しほりんって退魔の家出身すよね? それ関連で行った事無いなんてなんか意外っすね」

 

「京都は色々と五月蠅いんだよ。名の知れた家なら兎も角、橘の家系のような下級退魔師は京都で堂々と仕事は出来ないんだよ。上下関係とか家の知名度とか色々と気にしてるからな……だから本来なら悪魔である俺達も京都に入る事は出来ないがちゃんとした理由と書類を京都に提出すれば遊園地で言うフリーパスを発行してもらえて堂々と観光ができるってわけだ。ちなみにもう申請中だから安心しろ」

 

「うわっ、流石キマリス家次期当主っすね」

 

「お父さんから聞いてましたけどやっぱり京都って凄いんですね」

 

「京都だしな。とりあえず犬月、あとで匙君に一緒に班を組んで死ぬ思いしましょうぜって言ってこい。拒否したら俺と模擬戦して禁手に至らせるぞって言うのも忘れずにな」

 

「うぃっす。きっと涙を流しながら良いぜ! 組もう! って言うと思いますよ」

 

 

 流石匙君だ。涙を流すほど喜んでくれるなんてやっぱり良い奴だな。俺の好感度も上がった気がする。

 

 ちなみに修学旅行には水無瀬も保険医として同行する事になっているから家で留守番組は平家と四季音のみだ。しかしスゲェな……グレモリー眷属二年生組と俺達キマリス眷属、シトリー眷属二年生組が一緒になって京都行きだぜ? しかもアザゼルも付いてくるという豪華っぷり! あっち(京都)からしたら堕天使の総督が悪魔を引き連れて襲撃してきたと思い込んでもおかしくないな……マジで襲われたりしないよな? 相棒を宿している都合上、邪なオーラとか出てるし勘違いした陰陽師達がやってきたりしたら修学旅行どころじゃねぇぞ――襲ってきたらぶっ殺すけどな。

 

 まぁ、そんな低確率でしか起きない事を考えるのは置いておいてだ。修学旅行と言うイベントのため一般生徒と一緒の宿に泊まる事になる……此処で危惧するのは休業したとはいえアイドルの橘を含めた美少女集団の裸を見ようとする奴らが高確率で出るという事だ。観光自体は普段から身に付けさせている認識疎外の術式付きペンダントで問題無いだろうがアイドル橘志保という事を知っているクラスメート達は別で何が何でもこの機会に裸を見ようと考えるだろう……特に赤龍帝と一緒に居る二人組。この辺りも後で生徒会長と話し合わないとなぁ、流石にうちの癒し枠を戦闘以外で泣かせるわけにはいかないし。

 

 

「――どうしてもか?」

 

「にししぃ~とーぜんさ! 最近は全力を出せてないしね。偶には私に付き合いなよ」

 

「まぁ、俺も鈍り気味だし偶には良いか」

 

 

 時間は進んで深夜の時間帯に俺と四季音は冥界、キマリス領にあるいつもの殺し合い場にやってきていた。こんな遅い時間に男女が二人、向かい合ってする事なんてたった一つだけだろう――殺し合いだ。自宅の地下にある訓練場でするような加減した模擬戦じゃなくてお互い本気も本気、俺も鎧を身に纏ってるし四季音も頭部に鬼の象徴とも言える角が生えているから下手をすると夜空との殺し合い以上にこの場が吹き飛ぶかもしれねぇな。親父に四季音と殺し合いするから何が有ってもスルーしろよって言ったらあまり派手にはやらないでねと土下座されたけど……無理だな。殺し合いは全力でやらないとダメだろう邪龍的に!

 

 しっかし改めてみるとトンデモねぇ妖力だな。犬月の妖魔犬で見るような量じゃねぇしなにより濃すぎる……流石酒呑童子ってか? これで分家なんだから直系はどれだけ化け物なんだよ。

 

 

「ちなみにノワール、時間は?」

 

「朝までだろ。寝かせないぜ?」

 

「にしし! そうこなくっちゃ!! じゃ、いくよ」

 

 

 目の前に居た四季音が消えた瞬間――周囲に轟音が鳴り響く。間一髪と言うか真横から放たれた拳を視認出来たから影人形の拳を叩き込んで相殺したけどよ……相変わらずなんつぅ馬鹿力だよ!! 前より強化された影人形の腕が折られるなんて夜空以外にはされた事ねぇってのによ!!

 

 

「流石にあの程度じゃ当たるわけないか」

 

「ふざけんじゃねぇよ! 今の当たってたら普通に痛いわ! シャドールゥッ!!」

 

 

 即座に複数の影人形を生成、四季音にラッシュタイムを放つが妖力を込めたワンパン一つでそれら全てが薙ぎ払われる。轟音を鳴り響かせながら殺意を秘めた妖艶な笑みで俺目掛けて拳圧、いや妖力の塊を飛ばしてくる。恐らく当たれば痛いどころの騒ぎじゃねぇな……!

 

 影による防御と同時に妖「力」を奪い取って自身の力の糧にする。ホント……こいつとの殺し合いは気を抜いたら負けだな。影人形による攻撃すら躱しきる目とどれだけ頑丈でもワンパンで沈める破壊の拳。そして何より殺し合いと言う空気を肌で感じ、楽しむ事で自らの力量を底上げする鬼の血……なんでこいつ、俺の戦車してるんだろうな? 普通に考えたら女王クラスでも足りねぇぞ!

 

 

「やっぱり硬いねぇ~この私が本気で殴らないと壊れないなんて流石私の王様だ! そんじゃもっと上げていくよ!」

 

「勘弁しろよ……まぁ、これはこれで楽しいけどなぁ!!」

 

「そうでしょ! 私も楽しいさ!! 砕けなぁ!!」

 

 

 四季音の拳と影人魚の拳がぶつかり合いと周囲が吹き飛んだ。クソが……やっぱり通常形態で生み出す影人形程度じゃこいつの拳は相手できねぇか! 久々に使ってみるかねぇ!!

 

 数十体ほど影人形を生み出して四季音を足止めして俺は距離を取ってシャドーラビリンスを発動する。おかしいな……何で発動してすぐにこの空間を壊そうとしてる音が聞こえるんだろうか? まさか一瞬で全部ぶっ壊したってか? はいそうですよねぇ! 妖力全開で吹き飛ばしましたよね!! あぁもう! 楽しいじゃねぇの!!

 

 

「我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり。我に従いし魂よ、嗤え、叫べ、幾重の感情を我が身へと宿せ。生命の分身たる影よ、霊よ、我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん」

 

 

 影の迷宮と言う名の俺を捕らえている檻の中で影人形融合2を発動、打ち合うなら通常形態だと無理だ……だって痛いし。普通に腕とか折れるし。

 

 

「――いいね! いいねぇ! それと殺ってみたかったんだよ!」

 

「偶には使わねぇとな……行くぜ」

 

 

 シャドーラビリンスが解けた瞬間、影のオーラを纏いながら前に出ると四季音は嬉しそうに妖力を先ほどまでよりも倍近く高めながら迎え撃つように接近してくる。その時間は十秒も掛からず、五秒? いや一秒程度で――俺の拳と四季音の拳がぶつかり合う。周囲が吹き飛び、轟音が鳴り響き、地響きが各地に伝わる。天災と呼んでいいほどの事態を引き起こしながら俺と四季音は真正面から殴り合う。くっ……! 流石の影人形融合強化体でも四季音の打撃力を防ぎきる事は出来ねぇか! イテェ! 物凄くイテェ!! 腕が折れたら自分で斬り落として再生、あばらが折れたら同じように首を自分で切り離して再生、兎に角ダメージを受けたら自分で自分の部位を落としてるからスッゲェ痛い!! なんせこいつは俺の対処法を知ってるからこうでもしないと殴り合いなんてやってられねぇんだよ!!

 

 欠損限定の再生。つまり腕や足が吹き飛ばなければその能力は使えない……だから打撃で沈める四季音との戦いは地味に厄介だ。まぁ、自分で斬り落とせば骨が折れたりしても問題無いんだけどね。

 

 

「毎回思うけどホント再生力高いよ、ね!!」

 

「それが取り柄だから、なぁ!」

 

「にししし! この私と打ち合えるのはノワールと光龍妃ぐらいだから凄く楽しいね! ほらもう一発!!」

 

 

 四季音の拳が俺の胴体に叩き込まれる。おかしいな……霊子が混じった絶対防御の影を纏ってるから物理系は効きにくいはずなのに何でこんなに痛いんだろうねぇ……! それほどまでにこいつの威力が馬鹿げているってわけか! 死なねぇけど何度も喰らうとホントに痛いからいい加減終わらせてぇな!!

 

 地上、上空を影のオーラを纏った俺と妖力を纏った四季音が移動しながらぶつかり合う。何度も、何度も、何度も加減無しの全力でぶつかり合うせいで周囲が吹き飛び続けて更地に変わっていくが気にしない。楽しいからな!! 気を抜けば死ぬという現実を四季音が教えてくれるから楽しい! 最近は本当に生温い殺し合いを何度もさせられて凄く飽きてたからこれは助かる……! しかも目の前のこいつは本気で俺を殺して勝とうという意思を拳に乗せて放ってくるから俺は大好きだ! くくく、あはははははは! でもその程度で俺が死ぬとでも思ってんのか!!

 

 

「四季音ぇ!!」

 

「ノワールぅ!」

 

 

 音すら遅れる拳により生じた衝撃を影法師のラッシュで相殺、本命である左ストレート、破壊の権化とも言える拳を影法師を盾にして防いでからカウンターとばかりに複数の影法師を即座に生成してラッシュタイムを叩き込む。影人形よりも重く、強力なラッシュタイムを浴びた事で四季音は地上へと落ちるが……殆ど無傷だろうなぁ。戦車と言う駒の特性、圧倒的な攻撃力と防御力を有してるしあいつ自身も硬いし打たれ強い……だから雑魚なら即死する威力を何度も受けても――

 

 

「――はぁ~楽しいね! ん、ぷはぁ、おいちぃ。よしお酒補充完了さ! まだまだ寝かさないよ!」

 

 

 こんな風にどこからともなく酒を取り出して普通に飲み始めるぐらい頑丈だ。殺し合ってみて分かるが実力は既に上級悪魔を超えてるぞ? いい加減こいつを中級悪魔にしたいが頭の硬い上層部がそう簡単に昇級させてくれるわけないか。はぁ、夜空ももっと殺せばよかったのに。

 

 

「はぁ、どうせならベッドの上で聞きたかったなそのセリフ」

 

「ノワールだって最初に言ったじゃないか。お相子さ」

 

「それもそうか。でもお前と殺し合うと昔を思い出すわ。いきなりヤろ発言する幼女と出会った俺の心境を考えてみろ? ちょっと引いたんだぞ?」

 

「う、うっさいな! それで通じると思ったんだよ! 大体アンタもえ、エッチの方じゃなくて殺し合いの意味合いだってすぐに気づいたでしょ! だ、だったら良いじゃないか!」

 

「まぁ、夜空が頻繁にそのセリフを言ってたしな。それに殺気を込めて言われたら誰だって気づくだろ? 俺としては別にお前を抱いても良いんだけどな……お前の事は信頼してるし好きだぜ? だから夜空抱いた後にお前を襲いに行く、わぁ?!」

 

「な、なななななな何言ってんだこの邪龍!! 死ね! 死ね!!」

 

 

 顔真っ赤で音速を超えた拳連打はやめてほしい。と言うよりなんで恥ずかしがってんだよ? 普段から俺にセクハラしまくってる癖に今の発言程度で取り乱す意味が分からない。やっぱりこいつ、酒が入ってる時と抜いている時のギャップは凄いな! 俺は良いと思うぞ、ってやべぇ!?

 

 俺と四季音は時間が許す限り全力で殺し合った。数時間にも及ぶ戦いの影響でただでさえ更地同然だった土地がさらに凄い事になったけど……これはこれで味があるから良しとしよう。にしても親父がやりすぎぃ! って涙を流しながら言ってきたのはなんでかねぇ? うん、俺様、何も見当がつかない。

 

 

「――てな感じで朝まで殺し合ってたんだけどさぁ、やっぱり全力を出せる相手って大事だよな。あっ、味噌チャーシュー大盛りのネギ多め」

 

「羨ましいな。影龍王、酒呑童子と戦う機会を貰えないか? 醤油メンマ多めだ」

 

「おいおいヴァーリ、流石に酒呑童子はやめとけって。あれは妖怪の中でも別格なんだぜぇ? あのクソジジイ同様にいくらお前でも大怪我は免れねぇよ。よし、今日の俺っちは塩だな! もやし多め!」

 

 

 平日の昼、俺は学校をサボってとあるラーメン屋にやってきていた。テーブルを囲んでいるのは()人、銀髪碧眼の超イケメンのヴァーリ、短髪の爽やか系イケメンと言っても過言ではない孫悟空こと闘戦勝仏の末裔らしい美猴、そして俺という男三人と俺の隣にいらっしゃる――

 

 

「ヴァーリも美猴もラーメン好きねぇ。私、猫だからあんまり熱いのは苦手にゃん」

 

 

 素晴らしいほどの巨乳とそれを見せつけるような和服姿の美女が俺にぴったりとくっ付きながらあざとい笑みでメニューを見ている。うん、柔らかい。弾力もあるし大きさは多分先輩以上じゃねぇかな? そんなお方が男の俺にくっ付くって事は期待して良いんですかね? 畜生!! 夜空とエッチして童貞捨ててればこの後にホテル誘うのに!!

 

 隣に居る美女の名前は黒歌、先輩の所に居る白髪ロリと同じ猫又でなんと実姉らしい。ちなみに冥界のパーティーで夜空が言っていたスイカ並みにデカい猫又というのはこいつの事のようだが……確かにデカいな。うん、水無瀬や橘よりもデカいから揉みたい。普通に揉みたい。赤龍帝ほど胸好きじゃないけど揉みたい胸ってのはこういうのを言うんだな。

 

 

「なになに? 影龍王は私の素敵おっぱいが気になるのかなぁ? 見たい?」

 

「見せてくれるんならここの会計は俺が払おう。全額な!」

 

「――にゃん♪」

 

「よしヴァーリ、美猴、ここの会計は全額俺持ちだから好きなだけ食え」

 

 

 ノーブラ和服とかレベル高くないっすか? 流石猫又! 流石巨乳! ピンク色の突起というか乳首を見せてくれたんだから奢らないとダメだろう悪魔的に。

 

 

「おっ! さっすが影龍王、太っ腹だねぇ。黒歌を連れてきてよかったってかぁ? ヴァーリ、何食う?」

 

「そうだな。影龍王のおごりと言うならば店主のおすすめ丼というものを頼んでみるか」

 

「良いね! そんじゃそれもっと、黒歌? お前は何食うんだよ?」

 

「だーかーらー猫だから熱いの苦手って言ってるでしょ? 食べるんなら影龍王が食べたいかなぁ」

 

「おい、エロすぎないかこいつ? お持ち帰りして良い?」

 

「にゃん♪ それなら私はいつでもおっけ~よん? うーん、童貞の味がするからまだお子様なのね。いっがーい。眷属の娘達ともうヤってるかと思ったにゃん」

 

 

 いきなり頬を舐めないでください嬉しいですありがとうございます!

 

 

「それが聞いてくれよ。夜空の奴に何度もヤろうぜって言っても断られてなぁ……いい加減俺も童貞捨てたいのにあいつが処女くれないから困ってんだよ。どうすればいいと思う?」

 

「それならその気にさせる特別なお香あげよっか? でも光龍妃だしねぇ~効かないかにゃー? 仙術も異常で気も異常、何であれ人間なの?」

 

「知らん」

 

 

 そもそもなんでアイツがあんな風に規格外なのかすら未だに分からないしな。生まれた時から禁手に至り、膨大な気を保有し、人間を超えた身体能力を持ちながら形を保っていられる事自体が異常だし。でも体は異常でも中身はホントに女の子なんだから驚きだ……俺はそれで良いとは思うけどね。

 

 

「旧魔王派もシャルバって奴のみになって衰退気味、英雄派も光龍妃相手に手間取ってるらしいから色々と厄介だねぇ。なんでお前もヴァーリも戦って生き残ってるんやら」

 

「身体が消滅しても再生できるし」

 

「あれぐらいならば問題ないさ。アルビオンの力で半減にもできるからな……もっともすぐに元に戻ってしまうが。しかし俺もアルビオンが不調気味になってからあまり戦えていない。どうだい影龍王? 食事の後の運動で一戦交えないか?」

 

「別に良いぜ? てかアルビオンが不調って……あぁ、おっぱいドラゴンか」

 

『おっぱい、むね、うぅ、うぅぅっ!』

 

 

 ヴァーリの手の甲からすすり泣く様な声が聞こえる。声の主は白い龍、白龍皇と称されたアルビオンだろう……やっぱり心にダメージ受けてたかぁ。知ってたけどなんか可哀相に思えてくるな。

 

 ちなみにだが俺達の会話は周りには聞こえていないらしい。隣に居る黒猫ちゃんの術で覆ってるから仲良く雑談しているように変換されてるようだ……すげぇな、先輩の所の白髪ロリより術の練度や実力がケタ違いだ。流石はぐれ悪魔SS級は伊達じゃねぇってか? 眷属に欲しいけど既に僧侶の駒を使い切ってるから無理というね! 畜生!

 

 

『あれあれ~そこに居るのは乳龍帝おっぱいドラゴンの宿敵ちゃんじゃないですかぁ? お久しぶりですなぁアルビオン、いや乳龍皇って呼べばいいか?』

 

『く、クロムゥ! やはり貴様は性格が悪い!! 私は白龍皇だ!!』

 

『えぇ~? だっておっぱいドラゴンの宿敵だろぉ? 良いじゃんよぉ! 名乗っちまえって! どうせ何故誇り高い我らがとか思ってんだろ? クソだっせぇから天高く、声高々に乳龍皇って名乗れば楽になるぜ? よっ! おっぱいドラゴンセカンド! アルビオン!』

 

『やめろ! やめろぉ! その名を、おっぱいドラゴンと言う名を出すな!! うぅ、分かっていたさ……あの番組が放映され、我ら二天龍はおかしくなった……お前に出会えば必ず言ってくると思っていた! うぅ、うおーん!』

 

「アルビオン。また泣いているのか……? 影龍王、どうすればいい?」

 

「とりあえずお前も乳龍帝みたいに名乗れば良いんじゃねぇの? 赤龍帝が胸だから……お前、女の好きな部位どこ?」

 

「あまりそう言う事には興味は無いんだが?」

 

「いやいや男だったら好きな部位ぐらいあるだろ? あっ、俺は脇な。夜空の脇見て目覚めた。恐らく夜空が脇を見せながら舐めて良いよって言ってきたら魔王や神は殺せるぐらいレベルアップするぐらい大好き」

 

『俺様が男の娘の方が良いと何度も言っても聞かねぇんだよなぁ。ゼハハハハハ! 脇も素敵だけどよ!』

 

 

 だって俺は男好きじゃねぇし。至って普通に女の子大好きですし。特に夜空が大好きです!

 

 

「……そういう物なのか?」

 

「おう。男だったら多分そうだろ、きっと、多分」

 

「言ってる本人が自信なかったら意味ねぇぜぇ」

 

「影龍王は脇が好きなのね。だったら見たい? 私、素敵おっぱい持ってるけど脇も自信あるにゃん」

 

 

 やっぱりこの猫又エロいわ。すげぇエロいわ。脇を見せてくれるとかホント良い猫又だな! 最高だな! 胸デカい、エロい、脇見せてくれる、素晴らしいな!!

 

 

『ヴァーリ。気にするな、何も考えるな。あれはドライグとクロムが特別なだけでお前は別なのだ。良いかヴァーリ? 私は白龍皇、白い龍、二天龍と称された存在でお前はルシファーだ。我らが手を取り合い、高め合えば何も問題は無いのだ。だから答える必要はない。良いな? 答えるべきではない!』

 

 

 それは振りですか? 振りですかアルビオンさん!

 

 

「……強いて言えばヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性らしさを象徴するものだとは思う。しかし好きかと言われたらあまり自信は無いな」

 

『ヴァーリィ!! 何故答えた!? クロムの前でそのような事を言えば――』

 

『尻ねぇ、尻かぁ!! ゼハハハハハハハハ! 決まったぜアルビオン!! 今日からお前は尻龍皇ヒップドラゴンとして生きて行けばいい! ゼハハハハ! やーいやーいヒップドラゴーン! ヒップドラゴーン!』

 

『うぅ、うぅぅっ! ぬおぉぉぉぉんっ!』

 

 

 うわっ、天龍がガチ泣きしてるんだけど? そこまで嫌か? 嫌ですよね本当にごめんなさい。言葉では言わないから心で謝っておくね! 尻龍皇!

 

 しかし戦闘大好きのヴァーリがまさか尻好きとはねぇ? まさか夜空か? あのミニスカ絶対領域で目覚めたか? だとすると今すぐその性癖を治してもらわないと困る。だって銀髪碧眼のスーパーイケメンだぞ? 言葉一つで即座にベッドインできるぐらいのイケメンだぞ? 何かの間違いで夜空が惚れたりしたら困るしな!! うん死ねばいいのに!

 

 

「――ぷ、ぷはははははは! ヒップドラゴン! ヒップドラゴン!! 流石邪龍! 的確に天龍の心を折りにきてるぜ! は、はらいてぇ!!」

 

「にゃははははは! おかしー! おなかいたいー! ひっぷ、ひっぷどらご、にゃははは!」

 

「……影龍王。あまりアルビオンを泣かせないでくれ。あの番組を見てから泣く事が多いんだ」

 

「いやぁ、だって愉しいもん。それよりなんでヒップなんだ? お前って夜空以外の女とつるんでるって噂は聞かねぇんだけど誰かの影響か?」

 

「昔、少しな。あまり話すような話題ではないよ」

 

「――どう思う黒猫ちゃん?」

 

「これは何か隠してるにゃ。この私が誘っても断ったほど脳まで戦闘戦闘戦闘と染まりきってるヴァーリが普通に尻好きというのはありえないにゃー」

 

「となれば俺や夜空と出会う前に知らない誰かの尻見て目覚めたか……」

 

「いやーだれなんだろーなー?」

 

 

 俺達三人の視線がヴァーリに向かう。しかしスーパーイケメンのヴァーリは注文して届いたラーメンをすすっているだけで何もおかしなことは言っていないとばかりに無反応だ。むむむ! なんか気になるけど……良いか。過去の事なんて気にして地雷踏みたくないし。

 

 

「つうか、なんで俺の所に来たの?」

 

「今更!? 此処に来てどんだけ時間経ってると思ってんだよ!? てか知らなかったんかい!!」

 

「うん。いやぁ、ヴァーリが今会えないかって言ってきたけど具体的に何するか聞いてないんだよ。んで? なんか悪巧みしてんの?」

 

「少し気になる事が有ってね。光龍妃と最近会っているか?」

 

「あん? 最近は会ってねぇぞ? 最後に会ったのは体育祭……あーと、キマリスとグレモリーのゲームがあった翌日だ。それがどうかしたか?」

 

「あの光龍妃がここ最近姿を見せていないんだ。どう思う?」

 

「……あー、なんか悪い事考えてるなぁ。あいつが死ぬわけねぇし考えられるのは自分の楽しみのために色んな所に迷惑かける事をしでかすって事ぐらいだ。ついでに北欧の主神がもうすぐ来日するっぽいから……もしかしてそれか?」

 

「恐らくそうだろうな。悪神ロキ、神喰狼(フェンリル)を従える神が北欧の主神オーディンに対して何かをしようとしていると情報が入っている。光龍妃の性格からしてこれほど面白い事は見逃さないと思うんだが?」

 

「だな。十中八九、結託して自分だけ楽しんで、それが終われば掌返しってか? まぁ、アイツらしいから俺は何も言わねぇよ――で? お前らはそれに対して何かする気か?」

 

 

 こうして昼飯を一緒に食ってるけどヴァーリ達は禍の団、つまりテロリスト側だ。何かをする可能性が非常に高い……しかし此処のラーメン美味いな。何度か足を運んでも良いかもしれない。

 

 

「今の所は何もしないさ」

 

「あっそ。なら良いや」

 

「助かるよ、影龍王」

 

 

 別に礼を言われる事じゃないんだけどな。俺が楽しいならそれで良いしヒーローってわけでも無いから俺達に被害が無ければ何が起きても問題ない。好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、満足したら死ぬ。多分だけど――夜空が死んだら俺も死ぬだろうな。好きな女が居ない日常なんてつまらないだろう?

 

 この後、俺達は昼飯を普通に食べて解散する事になった。本当だったらヴァーリと殺し合いたかったけど何やら任務が入ったらしい……畜生! まぁ、四季音との殺し合いで疲れてたし別に良いんだけどね。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話

「こんな朝っぱらから呼び出すんじゃねぇよ。んで? 何の用?」

 

 

 休日の朝、現在の俺の状態だったらベッドに潜り込んで熟睡モードに突入していたんだが……残念な事にとある人物に呼び出されてしまい遠く離れた空港までやってきていた。眠い、すっげぇ眠い……昨日というか今日の約一時間前まで平家とエロゲーしてたからマジで眠い。そもそもなんで平家と積んであったエロゲーを一緒にやろうという話になったんだっけ……? あぁ、そうだ、この前無断で学校サボってヴァーリ達とラーメン食ったのを知られたからだっけ? しかも俺が黒猫ちゃんと仲良くしてたのを心を読んで感じ取ったのか構って構ってと甘えてきて断り切れなかったから徹夜でエロゲー祭に突入したんだよな……ホント眠い。

 

 場所は俺の部屋、ベッドの上に寝間着に着替えた俺が座り、膝の上に裸ワイシャツの平家が座る。そして毛布を羽織り、パソコン前でひたすら音声とテキストが流れるの見続けるだけ。平家が着ていたワイシャツのサイズがあってないからちらっと視線を下に向けると綺麗なちっぱいと乳首が見えて非常に役得と言えば役得だった。とりあえず揉んだら身体を預けてお好きにどうぞと言いたそうな視線を向けてきたのは今も記憶に刻み込まれている……だからといって人の膝の上でオナニーし始めるのもどうかと思うぞ? 手を出さなかったとはいえ眠気とエロゲーの音と暇の三連コンボで危うく押し倒すところだったわ。

 

 でも流石はノワール君依存率ナンバーワンってか? 俺が別の女に寝取られそうになると即効で行動開始とは恐れ入るよ。まぁ、夜空以外興味ないんだけどね!!

 

 

「おいおい、前に話した事を忘れたわけじゃないだろ? 今日一日、お前はバラキエルと一緒にオーディンの護衛だよ。影龍王とバラキエルの二人が護衛なら禍の団もおいそれと手出しは出来んだろうさ」

 

「だろうね。いや、その件は忘れてたわけじゃないが……平家と徹夜でエロゲーしてたから眠いんだよ。なんでそんな時に呼び出すんだこのやろー」

 

「なんだそりゃ? お前さんならそんなモンをしなくとも発散できるだろうに。イッセーと違って肉食系だろ? 特に覚妖怪はお前さんにゾッコンのようだしいつでも抱けるだろ?」

 

「それとこれとは話が別なんだよ。平家を抱いた日には俺は即効で人生の墓場行きだ」

 

「愛されてるねぇ」

 

「重いけどな」

 

 

 俺を呼び出した張本人であるアザゼルに人の休日を奪ってんじゃねぇぞという視線を向けながら呼び出した理由を聞くと俺の予想通りの答えが返ってきた。一般にも知れ渡っているであろう北欧神話、その主神であるオーディンがもうすぐ日本、しかもこの空港にやってくる。普通に考えて神が一般人に混じって飛行機でやって来るとかなんか凄く違和感があるが……実際は違う。現在、俺達がいる場所は一般人が使用しているスペースとは違う。駒王町の駅の地下に冥界へ向かうために存在する悪魔専用スペースと同じように空港の地下にも同じように広がる専用スペースが存在する。利用するのは三大勢力以外の存在、海外の各神話体系の神々や人物が日本に来日する時に使用される場所で各々の転移魔法陣から直通で移動できるように現魔王、アジュカ様が色々と頑張ったようだ……すげぇよな。三大勢力が和平を結んだ瞬間にこんな場所を造るんだもん。

 

 アザゼルに呼ばれたからか背後に立っていた人物が一歩前に出てきた。それはガタイも良く、無骨や厳格という言葉が似合うほどの男……強いな。纏うオーラがその辺に居る堕天使なんかじゃねぇし上級悪魔でもここまで強いと感じる奴は居ねぇぞ……! こいつが雷光、バラキエルか!

 

 

「バラキエルだ。娘が大変世話になっている。忙しい所を申し訳ないが今日はよろしく頼む」

 

「娘……あぁ、姫島先輩か。別にあんまり話した事無いから世話したとかは無いからその言葉は赤龍帝に行ってくれ。ノワール・キマリス、一応影龍王って呼ばれてるよ。眠いが仕事はきっちりと行うから安心してくれ。どうだ? これが終わったら一戦やらない?」

 

「っ、この年でここまで……! 是非、と言いたいところではあるが私と貴殿が相対すれ必ずどちらかが、いや私が死ぬだろう。すまないがまだ死ぬわけにもいかん。お断りさせてもらおう」

 

「そっか。でももしかしたら死ぬのは俺の方かもしれねぇぞ? 流石に姫島先輩以上の雷光喰らって無事じゃすまなさそうだし」

 

「よく言うぜ。覇龍化したイッセーの技を受けても再生したくせによ……バラキエル、殺し合いレベルをしろってわけじゃないが暇なら相手してやれ。お前も最近は全力を出し切ってねぇだろ? どうだ、朱乃に影龍王相手にここまでやれるんだぞって見せるチャンスじゃねぇか」

 

「むっ、うぅん……しかし、私は……」

 

「いや、悩んでる相手と戦っても楽しく無いんで色々と解消してからでいいっすよ? 流石にこれ以上、先輩相手に面倒事を起こす気は無いですし」

 

 

 こっちが全力なのに相手が他人を気にして本来の実力を出せないとかマジでやる気無くすからそれらが解決してから戦いたいな。さっきのアザゼルの言葉から推測すると姫島先輩とこの人(バラキエル)はあんまり仲良くないんだろうなぁ。良い人そうだけどね? うちの親父と交換してほしいぐらい頼もしいと感じるけど何が気に入らないんだろうか。

 

 しっかしホント化けもんだなこの人……! 握手しただけで強いと感じさせるなんて思ってもみなかった。流石は雷光、神の雷と称される武闘派、堕天使勢力の一番槍ってか? 姫島先輩のなんちゃって雷光よりも強力なんだろうなぁ!! あぁ! 戦いてぇ!!

 

 

「そんで? その主神様はいつ来るんだよ?」

 

「時間的にはもうすぐのはずだ――ほら、来たぞ」

 

 

 目の前に見たことも無い魔法陣が展開されて二つの人影が現れた。片方は白いひげを生やした隻眼のジジイ、もう片方は綺麗な銀髪の美女だ。ジジイの方はなんかラフな格好だけど感覚的にこいつがオーディンか……これが神クラスの実力者か。毎回、あの規格外の夜空と殺し合って感覚が麻痺してるかと思ったがそんな事は無かったな――強い。普通に強い。勝てるかと言われた多分勝つけど一瞬じゃ無理だな……よくて二日間ぶっ続けで戦ってようやく勝てるってところかねぇ? うわぁ~ノワール君弱すぎぃ! 神相手に二日とか弱すぎぃ! これが夜空だったら普通に一日で殺せるだろうなぁ……やっぱりあの規格外って頭おかしいわ。

 

 まぁ、神様なジジイは置いておいて隣の銀髪美女だけど……デカいな。見た感じは俺と年は同じか少し上っぽいけどどっちだ? タメかお姉様か? その辺りも重要だけど今はスーツを着ていても自己主張する胸に目が行ってしまうから考えるのは後にしよう。畜生! ここ最近、夜空のちっぱいを見てないから巨乳に目が行くようになってるのが悔しい! ついさっきまで平家のちっぱい揉んだりもしたけどやっぱり俺は夜空のちっぱいと脇が大好きだから早く俺に会いに来い! そろそろマジでお前との殺し合いがしたいしお前のちっぱいや脇が見たいんだよ! 早く来てくれないと巨乳好きになっちまうから割とマジで早く来てくれ!

 

 

「来てやったぞい、悪ガキ堕天使よ。この老体に此処まで足を運ばせるとはなっとらんの」

 

「こっちから出向けばえらい騒ぎになるだろ? それに元々の日程を早めたのはオーディン、あんたの方だろうが。初対面だろうから紹介しとこう。今日の護衛を務めるバラキエルと影龍王、ノワール・キマリスだ。二人だけだからって甘く見んじゃねぇぞ? 下手すると今代の影龍王は爺さん、あんたより強いぜ?」

 

「ほっほっほ。知っとるわい。わしらの領域に遊びに来とる悪ガキと頻繁に殺しあっとると噂で聞いておるぞ。規格外な悪ガキと仲良くやっとるようで羨ましい限りじゃわい。そのまま嫁に娶ってくれればあやつも大人しくなるじゃろうて」

 

「それが出来れば苦労はしないが……夜空の場合、仮に結婚したとしても今と変わんないと思いますよ? アイツは自分が楽しければそれで良いんで」

 

 

 いくら俺と結婚したからと言ってあの夜空が大人しくなるわけがない。きっと新婚旅行と称して各勢力に殴込みを仕掛けるに違いない……うん、普通に想像できるし俺も一緒に行くのも余裕で想像できる。まぁ、流石に子供が出来たら大人しくなってくれるよね? なってくれないと俺が泣くから大人しくなってくださいお願いします。でも俺と夜空の子供か……きっと無邪気に笑いながら敵を殺すような子になるだろうなぁ、だって俺と夜空の血を引いてるんだぜ? 普通にあり得るわ。しかしそうなるとキマリスの血が薄くなって人間の血が濃くなるか……今の冥界のままだったら迫害されるかもしれないかが未来の冥界は今よりも変わってると信じておこうかね。もっとも未来の俺達二人に滅ぼされてなければの話だけど。

 

 何度も被害に会ってるであろう北欧神話勢力の主神、オーディンは夜空の性格を分かっているのか軽く笑っているけど……隙が無い。なんて言うか煽ってこっちの反応を見て楽しんでるような感じがする。俺も良くやる手だから同じことをされたら普通に分かる。でも強い……! 流石主神レベルだな!

 

 

「夜空の話は置いておいて……そっちの美女はどちらさん? まさか主神様の嫁さんってわけじゃないよな? 流石にそれだったら引きますよ? 年齢離れすぎだろっていうかもしそうならまだまだ現役だなぁおい」

 

「ほっほっほ。まだまだ若いもんには実力も精力も負けんわい。さて、こやつはわしの嫁と言うわけではなくお付きのヴァルキリーよ。名はロスヴァイセ、見た目良し、器量良し、しかし頭が堅いのが難点じゃ。どうじゃ小童? 可哀想なこやつを貰ってくれんか?」

 

「え? マジで良いの? 流石主神様! 懐がデカくて俺の好感度が急上昇だぜ。いやぁ~実は眷属増やそうか悩んでたんでもし良ければ俺の兵士になりません? 待遇悪いっすよ?」

 

「申し訳ありませんがお断りさせていただきます。私はオーディンさまのお付きですので……それとオーディンさま! いったい何を言っているんですか!! か、勝手に私の相手を決めないでください!」

 

「じゃがのぉ、このままだと行き遅れになる身と考えると胸が苦しいんだわい。良いではないか? 相手は影龍王、しかも年が近いときた。良いとは思うんだがのぉ」

 

「よ、良くありません! か、彼氏は……そのうち出来るんです! 好きで彼氏いない歴=年齢をしてるわけじゃないんですよぉぉ! もうすぐできるんですぅ! きっと、きっとぉ!」

 

 

 あっ、こいつあれだわ……水無瀬と同じタイプだ。このまま行くと彼氏出来ずに仲の良い友達の結婚式に呼ばれて「何でまだ結婚しないのぉ?」とか言われるタイプだわ。

 

 

「まぁ、眷属云々は冗談ですけどね。うちの兵士は犬月だけで間に合ってますし。とりあえず泣くのやめてくれません?」

 

「は、はいぃ……ふぅ、お見苦しい所をお見せいたしました。ロスヴァイセと申します。オーディンさまのお付きとして共に来日しました。日本に居る間はよろしくお願いします」

 

「……うん、確かに彼氏出来ないタイプだわ」

 

『ゼハハハハハハ。俺様、ハッキリと言える邪龍として定評があるから言っておきたい事がある。もうちょっと柔らかくならねぇと彼氏出来ねぇぜ! アバヨ!』

 

 

 ハッキリ言いすぎだよ相棒。

 

 

「邪龍にまで彼氏できないと断言されるってマジで水無瀬と一緒だなぁ」

 

「――う、うぅ、うわーん! ドラゴンにまで言われたぁ! 好きで処女してるわけじゃないのにぃぃっ! うわーん!」

 

「地双龍にまで断言されるとはのぉ。影龍王レベルならばこやつも納得するかとは思ったが生真面目さが仇となったか」

 

「オーディン、一応言っておくがこの影龍王を舐めちゃいけねぇぞ? 各勢力の上役達からあのサーゼクスですらこいつ(ノワール)を完全に御する事は不可能と言われているほどの奴だ、横からいきなり奪い取る事もするかもしれん。邪龍だしな」

 

「ほっほっほ。それはそれは血気盛んで何よりだわい」

 

 

 なんか良い事言ったぜ俺って顔してるけどさぁ、人を犯罪者扱いしないでもらえないですかねぇ? てか魔王でも御する事が出来ないって当たり前じゃん。あんな身内贔屓に従う悪魔がどこに居んだよ? きっと今もキマリス対グレモリー戦での低評価をどうしたら覆せるかとか考えてんじゃねぇかな? 俺は別にどうでも良いけど巻き込まれるのだけは勘弁な。やるならそっちで勝手にやってくれ。

 

 ガチ泣きし始めたヴァルキリーちゃんを宥めた後、北欧の主神様の強い希望により俺達が住む駒王町内を回る事になった。アザゼルは何やら仕事があるとかで別の場所に転移していったけどさ……本当に仕事か? 三大勢力のトップ勢は遊びに関しては全力投球する傾向があるから地味に疑っちまう。だって乳龍帝おっぱいドラゴンのOPを作ったり玩具作ったりする奴らだし仕方ないよなぁ……あの特撮は地味に面白いから良いけどトップらしくもっと仕事に専念しろよ。

 

 

「――あんのジジイ、マジで殺してやろうか」

 

「本当にオーディン様が申し訳ありません……!」

 

 

 そんなわけで駒王町に転移して数時間が経過したが……既に俺は主神様の自由っぷりに軽くキレかけていた。あれ食べたい、これ見たい、ほっほっほ~これは買いだのぉとか言いながらあちこち連れ回されてマジで辛いし眠い。徹夜明けの悪魔にこんな重労働させんじゃねぇよ……! てかそろそろいい加減にしろよクソジジイ! これが夜空だったら俺は喜んで最後まで付き合うんだが今回はひげ生やしたジジイで可愛くもないから本当にイライラが止まらねぇ。それはそうと町中を回るってデートっぽいよなぁ、デートしてぇ……夜空とデートしてぇ。そして最後はエッチしたい。いやそんな大事な事だけど今はそれは置いておいて主神様を監視してるのか変な追手っぽいのも付いてきてるけど大丈夫かよ……?

 

 少し離れたビルの屋上に虫の形をした何かが居るので影人形でそれを潰す。射程距離内で助かったが一般人に気づかれないようにするのは面倒だな。しかもこれ……生物じゃなくて魔力、いや魔法で作られた疑似生命体か。これほどのモノを製作できる奴って限られるんじゃねぇか? やっぱり悪神かねぇ?

 

 

「影龍王」

 

「大丈夫。あの主神様を監視するように付いてきてるモノなら影人形で潰してるから問題ないですよ。遠隔操作の式、使い魔、とりあえずそれっぽいものでこれといった威力は無い。完全に監視が目的で放っているんでしょうね」

 

「私の方でも何者かがこちらを見ていると感じていたがやはりそうか……北欧の主神自らがこちらに足を運び、来日する日程を早めた理由はこれかもしれないな」

 

「前にヴァーリから北欧の悪神が何かしようしてるって聞いたんですけど多分、それが関係してるでしょうね。魔力じゃなくて魔法で作られてますしここまでの完成度のモノを雑魚が作れるわけがない」

 

「白龍皇が……そうか、ならばその線で考えても良いかもしれない。すまない影龍王、先ほどから追手を消しているだろう?」

 

「別に良いですよ。此処に居るメンバーで周りに気づかれる事無く対処できるのって俺ぐらいでしょ? だから気にしないでください」

 

「周囲の霊子、霊力を一つに集約……それを個体、式として使役する。魔力を通していると考えられますがここまでの精度に加えて遠く離れたあのビルまで操作可能……噂でそのような術を扱うとは聞いていましたが恐ろしいですね。どのような術式なんでしょう……? これを解析すればもしかしたら……!」

 

 

 隣に居るヴァルキリーちゃんはジト目っぽい視線で俺を、もっと言えば遠く離れてたところに生成した影人形を見ている。なんか……ここまで観察されるのって久しぶりな気がするから変な気分だ。

 

 

「なんか観察してるっぽいけどこれ、俺のオリジナルだからあんまり真似しない方が良いぞ? それにアンタ、こっち系の術式と相性悪いっぽいから仮に真似できたとしても意味ねぇと思うよ」

 

「っ、な、なななんでそれを!?」

 

「だってアンタの周りにある霊子の性質が攻撃性が高い奴ばっかりだからな。俺って一応キマリス血を引いてて霊操って能力が使えるからそういうの分かるんだよ……こいつは依代として問題無いとか此処は霊力に満ちてるとかこいつは霊感が強いとかね。まぁ、霊操のおかげで影人形なんていう戦い方が出来てるけど他からしたらバカじゃねぇのってやり方だと思うからあまりお勧めしないよ。真似るのは問題無いけどさ」

 

 

 そんな事を話していると護衛対象のオーディンが姿を消した。おいおいマジかよ……! あんのクソジジイ! 今度はどこに行きやがった!!

 

 三人で捜索すると目標はすぐに見つかった――見知った顔と一緒にな。えーと、ちょっと待ってくれ、落ち着こう。今の時間は昼、普通の方々だったらお昼ご飯を食べる時間でまだそういう時間じゃないはずだ……いや人によっては時間は関係ないのかもしれないし俺も夜空相手だったら何時間でも出来ると思うから多分問題ないのか? いや、普通に考えたらまだ早いだろうきっと早いに違いない。おいこら赤龍帝……こんな時間から何でラブホ街に来てんだよ! お前、後ろの保護者さんがどういう心境か分かってるか? 自分の娘がこんな時間からこんな場所に居るって知ったら――泣くぞ。きっと泣くぞ。てかどう反応していいか困ってるよバラキエルさん!

 

 

「オーディンの爺さん!? それに黒井!? な、何で二人がこんな所に居るんだ?」

 

「それはこっちのセリフだ。おうおう、良いご身分だなぁ。こっちは徹夜明けにこのジジイの護衛させられてるってのにテメェは真昼間からエッチするってか? 羨ましいなこの野郎」

 

「い、いや!? そんなわけ、本当はしたいけどそうじゃないんだって! 部長たちから逃げたら何時の間にか此処に来ただけだって! てか護衛!? 黒井の方こそ何してんだよ!?」

 

「仕事だばーか。たくっ、クソジジイ、マジでいい加減にしろよ? 勝手に居なくなって困るのはそっちだが護衛してる俺達の身にもなれ。そんなんだからヴァルキリーちゃんが堅くなるんだろうが」

 

「ほっほっほ。懐かしい気を感じたんでのぉ。悪ガキよ、これも試練じゃ」

 

 

 何が試練だよクソジジイ! ぶっ殺すぞ?

 

 

「オーディンさま! 主神ともあろう方がこんな所で何をしているんですか! いきなり姿が消えたのでびっくりしましたよ! あまりこういうのはおやめください!」

 

「ロスヴァイセよ、お主も勇者をもてなすヴァルキリー、この光景を見ておいても損は無いぞい?」

 

「い、良いんです! それはそれ、これはこれです!」

 

 

 うーん、やっぱり水無瀬と同じタイプか。不幸体質の代わりに苦労人体質かぁ……なんで俺の周りの年上ってそんなんばっかなんだよ。

 

 そんなわけで赤龍帝を追ってきた先輩達とも合流したのでちゃんと事態を説明するために場所を移動する。向かった先は赤龍帝や先輩たちが住む家……凄く豪邸ですありがとうございました。確かに改装したとは聞いてたけどさ、周りの土地取りすぎだろ。俺も人の事は言えないけどさ。ちなみにだか赤龍帝宅に向かうまでの間、バラキエルと姫島先輩の間に流れる空気は最悪だった……マジで不仲かよ。他人の事だから別にどうでも良いけどさ、これから主神様を一緒に護衛するんだし少しは仲良くしてくれない?

 

 中に入ってVIPルームっぽい所に通されたけど本当に広いな……俺達キマリス眷属全員とグレモリー眷属全員、アザゼルとバラキエル、主神様とヴァルキリーちゃんが入ってもまだ広いとかバカじゃねぇの? ちなみに俺と先輩、アザゼルと主神様はソファーに座って眷属達はその後ろに立っている。平家が眠いから座らせてと視線で言ってきてるが我慢しろ――俺も眠いんだ。

 

 

「というわけだ。リアスにも話してたとは思うが北欧の主神、オーディンが来日した。日本に居る間はグレモリー眷属とキマリス眷属で護衛してもらう事になる……んで? 何か言いたそうだな?」

 

「人が仕事してるってのに遊んでるってどういうわけですかねぇ? と文句言いたい。あと眠い」

 

「朝まで覚妖怪とよろしくやってたからだろ……そこに関して言うなら来日直後で大人数で護衛も目立つだろ? お前さんとバラキエルだけで有事の際は問題無いと判断しただけよ」

 

 

 物は言いようだなおい……あぁ、姫島先輩が淹れたお茶うめぇ。親と子の間でギスギス感が凄いけどお茶うめぇ。

 

 

「それよりもオーディン、どうだった町の方は?」

 

「中々よかったぞい。あやつが放った玩具も小童が消してくれてたしのぉ。将来有望でなにより、しかし急ぎ過ぎてる感があるがあの悪ガキの対ならば仕方ないかの」

 

「あの光龍妃と殺し合ってんだ、急ぎ過ぎててもおかしくねぇよ。で? 来日したって事は日本神話の神、俺達三大勢力との和平を考えてるって事で良いんだな?」

 

「そうじゃよ。しかしのぉ、厄介な奴にわしのやり方を批難されて事を起こされる前にと思ったんじゃが……気づかれておったようだ」

 

「厄介事かい。まっ、こっちでも大よその見当は付いてるけどな」

 

 

 先輩達や犬月達は何の話をしているのか分からないって顔してるけど俺と平家は別だ。なんせヴァーリから聞いてるし平家は心を読んでうわぁとか言いたそうな顔してるし。まさか自分の所の神――悪神ロキが主神相手に何かをしようと考えてるとか普通は思わねぇよ。そしてここ最近夜空が姿を現さないのはそれ関連で何かをしようとしてるからだろうね。マジで早く姿を現して脇を見せてくれ。

 

 

「しかし……うむ、デカイのぉ」

 

「オーディンさま! いやらしい視線を送ったらダメだと何度言えば分かるんですか!!」

 

「堅いのぉ。わしも男、大きいものが目の前にあるならば見るのが礼儀だと分からんのか」

 

「全く持ってその通りだな」

 

「くっ、反論できねぇ……!」

 

「こればっかりは男の性だよなぁ」

 

 

 アザゼル、赤龍帝、俺という順番で同意すると周りからの視線が酷いものになった。いやいやおかしい! お前らだってイケメンを見たら見るだろ? それと同じで巨乳やちっぱいが目の前にあったら見るだろ? もっとも俺は脇だけどな! 胸はそこまで好きじゃないし。

 

 

「朝まで私のおっぱい揉んでた男が何を言う」

 

「そっちこそ裸ワイシャツでエロゲープレイしながら目の前でオナニーしてただろうが? 襲わなかっただけ感謝しろ……てかそのせいで眠いんだよ。朝まで積みゲー崩させやがって」

 

「巨乳の猫又にデレデレしてたノワールが悪い」

 

「だってあの黒猫ちゃんがエロいんだから仕方が、あ、ハイダマリマススイマセン」

 

 

 えっちぃの禁止です委員会の委員長こと橘様がお怒りのようだからもう黙ろう。流石に今の状態で破魔の霊力喰らったら死ぬほど痛いだろうし……そして赤龍帝? お前はなんで血涙を流してんだ? えっ? まさか羨ましいとか思ってたりするの? いやいや待て待て、お前も大概羨ましい状態になってるだろ。グレモリー先輩に姫島先輩にシスターちゃんにデュランダル使いに猫又に男の娘……どこのエロゲーだって言うぐらいに羨ましいと思うぞ? 特に最後の男の娘なんて相棒がヤりてぇヤりてぇとか呟くぐらいには気に入ってるっぽいし。うん、何も嫉妬される覚えは無いな!

 

 

『俺様、宿主様が男の娘に目覚めるのを信じているぜ』

 

「一生ねぇよ」

 

『ゼハハハハハハ! まじで?』

 

 

 おい、今の素だろ? そこまで意外か!? 普通にねぇだろ!?

 

 

「おいおいキマリス……ヴァーリの所に居る猫又と会ってたなんざ聞いてねぇぞ? 何してんだお前?」

 

「だってヴァーリから「今会えないか?」って相棒経由で誘い文句が飛んできたんだぜ? 行かないとダメだろ。別に何かしたわけじゃねぇよ? ただ普通に雑談しながら四人でラーメン食っただけだ」

 

「それでも普通は警戒するだろうに……で? ヴァーリはなんて言ってた?」

 

「悪神がなんかしようとしてるんだってさ。それ以上は知らねぇよ」

 

「……やはりか。爺さん、アンタの所も大変だなぁ」

 

「ほっほっほ。別の者ならば血気盛んで好ましいんと言えるんじゃがあやつは違うしのぉ。それよりもアザゼル坊、わし、疲れたから癒されたいんじゃがどこか良い店は無いかい?」

 

「ロクに話し合いもしてねぇくせにぬけぬけと……どこに行きたい?」

 

「大きいおっぱいに囲まれてるしのぉ、おっぱいパブに行きたいのぉ」

 

「流石スケベ爺だぜ。よし分かった! 実は俺の所の奴らがVIP専用の店を出しててな、そこに案内してやる! イッセー! キマリス! 仕事だ、お前らも付いてこい」

 

 

 ハハハハハハ、おいおいアザゼルさんよぉ……このノワール・キマリス、現在は凄く眠いんだぜ? あぁ、徹夜でエロゲーしてたからマジで眠いんだよ。しかもえっちぃの禁止委員会の橘様がお怒りの状態でそんな、そんな所に――

 

 

「――仕方ねぇな~仕事だしなぁ! 仕事だったら断るわけにはいかねぇよ! 主神様になんか有ったらだめだもんなぁ! アザゼル、犬月連れてくけど良いよな? 犬だから気配には敏感だぜ?」

 

 

 普通に考えて行くに決まってんだろ。男だしな! 残念な事に赤龍帝は先輩にダメと言われて落ち込んでるがこっちは別陣営だしねぇ! あははは! もうこの深夜テンションで乗り切るしかねぇな!!

 

 

「おう良いぞ! 女堕天使だ、美女に美少女ばっかりだぜ! エッチタイムと洒落込もうじゃねぇの!」

 

「ほっほっほ! えぇ響きじゃのぉ!」

 

「俺にアザゼルに犬月が居れば何が起きても問題ねぇよな。うん、いやぁ、エッチタイム、エッチタイムかぁ! 何が起きるのかすっげぇたの――」

 

「――悪魔さん?」

 

「――しみでは無いですごめんなさい。すまないアザゼル、どうやら行けそうにないから俺の代わりに犬月だけ行かせるわ。犬月、あとで感想頼む……!」

 

「王様……! すんません、俺もしほりんが怖いんで無理っす。マジで行きたいっす……! エッチタイムぅ!!」

 

 

 俺達二人のリタイアを察したのかアザゼルと主神様は「お前らの分まで楽しんでくるぜ」という一言を残して部屋を出て行った。畜生! いや、まぁノリだったとは思うけど惜しい事をした気分だな。

 

 さて――背後から感じるお怒りですぷんぷんですよオーラの橘をどうやって鎮めるかなぁ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45話

「よ、ようこそお越しくださいましたわ! キマリス様、このレイチェル・フェニックスが歓迎いたしますわよ!」

 

 

 俺の目の前でドレス姿の金髪ツインテの美少女がその大きな胸を揺らし、存在感のあるドヤ顔をしている。可愛い。

 

 北欧の主神ことオーディンが来日してから翌日、俺はフェニックス家の双子姫と称されているレイチェル・フェニックスの実家……というかどうあがいても城にしか見えないお家に足を運んでいた。目の前では背後にドンッ! と言う擬音が付きそうなほどの存在感を放っているレイチェルがいるけど……デカいなぁ、やっぱデカいわ。俺より年下で確か平家と同い年だったはずだけど発育でここまで差が出るとはねぇ。夜空はまぁ、うん。かなり昔から今と同じようなホームレス生活だったらしいから子供体型とちっぱいなのは仕方がないだろう。しかし、しかし! 平家と四季音のちっぱい、絶壁、壁コンビはどうしてあそこまで発育が……やめよう。なんか後で殺されかねないしセクハラ祭開催の予感がする。ただでさえ橘からえっちぃのはいけません! って怒られてるのにガソリン投入は拙いと思う。もうそろそろ破魔の霊力パンチが飛んできてもおかしくないしな! しかしそうだとしてもレイチェルのおっぱい素晴らしいと言うしかない! だって男だもん! 悪魔だもん! 実に素晴らしいと思います! 出来れば脇を見せながら揉ませてくれたりしないかねぇ?

 

 

「ご招待いただきましてありがとうございます。えっと、こちらうちの領地で採れた果物なので良ければ食後などにどうぞ」

 

「ありがたくいただきますわ。キマリス領で作られている果物は美味ですもの、お父様とお母様も喜びますわ」

 

「そう言っていただけるならありがたいですね」

 

 

 お土産として持ってきた果物を受け取ったレイチェルは近くに居たメイドに手渡して色々と指示をし始めた。流石お嬢様……メイドに指示を出す姿とか様になってるね。

 

 さて、なんで俺が冥界でも上流階級と名高いフェニックス家に来ているかというと――目の前にいらっしゃる双子姫の片割れ、レイチェル・フェニックスから直々にご依頼が有ったからだ。昨日の夜、いきなり家のリビングに転移してきたから驚いた……マジで驚いた。だって来るとか何も聞いてなかったし普通に焦るわ。

 

 アポ無しで俺の所に来た理由は結構前に冥界中で凄く話題になっていたフェニックスとグレモリーの婚約騒動の件だ。それ自体は赤龍帝がレイチェルの兄、ハーレム思考満載だがただし妹思いというめんどくさい性格をしているライザー・フェニックスを一騎打ちで倒した事でご破談となり、両家の当主もお互いに納得しているので一応問題は無い。しかしその騒動で負った傷は深かったようで……うん、どうやら大観衆の目の前で下級悪魔、しかも悪魔になりたてだった赤龍帝に敗北した事でずっと引きこもってるらしい。確かに同じ男として同情したくもなるわ……もうすぐ手に入るはずだった女とフェニックス家としての名声、どっちも一気に無くなったんだからな。

 

 

「でも、いきなり俺の所に来た時はビックリしましたよ。あれ、俺ってフェニックス家に何かしたかなと本気で考えたぐらいに焦りました」

 

「も、申し訳ありません……アポイントメントも無しにお伺いした事はフェニックス家としてあるまじき行為だと思います。でも、そろそろ私もお姉様も、お兄様の眷属も我慢の限界でしたので……お忙しい中、本当に申し訳ないですわ」

 

 

 本当に申し訳なさそうな顔はやめてください。虐めたくなります。

 

 

「別に忙しくはないんで……いや、北欧の主神様の護衛に禍の団のテロ対応を考えたら忙しい部類に入るのか? でも今の所は特に問題無いんで気にしないでくれるとありがたいですね。フェニックスの双子姫の貴方を泣かせたと知られたら何を言われるか分かんないですし」

 

「え、えぇ。分かりましたわ……コホン、キマリス様。今回お呼びしたのは先日お話しした通りです――私の兄、ライザーを立ち直らせてください」

 

 

 そう。俺が此処に呼ばれた理由は現在引きこもりと化したライザー・フェニックスを立ち直らせてほしいとレイチェル自身からお願いされたからだ。歩きながらレイチェルは現在のライザーの様子を説明してくれたけどかなり深刻のようだ。一日中、部屋の中に引きこもってはレーティングゲームの仮想ゲームを行うか、チェスの強い領民を招いて一局するか、オナニーするという生活を繰り返してるらしい。まぁ、最後のオナニーは俺の勝手な想像だけど当たってると思う……だって男の引きこもりだぜ? するでしょ? 平家でさえしてるのにあのライザーがしないわけがない! 言葉では言えないけどな!!

 

 俺自身も噂や冥界のマスゴミ共が書いたゴシップ記事とかで大変そうだなぁってのは知ってたけどレイチェルの口ぶりからすると本当にヤバいようだ。でもさぁ、俺の所に来るのがおかしいと思うんだよね? こういうのって当事者というか婚約相手で会った先輩達がなんかするんじゃないの? しかも俺って邪龍で基本的に好き勝手やる性格だから多分、逆効果だと思うよ? もっとも原因となった婚約パーティーに双子姫から招待されたり若手悪魔の会合の時も夜空関連で迷惑かけたから断れないんだけどね。元々断る気も無いけど……なんだかんだで「混血悪魔」だからと目の敵にする奴らとは違い、普通に接してくれる子だしさ。

 

 

「あの、分かってるとは思いますけど俺の性格上、好き勝手にやるんで下手すると悪化する可能性がありますけど良いんですか?」

 

「構いませんわ。むしろそれぐらいの荒療治でなければお兄様は治りません! お母様もキマリス様ならば大丈夫、何をしても問題無いと言っていますもの! それに私達フェニックス家は不死、そう簡単には死にませんからキマリス様のお好きなようにお兄様を叩きのめしてくださいませ!」

 

『ゼハハハハハ! つまり死ぬ一歩手前まで叩きのめしても良いってわけか! 良い女だなぁ。それを分かってくれる奴が少ないってのによぉ。宿主様、こいつ眷属にしようぜ? 駒も余ってんだろう? 腐らせるよりは使った方が良いぜぇ?』

 

「アホ。んな事すれば各地で暴動が起きるわ。とりあえずやるだけやってみますよ」

 

「お、お願いいたしますわ! そ、それはそうとキマリス様……? わ、私はお姉様と違って眷属悪魔になっておりませんの。で、ですからいつでもお誘いは――い、いえ! 何でもありませんわ! この私が眷属悪魔になるわけが無いですもの!」

 

「何を当たり前のことを言ってるんですか?」

 

 

 なんか途中まで眷属にしてくださいと言う雰囲気だった気がするけどそこは空気の読める邪龍であり上級悪魔の俺様だ! 気づかなかった振りをしてスルーするぜ! もっとも仮に眷属にするとしても現在の手持ちの駒でキマリスとフェニックスは兎も角、周りの貴族悪魔達が納得する地位が無いんだよね。全てにおいて納得がされるであろう女王は夜空固定、アイツを転生できるか知らんけどとりあえず固定状態、騎士と兵士の駒に至っては論外だ。レイチェルをそんなもんで転生させたら周りから文句しか言われないから絶対に無し。まっ! そもそも俺の所に来たら不幸続きで最悪死ぬかもしれないからフェニックス卿や夫人もダメって言うだろうけどね!!

 

 

「そう言えばレイヴェル様は……あぁ、あっちに行ってるんですね」

 

「えぇ。今日はグレモリー家主催の乳龍帝おっぱいドラゴンのイベントのスタッフとしてそちらに向かっていますわ。もう凄く活き活きとしていましたからきっと楽しんでいるかと。お姉様からもキマリス様にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんわと伝えてほしいと……本当に、お呼びしたのに不在で申し訳ありませんわ」

 

「別に気にしてないんで良いですよ。恋する女の子は猪突猛進らしいですし」

 

「……そういうものですの?」

 

「そうらしいですよ?」

 

 

 平家と一緒にやったエロゲーでもそんな事言ってたしな! 多分あってるだろ!

 

 そんなこんなでライザーが住んでいる部屋に到着。長い廊下と無数の部屋で何が違うのか分からなかったが部屋の前でライザーの眷属達が呼びかけているから普通に分かった……というより言わせてほしいんだけど凄くね? 年上から年下と幅広く眷属にしてるしさぁ。ハーレムって男の夢だよなぁ……実際にすると辛いけど。ソースは現在の俺の生活な!

 

 

「か、影龍王様!」

 

「ユーベルーナ、お兄様は……まだ、ですか」

 

「はい……私達が呼びかけても無駄のようです」

 

「かなり酷い状況ってか? おーい、焼き鳥さん? 負け鳥? 引きこもり鳥? 貴方の妹の友人もどきノワール君がきましたよー、殺し合いましょー?」

 

『――か、影龍!! 影龍王だと!? な、なんのようだ、なんのようだぁぁ!!』

 

 

 気軽にノックしながら声を掛けたら悲鳴に近い返答が帰ってきた。うわぁ、これかなり重症じゃん。なんだろう……無性にトドメを指したくなってきた! ドSの血が騒いできたぜ!

 

 

「何の用だって言われてもこの可愛いレイチェルさんから引きこもったテメェを何とかしろよとお願いされたからこのクソ忙しい中、めんどくせぇのに来てやったんだぜ? そんなわけで入って良い?」

 

『は、入るなぁ! 俺は、俺は忙しいんだ!! レイチェル!! すまないが帰っても――』

 

「お邪魔しまーす……って鍵かかってやがる」

 

『人の話は最後まで聞け! ふ、ふふふ! 俺は部屋にいる時はいつも鍵を掛けているんだ! さぁ、さぁ帰ってくれぇ!!』

 

「――レイチェル?」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「扉の修理代はうちの親父に請求しといて」

 

 

 背後に影人形を生成、得意のラッシュタイムを目の前の扉に放って強引に開閉。周囲に轟音が鳴り響いてライザーの眷属はドン引き状態だがそんな事は知らん。せっかく来てやったのに帰れってのはどういう事だ? レイチェルには優しい言葉で言ったけど本当はクソ忙しいんだぜ? 自由奔放の主神様の護衛をする羽目になったしな! あと昨日のおっぱいパブに行けなかった怒りを引きこもった鳥にぶつけてやろう! 俺だって地味に行きたかったんだよぉ!

 

 

「ひ、ひいぃぃ!? お、おま、おまえぇ! なにしているんだ!!」

 

「何って扉壊しただけだけど? 大丈夫だって、修理代はこっちというかうちの親父が持つから」

 

「そんな事を言っているんじゃない!! 俺は帰れと言ったはずだ、言ったはずだぁ!」

 

「帰れって言われたら帰りたくなくなるのが悪魔の常識だろ? てか……ホントに重症のようだな」

 

 

 扉を壊して中に入った先で目にしたのは自分のベッドに入り込んで震えているライザーの姿だった。あれ? おかしいな……婚約前に見た時はかなり堂々として俺様、カッコいいだろうと言いたそうな態度だったのにどうしてこうなった? たった一回の敗北でこうなったってわけ? 嘘だぁ!

 

 

「お兄様! キマリス様が来ていただいたというのにその態度は何ですか! ほらっ……! ベッドから出てください!」

 

「せーの!」

 

「えーい!」

 

「やめろぉ! やめてくれぇ!! 」

 

 

 レイチェルと双子らしい女の子がライザーをベッドから引きはがそうと奮闘している。うーん、巨乳が揺れて元気なロリ娘が頑張ってるのを見ると胸が熱くなるな。でもなんでこんな風になってんだ? たかが一回負けた程度だろ? あぁ、そっか……俺は混血悪魔でライザーは純血悪魔だからその辺の価値観の違いか。

 

 

「えっと、確かアンタってライザーの女王だったよな?」

 

「え、えぇ……ユーベルーナと申します」

 

「そうか。んじゃ悪いけど俺とライザーの二人きりにしてくんない? 別に殺すとかしないから安心してくれ」

 

 

 俺の言葉に奮闘中だった三人と周りにいたライザーの眷属は何かを言いたそうにしながらも部屋を出て行った。それを確認してから壊した扉を影人形を変化させて影扉というべきもので塞ぎ、この部屋と廊下を遮断……よし、これでこの部屋は俺とライザーの二人きりだ。なにすっかなぁ~? 別にボコっても良いんだがここまで雑魚になり下がったフェニックスだとやる気が出ない。あとすっごく帰りたい。

 

 ライザーはベッドに潜り込み、俺はその辺にあった椅子に座る。テーブルにはチェスが置いてあって参考書っぽいのもあるから色々と作戦を考えたりしてたんだろう。なんで引きこもってんのにゲームの事を考えてんだこいつ? 素直にオナニーでもしとけよ。

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

「あん?」

 

「なんのつもりだ……俺を、俺を笑いにでも来たか? そうだよな、あれだけ偉そうにしていた俺が今ではこの様だ……笑えよ、好きなだけ笑えばいいさ」

 

「ぷ、くく、あははははははははは! ってすれば満足? 暇なら一局どう? 正直、アンタがこのまま引きこもってても俺は気にもしないし関係ないけどさぁ、アンタの妹から頼まれたんだよ……叩きのめして治してくれって。だから帰るに帰れないから壁に話すと思って色々愚痴聞かせろよ」

 

「……手加減はしないぞ」

 

「生憎、手加減されても勝てねぇよ。俺ってこういうの苦手だしな」

 

 

 反対側の席に座ったライザーは婚約パーティー前のような状態じゃなかった。髪はぼさぼさで服もだらしないって言っても良いぐらいだ。レイチェルとかが何も言ってなかったのは恐らく飯とかは引きこもりにありがちな扉の前に置くパターンだったからだろう……誰かが来た時だけきちんとした服装をしてそれ以外はこんな感じという生活の繰り返し。本当に暇人だなコイツ。

 

 

「……何故笑わない」

 

「笑う理由が無いし正直、どうでもいい」

 

「俺はお前をクソガキと言って下に見ていたんだぞ? 今の俺の姿を見てざまぁみろとか思っているだろう? 当然だ。あんな大観衆で俺は下級悪魔に負けた……混血悪魔くん、俺は――ドラゴンが怖いんだ」

 

「へぇ。ちっ、えっとこういう時は……ほいっと」

 

「今もお前と話しているだけで怖い、ドラゴンの逆鱗が怖い、何をしてくるか分からなくて怖い、圧倒的な暴力が怖い、もう……ドラゴンという単語や存在を見るだけで震えが止まらないんだよ。また俺を倒しに来るんじゃないか、嘲笑いに来るんじゃないか、奪いに来るんじゃないかと悪夢が止まらない……敗北した後の周りの視線が怖い……怖いんだよ混血悪魔くん。惨めだろう? カッコ悪いだろ?」

 

 

 チェスの駒を動かす手が震えているから言ってる事はマジのようだ。なるほど……赤龍帝の逆鱗というか先輩を取り返すという意地に負けて恐怖症にでも陥ったってわけか。上級悪魔にありがちな典型的なパターンだな。地位や名誉、生まれ持った力に過信してるから一度でも負ければ心が折れて立ち直れない……俺とゲームをしたアスタロト家の次期当主も同じようになったらしいからなぁ。なんで鍛えようとか思わないんだろうね? もしかして特訓するのがカッコ悪いとか思ってんのか? ガキだろ。鍛えないで強くなれるわけねぇじゃん。

 

 しかし……こいつ、チェス強いな? 普通に負けたんだけど。

 

 

「俺の勝ちだ……用が済んだら帰ってくれ」

 

「嫌だ。もう一回だ……マジで強すぎんだろ。勝ち逃げとか許さねぇぞ?」

 

「……仕方ないな。全く、王ならばチェスが得意であるべきだ。レーティングゲームはチェスをモチーフとしているんだ。常識だぞ?」

 

「生憎、俺はそういうのには拘んない主義なんだよ。てかグレモリー先輩とのゲーム前にも言ったはずですよ? ドラゴンの逆鱗に気を付けろって。それにたった一回負けた程度でその様は普通に笑える、すっげぇ笑える。あのさぁ……なんで負けを糧にして強くなろうって思えないんですかねぇ?」

 

「お前と俺は違うんだ! 俺は純血悪魔でお前は混血悪魔……同じ元七十二柱でもその差があるんだ! お前に、お前に俺の苦しみが分かるはずが無いだろう!」

 

「当たり前だろ? 他人なんだし。ここでお前の気持ち、よく分かるよっていう奴は馬鹿だろ? あとさぁ……帰りたくてもテメェの妹の片割れから頼まれたから帰れねぇんだよ! いい加減外に出ろよ!」

 

「ふざけるな! それが出来たら苦労はしない!! 貴様はたった一回の負けと言ったな? お前にとってはその程度でも俺達純血悪魔、貴族にとって一回の負けは重いんだ! お前に負けたのであればまだ、まだ良かったさ! なんせ影龍王で若手最強だからな! だが俺が負けたのは……悪魔になりたての弱い下級悪魔だ。どれだけ惨めで、どれだけ恥を晒したか……お前には分かるまい!」

 

「だから分かんねぇっての。あぁ、クソめんどくせぇ……あのさぁ、俺は敗北しまくって此処にいるんだぜ? 負けて負けて負け続けて……血反吐吐くんじゃねぇかって思うぐらい惨めで、恥晒して、体中の骨という骨を折って、それでも夜空に勝つために鍛え続けて此処に居る。恥晒す事の何が悪い? 惨めで何か問題ある? 下級悪魔に負けたアンタと何の力も無い人間に護られて、子供の女に窮地を助けてもらった混血悪魔。どっちが惨めでカッコ悪いと思う?」

 

 

 親父やセルス相手にどれだけボコボコにされたのか数えきれないだろう。禁手に至ってからはそう言うのが無くなったけど逆を言えば至る前までは弱かったんだ……少なくとも人間の母さんに護られて人間の夜空に助けられるぐらいに俺は弱かった。

 

 

「……それとこれとは違う。言ったはずだぞ? 俺とお前は――がはぁ!?」

 

 

 なんかもうウザくなってきたから胴体に影人形の拳を叩き込む。面白いようにくの字に身体が折れてその場に崩れ落ちたけどさぁ……フェニックスだしまだ問題ないよね?

 

 

「ウザい。本当にウザイ。もういいや……帰る。はぁ、時間の無駄だったわ。最初は兎も角、今は混血悪魔の俺でも普通に接してくるレイチェルやレイヴェルの兄だから根性あるかと思ったけど見込み違い。ホント雑魚。下級悪魔に負けるのも頷けるわ……忙しいのに時間作って来たのに無駄だったからレイチェルには色々としてもらうかねぇ? とりあえずおっぱい揉むか。単純そうだしきっと俺が文句言えば何でもしてくれんだろ」

 

「――っ!」

 

 

 真下から炎の手刀が飛んできたので影人形でそれを止める。あれあれ? さっきまで死んだも同然だったのに何でいきなり復活してるわけ? 狙ってやったとはいえシスコン過ぎないか? 気持ちは分かるけどね!! そしてやめない! やっぱり言葉で復活させるより殺し合った方が手っ取り早いんだよ! トラウマが出来たんならそれ以上のトラウマで上書きすれば良いだけだしな!

 

 

「あれあれぇ~? どうしたのライザー君? この手は何? まさか怒った? 怒っちゃった? そんなわけないよねぇ! だってたった一回の負けで引きこもったライザー君がこの程度で怒るわけないよね! うん、死ね」

 

 

 影人形のラッシュタイムを叩き込んで遠くの壁に飛ばす。威力も加減無しの全力、普通の奴ならまず死ぬだろう……でも相手はフェニックス、特性は驚異的なまでの再生能力だ。現に今も壁に激突したライザーが炎を纏いながら立ち上がってきてるし。なんだよ……ドラゴンが怖いって言う割には気絶しないで立ち上がれるじゃねぇか。それが出来るのになんで引きこもってんだよ。

 

 

「混血悪魔くん……? さっき、なんて言ったかな?」

 

「うん? あぁ、もしかしてレイチェルのおっぱい揉むで発言で怒った? 別に良いだろ? かなりの無駄足でこっちの事情を無視してまで来させられたんだからそのぐらいしても良いだろ。だって単純そうなのは変わんねぇんだし――はい残念」

 

「くぅ……! ぁっ、おま、お前ぇ! 単純と言ったか……! レイチェルが……俺の妹がお前をどれだけ慕ってるか、分かってるのかぁ!」

 

「知らん」

 

 

 再び影人形のラッシュタイムを叩き込んで壁に激突させる。なんだろう……相棒からレクチャーを受けてるけどちょっと癖になりそう! やべぇ……愉しい! すっげぇ愉しい! 相棒も良いぞ良いぞとテンション上がってるしやっぱり俺って邪龍だわ!

 

 心の中でそんな事を思っているとライザーが不死鳥のように再び立ち上がった。やっぱりフェニックスの再生能力ってチートだよな? どういう原理で服まで再生するんだろうか……俺も服まで再生させたいんだけど真似できるかな?

 

 

「俺の妹は、レイチェルはな……お前に助けられたあの日から周りに隠れて特訓してるんだ……! 貴族悪魔として相応しくないと思いながらな! それを単純と、単純と言ったか!! 俺の事はいくらでも罵るが良いさ! しかし、しかし妹の侮辱は許さん!」

 

「流石シスコン。復活キーは妹か……でもさぁ、忘れた? 俺は邪龍を宿してる混血悪魔だぜ? 好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に死んでいくを信条としてる頭のおかしい存在だ。立ち上がるのは勝手だが俺に勝てないんじゃ――あの単純娘の処女、貰うぜ?」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 

 炎を纏って突進してきたので即座に転移魔法陣を展開、俺とライザーを部屋の外……もっと言ってしまえばフェニックス家の上空に転移する。殺し合いするんならあんな狭い場所じゃなくて広い場所が良いしな! さてフェニックスとの殺し合い……楽しみだなぁ! 下種キャラ演じて良かったぁ!!

 

 

「家の外……そうか、最初からそのつもりだったか混血悪魔くん!」

 

「あの部屋で殺し合うより広い方が良いだろ? さて――矮小な存在のテメェがどこまでやれるか楽しみだ。せめて鎧を纏わせてくれよ?」

 

「――良いだろう! 引きこもったとはいえ俺はライザー・フェニックス! 鳳凰、不死鳥と称された悪魔だ!! 受けるが良い!! 我が一族の業火を!!」

 

 

 飛んでくる灼熱の炎をその場から動かずに影人形のラッシュで吹き飛ばす。威力もそこそこで確かに下級ドラゴンの鱗ぐらいは削れるな。でも影人形の防御を突破するには足りねぇよ……それはそうとフェニックス家の翼って俺達のようなコウモリの翼じゃなくて炎の翼なんだよなぁ。なんか特別っぽくてズルいというかなんというか……あら? 騒ぎに気づいたのかレイチェルとライザーの眷属が庭っぽい所に集まってるな。よし! そこにライザーを叩き落すか!

 

 影人形を操作して火の鳥のように空を飛翔するライザーを捕らえてラッシュを放ち、地面に叩き落とす。いくら空を飛ぶのに慣れてても俺の影人形からは逃れられないって知っとけ……いやぁ、楽しい!

 

 

「お兄様!」

 

「ライザーさま!!」

 

「来るな! 流石、若手最強と称される影龍王……! 一撃一撃が重い、重すぎる!」

 

「そりゃ夜空と殺し合いしてるしねぇ。それぐらい無いとあの規格外はダメージ受けないんだよ。ついでに知ってるかどうか分かんねぇけどこの前、テメェをボコった赤龍帝を倒してるんだよね。自慢になるか分かんねぇけど一応言っておくわ――お前、弱いわ」

 

「……あぁ、あぁそうだろうさ。俺は、下級悪魔に負けるような男さ」

 

 

 地面に落ちたライザーは立ち上がる。その姿、その目は先ほどまでとは比べ物にならないほど強いものだ。これさぁ、もう依頼完了で良いんじゃね? ここまでなったらもう大丈夫だろ!

 

 

「たった一回の敗北で心が折れて、引きこもっていた惨めな男……しかしだ……! 俺は! 妹が侮辱されて怒らないほど腑抜けてはいない! それが上手くお前の口車に乗せられたとしてもだ! 混血悪魔くん――不死鳥と称された我が一族の特性を思う存分味合わせてやろう!」

 

「――へぇ。だったらやってみろよ()()悪魔。ちょうど俺もフェニックスの再生能力の謎を解明したかったんだ。かなり粘ってくれよ?」

 

「良いだろう! 見ているが良いレイチェル! 眷属共! これが、これがライザー・フェニックスが復活した証! その業火よ!!」

 

「お兄様!!」

 

「レイチェル……この兄の雄姿を見ているが良い!! 混血悪魔くん! 妹は渡さん!!」

 

 

 この日、フェニックス領の上空で灼熱の花火が上がった。何度も殴っては再生、再生しては殴られを繰り返したライザーだったがその姿は府抜けていたとは思えないものだった。とりあえず逃げれないようにして影人形二体によるダブルラッシュタイムで普通に勝ったけどなんだかんだで楽しかったよ。俺って地味に自分と同じ再生能力持ちと戦った経験が少ないから良い経験だったしフェニックスの再生能力の力を何度も経験したおかげで影龍王の再生鎧の再生能力に変化を加えられそうだしね。

 

 死闘もどきが終わるとレイチェルや何時の間にか現れたフェニックス夫人からお礼を言われて何故か夕食に招待されたけど……居心地悪かった。だってフェニックス夫人が「うちのレイチェルはレイヴェルと違って誰の眷属でも無いわよ」と遠回しに眷属入りを進めてきたからすっごくめんどくさかった! おい、フェニックス家大丈夫か? 混血悪魔の眷属に娘を加えようとか正気の沙汰じゃねぇぞ?

 

 まぁ、そんな事が有ったけど――無事にライザー・フェニックスはドラゴン恐怖症やら引きこもりは治ったようだ。何でも赤龍帝にリベンジをして先輩の巨乳を揉むとか言ってたけど……覇龍化すると思うんでやめた方が良いぞ? あとどうでも良い話だが親父からフェニックス家で何をしたのという電話が来たが……何をしたんだろうな?




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46話

「毎回思うんですけど……王様って自分の言いたいことをハッキリと言いますよね?」

 

「おう。なんか問題あるか?」

 

「いや……有ると言うか個人的に凄いなぁとか思ってるだけっすけど今回はやりすぎなんじゃないっすか? グレモリーとかいっちぃとかあっちの眷属全員が何か言いたそうでしたよ? 王様の言ってる事には同意しかできねぇっすけど」

 

「だろ? それに言い返せないのは心のどこかで同じことを思ってた証拠、それに俺が言わなかったら何時まで経っても治らねぇと思うぞ? グレモリー先輩達はお優しいからな」

 

 

 時刻は深夜、場所は日本のどこかの上空。背中に悪魔の翼を広げて飛行中の俺と同じように並んで飛んでいる犬月が若干呆れ気味の表情で話しかけてきた。現在俺達は日本に来日した北欧の主神、オーディンの護衛という仕事の真っ最中で俺と犬月の他にはイケメン君(木場裕斗)転生天使(紫藤イリナ)とバラキエルが主神様が乗る馬車の周りを警備している。スレイプニルと呼ばれる馬が引く馬車の中には主神様とヴァルキリーちゃん、アザゼル、グレモリー先輩に赤龍帝、シスターちゃんと橘が乗っているが恐らくエロジジイな主神様のセクハラ攻撃でも受けてる事だろう。うちの癒し枠に手を出したら殺すとして……先ほどの犬月の言葉だが誰だって言うと思うぞ?

 

 

「だからって面と向かって「お前、ウザいから来るな」は言い過ぎなんじゃないっすか? きっとしほりん、あの馬車の中で平謝り状態っすよ?」

 

「だってウザかったのは本当なんだから仕方がないだろ。バラキエルが居る前でいうのはあれだがお前だってここ数日の姫島先輩がウザいと心のどっかで思ってただろ?」

 

「……いや、まぁ、はい。護衛中も心ここにあらずで真面目になってんのかやる気ねぇのか分かんなくてイライラはしましたよ? でも流石にハッキリとは言えねぇっすよ!? もう王様の言葉を聞いた時はうわぁって思いました。ついでに流石王様とも」

 

「なんせ俺だしな。てか珍しく俺達……あの平家ですら嫌々だがやる気出してるのに一人だけボケーと何考えてんのか分かんねぇ行動してたしさ、そんな状態が続くんならここに居る意味ねぇだろ。ついでに言うと平家経由で姫島先輩が抱えている心の闇関連全部知ってるけどさ――逆恨みに同情しろとか無理」

 

「言っちゃダメ!! 少なくともグレモリーとかバラキエルがいない所で言ってください!!」

 

 

 いやいや無理無理。だって本当に逆恨みにしか思えないんだもん。

 

 主神様が来日して今日まで数日間、グレモリー先輩達と協力して護衛をしている中で姫島先輩だけが俺や犬月の言葉通り、やる気があるのか無いのか分からない態度だった。今まであらあらうふふみたいな感じだがどういうわけかバラキエルと出会ってから様子が激変したので気になったから平家に心を読ませたら予想通りの不幸でした。姫島という古くから異形を相手にして日本を護ってきた由緒正しき家柄の血と堕天使勢力の幹部、神の雷とまで称されたバラキエルの血を受け継いで生まれたのが姫島先輩。こんな事は言いたくないが俺と似たようなもんだな……元七十二柱のキマリスの血と普通の人間の間に生まれてるんだし。そんなどうでも良い事は置いておいて姫島先輩も不幸だよなぁ――血を重んじる自分の家の奴らに襲われて母親殺されたんだもん。平家経由だから誤差があるかもしれないがここまで来ると悲劇のヒロインと言ってもいいだろう……俺的には馬鹿としか言えないけど。なんで助けに来たバラキエル(父親)に母親が殺された理由を全部押し付けて逃げ出すかねぇ? 一人で生きていけるとでも思ったんだったら馬鹿としか言えねぇし普通に考えても無理だろ。堕天使と人間という混血ともなれば悪魔陣営に見つかれば死ぬ、天使陣営に見つかれば死ぬ、人間()に見つかればあの容姿だ……きっとAVデビューしてただろう。つまりどう考えても堕天使陣営に居れば身の安全は保証されるし強くなれる可能性が高いんだよ。まぁ、気持ちは分かるよ? 目の前で母親が死んだのは傍に居なかったアンタのせいだと批難したくなる気持ちも分かる――理解したくねぇけど。

 

 そもそも俺だってキマリス家に殺されかけて母親が血だらけになり足が吹っ飛ぶ姿を目の当たりにしましたけど? 神滅具が覚醒してなければ死んでましたけど? 親父がやってきたのは夜空が襲撃者を抹殺し終わってからですけどぉ? そのおかげで俺は自分の馬鹿さ加減と弱さに気が付くことが出来たし相棒と夜空に出会えたから今考えれば起きて良かったとも言える。ついでに言わせてもらうと遅れてきた親父を恨む気すらねぇよ……。強くなるためには一番必要な奴だし……あとまぁ、悔しいとか悲しいとかいう感情は同じだし出来るわけがない。

 

 

「あのなぁ……襲ってきたのは自分の実家、父親は全速力で駆けつけて襲撃者撃退、それでなんで親が批難されるんだって話だ。ガキの頃なら兎も角、もう高校三年だぜ? 違和感ぐらい起きても良いのに全然意志を変えずに恨み続けてんだぞ……ウザいにもほどがある。昔の自分を見てるようですっげぇ腹が立つ」

 

「……あのぉ、まさかそのイライラを発散するために言ったんすか?」

 

「うん」

 

「やっぱり頭おかしぃ!!」

 

 

 犬月が頭を抱えて叫びだしたけど俺的には感謝してほしいんだけどねぇ。周りからキミが正しい、悪いのはあっちだと同情で悲劇のヒロインとして君臨してたのをやめさせようとしたんだしさ。この話とは関係ないが何日か前に一回だけアザゼルが審判をして俺とバラキエルで模擬戦をしたが――強かった。雷光というのはこういう物なのかって思えるぐらいワクワクドキドキした! 接近戦での殴り合い、影人形と雷光のぶつかり合い、流石幹部だって思えるぐらい強かった!! その娘の姫島先輩もこれぐらい強くなるんだろうなぁって考えてたらあの有様だよ。だから珍しく俺が真面目に、そして姫島先輩を自覚させようと頑張った(文句を言った)結果、なんか地味に先輩達がキレかけました。えぇ……マジで? いやいやお前らどんだけ甘いんだよ。

 

 そんな事を思いながら馬車を護衛していると目の前に見慣れない男が現れた。最初から居たわけじゃない……いきなり転移してきて俺達を、いや馬車を見つめている。黒を基調としたローブに目つきが鋭い男、纏うオーラには魔力とも光力とも違うモノで――強いと思わざるを得ないほどの奴だ。

 

 

「――アンタ、神か?」

 

「如何にも。我が名はロキ! 悪神と称される者なり!」

 

 

 影龍王の再生鎧を身に纏い、馬車の目の前に立ってスレイプニルの歩みを止めさせながら現れた男に問いかけると予想通りの返答が帰ってきた。北欧の神の一柱にして神や魔王、ドラゴンでさえ殺せる神喰狼(フェンリル)を従えている事で有名な悪神ロキが目の前にいる……たしか北欧は魔術、魔法に秀でたはずだ。最悪な事に魔法使いとの殺し合いはあまり経験してねぇから殆どぶっつけ本番で殺し合うことになるか……!

 

 

「これはこれはロキ殿。初めましてかな? 堕天使の頭をやってるアザゼルってんだ。さてどうでも良い挨拶はこの辺にして……何の用だ? この馬車に北欧の主神、ロキ殿もご存じのオーディンが乗っている事は知っての行動か?」

 

「その問いにはYesと答えよう。なに、我らが神話体系を抜け出しただけでは飽き足らず、他所の神話体系と手を組み和平を築こうとする主神殿に一言申したくてな!」

 

「よく言うぜ。ここ数日間、変な虫を飛ばして監視してたくせによ……あれ潰すのめんどくさかったんだぜ?」

 

「我が生み出した玩具を潰していたのは貴殿か。なるほど……その顔は影龍王だな? 中々の邪悪さだ。そのオーラの密度は我ら神に近づきつつある。大変危険な存在だ」

 

「へぇ。神に褒められるのも悪くねぇな……んで? 危険な存在だったらなんなんだ?」

 

「主神殿の言葉次第ではこの場に神喰狼を呼ぼう。我一人ではこの人数に加えて赤龍帝と影龍王を相手にするのは骨が折れる」

 

 

 馬車から飛び出して戦闘態勢に入っている先輩達の表情が変わる。そりゃそうだ……神を殺せる魔物をこの場に呼ぶって言ったら誰だってそんな顔になる。あのアザゼルでさえ表情を変えてるしな! 流石の俺も犬月と橘がいる状況でフェンリルと殺し合いはしたくねぇな……! 一人だったら喜んで呼んでほしいけどね!!

 

 

「……おいおい、正気か? その言葉は「主神を殺す」と言ってるようなもんだぜ?」

 

「どのような解釈をしようと構わん。さてオーディン、我らが神話体系を抜け出して何をするつもりだ? まさか本気で同盟を、和平を結ぼうと考えているわけではあるまいな?」

 

「ほっほっほ。ロキよ……その問いにはYesと返そうかのぉ。これから先は若者が築いていく番、年老いたわしに出来るのはその土台作りだけじゃしな。サーゼクスやアザゼルと共にそれをしていくのも悪くないと思っておるわ。ロキ、この言葉で満足か?」

 

「――認識した。愚かだと言っておくぞオーディン! 宣言通りこの場に呼ぼう! 我が愛しきむす――」

 

 

 マントを広げ、何かを呼び出そうとした悪神を殴る。しかし俺の拳は幾重に展開された魔法陣で阻まれ、傷一つすら付ける事は出来なかった……なんだこれ? 能力の効きが薄い? はぁ!? マジかよ……!

 

 

「危ない危ない。流石影龍王だ! 我の一瞬の油断を見逃さないとは恐れ入る! しかしもう遅い!! 愛しき息子よ! その牙で龍を喰らえ!!」

 

 

 俺の身体が硬直する。濃厚であり、死という概念そのものと言える殺気が俺を射貫いたからだ。何が来たか確認するために真上を見上げると俺の視界に広がったのは口を開き、牙を見せつけている灰色の狼。剣と表現できる牙で俺の体に噛みつくと全身に強い痛みが走る……夜空の光で吹き飛ばされるよりも強く、ロンギヌススマッシャーの熱さよりも熱い。純粋な痛みと熱さが俺の体を支配する。やっべぇ……! 想像してたよりもかなりイテェ!? 逃げる事は困難だし影人形を生み出そうにもこの痛みのせいで生成から操作が出来そうにない。噂で聞いていた神殺しの牙がここまでの威力とは思わなかった……! どうする……このままだと失血死でお陀仏だ! 再生能力持ちと言っても欠損しないと――あぁ、そうかその手が有った。逆転の発想をすれば簡単だな……!

 

 

「ぐぅ、ぁ、あぁっ……いってぇ……!」

 

「ほう。まだ生きているか……噂通り不死身なのだな!」

 

「王様!?」

 

「悪魔さん!?」

 

「近づくな! フェンリルに近づけば死ぬぞ! キマリスだから生きてるようなもんだ!! お前らが出れば……確実に殺される!」

 

「だからって黒井を放って置けるわけないだろ!?」

 

『相棒!! 奴に手を出すな! フェンリルは全盛期の俺達二天龍や地双龍クラスの化け物だ! 今の相棒が飛び出した所で意味などない! 待っているのは死だ!』

 

「それじゃあどうすんだよ!? あのままじゃ黒井が!!」

 

「――うるせぇ、気を、抜くんじゃねぇよ!!」

 

 

 騒ぎ出した奴らに文句を言いながら噛みついているフェンリルの顔と顎を掴み――その牙を体に食い込ませる。ぶちゅやらぐちょと言う肉が千切れる音を耳元で聞くのは背筋が凍るし気持ち悪い……あと痛い、マジで痛い、冗談抜きで痛い! でもこうしないと俺が死ぬからやらないとダメなんだよな!! ついでに言わせてもらうと痛いのは慣れてんだよ!!

 

 

「っ、まさか!!」

 

「おせぇ、よ!!」

 

 

 フェンリルの顔を思いっきり叩いて俺の体を噛み切ってもらう。下手に逃げようとするから辛いだけで観念して噛み切ってもらえば脱出は簡単だ。欠損部分に影を集めて即座に再生、フェンリルの口の中に入った影を利用して口を開けないようにする。さてと……よくもこの俺を、影龍王に噛みついてきやがったな!!

 

 

「今度はこっちの番だ!! シャドールゥ!!!」

 

 

 やられたら倍返しでやり返す! それが俺と相棒の戦い方だ!

 

 無限に影を生み出してフェンリルの頭、胴体、足を拘束。そして周囲には数十の影人形を生成し逃げようと暴れるフェンリルを俺と影人形で押さえつけて逃げられないようにした後はお楽しみの時間だ! 残った影人形全員によるラッシュタイム! 全力も全力、殺す気で十メートルを超す巨体に拳を叩き込んでいく。たとえ神を殺せる魔物と言えど生き物には違いない! それに仮に一発一発が弱くとも無数とも言える拳を叩き込まれれば少しはダメージが入るだろ!!

 

 

「貴様! 我が愛しき息子に――ちぃ! 赤龍帝!! 堕天使風情がぁ!!」

 

「フェンリルって奴は無理でもお前は別だ! 俺も黙って見てるわけにはいかねぇんだよ!!」

 

「よく言ったイッセー! キマリス! 何時までフェンリルを抑えられる!?」

 

「悪いが数分だ!! こいつ、ラッシュが効いてねぇ!!」

 

 

 数十体の影人形のラッシュタイムを受けても骨すら折れないってどんな体してんだこいつ!? 流石天龍や双龍クラスの化け物か……というより俺ってここまで弱かった事にビックリだよ! クソが! マジでさっさと悪神を倒せ!!

 

 視界の端で鎧を纏った赤龍帝とアザゼル、バラキエルにヴァルキリーちゃんが悪神を攻撃しているが障壁に阻まれて思ったようにダメージを与えられていないようだ。遠距離攻撃が可能な先輩と橘が俺の方を見る――あぁ、それで良い!! 遠慮なんかしなくて良いからさっさとやりやがれ!!

 

 

「キマリス君! お願い、耐えてちょうだい!!」

 

「ごめんなさい悪魔さん! 本気で行きます!」

 

「安心しろ! 不死身のノワール君だ! テメェらの攻撃程度で死んでたら此処には居ねぇよ!!」

 

 

 先輩と橘がそれぞれ消滅の魔力と破魔の霊力を放ってくる。必死にフェンリルを抑えている俺を巻き込む可能性があるほどの威力とデカさだがこの際気にしねぇ! むしろよく判断したと褒めてぇよ!!

 

 赤い魔力と白い霊力がフェンリルの体に当たるがどうやら効果が薄いらしい……マジで? 先輩は兎も角、橘の破魔の霊力ですら無意味ですか!

 

 

「妖魔犬!! そしてぇ! 王様直伝のラッシュタイム!! ってかってぇ!?」

 

「当たり前だ!! くそこの! 犬月! ケツ狙え! 一番効果的な場所ぐらい分かるだろ!!」

 

「うえぇ!? それは影人形でやってくださいよ!?」

 

「俺がこの状態だってのを見て察しろ!!」

 

「デスヨネ!」

 

 

 そんなやり取りを聞いたからかフェンリルの動きが激しくなり、抑えていた影人形を吹き飛ばす。そして鋭利な爪で俺を引き裂いて離脱……流石の魔物もケツは嫌だってか? 俺も嫌だし当然か。てかいてぇ……! 普通に肉抉れてヤバいんだけど!! ここまで死にかけるって夜空以来か――あは、あははははは! たのしぃ! やっべぇ楽しい!!

 

 

「王様!? なんか、おもいっきり血が出てますけど大丈夫すか?」

 

「問題ねぇよ! 犬月! 橘達を連れて下がれ――今からこの駄犬を躾ける」

 

「うっす!」

 

「さてと……我、目覚めるは。自らの大欲を神により封じられし地双龍なり。無限を断ち、無限を望む」

 

「その呪文は覇龍か! フェンリル!」

 

 

 濃厚な殺意が俺――ではなく犬月達の方に向けられる。やはりな……呪文を唱えれば必ず俺以外を攻撃すると思ったよ。何故なら俺を攻撃したところで止まらない。だから別の相手にフェンリルの意識を向けさせれば覇龍の呪文を止めて動き出すとでも考えたんだろう……半分正解だ。流石に犬月達にこの化け物を向かわせたらアイツらは普通に死ぬし俺も見捨てられずに動き出すさ! でもな――残念だったな!!

 

 

『Half Dimension!!!』

 

 

 俺と赤龍帝以外からの機械音声が周囲に響き、俺の目の前にいたフェンリルが空間の歪みに捕らわれる。ふぅ、ナイスタイミングだよヴァーリ。流石に俺一人じゃ無理だったし来てくれて助かったぜ。

 

 

「サンキュー、ヴァーリ」

 

「気にしないでくれ。しかし長くは持ちそうにないぞ」

 

「だろうな」

 

 

 俺の真横に真っ白の全身鎧を身に纏ったヴァーリと雲のようなものに乗っている美猴が現れる。なんでも半分にする広範囲技でフェンリルを捕えたようだがものの数分で外へ逃げ出してロキの隣へと移動しやがった。多分、俺のシャドーラビリンスも似たような感じになるな……これがフェンリル、神や魔王、ドラゴンが恐れた怪物かよ!

 

 

「――白龍皇か。まさかこれほどの存在が揃う瞬間を目にするとは思わなかった」

 

「貴殿を屠りに来た白龍皇、ヴァーリ・ルシファーだ。この戦いに参加させてもらおう」

 

「ヴァーリ……いや、良いタイミングだ! イッセーにキマリス、ヴァーリが揃ったならば勝ち目が見えてきたぜ! ヴァーリ! 何で来たとは聞かねぇから手伝え!」

 

「流石だよアザゼル。安心しろ、俺もそのつもりで来た」

 

「なるほど……我という神を相手に天龍、双龍が力を合わせるか! であれば残った光龍妃も姿を現すのも時間の問題、ふむ、引こう。しかしこの国の神々との会談の日! 再び黄昏を起こす! オーディン! 天龍に双龍よ! 次こそ我と我が子フェンリルが葬ってやろう!」

 

 

 それを言い残して悪神とフェンリルは姿を消し、それを見届けた瞬間……どっと疲れが体を支配する。マジで無理……痛い、死ぬ、死ぬ……! 夜空以上にヤベェよあんなの!! 体格は俺よりもはるかに上、攻撃力と耐久力も上、一撃貰えば大抵の奴らは即死……うわぁ、なんてもん従えてんだよあの野郎!! 噛み砕かれた時なんて本気で死にかけたわ!!

 

 悪神ロキの襲撃という大事件のため一度、駒王学園へと戻る事になった。フェンリルと戦った俺は休息も兼ねて馬車内に入れられる事になったけど大丈夫なんだよなぁ。悪神が居なくなった後で首を斬り落として再生したから噛まれたり爪で引き裂かれた傷も全快状態! 周りからドン引きされたけど! ヴァルキリーちゃんなんて唖然としてたけど! でも俺は気にしない! そんな状態だってのにお優しい皆さまは馬車に乗れとの一点張りで仕方がなく乗っている状態だ。一緒に乗っているシスターちゃんは回復した方がと何度も言ってきてるけどお断りしてます――いや、その、先のゲームでボコった張本人だから素直に受けるには、ねぇ!!

 

 

「悪魔さん! アーシアさんの回復を受けてください!」

 

「いやあの、再生したから問題ねぇぞ? というより鎧の下は全裸だから……あぁ、そうか橘、見たいのか? 言ってくれればこの鍛えられた肉体美を――ハイスイマセン冗談です。てか冗談抜きで問題ねぇんだよ。だからシスターちゃんも気にするな」

 

「相変わらず出鱈目だねぇ。あのフェンリルと渡り合うなんざ若手の奴じゃ無理だ。そう言う次元じゃねぇしな。どうだった? 二天龍、地双龍を殺せる可能性がある魔物と戦った感想は?」

 

「……正直に言うと自分の弱さを実感した。今までの夜空との殺し合いが遊びに思えるぐらいにな。あれよりも強い神はマジで化けもんだわ」

 

「そうだな。フェンリルはオーフィス、グレートレッドを除いても最強格の一体だろう。封印される前の天龍、双龍ならばまだ太刀打ちが可能だが今のお前達じゃ普通に死ぬ……まぁ、お前さんの場合はどういうわけか再生能力があるから死にはしないだろうがな。そもそもあれを相手に数分以上も抑えられるのが異常だよ」

 

「相棒の性質は盾、あれぐらいは出来るさ……もっともほぼ全力と言っても良いぐらい力を出しても遊ばれたけどな」

 

 

 夏休み中に強くなったとはいえまだまだ世界は広いな。悪神も何故か能力が効きにくかったし……まずはその辺をどうするべきかねぇ? それか別の方面から攻めてみるのも手か。よし! とりあえず北欧の魔術を覚えよう! 悪神もヴァルキリーちゃんも見慣れない術で防御してたから防御系統が存在してる事は明白だ。まずはそれを片っ端から覚えて影人形に反映させてみよう。

 

 

「それにしても俺ごと攻撃とは驚きましたよ。前とは違って甘さが抜けました?」

 

「……どうかしらね。フェンリルと向かい合った時、私は死を覚悟したわ。今でも凄く怖い……キマリス君のように正面から挑めと言われたら嫌と答えれるぐらいよ。あの時もキマリス君が抑えていてくれたから動けたけれど今度も同じように出来るかは……分からないわ」

 

「それが普通ですよ。でも助かりました。あの時、俺ごと攻撃してくれなかったらフェンリルをあそこまで抑えれなかったですし」

 

「そう言ってもらえるなら……頑張った甲斐があるわ」

 

 

 そんな事を話していると駒王学園に到着した。馬車を降りて外に出ると鎧を解いたヴァーリが美猴と黒猫ちゃん、そして別のイケメンを引き連れて俺達の所まで近づいてくる。歩く仕草といい、月明かりに反射する銀髪といい、マジでイケメンだな。羨ましい! なんだよあの美男美女集団! アイドルとしてやっていけるぞ!!

 

 

「やっほ~影龍王ちん、聞いたよぉ~フェンリルに噛まれちゃったんだって? 痛くない? 舐めてあげよっか?」

 

「マジで? いやぁ、実は首切断して再生したんだが痛みがあるんだよ。是非たの、頼む! ちなみにこの鎧の下は全裸だぜ!」

 

「言い切った!?」

 

「悪魔さん?」

 

 いや橘様? 冗談です冗談。この俺様がこんなエロい黒猫ちゃん相手に舐めてもらおうとか思うわけないじゃねぇか! 舐めてもらうなら夜空の方が良いわ!!

 

 

「冗談だ。流石にそんな事言える体力じゃねぇわ」

 

「あらざんね~ん。私、この和服の下は全裸よ? ノーブラノーパンにゃ♪」

 

「……犬月、我らがしほりんは?」

 

「怒っております。凄く怒っております。笑顔が眩しいぐらいに怒っておりますです。しかし王様……誰っすかこの女の子? ノーブラノーパン公言するエロ満載なこの人は誰っすか?」

 

「此処に居ない白髪ロリの実姉だってさ」

 

「――え? あのロリの姉がこの素敵巨乳のこの人っすか? うっそだぁ! いやいやありえねぇって! 格差有り過ぎっでしょ!」

 

「いやいやマジだって。どう考えても遺伝子が姉に取られてるとしか言えねぇけどマジで白髪ロリの姉らしいぞ。体型は似てないけどな」

 

「つるぺたと巨乳っすよね。これが胸囲の格差社会っすか……マジで姉妹でも差があるんすね」

 

「お前ら……小猫ちゃんが聞いてたらぶん殴られるぞ!?」

 

 

 だってロリと美女だぞ? 誰だって普通に思うわ。

 

 ちなみにもう一人のイケメンメガネはアーサーという名前で聖剣の王様と称される聖王剣コールブラントを持ってるそうだ。なんでそんな代物を持ってる奴がテロリスト側に居るんだよ? おかしくね?

 

 

「まぁ、色々言いたい事はあるけどさ。ヴァーリ、協力してくれるって事で良いんだな?」

 

「あぁ。流石の俺もロキとフェンリルを同時に相手は出来そうにない。しかし影龍王、そして兵藤一誠、キミ達が居るならば話は別だ――天龍と双龍、ドラゴンの中でも最上位に位置する俺達が手を組めば倒せるだろう」

 

 

 周りもかなり驚いた様子だ。そりゃそうだよなぁ……だって二天龍が協力して悪神を倒そうって言ってるようなもんだし。てか夜空の奴、どこに居んだ? さっきの戦いでも出てこなかったし悪神も手を組んでいるわけでもなさそうだ。マジで何やってんだアイツ?

 

 夜空の行動が気になるが……今はフェンリルをぶっ殺す事だけを考えるか。アイツの性格的にどうせ当日になったら来るだろ。




全盛期フェンリルは……ヤバイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47話

「ヴァーリ、マジで共闘する気か? うーん……今はオムライスの気分だな」

 

 

 手元にあるメニュー、そこに張られている実物の写真を見てみたがかなり美味そうだ。他にも美味そうなものが有るがやっぱり家庭の味であるオムライス一択しかねぇな! うんそうしよう!

 

 

「当然だ。不服かい?」

 

「んなわけあるか。悪神とフェンリルを相手にする上、夜空の乱入を考えねぇとダメなんだぞ? 天才のルシファー様の力をお借りしたいですよーだ。そんで注文なにすんだよ? なんでもアザゼルが奢ってくれるらしいから好きなもん食っていいみたいだぞ」

 

「そうだな。ふむ、ラーメンは無いか……ならばチャーハンを頼もうか」

 

「相変わらず麺好きだねぇ。んじゃおじさんはナポリタンにでもしようかねぇ。お前達は何にする? 安心しろ、ここは俺のおごりだ」

 

「……先生、ちょっとだけ言わせてください――なんで飯食おうとしてんの!?」

 

 

 赤龍帝のツッコミが周囲に響き渡る。おいおい、いくら貸し切りとはいえ店の中で大声はダメだろ? そもそも此処に来る前にアザゼルから北欧の悪神とフェンリルの対処について話し合うって言われたはずだが……? まぁ、もし聞き逃してたんなら普通に話し合うより飯を食いながらの方が案とかその辺が思い浮かぶもんだから別に良いだろ。

 

 現在、俺達が居る場所はセラフォルー様が経営しているそこそこ人気のレストラン。なんと俺達のためだけの本日は貸し切り状態で仲良くご飯を食べながら対策を練ってほしいとの事だ……なんというかもっと別の所で力を貸してくれませんかねぇ? タダ飯を食えるから文句は言えないがいきなりアザゼルに連れられた来た時はマジかと思ったぞ。けどまぁ、内装とかスタッフのレベルが高くてもう満足です! 文句は無いです! いやぁ……ミニスカで見える太ももとか素晴らしいと思います! ちなみにこの場所には俺達キマリス眷属全員、グレモリー眷属全員、シトリー眷属全員、アザゼルとバラキエル、転生天使、そしてヴァーリ達が集まっている……なんだこの集団? 大抵の奴なら軽く殺しに行ける戦力じゃねぇか。そんな奴らが各テーブルに分かれて仲良く食事とは凄い状況だ――若干一人(平家)は人口密度の高さに死にかけてるけど。

 

 

「クソ真面目に集まって話し合うより飯食いながらの方が楽だろ? 俺は兎も角、先輩や生徒会長はヴァーリの協力には地味に反対っぽいですしここで仲良くしといた方が当日、変な事にならなくて済むと思うぞ」

 

「いや……だって禍の団だぞ!? それがいきなり協力とか言われて信じられるわけないだろ!」

 

「俺は別に断ってくれても構わない。その時は強引にでも介入させてもらうだけさ」

 

 

 つまり断ったら第三勢力として俺達と神を相手にするぞって意味だな? 知ってた!

 

 

「――まっ、そういうわけで仲良く共闘した方がかなり楽だぜ。そもそも悪神はどうでも良いとしてフェンリルを相手にするんだ、敵だろうが手伝ってくれるんなら受け入れるべきだろ? そう思いませんか、生徒会長?」

 

 

 隣のテーブルでグレモリー先輩と姫島先輩、副会長と一緒に座っている生徒会長へと視線を向けながら訪ねてみる。この状況にやや困惑している様子だが何とか冷静を保とうとしているのが凄く可愛い。写メ撮りたい。ちなみに俺達のテーブルには俺、ヴァーリ、アザゼル、赤龍帝、匙君な! 天龍に双龍に龍王に堕天使の総督という素晴らしい集団です! そしてイケメン揃い――死ねばいいのに! 特に銀髪イケメンの尻龍皇!

 

 

「……えぇ。本来であれば天龍、双龍レベルと称されるフェンリル、北欧の神であるロキを相手にするこの状況で共闘を申し出ていただいた事には感謝したいと思っています。しかし……彼らは禍の団です。私達が戦っている相手でありテロリスト、もしこちらを裏切る事態になれば困ります――と言うべきでしょうがまぁ、この事態ですし生存率を上げるためにも受け入れる覚悟です。それにリアスが認めているのならば私も認めないわけにはいきませんよ」

 

「あれマジで……? どうしたんですか先輩? 何か悪いものでも食べました?」

 

「食べてないわよ! 私も色々と考えて白龍皇の協力を受け入れた方がイッセー達が死ぬ確立が低くなると判断したまでよ。これは遊びじゃなくて殺し合い……でしょ?」

 

「ほう。少し見ない間に変わったようだ。影龍王の影響かな?」

 

「知らねぇよ。というわけだ、赤龍帝や匙君も文句ねぇな?」

 

「……ま、まぁ部長が決めたんなら従うけど、でも! もし裏切ったら一発殴るからな!!」

 

「俺はほら、裏方だから最初っから文句なんてねぇって……ただ、会長に危害を加えたら兵藤と一緒に殴りに行かせてもらうけどな! あと黒井! ちょっとだけ言わせてほしい事がある!」

 

「構わない。当たればの話だがね」

 

「当たらなければどうという事は無いってか? んで匙君? どうした?」

 

「――なんで俺はこのテーブルなんだよ!? 普通に会長と一緒の席に! いやむしろシトリー眷属のテーブルに行かせてくれ!!」

 

「うん。無理」

 

 

 俺の一言に匙君は燃え尽きたようテーブルに突っ伏した。いやいやこんな面白い……うん面白い状況で一人だけ仲間外れとかダメだろドラゴン的に! 赤龍帝に白龍皇、影龍王に龍王が勢揃いだぜ? 一カ所に集めたくなるだろ!! これに関してはアザゼルも同じ事を考えていたのか他は眷属ごとに分かれているのにこのテーブルだけドラゴンを宿す者だけで構成されてるしな。

 

 てか平家の奴……生きてるか? さっきからミニスカミニスカ太もも太ももうわっパンツ見てぇとか思ってんのにツッコミが飛んでこないんだが? いや、飛んで来たらそれはそれでめんどくさいから良いんだけども。

 

 

「折角、二天龍と地双龍、そして龍王が揃ってんだ。一カ所に集めたくなるだろ? そしてお前には今回の戦いで最前線――つまりイッセーやヴァーリ、キマリスと共に戦ってもらうから今の内に仲良くしとけ」

 

「……え、ええぇっ!? いやいやいやいや!? 俺、俺って普通の転生悪魔!! 禁手にも至ってない普通の転生悪魔ですよ!? 無理! 無理ですって!!」

 

「安心しろ。戦うって言ってもイッセーとヴァーリのサポートだ。それにソーナからは許可をもらってるから断れねぇぜ。そんでキマリス……物は相談なんだがちっと手伝ってくれ」

 

「……あぁ、もしかして前に生徒会長が言ってたヴリトラ系神器の移植ですか? 別に手伝うのは良いですけど当日までに禁手に至らせれるかどうかは分かんないぞ」

 

「いや、お前に頼みたいのはヴリトラの意識を表に出す作業をしてもらいたい。イッセーやヴァーリでも構わないが同じ邪龍であり地双龍を宿すお前の方がすんなりいくかもしれん」

 

 

 なるほど……確かにドライグとアルビオンは邪龍とは違うから意識を引っ張る際に何かしらの異常があるかもしれないわけか。その点、俺はヴリトラと同じ邪龍の相棒を宿してるからその辺が楽になると……確かに相棒と似た能力を使うヴリトラが居れば俺やヴァーリ、赤龍帝以外のサポートになるし俺的にもヴリトラを見てみたい気持ちもあるから別に断る理由は無いな。よし! 同じクラスだし全力で手伝ってやるかねぇ!! しかし匙君……そんな嬉しいからって涙目にならなくても良いんだぜ!!

 

 

「ノワール、それ嬉しくて泣いてるんじゃなくて全力でお断りしたいけど出来ないから泣いてるだけだよ」

 

「マジかよ。つか平家、お前生きてたんだな? 反応がねぇから死んでるのかと思ったぞ」

 

「無理死ぬ人口密度高すぎて無理……ノワールがミニスカとか太ももとか心の中で言ってるのを聞いたせいでさらに倍。この変態」

 

 

 そんな弱った眼で変態とか言うなよ、興奮するだろうが。

 

 

「男なんだからここのスタッフの太ももぐらい見るだろ。たくっ、水無瀬、橘、そいつの世話を任せた。流石にぶっ倒れられると面倒だ」

 

「具合が悪いからベッドの上でお世話を所望する」

 

「あとでオナニーの手伝いしてやるからそれまで待ってろ。んで匙君強化計画でしたっけ? 勿論手伝いますよ。ヴリトラ見たいですし」

 

「あんがとよ。にしてもイッセーに似てお前もモテるねぇ。覚妖怪から好かれる奴は中々いねぇぞ?」

 

「個人的には心を読もうが何しようがどうでもいいんで気にしないと言ったらこれですよ。本人曰くヤンデレ属性持ちのチョロインだそうです」

 

「えっへん」

 

「無い胸で威張んじゃねぇよ」

 

「……兵藤、なんだよ、今のやり取り?」

 

「犬月から聞いたけど何時もあんな感じらしい……! う、羨ましいぜ……!!」

 

「俺としてはお前も嫉妬の対象だけどな……! だがその言葉には同意しよう……!」

 

 

 なんだろう、周りからの視線が物凄く痛い気がするが気のせいだな!! だってこれいつも通りだし!! そんな事は置いておいて橘様からの笑顔が物凄く怖いのと四季音が此処の酒を全部飲み尽くしかねないのでさっさと次の話題に入るとすっか。前者は兎も角、後者に関しては一カ所だけ物凄いレベルで酒が消費されてるからなるべく早く終わらせよう! 全額自腹で払わせると言えば止まるか……? 無理だな。

 

 

「とりあえず話が脱線したから元に戻すが……ヴァーリ、夜空は間違いなくやって来るぜ? こんな面白い事を見逃すような奴じゃねぇしな」

 

「だろうね。彼女の性格からして俺達と共闘はありえない……いや、共闘はするが途中で掌返しかな? しかし影龍王、キミが呼べば来るんじゃないか?」

 

「んな単純な性格じゃねぇだろ。そもそも呼んで来るんなら毎日呼んでるわ」

 

「なるほど。しかし困ったな」

 

「あぁ、マジで困った……どうするよ? 数が足りねぇぞ? 仮に夜空の乱入が途中からだとしてそれまでにフェンリルを倒しとかねぇとこっちの被害が尋常じゃねぇぐらい出るぞ。ちなみに赤龍帝、一応聞くが悪神相手に一人で戦える自信は?」

 

「あ、あるわけねぇだろ!? いやあの人の強さとか分かってるし頑張らないとって思うけど今の俺じゃ一人で相手は無理だ……昨日だって先生やバラキエルさんが一緒でもダメージを与えられなかったんだしさ」

 

「そりゃそうだ。なんだかんだ言っても神だしな。そんなわけでアザゼル、どうする? 最悪、俺がフェンリルと夜空を同時に相手もしても良いが……普通に死ねるぞ? 死なねぇけど死ぬぞ」

 

「そんなムリゲーをさせるわけねぇだろ。それに関してはこっちで助っ人を用意した――ほら来たぞ」

 

 

 店の扉が開き、中に入ってくる二人がいた。短髪で紫の瞳、戦闘時ですらないのに圧倒的な覇気を思わせる男――サイラオーグ・バアル、そしてそれに付き従うように歩く仮面の男だ。おいおいマジで? まさかのサイラオーグ・バアルが助っ人かよ……勝ったわ。マジで勝ったしフェンリルを任せても問題ねぇ存在だわ。

 

 周りの驚きの視線を浴びながら最強の助っ人は一歩、また一歩と俺達の傍まで歩いてくる。なんつう覇気だよ……あっ、ヴァーリが笑ってるしイケメンメガネもどこか嬉しそうだ。流石戦闘狂! てかイケメンメガネもその口かい!!

 

 

「遅れてすまない。サイラオーグ・バアル、そしてバアル眷属兵士一名、今回の神と魔物との(いくさ)に参加させてもらう」

 

「……サイラオーグさんが助っ人? え、ええぇっ!?」

 

「本来ならば他の奴と同様に各拠点を護る事になっていたんだが本人の強い希望でな、王と眷属一名という条件付きで今回の戦いに参加してもらう事になった。無論、サーゼクスや大王家も了承済みだ」

 

「眷属総出で手助けをしたかったが上が五月蠅くてな……なに、不足分は俺達二人で補う所存だ。リアス、影龍王殿、白龍皇殿、今回はよろしく頼む」

 

「サイラオーグ……いえ、心強いわ。貴方の足を引っ張らないように私も頑張らないとダメね」

 

「これが大王家か。ふふっ、面白いな」

 

 

 椅子に座りながら不敵に笑いだすヴァーリだが気持ちは分かる。この人は強い、他とは比べられないぐらい強いから戦いたいとでも思ってんだろう。確かに戦いたい気持ちは凄く分かる……俺だってそうだしな。だけどフェンリル相手に防戦一方だった俺が勝てるかと言われたら微妙だなぁ……もっと強くならねぇと。

 

 

「だろ。この人は強いし最強の助っ人だよ……アザゼル、組み分けはもう終わってんだろ?」

 

「勿論だ。ロキに関する情報はこの後、詳しい奴から聞くことになってるが一応三つの班に分けて考えてる。まずイッセー、ヴァーリ、そんで匙の三人はロキの相手だ。イッセー、ヴァーリ、二天龍の宿命とかは忘れて今回だけは協力して神を倒せよ」

 

「は、はい!」

 

「了解した」

 

「……は、はいぃ……!」

 

 

 二天龍が共闘して神を倒すとか想像するだけで燃えるな。畜生……よぞらぁ! お前もこっちに来いよ! 地双龍が手を組んでフェンリル殺そうぜぇ!!

 

 

「二つ目の班はグレモリー、バアル、キマリスの三眷属連合だ。こっちはフェンリルを相手にする。基本的には再生能力を持つキマリスと同等の実力を持つサイラオーグが正面、リアスと残ったメンバーが後方から波状攻撃を仕掛ける形になるな。近接戦闘主体の奴は一撃当てたら後退するようにしろよ。奴の一撃は神やドラゴンでさえ殺せるほどのものだ、ダメージを受けたら死ぬぞ」

 

「だろうな。あの、夜空……いや光龍妃が乱入して来たら俺が相手をしないとダメなんでフェンリルをお任せする事になりますけど大丈夫ですか?」

 

「問題は無い。今の俺の拳が伝説の魔物を相手にどこまで通じるか試す良い機会だ。影龍王殿は光龍妃との戦いに集中していればいい。俺はフェンリルが相手であろうと引く気は無い。たとえこの身が傷だらけになろうともリアス、影龍王殿の眷属には指一本触れさせん――今回は全力で行かせてもらうからな」

 

 

 説得力が違いすぎる。なんというかこの人だったらフェンリルの牙ぐらいはへし折れる気がする。

 

 

「そしてシトリー眷属はリアスやキマリス達が戦っている間、オーディンの護衛だ。なに、うちの神滅具使いも一緒に警備するから安心しとけ」

 

「……アザゼル、奴をこちらに寄越せないのか?」

 

「無理だな。オーディンの傍にはサーゼクスやミカエルが居るとはいえ護衛を置いとかねぇと周りが五月蠅いんだよ。なんだ? 傍に居てほしかったか?」

 

「奴がいるならばもう少し楽になるだろうと思っただけさ」

 

「奴? てか堕天使側に神滅具使いが居たのかよ……ヴァーリ、そいつって強いのか?」

 

「あぁ。そうだな……光龍妃と同じぐらいイレギュラーな奴と言えば分かるか」

 

「了解。規格外ってわけだな」

 

 

 マジかよ……夜空並みに規格外な奴が堕天使側に居た事に驚きだわ!

 

 ヴァーリに詳しく話を聞いてみるとどうやらこの天才イケメンが覇龍を使用する事になったほどの実力者らしい。うわぁ、マジで? 普通に夜空並みじゃねぇか……神滅具使いの人間って規格外になるってルールでもあんのか?

 

 

「そして話しに出ている光龍妃だが間違いなく乱入してくるだろう。キマリス、戦うのは良いが別の場所で頼むぞ? お前達が本気で殺し合いを始めたら他に被害が出るからな」

 

「流石の俺でも眷属が居る場所で夜空と殺し合いはしませんよ。こっちで勝手にいつも殺し合ってる場所に転移するんで安心してください」

 

「……彼女が乱入しないという事は考えられないのですか? お姉様やキマリス君から色々とお話は聞いていますし冥界のパーティーでの彼女の行動を見ましたが……キマリス君が困る事はしないのでは?」

 

「あー、うん。ありえねぇな」

 

「彼女に限ってそれは無いな」

 

「ソーナ、それはイッセーがおっぱいを嫌いになるレベルであり得ねぇことだ」

 

「先生!? いや言いたい事は分かりますけどそれと同じ扱いで良いんですか!? あとおっぱいを嫌いになるわけがありません!!」

 

「生徒会長、夜空は自分の欲望に忠実です。あれがしたいこれが欲しい、これに飽きたから今度はこっちをしようとかガキみたいな考えで動いてるんでこんな面白い事に参加しないわけがない。可能性としては悪神と共闘、第三勢力として俺達と悪神を同時に相手とかそんな感じになると思いますよ」

 

 

 そもそも昨日の一件で悪神が夜空と手を組んでいる感じには見えなかったから恐らく第三勢力で乱入だろうけどな。アイツは誰が居ようととりあえず光をぶっ放す奴だから同じ場所で戦えねぇか……先輩とかサイラオーグ・バアルとかはまぁ、どうでも良いと言えばどうでも良いけど犬月達に被害が出るからそこは別の場所に転移せざるを得ない。またうちの領地の殺し合い場の形が変わるのかぁ……! 別にどうでも良いな!!

 

 そして話し合いも終わったのでこの後は普通に全員で仲良く食事をした。今まで無口だった相棒がドライグとアルビオンをおっぱいドラゴン、ヒップドラゴンと楽しく虐めたり黒猫ちゃんが俺と赤龍帝を誘惑してきて橘と白髪ロリがキレたり水無瀬が得意の不幸体質を発揮してどういうわけか酒を頭から浴びてびしょ濡れ状態になったりと色々と愉しい事になった。凄く楽しかった! 余談だが今回の食事代の約半分以上は四季音が飲んだ酒代でかなりの額になっていたが……飲み過ぎだよ。俺の自腹だウハハハハハと会計をしに行ったアザゼルがその額を見て顔真っ青になったぐらいだし。ゴチになりましたー!

 

 まぁ、そんなどうでも良い事は置いておいて俺達ドラゴンを宿す組はアザゼルに連れられて別の場所へと来ていた。俺達が居るこの真っ白の空間、どこだと言われたら俺も分からない。別にどこに転移しようと関係ないんだが……なんか大きい生物がいる。具体的には元龍王、最上級悪魔の一体がなんか飼い主を待つ犬のように座ってる。なんでタンニーンさんが居るし……ってあぁ、そう言う事か。

 

 

「タンニーンのおっさん!」

 

「久しぶりだな。しかしまさかドライグにアルビオン、クロムにヴリトラが揃うとはな……これならば奴も反応するだろう」

 

「さ、最上級悪魔のタンニーン様……! や、やっぱり俺って場違いだろ!? かえりてぇ! かえらせろぉ!!」

 

「安心しろ匙君! 宿す存在的には同格だから!!」

 

「あっ、そうか――ってなるかあぁ!? お前! 最上級悪魔のタンニーン様が目の前にいるんだぞ!! 兵藤やお前のように凄いドラゴンを宿して強いわけじゃないのになんで俺此処に居るんだ!?」

 

「ヴリトラを宿してるからだろ」

 

「だよねー!! かいちょぉぉ!! かえってもいいですかぁ!!」

 

 

 ガチ泣きの匙君を放って置いてアザゼルに指示された場所に立つと足元の色が変わった。赤龍帝は赤、ヴァーリは白、観念したのか匙君も同じように立つと足元が黒く光る。そして俺はというと……はい、同じ黒です。ただし色合いが匙君よりもちょっと濃い感じだけどな。

 

 

「うおっ!? 何か光った!?」

 

「ドラゴンの特徴を司る色だ。さて……これで反応してくれよ?」

 

「奴は酷い怠け癖を持っているからな、簡単には行かないだろう」

 

『ゼハハハハハ! ヒッキードラゴンだしなぁ!! 俺様達が揃ったとしても奴にとっては自分の睡眠が第一優先よ! 深海まで殺しに行った方が早いんじゃねぇか?』

 

『奴が眠る場所まで行けるわけが無いだろう』

 

『分かってるよーヒップドラゴンちゃん! じょーだんだよじょーだん!! ゼハハハハハ!』

 

『くぅっ……ど、ドライグゥ!!』

 

『アルビオン!? 俺のせいではないと何度言えば分かる!!』

 

 

 ドラゴン達によるコントが繰り広げられると目の前にスクリーンが展開されてデカい生物が映し出された。体は蛇のように長く、顔はタンニーン様のようなドラゴンの生物――五大龍王の一角である終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)のミドガルズオルム。長い体をとぐろを巻くようにしてどうやら爆睡中のようだ……名前通りというか本当に寝るのが好きなんだな。気持ちは分かる!

 

 

「起きろ! ミドガルズオルム!!」

 

『――ほえぇ? ふあぁぁっ、あれ? タンニーンだぁ? あれれぇ? ドライグやアルビオンにクロムにヴリトラも一緒だぁ。もしかしてもう終末なの?』

 

「いや違う。今回はお前に聞きたい事が――寝るな! ええいっ! 全く貴様といい玉龍といい! なぜそうも怠ける性格をしているのだ!!」

 

『ふぇ? もうやだなぁタンニーンはぁ、怒ってばっかりだと禿げちゃうよぉ?』

 

「禿げん! これでもまだふさふさだ!!」

 

『そうなの~? ふああああっ、それで聞きたい事ってなに~?』

 

 

 どうやら話を聞いてもらえるようだ。なんというか口調も鈍いからこっちも眠くなりそうだ……流石龍王、個性的な性格をしてやがる。

 

 

「ミドガルズオルム。相棒、影の龍クロムを宿してるノワール・キマリスだ。聞きたい事はロキとフェンリルについてだな。ちょっとこれから殺し合いを始めるんで情報が欲しい」

 

『ゼハハハハハ! 久しいなミドガルズオルム! いやヒッキー!! 今日も平和にお寝んねってかぁ? 羨ましいぜぇ!! ほらほらさっさと情報吐いちまえよ! 楽になるぜ!!』

 

『クロムだぁ、なになに? ダディとワンワンと戦うの? さっすがぁ~うん、良いよ~教えてあげるぅ。ダディもワンワンもどうでも良いしねぇ。だって寝てるのが幸せだしぃ。えっとねぇ、ワンワンにはグレイプニルで捕える事が出来るよぉ~でもクロムには不要だよね? だってワンワンに噛まれても死なないし再生するでしょ……あっ、今は封印されてたんだっけぇ? じゃあ、死んじゃうから使った方が良いよぉ』

 

「……うん? なんか今、相棒関連で重要そうな事を言わなかったか?」

 

『ゼハハハ。気のせいだ』

 

『……ドライグ』

 

『あぁ、ノワール・キマリス。ミドガルズオルムが言った事は忘れろ。今は神とフェンリルに集中すればいいさ』

 

 

 忘れろと言われたら余計に気になるんだけど? 兵藤一誠もヴァーリも匙君も気になってる様子だしさ! この場で深く考え込んでいるのはアザゼルとタンニーン様ぐらいだぞ? えっ? なに? 相棒ってもしかして死なないの? まさか――俺の亜種禁手の能力って相棒の能力とかそういうオチ? でも神滅具って基本的に二つの能力だよな……? 違うのか? もしかして邪龍だから死なないって意味かもしれないが前々から感じてたユニアの反応とかも気になるし……まぁ、今は忘れておこう。相棒や他のドラゴン達の事だ、きっと理由があって話さないだけだろうし話してくれるまで待つのが礼儀だ。

 

 

「コホン。ミドガルズオルム、その鎖だが北の報告で通用しなかったそうだ。他には何かないか?」

 

『あれれ~? ダディってばワンワンを強化でもしたのかな? うーん、じゃあダークエルフに頼んで強化してもらいなよ。魔法で鎖自体を強化してもらえば問題ないんじゃない? 場所を教えた方が良いよねぇ』

 

「出来れば白龍皇か影龍王のどちらかで頼む。残った二人は未覚醒と頭がバカだ」

 

『りょ~か~い、じゃあ二人に送るね』

 

 

 というわけでミドガルズオルムからダークエルフが住んでいるであろう場所の情報が送られてくる。それにしてもどうやって送ってんだ? お互いに封印されているならまだ分かるが相手は深海で眠ってたドラゴン、そんな奴がどうやって神器に情報を送ってこれるのか不思議なんだが……いや、龍門のお蔭か? そもそもこれ自体は知識として知ってただけで実際に行うのは初めてだからよく分からん。

 

 アザゼルが気を利かせて真下に地図を展開してくれたのでヴァーリと一緒にドワーフが住む場所を教える。しかしダークエルフ……きっと褐色肌の美人に違いない! 機会があれば伺ってお姿を拝見とか面白そうだな。

 

 

「んじゃ、次は悪神の事を教えてくれ。なんか知らんが相棒の力が効きにくかったからどうやって戦えばいいか参考までに教えてくれ」

 

『参考にって言われてもねぇ~? ダディって魔法主体の戦い方だから接近して殴るが一番効果的だと思うよぉ? そういえばさぁ、ユニアは居ないの? ドライグとアルビオンが並んでるのに居ないから気になってたんだぁ』

 

「今代のユニアの宿主は厄介者でな。こいつらのように一カ所に留まらん様だ。そして毎度、殺し合っている」

 

『へぇ~相変わらずだねぇ。結婚しちゃえばいいのに。あとさぁ~ドライグとアルビオンも喧嘩しないの? いっつも喧嘩してたじゃん?』

 

『……まぁ、今回だけ特別と言うべきか』

 

『うむ。本来であれば我らが手を取り合い、共に戦うことなどありえん。今回だけ特別だ』

 

『ふ~ん。変わらないねぇ、とりあえずダークエルフに言えば強力な武器とか貰えるかもしれないよぉ? オーディンとか色んな神様からレプリカの作成とか頼まれてたはずだしぃ』

 

「なるほどな。助かるぜ、ミドガルズオルム」

 

『気にしないでぇ。久しぶりに皆に会えて嬉しくなっただけだからさぁ。本当ならユニアにも会いたかったけど居ないなら仕方ないねぇ』

 

『クフフ、お呼びですか? ミドガルズオルム』

 

 

 声が聞こえた。この場には男しかいないはずなのに女性のような声が周囲に響く。周りを見渡してみるといつの間にかミドガルズオルムを映しているような立体映像が俺の背後に展開されていた……映っているのはどこかの部屋のようだ。うん? この家具の配置って俺の部屋じゃね? あっ、積みゲー状態のエロゲーがあるから間違いねぇわ。

 

 

「その声は……ユニアか!」

 

『お久しぶりですね。タンニーン、昔と変わらず良い男、いやドラゴンで嬉しいです。体が有ればお相手していただきたかった』

 

「断る!! 全く貴様はもう少し大人しくならんのか!! いや、それは後でも良い! それよりもだ――今回の戦いに貴様は、いや宿主は参加するのか聞きたい」

 

『クフフフフフフ、その問いにはYesと答えましょう。この私が、夜空が面白そうな事を見逃すとでも思っていましたか? クロム、そしてその宿主であるノワール。夜空からの伝言です――その顔、絶対に驚かせてやるから覚悟しろぉ! との事です。ちなみにですが貴方のお部屋で色々としておりますので遅めに帰ってきていただければ幸いですが……早めに来ても構いませんよ? きっと天国が見れるでしょうし』

 

 

 天国という名の死ですね分かります。というよりアイツ……俺の部屋で何してんだよ? 見せられませんと言わんばかりにベッドの場所を見せてないからもしかしてオナニー中か? うわっ、なんだよその天国! ちょっとユニア様? 近くにいる童貞二人を捧げるんでベッドの様子というか夜空の様子を俺だけに見せてくれません? あっ、ダメだ。封印されてるからユニア様に捧げられねぇ!? いやそんな事よりもここ最近は夜空と話してないし絡んでも居ないから色々と溜まってんだよ! だからお願いします!!

 

 

『ゼハハハハハ。おいユニア、俺様達を驚かせるだと? 何をする気だぁ?』

 

『当日をお楽しみにしていればいいですよ。それとこれは私からの忠告、いえ宣戦布告です――私達は今回の戦いで貴方達を、神とフェンリルを殺す気で行きます。止めたければ止めて見なさい。今の夜空を止められるものは誰も居ませんよ。クフフフフ、ミドガルズオルム。偶には起きて地上へと出てはいかがです? そうすれば私と会えますよ。ではさようなら』

 

 

 それを言い残してユニアの声は聞こえなくなり、立体映像も消える。ちょっと待て!! ベッドの様子! 夜空の様子を映せ!! いや教えてくださいお願いします!!

 

 

『ユニアも相変わらずだねぇ。みんな気を付けてねぇ~?』

 

「やっぱり光龍妃は乱入する気だったか……しっかし俺達を驚かすだと? まさかキマリスの影人形融合みてぇなものを開発でもしたか……くっそ! 今代の地双龍は本当に読めねぇ! キマリス! 光龍妃が来たら全力で止めろ! 良いな!」

 

「言われなくてもそうするつもりだよ……俺達を驚かせる、驚かせてくれるのかぁ! くくく、あはははははは! やっぱりそうじゃねぇと面白くねぇよな! 何を見せてくれるのか楽しみだぜ夜空ぁ!!」

 

「……なんで喜んでるのか俺には理解できない」

 

「匙、俺もその言葉には同意する……!」

 

 

 ミドガルズオルム、そしてユニアとの会話も終わったのでそのまま家へと帰る。ウキウキワクワクしながらそっと、そぉっと! 足音すら立てずに自分の部屋の前に立ち、思いっきり扉を開けると――誰もいなかった。あの野郎……! 帰りやがった!! せめて何してたかだけ教えろよ!!

 

 そんな事を思いながらベッドに近づいてみると何故か知らないが地味にシーツが濡れていた。うーん、うん! 寝よう! 飯とか風呂とかこの際どうでも良いから寝ようか! 疲れたしな!! うわーつかれたわーすっげぇつかれたわーうんうんつかれたわーこれは寝ても仕方ないねー!

 

 ベッドにもぐりこんだ俺を待っていたのは――夜空の匂いだった。やっぱり最高だなあいつ! ありがとうございました!!




サイラオーグが参戦するというだけで安心感が段違いです。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48話

「悪いな、こんな場所まで来てもらってよ」

 

「ヴリトラ復活祭が始まるのに来ないわけないだろ? いやぁ~楽しみだなぁ! 匙君が死ぬか生きるか分からない祭りとか心がドキドキする」

 

「やめろぉ! 縁起でもない事言うなよ!? こっちは今すぐ帰りたいんだから出来ればもっと優しい言葉とか言ってくれ!!」

 

「えぇ……」

 

「そこまで嫌か!? うわぁんっ! かいちょー!! かいちょー!!」

 

 

 俺と匙君、そしてアザゼルが居る場所は――堕天使領にあるグリゴリの研究施設。聞いた話では堕天使勢力が独自に神器所有者を集めて暴走しないように自らの力を扱えるように特訓を促しているとかなんとか。詳しくは知らないが恐らく元から人員不足気味堕天使勢力の手下として使える様にでもしていたんだろう。しっかし……予想していた通りの場所である意味新鮮だわ。普通に研究所って言える内装と見た目だし職員の殆どが白衣装備だ。うむ……白衣美人って素敵だと思います! 偶に水無瀬の白衣姿がエロいと思う時があるからきっと俺は脇好きであり白衣好きでもあるんだろう。

 

 まぁ、そんな事は置いておいて目の前で匙君がガチ泣きしながら逃げようとしているので影人形でそれを止める。だって今回の祭りの主役が逃げたらダメだろドラゴン的に。というよりもそこまで泣く事は無いだろ? ヴリトラが目覚めたら今よりも格段に強くなれるから良い事尽くしで喜んでも良いと思うんだがなぁ。とりあえず一人でも寂しくなくなるよ! 話し相手が出来るよ匙君!!

 

 

「は、はなせー! 俺は帰る! 会長の元へ帰るぅ!!」

 

「別に帰っても良いが……良いのか? その場合、ただでさえクールな目つきの生徒会長から「この役立たずが」とか「ゴミ」って感じで見られると思うぞ?」

 

「……いぃ、じゃねぇ!! いやだー!? なんか心にグッとくるけどそう思われるのは嫌だぁ!!」

 

 

 まぁ、匙君はドМって感じじゃないし当たり前か。もっとも俺も生徒会長からそんな目で見られたら興奮するけどな!! ちなみに夜空に同じことされたら普通に喜びます。

 

 

「だったら諦めてヴリトラ復活祭しようぜ? というよりさっさと始めてくれないと俺の特訓時間が無くなるんだよ……アザゼル、頼んでたものは?」

 

「あるぜ。たくっ、いきなり手伝う代わりに物を寄越せって言ってきたかと思えば……ヴァーリの奴も同じ事を言ってきやがったし本当に似てやがんな。しっかし良いのか? お前さんの要望通り北欧の魔術の中で防御系統が載ってる書物を持ってきたがヴァーリのように攻撃系の一つぐらいは覚えても良いんじゃねぇか?」

 

 

 アザゼルの言う事はもっともだ。今の俺は霊操で影人形を生成、使役してそれに相棒の力を使用する戦い方……言ってしまえば守備に転じた戦い方だ。一応精霊術式とかもやろうと思えば使えるが俺としてはこっち(影人形使役)の方が性に合ってる……だからこれで良いんだ。

 

 

「下手に付け焼刃のモノを覚えても仕方ないだろ? 俺の持ち味は相棒が生み出す絶対防御の影を使った盾役。攻撃よりも防御をさらに高める方が良いんだよ。剣というか攻撃の役目は夜空とか犬月達に任せれば良いしな」

 

「なるほどな。確かに歴代の光龍妃は攻撃、歴代の影龍王は防御を得意としていたからその考えは間違っちゃいねぇ。俺自身も地双龍の二体が封じられる原因となった戦いに参加していたからお前さん達の力がどれほど強力かってのも重々理解してる。キマリス、お前さんも気になっていただろうミドガルズオルムの言葉だが――事実だ」

 

「……やっぱり相棒は俺の禁手のように不死身だったんだな」

 

「あぁ。当時の四大魔王も、聖書の神も、そして俺も全盛期の地双龍を相手に苦戦をしたもんだ。無限に影を生み出して俺達の攻撃を防ぎ、ダメージを与えても嗤いながら再生する影の龍クロム、圧倒的なまでの光力を保有し攻撃に秀でていた陽光の龍ユニア。正直な所……聖書の神が居なかったら俺達は滅んでたぐらいだ。四大魔王も俺もあの神の領域までは到達してなかったしな。それにこれは俺個人の考えだが当時の地双龍は全力を出していなかったんじゃねぇかって思ってる。封印される事すら楽しんでたんじゃねぇかとな……どうなんだ影の龍?」

 

『ゼハハハハハハハ! さぁ? 俺様もユニアもそんな大昔の事なんざ覚えちゃいねぇなぁ! もしかしたら全力を出していたかもしれないし違うかもしれねぇ。それはテメェらが決める事だ! ゼハハハ! 俺様は今の生き方が嫌いじゃねぇからどうでもいいんだよ!』

 

 

 結構長い間、一緒に居るから声のトーンで嘘か本当かぐらいは判断できるが……これはマジで楽しんでる方だ。全く……俺と生きてるこの時代が楽しいとかマジか? なんか嬉しいじゃねぇの!!

 

 

「……そうか。キマリス、残念な事に二天龍及び地双龍に関する書物はかなり少なく、あのタンニーンですらドライグ達の情報を漏らしてはいない。ドラゴンのプライドってのがあるんだろうな。だから今から言う事は神器研究の第一人者としての考えだ……恐らくお前さんの亜種禁手は影の龍クロムが保有していた再生能力を引き出しているんだろう。『影を生み出す能力』、『存在の力を奪う能力』、そして『不死とも言える再生能力』の三つが過去、俺達が対峙した際に見た能力だ。歴代の影龍王でも最初の二つは発現していたが再生能力までは使用してなかった……つまりあの神が何らかの理由で切り離し、封印したと考えてもいいだろう。あれ(聖書の神)の傍に居た時期がある俺だからこそ分かるがあの神が施した封印術式は未だに破られた事が無い強固なものだ。だからこそ亜種禁手という大きな流れでさえ再生能力の一部しか引っ張れなかったんだろうな」

 

「へぇ。じゃあ二天龍、ドライグやアルビオンも似たような事が起きるかもしれねぇのか……うわぁ、あの天才のルシファー様がさらに強くなるとかエグイな」

 

「まぁな。しかし最悪な事に当時の二天龍と正面から戦ってたのは聖書の神と四大魔王だ。俺も一応その場所に居たが……このまま二天龍と戦ったら俺達は滅亡するって気が付いてな。後方に引っ込んで逃げたからどんな能力を使ったか見当もつかん!」

 

 

 そんな敵前逃亡しましたとドヤ顔で言われても困るんだが? いや組織の長として間違った事はしてないけど……良いのかそれで?

 

 しっかし「影生成」「捕食」と続いて「再生」で良いんだよな……? 亜種禁手の名前も「再生」鎧だし多分間違ってはいないだろ。とりあえず相棒やユニアはこの事実に確実に気が付いてたな……それでも言わなかったのは自分の情報を漏らさないためか、俺に情報を与えて惑わせたくなかったか、あるいはめんどくさかったかのどれかだな。個人的には最後だと思うけどね!

 

 

「……なんか、話を聞いてると黒井ってやっぱりスゲェんだな。会長から聞いてたけど聖書の神って俺の神器や黒井の神滅具を生み出した存在なんだろ? そんな奴が封印した能力を引っ張って来るとか凄すぎるだろ……」

 

「あの神の事だ。封印の解除キーになにかしらの事を仕込んでいてもおかしくは無い。何か心当たりはねぇか?」

 

「あるわけねぇだろ……もし気付いていたらとうの昔に完全な再生能力を手に入れてるっての」

 

 

 とか言ってみたがどう考えても夜空関連ですありがとうございました。いや、あの……助けられた時に一目惚れして昔っから夜空の事を考えてたからきっとそれしかねぇんだよな。つまり「愛」が解除キーですね! うわっ、ありえねぇ。きっとただの偶然だろ……初めて禁手に至った時からかなりの年数が経ってるけど未だに欠損以外で再生できる気配がしないし。

 

 

「情報が圧倒的に不足してるから想像でしか言えねぇが……お前さんは俺から見ても歴代の影龍王とは違う成長をしている。今代限りで何が起きるか分からねぇから一応注意だけしとけ」

 

「りょーかい。んじゃ、さっさとヴリトラ復活祭を始めようぜ? 相棒の事を深く理解できるのは俺しかいない。こっちはこっちのペースでやらせてもらうさ。だから今は悪神戦の事を考えようぜ? というよりさっさとヴリトラと会いたい」

 

「俺としては帰りたいけどな!」

 

「残念だがそれは無理だ。さてとまずは移動するか」

 

 

 そんなこんなで匙君を引っ張りながら少し広めの部屋へと移動する。てっきりゲームやアニメでよくある拘束して埋め込むとか考えてたがどうやら違うようだ……アザゼルが言うにはこの部屋は訓練室になってるようで簡単には壊れない仕組みになってるらしい。なるほど、もし暴走しても力で抑え込めるようにって感じなのか。さて……既に逃げられないと判断したのか死んだような目になっている匙君だがどんな声を掛けようか? 頑張れとか死ぬなよ? う~ん……なんか俺らしくないからやめよう。

 

 アザゼルに促されるまま、匙君は魔法陣の中心、俺とアザゼルは匙君と向かい合うように魔法陣の外に立つ。

 

 

「匙、キマリスにラインを繋げ」

 

「は、はい……」

 

 

 匙君の神器、黒い龍脈から一本の線が伸びて俺の手――影龍王の手袋の宝玉と繋がる。さてと……俺の役目は眠っているであろうヴリトラの意識を表に引っ張ってくる事だが正直な所、さっきまでアザゼルと話していた内容のせいで既に帰りたい気分になってる。というよりも今すぐにでも神器の奥底に潜り込みたいし歴代の奴らを脅したい! でも対価を貰っちまったから断れねぇ! 畜生!! 仕方ねぇからさっさと終わらせて自分の特訓を始めるか!

 

 アザゼルは何やらポイポチと魔法陣を操作すると三つの箱が匙君を囲むように現れた。透明な四角いキューブ、中が光っている事から黒い龍脈以外のヴリトラ系神器だろう。それが現れるのと同時に匙君の足元に展開されている魔法陣が輝き出し、神器が収められているキューブが開き――匙君に吸収されるように消えていく。さて……ここからは俺の仕事か。

 

 

「相棒」

 

『何時でも良いぜ! 久しぶりに黒蛇ちゃんに会いに行くとすっかぁ!!』

 

 

 目を閉じ、意識を神器に潜り込ませると真っ黒の世界が見える。普段神器の中に潜りこんだ時に見るようなものではなく無機質であり、異質な空間だ。俺は相棒の意識と共に深く、深くと潜り込んでいくと何者かの意識を感じ取った……バラバラの人形を無理やり繋ぎ止めたような不気味さ、ドラゴン特有の威厳に満ちた声色、深淵の底から俺達を見つめる眼がそこにはあった。

 

 

『久しいじゃねぇの……! なぁ、ヴリトラッ!!』

 

『我を呼ぶのは誰だ……その声はクロムか……? 何故我の意識がある……?』

 

『物好きな奴がいてなぁ、そいつが散らばったテメェの魂、神器を一人の人間に埋め込んだわけよ。ゼハハハハハッ! いくら眠っていたとはいえ感じたはずだぜぇ? 赤蜥蜴――ドライグの存在を! 良いからさっさと起きてこいや? 俺様もドライグもアルビオンもタンニーンも居るぜ! 俺様達がこうして手を取り合って神とフェンリルと殺し合いが始まるからよぉ! テメェも昔みてぇに暴れようぜ!』

 

『……そうか、懐かしいはずだ……ドライグと接触したか……クロム、この宿主に伝えろ……弱すぎるとな』

 

『ゼハハハハハ!! ちゃんと伝えてやるぜ? んじゃ、アバヨ!』

 

 

 何やらドラゴン同士の会話が終わったようなので神器の奥底から戻ると妙な事が起き始めた。神器を埋め込まれた匙君の体から黒い炎が漏れ出してこの部屋全体を覆い、姿を龍へと変化させた。なるほど……ヴリトラが弱すぎるって言った理由はこれか。複数の神器に魂を封じられていたものを一つに結合、相棒とドライグと接触した事で眠っていたヴリトラの意識が目覚めた……ここまでは良い! 問題は完全なヴリトラの力を匙君自身が抑えきれないってところだ……やべぇ、どうしよう? このまま放って置くと確実に死ぬし生徒会長やシトリー眷属の奴らも匙君を死なせたら五月蠅いだろうなぁ。仕方ねぇからやるか。一応クラスメートだし同じ邪龍仲間だしな!

 

 

「キマリス!」

 

「ヴリトラの意識は戻った。あとの問題は匙君がヴリトラの力を抑え込めるかどうかだ……このまま行くと確実に匙君の体と魂を生贄にヴリトラが復活するぞ」

 

「天龍と双龍の力で一気に活性化か! 仕方ねぇ! キマリス! 死なねぇ程度に気絶させろ! 本体の意識さえ失えばなんとかなるはずだ!」

 

「だろうな……しっかし神とフェンリルと戦う前にドラゴンと戦う事になるとはなぁ!」

 

 

 即座に禁手化、影龍王の再生鎧を纏う。生前の相棒が保有していたと思われる不死身の再生能力……その一部がこの鎧に宿っている。恐らく結構前に夜空から言われた欠損無しの再生も鍛え上げれば可能になるかもしれないな……ありがとよアザゼル! たとえその考えが間違ってたとしてもさらに強くなる道標にはなった! 歴代の思念を染める、再生能力の強化、北欧の魔術の習得と数えるのは簡単だがかなり難しいかもしれねぇな……でもやるけど! 昔から困難な道しか進んでこなかったんだし今更増えても問題ねぇんだよ!

 

 そんな大事な事だけど今は置いておいて黒炎の龍となった匙君を助けようか。黒炎が蛇のように長く、そして龍を模した姿になってるからこれがヴリトラの姿なんだろう……確かに蛇だな! 相棒が黒蛇ちゃんと呼ぶ理由も分かるわ。さて問題は殺さないよう戦わないとダメって事だが……まぁ、やるだけやってみるか!

 

 

「匙君? 先に言っておくけど死ぬなよ?」

 

 

 返答なんてものはあるはずもなく代わりに黒炎が飛んでくる。影人形を生み出してラッシュタイムを放つと威力が高くないのか即座に吹き飛ばされた……そう言えばヴリトラはパワーよりもテクニック、搦め手を得意としている邪龍だったっけ? 下手にあの炎に触れるとヤバそうだ。

 

 

『宿主様! あの黒炎にあまり触れねぇ方が良い! 全盛期のヴリトラよりもかなりパワーダウンしてるが激痛を味わう事になるぜ! なんせ呪いの炎だからな!』

 

「そりゃまた怖い怖い――だけど俺も邪龍だぜ? そんな炎にビビってられるかよ」

 

『それでこそ俺様の宿主様よぉ! ゼハハハハハハ!』

 

 

 迫りくる呪いの炎を影人形で消し飛ばしながら匙君に接近する。どうやら相棒の言う通り、あの炎に触れれば確実に呪われるらしい……さっきから影人形の体に纏わりついて力を奪い取ってるしな。恐らくこの力はヴリトラ系神器の一つ、邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)だろう。そんで先ほどから俺を逃がさないと自己主張するように壁を発生させているのが龍の牢獄(シャドウ・プリズン)だな! この分だと残った漆黒の領域(デリート・フィールド)も使えるだろう……いや、既に使ってるのか? この炎自体が邪龍の黒炎と漆黒の領域が同時に発動していると仮定すれば影人形に起きている現象も説明が付く。うわぁ……めんどくせぇ! マジで典型的なテクニックタイプだな! これでパワーダウンしてるとか全盛期のヴリトラはどんだけ強かったんだよ!?

 

 そんな事を思いながら黒炎の体となった匙君を殴る――すると俺の腕に黒炎が纏わりついて激痛と力が抜ける感覚を同時に味合わせてきた。なるほど……今まで俺が相手にしてきたことはこんな感じなのか! 確かにこれは恐怖もんだな! でもヴリトラ……一つだけ言わせろ!

 

 

「――力を奪うのがお前だけだと思うな」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 全身から無限と表現できるほどの影を生み出してこの部屋全体を包み込む。どこからか「俺まで巻き添えにする気か!?」というおっさんの声が聞こえた気がしたが気のせいだろう……うん! 気のせい!

 

 放たれる黒炎を影で覆い無力化しながら目の前の匙君を影で締め上げる。「捕食」と称される影に触れた存在の力を奪う能力を発動してヴリトラの「力」を根こそぎ奪い取る……今は暴走状態だからおおもとの力が無くなれば大人しくなるはずだ。その考えが当たっていたのか巨大な黒炎の龍の姿が徐々に小さくなっていき……普通の匙君に戻りました! 勿論死んでません!! ちゃんと生きてます! 生きてるはず!! きっと!

 

 

「……く、黒井……?」

 

 

 おぉ! 生きてた! 流石俺!

 

 

「おう。ちゃんと意識あるか?」

 

「……なん、とかな……いきなり何かが体の奥から出るような、感覚になって……それから、それから……」

 

「無理すんな。今は休んどけ。ヴリトラの力に翻弄されて暴走したんだ……かなり疲れてるはずだ。おいアザゼル、あと任せた」

 

「あいよ。しっかしキマリス! 俺まで巻き込もうとしてやがったなこの野郎! とりあえずヴリトラの力を完全とまではいかなくとも暴走しない程度には扱えるようにしないとダメか……もし暴走してもイッセーとキマリスが居るから抑えられるとは思うが戦闘中にそんな事はしてられん。当日までには鍛え上げねぇとダメだな……まぁ良い、キマリス、まずはお疲れさん」

 

「別に愉しかったから良いさ。あっ! 匙君? もし完全に操れるようになったら殺し合おうぜ!」

 

「こ、ことわ、る……げふぅ」

 

 

 倒れた匙君をアザゼルに任せて俺は自宅にある自分の部屋へと転移する。目的は勿論、アザゼルから受け取ったこの書物を読むためだ……黄昏の日、悪神ロキが襲撃してくる日までに初歩的な防御魔法ぐらいは覚えておきたい。欲を言えばそれを影人形や影人形融合に使用しても問題ないぐらいまで研磨したいがな。

 

 

「おかえり」

 

「ただいま。今から勉強すっからさっさとどっか行け」

 

「ヤダ。ほら、早く膝枕してよ? それしながらでも北欧の魔法くらいは覚えられるでしょ?」

 

「残念な事に俺は白い龍を宿した天才系イケメンじゃないんでな……はいはい、やれば良いんだろ」

 

 

 先に侵入していた平家に急かされてベッドに座ると俺の膝に頭を乗せてくる。猫のように丸くなりながらスマホでゲームをする姿は何と言うか……あの黒猫ちゃんを敵視しているようにも見える。流石依存率ナンバーワン! 一歩間違えばヤンデレですね分かります。

 

 軽く腹を叩かれながらアザゼルから貰った書物に目を通していく。流石に一発で書かれている内容を理解できそうには無いが読み解いていけば何とかなりそうだ……精霊術式の応用で何とかできるか? 取り合えず当面の目的は俺の防御力向上だから一つでも覚えたらそれを高めて行けば良いだけだな。問題は影人形に使用できるレベルまで到達できるかどうかだが……まぁ、何とかなるだろ。

 

 

「――相棒」

 

『ゼハハハハ。俺様の再生能力の事だろぉ? 事実だ。生前の俺様はいかなるダメージも無意味になる再生能力を有していた! 体が吹き飛ぼうが魂が消えかけようがなにも無かったかのように元に戻る不死身ボディだったのよ! それをあの聖書の神は奪い取りやがった!! 影生成と捕食の能力だけを残してな!』

 

「だけど俺の亜種禁手で再び発現したと……」

 

『あぁ。俺様が封じられている影龍王の手袋の奥底に眠ってるはずだ! 今度からはそっち方面で調べるのも良いかもしれねぇぜ? ついでに言っておくが別に騙してたわけじゃねぇ! 言うのがめんどくさかっただけよ!』

 

「知ってる。別に隠してたから怒るとかするわけねぇだろ? 何年一緒に居ると思ってんだよ……でも、相棒の能力さえ完全に発動出来れば――」

 

『――あぁ! 宿主様は名実ともに最強で最悪の影龍王と成る! ゼハハハハハハッ! 俺様もヴリトラが目覚めて機嫌が良いからなぁ! さらに教えておこうか! 俺様とユニアが封じられることになった戦いだが――手を抜いていたぜ? 信じる信じないは自由だが言いたい事は分かるよなぁ?』

 

 

 つまりまだ隠している能力があるって事だろ? うわぁ、全盛期の相棒ってどんだけ化け物だったんだよ……そしてそれを倒して封じた聖書の神の化け物っぷりが今になって実感できるんだが? マジでおかしいだろ! 全盛期地双龍を相手にした後で二天龍と戦ったんだろ? しかも死んだとはいえ魂を神器に封印する事に成功してるから本当に化け物だな……そしてそれに勝てる存在であるオーフィスとかはもっと化け物だな!

 

 そんな事を思いながら滅多にする事のない真面目な勉強を始める。ヴァーリもアザゼルから俺と同じように書物を受け取ったという事は悪神に対抗するために魔法を覚えようとしているんだろう。それが分かってるから負けられねぇって思いもあるし自分だけ先に進むんじゃねぇって嫉妬心もある! だから一つでも多く防御魔法を覚えてドヤ顔したい! すっげぇしたい! 悪神とフェンリルとの戦いに乱入してくるであろう夜空を驚かせたい! くくく、よっしゃ! やる気出てきたぁ!!

 

 しかし平家……構ってもらえないからと言ってノワール君のノワール君を触るのはやめてくれません?




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49話

「ノワール、そろそろ時間だよ」

 

 

 北欧の主神、オーディンと日本神話の神々が会談する高級ホテルの一室で備え付けられたソファーに座りながら魔術書を眺めていると俺の膝を枕にしていた平家から声がした。もうそんな時間か、時間ギリギリまで読んでおこうと思ってたが案外早いもんだなぁ……くっそ! 時間が少なすぎて北欧の防御術式が少ししか覚えられなかったのは悔しいな……! 一応、鎧の上から展開や影人形に防御魔法を反映させる事は出来たが……短期間で使えるようになったのが少しとか死にたくなる! これがヴァーリや夜空なら二桁以上は確実に覚えてドヤ顔しながら使ってくるだろう……これだから規格外と天才は嫌なんだよ!!

 

 

「この短期間で慣れない魔法を覚えて、しかもそれを実戦レベルまで到達してるノワールも十分異常だよ」

 

「そう褒めんじゃねぇよ。んで? そろそろ悪神とフェンリルとの殺し合いだが……お前ら、覚悟できてるか?」

 

 

 この部屋に集まっている犬月、平家、四季音、水無瀬、橘を順に見ていくと面白いぐらいに分かれていた。犬月、平家、四季音の戦闘メインの三人は問題無しというのが分かるぐらい余裕そうな表情をしているに対し、水無瀬と橘は表情が硬くなって緊張している事が丸分かりだ。まぁ、気持ちは分かる。今までは命の危険が殆ど無い戦いだったからこそ問題無かったが今回の戦いは別……神と呼ばれる男と神や魔王、ドラゴンでさえ殺せる魔物が相手なんだから誰だって緊張して当然で恐らく先輩方も似たような状態になってるだろうしな……というより俺や平家、四季音に犬月のような反応が異常なだけか? 俺は夜空と殺し合ってるから今回も痛いだろうなぁ、死なないけど死ぬかもなぁとか思ってるし犬月は死んでも勝つとか思ってるだろう。四季音は鬼という種族だからか殺し合いの戦場に出られるだけで楽しいのか今まで通り酒を飲んでる……平家は知らん。だから水無瀬と橘のような死ぬかもしれない恐怖を感じる事はおかしくないし笑う事はしない。

 

 誰だって死ぬのは怖い、楽しい日常を送れなくなるのは怖い、言葉を話せず何を考えているかすら分からない感覚に陥るのは怖い。そもそも水無瀬と橘は俺達のような異常者ではなく普通の感性を持った奴らだ……たとえ常日頃から俺の行動を目の当たりにしていると言っても普通の考えを持っているからこそこの反応は当たり前なんだよなぁ。しっかしどうすっかなぁ……? このまま緊張しっぱなしだとフェンリルとの殺し合いが始まった途端に動けなくなって死ぬだろう。普通にガブリと喰われて死ぬな。マジでどうすっかなぁ……?

 

 

「――今回だけ、二人に譲る」

 

 

 俺の考えを読んで察したのかソファーから起き上がってベッドに寝ころび始めた。たくっ、ホント良い女だよお前は……さてと、平家に空気を読まれた以上はやらないとダメか。

 

 

「犬月、平家、四季音は問題ねぇか。なんだお前ら? フェンリルと殺し合えるのがそんなに楽しみか?」

 

「とーぜん! あのフェンリルと正面から戦えるなんて最高に決まってるじゃないか! にしし! ノワールと一緒に居ると暇にならなくて大好きさ。今回はマジのマジでやらせてもらうよ」

 

「俺もっすよ! フェンリルって狼! つまり犬の仲間! どっちが最強の犬かを確かめる絶好のチャンスじゃないっすか――って言っても俺なんかがフェンリルを倒せるわけ無いんで水無せんせーとしほりんを護る番犬となるっす! あっ! 酒飲みと引きこもりは自分でどうにかしろよ?」

 

「パシリに護られたら一カ月は引きこもってやる」

 

「そんな事にはならないさ。鬼さんナメちゃいけないよ?」

 

 

 どこの世界に鬼、しかも酒呑童子をナメる奴がいるんだよ……平家もなんだかんだで強いし自分の引き際とか分かってるから問題無いだろう。犬月は……マジで番犬として頑張ってもらおう! 頑張れ犬月! 忠犬を目指して頑張れ!

 

 

「さて――水無瀬、橘」

 

「っ、は、はい」

 

「だ、大丈夫です! が、頑張って悪魔さんや皆さんを支援します!」

 

「へぇ。その割には表情がヤバいぜ? たくっ、お前ら緊張しすぎだ……王様命令、隣に座れ」

 

 

 横に広いソファーの真ん中に座りなおして水無瀬と橘を隣に座らせる。うん、何と言うか素晴らしい光景だな! これから戦闘だから水無瀬以外は耐久面等を強化した駒王学園の制服を着てるけどさ……良いね! 制服を着た巨乳アイドルと白衣姿の美乳保険医に挟まれるのってマジで素晴らしいと思うんだ!

 

 とりあえず俺の心を読んでいる平家から変態という視線を感じるからさっさとやるか。俺の隣に座った二人は何をされるんだろうと内心思っているのか視線が俺を向いたり違う方を向いたりと忙しそうだ。手に持っていた魔術書を近くのテーブルに置き、両隣に座る二人の肩に手を置いて俺の体とくっ付ける。いきなりの事だったからか水無瀬も橘もビックリした表情をしている……うん、可愛いな。

 

 

「あ、あの!? えっ!? えぇ!?」

 

「の、ノワール君!? あの、こ、これは、な、なんでしゅか!?」

 

「噛んでるぞ。全くお前ら……なに緊張してんだよ? お前らがそんな状態だと俺も、犬月も、四季音も、平家も、今回だけ一緒に戦う面々が安心できねぇんだ。別に一人で戦うわけじゃねぇんだ……そんなに気負うな。それにお前ら――誰と一緒に戦うと思ってんだ? 最低最悪で最強の影龍王と呼ばれる事になるお前達の王様が一緒なんだぜ? ま、まぁ! 前回はフェンリル相手に苦戦したような気がするがあれだ、今回は勝つ。全力でお前達を護ってやる……正直に言ってみろ、不安か?」

 

「……はい、怖いです……すごく、怖いです」

 

「志保ちゃんと同じです……神を殺せるフェンリルと戦ってもし、もし花恋や早織、瞬君、志保ちゃんが居なくなってしまうんじゃないかって……そして、ノワール君があ、あり得ませんけど……負けるんじゃないかって……ごめんなさい」

 

「別に謝んなくても良いっての。その反応は当たり前だしな……誰だって死ぬのが怖い、知り合いが死ぬところは見たくない、そんなもんだ。誰もお前らの事は責めたりしない……もし何か言ってくる奴がいるなら俺がそいつをぶっ殺しとくから安心しろ。だからえっと、あれだ! いい加減さっさとやる気出してフェンリルを殺しに行くぞ! さっさと表情変えないとマジで犯すぞ? それはもうねちっこくするぞ?」

 

「ノワールがおっぱい揉む時はいつもそうだもんね。だよね花恋?」

 

「さ、さぁねぇ! し、しししっらなぁ~い! お、おっさっけぇ!!」

 

 

 自分で言ったが誰がねちっこいだ! 普通だろ? 普通だよな? 何時でも夜空を押し倒してエッチ出来るように相棒からその辺の技術と知識を教えてもらってるけど合ってるよね? 経験者である相棒の言う事だから間違いは無いだろうけどなんか不安になるな――そして四季音? 自分は関係ないっていう顔して酒飲んでるがおっぱい揉まれる時のお前って……やめよう。なんか余計な事を言うなって視線が飛んできた。でもこれだけは言わせてくれ!! おっぱい揉まれてる時のお前は可愛いぞ!

 

 酒の瓶が見事に俺の顔面へと飛んできたので受け止める。なぜ分かった? まさか心を読む術でも開発したか? うわぁ……ねぇわ。読心術とかは平家だけで十分だからマジでやめてくれ。

 

 

「……まぁ、俺から言えるのはこれぐらいだ。もし無理ならアザゼル達と一緒に主神様の護衛をすればいいさ。誰も文句は言わねぇし言わせないから安心しろ」

 

「――いえ、戦います。悪魔さんを、皆さんをサポートするのが私のお仕事ですから! それに、悪魔さんが傍に居るって分かったら全然怖くなんてありません! で、でももうちょっとだけ……こうしていてもらえると志保、嬉しいなぁって!」

 

「――わ、私も戦います! せ、性質反転がどこまで通じるか分かりませんけど私だってノワール君の僧侶ですから! はい僧侶ですから! あ、あと私ももう少しだけ……もう少しだけお、願いします……!」

 

 

 顔を赤くしながら言われたら童貞なノワール君はちょっと調子に乗っちゃうけど良いのか? マジで調子に乗るぞ? このままおっぱい揉んでそのままベッドインとか余裕でするけど良いのかお二人さん?

 

 そんな事を考えているとベッドで横になっていた平家が物凄く不満顔で俺の膝の上に座り始めた。なんだお前? 嫉妬か? 自分にされてないことを目の前でやられたから嫉妬してんのか? 流石依存率ナンバーワン、取られたくないから即行動とか可愛い所あるじゃねぇか。

 

 

「譲るとは言ったけどそこまでは許してない。だから私も殺し合いに行く前にノワールに触れて落ち着いておく」

 

「にししぃ~なんだかおもしっろそぉ~だからわったしもぉ! さおりぃん~はんぶ~ん!」

 

「なんか面白そうなんで俺もっと! 王様の背中はもらったぁ!」

 

 

 現在、俺の両膝には平家と四季音、両隣には水無瀬と橘、そして背中……というかソファーの背もたれの辺りに座った犬月というよく分からない状況になっている。うん? なんでこうなった?

 

 

「偶にはこういうのも必要だよ。私は何時でも必要だけどね」

 

「そういうもんか? てか犬月……お前もなんでノってきてんだよ?」

 

「なんか面白そうだったんでつい。でも王様――すっげぇ羨ましいっす!! 特に両隣がすっごく羨ましいっす!!」

 

「だろ? いやぁ、実にいい眺めだぜ? お前も女作ったら同じ事してみろ、かなり良いぞこれ」

 

「ですよね!」

 

「パシリに女が出来てもパシリにされてそう」

 

「あぁん?! ぶっ殺すぞ引きこもり! テメェこそ自堕落すぎて見捨てられるのがオチだっての!」

 

 

 いつもの平家と犬月の口喧嘩が始まると両隣から小さな笑いが起きた。それで良い……怖がる必要なんてねぇんだよ。お前らの周りには俺も、平家も、四季音も、犬月も居るんだ。ついでに言えばこれから新しい奴も入ってくるんだし先輩らしく堂々としていればいいさ。

 

 時計を見ると作戦開始の時間が近づいていたので犬月達を連れて待機場所へと向かうと既にヴァーリ達とグレモリー先輩達、サイラオーグ・バアルと仮面の男、バラキエルにヴァルキリーちゃんが集まっていた。やっべぇ、最後かよ……せめて先輩よりも前に到着したかったがさっきのやり取りをしてたから遅くなったか。てかそんな事はどうでも良いんだよ、マジでどうでも良い。とりあえず――寒い。ホテルの屋上に居るから風は強いし高所恐怖症の奴がいたらぶっ倒れるんじゃないかってぐらい高いし、風強くて寒いしマジで帰りてぇ……でも風でスカートが舞い上がるとか素敵だから許そうか! ここに夜空が居たら俺のテンションはかなり高かっただろう。

 

 というよりさ、なんなんだよこのメンバー? 普通に他勢力相手でも余裕で殺しに行けるメンツだぞ? あっ、匙君はまだ調整が終わってないらしいから途中で参戦するそうだ……終わってから来たら笑ってやるかねぇ。

 

 

「影龍王。調子はどうだい?」

 

 

 月明かりに反射する銀髪イケメンことヴァーリが髪を風でなびかせながら近づいてくる。なんでこいつは動作の一つ一つが絵になるんですかねぇ? ここで死ねばいいのに!

 

 

「んなもん絶好調に決まってんだろ? テメェこそどうなんだよ? まさか赤龍帝と共闘は嫌ですとかいまさら言うつもりじゃねぇだろうな?」

 

「そんな事は言わないさ。フェンリルを抑えるのはキミ達だからね、一応心配になっただけさ」

 

「そりゃどうも。とりあえず北欧の魔術、防御系統は使えるようになったから前のようにはいかねぇってのは言っておく」

 

「そうか。それは頼もしい限りだよ。あぁ、そうだ。黒歌には頼まれていた事は伝えているよ。キミらしい作戦だ、恐らく今回のメンバーで行えるのはキミぐらいだろう」

 

「あっそ。まぁ、サンキュー」

 

 

 おっ! マジで頼んでくれたのか、これならフェンリル討伐は楽になるかもな……問題は狙うタイミングがあるかどうかだがその辺は殺し合ってる時に見つけるか。てか不敵に笑うヴァーリを見てるとマジでイラつくんだけど? 何でこんなにイケメンなんだよ! 俺よりも才能あるとか本気で羨ましいわ!! どうせ俺と同じく北欧の魔術を覚えてきてるんだろ? 天下のルシファー様で白龍皇だからそれはもう俺以上のものを覚えてきてるに違いない! あぁ! 羨ましい限りだよ!

 

 ヴァーリと話していると会談開始の時間となった。さてと、悪神様はどこからやってくるのかねぇ? まさか正面から堂々とは――うわぁ、マジかぁ。

 

 

「諸君! 宣言通り、会談を邪魔しに来たぞ!」

 

 

 上空を割るように登場してきたのは俺達がこれから殺し合う相手――悪神ロキ、今回は最初からフェンリルを引き連れての登場だからかなりやる気だな……! 気を抜けばあの狼一匹に全滅させられるかもしれねぇと考えるとかなり楽しくなってきた! ついでに言わせてもらうと前回の借りを返せると思うとかなりワクワクしてきた!!

 

 悪神ロキとフェンリルの登場に周りの奴らも警戒態勢から戦闘態勢へと移行する。バラキエルが小型の通信端末で何かを呟くとホテル一帯を包み込むように魔法陣が輝き出した……作戦、いや殺し合いの開始を告げる転移魔法陣だ。これを行っているのはホテルの周囲に待機していた生徒会長率いるシトリー眷属、この分だと妨害とかは無かったようだな……てか悪神も不敵に笑うだけで抵抗してないのが逆にスゲェわ。てっきり「この程度の転移魔法で我を捕えようとはな!」とか言うと思ってたしなぁ。

 

 そんなわけでシトリー眷属の手により俺達は会談が行われているホテルから別の場所へと転移させられた。空が人間界と違うから冥界か……周りを見渡すと古い採掘場のような所で今は使われていないとか言ってたな。確かに神と魔物相手に殺し合うにはかなり最適な場所だ。

 

 

「……抵抗しないのね」

 

「する必要が何処にあると言うのだ? 抵抗があるならばそれを滅ぼしてから会談会場へと向かうまでの事。それに我も二天龍、地双龍が協力して我を止めに来る姿をこの目で見ておきたいのでな!」

 

「なるほど。それならば話は早い」

 

『ヴァーリ、気を付けろ。今回の敵は神だ、一瞬の油断が死を招くぞ!』

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』

 

「ドライグ! 覚悟は良いよな!!」

 

『応! 何時でも良いぞ相棒!!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 赤と白、赤龍帝と白龍皇の二人が横に並んで悪神と向かい合う。マジでテンション上がるな! 伝説の存在とも言える二天龍が殺し合うわけでも無く共に戦うために並ぶとか胸が熱くなるだろ悪魔的に!! なんで此処に夜空が居ねぇんだよ!! 俺達も同じ事したかったぁ!

 

 

「――まっ、そんなどうでも良い事よりもやる事があるか。おいフェンリル、この前はよくも噛みついてきやがったな? あれかなり痛かったんだぜ? だから――責任取って死ねよ!!」

 

『ゼハハハハハハッ! 今日この日を持ってフェンリルという存在は消える! 行くぞ宿主様!!』

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 黒の全身鎧を身に纏いながら地上に降り立ったフェンリルと向かい合う。背後には既に影人形を配備済み……あとは影人形融合2を発動するだけだが一瞬でも時間を稼がねぇとな。

 

 

「――影龍王殿」

 

 

 俺と同じようにフェンリルと向かい合うサイラオーグ・バアルが俺に話しかけてきた。その目は闘志に満ち溢れており、身体から漏れ出すオーラも桁違いだ……うっわ、すげぇ。その辺の雑魚なんて霞んで見えるぐらい濃すぎるだろ! くくく、あはははははは! やっぱスッゲェわこの人!! フェンリルを殺したらこの人と戦うってのも良いかもしれねぇな!!

 

 

「なんですか?」

 

「噂の影人形融合とやらの時間、俺が稼ごう」

 

「……ならお願いしようかね。最強の若手悪魔の力を見せてもらおうじゃねぇの」

 

「あぁ! 見ているが良い! レグルスゥッ!!!」

 

 

 周囲に響き渡るほどの叫びに呼応するように仮面の男の姿が変わる。体のあちこちが膨れ上がり、牙と爪が生え、金色の体毛が姿を現す……はぁ? マジで? この人が連れてきた奴だからトンデモない奴だとは思ってたけどまさかのライオンかよ!! しかもこいつ……ただのライオンじゃねぇな!!

 

 

『ッ、宿主様! 奴は普通の魔物じゃねぇぜ!! この波長、この姿! 間違いねぇ!! 神滅具の一つだ!!』

 

「左様! 俺の兵士は神滅具の一つ! 獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)! 本来であれば冥界の危機にしか使用しないと決めていたが……フェンリルが相手となれば話は別! 俺の全力をぶつけ、さらなる高みへ目指すためにもレグルス! お前を纏おう!!」

 

『はい! サイラオーグさま! 今こそ私達の力を見せつける時です!』

 

 

 金色のライオンの体が輝き出し、サイラオーグ・バアルへと向かっていく。なるほど……確かにスゲェわ!! どうやって神滅具を眷属にしたか分かんねぇのに禁手化までするとはさすがの俺も驚くしかできねぇわ!! 先輩方もかなり驚いてるし冥界上層部しか知らない事だったんだろうな……!

 

 

「我が獅子よ! ネメアの王よ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せェェッ!!」

 

『禁手化!!』

 

「禁手化ゥゥゥゥッ!!!」

 

 

 圧倒的な力の波動を放ちながらサイラオーグ・バアルは金色の鎧を身に纏う。獅子を模した全身鎧、純粋な力を体現したその姿に悪神ロキは笑みを浮かべる……誰だってそうだ! きっと俺もヴァーリも同じような顔をしてるだろうしな! これがこの人の本気! マジで戦いてぇ!!

 

 

「これが俺の、サイラオーグ・バアルが持つ本気! 獅子王の剛皮(レグルス・ネメア・レザー・レックス)! フェンリル! お前が全力で俺達を殺しに来ると言うのならば俺も全力で立ち向かおう!!」

 

「神滅具の一つが悪魔となっているとは……なるほど! これは面白い! おっと、我の相手はかの二天龍であったな! 隙を見せては葬られてしまうか」

 

 

 上空ではヴァーリが放つ見慣れない術式の攻撃を凌いでいる悪神の姿が見える。あの術式は北欧の魔術か……流石天才、その数が異常だわ。赤龍帝も負けじと動き回ってるけど何と言うか練度が違いすぎる。まぁ、そんな事は置いておいて俺はフェンリルに集中しないとな。此処に居るのは俺達だけじゃなく平家達も居るんだ、下手に余裕ぶっこいていると後ろに向かわれて目の前で殺されかねない。

 

 刹那、濃厚な殺意が背後に向かおうとする感覚に陥ったので影人形を数十体生成して背後にいる先輩方を護る壁にしながら俺は前に出る。何故なら先ほどまで向かい合っていたフェンリルがその巨体に似合わない速度で背後にいる奴らを攻撃しようとしたからだ――でも残念だったなぁ!!

 

 

「――見えている!!」

 

「――その程度の速度なんざとうの昔に夜空で慣れてんだよ!!」

 

 

 俺とサイラオーグ・バアルの拳がフェンリルの首を捕らえる。一瞬の隙を突いたようだがそんなもんはねぇんだよ!! 俺達の拳を受けたフェンリルは押し戻されるように向かってきた方向とは逆に下がった……鎧の上に展開した十の防御術式のお蔭か手ごたえはあった。かなりあった! でもなんだろうな……隣にいるサイラオーグ・バアルの打撃力に救われた感があるのはなんでだろうかねぇ! なんなんだよこの馬鹿力! 四季音以上に感じるぞ!

 

 

「影龍王殿!」

 

「あぁ! 我は影! 影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり! 我に従いし魂よ! 嗤え! 叫べ! 幾重の感情を我が身へと宿せ! 生命の分身たる影よ! 霊よ! 我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん!」

 

 

 即座に影龍王の再生鎧ver影人形融合2を発動。霊子と影が混ざり合った膜を全身に纏い、その内側に防御術式を重複展開する。先に言っておくぜフェンリル? 今の俺は――

 

 

「――前よりも格段に強いんだよ!!」

 

 

 背中から魔力を放出、フェンリルに接近して顎下からアッパーをするように殴ると十メートルはある巨体が若干だが宙に浮いたからかなりの威力を出せたと思う。ただでさえ相棒が生み出す絶対防御の影と霊子の膜、さらに十の防御術式を展開してんだ! 防御力は今までの倍以上に高くなってるんだよ! だから俺自身の打撃力も向上してんだ……これぐらいは出来て当然よ!!

 

 

「橘! 今日の観客は犬っころだが真面目に歌え! 水無瀬! 平家! 遠距離から魔力攻撃を開始しろ!! 犬月! 四季音! テメェらは自分の判断で動きやがれ!! 良いな! 俺に気を使う必要はねぇぞ! 俺ごと殺せ! どうせ俺は死なねぇんだから遠慮すんな!!」

 

「ういっす! よっしゃいくぜぇ! モード妖魔犬!!」

 

「にしし――遠慮しないで殺し合えるなんて嬉しいね!」

 

 

 犬月が全身に赤紫色のオーラを纏い、四季音が本気の証である角を生やしながら妖力を開放する。それ以外のメンバーも各々の武器を展開して一斉に散り始める。俺達とは違い、遠距離専門の奴らは動き回ってないと普通に死ぬからな! フェンリルに殺されるから行って当然だ!!

 

 

「他の奴らもだ! 俺に遠慮すんな! 全力でこの犬っころをぶっ殺す事だけを考えろ! 死にたくねぇなら目の前の犬っころをぶっ殺せ!」

 

「全員の士気向上を狙う怒号……流石影龍王殿! その覇気、その姿! 叶うのであれば打ち合いたい! しかし今はフェンリル撃破が優先! リアス! 影龍王殿と同じことを言おう! 俺に気を遣うな!! お前達がすべきことを行え!」

 

「サイラオーグ……えぇ! 分かったわ! みんな! 気を抜かないで! 自分のできる事をやるわよ! 裕斗! ゼノヴィア! 二人は一撃を当てたらすぐに後退して!」

 

 

 各地に散った存在をフェンリルは巨体故に見下ろしながら獲物を見定めている。そして、第一の獲物と認定されたのは――シスターちゃんことアーシア・アルジェント。さっすが神を殺せる魔物! 初っ端から回復役を潰そうとするとか気が合うじゃねぇの!!

 

 身震いするほどの雄たけびを上げたフェンリルは前足に力を入れ、神速とも言える速度で獲物を噛み殺そうと動き出す――がそれは無意味となった。何故なら踏み出す直前で俺とサイラオーグ・バア……長いから獅子王、四季音という脳筋メンバーがフェンリルの顔面をぶん殴ったからだ。

 

 

「にししぃ! 良いよ良いよぉ! もっと上げて行こうかぁ!!」

 

「フェンリル越しに感じるこのパワー! これが鬼か! 影龍王殿!」

 

「任せなぁっ! 影法師ァッ!!」

 

 

 即座に獅子王と四季音が距離を取る。無数とも言える俺と同じ姿をした影法師(ドッペルゲンガー)を展開、両足を影で拘束されたフェンリル目掛けてラッシュタイムを放つ。ちなみに周りが絶句するほどの大量の影法師全てに防御術式を展開済みだからかなりのパワーで殴られてるだろう……もっともこれだけやってもダメージは低いだろうが獣の本能からすれば誰を優先的に殺せばいいかぐらいハッキリするはずだ!

 

 橘の歌が周囲に響き渡り、この場に居る俺を含めた味方全員が強化された状態で遠距離から魔力攻撃が飛んでくる。勿論これは水無瀬の禁手、黒の僧侶が反す影時計で繋がり性質反転――魔から聖へとなっているから魔物相手にはこれ以上ないダメージソースだろうな……そもそも滅びの魔力が聖属性持ちになるとか恐ろしすぎるだろ!

 

 

「キマリス君が足止めしている今がチャンスよ! ダメージを与える事だけを考えて! 撃ったらすぐに動いて!」

 

「ノワールを攻撃するのは気が引けるけど仕方がない」

 

「一気に行きます! 攻撃術式フルバースト! 巻き込んでも、良いんですよね!!」

 

「はい! ノワール君は死にませんから全力で放ってください!!」

 

 

 聖剣デュランダルから放たれる極大の聖なる波動、同じ属性に性質反転された滅びの魔力、雷光、炎やら氷やらの魔力攻撃が次々とフェンリルに直撃する。逃げようする動作が有れば俺と獅子王、四季音、犬月という命知らずメンバーが足止めをして動きを止める……鬼の怪力、獅子王の打撃力、妖魔犬状態のラッシュと俺の大量の影法師ラッシュタイムでかなりダメージを与えてるはずなんだがどんだけ頑丈なんだよこいつ!!

 

 

「にゃん♪ かげりゅーおー! 準備できたにゃん!」

 

「おっしゃ! だったら――ゼハハハハハハ!!!」

 

 

 遠距離からの攻撃を受け続けているフェンリルの口の中に片腕を押し込む。当然そんな事をすれば噛み砕かれるが生憎、俺は再生能力持ちだ! そんな事をされても即座に再生出来るからこその行動だ!!

 

 

「自らフェンリルの口に腕を!? くっ! 影龍王の考える事はよく分からん! えぇい!! 先ほどから我の周りを!!」

 

「動き回る事は慣れてるからな!! おいヴァーリ! 真面目にやってるんだろうな!!」

 

「当たり前だ。しかし、始めるつもりか。黒歌」

 

「にゃーん! いっつでもバッチコーイにゃ!」

 

「――了解。みんな、攻撃の属性を変更するよ」

 

 

 流石俺の騎士! さて、始めるかぁ!!

 

 フェンリルの口の中で腕を再生、影のオーラに変化させて牙の隙間から外に出して頭部全体を包み込む。これで俺とフェンリルは一時的に繋がった事になる……悪神も警戒した様子だが赤龍帝とヴァーリ相手に翻弄されてるようだし邪魔はされねぇだろ!

 

 

「なんだその目? なにする気だって言いたそうだな? あはははははは! だったら何をするか今すぐ見せてやるよぉ!!」

 

 

 動き出そうとするフェンリルを獅子王と四季音、犬月、デュランダル、聖魔剣、コウモリに擬態したハーフ吸血鬼といったメンバーが食い止める。足止めご苦労! さて、なんで俺がここまで影法師と影人形を展開したら教えてやるよ犬っころ!! それはな――

 

 

「ボッシュートってな!」

 

 

 周囲を取り囲む影法師と影人形が一斉に俺とフェンリルの真下、つまり地面を殴る。拳の威力は今の俺並み、しかも放つ速度はケタ違いだ! 一秒も掛からずにフェンリルが入るくらいの大きさと深さの穴が出来上がる! 狙いを察したフェンリルは空へ逃げようとするもパワー極振りの四季音と獅子王の拳を背中に受けて俺共々穴に落ちていく……あの、衝撃が凄すぎるんですが? 本当にパワー極振りだなこいつ等!!!

 

 単純に穴に落とすだけなら大した作戦じゃない。これの狙いはフェンリル自身の速度と牙、爪を封じる事にある……自分の体がすっぽりと入る穴の中じゃ獲物を狙う事なんて出来るわけがない。もっとも俺は上に逃げないように影法師を展開して殴れるんだけどな! 本当なら真上から先輩方が魔力攻撃をするのが定石なんだがそんな事をすれば折角の穴が崩壊しかねないので今回は別のやり方を取らせてもらう……よし! 流石平家! 言わなくても読み取ってくれるから良い女だよお前は!!

 

 

「なぁ、フェンリル? 今お前……心中する気かって思っただろ?」

 

 

 真上から降ってくるのは魔力を変化させた水。魔力攻撃要因全員が生み出しているからこのままいけばすぐに満杯となり、俺は溺死するだろう。

 

 

「でも残念ながらそれは間違いだ――俺は不死身だぜ?」

 

 

 真後ろに影人形を生成、即座に自分の首を斬り落として自分の頭部を影人形で殴らせる。真上に打ち上げればどうなるかなんて誰だって分かる……はい! フェンリルの真上を取る事が出来ました!!

 

 即座に再生し、無数の影法師と共にフェンリルの胴体にラッシュを放って水の中に押し込む。そして全身が見ずに使った一瞬を狙い、シャドーラビリンスを発動してフェンリルを隔離……ふぅ、成功!!

 

 

「キマリス君!」

 

「無事っすよ。黒猫ちゃん、頼むわ」

 

「にゃん♪ おっまかせあれよ!」

 

「なんつうか……効くんすかこれ?」

 

「フェンリルといえども魔物、普通に呼吸はするし水の中に閉じ込められたら苦しくなるだろ? これで意味が無かったら魔物とは言えねぇよ」

 

 

 黒猫ちゃんの仕込みも終わり、あとはシャドーラビリンスが切れるのを待つ。上空では二天龍が悪神相手に殺し合いをしているが俺達はいったん休憩中というよく分からない光景になってるが……良いよな! だってフェンリル相手だぜ? これぐらいはしても良いだろ!

 

 そして待ちに待ったシャドーラビリンスが切れるのと同時に水が一気に周囲に飛び散り、穴の中からフェンリルが飛び出してくる。誰だって水の中は苦しいし一刻も早く呼吸をしたいというのは生物の本能だ……だからこそそれを狙う。ガキンという音を響かせ、フェンリルを拘束するように鎖が巻き付いていく。先ほど黒猫ちゃんが配置したフェンリル捕獲用の鎖ことグレイプニル、それが穴の入口……いやフェンリル側からすると出口に設置されていたからこそフェンリルは捕らえられた。いやぁ、笑いが止まらないってのはこの事だな!

 

 

「フェンリル相手に水攻め、そしてグレイプニルで捕えるだと!! しかしフェンリルには既に対策を……どうしたフェンリル!! 何故抜け出せん!! っ、そうか……ドワーフか! グレイプニルを強化していたとはな!!」

 

「まっ、そういう事よ。これでフェンリルは無力化したぜ?」

 

「――ふはははははは! そのような事でフェンリルが無力化されるわけがない! ならば仕方がない! スペックは落ちるが、な、何をしている!!」

 

「え? なにって――解体作業?」

 

 

 俺の目の前で鎖で拘束されたフェンリルの足をイケメンメガネ、アーサー・ペンドラゴンが持つ聖王剣とゼノヴィアが持つ聖剣デュランダルで斬りつけている。だって動けないだもん追撃は当たり前だよな? まぁ、骨が硬いのか斬り落とせなくて足の腱を切断程度になってるっぽいけども。とりあえず動けないんだからもうやりたい放題よ! 顔面から足先、ケツの穴まで影法師によるラッシュタイム、パワー極振りメンバーによるサンドバッグ、魔力攻撃要員からの一斉攻撃! もう哀れとしか言えない位にぼっこぼこ状態に突入です!! くくく、あはははははは! 日頃のストレス発散には丁度いいサンドバッグ発見だよな!! なんか悪神が絶句したせいでヴァーリの攻撃が直撃してるっぽいけど俺のせいじゃない。うん! 俺のせいじゃない!!

 

 

「……え? まさか真面目にフェンリルと真正面から戦うとか思ってたのか? うわぁ、無いわぁ。バカだろ? 普通にあり得ねぇわ。もしかして最初の怒号で勘違いしたとか言わないよな? あれ、単純にそう思わせるだけのブラフだし……あー、あれだ! 騙される方が悪い!」

 

「ちなみに私は最初から知ってた」

 

「そりゃそうだろ? お前、俺の心を読んでんだからよ」

 

 

 だって俺って邪龍だし、真正面から堂々とかするわけないし。ま、まぁ……夜空の乱入が無いと確定しているんなら覇龍を使って正面から殺し合っただろうけど残念な事に夜空が乱入すると決まってる以上、あまり疲れたくないから搦め手で行こうと決めてたしな。いやぁ、疲れたわ。マジで疲れたわ! なんだかんだで正面から殺し合うぜって言う空気を出すのが疲れたわ!

 

 

「フェンリルの方は終わったようだな」

 

「見ての通りだ。とりあえずフェンリルの目は潰したし爪はへし折った、足も動かせないように腱を切断、そんでトドメに俺達全員による攻撃のサンドバッグ状態……警戒は解かねぇがフェンリルは無力化したって言って良いんじゃねぇの?」

 

「……そうか。この状態ならば、問題ないか」

 

「あん?」

 

「何でもないよ。さて、残ったのは神一人か。先ほどまでのやり取りで確信したよ――光龍妃よりは楽に倒せそうだ」

 

「そりゃそうだろ? フェンリルしか取り柄の無い神だぜ? 主神様とかと比べたら楽な方だろ」

 

「……くっ、い、言わせておけば……! 我が息子を、よくも! スコル! ハティ!! その牙と爪にて父を助けよ!!」

 

 

 上空の空間が歪み、とある生物が出現した。フェンリルと同じ灰色の体毛、獣特有の鋭い爪と牙を持つ二体の魔物……言ってしまえばフェンリルの小型版だ。えっと、うん。多分なんだけどこの場に居る全員が同じことを思ってると思うんだよ。いや、あの、まさかフェンリルがもう二体いるのか! とかここにきて増援だと! とか言いたいんだけど無理。絶対に無理! だって、だって――

 

 

「――お前、何してんの?」

 

「ん? もふもふしてっけど?」

 

 

 現れたフェンリルの小型版、その片割れに跨ってる夜空を見たら誰だって言葉を無くすだろ。




水攻めからのフェンリル捕獲、そしてサンドバック状態という鬼畜を行う主人公。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50話

「ん~もっふもっふぅ~♪ ねぇねぇノワール!! こいつらすっげぇもふもふしてんだけど!」

 

「狼なんだから当たり前じゃね? てかお前……マジで何してんだよ?」

 

「はぁ? だからもふもふしてんじゃん。なに? フェンリルと殺し合いして頭がバカになった?」

 

「んなわけねぇだろ。つーか夜空、お前が今もふってるその狼共の飼い主様が何か言いたそうだぜ?」

 

 

 上空に佇む夜空と小型フェンリルから悪神へと視線を向ける。先ほどまで赤龍帝とヴァーリと殺し合いの末、攻撃を受けて若干ボロボロ状態の悪神は目の前の現実を受け入れられないようだ……当然だよなぁ! 自分がこの状況を打破するために呼び出した援軍に世界各地を遊び歩いている光龍妃――夜空がくっ付いてきたんだからよ。夜空、いや光龍妃の名を知っている奴だったら誰だって今の悪神のように唖然とするに違いない! なんせ俺の周りも絶句状態だしな!! ちなみに俺も若干引いてる。

 

 まぁ、そんなことは置いておいてだ……あの小型フェンリルはちょっとばかし気に入らねぇ。誰の許しを得て夜空にもふもふされてんだ? 俺だってなぁ! 夜空にくっ付いてスリスリとか脇ペロペロとかえっちぃ事とかしたい、すっげぇしたい! いや……逆にしてもらうというのもありだな! 兎に角、俺だってまだしていないのにあの二匹は狼という理由だけで夜空にもふもふしてもらえるとか羨まし、あぁ羨ましいんだよ!!! とりあえず殺そう。フェンリルよりも小型だしきっと殺せるだろ。そもそもこれは影龍王というかキマリス家次期当主として何が何でもやらねばならないことだろう。きっと、たぶん。とりあえず八つ当りじゃないのかと言いたそうな平家ちゃん? あとでもふもふしてやるから黙ってろ。

 

 

「……こ、光龍妃、だと!? 貴様! 何故我の(しもべ)と共にいる!! スコル! ハティ! 何故それを噛み殺さない!!」

 

 

 我に返った悪神が小型フェンリルに向かって叫ぶが二匹の狼はどうしようという表情……と言っていいのか分からないがとりあえず困惑してるらしい。というよりさ……あの二匹、なんかビビッてねぇか?

 

 

『無駄ですよ。この二匹は夜空の威圧によって牙を抜かれた獣同然となっていますからね』

 

 

 悪神の問いに答えるように夜空が羽織るマントから声が響いた。なるほど……威圧したからビビッてるってわけか――マジで規格外だなおい。

 

 

「な、なに……! スペックは親には届かないとはいえ仮にもフェンリルの子供だぞ! それを、威圧しただと!!」

 

「相変わらず出鱈目なことしてんなぁ」

 

「だってさぁ! こっちはもふもふしたいだけだってのに牙見せつけてきて噛みつこうとしてきたんだよ? 噛まれたくねぇから牙へし折って上下関係叩き込んだらこうなった! だから私は悪くない!! てかよく見るとフェンリル死にそうじゃん! へぇ~倒したん?」

 

「穴におびき出して水攻めして出てきた所を捕まえて現在解体作業中だ。倒したかどうかって言われたら微妙だがな……んで? お前がここに来たってことは――殺し合いか?」

 

「――当然じゃん。何のためにここに来たと思ってんの?」

 

 

 周りにいる奴らが片膝をつく音が聞こえる。当然だ……呼吸すら困難になるほどの濃厚な殺意がこの場を支配したからな。この場で普段通りになってるのは慣れている俺とヴァーリ、四季音、獅子王ぐらいか……それ以外は大なり小なり体を震わせたりして夜空を見ているだけで動くことすら出来ていない。相変わらず出鱈目な殺気で惚れ惚れするなぁおい!!

 

 

「神とフェンリルとの大喧嘩! そんな面白いことが起きてるのに私が黙ってるわけねぇじゃん! しかも赤龍帝とヴァーリが、二天龍が共闘だよ? すっげぇ面白いじゃん! だから私が混ざってもなにも文句ないっしょ? そんなわけだからノワール! 殺ろ? もう身体が疼いてしょうがないんだよ!! ノワールが欲しくて欲しくてもうどうしようもないんだよ! あっ! ちなみに前は私が驚かされたけど今度はこっちが驚かせる番だからね! すっげぇ驚くよぉ?」

 

「そりゃ楽しみだ。てかそんなに混ざりたかったんならこっちに来ればよかっただろ? 天龍と双龍の共闘で神殺しも面白いと思うぜ? まぁ、俺としてはこれはこれで面白いから文句はねぇけどな……悪いがここからは俺は離脱させてもらうぞ。平家、犬月達の指揮を頼んだ」

 

「任された。ノワール、ちゃんと帰ってこないとダメだから。もふもふしてくれるんでしょ?」

 

「はいはい……ちゃんと帰ってきたらお前の体の隅々までもふってやるよ」

 

 

 影の翼を形成して夜空と向かい合うように空へと昇る。たくっ、水無瀬も橘も犬月も心配しすぎなんだよ……何度夜空と殺しあってると思ってんだ? この程度はお遊びの範疇なんだからそんな顔すんじゃねぇよ。あとすいませんが橘様、そんなえっちぃのは禁止ですと声を大にして言いたそうな笑顔はおやめください。怖いです。本当に怖いです。ま、まぁそんなことは後回しにして……なんか変な感じなんだよなぁ。夜空から感じる威圧感、龍のオーラが前までと地味に違うような気がする……規格外だから何が起きてても不思議じゃないがマジで何しやがったこいつ?

 

 

「夜空、場所変えるぞ。折角のお前との殺し合いに邪魔者がいるのは我慢ならねぇ」

 

「がってん! でもさぁ~せっかく二天龍と獅子王、酒呑童子がいるのにこのままってのも面白くないよねぇ? よぉ~し! ほら、解放してやっからあいつらと遊んできなよ。ついでに――」

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

「――あんたらの親、治してやっから」

 

 

 小型フェンリルから飛び上がるように空へジャンプした夜空は山吹色の鎧を身に纏った。その姿は何度も見てきた美しいとさえ表現できる全身鎧だが――ここで初めて夜空が言った驚かせるという言葉の意味を理解した。確かに姿は同じだ、しかしこれまでと比べてある一点だけ違いがある……オーラ、いや生命力と言える気が炎のように夜空の全身を包んでいる。仙術や気に疎い俺ですら異常と思えるほどの膨大な質量――あは、あははははは! 夜空! お前、お前! いったい何をしやがった!!

 

 俺の喜びに応えるように夜空は地上で捕獲されているフェンリルに向かって光を放つ。当然、解体作業中のデュランダルとイケメンメガネは距離を取って回避する。誰もがフェンリルが致命傷を負ったと思っただろう……しかし実際は違った。逆だ。()()したんだ……先ほどまで俺たちが与えていたダメージがまるで無かったかのように治りやがった。もっとも潰された目は治ってないから俺のような再生能力を与えるというモノじゃなさそうだが……マジかぁ!

 

 

「嘘だろ……! フェンリルの傷が……!」

 

「治った、ですって……! キマリス君!! 光龍妃はアーシアのような回復能力を持っていたの!?」

 

 

 地上から赤龍帝、グレモリー先輩の驚きの声が聞こえるが……そんなの決まってんだろ――

 

 

「――持ってなかったに決まってるだろ……! 回復すると言っても仙術で自分の体を治すだけ……光を放って他人を回復する能力を持ってるなんて今の今まで知らなかったっての! あ、あははははは!! 確かにこれは驚くわ! マジで驚いた!! おい夜空ぁ!! その鎧、前と違うだろ? 何しやがった?」

 

「――にひひ! 気づくなんて流石じゃん!! 何をしたって言われてもさぁ! 禁手が変化したって言うしかないんだよねぇ」

 

「……は?」

 

「だからぁ! 禁手が変化したんだってば! ノワールの影人形融合と同じようなモノを開発しようといろいろと試してたらさぁ! なんか知らないけど禁手が変化したんだよねぇ! ちなみに名前は――光龍妃(グリッター・オーバーコート)()生命鎧(ライフメイル)だよぉ! どうどう? おっどろいたぁ?」

 

 

 鎧のせいで顔は分からないがきっと満面の笑みなんだろうなぁ。全くよぉ! いろいろと規格外だなんだと思ってたがここまでとはな! まさか自分の禁手を変化……亜種化させるなんて普通じゃねぇだろ! 見ろよ真下の連中の顔を! 絶句してるぞ! 笑ってるのなんてヴァーリと獅子王と四季音ぐらいだぞ? マジでこの連中頭おかしいわ……俺も現在進行形で笑いが止まらないからお相子だけどな!

 

 しっかし光龍妃の生命鎧ねぇ……よくよく考えてみれば夜空は禁手に至るための苦労はしてはいない。なんせ初めて発動した時には既に至っていた……つまり神器自体に自分の経験を与えていないとも考えれるわけだ。恐らく俺が影人形融合を見せなければ禁手が亜種化しなかっただろうなぁ……なんせ夜空自身が今のままでいいとか考えてそうだしよ。とりあえずフェンリルの傷が癒えた所を見ると亜種化した影響で回復系の能力に目覚めたと考えていいか……ふざけんじゃねぇよ! ただでさえどうしようもねぇのに回復能力なんて手に入れやがって! どうやって倒すんだよ! いや倒すけど! 俺が倒して女王にするけど!!

 

 

「たくっ、本当にお前を相手にしてると面白いことしか起きねぇなぁ。驚いたかって? 驚いたに決まってんだろ! なんだよそれ? 禁手を亜種化させるなんざ驚かないわけねぇだろ! 最高だぜ夜空!! ますます好きになったわ! 俺もお前と同じようになぁ……お前が欲しくて欲しくてたまんねぇんだよ! さぁ、殺ろうぜ? 今回で決着がつくか、相打ちになるか、それとも飽きるか、ククク、あははははは!! どうでもいいよなぁそんなことは!! どうせ殺しあってれば楽しくなるんだしよ!」

 

「うんうん! どうせ殺り始めたら私もノワールも止まんないもんねぇ! それじゃあ! 私達の戦いの舞台へとご招待だぁ!!」

 

 

 夜空が片腕を上げると巨大な穴が出現した。この中に飛び込めば俺と夜空しかいない場所に出るだろう……つまりそこでお互いが満足するまで殺しあう事になるな。

 

 

「ま、待て!! まさか我を無視する気か! 影龍王! 貴様は我を止めるために戦っていたのではなかったのか!!」

 

「はぁ? 馬鹿じゃねぇの……お前と夜空、どっちが大切かなんて分りきってるだろ。フェンリルしか取柄のない神なんざ最初から興味ねぇんだよ」

 

「……っ! 影龍王ぅ!!!」

 

「そういうわけだ。平家、水無瀬、四季音、犬月、橘。俺がいなくても頑張れるって所をそいつら(悪神とフェンリル共)に見せてやれ。キマリス眷属は影龍王頼りじゃないと周りに見せつけろ」

 

 

 地上にいる眷属達に言い残して穴に飛び込む。勝手な王と罵るか恨むかは自由だが俺は夜空以外には興味ないんでな……嘘、冗談だ。俺がいなくてもお前らなら、周りにいるヴァーリや獅子王がいるなら何も問題ねぇよ。だから文句は帰ってからじっくりと聞いてやる……だから死ぬんじゃねぇぞ?

 

 そんなわけで穴に飛び込んだ俺達は誰もいない無人の空間に出た。なんというか、そのぉ、見覚えがある地形ですね! うん! そこの大穴とか前に四季音が全力の拳を放って作った大穴じゃありませんこと? いやぁ、どこだろうなぁここは! 俺様、見当がつかないぜ!

 

 

「とうちゃ~く! うんうん! やっぱり私達の戦いの舞台はここしかないっしょ!」

 

「お前なぁ……ここ最近、親父が此処の地形がヤバくなっていくところを見て白目になりつつあるんだぞ? 禿げたらどうしてくれんだ?」

 

「仙術で髪生やしてやるから安心してって言えばいい?」

 

「おっ、マジで? だったら禿げさせても安心だな」

 

 

 もっとも悪魔だから禿げになることはねぇけどな。なんせ自分の容姿を好きに変更できるし。

 

 

「まっ、親父が禿げようが俺は関係ねぇしさっさと始めるか。見てただろうがこっちは既に全力形態だ。生半可な光は効かねぇから覚悟しとけよ?」

 

「にひひ! そっちこそ私の新しい力を見て心が折れないでねぇ!」

 

「そんなもんで折れてたらここには立ってねぇよ」

 

「だよね!」

 

「あぁ。だから――死ねよ夜空ぁ!!」

 

「殺してやるよ! ノワールゥ!!」

 

 

 眼前に見えるのは極大な光の柱。数秒もかけずにここまでの光の柱を生み出すのは何度も見てきた。即座に影法師を生み出して迫りくる光の柱へラッシュタイムを放ち防ぎきる……前とは違い、今の俺は北欧の魔術を行使しているからこの程度の光なら簡単に防ぎきれるぜ!!

 

 

「あはははは! やっぱり硬くなってるぅ! いいよいいよぉ! そ~れそれそれぇ!!」

 

 

 山吹色のオーラを纏いながら夜空は縦横無尽に動き回り、光を生み出しては俺に放ってくる。それは極大の光で構成された柱ではなく、小さな弾丸……いや光の雨というべき大きさだ。一発でも被弾すれば第二第三と連続で被弾することは間違いねぇなこりゃぁ……!

 

 通常時、普通の禁手状態の俺なら防ぎきれないほどの量だが――影人形融合2状態なら話は別だ!!

 

 

「影法師ァ!!」

 

 

 自分と同じ姿をした影法師を数体生み出し、周囲全てにラッシュと放つ。お前(夜空)が雨を降らすなら俺は傘になってやる。お前が退屈なら俺が楽しませてやる。だから笑え! もっと、もっと、もっと楽しそうに笑え! そのためなら俺は貪欲なまでに強さを求めよう……お前の事が大好きだからなぁ!!

 

 

「ゼハハハハハハ!!」

 

「アハハハハハハ!!」

 

 

 周囲が光の雨が降り注いだ影響で見るも無残な後継へと変化していく中、俺と夜空は互いにぶつかり合う。黒のオーラと山吹色のオーラ、殆ど真逆とも言っていい色同士が冥界の上空で衝突を続けている。夜空が降らせた光の雨による被弾は影法師で防いでいるから俺はダメージはない……が夜空本人による蹴りのダメージは別だ! 十の防御魔術、影の膜で覆われた俺の拳をへし折るほどの威力だからな! マジで人間が出していい蹴りじゃねぇぞおい!!

 

 即座に片腕を切り落として再生。俺の気力が続くまで何度でも、何度でも再生してやらぁ! この程度じゃ俺の精神を壊すことは出来ねぇんだよ!!

 

 

「硬いぃ! あはははは! すっげぇ! なになに!? 北欧の魔術ってそんなこともできんの!」

 

「防御に特化してっからなぁ!! お前の蹴り程度なら何発でも受け止めれるぞ!!」

 

「言ったなぁ!! それじゃ~今度はおもいっきり行くよぉ!! ひぃ~さぁつ! ロリータキィック!!」

 

 

 体の一部、つまり夜空の足が光となった回し蹴りを拳で迎え撃つ。たったそれだけで離れているはずの地上が抉れるほどの衝撃……腕イテェ! てか全身鎧の半分を吹き飛ばすんじゃねぇよ! 鎧の下は全裸なんだよ! ノワール君のノワール君が見えちゃうからマジでやめろや!!

 

 そんな変な怒りを込めてがら空きとなった胴体に無事な腕で殴る。前までなら打撃を受けた周辺が吹き飛ぶ程度だったがどういうわけか鎧の前面が軽く吹き飛んでいる……俺の防御力が上がったせいか? いや、それにしてはこの強度はおかしい……あぁ、そうか! そういう事かぁ!!

 

 

「なんだなんだ? 亜種化したせいで鎧の強度が落ちてんのか?」

 

「いったいなぁもう!! うんそうだよ! なんか知んねぇけど鎧の強度がガタ落ちだよ! もう紙装甲だよ! 鎧の意味なしてねぇの! はい! 折れた骨修復完了!」

 

 

 腕で被弾個所をなぞるだけで何も無かったかのように元に戻られると何とも言えない敗北感になるな……どんだけ回復力あるんだよ? グレモリー先輩の所にいるシスターちゃん以上は確実にあるな。防御力が落ちたから楽になったとかそういうレベルじゃねぇ……! 確実に落とさねぇと即回復されてダメージが無かったことにされるってことか。あははははは! 本当に楽しいわ! 楽しすぎてイキそうだ!!

 

 

「自慢したいからぶっちゃけるとね! この光龍妃の再生鎧の能力は『生命力を回復する』だよ? 生命の根源、それが回復するんだからこの程度は簡単なんだよねぇ。だから私を倒したかったら覇龍以上の出力で来ないとダメだよ? そんな拳一発で落ちるわけねぇじゃん!」

 

「むしろそれで落ちたらこっちが驚きだ……生命力の回復か、なるほど。それを使ってフェンリルの傷を回復させたってことか。ただフェンリルの目が治ってなかった所を見ると回復には限度があるって感じか?」

 

「まぁね。流石にノワールみたいに再生させるほどの回復は……出来るけどやりたくないだけ。てか他人を回復させるなんて初めてやったからどこまでやればいいか分かんなかったのが本音ね! あぁ、でも確かなのは元から無かった部分はどうしようもねぇよ? う~ん、やる気無かったとはいえフェンリルの目も治しておけばよかったかなぁ? まっ、いっか!」

 

『ゼハハハハハハ! 生命力の回復と来たか! これは厄介だぜ宿主様! 人間の生命力ってのは高まると傷の治癒力が増したり体調がよくなったりしやがる! その逆もな! ユニアの宿主以外が持ってるなら高い回復要因で済むがその保有者が規格外なら話は別だぜぇ!』

 

「あぁ……こっちのダメージは無意味になるほどの回復力持ちの規格外とかどうしようもねぇな」

 

『元からスペックが規格外のユニアの宿主だ! 持久戦はこっちが不利になりやがった! でも、楽しいなぁ! ゼハハハハハハハハッ! こんなに楽しいのは久しぶりだぜぇ!! まさかユニアが持っていない能力を発現するとはなぁ! 歴代の光龍妃ですらなかったことだぜ!!』

 

 

 その言葉には同意だよ相棒! これだけ楽しい殺し合いは久しぶりだ!

 

 

「ん? これユニアが持ってたものじゃねぇの?」

 

『クロムの言う通り、私の能力ではありませんよ。そもそも私は攻撃しか出来ませんからね』

 

『ゼハハハハハ! 俺様が影を生み、全てを防ぐ盾となり、ユニアが光を生み、全てを滅ぼす矛となる。それが地双龍よ! 回復なんていう女らしい能力をユニアが持つわけねぇんだなぁ!』

 

『えぇ。そんなことをするよりも血を流しながら楽しんだ方が良いですし。しかしそう考えると今代の影龍王は別格ですね。まさかクロムの能力を一部分だけとはいえ引き出していますし……夜空にも期待したのですがまさか別のものが発現するとは思いませんでしたよ』

 

『俺様の宿主様だからなぁ! 特別に決まってんだろぉ! さて、ユニア――語らいは終わろうぜ? さっさと続きをしようじゃねぇのぉ!』

 

『クフフフフ、えぇ、そうですねクロム! これほど楽しい殺し合いは中々無いですから思う存分楽しみましょう! 夜空!』

 

「おっけ~!」

 

『宿主様!! 負けるわけにはいかねぇぜぇ!』

 

「当たり前だろ!!」

 

 

 無数の影法師を生み出し、夜空にラッシュタイムを叩き込むべく向かわせる。それを見た夜空は嬉しそうに光り輝く流星のように高速で移動し、迫りくる影法師を消滅させていく。俺の分身ともいえる影法師をいとも簡単に消滅させるほどの質量……いや光力はおっかねぇ! 消滅させられては生み出し、生み出されては消滅させられる。俺の体も夜空の蹴りや手刀、光で吹き飛んでは再生、夜空の方も普通なら死んでいるレベルの骨折でさえ即座に回復しやがる。マジでおっかねぇ。

 

 そんなことを何度も繰り返していると夜空が「ろり~たすーぱぁあたーっく!」という名前らしい技を放ってきたので影法師で応戦するが……なにこれ? 一瞬で夜空の周りに夜空と同じ姿をした光が生み出されて突進してきたんだけど? 恐らく俺が生み出す影人形や影法師を真似たものなんだろうけどさ……多いんだよ! たった一瞬で十数から数百の光人形(夜空ちゃん)が突進してくるとか怖すぎるわ!! 威力も地上に落ちた光人形のせいで大穴とか空いてるし。なんという物量攻め……誰だよ! 夜空にこんな技教えたのは!!

 

 

「あはははははは! もっともっと激しくいくよぉ!!」

 

「ドンドンきやがれ夜空ぁ!! この程度じゃフェンリルの方が怖かったぞ! 人間の力ってのはその程度か!? もっと本気出せやおらぁ!!」

 

「なにをぉ! そんじゃぁもっともっともっとぉ! テンション上げてくよぉ!!」

 

 

 オーラをまとった俺と夜空は正面からぶつかる。夜空の拳が俺の顔面を捉えると圧倒的な光力によって防御魔術、そして影の膜の上から俺の頭部を吹き飛ばす……だから、まだまだだって言ってんだろうがぁ!!

 

 即座に影を集めて再生、お返しに夜空の顔面を殴る。身に纏う炎のような生命力で殴った腕が焼けるが知ったことか……! 炎を突き抜け打撃を与えると前よりも強度が落ちた鎧では防ぎきれずに兜が崩壊し、鼻が折れたのか鼻血を出しながら俺を睨み付け――もう一度俺の顔面を殴ってきた。

 

 再生、回復、再生、回復。体が吹き飛ぼうが骨が折れようが知ったことかと俺と夜空は至近距離で殴り合う。痛みすら快楽に変換し、高笑いしながら殴り合う。既に周りは前以上に地形が変形しており、恐らくだがこの異常事態に他の悪魔達が遠くから見ているのだろう……だが知らねぇ! そんな観客の事より目の前の女が大切なんでな!!

 

 

「相変わらずしぶてぇなぁおい! いい加減俺に倒されろ!」

 

「ばっかじゃねぇの!! ノワールこそいい加減あきらめて私に敗北しなよ!」

 

「うるせぇ! テメェに負けるなんざ最強の影龍王として、いや俺が許さねぇんだよ!!」

 

「こっちもアンタに負けるなんて光龍妃として、ううん! 女として許せないんだぁ!!」

 

「死ねぇ!」

 

「死んじゃえぇっ!」

 

 

 お互いが放った拳同士がぶつかり、周囲が吹き飛ぶ。その衝撃で俺達は背後に飛ばされるが……まだ終わらない。終わらせない。折角、夜空の禁手が亜種化したんだ! この程度で終わらせてたまるかよぉ!!

 

 

「――夜空」

 

「――ノワール」

 

 

 目の前の(夜空)の目を見る。なんだよ……やっぱり相思相愛だな! 考えることが一緒とは嬉しいぜ!!

 

 

「我、目覚めるは――」

《始まるか》《あぁ、始まるな》

 

「我、目覚めるは――」

《始まってしまう》《始まりだよ》

 

 

 周囲に老若男女の声が響き渡る。気色悪い声色だがそれは歓喜の感情を込めて叫びだす。

 

 

「自らの大欲を神により封じられし地双龍なり――」

《闘争は終わらぬ!》《自らが滅ぶまでは決して!》

 

「自らの大欲を神により奪われし地双龍なり――」

《互いが満足するまでは決して終わらぬ》《それこそが彼女の望みなり》

 

 

 俺の体が、夜空の体が変化する。膨大な悪意と怨念の海に抗うように意識を保ち、その身に宿す龍へと変わる。

 

 

「夢幻を断ち、無限を望む――」

《もっとだ! もっと寄こせ!》《我らが王はまだ足りぬと叫んでいる!》

 

「夢幻を恨み、無限を願う――」

《まだ、まだ足りない!》《我らが女王はまだ足りないと叫んでいる!》

 

「我、影の龍王の覇道を求め――」

《我らが王の望みこそ我らの願い! 光龍妃に敗北を!!》

 

「我、爛爛と輝く龍の妃と成りて――」

《我らが女王の望みこそ我らの願い! 影龍王に敗北を!!》

 

 

 さぁ、行くぜ夜空ぁ!!!

 

 

「「「「「「汝を理性を捨てた狂気の世界へと導こう」」」」」」

 

「「「「「「汝を金色に満ちた幻想の極みへと誘おう」」」」」」

 

 

 呪文、老若男女の歓喜の叫びが終わったこの場には圧倒的なまでの暴力が存在している。この身を影龍へと近づけた俺、そして目の前にはその身を光龍へと近づけた夜空がいる。体は俺と同じぐらいにまで巨大化し、禍々しい棘の鱗が目立つ俺とは真逆と言っていいレベルの美しい山吹色の鱗。背にはマントのように見える複数の光の翼……もし、他人がこの状況を見たなら俺を悪と呼び、夜空を善と呼ぶだろう。それぐらいに真逆な印象を持たせるのが夜空の覇龍形態だ。

 

 存在するだけで地形すら崩壊させるほどの暴力……いや災害って言った方が良いな。相変わらず覇龍同士で殺しあうと命なんてちっぽけなものだって錯覚させられるな!

 

 

「そういや、フェニックスの婚約パーティーの時もこうして覇龍を使おうとしてたよな?」

 

「そうだっけ? まっ、どうでもいいじゃんそんなこと! 言っとくけど加減しないから覚悟しといてね! 今の私は超絶好調!! なんだからさ!!」

 

「うるせぇ! こっちだってテンションが最高潮だ! 眠たいとか言っても寝かせねぇぞ!!」

 

 

 俺と夜空は向かい合った状態から動き出す。互いを殺すために、楽しむために。周りなんて関係ないと言わんばかりに行動を起こす。

 

 

「「死ねぇ!!!」」

 

 

 それが地双龍……いや、俺と夜空の関係だからな。




禁手 光龍妃の生命鎧《グリッター・オーバーコート・ライフメイル》
形状 背中に光り輝くマント、山吹色の鱗を持つドラゴンを模した美しいと表現できる全身鎧。全身から漏れ出した生命力が炎のように噴き出している。
能力 「10秒間、自由自在に光を生み出す」「光を浴びる事で自身の力を上昇させる」「生命力を回復する」

片霧夜空が保有する光龍妃の外套の禁手「光龍妃の鎧」が亜種化したもの。
「生命力の回復」により夜空は自身の回復、他者の回復を会得しています。
イメージ的にはMP0消費でベホマを連打です。

遅くなって申し訳ありませんでした!
観覧ありがとうございました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話

「――へぇ、あの後そんなことが起きたのか」

 

「全くイッセーには驚かされるばっかだっての。乳神っつう得体の知れねぇ神を呼んじまうんだからな。そういうお前さんも派手に暴れたねぇ、戦場になったキマリス領がトンでもねぇ事になったらしいじゃねぇか」

 

「別にいつも通りだけどな。まぁ、親父はあの辺り一帯の惨状を見て呆然としてたけど俺達は何も悪くない」

 

 

 駆王学園旧校舎、オカルト研究部の部室に呼び出された俺は姫島先輩が淹れてくれた紅茶を飲みながらアザゼルと話している。ロキとフェンリル、そして夜空との殺し合いから既に数日が経過し、当初の目的であった日本神話と北欧の主神オーディンによる会談は無事に終わった……らしい。いや、らしいというよりロキが襲撃してきた会談当日から約三日間ほど夜空と殺しあってたからいつの間にか終わってたというのが正しい。俺も夜空もテンションが最高潮に達し、どちらも相手を殺すまで辞めるつもりはなかったから仕方なかったけどまさかここまで続くとは思わなかったなぁ……なんせ互いに覇龍使って殺し合い、限界になったら一旦やめてキマリス領の俺の実家に二人で帰って飯食う寝る、そしてイチャイチャする(殺しあう)とかを繰り返してたらいつの間にか三日間経ってた。いやぁ、楽しいと時間の感覚って薄れるもんだなぁ。

 

 

「しっかしお前さんも光龍妃も止めに入った四大魔王の眷属全員に喧嘩売るとはなぁ。まぁ、正確には戦闘開始直前だが普通はやらねぇぞ?」

 

「俺と夜空のイチャイチャを邪魔しに来たあいつらが悪い」

 

「……そのせいでキマリス領に隣接する他の悪魔の領地が大変なことになりかけていたのだけれど?」

 

「うちの領地に住んでる悪魔たちは『あぁ、今回は少し長い殺し合いだな』って感じでスルー気味だったんですが? 全く、キマリス領に住んでいる奴らを見習って忍耐力とかその辺をつけた方が良いんじゃないですか?」

 

 

 反対側に座っているグレモリー先輩がジト目で言ってきたが俺達は悪くない。ただ普通に殺しあってただけだしな。

 

 そもそもあの時の俺達のテンションだったらあと一週間ぐらいは続く予定だったんだだよ! それが三日で終わった理由はアザゼルが言った通り、ルシファー眷属やらレヴィアタン眷属やら……とりあえず四大魔王の眷属全員が邪魔をしてきたからだ。どうやら俺と夜空が殺しあってた地双龍の遊び場(キマリス領)からかなりの衝撃やら破壊音が発生、そのせいで隣接している別の悪魔の領地にまで影響を及ぼしたらしく軽い災害もどきが起きたようだ。そんなわけでこれ以上はいけないぞと動けない四大魔王に代わってその眷属達総出でストップをかけてきたわけなんだが……本当に空気読めねぇよなぁ。

 

 さて、そんな災害もどきを引き起こしていた元凶こと俺達は――

 

 

『はぁ? なんでこんな楽しい殺し合いをやめねぇとダメなんだ? おいおい最強の女王様も歳取りすぎてボケ始めたか?』

 

『てかテメェら邪魔なんだけど? 今ノワールと楽しく殺しあってんの見えねぇの? 邪魔すんの? へぇ、死にたいんだ』

 

『悪いが今回は夜空を止める気は一切ねぇからな。つーかただの悪魔如きがドラゴンの、地双龍の殺し合いを邪魔すんじゃねぇよ』

 

 

 とまぁ、うん。はぁ? マジでふざけんじゃねぇぞと逆切れしました。仕方ないね! だって夜空との殺し合いを邪魔しに来たんだし! 最初は四大魔王様の眷属の乱入にテンションが上がったんだが突如巨大化した男が戦闘開始と同時にガス欠もどきをし、それを夜空が見て萎えたのか「飽きた」と言ってどっかに行っちまったから結局殺し合いには発展しなかったけども……どうやらガス欠した男は俺達がいる場所に来るまでにテンションが上がりすぎてペース配分を考えるのを忘れてたみたいだ。良かったな、もしそれが無かったら魔王眷属の半分以上は死んでただろうぜ? 主に夜空の光でな。

 

 

「そんで? こんなくっだらない話をするためにここに呼んだんですか?」

 

「んなわけねぇだろ。ちょっとした確認とサーゼクスからの伝言をな。さてまずどうでもいい事だが……お前さん、ヴァーリの行動を分かってたな?」

 

 

 ヴァーリの行動……ねぇ。俺はロキとフェンリルとの殺し合いの途中で離脱して三日間ぐらい夜空と殺しあってたからあの後どうなったかとかは入院している犬月達から聞いたが……あれぐらいは誰だって分かるだろ?

 

 俺が離脱した後、ヴァーリ達はロキとの対決をやめてグレイプニルで捕縛されているフェンリルと共にどこかへ消えたらしい。残ったロキと小型フェンリルは獅子王、グレモリー眷属、キマリス眷属、ヴァーリ以外の残りメンバー、バラキエル、ヴァルキリーちゃん、そして調整が終わった匙君で対処したそうだ。もっとも匙君は半分暴走状態だったようだけどな……その辺は宿主である匙君の実力不足が原因のようで鍛えれば問題ないらしい。さて、この戦いで犬月が入院する羽目になったがその原因は化け犬状態で小型フェンリルの喉元に噛みついて動きを止めていたところをもう一体の小型フェンリルに背中から噛みつかれたからだ。いやぁ、平家とかから聞いたときは笑ったな! なんせ噛みつかれても泣き喚かずに小型フェンリルの片方を拘束し続けたんだからな! まぁ、その結果、獅子王と四季音のパワーコンビによって叩きのめされたわけだが……やっぱりアイツ根性あるわ。

 

 ちなみに入院と言っても傷自体はシスターちゃんの回復を受けて治っているが魔物に噛まれた事で体に何か影響が出ていないか検査を受けるためのものでもう少ししたら退院できる。とりあえず退院したら退院祝いとして水無瀬に豪勢なものを作らせようかねぇ。

 

 

「前々から何かやる気だなぁってのは感じてましたよ? そもそもヴァーリが見返りもなく協力するわけないし、そんな善人だったら禍の団に入ってねぇでしょ?」

 

「だな。だがそのせいで神を殺せるフェンリルがテロリストの手に渡ったわけだ。ヴァーリの事だ、悪用することはないだろうが用心しとかねぇと何が起こるか分かったもんじゃねぇ」

 

「だろうな。それよりも乳神ってどこの神なんだ? 相棒に聞いても知らん、分からんって感じなんだが?」

 

「そんなもん俺たちが知りたいっての。まっ、そのおかげでロキを倒せたが各神話体系でも謎の神格の登場に色々と調査を始めたようだぜ……呼び出した本人もなにがなんだかわからんって感じだがな」

 

 

 アザゼルが呆れた声色でコーヒーを飲んだ。だろうな……俺も聞かされたときは少しばかり固まったし。

 

 俺、ヴァーリが抜けた状態で悪神と戦っていた赤龍帝だが何をしたか知らないが乳神という各神話体系すら知らない神格の意識を呼び寄せたらしく、いろいろと波紋を呼んでるそうだ。まぁ、悪神も自身が倒されないように小型フェンリルの他に量産型ミドガルズオルムという魔物も呼びよせたみたいだが我らが歌姫しほりんこと橘の破魔の霊力、目の前にいるグレモリー先輩の滅びの魔力、獅子王と四季音の怪力とかで一掃。そして残ったロキも乳神パワーを手に入れた赤龍帝の一撃で倒されて事件解決! もっとも俺としてはどうでもいいけどな。だって夜空との殺し合いに夢中だったし。

 

 

「まっ、確認ってのはその事だけだ。さてノワール・キマリス、現魔王サーゼクス・ルシファーから伝言を頼まれた。なに、先の光龍妃との大喧嘩の件に対する処罰じゃねぇから安心しろ。お前さんの眷属、四季音花恋に中級悪魔へ昇格する試験を受ける許可が下りた。近日中に書類が届くからちゃんと受けさせろよ? 流石にこれを蹴ったらいろいろと問題もんだからな」

 

「……いや、流石に叩きのめしてでもちゃんと受けさせるが、急だなおい」

 

「むしろ遅すぎるぐらいだ。若手悪魔同士によるレーティングゲーム、そこでの戦績と今回の一件でただの下級悪魔では拙いと現魔王と上層部が昇格試験を受けることを許可した。そもそも分家とはいえあの酒呑童子だ、実力なら上級悪魔以上だろう……全く、よく転生させれたもんだ」

 

「まぁ、うちの眷属で俺を除けば最強ですからね。しかもフェンリルと殺しあった事で前以上に妖力が上がってましたよ? これは犬月もそうだが……上昇率は天と地の差だ。こればっかりは鬼だからって納得するしかねぇけどな」

 

 

 夜空との殺し合いから帰ってみたらもうビックリしたぜ……元々、相手が強いほど自分の力を跳ね上げる気質を持つ四季音だが数日前よりもさらに強くなってたんだもんなぁ。鬼ってのはおっかねぇよ、ほんと。

 

 あっ、鬼と言えばそういえば四季音の奴が変なことを言ってたな……なんか見つかっちゃったとか言ってたが何に見つかったんだ? 聞いても面白い子だよと言って教えてくれねぇし……平家にでも聞いてみるか。

 

 

「鬼ってのは昔から戦闘に関しちゃ悪魔や天使、堕天使以上だからな。それ故に気に入った奴しか相手をしない。まっ、あの実力なら試験は簡単にクリアできるだろうよ」

 

「問題なのは筆記ですけどね。その辺は水無瀬や平家に教えさせますよ……あぁ、そういえば先輩? あのヴァルキリーちゃんを眷属にしたんでしたっけ? うちの水無瀬が同僚ができたとかって喜んでたんで仲良くしてやってください」

 

「えぇ。こちらこそお願いするわ」

 

 

 どうやらあのヴァルキリーちゃんは悪神戦終了時に仕えていた主神様に置いて行かれて帰る事が出来なくなり、途方に暮れていたところを目の前にいるグレモリー先輩がスカウトして転生悪魔になったようだ。しっかしよく転生できたもんだ……でもあの魔法は地味に厄介だし次に戦うときは優先的に倒さないとダメだな、ただし最優先はシスターちゃんだ! あの回復は放っては置けねぇ……夜空との殺し合いで回復の恐ろしさをこれでもかと体験したしな!!

 

 そんなこんなで談笑を終えて保健室で待機していた橘と共に家に帰る。犬月は風邪という名目で休み、平家は悪神やフェンリルとの殺し合いで疲れたのか堂々とサボり……羨ましいかぎりだ。

 

 

「え? 花恋が中級悪魔になれるんですか?」

 

 

 水無瀬が晩飯の準備をしながら俺に聞いてきた。にしても犬月がいないとどうも静かすぎる……さっさと退院してくれねぇかなぁ。

 

 

「おう。なんでも今までのレーティングゲームの戦績、そんで今回の一件で下級悪魔のままだと拙いみたいでな。近々書類が送られてくるんだと……おい、というわけだからちゃんと勉強しろよ? もし落ちたら酒禁止にするからな」

 

「にししぃ~もんだいなぁ~いよぉ~? こうみぃえてぇもぉ~あたまはぁいいんだからぁ~」

 

 

 さて、毎日酒瓶片手に酔っぱらっては俺にセクハラしてくるこの合法ロリを如何すれば大丈夫、試験は楽勝だと思えるようになるんだろうかねぇ? 普通に考えて無理だな。だが酒禁止にして真面目に取り組むように言っても聞かねぇだろうし……どうすっかなぁ。

 

 

「花恋に勉強しろって言っても無駄だと思うよ」

 

「やっぱり?」

 

「うん。花恋に酒を飲むのをやめろって言っても無駄でしょ?」

 

「……だなぁ」

 

「あ、あの! ちゃ、ちゃんと勉強をした方が良いと思いますけど……? 中級悪魔に昇格する試験は簡単には受けられないんです、よね? だ、だったらちゃんとやるべきです!!」

 

「――だそうだぞ?」

 

「うぃ~? しょぉ~がないねぇ――ちゃんとすればいいんだろう? ところで試験ってのは何をするんだい? ただ単純に戦って昇格するわけじゃないんだろう?」

 

「当たり前だ。やることは筆記試験と実技試験、そしてレポート作成だな……内容は今後の目標とかその辺を書いておけばいいさ。俺も手伝うが基本的には自分でやれよ? あぁ、でも平家達も今後に備えて一緒にやっておいてもいいかもしれねぇなぁ……とりあえず頑張れよ」

 

 

 四季音の中級悪魔昇格の話をしながら晩飯を食べて自分の部屋へと戻る。恐らくだが四季音は中級悪魔になればあまり時間をかけずに上級悪魔に昇格する事ができるだろう……言っては何だが鬼故のカリスマも持ってるし実力も十分だしな。そうなると四季音が率いる眷属と殺し合いができるな……おぉ! なんか良いなそれ! あいつがどれだけ面白い奴を集めるのか今から楽しみだ!

 

 

「その分、周りが色々と大変そうだけどね」

 

 

 俺の膝の上で風呂上がりの平家が体を預けながら早く早くと言いたそうな目で俺を見つめてくる。なぜこうなっているのかと言えば……悪神&フェンリル戦でモフってやる宣言をしたせいだ。結局夜空をもふもふペロペロすることができなかったのに何で平家をもふもふしないとダメなんだろうな?

 

 

「約束は約束。志保から怒られたとはいえちゃんとしてくれないとダメ」

 

「ここ最近の橘はますますえっちぃのはいけません委員長になってるしなぁ。んで? どこしてほしい?」

 

「ノワールの好きなところでいいよ。ちゃんとノーブラノーパンだから舐めるのも弄るのも自由。そのままエッチしても私は良いぐらい」

 

「夜空で童貞捨てた後だったら好きなだけ抱いてやるよ。ところで……四季音が昨日辺りに言ってた面白い奴云々ってのはなんだ?」

 

「花恋が実家にいた時に一緒にいた子に見つかったんだってさ。レーティングゲームとか神との殺し合いとかで有名になったせいみたい」

「なるほどな。まっ、面白い奴だったらなんだっていいか」

 

「うん。さぁ、ノワール。早く早く」

 

 

 この後、何やら分からないところがあったらしく聞きにきたえっちぃの禁止委員会委員長の橘に全裸の平家をもふもふしているところを見つかり、正座で説教される羽目になった。

 

 あれ……俺が王で橘が眷属だよな? なんかおかしくねぇか?

 

 

 

 

 

 

「う~ん! 楽しかったぁ!! あいつらの邪魔が入らなかったらもっと楽しめたんだけどなぁ」

 

『次がありますよ。しかし新しく発現した能力は使い勝手が良いですね。今後も伸ばしていきましょう』

 

「うんうん! さっすが私! そんで――何の用?」

 

 

 光り輝くマントを羽織る少女は無表情である人物を見つめている。どこかの学生服の上から漢服を羽織った男、その手には槍が握られているが少女を見つめる彼の様子からして戦いに来たというわけではなさそうだ。

 

 

「愛しの影龍王との一戦で高ぶっているところを申し訳ないが今日は貴方に面白い事を伝えに来た」

 

「ふ~ん。どうでもいいけどさぁ、今の私ってノワールとの殺し合いを邪魔されて結構キレかけてんだよねぇ……つまんない事だったら殺しちゃうよぉ?」

 

 

 常人であれば息すらできないほどの濃厚な殺気を少女は放つが男は涼しい顔をしながら言葉を続ける。

 

 

「――グレートレッドに会いたくはないか」

 

「――なにそれすっげぇ会いたい!! ちょー会いたい! マジで会えんの? あのでっけぇドラゴンに会えんの?」

 

「英雄派で龍喰者(ドラゴン・イーター)がかの赤龍神帝にどれほどの影響を与えるのかを確かめるために事件を起こそうと思っている。もしよければ光龍妃、貴方にも手伝ってもらいたい。勿論タダでとは言わない、必ず愛しの影龍王が止めに来るだろう……言いたいことは分かるだろう?」

 

「うん。運が良かったらグレートレッドとサマエルの殺し合いが見れる、それが起きなくてもノワールと殺しあえるってんでしょ? うーん、最高じゃん! ぶっちゃけユニアからサマエルは相手にすんなって言われてっから出てきた瞬間に逃げるけどグレートレッドとサマエルの殺し合いが見れるかもしんないなら手伝うしかねぇじゃん! にひひ! さっすが曹操! このイライラが一気に吹っ飛んだよ!」

 

 

 無表情だった少女が年相応の笑みを見せる。たとえそれが世界に悪影響を及ぼすかもしれない事だったとしても彼女には関係ない。ただ楽しければ、自分の半存在がどんな行動を起こしてくれるのかを見られるのであればそれで良いからだ。

 

 

「それはよかった。さて、手伝いと言っても簡単だ。もうじき、帝釈天と八坂の姫が対談を行う。必要なのは姫――いや九尾でね。貴方には九尾を俺達の所まで転移させてほしい」

 

「んっ、それぐらいならいいよぉ? 簡単だし」

 

「助かる。こちらの用事は以上だ。時間を頂いて感謝するよ光龍妃」

 

 

 自らの用事が終わったことを告げ、男はその場から立ち去る。

 

 静まり返った空間には少女一人が残されたが羽織るマントから女性のような声が鳴り響く。

 

 

『――珍しいですね』

 

「そう? だってグレートレッドだよ! サマエルだよ! 見れるかもしれないなら手伝うしかないでしょ! それにノワールもやってくるかもしんないしさ、この前の殺し合いの続きができるかもしれないし……あぁ! もう楽しみだなぁ!! でもつまらなかったら帰ろっと」

 

『相変わらずですね。しかしそれが良い……クフフフフ』

 

 

 その場にはマントから聞こえる声――陽光の龍ユニアの笑いが響き渡った。




「影龍王と悪神」編が終了です。
次回からようやく……ようやくあれが出せます!

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と京都妖怪
52話


「もうすぐ修学旅行があるが土産は何が、何が……良い、っていい加減暑苦しいから少し離れろ!」

 

「ダメよ。もうっ、こういう時じゃないと帰ってきてくれないんだから息子成分を補充させて頂戴」

 

「その補充がどんだけ遅、おそ……あぁもう勝手にしろよぉ」

 

 

 修学旅行という一般的な学生なら胸がドキドキワクワクするイベントがもうじき行われるため、俺は珍しくキマリス領の実家へと帰ってきていた。なんでと言われたら……まぁ、折角の修学旅行だし何か土産を買ってこようと俺にしては珍しい事を思ったからこうして親父と母さんに何がいいかを聞きに来たわけだ。決して、決して! 俺の隣の席に座って腕にしがみ付いている外見年齢詐欺の母さんから「ノワール……もうすぐ修学旅行なのよね? 帰ってこないの?」と若干落ち込み気味な態度で連絡されたからじゃない。

 

 そもそも去年とか一昨年は……こんな風に帰って土産は何が良いと聞いた記憶は無いがこの分だと同じようにしたんだろうな。きっとそうに違いない。

 

 

「お土産かぁ、そういえばそろそろそんな季節だもんね。それに関してはノワールが選んだものなら何でもいいよ? 僕も沙良ちゃんも息子が選んでくれたものが一番喜ぶからね! ねっ!」

 

 

 良いこと言ったでしょとチラチラ見てくる親父はどうでも良いとして……マジで息子成分を補充とか言ってるこれ(母さん)をどうにかしてほしい。もうね……四十代とは思えないおっぱいの感触でムラムラしてるわけですよ。たとえ平家辺りからマザコンとか言われてもこればっかりは仕方がない。だって男だし。でもうざってぇと言いながら引き離せば泣くから黙って補充完了するまで黙っているしかない……早く子離れしてくれねぇかなぁ。

 

 

 

「……親父がキリッとした顔で言ってるが母さんはどうなんだよ? 折角の京都だ、もう何年も行ってないんだろ? 要望があれば写真とか撮ってくるし土産も買ってくるぞ?」

 

「私もネギ君と一緒でノワールが選んでくれたものが一番嬉しいわ。でもそうねぇ……お母さん、折角だしリクエストしちゃおうかしら」

 

「はいはい。どんなものをご所望ですがおかーさまー」

 

 

 どうせ食い物系だろうが母さんの頼みだ、親父だったら数百円の菓子で終わらせるがまぁ、うん。折角の修学旅行だしどんなものでも買ってきて――

 

 

「ノワールが友達と一緒に写っている写真がいいわねぇ。やっぱり修学旅行はそういうのがないとダメだもの」

 

 

 --今、なんて言った? 俺が、友達と、一緒に写っている写真と言ったか? ふぅ……そうきたかぁ! いやいや待て待て! それがどれだけ難易度高いかこいつは分かっているのか聞きたい! すっげぇ聞きたい! マジで聞きたくなるんだが! 言っておくがお母様! 自慢じゃないが俺は夜空と相棒と眷属以外はどうでもいいとさえ素で思ってるほどのコミュ障だぞ? 友達? 多分夜空や犬月、平家達以外にはいませんが何か? グレモリー先輩達は単なる顔見知りで友達じゃねぇしマジで詰んだ…やっべぇどうしよう? ここで犬月と橘、そして俺の三人で撮った写真を持ってきたら泣くんじゃねぇか? あまりにも友達がいない寂しさとかなんかそんな感じで。

 

 

「沙良さま。そんな高難易度な事を友達がいないノワールさまが出来るわけないでっす☆ 他のことにした方が良いでっすよ?」

 

「んだとこの蛇女! テメェよりは友達いるし! いるに決まってんだろ!! そりゃもう俺様はイケメンだからな!! もうモテモテのうっはうっはよ! まっ、外見だけ若い年増のテメェは友達なんていねぇだろうが……ドンマイ」

 

「いやでっすね☆ こう見えても週に一回はメイド仲間で旅行に行ってるんでっすよ? ノワールさま以上に友人の数はいると言って良いでっすね! コミュ障のノワールさまとは違うんでっすよぉ!」

 

 

 キマリス家メイド随一ともいえる巨乳を揺らしながら蛇女はドヤ顔をしてくる。てか週一で旅行とか疲れねぇのか? 絶対に他の奴らは嫌々付き合ってるだろ? この蛇女の勘違いっぷりには涙が出てくるな!

 

 

「言ったなテメェ! ハッ! だったら俺がどれだけ友達いるか証明してやるよ! あー楽しみだなぁ! 蛇女が泣いて謝る姿が目に浮かぶぜ! ちなみに許してほしかったら全裸で奉仕な? 足は蛇状態希望だからちゃんとやれよ?」

 

「ノワールさま☆ 変態でっすね☆」

 

「いきなり褒めんなよ恥ずかしいじゃねぇか。てか蛇女が友達いないってのはどうでも良いんだよ……おい、それ(写真)以外にねぇのか? 俺はてっきり食い物とかなんかその辺を想像してたから予想の斜め上の回答でちょっと焦ってんだけど?」

 

「だって食べ物はお取り寄せとかできるでしょう? だったら修学旅行の記念で写真を撮ってきてもらった方が良いもの。楽しみにしているわね。あとノワール? ミアにセクハラはダメよ。あと他の女の子にもよ」

 

 

 そんなジト目で見ないでください興奮してしまいます。

 

 

「分かってるっての……冗談だ冗談、流石に身内にそんなことさせれるかっての」

 

「キミの場合はたとえ身内でも本気でしそうだからね。天下の影龍王がセクハラで投獄は笑えん、気を付けたまえ」

 

 

 ダイニングルームの扉が開かれ、ある男が客人と思われる人物を引き連れて入ってくる。おいおい……今日はテメェがいるのかよ? というよりあの、すいませんがなんでその人達がいるんですかねぇ?

 

 先頭を歩くのは褐色肌で三十代前半ぐらいの男、アンダーシャツにズボンという服装のせいかやたら筋肉が目立つ……そしてハゲ、マジでハゲ。もう光を当てたら反射するぐらいのスキンヘッドなこいつは親父の僧侶の一人で我らがアイドル橘様が物理に目覚める原因を作り出した張本人……マジで死なねぇかなぁこいつ。

 

 

「んなことはあり得ねぇから安心しろ。それより京極、なんでお前がその人達を出迎えてんだよ? それはセルスの仕事だろ?」

 

「なに、彼は手が離せないようでね。偶然手が空いた私が此処までお連れしたわけだ。申し訳ない、今日は珍しく我らが影龍王が帰宅していてね。やや五月蠅いだろうが気にせず放っておいてほしい」

 

「い、いえ! むしろ幸運ですわ! やはりお兄様を説得してよかったですわ!」

 

「おいおいレイチェル、喜んでいるところ悪いが影龍王が見ているぞ?」

 

 

 親父の僧侶――京極雄介が連れてきた客人というのは何を隠そう! 少し前まで家に引きこもってオナニーする毎日を送っていたライザー・フェニックスと苦労人な妹のレイチェル・フェニックスだ。いやぁ、レイチェルは相変わらずおっぱい揺れてるなぁ……平家や四季音にも見習ってほしいぐらいの巨乳っぷりだ。しかしここに訪れるためか着ているのが貴族服だから脇が見れないのが残念、非常に残念だな!

 

 あとすいません……マジで何で此処に来てるんですか?

 

 

「当たり前だろ? 冥界貴族の嫌われ者の実家にフェニックス家のお二人がやってきてるんだ。疑問に思うのが当然だと思うがな」

 

「それこそ仕方がないだろう。混血悪魔君……いや、影龍王には世話になった。たった一度の敗北で塞ぎ込んでいた俺を立ち直らせてもらったからな。その礼もかねて此処に来ている……レイヴェルは勿論、レイチェルは早く行こうと俺よりも来たがっていたがな」

 

「なななな!? ち、違いますわ!! それもこれもお兄様が引きこもっていたことが原因ですもの! お忙しい中をキマリス様は解決してくださったんですものお礼を言いに来るのは当然ですわ!」

 

「俺としてはどうでも良いんだけどな。まぁ、でも態々ありがとな」

 

「っ、い、いえ! フェニックス家としては当然です! あ、あの……こちらはお土産ですわ。お口に合えばよろしいんですけど……」

 

 

 母さんも空気を呼んだのか腕から離れたので椅子から立ち上がってレイチェルの傍まで近づいて持ってきたであろうお土産を受け取る。流石はフェニックス家の双子姫、俺とは違ってセンスが良いな……やっぱり貴族ってのはこういうところも磨かないとダメなのかねぇ?

 

 

「蛇女、後で食うから部屋まで運んでおいてくれ。あっ、つまみ食いしたらマジで下半身蛇状態で全裸奉仕させっからそのつもりでいろよ?」

 

「しませんのでご安心ください☆ あとそろそろセクハラでぶっ飛ばしますよ?」

 

「やれるもんならな」

 

「もうノワール……態々足を運んでいただきありがとうございます。パーティーなどで何度かお会いしていますが改めて……キマリス家現当主のハイネギア・キマリスです。そしてこちらが僕の妻の沙良・キマリスです」

 

「これはこれは……フェニックス家三男、ライザー・フェニックスです。こちらは妹のレイチェル・フェニックス、キマリス卿のご子息には先日お世話になりまして今日は伺わせていただいた次第です」

 

「えっ、誰お前?」

 

「こんのっ……! 全く、キマリス家次期当主ならばその場に合わせた態度は学んでおいた方が良いぞ?」

 

「残念ながら俺がそれをやっても混血悪魔ってだけで馬鹿にされるから意味ねぇんだよ」

 

 

 これでも昔は……相棒と出会う前はそれはそれは素直なノワール君だったんだぞ? ちゃんと挨拶したり貴族っぽい振る舞いとかをしたりと今では黒歴史認定をしてもいいぐらい良い子ちゃんノワール君だった。でも残念な事に他の貴族悪魔共は母さんを見てはただの人間が~とか俺を見て混血悪魔がこんなところに~とか色々と言ってきたからそんな態度をしても無駄だってのはすぐに理解できた。

 

 そんな事があったから基本的には俺は俺って感じでやらせてもらうことにしたから良い勉強になったよ……まぁ、流石にタンニーン様とかはちゃんとした態度をしないとダメだけどさ。

 

 

「……そ、そうだ! ノワール、今日は時間あったよね? キマリス領内を案内してもらってもいいかな? 折角来てもらったんだからキマリス領内の良いところを知ってもらいたいしね」

 

「はぁ? ま、まぁ……良いけど。でも良いところって言ってもキマリス領で有名なものって俺と夜空の殺し合いぐらいだろ? いい加減、あの場所を観光地もどき認定しろよ」

 

「出来ないよ!? もし巻き込まれたりしたら大変だからね!!」

 

 

 だろうな。俺と夜空、偶に四季音との殺し合いはそれはもう天変地異と言って良いレベルだし下手に観戦してたら巻き込まれて死ぬだろう。でもなぁ……それ以外にキマリス領の良いところってないんだよね。何が有名なのか俺が教えてほしいぐらいだ。

 

 そんな事を思いつつライザーとレイチェルの二人を引き連れて街まで向かう事になった。うわぁ、案内役とか本気でめんどくさいんだが……? レイチェルをおんぶできるんならやる気出るんだけどなぁ。

 

 

「――というわけで案内しろとは言われたが特に有名なものはない。どうしようか?」

 

「それを俺達に聞くか? しかし影龍王と呼ばれていても両親の前ではただの生意気なガキだな。もう少し両親が誇れるようにした方が良いぞ? 俺のように無様な姿を晒すことになるからな」

 

「生憎、無様な姿ならこれまでも何度も晒してるから一つ二つ程度が増えても問題ねぇんだよ。それよりも本気で礼を言いに来たわけ?」

 

「そうだ。あれから俺の両親もお前をべた褒めでな、レイチェルに言われなくても足を運んでいたぐらいに感謝しているらしい。時に混血悪魔君、人間界でアイドルをしている子を眷属に加えたそうだが――胸は揉んだか?」

 

「あん? あったり前だろ? 普通に一緒に風呂入っておっぱい揉んでるがなんか文句あるか?」

 

「くっ! あれほどの巨乳を毎日か……! 俺の目から見てもあれはかなりの弾力があるはずだ。あれほどの胸を持つ女は中々い、ま、待てレイチェル! 違う! これは男にとって大事な事なんだ!!」

 

「知りません!! き、キマリス様もいくら王とはいえみだりに女性のむ、胸を揉んではいけませんわ!!」

 

 

 そんな事を言われても平家と四季音に対抗してか風呂に入ってれば混ざってくるしおっぱいを押し付けてくるんだもん仕方ないと思うんだ。でもぷんぷん怒っているせいか胸が弾んでおります……これで年下とかちょっと周りにいる引きこもりと酒飲みと規格外に謝った方が良いと思う。

 

 あとライザー、妹に怒られるとかは人間界ではご褒美みたいなもんだから喜んだ方が良いぞ?

 

 

「や、やはりここはき、キマリス様が間違った事をしないようできる方を眷属にするべきですわ! 前にもお伝えしたと思いますが私はお姉様とは違い、完全なフリー……い、いえ! 何でもありませんからお気になさらないでください!」

 

「……おい。お宅の妹さん、自分を売り込もうとしてるがいいのか?」

 

「さぁな。少なくとも俺の両親は反対はしないだろう。それほど影龍王、いや混血悪魔君を信用しているのさ」

 

「フェニックス家大丈夫かよ? そもそも仮にだ、仮にレイチェル様を眷属にするとしよう。俺の余ってる駒じゃ周りは納得しないぞ?」

 

 

 なんせ女王は夜空固定、残っているのが騎士と兵士だもんなぁ。もし僧侶が余ってたらワンチャンだったが残念な事に水無瀬と橘で使用済み……うん無理だな。

 

 女王を予定している奴がいるとだけ言うと何故かレイチェルは引きつった笑みをし始めた。なんで? まさかマジで眷属になりたかったの?

 

 

「んなどうでも良いことは置いておいてだ……物凄く話は変わるが俺が通ってる学校がもうすぐ修学旅行なんだよ。京都土産で何かリクエストある? 流石に親父や母さんにまで礼を言われたらお返しに買わないと拙いしな」

 

「俺たちが勝手にやったことだ。好きなものでも買ってくるがいいさ。レイチェル、いい加減戻ってこい……まだだ、まだ可能性はある」

 

「……はっ、そ、そうですわね! わ、私もキマリス様が選んだものならば何でも……いえ! この私を満足させるものでなければ駄目ですわ! 期待しております!」

 

 

 フェニックスの双子姫を満足させるほどの土産が京都にあるとは思えないんだが……? まぁ、仕方ない。ちゃんと探してこようかね。け、決して! 決してライザーを立ち直らせる際に単純娘とか言った事を今更うわぁとか思ってない! うん思うわけない!

 

 そんなこんなで二人を適当に案内した後、お帰りいただいた。にしても面白い事を言ってたな……フェニックスの涙の偽物が出回り始めてるとかなんとか。まぁ、禍の団が引き起こすテロ関連で一気に涙が高騰したから偽物もどきが出るのは予想がつくけど本物に近い性能を持っているとかちょっと意味分かんねぇ。流石に涙を作っているフェニックス家だからこそ偽物の存在をいち早く確認できたんだろうなぁ。でも本物に近い性能を出すには本物をよく知らないとダメなはず……まさかフェニックス家の中に裏切り者とかいないだろうな? なんだかんだで悪魔は欲に忠実だからあり得る話だぞ?

 

 

「おや、もう帰ってきたか。お帰り、ノワールくん」

 

 

 家に帰ってくるとムキムキハゲが出迎えてきた。うわぁ、ないわー。ここはメイドのお帰りなさいませご主人様とかだろ? なんでハゲが出迎えるんだよ!

 

 

「おうただいま。親父と母さんは?」

 

「フェニックス家にお礼の連絡をしているな。流石は影龍王、姫君すら落とすとは恐れ入るよ」

 

「はぁ? 何言ってんだよ? あー、そうだ。おい京極、ちょっと一発殴らせろ! テメェがうちのアイドルに変なことを教えるから拳系アイドルになっちまったじゃねぇか!! ありがとうございますだがとりあえず殴らせろ!」

 

「お礼を言うか、殴るか、どちらかにしたまえ。それに関してだが確かに私は僧侶は時に前に出ることも大事だ、と伝えたが拳を握ることを決めたのは彼女だ。破魔の霊力を帯びた拳ならば大抵の魔物、悪魔は倒せるだろう。王としては喜ぶべきだと思うがね」

 

「ざっけんな! 確かに戦力的にはミアとお前のおかげで対悪魔、対魔物相手なら問題無いぐらい支援能力も体術も向上した……が! アイドルが拳握って殴りに行く姿を見てみろ!? なんか泣けてくるんだよ!」

 

「うむ。それには同意しよう。偶像(アイドル)とは拳を握るものではないからね」

 

「だろ? ここ最近、いや破魔の霊力に目覚めてから笑顔がおっかねぇんだよ。もう笑顔で悪魔殺せるぜ? そこが可愛いが。はぁ……なんか疲れたから部屋戻って寝るわ」

 

「それが良いだろう。いや、待て。一つ、占いで出たことがある。勘違いには注意しろ、とのことだ」

 

「なんだそれ?」

 

「分からぬ。しかし占いで出た以上、気を付けておくべきだろう。ノワールくんは言動や行動で色々と反感を買っているからね」

 

「そりゃ混血悪魔だからな……あいよ、注意しとく。さっすが元僧兵、そういうのは得意だもんな。今度店だしたらどうだ?」

 

「単なる趣味にすぎんよ。店を出すほどでもないさ」

 

 

 京極と話をした後、そのまま部屋へと戻る。なんだかんだでアイツの占いって結構当たるからなぁ……この前も水無瀬が物を無くすと占ったら当てたし。う、うん? これは当たったと言って良いんかちょっと悩むがまぁ、当たったということにしておこう。

 

 

「――相棒」

 

『ゼハハハハハハ! 呼んだかぁ?』

 

 

 今日も絶好調だと言わんばかりに高笑いしているなぁ。羨ましい限りだよ。

 

 

「おう。あとどれぐらいだ?」

 

『既に歴代の半分は宿主様が染め上げている。そして昨日もまた一人、俺様達色に染まったからあと少しだぜぇ? 歴代のクソ共さえどうにかしちまえばあとは作るだけよ――覇龍の強化体を!』

 

「若手悪魔同士のレーティングゲーム、次は誰になるかはまだ分からねぇがあの魔王様の事だ……どう考えてもサイラオーグ・バアルとの対決に持っていくだろう。流石に今のままだと負けの可能性もあるからさっさと完成させたいしな……今日も頼むぜ」

 

『任せろ宿主様! あの獅子王はつえぇからな! 気をつけろよ? 奴が保有している神滅具にも覇龍と同じ存在――覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)ってのがある。発動されれば宿主様とて無事じゃ済まねぇだろう。もっともユニアの宿主並みは出ねぇだろうがな!!』

 

「当たり前だ……前の覇龍対決で俺がどれだけ死にかけたと思ってる? 大声出せば俺の体の大半が吹っ飛び、移動すれば体の半分が吹っ飛び、ろりーたすーぱーあたっくとか言われたら覇龍状態の夜空と同じ姿をした光人形が無数に飛んでくる。マジで生きてるのが不思議なぐらい規格外すぎて笑いが止まらなかったなぁ――楽しかったけど! マジで楽しかったぁ! 思い出すだけでイキそうになるぐらい興奮したわ!」

 

『俺様もよぉ! あの回復力はユニアも持ってなかったしなぁ! 歴代の光龍妃も同様よ! 最強の光龍妃として文句もつけれねぇ存在が出てきたんだ! 楽しいに決まってるじゃねぇの!! さぁ、やろうぜ宿主様!! ユニアの宿主が神器を変化させたならば今度は俺様達が覇龍を変化させる番よ! さらなる高みへ! 貪欲に、他者を圧倒できる強さの極致へを至ろうぜ!!』

 

「あぁ……もっと強く、もっともっと、夜空を倒せるぐらいもっと強く! そのためなら歴代が発する呪いなんざ飲み込んでやる……! いくらでも、何度でも!」

 

『その意気だぜ宿主様!! ゼハハハハハハハハハッ! 今代の影龍王が宿主様で本当に良かった! 面白れぇことが次から次へとやってくる! これほどワクワクドキドキしたことはねぇぜ! ドライグよりも、アルビオンよりも、ユニアよりも先へ行こうぜ! そのためならば俺様は惜しみなく力を合わせてやる!!』

 

 

 ベッドに横になりながら片腕を上へと上げ、力強く拳を握る。もっと強くならないとダメなんだ……もっと強く! 影龍に俺から近づかないとダメなんだ……! ちっぽけな混血悪魔が規格外や天才に対抗するにはそれぐらいしないとな!

 

 

「――必ず、夜空を倒す。倒して、手に入れる……!!」

 

 

 その決意を無駄にしないためには――歴代を全て染め上げないとな!




今回より「影龍王と京都妖怪」編が開始です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53話

「――いやぁ! 修学旅行っすよ王様ぁ! もう楽しみで今からワクワクっすよ!」

 

 

 俺の隣でご機嫌状態の犬月が何やら騒いでいる。平日の朝、それも集合場所の駅に向かう途中だから当然、犬耳は出していないがもし出ていたらピコピコと動いていることだろう。そして尻尾があればブンブン大きく揺らしてるだろう……なんと分かりやすい! 流石犬! まぁ、それはどうでも良いとして朝っぱらから五月蠅いから少し黙ってくれねぇかなぁ……殆ど徹夜で寝てねぇからマジで眠い。

 

 

「そうかい。てかあんの引きこもり、マジで帰ってきたら虐めてやる……! 人の睡眠時間を奪いやがってマジで眠いんだが……? おい犬月、新幹線乗ったら寝るから起こすな」

 

「ういっす。でもなんすか? またあの引きこもりが何かしでかしたとか?」

 

「修学旅行でしばらく家にいないからノワール成分を補充とか言って徹夜ですーはーすーはーされてた。勿論BGM代わりにエロゲ起動しながらな……寝ようとしても起こしやがるしよ、だから寝てねぇんだ」

 

「うへぇ……酒飲みの方はあんまり変わらなかったってのに流石引きこもりっすね。あ、あの、し、しほりん? 大丈夫っす! きっと何もしてないですって! この王様が引きこもり相手にえっちぃ事とかするわけないっす!」

 

 

 右側が犬月なら左側には当然、我らがアイドル橘志保がいる。なにやら先ほどの俺の発言で変なスイッチ……まぁ、いつもの「悪魔さん?」と笑顔になってるだけなんだけどもどうしてそうなったか教えてほしい。今回の俺は被害者だぞ? ちゃんと寝ようとしてたんだぞ? それでも構って構ってと五月蠅かったからモフったとはいえ俺は悪くない。きっと悪くない!

 

 

「早織さんの行動力は凄いです。どうしてそんなにアグレッシブに悪魔さんに向かっていけるのか教えてほしいです。そもそも悪魔さんは私の胸を触るくせに何もしてくれませんしもっと攻めた方が良いんでしょうか? で、でもこれ以上となるとやっぱり……い、いえ! ライバルは多いんですし負けるわけにはいきません! 頑張るんです橘志保! アイドルパワーで頑張るんです!」

 

「――もうだめだぁ、しほりんがおかしくなってるぅ」

 

「んあ? いつもの事じゃね? てかそれより犬月、橘。家を出る前に渡したものは京都にいる間はずっと持っておけよ? それ手放すと怖い陰陽師やらが討伐しに来るからな。京都を更地にしたくなかったら死んでも手放すなよ。あっ! 手放してもいいよ? 俺が楽しいし!」

 

「するわけないでしょ!? おふくろが住んでた京都が更地になるとか嫌っすからね!! あの王様! 本当に、本当に! 今回は何があっても大人しくしてましょ!! いっちぃとかげんちぃとかからも頼むぞ犬月って感じで言われてるんで本当にお願いします!!」

 

 

 おい犬月、それはフリか? フリだな? おっし分かった! なんかあったら問答無用で暴れるわ。

 

 まぁ、流石に冗談だが流石にフリーパスを無くされると色々と問題あるしな。そう考えると水無瀬は大丈夫か……? あいつの不幸体質なら無くす確率は非常に高いから不安になってきた……そもそも京都自体が俺にとっても相性が良いやら悪いやら分かんねぇ場所だしな。はぁ、到着したら幽霊やら何やらが寄ってくるんだろうなぁ……まぁ、そんなのに憑りつかれる俺じゃないが心霊現象が多発することは間違いない。楽しい修学旅行が恐怖の修学旅行に早変わりだな! うっわ、なんか楽しそう。

 

 

「わ、私も花戒さんや巡さん、オカルト研究部の皆さんからもお願いされていますので悪魔さん、普通にしていてくださいね?」

 

 

 うわぁ、流石アイドル! 笑顔が可愛い! そして怖い。

 

 

「はいはい。普通に考えてただの修学旅行、しかも京都で暴れるわけねぇだろ? お前らも折角の旅行だ、楽しんでおけよ」

 

「ういっす! とりあえず裏京都は行きたいっすね! おふくろの知り合いとか居ねぇかなぁ!」

 

「私は舞妓さんの衣装とかに着てみたいです! もし着たら悪魔さんにお見せしますね! あとお母さんとお義母様、早織さん達のお土産も買わないと!」

 

「真面目だなぁ」

 

 

 そんな事を話しながら三人で駅まで歩く。目的地に到着すると匙君達シトリー眷属二年生組や名も知らぬクラスメート達、そして他のクラスの奴らが集まっていた……こうしてみると二年生だけでも結構な数がいるな。だけどあれだな? こいつらもこの修学旅行は一生思い出に残るだろう……なんせ隣にいる休業中の人気アイドルと一緒、しかも宿まで一緒、うわぁ、ファンの奴らがどれだけ金を出しても得られない事を平然と! 堂々と! 合法的に出来るんだもんな。

 

 ちなみに宿では男子、女子と風呂に入る時間が違う。これは当然として覗き対策にシトリー眷属と先生として赴任してきたヴァルキリーちゃん、そして俺と犬月と水無瀬で女子共を覗き魔から守る事になっている。なんせアイドルが一緒だしな、修学旅行という空気でハメを外して色々とやらかす奴が出るだろ? 主に赤龍帝と一緒にいる二人組。

 

 

「むっ、黒井が眠そうだ。流石に楽しみで寝られなかったか」

 

 

 新幹線が駅を出発して十数分、流石に代り映えのしない景色やら徹夜したせいか……絶対徹夜したせいですっごく眠い。マジで眠い。それが顔に出ているのか斜め前の席の……お名前なんでしたっけ? ちょっと思い出せないがとりあえずクラスメートから眠そうだと言われてしまったが楽しみで寝られないとかガキじゃないんだしあるわけない。

 

 ちなみに俺が座っている席は車両のちょうど真ん中、しかも窓側。隣は犬月、目の前は匙君だ。流石に橘は女子達と一緒になるように離れた所に座っているがシトリー眷属女子メンバーと仲良く談笑中……うーん、あの辺りだけ女子レベルたけぇなおい。全員巨乳、しかも美少女、そしてその内の一名は休業中のアイドル……認識阻害の術式を使用してるとはいえナンパされるんじゃねぇか? まぁ、夜空みたいな規格外なら兎も角、普通の人間があいつらをどうこう出来るとは思えねぇけども。

 

 

「んなわけねぇだろ……ふあぁ、平家が寝かせてくれなかったんだよ……お陰で徹夜、マジで眠い」

 

「黒井っち? その言い方だと色んな意味で危険っすよ?」

 

 

 うん。周りから「なん……だと」とか「あの病弱な平家さんが一晩中……ちょっとトイレ行ってくる」とか童貞丸出し、ヤリたいお年頃特有の妄想が繰り広げられております。しかし残念な事に実際はエロゲしながらすーはーすーはーされていただけなんだけどな! この童貞の俺様が夜空を抱くまで他の女を抱くわけねぇだろ? でもそろそろいい加減、マジで捨てたいから処女くんねぇかなぁ? いや処女じゃなくてもいいけど。夜空が抱けるんならそれだけで十分! あぁ……悪神とフェンリル戦から会ってねぇからそろそろ会いたいなぁ。

 

 まっ、あの自由気ままな規格外がこんな所に現れるわけねぇけど。あったとしても京都に着いてからだろきっと。

 

 

「別に問題ねぇだろ? なんせ事実だしな……うぁ、無理。寝るから京都に着いたら起こしてくれ」

 

 

 周りが騒がしいが生きている以上、睡魔には絶対に勝てないので大人しく目を閉じて寝る体勢に入る。そのままこんな夢が見たいなぁとか思っていると急に周りが静かになった……ん? なんかあったのか……? どうせ橘か水無瀬辺りが何かしたとかそんな感じかねぇ……? だが寝る俺には関係ないのでそのまま意識を落とそうとすると不意に頬を何かで突かれた。目を開けずに逆の方に顔を持っていくと今度は口の中に何かを入れられる……この感触は指か? おいおい、男の指とか咥えたくねぇぞ? たくっ、誰だよこんなくっだらねぇ事をしてるのは?

 

 そして文句を言うべく目を開ける。そこには――

 

 

「んぅ~? 起きた? この私が来てやったんだから呑気に寝るなよぉ!!」

 

 

 ――あぁ、夢か。そうだよな! こんな、こんな普通の新幹線の中に規格外が居るわけねぇよな!! 視界の端で両手で顔を隠している犬月やらどこかに祈っている匙君やら絶句状態の橘やらが見えるがきっと気のせいだ! しかし夢にしては良い夢だな! 夜空が出てくるなんてマジで最高! よしもう一回目を閉じようか!! このままえっちぃ方向に進んでくれればかなり嬉しい!

 

 そんな事を思いながらもう一度目を閉じると額に強い衝撃が走った。い、い、い――

 

 

「いってぇ!? てんめ、こんの! てかなんでいんだよ!!」

 

「ん? 暇だったからだけど? てかぁ! この私に黙って京都に行くとかズルいぞぉ!! 今日だってあっそぼぉって家に言ったら覚と鬼しかいねぇしさ!! 誘えよぉ! 仲間外れとか許さないぞぉ!!」

 

「そもそも修学旅行に部外者を連れていけるわけねぇだろ!? てかどうやって新幹線乗った? タダ乗りか? タダ乗りだな! お前何してんだよ?」

 

「はぁ!? ばっかじゃねぇの!! あるし! 新幹線乗る金ぐらいあるし! この前ノワールの財布から抜き取った金がまだ残ってるから全然余裕だし!!」

 

「この野郎……人の財布漁ってんじゃねぇよ! そもそもお前が座ってる席は匙君のだからな? ほら、さっさと返して俺の膝に座りなさい」

 

「えぇ~? だってノワールの膝の上に座ると胸揉まれんじゃん。それにこの席だってヴリトラにどいてって言ったら快く譲ってくれたんだもんねぇ~! ねー!」

 

 

 先ほどまで匙君が座っていた場所にはどういうわけかこの場には居ない人物――規格外こと夜空が座っていた。白のブラウスに黒のミニスカ、そしていつもの光龍妃の外套を展開して輝くマントを羽織っている。うーん! 目の前の席で体育座りもどきをしてるからパンツ見えてるぞ? 俺は嬉しいけど他の男に見られるかもしれねぇからやめような? 見せるんなら泊まる宿に着いてからゆっくりと見せてくれ!

 

 というより……人聞きが悪い事を言わないでもらえませんかねぇ? 誰が胸だけで終わらせると言いましたか? 普通に全身もふもふ、脇ペロペロしますがなにか? そして匙君……そのどうにかしてくれと言わんばかりの顔はやめてくれ。無理だから! こいつにそんなのを期待しても無理だから! 伊達に世界中を散歩がてら他勢力に喧嘩を売ってないからな!

 

 

「俺、知らない、帰る、学園にかえるぅぅぅ!!!」

 

「げんちぃ! 落ち着け!! まだ、まだおうさ、黒井っちがどうにかしてくれるっす!!」

 

「無理だって!! あの二人が揃って普通に終わった時なんてないだろ!? いやだぁぁっ! かえるぅぅ! かいちょうのところにかえるぅぅぅ!!! きょうといやだぁぁぁぁ!!!」

 

「元ちゃん! 落ち着いて!! 深呼吸! 深呼吸!!」

 

「……黒井の知り合いか? あと匙、大丈夫かお前?」

 

「平家さんという彼女、しほりんという幼馴染がいてさらに別の女の子だと……! これがイケメン(りょく)とでもいうのか……!」

 

「それ以前に黒井が普段よりもテンション上がってる気がするんだが……?」

 

「ねぇノワール? なんか周りがうっさいんだけど?」

 

「お前が現れたからだろ……俺としては嬉しいけどな。ほれ、とりあえず飲み物を上げよう」

 

「わーい! ってなるわけねぇじゃん。しかもそれ飲みかけだし。貰うけどさぁ~間接キス狙いならもうちょっと考えたりしたらどうなん?」

 

「じゃあ間接キスしたいからそれ飲んでくれ」

 

「良いよ」

 

 

 よっしゃ! よっしゃぁ! やった、おれはやった! 過去に何回もしてるとはいえ夜空との間接キスとかご褒美ですありがとうございました!! もう満足だ、帰ろぜ。修学旅行なんかより夜空と一緒に居られれば何も問題ねぇわ!

 

 

「うんめぇ! やっぱ炭酸って最高だね! そんじゃ~この超絶美少女の夜空ちゃんとの間接キスをする権利を上げよう」

 

「わーい! ってなるに決まってんだろ。それよりもマジで答えろ……なんで此処に来た? まさか俺に会いたくて会いたくて仕方がなかったか? しょーがねぇなぁ! よし、京都に着いたら遊ぶか」

 

「ざんね~ん! もう京都観光終わっちゃったんだよねぇ。最初は面白そうだなぁって思ったんだけどさ、よぉっく考えてみたら私ってノワールと()ってる時か自分から行動する以外は楽しくないって気づいちゃってさぁ。だからやることやってさっさとノワールと一発()ろっかなぁとか思って家行ったらいねぇし! 先言えよぉ! また逆戻りする羽目になったじゃん!」

 

 

 知らねぇよ……そもそも自由気ままに世界中を散歩してるのはお前だろうが? それと女の子がヤってるヤってる連呼すんなし……周りの童貞共が興奮しちゃうだろうが。それにしても京都観光ねぇ……こいつが普通の女の子らしく名所巡りなんてするわけねぇしまた何かしてきやがったな? しかもやることやってきたって事はもう事件が起きているというわけで……うっわ! 一気に楽しくなってきた!! なんだろうなぁ! 京都に着いたら妖怪共から襲われんのかなぁ! キャー! 夜空ちゃんありがとー!! そして京都に住んでいる皆さん、本当にご愁傷様。かの規格外が何かしたとは思うが犬に噛まれたとか思っててくれ。

 

 

「携帯持つか毎日俺の部屋に帰ってくるかしたら教えてやるよ」

 

「んじゃいいや」

 

 

 即効で断られた件について。おかしいな……前々から付き合ってくれとか女王になれとか抱かせろとか言っても断られ続けてるんだけどそろそろ泣いていいよな? 邪龍並みの精神力のノワール君でもそろそろ泣くよ? 普通に泣いちゃうよ?

 

 

「……はぁ、だろうとは思ったよ。どうする? 帰る前に赤龍帝に会ってくか? 」

 

「おっ! そういえば一緒にいんだっけ? あうあうぅ~! ヴァーリがいねぇのはちょっと残念だけど折角来てやったんだし顔見せぐらいしてやろっと!」

 

「すまん兵藤……! 止められなかった……!!」

 

「本当にごめんないっちぃ……!! あとでなんか奢るっすよぉ……!」

 

 

 周りからの視線を気にせず立ち上がると背中に夜空がくっ付いてきた。ふむ……おかしい、背後から首に腕を回して胸を押し付ける体勢になっているはずなのに柔らかい感触が全然! 全く! これっぽっちも感じないんだが? 多分ノーブラなんだろうけどスポブラくらいは付けたらどうなんですかねぇ? 俺としては何も問題ないからそのままでも良いけどね!! しかし耳元に夜空の顔があるせいか息が当たるのがすっごく気持ち良い! 修学旅行最高だな!! このままホテルにお持ち帰りしたいわ。

 

 そんなこんなで夜空を背負いながら赤龍帝がいる車両まで向かうと――阿鼻叫喚だった。赤龍帝は俺と夜空を指刺して「な、な、なな、なぁっ!?」って言葉が出てきてなかったしアザゼルは優雅に飲んでいたお茶を口から噴き出して「おいおいふざけんなよ! 何でここに居やがる!!」と取り乱してたし夜空を知るその他の人物達はかなり警戒していた。おいおい……ただやってきただけたってのにそこまで驚かなくてもいいだろ? 大丈夫大丈夫! きっと何もしなければこの新幹線が吹き飛んだりはしないから! あっ! もし吹き飛ぶんなら犬月と橘と水無瀬と匙君だけ助けるんであとは自分たちでどうにかして防いでくれ。

 

 

「もう駄目だ……京都で何か起こることは確定じゃねぇかぁ!! 帰らせろぉ! 離せ犬月! 俺は帰るぞ!! 帰って会長に告白するんだぁ!!」

 

「げんちぃ! そのまま帰ったら即効でフラれるっすよ!! だ、大丈夫っす! 何も起きない! 絶対に何も起きないから! きっと!!」

 

 

 夜空との楽しい一時も長くは続かず、俺達が乗っていた新幹線は無事に京都駅に到着した。それだというのに匙君は帰ろうとしている事が理解できない……問題なかっただろ? 普通に俺と夜空と犬月と匙君の四人でトランプして死人もいない見事なまでに平和だったと思うんだがなぁ。まぁ、気持ちは分かるぞ? 楽しい楽しい修学旅行が一気に怖い怖い修学旅行になったんだし。でも俺は嬉しいけどな! ありがとう夜空!

 

 ちなみに名も知らぬクラスメート達には浮気だの三角関係だのと色々言われる羽目になったが……そもそも俺と平家は付き合ってねぇんだけど? あと付け加えるなら今でも夜空一筋ですが何か? あと橘様が笑顔で俺を見ているのが怖いです。すっごく怖いです。

 

 

「起きちまった事を嘆いても仕方がねぇだろ? 諦めて京都観光を楽しもうぜ。俺としてもさっさと首塚大明神に行きたいんだからさっさとホテル行こうぜ」

 

「……すまん黒井、その場所に行くって初めて聞いたんだが?」

 

「おう。今初めて言ったからな」

 

「――かえるぅぅぅ!!」

 

 

 逃げようとしている匙君の首根っこを掴んで犬月、橘、シトリー眷属数名を引き連れて俺達が泊まるホテルへと向かう。途中で痴漢をしたであろう普通の一般人らしき男から赤龍帝っぽい波動を感じたが……何だったんだあれ? 一瞬だけだったから気のせいか? とりあえず水無瀬……京都でも痴漢されるとかもうどうしようもないぞ?

 

 駅を出て頭の中に叩き込んだ京都市内の地図を頼りに集合場所である京都サーゼクスホテルを目指す。なんというか空気読めよ魔王様……思いっきり浮いてるぞ? あとさぁ……うん、分かっていたとはいえ俺の周りに幽霊とか霊魂とかとりあえず「霊」が近づいてきてウザいんだけど? あと離れた所から監視するような視線とかもあるしマジでウザい。霊達はなにが珍しいのか憑依してこようとするし成仏させてれとか言ってくるしお前の体をよこせぇとか襲ってくるしもうね……流石京都。ちなみに全員、霊操で支配下に置いて大人しくさせました。監視の視線は恐らく京都妖怪だろうな、なんせ悪魔と堕天使と転生天使が一気にやってきたんだ。警戒してもおかしくねぇ……後夜空が何か引き起こしたっぽいしな

 

 まぁ、そんな俺しか分からないであろうやり取りをしつつたどり着いたのは超豪華なホテル。普通の学生が入れるような規模じゃないんですが良いんですかねぇ?

 

 

「うっへぇ……デカ。でも王様の実家の方がデカいっすね、やっぱ城には勝てねぇわ」

 

「離れた所には京都セラフォルーホテルがあるようですよ? あの……大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫じゃね? 多分だが無許可でやってるだろうし」

 

「取ってますぅ! ちゃんと! ちゃんと京都の偉い方々から了承を得て建ててますぅ! はぁはぁ……此処に来てから叫びっぱなしで喉イテェ……」

 

「元ちゃん! こ、これ飲んで……あと、頑張って」

 

「サンキュー花戒……はぁ、生き返ったぁ。あっ、悪い……全部飲んじまった。あとで何か買って返すな」

 

「う、うん! き、気にしてないから……」

 

 

 ラブコメしてんなぁ。気づこうぜ匙君、君が飲んだのは飲みかけだ……つまり俺と夜空がしたように間接キスしたってことだぜ? 狙ってやったであろう花、はな……シトリー眷属の美少女は顔を少し赤くして気にしていない態度をしているがきっと内心はキャーキャーと舞い上がってるだろう。だって周りにいる匙君以外のシトリー眷属達がパチパチと拍手してるし。

 

 

「……良いなぁ、そりゃげんちぃもイケメン、そんで王様と同じ邪龍持ちで龍王だもんなぁ」

 

「お前もイケメンの部類に入るとは思うけどな。こればっかりは仕方がねぇさ」

 

「王様には負けるっすよ。まっ、そっすね。王様……いつか必ず彼女を手に入れて見せます!」

 

 

 頑張れ犬月、負けるな犬月。

 

 キマリス、シトリー連合……どういうわけか別のクラスの奴もいるが気にしない。俺達はそのままホテルに入って学生証を受付に見せて集合場所まで案内してもらうと先に着いていたであろう奴ら談笑しながら待っていた――ただしアザゼルとヴァルキリーちゃんと水無瀬の三人は頭を抱えていたけどな。仕方ないね! だって夜空がやってきたんだもん! あと水無瀬……ちゃんと、ちゃんと来れたんだな!! 今日はごちそうにしよぜ!!

 

 

「――キマリス」

 

「はい? なんすかーアザゼルせんせー」

 

「なんすかー、じゃねぇ! 光龍妃はなんで現れた? まさかまたか! また何かやらかしたか!!」

 

「ぽいっすね。やることやって飽きたとか言ってましたし」

 

「くっ! イッセーやお前が京都に行くとなれば付いてくるとは思ってたがまさか先回りして何かしてやがるとはな……! とりあえずこれがお前達の部屋のカギだ。先に言っておくが有事の際はお前たちの部屋に集まるからな?」

 

「りょーかい。そんで水無瀬……京都に来てまで痴漢された感想は?」

 

「――もういやですぅぅ! なんでわたしなんですかぁ!! となりにろすヴぁいせさんもいたのにぃぃ!! うわーんしほちゃーん!!」

 

「頑張りました……頑張りました……! 大丈夫です! きっとこれから運が良くなりますよ! はい!」

 

「しほちゃぁぁんっ!!」

 

 

 巨乳と美乳がおしくらまんじゅうしてるけど間に入りたい。すっげぇなおい……写メ取りたいけど良いかな? とか思ってると橘が笑顔になっちまうからこの辺でやめとくけども。しっかし有事の際っていうかもう起きてるっぽいから確実に集まりますね! はい! 女の子を連れ込まないようにしておきます!

 

 

「……マジで行くのか? 時間的には問題ないけどよぉ、もっと普通の所とか行きませんかキマリス様!!」

 

「ヤダ」

 

「ですよねぇ!! 花戒達を別行動させて正解だったぁ! 犬月……お前、よく、今まで無事だったな……!」

 

「もう慣れっすよ慣れ。最初はこの王様頭おかしいとか普通に思ってたけど最近はあぁ、この王様は頭が本当におかしいんだなって大抵の事は驚かなくなったっすよ。引きこもりも酒飲みも同じぐらい頭おかしいし……げんちぃ、頑張ろう」

 

「おう……頑張ろうぜ」

 

「なんか友情築いているところ悪いがお前らの近くに幽霊居るからな? 調子悪くなったら言えよ?」

 

 

 目的地である首塚大明神を目指して歩き続けている俺達だが目的地に近づくにつれて霊の類が増えてきた。現に今も俺の周りには悪霊から成仏を望む良い幽霊がわんさかいるし、犬月達の周りにも憑依しようと張り切っている悪霊たちがいる。それに気づいている俺が二人に注意しろよと言うと犬月と匙君は「あはははそんな、え? マジ?」と一気に顔色を変えてガクガクブルブルしながら歩き始めた。俺がくっだらない嘘を言うわけねぇだろ? あっ、匙君の体に幽霊入った。

 

 

「……なんか、肩が重くなったけど軽くなった……なんだこれぇ!?」

 

『我が分身よ。クロムの宿主の言う通りだ、周囲には悪霊が湧いている。先ほども我が分身に憑依してきたぞ』

 

「マジでぇ!? だ、大丈夫なのかよヴリトラぁ!?」

 

『問題ない。我が逆に呪い殺してやった。しかしこれほどまでに霊を集めるか……クロム、お前の宿主は異常だな』

 

『ゼハハハハハハ! 当然よぉ! 俺様の宿主様だぜぇ? 異常じゃなかったらとっくの昔に死んでるっての! それにしてもよぉ、黒蛇ちゃん? もう表に出てこれるようになったんだなぁ?』

 

『おかげさまでな。我が分身の実力が足りぬため全力は出せないが話すだけならば問題はない。我の意識が戻るばかりかドライグ、クロム、ユニアと天龍と双龍が周りにいるとは我が分身も運が無いというべきか』

 

『喜ぶべきだろう? 最強のドラゴンが居るんだぜぇ? 殺し合いが出来ると考えたらどうよ?』

 

『そう思うのは貴様らだけだ』

 

 

 先ほどから聞こえる声は俺の手の甲と匙君の腕から黒い炎の蛇が現れてそこから声を発している。もし周りに一般の方々がいれば驚かれる光景だが()()()誰もいない。具体的には山に入った辺りからまるで世界に俺達しかいないんじゃないかと錯覚するぐらい誰も居ないし無人の静かさが周囲を支配している。それに気が付いているのは俺だけじゃなくて犬月、匙君もヤバイと思いつつ警戒しながら歩いている……上出来かな? にしても京都妖怪の奴ら……普通に許可貰ったのに襲ってくるとはねぇ。

 

 

『さて、我が分身よ。気づいているとは思うが周囲を囲まれている。注意しろ』

 

「お、おう! でも会長から穏便に済ませろって言われてるんだ……だからお願いしますから何もしないで!! 話し合おう!! なっ!!」

 

「それはあっちに言ってくれ」

 

 

 立ち止まると今まで隠れていたであろう奴らが姿を現した。頭部が烏で背中に翼が生えている奴ら、狐の面を被った巫女装束っぽい恰好をした奴らなど数人なんて数じゃなく明らかに数重は超えているな……なるほどな。普通に京都入りを許すパスを渡して中に誘い込み、そこで一気に仕留める作戦だったとかか? ねぇな。恐らく夜空絡みで間違われたとかそんなもんだろ。

 

 俺達を囲んだ集団を率いているであろう奴が前から現れる。金髪で同じ金色の双眸、頭には犬……いや狐の耳を生やしている小学生ぐらいの女。その傍にはこれまた同じく金髪ロング、耳の後ろにある髪をまとめている中学生ぐらいの大人しそうな女……なんだがこいつ、強いな。隙がねぇ……ガキの方はいつでも殺せるぐらい隙だらけだってのにこっちの奴はマジで隙が無さ過ぎる……!

 

 まぁ、襲ってきたなら殺すだけだが……今の俺は勘違いに気をつけろってムキムキハゲが言ってた事がマジで当たってどうしようとか思ってる。やっぱアイツ、店を出した方が良いわ。

 

 

「おい。何この歓迎? パーティーにでも招待してくれんの?」

 

「……せ」

 

「あん?」

 

「母上を返せ! 余所者め!! 何故母上を攫った!!」

 

 

 いや知らねぇし。そもそもいくら俺でも攫うわけねぇだろ? そんな事をするぐらいなら普通に殺してるわ。

 

 

「何言ってんのお前? そもそもこっちはちゃんと許可貰って京都入りしてるわけだが? そこんところは大丈夫か?」

 

「嘘じゃ! 数刻前に消えた邪悪な気を持つ者と同じ気を持つのは其方じゃ!! 言い逃れは聞かん!」

 

「……そりゃ、王様も光龍妃も地双龍だから同じっすよね」

 

「あとさ、此処にいるのって俺も含めて邪龍だから……怪しいですよねぇ!!!」

 

「この地に現れた魔の者の気は多い! しかしその中でもお主は一番禍々しいぞ! 覚悟するのじゃ! かかれぇ!」

 

 

 さて、金髪ロリの命令で襲い掛かってくる京都妖怪共をどうしようか? 親父からも頼むから何も起こさないでくれと土下座されたから個人的にはスルーしたい。でも応戦しないと死ぬのは当たり前。だから――

 

 

「なっ!?」

 

 

 一番手に向かってきた烏妖怪もどきの武器を影人形で掴んでその刃を握る。鎧状態だったら問題ないが今は生身、そんな状態で鋭い刃物を掴んだら皮膚が切れて血が出るのは当たり前だ……でもこれで良い。匙君は「えっ?」 顔してるけど犬月は察したようだ。うんその通りだよ?

 

 そのまま別の影人形を生み出して烏妖怪もどきの頭部を拳で挟んで殺す。周囲には潰れたトマトのように鮮血が舞い散るが……先に手を出してきたのはそっちだしねーしかたないねー。

 

 

「……本当は、おふくろの住んでいた場所で暴れたくなかったっすけど、襲ってきたんじゃしょうがねぇか」

 

「そういう事だ。つうわけで――死ねよ」

 

 

 影人形を操作して仲間が殺されたことで動揺しているところを狙い、一人、また一人を殺していく。刃物で襲ってきたらそれを破壊してから胴体を拳で貫き、妖術で襲ってきたら影で防いでからラッシュタイムを放つ。京都という地形のおかげか、周りに浮遊している悪霊達のおかげか影人形の出力が地味に上がっている……流石京都! しっかし犬月もあーだこーだ言っても俺の兵士だな……襲い掛かってくる奴らを昇格無しで殺してるし。匙君? なんか唖然としてますね!

 

 

「……なん、なん、じゃ……ひ、ひけ――」

 

 

 目の前の惨劇を受け入れられないように退避命令を出そうとした金髪ロリの胴体に一発、影人形の拳を叩き込む――つもりだったが隣にいた金髪女に掴まれて寸止め状態になってしまう。うわっ、今のに反応するか……面白れぇ!!

 

 あっ、でも俺って邪龍だからやろうとしてる事を止められるとムキになるからさ。はい、別の影人形で金髪ロリを殴らせてもらったよ? なんかガキが痛みで苦しんでるのを見ると流石に良心が痛む……痛む? いやだって襲ってきたのはあっちだしちゃんと俺は違うよって言ったから何も感じねぇな。だって悪くねぇし。そもそも俺は優しい方だぞ? ちゃんと違いますよー勘違いしてますよーって教えたんだからな! これが夜空相手だったら相対した瞬間殺されてるだろうし。

 

 

「……」

 

「主が傷つけられても顔色一つ変えねぇか。ある意味すげぇなおい」

 

「主じゃない。私が仕えるのは世界でたった一人だけ。でも、見つけた」

 

「あん?」

 

「――伊吹(いぶき)の匂い。ミツケタァッ!!!」

 

 

 濃厚な殺意が周囲を支配した瞬間、一秒も掛からずに金髪女は俺の懐に入り込んで拳を振るおうとしたので影人形で応戦する。二つの拳がぶつかり合うと俺と女の周りが衝撃で吹き飛ぶが……この威力、くくく、あははははは!! そうか! そうかよ!! まじかぁ!! あははははははは!!! まさか鬼に出会うなんて思わなかった!! 京都に来てみるもんだなぁ!!!

 

 

「……この妖力、王様」

 

「あぁ。鬼だ。しかもトンでもなくデカい……戦車になる前の四季音並みの鬼となると酒呑童子か?」

 

「チガウ。私は、イバラ、伊吹の匂い。強い匂い。唆したのはオマエカァッ!!!」

 

 

 イバラ……もしかして茨木童子か? おいおい嘘だろ――最高! あはははははは!! 酒呑童子と茨木童子、まさかの鬼の二大巨頭が揃いやがった!!

 

 妖力を込めた拳を影龍王の手袋の能力と防御魔術で強化した影人形で応戦。お互いが拳を振るうたびに周囲が災害が起きたかのように吹き飛んでいくが気にしない。だって気にしたらこっちが死ぬ。しっかし大人しそうな見た目からは想像もできないほどおっかねぇなぁおい! 俺を見る目も殺意で染まってるし拳の一つ一つが確実に殺すって気持ちが込められてやがる。人気者はつらいねぇ……! まぁでも――今の四季音より弱いから楽だけど。

 

 金髪女の踏み込みと同時に影人形を操作して地面にラッシュタイムを放ち、神滅具の能力を発動。地面の耐久「力」を奪い、金髪女が踏み込んできた地面を柔らかくする……つまりどうなるかは予想できる。

 

 

「クゥ!!」

 

「はいさようなら」

 

 

 地面の耐久力が弱まった影響で女が体勢を崩す。それこそが俺の狙いだ、なんせパワー馬鹿な鬼は踏み込みから拳を放つまで尋常じゃないほど(りき)む。それを崩せばたとえ鬼でもまぁ、ちょっとだけ打撃力は下がる。そもそも鬼相手に禁手無しで真正面から戦うわけねぇだろ……だから前後から影人形を生み出してラッシュタイムを放ち、妖「力」と怪「力」を奪い取って沈静化。いやぁ、すっげぇわ。体勢を崩した状態で前にいる影人形を吹っ飛ばすとか流石鬼! でも残念ながら俺の影人形は無尽蔵なんでね。いくら潰しても湧いてくるんだわ。

 

 目が覚めないように気絶させてから恐怖で体を丸めている金髪ロリの所まで歩く。こっちの鬼を殺さないのは……恐らく四季音の身内だからだ。たくっ、確かに面白い奴だがこういうのは先に言ってくれ。

 

 

「イ、イバラ、殿……」

 

「はい終わり。茨木童子には驚かされたが今度はお前の番な? まさか京都妖怪が禍の団に加担してたとは思わなかったわ……マジで騙された。やるなぁ、京都妖怪。んで? 何か言い残すことはあるか?」

 

「ひっ!?」

 

「……黒井。マジでそれ以上やるなら俺も考えがあるぞ……てか女の子が殴られるまで動けないとかシトリー眷属失格だろ……!」

 

 

 あらら。匙君がマジ切れ状態っぽいなぁ……ヴリトラと殺しあえるんならそれでも良いかも。

 

 座り込んでいる金髪ロリの首を影人形で掴んで宙吊りにする。大丈夫、妖怪はこの程度じゃ死なない死なない。

 

 

「おいおい。正気か? こいつは『正式に許可を得て京都入りをしている俺達を闇討ち』しようとした奴だぞ? 禍の団と組んでるかもしんねぇんだ、ここで殺してもなにも文句はねぇだろ?」

 

 

 俺の言った通り、こっちは正式に手続きを得て許可を貰って此処にいる。だというのにいざ観光していたら京都妖怪に襲われたとなったら困るのは当然……京都、もっと言えばフリーパスを発行したお偉いさん方や京都に住む神々だ。折角、三大勢力が和平を結ぼうとしているのに自分の陣地に誘い込んで闇討ちしましたとかなったら色んな所から苦情もの……恐らく今後、京都妖怪は色んな勢力から疎まれるだろうな。もっとも全ての元凶は夜空っぽいけども!!

 

 

「だとしても子供だろ!! ただ間違っただけかもしれねぇ!!」

 

「アホ。悪魔や妖怪ってのは見た目を変えれる事ぐらい知ってるだろ? 油断させるために変化してるかもしれない。まっ、そもそも俺は――襲ってくる奴が女だろうとガキだろうと敵なら即殺害対象なんだよ。ガキだからって油断して殺されましたとか恥ずかしいしな……んで? 禁手も出来ないヴリトラさんは俺と殺しあうつもりか?」

 

「――あぁ! たとえ相手が黒井でも、俺は戦うぞ!! ボロボロになっても必ず、呪い殺してやる!!」

 

 

 なるほど。流石邪龍を宿しているだけあるわ……マジで俺を呪い殺そうって顔してやがる! あはははは! 最高! やっぱ良いわぁ! うん!

 

 

「――はいはい。じょーだんだよじょーだん。俺も勘違いだって分かってるっての……だがなぁ、これぐらいはしても良いだろ? おい、これに懲りたら戦う相手の実力ぐらいは……犬月、匙君」

 

「あ、はい。しほりんに電話しますわ」

 

「頼むわ」

 

 

 俺の視線の先には襲ってきた金髪ロリがいる。五体満足で大怪我一つないからノワール君優しいって言われても良いだろう。だが問題はそこじゃない。その……なんだ、あまりの恐怖に、な! ちょっと股から液体が流れてるんだけどこれはどうしようか? とりあえず犬月が橘に女子のパンツ買ってきてくれとか言うからそれを待つだけなんだけど……橘にどう説明しよう?




恐らくこの子にダメージを与える主人公はこいつだけでしょうきっと。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54話

「ひっぐ、えっぐ、いたいのじゃぁ!」

 

「……悪かった。殴ったことは謝るしもう何もしないからとりあえず泣き止んでくれ」

 

 

 俺の横に座って大泣きしている金髪ロリに敵意は無い事を伝えるが先ほどの戦闘の衝撃が凄かったのかひたすら泣き続けるだけだった……ですよね! だって連れてきた妖怪共は殺されるし殴られるし周囲が災害でも起きたんじゃないかと勘違いするぐらいクレーターが発生してるもんな! 最初は外見年齢詐欺(合法ロリ)かと思ったがどうやらマジで見た目通りの年齢らしい……悪魔とか妖怪とか外見弄れるから分かんねぇんだよ! あとごめんなさい! マジでごめんなさい!

 

 

「そりゃ、殺意有りで殴られたりしたら泣くだろ……黒井、少しは反省しろ」

 

 

 だって襲い掛かってきたんだから殺される覚悟はあるだろ? 痛いのが嫌なら戦わなければいいだけじゃねぇか。

 

 

「してますーすっごくしてますー! だから匙君はさっさと後始末しろよ? この惨劇を放置してたら色々と苦情来るからな。それに他の観光客とかに迷惑かかんだ、さっさと終わらせてくれ」

 

「やってるよ!! そもそもこれをやったのは黒井だろ? なんでその張本人が何もしてない……いや黒い人形がしてるけど王だろ!? 会長と同じ王だろ!! 手伝ってくださいお願いします!!」

 

「俺はこのガキをあやすので忙しいんだよ? それに死体とかは影人形で集めて魔力で消したんだからちゃんと働いたぞ? 犬月、橘は?」

 

「全速力でこっちに向かってるそうっすよ? ちゃんと子供用のパンツも買ったらしいんでとりあえずは安心ですかね。まぁ、とりあえずお説教は覚悟しといた方が良いと思いますよ?」

 

「だよなぁ……あの、だから泣き止んでくれないか? いい加減、そっちの事情を知りたい……あぁクソ! 犬月、リンゴジュースかオレンジジュース、とりあえず子供でも飲めるもの買ってきてくれ」

 

 

 後始末中の犬月に財布を渡す。普通に考えたらさっきまで妖怪を殺していたから全身が血だらけになっているが後始末を開始する前に魔力で消している。だからこのまま街に行っても何も問題ないわけだ……魔力って万能だなぁ。そして財布を渡された犬月は「三分で戻るっす!」と言って全速力で来た道を戻っていく……恐らく騎士に昇格したんだと思うが流石パシリ、心得てやがる。

 

 それはそうと戦闘終了からしばらく経ったが茨木童子が起きる気配がない件について。死んだ? いやいや鬼があの程度のダメージで死んだら色々と拙いだろ……多分隙を窺ってるとかか? ありえるな……まさか単に寝てるとかじゃないだろうな? まぁ、どっちでもいいけども。

 

 

「……あぁ、その、あれだ。とりあえず泣いてても良いからこっちの話を聞いてくれ。俺達は東京から京都に旅行に来た学生……うん! 学生だ。俺は半分が人間、半分が悪魔の混血、そこで必死に後始末している奴は邪龍を宿しているだけの元人間、現悪魔だ。京都入りもちゃんと偉い方々から許可貰ってるからお前のお母さんを誘拐とかはしていない……そもそもする理由がない。だから……何があったかだけ聞かせろ。もしかしたら犯人が分かるかもしれねぇ」

 

 

 十中八九、犯人は夜空だろうがな。

 

 

「……ほん、とうか……? おそ、った、私たちの、ひっぐ、聞いてくれるのか……?」

 

「あぁ。キマリス家次期当主、いや影龍王の名において誓ってやる」

 

「……ありが、とう」

 

 

 涙を流しながら目の前の金髪ロリは京都で起きた事件を話してくれた。

 

 事件が発生したのは俺達が京都入りをする数日前、この金髪ロリの母親である八坂姫――つまり京都を取り仕切る長が須弥山の帝釈天という神様と会談をするために護衛を連れて京都を出たらしい。普通の会談になるはずだったが会場に向かう道中、突然上空が割れるように穴が開いて八坂姫を吸い込んだそうだ。そのため行われるはずだった会談は一時中止となり、姿を消した八坂姫を探すべく京都妖怪が調査を開始した。なんというか……この金髪ロリ、あの八坂姫の娘かよ。そんな大物の娘を殴ったのは色々と問題あるよなぁ――俺は悪くないけど。

 

 まぁ、そんな大事な事だけど置いておいてだ……なんで俺達に襲い掛かってきたかというと八坂姫が消えたのと同時に京都内で禍々しいほどの気を持つ存在が動き回ったため、京都妖怪達は事件の関係者と判断して接触しようとした結果――接触しようとしていた妖怪が消滅させられたそうだ。恐らくメンドクサイのが来たなぁって感じで夜空が殺したんだろう。そんな事があったため、目の前にいる八坂姫不在時に京都妖怪を纏めていた金髪ロリは犯人と断定して同じ気質を持つ俺達の前に現れて襲い掛かってきた……というのが今回の一件の全貌だ。完全に夜空が引き起こした事件に巻き込まれただけですありがとうございました!!

 

 でも正直……気に入らない者なら煤しい顔しながら指パッチンで殺害するあの夜空が! 面白い事と自分の都合を何よりも優先するあの夜空が! こんな風に殺さず誘拐とか普通に考えてやるはずがない。なんせ俺と同じで誘拐するよりも殺した方が早いとか考えるような奴だし。だから多分……誰かから頼まれたんだろう。誰だか知らないが面倒な事をしてくれたもんだよなぁ! おかげで話を聞いて面白そうと思ったのか夜空が九尾を誘拐しちゃったじゃねぇの!! でも新幹線で話した感じだと既に飽きたっぽいけども。

 

 ちなみに話を聞いていた匙君は――泣いている。ガチ泣きである。

 

 

「母上、を慕ってくれて、いる者達からも危ない、って言われたのじゃが……イバラ殿が偶然、私達の前に来てくれたのじゃ……自分が探している人物かも、しれないと」

 

「なるほど。だから茨木童子なんつう鬼が一緒だったわけか……おい、いい加減狸寝入りはやめろ。テメェほどの鬼があの程度でダメージを受けるわけねぇだろ」

 

 

 地面に寝そべっていた金髪女――茨木童子はダメージなんて受けていませんと言わんばかりに普通に立ち上がって俺を見つめてきた。何を考えているか分からない目、美少女だというのになんというか……もうちょっと活き活きしても良いと思うよ? その点で言えばさっきの戦闘は俺的にはグッドだ! でも残念な事に態度からしてもう一度戦う気は無さそうだ。

 

 

「おはようさん。この金髪ロリとは和解……というか誤解は解けた。次はそっちの番だ、なんでこのガキに従った? 鬼が九尾の危機に駆け付けるわけねぇから何か理由があるんだろ?」

 

「伊吹が言った。京都に自分を従えている王様が来るっからそれと戦えば帰ってもいいって。だから此処にいる。その子供に従ったわけじゃない。偶然出会って目的地が一緒だっただけ」

 

 

 なるほどねぇ。とりあえず――あんの合法ロリ、何適当なこと言ってんだよ? そのせいでこの場所が酷い事になったじゃねぇか!!

 

 

「……ちょっと待ってろ」

 

 

 魔法陣で東京で待機している四季音に連絡をする。ホログラムのように姿が見えた途端――金髪女は一気に近づいてその姿を眺め始める……えっ? 何この子、怖い。

 

 

『うぃ~? どうしたのぉ~ってあれぇ? イバラじゃないか。ノワールと一緒に居るって事はちゃんと出会ったんだ』

 

「戦った。でも負けた……伊吹、帰ってきてくれない……ごめんなさい」

 

『にしし、そう簡単にノワールに勝てたら私はもうとっくの昔に帰っているさ。ノワール、どうだった? イバラ、結構面白い奴だろう?』

 

「おう。流石茨木童子、昔のお前を思い出すぐらい強かったわ……てかおい、なに人を売ってんだ? 里帰りぐらい自分で勝手にしろよ」

 

『良いじゃないか。滅多に無い事だよ? 茨木童子と殺し合えるなんてさ。それにノワールが勝とうが負けようがちゃんと帰るつもりだったさ、そろそろ帰らないと色々と五月蠅くなりそうだしね。それにこの可愛い鬼さんが嘘をつくわけないだろう? イバラ、私は悪魔になったせいでそっちに行けないからノワールの言う事を聞くんだよ。安心しな、この私に勝って従えた男だ。イバラも気に入るさ』

 

「分かった。伊吹の言う事、絶対」

 

 

 なんなんだこの主従関係……? あれか? そっち系か? ロリと中学生の絡みとか最高じゃないですか!

 

 そんな事を思っていると犬月がダッシュでこっちに向かってきているのが見えた。流石犬、早いな……しかも橘達も一緒な所を見ると飲み物を買いに行った途中で出会ったんだな。あぁ……なんだろう? 離れているのに橘様から笑顔が見えるだけど? 流石アイドル! 走っていても笑顔を崩さないとかまさにアイドルの鑑!! でも凄く怖い笑顔からもう少し優しい笑みでお願いします! あとなんというか、その、破魔の霊力が漏れていませんかねぇ? いけませんよ! そんなことしたら妖怪が滅せられて大変な事になるんだから早くしまってくださいお願いします!

 

 

「――悪魔さん? 犬月さんから聞きました。まず、正座してくれたら志保、すっごく嬉しいな♪」

 

「ハイ! ヨロコンデ!」

 

 

 そこから三十分ぐらい、地面に正座をしながら橘に説教されました。「いくら襲われたとはいえやりすぎです」から始まり「悪魔さん最低です、ちゃんと謝りましたか?」とか色々と怒られました。おかしいな……俺って王だよな? そして橘は眷属だよな? なんで立場が逆転してんだ……? でもアイドルからの説教とか俺にとってはご褒美ですありがとうございました! そして犬月、俺が説教されている最中ずっとガクガクブルブルと震えているぐらいなら助けろ。目の前にいる橘から漏れ出してる破魔の霊力が怖いからさ!! あっ! 他のシトリー眷属も金髪ロリのお着替えを手伝ったりあやしたりしてるけど……心なしか視線が痛い。襲われたから逆に殺そうとしただけなのになぁ? なんか理不尽すぎねぇか?

 

 ちなみに茨木童子は周りの事なんか気にしない態度で四季音と話をしていた。うわっ、マジで四季音以外に興味示さねぇよこいつ……平家が居たらそっち系なのかどうか分かるんだけどなぁ。

 

 

「そ、それよりさ! この子、どうするんだ……? 流石に放っておけないだろ?」

 

「ん? 裏京都まで連れていくしかないだろ。てか足イテェ……正座するんなら座布団ぐらい出せばよかった。おい、流石の俺も裏京都までの道は分かんねぇから家まで案内してくれ。護衛ぐらいはしてやるからさ」

 

「よ、よいのか……?」

 

「当たり前だろ? それにだ、ここで放置したら我らがアイドルしほりんから破魔の霊力が飛んでくる。そんで茨木童子、お前はどうする?」

 

「付いていく。伊吹から言う事を聞くように言われた。なんでも命令してほしい」

 

「えっ? だったら全裸に――スイマセンジョウダンデス。だったらこのガキの護衛でもしてろ……後で四季音に会わせてやるから」

 

「分かった」

 

 

 そんなこんなで八坂姫の娘と茨木童子を引き連れて裏京都まで向かい、無事に送り届けました! なんというか……あれだけ怖い目に合わせた張本人のズボンを掴みながら歩く金髪ロリの度胸はすげぇわ。だけど裏京都入りしてから隠れて様子を伺っていた妖怪共から変な目で見られたけども……まっ、邪龍が訪れたんだし当然か。

 

 

「――やはり八坂姫がいなくなってたか」

 

 

 京都観光という気分でもなくなったのでホテルに戻り、夜まで時間を潰した俺達は与えられた部屋に集まっていた。かなり豪華な内装、男三人でもまだ広く感じるほどの大きさだ……すっげぇなサーゼクスホテル、無駄に金かけてやがる。さてこの部屋に集まっているのは俺と犬月と匙君だけじゃない……アザゼル、ヴァルキリーちゃん、水無瀬、橘、赤龍帝達グレモリー眷属、残ったシトリー眷属も壁に寄りかかったりベッドに腰を掛けたりしている。なんでこんなに人数がいてもまだ広いんですかねぇ?

 

 

「光龍妃が新幹線内に現れてもしやとは思ったが……畜生! 折角の修学旅行を台無しにする気か!! キマリス、八坂姫の娘はなんて言ってた?」

 

「明日辺りに使いの者を寄こすらしいですよ。名前は確か九重だったかな? 今日は……その、怖い思いをしたんで休みたいとか言ってましたー決して殺すつもりで殴ったのが原因じゃありませんので安心してくださーい。こっちは被害者でーす」

 

「清々しいまでの棒読みだなおい。そんで? 影龍王としての見解を聞かせてもらおうか……今回の一件、やはり光龍妃が原因か?」

 

「でしょうね。九尾レベルの存在を引き込めるほどの転移術持ちなんて夜空ぐらいでしょうし。まっ、当の本人は頼まれたからやっただけでもう飽きてるっぽいですけども」

 

「……やっぱりあの人の事はよく分かんねぇ。なんでそんな風に攫ったり飽きたりできるんだよ……! 悲しんでる子だっているのにさ!」

 

「自分が楽しいと思ったからだろ? まぁ、ラッキーだぞ? 夜空に狙われてまだ死んでないとか一生分の運を使い果たしたって言ってもいい。この程度でいちいちキレてたら身が持たねぇぞ?」

 

「……黒井は何とも思わないのかよ! 前だって、ヴァーリが俺の両親を殺すって言ったときはあんなに怒ってただろ! なんで……他人事のように言えるんだよ!!」

 

「当たり前だろ? 他人なんだから」

 

 

 仮に今回の一件に俺の母さんが巻き込まれたんなら全力で夜空にくだらないことを吹き込んだ奴を探し出して殺すさ。でも今回は九尾、つまり俺とは何も関係ない人物だ。他人事のような態度をとって何が悪いのか逆に教えてほしいぐらいだ……そもそもあの時は『自分が行っている戦いに関係のない人物』を巻き込むような発言をしたヴァーリにキレただけだし。もし俺が関係ない所で赤龍帝の両親が殺されてもあらら殺されたんだって感じで記憶にも留める事はないさ。

 

 

「そもそも俺、悪魔。そんで邪龍だぞ? 正義の味方でもなければヒーローでも無いんだ。何か月か前にグレモリー先輩や生徒会長にも言ったが俺は最低最悪で、自分勝手で、自己中で、自己満足の塊で、他人の事なんか微塵も考えていない邪龍の宿主だぞ? 他人を他人と言って何が悪い。そんなヒーローごっこは天界勢力にでもやらせておけばいいだろ……もっとも今回はそのヒーローごっこをやらせてもらうけどな」

 

「へ?」

 

 

 なんでそこで水無瀬以外の奴らの表情が変わるのか教えてくほしいんだが?

 

 

「……俺だって母親がいなくなる恐怖は痛いほど、死ぬほど分かるってことだ。あぁクソ! アザゼル、九尾だが京都からは出てねぇ。京都全域の気、龍脈やらが乱れてねぇしな。探せば案外簡単に見つかるかもしれねぇ」

 

「あぁ。その辺も含めて部下達に探させている。キマリス、お前さんの力で探せるか?」

 

「無茶言うなよ……俺は霊体生成と霊体操作方面に極振りしてんだ。龍脈操作とかやった事ねぇっての……そもそも京都内の龍脈は九尾と契約してるはずだから部外者の俺が介入するのは現状難しいんだよ。まぁ、仮にできたとしてもどこまでやれるかは保証出来ねぇけどな」

 

 

 これが親父なら鼻歌交じりに簡単にやるんだけどなぁ……俺のような特化型じゃなくて万能型だし。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 何が何だか分かんないけど……黒井は手伝ってくれるって事、だよな?」

 

「そう言ってるだろ? なんだ? ダメか?」

 

「い、いやそうじゃないって!! ただ、驚いただけで……でもその子のお母さんが京都から出てないって良く分かったな?」

 

「九尾というのは京都の気を統括してバランスを保つ役割をしている。もし仮に光龍妃に誘拐されこの地から離れたのであれば京都に悪影響が出ているはずだ。もっとも影龍王が来た影響で幽霊達が活発化したみたいだがそれは関係ないだろう。まずは九尾、いや八坂の姫の居場所を探す事が先決か、イッセー、キマリス、匙、ドラゴンを宿しているお前たちが頼りだ。何かあれば力を借りるが今は旅行を楽しんでおけ」

 

 

 アザゼルの言葉を最後に第一回グレモリー、キマリス、シトリー連合会議は終了した。そのまま部屋で爆睡! と行きたかったが俺達には安息はない……何故なら――

 

 

「ノワール君、コーヒーを買ってきましたよ」

 

「おう。サンキュー」

 

 

 ――修学旅行というイベントでテンションが上がり、女湯を覗こうとしている馬鹿達から女子達を守らないとダメだからだ。俺としては橘の裸だけ守れればそれでいいんだがねぇ……もっとも俺は何度も見たことあるけど! 一緒に風呂入って胸とか揉んだりしてるし!! あのおっぱいの感触は良いものだ……何度も揉んでいたくなるような揉みごたえがあって最高でした!

 

 水無瀬から缶コーヒーを受け取ってそのまま一口飲む。俺と水無瀬がいるのは生徒会が調査して女湯を覗ける地点の一つで他の場所には犬月やら匙君やらイケメン君やら他のシトリー眷属が配備しているという超厳重な警備体制となっている。さらに周囲に寄ってきている悪霊やらに覗きに来た馬鹿がいたら教えるように命令しているため不審者がいたら即俺にバレる事になってます。なんだこの能力の無駄使い……!

 

 

「流石に前々から生徒会等で注意をしていたので覗こうとする人はいませんね」

 

「分かんねぇぞ? 案外、赤龍帝辺りが向かってきてるんじゃねぇの? そんで……何? 言いたいことがあるから俺と一緒になったんだろ?」

 

「やっぱり分かっちゃいました?」

 

「お前の事は手に取るように分かるしな」

 

 

 なんかフェニックス家とグレモリー家の婚約騒動辺りで同じことを言ったような気がする。そもそも分かりやすいんだよ……何年一緒に居ると思ってんだって話だ。

 

 水無瀬は自分の分の缶コーヒーを持ちながら俺の横に座り始める。なんだろうか……教員だから先に風呂にでも入っていたんだろう、シャンプーの匂いとかするから妙に落ち着かねぇ。家では何とも思わなかったんだけどなぁ……これが修学旅行の魔力か!

 

 

「ノワール君、話を聞いた時から助ける気満々でしたよね?」

 

「はぁ? 何言ってんだお前……俺様、邪龍。なんで他人を助けるなんてめんどくさい事をしないとダメなんだよ? 今回だって……あれだ、あのガキを殴っちまって可哀想なことしたなーという気分に珍しくなったからにすぎねぇ。勘違いした事を言ってると揉むぞ」

 

「そういう事にしておきますね。でもそんな他人を助けるのが面倒なノワール君はなんで龍脈とかを勉強したりお義父さんに連絡したりしたんですか?」

 

「良い機会だしなぁ。偶には霊体操作や霊体生成以外でこの力を使ってみたかったんだよ。なんせ特化してるしな……良い経験だと思わねぇか?」

 

「私は神器以外の力は無いので分からないですけど……ノワール君がそうしたいならすればいいと思いますよ」

 

 

 なんだろうか……この「私、分かっていますから」という態度は? たくっ、変に勘違いしてるっぽいが今回は普通に気まぐれ、ついでに言うと夜空に命令とか羨ましい、うん羨ましい事をした奴に文句を言いたかったからで特に理由なんてない。全くこのドМ保険医は勘違いして困るぜ!

 

 

「ノワール君」

 

「あん?」

 

「少しは素直になってもいいんですよ?」

 

「そんなの毎日素直になってるだろ? ほらっ、橘の裸が見られないように警備するぞ」

 

「はい。分かりました」

 

 

 幽霊達からいつもの二人組が覗こうとしていると言ってきたのでそいつらに憑りついて体調を崩せと命令する。なに、ちょっとだけ立ちくらみやら寒気がする程度だから死なない死なない。それに後でちゃんと除霊するから問題ないだろ。

 

 にしても……素直になるねぇ、夜空相手ならいくらでもできるんだがな。まっ、とりあえずあの金髪ロリの母親は助けるさ。意地でもな……だって母親を助けたい気持ちで俺に向かってきたんだ。その度胸に免じて今回だけは――ヒーローでも正義の味方でもなってやるよ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55話

「――うざってぇ」

 

「我慢しろ。お前さんが八坂の娘を殺そうとしたことが原因だろうに……良いか? 先にセラフォルーが今回の一件は双方の勘違いって事で話をつけてる。また暴れるんじゃねぇぞ?」

 

「流石に事情が分かってんだから暴れるわけねぇだろ。まっ、あっちが敵討ちだって襲ってきたら殺すけどな」

 

「だからそれをやめろって言ってんだ……イッセー、なんかあればこいつを止めるのを手伝え」

 

「いやいやいや!? 黒井に勝てるわけないだろ!? そ、そりゃまぁ……いつかは勝ちたいけどさ! でも頼む黒井!! 部長からも京都を破壊するようなことはするなって言われてるんだ!! あとで秘蔵のエロ本あげるからマジで頼む!!」

 

 

 修学旅行二日目、その早朝に俺、赤龍帝、アザゼルの三人は裏京都を訪れていた。何故かと言えば京都を収める八坂姫――の代行をしてる金髪ロリこと九重からお呼び出しがあったからだ。出会って殺しかけた際に修学旅行で訪れている事を含めて説明したおかげで京都妖怪側が観光を邪魔してはダメだと空気を読んでくれたらしく、こうして早朝に裏京都を訪れる羽目になった……マジ眠い。龍脈やらその操作の仕方やらを勉強してたら一睡もしてねぇんだよ……相部屋の犬月や匙君が熟睡できるように別の場所でしてたから二人は快眠だっただろうけども。

 

 そんなわけで早朝から大人数で訪れるのもあれなのでキマリス眷属からは俺、グレモリー眷属からは赤龍帝、同行者としてアザゼルが裏京都入りをしている。シトリー眷属から人が来ない理由はアザゼルが言ったように先にセラフォルー様が向かわれているから……あの人も一応シトリーだしね。

 

 

「甘いな赤龍帝。エロ本なんかでこの俺様が興奮するわけねぇだろ? どれだけ……どれだけ俺が夜空のパンツやら平家の裸やらでオナニーしてると思ってやがる? はっ、エロ本程度でこの俺が満足すると思ってんのか? ちゃんと寄こせよ」

 

「貰う気満々じゃねぇか!! てか! なに羨ましい、羨ましいことしてんだよ!! あれか!? 大天使水無せんせーやしほりんの裸も毎日見てるのか!?」

 

「とーぜんだろ? 日替わりで一緒に風呂に入る仲だよ」

 

「……王って、王ってそんな事をしても怒られないんだな……!! あぁ! 羨ましいぃ!! ドライグ!! もっと強くなって早くハーレム王になるぞ!!」

 

『相棒も似たようなことをしているだろう……だが強くなるのには賛成だ。俺もこの影龍に負けたままでは気が済まん』

 

『別に俺様は構わねぇぞぉ? 何度も掛かってこいやおっぱいドラゴンちゃん!! 俺様、何度でも返り討ちにしてやるぜ!!』

 

「こっちとしては赤龍帝と影龍王の殺し合いは勘弁なんだがなぁ」

 

 

 そんな微笑ましいやり取りをしながら裏京都内を歩く。隠れている京都妖怪の視線、幽霊共の構って構ってという声が地味にうざったいが今のところは敵意も無いし殺すほどでもないだろう。恐らく昨日、あの金髪ロリを殺そうとしたから警戒しているか夜空と同じ気――ドラゴンのオーラを持ってるから監視しているかのどっちかだろう。いや……今回の場合は両方かな? まっ、どっちでも良いけどね。

 

 

「……でも黒井は普通にしてるけど驚かないのか?」

 

「何がだ?」

 

「いやだって……此処って妖怪達の住処みたいなものなんだろ? 冥界とも違うしさ、やっぱり王ってこういう事じゃ驚いたりしないもんなのか?」

 

「さぁな。そもそも妖怪なら眷属にいるし敵意が無いなら冥界だろうと人間界だろうと裏京都だろうと関係ないさ。というか夜空がいないなら心底どうでも良い」

 

「相変わらず光龍妃ラブだ事で。いい加減あの規格外をどうにかしろ……あれを手懐ける事が出来るのはお前さんぐらいなんだしな」

 

「そう簡単に手懐けれたらとっくの昔に他勢力に負けてるって」

 

 

 そもそもアザゼルに言われなくても夜空に勝って眷属にする気満々だっての! さっさと女王にして……楽しみだなぁ!! とりあえず脇ペロペロしたい。

 

 

「だな。おっと、イッセー、キマリス。到着だ……仮にも代表として来てるんだ、ちゃんとしろよ」

 

 

 どうやら話をしている内に到着したらしい。デカい鳥居、その先にあるこれまたデカい屋敷に入ると先に到着していたセラフォルー様と金髪ロリ、茨木童子と他側近らしき奴らが待っていた。しっかし……セラフォルー様が真面目な服装をしているのに違和感を感じる。なんせ冥界の特撮……あれ特撮だよな? 魔王少女レヴィアたんだったかそんな感じの奴。あのコスチュームの何が良いって脇が見えている事だと思うんだよ。やっぱり脇って素晴らしいわ。

 

 そんな事は置いておいてだ。部屋の中心で正座している金髪ロリがお姫様に見える件について。いや服装が豪華な着物で昨日のような泣いている表情じゃないからだろうけども……マジでお姫様だったかぁ。

 

 

「この度はこちらのお呼び出しに応じていただき、誠に感謝いたします。私は表と裏の京都に住む妖怪達を束ねる長、八坂の娘、九重と申します。影龍王、先日はこちらの勘違いによりご迷惑をおかけした事、此処にお詫びいたします」

 

 

 物凄くきれいなお辞儀というか土下座というか……謝られたんだがどう反応すれば良いか困る。他の側近達も同じように頭を下げているし……あっ、茨木童子だけは興味ないのか頭を下げることはしてないようだ。流石鬼。

 

 

「――こちらこそ、勘違いとはいえそちらの同胞を手にかけた事、謝罪いたします。罪滅ぼしとなるか分かりませんが行方不明となった八坂姫の救出を影龍王、キマリス家次期当主の名においてお手伝いいたします」

 

 

 俺も目の前のお姫様に倣って床に座り、頭を下げる。何故か背後から驚いている表情が見えるがこれぐらいは普通にできるぞ? お前らは俺を何だと思ってんだ? 一応キマリス家次期当主だぞ? この程度の作法ぐらいはセルスに叩き込まれてるっての――普段は絶対にしないけどな!!

 

 頭を上げて金髪ロリの視線を見ながら言葉を続ける。

 

 

「――と、こっちとしては互いの勘違いで終わらせたいと思ってるが良いか? 不服なら腕の一本や二本を切り落として献上しようか?」

 

 

 どうせ再生できるし。

 

 

「い、いらぬ! そもそも今回は私達の勘違いで起きた事じゃ……影龍王、そちらの申し出、こちらからお願いしたい……いや、お願いします」

 

「任された。そもそも……八坂姫を誘拐した奴を知ってるから手伝わないわけにはいかねぇんだよ」

 

「ほ、本当か! 誰なのじゃ! 母上を……母上を攫ったのは!!」

 

「光龍妃。そっちは知ってるかどうか分からんが通称自由気ままな規格外様」

 

「……なんと! あの光龍妃ですと!!」

 

 

 おぉ、流石に京都妖怪達でも知ってたか。そりゃそうだよなぁ……あれだけ世界中を飛び回って遊んでんだし裏京都にも来た事あるかもしれねぇな。まさか九尾と殺しあってないよな? なにそれ面白そう! あの野郎……! もしそうなら呼べよ! 俺も人妻九尾に会いたいんだからさ!!

 

 

「そっ。自分が楽しいならそれ優先、他人の事なんて微塵も考えてない規格外様が八坂姫を攫った張本人だよ。もっとも今回は誰かに頼まれたみたいだけどな……魔王様? その辺の調査とかは終わってますよね? まさかまさか魔王様という役職の方が遊んでいたなんて言いませんよね?」

 

「と、とーぜんよ☆ ちゃーんと調査してきたんだから!! あぁ~! その目は信じてないって目だね!」

 

「はい」

 

「ひどーい! これでもちゃんとお仕事してるんだからね☆ コホン、今回の一件は恐らく禍の団の仕業ね。光龍妃ちゃんに接触できる人物なんてキマリス君か白龍皇君、そして禍の団ぐらいだもん。調査の結果、どうやら京都内に英雄派と思われる人物が潜入していることも分かったからまず間違いないわ☆」

 

「でしょうね。ヴァーリなら夜空に頼まずに自分で戦ってでも手に入れるだろうし……だから夜空にこんなくっだらない事を頼む奴なんて確実に禍の団しかいない。さてここで九重様、少しばかりご相談があります」

 

「く、九重で良い! こちらの頼みを聞いてもらえるのじゃ、何でも言ってほしい!」

 

 

 では脇を見せてください……と言ったらこの場は凍るな。やめておこう。

 

 

「八坂の姫が契約している龍脈を一本、俺が干渉出来るようにしてほしい。キマリスの血には霊に関するものを操る力があってな、それを応用すれば龍脈から八坂姫の居場所が分かるかもしれない」

 

「な、なんと! で、では昨日突如現れたあの黒い人影は影龍王が操った霊体なのか!!」

 

「おう。残念な事に普通の混血悪魔なんであんな芸投しか出来ないんだよなぁ。なんせ夜空にも真似されたし……きっとあの銀髪イケメン尻龍皇もきっと出来る。やらないだけでやろうと思えばできるはず。半減人形とかそんな感じで。全くよぉ、これだから規格外と天才は嫌なんだよ……まぁ、良いや。龍脈に関しては勿論悪用はしない事は約束する」

 

 

 どうやら俺の龍脈干渉させてくれ宣言は受け入れられたようで目の前の金髪ロリが直々に龍穴に案内してくれるそうだ。なんという好待遇! 昨日殺そうとした相手にしていい事じゃないぞ? 大丈夫かこの女の子……将来悪い男に騙されたりしない? こうもチョロ、純粋だとお兄さん心配になっちゃうよ!

 

 ちなみに向かう先は清水寺とのこと。これは神聖な気よりも龍の気が強いという事で邪龍を宿してる俺でも問題ないだろうという京都妖怪側の配慮だ……確かに邪悪だし神聖な気なんて浴びたら俺様、どうなっちゃうんだろうとか思ったしありがたい。ただ文句を言わせてもらえるなら赤龍帝達と一緒の場所というのが嫌です。どう考えても五月蠅い二人組がいます本当にありがとうございました! まっ、一緒に行くわけじゃねぇし犬月に相手してもらって俺は橘とデートしてよう。うんそれが良いな!

 

 

「清水寺っすか? 別に良いですよ。龍脈を借りるんならさっさと終わらせた方が良いし昨日の子が案内してくれるんなら文句も出ないですって」

 

 

 裏京都からホテルに戻り、清水寺に向かう事を犬月に伝えると嫌な顔せず了承してくれた。流石パシリ、主人の言う事は絶対なんだな!

 

 

「でも清水寺となるといっちぃ達も向かうとか言ってたような……一緒には、行かないっすよね」

 

「五月蠅くなっても良いなら別にいいぞ? それかお前だけあっち行くか?」

 

「いやいやいや! 王様を放置してたら何しでかすか分かんないんで付いていきますよ! そもそも俺は王様の兵士ですし!! あっ、そういえばげんちぃ達シトリー眷属は魔王様の命令で調査に向かうみたいっすよ? しほりんを誘って一緒に行きましょう! 是非そうしましょう!!」

 

「お、おう……別に良いぞ」

 

 

 犬月が真剣な表情で言ってきたけどそんなにアイドルと観光したかったのか? だよなぁ! 男ならアイドルと一緒に修学旅行したいよなぁ!! 俺もしたい。でも夜空がいるなら夜空と一緒に観光したい。

 

 それは置いておいてぼっちになりかけていた橘に清水寺に一緒に向かおうぜと伝えると笑顔で了承された。それはもう可愛らしいアイドルスマイルで見惚れちゃったぜ! 流石アイドル! まぁ、橘は女子達から嫌われているわけじゃないから俺のようにぼっちになる事はないけどね。ちなみにあのオコジョもヌイグルミとして同行してます!! 今もカバンの中で大人しくしているようだ……何なんだよあの狐! 芸達者だなおい!

 

 そんなわけで俺、犬月、橘の三人でホテルを出た後、そのまま清水寺まで向かう。犬月の言った通り、赤龍帝達グレモリー眷属二年生組とその他三名も一緒らしいが今回は一緒には向かわない……だって新幹線内で夜空と一緒に居た事で五月蠅くなりそうだし大っぴらに悪魔関連の話ができないのはムリ。だからあっちからの視線を感じてもスルーして目的地まで向かう事にしました! あとあんまり遅いと金髪ロリに失礼だしな。

 

 

「悪い。待たせたか?」

 

 

 そんなこんなで清水寺に到着。入口に付近に金髪ロリと茨木童子が待っていたが……遠目から見ても美少女だなおい。大丈夫? ナンパとかされてない?

 

 

「大丈夫じゃ! 後ろの者達にはまだちゃんとした挨拶はしておらんかったな。この地を収める八坂の娘、九重と申す。先日は誠に申し訳なかった……」

 

「あっ、いや、こっちの方こそ俺達の王様が大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ないっす!!」

 

「ちゃ、ちゃんと悪魔さんには言い聞かせましたので安心してください! えっと、橘志保です。悪魔さんの僧侶をしています。昨日は本当にごめんなさい!」

 

「い、犬月瞬っす! 悪魔と妖怪のハーフで王様の兵士してます!」

 

 

 小学生と高校生が頭を下げるという良く分からない光景が目の前で行われている。いったい誰のせいでこんな風になってるんだろうな? 相棒? そいつのこと知ってる? そうかーしらないかーこまったなー!

 

 

「悪魔さんが原因ですからね?」

 

「……お前は平家か? はいはい、ちゃーんと分かってますよー反省してますよーだからこうして九尾捜索の手伝いをしてるんだろうが。そんで茨木童子、今回は金髪ロリの護衛って事でいいんだな?」

 

「そう。貴方が八坂の娘の護衛をしろと言った。だからこうして付いてきている。何があってもちゃんと守る。言う事を聞かないと伊吹に嫌われるからちゃんとやる」

 

「まーた伊吹、いや四季音か……お前、自分の考えとかその辺は無いのか? 言っちゃなんだが天下の茨木童子が十数年しか生きてない混血悪魔の言う事を聞いてるのは異常だぞ?」

 

「問題ない。私は伊吹がいれば良い。私は茨木童子、伊吹の傍で支えて一緒の世界が見られれば満足。伊吹の頼みは貴方に従う事、だからそれは必ず守る」

 

「……なぁ、茨木童子ってこんなのばっかなのか?」

 

『知らんなぁ。鬼っつうのは良く分からん考えを持つ奴が多いもんよ! 宿主様に従うってんなら黙って言う事聞かせていればいいさ!』

 

 

 それはそうなんだけどな。でも対して知らないやつが従いますなんでも言ってくださいとか胡散臭くて警戒しないとダメなんだよ……普通の人間ならスルー安定だが目の前にいる女は茨木童子、鬼の中でも酒呑童子に次いで知名度があり、鬼の代名詞としても有名な存在だ。しかもかなり強い……転生前の四季音とほぼ同じとか周りの奴らは泣きたくなるレベルだぞ? まっ、四季音と一緒に居たいんなら勝手に東京まで付いて来いって話だ。俺は気にしねぇし。

 

 

「……犬月さん、伊吹さんって誰ですか?」

 

「えーと、うちの酒飲みぽいっす。なんつうか、かなり慕ってるというか主人と犬の関係というか……なんかそんな感じっぽいっすね!」

 

「……どうして悪魔さんの周りには女の子が増えるんでしょう?」

 

「ドラゴンだからじゃないですかね? し、しほりん! 俺は応援してるっすよ!!」

 

「影龍王? あの者達はどうしたのじゃ?」

 

「さぁな。とりあえずさっさと龍穴まで案内してくれると助かる」

 

「勿論じゃ!」

 

 

 俺達を案内するために金髪ロリは一番前で歩き出したので俺達も一緒に歩く。しかし何故だ……? 昨日自分を殺そうとした相手に対して距離が近くないかい金髪ロリさんや。やっぱりこの子危ないわぁ! 平家並みにチョロすぎて将来心配になっちゃうわー! もっともあのヤンデレ属性とはかなり真逆になるだろうけども。

 

 

「うっへぇ……こんなところがあったのかよ」

 

「凄いです……霊力が満ちてて、体がすっごく軽くなります!」

 

 

 俺達が今いる場所は清水寺――の真下、つまりテレビでよく見る舞台から落ちた場所だ。別に飛び降りたとかじゃなくて妖怪……というよりも八坂姫と近い者しか通れない通路を歩いてここまで下りてきたんだが橘の言う通り、霊力が満ちてて浄化されそうなんだが大丈夫かな? でもここで影人形を生み出したらかなりの出力になりそうだ……流石にやらないけども。ただこの空間自体が裏京都のような異空間で仮に舞台から飛び降りたとしても俺達と出会えるわけじゃない……まっ、そうでもしないと龍穴が壊されかねないしな。

 

 そして金髪ロリに案内されて目的地に到着。目の前には石碑がある……かなり古くから置かれているようでボロボロだが神聖な気を絶えず放出しているところを見ると石碑が置かれている場所に龍脈があるという事だな。でもまさかこうして龍脈を操作する日が来るなんて思いもしなかったよ……さて、ちゃんとできるかなぁ!

 

 

「これが龍穴じゃ。今より此処の龍脈を影龍王に貸し出す手続きを行う。すまぬが前に出てもらえぬか?」

 

「あいよ」

 

 

 金髪ロリに言われた通り、一歩前に出る。それを見届けると石碑の前で正座をし、呪文を唱え始める。覇龍のような呪いの呪文とは違い、単に儀式として唱えられるような類のもの……そこに神聖さとか禍々しさとかは感じられないが唱えているのが見た目小学生、中身も小学生の女の子となれば地味に驚かされる。だってかなり真面目にやってるんだもん! 俺様、びっくり。

 

 そして呪文が唱え終わると俺の足元に霊力が集まりだした。それは少量というレベルではなくこれ一つでパワースポットが作れるぐらいの量……言ってしまえば龍脈一本丸々俺に明け渡したぐらいの質と量だ。おいおいちょっと待て! 俺は干渉出来るようにとは言ったが一本丸々貸せとは一言も言ってねぇぞ!? どうすんだよこれ!! ここまでされて操作できませんでしたとかだったら笑いものなんだけど? やだーキマリス家次期当主様ってこんなことも出来ないのーとか言われちゃうだろ!!

 

 

「――終わりじゃ。京都に流れる龍脈の一本を影龍王に貸し与えた。神々も了承しておる。京都にいるならばどこでも龍脈から力を引き出せるはずじゃ」

 

「らしいな。力が溢れてくるし京都全域をまるで見てるように把握できる……これなら行けそうだ。でもよく神様も許したな? あいつら、俺の事を知ってるはずだぞ?」

 

「そのようじゃ……しかし母上が不在のままでは京都の流れが乱れてしまう事を危惧してか今回だけ特例で貸して頂けたようだ。母上が戻り次第、龍脈は返してもらうとのことじゃ」

 

「そうしてくれ。流石に此処までの霊力はいらねぇ……さて、それじゃあ九尾探しを始めるとするか。とりあえず上に戻ろうぜ? 此処だと神聖な気が邪魔して集中できない」

 

 

 犬月、橘、金髪ロリ、茨木童子を引き連れて上へと戻るとちょうど到着したらしい赤龍帝達御一行と鉢合わせしてしまったが……まぁ、良いだろ。

 

 

「おっ、いっちぃ!」

 

「黒井! 犬月! そ、そしてしほりんも!! き、奇遇だなぁ!!」

 

「まさかここでしほりんと出くわすとは! しかし黒井! 貴様!! 聞いたぞ!! 幻のお姫様こと平家早織と付き合っているくせに別の女子とも付き合ってらしいな!!」

 

「浮気なんぞしよって! 平家さんに謝るがいい!!」

 

「――ぁ?」

 

「黒井っち! 落ち着いて! 深呼吸深呼吸!」

 

「そ、そうだって! 松田と元浜もあれは……そう! 黒井の親戚のお姉さんなんだよ!! だから違うらしい!! なっ! なっ!!」

 

 

 犬月と赤龍帝が必死にフォローというか二人を死なせないようにしているが……別に殺してもいいんじゃないかと思い始めている。だって覗きとか盗撮してる奴らだろ? 別に消えてもいいと思うんだがなぁ。まっ、面倒だからしないけども。

 

 

「……影龍王。イッセーから聞いたが龍脈を借りに此処に来たそうだが……終わったのか?」

 

「ん? おう。ご丁寧に龍脈一本借りれたから今から九尾探しをするつもりだよ」

 

「そうか。うん、手伝える事があれば言ってほしい。色々と迷惑をかけたからな、イッセーも影龍王や他に任せている事を気にしている……だから、頼む」

 

「ふぅん。まっ、勝手にすればいいんじゃねぇの? どうせなんかあれば共闘する事になるんだしな」

 

 

 それを言い残して清水寺から出て人通りが少ない場所へと移動する。龍脈の流れは把握している……毛細血管のように幾重に分岐してはいるが元は一本だ。しかも到着点は契約者の九尾――八坂姫。地面に座り、瞳を閉じて全意識を龍脈制御(霊操)に充てる……この広い京都の中で最も力が集中している部分、この広い京都の中で最も気が安定している場所、それを探し出す。ちっ、いくら霊力を含む龍脈とはいえ俺の霊操程度じゃ難しい芸当は無理か……! やっぱり霊体生成と霊体操作に極振りしてるのはダメかねぇ?

 

 

『ゼハハハハハハッ! 宿主様! そう小難しい事は考える必要はねぇぜ? 俺様を思い出せ、力を奪う感覚でやってみな!』

 

 

 なるほどな! 存在の力を奪う「捕食」の応用パターンか! 再度意識を集中させて影龍王の手袋の能力を発動しているときと同じ感覚で霊脈を辿っていくと――見つけた。なるほど、そこか! そこにいたか!!

 

 

「見つけ――ちっ! あっちにもバレたか!!」

 

 

 俺の体に生暖かい何かが纏わりついた感覚がした瞬間――目の前の光景が変化した。まず人の気配が俺達以外……いや、離れた所に赤龍帝達もいるな。それに違う場所には水無瀬にアザゼル、ヴァルキリーちゃんもか……あと匙君達シトリー眷属もこれまた違う場所にいるっぽいなぁ。それは置いておいて足元にある霧のせいで俺達は此処に飛ばされたと考えていいだろう……俺達悪魔関係者しかいない世界、見た目はさほど変わってはいないが足元に立ち込めている霧だけ先ほどまでの光景と違うし。確かそういう神器があったはずだ……名前忘れたけど。

 

 

「っ! 王様!」

 

「狼狽えるな。茨木童子、俺の命令を聞くなら金髪ロリの傍から離れるな。怪我一つ負わせんじゃねぇぞ?」

 

「了解した」

 

「犬月、嗅覚と聴覚で周囲の探索、橘も神器を出して警戒しろ。金髪ロリ、茨木童子から離れるな」

 

「はい!」

 

「う、うむ!」

 

 

 もっとも――警戒しても遅いけどな。

 

 

「――そこにいるんだろ? 隠れるならせめて夜空並みになってからした方が良いぞ?」

 

「――流石、影龍王殿。この程度では気づかれるか」

 

 

 物陰から出てきたのは一人の男、手には槍を持ち服装はどこかの学ランだ。ただしその上に中国の服っぽいものを羽織ってるどっからどう見ても怪しい奴……あの槍、この感覚が確かなら犬月と橘には傷一つつけさせるわけにはいかねぇな!

 

 

「当たり前だ。どんだけあの規格外と殺しあってると思う? さて――禍の団って事でいいんだよな?」

 

「いかにも。一応、英雄派を纏めている曹操という。初めまして、影龍王殿」

 

 

 どうやら俺達の目の前に現れたのは――英雄派のトップだったようだ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

56話

「曹操ねぇ……なに? 三国志で有名なあの曹操を騙る偽物か? それとも本当に曹操が蘇って目の前にいますとか言わねぇよな?」

 

「本物であり、偽物でもある。俺は曹操の子孫なんだよ影龍王殿。しかし驚いたな、この槍を前にして平然としているとは……本当に怖い。流石あの光龍妃と殺しあっているだけはある」

 

 

 トントンと得物である槍の石突で軽く地面を叩きながら探るような眼で俺を見てくる。隙があるようで無い……人間にしては、いや人間だからこそ化け物を警戒してるって感じか。たくっ、夜空もそうだが神滅具持ちの人間ってのは悪魔以上の実力を持ってるのが普通なのか? 珍しく俺の勘が告げてやがる……! こいつは強い。今までに相手をしていた禍の団の雑魚共は俺達が化け物を殺してやる! ってだけ考えて粋がってた奴らだったがこいつは違う……徹底的に観察してどこを狙えば良いか、何をすれば有利に立てるか、そしてどうすれば勝てるかを考えるタイプだ――言ってしまえば完全なテクニックタイプ。やれやれ……戦いにくいなおい!

 

 それはそうと曹操ちゃん? 俺が平然としているとか言ったけど……ばっかじゃねぇの! この俺様がどんだけ夜空が生み出す光を浴びて死にかけてると思ってやがる? たとえその槍が最強の神滅具だとしても怖いなんて感情は出ないんだよ。もしあったしてもヤバイなぁという事だけだ。

 

 

「夜空のお陰で光には慣れてるんでな。いかに最強の神滅具が相手でも夜空の方が怖いさ……でもまさかそれを禍の団が所有しているとは思わなかったけどな」

 

「流石だな。一目でこれの正体を把握したか。察しの通りこの槍の名は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、始まりの神滅具であり、神を殺せる聖槍だ。悪魔が一度でもこの槍を受ければどうなるか……影龍王殿ならば分かるはずだ。光龍妃が操る光を直に浴び続けていた貴方ならね」

 

「当然だ……んで? 此処に現れたって事は今回の九尾誘拐はお前らが……いや、お前か。お前が夜空に頼んだってわけか? くくく、あははははは! 聖槍しか取り柄が無さそうな人間が夜空をパシリ扱いとはスゲェなおい。残念だったな……あいつ、もう飽きて京都にはいないようだぜ?」

 

「知っている。そもそもあの光龍妃がキミ以外の存在に興味を抱き続けるわけがない。俺達としても九尾さえ攫ってきてくれればそれでよかったんだ。仮に彼女がやらなくてもキミ達を此処に飛ばしたように俺達でも出来たけどね」

 

 

 だろうな。俺達をこの空間に飛ばすことができたんだ、九尾ぐらい簡単に転移させるなんて余裕だろう……恐らく神器、それも神滅具級の能力と考えて良いな。確かそんな能力を持ってる神滅具があった気がするが……名前なんだっけなぁ……? アザゼルならすぐに出てきそうだけど俺は相棒と夜空以外には興味無いから思いっきり忘れちまったぜ!

 

 

「お、お主か! お主が母上を攫うように命じたのじゃな!!」

 

「左様。こちらが光龍妃に依頼をしました」

 

「何故じゃ!! 何故……母上を!!」

 

「実験に必要だったからとでも言えば満足ですかな小さな姫君。なにせ弱い人間である俺達が悪魔、天使、堕天使、妖怪、神、魔王、幾多の異形と戦うには実験が必要なんですよ」

 

 

 実験……恐らくそれが夜空が面白そうと思った理由だろう。九尾を使って何をしようとしているなんざどうでも良い……勝手にやって勝手に満足してればいい。だけど――自分よりも強い茨木童子の前に出て泣きそうなのを堪えている金髪ロリを見たらそんな事も言えなくなる。なんというか、俺って家族関連に弱いな……嫌になる。

 

 

「――で? 隠れて実験していれば良いのにこうして俺達の前に出てきたんだ。それ相応の理由があるんだろ? 龍脈弄られて焦ったか?」

 

「正解。まさか悪魔である影龍王殿が京都に流れる龍脈を制御してくるとは思わなかった……だから場所がバレるのならいっその事、こうして姿を現した方が堂々としてて良いだろう?」

 

「さぁな。出てこようが隠れてようが俺には関係ねぇ――夜空をパシリ扱いした事を後悔させないとダメなんでなぁ! 英雄の曹操、しかもその子孫なら化け物相手に逃げたりしないよな?」

 

「――当然だ。一応英雄の子孫なんでね、引くわけにはいかないさ。そして……影龍王相手に手加減して戦うほど、俺は貴方を見くびってはいない」

 

 

 真剣な眼差しと共に槍を構え、距離を取り始める。流石最強の神滅具を持つ人間だ! 英雄派なんざどうでもいい!! お前がどれだけ強いか確かめられれば良いからなぁ!!

 

 

「行くぜ相棒、かなり戦いにくい相手っぽいが……楽しそうだよなぁ!!」

 

『ゼハハハハハハハッ!! そうだなぁ宿主様!! 相手は最強の聖槍だ! これほど胸が熱くなる殺し合いもねぇぜ!! こんな気分になるのは久しぶりよぉ!! 楽しもうぜ宿主様!!』

 

「当たり前だろ!!」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 影龍王の力を具現化させた鎧を纏い、背に影の翼を生やして空へと昇る。俺の姿を見た曹操は――笑みを浮かべながら槍を、その先端を強く輝かせる。

 

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 それは俺のように、夜空のように、赤龍帝のように、ヴァーリのように、俺達のようなドラゴンを宿す者が纏う鎧が放つ威圧感は無く真逆と言ってもいいほど――静かなものだった。鎧を纏う事も無く曹操は生身の状態、聖槍の形が変わるわけでも無く先ほどまでの槍と同じもの、変わった所なんて神々しい輪後光が背に現れて七つの宝玉が周囲に現れたぐらいだ……やっべぇ! 下手すると余波で周りの奴らが死ぬかもしれねぇ!! くくく、あはははははは!! 最高だわ!! 京都に来て本当に良かった!!

 

 

極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の(ロンギヌス・)輝廻槍(チャクラヴァルティン)。これが俺の、黄昏の聖槍の亜種禁手だ。どうだ? 天龍や双龍を宿すキミ達とは違って静かすぎるだろう?」

 

「あぁ。逆に気味が悪すぎて引いてんだけど?」

 

「影龍王殿をドン引きさせられたのなら俺の禁手も捨てたものじゃないな」

 

 

 禁手化と同時に現れた宝玉の一つに乗る。普通ならバランスが崩れて倒れるが目の前の曹操は――飛んだ。いや浮遊したと言ってもいいな……やっぱりな! あの宝玉に何かあるとは思ったが能力持ちか!

 

 

「これでお互い、空を飛んで戦える。しかし驚かないところを見るとこの宝玉を怪しんでいたか……やり難いな」

 

「お互い様だ。でもよ、そんな事を言いながらやけに楽しそうじゃねぇの? まっ、気持ちは分かるけどな!!」

 

 

 数十、数百の影人形を生み出して曹操に向かわせると宝玉の一つが飛び出して光り輝いた。それと同時に光り輝く人形のようなものが生み出されて俺の影人形とぶつかり合う。これで二つ……てことはあと五つは能力持ちって考えて良いな。しっかしよぉ! なんで夜空も目の前の男も俺の影人形を真似すんだよ!! 全世界で人形精製能力が流行ってんのか!? ふざけんじゃねぇぞ!!

 

 

居士宝(ガハパティラタナ)。そちらと同じ人形を生み出して使役する能力だ……おっと、流石に同じ土俵では負けるか」

 

「はっ! あったりまえだろ!! 俺がどんだけこれに力を注いだと思ってんだ? ほらほらぁ! シャドールゥ!!」

 

 

 数十、数百の偽光人形を影人形のラッシュタイムで吹き飛ばす。見た目は強そうだが実際はそうでもない……むしろ夜空の方が威力がある上に速い。そもそもこの程度の出力しか出してない影人形のラッシュで吹き飛ぶとか手を抜いてんのか? まっ、どうでも良いけど偽光人形が消えるたびにピカピカと光が走ってすっげぇ眩しい……あぁ、分かってる。後ろだろ?

 

 

「――これも防ぐか」

 

 

 ガキンと背後に突如現れた聖槍の刃を影人形の拳で防ぐ。口調では驚いているようなことを言ってるがお前、防がれる事も分かってただろ? だからこんなに分かりやすい場所を狙ってきやがったんだからな。というよりも……聖槍の刃が怖いんだが? 何この出力!? こんなの受けたら痛いだろ!!

 

 

「俺の影人形の防御は鉄壁なんでな。そう簡単には通さねぇぞ?」

 

「そのようで。それでは攻め手を変えようか」

 

 

 槍の先端が輝きだしたので即座に別の影人形を生み出して曹操にラッシュを放つと――いきなり消えた。吹き飛んだという次元じゃなく、まるで瞬間移動したように目の前でいきなり消えて別の場所に現れやがった。これで三つ……偽光人形精製、浮遊、テレポートもどき、俺よりも多芸で羨ましいな! そんな俺の思いを知らない曹操はクルクルと槍を回して瞬間移動を繰り返して現れたり消えたりを繰り返す。それを見てめんどくせぇなと思いつつ俺は数百以上生み出した影人形を全て消して視野を確保する……なんせあんなに大量にいたらそれを利用して隠れられるし。だから下手に利用されるぐらいなら自分から消した方が良いに決まってる。

 

 視界の端では色んな場所で戦闘が始まっているのが見える。一番近い犬月達の場所には異形……ゲームで言うモンスターのような奴らが現れていて犬月達に襲い掛かっていた。当然、そう簡単にやられる俺の眷属じゃないんで妖魔犬状態の犬月と雷電の狐(エレクトロ・フォックス)が前、橘が金髪ロリの近くで破魔の霊力を飛ばして遠隔攻撃。茨木童子は……うん、四季音と同じく鬼の力でそこらじゅうをぶん殴って吹っ飛ばしてる。もうアイツ、四季音の妹って事でいいんじゃないかな?

 

 

「他の戦場が気になるのかな?」

 

「べっつにぃ~? 単に対戦相手が瞬間移動しまくってめんどくせぇなぁって思っただけだ。ほら、赤龍帝やヴァーリみたいに正面から来てもいいんだぜ?」

 

「それは悪い事をした。しかしこうでもしないと勝てないんでね。影龍王、キミは赤龍帝のように接近戦、ヴァーリや光龍妃のように魔力や光を飛ばすような戦い方じゃない。俺の居士宝と同じく人形を生み出し、それを操る戦闘スタイルだ。派手さは無いが俺にとってこれほど厄介なものは無い……影龍王に集中してしまったらその人形に殺されるからね。そして何よりも恐ろしいのは――ノワール・キマリス、キミは俺と同じくテクニック主体の戦い方を得意としている事だ」

 

「……へぇ」

 

「赤龍帝やヴァーリのように力押しで来る相手ならばかなり楽だ。だけどキミは違う、派手な攻撃なんて無いから対処が難しいし攻めるよりも受け、カウンターを得意としている。今代の二天龍、地双龍の中で唯一の盾役、それがキミの役割だ。だからこそ厄介だ、先に潰そうにも下手に攻め込んでしまえば最後――簡単に殺される。お陰で宝玉の能力のいくつかが使用不可だ……使っても意味無いからね」

 

「なるほどな。七つの内、どれだけ使用できないかは知らねぇけど最強の聖槍だろ? 神を殺せる威光ってのをしても良いんじゃねぇか? もしかしたらそれで俺を殺せるかもしれないぞ」

 

「その手には乗らない。確かに聖槍の出力を上げればこのフィールド内にいる悪魔達は掃討出来るだろう。だが使ってしまったら輝きによって俺の視界が狭まってしまう……再生能力を持つ影龍王なら光に突撃して俺に攻撃してくるかもしれないからね。だからこうしてチマチマと転移を繰り返しているわけだ。カウンター特化の相手に態々正面から向かう理由もないしね」

 

『――やべぇぜ宿主様。こいつ、俺様達の事を研究してきてやがる! ガチの変態だぜぇ!! せめて男の娘に研究されたかったなぁ!!』

 

「それはどうでも良い」

 

 

 男の娘はどうでも良いとして……あのさぁ! 俺の事を研究するならもっと可愛い子にしてもらいたいんだけど! 特に夜空とか! あっ、ダメだ……あいつが俺の事を研究したら脇好きだってバレて脇が見れなくなっちまう。まぁ、それは置いておいてだ。マジでやり難い……! 相手の事を研究するのは間違いじゃないがこうも馬鹿正直に突撃してこないとここまで戦いにくいとはな。確かに赤龍帝やヴァーリ、夜空のように正面から向かってきたり光を放ってきてくれた方が俺的には楽だ、それは間違いない。でもな曹操……一つだけ、一番大事な所が間違ってるぜ?

 

 

「まっ、確かに俺もお前に向かって行ったらめんどくさい事になりそうだ。だからこうして探り合いをしてるわけだが――そろそろ本気出していいよな?」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 鎧に埋め込まれている宝玉から音声が鳴り響き、俺の背中から無数の影が蛇口から出る水のように地面に落ちていき、広がっていく。地上にはグレモリー眷属二年生組と転生天使、匙君率いるシトリー眷属、水無瀬達教員チーム、そして犬月達と……そいつらはこの影が何なのかを知ってるから大丈夫だろうが戦っているモンスターは別だ。俺の影に触れた瞬間、それらの動きを阻害して力を奪い取る……この広いフィールドだ! かなりの数がいるだろう! そんな中で一気に力を奪い取ったらどうなるかな?

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 モンスター共の力を根こそぎ奪い取り、俺の力が底上げされていく。さて、これだけ龍のオーラを高めたら十分か。

 

 

「曹操ちゃん? さっきの考察、面白かったぜ? でも一か所だけ間違いがあったぞ」

 

「おや? だったら正解を教えてもらおうかな影龍王殿」

 

「――俺、受けより攻めの方が大好きなんだよ!!」

 

 

 地上に広がる影の海から無数の影人形が生まれ、空へと飛び出していく。なんか地上の一部分からすっげぇ殺気を感じるんだが誰だ? なんかこの感じは人というよりも……いや、今はどうでもいい。さて! この数を相手にどう対処する? 最強の聖槍の使い手さんよぉ!!

 

 

「これはこれは……まるで世界を蹂躙しようとするラスボスみたいな光景だ。しかしデータを取るには十分! 居士宝!」

 

 

 曹操が操る宝玉の一つが輝き、偽光人形が出現する。それらは海より飛び出した影人形を迎撃しようと動き出すが……残念! お前が攻め方を変えたんなら俺も変えるわ! 偽光人形が影人形に触れた瞬間、人型の形を捨ててシャボン玉のような球体となって内部に閉じ込める。そこから力を奪い取って俺の糧にする……こうすれば眩しい光も発生しない上、俺の力も上がる。つまり一石二鳥!!

 

 曹操ちゃんが宝玉から十の偽光人形を生み出すなら俺は影の海から百の影人形を生み出す。生み出されては俺に力を奪われ、消えていく。流石に分が悪いと判断したのか種間移動を多用して聖槍の刃から光を放出して群がってくる影人形を消していく。俺はというとただ影人形を生み出していれば良いだけだしすっごく楽! 力もドンドン上がっていくしな! でも何故だろう……? どこからか「キマリス! お前、俺達の事も考えやがれ!!」とチョイ悪親父風のおっさんから怒鳴り声が聞こえたり「黒井!? 黒井様!? なんかこの影! 俺達も対象にしてないか!?」と邪龍仲間のクラスメートから叫び声が聞こえたりしてるんだけど意味が分からない。地上にいるモンスターを駆逐してやったんだから感謝しろよ? まっ、そいつらは翼を生やした状態で現れてるけど。

 

 さてそんな事は置いておいて……そこか。

 

 

「っ! 読まれた……偶然か」

 

 

 視線の先で影人形の拳を聖槍で防いでいる曹操が見える。なんで此処に瞬間移動してくるのが分かったって言いたそうだなぁ! だって普通に分かるもん。多分だが夜空も出来るしヴァーリも出来るだろうな。だって規格外と天才だし!

 

 立ち止まっていれば無数の影人形が襲ってくるため宝玉自体をぶつけることでやり過ごし、再び瞬間移動を行った。なんだあれ……宝玉自体にも俺の影人形を粉砕出来るほどのパワーがあるのか? まっ、良いや。はい! そこだな!

 

 

「またか……此処には覚妖怪はいないはずだが、いや、そうか。なるほど! だからオーラを高めたのか!」

 

「ん? なにが?」

 

「技重視の俺を相手に何故オーラを高めたのか不思議だった……だが今のでようやく分かったよ。なんで俺が移動した場所が分かるのか……影龍王、現在も上昇し続けているそのオーラが答えだ。このフィールド全体を影で包み込んだのも範囲を確かめて必要な力を得るためだろう? ここまで高まった龍のオーラならばこのフィールド全体に広がってもおかしくはない……そしてそれこそが狙い、おっと危ない。話をしている最中なんだ、少しは聞いててほしいね全く。さて答えを言おう――影龍王、キミはオーラをコントロールし、その揺らぎで位置を把握してる。だから俺が現れる場所が分かった……違うかい?」

 

 

 うっわ、マジかよ。

 

 

「――大正解。ドラゴンがなんで最強と呼ばれているかこれで理解してくれると助かる。上級以上の奴らはこんな芸当、簡単にやってのけるぜ?」

 

「良い経験になる。次に戦う時は注意しよう」

 

「そのセリフ、逃げ切れると本気で思ってる感じだが……逃がすとでも思ってんのか?」

 

「勿論だよ影龍王。名残惜しいが今回は俺の負けだ、だから全力で逃げようと思う――ジークフリート」

 

 

 背後から何かが飛んでくる感じがしたので影人形を生み出して向かってくる()()()を受け止める。見なくたって分かる……斬撃だ。しかも聖剣デュランダル並みの出力を持った剣から放たれたものだろう……たくっ、さっきから心地良い殺意を放ってたのはテメェか? 視線をそちらに向けると龍を殺すという強い殺意を放っている剣を持った白髪の男。なんか腰にいっぱい剣あるけどさ……どこかにしまったりしないの? 邪魔じゃない?

 

 

「……あぁ、龍殺しか」

 

 

 剣から放たれる殺意が俺に教えてくる。龍殺し、つまりドラゴンに致命傷を負わせる力を秘めた剣をあの男は持っているという事になる……なるほど、確かに俺は相棒を宿しているから龍殺しを受けたら一溜りもないだろう――でもだから何? そんなので怖がる俺だと思ってんのかねぇ?

 

 

「鎧のせいで分からないけどこの剣を前にしてよくそう言えるね……一応、これは最強の魔剣、そして龍殺しを持っているんだけど影龍王にとっては普通の剣になってしまうのかな」

 

「触れたらヤバそうな感じはするが……所詮その程度だ。力を引き出しきれてない雑魚程度がドラゴンを殺すとか言わない方が良いぞ?」

 

「耳が痛いな。実際その通りだから困る……一発、今のを撃っただけでこの様だしね」

 

 

 男の両手は血だらけで一体何をしたらそんな風になるんだろうかねぇ? ちなみに俺は何もしてません!

 

 

『ん? ゼハハハハハハ! こりゃ傑作だ! 宿主様、目の前の男が持ってた剣だが魔帝剣グラムっつう最強の魔剣だぜぇ? ファーブニルをぶっ殺した龍殺しの剣だ! まさかこんな雑魚が持ってるなんてよぉ! いかに心が広い俺様とて可哀想だって思っちまうぜ!!』

 

「へぇ。そんなにスゲェもんなのか? ただの剣だろ?」

 

『最強の魔剣の名は伊達じゃねぇぜ? 前の所有者は一振りで大地を抉り、あらゆるものを切り刻んだ。それこそグラムの本来の力よぉ! あれはダメだ、龍を宿しているが故に呪いを受けちまってる! だらしねぇ!! あんな呪い程度に負けるなんざ歴代最弱の担い手だろうなぁ!!』

 

「そう言われるとなんか……あのグラムって奴が可哀想になってきた。おい、そんな奴が使い手で大丈夫か? 何なら俺の所に来ても良いぞ? 邪龍に魔剣とか最高だと思うしな!! あとなんだろ……うん! 特典として毎回規格外と戦えるぞ! きっと良い環境だよー?」

 

「残念ながらグラムは自身で使い手を選ぶ魔剣だ。今は僕を使い手として選んでいるから勧誘は……そうか、やはり魔剣という事か」

 

 

 適当な事を言ってみたら目の前に魔剣が現れた件について。何こいつ……チョロイ。平家よりもチョロすぎるぞ? 確かに雑魚の担い手は可哀想とか思ったけどさ! マジで来るなよ!! 冗談だってことぐらい分かってくれても良いと思うんですが! あとさ……マジで殺そうとしてるのはなんでかなぁ! きっとこれ……持っただけで呪われるよな? 魔剣だし。

 

 

『宿主様』

 

「相棒」

 

『やるか!!』

 

「当然!」

 

 

 俺の目の前で「早く使ってくださーい!」とか言いたそうに浮かんでいる魔帝剣を握る――すると今まで高められた龍のオーラに反応してか濃厚な殺意が周囲を支配する。曹操ちゃん辺りから「魔帝剣は影龍王を選んだか」とか聞こえたけど今はそれどころじゃない……俺の腕からなにかが這う様に全身へと何かが回ってきやがった! 気持ち悪いなんてものじゃない……毒のように、体の中にミミズか虫を生きたまま入れられたような気色悪い感覚が止まらない……あぁ、なるほどな……確かにこれは王様だわ! とびっきり頭がおかしい奴だ!!

 

 感じ取れるのは殺意、妬み、憎しみ、恨み、苦しみ、怒り、無数の負の感情が剣から伝わってくる。まるで覇龍を使用している時のようだなおい……だが、一つだけ真逆なものがある。それこそが……この魔剣が真に欲しているものだろう。

 

 ――お前は、自分を理解してくれる奴を欲していたんだな。

 

 

「気持ちわりぃ……たくっ、しばらくは冗談なんか言わないようにしねぇとな……相棒」

 

『ゼハハハハハハハハハハッ! なんだ宿主様!! 俺様は心地良い感情を浴びて気分が良いんだ!! この程度で死ぬとでも思ってるのならば答えはノーだ! この俺様がこんな癇癪程度で死ぬわけねぇだろ!! 宿主様こそどうなんだぁ? 死ぬか? ユニアの宿主を抱かぬまま此処で呪い殺されるか?』

 

「それこそ冗談じゃねぇ……! 夜空を抱いて! 子供産ませて! そんでもってイチャイチャするまで死ねるわけねぇだろ!! ゼハハハハハハハ! 良いぞ良いぞ!! もっとテメェを理解させろやグラムゥ!! 俺はお前が大嫌いで大好きなドラゴンだ! しかもとびっきり頭のおかしい邪龍を宿した普通の混血悪魔だぞ! この程度で死ぬと思ってんなら笑わせんじゃねぇ!! なんせ俺は! 俺達は!!」

 

「『最強の影龍王だからなぁ!!』」

 

 

 さらに魔剣のオーラが高まっていく。俺を飲み込もうと全力で呪ってきたが……悪いな! 呪いなんざ歴代の奴らで慣れてるんだよ!! テメェの呪いなんざ歴代の奴らの足元にも及ばねぇ!!

 

 

「拙いか……! 全員離脱する!! ゲオルグ! 転移を急げ!! 此処にいる全員が死ぬぞ!!」

 

「ゼハハハハハハハハ!!! オラアアァァァァッ!!!」

 

 

 一振り、たった一振りだったが全力でグラムを振り下ろす。放たれた波動は地面を抉り、空を裂き、世界を両断した。うわっ、ナニコレ……こんだけなのか? マジかよ。

 

 このフィールドが崩壊したせいか、または転移させた奴がなりふり構わず強制転移を行ったせいか知らないが俺の視界には元居た場所の光景が映し出されていた。少し離れた場所から赤の他人の声とか音とか色々聞こえてくる……当然周りには犬月、橘、金髪ロリ、茨木童子もいる。おぉ! 生きてたか!

 

 

「……し」

 

「あん?」

 

「しぬかとおもったぁぁぁぁっ!!! おうさま! あれしぬ! まじでしぬところでしたってぇぇっ!!」

 

「あくまさんこわいですこわかったですしょじょのまましにたくないですしぬならあくまさんとえっちしてからしにたかったですうわーん!!!」

 

 

 まさかのガチ泣きである。犬月と橘に抱き着かれながら金髪ロリを見ると――あぁ、またパンツ買わないとなぁ。うん、見事なまでに水溜まりが出来ていますね! そして茨木童子……お前スゲェな。あんな目にあってなんで普通にしてんだよ? 鬼ってすごい!

 

 ちなみに水無瀬に電話したらガチ泣きしてました。なんか知らないがあっ、これは死んだと本気で思ったらしい……だ、誰なんだ一体! 俺の僧侶をそんな怖い目に合わせた奴は!! 見つけたらこのチョロイン魔剣で斬ってやろう!!

 

 でもまぁ……とりあえず一言だけ言いたいんだけどさ――

 

 

「――京都土産にしてはいいもんゲットしたわ」

 

 

 多分きっと、もう使わないだろうけども。




新しいヒロインとして魔帝剣グラムが加わりました。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

57話

『京都でそんな事が起きていたのね……朱乃から送られてきた写真に妖怪が写っているとは聞いていたけれど……もうっ、イッセーったら隠さないで教えてくれればよかったのに』

 

 

 目の前に映し出されているホログラム状の先輩は腕を組み、豊満なおっぱいを見せつけながらぷんぷん怒っている。いやぁ……デカいな。制服を着ているとはいえマジでデカいわ。その隣に映し出されている生徒会長の方を見れないぐらいマジでデカいな。

 

 

「その件に関しては俺からお前に伝えないように言っておいたんだ。下手に京都で事件が起きていると聞かされたらリアス、何がなんでもこっちに来ようとするだろ? そうなるとそっちの守りが手薄になるからな。いかに酒呑童子と覚妖怪が残っているとはいえ素直にお前たち二人の言う事を聞くとは思えん。なんせ王自身が自由すぎるしな……王が王なら眷属も眷属だよ。あいつらはキマリスだからこそ眷属にできたようなもんだ」

 

『確かに私とリアスでは四季音花恋さんには力で負け、平家早織さんには心を読まれて嫌悪されるでしょう。私も心が読める相手と知って普通に接することは難しいですし……こんな事をキマリス君の前で言うのは失礼ですけどね』

 

「別に良いですよ? 大半の連中は自分の本音を知られたくないでしょうし。でもあれはあれで便利ですよ? 何も言わなくても分かってくれるし今回だって傍にいないから加減がなぁ……あっ、即効でバレるでしょうけど今の発言は内緒でお願いします。知られるとマジで面倒なんで」

 

 

 俺の言葉にホログラム状の二人は苦笑の表情をした。だって恥ずかしいだろ……傍にお前(平家)がいないと加減できないとか指揮系統に問題あるとか! なんだかんだであいつのおかげでかなり楽してたんだなぁと今回の修学旅行でハッキリしたわ! やっぱり覚妖怪って最高だな!! 何も言わなくても心を勝手に読んで分かってくれるとかコミュ障の俺にとっては最高の種族だわ……絶対に言わないけど。絶対にバレるけど言わない!

 

 ちなみに東京にいる先輩と生徒会長と連絡を取っているのかというともうすぐ行われる予定である八坂姫救出作戦を伝えるためだ。英雄派を率いている曹操ちゃんとの一戦から数時間は経過してるがセラフォルー様経由の情報で禍の団と思われる集団が京都に集まってきているらしい……ついでに言うと誘拐された八坂姫も裏京都に戻ってはいないためまだ潜伏して何かをしようとしているとアザゼル、セラフォルー様の二人が情報を元に予想した。そこで京都の神々から龍脈の一本を借り受けた俺が霊操を使って調査した結果――八坂姫に尋常じゃないほどの霊力やら何やらが集まっていたので何かをされる前に助け出そうと襲撃を仕掛けることになった。

 

 そのため、流石に東京にいる二人に内緒で話を進めるわけにもいかないので何が起きているのかを説明してるというわけだ……今回の襲撃で眷属が死んだら大変だもん!

 

 

「覚妖怪に心を読まれても平気なのはお前さんぐらいだよ……たくっ、ただでさえ自由すぎるってのに魔帝剣なんつう厄介なもんまで手に入れやがって。そういや近くに無いがどこにやった? あんなもんその辺に置いておいて良い代物じゃねぇぞ?」

 

「あのチョロイン魔剣か? 流石に近くに置いておくと赤龍帝や匙君のドラゴンに反応して龍殺し(大好き)の呪いを放ってメンドクサイから地双龍の遊び場(キマリス領)に置いてきた。ちゃんと持ち主が分かるように『この魔剣は影龍王の物です。欲しい人は持って行っても良いですが死んでも責任は持ちません』って立札も立ててるから大丈夫だろ」

 

「……アホか!! あんな魔剣を放置しておくお前の思考回路にビックリだ!! 普通はゼノヴィアのように亜空間に格納とかだろ! あぁくそ! おいリアス、ソーナ! こいつが東京に戻ったら説教してやれ! あの魔剣の最大出力を放ちやがって俺達が死にかけたんだ! 俺が許す!」

 

『ちょっとキマリス君、貴方いったい何をしたのよ?』

 

『……魔帝剣、今、魔帝剣と言いましたか?』

 

 

 おっ、流石生徒会長。あのチョロイン魔剣の事は知ってるのね。

 

 

「そうだ。魔剣の中でも最強の名を欲しいままにしている帝王、魔帝剣グラム。ゼノヴィアが持つデュランダルと似た性質を持っているが最大の特徴は龍殺しの呪いを有している事だ。過去、その所有者はグラムが放つ呪いに蝕まれ、廃人になった者が多いが……どういうわけか英雄派の中にいた現所有者から奪いやがってな。しかも最悪な事に俺達が飛ばされた異空間ごと破壊する出力を出してもご覧の通り、ピンピンしてやがる……普通なら死んでるんだがなぁ」

 

「寝取った結果がこれですよ。あとアザゼル、悪いがあれは全力じゃないぞ? 確かにテンション上がって異空間ごと斬ったけどさぁ、あの程度の出力しか出せないわけないだろ? 魔剣の帝王だろ? だったらせめて異空間を貫通して現実世界にまで影響を出すほどの出力が無いとおかしいだろ。やっぱりまだ弱いなぁ俺って! 頑張らないと!」

 

「頑張らなくていい……邪龍を宿してるからかキマリス自身の精神力が高いのか、どっちなんだろうなぁ」

 

 

 多分邪龍だからじゃないか? 俺の精神力なんて普通の混血悪魔程度だし。それはそうと遊び場に置いてきたチョロイン魔剣は大丈夫だろうか? 数時間前に放置しようと地面に突き刺したら吐き気を催すほど気持ち悪い龍殺しの呪いを放ってきやがったしなぁ。まぁ、ムカついたんでちょっと優しく(全力を出させて)したら大人しくなったし多分大丈夫だと思うが……後でもう一回ぐらい様子を見に行ってみるか。だがあれだな……あれって呼べば来そうだな? 平家に言ったらキレられるが俺の感覚的に似てるし! 特にチョロインっぷりがかなり似てる!

 

 

『……影龍王に最強の魔剣、これが味方なんですから恐ろしいですね。敵として間違われてもおかしくないですよ』

 

『そうね。敵じゃなくて本当に良かったわ……キマリス君、色々と言いたい事はあるけれどイッセー達の事をお願いね。私達は東京から向かえないから貴方に頼るしかないわ』

 

『はい。匙達の事をよろしくお願いします』

 

 

 いや、まぁ……唯一の王だから何とかするけど魔王の妹である二人から頭を下げられたらなんか変な感じがする。具体的に言うとこんなのが他の奴らに見られたら陰口言われかねないとかそんな感じで。俺は気にしないが橘とか犬月が怒るんだよなぁ、優しいからなんだろうけど。

 

 とりあえず任されたとでも言っておこうか。あと――おっぱいの差が凄いですね。本当に同い年ですか?

 

 

「えっと、はい。とりあえず敵によって死なせないようにしますよ。俺の手で死んだら……まぁ、諦めてください」

 

「お前さんなら普通にしかねないからやめろ。リアス、ソーナ、そろそろ通信を切るぞ。心配しなくてもお前さん達の眷属が一緒に戦うんだ、死にはしないさ。あいつらを信じて待ってろ」

 

 

 アザゼルの言葉を最後に通信が切れた。さてと……時間的に一般生徒は寝てるだろう。いや、男同士で誰が好き? だれとヤりたい? とか話して起きてるかもしれないが部屋からは出ないように術を使ったからホテルから外に出られる心配もない。流石ヴァルキリーちゃん! 魔法に関しては天才だね!!

 

 そして俺はアザゼルと一緒に教員が寝泊まりする部屋から外に出る。何やらアザゼルのポケットから赤龍帝の波動っぽいものが漏れ出してるけどなんだろうなぁ……あれか? また魔王様特権で何かしたとかか? うわぁ、死ねばいいのに。

 

 

「王様? 話し合いは終わったんすか?」

 

 

 アザゼルと共にホテルのロビーまで向かうと先に待っていたであろう集団が見えた。その中の一人が俺達に気が付いて近づいてきたが……うわお、すっごくやる気だな。流石俺の兵士、もうすぐ殺し合いになるからか遊び感覚は抜けてやがる! おかしいな……さっきまで部屋の片隅で体育座りしながら窓の外を眺めてたはずなんだがどうやって立て直した?

 

 

「おう。なんだ? 随分やる気だな、良い事でもあったか?」

 

「あるわけないでしょ……さっさと終わらせて普通の修学旅行を楽しみたいんすよ! 王様……お願いですから魔帝剣の一撃を放たないでください! あれ、しぬ、そうまとうみえた」

 

「無理」

 

「デスヨネ!! やっぱり頭おかしいってこの人!! せ、せめてタイマンの時だけにしてください! 水無せんせーとかガチで泣いてんすから!! げんちぃとかも俺と一緒でしばらく魂が抜けてたんだから本当にお願いしますぅ!」

 

「悪魔さん、志保、すんごく怖かったのでグラムさんを使うのは控えてほしいな♪」

 

「仕方ないなーしほりんに笑顔で言われちゃったら従うしかないよなー! 安心しろ、ヤバくなったら使うからそんな可愛い笑顔を向けないでくれよマイビショップちゃん! てかちょーこわい、なにこれ、すっげーこわい」

 

「それだけ怖かったという事です。ノワール君……帰ったらお説教です」

 

 

 なんでだよ……なに? 東京に帰ったら先輩方からも説教されて水無瀬からも説教されんのか? た、確かに巻き込みかけたのは事実だけど生きてるんだし良いだろ。むしろ殺さなかった俺を誉めて欲しい!はい! 違いますね俺が間違ってました本当にごめんなさい! だから橘様……破魔の霊力を込めた拳で軽いシャドーボクシングしないでください! アイドルがそんな事をしちゃだめです! 見ろよ!? 犬月なんて両手で顔を隠してるし離れた所にいる赤龍帝達なんて絶句してるんだぞ!! 本当にやめてください何でもしますから!

 

 

「良いぞ良いぞ! もっと言ってやれ! こいつはお前らの声じゃないと耳に入れねぇからな!」

 

「はい! 悪魔さん♪ 東京に帰ったら優しく、優しくお説教してあげますね♪」

 

「わーい、アイドルからの説教とかご褒美じゃねぇか……はぁ、帰ったらあのムキムキハゲは殴る」

 

 

 そんなやり取りをしつつアザゼルの一声で俺達キマリス眷属、赤龍帝達グレモリー眷属二年生組、匙君達シトリー眷属、あと転生天使は一斉にアザゼルを見る。遊ぶ時は遊ぶ、真面目になる時は真面目になる。これが大事なんだよ! 決して橘様が怖いとかそんなんじゃない。

 

 

「よし。キマリスから聞いてるとは思うが今から八坂姫を救出する作戦を開始する。場所は二条城、セラフォルーからの情報では禍の団と思われる連中がこっちに向かってるらしいが大部分は俺やセラフォルーが指揮する悪魔で対応する。お前らは二条城に集まってると思われる英雄派に集中すればいい」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

「気合十分で何よりだ。そんじゃ、それぞれの配置について説明する。これは俺とキマリスが話し合って決めたもんだ、文句があるならそこにいる影龍王に言ってくれ」

 

「良いぞ良いぞ! 反論大歓迎! お前らの好きなようにさせてやるから反対意見を待ってるぞ! ただし死んでも俺のせいにすんなよ? 自己責任で死ね」

 

「という事だ。文句を言ったら死ぬから諦めてくれ。まずオフェンスだがグレモリー眷属とイリナ、そしてキマリス、犬月、匙のメンバーだ。ただしアーシアはオフェンスじゃないから気をつけろ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ! アーシアが居なかったら回復はどうなるんだ!? 黒井と互角に戦える相手がいるってのにアーシア無しじゃ――」

 

「いや、イッセー君。その方が良いかもしれない」

 

「木場!?」

 

 

 おっ、イケメン君とデュランダル使い辺りは気づいたようだな。シスターちゃんの配置に関しては俺とアザゼルの意見が一致した部分だし気づいてもらわないと困るんだよ

 

 

「イッセー、今回の相手、英雄派には任意の場所へ転移させる能力……いや神滅具を持つ奴がいる。恐らく俺達が二条城に向かおうとすれば数時間前のように異空間に飛ばされるだろう。そうなった時、アーシアが孤立させられる恐れがある。だから今回は匙以外のシトリー眷属と残ったキマリス眷属と共にホテル周辺で待機してもらう」

 

「……あっ、そうか……そうだよな、アーシアを人質に取られるかもしれないんだもんな……で、でもそうなるともし大怪我したら――」

 

「死ぬな」

 

 

 俺の言葉がロビーに響く。当然だろ? だって回復役がいないんだし大ダメージを負ったら死ぬのは当たり前だ……そもそもこれはゲームでも遊びでもない実戦、殺し合いだ。というよりも回復役と言う存在自体がイレギュラー過ぎて困るんだよ……戦場でそんな事をしてたら自分が死ぬしな。俺達とのゲームからしばらく経ってはいるがシスターちゃんに守り系の術を覚えさせたりはしてないだろうし……いや覚えさせてるかもしれないがこの子の性格的に傷ついた相手を見たら自分よりも相手を優先しかねない。だからいない方が良いというのが俺の意見だ。

 

 あと、シスターちゃんを傷つけられてまた覇龍暴走とかなったらヤダし。

 

 

「ちなみに怖かったら橘達と一緒にホテルの周辺で待機していていいぞ? 遊びじゃないし。死にたい奴だけ俺と一緒に八坂姫救出作戦すればいいさ、あと、お前らの中で大ダメージを負ったとしても放置するからそのつもりでいろよ。アザゼル、続けてくれ」

 

「おう。キマリスも言ったがこの作戦から降りたい奴は降りても良い。強制じゃねぇしな。今回の作戦のために用意したフェニックスの涙もたった三つしかない。待ち受けるであろう英雄派の実力は未知数、しかも最悪な事に光龍妃も乱入するかもしれねぇ……あれの事だ、飽きたと言いつつキマリスの様子を見にひょこりとやってくるかもしれん……本当に厄介すぎておじさん、泣きたくなってきたぞ」

 

「夜空に関しては仕方ないだろ? 人間なんだし。はい、というわけで――降りる奴、いる?」

 

 

 周りを見渡してもどうやら降りる奴はいないようだ。おいおいこいつら頭大丈夫か? 絶対に死にますよとは言わないが死ぬかもしれないですよと言ってるような作戦に参加とか頭おかしい……うわぁ、降りろよ。俺が好き勝手に楽しめるから是非降りてくれよ!! とか思いながら隣にいる犬月を見るとやる気十分、いつでも死ねますよって感じで笑ってやがった。うん、知ってた! だって俺の兵士だし四季音とかの影響を受けてるだろうしなぁ!

 

 

「――お前らの覚悟、良く分かった! だから俺から言えるのは一つだけだ、死にそうになったら逃げろ。逃げるのは恥なんかじゃねぇ、それを忘れるな。あと、裏京都……と言って良いのか知らんが茨木童子がオフェンスに入る。何かあったらそいつを頼れ」

 

 

 茨木童子という名前が出た途端、匙君の表情が明るくなった。あぁ、そういえば俺と一緒に居たからあいつの強さを知ってるんだったな……これに関しては八坂姫が二条城にいると分かった段階で金髪ロリと京都妖怪に伝えて、茨木童子をこっちに連れて行くと交渉していたから何も問題ない。ただ……金髪ロリが自分も行くと言って五月蠅かったがげんこつして裏京都内から出ないように強く言っておいたから大丈夫だろう。

 

 というわけで作戦開始の時刻になったのでホテルから出ると茨木童子が声も出さず、静かに待っていた。相変わらず何を考えているか分からない奴だ……頼りになるけども。

 

 

「約束の時間。来た。九尾を助けに行く」

 

「おう。分断される恐れがあるから先に言っておくが向かってくる敵は皆殺しな。此処にいるメンツ以外は全て敵だ、遠慮する必要は一切ない! 情けをかけずにぶっ殺せ」

 

「分かった。それは得意。鬼は手加減が苦手」

 

「だろうな。というわけだ、頼りにしてるぜ? 茨木童子」

 

「任せて」

 

 

 俺達キマリス眷属、シスターちゃん抜きのグレモリー眷属、匙君、転生天使、茨木童子のメンバーで二条城を目指す。なんというかこのメンツ……軽く世界に喧嘩売れるぞ? だって影龍王()、赤龍帝、ヴリトラ、聖魔剣、デュランダル、妖魔犬(犬月)、茨木童子、天使、ヴァルキリー。なんでこんなメンバーが一か所に集まってんだ? 謎だな……!

 

 

「そういえば犬月、由良からなんて言われたんだ?」

 

 

 バスを待っていると匙君が犬月に先ほどの事が気になっていたのか聞き始めた。ナイスだ匙君! 俺も気になってたんだ! だってこれから殺し合いに向かう男に女が話しかけたんだぞ? 気にならないわけないでしょ悪魔的に!! まっ、悪魔だからどんなことを話してたなんて耳に入ってるけどね。匙君も顔が笑ってる辺り分かってて聞いてるのだろう……流石邪龍仲間! 気が合うじゃないの!

 

 

「うぇ? い、いやぁ……単に無理するなとかそんな感じだけど、げんちぃ? その王様みたいな変な笑みはなんすか? な、なんもなかったっすよ!?」

 

「そうかそうか! いや良いんだ何でもないから! まぁ、死ぬかもしれないって戦いの前でこんなことは言いたくないけど……ロキとフェンリルとの戦いみたいに血だらけになってまで戦おうとするなよ。友達が血まみれとか本当に嫌だしな」

 

「……うっす。俺も死にたくないしなにより! 何より彼女出来ないまま死ぬとかごめんだからな! ホントね……王様と一緒に暮らしてると何度も彼女欲しいとか思うんだよ……だってこの人! 酒飲みとか引きこもりとか水無せんせーとかしほりん相手に普通に下ネタ言うし! 普通におっぱい触ったりするからさ! 羨ましいんだよぉ……!」

 

「分かる……分かるぞ犬月!! 俺だって、俺だって彼女欲しいさ! 黒井も兵藤も羨ましいんだよぉ!!」

 

「俺もか!? ちょ、ちょっと待て匙! 犬月! 俺だって黒井のように欲望のままに何かをしてるわけじゃないぞ!? ぜ、ゼノヴィア……ロスヴァイセさん? そ、その目は何でしょうか? ちょ、ちょっと待てって!! 俺だって黒井みたいにしたいわー!!!」

 

 

 あのさぁ……その人を犯罪者呼ばわりしないでくれませんかねぇ? 俺だって好きでやってるに決まってるだろ? ただ四季音と平家のおっぱいを揉むなら夜空のおっぱいを揉みたい。水無瀬と橘と一緒に風呂入るなら夜空と一緒に入りたいわ! それになぁ……誘ってくるのは全部あっちだからな? 俺から揉んだりとかあんまりないからね!

 

 常識人ことイケメン君や多分むっつりな転生天使から変な視線を浴びつつバスを待っていると――全身に変な感覚があった。それは数時間前に曹操ちゃんと戦ったフィールドに転移させられた時と同じ感覚……やっぱり転移させてきたか。当然だな、それをやらない理由は無い。

 

 

「……分断されたか」

 

『そのようだぜぇ? この空間は京都を模した偽もんよ、好き勝手に暴れても問題ねぇぞ宿主様!』

 

「知ってる。とりあえず――皆殺しだな」

 

 

 周りを見渡すとどうやら京都の街並みが見える。どの辺かと言われたら分からないが空を飛べば二条城ぐらいは見えるだろう……さて、そんな俺達を囲むように配置されているのは異空間で犬月達が戦っていたモンスターもどきだ。見た目は気持ち悪く、まさに怪物と表現するにはちょうどいい見た目をしている。恐らく悪魔と一般人に言ったら信じるだろうなぁ……だって気持ち悪いし。

 

 俺達を取り囲んでいるモンスターもどきは百以上はいるだろう……普通なら影人形大量生成で皆殺しをしていくところだがちょうど異空間だし数時間前に手に入れたチョロイン魔剣の練習台にでもなってもらおうかな!!

 

 

「――グラム」

 

 

 その名を呼んだ瞬間、異空間にも拘らず目の前に剣が降ってきた。この場を支配するほどの濃厚な呪いを放つ一本の剣――魔帝剣グラム。誰も居ない更地に放置されていたのが気に入らないのか俺を殺すとばかりに呪いを放ってきている。おいおい、あそこってお前が大好きな龍のオーラが大気中に舞ってる最高の保管庫だぞ? なんで怒ってんだこいつ? てか呼んだらマジで来やがったよ……! ここって異空間だよな? なんで来た――あぁ、そうか。そういう事ね、あ、ありがとうって言っておくぞ!

 

 即座に禁手化、鎧を纏って剣を持つと持った腕に呪いが侵食していく。腕の中をムカデか何かが這っているような気持ち悪い感覚……はいはい、ちゃんと使ってやるから喜ぶんじゃねぇよ。

 

 

「相棒、もう一回聞くけどここは本当に異空間なんだな?」

 

『そうだぜぇ! だから遠慮なんざ必要ねぇ!! やっちまえ!!』

 

「了解!」

 

 

 龍のオーラを高めるとそれに呼応するように呪いの濃度が上がる。全身を掻き毟りたくなるほどの気持ち悪い感覚に襲われるがもう慣れた。曹操ちゃん達と戦ったフィールドを壊す出力じゃなく、目の前を更地にする程度で十分だ……もっと鋭く、もっと濃く、もっともっともっと! 目の前のモンスターもどきも俺達の異変に気が付いたのか歪な口を開き、光を放とうとしてくる。しかし残念だったなぁ! その程度の光なんざ俺に向けても怖くねぇんだよ!!

 

 たった一振り、目の前にチョロイン魔剣を振り下ろすとその先にある光景全てが切り刻まれた。百はいたであろう異形はこの魔剣によって切り刻まれ絶命した……真横とか後ろにいた奴らは影を伸ばして拘束、圧縮しながら力を奪って殺害! しっかし使いにくいなこれ? 力を抑えようとすれば反対反対って五月蠅いしさぁ! 俺としても力を抑えるとか死んでもやりたくねぇんだよ! でもなぁ! 橘様が怖いからやるしかねぇんだよ!! アイドルスマイルが怖いんだよ!!

 

 

「いやはや、僕ですら操るのに苦労したグラムをこうもあっさり使いこなされると自信無くすね。これも宿ったドラゴンの差なのかな?」

 

 

 建物、地面、空間すら切り刻んだこの場所に新しい声が響き渡った。白髪頭で複数の剣を腰に付けているこのチョロイン魔剣の元所有者。名前は……なんでしたっけ?

 

 

「はぁ? この程度、やろうと思えば誰だって出来るさ。自分に宿るドラゴンのせいにしてんじゃねぇよ雑魚が。んで? 寝取られたこの魔剣を取返しにでも来たのか?」

 

「そうかもしれないね。たった一言、剣を交えずに取られたんだからそれぐらいは許してほしいね。さて名乗ろうか、僕はジークフリート。その魔剣の所有者だった男だ。影龍王、悪いけど一戦付き合ってもらうよ」

 

 

 片方にはこのチョロイン魔剣のように呪いを放っている剣、もう片方には光の刀身の剣、そして()()に呪いを放つ剣を握りしめて俺に剣先を向けた。三本……なるほど、あの形状からすると龍の手(トゥワイス・クリティカル)か。籠手の形じゃなくて亜種タイプは初めて見たぞ……てかさぁ! 寝取った俺も俺だけど奪い返しに来ないでくれない? メンドクサイからさ!!

 

 

「正気か? お前程度に苦戦する俺じゃねぇぞ?」

 

「だろうね。でも剣士として……戦わずに自慢の剣を奪われた屈辱は忘れられない。付き合ってもらうよ、影龍王」

 

「剣士ってめんどくせぇなおい。はいはい、遊んでやるよ――雑魚」

 

「そうこなくっちゃね――禁手化!!」

 

 

 白髪男の背中に腕が生える。元々生えていた龍の手に加えて新たに三本、自身の腕を合わせて計六本の腕というトンデモない姿になりやがった。うっわ、気持ち悪いな。

 

 新しく生えた腕で腰に帯剣していた剣を引き抜いて握りしめる。また魔剣か……何本持ってんだこいつ?

 

 

「バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング、そして光の剣二本。本当ならグラムが入るんだけどキミに取られちゃったから光の剣で代用する羽目になった。これが僕の禁手――阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)さ」

 

「へー、すごいねーかっこいいねー。で? そんだけ? 曹操ちゃんみたいに不気味な印象とか夜空やヴァーリのように威圧的な印象とか無いの? まっ、雑魚に期待しても無意味だけど……はい、剣を奪った罰として初手はくれてやる。さっさとかかって来いよ」

 

「――なら、遠慮なく!!」

 

 

 背中の腕に埋め込まれた宝玉が輝いて白髪男の力が跳ね上がった。確か龍の手の能力は赤龍帝の籠手の下位互換、一定時間だけ倍加だったな……となると一定時間、八倍になるとかそんな感じか? どうでも良いしさっさと終わらせて曹操ちゃんの所に行こうかねぇ。

 

 魔剣四本と光の剣を握った男が人間とは思えない速度で俺に接近して剣を振るってきた。それを影人形を生み出して真剣白羽取りすると今度は別の腕が振り下ろされたので生み出した影人形の背中から腕を生やして真剣白羽取り……そしてまた別の腕が振り下ろされ――るわけもなく魔剣一本と光の剣を捨てて後方に下がった。その辺の対応は出来てるってわけか……しっかし弱いなぁこいつ! なんでグラムなんて魔剣を持ってたんだ? てかジークフリートって昔の英雄の名前じゃなかったっけ? 魔剣じゃなくて聖剣持てよ!

 

 

「……今の、全力で斬りかかったんだけどな」

 

「そうなの? 遅すぎてあくびが出たんだが? ほい、返すわ」

 

 

 影人形が白羽取りしていた魔剣と光剣を放り投げる。ちなみに今の攻撃だが白羽取りしなくてもよかったです! 普通に影人形のラッシュを叩き込めました!

 

 

「さてと……初手はくれてやったんだ、今度はこっちの番な? 言っておくけど――加減しないからな」

 

 

 遊んでいる理由も無くなったのでさっさと終わらせる事にした。あのまま影人形を数百数千と生み出してタコ殴りをしてもよかったが剣士には剣で対処してあげようじゃないか……ついでに言わせてもらうとこのチョロイン魔剣からも殺らせろとかそんな感じで言ってきてるし。そもそもさぁ! 俺に霊操があるから分かるけど他の奴らは分からないからな? だから俺を認めたんだろうけどさ。

 

 先ほどと同じように龍のオーラを高めると呼応するように呪いが跳ね上がる。さっきの一撃は加減したが今度はちょっと出力上げるぞ? 死にたくなかったら逃げ切って見せな!

 

 

『ゼハハハハハハ!! 二条城まで最短ルート形成と行くかぁ!!』

 

「っ、なんで……なんでその龍殺しの呪いを受けて平気なんだ! 何故だ……何故、なぜだぁぁ!!」

 

 

 逃げきれないと判断したのか魔剣を握りしめて突進してきた。おぉ、意外だ。てっきり逃げるとばっかり思ってたしな――うん、死ね。

 

 高められた呪いを解き放つように振り下ろす。目の前の光景全てに斬撃が走り、地面が抉れ、空間に亀裂が入る。当然突進してきた男も()()に巻き込まれないように全力で魔剣を振るうが無理だよ。お前程度で何とかなるならこの魔剣は最強とは言われない。

 

 

『――ゼハハハハハハハハッ! 消し飛んだぜ! あの程度の斬撃で綺麗さっぱりだ!』

 

 

 相棒の声が響き渡る。うん! 目の前の光景が悲惨になってるね! そういえば赤龍帝達も別の場所に飛ばされてるんだよな……巻き込まれてたらごめんね! グラムを握りしめたまま白髪男がいたであろう場所に向かうと大量の血と肉の破片らしきものが散らばっていた。あぁ、まだ残ってたか……やっぱり加減難しいな。俺的には肉片すら残さない一撃のつもりだったんだけどなぁ……良いか。なんとなく使い方は分かったしタイマン以外なら使ってもいいかもしれねぇ。

 

 そんな事を思っていると衝撃で散らばっていたであろう魔剣四本がいきなり目の前に突き刺さった。えっ? まさかとは思うけど……また? またチョロインか? なんなんだよ魔剣ってのは!! 覚妖怪以上にチョロすぎるぞ!!

 

 

「……相棒」

 

『ほれ、呼んでるぜぇ? 主様ぁってな!! 俺様も嬉しいぜ!! 歴代でも魔剣に惚れられた奴はいねぇからな!! 計五本の魔剣所有者となった影龍王! さいっこうじゃねぇか!!! ゼハハハハハハハハハッ!! ユニアに自慢できるぜ!!』

 

「俺としてはいらないんだがなぁ……仕方ねぇ、後でキマリス領のイベントかなんかの景品にでもするか」

 

 

 影人形に魔剣四本を持たせながら二条城を目指す。とりあえず……平家がこいつらを見たら吐くんじゃねぇかな?




名称 魔帝剣グラム
魔剣の中でも帝王と称されるほどの業物であり、最強の魔剣とも言われている。
全てを切り刻める破壊力と龍を殺せる力を宿している。
本来は英雄派の幹部、ジークフリートが保有していたがノワールが修学旅行で訪れた京都で一戦交えた際にどういうわけか魔帝剣グラムに認められ所有者となった。
ノワールからの呼び名は「チョロイン魔剣」

名称 バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング
伝説の魔剣。
チョロインその2、3、4、5

魔帝剣グラムの一撃のイメージは犬夜叉の鉄砕牙が放つ風の傷、叢雲牙が放つ獄龍破。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

58話

「なぁ犬月……」

 

「どうしたいっちぃ?」

 

「あのさ――さっきからバンバンと轟音を響かせる何かを飛ばしてるのって黒井だよな?」

 

 

 若干だが顔色が悪いいっちぃが俺に聞いてくる。ははははは! 当然じゃないかねいっちぃ! あんな轟音と呪い染みた何かを巻き散らす輩が敵にいるとでも思ってるのかね! あの、王様……ここまで届いてます! 呪い関連の何かが届いてます! というよりもついさっきだけど此処に来る途中で飛んできた波動っぽいのに当たりそうになりました!! 本当に勘弁してくださいよ王様ぁ!! 近くにいるいっちぃとげんちぃなんて顔色が悪くなって今にも吐きそうな感じなんですからせめて鞘に入れて大人しくさせてください!! いくら見当外れの方角に飛ばしてるっていっても限度がありますって!!

 

 そもそも王様? なんで反対方向に向かって行ってるんですか!? こっち! 二条城はこっちですよ!?

 

 

「それ以外に誰がいると思う? この中であんな事するのってうちの王様ぐらいっしょ? あと、大丈夫?」

 

「いや、なんて言うんだろうな……遊園地でコーヒーカップに乗ってさ、おもいっきりグルグルと回して目が回ったような感じなんだよ……あと寒気もする」

 

「お前もか兵藤……俺もだよ、さっきから寒気が止まんなくて風邪引いたんじゃないかって思うぐらい体調がヤバい」

 

『恐らく魔剣が放つ龍殺しの呪いのせいだろう。あれは俺達を目の敵にしているからな。しかしクロムめ……離れていても相棒達に影響を出させるほどの呪いを巻き散らしおって! これだから奴は嫌いなんだ!』

 

『左様。我も奴らとは一括りにされたくはない。あれは(地双龍)邪龍の中でも特に頭がイカレたドラゴンだ。我が分身よ、奴のようにはなるなよ? 奴らは宿主を真っ当な王にはせん、至るのは狂った覇王の座だ』

 

「分かってるさヴリトラ……俺は、黒井のようにはなれない。まず隣に立つのも無理だしな」

 

 

 先ほどから聞こえていた声はいっちぃの籠手からのともう一つ、げんちぃの腕から現れた黒い蛇だ。これがドラゴンの中で龍王って呼ばれている存在――黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)のヴリトラ、王様のドラゴンやいっちぃのドラゴンと比べると格下らしいけど俺からすれば全部一緒だ。あの日々は絶対に忘れないだろう……! 夏休み、ドラゴンが住む領地で特訓したあの日々を! 妖魔犬状態の俺の攻撃すら鼻で笑って押し潰してきたりブレスを吐いてきたり酒飲みがぶっ飛ばしてきたドラゴンに当たって死にかけたり友達になった奴もいたり……俺、なんで生きてるんだろう? 思い返してみたら百回ぐらいは死んでるような気がするぞ……と、兎に角! 二天龍とか地双龍とか龍王とか関係なくドラゴンは強い!

 

 そもそも周りを見渡してみても戦力の異常さが良く分かる。まず鎧状態のいっちぃ、なんか強そう。隣のげんちぃ、蛇を生やしてすっごく不気味。ちょっと離れた所にいるデュランダルことゼノヴィア、なんか聖剣が変わってる。木場っちはあまり変化が無いがもし戦ったら王様と同じくテクニックタイプだから戦い難い。転生天使はとりあえず天界側だからどうでもいい。ロスヴァイセせんせーは……美人! すっげー美人! 鎧の露出凄くないかな? 王様だったらガン見してセクハラしそう。あれ? なんか足りない……って茨木童子ぃ!? どこ行ったあいつ!! 迷子か!? 迷子っすね!! 鬼は自由だから嫌なんだよぉ!!

 

 

『諦めるな、という言葉は言わんぞ我が分身よ。奴の宿主は我から見ても異常だ、そもそもクロムの奴がたった一人の人間……いや悪魔か。どちらでも良いが一人に固執し、力を合わせようとするなどありえん』

 

『そうだな。昔のクロムは口調そのものだった。殺したいから殺す、犯したいから犯す、戦いたいから戦う。見逃してやると言いながら掌を返して殺害など普通にしていたからな。ユニアと共に幾度も村を滅ぼし、他種族を蹂躙した正真正銘の悪。そんなクロムが混血悪魔相手に従っているのはおかしい……奴が生きているならばクロムも少しは大人しくなるのだがな』

 

『うむ。奴は我と同じ邪龍でありながら頭がイカレていなかったからな。我が討伐される前には姿を消してはいたが滅ぼされたと聞いている。奴とて真の英雄の類には勝てなかったのだろう』

 

「……やっぱ、ドライグ達が生きてた時の英雄って強かったんだな?」

 

『元はただの人間だったがな。例として出すならば今代のユニアの宿主か、あれが複数存在していたと考えて良い。それほど過去の人間は強かった。もっとも奴らからすれば近くにいて邪魔だったとか……そんな理由だ。英雄とは本人が死に、長い時を経て言われるようになったにすぎん。当時は英雄では無く悪と呼ばれていたからな』

 

『強い力を持つ者を恐れるのは過去も現在も同じよ。そう考えれば人間というものは変わらない生き物と言えるだろう。ドラゴンである我からは理解できぬがな』

 

 

 王様の宿敵……というか大好きオーラ全開で殺しあってるあの人みたいな人間が複数存在していたとか聞きたくなかった! きっと名のある魔物や妖怪達もそいつらに駆逐されたんだろう……昔の世界、まさに魔境なり!

 

 

「……イッセーくん、どうやら招かれたみたいだよ」

 

 

 木場っちが目の前の門を見ながらいっちぃを呼んだ。ここに到着した時は閉まってたのにどういうわけか今頃開きやがった……罠か。こういう時、王様なら俺達がいる場所から二条城に向かって攻撃しそうだ……絶対する! 魔帝剣なんていう馬鹿なんじゃないかって思える剣を手に入れたから絶対にする!! なんであの呪いを受けて生きてるのか俺は理解できない……ただあれを引きこもりの前で出さない方が良いと思うっすよ? きっと怒るし。いや怒ってセクハラ展開に発展かなぁ? あいつって見た目は美少女だから地味に、地味に羨ましいんだよね……! 胸は壁だけど。やっぱりおっぱいはデカくないとな!!

 

 俺を含めた全員が警戒をしながら門の中へと入る。あの、王様? 早く来てくれませんかね? 傍にいないってだけでものすっごく不安なんです! この不安は何をするか分からないって方ね!

 

 

「ようこそ。無事に禁手使い達を倒してきたか。それぐらいはしてもらわないと困るな」

 

 

 気持ち悪いぐらい神々しい槍を握りしめ、英雄派のトップが姿を現した。それだけじゃない……背後に数人、似たような奴らがいる――アハ! そうかそうかぁ……! テメェもいるのかぁ!!!

 

 

「影龍王以外では初めましてかな? 英雄派を纏めている曹操という。そして隣にいるのがお探しの九尾さ」

 

 

 男の隣にはすっげぇ美人の女性が立っている。胸もデカいし着物も似合っている! 狐耳も最高! 王様曰く最強の属性の人妻――九尾。でも正気じゃなさそうだ? なんていうか目に光が宿ってないしね。

 

 

「……おい! その人を返してもらう! その人がいなくなって悲しんでる子がいるんだ!」

 

「それは困る。今からちょっとした実験をするのでね、あぁ、そうだ。影龍王の乱入を期待しているかもしれないが彼は来ないよ」

 

「……あぁん? うちの王様がこんな面白い事を黙って放置するわけねぇだろ? さっきだって見当違いの方角に……あれ? そういや、いつの間にか静かに……?」

 

 

 今すぐ奴に向かって行きたい衝動を抑えつつ、外の音に集中する。先ほどまで馬鹿なんじゃないかってぐらい轟音がしていたのに今は真逆、シーンとお笑い芸人がスベッた場面のように静かだ……えっと、なんかを殴ってる音は聞こえてるんだけどきっとあれは茨木童子だろうね! あいつに関しては酒飲みと一緒で心配するだけ損だから放置放置っと……ていうかぁ! あの王様が! あの頭がおかしい王様が静かに何かをするなんてあり得ねぇ!? 何をしやがったあいつら!!

 

 

「ジークフリートがその命を懸けて影龍王を捕らえる時間を……ね。まぁ、後から決めたことだけどさ。なんて言えばいいかな? 剣士でもない相手に自慢の剣を奪われて我慢できなくなったから飛び出していったのを利用させてもらった。俺としてもジークフリートほどの剣士を失うのは痛かったがそれ以上にこの実験を邪魔されたくは無いという気持ちもある。なんせ、彼がいると俺が相手をしないといけなくなるし折角の赤龍帝と戦える場だ、ちょっとは黙っててもらわないと困るんだ」

 

「黒井を……捕らえた?」

 

「影龍王を捕らえたか。いや、無理だ。あれはそう簡単に罠に引っかかるような頭をしていない。イッセーなら……うん、言いたくは無いが引っかかっても疑問には思わないが」

 

「ちょっと待てゼノヴィア!? 確かに俺は頭は良くないけどさ! 酷くないか!?」

 

「漫才してる場合じゃねぇって! 黒井抜きで戦うなら……あいつをどうにかしないとダメだろ……!」

 

 

 げんちぃの疑問も当然。王様と殺し合って五体満足、普通に生きてる奴と戦えって言われたら……ビビる。恐らくこの場の誰もがそう思ってるだろうね。だってあの異空間で王様と奴が戦ってるのを見てるからな! 絶対に言わないけど俺は奴とは戦わない。だって俺が殺したい女が奴の後ろにいるしなぁ……!

 

 

「うんとヴリトラか。その疑問だけど安心……安心してと言って良いのか分からないな。とりあえず俺は赤龍帝と戦うつもりだからキミ達の相手は別さ、そこにいる妖魔犬は俺なんて眼中に無いみたいだし早く始めようか。ゲオルグ」

 

「分かっている。捕らえた影龍王、八坂の姫、そして京都の龍脈があれば可能だ。それにこの場には赤龍帝と龍王もいる、あれを呼ぶには十分すぎる」

 

「そうか。それじゃあ、始めてくれ」

 

 

 (曹操)の言葉に後ろにいる魔術師みたいなローブ野郎……声からして男だから野郎で合ってるはずだ。そいつが魔法陣のようなものを展開すると俺達の足元に巨大な紋様が現れた。あれを呼ぶって何を呼ぶ気なんだよ!? というよりも王様ぁ!? なんで黙ってつかまってるのぉ!? このあほーばかー!

 

 

「お、おい!! 何をする気だ!!」

 

「あぁ、呼ぶんだよ。赤龍神帝グレートレッドをね。これだけいるんだ、奴も次元の狭間から呼べるだろう。これのために光龍妃に九尾を連れてきてもらったんでね」

 

『グレートレッドを呼ぶだと? 奴は基本的には次元の狭間を漂うだけで無害な存在だ、仮に呼べたとしても聖槍程度ではあれは倒せん。オーフィスでも居なければな』

 

「知っているさ。とりあえず呼んでみて、そこから龍喰者をぶつける。そこで何が起きるかを確認したらあとは自由だ。そのためだけに事件を起こしたんでね――怒ったかい赤龍帝?」

 

「――あぁ。よく分かんねぇけどくっだらない事で悲しんだ子がいるってのはハッキリした!! 曹操! 望み通り相手をしてやる!! そこ動くんじゃねぇぞ!!!」

 

「ははは! 元よりそのつもりさ。変化しつつある赤龍帝の実力を測っておかないと今後に響くんでね。それにだ、俺達は人間。その欲深さは元人間のキミだって理解してるだろう? あれが欲しい、あれが憎い、あれが羨ましい、そう思うのと一緒だよ。それがあるからこそ人間なんだ。それにこれから怪物の相手をするんだ、これぐらいの非人道的行いは見逃してほしいね」

 

「ざけんな!!」

 

 

 いっちぃが吠えるように叫ぶとデュランダルが行動を起こした。前のゲームでは鞘なんて無かったが今は新しく取り寄せたのかそれを刀身に付けている……がなんとその鞘がゲームに登場する機械剣みたいにスライドして吐き気がするぐらいの光のオーラを放った。それを外へ放出させながら一閃、極大の斬撃が奴らに向かって飛んで行った。

 

 しかし当然とばかりに霧っぽい何かがそれを阻み、斬撃が消滅……あれを消すってやっべ! 王様レベルがまだいるってのか?

 

 

「曹操。こっちは影龍王の拘束に魔法陣制御、色々と忙しい。防げるのなら自分でやってくれないか」

 

「悪いな。ちょっと受けてみたくてさ。さてと……グレートレッドが来るまで時間はある、死合をしようか! 俺は赤龍帝、お前達――」

 

 

 突然息が出来なくなった。呼吸ってなんだと、空気とはどんなものかと、まるで死んだと錯覚するぐらい体が冷えて、震えて、そして動かない。この思考もどうやって出来ているか分からないぐらい怖い……いる、あれがいる、人間が(規格外)

 

 

「ふーん、グレートレッド呼ぶん? そっかぁ! やっぱ面白そうじゃん!!」

 

 

 奴らの背後にある建物の屋根の上にそれは居た。子供のような体格で眩しいマントを羽織った女がペットボトルを片手に持って俺達を見下していた。声は笑っている、子供のように楽しんでいる――でも無表情だ。その視線で射抜かれただけで心臓が止まりそうなぐらい殺気を放って見ている……! 声が出ない、出せるわけがない……立ってるのすら、いや、既に両膝が地面にをついている……!! いっちぃも、げんちぃも、デュランダルも、木場っちも、転生天使も、ロスヴァイセせんせーも、現れた災害(人間)によって声も出せずに膝を地面につけるしかなかった……なんで、なんで! あんなのと普通に話せるんだようちの王様は!!!

 

 

「……光龍妃」

 

「そうだよぉ? 超絶美少女の夜空ちゃんとーじょぉ! グレートレッドが見たくて東京から来ちゃった♪ えへへ~やっぱりさ! 面白い事は見逃せねぇじゃん? でもさ、その前にちょっと聞きたいんだけど――何してくれてんの?」

 

「……何がかな? 俺達は貴方に危害を加えた記憶は無いが?」

 

「へーそーなんだー。ふぅん、あのさぁ~私だってこう見えてもって言うか見た目通りふっつぅの女の子なんだぜ? 暇だなーって思ったらノワールの所に行って遊んだり(殺し合ったり)ご飯奢ってもらったり色々と楽しい事(殺し合い)してんのよ。今日だって家に行っても覚と鬼しかいねぇし、あの覚……ノワールのベッドでオナニーしてやがって殺したくなったけど我慢して遊び場(キマリス領)に行ったら魔剣有ってさ、なんか呼ばれたとか抜かしやがったんで送ってやったんよ? 自分でも偉いなぁって思った矢先にさ――マジで何してんの? おい」

 

 

 どんだけ王様のこと好きなんだよ……ストーカーされてますよ王様? あっ、でもあの人だったら喜びそうっすね……王様も目の前の人間(規格外)が大好きですし。

 

 あとやべぇ……胃の中の物が全部出そうだ……! 見れば奴らの大半、聖槍使いの男以外は座り込んで汗を流しながらあいつを見ている……なにを、したんだよ、おまえらは……!

 

 

「……光龍妃、まさか影龍王を捕らえた事に怒っているのかい?」

 

「別に。罠に引っかかろうがぶっ壊そうが私は関係ねぇし。たださ、ノワールがなんか大人しくなって変だなぁとか思って見に行ったら――偽物の私とイチャイチャしてたんだけど。なにあれ? 何してんの? なに人の偽物作ってノワールの前に登場させてんの? あいつ、偽物だって分かった上で楽しんでるからさぁ……こっちは余計に腹立つんよ。自分で探せるけどあえて聞いてあげる――あれ作った奴はどこにいる?」

 

 

 ――王様ぁぁぁっ!!! 何してんだよこんな時に!! アンタの行いで俺達が滅茶苦茶ピンチなんですけどぉぉぉっ!! イチャイチャするんなら本物としてくださいぃぃぃぃ!!!! ほんとうになにしてるんですかこんなときにぃぃぃ!!! きっと! いや確実に此処にいる全員がおんなじ事を思ってるって!!! あとその程度でガチギレする人間(規格外)ってなんなんだよぉぉっ!!! 嫉妬するならもうくっつけよぉぉ!!

 

 

「……そんな、ことで俺達の前に現れたと?」

 

「うん? そんな事って言った? へぇ~そっかそっか。うんうん! やっぱり乙女の心とか野郎には理解できねぇよね! しゃーないなぁもう! 消えろ」

 

『クフフフフフフ、乙女の思いを踏みにじる愚か者には天罰を』

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 神々しいほどの光力を放つ山吹色の鎧を纏ったそれは空を飛んだ。たった一瞬、瞬きしただけで周囲が明るく照らされた……上空には太陽が現れている。降り注いでいる熱い光が皮膚などを焦がすんじゃないかってぐらい明るくて綺麗だ……でも悪魔の俺達にとっては毒に近いね。あぁ、しぬのか、またしぬのかぁ――

 

 ――と思った矢先、太陽が真っ二つに両断された。聖槍使いじゃない……あんな事が出来るのはこの世でたった一人だけだ。

 

 

「――何回、このチョロイン魔剣を使えばいいんだ? 流石に疲れてきたぞおい……」

 

 

 もう一人の規格外、俺の主しかいない。

 

 

 

 

「……相棒」

 

『なんだぁ?』

 

「何この空気?」

 

『知らねぇなぁ』

 

 

 ちょっと遊んでたら全滅の危機だった件について。

 

 待て待て……色々と整理させろ。白髪男を瞬殺して~チョロイン魔剣が増えて~此処に向かってたらモンスターもどきが襲ってきたからチョロイン魔剣(魔帝剣グラム)で薙ぎ払ってぇ~なんか夜空の偽物が誘ってきたから練習台として脇ペロペロしてぇ~うん! 何も無かったと思うんだけどなぁ? なんで本物の夜空が居てガチギレしてんだ? おうおう嫉妬か? 嫉妬かい夜空ちゃん? 良いぞ良いぞ! 自分にはやらないのに偽物にはやってるのを見て嫉妬したんだったら俺的には大成功だ! なんせグラムを放り投げてきた時点で夜空が近くにいるのは分かってたしな!! だから偽物()が出てきた時点でぶっ殺すのをやめて遊んで正解だったぜ!! 今日はぐっすりと寝られそうだ。

 

 

「ちょ!? あっぶねぇじゃん!! なに魔剣ぶっぱしてんのさ!!」

 

「こっちのセリフだ馬鹿野郎。悪魔が大量にいるこのフィールドで太陽なんざ作りやがって……周りを殺す気か? せめて犬月と曹操ちゃんと匙君だけ生かしてくれるんなら良いがこのフィールドごと吹っ飛ばそうとしてただろ?」

 

「とーぜん!! だって曹操が乙女の心情をそんな事とか言ったしさ! 吹き飛ばすのは当たり前っしょ!! んで? この美少女夜空ちゃんの偽物相手に変態行為してたノワールは何しに来たのさ?」

 

「お前に会いに来たに決まってんだろ? 流石の俺も偽物相手に童貞捨てれるかっての……脇ペロペロすら吐き気がしたわ」

 

「じゃあやんなし」

 

「だってお前の姿で脇見せてきてさ! 舐めて良いよとか言ったしさぁ! やるしかねぇだろ悪魔的にぃ!!」

 

 

 決して! 決して騙されたとかそんなんじゃない。ただ夜空が普段言わない事だったんで変なテンションに入っただけだ! 幻術で良かったわ! これが別の女のをペロペロしてたら京都滅ぼしてたし。

 

 

「――キモ」

 

 

 態々鎧を解いてゴミでも見るような視線を向けてきやがったよ……興奮するじゃねぇか。ドSの夜空とか俺的にはご褒美ですのでドンドンお願いします!

 

 

「男なんだから仕方ねぇだろ……ほい、あのくっだらねぇ幻術作った神器使いだ。俺の方でも半殺しにしてるけど――せめて何か言えよ」

 

 

 影人形が引きずってきた(ゴミ)を手に持って夜空に見せた瞬間、俺の腕ごと消滅した。確かにさ! グラムを持たせて呪いを与えてから両手両足の骨を折って髪の毛を一本一本引き抜いた上でチョロイン魔剣四本で頭部を突っついたりとかしてたよ? 精神崩壊してたとはいえ何か言おうぜ? 感想ぐらい言おうよ!

 

 吹き飛んだ腕を再生させるが掴んでいた男は蒸発したらしい。流石の光力だ! 惚れ惚れする!

 

 

「うーんすっきりしたぁ? でもなんかムカムカする!! すっげぇムカムカするぅ!!」

 

「そんなにムカムカすんなら相手してやるぞ? ちょうどチョロイン魔剣っつう物を手に入れたんだ、こいつの凄さを確かめたいだろ?」

 

「――にひひ! さっすがノワールぅ! 話がわっかるぅ! そんじゃさ! いつもの様に――」

 

『大変申し訳ないですがノワール・キマリス。夜空はこれからデートなのです』

 

「ちょ!? いきなり何言ってんのさユニア!?」

 

 

 ……ほ、ほ、ほぉ! で、デートと来たか……! 別に気にしないけど誰とするんでしょうね? いや! 気にしてないよ? 気にしてない! 全然気にしてない!! おい、デートってなんだよ? 銀髪イケメンか? またあいつか? よしそうだな!! まっ、嘘だろうけども。

 

 というよりなんでコソコソと話してんだ? いや嘘って気づいてるけど気になるんだよ男の子だから!

 

 

「……ほんとに? ノワールだよ? あのバカに効く?」

 

『問題無いですよ。彼ならば必ず気にして夜空しか見ません。幾度も男を食べてきた私を信用してください』

 

「……今回だけね。そんなわけでさぁノワール! ちょっとヴァーリと遊んでくっから殺し合いはまたあとね~? 良いよね別に? だって偽物相手にデレデレしてたんだしそっちで発散しなよ。そんじゃ帰るってその前にぃ! 曹操? 良い事教えてやんよ」

 

「……何だろうな、ここまでやられたらもう何を聞かされても驚くことは出来ないんだがね」

 

「飛び出してったっていう剣士もどきだけどさぁ~あれ、ノワールが持ってる魔剣が呼んだっぽいよ? 自分の汚点を消したいとかそんな感じで。勘違い野郎(ジークフリート)は何にも理解してなかったようだけどさ、魔剣だよ? 中毒症状ぐらい簡単に起こせるんだよねぇ。はい! 終わり!! そんじゃねーノワール! 次はちゃんと殺し合おうねぇ?」

 

 

 そのまま夜空はニヤリ顔をして消えていった。恐らく相棒曰くビッチらしいユニアが夜空に何かを吹き込んだんだろう……きっと仕返しとかそんな感じで。ククク、あははははは! この俺様にそんな小手先というか嘘が通用するとでも思ってんのか? 普通に通用するんでもうしません、許してください。

 

 

「――今度からは光龍妃の偽物を作らないようにしようか。影龍王ならば面白がって引っかかってくれると考えて作らせたが裏目に出たな。彼女の愛は深いな」

 

 

 すっげぇ面白かったです。

 

 

「あれって愛と呼べるの? お姉さん、同じ女として彼に同情しちゃうわ。嫉妬深くて独占欲が強いなんて何も出来なさそうじゃない」

 

 

 曹操の背後から一人の女が前に出てきた。金髪で外国人っぽい奴だが夜空の殺気で膝をついていたところを見ると雑魚なんだろう。あと可哀想とか言ってるけどさ? 俺的には嫉妬深くて独占欲強い夜空とか最高にテンション上がるんで有りなんですがダメですか?

 

 

「さぁね。影龍王ならば喜んで受け入れそうだけどな。なにせグラムすら受け入れ、ジークフリートが保有していた魔剣四本にも認められているぐらいだ。あの豹変ぶりはグラムによるものだったとは想定外だ。意思のある魔剣は厄介だ、だからこそ魔剣と呼ばれているんだろうが俺達人間からすれば弄ばれているようで嫌だね」

 

「悪いな、あの雑魚が持ってた魔剣全部寝取っちまった。返してほしいなら返すぞ? ぶっちゃけるとこの四本いらねぇし」

 

「返してほしいが使い手がいないんでね。そのままキミに渡しておくとしよう。その方が俺としても楽しみが出来て非常に嬉しい。影龍王、グラム、魔剣四本、うん良いね。人間が相手をする存在としては最高だと思う。しかし魔法陣の出力が上がらないのは何故だ……ゲオルグ、どうなっている」

 

「……やられたよ。九尾に集まっている龍脈が乱れている、外でグラムを使用していたことが原因だろうな。偶然か、それとも狙ってやったのであれば恐ろしいとしか言えない。曹操、グレートレッドは呼べそうにない」

 

 

 当たり前だろ? だからこのチョロイン魔剣で手あたり次第には波動やら呪いを放ってたんだし。異空間とはいえ九尾の力を上げるためか龍脈までこっちに来てたのは分かってたからその流れを一時的に乱させてもらったよ……最初はいらないと思ったが雑魚散らしにはもってこいで如何しようとか思ってるのは内緒な!

 

 

「そうか。元々あの存在が興味を示すかどうかすら怪しかったし特に気にする必要もないか。まぁ、なんだ。光龍妃の登場で色々と予定が狂ったがここで一戦してから撤退しようじゃないか。何もしないで逃げるってのも変な感じだもんな」

 

「やれやれ……付き合わされる俺達の身にもなってくれ。レオナルドは茨木童子の足止めで忙しいからこっちにはアンチモンスターは寄こせない。全く……何故鬼までこの空間に呼ばないとダメだったんだ?」

 

「いずれ鬼とも戦う事になるんだ。少しでもデータは欲しいだろう?」

 

「ハーハッハッハ! ちげぇねぇ! 鬼と殴り合ってみたかったがモンスターに夢中なら仕方ねぇ! そんじゃよぉ! 誰が誰を相手をする?」

 

「影龍王には悪いが今回は赤龍帝と戦わせてもらいたいね。流石に連続して戦い難い相手はご免さ」

 

「そりゃ残念。だったら九尾とやらせてもらおうか、あの金髪ロリに助けるって言っちまったし……で? 赤龍帝はどうする? あいつ、強いぞ?」

 

 

 夜空の殺気が消えたからか立ち上がって曹操ちゃん達を見ている赤龍帝に聞いてみる。なんかさ、グラムの呪いのせいで体調悪そうだけどごめんね? まぁ、そんな事は置いておいて普通に考えればパワータイプの赤龍帝とテクニックタイプの曹操が戦えば負けるだろう。なんせ攻撃を逸らされて聖槍の一撃を喰らえば即アウトだし。あんなもんをまともに受けたら即成仏だっての……厄介だよなぁ。

 

 

「――分かってる。でも、戦うさ! 黒井は言ったよな……? 正義の味方でもヒーローでも無いってさ。でもな、夏休みに小猫ちゃんに言われたんだよ……優しい赤龍帝になってくれってさ。そして今も九重って子が悲しんでるんだ……一発ぶん殴んないと気が済まない! 黒井、俺はおっぱいドラゴンだ。冥界の子供達が俺をヒーローって言ってくれるんなら俺はヒーローになる! それに子供を笑顔にできない奴がハーレム王になれるわけがない!!」

 

「……そうかい。自分で決めたんだったらやればいい。ドラゴンってのは誰かに命令されるよりも自分勝手にやった方が良いしな。まぁ、あいつはかなり強いから死ぬなよ」

 

「……お、おう!」

 

「イッセーくん! アーシアさんから受け取ったカードがあるからいつでも昇格できるわ!」

 

「頼んだぞイリナ! 悪いけどちょっと離れた所で見ててくれ!」

 

 

 そっか、先輩が居ないから代理の奴が居ないと昇格できないのか。てか天使にそれ(カード)持たせて大丈夫か? い、いや二人が良いなら良いけども。

 

 

「俺と赤龍帝、九尾と影龍王か。ゲオルグ、偶には戦えよ? 運動しないととっさの時に動かなくなるからな」

 

「魔法使いなんて引きこもりの集団だ。活発な奴の方が珍しい、しかし戦うのならば戦乙女には興味がある。北欧の魔法をこの目で拝見できるチャンスだ」

 

「それじゃあ私は剣士二人かしら? デュランダルと聖魔剣、お姉さん頑張っちゃう!」

 

「だったら俺はヴリトラだ! 邪龍の炎なんて吹き飛ばしてやるぜ!!」

 

 

 魔法使いっぽい奴がヴァルキリーちゃん、金髪女がイケメン君とデュランダル、人間かと思うぐらい巨体な男は匙君をご指名か……巨体男、死んだな。邪龍の炎が人間程度に吹き飛ばされたらドラゴンじゃねぇっての。さてさて……残った犬月はおめでとう! よかったな! 再戦できるチャンスだぞ?

 

 

「残ったキミは彼で良いんだよな?」

 

「肯定。犬月瞬は私の獲物です」

 

「上等! こっちこそテメェを譲る気はねぇってなぁ!!」

 

「お熱い事で何よりだ。それじゃあ――始めよう! 俺達が死ぬか、逃げれるか、またはこのフィールドが壊れるか……うん、どれでも良いね。さてさて、赤龍帝の実力はどれほどのものか堪能しようか!」

 

 

 それぞれの相手が決まったらしいので殺し合いが始まるようだ。しっかし曹操ちゃん……ノリノリである。俺の騎士にならない? 今ならなんとヴァーリや夜空とかと戦えるよ? まっ、良いか。とりあえず九尾を死なせないように戦わないとなぁ……めんどくせぇ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

59話

「さてと……どうすっかなぁ」

 

 

 禍の団、派閥の一つである英雄派とこの異空間で殺し合う事になり、周りではドラゴン対聖槍(赤龍帝と曹操ちゃん)魔法対魔法(魔法使いとヴァルキリーちゃん)邪炎対ミサイル(匙君と巨体男)聖剣対聖剣&聖魔剣(金髪女とデュランダル&イケメン君)西洋人形もどきとパシリ(アリス・ラーナと犬月)が戦いを繰り広げている。こんな狭い場所でこの人数が暴れたら酷い事になると全員が理解していたか開始早々、俺と赤龍帝、曹操ちゃんと九尾を残してどこかに行ってしまいました! でもすげぇわ……匙君なんて黒いドラゴンになってるから普通に様子が見えるし、デュランダルの出力が普通に馬鹿げてるなぁとか良く分かるし、魔法対魔法がヤバいとか普通に思える。そして転生天使ちゃんの応援が可愛い。

 

 ちなみに赤龍帝だが……テクニックタイプ極振りの曹操ちゃんに遊ばれてる。怒りというかやる気一つで俺と戦った時以上の実力を出しているのは素直に褒めたいというかすっげぇとか思ってる。でもそれだけじゃ目の前のそれには勝てないよ? だって俺なら兎も角、お前は一発受けたらアウトなんだし相手は禁手化すらしてないんだしね。

 

 あと茨木童子は知らん。鬼は自由気ままに何かしたい生き物だしもう放っておくわ……マジで今も向かってきてるモンスターもどきを皆殺ししてるだろう! うーん面白い!!

 

 

『どうするも何も殺し合うんだろう? 殺ればいいだろう! 九尾と殺し合える機会なんざ宿主様の立場じゃ滅多に出来ねぇんだしよぉ!!』

 

「そりゃそうだが金髪ロリに助けてくるって言っちまったんだよ……これで殺しちゃいましたごめんなさいは無理だろ? かといって手加減するのも嫌だ。だって折角の九尾との戦いだしな! 全力出して勝ちたいだろ?」

 

『当然よぉ! だが宿主様の弱点が目の前にいる。昔の出来事のせいで親子愛によえぇのはどうにかした方が良いぜぇ? 利用されてめんどくせぇことになる。良いか宿主様? 俺様は宿主様に従おう、助言もしよう、力も合わせよう。だがなぁ――負けは許さねぇ。くっだらねぇ感情で敗北なんざしやがったらタダじゃ置かねぇぞ?』

 

「分かってる。勝って勝って勝ち続けて、そして夜空を手に入れる。だからこんなところで負けられない……なぁ、相棒?」

 

『なんだぁ?』

 

「――()()()()()()良いよな?」

 

『――ゼハハハハハハハハハッ!! 当然よぉ! 生きていれば良いさぁ!!』

 

 

 あぁ、そうだ。確かに俺は金髪ロリに助けるって言ったさ。それは間違いない……だから目の前にいる着物を着た巨乳狐耳尻尾モフりたい人妻美女をなんとしてでも助けないとダメなんだ。だってキマリス家次期当主として、影龍王として金髪ロリの前で宣言しちゃったんだしな。もし殺したとかになったら俺の名が……こっちはどうでも良いや。相棒の名に傷がつくから何が何でも生きていないとダメだ――

 

 ――そう、生きていれば。

 

 

 

「さてと……九尾、いや金髪ロリの母親さん? 悪いんだが周りが盛り上がりすぎて疎外感あるからさ、早く始めようぜ? それとも慰み者扱いでもされて心が壊れたか?」

 

 

 一歩、八坂姫に近づくと全身に妖力を纏いだした。魔法陣から龍脈の力とかを八坂姫に流してパワーアップとか考えたんだろうが残念な事に此処に来るまでにチョロイン魔剣でその辺を適当に抉ったり切り刻んだりとかしたから思う様に集まってはいないだろう。流石魔剣の帝王、チョロインとはいえ仕事はちゃんとしてくれる。だからさぁ……さらに集まってきたチョロイン四本、テメェらも仕事しろよ? なんで下位互換なんだよ? 魔剣なんだから頑張れや!

 

 

「あっ、もしかしてこの魔剣達が怖くて本気出せない? ごめんねーだったら遠くに投げるから本気出してくれないかー?」

 

 

 我ながら最高の演技をしたと思う。これならばいつでも特撮とかに出ても問題ないだろう……何故だ、どこからか無理無理とか言われた気がする。具体的には東京のとある場所で引きこもってる覚妖怪辺りから。

 

 そんな事を思いながら手に持っている魔帝剣グラムと魔剣四本を影人形に持たせて遠くに放り投げた。その辺に置いておくと赤龍帝とか匙君に被害が出かねないんでイケメン君やデュランダルがいる方角に飛ばしました! 距離的に言えばどのくらいだろうか……分からんが此処からダッシュで取りに行っても三十分ぐらいはかかるんじゃないかって距離だと思う。きっと、多分。なんか怒ってるような呪いの波動を感じるが知らん。知らないったら知らない。

 

 

「……グラムをあんなに雑に扱うとはね。ジークフリートが生きていたなら絶句していると思うよ? おっと良い一撃だ、でも当たらないよ赤龍帝。もっと鋭く、速く、そして力を込めなければよわっちぃ人間は殺せないぞ」

 

「くっそ! やっぱり黒井と戦ってただけあって強い……! でも俺だってあれから強くなったんだ! ドライグ!!」

 

『応! だが相棒! 聖槍には当たるな! 悪魔の身ならば余裕で死ぬぞ』

 

「分かってる!!」

 

 

 体内の駒を騎士にでも変更したのだろう。ゆらりゆらりと舞い落ちる枯れ葉のように動き続ける曹操ちゃんを捕らえるべく動き出すが槍の動き、しかも刃に当てないように手加減された動作で流されている。滅茶苦茶舐めプされてる件について……マジでデータ目的の戦闘かよ、うっわ戦いたくねぇ。

 

 

「良いなぁ~あんだけ他は楽しそうに殺し合ってるのにこっちは変化すらしない九尾とお見合い状態、夜空が帰ったタイミングで帰ればよかったかねぇ? でも金髪ロリっつうか九重に助けるって言っちまったしなぁ……はぁ、仕方ねぇ。九尾、借り受けていた龍脈一本返すぜ」

 

 

 妖力を全身に纏ったまま沈黙を保っている九尾に京都の神々と金髪ロリから借り受けた龍脈一本を返還する。やり方なんてすっごく簡単! ただ権利を放棄するだけ……たったそれだけで契約者が九尾に置き換わる。これは京都の気を安定化させる役割を持つ九尾という存在が神々から認められているからだろうな……さてここで問題だ、俺が保有していた()()の力が相手に渡ったという事は次に訪れるのは何でしょう?

 

 

「――」

 

 

 答えは簡単だ。雄たけびを上げてその身を変化させた。金色の体毛、九つの尻尾が目立つ巨大な化け物――九尾。それが俺の目の前に現れた……くくく、あははははは! いいねいいねぇ!! 妖力なんて酒呑童子並み! しかも巨大! 相手にとって不足は無い! 別にさっきの状態のまま倒せばよかったのにとか言われそうだが洗脳っぽいのをされてる……と勝手に思ってるが多分当たってるだろう。どっちでも良いがそのせいで自我が、心が壊れたままになる恐れがある。そのままでも良いんじゃねぇかなとは思うけどさ! 約束しちゃった以上は()()元に戻して返したいじゃん!!

 

 

「――ゼハハハハハハ! そうだよそうこなくっちゃ!! 周りが殺し合ってんのに俺だけ難易度チョロ甘とか最悪なんだよ! 俺はヒーローでも正義の味方でもないんでな! 俺は邪龍! 好き勝手に生きて、好き勝手に暴れて、好き勝手に死んでいく自己満足の塊の混血悪魔だ!! 来いよ九尾! 長年男に相手されてねぇだろうから若い俺が思う存分相手してやるよ!」

 

 

 殺意を帯びた瞳が俺を捕らえ、口から極大の炎を吐き出してくる。ここで俺が回避をすれば比較的近い場所で戦っている赤龍帝が巻き込まれる……俺としてはどうでも良いけどあいつの覚悟を見た以上は邪魔をしないのがドラゴンの礼儀だろう。だから俺が取れる手段は一つだけだ。

 

 影人形を数十から数百を生み出して俺を焼き殺そうとしてくる炎――九尾のブレスに向かってラッシュタイムを放つ。勿論普通のラッシュだけじゃなく『捕食』の能力を発動して威「力」を根こそぎ奪い取って俺の力に変換する……いかに九尾と言えどもタダの狐だ、長時間も火炎を吐き続けていられるわけがない。北欧の防御魔術、相棒の影で強化された俺の影人形達は九尾の火炎相手でも燃え尽きるような事にはならず、熱さも痛みも感じないとばかりにラッシュを放ち続ける。

 

 

「どうした? そんなもんかよ! 九尾だろ? 京都妖怪共の長だろ? たかが十数年しか生きてない混血悪魔が生み出した霊体程度で防がれてんじゃねぇよ!!」

 

 

 影の翼を背に生やし、九尾に向かって飛翔する。今の姿が獣だからか俺が近づこうとしたことにいち早く反応して背後へ飛び、再び大きく息を吸って火炎を吐いてくる。躱すのは簡単だがそれをしてしまうとまた距離を取られかねない……巨体の割には俊敏な事で面白いじゃねぇの! さてさてどうすっかなぁ……うん、やるか!

 

 迫りくる火炎に対し、俺は即座に数百の影人形を数体まで減らして周囲に配置、ついでに()()()も忘れない。そのまま火炎に突撃して全身が燃えないように影人形達を操って全方位にラッシュタイムを放つ。

 

 

『ゼハハハハハハハハッ! これが九尾の火炎かぁ!! 熱くてちょうど良い温度じゃねぇの!!』

 

「そうだなぁ相棒!! このまま全裸にでもなって温泉気分にでもなるかぁ!?」

 

『悪くねぇなぁ!! だったらもっと熱くなってもらわねぇと湯冷めしちまうぜ!!』

 

 

 そんな冗談もどきを言いながら全身に龍のオーラを纏い、影人形のラッシュタイムで火炎を払いながら進んでいく。熱い……マジで熱い! さすが九尾だ!! 触れたら確実に灰になるレベルの熱量でビビった! でも残念ながらその程度の火炎で俺が、俺達が燃やされるわけねぇんだよなぁ! 周りの影人形達は感情を持たない眼で一心不乱に拳を放ち続けている……悪いな、光やら火炎やら色んなものをお前らの拳で殴らせてる。怒っても良い、泣いても良い、だけど弱音は吐くな……俺が使役してるんだ! それを誇りに思って働きな!!

 

 火炎を払う拳の速度が速くなる。なんだよ? まだまだ余裕とか言いたそうじゃねぇか? それならもっと働いてもらうぜ!

 

 

「――九尾ぃぃっ!! その程度で焼き尽くそうなんて考えが甘いんだよぉ!!」

 

 

 長い炎の道を突破すると理性を失った瞳が俺を射抜く。それに笑いながら影人形の一体にある物を持たせて目の前目掛けて全力で投擲。

 

 投げられた()()は高速で九尾の眉間に激突――ゼハハハァ!!

 

 

「――よぉ、九尾ぃ!!」

 

 

 俺の目の前には金色の体毛をした獣の顔がある。先ほどまで離れていたはずの獣の顔がまるでテレポートしたかのように間近に見えている……俺には曹操ちゃんの様に大量に能力なんて無い。あるのは影を生み出す能力と力を奪う能力――そして再生能力だ。だからやった事なんて滅茶苦茶簡単だ、自分の体の一部を切り落として投擲、それを媒体に再生しただけだ! 火炎の海に飛び込んだのもこれをやるために過ぎない……獣の本能を相手に馬鹿正直に接近してたんじゃ移動されまくってメンドクサイ事になる。なんせ体の大きさがかなり違うからな! 俺が移動する速度と九尾が移動する速度を比べたら対格差で追いつくのは難しい……だからこの方法をとった! 周りが火炎なら自分の手首を切り落とすのは見られないし、理性を失ってる相手ならそれ(手首)を投げても何を投げたと疑問に思うまでに時間はかかる……ゼハハハハハハ!! どうした? いきなり現れてビックリしたか? でも残念!! これが俺なんだよぉ!

 

 再生と同時に眉間に拳を叩き込んで地面に叩きつける。このままだと対格差で逃げられる……だったらどうする? 答えは簡単だ!

 

 

「シャドールゥゥゥッ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 尋常じゃないほどの音声が鎧から鳴り響き、影が生まれていく。額を殴られた九尾は顔を上げて殺意の瞳を俺に向けて立ち上がろうとしたので()を掴む。その腕は現在の九尾と同じほどの大きさで俺の腕ではない……なら誰だと言われたら俺は声高々に言おう! ()()だとな!!

 

 その腕は黒、無数の棘が生えて不気味と印象付けるものだ。逃げようとする九尾が暴れ始め、巨大な金色の腕を俺に向けてきたので片方は影で防ぎ、もう片方は別の黒の腕で地面に押さえつける。不気味な腕の持ち主は九尾の眼前まで鋭利な牙を見せつけて威圧する……俺が今、立っている場所は九尾の腹でも何でもない。別の生き物の頭部だ。黒の鱗、不気味な棘が全身に生えたそれはドラゴンに酷似……いやそれそのものだ。九尾と同じ体格のドラゴンが逃げようとしている九尾の首と片腕を掴んで押し倒す態勢で吠える。うーん……人妻を押し倒すとか非常にエロいですねぇ。

 

 

影龍人形(シャドール・ドラゴン)とでも名付けようか? 敵が巨大ならこっちもデカい奴を用意すればいいだけだ! 変幻自在の俺の影人形(シャドール)を舐めんじゃねぇ!!」

 

 

 影龍人形の頭部で腕を組み、高らかに叫ぶ。気分はゲームのラスボスだ! 空いた片腕で振り払おうとしてきたので首を掴むのをやめて九尾の腕を掴み、そのまま地面に叩きつける。首の拘束が無くなったからか火炎を放とうとしてきたので今度は首に噛みついて阻止……うーん、見た目が狐で本当に良かったわ! これが人間体だったらマジで犯罪だしね!

 

 

「――匙君匙君! そっちの調子はどうだ?」

 

『……は、はぁぁ!? なんだそれ!? なんでドラゴンがいるんだよ!? 調子どころかミサイルっぽいのが飛んできて怖いわ!!! てか何それ!? マジで何それ!?』

 

『あの姿はクロム!? い、いや違う……偽物か! しかし生前のクロムの姿を再現したものだと! 何処までも異常なんだ貴様は!!』

 

「褒めんな。常日頃から神器に潜ってその姿を見てるしな、完全再現は難しいがこの程度なら問題ねぇんだわ。まっ、そっちも頑張れ頑張れ……相棒、九尾だがどう思う?」

 

『恐らくは洗脳を施した術者に色々と体制を付加されてるんだろうなぁ。九尾レベルを洗脳する実力、魔法耐性、龍脈からのバックアップやらで大抵の奴なら死ぬほどめんどくせぇだろうなぁ!! だが俺様達なら別だ!! いかに神滅具で生み出した結界だろうと俺様の力はそれをぶち壊す!!』

 

「だよなぁ!!」

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!』

 

 

 全身から音声を鳴り響かせる。九尾の体に影龍人形から伸びた影が這う……腕に、尻尾に、胴体に、首に、ありとあらゆる場所に影が伸びて締め上げて力を奪う。確かアザゼルが異空間に転移させたのは神滅具――絶霧(ディメンション・ロスト)って奴の能力、しかも結界系神器の頂点だそうだ。霧を生み出して防御やら異空間やら転移やらをやってのけるとんでもない神滅具……その霧が九尾の体に纏わりついてるから物理以外は効き難い。でもさぁ……だからなんだ? たかが霧に影が、相棒が劣ると誰が決めた!!

 

 

「おいこら! 一体何時まで操り人形で居る気だ!? そもそもなぁ……! 自分のガキを悲しませといて何とも思ってねぇのか!! 母親ならガキのために洗脳程度打ち破って見せろ!!」

 

 

 影龍人形の頭部から飛び出して九尾の顔面をぶん殴る。母親なら……ガキの前で無様な姿を晒すんじゃねぇ! 少なくとも俺の……大事な母親は悪魔の攻撃から俺を守ったんだ。片足を無くしても、血だらけになっても俺を守ろうとしたんだぞ……テメェもそれぐらい気合入れてみろ! 何が九尾だ! 何が八坂姫だ! ガキ一人泣かせてる奴が偉そうにしてんじゃねぇよ!!!

 

 

「――く、のぉ、う」

 

「……安心しろ。テメェのガキは強い。俺に挑んだんだ、誇って良いぞ……だから、帰ったら抱きしめてやれ」

 

 

 安心したのか、それとも俺の拳のダメージがデカすぎたのか分からないが理性が戻った瞳で俺を見た後、静かに目を閉じて気絶した。たくっ、本当だったら全身の骨を砕いて動けない状態にしてから洗脳をぶっ壊す予定だったんだがなぁ……俺も甘いね、本当に。

 

 狐の姿に変化していた八坂姫は元の美女の姿へと戻る。着物とか乱れておっぱいとか見えてますが何もしていません。押し倒しましたが何もしていません! この場だけ見られたら勘違いされかねないが本当に何もしていません! とりあえず生きているかどうか確認するためにおっぱいを揉むと反応があったから生きてるようだ……やっべ、柔らかいなおい。この弾力は橘と良い勝負だぞ……これが人妻! 最高だね!

 

 

「……んぁ?」

 

『ゼハハハハハハ、呼んでるぜ宿主様を! 無数の魂が! 手伝ってくれってよぉ!!』

 

 

 なにやら赤龍帝と曹操ちゃんが戦っている方角から俺を呼ぶ声が聞こえる。誰と言われたら幽霊っぽい奴らとしか言えないが力を貸してくれと呼んでいる……また何かしやがったな? 今度は何だろうねぇ? 面白そうだから手伝ってやるけど。

 

 霊操を使用した後、気絶している八坂姫を背負って赤龍帝の所まで歩く。畜生……! 鎧を纏っているからおっぱいの感触が全然無い! 人妻おっぱいとか味わえるのはここしかないだろう……! 鎧を解くか? 解くしかないよな? 解くべきだろ! 仕方ないねー勝利したのは俺だもんねー! ってしまったぁ! 鎧の下って全裸じゃん! やべぇ、無理無理。やめとこう。

 

 

「――なにこれ」

 

 

 人妻おっぱいを味わえない悲しさを味わいつつ、赤龍帝と曹操ちゃんの所まで戻るとなんと! 東京にいるはずのグレモリー先輩が全裸で赤龍帝におっぱいを突かれていた。えーとちょっと待って……理解が追い付かない。此処って異空間だよな? なんで居るの? なんで全裸なのっていうかありがとうございます! じゃないや……えーと、何がどうなってんの? とりあえず本当の赤龍帝(ドライグ)が号泣しているのは良く分かった! やーいおっぱいドラゴーン!

 

 グレモリー先輩のおっぱいを突いた赤龍帝(兵藤一誠)は尋常じゃないパワーを放出して姿を変えた。まず目に引くのは背中に現れたキャノンだろう……あはははははは! 何しやがったあいつ!! あんなの見た事ねぇぞ!!

 

 

『ゼハハハハハハハハ! ありゃドライグの力の一端じゃねぇか!! なんだありゃ! あんなの過去の赤龍帝でもやった事ねぇぞ!! 面白れぇ! 面白れぇぞぉ!!』

 

「あぁ。でもあの方角は拙いな……仕方ねぇなぁもう!!」

 

 

 赤龍帝が砲撃を放つ前に影の檻(シャドー・ラビリンス)を展開。流石にヤバそうだしあの方角には犬月やらイケメン君達がいるしな。そして赤龍帝の背に現れたキャノンから砲撃が放たれたが……威力がヤバい。この檻が揺れるなんてよっぽどだぞ?

 

 

「これって……黒井!?」

 

「おう。あのまま撃たせたら味方殺しになりかねなかったんでな。こっちは終わったから早く続けろよ」

 

「……そっか、あんがとな! 行くぜぇ! 曹操!!」

 

 

 影の檻が崩壊していく中、赤龍帝は曹操に向かって駆け出した。あんな姿で突撃しても躱されるだろうと思ったが……その想像は簡単に覆された。纏っていた鎧がパージし、最低限の装甲しか纏っていない姿に変化し、あの曹操ちゃんに突進を食らわせた。あぁ~ダメだ! 面白すぎて笑いが止まらねぇ!! 確かにアザゼルの言う通りだわ!! 意外性なら俺達の中でトップクラスかもしれねぇ! てか匙君と同じぐらい意外性あるわ!! あははははは!! ばーかばーか! 余裕ぶっこいて突進喰らった感想はどうよ曹操ちゃん? あの速度ならかなり痛いだろ? 慢心してっからそうなるんだよバーカ!

 

 

「……突進とは、やってくれるじゃないか」

 

「イテテ……これが木場達が見てた世界か……慣れないと拙いな……! って距離取らないともっとヤバイ!!」

 

「良い反応だ、あのまま近くに居たら聖槍でブスリとね。でもなんだろうなぁ……悪魔の駒の昇格にしては特徴が現れすぎている。先ほどの行為によって変化したか? うーん、赤龍帝のデータ取りをしようと思ったら新しい力が出てきて困った困った……流石に初見で相手をし続けるのは人間の身には堪えそうだ」

 

「よく言うぜ……禁手化もしてないくせによ!」

 

「そりゃそうだ。これは普通のお遊びだ、本当の殺し合いならば聖槍で刺された時点でキミは死んでいたよ。消滅しないように加減したからこそ今キミはここにいる。理由なんて簡単さ――キミは強くなる。今よりももっとね。いやぁ~今代の二天龍と地双龍は化け物ばかりでどうしようか! でもそれが楽しい。ただの人間がどこまでやれるかを確かめるチャンスだからね」

 

 

 立ち上がりながら曹操ちゃんは楽しそうな笑みを浮かべている。やっぱりお前……こっち側だわ。だって俺も同じことを思ってるしな! 赤龍帝はもっと強くなる……楽しみだなぁ! 本当に!!

 

 

「……時間か。ゲオルグめ、戦いたくないからさっさと逃げようって感じか。仕方ない、勝負は預けよう。赤龍帝、次は本当の殺し合いをしようか? そして影龍王!」

 

「ん?」

 

「――今度は負けないからな」

 

 

 それを言い残して曹操ちゃんは霧に包まれて消えていった。それと同時にこの異空間も崩れていき……目の前には本物の光景が映し出された。あれだけ暴れたにも拘らず破損が一切ないから間違いないだろう。

 

 

「……戻った、のか?」

 

「だな。お疲れさん、どうだった? 曹操ちゃん、強かっただろ?」

 

「……あぁ、強かった。一回刺されてさ……死にかけた。あいつの言う通りその時に死んでたんだなって思うとゾッとする」

 

「あの感覚はなぁ。意識がどこかに行きそうになったり誰かが呼んだりしてウザいもんな。まっ、良い経験になっただろ? テクニックタイプを相手にしたらメンドクサイってさ。そんじゃ、俺は犬月と茨木童子を回収してくるから()()は自分の仲間とかの様子を見に行ってやれよ。特にそこにいる転生天使ちゃん、なんか色々と凄くなってるしな」

 

「……お、おう! う、うん? いま、名前……?」

 

 

 ()()の疑問の声を無視してまずは犬月が戦っていた方角へと向かう。近づくにつれて血の匂いが酷いが死んでないよな……?

 

 とか思っていると離れた場所からこちらに歩いてくる人影が見えた。白髪の髪、片腕を無くした男だ……もっとも無事な腕の方に切り落とされたであろう腕を持ってはいるがな。しっかし今回は軽傷で済んで良かったなと言えばいいか?

 

 

「……王様?」

 

「おう。そっちは片腕を無くした程度か、あいつは?」

 

「逃げましたよ……まぁ、アリス・ラーナの片腕はもぎ取ったんでお相子ですけどね。本気のあいつ、強かったっすわ……王様達ほどじゃねぇっすけどね。あと……スイマセンがフェニックスの涙をくれませんか? 俺が持ってたの使っちまったんすよ」

 

「俺がそんなもんを持ってるとでも思うか?」

 

「無いっすね……王様は再生できますし。しゃーなし! 木場っちからもら、いってぇ……あのぉ~おうさまぁ? 俺も背負っててくれません?」

 

「ヤダ。でもそうだな、代わりに影人形で運んでやる」

 

「あざっす! もう、血を流しすぎてフラフラ状態なんすよぉ」

 

 

 そんなわけで影人形で犬月を背負い、今度は茨木童子が暴れていた場所を目指す――つもりだったがあっちから俺達の方に来てくれたので向かう必要はなくなった。流石鬼! 空気が読める!

 

 

「見つけた。向かってきたモンスターは全滅させた」

 

「知ってる。お疲れさん、戦闘はこれで終わりだ……だから、うーん。とりあえずホテルまで戻る。ついて来い」

 

「分かった」

 

 

 着ていた服とか結構ボロボロだが恥じらう姿もせず俺達の後を付いてくる。鬼ってやっぱり露出狂の気があるよな? だって今の茨木童子の姿って胸とか殆ど丸見えだしスカートもボロボロ、まるで強姦された後の女の子のような感じだぞ? なのに顔色一つ変えないのはすげぇわ……あっ! 犬月は疲れたのか気絶してるんで俺しか見てない。うーん役得?

 

 でも流石に他の奴らに見られたら面倒なので魔法陣を展開してコートを転移、それを茨木童子に手渡して着ろと命令すると素直に着てくれた。うーん、ほぼ全裸コートとか新しすぎて興奮してきた。あと鎧をそろそろ解きたい……! 人妻おっぱいを感じたい!

 

 

「……相棒」

 

『なんだぁ?』

 

「九尾、生きてるよな?」

 

『あぁ、生きてるさ。寝息立てやがってガチ寝状態だ』

 

「そっか。なら良いや」

 

 

 金髪ロリ、今回だけだ。お前の勇気に免じてヒーローやら正義の味方になってやったぞ? あとは思う存分、この馬鹿親を叱ってやれよ。

 

 あっ、そういえば魔剣回収してねぇ……どうしよう。




多分次辺りでこの章も終わりです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60話

 ――憎い。

 

 ――憎い。

 

 ――全てが憎い。

 

 

 業火に焼かれている。腕が、足が、耳が、目が、口が、舌が、体が、ありとあらゆるものが燃やされている。何にと聞かれたらどう答えればいいのだろう。この世から外れた者達の、憎しみを抱いて命を落とした者達の、恨みを、憎しみを、怒りを、嫉妬を、破壊を、世界を呪った者達が放つ怨念の業火に焼かれている。熱いとは感じない、痛いとは感じない、ただ()()()()()()()

 

 感じるのものは憎悪。ありとあらゆる呪いが全身を蝕んでいく。俺という存在を塗り替え、自分自身こそが本物だと底から這い上がってくる。生きたい、愛されたい、愛したい、女が欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい、お前の体が欲しいと声が広がる。老若男女の声が魂に響くように反響していく。

 

 

 ――憎い。

 

 ――憎い。

 

 ――ヨコセ、お前の体を。

 

 

 醜い声が、凛々しい声が、あらゆる声が誘惑してくると共に業火が強くなる。俺という存在を燃やして乗っ取ろうという邪悪な意思が炎をさらに大きくする。腕が、足が、目が、耳が、体が支配されるように燃やされていく。そんなに欲しいと叫ぶお前らに俺はこの言葉を送ろう――

 

 

『――良いぜ、代わりにお前らの魂を寄こしやがれ』

 

 

 身を焦がす業火は俺という存在に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「……ゆめ、かぁ」

 

 

 目覚めが悪い……最悪、あぁかなり最悪な夢だ。疲れ切ったこの時を狙ってきたのか俺を呪い殺そうとして来やがった……たくっ、流石歴代影龍王達だ。やることがエグイというか卑怯というか油断も隙もありはしねぇ。別に呪ってくるのは良いんだが勝ち目がない事をそろそろ学べよ……歴代の何人が俺に染まったと思ってんだ? 邪悪さならテメェらよりも高いんだっての。というよりも夢ならば夜空とエッチしてる夢を望むぞ! 今度からはそっち方面の夢を演出しろ! 夜空に首を絞められるとか刺されるとかならもっと喜ぶから!

 

 時計の時刻を見ると起床時間よりやや早い。別に二度寝しても良いんだが絶対に遅刻するな、だって眠いし。

 

 

「……しゃーねぇ、外の空気を吸ってくるか」

 

 

 起き上がってまるで俺達が毛布だと言わんばかりに掛け布団の上に横置きされている魔剣五本を退かす。ガチャガチャと音を立ててベッドから落ちていくが犬月も匙君も起きる気配がない……よほど疲れてるんだな。この音で起きないとか逆に凄いんぞ? てかなんで此処にあるんだ……? 確か昨日、九尾との戦闘前に遠くに放り投げてそのまま放置してたはずなんだけどなぁ……まさか自力でここまで戻ってきたとかか? うっわ、ストーカーかよこのチョロイン共……流石魔剣だ。というよりもグラムが近くにあるからか爆睡中の匙君が魘されてるよ! なんて厄介な! このまま捨てたいぐらいだ!!

 

 床に雑に落とされたチョロイン共(魔剣五本)は痛いぞと叫ぶように呪いの濃さを上げてきた。そもそも鞘に入ってない剣が体の上に乗るんじゃねぇよ……寝てる最中に刺さったらどうすんだ? てかさぁ! あの夢も絶対にお前らのせいだろ? 染まりきってない歴代共が騒ぎ出してめんどくさかったんだからな!

 

 

「……なんでいんだよ?」

 

 

 予備の制服に着替えてホテルのロビーまで下りる。普通に考えればこの時間に起きている奴なんて出勤時間が早いサラリーマンか俺達のような修学旅行生ぐらいだろう。だから金髪の中学生ぐらいの女がホテルのロビーにいるはずがない。

 

 

「ついて来いといった。だから此処にいる」

 

「……あぁ、そういえば此処に着いた後は橘達に連れてかれてたなぁ……まぁいい、此処じゃなんだし外で話すぞ」

 

「分かった」

 

 

 サイズが合ってないTシャツとスカート、そして俺が貸したコートという姿で一晩中ホテルのロビーにいたとなると事情を知らない方々からしたら何事だって思われたかもなぁ……まさかマジで帰れって言わないからずっと居るとか馬鹿じゃねぇの? マジで四季音に会わせたらその辺を教育してもらわねぇとな。あと橘の服だろうけどサイズが合ってませんねぇ……その、一部分だけですけども。

 

 ホテルから少し離れた場所で金髪女――茨木童子と向かい合う。近くにあった自販機で炭酸飲料を買って放り投げると素直にキャッチして俺を見てくる……まさか飲めと言われるまで飲まないとか言わないよな?

 

 

「鬼とはいえコーラぐらいは飲めるだろ? 手ぶらで話すのもなんだしやるよ」

 

「感謝する」

 

 

 フタを開けて飲み始めるのを見た俺は密かに安心した。よかったぁ! その辺は自分で考えてくれるのね! でもなんでそれ以外は考えねぇんだよ……マジでなんなんだよこいつ? 俺以上に訳が分からん。

 

 

「あー、えっと、今回は助かったと言えばいいか? お前が派手に暴れてくれたおかげで面倒な雑魚共を相手にしなくても済んだしな」

 

「構わない。あの時、傍にいた者以外は敵。皆殺しと命令されたから全力で殺してただけ。お礼を言われる意味が分からない」

 

「……そうかよ。でもなぁ、出会い頭に殺し合った相手の命令を忠実に聞く奴はお前ぐらいだぞ? そもそも四季音なんて自分の欲優先で戦ってた雑魚を俺に当てようとしてきたしな。そんで? お前はこれからどうする? このまま京都にいるのか?」

 

「伊吹に会う。そのために此処に来た。待っててと言われたのに里を出たことを謝りたい。伊吹が居ないと寂しい。伊吹がいたから私は生きている。だから伊吹に会う。絶対に会う。伊吹に会いに行く」

 

「……どんだけ伊吹、じゃねぇ四季音に依存してんだよ? お前、自分で考えるって事は出来ねぇのかよ……?」

 

「苦手。私は人間でいう馬鹿だから出来ない。でも言われた事は出来る。考える事が苦手なだけ。ずっと、ずっと、ずっとこうして生きてきた。周りから馬鹿にされても気にしない。それは事実。他の鬼には笑われたこともある。でも気にしない。これが私だから」

 

 

 そりゃそうだろ……天下の茨木童子が命令されないと動けないとか他の鬼からしたらふざけんなって言いたくなるだろう。でもそのおかげでなんとなくだがこいつの事が分かってきた――ずっと一人だったんだろう。考えても考えても分からなくて、何をすればいいのか自分でも分からなくて、暴れて良いのか静かに待っていればいいのか誰でも分かるようなことでもこいつは分からないで生きてきたんだろうな。少なくとも四季音が現れるまでずっと一人ぼっちだったはずだ……確かにそんな生活を続けて自分に命令をしてくれる存在が出来たら依存するわな。まぁ、あいつ(四季音)も酒呑童子と茨木童子の関係だからとか関係なしに面白いとか言って傍に置くだろう……だって俺もそうするし。きっと四季音はこう思ってるんじゃねぇかなぁ――茨木童子が自分で考えて行動するのが見てみたいってな。

 

 そんな事を考えていると金髪女は飲み終えたのか片手で缶を潰す。鬼の握力スゲェなおい……知ってたけど。それを近くのゴミ箱に捨てる――わけもなく真下に落として俺を見てきた。

 

 

「貴方に聞きたい。伊吹は楽しそうに生きている。それとも違う。どっちか聞きたい」

 

「んぁ? あー、楽しいかって言われたら楽しんでんじゃねぇの? 今も冥界で大工仕事してるし俺とも殺し合ってるし……ここ最近は禍の団絡みで戦闘する事が多いからかなり嬉しそうだぞ」

 

「良かった。伊吹は酒を抜いている時は鬼じゃない。昔は人間界の本を読んで顔を赤くしてた。私は良く分からない。接吻だけなのに伊吹は赤くしてた。でも楽しそうだった。伊吹が楽しいなら私も楽しい。ありがとう。伊吹を楽しませてくれてありがとう」

 

 

 んーと茨木童子ちゃん? 礼なんて良いからちょっとその本を読んで顔を赤くしてたって話をもっと詳しく聞かせてくれない?

 

 笑いを堪えながら茨木童子から伊吹(四季音)関連の話を聞き出したが……やっぱりあいつは少女趣味だわ。今時少女漫画で顔真っ赤にする奴がどこにいるんだよ……? あの平家でさえエロが足りないとか言いながら淡々と読んでるってのにお前は……! 帰ったら遊んでやろっと!

 

 

「お願いがある」

 

「はいはいなんですかー? 今の俺様は面白い事を聞けてテンション上がってるんだ、何でも言ってくれ」

 

「――私と殺し合って」

 

「――へぇ。理由を聞いても良いか?」

 

「伊吹に勝った。それは分かる。貴方は強い。鬼よりも強い、私は負けた。でも本気じゃなかった……悔しい。負けるなら本気の貴方に負けたい。だから戦ってほしい。伊吹が負けた分を取り返したい」

 

 

 鬼だからこその感覚って奴か……良いねぇ! そうこなくっちゃ面白くねぇ!! 正直俺も全力を出して鬼と戦ってみたかったんだ! 向こうも同じことを考えていたなんてやっぱり面白れぇわ!! ゼハハハハハハ! これは――決まりだわ!

 

 

「良いぜ? 遊んでやるよ茨木童子、俺もあの程度で満足するような悪魔じゃないんでなぁ……全力のテメェを迎え撃って殺してやるよ」

 

「望むところ。私は茨、鬼の茨。考えなくても分かる……貴方と戦いたい。伊吹を倒した貴方と戦いたい。初めて。こんな風に思ったのは初めて。全力で貴方を殺す」

 

 

 一触即発の空気だが流石に俺達が殺し合えばこの辺りは確実に吹き飛ぶだろう……だから場所を移動する必要がある。どこかって? そんなもん決まってんだろ!!

 

 

「よし、此処なら派手に暴れても問題ねぇぞ。思う存分、全力で来な」

 

「龍の気。鬼の気……伊吹の匂いがする。伊吹はここで何度も戦ってる。伊吹の匂い……伊吹の匂い」

 

 

 魔法陣で茨木童子と共に地双龍の遊び場(キマリス領)に転移するとスンスンと辺りの匂いを嗅いでちょっと喜び始めた……この子、本当に大丈夫? そっち系? レが付くあれ系なの? 何それちょっと四季音を連れてこようぜ!! ロリと中学生のエッチな絡みとか俺様見てみたい!

 

 まぁ、そんな冗談は後で実行するとしてだ……修学旅行最高だな! 最初はめんどくせぇとか思ってたけど曹操ちゃん、九尾、茨木童子という強者と殺し合う事が出来るなんて本当に思わなかった……! 楽しい! 滅茶苦茶楽しい! やっぱり俺ってさ、手を繋いで仲良くしましょうとか無理だわ! そんなものより殺し合いたい! そういう面で言えば俺は悪魔より妖怪側なんだろうなぁ。

 

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 鎧を纏うと茨木童子も本気なのか額に角を生やし、妖力を纏いだした。金髪ロリが襲ってきた時とは比べ物にならないほどの量と濃さだ……流石鬼! 今のままでもその辺にいる上級悪魔なら軽く殺せるな。

 

 

「龍の鎧。禍々しい気が渦巻いている。異常。なぜ平然としていられるか理解できない。でも――伊吹が好きになる理由が分かる。妖怪なら誰でも好きになる気をしてる。楽しい、楽しい、タノシィ!!」

 

『来るぜ宿主様! まさか負けるわけねぇよなぁ?』

 

「んなことあるわけねぇだろ!!」

 

 

 踏み込みだけで地面を抉り、一歩前に出るように俺に接近して殴りかかってきた。放たれた拳を影人形の拳で防ぐと周囲の地面が吹き飛んだ。音すら遅れる拳……やっぱりあの時は加減してたかぁ!! そうこなくっちゃなぁ!!

 

 

「――硬い。柔らかそうな見た目とは思えないぐらい硬い」

 

「そりゃそうだろ? 俺が自慢できる数少ないモノだぜ? 鬼程度の拳を受け止められるに決まってんだろ!!」

 

 

 茨木童子の拳を弾き、そのままラッシュタイムを放つと応戦するように足に力を入れて拳の連打を放ってきた。拳と拳がぶつかるたびに轟音と衝撃が響き渡る……楽しいなぁ! 鬼とのラッシュの速さ比べとか本当に楽しい!! でも残念なのが四季音並みの怪力が無いって事だな……もっともあれは戦車の特性で跳ね上がってるようなもんだけども! てかそれを抜きにしてもかなりの怪力はヤバイけどな!! 突っ立ってるだけの俺が衝撃で地味に後ろに下がっていくとかおかしいだろ……鬼さん素敵!! キャー抱かせてー!

 

 ラッシュを放っていた茨木童子だが影人形と自分の間を殴って砂煙を起こし、距離を取った。見た感じだが消耗とか一切無さそうだな……だよね! 鬼があの程度の攻撃で消耗するわけねぇよな!

 

 

「強い。強い強い強い……! モットモットモットォ!! タノシイィ!!」

 

 

 踏み込みからの一撃を影人形の拳で応戦、周囲に轟音が響き渡った。ここでさらに力を跳ね上げたか……! 良いなぁおい!! 俺好みで本当に良いぞ!!

 

 大きく振りかぶった瞬間を狙い、胴体に拳を叩き込んで背後へと飛ばす。さてさて……あいつは本気の俺との戦いを望んでるわけだ。となれば使うのが礼儀だろうな……! だから体と心に刻んどけ! あの四季音でさえ突破出来ない圧倒的な防御力をな!

 

 

「我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり。我に従いし魂よ、嗤え、叫べ、幾重の感情を我が身へと宿せ。生命の分身たる影よ、霊よ、我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん」

 

 

 背後の影人形が黒い膜となり、俺の体に纏わりつく。それを見た茨木童子は喜んだのか妖力をさらに跳ね上げる……生粋の戦闘馬鹿だなおい!

 

 鬼の破壊力、相棒が生み出す影の防御力、それらが再度ぶつかろうとした瞬間――別の存在がこの場に舞い降りた。和服のようなものを羽織った鬼だ。桜色の髪を揺らしながら片手に酒瓶を持ち、ニヤニヤ顔でこの場に現れた。此処で殺し合ってれば来るかなぁとか思ってたがマジで来るか……しかも嬉しそうだし! 纏う妖力とかマジのマジじゃねぇか! 珍しいなおい……てかやっべぇ、これってどう考えても鬼二体を相手にするパターンだよな!

 

 

「……おいおい、タイマンに乱入してくるとか珍しいじゃねぇか? お前、その辺りは弁えてるだろ?」

 

「――にしし! 仕方ないだろう? イバラが本気で楽しそうなんて滅多に無いんだからさ。このぐらいは許しなよ。イバラ、久しぶりだね。色々と話したい事とかあるけどさ……今は楽しもうじゃないか」

 

「分かった。伊吹、嬉しい。会えた、会えた、やっと会えた。うん。楽しもう。伊吹と戦うのは大好き、嬉しいよ。もっと楽しみたい……もっと、モットォ!!」

 

「そんなわけだよノワール? 悪いけどちょこっと付き合ってちょうだい! 良いだろう? 酒呑童子と茨木童子、この二人を相手に戦えるんだ――イッても良いよぉ?」

 

「はっ! なぁ~にカッコつけてんだ? 少女漫画で赤面する少女趣味全開の鬼さんが言って良いセリフじゃねぇぞ?」

 

「……な、なな!? なんでそれを知って……! い、イバラァ!! もしかしてノワールに言ったね!? 言ったでしょ!! なんで言うのさ! あんなのにそんなこと言ったら面白おかしく言われるんだからもう言わない事! 良いね!!」

 

「教えてって言われたから言った。伊吹の良さを教えてあげたかった。ダメだった。ごめんなさい」

 

「まっ、お前が実は初心だって事はよぉ~く知ってるからそんなに焦ることは――あっぶねぇなおい!!」

 

 

 言葉を言い終える前に真上を取った四季音の一撃が振り下ろされる。茨木童子以上の轟音と衝撃、クレーターを残すほどの破壊力……あれ? なんかさらに強くなってねぇか? 嬉しいけど今はやめてほしい。だって躱した瞬間を狙って茨木童子が拳を放ってきやがったしな! なんで即席でこんなコンビネーション出来るんだよ! マジでおかしいだろ!

 

 

「行くよイバラ! あの馬鹿を全力で叩き潰す! 遠慮なんてしなくていいからおもいっきりやりな!」

 

「分かった。全力で倒す。全力で!」

 

『宿主様よぉ! こりゃ楽しいことになったじゃねぇの!!』

 

「あぁ! 楽しくて楽しくて……もう最高だ!!」

 

 

 そこからは轟音、轟音、轟音の連続だった。二人で無数の影人形を吹き飛ばして向かってきたり、逆に俺の攻撃を茨木童子が防いで四季音がカウンターしたり、二人同時の攻撃で影の膜を突破されて吐血したり色々と楽しい戦いだった……勝ったけど! 酒呑童子と茨木童子のコンビに勝ちましたけど!! でも疲れた……本気で疲れたけど楽しかった!

 

 

「あれ? どこ行ってたんすか? なんか疲れてますけど……もしかしてまた敵っすか!」

 

 

 茨木童子を四季音に預けて京都のホテル、自分の部屋に戻ってくるとのんびり状態の犬月が出迎えた。なんで敵が来た事でテンション上がってるのか分からないがとりあえず違うから落ち着きなさい。

 

 

「いや敵じゃねぇよ。ちょっと早めに起きたから酒呑童子と茨木童子のコンビと戦ってた。いやぁ~疲れたわ……飲み物あるか?」

 

「……えっとあの酒飲みと茨木童子っすよね? 九尾と戦った後だってのによくそんな元気有りましたね。俺の飲みかけで良いならありますけどどうします?」

 

「それで良い。んで? 匙君はなんで部屋の端っこでブルブル震えてんの?」

 

 

 犬月からお茶が入ったペットボトルを受け取りながら視線を別の方へと向ける。制服に着替えた匙君が呪詛のような何かを呟きながらブルブルと震えている……その近くにはチョロイン魔剣が刃を向けた状態で横に置かれている。心なしかグラムがマナーモードの携帯のように震えながら徐々に匙君に近づいて行ってる気がしないでもない。うーん、分からん! なんで震えてんの?

 

 

「く、くく黒井ぃ!! 頼むからその魔剣をしまってくれ!! 龍殺し怖い! なんで鞘に入れてねぇんだよ!!」

 

「だって鞘無いし」

 

「そんなもん作れよぉ!? 朝起きたら目の前に魔剣の刃があって本気でビックリしたんだからな!! 本当にお願いしますなんでもしますんでこの魔剣達をしまってくださいぃ!!」

 

 

 ガチ泣きしてるって事はよほど怖かったんだな……でもまだ軽い方じゃね? 俺なんて歴代の呪いが全身に回るところだったんだしさ。でも仕方ねぇなぁ! 今の俺はテンション上がって気分が良いからしまってあげよう!!

 

 放置されているチョロイン魔剣共を遊び場に転移させる。でも鞘か……普通の奴だと呪いとかが漏れ出すだろうから特注じゃないとダメだよな? でも伝説の魔剣を抑えられるほどの鞘ってあるのか? 後でアザゼル辺りに聞いてみるかねぇ。あっ、そういえば犬月に言わないとダメな事があったな!

 

 

「犬月」

 

「なんすか? そろそろ飯の時間っすから早く行きましょうよ」

 

「マジか。いや伝えたい事があってな……茨木童子だが俺の兵士になったから帰ってたら仲良くしろよ。んじゃ飯食いに行くか」

 

「ういっす……うん? あのーおうさまー? い、今なんて言いました……? 茨木童子を兵士にしたとかって聞こえたんすけど気のせいですよね?」

 

「え? 言ったけど耳大丈夫か?」

 

「……」

 

「犬月……頑張れ! 酒呑童子と茨木童子がセットでいる状況とかかなりヤバいが頑張れ……! お前としほりんと大天使水無瀬先生だけが頼りなんだ!! そもそも会長になんて言えばいいんだよぉ……てかなんで眷属にできるんだよぉ……!」

 

 

 何やら固まっている犬月と匙君を放っておいて部屋から出る。別におかしくはないと思うんだけどなぁ……だって四季音が居るんだぜ? 普通に眷属にするでしょ! でも兵士の駒六個で転生できるとは思わなかった……四季音が駒二個消費だったから無理かもとか普通に思ってたしな! そういえば王が成長したら駒の消費も変わるとか何とかって魔王様辺りが言ってたような気がする……あれ言ってたっけ? よく覚えてねぇけど兵士が埋まったんだからそれで良いか。しっかしあれだな、鬼二人、犬と悪魔のハーフ、覚妖怪、人間二人……なんだこの妖怪率? 百鬼夜行でもしろってか? それはそれで面白そうだ!

 

 

「あっ、あく……レイ君! 今からご飯ですか?」

 

「おう。橘も飯か? だったら一緒に行こうぜ……さっきまで殺し合ってたから腹減った。あーそうだ、犬月にも言ったが茨木童子を兵士にしたから帰ったら仲良くしろよ」

 

「……えっと、えと悪魔さん? 志保、ちょっと気になっちゃいました♪ ご飯を食べながらゆっくり聞かせてくださいね♪」

 

 

 シトリー眷属がガチで引くぐらい笑顔で腕を組んできた。うーん柔らかい……壁の奴らじゃ絶対に出来ないものだな! しっかしなんで笑顔になって怒ってんだ……? 嫉妬か? 平家みたいに嫉妬か? アイドルの嫉妬とかご褒美なんでいつでも刺してきて良いぞ?

 

 ちなみに水無瀬とすれ違ったので同じことを言うと笑顔を浮かべながら固まった。笑顔って言うよりも引きつった笑みっぽいけどな……そこまでビックリする事か? 酒呑童子が居るんだし茨木童子が眷属になっても良いだろ!

 

 

「……王様ぁ、まじっすかぁ? マジで茨木童子を眷属にしたんすかぁ……しかも兵士とか俺の上位互換じゃないっすかぁ!」

 

「あっちは鬼、お前は犬。だからセーフじゃね?」

 

「そういう問題じゃないんすよぉ! なんか後輩の方が強いとか俺的にちょっとあれなんですよぉ!! 分かりますよね!? 分かるでしょ!? ねっねっ!!」

 

「全然分かんねぇ」

 

 

 朝飯を食い終わった俺、犬月、匙君の三人は京都観光をしている。なんせ初日から金髪ロリに襲われ、次の日には曹操ちゃん達と殺し合いをしてたんだ……今日ぐらいは普通に観光させてほしいもんだよ。もっとも夜には京都妖怪達と会う事になってるけどな。八坂姫の目が覚めて五体満足な上、洗脳も解けているのが確認されたからだそうだ。できれば早朝からにしてほしいんだが折角の修学旅行を邪魔してはダメという金髪ロリの気づかいのせいで夜中に会う事になった。そのせいで……いやそのお陰で茨木童子と戦えたのか、ナイスだ金髪ロリ!!

 

 ちなみに犬月だが自分と同じ兵士に茨木童子が加わったことがかなり衝撃だったらしく先ほどから唸ってる。別に上位互換とか考えてねぇっての……お前の良さは俺が良く分かってるしな。なんせ茨木童子と犬月、どっちを傍に置いて行動を共にしたいかって聞かれたら迷わず犬月を取るしね。だってパシリに出来るもん!

 

 

「でも黒井の眷属も凄いよな……鬼二人ってなんだよ? グレモリー先輩のところも兵藤から始まってデュランダルだのヴァルキリーだのって……ドラゴンってそこまで引き寄せたりするのか? だったらなんで会長には作用してないんだよ! 俺もドラゴンなのにぃ!!」

 

『ゼハハハハハ。そりゃぁ決まってんだろぉ? 俺様と黒蛇ちゃんの格の差って奴よ』

 

『クロム……我は貴様の下になった覚えはないぞ』

 

『知らねぇなぁ! 悔しかったら俺様達に勝ってみろよぉ?』

 

『くぅ……!』

 

「俺的には匙君が殺し合いしようぜって言ってくれるのを待ってんだけどなぁ……あん? 犬月君犬月君! あそこ見てみろよ? 何が見えるぅ?」

 

 

 遠く離れた場所には橘とシトリー眷属二名がいる。それは良いさ、だって同じ班なんだしな。問題は――良く分からん男達が近くにいるって事だ。橘達の様子を見る限りだと仲良くデートとかじゃなさそうだな……ナンパか。そりゃするよね? だってあいつら美少女だし胸デカいし!

 

 

「――しほりん達がナンパされてますね」

 

「ちなみになんて言ってる?」

 

「えーとですねぇ……男の方が『良いじゃん、修学旅行生なら楽しめる場所分かんないでしょ? 俺達が案内してやるって』と言いましてシトリー眷属の花戒さんが『結構です』と断ってますね。まぁ、男共は逃がさないようにしてますけども――殺ります?」

 

「流石に一般人を殺したら面倒だ……まっ、バレない程度に呪い殺すさ。行くぞお前ら」

 

「ういっす」

 

「お、おう! でも穏便に……くそっ!」

 

 

 ある光景を見た匙君が駆け出す。仕方ねぇか――だってナンパ男がシトリー眷属ちゃんの腕を強く掴んだしな。さてさて……周囲に浮遊する悪霊達よ、キマリスの名において命じる。指示を出したら奴に憑依して呪え。

 

 犬月を一緒に匙君を追いかける。結構距離があったとはいえ俺達は悪魔、身体能力なら化け物級だ。数分も掛からずに目的地に到着した。先に到着していた匙君が腕を掴まれている花戒だっけか? その子を話せ的な事を言ってるけどナンパ野郎共は見た感じ不良っぽいから聞く耳持たないって感じだ。馬鹿だなぁ……相手は邪龍だぞ? 勝てるわけねぇだろ。

 

 でもまぁ、匙君に免じて穏便に終わらせようかね。

 

 

「たくっ、突っ走んじゃねぇよ。遅れて悪いな、てかなにこれ? 不審者か?」

 

「レイ君! えっと、あのいきなり話しかけられて……」

 

 

 橘を背後に引き寄せながらナンパ野郎共を見る。うーん、金髪やらピアスやらいかにもだな……どうせ案内するとか言って人気のない所に連れて行って犯そうとか考えてたんだろうね。ヤダヤダ、ヤりたいならそれ専用の場所に行けよ。

 

 犬月も別のシトリー眷属を庇う様に間に入り、匙君に至っては抱き寄せている。キャーカッコイイー!

 

 

「あんだよいきなり現れやがって! その子たち迷惑してんだろーが!」

 

「お前、目が悪いのか? 制服見ろ、同じ学校だっての。俺達の恋人が絡まれてるのを見たらこうするだろ……そこまで頭が回らないのか? つーか修学旅行生にナンパとかしてんじゃねぇよ」

 

「あぁん!? んだと! テメェ……ちょっと顔が良いからって調子乗ってんじゃねぇよな?」

 

 

 数的には言えば俺達と同じぐらいだが橘達を入れた場合だから実質倍。俺達の方が男三人、ナンパ野郎どもは六人だから威圧や喧嘩をすれば勝てるとか思ってんだろう……ばーか、余裕だよ。そもそもそこにいる女達ですら勝てるわ。そんな事は置いておいてだ……胸倉掴まれてるんだけど殺していいかな? でも殺したら殺したで面倒だしなぁ、やっぱり呪う事に決めたわ。

 

 

「ビビってんぜこいつ! 女の前だからってカッコつけやが、って……!!!」

 

 

 俺の胸ぐらを掴んでいる男は経っているのがやっとだと言いたそうに足をガクガク震わせ始めた。普通に殺気を放ってるだけなんだけどビビりすぎじゃない? 本当に優しいよ? だって普段放つレベルからかなり下げてるしな! 夜空が見たら爆笑するぐらい弱い殺気にビビるとか喧嘩慣れしてねぇなこいつ。もっともそんな事は俺には関係ないんで周囲を浮遊する悪霊達に合図を出してナンパ野郎全員に憑依させる。大丈夫大丈夫! ただ普通に体が重くなって数日後には衰弱死するだけだから!

 

 

「ねぇねぇ? ビビってるって言ってる奴が足ガクガクさせてるんだけどさ、どうしたの? トイレか? その年で漏らしたらもう生きていけないぞ?」

 

「が、は、なんだよ、こい、つ……! い、行くぞお前ら!!」

 

 

 自分達の体が異常を放っている事に気が付いたのか、単に怖くなったのかは知らないが離れていった。そして路地裏っぽい所に入った瞬間、軽く眩しい光が広がる……おい、帰ったんじゃねぇのかよ?

 

 犬月達の方を見るがどうやら気が付いてないらしい……まぁ、光が弱かったしな。

 

 

「……行ったか。桃! 大丈夫って悪い!! えっと……怪我とはないか?」

 

「う、うん……ありがとう元ちゃん」

 

「いや間に合ってよかったよははは……黒井も大丈夫か? 胸倉掴まれただろ?」

 

「あの程度で怪我するわけねぇだろ。あれで怪我してるんなら夜空に何回殺されてると思ってんだ? まっ、橘も含めてお前ら美少女だしナンパされるだろうとは思ったがマジでされるとは思わなかったわ。とりあえずあれだ……時間まで一緒に居るか」

 

「そっすね。俺としても皆で京都観光は大賛成だし! そうだしほりん!! 大丈夫っすか!? あの狐が雷放ったりしてないっすよね!?」

 

「だ、大丈夫です! 悪魔さんも犬月さんもありがとうございます♪ 志保、嬉しかったよ!」

 

「――兵士やっててよかったぁ」

 

 

 そんなこんなで夜まで橘達と一緒に京都観光、そして約束の時間になったので裏京都まで足を運ぶとセラフォルー様とアザゼル、八坂姫と金髪ロリが待っていた。予想通り頭を下げられたので感謝する奴が間違ってると言ってやめさせた……何故か知らないが周りから「ツンデレですね分かってますよ」という視線が飛んで来たけどなんでかなぁ? ちなみに京都は三大勢力と同盟を結ぶつもりらしい。まぁ、妥当と言えば妥当だよな。さてさて金髪狐耳和服美女人妻九尾こと八坂姫から「お礼として何かしてあげようかのぉ」とか言われたのでおっぱいを揉ませてくださいと言おうとしたら――橘様がお怒りになったので涙を流しながら母さんの土産としてこの場にいる全員で写真を残したいと言う羽目になった。何故か「影龍王がデレた」とか良く分からん言葉が聞こえたけどスルーだスルー!!

 

 というわけで九尾親子、グレモリー眷属二年生組、シトリー眷属二年生組、キマリス眷属、アザゼル、セラフォルー様という面々で記念写真を撮って母さんの土産も終了だ。これ……カオスだな。狐耳だったり魔王少女だったり堕天使だったり色々と酷いぞ……まぁ、こんなのでも喜んでくれるだろうけどさ。

 

 そんなわけで俺達の忙しい修学旅行は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

『アザゼル、京都では大変だったようだね』

 

「全くだ、いつものように光龍妃の暇つぶしから英雄派との戦闘……イッセーやキマリスが居ると平和ってもんが無いんじゃねぇかって思いたくなるぜ。こっちで得たデータを送る。結構厄介だぜ? 聖槍、絶霧、魔獣創造……上位神滅具がテロリストに渡ってやがるしな」

 

『我々も注意していかないとね……ところでアザゼル、例の件だけどどう思う?』

 

「良いんじゃねぇか? 若手最強格がぶつかり合う、冥界でもまだかってワクワクしてる奴らもいるだろ。ちょうど頭がおかしい方の最強格は魔帝剣なんつうもんを手に入れちまったしな。サーゼクス、俺は賛成だ。イッセー達も本気のぶつかり合いを見て自分達に足りないものを感じ取れるチャンスになるしな」

 

『そうか……こちらとしても非常に楽しみなゲームだよ。でも光龍妃がどう動くか……それだけが心配だ。大観衆の中、突如現れて暴れだしたら大変だからね』

 

「それこそ心配いらねぇだろ。あれ(光龍妃)はキマリスにぞっこんだ。邪魔するわけねぇさ……全く、相思相愛だってのにどちらが上かを決めるまで告らねぇとかアホじゃねぇかって思うけどな。まっ、キマリスの方もサイラオーグとのゲームは喜ぶだろうぜ? あっちからもぜひ戦わせてくれって言われてるんだろ?」

 

『あぁ。キマリスくん、そしてイッセーくんとのゲームを彼は望んでいる。たとえその先に貴族からの支援が消えるかもしれないとしても彼は戦いたいと望んでいるんだ……うん、それじゃあ冥界中に発表しよう。これから忙しくなるね』

 

「だな。バアル対キマリス、片や魔力を持たず、自らの肉体で次期当主の座を得た上級悪魔。片方は周りから蔑まれながらも規格外、天才と同じ位置まで成り上がった混血悪魔。どうなるかは俺も予想できねぇが――どっちも楽しんで戦うのだけは分かるぜ、サーゼクス。あいつらは生粋の戦闘馬鹿だからな」




少し駆け足でしたが「影龍王と京都妖怪」編が終了です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と獅子王
61話


「というわけで俺の新しい兵士、茨木童子改めて四季音祈里(しきねいのり)です……ほい挨拶しろ」

 

「四季音祈里。主様(あるじさま)の兵士になった。伊吹共々よろしく」

 

 

 修学旅行が終わり、数日経った放課後、俺は新しい兵士となった茨木童子――いや四季音祈里を連れてオカルト研究部の部室に訪れていた。この場にいるのはオカルト研究部の顧問らしいアザゼル、部長のグレモリー先輩と一誠達眷属全員、そして生徒会長とシトリー眷属という面々だ。俺と四季音()がソファーに座り、対面の席に先輩と生徒会長、そして顧問席らしき場所にはアザゼル、他の面々は後ろに立ったりしている……ごめんね! 本当は先輩と生徒会長だけでよかったのに呼んじゃってさ!!

 

 ちらりと横に座る四季音妹を見る。服装は白いシャツにグレーのカーディガン、そしてスカートというどこにでも居そうな中学生っぽい感じだ。長い金髪を橘や水無瀬曰くハーフアップというらしい髪型にしているせいか黙っていれば……黙っていれば! 良家のお嬢様とかに見えるかもしれない! しかし残念な事に見た目に反して中身はポンコツだから世の男共は落胆するだろう……なんせ修学旅行から帰ってきたら四季音()と一緒に酒を飲んでたしな。しかも樽で。かなりの重さがあるであろう樽を片手で持って飲んでいる姿を見た俺と犬月は引いた、マジで引いた。ちなみにそこから丸一日、四季音姉と一緒に酒飲んでたが酔っぱらう事もなかったよ!!

 

 

「リアス・グレモリーよ。キマリス君と同じ王、禍の団との戦いで共に戦う事もあるかもしれないわね。よろしくね、四季音祈里さん」

 

「ソーナ・シトリーです。リアスやキマリス君と同じく王です。こちらもよろしくお願いします。それにしても茨木童子……ですよね? キマリス君の戦車をしている四季音花恋さんと同じ苗字ですけれど何か理由が?」

 

「いや、大した理由は無いですよ? 四季音姉……あぁ、えっと、酒呑童子が同じ苗字を名乗りなよとか言ったんで名前変えただけですし」

 

 

 

 ちゃんとした理由を言うなら鬼勢力と三大勢力はまだ同盟を結んではいない。そんな中で分家とはいえ酒呑童子と茨木童子が悪魔になったから色々と面倒が生じる……らしいので四季音から同じ苗字を名乗るように提案したってわけだ。祈里ってのもそのまんまで崇拝というか依存してるから祈ってるのと一緒だよなってことで祈里。我ながら安直だったわぁ……平家にすら鼻で笑われたしね! ちなみに姉は酒呑童子、妹は茨木童子です……見た目的に逆だろと犬月がボソッと言ったら殴られてたんで二人の間ではこれで決定みたいだ。

 

 

「名前を変えることに関しては俺も賛成だ。酒呑童子や茨木童子、言っちまえば鬼の勢力は三大勢力との同盟を渋ってやがるしな。元々鬼は縦社会みたいなもんだ、俺達みたいな悪魔や天使に堕天使と何もしないで仲良くしましょうとかは絶対にない。それなのに人間界でも有名な鬼を二人も眷属に引き入れてんだ……いつ戦争になってもおかしくはねぇ。結構知れ渡ってるとはいえ名前を変えて鬼とは関係ありませんという態度をしてくれた方がありがたい」

 

「鬼は弱者には従わない。戦闘は好き。酒はもっと好き。楽しい事はもっともっと好き。でもタダでは従わない。それが鬼。伊吹と家に帰った。伊吹に従う鬼からは歓迎された。でもそれ以外の鬼からは出て行けと言われた。だから帰ってきた。慕ってた鬼は泣いてた」

 

「要約するとうちの四季音姉妹は鬼勢力から除外されてるっぽい。だから戦争とかには今のところはならないみたいだぞ? もっとも俺的には戦争大歓迎だけどな」

 

「縁起でもねぇこと言うなよ……ただでさえ禍の団絡みで忙しいんだ。敵が増えるのは勘弁してほしいぜ。ところでキマリス、既にサーゼクスから聞いているとは思うが――サイラオーグ・バアルとのゲームが決定した。誰もが注目する一戦だがお前さん的にはどうなんだ?」

 

 

 アザゼルがニヤニヤしながら聞いてきた。どうと言われても楽しみとしか言えないんだけどねぇ……そもそも予想してたしな。俺達キマリス眷属はグレモリー先輩と……えっと、誰だっけなぁ……アスタロト家次期当主くんだったかちゃんだったか忘れたけどそいつと戦って二戦二勝、獅子王も確かグラシャラボラス家次期当主くんだったかちゃんだっかた忘れたけどそいつとアガレス家次期当主ちゃんと戦って二戦二勝……つまり俺達と同率状態だ。そうなったらどっちが上なんだって周りも気になるだろうしこうなるのは必然。

 

 魔王様から聞かされてから犬月達はやる気を出して特訓に励んでいる……もっとも四季音姉妹と平家は普段通りだけどな。

 

 

「どうもなにも戦うなら勝つだけだが? 俺的にも本気を出しても良さそうな相手だしワクワクはしてるよ。どんな一撃が来るんだろうとかかなり楽しみだ」

 

「……言うと思ったぜ。緊張すらしないのは流石だよ」

 

「えぇ……サイラオーグとキマリス君のゲームが終わった後は私達の番だけれど戦う前からプレッシャーよ。イッセーが新しい力に目覚めたとはいえ私の実力がまだまだ未熟、必ず勝つとまではいかないから……応援しているわ。勿論サイラオーグにもだけれどね」

 

「誰もが王同士の対決を望んでいるでしょう。影龍王と若手最強、注目しないはずがありません」

 

「あーそういえばそのせいで記者会見があるんですよ、メンドクサイ事にね……変わってもらえません?」

 

「ダメよ。それも王として大事な仕事なんだからちゃんとしなさい」

 

 

 そんなお母さんみたいなことを言わないでくださいよ先輩。まっ、記者会見だろうが何だろうが好き勝手にやらせてもらうけどね。

 

 

「ところでアザゼル、四季音妹の挨拶はこの辺にして話が変わるんだが……ちょっとだけ、うん、ほんのちょっとだけ相談があるんだよ」

 

「おっ、珍しいじゃないの。良いぞぉ! お前さんの相談なんて凄く怖いがおじさんが聞いてあげよう」

 

「いやさ、犬月から聞いたんだがそこのデュランダルが変わったらしいじゃん? ちょっとその辺りの話を聞きたいんだよ。もしかしたら俺の悩みが解決する糸口になるかもしれねぇし」

 

「……なるほどな。グラムか」

 

 

 さっすが堕天使の頭、デュランダルしか言ってないのに即効で理解するなんてスゲェなおい……大正解だ。

 

 

「まぁな……平家から、いや犬月や橘、水無瀬からもだが苦情が来てな……魔剣が放つ呪いが怖いとか気持ち悪いとかせめて鞘に入れてくださいとかボロクソ言われちゃったから鞘を探してんだよ」

 

「主様。魔剣を鞘に入れずに床に放置したりしている。パシリ。それを踏んで泣いてた。魔剣も怒って呪いを放ってた。主様は笑って踏みつけて雑に扱ってた。理解できない」

 

「同感だ。おいおいお前馬鹿だろ? 魔剣の帝王や伝説の魔剣を子供の玩具みたいにその辺に置いておく神経が理解できねぇ……眷属からの苦情は正論だろうに。魔剣もまさかここまで雑に扱われるとは思ってもみなかっただろうぜ」

 

 

 だって鞘が無いんだし仕方ねぇじゃん。そもそも親父が悪いんだよ……地双龍の遊び場にチョロイン五本を捨ててたら呪いが広がったようで運悪くそれに巻き込まれた近隣の方々から色々と苦情が飛んできたらしい。そんな事が起きたから出来ればちゃんと保管してくれと土下座してきたから仕方なく、本当に仕方なく! 家で保管する羽目になったんだ。でも何度も言うが鞘が無いから床に突き刺すわけにもいかず、適当に部屋の端っこに置いていたら犬月達からも苦情が飛んでくる始末……俺にどうしろと? ちゃんと扱えって言われても鞘がねぇんだよ!

 

 平家からは『構って構ってと五月蠅いし私とキャラが被るからなんとかして』と理不尽な事を言われ、犬月からは『間違って踏んだら俺みたいに大変な事になるので本当に大切に扱ってください!』と足から血を流しつつ土下座され、橘からは『悪魔さん……志保、怖いのは嫌です♪』と破魔の霊力全開で狐も電気バリバリと臨戦態勢で脅され、水無瀬からは『掃除が大変なのでちゃんとしまってください』とお母さんみたいなことを言われた。四季音姉妹? あぁ、いつもの様に寛容だったよ。

 

 そんなこんなで鞘をどうしようと考えた結果――普通の奴だと無理だなという答えに行きついたわけだ。だって俺が近くに居れば否応なしに呪いが発動するんだ……その辺にある鞘程度じゃ意味は無いしなにより! チョロイン共が納得しない。俺と平家しか分からないがこのチョロイン共……前の所有者だった男に文句を言いたかったぐらい自分達にふさわしい鞘でないとダメらしい。なんて我儘な!

 

 

「……匙からも泊まった部屋に放置された魔帝剣グラムに殺されかけたと聞きました。確かに呪いを放つ魔剣が床に置かれていたら色々と困りますね。しかしキマリス君、普通の鞘ではだめなのですか? それかゼノヴィアさんのように異空間にしまうとかすれば解決すると思うのですが?」

 

「あぁ、それなんですけど……見てもらった方が良いか。一誠と匙君には怖い思いさせるが許してね♪ そんじゃカモン! チョロイン!!」

 

 

 魔法陣で俺の部屋の隅っこに追いやっていたチョロイン五本を呼び出す。心なしか「敵か? 敵だな! 龍が居るぞ!」って感じでチョロイン筆頭(魔帝剣グラム)が喜んでいる気がする。ちなみに一誠と匙君は互いに抱き合ってブルブルと震えているけども……掛け算しちゃう? どっちが受けでどっちが攻めかな?

 

 

「これが……伝説の魔剣ですか」

 

「イッセー達が居るせいかしら……気持ち悪い何かを放っているわね。祐斗、ゼノヴィア、これはどうなのかしら?」

 

「そうですね……体感的にですけど怒っているかと思われます。特にイッセーくん達のドラゴンにですけどね。京都でもグラムを使用している場面を見ていましたけど正直……僕でも何故使用できているか分かりません。魔剣には代償が付きまといます、龍殺しの呪いを秘めているグラムをドラゴンである黒井君が使用すれば呪いが体を蝕むはずです」

 

「うん。言ってしまえば魔帝剣グラムはデュランダルと同じ性質だ。酷く暴れ回る馬のような剣なのにあれだけオーラを連続で放てる影龍王には驚いた……生まれ変わったデュランダルと対決しても勝てるかどうかは分からないね」

 

「……とのことだけれど、キマリス君は何ともないのかしら?」

 

「はい。というよりもですね――この程度の呪いを受け入れずに何が影龍王だとカッコつけたいんですけど? なんだかんだで可愛いもんですよ、チョロイですし。全力を出させてやれば喜んで尻尾振り出すぐらいチョロインですし。だから何ともないかと聞かれたら全然問題ないとしか答えられません。そして生徒会長の提案ですけども見ててくださいね? はい、普通の鞘に入れて良いですか?」

 

 

 チョロイン共から呪いの濃さが増す。俺しか分からないが「嫌です」と言ってるみたいだ。

 

 

「知ってた。そんじゃ次だ、異空間に入れて良いか?」

 

 

 またもや呪いの濃さが増した。知ってた! どんだけ我儘なんだよこいつら……折ってやろうか。

 

 

「――というわけでこのチョロイン共、自分に相応しい鞘じゃないとダメらしいんで生徒会長の提案は却下なんですよね」

 

 

 何故だろう……四季音妹以外の全員からうわぁって感じで引かれている気がする。うん、俺もこの我が儘ぷりに引いてる。でも可愛いんだよ? 京都で使用してみて群がる雑魚を皆殺しにするにはもってこいだと気が付いたし! 呪ってくると言っても構って構ってと平家みたいにくっ付きたがるようなもんだしさ……だから何も問題ない。というよりも魔剣相手に嫉妬してる平家に絶句というか引いてるぐらいだ。

 

 

「お前さんが鞘を探している理由は良く分かった……だがこれだけは言わせろ。キマリス、お前さんは長生きできねぇぞ? 魔剣の呪いを受け入れるなんざ寿命を削ってるようなもんだしな」

 

「夜空が居なくなったら死ぬからどうでも良い。てかデュランダルの話を聞きたいんだけどさぁ、何をしたん?」

 

「そうかい……デュランダルだがやったことは簡単だ、六本のエクスカリバーを天界側の技術で鞘にして被せた。元々デュランダルのオーラには他の聖剣に影響を及ぼすことが確認されてたしな、それを利用してエクスカリバーを刀身に鞘として被せ、漏れ出すオーラを封じ込めるとともに高めるって芸当をしたってわけだ。これの面白いところはな! 鞘になったエクスカリバーの力を引き出せるって部分だ、ゼノヴィアの力量次第だがエクスカリバーとデュランダルが同時に襲ってくるようなことが出来るってわけよ」

 

 

 ほうほう……犬月からはデュランダルがなんか変わってましたよ? と曖昧な感じでしか聞いてなかったから結構驚いた。スゲェな天界の技術……しかし鞘を作るか、作る……あぁ、そうすれば良かったのか。そもそもチョロイン筆頭(魔帝剣グラム)にふさわしい鞘なんざ世界中探しても見つかりそうにねぇし最初からそうすれば良かった! ちょうど良いことに()()もあるしな!!

 

 

「その顔、またトンデモナイ事を考えやがったな? 今更驚くことはしねぇからおじさんに言ってみろ」

 

「マジで? だったら言うわ。チョロイン……いやグラムの鞘作りたいから職人を探してほしい。交渉は俺がするから探してくれるだけでいい……流石の俺でもそっち方面の知り合いは居ないんでな、出来ないか?」

 

 

 平家の龍刀はドラゴンが作ったものだけどグラムには龍殺しの呪いがある……流石に受けてくれないだろうし別の職人を探すしかない。

 

 

「だろうと思ったぜ。グラム、バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング、この五本の魔剣は北欧が作ったもんだ……だから頼むとしたらオーディンか。ロキの件があるから断ることもないだろ、俺から話をしといてやるよ」

 

「あーなんだ、悪いが北欧の主神様には直接言いたい。こういうのは自分から言わないとダメだろ? 流石に主神レベルに俺みたいな普通の混血悪魔が謁見するのは難しいから会える日だけを設定してくれれば良い」

 

「……真面目だねぇ。なんでそれが出来て違う事が出来ねぇのか不思議だよ。あい分かった、オーディンに都合が良い日程を聞いておいてやる。だがキマリス……魔剣五本の鞘となると材料が必要だぞ? その辺は当ては有るか?」

 

「いや目の前にあるんだけど?」

 

「……俺の目の前には魔剣しか見えないんだがなぁ、リアス、ソーナ、お前らは?」

 

「同じよ……魔剣が五本あるわ」

 

「……いえ、鞘を作るとキマリス君が言った時から薄々は気づいていましたが、正気ですか……?」

 

「いやいや生徒会長様、俺様、一言も()()()()分の鞘を用意するなんて言ってませんよ? 用意するのはグラムだけですね」

 

 

 近くの魔剣四本から「嘘だろ」とビックリした感じで呪いを向けてきた。いやいや嘘じゃないぞ? お前ら、材料、今度からは魔剣じゃなくてグラムの鞘だ。うん! 良いね!! エクスカリバーが鞘になれるんならお前らだってなれるって!!

 

 

「馬鹿だ馬鹿だと言ってきたがここまでとは思わなかった……伝説の魔剣を鞘の材料にするなんて発想をするのはお前ぐらいだ。一応言っておくがそれらだってグラムには劣るが伝説の魔剣だ、剣士からすれば喉から手が出るほど欲しがる代物だぞ?」

 

「グラムの下位互換だろ? そもそも全部試してみたけどグラム以上の呪いを放てなかったから使う気すらない。それにさ、エクスカリバーが鞘になってデュランダルが強化されたんだろ? だったら対のグラムだってその権利ぐらいあるだろ?」

 

「……研究者から言わせてもらえばそれは危険だぞ。意思のある魔剣を素材に鞘を作ったとしようか、それをグラムに被せた場合――確実に呪いが跳ね上がるだろう。下手をすると作成の際に不安定になり魔剣四本が壊れる可能性もある……もっともそれは気にしちゃいないだろうがな」

 

 

 はい! だってグラムしか使う気は無いしね。それに魔剣五本の所有者になったけど俺は剣の才能無いし一本の剣になってくれた方がありがたい。管理しやすいしね! しかし不安定か……可能性の一つして考えていたがそうなることも有るだろう。どうすっかなぁ……おぉ! 居るじゃん! 安定というかトンデモナイ事をしている実例が!!

 

 

「アザゼル」

 

「はいはい、なんですか? お前の口から何が飛び出すかおっかねぇけど聞いてやるぞ?」

 

「いやさ……獅子王のあれってどうなってんの?」

 

 

 脳裏に思いついたのは獅子王の兵士だ。相棒から神滅具の一つと聞いたがどうやって兵士にしたのか地味に気になる。だってその方法が分かれば……ねぇ!

 

 

「サイラオーグの兵士か? それに関しちゃ俺も分からん。あれは神器システムから逸脱してやがるしな。サイラオーグ自身も謎と思ってるらしい……待てキマリス、まさか、おい、まさかとは思うがお前……!」

 

「――ゼハハハハハ、神滅具を悪魔に出来るんなら鞘の安定化ぐらいできるよねぇ」

 

「――イッセー、こいつを殴れ。馬鹿だこいつ! なんでその思考に至ったか簡潔に教えやがれ!! いやその前に殴れ! この馬鹿を殴れイッセー!!! いや俺が殴る! 殴らせろ!!」

 

「ちょっとまってキマリス君! 貴方……本当に馬鹿なのかしら!?」

 

「……」

 

「ヤバイ……会長が絶句してる、すっごく言葉を無くしてる……!」

 

 

 いやいやお前ら……酷くない? 俺様、真剣に考えた結果がこれだぞ? まぁ、二択だわな……魔剣四本と()()が無くなるか鞘として成功するか。どっちに転んでも俺には痛くも痒くもない賭けだから思わず笑っちまったぜ! うーん! 周りも唖然としている意味が理解できない! え? 普通じゃない? そもそも()()が無くなっても平家が居るし問題無いんだよ……うん、きっと平家自身も喜ぶだろう。だって唯一無二の存在になれるだろうしね。

 

 

「というわけで北欧の主神様と話せる場を作ってくれよ? それじゃあ色々と忙しいんでこれで失礼しまーす。四季音妹、帰るぞ」

 

「了解。主様、周りが固まっている。何故。分からない」

 

「俺も知らん。まぁ、放っておけばいいんじゃねぇの?」

 

 

 四季音妹とチョロイン共を連れて自宅へと転移するとソファーに寝転がっている平家と酒を飲んでいる四季音姉が待っていた。犬月と橘は地下で特訓中、水無瀬はどうやらまだ帰ってきてないらしい。やる気十分で何よりだよホントにさ!

 

 帰ってきた俺を見た平家は早く座れという視線を向けてくる。はいはい、膝枕すればいいんだろ? なんだか上機嫌だがどうした?

 

 

「これ以上騎士が増えることは無いと確信したから嬉しいだけ。ノワールの騎士は私だけで良いよ」

 

「そうかい。まっ、勝手に喜んでおけ……んで四季音姉? 結果は?」

 

「はっ! とーぜん合格したに決まってんでしょ。楽過ぎて欠伸が出たよ」

 

「伊吹おめでとう。嬉しい。私も早く伊吹に追いつきたい」

 

「にしし、イバラならすぐに中級になれるさ。なんせ私の妹だ、その辺の悪魔なんかには負けるわけがないからね」

 

「うん。伊吹の妹として頑張る。もっと頑張る」

 

「……平家」

 

「レズだけどレズじゃないよ、普通に慕って依存しているだけ。花恋がノワールとエッチしろって言えば普通にエッチするし、花恋が抱かれろって言えば普通に抱かれる。だからどっちでもオッケーな両刀娘」

 

 

 俺の膝を枕にスマホを弄っている平家がめんどくさそうに答えてくれたが……知ってた。京都でも怪しいなぁとは思ってたけど両刀ですかそうですかちょっと絡みを見せてくださいお願いします。まぁ、そんな事は置いておいて四季音姉の奴……めんどくせぇなおい! 四季音姉とか四季音妹とか分けるのすっごくめんどくせぇ!! いや良いや……とりあえず中級悪魔に昇格出来て良かったよ。知ってたけど。そもそも水無瀬や平家、橘から勉強を教わったんだから筆記は問題無いし実技に関しては心配する理由が無い。これで俺の眷属に中級悪魔が在籍することになるか……なんというか四季音妹もすぐに昇格しそうだな。筆記が心配だけども。

 

 

「ところでどうするの?」

 

「あん? 何がだ?」

 

「ホームステイ」

 

 

 嫌な事を思い出させやがって……マジでどうしよう? 今から断れないかな?

 

 

「無理でしょ。フェニックス家からの頼みだもん断れるわけないよ……それにお姫様も乗り気なんでしょ?」

 

「らしいなぁ……ライザーからも妹をよろしくとか妹に手を出したら焼くとか言ってきたしな。なんだって学園に転校してくるんだよ……別に来るなとは言わないがいきなりすぎるだろ?」

 

「ヒント、ノワールの女王」

 

「……それ、ヒントじゃなくて答えだぞ」

 

「知ってる」

 

 

 やっぱり貴族の考えることは分かんねぇな……とりあえず受け入れるしかねぇからここで愚痴っても仕方ないけどさ。あんのクソ親父……! 京都土産を買ってこなかったから仕返しのつもりか? ちゃんと母さんやセルス達には買ってきたんだから良いだろうに!

 

 

「……平家」

 

「善処する」

 

「そうかい、だったら期待できねぇな」

 

 

 どうやら俺の膝を枕にしているお姫様は仲良くする気が無いらしい。知ってたが嫌ってる理由ってあれだろ? おっぱいデカいからだってのは俺様、よぉ~く知ってるから安心しろ! 俺はちっぱいも大好きだからな!

 

 褒めたはずなのになんで馬鹿と言われて抓られないといけないんだろうか……理不尽すぎるだろ。




今回から「影龍王と獅子王」編が開始です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62話

「ふっふ~ん! どれにしよっかなぁ~! ノワールの奢りだしたっぷり食べないとね!」

 

「お前、毎回メニューの端から端まで頼んでるだろうが……とりあえず俺は何にすっかなぁ~よし決めた! キムチラーメン大盛! ついでにチャーハンだな!! ヴァーリ、一誠、お前らは何にする? 夜空が先に言ったがここは俺の奢りだから好きなもん食って良いぞ」

 

「ありがたいね。なら豚骨味噌ラーメンネギメンマ大盛、ライスも貰おう」

 

「……黒井、これだけは言わせてほしい事があるんだ」

 

「ん? なんだ?」

 

「――なんで驚かないんだ!?」

 

 

 向かいの席に座る一誠が大声を上げた。おいおい、周りには普通の客も居るんだし静かにしろよ? 追い出されたら夜空がキレて冥界滅ぶんだからさ……そもそもそのセリフ、此処に来る前に言おうぜ! そもそも夜空が突然現れる事なんて珍しい事じゃねぇし毎回こうして奢ってるから驚く事なんてない……普段と変わらない光景だしね!!

 

 俺達が居る場所は至って普通のラーメン屋。メンバーは影龍王()光龍妃(夜空)白龍皇(ヴァーリ)、そして赤龍帝(一誠)の四人だ。恐らく俺達を知っている奴らからしたら何をしてんだって驚かれる事だろう……だって二天龍と地双龍が一つのテーブルを囲んで飯を食ってんだもん!! きっと過去を遡っても絶対に起こったことが無いであろう光景だよなぁ……そもそも互いに殺し合う宿命だし仲良くすること自体が奇跡だと思うし。というよりも夜空ちゃん? よだれ出てるからちゃんと女の子しようぜ! 普通の女の子はメニューをガン見してよだれなんて流さないんだしさ!

 

 

「だってこいつらがやってくることなんて珍しい事じゃねぇし」

 

「いやいや待て待て! 驚こうぜ!? そもそもなんで校門前で「やぁ、影龍王」って呼ばれて「おう、久しぶり白龍皇」って返すんだよ!? 普通は警戒するんじゃないのか!?」

 

 

 どうやら一誠は此処に来る前の俺とヴァーリのやり取りにビックリしていたようだ。いや……俺だって少しは驚いたんだよ? 何事もなく……いやビッグイベントっぽいのは有ったけど普通に授業を受けて、普通に平家がダウンしたから保健室に連れて行ってイチャイチャもどきをして、普通に保健室で昼飯食って、普通に帰ろうって思ったら校門前にヴァーリが居たんだぞ? 驚くに決まってんだろうが。まぁ、でもぉ! この銀髪で! イケメンで! 天才なルシファー様は佇む姿だけでキャーキャーと何も知らない一般生徒から言われてましたけどね!! マジでイケメン滅びろ!

 

 ちなみに一誠は偶然近くにいたのを捕獲、夜空は三人が集まってるなら参加するぅ~とかで勝手に現れました。流石規格外。

 

 

「……警戒した方が良かったか?」

 

「キミが警戒をしたら偽物かと思ってしまうな」

 

「だよな、残念だが一誠君……キミの疑問は無意味になりました。とりあえず今すぐ殺し合うってわけじゃねぇんだから仲良く飯を食おうぜ? ほら! その……ドラゴン達だって仲良くしてたじゃないか!」

 

「黒井……仲良くって言うか黒井のドラゴンがドライグ達を虐めていたようしか見えなかったんだけど……?」

 

「気のせいだ」

 

 

 四人で仲良く歩いている最中、相棒が二天龍の二体に向かって『お久しぶりですなぁ! おっぱいドラゴンにヒップドラゴン! 今日も乳と尻のどっちが優れているかを確かめるために殺し合うんだよなぁ!』とか『仲がいいなぁ! 流石乳龍帝と尻龍皇! 乳と尻を司るドラゴン達だぜぇ!』と煽りに煽って再会を喜んでいた。当の二体は当然の様に反論していたがユニアからトドメの一撃を受けた事で両者共に大泣きして引っ込んでしまった……ドンマイ!

 

 

「影龍王、出来ればアルビオンをあまり刺激しないでくれ。カウンセラーに通ってようやく落ち着いてきたんだ」

 

 

 真面目な顔をしたヴァーリが面白い事を言ってきた。何でカウンセラーに通ってるんですか?

 

 

「……ぷ、ぷははははははは! カウンセラー! カウンセラー!! 天龍が!? やりたい放題してたあの天龍がカウンセラーって!! ちょ、ヴァーリ! 面白いこと言うなって!! やっべぇ腹イテェ!!」

 

「ちょ!? ヴァーリぃ! いきなり面白い事を言わないでよぉ!! あははははは!! む、むりぃ! おもしろすぎぅ!! あははははははははは!!!!」

 

『ゼハハハハハハハハハハ! おいおい面白れぇじゃねぇの!! ドラゴンがカウンセリングを受けるなんざ偶にあるがヒップドラゴンちゃんよぉ! 心が弱いんじゃありませんことぉ? ゼハハハハハ! 受け入れちまえば楽になるんだぜぇ? テメェもドライグもプライドだけはたけぇからなぁ!!』

 

『クフフフフフ! クロム、言ってはいけませんよ? ドライグもアルビオンも最高の(オス)だというのに高すぎるプライドが邪魔をして……あぁ、可哀想に! 私が生きている内に押し倒しておけば! 未来永劫(メス)を抱けずに宿主が楽しんでいるところを眺めるしか出来ないなんて……! 今後も一生童貞だなんて口が裂けても言えませんね!! あぁ! 聖書の神はなんて酷い事を!! これが神のすることですか!』

 

『ユニア! 言っておくが俺は童貞じゃねぇ!! ちゃ、ちゃんと経験をしている立派なドラゴンだ!! アルビオンとは違うのだ!!』

 

『なに!? それは聞き捨てならないぞドライグ!! 私だって経験をしている! 白龍皇と称された私は未経験なわけがないだろう! そしてユニア、仮に体があったとしても貴様とはご免だ!』

 

『あぁ! 貴様と交わりなどすれば一ヶ月はさせられるだろうしな。まさか忘れたとは言わせないぞ……? 貴様の性欲が原因である種族が絶滅の危機に陥ったことがあっただろう!!』

 

『知りませんね。何度も種を植え付けたというのに子を宿せなかった弱小種族が悪いのです』

 

 

 なんだかんだで仲良く話してるけどさ、聞いている側の感想としては過去のユニアがやべぇって事なんだけど? 生前のユニアってどんだけビッチだったんだよ……一ヶ月間ずっとエッチしまくりとか何言ってるか分かんない。飯とかどうしてたんだよ……あぁ、男から出ますもんね! ちょっと異臭がするあれが! スゲェなドラゴンの性欲! 俺でさえそこまではならないから尊敬するわ。

 

 そしていつの間にか注文をしていたらしい夜空が滅茶苦茶食ってる件について。ちゃんとスープを飲み干して次から次へと食ってるけどさ、なんだよこの丼の数……? 山になってんだけどこの店持つのか心配になってきたわ。一応、ヴァーリがおすすめと言ってた場所だから潰すような真似はするなよ? あと絶対にカード使用しないとダメだわこれ。

 

 

「……お、おい黒井? これ、足りるのか?」

 

「カード使うから問題ねぇよ。デュランダルがグレモリー先輩の眷属になる前に店で会った時があっただろ? その時も今みたいに馬鹿食いしてたからな……こいつ曰く、どれだけ食っても体重と体型が変わんないんだってよ」

 

「……それって永遠におっぱいがせいちょ――ひぃ!?」

 

「せきりゅーてー? なんか言おうとしたぁ?」

 

「何でもない! 何でもないですごめんなさい! はぁ……とりあえず味噌ラーメン大盛頼むよ」

 

 

 良かったな一誠! 今のセリフを最後まで言ってたら死んでたぞ! 大丈夫だ、その疑問は既に俺が何回も思ってる事だからお前が悪いわけじゃない……永遠にちっぱいの宿命を背負ってんだよ、この規格外様は!

 

 

「ノワール? 一回死んでみる?」

 

 

 お前は平家かよ。

 

 

「殺せるんなら良いぞ? てかそろそろ真面目な話に入るか。ヴァーリ、何の用だ?」

 

「……そのセリフ、絶対に会った時に言う事だろ……!」

 

「――あぁ、そういえばキミに用があって尋ねたんだったな。尋ねた理由は影龍王とバアル家次期当主がゲームをすると聞いてね。どうしても伝えたい事があったからなんだ」

 

 

 お前絶対忘れてただろ? どんだけラーメン好きなんだよ。

 

 

「なんだぁ? 夜空みたいに負けたらキマリス領を吹っ飛ばすとかか?」

 

「そんな事はしないさ。影龍王、キミとバアルのゲームは誰にも邪魔はさせないから安心して戦ってほしい。珍しい事に曹操も同じことを言っていたんでね、これは伝えておいた方が良いと思っただけさ」

 

「ん~めっずらしぃ~! んじゃ私もそうしよっと!! 邪魔する奴いたら消滅させっから必ず勝ってね? もし負けたらグレモリーとのゲーム前に言ったようにノワールの家族もろともキマリス領を吹っ飛ばすからそのつもりでね!」

 

 

 はいはい、そんな事を言われるまでもなく負けねぇっての。チョロイン筆頭(魔帝剣グラム)が煽ってくれたお陰で歴代の殆どは俺の()()に染めたしな! ゲーム前までには覇龍の強化形態は完成するだろう……こうして考えるとあのチョロインって役に立つな! 雑魚散らしにしか使えねぇと思ってたがまさか歴代を染める切り札になるとは思わなかったぜ!

 

 そして一誠君? その疑問に満ちた目で見られたら照れちゃうよ? 多分だけど俺達とのゲームに負けてたら家族とかが滅んでたのかって思ってるだろうけど……はい! 普通に殺されてましたね! 目の前の規格外に!

 

 

「そりゃまた豪勢な護衛だなおい。こんだけ期待されたら楽しませねぇとやっべぇな!」

 

「……ヴァーリ」

 

「なんだい?」

 

「信じて良いんだよな?」

 

「あぁ。俺も光龍妃も影龍王とバアルとの対決は楽しみなんだ。兵藤一誠、キミの疑問は俺達と曹操が手を出さないという事だろう? それならば信用するしない以前の問題だ。俺達はドラゴンを宿す者、強者同士の対決を邪魔するような真似はしない。そして曹操だが当たり前のことを言ったに過ぎない」

 

「だねぇ。あれ(曹操)ってさ、人間が化物を相手にどこまでやれるか確かめたいって本気で思ってるからさ。てーか曹操からしたら敵が勝手に同士討ちっぽい事をして情報をタダで見せてくれるんだよ? 邪魔するわけねーじゃん」

 

「だろうな……俺も禍の団絡みのテロも解決してないのに若手悪魔同士のゲーム続行とか馬鹿じゃねぇのって思ってるし。それを見られて対策されたらどうすんだよ……それでも勝つけどね!!」

 

「悪魔とかってそういうところが緩いよね。やっぱりあの時もっと殺しとけばよかったかなぁ? でもあの程度で終わらせたからノワールとバアルのゲームが見られるんだしこれで良かったって思えばいいかな? まっいっか! 面白いし!」

 

「あの時……あぁ、上層部の奴らを消し飛ばした事か。お前が暇ならまた殺せばいいんじゃねぇの? どーせサイラオーグ・バアルとゲームとなれば混血嫌いの馬鹿共がなんかするかもしれねぇしな。俺も雑魚散らしにもってこいな魔剣を手に入れたし何かされたら冥界ごと消し飛ばすけど……なんなら一緒にやるか?」

 

「別に良いよ? だって私はノワールとヴァーリと赤龍帝以外の悪魔って嫌いだし」

 

「俺もお前と母さん以外の人間って嫌いだわ。だから俺と付き合ってくれ」

 

「ヤダ」

 

 

 泣いてない。泣いてなんかいない。

 

 

「……だよな。まぁ、心配しなくても乱入されたらそいつをぶち殺すから飯でも食いながらのんびり観戦でもしててくれ」

 

「そうさせてもらうよ。あぁ、そうだ。旧魔王派だが最近は息を潜めて何かを企んでいるらしい。もっとも残された旧魔王の血を引く者は俺達には及ばない存在だよ。だから姿を見せたら殺すと良い」

 

「お前……同じ禍の団に所属してるんだろ? そんな事を言って良いのかよ?」

 

「俺は別に旧魔王派というわけでもないからね。任務も美猴達が受けるだけでそれ以上の事はしていない。俺がアザゼルを裏切ったのも三大勢力にとらわれず、自分の目で世界の謎を知りたいと思ったからだ。自由の身になったことで光龍妃とも邪魔をされずに会えるから今の立場は悪くはないね」

 

「羨ましいよホント、こっちは身内にクソ甘な魔王の下で働いてるってのにお前は気軽に夜空に会えるとか羨ましい、マジで羨ましい。てか世界の謎ってなんだよ? なにその面白そうなフレーズ!」

 

 

 ヴァーリ曰く世界には色んな謎があるらしいのでそれを解析もどきしているようだ。未だに行方不明な伝説の聖剣とか魔剣とかドラゴンとか神様とか……上げたらキリが無いぐらい大量にあるようでヴァーリも楽しんでるっぽい。良いなぁ、俺も自由になりてぇわ。

 

 

「……なんか、お前も変わったことをしてるんだな」

 

「そうかな? 訪れた地で強者と会うことも有る、意外と楽しいものだよ」

 

 

 どうやら一誠はヴァーリの考えというか行動に理解できないようだ。まぁ、基本的に暇つぶしの部類に入るだろうしなぁ。でも未知の場所を探検とかちょっと楽しそうでマジで羨ましい!

 

 

「あのさー? ちょこっと気になったんだけどぉ! ノワールって赤龍帝を名前で呼んでたっけ?」

 

「ん? あぁ、それか。気に入ったから名前で呼んでるだけだが……そんなに変か?」

 

「だって自分の眷属も名字で呼んでんじゃん。変って言えば変かなぁ~? ノワールらしいけどさ」

 

「別にあいつらも名前で呼んでも良いんだがそれだと周りがな。王の俺が眷属の奴らを呼ぶ時に気を付けねぇと色々と陰口言われんだよ。それがめんどくさいから名字で呼んでるだけだ」

 

「……そうなのか? 部長は俺達の事を普通に呼んでるけど何も言われないぞ?」

 

「そりゃそうだろ。だってグレモリー先輩は魔王の妹なんだし。純血主義が広がってる冥界で、しかも魔王の妹の先輩に文句とか言ったら一発でアウト。即牢獄行きだ。だから俺みたいな混血はことあるごとに何か言われるのさ……お前も上を目指すならこれだけは覚えておけ――ニヤニヤ顔で近寄ってくる奴は全て敵、(おだ)てる奴も敵、馬鹿な反論をする奴も敵だ。王になったらその辺も考えねぇと大変な事になるぜ」

 

 

 これは全て良い子ちゃんだった時の俺が味わった事だ。親父と結婚した母さんを誉めた後、見えないところに隠れてボロクソ罵ってたのを何度も聞いた。ただ普通に歩いてただけなのにわざと目の前で転んで大泣きする演技をしてストレス発散とばかりに叱ってくる馬鹿もいた。今の冥界ってのは過去の栄光を手放せない奴らが多い……自分達のような純血以外は認めたくないんだ。だってそれを認めたら今の地位が無くなるしね。だから転生悪魔で王になった奴らは苦労してるだろう……もし苦労していないならまぁ、そういう事(裏で何かをしている)だ。

 

 

「まっ、今のまんまじゃ何時になるか知らねぇけどな。一応覚えておいた方が良いぜ」

 

「お、おう……」

 

 

 そんなこんなで楽しい楽しい食事も終わり、俺は家に帰る。夜空はいつもの様に転移術でどこかへと飛んで行き、ヴァーリは待機していたらしい美猴と共に町へと消えていった。一誠は同じように待機してたらしい先輩と一緒に帰ったので俺は一人寂しく家へを帰る羽目になった……泣いてないよ、ぼっちになって泣いてるわけがないよ!

 

 

「お、お帰りなさいませですわ! き、キマリス様! お、お怪我はされていませんか!?」

 

 

 玄関を開けると金髪のツインテール、小柄な体型だというのに巨乳な美少女が出迎えてくれた。出来れば今のセリフをメイド服を着てもう一回言ってほしいんだがダメだろうか?

 

 

「怪我なんてするわけないだろ? そもそも普通に飯食ってきただけだしな……あっ、ただいま、レイチェル」

 

 

 出迎えてくれた美少女――レイチェル・フェニックスは俺の言葉に何故か顔を赤くし始めた。多分だが今のやり取りが夫婦っぽいから照れたとかそんな感じかねぇ? 俺としてはどうでも良いけども。てかこのやり取りは夜空としたいわ!

 

 何故フェニックス家のお姫様であるレイチェルが結構ラフな格好で此処に居るのかというと俺達が通う駒王学園に姉妹揃って転校してきたからだ。本当なら姉妹で部屋を借りるなり冥界から通うという手を使えばいいんだろうけど目の前にいるお姫様が俺の家から通いたいと言い出した結果……ホームステイが決まりました。親父も断ればいいのに友人だからって良いよ全然良いよ! って感じで即了承したから断るに断れずこうしてやってきてしまったわけだが……お姫様だから部屋着も豪華なものかと思ったらそうでもないのね。見た目だけなら普通の美少女高校生、おっぱいの存在感がヤバいです!

 

 ちなみに姉のレイヴェルは一誠の家にホームステイしたらしい。フェニックス家の野望が丸見え過ぎてドン引きです。

 

 

「お帰りノワール。お姫様、そこにいると邪魔だから早くどいて」

 

「なっ!? じゃ、邪魔なんてしていませんわ!! 先ほどまで部屋に籠っていた方がいきなり何を言い出しますの!」

 

「お姫様のせいで今日一日は大変辛い目にあったから仕方がない」

 

 

 だろうな。フェニックスの双子姫が駒王学園に転校してきたせいでかなり盛り上がったし。美少女姉妹、しかも双子! そして巨乳! これだけ揃えばヤることしか考えてない男共はもう大変だろう……きっと今頃は二人をネタにオナニーしているに違いない。

 

 ギャーギャーと仲が良いのか悪いのか分からないが口喧嘩を始めている二人を放置して居間へと向かうとテーブルに座って何かをしている橘とそれを眺めているオコジョが居た。この場に犬月が居ないがきっと修行かなんかしてんだろ……修学旅行が終わってから特訓に力を注いでるしな。

 

 

「悪魔さん、お帰りなさい。えっと……大丈夫でしたか?」

 

「ただいま。問題ねぇよ、んで? 橘は何してんだ?」

 

「もうすぐ若手悪魔同士のゲームが始まりますし今の私に出来る事を整理してたんです。京都では裏方に回ってましたし悪魔さんのために精一杯頑張りたいですから!」

 

 

 プルンとおっぱいを揺らしながら張り切った様子を見せてきた。流石アイドルおっぱい、その揺れを少しでも良いから規格外の壁に与えてくれませんかねぇ?

 

 

「真面目だねぇ。別に今まで通りにやればいいぞ? 下手に考え込んでスランプになる方が面倒だ」

 

「そうですけど……やっぱり勝ちたいんです! あの、悪魔さんから見て私ってどうですか……? えっと違いますよ? 女の子としてじゃなくて戦ってる私と言いますか! そうですそんな感じです!」

 

「どうって言ってもなぁ……頼れる後方支援担当か? 正直、水無瀬と一緒で眷属になってくれて助かってるしな。まぁ、なんだ……お前は破魔の霊力があるしこいつ(オコジョ)も居る、そして歌に魔力を乗せられるハイスペックな奴だ。自信もって良いさ。俺としてはそろそろ禁手に至ってくれると助かるけどな」

 

「うぅ……ご、ごめんなさいです。アザゼル先生にも相談したんですけど独立具現型神器って禁手に至るのが悪魔さんや水無瀬先生のように簡単じゃないみたいで私もどうしたらいいか分からないんです」

 

 

 だろうな。俺の様に封印系の神器、水無瀬の様に能力を持つ物体を出現させる神器は本人の意思を直接神器という器に反映できるが橘の様に神器自体が意思を持って行動している独立具現型はそうはいかないだろう。俺も神器に関しては詳しいとまではいかないが面倒だなって事は分かる……なんせ神器自体が意思を持っているからな。本体の意思で操作できると言ってもあれをやれこれをしろって感じで動かすにはかなり集中力を要するはずだ。現に今もこのオコジョは橘の近くに座った俺の頭の上に移動したきたが橘の意思ではないだろう……多分。

 

 橘自身も歌に魔力を乗せたり破魔の霊力で戦ったりするから思考がそっちに集中してしまい、神器に自分の意思を反映させきれてないんだろう。まぁ、激しい戦闘中に神器と自分の動きを同時にしろなんて無理だからこそマフラー形態に変化させるって手を使うわけなんだし。

 

 

『ゼハハハハハハ。独立具現型の特徴は本体が安全圏から攻撃が出来るって事だ。それ故に普通なら本体は雑魚になっちまうがしほりんは別よぉ! 悪魔故に本体も戦えるからどうしても神器の扱いが下手になる。生物の脳ってのはあれをしながらこれをする事には特化してねぇしなぁ』

 

「だな。どうしても片方に集中しちまうともう片方が疎かになる……どうすっかなぁ? あのマフラー形態で戦うっていってもそれだとダメなんだろ?」

 

「はい……あれは防御に特化しててどうしても攻撃に回すとなるとキー君が本当の姿じゃないと攻撃力が足りないんです。私の破魔の霊力も弾丸として飛ばすと威力が落ちてしまいますし……やっぱり難しいですよね」

 

「難しいかって言われたら難しいだろうな。まっ、禁手に至りたいなら自分の我儘をこいつ(オコジョ)に伝えれば良いさ。強い我儘ほど神器は答えてくれるしな……頑張れ頑張れ。水無瀬が出来てお前に出来ないわけがねぇんだよ」

 

「悪魔さん……あの、む、胸を突きながら良い事を言うのはやめてほしいです」

 

「え?」

 

 

 いやだって目の前にこんな大きなおっぱいがあったら突きたくなるだろ? 男なんだし仕方がない!

 

 

「ノワールが志保に変態行為している。これは大変だー私も犯されるー」

 

「なんで棒読みですの!? そ、それとキマリス様!! 女の子のむ、胸を触ったりしてはダメですわ!」

 

「レイチェルさん……そうですよね! 悪魔さん♪ 相談に乗ってくれてすっごく嬉しかったよ♪ ちょっと正座してください♪」

 

「えっちぃの禁止委員会委員長と副委員長誕生だね」

 

 

 流石にそれは勘弁してほしい。俺の行動の大半がアウトになっちゃうからさ! しっかしホームステイ初日なのにすごく仲良くなってんなぁ……あれか? 同じ巨乳属性だからか?

 

 

「……あぁ、そうだ。犬月と四季音姉妹、水無瀬が居ないが先に言っておく。もうそろそろ記者会見有るから準備だけはしておけよ? 結構大々的にやるようだしな」

 

「ヤダ、拒否する、死にたくないでござる」

 

「諦めろ」

 

 

 俺だって出たくないのにお前だけ欠席とか絶対に認めねぇ……! まぁ、夜空もヴァーリも曹操ちゃんも注目してるっぽいし派手にやるけどな――ゲーム当日までに何とか完成させねぇとな。だって夜空をビックリさせたいし!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63話

「たくっ、記者会見前に主神様に会う羽目になるとはなぁ。頼んだのは俺だけど別の日とかにならなかったのかよ?」

 

「悪いな。オーディンがどうしても今日が良いって聞かなくてよ。大方、日本観光という名目で遊びたいんだろうぜ。良いじゃねぇか、眷属なら兎も角、お前さんは緊張とかはしない方だろ?」

 

「当たり前だ……いつも通りにやらせてもらうつもりだよ。獅子王には悪いけどな」

 

 

 早朝、俺はアザゼルと共にルシファー領内にあるホテルへとやってきていた。本来なら此処に来るのは夜中なんだが北欧の主神様がどうしてもこの時間に来いと言ったらしい。どうせおっぱいパブとか風俗とかその辺に行きたいからさっさと用事を済ませたいとかだろうな……頼みに来た俺は文句を言えない立場だけどもうちょっとだけ譲歩してくれても良いんじゃねぇか? なんせこっちは数十時間後にはもうすぐ行われる獅子王とのゲームを冥界中に知らせる記者会見をしないといけないんだしな。面倒なんだぜ……? テレビ慣れしてる橘は兎も角、水無瀬と犬月は朝からあわあわしてるし平家は引きこもりたいでござると部屋から出てこないし、四季音姉妹は朝から酒飲んでるし……もうちょっと俺のように真面目になってほしいね!

 

 

「それで良いさ。俺やサーゼクス、ミカエルもお前さんとサイラオーグの対決は注目してる。ヴァーリからも個人的な連絡で禍の団が乱入しないようにするみてぇだしな、世界中の主神達がお前さん達の実力を見たがってる。見せつけてやれ、ノワール・キマリスの力をな」

 

「そのつもりだ。あと付け加えるなら夜空と曹操ちゃんも警備っぽいことしてくれるってよ。何日か前に飯食った時に言ってたしな」

 

「イッセーが疲れたとか言ってた時か。全く、お前らは俺達に内緒で会いやがって……英雄派が同じく警備ね、確かに敵からすれば俺達のデータを取る良い機会だ。邪魔するわけもねぇか……了解だ。ゲーム当日は俺達も他からの邪魔なんてさせねぇから思う存分楽しんで戦えよ」

 

 

 そんな事を話していると北欧の主神様が泊まっている部屋に到着した。所謂VIP専用と呼べるかなり豪華な場所だ……流石ルシファー領にある超豪華なホテル。俺みたいな普通の混血悪魔はどれだけ頑張ればこんな所に泊まれるんだろうねぇ。

 

 

「オーディン、久しぶりじゃねぇの。相変わらず元気そうで何よりだ、もうちっと爺さんっぽい所を見せても良いんだぜ?」

 

「悪ガキ堕天使に言われとうないわ。久しいの小童よ、要件は聞いておるぞ。グラムの鞘を作りたいらしいのぉ? 懐かしい名じゃわい。まさか今になってその名と姿を見る事になるとは思わんかったの」

 

「だろうな。大昔の英雄に与えてから完全に放置しやがって……キマリスが所有者と認められなかったらテロリストに魔剣五本を使われてたんだぜ? ちったぁ反省しやがれこのやろー」

 

「ほっほっほ。知らんのぉ」

 

 

 傍らにかなり美人のヴァルキリーを立たせながら主神様は笑い始めた。うーん……巨乳だな! 流石エロジジイ! 女の趣味は良いじゃねぇの! でもグレモリー先輩の眷属になった元お付きのヴァルキリーちゃんはガチギレしてたからもし出会ったら覚悟しといた方が良いぞ? 最悪ぶん殴られると思うしな!

 

 

「えっと、アザゼルから前もって伝えていたと思いますが魔帝剣グラムの鞘を北欧の技術で作ってもらいたい。材料は俺が保有する魔剣四本と騎士の駒だ。いきなりの頼みだがどうかお願いします」

 

 

 ソファーに座る主神様に頭を下げる。全くさ……こんな風に交渉しなくても好きなだけ与えられる先輩が羨ましいよ。少しは俺の様に苦労しろってんだ。

 

 

「よいよい。ロキの一件で世話になったしの、懐かしいものも見せてもらった礼じゃ。グラムの鞘、わしらが作ってやろう。勿論アザゼル坊、お主も協力するんじゃろう?」

 

「当然だ。いかに北欧で作られた魔剣だって言っても悪魔の駒を使用する以上は俺達も手伝わねぇとな。キマリスには言ってなかったがサーゼクスとアジュカ、ミカエル、そんで八坂も協力することになってる。お前さんがグラムの鞘に悪魔の駒を使用するって俺が伝えたらアジュカの奴は爆笑してたぜ? そんな事に使う悪魔は初めてだってな。グラムの鞘は悪魔、天使、堕天使、北欧、京都が合同で行うから安心して待っておけば良いさ」

 

「……なんで京都? あれだけ暴れ回ったから嫌われてるかと思ったんだがなぁ」

 

「逆だ逆。八坂なんてお前さんの事をかなり気に入ってるようだぞ? 九尾の狐状態で戦い、押し倒されて屈服させられたんだ……気にならないわけがねぇさ。良かったじゃねぇの、子持ちとはいえかなりの美人だぜ? また京都に遊びに行ってやれよ」

 

「気が向いたらな」

 

 

 八坂姫が俺を気に入ってるとか凄く大事な情報だけどそれは置いておいて……やべぇな。適当に思いついたことがかなり大きな事態になりやがった。別に失敗しても何も問題は無いがここまでなった以上は成功してほしいね……ただ魔王共に借りが出来たっぽいのが最悪だ。なんで協力するかねぇ……? 借りを作って言う事を聞かせようとかそんな魂胆か? 別に構わないが普通に仇で返すぞ? うん、だって邪龍だし。

 

 というわけで魔法陣を展開して魔剣五本を呼び出し、持ってきた悪魔の駒と合わせてアザゼルと主神様に預ける。完成は恐らくゲーム直前か終了後になるんじゃないかとは言ってたがすぐに欲しいってわけじゃないから時間をかけてくれても全然構わない。だってゲームでチョロイン筆頭(魔帝剣グラム)は使わない予定だしね。獅子王は拳主体で来るってのにこっちが剣を使ったら萎えるだろ? だから今回は夜空のように正面から相手をして倒す……お披露目もしたいしね!

 

 

「悪魔さん、準備できました!」

 

 

 そんなわけで時間は進んで真夜中、制服姿の橘が元気いっぱいの声で呼んできた。軽くメイクをしてるせいか普段も可愛いけど今はもっと可愛くなってやがる。前まではテレビに出ているのを見ておっぱい揺れてるなとか相変わらずデカいなぁとか思ってるだけだったが今は普通に目の前にいるもんなぁ……眷属にして良かったわ! ファンの奴らにバレたら殺されるだろうけども。しっかし流石元アイドル、これから記者会見だってのに緊張一つしてねぇよ。いつでもテレビに出れますとばかりにアイドルスマイル全開だ! うーん可愛い! でも残念な事に後ろにいる約二名ほどは無理っぽいけど大丈夫か? 少し前に若手悪魔特集だったかの番組に出たんだから慣れろよ?

 

 

「テレビ出演に縁のなかった恵とパシリだもん、緊張するなって言っても無理」

 

「そんなもんかねぇ……お前ら、そこにいる酒飲み姉妹の様に落ち着いたらどうだ?」

 

「だ、だだだだってののノワール君! 記者会見ですよ!? ぜ、絶対に転びますよぉ!! 私の不幸体質がそう言ってるんですぅ!」

 

「そそそそそっすよぉ!? 前回だってかなり緊張してたってのに記者会見とか無理無理! なんで王様達は平然としてられるんすかぁ!?」

 

「別に緊張するほどでもないだろ? あと水無瀬、もうちょっと強く抱き着いてくれ。おっぱいの感触を味わいたい」

 

「だめですぅ! 味わったらだめですぅ!」

 

「――と言いながら強く抱き着いている恵だった、まる」

 

 

 流石隠れМな水無瀬だ、言えばやってくれる。うーん……いつもの様に白衣に私服だからダイレクトに来るね! 心なしかちょっとデカくなってる気がしないでもない……まさか成長してるのか? 風呂で揉んだりしてるから可能性はあるな! 流石俺! 夜空に揉めばデカくなるって言わねぇと!

 

 

「ノワール、何度も揉まれたり弄られてる私は成長してないんだけど?」

 

 

 それは知らん。諦めろ。俺のせいじゃねぇ。

 

 

「……まさか安全だと思っていた水無瀬さんまであんな……! こ、これは怒った方が良いのでしょうか……? そ、それとも私もキマリス様にだ、抱き着くべきなのかしら……!」

 

「水無瀬先生もグイグイ行くタイプなんです……羨ましいです……!」

 

「めぐみんはぁ~のわーるらぶぅだっしねぇ~いばらぁ? きしゃかいけんだけどぉふだんどおりでぇいいかっらねぇ~?」

 

「了解。普通通りに行く。伊吹、緊張してない。凄い」

 

「にししぃ~おにさんはぁ~きんちょうしないのらぁ」

 

 

 片方は水無瀬の押しの強さに対抗心を見せ、もう片方は酒を飲むことしか考えてねぇ……カオスすぎるだろおい。なんなんだよこの眷属! 相手をする奴が可哀想に思えてきたぞ!! レイチェルもホームステイ初日は緊張してたっぽいが常識人であり我らがアイドルの橘のおかげで自分勝手な奴らとも仲良くできてるみたいで安心だ。今では普通に一緒の部屋で寝たり勉強したりファッション雑誌を片手に女子トークをしたり……あれ? おかしいな、水無瀬も女子トークに混ざる事は有るがそれ以外の奴らが混ざってるのを見たことがねぇぞ? まぁ、女子力無いだろうし混ざっても付いていけないだろうけども。

 

 

「私だって女子力有るもん。有るけどやらないだけだもん」

 

「はいはいわかってますよーそんじゃあ行くか。レイチェル、留守番頼むわ」

 

「お、お任せあれですわ! いってらっしゃいませ、キマリス様! 皆さん!」

 

 

 平家からの蹴りを受けつつ魔法陣で冥界へと転移する。場所はルシファー領内にあるホテル、本当ならキマリス領かバアル領で行うんだが……残念な事にうちには記者会見できるほど大きなホテルなんて無いしバアル領だと大王家が五月蠅いらしいのでルシファー領になったそうだ。普通に考えてゲームする事になってるのに文句を言うバアル家ってどうなんだよ……夜空に滅ぼされればいいのに。

 

 

「そういえばもうすぐ学園祭ですけどうちの同好会は何するんすか?」

 

 

 控室に通されて記者会見が始まる時間を待っていると暇なのか犬月がそんな事を聞いてきた。何をするって言われてもなぁ……特に無いんだよね。グレモリー先輩のオカルト研究部は占いだったかお化け屋敷だったかをやるそうだけど俺達は部じゃなくて同好会だしやらなくても良い。たとえレイチェルが入部してきて部に昇格できる人数に至ったとしても同好会で居続けてやる……部とかメンドクサイ。

 

 

「特に無いぞ? てか……去年なにしたっけ?」

 

「空いた教室を借りれたから心霊写真鑑賞会。ノワールが幽霊を呼び出して撮った写真を公開したら大反響だったね。皆、怖がってたよ」

 

「……あぁ、そうだった。これが俺達の成果だって言って公開したら笑われたんでちょっとイラついたから心霊現象をその場で起こしたんだったな。副部長様、今回もそうするか?」

 

「どうでも良い。それに同じことを続けると飽きられるよ」

 

「それもそうだな。んじゃそんなわけでうちの同好会は特にやることは無いので自由に遊んでいいぞ」

 

「……俺が入部したって聞いたクラスメートがやめとけよと言ってきた理由が分かったっすわ。何してんすか王様?」

 

「だってムカついたんだもん」

 

「もんって言ったら可愛くなると思ったら大間違いっすよ? しほりんとかならすっごく可愛いですけどね!」

 

 

 知ってる。男が「だもん」とか言ったら普通に気持ち悪いしな。その点、橘のように美少女が言うとあら不思議! 凄く可愛く見える! 実際に可愛いから大して変わってるようには見えないけどもなんかさらに可愛く見える! 犬月のセリフに橘が「悪魔さんと一緒に学園祭を楽しみたいんだもん♪」とか言ってるけど普通に可愛い件について……流石アイドル! 平家が対抗して似たようなことを言ったけど全然違うわ! これが清純(淫乱)派とエロエロ派の違いか……!

 

 

「そういえばぁ~ちょろいんのぉさやってどうなったぁ~んだい?」

 

「うん? あぁ、今日の朝方に北欧の主神様にお願いして作ってもらう事になったよ。なんか知らないが三大勢力と北欧と京都が合同で行うらしい」

 

「うっわ……なんかスゲェっすね。てか本当に良いんすか? 残った騎士の駒を鞘なんかに使っちゃって? この引きこもりより役に立つ奴が今後現れるかもしれねぇんすよ? 取っといた方が良いと思うんすけどねぇ」

 

「それこそありえねぇな。平家以上に役に立つ奴が居るならとっくの昔に眷属にしてるっての……別にグラムの鞘が失敗しようが平家が居れば問題ねぇんだよ。こいつ一人で騎士二人分の活躍をしてくれるしな」

 

 

 

 実際問題、確かに成功するか分からないものに悪魔の駒を使用するのは馬鹿のやる事だと思う。でも正直なところ……平家が居れば他はいらないんだよなぁ。他種族から嫌われてるって言っても心を読まれたくない奴らってだけで俺は特に気にしてはいないし、そもそもコミュ障にはありがたいしな! 黙ってても心を読んで反応してくれるとかマジで感謝ものだわ! ついでに付け加えると言葉に出さなくても俺の指示を分かってくれるんだ……他の奴らには出来ない芸当だろう。覚妖怪万歳! 愛しているぞ覚妖怪! 最高だぜ覚妖怪!

 

 

「……ばか」

 

 

 座りながら器用に俺の背中を蹴ってきやがった……顔も隠してるがきっと照れてるんだろう。

 

 

「いってぇなおい! いきなり蹴るんじゃねぇって……照れてんのか?」

 

「そんなわけない。ノワールが心の中で変な事を言うから蹴っただけ……そこは私だけにしてよ」

 

 

 なるほど……愛しているぞ覚妖怪じゃなくて愛しているぞ平家早織にしろってわけか。相変わらずの独占欲でなによりだよ、四季音妹の事を強く言えねぇな。

 

 そんなこんなで時間を潰しているとスタッフから呼ばれたので会場へと向かう。かなりの人がいるせいか会場となるホールに近づくつれて平家がダウンしそうになってるが……頑張れ、マジで頑張れ。

 

 

『キマリス眷属の方々が到着されました!』

 

 

 ホールに入るとフラッシュの嵐、眩しいんだが……? 殺されたくなかったら少し抑えてくれると助かるんだけどなぁ。正面には「サイラオーグ・バアルVSノワール・キマリス!」と結構デカメな文字で書かれた幕、そして先に到着してたらしい獅子王とその眷属が静かに席に座って待っていた。かなりの覇気を纏っているが緊張しすぎじゃないか? たかが記者会見だろ?

 

 空いている席にまずは俺が中央に座り、右隣が平家、左隣が四季音姉、その後ろに犬月達が座る。ちらりと平家を見ると既にダウン寸前で吐きそうな表情をしている……まぁ、此処にいる記者達って男ばっかりだしなぁ。女性記者もいるが殆どが男だから心の中を読んで気持ち悪くなってるんだろう……黙って俺の心だけ読んでおけ、さっさと終わらせるから。

 

 

『両眷属が到着されましたのでこれより記者会見を始めます。まず今回のゲームですがサイラオーグ・バアル様、ノワール・キマリス様両名の希望により制限はありません。またゲームでは特殊ルールを用いて行われる予定です』

 

 

 進行役から制限無しという言葉が聞けて地味にラッキーと思ったのは内緒だ。確かに獅子王とのゲームが決まった時に魔王様からどのようなゲームをしたいかなって感じで聞かれたから互いに全力で殺し合える奴って答えたのが功を奏したらしい。まっ、冥界でもかなり注目してるらしいし四季音姉か平家を出場停止するとは思ってなかったけどな。

 

 

「やはり影龍王殿も全力で戦いたいと思っていたか」

 

「とーぜん。下手に制限つけると周りが五月蠅いだろ? それに俺達自身が納得しない……同じ気持ちで嬉しいね」

 

「そうだな。俺も全力で臨むつもりだ、制限など俺と影龍王殿の間には必要が無い。この決断には上役達に感謝しないとな」

 

 

 軽く雑談をした後、再び進行役からゲームについて説明を受ける。日程は俺達の学園祭前日らしいがこの辺はどうでも良い……そもそも準備とか何もしないつもりだしな。そしてゲーム会場だがどうやらルシファー領で行われるようだ……どんだけバアル領に俺達を入れたくないんだよ? 別に暴れるわけじゃねぇのに警戒しすぎじゃないか……?

 

 

『ではここで両眷属の王であるお二人に意気込みを語っていただきたいと思います。まずは影龍王、ノワール・キマリス様からお願いします』

 

「意気込みって言われてもな……正直、全力の獅子王、サイラオーグ・バアルとの対決以外は大して興味無いから言葉に困るんだけど? あーでもグレモリー先輩達とのゲームよりは楽しみなんで遠慮なくぶっ倒したいと思いまーす。あと試合に出ている奴らを罵倒とかする奴がいたら問答無用でチョロイン魔剣ぶっぱするんでそのつもりでいてくださいねー」

 

 

 もっとも俺がやらなくても夜空辺りがキレてそいつを消滅させるだろうけどな。てかなんで背後から王様! もっと言葉を選んでくださいと言われないといけないんだ? 意気込みを語れって言われたから素直に言っただけだぞ? 両隣の平家と四季音姉だって何も言わないし問題無いだろ?

 

 

「ハハハハハハハ! 流石は影龍王殿、このような場でも普段通りとは恐れ入る! 心配せずとも俺は全力で立ち向かう所存だ。俺の拳が影龍王殿にどこまで通じるかを確かめたい、このゲームで俺は上へと行けるかどうか確かめられるはずだからな。すまないが今のが俺の意気込みという事で頼みたい」

 

『わ、分かりました! では両眷属へ質問コーナーを設けたいと思います』

 

 

 というわけで始まりましたドキドキ! あなたに質問コーナー! キャーキモーイ! 帰らせろー!

 

 まず一番手はまさかの俺で『伝説の魔剣を手に入れましたがゲームで使用されるのか』という馬鹿なんじゃないかって質問が飛んできたので『その時の気分次第。まぁ、邪魔だから使わないんじゃねぇの?』という素晴らしい返答をすると記者達が絶句しやがった……なんでかねぇ? 勿論、犬月や橘、水無瀬、平家、四季音姉妹にも質問が行ったが真面目勢は本当に真面目に答えて、不真面目勢は適当に答えていた。てか四季音姉……ゲームの質問をされて酒飲みたいから飲んで良いはダメだと思うぞ?

 

 ちなみに当然だが獅子王達にも質問が行ったが俺達とは違って普通に真面目に答えていました。流石若手最強! つまらねぇ。

 

 

「……つかれた」

 

「……つかれました」

 

「……悪魔さん、お説教です」

 

 

 長かった記者会見が終わり、俺達は自宅へと帰って来ていた。テーブルに突っ伏すように犬月、水無瀬、橘の三人が疲れ果てた表情をしている……そこまで疲れる要素があったか?

 

 

「三人は真面目だからね。色々と大変だったんだよ」

 

「なんだそりゃ? まぁ、良いや。とりあえず日程も決まってるんだし獅子王戦の事でも話すか……と言っても特殊ルール有りっぽいから当日にならないと判断出来ない部分もあるけど」

 

「記者達も詳しい事は聞かされてないみたい。でも全員でフィールドを駆け回るような類じゃないと思うよ? だって観客が居るんだし」

 

「だな……となるとタイマン形式、アスタロトとのゲームと同じダイス・フィギュアかその辺か。どうでも良いがやるからには勝つぞ? 今回も負けるとどこかの規格外がキマリス領を滅ぼすらしいしな」

 

「うわーい、しぬきでがんばりますよー」

 

 

 犬月が呆れた声色で返答してきたが問題ねぇさ。獅子王眷属は女王一人、騎士二人、僧侶二人、戦車二人、兵士一人で構成されている。こっちは四季音姉(戦車)平家(騎士)水無瀬(僧侶)(僧侶)犬月(兵士)四季音妹(兵士)。数的には負けているが獅子王側の兵士は単独では出てこないだろう……なんせ動く神滅具だ、王のサイラオーグ・バアルと共に出てくると誰だって予想できる。もっとも俺の予想しているダイス・フィギュアだった場合はかなり無理だろうけどな。

 

 

「とりあえず当日までに各々が出来る事をやっておけよ? これに勝てば名実ともに若手最強だ。遠慮なんていらねぇしする必要もない……俺の眷属だ、その辺の奴には負けねぇって信じてるよ。だからもう一回言うぞ――今回のゲームに勝つぞ」

 

 

 俺の言葉に全員が強く頷いた。

 

 さて獅子王……悪いが勝たせてもらうぜ? 圧倒的な暴力ってのを見せつけてやるよ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

64話

「結局、試合までには間に合わなかったね」

 

 

 豪華なベッドで横になってリラックスしている平家が退屈そうな顔をしながらこっちを見てくる。間に合わなかったというのは恐らくチョロイン筆頭(魔帝剣グラム)の事だろうな……別に間に合わなかったぁ! 畜生! ってのにはならねぇから安心しろ。てかそれよりも……これから獅子王との大事な一戦だってのに緊張感がねぇなおい。まぁ、それは他の奴にも言えるけどよ。

 

 ソファーに座りながら周りを見渡してみる。俺達キマリス眷属の待機場として与えられた凄く豪華な内装をした一室、俺達全員が集まってもまだまだ余裕という広さだ。ここまで豪華だとなんだか落ち着かない感じがするのはきっと根が貧乏性かなんかなんだろうな……どうでも良いけどね。というよりもあと少しで獅子王とのゲームが開始だってのに四季音姉は酒を飲み、四季音妹は少女漫画を読み、平家はスマホでゲーム、半常識人の犬月も漫画を読んでリラックス状態だ……やや緊張しているのなんて水無瀬と橘の二人ぐらいだぞ? まぁ、見た感じ戦闘に支障が出るほどのものじゃなさそうだけども。

 

 

「別に使う気すらなかったんだし間に合おうが間に合わなかろうがどっちでも良いんだよ。てか珍しくこの日のために特訓してたじゃねぇか? 成果はどうよ?」

 

「問題無し。きっと無双出来るよ」

 

 

 特に問題ないよとスマホに視線を落としながら答えてきやがったが……こいつの事だ、信じて良いだろう。そもそも犬月も水無瀬も橘もかなり特訓してたし前よりもはるかに強くなってるはずだ。問題は四季音姉妹だが……あれを特訓と言って良いのか判断に苦しむな。だって酒呑童子と茨木童子がガチで殺し合ったんだぞ? しかも毎日。まるで俺と夜空のように遠慮無しの全力勝負でいつものように地双龍の遊び場(キマリス領)が大変な事になったが日常的な光景だからもう気にしないようにしよう。なんせキマリス領に住む住民達からも今日はやけに静かに暴れてるねぇみたいな感じでのほほんとしてたしな。うちの住民を驚かせるには俺と夜空が殺し合うぐらいの派手さが無いとダメなのか……訓練されすぎだろ。

 

 

「王様、俺もかなり強くなった……と思いたいっす! きっちり勝利をもぎ取ってきますよ!」

 

「そうしてもらわねぇと困る。おい四季音姉妹、お前らはどうなんだ?」

 

「うぃ~? ぜんぜぇ~んもんらいなぁ~い! にししぃ~イバラもぉへいしぃになれたしあんしんしてればいいさぁ~」

 

「伊吹に悪魔の戦い方を教わった。昇格。慣れない。考えるの苦手。でも頑張った。伊吹に褒めてもらった。主様に勝利を届ける。必ず届ける」

 

「……そうかい。まっ、お前ら二人に関しては心配してねぇよ。思う存分、派手に暴れやがれ」

 

「あいさぁ~」

 

「了解」

 

 

 たくっ、呑気な声を出しやがって……まぁ、四季音妹が昇格に慣れたなら良しとするかね。さてと、問題は美乳と巨乳のコンビか。俺達と違って普通の人間だったんだから大観衆の前で戦うとなれば緊張はするだろう……もっともその程度で戦えなくなるような奴らじゃねぇけど。水無瀬はもう少ししたら慣れるだろうからスルーするとして……問題は橘か。どうも自分だけ禁手に至ってないのが気になってるのか色々と悩みまくってたしなぁ、レイチェルや水無瀬達どうするかって感じで話し合ってると平家から聞かされたけど正直な話、こればっかりは橘自身が決めないとダメな奴だから俺は何も言うつもりはない。

 

 今も俺の対面の席に座って発声練習をしているけどなんというか……悩みが表情に出てる感じがする。平家からもなんとかしたらって視線を向けてきやがったし……仕方ねぇなぁ! ちょっとは手助けしてやるか。

 

 

「橘」

 

「は、はい! なんでしょうか?」

 

「悩み過ぎだ」

 

「え?」

 

「お前、自分だけ禁手に至ってないとか自分の役割の事とか色々悩み過ぎだ。今も表情に出てるぞ?」

 

「え!? ほ、本当ですか!?」

 

 

 目の前の橘はカバンから手鏡を取り出して自分の表情を確認し始める。可愛い。

 

 

「別に支援しか出来ねぇからって見捨てたりなんざしねぇよ。そもそもお前は水無瀬と一緒で俺達には必要な存在だ、出て行かれるとちょっとだけ困るんだよ。確かにお前の周りには……まぁ、化け物しかいねぇけどさ、俺達には出来ねぇモノがお前にはある。良いか橘――お前は何だ?」

 

「……悪魔さんの僧侶です」

 

「あぁ、そうだな。でもよ? そんなもんよりももっと大切なものがあっただろ? なんでお前は歌を歌う? なんで踊る?」

 

「……私が歌う理由、踊る理由……っ! あ、悪魔さん! あの、その……」

 

 

 パアァッと悩んでいたであろう表情が一気に笑顔へと変わる。心なしか膝の上に乗っていたオコジョもうんうんとやっと気づいたかって様子を見せている。たくっ、こんな簡単な事で悩みやがって……お前らもなんだよその顔? 黙って漫画読んだり酒飲んだりゲームしてろ!

 

 

「良いか? 禁手は自分が何をしたいか、何でありたいかを表現するものだ。言っちまえば自己中心的な我儘を貫き通せって事だよ。お前は()()()()だ。俺を呼ぶために対価としてチケットを用意するだけの半端なものじゃなく、ガチで周りを笑顔にさせてた根っからのアイドルだ。だったらそれを突き進めばいい、影龍王も惚れるアイドルを目指しやがれこのやろー!」

 

「はい! ありがとうございます悪魔さん!」

 

「全く、こんな事で悩みやがって……んで水無瀬ちゃん? その表情は何かな?」

 

「ふふふ、何でもないですよ」

 

「……」

 

「ひゃん!? だ、だからいきなり胸を揉まないでくださいぃ!」

 

 

 なんというか「私、分かっていますから」と言いたそうな水無瀬にムカついたのでおっぱいでも揉んでおこう。うん! やっぱり柔らかいし良い弾力だ! もうあれじゃねぇかな……水無瀬のおっぱいの弾力をした巨大マシュマロでも作ってキマリス領の名産品にでもすればいいんじゃね? 商品名は「水無瀬ちゃんのマシュマロおっぱい」とかそんな感じで良いだろう。買うな! 絶対に買うわ! 最悪マシュマロじゃなくてプリンでも良いから親父にちょっと相談してみるか……! 自分の領地の事を考えるなんてなんて良い次期当主なんだろうか!

 

 そんな事を考えながら水無瀬のおっぱいを揉んでいると調子が戻ったらしい橘様から笑顔で呼ばれたのでそっと胸から手を離す。やっべぇ……もうちょっと落ち込んでいた方が良かったんじゃねぇかな?

 

 そのまま橘に説教を受けていると扉をノックする音が聞こえた。どうやらもう時間のようだ……と思いきやまだ少しだけ時間はあるので普通の来客らしい。

 

 

「ほっほっほ。来てやったぞ小童よ」

 

 

 扉を開けると髭を生やした爺さんと褐色の黒髪美少女が立っていた。ラフな格好をしているとはいえ感じる力の波動は流石主神様ってか? てか隣の女の子は一体どちらさんかねぇ……なんというか初対面で殺気を向けられると思わず殺したくなっちゃうからやめてほしい。そもそもなんで――駒王学園の女子制服を着ているんだ?

 

 

「主神様か……なんですか? 激励の言葉でも言いに来たとか?」

 

「なに、頼まれておったものを届けに来ただけじゃわい。アザゼル坊は仕事でおらんしのぉ、わししかおらんかったのよ」

 

「……頼まれていたもの?」

 

 

 チラリと隣に立っている褐色女を見る。背丈は俺より少し低い、胸は夜空並みに壁だけど黒髪がすっげぇ綺麗。膝裏まで伸びてるけど大丈夫? 長髪って手入れが大変って橘が言ってたけど見た感じ、その辺を意識しているとは思えねぇんだけど。だって目に生気宿ってねぇしな。エロ漫画とかでよくある事後の女がしている目って感じだな。まぁ、そもそも感情有るのかどうかすら怪しいがそれよりも何故か後ろにいる平家がうわぁって感じで俺と褐色女を見てるけど……まさか、な! まさかねぇ! なんというか俺も主神様が頼まれた物を届けに来たって聞いてそれしか思い当たりません!

 

 

「お、おい主神様……まさか、まさかとは思うがそれ、それってあれか?」

 

「そうじゃよ。お主が頼んでおったグラムの()じゃ」

 

 

 主神様のセリフの後、もう一回だけ褐色女を見る。うん、どこからどう見ても女にしか見えねぇんだけど鞘って何? 鞘って人型でしたっけ? 俺が想像してた鞘ってさ、刀身を覆うものなんだよ……こんなのを鞘って言われてはいありがとうございますってならねぇだろ!? た、確かに獅子王の所の神滅具は人型になってるけどこいつもなのか? いやいやいや! 三大勢力と北欧と京都には悪いが馬鹿じゃねぇの!?

 

 

「……鞘って何スカ? あの、俺の目にはすっげぇ美少女が映ってるんすけど……王様? 何頼んだんすか?」

 

「普通の鞘だよ……えーと平家」

 

「事実だよ。この子……ううん、これは魔帝剣グラムに間違いない。あと見た目は女の子だけど性別は()()みたい。性別グラムって感じかな。しょーじき私もビックリしてるからそっとしておいて」

 

 

 まさかの性別無し! いや剣なんだから当然か……試合前なのに頭が痛くなってきたんだが帰っていいかな?

 

 

「あのさ、頼んでおいてあれだけど俺は普通の鞘を作ってほしかったんだけど? なんで女の子型にしちゃったか分かるように説明してほしいんですけど……?」

 

「それに関してはアザゼル坊に文句を言うがよい。バアルの小僧の近くにおる神滅具も人型じゃろ? だったら同じくしようぜとのぉ~ほっほっほ! わしも八坂姫もノリノリじゃったわ。しかしのぉ……小童よ、大半はお主が原因よ」

 

「……は?」

 

「お主、魔剣を粗末に扱っておったじゃろう? それがどうも屈辱じゃったようでなぁ、雑に扱われない鞘と剣になりたいとグラムらが望んだようでな。他にも理由があるようだが一番の理由としては間違いないの」

 

 

 高笑いしている主神様が言うには材料になった魔剣四本とグラムが雑に扱われ過ぎてちゃんと扱ってもらえるように一致団結した結果がこれ(美女化)らしい。まぁ、アザゼルとか魔王様達の見解では俺が使用した騎士の駒が変異の駒だったんじゃないかとか俺の周りに女が多いから自分も愛されたかったからとか言ってるようだけど……馬鹿なんじゃないの? ちなみにこいつ(美少女鞘)は数日前には完成していて今日までは不具合というか暴走とかしないかを確かめるために動作確認もどきをしてたそうだ。ちゃんと戦えるし普通の剣にもなれるようだけど……とりあえず馬鹿なんじゃないの? あと調べたら俺の「騎士」として登録されてました! もう馬鹿なんじゃねぇかな? 後でアザゼルはおもいっきり殴る。

 

 当然だがそんな事を聞かされた俺の後ろの方々は呆れていた。何人かは「魔剣までライバルになっちゃいました」とか「ノワール君……魔剣まで守備範囲だったなんて……」とか言ってるけど違うからな? 夜空一筋! 夜空にぞっこん! 夜空以外に興味なし!!

 

 

『――ワが王ヨ』

 

 

 うわっ、こいつ話せんのかよ? いや意思があるから当然か……えー? 話す鞘とかいらねぇんだけど! というよりも声ぐらいは男か女かハッキリさせてくれない?

 

 

『ワレら、伝説のマ剣なり。このスガタならバあのヨウな扱いはしナイだろう』

 

 

 日本語を覚えたての外国人並みにちょっと聞き取り難いがこれなら雑に扱わないだろうって言ってるんだろうな。

 

 

「いや、扱うけど?」

 

『――ナゼだ? 王はオンナに弱い、我ラ魔剣はそれをミていた。ゆエにこの形へと変イしたのダ。伝説と呼バれし我らを丁寧にアツカえ』

 

「やだよめんどくせぇ……てか本当にグラムか? 中身が違うとかじゃなくてマジでグラムなら一回剣になってみろよ」

 

『御意』

 

 

 目の前の褐色女が輝いたかと思えばいきなり剣へと変化していた。見た目は完全に今まで使っていたグラムそのもの、今まで外気に晒されていた刀身には鞘がついている――わけがなく、普通に刃が丸出し状態。でもなんだろうな……前までよりもヤバい感じがする。だって今までは触れなくても呪いを放ってきてたのに全く呪いを感じないんだもんな……相棒もガチで笑ってるし多分当たってるだろう。

 

 グラムに戻っていいぞというと再び褐色女の姿へと変わる。あぁ、マジでこの姿が鞘なのね……もう分かった! もう驚かないし認めてやろう!

 

 

「……はぁ、悪魔の駒なんて使うんじゃなかった。良いか、俺らしいし! えっと、ありがとうございました。思っていたものから結構離れてますけど無事に鞘が手に入りました。感謝します」

 

「よいよい。しかし気を付けて使うんじゃぞ? それはグラムでありグラムでない。今までと同じと思っておると死ぬからのぉ」

 

「分かってる。そもそも龍殺しの呪いがある以上は相性最悪だしな……まぁ、それでも受け入れてやるけどよ」

 

「お主の良い所はそれじゃ。懐の広さと貪欲さは歴代影龍王の中でも一番、今日のゲームを期待しておるぞ。グラムのお披露目にはもってこいじゃしな」

 

 

 ほっほっほと笑いながら主神様は部屋から去って行った。さてと……どうすっかなぁこれ!

 

 

「――グラム」

 

『なンだ?』

 

「俺に従う気有るか?」

 

『我を使うに値するモノ、あのようナ扱いをしナイのであればいかなる指示デあれ従おう』

 

「了解。んじゃ、これから獅子王眷属とのゲームだ、正直……俺も含めて全員がお前の実力が分からねぇ。だから出番を作ってやるからその姿の強さを見せてみろ。それによっては丁寧に扱ってやる」

 

『了カイした。我がナはグラム。同胞の意思ヲ継し魔剣の帝王なり』

 

 

 その場で跪いて忠誠を誓う事を示し始めた。しっかし同胞の意思を継しねぇ……まさかチョロイン四本の意思もあるとかじゃねぇよな?

 

 

「……まさか魔剣が美少女化するとは思わなかったっすわ。やっぱりここはおもしれぇ!」

 

「にしし! 良いじゃん良いじゃん! 私は好きだよ、こういうのはさ!」

 

「伊吹が良いなら私も良い」

 

「わ、私も問題無いです! アイドルたるもの魔剣さんとも仲良くできないとダメですから!」

 

「アイドル関係あるんですか……? 私も部屋の端っこに置いてあるよりは良いと思いますよ。掃除とか楽ですし」

 

 

 約一名ほどお母さんのような発言をしてるがどうやら美少女鞘状態のグラムを歓迎してるようだ。ちなみに来ている服装は俺達が今着ているものと同じく強化された駒王学園の制服みたいだ。どこから用意したんだか……別に良いけどさ。

 

 そんなこんなで時間になったのでキマリス眷属専用の入場ゲートまで移動する。俺達がこれから獅子王と対決する場所はルシファー領内にあるかなりデカいスタジアムだ。観客は他と比べるとかなりの数が入れるし俺と獅子王の対決のために同盟を結んでいる神話体系や三大勢力の技術を用いて耐久性をかなり上げてるらしい……もしそれをぶっ壊したら面白そうだよなぁ!

 

 

「さてと、色々と驚いたことが起きたけどさ……お前ら、行くぞ」

 

 

 おー! と全員が気合を入れてゲートを潜る。目に見えるのは大量の観客と長い階段、その先には俺達の陣地があるんだろう。しっかし……反対側のはずなのにここまで覇気を飛ばすとは獅子王ちゃんったらやる気満々じゃねぇか! 良いねぇ! そういうのは俺は大好きだ!!

 

 

『来ました! 影龍王、ノワール・キマリス選手が率いるキマリス眷属の入場です!!』

 

「うっへ……大歓声っすね」

 

「五月蠅い……帰りたい」

 

「早織……頑張ってちょうだい。ねっ?」

 

 

 長い長い階段を昇っていくと人数分の椅子(グラムを含めた数)とテーブルが置いてあるのが見える。もう少し先に進んだところにはまた階段があり、台のようなものがある。これは……やっぱり特殊ルールはダイス・フィギュアで決まりだな。

 

 上空には観客も見やすいように凄くデカいモニターが展開されており、イヤホンマイクを付けたド派手な衣装の男が映し出されている。その横には見覚えがあるお二人が居るんですけど……気のせいですかね? 片方はまぁ、分かるけどもう片方! てか何してんだよお前!? なんでそこにいるんだよ!? 今日はいったいどれだけ馬鹿じゃねぇのって言えば良いんだよ!!

 

 

『ごきげんよう! 今回のゲームを実況させていただく元七十二柱、ガミジン家のナウド・ガミジンです! ようやく始まりました! 若手最強! サイラオーグ・バアル選手率いるバアル眷属と歴代最強の影龍王ことノワール・キマリス選手率いるキマリス眷属の対決! 実況を担当させていただく私もワクワクしております! さて今回のゲームの審判役はルシファー眷属の女王! グレイフィア・ルキフグス様! そして解説役として堕天使の総督、アザゼル様と……光龍妃こと片霧夜空様です!!』

 

『……当ゲームの審判役を受け持ちますグレイフィア・ルキフグスです。どうぞよろしくお願いします』

 

『どうも。アザゼルです。正直、隣にいる規格外系美少女が何をしでかすか分からなくて帰りたいですね。おい光龍妃? なんだってここに居やがる……? アジュカはどうした?』

 

『ん~? 変わってって言ったら良いよって言ってさ、どっか行った! あっ! ノワールぅ!! やっほぉ~解説役してやっから楽しませてねぇ? てかさぁ~解説って何すればいいん?』

 

『あの野郎……! 一人だけ逃げやがって! ええい! 解説は俺がやるからお前さんは黙ってキマリスでも見てろ! えー、皆さん。くれぐれもこいつを捕まえるような行動をしないでください。死にます。普通に消されますのでどうか普通に楽しんで見ててください』

 

 

 アザゼル……ドンマイとは言わない。ザマァとは言ってやる! あははははははは! グラムの鞘をまともなものにしなかった罰が当たったんじゃねぇの? 胃薬用意して自由人な夜空に振り回されればいいさバーカ!! あははははは! ざまぁ! マジざまぁ!!

 

 俺の背後にいる犬月達も解説役の席に座る夜空を見て絶句してるようだ。そりゃそうだ! これから楽しい殺し合いをしようって時に究極の自己中であり規格外な夜空が居るんだぞ? 言葉を失うわ! ちなみに俺も絶句して引いてるからな? お前帰れ……とは言わないがこっちこい! 俺の女王として出場しろ!

 

 

『あれぇ? まぁ~た変なのが居るんだけど? ちょっとノワール! あんた節操無し過ぎない? 女なら誰でも良いん?』

 

 

 お前以外に興味無いのでそんな事を言わないでください。

 

 

「ふざけんな! 俺だってなぁ……普通なのを期待してたんだよ! 文句は全部隣にいる元凶に言え!」

 

『えー失礼。ちょっと私語を挟みます。おいおいキマリス、元はと言えばグラムを含めた魔剣五本を雑に扱ってたのが原因だぞ? 確かに俺はサイラオーグの兵士の様に人型にしようぜとは言った! でもな、それを決めたのはそいつだ。これを機に丁寧に扱ってやれ』

 

『グラムぅ? へーふーんほーへー。ちょっと堕天使、一発ぶん殴っていい? なんかムカムカしてきた』

 

『死ぬからやめてくれ。何も分からない会場の皆さんにご説明しましょう。ノワール・キマリスと共にいる褐色肌の黒髪美少女ですが奴が手に入れた魔剣の帝王と称されるグラムです』

 

『な、なんとぉ!! キマリス眷属の中にいる見慣れない人物は魔剣のようです!! アザゼル総督! どういう事でしょうか!!』

 

『えぇ。事の始まりはノワール・キマリスがグラムの鞘を探しているというものでして……あれは馬鹿です。イッセー以上の馬鹿なんで他にも手に入れた魔剣四本を材料にして鞘を作ろうって発想に至りました。馬鹿ですね。そして何よりも恐ろしいのは鞘の作成に悪魔の駒を使用した事です。三大勢力、北欧、京都の技術を使って作り出した……いや違うな、魔剣五本の意思を悪魔の駒が拾い上げて形にした存在とでもいうべきか。いわば彼女は魔剣の帝王であり、キマリス眷属の騎士でもある存在というわけだ』

 

『なるほど! サイラオーグ選手の兵士も神滅具とのことですが同じ存在……というわけですね!』

 

『そうですね。もっともサイラオーグの兵士は神滅具のせいか常時不安定だがあっちは魔剣、暴走などはしない。まぁ、何かあってもキマリスが止めるから大丈夫だろ』

 

 

 この野郎……人の事を馬鹿っていうんじゃねぇよ? 普通だろ! 誰だって思いつくだろ!

 

 

『開始前から面白い事を聞けて私! 興奮しております! さてそろそろ進行をしないと観客の皆さんから怒られちゃいそうですので進めたいと思います! まずはフェニックスの涙についてですが禍の団の連続テロによって需要が跳ね上がりました……しかし! フェニックス家のご厚意によって両眷属に一つ、配布することができます! 本当にありがとうございます!』

 

『ノワールには必要ねぇから二個ともバアルにあげればいいのにねぇ』

 

『光龍妃、お前さんは喋らなくていい。口を閉じてなさい、お菓子上げるから。なんなら好きなものを頼みなさい』

 

『うっそマジで!? なんだよぉ~堕天使の癖にやっさしぃじゃん!』

 

『……え、えーと続けます! 今回のゲーム内容ですが両眷属が一つのフィールドを駆け回るタイプではなく短期決戦で決めるものとなっております。気づいている人もいるでしょうがそう! ダイス・フィギュアです!』

 

 

 実況の男の指示に従い、俺は台の所まで移動する。そこで会場の方々に分かるようにダイス・フィギュアの説明が始まるが俺達にとっては二回目だし聞き流しても良いな……というよりも解説役の席に座ってる夜空が気になりすぎて言葉が耳に入ってこねぇ。いやぁ! なんで居るんだろうなあいつ! 確かに乱入されないようにしてやんよ! って感じで言ってたがまさかあの場所に居るとは思わねぇって!

 

 ちなみに王の駒価値は俺も獅子王も「12」だ。当然と言えば当然……か? あと今回は連続出場は無理らしいがこの辺もどうでも良いな。

 

 

『ではここで今回のゲームにおける特別ルールをご説明しましょう。まずサイラオーグ・バアル選手の兵士、レグルス選手の扱いですが両眷属の王が全力で戦う事を望んでいること、レグルス選手が不安定であることを考慮し、レグルス選手はサイラオーグ選手の()()として扱う事が出来ます。仮にダイスの出目の合計が「12」としましょう、本来であればサイラオーグ選手が出場となれば他は出られません! しかしレグルス選手に限り共に出場することが許可されます! しかし条件としてその際ですがレグルス選手は「兵士」として扱われません! あくまでサイラオーグ選手の神器として扱われます! 分かりやすく説明させていただきますと兵士の駒の特徴である「昇格」を行う事は出来ません。しかし本来の姿で戦う事は問題ありません! あくまで「昇格」を行えない事だけを覚えておいてください!』

 

 

 なるほど……そうきやがったか。まぁ、確かに元が神滅具なら「兵士」として扱うよりも獅子王の神器として扱った方が色々と楽だし周りも盛り上がるだろう。となるとバアル眷属は王、女王、戦車、騎士、僧侶の面々で戦う事になるから数的には結構互角だな。

 

 

「配慮感謝する。俺もレグルスを単独で出場させる予定は無かった。神器であるためか酷く不安定でな……唯一制御できる俺が傍に居なければ危険だからな。しかし……俺の神器として扱うか! これならば影龍王殿と本気で戦える!」

 

「こっちとしてもありがたいわ。文句を言わなくても済んだしな……あー審判役?」

 

『はい! なんでしょうか?』

 

「うちのチョロイン筆頭……あーいやグラムだがついさっき受け取ったばっかりで獅子王の兵士と同じく本当に安全に戦えるのか俺も分からん。だからこいつが暴走したら俺が止めるし、その試合は負けで良い。あとこいつ(魔帝剣グラム)は一回しか出場させない。覚えておいてくれ」

 

『分かりました! キマリス眷属の騎士、魔帝剣グラム選手は一回しか出場しないですね!』

 

「あぁ。原理的には獅子王の兵士と似たようなもんだしな……というわけだ、グラムと戦えるのは一回だけだが良いよな? 北欧の主神様も大丈夫とは言ってたが勝手に暴れられて台無しにされたくねぇしよ」

 

「構わぬ。レグルスと同存在ならばその苦労が分かるのはこの場では俺だけだ。異論はない」

 

『ハなしが違ウぞ? 堕天シの総督はたのシく戦えるとイっていた。何故いチどしかたたカえん?』

 

「俺の所にやってくるのがおせぇんだよ。ちなみに拗ねて手を抜きやがったら前以上に雑に扱うから覚えておけよ?」

 

『ヌぅ!』

 

 

 背後から殺気を飛ばして抗議してきやがったが無視だ無視。別に普通の鞘にならなかった事に文句を言いたいからじゃないよ? 危険だからね! 仕方ないね!

 

 

『ではそろそろ試合を開始しましょう! サイラオーグ・バアルチームとノワール・キマリスチームのレーティングゲームを開始します! ゲームスタート!!』

 

『それでは両「王」の選手はダイスを振ってください』

 

 

 審判役の指示に従って俺と獅子王はダイスを振る。互いの出目が巨大モニターに映し出されると俺が「3」で獅子王が「3」となっていた。つまり出目の合計は「6」だから俺達だと四季音妹単独か騎士と僧侶、兵士の組み合わせか……どうすっかねぇ。

 

 実況役が俺達の出目を声高々に宣言して誰が出てくるのかと煽り始める。実況慣れしてねぇかこいつ……? まさか名実況者とかじゃないよな? 審判役から選手を決めるのは五分、それまでは各陣営の周囲を結界で覆われるなどの説明が入る。勿論平家対策で読心系の能力も無効化されるらしいが別段問題ねぇな。

 

 

「6っすか……俺はいつでもいけますよ!」

 

「だったら出て良いよ。私は出たくない」

 

「早織……もうっ、ちゃんとしないとダメですよ? あの、ノワール君……私もいけますよ」

 

 

 普通に考えて出目の合計が「6」なら犬月と僧侶、騎士の組み合わせで投入するのが普通だな……四季音妹単独でも問題ねぇがなんか普通すぎて面白くねぇ。そんじゃ宣言通りに行ってもらおうかね!

 

 制限時間が終わり、俺が選んだ選手が別空間に作られたバトルフィールドに転送される。どうやら毎回ランダムでフィールドが選ばれるみたいで今回は森林地帯のようだ。なんだよ……毎回変わるんなら考えてた戦略が出来ねぇじゃねぇか……しゃーねぇ! 別の事を考えるとするかね。てかコイツを選んだ時にうん知ってたって感じで見られたのがちょっとイラってした……なんなんだよ水無瀬も平家も四季音姉も! 俺ってそんなに分かりやすいか?

 

『第一試合の出場選手がフィールドに到着しました! ノワール・キマリスチームからは……なんとぉ! 魔帝剣グラム選手! しかも一人です! 対するサイラオーグ・バアルチームからはラドーラ・ブネ選手! こちらも一人です! まさかのタイマン勝負! これは目が離せませんよぉ!!』

 

 

 俺が選んだのはついさっき加入したばっかりのチョロイン筆頭(魔帝剣グラム)。なんせこいつがどこまで戦えるかは俺も分からねぇしさっさと出番与えて引っ込んで貰わねぇと困るんだよ……運良く「3」以上が出たから()()が出ない一人で出場させたけどまさか相手も一人とはねぇ。まぁ、読みやすかったよなぁ……あんだけ堂々と言ったんだ。俺の事を知ってる奴なら簡単に読まれるか。

 

 目の前のモニターには褐色肌の黒髪美少女とひょろ長い男が向かい合っている。なんというかガリガリって表現できる奴だ……ちゃんと飯食ってんのか?

 

 

『我、魔テイけングラムなり。汝ガなを名乗ルがいイ』

 

『ラドーネ・ブネ。元七十二柱、ブネ家の血を引く末裔だ。今回の戦い、我が主に許しを得てこの場に参上した――魔帝剣グラムとの一騎打ちをするために』

 

『了解シた。汝からドらごんのにオいがする。ワガ王から一度シか戦エぬため――全力で殺してヤろう(愛してやろう)

 

 

 チョロイン筆頭(魔帝剣グラム)は美少女顔なのにも関わらず酷い(良い)笑顔を浮かべて自らの片腕を()へと変えた。服の袖で良く分からないが恐らく肘先からは全て剣の刃だろう……なるほどな、戦う術を持っているとは言ってたが自分の体の一部を刃に変えれるってわけか。そりゃあ、材料になったのは魔剣だもんな! にしても相手が元七十二柱とはねぇ、確か獅子王眷属の中には俺と同じで混血で断絶した奴らが居るみたいだけどよく見つけたな? 殆どは人間界の秘境やらに隠れてるっぽいのに……ブネ家は悪魔でありドラゴンでもある特殊な一族だってのは知ってるがマジでそうなのか?

 

 俺の疑問に答えるようにガリガリ君の体がムキムキに膨れ上がっていき、姿を変えていく。鋭利な爪、雄々しい翼、そして尻尾……そう、ドラゴンだ。

 

 

『うっわ! ドラゴンだよドラゴン! すっげぇ!! あーでも雑魚だわ。なんだよビックリして損したじゃん!』

 

『そりゃお前さんに比べたらそうだろうよ……にしてもサイラオーグの奴、思い切った事をしやがって』

 

『うんうん。そりゃあさぁ! ノワールって分かりやすい性格してっけど本気でドラゴンぶつけてくるなんて良い性格してんじゃん。ポップコーンうんめぇ~!』

 

『……ねぇこれって経費で落ちない?』

 

『落ちません。し、しかしお二人はノワール選手がグラム選手を選ぶ事を分かっていたんですか?』

 

『うん。言ったっしょ? 一回しか出さないって。ノワールって自分の眷属大好きだからさぁ~自分も安全か危険か分かんねぇ奴を一緒に出すわけねぇの。だから3以上が出た時点で魔剣を出すのはとーぜん、そこで勝とうが負けようが関係ねぇって感じなんだよねーどうどう? 当たってるぅ? ちょっとノワール! こっちむけー!!』

 

 

 お前は黙ってアザゼルの財布と貯金をすっからかんにするまで食べてなさい。

 

 

「……王様、グラムって確か龍殺しの呪いがあるんすよね? 分かってたんならなんでドラゴンを出してきたんすか?」

 

「今後のためだろ」

 

「へ?」

 

「龍殺しなんざ滅多に見られるもんじゃねぇ。脅威を知っているのと知らないのとじゃ戦い方も変わってくる……だからチョロインが出てくるのを分かった上であいつを出してきやがったんだよ。龍殺しの恐ろしさを体験させるためにな」

 

 

 もっともあの感じはここ最近になって変化が出来るようになったっぽいけどな。龍のオーラがかなり低いしもっと鍛錬してからにしても良かったんじゃねぇか? あと構ってもらえないからって叫ぶなばーか! あとで遊んであげるから黙ってなさい!

 

 

『――いザ、勝負なリ!』

 

 

 チョロイン筆頭(グラム)の姿が消え、元ガリガリ君の足先を片腕を変化させた刃で切り裂いた。見た感じ、騎士の駒の特徴である速度も反映されてるっぽいな……しかもあの形、ノートゥングか?

 

 

『速い! しかし龍の呪いとやらが無いぞ! 帝王と称された魔剣の名が泣いているのではないか!!』

 

『戦いはハじまったばかリよ、焦ルでない』

 

 

 周りに生えている木々を利用して高速で移動しながら元ガリガリ男を翻弄している。確か相手は戦車だったはずだから攻撃力と防御力がかなり高いはずなのに何でもないように斬ってるなぁ……まぁ、回転して威力を上げてるんだろうけどなんでそんな戦い方を普通の「剣」だったお前が知ってんだよ?

 

 元ガリガリ男も斬られ続けるだけではなく辺りの木々を破壊してダメージを与えようとしている。下級ドラゴンと言えども戦車だから一発を受けたらまずアウトだろう……さてチョロイン筆頭(グラム)、お前はどう戦う?

 

 

『カたいナ』

 

『俺はサイラオーグ様の戦車! そう簡単には負けんぞ帝王!!』

 

『ならばコれなラどうよ』

 

 

 変異していない片腕を刃へと変え、高速で元ガリガリ君に接近したチョロインは回転しながら足首を切り裂くと同時に氷の柱を生み出した。あの能力はダインスレイブの……ドラゴンの鱗すら切り裂いた刃はノートゥング、そんでダインスレイブときたら残った二本の魔剣の力もあるっぽいな。鞘にした影響か……? 確かにデュランダルもエクスカリバーの能力を使用できるってことは言ってたがまさかグラムもとはねぇ!

 

 氷の柱に足首を拘束された元ガリガリ男は雄たけびを上げて強引に抜け出した。さっすが戦車、やることが派手だねぇ!

 

 

『これが魔剣の力か! だがこの程度ぉ! 俺は……俺はサイラオーグ様の夢を! 未来を共に進む! その程度では……止まらんぞぉ!!!』

 

 

 口から龍のブレスを吐きだし、チョロイン(魔帝剣グラム)を捕らえようとするが騎士(ナイト)特有の速度で範囲外まで移動して回避する。でも妙だな……さっきから手探り感がありすぎる。まるでどこまでやれば壊れないかと確かめる職人のような……あぁ、そういう事かよ。たくっ、余裕じゃねぇか。

 

 回避されたと認識した元ガリガリ男は翼を広げて空を飛び、上空から一気に地上にいるチョロイン(魔帝剣グラム)に拳を叩き込もうと急降下した。あの巨体だ……躱さねぇと大ダメージだろう――もっとも躱す必要すらないようだけども。

 

 

『――な、に』

 

 

 ドスンッと轟音が鳴り響いた。上空から急降下をしたんだから地面に激突するのは当然……でも地面に激突したような音が()()響き渡った。元ガリガリ男は一人、分裂なんてしたわけじゃない。ならグラムが吹き飛ばされたからと思うだろうがそれも違う……なら何故か? 答えは簡単だ――

 

 ――ラドーネ・ブネの片腕が見事なまでに切り落とされたからだ。

 

 

『すマぬな、このかたチになって殺しをシたことがナい。加減がワからぬ状態だッた。全力でヤってモ良いのか。詫びよウ、愛すべきドラゴンよ』

 

『……ぐぅぅ!! まだだぁっ! 片腕が切り落とされようと俺は止まらん! 拾っていただいた恩を返すまで! 夢を共に見るために勝たねばならんのだぁ!!』

 

『知らぬ』

 

 

 向かってきたドラゴンの足元に一瞬で移動して高速回転しながら片足を切り落とす。その姿はまるで舞っているような印象を持たせる綺麗な動きだ……顔がヤバいけど。

 

 

『汝ラのゆメなど知らぬ。ワレらは魔剣として使われルためだケに此処にイる。汝にハ分からぬだろう……伝説と称サれたワレらが味わった苦しみを……! 鞘がナいというリゆウで踏みつけられ! 投ゲすテられ! 邪魔と言われホウちされる! 何故ワレらがあのヨウな目に合わねばナらぬ!! 抗議をしタ! しかし帰ッてきた答えはゴみのようニ雑に扱われたのダ! 帝王と称されたワれが何故だ!!』

 

「ノワール、あんな事を言ってるけどどうするの?」

 

「知らん。だってマジで鞘無かったし邪魔だったんだもん」

 

「……あの魔剣は泣いて良いっすよ? てかあれ、泣いてません?」

 

 

 気のせいだ。

 

 

『シかし! 剣として使わレるだろうと我慢をシた! だが……我が同胞を! 兄弟ヲ! ワが鞘のザいリョうにしようというアクマの所業にハ耐えられん!! ユエに我らの答エは決まった!! わレらが一つとナりて我が王の剣とナる! いーヴぃるピースとやらが応えてクれた! 叶えてくれた! 女のスがた()ならばあのヨうな扱いはナイだろうと我ラは至った! 汝ハただの踏み台ヨ、我らガ願いを叶えるタメのナ!』

 

 

 すっげぇカッコいい事を言っているようでかなりダメな発言をしてるっぽいのは気のせいか? てかなんだよお前ら……その視線は? いやいや待て待て! 確かに雑に扱った! 遠くに投げたり放置したり踏みつけたりダーツごっこしたりしたよ? でも結構丁寧に扱った方だぜ? なんでそんな目で見られねぇとダメなの?

 

 てかあいつ、やっぱり魔剣四本分の魂を受け継いでんのかよ……しかも全員が「剣」として扱われることを願ってるって馬鹿なんじゃねぇの? もっと違う事を願おうぜ!

 

 

『愛スべきドラゴんよ! 汝の気迫、しカと見届けた――では消えるガいイ』

 

 

 片腕の刃に極悪な龍殺しの呪いを集めたグラムは酷い笑顔のまま元ガリガリ君を一閃。その一撃により全身に呪いの波動が散らばって巨大な体から鮮血が飛び散った。かなりのダメージと判断されたのかリタイアの光に包まれてフィールドから消えていったが……なんか、ごめん。うちの鞘が変なこと言って本当にごめん。まぁ、そんな終わったことは置いておいてだ……あの状態でも龍殺しの呪いも放てるのね。見た感じ、グラムを含めた魔剣五本の力を行使可能な動ける鞘って感じだな。うーん、見た目美少女だけどさぁ……顔ひでぇ! もっと笑顔の練習した方が良いぞ?

 

 

『――我は魔剣の帝王であり、龍を愛する(殺害)モノなり』

 

 

 血の雨を浴びて笑う(グラム)はまさに魔剣の帝王と呼ばれるに相応しい姿だった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

65話

『初戦を制したのはキマリスチーム! 魔帝剣グラム選手の初陣は見事に勝利で終了しました! ノワール選手の宣言通り、グラム選手はリタイアと同じ扱いさせていただきます! しかしお姿を見ていたいという方もいらっしゃるかもしれませんのでキマリスチームの陣地で待機していてもらいましょう!』

 

『我がオうよ! ドうだ! 見たか! わレらの力を! コれでモなお雑に扱うか!』

 

 

 バトルフィールドから戻ってきた血だらけのチョロイン……いやもうグラムで良いや。グラムは満面の笑みを浮かべながら「どうだ凄いだろうこれからは丁寧に扱うだろうな!」って感じの事を言いながら近づいてきた。近寄ってくるな生臭い……血の匂いが酷いんだよ! 絵的にあれなのか運営側からタオルが転送されてきたからさっさと拭いてくれ! てかなんだろうな……今のこいつ(グラム)の感じはまるで構って構ってと言ってくる平家みたいで気持ちわりぃ。きっと尻尾が生えていたらブンブン揺らしている事だろう……てか戦闘中は回転したり派手に動き回ってたからスカートの中が丸見えだったけどなんで女物のパンツ履いてるんだよ? 見た目は美少女だけど性別が無いはずだろ? というよりも服の下ってどうなってるのか地味に気になってきた……男の象徴が生えているのか? それとも女の証があるのか……? まさか両方!? ちょっと見たいから帰ったら全裸にさせてみるか!

 

 

「変態」

 

 

 俺の心を読んだらしい平家が俺のケツにキックをしてきた。いやだって気になるだろ? てかお前は初対面の時点で分かってんだからさっさと教えなさい。抱き枕にしてあげるから。

 

 

「ヤダ。めんどい」

 

 

 この野郎……! その顔は絶対に知ってるけど教えませんって感じだな! いいもんねぇ~! このチョロインに命令して自分の目で見るから!

 

 

 

『我ガ王よ! キいてイるのか! ワレらのちかラを見たであろう! どうだ! こレが伝説と称サれたわレラの力よ!』

 

 

 ぐいっと俺の顔を覗くように近づいてきた。うーん……マジで褐色肌の美少女なのに中身が魔剣なんだもんなぁ! もったいねぇ! そもそもなんでその姿になれば丁寧に扱ってもらえると思った? 実際にその通りだからムカつくなぁ! 畜生……美少女には勝てねぇ! と思っておけばいいか? 普通に雑に扱う気満々だけど黙っておこう。

 

 

「はいはい聞いてるよ……凄い凄い、わーよくやったなーよしよしー! 仕方ねぇから前よりはちゃんと扱ってやるよ」

 

『そうダろウ! ソうだろう! 我らヲホめたたエるが良い!』

 

「うっわ、チョロイな」

 

「マジでチョロイっすね……これ、適当に褒めてたら良いんじゃないっすか?」

 

「だな。よっし! こいつの扱い方も分かったし次行くか!」

 

 

 水無瀬と橘の二人に髪や体を拭かれながら満足そうに頷いているチョロインを放置して俺は再び台の所まで移動する。向かい側にいる獅子王はやられた! って感じではなく流石だなと言いたそうな表情だ。なんというか獅子王の中では「俺が獅子王に挑む」じゃなくて「獅子王が俺に挑む」ってなってたりしない? 若手最強に俺が挑むんだからその辺を間違えないでほしいです!

 

 

「とりあえず一勝させてもらったぜ? いやぁ、まさかあのチョロインが出てくることが分かってなおドラゴンを出してくるとは思わなかったわ」

 

「これはゲームであると同時に俺達がさらなる高みへと進めるかが決まる大事な一戦だ。ラドーラも龍殺しの恐ろしさを体験し、さらに強くなるだろう。あいつはそういう男だ。さて影龍王殿! つぎの試合を始めよう! 観客も早く続きが見たいと言っているからな!」

 

「そうかい。だったら次も勝たせてもらおうかねぇ」

 

 

 審判役の指示により俺達は再びダイスを振る。俺が「1」で獅子王が「6」、それが空中に浮かぶ巨大モニターに映し出された。出目の合計は「7」か……なんとも微妙な数だなぁ。俺の方はチョロインが出られないだけで犬月達は出られるがあっち側もまた同じ。戦車が一人減ったとはいえまだ数は多い……どうするかねぇ!

 

 実況役が俺達の出目を大きく宣言して誰が出てくるのかと煽って観客を盛り上げている。まぁ、解説席に座っている夜空はどれも興味無いとばかりに大量の飯を食ってるけどね! アザゼル……財布の中身も貯金もマジでなくなるぞ? ざまぁ!

 

 

「悪魔さんが1、相手の方が6で合計は7……どうしましょうか?」

 

 

 椅子に座って考え込んでいる橘が可愛いが実際問題マジでどうすっかなぁ……初戦はグラムって決めてたから良いが今回から考えねぇとヤバイ。出目の合計は「7」だから四季音姉単独で出場は無理か……出せれば多分余裕で勝利するだけどねぇ。まっ、ここで使うと誰が獅子王の女王を相手するって話になっちまうから出せたとしても温存するけどさ。つまり考えられる手はさっきと同じく四季音妹単独か犬月と水無瀬、橘、平家の三人から一人を選ぶ事か……あっちの持ち駒から考えて連続で戦車はまず無いだろう。なんせ攻撃力と防御力が売りの奴が初っ端から消えると残った奴らが辛いしね。もっとも俺なら連続で使用するけどな!

 

 まぁ、深く考えても仕方がねぇし……よしきーめた!

 

 

『それでは時間になりました! 出場する選手は魔法陣へと移動してください!』

 

 

 俺が選んだ奴らが魔法陣へと移動してバトルフィールドへと転送されていった。巨大モニターに映し出された場所は周りに何もない四角形の床があるだけの場所。なるほど、さっきみたいな木々が無いから純粋に直接対決できるってわけか……だったら好都合だ! なんせ俺が選んだ奴らにもってこいだしね!

 

 

『キマリスチームからはチーム一のツッコミ王! 兵士の犬月瞬選手と魅惑の黒姫! 僧侶の水無瀬恵選手です! 対するバアルチームからは元七十二柱であるクロセル家の末裔! 騎士のリーバン・クロセル選手と同じく元七十二柱であるアンドレアルフス家出身! 僧侶のコリアナ・アンドレアルフス選手です!』

 

 

 バトルフィールドには犬月と水無瀬の二人が敵と向かい合っている。獅子王側は軽鎧で剣持ちといういかにも騎士ですよろしくお願いしますって感じの金髪優男とスーツを着ている金髪美女。確か騎士の方は神器持ちだったな……まっ、データ上では禁手には至ってないっぽいから何事もなければかなり楽な方だろう。もし禁手に至ってた場合は……頑張れ。もっとも発動条件持ちの神器は攻略が楽だし大丈夫大丈夫! もう一人の方は確か氷系の攻撃が得意とか何とかだった気がする。だから反転させたら水になるから……それを受けてびしょ濡れからのスケスケですね! よっしゃテンション上がってきた!

 

 

『騎士に僧侶っすか……水無せんせー! 僧侶の方を任せても良いっすか?』

 

『はい! 瞬君も気を付けてください……相手側に神器使いが居ます。視線に注意してくださいね』

 

『ういっす! せんせーもびしょ濡れとかになっちゃダメっすよ? 王様が見たら喜びますしね……てか今更っすけどツッコミ王ってなに!? 俺の評判ってどうなってんの!?』

 

『うぅ……ぜ、絶対にびしょ濡れにはなりません!』

 

 

 水無瀬、そのセリフはフラグだぜ? お前の不幸体質さんを舐めてはいけない……だって相棒が同情するぐらいの不幸っぷりだしな!

 

 

『それでは試合を開始してください』

 

 

 審判役の声が響くと同時に、犬月と優男の姿が消える。昇格で「騎士」になって高速戦闘を始めたからだろうな……水無瀬も開始と共に禁手化して黒いドレスと液体時計を片手に金髪美女と戦闘を開始。慣れてない奴は水無瀬と金髪美女の二人しか映ってないように見えるだろうが俺達からすれば余裕で犬月達も見えている。相手の視線上に立たないように真横や背後に回って殴りかかっては剣で防がれている……妖魔犬状態じゃなくてもその辺の雑魚くらいは余裕で殺せるほど強くなってるな。流石俺の兵士、成長率がヤバいわ。

 

 

『妖魔犬を使わないのか? 逃げてばかりでは俺には勝てないぞ!』

 

『はっ! その程度の速度で威張ってんじゃねぇっすよ! うちには頭のおかしい王様が居るんでね! まだまだ上がるっすよ!』

 

『だったら追いつくまでだ!』

 

 

 優男は視線上の()()を操って犬月の動きを制限し始める。確か魔眼の生む枷(グラヴィティ・ジェイル)って名前だったか? 先輩の所の吸血鬼と同じく視界系神器の一つ、重力を操るという強力な能力を持ってるが視界に映した場所じゃないとダメだから対策されると途端に雑魚になる極端な神器だ。その能力を使用して優男自身が生み出して高めに放った氷を雨のように降らしている……犬月は軌道を読んで器用に躱しているが態々あんな風に使うって事は何か意図があるはずだ。

 

 

『ちぃ! 氷が邪魔くせぇ! せんせー!』

 

『はい! 行きます! 反転結界!』

 

 

 別の場所で戦っていた水無瀬が影を伸ばして降り注ぐ氷を水へと変える。固形から液体へと変化したことで犬月にはダメージを与えられず、犬月と地面を濡らすだけになった。ブルブルと風呂上がりの犬の様に体を震わせて水分を飛ばしてるけどさ……犬かお前は? あっ、犬だったわ。てかあっちはあっちで魔力合戦してるなぁ……金髪美女が放つ氷の魔力を反転、水へと変えて地面に落ちた瞬間に再度氷にって感じで辺り一面が凍りまくってる。周囲が暗いせいか地面が一種の鏡のようになって反射しまくってるけどさ……ちょっとカメラさん? 上から撮ってくれない? 水無瀬と金髪美女のパンツが見たい。うん? あぁ、なるほどね……水無瀬、やっちまったな。

 

 俺の予想通りに金髪美女が地面に氷の魔力を放ち、濡れているところを凍らせる。そして優男が不敵に笑ったと思えば目を怪しく光らせ――視線に映していないであろう犬月と水無瀬を重力で押し潰した。

 

 

『ぐえっ……!? なんでっすか!?』

 

『視界に映っては……まさか!』

 

『その通りだ。映っているよ? 凍った地面にね。氷のスペシャリストなら()の様に反射する氷を作ってくれると信じていた』

 

『難しいけどね。でもこれぐらいできなきゃバアル眷属の名折れよ』

 

『んなのありかよ!』

 

 

 ありだよ。魔力ってのは発想力次第で何でも出来るしな……さて、此処からどうする? このままやられるか?

 

 

『く、うぅ……重力、を反転、できれば……! きゃぁっ!?』

 

『おっとさせない! 性質を反転させられる貴方は先に倒さねばならない! カウンター系神器は厄介だからな!』

 

『これで終わりよ!』

 

 

 敵はどうやら禁手に至っている水無瀬を先に潰すことを決めたらしい。優男が水無瀬を重力で抑え、金髪美女が動けない所を氷の魔力で攻撃する。安定行動だな……仮に俺が敵だったとしたら性質を反転させられる水無瀬を放っておかねぇし誰だって同じことをするだろう。二人の顔はまずは一人って感じで勝利を確信している――でも残念、勝ってないんだよなぁ!

 

 氷に変化させた魔力が水無瀬にぶつかって土煙を上げる。映像でも確実に当たったと()()させるもので観客達もうわぁ! みたいな感じで叫んでいるけど……お前ら、あの場には誰が居ると思う?

 

 

『――いってぇ。こんなのせんせーに喰らわせるわけにはいかねぇっすわ』

 

 

 土煙の中から男の声がする。そして現れたのは水無瀬を押し倒すような体勢で守っている犬月(パシリ)だ。ダメージを受けたって言っても撃破判定を受けるほどじゃないらしい……まっ、あいつならあの程度のダメージは余裕で耐えれるだろう。伊達に俺や四季音姉と戦ってはいないし。

 

 

『なに!? 何故そこにいる!? お前も押さえつけていたはずだ!!』

 

『そっすね……重かったっすよ? 重力。でも水無せんせーに集中してたのかかなり楽に動けたっすね……てか王様や酒飲みの攻撃に比べたら軽すぎるんすよ。えっと、無事っすか?』

 

『は、はい……ごめんなさい瞬君、助かりました』

 

『へへっ。パシリは身体を張るのが仕事っすよ! ちょっと油断した……油断しちゃダメなんだけどな。まだまだっすね、王様に比べたらてんで弱い』

 

 

 軽く立ち上がる犬月だが足元から地面に沈んでいく。どうやら重力で押さえつけられてるらしいな……見た感じ、全然効いてないけど!

 

 

『さてと、再開しようぜ? こっからはさっきとは違うっすよ?』

 

『……キマリス眷属の兵士、恐ろしいな! だが俺だって負けない! 全力で倒させてもらう!』

 

『良いっすよ? こっちも全力で殺してやるから――モード妖魔犬』

 

 

 犬月はいつもの様に赤紫色のオーラを身に纏う。前までなら肌の色も変わるはずが今は全く変わっていない。しかも出力的に前よりも()()なっている……でも強いぜ? うちの兵士はな!

 

 優男を一目見るとその場から消えて一瞬で真横へと移動した。騎士に昇格しているとはいえさっきよりもかなり速くなっているから優男もビックリしてるようだ。そのまま腕を引いて顔面に拳を叩き込んで遠くへと飛ばすと水無瀬を押し潰していた重力が消える……あの神器は視界にさえ映らなければ重力で押し潰されることは無いからあんな風にぶっ飛ばせば何も問題ねぇ。しっかし速いな? 俺も特訓に付き合ってたから知ってたけどマジで速い。

 

 

『どうっすか? きっとアスタロト戦のゲーム時よりもかなり弱くなってるだろ? あぁ、そっか……アンタは体験してねぇから分かんねぇか』

 

『……情報と違うな? イタタ、今日のために特訓をしてきたってわけか!』

 

『そうっすよ。モード妖魔犬ver2、今までは足りないものを全部補おうとしてたけどさ……強欲すぎたんすよ。たかが人間にすら勝てねぇぐらい欲張りすぎて無理してた……だからやめた』

 

 

 モード妖魔犬ver2、修学旅行中にアリス・ラーナと殺し合いをして勝てなかった事を悔やんで悩みに悩み、そして答えを出した強化(劣化)形態。前までの妖魔犬は何でもかんでもパワーアップを目指して使ってたらしいがver2となった妖魔犬は攻撃力や防御力の強化じゃなくて速度のみに一点集中している。気合で安定化なんてしなくて良いように今の自分が操れる範囲で魔力と妖力を融合させてるから肌の色とかが変わらないんだと……まぁ、前までが無茶苦茶すぎたんだよ。初っ端から全力で放出して融合させてたんだしなぁ。今はかなり低い量を融合させてるっぽいがそれでも難しいことには変わりないらしい。ソースは平家と四季音姉な!

 

 

『俺に足りないのは何だって考えて考えて……そんで分かった。俺には王様や酒飲み、茨木童子のようなパワーなんてねぇし、引きこもりやしほりんやせんせーのように器用じゃない。有るのは負けん気とパシリ根性! だから俺に無いものは皆に任せれば良い! 俺は「兵士」だ! だったら呼ばれたらすぐに駆け付けれるようになってやる! 前の宣言通り! 最強の(パシリ)を目指して突き進むだけだ!!』

 

 

 自信満々に宣言しているところを大変申し訳ないが堂々とパシリ宣言はどうかと思うぞ?

 

 

「凄い。どんどん有能なパシリになっていくね」

 

「おう。あそこまで堂々と宣言されると照れるな……仕方ねぇからあとでプリン買ってきてもらおう」

 

「にしし、やっぱアイツは面白いねぇ」

 

『そんじゃ、再開!』

 

 

 再び犬月と優男の姿が消える。さっきと同じように高速戦闘を繰り広げているが優男が押されている。一発当てて移動、また一発当てて移動を繰り返しているせいで優男が翻弄されて被弾が増えていく……ダメージが低かろうと何度も受ければデカくなるし相手もイライラが溜まる――そこがチャンスだ。威力が足りなかったら昇格で戦車になればいい。それでも足りなければ連続で当てればいい。今度こそアリス・ラーナに勝つために犬月が選んだ道だ……弱くなったとか雑魚と言われてもあいつはそれだけのために妖魔犬を劣化させた。もっともデカい一発を当てるよりあんな風に小さいダメージを連続で当てる方があいつには合ってるけどな。

 

 自分よりも速い犬月を捕らえようと神器を発動するが無駄のようで顎下からのアッパーを受けて視線が上へと強制的に向けられた。

 

 

『――まだぁ!』

 

 

 上空に氷に変化させた魔力を放ち、それを重力で一気に下へと降らす。流石に重力込みの氷ともなればダメージはデカいだろう……四季音姉の拳に比べたらかなり楽な方だと思うけども。

 

 

『悪いが今の俺には当たらねぇよ! そして終わりぃ! モードチェンジ! 戦車!』

 

 

 降ってきた氷を躱して駒のシステムを騎士から戦車へと変えたらしい犬月は先ほどよりも少し遅くなった速度で接近し……胴体に拳を叩き込んだ。一発だけじゃない……何度も、何度も、何度も! 俺が仕込んだラッシュタイムを叩き込んでいく! うっわ、速度だけなら俺の影人形に追いつくんじゃねぇか? 威力は下だけどさ。

 

 逃げられずに犬月のラッシュタイムを受け続けた優男は審判役からリタイア判定を受けて消えていった。流石にあのまま放置してたら骨が折れ続けて大変な事になるだろうしね。

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の騎士、リタイア』

 

「犬月さんが倒しました! 凄いです!」

 

 

 橘がキャーキャーとはしゃいでいるからおっぱいがすっごく揺れている。悪い犬月……お前の活躍よりも俺はこっちにしか目がいかないわ。いや、嘘だよ、頑張った……本当にな。

 

 兵士対騎士の対決が終わり、残ったのは僧侶同士による対決。先ほどから魔力攻撃合戦が繰り広げられてるけど禁手に至ってる水無瀬の方がやや有利っぽいな……なんせうちの僧侶はテクニックタイプ、隠れМだから受けるのはすっごく得意だ! 放たれた氷の槍を水に反転、先ほどの失敗を活かして勢いが落ちたら即氷に変えて躱している。やっぱ反転結界って使いこなせば結構厄介だわ……俺の影人形もあれの前じゃ無意味だしなぁ。

 

 

『瞬君が頑張ったんです……年上の私も頑張ります! ノワール君のために!』

 

『こちらもサイラオーグさまのために負けるわけにはいかない!』

 

『いえ勝ちます! 私の新しい力を……今見せます!』

 

 

 水無瀬が何かを決意した表情になると足元の影が変化した。それは実体化するように浮かび上がり、上半身だけ人型の形をしたモノが水無瀬の背後に現れる。腕が二本で顔のパーツが無い黒い人影、下半身は水無瀬の足元……いや影と連結しているがその姿はまさしく――俺の影人形にそっくりだった。は? 何それ?

 

 

「……は? なにあれ? 俺、知らねぇぞあんなの?」

 

『あっ、ノワールがガチでびっくりしてる顔してる。うっわ~めっずらしぃ! 写真撮りてぇ! ちょっと堕天使! 写真写真! はやくぅ! ノワールがガチビックリ顔なんて滅多に無いんだからさぁ!』

 

 

 ちょっと夜空ちゃん……今はちょっと忙しいから黙ってくれない? てかなんだよあれ!? マジで知らねぇんだけど! なんで水無瀬が俺の影人形っぽいのを使ってんの? 確かに禁手中は影を操る事が出来るがそれだけじゃん! マジで意味分かんねぇ! 待て待て……見た目は影人形そっくりだが完全に偽物だろう。胴体は霊体で出来てねぇ……と思う。だって霊子を操る事が出来ねぇしな! 正直、今すぐバトルフィールドに飛び込んで確認したい! てかなんでどいつもこいつも人形を操る能力使うんだよ!? 夜空も水無瀬も曹操ちゃんも真似すんな!

 

 

偽影人形(フェイク・シャドール)、ノワール君の影人形には劣りますけどこれが私の新しい戦い方です! 行って!』

 

 

 水無瀬の指示に偽影人形君は金髪美女へと向かって行く。俺の影人形とは違って水無瀬が影を伸ばして移動させてるが速度は中々のものだと思う。相手がデータに無いものを使ってきたせいか地味に動揺している金髪美女は魔力を飛ばして迎撃するもそれら全てをラッシュタイムで粉砕していく……あぁ、完全に俺の劣化版だわ。炎や氷、雷に変化させた魔力を殴っただけで腕とかが欠けたりしてるし。見た感じ、偽物の構造は水と氷か……水に変化させた魔力を人型の形にした後、禁手の影で覆って制御してるのか。いくら俺の影響を受けてると言ってもそこまでするとはなぁ!

 

 おい平家、お前だろ? あれ仕込んだの?

 

 

「正解。恵が今よりも一歩踏み出したいって言ったから手伝った。ノワールの予想通り、あれの体は水だよ。拳の部分だけ氷に変えて殴ってる。威力も精度もノワールには劣るけど攻撃方法が少ない恵には良い手だと思うね。仮に吹き飛ばされてももう一回魔力で作れば良いし、あれで殴るだけで恵の影に触れるから反転結界も可能。私も結構頑張った、すっごく疲れたよ」

 

「ちなみに私も手伝ったよ? めぐみんが真剣だったしねぇ~にしし! ビックリしたでしょ? 内緒にしてたもんねぇ~やりぃ! さおりん大成功!」

 

「やりぃ~」

 

 

 このちっぱいコンビ……俺に黙って水無瀬に面白い事を仕込みやがって! あとでおっぱいもみもみの刑だから覚悟しておけ。

 

 

(キング)と同じ戦い方……! でも、だからって負けるわけ、きゃあっ!?』

 

『俺を忘れちゃダメっすよ? 一対一にするわけねぇじゃんか!』

 

 

 動き回る金髪美女の背後に回って一発打撃を与える。そりゃそうだ……これはゲームであり実戦もどきだ。一対一にするメリットがないし叩けるなら叩いた方が良い。

 

 犬月の攻撃を受けた金髪美女は軽く吹っ飛ばされて地面に横たわった……そして立ち上がろうとした瞬間、目の前には偽影人形がその綺麗な顔を覗くように立ちはだかる。後ろに下がろうにも既に犬月が良い笑顔を浮かべながら金髪美女を見下すように立っている……うわぁ、あれは当事者からしたら軽くホラーな映像だぞ? 俺もやるけど!

 

 

『これで、終わりです!!』

 

『おらぁ!』

 

 

 まるでラッシュの速さ比べだと言いたいように犬月と偽影人形は金髪美女に向かって連続で打撃を与える。そもそも相方が倒された時点で、犬月を倒せなかった時点で勝ち目はねぇしこの結果は当然だろう……全くさ! うちの眷属はどこまで俺を楽しませてくれれば気が済むんだ?

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の僧侶一名、リタイア』

 

 

 審判役から宣言され、俺達側の勝利が決定した。さてと……このまま全勝したいが流石に無理か? まぁ、狙ってみるけどね!




モード妖魔犬ver2
強化前よりも出力を抑え、速度向上のみに特化させた劣化形態。
赤紫のオーラを纏い、肌が変化しないのが特徴です。

偽影人形「フェイク・シャドール」
平家早織、四季音花恋の協力を得てノワールが扱う影人形を真似た新たな攻撃方法。
見た目は某バーローに出てくる黒タイツさん、しかし下半身は水無瀬恵の影と直結している。イメージ元は昔、発売していたブルードラゴンの影。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

66話

『第二試合もキマリスチームの勝利です! このまま連続勝利で終わるのか! それともバアルチームが巻き返すのか! まだまだ目が離せませんよぉ!』

 

『てかさっさとノワールとバアルの殺し合いを見せてくんない? そろそろ飽きてきたぁ! パフェおかわり!』

 

『いやーすいませんねーこの規格外系美少女のために出前までやってもらっちゃって……お、おい光龍妃? そろそろ満腹だろ? もうこの辺でやめとかねぇか?』

 

『まだ半分しか食ってないから無理!』

 

『おいキマリス!? いい加減こいつを止めろ! 俺の財布がヤバい! 聞いてるのか!? おい!』

 

 

 巨大モニターからアザゼルの声が響き渡る。見れば夜空の背後には試合中に食ってたと思われる皿やら丼やらが大量に積まれているな……量的に言えば普通の女ならば次の日の体重計を破壊したくなるぐらいのものだろう。どんだけ食ってんだよ? お前なぁ、うちの女性陣……あっ、平家と四季音姉妹を除くな! うちの女性陣なんて風呂上がりに体重計に乗っては絶望したり喜んだりと忙しいんだぞ? いくら食っても体形が変わらないからって食い過ぎだ。良いぞもっとやれ!

 

 

「王様ぁ! きちんと勝ってきましたよ」

 

「ただいまです。ふぅ、勝ててよかった……」

 

 

 アザゼルの声を無視して戻ってきた二人の方に視線を向ける。犬月の方は軽くダメージを受けたせいか傷とかがあるが水無瀬の方は問題ないようだ。映像でも直撃コースの攻撃を庇ってたしな……まっ、実戦なら兎も角、ゲームならこの程度のダメージは殆ど問題ねぇだろ。

 

 

「お疲れさん。よくやった、どうだった犬月? モード妖魔犬の劣化版、改良の余地ありか?」

 

「そっすね。速度特化とはいえ火力がかなり下がりますし……でもこれからっすよ! それよりも水無せんせーを誉めてあげてくださいよ! 王様の影人形と同じものを使えるようになってたんですし!」

 

「ん? あぁ、さっきのパチモンか? 色々と改善するところもあるが良いんじゃねぇの? 水無瀬、あとで手取り足取り影人形の使役方法を教えてやるから覚悟しておけよ」

 

「は、はい! 頑張ります! で、でも優しくしてください……ね?」

 

「――と言いながら心の底から喜んでる。流石だね」

 

「ち、違いますよ!?」

 

 

 年上美女からの優しくしてくださいね発言はグッとくるね! てか俺も夜空と同じでさっさと獅子王と戦いたい……流石に互いにダイスを振って出目の合計が「12」になるなんて滅多に無いはずだ。獅子王眷属の残りは騎士、僧侶、戦車、女王、兵士、王か……こっちはチョロイン(魔帝剣グラム)がリタイア扱いになってるとはいえ殆ど無傷だから互いの最低値は「3」か。仮にこのまま連勝していくと「6」「7」「8」と最低値がどんどん上がっていくか……元が神滅具だしいくら兵士の駒でも6~8ぐらいは使用しないと無理だろう。だから下手をすると俺が全力で殺し合えないから交渉してみるかねぇ! ダイスを振るのが面倒になってきたとかじゃないぞ? 誰に言ってんのってそれはお前だよ平家!

 

 再び審判役の指示に従って台へと向かう。対面している獅子王の表情はさっきまでと変わっていない……アスタロト家次期当主とは全然違うな。

 

 

「――獅子王」

 

「なんだ?」

 

「ダイスを振るのが面倒になってきたからさ、こっから先は俺達が選んだ奴同士でやらねぇか? 最悪な事にあそこにいる規格外が飽きてきたっぽいしこのままだと泥沼になっちまう。だから提案だ、どうだ?」

 

「――なるほど、そういう事か。確かにこのまま俺達が負け続ければ出目の最低値が「7」からスタートになる。俺も影龍王殿も駒価値は共に「12」だ、互いに振り続けても出るかどうかは分からん。その提案は受けよう! いや受けるしかない! 審判役! 委員会よ! 影龍王殿の提案を認めていただけたい!」

 

『な、なんとぉ!! 影龍王! ノワール選手から提案が飛び出したぁ!! これに対し運営側はどう判断するのでしょうか!?』

 

 

 どう判断するかだと? んなの決まってるだろ――

 

 

『――ノワール・キマリス様の提案を認めます。次の試合より両「王」が選んだ者同士によるゲームを行います』

 

 

 審判役から俺の提案が受け入れられた事が告げられた。当然だ……この場には夜空が居る。さっきアイツはそろそろ飽きてきたと言ってたから仮に認めなかった場合、この場にいる観客が死ぬかもしれない。言ってしまえば人質だ……夜空なら俺と獅子王のゲーム中だとしても関係無く周りを殺すだろう。つまり夜空がこの場にいる限りは大抵の事は許可されるはずだ! 多分ネ!

 

 ダイスを振る必要が無くなったので台にいる理由も無いから自分の陣地へと戻る。初っ端から俺が出て蹂躙しても良いんだがそれだと上が五月蠅い……となればやることは一つか。獅子王眷属の兵士以外をぶっ倒して俺と獅子王のタイマンまで持っていく! ゼハハハハハ! だったら簡単だな!

 

 

「了解。志保、行こう」

 

「……え?」

 

「心を読んでいるお前しか分からねぇだろうが……平家が言ったが次の試合は平家と橘の二人だ。頑張ってこい」

 

「はい! 行ってきます!」

 

 

 遊びはここまでだ……俺と獅子王とのタイマンのためにここで勝って次に繋ぐ、負けてもそれはそれで問題無し。そのあとは鬼による蹂躙タイムだ! 橘には悪いが平家がいる限り負けはしないだろう。だって俺の騎士だしな!

 

 二人が魔法陣でバトルフィールドへと向かう。巨大モニターに映し出されたのは今度の舞台は荒れた神殿っぽい所だった。平家と橘と向かい合う様に現れたのは馬に跨った甲冑女と美少女……いや男だったはずだ。相棒が男の娘だ男の娘だぜと連呼し始めて五月蠅いがとりあえずあの二人が平家と橘の敵って事になる……他に現れる気配がないから互いに騎士と僧侶の戦いになり、戦車と女王は次以降か? 別に良いがうちの最大戦力の鬼姉妹を相手にどうする気かねぇ?

 

 

『おぉっと! キマリスチームからは影龍王に付き従う覚妖怪! 騎士の平家早織選手と冥界アイドルとしてデビューも望まれている歌姫! 僧侶の橘志保選手です! 対するバアルチームは青ざめた馬(ペイルホース)を従わせるフルーカス家出身! 騎士のベルーガ・フールカス選手と美少女にも見える美少年! 僧侶のミスティータ・サブノック選手です! 両者ともに騎士と僧侶を出場させてきたぁ!!』

 

『ノワール、本気で殺っても良いんだよね?』

 

「あぁ。遠慮なんかしなくて良いぞ? さっさと俺を獅子王と戦わせてくれ」

 

『りょーかい』

 

 

 平家は魔法陣を展開して龍刀「覚」を握りしめる。相手の騎士にはコキュートスに住んでいる魔物を従えているから実質3対2か……僧侶の方はデータが少なくて良く分からなかったが注意しないと負けるかもしれねぇぜ?

 

 

『早織さん! あの、前を任せても良いですか!』

 

『うん。志保は狐の制御に専念してて。相手は私の読心と志保の破魔の霊力を消すつもりみたいだし』

 

『……覚妖怪特有の読心術か。こうして相対した瞬間より覚悟はしていたこと! 頼む!』

 

『任せて!! 二人の能力を封じよ! っ、うぅ……!!』

 

 

 試合開始と同時に美少年が持つ不気味な杖が輝きだした。平家の言葉から推測すると神器か何かだろう……封じるか、まさか相手の能力を封じる系の類かねぇ? でもだったらなんで使った本人が苦しそうに膝をついてるんだ? しかも鼻血とか色々と酷い感じになってるし! だ、大丈夫? さっさと動かないと狐に感電死させられるぞ?

 

 

『おっと!? ミスティータ選手の杖が光ったと思えば途端に膝をついたぁ!? アザゼル総督! これはどういう事でしょうか!?』

 

『あれは異能の棺(トリック・バニッシュ)と呼ばれる神器だろうな。あれの能力は一定時間だけ対象の能力を封じる事が出来るが使用者は全力を費やさないとダメだ。僧侶らしいサポート系神器って言えばいいか? 覚妖怪の言葉通り読心能力と破魔の霊力の二つを封じた結果、かなりの負荷がかかってあの状態になったみたいだな……無茶をするぜ』

 

 

 なるほど、ガチで能力を封じる系神器か……俺に使用されれば影人形は使えなくなるから少しだけパワーダウンするな。もっとも使用者があんな風になるって事は基本的にコンビで運用していかないとダメって感じか? 鍛え上げたらかなりの活躍をしそうじゃねぇの!

 

 

『……確かに封じられたみたい。でも志保には狐がいるよ? どうするの?』

 

『こうするまでだ』

 

 

 甲冑女が馬から降りる。やっぱりな……魔物を従えているならそれを武器にするのもルール上は問題ない。そもそも審判役からも言われてねぇしな! 俺としてもあんな提案をした以上は許可するしかねぇし!

 

 

『我がアルトブラウの脚は神速、本来であれば私と共に戦場を駆けるが今回は別だ。キマリス眷属の僧侶にダメージを与えるにはこうするしかない……私たち二人で戦うと主君に告げた以上は致し方ない』

 

『ふーん。どうでも良いけどね』

 

 

 騎士特有の速度で平家は甲冑女の背後に回るも得物の槍で刀を防がれる。そこからは騎士同士の高速戦闘が開始だ……さっきの犬月達の様に映像では馬と狐が戦っている姿しか映っていない。流石高位の魔物、あの気性が荒い狐相手によくやるよ――まぁ、長くは持たねぇけどな。

 

 

『キー君! えっと……きゃぁ!?』

 

『志保……ほい、よっと。やっぱり厳しいよね』

 

 

 狐が放つ雷撃を楽に躱した馬は真っすぐ橘へと突進していった。馬の速さは騎士並み、普通に当たれば大ダメージだろう……そこは俺の僧侶だ。俺達との殺し合いで目が慣れてるからか防御障壁を展開して直撃は防いだようだ。もっとも衝撃で後ろに飛ばされてるみたいだけどな……流石にあの速さで動き回る奴を相手に呑気に歌ってたら良い的だし破魔の霊力が封じてられなかったら問題無かったかもしれないが今は別、独立具現型神器の狐を使わないとダメージを与えられないひ弱な僧侶ちゃんになってる……てか平家の奴? なんで手を抜いてやがる? お前ならその程度の奴は簡単に倒せるだろ……?

 

 

『グルルルッ!』

 

 

 主が攻撃されたからか狐が唸り声を上げて雷を放出するも上空を駆ける馬には当たる気配はない。てかいつの間にかあの美少年ちゃんを背に乗っけてるし……回避と同時に拾いやがったな? 良いのかおい! お前って気に入らない奴だったら蹴り殺す馬だろう! 美少女に見える美少年だからか!? おっしそうだな! マジかぁ……あの馬って相棒と同じ男の娘好きかぁ!

 

 

『当たらない……あの速度に対抗するには私がもっと速くならないと……!』

 

『志保』

 

『は、はい!』

 

『――負けて良いよ。邪魔だし』

 

 

 甲冑女の槍捌きを器用に流しながら平然と言いやがった。あの野郎……たくっ、だから嫌われるんだっての。見ろよ? あの橘が訳が分からない顔をしてお前を見てるぞ? あっ、馬に体当たりされた。うわぁ……あれは痛いだろうなぁ。

 

 

『……さ、おりさ、ん……?』

 

『助けないよ? 邪魔だし』

 

『なん……で、ですか……?』

 

『嫌いだから』

 

 

 放たれた槍の一突きを躱して一閃、甲冑女の手から弾き飛ばした平家は横になっている橘に近づいて行った。周囲を駆けている馬はその姿を見て好機と思ったのかすかさず突進してきたが何事も無いかのように躱して足の一本に斬撃を与える。その表情は楽しんでいるわけでもない、かといって飽きているわけでもない、ただ当たり前の様にやっているだけに見える。

 

 

『眷属になる前からノワールの周りでちょろちょろとしてて目障りだった。いきなり眷属になってノワールに可愛がられててイライラした。弱いのにノワールの傍にいるのがムカついていた。さっきだってノワールに言われないと気づかなかったぐらい弱いのにノワールの僧侶って顔してるのが本当にヤダ。ここで惨めに倒されると良いよ、その方が私は嬉しいし。ねぇ、志保? ノワールの眷属って称号はファッションじゃない。その重みを理解した方が良いよ』

 

 

 あれほど騒がしかった観客が静まり返っている。誰もが今の平家から目を離せないでいるからだ……アイツ、コミュ障だしなぁ~あんな風にしか言えねぇのは分かるがもっと言葉を選べっての。あと俺の眷属って自慢にすらならねぇからな? 一応言っておくけどさ!

 

 

『ノワールが好きなのは分かるよ? だって私も好きだもん。たとえこの思いが()()()()()()私はノワールが大好き。初めて会ったあの日から、初対面の私を受け入れてくれたあの日から、心を読んでも良いって言ってくれたあの日からずっとずっとずっと。強くなりたいと言って今の現状に甘んじてる限り私は志保を嫌い続ける。八つ当たりと思っても良いし理不尽だって怒っても良い。でも一回、どす黒い女の嫉妬を味わった方が良いよ。それが嫌なら早く負けてノワールから嫌われてね』

 

『……です』

 

『聞こえない』

 

『――嫌です!!』

 

 

 痛む体で必死に立ち上がった橘は大声で叫んだ。その表情も見たこと無いぐらい必死なものだ……てかお前ら、ゲーム中に何してんだよ? 敵さんが困ってるじゃん! あとどす黒い女の嫉妬云々を見せられたり聞かされている俺の身にもなってほしい。だから早く終わらせてくれよ? 後ろにいる水無瀬とかが心配そうな顔をしてるし四季音姉も珍しく同じ表情をしてるしね。犬月や四季音妹は眷属入りして間もないから分からないが水無瀬と四季音姉、平家の三人は今よりももっと前から一緒に居るからこそ互いに何を考えてるのかが分かる間柄だ。そんなわけで今の平家が何をしようとしてるのかも覚妖怪じゃない二人も分かるし俺も分かる……はぁ、損な役割だよなぁ? それ、俺がするべきもんだろうに?

 

 

『私は……悪魔さんが! ノワールさんが好きです!! 命を助けてくれたあの日から……ずっとずっと! 悪魔さんが眷属に誘ってくれたときは嬉しかった! 私も役に立てるんだって……でも悪魔さんの傍には早織さんが居ました……負けたくないって頑張ってもどんな時も必ず早織さんが傍に居ます! ずるいって何度も思いました! なんでって何度も思いました!!』

 

『知ってる』

 

『でも負けたくないんです! 叶わなくたっていい……なんて言いたくない! 私は……私は! 絶対に悪魔さんを振り向かせて見せます!! 何年かかっても、何十年かかっても必ず! だから負けません……負けたくありません! 私がどれだけ好きかって見てほしいから!』

 

『――ならどうするの?』

 

『――勝ちます。勝って、悪魔さんに喜んでほしいですから!』

 

『褒められるのは私。簡単には渡さないよ?』

 

『構いません! 私も譲る気はないです! 早織さん……私も早織さんが()()です。悪魔さんから理解されている早織さんが……悪魔さんの一番近くにいる早織さんが大嫌いです』

 

『嫌われてとーぜん、だって私は覚妖怪だもん』

 

 

 言いたい事は終わったとばかりに平家は橘から離れていく。うーん、女の嫉妬というか女心って怖いわ。あの橘ですら嫉妬の感情に支配されることがあるとはねぇ……本当に怖いわ! てかこの空気どうすんだよ? 周りから「おい、どう答えるんだ?」って感じの視線が飛んできてるんだけど? ここで夜空が好きですごめんなさいって言ったらどうなるんだろう……ちょっと怖いからやめておこう。

 

 

『……キー君、ごめんね? 聞きたくない事を聞かせちゃったよね……?』

 

 

 狐は首を横に振る。まるで最初から知っているぞ馬鹿者めって言ってる気がする。

 

 

『ずっと悩んでた……水無瀬先生も禁手に至って悪魔さんに褒められてるのに私には何もない……破魔の霊力に目覚めてもたったそれだけだよ……封じられたら歌うしか出来ない僧侶になっちゃった。でもね、それでも負けたくないの……キー君、一緒に戦ってくれる?』

 

 

 狐は首を縦に振った。いつでも行けるぜ馬鹿野郎って言ってる気がする。

 

 

『私は悪魔さんに見てほしい……歌う私を……戦う私を……! やろう! キー君!!』

 

『――宿主様』

 

「あぁ……至りやがった」

 

『――禁手化(バランスブレイク)!!』

 

 

 狐が行くぞ相棒と叫ぶように吠えるとその姿を雷へと変えて橘に落ちていった。バチバチと音を立てながら一歩、また一歩と光の中から現れたのは――獣人だった。

 

 頭には本来無いはずの狐耳、腰からは同じく狐の尻尾が二つ生えて服装も駒王学園の制服ではなく黒を基調とした脇をだした巫女装束っぽいものに変化している。脇下から見える横乳が素晴らしいですねありがとうございます! あと尻尾をもふもふしても良いでしょうか……やめよう、なんか水無瀬が笑ってるし説教されかねん。どうして俺の周りの女は心を読むことに長けてるんだ? かなり謎だぞおい。

 

 決意した表情と共に馬の前に立って高らかと宣言した。

 

 

『――黒に恋した(エレクトロ・アイドル)偶像雷狐が歌う舞台(・フォックス・オン・ザ・ステージ)。これが私の覚悟です……私はアイドルになります! 悪魔さんだけのアイドルになります! この恋は……絶対に叶えます!!』

 

『……はっ、お、おぉっとぉ!! 橘志保選手の姿が変わっています!! あれは……狐耳でしょうか? 尻尾もあります! なんという事でしょう!! ノワール選手を巡る恋模様を繰り広げた橘志保選手が禁手を使用しましたぁ!!』

 

『あれは雷電の狐の亜種禁手か!? しかも水無瀬恵の黒の僧侶が反す影時計と同じくキマリスの影響を強く受けてやがる! 畜生!! なんだって今年は亜種禁手に至る奴が多いんだ! 良いかキマリス!? ゲームが終わったらあの禁手を俺に調べさせろ! 影龍王の影響を受けた禁手なんて滅多にねぇからな!』

 

 

 絶対に嫌です。

 

 敵対している馬は橘の変化を見て危険と判断したのか即座に移動し始めて体当たりを仕掛ける。しかし先ほど平家に脚を切られたせいかさっきまでよりもちょっと遅い……でも速い部類だ。どうすると思っていると橘は拳に雷を集めて――地面を殴った。溜まった雷が地面へと流れて円形状に壁を作る。さて……真っすぐしか突進できない馬がいきなり現れた雷の壁を見たらどうするでしょうか? 答えは減速して躱そうとする。しかし減速の際に斬られた脚が痛んだのか速度を落としきれずに雷の壁へと激突……その衝撃で背に乗っていた美少年が地面へと落ちた。ほら、チャンスだぜ? さっさと決めろよ?

 

 

『私は歌って殴るしか出来ません! でも悪魔さんを魅了するアイドルになります! だから、見ててね悪魔さん♪ 今日からずっと魅了しちゃうから!』

 

 

 作り出された雷の防壁の中で橘は歌いだす。それは自然体で引き込まれるような偶像(アイドル)の姿……その歌声に反応するように周囲に無数の狐が生み出されていく。バチバチと音を鳴らしている雷で出来た狐達は橘が腕を前に出す動作をすると一斉に横たわっている美少年へと攻撃した。馬も助け出せば自分も巻き添えを喰らう判断したのか即座に距離を取る動作をする……よし、良くやったよ。本当にな。

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の僧侶一名、リタイア』

 

『……ん、封印が解けたみたい。それじゃあもう手を抜かなくても良いかな』

 

『……やはりか。手合わせをして本気ではない事は分かっていた! 全てはキマリス殿の僧侶を禁手に至らせるための時間稼ぎだったわけか!!』

 

『違うよ? 惨めに負ける志保が見たかっただけ。禁手は予想外、わーどーしよー』

 

『……分からぬ! 貴殿の考えが全くと言って良いほど分からない! しかしせめて一人だけでも倒す! アルトブラウ! 共に戦場を駆けようぞ!』

 

 

 単独行動をしていた馬に甲冑女が跨る。これで2対2のイーブン……だが相手が悪かったな? お前の相手は平家だぜ? 心を読む覚妖怪で俺にぞっこんな自慢の騎士だぞ? 弱いわけねぇんだよなぁ!

 

 

『二体が一体に変わっただけだし問題無し。舐めない方が良いよ? 私、ノワールのためならもっともっと強くなるタイプだから――妖魔放出』

 

 

 突如、平家から()()色のオーラが放出される。その色はまるで隣にいる犬月が扱うモード妖魔犬と同じ色合いのものでそれを放つ平家を見て周りも驚いているし敵も驚いている。だってそうだろ? 先ほど見たものと全く同じものが使用されたんだぜ? 驚かないわけがないさ。

 

 

『それは……モード妖魔犬!? 何故それを!?』

 

『難しくないし。だってあれの原理って魔力と妖力の融合だもん。悪魔としての魔力と覚妖怪としての妖力を融合させれば行けるし私みたいに妖怪ベースの悪魔なら誰だって出来るよ。それにあのパシリに出来て私に出来ない理由は無い』

 

 

 その言葉を言い終えた瞬間、平家の姿が消えて馬の胴体が斬られた。いや正確には乗っている甲冑女を狙ったようだが馬が身を挺して庇いやがったか……流石高位の魔物、主人よりも反応速度が良いねぇ。そこからは騎士同士による高速戦闘が再度始まり、剣と槍がぶつかる音だけが鳴り響いている。流石の橘もあの速度で行われている戦闘に介入は……うん? なんだこの違和感……? 見ているのは分かるが何を見てやがる?

 

 

『くっ! アルトブロウの脚をもってしても追いきれないのか……!』

 

『その脚は斬られてるししょーがない。それに今の私は捕らえたいならもっと速くならないと無理』

 

 

 流れる動作で馬の脚二本を斬る。的確に脚の腱を狙いやがったな……てかそもそもタイマンで心を読む覚妖怪を能力なしでどうやって倒せって言うんだ? 確かに平家も速くなった、それは間違いない。でも手を抜いてあの速さだしなぁ……今だって相手の心を読んで先読み、対処してるにすぎねぇから相手も速くなったと勘違いしてるしね。というよりも平家が使った妖魔放出は犬月の妖魔犬の上位互換だしな……可哀想だけど! ver2になった妖魔犬は速度特化に対して妖魔放出は身体能力向上に特化しているし量と質も犬月が操るモノよりもはるかに上だ。その辺は才能の差って奴だな……もっとも隣にいる犬月は負けられねぇって感じで見てるけどさ。

 

 

『アルトブロウ!? まだだ! まだ私が!!』

 

『ううん、これで終わり』

 

 

 接近していた平家が即座に後退する。うん? なんでだ?

 

 その疑問はすぐに解消された……甲冑女と馬がいる地点に極大の雷が落ちたからだ。それを放った奴は平家でも甲冑女でも馬でもない――橘だ。なるほどな、ただ見ていたのは着弾地点を確かめるため、しっかりと二人の姿が見えていたってわけか。しかもあの雷……まさかとは思うがあれ入りか?

 

 

『――破魔の雷。キー君の雷と私の破魔の霊力を混ぜました。悪魔の身体には大ダメージです』

 

『……まさ、か、まさか……!!』

 

『うん。大正解――疲れたくないし本気出すわけないよ』

 

『……無念』

 

 

 甲冑女と馬は光に包まれて消えていった。別に浄化されたとかそんなんじゃなくてリタイア判定を受けただけだ……しっかし橘が禁手に至りやがったか。しかも弱点だった攻撃面も解消されて前衛に出ても問題無いときたよ! きゃーどうしましょー!

 

 

「ただいま。ノワール、頑張ったから誉めて褒めて」

 

「……え、えっと、えっとえと!? その、その……私、も頑張ったの、で褒めて、ください」

 

 

 ヤバイ、平家よりも可愛い件について。流石アイドル! 赤面顔も良いしさっきまでの発言が恥ずかしいのかもじもじしているところもすっげぇ可愛い! 褒めて褒めてと頭を押し付けてくる平家を水無瀬の胸へと流して橘の前に立つ。なんというか今にでも湯気が出そうなぐらい真っ赤だけど大丈夫か? 心配ないぞーなにもきいてないからさーうんうん女の嫉妬って怖いよねーって感じだから気にしないで良いよー!

 

 何かを期待している顔をしているので頭を撫でると幸せそうに抱き着いてきた。うーんおっぱいの感触が凄いですねってそういえば今も禁手化中ですよねっていうかバチバチと静電気っぽいのが当たって痛いんですがどうなんですかねこれって? あの狐の意思か? それとも橘の意思か? どっちでも良いが静電気痛いから早く戻ってくれ! なんかスンスンと俺の匂いを嗅いでるっぽいけどマジで戻れ!! これが……アイドル!

 

 あと解説席がある場所から殺気が飛んできてますが嫉妬ですか? おうおう嫉妬か? 良いぞもっと来て良いぞ! なんならそのままナイフを突き刺してきても俺は何も問題ない!

 

 

「そのまま感電死すればいいよ」

 

 

 元はと言えばお前の発言が原因だろうが……まぁ、なんだ、悪いな。あんな役をさせてよ。

 

 

「気にしない。覚妖怪だし嫌われるのは慣れてる」

 

「そーかい、あー平家?」

 

「何? 今は恵のおっぱい枕を堪能してるんだけど?」

 

「百年ぐらい経ったらお前の思いも叶うんじゃね? 俺が生きてたらだけど」

 

 

 パチパチと瞬きをしてるところを見ると驚いてるらしい。なんというか抱き着いている橘がぷーと頬を膨らませてるのが可愛いが無視だ無視! さっさとゲームを進めようか!!

 

 

「んじゃ四季音姉妹、さっさと行ってこい」

 

「了解。伊吹、行こう」

 

「んぅ~うん」

 

 

 普段通りの四季音妹とどこか様子がおかしい四季音姉は魔法陣へと向かって行き、バトルフィールドへと転移されていった。今度のフィールドは古い町並みが並んだ場所らしい。到着した四季音姉妹と向かい合う様に現れたのは金髪ポニーテールの美女と大柄な怪物面をした男、残った女王と戦車を投入してきやがったところを見ると俺が四季音姉妹を選択するのが分かってたっぽいな。

 

 

『第四試合はキマリスチームから唯一の中級悪魔にして酒呑童子! 戦車の四季音花恋選手と同じく鬼にして茨木童子! 兵士の四季音祈里選手! まさかまさかの鬼の二大巨頭が揃って出場です!! 対するバアルチームからは番外の悪魔、アバドン家出身の女王! クイーシャ・アバドン選手と元七十二柱、バラム家出身のガンドマ・バラム選手です!』

 

 

 番外の悪魔(エクストラ・デーモン)、俺のような元七十二柱の悪魔とは別の上級悪魔の家柄に与えられる呼び名。今回の審判役のグレイフィア様も同じ番外の悪魔出身だったはずだ……アバドン家は自由自在に「穴」を広げてなんでも吸い込んでは吐き出す能力を持ってる。つまり俺みたいな物理系じゃないと結構苦労するタイプだが……四季音姉なら余裕だろう。

 

 

『やはり来ましたか……酒呑童子と茨木童子、分かっていたとはいえこの目で揃うのを見るとは思いませんでした』

 

『うぃ~? ノワールは分かりやすい性格をしてるからねぇ。イバラ』

 

『伊吹、呼んだ。何』

 

『この試合は私一人で殺るからそこで待ってな。なぁに、一分もかからないさ』

 

『分かった。待つ。伊吹は負けない。伊吹、怒ってる。分からない。何故。分からない』

 

『イバラも女心が分かればねぇ~にしし――妖魔放出』

 

 

 試合開始の言葉と同時に四季音姉から赤紫のオーラが放出された。その量は犬月、平家のモノとは比べられないほど少なく、そして薄い。そろそろ犬月は本気で泣いて良いと思う……だって自分の技が仲間に使用されてるに加えて()()()()とかもう泣いて良いと思う!

 

 

『……先ほど見たものと同じですね。しかし騎士のものと比べると少ないようですがまさかそれが限界ですか?』

 

『――弱いね』

 

『……なんですって?』

 

『派手さが無いから弱く見える、なんて弱い存在が言うセリフさ。教えといてあげる、真に恐ろしいのは派手に巻き散らすモノより――』

 

 

 四季音姉が腕を引く。その動作をしたことで金髪美女は空間を歪ませて(ホール)を広げるが無理だよ……その程度じゃ四季音姉は止まらねぇさ。

 

 

『――静かに放つ方が恐ろしいってことをさ』

 

 

 金髪美女と怪物面の真上を取った四季音姉はハンマーを振り下ろすように拳を叩き込んだ。先ほどまで静かすぎるほど低かった魔力と妖力が打撃の瞬間だけ一気に膨れ上がり威力を跳ね上げる……犬月が速度特化、平家が身体能力特化なら四季音姉は威力特化だな。本当に犬月は泣いても良いと思う。

 

 

『ふぅ、悪いねぇイバラ。出番を取っちゃってさ』

 

『構わない。伊吹が活躍する。私は嬉しい。気にしていない』

 

『にしし! そうかいそうかい! さてとだ……ノワール、後はアンタだけだよ? 決めちゃいな』

 

 

 フィールドを覆う壁に亀裂を入れて町を崩壊させた四季音姉が煽ってきやがった。

 

 分かってるさ……ここで俺が負けたら色々と拙いしな! なによりも……解説役の席に座ってる規格外がワクワク顔になってるから頑張るさ! そんでこれだけは言わせてくれ……嫉妬か? おうおう嫉妬か? 大観衆の前で告白もどきをした平家達に嫉妬かおい! さっすが少女趣味な鬼さんだ! 格が違うネ!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

67話

『第四試合……まさかの一瞬で終了!! これが酒呑童子の実力なのでしょうか!! これでバアルチームは眷属の殆どを撃破され残っているのは王のサイラオーグ選手と兵士のレグルス選手! 誰が予想できたでしょうか……キマリスチーム! まさかまさかのここまで全勝! 残るは皆さんお待ちかね! 王同士による決着戦です!!』

 

『予想ってか普通じゃねぇの? そもそもあの鬼ってガチで強いからさぁ~! だってあのノワールが駒二つ消費してんだよ? 弱いわけねぇじゃん。なんで冥界の雑魚ってノワールの事を神器しか取り柄ねぇとか言うんだろうね? そこんところどうなん?』

 

『この野郎……答え難い質問をしてきやがって! でも言うけどな! こうなりゃもうヤケだ馬鹿野郎!! なんでかって言ったら今の冥界は純血主義、人間との混血のキマリスやサイラオーグの眷属にいる末裔達の存在は無かった事にしたい存在だ。正面から何かをすれば自分の立場を悪くする……だからこそ陰口を言ったり嫌がらせを行うわけだ。まっ、そんな事をする奴らは戦闘力は皆無だって相場は決まってるからキマリスに戦いを挑むわけねぇけどな。なんせ挑んだら最後、そいつの人生は終わりだ。あいつは誰が相手だろうと普通に殺すだろうしよ……これで満足か?』

 

『うんうん。だってノワールだもん、私だっていちゃもんつけられたらふっつぅに殺しちゃうもんねぇ! てかノワール! さっさと戦えよぉ! バアルとの戦いを楽しみにしてたんだからぁ! ポップコーンおかわりぃ! あとコーラも!!』

 

『頼むからもう食うなぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 アザゼルの心からの叫びがモニターから聞こえてくる。まぁ、仕方ねぇよな……あれだけ食ってもなお食べ続ける夜空を見てたら誰だって叫びたくなるし財布と貯金を心配するわ! てかなんでポップコーンとコーラなんだよ? 此処は映画館じゃねぇっての! ちょっと俺も食いたいからキャラメル味を頼んでおいてくれよ? 勿論代金はアザゼル持ちな! 決してチョロインの鞘を美少女の形にした事を根に持ってるわけじゃない。ただ普通にアザゼルが苦しむ姿を見ていたいだけさ! うーん! 流石俺様、邪龍の鑑だぜ!

 

 

「チョロインの鞘をマトモなものにしなかったことを根に持ってるくせによく言う」

 

 

 水無瀬のおっぱい枕に頭部を預けている平家がジト目で見つめてきた。ゼハハハ、当然だろうが! 見ろよあのチョロインの変わり果てた姿を!! 美少女鞘になってから律儀に椅子に座って無言を貫いてるんだぞ! しかも目線は俺から外さずにな! 多分、我が王は我らを使用するだろうきっとそうだろうとか見当外れな事を思ってるに違いない……趣旨とか理解出来てないかもしれない。だって元は剣だし。あと絶対に使わないから黙って座っててね!

 

 そんな事よりもその枕、弾力とか良さそうですね? 俺の部屋にある枕と交換してくれない?

 

 

「恵のおっぱいをノワールの枕にしたら大変な事になる。だからダメ。その代り私のちっぱい枕ならオッケーだよ?」

 

「まな板を枕にする趣味はねぇっての」

 

 

 ただし夜空は除くがな! むしろ夜空のちっぱい枕とか味わってみたい!

 

 

「いってぇ!? たくっ! これから獅子王と殺し合うってのに蹴るんじゃねぇよ! 水無瀬の胸に頭部を置きながら蹴るとか器用だなおい!」

 

「虫が止まってたから蹴っただけ」

 

「……悪魔さん、あの、枕ならここにも、あります、よ? おっきいですよ?」

 

 

 マジかよ。

 

 

「……犬月」

 

「はい……これは、すごいっすねぇ」

 

 

 何が起きたかというとあの橘が! えっちぃの禁止委員会の橘様が! なんとまさか自分の胸の下で腕を組んでおっぱいを自慢するように見せつけてきた! うわぁ、でけぇ……制服の上からでも分かるこのおっぱいの大きさは流石だと思う! ポヨンと揺れたけどこれはどう反応すればいいのだろうか? 顔真っ赤で恥ずかしがっている橘を鑑賞していれば良いのか、解説役の席にいる夜空の殺気に応えれば良いのか、それともやや死んだ目で自分の胸の辺りを掌で擦るように上下運動している四季音姉を笑えばいいのか……個人的には夜空一択なんだが四季音姉を笑いたい! すっげぇ笑いたい! でも死ぬよなぁ~いや死なねぇけどこの場所が吹き飛ぶから帰ってからにしよう。

 

 

「伊吹。どうしたの。胸が痛む。病気。伊吹、大丈夫」

 

「……な、なんでもないさぁ~にししぃ~あれは贅肉で無駄な肉、しほりんも本気になったようだし私もそろそろ本気出そうかねぇ~でもあれは無駄肉無駄肉無駄肉」

 

「伊吹。肉が食べたいなら焼肉を食べよう。何が食べたい。狩ってくる」

 

「茨木童子、そこの酒飲みは肉は肉でも胸に集まる柔らかい肉が欲しいらし――いっでぇ!? てめっ! ほんっ! き! 殺す気かぁ!?」

 

「――ぁ?」

 

「すいませんでしたぁ!!」

 

 

 瞳のハイライトが消えた状態で何かを潰す動作をし始めた四季音姉に対し犬月は渾身の土下座を行った。絶対にあの動作は男の象徴を潰すつもりだろうね! 痛いを通り越して死ぬんじゃねぇかな? でも犬月の土下座も見れた事だしそろそろ真面目になるか。てか四季音姉……お前もちっぱいだってことを気にしてたんだな! 普段はろりぼでぇとか言ってセクハラ行為をしてくるのにその辺は女の子ってわけかい……夜空と一緒だな! 心配するな! その手の奴には需要があるし俺もちっぱいは大好きだ! ただし腋の方がもっと好きです!

 

 

「……そろそろ真面目になりましょう」

 

 

 全く持ってその通りだよ。誰だよこんな茶番みたいなことを始めたのは? はぁ? 俺じゃねぇし!

 

 後ろでいつもの様にはしゃいでいる馬鹿共に行ってくると告げて魔法陣へと移動する。俺が乗ったことを確認したのか光りだし……俺の視界には別の世界が映し出された。周りを見渡してみるとどうやら人間界にあるコロッセオの形を模した場所のようだ。なるほどな……俺と獅子王がタイマンで殺し合うからそれっぽい場所をチョイスしたって感じかねぇ? んな面倒な事をしなくても普通に地双龍の遊び場(キマリス領)をバトルフィールドに提供するぞ? きっとキマリス領民も喜ぶ事だろう……だってゲームを間近で見れるんだしさ!

 

 

『やっと……やっと始まりました! この場面をどれほど待った事でしょうか! 最終試合! キマリスチームからは元七十二柱キマリス家次期当主にして最強の影龍王! 王のノワール・キマリス選手!! 対するバアルチームからは元七十二柱バアル家次期当主にして若手最強! 王のサイラオーグ・バアル選手と神滅具であり兵士! レグルス選手です!! 今回のフィールドは先ほどまでとは比べて耐久力を高めているようですが……アザゼル総督、どうなのでしょうか?』

 

『そうだな、なんせ互いにぶつかり合えば普通のフィールドじゃ数分も経たずに崩壊しちまう。武力対暴力、近年稀にみるパワー対決だしな。そんなわけで今回のフィールドは特別製だ! 三大勢力の技術を用いてるから全力で戦えるぞ! まぁ、壊れちまったら別の場所で仕切り直せばいいだろ? キマリスと光龍妃が毎回バトルしてる場所とか良いと思うんだよなぁおじさんは!!』

 

「俺的にはそれでも良いんだけどねぇ。まっ! そこまで頑丈なフィールドならぶち壊すまで殺ろうぜ? なぁ、獅子王ちゃん!」

 

「そうだな……ついに、ついに俺は影龍王殿と戦えるわけだ。レグルス! この期に及んで使わんとは言わん! 俺の、俺達の全力をぶつけようぞ!! 気を抜けば死ぬぞ! 今、俺達の目の前に居るのは最高の好敵手(ライバル)だ!!」

 

『はい! 私もサイラオーグさまのために全力を尽くします!』

 

『ゼハハハハハハハ!! そうこなくっちゃなぁ!! 宿主様? どうするよぉ! 敵さんはやる気満々だぜ?』

 

「んなの決まってんだろ?」

 

『だよなぁ!!』

 

 

 相手が全力で来るならこっちも全力で臨むまでだ。既に試合開始の合図は終わっている……さてと始めようか! アザゼルが言った通りの武力と暴力のお祭りをよぉ!

 

 

「影龍王殿……いや、ノワール・キマリス」

 

「あん?」

 

「俺には肉体(これ)しか持たない。生まれは純血悪魔だがマトモな才能なんて無い男だ……お前のように神滅具を宿し、優れた異能など持たずに生まれ、ただ我武者羅に己の肉体を鍛え上げるしか出来なかった存在だ。だが……それでも俺は本気で挑ませてもらう! 俺の拳が、今日まで鍛え上げたこの武力がどこまで通じるかを今ここで確かめるためにもだ!」

 

「……それは俺も同じだよ。俺には神滅具(相棒)しか取り柄が無い普通の混血悪魔だ。死ぬ思いして、何度も死んで、そして此処にいる。お前が武力で来るならこっちは暴力でやらせてもらうさ……邪龍としてな。それにだ……夜空が見てるのに負けるわけにはいかないんでね! こいよ()()悪魔! 俺は簡単には死なねぇし死ぬ気もねぇ! 間違って殺しちゃったらごめんな!」

 

「――構わぬ! 今この時よりゲームではなく殺し合いとして挑ませてもらう! レグルスゥゥゥッ!!!」

 

『ハッ!』

 

 

 神滅具(レグルス)が金色の光となり獅子王の体に纏わりついた。獅子を模した金色の全身鎧、それを纏った男の周囲は闘気によって吹き飛ばされていく……なんだよこれ! 最高じゃねぇか!! おいおいまさか今まで抑え込んでたってのか? この闘気を!! ゼハハハハハハハハハッ! 力の権化! 鬼に匹敵する覇気すら纏いやがって……楽しい! やっぱり死ぬか生きるかの殺し合いは楽しい!!

 

 

獅子王の剛皮(レグルス・ネメア・レザー・レックス)。悪神ロキとフェンリルを相手にした際に見せたがこれが俺の本気だ。この鎧を纏ったのと同時に()も外させてもらった……この武力をもって倒させてもらう! 最強の影龍王と呼ばれたお前を!!」

 

「……なら、こっちも加減はしねぇよ」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 俺も相棒の力……影龍を模した全身鎧を身に纏う。恐らく俺の体から、この鎧から瘴気のような龍のオーラが静かに漏れ出しているのが相手には見えているだろう……全くさ、驚かせたいから最後の最後まで使わないつもりだったけどこうも敬意を表されたら使いたくなっちゃうじゃんか! 俺が鎧を纏っても目の前の獅子王は攻撃する動作に入らない……待っているんだろう。俺が影人形融合を使うのを心から待ってるんだろうな! でも残念! 待っても何も起きねぇよ――だってもう使()()()()しね。

 

 

「獅子王。悪いが影人形融合は使えないぞ」

 

「……なに? 使わないだと……?」

 

「違う違う。使わないんじゃない――使えないんだ。この意味、分かるよな?」

 

「――ハハッ! そうか……! 前以上にその身から漏れ出す瘴気……いったい何になったとは聞かん! この拳で、この戦いでハッキリさせてもらう!!」

 

 

 正面に影人形を生成して拳を突き出すと――衝撃が走った。既に先ほどまで見ていた地点には獅子王の姿が存在しない……ならどこへ行ったか? 答えは簡単だ……今、俺の真正面で影人形と拳を突き合わせている。たった一回の攻撃で俺と獅子王の周囲が吹き飛ぶほどの武力……ひたすらに自分の身体を鍛え上げた末に手に入れたパワーとは恐ろしいな!

 

 

「流石だ……これを止めるか!」

 

「見えてたしな。なぁ、獅子王? アンタって現当主から見放されたんだったよな? だったらアンタの母親は……どんな人だ?」

 

「……厳しくもあり、優しい母であった。何もない俺が誇れる素晴らしい母だ。では逆に聞こう……そちらの母上はどんな方だ?」

 

「そうだな……ド天然で疑う事も知らない馬鹿だけど放っておけねぇ奴だよ」

 

「そうか」

 

「あぁ」

 

 

 純血悪魔として生まれた獅子王と混血悪魔として生まれた俺、似ても似つかない同士だがここだけは同じらしい。

 

 

「俺達は最高の母に恵まれたようだな」

「お互い、最高の母親に恵まれたらしい」

 

 

 ぶつかり合う拳により地面が割れる。影人形越しでも分かる……ここまで鍛え上げるには心の奥底に何かを秘めておかないと無理だ。それを確かめたかったからこその問いだったがこれで分かった……こいつは強い。ヴァーリのように天才でもなければ夜空のように規格外なわけでもない、一誠のように意外性があるわけじゃない、目の前の男はただ努力しただけだ。自分の身体を痛めつけて、血反吐を吐いて、ただひたすら努力した男……軽いマザコンの俺だからこそ分かる。恐らくこいつは――

 

 

「――じゃあ、速さ比べと行こうか! ()()()()()()!!」

 

「――受けてたつ! 簡単には負けてくれるなよ! ノワール・キマリス!!」

 

 

 俺の影人形の拳とサイラオーグの拳が正面からぶつかり合う。一発、また一発、周囲を吹き飛ばしながら互いの拳をひたすらぶつけ続ける。相棒の影と北欧の防御魔術で底上げされた影人形の拳が壊れそうになるなんてすげぇわ……! ここまでのパワーをぶつけられるとテンション上がるよなぁ!!

 

 

『なんとなんとなんとぉ!! ラッシュラッシュラッシュ! ノワール選手の影人形とサイラオーグ選手が正面からラッシュの速さ比べを行い始めましたぁ!! 一撃一撃がとてつもない威力でしょう!! これは……凄いです! パワー対パワー! なんて凄まじい戦いなんでしょうか!!!』

 

「俺のパワーですら壊れん人形か! やはり凄まじい防御力だ!! 撃ち合うたびに俺の腕がへし折れそうになるほどとはな!! 何故ここまでの防御力を求めた!」

 

「決まってんだろ! 俺が目指す奴はとんでもない火力を持ってるんでなぁ! それを受け止めるにはこれしかねぇんだよ!! まだまだ行くぞぉ!! シャドールゥ!!!」

 

「ぬぅぅぅおおおぉぉぉぉっ! まだまだ! 俺の拳はこんなものでは止まらん!!」

 

 

 先ほどよりも激しく、鋭く、そしてパワーが跳ね上がった拳を叩き込もうとしてくる。応戦している影人形の背後にいる俺が衝撃で後ろに下がりそうになるほどのパワーとは恐れ入るよ……これ、四季音姉と戦わせたらきっとあいつは楽しいっていうだろうな! だって俺もすっげぇ楽しいもん!!

 

 放たれた拳を往なしてサイラオーグの二の腕を殴る。鎧の籠手が影人形の拳によって崩壊したが気にしないとばかりにカウンターを叩き込んできた。俺の影人形が普通の拳で軽く吹き飛ばされるとか本当にトンデモナイな!

 

 

「胴体よりも俺の腕を狙ってきたか……良い判断だ。一番の武器さえなくなれば俺はお前に攻撃することが困難になるからな」

 

「生憎、俺はお前の様に生粋のパワータイプじゃないんでな。こんな姑息な手しか使えないテクニックタイプを自称してる。てなわけだ、ここからは俺が得意とする戦い方をさせてもらうぞ?」

 

「構わん! その全てをこの拳で粉砕してくれよう!!」

 

「――良い覚悟じゃねぇか!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 影の翼を生やし、全身の宝玉から音声を鳴り響かせる。修学旅行時に曹操ちゃんと戦いで使ったように背から滝の様に影を生み出して地面を飲み込む。サイラオーグは一度構え、正拳突きを放ち流れる影の海を半分に割るが傷を塞ぐように元に戻っていく……悪いが簡単には止まらねぇぞ? さてどうする! その海に触れればお前の力が根こそぎ奪われる! どうやって対処するか見せてもらおうか!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハ! 悪なる邪龍は! 影龍王は此処にいるぜ? たった一発でその海を割る事は出来ねぇからもっともっと放って見せろぉ!」

 

「ハハ、ハハハハハ! これだ! この理不尽なまでの力を待っていた!! ならば届かせて見せよう! この鍛え上げた拳で!! 俺の武力でな!!」

 

「やってみろぉ! ゼハハハハハハハハ!」

 

 

 広がり続ける海から生まれるのは無数の影人形(シャドール)。一つ目の怪物は拳を握り、俺の敵を殺すために向かって行く。そこに感情なんて存在しない、もしあるとするならば俺の敵を倒すという使命感ぐらいだろう。恐らく観客達の目にはたった一人相手に無数の集団が襲い掛かっている光景が映っているだろう。文句を言われようが罵倒されようが俺はやめる気は一切ない! だってこれが俺の戦い方なんでねぇ!!

 

 サイラオーグは群がってくる影人形を闘気を纏わせた拳で薙ぎ払いながら前へと駆け出した。奴が目指す場所なんて簡単に予想できる……影を生み出し続ける俺に全力の拳を叩き込もうとしてるはずだしな。無数の影人形がラッシュタイムを放てば雄叫びと共に拳で吹き飛ばし、また一歩と前へと進む。邪魔するなら殴る、群がるなら吹き飛ばす、攻撃してくるなら迎え撃つ。たった一人で正面からこの数を突破しようとするその精神には敬意を表したいな……てか数を増やせば防御力が下がるのか? さっきから普通に影人形達が殺されてるんだけど?

 

 

「前へ! 前へ! ただ前へ進むことだけを考えろ! 止まらん! 止まるわけにはいかん!!」

 

 

 影の海を拳圧で割りながら、襲い掛かる影人形を薙ぎ払いながら上空に浮かぶ俺へと向かってくる。曹操ちゃんは転移を繰り返して対処してたがサイラオーグはマジで正面から突破する気だよ……! ゼハハハハハハハハ! 最高だ! 最高に馬鹿だ!! でもそういうのを待ってたんだよ! 夜空みたいに馬鹿なんじゃないかってぐらいの威力で薙ぎ払え! 夜空のように圧倒的な速度で向かってこい!

 

 俺の願い通りに地上にいるサイラオーグが影の海と影人形をものともせず、拳を握って俺へと向かってきていた。鍛え上げられた脚力によって一瞬で俺の懐に入ったサイラオーグは防御魔術で強化された影龍王の再生鎧を簡単にぶち抜いて俺の胴体に拳を叩き込んでくる……ッハ……! 確実に骨が折れたなぁ……!! しかもただ威力があるだけじゃなくて体力やら全部を持っていく代物だ……! 普通の奴ならこれでノックダウンだろうなぁ!!

 

 

「――ようやく、一撃を入れたぞ。ノワール・キマリス」

 

『……さ、サイラオーグ選手が無数の軍勢を突破してノワール選手に拳を叩き込みました! これは大ダメージです! 上空に浮かんでいたノワール選手は地上へと落ちてしまいましたがはたして立ち上がれるでしょうか!?』

 

『キマリスの防御力を突破したか……かなりのパワーだな。若手悪魔の中じゃ確かに一番と言っても良いだろう。だが防御力と精神力なら若手最強のキマリスはあの程度で沈まねぇはずだ……そうだろう光龍妃?』

 

『とーぜんじゃん! あんなの私に何回もされてるもんねぇ!! ほらほらさっさと立てっての! 負けたらマジでおこっからね!!』

 

 

 たくっ……そんなに心配しなくても立ち上がれるっての……さてと、()()()すっかぁ。

 

 取り出したのは配布されたフェニックスの涙。それを口に含んで一気に飲み干す……これで折れた骨は元通りになる。たくっ、遠慮なしに粉砕してくるとは流石じゃねぇの!

 

 

「やはり立ち上がるか。かなりの強度だった……殴った俺の拳が痺れるなど滅多に無いからな! これほどの防御力を持ち、欠損限定とはいえ再生能力を有しているとなればルール無用の実戦では脅威になる。それを改めて実感させてもらった」

 

「そうかよ。まっ、欠損限定だから今の様に打撃で骨を折られると無理なんだけどな。んで? どーしたのかなぁサイラオーグちゃん? さっさと攻撃してこないのかよ? こっちは既に涙を使い果たしたんだ、同じことを続ければ勝てるかもしれねぇぞ?」

 

「そうかもしれない。しかし……俺は全力のノワール・キマリスと戦うためにここにいる。使うが良い、隠しているであろう力をな……たとえそれがどのようなものであれ俺は正面から迎え撃とう! それが何も持たない俺が出来る唯一の礼儀だ」

 

「――そうかよ。だったらお望み通りに使ってやる。ただ、マジで殺しちゃったらゴメンね」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 影の檻を発動して自分を覆う。別に使う必要は無かったがまぁ、なんだ……覚悟のためにちょっと神器の中に意識を落としたかったんだよ。

 

 俺の意識は静かに落ちていき、影の城が視界に映った。当然その主である相棒と俺を取り囲む人影も存在している……なんだなんだ? 普段は反応しねぇのに今日に限って殺る気満々じゃねぇか? そこまで楽しみだったのかよ! さっすが歴代影龍王! そこだけは尊敬してやるぜ。

 

 

『此処に来たって事は使うか? 宿主様よぉ?』

 

「あぁ。別にこれを使わなくても勝てるが相棒はどうだ?」

 

『ゼハハハハハハハハハ! どうだと聞かれたら使うと答えてやるぜぇ! 見せてやろうじゃねぇの!! ユニアに! ユニアの宿主に!! この殺し合いを見ている全ての存在に俺様達の力を分からせてやろうかぁ! 宿主様、俺様はよぉ……嬉しいんだぜ? ここまで俺様を理解してくれたのは宿主様だけなんだ。もう涙が出そうなぐらいに嬉しいんだ! ここまで至った宿主の成長っぷりがさいっこうに嬉しいぜぇ!! ゼハハハハハハハハハハハッ! 行くぞ宿主様ぁ! 殺して殺して殺しまくって! 自分勝手に死んでいこうぜ!!』

 

「……あぁ。良いか歴代共! 俺は邪龍だ。好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいく自己中心的な我儘野郎だ! それの何が悪い! 悪魔なんだから好き勝手にやって何が悪い! ヒーローや正義の味方なんざに興味はねぇ! ただ夜空を倒して! 犯して! 俺のものにしたいだけなんだよ! 夜空以外には興味はねぇ! 俺が進む道はそれだけだ……夜空が見ているなら楽しませてやる、つまらないなら驚かせてやる、受け止めてほしいなら受け止めてやる。たったそれだけの事のために俺はここまで来た……でもなぁ! まだ終わりじゃねぇんだよ! ここまで来たんだったらどこまでも進んでいくだけだ! お前らの呪いも、怒りも、憎しみも妬みも悲しみも何もかも俺にぶつけてこい! 俺はお前らの全てを受け入れてやる! だからお前らも俺と同じ道を進みやがれ!!」

 

 

 歴代影龍王達は無表情だった顔が一気に笑い出す。それは楽しいからじゃない、嬉しいからじゃない、ただ生きてる相手を憎んで呪って殺したいから嗤うだけだ。

 

 

『我らの願いは王の願い』

 

『我らの望みは王の望み』

 

『殺したい、犯したい、生きている者全てが憎い』

 

『我らはどこまでも付いていこう。その先に破滅が待っていたとしてもそれすら喰らい、飲み干してやろう』

 

『無限もいらぬ、夢幻もいらぬ! 我らの欲望こそが全てなり!』

 

 

 吐き気を催すほどの邪気を巻き散らす歴代達を見て俺は静かに笑った。あぁ、そうだ。それで良いんだよ……誰も文句は言わない。俺達は自分勝手に生きるドラゴンなんだから!

 

 

「そんじゃ……行くかお前ら! 最低最悪な邪龍として好き勝手に暴れようぜ!!」

 

『『『『『『『『全てを殺す! 全てを壊す! 全てを呪う! 我らが覇王に勝利あれ!!』』』』』』』』

 

 

 俺の()()に染まった歴代共と相棒を引き連れて背後に現れた扉の前まで歩きだす。それは開けられないように頑丈な鎖で固定されている。この先は地獄だろう……でもな、その先に進むのが俺達だ! 悪かったな……長い間、こんな場所に閉じ込めておいてさ。もう大丈夫だ……さぁ、行こうぜ。

 

 封じられた扉を強引に開けた俺達は戦場へと戻っていく。

 

 

 

 

 ノワール・キマリスが生み出したであろう影の球体が壊れ始めた。何をするつもりかは知らん、俺はただこの拳で迎え撃つのみだ。

 

 

「――待たせたな」

 

 

 たった一言、球体から出てきた男が放つ言葉には身の毛もおだつほどの邪悪さがあった。ふと、我に返った俺は無意識に一歩、後ろに下がっている事に気が付いた。なんだこれは? 拳は強く握られ、レグルスですら畏怖しているこれは一体何なんだ……!

 

 

「ちょっとばっかし神器の奥底に意識を落とすために影の檻を使わせてもらったよ。あれ、一応命の危険性は無いけど下手すると()()しな。アイツらは俺を気遣うなんて優しさはねぇからなぁ~もっとも俺もだけどね」

 

 

 言葉が飛んでくるたびに俺の身体が震えていく……いや、魂そのものが汚染されると錯覚するほどの邪悪な瘴気が周囲に巻き散らされている。先ほどから微かに鎧から漏れ出してはいた。だが――今はそれをはるかに超える濃さを纏っている!

 

 

「どうした? あぁ、まさかこれにビビってる? んなわけねぇか。さてと……お望み通りに使ってやるよ。先に言っておくが耐えきったらお前の勝ちだ――夜空ぁ!!」

 

『んぅ~? どったん? なんかやけに邪悪じゃん! なになに!? なにすんの!!』

 

「俺はお前を楽しませてやる! 受け止めてやる! だから……笑え。心の底から好きなだけ笑ってくれよ――我、目覚めるは」

 

『っ! 馬鹿野郎!! たかがゲームで覇龍だと!? おいキマリス! 待て! それを――』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

《我らは自らの欲望で生きていく!》《誰にも邪魔はさせはしない! 我らが王の出陣を!》

 

『――なんだと?』

 

 

 戦場を侵食するようにノワール・キマリスの身体から龍のオーラと呼ぶべきものが放出される。しかし俺には……これが本当にオーラと呼んでいいのか理解が出来ないでいた。胃の中身をぶちまけたくなるような醜悪で最悪なそれはさらに高まっていく。まるで産声を上げるように、何かを求めるようにノワール・キマリスを染めていく。

 

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《無限は必要ない》《夢幻すら不要》

 

「我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて――」

《我らは王と共にある》《我らは世界全てを呪う!》

 

《我らが歩む覇道は誰にも邪魔はさせん! 世界を呪い! 喰らい! 滅ぼすまでは決して!!!》

 

 

 俺はどこか勘違いをしていたのかもしれない。この男とは今後も共に戦えると、全力をぶつけるに値する存在だと思い込んでいた。だが違ったのだろうな……目の前の男は俺を見ていない。あの男が見続けているのは彼女だけなのだろう。俺はまだまだ未熟だ……全力をぶつけるに値すると決めた男をもはや味方とは見れないとさえ思っている――それほどまでに目の前の男は「悪」と呼ぶに相応しい存在になっているのだから。

 

 

「「「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう――」」」」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 それは邪悪だった。影龍王としての存在を象徴する棘はさらに禍々しく目立ち、身に纏う鎧は「漆黒」へと変化している。その場に立っているだけで地面が朽ちていき、黒く汚染されていく……纏っているオーラからは邪悪、いやそんなものすら生ぬるい! ありとあらゆるものを呪おうとする意思すら感じさせる悪のオーラだ。得ていたデータではあのような姿にはならなかったはず……つまりこのゲーム、俺との対戦のためだけに会得してきたモノだろう。

 

 そう考えると俺は喜びを感じ笑みを隠せずにいた。俺はまだ目指す先があるのだと! まだまだ終着点では無いのだと教えてくれたのだからな!

 

 

「『――ゼハハハハハハハ!! 待たせたなぁ獅子王ちゃんよぉ!! これが影人形融合を使えないって言った理由なんだぜ? もっと喜んでくれても良いだろう! それともなんだなんだぁ? ビビってるわけねぇよなぁ? だったら拍子抜けも良いところだ! もっと楽しんでくれよぉ! この影龍王の漆黒鎧(プルシャドール・ジャガーノート)()覇龍融合(オーバーフュージョン)で戦う最初の相手が獅子王ちゃん! お前なんだからさ!」』

 

 

 放たれる言葉には邪気が含まれている。ノワール・キマリスの声が、影龍の声が重なった声を浴びるたびに心が朽ちかける……! 俺が纏う闘気が穢れていく! それほどまでの負の呪いを巻き散らす存在が目の前に現れている!!

 

 

「『ほらほらぁ! さっきみたいに一発ぶちこんでこいよ? 初回サービスだ! 受けてやるよ! それともなんだぁ~? 俺達が放つ邪気に当てられて動けねぇってか? んなわけねーだろ!! テメェはそんな軟弱な奴じゃねぇって知ってるっての! だが意志は強く持っておけよ? じゃねぇと汚染されて発狂しちまうからなぁ!!』」

 

「……あぁ、お前の声を聞くたびに心の奥底が穢れていく……! それがお前が、お前達が至った境地か!」

 

「『残念! 途中だよ! 全然まだまだ半分も到達してねぇっての! これからだよこれから! 来ないならこっちから行くぜ? どうするよ?』」

 

「――無論、お言葉に甘えて全力で行かせてもらう!!」

 

 

 戦場を、空気を、大地を、建物を、世界すら汚染する瘴気を跳ね除けるように俺は闘気を纏う。見るからに隙だらけな男の胴体に渾身の拳を叩き込む――しかしそれが罠だと気が付いたのは打ち込んだ後だった。

 

 ――何故、俺の腕が折れているのだろうか。

 

 

「『弱いぜぇ? おいおい全然弱いな! 恐怖で忘れちまったかぁ? だったら教えてやるよ――殴りってのはこうやるんだぜ!!』」

 

 

 何が起きたか分からない。意識が軽く飛んだかと思えば俺は空を見ていた……獅子を模した鎧、胴体を守る部分が砕かれて明らかに致命傷だと分かるほどのダメージを受けている。なんという一撃だ……俺が意識を飛ばすとは恐ろしいものだ……あは、ハハハハハハハ!!

 

 

「……これが、勝ちたいという感情か! レグルス……まだ、まだ行けるな?」

 

『はい! サイラオーグさまの戦意がある限り! このレグルスは共に戦えます!』

 

「その言葉、お前が俺の兵士で本当に良かった……!」

 

 

 フェニックスの涙を取り出し、傷口に振りかける。傷がふさがると言っても応急処置にしかならん……奴は既に俺を超えている! いや魔王すら!!

 

 

「『ゼハハハハハハハ! そうこなくっちゃな! 今ので沈んでたら泣いてたぜ? まだ行けるよなぁ!』」

 

「勿論だとも! その防御力……それを粉砕して見せよう!!」

 

 

 正面から殴る。折れた腕で何度も殴る。痛みなんぞ当の昔に感じてはいない! 奴の拳が俺の鎧に触れるたびに音声が鳴り響き――俺の鎧が朽ちていく。加減された一撃だという事は分かっている! いつでも倒せるからこそ遊んでいる! この殴り合いは自分の防御力を突破してくる一撃を奴が待っているからこそ行われているに過ぎない! 構わない! 遊ばれていようとも、笑われていようとも! 必ず俺の一撃を叩き込もう!!

 

 ――諦めなければ、必ず勝てるのだから!!

 

 

「ノワールキマリスゥゥゥ!!!」

 

「『ゼハハハハハハハ! 腕が折れたぞ! 身体もボロボロだぞ! まだ立つか! まだ立てるか!!』」

 

「当然だ!! 俺はバアル! いずれ魔王となる男!! この程度で終わるほど弱くは無い!!」

 

「『だよなぁ! ほらほらもっと打ってこい! 叩き込んで来い! その程度じゃ俺の鎧は突破出来ねぇぞ!』」

 

 

 母上。俺は今、最高の相手と殴り合っています。魔力も無く、滅びの力を受け継がなかった俺はこれからも強くなります。何故なら目の前にいる男に、いずれ俺を超えてくるであろう男に勝ちたいからです。この冥界に俺のような過去を持つ者を生み出さないように魔王になります。だから見ていてください……貴方の息子はまだ戦えます!

 

 

「ぬぬううううぅぅおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 俺が持てる全ての力を、誇りを、魂を込めた拳は鎧を砕いた。あぁ……届いたぞ。まだ届く! 届くのであれば俺はまだ戦える!!

 

 

「『……いい一撃だぜ、さいっこうに良い一撃だ。でも悲しいなぁ――』」

 

『Undead!!』

 

 

 俺が与えたダメージはまるで無かったように影が集まって消えていった。そうか……そうだったか、お前は既に――

 

 

「『悪いなぁ。俺様、当の昔に完全再生できるようになってんのよ!! ゼハハハハハハ! フェニックスの涙なんつうジュースは最初っからいらなかったってわけさ! ありがとよサイラオーグ、アンタのおかげでまだまだ鎧の強度が上げられそうだ』」

 

「……まだ、負けん……負けてはいない!!」

 

「『正気を保ってるのは流石だなぁ! でも残念! もう五分経っちまうから終わらせるぜ? 実戦なら俺様の負けだ、でもなぁ――ルール有のゲームなら別なのよぉ!!』」

 

 

 すまぬ……どうやら負けのようだ。

 

 だが心は折れない……まだ、まだ戦える。もし、次があるのならば必ず……勝ってみせよう。

 

 

 

 

 

 

「……ドライグ」

 

『あぁ。覚えておけ相棒……あれが邪龍だ。希望を与え、絶望へと落とす。誰もが奴を誉めるだろうな、あれと対峙して心が折れなかったのだから』

 

「うん……黒井はドンドン強くなっていってる。負けられないよな……ドライグ」

 

『当然だ。俺もクロムに負けっぱなしはご免だ。しかし次に戦うならば覚悟しろ――奴は生前のクロムの力を会得した』

 

 

 成長途中の赤き龍帝はさらに強くなることを心に誓った。

 

 

「これが影龍王が至った覇道か」

 

『だろうな。説得するでもなく、屈服させるわけでもない――受け入れた上で自分の呪いに染めている。正気を保っているのが異常なぐらいだ……ヴァーリ、お前はああはならないようにしてくれ』

 

「分かってるさ。アルビオン、俺はこの時代に生まれて良かったよ。白龍皇で本当に良かったと思える」

 

『……そうか』

 

 

 白き龍皇は静かにその場から消えていった。

 

 

「――あは、あはははははははは!!!! さいっこう! 本当にさいっこうじゃん!! やっぱりノワールって面白い! ホント大好き! あぁ……大好きだよノワール! なんでそんなに私を楽しませてくれんの! そんな風にされたらもっと好きになっちゃうじゃん!」

 

『クフフフフフ、まさかクロムの再生能力を完全に引き出すとは思いませんでした。夜空、負けていられませんね』

 

「そうだよ! 負けらんない! 絶対に負けない負けらんない! 欲しいよぉ、ノワールぅ……絶対に手に入れてやっからもうちょっとだけ待ってろよぉ!!」

 

 

 光り輝く龍妃は反存在が見せた力にただ笑う。ひたすら楽しいと表現するために笑い続けた。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

68話

「ノワール」

 

「あん?」

 

「もう学園祭が始まってるね」

 

「だな」

 

「サボっていいの? 心霊探索同好会の部長さん」

 

「ちゃんと偽物が出席してるから俺はサボってはいないな。副部長様はサボって良いのかよ?」

 

「病弱だから仕方がない」

 

 

 カチカチと俺の膝の上に座って積んでいるエロゲーをプレイしている平家が当たり前の様に答えるが……何が病弱だよ? 普通に健康じゃねぇか。病弱だっていうならさっさと自分のベッドで横になって寝てろよ?

 

 

「ヤダ。昨日、私を怖がらせた罪を償ってもらわないと困る」

 

 

 ジト目で俺を見てくるがその表情は本気で心配しているものだ。昨日……つまり俺達キマリス眷属とバアル眷属のゲームで俺と獅子お、いや違うな……サイラオーグとの最終決戦時に使った漆黒の鎧が今の現状を作った元凶だと思う。

 

 影龍王の漆黒鎧(プルシャドール・ジャガーノート)()覇龍融合(オーバーフュージョン)。暴走形態である覇龍に代わるモノにして俺が編み出した影龍王の再生鎧ver影人形融合2の強化形態。歴代全ての呪いを受け入れた上で俺の呪いに染め上げた結果、覇龍の力を鎧に纏わせることが出来た状態……当然圧倒的な力を引き出せる代わりに使用後は体力の殆どを消費と意識を強く持っていないと精神力が削られて廃人コースに一直線というデメリットがあるけどな。サイラオーグ相手に死ぬ危険性は無いが下手をすると死ぬといった理由はこれの事だ……肉体的には死なないが精神的に死ぬ、それがこの漆黒の鎧の恐ろしさだ。なんせマジで意識を強く持ってねぇと歴代共の呪いで精神力が削られて相棒に身体を明け渡す事になるからなぁ! 邪龍を受け入れるってのはそういう事だ……と相棒は言ってたけど俺としては後悔は全然していない! これが俺が選んだ道――覇王になる道だからな!

 

 そんなわけで昨日はマジで大変だった。平家は呪いの声のせいで酷く不安定になったし、俺は俺で体力の殆どを消費したから死んだように眠りにつく羽目になった。その結果! こうしてサボれたんだけどね! きっと今は俺の姿に化けたヴィルが何とかしてくれてるだろう……俺の使い魔だしきっと大丈夫!

 

 

「それを使ったノワールの身体にいくつもの呪い()があった……殺したい、壊したい、生きたい、犯したい、憎い憎い憎い全てが憎い! ってね。覚妖怪を殺す気? あんなの私じゃなかったら精神的に死んでたよ」

 

「そりゃそうだろ? なんせあの状態はガチで呪いの集合体だ。近くに居れば身体を汚染するし魂が穢れる……力が弱い奴や仙術を得意としている者は意識を強く持たなければ対処出来ずに死ぬって相棒が言ってたぐらい極悪な形態だぞ? むしろ常日頃から俺に慣れてて良かったと感謝しろ」

 

 

 そうじゃなかったら今頃こいつは廃人同然になってただろう。普段から俺の心を読んで、俺を理解して、高校生という欲望丸出しな奴らが多い学園に通ってなければこいつはもう使い物にならなかっただろうな。基本的に影龍王の漆黒鎧・覇龍融合――長いから漆黒の鎧にしようか。こいつはタイマンで使う事が前提になる……そもそも呪いの集大成と言っても良い形態だ、下手をすると視界に入れただけで、傍にいるだけで味方を壊しかねない。だから誰かと協力して敵を倒すとか絶対に考えられないんだよね! だってドラゴンだし。

 

 

「……ノワール」

 

「ん?」

 

「勝手に死んだら許さないから」

 

 

 自分の体を俺に預けながら小さく呟いた。たくっ、心配しなくても勝手に死ぬわけねぇだろ? そもそも俺が死ぬ時は夜空に負けた時か夜空が死んだ時だけだ。もしフラれたら……その時はお前らに慰めてもらうから多分生きていけると思う。たとえ夜空にフラれてもあいつの顔が見れるんなら多分生きていける……だけどもし見られないなら普通に死ぬかも。そう考えると俺も人のことは言えねぇな……ここまで夜空にぞっこんなんだしさ。

 

 

「さっさと告白してフラれれば良いよ」

 

「おいこら……そこは応援しろよ」

 

「ヤダ。そもそも女って恋愛を応援するとか絶対にしないし。知ってる? 女が他の女にあの子の事が好きなんだって言うのは狙ってるから手を出すなって意味なんだよ? 他にも恋愛相談するのってその人物が自分のライバルなのかどうか確かめるためにするものだし。それにノワールって光龍妃と付き合ったらもうぞっこんのぞっこんで私の事を見ないかもしれないしね……だからフラれてくれない?」

 

「この野郎……! 一番じゃなくても良いって言ったのはお前じゃなかったか?」

 

「それはそれ、これはこれ。一番じゃなくても良いけどちゃんと私を見てくれなきゃヤダ」

 

「……物好きめ」

 

「それほどでもない」

 

 

 なんで嬉しそうな顔をするのか俺には理解できん。そもそも橘もなんだって俺の事が好きって宣言しちゃったのかねぇ? そのせいで今日の朝刊……あっ! 人間界じゃなくて冥界の方な! それに『影龍王を巡る女の戦い勃発! 本命はいったい誰なのか!』って書かれちゃったし! とりあえずそれを書いた所は謎の光によって跡形もなく消えたらしいけど……誰がやったんだろうねー! 俺様、全然心当たり無いわー!

 

 まぁ、そんな記事が書かれちゃったから橘はもう大変! 朝から顔真っ赤で平家の様に引きこもろうとしてたしね! でもなぁ……朝っぱらから夜這いならぬ朝這いしてきた時点でもうアウトだと思うのは俺だけか? ビックリしたわ! 誰かが忍び込んできたなと思って対応したら橘だったんだもん。パジャマ姿だったからノーブラでさ、押し倒した状態で胸を揉んだら滅茶苦茶柔らかかった! そのまま数分間ぐらい揉んでたら目をトロンとさせてウェルカム状態になってさぁ大変! 俺様の鋼のような理性が無ければ即死だっただろう。

 

 

「元々志保って淫乱気質だから。ノワールに見られたいし触ってほしいのに周りの目があるから我慢してたけど昨日のゲームで見られなければ何も問題無いって発想に至ったみたい。だから二人きりになったら攻めてくると思うよ」

 

「……俺にどうしてほしいんだよ」

 

「襲ってほしいんだと思うよ。勿論私も同じだけね。今だってパジャマの下はノーブラノーパンだし何時でも抱かれる準備はおっけー。このまましちゃう? この硬くなってるものを気持ちよくしてあげるよ?」

 

「俺にだって選ぶ権利があるんでノーサンキュー。ところで……これどうすんだよ?」

 

 

 視線を横に向けると褐色黒髪美少女となったグラムが全裸になってベッドで寝ている。今の状況を説明するなら俺達三人はベッドの上にいる。ただし俺と平家は横にならずに座ってエロゲをしているから純粋に爆睡しているのはグラムだけだ。褐色肌ってマジエロイ。

 

 そして平家? 断られたからってノワール君のノワール君を指で弄らないでもらえませんかねぇ? お前の柔らかい体に触れて反応しちゃってるだけだからマジでやめてくれない? 流石の俺も朝からは……うん、夜なら良いけど朝からだと賢者タイムがヤバい事になるしね!

 

 

「ノワールがちゃんと扱えば何も問題無いと思うよ」

 

「んなめんどくせぇことするわけねぇだろ……てかお前、性別は無いって言ってたよな? 全裸のこいつを見たが普通に女だったぞ?」

 

「うん言ったよ。だって()()に性別なんてあるはずないよ。それにこの姿って変化の術みたいなものだし性別なんて可変式だよ? 男になりたいと思えば男になるし、女になりたいと思えば女になる。今はノワールに剣と鞘として扱ってほしい、雑に扱われたくないってだけで女の身体()になってるけどノワールが男になれって言ったら普通に変化すると思うね」

 

「……なんだそのメンドクサイ仕様は?」

 

「だって魔剣だもん。性別なんて曖昧、声だって男か女かなんて分かんないんだからしょーがない」

 

『つまり男の娘になれって言ったらなるんだな、ゼハハハハハ! テンション上がってきたぁ!』

 

「流石に男の娘はねぇわ」

 

『――マジデェ?』

 

 

 だって男か女かどっちが良いって聞かれたら普通に女の子が良いです。腋好きとはいえその辺は普通の男ですし……でもちょこっとだけ興味があるのは認めても良いかもしれないがあくまで女の子優先な! てかなんでコイツは俺の部屋で爆睡してんだ? 普通にサボって平家とエロゲしてたら部屋に入ってきて「我が王よ、我らは寝る」と言って俺のベッドで寝始めたし……とりあえず空いている手で褐色肌ぷにぷにしたりちっぱい揉んだりしてるけど反応が無いのがムカつく。女の快感に悶えるグラムちゃんとか見たいのに!

 

 

「変態」

 

「そのセリフ、お前も当てはまるからな? 今やってる事は女としてダメだろ」

 

「ダメじゃないよ。女の子は好きな男のモノの匂いを嗅いだり触ったりするのが大好きな生き物だし。ズボン越しだけど気持ちいいでしょ?」

 

 

 滅茶苦茶気持ち良いです。

 

 

「だったら問題無いよ」

 

「アホ。ほれ、そろそろ退け。飯作ってくるから」

 

「カップラーメン希望」

 

「元からそのつもりだよ」

 

 

 なんで俺が飯を作らないとダメなんだって話だ。い、いややろうと思えば作れるよ? でも料理というか台所って基本的に水無瀬の領域だから迂闊に入れないんだよ。それに水無瀬は俺好みの味付けをしてくれるからマジで良妻候補だわ! 不幸だけど!

 

 そんなぐっだらない事を思いつつ送られてきたカップラーメンを求めて居間へと降りるが誰も居ない。学校に通っていない四季音姉妹はどうやらグラムと同じように爆睡中のようだ……だって静かだし。きっとお部屋の中ではゆりっゆりな光景が広がっているだろう。覗きたいけど殴られたくないから妄想だけで留めておこうかね! 台所の片隅に山のように積んであるカップ麺の山から適当に三つを持って部屋へと戻る。なんとこのカップ麺の山は昨日の夜中にヴァーリから送られてきたものです! しかもエロエロな黒猫ちゃんが態々足を運んでまで届けてくれた素晴らしいものだ! なんでカップ麺と聞かれたら爽やか系イケメン(美猴)が安売りしてたのを大量に買ってきたらしく処分に困ってたらしい……お前らの食生活は大丈夫か? こっちとしてはありがたいけどさ!

 

 

「昨日あれだけ飲んでたから二人とも寝てるよ。絡み合ってるとかはしてないっぽい」

 

「なんだ面白くねぇ……てかこの野郎、飯の時だけ起きてきやがって。てかお前……魔剣の癖に食えるのかよ?」

 

『問ダいない。こノすがタは人とおなジなり。食じも可能デあリコも宿せる。先のかいワも聞コえていタぞ。ワガ王が望むのデあれバオトこになってヤろう』

 

「そのままで良いっての……俺は男好きなわけじゃねぇし。一応お前の分の飯を持ってきたからさっさと食うぞ」

 

 

 そんなわけで三人仲良くカップラーメンをもぐもぐして食い終わったらまたベッドの上で積みゲー消化。先ほどまで爆睡していたグラムも俺の隣で興味深そうにプレイしていた純愛系じゃなくて……まぁ、所謂発散目的のエロ満載な奴をガン見していた。どうやら過去にグラムを使ってた奴らの営みを見てたからその辺の動作は知ってるらしい。行為の意味までは理解できてないようだけどな……というかそりゃ過去のグラム所有者も見られてるとは思ってなかっただろうな! 普通に剣として扱ってただろうし。

 

 ちなみに今の姿は過去に自分(グラム)を使ってた女の姿を真似てるらしい。こんなエロい体をした奴が魔剣の使い手だったとかすげぇなおい……まっ、最後は弱ってるところを狙われて奴隷コースだったらしけども。

 

 

『わガ王よ』

 

「んぁ? なんだー? 今レベル上げで忙しいんだが?」

 

『早ク我らヲ使え。先のゲームでハいチどしか戦えていナいのだ、血ガたりヌ! ワれらは生まれカわったのダ! さァ、使うガいイ!!』

 

「ヤダめんどい。はぁ? なんだよこのスキル持ち……馬鹿じゃねぇの!」

 

「このキャラの特徴だよ。全属性耐性で貫通持ちじゃないと突破不可能。でも貫通攻撃したら倍のダメージが帰ってくるクソゲー仕様。前々のシナリオで反射ダメ無効能力持ちが仲間になったからそれを上手く使わないと突破出来ませーん」

 

「エロシーン見たいだけなのになんでレベル上げと戦闘があるんだよ! あーめんどくせぇ! んなもん使わなくても突破してやらぁ!」

 

『わガ王よ、早くワレらをつカえ! 我らハ伝せツのまケんだ! 何故誇りに思ワぬ!!』

 

「ただの剣だろうが? だから今は忙しいって言ってるだろ……構ってほしかったらそこでオナニーでもしてろ。平家、ちょっとだけ操作独占するぞ」

 

「りょーかい、終わるまでノワールの首筋舐めてるね」

 

『おナにーだと? ぬゥ、わかラぬが先ほどノ場面とおなジ事をすレばいいノだな』

 

 

 そんなわけで始まりましたノワール君によるエロゲー攻略大作戦! 何故か知らないが俺の首筋を舐め続ける平家と隣でオナニーし始めた魔帝剣グラムちゃんが物凄く気になりますが今は戦闘に集中しよう。てか無表情でしないでもらえませんかねぇ? せめて声を出すとかその辺を真面目に……いいやめんどくせぇ! とりあえずこのクソ仕様なボスを突破することに専念すっか!

 

 

「――悪魔さん♪」

 

「――キマリス様、フェニックス家代表としてお伝えしたい事がありますわ」

 

 

 数時間後、俺は橘とレイチェルの前で正座をしている。なんでかと言われたら帰ってきた二人に先ほどまでの光景を見られたからです! エロゲー相手にマジになってる俺、発情したのかオナニーし始めた平家とそれを真似るグラム。なんという事でしょう……カオスな状況をえっちぃの禁止委員会のお二人に見られました! 約一名ほど淫乱ですがえっちぃの禁止委員会です!

 

 

「……あのさ、なんで正座させられてんの?」

 

「分からないんですか?」

 

「ハイスイマセンサキホドノコウケイデスヨネゴメンナサイ」

 

 

 やべぇ、橘がガチでキレてやがる……! 禁手化して破魔の霊力を混ぜた破魔の雷をバチバチと見せつけてるしね!! やめろよぉ! 隣にいるレイチェルが涙目になってるじゃねぇか!!

 

 

「てか王様……サボってエロゲーはギリセーフかもしれないけど他がアウトっすわ。何してんすか?」

 

「いやだってグラムが我らを使えとか血が足りないとか構ってちゃんオーラがウザかったから適当にオナニーしとけって言った結果がこれだよ。平家に関してはいつも通りだ」

 

「い、いつも通り……! ちょ、ちょっと覚妖怪……! あ、ああ貴方はいったいキマリス様の前でな、ななな何を!!」

 

「だって襲ってほしいんだもん。でもあんなに誘惑してるのに襲ってこないのはどうかと思う、あれだけ硬くしてるのにね」

 

「お前で童貞卒業とか死んでもごめんだわ――いってぇ!? だから蹴るんじゃねぇよ!!」

 

「虫が止まってた」

 

 

 この野郎……! 自分だけ安全圏にいるからやりたい放題かよ! こっちはなぁ! 破魔の霊力が目の前にあるから怖いんだよ! 死なないけど死にかねないからマジでヤバい。くっ! 雷電の狐の禁手はここまで強力なものだったとはな……! これはこれで有りだわ! 狐耳! 尻尾! 腋出し巫女服! そしてアイドル! これほどの属性てんこ盛り状態で説教されるとかもうご褒美だわ!

 

 

「悪魔さん?」

 

 

 はいごめんなさい、反省してまーす。

 

 

「……こ、コホン。き、キマリス様! 殿方なのですからあまり、その、あのような物を目にするのはいけませんわ! 由緒正しきキマリス家次期当主なのですからちゃんとしてもらわないと困りますわ!」

 

「そうですよ悪魔さん! えっちなゲームに夢中になるなら私を見てください! 悪魔さんが大好きな腋も見せますから!」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 橘もレイチェルも互いにこの人はいったい何を言っているんだろうと思ってそうな表情で見つめ合っている。うーん! いつも通りだな!

 

 そんな光景が続くと思っていると突然離れた場所に魔法陣が展開してとある人物が転移してきた。紅髪のイケメンと銀髪のメイド――現魔王サーゼクス・ルシファーと最強の女王グレイフィア・ルキフグスだ。あのさぁ……なんで勝手に転移してくんの? 普通は前もって言わない? 此処に来るとか全然聞いてないんですけどー!

 

 

「ノワール・キマリス君。いきなりの転移で申し訳ない……なにやら取り込み中だったかな?」

 

「いえ全然。こんな場所に何の用でしょうか? 特にこれと言って魔王様方のご迷惑になるような事はしていないつもりなんですけども?」

 

「あぁ、すまない。本来であれば午前中にリアスの部室で伝えようと思ったんだが不在だったみたいでね。あまり堅苦しくしないでもらって構わないさ、こちらはいきなりやってきた無礼者だからね」

 

「んじゃ遠慮なく。で? 伝えたい事って何ですか? こっちはうちのアイドルとフェニックスの双子姫からご褒美という名の説教貰わないとダメなんで出来れば手短にお願いします」

 

 

 背後から「王様ぁ!? 相手は魔王っすよぉ!!」とか「ノワール君! ちゃんとしてください!!」とか「早く帰ってもらってね」とか色んな視線を浴びてるが無視だ無視! でも帰ってほしいのは俺も一緒だ! だってめんどくさいもん。

 

 

「あはは。なら手短に言わせてもらおうかな。先のゲーム、素晴らしいものだったよ。今回の結果と今までの功績を踏まえて平家早織くん、犬月瞬くんの二人に中級悪魔の昇格の話が出ている。キマリス眷属からは戦車、四季音花恋くんが中級悪魔へと昇格しているが日を開けずに同じ眷属内から昇格の話が出るのは異例だろうね……でもそれほどの活躍をしているのだからこの評価は当然だと思う」

 

「俺が、中級に……」

 

「……」

 

 

 後ろにいる犬月はかなり戸惑ってる様子だ。平家は……あの顔だと嫌だって感じだな。そりゃそうだよな……嫌われ者とか言われてる覚妖怪が中級悪魔の試験を受けに行ったら何を言われるか分かったもんじゃねぇし。

 

 

「――魔王様、発言しても良い?」

 

「どうぞ」

 

「その話、お断りします」

 

 

 デスヨネー。

 

 

「さ、早織!?」

 

「早織さん!?」

 

「……理由を聞いても構わないかい?」

 

「しょーじき中級悪魔も上級悪魔も興味無いです。私はノワールの傍に居れたらそれで良い。これを断って一生下級悪魔でも私は困らない。それに今の冥界で上に行っても面倒な事になりそうだもん」

 

「……えっと、魔王様。俺も発言、良いですかね?」

 

「うん。構わないよ」

 

「ありがとうございます……えっと、俺も、断らせてください。俺は普通の人間一人にすら勝てない悪魔っす……そんな奴が中級悪魔の試験なんて受けても肩書だけが立派になりすぎてなんていうか、王様にも周りにも迷惑がかかります。中級悪魔になるならこの手であの女を……アリス・ラーナを殺して因縁全部を無くしてからっす! たとえ何年、何十年、何百年かかってもその時は必ずなります! でも一生下級だって言われたら自分が選んだ道なんで素直に受け止めますけどね……あと、俺なんかよりも水無せんせーやしほりん、茨木童子の方が中級悪魔に向いてますよ! だからホント、すいません!」

 

 

 頭を下げる犬月に目の前にいる魔王は若干だけど困惑した様子だ。背後に立っている女王ですら表情を崩したんだしマジかよとか思ってると思う……デスヨネ! だって中級悪魔に昇格できるかもしれないよって言われて断ったんだもんそうなるわ! でも他人の思惑なんかよりも自分の欲望優先なのは俺の眷属らしいな……普通の王なら意地でも受けさせるのが当然なんだろうけどこいつらがそれで良いって言うなら俺は何もしない。俺の眷属なんだから好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいっても文句は言われねぇだろ! だって王自らが行ってるしな!!

 

 

「――ノワール・キマリスくん」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

「良い眷属に巡り合えたね。自分の意見を素直に言える悪魔は少ない……この話は()()にしておくよ。その時期になったら再びこの話をさせてもらおうかな」

 

 

 魔王様と女王の二人はさようならの挨拶をしてから再び転移していった。はぁ……もう来ないでくださいお願いします! 訪れるなら良い子ちゃんばっかりなグレモリー先輩たちの方にお願いします!

 

 

「……王様」

 

「ん?」

 

「あの、怒ってたり、します?」

 

「んなわけねーだろ? 俺達は悪魔だぞ? 自分の欲望優先にして何が悪い。俺がいつも言ってるだろ? 好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいくとかってな……悪魔なんて自己中心的で我儘な奴らだ。自分がやりたいと思ったらそれをすれば良いだけの事、だから俺は怒ってねぇぞ? むしろ――褒めたいぐらいだ。誰に何を言われても良い、文句とか陰口とか言わせておけばいい。ただ自分の意見だけは曲げるな……って俺が言っても意味ねぇな」

 

「だね。コロコロと意見変えたりしてるもん」

 

「とーぜんだろ。だって俺様、邪龍だぜ? 自己中で自己満足の塊でやりたい事だけやれば良いと本気で思ってる最低最悪の影龍王だ、それぐらいは許せっての」

 

 

 自分のやりたいようにやったり自分の欲望に忠実になったりするのが悪魔ってもんだろ? だったらそれで良いさ。魔王の思惑も他人の考えもどうでも良い――自由気ままに、自分が思うままに生きれば良い。俺の眷属ならそれぐらいはしてくれよ?




影龍王の漆黒鎧・覇龍融合《プルシャドール・ジャガーノート・オーバーフュージョン》
ノワール・キマリスが編み出した覇龍に代わる存在にして影龍王の鎧ver影人形融合2の強化形態。
歴代影龍王の呪いを受けいれつつ、自分の呪いに染め上げているためか発動する際に聞こえる歴代の思念の声、纏うオーラは邪悪そのもので聞くだけで吐き気を催し、寒気が止まらなくなるほど禍々しい状態になる。

形状は影龍を象徴する棘がさらに禍々しく目立ち、濃密な負の邪念をオーラとして身に纏う漆黒の全身鎧。
イメージ元はデジモンのドルゴラモンの姿を鎧風に変化したもの、またはモンハンのアカム装備(剣士)。

これで「影龍王と獅子王」編が終了です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と酒呑童子
69話


「悪いな、こんな時間に呼び出しちまって」

 

 

 サイラオーグ率いるバアル眷属とのゲームが終わって一週間ほど経過した深夜、俺はとある場所に訪れていた。目の前には浴衣姿のアザゼルがグラスを持ってソファーに座っている。ヤダ、なんか怪しい光景なんですけど帰って良いですかね? と思いたくなるこの場所はアザゼルが住んでいるマンションの一室だ。周りを見渡してみると大量のゲーム機やら漫画やら酒やら研究に使う道具やらが大量に置かれている……なんていうかオタクの部屋って感じだな。高価な酒が保管されてるところを除けばだけどね!

 

 

「別に暇だったしな、んで? 堕天使の総督さんが何の用だ?」

 

「いや、少しばっかりヴァーリから面倒な事を頼まれてな……一応、関係しているお前さんにも話をしておこうと思っただけだ。何飲む? 酒が良いって言うなら出すぞ?」

 

「生憎未成年なんでな、コーラ」

 

「あいよ」

 

 

 冷蔵庫から氷とコーラを取り出してコップに注ぐ。普段ははっちゃけたりなんだりしているアザゼルだが今はマジで悩んでるって感じでかなり大人しい……ヴァーリから頼まれたって言ってたが内容次第じゃ色々とヤバいぞ? なんせあいつは禍の団に所属しているテロリスト、堕天使のトップであるアザゼルが極秘で頼まれたとバレたら和平を結んでいる悪魔と天使、北欧、京都、とりあえず今後の同盟等に支障が出る。うわぁ、帰りてぇ。なんでそんな面倒な事に俺を巻き込むんだよ……? あれか! 橘の亜種禁手とか俺の漆黒の鎧のデータを渡さなかったからか!! うっわ逆恨みも良い所じゃねぇか!!

 

 とか思いつつコーラを飲む。冷えているからすっごく美味い! アザゼルの事だからコーラと言いつつ酒を出してくるんじゃないかと思ったがそんな事は無かったようだ。てかヴァーリ、いったい何を頼んだんだよ……いくら自由気ままな夜空で慣れてる俺でも対処出来るものと出来ないものがあるんだからな! てかそもそも俺だって面倒な事に巻き込まれて困ってるんだぞ!? お前が持ってきた面倒事を見れるわけねぇんだよ!!

 

 

「……キマリス」

 

「あん?」

 

「正直、お前さんにこの件を伝えるのは問題だと思う。だが……信用できないかもしれんが手を貸してくれ。流石にリアスやソーナじゃ対処できない案件だ」

 

「……まぁ、ヴァーリからの頼み事だって言うなら確実に勢力のトップが対応する案件だろうな。グラムの件で世話になったから話ぐらいは聞いてやるがどうするかはそれからだ。こっちもこっちで面倒な事に巻き込まれてるしな」

 

「分かった。だが……この件は内密に頼む。下手をすると俺の首が飛ぶしお前さんも同じようになるからな」

 

「コーラ美味かった、じゃあなアザゼル! 来世ってもんがあったらまた会おうぜ!」

 

「待て待て待て!! 普通に帰ろうとするな!? てかお前! 俺が死ぬことは確定か!? 生きててほしいとは思わないのか!!」

 

「うん」

 

 

 だって仲良くないし。

 

 

「即答か!? こっちはなぁ!! 光龍妃が起こす事件の対処やらお前さんと()()()のゲームで光龍妃が食った飯代で研究費が無くなったりと大変なんだぞ!? 少しはおじさんを労わろうとか思わないか!? なっ! なっ!!」

 

 

 うっわ、うぜぇ。というよりも俺とサイラオーグのゲームで夜空が食った飯代はちゃんと俺というかキマリスの方で負担しただろうが……流石に数日前に起きた先輩とサイラオーグのゲームで夜空が食った飯代は知らねぇけど。まさか周りも二回連続で規格外こと夜空ちゃんが解説役として登場するとは思わなかっただろうね! 俺もテレビで見てて爆笑したからな! どうやら此処に来れば飯を食えるんじゃないかと思ってやってきたらしいけど……まさにその通りだったわ! アザゼル、ドンマイ!

 

 

「アザゼル……諦めが肝心だって偉い人も言ってたぞ?」

 

「一番諦めが悪いお前が言うか!? ええい! 良いから聞けキマリス!! 実はな――オーフィスがこの町にやってくる! いや、ヴァーリが連れてくるんだよ!!」

 

 

 うん? なんか今のセリフの中に聞きなれない人名が出てきたぞ……? オーフィス、オーフィス? オーフィス!? お、おいおい……まじかぁ。確かにこれはバレたら死刑は確実な案件だわ。どこの世界に和平を結ぼうとしている奴がテロリストの親玉らしい最強最悪の無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)ことオーフィスと会うなんて真似をするんだよ……! そもそもそんな事を俺に言うな!? 帰ったら即効で平家にバレるだろが!! ま、まぁ……アイツは周りに広めたりするような奴じゃないが黙っておく代わりに何を要求されるか分かったもんじゃねぇ! ここ最近は橘が淫乱になったのを皮切りに水無瀬や平家が張り合ってきて大変なんだぞ! そのたびにレイチェルに説教される俺の身にもなってくれ……お姫様からの説教とかご褒美ですけどね! ただそんな事が続いている状況でこれとかマジでヴァーリを殺したくなってきた! 次に会った時を覚えておくが良い……!

 

 

「おいおいマジか……オーフィスが来るのかよ? あぁ、だから俺も関係してるって言ったのか」

 

「そうだ……ヴァーリの話じゃお前さんとイッセーに興味を示したらしい。恐らく影龍王の漆黒鎧と()()()()()()が原因だろうな。過去を遡ってもこれほど劇的な変化をした赤龍帝と影龍王は存在しない。二天龍や地双龍が神器に封印される前から知っているオーフィスでさえ見たことが無い現象だろう……だからこそ興味を持ったようだ」

 

「……まっ、俺も先輩とサイラオーグのゲームは見てたけど確かにあれは劇的な変化と言って良いな。俺の漆黒の鎧よりも使い勝手が良さそうで地味に嫉妬するよ。まぁ、あの辺りは兵士の駒やらが関係してるんだろうけどな」

 

 

 真紅の(カーディナル・)赫龍帝(クリムゾン・プロモーション)。数日前に行われたグレモリー眷属対バアル眷属によるおっぱいドラゴン対不屈の獅子王と称されたゲーム中に一誠が至った覇龍に代わる形態らしい。命名者は対戦していたサイラオーグでその名の通り赤の鎧から真紅の鎧へと変化するのが特徴だ……しかも出力も今まで以上なのに見た感じ、制限時間は無いというチート形態! 何それ羨ましい! 相棒は覇道じゃなくて王道を進んだ結果だとか言ってたけどせめて制限時間ぐらいは有ってくださいお願いします! 俺なんて五分だぞ……五分で決めきれなかったらこっちは負けるんだぞ? マジで羨ましいわ!

 

 ちなみに先輩達とサイラオーグ達のゲームだが冥界にいる老害達によって色々と面倒な事になってたらしい。なんせグレモリー対バアルというゲームなのに馬鹿共がルシファー対バアルという都合の良い解釈をしたせいで中間管理職のアガレス家が本当に大変そうだった……ドンマイ! 関係ない俺は普通にテレビで観戦してたけどね! ゲーム内容も俺達と同じくダイス・フィギュア――じゃなくて普通にフィールドを駆け巡って戦う形式。流石に二回連続でタイマンもどきはテレビ映えしないと判断されたらしい。そのせいで時間的には俺達以上にかかったけど結果的には功を奏し、一人相手に数人がかりとかグレモリー眷属お得意のコンビネーションを行えたので先輩の勝利に終わった……けどあくまで運要素が強かったというのが俺の予想だ。なんせ最終決戦というべき一誠対サイラオーグが引き分けだったからこその勝利、仮に真紅の鎧が目覚めなかったら勝っていたのはサイラオーグだっただろう。まさかグレモリー先輩もサイラオーグがあそこまで意地というか諦めの悪さがあるとは思わなかっただろうね……でも楽しそうだったわ! 俺も乱入したいと思ったし観戦していた犬月が号泣してたからな!

 

 

「出力的に言えばお前さんの方がまだ上だろう。あれは俺の見立てでもかなり危険なものだ……出来れば周りに誰も居ないと気に使ってくれると助かる。あんなもんをイッセー達の前で使ったら何人かは再起不能になるからな。さて話を戻すか……ヴァーリからオーフィスを頼むと言われたが狙いは別にある」

 

「――禍の団か」

 

「察しが良くて助かるよ。あぁそうだ……オーフィスは確かに禍の団のトップ、実力から言えば俺達が束になっても勝てないほどの実力者だ。しかし一方でオーフィスが不要と考える奴らが居たって事だ」

 

「……大方、最初は最強のドラゴンが味方に付いたと思ってはしゃいでたらそいつは何もしないしする気もなかった。だから邪魔になった……とかだろ? 相棒、意見を聞かせてくれ」

 

『宿主様の言う通りだぜぇ? あのジジイ、いや今はロリだったか? どっちでも良いが基本的には無害な奴よぉ。ドラゴンの癖に、最強と称されるほどの力を持っているのにも関わらずただ静かに過ごしたいと本気で思ってる未来永劫ボッチ属性だ! ゼハハハハハ! 周りからすりゃぁ仲間が死んでるのに力を貸さない無能と思ってもおかしくはねぇ! だが厄介だぜぇ? あのオーフィスをどうにかしようと思ってんなら何をしてくるか分かんねぇな! あれを相手に正面から殺し合うとかは無謀も無謀よぉ!』

 

 

 だろうな。アスタロト家次期当主が使用したオーフィスの蛇。それの力を奪った俺だからこそオーフィスの力がどれほど強大な物かは理解している……ほんの少しだけ奪っただけで死にかけたしな。夜空が居なかったら漆黒の鎧に変化する前に死んでこの場には居ないだろう。それぐらい馬鹿げた存在がオーフィスだ。恐らく英雄派も旧魔王派も……俺達ですら戦ったら負けるだろうな。

 

 でもまぁ、最初は驚いたけど思い返してみれば此処に訪れる事自体はさほど問題は無いだろう。どうせ誰も分からないんだし。

 

 

「……ヴァーリはオーフィスの敵を探してるのか?」

 

「そのようだ。そのために俺達を使うんだとよ……たくっ、やっぱりアイツは悪魔の血を引いてるよ。キマリス、そんなわけだ……オーフィスが訪れる際には力を貸してくれ。なに、なんかあったら責任は全部俺が受け持ってやるよ」

 

「確実に押し付ける気満々だけどさ。暴れるなら兎も角、俺達に会いたいだけなら何とかなるんじゃねぇの?」

 

「……なに?」

 

「いやだって、相棒から特定の姿を持たないって聞いたしな。だったら――オーフィスだって分からないように姿を変えれば良いだけだろ?」

 

 

 そもそも悪魔だって自分の姿を変化させれるしな。つまり俺が夜空の姿になってオナネタを確保も可能というわけだ……性別までは無理だけどね!! 結構前に一回だけマジでムラムラしてどうしようもなかった時に魔力で姿を変えてオカズを確保しようとしたらあれが付いたしなんかこれじゃない感があって絶望した記憶がある。ま、まぁ! あの時はまだ若かったから……! うん? 待てよ……一誠のおかげで一回だけ夜空の全裸を見たことがある今の俺なら完璧な夜空の姿に変えられるんじゃないか……? 下さえ隠れてたら男の妄想力でどうにかなるし、胸はそもそも男と一緒だし大丈夫大丈夫! なんか違ったらグラムに夜空の写真見せて変化させればいいし! むしろそっちで良くないか……い、いや! これはやってみてから考えようか! うん!

 

 

「……その手があったか! 忘れてたぜ……オーフィスの奴は姿を変えれるんだった! これなら俺の首も繋がるかもしれん! だが問題はオーフィスの奴が素直に変化してくれるかどうかか……ヴァーリの交渉次第だな」

 

「まぁ、失敗しても夜空が俺の所に来るみたいに放置安定で良いと思うけどな。なんかあればオーフィスが自分で何とかするだろ。てか実際問題、オーフィスが禍の団のトップになってると言ってもテロを行ってるのは英雄派や旧魔王派のような連中だ、確かにオーフィスの蛇って奴を奴らに配ったがそれだけだ……アイツ自身は何もしていない。むしろそれがラッキーだったな、オーフィス自身がテロを起こしてたら世界は既に滅んでただろうしよ」

 

「他人事だなおい……お前さんらしいがちったぁ警戒ぐらいはしといてくれ。だが確かにその通りだ。ドラゴンがドラゴンに会いに来ただけのことか……それでもヤバイ橋を渡ってるが少しは気が楽になったな。悪かったなキマリス、俺の方でもヴァーリにこの件を伝えてみる。ところでお前さんが巻き込まれた事ってのは何だ? この際だ、相談ぐらいなら乗るぞ?」

 

「……良いか。いや、実は鬼勢力……四季音姉の母親から里に来いって連絡があったんだよ。だから近々、俺と四季音姉妹で鬼の里まで向かわねぇとダメなんだわ」

 

 

 四季音姉の母親、つまり酒呑童子。感の良い奴なら分かるだろう……はい! 鬼に目を付けられました! どうやら先のゲームで俺が漆黒の鎧を見せた事で四季音姉の母親がオーフィスの様に興味を持ったらしく娘である四季音姉に連絡を寄こしてきた……うちの鬼さんコンビはかなりビビってたけどな。あいつ(四季音姉)曰く、母親は自分以上の化け物で未だに三大勢力と同盟を結んでいない鬼勢力の一つ、分家のみで構成された酒呑童子率いる鬼集団、その頭領こそ四季音花恋の母親だそうだ。前に家に帰った時は勘当を言い渡されたようだけど今回はそれを取り消すかどうかは俺次第と来たもんだ。四季音姉妹は別に帰れなくても良いとは言ってたがまぁ、いずれ来るであろうと思ってた事だしちゃんと向かうつもりだ。

 

 鬼達というか四季音姉の母親にどんな目的があるかはまだ分からないが地味に面倒なのには変わりはない……でも楽しいけどな! 四季音姉以外の酒呑童子! しかも人妻! これだけでもワクワク感が止まらないのに四季音姉以上の化け物ときた! 戦ったらマジでどうなるんだろうなぁ!!

 

 

「……サーゼクスには伝えたのか?」

 

「言うわけねぇだろ? そもそもこれは俺達キマリス眷属と鬼勢力の対談もどきだ。邪魔者が入ったらそれはそれで面倒な事になる……あと、魔王様に説明するのがめんどい」

 

「最後のが本音だろうに。気をつけろよ、お前さんの戦車、四季音花恋を生んだ正真正銘の怪物だ。何の拍子で殺し合いに発展するか分からん。下手をすると悪魔と鬼の戦争にもなる……言葉と行動には十分に気をつけろよ」

 

「はいはい、その辺は弁えてるっての。このクソ忙しい中で鬼とも戦うなんざ面倒だしな。そっちもオーフィスの来訪なんていう面倒な事を隠せって言ってきたんだ、俺の方も言わないでくれよ?」

 

「堕天使の総督相手に悪魔の取引かい。あい分かった、だが何かあったら問答無用で俺達が対処するからな」

 

「むしろオーフィスの件を対処しろよ……んじゃ、帰るわ。来世でまた会おうぜ」

 

「だから人を勝手に殺すんじゃねぇよ!?」

 

 

 コーラを飲み干してアザゼルの部屋から転移で自分の家まで戻る。犬月や水無瀬からは何の用事だったんだ的な事を聞かれたが素直に言っちゃうと結構拙いんで適当な事を言って誤魔化した……平家? あぁ、俺を見た瞬間に理解したのか悪い笑みを浮かべましたけど何か? きっとこの後で課金額増やせとか言ってくるに違いない! なんて汚い引きこもりなんだ!

 

 そんな事を思いつつ風呂に向かうと先に入ってたらしい四季音姉妹が湯船に浸かっていた。桜色の髪をしたロリと金髪の中学生が寄り添うように仲良く風呂を楽しんでいる。うーん、絡みはまだですか?

 

 

「にししぃ~のわーるぅじゃないかぁ~かえってたのぉ?」

 

「主様。お帰りなさい」

 

「ついさっき帰ってきた。こんな時間に風呂とは珍しいじゃねぇの?」

 

「――イバラと訓練してたのさ。そのせいで汗をかいちゃってね、ほら……母様(かあさま)から連絡がきただろう? それに備えて念のためね」

 

「伊吹の母様。強い。怒ると怖い。だから勝てるように伊吹と特訓してた。でも届かない。それほど強い」

 

「……そこまでか?」

 

 

 二人の間に挟まるように湯船に入る。なんでと言われたらロリと中学生を両端に並べたかったからだ! 右を見るとまな板のようなちっぱいがある。左を見るとやや膨らみがあるおっぱいがある。右を見て左を見る、左を見て右を見る。試しに両方とも揉んでみると片方は硬く、もう片方は地味に柔らかかった……ここで俺は久しぶりに泣きそうになった。だって姉って言い張ってるのに妹におっぱいで負けてるとか……可哀想だろう! この瞬間だけは一誠の気持ちが少しだけ分かった気がするね!

 

 

「ノワール? 今は真面目な話をしてるんだ、それとも潰されたい?」

 

「主様。くすぐったい」

 

 

 せめて妹のような反応をしてください。怖いです。

 

 

「ほら、少しは妹の寛容さを見習え? こんだけ揉んでるのに嫌な顔してないんだぞ? つーか悩みすぎなんだよ……別に戦うかどうかはまだ分からねぇんだ。そん時はそん時だ、折角帰って来いって言われたんだから土産は何にしようとかで悩んどけ」

 

「……その気楽さが羨ましいよ。ノワール、私の母様は鬼の頭領さ……普段は豪胆というか考えるよりも体が先に動くような人だけど私やイバラみたいに「鬼」としての立場を狂わせる者に対してはたとえ娘であっても切り捨てる。それが頭領ってもんさ……だからもし会うなら覚悟しな――何気ない一言が戦争の引き金になるよ」

 

 

 普段とは違ってかなりマジだな……確かに鬼勢力のトップともなればそれぐらいは普通にするだろう。むしろたった一回の会談で和平を結んだ三大勢力の方が珍しいはずだ。てか本当にどうするかなぁ……俺は基本的には好き勝手にやりたい放題やるって感じの性格だから確実に戦争になるね! でも下手に媚び売ったりしたらそれはそれで面倒な事になるだろう……はぁ、どうすっかねぇ。

 

 てか四季音妹が四季音姉を慰めるような動作をしてるのが地味に可愛い。黙ってればマジで普通の美少女だもんなぁ、こいつらって!

 

 

「……四季音姉」

 

「なんだい?」

 

「心配すんな。いざとなったらお前の母親をぶっ倒せばいいだけの事だ……いつも通り酒飲んでれば良いさ。テメェら姉妹が持ってきた面倒事を邪龍()なりに解決してやるさ。だからそんな顔をすんなじゃねぇよ? 可愛く見えるからマジでやめてくれません?」

 

「か、かわっ!? ってそれって良い事じゃないか! それともなんだい……普段は、か、か可愛くないってか!」

 

「いや見た目なら美少女だと思うぞ? ただ酒飲んでセクハラしてくる幼女とか女として見れねぇだけだ。お前ら姉妹でどっちを抱きたいと聞かれたら妹の方を選ぶな」

 

「……し、しか、仕方ないじゃないか! 私は鬼だよ? 酒が大好きで何が悪いのさ! なんだよ……女を意識させれば落とせるとか全然嘘じゃんか……やっぱり漫画の知識は……」

 

 

 小声で言ってるようだが普通に聞こえている件について。お前……漫画の知識を実践するとか本当に少女趣味だなおい! きゃーかわいいー! 今のお前なら普通に抱けるわ! いやまぁ……普段のお前でも抱けるけども顔真っ赤でそっぽ向いているこの破壊力よ! 童貞じゃなかったら即死だったぜ!

 

 

「伊吹。毎日少女漫画を読んでる。接吻のシーンは枕に顔を埋めて見てる。分からない。ただの接吻なのに分からない。でも息吹は楽しそう。それを見て主様の事を呟いてる。何かを考えているけど私は分からない。でも楽しそう」

 

「い、いいいイバラァ!? な、何を言ってるんだい全くさぁ! ほ、ほら! そろそろ上がらないとのぼせるよ!」

 

「分かった。伊吹が上がるなら私も上がる」

 

 

 何故か知らないが四季音姉妹は風呂場から出ていった。なんか面白い事が聞けたからあとでもう一回聞いておくかねぇ……しっかしマジで一人で風呂入ると静かすぎるな。狭い風呂も作っておくべきだろうか?

 

 

『ゼハハハハハ。良いじゃねぇの! 女の身体を見ながら風呂に入れるなんざ世の男達が望んでやまない事なんだぜぇ? いい加減宿主様もヤっちまえばいいのによぉ! 気持ちいいぜぇ? ヒィヒィギャーギャーアンアンと泣き叫ぶ女の姿は最高よ!』

 

「夜空を抱いたらそうするわ。てか相棒……オーフィスの件だがどうする?」

 

『放置安定よ。奴はボッチ属性だからな! その辺に置いておけば満足する超変わり者よ! 俺様としても久しぶりにオーフィスと話をしてぇから来るのは問題ねぇさ。ゼハハハ、今年は本当に面白れぇ! ドライグもアルビオンもユニアも俺様も! 尋常じゃねぇほど変化しやがる! オーフィスが興味を持つのも当然よ! 宿主様も最強の存在っつうモンを知る良い機会だ。その目で見て感じ取れ、最強ってのがどんなもんなのかをよ』

 

「……あぁ、そうするよ」

 

 

 四季音姉妹の件とヴァーリからの頼み事。少し前まではサイラオーグとのゲームで忙しかったような気がするのに休ませてはくれないようだ……仕方ねぇか! だって俺様、邪龍だもんね!




「影龍王と酒呑童子」編の始まりです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

70話

「そー言えばいっちぃ達が中級悪魔に昇格出来るっぽいっすよ」

 

「だろうな。禍の団絡みで活躍中のグレモリー眷属だぞ? その辺にいる転生悪魔なんて鼻歌交じりで殺せるぐらいは強いだろうしな。なんだ? 悔しいか?」

 

「……まーちょっとはですけどね。でも断ったのは俺の意思なんで後悔とかはないっすよ! まだまだ弱いんでもっともっと強くなんねぇと! そうだ! 後でいっちぃにおめでとうって言わねぇと!」

 

 

 昼休み、俺と犬月、橘、レイチェルの面々はいつもの様に保健室に集まって昼飯を食べている。席順はレイチェル、俺、橘で向かいの席に犬月と水無瀬だ。俺の両端を一瞬で奪ったこの二人は恐ろしいとしか言えないだろう……というよりも家にいる時の橘と学校にいる時の橘が違い過ぎて今でも困惑してます! だって学校に居る間は前までと変わらない振る舞い(落ち着いた雰囲気)なのに家に帰ったら真逆になるんだぞ……今日だって朝っぱらから部屋に忍び込もうとしてたっぽいしな。まぁ、それ自体は水無瀬に見つかって阻止されたらしいが。

 

 水無瀬特製の弁当を食べている犬月だが顔こそ笑ってるけど同期がさらに先に進んでいるのを知って悔しいと言いたそうな感じだ。自分が下級なのに友達は中級に、いや上級にすら昇格出来るほどの実力者だから無理はないだろう……犬月自身は魔王様から伝えられた中級悪魔に昇格の話を断ってでも自分の欲望を優先した結果だから自業自得だがな。でも悔しいとは思ってるが言葉通り後悔はしてないっぽいなぁ、その辺は流石と言っておくよ。

 

 

「シュンさんは弱くはありませんわ! 若手悪魔の中でもシュンさんは上位に食い込めるほどの実力者だと思います。キマリス様や兵藤様のような存在はむしろ異例、気にされなくてもよろしいと思いますわ」

 

 

 俺の隣に座っているレイチェルが綺麗な姿勢で犬月のフォローもどきをする。なんせレイチェルがホームステイしてから今日までずっと犬月の特訓を見ているしな。俺と戦っては負け、四季音姉妹と戦っては負け、平家と戦っては負け、グラムと戦っては負けと心が折れるんじゃないかという状況が続いてもなお立ち上がる姿を見たせいで放っておけないと思ったそうだ。今では犬月の妖魔犬の特訓には四季音姉と平家、そしてレイチェルが付いている素晴らしい状況になってる! 四季音姉は面白いから、平家は面倒と言いつつ犬月の覚悟を一番分かってるから協力してるだけだが俺的には何も問題ないし、犬月の成長に繋がるからこのままで良いと思う。なんだかんだで四季音姉も平家も犬月の成長には期待してるっぽいからな。

 

 パワーは四季音姉、バランスは平家、知識等はレイチェルと犬月の覚悟を後押しする布陣が形成されてるけど……考えてみるとある意味で凄くね? 酒呑童子と覚妖怪とフェニックス家の純血悪魔が一人の下級悪魔を鍛えてるんだしさ。まぁ、俺もレイチェルにはゲーム絡みで教えられてるけど箱入りのお姫様で姉のレイヴェルや兄のライザーと違い、圧倒的に戦闘経験が足りていないせいで俺とはなんか相性が悪い気がする。言ってしまえば王道って感じだな! 相手が正面から来るならこちらも正面から向かう、パワーにはパワー、テクニックにはテクニックと言えば分かりやすいかもしれない。もっとも俺自身は指揮系統とかを平家に任せてるから意見としてならありがたいけどね。こんな場面はこうすれば良いとかライザーはこうしてたとか聞けるしマジでありがたい! でも教えられてる時の平家はかなり不服そうだけどな……盗られるとでも思ってんのかねぇ?

 

 

「……あ、えっと、あんがとっす! いやー! 姫様に褒められたらやる気が出ますわ! 今後も頑張れそうっす!」

 

「おう。折角、レイチェルが褒めてくれたんだからもうすぐ行われるテストも頑張れよ」

 

「それとこれとは話が別っすよぉ! あの、王様……マジでべんきょーを教えてください……! 流石に赤点は無いと思うんすけど平均超えるか微妙なんすよぉ!」

 

「ヤダ。それぐらいは自分で頑張れっての。てか教科書全部暗記したら高得点取れるぞ?」

 

「……ノワール君も早織みたいなことを言わないでください。瞬君もですけどノワール君もちゃんと勉強しないとダメですよ? いくら花恋の事で忙しいって言っても学生なんですから勉強は大事です。もし平均点以上を取れなかったら晩御飯は手を抜きます」

 

「んじゃ満点取るからその時は俺の部屋で撮影会な」

 

 

 両端から悪魔さん? やらキマリス様? という視線が飛んできた。仲良いですね二人とも! 流石えっちいの禁止委員会だ! 委員長自身が淫乱なアイドルだけどね!

 

 ちなみに話に出た平家だが成績自体は悪くない。そもそも心を読むことができる覚妖怪にテストを受けさせること自体が問題っぽいがなぁ……だって周りの奴の心を読めば正解なんて分かるし。あいつ自身も変な目で見られないように毎回80点以上になるように手を抜いてるが本気でやれば常に満点だろう。俺? 今回はマジで満点しか取らない予定だけどなにか? 今回こそ水無瀬に駒王学園高等部の制服を着せてやる! ゼハハハハ! だって二十代美女のコスプレとか家宝物だろ?

 

 

「えっと、悪魔さん? テストで不安な所があるので今日から私の部屋で一緒にお勉強しませんか? 二人で頑張れば高得点も狙えますし。ダメ……ですか?」

 

 

 そんな上目遣いで見ないでください。惚れてしまいます。

 

 

「……わ、私も転校してきてまだ人間界の勉強には不慣れですわ。キマリス様のお手を煩わせるのも申し訳ありませんがご一緒してもよろしいでしょうか? も、勿論! 私に教えるというのは名誉あることですのよ? お、お受けしてもらえますわよね!」

 

 

 勉強を教える事が名誉って凄くねぇかな? でも可愛いから俺様、頑張っちゃうよ!

 

 

「お、おう……犬月、お前はどうする?」

 

「ハハッ、ヒトリデガンバッテベンキョースルンデコンカイハゴエンリョシマスッス」

 

 

 今の犬月は「そんな地雷原しか無い場所にはいきたくないっす」とか「ここで行くって言ったら空気読めないとか思われるんで無理っす」とか色々と言いたそうな感じの目をしている。デスヨネ! だって今も両端でバチバチと視線でバトルしてるし。俺だってこんな地雷しかない場所には邪龍とはいえ行きたいとは言えねぇわ。ただし夜空が居るなら全部踏んで爆破させてでも行くけどね!! むしろ夜空に保健体育という名の勉強を教えたいわ!!

 

 

「瞬君……え、えっと、そういえばシトリー眷属の由良さんとはどうなったんですか? この前も一緒に出掛けていましたけど何か進展とかありました?」

 

 

 話の流れを変えるために切り出した話題だろうけどさ……単に自分が気になってただけじゃねぇか~水無瀬ちゃんよぉ!

 

 

「うえぇ!? いきなり何すかせんせー!? いやどうなったって何もないですって! あの時だってげんちぃと他のシトリー眷属と一緒でしたし……なにもないっすよ? なんすかその視線……? いや本当に何もないんですって!」

 

「何もないんですか? 告白されたりとか! またデートしようとか! 本当に何もなかったんですか!」

 

「そうですよ瞬君! 隠さなくても大丈夫です、心霊探索同好会の顧問である私に相談とかしても良いですよ?」

 

「シュンさん……その、後学のために内容とかを教えていただければと思いますわ……い、いえ! 決して興味があるわけではありませんわ! えぇ!」

 

「し、しほりん!? 姫様!? いきなり何なんですかー!? ちょ、王様!? なんで弁当持ってどこかに行こうとしてるんすか!? いやそれよりも食うの早!?」

 

 

 チッ。気づきやがった。

 

 

「いやだって邪魔かなってさ! ほら俺がいると話し難いだろ? 心優しいと周りから言われている俺様が空気を読んで退室しようとしてるんだから止めるな。頑張れ」

 

「絶対に面白がってるだけじゃないっすかぁ!!」

 

 

 バレたか。いやだって面白いじゃん? というよりも俺も地味に気になってたんだよねぇ! だって匙君と犬月とシトリー眷属二人が一緒にデート! ダブルデートだぞ? 気にならないわけがない。まっ、デートって言っても生徒会で使う備品購入ための荷物持ちってオチだけどな。

 

 平家が言うにはシトリー眷属の戦車、由良翼紗って奴は泥臭い男が好みらしい。確かにうちの犬月君は負けに負けて負け続けても地面を這いずっては立ち上がるような奴だから好みの男には当てはまるだろう。そこに恋愛感情があるかは別だけども……犬月自身は気の合う友人、相手の方も今のところは似たようなものらしいからどうなるかは当人次第かねぇ? しっかしマジでこいつら恋バナに目がねぇなおい。さっきから手を繋いだか、キスはした、次はいつデートするとかまるで女子高生の様に犬月を問い詰めている。あっ、二名ほど女子高生だったわ。

 

 

「――もうっ、こんなことはもう二度とやめて頂戴。キマリス君、貴方の立場が大変な事になるのよ?」

 

「俺の立場なんて冥界の老害共からしたら下級悪魔並みですし、そもそも規格外系美少女の夜空が毎回俺の前に現れてる時点で諦めてると思いますんで……これぐらいは見逃してもらえますよ。タブンネ」

 

 

 時間は進んで翌日の昼頃、俺は犬月、橘、レイチェルを引き連れて一誠の自宅に訪れていた。理由は簡単だ――禍の団のトップ、世界最強のドラコンことオーフィスが来訪したからだ。アザゼルから昨日の夜に準備が整ったと連絡があったので今日の朝早くにこの場所に訪れる事になった。休日だからか一誠の両親も居たので地味に驚かれたのは内緒だ。なんでも自分の息子にまともな男子の友達がいたなんて思わなかったそうだ……それを聞いて本気で泣きそうになったのは言うまでもない。今は俺と先輩が同じ部屋、それ以外は別の部屋で中間試験の勉強や一誠、イケメン君、姫島先輩の昇格試験の勉強を一緒にしている。俺とアザゼル以外はオーフィスの来訪に驚いて戦闘態勢に入ってたけど……何人か物理的に落ち着かせたおかげで今は何も起こることなく普通に仲良く勉強中だ。

 

 あと関係無いが一誠の両親は俺と一緒に付いてきた橘を見て驚いていた。認識阻害の術式を解除してたらアイドル橘志保の姿が普通に見えてたせいでもう大騒ぎだ。アイドルだキャーキャーと騒いでいた辺り本当に普通の人間なんだなぁ……ただ母親の方がちょっと悪いものに憑りつかれてたっぽいんでキマリス領産の果物を渡した時に霊操で除霊したけどね。

 

 

「だとしてもよ。こんな事は前もって伝えて頂戴……いきなりオーフィスがやってきたのを見た私達の気持ちがキマリス君には分かるかしら? 心臓が飛び出るかと思ったわよ」

 

「たかがオーフィス程度で死んでたら悪神やらフェンリルやらヴァーリやらに関わってるときに死んでますって。それにただ普通に相棒と赤龍帝……あぁ、ドライグの方です。この二人に会いに来ただけなんですから怒らないでくださいよ。下手に刺激して暴れられたら世界が終わりますしね」

 

「……えぇ。オーフィスを見て確信したわ。あれには絶対に勝てないって……目の前にいるのに実力が図れないなんて恐ろしいわね……」

 

 

 あら、そこまで分かってたなんて意外だわ。てっきり見た目だけで判断して全員で挑めば勝てると思ってるだろうなぁとか普通に思ってたし。まぁ、それに関しては俺も同意見だ……俺達の前にやってきたのは良い所に住んでそうな外国人の子供、性別は見た感じは女だな。一緒に付いてきたルフェイ・ペンドラゴンって奴が言うにはオーフィスの姿を変えようとヴァーリ達で話し合ってた時にお兄様――聖王剣を持ってたイケメンメガネが魔法使いちゃんが小さい時の写真を見せたらその姿に変化したらしい。つまり今のオーフィスは言ってしまえば魔法使いちゃんの幼少期の頃の姿って事だ……なんという出鱈目な。相棒も姿が決まってないとか言ってたから今の姿を選んだ理由も特に無いだろう……強いて言えば変われって言われたから変わったって感じかねぇ。

 

 ちなみに服装だが夜空曰く痴幼女と言えるものではなく普通の服装だ。同じく一緒に付いてきた黒猫ちゃんが言うにはオーフィスが普段と同じ服装だと恥ずかしいという事で魔法使いちゃんが別の服を着せたらしい。普段は胸を露出させたゴスロリらしく乳首はテープで隠してるようだが……出来ればその格好で来てくれませんかねぇ? マジで可愛いからさ! お願いしますよ無限の龍神様!

 

 そんな事は置いておいてオーフィスについてだが――ガチで勝てる気がしない。目の前には確かに存在するのにオーラや覇気、相手の力量が全く図れないときた。まるで本当に「無」と言って良いだろう……今まで会った奴は強いとか弱いとか普通に分かったのにオーフィスだけは分からなかった。流石無限様だよ、ここまで差があるとはねぇ! 俺が漆黒の鎧状態でグラムを最大解放したとしても殺せないだろう……勝てる奴っているのか? まぁ、聖書の神が生きていたなら封印ぐらいならは出来るか? でもなぁ、天龍と双龍以上の実力者をそう簡単に封印できるもんかねぇ……? どうでも良いか!

 

 

「そりゃそうでしょ? 最強のドラゴン、しかも無限の名を冠してるんですよ? 強いに決まってるじゃないですか。まさか俺もここまで実力差があるとは思わなかったですけどね。流石の俺でも勝てそうにないですね……まぁ、いつかは勝ちたいとは思いますけども」

 

「……凄いわね。私もイッセー達に負けないように頑張ってるけれどまだまだ追いつけそうにないわ。サイラオーグとのゲームを見ていたでしょう? 一応勝利という形で終わったけれどイッセーが居なかったら大敗していたわ……それほどまでに私とサイラオーグの実力差は大きかった。彼らを相手に全勝したキマリス君達が恐ろしいわね」

 

「普通だと思いますよ? そもそも先輩だって眷属は化け物揃いじゃないですか。あんなのとまともに戦えるのって限られますよ?」

 

「それでもよ。王の私が眷属に実力で負けているんだもの、悔しいじゃない。イッセー達は気にしないって思ってるだろうけど私は……今のままじゃダメだって思ってるわ。キマリス君に、サイラオーグに、ソーナに追いつくためにもね」

 

「そうですか。まぁ、頑張ってくださいよ、応援してますんで」

 

 

 そこからは適当な話題で盛り上がり、勉強をしている面々がいる部屋へと移動する。扉を開けると一誠を中心にグレモリー眷属と犬月、橘、フェニックスの双子姫が勉強を教えているのが見える。男子三名、男の娘一名か……女子の割合が多いから結構羨ましい環境じゃないだろうか! 魔法使いちゃんと黒猫ちゃんは特に何をするわけでもなく一誠達の勉強を見ているようだ。うーん……ヴァーリの奴、なんだかんだで美少女と美女を侍らせてんだな! 羨ましい!

 

 

「オーフィス、こんな場所で何してんだよ?」

 

 

 部屋の片隅でお菓子をもぐもぐしているオーフィスに近づく。金髪碧眼の十人いたら十人が美少女と答える容姿をしている世界最強のドラゴン様は何をするわけでもなく一誠達……いや赤龍帝を見ている。その手には誰かから貰ったのかお菓子が握られており美味そう……という表情じゃないがもくもくと食べている。可愛い。俺に話しかけられたので顔だけを俺の方に向ける。本当に可愛い。

 

 

「ドライグを見ていた。宿主の人間、奇妙。とても不思議。クロムも不思議、宿主の人間はもっと不思議」

 

 

 なんというか四季音妹と話をしている感じがするな……一誠が奇妙ねぇ? まぁ、確かにドラゴンからしたら良く分からん思考回路というか情熱というかそんな感じだしなぁ。

 

 

『ゼハハハハハハ! 俺様が不思議だぁ? んなこたぁねぇさオーフィス! テメェはぼっちだしなぁ~友達いねぇから不思議に思ってるだけよぉ! 俺様の宿主様は今までの奴らなんかよりも俺様を理解してくれてる大事な息子よぉ! 息子って意味が分かるかぁ? 分からねぇよなぁ! ガキの作り方すら知らねぇもんなぁ!』

 

「クロム、楽しそう。今までのクロム、退屈そうだった。今は違う、楽しんでいる。心の底から楽しんでいる。不思議、凄く不思議。鎧が漆黒になった、それは今までに無い事。何がクロムを変えた? 宿主の人間が原因? それとも環境。分からないから此処に来た」

 

『楽しいか、ねぇ? ゼハハハ、楽しいさぁ! 今代のユニアの宿主は化け物で! 俺様の宿主様は最強で! ドライグもアルビオンも歴代よりもつえぇと来た! これで楽しくないなんざ邪龍、いやドラゴンじゃねぇ! それぐらいは分かってんだろ?』

 

「分からない。我は静寂を得る、ただそれだけ。戦う意味は分からない、楽しむ意味も分からない。クロムもドライグも「覇」を求めた。ドライグが答えた、それしかなかったと言った。クロムは何故「覇」を求めた?」

 

『意味なんざねぇよオーフィス。俺様はただ好きなように生きて、ムカつく奴が居たら殺して、良い男の娘や女が居たら犯して、戦いたいから戦って、楽しみたいから楽しんだだけのことよぉ。テメェには分からねぇだろうが「覇」なんざ、俺様に取っちゃ通り道に過ぎねぇんだぜ? 「覇」の先に何があるか! 「覇」を極めたらどうなるか! それだけを考えてたらこの様よぉ。ゼハハハハハハ! 己の欲望のままに暴れて! 封印されて! そして今の宿主様と出会えた! 後悔なんざ一切ねぇしこの生き方を変える事は無い! 俺様は楽しいからな!』

 

「分からない。我、「覇」が分からない。でも不思議、本当に不思議。クロム、地双龍を極める?」

 

『それこそ宿主様次第よぉ! なんせこれだけ強くなっても求めているのは一人の女だ! 殺したいほどに愛しているからこそ欲しい! 何度も犯して孕ませたいからさらに強くなる! 聖槍、ドライグ、アルビオン。そんなもんは見ちゃいないのさ! 戦ってる時も宿主様は一人の女を見ている! そんな宿主様だからこそ俺様は嬉しいんだ! ここまで自分の欲望に忠実になれるなんて思わなかった! 俺様を真に理解してくれる奴だとは思わなかった! オーフィス、分からねぇだろうから教えてやるぜ――それが恋ってもんよぉ!』

 

 

 うっわ気持ち悪い。相棒から恋って言葉が出るとここまで胡散臭くなるんだな……やっべ鳥肌立った。

 

 

「恋、分からない。我、恋をしたことが無い。恋をすれば強くなる?」

 

『さぁな! 強くもなるし弱くもなる。それが恋、いや一途な愛よ! ゼハハハハハハハ! 俺様、すっげぇ良いこと言ってねぇか!? こりゃドラゴン流行語大賞狙えるぜぇ!!』

 

「ごめん、ちょっと寒気がしてきた。うっわ、マジで気持ちわりぃ」

 

『ゼハハハハハハ! キモイって思われちまったぜ! こりゃ参ったぁ!』

 

 

 うーん、相棒のテンションがドンドン上がってる件について。そこまでオーフィスと話が出来たのが嬉しいのかねぇ? 確かに相棒が言ってることは事実だけどさ……周りに人がいるんだからもうちょっと静かに言ってくれない!? キャー恥ずかしいー! 男の欲望を女の子だらけの場所で言わないでくれよ相棒! 仕方ねぇなぁ! テンション上がって言ったんなら許すしかねぇじゃん! うわー、マジで相棒死んでくれねぇかな。

 

 

「不思議。クロムが笑う、楽しそうに笑う事なんて無かった。宿主の人間も不思議。ユニアも楽しそうだった。宿主の人間も楽しそうだった。今代の地双龍、今までにない成長をしている。我、ドライグとアルビオンをもっと見てみたい。クロムとユニアも見ていたい」

 

『見ていれば良いさ。テメェが興味を持つなんざ今日まで殆どなかったしよぉ! どうせテロリストのトップになってもお飾りなんだろぉ? テメェもドラゴンだ、好き勝手に生きて、好き勝手に過ごしていればいいのさ。俺様達の様になぁ!』

 

「……まぁ、良いんじゃねぇの? 俺の家じゃねぇし。というわけだ一誠君! オーフィスをよろしく!」

 

「――はぁ!? ちょ、ちょっと待てって!! 今日だけじゃないのか!? さっきオーフィスと話したけどずっと居るとか言ってなかったぞ!?」

 

「ドラゴンだし意見を変えるのは普通だろ? 頑張れ頑張れ。あっ、俺の所は無しな! めんどくせぇ」

 

「巻き込んでおいてそれを言うか!? ぶ、り、リアス!? 黒井を説得してください!!」

 

 

 おー! 噂にはなってたが一誠君ってば先輩の事を呼び捨てで呼ぶようになったのか。でも残念! 断らせるわけねぇ無いだろ?

 

 

「えーせんぱーい? まーさーかー断らないですよねー? 大変だったなーあの時ぃ! 一誠君が覇龍暴走して滅茶苦茶大変だったなー! 誰が止めたんでしたっけー? きっと凄くイケメンで滅茶苦茶優しい混血悪魔だった気がしますねー! 大変だったなー! 死ぬところだったなー! 俺様じゃなかったら死んでたなー! だからこれぐらい聞いてくれても良いですよねー? ねー相棒!」

 

『ゼハハハハハ! そのとーりだなー宿主さまー! おっぱいを司るドラゴンちゃんが暴れちゃって大変だったねー! 頑張ったよねー俺様達! ねー!』

 

「――も、もち、勿論、よ……! キマ、キマリス君にはい、イッセーを止めてくれた恩がある、もの……!」

 

 

 流石俺様! 交渉能力がいつの間にか高くなってたぜ! なんか周りからうわーって感じで見られてる気がするが気のせいだよね! うんうん! なんかどこかから「ノワール、それは交渉って言わない」とか思われてる気がする。具体的には俺の部屋でグラムと一緒にエロゲやってる引きこもり辺りから。

 

 

「……やっぱり王様って頭おかしいと思う」

 

「……悪魔さんっ! あとで、お説教です!」

 

「なんでしょう……志保さんの言葉と表情が違う気がしますわ」

 

 

 そんなわけでオーフィスを先輩達に押し付け……コホン、保護してもらう事に成功したので俺の責任になる事は多分無いだろう。もしあってもアザゼルを生贄にするから良いしね!

 

 そのあとは崩れ落ちている先輩を一誠君が慰めたり、オーフィスが履いているスカートを捲ってパンツを見ようとした俺を魔法使いちゃんが必死に止めたり、橘とレイチェルから正座しろと言われて説教されたり色々あった。なんで俺……怒られたんだろう? だって気になるじゃん! 姿が変幻自在な無限の龍神が履いているパンツは何なのか男なら……いや邪龍なら気になって当然なはずだ! 俺的には腋が見たいが残念な事に脱がさないとダメっぽいんで諦めてパンツを見る! というわけでオーフィスにお菓子をあげてスカートの中を拝見したら――天国(ノーパン)だった。最高だな龍神! そしてまた説教されたのはなんでだろうか?

 

 

『今日は怒られっぱなしで俺様、興奮しっぱなしだったぜ!』

 

 

 時間は進んで夜、俺は自分のベッドで横になっていた。相棒は橘やレイチェルに説教され続けたことが嬉しかったようだ……それで良いのか? いや、邪龍だからこそか?

 

 

「俺は疲れたけどな……しっかし実力すら図れねぇとはな。あれが最強か……全然勝てる気がしなかったわ」

 

『そりゃそうさ。オーフィスは「無」を司るドラゴンだ。無限を司る龍神だからこそ図れない。上限なんて存在しねぇチートの中のチートよぉ! 二天龍や地双龍であっても奴には勝てん。影の国(ダン・スカー)の「影」から生まれた俺様でも勝てねぇんだ。ムカつくけどな! あれに勝てるのはグレートレッドぐらいかぁ? だが奴は争いを好まん。ただ散歩するだけが趣味のドラゴン、相手にすらしねぇだろうな』

 

 

 無限、虚無、混沌。それがオーフィスが司るものらしいがマジで出鱈目だ。二天龍も地双龍も「龍王」よりは上だが「龍神」までは届かないから呼ばれるようになったと前に相棒から聞かされたことがある。確かにその通りだ……あんなのが複数いてたまるかっての!

 

 ちなみに相棒はその名の通り「影」を司っている。たしかケルト神話の影の国の「影」から生まれたとか昔聞いたことがあるが本当かどうかは知らない。神器に潜ると周りに現れる城はそれを現してるようだけどな……もっとも昔の事は話したくないのかそれだけ教えてあとはゼハハと笑って誤魔化してたのは今でも覚えている。別に話したくないならそれで良いんだけどね! 誰だって言いたくない事ぐらいはあるだろうし!

 

 

「……そっか。ならどっちにも勝てるぐらい強くならねぇとな!」

 

『その意気だぜ宿主様! 無限なんざ超えていけ! 夢幻なんざ飲み込んじまえ! 覇王となるならこの二体は最終到達点……だが宿主様にとっちゃユニアの宿主の前哨戦か? ゼハハハハハハ! それで良いさ! 楽しんだもん勝ちだ。俺様は期待してるぜ? 勝てよ、息子よ』

 

「勿論だっての! でもまずは四季音姉妹の問題を解決が先か……めんどくせぇな」

 

『なぁに! 勝てばいいのよ! いつもの様にな、考えるなんざ俺様達らしくねぇ! 邪魔するなら倒す! それだけだろぉ?』

 

「――だな。鬼を倒せないんじゃ夜空は倒せねぇ! 相棒、派手にやるか!」

 

『おうよ! ゼハハハハハ!』

 

 

 俺としても鬼の頭領の力を確かめたいしな。四季音を生んだ母親……今の俺がどこまで行けるか確かめるチャンスだ! ただ……戦争になったらゴメンね?




活動報告にエイプリルフールネタを投稿してみました。
あまり面白くは無いですが良ければどうぞ。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

71話

「――あさ、かい」

 

 

 その日の目覚めは酷く憂鬱なものだった。気分良く寝られるように、そして問題無く起きられるように晩酌をしてから眠りについたはずなのにカーテンの隙間から見える光でついに()()になってしまったと思ってしまう。笑っちゃうね、天下の酒呑童子の私が親に会うために家に帰るってだけでこんな風になっちまうなんてさ。決して二日酔いなんかじゃ一切無い……鬼さんは酔わないんだ。

 

 

「……いぶ、き、おはよう」

 

「うん。おはよう、イバラ」

 

 

 一緒に寝ていたイバラも起きる時間だからかもぞもぞと眠そうな瞼をこすって起き上がる。あぁもう……寝癖が酷いったら。折角綺麗な金髪なのにこの子は手入れの手の字すら知らないんだからさ、自分の事はトコトン無頓着だから放っておいたら酷い事になるね。風呂に入った後だってバスタオルで乱暴に拭いてドライヤーで乾かさないで終わらせるし、起きた後も髪をとかさないしさ……私より、その、可愛いのにもったいない。

 

 イバラの顔を見つめていると私は不意に笑みが出てきた。毎日こうしてイバラの顔を見て嬉しくなってるだろうね……前までなら、ううん、ノワールと出会う前ならこんな風に一緒に寝たり漫画を読んだりテレビを見たりは出来なかったからね。私は酒呑童子、イバラは茨木童子。私達は互いに主従関係みたいなものが築かれているけど他からはそう思ってもらえなかった……気がする。イバラは自分で考えるのが苦手、いつも誰かに指示されないと自分が何をしていいのか分からない子だ。私は気にしてないけどやっぱり他の「鬼」からすれば異常なんだろうね。私の母様とイバラの母様が親友同士とはいえ家は違うし()()頭領だった私はかなり大事に扱われていた――と思う。だからこうして一緒の家で姉妹の様に過ごすなんて前までならあり得ない事さ。

 

 

「伊吹。嬉しそう。良い事、あった」

 

「なんでもないさ。でも、そうだねぇ……毎日イバラの顔が見れるのが嬉しいだけかもね」

 

「私も嬉しい。伊吹と一緒。凄く嬉しい。主様に感謝」

 

 

 本当にノワールには感謝しないとダメだね。こんな風に私達みたいな「鬼」を住まわせて……あまつさえ眷属にしちゃってるんだしさ。ただ……アイツが女にモテるのは気に入らないけど。めぐみんだってノワールの事が好きだししほりんも同じ、先のゲームで間接的に告白っぽい事をしてから猛アタックしてるのは……羨ましいと思う。私はその、酒を飲んで()()()()()でもしないと恥ずかしい。でもそれ以上にさおりんだよさおりん! いつもノワールの傍にいて全部分かってるような態度で好き好きってアピールしまくってるしさ! 鬼以上に肉食な覚妖怪って何なんだい……! ぐらむんはまだ分からないけど将来的にはさおりんと同格になるね。鬼さんの感は当たるんだ。

 

 何も分かってなさそうなイバラを見つめる。この子がノワールに恋愛感情を持ってるとは考え難い……考えたくもない。だってその、私よりも女らしいし胸も、ちょっと大きい。なんで私はここまで壁で体も小さいんだろうね……これでも百年は確実に生きてるのに成長している気がしない。ま、まぁ、アイツはそれでも構わずにむ、胸を揉んでくるけどさ……普通の男は女の胸とかを揉むのを躊躇うんじゃないのかい? 少なくとも少女漫画では手を繋ぐのも躊躇してるけどもしかしたら違う……?

 

 

「伊吹。眠い。それとも体調が悪い」

 

「にしし、なーんでもないよ。全く心配しすぎさ、早く顔とか洗ってご飯を食べようじゃないか」

 

「分かった。ご飯は美味しい。食べなきゃダメ」

 

「そうだよぉ? めぐみんが作るご飯は美味しいからね! にしし! ごっはーんごっはーん!」

 

 

 イバラを連れて洗面所まで向かうとしほりんが歯を磨いていた。私から見ても羨ましいぐらいに美少女だからその辺りのケアは怠らないみたい。でもアイツは変態だから汗の匂いとかも普通に喜んで嗅ぎそうだ。そもそも一回だけ風呂に入ってない光龍妃の腋の匂いを嗅ごうとしてたしね……流石の私も、そ、そこまで攻められないよ。恥ずかしいし……!

 

 しほりんに挨拶をして顔を洗って歯を磨く。普段から酔っぱらったふりをしてるとはいえアイツに寝起きの口臭とかは嗅がせたくない。本気で臭いとか言われたらもう立ち直れないかもしれないしね。なんだってこの私が男一人にここまでしないとダメなんだって話だ。でも恋敵(ライバル)は多いからこれも必要な事……少なくともさおりんに勝つには日ごろの努力が必要だろう。

 

 

「花恋さん、今日は早起きなんですね? あっ、そういえば今日でしたっけ……?」

 

「そうだよぉ~? お陰で憂鬱さ。もうさおりんみたいに引きこもりたいね」

 

「あはは……その、頑張ってください! 一緒には行けませんけど応援してます!」

 

「ありがとぉ~しほりんは良い子だよ。ノワールにも見習わせたいよ全くさ」

 

 

 少し動いただけで揺れる一部分(おっぱい)を目にすると軽く崩れ落ちそうになるけど鬼さんは強い子、将来は大きくなる予定の女の子だから耐えれるはずさ……! そもそもめぐみんもだけど何を食べたらここまで大きくなるのか教えてほしいね! イバラも殆ど年は変わらないはずだけど私よりもちょっと! ちょっとだけあるから同じ眷属として教えてくれても良いんだよ? これを揉んでるノワールを何度殴りたいと思った事か! あんなだらしない顔をして本当にムカつくよ! ち、ちっぱいにはちっぱいの良さってのがあるだろう!

 

 鏡に映るのは普段見る私の顔。外見も幼すぎて恋愛対象に見られることはまず無いだろう。私が契約とかで相手をする男は……例外だけどさ。前にノワールから見た目は美少女だって言われた時は嬉しかったけど次のセリフで死にたくなった……女として見れないとかそもそも最悪じゃないか! しかも抱くならイバラの方が良いとか言うし! 光龍妃が好きな癖になんで私を女として見ないのか不思議でしょうがないよ! 普段の行いが悪いとか絶対に違う。鬼さん悪くない。襲ってこないノワールが悪い。

 

 しほりんと一緒にイバラの寝癖を治したり自分の髪型が変じゃないかを確かめる。毎日顔を合わせるって言ってもこの辺りはちゃんとしないとね。あの馬鹿は大して気にしてないだろうけどさ……私が嫌なんだよ。

 

 

「あら、おはよう。ご飯はもうすぐ出来ますから座っててね」

 

「皆さんおはようございます」

 

「うーっす、今日は早いっすね」

 

 

 リビングに向かうとエプロン姿のめぐみんとお手伝い中らしいれいれい(レイチェル)とパシリが居た。これもいつもの光景だ。私達のご飯を作るのはめぐみんのお仕事……普段は転んだり痴漢されたりサービスシーン見せたりと不幸なのに台所と学校の保健室じゃ問題無いのは私の中でも謎だね。でもエプロン姿のめぐみんは……私から見ても家庭的な女性に見える。大人の色気ってのが存分に出してる若奥様、悔しいけど私は料理出来ないから素直に羨ましい。結構前にば、バレンタインデーなる日があった時にチョコレートをノワールに上げようと手作りしたらどういうわけか失敗した……あれは酷かった。あのさおりんですら「うわぁ」って表情だったもんね。それ以降は絶対に料理しないと心に誓ったね! どれだけ不器用なんだい私は……! 仕事だったら上手くやれるのにさ!

 

 

「今日は大事な日だからね。早めに起きたりするさ」

 

「伊吹の母様と会う。怖い。私と伊吹よりも格上。まだ勝てない。だから怖い」

 

「……マジかよ。酒飲みより強いとか本気で化け物か、てかそんなのと王様を合わせて大丈夫なのかよ? あっ! せんせー! 皿用意できたっすよぉ!」

 

「流石のノワール君でも弁えているとは……思いますよ? ありがとう、瞬君」

 

 

 私だって不安だよ。あの馬鹿は私から見ても頭がおかしいからね。最悪……いや確実に戦争の一歩手前まで起きるだろう。そうなったら私とイバラも戦わないとダメだけど母様と戦うとなると分が悪い。理屈なんかじゃない……ノワールと同じく圧倒的な暴力を持った正真正銘の怪物。伊達に五百年以上も生きてないさ。恐らく今の魔王達と年は同じぐらいだろう。そんな存在と戦うとなったら今のノワールでも勝ち目は……無いと言いたいけど私も鈍ったもんさ。アイツならゼハハハハハって高笑いしながら母様に勝つんじゃないかとか思っちゃう。どうかしちゃったね、この私も!

 

 

「――たくっ、俺の部屋のセキュリティはどうなってんだよ?」

 

『ワがおウよ! 我ラを丁ねイに扱え!! 寝ていル我ラをねドこから落とすナ!!』

 

「テメェが潜り込んできたからだろうが? 嫌だったら平家の部屋で寝てろ」

 

「ノワール。私の部屋は玩具置き場じゃない」

 

『わレらは玩具デはなイ!! 聞イているノか! 我がオうよ!!』

 

 

 朝っぱらから元気だねぇ。いや……いつも通りかい? ノワールとさおりんとぐらむんは三人仲良くリビングにやってきたけど話の内容的に今回はぐらむんがノワールの部屋に忍び込んだみたいだね。前は確かしほりんだったねぇ……なんでそこまで肉食なんだい? アイドルなんだからもうちょっとは落ち着いたらいいと思うのは私だけかな? あと、そもそもぐらむんの部屋って無いから必然的にノワールかさおりんの部屋がぐらむんの部屋代わりになってるけどさ……羨ましいんだよね! 魔剣だから恋愛感情が無いとは思うけどさ、褐色肌だよ? 見た目は可愛い女の子だからノワールも嬉しいはずさ! 胸は私と同じぐらいだけども……! ここ最近はさおりんと一緒にえ、エロゲをしてるみたいだけど将来が大変だ。主にノワール争奪戦関係がさ!

 

 

「……」

 

「あん? 突っ立ってどうした? まさか寝てましたってか?」

 

「何でもない」

 

 

 むむっ、さおりんってば私の心を読んだね……気にしないけど恥ずかしいなぁもう!

 

 

「――い、おい」

 

「っ、な、なんだい!?」

 

 

 しまった……さおりんに集中してたから話しかけられたのに気が付かなかった!? へ、変な声とか出してないよね……?

 

 

「いやなんだって……今日だろ? お前の実家に行くの? 準備とか大丈夫なのかよ?」

 

「も、問題無いさぁ~いつでも良いに決まってるよ。ノワールこそ準備は出来てるのかい?」

 

「ただ会って話すだけだろ? 特に準備なんざいらねぇだろ。最悪殺し合いに発展したら戦えばいいだけだしな。おい水無瀬、お茶くれ」

 

「分かりました。あの、ノワール君……今回こそ穏便に行きましょう? 花恋と祈里の実家とはいえ三大勢力とは同盟を結んでいないんですからね!」

 

「善処しとく」

 

 

 めぐみんからお茶が入ったコップを受け取ったノワールだけど緊張のきの字すら知らないとばかりの様子だ。この性格は本当に羨ましいね、鬼達ですら頭領の母様と話す時は緊張するのにコイツときたら……まるで別の学校にいる不良相手に喧嘩をしにいくみたいに簡単に言ってるよ。まぁ、常日頃から光龍妃と殺し合ったりしてるから慣れてる……慣れてるって言えるのかね? 兎に角もう本当に何事も無く終わってほしいよ……!

 

 全員が揃ったからいつもの様に朝ごはんタイム。テレビのニュースを見ながらあぁでもないこうでもないと他愛ない話をしながらめぐみんお手製のご飯を食べる。美味しい……家庭的な女性って男受けしそうだもんね。私も……練習しようかな。ノワールを囲む面々を見ていると女として自信を無くすからさ……めぐみんとしほりんは問答無用で男受けしそうな見た目だし料理も出来るし巨乳だ。れいれいはお姫様だから料理とかは得意じゃないけどこっちも巨乳で美少女、ノワールは毎回鼻の下を伸ばしてガン見してるぐらいだ。ロリ巨乳って言うんだっけ……羨ましい、その大きさを少しだけ譲ってほしい。肩が凝る苦しみとか一度で良いから味わってみたいよ本当に! イバラとぐらむんは……保留。さて恐らく私の心を読んでるさおりんだけど正直羨ましいの一言だ。ノワールから一番に頼られてるし見た目だって可愛いし何でもできるし……うん。頑張ろう。

 

 

「――調理機器を壊さないように頑張らなきゃね」

 

「なっ!? な、なぁに言ってるのかなぁ~さおりんは! に、にししし!」

 

 

 この覚娘め! 人が気にしている事を遠慮なしに……! さおりんはやらないだけで実は料理できるとか知ってるからそんな事が言えるんだろうけどさ! 慣れてないんだから仕方がないじゃないか!

 

 ご飯を食べ終わってからイバラと一緒に着替えてノワールと共に里へと向かう。場所自体は私達が知ってるから転移で入口までは向かえるから問題無い。ノワール、私、イバラの三人で大江山に存在する鬼しか知らない専用の道を進んで里へと歩いていく。この場所自体は京都にある「裏京都」と同じような異空間に存在している……だから今まで人間達に知られる事なく過ごす事が出来ていた。鬼以外の存在がやってきたからか……または私とイバラが帰ってきたからか、いいやどっちもだね。離れた場所で監視役の鬼が付いてきている。ノワールもそれに気が付いているのがうざったいと言いたそうな表情になってるしさ……コイツ、あの漆黒の鎧になる力に目覚めてからさらに強くなってるしねぇ! ホント、面白い奴だよ!

 

 

「……此処か?」

 

「そうさ、私とイバラが住んでた場所――鬼の里さ」

 

 

 長い道のりを歩き、辿り着いたのは大きな門だ。そこには門番の鬼が二人立って私達を観察するように見ている。コイツらは私とイバラを追放したい派だったはずだから今すぐ帰れって思ってるだろうね。

 

 

「立ち去れ余所者。此処は貴様らが来るような場所ではない」

 

「貴方達もだ。伊吹さま、イバラさま。既に貴方達は此処に入る権利は無い」

 

「ふーん。でもさぁ、アンタらの頭領から此処に来るように言われたんだけど? まぁ、帰れって言うなら帰るが頭領自らが呼んだ客を追い返したらお前ら……どうなるんだろうなぁ? あと、うちの姉妹を変な目で見ないでもらえません? 死にたいなら別に良いけどさ」

 

 

 ノワールゥ! 初っ端から喧嘩腰とは予想通りだけど落ち着きなって!

 

 

「……寧音さまが呼んだだと?」

 

「その言葉、偽りではないだろうな?」

 

「主様の言葉。本当。寧音様から連絡があった。今日、此処に来るように言われた」

 

「そうさ、だから通してくれないかい? 私も母様との約束を破りたくないんだ。もし邪魔するって言うなら鬼らしく通してもらうだけさ」

 

「……分かった。しかし騒ぎは起こすな。用件が済み次第、さっさと帰るように」

 

 

 門番が門を開けて私達を中へと通した。そこに見える景色は前に来た時と変わらないものだ……昔の日本のように木製の建物が多く着物を着た遊女が歩いていたり、ガタイの良い男が大工仕事をしていたりと何かと騒がしい町だ。勿論、歩いている奴らは全員鬼だ。だからノワール? 遊女の鬼をガン見するのはやめときな。此処に来た目的は遊びに来たんじゃないだろう? 決して嫉妬しているわけじゃないさ。違うからね。

 

 

「すげぇな。辺りに居るのって全部鬼か?」

 

「そうさ。鬼の里だよ? それ以外の種族が居ると思ってるのかい? 昔の日本を元にして酒飲んだり祭りをしたり毎日騒いでるのさ」

 

「鬼は騒ぐのが好き。酒も好き。女も好き。だから遊ぶ場所が多い」

 

「なるほどだ。帰りに寄っていく――冗談だっての」

 

 

 なんだい? ただ目の前で掌を握っては開いてを繰り返しているだけだよ? にしし、おかしなノワールだねぇ。

 

 周りから珍しいという視線とまた帰ってきたのかという視線が私達を射抜いている。ドラゴンであり悪魔でもあるノワールような存在は珍しいからか周囲から奇異な目で見られている……若干、良い男みたいな視線も交じってるけどこれは気のせいだね。

 

 

「着いたよ。此処が私の……いや鬼の里を支配する頭領が住む屋敷さ」

 

 

 目の前にあるのは古い時代にあるような大きな屋敷。池だってあるし宴会用の敷地だってあるこの里の中でもかなりの面積を誇る場所だ。私達の来訪を既に知っているからか早く中に入ってこいとばかりに扉が勝手に開いた。母様らしいね……中には多分、イバラの母様もいるだろう。はぁ……ノワールが何をしでかすか分からないから本当にドキドキするよ。

 

 こんな状況だというのに隣にいるノワールは普段と変わらない様子で歩いている。もう少し緊張というものをしてくれても良いんじゃないかい? 鋼の心臓過ぎるよ!

 

 

「――やっと来たかい。このバカ娘」

 

「……これでも、早く来た方だよ。母様」

 

 

 屋敷の中央、金髪の美女とガタイの良い男達を従えている一人の鬼が待っていた。私と同じ桜色の髪で動きやすいように和服を改造したのだろう、年も考えないで色気を前面に出している格好をしているのは私の母様――酒呑童子であり鬼達の頭領。普段は吸わないくせにキセルなんて持ってカッコつけちゃってさ、威圧しているように見せたいのだろうけどノワールはビビらないよ? 恐らく私の母様を見て……なんで私を見るのさ? またなんで母様を見た? おいこら、何を考えてる?

 

 

「……四季音姉」

 

「なんだい?」

 

「母親?」

 

「そうだよ。見た目に騙されちゃいけないよ? あれでも五百年は軽く生きてるんだ」

 

「マジか……見た目的に二十代だけどその辺は悪魔と一緒かよ。まぁ、あれだ! ドンマイ!」

 

 

 待てこら。なんで私の両肩に手を置いてそんな哀れみな視線で見てくるのさ! まさかアンタ!? この状況で私と母様の胸を見比べてたってか!? 馬鹿じゃないの! なんでそんなにフリーダムなのさ! あとドンマイってどういう事さ! 成長しないってか!? このまま小さいままだって言いたいのかこいつは!!

 

 

「かっかっか! 面白いねぇ! こんな状況なら普通は馬鹿な事なんてしないさね。それに関しちゃあたしの娘だ、そのまま成長なんざしないさね。永遠にろりっ娘よ」

 

「否定しろ!! 良いのかそれで!! 実の娘でしょ!?」

 

「良いも悪いもあたしの家系はみんな小さいさね。アンタだけデカくなるわけないだろう」

 

「聞きたくなかった!! こらノワール……いい加減その哀れみの視線はやめな、潰すよ?」

 

「それはマジ勘弁。えー色々とお騒がせしましたがこいつ……えっと、伊吹? まぁ、良いか。コイツらの王をしてるノワール・キマリスだ。今回はお呼ばれしましたのでこうしてやってきた次第です」

 

「知ってるよ。最強の影龍王ってんだろう? 外の噂で耳に入っているさね。あたしは此処の鬼達を束ねてる寧音(ねね)ってんだ。そこのバカ娘の母親でもあるよ。こっちが(せり)、イバラの母親さ」

 

 

 親指を向けて紹介しているのはイバラの母親、芹様だ。イバラと同じく金髪で腰元まで伸びてるけど手入れは欠かしていないのか凄く綺麗だ。そして一番目につくのは和服の上からでも分かる巨乳だ……イバラも成長したらあの大きさになると思ったら嫉妬の感情が出てくるね。私なんて……母様と同じく小さいってのにさ! しかも今後も成長しないと断言されたしさ! 崩れ落ちたい……今すぐ泣きたいよ。

 

 

「さて呼んだのは簡単さ。アンタの目的を知りたい。教えてくれないかい? うちのバカ娘と芹の娘を手に入れて何をしようっての?」

 

「特に無いけど?」

 

 

 よくそんなセリフを簡単に言えるね!? 馬鹿じゃないの!?

 

 

「鬼を手籠めにしておいて何もないってか? 蝙蝠は平気で嘘をつくからねぇ、信用できないのさ。今だってそうさ、殺し合いには若い奴だけ送り込んで年取った奴らは安全な場所で見てるだけ。あたしらにも言えるがそんな奴らに鬼を利用されたくないのさ。もう一回聞くよ――どうする気だい?」

 

 

 くぅ、かなりの殺気だね……母様は本気でノワールの真意を確かめたがってる。返答次第じゃ即戦闘だよ……!

 

 

「だから無いって言ってんだろ。まぁ、トップの魔王自らが自分の妹に肩入れして贔屓してるような奴らだから信用が無いのは無理ねぇけどさぁ……特に利用とかはしてねぇぞ? こいつらだって今を楽しんで生きてるしな。あーでも特訓の相手として利用してるって言えばしてるのか……どう思うよ?」

 

「私に振るな馬鹿……母様、こいつは――」

 

「アンタに聞いてない。少し黙りなバカ娘」

 

 

 やっぱりおっかないね……私の母様は! この殺気を前にしてのほほんとしてるノワールは異常だよ。ただ光龍妃の殺気の方がちょっとだけ怖いと思えるから私も気が楽だけどね。

 

 

「そもそもあたしの娘どころか芹の娘も手に入れておいて何もないってのは通じないさね。芹、ちょっとばっかし暴言を言うが許しな。芹の娘は騙しやすいさ、言われないと動けないからね。そんな奴を唆して悪魔にして何が狙いだい? それにね、あたしの娘はこの里の次期頭領になるはずだったんだ。それを悪魔にした時点であたしらに喧嘩売ったのと同じ事さ。何度も同じことを聞く趣味はないから最後だよ? どうする気だい」

 

「……だーかーらーなにもねぇって言ってんだろうが。年取って物分かりが悪くなったのか? 四季音姉、あぁ、アンタの娘の方な? 元々はコイツから喧嘩売られたから倒しただけ、眷属にしたのもあれだけ強いんだから欲しくなって当然だろ? 俺様は悪魔だしな。悪魔になる事もコイツは断らなかったし同意の上、四季音妹の方も同じく喧嘩売られたからぶっ倒しただけだ。まぁ、こっちも俺から眷属になれって言ったけどね。酒呑童子が居たら茨木童子も欲しくなるのが悪魔ってもんだし。はい、満足?」

 

 

 嘘だ。イバラを悪魔にしようって言ったのは私だ……イバラも私と一緒に居たいからという理由と私の言葉だけで悪魔になったようなもの。だから全ての元凶は私だ……ノワールの眷属になって、一緒に居たいからってだけでイバラも悪魔にして……だというのにコイツは全部の責任を自分で負おうとしてる。普段はメンドクサイとか嫌だとか言ってるくせにこんな時だけ自分を犠牲にするんだ。馬鹿だよ……ホントさ!

 

 

「……そうかい。なら、戦争するか」

 

 

 拙い……! 母様は本気だ!!

 

 

「別に良いぞ? そもそもこんな()()に付き合わされた俺の身にもなれ。そんなに殺されたいって言うなら今すぐ殺してやるぞ?」

 

「かっかっか! 十数年しか生きてないガキが言うじゃないか。ならその腕前を見せてもらおうかねぇ? 殺れ」

 

 

 近くに居た鬼達が一斉にノワールに襲い掛かる。あの面々は母様が従えている中でも結構強い奴らだ……全員が生半可な奴らじゃ太刀打ちできない実力者揃い。でも――届かないよ。

 

 ノワールの正面には影人形が現れる。数人の鬼が自慢の拳を叩き込もうと殴りかかるが届く前に影人形のラッシュを浴びて母様の方へと吹き飛ばされる。あれの速さは一級品、しかも漆黒の鎧になれるようになってからさらに速くなってるときたもんだ! 硬さも、速さも、正確性も! 一回り以上に強化されてるんだから恐ろしいね。音からして確実に骨の何本かはあの一瞬でへし折ったね……頑丈な鬼の骨を折るとか本当に化け物だ。

 

 その光景を見た母様は今まで見たこと無いぐらいに大笑いをした。この辺りは私の親なだけあるね、きっと面白いと思ったんだろう。そして笑い終わったと共に軽く拳を前に突き出してデコピンをするように指を弾く――するとノワールが背後の壁に吹き飛んでいった。音も無く、衝撃なんて一切無いのにノワールがダメージを受けた事に私は驚く――事なんて無かった。あれが母様だからだ。伊達や酔狂で鬼の頭領を名乗ってないからね。

 

 

「粋がるんじゃないよ小僧。神から与えられた玩具で調子に乗ってもあたしに取っちゃ怖くもなんと――」

 

 

 轟音が周囲に響き渡った。何処からと言われたら母様が座っていた場所からだ。嘘でしょ……なんで影人形が母様の()()から現れたんだい!? いつ送り込んだ!? まさか……さっき襲ってきた鬼達を殴った時に影の中に忍び込ませた!? 変幻自在で他者の影の中に入れれるけどあの短時間でやってのけるとかどこまで馬鹿なんだい!! いやそもそもあの母様を殴った事に私はビックリだよ!! 芹様もイバラも驚いてるしさ! にしし! やっぱり面白いねぇノワールは!

 

 背後の壁に飛ばされたノワールの目の前には影人形が立っている。つまりダメージ自体は防いでいたってわけか……光龍妃と戦ってたからこその危機察知能力ってわけかい。

 

 

「――調子に乗ってるだぁ? ゼハハハハハハ! それはそっちの事じゃねぇの? 鬼の頭領って立場で鍛錬を怠ってるんじゃねぇかよ! たかだ十数年生きた程度のガキが使う式に攻撃されてんじゃねぇよバーカ!」

 

「……殴られるなんて久しぶりだねぇ。これが噂に聞く影人形って奴かい? 鬼の骨を折る打撃力とは恐ろしいもんだね。生憎あたしには効かないけどさ。どうした小僧? それで終わりってわけじゃないよね?」

 

「そっちこそ四季音姉を生んでから男に相手された事ねぇだろ? 相手してやるよ! ただし俺ってしつこいからぶっ倒れないでくれよ?」

 

「かっかっか! このあたしにそんな事を言う奴が居るとは面白い奴さね! 良いとも、相手してもらおうじゃないか。ただし小僧、アンタが負けたらあたし達鬼勢力は三大勢力に喧嘩を売るよ。問題無いね?」

 

「どうでも。そもそも三大勢力が滅ぼうが俺には関係ねぇしな。俺は好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいくことを信条としてるんでね! 好きにしろよ」

 

「――ますます気に入った! かっかっか! 真っすぐな男は好きさね! ならあたしに勝てたら抱かせてやろう。それぐらいの褒美は上げないとねぇ?」

 

「マジか!? うっしゃ! テンション上がってきたわ! 鬼は嘘つかねぇよな?」

 

「そうさ。鬼は嘘はつかないよ――付いてきな、良い場所がある」

 

 

 一触即発な空気のまま、母様とノワールは場所を移動する。

 

 これは……どっちを応援したらいいのだろうか? 母様を応援したらノワールが負けて光龍妃がブチギレる上に三大勢力との戦争。ノワールを応援したら母様と……こ、子作り決定……! 鬼は嘘をつかないから必ずするだろうね。ちょっと待ちなよ……惚れてる男が自分の親とそ、そのシてる所を見たらもうさおりんのように引きこもるよ? 出来ればノワールには勝ってほしい、でも母様とはシてほしくない。うぅ……!

 

 

「伊吹。大丈夫。顔色悪い」

 

「……悪くなるよ、流石にね。イバラはあんまり変わってないね?」

 

「うん。主様。いつも通り。楽しそうだった。伊吹の母様。もっと楽しそうだった。私も楽しみ。どっちが勝つか凄く楽しみ」

 

「そっか……ねぇ、イバラ? 此処に来るまでの私の心配ってどうしたらいいんだろうね?」

 

「分からない。ごめんなさい。でもいつも通り。主様は変わらない」

 

 

 そうだよね……あのノワールが態度を変えるわけがない。どんな時でも、どんな場所でも、どんな相手でも自分の好きなように、やりたいようにやるんだ。今回もそうだったってだけ。

 

 ホント……馬鹿だよね、ノワールってさ。




ノワール → ノワール
犬月瞬 → パシリ
水無瀬恵 → めぐみん
平家早織 → さおりん
橘志保 → しほりん
レイチェル → れいれい
四季音祈里 →イバラ
グラム → ぐらむん

以上、四季音花恋の呼び方一覧です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

72話

『宿主様』

 

「あぁ、分かってる」

 

『なら良いさ! さぁ、楽しもうぜぇ! あんなのと殺し合えるなんざ滅多にねぇしな!!』

 

 

 鬼達の頭領であり四季音姉の母親――寧音に連れられて俺は屋敷の外へと歩いている。前を歩いている女はウキウキワクワクしているのか足取りが軽い……見た目は四季音姉に似てるから成長したらきっとこんな感じになるんだろうね! ただマジで化け物だわ……デコピン一つで俺が後ろに吹っ飛ばされたしな! 音なんて鳴らず、衝撃なんて一切無かったにも拘わらず背後に吹き飛ばされた。周りに悟らせないほど小さな衝撃破って奴だろう……衝撃って言ってるのに衝撃自体が分からねぇとかどうなってんだよ!!

 

 しっかしあれだな……エロい。人妻の魅力って奴だろうか? 立ち振る舞いとかがグッとくる! 胸は夜空や四季音姉よりはあるけど水無瀬ほど大きいわけじゃない。きっと適度な大きさというのはきっとあんな感じだろうね! しかも和服なのにエロく改造してるのも良いと思います!

 

 

「かっかっか! これから殺し合うってのに余裕だねぇ? 見た目は若いが中身はおばさんさね、欲情するならもっと若い奴にした方が良いよ」

 

「あっ、俺ってその辺は気にしねぇから安心しろ。童貞じゃなかったら余裕で抱きに行ってるわ」

 

「なんだい? まだ未経験だってか? だったら筆下ろしのためにもあたしに勝ってみな。人妻のテクニックってのを味合わせてやるさね」

 

 

 人妻に筆下ろしをしてもらえるとかご褒美ですありがとうございます! そのセリフを言う表情とかがエロくて本当に四季音姉の母親なのか疑問になってきたね! なんでこの母親が居てあんなに少女趣味になるんだ……? でも残念ながら俺の童貞は夜空にあげる予定なのでそれが終わったらよろしくお願いしたいな! 人妻のテクニックとか物凄く興味があるしね! さてと……そろそろマジで集中しないと後ろに居る四季音姉に大事なものを潰されかねない。さっきから手をグーパーと握っては開いてを繰り返しながら目に光が無い状態で「潰す……だめ……既成事実……奪う」とか呟いて俺を見つめてるしな! お前ってヤンデレ属性あったっけ? 鬼が病んでるとかもうどうしようもないからマジでやめてくれない? 怖い。滅茶苦茶怖い。せめて……せめて四季音妹のようにしてほしい! 多分だがどっちが勝つのか分からなくて楽しみとか思ってるんだろう。かなりワクワクしてるね!

 

 でも一番の問題……というかこの騒動の()()をどうするかねぇ。現に今も俺の動きを、言動を、視線を、表情を、とりあえず目につくもの全てを観察しているっぽいからマジでどう対処したら良いんだろうな? 目の前の人妻鬼みたいに襲ってこない以上は俺から手を出すわけにもいかねぇし……良いか、これが終わってから考えるとすっか!

 

 

「――着いたよ。此処があたし達の戦場さ」

 

 

 歩くこと十数分、俺と人妻鬼は荒野に到着した。此処に来るまでは木々が生い茂った普通の山だったけどこの場所はまるで爆弾か何かで吹き飛ばしたように木々が散らばっているしクレーターも色んな所に出来ている。周りに見える光景の雰囲気は言ってしまえば地双龍の遊び場(キマリス領)と同じだ。暴力と暴力がぶつかり合って出来たような異常な光景……なるほどな、誰かは分からないが骨らしきものもあるから鬼専用の処刑場かなんかって感じか? 良い趣味だな!

 

 殺し合いを行う俺と人妻鬼はこの場所の中心に立ち、観戦する奴らは上空に四角形の結界らしきものの中に入って俺達を見下ろしている。四季音妹の母親が作った奴か……鬼でもあんな感じの術を使うんだな。

 

 

「此処は由緒正しき鬼達の遊び場さ。暇な奴ら、馬鹿な奴らは此処で発散するのが日常さね。ここら一帯を芹が妖術で覆ったから外に被害はいかないようになってる。かっかっか! さて小僧、準備は良いかい? 童貞らしく一回動いただけでイッたら笑いもんだよ?」

 

「それこそ心配無用だっての。俺様、イメトレ(オナニー)は得意中の得意だしな。逆に若い俺の攻めに耐えきれなかったら人妻として……ダメだ、言ってみてあれだがそれって最高だわ。とりあえず問題ねぇから安心しろ」

 

「なら良いさね! この石が落ちたら開始、異論はないね?」

 

「勿論だ。いつでも良いぞ」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 普通の禁手化――黒の鎧を纏い目の前に居る鬼を見据える。かっかっか! と高笑いしながらゆらりゆらりとしている姿は素人が見たら隙だらけな立ち振る舞いだが……隙が見当たらない。気を抜いたらマジで死ぬだろうが()()()されてる状態で負けたらそれこそ精神的に死ぬ。てか負けたら夜空がブチ切れるから意地でも勝たないとダメだろうな! 負けねぇけど!

 

 人妻鬼が手に持った小石をコインを弾くように上空へと放る。それは重力に引かれてまっすぐ真下へと落ちて――周囲に轟音が走った。音の発生源は俺の目の前、起こした張本人は先ほど前離れた場所に居た人妻鬼。たった一歩、拳を握って接近してきたから影人形で応戦した結果がこれだ。鬼の拳と影人形の拳がぶつかり合い、周囲に衝撃が広がった……マジかよ! 俺の影人形が若干だけど後ろに下がった! ゼハハハハハ! 最高じゃねぇの!!

 

 

「――なんだい! 良い硬さじゃないの! これだけ硬いと突かれたら気持ち良いだろうねぇ!」

 

「だったら試してみるか?」

 

「かっかっか! 良いよ、やってみな!」

 

 

 影人形のラッシュタイムと人妻鬼のラッシュタイムがぶつかり合う。一発、また一発と拳がぶつかり合うたびに周囲の光景が吹き飛んでいく。やっべ、かなりのパワーだな……これで加減してるとか泣きたくなってきた! でも楽しくなってきたぁ!! ラッシュの速さ比べをしていると人妻鬼がニヤリと笑みを浮かべ、スプーンでアイスの表面をすくうように拳を放つと俺の影人形ごと地面が抉られた。

 

 

「なんだい! もう終わり――良いね! そういうのもあたしは好きさ!」

 

 

 飛散した影を媒体に新しい影人形を生み出して周囲ごと人妻鬼を殴る――が笑み一つを浮かべて放った拳でそれら全てが壊された。あぁ、確かに目の前に居る女は四季音姉の母親だよ……! 相手に合わせて強さを跳ね上げるメンドクサイ体質はそっくりだ!!

 

 

「影に触れると力が抜けるねぇ、ただのパワー馬鹿かと思ったら技術もあるときた。その年で良くここまで練り上げたもんさね」

 

「鬼の頭領に褒められると嬉しいね。まっ、アイツに褒められるほどじゃねぇけどな!」

 

「そりゃ残念だ。ほれ、一発行くよ」

 

 

 全身から影を生み出してこの戦場を黒に染める。影に触れたなら「捕食」の能力によって力を奪い取れる。つまり力を跳ね上げる人妻鬼の弱体化させられるわけだ……でも残念な事にそんな考えは暴力の前では無力らしい。「海水浴も良いねぇ」と軽い口調で放つ拳の衝撃で影の海が真っ二つに割れた。サイラオーグも同じことをやったが目の前の鬼のはそれ以上だ――影の海を割り、その衝撃を俺に叩きつけてきた。お陰で少し後ろに吹き飛ばされちまった! パワーを極めたらここまでなるとは恐れ入るよ……!

 

 

「――鬼の拳、たんと味わいな」

 

 

 俺の正面まで移動した人妻鬼は軽く後ろに引いた拳を俺の胴体に叩き込んだ。全身鎧、相棒の影、北欧の魔術で底上げされた防御力を簡単に突破した拳は俺の身体を貫いた……息が出来ない、足が動かない、痛みなんか一切ない……周りから見れば確実に即死と判断するほどのダメージに違いない。目の前に居る鬼も期待外れかとかもう終わりかと言いたそうな表情で拳を引き抜く。意識が遠のく……消える……俺の意識が消えていく――わけねぇんだよなぁ!!

 

 

「――ゼハハハハハ!!」

 

『Undead!!』

 

 

 即座に貫かれた傷を()()、高笑いと共に人妻鬼の顔面を全力で殴る。不意を突いたからか、あるいは分かっていて受けたのか分からないが殴られた衝撃で吹っ飛ばされるがすぐに立ち上がる。なんだよ? なんで生きてるって顔は? おいおい……偶には外の情報を仕入れた方が良いぞ? 噂で聞いてねぇのかよ……今代の影龍王は()()()なんだぜ?

 

 

「まずは一死だ! ゼハハハハハハハハハハ! あぁ、マジで殺されたわ! 確実に意識を刈り取る良い一撃だった! 流石鬼……四季音姉の母親なだけはあるな! ほらほらどうしたぁ? たった一回殺しただけじゃねぇか! 俺の残機はまだまだ余裕で残りっぱなしだぜ? 勿論全部無くしてくれるよなぁ!」

 

「……かっかっか! 悪いねぇ、再生するとは聞いてたがまさかそこまでとは思わなかったよ。なんだいなんだい……! 楽しめそうじゃないか! 久しぶりに体が熱くなってきたよ! ならその残機ってのを全部貰おうか!」

 

 

 俺は高笑いしながら無数の影人形を生み出して接近する鬼を迎え撃つ。先ほどまでとは違い、全身に妖力を纏わせた拳は影人形程度では止まることなく、全てを破壊ながら俺の目の前までやってきた。その表情は笑っていた。高揚感を味わっているような笑みだ。楽しいと! まだ倒れるなと! 暴力的なまでの破壊力を持った拳を放ってくる。

 

 俺も生み出した影を纏わせた拳で応戦すると衝撃が広がって周囲が吹き飛んだ。俺の拳が痺れるほどのパワーだが一発だけでは終わらない……倒れないなら殴る、再生するなら殴る、死なないなら死ぬまで殴る。やってる事なんて簡単だ。サイラオーグとの戦いの様にまどろっこしい事なんてしないで正面から殴り合い! 馬鹿の一つ覚えの様に俺と鬼は殴り合う! 俺の拳を叩き込むが倒れない。鬼の拳が叩き込まれると俺の首が折れて即再生。そのお返しに一発殴ると鬼は笑みを浮かべて俺を殴ってくる。殴る、再生、殴る、再生、ただひたすらそれの繰り返しだ。何回死んだ? 何回殺された? そんな事はどうでも良いとばかりに俺達は高笑いしながら殴り合う。

 

 

「――してやられたね」

 

 

 それが永遠に続くと思っていると先ほどまで楽しんでいた鬼が表情を変えて俺から距離を取った。あらら……バレたか。もう少し力を奪いたかったけど仕方ねぇか……てかマジで何回死んだんだ? 多分だけど二桁は確実に死んでるね!

 

 

「んあ? いきなり距離を取ってどうしたんだよ? まだ俺は死んでねぇぞ? ほらほら、さっさと殴り合おうぜぇ! 楽しい楽しい殴り合いをさ!」

 

「そうはいかないさ、こんな事をされたらね!!」

 

 

 目の前の鬼は自分の真下を殴ると自分の()に繋がっている黒色の細い糸のようなものが衝撃によって宙に浮いた……それらが伸びている先は俺の影だ。ゼハハハハハハ! 俺が何の策も無しに殴り合うわけねぇだろ? 不死身なのを利用してせこい事をさせてもらったけど気づくの早いな……予想じゃもっとかかると思ってたんだけどな!

 

 

「アンタ、さいしょっからこれが狙いだったんだろう? あれだけ人形を生み出す能力を持っていながらあたしと殴り合う事を選ぶわけがない。最初の違和感はここさね、そして次がアンタの鎧が硬くなっていったという事。ダメージを抑えるためかと思ったがどうも違う……あたしの拳の威力が下がったから鎧が硬くなったと錯覚してたってわけだろう? ホント、ズル賢い男さね」

 

 

 その通り。影に触れたら「力」を奪うのが相棒の力の一つだ。知っている奴からすれば意地でも触れないように行動するだろう……だったらどうやって相手にバレないように「力」を奪うかにたどり着く。いかに違和感なく影に触れさせるか、そう考えたら答えは一つだ。人も悪魔も妖怪も天使も堕天使も……生きているなら確実に出来てしまう()を使えばいい。吹き飛ばされた影人形の影を使って瓦礫などの障害物の下から根を張るように俺と鬼の影に繋ぐ。上空に浮かんでいる太陽の光で生まれる自分の影は誰も違和感を持たないだろう……だからこそそれを利用した! まっ、こんなのは初見殺しみたいなもんだから二回目以降は効かないだろうな。

 

 

「気づかれるとは思ったがこうも早いとは思わなかったよ。俺の影は変幻自在、ここまでクレーターやら木々、骨が放置されてるからこそ生まれる隙間を使ってアンタの影と繋げたけど……もうちょっと演技力を高めないとダメかね?」

 

「いんや、外で調子に乗ってる奴らなら気づいた時にはもう手遅れさね。人妻は感が良いって事を覚えておきな。男が浮気してるだの別の女が近づいているだのって余裕でお見通しだからね」

 

「そりゃ怖い。さてと――そろそろ手加減はやめてくれないか? こっちは不死身の再生能力を見せたんだ。今度はそっちの番だぜ?」

 

 

 さっさと本気の鬼と殺し合いたい! なんせ目に見える妖力は四季音姉以下……舐められている。ここまでやっても格下だって思われてるのが我慢ならねぇ! 負けるなら圧倒的な実力差を味わってから負けたいのが本音だ! でも負けないけどね!

 

 

「かっかっか! 良いのかい? このまま持久戦に持ち込めばアンタの勝ちさ、こっちは力を結構奪われたみたいだしね」

 

「アホ。折角の殺し合い! しかも楽しい楽しい鬼との殺し合いだ! 全力で来いよ? こっちはそれを待ってんだ。そもそもその程度奪ったぐらいで弱体化するわけねぇだろ? アンタの娘と何度殺し合ってると思ってる? 鬼の怖さは俺が一番よく知ってんだよ。勿論、アイツらの良いところもな」

 

「――そうかい。なら遠慮なく相手してあげようじゃないか」

 

 

 その言葉と共に目の前の鬼の妖力が膨れ上がり、小さく減少した。その妖力の濃さは四季音姉を簡単に超えている! 纏う妖力が少ないからと言って弱いわけじゃない……逆だ。今日まで生きていて高まった妖力をここまで小さく、それでいて濃く放出できるもんなのかと思いたくなる! これが正真正銘、本気の頭領の力とはねぇ! 正直……楽しくてしょうがねぇ!! 歓喜の感情が俺を支配する、殺したいと俺の本能が叫んでいる、ゼハハハハハハハハハハハハッ! さいっこう!!

 

 鎧の下で笑みを浮かべながら受けたダメージを「再生」する。これこそ相棒……影の龍クロムが持つとされる不死身の再生力だ。影龍王の漆黒鎧・覇龍融合に目覚めた影響で一部分しか引き出せなかった「再生」能力は完全に引き出されて通常の鎧でも使用できるようになった。あらゆるダメージを、傷を、死すら治すトンデモナイ能力! 今までは欠損してなければ発動しなかったが今では小さなダメージから大きなダメージまで俺が望めば即再生する! だからサイラオーグとの戦いで態々フェニックスの涙を飲む必要なんて無かったんだが個人的に相手に一時の希望を与えてそのまま絶望に叩き落したかったからわざと使ったんだよね! だけど便利になった分、文句を言いたい部分もある……再生する事を教えるように宝玉から鳴り響く『Undead!!』という音声だ。マジでやめてくれません? あっ! こいつ今再生してるってバレちゃうからさ!

 

 

「このあたしが殴っても死なない男……あぁもうっ! 良い! 全力を出せるなんて何百年ぶりだろうね! 喜びな、これを使うのは芹以来さ」

 

 

 妖術か何かで呼び出したであろう武器を肩で背負う。それは釘バットをそのままデカくしたようなものだ……まさか鬼に金棒ってか? そのまんまじゃねぇか!

 

 

「格下相手なら拳だけで十分さ。でもアンタはそれでも死ななそうだからね、使うよ。鬼には金棒って世界共通の言葉だろう? だから――簡単には死なないでくれよ」

 

 

 獣のような笑みを浮かべた鬼が俺の真横にするりと入り込み、その得物を振るった。そこから何が起きたかなんて俺には分からない……気が付いたら遠く離れた結界の壁に叩きつけられていた。身に纏う鎧は意味をなさないように完全に壊され、殆どの骨は折れて変な方向に曲がったりしている……正直、意識を手放したらどれだけ楽なんだろうって感じだ……! たった一振りで自慢の防御力を突き破って死亡寸前まで追い込まれた……ぜは、ゼハハハハハハハハハ!! 最高だ……! これが鬼! ドラゴンとは違う力の塊か!! 強い! 鬼を従える頭領ってのはここまで強いとはなぁ!! でもまだだ……まだ届かねぇ……アイツに、夜空には全然届かねぇ!! ここで負けたらアイツは夜空よりも強いって事になっちまう……ふざけんな! アイツより強い奴がいてたまるか……! 俺の中で夜空が一番強くねぇとダメなんだ……!! 負けるかよこのクソ野郎がぁぁぁっ!

 

 

「――ゼハハハハハハハハハ!! まだまだ死なねぇぞ! こんな、こんな楽しい楽しい殺し合いを終わらせるわけねぇだろうが!!」

 

 

 残っている鎧の部分に埋め込まれた宝玉から音声が鳴り、全身に影が集まってありとあらゆるダメージが無くなっていく。こうして普通に使ってるけどさ……生きていた相棒の恐ろしさはヤバいな! どれだけ攻撃しても、どれだけ殺しても、どれだけ戦っても復活するんだもんな……悪魔の中でもフェニックス家が一応同じような部類に入るが俺から言わせればあんなのは格下だ……! 相棒の恐ろしさは再生能力だけじゃない!! 異常なまでの精神力! 憧れるな……本当に!!

 

 

「今のでも死なないとは化け物だね。これで殴って笑いながら立ち上がった奴なんて数えるぐらいしかいないさ。誇っていい。そんじゃ、続きをしようか! 死なないでくれよ? まだまだこの熱さは引きそうにないんでね!」

 

「あったりまえだ……簡単に死ねたら最強の影龍王なんて名乗るわけねぇだろ! 悪いがこっちも使わせてもらうぞ……? 誇れよ、雑魚散らし以外には使わないって決めてたんだぜ?」

 

 

 魔法陣を展開してとある()を呼び出す。光の中から現れたのは綺麗な黒髪をした褐色肌の女……いきなり呼ばれたから驚いている――わけでもないらしい。むしろ逆だ……喜んでいる!

 

 

『――呼んダか? 我ラを! ツかうカ! ワれらヲ!!』

 

「おう……使ってやるから剣になれ。言っておくが相手が怖くて力を出せませんでしたとか言いやがったらマジで壊すからな……!」

 

『ソれはアりえぬ!! わレらはうれシいノダ! 我が王ガ我らをつカう! ようやク剣としテ使われルことに喜びヲカんじてイる! 見せヨう! 我らがちかラを! 我が名はグラム! 魔剣のテいおウなり!!』

 

 

 一瞬で剣の姿になったグラムを握ると歓喜の声を上げるように俺の体を呪ってくる。持っている手からムカデ、ミミズ、クモみたいな虫の類が体の中を這いずる感触が全身に広がっていく……嬉しくて嬉しくてもう泣きそうなんだろう。遠慮無しに「龍」である俺を呪ってくる! あぁ、気持ち悪いが心地良い呪いじゃねぇか……グラムとチョロイン四本が一つになった新しいグラム! 呪いの濃さなんて前以上で本当に最悪だ! でもそれが良い!!

 

 

「……魔剣かい。しかもグラムと言ったか? 人の姿になれるなんて聞いたこと無いけどねぇ」

 

「俺のチョロインは他とは違うんだよ。タイマンで使うなんて殆ど初めてだから死ぬなよ……鬼!」

 

「かっかっか! 面白い男さね! 良いよ、受けてやろう。来な、小僧!!」

 

 

 鬼が金棒を振り下ろすのと同時に俺もグラムを握り、大きく前方へと振り下ろす。衝撃破と呪いの波動が正面からぶつかり合うと周囲の光景が先ほど異常に吹き飛んでいく……まだまだテメェの力はこんなもんじゃねぇだろ? 呪いたかったら呪え! 嬉しかったらもっと嗤え!! 受け入れてやるしお前を俺の「剣」として使ってやる!! あるがままに、思うままに、グラムという剣を使ってやる!!

 

 互いにまっすぐ相手へと向かい、得物を振るう。鬼の力で振るわれた金棒はグラムとぶつかっても壊れる事も無く……逆に俺の両手が痺れる結果となった。何で出来てんだよこの金棒! 硬すぎじゃねぇか!!

 

 

「そんな棒きれ! へし折ってやるさね!」

 

「うちのチョロインはそう簡単に折れねぇんだよ! 逆にそっちの棒を斬ってやらぁ!」

 

 

 金棒、拳、蹴り、身軽な体を使いながら放ってくる攻撃を影人形とグラムで防ぎながら何度もぶつかり合う。拳が飛んで来たら影人形の拳で防ぎ、金棒が振るわれたらグラムで受け、蹴りが飛んで来たら体で受ける。骨が折れても即再生、倒れる事も死ぬことも無くただひたすら目の前の鬼と楽しく殺し合う!

 

 

「一発デカいのいくぜぇ! 影龍破ッ!」

 

 

 距離を取ってグラムの力を引き上げる。感激のあまりに泣いてるんじゃないかってぐらい尋常じゃないほどの呪いのオーラが刀身に纏わりつき、それを振り下ろして前方へと放つ。影龍が放つ波動だから影龍破……安直な技名だが無いよりはマシだろう!

 

 目の前の鬼は迫りくる波動に対してかっかっかと笑いながら金棒を握り、バッターのような構えをする。笑みを浮かべて金棒を横に振り、波動を野球ボールのようにおもいっきり弾き返した。マジかよ……野球やってるんじゃねぇんだぞ!?

 

 

「かぁ~! ヒットとはねぇ。ホームランにはならなかったか」

 

「……マジで馬鹿げてやがる。マジかよ」

 

「あたしは野球も好きでねぇ、偶に里の鬼共とやってるのさ。かっかっか! 今日まで全てホームランしか打てなかったけど初めて出来なかったよ。トンデモナイ威力さね」

 

 

 そりゃそうだろ……鬼の力でバットを振れば余裕で世界一周ホームランだろうが。弾き返された波動は別の方角へと向かい、地上の全てを抉り続けて消えていった。もうちょっと威力を高めた方が良いか……まだまだ使いこなせてねぇな。

 

 

「グラム、聞いてるな? 俺はお前を剣として使ってやる。だからお前も遠慮なんかいらねぇ……お前達という存在を俺に教えてこい。受け止めてやる。お前は俺の剣だ、魔剣の帝王なんて言う名前は捨てろ。今日からお前は覇王が使う剣――覇王剣グラムだ。分かったらさっさと力を吐き出しやがれ!!」

 

 

 グラムから異常なまでの呪いが放たれて俺の体を染めていく。怒り、悲しみ、妬み、苦しみ、嬉しい、楽しい、ありとあらゆる呪い(感情)が俺の中を巡っていく。胃の辺りから込み上げてくるものを吐き出すとそれは血だった……吐血とか久しぶりすぎて嬉しいわ! まだまだ教えろ! お前を! お前達を!!

 

 

「龍殺しの呪い、それを持つ魔剣を龍が使うとはね。呆れを通り越して逆に褒めたいぐらいさ。来な、打ち返してやるよ」

 

「……やってみろ! ゼハハハハハハハハハ!」

 

 

 高笑いしながらグラムを前方へと振るう。高まり続けた呪いのオーラは龍のような形となって目の前の鬼へと向かって行く。地面を削り、空間を削り、全てを切り刻みながら進んでいく。鬼も静かに息を整え、金棒を構えて――振る。打ち返すために俺が放った波動に近づいたせいで体中が切り刻まれていくが泣き声なんて出さずに妖力を放出する。獣のような声を上げ、鬼という力の全てを絞りだすように金棒を振るい、波動を俺へと向かって跳ね返した。

 

 

「……」

 

 

 敵へと放った波動は今では俺を殺すために向かってくる。そうか……ありがとうよ。打ち返してくれて!

 

 

「――あたしの金棒に亀裂が入るとはね。恐ろしい子供さね」

 

 

 声が聞こえる。でも聞こえにくい……視界も半分見えない……腕は動くが足の感触は無い……酷いありさまだろうな……呪いが俺を蝕んでいやがる……ゼハハハハハハハ! まだまだ、終わってねぇぞ鬼さんよぉ!!

 

 土煙の中で残る意識を振り絞り、影人形を生み出してグラムを鬼へと投げつける。当然そんな事をしても不意打ちにもならず金棒で弾かれるが俺の狙いは()()じゃない。

 

 

「アンタの力は分かった。でも終わりさね、あたしの勝ちだ」

 

 

 近づいてきた女はひび割れた金棒を振り下ろそうとしてくる――でもなぁ、忘れちゃったか? 俺様、不死身なんだぜ!!

 

 

『Undead!!』

 

「……っ! まさか!!」

 

 

 俺の視界に映るのは鬼の()()だ。なんでとかどうしてとか聞くなよ? 滅茶苦茶簡単だからさぁ!!

 

 

「――らぁっ!!」

 

 

 手に持ったグラムで鬼の片腕を切り落とし、そのまま周囲の空間ごと切り刻む。ようやく分かった……こいつは何でも切り刻む! 空間だろうが事象だろうが関係なくな! 互いに全身を呪いの刃で切り刻まれるが最後に立っているのは――不死身の俺だ!

 

 

「……鈍ったもんさね……あんな手に、引っかかるとは……」

 

「良かったよ……アンタが鈍った体で居てくれて……そうじゃなかったらヤバかった。ゼハハハハハ、死ね」

 

 

 呪いのオーラが刀身から放出されていないにも関わらず周囲の空間が切り刻まれていく。楽しかった! 物凄く楽しかった! 次もこうして殺し合いたいぐらいに楽しかった!! でも俺の邪魔をするならだれだろうと殺す。俺と夜空の決着を妨げる奴はたとえ魔王や神でさえ殺す!!!

 

 そのままグラムを瀕死様態の鬼に向かって振り下ろ――

 

 

「――お待ちください」

 

 

 ――す前に声が聞こえた。声の主は四季音妹の母親、そいつは宙に浮かんで観戦していた四季音姉妹以外の鬼達と共にその場に座り、頭を下げ始める。あの鬼が、力の塊とさえ言える鬼達が自分達よりも年下であろう俺に頭を下げている事態にはぁ? と思ってしまった。いやいや待て待て……そんな事をするような奴らじゃないだろ? むしろ逆に負けてやがるぜダラしねぇとか言わないとダメだろ! まぁ、でも……最初っからこのつもりだったんだろうから文句は言わないよ。なんせここまで全部茶番だしな。

 

 

「……芹」

 

「申し訳ありません。ですが寧音様を死なせるわけにはいきません。そのためならば鬼の誇りなど捨てましょう……全ては私がいけないのですから」

 

「母様。どうして。分からない。私は分からない」

 

 

 どうやら四季音妹はこの状況を理解できていないらしい。そりゃそうだ……分かってたら呆れるだろうしな。四季音姉は既に察してるらしいが言葉には出さないようだ……当然だな。

 

 

「……おい」

 

「……なんだい」

 

「満足かよ?」

 

「――そうさね。付き合ってもらって悪かったね」

 

 

 ()()を果たしたからか倒れている鬼は静かに笑みを浮かべ始めた。

 

 巻き込まれた俺の身にもなってほしいね……あの話し合いの場も、この殺し合いも全てはこの時のための芝居だからな。まさか誰も思わないだろう――ただ単に娘が心配だった親心で呼び出して殺し合ったなんてさ。本当に……鬼は自由過ぎて困る! 楽しかったけどね!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

73話

「かっかっか! さぁさぁ! じゃんじゃん飲むよ!! 今日は大宴会さね!!」

 

 

 鬼の頭領、寧音の言葉が響き渡り、配下の鬼達は大喜びで雄たけびを上げる。先ほどまで殺し合いを行い、大怪我を負ったとは思えないほどの元気っぷりに呆れを通り越して尊敬の念すら出てきてる……鬼ってすげぇわ。そんな鬼の頭領を見てみると先ほどの戦いでボロボロになった服は既に脱いで模様が違う改造和服に着替えており、肌が露出している部分には包帯が巻かれているのが見える。左手にはかなりデカい(さかずき)を持って大喜びで酒を飲んでいるが……怪我人だよな? 少なくともグラムの斬撃を身に浴びた人物が見せて良い姿じゃない気がするぞ? まぁ、鬼だから頑丈なんだろうきっと! そんな事よりも酒を飲む寧音の姿で何よりも目に付くのは俺が切り落とした右腕だ……服の袖から本来あるはずの手が出ていない。大きく腕を振るうと肘から先が完全に無くなっているのが服の上からでも丸分かりだが隠そうともしないとは恐れ入るよ……自分よりも年下に腕を切り落とされたなんて恥も良いところだろうによ。

 

 

「ノワール、飲んでるかい?」

 

 

 部屋の片隅で鬼達から渡された(さかずき)に注がれた水を飲んでいると先ほどまで別の鬼達に囲まれていた四季音姉が近づいてきた。にししといつもの様に笑っているが先ほどまでは全くの別人だ……手当が終わった頭領、寧音の私室で今回の一件の全容を聞かされる前まではガチガチに緊張……いや違うな、娘だから血だらけになった母親を心配してたんだろう。でも流石に部屋に戻ってきた姿を見て呆れてたけどな! 誰だってそうだろう……酒瓶片手にかっかっか! と笑いながら入ってきたんだもんな! 流石の俺でもうわぁって思ったし!

 

 

「酒臭くてさっさと帰りたい。グラムと一緒に帰ればよかったぜ」

 

「にしし! 残念ながら今日は泊まり確定だよ。母様が決めたんだしね……諦めな」

 

「普段のお前らしくねぇな? いつもなら好きにしろとか言うだろ?」

 

「当然さ。此処じゃ私は「伊吹」だからね。座って良いかい?」

 

「勝手にしろ」

 

 

 慣れた動作で四季音姉は俺の膝の上に座った。今の服装は此処に来るまでに着ていたものではなく、母親と同じ改造和服だ。つまり下を向けば普通にちっぱいが見えます。素晴らしいですね!

 

 ちなみに今日は四季音姉が言った通り、此処に一泊することになっている。本当なら用済みになったグラムを送り返すときに一緒に帰ろうと思ったんだが鬼の頭領から良いから泊まって行けと言われたため仕方なく四季音姉妹の実家にお泊りだ! 既に水無瀬には「ごめん、頭領と殺し合いしたら気に入られたみたいで泊まっていくことになったわ」と連絡している……何故か驚かれることが無かったけどね! なんか声のトーン的に「デスヨネ」って感じだったから想像ぐらいはしていたんだろう。流石俺の僧侶! きっと今頃はノワール君が鬼と殺し合いしてましたと犬月達に報告してる事だろう……帰ったら何やってるんですかと怒られる気がする。主に橘とレイチェル辺りから。

 

 

「四季音妹は?」

 

「あそこさ。芹様と他の鬼達と仲良く飲んでるよ」

 

「……まさかあれだけの事で鬼達全員の意識が変わるとはなぁ。覚妖怪並みにちょろ過ぎないか?」

 

「それが鬼さ。強い奴なら大歓迎、それを連れてきた奴ならもっと大歓迎。妖怪だからね、単純なのさ。自慢じゃないけど母様は頭領になって芹様以外の奴から一度も怪我らしい怪我を負ってないんだ。あれだけ暴力と暴力がぶつかり合った殺し合いを見せられたら鬼としては感動ものだよ……ってどこ見てんのさ?」

 

「ちっぱい」

 

「……これだけ周りの目があるのによくやるよ。さ、流石に見るな恥ずかしい……二人きりなら良いけどさ……って揉もうとするな!!」

 

 

 盃を持っていない方の手を四季音姉のちっぱいに移動させると手を掴まれてガンッと床に押し付けられた。いやだってさ……和服ってこう、まさぐりたくなるじゃん? 現在進行形でそれがしたいだけだから素直に揉ませろ! 俺としては人妻おっぱいを揉みたいけどね! だって……エロいじゃん。なにあれ? 包帯が巻かれた太ももとかなんかエロイんですけど人妻だからか? うーん……素晴らしいね! でも出来れば夜空の太ももが見たい。てか普通に夜空のおっぱいを揉みたい。

 

 そんな風に思いながらこの宴会場で一番目立つ場所で酒を飲んでいる鬼の頭領を見ていると顎を掴まれた。そのまま強引に視界を下げられると若干目に光が宿ってない四季音姉が見える……ナニコレ怖い。マジでお前ってヤンデレ属性持ってたか? そんなのは平家と橘だけにしろっての。

 

 

「アンタ、私の母様をどんな目で見てるのさ……まさかあの冗談を本気にしてるわけじゃないよね……?」

 

「んなわけあるか。俺の童貞は夜空に奪ってもらわないとダメだから断る気満々だっての。だからそんな目をするなマジで怖い。ロリがヤンデレとか誰得だよ?」

 

 

 俺としては問題無いけどな!

 

 

「や、ヤンデレじゃないさ!! ただこれは……の、ノワールが母様に惚れたら、困るからだよ! うんそう! こ、この私がさおりんみたいに病む性格をしてるわけが無いだろう? にしし! ほ、ほら! ノワールが飲んでるのはただの水でしょ! だったらもっと飲む飲む!」

 

 

 この野郎……お茶とかなら兎も角、水で宴会の気分を味わえとか無理があるだろ。てかマジで酒臭い……右を見ても鬼が酒を飲んでるし左を見ても鬼が酒を飲んでる。むしろ酒以外飲んでいる奴なんて俺ぐらいだ。本当は俺だって酒を飲みたかったけど年齢的な意味でダメらしく水を与えられたけどさ、邪龍だぜ? 飲んでも良いんじゃないだろうかと思わなくもない! まぁ、即効で酔っ払って何をするか分かんないから飲まないけどさ。

 

 水を注ぎなおして一口、なんだかんだ言っても此処の水は美味い。東京の水がどれほど不味いかと分からせてくれるほど上質なものだ。こんな山奥だから湧き水かなんかがあるのかねぇ? てかそんな事よりも周りの鬼達がニヤニヤしてるのがムカつくのは俺だけか? あらあら奥さん、あの子達ったらイチャついてますよとか今日はお楽しみですねとか言いたそうな感じだ……殺してやろうか? 何が悲しくてこんな羞恥プレイを受けないとダメなんだよ! そもそも一番高笑いしている母親! お前の娘だろう!? 止めろよ! てか旦那さんどこに居るんだよ!? 貴方の娘さんが大観衆の前で大変な事になってますよ! あっ、でもこの言い方だと俺が悪い事になるな……やっぱり来ないでくださいお願いします!

 

 

「……なぁ」

 

「ん~なんだぁ~い?」

 

「……幸せそうだな」

 

「だねぇ」

 

 

 俺と四季音姉の視線の先には四季音妹とその母親が仲良く酒を飲んでいる。今回の一件は四季音妹――イバラを心配した母親、芹の気持ちを汲んだ頭領が起こした事に過ぎない。四季音妹は自分で考えるのが苦手な奴だ……そんな奴がいきなり悪魔になりましたと聞かされたら真っ先に騙されたとか思ってもおかしくは無い。四季音姉妹揃って里に帰ってきた時も茨木童子の名を継ぐ立場であり、酒呑童子に右腕として庇う事も話を聞く事も出来なかったらしい。当然だな……そんな事をすれば「鬼」としての立場が危うくなる。例外を許してしまえば色々と面倒毎に巻き込まれる恐れがある……まっ、鬼なら大抵の事は武力で解決出来そうだけどな。だから心配で心配で夜も眠れず、このままだと倒れかねないと判断した四季音姉の母親、寧音が一芝居を打つことにした――それが先の殺し合いだ。

 

 二人を眷属にした元凶である俺と二人を一緒にこの里まで呼び、配下の者達の前で俺の目的を話させて下種ならその場で殺して三大勢力と戦争という名目で捕虜として自分たちの手元に置く。もし違ったのであれば自分と戦って俺の力を他の鬼達に見せて納得させる……なんというか究極の二択って感じだ! 俺は楽しかったから文句は無いけどね!

 

 

「……上手く行ったもんだな」

 

 

 周りに聞こえないようにその結果がこれだ。寧音の思惑通りに周りの鬼達はすっかり「俺が相手だったなら負けても仕方がない」という感じの思考に至ったようで追放追放と言っていた奴らが一気に掌返しを行った。今では「よくあんな強い奴を連れてきてくれたな!」と二人を「鬼」の仲間として認識してるらしい……なんというチョロインっぷりなんだろうか! グラム並みにちょろいぞ!

 

 

「芹様はイバラを大切に思ってるからねぇ。だからこそ母様は動いた……周りに悟られないようにね。イバラは芹様にとってたった一人の娘、ノワールに騙されて悪魔にされたと思って今日まで大変だっただろうね」

 

「他人事のように言ってるがお前も元凶みたいなもんだろ?」

 

「うっ、それは……分かってるよ。ごめんね……庇ってもらっちゃってさ」

 

「別に気にしてねぇよ。でも悪いと思ってるんなら……あーなんだ、アイツ、大事にしてやれ」

 

「……にしし、それは言われなくても分かってるさ。イバラは私の妹だ、見捨てるわけがないさ」

 

 

 まるで当然だと言いたそうな表情で四季音姉は笑った。血が繋がってないのにあいつらは本当の姉妹の様に仲が良いから俺が言わなくても問題無いだろう……さてと、そろそろ()()に乗るかね。ついでに周りが酒臭くて新鮮な空気を吸いたいし。

 

 

「――で? 何の用だ?」

 

 

 四季音姉に酒の匂いで酔いそうだと言って宴会場から出てしばらく歩いた後、隠れている奴に向かって話しかける。あの場所から外に出た時から探偵の様に後をつけてきたしな……俺としてはこんな面倒な事はしたくなかったから普通に話しかけてくれても良かったんだけどね。でもあの人からすればあんなに人……いや鬼が居る場では話し難い事なんだろう。なんとなくそんな感じがするし。

 

 俺の言葉に答えるように物陰から姿を現したのは四季音妹の母親だ。時刻は既に夜、月明かりに照らされる金髪は見惚れそうになるほど綺麗なものだった……胸もデカいし四季音妹に似てるから将来的にはアイツもこんな感じになるんだろう。四季音姉……哀れに思えて泣きそうになってくるぞ? 妹に発育で負けるって姉としてどうなんだよ?

 

 

「お気づきでしたか」

 

「そりゃね。あんなに熱い視線を向けられたら気づかない男はいないですよ。男ってのは美人の視線には敏感なんでね」

 

「うふふ、これでも寧音と同じぐらい生きているんですが……男性に美人と言われると嬉しいですね。少し、お話をしても良いかしら?」

 

「良いですよ。そのためにこんな人外れた場所まで来たんですからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 二人揃ってデカい木の下に寄りかかるように座る。上を見上げると雲一つなく、周囲を照らす月が良く見える……確かに鬼達が宴会をしたがる理由も分かるかもしれない。此処まで綺麗に見えれば酒を飲みたくなってもおかしくないな……俺だって一杯やりたいぐらいだし。隣に座った四季音妹の母親――芹は何処から出したか分からないが徳利を取り出して盃に液体を注いで差し出してくる……それって酒じゃないですよね? とりあえず受け取って一度盃を見た後、芹を見るとただの水ですよと笑顔で言われた。可愛い。

 

 

「此処は月が良く見えますから一杯するのに最適です。飲みながらお話ししましょう」

 

「俺は水ですけどね。で? 話の内容は一応察してますけどなんで俺と話したかったんですか?」

 

「……謝罪をしたかったんです。私の我儘でこのような事に巻き込んでしまった貴方様に……ですから改めて言わせていただきます。本当にごめんなさい」

 

「……謝罪なら四季音姉……伊吹の母親の部屋で聞きましたからもう良いですよ。それにアンタの我儘のおかげであんな怪物と殺しあえたんだ。逆に俺が感謝したいな! まだ強くなれる……もっと上に向かえるって分かっただけで満足してるんだ。だから頭を上げてもらっても良いか? 全然気にしてないし母親ならとーぜんの事なんだしよ」

 

 

 母親ってのはどんな時だって自分の子供が大切……らしいからな。まぁ、俺の母さんが前に言ってたことだから違うかもしれねぇけども。というよりも俺みたいな好き勝手に生きてる邪龍の眷属になったらどう考えても心配するに決まってるから謝られる理由なんて全然無い。むしろ今の言葉通り、逆に感謝してるしな! 一応、鬼の頭領に勝利した……でも本気だったかと聞かれたら微妙だろう。俺も漆黒の鎧を使ってないし相手だって鈍った体だったんだ、もし仮に鍛錬を怠らずに俺と戦ってたら普通に漆黒の鎧を使ってたな! マジで化け物だわ……四季音姉が将来的にあんな感じになると思うと今からワクワクしてる!

 

 

「……くすっ」

 

「ん? 今の笑うところじゃねーぞ?」

 

「ごめんなさい。イバラの言った通りだったから……あの子と話して色々と教えてくれたわ。本気で戦っても勝てないぐらい強いとか伊吹と一緒に居させてくれてたとか……ノワール・キマリスさま、あの子……イバラの事をどう思いますか?」

 

 

 これはどう答えれば良いんだ? 異性としてか四季音妹という存在としてか……どっちでも良いか。

 

 

「どうって……将来はかなり強くなるだろーなーって思えるぐらい面白い奴? もし異性としてって言うなら童貞捨てたら抱きに行きたいぐらい美少女だな。もしアイツの生き方……というか性格的な意味だったんならどーでもいい。考えるのが苦手でもちゃんと生きてるしアイツの意思で四季音姉の傍に居るんだ、それに文句を言う権利は俺には無いしね。だから……まぁ、あれだな、アイツが毎日楽しく生きてるなら俺はそれで良い」

 

 

 四季音妹を眷属にしてから今日まで一緒に過ごしてたが俺から見ても楽しく生きてると思う。四季音姉と一緒に酒を飲んで、漫画を読んで、テレビを見て、風呂に入って、飯を食べて、特訓して……嫌な顔じゃなくて本気で楽しそうな顔をして過ごしている。そもそも考えるのが苦手ってだけで馬鹿にするわけがないんだよね! だって俺の周りを見てみろって話だ……規格外系美少女(夜空)不幸体質保険医(水無瀬)淫乱アイドル()チョロ甘覚妖怪(平家)パシリ(犬月)チョロイン魔剣(グラム)少女趣味な酒呑童子(四季音姉)という素晴らしい面々が居るんだぞ? その程度なんざ全然問題ねぇんだよ! 今考えてもなんだよこれ……エロゲ出せるぞ? 配役としては年上枠が水無瀬、同学年枠が橘、後輩枠が平家、親友枠が犬月、転校生枠がグラムでロリ枠が四季音姉だな! 夜空? あぁ、開始時から傍にいるのに全キャラ攻略しないとルートが発生しない隠しヒロイン枠だな! そしてトゥルーエンド決定だろうどう考えても!

 

 そんなどうでも良い事を考えていると隣に座る人妻は再び笑い出した。うーん、鬼の考える事は良く分からん。今の返答で笑う要素があったかねぇ?

 

 

「……本当にイバラの言った通りね。あの子も自分の事を気にしないでいるって言ってたから……母親としては嬉しいわ。他の鬼達は茨木童子として生まれたあの子が一人じゃ何もできないと分かって遠巻きに蔑んでたから……今回の一件での様子、寧音との戦い、先ほどの言葉でノワール・キマリスさま、貴方を信じたいと思います。今後もあの子をよろしくお願いします」

 

「まぁ、はい。てか別に会えなくわけじゃないんだしさ、会いたくなったら会いに来れば良いだろ? 今回だって俺はアンタ達の頭領の腕を切り落としたんだ。それらしい理由で俺達の前にやってきても誰も文句は言わないさ。それに……俺はアンタとも戦ってみたいしね」

 

「あらそうなの? でも私は寧音のように強くは無いからがっかりさせちゃうかもね。でも……そうね、機会があれば私とも戦ってほしいわ。寧音があんなに楽しそうに戦ってるのを見たら私も体が熱くなっちゃったもの」

 

 

 なんで人妻ってのはこんなにエロい感じに言うんだろうね! てか実際問題……この人は強いな。あの頭領にまともなダメージを与えたのもあのデカい金棒を最後に使ったのもこの人……弱いわけがない!

 

 

「だったら今ここで殺ります? 俺は別に良いですよ?」

 

「ダメよ。今は宴会中……それに此処で私まで戦ったら寧音に怒られるわ。自分だって楽しんでたくせに我慢も出来ないのかいってね。今日までずっと鬼達の頭領として生きてきたから正面からぶつかってくる男は久しぶりだったと思うから本当に楽しかったと思うわ。狙われたわね、油断してると襲われちゃうから気を付けてね」

 

「いやいや……旦那が居るのにそんなことするわけないだろ? てか酔ってます?」

 

「鬼は酔わないのよ。それにね、寧音の旦那はもういないわ」

 

 

 おっとここで衝撃な真実が登場したぞ……あの、それって俺が聞いて良い話か? 四季音姉も何も言ってなかった……いやあの態度はそういう事かよ。旦那が居ないから若い俺に迫っても特に問題無いと思い、焦ってたってわけね……先に言えよ!? うわー帰りてー! 肉食系元人妻と同じ家に泊まるとかちょっと遠慮したい……! 夜空! 頼むから俺の童貞をさっさと奪え! それなら特に問題無いから!!

 

 内心で地味に焦りつつ話を聞くと三大勢力が戦争を行って時に乱入してきた二天龍の強さを目の当たりにして狂ったように戦う事を主張していた四季音姉の旦那と崩壊寸前まで追い込まれた三大勢力を見て種の存続に関わると判断した四季音姉の母親が対立、どちらが「鬼」としての判断か決めるために殺し合いをして――四季音姉の母親が旦那を殺したそうだ。なんというか……鬼の世界ってすげぇな。

 

 

「元々寧音の旦那は鬼こそ世界を支配するのが相応しいと主張していたから二天龍と戦うというよりも疲弊した三大勢力を潰す事だけを考えてたんだと思うわ。それに気づいていたからこそ寧音は「鬼」の在り方を変えないために自分の旦那をその手で殺した……周りの鬼達も彼より寧音の言い分に賛成してたから旦那を殺したとしても頭領になれた。あの時ほど寧音が泣いた事は無いわ。今は……もうふっきれたみたいだけどね」

 

「……まぁ、分からないなら殺してでも止めないと勢力がヤバくなりますからね。仮に参戦していたら今頃三大勢力と小競り合い、無関係な連中が死んでいったでしょうし。他人事なんでこれぐらいしか言えませんけどね……ちなみにアンタの方はどうなんだよ? まさか同じように居ないって言わないよな?」

 

「その通りよ。イバラを産んで、それにがっかりして出ていったわ……なんで距離を取るの? 食べたりしないから安心して」

 

「一応信じるが寝込みを襲ってきたら問答無用で殺すからな……まだ童貞なんだよ。惚れてる女とエッチしてからならいつでもウェルカムだが今はマジで勘弁してください」

 

「寧音なら関係ないと言って襲いに行きそうね」

 

「やめてくれ……これほど明日が早く来いって思った事は無いんだから。まぁ、とりあえず話を戻すがアンタの娘は任せろ……とは言わないが好き勝手にさせるさ。なんせ俺は最低最悪で、自分勝手で、自己中で、自己満足の塊で、他人の事なんか微塵も考えていない邪龍ですから。ゼハハハハ! たかがあの程度、受け入れずに何が影龍王だって話だから心配するなとは言わない、ただアイツを信じてろ。俺は信じるなよ? 普通に何事も無く殺すような男だしな」

 

 

 盃に注がれた水を一気に飲んで月を見る。うん、綺麗だな。本当に……今度は夜空と一緒にこんな風に飲みたいもんだ。

 

 

 

 

 

 

「――よし」

 

 

 とある部屋の前で私は覚悟を決めた。イバラと一緒に風呂に入った際には念入りに何度も体を洗ったし歯も磨いたから大丈夫……きっと大丈夫だろう。何も分かってなさそうなイバラからは不思議に思われたけど私としては一世一代に近い覚悟と準備だと思う……そもそも母様のせいなんだよ! 部屋が無いからお前たちは一緒の部屋ねって馬鹿じゃないのかな? 普通に有り余ってるじゃないか! まさか実の母からヤれというお達しに近い事を言われるとは思わなかったよ。

 

 近くにイバラはいない。今日は芹様と親子仲良く一緒に寝るようだから当然と言えば当然だ。私としても母様と一緒の部屋の方が物凄くありがたかったけどね。でも……ノワールの所に夜這いしに行くかもしれないからこれはこれで有り……だと思う。私的にはかなり恥ずかしいけども。いくらノワール相手にか、体を押し付けたりろりぼでぇとか言ったりしてもまだ、まだ処女なんだから恥ずかしいに決まってる! 大丈夫……ノワールの事だ、特に何事も無く爆睡するだろうから少しだけ気が楽だね。ムカつくけど。

 

 

「そもそも母様が変な事を言うからこんなに緊張してるんだよ……! そもそもなんでこんなものも渡してくるのさ……!」

 

 

 手に握られているのは先ほど母様から渡されたお香。特になんてことはないデザインだがその匂いを嗅げば一気に発情するというトンデモない代物だ。その効力は効果絶大、里の中にあるその手の店で頻繁に使われている由緒正しき鬼が作ったお香……たとえドラゴンであってもや、ヤりたくなるみたい。渡されたは良いけど絶対に使うもんか! そ、そういうのはもっとこう、ムードというか雰囲気というか……ノワールが自分の意思で襲ってきてくれないとダメだろう……? でもさおりんなら問答無用で使うね! あの子は肉食系覚妖怪だからさ! でも……ノワールの初めての相手が私なら、ちょっと……ううん、かなり嬉しいからい、一回だけ使ってみても……何を思ってるんだい私は!!

 

 変な思考に走りそうな自分の頭を覚ますために一度、息を整える。覚悟完了だよ! いざ! 部屋の中へ!

 

 

「の、ノワール、ま、待たせたね」

 

 

 よし普通に言えた……! なんだってこの私がこんなセリフを言うだけで緊張しないといけないのさ!

 

 

「ん? 別に待っちゃいねぇけどな。てか此処、マジで景色良いな? 次来る時は夜空でも誘ってみるか」

 

 

 この男……全然視線をこっちに向けてこないんだけどなんで? ふ、普段と違って浴衣を着てるというのにその感想すら言わないとはね……! コイツと過ごしてて嫌というほど理解してるけどそれはそれ、これはこれだ。偶には光龍妃に向ける感情を私に向けてくれても良いだろう……! こっちは部屋の中に入るだけで緊張で吐きそうになったって言うのにさ……!!

 

 部屋の中を見渡してみると外の光景を一望出来る窓と柵、一つしかない布団、テーブル、そして私と同じ様に浴衣姿のノワール。普段あまり見ない格好だから同にも目が離せなくなるね。テーブルに肘をついて空を見ている姿は……うん、カッコいい。特に首筋が……あそこをさおりんが何度も舐めてるとか羨ましいね。あと母様……なんで布団が一つしかないんですか? ヤれと言う事ですか? 親って普通は娘の初体験とか一番気にしてくれんじゃないのかな……? というよりも本当にこっちを見ないからそろそろ私の本気を見せようじゃないか……! 少女趣味少女趣味と小ばかにしてきた態度も今日で終わりだよ……! にしし!

 

 

「今日は月が綺麗だからね、夜の空を一望できるこの部屋は私も好きなんだよ。そ、そうだノワール……母様からい、良い匂いがするって言われてお、おおお香を貰ったんだよ! た、試しに使ってみても良いかい?」

 

「媚薬とかじゃねぇなら使って良いぞ」

 

 

 ノワールの一言で私はお香を手に固まってしまった。な、ななな!? なんで……なんで分かったんだい!? 普通ならどんな匂いなんだとか言うはずなのにピンポイントで媚薬と言ったよこの男! チラリとノワールの顔を見る。ニヤついている。自分の顔がドンドン赤くなるのが余裕で分かるね……は、恥ずかしい……! これから一晩一緒に居る女が、そんなものを持ってるとかさ! お、襲ってくださいって宣言しているようなものじゃないか!! いやぁ……かえるぅ……! おへやにかえるぅ!! いばらぁ!!

 

 

「な、ち、が、な、な!?」

 

「やっぱりそれだったか。お前の母さんが一緒の部屋だって言った時からなんとなくヤれって言ってるよなとは思ってたがマジかぁ……てかなんで使おうとしてんだよ? 襲ってほしいのか?」

 

「ち、がっ! こ、れぇ! 違うかんね!!! な、なんで襲ってほしいとか言わないといけないのさ!! べ、別に……そんなんじゃ、ないからね! む、むむむしろ襲ってきたらつ、潰すから覚悟しなよ!!」

 

「おーこわいこわいーそうですよねー少女趣味な鬼さんはそんな事してほしいわけないよねー」

 

 

 清々しいほどの棒読みが本当にムカつく……! 昔からそうなんだよこの男は! 私の気持ちも、めぐみんの気持ちも、さおりんの気持ちも、しほりんの気持ちも分かった上でスルーしてるんだ……光龍妃が好きだから気づかないようにしてる。なんでさ……私じゃないんだろうね。最初に会ったのが私だったなら今頃は恋人同士になれたかもしれないのに……違うね、無理だ。昔から考えて悩んでこうだったらいいと何度も思っても光龍妃とノワールは惹かれ合うって結論に至る。男と女、光と影、対となる存在だからこそ惹かれ合ってしまう……これが男同士なら今の二天龍のような関係になるだろうけど二人は男と女……結婚して子供を産んで幸せな家庭を築くだろう。どう考えても二人揃って色んな所に喧嘩を売りに行くのが予想出来るけどね。

 

 だから私は「嘘」をつく。本当は好きなのに違うって、ただの冗談だって、へらへらと笑って誤魔化す。辛いね……叶わない恋ってさ。

 

 そして時間は過ぎていき、私もノワールも布団に入る。悪魔だから夜はむしろ活動時間なんだけどなんというか起きている理由が無い。というよりも色々と恥ずかしいから早く眠って朝になってほしいというのが本音だ。一緒の布団で惚れている男と寝ているとかドキドキするに決まっている! 何度も漫画で見たシーンをこうして自分が行うとは思わなかったよ! 結構前にもした気がするけどあれはノワールが疲れて早々に寝てたから特に恥ずかしいとは思わなかったから別! むしろ……匂いとかを嗅げたし役得だった。

 

 

「……なぁ」

 

 

 ビクッと体が震えた。まさか話しかけられるとは思わなかったからだ。な、何を言われるのか全然思い当たらない……! あくまで普通に……普通に対応しよう!

 

 

「なんだい?」

 

「……お前の母親、強いな」

 

「……当然だろう。母様は鬼の頭領だ、弱かったらあそこまで慕われたりはしないよ」

 

「だよな……なぁ、四季音。あの戦いはお前から見て……俺の勝ちか?」

 

 

 声のトーン的にかなり気にしてるね。本当にノワールらしい……鬼は「嘘」は嫌い。だから正直に言おうじゃないか。

 

 

「――負けだね。ノワールの負けだよ」

 

「……」

 

「でもね、母様の負けでもある。ノワールは本気を出されずに母様に勝って、母様は十数年しか生きてない男に片腕を切り落とされた。だからどっちも勝って、どっちも負けたのさ。ノワール……もっと強くなりな。私の王様だろう? 弱いままなら私が光龍妃を倒しちゃうよ?」

 

「……お前、励ますの滅茶苦茶下手だな」

 

「んなっ!? い、いきなり何言うのさ! 下手って何!? 私は正直に言った――」

 

 

 ガバッと隣で横になっていたノワールが覆い被さってきた。私の顔の横にはノワールの手があるから逃げる事が出来ず、両足の間にノワールの足があるからさらに逃げられない。真っすぐ天井を見ようとすればノワールの顔があって……え? え? 夢……? 夢……なのかな? なんで私、押し倒されてるの?

 

 

「な、ななな、なに、なにを……!」

 

 

 ダメだ、思考が追い付かない。いつの間にか私は眠りについて願望を夢として見てたりしてるの!? でも胸がドキドキしてるし夢じゃない気がする……と思っていたら目の前にあるノワールの顔がドンドン近づいてくる。まさか……き、キスされ、る? 嘘だろう……? あのノワールが私にキスしようと顔を近づけてくる? と、とりあえず今の私に出来るのは突き飛ばさないように受け入れる体勢を維持するだけ……めぐみんとさおりんと一緒に見たえ、えっちぃ本にはそんな感じに書いていた気がする……!

 

 

「――ぷ、あはははは」

 

「……へ?」

 

「ホントお前、普段とは全然違うな? マジで焦って目をつぶるとか乙女すぎるだろ」

 

 

 よし殺そう。こんな冗談をされたら殺しても許されるはずだ。

 

 

「ノワール、覚悟はできてるよね?」

 

「待て待て……最後までさせろっての。まぁ、嫌なら殴っても良いけどさ」

 

 

 そのままノワールは私の顔――ではなく首筋に顔を近づけてキスをしてきた。ひ、ぅ、舐められてる……!? 吸われて、る……!? 痕をつけたいからか何度も私の首筋にキスをしてくる……待って待って待って!? 何が起きてるのさ!? なんでノワールが私に……き、キスマークをつけようとしてるの!? そもそもなんでこんなに気持ちいいのさ……! さおりん、毎回こんなのを経験してるとか凄いと思う!

 

 痕をつけ終わったのかノワールはそのまま私の隣で横になる。この男……! あんなことをしておいてその先には進まないとかどんな理性をしてるんだい……! ネットとか本では男の理性は本能に勝てないとか書いてるのにこの男は……!! 文句を言いたいけどキスマークを付けられるのは嬉しい。だからノワールの浴衣を掴んで睨むしか出来ない。絶対に今の私って顔赤いよね? むしろ赤くなかったらおかしい。

 

 

「……いきなり、なにするのさ」

 

「……まぁ、可愛いなって思ったからつい、な。自分でもまさかここまでチョロイとは思わなかったわ……ホント、お前が眷属で良かったよ。お前の言う通りだ……勝ったけど負けた。まだ全然弱い……楽しかったのは事実だ、あんな茶番に巻き込まれてイライラしてたけど全部吹き飛ばすぐらいに楽しかった。でも漆黒の鎧に目覚めても俺はまだ弱い……夜空に近づいたと思っても全然届いてない。鈍った体じゃなくてホントの本気で戦いたかった……ムカつく。あの程度で満足したとか思っちまう俺の頭のバカさ加減に飽き飽きする。次は絶対に本気出させた上で勝つ……四季音、どうせ平家にはバレるが弱音を吐いた事、黙っておけよ? さっきのは口止め料ってことで受け取っておけ」

 

「キスマークが口止め料って聞いた事ないよ。でも……受け取っちゃう私もチョロイ鬼さんだね。ノワール、母様は強いよ。これからもっと強くなる……だけど勝ちな。勝って、強くなって、楽しかったって高笑いしな。私に勝った男ならそれぐらいはしてもらわないと困るよ」

 

 

 そのままノワールに抱き着いて鎖骨の辺りにキスをする。舌で舐めて、匂いを嗅いで、痕が残るように吸って……恐らく一番至福の時間じゃないかと思えるぐらい念入りに行う。ごめんね光龍妃……普段からノワールと良い雰囲気になってるんだからこれぐらいは許してもらうよ。というよりも私は鬼だからね、欲しくなったらこうして奪いに行く女だから油断してると私が奪っちゃうよ。

 

 

「……帰ったらさおりんにどんな顔されるかねぇ」

 

 

 でも偶には私だって強気になることも有るって分からせるチャンスかもね。ただ、今は……このチャンスを楽しむとしようか! 恥ずかしいけどね……!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

74話

 その日の朝は鬼の叫び声と突き飛ばされる痛みから始まった。

 

 

「……朝っぱらからうるせぇな、いきなり何叫びだしてんだよ……?」

 

「う、うううううるさい! の、ののノワールこそ私にな、なにっうぉ! してるのさぁ!?」

 

「何って……抱き枕代わり? 体格的にもかなりちょうど良かったしな。で? それが何か問題あるか?」

 

 

 折角良い夢を見てた……ような気がするのに寝てる奴をいきなり突き飛ばすなっての。見た感じ、どうやら目が覚めると自分が抱き枕のようにされているのを知ってビックリしたらしいな。その程度で取り乱すとか本当に乙女だなコイツ……平家だったら逆にすりすりとマーキングしてくるってのによ。ちなみに抱き心地良し! ぬくもり良し! ちょうど良い温度で俺的には毎日抱きしめて寝たいぐらいのものだったから今後もお願いしたいね! 平家相手でも良いんだがどうもなぁ……やっぱり抱き枕代わりにするならロリだね!

 

 

「あああるに決まってるでしょ!? き、昨日の夜は……その、色々と変だったからでし、仕方なかったというか役得というか……で、でもだ、きぃ枕代わりにして良いとは誰も言ってないんだよ!! て、ていうか……ううぅぅあああぁあっ! 恥ずかしい……!! 昨日の私は何してるのさぁ……!」

 

 

 一緒の布団で寝ていた少女趣味で処女な鬼は掛け布団に包まり、昨日の夜に自分が行った行為を思い出しては女が出してはいけない声を上げている。てか恥ずかしがるなら最初から俺の真似をするなよ? 俺はお前が可愛いと思ったからやっただけなんだからさ! 周りに鏡が無いがきっとかなりのキスマークが首や鎖骨付近に残ってるだろうな……だってずっと舌で舐めたり吸ったり匂いを嗅いでたしね。橘もそうだがなんで男の匂いを嗅ぎたがるんだ? 自分の体臭はよく分からんが普通は嗅ぎたいとは思わないとはずなんだけどなぁ? まぁ、とりあえず目の前で結構面白い事が起きてるから俺が眠ったらどうなるんだろうという好奇心で神器の奥底に意識を落として相棒と一緒に眺めてたけど色々と凄かった! あの乙女な四季音姉が完全に発情しきった顔になって狸寝入り中の俺の指を使ってオナニーし始めたからな! 流石鬼……男が隣で寝ているのに度胸あるね!

 

 

「ノワールの首とか鎖骨とかに……き、キス、して……舌で舐めて……! なんで、なんであんなことをしたんだろう……!! ううぅぅっ! 恥ずかしい……!! なにしてるんだろぉ……!」

 

「そりゃ、俺の指使ってオナニーしてたら恥ずかしいわな」

 

 

 先ほどまで唸り続けていた布団(四季音姉)が嘘のように一気に静かになった。心なしかガクガクブルブルと震えているような気がしないでもないが大丈夫か? そしてひょっこりと俺の顔を覗くように四季音姉の顔が布団から出てきたがその表情は完全に引きつっている……あっ、黙ってた方が良かったパターンか?

 

 

「……おき、てた、の」

 

「起きてたというより神器の奥底に意識を落として相棒と一緒に見物してた。お前、寝てる俺を道具代わりに使うんじゃねぇっての……ん? どうした?」

 

「――ころせぇぇぇっ! ころしてぇぇっ!! やだぁぁぁっ!! のわーるのばかぁぁぁっ!」

 

 

 再び掛け布団に包まって叫び始めた。いやいや……殺せって言われてもお前に死なれたら俺が困るからなんとしてでも生きててほしいんだけど? というよりもその程度なら既に平家が先にやってるから恥ずかしがる事なんてないぞ! なんせエッチ以外の事ならアイツが真っ先に行ってるからな! 指舐めから始まってノワール君のノワール君を握って上下運動させたりとかな! お陰で何度お世話になった事か……覚妖怪だから俺の弱点は丸分かりでかなり上手い。マジで処女かと思いたくなるぐらいな! まっ、流石にそれ以上はさせてないけどあいつ(平家)は不服そうなのがマジで怖い! 流石ノワール君依存率ナンバーワンの覚妖怪だ、性的な意味での肉食なら鬼以上とか頭おかしい。

 

 

「なんでそんな事が出来るのさ!? なんで何事も無く起きてるのさ!? 死ぬ……死んでやるぅ……こんな辱めを受けるぐらいなら死んでやるぅ……! 処女のまま死んでやるぅ……!!」

 

 

 そんな事は知らない鬼さんは布団の妖精となって泣き喚いている。うーん、一度、俺と平家とコイツの三人で一緒に寝てみるか? そうしたら普段アイツがどんな事をしてるか見せてもいいかもしれない……ダメだ……あまりの過激さに気絶する未来しか見えない。どこまで繊細なんだお前は! 普段の行動を思い返してみろ!

 

 

「お前に死なれたら俺が困るからそのまま生きててくれ。てかその程度なら平家が何度もしてるぞ? それも口では言えない事とかな。だから恥ずかしがる必要なんてないしお前にしてはかなり攻めてきたなって相棒と一緒に喜んでたんだからさ! がんばれがんばれ、百年ぐらい経てばお前の思いに応えるかもしれねぇからさ。少なくともそれまでは生きてろって」

 

「……このおんなたらしぃ」

 

「人聞きの悪い事を言うなっての……少なくとも昨日の夜にキスマークだけつけて手を出さなかった俺の理性を誉めろ。ヤるだけしか考えてない奴らよりはよっぽど良い男だぞ? 俺様、邪龍の中でも紳士と呼ばれるほど素晴らしい男だと思うから誉めてくれ」

 

「変態紳士の間違いじゃないのかい……! そ、それよりもき、き、着替えるから早く出ていけぇ!! 顔とか洗いたいなら洗面所は出てすぐの所にあるから!!」

 

 

 顔真っ赤の四季音姉に部屋から追い出されたので仕方なく洗面所へと向かう事にした。というよりも出てすぐの場所ってどこだよ……キマリス領にある実家まではいかないがこの屋敷も結構デカいからどこに何があるのかさっぱり分からねぇんだけど? 良いや、家政婦さんに聞けば分かるだろ。

 

 そこから少しだけ迷った末に見つけた家政婦さんに案内してもらい、無事に洗面所に到着した。良い鬼さんで良かったぁ! そこで顔を洗って歯を磨き、うわぁ、マジで大量にキスマーク残ってると絶句しつつ再び部屋へと戻ると現代風の服装に着替えた四季音姉が部屋の片隅で体育座りしながら唸っていた。俺と視線が合うと一気に顔が真っ赤になり、そのまま下を向いて顔を隠し始める……可愛い。普段から可愛い所もあるなとは思ってが今日は一段と可愛いな!

 

 

「なんだいなんだい? あたしの娘のくせに男に抱かれてもいないってか。情けないねぇ、アンタも鬼なら食べに行く度胸ぐらい見せな」

 

「うるさい! 元は……! 元はと言えば母様がノワールと一緒の部屋なんかにするからぁ!! 恥ずかしかったんだからね!!」

 

 

 時間は進んで俺は四季音姉妹と母親コンビと一緒に朝飯を食べている。目の前では鬼の頭領(寧音)次期頭領(四季音姉)が口喧嘩もどきを繰り広げている。「たかがキスマークで満足してるんじゃないよ」とか「これでも処女なんだから緊張して悪いかー!」とか時間帯に相応しくない内容だけど俺的には面白いからドンドン喧嘩してほしい!

 

 ちなみに席順は四季音姉、俺、四季音妹、向かい合う様に寧音、芹だ。出された食事も和食で魚は絶妙な焼き加減、白米は美味い、味噌汁も最高、大根おろしうめぇとかたくあん美味いとかもう……最高な朝食と言えるだろう。でも何か足りねぇんだよなぁ……? 水無瀬が作る飯で慣れてるからかねぇ。ちなみに隣ではもぐもぐと静かにご飯を食べている四季音妹がいるが……可愛い。ただひたすらご飯を食べてるだけなのになんか可愛い。これが癒し系……なのか?

 

 

「ほれみな、襲う度胸が無いからアンタを見ずに芹の娘に目を向けてるよ。ただでさえ色々と小さいんだからもうちょっと強気で行きな。あたしが旦那を落とした時なんてアンタに渡した香を使って強引に既成事実を作ったもんさ。なんで使わないかねぇ? その年で処女は恥ずかしいからさっさと捨てな」

 

「んなっ!? ま、まだ若いんだから処女でも良いじゃないか!! わ、私は母様みたいにび、ビッチじゃないし! にしし! 私は私なりに色々と……考えて、うん考えてるんだ! そ、それに……道具を使って、その、襲われるよりも雰囲気で来られた方が私は……嬉しいし! あと処女を簡単に捨てるより大事にしてた方が……お、男は嬉しい、と思うしさ!!」

 

「重いだけさね。それにね、あたしのどこがビッチだってぇ? こう見えても経験人数が一人の純情乙女さ。でもそうだねぇ? 近くに若くて良い男がいるからそろそろ増やしても良いかもしれないね」

 

「ノワールを誘惑するなぁ!! 年を考えろぉ!!」

 

 

 かっかっかと笑いながら俺を見る目が肉食動物のそれだったのは気のせいだろうか? マジでこの人妻何なんだよ……! これ、気を抜いたらマジで食われるんじゃないだろうか。

 

 

「伊吹、楽しそう。寧音様、もっと楽しそう。二人が仲が良い。凄く嬉しい。主様凄い。伊吹の姿、今までで見た事ない。楽しそうで嬉しそう」

 

「まぁ、確かに楽しそうだな。此処に来る前まではガチガチで緊張してたのに今では騒ぎっぱなしで喧しい。お前は相変わらず変わらなくて安心するよ」

 

「安心する。分からない。私は私。いつも通りでいるだけ。主様がいつも言っている。やりたいようにやる。だから私は変わらない。これが私だから」

 

「そうかい。だったらそのまま貫き通せ。誰も文句は言わねぇし、何か言ってくる奴らが居たなら逆に馬鹿にしてやれ。なんでお前は出来ないんだってな。好き勝手に生きて、好き勝手に何かやるなんざ鬼のお前が一番分かってるはずだ……俺は何も言わねぇから好きに生きろ。てかご飯粒ついてるぞ?」

 

「ご飯美味しい。でも先生が作るご飯も美味しい。ご飯は大事」

 

「もうっ、朝ごはんは逃げないから落ち着いて食べなさい。貴方様もおかわりはいかがですか?」

 

「んじゃ貰います。昨日は激しかったんで腹減りまくりだしね」

 

 

 何故か距離が近い四季音妹の母親の色気にドキドキしつつ朝飯を食べる。うーん、鬼ってマジで肉食だなおい……なんか隣で「イバラ、若いお父さんはどう思う」とか聞いてるのはスルーしておこう。此処で反応したらちょっと拙い気がする! 具体的に言うとヤンデレモードの四季音姉が普通に怖い。あれぇ……? 少女趣味な鬼さんはどこに行ったんだろうなー!

 

 

「小僧」

 

「あん?」

 

「先に伝えておくよ。あたしら「鬼」は蝙蝠達と同盟を組むことにした。これからは友好的な関係が築かれるってわけだね、なにせ今代は面白い奴が多いみたいじゃないか。乳龍帝ってのと獅子王ってのはアンタと同じくらい強いんだろう? だったらなおさら組まない手は無いさね」

 

「……随分簡単に決めるんだな? 今までは同盟なんて組まなかったってのによ」

 

「そりゃそうさ。奴らはあたしらと勝負をしてない。ただ同盟を組めとの一点張りさ、そんなのを受け入れるわけが無いだろう? 嘘が得意の蝙蝠に騙すのが得意の偽善者と烏。下手をするとあたしら鬼が良いように使われる恐れがあった……がアンタとの勝負であたしは負けたんだ。今までの考えを変える一手としては十分すぎる。かっかっか! これからはあたしらみたいな年寄りよりも若いのが作る時代さね。そのためなら同盟の一つや二つ、土台作りにしてやろうじゃないか」

 

 

 なんというか……大物過ぎるだろ。権力に執着したり魔王のくせに自分の妹を贔屓しているどこかの勢力にも見習ってほしいね!

 

 

「母様……本音は何なんだい?」

 

「強いのが居るなら戦ってみたいだけさ」

 

 

 台無しだよ!! その気持ちは分かるけども!!

 

 それから和気藹々と楽しい食事を楽しんだ俺達は里の外へ出る門の前まで移動する。この後、寧音と芹の二人は配下の鬼数名を連れて冥界へと向かうらしい。そもそもたった一晩でどうやって会談の話を進めたのか非常に興味があるんだが……? 鬼らしくアポなしの訪問とかかねぇ?

 

 

「迷惑かけたね、影龍の。あたしのバカ娘をよろしく頼むよ。そして今度来る時はガキの一人でも連れてきな。大宴会を開いてもてなしてやるさね」

 

「母様!? い、いいいったい何を言ってるのさ!」

 

「なに言ってんだいバカ娘。アンタは次期頭領だろう? 男と自分のガキを連れて来いって言ってるんだよ。ちょうどそこに良い男もいるしねぇ、必ず落としな。というよりも一発ヤれ。あたしの娘ならそれぐらいは簡単にしてもらわないと困るんだよ」

 

 

 その本人の目の前で必ず落とせとかヤれとか大胆すぎませんか?

 

 

「イバラ、貴方も頑張ってね。困った時はお母さんに相談しに来ても良いから……一人じゃ無理ならその時は親子で頑張りましょう」

 

 

 ゴメンナサイ、何を頑張るんですかねぇ?

 

 

「母様。楽しそう。寧音様も楽しそう。分かった。頑張る。何を頑張るか分からない。でも頑張る」

 

「頑張らなくていいよ! ほら帰るよノワール! イバラ!!」

 

「引っ張るなっての……えっと、世話になった。今度来るときはキマリス領の名産品でも持ってくる。そして頭領! 次はもっと楽しく殺し合おうぜ!!」

 

 

 そんなこんなで四季音姉に引っ張られて鬼の里から自宅へと帰る。帰り道も四季音姉が「全く母様も芹様も……年を考えた方が良いよ!」とか激おこ状態で地味に面白かったが対照的に四季音妹は「何を頑張るんだろう。分からない」と必死に考えている姿が地味に癒された。この子……デキル!

 

 そして転移で自宅へと戻ると平家達が出迎えてきた。うん、なんかこれだな! なんだかんだで此処が一番落ち着くわ。肉食系の獣しかいない檻の中から抜け出せたぐらいの安心感だ!

 

 

「お帰りっす王様! 水無せんせーから鬼と殺し合ったって聞いて冷や冷やしてましたけど……なんか無事そうっすね?」

 

「いや無事じゃねぇぞ? なんか……人妻にロックオンされた」

 

「……どういう事っすか?」

 

「さぁな。エロエロで肉食系な人妻に気に入られてヤバかった。でも鬼との殺し合いは楽しかったぜ? あそこまで強いとは思わなかったわ! 流石鬼の頭領、暴力ってのはあんなのを言うんだって実感したよ。水無瀬、お茶くれ」

 

「分かりました。ノワール君、今度からはもっと落ち着いて話し合いをしてください。即殺し合いは色々とダメです。ノワール君らしいとはいえ一度は話し合いをしてください……あと、狙われたという話と首筋の痕の件も詳しくお願いします」

 

 

 なんだろう……水無瀬の笑顔が怖い。あれぇ? 此処って俺の家だよな? 別空間に作られた偽物とかじゃないよな! 別に気になってはいませんが保護者代わりとして知っておかないといけませんからとかもっともらしい理由付けてかなり気になってるじゃねぇか!! まさかの水無瀬ヤンデレモードか? ありだね! てかそれ以外もなんか怖い……特に橘様! その笑顔、素敵ですね! 目に光が宿ってませんけども新しい笑顔か何かですか? 流石アイドル! ヤンデレ風の笑顔とか流行を先取りしすぎですよ!! 見ろよ犬月の表情を!? ガクガクブルブルと自分の顔を手で隠してるんだぞ! 本当に怖いんで落ち着いてください何でもしますから!

 

 

「花恋」

 

「んぅ~ん? なぁんだぁ~い?」

 

「ずるい」

 

「な、なにがぁ~? も、もしかしてぇ~いっしょぉにぃおとまりぃしたことかぁい?」

 

「……」

 

「……にししぃ~へんなさおりぃ~んだねぇ~!」

 

 

 あそこはあそこで女の戦いが繰り広げられてる気がするがスルーしておこう。どうせ私の時は言われたからつけたのに四季音姉には自分からするんだ……とか思ってんだろう。うわ、頷いたよあの子。それに関しては可愛すぎて我慢できませんでした! うわぁ、ノワール君ってばちょろすぎぃ~な感じで結構ヤバかったんだぞ? 夜空に惚れてなかったら普通に襲ってたね! 初体験してたね! それぐらいヤバかった! だからそんな顔しなくて良いぞ? お前には絶対に欲情しないしな!!

 

 とか思ってたらケツを蹴られる。この野郎……! 遠慮無しかよ!

 

 

「てぇなおい!! なにすんだよ!!」

 

「悪い虫がついてた」

 

「せめて俺の方を見てから言えっての……とりあえず四季音姉妹は一応、鬼勢力として認められたっぽい。ついでに三大勢力とも同盟を結ぶそうだ。いやぁ、頑張ったな! 俺様、滅茶苦茶頑張ったと思う!」

 

「……まさか鬼と戦って同盟を結ぶまで交友を深めてくるなんて……さ、流石キマリス様ですわ! で、ですけども……ひ、人妻にロックオンをされたという件のお話がまだでしてよ? ささっ! 今日はお暇でしょうからゆっくり……ゆっくりとお聞かせ願いたいですわね!」

 

「悪魔さん♪ 志保、一緒にお話ししたいです♪ その唇のような痕の事とか色々と……です」

 

「しほりんこわいしほりんこわいしほりんこわい――アッ! オレ! ベンキョーシナキャ! オウサマ! サヨウナラって離してっすぅ!? なんで逃がしてくれないんすかぁ!! 自分が蒔いた種でしょ!? 俺関係ないでしょ!?」

 

「お前……俺の兵士だろ? 一蓮托生、死ぬ時はまずお前からだ。安心しろ……アイドル橘志保がヤンデレモードで迫ってくるんだぞ? ファンなら興奮物だろ!!」

 

「……ありっすね。じゃなくてマジで離してー!! まだ彼女作ってないのに死にたくなーい!!」

 

 

 逃げようとしている犬月を影人形で捕まえつつ、水無瀬が出してくれたお茶を飲む。うん、美味い。鬼の里での水とか飯とかは美味かったけどやっぱり水無瀬が淹れたお茶とか飯の方が俺は好きだな。これって胃袋を掴まれてたりする……? まぁ、水無瀬なら良いや。むしろ夜空が居なかったら嫁にしたい。

 

 

「……」

 

「さおりぃ~ん? どうしたぁ?」

 

「何でもない。ノワール、久しぶりに料理をしたくなったからお昼ご飯を作ってあげるよ。何が食べたい? 私ならいつでもウェルカム」

 

「お前以外なら何でも良い」

 

「ならてきとーに作る。恵、今日は休んでていいよ」

 

「さ、早織……? あのですね! 料理は私の専門と言いますかノワール君に女子力アピール出来るチャンスなので出来ればご遠慮してほしいなーって思うんですよ……そ、それにですね! 普段料理しない子が包丁とかを持つと危ないですし、大人数のご飯を作るのも慣れてないと大変ですから! いつもの様に私が作りますから早織はゲームをしててください」

 

「ヤダ」

 

「……この子もノワール君に似てきましたね。いいえ、元からでした……うぅ! 私の唯一のアピールポイントが……!」

 

 

 流石俺依存率ナンバーワン。四季音姉が珍しく攻めた事と俺が水無瀬の飯が良いと思ったから対抗心を燃やしだしたってか? マジでちょろいなアイツ。でも偶には平家が作る飯も食ってみたいしこれはこれで有りだな! さてと……問題は橘とレイチェルか。グラムはどうせ俺か平家の部屋で引きこもってるだろうし無視で良いからここをどうにかしないと明日を迎えれないかもしれない! 犬月が! 俺は再生能力あるからたとえ刺されたり監禁されたり破魔の霊力叩き込まれても生きていけるから全然大丈夫! むしろドンと来い!

 

 そんな……いつも通りの楽しいやり取りを行う俺だったが――事件はその数時間後に突然起きた。

 

 

「――おいおい、なんでこんな風になってんだ?」

 

 

 俺の視線の先には漆黒のローブを身に纏い、趣味が悪い大鎌を持った奴らと神器所有者らしいやつらに囲まれているデュランダルと魔法使いちゃん、そしてレイヴェルの姿。あの礼儀正しいレイチェルがノックもしないで俺の部屋に飛び込んできた時は何事かと思ったが確かにこれは焦っても無理はねぇな……なんせ自分の姉が良く分からん連中に襲われてるんだしよ。俺が見た感じ、神器所有者は恐らく禍の団の構成員だろうな……そんで趣味が悪い鎌を持った奴らは冥府の死神ってところかねぇ? 何だってあんな奴らに襲われてんだ? てかそもそもなんで囲まれてるんだよ……こっちは面倒事が終わってようやく一息入れられるってのに邪魔しやがって!

 

 

「お姉様!!」

 

 

 俺の背中にしがみ付いているレイチェルが叫ぶとその場にいる全ての視線が俺へと集中する。心なしか三人を囲んでいる奴らの顔に焦りが見えている気がする……あれー? なんかさっきまで犯す気満々って感じだったじゃないですかー! たかが()()程度が増えも恐れるわけないよねー!!

 

 

「っ、レイチェル……キマリスさま!!」

 

「影龍王! 来てくれたんだな……!」

 

「まぁな。レイチェルがお姉様がお姉様がって五月蠅くてな……かといって無視も出来ねぇからこうしてきてやったよ。とりあえずまた面倒毎に巻き込まれてんなぁおい。で? 冥府側の連中もなんだってこいつらを襲う? 三大勢力とは和平を結んでたんじゃねぇのかよ?」

 

 

 既に俺は禁手化状態、背負っているレイチェルに当たらないように影の翼を奴らに見せつけるように広げて上空に浮かぶ。俺の問いに神器所有者共は、冥府の死神共は何も言わない……当然だ、此処で何かを言えば敵に情報を渡す事になる。流石に雑魚とはいえその辺は弁えてるみたいで嬉しいね! でもまぁ、関係無いんだよなもう。

 

 

「――平家」

 

「うん。そこの一番地味な大鎌を持った奴が死神のリーダー、そしてあそこの派手な奴が英雄派……此処にいる集団だけどこの中で一番偉いよ」

 

「了解」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 影の翼に隠れるように俺の背後にいた平家に確認を取った後、影の檻を発動。転移とかで逃げられたら困るからね! 地上にいる敵さんも逃げられない事に焦っているのか怒号が飛び交っている……ざまぁ! さてと分かってるよな? 邪龍の()()に手を出したんだから死ぬ覚悟ぐらいは出来てるよな。こっちは鬼とのやり取りで結構テンション上がってたのにくだらねぇ事を起こしやがって……テンションガタ落ちだ。その八つ当たりもかねて派手に行かせてもらうぞ。

 

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 宝玉から音声を鳴り響かせて影の翼をさらに広げ、海へと変える。周囲全てを飲み込むように広がっていく影の海から逃れようと空を飛べる面々は宙に浮くが……逃がすわけねぇだろ? ドボンッと空へと昇るように無数の影人形達が生贄を求めて生まれていく。周囲に叫び声が響き渡る……助けてくれと、死にたくないと、ハーデス様と無様な命乞いが俺へと向けられる。正直、どうでも良い。手を出したのはそっちで俺の機嫌をほぼ無関係だが損ねたのもそっちだ。黙って死ね。

 

 

「わ、我らに手を出してどうなると思っている!! 我ら死神と戦争を起こしたいのか!」

 

「さぁ? でもまぁ、ムカつくから殺しといた方が今後のためだってのは今分かった。んじゃさようなら」

 

 

 平家に教えられたリーダー格は四肢を切断、身動き取れない状態でサンドバッグにして完全に沈黙させて残った連中は影の海に飲み込んで雑巾を絞るようにねじる。気持ち悪い音が内部から聞こえて赤い液体が大量に地面に落ちていくが俺には関係ない事だ……若干フェニックスの双子姫と魔法使いちゃんが吐きそうな顔をしてるけど俺は悪くないと思います!

 

 

「……やはり凄いな、顔色を変えずにここまで出来るとはね」

 

「殺し合いをしてるんだ。それぐらいは出来るさ、んで? 何があった?」

 

 

 デュランダル使いに聞いてみると中級悪魔昇格試験を終えた瞬間に英雄派によって異空間に転移させられて曹操ちゃんと殺し合ったらしい。禁手状態の曹操ちゃんを相手に先輩達が総出で戦ったようだがテクニック重視の戦法と能力によって敗北、一緒に転移させられたオーフィスも冥府の奥底に封印されていたサマエルによって力の大部分を奪われて弱体化とやられっぱなしだったそうだ。ていうかサマエルってあのサマエル? 最強の龍殺しの化け物を呼びやがったのかよ……うわぁ、死んでなきゃ良いけど。まっ、今も異空間から脱出するために一誠達は戦ってるんなら大丈夫だろうきっと! この三人が先に脱出してきたのは魔王達に英雄派の襲撃と冥府の神ハーデスの企みを伝えるため……戦闘が苦手なレイヴェルを連れてきたのは俺を此処に呼ぶためだそうだ。確かに妹の近くに居る俺を呼べば少なくとも魔王に伝えるという命令を果たせるだろうね! 利用されたのがムカつくけど。

 

 

「……仕方ねぇな」

 

 

 通信用の魔法陣でとある人に連絡をする。俺が魔王と話すには色々と手続きがいるが近くには直通出来る人がいるしそっちに任せようか!

 

 

『――キマリス君? 珍しいですね、貴方から連絡をしてくるなんて……何かありましたか?』

 

「すいませんねー生徒会長。色々と忙しいのに……まぁ、その通りです。今から言う事を魔王様に伝えてください」

 

 

 通信用の魔法陣には生徒会長の姿がホログラムのように映っている。先ほどデュランダル使いから聞いたことをそっくりそのまま伝えると一緒で表情を変えて眼鏡をくぃっと上にあげて整え始めた。なんかそれカッコいいですね!

 

 

『分かりました。お姉様にはすぐ伝えてきます。キマリス君、申し訳ないですがゼノヴィアさん達をお願いします』

 

「分かってますよ。とりあえずレイヴェルだけは俺の家に連れていきますよ。レイチェルもいますし全世界の中で一番安全かもしれませんしね。あとフェニックス家の姫様に襲い掛かった奴らの主犯格を捕らえたんでそっちもお願いします。」

 

 

 定期的に規格外の夜空がやってくる場所に襲撃を仕掛ける馬鹿はいないだろうしな!

 

 生徒会長宛にボロボロの状態で捕らえた二人を転送、きゃっと言う可愛い悲鳴を聞こえたのを確認して連絡を切る。そしてレイヴェルの方を向くとレイチェルの手を握っていた……微かに震えているところを見るとよほど怖かったんだろう。いくらライザーの眷属としてゲームに出ていたと言っても殆ど戦闘らしいことはした事ないだろうし当たり前か。

 

 

「話を聞いてたとは思うがしばらくは俺の家で二人仲良く待機しててくれ。安心しろ、流石の英雄派も俺の家までは襲ってこないさ。むしろそんな事をしたら……どうなるか分からねぇしな」

 

「確かに影龍王さんのお家を襲撃したら禍の団自体が崩壊しかねませんし一番安全だと思いますね。えっと私は別の場所で戦っているお兄様たちの方へ向かいます。助けていただきありがとうございました!」

 

 

 魔法使いちゃんはお辞儀をしてから転移魔法でどこかへと消えていった。てかなんであの子も襲われてたんだ? 同じ禍の団だろう?

 

 それを見届けるとデュランダル使いから教会に向かわないといけない事を聞かされたがそっちは勝手にやってくれ……俺は便利屋でもなければ護衛でもねぇんだしさ。てか曹操ちゃんに壊されたって言ってもデュランダル自体は無事なんだしそれで良くないか? そんなわけで断ろうとすると双子姫からお願いしますという視線で見つめられてしまう……しょーがねぇなー!!

 

 

「……はぁ、仕方ねぇ。連れて行ってやるから案内――」

 

 

 その時だ、冥界中に巨大な何かが落ちてきたような地響きが広がったのは。流石に気になったので上空に飛んでみると――そこには怪物がいた。

 

 巨大な人型、クモのような足の奴、四足歩行……兎に角、今まで見た事ないような怪物達が冥界のあちこちに現れている。おいおいなんだよあれ……! デカいなんてもんじゃねぇぞおい! この冥界で何が起きてるってんだ!?

 

 

「……っ、ノワール。ちょっとヤバいかも」

 

「あん? 確かにやべぇな……! ゼハハハハ! 楽しすぎてテンション上がってきた!」

 

「喜んでるところ悪いけど正体不明のデカい化け物が一体、キマリス領に向かってる。しかも見た感じ、小型のモンスターを作り出してるね。このままだと蹂躙されるよ」

 

「――ぁ?」

 

 

 端末で何かの報道を見ている平家の言葉を聞いた瞬間、スーッとテンションが落ちていくのが自分でも分かる。確かにここから見ただけでもデカい奴らがあちこちにいるなってのは分かったがキマリス領に向かってる……? へぇ、そうなのか。別にキマリス領がどうなろうと俺には関係ないし常日頃から夜空と好き勝手にやってるから滅ぼされようが住民が殺されようが知った事じゃねぇ……てか進行方向にキマリス領があるのが悪い。キマリス家次期当主ってのも元々は上の奴らが勝手に押し付けたようなもんだ……当主の座なんざには興味ねぇ。好き勝手に生きて、好き勝手に夜空と殺し合えればそれで……! それで……!!

 

 

「ノワール」

 

「……」

 

 

 んな目で見なくたって分かってるさ。ふざけんなよこの野郎。どこの誰がやったかなんざ知らねぇけど普段から好き勝手にやってる俺への罰のつもりか? 残念ながらこの程度じゃ罰にはならねぇんだよ! むしろ逆にご褒美だ馬鹿野郎!!

 

 

「レイチェル、二人で家に帰ってろ。そこが一番安全だ。デュランダル、お前は一人で行け……ちょっと用事を思い出した」

 

「……あぁ。そうさせてもらうよ影龍王。気を付けてくれ……なんて意味は無いね。あとで駆け付ける……必ずね」

 

「キマリス様! 私も行きます! キマリス領に向かわれるのであれば……私も、一緒に行かせてもらいますわ」

 

「おいおい……死ぬぞ?」

 

「死にませんわ。私は……フェニックスですから! この世の誰よりも不死身に近い存在ですわ! 姫と呼ばれていても戦う事は出来ます! 見くびらないでほしいですわね!」

 

「レイチェル……私もご一緒しますわ! イッセーさま達が戦っていた時も私は……見ているしか出来ませんでしたわ。もう一人で終わるまで待つ事は出来ません! そして何よりも……フェニックスの双子姫が逃げる事なんて出来ませんもの!」

 

「……物好きだなおい。死んでも責任は取らねぇから勝手にしろ。平家」

 

「全員キマリス領に集めて住民を避難させるように言ってるよ。勿論お義母さんもね」

 

 

 流石俺の騎士、俺が命令するよりも先に行動を起こすとはね。やっぱり俺にはお前が必要だわ……本当にな。これからも頼むぜ? 居なくなったりされたらマジで困るからな!

 

 双子姫と共にキマリス領へと転移しようとすると通信用の魔法陣が展開されて先輩の声が響き渡った。なんでも龍門を開くために力を貸してほしいとの事だったが残念な事に今は忙しいので構ってられない……丁重にお断りして強引に通信を切る。龍門なら匙君やファーブニル、タンニーン様で足りるだろうしな。てかさぁ! キマリス領がどうなろうが俺には関係ないんだよ……そこに住む住民がどうなろうと関係、関係なんざあるに決まってる! あぁくそ! 柄じゃねぇけど守ってやろうじゃねぇか! こんな混血悪魔に文句も言わずに住んでてくれる奴ら、母さんを見捨てられるかってんだ!

 

 

「――悪い、待たせたな」

 

 

 キマリス領にある俺の実家へと転移すると犬月を始めとしたキマリス眷属、鬼の頭領と茨木童子を始めとした鬼集団、八坂の姫を始めとした京都妖怪集団という数えるのが面倒になるぐらいの大群が待っていた。おいおい……なんで居るわけ? ほんの数分前に異常事態が発生したんですが準備早くないですか!? てかなんで八坂の姫が此処に居るんだよ……! 実家の場所なんて教えた事ねぇぞ!! 何で知ってんだよ!?

 

 

「かっかっか! さっきぶりだねぇ。蝙蝠の親玉に会おうって時に何やら面白い事が起きてるじゃないかい。バカ娘にこの場所を聞いて若い奴らを集めといたよ。でもまさか九尾の姉さんまで此処に来るとは思わなかったけどねぇ」

 

「ほっほっほ! わらわも冥界に用があったのでのぉ。いきなり現れた物の怪共を見て影龍王が動くと思っただけの事じゃ。これだけの妖力が一か所に集まればどこへ向かえばいいかなぞ丸分かりよのぉ。それに九重が一緒に戦いたいと言っておったのでなぁ? こうして集めたわけじゃ。わらわの呼びかけに応じてくれた妖怪達には感謝しないといかんのぉ」

 

「影龍王! 戦うのじゃな! そうだと思って此処で待っておったのじゃ!」

 

 

 鬼の頭領、茨木童子、八坂の姫、九重、そして集められた鬼と妖怪達が俺を見つめてくる。うわぁ、何も言ってないのにもう準備できてるよこの人達……! 馬鹿じゃねぇの? なんで戦う事前提で集まってんだよ! その通りだよこの野郎!! 良く分かってんじゃねぇか!!

 

 

「たくっ、気の早い連中だことで……犬月、母さんは?」

 

「へへっ! とっくの昔に人間界の自宅の方に転移済みっすよ! 王様の親父さんやししょー達が傍にいるんで大丈夫だと思います!」

 

「そうか……サンキュー。さてとだ、えー、なんでか知らないがおもいっきり準備が整ってるっぽいんでさっさと向かおうと思いまーす! 逃げたい奴は勝手に逃げろ。誰も文句は言わねぇ。戦争したい奴だけついて来い」

 

 

 一歩、また一歩と全員が開けた道を歩くと後ろからぞろぞろと付いてくる音が聞こえた。振り向きはしないが俺の横には平家と四季音姉が……さらにその後ろには水無瀬と橘、犬月に四季音妹、グラム、双子姫と続いているだろう。さらにそれに続くように鬼達が、京都妖怪達が続いて歩き始める……かっかっか! と高笑いしながら、ほっほっほ! と張り合う様に声を出しながらただの混血悪魔である俺に付いてくる。目指すは名も分からないデカい怪物……戦う理由なんて決まってる。ただ喧嘩を売られたから買うだけだ。冥界の危機だとかそんなもんはどうでも良い……此処に、この場所に、母さんが住んでいる家に向かってくるなら殺すだけだ。

 

 笑いが堪えきれず、笑みを浮かべる。戦争自体は初めてだがこんな風に楽しいんだな……きっと相棒が生きていた時もこんな感情を味わっていたんだろう。羨ましいな全くよぉ!

 

 

「――良いかお前ら! 建物を壊すななんてことは言わねぇ! そんなもんはまた作ればいいんだ! 日ごろの鬱憤を晴らすようにぶっ壊せ! 住民が居たら助けろなんて言わねぇ! 邪魔だったら遠くに放り投げておけ! 今から行われるのは良く分かんねぇデカい奴との戦争だ! 久しぶりの戦争と喜ぶ奴もいれば初めての戦争だってワクワクする奴もいるだろう! 俺だってそうだ! 今もワクワクしてる! あんなデカい奴と殺し合えるんだって思うと滅茶苦茶楽しい!! 死ぬのが怖かったら笑え! 狂ったように嗤え! 臆するな! ビビるな! 楽しめ!! 死ぬ最後の一瞬まで楽しさを忘れるな!! 俺達は正義の味方でもヒーローでもない……ただ自分が楽しむためにアイツと殺し合うだけだ!! 文句を言われても気にするな! これが俺達だと逆に笑ってやれ!! 俺が許す! 此処には鬼と妖怪と悪魔がいる。同盟なんて結んでない奴らだっている。邪魔だったらそいつらを殺してでも先に進め! 好き勝手に戦って、好き勝手に楽しもうじゃねぇか! 妖怪らしく! 悪魔らしく! 鬼らしく! 邪龍の俺が許すって言うんだから好きにやれ!!」

 

 

 返答なんて返ってこない。でも笑っているのは分かる。それで良い……好き勝手にやるのが俺達だからな!

 

 

「さぁ、派手に楽しもうじゃねぇか野郎どもぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 冥界に突如現れた怪物、それらは各都市部へ向かい進撃していた。予兆すらなく、突如現れたために冥界に住む悪魔達は驚き、困惑し、逃げ惑った。報道陣も事の重大さを知らせるためにカメラを持ち、各地を飛び回るが――その中で一人のカメラマンは奇妙な集団を目にする。

 

 場所はキマリス領。地双龍の片割れ、影龍王と呼ばれる存在を宿した神滅具を保有する混血悪魔が生まれた場所。そんな場所で逃げる事もせず、真っすぐ向かってくる怪物へ近づく集団を彼は目にした。

 

 先頭を歩くのは黒の鎧を纏う少年、その背後には黒髪の美少女と桜色の髪をした小柄な美少女、そして白髪の少年や黒髪の美女、緑髪の美少女と言った面々が続くように歩いている。しかしそれだけならばなぜ逃げないのかと疑問に思うだけだろう……問題はその後ろだ。鬼が、狐が、天狗が、妖怪達が楽しそうな笑みを浮かべて少年の後ろを歩いている。その中には元七十二柱フェニックス家の姫君の姿すらあるためカメラマンはその手に持つカメラを落としかけるほどの衝撃だった。その数も十を超え、百を超えている。たった一人の少年にそれら全てが従っているような錯覚を見せるほどの歩みをカメラマンは冥界中に見せつけるべくカメラを向けた。

 

 その集団の誰もが不満ではなく楽しく笑っている。死ぬかもしれない状況になる恐れもあるというのにそれすら楽しんでいるような笑みを全員が浮かべている。

 

 たった一人の少年に付き従う無数の集団。それを目にした魔王の一人、アジュカ・ベルゼブブは小さく呟いた。

 

 

 ――まるで百鬼夜行のようだと。




「影龍王と酒呑童子」編が終了です。
今回は四季音姉妹……というより四季音花恋回だったと思います。
普段は酔っぱらっている彼女ですが素は全くの別です。

さて次回は……「補習授業のヒーローズ」編ですが多分すぐ終わるはず……! きっと!

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と骸骨神
75話


「――ゼハハハハハハハ!! 邪魔だぁっ!!」

 

 

 剣の姿になったグラムを握り、特大の呪いをその身に浴びながらイライラをぶつけるように目の前へと波動を放つ。それは龍の顔のようなものへと変化し、キマリス領へと進撃中の巨大怪物とそいつから生まれ出るミニ怪物を切り刻む。大体数百メートルは切り刻んだ影龍破だが標的の怪物はいまだ健在、傷を再生させながら殺しても殺しても虫のように湧いてくるミニ怪物を時間と共に生み出していく……やっぱりデカい奴を殺さねぇと意味はねぇな! てか俺の目的は見下すように歩き続ける怪物だけなんだよ!! 雑魚は黙って道を開けやがれバーカ!!

 

 

『宿主様! まだまだ止まる気配はねぇぜぇ! どうするよ!!』

 

「決まってる! グラムの最大出力を叩き込んでやらぁ!!」

 

『ゼハハハハハハハハッ! そうだなぁ! その通りだ宿主様ぁ!! 俺様も見下されるのは我慢できねぇ!! ぶっ殺してやろうじゃねぇのぉ!!』

 

 

 手の甲にある宝玉から相棒の声が響き渡る。その声色はかなり激怒しているものだ……無理はねぇな! なんせ良く分からん雑魚に見下されて無視されてるんだもんね! マジで「ちょっと通りますねぇ」って感じで歩き続けてこっちをガン無視……ふざけんじゃねぇぞおい! うちの領地をタダで通れると思ったら大間違いだ!!

 

 視線を少し逸らせば鬼の軍勢が高笑いと共にミニ怪物を殴り飛ばしている。昨日、俺に片腕を切り落とされた鬼の頭領、寧音は凄く嬉しそうな笑みで金棒を握り、次々と薙ぎ払っていく……片腕だけなのにどんなパワーしてんだよ!! それどころか四季音妹の母親、芹もまた全身から妖力を放出してデカい大剣を手に寧音と同じように周囲を薙ぎ払っていく。身の丈以上の大剣は「斬る」というよりも「叩き割る」を重視してるんだろう……強度的に言えばかなり堅そうだ! それを鬼の腕力で振るわれたならどうなるかはお察しです! うちの領地付近がドンドン更地になっていくよ! ゼハハハハハハハ! 避難完了しててよかったわぁ!!

 

 

「皆さん! 橘志保! 一生懸命歌います! いっくよぉ~♪ みんなで怪物退治だよ♪」

 

「「「「「しっほりぃ~ん!! アイラブしほりぃ~ん! ヒャッハー!!!」」」」」

 

 

 禁手状態の橘が悪魔の羽を広げ、戦場に響き渡るほどの声で歌って踊ると妖怪達から歓声が上がる。鬼、天狗、犬月という男集団が狐耳を生やして腋出し巫女服状態の橘の歌を聞いてはテンションを上げてミニ怪物を駆逐していく……どういうことなの? うちのアイドルはいつの間に妖怪達のアイドルになったわけ? てか本当にすげぇなおい!! あれか!? 腋か! 腋だな!! よっしゃ腋は偉大だって証明できたわ!! てか犬月! お前は何やってんだよ!? 働けぇ!! いやいやそんな事よりも別の事でも驚いている事があるんだけどさ! なんと我らが橘様ったら歌いながら破魔の霊力込みの雷をミニ怪物目掛けてぶっ放してるんですよ!! おかしいな……? アザゼルの情報じゃ目の前の怪物や生まれ出てくるミニ怪物は悪魔のアンチモンスターだからグラムとか妖怪達以外からはダメージを殆ど受けないはずなのにね! てかマジで神滅具ってすげぇわ!! こんなもんを作れるなんて反則だろ!!

 

 

「悪魔さん♪ 志保! いっぱい頑張るからご褒美! 待ってます♪」

 

「んなもん好きなだけくれてやるっての!! 俺のために歌え!!」

 

「はい!」

 

 

 黒に恋した(エレクトロ・アイドル)偶像雷狐が歌う舞台(・フォックス・オン・ザ・ステージ)。雷電の狐の亜種禁手で独立具現型神器として使役していた狐と一心同体になった状態が今の橘だ。身体能力は動物並みに跳ね上がるし能力の雷も自由自在に操れる……だからこそ破魔の霊力と雷を同時に放つことが出来てるってわけだ! 弱点だった橘自身も強化されてるから攻防一体な禁手だと思う。あと破魔の雷の威力はバラキエルが放つ雷光とタメ張れると思うね! 受けたくないです!!

 

 

「ほっほっほ。わらわ達も負けてはおらへんなぁ。九重、しっかりと掴まっておるようにな」

 

「うぬ! 母上!! れっつごーなのじゃ!!」

 

「皆の者!! 八坂さまと九重さまに続けぇ!! 影龍王殿に我ら京都妖怪の力を見せるのだ!!」

 

「「「「「うおおぉぉぉおおおぉぉっ!!!! 八坂さまぁぁっ!! 九重さまぁぁっ!!」」」」」

 

「かっかっか! やるねぇ九尾の姉さん! あたしらも気合入れるよぉ!! 総大将に恥かかせたら鬼の名折れさね!!」

 

「にしし!! 行くよお前達! 今こそ鬼の力をノワールに見せてやりな!!」

 

「「「「「寧音様! 伊吹様!! 俺達の力を見てください!! オラオラぁ!!! 退け退け道を開けろぉ!!」」」」」

 

 

 九尾の姿となった八坂姫が九重を背に乗せてミニ怪物を踏みつぶし、寧音と四季音姉が指揮する鬼達が剛腕にて道を作る。なんという怪獣合戦と暴力合戦! これは俺も便乗せざるを得ない!! てか鬼達と京都妖怪達のテンションやべぇなおい!! ますます気に入ったぁ!!

 

 

「ゼハハハハハハハハハ!!!! 怪獣だったら俺様も生み出せんだよぉ!! 影龍人形!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 これでもかと音声を鳴り響かせて目の前の怪物と同じぐらいの大きさを持つ影人形を生み出す。それは禍々しいほどの棘を生やした黒のドラゴン! 影龍を模したものだ!! その頭部で腕を組み、高らかに叫びだすと周囲から大歓声が上がる。最高です総大将とかこのまま一気にお願いしますとか聞こえるから大好評らしい! ゼハハハハハハ! やっぱり妖怪って最高だな! ノリが良い!! でも「あれ? なんか王様の方が敵に見える」なんて声が聞こえるが無視だ無視! というよりもパシリなんだから俺のために働け!!

 

 

「水無瀬! おまえはこいつを操作して俺の道を作れ! 嫌ですとかできませんとかやってみますじゃなくてやれ!! 俺の僧侶ならそれぐらいできるだろ!!」

 

「――当然です!!」

 

 

 禁手状態の水無瀬が黒のドレス姿で影龍人形の頭部に降り立った。そして足元から影を伸ばして影龍人形に接続すると俺の意思とは別の行動を開始し始めた。腕を振るいミニ怪物達を薙ぎ払いながら前へ前へと進んでいく……その姿は本当に相棒が復活して暴れているような感じだ! 良いぞ良いぞもっとやれ! そうだ、それで良い! 俺の影響で「影」を使う能力に目覚めたんならこれぐらいはやってもらわねぇと困るんだよ! 誰の眷属になったと思ってんだ? 俺様の眷属だろ! 誰にも渡す気はねぇからドンドン戦え!!

 

 

「ゼハハハハハハハ!! 良いかテメェら!! こんなのは楽しんだもん勝ちだ!! 魔力や妖力の攻撃が効かねぇ? だったら殴れ!! 殴っても効かねぇなら効果有るまでぶん殴れ!! 好き勝手に! やりたいように!! 目の前にいるムカつく奴をぶっ殺せぇ!! 俺が許す!! それになぁ……! これが終わったら名ばかり魔王共が自費で宴会してくれるってよ!! 何が何でも金と酒と飯を出させっから張り切っていけぇ!!!」

 

「「「「「「うううおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉっ!!!!!!!!」」」」」」

 

 

 鬼と妖怪達はさらに張り切ってミニ怪物を殺していく。宴会効果スゲェ!

 

 

「そんな事を言って出来ませんってなったら大変だよ?」

 

「んあ? そん時は魔王にグラムぶっぱするから良いんだよ。てか戦況は?」

 

「此処以外はちょっと拙いね。悪魔に対するアンチモンスターっぽいから魔力攻撃も転移も効かない。そもそも悪魔は魔力に頼ってるからそれを無効化されると殆ど打つ手なし。しょーじきヤバいね」

 

 

 だろうな……なんせ純血悪魔や最上級悪魔の殆どの奴が魔力を使った攻撃に頼りっきりで肉体を鍛えている奴は少ないだろう。むしろ俺やサイラオーグや一誠のような奴が珍しいを通り越して馬鹿にされてるぐらいだ。アザゼル経由で知った事だが上位神滅具の一つ、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)によるアンチモンスター創造……相手にしている俺ですら面倒だって思える能力だ。創造系神器の最高峰と言っても良いね! まっ! 「悪魔」の攻撃には耐性があってもそれ以外の攻撃には耐性が無いっぽいからそこだけはありがたいけどね!!おかげで鬼さんや九尾やら天狗やらの攻撃が通りまくってもう笑いしか出ねぇわ!!

 

 

「最上級悪魔達の攻撃も殆ど無意味。通ってるのはノワールぐらい……と言ってもグラムのおかげだけどね。どーする? 流石に時間をかけてたら他が拙いよ?」

 

「はっ、決まってるだろ……! 冥界に現れた数はたった十数体だろ? だったら全部殺せばいい! 攻撃が通る通らねぇの問題じゃねぇ! とりあえずぶっ殺す!! それだけで良いだろ?」

 

「うん。それがノワールらしい。じゃっ、()()の攻撃が通るようにお願いしてくる。恵、ちょっとだけ頑張って。パシリ、花恋、祈里、志保、キマリス眷属の実力をみせつけよー」

 

「もうちっと感情込めて言えや!! だがそれさんせー!! パシリの速さをみせつけてやるっすよぉ!!」

 

「にしし! 良いねぇ良いねぇ!! イバラ、姉妹仲良くノワールの道を作るよ!」

 

「分かった。伊吹のお願いは絶対。主様のためにおもいっきり殴る。考えずに殴って殺す!!」

 

「はい♪ 水無瀬先生! おねがいしまーす!!」

 

「えぇ!! 私は……キマリス眷属の僧侶です! 私の不幸を相手に押し付けます!! 行って! 反転結界!!」

 

 

 影龍人形から影を伸ばして周囲全てを黒く染めた水無瀬は液体時計を反す。水無瀬が操る影に触れたミニ怪物達の耐性が一気に反転したのか平家やレイヴェル、レイチェルの攻撃が笑いが出るぐらい通る。あのぉ……双子姫様! 貴方達が操る炎なんですが強すぎじゃありませんこと? なんか一瞬で周囲が真っ赤に燃えてるんですが!! フェニックスの業火ってここまで威力あるのかよ!?

 

 

「お姉様!」

 

「えぇ! 私達フェニックスの双子姫が操る業火で散ることを誇りに思いなさい!」

 

 

 キャー! 双子姫様ー!! 素敵ー! おっぱい揉ませてぇ!! と叫びたくなるぐらい姉妹仲良く手を握ってミニ怪物達を燃やしていく。この二人……本当に戦闘未経験者か? 歴戦の戦士並みの炎なんだけどスルーした方が良い? 確かライザーが隠れて特訓してるとか言ってたなぁ……フェニックスって凄い!

 

 

『ゼハハハハハハハッ! 俺様の影が混じってるからなぁ! 悪魔のアンチモンスターと言えども耐性に傷をつけられたら通るに決まってらぁ!! ゼハハハハハハハ! 良いなぁ! 俺様も生身で戦いてぇ!! 戦いてぇよぉ!! 笑いながらこの楽しい戦争をしてぇぜぇ!!!』

 

「だろうな! でもよ相棒!! 他の奴らのおかげで道は開いたぜ……? やるか!」

 

『そうだなぁ!! まずは目の前のくそったれを消し飛ばすとするかぁ!!!』

 

 

 鬼、九尾、天狗、双子姫、犬月達のお陰で俺の目の前には怪物の姿しかない。ミニ怪物達も生まれては殺され、殺されては生まれてを繰り返している……でもな、その無限ループはもう終わりだ。なぁ、グラム?

 

 

 ――我が王よ。我ら魔剣の力をその目に焼き付けよ!!

 

 

 知ってるよそんな事は……! お前がすげぇ剣だってのは鬼の頭領との殺し合いで分かりきってるんだ。俺の全てをお前に預けてやる……誇りに思えよ? そんな事をするのは夜空以外じゃ平家とお前ぐらいだしな。お前は俺の剣、覇王になる俺様の剣だ!! さぁ! 切り刻め!! 全てを! 何もかも好き勝手になぁ!!

 

 息を整えてグラムを強く握る。吐き気すら催すほどの龍殺しの呪いが俺の身体に流れ込んでくる……殺したい、妬ましい、苦しい、辛い、羨ましい、数々の呪い(感情)が体内で暴れ回る。たくっ、騒ぎたいなら望み通りにしてやるよ! お前らの呪いは俺が全部受け止めてやる! お前らの望みは俺が叶えてやる! だからもっと言ってこい! もっと呪ってこい!! 遠慮なんかしねぇで出せるだけ全部俺に寄こせぇ!!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

 龍殺しの呪いを肯定し、さらに龍のオーラを高めるとグラムは歓喜の声を上げてさらに呪いを強くしてきた。そうだ……それで良い!! ドンドン寄こせぇ!! 黒く、黒く、黒く。濃厚な呪いが俺を染め上げる……視界が歪む? 命が削られる? はっ! そんなものが怖くて魔剣を使わないなんて出来るか! こいつはただ純粋に楽しみたいだけだ……殺しを! 戦いを! 自分の力を出したいだけだ! 怖いなんて使う奴の我儘みてぇなもんだ……殺し合いをしてるんだよ俺達は!! 怖いなら最初っから魔剣なんざ持つな!! 来い、来い、来い!! ドンドン寄こせ……! 俺は悪魔で邪龍だ!! お前の我儘を受け止めるぐらい造作もねぇんだよ!!

 

 そんな俺の姿が怪物の目に入ったのか今までガン無視で歩いていたのをやめた……なんだ? 今更怖くなったってか? んなことしてもおせぇんだよ!!!

 

 

「――!!!」

 

 

 声にすらならない叫びを上げて、グラムを目の前の怪物目掛けて振るう。刹那、周囲全ての空間に亀裂が入り、音が遅れるほどの衝撃が走り、無数の斬撃が怪物の体を切り刻んでいく。まずは四肢が切り落とされて細切れになる……それに続くよう首が落ちて同じように細切れになっていく。空間も、地面も、空すら標的だとばかりに切り刻まれていく。巻き込まれた奴もいるだろうがそんな事は知ったこっちゃねぇ! 死にたい奴だけついて来いと言ったから自己責任だ! まっ、放つ前に平家の指示で全員退避してたっぽいからきっと大丈夫だろう!

 

 グラムが持つ力によってありとあらゆるものが「切り刻まれて」この状況が出来上がった! 怪物が持つ再生能力も悪魔の攻撃に対する耐性もミニ怪物を生み出す能力すら切り刻まれた事だろう。 だからこそ俺の言葉は決まってる――

 

 

「――次行くぞぉ!!!」

 

 

 肉片となった怪物を影で包み込んで力を根こそぎ奪い取りながら鬼に、妖怪に、眷属達に向かって叫ぶと一斉に声が上がる。喜びの歓声と共に次なる標的へと高笑いしながら歩きだす。建物を壊すな? 戦争中に何言ってんだよ? 巻き込むな? その辺に居るのが悪い。敵も味方も殺すのが楽しいのか? うん楽しい! それが俺達なんだから誰も文句は言うなよ? これほど楽しい事なんて滅多にねぇんだからなぁ!!

 

 

「かっかっか! いいねぇ! いいよぉ!! 体が熱くなってきた! 次はどいつを殺すんだい?」

 

「まだ十以上はおると言うしのぉ? まだまだ祭りはこれからじゃ」

 

 

 うわぁ、鬼の頭領様と九尾の狐様は殺る気満々じゃないですか! どんだけ溜まってたんだよ……俺は別に良いけどさ! どんどん殺ってください!

 

 

「ノワール。情報だとバアル眷属がシトリー領に向かってる怪物と戦ってるみたい。それ以外だとフェニックス領とグレモリー領に向かおうとしてる個体もいるっぽいね。どれも距離は変わんないけどどーする?」

 

「……その中で一番ヤバいのは?」

 

「魔王領にある首都リリスだね。他よりデカい個体が真っすぐ進んでて足止めも殆ど出来てないみたい。でもまだ大丈夫だと思うよ? 脚遅いし。そもそも首都が滅んでも私はどーでも良いから後回しでも問題なさそう」

 

「そうか。んーよし! 鬼の頭領! 八坂の姫! じゃんけんしようぜ!! どれも距離が変わらねぇなら勝った奴から獲物を選んで殺しに行くってのはどうよ? まぁ、簡単に言えば三つに別れようぜってことなんだけどな!」

 

「いいねぇ! のった!」

 

「ほっほっほ、良いのぉ、あと腐れがなくて良いわ」

 

 

 というわけで始まりました! 影龍王対鬼の頭領対八坂の姫によるじゃんけん大会! 鬼も天狗もノリノリで最初はグー! と叫ぶほどの団結力よ! 一応冥界の危機っぽいのに俺達は何してるんだろうな! 楽しいから良いけど!!

 

 まず最初に勝ったのは八坂の姫。戦っているサイラオーグが見てみたいと言う事でシトリー領へ京都妖怪と平家、橘を連れて向かって行きました! 橘が京都妖怪側に付いたことに鬼達は悲しんでいたけど……お前達って初対面だよな? なんでファンになってんの!? 馬鹿じゃねぇのお前ら!! いや腋か!? 腋の魔力だな!! よっしゃ腋は偉大だって証明になった! やっぱりこの世で最も素晴らしいのは腋だよね!

 

 そして次に勝ったのは鬼の頭領。戦っているフェニックスが見たいという事で鬼と四季音姉妹を引き連れてフェニックス領へと向かって行きました! てかフェニックスなら双子姫様が居るんですが……? というかなんでグレモリー領に行かねぇんだよ!! 絶対にイカサマしただろ!? だって二人とも変な笑みを浮かべてたもん!! ひでぇ……! こんな仕打ちはねぇだろ……!! あぁくそ!! この怒りは怪物相手に八つ当たりしてやる!! グラムぶっぱしてやらぁ!!

 

 

「あれ絶対に平家が俺の手の内教えてただろ……! おかしいもん! 帰ったら絶対に泣かす!」

 

「あの引きこもりの事ですし逆に喜ぶと思いますよ? というより水無せんせーすげぇ。なんでそれを操作できるんすか?」

 

「ノワール君の僧侶ですから! これぐらいはちょちょいのちょいです!」

 

「まぁ、手取り足取り教えたしなぁ。でもまだまだ操作が荒い、戦争が終わったら覚悟しとけ」

 

「……はいぃ」

 

「水無瀬先生が喜んでいるような悲しんでいるような微妙な表情をしていますわ……! そ、それよりもシュンさん。お、重くは無いでしょうか? い、いえ! この私が重いわけないですわよね!」

 

 

 レイチェルが当然ですわよねと言いたそうな表情で真下を見る。現在、フェニックスの双子姫は化け犬状態の犬月の背中に乗って空を飛んで……いや走っている。妖魔犬を使ってないから髪の色と同じ白い毛が異様に目立っている。それともふもふの体毛が心地良いのか双子姫様はなでなでしてるけど……これさ、羨ましいね! 俺の方は禍々しい棘のドラゴンだからカッコいいはずなのになんで二人ともそっちに乗ったんだよ! 畜生!! 相棒のカッコ良さを引き出せない俺の未熟さが原因か……!!

 

 

『ゼハハハハハハ! 生前の俺様はもっと良い男、いやイケメンドラゴンだったんだぜぇ? うーん、80点!!』

 

 

 それでも100点に近い事にビックリだよ。

 

 

「あっ、花恋達が戦闘を開始したようです。鬼の集団がアンチモンスターを蹴散らしてますね……いくら何でも出鱈目すぎませんか?」

 

「普通じゃねぇか? それだったら俺はどうすんだよ……悪魔のアンチモンスターを切り刻んだりすり潰したりしてるんだぞ? 案外、他の奴らが弱いだけじゃねぇか?」

 

「それはキマリスさまがおかしいだけですわ」

 

「そうです! あれほどの……怖いものを纏って笑っている事に私はびっくりしてますもの!」

 

「王様だしなぁ、この人って大抵の事はぶち壊してますし。てか姫さん達、軽すぎませんか? もうちょっと重くなった方が健康で良いっす――てぇ!? タイムタイム! 毛は抜かないでほしいっす!! すんませんでしたぁ!!」

 

「シュンさんはもう少し女性を知るべきですわ!」

 

 

 哀れ犬月……童貞だから仕方ないとはいえ女に重いは禁句だぞ? 夜空に「お前……重くね?」って言ったらマジギレされた俺が言うんだから間違いない! あの時ほど夜空が怖いと思った事は無いね!

 

 影龍人形の頭部で腕を組みながら隣に座っている水無瀬が持つ端末に視線を落とすと色んな所で起きている戦いが中継されていた。一早く到着した鬼の集団は高笑いしながら周囲を薙ぎ払いながらミニ怪物を殺している……四季音姉妹も滅茶苦茶楽しそうに笑ってる! まぁ、鬼だしなぁ……加減しないで殴って良いとか天国だろう! にしても四季音妹の母親がスゲェ! たった一振りで四足の怪物を横転させやがった! マジであの人……頭領としてやっていけるんじゃねぇか?

 

 ちなみに我らが悪魔勢は呆然とその姿を見てるだけと言うね! マジで魔力攻撃以外の攻撃を覚えろよ……なんだかんだ言って物理が一番効果的なんだぜ? 影人形ばっかり使ってる俺が言うのもあれだけどさ!

 

 

「――見えましたわ!」

 

 

 何度か転移を繰り返して進んでいるとレイヴェルが指をさした。前を見ると腕が四本ある怪物が先ほどと同じようにミニ怪物を生み出しながら歩き続けている……これまたデカい! グレモリー領へ近づけないように上級悪魔と思われる奴らが一斉に攻撃してるけど効果はお察し……マジで雑魚だなあいつら。グラム使ってる俺が言うのもあれだけどさ!

 

 

「……グレモリー眷属は居ないようっすね」

 

「まぁ、だろうな」

 

 

 戦っているのは名前も知らない、顔も分からないような奴らばっかりで禍の団絡みで大活躍中のグレモリー眷属の姿が一人も見えない。怪物が自分の領地に近づいているというのに出てこねぇとか馬鹿じゃねぇの……たかが一誠が()()()程度で戦えなくなるとか今までの決意は何だったんだって思いたくなるね。

 

 アザゼルから個人的な連絡で冥界に現れた怪物達の情報と一誠が戦死したという事を聞いた。なんでもシャル……なんだっけ? とりあえず旧魔王派の真の魔王と名乗る奴が脱出直前に現れてオーフィスを強奪、一誠が皆の制止を振り切って追撃したらしい。そんで先輩から連絡があった理由は異空間に取り残された一誠を呼ぶためだったらしい。残念ながら断ったけどね! でも結局は何故か知らんが近くに居たらしいヴァーリと匙君達の力を借りて龍門が発動、異空間に残った一誠を呼び寄せた――と思ったら使用したはずの兵士の駒八つが転移して来たそうだ。そのためその場にいる全員が戦死したと思い込んでるようだけど……案外どっかで生きてんじゃねぇの? だって死んでたら死体が転移されてくるだろ。まぁ、ミニ怪物を切り刻んでた途中でアザゼルから通信が来たからさ! 話の殆どを聞き流してたんだよね! だから実際はどんな感じになってるのか全然分かりませんし興味すらありません!

 

 だって殺し合いしてるんだし生きるか死ぬかの二択。まぁ、俺も犬月達が死んだらうわぁって感じにはなるけど戦えないほどじゃないはずだ。きっと、多分。母さんが殺されたとかだったら世界壊すレベルで暴れるのは確実だけど戦闘に参加している以上は死ぬかもしれないなんて当然だから……多分何ともないと思いたい。

 

 

「どうしてでしょうか……まさか、皆さんはまだ異空間に……!」

 

 

 あぁ、そうか……一早く脱出してきたレイヴェルはあの後に何が起きたか知らないんだよな。流石にここで一誠が死んだらしいぞとは言えねぇよなぁ……? だって俺の様に精神図太くなさそうだし呆然として死ぬ危険性が高くなるだろう……ちっ! めんどくせぇ!

 

 

「そりゃねぇな。アザゼルから個人的に連絡が来てたし脱出は完了してるよ。ただ……まぁ、曹操ちゃんが相手だったらしいしあいつらも連戦が続いて休んでるだけだろ。タブンネ」

 

 

 適当な嘘を言うと双子姫は言葉を放つことなく静かに俯いた。あっ、普通にバレたかもしれねぇ。いや多分大丈夫! きっとグレモリー眷属の誰かが大怪我したとかそんな感じだろうきっと!! もっとも一誠が死んだとバレても俺様には関係ねぇし! てか身内が死んで戦えねぇとかだらしねぇ! 少しは帰ってくると信じて戦うとか出来ねぇのかアイツらは……! これだから魔王におんぶにだっこされてるお嬢様は困るんだよ!!

 

 全員が黙った状態で前線に降り立つと周囲から歓声が上がり始めた。なにこれ? なんだよこの掌返し……うっぜぇ! 今まで混血悪魔だなんだとか言っておいてこんな時だけ救世主扱いか!! マジで死ねよお前ら!

 

 

「どうする? 戦うなら止めはしないが後ろに下がってるなら今しかねぇぞ?」

 

「――戦いますわ。皆さんが来るまで……! 私は、フェニックス家ですもの!」

 

「そうですわ! 私達は二人で一人! フェニックスの双子姫ですわ! 必ず皆様はやってきます……ですから今は戦います! キマリス様! シュンさん! 水無瀬先生! 私達をエスコートしてもらえますかしら?」

 

「……当然っすよ!! パシリは命令されたら動く生き物っすからね!!」

 

「一緒に頑張りましょう、レイヴェル様、レイチェル様。ノワール君、反転結界の準備に入ります!」

 

「おう! 好きにしろ!! テメェらもだ!! 無能は無能らしく家に帰って引きこもってろ!! どこぞのお姫様の様にな!! てかマジで邪魔だからどっか行けっての!!」

 

 

 影の翼を広げ、グラムの刀身に呪いのオーラを集めて前方へと放つ。射線上のありとあらゆるものを切り刻んでいく影龍破は海を真っ二つに切るように道をこじ開けた。うーん、森林とか地形とか色々と見るも無残な感じになってるけど別に良いか!

 

 そのまま一番最前線で戦っていた女に近づく。動きやすさ重視の色気のかけらもない戦闘服を着ている亜麻色の髪の美女だ……ってこの人って先輩の母親じゃねぇか? なんでこんな最前線で戦ってんだよ!? すげぇなグレモリー家! 母親が隠れもせず戦うとか正気かよ! 何度か親父と一緒に出席したパーティーで顔ぐらいは見たことあるが先輩に似てるよなぁ……流石親子? ここまで美人親子だと周りが大変だね!

 

 

「というわけで聞こえたと思うけど邪魔だから下がれ。テメェらじゃロクにダメージは与えれねぇよ」

 

「……出来ません。此処で退けばグレモリーの名に傷がつきます。ノワール・キマリスさん、貴方と共に戦わせてもらいます」

 

「いらねぇ。口だけの雑魚と一緒とか死んでも無理。てかさぁ……アンタの仕事は此処で戦う事か?」

 

 

 胸倉を掴んで一気に顔を近づける。うん、美人だな!

 

 

「母親だろ? だったら塞ぎ込んでる娘をさっさと連れてこい! あいつらが居る居ないで周りの士気が違うんだよ! グレモリーの名に傷がつく? こんな状況で何言ってんだ? 娘を放っておいてこんな場所で戦ってるテメェがそれを言うんじゃねぇよ! 今……先輩の傍には誰が必要か分かってんのか? 貴族の顔色やら評判やら気にしてる暇があるなら母親の役目を果たしてこい!! それにな……巻き込まれて死なれてたら俺が困るんだよ。他から文句言われるしな」

 

 

 先輩の母親を背後に突き飛ばし、グラムを強く握りしめて影の翼を広げ空を飛ぶ。さてと……殺戮の始まりだ!! 鬼の頭領や八坂の姫も楽しんでるようだし俺も楽しまねぇとダメだろ!! なんか知らねぇが総大将とか呼ばれてるからもう数体ぐらいは殺しとかねぇとな!!

 

 

「水無瀬! 数を減らすから生まれる奴全部に反転結界だ!」

 

「はい!」

 

「犬月! お前は二人の足だ! 動き回ってろ!」

 

「ういっす!!」

 

 

 宝玉から音声を鳴り響かせて最近便利だと思い始めた影の海を作り出す。それを前方に流してミニ怪物達を捕まえて一気に絞め殺す。よし! やっぱり周りに人が居ると邪魔だわ!! 一人で大群に挑む方が滅茶苦茶楽! さぁ、行くぜぇ!!

 

 

「影龍破ァ!!」

 

 

 一気に接近して濃厚な呪いのオーラを刀身に纏わせたグラムを振るう。龍の顔となった波動が一直線に飛んでいき、四本ある腕を一本を切り落とす。それを確認して一気に影を伸ばし、再生される前に切り落とした腕を飲み込んで力を奪い取る……同じ神滅具で作られたもの同士だ! いくら上位とか呼ばれてても相棒の力には及ばねぇ! ゼハハハハハハハ! 簡単に奪い取れたぜ!!

 

 怪物もミニ怪物を生み出し続けるが影龍人形に乗った水無瀬が先ほど俺が伸ばした影に自分の影を混ぜて射程を伸ばし、反転結界を発動。耐性全てを逆転させた事により双子姫の業火でミニ怪物達が焼き払われていく……やっぱ、こういう時の反転結界は便利だな! 流石俺の僧侶!

 

 高笑いしながらグラムを構え、影龍破を放とうとすると別の方角から波動が放たれてミニ怪物達が吹き飛んでいく。あの聖なるオーラは……デュランダルか?

 

 

「――待たせた、宣言通りに戻ってきたよ」

 

 

 若干息を切らしたデュランダル使い――ゼノヴィアが悪魔の翼を広げて俺の横に並ぶ。手に持っているデュランダルには鞘が無い……つまり素のデュランダルのままだ。おいおい、鞘を修復しに行ったんじゃねぇのかよ? てかそもそも待ってねぇんだけどなぁ。

 

 

「別に待ってねぇけど? てかなんで来たんだ? 主様と一緒に引きこもってろよ」

 

「……あぁ、そうだな。正直、イッセーが死んだと聞かされて動揺もした、崩れ落ちそうになった、泣きそうになったよ……でもね、黙ってるなんて私らしくない。グレモリー眷属一の脳筋とイリナから呼ばれた私が黙って見ているなんて出来るわけがない。悲しむぐらいなら戦う。それが私さ、影龍王」

 

「ふーん。まぁ、他よりはマシだな」

 

「そうだろうね。今も部長達はイッセーが死んで悲しみに暮れている……だが私はどうもイッセーが死んだとは思えないんだ。あの男が部長を抱かずに死ぬわけがない。そう思えるぐらい私はイッセーを信じている。だから……戦いに来た! グレモリー眷属は此処にいると! 冥界を守るために戦っているとイッセーに伝えるためにね!」

 

 

 その目は本気で生存を信じているものだ。ゼハハハハハ! 良いんじゃねぇの? そうこなくちゃ!

 

 

「んじゃ、グラムとデュランダルの共演と行くか?」

 

「良いね。この二つなら斬れないものは無い! 影龍王……どうしてグラムをそこまで使える? 私はデュランダルをそこまで使いこなせていない……私とキミでは何が違うんだ?」

 

「はっ! 馬鹿じゃねぇの? 使いこなすとか考えている時点でアウトだ! しょーがねぇなぁ! その度胸に免じて今回だけ特別に手本を見せてやるよ!」

 

 

 グラムの呪いを受け入れると体に様々な感情が流れ始める。使いこなすとかそんなもんは捨てておけ……こいつらはそんなもんを望んでない! 楽しみたいのに使い手が勝手に勘違いするから拗ねてるだけだ!! 受け入れろ……何もかも! 否定するな! これが自分だとこいつらにさらけ出せ!!

 

 

「良いか!! コイツらは俺達だ! ただ壊したくて! 殺したくて! 自分の力を吐き出して満足したいだけなんだよ!! 使いこなすなんざコイツらは望んでねぇ!! そんなもんはテメェが勝手に勘違いしてるだけだからなぁ!! そもそもコイツらを分かろうともしない奴が何言ってんだ!! 考えるんじゃねぇ、ただあるがままを受け入れろ!! それで十分だ!!」

 

「受け入れる……デュランダルを……! 考えるな……ははっ、影龍王! それなら一番得意さ! 行くぞデュランダル……! 加減なんてしなくて良い! グラムに負けるな! 私なんかに構わずお前の全てを解き放てぇっ!!」

 

 

 デュランダルが脈動し、周囲全てを照らすほどの輝きを放つ。まるで隣に並ぶグラムに張り合う様に、負けるかと叫ぶように輝きが強くなる。それを見てグラムがさらに呪いを強くする……負けてたまるか、最強の剣は我らだと俺に伝えてくる……それで良い! 特別だ!! お前の我儘全部言いやがれ!! 受け入れてやるからドンドン言ってこい!!

 

 

「ゼハハハハハハハハハッ!!」

 

「はああぁぁぁぁああああぁぁぁっ!!!!」

 

 

 周囲を照らす光が、飲み込む呪いが負けるかと張り合い続ける。狙うは怪物、周囲がどうなろうが関係ない! そんなもんはどうでも良いからな! 逃がしはしない!! ゼハハハハハハハハ!

 

 

「グラムゥゥウゥゥッ!!!!」

 

「デュランダルゥゥゥウウゥゥッ!!!!」

 

 

 同時に剣を振るう。放たれるは二色の波動、正面の全てを「斬る」斬撃と表現できる波動と正面の全てを「切り刻む」斬撃と表現できる波動が怪物を飲み込んだ。体は真っ二つに斬られ、体の全てが細かく切り刻まれる。肉片すら残さないとばかりに斬って、斬って、切り刻んだ。それらが終わった後に残ったのは見るも無残な姿となった地形のみ……怪物の姿は無い。見えるわけねぇわな……! あんなもんを喰らったら流石の俺でも死ぬしね!

 

 

「……すっげぇ」

 

 

 犬月の感想が周囲に聞こえるほどの静けさ。それほどの光景だったんだろう……周りが一気に静まり返っている。

 

 

「はぁ……はぁ……今の、たった一発撃つだけでこれとはね……でも、なんとなく理解はしたよ……そうか、考えたらダメか……ハハッ、私でも分かりやすいね」

 

「あぁ。下手に考えるぐらいなら楽しめよ? あーだこーだ考えるよりそっちの方が楽だろ?」

 

「……そうだな。礼を言うよ、影龍王」

 

「言わなくて良いさ。水無瀬、平家と四季音姉に繋げ」

 

「は、はい!」

 

 

 連絡用の魔法陣を展開した水無瀬に近づくと平家と四季音姉の声が聞こえる。なんか察してるような感じだけど気のせいだよね? よし気のせいだって事にしておこう!!

 

 

「――ゼハハハハハハハハハ! 二体目殺したぞ! おいおいそっちはどんな感じだぁ? まさか手間取ってるなんて言わねぇよなぁ? ドンドン殺しまくって数減らしていくから急げよバーカ!」

 

『にしし! 負けてらんないねぇ~お前達! ノワールに負けたら馬鹿にされるから気合入れて殺すよ! 目指せ宴会! 酒飲み放題! 私に続けぇ!!』

 

『こっちは大火力が無いから結構厳しいね。でも流石バアル家次期当主、鬼並みの打撃力だよ。うん、しゃーないから頑張ろう。ビリは嫌だし。志保、頑張ったらノワールがえっちぃことしてくれるって。うわっ、すご』

 

 

 おいこら、片方は良いがもう片方はアウトだ! てかお前が素で驚くって何があった!? 橘様ったらお怒りのあまりにパワーアップですか!? それとも淫乱パワー全開ですか!? どっちでも良いから見せてくださいお願いします!

 

 

「……うっし! 次行くぞ! 目指せ一位!! 鬼と九尾に負けてられねぇしな!!」

 

「そ、そういう問題ですか……?」

 

「おう! ん? 犬月、どうした?」

 

 

 ツッコミ待ちだったのにいつまで経っても来ないから不思議に思って犬月を見るとスンスンと何かを匂いを嗅いでいるようだった。まさか双子姫の体臭でも嗅いでるのか? 変態だからやめた方が良いぞ?

 

 

「いや、違うっすよ」

 

 

 お前は平家かよ。

 

 

「んじゃどうした?」

 

「……この匂い、王様……悪いけどちょっと離れます」

 

「――あいよ。行ってこい」

 

「あざっす!」

 

 

 空へと向かって吠えた犬月は走り出した。その表情は殺意に溢れている……なるほどね、だったら勝ってこい。俺の兵士なんだから負けっぱなしはダメだぞ?

 

 

「さてと……次はどこに向かおうか!」

 

 

 それにな、早く戻ってこないとデカい獲物が居なくなっちまうぜ?




「影龍王と骸骨神」編の始まりです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

76話

 走る。奔る。駆ける。

 

 匂いを嗅ぎ、それを辿ってただひたすら冥界の空を駆け抜ける。どれだけ離れていようとも、どれだけ匂いを変えたとしても、どれだけ姿を隠したとしても俺は覚えている。お前の匂いは俺に流れる血に刻み付けているから間違いはない……! たとえ王様や妖怪達が暴れ回った影響で数多くの匂いが入り混じってるとしても俺の鼻は確かに感じ取ったんだ……ヤツの匂いを! 殺すべき対象の存在を感じ取ったんだよ!!

 

 だから走る。奔る。駆け抜ける。逃げ惑う住民やこれから戦いに向かう悪魔達を横切りながら真っすぐ、真っすぐ、ただ真っすぐに空を駆ける。王様は俺の一言で分かってくれた……勝って来いと言ってくれたんだ! ゴメンナサイ負けましたなんて言えるわけがない……必ず勝ちます! 今日ここで俺の因縁に決着をつけてきます! だからちょっとだけ待っててください! あと獲物なんですけどちゃんと残しててくださいよ? 俺だって水無せんせーやしほりんや姫様にカッコイイ所を見せたいからね! たとえそれが無駄だったとしても男ですから……見せたいんすよ! カッコいいって思われたいんすよ!!

 

 

「――ッ!!」

 

 

 どれだけ走ったのだろう。どれだけ冥界を駆け抜けたのだろう。そんな事はどうでもいい……此処がいったいどこの領地なのかすら俺には分からないがこれだけは言える……確実にヤツはいる。犬妖怪としての俺の鼻が、俺の体が、俺の血がそうだと教えている。別の方角、しかも遠く離れた場所から明らかに王様だろ何かが放たれた轟音と呪いが巻き散らされてるけど……すっげぇの一言だ。魔帝剣グラム、最強の魔剣と呼ばれ、さらに龍殺しの呪いを有した代物をゼハハの高笑いで使う王様の神経がヤバい。相性悪いって自分で言ってた……ような気がするのになんで無事なのか俺は理解できない。でも王様だからって事で納得してしまう俺がもうヤバいと思う。

 

 あと使われているグラムはきっと泣いてると思うのは俺だけだろうか。鬼の里から送り返されてきたら放心状態、それを見た引きこもりが不機嫌になってたのはきっとグラム自身が王様に惚れたとかそんな感じだろう。そりゃ、今まで雑に扱われてきたのに鬼との殺し合いで王様の武器として使われたらコロッと落ちますわ。誰だって落ちますよそんなの! きっと今も号泣しながらテンションアゲアゲしてるに違いないね。

 

 

「アオォーン!!」

 

 

 冥界にある建物、その屋根の上で吠える。ただひたすら吠える。俺は此処にいると、お前を見つけたと、言いたい事は山ほどあるがただ天に向かって吠え続ける。

 

 

「――犬月。犬月瞬。戦場から離れたこの地まで私を追ってくる。優れた嗅覚と褒めておきましょう」

 

 

 何度も吠え続けると地上から声がした。視線を向けると探し続けていた銀髪の女が立っている……先ほどまで目の前の建物の中に隠れていたと思ったら堂々と俺の目の前に姿を現しやがったよ……! しかも京都でもぎ取ったはずの腕は生えてきたと言わんばかりに治っている……多分だけど横流しされたフェニックスの涙を使ったんだろうな。俺達も使用する回復アイテムが敵にも使われるってのはかなり最悪だが仕方ないとも言える。なんせ生み出しているのは悪魔、販売しているのも悪魔だから文句なんて言えねぇよ……ムカつくけどね。ただそんな事はどうでも良い! 俺として目の前にいるヤツが逃げも隠れもしないで出てきやがった事が結構ムカついている! 普通に姿を現しても勝てると思われてるのか……それとも自分を囮にして罠か何かに俺をおびき出そうとしているのか……答えなんて無数にある。考えるだけ無駄だな、だって俺は馬鹿だし。どれが正解なんて分からないがこれだけは言える――とりあえずぶっ殺す!!

 

 

「その姿が貴方の本来の姿ですか。確か犬妖怪と悪魔の混血でしたね? 京都ではその姿を見せなかったのは疑問に思います。しかしあなたに嗅ぎつけられた以上はこの場で応戦します」

 

「――ハハッ! あぁ! 見つけたよ!! どれだけその匂いを消しても! どれだけこの付近の住民になりすましても!! どれだけ離れていてもお前の匂いは俺の鼻が……流れる血が! 俺の本能が教えてくれる! 分かってるんだよ? いるんだろ……! その建物の中にお仲間がよぉ!!」

 

 

 先ほどまでヤツが隠れていた建物の中から微かに別の匂いを感じる。どれも殺しをして血を浴びた奴らだ……! この女がこの場にいるって事は英雄派のメンバーは既に冥界入りを果たし、この騒動に乗じてテロを行ってるんだろうな。俺の目の前にある建物に隠れている数はそれほど多くは無いが……こんな状況で人殺しが趣味の奴らを放っては置けねぇな。なんせ避難所辺りに侵入されたらマジで最悪だしね! もしこれが王様だったらどうでも良いとかなんとかって言ってスルーする……ように見せかけて結局殺すね! あの人ってめんどくさいツンデレだし! だから俺がこの場でやることは一つだ!!

 

 体内の駒を騎士から戦車に変える。王様から離れていたとしてもあの人は自分がいる場所全てが戦場だって感じで考えてるからいつでもどこでも好きなように変えられる……だから好きだ! 憧れる! 俺を認めてくれたあの人が戦場だって言うなら俺は戦うだけだ! 俺は兵士……! 最強のパシリとなる男だからね!

 

 

「オラアアァァァッ!!!」

 

 

 足に力を入れて一気に前へと飛び出す。今の姿は四足の化け犬状態だ、普段よりも体格はデカいし足に力が入る! 戦闘態勢に入ったヤツを無視して隠れている奴らが居る場所へと突っ込んだ。壁と窓を突き破るといかにも悪人ですって感じの服装をした奴らが一斉に逃げようとしていたのが視界に映ったので体格と戦車のパワーを利用して建物自体を崩壊させる。他にも隠れているかもしれないので周囲の建物を根こそぎ散歩がてら破壊! 感じる匂いは悪魔や堕天使、天使のものじゃないから普通の人間、逃げきれずにそのまま潰されて死ぬだろう。でも俺には生死なんざどうでも良いし関係ない。俺とヤツの殺し合いの邪魔だから殺しただけだし。

 

 

「これで手下共は瓦礫の下敷きになってお陀仏だ。邪魔なんてさせねぇよ――アリス・ラーナァ!!」

 

 

 殺したくて殺したくて殺したくて! 何度も夢を見た……こいつを殺す夢を! 何度も見た! そんな存在が俺の目の前にいる……アリス・ラーナ、俺の両親を仕事で殺した女。和平を結ぶ前だったから文句は言えねぇけどこの手で殺したいのは確かだ。ただやられたからやり返したいだけ……あと親の仇を討って滅茶苦茶楽になりたい! もしここで殺して明日以降、生きる活力が無くなったとしても俺は絶対に目の前の女を殺す! 今日ここで! この手で! 目の前の女を必ず殺す!

 

 

「仕方ありません。見つかった以上は覚悟していた事です……犬月、犬月瞬。貴方との殺し合い、今日で終わりです。いえ終わらせて見せましょう」

 

「あぁ、そうだな! 俺もいい加減テメェを追うのが面倒になってたんだ! 死ねよ、死ねぇ!!!」

 

 

 化け犬状態から人型……普段生活する姿へと変えてアリス・ラーナに向かって駆け出す。既にヤツは自分の神器で創造したナイフを指で挟んでいる……刀身が光だから悪魔の俺が受ければ大ダメージは免れないだろう。でもそれはもう何度も経験したから怖くは無いし考えなくても体が勝手に反応してくれる!

 

 アリス・ラーナは弾幕を張るようにナイフを投擲してくる。指に挟める数には限界があるから放たれた数は少ないとはいえ一つでも当たれば悪魔には致命傷……しかもそれが前方から飛んでくるから躱さないとダメだ。だって俺は王様や酒飲みのようなパワーや器用さはないしね。でもここで躱せば一気に距離を詰められるのは分かりきっている……京都でもそれをやられたからな! だから同じ手は受けたくないからこそ俺がこれから起こす行動は凄く簡単! 今の俺は戦車に昇格している! 見せてやるよ……うちの眷属の戦い方をな!

 

 

「ラァッ!!」

 

 

 地面を殴り、畳返しの様に目の前にコンクリート状の壁を作り出すと放たれたナイフがそれに突き刺さる。たとえ神器で作られたとしても刀身が光ってだけで王様や酒飲みレベルの破壊力を持ってるわけじゃない……そもそも光龍妃レベルの光だったら出会った瞬間に即死亡だしな! それに目の前から迫って来るならこうして壁を作るだけで一瞬だけだが攻撃の手が止む! さてと! 行動を起こさせてもらうぜ!

 

 自分で作ったコンクリートの壁を殴って前方へと飛ばす。このまま放置してたら邪魔になるし利用されかねないからさっさと無くした方が良い。なんせ周囲に利用できるものがあるなら何でも利用するのは王様達との戦いで何度も思ったり感じたりしたことだからな。殺し合いになれば生きるか死ぬかの二択だけ、死にたくないからこそ利用できるものなら何でも利用してでも生き残る! 卑怯とか正々堂々と戦えなんて言葉は甘い奴らが言う事……だと思う! だって勝つか負けるかの二択なら勝つしかない無いからな!

 

 

「いねぇ……! 上か!」

 

 

 俺が殴ったコンクリートの壁は物凄い速さで前へと飛んで行ったがアリス・ラーナの姿は既に無かった。まるで予想していたとばかりに瓦礫の山を蹴って上空へと舞っている……既に創造したナイフを指に挟んで放つ態勢だ。相変わらず芸達者なヤツだな!

 

 

「――狙います」

 

 

 再びナイフの雨が降り注ぐ。創造系神器ってのは無尽蔵に武器を作れるのが特徴だ……このナイフもアイツがやめたいと思うまで無限に作り出されるだろう。現に今も着地までの間に連続で創造、投擲を繰り返してるしな! 王様の影生成能力やアリス・ラーナのナイフ創造……神器ってのはマジでチートだろ! なんだって神様はこんなのを作りやがったんだよ!

 

 即座に背後に下がってナイフの雨の範囲から出て態勢を整える。前までなら着地の瞬間を狙って接近してただろうが今は絶対にやらない……なんせ――

 

 

「――学習しましたか」

 

 

 ヤツの目の前にもナイフの雨が降り注いでいる。上空で作り出していた時にわざと持たず日曜へ落としていたんだろう……もし接近していたら真上から降り注ぐナイフの餌食になって大ダメージは受けなくても動きが止まってナイフによる追撃を受けていたな。王様と特訓していると結構やってくる手だし京都でも一回味わったからね! 片方に集中させて別の個所を疎かにする、京都じゃあれを受けそうになって強引に躱したらその隙を突かれて攻撃を受けた……欲張った結果だから文句も言えねぇよ! だから落ち着け……殺したいのは俺が一番分かってる。吸って、吐いて、吸って、吐いて。よし大丈夫!

 

 

「京都で一回見た手だからな。同じ事に何度も引っかかるような頭はしてねぇんだよ……てか匂うんだよ……! お前の懐に隠し持ってる代物の匂いがプンプンとな! 鉄と火薬の匂い……銃だろ?」

 

「正解です。悪魔を殺すために用意しました。人間ですから近代兵器も使用します。勿論悪魔祓いが使用する弾薬を装填しておりますので一発受けるだけでも悪魔の身には致命傷です」

 

「用意周到なこって……使えよ。銃でも禁手でも好きなだけ使え。俺はそれを全部ぶっ壊す。モード妖魔犬」

 

 

 駒のシステムを騎士へと変えて赤紫色のオーラを纏う。京都で使用したものとは違い、目の前のヤツを殺すためだけに劣化させたモード妖魔犬。酒飲みや引きこもりが使う妖魔放出とは天と地の差がある形態……あいつらは別格だから妖力と魔力の融合なんて簡単にやってのけやがったから本当に理不尽だと思う。でも当然だろうな……俺はキマリス眷属の中でも最弱だからね。王様には全然勝てないし酒飲みにも勝てない。引きこもりにも負けるしグラムにも負ける。茨木童子にも普通に負けるししほりんや水無せんせーにも勝てないだろう。どれだけやっても俺は駒消費2の雑魚悪魔……でもそれで良いんだ。今が一番下なら後は這い上がっていくだけだからな! 邪龍の下で特訓してきた俺の足掻きを! しつこさを! 舐めるんじゃねぇぞ!!

 

 アリス・ラーナも片手に拳銃を持ち、空いた手を地面に向ける。その瞬間、周囲の空気が一気に変わる……使うか! 禁手を!!

 

 

「――禁手化」

 

 

 ヤツの手には光の刃で構成された一本の刀が握られている。光刃を操りし切裂姫(ジル・ザ・リッパー・ホーリーパペッター)、ヤツが持つ神器の禁手……! 光の刀と拳銃を握りしめたアリス・ラーナは一歩、また一歩と俺に近づいてくる。

 

 

「犬月瞬。貴方を殺します、英雄派の一人として、殺人鬼として貴方の息の根を止めます」

 

 

 何が英雄派だ……テメェはただ殺したいから所属しているだけだろうが。言ってしまえばただの殺人鬼……俺の両親を殺したのも仕事、禍の団に属しているのも殺しが出来るからってだけだろうが! そんな奴が英雄を名乗っていいわけがねぇ!

 

 

「……テメェが英雄を名乗っていいわけねぇだろ。ただの殺し好きが何言ってんだよ? まっ! どうでも良いけどね! あぁ、殺したい。ムカつくんだよその面が……! 何度も夢を見た、何度も待ち続けたぞこの時を!!」

 

「同意。その言葉には私も同じです。ただ貴方を殺したい」

 

 

 銃口を向け弾丸を放ってくる。悪魔祓い特製の弾丸だ……発砲音すら鳴らねぇってのが気に入らねぇ! 地面を蹴り、空を飛び、犬の様に自由に戦場を駆け抜ける。アリス・ラーナがバンバンと撃ってくる銃弾も脅威だがそれ以上に反対側の手に持っている光の刀も厄介だ。あの禁手は創造系神器が持つ「創造」の力を捨てて一本の刀として光力を凝縮したものだ……王様達の様に鎧を纏う事も無く、しほりんや水無せんせーのように姿が変わるわけじゃない。ただ生み出す力を捨てて一本の刀にしただけだ。京都で戦った時はどうしても異形を殺せるパワーが欲しいと願い続けた結果発現したとか言ってたっけ……多分亜種禁手の部類になるんだろう。なんせ切れ味と放つ光の威力だけなら伝説の聖剣とタメ張れるんじゃねぇかって思えるぐらいだもんな! マジ怖い! それに一番厄介なのは今までと違って折れたら即終わりだからか先ほどまでの戦い方とガラリと変えやがるのもめんどくせぇ……慣れてきたと思ったら一気に違う動きをされるんだもんな! 対処しにくいぜ全くよぉ!

 

 

「ハハッ! 遅すぎるぜ殺人鬼! そんなんじゃ何時まで経っても当たんねぇぞ!」

 

「そのようです。京都で殺し合った時よりも強くなっていますね」

 

「当たり前だろ! テメェを殺すためだけに鍛え上げたんだ! この妖魔犬をなぁ!」

 

 

 この女の動きは本物だ……その辺にいる奴らとは違って人を殺すためだけの動作を呼吸するように行いやがる。俺の呼吸と合わせるように懐に入り込む動作、四肢よりも胴体狙いの剣捌き、銃弾による足止め、それら全てを当たり前のように行い続けるからマジ怖い。でも残念ながら見えている! 俺の周りにはトンデモナイ奴らが居るからな!

 

 そんな事を考えながらアリス・ラーナの攻撃を躱し続けていると俺の中である違和感が沸々と湧き上がってきた。なんだこれ……遅い? 前までなら同じ攻撃をされ続けたら冷や汗ものだったのに今じゃ全然怖くねぇ。攻撃のタイミングも王様達に比べたら全然余裕で躱し続けられるレベルだ……なんで禁手を使ってまで手を抜いてんだ?

 

 

「……」

 

 

 銃口と指に集中し、放たれる銃弾を躱す。拳銃には装填数が決まってる関係上、どう頑張ってもリロードを行わないとダメ。アリス・ラーナもそれが分かってるからこそ弾切れが発生しないように数発撃ったら距離を取ってマガジンを空中に放り、器用に取り換えている。そして再び銃口を俺に向けて発砲しようとするが――

 

 

「――舐めてんのか?」

 

 

 指が引き金を引く前に接近して手首を掴んでひ弱な人間の骨を握りつぶす。目の前の女は痛みのせいで軽い悲鳴を上げたが……似合わねぇから鳴くのをやめろ。

 

 

「さっきからテメェ、遊んでるのかよ? 見え見えなんだよ……そんなんじゃ何年経っても俺にダメージを与えれねぇぞ?」

 

「っ、ここまで……差が出ましたか。流石キマリス眷属……と褒めておきま――っっ!?」

 

 

 片手が折れた痛みで足が止まったのでそのままアリス・ラーナの足を蹴って骨をへし折る。いくら騎士の駒だとしても妖怪と悪魔のハーフの俺なら人間程度の骨なんて楽に砕ける。手首と足が折られた事で目の前の女は痛みに耐えながら光の刀で振ろうとする……がそれよりも早くその腕を掴んで拘束、そのまま先ほどと同じように手首を握りつぶす。両腕と片足が俺の手によって機能停止状態された女は痛みによる悲鳴を上げる……人形のような表情のコイツが痛みに悶えてる表情を浮かべているからかなり辛いんだろう。俺は関係ないけど。

 

 それを見た俺は今まで高かったテンションが一気に冷めていく。俺が求めていたのはこんなんじゃない……俺が思い描いていた殺し合いは、何度も夢にまで見た戦いはこんなものじゃないはずだ。あぁ、畜生……なんで弱いんだよ。あれだけ強かっただろ……なんで弱いんだよ! 王様レベルまでとは言わない……せめて酒飲みレベルぐらいの実力を持ってろよ! なんで……なんで……なんで!!

 

 

「……こんなんじゃねぇ。俺が求めていたのはこんな低レベルの奴との殺し合いじゃねぇ……なぁ、アリス・ラーナ? なんでお前は弱くなってんだよ? 京都の強さはどこに行った? なぁ、おい、教えてくれよ……! 俺はな……! 俺が憧れたあの人達のような殺し合いをしたいんだよ!!」

 

 

 目の前にいる女の首を片手で掴み、宙吊りのように掴んでいる腕を空へと上げる。ふざけんじゃねぇよ……俺はあの人のような殺し合いがしたいんだよ! 自分の全力をぶつけても倒れない相手との殺し合いを! 高笑いして何度もぶつかり合う殺し合いを求めてたんだよ! でもなんだよ……! 弱くなってんじゃねぇかよ……! 全力を出してない俺ですら勝てるって何なんだよ! ふざけんなふざけんなふざけんな!! 俺の両親を殺しておいて! 俺が追いかけている事も分かっていて! なんで強くねぇんだよ!

 

 

「くっ、は、っ」

 

「……まさか親を殺した殺人鬼相手に泣きそうになるなんて思わなかった。悲しいぜホントによ……! もう良い、終わらせてやるよ。お前と戦ってるぐらいなら王様と戦ってた方がまだ楽しいしな」

 

 

 女を地面に強く叩きつけると数回跳ねるように少し離れた場所に横たわった。まだ息はあるが殆ど関係無い……宣言通り終わらせる。

 

 姿を化け犬へと変えて前足で女の両腕を踏みつけると悲鳴と共にその場に赤い液体が流れ始めた。無事な足をバタバタとし始めてうざったいので爪を下半身に突き立てて一気に引き裂く……まだ終わりじゃねぇよクソ野郎。

 

 

「さようならだ。あの世で俺の両親に詫びてこい」

 

 

 口を大きく開けて女に噛みつく。首と胴体が口の中に入ったのを確認し――そのまま噛み切った。地面に残されたのは潰れた足と引き裂かれた女の下半身のみ……口の中に入っている物体を何度か噛んだ後、外へと吐き出す。出てきたのは元が人間だったとは思えない肉の塊……あっ、なにかが牙の間に挟まった! 後で歯を磨かねぇとなぁ……ていうか血の味がこれほど美味いと感じるのはヤバい証拠かねぇ? まっ、どうでも良いか。

 

 

「……戻るか」

 

 

 肉の塊と残った下半身を放置して俺は主の元へと駆け出す。急がねぇと獲物が王様達に駆逐されちまうしな!! 俺だってまだ戦いたいんだから残しててくださいよぉ!!

 

 

 

 

 

 

「やっと魔王共も行動開始か……遅すぎんだよ」

 

 

 もぐもぐと飯を胃に流し込みながら遠く離れた戦場を見つめる。冥界に突然現れた怪物――超獣鬼(ジャバウォック)豪獣鬼(バンダースナッチ)が冥界を散歩し始めて既に数時間が経過している。出現当初は悪魔共の攻撃が全然全くこれっぽっちも通らなかったが俺の視線の先では上級悪魔や最上級悪魔の攻撃を受けて怯んでいる怪物の姿が見える。どうやら魔王の一人、アジュカ・ベルゼブブが悪魔に対するアンチモンスターの怪物達のデータを解析して対抗術式を構築、そのお陰で魔力頼りの悪魔達も妖怪や天使、堕天使の勢いに乗って攻撃を開始したようだ……確か全部で十三体だっけか? 出現早々、俺達と鬼達、京都妖怪達で半分ぐらいは殺したからこの分だとすぐに終わるな。

 

 

「そーでもないよ。一番大きな奴がまだ倒されてない」

 

「超獣鬼だったか? 最上級悪魔のトップが足止めしてんだから問題ねぇだろ。魔王様渾身の対抗術式有りで殺せなかったら笑いものだぜ?」

 

「これ見て同じこと言える?」

 

 

 隣で同じように休憩中の平家が中継映像を見せてきた。そこにはかなり巨大の人型怪物と最上級悪魔とその眷属が戦っているのが映っている。確か皇帝(エンペラー)って呼ばれてるディハウザー・ベリアルだったっけ……? そいつらが人型怪物――超獣鬼に攻撃しているが即効でダメージを回復されて足止めにすらなってない。いや違うな……眷属の攻撃は殆ど効いてないがディハウザー・ベリアルの攻撃は通っている。確かベリアル家の特異能力は……そっかそっか! そうだったわ!! それなら効いて当然だ! というよりも流石レーティングゲームの皇帝にして頂点! 放つ魔力が他とは段違いに強力だってのが映像越しでも良く分かるね! あれがトップなら俺もいずれ戦う事になる……のか? それはそれで楽しそうだ!

 

 

「無価値。凄いよね、あんなのにも効果が有るなんて」

 

「なんたって元七十二柱だしな。初代全員が揃ってた昔の戦争はトンデモナイ事になってたと思うぜ?」

 

『ゼハハハハハ! その通りだぜ宿主様! 奴らが使う能力は今を生きる奴らよりも強力だった! それは間違いねぇぜ! もっとも初代キマリスの霊操よりも宿主様の方がつえぇけどな!』

 

 

 褒めてくれてありがとう! 相棒大好き!

 

 

「どーするの?」

 

「――行くしかねぇだろ? なんせ残った獲物は鬼勢やら京都妖怪勢やら悪魔勢が張り切って駆逐中だしな。てかなんでお前が此処に居るんだよ? 橘はどうした?」

 

「志保なら先に休憩してもう戦場に行ったよ。今も京都妖怪達に歌声と踊りを見せてる」

 

「またファンが増えるな……よし行くか! お前はどうする?」

 

「一応京都妖怪の参謀になってるからそっちに行くよ。頑張ってるから褒めて褒めて」

 

「はいはい……頑張れ頑張れ」

 

「うん、頑張る」

 

 

 平家の頭を撫でた後、俺はグラムを握りしめて首都リリスまで転移する。てか覚妖怪が京都妖怪達の参謀ってどういうことだよ……? 嫌われ者じゃなかったのか! 橘のファンになるのは分かるがそこは違うだろ……! 受け入れられてるならそれはそれで嬉しいけどさ!

 

 

「うわっ、でけぇ」

 

 

 首都リリスの上空で影の翼を広げながら遠くで行われている戦闘を見る。映像でもでけぇなとは思ったがこうして近くに来るとその大きさが良く分かる……マジでデケェ! グラムの最大出力でも手首がやっとじゃねぇかな? ここにデュランダルがあればまぁ、片足ぐらいは消せると思う。さてどうすっかなぁ……正直登場したら周りから救世主みたいな感じで騒がれ続けて若干飽きてきた。掌返しが酷すぎてグラムの斬撃をどこかの領地にぶっ放そうと思ったぐらいに嫌な気分だ……混血悪魔風情とか神滅具頼りとか色々言っておいてこんな状況になったら頼りにしてるとか一緒に頑張ろうとか言ってきやがる! ふざけんな! マジでグラムぶっぱするぞ! 水無瀬に説教されなければ今頃グレモリー領はグラムの斬撃の餌食になっていたというのに……! どこか見せしめに消しておくか……!!

 

 

『それが悪魔よ。掌返しなんざ奴らにとっちゃ当たり前の行動なのさ! ゼハハハハハハハハ! ムカつくなぁおい! 雑魚の分際で宿主様と同等の実力を持ってると勘違いしてる奴らのセリフは我慢ならねぇ!! そして宿主様よぉ、もう一個だけムカつく事があるんだなぁ!』

 

「……あぁ、多分俺も相棒と同じ事を思ってると思う」

 

「アイツが俺達を見下してるのがすっげぇムカつく」

『あの野郎が俺様を見下してるのがすっげぇムカつくんだよぉ!』

 

 

 自分が高身長だからって見下しすぎじゃねぇかなアイツ……! そしてキマリス領に向かって歩いてた奴と同じように「ちょっと通りますねぇ」って感じで歩いてるのがさらにムカつく! よし殺そう。このイライラをあの怪物ちゃんにぶつけて発散してやらぁ! なんかグラムもご機嫌な様子だしね! さっきから龍殺しの呪いで俺の体内を掻き回してるし……この戦争が終わるまでは剣として扱っててやろう。終わったら前と同じように雑に扱ってやるさ! なんか調子乗られると面倒だしね!

 

 

「――てなわけだがお前はどうするよ?」

 

 

 真横に視線を向けながら問いかける。そこには誰も居ないのがどんな奴でも分かるだろう……でも俺には分かる。居るんだよ……! 目の前の怪物なんかよりもおっかない存在が……俺が一番会いたくて恋しくてエッチしたくて殺したくて女王にしたい存在がそこに居る!

 

 空間が歪み、穴が開く。そこから現れたのは俺の想像通りの女だ……ミニスカでTシャツ、その上に輝くマントを羽織った美少女! その名も――

 

 

「ふふん! もっちろぉ~ん参加するに決まってんじゃん! てかマジででっけぇ!? 私らが米粒みたいになってるよ……なんかムカついてきた」

 

 

 規格外こと光龍妃、片霧夜空ちゃん登場です! キャー! 腋ペロペロさせろー! 抱かせろー! 俺の子供を孕んでくれー! てかエッチさせろー!

 

 

「あっ、やっぱりお前もそう思うか?」

 

「とーぜんじゃん! なにあれ? うわぁ、君たちなんでそんなに小さいの? ごめんね~デカくて~って感じで見てるよ絶対!! はぁ!? 誰が小さいだって!! ぜってぇぶっ殺す……!!」

 

「自分で言ってあたかも相手が言ったようにキレんじゃねぇよ……別に良いけどさ。つーかお前、今までどこに居たんだよ?」

 

「ん? 次元の狭間だけど?」

 

「……何してんだよお前?」

 

「だってさぁ! オーフィスと赤龍帝……あっ、ドラゴンの方ね。そいつらがなんか面白い事をしてたからちょこっと手を貸してきた!! いやぁ~すっげぇよ! グレートレッドとオーフィスの力で肉体作っててさぁ! 魂だけの赤龍帝をそれに入れようとか言ってんの! 馬鹿でしょ! 面白いでしょ!!」

 

 

 爆笑してるところ大変申し訳ないが……何してんだよお前? はぁ!? グレートレッドとオーフィスの力で肉体作った!? 馬鹿じゃねぇのお前!! そんな……そんな……そんな面白い事をなんでもっと早く教えねぇんだよ!! 俺だって見てみたかったわその光景!! てかその前にやっぱり生きてたか一誠ちゃん! ゼハハハハハハハハハハハ! やっぱり最高! これで戻ってきたらドラゴンの体か……だよね? 最強のドラゴン二体に作ってもらった体だからドラゴンで合ってるよね?

 

 ちなみに夜空が手を貸したって言うのは発現した「生命力を回復」する能力で魂状態の一誠の意識を戻したり肉体の作成速度を速めたらしい。マジで何してんだよお前! 

 

 

「もうちょっとしたら次元の狭間からただいま~ってしてくると思うからさ! それまではあのデカい奴と遊ぼうよ! 赤龍帝が帰ってきたら冥府ちょっこー! でいっしょ?」

 

「別に良いが……なんで冥府?」

 

「ん? オーフィスに手を出したとか私の楽しみの邪魔をしたとか色々と理由あるんだけどさ、一番の理由がね――私以外の連中がノワールの母親に危害加えるのがムカつく。だから殺しに行きたいってのが本音ね」

 

 

 あっ、声のトーン的に冗談じゃなくてマジだ。あの……すいませんけど人の母親に危害を加えようとしないでもらえません? 怒るよ、激おこ状態になっちゃうよ? まぁ、大事だけどそれは置いておいてコイツが冗談じゃなくてマジの感情で言うなんて珍しいなおい。確かにうちの母親が夜空と初めて会った時は「ノワールのお友達なの? 可愛い子ね!」って感じだったしなぁ……毎回殺し合いをする俺達を説教しないでいつも仲良いわねぇって言う精神がちょっとだけヤバいが俺から見ても夜空は俺の母さんを気に入ってると思う……てか懐いてる? どっちでも良いか! うーん、俺の母親が邪龍たらしすぎて困る! これで本の一冊ぐらいは書けそうだ!

 

 

「……珍しいな。お前が本音を言うなんてよ」

 

「まぁね。だってこの私を見ても怖がらないし美味しいご飯とか奢ってもらった事もあるんだよ? しかも娘みたいに頭撫でてもらったこともあるからさ、私が殺すんなら良いけどそれ以外の奴に手を出されるとすっげぇムカつくの。それに将来的には……こっちはいっか! てなわけでどーする? ハーデス殺す?」

 

 

 将来的には何になるんですかねー? 聞きたいなー! すっごく聞きたいなー! まぁ、それは後々聞き出すとしてハーデスを殺すかどうかねぇ……? んなもん決まってんだろ。

 

 

「勿論殺すに決まってんだろ。なんせうちの身内の身内(フェニックスの双子姫)に手を出したしな。ちょっとばっかし文句言いたかったところだから付き合うぜ。そして俺と付き合ってください」

 

「それはヤダ。んじゃあのデカいのぶっころそー!!」

 

 

 なんで断られるんだろうな? 泣いてない、泣いてないよ!

 

 

「はぁ……良いか。夜空」

 

「ん~?」

 

「偶には共闘も悪くねぇな」

 

「にひひ! うん! 偶には一緒に戦うってのも良いかもね! マンネリ解消ってやつ?」

 

「そんな感じだろうな。夜空、愛してるとか大好きだとかいい加減抱かせろとかさっさと俺に負けろとか言いたい言葉は結構あるがこれだけは言わせろ」

 

「あっ、それさぁ~! 私も同じなんだよね! 好きとか大好きとか愛してるとかいい加減襲わせろとか私に負けろとか言いたいこと結構あるんだよね! でもこれだけは言わせろぉ!」

 

 

 (夜空)()が共に並んで目の前から歩いてくる怪物を見る。ホント、殺し合うのも大切だが偶には共闘も悪くないな……てか悪神とフェンリル戦で二天龍が共闘したんだし俺達も同じことをしても問題無いだろう! きっと! タブンネ! やっべ! テンション上がってきたわ!!

 

 

「俺がお前の盾になる」

 

「私がノワールの剣になる」

 

「死ぬなら俺に殺されろ。勝手に死んだらマジでキレるぞ」

 

「死ぬなら私に殺されろ。勝手に死んだら本気で怒るから」

 

「周りを巻き込んでも気にするな。巻き込まれた奴らが悪い」

 

「周りが死のうと気にしない。勝手に死んだ奴らが悪い」

 

「――行くぜ、夜空」

 

「――行くよ、ノワール」

 

 

 俺も夜空も鎧の姿となり、互いの手の甲同士を軽くぶつけて目の前にいるムカつく怪物へと向かって行く。




「光刃創造《ホーリー・エフェクト》」
ありふれた神器の一つとされており創造系神器の一つ。
光の刃で構成された剣や刀、短刀を作り出せる能力を持つ。

「光刃を操りし切裂姫《ジル・ザ・リッパー・ホーリーパペッター》」
光刃創造の亜種禁手。
創造の力を捨てて一本の刀に力の全てを集約しているため通常時よりもパワーが上がってる。
イメージ元は天鎖斬月。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

77話

「あははははははははははははは!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

 

 山吹色の全身鎧に身を包んだ夜空が高笑いと共に無限に光を生み出し、周囲を光線で薙ぎ払う。俺達の目の前に居るのは見上げなければならないほど超巨大な超獣鬼と呼ばれる怪物……ソイツの体から無限に生まれてくる小さな怪物は夜空が放つ光に巻き込まれて幾度も消滅、また生み出されては消滅を繰り返す。既にこのやり取りを何度行ったかなんて覚えてねぇし数える気すらねぇ! てか楽しい! 何が楽しいかってそんなもん決まってんだろ――

 

 

「――ゼハハハハハハハハハハハ!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 生み出されたミニ怪物達から放たれる光線や超獣鬼が吐き出す炎を俺が影を生み出して防ぐ。何が楽しいかって夜空の「盾」になっているこの状況が滅茶苦茶嬉しいしすっごく楽しい!! 何度も妄想しては諦めていた光景を行えてるんだから楽しいに決まってる!! 周囲を黒に染めるほどの影の盾が夜空を護るように展開して攻撃を防ぎ、その隙に夜空が一瞬で極大の光を生み出して周囲のミニ怪物達を一掃。俺が防いで夜空が攻撃する……過去の地双龍が行っていたやり取りを俺達が行っているからマジでテンション上がるわ! 楽しい! ありがとう! 冥界を襲ってきてくれて本当にありがとう!!

 

 

「夜空ぁ!! 楽しいなぁ!!」

 

「うん! すっげぇ楽しいぃ!! あははははははは! ワクワクが止まんない! ほんっとうに楽しい! すごく楽しすぎて一生忘れられそうにない! ノワール!! これ好きになりそう!!」

 

「俺もだ! 滅茶苦茶楽しいから偶には共闘も悪くねぇな! てか今後も何回かやろうぜ!」

 

「さんせ~! いっくよぉ~!! ピカッとドッカーン! ろり~たふらっしゅ~!!」

 

 

 俺の背後に移動した夜空が嬉しそうな声と共に自身の前方に極大の光を集める。その光力は並みの天使、堕天使が扱う物を超えている……当然だ! 無限に光を生み出し、光を浴びるたびに力が増す神滅具を持ってるのは人間の中でも規格外な夜空……どう考えても天使長(ミカエル)を超えてるに決まってる! もっとも天使長本人の光を味わった事ねぇけどな!

 

 俺達を取り囲むほど生まれ出たミニ怪物達は夜空に向かって攻撃を仕掛けるがそんなものは通すわけがない。俺は即座に影の海を作り出してそれら全てを飲み込んで雑巾を絞るように潰す……ついでに力を奪う事も忘れない! ゼハハハハハハ! 既に何度も同じことを繰り返してるから俺の力はかなり高まってるしテンションもアゲアゲ状態だ! どんな攻撃だろうと今の俺を殺せるわけがねぇ! だから――殺れ!! 夜空ぁ!!

 

 

「――あはははははははははは!」

 

 

 前方に集めた光を砲撃の様に放つ。勿論! 当然の様にその射線上には俺も存在しているがお構いなし撃ちやがった! 背中から極大な光を浴びた事によって体が溶け、意識が朦朧となりそのまま消失しかけるが……俺を誰だと思っている!

 

 

『UndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndead!!!』

 

 

 全身の宝玉から音声を鳴り響かせて消失する体を再生させ続ける。体が消滅しては即座に再生、また消滅しては再生。それを繰り返しながら俺は意識を飛ばさないように食いしばる……なんというかこうも何かに引っ張られる感覚は気色悪いの一言だな。相棒が生前持っていたこの能力に目覚めてからこの感覚がさらに強くなった気がするぞ……! 俺を呼ぶのは女の声……多分だが妖艶な美女だろうね! 声の印象からそう感じるし! そいつがこっちに来いと魂と呼べるものを引っ張ってきやがるが……んなもんに引っ張られるわけねぇだろうが!! そもそもなぁ! この程度で死ねるんならとっくの昔に死んでるさ! でも俺は生きてるし此処で戦ってる!! だからこんなもんでは死なねぇし死ぬ気すらねぇんだよ!! ゼハハハハハハハハハハ! どこの誰だが知らねぇがナンパしたいんなら俺の前にその姿を見せてからしやがれ!! てか夜空ぁ! 俺を殺したいならもっと強いの放って来いよ! 受け止めてやる! 何度も……何度も! お前を受け止めてやるからドンドンきやがれぇ!!

 

 背後にいる夜空が放った光の砲撃は俺を除いたミニ怪物の集団を一掃し、大本である超獣鬼の太もも部分を抉る。もっとも即効で再生されたけどね……なんだよあの再生速度! 俺の真似するんじゃねぇ!! 見下した上に俺の真似をするとはマジで死にてぇらしいな……!

 

 

「すっげぇ! マジで再生してんじゃん!! あはははははは! ノワールだいすきぃ! てかずるいぞぉ! なんで自分だけ能力昇華させてんのさぁ!!」

 

「それは俺がお前より強いって証拠だっての! 悔しかったらテメェもユニアの能力を引き出してみろよ!」

 

「いったなぁ!! じゃあすっげぇーの見せてやんよ! ユニア! やるよぉ!」

 

『クフフフフフ! えぇ! 見せてやりましょう! このユニアの力を彼に、クロムに、目の前で見下してくる愚か者に叩き込みましょう!』

 

『ゼハハハハハハハハハハハハッ! てことは()()が来やがるかぁ! 宿主様! 今から放たれる一撃はユニアが持つ絶技の一つだぜぇ!! 気合入れろよ!!』

 

「分かった!」

 

 

 ユニアが持つ絶技とやらを放つ体勢に入った夜空を護るべく、影を生み出す。何故なら本能的に危険だと判断したのか超獣鬼自体が命令したのかは知らないが周囲を取り囲んでいるミニ怪物達は一斉に夜空へと攻撃し始めたからだ。色んな獣やらを模して生み出されたミニ怪物達の口から光線が放たれるがそれら全てを影で防ぎ、影人形のラッシュで本体を沈めていく。本当ならグラムぶっぱ安定なんだが……その辺に捨てちゃったんだよね! なんか邪魔だったし俺と夜空の共闘に他人が混じるのは何か違和感しかなかったから仕方ないね! そんなわけでこの戦場には俺と夜空以外の味方はいません! そもそも俺達が参戦した時に超獣鬼を攻撃してた悪魔達は俺達の攻撃に巻き込まれて死んでるから無理はないけど。つーか乱入と同時にこの場を離れたディハウザー・ベリアル眷属は流石だわ……危機察知能力が高いですね! まっ! どうでも良いけどさ!

 

 目の前で俺達を見下している超獣鬼ちゃんは自身の目を光らせてビームもどきを放ってくる。巨大な体格から放たれるそれを受ければ一瞬で消滅、冥界すら崩壊しかねないものだろう……普通なら。俺は鎧から音声を鳴り響かせて影を生成、夜空を護るべく前方から迫るビームを防ぐ。既に何度もミニ怪物から力を奪っているから俺の力がかなり上昇しているから確実に防ぎきれるだろう……ついでに言わせてもらうとなぁ! 夜空を護る盾なんだから何があっても通すわけねぇだろ! 超獣鬼ちゃんが放つビームもどきを防ぎつつ「捕食」の能力を使用してビームもどきの威「力」を奪う……なんだなんだ? 最初はやべぇかとは思ったが全然大したものじゃねぇな! てか夜空が放つ光の方が強いから余裕で防げる! あとさ……背後にいる夜空の手に集まってる光が尋常じゃない光が圧縮されてて若干怖い! やり投げのような構えを取りながら光を生み出す能力と光を浴びるたびに力を上昇させる能力を同時に使用してるけどさ! 鎧越しですら怖いと感じるほどの槍を作らないでもらえますかねぇ! 流石夜空ちゃん! 大好き!

 

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

「ノワール! じゅんびおっけ~!」

 

「はえぇなおい!? その構えになって一分も経ってねぇぞ!? ゼハハハハハ! ぶっ放せ夜空ぁ!!」

 

「おっけー! いっくぞぉ! ろり~たメガあたっくぅ!!」

 

『Starlight Spear!!!』

 

 

 夜空の手には一つの槍、穂先が五つに分かれている何とも奇妙な形をしているが……見ているだけでもとてつもない威力を秘めているのが余裕で分かる。そんな代物を高笑いと同時に投擲すると一瞬で前方に展開されていたミニ怪物達を消滅させ、その余波で周囲を取り囲んでいた奴らとついでとばかりに俺を吹き飛ばして超獣鬼へと向かって行く。光の熱さと気色悪い声に負けず、相棒が持つ再生の力で完全復活した俺が見た光景は……なんとも物凄い事になっていた。だってかなりの巨大な超獣鬼ちゃんの片足が完全に無くなってんだぞ? しかも遠く離れた場所に着弾したのかとてつもない轟音を鳴り響かせてる。きっと着弾した領地は吹き飛んでるだろうなぁ……キマリス領でもフェニックス領でも無いからどうでも良いけど。だって他の領地の事なんて考えてる暇ないしーどうでもいいしーてか冥界滅んでくんねぇかなーとか思ってるしーうん仕方ないねー! まっ! そんなことよりもキャー夜空ちゃーん! 素敵ー! 結婚してくれー!! エッチさせろー!

 

 

「あー!! また再生した! もう駄目だよノワール? ちゃんと死んでくれなきゃ撃った意味ねぇじゃん!」

 

「ざけんな! あの程度で死ねるわけねぇだろ!! 俺を殺したいならまだまだ出力が足りねぇんだよ!」

 

「言ったなぁ!! じゃあもう一回撃ってやんよ! ちゃんと護ってくれなきゃだめだぞぉ?」

 

「そんなもん言われなくたってやってやるさ! てか……夜空と楽しい会話してんのにうぜぇんだよテメェら!! シャドールッ!!!」

 

 

 片足が吹き飛んだことで超獣鬼ちゃんはそのまま地面へと倒れるが立ち上がる動作と同時に消滅した足を再生させている……触手みたいなものを伸ばしては互いに絡ませ、足と言う形へ変化しているのは気持ち悪いの一言だと思う。しかし触手か……夜空ちゃん? ちょこっとあれに両手両足掴まれて全身まさぐられたりしてみない? きっと気持ち良いと思うんですがどうでしょうか! あっ、ダメだわ……俺以外の奴が夜空に触れるのは我慢ならねぇ。よし殺そう! 夜空の体をまさぐったりペロペロしていいのは俺だけだぁ!!

 

 そんな比較的大事なことを思っていると超獣鬼ちゃんは個人的に見飽きたミニ怪物を生み出す作業を開始する。体感的には十秒で数百のミニ怪物が生み出している気がする……流石神滅具で生み出された存在だな! 創造系神器の頂点だって言っても規格外すぎるだろ! まぁ、でも残念ながら生み出すことは出来てもそれ以外は出来ないんだけどね。だって地面に倒れた時点で超獣鬼ちゃんと同じ大きさの影龍人形を生成して押し倒してますし! ゼハハハハハハ! さっきから見下しやがってムカつくんだよ! 夜空の一撃でも喰らって反省しやがれ!

 

 

「夜空!」

 

「あいっさ~! メガあたっくぅ!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

『Starlight Spear!!!』

 

 

 夜空の鎧から音声が鳴り響き、再び手に槍が生成されて放たれる。起き上がろうとしている超獣鬼を影龍人形で押さえつけているところに放たれたからさぁ大変! 防御力はかなりあると自負していた影龍人形を簡単に貫通し、超獣鬼の片腕諸共、その周囲を消滅させました! うーん、さっきも思った事だがかなりの威力だな……あんなもん喰らったら大抵の神は死ぬんじゃねぇか? つかそれ以前にあんなもんをポンポンと連発して体力減ってない夜空に若干引くんだけど……どうせ新しく発現した回復能力で全快してんだろうけどさ! 相変わらず出鱈目だなぁおい!

 

 

『ん~? おやおやぁ~! どうしちゃったんだよぉユニアちゅわ~ん! ご自慢の()の威力が低すぎじゃありませんことぉ~? ゼハハハハハハハハ! やっぱりテメェが持つ本来の力が封じられてると滅茶苦茶弱いじゃねぇか!』

 

 

 この威力を見て弱いと言える相棒にビックリだよ。

 

 

『クフフフフフフ。相変わらず単細胞ですね、いつ夜空が全力で放ったと言いましたか? 確かに私の能力はいまだに封じられたままですがこの状態でも最大出力ならば主神レベルは殺せる威力を叩き出せますよ。貴方の影迷宮など簡単に突破可能ですからご安心を』

 

『なんだよなんだよ! 図星突かれて意地になってんじゃねぇか! 俺様の影迷宮を突破するだぁ? ばーか! んな事は無理無理! ゼハハハハハハ! 何なら試してみるかぁ?』

 

『良いでしょう。夜空、準備をお願いします』

 

「おっけー! ドンドン行くから覚悟しろぉ!」

 

『宿主様!! というわけだ! 負けたら承知しねぇぞ!!』

 

「了解!! 防ぎきってやらぁ!」

 

 

 なんだかよく分からないが俺が使用するシャドーラビリンスと先ほどの放った夜空の放ったスターライトスピアの二つの内、どっちが上なのかを決めるため勝負することになったようだ。普通の奴ならこんな状況で何やってんだよと文句を言ってくると思うが……俺達は楽しいから全然問題無し! 冥界が滅ぶ? 皆協力して敵を倒そう? 無理無理! そんなもんをするぐらいなら夜空と殺し合いしたい。だってそれは天界勢力とか先輩達の仕事だろ? つーか悪魔が好き勝手にやって何が悪いんだって話だ……そもそも俺達は邪龍、自分の欲望優先なんだから仕方ないね! そもそも勝負を挑まれてしないとか普通に無理! やるからには全力で防ぎきるぞ! 頑張っちゃうよ俺様! ここで防ぎきってドヤ顔したいしな!

 

 とか思いつつ気合を入れていると一瞬で夜空が傍まで近づいてきて俺の胸に手を置いた――その瞬間、今まで消費した魔力やら体力やらが一気に戻ったかのように体が軽くなる。お、おぉ! 回復してくれるとか優しいすぎて泣きそうだ……てかなんだよこの回復能力! 先輩の所に居るシスターちゃんが涙目になるレベルなんだが? だってあの子の神器って傷は治せるけど体力は無理とかそんな感じだった気がするし……まぁ、規格外(よぞら)だし良いか!

 

 

「おっ、サンキュー。愛してるぜ夜空」

 

「私も愛してるよ、ノワール。ふふん! 私に感謝しろよぉ? 今まで失った寿命やら魔力やら体力やらぜーんぶ元通りにしてやったんだからさ!」

 

「マジかよ……てか寿命削れてたんだな? 今初めて知ったわ」

 

「そりゃグラム使ってればそうなるっしょ。あれって一応、最強の魔剣だし私らを殺す呪いを持ってんだからさ。てーかそんなのを使っててなんで気づかないのさ?」

 

「え? だって呪いなんて日常茶飯事だろ?」

 

「そりゃそうだけどさぁ~私が殺す前に寿命で死ぬとかやめてくんない? 死ぬなら私に殺されてから死んでね。そんなわけで死なれたらすっげぇ困るからさ! これからも暇だったら治してやるから本気で感謝しろよぉ? どうどう? 嬉しい?」

 

「すっげぇ嬉しい。え? 心配してくれてんの? 女神かよお前! 他勢力の女神よりも女神じゃねぇか! マジでありがとう! 感謝してるからエッチさせてくれ」

 

「ヤダ」

 

 

 うん、知ってた。

 

 

「……さ、さてと! お前のおかげで完全回復状態だ! いつでも良いぜ?」

 

「にひひ! そうこなくっちゃ!!」

 

 

 俺と夜空は互いに向かい合う。地面に倒れている超獣鬼の存在なんてどうでもいい……再生している? 好きにしろよ。こっちはこっちで忙しいからそのまま俺達を無視して首都リリスに向かって歩きたいなら勝手にしてくれ。さてと……問題は先の槍の威力か。影の檻……いや相棒曰く影迷宮の防御力で防ぎきれるかどうかは微妙って感じだな。なんせ使用するのが規格外筆頭の夜空だから普通に貫通してくる可能性も十分にあり得る! そもそも影龍人形を貫かれた時点でその威力は桁違いだってことは良く分かってる……! でも俺にだってプライドはある! 男としてのプライドが……盾役としてのプライドがな! そもそもアイツに惚れたんだ……このぐらい防ぎきれないで何が影龍王だ! 受け止めると決めたんだ……だから防いでやるさ!

 

 

「――あ゛?」

 

「――はぁ?」

 

 

 気合十分、お互いに必殺の矛と絶対の盾を放とうとした瞬間、邪魔をするように地上からビームが放たれる。それは俺と夜空を狙ったものだが俺は影を、夜空は光を生み出して相殺する……が何してんの? 片腕と片足を再生させながら俺達を見上げてお前はいったい何をした? 折角さぁ、見逃してやるって空気を出してやったのに俺達の戦いを、楽しみを邪魔するのか? そっか。そっかそっか! そんなに死にたいか。

 

 

「夜空」

 

「ノワール」

 

 

 俺達の視線の先には地上で起き上がろうとしている超獣鬼。怒りに満ちた俺から漏れ出す呪いと激怒している夜空から漏れ出す神々しい気に恐れを抱いているのか体が竦んでいる様にも見える……どうでも良いな。どうせこいつは俺達に殺されるんだから。

 

 

「俺の盾が上か」

 

「私の矛が上か」

 

「そんなもんは後回しだ」

 

「今はそれよりもやることがある」

 

 

 絶対零度ともいえる視線で地上にいる超獣鬼を見下す。他人からすれば逆切れか理不尽だと文句を言うほどの怒りだが俺達には関係ない。さっきまで真剣にどっちが上かどうか決めようって俺も夜空も楽しんでたんだ。それを邪魔するならどんな奴であろうと容赦はしない。

 

 

「私達の戦いを邪魔する奴は殺す」

 

「俺達の楽しみを邪魔する奴は殺す」

 

「冥界が滅ぼうと」

 

「世界が滅ぼうと」

 

「私が楽しかったらそれで良い」

 

「俺が楽しかったらそれで良い」

 

「「だから邪魔する奴は許さない!」」

 

 

 殺気を放ち、俺が濃厚な呪いを放出すれば夜空は神々しい気を放出する。それは周囲を漆黒と()()に染めるほど巨大なものだ。

 

 

「我、目覚めるは――」

《何故邪魔をする》《我らが覇王の邪魔をするな》

 

「我、目覚めるは――」

《何故邪魔をするのですか》《我らが女王の邪魔をするな》

 

 

 俺と夜空の鎧から老若男女の声が鳴り響く。俺から聞こえる声は憎悪に満ち、呪いを秘めたもの……しかし夜空から聞こえる声は対極とも言っていいほど――純粋だった。

 

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《我らの戦いを邪魔するな》《光龍妃との戦いを邪魔するな》

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

《我らの楽しみの邪魔をするな》《我らは影龍王と我らが女王を見ていたいのだ》

 

 夜空の呪文は今までとは違う物だ。歴代所有者達の思念の声は怨念を秘めてはいない……ただ純粋に夜空と一緒に楽しんで、夜空を祝福しているような声だ。

 

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《それでも邪魔をするというのならば》《覇王の逆鱗を受ける覚悟があるとみた》

 

「絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――」

《覇王に恋い焦がれる女王の邪魔をするというのなら》《我らは手を取り合い貴様を滅しよう》

 

「我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて――」

 

「我、闇黒を射止める耀龍(こうりゅう)の女王と成りて――」

 

《自らの行動を後悔せよ! 我らが覇王は貴様を許さない!!!》

 

《自らの行動を後悔せよ! 我らが女王は貴様を許さない!!!》

 

 

 俺達の楽しみを邪魔した罪は重いぞ!!

 

 

「「「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう――」」」」」」」」

 

「「「「「「「「汝を金色の夢想と運命の舞台へと誘おう――」」」」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

『Juggernaut Queen Over Drive!!!!』

 

 

 周囲を漆黒の影と金色の光が染め上げる。俺が呪いを放出する漆黒の鎧へと変化しているがが夜空が神々しさを放つ金色の鎧に変化している。マントをなびかせ、金色の龍を模した全身鎧……姿形も先ほどまでと比べて流麗なものとなり、各所に宝玉が埋め込まれて美しいと表現できるだろう。山吹色だった鎧も金色へと変化しているが俺も黒から漆黒に変化してるし今更驚くことはない。そもそも夜空だしな! これぐらいはやるだろうとは普通に思ってたぐらいだもんね! あと光龍妃の外套の歴代所有者達はきっと今を楽しんでいる夜空を理解したんだろう……夜空の思いが俺に流れ込んでくるようなもの感じだったしな。呪いではなく祝福、純粋な思いへと昇華した結果、発現した形態って感じか……俺とは真逆も良いところじゃねぇの! ますます惚れた! 好きになった! 愛してるぞ夜空ぁ!!

 

 

「『――ゼハハハハハハハハッ! なんだなんだよぉ! 金色とはえらく変わったじゃねぇの夜空ちゃんよぉ!』」

 

「ふっふ~ん! どうよぉ! これが私だけの覇龍……ううん! 覇龍昇華形態!! 耀龍女王の金色鎧(ティファレト・ジャガーノート)()覇龍昇華(グロリアス・クィーン)だぁ! てかノワールとクロムの声が重なってるとどっちがしゃべってんのか分かんないからどうにかしろぉ!」

 

「『そんなもん無理に決まってんだろうが! 俺は俺様で俺様は俺なんだからよぉ! しっかし流石だな! この瘴気を浴びて無事でいられんだしよぉ! ゼハハハハハハハ! テメェが放つ()()のオーラもなかなかいい塩梅だ! 最高に気持ちいいぜぇ!!』」

 

「でっしょ~! いっとっけど今の私に触れられんのはノワールみたいに異常な再生能力を持ってる奴だけだから! 私の体に触れていいのはノワールだけだしね。てなわけでさ――殺ろ」

 

「『あぁ! 俺達の邪魔をした愚か者に罰を与えようじゃねぇか!』」

 

 

 俺達が見つめる先には既に再生を終えた超獣鬼。横たわっていた体を起こし、俺達を潰すためにその巨大な腕を引き、一気に突き付けてくる……殴る速度は遅い。しかもただ巨大なだけで対して威力があるとは思えないものだ。そんな代物を雄叫びと同時に放ってきやがるが……ふざけてんのか? その程度で俺様を、夜空を、地双龍を倒せると思ってんなら勘違いも良いところだ!

 

 

「『なんだなんだぁ? 獅子王ちゃんの方がパワーも速度もあったぜ? ふざけんなよクソ雑魚が!!』」

 

 

 放たれた拳を()()で止める。俺の目の前にあるのは巨大な壁、触感は人間の肌に近いものだ……俺の手に触れている部分は漏れ出す呪いによって浸食され、朽ちていくが目の前の雑魚は腕を離そうという行動を起こそうとしない。当然だ、逃がさないように影で腕自体を捉えてるんだからな。目の前にある壁のような腕に指を突き刺して瘴気を帯びた影を体内に流し込み、一気に力を奪う。先ほどまで極太だった腕は一気に枯れ果てた木々の様に細くなり、体内を突き進んでいった影によって切り落とされる。

 

 

「ノワールが右かぁ~だったら私はひっだりぃ!」

 

 

 魔を滅する浄化の力を帯びた金色のオーラを放出しながら夜空は反対側の腕へと向かって行く。辺り一面が金色に染まるほどの光力を人間が放っているとしたら恐ろしいが……夜空だしあまり違和感がない。その本人は怒りを発散するように笑いながら超獣鬼に向かって蹴りを放つと足が触れた部分が溶けていくように超獣鬼の腕が消滅していく……先ほど夜空が言った通り、触れられるのは俺達みたいな再生能力を持つ者だけだろう。破魔の霊力よりも雷光よりも格上な浄化の力を簡単に使えるのは仙術の応用かねぇ? どうでも良いけど!

 

 超獣鬼の両腕を奪った俺達は高笑いしながら今度は足を狙う。俺は呪いを帯びた影、夜空は浄化を帯びた光。相反するもの同士が(超獣鬼)を境にぶつかり続ける。再生しようが雑魚を生み出そうが俺達の動作一つで吹き飛び、ドンドン体格が小さくなっていく。周囲を汚染する呪いが巻き散らされれば祝福の光によって浄化され、光が周囲を照らせば影によって黒に染まる。俺と夜空による一方的な蹂躙は長くは続かない……なんせ敵が雑魚だから。

 

 

「『雑魚ちゃん雑魚ちゃん! 豆粒みてぇな奴らに蹂躙される気分はどうよぉ! 最悪だろ?』」

 

「それもこれも全部テメェがさっさと通り過ぎねぇのが悪い」

 

 

 既に頭部のみとなった超獣鬼を見下しながら高笑いをする。この鎧を発動してたった数十秒しか経ってないにも掛からずこの様とはな笑えるな……さっきまでデカかったのが嘘のように小さくなって可哀想だ! でもこれがテメェが選択した結果だから理不尽だとか文句は言わねぇよな? そもそも言えるほどの知能がねぇか。

 

 

「『遊びも終わりだぁ! ゼハハハハハハハハ!!』」

 

「さっさと消えろ。ウザい!!」

 

 

 周囲の土地から力を根こそぎ奪い、呪われた大地へと変化させながら片腕に影を集める。夜空も金色のオーラを輝かせ、周囲を焦土へと変化させながら片腕に光を集める。片や醜悪な呪いを放つ影龍、片や純粋な祝福ともいえる浄化を放つ光龍、それらが互いに並び立ち、手を握り合う。光が影を打ち払い、影が光を侵食する、相反する存在同士を混ぜ合わせるように俺達は繋がれた手に向かって力を流し続ける。夜空の思いが宝玉を通じて俺に流れ込み、俺の思いが宝玉を通じて夜空へと流れていく。楽しい、嬉しい、殺したい、愛している、殺したい殺したい殺したいと自分の欲望を相手に流し込む……至福の時と言うのはきっとこういう事を言うんだろうな! たとえ握っている俺の手が消滅しては再生を繰り返しているとしても俺は離さない。なんせ呪われたら浄化を繰り返している夜空が離さないんだから当然とも言える……何があってもこの小さな手は離さない。世界が夜空の敵になるならば俺は迷わず世界を殺そう。だからもっと笑えよ、心からな。

 

 

「『雑魚が作る聖魔剣なんつうもんがあるならよぉ!』」

 

「私の光とノワールの影。それを合わせる事も可能だよね!」

 

「『光栄に思えよ雑魚ちゃんよぉ! ぶっつけ本番! 地双龍による共同作業によって死ねるんだ! 文句も言わずに黙って受けやがれ!』」

 

「あははははははははは! 次があるか分かんねーからありとあらゆるものに刻み込んで死ね!!」

 

 

 繋がれた手には金色と漆黒が混ざり合ったなにかが集まっている。それを高笑いしながら前方に突き出し、再生すらしなくなった超獣鬼へと放つ……混じり合ったそれは周囲を根こそぎ蹂躙し、汚染し、浄化し、消滅させるのは金色と漆黒が混じり合った極大な砲撃。射線上にいる超獣鬼を飲み込んで光と影、浄化と呪い、相反する属性が衝突し合う渦に巻き込まれ肉の一片、細胞すら残さず存在が消滅した。下手をすると各神話の主神すら簡単に殺せるかもしれない一撃に俺も夜空も互いの顔を見つめて――笑う。腹の底から、心から、目の前で起きた光景を見て面白おかしく笑い続ける。ホント、偶には共闘も悪くねぇな……こうして夜空と一緒に笑えるんだからさ。

 

 

「『夜空』」

 

「どったん?」

 

「『お前の手は小さいな』」

 

「違うし! 逆にアンタの手がデカすぎんの」

 

「『そうかぁ? まぁ、良いか。夜空……今だけはこうしていたい』」

 

「うん? うーん、明日からは元通りになるから……うん、今だけはこうしていよっか」

 

 

 繋がれた手は消滅しては再生、呪われては浄化を繰り返す。でも俺達は離そうとはせずさらに強く握りあう。

 

 

「『夜空、俺はお前を殺したい』」

 

「ノワール、私はアンタを殺したい」

 

「『殺したいほど愛してるぜ』」

 

「殺したいほど愛してるよ」

 

「『でもまだ獲物が残ってるな』」

 

「私らの邪魔をする奴がまだ残ってる……だからさ」

 

「『少し休んだら邪魔なハーデスを殺しに行こうぜ』」

「少し休んだら冥府滅ぼそうっか!」

 

 

 目の前に広がる焦土を眺めながら俺達は笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

「――サーゼクス。超獣鬼が消滅した。肉片すら残ってねぇとよ」

 

「そうか……倒したのは彼らかい?」

 

「あぁ。キマリスと光龍妃の二人だ、たくっ! 周囲の事なんざ考えずにやりたい放題しやがって! まっ、それがあいつ等なんだけどな……俺達の都合も周りの都合も関係無い、ただ自分のやりたいようにやる。ドラゴンらしいよホントな」

 

 

 先ほど冥界にいる部下からの報告を読み、隣にいるサーゼクスに伝える。俺が命名した豪獣鬼と超獣鬼、それぞれが冥界を滅ぼすほどの力を持った怪物は既に半数以上を失い、リーダー格だった超獣鬼も先ほど地双龍によって倒された。全くアイツには頭が上がらねぇぜ……冥界に侵攻したと思ったら妖怪達を纏め上げて次々に倒してくんだもんな。まぁ、それが出来たのはキマリスの異常な精神力と魔帝剣グラムの力が大きいがな。

 

 

「……悪いな」

 

「いきなりどうしたんだい? アザゼル、キミが謝罪するとは珍しい」

 

「俺だって自分の蒔いた種でこんな事になって反省してんだぜ? キマリスが居なかったら冥界の被害は今以上のものだっただろう……なんせ今分かっている被害の大半は最強最悪の影龍王様による攻撃の余波だもんな。サーゼクス、アイツはもう上級悪魔なんつう肩書で収まるような存在じゃねぇぞ?」

 

「だろうね。この件が片付き次第、魔王として彼に最上級悪魔の地位を与えようと思う。ただ、彼が望むとは到底思えないけどね」

 

「だな。きっとうわーうっぜー好感度上げに来やがったよこのシスコンとか普通に思うだろうが……無理にでも通しやがれ。光龍妃のおかげでお前さん達もやりやすくなっただろ?」

 

「嬉しい事にね。彼女の存在によって古い考えを持つ者達が声を上げる事が少なくなっている。大王派がその筆頭に近いね……彼女自身はやりたいからやっているだけと思っているだろうけどね」

 

 

 そりゃそうだ。キマリスの言葉を借りるなら好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に死んでいくか? 相思相愛でなによりだ。その被害を被るのは俺達だけどな! 悪魔だろうが妖怪だろうが魔王だろうが神だろうが関係ない……ただ自分が楽しかったらそれで良いと本気で考えてるのがあいつ等だ。だが俺もサーゼクスには賛成だ、アイツは既に上級悪魔という枠を……いや若手悪魔として収まるような存在じゃねぇ。

 

 キマリスの父、キマリス家現当主と話したことがあるが親から見てもアイツ(ノワール)は異常らしい。もっとも嫌悪感とかは一切無いみたいだけどな……自慢の息子だって言ってたが良い親父さんじゃねぇの。恐らくだが将来はサーゼクス、アジュカ、そしてアイツと同じく超越者と呼ばれる存在になるだろう……これに関しちゃヴァーリも同じだけどな。そもそも今代の二天龍と地双龍は歴代と比べて異常な面々が揃ってやがる! 神器研究家としちゃ嬉しい限りだけどな。

 

 俺とサーゼクスは今後の冥界をどうするかなんて話をしながらとある場所へと入っていく。俺達が今居る場所は冥府、ギリシャ神話の三柱神の一角、ハーデスが支配する領域だ。異空間から戻ってきた俺はすぐにサーゼクスに洗いざらい全て話した……オーフィス来訪からイッセーの死亡もだ。もっともイッセーに関しちゃアジュカが龍門で転移してきた駒を調べて魂は消滅していないと判明してるし何よりも先ほど、グレートレッドに乗って冥界に帰還してきたらしいからな! もはや万事解決も良いところだぜ! 隣を歩くサーゼクスはこの場所に来る前、俺が隠していた話を聞いて表情は変えたが何も言わずにこの場に一緒に来いと言ってきたのには驚いた……リアス達がイッセーの死で戦えなくなっても魔王として裏で手を引いた奴を抑える行動を起こしやがったのはコイツ自身がイッセーの生存を強く信じていたからだろう。

 

 

《ファファファファファ、貴殿らをこの場所へ呼んだ覚えは無いのだがな》

 

 

 冥府、その中でも一番豪華な建物の中を進んでいくと目的の人物――いや神が待ち構えていた。司祭服にミトラといういで立ちの骸骨神、ハーデスが死神を傍に並べている。その中には俺が異空間で戦ったプルートもいやがる……ちっ! 相変わらず不気味な連中だぜ。

 

 

「突然の来訪、誠に申し訳ない。冥界の魔王の一人、サーゼクス・ルシファーです。この度はハーデスさま、貴方にお話がありましたのでこの場の出向いた次第です」

 

《なるほどな。コウモリとカラスの首領がこの場に来たか、ファファファ、これは面白い余興だ》

 

 

 何が余興だクソ野郎……! 本来なら狗神を連れてきたかったが俺にも考えがあったからこうして俺達二人で冥府入りしたんだが……自分は悪くないとでも思ってんのかこの骸骨神さまはよ! ミカエルじゃねぇが天罰でも当たれってんだ!

 

 

《それで何用だ?》

 

「えぇ。冥界、グラシャラボラス領にて我が妹とその眷属達が死神の襲撃を受けたと報告がありまして。それに冥府の奥底で封じられているサマエルを英雄派が使用していたとも。どういう理由があってそのような事をされたのか確認させてもらいたい」

 

《なるほどの。理由としてならばかのオーフィスと密談をしていると情報があってな、和平を強く主張するアザゼル殿がそのような裏切り行為をするとは思えなくてなぁ。死神達に命じて調査していただけのこと。聞けば冥界には好き放題に暴れ回る影龍王がいるからな、もし仮にテロリストと結託でもしたら恐ろしい事になるだろう? ファファファ、故にいざという時のためにサマエルの封印を弱めておったがどうやらテロリスト共に奪われてしまってなぁ。なに、今は取り返しておるから安心しろ》

 

 

 適当な理由だな……! そんなもんで納得するとでも思ってんのか! だがここで勢力を率いるトップの俺達が何かをすればハーデスの思惑通りになっちまう……! ちっ、くえねぇ骸骨だ。

 

 

「なるほど……影龍王とオーフィスが結託するのを恐れていたわけですね」

 

《私とて死にたくはないからな。警戒は必要だろう》

 

「しかしサマエルの封印を弱めるのはいささかやり過ぎでは? あれの封印は厳重にすると各勢力で決められていたはずでは?」

 

《何度も言わせるな。警戒のためだ、多少の無理は必要だろう》

 

 

 ちっ! 分かっちゃいたがこの骸骨神さまは話し合う気はゼロだ! 警戒だなんだと言っておけば済むとでも思ってんのか? あんなのを外に出しやがったら世界が滅ぶってのによ……!

 

 内心でハーデスに対する怒りで頭が沸騰しそうになった俺だったが建物の外から鳴り響いた轟音で一気に怒りが静まった。くくく! きたきたきた!! 俺の予想通りに動いてくれたな!! だからこそ狗神を連れてこなかったんだよ……! この場に居たら絶対にハーデスを無視しやがるからな!!

 

 先ほど俺達が通ってきた通路からさらに轟音が響き渡る。何かを殴っている音だ……その正体を俺は知っている! むしろ知らない奴が居たら教えてやりたいぐらいだぜ!!

 

 

「――ノックしてもしも~し! あっそびにきたぜ? てか夜空……お前の回復能力って凄すぎねぇか? 漆黒の鎧を使ったのに体がすっげぇ軽いんだけど?」

 

「――ん? だって生命力が回復してんだしとーぜんじゃんってあぁー! いたー!! やっと見っけたぁ! ほらノワール! 骸骨いんぜ骸骨! キモ」

 

「うわぁ、なんで骸骨のくせに司祭服着てんだよ? 隠す部位ねぇだろ……つーかお前があっちやらこっちやらって言ったから迷ってたんだろうが? まぁ、死神ぶっ殺せたから文句は言わねぇけどよ」

 

「じゃあ良いじゃん」

 

「それとこれとは話が別だろ? てかさぁ、なんでいんの?」

 

 

 先ほどの轟音を起こしていたであろう元凶達は俺とサーゼクスを見て何故この場に居るんだという疑問を持ったらしい。その疑問はきっとこの冥府を支配するハーデスが思ってる事だろうな! というよりもお二人さん? なんで仲良く手を握って登場してんだ!? まさかまさかの地双龍同士のカップル誕生か! おいおい勘弁してくれよ……ただでさえ俺達が色々と苦労してるってのにさらに大変になるとか俺は嫌だぞ! もっとも総督を辞任するつもりだから関係ないけどな! シャムハザも俺がどれだけ苦労してたか分かるだろう……!

 

 

《……これは貴殿らの差し金か?》

 

「さて、それは私にも分かりませんね。今代の地双龍の動きは読めませんから」

 

《……ッッ!》

 

 

 サーゼクスの野郎……仕返しのつもりか! ハーデスの奴も外の状況を知ったのかかなり怒りを露わにしてるらしい。と言うよりも外で何をしてきやがった?

 

 

「仕方ねぇ。俺が代わりに聞いておいてやるよ。キマリス、光龍妃。一応聞くが何しに来た?」

 

「え? ハーデスをぶっ殺しに来たんだけど?」

 

「ついでに冥府を滅ぼしに来たけどさ~文句ある?」

 

「ん~少しは隠す努力はしような。何事もハッキリ言うのは先生は感心しません!」

 

「マジで? あーじゃあさ! 日帰り旅行しに来たって事にしといて」

 

「え~? 何日か滞在しようぜ? どーせすぐには終わんねーんだしさ」

 

「それもそうか。あっ、初めましてー影龍王のノワール・キマリスって言いまーす。いやー先日はうちの身内の身内がお世話になりましたー! 何してくれてんだよクソ骸骨。なーにうちにホームステイしてるお姫様の身内に手を出してんだ? そのせいでヒーローごっこする羽目になっただろうが! どうしてくれんだよ」

 

「ついでにさー! なにサマエル使っちゃってんの? 赤龍帝が死んだんだけど。折角さ、成長してきて楽しくなるって思ってたのに一気に台無しにされた私に謝れよ。許さねぇけど。ついでに赤龍帝は死んでねぇけどさ、兎に角、謝ってくんない? 土下座しろよキモ骸骨」

 

 

 一応お前ら二人の目の前にいる骸骨は冥府の神様なんだけどなぁ……確かにキマリスと光龍妃の性格ならハーデスが絡んでると分かれば此処に来るとは思った。だがまさかあそこまでキレてるとは思わねぇっての! 纏ってる鎧から神々しい気やら醜悪な呪いが漏れ出てるぞ? 良いぞもっとやれ! 俺が許す!

 

 まぁ、冗談は置いておいてだ。気になるのは光龍妃を見るハーデスが何かを察したような様子を見せてる事だ。なんだ? ハーデスしか知らない事でもあるってのか……?

 

 

《ファファファ、威勢が良い龍共だ。これはコウモリによる襲撃と判断してもよいな?》

 

「先に襲ってきたのはそっちなんですけどー? ついでに此処に来た瞬間に襲われたから応戦しただけなんですけどー?」

 

《それならば先にオーフィスと密談をしようとしていたのはそちらであろう?》

 

「ドラゴンがドラゴンに会いに来てなんか文句あんのかよ? テメェ何様だよ。まさか会いに行くのにテメェの許可が必要ってか? うわーこの骸骨自己中すぎんだろ。世界は自分で回ってるって本気で思ってんのか? 死んだ方が良いぞマジで」

 

「前々から胡散臭いとかキモイとか思ってたけどここまで来ると本気で邪魔。ノワール! 共闘二回戦目始めよっか!!」

 

「よっしゃ! 喜んで――と言いたいんだけどさ。なんかこのまんまだと襲撃した感じがして面倒な事になりそうだ。それに魔王様もやめろとか言いたそうな目をしてますしー! だからさ夜空ちゃん?」

 

「うん? なにさ?」

 

「――俺の盾が上か、お前の矛が上か。この場で決めようぜ」

 

「――大賛成!」

 

 

 ……なるほどな。キマリスは基本馬鹿だが悪知恵が働く。先ほどの態度もハーデスを怒らせて先に攻撃させようとか思ってたんだろう……だが態度を変えずに動く気配がないからやり方を変える事にしたって感じだな。まっ、キマリスの考えなんざ読めねぇけどな……単に面倒だったとかもありそうだがまさかその手で来るとはな思わなかったぜ。確かに()()ならば俺もサーゼクスもミカエルも関係無いと言い張れる! 良いぞやれやれ! 思う存分イチャつきやがれってんだ!

 

 

《魔王サーゼクス、貴殿の配下の者ならば止めるのが筋であろう?》

 

「ハーデスさま。お言葉ですが――止める理由がどこにありますか?」

 

《――なに?》

 

「確かに先ほどのハーデスさまに対する物言いに関しては魔王として謝罪しましょう。しかし戦いを止める理由などあるはずがない。何故なら地双龍は戦う運命にある。それが()()この場所であっただけのこと……もし私達が邪魔をすればドラゴンの逆鱗に触れてしまう恐れがあります。私達が暮らす冥界にこれ以上の被害を出したくはありませんからね。止めたいのであればハーデスさまご自身でお願いしたい」

 

《……若造風情が良く言うな》

 

 

 さっきの仕返しだ馬鹿野郎! 俺達は過去の大戦でドラゴンの逆鱗を嫌と言うほど味わってるからこそ関わらないという選択肢を使えるがハーデスは別だ。このまま行けば冥府は崩壊、死神達も無事じゃすまないだろう……下手をするとハーデス自身もな。もっとも冥府の神であるハーデスが死ぬとは思えねぇが。

 

 

《プルート》

 

《かしこまりました。地双龍と戦えるとは……長生きはしてみるものです。では申し訳ないがハーデスさまの命令により、このプルートが――》

 

 

 そこから先の言葉は聞こえなかった。何故なら体の半分は光龍妃の光で吹き飛ばされ、もう半分はキマリスの影人形のラッシュで潰されたからだ。おいおい……最上級死神を一発で殺すか! どこまで強くなれば気が済むんだお前達は!

 

 

「邪魔すんじゃねぇよ格下風情が」

 

「私とノワールの戦いの邪魔すんな」

 

「お前らも邪魔するか!」

 

「それならこっちも容赦しねぇよ!」

 

「ゼハハハハハハハハハ!!」

「あははははははははは!!」

 

 

 ハーデス。お前はミスをした。それはリアスやイッセー達に手を出したこと……どうせ嫌がらせ程度に考えてたんだろうが冥界には自分の思うまま、好き勝手に生きるドラゴンがいるんだよ。だからよ、一回痛い目にあってみろ……俺達はこの場でゆっくりと観戦させてもらうからよ。




耀龍女王の金色鎧・覇龍昇華《ティファレト・ジャガーノート・グロリアス・クィーン》
片霧夜空が編み出した覇龍の強化形態。
形状は光り輝くマントをなびかせ、各所に宝玉が埋め込まれている美しいと表現できる金色の龍を模した全身鎧。
発動する際には歴代所有者の声が宝玉から鳴り響くが禍々しく無く、純粋な夜空自身の思いを尊重させるものや楽しさを現しているものになっているのが特徴。
イメージ元はデュークモン。

地双龍の新婚?旅行in冥府開催。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78話

「夜空ぁぁっ!!」

 

「ノワールゥゥッ!!」

 

 

 黒い影と山吹色の光が衝突し合う。

 

 冥界の下層に位置する冥府、生物すら生息できないほどの死の世界を俺と夜空はお構いなしに光と影で染め上げる。既に先ほどまで居た豪華な神殿は骸骨様が座っている玉座以外、俺達の攻防によって吹き飛んでいる……流石骸骨と言っても冥府の神様だ! 障壁を張って防ぎきるとかやるじゃねぇの! まっ、防ごうが巻き込まれて死のうが俺達はどうでも良いけどな。今は夜空とイチャイチャするので忙しいし! てか相変わらずの破壊力で恐れ入るよマジで! 何度再生しても吹き飛ばされて、何度生み出しても消滅させられて、何度攻撃を叩き込んでも回復されて振り出しに戻りやがる……だけど楽しい! あぁ、楽しい!!

 

 

『ゼハハハハハハ! さっきは邪魔が入ったが此処なら問題ねぇ! 思う存分破壊しようじゃねぇか宿主様ぁ!!』

 

「あぁ! 夜空との殺し合いついでに破壊しまくるぜ相棒!!」

 

 

 背中に生やしている影の翼を広げ、影の海を冥府全てに流す。建物も、俺達の遊びを邪魔しようとする死神共も、骸骨様も、魔王やアザゼルすら飲み込もうとする大量の影を生み出す。そしてそれを媒体に影人形を生み出して周囲全てに襲い掛かるように命令すると隠れている死神、趣味が悪い大鎌を握りしめて俺達へ向かって来ようとする死神、冥府から逃げようとしている死神、とりあえずその辺にいる死神を根こそぎ捕まえて力を根こそぎ奪いながらラッシュを放って殺害。邪魔なんだよテメェら……! あとうちの身内の身内(フェニックスの双子姫)に手を出したことをまだ根に持ってんだ! その報いを受けやがれってんだ!!

 

 上空に視線を向けると嬉しそうな声を上げている夜空が見える。自身に群がってくる虫を払う様に周囲に自分と同じ姿をした光人形を生み出して俺が使役する影人形にぶつけてくる。たった一瞬で無数に近い数が生み出され、それぞれが異常な光力が凝縮された存在だ! そんなもんと影人形がぶつかればどうなるかなんて簡単に予想できる。光人形の突進と影人形のラッシュタイムがぶつかり合うたびに周囲に衝撃が響き渡る……ちっ! やっぱりこれだけ大量に生み出すと防御力が低下してんのかってぐらい簡単に吹き飛ばされる! いや、違うな……! 夜空が生み出す光人形のパワーがデカすぎんのか!? もっともどっちでも良いけどな! 俺の実力不足ってのには変わりねぇんだしよ! ゼハハハハハハ! やっぱり最高だぜ夜空! さっさと俺の女王になりやがれってんだ!

 

 

「むっかつくぅ!! どんだけ硬いのさぁ!!」

 

「当たり前だろうが!! お前を受け入れるためにここまで防御力上げてんだからよ! その程度じゃまだまだ突破は出来ねぇぞ夜空ちゃん!!」

 

「あははははははは! うん! そうだよね……受け入れてくれんだもんね! だったらもっともっともーっと!! 私を受け入れてよノワール!!」

 

「……あぁ! ドンドンきやがれ! 受け止めてやる! たとえ世界が敵になっても俺はお前の味方で居続けてやる! お前は一人じゃねぇから安心しやがれぇっ!」

 

 

 山吹色の流星となった夜空が俺へと向かってくる。鎧で顔は隠れているが恐らく……いや絶対に笑っているだろう。心の底から、普通の女の子らしく笑ってるはずだ! もし違ったら……まだまだ俺の思いが届いてないって証拠か……頑張りがいがあるぜ!

 

 

「ノワールゥッ!!」

 

「夜空ァッ!!」

 

 

 俺の拳と夜空の拳がぶつかり合い、周囲が衝撃によって吹き飛んでいく。相棒の影、北欧の防御魔術で底上げされてる防御力でさえ突破され、俺の片腕が夜空が纏う光によって消滅する……がそれは夜空も同じだ。殴った腕が曲がってはいけない方向に折れている。もっとも俺達にとってはいつもの光景だ。俺が腕を再生すれば夜空は腕を回復、お返しとばかりに互いを殴り合う。

 

 

「ノワール! なんで私を受け入れてくれんのさ!? こんな異常な私をなんでさ!! 聞かせてよノワール!!」

 

「んなもんお前に惚れてるからに決まってんだろうが!! お前に救われたあの日からずっとな! それにな! お前が異常だろうが何だろうが俺には関係ねぇんだよ!! そんなもんで嫌いになるわけねぇだろ!」

 

「おかしいよホント!! そんなこと言われたら……もっと好きになっちゃうじゃん!!」

 

「それの何がダメなんだよ! もっと俺を好きになれ! お前が過去に何があったとしても俺は気にしねぇしなんだって受け止めてやる!! だってお前はお前だろうが! 異常!? 規格外!? 俺にとっちゃお前は普通の女だ! どこにでもいる普通の女なんだよ! だから……だからもっと楽しめよ! 心の底から笑えって!! そして何度も言ってやる! 愛してるぜ夜空!!」

 

「馬鹿! バカバカバカぁ! こんなやり取りしても明日からは元通りじゃん! 共闘は今だけって言ったじゃん! マジになってんじゃねぇよ馬鹿ぁ!!」

 

「馬鹿って言うんじゃねぇよバーカ! そもそも俺は最初っからマジだ! 今日だけの俺達の共闘は……滅茶苦茶楽しかった! それが明日から元通りになっちまうならよ! なおさら今言わなきゃダメだろ悪魔的に!!」

 

 

 夜空の拳が俺の身体を貫き、俺の拳が夜空の顔を潰す。光が俺の上半身を吹き飛ばし、影が夜空の全身を殴り飛ばす。毎度お馴染みとなった俺を呼ぶ変な声に負けずに再生し前を見ると時間が巻き戻ったかのように五体満足完全回復状態の夜空が笑っていた……あぁ、それだ、それが見たかった!

 

 

「死ねぇ!」

 

「死んじゃえっ!」

 

 

 黒の軌跡と光の流星が再度、正面からぶつかる。腕が消滅や折れてもなお再生と回復を繰り返してノーガードで殴り合う。なんでこんなことを言ってるかなんて決まってんだろ……口から勝手に出たんだよ! 俺だってなんで言ってるか分かるわけねぇだろ! でもここまで来たら全部言ってやらぁ! 童貞舐めんな! 片思い舐めんな! お前に対する思いがどれだけ溜まってると思ってんだよ! あとついでにさ! どうせ俺が夜空に勝ったら今と同じような事を言うんだし今言っても同じだろ! タブンネ!

 

 夜空の拳が俺の顔面を捉える……口内が切れたり鼻が折れて血が出るが関係ない。お返しに夜空の顔面を殴ると同じように鼻が折れて血が出始める。でもやめない……骨が折れようが消滅しようがお構いなしに俺達は殴り合う。光が悪魔の俺を焦がし、影が人間の夜空を傷つける。互いに笑いながら何度も、何度も、何度も馬鹿の一つ覚えのように殴り合う。

 

 

「ノワールが私より強いのが気に入らない!!」

 

「お前が俺より強いのが気に入らねぇ!!」

 

「アンタを護るのは私なんだっていい加減気づきやがれぇ!!」

 

「テメェを護るのは俺だってことに気づけよ馬鹿野郎!!」

 

「それこそばっかじゃねぇの! 私の方が攻撃力あるんだからアンタの敵を葬れんじゃん!!」

 

「それだったら俺の方が防御力あるんだからお前を護るのに適してんだろうが!!」

 

「バーカバーカ!! 鬼程度に突破される防御力で私を護れるわけねーじゃん!!」

 

「だから馬鹿って言うんじゃねぇよバーカ! 俺程度を殺せねぇ攻撃力で敵を葬れるわけねぇーだろ!!」

 

 

 夜空の真上を取り、そのまま拳を叩き込んで地上へと落とす。そのままマウントを取って殴ろうとすると極大の光が放たれて俺の体が吹き飛ばされる。再生する瞬間を狙われて地面に倒されて逆にマウントを取られる……笑いながら凝縮された光を纏った拳を叩き込まれるがタダで殺されるつもりはねぇ……! 地面に爪を立て、一気に握ってそれを夜空にぶつける。殴り合いによって顔を覆う兜は無くなっているせいで目に砂や小石が入り、一瞬だけ拳の雨が止まる……その隙を狙って手を伸ばし、夜空の髪を掴んで頭突き。あまりの石頭っぷりに俺にもダメージが入ったが関係ない! ゼハハハハハハハハハハ! 楽しい楽しい楽しい!

 

 

「いったいなぁもう!! 女の子に頭突きかましてんじゃねぇよ!」

 

「女の子って言われたかったらマウント取るんじゃねぇよ! お前の腕力で殴られたらイテェだろうが!」

 

「はぁ!? 女の子はマウント取る生き物でしょーが!!」

 

「全世界の女の子に謝れ! そんなことするのはお前ぐらいだ!」

 

 

 頭突きを放った後、距離を取る。そのままお互いに向かい合い、既に数える事すら面倒になった再生と回復を行う。砂による目つぶしももう意味は無いだろう……そもそも夜空相手にそんな手が何度も通じるとは思えねぇしな。ホント、強い。底が見えねぇってのがかなり怖い……! まだまだ強くなるだろうしもっと可愛くなるだろう。あぁ、最高だ! これが俺のライバルなんだから俺は影龍王で本当に良かった! でもまだだ……まだ足りない。夜空を受け止めるにはまだ弱すぎるんだ……! もっと強く、もっと硬く、もっともっともっと! 夜空を好きにならなきゃダメなんだ!

 

 

「あぁ、クソ……気に入らねぇ!」

 

「ほんっとに気に入らない……!」

 

「お前を護るのは俺だ!」

 

「アンタを護るのは私!」

 

「なんで邪魔しやがる!?」

 

「なんで邪魔すんのさ!?」

 

「お前は黙って俺に護られてろ!!」

 

「ノワールこそ黙って私に護られてればいいじゃん!!」

 

 

 怒りを含んだ口調で呟く。俺はお前を受け止めたい……護りたい。だというのに目の前の女は俺より強くなろうとしやがる……気に入らねぇ。なんで俺が惚れた女に護られないといけねぇんだよ……! そう思うのは目の前の夜空も同じだろう。互いに護りたいけどどっちも譲らつもりはないから殺し合う……あぁ、他人からどっちでも良いだろって言われそうなくっだらない理由なんだろうが残念な事に俺達は本気なんだ。本気でどっちが護るかを決めるために殺し合う。まぁ、好きだからとか愛しているからだとかストレス発散だとか結構色んな理由もあるが半分以上はきっとこの理由だろう。そういえば昔のことだが冷蔵庫に残ったプリンをどっちが食うかやら昼飯何食うかやらで殺し合ったこともあったなぁ……それに比べればこの理由はマシな方だろう。

 

 既に周囲は俺の影と夜空の光で崩壊状態、冥府に住む死神も俺達の手によって殆ど殺されて残ってるのは運良く冥府から離れていた奴らと逃げきれた奴らぐらいか? まぁ、数えるぐらいしか残ってねぇとは思うけどね。なんせレイチェルを怖がらせたんだ……邪龍の身内に手を出して無事で済むとは思わねぇよな? つまりは自業自得って事で納得してくれよクソ骸骨様。もっとも今はどうでも良いけどな。マジでどうでも良い……!

 

 

「何が気に入らねぇんだよ!」

 

「そっちこそ何が気に入らないのさ!」

 

「俺はお前に護られたくねぇんだよ!」

 

「私だってアンタに護られたくないんだって!」

 

「俺が護ってやるって言ってんだろうが!!」

 

「私が護ってやるって言ってんじゃん!!」

 

「こんの……! 俺はお前が好きなんだよ!!」

 

「私だってアンタが大好きなんだって!!」

 

「だったら譲れよ! カッコつけさせろ!」

 

「そっちこそ譲ってよ! 私を頼ってくれても良いじゃん!!」

 

 

 俺は怨念すら飲み込むほどの呪いを、夜空は邪悪すら浄化するほどの気を鎧から放つ。冥府の地上が俺達によって汚染され、浄化され、死すら生ぬるいほどの何かを放つ地へと変えられていく。やっぱりダメだな……何を言っても目の前の女は聞きやしねぇ! 殺さねぇと理解しねぇんだったら殺してやる……! そして分からせてやる! 俺がどれだけお前に惚れてるか! どれだけ護りたいと思ってるかを!

 

 

《――そこまでにしておけ、邪龍共よ》

 

 

 俺と夜空の間に舞い降りてきたのは司祭服を着た骸骨。その声には怒気を含んでおり、イライラしているのが子供でも分かるぐらいだ……何キレてんだよ? たかがテメェの部下を殺した程度だろうが。そもそも最初にちょっかい掛けてきたのはそっちなんだから文句を言う資格ねぇぞ?

 

 

《バケモノ共め。この冥府をこれほど荒らして何がしたい? コウモリとカラスの首領と共に聞いていればどちらが護るか決めるためだけにこの冥府を荒らしたというのか? 下らん。そのような事を言い合いたいのであればこの場から出ていくが良い。我が冥府は遊び場ではない》

 

「はぁ? 勝手に乱入してくんじゃねぇよ。取り込み中だってのが見えねぇのか?」

 

「今大事な話してんだけど? そーいえばさっきも邪魔しようとしてたよね……そんなに死にたいの?」

 

《ファファファ、殺せるものならば殺してみろ。邪龍如きに冥府の神である私が殺せるとは思えんが――》

 

 

 骸骨様が言葉を言い終える前に俺は魔力を放出して一気に接近、胴体に拳を叩き込む。勿論、夜空も冷徹な視線で光を生み出して骸骨様の半身を吹き飛ばす……普通であればさっきのプル、プルーなんとかって奴のように即死するだろう。しかし目の前にいる骸骨様は違った……吹き飛ばされた部分から霧のような何かが集まりだして再生し始めた。しかもファファファと笑いながら体から漏れ出した霧を俺の腕に纏わせると――骨になった。籠手の部分が溶け、肉があった腕が一瞬で骨にされた……流石冥府の神、やることがえげつねぇな!

 

 即座に距離を取り、骨になった腕を再生させて元に戻す。なるほど、冥府の神をやってるだけはあるな……俺、いや相棒と同じ不死ってわけかよ。

 

 

《話は最後まで聞くものだ馬鹿者め。授業料として貴様の生命力を頂いたぞ。この私が鎌を使わねば奪い取れぬと思ったか、無知とは恐ろしい。私は神、この冥府を治める存在だ。この世界も私の一部、死を司る神がこの場で死ぬわけが無かろう》

 

「……つまり冥府にいるテメェは死なねぇって言いたいのかよ?」

 

《どうとでも思うが良い》

 

 

 骸骨様と話をしていると横から光が飛んできて俺を癒す。多分、奪われた生命力を元に戻してくれたんだろう……だってダメージ一つ無いし体が滅茶苦茶軽くなったしな。しかし冥府にいる間は無敵とかふざけてんじゃねぇの? でもまぁ、冥府を治める神が簡単に死んだらそれはそれで問題か。なんせこの冥府自体が人間界にとって必要不可欠な場所の一つ……そこを支配している奴が弱かったら他勢力から攻められる恐れがある。まっ、死なねぇなら死ぬまで殺すだけだがな。

 

 

「あんがとよ」

 

「どういたしまして。でもノワールと同じく死なないってめんどくさい」

 

「だな。不死身の恐ろしさは俺が一番良く知ってるしよ……ビビったか?」

 

「この私がビビると思う?」

 

「全然。むしろ逆に喜んでるだろ?」

 

「大正解! あはははははははは! 冥府の神様が死ぬところが見れるなんてすっげぇラッキーじゃん! ノワール、神殺しでもしよっか!」

 

「……だな。俺達の邪魔をしたんだ、それ相応の報いを受けてもらわねぇと困るしな」

 

 

 骸骨様と殺し合う事になってもやることは変わらねぇ……俺が防いで夜空が攻撃、それが地双龍の戦い方だ。そもそもさっきの感じだと俺以外が奴に殴りかかれそうにない。仮の夜空が接近戦を仕掛けた場合、生命力を奪われて骨にされちまう……不死身な俺だからこそ近づける!

 

 影と光を放出する俺達を見て骸骨様は不敵に笑いだす。まるで俺達に興味無いと言わんばかりの声を出す。

 

 

《血気盛んでなによりだ、邪龍共よ。これ以上、私が支配するこの世界を荒らされたくはない。取引をしようではないか》

 

「――あ?」

 

「とりひきー?」

 

《そうだ。そこの娘すら知らぬ真実、それを教えてやろう。それを対価としてこの場を去るが良い》

 

 

 夜空すら知らない真実だと……? まさかこのコイツは夜空が異常な理由を知ってるってのか? 隣を見ると先ほどまで高密度に放出していた光を鎮めた夜空が何かを言いたそうな様子で骸骨様を見ていた。俺は俺と出会う前の夜空の事は殆ど知らない。知ってる事なんて生まれながらに禁手に至ってたとかホームレスになってたとかそんな感じだ……夜空自身も自分の事を話したがらねぇしな。俺としても昔に何があったとか両親は今どうしてる思った事はあるが殆どどうでも良い、だって夜空は夜空だしな。言いたくないなら聞かないし話したいなら聞いてやる。ただそれだけで済む……というのに目の前の骸骨様は何を言い出す気だ? 夜空すら知らない秘密だぁ? いい加減にしろよ。知らなくて当然だろうが! どんだけ夜空が自分の体質で悩んで……悩んでるよな? 多分悩んでるってのに教えてやるから帰れ? うーん、殺すか。

 

 

「夜空」

 

「なにさ」

 

「どうする?」

 

「……ノワール」

 

「あん?」

 

「アンタはさ、私が何なのか知りたい?」

 

「どーでも良い。だってお前はお前だろ? 過去に何があろうと、お前が何だろうと関係ない。ただちょっとだけ身体能力が凄い一人の女だろうが。そんなもんは世界中探せばいくらでもいるっての……まぁ、お前が聞きたいって言うなら聞いても良いぞ」

 

「……やっぱさ、アンタって馬鹿でしょ」

 

「誰がバカだ、紳士と呼べ」

 

「呼ぶわけねーじゃん。でも……そうだよね、どーでも良いよね! やっぱりノワールで良かった! んなわけでさー! 言わなくて良いよぉ? 今更秘密を教えてあげまーすとか言われても私はどーでも良いし! ノワールと話して、楽しんで、殺し合って、そして死ねれば満足だしさ。それにね――」

 

 

 周囲を焦がすほどの光を放出しながら夜空は一歩、また一歩と前に出る。

 

 

「自分が何なのかは自分で決めるって親殺した時から決めてんの。だから邪魔。ウザいから消えろ」

 

《ファファファ、二度と無いチャンスだぞ? それでも構わんと言うのか》

 

「何度も言わせんな。私は私、ただの普通の女の子な光龍妃で十分。自分が異常だって事は私が一番知ってるし! んなもんを気にしてる時間があるなら楽しいことした方が一番良い! どーせ数十年したら寿命で死ぬんだしさ、今を楽しんでなんか文句ある? ノワール!」

 

「ん?」

 

「私は人間だよ、ただの人間から生まれた女。その親からは気色悪いってだけで捨てられたからさ、生きてくためにそいつら殺した。ただそんだけ! どうどう? 驚いた?」

 

「……あー、悪いがちょっとだけ予想してたからあんまり驚かねぇな。何年一緒に殺し合ってると思う? 今更、自分の親を殺してましたとかで驚くわけねぇだろ! だって他人の親だしお前を理解しようとしない奴なら死んで当然だろ。あっ! でも俺の母さんに手を出したらマジでキレるからな? そこだけは言っておくぞ!」

 

「んなのさー! 言われなくたって知ってるっての! つーわけでぇ! 取引しないから邪魔しないでくんない? まださぁ! ノワールの盾と私の矛、どっちが上か決めてないんだし!」

 

「悪いな骸骨様。取引したいなら違う奴とやってくれ。俺達は俺達がしたい事をして楽しみたいだけだ。そこに対価だのなんだのって邪魔すんなら……殺すぞ」

 

《……ッッ!》

 

 

 あれあれぇ? まさかその程度で俺達が従うと思ったぁ? 残念でしたぁ! 無理に決まってんだろ。過去が何であれ、今を楽しんでる俺達には関係ないんだよ。まぁ、気にならないのかって言われたら微妙だが夜空と殺し合いが優先だし今はどうでも良い。うん! どーでも良いな! 夜空が気になるって言うなら聞いてやらない事も無いが本人がどうでも良いって言うなら俺もどうでも良い!

 

 

「残念だったな、骸骨ジジイ。何を知ってるか知らねぇがそんなもんで今代の地双龍が止まるわけねぇっての。なんせ三大勢力ですらコイツらを完全に御しきれねぇんだ、光龍妃の秘密程度でお前に従うわけねぇんだよ」

 

「ハーデスさま。まさかとは思いますがこの場にサマエルを呼び出すつもりではないでしょうね? 影龍王を恐れているとはいえ、それは魔王として見過ごせません。各勢力の代表として貴方を止めましょう」

 

《コウモリ……カラス……! この屈辱はいずれ返させてもらおう》

 

 

 かなりの怒気を含んだ口調で俺達にその言葉を言い放ったハーデスは姿を消した。ゼハハハハハ! ざまぁ! マジざまぁ! さてと……邪魔が入ったが続きでもしようか! 此処でやめるなんて言わねぇよな夜空ちゃんよぉ!!

 

 

「……くくく、ふははははははは! あの骸骨ジジイのあの顔! あの声! 見たかよサーゼクス! 調子乗ってた冥府神様がはるか年下のカップルに負けたぜ! こりゃあ良いもんが見れた!」

 

「ふふふ、そうだね。少し物足りないが良しとしよう……しかし冥府のダメージは計り知れないな」

 

「あぁ。死神共の殆どは死に、プルートすら殺されてこの惨状だ。ハーデスが生きている限り死神は生まれ続けると言ってもしばらくは……いや数年以上は大人しくせざるを得ないだろう。よくやったキマリス、光龍妃。イチャつきはその辺にして帰るぞ。どうやら冥界の方も落ち着いたらしい……英雄派の幹部勢も倒された。リーダーの曹操の姿は無いがそれでも十分すぎる……ん? おいおい、なんでそんなに影と光を放出してんだ? まさかとは思うが……まだしたりないってか!?」

 

「うん」

 

「あったりまえじゃん」

 

「だって俺の盾が上か」

 

「私の矛が上か」

 

「「決まってないもん!」」

 

 

 アザゼルの唖然とした表情を無視して夜空と向かい合う。邪魔が入ったがこれだけは決めねぇと気が済まない! だから付き合ってくれよ……言っておくが加減はしねぇしする気はねぇぞ!!

 

 

「我、目覚めるは――万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて――」

 

「我、目覚めるは――八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて――」

 

「……全く、お似合いのカップルだよお前らは。どうするサーゼクス?」

 

「見届けよう。それが私達の仕事だ」

 

「独り身には厳しい仕事だぜ……たくよ」

 

「――汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」

 

「――汝を金色の夢想と運命の舞台へと誘おう!!」

 

 

 さぁ、もっと楽しもうか!

 

 

 

 

 

 

「ゲオルグは倒され、レオナルド再起不能。助けようにも帝釈天が身柄を拘束か……この時を狙っていたと考えても良いな」

 

 

 学ラン服に漢服のいで立ちの男は槍を手に、静かに呟いた。傍に近づいてくる銀髪碧眼の男を警戒してか槍を手に彼を見る。

 

 

「そう思わないかい、ヴァーリ」

 

「フフっ、そうかもしれないな。曹操」

 

 

 英雄派を率いる者、曹操と現白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが人知れずに向かい合う。その場に舞うのは殺気の嵐。互いに敵として認識しているからこそ行われるやり取りだが男たちは静かに笑い合う。

 

 

「全く、ドラゴンに手を出すとこうなるとは思わなかった。ヘラクレスはヴリトラの呪いで死に、ジャンヌは戦意を取り戻したグレモリー眷属に敗北、ゲオルグは停止世界の邪眼を持つ吸血鬼に敗北後、天帝に捕まった。ジークフリートは京都で影龍王に殺されて、レオナルドも天帝に捕まっている……無事なのは俺ぐらいか。さてヴァーリ、異空間での仕返しにでも来たか? 禍の団の裏切り者としてお前達を襲った俺達に怒りを抱いているのだろう?」

 

「怒り、か。確かにその感情は今も抱いているさ。仕返しという点は当たっているがそれだけではない」

 

「……なに?」

 

「俺のライバル、兵藤一誠が消滅する可能性があった。分かるか曹操? 俺は白龍皇、そして兵藤一誠は赤龍帝。互いに戦う宿命を持った存在同士だ、決着すら付いていないというのにライバルを殺されかけて俺はイラついているんだよ。柄にもなくね。彼が死から復活したとしてもこのやり場のない怒りをどこかにぶつけたいんだ……影龍王や光龍妃が相手でも良かったんだが彼らは冥府で楽しんでいるようでね、そのため残っているのはお前だけなんだよ、曹操」

 

「なるほどな……死んだと聞かされていたが蘇ったか。恐ろしいな、シャルバが持っていたサマエルの毒を受けていなかったのか……それとも受けた上で蘇ったのか。どうやらまだ死ぬことは出来そうにないが逃がしてはくれないんだろう?」

 

「あぁ。お前でないとダメなんだよ。これの試運転にはね」

 

 

 ヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら鎧を纏う。光すら反射するような純白の龍を模した全身鎧、背には光翼を広げ、対峙している曹操を威圧する。それを見た曹操は若干表情を引きつらせながら槍を構え、力を解き放つ。京都にて影龍王、ノワール・キマリスと戦った時に見せた禁手――極夜なる天輪聖王の輝廻槍。背には神々しい輪後光と周囲に球体を浮遊させる。

 

 

「……おかしいな。俺の目には今まで見せた鎧と若干異なる部分があるように見えるんだが見間違いか? いや、若干だが形状が変わっているな。何をしたか教えてほしいね」

 

「お前のおかげだよ、曹操。サマエルの毒に受けた俺は初めて死と直面し、アルビオン共々、酷く苦しむことになった。だからこそ変わったというべきか……俺とアルビオンが心の底から死を跳ね除けたいと願った影響か、それとも別の要因かは知らん。だが神器というのは所有者の思いによって変異するのならば可能性はいくらでもある。分かるだろう? 異形を恐れるお前ならな」

 

「――亜種化。光龍妃と同じく後天的に亜種化させたとでもいうつもりか? 今代の二天龍と地双龍は異常だな」

 

「影龍王は神により封じられた能力を引き出し、光龍妃は後天的に禁手を亜種化させた。ならば白龍皇である俺が出来ないとは言えないだろう? 負けず嫌いなんだよ、俺はね」

 

「これは……厄介だな」

 

「ドラゴンを怒らせない方が良い。その気になれば暴力で世界を滅ぼせるんだ、それをしないのは――俺も、影龍王も、光龍妃も、そして兵藤一誠も、今を楽しんでいるからだ。それを邪魔するというのであれば容赦はしないぞ」

 

『ヴァーリ、分かっているだろうが発現した力は不完全だ。気を抜けば死ぬぞ。聖槍の一撃は悪魔であるお前を簡単に滅ぼせるからな』

 

「分かっているさ。だが、それを跳ね返してこそ白龍皇だろう?」

 

『あぁ、そうだな。見せつけよう! 私とお前の力を!』

 

「……これは生き残るのが難しいか。いや、跳ね除けてこそ英雄か!」

 

 

 その日、聖槍に選ばれた人間と白き龍皇を宿す明けの明星(ルシファー)が衝突した。




観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

79話

「よぉ。折角のパーティーだってのにこんな寂しい場所で何してんだ?」

 

 

 冥界を騒がせた事件――通称魔獣騒動から数日が経過し、俺達キマリス眷属は魔王が主催した兵藤一誠帰還と事件終結を祝したパーティーに参加していた。場所はルシファー領で超豪華なホテルを丸々貸し切っての催しに参加メンバーである堕天使、鬼、京都妖怪の三勢力は大盛り上がり……パーティーと言っても大宴会と言った方が良いかもしれない。もっともこれが行われる原因を作ったのは俺だけどね! 戦闘中に宴会やるぞって言ったら魔王達がノリノリで会場をセッティングしやがった……! そこはスルーしろよと思ったが新しく和平を結ぶことになった鬼勢力との交流の場を設けたかったんだろうね。しかも冥界を襲撃して着た怪物達――超獣鬼と豪獣鬼を俺達キマリス眷属と一緒に殺しまわってたから逆に宴会……じゃなかったパーティーを開かなかったら色々と問題だろう。

 

 そんなわけでパーティーに参加した俺達だったが平家は数の多さにダウンして家で引きこもり、水無瀬はパーティーに参加して楽しむというよりも裏方作業(料理作成)に専念、四季音姉妹は鬼と妖怪達と共に楽しく酒を飲んで騒ぎ出し、橘は生ライブを披露して堕天使、鬼、京都妖怪を楽しませている。橘に関してはなんというかもう凄いとしか言えないね! 同じく参加していたグレモリー眷属、シトリー眷属、フェニックス眷属からは一誠と匙君とライザーが鬼達と混ざってしほりんコールしてるし、挙句の果てにはバアル眷属の男子勢も同じことしてるもんなぁ……どういうことなの? バアル眷属の事はあまり知らないが真面目な連中だと思ってたんだけどもしかしたら違うのか? あとグラムだが夜空との共闘時に放り投げた事が気に入らなかったのか我が王よ我が王よって五月蠅かったから家に置いてきた。今頃は平家と一緒に積みゲーと化していたゲームでもしてるだろう。なんだかんだで仲良いしな。

 

 ちなみにサイラオーグは何故か知らないが鬼と腕相撲をして連勝記録を伸ばし、グレモリー先輩と生徒会長はセラフォルー様の手によって橘と一緒にライブをする羽目になってた。とりあえず可愛らしいアイドル衣装を身に纏ってた二人をカメラで撮ったのは悪くないと思う。そして戦力(おっぱいの)差に涙を流したのも悪くないだろう。

 

 

「……あれ? 王様じゃないっすか。なんでこんな場所に居るんです? しほりんのライブが始まってるでしょうに……見てあげないとぷんぷんって怒りますよ?」

 

 

 現在、俺が居るのはパーティーが行われているホテルの屋上。なんでこんな場所にいるかと言うと酒の匂いで気持ち悪くなった……わけでもなく単にこいつ(犬月)の様子を見に来ただけだ。俺としても先輩と生徒会長と橘による大小大なユニットを見ていたかったがここ数日間の犬月がどうも危なっかしいのでさっさと元に戻してやろう思っただけだ。決して……決して! 戦力差がありすぎるおっぱいをガン見して涙を流していたことに気づいた生徒会長から後で覚えてろよ的な視線にビビったわけじゃありません! ホントだよ?

 

 

「だろうなぁ。でも一緒に踊ったり歌ったりしてるのが先輩と生徒会長なんだよ」

 

「あーなるほど。そりゃ見ない方が良いっすね」

 

「だろ? ついでに言うとな……酒の匂いがヤバくて吐きそう」

 

「その程度で体調崩すほど繊細な性格はしてないでしょうに……えっと、心配かけてました?」

 

「まぁな。ほら、俺って一応(キング)だしぃ? 眷属の面倒も見ねぇとさ! なんか文句言われそうだもんね! んで? こーんな人気のない屋上に一人で何してんだよ? 自殺か? 馬鹿野郎! そんなに死にたいなら殺してやるから俺に言えって!」

 

「んなわけないでしょ!? そもそも眷属の面倒を見るって言ったのに何で殺そうとしてんすか!?」

 

 

 なんでってお前が自殺したくなるぐらい無気力になってるっぽいから解放してやろうという邪龍(おれ)なりの優しさ? まぁ、気持ちは分からなくもねぇけどな。

 

 

「冗談だよじょーだん。まぁ、心配してたってのは本当だ……お前、魔獣騒動が終わってからボーっとしまくってるだろ? 此処には俺しかいねぇから愚痴ぐらいは聞いてやるよ。ほれ、飲み物も持ってきてやったから好きなだけ吐け」

 

 

 会場から拝借した瓶を犬月に手渡す。中身は酒――ではなく普通の水だ、流石に未成年も参加してるからその辺は徹底されていたのが非常にムカつくね。それを受け取った犬月は蓋を開けて匂いを嗅ぎ、酒じゃないことを確認してからそのままラッパ飲み……なかなかいい飲みっぷりじゃねぇか。

 

 俺と犬月は地面に座り、壁を背にして水を飲む。なんともシュールな光景だが俺達以外に誰も居ないから問題無いだろう。互いに冥界の空を見ながら水を飲む……ビル内では橘達のライブが行われているとは言っても防音対策がされているのかかなり静かだ。むしろ静かすぎてかなり不気味だね。

 

 

「……王様」

 

「ん?」

 

「俺は……アリス・ラーナを殺しました」

 

 

 独り言を呟くように犬月は口を開いた。あの女を殺したことぐらい知ってるよ……言われなくてもな。

 

 冥界を怪物達が襲撃していた間に禍の団のテロリストやら主に反逆した眷属悪魔やらが暴れ回ってたらしい。俺としてはどうでも良いがその中には犬月が恋い焦がれ、夢に何度も見たであろうアリス・ラーナも居たのはあの時のコイツの様子から簡単に予想できる。俺達から離れて親の仇であるアリス・ラーナの元へと向かい――殺した。それ自体は何も問題無いしよくやった、お疲れさんと褒めたいがそれで済む問題じゃなくなったらしい……そうじゃなかったら今のコイツの様子が説明出来ないしな。

 

 

「殺したくて殺したくて何度も夢にまで見た女を殺した。この手で、この口で、ヤツの血を飲んでぶっ殺した。でも……空しくなったんすよ。あんなにも殺したかったはずなのに……潰して、引き裂いて、噛み殺して、何が何でもぶっ殺したくてたまらなかった女を殺したら――弱すぎて泣きそうになった。いや普通に泣きましたね……自分の部屋で大泣きっすよ。おかしいっすよね……殺したかったのに自分の手で殺したら泣いてるんすから。でも違うんすよ……俺が望んだのはあんな低級な殺し合いじゃない……俺が本気を出さないで楽に勝てる殺し合いなんかじゃなかった……本気を出しても勝てなくて、地面を這いずりながらヘラヘラ笑いながら立ち上がって……狂った笑い声を上げながら戦いたかった! でもそれが出来なかった! 求め続けた俺の敵は簡単に殺せるぐらい弱くなってた……これからどーすれば良いんすかね? 残されたのは空虚のような思いだけで何を目指して前に進んでいけば良いか全然分かんねぇ! ヤツの死に顔が呪いの様に脳裏に焼き付いて離れねぇ!! 殺したいと思える相手がいないのが辛い……なんでなんすか! なんで強くないんだ! 俺だって……俺だって! 王様と光龍妃のような殺し合いがしたいのになんでなんすかぁ!!」

 

 

 溜まっていたものを全部吐き出すように犬月は言葉を出し続ける。コイツが求めていたアリス・ラーナとの殺し合いは俺達と戦うときと同じくボロボロにされながらも立ち向かいたいという夢みたいな願望だ。自分がどれだけ異常な奴らと一緒に居て、一緒に特訓して、どれだけ強くなっているかも気づかないで前に進み続けた結果……いつの間にかアリス・ラーナを追い抜いてこの様だ。明日は何をするかとかこれから何しようとか一切考えられない状態に犬月は陥っている……正直、殺し合いにそんな「夢」や「理想」を持ち込むもんじゃねぇんだけどね。まぁ、俺も夜空も感情を込めて殺し合ってるからそんな事は言えねぇけど。

 

 

「んなもんお前が強くなっただけだろ」

 

「……そうっすね。強くなったんだ……ヤツを殺せるぐらいに強く……! 王様……これから俺はどうしたらいいっすかね? 殺したい相手もいない……強くなる理由の殆どが終わっちまった……! ホント、どうすれば良いんだろうな」

 

「お前の好きなようにすれば良いだろ? 死にたいなら殺してやるし生きていたいならそのまんま放っておいてやる……がお優しい水無瀬ちゃんとレイチェルが気にしてたし特別に昔話でもしてやるよ」

 

「……昔話?」

 

「おう。特別だぞ? 誇りに思え」

 

 

 瓶の中に入っている水を飲んで空を見上げる。冥界の空は嫌いだ……本当の()()が見えないし光り輝く星も人間界よりも劣る。こんな場所なんてさっさと滅んだ方が良いとさえ思えるぐらいだ。

 

 

「前に言ったよな? 俺がキマリス家に殺されかけて夜空に助けられたってさ」

 

「まぁ、はい」

 

「その時にな、夜空に一目惚れしたんだよ。光を操って俺と母さんを襲ってきた悪魔を消滅させた時は女神かと思ったぐらいだ……んだよその顔? まるで知ってましたとか言いたそうだな?」

 

「いやだって王様の態度見てたら誰だって気づきますって。多分ですけどしほりんとか姫様とかも察してると思いますよ?」

 

「……だろうな。まぁ、今はこっちの話を続けるぞ。俺は夜空が好きだ、殺したいほど愛してる、好きで好きで気が狂うほど夜空が欲しい……と同時にアイツを笑わせたいんだよ。初めて会ったアイツは感情なんて捨てたって顔でさ、無表情だぞ? 服だって誰かに犯されましたって言ったら信じられるぐらいボロボロ。初対面の時は確実に俺の方が弱かった……今だってアイツに追いついて、殺したくて、俺の女王(クィーン)にしたくて、心の底から笑顔にしたくて、アイツを護りたくて、色んなことを思いながら生きてる」

 

 

 思い出すのは夜空に助けられたあの時だ。興味無さそうな表情で俺を見てたった一言……これが私のライバルなん? 弱すぎという言葉は今でも心の奥底に突き刺さっている。今日まで前へ、前へ、ひたすら前へと突き進み続けているがアイツを笑顔に出来ているかは分からねぇ……楽しんでいるのは確かだがアイツは心の底から笑わないからなぁ。 だから意地になっちまう。

 

 

「それは夜空も同じでさ。殺したいほど俺の事が好きで、自分を受け入れてくれる俺を護りたいって言うんだよ。俺は夜空を護りたいし世界が敵になったとしても夜空の味方であり続ける。たとえその先に両親が敵になったとしてもな……でも俺は惚れた女に護られたくは無いし夜空も同じことを思ってる。だから殺し合う。どっちが上かを決めるために、どっちが護るかを決めるためにな。その行為の果てに今のお前と同じ状態になったとしても俺達はやめるつもりはない。先に言っておくが……俺は夜空が居なくなったら冥界を滅ぼして死ぬぞ? その頃には母さんも寿命で死んでるだろうし思う存分! おもいっきり暴れられるってもんだ!」

 

「いやいや!? なんとなくそーだろーなーとは思ってましたけどダメでしょ!? てか女王!? そもそも転生できるんすか!? こっちもなんとなーく察してましたけど出来るんすか!?」

 

「多分無理じゃね? アイツが普通の女王の駒程度で転生出来たら規格外だなんて呼ばれねぇし。でも変異の駒ならワンチャンか? あーでも覇龍の進化形態なんて編み出しやがったし変異の駒でも無理かもな」

 

「……だったらなんで殺し合うんすか? どっちも護りたいって思ってて相思相愛なら互いに護れば良いでしょ?」

 

「無理」

 

「……なんでっすか?」

 

「だって俺は我儘で自己満足の塊だぜ? そんなもんで満足できるわけねぇだろ。それに言っただろ? 殺したいほど好きでアイツを笑顔にしたいって。だからだよ……アイツは今を楽しんでる。俺との殺し合いを、俺が巻き込まれる事件を、夜空が俺を巻き込んで起こすなにかを見て楽しんでるのにやめられるわけねぇだろ? 俺は夜空を受け入れる……それが善意であろうと悪意であろうと関係ない。夜空だから受け入れるだけだ。だって好きだしな! その程度も受け入れられないんじゃ恋愛なんて出来ねーよ」

 

 

 その言葉を聞いて犬月は呆れた表情になりながら瓶の中に入っている水を飲む。てか惚れた女に護られるとか死ぬほど嫌だ……俺が夜空より強いってアイツ自身に分からせなきゃダメなんだよ。自分がどれだけ異常な存在かなんて夜空自身が知っている……だったらそれよりも上がいるってのを分からせれば良いだけだ。どれだけ自分が()()の女なんだって理解させれば笑って死ねるだろ……きっとな。

 

 そのためなら俺はどこまでも走り続ける。夜空を楽しませて、笑わせて、今以上に受け入れるためにもこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。歩いている道が地獄に進んでいたとしても俺は止まらないし止まる気すらない。この手で夜空を殺す事になっても後悔はしないし逆に殺されても文句は言わない! なんせ悪魔で邪龍だからな! 滅ぼされるのが宿命みたいなもんだし気にしてたら何もできないだろ!

 

 

「犬月、今のお前の状態はいずれ俺がなるものだ。夜空が死んだらきっと……殺してくれる誰かを待つだけの存在に成り果てる。だからだ……そのだな、お前が生きる理由を持てないって言うなら俺が与えてやる。俺を殺してくれ。夜空が居なくなって悪に堕ちた俺に終止符を打ってくれ。何年掛かっても良いからさ、俺を殺せるぐらいまで強くなってくれ。たった一人の雑魚を殺して立ち止まるなんざ許さねぇ! 俺の我儘でこれからも強くなってくれなきゃ困るんだよ! なんでお前を眷属にしたと思う? あの時のお前の目が気に入ったからだ! コイツは絶対に強くなるって感じさせるものだった……俺を殺す権利は早い者勝ちだからな! もし参戦するならさっさと前に進め! 妖怪の血が混じってるなら自由に生きてみろ! 俺という檻を壊してみせろ!」

 

 

 俺を殺してくれるのはお前か、四季音姉妹か、平家か、水無瀬か、橘か、それともぽっと出の英雄か、もしかしたら夜空に殺されてるかもしれないが早い者勝ちだ。

 

 

「……王様」

 

「お前は俺の兵士(パシリ)だろう? 邪龍が率いる眷属の一番槍ならこんなところで立ち止まってんじゃねぇよバーカ」

 

「……普通は自分を殺してくれなんて言わないっすよ? それと……励ましたいなら普通にさっきの言葉言えばいいじゃないっすか。話は長いし光龍妃との惚気を聞かされるこっちの身にもなってくださいよ?」

 

 

 失礼だなおい! 夜空とのイチャイチャっぷりを自慢して何が悪いって言うんだ?

 

 

「だったら彼女の一人でも作ればいいだろ。惚気を聞かされたくなかったら分かってるだろ?」

 

「はい! 立ち止まるなって言いたいんでしょ? そうしますよ……王様! その命令、必ず果たします。必ず王様を……いやアンタを殺す! 酒飲みにも引きこもりにも邪魔させねぇ! 俺がアンタを殺す! だから待っててくれ……きっと王様がいる場所まで辿り着きますから!」

 

「それで良い。あーもう疲れたー! たくっ、この数日間はお前が沈んでたせいで調子が狂ってたわ。いやマジで。馬鹿で悪魔で妖怪だろ? 好き勝手に生きろよ。さてと! そろそろ戻らねぇと我らがしほりんが怒って破魔の霊力パンチを浴びる羽目になりそうだ。犬月」

 

「はい?」

 

「――期待しているぜ、俺の飼い犬(へいし)君」

 

「――うっす。期待しててくれよ、俺の飼い主(あるじ)様」

 

 

 飲み干した瓶をその場に放置して俺と犬月は屋上を後にした。そのまま橘達がライブをしている場所へと向かうと何故か知らないがセラフォルー様が単独ライブをしている光景が飛び込んできた。嘘だろ……! 大小大のおっぱいの格差あり過ぎユニットのライブが終わってんのかよ!? いや、これはこれで有りだと思うんだよね! おっぱい揺れてるし! これで生徒会長の姉とかちょっと信じられない……なんでここまで差があるんだ? 悪魔の謎だね!

 

 

「おっと最後の主役の登場だ。全く、どこほっつき歩いていやがった」

 

 

 声の主は先ほどまで居なかったアザゼルだ。その周りには八坂姫、鬼の頭領、魔王サーゼクス、天使長が居る。あれ? 天使は堕ちる可能性があるから参加はしないんじゃなかったっけ? あーでもそういえば話し合いがあるとか何とかって言ってた気がするからそれには参加してたのか。

 

 

「いやーおっぱいの差があり過ぎて密かに泣いてたんだよ。あんなのタダの公開処刑だろ?」

 

「ソーナが聞いたらブチギレるぞ? あとセラフォルーもな。サーゼクス、全員揃った事だし始めるか」

 

「そうだね」

 

 

 一体何を始める気だ? てか気づいたらグレモリー眷属にシトリー眷属、フェニックス眷属にバアル眷属、何故か参加している転生天使に双子姫、母親に付いてきたであろう九重と今回の魔獣騒動で活躍したメンバーが全員集結している。勿論俺達キマリス眷属もな! 平家とグラム? そんなのは知らん、きっとゲームで忙しいんだろう。

 

 セラフォルー様のライブも終わり、次にステージに上がったのはなんと我らがシスコン魔王ことサーゼクス・ルシファー! まさか俺の歌を聞けって奴?

 

 

「お集りの皆さん、冥界を治める魔王の一人、サーゼクス・ルシファーです。この度は冥界を襲撃してきた魔獣との戦いに参加していただき、誠にありがとうございます。新たに和平を結ぶことになりました鬼の方々、援軍に駆けつけていただいた京都妖怪の方々、堕天使の方々、種族の特性上、止む無く参加できなかった天使の方々、本当にありがとうございます」

 

 

 あれ? なんか真面目モードなんだけどなんか悪い物でも食ったのか?

 

 

「さて堅苦しい挨拶もこれぐらいにさせていただき、この場を借りて報告させてもらいたい事があります。まず数々の戦いに参加していたグレモリー眷属から兵藤一誠君、木場裕斗君、姫島朱乃さんが無事に中級悪魔へと昇格した事をお伝えしたいと思います」

 

「名前を呼ばれた子はステージへGOよ☆」

 

 

 魔王に呼ばれた一誠達はマジかって顔をしながらステージに上がって表彰状みたいな紙を渡されている。てか中級悪魔の試験に受かったのか……この分だと上級悪魔になるのも時間の問題か。まぁ、一誠の場合はグレートレッドとオーフィスの力で作られた肉体になってるから雑魚相手なら無双できるぐらい強くなっているだろう。ドラゴンベースの悪魔か……殺し合ってみたいね!

 

 

「そしてもう一人、ノワール・キマリス君。こちらへ」

 

「……なんか行きたくない。帰っていい?」

 

「ダメに決まってるでしょ!? いくらなんでもちゃんと行った方が良いですって! でも怒られて逆ギレしないでくださいお願いします!」

 

「そうですよ! その……お説教かもしれませんけど悪魔さんは一回だけ真面目に怒られた方が良いです! あとで慰めてあげますね!」

 

「……否定しようにも心当たりになることが多すぎて否定できません。ノワール君、諦めましょう」

 

「おっこらっれるぅ~にししぃ~ざまぁ~だぁねぇ」

 

 

 なんだろう……俺の味方が居ない件に付いて。なんでどいつもこいつも俺が怒られるって思ってんだよ! もしかしたら冥界を破壊してくれてありがとうとか言ってくるかもしれないだろ! そんなわけないですよね! 魔王がそんなこと言ったら冥界が滅びますもんね! てか真面目になんで呼ぶんだよ……先輩と生徒会長をチラリと見れば早く行きなさいって感じの視線が返ってきたし! ライザーを見ればざまぁとか言いたそうな表情だし! マジで死ねば良いのにコイツら!

 

 本当は今すぐにでも帰りたいが寧音と八坂の姫がガシッと俺の腕と自分の腕を絡ませてステージへと歩き始める。うーん、片方は弾力のある良いおっぱいでもう片方はマジで最高なおっぱいだな! てかなんで二人とも笑ってるんですかねぇ? 人妻の笑みとかエロいんでやめてもらっても良いですか?

 

 

「……呼ばれたんで人妻二人に連れてこられましたがいったいなんですかねぇ?」

 

「ノワール・キマリス君。私達四大魔王と冥界上層部の承認により、キミに最上級悪魔の称号を与えたいと思う。受けてもらえないだろうか?」

 

 

 今、なんて言った? 最上級悪魔の称号を与える? 誰に? 俺に? えっ、いらねぇ。マジでいらないんですけど! そもそも上級悪魔の称号すらいらないのになんでそんなの与えてくるのか意味分かんねぇ。あれか? 自分の好感度上げようとか考えてんのか? いやー無理無理! そのシスコンを治さない限りは絶対無理! チラリと後ろを見ると犬月達はマジかよって顔、先輩達もパチパチと何度も瞬きをしているからかなり驚いているんだろう。その中でもサイラオーグだけはやはりかって感じで納得してるのがなんかムカつく! 俺の代わりに受けません? あげますよ?

 

 

「ちなみにだがキマリス、拒否権はねぇぞ」

 

「ふざけんな! んな称号いるわけねぇだろ! ただでさえ上級悪魔の称号すらいらねぇってのになんでそんな好感度上げみたいな態度でそんなもん寄こすんだよ! 馬鹿じゃねぇの!?」

 

「馬鹿も何も今回の魔獣騒動、コカビエルが起こした事件、悪神ロキが起こした事件、若手悪魔同士のゲームの戦績と上げればキリがないがお前さんは上級悪魔という立場じゃ収まらん。それにだ……鬼の頭領と八坂の姫もお前さんが最上級悪魔になる事を望んでるんだ。断られるとこっちが困るっての」

 

「……おい、どういうことだよ?」

 

「かっかっか! 簡単な事さね、私らが従った存在が単なる上級悪魔ってのじゃカッコつかないのさ。鬼のメンツにも関わるからね。だから黙って受ければいい。いずれ私の娘と結婚するなら最上級、いや魔王になってもらわないとねぇ」

 

「ほっほっほ。それはこちらも同じ事よ。我ら京都妖怪を従えた存在が上級悪魔ではのぉ、いずれ来るであろう双龍御子千年計画……これは関係無いの。それにじゃ、わらわを押し倒したほどの強者が今の立場で満足されては困るなぁ」

 

「その通りさ。それにだ、あたしの腕を切り落とした男なら受けるだろう?」

 

 

 やべぇ、逃げ道が一切見当たらない! なんでこの人たちは俺に期待してんだよ!? つーか双龍御子千年計画ってなんだ!? すっげぇ気になるワードが出てきたぞ! きっとロクでもないことなんだろうね! あとすいませんが橘とレイチェルからの視線がヤバいです。なんか後でお話ししましょうって感じで見られてて本当に怖いです! でも四季音姉にはざまぁって言うぞ! 精々水無瀬からお話しされればいいさ! いやそんな事よりもマジでどうしよう……いらねぇのに受けるしかねぇよ! どうしよう! 保留? うん無理! 逃げる? 良しこれだ! これは敵前逃亡ではない……戦略的撤退だ!

 

 

「影龍の。逃げたら初物を貰おうかねぇ」

 

「若い男を味わうのは久しぶりよのぉ」

 

 

 無理でしたスイマセン! 逃げないのでその捕食者的視線をやめてください! 俺の童貞は夜空に捧げるんです! 差し上げれません!

 

 

「……こ、ココロよ、ク、う、ウケトら、させてい、ただきまス」

 

「おいおい……どこまで嫌なんだよ? 普通はイッセー達の様に喜ぶところだぞ?」

 

「ざけんな! 混血悪魔が最上級悪魔なんかになったらまーた陰口言われんだろうが! 気にしねぇけどめんどくせーんだよ! ぶち殺したくなるから! でも俺の童貞を奪われるわけにはいかないからね! 仕方ねぇから受け取ってやるよ……でも魔王様、これだけは言わせてもらいますよ」

 

「なんだい?」

 

「俺はどんな立場になっても変わらない。最低最悪で、自分勝手で、自己中で、自己満足の塊で、他人の事なんか微塵も考えないで好き勝手に生きては死んでいく。誰にも文句は言わせない……俺は俺だ。邪魔だったら殺して、ムカついたら殺す。後悔しないでくださいよ? こんな俺を最上級悪魔なんかにしたら何をするか分からないですからね」

 

 

 ニヤニヤ顔の寧音と八坂の姫の間を通ってステージから降りて犬月達の所へと向かう。犬月も、橘も、水無瀬も、四季音姉妹も喜んだ表情で俺を見つめてくる。たくっ、何嬉しそうにしてんだよ……変な奴らだな。

 

 

「相棒」

 

『なんだぁ?』

 

「楽しいな」

 

『――あぁ、楽しいなぁ!』

 

 

 この日、俺は普通の上級悪魔から最上級悪魔になった。とりあえず……夜空に自慢でもするかねぇ!




「影龍王と骸骨神」編の終了です。

ノワール・キマリス
上級悪魔 → 最上級悪魔 にジョブチェンジです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と魔法使い
80話


「そういえばそろそろ魔法使いとの契約期間か」

 

「そうだね。去年も多かったけど今年はもっと多いかもしれないよ? だってノワールが最上級悪魔になってるし眷属になった子達も増えたからね」

 

「俺としてはうざってぇけどな……つーか最上級悪魔って肩書もいらねぇのに契約したいですぅ! って馬鹿共の相手をするのもめんどくせぇ」

 

「昔からノワール様は魔法使いとの契約が嫌いでしたからね。今年も全員お断りするつもりで? コーヒーをどうぞ」

 

「とーぜんだろ? 何しでかすか分からん連中と契約なんざしたくねぇよ。うん、サンキュー」

 

 

 冥界を震撼させたノワール・キマリスくん最上級悪魔昇格事件から数日、俺は珍しくキマリス領にある実家へと帰ってきていた。理由なんて面倒だから言いたくは無いがそろそろ魔法使いとの契約期間に入るためその辺の調整やら何やらを考えないといけないからだ……本音を言わせてもらうと面倒だけどな。なんせこっち側……悪魔である俺からすれば得をするものが一切ない。夜空を驚かせるような出来事もワクワクさせてくれるような研究も無いというのに俺と契約したいって書類を送ってくるんだぜ……即効でお断りだっての。なんで魔法使いしか得をしない契約を俺がしないとダメなんだって話だ。まぁ、仮に契約して俺が得られるものっていったらルーン魔術とか死霊魔術ぐらいかねぇ? 前者は相棒の出身、ケルト神話で有名な影の国の女王スカアハがその手の魔術に秀でていたとか何とかで興味があるし、後者に至っては俺が生み出す影人形の精度向上とかに役立つかなぁぐらいか?

 

 ちなみにだが相棒は女王スカアハを嫌ってるみたいだ。前にどんな人物かと聞いてみたら「あんなババアの事なんざ知らん」とか「封印される前にぶっ殺しておけばよかったぜぇ」とかマジなトーンで言ってたし。どこまで嫌いなんだよ……?

 

 

「でも古くから悪魔と魔法使いは深い関係を築いているし契約書だって灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)から送られてくるんだし安心だよ? まぁ、ノワールは影龍王だから他の結社から送られてくることも有るけど……今年ぐらいは契約しても良いんじゃないかな」

 

 

 目の前の席に座っているニコニコ顔をした親父がくだらない事を言ってきたが残念ながら今年も全てお断りする予定だから無理だな。そもそもなんで俺が夜空以外の人間と契約しないといけねぇんだよ? こっちはなぁ! 夜空と契約して「俺を呼び出した対価として腋ぺろぺろさせろ」とか言いたいんだよ! でも契約させてくれねぇんだよ! マジで理不尽だ……! てかそれ以前に灰色の魔術師に所属する魔法使いを纏めているメフィストのジジイは個人的に好かねぇ。毎度毎度良く分からんランキングを発表してるしな……あれって何の意味があるんだ? この悪魔は凄い、こっちの悪魔はダメだって公開処刑しやがってさ。死ねばいいのに……きっと昨年とかはわりと平和って言えば平和だったが今年は酷い事になるだろうね! だって赤龍帝を始めとして色んな若手悪魔が活躍してるからなんでこんな奴らがって感じで馬鹿な奴らが何かしでかしそうだもんねぇ。俺が魔法使いの立場だったら普通に喧嘩売るし。

 

 

「契約ねぇ……」

 

 

 親父の背後に立っているセルスが淹れてくれたコーヒーを飲みながら犬月達の事を考える。去年は四季音姉、平家、水無瀬の三人だけで酒呑童子と言う種族をあまり公にしてなかったから俺以外はあまり契約したいって言う奴らは居なかったが今年は別だ。妖魔犬として地味に有名な犬月、冥界アイドルとしてかなり有名になった橘、黒姫として人気が出てきた水無瀬、酒呑童子と茨木童子で凄く有名な四季音姉妹、覚妖怪として周りから好かれにくい平家、そして魔剣としてすっごく有名だったチョロイン(覇王剣グラム)。なんていうかカオスだな……契約書の山が飛んでくるのが目に見えてるぞ! やめろよぉ! 燃やすの結構苦労するんだからぁ!

 

 でも俺以外に人気があるとすれば水無瀬か四季音姉妹か。なんせ水無瀬は反転能力を持ってるに加えて俺の影響を強く受けた禁手持ち、魔法使いからすれば反転(リバース)現象を研究するにはもってこいだ。四季音姉妹に関しては用心棒としてはこれほど頼りになる存在は無いだろうし運が良ければ他の鬼達とも交流できるかもしれない……姉の方は兎も角、妹の方は不安だな。俺みたいに悪知恵が働くような奴と契約したらどんなことをされるか分からんね! もっとも何かしたら強いお母さんが動くだろうけど。

 

 逆に一番人気が無さそうなのは橘辺りか? いくら俺の影響を受けた禁手に至ったと言ってもアイドルという印象が魔法使い受けしそうにないしなぁ……アイツらって冥界にいる老害共と同じでその辺は嫌ってるし。

 

 

「正直、メフィストのジジイが嫌いだから魔法使い共と関係を持ちたくねぇんだよ。あのランキングのせいで面倒な事になるのは分かりきってるし俺は別になんかあれば契約した魔法使いを殺すから良いが犬月達が変な事に巻き込まれる恐れもある。まぁ、確かに魔法使いの中には俺達にとって利益になる研究をしてる奴もいるが実質、奴らしか得はしねぇんだ……断ってもこっちは痛くもかゆくもねぇし放置安定でも良いだろ」

 

「……で、でも沙良ちゃんはノワールが召喚されるところが見たいって言ったよ? 絶対に悪い事にはならないから一回だけ! 一回だけ契約しよ! 短期でも出来るんだからさ!」

 

「ヤダめんどい嫌でーす」

 

「このやり取りもお馴染みになってきましたね」

 

「そこにいる馬鹿が変な事を言うからだろ? まっ、俺は全員お断りだが他は知らん。契約する奴もいるし俺みたいにお断りする奴もいる……その辺は犬月達に任せるさ」

 

 

 ちなみにだが去年は俺と平家と四季音姉の三人が契約をお断り、水無瀬だけ短期で契約している。平家は当然のことだがメンドクサイ、四季音姉も当然のことだがメンドクサイと言う理由、水無瀬だけ契約したのは根が真面目だからだな。確か契約した対価として四大元素の研究がどうのこうのだっけか? 報告を受けてはいたが殆ど聞き流してたからもしかしたら違うかもしれない。

 

 

「つーか母さんはどこに行ったんだ? ミアの姿も見えねぇし……まさか人間界に遊びに行ってるんじゃねぇだろうな?」

 

「まぁ、当たってはいるかな? 厳密に言えば花恋ちゃんのお母さんと京都の八坂様と一緒にママ友交流会で出かけているね。あっ、今のノワールが考えてる事が分かっちゃうよ! 何してるんだ馬鹿じゃないの? でしょ!」

 

「おう。マジで何してんだよ……鬼の頭領と京都の九尾を引き連れて遊ぶ人間とか聞いた事ねぇぞ?」

 

「うん……僕もね、どうかって思ったんだけど沙良ちゃんもノリノリだったし先方からのお誘いだったから断れなくてさ。でも偶には良いんじゃないかな? 母親としての悩みとかを話せる相手ってあまりいないしさ」

 

 

 そりゃそうだ。純血悪魔と結婚した人間と話をしたいなんて言ってくる奴はフェニックス夫人ぐらいだっつーの。あのさ……うちの母親に振り回される鬼と九尾の姿が簡単に予想出来るんだけどどうしようか? いや違うな……全員ノリノリでなんかしてる気がする。外見詐欺の母親三人が人間界を歩き回ったらかなりめだつだろうなぁ! だって巨乳巨乳微乳だぜ? 見た目も最高、肉食系二人と天然系一人、うわぁ、ナンパしてぇ! でも搾り取られて腹上死しそうだ。

 

 でもまぁ、鬼の頭領と八坂の姫が一緒なら母さんの安全はかなり保障されてるな。流石にあの面々に喧嘩を売る馬鹿は夜空しかいないだろう……てか禍の団自体がほぼ壊滅してるっぽいし心配し過ぎか? だが曹操ちゃんの行方が分からないっていうし警戒していても損は無いか……あとついでに俺が最上級悪魔になったことが気に入らない馬鹿共もいるし母さんとミアには後で注意しておくように言っておくか。流石に俺が居ない場所で殺されでもしたら――俺は正気を保っていられる自信は無い。魔獣騒動の被害から復興しつつある冥界を滅ぼす勢いで襲撃者を殺し、その一族から関係者全員を殺し、さらにさらにそいつの周囲全てを皆殺しにしても怒りが収まらないだろう。うーん! ノワール君ってばマザコンなんだからぁ! 仕方ないね……だって俺の弱点だし。

 

 

「――おや、こんな所に居たのかね」

 

 

 部屋に入ってきたのはガチムチハゲこと京極だ。手にはなにやら贈り物のようなものを持っているがいったい何を持ってきやがった? お前が持ってくるものは大抵はメンドクサイ物だって決まってんだよ。

 

 

「こんな場所に居て悪いかよ? んで……なに持ってきやがった?」

 

「うむ。ノワールくんの最上級悪魔昇格に対しての祝いの品と言った方が良いかね? 差出人の名前も無し、封は開けてはいないが危険物という事は無いだろう。仮に危険物だったとしても不死身のキミならば問題あるまい」

 

「おいおい、キマリス家次期当主様を何だと思ってんだぁ? とりあえず寄こせ」

 

 

 京極から贈り物を受け取ってみる。見た目は四角形の箱、綺麗な梱包がされていて耳を近づけてみても中から爆弾のような音は聞こえない……京極の言う通り、差出人の名前らしきものも無いしいったい誰からだ? 夜空という線もあるがアイツの場合はこんなことはしないで直接渡しに来るだろう……つーか最上級悪魔になった日の夜中にいきなり転移してきてプレゼントだぁとか言ってパンツ渡してきたから絶対に夜空からじゃないことは確かだ。本当にパンツありがとう! おかげで自己鍛錬(オナニー)が捗ってるぜ!

 

 まぁ、冗談は置いておいて本当に誰からだ? 梱包に使っている紙はかなり上質なものだから貴族関係か? フェニックス家からの贈り物って考えもあるが差出人の名前が無いのがおかしい。うーん、まさかまさかのヴァーリ? でもあの戦闘狂がこんな洒落たことをするかねぇ……魔法使いちゃんの発案って考えればまだあり得るか。良いや、開けてみるか。

 

 

「――なんだこれ?」

 

 

 一応、禁手化した上で親父達を離れた場所へと移動させた後で箱を開けてみると中に入っていたのは一冊の本。見た感じだがかなり古いものだって事は分かる……ついでにその辺りに放置してて良い代物じゃない事もな。

 

 

「……本だね」

 

「贈り物で本とは……中々趣味が良い相手のようだ。ノワールくんに常識を学んでほしいと思っているのかもしれんな」

 

「ざけんな。これでも俺は常識人だっての……相棒? どうした?」

 

『……あんの若作りババア!! こんなもんを送ってきやがって何のつもりだぁ!! 俺様と宿主様が弱いと言ってんのか!? ざけんじゃねぇぞ!! 引きこもりで病んでる女王風情が俺様を下に見るなんざ気に入らねぇ!!』

 

「……なんかマジギレしてるが誰から送られてきたのか知ってんのか?」

 

『当り前よぉ! この胸糞悪くなる匂いとこんな代物を送ってくる奴なんざ世界中探しても一人しかいねぇんだよ! 俺様の故郷、影の国(ダン・スカー)を治める女王――スカアハだ! 表舞台には姿を現さねぇ引きこもり中の引きこもり! 若作り中の若作り! 年増の中の年増! 趣味が最低最悪のド外道にして最低最悪のクソ女……! あぁ、気に入らねぇ!! 気に入らねぇぞぉ!! あんの……ババア!! 殺してぇ! 殺してぇぞぉ!!』

 

 

 ヤバイ、相棒がマジでキレてるんだけど……てかマジで? 影の国の女王からの贈り物? 俺に? いやいや待て待て待て! なんでそんな有名人からこんなものを送られないとダメなんだよ! 影龍王だからか! 影龍王だからですね! 相棒ほどじゃないけど死ねばいいと思います!

 

 手の甲から相棒の怒鳴り声が聞こえるがひとまず落ち着いて本の中身を見てみる。パラパラと中身を流し読みしてみたが殆どルーン魔術に関係することが書かれてる……ルーンか、悪神やフェンリルとの殺し合い前にアザゼルから貰った本の中にもあったけどそれよりも複雑でおいそれと外に持ち出したらダメな感じがする。多分だけどこれを魔法使い達に売ったらかなりの額が手に入るかもな! パッと読んでみてこう思うんだから本気で贈り物として贈る代物じゃねぇわ! マジで何考えてんだよ影の国の女王様! つーか相棒がここまでキレるって何したんだよ!?

 

 

「で? 影の国の女王と何があったんだよ?」

 

 

 場所は変わって俺の部屋。ベッドに横になりながら相棒に話しかけると返ってきた声は先ほどと同様に怒りを含んでいる……ここまで怒り狂う相棒を見るのはなんか新鮮でちょっとだけ嬉しい。

 

 

『大したことじゃねぇが宿主様になら言っても良いかもしれねぇなぁ。ユニアも知ってる事だしよ! ゼハハハハハハハハハ! 昔、俺様が影の国の「影」から生まれたドラゴンだってのは教えただろう? 地双龍として呼ばれる前の俺様はよぉ、ただ()()()()()()ことと()()()が取り柄のドラゴンだったんだぜぇ? その時は今よりも全然、ぜんぜぇ~ん! 雑魚だったんだ。スカアハとは生まれた時から話す仲でよぉ、色んな事をされたもんだ』

 

「色んな事ねぇ……例えば?」

 

『そうだなぁ! 鍛錬と称して俺様を殺し、弟子共の修行と称して俺様を殺し、好きで好きでたまらなかったガキの修行相手として俺様を利用して殺し、暇だったから俺様を殺し、惚れた男が居なくなったから八つ当たりで俺様を殺し、もはや理由も無く俺様を殺したんだ! ゼハハハハハハ! 狂ってると思うだろうがこれがあのババアよ! 生まれながらにして女王だったからなぁ! 恋も愛も知らねぇ奴だ!』

 

 

 うーんとさ、殺されすぎじゃね? 不死身だったのは知ってるし俺も何度もお世話になってるから分かるけどさ……死んで生き返るって結構辛いんだぞ? 魂がどっかに持っていかれそうなあの感覚を何度も味合わされるとかえげつねぇ……そんな奴からこの本貰ったのか? 返品したいです!

 

 

『恐らくヤツがこれを送ってきたのは気まぐれだろう。大方、自分の弟子があまりにも不甲斐ないと思い込んだんだろうぜ! 気に入らねぇがルーン魔術の中には俺様が得意としている防御を高めるものもある、他にも使い方によっちゃ色々と面白い事が出来るのがルーン魔術の特徴だ。覚えてみて損はねぇ! かなり癪だがなぁ! 殺してぇ! あぁ、殺してぇ!!』

 

「ふーん……まぁ、送られてきたって事は使えって事なんだろ? まずは解読しねぇとなぁ……俺はヴァーリみたいに天才じゃねぇから時間かけてゆっくりとさせてもらおうか。相棒? お返しになんか送った方が良いか?」

 

『しなくて良い! あんなヤツに送り返す物なんざこの世に存在しねぇんだよぉ!』

 

 

 そんなこんなで相棒と一緒に影の国の女王スカアハから送られてきた魔術書に目を通していると気が付けば数時間が経過していた……まだ覚え始めたばっかりだから全部を使いこなすってのは難しいが保護の意味合いを持つエオローの文字を影人形や全身に刻めば今よりも防御力が高まりそうだ。それぞれの文字が特殊な意味合いを持つから状況に応じて影人形に刻んでおけば初見殺し程度にはなるかもな……問題はそこまで俺が使いこなせるかどうかだけども。キマリスの霊操も役に立ちそうにないから純粋に俺の才能次第か……面白いじゃねぇの!

 

 

「――で? 何時まで隠れてんだよ?」

 

 

 椅子に座りながら視線を横に逸らすと目に入るのはベッド、そこには誰も居ないしこの部屋には俺しかいない……が残念ながら居るんだよなぁ。

 

 

「ん? もう終わったん?」

 

 

 天井に穴が開いて降りてきたのは夜空。手にはお菓子が握られていることから俺が必死に勉強をしている姿を観察してたらしい……ストーカーのように隠れて見てないで隣で一緒に勉強してくれても良いんだぞ? 俺のやる気も高まるしな!

 

 

「まだ途中だよ……てかお前、隠れて見てるぐらいなら隣で漫画読みながら見てれば良いだろ?」

 

「ん~なんか珍しく真面目になってたからさぁ~気を使ってやったんよ。つーかぁ! ルーン魔術とか何で勉強してるん?」

 

「スカアハって奴から送られてきたんだよ。相棒が言うには不甲斐ないからこれを使って強くなれってことだってさ」

 

『おや、あの女王が贈り物ですか。これは珍しい……あの女が弟子以外にそのような事をするとは思いませんでした。クフフフフ、どんな気分ですかクロム? 憎くて殺したくてたまらない女からの贈り物はさぞ気分が悪くなるでしょう?』

 

『あったりめぇだぁ! あの女からの贈り物ってだけでも逆鱗状態に入るぜ! それはユニア! テメェも同じだろうがぁ!』

 

『えぇ……あの女の名を耳にするだけで怒り狂いたくなりますよ。私はあの女が嫌い、えぇ! 殺したいほど大嫌いですからね。何度……あの女に私の美しい体を傷つけられた事か!!』

 

『俺様も何度殺されたかなんざ覚えちゃいねぇ! あぁ、ムカつくぜぇ!!! 宿主様のためとはいえあのババアの施しを受けねぇとダメとはなぁ!!』

 

 

 うわぁ……相棒だけじゃなくてユニアも嫌ってんのかよ? その当時の事は良く分からないが地双龍と呼ばれた二人をここまで怒らせるって何やったんだよマジで……戦ったら勝てるかな?

 

 

『――やめておけ。今の宿主様でもあのババアには勝てねぇ。ケルト神話の中でもヤツはとびっきり頭がおかしいぐらい強い……まだ弱かったとはいえこの俺様がどうすれば殺せるかと考えるほどだ。漆黒の鎧を纏ったとしてもヤツには届かねぇ』

 

『それは夜空にも言えますよ。二人が手を組み、戦いを挑んだとしても勝ち目はありません。まだ、足りません。封じられた私とクロムの力が目覚めて漆黒の鎧と金色の鎧以上の出力を出せれば……傷ぐらいはつけられるでしょう。だからと言って会いに行かないでくださいね? 逃げるのは困難ですから』

 

「ふ~ん。まっ、ユニアが珍しくマジなトーンだし大人しく聞いてあげるぅ! それはそうとさぁ、なーんか魔法使いがなんかしそうな感じだよぉ?」

 

「なんだそれ?」

 

 

 俺のベッドに横になり、どこから出したか分からない漫画を読みながらそんな事を言ってきた。足をぶらぶらさせてるから穿いているスカートからパンツが見えているが俺は指摘しない……黒か。なんて素晴らしい光景なんだろうか! この前もパンツくれたし今だってパンツ見せてくれるとか最高じゃねぇか! なんでそこまでサービスしてくれるのか教えてほしいね!

 

 まぁ、冗談は置いておいて魔法使いが何かしそうって言われて思いつくのがメフィストのジジイが発表するランキングだな……大方、あれをみて若手悪魔が上位を占領したことに疑問を持った馬鹿共がちょっかい掛けてくるとかなんかだろう。あーめんどくせー! メフィスト死ねばいいのに。

 

 

「う~んとねぇ、禍の団の残党がなーんか変な奴の所に集まっててさぁ、その中に魔法使いが居んのよ。なーんかする気だから楽しみにしてたらぁ? あとねぇ! ヴァーリに似た変なおっさんも居た!」

 

「……ヴァーリに似たおっさん? 親かなんかか?」

 

「ヴァーリに聞いたらガチでキレながら教えてくれたけどおじいちゃんなんだって。しかも殺したいほど憎んでるっぽいよぉ? あっ、私もあれは無理。生理的にというか女としてもう関わりたくないし視界に入れたくないぐらいキモイ。神器効かねぇとかなんなんアイツ……むっかつくなぁ!」

 

「ちょっと待て……神器が効かねぇ? どういうことだ?」

 

 

 ぷんぷんと可愛らしく起こる夜空だがとんでもない事を言った気がするぞ。

 

 

「そんなの私が教えてほしいぐらいなんだけどさー! いきなり私の前に現れて異世界進出するから手を貸してちょ♪ とか言ってきてさ、もう存在自体が無理だったんで光放って殺そうと思ったら――効かなかったんよ。ノワールの様に防がれたとかじゃなくてガチで効かなかったね……目の前でいきなり光が消えたって言えばいい? 多分だけどさー! ノワールの影も無理っぽいよ? なーんか神器が絡むものはぜーんぶ効かないんだぁとか言ってたし」

 

 

 おいおい……冗談だろ? 夜空の光が効かねぇってなんだよ!? そんな奴が居たら全勢力から危険視されるはずなのになんで噂になってねぇんだ? 後でアザゼルにでも聞いてみるか。大戦前から生きてるからそいつの事を知ってるかもしれねぇしな……しっかし神器が効かないねぇ? 夜空が言う事が確かなら俺の影人形も通じないって事になる。なんせ相棒の「影」と霊子で構成されてるしな……神器が絡んでいる以上、通じない恐れがある。となると影の国の女王スカアハがこの魔術書を送ってきた理由ってもしかしてその男が関係してるって考えて良いな……「神器が絡んだものが効かない」なら「神器を使わない攻撃」なら通じるって事になるし、このルーン魔術は俺の神器、影龍王の手袋を通じて発動するものじゃないからその男にもダメージの一つぐらいは与えられるはずだしな。

 

 

『ユニア、その男ってのはまさかリゼちゃんかぁ?』

 

『えぇ。あのお子様系小物魔王のリゼヴィムが動き始めました。姿を消していたようですけどドライグの宿主が証明した異世界の存在に心が惹かれたみたいですね』

 

『ゼハハハハハハ! 神器が効かねぇだけが取り柄のあの小物風情が面白れぇことを考えるじゃねぇの! 宿主様、気をつけろよ? 雑魚と言ってもリゼちゃん――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーつう悪魔は神器使いの天敵よぉ! どうやって会得したかは知らねぇがヤツは「神器を無効化」する能力がある。宿主様が得意としている影人形もヤツには通じねぇ! なんせ俺様の力が含まれてるからな。だがよぉ、突破方法もあるんだぜぇ? 過去に殺し合った事があるが普通に雑魚だ。「神器」さえ絡まなかったらただの魔王級の実力しか持たねぇ小物、俺様の力無しで人形精製すれば問題ねぇさ』

 

 

 問題無いって言われても俺にとっては死活問題なんだけどな。相棒の影無しの人形だとパワーダウンが酷すぎるしな! てかルシファーってマジかよ……ヴァーリのジジイかぁ! どんな奴なんだろうなぁ!

 

 

「りょーかい。まぁ、こっちに手を出されなかったら興味ねぇしスルーで良いだろう。で? そのリゼちゃんって奴が言う異世界進出にお前はどう動くんだ?」

 

「ん? そりゃーさー! 面白そうだけどあんな奴の手伝いとかはしたくねぇって! 生理的に無理。絶対に無理! あれの手伝いするならノワールに処女奪われた方がまだマシ! でもさぁ、仮に私が異世界進出したいってなったらどうするん?」

 

「そりゃ手伝うに決まってんだろ?」

 

 

 馬鹿かお前は? お前が異世界ってところに行きたいなら俺は手を貸すし、どんなことだって受け入れてやる。たとえ世界が敵になったとしてもな……俺的には異世界なんざ全然興味はねぇし夜空とこうして話をして、殺し合って、楽しく生きていければ満足だからな。

 

 

「お前が楽しみたいなら俺は手伝うし、興味無いならスルーする。いつも通りさ……お前はお前らしく世界を引っ掻き回せばいいんだよ。文句は言わねぇし誰にも言わせない、俺はお前の味方であり続けてやるよ」

 

「……ばーか、するわけねーじゃん。他人の手伝いして異世界行くなら自分の力で行くっての。まっ! 異世界行くにはきっとグレートレッド倒さないとダメかもしれねーしぃ! それよりもぉ! 私にもその魔術書を見せろー! スカアハって奴から送られてきたのを独占とかずるいぞぉ!」

 

「興味無さそうに漫画読んでたのはお前だろうが……じゃあ、一緒に勉強でもするか。ちなみにだが彼氏彼女の関係でお勉強してるって設定が一番嬉しい!」

 

「キモ」

 

 

 ゴミを見るような視線に興奮しながら俺と夜空は一緒にルーン魔術の勉強を始める。あーだこーだと軽口を言い合いながら勉強するってなんだか……悪くないな。




今回から「影龍王と魔法使い」編が始まります。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

81話

「――キマリス、その話は本当か?」

 

「マジかもな。なんせ夜空が言ってきたんだ、アイツがそんな嘘つくわけねぇだろ」

 

「……だろうな。しかし厄介だぞ……ヤツの存在は光龍妃のように放っておいていいもんじゃねぇ。ちっ、なんで今更表に出てきやがった……!」

 

 

 時刻は深夜、俺はアザゼルが住むマンションの一室に訪れていた。先ほどからデカいテレビで対戦型のゲームをしながら話をしているのは昨日夜空から教えられたリゼちゃんことリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの事についてだ……流石に神器が絡むものが通じないとなるともし殺し合うことになったら困るからな。その辺の情報を仕入れておくと同時にまぁ、グラム絡みで世話になったし情報共有ってのをしても良いだろうと判断したまでだ……言い換えれば俺の情報を対価にアザゼルの情報を得るって感じだな! うーん、実に悪魔らしいと褒めてほしいもんだぜ!

 

 

「俺も夜空から聞かされるまで全然知らなかったんだけどさ、マジでどんな奴なんだ? ルシファーってのと神器が効かねぇってのは夜空から聞いてるけどそれ以外が分からん。もしかしたら殺し合う事になるかもしれねぇからその辺も教えてくれると助かる。そのためにこうして足を運んで情報共有してんだからな」

 

「……良いだろう。お前も悪魔、元七十二柱の血を引く悪魔ならば知っておかないとダメだろうしな。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、その名の通り「ルシファー」の名を継ぐ大悪魔で前魔王と悪魔の母リリスとの間に生まれた男、そしてヴァーリの実の祖父だ。ヤツの存在を知っているのは旧魔王派の連中か同じ「ルシファー」の名を継いだグレモリー家、あとはサーゼクス達現四大魔王と俺達のような勢力を率いるトップぐらいだ。まぁ、ヤツも一応大悪魔だから聖書にはリリンっつう名で刻まれてるよ……あんなのが聖書に刻まれてるなんてその手の信徒からすりゃ死んでも知りたくない事実だろうけどよ。さて、話を戻すが光龍妃が言ったようにヤツは悪魔でありながら神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)なんて能力を持ってやがる……これが厄介でな、お前さんや光龍妃、イッセーやヴァーリが持つ神滅具レベルの攻撃ですら無力化しちまうんだよ。実際に光龍妃も目の前でその事実を見せつけられたんだろ?」

 

「あぁ。生理的に無理とか女として関わりたくないとかって理由で光を放ったら効かなかったってさ」

 

「そりゃそうだ。ヤツが持つ神器無効化は文字通り――ありとあらゆる神器の特性や高められた力、混じり合った力などを問答無用で無効化する代物だ。お前さんが得意としている影人形も「影龍王の手袋」が関わってるからヤツにダメージは与えられん……もし戦うならただの霊体だけにしておけ。神器さえ絡まなければそれほど苦戦はしないはずだ」

 

「分かってる。なんか異世界に行くだかなんだかって動き出したっぽいがもし夜空に手を出した場合に備えて対抗策を会得中だよ。スカアハって奴からルーン魔術が書かれた魔術書が送られてきたしな。いやぁ~すっげぇわ! かなりムズイ! てか覚えきれねぇ!」

 

 

 夜空と一緒にルーン魔術を勉強したが俺の頭の出来が悪すぎて完全に覚えきれてない。なんせそれぞれの文字に意味があり、どのタイミングでどの文字を使うかによって答えが変わってくる……まぁ、やってる事はかなり単純なんだが俺は基本的にその場のノリや相棒の力を最大限生かせるように考えるタイプだからかなり難しい……俺ってここまで馬鹿だったんだなぁ。犬月を馬鹿とは言えなくなっちまったよ!

 

 ちなみに夜空は開始五分で飽きてました。ただノワールひまーと言って背後から抱き着いてくるだけの素晴らしい置物に早変わりです! おっぱいの感触が一切無くて俺様、泣きそうでした!

 

 

「……おい待て。スカアハだと? ケルトの影の国! その女王のスカアハか!?」

 

「おう。なんか知らんが送られてきてさぁ~相棒がガチギレしてた」

 

「冗談きついぜ……! なんだってスカアハほどの存在がお前相手に贈り物なんざしやがる? いや、影の龍クロムか! キマリス、悪い事は言わん……その話はあまり他言するな。ケルト神話の奴らは和平に関しちゃ賛成なのか否定なのか曖昧にしてやがる。しかもスカアハほどの存在がお前に贈り物をしたなんて知られたら色々と面倒な事になるぞ」

 

「まぁ、だろーなーとは思ってるよ。りょーかい、もしかしたらうっかり言っちゃうかもしれないけど黙っておくさ。対価として飲み物ほしいなー俺様!」

 

「おう! 好きなもん飲め!」

 

 

 なんか何でも飲んで良いみたいだから冷蔵庫を勝手に開けて冷えたラムネを一本取り出し、その辺に置いてあった菓子を持ってソファーに座る。アザゼルの家にある菓子って何か混じってそうだが乳龍帝おっぱいドラゴンのイラストが描いてあるから冥界産だってのが分かるし多分安全! 食べたらおっぱい好きになるかもしれないけどね!

 

 

「ところでキマリス、さっき妙な事を言ってなかったか? 異世界がどうのってよ……どういうことだ?」

 

「知らねぇよ。なんか夜空に異世界行くから手を貸してくれって言ってきたらしい。まぁ、アイツは他人に協力して異世界なんて行きたくないとか行くなら自分の手で行くとか生理的に無理とかどーでも良い理由で断ったらしいけどな。やっぱり悪神との殺し合いで現れたって言う()()って奴の影響ねぇ?」

 

「そう考えても良いだろうな。あの一件は全勢力、その手の研究者からすれば未知の現象だ……確かに存在自体はあるやら無いって感じに議論はされていた。しかし確証が無いため今までフィクションの中でしか語られなかったが……本当に存在するなんざ俺でさえ信じられなかったっての」

 

 

 乳神――結構前に悪神やフェンリルと殺し合った時に一誠君が思念だけとはいえ呼び寄せた存在。北欧神話でもケルト神話でも日本神話でも無い……俺達が知る神話以外の神様が突然現れた事でその手のことを研究している奴らが大騒ぎしたようだ。まぁ、そんな事が起きているとは知らずに俺は夜空とイチャイチャしてたけどね! つーか乳神ってなんだよ……乳の神様がいるなら腋の神様もいるよな? いるよね! 全然興味無いけどもしいるなら崇めるよ! 滅茶苦茶崇めちゃうよ!

 

 と、冗談は置いておいてリゼヴィムことリゼちゃんは乳神の存在にテンションが上がって確かめるために異世界に向かうとかそんな感じなんだろうね。個人的にはどうでも良いけど個人で勝手に何かするなら俺的には問題無い……だって悪魔だしさ、好き勝手やっても良いだろ? 俺だって好き勝手に生きてるし。

 

 

「俺としてはどーでも良いけどな。異世界なんてもんに興味無いし今のように夜空と殺し合って、話をして、遊んで……そんな今が楽しいしさ。こっちにちょっかい出してこないなら勝手に異世界行ってくれって感じだな。まぁ、未知の現象に未知の世界って部分には惹かれなくもねぇだろ? なんせ悪魔だしな。欲が終わったらあとは死ぬだけだし生きてるうちにあれだこれだって興味持っても誰も文句は言わねぇよ」

 

「……お前さんがヤツと出会ったらどうなるか予想できないからおっかねぇな」

 

「なんだそれ?」

 

「お前とリゼヴィムは似てるところがあるからな……性格的な面で言えば断然お前の方が良い、ヤツは年寄りの癖に未だに我儘な子供そのものだからな。俺が似てるって言ってるのは……悪魔だから何をしても良いって考えだ。昔のリゼヴィムのことは知ってるがほんっとうに子供だったぜ? あれが欲しいこれがやりたいと色んな奴らを振り回してやがった。その過程で周りが死のうが生きようが自分が楽しかったらそれで良しときたもんだ……文句を言いたくてもルシファーの息子って立場がそれを邪魔する。魔王になる前のサーゼクスとアジュカが苦労しただろうぜ」

 

「なんせ悪魔だしなぁ。そもそも一誠や先輩のような正義感が異常なだけだと思うぜ? だって悪魔がヒーローだぞ? 無理無理、そんなのやりたかったら天使に転生しちまえっての」

 

 

 今まではまぁ、その場のノリというか楽しさ優先だったというか頼まれたからとか夜空絡みとか色々と理由はあるけど本当だったらスルーしたかったしな。つーか夜空が絡んでなかったらマジで頑張れー頑張れーしてたと思う! だって悪魔で邪龍だぞ? 倒されるならまだしも正義の味方面するのってどうよ? うん無理! 絶対に無理! だからその部分だけで言ったらリゼちゃんってのは話が合うかもしれないね! 相棒がまだ封印される前に殺し合った事があるっぽいし出会ったら挨拶ぐらいはしても良いかもしれない……が俺と夜空の楽しみを邪魔するんだったら容赦はしない。具体的に言うなら夜空をナンパして良いのは俺だけだから横から出てくんじゃねぇよおっさん!

 

 ちなみにアザゼルが言うにはリゼちゃんは超越者って呼ばれる存在らしい。その超越者ってのも悪魔の中でも特に異質で悪魔と呼んでいいのか分からない奴らをそう呼んでるみたいだが今のところ、魔王二人とリゼちゃんの三人だけその呼び名で呼ばれてるらしい。だけどアザゼル的にはイッセー、ヴァーリ、俺の三人も将来的にはそう呼ばれるんじゃないかって考えてるらしい……マジでどうでも良い。あっ! 夜空は人間なんで規格外安定だそうです! 仲間外れ良くないと思うから超越者で良いじゃん。

 

 

「……キマリス」

 

「ん?」

 

「お前さんはお前さんのままでいろ。好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいくんだろう? だったらそれを突き進めばいいさ。リゼヴィムと出会ったとしてもそれさえ忘れてなかったら問題ねぇ。頑張れよ、キマリス家次期当主の影龍王」

 

「……俺、良いこと言ったみたいな顔がムカつくなぁ」

 

 

 この後は適当にゲームをしながら色々と情報を交換しあった。前魔王ルシファーの息子、リゼヴィムに関しては先輩達には伝えずに魔王や天使長、アザゼル、各勢力のトップ勢のみに知らせて警戒を強める方向で行くそうだ……勝手にしてくれと言いたいが夜空に接触してきたことを考えて戦力を欲していることは誰だって分かるはずだ。曹操ちゃんの行方が分からない英雄派、及び崩壊寸前らしい旧魔王派といった禍の団の残党共を纏めていてもおかしくは無いだろう……夜空からも魔法使いが変な奴らと集まってるとか言ってたしな。恐らくこの変な奴がリゼちゃんかそれに協力する者だろうね……俺に似た性格ならこっちの弱点を涼しい顔して攻めてくるだろう。だって俺だってそうするしな!

 

 そんなこんなで時間は進んで翌日の深夜、俺達キマリス眷属とレイチェルは自宅のリビングに集結していた。なんでと聞かれたら魔法使いとの契約に関することをメフィストのジジイと話し合うためだ……メンドクサイけどね。だって犬月達は兎も角、俺は契約する気が一切無いから話を聞く意味すらない! ただの時間の無駄なんだよなぁ……こんなのに時間を使うぐらいならルーン魔術の勉強に使いたいわ。

 

 

「どーせ断るんだし聞き流してれば良いと思うよ」

 

「それもそうか。んで? 今年はどうするんだ?」

 

「分かってるくせに」

 

「だよな」

 

 

 ソファーに座る俺の膝を枕にしている平家はどうやら今年も全てお断りするつもり満々らしい。そもそも嫌われ者の覚妖怪と契約したいって奴の方が珍しいし、こいつの事だから送られてきた書類を全部見るのが面倒とかそんな感じだろう。

 

 

「大正解」

 

 

 デスヨネ。

 

 

「……あの、王様? なんか聞いてる感じじゃ魔法使いとの契約をしないって言ってるような気がするんですけど気のせいですかねぇ?」

 

「うん。契約する気なんて一切無いけどそれがどうかしたか?」

 

「いやいやいや!? いくらなんでもダメでしょ! 魔法使いと悪魔がどれだけ深い関係か分かってるでしょ!?」

 

「だって夜空以外の人間に興味無いしー書類選考メンドクサイしーメフィストのジジイは死ねばいいと思ってるしー」

 

「……凄く棒読みなのに本音言っちゃってるよこの人!」

 

「あの、悪魔さん? 魔法使いとの契約は書類選考なんですか?」

 

 

 俺が言った書類選考と言う部分が気になったのか橘が首を傾げながら聞いてきた。可愛い!

 

 

「えぇ。一昔前は争いなどを行って早い者勝ちと言った事をしていましたが今は契約したい悪魔に書類を送り、面接などを行うのですわ。ですがキマリス様の年齢だと少し早い気がするのですが……?」

 

「俺は影龍王で混血悪魔の(キング)だからな。年齢的に早くても良いからどうしても契約させてくれって魔法使い達がメフィストのジジイに直談判したらしくてさ、他よりも早くこんなのに巻き込まれたってわけだ。マジで死ねばいいのにね!」

 

 

 普通に考えて純血悪魔ですらない俺と契約したところで魔法使いにとってはメリットも無いだろうに……もっとも俺の方でも良い事なんか一切無いから契約スルーが大安定。書類選考が面倒だとかじゃないからね! 誰に言ってるって俺の膝を枕にしてるちっぱいのテメェだよ!

 

 

「まっ、俺と平家……あとは四季音姉妹もどーせ断るんだろ? ついでにグラム、お前は?」

 

「ぱぁ~すぅいっちぃ~めんど~だぁい」

 

「伊吹が断るなら私も断る。考えるの苦手。」

 

『我ラはハおウの剣なリ! かトうなジュつ者と関わりたクはなイ!』

 

「想像通りの返答をありがとう。というわけだ、契約するのは犬月、橘、水無瀬の三人だけって事になるが……断っても良いよ! どーせこっちにメリットなんて無いからさ!」

 

「いやいや……流石に断んないですって。あの、書類選考とか面接とかって何すれば良いんすか? 半分悪魔の血が入ってますけどその辺の知識なんて全くと言っていいほどないっすよ?」

 

「私もです。なにかアドバイスしてくれると志保、すっごく嬉しいです♪ 出来れば二人っきりで教えてほしいな♪」

 

「うーん可愛い。いやぁ、仕方ないなぁ! 可愛い我らがアイドルに頼まれたら教えなきゃダメだよね! つっても簡単だぜ? 自分がこいつとなら契約しても良いってのを書類と面接で判断すれば良いだけだ。最初は短期で契約して慣れてきたら長期って感じで伸ばしていけばいいさ……まだ若いから失敗したって誰も文句は言わねぇよ。詳しい事は唯一の経験者の水無瀬に聞いてくれ……それでも分からなかったら俺のところまで来い」

 

 

 そんな話をしていると床に魔法陣が展開されてとある男が映像として映し出された。赤と青が入り混じった髪、両目もそれと同じように赤と青のオッドアイの中年のおっさんだ。優雅な雰囲気を出しながら椅子に座っているけどカッコよくも無いね!

 

 

『――やぁ、久しいねノワールちゃん』

 

「その呼び方はやめろ。殺すぞ?」

 

『あはは、怖い怖い。相変わらず全方位に敵を作ってるようだね? 少しは誰かを信用した方が良いよ』

 

「余計なお世話だ。用件は魔法使いとの契約だろ? 今年も断るからさっさと書類置いて帰れ」

 

『もーダメだよー? 年寄りの長話に付き合わなきゃ。さて、新しく眷属になった子達に挨拶をさせてもらおうかな。メフィスト・フェレスです。魔法使いの教会の理事をしてるよ』

 

 

 メフィスト・フェレス。元七十二柱の悪魔に分類されない番外の悪魔(エキストラ・デーモン)の一人で英雄派の幹部だった魔法使いの先祖と契約したのがこのジジイだ。確か悪魔の中でも最古参で死んだ先代魔王達と同期だとか親友だったとかなんかそんな感じだった気がするが……関わる気が殆ど無かったから良く知らないけどね。だって夜空以外に興味無いし魔法使いとも契約する気が全くないから知ろうとも思わないってのが本音だ。

 

 そんな長生きをし過ぎているジジイは俺の近くに居る犬月、橘、四季音妹、グラムの面々に挨拶をするが真面目に聞いているのは犬月と橘ぐらいだけだ……四季音妹もグラムも興味無いのかメフィストのジジイを見ていないしな。ざまぁ! さっさと帰ってくれませんかねぇ! 邪魔ですよ邪魔!

 

 

『いやぁ、凄いねぇ。覚妖怪を眷属にしてるだけでも驚きなのに酒呑童子と茨木童子、そして魔剣のグラムすら眷属にしてるなんて。しかも今年は去年以上に大暴れしてるから契約したいって子がさらに増えてるよ? 良かったね。それと……そこに居るのはフェニックス家のお姫様じゃないかい?』

 

「はい! レイチェル・フェニックスですわ。メフィスト・フェレス様とお話が出来て光栄です」

 

『あはは。ありがとうね、ノワールちゃんもこれぐらい素直だったら色んな所で人気でるのにもったいないよねー』

 

「マジで殺すぞ? ほら、こっちも忙しいんだからさっさと書類置いて帰れ、マジで帰れ」

 

『分かった分かった。そう急かさないでよ』

 

 

 俺達の近くに魔法陣が展開されて山のような書類が転送されてくる。そのまま放置していれば周りが散らかるので影人形を生み出して指名された人物ごとに分けていくが……おかしいな? 俺を指名してくる奴らが多すぎない?

 

 

「多くねぇか?」

 

『最上級悪魔の影龍王、若手悪魔の中でも最強の実力者、そして若手五王(ルーキーズ・ファイブ)と今年は呼ばれてるからね。王が多くなるのはどこも同じさ、だってキミと契約すれば眷属全員を動かせる可能性があるからね』

 

「……若手五王?」

 

「キマリス様やサイラオーグ様、リアス様にソーナ様、シーグヴァイラ様の五人が若手悪魔の中でも群を抜いているという事でそう呼ばれているのですわ。中でもキマリス様は若手の身でありながら最上級悪魔ですから魔法使いにとっては最高のステータスになるでしょう。私も分かってはいましたがここまで多いとキマリス様の人気が高いと再確認させられますわね」

 

「すっげぇ、まだまだ送られてくるっすよ? さっすがうちの王様だ! つーかなんで酒飲みもそれに匹敵するぐらい多いのか謎なんだけど?」

 

「花恋は酒呑童子だからね。鬼との繋がりを得たいって魔法使いがいるんでしょ。その辺りはどうなの?」

 

「ひっく、どうと言われてもねぇ~鬼は基本的に縦社会で強い奴は大好き、弱い奴は嫌いってのが多いのさ。その点で言えば魔法が使えるだけの人間とは普通なら相手はしないよ。だからかねぇ? 去年も多かったけど今年はもっと多そうだ」

 

 

 それに関しては俺も同意見だ。たかが魔法を使えるだけの人間にあの鬼達が絡むわけがない……まぁ、昔は人攫いとか色々とやってたみたいだがな。

 

 影人形を動かして送られてくる書類を人物ごとに仕分けしていくと一番多かったのは俺、次に四季音姉、水無瀬、犬月、四季音妹、平家、橘、グラムと言う順になった。上位三名は俺も予想してたから驚くことは無かったが四季音妹よりも犬月の方が指名度が高いのにはビックリだな……いや当然か? サイラオーグとのゲームでも四季音姉が蹂躙したようなもんだし茨木童子としての実力は先の魔獣騒動ぐらいでしか表に出てない。それを考えると茨木童子の四季音妹よりも前々から妖魔犬として名が広まってる犬月の方が魔法使いにとっては指名しやすい対象かもな。

 

 それはそれとして下位三名も予想通りで笑いそうになるな。グラムが一番指名度が低いのは元々が魔剣だからだろう……いきなり人間体になって悪魔になりましたとか言われても本当かどうかすら分からないだろうしな。橘も冥界アイドルとしては有名になってるがステータス重視の魔法使いにとってはそれほど契約したいとは思わないだろう……まぁ、送られてきた書類を見る限り男しかいないから容姿目当てが妥当か? それか独立具現型神器のデータが欲しいとかそんな感じかねぇ?

 

 あっ! 平家に関してはもう何も言わない。だって去年もこんな感じだったしな!

 

 

「覚妖怪は嫌われ者だから人気があったらおかしい」

 

 

 全世界の覚妖怪に謝った方が良いぞ? もしかしたら人気の覚妖怪だっているかもしれないだろ!

 

 

「いるわけないよ」

 

「即答かよ……ジジイ、書類は受け取った。今回も断っても文句はねぇだろ?」

 

『当然さ。最上級悪魔の影龍王と釣り合う魔法使いなんてこの中には居ないだろうからね。でも気が変わって契約したいって子が居たら連絡してほしいな。それじゃあ次はリアスちゃんの所に行くからこれで失礼するよ』

 

 

 それを言い残してメフィストのジジイとの連絡は終わった。しっかしマジで多いな……馬鹿だろ? いくら最上級悪魔になったと言ってもここまで大量だとは思わなかった……とりあえずゴミに出そう。

 

 

「とりあえず真面目に契約する奴は自分に送られてきた書類に目を通すように。基本的には自分達で考えろよ? どれが正解でどれが不正解かなんてねぇんだ。レイチェル、悪いが分かる範囲で良いからこいつらに契約関係の事を教えてもらって良いか? 俺は俺でちょっと忙しくてなぁ」

 

「お任せくださいですわ! このレイチェル・フェニックスがシュンさん達のお手伝いをして差し上げます! で、ですけど……キマリス様も契約をされてみてはいかがでしょうか? そ、その際はこの私がお、お手伝いして差し上げますわよ!」

 

「メンドイ」

 

「うわー本当にめんどくさそうな顔してるよ……」

 

「昔も面倒だって言って断ってますからね……瞬君と志保ちゃんは初めてなので私達と一緒にやりましょう。分からない場所があったらその都度教えますから」

 

 

 犬月と橘は水無瀬とレイチェルに任せれば問題無いか……どんな奴と契約するのか楽しみと言えば楽しみだな。あの二人が一緒なら変な奴とは契約はしないだろうし俺も自分の事を優先できるな……そう考えるとレイチェルって裏方向きだよな。夜空と四季音姉と平家が居なかったらお願いします眷属になってくださいと土下座してたかもしれない……俺とは相性悪いけど考え自体は悪くないしな。

 

 さて、そんな事は置いておいて……このゴミを片付けながら勉強でも再開するか! いやー勉強楽しいわーマジ楽しいわー! スカアハ死ねばいいのにー! こんな難しいの送ってきやがって……! 相棒が性格は最低最悪だっていうのが良く分かるね!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

82話

「こちらの方は錬金術の研究……ダメですわ。この方は精霊術式における四大元素の研究……テーマは面白いと思いますが家柄がキマリス様と釣り合いません。分かっていたことですが中々条件に合う方は居ないものですわね」

 

「そりゃそうだろ。自分で言うのもあれだけど最上級悪魔、しかも影龍王だぞ? その辺で下級魔法を使ってドヤ顔してる連中と釣り合うわけないさ。だから放置してても良いぞ? 次のゴミの日に全部出すからさ」

 

「い、いえ! まだ送られてきた書類の半分も見ていないのですしもしかしたらダイヤの原石が眠っているかもしれません! キマリス様のお父様から頼まれた以上はこのレイチェル・フェニックス! フェニックス家の代表としてキマリス様に合う魔法使いを見つけて見せますわ!」

 

 

 ドドーンと背後に擬音が現れそうなドヤ顔をしながらおっぱいを揺らすレイチェル。思わず目がおっぱいに向いてしまうほどの存在感……素晴らしいね! しかもパジャマだから前かがみになった時に谷間とかが普通に見えるしもう最高だわ! 橘や水無瀬のおっぱいも最高だけど流石フェニックスの双子姫……寝間着姿もお姫様レベルですね!

 

 メフィストのジジイから魔法使い達の履歴書という名の契約書類を送られてきてから数日間、目の前にいる双子姫の片割れ様は自分に関係無いというのに俺と釣り合う魔法使いを見つけると言って送られてきた書類とにらめっこを続けている。最初は暇なのかとは思ったがなるほど……あのクソ親父が絡んでやがったか! 他所のお姫様に何頼んでんだよ?! そこまでして魔法使いと契約させたいか! いい加減にしろよマジで……帰ったら一発ぶん殴っておこう。それぐらいは許されるだろうきっと!

 

 そんなやり取りをしている時刻は真面目な学生や働いている奴らなら既に眠っている時間帯に俺とレイチェルは部屋に集まっているというなんだか怪しい感じがするが……残念な事に俺とレイチェルの二人っきりではない。何故なら――

 

 

「ノワール、お姫様はお仕事で忙しいから邪魔したら悪いよ。早くゲームの続きをしよ」

 

 

 俺の膝の上に座っている平家が居るからね! ノワール君依存率ナンバーワンでヤンデレ属性持ちのコイツは俺とレイチェルが二人っきりになる状況が気に入らないらしく、この数日間は俺の部屋を我が物顔で占領している……もうね、分りきってたから何も言わないし文句を言う事すらもはや面倒だからスルーしてるけどもいい加減さっさと自分の部屋に帰れよ? ここ数日間、ベッドに潜ればお前の匂いがするんだけどさ……マーキングでもしてんのか? 覚妖怪の癖に犬の真似をしてんじゃねぇよ。

 

 

「ノワール専用の雌犬だよ。命令されれば露出プレイもオッケー」

 

「はいはいそーですかーすばらしいですねー」

 

「……」

 

 

 先ほどの俺の返答が気に入らなかったのかゴンッと俺の胸板に自分の頭をぶつけてくる。なんかすごい音がしたが大丈夫か……?

 

 

「……いたい」

 

「そりゃそうだろ……実験がてらルーン文字を服に刻んで防御力上げてんだから。はいはい、そんな目で見てこなくてもしてやるよ……いたいのいたいのとんでけー」

 

 

 頭を撫でろと言いたそうな視線が飛んできたので平家の頭を撫でる。毎回思うんだけどコイツの髪ってさらさらしてて気持ち良いな……四季音姉や橘、水無瀬なら兎も角、コイツが髪の手入れなんてするとは思えないのにこのさらさら具合だよ! まさか隠れて手入れをしてるってか? 頷いたって事はしてるのね……はいはい、嬉しいですよーだ。

 

 

「……覚妖怪、キマリス様のお手を煩わせてそれでも眷属ですか? そ、それにめ、めめめ雌……コホン、今は私とキマリス様が魔法使いの契約の事で話をしているのですから貴方はご自分の契約の事でも考えてはいかがでしょう? キマリス眷属の一員として真面目にやらねばキマリス様にもご迷惑ですわ!」

 

「その主様が容認してるから大丈夫。くすっ」

 

「……な、なんですの、その、勝ち誇った笑みは……!」

 

「別に。ノワールに相手にされない可哀想なお姫様だなって思ってないよ。私とノワールの仲は学校でも知れ渡ってるくらい深いもん。だからこれぐらいの事はふつーだよ」

 

「ふ、普通ではありませんわ! そもそも学園での噂は他の方が勘違いしているだけのこと! 貴方とキマリス様が付き合っているわけではありませんし勝ち誇る理由にもなりません!」

 

「正義感ぶっても心の中でノワールの膝の上に座って羨ましいとかノワールの匂いくんかくんかして羨ましいとか思ってるくせに」

 

「なな、ななな!? そ、そんな事は思っていませんわ!!」

 

「残念だけど覚妖怪に嘘は通じないよ」

 

 

 はいはい修羅場修羅場。この数日間は何度も見てるからもう慣れたわ……前々から思ってたが平家とレイチェルは水と油の関係なんだよなぁ。片方は貴族としての立ち振る舞いをしないとダメなお姫様、もう片方は俺に依存してる自由主義な覚妖怪……うん! 性格的な意味でも合わないわ! むしろよく今日まで仲良く一緒に暮らせているのか不思議だね! まぁ、喧嘩するほど仲が良いって言葉もあるし本気で嫌ってるわけじゃなさそうだから今のところは俺が関わる理由も無いけどな……基本的に平家は誰が相手でもこんな感じだし。

 

 膝の上に座っている平家と床に座布団を敷いて座っているレイチェルがあーだこーだと口喧嘩をしているのを聞きながらその辺に置かれている書類の束を取って目を通す。メフィストのジジイから送られてきた書類は人間界で就職する際に使われる履歴書のようなことが書かれている……顔写真からどこの家の出身、研究テーマから得意魔法まで幅広い事が記載されているがレイチェルの言う様に俺……いや相棒が契約しても問題無いほどの魔法使いは見当たらない。それほどまでに最上級悪魔の影龍王という称号がデカすぎるわけだ……まぁ、夜空以外と契約する気は無いんだけどね!

 

 ちなみに犬月や橘、水無瀬は真面目に魔法使いの書類をにらめっこをして選別している。もっとも魔法使いが使う文字が読めなくて苦戦しているが目の前にいるレイチェルが解読したり書かれている事を分かりやすく説明したりしてサポートをしてるから今のところは問題無いようだ。なんというかスペック高すぎませんかね? 噂じゃ一誠君のマネージャーにレイチェルの姉、レイヴェルが付いてるらしいけどさ……赤龍帝と影龍王を手に入れようとしているフェニックス家の野望もどきが丸見えで絶句だわ。流石悪魔だと褒めたいね!

 

 

「……コホン。キマリス様から見て気になる方はいらっしゃいますか?」

 

「残念だがいねぇな。家柄で落とすつもりは無いけど書かれている研究テーマや得意魔法がありきたり過ぎて面白く無い……悪魔と同じで体裁ばっか気にしてるからその辺は仕方ないとは思うんだけどもう少しどうにかならないかねぇ。俺的にはなんでも良いからくっだらない事を全力でやってる奴の方が良いな。その方が付き合い方も楽だしさ」

 

「そう、なのですか……? 私は逆にちゃんとした家柄の者で納得のいく研究テーマを持っている方が良いと思いますわ。契約をして恥をかかないためにもその辺りは徹底しなければ家にも迷惑がかかりますもの」

 

「あーそっか、レイチェルの場合は周りの印象があるか……でも考えてみろよ? 仮に契約すれば数ヶ月、もしかしたら年単位でそいつと付き合ってくんだぞ? そんな長期間を真面目にやってたら疲れるしこんな事で呼ぶんじゃねぇよって思うだろ……俺はそこまで暇じゃないし真面目な事をしたいなら真面目な奴と契約しろって思ってる。むしろ馬鹿なことは大歓迎だ! 良く分からない事に人生を賭けて全力を注いでるとか面白いだろ! だから俺としてはそんな魔法使いと契約したいね」

 

 

 だって俺は邪龍だからな。真面目に世界の謎やら魔法、術式とかを研究するよりどうすればスカート捲りをバレないように行えるかとかを研究してる奴の方が良い……そっちの方が俺も楽しいしね! あと真面目な理由を言うなら冥界での俺の立場がどんなものかなんて分りきってるし、今更真面目に家のために何かをするようなことはしない。好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に楽しむのが俺だ……だからレイチェルのようにちゃんとした家柄や研究テーマを持った魔法使いとは絶対に契約はしない。まぁ、元からするつもりも無いんだけどね!

 

 

「面白い……そんな事は考えた事がありませんでしたわ。魔法使いとの契約は悪魔として魔法使いの要望に対価を頂いて叶えるもの、そこに楽しいとか面白いとかは関係ありません……そんな事をすればたちまち噂になって次回以降に響きますから。やっぱり、キマリス様は変な方ですわね!」

 

「ん? 今更だろそれ……元から俺は変だぞ? なんせ邪龍だ、好き勝手に生きてる男だから変に決まってるだろ。それに初対面の時……あーとあの時だって俺がどんなことを言ったか覚えてるか?」

 

「……それはもう忘れるわけもありませんわ」

 

「――普通は言わないよね。人質だった女の子相手に「あんなのに捕まるとか雑魚過ぎ」ってさ」

 

 

 レイチェルとレイヴェルには大変申し訳ないがあの時は本当にイライラしてたからさ! 雑魚な誘拐犯に捕まってた双子姫様に呆れてたんだよなぁ……ホント、すいませんでした! 反省はしないけど許してください!

 

 

「あの時はイライラしてたしなぁ……あーでも、悪かったな? ガキだったとはいえそんな事を言ってさ」

 

「いえ……むしろ感謝したかったですわね。自分達がどれほど未熟だったのかを分からせてくれたのですから……で、ですけどこの私にあのような言葉を言ったことは許せません! で、ですので……その、謝罪の品と言うわけではありませんがキマリス様のひ、ひひひ、膝の上に……座ってもよろしいでしょうか……?」

 

「ノー、ダメ、許さない、此処は私のもの」

 

「貴方には聞いていませんわ!!」

 

「いや、そのぐらいで良いなら勝手に座っても良いぞ? なんせコイツ(平家)や四季音姉や橘も俺の承諾無しで座るしな。俺は椅子じゃないんだけどなぁ……まぁ、座りたいならほれ」

 

 

 膝の上に座る平家を少し横にずらしてレイチェルが座れる部分を作る。視界の端から何かを言いたそうな視線が突き刺さってくるけど無視だ無視! そもそもお前は毎回座ってんだから偶には譲れ! 良いか……俺はな! 双子姫様のおっぱいを後ろから見たいんだよ! そのために仕方なく……あぁ、仕方なく座らせてあげようとしてるんだから察しなさい。いや、あの……気に入らないからって人の大事な部分を握らないでもらえませんかねぇ……? 人質か!? 人質なのか! やめろよぉ! 夜空に童貞を貰ってもらえなくなるだろ!

 

 そんなやり取りをしていると顔を真っ赤にしながらレイチェルは恐る恐ると言った感じで俺の膝に座ってきた。うーん、柔らかい。女子の体ってなんでこんなに柔らかいんだろうね! あとおっぱいスゲェ! 後ろから見ても存在感がヤバいわ……橘もここ最近は膝の上に座ってくるけどいやー凄いけどそれに負けないぐらい凄いわ! 左を見ると山があり、右を見ると壁がある……これが同い年とは思えないぐらいの差だ。泣いて良いですか?

 

 

「泣いたらどうなるか教えてあげよっか」

 

 

 やめてください死んでしまいます。

 

 

「さ、覚妖怪……! き、キマリス様のそ、その……そんなところを触ってはしたないですわよ!」

 

「問題無い。いつも触ってるし。お姫様がしてもらえないあーんなことやこーんなこともぜーんぶしてるもん」

 

「ななな?! ゆ、許しませんわよ! それは私の……い、いえ! 何でもありません!」

 

 

 あっ! お姫様からの触れ合いなら大歓迎なんでいつでもどーぞ! ゴメンナサイゴメンナサイ! いたい、いたいから!? お、お前なぁ……! いくら再生するって言っても痛いもんは痛いんだぞ!? マジで握るな! ヤンデレ属性持ちなら刃物で刺すとか監禁するとか切り落とすとかにしなさい!

 

 この後は膝の上でじゃれ合う二人を鑑賞したり、分からない事があったのか部屋を訪ねてきた橘と水無瀬に現在の状況を見られてズルいだの交代だのと言われたり比較的楽しい状況になった。犬月? あぁ、なんか水無瀬から「書類に書かれている文字が読めなくてヤケになったのか花恋に戦いを挑んでます」とか言われたから四季音姉相手に頑張ってるんじゃないかな? きっと負けてるだろうけど。負けるな犬月、頑張れ犬月。俺を殺せるまで負け続けて強くなれよ。

 

 

「――てな事があってさぁ! 今日も楽しくなるかなーとか思ってたんだけどさー! なんで俺を呼んだ?」

 

 

 そんなわけで翌日の放課後、俺はグレモリー領の地下にあるグレモリー眷属専用の訓練スペースに足を運んでいた。なんでって言われたら目の前にいる先輩とアザゼルに呼び出されたからです! 右を見ても左を見ても上を見ても広くて耐久力がある立派な訓練スペースに俺様! 嫉妬しちゃうね! はいはい魔王特権魔王特権。こっちなんてガチの殺し合いをするときは地双龍の遊び場(キマリス領)でやってるってのに羨ましいですねー! 俺の家の地下にも訓練スペースがあるけどここまで広くないぞ? マジで可愛がられてるねぇ。他から文句言われればいいのに。

 

 俺の質問に先輩はやや困惑、傍にいる姫島先輩も困惑、何故かいるシスターちゃんも先輩の後ろに隠れて困惑、同じく何故かいるヴァルキリーちゃんも困惑、諸悪の根源ことアザゼルはあきれ顔……おかしい、ただ普通に若干だが殺気を放ってるだけじゃねぇか? そこまでビビる事かね?

 

 

「転移早々、地味に殺気を放つなっての……そこまで呼ばれるのが嫌か?」

 

「えっ、当然だろ。何が嬉しくて他の眷属の所に呼ばれないとダメなんだよ……しかもアザゼル、テメェが居るって事はどーせ依怙贔屓だろ? 帰って良いか?」

 

「待て待て……確かに贔屓になるかもしれんが大事な事だ。近くに居るドラゴンで当てになりそうなのがお前さんぐらいなんだよ」

 

「なんだよそれ? てかドラゴンならオーフィスが居るだろ」

 

 

 視線をちょっと横に向けると黒髪ロングの尋常じゃないほど露出しているゴスロリ服を着ている少女が居る。この子の名前こそ! 世界最強にしてテロリストの親玉! オーフィスちゃん! キャー無限の龍神様ー! 可愛いー! 腋ぺろぺろさせろー! と冗談は置いておいて……なんでこんな場所にいるかと言うと魔獣騒動後に行く当てが無くなったやら一誠君に懐いたやらで先輩達と一緒に住むことになったそうだ。勿論他勢力には内緒だ! だってバレたら色々と拙いしね! もっともバレても()()()したとはいえオーフィスには勝てないから問題無いだろうけどな。

 

 しっかしマジで痴幼女だな……胸が殆ど丸見えだしテープで乳首を隠すってどんだけだよ?

 

 

「クロム、我を呼んだ?」

 

「おー呼んだぞー久しぶりだな、なんだかんだで元気にやってるようで安心だ」

 

「我、この場所が好き。居心地がいい、でも無限の狭間に戻りたい。我、静寂を得たい」

 

「だったらグレートレッドを倒さねぇとなぁ……で? オーフィスが居るのに俺を呼ぶ理由って何? 何故かいるシスターちゃん絡みだってのは察したけどくっだらねぇことなら帰るぞ」

 

「分かった。話すからその殺気は鎮めろ……お前さんも知ってるだろうが俺は前線を引く。なんせオーフィスを他の連中に黙ってこの場所に引き入れたんだから当然と言えば当然だ。まっ! 俺は戦うよりも何かを研究してた方が性に合ってるし何も問題ねぇけどな! でだ……俺がファーブニルと交わしていた契約を解除してアーシアと契約させようと思ってる。それ以外にも他のドラゴンとも話をさせて契約できれば上々ってところだ……お前さんにはドラゴンとの橋渡しをしてもらいたい。流石にオーフィスだと色々と問題だからな」

 

「そりゃそうだ……呼ばれてきたら最強の龍神が居たとか悪夢だろ」

 

 

 いくら弱体化してるとは言っても龍神は龍神だ。オーフィス曰く、全盛期の二天龍や地双龍の二回りぐらい強い程度に収まってるらしいがふざけるなって言いたいね! 曹操ちゃんも面倒な事をしてくれたもんだ……弱体化させんじゃねぇよ! 何時か勝つという目標が無くなったじゃねぇか!

 

 

「我、悪夢?」

 

「そーだなー悪夢だなー。つっても橋渡しねぇ……一誠君で良いんじゃねぇの? 言っちゃなんだが邪龍(おれ)だぞ? 普通に考えてアウトだろ」

 

 

 呼ばれた先に邪龍が待ってましたとか悪夢だと思うね!

 

 ちなみに一誠君じゃないのは魔法使い絡みやら魔獣騒動で被害にあった子供達との触れ合いやらで忙しいから来れないらしい……へー、俺は良くてそっちはダメなんだ。まぁ、真面目な話をすると俺がドラゴンを使い魔にしていることと召喚したドラゴンがシスターちゃんに牙をむいた際に楽に制圧できるから俺を呼んだらしいけど……こっちは便利屋じゃねぇんだぞ? てかそもそもオーフィスが居るなら問題無いだろ。こっちだってなぁ! 嫉妬でぷくーと頬を膨らませる橘を可愛いと言う作業とか四季音姉妹と殺し合ったりとかグラムと遊んだりとか忙しいんだぞ! とりあえず帰ろう。決して便利屋扱いされた事が気に入らないとかじゃない! 忙しいからさ! ほら、最上級悪魔だし!

 

 

「アザゼル。悪いが他を当たってくれ。なんか面白そうだけど他所の戦力増強に手を貸すほど暇じゃねーんだよ。ドラゴンと契約したいならシスターちゃんが一人でやれよ……何から何までおんぶにだっこだと後々辛いぜ? あと俺は便利屋じゃないからな」

 

『ゼハハハハハハ! 良いじゃねぇの! 乗ってやろうじゃねぇか!!』

 

 

 俺の手の甲から声が響く。うわぁ、めっずらしぃ!

 

 

「ん? 珍しいな。相棒がこんなことにノリノリなんてさ」

 

『俺様も久しぶりにファーブニルと話してぇしなぁ! それによぉ! もしかしたら俺様の知り合いが召喚されるかもしれねぇんだぜ? 忘れたころに俺様の恐ろしさを思い出させるには良い機会じゃねぇか! いくら雑魚の頼みとはいえ今回だけは聞いてやっても良いと俺様は思うんだがどうよ?』

 

「……まぁ、相棒が良いなら良いけどさ。しゃーねぇなぁ……こっちも忙しいから勉強しながらで良いなら手伝ってやるよ」

 

「お、おう! それで構わん! 基本的な事は俺とロスヴァイセが行うからお前さんは傍に居てくれればいい。影の龍クロム、オーフィス、そしてアーシアの使い魔のラッセーのオーラを利用して召喚させてもらうからな」

 

「はいはいお好きにどーぞ。あー、先輩? こんだけ広いんなら一部分だけ使わせてもらっても良いですか? てかそれが対価替わりで良いんで貸してください」

 

「え、えぇ。構わないわ。ごめんなさいね……キマリス君も忙しいのにこんなことを頼んでしまって……」

 

「まぁ、俺もファーブニルと話をしてみたかったし相棒もノリノリなんで今回は別に良いですよ。ただ便利屋もどきにされてるのがイラつきますけどね……この場に夜空が居たら俺もテンション上がるんだけどなぁ」

 

 

 無いものねだりをしても仕方が無いのでアザゼル達が準備をしている間、俺は離れた場所で魔術書を読みながら影人形を生成する。数は複数、ルーン文字は「М(マンナズ)」「(イサ)」を使用して影人形の制御と安定感を高めている。サイラオーグとのゲームや寧音、夜空との殺し合いで影人形を複数生み出すと若干だが防御力が落ちる……みたいなのでその辺を克服するためだ。もっともあの三人がパワー極振りだから厳密には違うんだろうけどなんか納得いかないからさ! やれることはやっておかないとダメだろ邪龍的に!

 

 本来ならここに「(エイワズ)」と「(エオロー)」を加えるんだが今はお試しだからそれはしない。でもやっぱり一人でやるより四季音姉妹に付き合ってもらった方が良いな……あのパワーが無いと強くなってんのか弱くなってんのかさっぱり分からん。

 

 

「……相棒」

 

『そうだなぁ、確かに「М」と「I」の効果で普段使うよりは安定してるだろうな。これならば「(ウルズ)」の文字を入れても良いかもしれねぇぜ? あれはパワーを底上げするしな! 「Y」と「Z」でも問題ねぇけどよ! ゼハハハハハハ! あのクソババアからこんなもんが送られてきた時は殺してぇとは思ったが宿主様が強くなるなら甘んじて受け入れてやろう……! ムカつくけどなぁ!』

 

「だったらこれで強くなってぶっ殺せばいいだろ?」

 

『ゼハハハハハハ! 全く持ってその通りだぜぇ!』

 

 

 一通りルーン文字を付加して影人形を動かしていると先輩が俺に近づいてきた。

 

 

「……キマリス君でも特訓をするのね」

 

「いやいや……俺を何だと思ってるんですか? 普通の混血悪魔ですよ? 時間があれば殺し合いだの特訓だのしないとあの規格外には勝てないんですよ」

 

「キマリス君が普通なら私は普通じゃないわね……今度、時間があったら一緒にトレーニングをしてもらえないかしら? 本気で私を殺しに来る状況でどのように動けるか確かめたいの……どうかしら?」

 

「嫌ですよメンドクサイ。あと先輩を攻撃したらキレる人いるじゃないですか? 前のゲームの事はまだ忘れてませんからね」

 

「……うぅ」

 

 

 実際問題、仮に一緒に特訓したとしても俺達が行う特訓と先輩達が行う特訓が同じなわけ無いし、またあーだこーだ言われそうだしさ! 断るのが一番! メンドイとかじゃないよ? うん! あっ、でも一誠君と殺し合わせてくれるんなら考えても良いかもしれないな! 龍神と真龍の力が宿った体だぜ? 滅茶苦茶面白そうじゃねぇか! うん! 前言撤回して一誠君と殺し合わせてくれるならオッケーってことにしよう!

 

 そんな事を考えていると召喚魔法の準備が終わったらしい。と言っても俺とオーフィスとラッセー……? ってドラゴンのオーラを利用して龍門を開くだけだけど。

 

 

「よし、準備は終わった。ドラゴンを召喚するが問題無いな?」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

「我、アーシアをサポートする」

 

 

 やっぱり俺っていらなくね?

 

 というわけで始まりました! シスターちゃんによるドラゴンとの契約交渉! まず召喚されたのは炎のドラゴン、召喚したのがシスターちゃんだと気づいて威嚇したけど俺を見た瞬間に態度が豹変、土下座をして用件を聞き始めました。次に呼び出された水のドラゴンも呼び出したのがシスターちゃんだと気づいて見下した視線を向けていたが俺を見た瞬間に態度が豹変、土下座をし始めて用件を聞き始めました。次の獲物……コホン、召喚に応じてくれたのは風のドラゴンくん! 呼び出したのがシスターちゃん――では無く俺だと勘違いしたのか使い魔にしてくださいと土下座をして来たので俺の使い魔(ヴィル)に勝ったら考えると言って追い返しました。あれ? ドラゴンの中では土下座が流行ってんの? 毎回さぁ! 俺を見た途端に態度を変えてるんだけど何もしてませんけどぉ! てか召喚されて俺を見た途端に帰りやがった雷のドラゴン、テメェは後で覚えてろ。

 

 

「ドラゴンの中でキマリス君がどんな風に思われているのか良く分かるわね」

 

「こんなに社交的で礼儀正しい俺を見てビビるとかどうなってんだよ? グラム持って遊びに行くか」

 

「待て待て……そんな事をしたらタンニーンがキレるぞ? リアス、朱乃、アーシア、ロスヴァイセ、見て分かると思うがドラゴンでも苦手な奴がいる……それが邪龍だ。普通のドラゴンは邪龍を相手にはしたくは無い、なんせどれも頭がおかしいからな。キマリスを見て態度を変えたのは……光龍妃との殺し合いが原因か? あれだけ仲良く殺し合ってればドラゴンと言えども恐怖の対象だろう。ついでにグラムを嬉々として振るってたのも関係してるかもしれんがな」

 

『ゼハハハハハハハ! 俺様を見て態度を変える奴らを見るのは愉しいぜぇ! これだから蹂躙ってのはやめられねぇんだよ! 畜生! 封印されてなければ襲いに行けるってのによぉ!!』

 

「……影の龍、悪魔となって分かりますがやはり邪龍の筆頭格ですね。何故平然としていられるのか分かりません」

 

「うふふ、ですけど楽しそうですわね。まるで親子ですわ」

 

「そりゃ当然ですよ。俺は相棒にとって息子らしいですし」

 

『おうよ! 俺様の大事な大事な息子だぜぇ! ゼハハハハハハハハ! おい! 早くファーブニルを出しやがれ! 久しぶりに虐めてぇんだよ!!』

 

「本当ならもう少しドラゴンとの会話に慣れてからが良かったが……仕方ない、何とかなるだろ」

 

 

 アザゼルが宝玉を取り出した。確か三大勢力がまだ和平を結ぶ前に行われた会談で使った人工神器ってやつだな……ファーブニルが封じられているであろう宝玉に魔法陣を当てながら呪文を唱えると地面に龍門が開き、一体のドラゴンが召喚された。金色の鱗を持つ翼を持たない四足のドラゴン……五大龍王の一体である黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)、ファーブニルだ。さっきまで召喚されたドラゴンにも言えるけどやっぱりデカいな! 相棒も生前はこんな感じだし当然と言えば同然だけど……てかどこを見てんだ?

 

 

「ファーブニル、呼び出したのは他でもない。俺との契約を解約するためだ」

 

 

 アザゼルの言葉に興味が無いのか何も言わずにアザゼル――ではなくその隣にいるシスターちゃんを見つめてる。まさかの一目惚れか?

 

 

『ゼハハハハハハ! 久しぶりじゃねぇかファーブニルよぉ!』

 

『クロム、懐かしい。また俺様を虐めに来た?』

 

『そうしてぇが今回は別件でなぁ! テメェと契約したいっつう物好きが居るのよ! そこにいる金髪シスターちゃんだぜ! ゼハハハハハ! 雑魚だが弱いテメェにはお似合いだなぁ!』

 

『俺様と契約?』

 

「は、はい! アーシア・アルジェントと申します! 始めましてファーブニルさん!」

 

「影の龍クロムも言ったが俺との契約を解除してコイツと契約してほしい。お前が望む対価もやろう」

 

『契約……この子が俺様と契約……』

 

 

 デカい顔でシスターちゃんを舐めまわすように見つめているけどマジで何考えてるか分からねぇ……気に入ったのか嫌なのかすら分からんとは流石ドラゴン! てかまた虐めに来たって相棒……生前何したんだよ?

 

 

『――金髪、俺様と同じ金、アーシア……アーシア()()、契約しても良い』

 

「何か今、たんって聞こえたんだが……ファーブニルってあんな性格なのか?」

 

『んなわけねぇだろ! おいおいどうしたファーブニル! 宝にしか興味が無かったテメェが女にたん付けで呼ぶたぁ珍しいじゃねぇの! 確かに分かるぜ……! 金髪シスターなんざ希少も希少! 俺様も何度犯してぇと思った事か! もっとも俺様はあの男の娘(吸血鬼)が良いけどな!』

 

『クロムは変わらない。前も俺様が護っていた宝を奪いに来た時も男の娘が関係していた……俺様、契約するなら対価が欲しい』

 

「……はっ、あまりの衝撃で意識が軽く飛んでたぜ……ま、まぁ良い! ファーブニル、何が望みだ?」

 

『ぺろぺろしたい』

 

「……なんだと?」

 

 

 アザゼルがマジかって顔をしてるけど俺には分かるぜファーブニル……! 腋だな! 確かに金髪シスターの腋ってかなり希少だろうからペロペロしたい気持ちは凄く分かるぞ! なんだよこのドラゴン! 話が分かるじゃねぇか!! よっしゃ! ちょっと同じドラゴンとして手を貸してあげないとダメだな! あとすいませんが俺もぺろぺろして良いですか?

 

 

『金髪美少女シスターのアーシアたんをぺろぺろしたい』

 

「よしシスターちゃん! 脱げ! そして腋を見せれば後はファーブニルがぺろぺろして契約が完了するはずだ! いやぁ、まさかここで同じ性癖を持つ奴と出会えるなんて思わなかったわ! あっ、俺は相棒を宿してるノワールだ……出来ればシスターちゃんの腋の味を後で教えてください!」

 

『良いよ』

 

「ありがとうございます!」

 

「キマリス君、ちょっと黙って頂戴……! アザゼル!! どうなっているの!!」

 

「知るわけないだろ!? ファーブニルがこんな風になってるなんざ俺も驚きだ! てかキマリスのテンションがさっきまでと違う事にもビックリだ!!」

 

 

 いやだってさ……同じ腋好きのドラゴンだぜ? テンション上がらないわけないだろう! いやぁ、良いねこのドラゴン! 俺が使い魔にしたいぐらいだわ!

 

 

『でも俺様、もっと欲しいものがある』

 

「……一応聞こう。何が欲しい?」

 

『美少女シスターのおパンツください。それならいつでも呼んでも良い。今は脱ぎたてのおパンツが希望です』

 

「安いなこのドラゴン」

 

「あ、あぁ……確かに安いな。レアメタルやら世界中の財宝を要求されるよりも格段に安い! うはははははは! もう知らん! これほど格安で契約出来るなんざ滅多に無いぞ! なんで俺との契約の時は宝を欲しやがった!! そんなので良いなら毎回苦労しなくても済んだのによ!!」

 

『男のパンツはいらない。これ真理』

 

「俺だっていらんわ! ちゃんと女のパンツを用意したぞ!?」

 

『俺様はコレクター、金髪美少女シスターのおパンツはお宝中のお宝。他には代えられない価値がある』

 

 

 うん、凄く分かる。さて問題は……ファーブニルの発言に女性陣がガチで引いている事だな。いやいや待って待って……普通だから! 男ってのは女の子のパンツやらなにやらを欲しがる存在なんだよ! てか普通に考えてパンツ一つで契約していつでも呼んでいいとか格安も格安だろ……しかも五大龍王だぞ? そいつと契約したい奴がどれだけいると思ってんだ? 確かに恥ずかしいだろうけど夜空も平家も平然と渡してくるからきっと大丈夫だと思うぞ! いやぁ、マジで話が分かるわこのドラゴン! お友達になりたいね!

 

 

「アーシア……やめましょう。きっとこれはダメなドラゴンだわ」

 

 

 先輩が保護者のようにシスターちゃんを遠ざけてるのがガチな反応過ぎて面白いね。

 

 

「……ちなみにファーブニル、俺と契約するなら対価はどんな感じだ?」

 

『世界中に散らばったティアマットのお宝が欲しい』

 

「……やっぱりシスターちゃんの方が安いな」

 

「ドラゴンが集めていた宝とパンツか……なんだこの差は!? 酷すぎるぞ!」

 

「ファーブニル、パンツが欲しい? 我のパンツを上げる」

 

『……オーフィス? パンツくれるなら貰う。でも俺様、アーシアたんのおパンツじゃないと契約しない』

 

 

 とか言いながらオーフィスのパンツを貰って匂いを嗅いでいるところを見るとガチだな。なんか先輩からグラムであれを斬りなさいとか言ってきてるけどするわけないじゃん……メンドクサイ。つーかマジで差が酷すぎて呆れてるんだけどさ? いや、まぁ、ドラゴンだから仕方ないと言えば仕方ないんだろうけどもっと差を縮めてくれませんかねぇ!

 

 ちなみにティアマットってのは五大龍王の一体で未だに封印も討伐もされていないドラゴンだ。相棒から聞いた話だと過去にユニアとガチで殺し合った事があるとか相棒がティアマットを抱こうとして迫ったら殺し合いになったとか色々面白い話を聞かされたけど……流石だな! 欲望に忠実で俺様、憧れるね!

 

 

「あくまでアーシアのパンツじゃないとダメか……男としてそれは物凄く分かるがどうする? こんなチャンスは滅多に無いぞ?」

 

「待ちなさいアザゼル! 確かに破格の条件かもしれないけれど……召喚のたびにぱ、ぱパン……を与えるなんて女性を何だと思っているの!」

 

「いや買えばいいじゃないですか……あと先輩? わずか数千円程度で五大龍王と契約出来るなら安いと思いますよ?」

 

「女の子の下着は使い捨てじゃないの! キマリス君は黙ってて頂戴!」

 

 

 アッハイ、ダマリマス。

 

 

「キマリス……言いたい事は分かるぞ」

 

「だろ? ここまで格安だと即契約だろうになーんで悩むかねぇ?」

 

「それが女ってもんだ。服や下着に何万とかけるが着るのは精々一回やら二回、着終わったら押し入れの中で眠るんだよ。そして気づけば体形が変わって着れないからマーケットで格安で売られるんだ」

 

「良く分かんねーよなぁ? なんだってそんな無駄な事をするんだか……夜空でさえ人の財布から金をとって自分の服を買ってさ、何日も着続けるってのに……この人達は馬鹿じゃねぇか?」

 

「……お前さんも苦労してんだな」

 

「もう慣れたよ」

 

 

 女性陣が話し合っているのを見ながらアザゼルと話し合う。この瞬間だけだがアザゼルの好感度が上がった気がするね! あとオーフィス、飽きたからって子供のドラゴンと遊ぶのはやめなさい。死んだらどうするんだよ? いくら弱くなったって言ってもお前が遊び感覚でも相手は必死に抵抗してるかもしれないだろ!

 

 

「……キマリス」

 

「ん?」

 

「今回の件とは関係無いが次の休日、少しばかり時間をくれ」

 

「理由は?」

 

「リアスの僧侶、ギャスパー・ウラディの件で吸血鬼側と会談を行う予定になってる。出席者はリアス達グレモリー眷属とソーナ、俺、天界側から一人……グリゼルダっていうガブリエルの(クィーン)だ。最上級悪魔としてお前さんにも出席してもらいたい。吸血鬼側が何を言い出すか分からん状況で光龍妃の乱入もあり得る……もしもの時には好きに暴れてくれても良い」

 

「……良いのかよ? アンタがそんな事を言って?」

 

「なに、俺は総督を辞任した身だ。これぐらいは言っても罰は当たらんさ」

 

「ふーん。好き勝手にして良いなら別に良いけどさ。まーた巻き込まれたのか? 先輩も運が無いというか一誠が引き寄せているというか……了解、あとで時間を教えてくれ」

 

「助かる」

 

 

 そんな事を話しているとシスターちゃんが覚悟を決めたのかその場でパンツを脱いでファーブニルに手渡して契約を行った。目の前でパンツを脱ぐ姿がこれほど良いものだとは思わなかったよ……ありがとうございました!

 

 しっかし吸血鬼との会談ねぇ……一応、引きこもりたいとかいうだろうけど平家を連れていくか。とりあえずファーブニル――シスターちゃんの腋をぺろぺろするのは何時ですか?




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

83話

「なんつーか、こんな風に集まって飯食うの久しぶりじゃねぇか? キムチラーメンネギメンマ多めの大盛と餃子」

 

「そうかもしれないな。魔獣騒動が起き、俺達の方もある人物によって組織に反逆者扱いされてしまったからね。ふむ……味噌ラーメン大盛、チャーハンを頼もう」

 

「ヴァーリ、それは嫌味かな?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「ぶっちゃけさぁ~なーんにも縛られることなく自由になったんだし問題無くない? あっ! メニューの端から端まで全部ちょーだい! 勿論大盛ぃ!」

 

 

 休日のお昼頃、俺はとあるメンバーとラーメン屋に訪れていた。俺の目の前には圧倒的イケメン力を放つ銀髪の超絶イケメンで死ねばいいと思っているヴァーリ、隣の席には圧倒的な壁力(ちっぱい)を持つスーパー規格外の美少女の夜空ちゃん! どちらも俺と一緒にここまで歩いてくる最中に女の子や野郎連中から何度も見られていたのは言うまでもない……現に今も俺達()()に周囲の客たちからの視線が集中しているしな。流石イケメンと美少女……! ヴァーリだけ死ねばいいのに! 少しぐらいはイケメン力を分けてくれても良いと思うんだがどうだろうか!!

 

 

「端から端って……相変わらずよく食うなぁ」

 

「なに? 文句あんの? 女の子は食べなきゃ動けない生き物なの! ノワールのおごりっしょ? だったら食わなきゃダメじゃん!」

 

「確かに奢るとは言ったが限度があるだろうが……まぁ、今更お前に言っても聞かないだろうけどよ。つーわけだ、()()ちゃんも遠慮しないで頼んでいいぜ?」

 

 

 ヴァーリの隣の席に座っている男に視線を向けながら話しかける。帽子をかぶり、どこかの学生服を着ている男の名は曹操、はい! 英雄派のトップだったお方です! いやーあれだね? 帽子をかぶって顔が見えなくても爽やか系イケメンってのは隠せないもんだわ! 死ねばいいのに。ヴァーリに殺されて死ねば良かったのにマジで! というよりも俺の目の前にいるイケメン二人は滅んでいいと思います。

 

 なんで全世界で指名手配中の曹操とヴァーリがこの場にいるかと言うと……隣にいる夜空が連れてきた。もうビックリしたわ! いつもの様にノワールおなかすいたーって転移してきたから昼飯食いに行くかって話になったらさ! なんか俺に用事がある奴が居るとかで連れてきたのがこの二人だよ! この場所が駒王町じゃなくて良かったわマジで!! だってあの町って周囲を変な結界で覆っているから侵入者が居ると即効で三大勢力のスタッフにバレるんだよね……この規格外は例外だけど。

 

 

「――おかしいな。本来であれば影龍王、キミは俺達を捕らえなければいけない立場なはずなんだがな」

 

「だって此処、俺が管理してる場所で先輩が管理してる駒王町じゃない。つーかメンドイからするわけねぇっての……それに仮に捕らえようとしたら全力で抵抗するだろ? 俺的にはそれでも全然問題無いけどさ! 飯食うだけなんだしそんな面倒な事はしねぇよ」

 

「……そうか。ならお言葉に甘えて注文をさせてもらおう。醤油ラーメン大盛、餃子とチャーハンだ」

 

「りょーかい。すんませーん、えーとメニューの端から端まで全部とキムチラーメンネギメンマ多めの大盛、味噌ラーメン大盛、醤油ラーメン大盛、餃子二人分、チャーハン二人分」

 

「ほう。初めてだぜそんな注文はよ……なんだったらこれはどうだい?」

 

 

 俺の注文を聞いた店長らしいおっちゃんが手に持ったパネルを見せてきた。そこには大食いチャレンジと書かれており、5kgのラーメンを三十分で食べきれば代金は無料で賞金一万円、ムリなら逆に一万円を支払うという内容だった。ふむ、夜空だったら余裕な気がする……なんせコイツの胃袋は規格外だからな! 食っても食っても体形が変わらない不思議仕様だ! この程度なら十分もかからないだろう。いったいこの体のどこに入ってんのか分からないぐらい食うから店長のおっさん……覚悟しておけよ!

 

 店長が見せたパネルを見た夜空はにへらと笑いながらよだれを流して俺を見つめる。その目には食いたい、食わせろ、食って良いよねと言ってる気がする……いや確実に言ってるね! あの、夜空ちゃん? 食いたい気持ちは分かるけど口から流れているよだれを拭いて顔を戻そうか! 美少女がしてはいけない顔になってるからさ!

 

 

「ラーメンでこの量は多いが……光龍妃は食べる気か? あとすまない、その顔は女性としてはどうだろうか」

 

「にへへ……おいしそぉ! とーぜん! 食うぜー! めっちゃ食うぜー! てかー曹操! なに人の顔を馬鹿にしてんのさぁ! どっからどう見ても超絶美少女じゃん! 殴るよ?」

 

「それをされたら俺は死ぬな」

 

「てか自分で美少女って言うならせめてよだれを拭けよ……おっちゃん、それ頼むわ」

 

「あい分かった。ちと待ってろ」

 

 

 俺達の注文を聞き終えたおっちゃんは厨房の方へと入っていく。周りの客も大食いメニューに挑戦する夜空を見てマジかって顔をしてるが数分後には嘘だろって顔に変わるだろう……絶対にキブアップなんてしないからな!

 

 

「ところで曹操ちゃん? 英雄派が解体したっぽいけど今何してんだ? 夜空からはヴァーリと殺し合いをして死にかけてたとかってのは聞いたんだけど?」

 

 

 前に夜空と勉強会をした際に目の前にいるヴァーリと曹操が本気の殺し合いをしていたと聞いた時は驚いたぜ……ズルイぞ! なんで俺を呼ばないんだ! こっちはなぁ! 冥府を崩壊させたり死神ぶっ殺したり童貞を人質に最上級悪魔に昇格させられたり勉強したりしてたってのになんで殺し合いをしてんだよ! 俺も混ぜろ! 聖槍と白龍皇相手に殺し合いしたいんだよ! まぁ、夜空曰く「私が見つけなかったら二人共死んでたねー」とか言ってたから本気も本気の殺し合いだったんだろう……羨ましい。それに比べて俺達はここ最近は殺し合ってないしなぁ……別に今まで通りだけど魔獣騒動のあの感覚を知っちまったら体が落ち着かないんだよね! 流石悪魔で邪龍! 相棒の気持ちは痛いほど分かるね!

 

 

「……何をしている、か。そうだな……自分探しの旅と言えばいいかな?」

 

「中二病か? 良い病院知ってるぜ?」

 

「生憎、これまで病気になった事は無いさ。それに中二病ならばヴァーリとキミも当てはまるだろ? その話は置いておいて禁手が()()化したヴァーリと殺し合ってまぁ、引き分けになったんだがこれから何をしようか分からなくなってさ。光龍妃は好きにすればいいと言うしヴァーリも思うがままに生きれば良いと言うんだ。影龍王、キミは俺になんて言うのかな?」

 

「好き勝手に生きれば良いんじゃねーの?」

 

「……あぁ、予想通りだ。うん、だから自由気ままに旅してこれからの目標を見つけようと思っている。俺は英雄では無いからな……ただ聖槍に選ばれただけのちっぽけな人間で先祖が英雄だっただけの存在だ。そもそも英雄派という組織自体が俺の我儘だったのかもしれない……英雄の血筋だから英雄だという勘違いが作り出した集団。やってる事自体は楽しかったけどね」

 

「そりゃそーじゃん。英雄って死んでから言われるもんっしょ? そー呼ばれたいなら死ねばいいんじゃねーの?」

 

「そうだな。時に曹操、あれは俺の勝ちだ。勝手に引き分け認定するのは我慢ならないな」

 

「それこそそっちの勘違いだろう? 覇輝(トゥルース・イデア)でボロボロ、立ち上がることすら出来ていなかったはずだが?」

 

「お前こそ全身の骨が折れて戦闘続行が不可能だったはずだ。立ち上がる気力があった俺の方が勝っていたぞ」

 

「いや、まだ戦えていたさ。よわっちぃ人間とはいえドラゴン相手に戦意を喪失するほど弱くは無いつもりだ。なら……もう一度殺し合おうか」

 

「構わない。俺もヤツが動き出したと聞いて力を高めなければいけないからな」

 

「あのさー私が見つけなかったらテメェら死んでたってこと忘れてない? この美少女で女神な夜空ちゃんに感謝の言葉とかないん?」

 

「……ヴァーリ、この話題は無かった事にしよう」

 

「そうだな」

 

 

 ジト目になった夜空の視線に耐えきれなかったのか軽い口喧嘩状態だったヴァーリと曹操が会話をやめた。そこまでして感謝の言葉を言いたくないってわけね……知ってた! お前らって基本的に自分主義だもんな! あとジト目な夜空ちゃん可愛い!

 

 まぁ、そんな大事な事は置いておいてだ……聞き逃してはいけない単語があったぞ? 亜種化? ヴァーリの鎧が亜種化したってか? うわーこの銀髪イケメン白龍皇様死ねばいいのに! なんで夜空みたいに禁手を亜種化させてんだよ!! お揃いか!? お揃いだな! よっしゃ俺と殺し合え! 今すぐぶっ殺してやるからさ! あと曹操ちゃん……人間なんだから好きに生きれば良いと思うぞ? 俺も悪魔で邪龍だから好き勝手に生きてるし何がしたいかなんてその時によって変わるだろ? 長生きしたいなら世界の端っこで細々と生きれば良いし殺し合って死にたいなら笑いながら戦えばいい。もし英雄になりたいなら俺達を殺せばいいしヒーローになりたいなら色んな人を助ければいい……何をしたいかなんて曹操ちゃんの自由だ。まっ、夜空みたいにあれがしたい、これがしたいで好き勝手にしていれば問題無いと思うけどね。

 

 

「まー曹操ちゃん? 俺や夜空みたいに好き勝手に生きれば良いと思うぜ。んで? そんな事を言うために此処に来たわけじゃないだろ?」

 

「まぁね。今更こんなことを言うのもあれだが影龍王、最上級悪魔に昇格、おめでとう。お祝いの品と言うわけじゃないが一つだけ面白い話をしようと思う」

 

「面白い話ねぇ……なに?」

 

 

 どーせ禍の団の残党がリゼちゃんかその他の奴の元に集まってるとかっていう話だろうけども。

 

 

「――邪龍が復活した、と言ったら驚くかな?」

 

「――へぇ。詳しく聞かせろよ」

 

 

 なんだかおもしろい話になりそうだ……! 邪龍が復活した? 相棒とユニア、ヴリトラ以外の邪龍が! マジかよ!! おいおい曹操ちゃん! お祝いの品にしては豪華すぎるぜ!

 

 

「ヴァーリと殺し合いをして今後の目標を探す旅に出ていたという事はさっき話したよな? その過程でいろんな場所を歩き回ったよ……過去、人間を滅ぼすために暴れ回った魔物や邪龍、そして人間。それらが倒された場所や関連するところを歩き回っていると……声が聞こえたんだ。とあるドラゴンが滅ぼされた場所でね。聞いた事はあるはずだ、邪龍を宿しているキミならね――そのドラゴンの名はグレンデル、大昔に討伐された邪龍の声を俺は耳にしたというわけさ」

 

『――ゼハハハハハハハハハッ! おいおいマジかよ! あのグレンデルが蘇ったってか!? アイツは初代ベオウルフに討伐されたはずだぜぇ? ゼハハハハハハ! 最高だ! 最高過ぎるぜぇ!! また殺し合いてぇなぁ! 何度俺様を殺そうと襲ってきたか忘れちまったけどよ! かなり強いぜ? この時代に生きる奴らならヤツは鼻歌交じりで殺せるだろうな!』

 

『あぁ! なんて嬉しい報告なのでしょうか……あの逞しい――(ピー)で突かれていたあの頃を思い出しますね! クフフフフ! 肉体さえあればまたお相手してもらいたかった……!』

 

『おいおいマジかよグレンデル……こんな性悪ビッチを抱いてたとか黒歴史も良いところだぜ。出会ったら慰めてやらねぇとな!』

 

『男相手に欲情する変態に慰められたら泣くと思いますよ?』

 

『あぁん!? テメェ分かっちゃいねぇなぁ! 前々から言ってると思うがよぉ! 男の娘は……男なのに女なんだよ! 俺様が抱いた男の娘はそれはもう即快楽落ちだったんだぜ? ゼハハハハハハ! 聖書の神め……俺様を封印しやがってぇ!! 男の娘が抱けねぇじゃねぇか!!』

 

 

 はいはい男の娘好きは分かったから黙っててくれませんかねぇ? 隣にいる夜空からキモって感じで見つめられてるのがすっごく興奮するけど同じ男好きって感じで見られたら……それはそれで有りと言えば有りか! ほら! 私が女好きに治してあげるとかっていう展開があるかもしれないしさ! どっちに転んでも最高とか良くない?

 

 

「――死ねよ」

 

 

 だからなんで俺が思ってることが分かるのか教えてくれませんか?

 

 

「グレンデル……邪龍の一体か。その件と関係しているか分からないが俺達も曹操と同じく魔物が滅ぼされた土地などを巡っている。その最中に魔法使いと出会うこともあったな、ヤツに従っている輩だとは思うがまさか……邪龍を復活させるか。中々面白い事をしている」

 

「可能性としては一つだけある。神滅具の中でも生命を操ることが可能な幽世の聖杯(セフィロト・グラール)ならば滅んだ邪龍の意識を読み取り、肉体を再生することも可能だろう。他の生物とは違い、邪龍は普通に倒した程度では完全には滅する事は出来ないからな」

 

「生命ねぇ……おい夜空、俺に黙ってなんか面白い事とかやってないよな?」

 

「んー? するわけねーじゃん。そりゃ~リゼなんとかってのと話はしたけどなーんにもしてないっての。つーかこの私がノワールに黙って何かすると思ってんの?」

 

「うん」

 

「即答すんじゃねーよ」

 

 

 だって京都の九尾拉致事件とか思い当たる部分はいくらでもあるしな。まっ! お前が何をしようと俺は喜んで巻き込まれるだけだからドンと来い! 思う存分楽しんでやるさ!

 

 

「まぁ、お前が何をしようと俺は愉しいからそれはそれで問題無いけどな。これからも好き勝手に何かやってくれよ? 何度も言ったが俺はそんなお前でも受け入れてやるからさ」

 

「……ふん、ばーか、カッコつけんな変態」

 

「ひっでぇなおい」

 

「相変わらず仲が良くて見てて飽きないよ。ついでに教えておこう……英雄派と旧魔王派の残党は一人の悪魔の下に集まったようだ。これから色々と起きると思うから頑張れ、と言えばいいかな?」

 

「さぁな。あーてかヴァーリ? お前の爺ちゃんなんだけどさー? もし殺し合う事になったら殺していいのか?」

 

「……可能ならね。知っているとは思うがヤツには神器は通じない。異例な成長をしている俺や影龍王、光龍妃、兵藤一誠でさえヤツにダメージを与えれるかどうかすら現状では分からない。だが殺してくれるのなら殺しても良いさ……もっともキミがヤツを殺すよりも先に俺がヤツを殺しているから奪い取るなら早い者勝ちだ」

 

「そーかい。まっ、リゼちゃんがこっちに手を出さない限りはスルーするつもりだよ。んじゃ、飯食おうぜ? いやーなんで俺が奢ることになってるんだろうな!」

 

 

 隣から私の財布だからに決まってんじゃんと夜空からツッコミが入る。しかし視線は俺の方を見てはいない……何故なら自分の目の前に置かれたバケツのような大きさの丼に入ったラーメンに向けられているからだ。なんかすっごく美味しそうって感じでよだれを流しているけどさ? 美少女がそんな顔をしたらダメだと思うんだよ! ヴァーリは何とも思ってない様子だけど曹操ちゃんを見ろよ! 呆れてるぞ! つかマジでナニコレ……? 野菜、メンマ、肉、餃子が麺の上に盛り付けられて見てるだけで胸焼けしそうなんですけど? なんで餃子がスープの中に入っているのかというツッコミの前に何故これを美味しそうと思えるのか意味分かんない!

 

 そんなわけで始まりました超絶美少女で女神のような愛らしさとちっぱいを持つ夜空ちゃんによる大食いチャレンジ! 俺達男三人は実況する事もしないで自分が頼んだ分を食べながら夜空を見続ける作業に入りましたが……えーなんと言いますか……開始十分で食い終わったんだよね! 周りもマジかよって感じで絶句状態なのにこの規格外様は「足りないからもう一個ちょーだい」と言いやがってさー大変! 周りが唖然とする中、見た目ロリな夜空ちゃんはなんと5kgのラーメンを三つ食ってやっと飽きました! ホクホク顔で賞金の三万円を手に入れてたけど俺達は何も言えない状態だったよ……だって店長らしいおっちゃんが真っ白に燃え尽きてたもん! ど、ドンマイ!

 

 

「――帰っていい?」

 

「席に座って茶まで飲んでるくせにそのセリフか? 自由すぎるぞ」

 

 

 ヴァーリと曹操ちゃん、そして夜空と楽しい楽しいお昼を過ごして適当に時間を潰し、何故か参加することになった吸血鬼との会談まであと少しというところで俺は帰りたくなっていた。遅れてはいけないと水無瀬と橘から言われたのでこうして早めにオカルト研究部の部室までやってきたけどさぁ……そもそも俺は関係無いし。なーんで他を巻き込むかなぁ? 偶にはアザゼルとか生徒会長とか俺とかを頼らないで自分でやってもらえませんかねぇ?

 

 

「だって俺は関係ないだろ? いくら最上級悪魔だって言っても先輩の眷属絡みでしょ? だったら一人でやってくれよ……こっちだって忙しいんだよ」

 

「それは分かってるっての……いや待て、キマリス! この前はノリノリだっただろ!? なんだ!? いつもの掌返しか!!」

 

「おっ、分かってんじゃん」

 

「……少しは否定という言葉を覚えろ」

 

 

 だってあの時は参加しても良いかなぁ~とか思ってたんだけど曹操ちゃんから邪龍復活の話を聞いてそっちに集中したくなったんだよね! いやー残念だなー! 仕方ないねー! だって吸血鬼と邪龍だったら邪龍の方に興味持っちゃうよねー!

 

 

「……噂で自由な方だとは聞いていましたがまさにその通りです。それに座っているだけだというのに体から漏れ出す邪気……和平を結んでいなければ真っ先に滅する対象となっていたでしょう」

 

 

 何やら俺を見つめてくるのは良く分からん外人さん。えーと誰だっけ……アザゼルから名前だけ聞いてたような気がするけどマジで誰だっけ……? えーとあーと、おぉ! グリ、グリ、グリ……グリなんとかさんだ! 正直、視線がウザくて殺したいし真っ先に滅する対象とか言ってきたから殺したいんだけど良いかな?

 

 

「ま、待ってく、れ……影龍王相手にその言い方は、ダメ、だ……!」

 

「そうです! えっと、怒って……ますよね! ごめんなさい! 違うんです悪く言ってるわけじゃないので怒らないでください!」

 

「シスター・グリゼルダ。言いたい事は俺も良く分かるがそれは胸の内にだけで留めておけ。キマリス、拘束を解け……ただの冗談だ」

 

「拘束……? ッ!!」

 

 

 グリなんとかさんが着ている修道服の隙間から(もや)のような何かが漏れ出す。それは俺が霊操で作り出した相棒の影が混じっていない人形もどき……さっきなんかムカつくことを言われたから死角になっているテーブルの下から伸ばしてグリなんとかさんの足先からバレないように拘束してたんだが……どうもアザゼルには普通にバレてたらしい。デスヨネ! だってルーン文字使ってたら誰だって分かるもんなぁ。

 

 

「別に滅する云々はどーでも良いけどさ、手を出してくるならこっちもやり返すから覚えておけよ? つーか気づかねぇってマジで雑魚……まっ! ルーン文字の実験台にはちょうど良かったから感謝してるけどな」

 

「全く……和平を結んでいる相手の体に霊体を這わせて拘束とか普通はしねぇぞ? サーゼクスが文句言われるんだ、少しは自重しろ」

 

「ん? 魔王特権のし過ぎで文句言われるなら当然じゃねーの? てか本当に暇なんだけど……やっぱり俺もはぐれ討伐行けば良かったかなぁ」

 

 

 現在、この部屋に居るのは部室の主である先輩達グレモリー眷属、生徒会長と副会長、アザゼル、グリなんとかさん、そして俺……本当なら平家を連れてきたかったんだが「嫌でござる、引きこもりたいでござる」と言って俺の部屋に立てこもりやがったから置いてきた。橘と水無瀬は魔法使いの契約絡みで忙しい、グラムと四季音姉妹と犬月は冥界ではぐれ悪魔討伐やらキマリス領の復興やらで忙しいから現状、動けるのが俺しかいなかったわけだ。おかしいな……なんで王の命令を拒否ってんだよあの覚妖怪! いつもの事だけどなんか腑に落ちねぇぞおい! 多分今頃はレイチェルと一緒に積みゲーと化してた奴をやってんじゃねぇかな? なんだかんだで仲良いしね!

 

 そんなこんなで待つこと十数分、俺達が居る部屋にとある人物達が訪れた。豪華なドレスに身を包んだ色白の美少女、ウェーブがかかった長い金髪に赤い瞳はまるで人形と表現できるほど美しい……と言って良いか知らんがアイドルだったら余裕で人気が出るだろう。ただ肌の色が白すぎて大丈夫かって心配されるのと()が無いから騒がれるかもしれないがな。

 

 

「――ごぎげんよう。エルメンヒルデ・カルンスタインと申します。魔王さまの妹君、最上級悪魔の影龍王さま、堕天使の前総督さまとお会いできて光栄です」

 

 

 なんとも噛みそうな名前だな。

 

 

「カルンスタインっていうと……確かカーミラ派の家だっけ?」

 

「あぁ。それも最上位に位置するほどの家だ。純血の吸血鬼、しかもカーミラ派の者と会う事になるとはな」

 

「同じく。まさか吸血鬼と話をすることになるとは思わなかったが……アンタだけ? トップの立場っぽいカーミラはどこにいんだ?」

 

 

 イケメン君に連れられてこの部屋に入ってきた人数は三人、目の前にいるエルメンなんたらって奴とボディーガード二人、この建物の全てに影人形を忍ばせているから隠れて潜入何かは殆ど無理。つまりこの三人だけでこの場にやってきたって事になるが……マジで? 嘘だろ……今回みたいな会談ってトップの奴が来るんじゃないのか? 和平を結ぶ前の三大勢力も魔王や天使長やアザゼルが集まったし、八坂の姫や寧音だって自分の足で赴いてるんだぜ? うわぁ、吸血鬼舐めてるな……まっ! 今回は俺は一切関係無いんだけどな! むしろなんで参加させられてるのか不思議なぐらいだ!

 

 

「カーミラさまはご多忙のため、代わりに私がこの場に出向いた次第です」

 

「ふーん」

 

「……コホン。早速で悪いのだけれど今回の用件は前もって伝えられているわ――私の眷属、ギャスパー・ウラディの力を借りたいとの事だけどどういう事かしら?」

 

 

 え? そんなことは全然教えられてないんですけど? 今初めて知ったんですけど!

 

 

「私たち吸血鬼の世界を崩壊させるほどの代物がツェペシュ側に現れました。神を殺せるほどの力を持った神器――神滅具の類です。その名称は幽世の聖杯、生命を司るとされる代物であり、私たち吸血鬼の弱点すら無くすことが可能な杯をツェペシュは使用しています。それと同時に私達カーミラ派の吸血鬼に攻撃も行っているためそちらのギャスパー・ウラディの力をお貸し願いたい」

 

「……厄介な事になってやがるな。確かにあれならば生物の弱点を克服する事なんざ造作も無いだろう……光龍妃が発現したとされる「生命力の回復」に近い能力を持ち、ありとあらゆる生物を蘇生も所有者次第で行えるトンデモナイ神滅具だ。今代に入って行方が分からなかったが……まさか吸血鬼、しかもツェペシュ側が持ってやがったとはな」

 

 

 幽世の聖杯か……邪龍を復活させることも可能だろうと曹操ちゃんが言ってたけど吸血鬼側が持ってんのかよ。つーことはあれか? ドラゴンが吸血鬼如きに弄ばれてるってことになるわけか……ハハハハハ、死にたいのか? 俺達ドラゴンを矮小な存在程度が従えていいわけがない……事と次第によっては潰すか。邪龍として、ドラゴンとしてそれはあまりにも許せねぇ。まぁ、一誠君みたいに自分が好きで傍に居るとか邪龍自らが従ってんなら文句は言わないけどさ!

 

 もっともそれは()が関わっていたらの話だ。今回の件は良く分からんが先輩と吸血鬼側(エレなんとか)が話をする場で俺やアザゼル、生徒会長にグリなんとかさんは見届け人の立場だろう……さて先輩? 自分の可愛い眷属の力を要求する奴を相手にどうするつもりか見せてもらおうじゃねぇか。

 

 

「いくつか質問をさせてもらうわ。私の可愛い下僕(かぞく)のギャスパーの力を借りたいというのは……この子に秘められた力が関係していると考えて良いわね?」

 

 

 ギャスパー・ウラディ。グレモリー先輩の僧侶のハーフ吸血鬼の男の娘、魔獣騒動時に謎の力が発現したとは犬月達から聞いてたけどそれが関係しているのは分かりきってる……なんせ先輩の問いにエレなんとかは表情すら崩さずに頷いたしな。畜生! その時は冥府で遊んでたから見れなかったけどかなりヤバいことになったのはなんとなく察してたけどさ! もう一回見せてくださいお願いします!

 

 

「当然です。それ以外に彼の力を借りる理由はありませんよ。何故なら私達の問題ですからね、吸血鬼の問題は吸血鬼が解決する。それ以外の手は借りることなどありません」

 

「……そう。では次の質問よ、この子の力を貸したとしてこちらに戻ってくる保証はあるのかしら?」

 

「それは彼次第ですね」

 

「お、おい! 力を貸せって言ってギャスパーの安全を保障しないってどういうことだよ! 同じ吸血鬼なんだろ!? いくらなんでも安全は保障するのが筋なんじゃないのかよ!」

 

 

 あまりの態度に先輩の後ろで立っていた一誠君が叫びだした。ヒーローらしく背後に男の娘な吸血鬼君を隠しながら堂々と文句を言う姿はドラゴンらしくて俺は好きだぜ! ゼハハハハハ! 良いぞ良いぞもっと言え! そっちの方が俺は面白いしな!

 

 

「……あぁ、そちらの方は赤龍帝の方でしたね」

 

「お、おう! リアス・グレモリーの兵士! 兵藤一誠だ! それでどうなんだよ!! ギャスパーの安全を保障するのか!」

 

「――口を慎みなさい。ただの下僕に発言の権利を与えてはいませんよ」

 

「ッ!!」

 

「イッセー、落ち着きなさい。大丈夫よ」

 

「……は、い……!!」

 

「リアス・グレモリーさま、下僕の躾はしっかりと行ってもらわねば困ります。そちらの影龍王なら兎も角、赤龍帝とはいえ下級……いえ中級悪魔でしたね。その程度で発言が出来るわけがありません。さて、ギャスパー・ウラディ、こちらに手を貸してもらえますね? いえ、こちらに手を貸すしかないのですよ」

 

「どういう、意味かしら?」

 

「問題の聖杯はツェペシュ家の者から現れました。所有者の名は――ヴァレリー・ツェペシュ」

 

「……そんな、ヴァレリーが……! 嘘だ! だ、だって僕みたいに神器を持ってなかったのに!」

 

 

 うーん、ハーフ吸血鬼君の取り乱しようからすると知り合いっぽいな。悪魔に転生する前に一緒に過ごしてたとか遊んでたとかそんな感じかねぇ? てかその時は持ってなくても今になって発現したとかじゃねーの? なんせ俺もそれだし一誠だってそうだ……あとすっげー関係無いけど目の前のゴミを殺していいよな! 格下の分際でドラゴンを下に見てんじゃねぇよ。よし! 次に俺をキレさせたら問答無用で好き勝手しようか! むしろそうするべきだろう邪龍的に!

 

 

「ハーフ吸血鬼くん? 昔は無かったけど今は違うもんだぜ。俺だって生まれた時は相棒が宿ってるなんか知らなかったしな。一誠だってその口だ、神器ってのは切っ掛け次第で発現する代物だから不思議じゃねぇぞ」

 

「そうだ。今になって発現したか……それとも意図的に隠されていたか。それは当事者でなければ分からん問題だ。エルメンヒルデ、吸血鬼側は聖杯を使用していると言っていたが間違いはないな?」

 

「勿論です。そのような嘘を言う理由がありません」

 

「だとすると拙いな……禁断症状を発症しているかもしれん」

 

「なんだそれ?」

 

「幽世の聖杯は使用するたびに所有者を壊していくんだよ。元々生命の理を弄るような代物だ、既に死んでいる亡者の声を聞き、触れ合い、そして死んでいくだろう……同じ「霊」を操るお前さんならそれがどれほど危険かは分かるはずだ」

 

「あー確かにそれはやべぇな。歴代思念ほどじゃないにしろ悪霊の声を聞いてたら普通に心が壊れるだろうぜ。とりあえずそれは置いておいてだ……ちょっと気になったから質問おっけー?」

 

「えぇ。貴方は発言をする権利がありますので。どうぞ、お好きな質問をしてくださいませ」

 

 

 マジで好きな質問して良いなら俺様、頑張っちゃうよ!

 

 

「んじゃ遠慮なく……えーとエレなんとかさん? スリーサイズ教えて」

 

「――申し訳ありません。もう一度、仰ってもらっても?」

 

「いやだからスリーサイズ教えてくれねぇか? すっげぇ……気になってたんだよ! いや割とマジで。だって見た目から推測すると……小さくね? だから気になってたんだ――ってぇなおい!! いきなり何すんだよアザゼル!?」

 

「それはこっちのセリフだ! お前……お前……! こんな大事な場で何を聞いてるんだ!」

 

「スリーサイズ?」

 

「やっぱり馬鹿だろお前!」

 

 

 失礼な……こっちは比較的真面目に聞いてたつもりなんだけどさぁ! いや、あの、ね! だって俺関係無いじゃん! 確かに目の前のエレなんとかちゃんの言葉にイライラはしてたけどさ! それはそれ、これはこれだろ? ついでに言わせてもらうと――吸血鬼が解決するって言ったんだし俺達が頑張らなくても良いじゃん。

 

 しっかしあれだね! 俺を見る女性陣から絶対零度の視線を向けられるってすっごくゾクゾクします! でも出来れば夜空にしてもらいたいですね!

 

 

「なーんてな、じょーだんじょーだん。邪龍ジョークって奴だっての……んじゃ真面目な質問な、この吸血鬼君の力を貸すとして先輩方はどーすんの?」

 

「……申し訳ありません。あまりにも場違いな質問だったもので思考が飛んでしまいました。えぇ、その質問に対する返答であれば簡単です。特に必要ありません。先ほども言いましたが吸血鬼の問題は吸血鬼で解決します。リアス・グレモリーさま、及び下僕の方々には申し訳ありませんが手を出さないでください。勿論、タダとは言いません――どうぞ、こちらをご覧ください」

 

 

 エレなんとかちゃんはボディーガードから何かを受け取り、それを俺達に見せてきた。ほーへーはーなるほどねぇ、そう来たか。

 

 

「……和平だと? おいおい、順序が逆だろうに? これじゃあまるで――」

 

「ギャスパー・ウラディを貸して頂けないのであれば和平には応じない、と言っているようなものと仰いたいのでしょうがそんな事はありませんわ。ただ彼をお貸しいただければ全て解決する事ですもの」

 

 

 すっげぇドヤ顔してるけどさ……初っ端の発言でこの会談自体が意味をなしてない事に気づいてるのか?

 

 

「さてリアス・グレモリーさま、彼をお貸しいただけますわよね?」

 

「――えぇ、勿論。お断りさせてもらうわ」

 

「――申し訳ありません。もう一度、仰ってもらえますか?」

 

「何度でも言ってあげるわ。お断りよ、私の可愛いこの子を一人で吸血鬼側に渡すわけがないわ」

 

「これが良く理解できていないようですね。私はカーミラさまの代理としてこの場に来ています。勿論、私の言葉はカーミラさまの言葉でもあります。ここで和平を断ればどうなるか分かっているでしょう? 各勢力に和平を結ぶことを主張する三大勢力の信用が落ちるでしょう。貴方のたった一つの我儘でこちら側との和平を拒めばそうなるのは明白……それは魔王の信用を著しく落とす行為に等しい。えぇ、ですからもう一度お尋ねします。彼を貸して頂けますね?」

 

「何度も言わせないで。ギャスパーを一人で貴方達に貸せないわ。それに私達の信用を落とす事を心配されているようだけど安心して頂戴――この場は和平を結ぶ場ではなく、この子の力を貸すかどうかを決める場よ。そちらから聞かされたことは私の可愛い下僕(かぞく)の力を借りたいという事だけ……和平を結ぶなんて初耳よ。それに関しては私達の一存では決められないし正式に申し込むならお兄様……いえ魔王様に直接お願いしたいわね」

 

 

 ……おいおいマジでぇ? ゼハハハハハハハハハ! マジか! マジかぁ! 断ったよこの人! しかもごり押しで! キャーセンパーイ! カッコイイー! でもカッコつけるなら体の震えぐらいは隠した方が良いですよ? しょーがねーなぁ! こんな面白い場面を見せられたら力を貸したくなっちゃうじゃん!

 

 

「そりゃそうだ。つーかエレなんとかちゃん? お前さ、自分の言葉はカーミラの言葉だって言ったよな?」

 

「……えぇ、そうですわね」

 

「だったら「吸血鬼の問題は吸血鬼で解決する」という言葉もカーミラの言葉だよな? なんで俺達「悪魔」の力を借りようとしてんの? あっ! ちなみにだがコイツが吸血鬼の血が流れているってのは無しな。だってそんな理由で通るんなら他の理由だって通るだろ? なんせこのハーフ吸血鬼君は悪魔と人間と吸血鬼だ、その理由が通るんなら俺達が手を貸してもなーんにも問題無いよねぇ?」

 

「そりゃそうだ。俺の方でも聞かされたのはギャスパー・ウラディに関する会談ってだけだ。和平を結ぶんなら前もって言いやがれっての……サーゼクスもミカエルもシャムハザも居ない状況でんなことを言われても困るんだよ」

 

「……だから断ると? そんな事をすれば――」

 

「どうなるんだよ?」

 

 

 俺の言葉にエレなんとかちゃんは体を震わせる。ん~殺気を放ってるけどさ、ビビりすぎじゃない? 夜空が見たら笑われるぐらい弱いのに何でビビってんの?

 

 

「いやさ、俺が今まで見てきた会談って基本的に勢力を率いているトップが足を運んでたんだよ? 北欧の主神様とか京都の八坂の姫とか鬼の頭領とかさ。で? カーミラどこに居んの? 和平を結ぶって言っておいて書類だけとか馬鹿だろ……和平を持ち出せば要求が通るとでも思ってんの? ばーか、んなわけねーだろ……確かに和平を持ちかけてるのは俺達三大勢力、これを断れば各勢力から不信感を抱かれるのも事実。で? だからなに? そもそも和平を持ちかけてる時点で不信感抱かれまくりなのに今更一個増えた程度で何かが変わるわけねーんだよ」

 

「……その発言は私達吸血鬼を侮辱していると捉えますわよ……! この件をそちらに報告すれば貴方は今の地位を失う、いえそれだけではありませんわね……投獄もあり得ますわよ?」

 

「えっ? マジで! いやー最上級悪魔ってクソみたいな肩書から解放してくれるってお前っていい奴だな! んじゃ調子に乗ってもっと好き勝手するけど良いよな? はい手が滑ったー!」

 

 

 テーブルに置かれた和平を結ぶなんて嘘しか書かれていない書類を魔力で吹き飛ばす。なんというか周りからマジかよって顔されてるけど仕方ないねー! 手が滑ったんだから仕方ないんだよねー!

 

 

「あっ、ごめーんアザゼルー! 手が滑ったー!」

 

「そうかーてがすべったかーそれはしかないなーよしえるめんひるでさんや、こんどはかーみらとともにはなしあいをしようじゃないか。あぁ、もちろんさーぜくすやみかえるにしゃむはざもいっしょだぞーうははははは――好き勝手にして良いとは言ったがここまでするとは思わねぇっての馬鹿野郎……!」

 

「やべぇ、アザゼルが壊れた……まぁ、良いか。んで? この件も報告する? 良いぞ良いぞ! 最近暇だったからさ! 吸血鬼との全面戦争も悪くねぇんだわ! つーか殺し合おうぜ。さっきの()()()()の発言で俺様、非常に頭にきております。何かってそりゃ決まってんだろ……テメェみたいな格下がドラゴンを下に見たことだよ。あとさ……俺の事を良く分かって無いようだから教えてやるよ」

 

 

 立ち上がってエレなんとかちゃんの近くまで歩き、人差し指で顎をくいっと上へと向けさせる。

 

 

「冥界が滅ぼうが信用が無くなろうが俺の知った事じゃねぇんだよ。お前らが冥界を滅ぼしてくれるんなら笑いながら観戦しててやる。俺は俺が楽しかったらそれでいいんだよ……好き勝手に生きる悪魔で邪龍だからな。だからさっさと報告しろよ? 自分たちの言い分を断れないように和平を持ち出したけど断れました! コイツらは詐欺集団ですってさ。ほら、早く早く。お前の言葉はカーミラの言葉なんだったら可能だろ? 楽しみだなー! どれだけの人数がお前の言葉で死ぬんだろうな?」

 

 

 きっと今の俺は愉しすぎて嗤っているだろう。マジで愉しい! どこかでやり過ぎとか言われた気がするけど絶対に気のせいだと俺様は信じてる! ちなみにだけどこの行動で冥界が滅んでも俺は痛くもかゆくもないしむしろいいぞもっとやれって言うと思う。母さん? やっべーどうしよう……あーきっと大丈夫か。多分。なんかあったら世界滅ぼすし問題無い問題無い。

 

 

「……分かりました。和平に関する事はまた別の日に改めて行わせてもらいます……それとギャスパー・ウラディの力だけではなく、その他の方の力もお借りしましょう。それ、でよろしいでしょう、か……?」

 

「さぁ? 俺の眷属じゃねーし先輩が決める事だろ? こんなこと言ってますけどどーするんすか?」

 

「――えぇ。私達で良ければ力になるわ」

 

 

 そんなわけで俺が楽しかっただけの会談は終了した。なんか知らないけどグリなんとかさんは呆れた表情になりながら帰って行ったけどなんでかなー?

 

 

「……もうっ、自分が何をしたか分かってるの? 一歩間違えれば大変な事になったのよ?」

 

「それはお互い様でしょ? ついでに助けてあげたんだから感謝してくださいよ」

 

 

 この部屋に残ったのは俺と先輩の二人だけ。生徒会長やアザゼルは今後に備えて話し合うとかで席を外しているし一誠君達も先輩の命令で吸血鬼君を連れて家へと帰って行った。つーかこれ以外になかったしな……きっと夜空が見てたら爆笑してたと思う。

 

 

「それに言ったでしょ? 冥界が滅ぼうが信用が落ちようが俺はどうでも良いんですよ。俺が楽しかったらそれで良いですし。てか邪龍(おれ)がやったなら誰も文句は言わないと思いますよ?」

 

「……その結果、貴方が不幸になるだけよ。自分を慕う子達が居るのだから少しは落ち着いた行動をしても罰は当たらないわ」

 

「生憎、俺の眷属の奴らには世界の敵になる予定だから俺を殺せるように頑張れって宣言済みですよ。今も俺を殺せるように頑張って特訓に励んでるから……よほど俺を殺したいっぽいです! でも、まぁ、さっきの行動は先輩がなんか頑張ったっぽいですしー? 俺なりの援護射撃って事で納得してください」

 

「……そうね。私が何を言ってもキマリス君は変わらないわよね。だってドラゴンだもの、自分の好きなように生きてるんだから何をしようと誰も文句は言えないわ」

 

「大正解。最低最悪の邪龍、世界を滅ぼすラスボス系ドラゴンの影龍王様なんで仕方ないですね。でもカッコよかったですよ。なんつーか……頑張ってんなぁってのがすっげぇ分かりましたしね。これからも楽しませてくださいよ――先輩」

 

 

 もっとも一誠が傍に居る限り、色んな事には巻き込まれるだろうから俺的にはそれで十分なんだけどね!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

84話

「アアアァァァァッ!!!」

 

 

 鬼の雄叫びが戦場に響き渡る。黒の鎧――いつも通りの鎧(影龍王の再生鎧)を纏った俺の目の前には妖力を纏った四季音妹が殴りかかってきている。鬼の怪力に加えて戦車に昇格しているからその破壊力はお察しだろう……喰らったら凄く痛いはずだ! 考えるまでも無く絶対に痛い! いくら不死身とはいえ痛いのはマジで勘弁してほしいから目の前に影人形を生み出して迫りくる拳を受け止める。

 

 

「――ゼハハハハハハハ! どうした四季音妹? 姉とお揃いの戦車に昇格してこの程度か? おいおいふざけんじゃねぇぞ! もっと気合入れろや!! 俺を殺したくねぇのか!!」

 

「殺す! 主様を殺す!! 伊吹と一緒に絶対にコロス!!」

 

 

 四季音妹の拳と影人形の拳がぶつかり合うと周囲に衝撃が広がり、いつもの様に吹き飛んでいく。もはや当たり前となったキマリス領が吹き飛ぶ光景とはいえ流石にそろそろ親父が気絶しそうだな……やめないけど。だってこの場所って地双龍の遊び場だしね! というよりも流石鬼……ルーン文字付加状態の影人形を若干後退させるとは恐ろしいな! でも「(エオロー)」と「(エイワズ)」を刻んだ影人形の拳の硬さには流石の鬼でも堪えたようだな……距離を取った四季音妹が殴った腕を若干庇うような仕草をしてるところを見ると衝撃で痺れたな。そりゃそうだ、なんせ北欧の防御魔術にルーン魔術、相棒の影によって影人形自体の防御力が格段に上がってるから当然と言えば当然だ……自画自賛だがこれを超えられるのは夜空か寧音レベルのパワーを持った奴ぐらいだろうね!

 

  雄叫びを上げながら四季音妹は全身から赤紫色のオーラを放出する。犬月が編み出したモード妖魔犬……いやこれは犬月専用の名称だから妖魔放出か。体中から放出されたオーラは見ただけで凄いと分かるぐらいの量と濃さだ……流石に四季音姉のように静かに放出や平家みたいにバランスが良く放出は出来てないか。いや、分かってたけどさ! 考えるのが苦手な四季音妹にそんな高等技術が出来るとは思ってなかったよ! でもさ……なんで初期の犬月以上のオーラを放出して安定してんの? 哀れ犬月、頑張れ犬月。四季音妹にすら負けるとは流石の俺でも思ってなかったわ!

 

 

「やっぱりイバラには私みたいに静かに放出は難しいかねぇ。この分だとスタミナの消費が激しくて長持ちしなさそうだ」

 

「そうなの。ごめんなさい。伊吹の様にちゃんとできてない。簡単だと思ったら難しい。だから限界まで頑張った。伊吹、怒ってる?」

 

「にしし! 怒ってるわけないさ! これはこれでイバラらしいから気にしないよ! それじゃあ私もそろそろ参加させてもらおうかねぇ~行くよノワール、殺しちゃっても恨まないでね」

 

 

 先ほどまで観戦していた四季音姉が赤紫色のオーラを静かに放出しながら四季音妹の傍までやってきた。前までなら何とも思わなかったけど……これって寧音譲りの才能だよな。あの人も派手に放出するよりも静かに放出して一気に爆発させるタイプだしさ。しっかし模擬線とは言え妖魔放出状態の鬼二人、しかも酒呑童子と茨木童子を相手にするって滅多に無い事だよな……俺としては最高だけども! いやぁ! 眷属にして本当に良かったわ!

 

 

「はぁ? お前程度のパワーで死ぬわけねぇだろ。俺を殺したかったら寧音以上のパワーで来いよ! 真正面から受け止めてやっからさ!」

 

「言ったね? じゃあ遠慮なく行くよ。イバラ!」

 

「うん。頑張る!」

 

 

 目の前で仲良く並んでいた二人が消え、俺の左右から異常なほどの威圧感が迫ってくる。即座に影人形を左右に展開して拳を放つと――周囲を吹き飛ばすほどの衝撃と轟音が俺を包み込んだ。鼓膜が破けるんじゃないかと思えるほどの轟音と衝撃を放ったのは先ほどまで目の前に居た鬼達……右から襲い掛かってきた酒呑童子の拳を受け止めた影人形は半壊し動くたびに身体が崩れていき、左から襲い掛かってきた茨木童子の拳を受け止めた影人形は片腕だけヒビが入っている。ちっ、頭では理解してたが四季音姉の破壊力がヤバいな……! 防御力底上げ状態の影人形を半壊させるのかよ! ゼハハハハハハハハハ! あぁ、最高だ! 最高に良いなこれ!! これだよこれ……! 夜空のようにトンデモナイ破壊力で迫ってくれないと面白みがねぇんだよな!!

 

 自らが放った拳を受け止められた鬼二人は笑みを浮かべてラッシュを放ってきたので応戦する。影人形のラッシュタイムを放つと同時に四季音姉妹の妖「力」と魔「力」を奪い取るが火力が下がる気配は一切無い……それどころか逆に上がってねぇか? あぁ、そうかよ……! そういう事か!!

 

 

「――ゼハハハハハハ! やるようになったじゃねぇか水無瀬ちゃんよぉ!」

 

「当然です! 私はノワール君の僧侶ですから! 花恋! 祈里! 反転結界は発動してますからドンドン殴って!」

 

「にしし! 了解だよめぐみん!」

 

「先生。ありがとう。頑張る。もっとガンバルゥ!!!」

 

 

 四季音姉妹とのラッシュを捌きながら視線を下へと向けると黒のドレスを身に纏った水無瀬がいた。まさか寧音との殺し合いで利用した地面に映る俺の「影」を利用されるとはな……やっぱりこれって初見殺しだわ! でもまぁ、これはこれで楽しいから問題ねぇ!

 

 俺の意識が水無瀬に向いた一瞬を狙ってか四季音姉は半壊状態の影人形を裏拳で崩壊させ、一気に俺の眼前まで迫ってきた。その笑みは子供のように楽しそうだが放たれた一発は異常に重い……通常状態とはいえ俺の鎧にヒビを入れた上に衝撃を生身に直に叩き込んできやがったから体中の骨が酷い状態になりやがった。あぁ、いってぇなぁ……! なぁ、おい、マジでイテェからやり返すぞ!

 

 背中に生やしている影の翼を伸ばして四季音姉の腕を拘束する。もっともコイツ相手にこんな手を使っても一瞬で引き千切られるが――その一瞬があれば良い。動きが止まった僅か数秒にも満たない時間を狙って崩壊した影人形の拳だけを再生、そのまま胴体に拳を叩き込んで地面に落とす。でもダメージなんて殆ど無いだろうなぁ……戦車の防御力ってマジで高いし妖魔放出状態の四季音姉は俺並みに硬いからな。そう、まるで自分の胸のように壁なんだ……泣けるな! 実の親から永遠に小さいと言われた四季音花恋ちゃんマジで哀れ。ちなみに四季音妹の方も影人形のラッシュタイムを浴びせて同じように地面に叩き落しました! 流石にこの二人が相手でも苦戦なんかしてたら夜空に殺されるしね。

 

 

「……ノワール、今、なんか変な事を思わなかったかい?」

 

「鉄壁と絶壁って似てるよなとは思った」

 

「にしし! よしそこを動くな、今すぐ可愛い鬼さんの重い拳を叩き込んでやる」

 

「痛いからマジ勘弁。たくっ、いくら再生するって言っても全身の骨が粉砕されるのって痛いんだぜ? 加減ぐらいしろよ」

 

「それをやったら主様は怒る。全力を出さないともっと怒る」

 

「当然だろ? 殺し合いで手を抜いたら許さねぇ。このまま続けても良いが他の奴らの休憩が終わったようだし交代だ……ホントになんで一緒に特訓しないとダメなんだよ」

 

 

 地面に降りて四季音姉妹と水無瀬と一緒に遠く離れた観戦席……と言う名の安全空間へと移動する。そこには休憩中の犬月と橘、グラムとグレモリー先輩とイケメン君、男の娘な吸血鬼君を除いたグレモリー眷属と転生天使、シトリー眷属とフェニックスの双子姫が待っていた。犬月達はいつもの光景のためお疲れ様ですと普段通りだが他の面々は表情が引きつっている……うわぁ、生徒会長がマジで絶句状態なんだけど! 珍しいから写真を撮ってもいいでしょうか?

 

 つーかこの安全空間なんだけどさ……アザゼルが発明したアイテムだけど耐久力低くないか? 所々にヒビが入ってるけど改良した方が良いと思うな!

 

 

「お疲れっす。あの、いつもと違っていっちぃ達が居るんで加減してください……このくうかん、こわれかけてた、しってたけど、こわかった」

 

「脆いこの空間が悪い」

 

「だねぇ~もっと硬くしないとダメだと鬼さんは思うよ」

 

「いつも通りに戦った。壊れるなら頑丈にするべき。伊吹も主様も私も悪くない」

 

 

 そうだそうだ! いつも通りに楽しく殺し合ってただけなのに文句言われる筋合いは一切無いぞ! そもそも俺VS四季音姉妹&水無瀬の戦いを見たいと言ったお前達……というか生徒会長が悪いと思います。つーか最初に言わなかったっけなぁ……何があっても自己責任だって。嫌々付き合ってやってるのにこれ以上譲歩しろとかマジで無理。だったら他の所に行ってくださいお願いします。

 

 戻ってきた俺の元へレイチェルが飲み物を持って近づいてきたのでそれを受け取る。なんだか滅茶苦茶嬉しそうだな……まぁ、ライバルらしい平家が家で引きこもってるし当然か。しっかし体操服姿のレイチェルとレイヴェルはヤバいね! おっぱいヤバい。これは一誠君も大喜び……だと思ったらなんか引いてるんだけど? えぇ……グレートレッドとオーフィスの力で作られた肉体になったんだから共感してくれてもよくないか? ワクワクしようぜ! 人型のドラゴンになったんだからそれぐらいはしても良いだろう!

 

 

「サンキューレイチェル、しっかし当面の問題は四季音妹の昇格のタイミングか。妖魔放出に関しては本人に任せるが昇格ぐらいは自由に出来るようになってもらわないと困る。戦車一択ってのも悪くは無いが選択肢は多い方が良いしな」

 

「頑張る。でも考えるの苦手。兵士の昇格は難しい。どうすれば良いか分からない。慣れてきたけどまだ難しい。どのタイミングで昇格すれば良いか分からない。でも頑張る。主様と伊吹のために頑張る」

 

「おう。お前の場合は言葉で教えるより実戦あるのみの方が分かりやすいだろうしな。だからいつでも付き合ってやるから何度でも向かってこいよ? 俺的には鬼を相手にするのは楽しいしな! つーか四季音姉……お前、防御極振り状態の影人形を半壊させるってどんなパワーしてんだ?」

 

「これでも鬼勢力の次期頭領だよ? あの程度なら余裕さ。でも完全に破壊できなかったのは悔しいねぇ、母様の元で修行でもした方が良いかい?」

 

「好きにしろ。俺としては親子で挑んできても良いぜ? そっちの方が面白そうだ!」

 

「……良いねぇ! にしし! 母様と一緒に戦うなんて滅多に出来ないんだ、なんせ母様の拳一つで大抵の鬼は沈んでたからね。でもノワール相手なら問題無いから楽しめそうだ! でもノワール? 母様に変な視線を向けたら潰すよ」

 

「向こうから迫ってきたらどうすんだ?」

 

「とりあえず潰すさ」

 

 

 俺の大事な部分を意地でも潰す気かお前は……やめてください! 再生すると言っても限度があります! きっと! 死ぬほど痛いだろうから本当にやめてくださいお願いします!

 

 そんなやり取りをしつつスポーツ飲料を飲みながら四季音妹を撫でていると何かを言いたそうな視線を向けてくる姉の姿があった。いやだって可愛いだろ? 自分の駒の特徴である昇格をどうすれば上手くなるかを必死に考えてるんだぞ? なんというか……和む。まさか癒し系枠になるとは思わなかったね! あと頭撫でると可愛い反応をしてくれるから余計にそう思うわ! 悔しかったらお前も同じことをして見せろ……その時は盛大に笑ってやるから。

 

 

「……犬月」

 

「ん? いっちぃどしたー?」

 

「あのさ、黒井って何時もこんな特訓をしてるのか……?」

 

「そうっすよ。今回は俺達が観戦してたから加減した……と思いたいけどきっとしてないね。うん。とりあえず何時もこんな感じっすよ? この前は俺と引きこもりとしほりんとグラムで挑んだけど影人形の防御を突破出来なくて返り討ち……ここ最近の王様って硬すぎんだよなぁ。殴っても逆にこっちが痛くなるし」

 

「マジかよ……その、怖くないのか?」

 

「全然。だって殺し合いってこんな感じっしょ? むしろ俺も王様と同じで加減されるとカチンってくるしね。てか……茨木童子! お前……お前……! なんで俺よりも多い量で制御できてんだよー! なにやった?! どうやった!? ちょっと戦って教えやがれ!」

 

「待て犬月、次は私との打ち合いだろう。約束を破る気か?」

 

「あ、いや……そーだった。悪い由良っち、んじゃ茨木童子! これが終わったらな! ぜってぇぶっ倒すからな!」

 

 

 俺達の戦いが終わって空いたフィールドに犬月とゆ、ゆ、シトリー眷属の戦車ちゃんが向かって行った。思った通り、四季音妹の妖魔放出を見て犬月がテンション上がってやがるな……気持ちは分かる。だって自分が使う技を別の奴が使い、しかも上位互換なら滅茶苦茶嬉しいだろう。だってまだまだ上に行けるって分かるしさ! 頑張れ犬月、負けるな犬月。あと……お前らさっさとくっ付けや。何回組手すれば気が済むんだよ……これで何回目だっけ? 軽く二桁ぐらいは行ってんじゃねぇかな……覚えてないからもしかしたら違うかもしれんが。

 

 

「パシリ。怒ってた。分からない。何か悪い事をした?」

 

「気にしないで良いぞ。とりあえずアイツとの殺し合いは妖魔放出を使っておけ」

 

「分かった。全力で倒す。頑張る」

 

 

 やっぱり可愛い。妹は最強属性だって言われる理由が分かるわ。

 

 

「……なんだい、私にはそんな事はしないのにイバラ相手にはするのかい……む、胸はこの際諦めても良いから身長、身長さえ伸びればきっと……!」

 

 

 嫉妬に狂う酒呑童子ちゃん(お姉ちゃん)可愛いです。

 

 

『我がオうよ! つギはわレらの出番だナ! わかるゾ! でゅラんだルとのたいけツだな! さぁ、使うがイイ!!』

 

「ヤダ、メンドイ」

 

『なゼだ! はオうの剣たるこのワれラを何故使わヌ!! 我がおウよ! 早くわレらをつかエ!!』

 

「使えって言われてもなぁ、俺達だけだったら問題無いが今回は邪魔……コホンコホン、一緒にトレーニングしたいって言う馬鹿な奴らが居るからお前を使ったりなんかしたら死人が出るぞ? 主にドラゴンを宿してる男二名辺りがな」

 

『ならバ問題なイだろう。我ラは龍ヲこロす(愛する)剣なのダからナ!』

 

「……それもそうか。よし! ちょっと鬱憤晴らすついでに一発デカいのやるか! 大丈夫大丈夫! 天龍と龍王だから死なない死なない!」

 

「待てえぇぇっ!! ちょ、く、黒井ぃぃ!! おま、お前! なに放とうとしてんだぁ!?」

 

「え? 影龍破だけど?」

 

「それりゅうごろしぃ!! 俺も兵藤も死ぬからやめて!」

 

 

 むむっ、匙君に土下座されちゃったら放つわけにはいかないな。でもさーこれぐらいは許してくれないかな? だって本当ならこの三眷属合同トレーニングを断りたかったんだよ? なんでこっちの情報を他の眷属に教えないとダメなんだよって話だしさ。ついでに言うと友達ですらない連中と一緒に特訓とかしたくないんだよなぁ。それだというのに生徒会長め……魔王特権というチートを使いやがって! セラフォルー様から依頼されたら受けるしかないだろ悪魔的に! あとついでに何故か一誠君のお家に住み始めた黒猫ちゃんからも頼まれちゃったからしょうがないねー! だって腋を見せながらお願いされたら断るなんて選択肢は存在しないだろ? いやぁ、貴方様の腋は最高で素晴らしいものでしたありがとうございます。

 

 ちなみに頼んできたのがもう一人のシスコン魔王だったら即効で拒否ってました。俺を最上級悪魔にした罪は重い……滅茶苦茶めんどくさいんだからなこの称号! 死ねばいいのに。

 

 

「――んで? 何時まで観察してる気だ?」

 

 

 チラリととある男……の背後にいる女に視線を向ける。灰色の髪をした体格の良い男の後ろに隠れている中学生ぐらいの女。どくろの仮面を被り、服装も冥府の死神のような恰好だが何と驚くべきことに本当に死神らしい。ただ純粋な死神じゃなくて人間とのハーフらしいけどな……それは置いておいてなんでこの子に警戒されているかと言うと――魔獣騒動時に夜空と一緒に冥府で暴れた際に親父さんをぶっ殺してたみたい。それを生徒会長から聞かされた時はちょっとだけ驚いたけど俺と夜空の殺し合いに入ってきた方が悪いから特に気にしてない。そもそも悪魔で邪龍だから恨まれるのも仕事の内だしな!

 

 しかしこのハーフ死神ちゃん、仮面を取ったらそれはもう美少女なんだよね! しかも体格通りのロリ娘! そして俺への恨み持ちとか最高じゃねぇか! 狙うつもりは全く無いけど。ちなみにシトリー眷属になった理由というか経緯は俺と夜空が暴れ回ってる時に親父さんを含めた死神達によって冥府から脱出、そのまま逃げ続けていたら生徒会長と出会ってそのまま保護されたようだ。その恩を返すため……いや復讐のためかねぇ? その辺りは分からないが生徒会長の空いていた騎士として転生したそうだ。

 

 余談だがこの三眷属合同トレーニング開始時に紹介された際、四季音姉妹を除いた面々から酷い視線を向けられたのは言うまでもない。いや、だって……最初に襲ってきたのは死神だし……夜空との殺し合いが楽しかったんだもん。

 

 

《影龍王が隙を見せるまでですぜ。いつか必ず……その魂をあっしの鎌で刈り取ります》

 

「おーそれは楽しみだ。いやぁ最高だな! 俺を殺しに来てくれる奴がドンドン増えてるぜ! 別にいつでも襲い掛かってきても良いが死ぬ覚悟だけはしておけよ? 生徒会長の眷属でも俺には関係無いからな。あとついでに言っておくが――俺を殺せないからって身内に手を出してみろ、楽に死ねると思うなよ」

 

 

 邪龍スマイルでハーフ死神ちゃんを見つめると大男の後ろに隠れてしまった。なんというか……子供を虐めているみたいで楽しくないな。てか大男くんもさり気なく庇ってるし……イケメンですね!

 

 

「……あまり私の眷属を虐めないでもらいたいですね」

 

「虐めてないでーす。遊んでるだけでーす。これぐらいは許してもらえません? 三眷属合同で特訓とか本気で断りたかったんですからね」

 

「リアスがルーマニアに行った今、この町には私とキマリス君しか眷属を指揮する人が居ません。各々の特徴を把握しておきたかったんです……あと、人工神器と戦場の空気に慣れるためにキマリス君達の存在が必要でしたから」

 

 

 生徒会長が言う様に現在、グレモリー先輩はイケメン君、男の娘な吸血鬼君を引き連れて吸血鬼達が住む場所へと向かっているのでこの町にいる王は俺と生徒会長しかいない。アザゼルも吸血鬼……カーミラと話をしに行くとかで同じように不在だ。もっともカーミラ派の大使としてきたえ、エレなんとかさんとの約束のおかげでかなり楽に話が進むだろうとは言ってたけどね……まぁ、頑張ってくればいいんじゃないかな! 俺達は全くと言って良いほど関係無いからどうでもいいし!

 

 

「そりゃまた便利屋家業が捗りますね。犬月達がやる気出てるので文句はあまり言いませんけど……見た感じ、神器のように派手なパワーを出すよりも使い勝手優先っぽいっすね」

 

「えぇ。アザゼル先生が言うには応用性に特化させているそうです。ただ……長時間の運用は出来ないという弱点がありますけどね」

 

「当然でしょ。聖書の神が作った玩具と同じものを作り出すなんて何十年何百年もかかっていいでしょうし。まぁ、頑張ってくださいとしか言えませんけどね」

 

 

 そんなこんなで楽しいのか楽しくないのか分からない合同トレーニングも終わって数日後、俺は平日だというのに学園には行かずにある人物と一緒にとある場所へと向かっていた。本当ならば蛇女の仕事なんだが復興作業で人手が足りないため止む無く俺が出張ることになりやがった……別に嫌じゃないから文句は無いけど仕事しろよ。

 

 

「ごめんね、ノワール。いつもならミアが一緒にきてくれるんだけど忙しいみたいなのよ」

 

「気にすんな。学校に行っても暇だったし合法的にサボれるんならいくらでも付き合って……イテェなおい」

 

「ダメよ。学生って長いようで短いんだから色んな思い出を残さないと後で後悔するの。もうっ、聞いてるの?」

 

「はいはい聞いてますよー冗談ですよー楽しい学校生活を送ってますよー」

 

 

 手を繋いで歩いている人物は俺が大好きな片霧夜空ちゃん――だったら嬉しいが残念なことに我が弱点ことお母様です。俺達が向かっている場所は母さんが通院している病院だ……と言っても病気になったとかではなく足が不自由だからリハビリのために通っているだけだ。別に人間界の病院に通わなくても冥界の病院でも良いだろうと思いたくもなるが残念な事に母さんは普通に人間だ……ただでさえ純血悪魔の妻ってことで陰口を言われてるってのにそんな場所に行ったら何されるか分からん。もっとも俺の名前というか相棒の異名がデカくなってきたからその辺は改善されてるとは思うけどね。

 

 母さんの手を握って歩く速度に合わせてゆっくりと歩いていく。駅から病院までは少しばかり距離があるからタクシーを使えばいいのに俺と一緒に歩きたいという我儘……要望を言いやがったから仕方なく! 仕方なく付き合ってるだけだ! あぁ、クソが……ただでさえ片足があまり動かないのにこの距離を歩くから疲れがたまってきてるじゃねぇか……! 仕方ねぇなぁ!

 

 

「……背負ってやるから身体預けろ」

 

「ノワール……それじゃあ、お願いしようかしら。お、重いって言ったら怒るわよ!」

 

「アホ。流石の俺でも重いと言ってまーたあの地獄のダイエットに付き合わされるのはご免だっつの」

 

 

 並んで歩くのをやめて母さんを背負う。年齢に不釣り合いなほどの素晴らしいおっぱいの感触が背中に広がっているが無視だ無視。つーか軽いな……ちゃんと飯食ってんのか? 太るからって理由で食べてないんだったら本気で説教するぞ?

 

 

「軽すぎじゃねぇか? ちゃんと飯食ってるのかよ」

 

「食べてるわよぉ。毎日おいしい料理のせいでお腹周りが大変なのよ? でもノワールに軽いって言われてお母さん嬉しいわ。背中もこんなに大きくなって……月日が経つのは早いわね」

 

「もうすぐ高校三年になるんだぞ? 月日が経ってて当然だろうが。悪魔の俺からすれば大して時間が経って無いようにも感じるけどな」

 

「私は人間だから「まだ十年」が「もう十年」と思っちゃうのよ。はぁ、年々体力が落ちてきてるし年は取りたくないわ」

 

「……お婆ちゃんに一直線ってか、ってぇなおい! 冗談だ冗談! はいはい、お母様はまだお美しいですよーだ」

 

「もうっ、ネギ君に似ないでそんな事ばっかり言うんだもの。罰として息子成分の補充をさせて頂戴……こうして背負われるのは中々無いんだもの」

 

「もうすきにしろよぉ」

 

 

 そんなわけで母さんを背負って歩くこと十数分。やっと目的の病院へとたどり着きました! はぁ……ヤバイ、背中に感じる感触がヤバい、ヤダーノワールくんってばマザコーン! マジでこれ四十代のおっぱいの感触なのか? 年齢詐称とかしてません?

 

 まぁ、そんなどうでも良い事は置いておいて受付を済ませて俺は待合所で待機、母さんは顔なじみの主治医やらなにやらと一緒に別の場所へ向かって行った。一応念のため母さんの影に影人形を仕込んで何かあっても俺が気付けるようにはしたが……気にし過ぎか? いや、今までの俺の行いを思い出してみればこれ以上の対策をしても許される気がする。だって嫌われ者のノワール君の弱点だしね。

 

 そんな事を思いながら自販機で買ったジュースを飲んだり、スマホで適当なサイトを見たりと数十分待っていると――事件が起きやがった。何が起きたかなんて言いたくはない……! あぁ、クソが……対策しててもやりやがるかぁ……!!

 

 

「――上等だよクソ野郎。何処のどいつだ、俺に喧嘩売りやがったのは……!」

 

 

 周りに聞こえないように静かに呟く。どこの誰かは知らないが俺の弱点を攫って行きやがった……! 影人形を母さんの影に仕込んでて本当に良かったぜ……! でもその瞬間を察する事が出来たけど止めることまでは出来なかったのがムカつくな……! 誰だよ、誰が転移させやがった……? 周りに気づかれることも無くただの人間である母さんだけを転移させ、影に仕込んだ影人形を機能停止させると言う芸当を同時に行ったやつは何処のどいつだ……!!

 

 

《――その質問に答えよう。我らだ》

 

 

 男の声がした。つい数分前にこの待合室にやってきた男だ……褐色肌で今時の若者が着るような服装のイケメンが俺に話しかけてきた。へぇ、面白いじゃねぇか。隠れもしないで態々殺されに来るなんてな。

 

 

《待った。ここで争う気は無い、場所を変えたい。良いかい? ()()()

 

『あぁ、良いぜぇ。久しぶりに話そうじゃねぇか――アポプス』

 

 

 アポプスと呼ばれた男と一緒に病院から出る。試しに母さんの事を看護婦やら受付に聞いてみたが……そもそも今日は来院していないとか言いやがったのには驚いた。この場所にいる全ての人間の記憶を書き換えたとでもいう気かよ……! でも最高な事にイラついてはいるが頭は冷静だ。弱点(母さん)が攫われたってのにこの態度はどうなんだって自分でも思うが――今すぐにでも世界を滅ぼしたい気分だから仕方が無いんだよ。

 

 

《驚いた。かの人間は大事な存在では無かったのか? 酷く冷静、いや逆鱗寸前か》

 

「さぁな。どうでも良いだろそんな事は。で? 邪龍の筆頭格様が俺に何の用だ」

 

《なに、下らない作戦に従わざるを得なくなって我らもうんざりしているのだ。だから少しばかり仕返しをしようと思ってね。それに久しぶりの現世、懐かしい友に会いに来たかったとも言えるかな》

 

『ゼハハハハハハハハハッ! あぁ、俺様も会いたかったぜ。久しぶりじゃねぇのアポプスよぉ! なんで生き返ってやがるとは聞かねぇでおいてやるよ。宿主様、少しばかりコイツと話をさせろや……()も久しぶりにキレてるんでな。アポプス、言えよ。どこの馬鹿がこんな馬鹿な事をやりがったんだぁ?』

 

《……蘇ってみるものだ。そうか、珍しい。ならば答えないといけないか。下等な魔法使いと狂った悪魔がくだらない催しをしようとしただけのこと。我らは反対だったがな。そんな事をするよりも正面からぶつかった方が我ら邪龍らしいというのにこの仕事だ。泣けてくる》

 

『泣けばいいだろう。その怒りを他所にぶつけるのが俺達だろうが。そうか……魔法使いと悪魔か。ゼハハハハハハハハハハハハ! あぁ、久しぶりだぁ! ゼハハハハハハハハハ!!!!』

 

 

 相棒、そうかよ……お前も怒ってくれるんだな? 流れ込んでくる……相棒の怒りが、俺の怒りと混じり合ってくる。ありがとう、相棒。

 

 

《我ら邪龍は暴れる事はしてもこのような手はあまり使わん。アジ・ダハーカもこの仕事以外は関与する気は無い。これは言わなくても分かっているだろうからこれ以上は言わないが、これから楽しくなるぞ。クロム》

 

『あぁ、テメェと久しぶりに話せてよかったぜ。アポプス、今日の俺は機嫌が良いから見逃してやるが――次はねぇぞ。その体に痛みを与えてやったのが誰だと思ってやがる? 忘れたわけじゃねぇだろうな』

 

《勿論だ。現世に蘇った身だ、久しぶりに味わってみたいものだよ。あぁ、珍しく逆鱗に至ろうとしているクロムを見れた礼として教えよう。かの駒王学園、そこを襲撃している。勿論、あれを囲っている結界は破壊させてもらった》

 

「そうかよ。で? それがどうしたんだよ」

 

《何も無いさ。ただ、本当に珍しい事なのでね。クロムが逆鱗に至るなど滅多に無い状況だから興奮してしまったと言っておこう。では帰らせてもらうよ、話せてよかった。また暴れよう》

 

『おうよ。また暴れようぜ、アポプス』

 

 

 それを言い残してアポプスと呼ばれた男は姿を消した。討伐された邪龍にして筆頭格の一体か……やけに人間染みてたが今はどうでも良い。魔法使いと狂った悪魔か、上等だ。今までの仕返しと思ってやった事だろうが覚悟は出来てるってことで良いな。タノシイナァ。

 

 笑みを浮かべながらスマホを取り出して平家に連絡すると駒王学園が襲撃されたと聞かされた。どうやら先ほどの言葉は嘘ではなく本当に襲撃してたとはね。こんな事なら平家を学園に行かせておけばよかったがたらればの話をしても仕方がない。てかもうどうでも良い。フェニックスの双子姫が攫われたようだが俺には関係ない。母さんのついでに助ければいいだけの事だ。平家に母さんが攫われたと伝えると一瞬だけ無音になり、イライラしている口調へと変化した。あぁ、お前もか。奇遇だな……俺も今、同じ気分を味わってんだよ。

 

 

『――どうするの?』

 

「全員を集めろ」

 

『分かった。ねぇ、ノワール……怒ってる?』

 

「んなわけねぇだろ。今の俺の気分を教えてやるからよーく聞けよ」

 

 

 今の気分はそうだなぁ。

 

 

「――魔法使いを皆殺しに出来る事にワクワクしてる」

 

 

 この世から魔法使い全てを消してやるから覚悟しておけよ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

85話

今回、少しばかりエグイ描写があります。


「……あの、王様、大丈夫っすか……?」

 

「なにがだ」

 

「あ、いや……なんでも、ないっす。すんません」

 

 

 俺の後ろに立っている犬月が静かに頭を下げながら謝ってくる。たくっ、何に謝っているか知らないが心配しなくても大丈夫だよ。あぁ、何も問題無いさ。ただ魔法使いと狂った悪魔を見つけて殺せばいいだけの事だろう? 簡単な事じゃねぇか。これまでに似たようなことをやってきたんだから全然、全く、本当に何も問題無いのは当然だろう。だが最悪な事に母さんとフェニックスの双子姫の行方の手掛かりは一時間程度経った今も全く無い。もっともそれに関してはもうすぐ手に入る予定だから焦ることは無いけどな。今までだったら夜空辺りがここにいたよーやら助けといたよーやらどうするー殺しに行くー? やらと騒ぎながら俺の所へ転移してきてたがその様子が一切無い。まぁ、当然と言えば当然だろうな。夜空すら見た事が無い本気の逆鱗(ガチギレ)が見られるチャンスなんだからそれを態々潰すような真似はしないはずだ。別にこれぐらいは今までの付き合いで分りきってる事だから怒ることは無い……だって夜空らしいからな。だから何も言わない。ただ、俺の逆鱗は凄いぞとだけ言っておくから楽しみにしておけ。

 

 犬月の様子に周りの面々も何かを言いたそうな表情にはなったが言葉を発する事は無い。ウザい。平家、確かに俺は全員集めろとは言ったが部外者まで集めろとは一言も言ってないぞ? どうなってんだおい。

 

 

「シトリー家次期当主がノワールと私達を集めろと言ったからこーなってる。しょーじき、邪魔。だから私のせいじゃないよ」

 

「知ってる。お前がこんな真似をするとは思っちゃいねぇよ。やるならもっとエゲツナイ事をするはずだからな。で? こんな場所に俺達を呼んで何をしたいわけ? こっちはこっちで忙しいんだけど……邪魔するなら殺しますよ」

 

「ッ、き、キマリス君達に集まってもらったのは今回の事件の状況を共に整理してもらいたいからです。三大勢力が和平を結んでから今日までこの学園が襲撃される事なんてありませんでした……それだけ異常な事態です。どうか、お願いします」

 

「あっそ。まぁ、情報待ちで暇だから付き合ってやるからさ、早く始めれば?」

 

 

 現在、俺が居る場所はオカルト研究部の部室がある旧校舎。水無瀬を除いた俺達キマリス眷属と遠出している面々とヴァルキリーちゃんを除いたグレモリー眷属、そして生徒会長と副会長と匙君が今回起きた事件について話し合おうという理由でこの場所に集まっている。正直どうでもいい。仲が良いわけでも無いし()()でもない連中と話し合って何の意味がある? あぁ、ウザい。雑魚の分際で周りを指揮しなければならないという考えに染まってる女も誰かに頼らないと動けない奴らがウザい。今この手で殺したいぐらいにウザったい。

 

 

「ノワール、落ち着いた方が良いよ。絶対に無理だけどそれはまだ取っておいた方が良い。あとブーメラン刺さってるよ」

 

 

 俺の隣に座っている平家が宥めるような言葉を発する。うん、知ってる! 俺も相棒に頼らないと何もできないからね! ついでにこんな場所で暴れても何の得にもならないのは俺だって分かってる。冗談だよ、冗談。なぁ、平家……お前は魔法使い殲滅するぞって言ったら付いてくるか?

 

 

「とーぜん。だって私はノワールの騎士だもん」

 

 

 ――ありがとよ。

 

 

「……では、状況を整理します。この駒王学園にはぐれ魔法使いと思われる集団が襲撃、校舎の一部を魔法で破壊、その騒動の中でフェニックスさん達を誘拐しています。校舎の被害に関してはどうにかなりますがその他が問題です……襲われた生徒達の記憶はアザゼル先生が残した記憶変換装置で別の記憶へと置き換えていますがSNSなどに投稿された動画などは今もネットの海を彷徨っているでしょう。もっともこちらの方も三大勢力のスタッフ、北欧勢力の方々、そして魔王様方がなんとかすると言っていましたから任せましょう」

 

「問題って言えば襲われた奴らが恐怖でおかしくなっちまうかもしれねぇってことだな。俺としてはどうでも良いが水無瀬をそいつらの介抱に向かわせてる。まぁ、こっちも時間が経てば解決するだろうぜ」

 

「えぇ。水無瀬先生、ロスヴァイセ先生の人気が役に立ちました……と言って良いのか分かりませんが今後も学校生活を送れると思われます。断言はできませんけどね。キマリス君、その、貴方の方で起きた事件も匙から聞いています……ですから怒られることを覚悟で話させてもらいます。今回の一件は――裏切者の存在があるかもしれません」

 

 

 はい残念でした違いますよ。どーせ駒王町を覆っている結界を通り抜ける事が出来るのは俺達キマリス眷属、グレモリー先輩達グレモリー眷属、生徒会長達シトリー眷属とこの町で働いているスタッフぐらいだからはぐれ魔法使いが潜入できたのはおかしいと考えたんだろうけどさ。残念ながら邪龍の筆頭格――アジ・ダハーカが操る魔法のおかげなんだよ。相棒からアジ・ダハーカは千の魔法を操ることが出来るから橘絡みで展開した結界や駒王町を覆っている結界ぐらいは楽に通り抜ける事が可能らしい。まぁ、言わないけど。勘違いをしたままドヤ顔をしていれば良いさ……笑えるし。

 

 しっかし匙君から聞いたねぇ……犬月、テメェか? あぁ、頭を下げたって事はお前ね。いや別に怒ってないから安心しろ。どうせ遅かれ早かれバレてたことだしな。この怒りはゴミ相手に発散させてもらうからお前は黙って俺の前に現れる虫を殺して来ればいい。

 

 

「う、裏切り者ですか……?」

 

 

 一誠君が驚いた声を上げた。でもその表情は思い当たる人物がいるようなものだ……うん、恐らくこの場にいる誰もがその名を、その存在を思い浮かべただろう。俺と平家以外はだけどな。

 

 

「はい。リアスから教えられているとは思いますがこの地域一帯には結界が張られています。怪しい人物が侵入したならば即座に私達や三大勢力に知らされますから今回の襲撃を考えれば魔法使い達が強引に侵入してきたとは考えられません。ですので考えられるとすれば三大勢力のスタッフを人質、あるいは結託して誰にも知られることなく侵入してきた……そしてもう一つは、光りゅ――」

 

 

 そこから先の言葉は無い。何故なら先ほどまで話していた生徒会長の顔に触れるか触れないかの距離に影人形の拳があるからだ。うん、若手五王って呼ばれてるから調子乗ってるのか知らないけどアイツがこの件に関わってると言いたいわけ? あぁ、やっぱり他からはそう思われるよな。はぁ……外面だけ見て中身を理解しようとしない分際が何を言うつもりだ。チッ、こんなところで力を()()させるのは得策じゃないってのによ……でもちょっとばっかり殺る気になったから頑張れそうだ。

 

 

「……どうぞ続けてください。光龍、なんですか? ほら、言ってくださいよ。早く早く。説明をしたいんでしょう? だったら最後まで言わないとダメじゃないですか。どうぞ放たれた拳なんか気にしないで思った事を口にしてください」

 

「……こ、光龍、妃のそんざ、いです」

 

 

 あら、言い切ったよ。以外と根性あるなこの人。

 

 

「なるほど、そうですか。流石は若手五王と呼ばれる(キング)、鋭い考察だ。あぁ、本当に――馬鹿じゃねぇの」

 

「っ!」

 

「あの夜空が魔法使い()()を学園に転移させると本気で思ってんのか? しかも校舎を破壊するわけでもなくただの転移だけ……ばーか。仮に夜空が関与してるんなら俺を楽しませるために校舎ごとお前らも殺害してるんだよ。まぁ、気が変わってこんなことをした可能性も無いわけじゃない。でもな……アイツのことを分かってない癖にくだらねぇことを押し付けてんじゃねぇぞ。ただアイツは楽しみたいだけなんだよ……邪龍らしく、人間らしくな。つーか今の俺の状態を見にきてない時点でその線はねーんだよ。はい、分かりましたかー?」

 

 

 とびっきりの笑顔で生徒会長を見つめると震えられたのがちょっと傷つく。なんか平家からそれは笑顔なんかじゃないって言われたけど凄く笑顔だと思うぞ? きっと目に光が宿ってないから笑顔大賞は確実なはずだ。落選確実? マジかよ。

 

 

 

「ちっ、ビビるくらいなら言わなきゃいいのによ。犬月、飲みもん」

 

「はいどうぞ! コーラっす! なんならお菓子もあります!!」

 

「サンキュー。あぁ、そうだ。匙君匙君」

 

「な、なんだ……? 今の黒井に呼ばれるとすげぇ嫌な予感しかしないんだが……?」

 

「ヴリトラ出して」

 

「はい分かりました!」

 

 

 俺のお願いに即答して足元から黒い蛇を出す。何故か足が震えているけど大丈夫か? 疲れてるんなら座っても良いんだよ?

 

 

『我を呼んだか、今代の影龍王よ』

 

『ゼハハハハハハハ! 呼んだのは()だぜぇ、ヴリトラよぉ』

 

『ッ!! な、なに……! まさか、そうなのか……! 何が、あったのだ! 今回の一件は……お前がその状態になるほどなのか……! クロム!!』

 

『おうよ! 今の俺はすっげぇ気分が良いからな! 除け者にしたくねぇからよぉ、良い事を教えてぇと思って呼んだんだぜ! ゼハハハハハハハハ! どうせ気づいてるとは思うけどな! 感じたんだろう? ヤツのオーラをよぉ』

 

『あぁ。しかし……まさか、本当なのか。本当に奴らなのか……!!』

 

『そうだ。俺も久しぶりに話が出来てすっげぇ楽しかったぜ? この状態じゃなかったら殺し合ってたところだぜ! ゼハハハハハ! ヴリトラよぉ、分かってるとは思うが――邪魔すんなよ』

 

『分かっている。あぁ、分かっているとも。我とて今の貴様に近づきたくはない』

 

『なら良いさ。黙ってるドライグにも言っておけ、俺の邪魔をしたら殺すとな』

 

『伝えて、おこう』

 

 

 蛇の姿のヴリトラが若干ではあるが震えているところを見ると今の相棒の状態はよほどの事らしい。俺としてはカッコいいんだけどなぁ……だって頼りがいがあるだろ? ドラゴンとしての在り方は尊敬する。ホント、ありがとうな……相棒。

 

 周りの面々……平家は俺の心を読んでいるから既に知っているけど他の奴らは何を言っているのか分からないだろう。特に教えるつもりは無いからこのままでも良いけどね。だって仲間じゃないし情報共有をする理由すら無いのにわざわざ教えてあげる理由がどこにある? 知りたかったら自分で情報を集めれば良いさ。そんな事を思っていると俺の携帯に着信が入った……相手は勿論、母さんからだ。あぁ、なるほど。よほど俺を怒らせたいらしい。

 

 

「もしもし」

 

『――ノワール・キマリスさんですね』

 

 

 男の声だ。声質は若い……俺と同じか一つ、二つほど上って感じだな。変声器すら使わないとは度胸があるのか馬鹿なだけか……どっちでも良いか。既に()()()()()

 

 

「そうだけど? どちらさん?」

 

『貴方のお母様、そしてフェニックスの双子姫様をお預かりしている者です。ご安心ください、彼女達には危害を加えてはいません』

 

「あっそ。で? 用件は何だ?」

 

『本日の深夜、こちらが指定する場所に来ていただきたい。勿論、来るのはグレモリー眷属、シトリー眷属、キマリス眷属、志藤イリナのみです。こちらの要求を呑んでもらえないのであれば……分かりますね』

 

「裏マーケットに奴隷として流すってか? はいはい童貞が考えそうなことで何よりだ。はいはい行きますよ、行けばいいんだろ? お前達が居る地下のホームにさ」

 

『……こちらはまだ場所を教えていないはずですが何故分かったんですか?』

 

「――ゼハハハハハハハハハハハッ!!! まさかマジで気づいてなかったのかよ!! 邪龍頼りの転移でそこまで気が回ってなかったかぁ? だったらそっちの落ち度だな! だったら教えてやるよ……俺の弱点だぜ? 何かあってもすぐに対応出来るように対策ぐらいするだろ。俺が生み出した影人形が機能停止された程度で止まるわけねーだろ! ゼハハハハハハハハ!!」

 

 

 アジ・ダハーカもお優しいね! まさか母さんの影に仕込んでいた影人形を()()()()させただけで破壊はしなかったんだからさ! 流石の俺でも完全に破壊されたら打つ手は無かったがそれだったらまだなんとかなるんだよ……俺がその手の技術をどれだけ血反吐を吐きながら鍛え上げたと思ってやがるって話だ。破壊されずに存在するなら遠隔操作からの再起動や他の霊魂共に痕跡を探させるぐらいは容易いんだよ! まぁ、流石にアジ・ダハーカの停止魔法を解くのに一時間弱は掛かっちまったけどな。その辺はまだまだ未熟って事だ……頑張ろう。

 

 俺が笑い声を上げるが相手は逆に静かになった。どうせ計画が狂ったとか思ってんだろうが……誰の逆鱗に触れたと思ってやがる。これぐらいは当然の結果だろうが!

 

 

「場所は分かった。あとはお前らを殺すだけだ。光栄に思え、お前の願いに応えてやる。別に逃げても良いがその場合は世界を滅ぼしてでもお前達を見つけ出して生まれてきたことを後悔させてやるから覚悟しておけ」

 

 

 それを言い残して強引に電話を切る。さてと……向かうか。母さんの影に仕込んだ影人形の再起動は終わったから何かあってもしばらくは対応は、ん? なんだよ相棒……マジで? あぁ、そっか。だったら遅れても良かったかなぁ? 良いか! 邪龍なんだから即行動は当たり前! タノシミダナァ! 皆殺し!!

 

 

「平家」

 

「了解。恵に連絡しておくよ。現地集合で良い?」

 

「それで良い」

 

「王様? 姫様や王様の母さんを攫った連中は皆殺しで良いっすよね?」

 

「当然だ。必ず殺せ。逃げたなら追いかけてでも殺せ」

 

「ういっす!」

 

「……偶には虐殺も悪かないねぇ。にしし」

 

「いっぱい殺す。絶対に殺す。必ず殺す。主様のために頑張って殺す」

 

「という事だ。橘、お前はどうする? ここで大人しく待ってても良いぞ?」

 

「――行きます。私は悪魔さんの僧侶です。何処でも付いていきます」

 

 

  あの橘が覚悟を決めた表情でハッキリと答えた。そうか……悪いな。汚れ仕事だってのに気合い入れさせちまってよ。ホント、良い女だな。

 

 

「……分かった。というわけですのでちょっと虐殺(さんぽ)してきますね? あぁ、そうそう――邪魔しても良いですけど殺されても文句は言わないでくださいよ」

 

 

 邪龍スマイルで周りにいる奴らにそれを伝えてから部屋から出ていこうとすると待ちなさい! と引き留められる――ことなんて一切無く、他の面々は静かに俺達を見送った。デスヨネ! だって本気の殺気を放って止めるなよと釘を刺してたからな。自慢じゃないがあの殺気を放たれて動ける奴は将来大物になるだろうね! きっと! タブンネ!

 

 駒王学園を出た俺達は話をすることも無く駅へと歩き出す。多分だけど全員考えている事は魔法使い殺すとか絶対に助けるとかそんな感じだろうな……道中で水無瀬とも合流したが俺達の様子を見て一瞬で察したのか表情を一気に変える。流石俺の僧侶、言葉を話すまでも無く分かるとはね……やっぱりこいつも良い女だわ。

 

 

「平家」

 

「うん。ちゃんと地下にいるよ、深夜に来ると思ってるのかのんびりしてるっぽい。どうする?」

 

「説明が必要か?」

 

「いらない。それじゃあ虐殺(さんぽ)しよっか」

 

 

 エレベーターで駅の地下へと降りて鎧を纏う。そして今までのイライラを吐き出すように影を生み出して道の至る所に流す……ゼハハハハハハハハハハハハ! シャドーラビリンスの完成だ! 逃がさねぇぞ? ここで黙って殺されろクソゴミ共!

 

 

「良いか、これからやることは簡単だ! ガキでも分かる! ただこの場にいる奴らを殺して破壊して蹂躙するだけの簡単なお仕事だ! 遠慮なんかいらねぇから徹底的に殺れ! チーム編成は自由だが平家は俺と来い、それ以外は勝手に暴れ回ってろ! さぁ、パーティーの始まりだ!! 誰の身内に手を出したかを分からせてやろうじゃねぇか!!」

 

 

 俺の声と同時に犬月達は駆け出した。四季音姉妹は右、犬月と橘と水無瀬は左、グラムは中央と各々が楽しそうな笑みを浮かべて走っていく。それを見届けた後、俺は平家とある場所へと向かう……それは当然、母さんとレイチェル達が居る場所。別に急がなくても問題はもう無いんだがここまで来た以上は急いで向かった方が良いだろう……というよりも向かいたい。

 

 

「な、か、影龍王だと?! ま、まだ約束のじか――」

 

 

 道中ですれ違うゴミ共を殺しつつただひたすら突き進んでいく。先ほどから悲鳴や衝撃が響いているから他の場所でも虐殺が行われているんだろう……タノシソウダナァ! 俺も早く始めたいぜ! てか本当に多いな! ドンだけ数が居んだよ! サボりか?! サボりだな! お前らちゃんと働けよ! この時間でも働いている人達に謝れ! 俺が殺してやるから!

 

 平家が龍刀「覚」を握り、目の前にいるゴミ共の首や胴体が切り落とす。その表情は無表情で動作もゲームで遊ぶぐらい当たり前の行動をしているからか無駄が無い。俺達に襲われて恐怖のあまり逃げようとする魔法使い達もちらほらといるが残念な事にこの場所全体はシャドーラビリンスで覆っているから転移すら行えない……つまり逃げられないんだなぁ! お前達が出来るのは此処で殺されるしか無いわけだ。理解したならさっさと死ね。時間の無駄だ!

 

 俺達に向かってくる魔法を影人形の拳で防ぎ、お返しとしてさらに影を生み出す。そこから無尽蔵に湧いてくる影人形達によって魔法使い達はなす術もなくペースト状のなにかへと変化するが気に留める理由も無い。ん? なんだよ平家……目の前の男ははぐれじゃない? そっかー! なら捕まえるか。はい! 四肢切断からの全身の骨を折って口の中から影人形を体内に入り込ませて折れた骨の代わりや心臓を無理やり動かし、本来なら死ぬところを強引に生かしました! なんという無駄な技術! これは今後に役立ちそうだね!!

 

 

「きっと凄く役に立つよ」

 

「だろ? 今の状況は?」

 

「みんな張り切ってるよ。魔法使いは召喚も出来ないから魔法で攻撃するしかない。でもそれなら余裕で対応できるから楽に殺せてるよ。数で言うなら既に百は超えてるね」

 

「むしろ百人以上もこの場所にいることに驚きだ」

 

「とーぜんだよ。だって()()()が手あたり次第に外にいる魔法使いを拉致って此処に放置してるんだもん」

 

「おっ、良く分かったな?」

 

恋敵(ライバル)だもん。それぐらいは分かるよ」

 

 

 それは何とも凄い事で。いや誰だって分かるか……なんかさっきから空間に穴が開いてそこからゴミが降ってきてるし。てか夜空の奴……いくら暇だからってこの場所以外にいる魔法使い共を送り過ぎだろ! そこまでして俺達に殺させたいか! ダヨネ! だって俺のガチギレなんて滅多に見られないんだし長く見ようとするよね! でもさーお前も手伝ってくれても良いんだぞ? 歓迎するし俺もテンション上がってワクワクするからさ!

 

 

「ま、待てって! お、お前だって好き勝手にやってるじゃねぇか!? 自分が良くて俺達はダメなのかよ!!」

 

「おう。てか何言ってんだお前? 俺、悪魔で邪龍だぞ。自分が良くて相手がダメなんて常識だろ? だって悪で魔だから「悪魔」って呼ばれてんのにさ、正義の味方みたいに正しい事ばっかりするわけねーだろ。頭大丈夫か?」

 

「ふ、ふざけんな! そんなの、そんな――」

 

 

 何やら変な事を喚いていた男の足元から影を這わせてそのまま一気に絞る。ブチブチと何かが潰れる音と新鮮なトマトジュースが床に広がるが俺には関係ない。だって邪魔だったしウザかった。だから殺して何が悪い? 元々生かしておく理由も無いんだから当然だろ? あと別に好き勝手に何かするのは良いんだよ。俺達に関係無かったらドンドンやってくれ、でも今回は別なんだよ。喧嘩を売ってきて殺されたくないとか甘えてんのか? ばーか。無理だから黙って死ね。

 

 男の悲惨な姿を目撃した他のゴミ共は悲鳴を上げながら逃げようとする。でも残念ながら逃がすつもりは一切無いから影を生み出して一気に捕らえてミキサーにすると周囲にトマトジュースのように赤い液体が巻き散らされる。うーん、我ながら惚れ惚れとするね! きっと夜空も今の俺の姿を見たらメロメロになるに違いない! キャーノワールくん大好きー抱いてーとか思ってるに違いない! よっしゃ! 俺の本気はまだまだ続くからもっと殺すぞ! 夜空をメロメロにさせてやらぁ!

 

 

「――絶対にないよ」

 

 

 真っ先に否定するのをやめてください。心に響きます。

 

 そんなやり取りをしつつゴミ共を掃除(ころし)ながら目的地へと到達した。やや広い空間で地面には魔法陣が展開され、その上に母さんとレイチェル達が座らされているが周りには誰も居ない……流石に逃げたか。まぁ、逃がさないけどね。この場所全体には俺が生み出した影が広がっている……つまりどこに誰が居るのかなんて丸分かりなんだよ。だからたとえこの場所から逃げた所で意味なんてない――はい、遠くの方から悲鳴が聞こえてきました! きっと影の海に捕まってペースト状にでもなったんじゃねぇかな? どうでも良いけど。

 

 

「キマリス様!!」

 

「レイチェル、レイヴェル……悪い、助けるのが遅れた」

 

 

 影を纏った拳で魔法陣に触れて一気に力を奪って破壊し、一度鎧を解いてからレイチェル達の傍まで駆け寄る。決して……決して俺の胸に飛び込んでくるレイチェルのおっぱいの感触を味わいたいとか思ってない……思ってないよ? ほ、ほら! 俺の鎧って硬いじゃん? そんなのに飛び込んで来たら怪我しちゃうでしょ! いやー柔らかいなー! 流石フェニックスおっぱい……! 制服の上からでもこれとは将来が楽しみです!

 

 平家から蔑んだ視線を受けながらレイチェルの方を掴んで上から下へと姿を確認する。見た感じ、乱暴に掴まれた跡とか制服も乱れはあまり無いからその手の乱暴は受けてなさそうだ。一応念のため平家に視線を向けるとコクンと頷いたからどうやら俺の考えは間違ってはいないらしい。良かった……流石に一緒に住んでいる知り合いが知らない男たちに犯されたとかになったら世界を数回滅ぼすレベルで頭にくるしな。ホントに……間に合って良かった。

 

 

「い、いえ……前のように助けに来てくれると信じていましたから謝らないでくださいませ。それにお姉様とキマリス様のお母様が一緒でしたしこ、怖くなんてありませんでしたわ! で、ですけど……出来ればもっと強く、抱きしめてほしいですわね……」

 

「それぐらいならお安い御用だ。一応、聞くけど魔法使い達に何かされたか?」

 

「私とレイチェルは魔法陣で何かを調べられていましたがそれ以外は何もされてません……キマリスさまのお母様は人間ですのでただの人質、キマリスさまをこの場に呼ぶだけに攫われたようですわ。そ、それよりもキマリスさま! 魔法使い達が私とレイチェルを攫った理由ですけど――」

 

「そんなことは俺じゃなくて学園で待機してる生徒会長達にでも話してくれ。あぁ、一応フォローしておくが俺から一誠達に邪魔するなって言ったからこの場に来てないだけだ。今も心配してるだろうから元気な顔を見せてやれ……おい、無事だな?」

 

 

 レイチェルを抱きしめながらレイヴェルに説明をすると何かを察したような表情になった。まぁ、本当なら一誠のようなヒーローがやるような場面だろうが今回だけは譲れ。偶には邪龍だって助けたくなる時もあるんだよ。そんな事を思いながら母さんの方を向くといつもと変わらない表情を返してきた……たくっ、呑気なもんだ。いきなり攫われたってのに怖がる素振りすら見せないなんて度胸があるのか何なのか分かんねぇな。ただ――今回は護れて良かった。

 

 

「勿論よ。普通の人間なんだもの、人質以外の価値なんてないわ。もうっ、そんな顔しないの……大丈夫だから。ノワールが来てくれるって信じてたもの」

 

「……そうかよ。無事だったならそれでいい。親父やセルス達からも文句を言われずに済むしな」

 

 

 囚われた三人と話していると俺達がやってきた方向から足音がした。そして俺達の前に現れたのは自分の服を血で染めている犬月だ。うわぁ、すっげぇ返り血……どんだけ殺したんだよお前ら? よくやった。ドンドン殺せよ! 遠慮なんていらないからな!! つーか犬月……誰そいつ? なんか四肢が折れて今にも死にそうな男を引きずってきたけどお土産かなんかか?

 

 

「こんな所に居たんすか……って姫様!? ぶ、無事っすか! なにかされたっすか!? 遠慮なく言ってくれよ! 仕返しすっから!」

 

「だ、大丈夫ですわ! そ、それよりもシュンさんの方こそ大丈夫なのですか!? ち、血がいっぱい……」

 

「ん? あぁ、これは違うっすよ? ゴミ共を殺した時に付いたもんなんで俺自身は怪我すら負ってないから安心してください。てか王様? 水とかありません? 腹減ってたんで何人か喰ったんすけど逆に喉乾いちゃって困ってんすよ」

 

「あるわけねぇだろ」

 

「デスヨネー。じゃあ良いや、歯に肉とか挟まってマジで変な気分……終わったら歯を磨かねぇとダメっすね。あっ! 手土産としてコイツを連れてきたっすよ! なんか自分ははぐれじゃないとか言ってたんだがどうします?」

 

「平家」

 

「嘘だよ。思いっきりはぐれ魔法使い」

 

「マジかよ……引きこもりが言うんだし間違いねぇか。じゃあサヨナラ」

 

 

 首をブンブンと横に振る男の口に両手を入れて一気に開く。うわぁ、戦車に昇格してるからか見事に割れたな。人間って口を思いっきり開かれたらあんな風になるんだな……初めて知ったわ。あっ! ちゃんと三人に見えないように影で隠したよ! 流石にグロイからね!

 

 

「やっぱ引きこもりが居ねぇとどれが生かしておかないとダメな奴か分かんねぇわ。それでどうします? グラムも酒飲みも茨木童子も嬉々として魔法使い共をぶっ殺してますけどそろそろ終わりそうっすよ?」

 

「橘と水無瀬は?」

 

「あー、水無せんせーとしほりんも虐殺で忙しいっすね。此処に来る前にちょこっとだけ見ましたけど雷で焦がしてたり凍結させて粉砕とかしてましたし」

 

「そうか。だったらお前は母さんを背中に乗せて冥界へ行け。このルートを通ればキマリス家が所有する列車があるはずだ。途中で四季音姉を拾う事も忘れるなよ? 道中、何があるか分からねぇから護衛として連れていけ。文句を言ったら俺がデートしてやるとでも言っておけ。平家、お前はレイチェル達と一緒に学園に向かえ。そこでレイチェル達が得たであろう情報を聞いてあとで教えろ」

 

「ういっす!」

 

「りょーかい。ノワール、私もデート希望」

 

「はいはい。してやるからちゃんと仕事しろ」

 

 

 とりあえずこれで母さんは冥界にいる親父達、レイチェル達は生徒会長達が居るから一応は安全だろう。さてと……犬月達が居なくなったからこの場所には俺達()()だけだ。いい加減、姿を現しても良いだろ――夜空?

 

 

「居るんだろ? いい加減、俺の前に出てきたらどうだ?」

 

「――しょーがないなぁ! おっひさぁ~! すっげぇガチギレ状態じゃん! にひひ! そこまで頭にきてたん?」

 

 

 俺の背中に転移してきたのは規格外こと夜空ちゃん! 先ほどまで魔法使いを拉致してたくせに息が切れてたり疲れている様子が一切ありません! まぁ、あの程度で疲れてたらとっくの昔に死んでるけどな。てか頭にきてたかって? 当然だろ……俺の弱点が狙われたんだ。そんな面白い事をしてくれる奴を殺せると思うとワクワクしてるんだよ! それはお前も同じだろ……声は笑ってるくせに無表情だぜ? あぁ、おっかねぇな……何かの拍子で一気に爆発しかけてんじゃねぇか! それは俺も同じだが……やっぱり似たもの同士って奴だな、俺達はさ!

 

 

「当然だろうが。今もな……爆発しそうでおっかねぇんだよ。俺も、相棒も……そろそろ我慢出来そうにない」

 

「だったらまた殺し合うぅ~? お母さんは助けたんだしもう暇っしょ? 今のノワールと殺し合うなんてすっげぇ楽しそうじゃん! ほらほら~やろうよぉ!」

 

「――悪いな。今はお前の相手をしてる暇は無いんだよ」

 

 

 あぁ、いつもなら喜んで殺し合いをしたいさ……でもな、()は遊んでる暇なんて無いから次の機会にしてくれ。

 

 

「――そっか。じゃあ、仕方ないね。仕方ねーから連れてってやる。感謝しろよぉ? 逃げないように威嚇しててあげたんだしお母さんだって護ってやってたんだからさ」

 

「あぁ。感謝してるよ……夜空、悪いな」

 

「別に謝んなくたっていいし。ノワールと殺し合いなんて何時でもできるしね」

 

 

 俺の背中にくっ付いている夜空が手を伸ばすと目の前に穴が開いた。夜空の態度からしてどうやらこの先に元凶がいるらしい……あぁ、やっとご対面か。タノシミダナァ!

 

 穴の中に入り、先へと進んでいくと別の空間にたどり着いた。何も無い真っ白いだけの空間、そこで待っていたのは服装が()()()()の男。なんかどこかで見た事のあるような顔とこれまたどこかで見た事があるような銀色の髪をしたイケメンだが地面に這い蹲って何かに震えているような様子だった……あぁ、なんだよ? 先に楽しんでたってわけか? おいおい……そこは俺に譲れよなぁ!

 

 

「……か、かげ、りゅう、おう……!」

 

「おう。約束破ってすっ飛んで来たぜ? まぁ、別に良いよね! だって悪魔だもん! 約束を破るのは悪魔の世界じゃ常識だしさ! てか夜空!? 俺より先に遊んでるんじゃねぇよ!」

 

「しかたねーじゃん! 暇だったんだしさ! でも私にしてみれば我慢した方だぞぉ! だって物理だけしかダメージ与えてねーし! しかもそれを治してあげたんだよ? すっげぇ優しいじゃん! どうどう? 優しくない?」

 

「すっげぇ優しいな! お前……いったいどうしたんだよ? 今までだったら指パッチンで即殺害だったのに五体満足で生きてるってなんか悪い物でも食ったか?」

 

「食べてねぇし! ちゃんと美味しいものを食べてるっての! ノワールの財布から取った金で!」

 

「……道理で最近、俺の財布が軽いわけだ。あっ! ごめーん? 無視してマジでゴメンね? 待たせたな。今度は俺とお楽しみタイムの始まりだ。覚悟しておけよ」

 

 

 殺気と共に銀髪男に視線を向けるとビクッと体を震わせた。なんかこれ……弱い者虐めをしている気分になってくるからやめてくれません? もっともやめる気なんて一切無いけどな。

 

 

「……ぜですか」

 

「あん?」

 

「……何故ですか……! 貴方は好きに生きている! なら私だって好きに生きていいはずだ! 悪魔らしく……邪悪で! 自分勝手に! 貴方のお母様を狙ったのも貴方と対話を行うため……危害など加えるつもりは一切無かった! 誰よりも悪魔らしく、邪龍らしい貴方の力を貸してもらいたかったからこその行動です! 貴方とリゼヴィムさまが手を組めば……世界中に悪魔を知らしめることができる……! そうすれば――」

 

「あっそ」

 

 

 影人形を作り出して何やら語りだした男の足を殴る。鈍い音を響かせながら男は殴られた衝撃で吹き飛ばされるがその直後に光が傷を癒す……なんだよ、お膳立てをしてくれるってか? 良い女だなぁ、やっぱりお前が大好きだ。なぁ……相棒。そろそろ限界だよな……殺そうぜ。

 

 一歩、銀髪男に近づこうとすると不意に意識が神器の奥底に引っ張られた――

 

 

 

 

 

 

 目の前に広がったのは壮絶な殺し合いの光景だった。

 

 山吹色の鱗をした美しいドラゴンと黒の鱗と禍々しい棘を生やしたドラゴンがとある存在と殺し合っている。神々しいほどの神力を相手に二匹のドラゴンは高笑いしながら戦っている。影のドラゴンが攻撃を防ぎ、光のドラゴンが攻撃する。その連携は恐ろしいとさえ言えるだろう……しかしそんな戦いもとある存在の言葉によって終わりを迎える事になった。

 

 

 ――あなたは真に誰かを護りたいと思った事はありますか?

 

 ――あなたは真に誰かを愛したいと思った事はありますか?

 

 

 あまりにも場違いな言葉に二匹のドラゴンは笑い出した。そんなのは無いと、あるはずが無いとひたすら笑い出した。しかし目の前にいる存在が発した言葉を笑っていたドラゴン達はその言葉が気になりだしたんだ……護るとはなんだろうと、愛するとは何だろうと疑問に思った。今の自分がやっている事が護るなのか? 自分が今までにやってきた事が愛する事なのか? 殺し合いの最中だというのに二匹のドラゴンはそれだけを考え始め――そしてこの答えに達した。

 

 

 ――そうだ、味わってみようと。

 

 

 誰かを護る時の感情はどんなものなんだろう、誰かを愛した時の感情はどんなものなんだろう、二匹のドラゴンは味わった事が無い感情に違いないとワクワクし始めた。確かに今の自分は隣にいるドラゴンを護る事をしているが真に護りたいとは思ってはいない。確かに今の自分は今までに数多くの存在と体を交えてきたが愛してはいない。それを味わってみたいという欲望に目覚めたがここで一つの障害にぶつかった……今の自分達は強すぎる。仮にも邪龍の中でも最強格と呼ばれている自分達だ、このままでは護るどころか愛することすら出来ないとドラゴン達は焦りだした。攻撃の手をやめ、目の前にいる存在すら眼中にすらいれず、ただひたすらにどうすれば良いかを話し始めた。そして行き着いた。

 

 

 ――そうだ、弱くなろうと。

 

 

 偶然にも目の前にいる存在は同胞達を封じる術を持っている。ならこれを利用すれば弱くなるんじゃないかとドラゴン達は思いついた。ゼハハ、クフフと高笑いしながら殺し合っていたはずの存在に自分達を弱くしろと契約を持ちかけた。言葉を失う存在なんて無視して早くしろと、さっさとしろと急かしだすドラゴンはまるで子供のようにも見える。だがドラゴン達は本気なんだ……本気で味わってみたいから今までに得た力を捨てる。馬鹿だと、狂っていると言われても良い。自分達が楽しければそれで良いからと心の底から思っている。それを理解した存在は――その契約を結び、二匹のドラゴンを自らが開発した玩具へと封じこめた。

 

 これこそが「光龍妃の外套」と「影龍王の手袋」が生まれた切っ掛けである。

 

 

 

 

 

 

「……今のは、相棒の記憶か……?」

 

『ゼハハハハハ! その通りだぜ宿主様! 懐かしいぜぇ! 聖書の神と殺し合いをしてた時の記憶よぉ!』

 

 

 神器の奥底に意識を引っ張られたせいで目の前に広がる光景はガラリと変わっている。黒一色の世界、この場に居るのは俺と相棒、そして歴代達だけだ……なんか嬉しいな。相棒の過去を知れたんだしさ。

 

 

『見ただろう? あれこそが真実だ! ゼハハハハハハハハ! 聖書の神はよぉ! 俺様とユニアにあんなことを言いやがったんだぜ? 馬鹿だろ! 最強最悪の地双龍を相手に誰かを護りたいだの誰かを愛した事があるだのって本気で言いやがったんだぜ! でよぉ……気になっちまったんだよなぁ! その結果がこれよ! ゼハハハハハハハハハ! 俺様は全然気にしちゃいないがな!』

 

「……なんか、記憶の中の聖書の神が絶句してた気がするんだが?」

 

『気のせいだろう。むしろ逆に嬉しかったと思うぜぇ? 俺様もユニアも本気で頼み込んでたんだからなぁ! 宿主様、俺様はお前に出会えてよかった。長かった……長かったぜ! 途方もない旅だったがこうしてようやく俺様は――俺は答えを得られたんだ! 宿主様よぉ、お前の母上様は良い女だ。この俺が本気で護りてぇと思える程な』

 

「相棒……あぁ、俺なんかにはもったいない親だよ」

 

『ゼハハハハハハハ! そう言うな! 宿主様だからこそ母上様が居るんだ! 嬉しかったんだ……俺を恐れる事も無く屈託のない笑顔で話しかけてくれた母上様が……俺の話を聞いても引かずに楽しんでくれた母上様の存在が何よりも嬉しかった! だからよぉ……似合わないと言っても良い! あれを傷つける存在は世界から抹消してやるぜ!! ゼハハハハハハハ! これが、これが護りたいという感情か!! 中々良いものじゃねぇかよぉ! ゼハハハハハハハハハハハ!』

 

 

 笑っている。相棒が心の底から笑っている……子供のように楽しいから、嬉しいから笑っている。護りたいと思える相手と出会うために自ら封印されるなんて誰も信じないだろうな……でも、相棒らしい。俺は否定しないさ、だって気持ちは一緒だからな。

 

 俺の心と相棒の心が繋がる。俺達は二人で一人、好き勝手に生きて、好き勝手に楽しむことを信条としている悪魔で邪龍だ。誰にも邪魔はさせない……俺達は今を楽しんでいる! それを邪魔するのならば容赦はしない!!

 

 

「相棒」

 

『宿主様』

 

「やるぞ!」

 

『やるかぁ!』

 

 

 世界に知らしめよう――俺達の怒りに触れたらどうなるか!

 

 

「――ル、ノワール?」

 

 

 意識が現実に戻ると背中から大声で俺の名前を呼ぶ夜空の姿が見えた。なんというか可愛い……お持ち帰りしたいぐらいの可愛さだ! たくっ、そんな大声で呼ばなくったって聞こえてるっての。

 

 

「聞こえてるよ……うるせぇぞ」

 

「いきなりぼけーっとし始めたノワールが悪いんじゃん! 殺さねぇの?」

 

「殺すさ。なぁ、夜空……離れてろ。今から見せる俺達は前までとは違うからさ」

 

「ん? そっか、そっかぁ! にひひ! じゃあ見せてよ! 本気のノワールを!」

 

 

 夜空が背中から降りたのを確認すると今までためにため続けた怒りを一気に解き放つ。鎧を纏い、醜悪な呪いを放出しながら銀髪男へ呪文を唱えながら近づいていく。

 

 

「我、目覚めるは――」

《我らは止めぬ》《我らでは止められぬ》

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《覇王の怒りが世界を呪う》《覇王の怒りが我らを染める》

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《怒りに触れた愚か者よ》《貴様は選択を間違えたのだ》

 

「我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて――」

《見よ! これこそが真なる覇王の姿なり!!》《世界に呪いを!! 滅びを!!!》

 

「「「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう――」」」」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 俺と相棒が至った漆黒の鎧を纏う。俺の怒り、相棒の怒り、歴代達の怒り、全ての怒りが目の前の銀髪男に向けられている……いや違うな。俺と相棒の呪いが歴代達をそうさせているに過ぎない! 俺の意思はお前たちの意思だ……楽しもうぜ! 殺戮を! 虐殺を!

 

 

「……た、すけ、たすけ、ぐ、グレンデル!! ラードゥン!!! ニーズヘッグ!!! なぜ、なぜなぜなぜ!? 何故来ない!? ね、姉さん……姉さん! 姉さん!!」

 

「来るわけね―じゃん。テメェ程度が邪龍を使役できると本気で思ってたん? さっき私と遊んでた時に見せた偽物の神滅具のおかげでまーちょっとは楽しかったけどさ。素のお前って雑魚だろ。そんな奴の元に来るわけねーんだよ」

 

「だ、だだだだだが! 私が居なければ彼らの体は――ぎやあぁぁぁっ!?!?!」

 

 

 五月蠅いから回復していた足を踏みつぶす。俺から放出される呪いに犯され、足を潰された痛みで顔を酷く歪ませて助けてと叫びだしているがまだまだこれからだ――お前が味わう真の痛みはこれからなんだからな!

 

 

『Pain!!』

 

 

 鎧の宝玉から聞きなれない音声が周囲に鳴り響く。その音声が流れた途端、足元に転がっている銀髪男が発狂したように叫びだした。地面を転がり、()()から逃れようとしているが無駄だよ……俺が解除しない限り、それは永遠に続くんだ。聖書の神によって封じられていた最後の能力は護る能力なんかじゃない! 相棒が持つ唯一の攻撃能力なんだからな!

 

 

「どうだ? 痛いだろ? まだまだ続くから壊れるんじゃねぇぞ」

 

「たすけ、たすげでぇぎああああぁあぁぁぁっ!?!?!?!!」

 

 

 足を潰し、手を潰し、腕を潰し、目を潰し、耳を引き千切り、髪を引き抜く。その動作をするたびに『Pain!!』という音声が鳴り響くので銀髪男は()の痛みを味わい続けた……しかもそれだけでは終わらず背後に居た夜空から光が飛んできてダメージが全回復するので文字通り永遠に同じことを繰り返されることになっている。あらら、死んだ方がマシだろうな……なんせこの能力は「痛みを倍増させて与え続ける」からね! 俺が与える全ての痛みが倍増し、能力を解除するまでそれが永遠と続く「苦痛」と称された能力こそ相棒が長きに渡ってスカアハに殺され続けた末に会得したものだ。殺されては再生、再生しては殺され続けた相棒はこの「痛み」を別の誰かにも味合わせたいと強く思っていた……その結果、自分が与える痛みを倍にして永遠に与え続ける能力を目覚めさせた。でもユニアほど派手じゃないから気に入らねぇとは言ってたけど絶対に気に入ってるよね!

 

 そんな事は置いておいて潰されては回復、回復して潰されを繰り返していると銀髪男は精神の限界が来たのか壊れてしまったらしい……だってさっきから幼児退行とかいうかなんかそんな感じの状態になってるし。どうでも良いがなんかキモイな。

 

 

「キ、ひぃ、あひ、ひひひひひひひひひひいひひひい! ぎぎぎぎぎいいいいあああああ! あうあいうひぃひひひひひひ!」

 

「……こんなもんかよ。まっ、使い勝手は良さそうだ。実験台ご苦労様、解放してやるから感謝しろ」

 

 

 精神崩壊を起こしたゴミを宙に放って影人形二体を生み出し、ダブルラッシュタイムを浴びせる。勿論、苦痛の能力を発動しながらだから痛いという次元を通り越してるような気がしないでも無いが問題無いだろう。というより……コイツって結局誰だったんだ? リゼちゃんと繋がってるのは分かったが名前を聞くの忘れたな……良いか! そんなものに気を使うよりも今は別の事をしたいし!

 

 ゴミを掃除した後、後ろを向くと夜空が笑顔になっていた。子供のようにはしゃいでいる笑顔……楽しいことが見つかったと言いたそうな表情だ。あぁ、きっと楽しいぜ? だからお前も早くユニアの能力を解放しろよ……そして殺し合おうぜ! いつもの様にな!

 

 

「『ゼハハハハハハハ! さてと肩慣らしは終わりだ! 本命に行くとするかぁ! 夜空、おまえはどうするよ?』」

 

「んなの決まってんじゃん! ついていくー! てかぁ! 新しい能力に目覚めるとかズルイぞぉ! なんか凄そうじゃんか! にひひ! やっぱりノワール大好きー!!」

 

「『俺も好きだぜ! じゃあ、デートと行こうじゃねぇか!!』」

 

「ん~別に良いよ。どこいくぅ~?」

 

 

 どこって……決まってるじゃねぇか!

 

 

「『うぜぇメフィストのジジイがいる灰色の魔術師の本部に決まってんだろうが! ゼハハハハハ! 魔法使い狩りと行こうか!!』」

 

 

 

 

 

 

 灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)、番外の悪魔であるメフィスト・フェレスが理事を務める魔法使いの協会であり古くから悪魔とも強い関わりを持っている組織。数多くの魔法使いが所属する協会で日夜、魔法使い達が自らの魔法の研究を行っているが今はそれどころではない。

 

 理事であるメフィスト・フェレスは自らが仕事を行う理事長室でこの状況をどう打破しようか思考を張り巡らせていた。突如として自らが運営する協会、しかもその本部が襲撃された事態ですら異常だというのにそれを行ったのが若手悪魔と人間なのだからなおさら異常だ。所属している魔法使い達は逃げようにも協会本部全体を覆っている黒い膜によって転移魔法を行う事も出来ず、周囲を徘徊している黒い人影によって一人、また一人と殺害されていく。いくら悲鳴を上げても、いくら助けを求めても、いくら命乞いを行ってもそれらは殺戮をやめる事は無い。これを行った相手が普通の悪魔が相手であるなら前線から身を引いたとはいえメフィスト自身、古い時代より生きている悪魔のため軽く制圧は容易だが――目の前の存在達はそうはいかない。

 

 

「――予想はしてたけどね。まさか、本当に襲撃してくるとは思わなかったよ……ノワールちゃん」

 

 

 メフィストと対面するように座る男と女を見つめながら慎重に声を出す。目の前で座っているのはどこかの学園の制服を着た男と光り輝くマントを羽織、ミニスカートを履いている女。それらは退屈そうにメフィストの言葉に反応する。

 

 

「売られた喧嘩は買わないとダメだろ? 邪龍的にさ。そもそも事の発端はテメェが発表したランキングって話じゃねぇか? そのせいでくっだらねぇことに巻き込まれたんだがどうしてくれんだよ?」

 

「……聞いているよ。はぐれ魔法使い達が一般人が通うキミたちの学校を襲撃したとね。でも、それは僕たち灰色の魔術師は関係ない話だ。今なら勘違いで治められる……ノワールちゃん、ここは引いてくれないかい?」

 

「へぇ、関係無いと来たか。ゼハハハハハハハ! じゃあこれは何なんだよ?」

 

 

 学生服の少年が使役している黒い人影が何人かの魔法使いを連れてきた。それらは酷い状態で四肢は折れ、唾液を垂れ流し、ひたすら助けを求める姿を晒している。メフィストは連れてこられた面々を見て表情を変えるしかなかった――何故ならそれは自らが運営する協会に属している者達だったのだから。

 

 

「今回の駒王学園襲撃、及び俺の()()()()()のフェニックスの双子姫と一般人の誘拐を行った集団にいた奴らだ。見覚えはあるよなぁ? テメェのところにいる魔法使いだろうが。色々と話してくれたぜ? 今回のランキングで若手悪魔が上位を占めたから力試しがしたかったってな……別にそれ自体は人間らしいから文句は無いさ。ただな、俺の契約者候補に何してくれてんだ? おい」

 

 

 この部屋全体を支配するほどの殺気を放ちながら話す少年にメフィストは次なる手を考え始める。最初から話が通じるとは思ってはいなかったが自分が運営する組織に所属する魔法使いがテロに関わっていたなどとは考えてもいなかった。目の前にいる少年は自らと同じ勢力に属する悪魔、このような事をすれば現在の地位を剥奪されて投獄、あるいは処刑すらあり得るだろう……しかし目の前に居るのはそれすらどうでも良いと本気で思っている少年だ。生半可な対応はこの場所以外に存在する協会にも被害が出かねない。それほどまでに――怒りをぶつけてきているのだから。

 

 

「まっ、悪魔らしく否定しても良いよぉ? そん時はどうなるかなんて考えなくても分かってると思うけど。てかぁ! 優しすぎない? もっと殺そうよ!」

 

「一応交渉の場だから大人しくしててくれません? ほら、お菓子上げるから」

 

「わーいノワールだいすきー」

 

「たくっ、あー話を戻すぞ。で? お偉い理事様はこれをどうするつもりだ? 別に良いんだぞ、否定してくれてもさ。その時はこっちも派手にやらせてもらうだけだし」

 

「私と言ってること変わんねーじゃん」

 

 

 この状況での最善の策はなんだとメフィストは考え続ける。普通の者が相手ならばいくらでも考え付くが目の前にいる少年たちは別だ。どのような嘘も謝罪の言葉も受け入れはしないだろう……やりづらいとメフィストは表情を変えずに心の中で思う。

 

 

「……分かったよ。これは僕たちの落ち度だ、キミ達の望むことをしよう。それで手を打ってはくれないかい?」

 

「ふーん、へぇー、ほー、望む事ねぇ? だったらジジイ、お前は何をしてくれるんだ?」

 

「……そうだね。今後、ランキングを行わない。悪魔と魔法使いの関係をさらに厳格にする。そして……僕は灰色の魔術師の理事をやめ――が、ぁ、っ……!!」

 

 

 反応することすら出来ない速度で黒い人影が拳を放ち、メフィストの片腕をへし折った。本来ならば曲がることが無い方向に腕を曲げ、痛みに悶えるメフィストに追い打ちをかけるように部屋中に音声が鳴り響いた。その途端、腕を折られたメフィストが脂汗を出し始め、必死に腕を抑えて痛みに耐えるような様子を見せ始めた。現在、メフィストは折られた腕から感じる強い痛みに耐えているのだ――思考すらままならないほどの強い痛みに。

 

 

「おいおい冗談だろ? 自分だけ逃げるってか……そりゃねぇよメフィストのジジイ。組織を運営している長だろ? だったらもっとやることがあるんじゃねーの?」

 

「……っ、ぁ、なに、か、な……?」

 

「さぁ、それを考えるのはお前だ。テメェのところの魔法使いによって巻き込まれた一般人の方々にお前は何をしてくれるんだ? なぁ、メフィストちゃん。教えてくれねぇか? 俺ってまだガキだからさ、分かんないんだわ」

 

「……わか、た、僕の、命を捧げ、よう……! でも、頼む……他の子たち、には手を出さないでくれ……あああああぁぁぁぁっ?!!?」

 

 

 真横から黒い人影に殴られ床に吹き飛ばされる。恐らく骨は折れているだろうがそれ以上に鳴り響く音声によってメフィストが感じる痛みが常軌を逸したものになっている。声を上げ、痛みから逃れようともがくが一向に無くなる気配はない。それを見ている少年たちはキモイと言いたそうな表情を浮かべている。

 

 

「ゴメン、ちょっと俺の耳が悪くなってたみたいなんだがさ、くれっていった??」

 

「……ひ、ぐ、手、をださない、でくだ、さい……!! 彼ら、はしょう、らい有望な……魔法使い、なんだ……!! 僕、の命だけ、でこの、場を、治めて、くだ、さぃ」

 

 

 自らに向けられた殺意からか体中に広がる強い痛みのせいか分からないがメフィストはひたすら頭を下げ続ける。そんな様子を見た少年は呆れた表情のままある言葉を言い放った。

 

 

「将来有望ねぇ。まー良いけど。ジジイ、俺の要望はただ一つだ、この組織を解体してくんない? ウザってぇんだわ。元々悪魔との契約は魔法使い個人がやるもんだろ? 何で悪魔のテメェが斡旋なんかしてんだよ。将来有望なら個人で悪魔と契約を持ちかけるぐらいは出来るだろ。さぁ、どうする? 別に死んでも良いがその場合はどうなるかなんてお前でも分かるよな」

 

「……分かった……! 解体、する……!」

 

「――夜空ちゃん、聞いた?」

 

「――もっちろん! 解体するってさぁ!」

 

 

 その言葉を待ってましたとばかりに少年たちは嗤いだした。悪意に満ちた笑みでメフィストを見つめ始める。

 

 

「よし、これで灰色の魔術師は無くなったわけだ……まー正式な手続きとかはしてないがお前個人からその言葉が聞けたんなら問題無いか。うん、メフィストちゃん?」

 

「なん、だい……?」

 

「――これで此処にいる魔法使い達は()()()だよな?」

 

 

 その言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。あぁ、元から許すつもりなどなかったと気づくのには遅すぎた。普段のメフィストであれば一瞬で気づくであろうことだが全身に広がる痛みによって思考が鈍くなっていたのだろう……そのせいで新たな悲劇が起きてしまったのだ。

 

 部屋の外から先ほどよりも激しく悲鳴が響いてくる。全てが遅すぎた……魔法使い達に伝えておけばよかったのだ……ドラゴンの逆鱗に触れたらどうなるかを強く教えておけばよかったのだ。

 

 

「ぁ、あ、ぁ」

 

「あーそうそう、お前は殺さないからな? だって見届ける奴が居ないと意味が無いからさ。良かったねぇ! お前の命は保証されてるよ! だから泣くなよメフィストちゃん! イケメン面が台無しだぜ?」

 

「ねぇねぇノワール!! 次は私がこーしょーしたい! なんか楽しそうじゃん! てかやらせろぉ!!」

 

「別に良いが……お前、交渉のやり方を知ってんのか?」

 

「ん? ただ光ぶっぱして殺せばいいんじゃねーの?」

 

「それはただの攻撃だっての……やりたいなら別に譲ってやるけどさ。次はどこに行く? 黄金の夜明け団か薔薇十字団か……それともお前が言ってた魔女の夜ってところでも攻めてみるか?」

 

 

 惨劇を引き起こした少年たちは何事も無いかのように話し始めるがそれを見続けるメフィストも限界だった。自分の可愛い子ともいえる魔法使い達を見せしめの様に殺され、さらに楽しんでいる様子に怒りが限界を超えた。少年の名前を叫び、自らの手で殺そうと立ち上がった瞬間――メフィストの影から黒い人形が現れて無数ともいえる殴打の雨を浴びる事になった。意識を失う直前、メフィストが見た光景は――自分の事すら眼中に入れずに帰っていく二人のドラゴンの姿だった。

 

 




・影の龍クロム
「影生成」・・・自由自在に影を生み出す。
「捕食」・・・影に触れた存在の力を奪う。
「再生」・・・いかなる傷も再生し、不死身の肉体を得る。
「苦痛」・・・相手に与える痛みが倍増し、解除しない限り永遠に痛みが続く。

以上が影の龍クロムが保有する能力です。
そして今回の話で出たドラゴン達と聖書の神の会話をダイジェストにするとこうなります。

影の龍「俺様を弱くしろよ」
陽光の龍「私を弱くしなさい」
聖書の神「マジかよ」

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

86話

「――さて、ノワール・キマリスくん。この場に呼ばれた理由は理解しているかな?」

 

「えーと魔王様。正直、思い当たることが多すぎてどの件で呼ばれたのかさっぱり分かりませんので教えていただければありがたいでーす」

 

 

 魔法使い達が駒王学園を襲撃した翌日、俺は冥界のルシファー領内にある高級ホテルに訪れていた。最上階にある豪華な一室には俺と魔王サーゼクス・ルシファー、女王のグレイフィア・ルキフグスとミニドラゴン化しているタンニーン様の四人……呼ばれた理由なんてどう考えても昨日の一件だろうなぁ。流石に魔法使い達の協会を襲撃して壊滅させたのは拙かったかね? でもあれぐらいしないと今後、同じような事を考える馬鹿共に理解させれないから必要だったと思うし俺は悪くない。だって最初に手を出してきたのは「魔法使い」だ。喧嘩を売ってきたのがはぐれ魔法使いだろうと真っ当な魔法使いだろうと関係無い……悪魔で邪龍な俺に喧嘩を売ってきたならぶっ殺す。巻き込まれた奴らは……ドンマイ!

 

 しっかしにこやかに笑っている魔王が怖い。その後ろに佇んでいる年増女王も怖い。そして何よりもミニドラゴン化してるのに威圧感がヤバいタンニーン様マジ怖い! そういえばこの人ってメフィストちゃんの女王だったっけ……主を襲われてイライラしてるだろうな! 殺し合いなら大賛成だからいつでもどうぞ!

 

 

「本当に身に覚えが無いのかい?」

 

「はい。だって好き勝手に生きてるから何が原因で魔王様やタンニーン様と対面しているのか全然分かりません! えーとあれですか? 魔王様に黙って鬼の頭領と殺し合いをしたことですか? それとも吸血鬼との会談の件? それじゃなかったら……冥府で大暴れした件? もしかして普段から行ってる夜空との殺し合い? それでも無いなら……すいません、マジでどれですか?」

 

「ノワール・キマリス。ふざけるのも良いが真面目な話だ……! クロムのような真似はやめろ」

 

「……はぁ、魔法使いをぶっ殺した事ですよね? 軽い冗談ですよ、冗談。しっかりと身に覚えがありますから安心してください。で? それが何かありました?」

 

 

 うわっ、タンニーン様がマジ切れ寸前だ。デスヨネー! 知ってました!

 

 

「ノワール・キマリスくん。キミは光龍妃と共に魔法使い達の協会を襲撃したね? しかもメフィストが運営する灰色の魔術師だけではなくそれ以外の場所もだ。どれも被害は尋常ではないものだよ……灰色の魔術師は立て直す事すら出来ないほど酷い状況で解体を余儀なくされ、理事をしていたメフィストも精神崩壊を起こして表舞台には出てこれない。黄金の夜明け団、薔薇十字団も同じだ……所属していた無関係な魔法使い達がキミ達二人によって虐殺されて組織として今後も続けていけるか分からない。何故、このような事をしたのか教えてもらえないだろうか?」

 

「何故って喧嘩を売られたからですけど? メフィストのジジイが発表したランキングを見て俺達と力試しがしたいって理由だけで喧嘩を売ってきた。本来なら力を恵んでもらう相手である悪魔を軽視しただけじゃなく、テロリストと手を組んでフェニックスの双子姫や一般人を誘拐……ほら、ここまでされたらぶっ殺すしかないでしょ? 関係あるとか無関係とかどうでも良いんですよ。魔法使いは魔法使いですし――悪魔に手を出しても殺されないなんて軽い気持ちで喧嘩を売ってきた奴らが悪い」

 

「……本気でそのような事を思っているのかい」

 

「えぇ。だって俺は悪魔で邪龍ですよ? 好き勝手に生きて、ムカつく奴はぶっ殺して、邪魔するなら徹底的に破壊して、自分の欲望優先で行動する最低最悪な存在ですからね。半分は人間ですけどもう半分は悪魔、好き勝手にやりたい事をして何か問題でも? 魔法使いが喧嘩を売ってきたなら魔法使いをぶっ殺しても何も問題無いはずだ……むしろ感謝してほしいですね。誰もやらないから俺が代わりにやってあげたんですから。メフィストのジジイに関しては……ご愁傷様としか言えませんね」

 

 

 むしろ殺さなかっただけ感謝してほしい。まぁ、最初から殺さないつもりだったけどさ! だって生きててもらわないと困るからさ……ノワール・キマリスの周りに手を出したらこんな目にあいますと教えるためにもな。でも魔法使い狩りも最初は楽しかったけど最後の方は飽きてたんだよなぁ……俺達に挑もうという勇敢な魔法使いは一人もいなかったしさ。てか魔女の夜も襲撃したけど在籍しているらしい聖十字架が出てこなかったのにはイライラしたわ! 聖遺物の炎ってのを味わってみたかったのにさ! 夜空が言うにはテロリスト側に付いているらしいから今後、もしかしたら出会う機会があるかもしれないしその時まで楽しみにしておこう! ただ心残りがあるとすれば途中で母さんから連絡が入って止められた事か……あれさえ無ければもっと殺せたんだけどなぁ!

 

 

「それで? 俺はいったいどうなるのか教えてもらえませんか? やりたい事をやっただけで反省はしてないですけど罰を与えに来たんですよね? このウザったい最上級悪魔の称号の取り消し? それとも(キング)としての地位を剥奪? それでも別に構いませんよ。必要ないですし」

 

「必要ない、か。では聞かせてもらえないだろうか……何故必要ないのに眷属を増やしたんだい。その立場に拘らないのであれば悪魔の駒を返却しても問題無いはずだ」

 

「何故かぁ……まー良いか。理由なんて簡単ですよ――俺を殺せる可能性がある奴らだからです」

 

「……どういう意味かな?」

 

「犬月達……眷属の奴らにも言ったんですけど将来的に俺は世界に喧嘩を売ります。俺は悪魔だから永遠に近い寿命を持ってるけどアイツは……夜空は人間だ。長くても数十年もすれば寿命で死んじまう。もしかしたら俺がぶっ殺してるかもしれないからもっと早いかもしれない。そうなると俺はただ死ぬだけを待つ存在に成り果てるから「悪」になるしかない。俺が選んだ奴らとの楽しい殺し合いの末に死にたいんですよ! ゼハハハハハハハ! これが眷属を増やした理由ですよ。ほら、簡単でしょ?」

 

 

 魔獣騒動後のパーティーで犬月に言ったことは本気だ。夜空が居なくなったら退屈な日々が続く……アイツの笑顔が見られない、アイツの声が聞こえない、新しい光龍妃も夜空並みに強いとも限らない。あぁ、想像するだけでテンションがガタ落ちしちまう……! だから「今」が楽しいんだよ。最強の光龍妃として君臨している夜空との殺し合いが楽しい! 心の底から愛している夜空との日々が楽しい! 俺が生きる理由は夜空の笑顔が見たいからだ……それが無くなったら生きている理由すら無いのは当然だろう。

 

 

「あと勘違いしてるかもしれないから宣言しておきますけど……俺は夜空と楽しく過ごせればそれで良いんですよ。仲良く殺し合って、あーだこーだ言って世間話をして、夜空が引き起こす事件を楽しんで、夜空の笑顔を見れればそれで十分なんです。タンニーン様なら分かるでしょ? ドラゴンは単純なんですよ。好きな事には全力投球してその果てに死ぬとしても構わない! 俺は夜空が心の底から笑ってほしいから生きているだけだ、地位も名誉も欲しいわけじゃない……夜空が人間らしく、普通の女の子らしく笑ってくれればそれで満足出来るんだ! 俺達の生き方を、楽しみを、触れ合いを、語らいを邪魔するなら容赦はしない!!」

 

「……ノワール・キマリス。同じドラゴンとしてお前の言葉は良く分かる……しかし! お前はあまりにも邪龍に染まり過ぎている! クロムが唆したわけでもなく……別の者の言葉に従うわけでもない! お前自らが邪龍に近づいていることに俺は恐怖を感じる!」

 

『ゼハハハハハハハハ! 当然だろうが! 宿主様はなぁ! 俺様の真の理解者よ! 悪魔が好き勝手に生きて何が悪い? 邪龍が生き方を貫いて何が悪い? お前達が許可も無く踏み込んでくるから俺様達の逆鱗に触れるのだ! サーゼクス・ルシファーよ。貴様も俺様達と同じだろうが!! 魔王でありながら自分の身内だからという理由で他の奴ら以上に手助けをしているはずだ! だったら俺様達も好きにやっても良いはずだろぉ? ゼハハハハハハハ! 自分は良くて他人はダメと言っても良いぜぇ! 悪魔らしいからなぁ!』

 

「あとついでにこれも宣言しておきます。「今」は世界に喧嘩を売るつもりはない。夜空が生きてるからな! ただこれだけは言わせてください……正しい事をしたいなら天界勢力にでもさせておけばいい。俺達は悪魔……光り輝く舞台には立てない存在ですからね。俺達は悪魔らしく「悪」であるべきだ。別に和平に反対とかは無いですよ? ただここ最近のヒーローっぽい扱いに呆れてるだけですからね」

 

 

 これは俺の持論だけどね。昔から色々と言われ続けたからこんな風に考えるようになったけどさ、間違ってるとは思えないんだよ。だって悪魔ってそんな感じだろ? 人を騙して、人を唆して、人を操って、人を不幸にして、自分の欲望のままに動く生物なんだからさ。

 

 

「――いやいや、すっげぇ~わ! そんな考えをする若手悪魔がいるなんてぼくちん、思わなかったなぁ~!」

 

 

 部屋の扉が開き、見知らぬ男が入ってきた。銀髪で髭を生やした中年ぐらいの男だ……ガキかと思えるぐらい軽い口調で俺達に近づいてくるがなんかどっかで見たことあるな? てかヴァーリにそっくりじゃね? あっ! もしかして噂のリゼちゃん!? マジでー! なんでこんな場所に来てんだよ!? うわぁ、ヤバイ。すっげぇムカつくんだけど……! 放つ言葉にイライラというよりも夜空の言葉を借りるなら生理的に無理って感じだ。でも俺の意識は目の前に現れた男ではなく扉の外に向けられている……なんだこれ……? 何も無いはずなのに何かが居る感じがする! なんか初めての感覚でちょっとワクワクしてきた!

 

 その男の登場に表情を変えたのは俺だけではなく、目の前の席に座っている魔王様達も若干イライラしたようなものに変わっている。それを見たリゼちゃんらしいおっさんはさらにテンションを上げて笑い出す。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ! もうっ♪ サーゼクスくんったら恥ずかしがり屋さん! ひっさしぃ~? 結構会ってなかったからぼくちんのことを覚えてるかなぁ~? はい! ぜひぜひ名前を呼んでちょー!」

 

 

 うわぁ、ウザい。

 

 

「――リゼヴィム。何故、此処にいるのか教えてもらおうか」

 

「はい正解! ご褒美としてお菓子をあげちゃおう! なーんでってきまってるしょ~? 魔法使いの協会を襲撃した若手悪魔が居るって聞いてさ! ちょー会いたくなったわけよん♪ はっじめましてだよねー? おじちゃんはねーリゼヴィム・リヴァン・ルシファーっていうんだよ~よろしくねノワールきゅん!」

 

「きゅんって呼ぶな吐き気がする。えっと、リゼちゃんって呼んでいい?」

 

「いいよいいよー! でさ~やるねぇキミ! 若いのに悪魔をよーく理解してる! 百点あげちゃう! 昨日はごめんねー? ユーグリットくんがちょーとやり方間違っちゃったみたいでさぁ~ゆるしてちょ♪」

 

「っ!」

 

 

 その名前が出た途端、年増女王の顔色が変わった。そういえば顔つきやら髪色やらが似てるような気がしないでもない……まさかのお兄様か弟様だったとか? やべぇ、普通に影人形二体のダブルラッシュタイムで原型が分からないぐらい潰しちゃったよ! うわー! ノワール君怒られちゃうわー! 殺しに来たらどうしよー! 全然問題無いわ! ドンドン来いよ! 俺様はすっげぇ嬉しいからさ!

 

 

「ユーグリット……あぁ、あの時の銀髪男か。別にもうぶっ殺したから気にしてないけど――死ねよ」

 

 

 影人形を生み出してリゼちゃんを殴ると何かが折れる音が響く――事は無かった。俺の影人形がリゼちゃんの体に触れた瞬間、まるで熱湯をかけられた雪のように溶けて消滅した……知ってはいたがこれが神器無効化能力か! マジで効かねぇのかよ……! でもなんとなく分かった。次は殴れる気がする! きっと! タブンネ!

 

 

「いきなり殴ってくるとはぼくちんショックだね! うひゃひゃひゃ! でも残念ながら神器に絡むものなら効かないよ~ん! でもすっげーわ。容赦なく殺しに来るとかマジ邪悪! ねぇねぇノワールきゅん、こっちに来ない? 好きな事を好きなだけ出来るよー?」

 

「生理的に無理だから遠慮させてもらうわ」

 

「うわー男にまで生理的に無理って言われちゃったよ。そんなに加齢臭するかなぁ~しょうがないにゃー今回は諦めるよん。でもでも今後も頑張ってちょ! 同じ悪魔として応援してるぜ! 悪魔は悪であるべきだ……まさにその通りだ。正義とか正しい事なんざ俺達には無関係! 好きな事を好きなだけやっても良いじゃんねー! サーゼクスくん達は頭が固いから色々と苦労してるんだよ~少しは柔軟になっても良いんじゃないのー?」

 

「……これでも柔軟な方だよ。さて、姿を消した貴方が彼にどんな用ですか?」

 

「もう警戒しなくても良いのにー! うちのマスコットガールが会いたがったみたいでさ~おっかしいんだよねーそんな感情はつけてないはずなのにさーでもでも良いか! どんなお姿かとーじょーさせようか! リリスたんかもーん!」

 

 

 リゼちゃんの声が響き渡ると扉から少女が入ってきた。黒髪ロングで黒のドレスを纏った少女……あれ? オーフィス、じゃないな。姿と雰囲気は似ているが別人だ。でもなんでオーフィスのそっくりちゃんがリゼちゃんと一緒に居るんだ?

 

 

「どうどう♪ うちのマスコットガールのリリスたん! 名前が必要だったからママンの名前と付けてみたんだーうひゃひゃ! マザコンって言われちゃったらどーしよー! さてさてサーゼクスくん、今回はノワールきゅんと話がしたかったから来ただけだよ。ほら、俺が居なくても冥界は回ってるだろ? 乳龍帝おっぱいドラゴンだったっけぇ~? あれちょーウケるからドンドンやってよ! ちゃんと円盤も買ってるしさ!」

 

「……悪魔の母、リリスの名をその少女に名付けて何をするつもりだ。内容によっては――」

 

「今ここで殺すってぇ? おいおい待ってよ~これでもぼくちん、吸血鬼側からVIP扱いされてんだぜ? 別に殺し合っても良いけどさぁ~この子、オーフィスの力を持ってるからコテンパンにやられるのはそっちだぜ?」

 

 

 なるほどな……オーフィスに似ているわけだ。底が無い……! 仮に挑んでも勝てるかどうかすら分からねぇからもしかしたらとは思ったがマジかー! やべぇ、殺し合いたい!

 

 

「ついでにねーノワールきゅんを助けに来たんだー♪ 影の龍にはむかーし世話になったしー? 将来有望な悪魔を消すわけにはいかないもんねー! でもでもサーゼクスくんはノワールきゅんを処刑とか出来ないよねー! だってその子、妖怪勢力から大人気だもん♪ 言われちゃってるんでしょー? その子がいるなら和平を結んでも良いとかさ! うひょひょひょひょ! 妖怪の心を掴んだのはおっぱいドラゴンでも魔王でも無ければ好き勝手に生きてる悪魔ちゃんなのでしたー! ここで処刑なんてしたらどーおもわれるんだろーなー!」

 

「……」

 

「えっ? なんか初耳なんだけど?」

 

『いや当然だろうなぁ! 妖怪は俺様達と同じで好き勝手に生きる存在だ! 鬼の頭領も言ってただろぉ? 何もしないで和平と言われて素直に応じれないってな! ゼハハハハハハハハ! 宿主様は妖怪にモテるから当然と言えば当然の結果よぉ! 何時の時代も妖怪を手懐けるのは強者だしな! そんで久しいじゃねぇの! 俺様とユニアと殺し合った時に逃げ出した小物魔王が宿主様を助けるってか?』

 

「小物って言われちゃったよ! 実際そのとーりだから反論できねぇや♪ べっつにただ助けるのがおもしれーと思っただけよ。ここで好感度上げておけば一緒にあばれられっかなーとかは思ってないよー? んじゃ! お披露目も終わったし帰るよん♪ ぼくちんもいそがしーからね!」

 

 

 それを言い残してリゼちゃんとリリスたんと呼ばれた少女は転移でどこかへと消えていった。吸血鬼側からVIP扱いとか言ってたが……なるほど。聖杯か! てことは噂の邪龍復活もリゼちゃんの仕業かねぇ? やっぱりついていけばよかったか……いや生理的に無理だったからこれで良いや。俺は夜空と楽しく生きられれば問題無いし。

 

 

「……えっと、なんか色々と台無し感がありますけど結局俺はどうなるんですかねぇ?」

 

「……いや、保留という事にしておくよ。リゼヴィムが言った通り、キミの存在は妖怪勢力にとっても珍しいみたいだからね。和平の交渉も進んでいる中でキミを処刑すれば折角の機会を不意にしてしまう恐れがある……タンニーン、申し訳ないが――」

 

「分かっている。同じドラゴンだ、気に入らない奴が居れば殺すことはなにもおかしくは無い……! それが邪龍ならばなおさらな! だが……! ノワール・キマリス、クロム! 俺はこの件を忘れんぞ……!!」

 

『ゼハハハハハハハハ! 良いぜ! 逆鱗状態のテメェと殺し合うのも悪くねぇ! 怒りを溜めて俺様達に向かって来いよ! 正面からぶっ殺してやるからよぉ!』

 

「まぁ、そんなわけで殺し合いを楽しみにしていますよ。あとそこにいる女王様? アンタの兄か弟か身内か分かんねぇけどユーグリットって奴は俺がぶっ殺したから仇を討ちたいなら殺しに来いよ。楽しみにしてるからさ!」

 

 

 そんなわけで帰って良い雰囲気になったので転移で自宅へと戻る。リビングには犬月達が心配そうな表情で待っていたけど……別にそこまで心配しなくても良いぞ? ただ俺がやりたい事をやっただけだしな。

 

 

「おかえり、処刑されずに済んで良かったね」

 

「おう、ただいま。なーんか色々あって保留になったんだよ……処刑するって言ってくれれば魔王と殺し合う口実に出来たのにさ」

 

「いやいや……シャレにならない事を言うのはやめてくださいよ。王様と光龍妃が魔法使いの本拠地を襲撃したって聞いて焦ったんすからね!? ホント、あたまおかしい……いくらガチギレしてたって言ってもやり過ぎ、やりすぎっすよぉ……! 死んじゃったら俺は誰を殺せばいいんすか! 俺が殺すまで生きててほしいんでほんとお願いします!」

 

「……瞬君、あの、後半に言ったことは間違ってますからね……? いえ、私達の中では普通ですけど……の、ノワール君! お義母さんからお説教されてるでしょうからあまり言いませんけど勝手に死ぬようなことをしないでください……お願いします」

 

「そうです! 悪魔さんが死んじゃったら……メロメロに出来ないじゃないですか!」

 

「……志保さんがキマリス様に似てしまった……これがキマリス眷属なのは分かりますけどやっぱりおかしいですわ……!」

 

 

 うん、俺もそう思う。でもまぁ、悪魔だし良いんじゃないかな?

 

 

「別に俺達だからな問題無いだろ。あーそうだ、レイチェル? ちょっとこの後、時間あるか?」

 

「わ、私ですか……? えぇ、勿論ありますけれどな、何か?」

 

「ちょっと頼みたい事があってな。出来ればレイヴェルも交えて話したいんだが……」

 

「お姉様も? 分かりましたわ! 少しお待ちくださいませ!」

 

 

 レイチェルは携帯でレイヴェルに連絡し、俺が用事があると伝えると問題無いと返答があった事を伝えてきた。良かった……まぁ、別に後でも良いんだが出来れば早い方が良いしな。てか平家……なんだよその顔は? 気に入らないのか……って頷くの早いわ! 仕方ないだろ!? メフィストのジジイに宣言しちゃったんだしさ! あと――今までの頑張りを不意にした謝罪と今後、同じ目に合わないためにも必要なんだよ。

 

 俺はレイチェルと共に一誠君のお家へと転移する。目の前にはレイヴェルと一誠君達が居たがちょっと話があるから席を外してほしいとお願いすると快く引き受けてくれた。心なしか何か言いたそうな感じだったけど気のせいだね! 多分、魔法使いの協会を襲撃した件だろうからスルー安定だろう。

 

 

「そ、それでキマリスさま。私とレイチェルにご用件があるとのことですけど……?」

 

 

 やや緊張した表情で俺に話しかけてくる。うん、デカい。部屋着だから余計におっぱいが目立ってるね! 流石姉妹……ここまで遺伝子が一緒とは思わなかったよ! 俺で年下とか平家とか夜空とか四季音姉とか泣けばいいと思う。

 

 

「いきなり悪いな。別に後でも良かったんだが早い方が俺的には助かるからさ」

 

「はぁ……レイチェルからは何も聞いてはいませんけど話したい事があるとは聞いていますわ。どのような要件でしょうか?」

 

「……あーなんだ、今回の一件って俺が原因でもあるしさ、なんだかんだで普通に接してくれるのはありがたいからさ……えーと、あれだ、うん。俺と契約してくれないか」

 

「――はい?」

 

「――へっ?」

 

 

 二人共キョトンと何を言っているのか分からないような表情になっているが仕方ないと思う。いきなり話があると言われて会ってみれば契約をしてくれだもんな! 誰だって同じ表情になるわ! でも仕方ないんだよ……無関係なのに俺宛に来た魔法使いの契約を必死に厳選していたレイチェル、同じように一誠君宛にきた魔法使いの契約を手伝っていたレイヴェル。色々と話を聞いていたからこそ今回の一件は……二人の頑張りを無かった事にしちまった。だからその罪滅ぼしというか、あれだ、知り合いがまた変な事に巻き込まれるのを阻止したい。使い魔にでも何でもなってやるさ! ただ夜空が相手じゃないのがあれだけどね!

 

 相棒は誰かを護る感情が知りたいというだけで封印された。だったら俺も同じように二人を危険から遠ざけるために使い魔になっても許されるはずだ……誰にも文句は言わせない。俺がしたいからするだけだ。なんせ影龍王ノワール・キマリスの名は結構デカいみたいだしな! 今回の一件で俺の周りに手を出したらどうなるかを知らしめたしまぁ、俺が使い魔になったら多分大丈夫だろう。相棒も美少女姉妹に使役されるのも悪くねぇ! でも男の娘じゃないのが残念だとか言ってるし!

 

 

「あ、あのキマリス様……契約って、言いましたか?」

 

「おう。聞こえなかったんならもう一度言うぞ? 俺と契約してください」

 

「……ま、待ってくださいキマリスさま! それが、どのような意味を持つか……分かっているのでしょうか!?」

 

「当然だろ? 流石の俺でも夜空以外にこんな冗談は言わねぇよ……対価が気になるなら好き勝手にさせてくれれば良い。物とかは興味無いしな」

 

「い、いえ! そのような事を気にしているのではありませんわ! キマリスさま! そんな事をすればどうなるか分かっているはずです! なのになんで……?」

 

「そ、そうですわ! 私達と契約なんかしたら……今の立場が危うくなりますわ! 最上級悪魔が自分よりも下の悪魔の使い魔になるなんて知られればどうなるか……!」

 

「別に周りの評価なんざ興味無いんだ。それに今更だろ? どれだけ好き勝手に生きてきたと思ってる? これぐらいは普通だよ……きっと他の奴らもあぁ、またおかしくなったかって思うさ」

 

 

 そもそも邪龍だからな! 好き勝手に生きて何が悪い! でも流石に真面目筆頭の二人ははい分かりましたってならないか……デスヨネ!!

 

 

「……キマリス様」

 

「ん?」

 

「後悔は、しないんでしょうか……?」

 

「レイチェル!?」

 

「――当然だ。今まで一緒に過ごしてきたんなら分かるだろ? これが俺だ」

 

「……そうですわよね。お姉様、私は……お受けしたいと思います。お姉様も分かっているでしょう……? キマリス様は私達のために契約を申し出てくれていると。なら、それを受けなければフェニックスの双子姫の名折れですわ!」

 

「レイチェル……そうですわね。キマリスさまは変わったお方ですもの! ですけど……私はお断りさせていただきますわ」

 

「お姉様!?」

 

「だって私はイッセーさまのマネージャーですもの。謂わば使い魔のようなもの……使い魔が使い魔の契約をするのも変ですし、私よりもレイチェルと契約した方が良いですわ。キマリスさま、お心遣い、感謝します。妹をこれからもよろしくお願いしますわ」

 

「俺としては二人と契約した方がありがたいんだが……まぁ、良いか。じゃあ、レイチェル。俺と契約してくれるか?」

 

「――はい、勿論ですわ」

 

 

 その場で契約のための魔法陣を展開する。黒い光を周囲に巻き散らしながら俺は魔法陣の中で高らかに嗤う。

 

 

「ただの混血悪魔、ノワール・キマリス。好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいく邪龍だが今後ともよろしくな、レイチェル」

 

 

 悪いな夜空……俺の契約童貞はお前にしたかったが今回だけ許してくれ。どんな時も、どんな場合も俺はお前一筋だからさ! もし文句があったら……殺しに来い! 喜んで受けて立つから!




これで「影龍王と魔法使い」編の終了です。
今回の被害は以下の通り。
・灰色の魔術師・・・所属魔法使いの大半が死亡、メフィスト・フェレスが精神崩壊を起こしたため解体。
・黄金の夜明け団・・・所属魔法使いの大半が死亡。
・薔薇の十字団・・・所属魔法使いの大半が死亡。
・魔女の夜・・・所属魔法使いの一部が死亡。
・その他魔法使いの協会・・・以下同文。

そしてフェニックス家の大勝利。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王の番外編
87話~光龍妃の暇な一日~


時系列は「影龍王と魔法使い」編が終了した直後です。


 ムカつく。

 

 ムカつく。ムカつく。すっごぉぉくっ! ムカつく!! なんかムカムカするし手当たり次第にぶっ殺して回りたくなるぐらいムカついてムカついてムカつくぅ!!! それもこれも全部全部ぜーんぶ!! ノワールのせいだ!! なんでこの私じゃなくてあんな胸だけデカい焼き鳥なんかと契約してんだよ……!! やるとは思ってたけどいざ目の当たりにすると今すぐぶっ殺しに行きたくなる! 本当にムカつく! すっげぇイラつく! マジでムカつく! かなりイラつくぅ!

 

 

『――おやおや、随分とご立腹のようですね。これは明日の天気は血の雨でしょうか』

 

 

 羽織っているマントから声がする。女性らしい印象を持たせる声の主は私の神滅具に宿っているドラゴンのユニア。私の考えとか気持ちとかはダイレクトに伝わるから今の私の気分も分かっているはず……うん、すっごくご立腹だよ! 明日の天気は血の雨どころか光の雨レベルだっつーの! そもそもこんな気分にさせているのはノワールのせいだ! この私が居るのに他の女なんかと契約しやがってさ! 確かにアイツの性格からしてやるだろーなーとは思ってたし魔法使い狩りも自分の周りに手を出せばどうなるかを知らしめるために行ったことだけど本当にムカつく!! 本気で今すぐぶっ殺しに行ってやろうかなぁ~! ノワールのことだし私が会いに行けば絶対! 確実に! どんな用事があろうと私の用事を優先するだろうから少しだけ今の気分が晴れるかもしれねーし! 独占欲独占欲! 普通の女の子には必要なスキルだよね!

 

 

「血の雨で済めばいいけどね。あーもう!! あんな……少し胸がデカいだけの焼き鳥なんかと契約して馬鹿じゃねーの! この超絶美少女夜空ちゃんが居るのにさ!!」

 

『ではさっさと契約してしまえばよかったでしょう?』

 

「それとこれとは話が違うの!」

 

 

 仮にだ。本当に仮の話になるけど万が一、億が一の可能性としてノワールから契約してくれと言われて何かの間違いか気まぐれか惚れた弱みか分かんないけど兎に角! 私が応じたとする。私の使い魔にノワールがなるんだから他の女達からノワールを奪って独占出来るのは間違いないし私もすっげぇ嬉しい、つか狂喜乱舞するかもしれない。でもだよ? この私とあのノワールがそのままで満足できるわけがない。今までのように私がノワールを護る! とか俺がお前(夜空)を護る! とか言い始めて殺し合いに発展するのは確実。それはそれで楽しいから文句は無いけどさ、私もノワールも譲らないから結局いつも通りになっちゃう! 私はノワールを独占しておちょくって楽しませてこき使って愛して愛して愛して愛したいだけ! 私が上! ノワールが下! この上下関係じゃないと満足できない! てか無理! すっげー無理!! でもなー私って「女」だしノワールは「男」だからエッチすればどう考えてもノワールに攻められてイキっぱなしになる未来しか見えないのがすっげぇムカつく。ん~でもそれはそれで気持ちよさそうだしいっか。ノワールに求められるのは嫌じゃねーし逆にすっげー嬉しいのは丸分かり……私ってチョロイな~とは思うけどさ、普通の女の子って大体こんなもんじゃねぇかな? なんだかんだ言ってアイツって顔は良いし性格も良いしご飯奢ってくれるし面白いしツンデレだし優しいし変態だし努力家だしちゃんと「私」を見てくれるし……うん、ノワール以外の男に抱かれるとか死んでも無理なぐらい大好き。

 

 なんか脱線したかもしれないけど兎に角! 何が言いたいかって言うと主従関係とか上下関係をノワールに叩き込んでないのに契約とかしたくないの!

 

 

『そこまで思っているなら告白すればいいでしょう? 私としては相手がクロムの宿主なのでやや……複雑ですけども』

 

「だって私に負けないノワールが悪い。ホントさぁ! なんで勝たせてくんねーの! あぁ、もうっ!! 腹立つー!! さっさと私に勝たせてくれれば付き合ってやるし抱かせてやるのにさ! ついでにガキも孕んでやるのに……! ノワールのばーか!!」

 

 

 静まりかけていたイライラを発散させるように光を生み出して適当な方角へ放つ。なんか山一つが消し飛んだっぽいけど私のせいじゃない。全部ノワールが悪い!

 

 

『……やれやれ、二人が恋仲になるのはいつの日になるのでしょうね。私としては子供を育てるという経験をしてみたいので夜空には早く子供を産んでもらいたいのですが……確かに主従関係を教えずに恋仲になっても苦労するだけでしょう。大丈夫ですよ、夜空。その手の経験者である私が居ますから安心してください。クフフフフフフ! えぇ! この私に全てお任せを!』

 

 

 お任せをって言ってもユニアってちょービッチじゃん。いくら私の保護者だからって教えてくるのがノワールに睡眠薬を飲ませてそのまま一気に既成事実とかノワールに快楽を叩き込んで中毒にさせるとかノワールに私を襲わせてそれをネタに脅迫して強引に上下関係を作るとか……ドン引きするからやめてくんない? でもでも……睡眠薬かぁ。なんか知らないけど最近はアイツの周りに女が増えてきたから真面目な話、そろそろこの手を使っても良いかもしれない……にひひ。

 

 あとユニア? 経験者って言ってもエッチの経験者ってだけで恋愛は初心者じゃん。威張れるほど恋愛してねーっしょ?

 

 

『……してます。えぇ、この私が恋愛をしたことが無いなどあり得ませんよ』

 

 

 声が震えてるのはなんで? まー良いけど。ん? はぁ? なんでノワールと鬼がデートするって話になってんの……? 確かにさ! 言ってたよ! 言ってた!! でもマジですることねーじゃん! あんのロリコン……! 巨乳に走らないだけまだ許すけどこの夜空ちゃんが居るのに他の女とデートとか調子に乗ってんね! うん、これは監視しないとダメな奴だ。にひひ。

 

 

『夜空。邪龍の私が言うのもあれですが……こんなことに才能を費やしても良いのでしょうか? もっと別な事に注いでも良いと思いますよ』

 

「ん? 別に良いんじゃねーの? だってこれぐらいは女の子なら誰だって出来るっしょ」

 

 

 現在進行形で私がしている事にユニアは呆れた声を出した。ん~そんなにダメ? でもすっげぇー簡単なんだよ? この夜空ちゃん特製ノワール専用超遠距離監視術。だってやってる事って言ったら転移術の応用だしさ。なんだかんだで重宝してんだよね! だって次元の狭間を経由して覗いているからノワール側からは分からないけど私は何をしているのか全部分かるし! アイツは何やってんだろーなーとか私のパンツでオナニーしてっかなーとかまた変なことしてねーかなーとかなんかオナニーしたいなーって時に物凄く役立つ優れもの! これを開発した私を褒め称えても罰は当たらない気がするんだけどなー。

 

 そんなわけでノワールが何をしているのかなんて世界中のどこに居ても丸分かりだから……アイツが他の女とデートするのは女として許せないのでちょっと監視しないとダメっしょ。ふんふん、明日か。明日ね。にひひ! じゃーしょーがねーからお出かけしよう! だって暇だもんね! 魔法使い狩りもなんか飽きてきたし楽しいことが見つかるまではしょーがないからデートの監視でもして時間を潰そう。

 

 つーわけでそこらへんに住んでたクマやら食えそうな動物とか魔物をぶっ殺してご飯確保した後は眠りにつく。勿論、冷えないようにノワールの部屋のベッドから拾ってきた毛布に包まる。最初はアイツの匂いがしてたけど今は私の匂いしかしない……けど偶にあっ、ノワールの匂いだって感じになるから手放せない一品となってる。好きな男の匂いはどれだけ薄まっても分かるのは女の子のじょーしき!

 

 

「――ユニア」

 

『どうしました夜空? なにやら不機嫌ですけども何かありましたか?』

 

「もっちろん! 分かってたけどさ……他の女とデートしようとしてるノワールを見ると本気で殺したくなるぅ! なんかムカムカするぅ!!」

 

 

 時刻は昼前、場所はノワールが住む駒王町ってところ。適当なビルの屋上に転移して夜空ちゃん特製超遠距離監視術で一人で立っているノワールを見てる。なんつーかお決まりの待ち合わせから始めてるみたいだけどさ? 古くね? つーか一緒に住んでるんなら待ち合わせする意味ね―じゃん。てかさぁ! 知らねー女達が突っ立ってるノワールに話しかけるのが我慢ならない。死ねよ。

 

 

「――の、ノワール! ま、待たせたね」

 

 

 ガチで気合入れてるっぽい鬼が登場した。服装とか髪型とかガチなのが逆に嗤えるね。うわぁ~警察呼ばれねーかな? ふっつぅ~にアウトっしょあれ? まぁでも~! 私だったら問題ねーけどね! てかデートぐらい何回かしてんじゃんかあの鬼……いったい何時になったら慣れんのかおしえてくんねー? つかマジで幸せそうな顔をしてっからムカつく。そしてなんか乗り気なノワールもムカつく!! あとユニア? 私は子供体型じゃねーよ? 将来はぼんきゅっぼーんになるから問題ねーの。だからセーフ、セーフったらセーフ!

 

 

「ん? 別に十数分待っただけだから気にしなくていーぞ」

 

「……分かってないね。そこは全然待ってないとかいうのがお約束さ」

 

「んなお約束なんざ知るか。一緒に住んでんのに態々こんな場所で待たされた俺の身にもなってみろ……今時そんな風に返す奴なんざいねーっての」

 

 

 つーか少女漫画の見過ぎだろ。

 

 

「んな!? も、もしかしたらいるかもしれないじゃないか! そ、そもそもせ、折角オシャレをしたんだから何か言う事は無いのかい?」

 

「アーウンニアッテルニアッテル」

 

 

 棒読みで言われてやんの! ざまぁ!!

 

 

「……ま、まぁ良いさ! に、にしし! 今日は私とノワールだけだからね! トコトン付き合ってもらうよ! 覚悟しなよノワール……鬼さんの本気を見せてやるからね」

 

「それは楽しみだ……てか警察来たりしないよな? なんだかんだで結構アウトな気がするぞ」

 

「ぜ、全然大丈夫さ! そ、そりゃ……身長とかは足りないけどね、年齢ならノワールよりもはるかに上なんだかんね! にしし! 年下をからかうお姉さんっぷりを見せてやろうじゃないか」

 

「近所に住むお兄さんに甘えるおませな小学生って感じに見えるだろうからやめとけ」

 

「んな!?」

 

 

 ノワールと鬼は仲良く並んで町を歩きだした。ん~アウトっしょあれ? どっからどー見てもロリコン野郎が幼女を連れまわしてる図にしか見えねぇんだけど? まー監視するけど。何も無いだろうけど監視するけど。万が一、億が一の可能性で仲が進展なんざされたらこっちが困るし――アイツが自分から押し倒した相手だからね。警戒は大事! 女の子なら誰だってするだろうから問題無いから安心してよユニア!

 

 

『夜空、意中の相手を敵から奪い取るのも女の子の嗜みですよ』

 

 

 当然っしょ! つーか今すぐやりてーの! でも鬼の滑稽な姿が思った以上に面白いからもうちょっと見てたい! だからそれはもうちょっとしたらね!

 

 

「で? どこ行くんだよ?」

 

「デートって言えばウィンドウショッピングに決まってるじゃないか」

 

「それ前もしなかったか? てか見るだけなのに何が楽しいんだ?」

 

「見るのが楽しいのさ。良い服とかを見てそれを着ている自分を想像したり、部屋の模様替えでこれを使いたいとか考えたりと色々と楽しめる事も多いもんさ」

 

「そんなもんかねぇ? 俺としてはさっさと買い物を済ませて家で引きこもりたいからその気持ちは一生分かんねぇわ」

 

 

 私も一生理解することはねーわ。買い物とか一瞬で終わらせるもんっしょ?

 

 そこからはノワールと鬼が仲良くデートしているのを監視し続けた。手を繋ごうとする素振りをするけど恥ずかしいからやっぱりやめよう、でもやっぱり繋ぎたいと葛藤している少女趣味つーか初心な鬼に爆笑したり、昼飯を食べに店に入ったは良いけどカップル割の対象外にされて若干落ち込んだ鬼を見てざまぁと爆笑したり、鬼とデート中なのに逆ナンしてきた馬鹿共に殺意を覚えたり、ウィンドウショッピングと言いながらも遊園地に向かいだした鬼に馬鹿じゃねぇのって呟いたり、なんだかんだで楽しそうなノワールにイライラしたりと結構楽しめた。つかマジであのロリコン死ねよ。見た目幼女な鬼相手にデレデレしてんのさ! ばっかじゃねーの!! この私がどんな気分で見続けてると思ってんのさ! さっきからイライラしっぱなしでストレス発散のために何回か光ぶっぱしちゃってんだからね! 勿論、着弾地点は私達の遊び場。

 

 

「……ねぇ、ユニア」

 

『はい、なんですか? 酷くご立腹のようですけどなにかありましたか?』

 

「デートの最後は観覧車って決まりでもあんの?」

 

『さぁ? ですが毎回乗っているのですから恐らくお決まりなんでしょうね』

 

「ふーん」

 

 

 お腹がすいたんでそこらへんのゴミから漁った賞味期限切れの弁当を食いながら遊園地の観覧車に乗っているノワールと鬼を見る。周りに誰も居ないから鬼がノワールの膝の上に座って話してるけどさ……あの場所って覚の席じゃねーの? つーかあの覚、人に協定だなんだって言っておきながら何してんのさ? この私に膝の上は譲れって言ってきた時は殺そうかとか思ったけど正妻じゃなくてセフレ、それでなくてもノワールの傍に居られるなら何でも良いって言ったからまぁ~うんって感じで納得した昔の私は馬鹿なんじゃねーかって思う。ノワールの全部は私のもんでしょ? つまり何時かはあの覚と決着をつけなきゃならねーから楽しみと言えば楽しみだ。てかこの弁当腐ってるし……食えれば別に良いからどーでも良いけど。

 

 

「ノワール」

 

「ん?」

 

「満足かい」

 

「なにがだ?」

 

「惚けなくても良いさ。れいれいと契約するためだけに魔法使い達を根こそぎ殺したんだろう? 自分の周りに手を出せばどうなるかを分からせるためだけの一芝居、フェニックス家に関わる者が襲われていると知ってたからこんな真似をした……馬鹿だね。最上級悪魔の王が使い魔とか聞いたことないよ」

 

「別に良いだろ。俺の価値なんて相棒ぐらいなんだ、今更一つ属性が増えた所で何とも思われねぇよ。なんだ? 嫉妬か? レイチェルが俺を好きに出来る権利を得て嫉妬したか?」

 

「……当然さ。ノワールを独占できる権利なんて喉から手が出るほど欲しいからね」

 

 

 ノワールの膝に座りながら向かい合う様に話し出す。なんつーかアイツって厄介な女に好かれる気がすんなー? 常識人なのは私ぐらいじゃん。

 

 

「私だけじゃないさ、しほりんも、めぐみんも、さおりんは……ノワールの傍に居られれば満足だから微妙だけどね。にしし! モテる男はつらいねぇ」

 

「俺なんかのどこが良いんだか……まぁ、好きですって言われても答える気はねーけどな。少なくとも今はな」

 

「……知ってるさ。ねぇ、ノワール。折角のデートなんだ……これぐらいはさせてくれても良いだろう?」

 

 

 ムカつく。ムカつく。ムカつく。誰も見てないのを良い事にノワールの首にキスしてる鬼がムカつく。覚は兎も角、鬼はここ最近になって攻め始めてるからそろそろ警戒しないとダメかもしんねー。キスかー? 今更やってもねー? ぶっちゃけ私達ってどっちが上か下かを決めるのをやめればふっつーに恋人になってエッチしまくりだからアイツらに余裕で勝ってんだよね。そう考えると優越感ってのが出てくるからイライラも若干、そう若干だけど無くなるってもんだ。ムカつくけど。

 

 

「――いい加減、出てきたらどうだ?」

 

 

 深夜、やっと一人になりやがったノワールが部屋でごそごそとオナニーすんのかなーって期待していると突然私を呼んできた。ん~バレてたかぁ~! にひひ! とーぜんだよね! だってノワールだもん!

 

 

「よんだー?」

 

「呼んだもなにも……お前、ずっと俺達を監視してただろ? 何回、光ぶっ放しやがった?」

 

「ん~覚えてない!」

 

「だろうな……たくっ、俺に話しかけてきた奴ら相手にキレることはねぇだろ? 嫉妬か? おうおう嫉妬でもしたか夜空ちゃん! そうかー! 安心しろ夜空! 俺は何があってもお前一筋だ! だからエッチしようぜ!」

 

「やだー」

 

 

 別にしても良いけどそれで上下関係が決まっちゃいそうだからまだ駄目ー! すっげぇ興味あるけど! あと断るたびにノワールが落ち込むのが面白いって言うか可愛いからそれを見たいってのもある。

 

 

「……で? なんで監視してやがった? 別に面白い事なんて無かっただろ」

 

「鬼が少女漫画の読みすぎってことに爆笑してたから結構面白かったぞぉ?」

 

「あぁ、うん。俺もどんだけだよとは思ったが言わないでおいてやれ。あれで真剣なんだからさ! つーか本当に暇だっただけか?」

 

「とーぜんじゃん! 魔法使い狩りも飽きたしおもしれ―ことも何にもねーから困ってんの!! なんかないの? 面白い事とかー! 私に黙ってるなんて許さないぞー!!」

 

「アホ。お前に隠し事とかするわけねぇだろ……何かあれば即効で教えるっての。あーそうだ、この前リゼちゃんに会ったんだけどお前の気持ちがすっごく分かったわ。あれはマジで生理的に受け付けねぇわ」

 

「男が生理的にとか馬鹿じゃねーの?」

 

「例えだっての。水無瀬とかを見てて辛いんだなぁってのは理解してるがそんなにか?」

 

「女に聞くとか死ねよ」

 

「教えてくれても良いだろうが」

 

 

 別に教えても良いけど個人差があるからあんまり役に立たねーと思うけどね。そもそも私は軽い方だし。ん~この男に使用済みのヤツとか送り付けたらどうなるかちょっとだけ気になってみたから今度やってみよーっと! 喜んだらマジで死ねばいいと思う。あれ? 何話してたんだっけ? えーとうーんとあぁ、あのヴァーリ似のおっさんだっけ? さっさと死ねばいいんじゃねーの?

 

 

「まぁ、話を戻すがリゼちゃんが手を組まないかって言ってきたような気がするけど断ったわ。なんか気持ち悪かったし。そもそも俺はお前と殺し合えればそれで良いしな。異世界とかホントどーでも良い」

 

「ふ~ん。焼き鳥と契約した分際でそんなこと言うんだ」

 

「……いや、あれは、仕方なかったんだよ……あーでもしないとまた巻き込まれかねないしな。それに関してはお前だって予想ぐらいはしてただろ? だからすまん、マジでごめんなさい。何でもするから許してくれ」

 

 

 コイツの場合、本当に何でもしそうだから面白いんだよねぇ~! ん~じゃあ! 付き合ってもらおうかなぁ!!

 

 

「へ~なんでもするんだ」

 

「おう。何でもしちゃうぜ!」

 

「だったら――殺ろ」

 

「――了解。こっちも色々と溜まってたんだ、そろそろ発散させねぇと狂っちまいそうだったからな!」

 

 

 私もノワールもニヤリと笑ってその場から転移する。場所は勿論! 私達の遊び場! 互いに鎧を纏って高笑いしながらいつもの様に殺し合う。恋愛の駆け引きとかそんなんはどーでも良い。私はノワールを殺して、ノワールに痛めつけられて、互いに笑って殺し合えればそれで満足。だってこんな私を受け入れてくれんだもん……精一杯ぶっ殺さないと文句言われんじゃん? ノワールが私に与える痛みが心地良い、ノワールの体を吹き飛ばす感覚でどうにかなりそうなぐらい気持ちいい、ノワールが私を呼ぶ声が好き、ノワールが私を襲ってくれるが好き、ノワールが私を見てくれるのがもっと好き。

 

 

「あははははははは! 楽しいよノワールぅ! もっともっともぉ~っと! 楽しもうよ!」

 

「ゼハハハハハハハ! 俺も楽しいさ! だからもっと楽しもうぜ夜空!! ドンドン向かってこい! 受け止めてそのままぶっ殺してやるからさ!」

 

「言ったなぁ! だったらその硬いのを貫いて殺してやんよ!!」

 

 

 今、この瞬間が大好き。くそったれな世界が一気に華やかになった今この時が本当に大好き。ずっと続けば良いとさえ思えるこのやり取りが私なりの愛情表現だから。

 

 だって私はノワールを世界で一番愛してるんだから。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王とぬらりひょん
88話


「えーというわけで俺、ノワール・キマリスはレイチェル・フェニックスと契約して使い魔になりましたんでよろしくお願いしまーす」

 

 

 魔法使いの襲撃、及び魔法使い共を虐殺してから数日が経った今日、俺は駒王学園の生徒会室に訪れていた。理由なんて単純で凄くシンプルだ――フェニックスの双子姫、その片割れのレイチェル・フェニックスと契約した事を生徒会長に報告するためだしな。本当なら生徒会長達に報告する理由は無いんだが真面目なレイチェルがどうしてもと言ってきたので腋を見せてもらうという対価を貰って仕方なく……仕方なく! こうして意味のない報告をしているわけだ。いやぁ、最高だったわ! 使い魔最高! 対価として色々と要求できるからずっとこのままで良い気がするぐらい居心地が良いというか滅茶苦茶楽しい! でも残念な事が一つだけあるんだよな……だって、だって、だって!! 対価を貰う相手が夜空じゃないんだぞ!? 夜空の腋を見せろとか! 夜空の腋を舐めさせろとか! 夜空の腋の匂いくんかくんかさせろとか出来ないとかマジで最悪だ……自分で選んだ道だから諦めがつくとしてもかなり後悔が残るぞおい……! あっ、俺の契約相手となったレイチェルだがこの場には居ない。確か今日は冥界で放送される特番に出演だったっけか? 俺と契約した事でフェニックス家も忙しくなったようでその処理に追われてるようだ……なんかゴメンね!

 

 まぁ、そんな大事なことはひとまず置いておいて生徒会室のソファーに座りながら副会長が淹れてくれたお茶を飲みつつ先ほどのセリフを言うとあの生徒会長が眼鏡を外して呆れ顔をし始めた。なんてレアな表情! ちょっと写真撮っても良いですか? それをセラフォルー様に売ればそこそこ稼げる気がするし。

 

 

「……冥界でも大騒ぎになっていたことですから知ってはいたものの……こうして直接言われるとなんて言葉を返せば良いか分からなくなりますね」

 

「普通におめでとーとかで良いと思いますよ? 犬月達だってマジすかー! とか知ってたとか言ってましたしね」

 

「それはキマリス君達が……その、特別なだけです。本来であれば最上級悪魔、しかも(キング)自らがあまり言いたくはありませんが階級が下の悪魔と契約、使い魔となるなんてあり得ません。しかもキマリス君は……魔法使い達を相手に暴れた後ですから余計に騒ぎになったでしょう」

 

「ですね。冥界の新聞やらニュースは俺とレイチェルの契約の話で持ち切りだから騒ぎになってると言えばなってますね。俺的にはたかが使い魔になった程度で騒ぎすぎだろとは思ってますけど……てか混血悪魔風情が王になるなんて~とか言ってたくせにいざ格下の使い魔になったらこれですよ。あいつらの手首は大丈夫かって心配になりますが……まぁ、大半の理由は王やらキマリス家次期当主やら最上級悪魔やらの地位は変わんないからでしょうけどね」

 

「キマリス君を冥界に縛り付けるための処置でしょう。それらが無くなれば今以上に自由に動き回ると思いますから……それにフェニックス家もキマリス君の意図を理解しているからこそ冥界全土に公表したと思いますよ」

 

 

 デスヨネ。もし理解してなかったら俺の所に乗り込んできて今すぐ契約を解消しろとか言ってくるだろうし。それをしなかったのはフェニックス家が得るであろうメリットがデカすぎたからこそ俺の思惑通り、隠すことなく冥界全土に公表したはずだ……てか思い返してみてもフェニックス家が得たものってデカいな。まず俺達キマリス眷属をレイチェルの一存で好き勝手に動かせるのは大きいだろう。次に好き勝手に暴れる邪龍(おれたち)の力を手に入れたからさらにフェニックス家が有名になるのも色んな意味でデカい。ついでにキマリス家との関係がさらに強くなる……のはデメリットか。とりあえず俺がレイチェルと契約した事は冥界全土に広がったから今後、フェニックス家に危害を加えようものなら魔法使い共の二の舞になるって理解してくれてるとすっごく助かるね! じゃないと契約した意味が無いしな。

 

 今回の魔法使いによる襲撃事件はメフィストのジジイが発表したランキングが原因と言えば原因だがそれ以外にも理由はある……俺達悪魔が舐められてたことだ。ちょっかいを出しても死にはしない、ただの遊びの範疇程度に思われてたから年増女王(グレイフィア)の弟の口車……で良いんだよな? なんかそんな感じのものに乗っかって襲撃してきやがったので魔法使いの歴史そのものを悪魔らしく、邪龍らしく暴れてぶっ壊した。現に今も復旧の目途が立たないどころか噂では俺に目をつけられるからという理由だけで魔法使いにならない奴らが出始めているとか何とか……その辺りは別にどうでも良いけどね。兎に角! 魔法使い共と同じ目にあいたくないと思う奴が大半だろうからフェニックス家には今後、何かしらの理由をつけてちょっかいを出す奴らは居なくなるはずだ。タブンネ!

 

 そんなわけで俺がレイチェルと契約した事によりフェニックス家そのものが危険からある程度は護られたと言っても良いだろう……なんせ何をしでかすか分からない頭のおかしい邪龍が飼われたなんて他の勢力からすれば悪夢だろうしさ! ゼハハハハハハハ! 別に気に入らないって理由とか敵討ちだって理由で襲ってきても良いんだけどね! だって思う存分殺せるしさ!

 

 

「それこそ当然でしょ? だって自分の身内や関係者が一気に安全になるんだから公表しないわけがない。見栄と権力しか取り柄が無い貴族達の反発もあるだろうが自分の身内を一気に護るならこの手しかない……いやー流石フェニックス家の当主様だなー話が分かるお方で助かったわー」

 

 

 もっともレイチェルの実家に使い魔になりました! 今後もよろしくお願いします! と挨拶しに行ったらレイチェルの親父さんが号泣してたけどなんでだろーなー! 母親の方もレイチェル相手によくやりましたとか言ってたような気がするけどマジでなんなんだろーなー! 俺様、深く考えない! なんか面倒な事になりそうだからね!

 

 

「清々しいほどの棒読みですね。私は……キマリス君の考えが全く分かりません。やることも、考える事も私の想像を超えていく……同じ若手悪魔とは思えないぐらいです」

 

「好き勝手に生きてるだけですよ。そもそも生徒会長達が周りを気にしすぎなんじゃないですか? 悪魔なんだし好きなことしても良いと思いますよ? というわけで今後、俺の周りとフェニックス家に何かあったら魔法使いの奴ら以上の事になるので覚えておいてください……あぁ、そうだ。生徒会長?」

 

「……はい、なんでしょうか?」

 

「……いや、どーでも良い事なんだけどさ。襲われた生徒達は問題無い、で良いんだよな? いや水無瀬から報告は受けてるんだが一応念のためな。いやどーでも良いけどさ」

 

「え、えぇ。アザゼル先生が残してくれた装置と水無瀬先生、ロスヴァイセ先生達のおかげで後遺症やトラウマも無く……とはいきませんでした。魔法使い達に襲われた事で軽い男性恐怖症にかかった女子生徒がいますし大きな音に恐怖を抱いてしまった男子生徒なども居ますが……それ以外は問題無いと思います」

 

「――そっか。なら良いや。じゃあ、帰りますね? 匙君達に魔法使いとの契約を潰して悪かったって伝えておいてください」

 

 

 それを言い残して生徒会室から出る。そのまま保健室で横になっていた平家を拾って家へと向かう。今日は生徒会長と話をするから遅くなるって言って先に帰らせたがまさか待ってるとはな……どこまで暇なんだよ。

 

 

「――ノワール、今日は家に帰りたくない」

 

 

 いつもの様に自転車の荷台に座った平家が上目遣いで男が期待するセリフの中でも上位に食い込むであろうものを言い出した。いきなり何言ってんだお前……もしかしてアイツが原因か?

 

 

「とーぜん。いくら大物だとしても我が物顔で家に上がり込むのは我慢できない」

 

「だよな。ホント何考えてんだあのジジイ……いきなり家にやってきてタダ飯食ったり水無瀬達と話をしたり橘の歌声聞いたり犬月と戦ったり……言い出したらキリが無いが思い返しただけでもウザいな。別に殺しても良いんだがその場合は東の勢力と戦争になるしなぁ……俺的にはどうでも良いけどさ。むしろ殺し合いしたい」

 

「別に殺し合いをしないってノワールと約束をしてるわけじゃないし良いと思うよ。早く対処しないと恵達が寝取られるよ? 男に囲まれながらダブルピースしてるビデオが届いても私は知らない」

 

「俺的には興奮するから良いんじゃねぇの? それに奪われたら奪い返せば良いだけだしな」

 

「……ホントにそう思ってるからノワールって変態だよね」

 

「褒めんなよ」

 

 

 お前に付き合わされてエロゲーをし続けたせいで色々と性癖が歪んでるんだから仕方ないだろ……てか、そもそも東の大妖怪ともあろう人物が勢力そのものが消滅するような選択をするわけないからその線は限りなく薄いはずだ……きっと、多分。まぁ、もっともらしい理由があるとすれば八坂の姫や鬼の頭領がいつもの事だから放っておけ的なことを言ってるからきっと大丈夫だろう! もしかしたら見た目がジジイなだけでソッチ方面はまだまだ現役の可能性も無くは無いから平家の言うような展開になるかもしれないけどさ――その時は妖怪勢力、京都妖怪だろうが鬼だろうが何だろうが全てを根こそぎ、一人残らず皆殺しにするだけだから何も問題無い。てか魔法使い共を虐殺してから今日まで何も起きてないから退屈なんだよなぁ……相棒が持っていた最後の能力である「苦痛」を鍛え上げる機会が全くないし! 最後に使ったのは確か夜空と殺し合いの時だっけか? アイツ、痛い痛いって言いながら高笑いしてたけどマジで人間なんですかねぇ? あの痛みに耐えきれずに廃人になったメフィストのジジイやら年増女王の兄か弟か身内君に謝った方が良いと思う。割とマジで。

 

 そんな事を思いながら我が家へと到着。平家がうわぁみたいな顔をしてるから恐らく今日もやってきてるんだろう……本当に暇だな? 東の妖怪勢力は大丈夫なのかよ?

 

 

「――帰ってきやがったか。若い男女がこんな時間まで何してやがったんだぁ」

 

 

 玄関から居間へと進むと椅子に座っている一人のジジイとお茶を出している橘の姿があった。橘は学校帰りだからか制服のままだがジジイの方は居間の雰囲気に合わない着物姿だ……毎回思うんだが後頭部が長いけど首とか痛くならねぇのかな? 絶対、頭部の重みで毎日首痛いわ~とか言ってると思う!

 

 

「別になんだって良いだろうが。てかまた来やがったのかよ……いい加減来るのやめてもらえませんかねぇ? いちいち相手にするのが面倒なんだよ。橘、俺にもお茶くれ」

 

「悪魔さん。()()()()()にそんな事を言ってはダメですよ。えっと、ソーナ会長とのお話は終わったんですか?」

 

「まぁな。話って言ってもレイチェルの使い魔になりましたって報告だけだからそこまで話し込むことじゃねぇよ。あとお爺ちゃん言うのやめろ……調子に乗るから」

 

 

 橘が淹れてくれたお茶は物凄く美味い。退魔の家系だからか本人がお茶好きなのかは知らないがなんか落ち着くんだよな……水無瀬も橘もなんでこんなに美味いお茶を淹れられるのか不思議だね。俺の返答に橘はそうですかとニッコリ笑いながら着替えるために自分の部屋に戻って言ったが……なんか怖い。ここ最近の橘の笑顔って可愛いけどなんか怖いんだよな……レイチェルの使い魔になった後もえへへと笑って祝福っぽいことをしてたけどなんか怖かったのは今でも覚えている。なんて言えばいいか分かんないんだけど兎に角、怖い。笑顔って元々は威圧云々ってのがあるけどまさしくそれだと思う!

 

 

「ただ単に嫉妬してるだけだよ。私もノワールと契約して対価を払いたいとか思ってる」

 

「ち、違います! た、ただその……ズルイと思っているだけです!」

 

 

 それって結局は同じ事じゃないですか橘様!

 

 

「……そうか。おい平家、そういえば水無瀬もここ最近になって笑顔が怖くなってきたが……まさかそっちもそうか?」

 

「当然。何も思ってないのは祈里とグラムとパシリとお姫様ぐらい。それ以外は嫉妬の感情を大なり小なり抱いてるよ。とーぜん私は嫉妬力は眷属一を自負してる。ノワールの四肢を切断して部屋に監禁して永遠に自堕落に暮らして独り占めしたいぐらいに嫉妬してるから取扱注意だよ。勿論、恵も志保も花恋も同じような事を思ってるから注意が必要」

 

 

 流石ノワール君依存率ナンバーワン。ヤンデレ風の笑みもお得意ですか……てかうちのマスコット枠(四季音妹)不憫枠(チョロイン)苦労人枠(犬月)姫様枠(レイチェル)以外はヤンデレに変貌する可能性ありってどういうことだよ? 俺的には刃物で刺したり薬を盛ってきたり人間関係を破壊したり監禁してきても何ら問題無いしドンと来いなんだが流石にちょっと拙いな……というよりもこの状況ってキマリス眷属崩壊の危機じゃねぇかな! なんで俺が使い魔になった程度で嫉妬するんだよ! モテる男は辛い……辛いのか? 嫉妬されること自体はご褒美みたいなもんだしもしかしたら違うかもしれないな! でもまぁ、うーん、仕方ねぇか……デート、デートすれば水無瀬達の機嫌って治るもんかねぇ? とりあえず何とかするしかないが……というわけで一応聞くがお前は何してほしい?

 

 

「勿論、デート希望。そして熱い夜を所望する」

 

「デートしてやるがエッチはダメだ。夜空抱いた後ならいつでも襲ってこい」

 

「……しょーがないからそれで妥協してあげる」

 

「……悪魔さん。平家さんだけじゃなくて私ともデートしてください!」

 

「お、おう。別にお前が良いならデートぐらいはするぞ? なんだかんだで頑張ってるしな」

 

 

 デート出来ると分かったからかぱあぁと一気に笑顔になったけど……やっぱり可愛いなぁ!

 

 

「おいおい、俺が居るってのにおめぇらだけの空間を作るたぁやるねぇ」

 

 

 あれ? まだ居たの? 存在感無いから帰ったかと思ったぜ。

 

 

「ん? あぁ、まだ居たのか? あのさぁ、居るならもっと存在感出してくれない? 影が薄すぎているのかいないのか分かんねぇんだよ」

 

「カッカッカ。俺にそんな口をきけるガキは坊主ぐらいだ。八坂も寧音もテメェを気に入ってるようだがその理由がよーく分かる。妖怪が好む気質たぁ悪魔にしとくのはもったいねぇ。どうだ、俺の傘下に加わらねぇか? 俺の片腕の地位をやっても良いぜ?」

 

「は? ヤダ、無理、ありえねぇ。その体から匂う加齢臭を無くして土下座するなら一瞬だけ考えてやるが……うん、無理だな」

 

 

 そもそもジジイの片腕とか嫌過ぎるしな。俺は夜空と殺し合ったり、夜空とイチャイチャ出来ればそれで満足なんだ……地位も名誉もいらねぇんだよ。

 

 

「俺の能力ですら惑わねぇとはな……常日頃から欲望中心の生活でも送ってんのかぁ?」

 

「悪魔相手に欲望だのって言われてもなぁ……まぁ、送ってんじゃねぇの? 特にこの覚妖怪のせいだけどな!」

 

「ノワールの性癖は私が育てた」

 

「腋好きは夜空のせいだがそれ以外はお前のせいだしなぁ。否定したくても否定できねぇ」

 

 

 ドヤ顔し始めた平家に構いだしたのが気に入らないのか俺の隣に座った橘様がぷくーと頬を膨らませながら脇腹をツンツンし始めてきた。ちょっと可愛いな! 流石アイドル! ちょっとしたしぐさでも可愛いと思えるのが素敵! キャー! おっぱい揉ませてー! てか真面目な話……さっさと目の前にいるジジイは帰ってくれないかな? いい加減ウザい……毎回やってきてはタダ飯食ったり雑談したりと妖怪らしく好き放題しまくってるけどマジでそろそろ来ないでほしい。だって外にいるであろう見張りの視線がウザったい……殺すか。

 

 

「それをしたら戦争勃発だよ」

 

「知ってる。ジジイ、別に居座るのは勝手だが皿洗いぐらいはしてから帰りやがれ……あと好き勝手にやるのは勝手だが度が過ぎるとどうなるか分かってんだろうな?」

 

「おうおう、ガキには似合わねぇほど強烈な殺気を放ちやがる……知ってらぁ。魔法使いの奴らと同じ目に合わせるってんだろう? それぐれぇは長生きしてたら嫌でも理解出来てるってもんだ」

 

「だったら良い」

 

 

 それを言い残して俺は四季音姉妹の部屋へと移動する。居間から出たタイミングでジジイは()()を使用したのかこの場所から姿を消した……流石は東の大将、俺よりも長生きしてるだけはあるな。全然気配を感じ取れないのが非常にムカつくが今はジジイの相手をしてる暇はない……なんせ今後の俺の特訓に関わることを四季音姉妹に頼んでるからな!

 

 

「主様。お帰りなさい」

 

 

 ノックもせずに部屋に入ると四季音妹がベッドに座り込みながら漫画を読んでいた。表紙を見た感じだと四季音姉が実家から持ってきたであろう少女漫画の類だ……鬼なんだからもっと違う奴を読んでも良いと思うんだがねぇ。

 

 

「おう、ただいま。四季音姉は?」

 

「伊吹。お風呂に行ってる。寧音様と特訓して汗をかいてた。主様に匂いを嗅がれたくないって言ってた。もう少し時間がかかると思う」

 

「ふーん。てかお前にしてはアイツと一緒に風呂に入らないなんて珍しいな?」

 

「帰ってくる前に家で入ってきた。伊吹は帰る時間ギリギリまで寧音様と戦ってた。母様と一緒にそれを見ていた。伊吹も寧音様も楽しそうだった」

 

 

 酒呑童子同士の殺し合いとかちょっと見てみたいんだが……なんでそんな面白そうな事が会ったのに呼ばなかったんだよ! そこは俺も乱入して酒呑童子親子対俺って感じになるのが常識だろ!? 畜生……! レイチェルの腋に騙されて生徒会長のところに行ったのが間違いか……!!

 

 ちょっとした後悔をしつつ漫画を読んでいる同じようにベッドに座り、四季音妹を抱きかかえて膝の上に座らせる。なんでと言われたら我がキマリス眷属が誇るマスコットの反応を見て疲れを取りたかったからだ……いやね! マジでこの子可愛いのよ! 癒されるんだよ! こう、遠くから見守ってあげたいぐらいの可愛さだね! これが……癒し! 邪龍すら癒す茨木童子とか最強だと思うんだ! ちなみに二代目癒し系は四季音妹で初代癒し系は橘だ。初代様はその……癒し系から淫乱系にジョブチェンジしてしまったので癒し系枠に復帰はもう無理かもしれない。俺としては真剣に癒し系に戻ってほしいけども。

 

 てか真面目な話、妹と言ってる奴に発育で負ける姉ってもうどうしようも無いと思うんだ。四季音妹のおっぱいを揉めば小さな山があるが四季音姉のおっぱいを揉めば……山すらない壁だ。俺様、涙が出そうだ!

 

 

「そりゃ手加減せずに殺し合えるんだ、楽しくないわけないだろ? てか真剣に読んでるがそれ面白いのか?」

 

「分からない。伊吹がおすすめと言ってたから読んでいる。でも登場人物の考えが分からない。なんで照れたりしている。分からない。主様は分かる?」

 

「んぁ? あー分かると言えば分かるが……説明するのがめんどくせぇから後で四季音姉にでも聞いてみろ。きっと熱く教えてくれるだろうぜ? あっ、そういえば鬼の頭領はなんて言ってた?」

 

「寧音様と母様。主様の申し出にノリノリだった。いつでも良いって笑いながら言っていた。今すぐ殺し合いたいとも言ってた。寧音様は凄く楽しそうだった。でも目が怖かった。狙った獲物は逃がさない目をしていた。母様も凄く楽しそうだった。だけど私にもうすぐ若いお父さんが出来ると言ってた。分からない。殺し合えばお父さんが出来る?」

 

 

 うーん、あの人は自分の娘に何言ってんだろうなぁ! あの……人妻な鬼さん達ったら若い俺を襲う気満々じゃないですか……! ちょっと待ってくれませんかねぇ! 確かに俺は特訓相手が居なくて困ってます! 殺し合ってくださいって頼んだけどさ……性的に襲って良いとは一言も言ってないんですけど!? でも待てよ……人妻属性持ちの酒呑童子と茨木童子に逆レされるってなんというかご褒美ですよねありがとうございます! でも夜空を抱いてないのでもうしばらく待っててほしいんだがダメですか! せめて俺の童貞が無くなってからお願いします!

 

 そんな事を思いながら四季音妹で癒されていると部屋の扉が開き、姉と言い張っている酒呑童子(四季音姉)が入ってきた。風呂上がりだからか綺麗な桜色の髪は少し濡れており、子供としか言いようがないパジャマに身を包んだ姿は色気の欠片すらない残念なものだ……妹のようにもう少しボリュームが足りないから頑張ってほしい。マジで圧倒的に色気が足りないぞ四季音姉! でも良い女なんだよなぁ……だから頑張れ!

 

 

「……ノワール。人の部屋で何してるんだい?」

 

 

 俺達の姿を目にした途端、引きつった笑みを浮かべ、目の光を消しながらその言葉を言ってきた。うわぁ、なんか怖い。

 

 

「何って癒されてるだけだが? あっ、邪魔してるぞ」

 

「主様に抱きしめられてる。伊吹、お帰りなさい」

 

「た、ただいまイバラ。に、にしし! な、なな中々楽しそうな事をし、しているじゃないか……と、とりあえずイバラを離したらどうだい?」

 

 

 普段と同じくにししと笑いながら光が宿ってない瞳で俺を見つめながら俺の背後に移動して抱き着いてきた。現在の状態を説明するなら酒呑童子、俺、茨木童子という怖い鬼さんと可愛い鬼さんのサンドイッチとなっております! 背後の四季音姉が怖いですね! マジで怖い!

 

 

「伊吹、怒ってる?」

 

「お、怒ってないさ! い、イバラもなんで拒否したりしないのさ! い、いくらなんでも無防備すぎるからもう少し警戒した方が良いよ!」

 

「分からない。主様に抱きしめられる。胸がポカポカするし安心する。でも息吹が言うなら拒否する。主様。離れてほしい」

 

 

 背中から感じる威圧感がさらに増した。あれ? 俺、このまま絞め殺される?

 

 

「……ノワール。私に黙ってイバラに手を出したら殺すかんね」

 

「はいはい分かってますよ……ん? お前と一緒だったら手を出してもいいのか?」

 

「にしし。さぁ、どうだろうね」

 

「……おい、なんか怖いぞ? まぁ、良いや。で? 四季音妹から聞いたが鬼の頭領は承諾したって事で良いんだよな?」

 

「当然さ。ノワール相手なら母様も芹様も手加減しなくても良いからね。魔獣騒動から戦争らしい戦争が起きてないから母様も全盛期並みにまで体を戻したいとか言ってたしさ……もうちょっと年を考えても良いと思うんだよね……なんで娘が惚れてる相手を襲おうとか普通に言えるのさ……!!」

 

「何か言ったか?」

 

「な、何でもないさ! そ、それとノワールが新しく会得した能力を味わってみたいと言ってたよ。だからおもいっきりやりな」

 

 

 流石鬼。苦痛の能力を味わってみたいとか馬鹿だと思う……でも受けてくれるならありがたい。なんせ相棒が生前持っていた「苦痛」の能力を鍛えるには四季音以上の相手、欲を言えば夜空並みの存在が必要不可欠だしな。なんせ「苦痛」の能力は俺が与える痛みが倍増していく……与えれば与えるだけ受ける痛みが跳ね上がるから大抵の奴らは耐えきれずに発狂してしまう。これに関しては魔法使い共に使用し続けたから嫌でも理解してるからこそ鬼の頭領達に頼み込んだんだが……まさかマジで了承してくれるとはねぇ。確かにあの人達なら耐えきれるだろう……夜空だって高笑いしてたんだから余裕余裕! でも壊れたらまぁ……ドンマイとしか言えないね!

 

 

「そりゃまたありがたいことで。てかいい加減、あのジジイを何とかしろよ? 次期頭領だろ? 文句言えば一発解決とかにならねぇのか?」

 

「ならないね。私なんかの言葉で解決するなら東の大将なんてしてないさ。母様なら別かもしれないけどね……でも滅多に無い事だよ? あのぬらりひょんが直々に見定めるなんてさ」

 

 

 若干、楽しそうな四季音姉の口から放たれたぬらりひょんという名前こそ先ほどまで話していたジジイの正体だ。東の妖怪勢力を束ねる大将にして八坂の姫、寧音と並ぶ大妖怪の一人……なんだがさっきまでの姿を見る限りだと胡散臭いジジイにしか見えないんだよなぁ。でも強い。本気で強い……気配が分からないとか本気で困るからやめてもらえませんかねぇ? 気軽にオナニー出来ないじゃねぇか!! 思春期の男が楽しみにしている一時を邪魔しないでくださいお願いします!

 

 

「俺としては相手をするのがめんどくさいけどな……それで日程は?」

 

「いつでも良いみたいだよ。にしし! 母様と殺し合えるなんて滅多に無い機会だから楽しんできなよ! だけどもし……もし母様と変な事をしたら――本気で殺すからね」

 

 

 やべぇ、声色からしてマジだ。なんで俺の眷属になった奴らの半分がヤンデレ属性持ちなんだよ!? 邪龍だからか! 邪龍だからだな! マジかぁ、邪龍の近くによって来るのってヤンデレ体質持ちかぁ……! 良いぞドンドン来い!

 

 

「はいはい、分かってるっての……たくっ、嫉妬するならもっと可愛くやれよ」

 

「んな!? し、しし嫉妬なんかしてないっての! こ、これはノワールが変態だからちゃんと釘を刺しておかないと困るからで嫉妬なんかじゃないさ!」

 

「伊吹。取り乱してる。珍しい。凄く珍しい」

 

「いやそうでもねぇぞ? この前デートした時なんて――はいはい分かった。言わねぇから力を弱めろ……俺を絞め殺すつもりか?」

 

「私なりの愛情表現さ。喜んで受けなよ」

 

 

 まぁ、性癖が歪みまくってるからヤンデレだろうが嫉妬だろうが独占欲だろうが殺意だろうが喜んで受け入れるけどさ……でも背中に抱き着くならもうちょっとおっぱいを大きくしてくれても良いと思うんだ。夜空はそのままでも良いけど。

 

 とりあえず寧音や芹という強敵と殺し合えるのは素直に嬉しいから楽しみだなぁ! 本当に滅茶苦茶楽しみだ! あぁ、本気で殺し合える相手って本当に大切だよな……だから夜空、暇だったらいつでも殺しに来て良いんだぜ? 俺様、ドキドキしながら待ってるからさ!




今回より「影龍王とぬらりひょん」編が始まります。
きっとすぐ終わるはず……です!

観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

89話

「……キマリス君。申し訳ないですがもう一度言ってもらっても良いでしょうか……?」

 

「だからしばらくうちの戦車、四季音花恋の実家こと鬼勢力の里で鬼の頭領とか頭領の右腕の方々と殺し合い、ゴホンゴホン! 特訓するんでこの町から離れまーす。勿論、俺だけじゃなくてキマリス眷属全員ですね! 何か問題でもありました?」

 

 

 俺の目の前に座っている生徒会長はトレードマークの眼鏡をくぃっと上にあげる仕草をしながら表情を引きつらせている。この場に居るのは生徒会長だけじゃなくて副会長やこの場に居ない面々(ハーフ死神や大男)を除いたシトリー眷属のメンバーが集結しているが全員、生徒会長と同じように唖然としている様子だ。匙君に至っては開いた口が塞がらないみたいだけど大丈夫か? てかそもそも変なこと言ったかなぁ……? ただ普通に鬼の頭領こと寧音とその右腕こと芹と殺し合いに行きますって言っただけだぞ? もしかして眷属全員で殺し合いに行くって言ったのがダメだった? でもなぁ、それに関しては鬼勢力側から言われた事だから仕方ないんだよね……本来なら俺だけで良かったんだよ。だって相棒の力を鍛えるだけだったしさ! でも鬼の頭領こと寧音が「どうせなら全員で来な、歓迎してやるさね」と言ってきたから眷属全員で鬼の里へ旅行しに行くことになった……うん、だから特にこれと言っておかしい事でも無いし犬月達も喜んでた……喜んでた! うん! なんか引きこもり筆頭(平家)は「メンドクサイ」とか苦労人筆頭(犬月)は「ヤッターオニトノコロシアイダー」と死んだような眼をしていたような気がするが喜んでいたはずだ! なんせうちの淫乱アイドル()は鬼の里へと行くぞって言ったら「ライブしてもいいですか?」って言ってたしね!! 殺し合いよりもライブとかアイドルの鏡過ぎて困る!

 

 そんなわけで一日か二日か三日か一週間か分からないがしばらくこの町から居なくなるから先に話を通しておこうと思ったんだけど……何も問題無いよな! だって一誠とかいるし噂じゃ天使勢力の神滅具使いとか堕天使勢力の規格外二号とかいるっぽいし! てかなんで俺の所に挨拶に来ないんだよ!! 挨拶代わりに殺し合いたいのに来てくれないとか激おこだぜ激おこ!

 

 

「……問題と言えば問題ですね。キマリス君も知っているでしょうが現在、リアス達やアザゼル先生はルーマニア、吸血鬼勢力の本拠地に向かっていて不在です。そんな状況でキマリス君までこの場を離れたら有事の際に色々と不都合が起きます」

 

「まぁ、大丈夫じゃないですか? だって一誠達もいるし天界勢力や堕天使勢力の神滅具使いもこの場に居るんでしょ? だったら大丈夫大丈夫! もし仮に何か起きてもそいつらに仕事させれば良いだけじゃないですか。発生する事件の全てを自分達で対処しようとするとキリが無いですよ?」

 

 

 だって思い返してみれば起きる事件全て俺達若手が対処してるがそれ以外の面々は安全圏から見物してるだけだ……偶には仕事させないと和平を結んでいる他勢力から苦情が出かねない。あとついでに魔王共、働けよ! マジで働けよ! テメェらが働いているところなんて見たこと無いんだが……うん! なんというかアザゼルしか仕事してない気がする! うわぁ、いくら元総督だって言っても仕事押し付けすぎだろ魔王に天使長……流石悪魔と天使の親玉だね!

 

 

「……ですけど有事の際に動けるのは私達若手ぐらいです。他の方々に任せていては駆けつける前に逃げられてしまいます……キマリス君の言う事も間違いではありませんが出来るだけ私達で対処した方が早期解決に繋がるでしょう……とでも言っておかなければ色々と問題が起きてしまいますし、私達が動かなければお姉様が……!」

 

 

 あぁ……デスヨネ! シスコン勢のセラフォルー様なら生徒会長のためなら敵陣地に突貫して殲滅とか普通にするだろうな。うん、苦労してるんだなぁ……多分だが今の生徒会長って中間管理職だよな? だって先輩達や俺達に引き寄せられるように発生する事件の後始末とか全部やってるしさ! でも俺達は悪くない。悪いのは問題を起こす奴らが悪い。あっ! 俺はただ自分がしたい事を全力でしてるだけだからセーフセーフ!

 

 

「確かにセラフォルー様の場合、どう考えても悪魔の世間体というか……とりあえずあの格好はアウトっぽいから生徒会長の言い分も分かりますよ? でも偶には魔王が働く姿を見せた方が良い気がしますけどねぇ。まぁ、とりあえず既に決まった事なんで今更やっぱりやめますはする気ないんで諦めてください。なんせ個人的な事になりますけど新しく発現した能力を試すにはうちの戦車……いや鬼の頭領とか夜空レベルじゃないとダメなんですよ。下手すると開始一分も経たずに廃人コースになっちゃいますしね」

 

「……どんな能力だよそれ!? おっかねぇんだが!? あと黒井! 鬼の頭領と殺し合いっておま、おま!? 分かってんのか!? 下手すると戦争だぞ!? いくら和平を結んだって言っても流石にそれはダメだろ!!」

 

「ん? いや……だって鬼の頭領に殺し合いませんかハートマークと邪龍スマイルで言ったら即オーケーしてくれたから問題無いと思うぞ? あと能力に関してはヴリトラに聞いてくれ。きっと知ってるはずだからさ」

 

 

 俺の言葉に反応するように匙君の影から蛇が現れる。それは匙君の足から胴体へと昇り、肩の辺りで動きを止めて俺を見つめてきた……俺や夜空、一誠にヴァーリのように宝玉が無いのとヴリトラ系神器を統合した影響なんだろうけどやっぱり不気味だよなぁ。

 

 

『クロム』

 

『おうおうどうしたぁ? テメェの愛しいクロム様だぜぇ? ゼハハハハハハ! ヴリトラよぉ、聞きてぇことは分かってるぜ! 聞かれる前に答えてやんよ! 事実だ。俺様は聖書の神によって封じられた能力全てを取り戻した! 当然、テメェらが怖い怖いと泣き叫んでた苦痛の能力もなぁ!』

 

『……やはりか。我が分身よ、今の奴らに戦いを挑もうなどとは思うな。死ぬぞ。肉体だけではなく精神もだ。魔法使いを束ねていたメフィストとやらが再起不能になったのも恐らくあの能力が原因だろう。あれを耐え抜けるものは限りなく少ないはずだ』

 

「マジかよ……聞いただけでおっかねぇって思えるな。てかそんなあぶねぇもんを勢力のトップに使うつもりかよ!?」

 

「うん。いやー鬼さんは話が分かる良い奴らだわー! だって味わってみたいって言ってきたんだぜ? だったら思う存分、味合わせてやらないとダメだろ邪龍的にさ! あっ、そうだ匙君匙君! 一緒に鬼との殺し合いをしてみないか? もしかしたら禁手に至れるかもしれないぞ!」

 

「やめろぉ! 俺はまだ死にたくないぃ!」

 

 

 そう言いながら奥の机を盾にするように隠れ始めた。あら残念……でも良い機会だと思うんだけどなぁ。だって鬼との殺し合いだぜ? 下手するとかなりの経験値になって禁手に至れるかもしれない。だって相手は加減無しの全力で殺しに来てくれるんだぞ? 至らない方がおかしい……俺としても匙君が操る呪いの炎を一度味わってみたいんだよ! 本気の本気! スーパー匙君状態が放つ呪いの炎はどんな感じなのか凄く興味あるぞ! だから早く禁手に至ってくれ! そのためならばチョロインを全力で振り回してあげよう!

 

 

「……何度も言いますが私の眷属をあまり虐めないでもらえますか?」

 

「虐めているつもりは全然ないんですけど……まぁ、良いか。とりあえず鬼と殺し合ってくるんでしばらく離れますね。もしこの町が襲撃されたら頑張ってください」

 

 

 仮にテロリストがこの町を襲撃してきても助けには一切来ないけどね! だって俺には関係無いし。あとついでに母さんにも被害無いし。あとついでのついでで夜空にも被害が一切無いし!

 

 そんなわけで引きつった表情をしている生徒会長達に別れを告げて家へと帰る。既に先に帰宅していた犬月達は鬼の里へと向かう準備を終わらせてリビングに集まっていた……もっともレイチェルは一誠のお家にお泊りだからこの場には居ない。なんせ俺の契約主と言っても眷属じゃないしね……でもなんだ、もっともらしい理由をつけるならフェニックス家が裏マーケットに流れている偽物の涙に対して色々と対策をするのに忙しいみたいだから俺達に付き合わさせるわけにはいかない。この辺に関しては昨日の内に一誠君やレイヴェルにも伝えているし、レイチェル自身にも了承を得ているから問題ない。でも何かあったらいつでも呼べとは言ってる……一応、俺はレイチェルの使い魔だからな。

 

 さてそんな事は置いておいてだ……あのですね! 若干一名ほど持っていく荷物多くないですかねぇ? あの、橘様? そのキャリーバッグ五つに何が入っているんでしょうか? 俺様、凄く気になります!

 

 

「志保の荷物中身は着替えとお土産だよ。というよりも土産しか無い」

 

「……なんで土産?」

 

「だ、だって花恋さんのご実家ですし魔獣騒動でもお世話になりましたからそのお礼です! いっぱい買っちゃいました! あの、変でしょうか……?」

 

「イヤーゼンゼンヘンジャナイヨーフツウダヨーサスガタチバナダナー」

 

「で、ですよね! 聞きましたか早織さん! 悪魔さんは変じゃないって言ってます!」

 

「志保。よく聞きなよ、今のノワールの声は凄く棒読みだったよ」

 

「違います! そうですよね、悪魔さん♪」

 

「ソウダヨーボウヨミジャナイヨー!」

 

 

 いやだなぁ橘様! この俺様がそんな棒読みなんてするわけないじゃないか! だからその怖い笑顔をどうか鎮めてくださいお願いします! てかなんでここまで怒ってんだ……? まさか昨日の夜に人妻に襲われたらどうしよーとか言ったせいか!? それだな! マジかよ……! 嫉妬? 嫉妬か? おうおう嫉妬か! アイドルの嫉妬とかご褒美ですありがとうございました! でも仕方ないんだよ……! だってこれから向かう鬼の里、というよりも鬼を率いている頭領が肉食なんですもん。娘が少女趣味で初心で処女だってのに親はガチで肉食だからね! 寝る前に色々と対策しといた方が良いかもしれない。

 

 

「あーてか王様? 酒飲みの実家ってどんな場所ですか? 流石に鬼とはあんま関わってないんで知らないんすよ」

 

「ん? どんなって言われてもなぁ……時代劇でよく見る古い建物が並んだ感じだぜ? あとエッチな場所が……犬月、鬼の遊女ってどう思う?」

 

「最高だと思いますね」

 

「だよな。よし、行くか」

 

「お供いたします」

 

「……ノワール君、未成年ですからその、エッチなお店はダメです。保護者として許しません」

 

 

 隠れドМの水無瀬に言われても説得力がないんだが……だって行きたいんだもん! この前行った時は四季音姉がノワール君のノワール君を握りつぶそうとしてたから行けなかったけど今回こそは……! アッハイ! やめます! だから笑顔を鎮めてくださいませ橘様!

 

 

「志保の笑顔の怖さは世界一」

 

「怖くないです! そ、それよりも早織さん……? 持っていく荷物とか少なくないですか?」

 

「これぐらいが普通だよ。志保が多いだけ。ねぇ、ノワール? 遊女と遊びたいなら私が代わりにイロイロしてあげるよ?」

 

「常日頃から味わってるんでノーサンキュー」

 

「……」

 

 

 断られたからって蹴るんじゃねぇよ!

 

 

『我ガおウよ! またこロしアえるのダな!! オにと殺しあえルんだナ! であれバわレらを使うガいい!!』

 

「はいはい。今回はそうするつもりだよ……なんせお前を全力で使っても簡単には死なない相手だ。偶にはお前を使わないと今後困るかもしれないしな。だから遠慮なく呪ってきても良いぞ」

 

『そうカ! ソうかそウか!! わレらヲツかうか!! 良かロう! 思うぞンぶん使うがいイ!』

 

 

 絶壁な胸を見せつけるようにしながらドヤ顔をし始めるチョロインに少しだけ可愛いと思ってしまった……くっ! なんという不覚! 絶対に四季音妹の可愛さにやられてるな……!! でもコイツって姿だけなら美少女なんだよな。まぁ、具体的に言うなら過去の所有者だった女が美少女なだけだけどさ。というよりもそろそろ男の姿にしてみるか? 相棒には常日頃からお世話になってるし偶には思う存分、楽しんでほしいしな。でも男の娘かぁ……夜空の姿に男の象徴が生えたらダメ? それだったら俺は問題無いんだけど! どうだろうか相棒!

 

 

『――問題ねぇぜ! 写真撮影会と行こうか!』

 

 

 流石相棒! 話が分かる! やっぱりお前は最高の相棒だよ!!

 

 

「死ねばいいのに。光龍妃に消滅させられても知らないよ?」

 

「それはそれでご褒美だろ?」

 

「……」

 

 

 夜空に勝てないからって俺に当たるんじゃねぇよ! てか蹴りの威力がだんだん強くなってませんか? 訓練でもしてんのかよ!

 

 

「ノワールとエッチするためにイロイロと特訓してるよ?」

 

「あーはいはい、ご苦労様。てかそんなことしなくても俺の心が読めるんだから弱点ぐらい丸分かりだろ? 現にお前に手でシテもらった時なんてしばらく自分の手で出来なかったしな」

 

「えっへん」

 

「ドヤ顔すんじゃねぇよ」

 

「……」

 

「しほりん! あの、違うっすよきっと! 手でとかその、きっと違うっすよ!! 多分、絶対、どう考えても冗談ですからおち、おち、おちぃ!? あの、水無せんせー……? あの、酒飲み? ぜ、ぜぜぜ絶対に冗談ですからどうか! どうかお怒りをお鎮めくださいませ!! てか王様ぁ!? あの、本気でなにしてんすかぁ!!」

 

 

 いや何って言われても困るんだが……まぁ、オナニー? とりあえず犬月が水無瀬と橘と四季音姉相手に土下座してるけど俺様、悪くない。つーか水無瀬と四季音姉はコイツの行動ぐらいは知ってるだろ……何年一緒に住んでたんだよ? そもそもグーパーと握っては開いてを繰り返している処女鬼、テメェは四季音妹絡みで帰った時に俺の指でオナニーしてただろ。それと一緒だからさっさと落ち着けっての。あとゴメン、水無瀬が小言で既成事実と言ってるんだけどそろそろ真面目に対応した方が良いかな? おかしいなぁ! なんでここまで病んでる奴らしかいないんだろう!

 

 

「邪龍だからだよ」

 

 

 説得力がある言葉をありがとう!

 

 そんなこんなで水無瀬と橘と四季音姉の怒りをなんとか鎮めつつ、夜が明ける。朝早くに家を出て四季音姉妹の案内の元、前回と同じ道を進んでいく……勿論! 我がキマリス眷属が誇るパシリは全員の荷物を持って山登りです! 多分というか絶対に橘の荷物が原因で死にかけてる気がする……戦車に昇格しろよって言ったがそれをしたら何か負けた気がするから絶対にしないと引きつった笑みで返してきた時は不覚にもカッコいいと思ってしまったぜ……頑張れ犬月、負けるな犬月。とりあえずまだまだ続くから死ぬなよ?

 

 

「……あの、長すぎません?」

 

「これで半分ぐらいだぞ」

 

「マジすかぁ……というより大江山から入る秘密の道とかホントに酒呑童子と茨木童子だったんだな」

 

「そりゃそうさ。こんな可愛い鬼さんが下級の鬼なわけないだろう?」

 

「見た目だったら十分に下級だろうが」

 

「ん?」

 

「すいませんでしたあぁぁぁ!!」

 

 

 周囲に犬月の声が響き渡るが俺達はお構いなしに道を進んでいく。ちなみにだが全員の荷物は犬月が持っているが俺自身は別の荷物を持っている……何と言われたら不幸体質の保険医? だってこの道を歩き続けていると何故か知らないがいきなりこけたり、いきなり落ちたり、いきなり飛んで行ったりと良く分からん現象に巻き込まれ続けたから仕方なく! 仕方なく俺が背負っているわけだ。別にもういやですぅと泣きながら抱き着かれたときのおっぱいの感触に負けたとかじゃない……現在進行形で背中に感じる素敵おっぱいの感触が最高とか全然思ってない。誰に言ってるって現在進行形で嫉妬の感情を込めた視線を向けてるお前しかない居ないだろう!

 

 

「あ、あのノワール君……お、重くないですか……?」

 

 

 なんで背負った女はそのセリフを言うんだろうか。マジで謎なんだが……母さんも重いって言ったら怒るとか言ってたしそこまで体重を気にしなくても良いだろうに。

 

 

「別に重くねぇよ。むしろ逆に軽すぎだ、もうちっと太れ」

 

「い、いやですぅ! これでも昔より美味しいものを食べすぎて体重が……体重が……うぅ、悪魔になっても体重との戦いが続くなんてぇ!」

 

「分かります……私も水無瀬先生のご飯が美味し過ぎて体重が……あ、悪魔さんは体重が重い女の子はどう思います、か?」

 

「なんだよその質問……? 別にお前らが太ろうが痩せようが知った事か。お前らはお前らだろ? 俺は気にしねぇしお前らの好きにしろ」

 

 

 ちなみにだが夜空が今まで大量に食い続けた影響で太ったとしても俺は一向に構わない。夜空だったらいくらでも興奮するしいくらでも抱ける。つまり夜空ならロリだろうが熟女だろうがお姉さんだろうが何だろうが俺は問題無い!

 

 

「流石王様、言う事が違いますね……ん? なんだよ茨木童子?」

 

「パシリ。聞きたい事がある」

 

「俺にか? 珍しいな……なんだよ?」

 

「伊吹。様子がおかしい。自分の胸を擦っている。おかしい。何故か分かる?」

 

「……あのさ、茨木童子。それをなんで俺に聞く?」

 

「主様忙しそう。パシリは暇そう」

 

「……この姿を見て暇そうって言えるお前ってすげぇな! それに関しては後で王様に聞いてみろよ……オレ、シニタクナイ、ツブサレタクナイ」

 

「分かった。主様に後で聞く。パシリ頑張れ。頑張れ」

 

「すっげぇやる気のない応援をありがとぉ!」

 

 

 すまん犬月、多分だが今の応援は全力だ。流石我がキマリス眷属が誇る癒し系マスコット……恐るべし! きっと癒し系選手権とかあったら普通に優勝出来るな! 今の応援だけでなんか頑張れそうだ! でもな四季音妹よ……その応援は水無瀬や橘の胸と自分の胸の差に絶望しているお姉ちゃんに言ってあげなさい。気持ちは分かるぞ……歩くだけでたゆんたゆんと揺れるのを見続けたら、ね!!

 

 そんなやり取りをしつつ、前回と同じようにデカい門だ。勿論、そこで立っているのも前回と同じ……でも違うところが一つだけある。

 

 

「よう、久しぶりだな。鬼の頭領はいるか?」

 

「若様!! い、いえ影龍王殿! 勿論でございます! 伊吹さま、イバラさま、お帰りなさいませ」

 

「中にて寧音さまと芹さまがお待ちです。どうぞお通りください」

 

 

 いやぁ、前回と全然態度が違うんだけど? 前は余所者は帰れって感じだったのに何で片膝をついて絶対服従モードなわけ? 一応門番なんだから頑張れよ! あと若様って何!?

 

 とか思いつつ鬼の里へと到着した俺達は四季音姉妹の家へと向かう。道中、街に住んでいるであろう鬼達から総大将とかしほりんとかしほりんとかしほりんとか言われ続けたけど……鬼、大丈夫か? 大半の男勢からしほりんコールが飛んでくるんだけどマジで大丈夫か? あとゴメン! 若さま遊んでいかないって言ってくれたそこのお方! あとで遊びに行くから待っててね! やべぇ、和服やべぇ……! 鬼に和服とかやっぱり最強じゃないですかー!!

 

 

「和服が良いならいつでも着るよ? 勿論、悪代官プレイもオッケー」

 

「マジか。あとで俺の部屋な」

 

「やった」

 

「悪魔さん?」

 

「……冗談だよ冗談。だから怒らないでほしいなしほりん!」

 

「いや、王様の場合は冗談に聞こえないんすよ。てかすっげぇ、此処が鬼の里か……ん? グラム、どした?」

 

『ナに、むカしはこノようナ光景だッたとオモッテいただけヨ。そレよりも我ガおウよ! はやク我らのちカらをつカうのダ! まちキれんゾ!』

 

「お前はもう少し待つことを覚えろ」

 

 

 鬼の里の雰囲気を楽しんでいる犬月達と共に進んでいき、辿り着きました恐怖のお屋敷! あぁ、自分で言いだしたこととはいえしばらくお世話になると思うと今すぐ帰りたい……肉食系の人妻が居るお屋敷とか童貞奪われる未来しか見えない。あとついでに前回の殺し合いの報酬がまだ貰えてないからなおさらヤバイ気がする……! よし! いざとなったら犬月を生贄に差し出そう! むしろこれしかないな!

 

 

「ここが花恋さんのお家ですか……?」

 

「そうだよ。にしし! こう見えてもお嬢様って奴さ、さてと……伊吹、今帰ったよ」

 

 

 その言葉で使用人と思われる鬼達がやってきて一斉に頭を下げ始める。お帰りなさいませ伊吹様、イバラ様、若様と言葉が続いていくけど……なんで若様? おい、四季音姉? マジでどう言う事だ? おい、目を逸らすな! ちゃんと俺の目を見ろ! お前……マジで何やった!?

 

 

「花恋」

 

「な、なんだぁい? そんなこわ~いかおをするとのわーるぅ~にきらわれるよぉ?」

 

「あとでお話しをしよう」

 

「い、いいよぉ~さ、さてと! 早く母様に会わないとね! 下手するとげんこつが飛んでくるからね!」

 

 

 あの少女趣味、逃げやがった。まぁ、良いか……どうせ四季音姉と結婚するから若様とか呼んでるだけだろ。しっかし前にも思ったがデカいな……流石鬼勢力を率いる頭領が住む場所だ、威厳ってのがありやがる。さてさて……今日から楽しみだなぁ! これから加減無しで殺し合いが出来ると思うと凄くワクワクしてきた!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

90話

「久しいねぇ、影龍の。魔獣騒動後の宴会以来かい? そっちの噂は聞いてるよ。相変わらず派手にやってるみたいで安心したさね」

 

「派手というかいつも通りだけどな。なんか好き勝手にやってたら色々と騒がれてるだけだよ……あと、お久しぶりです。鬼の頭領、先の魔獣騒動ではお世話になりました」

 

「かっかっか! 別に頭を下げなくたっていいさね。こっちだって芹の件で迷惑かけたんだ。お相子、どっちもどっちって奴さ」

 

 

 使用人達に案内されて通された場所は前回来た時と同じ広間。そこで改造和服に身を包んだ鬼の頭領、寧音とその右腕である芹がにこやかに笑いながら俺達を待っていた。この場所に来るのが初めてな犬月や水無瀬、橘の三人はこの広間に来る間も周囲を見渡して驚いていたが平家とグラムは全く興味無いのか表情も変えずにいつも通りの様子だけどな……まぁ、グラムは兎も角、平家に関しては鬼達が言っていた「若様」というワードの方が気になってるんだろう。四季音姉、ドンマイ! ノワール君依存率ナンバーワンな覚妖怪が直々にお話しするらしいから頑張れ! マジで頑張れ! 多分だが周りの奴らの声を聞いて既に知っているだろうけどお前の口から聞きたいらしいから本当に頑張れ!

 

 さて……そんなどうでも良いことは置いておいてだ。見えねぇ……! 前に会った時と同じ改造和服だから太ももが丸見えで非常に素晴らしい! そしてそんな服装なのに胡坐をかいているからパンツが見えそうで凄く興奮します! だけど見えない……あとちょっと動いてくれれば見えそうなんだけど見えない! これが絶対領域か! 夜空で慣れていたけどやっぱり絶対領域って最高だな! マジでドキドキするし覗き込みたい!

 

 

「なんだいそんな顔をして? こんなおばさんのパンツが見たいってか?」

 

「見たいか見たくないかで言ったら見たいな! 凄く見たい! だってそんな恰好で胡坐されたら……童貞の男は覗きたくなるんだよ。というわけで見せてくれると凄く嬉しい!」

 

 

 背後から色んな視線が飛んできてるが無視だ無視! だって俺様、童貞だもの、人妻のパンツを見たいと言って何が悪い!

 

 

「相変わらず正直な男だねぇ! 今日はアンタが来るって言うから過激なのをつけてるがそれでも構わないかい? 見たら最後、お子様のパンツ程度じゃ勃たなくなるよ?」

 

 

 それほど凄いんですか! 見せてくださいお願いします!

 

 

「マジで!? え? そんなに過激なの履いてるのかよ……だったら余計に見た、みた、イヤダナージョウダンデスヨーダカラソノメヲヤメテクダサイオネガシマス」

 

 

 いつの間にか隣に座った四季音姉の威圧感がヤバいのでそろそろ真面目になろう。なんかコイツ……ドンドン病んできてないか? いつもの少女趣味っぷりはどこ行った? そしてその何かを潰す仕草はマジでやめてくれ! お前なぁ! 潰される痛みとか消し飛ばされる痛みとかを味わった事が無いから普通にそんな事をしてるが一回味わってみろ! 死ぬほど痛いんだぞ!? 主に規格外で腋が素晴らしい美少女が放つ光とかで毎回吹き飛ばされてるからもう慣れてるけどさ! 本当に痛いからやめてもらえませんかねぇ? あと犬月が男の大事な部分を抑えて顔を真っ青にしてブルブル震えてるから本当にやめようか!

 

 

「……ノワールの場合は冗談に聞こえないんだよ。母様もあんまりノワールを誘惑するのはやめてよね! コイツはその、変態だし! 冗談と分かってても本気にするぐらい馬鹿だし! あと娘としても母親が年も考えずに若い男を誘惑とか恥ずかしいしさ!」

 

「何が恥ずかしいってぇ? 親の私からすれば未だに抱かれもせずに処女のままな娘の方が恥ずかしいよ。このバカ娘、いい加減さっさと襲いな。鬼なら無理やり押さえつけて子種を出させるぐらい出来なきゃ次期頭領としてやってけないよ」

 

「んな!? なな、こ、子種とか、む、無理やりするわけないじゃないか!! その……やっぱりお互いのムードってのが大事だと、思うしさ!! と、というか皆が居る前で襲うとかいうなぁ!」

 

「何か問題あんのかい? こっちとしてはさっさとそこにいる男を手に入れたいんだよ。それとも芹の娘に先を越されたいってか? かぁ~どこで育て方を間違えたかねぇ? 影龍の、うちのバカ娘は相も変わらず少女漫画を読んでんのかい?」

 

「おう。最近は四季音妹……あーとイバラも読んでるぜ。でもまぁ、内容はさっぱり分かってないみたいだけどな……てかさー! 此処に来るまでに総大将とか若様とか呼ばれまくったんだがどうなってんだよ? 総大将ってのは魔獣騒動で言われてたから分かるが若様ってマジでなんだよ……俺はいつの間にアンタの娘と結婚したんだ?」

 

「それこそ問題無いさね。アンタはいずれそこにいるバカ娘と結婚して身内になるんだから何も間違っちゃいないだろう? 先に言っておくが逃げようと思っても逃がしはしないよ? アンタのような鬼好みの男はそうはいないからねぇ! かっかっか! 強引だろうとなんだろうと全力で手に入れてやるさね! だがもしそこのバカ娘が小さすぎて嫌ならこのあたしと結婚しようかい? 人妻のテクニックを味合わせるっつぅ約束もまだだったしねぇ。どうだい影龍の? こんなおばさんで良かったら貰ってくれないかねぇ?」

 

 

 ヤバイ。俺を見つめてくる目がマジだ……獰猛な肉食獣の目をしていらっしゃいますよ!? うわぁ、どこで間違ったんだろう……どう考えても四季音姉を眷属にした時から間違ってますね! 知ってた! でもこれってどう反応すれば良いんだろうなぁ! 横を見れば「分かっているよね」と言いたそうな怖い目で見つめてくる少女趣味な鬼さんがいるし、背後からは「悪魔さん♪」とか「ノワール君」とか「私と結婚しよう」とか言葉を出さずとも視線で訴えかけてくる方々がいるしさ! マジでどうしよう……四季音妹とグラムだけが一応、無害と言えば無害だが母親の芹も寧音と同じっぽいんだよなぁ……鬼って怖い! あと犬月、助けろ。俺のパシリだろ? 何とかしろよ!

 

 

「母様……ホント、本当にいい加減にしてよ! 恥ずかしいんだよ! なんで娘の……その、兎に角! ノワールはダメだかんね! ノワールも本気にしたらぶん殴るよ!」

 

「なんだいつまらないねぇ。奪われそうになったら逆に奪い返すぐらいの勢いは見せなっての。本当にどこで育て方を間違ったのやらだ。芹、子育てっつぅのは大変だよ」

 

「当然ですよ。うふふ、お久しぶりです。貴方様のご活躍は鬼の里まで聞き届いております。長い道のりでお疲れではありませんか? もしよろしければ別室でお休みになられても構いませんよ? 勿論、ご一緒に……うふふ」

 

 

 今まであらあらうふふみたいな感じで鬼の頭領の隣で笑顔で立っていた四季音妹の母親が近づいてきて俺の傍に座り始めた。なんか……距離が近い。あとおっぱいデカい! 寧音が着ているような改造和服じゃなくて普通の和服だけど凄く自己主張していますね! うわぁ、良い匂い。これが……人妻! なんという魅惑の属性なんだろうか! 最高だな! とりあえず俺の隣にいる四季音姉のおっぱいを見て、芹のおっぱいを見る。ヤダ、何故か分からないけど涙が出そう! しかし母親がこれだと四季音妹も遺伝的な意味できっとこれぐらいには成長するはずだよな……ますます涙が出そうだ! 頑張れ四季音姉、負けるな四季音姉。

 

 そして別室に連れて行ってナニをするつもりですかねぇ? 怖い怖い!? マジで此処の人妻な鬼さんが怖い! なんでこんなに肉食なんですかというか手を握らないでください期待してしまいます!

 

 

「……水無瀬先生」

 

「……なんでしょうか、志保ちゃん?」

 

「――鬼さんはライバルです! 志保、もっと頑張ります!」

 

「……その頑張りはどの方向に向けてなのか凄く興味がありますが……でも、その通りかもしれません。ノワール君がモテるのは知ってましたが、人妻まで守備範囲だったなんて……! うぅ、また、また……ラッキースケベイベントが遠のいていく……これが私の不幸なんですね……!」

 

 

 むしろそれを望んでいる女ってお前と平家ぐらいだぞ。あと水無瀬……これだけは言っておこう! 人妻が嫌いな男はいねぇよ!てかそもそも俺だって今はお断りしたいんだよ! 夜空を抱いてないし! まだ童貞だし! 夜空とイチャイチャしてからなら問題無いが今はダメだから本当にお断りしたいんだよ! だから助けてくださいお願いします!

 

 

「……あーと、あれだ、まだ若いし! 鍛えてるから全然余裕なんで大丈夫ですよ! はい! てかあの、距離が近くありません?」

 

「嫌でしたか?」

 

「いえむしろもっと近くに来ても――ハイ! ゴメンナサイ! ジョウダンデス!」

 

 

 やべぇ、四季音姉と平家の目が怖すぎるんですけど? 目の前にいる寧音や芹は凄く楽しそう笑みをしてるのが物凄く鬼らしいね! さてと……まぁ、そろそろお遊びは終わりにしとこうか。隠れて俺達を観察している奴らも相手してやらないと色々と面倒そうだ。はぁ……なんで鬼の里にいるんだろうなぁ? お前らが暮らす地域は別だろうが! 相手するの面倒なんだからさっさと帰ってくれません? 無理ですよね! 知ってます!

 

 

「……頭領。四季音姉弄りはこれぐらいにしてそろそろ今後の予定について話し合いたい。出来れば他の奴らは席を外させてもらえたらありがたい」

 

「構わないさ。芹、客人を部屋まで案内しな。持ってきた荷物類は既に運んでるから場所を教えるだけで良いよ」

 

「分かりました。では伊吹様、イバラ、他の皆さんも私に付いてきてください。お部屋までご案内します」

 

「ノワール」

 

「分かってる。お前は特訓の事だけ考えてろ」

 

「分かった」

 

 

 既に隠れている連中に気づいている平家に気にするなと伝えると既にどうでも良いという様子で返してきた。流石に気配を消しても覚妖怪の読心を防ぐことは出来ねぇか……いやそれ以前に東の大将の能力すら効かないって恐ろしいなおい。俺の……いや相棒の傍に居続けた影響かねぇ? まぁ、俺的にはどうでも良いけど。覚妖怪だろうが平家は平家だしな。

 

 芹の後を追う様に犬月達はこの部屋から出ていく。この場に居るのは俺と寧音と隠れている連中だけだ……はぁ、めんどくせぇ。なんだって鬼の里に来てまでテメェらの相手をしないといけないんだよ? こっちは寧音とか芹との殺し合いを楽しみにしてるんだから邪魔すんじゃねぇっての。

 

 

「気づいてたのかい」

 

「とーぜんだ。部屋に入ってすぐに分かるっての……居るんだろ――東の大将」

 

 

 俺の問いに答えるように空間が歪み始め、誰も居なかった場所に着物姿をした後頭部が長い爺さんが現れた。その表情は子供のように楽しそうな笑みをしているのがなんかムカつく……すっげぇ殺してぇ!

 

 

「カッカッカ。やっぱりテメェには俺の能力は効かねぇみてぇだなぁ。これでもひっさしぶりに全力を出してみたってのによぉ」

 

「うちの覚妖怪にすらバレる全力ってちょっとヤバいぞ? てか隠すんならもっと違和感なく隠せよ? 一部分だけ違和感が無いから丸分かりだっての」

 

「違和感が無いのが違和感ってかぁ? やれやれ、もうちっと真面目にやっとくべきか。寧音、わりぃな。こっちの我儘を聞いてもらってよ」

 

「良いさね。東の御大将には昔、世話になったからね。若輩者のあたしにとっちゃこれぐらいは苦にならないさ。さて影龍の、悪かったねぇ。(しもべ)を連れて来いって言った理由はこれさ」

 

「これさって言われても分かんねぇっての。何? 東の大将、ぬらりひょんともあろう人物がこんな弱小眷属を鍛えるってか?」

 

「厳密にはちげぇが概ねそんなもんだ。影龍王眷属って言えば妖怪の間じゃ有名だしなぁ。此処で恩を売っておくのも悪かねぇって思っただけよ。カッカッカ! なに、悪い様にはしねぇってのは約束してやらぁ。下手に手を出せばこっちの勢力が消されちまうしな」

 

 

 おいおいマジかよ……ぬらりひょんが率いる妖怪が犬月達を鍛える? うわぁ、裏がありそうで怖い。てか厳密には違うって言ってるから裏があることは確定じゃねぇか! 断りてぇ……! 断りてぇけどチャンスと言えばチャンスなのも事実だ。ぬらりひょんと言えば東の妖怪を率いているほどの大妖怪、配下の妖怪達は八坂の姫や寧音達には及ばなくても長生きしているから実戦経験も多いはずだ……だから経験がまだ浅い犬月達を鍛えるならこれ以上ない申し出だろう。裏があるのは気になるがまぁ、良いか。仮にこのジジイが犬月達に何かしたら東の勢力に喧嘩を売って殺せばいいし。

 

 でもあーだこーだ言ってもこの申し出を断る事なんて出来ないけどね。さっきの寧音の言葉から推測になるがぬらりひょん側からかなりの我儘を言われたんだろう……それを断ると寧音の顔が立たない。こっちの我儘を聞いてもらってるのに他の我儘を断るとか流石に出来ねぇよなぁ……これが仕事をしない魔王共だったら余裕でするけどね! はぁ……マジでめんどくせぇが仕方ない! いやー仕方ないよね! 俺の我儘も聞いてもらってるんだしこれぐらいは我慢しないとダメだよなー! 決して! 決して! ぬらりひょんとも殺し合ってみたいとかそんな不純な動機じゃないからな! あくまで寧音の顔を立てるだけだ! 誰に言ってるかと言われたら別の場所で心を読んでいるであろうお前に言っているんだよ平家!

 

 

「……はぁ。東の大将に言われたら断れるわけないだろ? こっちはただの混血悪魔が率いてる眷属だぜ? 文句はあれど受けるしか出来ねぇだろ。ただ先に言っておくが――あいつらに手を出したら戦争するからそれだけは覚えておけよ」

 

「肝に銘じておくぜ。カッカッカ! やっぱりテメェは悪魔にしとくのがもったいねぇ! 妖怪はテメェみたいな分かりやすい奴は大好きだしよぉ。寧音、しばらくは滞在させてもらうぜ。宿代ぐれぇは出すから安心しろや。久しぶりに鬼が作る酒っつうのを味わいてぇしよぉ」

 

「そうしてくれるとありがたいねぇ。鬼の世界でも不景気ってのがあるさね、ドンドン金を落としても文句は言わないよ。さて、影龍の。アンタの相手は私と芹、僕の相手はあたしの配下の鬼と東の御大将達がしてくれるよ。かっかっか! こっちは楽しみにしてたんだ! 人妻の欲求ってのは底が無いからねぇ! 気持ちよくしてやるさね!」

 

「こっちとしても新しい能力の特訓が出来るからありがたいさ。まぁ、死んだり廃人になったらゴメンとだけは言っておく。んじゃ、そろそろ始めたいんだが……相手は誰だ?」

 

「芹さ。珍しく一番手にさせてくれって五月蠅くてねぇ。気をつけな、影龍の。芹はあたしの右腕であり茨木童子、そんじょそこらの雑魚とは比べられないほど強いことは断言してやるさね。なんせあたしがいなかったら鬼の頭領は芹だったからねぇ。さっきまでののほほんっとした雰囲気に騙されて油断してると簡単に殺されるよ」

 

 

 ニヤリとした笑みを浮かべながら寧音から忠告を受けるが……マジかぁ! 鬼の頭領が直々に断言するほどの強さとかテンション上がってきたわ! 魔獣騒動での戦いを見てたからかなり強いのが分かってる……けど寧音がハッキリと頭領になれると断言するってことは本当にヤバいんだろうな! 滅茶苦茶楽しそうじゃねぇか!! 何回死ぬんだろうな! 何回殺されるんだろうな! ゼハハハハハハ! 鬼の里に来てよかったぁ!

 

 心の中で歓喜しつつ、寧音とぬらりひょんが何かを企んでいる表情を無視して芹が待っている場所へと向かう。場所はこの前、寧音と殺し合った荒野……確か鬼の遊び場だったか? 前と同じく色々と争った跡が残りまくっているがちょっとヤバいかもしれない……! 俺の目の前には身の丈以上ある大剣を携え、寧音が着ているような動きやすさ重視の改造和服に身を包んだ芹が待っていた。その表情はにこやかな笑みを浮かべているが瞳の奥からは先ほどまでとは比べ物にならないほどの殺意が感じられる……ゼハハハハハ! マジで面白れぇ! 面白すぎて笑みを浮かべちまうな! 芹から発せられる威圧感が尋常じゃねぇ! さっきまでのあらあらうふふみたいな感じの雰囲気はどこへ行ったのか教えてほしいぐらいだ! あと個人的に改造和服に身を包んでいるおかげで見えるおっぱいの大きさと美しい太ももが素晴らしいです! なんというかエロい! 流石人妻!

 

 

「お待ちしておりました。寧音に我儘を言い、貴方様のお相手を務めさせてもらえるようにしていただきました。こんなおばさんが相手でごめんなさいね」

 

「あっ! 俺は年とか全然気にしてないんで大丈夫です! こっちこそ待たせて悪かった……それじゃあ、殺るか」

 

「――えぇ。殺りましょう! 胸が熱く、心が躍る、そんな楽しい殺し合いを!」

 

 

 即座に通常の鎧を纏い、芹と向かい合う。相対するだけでもかなりの実力者だってのが伝わってくる……これが長生きしている妖怪、力の塊である鬼か! 寧音の忠告通り、さっきまでの空気のままでいると簡単に殺されかねない……それほどまでの威圧感だ。得物である大剣は叩き割ることを追求したように刃が太い……というよりも普通に使ったら鈍器に早変わりするだろう。仕方ねぇ! 偶には使ってやらねぇと五月蠅いから使ってやるかねぇ? ゼハハハハハ! 剣には剣をってな!

 

 

「楽しい殺し合いをご所望ならこっちも使ってやるよ! カモン! チョロイン!」

 

 

 魔法陣を展開してグラムを呼び出す。いきなり呼び出したというのにその表情は分かっていたと言わんばかりに嗤っていた。なんだよ……嬉しそうじゃねぇか?

 

 

『我がおウよ! ヨんだナ! ワれらをよンだな! 敵はおニ! 相手にとッて不足はナし! みせテやロウ! 我ラの力ヲ!!』

 

 

 歓喜の声を上げたグラムはそのまま剣の姿へと変わる。それを握りしめると醜悪な呪いが俺の腕へと纏わりつき、体の方へと流れ込んできた……ゼハハハハハ! 楽しそうじゃねぇかグラムぅ! なんだよなんだよ! 俺と同じで楽し過ぎてテンション上がってんじゃねぇか! なんで分かってたとかは聞かねぇでやるから思う存分! 俺を呪ってこい! その全てを受け止めてやるからよぉ!!

 

 

「魔剣グラム……これほどの呪いを受け止めるなんてやはり貴方様はお強いですね――では、参ります!」

 

 

 芹が大剣を握りしめて一歩、前へと出た。たった一歩と言えど鬼の脚力は悪魔とは比べられないほどの力があるから一瞬で俺の前へとやってこれる。身の丈以上はある大剣を鬼の腕力で振るってきたのでグラムを強く握りしめて応戦すると俺達の周囲が衝撃で吹き飛んだ……げぇ!? なんだよ……! このパワー!!

 

 

「あぁ、受け止められるなんて寧音以来……嬉しいですわ! こんな、こんな若い子に受け止められるなんて!!」

 

「ゼハハハハハハ! 残念だがこの程度を受け止めきれねぇと夜空に勝てないんでなぁ! 大剣ごと切り刻んでやらぁ!」

 

「では魔剣ごと貴方様を叩き割って見せましょう! 鬼の攻めは激しいとその身に刻んでもらいます!」

 

「だったら若い男の攻めは激しいってその体に叩き込んでやるよ! せりぃ!!」

 

 

 グラムの刃で受けていた大剣を弾き、影人形を生成してラッシュを放つが力任せに腕を振るい、周囲の地形ごと影人形を吹き飛ばされる。その勢いのまま芹は笑みを浮かべたまま再度俺へと接近して大剣を振り下ろしてくる……ルーンと北欧の魔術、相棒の影で防御力を底上げしてるって言うのに簡単に叩き割りやがったよこの人! でもなぁ! まだまだ硬くなるんだよぉ! 一回壊した程度で良い気になってんじゃねぇ!

 

 迫りくる極太の刃を影人形で白羽取り。受け止めた衝撃で俺の真下の地面が抉れるが関係ない! 動きが止まった一瞬を狙って別の影人形を生成して大剣を握りしめている腕を殴る……ゼハハハハ! まず一発! さてとこれで第一段階はクリアだ……感じさせてやるよ! 影龍王が与える痛みってのをなぁ!

 

 

「また受け止められた……それに腕も殴られた……あぁ、なんて素敵なんでしょう! 楽しい! タノシイィ!」

 

 

 芹は白羽取りをしている影人形を殴り、歓喜に染まった表情のまま大剣を振るうべく体勢を整える――が俺の鎧からとある音声が鳴り響くとその表情を歪ませる……流石の鬼でも痛いよなぁ!

 

 

「ゼハハハハハハ! 悪いがさっき与えた一発で発動条件は満たしてんだよ! ほら、耐えれるもんなら耐えてみろよ!」

 

『PainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPain!!!』

 

「くっ、ぁ、ぁああああぁああ!?!?」

 

 

 先ほど影人形でダメージを与えた腕が痛むのか芹は勢いを止めた。痛いよな? でもこれが聖書の神によって封じられていた相棒の力――苦痛と称される能力だ! たとえ鬼でも得物を振るう腕に強烈な痛みが走れば歩みを止めるか……この力の恐ろしい所は「俺がダメージを与えれば」良いだけで相手の動きを制限できることだ。生前の相棒はこの力で素早い相手の動きを止め、身動きが出来ない状態で自分が生み出す影に触れさせて力を奪い取っていた。誰だって痛いのは嫌だろう、誰だって苦しいのは嫌だろう、誰だって痛みから逃れたいと思うだろう。助けてくれと頭を下げてくる相手を相棒は嗤いながら殺して楽しんでいた……流石邪龍。でもこうして考えるとドМの奴らが良く言う痛いの大好きとか意味が分からない……真の痛みってのはそんなことすら考えられないと思うしさ! あっ、俺は相手が夜空だったらいつでもウェルカムです! ドンドン来て良いぞ!

 

 音声を鳴り響かせながらグラムを強く握り、痛みに悶える芹へと影龍破を放つ。醜悪な呪いの波動が地面を切り刻みながら芹へと向かって行く――が雄叫びを上げ、その身から異常な妖力を放出しながらながら大剣を振るった芹により影龍破はその勢いを止められた。はぁ? おいおいマジで……? 最大出力じゃなかったとはいえたった一振りで粉砕とかちょっと意味が分かんねぇ! 苦痛の能力を使ってるから巨大なハンマーで腕を潰されるぐらいの痛みが走ってるはずだぞ……あぁ、なるほどね! これが鬼か!

 

 

「アァ、アァ、ァァアアアアッ!! タノシイィ! タノシイワ! 寧音との戦いが羨ましかった! 味わってみたかった! 貴方様……ごめんなさいね。はしたない姿を見せますけど――タノシマセテモラウワネ」

 

 

 周囲を焦がすほどの妖力を垂れ流しながら俺を見つてくる芹は嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

「かっかっか! 久しぶりに見たねぇ! 芹があの状態になるなんてよっぽどさね!」

 

 

 パンパンと自分の膝を叩きながら爆笑しているのは鬼の頭領であり酒飲みの実の母親だ。桜色の髪に直視するのがちょっと出来ないぐらい太ももを露出させながら笑ってるからチラチラとパンツが見えそうで見えない状態が続いている……王様じゃないけどこれは見ますね! 見ちゃいますね! これが酒飲みの親って嘘じゃねぇかな? だって若すぎだろ……いや俺達の世界じゃ見た目と年が違う事はよくあるとはいえここまで性格が違うと親子なのかどうか疑いが出てくる。

 

 まぁ、それはそれとして現在進行形で俺達の目の前で行われている殺し合いが酷い件について。茨木童子の母親と王様が殺し合うってのを聞いた時はやっぱりかとは思ったけど……あの、周囲に轟音と地響きが鳴り響いてるんすけど大丈夫っすかね? 山とか崩壊しそうですけどその辺とかマジで大丈夫っすか!?

 

 

「あんな母様は見た事が無い。初めて見た。笑ってる。楽しそうに笑っている」

 

「私も初めて見たよ……いつも落ち着いてるからちょっと驚いてる。母様? ちょっと説明してくれないかい?」

 

「あぁ、そういえばあたしが頭領になってからはあの姿を見せて無かったねぇ。説明も何もあれが芹の本性さね。人一倍……いや鬼一倍かい? 昔っから自分の全力を叩き込める戦いを欲してたのさ。でもあたしが頭領になって生まれ持った欲を封じ、さらに娘が生まれてからは完全に心の奥底まで封印してたんだがねぇ……どうも我慢できなくなったようだね。かっかっか! 我慢は毒ともいうし影龍のには悪いけど最後まで付き合ってもらおうか! あの状態になった芹はそう簡単には潰れないしねぇ!」

 

 

 デショウネ! だって俺達の視線の先で歓喜の声を上げながら大剣を振るってる茨木童子の母親と同じように高笑いしている王様がぶつかり合ってるし! 王様も楽しんでんなぁ……俺だったら最初の一撃で終わってるってのにうちの王様は簡単に受け止めるんだもんな。勝てねぇ……勝てねぇけどきっと追いついてやる! そんで楽しかったって言わせたい! そのためにもっと強くならねぇとな!

 

 

「……うん。あの姿を見ると祈里が娘だって良く分かるね。似すぎだよ」

 

「分からない。母様と私はあまり似てない。私は考えるのが苦手、母様は得意。だから似てない」

 

「性格は似てないけど根っこは似てるんだよ。妖力の気質もそっくりだしね。まぁ、これは花恋も同じだけど」

 

「にしし! そりゃぁ母様の娘だしね、さてと! ノワールが楽しんでるのに私達が黙って見てるわけにはいかないね! さぁ、母様……この間の続きといこうじゃないか! あと、ノワールを誘惑したからちょっと殴らせてくれないかい?」

 

「ハッ! 良い男が目の前に居て抱きにもいかず、抱かれてもいないバカ娘が言うじゃないかい。良いさね、次期頭領として教えたい事が山ほどあるんだ。言われなくたって付き合ってやるさね。イバラ、アンタもバカ娘と一緒に鍛えてやるからこっちに来な」

 

「分かった。伊吹と一緒に頑張る。寧音様を倒す!」

 

「言うじゃないかい! かっかっか! 場所を変えるよ、由緒正しい場所で二人纏めて相手してやるよ」

 

 

 酒飲みの母親は酒飲みと茨木童子を連れてこの場所から去って行く。さてと……俺もそろそろ始めるとするか! 百人組手ならぬ百人喧嘩! 酒飲みの母親の配下達と朝から晩まで喧嘩するだけ! どこまで強くなるかなんて自分次第だ……諦めねぇし逃げもしねぇ! 王様を殺すためなら痛いのだって我慢してやらぁ!

 

 

「パシリも花恋も祈里もやる気満々。しゃーない、ノワールの能力のせいで気持ち悪いけどがんばろーっと。恵、志保、先に行ってるね」

 

「えぇ。でも早織……相手はぬらりひょん様なんですから、その、あまり失礼なことはしないようにお願いしますね……! 下手をすると大変な事になりますから! 特にノワール君がノリノリで戦争とか始めちゃいますから!」

 

「善処する」

 

 

 そういや引きこもりの特訓相手ってあのぬらりひょんだったっけ……東の妖怪を束ねてる大妖怪が直々に鍛えるってすげぇよな。王様の兵士になってからはびっくりすることが多くて困る……けどその分楽しいから問題無し! 引きこもりに負けてられるか! 水無せんせーとしほりんは妖術を学ぶんだったっけか? 絶対に似合うと思う! うん! 王様もきっと同じことを言うだろうなぁ……基本的に楽しかったらそれで良い人だしさ。

 

 再び王様達へと視線を向ける。無数の影人形を相手に身の丈以上の大剣を振るい、周囲諸共なぎ倒していく茨木童子の母親と悪の親玉みたいな高笑いを上げている王様が楽しそうに殺し合っている。確か新しく発現した能力って王様が与える痛みが倍増するんだったっけ……さっきからダメージを受けて能力も発動してるはずなのに怯むどころかさらに勢いを増すって頭おかしい……俺なら死んでる。余裕で死んでる! だって

引きこもり曰く「痛覚が無くなった奴ですら痛みを感じさせれる」とか言ってたしなぁ……マジで頭おかしい。流石邪龍! 邪悪すぎて敵にしか見えません!

 

 

「犬月さん! 頑張ってください! 志保、応援してます♪」

 

「うっす! しほりんや水無せんせーも頑張ってくださいよ! 犬月瞬! 全力で男を磨いてきます!」

 

「はい。瞬君も頑張ってくださいね」

 

 

 よし! 我がキマリス眷属が誇る二大天使の声援もあったから気合十分! いつでもOKだ! 何回倒れるかなぁ! 何回地べたを這いずることになるかなぁ! 何回鬼の力で叩きのめされるんだと考えるだけでワクワクしてくる……何度だって立ち上がってやる! 何度だって挑んでやる! 俺が誇れるのは諦めの悪さだけだしな! 鬼相手だって怯まずに向かってやる!

 

 

「……王様、絶対に強くなりますからね。もっと、もっともっと強くなって楽しませて見せますよ」

 

 

 それが俺が出来る唯一の恩返しだからな!




鬼とぬらりひょんによる強化合宿が始まります。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

91話

「ちっ! タフ過ぎんだろ!!」

 

『流石鬼だなぁ! 俺様の能力を受けてもなお向かってくるか! ゼハハハハハハハハハッ! さいっこうに狂ってんじゃねぇかよぉ! 俺様! すっげぇテンションが上がってくるぜ!』

 

「それに関しては同意見だ! 滅茶苦茶楽しい!! すっげぇ楽しい!!」

 

 

 グラムを振るい、周囲を切り刻む斬撃を放つも目の前にいる鬼は手に持つ大剣で粉砕してくる。殺し合いを始めてから何時間経過したか分からないがタフすぎる……! さっきから影人形の拳なりグラムの斬撃なりでダメージを与えては「苦痛」の能力を発動して痛みを跳ね上げてるってのに一向に止まる気配が無い! しかも気のせいか放出している妖力が上がり続けてる気がするぞ……ただでさえ周囲が焦げそうなぐらい濃い妖力だってのにさらに上がるとか悪夢でしかねぇなおい! 個人的には良いぞもっとやれって感じだけどさ!

 

 

「たくっ、なんで鬼勢力を率いてないんだってレベルで強いな! 鬼の頭領になりたいとか思わなかったのかよ!」

 

「興味がありませんでしたから! それに私は貴方様や寧音のように軍勢を率いるカリスマを持ってはいません……ですのでこれで良いのです!」

 

「そうかよ! 俺としてはどっちでも良いけどな! シャドールゥ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 迫りくる災害(せり)を迎え撃つため影を生み出し、周囲全てを黒く染め上げる。そこからいつもの様に影人形を生成して芹へと向かわせるが雄叫びと共に振るわれる大剣の威力によって薙ぎ倒されていく……完全には破壊されてはいないが半壊状態か、マジで威力あり過ぎるだろ……! まぁ、何度も胴体を切断されたり腕を潰されたりしたから知ってるけどね! 四季音妹の妖魔放出ってわけじゃないが素のスペックが桁違い過ぎるな……握力だけで自慢の影人形が引き千切られた時は唖然としたし今も妖力を大剣に纏わせて周囲全てを吹き飛ばしてる光景には言葉も出ない。しかも全身から血を流してるってのに笑みを浮かべてるんだから恐ろしいわ! キャー鬼さん素敵ー! もっと殺し合おうぜー!

 

 そんな大事なことは今は置いておいて殺し合いに集中しないとな。痛みを倍増させても止まるどころか勢いが増す相手ってのはマジで戦い難い……! 足に力を入れたタイミングで能力を発動させても止まらないし、攻撃のタイミングで発動してもまた同じ。普通なら異常な痛みで動きが止まるはずだってのにこの人は全然止まらないんだもんな! ついでに言えばさっきから力を奪い取ってるってのに水が湧いてくるように妖力が絶えず放出されてるし……本当にどうすっかなぁ!

 

 

「あぁ、あぁ、アァ! 潰しても潰しても虫のように湧いてくるなんて! 全力を出しても壊れない相手が目の前にいるなんて! 今まで我慢していましたけど今日だけは! いえ貴方様が帰るまで私を曝け出しましょう! もっと、モットモットォ! 殺し合いましょう!」

 

「……ホント、四季音妹とそっくりだなぁおい! 良いぜ! こっちはまだ能力を完全に操りきれてないんでな! 最後まで付き合ってもらうぞ!」

 

「えぇ! お付き合いいたしましょう!!」

 

 

 俺から距離を取り、大剣に妖力を集め始めた芹に再び苦痛の能力を発動。一度でも俺がダメージを与えていればたとえ離れていても痛みを与えることができる……まるで呪いのようだな。でもこれを行っても目の前にいる鬼は止まる気配が無い……なら正面から受けて立つまでだ! おいグラム……もっと気合を入れやがれ! 相手は簡単には潰れない最上級の鬼だ! 望んでいたんだろう? 殺したいんだろう! だったらもっと俺を呪ってこい!! 受けてやる……お前の願いを! お前の望みを! 覇王の剣なら目の前にいる災害を切り刻んで見せろ!!

 

 

 ――我が王よ! 我らが力を見せてやろう! 我らは覇王の剣、グラムなり!

 

 

 握っているグラムから放たれる異常とも言える呪いが俺の身体に広がっていく。あまりの量に、あまりの濃さに兜の中で吐血をしてしまったが止めることはしない……俺には剣の才能なんて無いし効率良く使う頭も無い! ただあるがまま受け入れるしか出来ねぇ! それの何が悪い……? コイツが自分を教えてくるなら受け止めるだけだ……もっとだ! もっともっともっと! この程度を受け入れられないなら夜空を受け止める資格なんて無い! 腕が震える……体も呪いで崩れそうだ……! だがやめるな! 魔獣騒動の時のように全力を放つ機会なんだ! 気合を入れやがれ!!

 

 

「……これほどの呪いを身に受けてもなお笑うなんて、あぁ、良いです! 私の全力を叩き込んで見せましょう! 受けてもらえますか?」

 

「美人の誘いは断らない主義なんでな! 悪いが……加減は出来ねぇぞ! 死んでも文句は言うなよ!」

 

「当然です!!」

 

 

 目の前に広がるのは焼き焦がすほど濃厚な妖力……それを大剣に纏わせて鬼の腕力で振るえば大抵の奴らなら即死するほどの威力を叩き出すだろう。あぁ、全力を出せる相手ってのは本当に大事だな……夜空を超えるにはこの程度の障害は難なく突破しないとダメだろう……やってやらぁ! 俺は邪龍だから諦めの悪さだけは自信があるぞ!!

 

 

「せりぃぃぃっ!!」

 

「アアァアアァァッ!!」

 

 

 身を滅ぼすほどの呪いを乗せた斬撃と自信が持つ全力の一撃が正面からぶつかり合う。グラムが放った斬撃によりこの空間そのものが切り刻まれていく……当然、放った俺も例外ではない。腕が、足が、顔が、体が、目が、指が、時間が経つごとに何度も切り刻まれていく。龍殺しの呪いによる斬撃は流石に死ね、死ね……るわけねぇんだよなぁ!! 耐えてやる! こんなもので俺を殺せると思ってんのかグラムゥ! まだまだ甘いんだよ!!

 

 

「……はぁ、はぁ……!」

 

『UndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndead!!!』

 

 

 グラムが放った斬撃の余波で傷ついた体を即座に再生させて一歩、また一歩と前へと歩く。周囲は土煙が酷く、歩くたびに地面が腐敗で崩れ落ちるほど脆くなっている……こりゃ、草木の一本すら生えることは無いな。ついでに言うと地面を汚染している龍殺しの呪いがヤバいだろうから鬼さん達は頑張って浄化してくれ! てか……最大出力を放ったつもりだけどまだ弱いな。この程度の威力しか出せないとか笑えてくる……此処にいる間はグラムの出力を上げる訓練でもしようかねぇ? なんだかんだでタイマンで使えるし雑魚散らしにはもってこいだしさ!

 

 そんな事を思いつつグラムを握りながら立ち止まる。俺の目の前には血だらけで倒れている芹の姿がある……全身が切り刻まれて出血が酷いが腕が吹き飛んだとかは無いらしい。どうやら大剣の一撃で軌道を逸らされたみたいだな……まぁ、その代償として得物の大剣は真っ二つに折れてるけどね。てか生きてる? まだ初日だから死なれると困るんだけど……あと四季音妹に親殺しちゃったゴメンね♪ とか言うのがめんどくさいから生きててくれないと本当に困るんだけど?

 

 

「おい、生きてるか?」

 

「……えぇ……身体が、いたいです、けども……生きております……」

 

 

 生きてるなら問題無いな! うん! 全然問題無い!

 

 

「……強いな。まさかさっきの一撃を逸らされるとは思わなかった。長生きしてる鬼ってのは誰でも出来んのかよ?」

 

「どうで、しょう……ですが、私が出来るのであれば……寧音も……出来ると、思いますよ……」

 

「だろうな。てか一回されたような気がするぞ……まぁ、良いか。とりあえず死なれると困るから戻るぞ? まだ戦いたいって言うなら付き合うけどな」

 

「……これ以上、すれば、イバラにさよならを……言わないと、ダメになりそうね……また、明日……お願いできますか……?」

 

「それはこっちのセリフだ。明日もまたお願いします」

 

 

 倒れている芹をお姫様抱っこして屋敷へと戻る。本当なら鎧を解きたかったんだが何度も切断されたり潰されたりしたからその……いつもの様に鎧の下が全裸なのでダメなんだよね! 畜生……! 金髪巨乳鬼系人妻の肌の感触とかおっぱいの柔らかさとか味わいたかった! 仕方ないから後で水無瀬のおっぱいでも揉んでおくか。

 

 そんなこんなで殺し合い一日目がどうにか終了。芹を抱えたまま屋敷に戻ると血だらけの芹を見た配下の鬼達はギャーやらイヤーやら芹様ーやら阿鼻叫喚だった……デスヨネ! だっていきなり血だらけでただいましてきたらそうなるわ。とりあえず医務室っぽい場所に連れていかれて手当てを受けるらしいけどさっきまで元気だったし死にはしないだろ……きっと大丈夫なはずだ! タブンネ!

 

 

「なぁ、グラム」

 

『どうシた我がオうよ?』

 

 

 特にやることも無いので部屋に戻って着替えた後、現在特訓中である他の面々を待つことにした。そう言えばこの部屋って前と同じか……外の景色が見えるから結構いい場所だよな。個人的には夜空と一緒に来たいね! さて、待つとは言ったもののやることが無い……暇だ。別に神器の奥底に潜って歴代思念と対話を行ったり、相棒と話をしても良いんだが偶にはコイツと話をするのも悪くないな……チラリと隣に座っているグラムを見ると部屋の雰囲気に合わせてか浴衣に着替えている。褐色肌の見た目美少女が浴衣とかレベルたけぇなおい。てかマジで似合ってるなコイツ……! これで性別グラムなんだからマジで詐欺だよなぁ!

 

 

「いや、お前の呪いを受け入れて色々とぶっ放したりしてるけどさ……過去の使用者に比べて俺ってどんな感じなんだ? 流石にドラゴンが龍殺しの呪いを受け入れるって状況はあんまりないだろうけどさ、暇だしその辺を教えてくれると助かる」

 

『フむ、我がオうは過去ノ使い手ニ比べるナらば最コうと言えよウ。ワれを使うモの、我が思い(のろい)を受けルことを拒んデいタ。たダひたすラにワが思い(のろい)を受け入れル者は我ガ王が初めてだ』

 

「ふ~ん。伝承とかじゃシグルズって奴がお前を使ってファーブニルをぶっ殺したんだろ? 流石に五大龍王の一角を呪いを受け入れずに殺すのはキツイと思うんだが……やっぱり剣技とか凄かったとかか?」

 

『否。我が生まレたのは龍をコろした時なリ。故に我がノろいを受け入れるもノはワガ王のみだ』

 

 

 グラムの膝の上に頭を置き、横になりながら話をしているが普通に太ももの感触が女のそれな件について。いや大事な話っぽいことをしてるってのにそんな感想はどうかと思うが本当に柔らかいんだよ……過去の使い手ちゃんもこんな感じだったなら奴隷にされるな! うん! 褐色肌とか普通にエロいし色々と凄い事をされたんだろうなぁ……羨ましい! 俺だって夜空に色々としたいのに出来てないんだぞ! 畜生! まぁ、そんな事は置いておいてだ……龍を殺した時に生まれたってなんだよ?

 

 このチョロイン曰く、意思のようなものは剣として作られた時にあったが本格的に覚醒したのはファーブニルをぶっ殺した時らしい。つまり作られた当初は龍殺しの呪いは無かったようだ……その状態でファーブニルを殺すって過去の英雄って夜空並みに規格外だなおい。まぁ、呪い自体はファーブニルが最後に放った呪いが原因で生まれ、そんな状態で長い間、グラムを使う存在の負の感情やら周囲の環境やら醜い部分を受け続けたことでさらに悪化……気が付けば最強の魔剣と呼ばれるようになったらしい。確かに過去の時代って活躍すれば疎まれたりするだろうし人やら魔物やらを殺してれば悪霊が憑りついてもおかしくは無いか……魔剣の世界も色々と大変だね! あとファーブニルが怖いね! 金髪シスターのパンツくんかくんかとかしてる姿からは想像できないけど昔はかなりドラゴンらしい性格だったんだろう……確か北欧の連中が蘇らせたんだっけか? だったらあの性格は復活させた奴らが植え付けた人格かもしれねぇな……下手に暴れられるよりも無害な性格にした方が色々と楽だろうし。

 

 

『我がおウよ』

 

「んぁ? なんだよ?」

 

『ワれは剣、覇オうの剣なり。ユえに我ラをもっとタヨるが良い! 我が王のてキはワれラが滅ぼそウ!!』

 

 

 ドヤ顔してるけどなんか可愛い。

 

 

「まぁ、雑魚散らしには最適だしな。面倒な時に頼らせてもらうかもしれねぇから遠慮なく呪って来いよ。ちゃんと受け入れてやるから」

 

『りょウかイした! 我らハ最強のマけンなり! 我が王のつルぎとシて存分に力を使オう!』

 

 

 この後は特に話す事も無かったのでグラムに膝枕されたまま適当に時間を潰していると平家達が特訓から戻ってきた。疲れたから膝枕希望とか言って構って構ってオーラ全開の平家を適当にあしらっていると頑張ったので褒めてくださいと同じように構って構ってオーラ全開の橘が近づいてきたので素直に頭を撫でる事にした。だってアイドルが褒めてくださいって言ってきたら褒めないとダメだろ悪魔的に? だから蹴るのだけはやめなさい! 地味に痛いんだからな!

 

 

「――あぁ~さいこう……マジで温泉最高だな」

 

 

 そんなこんなで時間は進んで夜中、俺は山の奥にある秘湯に訪れていた。屋敷の使用人や水無瀬が作った晩飯を食べた後、風呂でも入ろうかと思ったら寧音がこの場所を教えてくれたんだけど……最高だな! 山奥だから自然の景色もあるし、見上げると本当の夜空が見える。やっぱり温泉ってこんな雰囲気があってこそだよなぁ~教えてくれた寧音には感謝ものだ。この場所自体は寧音や芹といった比較的地位が上の鬼達が使用するみたいだけど現在は俺が独占中……広い温泉を独り占めとか本当に最高だわ! やっぱり日本人の血が混じってるからか温泉は嫌いじゃないんだよなぁ~てか好きです。普通に好きです。此処に夜空が居てくれたらさらに嬉しいんだが無いものねだりをしても仕方ないので諦めよう……諦めたくねぇなぁ! あと此処って男湯とか女湯で別れてないから混浴ですよね? ヤバイ、寧音や芹が乱入してきそうだ……ちょっと人妻が怖い! マジで来そうだから本気で怖い!

 

 

『俺様も温泉に入りてぇぜ! 畜生! 聖書の神め!』

 

「それ、毎回言ってないか?」

 

『おうよ! それぐらい俺様も温泉に入りてぇんだよ! 美味い酒を飲んで良い女や良い男の娘と温泉に入って交尾をする! 最高だぜぇ? 宿主様も一度味わってみると良い! 病みつきになるからよぉ!』

 

「マジかよ。だったら夜空とエッチするときに味わってみるかねぇ? てかぬらりひょんも何考えてんだよ……なんだって俺達、いや犬月達を鍛えるって話になるんだ?」

 

『宿主様は妖怪には大人気だからなぁ。繋がりを持っていてぇんだろうよ! ゼハハハハハ、それに魔法使い共を殺害しまくったことも影響してるかもしれねぇぜぇ? 自分達の勢力が同じことをされたらたまんねぇしな! ご機嫌取りって奴よ!』

 

「そんな理由だったら絶句だわ。まっ、犬月達にとっては良い経験になるだろうしやっぱり此処に来てよかったかもな」

 

『だなぁ! 今から楽しみだぜぇ! 俺様達を殺してくれるかもしれねぇからよ! ゼハハハハハハ! これだから殺し合いはやめられねぇんだ!』

 

 

 知ってる。あの殺すか殺されるか、生きるか死ぬかの瀬戸際はこれからもやめられそうにない! 今日だって芹との殺し合いは物凄く楽しかったなぁ……今日からこんな日々が続くんなら結構悪くないかもしれないね! ただいくつか文句を言わせてほしいんだけどなんで俺が寝る部屋が四季音姉妹と相部屋なんですかねぇ? 襲えと? ヤれと? 疑似的だが姉妹丼しろと? 流石鬼、直球過ぎるだろ……俺の童貞は夜空に捧げる予定だから今は無理なんだよ! だから諦めてください! 童貞を捨ててからなら余裕で抱くけどさ。しっかし一人で温泉を独占するのもなんか飽きてきたな……誰でも良いから乱入してくれないかねぇ? あっ! 覚妖怪以外でお願いします! いつも通りで新鮮さが無いからね!

 

 とか思っていると脱衣所の方から誰かが歩いてきた。えっ? マジで誰か来やがったよ……平家か? 平家だな! このタイミングで来るって言ったらアイツぐらいだし! いや待て……人妻な鬼さん二人という可能性もあるぞ! やべぇ、どうしよう……! ノワール君のノワール君が危ない気がする! てか人妻勢だったら童貞喪失の危機じゃねぇか? き、キノセイダヨナー!

 

 

「……なんだ、お前かよ」

 

「……ノワール君。その、がっかりしたような表情について詳しく説明をお願いします」

 

 

 目の前に現れたのはタオルで前を隠している水無瀬だった。うーん、警戒して損だったとはいえこうして見るとやっぱり水無瀬ってエロいよなぁ……おっぱいは形が整ってて素晴らしいし腰のくびれとか太もももガン見したいほどだ。あと腋とか腋とか腋とか! 年上お姉さんの腋って最高だと思うんだよね! だからその姿のまま腕を上げてくれたって良いんだぜ?

 

 俺が若干ガッカリしたような顔を見て何かを言いたそうな水無瀬は俺の隣へと座った。勿論、タオルを湯船に付けたらマナー違反だから俺も水無瀬も体を隠すことはしていない。混浴自体は家でも何回かしてるから見慣れてるしな……うーん、学園の男連中に知られたら殺されるんじゃねぇかな? まぁ、これに関しては一誠も同じだと思うけどね!

 

 

「説明しろったってなぁ……単に寧音か芹でも来たかって思ってたらお前だったんでガッカリしただけ、抓るな。仕方ねぇだろ? 人妻と混浴は男の夢の一つなんだよ」

 

「知りません。それに残念ですけど此処には私以外来ませんよ? 早織は花恋とお話をしてますし志保ちゃんは勉強中、祈里は芹様と仲良く談笑、寧音様もぬらりひょん様と宴会をしてますし。あと瞬君は……疲れからかもう寝てますので本当に誰も来ませんよ。あっ! え、えっと、違いますからね? 別に抜け駆けとかじゃないですから!」

 

「いや聞いてねぇし。平家と四季音姉は予想通りかよ……まっ、頑張れ頑張れってな。犬月の様子は?」

 

「既に傷などは癒えてますから明日も問題無いと思います。ただ、毎日あんな怪我をすると死んじゃうかもしれないので出来ればノワール君の口から止めて――」

 

「止めねぇよ」

 

「……ですよね。知ってます」

 

 

 俺の返答に水無瀬は困ったような表情を浮かべた。アイツが自分から進んで鬼達との喧嘩という名の特訓をしてるんだから止める理由が無い。仮に死んだとしてもそれは犬月自身が望んだことであり、それまでの存在だったってことになる……個人的には水無瀬と同じで死んでほしくはねぇけどな。だってこんな場所で死なれたら俺を殺してくれる奴が減るしさ! 今から結構楽しみにしてるんだぜ? 倒しても倒しても笑いながら立ち上がって向かってくる犬月との殺し合いをさ! だから――鬼程度は軽く倒してくれよ? 俺の飼い犬(へいし)なら余裕だろ?

 

 

「アイツが自分から向かって行った結果だ、それを俺が止める事なんざ出来ねぇよ。お前も俺と暮らしてるんだからそれぐらいは分かってんだろ? 俺は夜空が起こす事件とか夜空と殺し合うこととか夜空が死ぬこと以外には興味ねぇんだよ」

 

「お義母さんのこともですよね?」

 

「……」

 

「ず、図星だからって胸を揉まないでください……」

 

 

 べっつにー! ただ湯船に浮いているおっぱいを揉みたくなっただけだから気にしなくて良いぞー! てか隣に座った水無瀬を背後から抱きしめる形になってるけどコイツの肌ってこんなに柔らかかったか? 家ではあまり気にしてなかったがこれはヤバいな……とりあえずなんか生意気な事を言ってきたからお仕置きのために揉み続けて――はいはい、やめますよーだ。

 

 

「……あの、ノワール君?」

 

「んぁ?」

 

「か、花恋を押し倒して、キスマークを付けたのって……自分からです、よね?」

 

「……お前、いつの話をしてんだよ? それに関しては何度も説明しただろうが」

 

「だ、だって気になるじゃないですか! 説明だってはぐらかしたような感じでしたし……早織や花恋にはして、同じように一緒に居た私にもしてくれないなんてふ、不公平だと思います!」

 

「なんだよ不公平って? てかお前……酒飲んでるか?」

 

「少しだけ……で、でも酔ってはいませんよ? お酒は強い方なんです」

 

「知ってる。なぁ、水無瀬? 俺がレイチェルの使い魔になった事に嫉妬してたりすんのか? 二人っきりなんだしさっさと吐け」

 

「……す、少しだけ、良いなぁって言うのは思ってます……な、なんですかその顔は!? だ、だって皆より年上なのに年下の子に掠め取られたようで……うぅ、泣きたくもなりますよ」

 

 

 うわぁ、めんどくせぇ。別に使い魔になっただけでレイチェルと結婚したわけじゃないんだぞ? なんか知らんがフェニックス家は婚約だのなんだの言ってるような気がするけど俺は夜空一筋だからさ! お断りする予定だっての……でもまぁ、年上だって言ってもまだまだガキだよなぁ、俺もお前も。仕方ねぇなぁ……後で平家に文句言われるかもしれねぇけど大サービスだ。

 

 水無瀬の体を強く抱き、そのまま首筋にキスをする。痕が残るように強く吸い、舐める。チラリと水無瀬の様子を見てみると突然の行動に驚いてるようだ……まぁ、今まで頑張ってきたんだから黙って受け取れよ。嫌だった逃げても良いからさ。

 

 

「の、ノワール、くん……?」

 

 

 恐る恐るといった感じで振り向いた水無瀬の顔は赤かった。やっぱりコイツって良い女だよなぁ……

 

 

「……まぁ、今まで頑張ったご褒美みたいな感じだ。嫌だったか?」

 

「い、嫌では、ないですけ、ど……か、顔を見ないでください!? その、今はダメです!」

 

「そう言われると見たくな……はいはい、分かりましたよーだ。たくっ、悪魔らしく願いを叶えてやったのに恥ずかしがるとか処女かよ?」

 

「……しょじょですよぉ」

 

「知ってる。とりあえず明日からも頑張れ頑張れ。俺の僧侶なら楽に超えられるだろ?」

 

「がんばりますぅ……うぅ、恥ずかしいですね……早織に色々と言われそうです……」

 

 

 確実に言われるだろうから覚悟はしておいた方が良いぞ? さてと……なんだ、空を見上げれば綺麗な夜空が見えるし後はゆっくりと温泉を満喫しようかねぇ。

 

 

「水無瀬」

 

「な、なんですか……?」

 

「お前は、俺を殺してくれるか?」

 

「……はい。それがノワール君の望みなら」

 

「――そうか」

 

 

 あぁ、本当に良い女だよ。俺にはもったいねぇわ。




北欧がグラム作成→シグルズが所有者になる→ファーブニルコロコロ→龍殺しの呪いが生まれる→周囲の負の感情等によりさらに悪化→魔帝剣グラムと呼ばれるようになる。
大体こんな感じです。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

92話

「おいおい、そんな手で良いのかい? ほれ王手、詰みって奴だ」

 

「げぇ、またかよ……少しは若者に花を持たせるとかしろよ。何連勝するつもりだ?」

 

「そりゃ勿論、俺が満足するまでだなぁ。にしても坊主よ、良かったのか? 堕天使の長からの連絡をブツ切りなんざして後で怒られても知らねぇぞ」

 

「良いんだよ。どーせまた便利屋もどきにされかねない案件だったしな。そもそも吸血鬼の問題に関しては俺達側は全くと言って良いほど関わる理由が無いからお断り安定なんだよ」

 

「顔に面倒だって書いてるぜ」

 

「当然だろ」

 

 

 四季音姉妹の実家がある鬼の里で修行を始めてから数日が経過した今日、俺は屋敷の縁側で東の御大将ことぬらりひょんと将棋を打っていた。本当ならここ数日間の日課である寧音や芹との殺し合いを行ってる時間帯だが流石に鬼の頭領ともなると毎日殺し合いが出来るほど暇ではないらしく、今日は京都妖怪の長である八坂の姫との会談で里の外へと出てしまっている。そのため急遽暇になったわけだが……なんか物凄く嫌な予感がするのは気のせいですかねぇ? あの人妻達が何かを企んでる感じがしてすっごく怖いです! だって肉食系のお二人が話し合いとかちょっと警戒するわ! 此処で生活を始めてからも風呂に入れば偶然と言い張って四季音姉妹と芹を引き連れて乱入、一杯付き合えと言われて部屋に行けば未成年なのに酒を飲ませて意識を潰そうとしてくるのがお決まりになってる……もうね、積極的過ぎて逆に逃げたくなるわ! もう一人の人妻こと芹の方も四季音妹の生活を聞かせてほしいと部屋に呼んでくるけど同じように酒飲ませて潰そうとしてくるし……人妻の肉食っぷりがあまりにもヤバいので平家や水無瀬、橘に四季音姉妹、そしてグラムという面々と防衛という名目で一緒の部屋で寝ることになってます! 哀れ犬月、一人だけ別の部屋とかちょっと悲しいな……! 人妻の方々、うちの眷属にはもう一人童貞がいるんでそっちにも行ってあげてください! 多分だけど一瞬で食えると思いますんで本当にお願いします!

 

 まぁ、そんな事は置いておいてなんでこんな状況になっているかというと……寧音と芹が居ないので暇になったから偶には犬月達の相手でもしてやろうかなと思っていたんだが目の前にいる東の御大将がいきなり将棋しようぜ! みたいなことを言ってきたので付き合う羽目になったわけだ。勝率で言うなら普通に負けてます。というよりも一回も勝ててません! いや、違うんだよ……俺ってこの手のゲームは苦手なだけなんだよ! うん! だから負けても何も問題無いんだ! 畜生……なんで勝てねぇんだよ……! チェスではライザーに惨敗して将棋では東の御大将に惨敗とか泣けてくるな!

 

 

「生憎、俺達は吸血鬼側と関わる理由が無いし、毎回毎回メンドクサイお手伝いとかご免なんだよ。たくっ、何が悲しくて友達ですらない奴らの手伝いをしないとダメなんだって話だ……ロクに仕事もしない魔王共の特権で色々と楽してるんだしこれぐらいは自分で解決してもらわないと困るんだよ。ついでに断ったところでこっちには被害は無いしな」

 

「カッカッカ、ちげぇねぇ。ちょいとした事情があってけっこー前から赤龍帝の所にもお忍びでお邪魔してたがありゃダメだ。甘やかされてばっかで将来はダメになるだろうぜ。確かに数多くの殺し合いを潜り抜けて実力は十分にあるのは俺も保証してやる。しかしなぁ、組織の長があれやこれやってなんでもやるっつーのはいただけねぇ」

 

「それに関してはシスコンだからで解決するぜ? だってうちのトップの内、シスコンが二名、ニートが一人、良く分からんのが一人だしな。だから言うだけ無駄だよ、死ぬまで治らねぇさ」

 

「自分とこの長だろうが? 良いのかぁ、んな事を言ってよ」

 

「常日頃から言ってるからセーフセーフ。先輩……あーとグレモリー家次期当主にもハッキリと言ったこともあるしな」

 

 

 まぁ、でもここ最近は自己鍛錬とかで頑張ってるらしいけどね。前まではケルベロス相手に無双できなかったぐらい弱かったのに一誠達と一緒に特訓して実力が上がってるから今なら余裕だろう。ついでに言うと吸血鬼側との会談でも先輩なりの頑張りを見せてもらったから俺としてはこれからもその調子で頑張ってほしいというのが本音だ。ついさっきも吸血鬼の本拠地にいるアザゼルから吸血鬼勢力で厄介な事が起きたから手を貸してほしいと連絡があったけどヤダメンドイお断りしまーすって即効で切ったけどさ……赤龍帝を従えてるんならこれぐらいは自分で解決してもらわないとね。決して向かうのが面倒とか思ってない。うん全然思ってない!

 

 

「そんな事よりも御大将、そっちの事情は解決しそうなのかよ?」

 

「……何のことか分かんねぇな」

 

「惚けんな、アンタの配下共が俺達を見る目が何かを見定めてるような感じだったしな。どーせ和平絡みだろ? 大方、俺達を鍛えて恩を売るってのが建前で本音は和平を結ぶ相手である俺達の事を知る事だろ?」

 

「――なんだ、バレてたか」

 

「むしろ隠しきれてると思ってたことにビックリだっつーの。初日に厳密には違うとか言ってただろうが」

 

「カッカッカ。そりゃあれだ、思わず口が滑っちまっただけの事よ」

 

 

 目の前に座っているぬらりひょんはこりゃ参ったって感じで笑い出す。普通に考えて覚妖怪が傍に居るってのに隠し事なんて出来るわけないだろ……あと視線くらいは隠せよ。最初から何か企んでるとは思ってたから平家に確認したけどまさか和平絡みだったとはなぁ。確かに悪魔や天使、堕天使と妖怪は似て非なる存在……考え方も価値観も違うから和平を結んで同盟関係になるのは躊躇するだろう。なんせ妖怪勢力からすれば俺達悪魔勢力に自分達の同胞を玩具感覚で悪魔に転生させられたり、人に仇なす存在だから滅ぼすって感じで天界勢力からは仲間を殺されたりしてるしね。だから和平を結ぼうと言われてはい分かりました! とはならないのは考えなくても分かる。でもなぁ、俺達を観察しても意味無いと思うぞ? なんせ王の俺自身が好き勝手に生きる事を信条としてるし、ムカつく奴がいたら殺すとかも普通にするからむしろ逆効果だと思うんだよね!

 

 でもまぁ、平家からは無視しても良いって感じの事を言われたから今後も無視し続けるけどね。もし危害を加えてきたら殺せばいいだけだしさ。

 

 

「坊主の言う通りだ。俺んところも色々と厄介でよぉ。悪魔や天使達と和平を結ぶことを望んでる奴らもいれば和平を結ぶのを反対してる奴らもいる。どっちの言い分も分かるから長としては大変なんだっつー話よ。今回の一件は悪魔の中でもとびっきり頭がいかれてるって噂のキマリス眷属を見て、手合わせをして、話をして、考えが変わるかどうか確かめるためにやらせてもらったぜ。文句があるなら聞いてやるぜ、それをいう権利ぐれぇ坊主にはあるしよ」

 

「特に無いな。こっちとしても犬月達の特訓に付き合ってもらってるし組織の長としては間違った事はしてないだろ? まぁ、俺達を基準に考えたら和平反対派が増えそうだがそっちが良いなら此処にいる間は続けてくれても構わねぇよ。ただ襲ってきたら問答無用で殺すからそれだけは覚悟しておけ――勿論、此処にいる奴ら全員だけじゃなくて別の場所にいる配下の妖怪達もな」

 

「カッカッカ! その目は脅しじゃなく確実に殺るって言ってやがるな? 分かってる、何度も言うが手は出しはしねぇよ。魔法使い共を虐殺した件は俺らのところにも届いてやがるしよ。同じ目に合うかもしれねぇってんでビクついてる奴が殆どだ。だから一応は安心しておけって言っておくぜ」

 

「了解。でさぁ~話が変わるんだけどうちの騎士……えっと覚妖怪はどんな感じだ? 剣で殺し合ってんだろ? 本人に聞いても内緒とか言って教えてくれねぇんだよ」

 

「どうもなにも中々肝が据わってる女だぜ。この俺の首を遠慮なく落としに来る妖怪なんざ最近じゃいねぇしよ。剣も迷いがねぇ上、技量もあるときた。カッカッカ! 俺んところにも覚妖怪はいるがそいつらとは全然ちげぇ。実力的にも申し分がねぇ、配下に欲しいぐれぇよ。参曲の奴が教えてる二人も呑み込みがはえぇときた、全く恐ろしい奴らだぜ」

 

「やらねぇぞ?」

 

「そりゃ残念だ。ま、覚妖怪や嬢ちゃん達は坊主の下から離れるって選択肢は奴さんにはねぇだろうがよ」

 

 

 だろうな。なんせノワール君依存率ナンバーワンだし。俺としても平家が傍に居てくれれば指揮系統やらなにやらを任せられるし何より! 俺の考えを理解してくれる奴だから傍に居てくれないと困る。うーん、王が指揮しないってどうなんだって思うけどね……でも適材適所って言葉があるからきっと大丈夫だろう! 橘や水無瀬も居てくれないと色々と困るから手放したくはない……平家にはバレるだろうがこれは絶対に内緒だ!

 

 この後は適当に雑談しつつ将棋を打ち、昼飯の時間になったので広間へと向かう。ちなみに今日の昼飯()和食だ……昨日も一昨日も和食、晩飯も和食、というよりも和食しか食ってない。確かに鬼の里の雰囲気的には合ってると思うがここまで和食が続くと偶には洋食が食いたくなるね! まぁ、食う専門の俺が文句を言うのは筋違いだけども。てか言えません……! だって美味いんだもん! 白米は美味いし、味噌汁も美味いし沢庵は最高だし魚も野菜も何もかも美味すぎる……! 四季音姉から聞いた事だが力の塊とさえ言える鬼でも武力が優れない面々もいるらしい。そういった奴らは妖術に手を出したり、里全体を支えるべく農業やら建設業やらで活躍してるみたいだ。すげぇなおい、ちょっと何人かうちの領地に来ない? 歓迎するよ? ただし頻繁に地震とか衝撃とかが起きるけど問題無いよね!

 

 

「いやぁ~水無せんせー達が作った飯は相変わらず美味いっすね! あっ、おかわり良いっすか?」

 

「食い過ぎて吐くなよ?」

 

「王様……最後の晩餐になるかもしれないから今食わなきゃ何時食うんすか?」

 

「明日?」

 

「鬼に殺されて明日を迎えられないかもしれないでしょうがぁ!? 王様みたいに不死身じゃないんで痛いんすよ!? 死ぬんすよ!? なんで今も生きてるか分かんないくらいボッコボコにされてるんですよ! いや自分から望んで喧嘩してるから文句は無いし特訓を始める前に比べて妖力とか結構上がったから感謝ものだけどさ……! 金熊童子とか星熊童子とかとりあえず四天王の拳とか普通に死ねるんですよ!! もう水無せんせーが居なかったら死んでるね!」

 

「お前……鬼の四天王と殺し合いしてんのかよ? 変われよ、今日は寧音も芹も居ないから暇なんだよ」

 

「やっぱり頭おかしいわこの人。なんで笑顔になってワクワクしてんの? 気持ちは分かるけどやっぱおかしい」

 

 

 だって四天王が相手だぞ? 普通に楽しくなるに決まってんじゃねぇか! 隣に座ってる犬月は呆れ顔で自分がどれだけ幸運かを分かってないらしい。なんせ鬼の中でも四天王と称される熊童子、虎熊童子、星熊童子、金熊童子の四人に加えて腕自慢の鬼達と喧嘩三昧という名の特訓を受けてるんだぜ? 最高じゃねぇか! 妖力が上がったと言ってるがそれは間違いなさそうだな……何度も死ぬ一歩手前まで叩きのめされてもなお立ち上がり、そしてまた同じように叩きのめされることを繰り返してたら嫌でも上がるわ。四季音姉妹も毎日寧音や芹と殺し合ったり、精神修行したりしてるから同じように妖力が跳ね上がってるから爆笑ものだ。うん! 中級悪魔と下級悪魔ってレベルじゃないね!

 

 

「酒呑童子と茨木童子が中級や下級で収まるわけないよ」

 

「だよな。で? 毎日ぬらりひょんと殺し合うという幸運を味わってるお前はどうなんだよ?」

 

「言った方が良い?」

 

「いらね」

 

 

 聞かなくたって妖力が上がってる事は分かるしな。東の妖怪を束ねるあのぬらりひょんが配下に欲しいというレベルだしな……いや、その「私はノワールから離れるつもりはない」的な視線を向けなくても分かってるっての。誰にもお前は渡さねぇよ。

 

 

「……」

 

 

 若干嬉しそうに飯を食い始めたけど照れてるのか? おうおう照れてんのか平家ちゃ――いてぇ?! 横っ腹に貫手を放つんじゃねぇよ!

 

 

「……あ、あの悪魔、さん? 私も頑張ってるので褒めて、欲しいな♪」

 

「勿論褒めるに決まってるじゃないか! いやぁ、頑張ってるみたいで俺様すっごく嬉しいわー! だからお願いなんだけど今後、笑顔と一緒に破魔の霊力を出さないでほしいな! ダメ?」

 

「ダメです♪」

 

 

 流石アイドル! 笑顔が可愛い! いや、無視してたわけじゃないからな? ぬらりひょん勢力に属している猫妖怪達の教えを受けて破魔の霊力や禁手を鍛えていることは遠くから眺めていたから知ってるしな。多分だが特訓前に比べて破魔の霊力の威力は格段に上がってるだろう……師匠的な存在である参曲って猫妖怪の教えが上手いというのもあるが橘自身も犬月達に負けてられないって感じで全力で臨んでいることが大きい。水無瀬も禁手を鍛えつつ妖術を教わってテクニックタイプとして成長してるから橘と一緒に後ろは任せても大丈夫だな……まぁ、最初っから任せてるけども。

 

 てかちょっと待ってほしい……犬月も四季音姉妹も平家も橘も水無瀬も成長してる。これは素直に嬉しい! 将来殺し合うのが楽しみだな! グラムは知らん、アイツは剣だから良く分からん。そんな事はどうでも良いが……俺って成長してる? あ、あれぇ? 待った、待った! 成長してるよな……? 漆黒の鎧は使ってはいないがルーン魔術とか苦痛の能力には慣れたから今後の殺し合いでも問題無いと思う! でもこれって成長か? ただの慣れじゃね? まさかこの特訓で強くなってないのは俺だけか!? うっそだぁ! ヤバイ、ちょっとヤバいから本気を出そう……ノワール君が本気を出せばきっと成長できるはず!

 

 

「……祈里のお母さんを苦戦することなく倒してる時点で成長してるよ」

 

 

 きっとそれは攻められ続けて芹が疲れてたんだな! うん!

 

 

「そもそも夜空に勝つには寧音や芹相手でもグラム無しで殺せなきゃダメなんだよ。あのチョロインに頼ってるようじゃまだまだ弱い……アイツは俺が一歩前に進んだと思えば階段飛ばしでさらに先に進んでやがる。もっと強く、もっと先へ、もっともっと……だから今で満足してたらダメなんだよ。なんだよその顔……? まるで知ってたって言いたそうじゃねぇか?」

 

「うん。覚妖怪だもんノワールの心の中から夜のオカズまで何でも知ってるのはとーぜん」

 

「俺のオカズなんて知って何するんだよ?」

 

「知りたい?」

 

「聞いたら橘から説教されそうだから遠慮しとく」

 

 

 だって構ってもらえないことが不満なのかぷくーと頬を膨らませて俺を見つめてきてるしね! アイドルの嫉妬顔が見れるとか最高だな! まぁ、流石に放置しておくのもあれだしフォローしとこうか……決して破魔の霊力が怖いとか思ってないよ? むしろドンドン嫉妬してほしいとは思ってるけどさ! だってこの数日間、毎日平家と一緒に夜這いしに来てるしね! いやぁ、アイドルが寝間着姿で夜這いしに来るとかファンの奴らにバレたら殺されるんじゃねぇかな? とりあえずノーブラおっぱいは最高です。毎日素敵な夢を見れるぐらい柔らかいです!

 

 そんなどうでも良いかと言われたら微妙な事は置いておいて……橘と水無瀬に式の使役方法などで分からなかったら聞きに来い、暇だったら教えてやると伝えると橘はぱあぁっと笑顔になり、水無瀬も隠してるようだが普通ににやけ始めた。分かりやすいなぁおい……俺に教えてもらってもあんまり役に立ちそうにない気がするんだけどな。

 

 

「水無瀬、橘。滅多に無い機会だから張り切って特訓に励めよ。四季音姉妹もだ、お前らはうちの切り札っぽい立ち位置なんだから強くなれませんでしたとか言いやがったら……俺の前でオナニーさせるからな」

 

「ば、ばば馬鹿じゃないの!? す、するわけないじゃないかそんな恥ずかしい事!! もしそんな事を言ってきたら、ななな、殴るかんね!」

 

「主様も命令なら従う。伊吹と一緒なら嬉しい」

 

「イバラ!! しなくていいから!!」

 

「ノワール、あんまり花恋を弄ると拳が飛んでくるよ」

 

「それこそ知ってるっての……でもそれぐらいの罰ゲームは無いとダメだろうが? つーわけだ、マジでさせるから頑張れ――」

 

 

 頑張れよと言おうとした瞬間、先ほどまで青色だった空が冥界にいるような暗い空へと変わった。それだけではなく使用人達や外から聞こえていた鬼達の声が無くなり、この世界に()しか存在していないと錯覚させるぐらい静かになった。おいおいマジかよ……? こっちは楽しく昼飯食ってたってのにどこの誰だよ? この場所を治める寧音や芹はいねぇってのに厄介ごとを起こすんじゃねぇっての!

 

 

「相棒」

 

『安心しやがれ! ゼハハハハハハハ! まさか会いに来やがるとは思ってもいなかったぜ――アジ・ダハーカ!!』

 

 

 俺の手の甲から相棒の嬉しそうな声が響き渡る。広間から見える庭の地面に魔法陣が描かれ、そこから二つの影が現れる。一つは祭服を着た褐色肌の男……前に病院で会ったアポプスだ。そしてもう一つの影は――ドラゴンだった。黒い鱗と六枚の翼、そして何よりも目立つであろう三つ首がそれぞれ意思を持つように俺に……いや相棒に話しかけてくる。

 

 

『よー、会いに来たぞクロム。久しぶりと言っておこうか』

『会いに来てやったぜ☆』

『元気にしてたかコノヤロー!』

 

《食事中のところを邪魔をして申し訳ない。しかし邪龍の我らだ、多少の無礼は大目に見てほしい》

 

 

 文句を言いたくても言えるわけねぇだろ。なんせ俺もこいつらも邪龍だ、自分優先で他人の迷惑なんて考えない存在……だからあーだこーだと言うつもりは無いけどせめてあと一時間くらい経ってから来てくれませんかねぇ? まだ食ってる途中なんだよ!! つかあの時は逆鱗寸前だったから大して気にしてなかったけどこいつら……ヤバいな。強い! やべぇ、殺し合いたくなってきた!! これが邪龍の筆頭格の二体か! ゼハハハハハハ! 残ったクロウ・クルワッハにも早く会いたいぜ!

 

 

「別に文句は言うつもりはねぇよ。俺だって邪龍だ、他人の迷惑なんて関係ねぇしな。自分が良ければ問題無いだろ? さて、初めましてと言っておく……ノワール・キマリス。相棒、影の龍クロムを宿してる普通の混血悪魔だ。会えて光栄だぜ、邪龍の筆頭格さん」

 

『知っているさ。先の魔法使い虐殺の件は俺達の耳にも入っている。名乗られたのであれば名乗り返そうか、アジ・ダハーカだ』

『邪龍様だぜー!』

『よろしくー☆』

 

《先の一件では失礼をした。アポプスという、久しぶりに逆鱗を見せてもらった。中々良い演劇だった、次回は何時になるのか教えてもらいたいぐらいだ》

 

『ゼハハハハハハハ! 次があるなら特等席で見せてやるよ! アポプス、アジ・ダハーカ、何の用だぁ? ただの気まぐれでこんな大仕掛けをしてまでやってこねぇだろ?』

 

『勿論だ。此処に来たからにはちゃんとした理由がある。なぁ、クロム。俺達邪龍が蘇った事は理解しているな? でだ、人間界には古くから存在するしきたりがあるだろう? 邪龍と言えど蘇ったからにはそれを行わないのはどうかと思ってな』

『つーか暇なんだよ!』

『リゼちゃんに従うのめんどくせー!』

 

《今回は殺し合いに来たわけではない。あぁ、だがこの場で戦うというのも悪くは無い。どうだ、クロム? 久しぶりに殺し合わないか?》

 

『おいアポプス、殺るなら俺が先だ。こっちも白いのと殺し合って以来暇だしな』

『強い奴と戦いてー!』

『これこそドラゴンの本能!』

 

《アルビオンと殺し合っただけでも良いだろう。此処は譲れ、アジ・ダハーカ。過去よりクロムとは殺し合っていた仲だ、久しぶりに痛みを味わうのも悪くは無い》

 

『知らねー! 何度も戦ったんなら俺に譲れ、アポプス』

『そーだそーだ!』

『イチャつくなら後でしろ!』

 

 

 あのさぁ、なんでいきなりやってきて俺を無視して殺し合う寸前になってんだ? いや、これはあれか? 待って! 俺のために争わないで! 的な感じか!! やべぇ、俺って何時からヒロインになったんだ? とりあえずしきたり云々がちょっと気になってるから話を戻そう――殺し合うならその後でも良いしな。

 

 

「おい。殺し合うのは良いが無視するんじゃねぇよ……殺るなら俺達三人で殺し合えば良いだけじゃねぇか。で? 何やるって?」

 

『ん? あぁ、それもそうだな。いやいや、ほらなんつったっけなー? おぅ! 思い出した――同窓会しようぜ』

 

 

 いきなり何言ってんだよお前……?

 

 

「……はぁ?」

 

『人間界じゃ数年毎に会うしきたりがあんだろ? だったらやろうぜ。俺もアポプスもグレンデルもラードゥンもニーズヘッグも蘇ってる、ヴリトラの奴も意識があんだろ? じゃー久しぶりに会って話そうや。ルーマニアでリゼ公がくそったれな事をしでかすしよ、それ見て嗤ってようぜ』

『アイツむかつく!』

『殺してー!』

 

《と、ただその誘いに来ただけだ。ユニアにも伝えたが参加すると言っていた。ヴリトラの方もユニアが連れてくる手筈になっている。クロム、キミはどうだ?》

 

「あっ、参加しまーす! 絶対に参加しまーす!! 何が何でも参加します!! 相棒、良いよな? 良いよね!」

 

『当然だぜぇ! 久しぶりにグレンデルやラードゥン、ニーズヘッグに会えるんだろう? 行くしかねぇじゃねぇか!! ゼハハハハハハハハッ! テメェらにしては面白れぇ催しを考えやがったな!』

 

《偶には邪龍同士で語り合いたくもなる。我らを下に見る者共に呆れ果てているからな》

 

 

 アポプスの声的にはマジっぽいな……あーなんかどの首の声か分からんがアジ・ダハーカもリゼちゃんを嫌ってるような感じの事を言ってたしそれ関連かねぇ? まぁ、どうでも良いけど。夜空が参加するなら参加しないという選択肢は存在しないんだよ! あとついでに邪龍による同窓会とかかなり面白そうだから絶対に参加しよう! 特訓? そんなものは知らん。同窓会に誘われたんだから行かないとダメだよねー!!

 

 

『参加すんならさっさとルーマニアへ来いよ! 何だったら連れてってやろうか?』

 

「いらねぇよ。こっちで何とかするし借りとか作りたくねぇ。とりあえず即効で向かうから現地で待っててくれ……あと同窓会するのは良いけど暇になったら殺し合おうぜ。さっきからお前達と殺し合いたくてウズウズしてるしな!」

 

『ほう、良いじゃねぇのその殺気! んじゃ待ってるぜ、ノワール・キマリス、クロム。久しぶりにたんまり話そうぜ』

『殺し合っても良いぜー!』

『むしろそうしようぜ!』

 

《ではルーマニアでまた会おう》

 

 

 それを言い残してアポプスとアジ・ダハーカは龍門と思われる転移術で消え、それと同時に空が割れて先ほどまでの光景へと戻る。なるほど……さっきまでの空間自体はアジ・ダハーカ辺りが作ってたか。相棒からその手の魔法は鼻歌交じりで数百から数千は使えると聞いてたから間違いないだろう。しっかし邪龍の筆頭格がやってきて殺し合いするわけでもなく同窓会しようぜか……大丈夫かおい? 別に夜空が参加するなら文句は無いし絶対に参加させてもらうから良いんだけどさ、もっとこう、無かったか?

 

 

「――あれ、いつの間にそっちに移動したんすか?」

 

 

 広間の方から犬月の声が聞こえる。その顔はなんで移動してるんだって表情をしているがマジかよ……別空間に転移していたことすら気づかれてないってか? うわぁ、すっげぇな! 流石邪龍!

 

 

「ちょっとな。あぁ、四季音姉。悪いが出かける」

 

「別に良いけど何処へだい?」

 

 

 いや、何処って言われてもなぁ……うん、こう言うしかないわ。

 

 

「ちょっと同窓会が開かれるっぽいから参加してくる」

 

 

 俺の言葉に平家以外は「はぁ?」みたいな表情になったけど当然だよな! だっていきなり同窓会参加してくるとか頭大丈夫かってなるだろうし! でも俺は悪くないぞ? だって招待された側だからな! あとすっげぇスルーしてたけど匙君……大丈夫かな? きっといきなり変な穴に放り込まれてるような気がするけど安心してほしい! ただの同窓会だから! うん! 何も怖くないと思うから安心してくれ!!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

93話

『しっかしよぉ! こうして勢揃いすんのは何千年ぶりだぁ? ゼハハハハハハ! 昔と一切変わってねぇじゃねぇか! 少しぐれぇはイメチェンの一つはしても良いんじゃねぇか?』

 

「おいおいクロム! 一番変わってんのはテメェとユニアとヴリトラだろうが! なんだよそのナリは? ちいせぇな! 昔のテメェらとは天と地の差があるじゃね――グハハハハハハ! 気の強ぇ女は嫌いじゃねぇぜ!!」

 

「……おいこら、誰が永遠の貧乳で成長する気配が一切無いロリ体型だって? 死にてぇの……? つか死ねよグレンデル」

 

 

 時刻は夜中、場所は森の中。目の前に広がる焚火で焼かれている魚を眺めている俺の背後では合法ロリ(夜空)が光をぶっ放したり大男と殴り合いやらを繰り広げている。やれやれ……日本から遠く離れたルーマニアまでやってきたってのに落ち着いて飯も食わせてくれねぇのかよ? つーか夜空……俺と匙君を拾って此処まで転移してきて疲れすらないとか相変わらず出鱈目過ぎるだろ! 流石常日頃から世界各地やら冥界やらを散歩感覚で行ったり来たりしてるだけはある……普通の奴なら疲れ切ってるはずだしなぁ。だって今俺達が居る場所ってルーマニアの奥地、吸血鬼達が住んでいる土地だけど少し離れた場所で美味そうに魚を食ってるアジ・ダハーカが作った結界の中だぜ? その辺にいる魔法使いだったら問答無用で弾き出されて死んでるはずなのにピンピンしてるしさ! でもまぁ、あの夜空でさえ自分で作った出口を弄られて着地失敗したことは普通に驚いた。俺としては良かったけどね! だって夜空に押し倒されるとか最高だったし! 匙君? あぁ、顔面から地面に落ちてたがどうでも良いわ。

 

 

「なんだよなんだよ! ちいせぇくせにクッソ威力があるじゃねぇかよ! ベオウルフとの殺し合いを思い出すぜ! グハハハハハハッ! テメェ本当に人間か?」

 

 

 夜空と楽しそうにイチャイチャもどきをしてるのは過去に滅んだ邪龍の一体、大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)ことグレンデルだ。相棒曰く、本当の姿は巨人のようにデカい体に爪と翼、尻尾を持つドラゴンらしいんだが今は俺達と同じ人間のような姿になっている。2mは超えている身長に筋肉もりもりのガチムチ体型、深緑の色が混じった髪をオールバックにしているけど……うん、ガチの不良っていうかマフィアのボスとかしててもおかしくねぇわ。ちなみにこの姿になってる理由は燃費が良いとかではなく単に気分の問題だそうだ。

 

 

「とーぜんじゃん。この超絶美少女な夜空ちゃんが人間以外なわけねーし! てかホント、誰がエターナルロリだぁ!! ぜってぇ殺す!!」

 

 

 小さいとしか言ってないはずなのに夜空の耳にはエターナルロリやら永遠の貧乳やら成長する気配が一切ないロリ体型やらと都合が良い……のか分からんが変換されてるらしい。まぁ、昔っから自分の体形を気にしてたしなぁ……自分の発言でさえ俺が言ったように変換しやがるしな。でも夜空だから良いけどさ。

 

 というよりも夜空が操る光を浴びたり、人間以上の腕力で殴られたりしてるってのにピンピンしてるグレンデルに絶句だわ。生身の部分を龍鱗で覆っているとはいえなんで無事なわけ? いくら相棒より防御力が無いと言っても鱗の強度は高いとは聞いてた! でも夜空の光に耐えるとかちょっと意味分かんねぇ……流石邪龍! いや~夜空ちゃん? ちょっと変わってくれない? 俺も殺し合いたいんだけど!!

 

 

「もうヤダ意味分かんねぇ……帰りてぇ……なんで俺、此処に居るんだ……あぁ、そっか、夢か。夢だな……そうに決まってる……右を見ても左を見ても邪龍しかいないとかあり得ねぇ……夢だ夢。目が覚めればきっといつもの部屋だそうに決まってるいや絶対にそうだ!! 帰りてぇぇぇぇぇぇっ!!!! お願いだから帰してください! なんで拉致されたのかいまだに分かんねぇんだが!? というよりもなんで誰も止めないわけ!? 殴り合ってんだぞ!? 光が放って、はなってぇぇぇ!? キタ!? こっちに飛んできた! 地面溶けてる!! かいちょぉぉ!! かいちょぉぉぉ! 助けてくださぁぁい!!!」

 

「慌てすぎだろ? ただ殴り合ったり光が飛んできてるだけじゃねぇか……ほれ、焼き魚でも食って落ち着けよ。中々美味いぞ?」

 

「あっ、サンキュー。うん、確かに塩加減が絶妙だな……じゃなくてぇぇ!! なんで落ち着いてんの!? なんで何事も無いかのように焼き魚を食ったりジュース飲んでんの!? 馬鹿だろお前! いや、違った馬鹿だった! ヴ、ヴリトラ……もう、ダメだ……俺、会長と出来ちゃった結婚できずに死ぬんだ……せめて死ぬなら会長の膝の上で死にたかった……」

 

『……我が分身よ。強く生きろ』

 

 

 なんだか隣にいる匙君がこの世に絶望したような表情で体育座りし始めたけど大丈夫かな? 一応、足元の影から出てきたヴリトラが慰めてるけど夜空とグレンデルの喧嘩の音が響くたびに目の光がドンドン無くなってるが気のせいだな! だってこんなに楽しい同窓会が楽しめないとか邪龍として恥ずかしいと思うしさ!

 

 

「おいおい、ウルセェぞ。飯の時ぐらいは静かに出来ねぇのか?」

「無理無理」

「アイツらにそんなこと考える事なんて出来ねぇ出来ねぇ」

 

 

 魔法で宙に浮かせた焼き魚を食べながらケラケラと笑っているのはこの空間を作り出した張本人、アジ・ダハーカだ。魔法使いが着るような偉そうなローブを纏った黒髪のイケメン、ただし両手はデフォルメされたドラゴンっぽいぬいぐるみという若干引くような感じになっている……腹話術の真似事か? 確かに3本の首があったけど人間に変化してまでそれを意識するとは思わなかったね!

 

 

《これが我らだろう。自分の都合を優先し、他人の事情など無視する。ヴリトラの宿主はこの手の状況には慣れていないようですがその点、クロムの宿主は流石だ。動揺すらしないとはこの手の状況には慣れているらしい》

 

「常日頃から夜空と殺し合ってるしなぁ。今更この程度で驚くわけねぇっての……アポプス、そっちにあるリンゴくれ」

 

《どうぞ》

 

「サンキュー」

 

「……なんで馴染んでるんだよぉぉっ!!」

 

『今更であろう。しかし、クロムから聞かされていたとはいえ本当に蘇っていたとはな……まさか再び貴様らを目にし、言葉を交わすとは思わなかった』

 

《それはこちらも同じだ、ヴリトラ。既に滅ぼされた私達がこのように集まり、言葉を交わすなど本来ではありえない。しかしこの状況に関しては聖書の神に感謝を示しても良いかもしれない。あの聖杯があったからこそ私達は蘇る事が出来たのだから》

 

「お、おでは、ち、ちちちがうけど、な! それよりもも、もっど食いてぇよ! く、くろ、クロムぅ! ご、ごれぐっても良いがぁ……?」

 

「ん? 別に良いぞ。そもそも同窓会に参加するのに手ぶらで来たらあれかって感じで持ってきただけだし。ニーズヘッグ、お前も夜空に負けずによく食うなぁ?」

 

「ぎ、ギヒヒ! お、俺、俺! 食うの好きなんだ! おめぇ、良い奴だなぁ……こ、こんなに優しくされたの、は、はじめでだぁ……」

 

 

 怯えるように丸くなりながら手に持っているキマリス領産の果物に嚙り付いているのは外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)と呼ばれているニーズヘッグ。本来は黒の鱗を持つ蛇のような姿らしいがコイツもアジ・ダハーカやグレンデル、アポプスと同じように人間体になっている……がイケメンじゃない。デ、ふ、ふくよかな体型で髪もぼさぼさ、ついでに口臭がヤバい。世界中の女性達が口を揃えてキモイとか言って笑う事は間違いないだろう……も、もっと違う姿になれなかったのか? 流石の俺でも出会い頭に夜空からくせぇって言われて蹴られたところを見たら虐める事なんて出来るわけがありません! ただし夜空に近づいて変な事をしたら問答無用でぶっ殺すんでそのつもりでいろよ?

 

 そんな事を思いながら美味そうに果物を食べるニーズヘッグを見ていると体に重みを感じた……俺の頬にもちもちすべすべと素晴らしい感触があるから夜空が肩に座ったんだろう……舐めたい。凄く舐めたい……腋を舐めたいけど太ももでも良い! てか殺し合いが終わったのか?

 

 

「むっかつくぅ!! マジで死ねよテメェ! この夜空ちゃんを絶対成長しない貧相な体とか言いやがって本気で許せねぇ! こーろしたーいー!! ちょっとノワール! なに無視してんのさ! ひっさしぶりに共闘してグレンデル殺そうよ!」

 

「アホか……んな事したらこの空間がぶっ壊れるわ。飯食ってからならグレンデル殺すの手伝ってやるよ」

 

「グハハハハハハ! 良いぜ! ホ〇のクロムにビッチのユニア! 久しぶりにテメェらと殺し合うのも悪くねぇ! おい、ラードゥン! テメェは邪魔すんじゃねぇぞ! もし割り込んできやがったらぶっ殺すからな!」

 

「それは無理な話ですよグレンデル。私も貴方も邪龍、目の前で楽しい戦いが繰り広げられて我慢できると思っているのですか?」

 

「そりゃお前、無理ってもんよ」

 

「えぇ。ですので私の答えは分かっているでしょう?」

 

「そんじゃぁテメェもクロムもユニアもぶっ殺しだなぁ!!」

 

 

 グレンデルと話しているのは邪龍の一体、宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)のラードゥン。相棒が言うにはドラゴンの形をした巨大な木の姿をしているみたいだが……えー、周りにいる奴らと一緒で人間の姿になっています! そこそこ長い茶髪で骨に皮がくっ付いているようなガリガリ体型、ぶっちゃけるとミイラ寸前ですと言われたら問答無用で納得できる姿だ。ちなみに女らしい……もう少し肉食った方が良いと思うぞ? 夜空並みに食えとは言わないが流石に触れただけで骨が折れそうな見た目はダメだろう……!

 

 グハハハハハと高笑いしているグレンデルとフフフフフと静かに笑っているラードゥン、仲が良いのか悪いのか分からないが笑いをやめた途端――腕や体をドラゴンのものに変えていきなり殺し合いを始めやがった。その様子を見ていた俺達はというと……良いぞ良いぞと永遠のちっぱいが焼き魚片手にテンションを上げ、もうヤだ帰りたい引きこもりたいと巻き込まれただけのクラスメートがガチ泣きし、俺とアポプスとアジ・ダハーカはそれ取って、あれくれなどと普通に飯を食ってました。ニーズヘッグ? あぁ、なんか巻き込まれて遠くに吹っ飛んだがきっと生きてるだろう。だって邪龍だし。あと約一名ほど無言で菓子食ってるけどいい加減会話に参加してくれませんかねぇ?

 

 

『おいアポプス、アジ・ダハーカ。八岐大蛇はどうしたんだよぉ? ヤツも復活してるんじゃねぇのか? 久しぶりにヤツの毒を味わってみてぇってのに不在とはどういうことだぁ?』

 

『えぇ。復活しているならば久しぶりにお話をしてみたかったですね。あぁ……懐かしい……多くの口で、牙で、毒でこの身を犯されたあの時を! クフフフフフフ! 流石に死ぬまでには至りませんでしたが中々楽しめましたよ』

 

「そらそーだ。てめーが毒程度で死ぬわけがねーだろ。呪いやら毒やら何でもかんでも()()してただろうが」

「お転婆ビッチ!」

「貰い手が居ない行き遅れ!」

 

『……アジ・ダハーカ。私の力が完全に解き放たれた時があなたの最後となりますと宣言しておきましょう』

 

「おーおー、楽しみにしてるぜ。だがよ? なんでテメェらが封印されてんだ? ドライグにアルビオンと殺し合ってたならまだ分かるが聖書の神程度なら楽に殺せただろ?」

 

『ゼハハハハハハハ! なんでって決まってんだろうが! その方が面白れぇからだよ! 他に理由があるかぁ?』

 

《無いですね》

 

「ねぇな」

「ねぇな! ねぇな!」

「単純が一番!」

 

 

 まぁ、その理由が半分でもう半分が真に誰かを護りたいって思ったからだけどな。確か夜空……というよりもユニアの場合は誰かを愛するとかだっけ? いやー即効で解決できませんかね! ほら! 俺の女王になればきっと一発で能力が発現すると思うんだよ! というわけでそろそろエッチしませんか? って聞いてねぇし……飯食う事に全力を出してやがるよ。いつも通りとはいえ俺の頭に食いかけ落とすなっての!

 

 

《あぁ、八岐大蛇ならば少々厄介な事になっていますね。リゼヴィム王子が面白がって天叢雲剣に魂の半分を植え付け、残った半分を弱小な魔法使いが操る聖遺物に埋め込みました。そのため意識が戻っているのかどうかすら分かりません》

 

「どんな状況だよそれ……それってもしかしてあれか? 匙君が持つヴリトラ系神器と同じ感じになってると考えても良いか……? でも天叢雲剣って確か聖剣だった気がするがなんだってそんなもんに埋め込んでんだよ」

 

「その聖遺物って紫炎祭主による磔台のことぉ? 何それすっげー!! あの神滅具ってそんなこと出来んの! どんな感じか見てみたいんだけど! でもさぁ、しょーじき生の八岐大蛇にも会ってみたいんだけどぉ! ノワールノワール! どうすれば良いと思うぅ?」

 

「どうすれば良いって言われてもなぁ……その魔法使いと殺し合えば見せてくれるんじゃねぇの? んで見終わったら神滅具から解放して生の八岐大蛇を見れば良いだろ。なんだったらまた魔法使い狩りするか?」

 

「うーん、それはそれで面白そうだけどさぁ~なーんか物足りないんだよね! だって所有者をぶっ殺したら別の宿主に転移すんじゃん? 解放つっても流石にこの女神級の可愛さを持つ夜空ちゃんでも出来ねーっての! 転移されたら探すのめんどーじゃん! でもみたいぃ!!」

 

 

 何やらテンションを上げているところを大変申し訳ないが……太ももの感触が最高な件について。個人的には腋が一番最高なんだけど太ももも悪くは無いんだよ……常日頃から腋見せたり太もも見せたり誘ってるんじゃないかって思うぐらいだ。正直に言うと舐めたいです。凄く、舐めたいです!

 

 

「頭の上で暴れんなっての……あーあれだ、いっそのこと半分に分かれてる魂をどっちか一つにすれば良いんじゃねぇの? そうすればヴリトラみたいに復活するだろ。多分、きっと」

 

「――そっか。そうすれば良いんだ……なんかそれおもしろそぉ!! にひひ! さっすがノワールゥ! 面白そうな事を思いつくじゃん!」

 

 

 どうやらこの提案は夜空的にも楽しめるものと判断されたらしい……なんて言うか夜空が笑っているところを見ると凄く安心するな。つまらなさそうにしているコイツを見るのは嫌だ……だからたとえ世界を敵に回しても、犬月達と殺し合う事になったとしても俺は夜空を楽しませ続ける。まっ、惚れた弱みって奴かねぇ? ゼハハハハハハ! てか自分で言ってみたけど結構面白い事になりそうでちょっとワクワクしてきた! だって紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)は俺達悪魔を燃やす炎を操る神滅具だ……それが邪龍となって現れるとか滅茶苦茶面白れぇに決まってる!

 

 あと前回の魔法使い狩りの時に出会えなかったから会ってみたいって言うのもある。聖十字架が放つ炎と相棒の影、どっちが上か確かめてみたい!

 

 

《聖遺物か聖剣を邪龍に……何やら面白そうな提案だ。確かにたかが人間が邪龍を道具に使うのは耐えられない。では仮にわかれた魂を一つにするとして聖遺物と聖剣、どちらにしようか》

 

「どう考えても聖遺物だろ。聖剣が本体とか八岐大蛇が泣くぜ?」

 

『ゼハハハハハハ! 俺様も神滅具に一票だ! 封印されてるからこそ分かるが聖書の神が作り出したこの玩具はかなり面白れぇ構造になってるしよぉ! 紫炎祭主による磔台ってのは独立具現型だからなぁ! 八岐大蛇の本体になるには十分だろうぜ!』

 

『聖遺物の炎と魂を汚染する毒……なんて、なんて心が躍る内容でしょうか! あぁ! 体があれば殺し合ってみたいところです! クフフフフフフ! ノワール・キマリス、相変わらず思考が私達寄りですね。もし私に肉体が戻る機会があれば一晩どうでしょ――冗談ですよ、夜空。えぇ、冗談です』

 

「……ならいーけど」

 

 

 嫉妬! 嫉妬かい夜空ちゃん! おうおう嫉妬なのか!? いやーモテるって大変だなぁ!

 

 

「んだよ! 何楽しそうなことを話してんだ! 俺様も混ぜろ混ぜろ! グハハハハハハハ! ラードゥン! 一時休戦だ!」

 

「えぇ。しかしグレンデル、いかに貴方の剛腕でも私の障壁は突破出来ない事を理解してください。私が操る障壁はグレンデルはおろかクロムの影すら超えると自負していますし。それとクロム、いくら私がグレンデルと殺し合っていたとはいえ無視はしないでもらえますか? 折角、こうして復活したのですから色々と楽しみたいんですよ。昔のようにね」

 

『残念だがラードゥンちゃんよぉ! 俺様、封印されちまってもう相手できねぇのよ! それと昔と違って随分強気になったじゃねぇか? 俺様が与えた痛みに悶えていたのはどこの誰だぁ? それに俺様の防御力を超えただぁ? ゼハハハハハハハハハッ! 枯れ木の分際で言うようになったじゃねぇか! だった今すぐどっちが上か試してみようぜ! 宿主様! これはラードゥンからの挑戦状だ! 当然受けるよなぁ!!』

 

「当然だろうが! なんか初対面の奴に俺の防御力が下だって言われるのはムカつくしな! 復活した所を悪いがもう一回死ねよ!」

 

「フフフフフ! 良いでしょう! 今の貴方の実力を見てみたかった! 勝負と行きましょうかクロム、そしてその宿主よ!」

 

「……あのさぁ、この私を無視して楽しいことしようとすんじゃねぇよ。混ぜろよ! この私を無視するとか許さないぞぉ!! じゃ~タッグで勝負だぁ! にひひ! 面白くなってきたぁ!!

 

「良いなそれ! んじゃ俺と夜空がチームでえーとラードゥンとグレンデルで良いな? なんか俺も混ぜろって顔してるし。よっしゃ! というわけでさっさと死ねよテメェら!」

 

「うっほ! 良い殺気じゃねぇかよ! グハハハハハハハ! クロムよぉ! テメェの宿主を気に入っちまったぜ! 簡単につぶれたりするんじゃねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 

 俺、匙元士郎の目の前では異常な光景が繰り広げられていた。巨人のような体格で雄々しい翼と尻尾を生やしたドラゴンと巨大な枯れ木のような体のドラゴンが黒井達を全力で殺し合っているからだ……黒井と光龍妃……確か片霧夜空って名前だったな、その二人が山吹色の鎧と黒の鎧を纏って正面から二体のドラゴンと戦っている。巨人のドラゴン、グレンデルが拳を放てば黒井が影を生み出して防ぎ、片霧夜空が光で攻撃する……対する二体のドラゴンも枯れ木のドラゴン、ラードゥンが障壁のようなものを張って攻撃を防ぎ、グレンデルが殴りに行く。俺の目にはどっちも似たような戦法で戦っているように見える……凄い。凄いとしか言いようがない……笑いながら、殺気を放ちながら、確実に相手を殺そうという気迫を放ちながら戦えることが凄い。

 

 俺も今よりも強くなって会長を護りたいと思っている。でも……同時期に悪魔になった兵藤は一歩どころか百歩、千歩ぐらい先に行き、黒井はそれよりもはるか先にいる。勝てない。どう考えても勝ち目なんて一切無いと教えられるような光景だ……黒井みたいに楽しかったら何でもして良いとかは思いたくないけどせめて禁手には至りたいというのが本音だ。ドラゴンを宿している存在の中で俺だけが一番下なんだ……! 悔しい! 悔しくて涙が出る!

 

 

『我が分身よ』

 

 

 足元の影から蛇が現れている。ヴリトラ、俺が持つ黒い龍脈、邪龍の黒炎、漆黒の領域、龍の牢獄に封印された邪龍……と言っても黒井達のように頭はおかしくないけどな。

 

 

『確かに我が分身は弱いだろう。ドライグよりも、アルビオンよりも、クロムよりも、ユニアよりも格段に弱い。それは否定せずに伝えておこう。しかしだ、先の魔獣騒動で見せた感情は我も驚いた……あれほど純粋な怒り、誰かを護りたいという強き思い、かつての我では味わえなかったものだ』

 

 

 もしかしてヘラクレスって奴との戦いの事を言ってるのか……でも、あんなのただの偶然だ。援軍で来た会長がアイツに傷つけられそうになったのを見たら頭にキタだけ……純粋というよりも私情が乗りまくった不純な怒りだよ。

 

 

『それの何が悪い』

 

「……え?」

 

『奴らを見るが良い。ただ楽しいから、目の前にいる奴と殺し合ってみたいから、暇だから、我が分身からすれば頭がおかしいと言える理由で殺し合っている。我が分身よ、先の思いは誰かから言われた事か? 違うはずだ、我が分身が心の奥底から望んだ事だろう。それで良い、アジ・ダハーカの言葉を借りるなら邪龍は単純が一番……だ。我としては奴らと一緒にはされたくは無いがな』

 

「ひでぇ言い草だなヴリトラよ。テメェだって昔は好き勝手に暴れてたじゃねぇか?」

「殺しも楽しんでたな!」

「色んな奴を呪ってたくせに何言ってんだ!」

 

『我とてやんちゃをしていた時期ぐらいはある。しかし良いのか? 既に滅んだ貴様らが復活するのは異常だ。仮にグレンデルとラードゥンがこの場で死んだらどうするつもりだ?』

 

「んなもんまた復活させるに決まってるだろ。勿論、コイツでな」

 

 

 黒いローブを着た男、アジ・ダハーカの手の近くにはいつの間にか杯のようなものが浮かんでいた。見ただけで神々しいと表現できる代物だ……つまりあれが聖杯ってやつなんだろう。ん? あ、あれ……確か会長から吸血鬼側に聖杯があるって聞いてたけどな、なんで此処にあるんだ……?

 

 

『……! 聖杯か! 何故それを貴様が持っている!』

 

《吸血鬼の姫が保有していた神滅具が亜種の類でした。リゼヴィム王子もその異常性に随分と喜んでいましてね。世界に十五しか存在しない神滅具が亜種、それも生命を司る聖杯が三つでセットですから当然と言えば当然でしょう。では何故此処に一つあるという理由を教えましょう――取り出しました》

 

 

 ……は?

 

 

「まーなんつーの? リゼ公に対する嫌がらせって奴だ。あの野郎、俺達が自分に従ってると勘違いしてやがるからな、それがムカついたんで宿主から一個取り出したんだよ。リゼ公も同じことをしただろうから今頃、聖杯の所有者は昏睡状態かもしれねぇけどそれは俺達には関係無いことだ」

「つーかざまぁ!」

「ざまぁみろ!」

 

《リゼヴィム王子が一つ、我らが一つ、残った一つは所有者の下にある。しかしそれも時間の問題だろう。欲深い吸血鬼が最後の一つを取り出した時、所有者は死ぬ。そうすれば抜き出された聖杯はどうなるか……次の所有者へ三つ全てが転移するのか、そのままなのかはその時になってみなければ分からない。ならば確認してみるのも面白い》

 

「……だよ、それ」

 

「どうしたヴリトラ? そんなにプルプル震えてトイレでも行きたいのか?」

 

「――なんだよそれ!!」

 

 

 座り込んでいた体を起こし、立ち上がる。なんだよそれ……! ただの嫌がらせで聖杯を、神滅具を宿していた奴を死ぬかもしれない状態にしたってのか! ふざけんな! なんで笑ってられるんだよ! なんで無関係だって声で話せるんだよ!! そして何よりムカつくのは……兵藤達の思いすら踏みにじった事だ!

 

 

「なんで笑ってられるんだ! なんで何事も無いかのように振舞えるんだよ! 聖杯を宿していた奴が何したってんだ! お前らを復活させてくれたんだろ!? なのになんでそんな事が出来るんだよ!」

 

《自らの目的のためですが?》

 

「それしか言いようがねぇな」

 

「……!!」

 

『怒る気持ちは分かる。だがこれが邪龍だ、己の欲望に、生き方に、考えこそが全てなのだ。そこに善悪など関係無い。ただあるのは自分が満足するかどうかだけ。ドライグやアルビオンのようなドラゴンとは根本的から違うのだ』

 

 

 だろうな……兵藤だって目の前で同じことを言われたら殴りかかるはずだ。ふざけんなよ! 吸血鬼だろうとそいつの人生を滅茶苦茶にしてまでかなえたい目的って何なんだよ!!

 

 

「……渡せ! それを、渡せ!!」

 

「嫌だ、と言ったらどうする?」

「どうするどうする?」

「殺る? 殺っちゃう?」

 

「あぁ! 殺し合いでも何でもやってやる! 呪ってやるよ……! ヴリトラの炎でお前達を!!」

 

 

 アジ・ダハーカとアポプスの二人を睨み付けながら龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)を行おうとしたその時、後ろから黒井達の声がした。

 

 

「匙君匙君、なんかテンション上がってるところ悪いが無駄死にするぞ?」

 

「つーか相手にすらならねぇんじゃね? まー止めはしねーけどさ」

 

 

 先ほどまで戦っていたはずの黒井達が呆れた様子で戻ってきた。多分だけどさっきの俺の声が気になって一時中断したんだろう……止めてくれるのはありがたいけど止まるわけにはいかないんだよ!

 

 

「黒井……分かってる! 戦ったって負けるってのは俺が一番知ってるさ! でもな……怒らなきゃダメだろ! 兵藤達がルーマニアに来てるのは聖杯を持った奴に会うためだ! それを……それを!」

 

「……あー、別に匙君がタイマンで殺し合うってのは個人の自由だから止めはしないけど……で? なんで怒んなきゃいけないわけ? 別に問題ないだろ? つーか喉乾いた……アジ・ダハーカ、飲み物取ってくれ」

 

「問題、あるに決まってるだろ! 関係無い奴が死ぬかもしれない状況になってるんだぞ!」

 

「でも他人だろ? そりゃ、仮に身内に手を出されたんならアジ・ダハーカ殺すけどぶっちゃけ赤の他人だしなぁ。死のうが生きようが俺には関係無いんだよ。あっ! 殺し合うなら見学してても良いか? 応援するぜ匙君! 頑張れ頑張れ。もし死んだら墓参りぐらいは行ってやるよ」

 

「私は行かないから適当に頑張ればー? てかー! しょーもない事で戦いを止めん無し! ビックリしたじゃん! いきなり大声出すから何かなぁ~って思えばくっそどうでも良いことだったとかマジ死ねよ。ヴリトラ、そんなに死にたいなら殺してやっから相手してやるよ」

 

 

 ……あぁ、そうだった。俺とは考え方が違うんだ……黒井も片霧夜空も、後ろにいる邪龍達も、目の前にいる邪龍達も本気で他人だからって思ってる。悔しい……! 女の子の殺気一つで両膝を地面について怯えている自分が悔しい……!なんで俺はこんなに弱いんだよ……! 自分の言いたい事すら簡単にねじ伏せられるなんて最悪じゃねぇか!! くっそ……クソ、クソ! くっそぉぉ!!

 

 

「――やめろ」

 

 

 たった一言、声が響いた。威厳がある声色が響いただけで周囲の雰囲気がガラリと変わった。

 

 声の主は黒コートを着た男、金と黒が入り混じった髪で両目も同じく金と黒のオッドアイ。さっきから黒井が持ってきたお菓子を無言で食べていたけど……迫力が違う。あの黒井達が小さく見えるぐらい黒コートの男から放たれる威圧感が凄い!

 

 

『ゼハハハハハハハハッ! おうおう! 無心で菓子食ってた奴がいきなり邪魔するってのかぁ?』

 

「食してみれば案外美味かったのでな。追加で貰いたいところだ。クロム、ユニア、グレンデル、ラードゥン、この場は同窓会、という物なのだろう? ならば静かにしろ。争うならば外でやるが良い。勿論、俺が相手しても構わん」

 

『……ちっ! 仕方ねぇ、今回だけだぜ』

 

『えぇ。今、貴方と殺し合うのは得策ではありませんしね。いかに夜空と言えどもノワール・キマリスとの決着前に死にかねません』

 

『宿主様は俺様のおかげで不死身だがそっちはちょっとつえぇ人間だしなぁ。こんなことでこれからの楽しみを潰されたくねぇ! ゼハハハハハハ! なぁ、クロウ……! テメェ、どこまで鍛えやがった!!』

 

「どこまでと問われれば俺も分からん。お前のように封印されたわけでも、討伐されたわけでもないからな。今日までこの身を鍛え続けていたからどこまで届くのかは未知数だ」

 

『……だろうな。だったら教えてやるよクロウ! テメェは……ムカつくことに天龍や双龍を超えてやがる! 本当にムカつくけどなぁ!!』

 

「そうか。ならばそういう事だ」

 

 

 静かに、淡々と会話を続ける男が俺の目にはカッコよく見えた。この場所にいるってことは同じ邪龍なんだろうけど……性格が違い過ぎる。ヴリトラと同じように常識人なんてかなり驚いている。

 

 

「ぶ、ヴリトラ……あの人、いやあのドラゴンって……?」

 

『クロウ・クルワッハ。邪龍の筆頭格と呼ばれ、戦いを司るドラゴンだ。奴は昔からむやみに暴れるようなことはしていない。この中では話が通じる存在だろうな』

 

「クロウ、クルワッハ……」

 

「呼んだか?」

 

 

 先ほどまで離れた場所に居たのに一瞬で目の前まで来られたから軽く声が出ちまった。すげぇ……これが邪龍の筆頭格か。怖いような、憧れるような、なんか言葉に出来ない魅力がある。

 

 

「あ、いや、その……」

 

『我が分身に代わり礼を言うぞ。あのままでは我が分身が殺されていたからな』

 

「気にするな。食事の邪魔をされて苛立っただけのことだ。ヴリトラ、いやそれを宿しているお前に言わせてもらいたい事がある――その考えは間違ってはいない」

 

「……え?」

 

「ドラゴンの考えは千差万別、殺ししか考えれない者もいれば魔法にしか興味がない者もいる。だからお前の考えは間違ってはいない。胸を張れ、堂々としろ。邪龍ならばその考えを貫き通せ。俺はその行く末を見てみたい」

 

『相変わらずだ、お前は』

 

『カッコつけやがってよぉ! おいクロウ! 必ず俺様と宿主様がテメェを殺してやるよぉ! だから待ってやがれ!』

 

「あぁ。待っていよう。時にクロム」

 

『なんだよ! くっだらねぇ事だったらぶっ殺すぞ!』

 

「下らなくはない。この菓子はまだあるか?」

 

 

 どうやらポテチが気に入ったらしい……さっきまでのカッコよさはどこに行ったんだ!? で、でも……そうか、間違ってないか……嬉しいな。凄く、嬉しい……!

 

 涙が出そうになるのを我慢しながらクロウ・クルワッハへと顔を向け、ありがとうございましたと言おうとした瞬間――突然アジ・ダハーカが笑い出した。いきなりの事で俺も黒井もビックリしたけどその理由を聞いて頭の中が真っ白になった。

 

 ――だって、ルーマニアに邪龍が現れて暴れてるなんて嘘みたいだもんな。




今更ではありますが毎回誤字などご指摘、ありがとうございます!
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

94話

お久しぶりです。
FGOとかFGOとかFGOとか色々と浮気してたらかなりの時間が経ってました……


「……おいおい、なんか知らないが吸血鬼の町が動物園もどきになってるぞ」

 

 

 先ほどまで仲良く遊んでいたアジ・ダハーカが作り出した空間から外へ出た俺の視線の先にはかなり面白い光景が映っている。他者を嫌い、自らの種族以外は信用しない吸血鬼達が暮らしている町を何処から現れたか分からない怪物が暴れ回っているからだ……相棒と同じ黒い鱗に鋭利な爪と牙、猛々しい翼と尻尾を持つ()()は遠く離れた俺達にすら聞こえるほどの咆哮を上げて周囲を蹂躙している。何処からどう見ても邪龍ですありがとうございました! てか普通にアジ・ダハーカが邪龍が現れたとか言ってたし間違いないだろうな……でもなんだろうな? 感じる龍のオーラは俺や夜空、ヴァーリに一誠、タンニーン様とか近くに居るアポプスやアジ・ダハーカとは何かが違う気がする……例えるならキンキンに冷えた未開封のコーラと何時間も放置された上に炭酸が抜けきってるコーラって感じだな。うーん、なんか無性に炭酸が飲みたくなったから後で犬月にポテチと合わせて買ってこさせようかねぇ?

 

 まぁ、そんなどうでも良いことは置いておいて俺の背中にくっ付いている夜空のテンションがヤバい件について。もうね……目の前の光景を見た瞬間からただでさえ可愛い笑顔がさらに輝きだしてもう大変です! さっきから「すっげー!!」とか「見てよノワール! ドラゴンだぜドラゴン!!」とかはしゃぎまくってるし……そのおかげで俺の背中に夜空のまな板の様に真っ平なちっぱいが押し付けられるんですがご褒美ですかね? ノワール君のノワール君がご起立するんでそろそろやめてもら……いや、やめないでくださいお願いします!

 

 ちなみに匙君だけど目の前の光景を見て絶句してます。これはどうでも良いか。

 

 

「リゼ公の奴、予定を早めやがったみてぇだな」

「仕方ないね! アイツ待つこと嫌いだし!」

「聖杯奪ったんだから当然とーぜん!」

 

《そのようですね。本来であれば吸血鬼と交友を深め、彼らの作戦が成就するその瞬間に行う予定でしたが我らが聖杯を強奪した事で予定を変更したらしい。しかし知ってはいたものの、我らを模倣した生物を見るのは聊か苛立ちを覚えます》

 

「だな。真似るんならもうちっと真に迫れって話だ」

 

 

 同じ光景を見ているアポプスとアジ・ダハーカの声色にやや苛立ちを含んでいるところを見ると吸血鬼達が住む町で暴れている邪龍が気に入らないらしい。話を聞いてみると何でもリゼちゃんが聖杯を使って吸血鬼達の体を邪龍に変異させる術式を埋め込んだとか何とか……なるほど、だから感じるオーラが変なのか。

 

 アポプス達に向けていた視線を再び町で暴れる邪龍もどきへと移す。悪魔だからか遠く離れた場所であろうと何とか見えるこの視力のおかげでどんな風に暴れているのか余裕で分かる……が見れば見るほど先ほどまで上がっていたテンションが徐々に下がってくる。なんだろうな……暴れている邪龍もどき達には自分の欲みたいなものが全然見当たらない気がする。普通に考えて町を破壊や蹂躙すれば興奮のあまり笑みを浮かべたりすると思うのに目の前の奴らはそんなものは一切していない。ただ目の前にあるから破壊する、目の前に居るから殺す、楽しいとか快感だとかそんなものじゃなくて業務的に行ってるように見える……恐らくリゼちゃんが埋め込んだ術式によって操られているんだろうなぁ。うわぁ、死ねばいいのに。

 

 

《さてクロム、そしてその宿主であるノワール・キマリス。これを見て何か思う事はあるか聞いておこうか》

 

「特にねぇな。まぁ、強いて言えば邪龍なら命令されるんじゃなくて自分の欲望で暴れろよとは思ったぐらいか? 操り人形の奴を邪龍とは言いたくないな」

 

「へぇ。んじゃユニア、テメェらはどうよ?」

 

「ん~最後らへんはノワールと一緒! 他はどーでも良い! つーか吸血鬼の町が破壊されても私には関係ねぇ~しぃ! てかてかぁ! それよりもお腹すいたぁ!!」

 

『――という事ですよアジ・ダハーカ。私も夜空も吸血鬼を邪龍へと変異させたことに関しては何も思う事はありません。矮小な存在如きを気にかけるぐらいならクロムと殺し合っていたいですからね』

 

『それに関しちゃぁ俺様も同意見よ! 良い話には裏があるってのは昔からあった事じゃねぇか! ゼハハハハハハハ! 自分の種族しか興味のねぇ奴らが悪魔と手を組んだ結果がこれってのは嗤えるぜぇ!! 腹が痛くなるぐらいになぁっ!!』

 

 

 デスヨネ! 普通に考えたら誰でも分かるだろ……悪魔だぞ? 人を堕落させ、誘惑し、聖ではなく魔へと誘う存在と手を組んで何も無いなんざあり得ない。こればっかりは他種族と友好関係を築こうとしなかった吸血鬼が悪いね! だからまぁ、うん。リゼちゃんによる授業料としてありがたく受け取っておけばいいさ……この場所で邪龍もどきが暴れようが俺には関係無いし。

 

 

「……けんな」

 

 

 そんな事を考えていると絶句していた匙君が立ち上がって何かを呟いた。おいおい……! 良い殺気じゃねぇか!!

 

 

「あー、ゴメン匙君。今なんか言ったか?」

 

「……あぁ、言ったよ!! ふざけんなってな!!!」

 

「ふーん。で? 何がふざけんなって? まさかとは思うが同盟すら結んでない吸血鬼の町で邪龍もどきが暴れてる事が気に入らないってか?」

 

「そうだよ!! ついでに……あれを見て何食わぬ顔でいる黒井達が信じられねぇ!! 兵藤達がどれだけの思いで吸血鬼の町に向かったか分かってるのかよ!! その聖杯を持ってた女の子を助けようとしてるってのに……ただムカついたからとか! 気にくわないからとかで奪い取るお前達の神経が分かんねぇ!!」

 

《と、言われましても返答に困りますね》

 

「これが俺達だからしか言えねぇんだよなぁ。グレンデルにラードゥン、テメェらはなんか良い返答できそうか?」

 

『んなの出来るわけねぇだろうが! ムカついたら殺して! 気にくわなかったら殺して! 気に入ったら殺す邪龍(おれたち)が答えれるわけねぇってな!!』

 

『えぇ。これが私達ですからね』

 

 

 怒りの匙君が放った言葉は残念な事にあまり意味を持たないことになった。だろうね! だって一誠君達の気持ちなんて分かるわけねぇじゃん……覚妖怪じゃないんだし。そもそも邪龍だぜ? 自分勝手に生きて、自分勝手に殺し合って、自分の欲望を優先する俺達が他人の事なんざ気にするわけがない。むしろ逆に褒める場面じゃないかねぇ? 流石邪龍だ! とか良いぞ良いぞもっとやれ! とかそんな感じでさ!

 

 

「匙君匙君。なんで分かんないんだとか言われてもえーと、そのだ……うん、分かるわけねぇんだわ」

 

「つーか私達って自分の欲望優先だしね~今更相手に気持ちがなんで分かんないんだとか相手が可哀想とか言われても逆に引くんだけど。てか普通にウザい」

 

 

 濃厚な殺気がこの空間を支配する。発生源はもちろん夜空だ……うわぁ、ガチの殺気じゃねぇか! 何か匙君が可哀想に思えてきたぞ……でもなぁ! うん、無理。他人がどうなろうと俺には関係ない。背中に居る夜空と殺し合って、普通に話をして、くだらない事で笑って、また殺し合って、そんな普通の日々が過ごせれば俺は満足だしな。だから俺と夜空以外がどうなろうが関係ない……勝手に死ねばいいし、勝手に生きれば良い。俺達の楽しみの邪魔をしなければ世界すら滅んでも構わないね!

 

 勿論――邪魔をするなら神だろうと魔王だろうと殺すけどな。

 

 

「……っ、それ、それでも!! ダチの気持ちを踏みにじられて黙ってられるか!!! たとえ、たとえ!! 負けると分かっていても俺は戦う!! お前たち全員とだ!! 舐めるんじゃねぇぞ……! 俺は、俺はっ!! シトリー眷属の兵士だ!! 死んでも蘇ってお前達を呪い殺す!!!」

 

 

 夜空の殺気に屈しそうになった匙君だが強い決意と殺気を放ちながら俺達を見つめてくる。その顔は何を言われても曲げたりしないものだ……なんだよ、自分だってやってるじゃねぇか! 俺達の気持ちなんざ無視して自分の欲を押し付ける! 邪龍だと証明できる唯一の方法を実践してるじゃねぇかよ!! ゼハハハハハハハ! あぁ、やっぱり呼んで良かったわ! あーだこーだ言っても匙君、お前はこっち側(邪龍)なんだよ……仕方ねぇなぁ!! こんなの見せられたら楽しくなっちまうじゃねぇの!!

 

 

「――そっか。じゃぁ、殺し合うか」

 

「……あぁ! 望むところだ!!」

 

 

 俺の言葉に匙君は決意した表情で返答した。それを見ていた夜空やアポプス達はやれやれって感じで何かを察したのか俺達から離れていく……うわぁ、何この連帯感。お前ら仲良すぎない?

 

 

「それじゃあ匙君、行くか」

 

「い、行くってどこにだよ! ここ、で殺し合うんだろ……?」

 

「おいおい……流石に同窓会の会場で大暴れするわけにはいかねぇだろ? 俺達が殺し合う場所はあそこだ」

 

「……なぁ、黒井。俺の目が確かなら指さしてる場所って邪龍が暴れてる所じゃないか?」

 

「おう。邪龍らしく精一杯暴れようぜ! それにだ――仮に巻き込まれてもそれは逃げなかった奴らが悪いだろ?」

 

 

 俺の言葉の意図を察したのか匙君は一気に涙目になりながら頷いた。イヤーシカタナイネー! 殺し合う場所が偶然邪龍もどきが暴れてる場所なんだもんねー! これは仕方がないわー! 誰にも文句言われないわー! つーか普通に俺達邪龍です! よろしくお願いしますって感じで暴れてる偽物がウザい。操られてる分際で俺達と同じ名を語るな……テメェらなんざ邪龍でも何でもねぇ、ただの吸血鬼だろうが!

 

 

《クロウ、アジ・ダハーカ》

 

「あぁ。蘇って本当に良かったぜ。中々楽しめそうだ」

 

「……」

 

 

 俺と匙君は殺し合うために今居る場所から吸血鬼が暴れている場所へと向かう。なんか夜空がつまらないって顔になってたが暇なら混ざっても良いんだぜ? 俺様、大歓迎だからさ!!

 

 

「さてと匙君。準備は良いか?」

 

「あぁ! 何時でも良いぜ!!」

 

『……クロム』

 

『なんだよヴリトラ? 今更ビビったってかぁ? おいおいそりゃねぇだろうよぉ! テメェも邪龍なら覚悟決めろや!! 昔は嬉々として呪いを放ってただろうが!』

 

『そのようなこともあったな。いや、違う。クロム、そしてその宿主であるノワール・キマリス。礼を言おう。我が分身は一歩、前へと進むことが出来そうだ』

 

「礼を言われるようなことはした覚えはねぇよ。つーかそれは元々お前らが持ってたもんだろ? んじゃ、始めるか!! 恨みっこなしの殺し合い! ゼハハハハハハハ!!! 死んでも恨むんじゃねぇぞ!!」

 

 

 龍へと変異した吸血鬼が暴れている町の上空にたどり着いた俺は即座に黒い鎧――普段纏う鎧を身に纏う。正直なところ、ちょっとワクワクしてる……だって向かい合った先に居る匙君が笑ってるしな。俺のやり方が呆れたのかは分からないがさっきまでの匙君じゃないってのは確かだ! 惚れ惚れするな全く……! 心地良い呪いを巻き散らす匙君と殺し合えるなんて滅茶苦茶楽しみだ! 俺と夜空、同じ邪龍としてどんな道を進んだのか見せてくれよ――元士郎!!

 

 

「……ヴリトラ」

 

『どうした我が分身よ』

 

「俺さ、馬鹿だよな」

 

『あぁ、大馬鹿だ』

 

「でも……これが俺だ。クロウ・クルワッハも言ってただろ? 邪龍なら貫き通せってさ。ずっと心のどこかで思ってたんだよ……兵藤や黒井みたいになりたいって。でも違ったんだ、俺は――俺だ。誰でもない匙元士郎っていう男なんだ。さっきから黒井達を見ていてさ、二人と同じようになるなんて絶対に出来ないって悟っちまった……当たり前だよな……最初っから同じ場所に立って無いんだしさ。だけどそれで良いんだよな……兵藤には兵藤の考えと生き方が、黒井には黒井の考えと生き方があるんだ」

 

『そうだな。この世に同じ考えを持つ存在は居ない。似たような道だとしてもその先は別だろう。同じ道を歩んだとしてもそれはほんの僅かだけだ……一つの考えが道を分ける、それが生きるという事だからな。我が分身よ、気合を入れろ! 臆せば死ぬぞ! 目の前に居るのは最強の影龍王! 我と同じ邪龍にして狂った王だ! 勝利するためには何をすれば良いか分かっているな?』

 

「当然だ! 俺は俺だ! 会長の兵士、匙元士郎! 自分の夢を叶えるために全力で目の前に居る奴を殺す!!」

 

『その意気だ! あぁ、なるほど。生前では感じる事が出来ぬ思いだ。心地良いぞ……あぁ、心地良い!!』

 

「相棒」

 

『あぁ、宿主様。ゼハハハハハハハハ!!! 気を抜けば死ぬぞ? 本気のヴリトラの呪いは魂すら殺すからな!』

 

 

 それは楽しみだ!

 

 

「ヴリトラ!!」

 

『我が分身よ!!』

 

「『禁手化!!』」

 

 

 暴風が俺を襲う。呪いを帯びた風だ……自分の魂すら穢されそうなほど濃い呪いが目の前から放たれた。俺は目の前に現れた存在に笑みを隠し切れなかった。深い暗黒の鎧に周囲を焦がすほどの邪炎放ち、呪いを帯びた触手を生やす元士郎が居るからだ。これがお前の禁手か……夜空が見たら爆笑するんじゃねぇかな! だって、だって! 滅茶苦茶カッコいいじゃねぇかよ!!

 

 

罪科(マーレボルジェ)()獄炎龍王(ヴリトラ・プロモーション)。やっと至れた俺の、俺達の禁手……! 悪いが加減はしないぜ? 殺したらごめんな!!』

 

「ハッ! 逆にこっちが言わせてもらうぞ! 殺したらマジでゴメンな!!」

 

 

 元士郎の鎧から生えた触手が俺へと向かってきたので影人形を生成し、ラッシュタイムを放って粉砕する。しかし殴っても殴っても諦めという言葉を捨て去ったかのように何度も、何度も、何度も何度も何度も伸ばしてくる。触手に触れた影人形の拳が呪いの炎によって燃やされ体を徐々に侵食している……ちっ、相棒が言った通り一度触れたら文字通り死ぬまで消えることは無いだろうな。自分の信念を、生き方を、考えを曲げることが無いという強い思いによって生み出された良い攻撃だ……それでこそ殺しがいがあるってもんだ!!

 

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 鎧から音声を鳴り響かせて影を生成し、地上に居る吸血鬼達を飲み込ませて力を奪う。突如として始まった俺と元士郎の殺し合いによって逃げ惑う吸血鬼も暴れ回る吸血鬼達も足を止めて俺達を見ていたお陰で簡単に呑み込めたぜ! さてと……簡単に殺されたくないから本気で行こうかねぇ!!

 

 町全てを染め上げるようとしている影から影人形を生成して元士郎へと向かわせる。数は無数、威力は強大、一度近づかれれば死ぬがどうやって乗り越える?

 

 

『お得意のシャドール生成か! でも悪いが全部燃やすぜ!!』

 

「ゼハハハハハハハハ! やってみろ! お前が殺したい男は此処だ! ほらほら、早く殺さないと逃げようとしている吸血鬼も殺されるぜ?」

 

『あぁ、だからサッサと殺してやるよ!!』

 

 

 触手と邪炎を伸ばし、迫りくる影人形を次々と呪い殺していく。おいおい……呪殺力半端ないな! 俺の影人形が簡単に燃やされてるぞ……あぁ、最高だ! これがヴリトラか! 楽しい、あぁ、楽しいぞ! もっと楽しませてくれよ! もっと、もっと、もっと! ゼハハハハハハハハハハ! アジ・ダハーカの誘いに乗って本当に良かった! 連れてきて本当に良かった! だってこんなに楽しい殺し合いが出来るんだぜ? それだけでも同窓会に参加して良かったと思えるぐらいにな!!

 

 無数の影人形を邪炎で燃やしながら元士郎は俺へと迫ってくる。それを見た俺は高笑いをしながら元士郎へと向かい――拳を叩き込んだ。俺の拳は元士郎の頬を、元士郎の拳は俺の頬へと叩きつけられるが痛みの声を上げずに第二、第三と殴り合う。邪炎と触手が俺に纏わりつくたびに気が狂いそうになるほどの激痛が襲い掛かってくる……おいおい、その程度か? 散々期待させておいてこの程度なのかよ元士郎!!!

 

 

「ゼハハハハハ! この程度か! 自慢の邪炎は! 触手は! 呪いの力ってのはこの程度なのかよ! だったら興ざめだ! さっさと死にやがれ!」

 

『ふざけんな! まだ全力なわけねぇだろ! この程度で殺しきれるなんて思ってねぇよ! 黒井!!』

 

「なんだよ!!」

 

『最初はおっかない場所に巻き込みやがってふざけんなって思ったけど! でも! 今は感謝してる!! これが無かったら俺は今も悩み続けてたはずだからな!!』

 

「知るかそんな事!! テメェも邪龍なら自分の欲で動きやがれ! あれがやりたいこれがやりたい! どうでも良い事でも全力でな!!」

 

『分かってる! それが俺達だ!! だから感謝してるよ黒井!! 俺は! 会長の夢を叶える! 会長の作った学校で先生になって! 会長に自慢の兵士だって褒められて!! そして――最後は会長と出来ちゃった結婚してやらぁ!!』

 

「ゼハハハハハハハ! それで良いんだよそれで! くだらねぇこと考えんな! 自分がやりたい事を後回しにすんじゃねぇ! 誰に言われても自分の欲を優先しろ! ムカつくなら殺せ! 自分勝手に、自分の意思でな!! あとあれだ! お前の夢を聞かせてくれたお返しに俺の夢っぽいものを聞かせてやるよ!」

 

『なんだよ!!』

 

「――絶対に俺は夜空を手に入れる! そしてエッチしてやる!!」

 

『応援してる!!!』

 

「ありがとう!」

 

 

 信念が込められた拳によって俺と元士郎は背後へと吹き飛ばされる。ハハ、最高だ。自分の体を染め上げるほどの呪いの炎を浴びたおかげでテンションが変な感じになりやがった! 指を動かせば激痛が、足を動かせば今にも千切れそうになる。でもなぁ……足りねぇ、足りねぇぞ! この程度だったら夜空の光を浴びた方がもっと痛いしな! 指も足も、体もまだ動くなら問題ねぇ! 全然物足りねぇんだよ!! 俺を呪い殺したいんだったら覇龍以上の呪いを持ってこい!!

 

 体勢を立て直した俺達を翼を広げたドラゴン――もとい吸血鬼が襲ってきたのだ影を生み出して潰す。目の前に居る元士郎は邪炎と触手を使って呪殺してるけどその勢いがヤバい件について……これさ、冷静になって考えると亜種と仮定しても普通の禁手であの威力は反則じゃねぇかな? あの呪いだとその場にいるだけで周囲を汚染できるレベルだぞ? まぁ、俺には効かないけどね! 絶賛激痛状態だけど全然効いてないからね!!

 

 

「邪魔すんじゃねぇよ偽物風情が!」

 

『邪魔すんなよ! 俺と黒井が戦ってるだろうが!』

 

「俺達の楽しみを邪魔するってことはどういう事か分かってるんだろうな?」

 

『そう言えばお前ら……町で暴れてたよな? じゃあ、呪い殺す!!』

 

 

 無数の影人形と邪炎、触手が一斉に周囲を取り囲んでいた吸血鬼へと襲い掛かる。自我を持たないであろう吸血鬼達はラッシュタイムで潰されたり呪殺さえたりで次々と殺されていくが俺達はそんな事を気にしないとばかりに再び殴り合う。身を焦がすほどの邪炎が俺の魂を削り続けるが関係ない……! この程度で殺されたら夜空には届かねぇからな! 耐えれる! 全然耐えれる! 痛みなんざ度外視して元士郎と殴り続ける。相手「苦痛」の能力を発動させてるせいか徐々に動きが鈍くなっていくが拳を放つことをやめる気配はない……それで良い! もっと頑張れよ! まだ俺は死んでねぇぞ!!

 

 

「黒井ぃぃぃっ!!!」

 

「元士郎!!!」

 

 

 互いの拳が胴体へと叩きこまれる。俺の方は軽いヒビが入った程度だが元士郎の方は完全に鎧が壊れている……仕方ないか。禁手に至ってすぐだもんなぁ、でも楽しかったわ! 周囲を見渡してみると俺達の戦いによって吸血鬼が住む町が完全に吹き飛んでいるのが余裕で分かる……けど俺達は悪くない。ただ普通に殺し合っただけだしね! ここで暴れていた奴らが悪い!

 

 

「――見覚えがあるヤツが暴れてると思ったら何やってんだ全く」

 

 

 元士郎を抱えている俺に近づいてきたのはアザゼルだ。それに追従するように先輩や一誠達も現れたけど全員の表情が何故か引きつっていた。うーん、なんでかねぇ?

 

 

「えーと、殺し合い?」

 

「だろうな! いきなりお前さんの影が迫ってきてビックリしたっての……それよりも相手は、ヴリトラか。見ていたが禁手に至ったって感じだがまさかそのためだけに暴れたってわけじゃないだろうな?」

 

「さぁな。俺も元士郎も互いにムカついたから殺し合っただけだ。禁手に至ったのはコイツ自身の強い思いによるものだよ……なんせさっきまで普通に同窓会してたしな」

 

「……おい、なんだその同窓会ってのは? お前、お前……また俺達に黙って何かしてやがったな!?」

 

「いや普通の同窓会だっての。まぁ、参加した面々が夜空とかアポプスとかアジ・ダハーカとかその辺りだけど」

 

「……リアス。俺は少し休む。また、コイツ……頭痛の種を残しやがった!」

 

 

 おかしい。なんであり得ないって顔をされるのかマジで分からない……だって邪龍達による同窓会だよ? 参加するに決まってんじゃん!

 

 

「……兵藤」

 

「さ、匙! 大丈夫かよ?」

 

「あ、あぁ……へへ、俺も、禁手、になったぜ……すぐに、追いついて……」

 

 

 一誠を見ていた元士郎は限界が来たのか意識を失った。多分死んでないとは思うが……駒王町に居たシスターちゃんが何故か此処に居るからダメージはすぐに回復するだろう。しっかし元士郎の禁手はヤバいな……呪いに慣れてる俺ですら体を動かすだけで激痛とはな。今後、さらに研磨されていったならきっと神や魔王ですら呪い殺せるだろう……その時が今から楽しみだ!

 

 

「さてと――そろそろ姿を現したらどうだ?」

 

 

 チラリと背後を見る。最初は誰も居なかったが魔法陣が突如として出現し、とある奴が転移してきた。

 

 

「呼ばれて飛びててなんちゃらほいってね~お久しぶりかなぁ~? ノワールきゅんのお声に応じて即参上したリゼヴィムおじちゃんですよぉ♪ アザゼルおじちゃんや赤龍帝きゅんは数日ぶりかなぁ?」

 

 

 銀髪に髭を生やしたおっさんことリゼヴィム・リヴァン・ルシファーが生理的に受け付けない声と笑みを浮かべて俺達の前に現れた。




観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

95話

「いやはやすっげぇわ! こ~んな間近で邪龍同士の殺し合いが見れるとは思わなかったよ♪ でもおじちゃんとしてはもぉ~っと激しくしてほしかったかな! うひゃひゃひゃ! そっちの方が盛り上がるっしょ?」

 

「別にアンタを楽しませるつもりなんかないんだけどなぁ。んで? さっきからコソコソと隠れてた理由を一応聞かせてもらおうか?」

 

「んもぉ~分かってるくせにぃ♪ でも言っちゃう! ノワールきゅん、アポプスくん達を呼んでちょ♪ さっきからぜ~んぜん連絡に出てくんないのよ。だ・か・ら♪ お願い、呼んでくれない? 聖杯を返してもらわないとちょこっとだけ困るのよ」

 

「ヤダ、メンドイ、つーか俺、アイツらの連絡先知らねぇし無理だな。まっ、そもそも邪龍を飼いならそうとしてたんならそれは無理な話だぜ? 邪龍(おれたち)は自分のやりたい事をやって、気になった事にはトコトンのめり込んで、たとえその先に死が待っていても嗤って突き進むからな。一つ勉強になったんじゃねぇの?」

 

 

 俺の返答に目の前のリゼちゃんは「勉強になったよ」と胡散臭い笑みを浮かべながらうひゃひゃと笑い出した。自分の計画をアポプス達に潰されたって言うのに態度すら変わらねぇとはな……どうでも良いけど。というよりもリゼちゃんの背後にはいつの間にか現れていたらしいオーフィス――のそっくりちゃんことリリスが居るが俺達を興味深そうに見ている以外は特に戦闘態勢に入っている様子はない。その手にはどこかで買ってきたらしいお菓子が握られており、もぐもぐと食べている仕草が妙に可愛い……くっ! 此処に来てマスコットキャラアピールとはやるじゃねぇか! リゼちゃん……ちょっとその子をこっちにくれません? 四季音妹と一緒に眺めて癒されたい。きっと今頃は四季音姉と一緒になんやかんやで修行してるだろうけど多分必死に頑張ってるに違いない。

 

 そして俺とリゼちゃんの話についてこれないアザゼル達はどういう事だって表情で俺を見てくるのがちょっとだけウザい。別に何でもないんだけどなぁ……単に聖杯所有者だった奴が死にかけてるってだけだし。

 

 

「――まぁね。相変わらず分かんねぇ~連中だってのは今日のでよぉく分かった。これ使って蘇らせたは良いけどこっちの命令を聞いてるのか無視してんのか分かんないしさ~アポプス君やアジ・ダハーカくんのお陰で予定が台無しでひじょ~に困っております! 俺の予定じゃ最後の最後で裏切って愉悦したかったんだけどね」

 

 

 その手には光り輝く杯が浮かんでいる。どうやらあれが聖杯らしい……アザゼルたちの反応で本物だってのが良く分かるしな。

 

 

「そりゃ残念だ。で? 聖杯の所有者はどうなったんだよ? 死んだのか?」

 

「ノンノン♪ ちゃ~んと此処にいるよん!」

 

 

 リゼちゃんが若干吐き気を催す気持ち悪い笑みを浮かべ、魔法陣を操い何かをこの場に召喚した。派手さがないドレスを身に纏った美少女だ……なんとなく先輩の所に居るハーフ吸血鬼君やエル、エレ……名前忘れたけど大使だったかで来たなんとかちゃんって奴と似たような感じがするから召喚された女の子も吸血鬼なんだろう。まぁ、聖杯の所有者はどうなったと聞いてこの場に呼んだんだからまず間違いないだろうけどね。てか先輩達の表情が変わってるし。でもなんだろうな……気持ちわりぃ。意識を失っているからか宙に浮いたまま微動だにしてないけど周囲を悪霊やらなにやらが浮遊して何かを語り掛け続けてやがる……聖杯を使用しすぎた影響があれか。俺みたいに慣れてるなら兎も角、慣れてない奴なら心がドンドン壊れていくぞ? あとゴメンリゼちゃん! ちょっとパンツ見たいから向きを変えてくれません?

 

 聖杯の所有者らしき女の子が登場した事に一番反応したのは先輩の後ろに隠れていたハーフ吸血鬼君だ。その表情と声はなんで、どうして、何があったって感じで驚きを隠せていないようだ。

 

 

「ヴァレリー!? なん、で……ヴァレリーに何をしたんだ!!」

 

「ん~何をしたかと聞かれたら答えてあげましょう! この子の中にある聖杯を抜いちゃったのさ♪」

 

「……!!」

 

「リゼヴィム……テメェ、神滅具を抜き出したってのか!!」

 

「そーでーす! いやはやビックリしたんだぜ? 長い歴史の中で幽世の聖杯は一人につき一個だった。でもでも~! なんとヴァレリーちゃんは三個で一セットという規格外の亜種だったのです! だったら一個ぐらい抜き出しても良いかなぁ~とか思ってたらアポプスくん達に先越されちった♪ いやはやこれじゃあ手出しができないってもんよ。俺が抜き出し、アポプスくん達も抜き出しと続けたせいで昏睡状態に陥ったのはどーでも良いがこれ以上は聖杯自体が次の所有者の下に行っちまうかもしれねぇしな」

 

「だろうな。いくら神滅具の亜種とはいえ聖杯自体が所有者の体から無くなれば転移する可能性があるしな。アジ・ダハーカもそれが分かってるから一個しか盗らなかったわけだし」

 

「その通り! だからアポプスくん達から返してもらわないと困るのよ。一個でも十分なんだが保険も兼ねてもっとくのも悪くねぇし? たった一つでも滅んだ邪龍を復活させたりなんだりいろいろ出来っからいざというときのために必要なのよ♪ あらあら~? どうしちゃったのかな皆さん、そんなおっかない顔してさ! 怒った? ムカついた? うひゃひゃひゃ! でも覚えとけって――これが悪魔のやり方さ」

 

 

 うわぁ、反論できねぇ。

 

 

「……キマリス。お前、知ってたな?」

 

「おう。ついさっきアジ・ダハーカから聖杯奪ってきたって言われたしな」

 

「……取り返そうと思わなかったのか」

 

「んなメンドクサイことするわけねぇだろ。そもそも俺の眷属でも無ければ身内でもねぇんだ……俺に無関係な奴が死にそうな程度で聖杯を取り返そうとか思わねぇよ。まっ、元士郎はガチギレしてたけどな」

 

「黒井……お前、それは本気で言ってるのか……!!」

 

 

 あら、一誠がガチギレしちゃったかぁ。てか先輩達も同じ感じなんだけど……え? これって俺が悪いの? いやいや待てって……だって聖杯絡みって俺には関係ないだろ? 俺の眷属やら身内だって言うならアジ・ダハーカと殺し合って奪い返すかもしれないがハーフ吸血鬼君は先輩の眷属で聖杯所有者の女の子は吸血鬼勢力……どっからどう見ても無関係だろ! つーか悪魔で邪龍なのに正義の味方っぽい事なんざ死んでもやりたくねぇっての。

 

 

「本気じゃなかったら言わねえっての。あのさ、何度も言ったかもしれないけど俺、悪魔で邪龍だぜ? なんで関係無い奴を助けないといけないんだよ。今回の件は先輩(グレモリー)絡みだろうが……そっちがやるなら兎も角、キマリスの俺が手助けだのなんだのするわけねぇだろ」

 

「っ!!!」

 

 

 俺の言葉にキレたのか一誠は鎧を纏って俺を殴りに来た。真っすぐ、怒りに満ちた軌道で向かってきたので影人形の拳で応戦し、別の影人形達でラッシュタイムを放って無力化……動かれるの面倒だから「苦痛」の能力も使用したけど大丈夫大丈夫! ただすごく痛いだけで死にはしないから! まっ、殴りかかってこないように影で拘束はさせてもらうけどね……うわぁ~周りの視線が凄く痛い。

 

 

「……はぁ。いい加減、理解しろって。これが悪魔だよ。お前が見てきた奴らは優しい顔しながら正義だの正しい事だのとか普通に言うが裏じゃエグイことやってんだよ。奴らは自分の目的があるから良い顔をしてるだけだ……むしろ俺みたいにやりたい事を隠すことなくやってる悪魔の方が珍しいんじゃねぇか?」

 

 

 フェニックス家とか特にそうだろうな……俺がレイチェルと契約しても特に何も言わずに受け入れ態勢なのは俺、いや相棒の力が手に入るからだ。まぁ、それ以外にもレイチェルの気持ちやら何やらが入ってるかもしれないがとりあえずそれは置いておこう。相棒の力が何もしなくてもレイチェルの一存で動かせるなら反対なんざするわけがない……これはグレモリー家も一緒だろうなぁ。だって赤龍帝の力が手に入るんだぜ? しかも一度死んでも体を新調して戻ってくるし周りにはドラゴンの力に引かれて色んな奴らが寄ってくる……どれもが普通だったら非常に難しいものばっかりだからかなり得をしてるはずだ。

 

 まぁ、そんなどうでも良いことは置いておいて俺が気に入らないのは――今更になって助け出したいとか虫が良すぎるだろ。もっとも悪魔だから仕方ないけどね!

 

 

「……そんな、こと、はねぇ!!」

 

「なんで言い切れる? そんな事は無いとかお前が勝手に思ってるだけだろうが。それじゃあ逆に聞くけど俺が間違ってると思ってるのはなんでだ? そんなの誰が決めた? お前や周りの奴らだろ。周りが俺は間違ってる、頭がおかしい、危険だとか言ってるからそれが正しいって思ってるだけだろうが。ゼハハハハハハ! 馬鹿かお前? お前らにとってはおかしくても俺にとってはこれが普通なんだよ。やりたい事をやって、好き勝手に生きて、嫌なことは嫌だと言って何が悪い? 答えてみろよ、その答え次第じゃあの子を助けてやっても良いぜ」

 

「……っ、そんなの、そんなの……!!」

 

「一誠、文句を言いたい気持ちは分かるが何を言っても無駄だ。自分を貫き通してる奴ほど説得が難しいものはねぇからな。キマリス、前にも言っただろうが偶には俺達を信用しろっての……光龍妃以外は敵だとか思ってるとこの先辛いぞ?」

 

「知ってる。たった数十年で夜空は寿命で死んじまうからな……それが来ちまったら俺は壊れるだろうぜ」

 

「う~ん、()()()が絡んでるから長生きすんじゃねぇかなぁ~俺も分からんけどね♪ うひゃひゃひゃ! いやぁ~良い光景が見れて僕ちん満足! そのお礼にサーゼクスの妹ちゃん! そしてヴァレリーちゃんの幼馴染くん! キミ達にチャンスを上げよう!」

 

 

 俺達のやり取りを聞いていたリゼちゃんが何かを思いついたのか先輩とハーフ吸血鬼を見ながらそんな事を言い出した。俺としてはどうでも良いが今、気になる事を言わなかったか……?

 

 

「……何かしら?」

 

「そんな怒った顔しないの♪ 可愛い顔が台無しだぜ? なぁ~に難しくはないよん、ただこっちの質問に答えてくればいいだけさ!」

 

「質問ですって……?」

 

「そうそう♪ では聞きます! なんで今更ヴァレリーちゃんを助けようと思ったんですか?」

 

 

 あっ、これって答えるの難しい奴じゃねぇか……アザゼルも拳を握りしめてリゼちゃんを睨んでるからこの質問の意図に気づいたって感じだな。うわぁ~流石大悪魔……何がチャンスだよ! そんなもんどこにもねぇだろうが!

 

 

「どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味よ~なんでヴァレリーちゃんを助けたいと思ったのか気になっただけさ♪ だって大切だったんでしょ? それなのに今の今まで無視してたじゃない! どーして?」

 

「そ、それは……僕が神器を操れなくて……封印されてたから……」

 

「でも何か月も前に解けてたよね? なんですぐに助けに来なかったの? ぶっちゃけその時って俺も自堕落な生活してたから今よりも何倍も楽に助けれたはずだぜ?」

 

「それは……だって、ヴァレリーは……」

 

「ヴァレリーちゃんは幸せに暮らしてましたとか言わないよね~? そんな事は無理だってキミだって知ってるでしょ? だって同じ混血なんだしさ♪ うひゃひゃひゃひゃひゃ!! しょうがねぇから代わりに答えてやるよ! お前はこの子の事なんてどうでも良かったんでしょ? 本当に大切なら眷属になる代わりにヴァレリーちゃんを助けてくれって言えたよね? 封印されてたとしても解けた瞬間にサーゼクスくんに言えたっしょ♪ なんでしなかったか――そ・れ・は! 大事に思ってるなんて言葉がうそっぱちだからさ!」

 

「違う!! ヴァレリーは僕の大切な人だ! 彼女が居なかったら今の僕は居ない……んだ! だからそんな事は無い!!」

 

「でも遊んでたよね~段ボールヴァンパイア神だっけ? うんうん、遊んでるねぇ! 大事な女の子がこーんな目に合ってるのにキミってば――」

 

《――ダマレ》

 

 

 リゼちゃんの言葉を遮るようにハーフ吸血鬼君は言葉を呟いた。全身から黒い何か……いや、影か? なんかそんなものを放出しながら殺意に満ちた眼でリゼちゃんを睨み付ける。声も先ほどまでの弱弱しい感じではなくドスのきいたものだ……なんだありゃ? もしかして犬月が言ってた謎の力って奴かねぇ。まぁ、どんな力だろうと関係ねぇ――ヤバイ、あれはヤバい。鳥肌が立つぐらい俺の中の何かがヤバいと叫んでやがる……ゼハハハハハハハッ!! 最高じゃねぇか! 元士郎の禁手に続いてハーフ吸血鬼の本気とか最高に運が良いじゃねぇかよ!! おい夜空! どっかで見てるだろうけど言っておくぞ! 今すぐ来い! 面白いものが見れるぜ!!

 

 俺がテンションを上げているとハーフ吸血鬼()()()ものは影……いや闇と表現できる腕でリゼちゃんへ伸ばし始める。その光景に先輩達は驚いているがリゼちゃんだけはいつもと変わらずうひゃひゃと自分の片腕を闇の腕へと伸ばす。

 

 

《ナニ!!》

 

「残念残念ざーんねん!! それが神器の力だってのは調べがついてるんだよーん♪ 俺には神器は効きませーん! ひゃひゃひゃ! どんな気持ち? どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち?」

 

 

 凄くウザいから殴りたくなってきた。

 

 

『ほう、バロールか』

 

 

 俺の手の甲から声が響いた。バロールって確かケルト神話の魔神だっけか……? は? いや待てって……確かバロールって滅ぼされたはずじゃねぇか?

 

 

『俺様も出会った当初から違和感を感じててなぁ! あのクロウを操った魔神の気配があの男の娘からするからよぉ、気になってしょうがなかったぜ! これが恋かって思うほどになぁ!! だが違ったみてぇだ! なるほどなぁ、バロールなら気になってもしょうがねぇぜ! ゼハハハハハハハハハ!』

 

《――クロムか。相変わらず耳障りな声だ。もし本来の体があったならその体を操って殺していたよ》

 

『言うじゃねぇか! ルーの奴に殺された分際でよぉ! 確かにテメェの力なら今の宿主様も簡単に殺されるだろうな。だがよぉ! なんだってその男の娘に宿ってんだぁ? まさか俺様に抱かれたかったからとか言わねぇよな!』

 

《そんなわけがない。これに関しては良く分からないな。キミ達に対する強い怒りでまた表に出れたけど何故ギャスパー・ウラディに宿ったのか僕自身も理解してない。ただこれだけは言える……たとえ時間がかかったとしても僕たちは必ず彼女を助けていた。それだけは強く言わせてもらうよ》

 

『そうかよ。だがその姿もそろそろ限界だろ? また話でもしようや、同じケルト出身だ。積もる話もあるだろ?』

 

《どうだろうね……また僕が表に出たらキミ達を殺すかもしれない。いや、確実に殺すよ》

 

『ゼハハハハハハハハ! それで良いんだよ! テメェが大人しく話をするなんざ見たくねぇしな!! 宿主様!』

 

「――あいよ」

 

 

 言われなくたって相棒の頼みぐらい理解してるよ。

 

 即座に影を生み出してリゼちゃんへと伸ばす。いきなりの行動に戸惑いを見せた連中もいるがそれは無視だ……気にするだけ損だしな。相手のリゼちゃんはその場から動かず、笑いながら俺が生み出した影に触れる。そこから先は同じだ……触れた箇所から最初から無かったかのように消えていく。リゼちゃんが持つ神器無効化能力のせいだろうな……! ちっ! 本当に神器相手だったら無双できる能力だなおい!

 

 まぁ、神器()()だがな。

 

 

「――ちっ!」

 

 

 突風が突如として発生した。何故ならリゼちゃんの背後に突如として夜空が現れて渾身の蹴りを放ったからだ……もっともそれはリリスによって阻まれたけどな。てか流石オーフィスのそっくりちゃん! あの蹴りを受けても腕が折れてすらいねぇとはな! 俺だったら普通に折れてます。あとタイミングが良すぎるところを見ると本当にどっかで見てやがったな?

 

 

「ありがとリリスたん! さっすが俺のボディーガード! そしておっひさぁ~光龍妃ちゃん! もしかしておじちゃんに会いたくなったのかなぁ?」

 

「ウッザ、キモイんだよ!」

 

 

 ゾクゾクする声色と表情で夜空は光を生み出す。ゼロ距離から放たれた圧倒的な光ですらリゼちゃんに触れただけで消滅する……夜空レベルですら無力化とは恐れ入るよ。でもまぁ、なんとなく神器無効化能力の事が分かってきた。そうか、リゼちゃんに触れるまでは確実に存在してるんだな。

 

 

「あぁ、もう!! むっかつくぅ!! でもいっか、ノワール」

 

「サンキュー夜空。お陰で支配権は奪えた」

 

 

 俺の腕の中には先ほどまでリゼちゃんの傍に居た吸血鬼ちゃんが居る。お姫様抱っこ状態なのは完全に俺の趣味だからこの際は置いておこう……いや置いといてください。というよりも夜空、なんだその殺気は……? 嫉妬か? おうおう嫉妬か夜空ちゃん! お前の目の前で別の女をお姫様抱っこしてるのを見て嫉妬してるのかい? いやぁ~モテるって辛いわぁ! マジ辛いわぁ! 何時でもウェルカムだから来て良いんだぜ? お姫様抱っこどころか腋ペロペロしてあげるからさ!

 

 

「死ね」

 

 

 問答無用で蹴りを叩き込まないでください。吸血鬼ちゃんが居るんですよ!

 

 

「……ノワールきゅん、一応聞くけど何してるのかな?」

 

「え? お姫様抱っこ」

 

「うん知ってるぅ! おっかしいなぁ~一応盗られないように軽い結界張ってたのにね。あっ、もしかしてさっきの攻撃で壊れちゃった? うっそー! リゼヴィムおじちゃんったらドジだねぇ♪」

 

「それもあるな。夜空の攻撃で結界破壊、その隙を突いてコイツの近くをうろついている悪霊を支配して俺のところまで移動させる……欠伸が出るぐらい簡単だったぜ? 流石に舐めすぎだろ……混血とはいえキマリスだぜ? 悪霊を従えた存在の前に浮遊霊だの悪霊だのを放置とか奪ってくださいって言ってるようなもんだ。あっ、先輩! 俺からのプレゼントなんで受け取ってください!」

 

「……もう、なんて言えばいいか分からないわね」

 

 

 吸血鬼ちゃんを手渡された先輩の表情は何が何やらって感じで困惑している。だろうね! だってさっきまで言ってたこととやってる事が違うんだし。まぁ、今回に関しては相棒からの頼みって事でやるしかなかったんだよなぁ! でもまさか夜空が乗ってくるとは思わなかったよ……もしかしてユニアか?

 

 そんな事を考えているといつもの様に夜空が俺の背中に抱き着いてきた。軽く首絞めも入ってる所を見るとかなりイライラしてるらしい……あれ? このまま絞殺される? 何それご褒美ですか!

 

 

『なんだよユニア! テメェが人助けなんざ珍しいじゃねぇの!』

 

『クロムこそ珍しいですね。たかが吸血鬼を助けたいと思うなんて今まで無かった事でしょう』

 

『そりゃお前決まってんだろ! 俺が大好きな男の娘にプレゼントするためだっての!! こうして好感度上げて一気に抱く! これこそ王道だろうがよぉ!! テメェこそなんだって手助けしやがったんだぁ?』

 

『いえ、古い友人が居ましたので恩でも売っておこうかと。クフフフフフフ』

 

《クロムにブリ、いや今はユニアだったね。珍しいことがあるものだ……でも覚えておけ。僕は今から眠りにつくが次は殺す。精々、高笑いしながら待っているといいさ》

 

『楽しみにしてるぜ! 逆に殺されても文句言うんじゃねぇぞ!』

 

『……感謝しますよ。バロール』

 

 

 最後の言葉を残してバロールことハーフ吸血鬼君は元の姿に戻った。空中に浮いている状態から意識を失ったせいか地面に落下し始めたのでイケメン君が一瞬でキャッチした……うーん、あの構図だけ見るとイケメン騎士とお姫様だよなぁ。中身は男と男だけど。

 

 

「……はぁ。あぁ、もう頭が痛い。今代の地双龍は何を考えてんのかサッパリだ。そう思うだろ、ヴァーリ」

 

「――なんだ、気づいていたのかアザゼル」

 

 

 上空から白い鎧を纏ったヴァーリが下りてきた。先ほどまで姿を消す魔法を使っていたんだろうがえーと、普通に龍のオーラとかで気づいてました! というよりもなんで混ざってこないんだろうなぁとか思ってた!

 

 

「何年お前の親をしてたと思ってやがる? お前の気配なんざ簡単に分かるんだよ。それよりもお前……何があった?」

 

「何も無かったさ。いや、あったな。だがそれは後だ。さて、久しぶりだなリゼヴィム」

 

「おっひさぁ~ヴァーリきゅん! うーん♪ 今代の二天龍と地双龍が勢揃いとはすっげーもん見ちゃったよ! うひゃひゃひゃひゃひゃ! なんだよ、良い殺気じゃねぇか。少しは強くなったのかよ?」

 

「試してみるか?」

 

「あーはいはい、やってみろよ。どーせ俺には効きませんけどねー!」

 

「――そうか」

 

 

 ヴァーリは一瞬でリゼちゃんの懐に入り拳を叩き込む動作をした。攻撃されるというのにリゼちゃんは呑気に鼻をほじくっていたが……ヴァーリの拳が心臓を貫こうとした瞬間、その手を掴んだ。

 

 

『Reflect!!』

 

 

 ヴァーリの背から生えている光翼から音声が鳴り響いた。リゼちゃんに触れられたことで先ほどまで纏っていた白い鎧は籠手の部分を残して消滅するが……ヴァーリは不敵に笑い、リゼちゃんは表情を崩している。そりゃそうだ……! 神器の力を無効化する能力を持っているのにヴァーリの禁手、白龍皇の鎧の籠手の部分が消えてねぇんだからな! ゼハハハハハハハ! マジか! マジで? 嘘だろ……! さっきの音声といい何をしやがったヴァーリ!? あれか!? 曹操ちゃんが言ってた亜種禁手の力か! おいおい……なんで俺の前に出てこなかったんだよ! かなり楽しく殺し合えそうじゃねぇか!!

 

 

「……おいおい嘘だろ。なにこれ? なんで消えねぇんだよ!!」

 

「流石のお前でも戸惑いを見せたか……ハハッ! 中々愉快だな!」

 

 

 魔力の波動を放ち、ヴァーリはリゼヴィムから距離を取る。そして即座に鎧を纏い始める……前に見た鎧と同じに見えるが所々の形状が若干だが変わっており、籠手の部分は鏡のように反射するほど美しい純白へと変化している。

 

 

「教えてやろうかリゼヴィム。これこそアルビオンが生前保有していた能力――反射だ。曹操のお陰でサマエルの毒を受けた際、お前を殺すまで死にたくないと思ったみたいでね。気が付けば禁手が亜種化していたのさ……もっともそれのお陰でアルビオンが持つ能力を引き出せたんだけどね。宿している存在の力を禁手として引き出すのは影龍王が既に行い、光龍妃と兵藤一誠は共に未知なる力に目覚めているのだから白龍皇である俺が同じことをしてもおかしくは無いだろう?」

 

「……嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!! 俺の神器無効化は神器能力者には最強の能力なんだよ! 反射だ!? ふざけ――」

 

『Reflect!!』

 

 

 取り乱したリゼちゃんの顔面をヴァーリが殴る。勿論、神器無効化能力を受けたはずなのに籠手の部分は健在だからダメージは高いだろう……そもそも高速で移動した上で殴られたらそれだけで痛いだろうけどね! てかそもそも何してんだ……反射、反射……え? いや、え? あのヴァーリ? お前まさかマジで反射してんの?

 

 

「……あぁ、この手でお前を殴れる日が来るとは思わなかったよ。本当に俺は白龍皇で良かった、アルビオンには感謝しきれないほどにね」

 

『それはお互い様だヴァーリ。お前が居たから私はさらなる高みへと昇れるのだ。私とお前は一心同体、二人で一人なのだ。さてリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。改めて名乗らせてもらおうか。我が名はアルビオン、白龍皇と称されし白き龍なり! かつて貴様がヴァーリに対して行った行為を私は今でも覚えているぞ』

 

「……そりゃ光栄なこって」

 

『あぁ、誇るが良い。二天龍と呼ばれた私の力を受けるのだからな。覚えておくが良い、我が力である「反射」ならば貴様の神器無効化など意味をなさないという事を!』

 

「確かに貴様の力は神器使いからすれば無敵だろう。しかしだ、アルビオンの力ならそれすら反射する……この白龍皇(ディバァイン)の反射(・ディバイディング)(リフレクトメイル)ならな。この意味が分かるか?」

 

「……ふざけんなよ、俺の神器無効化を受けないように反射したってか! んなもん認められるわけねぇだろ!! 神器の力に俺が、俺の神器無効化が突破されるわけが――」

 

 

 その言葉の先は続かない。何故なら再びヴァーリに殴られたからだ……いやぁ、笑えるわ! 散々神器相手には無敵だって言ってた男が神器使いに殴られるとか滑稽すぎるだろ!! 夜空とか爆笑してるぞ! 指さしながらぷぎゃーって感じで大爆笑中だ! ちなみにアザゼルも良い笑顔でリゼちゃんを見て笑ってる所を見るとかなり嫌いなんだろう……だろうな! だって生理的に受け付けない奴だもん!

 

 というよりも地味に羨ましい件について。俺も普通の霊体を作って殴れば良いだけだがどうにかして相棒の力込みで殴ってみたい……いや、まぁ……俺の考えが間違ってなければ行けそうな気がするんだけどなぁ。俺の影人形は相棒の影と霊体が混ざってるから普通に殴れば消えるのは間違いない、でも今は拳付近とかにルーンやら防御魔術やらで覆ってるから尋常じゃないほど早く殴ればルーンとかの部分が当たって殴れそうな気がするんだよね! だってリゼちゃんに触れるまでは存在してるわけだし。でも今やるわけにはいかない……何故ならもし失敗したら夜空にダッサとか言われちゃうしね!

 

 

「……っぅ!!!! また、突破……!!!!」

 

「いい加減学んだらどうだ。俺はお前を殴れる、ほら……次を防がなければ死ぬぞ? 後ろにいるオーフィスの力とやらに護ってもらえばいい」

 

 

 あっ、そう言えば居たな。

 

 

「――リリスたん。なんで、護らないのかな?」

 

「リゼヴィム、神器の力相手には無敵と言ってた。相手は神器使い、だから無敵と判断して見ていた」

 

「……ちっ、感情を薄くしてたせいってか。これは仕方ないか~うん、ヴァーリきゅん。負けだよ、大負けだ。今日は引くことにするよん♪ それじゃあ諸君! また会おう!!」

 

 

 それを言い残してリゼちゃんはリリスと一緒にこの場から消えた。完全に逃げましたね……うわぁ、一気に小物になったんだけど?

 

 

「――アルビオン」

 

『あぁ。私の力は奴に通じる。だがまだだ……まだ不完全だ。聖書の神により封じられた力を完全に開放しなければ対策されるだろう。本来であれば籠手の部分だけではなく、全身が残るはずだからな。私が鍛え上げた能力だ、その程度は造作もない。だからこそ私はしなければならないのだ……!聞こえているかドライグ』

 

『……あぁ、聞こえているともアルビオン』

 

『無様な姿だな』

 

『言うな。相棒は悪魔の世界を知らなさすぎるだけさ。いずれ理解することになる』

 

『そうか……ドライグ、今日まで色々とあったが、そのだな、時間がある時で良い……話さないか』

 

『……良い、のか? お前は俺を恨んでいるのだろう……? ま、まさか恨み言をぶつけるためか!! 言っておくが乳だの尻だのは俺は関係無いぞ!! 』

 

『し、尻! ケツ! はぁはぁ……く、くるちぃ……! い、いや違う!! 違うのだ!! かの三蔵法師に言われたのだよ……互いに話をするべきだとな! 文句など山ほどある、あぁ! あるとも!! だが今は話そうではないかドライグ! 昔の様にな……私達にとってそれは必要な事だろう!』

 

『……アルビオン!!!』

 

『――これはどちらが攻めでどちらが受けなのでしょうか。昔からアルビオンが受けと思っていましたが……まさかこれは! 逆転! あぁ、素晴らしい!!』

 

 

 ユニアさん! ちょっと今良いシーンだからちょっと黙ってようか!

 

 まぁ、そんな事がありつつ無事に目的の人物を取り戻せたっぽいし俺も十分に楽しめたからアザゼル達に別れを告げて夜空と一緒に犬月達の元へと戻る。なんか転移する前に「いや待て逃げるな!! 最後まで手伝えキマリス! あと色々と話聞かせろ!!」とか聞こえたような気がするけど気のせいだねー! うん! だって普通に殺し合っただけですしー! 俺は関係無いですしー! いやぁ~でも楽しかった! うん! すっげぇ楽しかった!! もう体が火照って仕方ねぇわ……よし今日は犬月達全員と殺し合おうかねぇ? 何処まで強くなったから確かめたいしさ!

 

 と、呑気に思っていましたが現実は甘くありませんでした。

 

 

「よう! やっと戻ってきやがったか!!」

 

 

 鬼の里、四季音姉妹の家へと戻ってきた俺の目に飛び込んできたのは何故か酒を飲んでいるグレンデルとラードゥンの姿だった。あ、あれぇ……? なんで居るの? なんか近くに居る犬月から助けてください的な視線が飛んできたがちょっと整理させろ。なんで居るの? 何で酒飲んでるの? いやそれよりもニーズヘッグはどこ行った!?

 

 

「おい、なんで居るんだよ?」

 

「んなの決まってんだろうが!! 殺ろうぜ? さっきの続きをよぉ!! 逃げるなんざ許さねぇぞ!!」

 

「……お前ら、リゼちゃんと組んでるんじゃねぇのかよ?」

 

「んぁ? んなわけねぇだろ。確かに面白そうだったから一緒に居たがあんなのと手を組むぐらいなら死んだ方がマシってな! それにヤツの傍に居るよりもユニアん所に居た方が面白そうなんでな!! アポプス達と同じく裏切った!! グハハハハハハハハハハハ!! やっぱりよぉ、殺したいから殺して、戦いたいから戦う方が俺達らしいだろ?」

 

「……夜空、説明頼む」

 

「ん~説明って言っても困るんだけどぉ! なんか知んねーけどノワールとヴリトラが殺し合ってるの見ながら話してたら私についてくとか言いだしてさー! ウゼェからいつもの遊び場で殺し合ったけど死なねぇし! 何度も何度も一生成長しないロリボディとか言うし本当に殺してぇ!」

 

 

 説明になってねぇよ。

 

 

「代わりに私が説明しましょう。簡単に言いますとリゼヴィムの所に居るよりもユニアのようにやりたい事をやる方が性に合っているので裏切りました。此処にいる理由はグレンデルが続きがしたいと五月蠅かったのでクロムが戻ってくるのを待っていたからです。勿論、私も続きがしたかったですけどね。折角の二度目の生ですから彼女と同じように世界を回って自分がやりたい事をしても罰は当たらないでしょう? あぁ、時間があればそちらに遊びに行きますよ」

 

「そういうこった!! 俺達の体もアポプスとユニアが聖杯やらなにやらで元に戻してくれたしな! それよりもだクロム!! いい加減早く殺し合おうぜ!! さっきから我慢してんだよ!!! もし逃げるってんならこの里ぶっ壊すぞ!!」

 

「……俺が断る以前にやってるだろうが」

 

 

 視線を横に逸らすと遠くから煙が複数上がっていた。恐らく夜空がここに置いてった後で暴れたんだろう……なんせ四季音姉がガチでキレてる上、犬月達もボロボロだしな。はぁ、仕方ねぇなぁもう!

 

 

「良いぜ、殺るか! 俺も色々とテンション上がってるんでなぁ!!! ゼハハハハハハハ!! 死んでも恨むなよグレンデル!!」

 

「グハハハハハハハ! それはこっちのセリフだクロム!!!」

 

「――ノワール、殺し合うのは勝手だけど外でやってくれないかい? じゃないと、潰すよ」

 

「了解。流石に此処で暴れるわけねぇだろ? ちゃんと移動するさ……ついて来いグレンデル!」

 

 

 それからアザゼル達に駒王学園へと呼び戻されるまで俺は……グレンデル達と殺し合っていた。




ドライグ→倍加、譲渡、透過、燚焱の炎火
アルビオン→半減、吸収、反射、減少

原作を読んで思いましたがアルビオンの減少以外の能力をフルに使ってた全盛期二天龍相手に三大勢力はどうやって勝ったんだろう……防ごうとしても倍加を使ったドライグが透過で突破、攻撃してもアルビオンが反射やら半減で防がれるし……勝ち目が殆ど無い気がする。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

96話

「――さて、全員揃ったな」

 

 

 ルーマニア、吸血鬼達が住む町で起きた騒動から数日が経ち、引きこもり以外の一般人なら既に寝ているであろう深夜に俺達キマリス眷属とレイチェルは一誠の家へと訪れていた。大人数が訪れても問題無いぐらい広い一室内に俺達キマリス眷属+レイチェル、先輩達グレモリー眷属+転生天使&レイヴェル、生徒会長達シトリー眷属、サイラオーグ達バアル眷属、何故か居るアガレス眷属とヴァーリ。これだけでも結構豪華なメンツだって言うのになんという事でしょう……まだ居るんだよね!

 

 まず目につくのは幼稚園児ほどの背丈しかない年老いた猿っぽい爺さん。なんとこのお方! 闘戦勝仏……またの名を孫悟空だそうだ。結構前に夜空が戦って押されかけたって言ってたが確かにヤバいわ……強すぎる。持久戦に持ち込めば勝てそうだが短期決戦だとちょっと分が悪いな。まぁ、そんな事は置いておいてお次は何と規格外パート2と勝手に呼ぶ事にした幾瀬鳶雄という奴だ。大学生ぐらいの年齢だろうがこっちもヤバイ。ガチで夜空と同じ匂いがする……うわぁ、殺し合いてぇ! 此処に来た時には既に待機してたからその時に殺し合いしませんかって言ってみたら普通に断られたのは凄く悲しかったね! さてさてお次に気になるお方は神父服に身を包んだ男か……なんでも神滅具の一つ、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)を所有しているらしい。なんだろうね! コイツからも夜空と同じ匂いがするんだが……よし、規格外パート3とでも思っておこう。巷ではジョーカーやらと呼ばれてるらしいけど。

 

 あとはまぁ、グリなんとかって奴とアザゼルか。うーん、この面々だったら大抵の奴相手だと鼻歌交じりで殲滅できそうだ。

 

 

「集まってもらったのは他でもない……数日前に起きたルーマニアの件についてだ。既に耳にしているだろうが……前ルシファーの息子、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが色々とやりやがった。吸血鬼側……ツェペシュとカーミラ両方共に崩壊状態の上、その殆どが邪龍へと変化したらしい。今回はその件について話し合おうと思う……あとキマリス! 今日こそ聞かせてもらうぞ! お前、一体何やりやがった!!」

 

 

 今日こそって聞かせろって言われてもなぁ……別に悪いことした記憶は無い気がするんだけど? ただ普通に同窓会してただけだし。てか聞きたかったら事件が起きた翌日にでも聞きに来ればいいのに。

 

 

「ここ数日間、邪龍や光龍妃と殺し合ってたの忘れたの?」

 

「あー、そう言えばそうだったな。んだよ……別に殺し合いをしてる最中に来てもよかったんだぜ?」

 

「アホか。そんな事をしてみろ……お前ら、逆切れして襲ってくるだろうが。ただでさえ手が付けられない地双龍に加えて復活した邪龍の相手はしたくねぇよ」

 

「おっ、分かってんじゃん。さっすがアザゼル! 伊達に大戦を生き残ってねぇな!」

 

「アハハハハハハ! 褒めるぐらいなら色々と聞かせてもらおうか……! キマリス、ルーマニアで何してた? サーゼクスやミカエルからも説明しろとか五月蠅かったんだぞ! お前と匙が殺し合った後始末やら吸血鬼との和平やら結構大変だったってのにお前は……! 部下から邪龍と殺し合ってると聞かされた俺の気持ちがわかるか!? もう倒れそうだったっての! 絶対に禿げたぞ! 禿げたらお前のせいだからなキマリス!!」

 

「いや禿げたのを俺のせいにされても困るんだが? つーか説明ねぇ……しなかったっけ? 同窓会に参加してたって? てか元士郎から聞いてなかったのか?」

 

「既に聞いている。だが一応お前の口からも聞いておかないとな……さぁ吐け! 色々吐け!」

 

 

 うわぁ、なんか知らないけど周りからの視線がスゲェ。興味無さそうにしてるのなんてヴァーリぐらいだぜ? てか説明しろって言われてもなぁ……ぶっちゃけると困る。うん。だって普通に殺し合って~菓子食って~あーだこーだ話して~そして殺し合っての繰り返しだった気がするし。後ろに並んでいる犬月達からお願いします真面目にはしてください的な視線が飛んできてるがマジでどうしよう……平家、どう説明すれば良いと思う?

 

 

「適当に嘘でも言えばいいと思うよ」

 

「その手があった……はいはい、じょーだんですよ。と言われても説明が難しいんだが? 単に菓子食ったり殺し合ったり話をしただけだぜ? 内容ぐらい元士郎から聞いてるだろ? それが全てだよ」

 

「……匙からは蘇った邪龍、大罪の暴龍グレンデル、宝樹の護封龍ラードゥン、外法の死龍ニーズヘッグ、三日月の暗黒龍クロウ・クルワッハ、魔源の禁龍アジ・ダハーカ、原初なる晦冥龍アポプスという面々にキマリス君、光龍妃、そして匙……言葉にしてみると頭が痛くなりますね。これほどの存在が一か所に集まるなんて悪夢でしかありません。匙が生きて帰ってきて本当に良かったです……」

 

「ホントだよ! いや、マジで死にかけてたからな!! ま、まぁ……殺し合ったのは俺が原因というのもあるんだけどさ……最初は本当に怖かったんだからな! あと後始末ぐらい手伝えって!!」

 

「ヤダ」

 

「あーもう!! ですよねー! だってお前ってブレないもんなぁ!! 邪龍としては間違っちゃいないけどこの場くらいは嘘でもハイとか言えよ!? え? なにそのお前、何言っての……頭大丈夫かって顔!? 大丈夫だよ! 全然大丈夫だよ!! アーシアさんのお陰で完全回復してるよ!」

 

 

 うーん、なんか禁手に至ってから元士郎がツッコミ役として輝き始めた気がする。これは犬月の最大のライバル出現だな! 頑張れ犬月! 負けるな犬月! ツッコミ役として元士郎に負けるなよ! 俺の兵士なんだから勝たないとダメだぜ?

 

 

「……なんか、すっげー無茶ぶりされた気がするんすけど?」

 

 

 おぉ! 鬼の四天王との殺し合いをしたせいか察しが良くなってるな!

 

 

「気のせいだよ気のせい。まっ、話の内容なんざありふれたものだぜ? リゼちゃんがムカつくから裏切ってやっただの聖杯が三つあったから一個奪っただのってな。あー、多分だがリゼちゃんに協力してるのはクロウだけじゃねぇかな? アポプスにアジ・ダハーカ、グレンデルにラードゥンはリゼちゃんに従うのが嫌だってことで裏切ってるみたいだしな。ニーズヘッグに関しては知らん……いつの間にかどっか行ってたしな」

 

「……蘇った邪龍の大半が離反とは恐ろしいことになってやがるな。グレンデルにラードゥンに関しちゃ各勢力相手に暴れてやがる。先日、サーゼクスの兵士、ベオウルフに殺し合いを挑んで再起不能に近い半殺しをしやがった……倒そうにも傍に居るラードゥンが張る結界のせいで大半の攻撃が通らん上に飽きたと言って別の所で暴れ始めやがる」

 

「現世を謳歌してんなぁ。あーベオウルフって奴に関しちゃ自業自得だろ? 殺し合いしようぜって言ってきた相手と戦ったんだしな……命があるだけありがたいと思っておけばいいさ。だけどこっちに被害来たのはムカつくからソイツ殺していい?」

 

「んな事すればサーゼクスがガチでキレるっての……そっちの状況も耳に入ってるよ。かなりの頻度でキマリス領に現れてるらしいじゃねぇか?」

 

 

 アザゼルの言う通り、ルーマニアで行われた同窓会以降、グレンデルとラードゥンは結構な頻度でキマリス領の観光地こと地双龍の遊び場に転移してくるようになった。グレンデル曰く「神レベルが出てこなくて暇だ」、ラードゥン曰く「クロムと殺し合っていた方が楽しいから」とかまぁ……そんな理由だ。お陰でうちの領地に住んでる悪魔達は「あらま~最近は派手に殺し合ってますね~」みたいな感じでのほほんとしてるがちょっと頭大丈夫か? 自分で言うのもあれだが住んでいる領地内で邪龍が殺し合ってたら取り乱すと思うんだけど……いや、常日頃夜空と殺し合ってたら日常化もするか。ヤダ、うちの領民って逞しい!

 

 

「こっちとしては楽しい殺し合いが出来る上、眷属の鍛錬になるから比較的助かってますけどね」

 

「……王様、何の脈絡もなくいきなりコイツと殺し合えって言われた俺達の気持ちがわかります?」

 

「楽しかっただろ?」

 

「楽しかったっすけどあれを相手にするぐらいだったら鬼の四天王と戦ってた方がまだ心に余裕が出来るんすけど!? 酒飲みとか茨木童子とかグラムとか引きこもりは何事も無いかのように普通に戦闘態勢入りましたけど水無せんせーとしほりんなんて絶句してましたからね!? いや泣いてましたよ!」

 

「それはきっと嬉し泣きって奴だな。流石俺様、眷属思いの良い王じゃねぇか! んじゃ逆に聞くが嫌だったか?」

 

「どーでも良い」

 

「アイツは鬼の里で暴れたからねぇ、その礼もしたかったところだから私としては問題は無かったさ。にしし! 全力で殴っても怯まずに向かってくる相手なんてノワールや光龍妃ぐらいだから結構楽しんでるよ!」

 

「前に戦った時苦戦した。だから勝ちたかった。伊吹と一緒。主様に褒められたいから頑張ってる」

 

『わレは龍をアいする覇王のケんなり。めのマえに現れタのでアれバ殺すノみ!』

 

 

 後ろに並んでいる面々に聞いてみると特に不満の声は上がらなかった。何故か知らないが先輩達と生徒会長達とアガレス眷属が言葉を失ってるような感じがするがきっと気のせいだろう。だってサイラオーグが羨ましい限りだとか言ってるし! あっ! 混ざりたかったら何時でも来てくれても良いぞ! 死んでも自己責任だけどな!

 

 

「……やっぱりこいつらあたまおかしいなぁ」

 

「私としては瞬君も片足、いえ下半身ぐらいはドップリと浸かってると思うんですけどね……いつものことながらノワール君の無茶ぶりが……うぅ、ふこうですぅ!」

 

「悪魔さん♪ 志保、すっごく怖かったけど頑張ったよ! でもあとでお話ししたいな♪」

 

「勿論、その時は私も一緒ですわ! キマリス様と契約している者としてきっちりと躾……コホン、お説教させてもらいます!」

 

 

 え? 美少女二人からの説教とかご褒美ですか? いやぁ~モテるって辛いわ! マジで辛いわ! 出来れば夜空に説教されたいけどアイドルと金髪ツインテ巨乳お姫様からお叱りを受けるとか最高だね!

 

 しっかし犬月に水無瀬に橘……なんだかんだでお前らも楽しんでただろ? あのグレンデルとラードゥン相手に悲鳴を上げたりせずに戦ってた気がするんだけどなぁ。鬼の里で特訓したせいかかなり強くなってたし……橘も歌ってる最中の隙を雷狐やら妖術で補えるようになったし水無瀬も同じように妖術を覆えたからテクニックタイプとして急成長、犬月も鬼との殺し合いで鍛えられたせいか巨大化してないグレンデル程度の拳だったら受けても沈まなくなった! おかしいな……あの状態でも大抵の奴らは死ぬと思うんだけど? 現にベオウルフが数発でノックアウトしたらしいし。まぁ、俺としては平家の戦闘力がかなり上がってて気持ち悪かったけどな! 多分だが一対一で戦えばかなり苦戦するだろう……気が付けば近くに居るしな。コイツ曰く、ぬらりひょんの技を覚えてきたらしいが東の大将の技を覚えてくるとかちょっと意味分からない……ドヤ顔してるところ悪いが褒めてないからな?

 

 四季音姉妹? あぁ、うん。こいつらいい加減に上級悪魔か最上級悪魔になった方が良いんじゃないかってぐらい出鱈目になってたよ。グラムは知らん。

 

 

「噂には聞いてたが影龍王の近くに居る面々は面白いね~というより頭大丈夫なのかな?」

 

「それよりも犬月……鬼の四天王が相手の方が安心できるって大丈夫か?」

 

「……げんちぃ、そう思わないと此処じゃ生きていけないんすよ」

 

「――いぬつきぃ!!」

 

 

 元士郎、ガチ泣きなう。

 

 

「……キマリス君の話を聞いていると私達がしている特訓って甘いんじゃ……と思えてくるわね」

 

「リアス、思うだけで実際は常軌を逸してます。キマリス君達だからこそ出来る事ですよ……私達が同じような事をすれば恐らく、数分も経たずに死ぬでしょう」

 

「だろうな。リアスもソーナも影龍王殿とは違い後衛タイプだ。近接タイプの俺ぐらいならまだ……と言ったところか。しかし邪龍との戦い……! 俺のこの拳が何処まで届くか試してみたいものだ! いずれ魔王となる身、邪龍を自らの拳で倒せなくてどうする!」

 

「……もうっ、サイラオーグもなの! イッセー、男の子ってみんなこうなのかしら?」

 

「い、いやぁ~一部だと思いますよ? 特に黒井とか黒井とか黒井とか! いやそれよりもそんだけ仲良いなら止めろよ!」

 

「ん? 邪龍が暴れる事の何が悪い? ただ殺し合いをしてるだけだろうが? いい加減、学んだ方が良いぞ。これが邪龍……いやドラゴンなんだよ。他人の都合なんてお構いなしに暴れ回る連中だ、一誠が宿しているドライグだって三大勢力が行ってる大戦中に自分の都合で乱入して大暴れしただろ? それと一緒だよ」

 

 

 俺の言葉に一誠は何かを言いたそうな顔になったが結局、言い返す事が出来なかった。だって事実だしなぁ……だからこそ相棒と同じように封印されたわけだし。

 

 

「……ほんと、口じゃ勝てそうにねぇ……!」

 

「諦めろイッセー、ルーマニアでも言ったが自分を貫いている奴ほど厄介なものはない。誰が何を言おうと自分が決めた事をトコトン突き通すから迷いがない……俺としてはいい加減大人しくして欲しいもんだけどな」

 

 

 それは無理だな。何度も言ってるが俺は好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、夜空とイチャイチャ出来ればそれで良いだけだし。周りの奴らが喧嘩を売ってきたりするから面倒な事になるだけでそれさえなければ基本的に無害だぞ? こらそこ、他人の事なんて気にしてない時点で無害じゃないよって言いそうな顔はやめなさい。誰に言ってるってお前に言ってるんだよ引きこもり……!

 

 

「さて、話しを続けようか。なんでお前達に集まってもらったかというと――リゼヴィムや邪龍、いや色んなものを全部ひっくるめて対テロリストに対抗するチームが必要になったからだ。現状、ヴァレリー・ツェペシュが保有していた幽世の聖杯の一つを強奪、さらには吸血鬼を邪龍化させて次に何をするか分からん状況に加えて滅んだはずの邪龍が同じように聖杯を強奪したせいで俺達三大勢力も他の神話勢力も今後に備えて対応せざるを得なくなった。現在暴れているのはグレンデルとラードゥンのみだが……まぁ、二体並んでいる状態だと神クラスでなければ倒すことは不可能だろう」

 

「そこまでなのね。ベオウルフが負けたことに驚いたのに……アザゼル、私達で倒せる相手なのかしら?」

 

 

 先輩の質問にアザゼルは周囲を見渡す。そしてはぁ、と軽いため息をついた。

 

 

「正直に言おう。この中でグレンデル、ラードゥンを倒せるメンツは一握りしかいない。イッセー、ヴァーリ、サイラオーグ、キマリスに酒呑童子、鳶雄、ジョーカーに初代……あとは練度は低いが匙とバロールの力を解放したギャスパーか。名を上げた面々から分かるように神滅具持ち、もしくはそれに近い力を持っている奴らしか現状、対抗できないだろう。詳しくは殺し合ったキマリス達に聞け」

 

「うわっ、丸投げしてきやがった……」

 

「それぐらいは許しやがれ。お前から見てグレンデルとラードゥンはどうだ?」

 

「どーと言われてもなぁ。ぶっちゃけるとすっごく硬い。マジで硬い。グラムぶっぱしたけど死なないぐらいタフだし夜空や四季音姉の一撃すら喜んで受けてカウンターしてくるから……うん。先輩や生徒会長みたいな後衛タイプが戦えば即効で死ぬな。あっ! ラードゥンに関しては最悪な事に防御だけなら俺以上だわ……ムカつくことにな」

 

「黄金のリンゴを守護していたドラゴンだ、防御に秀でていてもおかしくは無いだろう。さて、邪龍の情報という事でアジ・ダハーカに関して俺からも情報を提供しよう。ヤツは戦の魔法を操る邪龍、正面から挑めば返り討ちは確実だな。もっともダメージを与えても怯むことなく戦闘を続行するから一瞬でも気を抜けば逆に殺されるだろう」

 

 

 沈黙を保っていたヴァーリが壁に寄りかかりながらアジ・ダハーカの事を教えてきた。なんでも世界を旅している時に殺し合ったらしい……羨ましい! どの勢力にも属さずに動けるとかズルくないですかねぇ? 俺だってさっさと悪魔陣営から抜け出したいんですけど!

 

 

『滅ぼされるその瞬間まで護りを貫いた奴だからなぁ! ただでさえ強固な結界だってのに聖杯で強化されてるからテメェらレベルの攻撃なんざ豆みたいなもんよ! ゼハハハハハハハハハハ! 殺し合いすら知らねぇ奴らじゃあいつらは殺せねぇよ!』

 

『否定したいところだがその通りだな。我が持つ呪いを受けたとしても奴らは高笑いしながら戦いを続けるだろう。クロムの宿主の様にな……我としては屈辱だったぞ。動きが鈍るどころか嬉々として受け止めているのを目の当たりにしてしまった以上、さらなる高みへと進まねばならぬ』

 

『生憎だがなヴリトラちゃん! 俺様の宿主は今のテメェ程度の呪いなんざ効かねぇのよ! 悔しかったら覇龍レベルの状態になりな!』

 

『我が分身は禁手に至ったばかりだ。此処から少しずつ進んでいくさ。ドライグ、アルビオン、お前にユニアと我の先を突き進むのは我慢ならん』

 

『……少し、昔に戻ったかヴリトラ? お前が闘争心を露わにするなど珍しいな?』

 

『なに、我が分身の成長が嬉しくてな。少しぐらいはやんちゃしても良いだろうと思っただけだ。それよりもドライグ、静かだったな? クロムの挑発に乗ると思っていたのだが?』

 

『あぁ、先ほどまでアルビオンと話をしていた。クロムの言葉など耳にするだけ無駄だからな、聞き流していたんだよ』

 

『左様。ヴァーリ、無理を言ってすまなかったな。もう、大丈夫だ』

 

「そうか」

 

 

 アルビオンの言葉を聞いたヴァーリは部屋から出ていこうとしたがそれを見たアザゼルは引き留めるべく声を出す。

 

 

「待てヴァーリ、話を聞いてなかったのか? 此処にいるメンツで対テロリストチームを結成すると言っただろうが……無茶を言うつもりは無いがお前にも参加してもらいたいんだよ」

 

「フッ、俺が素直に聞くと思っているのか?」

 

「いーや。だからこそ鳶雄を呼んだんだよ……くっくっく!」

 

 

 うわぁ、なんかゲームのラスボスっぽい表情になったよ……ヴァーリは鳶雄と呼ばれた男、規格外パート2を見ると若干だが表情を引きつらせた。あん? 珍しいな……あの天才系銀髪イケメンがあそこまで表情を変えるなんて明日は夜空の光でも降り注ぐのかねぇ? てか規格外パート2の方も頬をかきながら若干半笑いでいるところを見るとヴァーリの弱みでも握ってるってところか。

 

 よし! 土下座するんでそれを教えてください!

 

 

「……アザゼル!」

 

「ハーッハッハッハ!! 何年お前を世話してきたと思ってやがる! 弱みの一つや二つ! 握ってるに決まってるだろ!」

 

「まぁ、アザゼルさんを困らせないようにしろよ? じゃないと、呼ぶぞ?」

 

「……くっ!」

 

『ヴァーリ、諦めろ』

 

 

 ぷ、ぷ、ふ、ふははははははははははは!!! あのヴァーリが! 銀髪でイケメンで女なんでいくらでも抱き放題なあのヴァーリが脅されてる! 何このレアな光景!! ちょ、やべっ! はらいてぇ!! あははははははははは!!! 無理! 無理無理! 写真撮りてぇ! これ夜空に見せたら爆笑するだろきっと!! てかざまぁ! まじざまぁ!! カッコつけてるから罰が当たるんだよ!! いやそれ以上に夜空を追い回してた罰が当たったにちがいねぇ!! ホントザマァ!! いやー良いもの見れたわ! でも無理笑いが止まらねぇ!!

 

 机を叩き、指をさしながら爆笑し始めた俺をヴァーリが睨んでくるがお構いなしに笑い続ける。最高だろこれ! 何を握ってるか分かんねぇけどあのヴァーリが! あのヴァーリがアザゼルに脅されるって!! うわぁ、腹いてぇ!!

 

 

「よし! これで問題児その一は解決だ! 清々しいほど良い顔で笑ってる所を悪いが話を聞けよ? お前も関係あるからな。何故対テロリスト用のチームが必要になったかを説明するとだな……ぶっちゃけると神や魔王レベルの奴らを戦場に出せねぇからだ。なんだかんだ言っても俺達三大勢力も他の神話勢力も「魔王」や「神」として信仰されてるからな、それを失った時の被害が尋常じゃねぇんだ……だからこそ戦場に向かおうとすれば引き留められるし軽い怪我でも即撤退になっちまう」

 

「……つまり身動きがとりやすい部隊が必要という事ですね」

 

「そうだ。俺達も若いお前達ばかりに負担をかけたくはねぇが……頼む! 危険だというのは重々承知している! 一瞬の判断が死を招くというのも分かっている! だが平和のため……いや楽しい明日を拝むためにも力を貸してほしい!」

 

 

 アザゼルが俺達全員に頭を下げた。まぁ、簡単に言うと三大勢力及び他勢力のパシリになれって事か……うわぁ、めんどくせぇ。

 

 

「アザゼル、そんなの頼まれなくても私達で良いなら協力するわ。勿論、死ぬかもしれないというのも分かっているわ……でも誰かがやらないとダメで被害が少なくなるなら喜んで戦うわ。皆も、良いかしら?」

 

 

 先輩が背後に並んでいる一誠君達をチラリと見ると強く頷いた。

 

 

「私達も協力します。匙以外は前線に出ることは難しいですが後方支援ならリアスやキマリス君達を超えていると自負しています。皆さんが生きて帰ってこられるように精一杯努力させてもらいます。

 

 

 生徒会長の言葉にシトリー眷属の面々も強く頷き始めた。

 

 

「元より俺はこの拳、戦う事以外は何も出来そうにない。多くの者の笑顔が護られるなら喜んで戦場を駆けよう」

 

 

 流石若手最強、威風堂々の宣言だな。

 

 そこからアガレス眷属、規格外パート2(幾瀬 鳶雄)規格外パート3(ジョーカー)、グリなんとかも協力を宣言する。なんでも天使長ことミカエルから対テロリスト用のチームが結成されることを知らされていたようで元から協力するつもりだったらしい。さてさてヴァーリはというと……かなり嫌そうな表情をしていたがアルビオンの言葉もあって無事……無事か? まぁ、無事という事にしておこう! 何故アルビオンが宿敵であるドライグと協力することを承諾したかというと――仲直りしました! 仲直りしました!! なんと仲直りしました!!! 正直に言わせてもらうと絶句だよ……この場にいる全員が言葉を失ったからな! だっていきなり『俺達』『私達は』『『仲直りしました!』』とか聞かされてみろ……はぁ? とかなるだろどう考えても!

 

 なんでも俺や夜空と会うたびにヒップドラゴンなどと呼ばれ続けた事と冥界中で放送されているおっぱいドラゴン絡みで心が引き裂かれるほどの苦しみを味わい続けたアルビオンは三蔵法師からの助言を実行するしかないと思い立ったそうだ。そして俺達が此処に集まってからずっとドライグと心が癒えるまで語り合っていたようだ……え? そんなんで仲直りして良いの?

 

 

「……あのさ、ドライグ? 本当に良いのか?」

 

『勿論だとも! アルビオンと苦しみを分かち合ったことで理解したのだ! 俺にはアルビオンが必要だとな! 心が軽いぞ相棒! 今ならばおっぱいビームを受けても正気を保っていられそうだ!』

 

「……アルビオン」

 

『何も言うなヴァーリ。長く続いた因縁が終わりを告げただけの事……私にはドライグが必要だったのだ! あぁ、心が軽い! 今まで感じた事がないほど清々しい気分だ! 今ならばクロムやユニアからケツ龍皇と呼ばれても聞き流せるぞ! ドライグ! 今日より手を取り合い、敵を倒そうではないか!』

 

『そうだなアルビオン! 俺達が手を取り合えば倒せない相手などいないのだ! 乳の群れでもや尻の群れでもドンと来いと言うのだ!』

 

『『そう! 絶対に乳と尻には負けないもんねー!』』

 

 

 もう絶句だわ。なんだこの二天龍……てか言わせてほしい! 乳の群れと尻の群れってご褒美じゃないかな?

 

 

「……ここにきて二天龍の和解だと? おいおい、ふざけすぎだろ……まぁ、良い。今代の地双龍も似たようなもんだ、あぁ、そうだ。まだ大丈夫、まだ大丈夫だ……おかしい……シャムハザに総督を譲ったのになんで俺が苦しんでんだ……? いや気のせいだ! 気のせいに決まってる! さぁキマリス!! 答えは分かってるが聞いておこうか! 勿論ハイだよな! ハイだな! 言っておくがハイしかねぇぞ!!」

 

「えっ? ヤダ」

 

 

 なんか別の意味で空気が凍った気がするが気のせいだな!

 

 

「……あの~王様? これって協力する流れだったんじゃないですかねぇ? 皆が分かっていたけどやっぱりあり得ないって感じで見てますけど?」

 

「気のせいだろ。つーかパシリなんざなりたくねぇっての……考えてみろ? テロが起きたら俺達が動く。この辺りは今までと変わらないが今回は別だ。神滅具持ちが複数に二天龍、地双龍の片割れ、天界勢力と混成になってる……つまりだ、仮に失敗したとしようか……安全な場所で酒飲みながら観戦してる奴らからこう言われる可能性があるんだぞ――これだけいてなぜ失敗するんだ間抜け共ってな」

 

「いや、まぁ……言われるでしょうね」

 

「だろ? テロに間に合わなかったら俺達の責任、失敗しても俺達の責任。自分達は戦わないのにあーだこーだと文句を言ったり酷評したりするんだぞ……ガキを戦場に送り出して長生きしてる自分達は安全圏で観戦だ、何が起きてもそれは俺達が悪いと言われる可能性があるってのになんでそんなめんどくせー事をしないとダメなんだよ。もっとも、俺達には関係無いだろ? リゼちゃんが異世界行こうがアポプス達が暴れようがアイツらがやりたい事をやってるだけなのになーんで防がなきゃダメなんだよ。ついでに言うぞ……戦いもしないで護ってもらえると思ってる奴らのために戦うなんざ死んでもごめんだ」

 

「……予想通りの返答をありがとよ。それに関しては全責任は俺やサーゼクス、ミカエルが持つ。お前達に被害はいかないから安心しろ……と言っても納得はしないよな」

 

「当然だ。何年、悪魔の醜い部分を見てきたと思ってやがる? 俺達の中で気にくわない奴が居たら問答無用で責任を押し付けるのが悪魔だろうが。まぁ、殆どは俺だろうけどな。今まで好き勝手にやってきた分、その辺りは心得てるよ。あとアザゼル? もし俺がここで良いぜ協力してやるよとか言ったらどうしてた?」

 

「そんなの決まってるだろ……熱でもあるんじゃないかとか裏があるんじゃないかって思ったな。恐らく、誰もが同じように思えるだろう……我が道を行く影龍王が何の見返りもなく協力しているのはおかしいと」

 

 

 そりゃそうだ……なんて言ったって自分勝手な俺が正義の味方っぽい事をし始めたら世界が驚愕するはずだ。夜空にすらお前頭大丈夫かって言われるぞ……アザゼルが言うには他にも対テロリスト部隊を結成して俺達だけが動くことが無いようにするとは言っているが正直、足手まといだろ。俺以外の最上級悪魔の中でまともに戦えるのって魔獣騒動でダメージを与えていたディハウザー・ベリアルぐらいだろうしな……多分だがラードゥンの結界を破ることなくグレンデルに殺されるね! 邪龍を舐めてるんなら何十回か死んどけって話だ。

 

 つまりどう考えても俺達が動く羽目になる……神すら殺せる神滅具持ちが複数に四季音姉、ヴァーリの所に居る聖王剣、バロールが宿ったハーフ吸血鬼に元士郎と一つの部隊が持つには過剰過ぎる戦力だ。上層部も喜んで戦場に送り出す事だろう……自分達の安全を守るためにな。マジで死ねばいいのに。

 

 

「だから()の答えは嫌だ、という事になる。いやーざんねんだなー見返りがあれば動くんだけどなー」

 

 

 チラリと背後にいるとある人物を見る。そいつは俺の意図に気づいたのか眩しいほどの笑顔になり、一瞬で真剣なものへと変えた。他の面々――まぁ、アザゼルとヴァーリ、規格外パート2と3、そして先輩に生徒会長も何かを察したのか地味に笑みを浮かべている。あとついでに背後にいる犬月とか橘とか水無瀬とかもな……うーん、分かりやすかったかねぇ?

 

 

「――キマリス様」

 

「ん? どうしたレイチェル?」

 

「つまり、見返りがあれば動いてくださるという事で間違いないですわね?」

 

「当たり前だ。ドラゴンだぜ? ファブニールみたいに対価でも貰わないと動くわけねぇだろ……そもそも俺自身が好き勝手に生きてるしな。それぐらいはしてもらわないとやる気が落ちるってもんだ」

 

「分かりましたわ……ではキマリス様と契約しているこの私、レイチェル・フェニックスの名においてキマリス様及びその眷属の皆さんには対テロリストチームへの参加をしてもらいます。勿論対価として……その、わ、わたく、私の……わ、腋を好きにしても構いませんわ!!」

 

 

 その時、俺の心の中に何かが突き刺さった。腋を好きにしても良い……腋を好きにしても良い! なんだその素敵な言葉は! スゲェな日本語! そんな心が踊って胸が熱くなるような素敵な単語があるのかよ! 半分とはいえ日本人として生まれてよかったぁ!! 待て待て……好きにしても良いとは言ったがどこからどこまでというのはまだ分からないから確認しなければならない……あぁ、これは大事な契約で俺が貰う対価だからそこは真剣にならないとダメだろう。真剣にならねばならないだろう! 何度も言おう! 真剣になっても良いだろう!! よしそうなれば善は急げで確認しなければ! 平家辺りから死ねばいいのにとか言いそうな視線を感じるが無視だ無視!

 

 

「……レイチェル、確認なんだがその好きにしても良いって言うのはNGが無いと思っていいんだな?」

 

「も、勿論、で、すわ! このレイチェル・フェニックス! 女に二言はありません!」

 

 

 いつものお姫様服に身を包んでいるからかたゆんとおっぱいが揺れる。素晴らしい! 若干引き気味ではあるがドヤ顔も可愛い! 流石お姫様!

 

 

「つまり運動した後の蒸れた腋の匂いをかがせてほしいとか汗を舐めさせてほしいとか言っても断らないんだな? 断らないですよね!」

 

「……も、ちろん、です……わ」

 

「擦りつけたり挟んだり、夜のオカズとして写真撮らせてくれたりしても良いですか!」

 

「まてぇぇっ!? お前、お前!! 何言ってんだこんな場所で!? レイヴェルだっているんだぞ!?」

 

「うるせぇ! 俺にとっては死活問題なんだよ!! 夜空がしてくれるんなら対価無しで参加してやるがいない以上は仕方ねぇだろ!! 腋を好きにしても良いって言われたんだぞ! テンション上がるだろうが!」

 

「分かる! 分かるが少しは我慢しろよ! 周りの視線が分かんねぇのか!?」

 

「知るか! 男には必要な事だ! じゃぁ聞くがもし先輩がお前に向かって自分のおっぱいを好きにしても良いと言ってきたらどうする!」

 

「決まってるだろ……テンション上がるわ!! 吸うし突くし揉むわ!」

 

「それと一緒だ! 大事な事なんだよこれは……! 俺としてもグレンデルやラードゥンがキマリス領に現れた際に母さんが転んだって聞いてあぁ、これはもうサッサと殺すか的な感じの事を考えてたけどな! ぶっちゃけ俺が簡単に動くと裏があるだの何か目的があるだのと言われっから仕方なく……仕方なくこんなめんどくせぇことをしてんだよ! だから何も言うな! 大事な事だ! 決してレイチェルの腋ペロペロしたいとか腋の匂いを嗅ぎたいとか思ってるけどそれを表に出さずに対価としてもらおうと頑張ってんだ! 金髪ツインテお姫様の腋だぞ!? 最高だろうが! それが分かったら黙ってろ一誠!」

 

「黒井! 隠してないぞ! 言ってる! 自分で言ってるし暴露してる!!」

 

「気のせいだ!」

 

「そうか!!」

 

 

 あぁ、そうだ。俺は何も言ってないし何も思ってない。レイチェルが自分の腋を好きにしても良いと言ってくれたことにテンションが上がっただけだ……何も間違ってはいない。ぶっちゃけ平家の腋を使ってのオナニーとかなんかマンネリ化してきたしそろそろ新しい刺激が欲しいとも思ってない。いやでも平家の腋って夜空と比べるとかなり下だがそれでも最高なんだよぁ……! 何度お世話になった事か。いやしかし此処は心を鬼にして、邪龍として対価はきっちりと貰わないとはダメだろう。しかしなんでだろうなぁ~女性陣からの視線が痛い気がする。なんかこう、気持ち悪い犯罪者を見るような感じだな! やめろよ……ゾクゾクするじゃねぇか! これが夜空だったらもう、ヤバいね!

 

 

「――キマリス様のお好きに、しても構いません」

 

 

 ……ふぅ。

 

 

「よしアザゼル! 一緒に世界のために頑張ろうぜ!」

 

「……リアス、俺は少し休む。どう考えてもキマリスは参加しないだろうと思って色々と説得案を考えてきたってのに腋、腋を対価に参加だと……俺も男だ、キマリスの趣味も把握してたがマジでそれをするとは思わねぇよ……このためだけに寝ずに考えたってのに二天龍の和解とキマリスのチーム参加だと? 夢か。あぁ、夢かぁ。なんだこの夢は……無茶苦茶すぎるぞ」

 

「気持ちは分かるけど倒れないで頂戴。貴方が倒れると誰がキマリス君を止めるのよ……」

 

 

 きっと夜空だったら止められると思いますよ?

 

 

「と、まぁ冗談のような本気は置いておいてだ。参加にあたっていくつか条件がある」

 

「……聞こう」

 

「一つ、俺達は自分の意思とレイチェルの指示で動く。まぁ、これは確定事項だ。アザゼルや魔王、天使長や冥界上層部、他勢力のトップに参加チームのメンバーの指示なんざ絶対に受けない。契約者のレイチェルの判断とその指示しか受け付けない。二つ、レイチェルの命令しか動かないと言って彼女に危害を加えて無理やり命令させない事。まぁ、これも確定事項だ。あー勿論、レイチェルだけじゃねぇぞ? レイヴェルやライザー、つまりフェニックス家に対して危害を加えるな。三つ、キマリス領の奴らにも危害を加えない。他にも後々増やすだろうがこれだけは言っておく――もしレイチェルやレイヴェルといった面々に危害を加えてみろ。殺すぞ」

 

 

 この場にいる全員に殺気を放つ。冗談抜きで殺すと分かるぐらいの濃さをはなっているからか何人かは冷や汗をかいたり息をするのが難しくなってるみたいだ。まぁ、関係無いけどね。誰であろうと危害を加えるなら殺すだけだ……冥界が滅ぼうと、天界が消滅しようと、他勢力が消え去ったとしても俺には関係ない。俺の楽しみの邪魔をするなら神だろうと魔王だろうと関係無く殺す。勿論、夜空に手を出したなら――世界を滅ぼそうか。

 

 

「――分かった。お前達キマリス眷属はレイチェル・フェニックスの判断と自分達の判断で動く。邪龍らしく好きに暴れろ。そっちの方がこっちも助かる」

 

「了解。んじゃ、契約成立って事で……あーそうそう、マジで俺の邪魔するなら殺すから精々気を付けておけよ?」

 

 

 それを言い残して犬月達を連れて自宅へと帰る。何故かってそんなもん決まってるだろ……レイチェルの腋を拝むためだよ! ぶっちゃけ一緒に風呂入る時に見てるけどそれはそれ、これはこれだ。自分の意思で腕を上げ、腋を晒すという恥ずかしい状態が見られるんなら正義の味方ごっこでもやってやるさ。まっ、母さんが転んだ云々は事実で殺そうと思ってたのも事実だ。でもアイツらのお陰で犬月達の特訓相手には困らなくなったから一応我慢してたけど……うーん、今にしてみればあいつらのせいで夜空との触れ合いが減った気がする。よし殺そう。決して夜空と一緒に居られることに嫉妬してるわけじゃない、嫉妬してますのでどうか夜空様! 一緒に殺し合いをしませんか!

 

 とか思いつつレイチェルに対価を貰おうとするとすっごく可愛い笑顔の橘とこれまた素晴らしいほど良い笑顔の水無瀬、そして何故かグーパーと握っては開いてを繰り返している目が笑っていない四季音姉の面々に正座しろと言われた。どうやらレイチェルの気持ちを考えろとか公衆の面前で色々と言い過ぎですとかいい加減にしろということらしい……畜生! 自分の欲望を隠してたはずなのになぜバレたし……! 結局、説教のせいでレイチェルの腋を見たり舐めたり匂いを嗅いだりできなかったのは普通にショックだ。

 

 

「――悪い、遅くなった」

 

 

 対テロリストチーム参加を表明してから数日後、俺は四季音姉妹を引き連れて再び鬼の里へとやってきていた。前と同じように山道を進み、古い町並みを通ってデカい屋敷へと来たがグレンデル達が暴れたせいで結構酷い事になっていた。でも鬼達は文句を言っている感じではなく、討伐された邪龍と戦えたって事で逆に喜んでいるのを見てちょっとだけ好感度が上がったのは内緒な?

 

 とまぁ、そんな事は置いておいて広間へと到着した俺の前には鬼の頭領こと寧音と側近の芹、京都妖怪の長こと八坂の姫と九重、そして東の大将ことぬらりひょんと言った面々が座っていた。いきなり呼び出されてみれば大妖怪がお待ちかねとか……何かしたっけ? ぶっちゃけ心当たりが多すぎてどれが原因か分かんねぇぞ?

 

 

「構わないさ。そっちだって色々と大変なんだろう? 邪龍と殺し合ったり対テロのチーム参加だのってさ。かっかっか! 相変わらずやることが豪快だねぇ? 影龍の」

 

「……なんだ、耳が早いな?」

 

「これでも京都妖怪の長じゃ、その手の事はすぐに耳に入る故に気にする出ない。影龍王はわらわ達京都妖怪でも注目の的じゃ、行動一つが士気に関わるほどにのぉ」

 

「うむ! 邪龍達と戦うと聞いて皆、気合を入れなおしておったぞ! 勿論、私もじゃ!」

 

 

 京都妖怪の士気に関わるってどんだけ俺の事注目してんだよ……てか九重、俺の膝に座り始めたがおかしいな? 修学旅行で拳一発叩き込んだ相手だぞ……? 警戒することはあっても懐くことはしないと思うんだが? しかし尻尾がもふもふで気持ちいいなおい! いや、モフることはしてもそれ以上は何もしねぇよ……だからその人を殺しそうな視線はやめろ。これだから少女趣味は……!

 

 

「さてと、今回は俺の呼び出しに応じてくれてありがとよ八坂に寧音に坊主。こっちのゴタゴタが解決したんでな、さっさとことを進めたくてよぉ」

 

「構わないさ、東の御大将がしようとしたことは既にこっちもやる気だったしねぇ。八坂の姉さんとも何時しようかって話してたぐらいさ」

 

「ほっほっほ。配下の者達からもまだかまだかと急かされてのぉ。今回の申し出はわらわとしてもありがたいことよ」

 

 

 うわぁ、目の前に居る奴らが笑顔になりやがった。帰りてぇ……絶対にめんどくさい奴だよこれ!

 

 

「……何企んでやがる?」

 

「カッカッカ! そっちにとっても損はさせねぇってのは約束してやらぁ。坊主、俺達東の妖怪は三大勢力と同盟を組むことにした。年寄りには期待しちゃいねぇが今の若い奴らは気合と根性がある。良い目だ、だったらあーだこーだと古いことに固執するのをやめてやらぁってな。どーせ俺の方も次の大将に座を譲ることになるんだ、今の内から若い奴がやりやすいようにしとくってのも悪かねぇと思ってよ」

 

「まぁ、そっちがそれで良いなら良いんじゃねぇか? ただおすすめはしねぇぞ? なんてったって俺が居る勢力だぜ? 同盟結んだ途端に色々と口出ししてくるぞ?」

 

「そうなったら戦争するだけってな! テメェみてぇに分かりやすい奴らなら喜ぶんだがよ、無駄に年取ると悪知恵が付いちまう。なに、殺し合いになったら楽しませてもらうさ。でだ……こっからが本題よ」

 

 

 東の大将、ぬらりひょんがどこからともなく床にあるものを置いた。それは酒のような瓶と盃だ……ん? なんか嫌な予感がするのは気のせいか? 寧音や芹、八坂の姫もニヤニヤしてるし絶対に嫌な予感がする!

 

 

「――影龍王、いやノワール・キマリス。俺と盃をかわしちゃくれねぇか?」

 

「――は?」

 

 

 このジジイ頭大丈夫か? とうとうボケやがったか……平家の奴! 一体何しやがった!? 頭でも殴ったか!? あんの引きこもり……! 自分が構ってもらえないからってここまでするか! よし、帰ったら虐めてやろう。なんかご褒美になりそうだがとりあえずモフッとこう。

 

 

「生憎だが本気だぜぇ? 隠さず言おう、俺達東の勢力はお前の力が欲しい。引き抜けるんならさっさと引き抜きてぇぐらいにな。まだ若いが俺の目から見てもこっから先、まだまだ伸びる。今の状況に満足してるって目じゃねぇしよ。だから先行投資って奴だ……こっちの力をテメェにやる、だからテメェの力をこの老いぼれにくれねぇかい?」

 

「……たった十数年生きた程度のガキと盃を交わすってのがどれだけ馬鹿な事か分かってんか?」

 

「知ってらぁんなこと。だが知るか。言っただろぉ? 古いことに固執しねえってよ。これがその第一歩って奴だ! それにな、盃を交わしてくれりゃこっちとしても大助かりってもんよ。テメェの逆鱗ってのに触れる事が出来なくなるからこっちの安全は保障される。邪龍ってのは契約には敏感なんだろ? だったらそれだ。お前の力が欲しいからこっちの力をやる。どうだ、受けてはくれねぇかい?」

 

「影龍王、わらわとも盃を交わしてはもらえんだろうか? わらわを含めた京都妖怪、その全ての力を託そう。代わり影龍王の力を貰いたいのじゃ」

 

「こっちも姉さん方と同じさ。かっかっか! 影龍のと一緒に居ると楽しめそうだしねぇ! それにだ、うちの娘と結婚するなら遅かれ早かれこうなったんだ、それが未来なんかじゃなく今になっただけのことさね。私ら鬼も影龍王の力が、アンタ自身の力が欲しいんだ。受けてくれないかい?」

 

 

 うーん帰りたい。帰ってオナニーしたい。なんだこの状況……なんで大将の地位にいる奴らが一斉に盃を交わそうとか言ってくるの? そもそも俺個人はあんまり強くないぞ? なんせ殆どが相棒の力頼りだしな! 神滅具が無くなったら非力な混血悪魔になるってが分かってんのかねぇ? よし、四季音姉。どうすればこの場を切り抜けられ……うわぁ、さっさと受けろって顔してやがる。今までで一番可愛らしい笑顔じゃねぇか……流石鬼、チャンスは逃がさいってか? その隣にいる四季音妹の分かってるのか分かってないのか分からない微妙な表情だけが癒しだよ!

 

 

『宿主様、受けようぜ』

 

「……相棒?」

 

『良いか宿主様、お前は弱く何かねぇ! この俺様が息子って思ってる奴が弱いわけねぇだろうが! 俺様がここまで来れたのは俺様が強いからじゃねぇ……宿主様、お前が居たからだ! もし別の奴だったら俺様は今も誰かを護りたいって思いを探してただろうさ! 宿主様だったからこそ答えを得られたんだ! 誇れ! 胸を張れ! 俺様の力は宿主様のものだ! ()達は一心同体、どっちも欠けちゃならねぇんだよ! ゼハハハハハハハハハハ! こうして妖怪の長から盃を交わせと言われるなんざ初めてだ! 男だろ宿主様よぉ! 良い女が! うさんくせぇジジイが力を寄こせって正面から言ってんだ! ここで受けずに何が影龍王……いや何が覇王だ!!』

 

「……はぁ、後悔するなよ? 数十年後には世界を滅ぼすかもしれない超危険人物だぜ? それでも良いのか?」

 

 

 俺の問いにお三方は笑いながら頷いた。あぁ、クソが……正面から言われたら受けないとダメだろ悪魔的に! しょうがねぇなぁ! もうっ!

 

 

「影龍王、キマリス家次期当主ノワール・キマリス。その申し出を受けさせてもらおう。ただこれだけは言わせてもらうぜ? 俺の楽しみの邪魔をしたらたとえお前らでも殺すからな!」

 

 

 この日、俺は妖怪勢力と盃を交わした。




これで「影龍王とぬらりひょん」編の終了です。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王の番外編2
97話~覚妖怪のデートな一日~


時系列は「影龍王とぬらりひょん」終了後です。


「突然ですが勉強会をしましょう」

 

 

 夕飯を食べ終えていつもの様にソファーに座ったノワールに膝枕をしてもらいながらゲームをしていると恵が意味不明な事を言い出した。今、リビングに居るのはノワール、パシリ、花恋、志保、恵、祈里、グラム、お姫様、そして私。赤龍帝の所には白龍皇のお仲間やオーフィスが居候してるっぽいけど今のところはこっちに来るような気配はない。というよりも来させない。特にあの黒歌という猫妖怪はノワールの近くに絶対に来させないと覚妖怪として誓っても良いぐらいダメ。ノー。ダメ絶対。何が何でも絶対にノー。

 

 手元にあるスマホを操作して課金したことにより潤沢となった石でガチャを引きながら周りを見渡してみる。ノワールは「何言ってんだコイツ……?」と本気で恵を心配、パシリは「あぁ、そう言えばもうすぐ期末テストか」と思い出し、花恋と祈里は横になってるから表情は分からないけど「さおりん……相変わらず羨ましいねぇ。も、もっとせ、攻めた方が良いのか、な?」とか「伊吹、何か考え事してる」と無関係だからか別の事を思ってるみたい。これ(膝枕)に関しては志保とお姫様も同じように思ってるけど残念ながら譲るつもりは一切無し。だって光龍妃に膝の上は譲れって宣言したし。恋人も妻も譲る、私はセフレで良いって言ったら気まぐれとはいえオッケーを貰ったもん、だからノワールの膝の上は私の物。誰にも譲る気は無いでござる。絶対に譲らないでござる。

 

 というよりも恵の発言を真面目に聞いているのってパシリと志保とお姫様だけだね。ノワールの隣に座っているグラムは「ベンキョウカイ、知らんが我らには関係のない事か」と私のスマホをガン見してるもんね。伝説の魔剣をオタク道に溺れさせた私の手腕を誉めてほしい。今では立派なエロゲーマーだし。あっ、ノワールが「やっぱり褐色肌のちっぱいってエロイな」ってグラムの胸見てる……確かに冬だというのにタンクトップ姿で前かがみになってるからおっぱいが見えるのは仕方がない。でもイラってするのは乙女心としてとーぜんだからとりあえず死ねばいいのにって視線を向けておこう。

 

 

「平家? なんだよその視線は?」

 

「グラムのおっぱいをガン見してる変態を見てるだけだよ」

 

「いや見るだろ? 褐色肌でノーブラのちっぱいとか見えるんなら見るだろ普通?」

 

「変態」

 

「常日頃から変態行為をしてくるお前が言うな」

 

 

 それはノワールを誘惑してるだけだからセーフセーフ。

 

 

「……ノワール君、早織。聞いているんですか? もうすぐ期末テストです。ただでさえテロとかで忙しくて勉強できていないんですから今回ぐらいは真面目に勉強してください」

 

「ヤダ」

 

「恵、メンドクサイ」

 

 

 ノワールとほぼ同時に返答する。だって期末テストなんて教科書を丸暗記と担当教師の性格を把握して出題される問題を逆算すれば満点取れるしする必要がない。もっとも学校じゃ病弱設定の私が毎回満点を取ると周りからメンドクサイ視線とかを浴びるから手を抜いてるけど。

 

 

――病弱だからってあの子だけ簡単な問題を出したんじゃないの?

――どうせ彼氏に教えてもらったんでしょ?

――何あの態度? 簡単に高得点取ったからってこっちを見下しすぎでしょ。

 

 

 うん、思い返してみれば手を抜いたところであんまり意味無かったね。クラスの男子は美少女ばっかり転校してくるから今日は誰でオナニーしようかとか考えるし女子は女子で妬みの感情を露わにしてるしさっさと卒業したい。あっ、でももう二学期が終わって三学期に入るってことはノワールは三年生に進級するってことになるね……この男、なんだかんだで成績上位組に入ってるから留年とかしないからこのまま行くと私が三年になったらノワール抜きで過ごさなきゃいけないのか。考えただけでも吐き気がするね。無理無理、予想だけどノワールが居なくなってから下心丸出して近づいてくる連中が増えそう。お姫様とか大丈夫かな? 別に変な男に騙されて処女失っても私は関係無いからどーでも良いけど。まぁ、そうなったらその連中と親兄弟親戚までノワールの手によって虐殺されるだろうけどね。この男、隠してるけどツンデレだし。なんだかんだでお姫様の事を大事にしてるし。まぁ、これは私たち全員に言える事なんだけども。

 

 

「言うと思いました……コホン、良いですか? 確かにノワール君も早織も成績は良いです。でも少しは真面目に学生をしても良いと思うんですよ! はい! もし点数が悪ければしばらく夕飯は手を抜きますので!」

 

「恵、前もそれを言ってノワールに全教科満点取られたの忘れたの?」

 

 

 忘れてませんと返答した恵だけど覚妖怪に隠し事は出来ないよ? 最近、ノワールとイチャイチャもどきが出来ないから勉強会をしようとか言ったんでしょ? これで乗ってくれればまた虐めてもらえるとか考えてるし。でも私は空気の読める覚妖怪だからこれは黙っておこう。

 

 

「うぅ……し、仕方ないんです! こうでも言わないと二人は勉強しないんですから! 一応聞きますけどちゃんと勉強してましたか?」

 

「するわけねぇだろ。エロゲーやら色々と忙しかったしな」

 

「同じく積みゲー崩しで忙しいでござる。アプリゲーのイベントで忙しいでござる」

 

「……ですよね」

 

「あのぉ、水無瀬せんせー? 王様は兎も角、この引きこもりが真面目に勉強なんてするわけないですよ。あっ! 俺は一応勉強してるっすよ! 赤点で補習とか嫌っすからね!」

 

「私も歌のレッスンとかで忙しかったですけどちゃんと勉強はしてるので安心してください! 悪魔さん? 志保、分からないところがあるので良ければ教えて欲しいな♪」

 

 

 嘘つき。ちゃんと勉強してるから分からないところなんて無いのにノワールと二人きりになりたいと思ってるだけじゃん。何処で仕入れたか分からないけど縦セタとかおっぱいを強調する部屋着で恥ずかしくないの? 別に肩こりしたくないから巨乳にはなりたくないけど色々と大変だね。学校の男子達が今も必死にオナニーのオカズにしてるよきっと。あともうすぐクリスマスだからそれも合わせて大変だと思うけど頑張ってね。どーでもいいけど。そして縦セタ最高だなとか思ってるこの変態をどうすれば良いんだろうか? あっ、SSR来た。

 

 

「そ、そのキマリス様。私も不安な所があるのでわた、わたく、私にも教えてもらえるとありがたいですわ……? いえ、お忙しいのは重々と承知しているのですが……ダメ、でしょうか?」

 

 

 ガッデム、こっちも一緒に勉強して二人きりを狙ってた。しかもこのお姫様……私のポジションであるノワールの膝の上を狙ってるよ。赤点取って補習受ければ良いのに。指さして笑ってあげるから。あっ、またSSR来た。しかも今回実装された奴だ。いえーいあいむうぃーん。あとで掲示板で持ってない奴ら相手に煽ろうっと。

 

 

「アッ! オレハヒトリデベンキョースルンデダイジョウブッス! ハイ!」

 

 

 このパシリ、志保とお姫様の気迫っぽい邪念というか欲望に恐れをなして逃げた。これだから童貞は困るんだよ。パシリなら頑張って阻止ぐらいすればいいのに。あっ、コモン。ちっ、これだからパシリは困るんだよ。

 

 

「ほ、ほらノワール君! 三人とも真面目に勉強してるんですから今回も勉強しましょう! 勉強しましょう!」

 

「……別に良いがテストなんざ教科書丸暗記すれば高等点とれるだろ? 駒王学園の教師は真面目しか居ないから下手なひっかけとか出さねぇしな」

 

「そもそも授業を真面目に聞いて教科書を丸暗記すれば平均点以上は取れるよ」

 

「……それが出来るのって極一部っすよね?」

 

 

 そうだよ。何を当たり前な事を言ってるんだろうかこのパシリは。これだから童貞は困るんだよ。

 

 

「だろうな。まっ、偶には真面目にやるか。さて水無瀬……もし俺達の点数が良かったら何をしてくれるんですかねぇ? 言っておくがこの前のように駒王学園の制服を着て写真撮影ってレベルじゃ話にならないぞ?」

 

 

 一瞬で恵の脳内がピンク色に染まったでござる。やだ、ちょっと濡れてきた……いくらなんでも直球過ぎない? とりあえず後でノワールの匂いを嗅ぎながらオナニーしよっと。勿論洗濯物とかお約束な物じゃなくて本人の匂いを嗅ぎながらだ。いつか光龍妃に殺されるんじゃないかなーとは思うけどこればっかりはしょーがない。いい加減さっさと童貞捨ててくれれば気兼ねなくエッチ出来るのに。手とか腋とか髪とかふとももとか下着でコスるとか色々やってるけどそろそろノワールの――(ピー)で犯されたい。やっぱり女に生まれたからにはさっさと処女捨てて肉欲に溺れないとダメだと思う。まぁ、相手がノワール限定だけど。それ以外の男は拒否安定。

 

 若干ムラムラしながらガチャをしているとメールが届いた。もっとも個人的なメールじゃなくてゲーム内のだけど。送り主はこのゲームを始めた時から……いや他のゲームでも常に一緒に遊んでいるフレンドだった。多分職業はニートなんだろうね。だってあり得ないぐらいゲームやってるし。

 

 

「――うそ」

 

 

 どうせまたこのゲームが面白いとか言ってくるんだろうなぁ、という程度の事を思いながらメールを開くと驚くべきことが書かれていた。うそ、ほんとうに? 冗談だったら悪魔パワーで住所氏名年齢から職業、家族構成まで調べるよ? ノワールが管理している土地に住んでるホームレス達にも協力させてでも必ず突き止めて見せる。よし、明日は運良く休日だから問題無し。いえーい。

 

 

「ノワール」

 

「あん? どした?」

 

「デートしよう」

 

 

 空気が凍った。先ほどまで和気藹々と話をしていたはずなのに全員無言になった。いきなり何を言ってるんだろうこの子は的な感じの事が全員から……いや祈里とグラム以外から感じ取れるけどそんなのはどーでも良い。重要な事じゃないし。そもそも重要なものはお店にあるんだもんしょーがない。

 

 

「ノワール、デートしよう。逢引しよう。肉欲に溺れよう」

 

「いきなり何言ってんだお前? ヤダ、めんどくせぇ、てかなんでお前とデートしないとダメなんだよ?」

 

「外に買い物がある。だから付き合って。あと彼氏彼女の仲になろう?」

 

「後者はお断りだ。お前が彼女とか自殺したく……いってぇなおい! 横っ腹抓るなっての。はいはい、外に買い物ねぇ? んなのいつもみたいに通販で買えばいいだろうが」

 

「出来るんならとっくの昔にやってるよ。でも残念な事にお店でしか売ってないから買いに行きたい。デートしよう? 前に花恋としてたんだから私ともデート希望なう」

 

「何時の話してんだお前……いや自発的に外に出たいって言ったことを褒めるべきか? まぁ、良いか。だが寒いか買い物終わったら即効で帰るが良いな」

 

「問題無し。しかもこれはノワールにも関係ある――女神の血液シリーズの新作が店に並んだんだって」

 

「よし行くぞ」

 

「がってん」

 

 

 これを言えば確実にデートできると思ってた。ありがとう顔も知らないニートのフレンド。お陰でノワールとデートできるよ……さてと、花恋とか恵とか志保とかお姫様とかから嫉妬の感情が飛んできてるけど負け犬には用が無いから勝ち誇っておこう。悔しかったらエロゲーしてから出直して来ればいいよ。それよりも運が良いね、だって今回発売される「女神の血液~ゴエティア大戦編~」の初回限定版は完全少数生産で予約しても運が悪かったら買えないものだったし。なんでも特典に歴代シリーズに登場したキャラの新規イラスト及び新規エロシーン、さらにさらに初回限定版を買った人限定で過去作キャラを使用できるという超豪華な一品。だから発売が決定した時は荒れたね、大荒れだったよ。それでもなお押し通したメーカーって凄いと思う。私もノワールもこの作品をやりこんでるから発売したら買おうみたいなことを言ってたけど残念な事に地双龍パワーをもってしても抽選に当たる事が出来なかった。勿論私も抽選が外れた一人なう。

 

 ノワールと一緒に部屋に戻ろうとすると恵から「ちゃ、ちゃんと勉強はしてくださいね!」と言われたので「勉強はするよ、ただし保健体育だけど」と返答しながら勝者の笑みを浮かべておいた。悔しがってたのは志保とお姫様の二人で花恋は流石さおりんと褒めてた。もっと褒めても良いんだよ?

 

 そこからはノワールの部屋でノワールの匂いをオカズにオナニーした後、そのままベッドでばたんきゅー。何故かついていたグラムも合わせて三人で川の字……なんだけど魔剣だからか基本的に近くに居られると悪夢見る確率が高いから出来れば志保かお姫様の所に行って欲しいのは内緒。

 

 

「――寒い、引きこもりたい」

 

「テメェが買いに行きたいとか言ったんだろうが……!」

 

 

 翌朝、朝一で駅まで向かうけど冬の寒さのせいで足が動かない。この時期にスカートなんて基本的に死ねるからズボンだけどそれでも寒い。だからノワールの腕にくっ付いても何も問題はない。大丈夫だ問題無い。うん。きっと光龍妃がどこかで見てるんだろうけどどーでもいい、悔しかったらさっさとノワールとくっ付いてエッチしてほしい。

 

 それはそれとして周りからの視線とかがウザったい今日のこの頃。まぁ、ノワールがイケメンで私も自称したくはないが美少女らしいので仕方ないと言えば仕方がない。だからと言って可愛いけど胸が小さいなぁとか思った奴ら、冬服とかコートとかで隠れてるだけだし。これでも光龍妃よりはあるもん。光龍妃よりはあるもん。何度も言うけど光龍妃の真っ平な壁よりはあるもん。あるもん。

 

 

「……んで? 売ってる場所はどこにあるんだよ?」

 

「フレンドのメールだと此処みたい。どうする? 早めに着くけどどこかでご飯食べる?」

 

「水無瀬が作った朝飯食う時間が無かったしなぁ。たくっ、魔法陣で転移すれば早いってのに電車で行こうとかいうどっかの覚妖怪のせいで腹減って困るな」

 

「えっへん」

 

「無い胸でいば、はいはい……冗談だよ冗談。周りの奴らの声がウザかったら俺の心の声だけに絞れ。良いな?」

 

「りょーかい」

 

 

 ホントに困るね。普段は腋好きな変態なのにこんな時だけ優しいんだもん。何度も思うけど覚妖怪相手に自分の心を好きなだけ読んでいいって発言はどうかと思う。私達は好きで心を読んでいるわけじゃない、むしろ読みたくないし聞きたくもない。人間なんて偽善で、自分勝手で、自己中心的で、男は可愛い女の子を見れば勃起しながら下種な事を思い浮かべるし、女は女でドロドロのギッスギッスなエグイことを平然と思い浮かべて実行する生き物の心なんて吐き気がする。普通だったら思ってる事を聞かれることは嫌悪されるはずなのにこの男は例外だ……頭がおかしい。というよりも志保とかなんであんなに人間関係を円滑に出来るんだろうね? 周りにいる男たちはおっぱいガン見してるし下種なこと考えてるのに。私だったら無理。普通に無理。ノワールが学校に居なかったらガチの引きこもりになってるぐらい無理。

 

 すれ違う一般人の心を読まないようにノワールの心だけ耳にして腕に強くしがみ付く。傍から見ればカップルが朝からイチャついているに見えるだろう……さっさとコーヒーでも飲めばいいよ。ざまーみろ。

 

 

「……狭い」

 

「我慢しろっての。朝一で行くのは良いがこれの事をすっかり忘れてたぜ……っ、おい、大丈夫だな?」

 

「問題無い」

 

 

 駅で切符を買った後、電車に乗ったは良いけど出勤ラッシュと言われるものと遭遇した。そのせいで電車内はギューギュー、人が多すぎて逆に熱くなってくるぐらいこの電車内の気温は高いと思う。普通だったら魔法陣で転移、はいしゅーりょーとなるけど折角のノワールとデートだからそれっぽいことしたかったのにこの様だよ。でもまぁ、うん。偶には良いねこういうのも。

 

 私の目の前にはノワールの顔……というよりも喉? まぁ、胸がある。あまりにも人が多すぎるから乗った瞬間にドアの所に立たされてノワールが護るように両腕をドアとかに置いてる。だからなんでこの男、こんな時だけ紳士的なのか意味分かんない。でも助かってるけど。非常に助かってるけど。ノワールの心を読んでるから普通に分かるけど……私に痴漢とかの被害に合わせたくないとか何事も無いかのように思っているのが本当に意味分かんない。絶句だよ。ついこの間にお義母さんを巻き込んだからって理由で魔法使い達を虐殺した張本人とは思えないほどの紳士っぷりだよ。本当にさ……普段はあんなに変態なのにどーしてこーなった。流石ツンデレ。よっ、ヒロイン体質。とりあえず暇だからノワールの匂いをクンカクンカしておこうっと。あっ、何してんだお前って思ってる。答えてあげましょう、クンカクンカしてます。覚妖怪が良く使うマーキングだよ。

 

 そんなこんなで無事に目的地の駅へと到着。軽く周りの声を聞いてみたけど若干後悔したのは内緒。だってノワールと私の近くに居た連中はあの窮屈さを利用してどうにか触れないかとか考えてたし。これだから男は困るんだよ。死ねばいいのに。

 

 

「――で?」

 

「なにが?」

 

 

 フレンドから教えられたお店が開店するまでかなり時間があるので近くのジャンクフード店で若干遅めの朝御飯を食べることにした。勿論ノワールの奢りなう。この男、私が奢ってという前に代金払ってたけどなんでこんなに紳士なの? 馬鹿かな? うん、ここ最近の忙しさとかで頭が馬鹿になってるに違いない。流石元お坊ちゃんと言えば良いのかな? お義母さんの教育が行き届いてますねと言ったら怒られそう。

 

 私とノワールは向かい合う様に座る。テーブルには頼んだマフィンとかナゲットとかコーラが置かれている。もぐもぐと食べ始めるとテーブルに肘をついて何か言いたそうな顔をしたノワールが声をかけてきた。

 

 

「惚けんな……お前、エロゲー買うだけが目的じゃねぇだろ?」

 

「エロゲー買いたいだけだよ、と言うのはじょーだん。うん、目的なんてたった一つだよ。最近、ノワールが忙しそうだったから休ませないとっていう乙女心が働いただけだよ」

 

「アホか、変な気を遣うんじゃねぇよ」

 

 

 私の事を理解してるノワールだから嘘はつかない。そもそも昨日の時点、私がデートしようって言った辺りから察してたからね。察し良すぎて若干引くんだけど……自慢じゃないけど私って光龍妃や恵達にも負けないぐらい美少女だと思うんだけど普通はデートしようって言ったら警戒しないで喜ぶんと思うんだけど? まぁ、ノワールだから仕方ないけどね。この男、自分と光龍妃と影の龍とお義母さん以外は敵だって本気で思ってるし。過去にお義母さんを殺されかけたせいでそう思う事にしたみたいだけどお義父さん……敵だって思われてるのはなんだか泣けてくるね。

 

 

「だって忙しいのは事実でしょ? D×Dに参加したせいでグレモリー、シトリー、バアルと一緒に特訓とか誘われるようになったし妖怪連合がノワールと盃を交わしたってことでそっちからも色々とアプローチが来るようになった。花恋と祈里の二人と婚約とか八坂の姫の娘との婚約とか色々と大変だね。よっ、ハーレム王」

 

「全部断ってるけどな! ホント、悪魔共と違って回りくどくないから個人的には好みなんだが直球過ぎるだろ……! なんだよ双龍千年計画って! なんで了承した覚えが無いのに鬼の里じゃ四季音姉妹の旦那扱いになってんだよ! 東の大将も近い将来、俺達のところにくるぜぇ~みたいなことを宣言しやがったし! あーもう無理……流石妖怪、肉食系過ぎて泣けてきたぞ」

 

「ざまぁ」

 

「犯すぞテメェ……!」

 

 

 いつでもウェルカムだからドンと来い。

 

 

「私を抱いてくれるならいつでもウェルカム」

 

「はいはい、夜空を抱いた後でなら何時でも抱いてやるよ」

 

 

 嘘。口ではそんな事を言っても抱く気なんか一切無いくせに……一途って凄いね。一人の女にそこまで惚れ込めるなんて今の時代、中々無いよ。勿論、私もノワール一筋だけど。

 

 コーラを飲みながら目の前に居るノワールを見つめる。私の受け入れてくれた主、私を理解してくれた男の人、私を見てくれる大切な存在。うん……何度も思った事だけど辛いね。私が抱いているこの好意が永遠に叶わないんだもん。私も、恵も、花恋も、志保も、祈里も、お姫様も、ノワールに好意を抱く全ての女はどれだけ好意を伝えても光龍妃に敗北する。相思相愛、どっちも好きだって自覚してるに加えてどっちもその事に気が付いてるのに未だにくっ付くことはないのがムカつく。いい加減さっさとくっ付いてくれないと諦める事が出来ない……まぁ、私は諦めることは死ぬまで無いだろうけど。恋人じゃなくても良い、妻じゃなくても良い、肉便器でも奴隷でも都合のいい女でも何でもいい……ノワールの傍に居られるならそれぐらいで済むなら安いもんだ。ノワールが居るから私は居る、ノワールが居るから私は歩ける、ノワールが居るから私は前に進める、ノワールが居るから戦える、ノワールが居るから頑張れる、ノワールが居るから私は私でいられる。ノワールの声が好き、ノワールの心が好き、ノワールの生き方が好き、ノワールの髪が好き、ノワールの指が好き、ノワールの目が好き、ノワールの足が好き、ノワールの――(ピー)が好き、ノワールなら何でも好き。ノワールノワールノワールノワールノワールノワールノワール。何度も名前を呼びたい、何度も声を聞きたい、何度も命令されたい、何度も私の体を使われたい。うん。ノワールが居るなら明日も頑張れそう。

 

 

「ねぇ、ノワール」

 

「あん?」

 

「好き」

 

「……外に出ておかしくなったか?」

 

「いつも通りだよ。ただ言ってみたくなっただけ」

 

「そうかよ。はぁ、前々から思ってたがお前、男を見る目が無さ過ぎるぞ?」

 

「覚妖怪だもん。見る目が無くてとーぜん」

 

「全世界の覚妖怪に喧嘩売ったなおい……」

 

 

 覚妖怪なんて基本的にちょろくて重くて病みやすい種族だもん。問題無いよ。

 

 

「……お前」

 

「嫉妬してるよ?」

 

「何も言ってねぇだろ……平家、お前さ」

 

「殺すよ。ノワールが殺してほしいって言ったら何が何でも殺して私も死ぬ。ノワールが居ない世界なんて興味無いし、ノワールが世界を滅ぼしたいって言うなら勿論ついていく。それが私……だからノワール、死なないでね?」

 

「……そんなの俺も知らねぇから適当に祈っておけ」

 

「そーする」

 

 

 しょーじき、最初っからムリゲーかつバッドエンドしかないんだけどね。ノワールが光龍妃に勝った場合、光龍妃は死ぬ。あれって多分だけど女王の駒で転生とか無理だもん。だからどう考えてもノワールは一人になる……逆に光龍妃が勝った場合、ノワールは死ぬ。いくらなんでも光龍妃とはいえ死人を生き返らせたりは出来ない……なんだろうね、出来そうと思えてしまうのが規格外として普通なのかな? 愛の力でどっちもなんとかなる? 分かんない。ただ一つだけ言えるのは――どっちかが死んだら世界がヤバいってことだけ。なんてメンドクサイカップルなんだろうね。

 

 そんな事を思いつつ、ご飯を食べ終えて適当に時間を潰してからお店へGO。勿論、学生である私達がエロゲー売り場なんて入ったらメンドクサイ事になるので二十代後半ぐらいに見えるように術を使うのも忘れない。妖怪達から教えてもらった奴だから雑魚だったら欺ける自信はある。実際にぬらりひょんの近くに居た猫又を欺いたからだいじょーぶだと思う。

 

 

「――買えたな」

 

「買えたね」

 

 

 というわけで目的の品を手に入れたのでもはや外にいる理由は無いので即効でノワールの部屋に転移。恵達は……あぁ、特訓してるんだ。D×Dに入ったからって真面目じゃない? あんなのただのパシリなのにね。まーいーや。今はエロゲーだ、エロゲーなう。

 

 女神の血液。悪魔を主人公に天界に居る清く美しい女神たちを――(ピー)やら――(ピー)やらを駆使して悪堕ち、自軍に加えながら好き勝手にやる人気シリーズ。今回出たゴエティア大戦編はノワールの生まれであるキマリスとかグレモリーとかシトリーとかで有名な七十二柱全てが参戦、半分以上が女かつエロシーンがキャラごとに複数存在するという容量がヤバいことになってる一品なう。ちなみに今回の主人公はなんと……なんと……! 名前が自分達で決められる上、キャラメイクが出来るという素敵仕様! しかも側近に女キャラが居てその子も自分で決められるしキャラメイク可能、さらにさらにエロシーンにそれが反映されるという素敵仕様! 噂ではプログラマーとかイラストレーターが過労死したとか何とかって聞いたけど本当だろうね。まぁ、ユーザーである私達には関係無いけど。

 

 

「あー、基本的には催眠編とかと一緒か。てかキャラ多すぎねぇかおい……? 主要キャラ72人以上ってどういうことだよ」

 

「頑張ったんだよ」

 

「そのせいで容量がヤバいけどな。特注の俺のパソコンだったから良いが一般の奴らは容量開けねぇときついぞこれ」

 

「端末課金すれば良いだけだよ」

 

「それもそうか」

 

 

 廃課金勢にとって端末課金は普通だよ。

 

 

「さてと、インストールも終わったしやるか。名前は……なんだよその顔?」

 

「別に。主人公の名前をノワール、側近の名前を光龍妃にしようかとか思ってる変態を見てるだけ」

 

「悪いか?」

 

「私の名前にするんだったら嬉しい」

 

「……勃たなくなるが良い、ってぇなおい! はいはい分かった分かった! 二週目な! 一週目は夜空の名前で進めさせろ!」

 

「……しゃーない。それで許す」

 

 

 その言葉を言った後、私はノワールの膝の上に座る。既に部屋着に着替えているから大好きなノワールの匂いがする……大好き。パソコン画面を見ながらノワールに身体を預けているとトンデモナイ事が聞こえてきた。「やっぱりコイツと居ると落ち着くな、ありがとう」という心の声が私の耳に、心に聞こえてきた……流石に驚いたので振り返ってみると「どうした?」と言いたそうなノワールの表情。気のせいかと思ったけど今まで何度も聞いてきた声だから聞き間違うなんて絶対にない。

 

 

「……今、落ち着くとかありがとうって思ったでしょ」

 

「……悪いか」

 

「……別に」

 

 

 いえーいあいむうぃーん! 恵に花恋に志保にお姫様が近くに居たらドヤ顔したい。勝った、勝ったね。自分でもちょろすぎだとは思うけどしょーがない。うん、しょーがない。

 

 

「結構隠してたつもりなんだぜ? 疲れとかなんかその辺りな……たくっ、簡単に気づきやがって」

 

「だってノワールは分かりやすいもん。あと私だけじゃなくて花恋と恵も気づいてたよ?」

 

「……マジか?」

 

「本当と書いてマジと読むレベルでマジ」

 

 

 伊達にノワールの眷属初期メンバーを名乗ってないよ。志保に祈里にグラムにパシリ、そしてお姫様はノワールと一緒に居た期間が短いから分かってないだろう。長く居た私達だからこそ分かる事だ。妖怪達の長と盃を交わした事で発生する問題とかD×D――対テロリストチームに参加した事で発生した他眷属との馴れ合い、光龍妃と最近会ってない事による寂しさとかまー色々と大変だったからね。主に他眷属達が調子に乗って一緒に訓練だのなんだのと言ってくることが非常にウザい。自分達だけでやればいいのに。

 

 

「……やっぱ、お前らって良い女だよな」

 

「当たり前だよ」

 

「それもそうか」

 

「うん、そうだよ」

 

 

 その言葉を最後に私もノワールもエロゲーに集中し始める。花恋や恵みたいにキスマークを付けられることは無かったけど……私はこれで良い。後ろから抱きしめてくれるだけで私は嬉しいから。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と劣等生
98話


「ゼハハハハハハハハハ!! ヴァーリィッ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 俺の叫びと音声が周囲に響き渡る。もはやお馴染みとなった能力発動の音声が鳴るたびに通常の鎧を纏った俺の身体から無限ともいえる影が生まれ、そこから真っ黒の人形が産声を上げるかのように目の前に居る敵へと向かって行く。無数の影人形が迫りくる光景を目にした敵――ヴァーリは取り乱すことなく自らの背から生える光翼を広げ、音声を鳴り響かせる。

 

 

『Half Dimension!!!』

 

 

 ヴァーリの周囲の空間が歪む。俺が生み出した影人形がヴァーリへと近づくごとにドンドン小さくなっていき……まるで最初から無かったかのように消滅する。ちっ、やっぱり反則過ぎるだろ……! 殺し合ってから数十分、俺が影人形を生み出してもヴァーリが半減の力を周囲に広げて防がれるしよ! しかも一発でもアイツの拳を受けたら俺自身の力が半減されてアウトとかマジでチートだなおい! あとついでにこれで終わりか? みたいな感じで俺を見てくるからなおさら腹が立ってくる! マジでこの中二病系銀髪イケメン死なねぇかなぁ。

 

 光翼から黒の粒子を放出させながらヴァーリは高速で移動し始める。狙いは勿論俺だ……当然と言えば当然だな。なんせこの場所――地双龍の遊び場(キマリス領)には俺とヴァーリしか居ないからな! きっとどこかで夜空とかグレンデル達も俺達の殺し合いを見てるだろうが今のところは乱入してくる気配が無い。ありがたいと言えばありがたいんだが乱入してきても良いんだぜと思うこの気持ちは何だろうね! まっ、今はそんな余計かどうか分からない事を考えてても仕方がないけど!

 

 

『ヴァーリ、クロムが生み出した影には触れるなよ。一度触れれば力を奪われ、無限の痛みが襲ってくるぞ』

 

「あぁ、分かっているさアルビオン。しかし相変わらず凄いな、防いでもキリがない」

 

『こちらの攻撃は影で防がれ、僅かな隙を見せればその瞬間に影から人形が生まれて向かってくる。パワーで押す戦い方ではなく完全なテクニック主体の戦い方だ。聖槍保有者の曹操と同じにするなよヴァーリ? それはお前が一番分かっているはずだ』

 

「勿論だ。もっとも、一撃を入れればこちらが有利になるのは変わらない。これは影龍王も分かっているだろうけどね」

 

 

 北欧の魔術と波動状に変化させた魔力を飛ばしながら仲良く談笑とは余裕すぎねぇか? まぁ、こっちも攻めきれてねぇから仕方ないんだけどな……なんと言うか俺はこの手のタイプとは相性が悪い気がする。いやヴァーリに関しては能力的な意味でだけどな……俺から攻めようにも白龍皇の反射鎧へと変異してアルビオンが持つ本来の能力「反射」が厄介だし、「半減」も普通に使えるから接近できないのが現状だ。現に俺の影人形のラッシュタイムを目の前で攻撃を放ってくる銀髪イケメン様は拳一つを叩きつけただけで防御が自慢の影人形の腕を吹き飛ばしやがったしな! 多分だが殴った際の発生した威力やら衝撃やらその辺りを全て反射して叩き込んだんだろう……うわぁ、ムリゲーだろ。今は昔の俺のように「両腕の籠手部分」に触れなければ発動できないっぽいが完全開放されたなら恐らく……誰もヴァーリにダメージは与えられないだろう。

 

 脳内で不敵に笑いながらカッコつけているヴァーリが浮かんだのでイライラを発散するように影人形を生み出す。半減領域で防がれるならそれを上回ればいい、攻撃を反射されるんなら反射されない物量で攻めれば良い。自分の事は自分が良く知ってる……馬鹿だからこそ正直にやるだけだ!!

 

 

「おいおいこんなもんかよ! 天下の白龍皇様がこんな低レベルな攻撃ばっかとか舐めてんのか!? 俺の防御を突破したかったら夜空並みの攻撃力で来やがれ!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハッ! ヒップドラゴンごときが俺様に勝てる気でいるとは笑いもんだ! 良いぜ、来いよ! 反射の力が十分に発揮できねぇ雑魚龍皇ちゃん! 俺様達が与える痛みでその余裕をぶっ壊してやるからよぉ!』

 

 

 ヴァーリから放たれる攻撃を影人形のラッシュタイムで防ぎつつ、力を奪う。そのまま生み出した影人形の群れをヴァーリへと向かわせるが先ほどと同じように『Half Dimension!!』という音声と共に半減領域を使われて影人形達が同時に小さくなっていく……が関係ねぇ! 防げるもんならドンドン防いでみろってんだ! テメェの弱点なんざ相棒からとっくの昔に聞いてるからなぁ! ゼハハハハハハハハ! 俺の影人形生成を甘く見るんじゃねぇ!

 

 

『ッ! ヴァーリ。その技はしばらく使うな、オーバーロードするぞ!』

 

「……すまないアルビオン、俺の力がまだ足りないようだ」

 

『気にするな。生前の私ならば兎も角、神滅具として存在している限りこの状態は必ず起こるというものだ。それにだなヴァーリ、歴代白龍皇でもここまでの数の力を半減させ、力を吸収できたものは居ない』

 

「その言葉だけで救われるというものだ。しかし、防ぐ手段を無力化されると対処に困るな」

 

 

 半減領域を使わなくなったヴァーリは魔力や北欧の魔術、魔法などで影人形を迎撃するがその程度で破壊されるほど俺の影人形は甘くない……よし、思った通りだ。白龍皇の光翼は触れた相手の力を半減させて自らの力の糧とする。聞いた限りじゃ無敵に近いものだが弱点は存在する……それは所有者のスペックによって力の上限が決まっていることだ。勿論、半減だけして力を吸収しないって方法も出来るだろうが俺の影人形を突破するために上限ギリギリまで保たないとダメだからこの線は薄い。つまり半減領域を使えば使うだけ数百以上の影人形から奪った力を全て吸収しないとダメなはずだ……流石に神滅具といえどもそれだけの数から奪った力を処理するには限界があるはずだと思ったが大当たりって感じかねぇ?

 

 純白ともいえるオーラを放ちながら高速で移動して影人形の群れから逃れようとするがそんなことは俺が許さない。言っておくがこの場所全てに影を伸ばして休むことなく影人形を生成してるから逃げ場なんてどこにもねぇぞ! てかそろそろ頭痛くなってきた……鼻血とか出てないよな? 数百数千数万と休まずに生み出し続けるなんざ夜空以外じゃ殆どやらねぇしよ!

 

 

「ゼハハハハハハハハハ! どうしたヴァーリ? ご自慢の半減領域は使わねぇのか! 遠慮せずにドンドン使えって!」

 

「生憎、その手の挑発は無意味だぞ?」

 

「そんな事は言われなくたって分かってるっての!」

 

「そうか。なら、この状況を打破するとしようか! 影龍王でなければこの力を()()で使えないからな!」

 

「――へぇ、だったらこっちも同じものを使わせてもらおうか!」

 

 

 ヴァーリがはるか上空へと飛翔したのを確認した俺は即座に影人形達の動きを止め、身に宿す呪いを解き放つために呪文を唱える。

 

 

「――我、目覚めるは」

《始まりだ!》《始まるか!》

 

「――我。目覚めるは」

《覇王の声だ!》《我らを求める声がする!》

 

 

 上空からは夜空とは別の光が降り注いでいる。純白であり白銀ともいえる色合いだ……それからは呪いとか祝福とかは感じられない。あるのは純粋な闘志だ。

 

 

「――律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

《敵は影龍王!》《相手にとって不足は無し!》

 

「――万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり」

《敵は白龍皇!》《誰であろうと我らは変わらぬ!》

 

 

 上空から降り注ぐ光を黒く染め上げるように俺の身体から醜悪な呪いが放たれる。周囲に響く歴代達も歓喜の声を上げているのが余裕で分かる……ゼハハハハハハ! あぁ、そうだ! 誰が相手だろうと関係ねぇ! 俺達は俺達の殺し合いをするだけだからな!

 

 

「――無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く」

《あらゆる呪いであろうとも!》《世界を呪う呪詛だとしても!》

 

「――獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る」

《呪え! 呪うのだ!》《我らの怒りを! 我らの呪いを思い知るが良い!》

 

「――我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

 

「――我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて」

 

《白龍皇が歩む覇道の前には有象無象でしかないのだ!》

《我らが覇王に勝利あれ! 我らが呪いにて朽ち果てろ!!》

 

 空間が、地上が、周囲全てが俺達が発するオーラによって吹き飛ばされていく。

 

 

「「「「「「「「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう――」」」」」」」」

「「「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう――」」」」」」」」

 

『Juggernaut Over Drive!!!!!!!』

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 天より舞い降りたのは白銀の閃光を放つヴァーリだ、近くに居る影人形達が何かをされたわけでも無いのに半分に折りたたまれ、さらに半分とどんどん小さくなっていく。対する俺は漆黒の影と世界を呪う瘴気を周囲に放ち、無数の影人形を生み出し続ける。あれがヴァーリが至った覇龍の先か……! ゼハハハハハハ! 楽しくなってきた! あぁ、最高じゃねぇか!!

 

 

「さて、まずは邪魔なものを消し去ろうか!」

 

『Compression Divider!!!』

 

 

 ヴァーリが両腕を広げると音声が鳴り響く。その瞬間、俺が生み出した影人形の全てがまるで圧縮されたかのように一気に小さくなり……消滅した。さっきの半減領域の強化版か! てかマジで全滅させられたんだが!? あぁ、もう! さいっこうだな!!!

 

 影人形を全滅させたヴァーリは白銀の閃光となり俺へと接近してくる。先ほどの絶技によって周囲に展開していた影人形が存在していないため障害物なんて無く、真っすぐ俺へと向かってくる……強く拳を握り、直撃するなら即死するだろうという威圧感と共に俺へと殴りかかってきたので()()()で迎え撃つ。漆黒の鎧を纏った影人形――影法師は迫りくるヴァーリの拳を迎え撃つべく正拳突きを放つ。互いの拳が直撃した瞬間、俺達の周囲が面白い様に吹き飛んだ……呪いを浴びた地面は草木一本生えない大地へと変化し、飛び散った岩などは瞬く間に折り紙のように折られていく。ちっ、「Reflect」っていう音声が鳴ったから反射の能力を使いやがったな……危うく影法師の拳が吹き飛ぶところだったぜ!

 

 

「……防がれたか、これでも全力だったんだがな」

 

「『生憎、俺の防御は鉄壁だぜ? ゼハハハハハハハハ! その程度の攻撃で突破しようなんざ百年早いってな! 悔しかったら夜空並みの威力でも出してみろや白龍皇ちゃん!!』」

 

 

 ヴァーリの拳を受け止めている影法師だが腕があり得ない方法に曲がろうとしたり、首が即死するレベルで折られたりとしているが何事も無かったかのように再生させる。存在するだけであらゆるものを圧縮とかやめてくれませんかねぇ? まっ! 今の俺達にはその程度の圧縮なんざ通じねぇけどな! 夜空の覇龍強化版なんざ問答無用で浄化してくるし……なんでアイツ、あれで人間なんだろうな!

 

 互いに拳を突き合わせたまま数十秒間硬直し――同時に元の姿へと戻る。当然と言えば当然だ……これ以上は本気で死人が出るしね。ヴァーリはリゼちゃん、俺は夜空と勝たなければならない相手が居る以上、ここから先は進むことは無い。惜しいと言え惜しいが……多分、相棒の再生能力があったとしてもさっきの半減領域強化版を喰らったら流石に死ぬ一歩手前まで行くと思う。というよりも下手すると死ぬね! きっと!

 

 

「……感謝するよ影龍王、極覇龍は訓練で使うには人を選ぶ代物だ。キミレベルでなければ仲間を殺してしまう」

 

「それはお互い様だ。こっちの漆黒の鎧だって下手すると廃人を作りかねないしな……ほい」

 

「貰っておこう」

 

 

 戦闘態勢を解き、俺達は近場の岩に腰を下ろす。改めて見ても周囲は酷いありさまだ……俺の鎧から漏れ出した呪いによって地面が汚染されてるしヴァーリの圧縮によって色んなものがぺしゃんこ状態、うーんこれは酷いな! でもこれはこれで味があって良い気がするから観光地としてそろそろ本格的に動き出そうかねぇ?

 

 俺から飲み物を受け取ったヴァーリだが飲む仕草もイケメンだ。死ねばいいのに!

 

 

「つーか反射とかチート過ぎるだろうが……」

 

「キミの方こそ常軌を逸した再生能力、一度ダメージを受ければ永遠の痛みを与える呪い、そして当たり前のように使っているが無数の人形生成能力、その言葉が当てはまると思うが?」

 

「んなわけあるか……数百数千数万と生み出してもお前や夜空相手だったら簡単に消される代物だぞ? チートだなんだって言われても俺にはこれしかないんだよ。親父みたいに万能じゃねぇしな」

 

「俺としては羨ましい限りなんだがな。俺の身体に流れるルシファーの血、その力を未だに理解していない。アルビオンの力だけで戦っているだけだ……兵藤一誠や光龍妃、そしてキミのように自分だけの力というものが無い」

 

「そんなのなくったってアホかってレベルの魔力を持ってるだろうが? まぁ、ぶっちゃけルシファーの力がどんなものか分からないがもし使われたら流石に負けるぞ? 俺はそこら辺に居る混血悪魔だしな……で? どうだった?」

 

「そうだな。これからも相手をしてもらえると助かるとだけ言っておこう。あの男が動き出した以上、俺は今よりも先へと進まなければならない……残念な事に極覇龍込で全力を出せる相手は限られていてね。極覇龍の先というものに進むためにはこのような戦いをしなければ分からない。それはキミも同じだろう?」

 

「……まぁな。俺の方もぶっちゃけると伸び悩んでるのが現状だしな。影龍王の漆黒鎧・覇龍融合、俺が編み出した影人形融合の強化形態なのは良いがその先が未だに分からねぇ……お前と殺し合ってヒントぐらいは得られると思ったが全くと言って良いほど出てこなかった」

 

 

 水を一口飲みながら今日までの特訓を思い返す。鬼の里では芹と殺し合ったりした、こっちに戻ってきてからも四季音姉妹と殺し合った、眷属全員と殺し合ったりもした、神器の中に意識を落として歴代達と語り合った……というか呪いをぶつけてきたので逆に呪いを放ってやったりもした。でも全然先に進めている気がしない……強くなったかと言われたらまぁ、多分強くなっているとは思う。多分、きっと。だけど先に進めているかと聞かれたら答えはノーだ……影龍王の漆黒鎧・覇龍融合は言ってしまえば通過点のようなものだ。これがゴールなんて絶対に認めねぇ! この程度で満足してたら夜空に瞬殺されるってな!

 

 

「影龍王」

 

「あん?」

 

「戦った俺が感じた事を言わせてもらおうか。あぁ、なんだろうな……焦り、に似た何かを今の戦いの中で感じたな」

 

「……焦り、か」

 

 

 腕を組んで少し考えてみる。焦り……焦りか、まぁ、うん。焦ってるかもしれないと言えばそうかもしれねぇな……一誠や元士郎、俺と同じドラゴンを宿した奴らが後ろから迫ってきてるから無意識に焦ってたのか? いや、それとも夜空に負けるって勝手に思ったからか? あー、他にも色々と心当たりがあるような無いような……焦りか。

 

 

「一度、自分を見つめ返してみたらどうだい? 俺はキミがこのままでいるとは到底思えない。必ず、俺が知らない何かを見せてくれると確信しているからね。勿論、これは兵藤一誠にも言えるな」

 

「……そっか。とりあえず助言ありがとうとだけ言っておくよ」

 

「別に助言をしたつもりはないさ。伸び悩んでいるのは俺も同じだからね、アルビオンとドライグが和解した事によって聖書の神が封じた能力が解放されると思ったが中々苦戦しているよ。参考までに聞かせてもらいたいがどうすれば能力が完全に解放されるんだい?」

 

「いや、俺に聞かれても困るっての……再生能力だって漆黒の鎧になったらいつの間にか解放されてたし、苦痛の能力だって……まぁ、なんだ、逆鱗に触れたら勝手に解放されたんだぜ? 相棒、なんか知らないか?」

 

 

 俺の質問に相棒は活き活きとした声色で答えてくれた。

 

 

『そうだなぁ! この際だからぶっちゃけようか! 宿主様よ、俺様とユニアが自らの意思で聖書の神に封印された事は知っているな? だからよぉ! ヤツの目的や能力の解放条件ってのを知らされてるのよ! ゼハハハハハハハハハハハハ! 良いかよく聞けよ? 俺様の能力が解放された条件は――俺様の事を真に理解し、俺様が共に戦っても良いと思える奴と出会う事。そしてもう一つが心から守りたいと思える奴のために逆鱗状態になる事だ! ゼハハハハハハハハハ!! 宿主様という最高の相棒と宿主様の母上様がいたからこそ!俺様はここまで来れたってわけだ!!』

 

『……改めて聞かされると信じられん。最低最悪とも言われた貴様が護りたいだと? にわかに信じられん……が実際に能力が解放されているところを見ると本当のようだ。だが信じられん……!』

 

『おいおいアルビオン、それは心外ってもんだぜぇ? 俺様だって護りたいと思っても良いだろうがよぉ! 気になっちまったんだ! 俺様とユニアを相手にしていた聖書の神の言葉がな! 護りたい気持ちってのは何だ、それはどんなものだってよぉ! だったら確かめるしかねぇだろうが!』

 

「――と、まぁ、こんな感じらしいぞ?」

 

「なるほど。母親か……」

 

「あん?」

 

「いや、何でもないさ。やはりこれは俺自身が解決しなければならないらしい」

 

 

 なんか良く分からんが勝手に納得したらしい。しっかし改めて思うんだが……母親のために逆鱗状態になるってマザコンすぎねぇか? やだーノワール君ってばマジマザコーン! とか夜空や平家辺りに言われかねないぞマジで!

 

 ヴァーリの話を聞いてみるとどうやら歴代白龍皇の方々が赤龍帝被害者の会なるものを結成したようで二天龍が和解した今でも赤龍帝への怒りが解けていないらしい……ちょっと待って、赤龍帝被害者の会って何!? ぷ、ぷ、ぷはははははははは!! 被害者の会! 被害者の会!! 被害者の会ってなんだよそれ!!! どんだけおっぱいを嫌悪してんだよ歴代白龍皇!! ちょっと待って腹痛い……マジで腹痛い……! 真剣な表情で赤龍帝被害者の会とか言うのやめろって! 笑いが、とまらねぇ!!

 

 心の底から爆笑しているとヴァーリから若干怒りの視線が飛んできたので頑張って笑いを堪える。いやぁ、無理無理! 歴代白龍皇全員が赤龍帝被害者の会を結成しているのを想像すると本当におかしいしな!

 

 

「いや~悪い、真剣な顔して何を言うかと思えば赤龍帝被害者の会とか言うから……あー腹痛い……と、まぁ、冗談は置いておいてかなり難航してるようだな?」

 

「……あぁ。二天龍が和解した事については俺個人は何も思う事は無い。だが歴代白龍皇は違うみたいでね……赤龍帝が起こした行動によって白龍皇の名を穢し、アルビオンを苦しめたという事で怒っているようだ。アルビオンやドライグの説得も今のところは効果が無い以上、時間をかけるしかないだろう」

 

「だな。まー頑張れ頑張れ。あっ、そう言えば話が一気に変わるが……お前、今度の休みって暇か?」

 

「まさかキミから何かを誘われるとはね。用件だけは聞いておこうか」

 

「いや、グレモリー、シトリー、バアル、アガレス、フェニックス、キマリスの面々が出資した学園の体験入学があるんだが……参加しない?」

 

 

 生徒会長ことソーナ・シトリーの夢であった誰でもレーティングゲームを学べる学校がようやく完成らしい。そのせいで俺達キマリス眷属、サイラオーグ達バアル眷属、先輩達グレモリー眷属といった面々が教師となってガキ共相手に色んな事を教えなければならなくなった……というよりも好き勝手に生きてる俺を教師とか生徒会長の頭は大丈夫かと本気で心配になるな! 絶対逆効果だろ! まぁ、断ろうにもキマリス家が出資している上、レイヴェルとレイチェル、橘や水無瀬からお願いしますと笑顔という名の圧力で強制参加させられてるから逃げれないというね!

 

 ちなみに純血主義の冥界に誰でもレーティングゲームを学べる学校なんて建てたら色んな所から反対の言葉が飛ぶと思う……いや実際には飛んでいた。夢物語だとか冥界に合わないだのと老害や頭の悪い貴族共が声を上げていたってのは親父やセルスから聞いてたしね。だけど……えーなんと言いますか! 俺、いやキマリス家が大々的に出資しますと宣言したらなんと言う事でしょう! 反対の声が無くなりました! そのお陰かどうかは分からないがバアル家やグレモリー家、フェニックス家と言った面々も便乗してシトリー家を応援できるようになったようです。おかしい……そこは反対意見を出せよ! そうしたら問答無用でグラムぶっぱ出来たものを……!

 

 あとかなりどうでも良いがとある誰かさん達によって虐殺されてもはや希少種となった魔法使い達がこの学園に集まって会議をするらしい。何の会議かは知らんが俺絡みじゃないだろうきっと!

 

 

「何故俺なんだ?」

 

「だってお前、学校行ったこと無さそうじゃん。俺や一誠、元士郎も参加するし夜空にも声をかける予定だし白龍皇のお前も参加したら盛り上がるだろ? ついでに学生ってのを味わってみたらどうだ?」

 

「断ると言ったらどうするつもりだい?」

 

「何もしねぇよ。参加不参加は個人の自由だ。でも一誠の日常を一回じっくりと見ておくのも一つの手だぜ? お前に足りないものを持ってるかもしれないしな」

 

 

 それらしいことを言ってるが実際は俺達だけ参加でお前だけ不参加はふざけんなって言う怒りによるものだけどな! マジで不参加とか許さねぇぞおい! こっちはなぁ……参加したくないのに強制参加でイラついてるんだよ! まぁ、嘘だがな。レイチェル達から頼まれなくてもこっちからあーだこーだと理由付けて参加したっての……とりあえずお前は黙って参加しろ! お願いだから参加してください! だって二天龍と地双龍の面々が一か所に集まってガキ共に何かを教えるとかかなり盛り上がるだろ! 体験入学に来るガキ共は俺みたいに純血主義の冥界に迫害された奴らばっかだ。魔力が低い、身分が低い、能力が低いとかってな……あんな思いをガキ共がしなくて済むなら喜んで教師だのなんだのやってやらぁ! あとついでに夜空にも学生ってのを味合わせてみたいしな……こっちは完全に俺の我儘だけども。

 

 ヴァーリに体験入学の事を話すと表情を若干だが変えた。よしよし……良いぞ良いぞ! そのまま参加するって言え! 良いから言いなさい何か奢ってあげるから!

 

 

「――すまないがこの場では返答は出来ないな」

 

 

 知ってた。

 

 

「あっそ。まぁ、暇だったら来いよ。別に除け者なんかにはしねぇから」

 

「……そうか」

 

 

 この後、俺達は何かを話すことなく飲み物を飲みながら消費した体力を回復するために休息をとり、再び殺し合った。

 

 

 

 

 

 

「ひっ、たす、たすけ!」

 

 

 女の声が周囲に響き渡る。朝か夜か分からず無機質な建物が幾重に並んでいる場所をゴスロリ衣装を着た二十代ぐらいの女が必死の表情で助けの声を上げながら走っている。しかしどれだけ大声を出そうともその声に答えるものは誰も居ない……何故なら彼女が居るこの空間はとある存在によって作られた別世界だからだ。

 

 

『おいおい、いい加減鬼ごっこはやめようぜ? そろそろ飽きてきやがった』

『つーか飽きた!』

『さっさと殺そうぜ!』

 

 

 邪悪と表現できる三つ首のドラゴンが逃げ惑う彼女を追い詰めるべく、指先を軽く曲げる。すると何も無かった空間に数百と言った魔法陣が展開され、あらゆる属性の魔法が一気に放たれる。当然、逃げ続ける彼女も自らの武器である紫炎や魔法を駆使して反撃しようとするが……互いの実力差があり過ぎるため全くの無意味となった。彼女――ヴァルブルガははぐれ魔法使い達で結成された魔女の夜の幹部という立場にいるほどの実力者のため操る魔法は一般の魔法使いと比べてもはるかに上回り、身に宿している神滅具の力もあって本来であればここまで取り乱すことなど無い。しかし相手にしているのは無数の魔法を操る魔源の禁龍と称されるアジ・ダハーカであるため放たれる魔法を防ぐことなど出来ずに傷を受けていく。鋭い魔法が足を、腕を、体を切り裂いていくが致命傷ともいえるほどのダメージは一切無い。ヴァルブルガ自身も遊ばれていると認識しながらも逃げ続けるしかない。

 

 追いかけるのに飽きたのかアジ・ダハーカはヴァルブルガを四角い牢屋に閉じ込める。いくら叩こうと、いくら攻撃しようとヒビすら入らないほどの強固な檻。完全に逃げ場が無くなったと認識した彼女は涙を流しながらドラゴン達へと視線を向けた。

 

 

「ひぃっ! な、なん、なのよん……! いきなり、なんなのよ!!」

 

《お初にお目にかかる。私の名はアポプス、お察しの通り邪龍だ。今回、貴方をこの空間へと招いた理由は一つです。その身に宿す神滅具を提供していただきたい。抵抗しなければこの場から解放してあげますよ》

 

「……す、するわ! 渡す! だ、だからた、たすけてほし、いのねん!!解放して!!」

 

 

 ヴァルブルガは悩むことなく司祭服を着た男――アポプスに神滅具を渡す事を了承する。この状況から逃れることができるなら、生きることができるなら希少な神滅具を失っても構わないとヴァルブルガは本気で考えている。迷いのないその返答にアポプスとアジ・ダハーカは満足そうな表情をし、彼女を捕えていた檻を消して足元に魔法陣を展開した。

 

 本来、神器を抜き出すことは所有者の死を意味する。しかし術を操る者がアジ・ダハーカのように魔法を得意としているならば話は別だ。所有者の命を奪わずに神滅具を抜き出すことなど造作もない……現に今も痛みすら無くヴァルヴルガの体内から神滅具――紫炎祭主による磔台を取り出した。本来であれば独立具現型神器に属される紫炎祭主による磔台は自らの意思で別の所有者へと転移することが出来るがアジ・ダハーカによる術の影響で転移することなく彼の手の中に納まっている。今まで頼りにしていた武器が消えた事にヴァルブルガは後悔の念など抱くことなく、この場から逃げられることやこれからも生きていられると逆に歓喜してた。

 

 

『よし回収したぜ。確かに八岐大蛇の魂が入ってるな』

 

《分かりました。提供、感謝しますよ魔法使いヴァルブルガ》

 

「え、えぇ! だ、だからもう満足よねん!! は、はやく、助けてよ!!」

 

《――えぇ、分かりました。契約は成立しましたので()()してあげましょう》

 

 

 その声の直後、鮮血が舞った。赤い、赤い噴水がヴァルブルガの首から溢れ出し、地面を血で染めていく。落ちた頭は何が起こったのか分からない表情をしており、自分が殺された事にすら気づいてはいないようにも見えた。

 

 彼女の首を落としたのは黒髪の男だ。その手には剣が握られており、禍々しい何かが漏れ出している。

 

 

『あーあ、少し考えりゃ分かる事だろうに。俺達邪龍が簡単に助けると本気で思ってたなら爆笑もんだ』

 

《契約を交わした以上は解放しなければなりませんがそれが「この場」からなのか「この世」からなのか、確認を怠ったのが間違いでしょう。さて、本当によろしいのですか? 私達はノワール・キマリスが提案した完全な八岐大蛇の蘇生が望みです。このまま聖遺物にその剣に封じられた八岐大蛇の魂を埋め込めば済む話、貴方が人柱になる必要は無いのですよ?》

 

「――僕は力が欲しい! 僕は、絶対に奴らを殺さないといけない……! そのためなら蘇ったこの命すら惜しくは無い!! 必要なんだ……力が!!」

 

 

 拳を強く握り、怒りの形相で語られた言葉に二体の邪龍は笑みを浮かべる。

 

 

《分かりました。では八重垣正臣、今からこの神滅具に完全な八岐大蛇の魂を埋め込みます。何が起こるか分かりません……八岐大蛇の意識が目覚め、宿した貴方を食い殺すかもしれない。しかしそれに耐えられたのであれば――貴方の復讐に協力しましょう》

 

『まー頑張れや。人間の意地ってのを俺達に見せてくれよ』

『頑張れー!』

『応援してるぜ!』

 

「……勿論だ!」

 

 

 八重垣と呼ばれた男が握っていた剣から魂のようなものが抜かれ、紫炎祭主による磔台へと押し込められる。その瞬間、紫炎の炎を放っていた聖十字架が禍々しい何かへと変化し始める。普通なら危険だと判断する事態だが黒髪の男――八重垣正臣は戸惑うことなく聖十字架を自らの体内へと誘った。

 

 刹那、この空間全てに響き渡る叫びが木霊する。呪いを帯びた紫炎が八重垣の体を焦がし、強い心を汚染する。しかし八重垣はそれに耐える、耐える、終わりなど見えない苦痛にひたすら耐え続ける。その眼には復讐の炎を灯し、その心には必ず殺すという強い決意が存在している……全ては愛する彼女のために。

 

 

『それよりもユニアはどこ行った? アイツが蘇るところが見たいとか言ってたから動いたってのによ』

 

《彼女ならノワール・キマリスの行動を見ているようだ。既にこの遊びには興味を示してはいないでしょう》

 

『あのやろー、俺達をタダで動かしやがったな? まぁ、良いけどよ。面白いもんが見れてるしな』

 

《えぇ。どの時代でも人間は恐ろしい生き物です。恐らく――耐えきるでしょうね。心の底から決意している人間は邪龍の誘惑にすら打ち勝てます……むしろこちらとしてもそうであってもらわねば困りますがね》

 

『だな。俺にお前にグレンデル、ラードゥンにニーズヘッグ、まだまだ数は足りねぇ。リゼ公みてぇに量産型邪龍を使うって手もあるがそれだと俺達のプライドが許さねぇ』

 

《クロムとユニア、そしてクロウの協力が得られるなら正面から戦えるでしょうね。今から楽しみですよ本当にね》

 

 

 アポプスはもだえ苦しむ八重垣の姿を見ながら静かに嗤う。

 

 

《――黙示録の獣との戦いはどれほどの苦難があり、どれほどの激戦があるのか。私は、私達はそれを確かめたい。その過程で世界が滅ぼうと私達には関係無い……この身は一度、既に滅んでいますからね》




「影龍王と劣等生」編の開始です。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

99話

「というわけで体験入学的なものをやるから参加しろよ」

 

「いきなり何言ってんの?」

 

 

 ホカホカの肉まんに嚙り付きながら何言ってんだコイツという視線を浴びせてくるのは規格外、最強の光龍妃、ノワール・キマリスの嫁と数々の異名を持っている片霧夜空。既に十二月に入っているというのに白いシャツに黒いミニスカ、そして素晴らしい絶対領域を生み出しているニーソックスという何処からどう見ても真冬の恰好じゃないですありがとうございました! いつも通り太ももが素晴らしいですね! そもそも自由奔放なコイツが季節なんて単語を知ってるわけないから恰好が時季外れでも全然おかしくは無い……常日頃から光り輝くマント(光龍妃の外套)を展開してる時点でお察しだ。まぁ、今回は珍しくマフラーを付けてるがどこで買いやがった? 似合ってるじゃねぇかよ最高だよ可愛いなおい!

 

 何故俺が夜空と一緒に居るかというと……放課後デートです。放課後デートです! 何度も言おう放課後デートだ!! メンドクサイ期末テストも終わって犬月や橘、平家にレイチェルと一緒に家に帰ろうとすると学園の入り口で俺を待ってやがった。この時だけは夢かと橘の破魔の霊力を浴びようかと思ったぐらいビックリしたね……だって普段だったら俺達の都合なんて考えずに転移してくるのに普通に待ってるんだぞ? そんな姿を見たらもうね! デートするしかないだろ! なんだか平家達の視線が酷かった気がするがきっと気のせいだろう。

 

 

「あん? 知ってるくせに何知らないフリしてんだお前?」

 

「いや知らねーし。何でもかんでも知ってるとか思ってんじゃねーよバーカ。ここ最近はちょっと色々と忙しかったの! てか肉まんうんめー!! やっぱり冬はホカホカの肉まんだよねぇ~うまうま!」

 

 

 公園のベンチに座りながら夜空は肉まんを食べている。勿論、これは俺の金で買ったものだが夜空とデートできるなら安いものだ……あぁ、安いものだ。うん。寒いこの時期に肉まんを求めてコンビニに買いに来た奴らを絶望させたとしても安いものなんだ! てか相変わらずよく食うなコイツ……コンビニにあった肉まん全部買いやがったしな! そんなわけで夜空の膝の上には大量の肉まんやアンまんなどが置かれているわけだが……ダメだ、絶対領域にしか目がいかない。うわぁ、触りてぇ。

 

 

「この変態~チラチラ見るなら兎も角、ガン見すんなし」

 

「仕方ねぇだろ……これでも高校生だぞ? お前の絶対領域とかガン見するに決まってんだろうが。ちなみに夜空、今日のパンツの色は?」

 

「ん? 黒だけど?」

 

「マジかよ。いや、お前って基本白か黒しか穿かねぇよな? 他の色にチャレンジしてみても良いんじゃねぇの?」

 

「ばっかじゃねぇの、そんな金なんてあるわけねーし。これでも金無しのホームレスみたいなもんだよ? 服とか買う余裕があったら食い物買うに決まってるじゃん」

 

「知ってる。その服とか俺が買ったもんだしな」

 

「にへへ~冬服とか買ってくれるんなら脱ぎたてホカホカパンツあげても良いぞぉ?」

 

「夜空、服屋行くぞ! 金額度外視で好きなもの買いやがれ!」

 

 

 夜空のパンツがもらえるなら服なんて安いもんだ。あれ……これって放課後デートっぽくねぇか? 一緒に街並みを見て、あーだこーだ話して、今日は楽しかったねまたデートしようって流れじゃないかこれ! うわ最高だな!!

 

 

「キモ」

 

 

 だからその豚を見るような視線はやめろっての……興奮するだろうが。

 

 

「んでー? 体験入学って何さ?」

 

「……あー、今度の休みにシトリー領に新しく学校が建設されてな。身分が低いだの魔力が乏しいだのって理由で学校に通えなかったガキ共を呼んで俺達が色々と教える事になった……面倒だけどな。んで俺や一誠、元士郎にサイラオーグと言った面々が参加するからお前もどうだって話だよ」

 

「ふーん。あの冥界によくそんなの建てれたもんだね。絶対さぁ! 老害共が五月蠅かったっしょ! だってあいつ等って純血主義だしさぁ!」

 

「まぁな。今の冥界には合わないだの必要ないだのと批判の嵐だったっぽいぜ? まっ! 色々と悪名だけは冥界中に広がってる俺の名前を出したら一気に鎮火したけどな。全く、批判するなら最後までやれよな……ここ最近使ってないグラムぶっぱ出来るってのによ」

 

「自分の命が大事なんだからそんなことするわけね―じゃん。ふーん、学校ねぇ~なんで私を誘ったのさ? 言っちゃなんだけど絶対に怖がられるっしょ?」

 

「それを言うなら魔法使いを虐殺したり好き勝手に生きてる俺が参加してる時点でもう阿鼻叫喚だっつうの。誘ったのは……なんだ、ほら、えーと……お前さ、学校とか行った事ないだろ? いや神器を発現する前は行ってたかもしれねぇけど……今日まで殆ど通ってないだろ? だからさ、あー、そのだな……」

 

「……遠慮なんてすんなし。キャラ違うっての」

 

「うっせ。こんな俺でも空気ぐらいは読めるんだよ……んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なく言うぞ――お前に学校ってのを教えたい。だから参加しろ」

 

 

 隣に座る夜空の目を見て、真面目なトーンで伝える。少なくとも俺が夜空と出会ってからは学校に通っていたなんて話は聞いてない。親を殺す前に通ってた可能性もあるがそれでも少しだけのはずだ……だからコイツは学校の空気を知らない。教師のクソ真面目な授業を聞いてあー眠いと思う事も昼休みに食う弁当の味も、名前も知らないクラスメート達との良く分からない話とか色々な。あと夜空と一緒に学生したいのは俺の我儘だ……ガキ共のための体験入学? 知るかそんなもの。こっちは夜空と一緒に学生するのが大事なんだよ! 夜空の制服姿とか本当に最高なので是非とも! 是非とも参加してもらわないと困る!

 

 もっとも俺が本当に見たいのは普通の女の子として過ごしている夜空なんだけどな。

 

 

「ふーん、へー、ほー。めっずらしぃ~アンタがそんなにマジになるなんてさ」

 

「お前と学生出来るんなら真面目にもなるさ。ここ最近、前みたいに気軽に殺し合ったり話したりと出来なかったしな。ついでにぶっちゃけると伸び悩んでてなぁ……漆黒の鎧の先に進める気配が一切ねぇんだよ。昨日ヴァーリと殺し合った時にその事をぽろっと呟いてみたら自分を見返してみればどうだって言われてな……だから偶には良いかって事で寝ずに考えた。お陰で徹夜で眠い」

 

「……で? 答えは出たん?」

 

「当たり前だろうが。何十何百と自問自答した結果――あぁ、俺ってやっぱり夜空が好きなんだなぁってのに行きついた」

 

「ぼふっ!」

 

 

 その言葉を言った瞬間、食べていた肉まんを噴き出して息を整えている夜空の姿が目に入った。別に変な事を言ったつもりは無いんだがなぁ……なんせマジでこれしか思い当たらなかったしね。強くなりたいのはなんでかという疑問には夜空という答えが出て、これから何をしたいかという疑問には夜空と好き勝手に生きたいいう答えが出て、夜空のためなら犬月達を殺せるかって疑問には普通に殺せるという答えが出て、なんで俺は夜空の事を気になってんだという疑問には夜空の本当の笑顔が見たいと言いう答えが出て、結局俺は夜空が好きなのかって疑問には問答無用で大好きだって答えが出た。

 

 妖怪達と盃を交わした。それの何の意味がある? 最上級悪魔になった。それは必要か? D×Dに参加した。そんなの俺には関係無いだろ? 覇王になる。それが目指す場所なのか? 色んな疑問が俺の頭の中を駆け巡ったけど結局行きつくのは夜空だった。ハハハ、笑えるよな……最強の影龍王だの覇王だの妖怪の長と同格だの最上級悪魔だのと俺を唆す言葉にまんまと惑わされてたんだからな。ヴァーリには感謝しねぇといけないか……この答えに行きつくことが出来たのはヴァーリの言葉だったんだからよ。もっとも絶対に言葉にはしないけどさ!

 

 俺は夜空が好きだ。それに嘘偽りなんか一切無い。夜空の笑顔が見たいから、夜空を受け止めてやりたいから、夜空を護りたいから、夜空を手に入れたいから、夜空と一緒に生きたいから俺は戦ってる。強くなっている……助けられた恩返しとか同情とかそんなのじゃない! ただ俺は……隣にいる片霧夜空って女の子が好きなだけの混血悪魔だ。それで良い……それだけで十分だ。

 

 

「ちょ、ちょっ! なに真面目な顔してギャグ言ってんのさ! あはははははは!! は、腹いてぇ! の、ノワール! 無理! 無理無理無理! あははははははははは!!」

 

「てんめ! 人が寝ずに考えた答えを聞いて爆笑すんじゃねぇよ! ぶっ殺すぞ!!」

 

「だ、だってこんなの爆笑すんに決まってんじゃん! 何が寝ずに考えただよ! あはははははははは! そんなとーぜんの事をクソ真面目な顔して言うとかギャグ言ってるとしか思えねぇし!」

 

「……は?」

 

「だからとーぜんのことだって言ってんじゃん! あーお腹痛い……ひさっしぶりに爆笑したかも! なーにポカンとしてんのさ? アンタが私の事を好きなのはとーぜんの事、逆に私がノワールを好きなのもとーぜんの事っしょ? だって――」

 

 

 俺の隣で爆笑していた夜空が膝の上に跨り、自分の口を俺の耳元へと近づける。

 

 

「――アンタは私の(もの)でしょ」

 

 

 やべぇ、ゾクゾクする。声のトーンとか普通にマジな感じに加えてさっきまでの笑いがどこに行ったってぐらい無表情だもんね! これはドМになってもおかしくは無いな! 俺、道を踏み外しそう……!

 

 

「ノワールが私の事を好きだって言うのは当たり前、だって私もノワールが大好きだしさ。親ですら見放した私を追いかけて……私が何をやっても仕方ねぇなぁって言いながら付き合ってくれるほどの変人を私以外が貰ってくれるわけねーだろ。つっても誰にもやらねーけどさ……覚にも鬼にも不幸女にも駄肉アイドルにも焼き鳥にも絶対にやらない。邪魔するなら神でも魔王でも殺す。だからノワール、さっさと私に殺されろ。その体に私の物だって証明するために名前刻んでやるからさ」

 

「えっ? マジで! おいおい夜空……平家達に嫉妬してるからってサービスしすぎじゃねぇか? お前の名前を刻みたいなら何時でも良いぞ! 背中か!? 胸か! それともノワール君のノワール君か! いやぁ~でも出来ればクリスマスにしてくれない? 最高のクリスマスプレゼントになるからさ!」

 

「ヤダ」

 

 

 俺のトキメキを返しやがれ。

 

 

「……自分で言っておいて否定とかやめてくれません? 流石に不死身な俺でも傷つくぞ」

 

「だってさぁ~! 言われたから名前を刻むのって変っしょ? やってほしかったら私に勝ってから言えよ。いくらでもその体に刻んでやるからさ」

 

「言ったなテメェ! 絶対に刻ませるからな――ん? いやなんで俺が刻まれる側なんだ? 逆だろ。お前のその最高に綺麗な体を傷つけたくねぇけど俺の名前をお前に書きてぇわ」

 

「全然逆じゃねーし! さっきも言ったっしょ? ノワールは私の(もの)なんだってさ。昔から言うっしょ? 自分の男には名前を書くってさ」

 

「……それもそうか。まぁ、なんだ……とにかくお前からしたらくっだらないほど当たり前な事を俺は徹夜して再確認したってわけだよ。なぁ、夜空」

 

「なにさ?」

 

「お互い、変な事に巻き込まれっぱなしだな」

 

「……そうだね」

 

 

 ボフンと夜空は向かい合うのやめて俺を椅子代わりに身体を預けてきた。やべぇ最高のシチュエーションだとか思う前に一つだけ言わせてほしい……このマント、あったけぇ! 流石光を操る神滅具なだけあるわ! 暖房代わりになるとか素晴らしいね! あと何だろうか……どこからか変な威圧感を感じるぞ。まぁ、どうせ平家辺りだろうけど……ノワールの膝の上は私の場所、奪う奴は光龍妃でも許さないとかそんな感じでブチギレてるんじゃねぇかな? うわぁ、なんか当たってそうだなおい。

 

 

「私達ってさ、好きな時に殺し合って、好きな時に話をして、好きなように生きてたはずなのに気が付いたら異世界だーとか邪龍復活だーとかどーでも良い事に巻き込まれてる。楽しいから良いけどその代わりに私達の日常が崩れ去ったのはすっげームカつく」

 

「俺達はただ、周りが呆れるぐらい好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に死んでいきたかっただけなんだけどな。気が付けば俺は名ばかりの最上級悪魔に妖怪のトップと同格扱いときたもんだ。ホント……どうしてこうなった」

 

 

 俺と夜空は何も話すことなく空を見上げ続けた。赤龍帝が先輩の眷属になり、フェニックス家の婚約騒動があり、コカビエルの事件があり、三大勢力の和平がありと数百年に一回起きるか起きないかの事件が次々と起こりやがった……それに面白いから、楽しいからって関わり続けた結果がこれか。自業自得も良いところって感じかねぇ? まぁ、楽しかったから良いけど夜空の言う通り、俺達の日常はとっくの昔に壊れてやがったんだなぁ。

 

 

「ノワール」

 

「ん?」

 

「その体験入学って奴に参加すっから……だから制服ぐらいは用意しといて」

 

「良いのか?」

 

「ノワールは参加してほしいんっしょ? 私の我儘とかに付き合ってもらってるし偶にはノワールの我儘にも付き合ってやんよ。にへへ~がっこうがっこう! ひっさしぶりに味わってみよっと! だから楽しみにしてるよ、ノワール! でも覚えとけよぉ~何があってもおかしくないからさ」

 

「……ばーか。それこそいつも通りじゃねぇか? 何が起きても俺はお前を楽しませるよ、絶対にな」

 

「……うん。じゃー当日を楽しみにしとけよぉ~! ばいば~い!」

 

 

 夜空はそれを言い残して既に冷えたであろう肉まん達と一緒に消える。寒いな……さっきまでの暖かさはどこへやらだ。まっ! 夜空が参加するなら俺もテンション上がるし何も問題ねぇか。

 

 そんな事を思いながら自宅へと帰ると珍しく平家が出迎えてくれた。なんだろうな……すっげぇ気持ち悪いぐらいニコニコしてるんだけど何があった? 俺の心の声は聞こえているはずなのに何も言わずに腕を掴まれてリビングまで移動、上着などをそこらへんに放り投げられてソファーに座らされた。え? なにこれ……何が始まるの? まさか夜空と放課後デートしてたから殺すとかそんな感じか?

 

 

「――なにこれ」

 

 

 そんな感想も普通に出てくるほど今の状態はおかしい。平家に無理やりソファーに座らされたのは良い……いつもの様に平家が膝の上に座るのもまぁ、良い。でもそこから問題なんだよ……まず右隣には酒瓶を持った四季音姉が座って右腕を掴んで逃がさないようにし、左隣には橘が素晴らしいアイドルスマイルを浮かべながら座って左腕を抱きしめる。なにこれ? あの、部屋着に着替えたいんだが離れてくれません?

 

 

「ヤダ」

 

「即答かよ……おい、犬月? 何が……マジで何があった?」

 

 

 先に帰っていたはずの犬月はリビングの片隅で体育座りをしながら震えていた。それはもう見事なまでにガチで恐怖しているような震えっぷりだ。マジで何があった? とりあえず大丈夫じゃねぇってのは分かったが説明してくれ!

 

 

「お、おおおおおお、おおれおれおおははっはは、だ、だだだだ、だいいいじょじょぶぶっすよおうさま! なになになになにもももも!!」

 

「分かった。落ちつけ犬月……レイチェル、マジで何が――えぇ……」

 

 

 比較的常識人なレイチェルに何があったか確認しようとすると恐ろしい光景が視界に映った。何かに絶望したような表情で椅子に座り、一心不乱に小声で何かを呟いているのは軽くホラーだと思うね! えーと何々……「皆さんのお話やキマリス様の態度で分かっていましたが改めて目の当たりにすると勝ち目がありませんわですけど私はキマリス様と契約しましたつまり光龍妃様に勝っていると認識しても良いのではですけどですけど――」とかすっげぇ早口で呟いてるところ誠に申し訳ないんだが……怖いぞ。

 

 右を見る。いつもの様に四季音姉が酒を飲んでいるのが見えるが目に光は無い。左を見る。いつもの様に橘様が笑顔でいらっしゃるが目に光が無い。前を見る。いつもの様に平家が座っているが目に光がある。うん! 平家だけ平常運転で他はアウトだわ! あれ……何時から俺の眷属は病み属性が付加されたんだ? 割と最初っからあったような気がしたけどここまで表に出すって相当だぞ……? おい、さっさと何が起こったのか話せ。

 

 

「ノワールと光龍妃の会話を聞いたら花恋も志保もお姫様もおかしくなった」

 

「……盗み聞き」

 

「してないよ。光龍妃が私達に見せつけ来た。ご丁寧に私の男ってことを強く強調してね」

 

 

 よぞらぁぁぁっ!! てんめ! あいつ! 何してくれてんだ!? いきなり私の物発言したのはこれか! おうおう嫉妬か! 嫉妬なんだな夜空ちゃん! 平家達とイチャついているのを見て嫉妬したんだな夜空ちゃん! くっそ……相変わらず可愛いなぁおい! 少しは俺にデレても良いんだぜ? ほらツンとデレの比率って結構大事じゃん! ゼハハハハハハハハハ! 自分の物発言するまで嫉妬してるとかすっげぇ可愛い! なんだろうな……今なら漆黒の鎧の先に進める気がする! 行けるぞ相棒! もう冬だが俺の春が来たんだ! 周りの状況? はっ! 知らんなそんなもん! 夜空の貴重なデレというか独占欲が見れて俺様、非常に満足です! 最高だなおい! これは徹夜して良かったと言えるな! だからすいませんけどお二方、目に光を宿してください。俺の顔を覗き込むように見てきてますが普通に怖いです。四季音姉、今にも俺の腕を握りつぶそうって感じで力を入れないでください。橘様、破魔の霊力的な何かが漏れ出していますので引っ込めてください。

 

 

「パシリパシリ」

 

「……なんだよ茨木童子。こっちは今それどころじゃねぇんだよ……体の震えが止まらなくて今日は怖い夢を見そうなぐらい恐ろしいものを見たからさっさと大天使水無せんせー待ち状態だからそっとしておいてくれ」

 

「パシリ暇そう。だから聞く。伊吹が怒ってる。理由を聞いても教えてくれない。気になる。伊吹が気にしなくても良いと言ってた。でも気になる。さっきまでの主様を見ていたら胸が痛くなった。今も痛い。伊吹に言っても教えてくれなかった。パシリなら分かる?」

 

「シリマセン。オレ、シリマセン。オウサマにキケバイインジャナイカ?」

 

「分かった。主様に聞いてみる」

 

 

 リビングの片隅で震えていた犬月と話をしていた四季音妹が近づいてきた。うーん、こいつはいつも通りだな! 目に光があるし癒し系オーラ的な何かが漏れ出している! きっとそうだ! てか犬月!! テメェ……! 俺の飼い犬なんだから助けろよ! あっ、首をブンブンと横に振って土下座し始めた。お前は平家か? なんで俺の思った事が分かるんだよ……?

 

 

「主様。パシリが主様に聞けば分かるって言ってた。教えて欲しい。さっきまでの主様を見ていたら胸が痛くなった。病気になった? 主様は分かる?」

 

「あー、何か食い過ぎたんじゃねぇか?」

 

「朝御飯とお昼ご飯しか食べてない。伊吹に聞いても教えてくれない。でも気になる。知っているなら教えて欲しい」

 

「……おい四季音姉」

 

「――イバラ、とりあえず後ろからノワールに抱き着きな。それで治るよ」

 

「分かった」

 

 

 四季音姉の命令絶対娘は言われるがまま俺の背後に回って抱き着いてきた。微かに感じるおっぱいの柔らかさに感動しながらもこの状況をどうしようか考えようか! えーとマジでどうしよう? 相棒、ちょっと俺の質問に――相棒? はぁ!? お呼びになった影龍は現在爆笑中です、しばらく経ってから再度お呼び出し下さい? ふざけんじゃねぇぞおい!! 流石邪龍だなって褒めたいけど今はそれどころじゃないんだよ! ヤバイ。マジでヤバい。いつの間にかヤンデレが広がってたんだよ! 頼むから答えてくれ相棒!

 

 

『ゼハハハハ。無理』

 

「相棒!? まさか俺を見捨てる気か!」

 

『だってその方が愉しいしなぁ!』

 

 

 オーノー、最強の味方が敵になりやがった。

 

 

「……はぁ、諦めるしかねぇか。んで? 何時までこうしてれば良いんだよ?」

 

「ずっとです」

 

「とりあえずノワール、動くな。動いたら潰すよ」

 

「主様、暖かい」

 

「膝の上は私の場所。光龍妃の匂いを消すでござる」

 

 

 これは約二名ほど通常運転だが残った二人はアウトだなぁ。逆らったら死にそうだししばらくこのままでいようかねぇ? つーか犬月、お前はいったい何を見た?

 

 ヤンデレ二人に挟まれながら水無瀬が帰ってきたら元に戻るだろうと思っていたが……帰ってきた水無瀬の目に光が宿ってなかった。なんでも保健室で仕事をしていたら突然俺と夜空がイチャついている光景が空間に空いた穴から映り、夜空の私の物発言を聞かされたそうだ。ヤバいな……マジでヤバい。三人が病んだとかシャレにならん。てかマジかよ……夜空とイチャついただけで心病むとかちょっと意味分かんねぇ! どんだけ俺のこと好きなんだよお前ら!

 

 

『我がおウよ! 帰ッテいたカ! さぁ! わレらを振るウのダ! 敵ハせいケん! あいテにとって不足なシ! ム、どウシた我がオうよ?』

 

「いや、初めてお前がまともに見えてちょっと泣きそうになっただけだ」

 

 

 この瞬間だけはグラムの扱いをマシにしてもいいかなと思えた俺だった。




ちなみに学校の入り口で待っているように提案したのは歴代光龍妃です。
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

100話

「なぁ、犬月」

 

「なんすか王様?」

 

「気が付いたら体験入学当日になってたな」

 

「そっすねぇ」

 

 

 現在、冥界中の貴族共を騒がせているシトリー領内に建てられた噂の学園――D×D学園に俺達は訪れていた。見た目は人間界に存在し、俺達も通っている駒王学園に似たような外観をしているが規模などは若干小さい感じだ。なんでもあのセラフォルー様が珍しく……凄く珍しく! そして本当に真面目に後々の事を関係者達と話し合った結果、人間界にある学校を参考にしようという事になったらしい。あまり派手にし過ぎると学校反対派の上層部や貴族共が五月蠅いだろうからそれ自体は悪くないと思う……がそれを聞いた時はあの魔王様は偽物かと本気で思ったのは悪くないと思う! そんなわけでどの学校を参考にしようかって話になったらしいがセラフォルー様と生徒会長の意見が珍しく一致したことにより俺達が通う駒王学園がモデルとして選ばれたわけだ。理由としてもどこに何があるかとかが生徒会長や俺達がすぐに分かって有事の際に対処しやすいとかなんとか……まぁ、今まで通ってた学校と同じなんだから当然と言えば当然だ。

 

 ちなみにD×D学園ってのは俺達キマリス眷属も何故か参加する羽目になった対テロリストチームの名前から取っている。俺達キマリス眷属、先輩達グレモリー眷属、サイラオーグ達バアル眷属、生徒会長達シトリー眷属、ヴァーリ達、アガレス眷属に天界勢、アザゼルに闘戦勝仏こと孫悟空、規格外パート2等の面々によって構成されてる。改めて見てもヒデェなおい……なんだこの過剰戦力? 普通に二天龍に地双龍の片割れ、龍王に神滅具保有者複数所属とか世界滅ぼせるぞ。まぁ、それは置いておいてこのチームの名付け親はヴァーリの所に居る黒猫ちゃんの妹……うん、妹ちゃんでドラゴンとかデビルとかダウンフォールとか「D」から始まるものが多いから「D×D」らしいけど……間の「×」はなんだよ? 普通に「DD」じゃダメなのか? まっ、どうでもいいけどさ。

 

 

「犬月……お前さ、ここ数日のこと思い出せるか?」

 

「いやぁ~すいませんけど思い出そうとすると体の震えが止まらなくなるんで忘れたってことにしたいんですよね。はい、覚えてません!」

 

「現実逃避すんな、頑張って思い出せ」

 

「ひっでぇ!? 元はと言えば王様が原因でしょうがぁ!! 俺、俺! 本気でげんちぃの家に泊まりに行こうかって考えてたんすからね! 俺は鈍感な方じゃないと自負してるんで言いますけど……」

 

 

 犬月が右を見て左を見た後、俺の背中を押して少し離れた場所へと押していく。恐らく近くに居た平家達に聞かれたくないからだろうが……悪魔だから普通に聞こえると思うぞ?

 

 

「……引きこもりも酒飲みも水無せんせーもしほりんも姫様も王様の事が恋愛的な意味で好きで……あと茨木童子もきっと王様の事を同じ意味で好きだと思いますよ! グラムは知らねぇけど! 兎に角……どうするんかホントに? 今後もあんな感じになるのはちょっと辛いんですけど……?」

 

「そんなもんはアイツらに言えっての……今は目に光もあるし態度とかも元に戻ってるから大丈夫だろきっと! てか俺が夜空に惚れてるって平家も四季音姉も水無瀬も知ってるだろうし……橘とレイチェルに関してはなんとなく察してたと思うんだがなぁ。俺だって予想外だっての……悪いな犬月、何だったら一人暮らしでもするか? あの地獄は元凶として俺が最後まで面倒見るしかねぇしな。最悪、刺されてもなんとかして生き返るさ」

 

「殺傷沙汰とか普通にあり得るんでおっかないこと言わないでくださいよ……いやぁ、自分で言った事っすけど流石に逃げることは出来ないですって。俺、王様の飼い犬(へいし)ですし。ここまで来たら最後まで付き合いますよ。あと王様? 水無せんせー達があんだけ表情や態度に出すって事は王様の事を心の底から好きだからだと思いますよ。引きこもりはあんまり変わってなかったけどきっと同じっすね。俺としてはすっげぇ羨ましいっすわ! いっちぃほどじゃねぇけどハーレムとか男の夢ですし一度は女の子に囲まれたいですしね!」

 

「……ばーか。だったら頑張って強くならなきゃな。眷属を持てるようになればハーレム作れるぜ?」

 

「うわーそこは譲るとか言ってほしかったわー」

 

 

 俺の言葉を聞いた犬月は校舎の壁に寄りかかりながら冗談交じりな声を上げる。別にやろうかって言っても良かったんだがまぁ、なんだ……それはアイツらに悪いしな。こんなクズで大馬鹿でキチガイな男を好きだって思ってるんだし冗談でもそんな事は言えるかっての。さてそれは置いておいてマジでここ数日間なにしてたっけ……? あー思い出した思い出した! うん! 忘れよう! さっさと忘れた方が良い気がする!

 

 だって――

 

 

『おはようございます。ノワール君、今日は早いんですね。もうすぐ朝御飯が出来ますから先に顔を洗って歯を磨いてください』

 

『悪魔さん、おはようございます。お隣良いですか?』

 

『き、キマリス様! お、おはようございますですわ……よ、よければお隣、良いでしょうか……?』

 

『めぐみ~ん、おっさっけちょうだぁ~い! にししぃ~よわなきゃやってられなぁいぃ』

 

『ダメです。昨日はいつも以上に飲んでいたのでもうありません。既に頼んであるので届くのを待っててください』

 

『がーん! うぅ~のわぁ~るのせぃだぁ~ねこれは――にしし』

 

 

 ――目に光が無い状態でこれだぜ? 周りから見たら至って普通の朝の一時って感じなのに平家と四季音妹とグラムと犬月以外の女性陣の目がヤバかったしな! 目に光が無い状態であんなに談笑出来るとか女って怖いと本気で思ったわ! 犬月なんざ「イヤーキョウモミナセセンセーのゴハンハオイシーデスネー」と意識朦朧状態だったからな……よほど怖かったんだろう。だが頑張れ! 頑張るんだ犬月! 将来病んでる女と付き合った時にきっと役に立つはずだから必死に頑張れ!

 

 

「悪魔さん? 犬月さんと何を話しているんですか?」

 

 

 背後から橘に話しかけられたため、犬月がビクッと体を震わせた。振り向くとそこには駒王学園の制服を着ている橘が立っている……目に光は宿っており、普段見る可愛らしい仕草だがここ数日間の様子を見てきた俺達としてはすっげぇ怖く感じる。あのぉ……本当に元に戻ってますか? いきなり目の光が無くなったりしません? 一応、アイドルなんだからヤンデレスマイルとかいけませんよ橘様! ファンの方々の性癖が歪んじまうからな! あっ、刺すなら誰も居ないところでお願いします。

 

 なんか知らないが平家から死ねばいいのにって言いたそうな視線が向けられたけど元はと言えばお前らが原因だからな! ここ数日間の俺と犬月がどれだけ心にダメージを負った事か……!

 

 

「ヤンデレ状態の花恋達に囲まれても涼しい顔してたくせによく言う」

 

「当然だろうが。お前らが病む程度で嫌うわけねぇだろ? というわけで刺したかったら何時でも来いよ?」

 

「……いや、まぁ、王様は鎧さえ纏ってたら不死身ですけど生身で刺されたらきっと痛いっすよ?」

 

「大丈夫だろきっと」

 

「すっげーポジティブっつうか馬鹿っすね! やっぱ頭おかしいわこの人!」

 

「あ、悪魔さん! その、さ、刺したりとかし、しません! その、ちょっとお話しするだけです!」

 

「お話という名の監禁だけどね」

 

「ち、違います!」

 

 

 流石覚妖怪、嘘を見抜くのがお上手でなによりだ。平家と橘の微笑ましいかどうか分からないやり取りをBGMに周りを見渡してみる……普段学園で働いている格好の水無瀬は全くもうって感じで平家達を眺め、駒王学園の制服を着ている四季音姉妹は普段と変わらず酒を飲んだりぼけーとしたりしている。よし、今は元に戻ってるな! レイチェルは……こっちも変わらないか。流石にガキ共を相手にする時に昨日までの状態だとアウトだしね! グラムは知らん、本気で知らん! なんせ周りがヤンデレに変化していた状況であっても普段と変わらなかったしね! てか普通に癒されました。チョロインでこんなに癒されるとは思わなかったけどな……しっかしあれだな、うん。全員元に戻ってくれて何よりだ……昨日までの状態だったら何も知らないガキ共がビビるかもしれねぇしな。

 

 

「おっ、いたいた」

 

 

 校舎の中に続く扉から出てきたのは駒王学園の制服を着ている元士郎だ。ただし腕にスタッフの証明っぽい腕章をつけている……あっ、ちゃんとD×D学園って彫られてる! 無駄にすげぇ!

 

 

「よっ、なんか知らないが呼ばれたんで来たぜ」

 

「そりゃ呼ぶだろ……会長は中に居るから案内するぜって見た目通り駒王学園と同じ作りだから迷う事は無いだろうけどな。本当に……ありがとう」

 

「何に礼を言ってるのか分からねぇけど礼なら大工仕事をしたそこの可愛い鬼姉妹に言えよ。俺はただ上層部に嫌がらせがしたかったのと生徒会長の夢が面白そうだったから手を貸しただけだしな」

 

「そのおかげでスムーズに建てる事が出来たんだっての。えっと、四季音さん達もありがとうございました!」

 

「にししぃ~きぃにしなぁ~い。おにさぁんはぁ~おっさっけぇ~のためにはったらいたぁからねぇ~」

 

「伊吹の手伝いをしただけ。礼を言われることじゃない」

 

「……はは、すっげぇなホントに。よし! 会長が待ってるから付いてきてくれ」

 

 

 というわけで元士郎に案内……というか普通に生徒会室へと向かう事になった。道中、広場っぽい所でサイラオーグがガキ共に正拳突きを披露していたり、一誠を前に一列に並んでいるガキ共がいたり、パンツらしきものをもぐもぐしているファブニールの体にガキ共が乗っていたりと色んな光景が見えた。周りにも両親らしき大人が微笑ましい感じで眺めているから企画としては成功の部類に入るだろう。あっ、ヴァーリもいる! ヴァーリが居る!! 一誠から少し離れた場所にヴァーリが居る!!! 何をするわけでも無く握手会っぽい事をしている一誠を眺めてる! なんかあの光景……ちょっと笑えるんだけど!

 

 指をさして爆笑しそうになるのを堪えつつ歩いていると俺達に気が付いたらしいガキ共の集団が「影龍王!」やら「歌姫だ!」やらと騒ぎ出して手を振ってきたので軽く手を振っておいた。なんて言うか……偶には良いか。

 

 

「ノワール君」

 

「んあ?」

 

「誰かに言われる前に手を振りましたね」

 

「……偶には良いだろ」

 

「はい。それじゃあ今度は笑顔で……ひゃん!? の、ノワール君!!」

 

「なんかその分かってますって顔がムカついた。はぁ……生徒会長には俺だけいれば良いからお前らはガキ共の相手をしてやれ。終わったら俺も行くからさ」

 

「ういっす!」

 

「はい!」

 

「私はキマリス様とご一緒させてもらいますわ。一応、キマリス様の契約者ですもの! 常にお傍に居るべきですし……な、なんですか覚妖怪! な、何も間違ってはいませんわよ!」

 

「別に。ただ傍に居るならお姫様より私の方が良いに決まってる。だって覚だし」

 

「それはそれ、これはこれですわ! ぐぬぬ……! さ、覚妖怪……停戦協定ですわ! この場はご一緒に、なぜ無視しますの!!」

 

「停戦協定はんたーい。ノワール、色んなものが五月蠅いから早く行こう」

 

「ま、待ちなさい覚妖怪! 独り占めは許しませんわ!」

 

「……此処でもいつも通りなのは本当に凄いよ」

 

 

 騒ぎ出したガキ共の相手は犬月達がするから少しは落ち着くだろう。しっかし四季音姉妹もなんだかんだでやる気になってるのは意外だな……まぁ、アイツらも鬼の里でガキ共の相手をしたこともあるだろうから慣れてるのかねぇ? てかグラム……お前趣旨分かってるか? いきなりイケメン君の近くに行って「良く分からぬが聖魔剣と戦えばいいのだな!」って感じで張り切ってるけど全然違うからな! どんな状況でもブレねぇお前が逆にスゲェよ。

 

 そんなこんなで平家とレイチェルを共に生徒会室まで移動すると忙しそうな生徒会長とそれを補佐する数名のシトリー眷属の姿があった。俺達が入ってきたことに気が付いたのか書類などに目を通すのをやめてこちらを見てきた。

 

 

「キマリス君。今日は来てくれてありがとうございます」

 

「べっつに暇だったんで良いですよ。此処に来るまでちらっとどんな感じなのか見えましたけど中々好評っぽいですね」

 

「えぇ。二天龍やキマリス君、そしてリアス達が参加すると情報が広がってから体験入学希望者がドンドン増えました……この場所に居る子供達は魔力が乏しい、家柄が低いなどの理由で学校に通えなかった子達ばかりです。このD×D学園が将来の道を増やせるように私達が頑張らないといけません……しかし白龍皇が参加してくれるとは思いませんでしたけどね。キマリス君から誘われたと聞いた時は驚きました」

 

「いやぁ~俺や一誠が参加するならヴァーリも居た方が盛り上がるでしょ? 天下の白龍皇にして最強のルシファーに会えるに加えて何でも良いから指導してもらえばそいつにとっても嬉しいでしょうし」

 

「確かにそうですが……いえ、人手が多い方が良いのは変わりませんから何も言わないようにしましょう。キマリス君、良ければこの後に行われる眷属を率いる(キング)による授業に参加してもらえないでしょうか? リアスとキマリス君による授業ともなれば子供達も喜ぶと思うのですが……?」

 

「……まぁ、良いですけど逆に怖がらせても知りませんよ?」

 

 

 俺の返答に生徒会長はまるで水無瀬のように大丈夫ですよって言いたそうな表情を返してきた。元士郎からも子供達の中でおっぱいドラゴンと影龍王は大人気らしいので全く問題無いなんてことを言われたが……俺だぞ? 好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に死んでいくを本気で思ってるような俺がガキ共相手に授業とかダメだろ? まぁ、きっと親が参加するなって止めてくれるだろう。

 

 とりあえず俺の隣にいるノワールが先生とか笑えるって顔をしている平家の頬を引っ張りつつ外にいるグラムを見張っておけと命令する。だって体験入学だってことを理解してるのかしてないのか分からん以上、ストッパーは必要だ……俺? 無理無理、グラム握ってガキ共の目の前で「ゼハハハハハハ! 今からこのチョロイン魔剣の実力を見せてやるぜ!」って感じで影龍破をぶっ放す未来しか見えない。やって良いならやるけど流石に怒られるし今は自重しておくつもりだ……ガキ共からリクエストがあったら問答無用の大サービスとしてやるけどな!

 

 

「しょーがない。私も子供の心の声なんか聞きたくないしグラムの首根っこを掴んでおく」

 

「そうしろ。辛かったら俺の心の声だけ聞いとけよ?」

 

「りょーかい」

 

 

 それを言い残して平家は生徒会室から出ていく。それを見届けた後はレイチェルと共に授業が行われる教室へと移動するが……道中、広場の方で化け犬状態に変化した犬月が四季音姉相手にお手とおかわりにお座りという芸を披露していたのが目に入り――若干だが泣きかけた。俺の気のせいじゃなかったら犬月の奴、ノリノリじゃね? いや、ガキ共が楽しそうにはしゃいでるから問題無いんだろうが……お前……お前!

 

 ちなみになんでレイチェルと一緒に教室に向かっているかというと……話の中で王と女王の関係がいかに大事かって話す事があるらしく、女王の座が確定している夜空が居ない俺のために急遽! 代役としてレイチェルが一緒に話す事になった。うわぁ、平家じゃねぇけど心の声が丸分かりだわ。どうするかねぇ?

 

 

「では現在、各方面で活躍されている(キング)のお二人にお話をしてもらいましょう」

 

 

 教室に入り、授業が始まる。目の前にはワクワクドキドキと言った感情を隠しきれてないガキ共が椅子に座って俺達を見ている。隣には先輩と姫島先輩、逆隣りにはレイチェルといった並びでガキ共を見つめ返しているが……夜空ちゃん? あのー、俺の女王の癖に遅刻とかちょっとあり得ないんですが? このままだとガキ共の脳裏にキマリス眷属の女王はレイチェルだって刷り込まれちゃいますが良いのか! 俺は良くないからさっさと来い!

 

 教師として教壇に立っている男が俺達の方に手を伸ばしてくる。えっと……誰だコイツ? 顔も見たことないってことは雇われ教師的な感じの奴か。流石に全員若手だと色々と苦労するだろうって理由でセラフォルー様辺りが手配したのかねぇ?

 

 

「リアス・グレモリーよ。まだ王としては新人だからあまり深く話せないかもしれないけれど一つでも身になる話をできたら良いと思っているわ。ほら、キマリス君も……」

 

「……あー、ノワール・キマリスだ。つっても色んな意味で冥界を騒がせてるから自己紹介とかいらないと思うんですけど……? とりあえず俺は王として最低最悪だからあまり真似するんじゃねーぞ?」

 

 

 俺の言葉にガキ共は「はーい!」やら「ヤダー!」など各々が思った事をそのまま言葉にしてきた。な、なんて純粋な眼差しなんだ……吐きそう。

 

 

「そんで先輩? 何話せばよかったんでしたっけ?」

 

「王と女王の関係がどれだけ大事かというのと王としてこれまで感じた事を話すのよ。もうっ、ソーナから言われてないの?」

 

「いや、正直な話……先輩には姫島先輩が居るから良いですけど俺って女王不在ですよ? どれだけ関係が大事かって言われても答えれな――レイチェル、お任せくださいませ私が居ますわって表情は何だ?」

 

「コホン。わ、私はキマリス様の契約者ですわ! つ、つまり女王の座が不在のキマリス様を支える立場として一番適任だと思われます。フェニックス家の姫としてもキマリス様に恥はかかせられませんしこの場はわ、私を女王と思って話してく、くれても良いですわ!」

 

「……どっちかって言うと女王の代わりって平家が一番近いんだがなぁ。まっ、良いか」

 

 

 断ったら断ったで面倒な事になりかねないし適当な事を言って終わらせよう。どう考えても後で平家が構って構って女王に近いのは私的な事を言ってくるだろうがその時はその時だ。夜空? 土下座してでも誤解を解くに決まってんだろ。

 

 

「そんじゃ、まずは俺から話すか。えーと王と女王の関係ねぇ……まぁ、知ってるか知らないかは知らねぇけど俺達キマリス眷属には女王が居ない。なんでと言われたら女王候補のヤツが良いよって言ってくれないからだ……マジでいい加減、俺の女王になってくれねぇかなぁ。毎回女王になってくれって言ってもヤダの一言だし……ヤバい泣きたくなってきた。いや、それはそれで置いておくが基本的に女王の役目は平家、あーと俺の騎士の覚妖怪が担ってる。此処にいるレイチェルは俺が「邪龍」として契約してるから平家が忙しかったらレイチェルが代わりにって感じになるな」

 

 

 俺が話し始めると騒いでいたガキ共が一気に静かになる。なんと言うかそこまで真面目にされるとこっちも困るんだがなぁ……いや、別に良いけど。

 

 

「でだ、女王が居ない俺から言えるのはまぁ、これか? どの口が言うんだって言われかねないが――そいつをちゃんと見ろ。例えば俺の騎士の覚妖怪だが能力として相手の心を読む。お前らだって自分が考えている事や言いたくない事を勝手に聞かれたくはないだろ? だから他の奴らも覚妖怪を嫌うわけだ……俺としてはどうでも良いけどな。たかが心を読む程度で嫌ってんなら他の事なんざ出来るわけがねぇ。つーかかなり便利だぜ? 言葉に出さなくても伝わるしな! まぁ、なんだ……こんな風に教えるなんざやったこと無いからからなんて言えばいいか全く分かんねぇけど兎に角だ! お前達が眷属を持った時、ちゃんとそいつ等を見てやれ。種族が何だとか身体能力が異常だとか世界中に危害を加えているだとかそいつのやりたい事をやって色んな所に迷惑かけてるだとか関係無い。そいつはそいつだ。そうすれば自然と関係が良くなる……らしいぞ? あっ、俺達は例外だからな! 特に男の子に一つ言うがハーレムだけはやめとけ! 周りの女が病んだら心が死ぬからな! 刺されたり監禁されたりしても良いと思えるんならハーレムを築いてもいいぞ!」

 

「……キマリス様! 話がズレていますわ!」

 

「いや大事だろ? 眷属なんざ王の趣味丸出しだせ? ライザーだってハーレム築いてるだろ?」

 

「そうですけどお兄様の場合は頭が病気なだけですわ! ほ、他の方々と同じにしては失礼です!」

 

「病気って……ライザーが聞いたら泣くぞ?」

 

「事実ですから仕方ありませんわ」

 

 

 プンプンと腕を組んでおっぱいを強調する仕草をしたレイチェルだが……やっぱデカいよなぁ。ちなみにハーレム云々はここ数日間で俺が感じた事だから何も間違ってはいないはずだ! ぶっちゃけると夜空一筋な俺が平家達まで愛せるかと言われたら……分かんねぇ。夜空が寿命で死んだらまぁ、うん。応えるかもしれないけど結局それって夜空の代わりっぽくてなんか嫌だし恐らく応えることは一生無いだろう。夜空がハーレム築けば良いじゃんって言わない限り。

 

 俺とレイチェルの漫才っぽいことが受けたのかガキ共は笑っている。よしよし、俺の話は終わったんで先輩! お願いします! いやぁ~赤龍帝を従えているグレモリー先輩だからきっと俺より素晴らしい事を言ってくれるに違いない! 頑張ってください先輩! 応援してますよ先輩! だから呆れたような表情で見ないでください興奮するじゃないですか!

 

 

「次は私の番ね……そうね、私自身もまだ上級悪魔としても王としても未熟で教える事なんて出来ないわ。だから今から話す事は今日まで私が感じた事ということで聞いて欲しい。私はキマリス君とは違って女王……朱乃がいるわ。幼いころからずっと一緒に居た大切な友人……いいえ、家族よ。生まれて初めての眷属が後ろにいる朱乃がいたからこそ私は一緒に前に歩くことが出来た。そして他にも私にはもったいないぐらいの幸運が巡ってきて裕斗、小猫、ギャスパー、イッセー、アーシア、ゼノヴィア、ロスヴァイセを眷属に迎える事が出来たし、誰もが素晴らしいという言葉や将来有望だと私を褒めてきた。皆も将来、眷属を持つことがあるかもしれないけれどそこで勘違いをしてはダメよ」

 

 

 ゆっくりと、そして確実に自分が感じた事をガキ共に伝えようとしている先輩を見て思わずうわぁ、ガチすぎるって引いた俺は悪くないと思う。

 

 

「素晴らしい眷属を持ったとしてもそれは自分の強さなんかじゃないわ。慢心してしまえば折角築いた関係を無かった事にしてしまうの。今日まで色んな戦いに参加する事があってそのどれもが私以上の力を持った相手、イッセー達が居なかったら私はこの場に居なかったかもしれないし大事な眷属……家族を失っていたかもしれない。でもその経験は私にとっても間違いを治す切っ掛けになったわ……格上との相手、ううん、キマリス君やサイラオーグ、そしてイッセー。私よりもはるかに強い人たちが傍に居たから慢心していたと気づくことが出来た。だから皆が王になった時、慢心なんてしちゃだめよ? どれだけ強い眷属が居たとしても王である私達が本当の意味で強くならないといざという時に頑張れないもの。ごめんなさい、ちょっと難しい話になっちゃったかしら……?」

 

「さぁ? 今の内から王の苦労やらなにやらを聞けて良かったんじゃないですかね? まぁ、ガチすぎて引きましたけど」

 

「もうっ! 真面目になるわよ! キマリス君だって珍しく真面目に言っていたじゃない」

 

「いや……俺って普段から真面目ですけど? 凄くまともにやりたい事をやって、好きなだけ殺し合って、至って普通な一日を過ごしているんですけどー! あー、先輩がガチなこと話したせいでガキ共がポカンとしてるじゃないですか……仕方ないなーもう! んじゃ予定変更でなにすっかなぁ? おし、夢でも語るか!」

 

 

 何やら真面目な空気になったのが個人的に我慢ならないので一気に変えることにしよう。決して! 決して先輩がガチで語った事に引いているわけじゃない! つーか王になった時の苦労なんざ実際に王になった時に考えれば良いんだよ。まぁ……今の内から特訓しておけば権力しか取り柄が無い上級悪魔程度は軽く殺せるようになるだろうから間違っちゃいないんだけどね。

 

 

「というわけでいきなり自分の夢を言えってのは無理難題っぽいから特別に俺の夢を聞かせてやろう! ゼハハハハハハハハ! マジで特別だぜ? 精々、参加しなかった奴らにでも言って自慢するが良いさ。さてと……俺の夢だがガキの頃から、いや影龍王になったあの日から変わってねぇよ。光龍妃が、いや……あー、夜空が好きだから手に入れるのが俺の夢だ。馬鹿らしいって言ったやつはもれなくチョロイン魔剣の斬撃を受ける役に抜擢すっから覚悟しとけよ? 良いか、権力が取り柄の家柄に生まれた奴らはお前らの夢を簡単に笑う。でもな、言わせておけ。お前らは悪魔だ! 好き勝手に生きてやりたい事をやる種族に生まれたんだから自分の夢に向かって突き進んでいけ! はいというわけで俺の夢暴露は終了で……そこのキミ! 夢は何だ?」

 

「え、えっと! 魔王様になりたいです!」

 

「おっ、マジで! だったら早くなってくれよ! いやぁ~ほら、今の魔王って働かねぇだろ? シスコンに魔法少女にニートに良く分からん奴とか終わってるしさ! お前が魔王になってくれれば比較的まともになってくれると思うんだよ! 応援してるぜ! その夢を笑ったやつには影龍王が応援してたとでも言っとけ! 即効で黙るはずだからな! よし次! そこの女の子!」

 

「はい! おっぱいドラゴンのお嫁さんになりたいです!」

 

「お、おう! 競争率が高いが俺は応援しよう! そのためには……とりあえずおっぱいでも大きくしておけ! それだけで一誠は喜ぶはずだ! 大丈夫だ! うちの覚妖怪とか鬼とかどっかの規格外みたいにか――ちっぱいにはならないようにちゃんとご飯は食べればおっぱいは大きくなる! きっとな!」

 

 

 どこからか分からないが壁と言おうとしたらとてつもない殺気が飛んできたので言葉を変えたけど……夜空、お前見てやがるな? どこに居るか分からねぇけど居るなら来いよ! 俺の彼女ですってガキ共に紹介するからさ! だってこれはいわゆる作戦という奴だからな! 純粋なガキ共に夜空が好きだと言えばきっと……きっと間違いなく「あっ! 影龍王の彼女だ!」的な感じで指さしてくれるに違いない! 外堀から埋めるという言葉はなんて素晴らしいんだろうか……さてと、背後にいるレイチェルをマジでどうしよう。俺の背後に隠れてガキ共から見えないから気づかれてないけどきっと目に光が宿ってませんよね? えぇ……これもダメなのか! なんてメンドクサイ!

 

 あと先輩達からのあらあらやら困ったものだわ的な視線を向けられているが無視だ無視。折角の体験授業だ、真面目ばっかじゃ疲れるだろ。

 

 

「よし! それじゃあそこの男の子! 夢を言ってみようか!」

 

「ぼ、僕は……僕はお父さんより強くなりたいです!」

 

 

 恥ずかしそうにしながらもハッキリと答えてくれたガキの目は真っすぐ俺を見ていた。その言葉に一番驚いていたのは教室の後ろで見学していたこの子の親父っぽい奴だ……きっと心の中では思っていたけど口には出してこなかったんだろうな。あぁ、たくっ。仕方ねぇなぁ!

 

 俺は教壇から降りて夢を語った男の子の近くへと向かう。変な事を言ったのかと思われたのかアワアワとし始めたが頭に手を置かれた瞬間、その動作を止めた。

 

 

「親父よりも強くなりたいか」

 

「うん! いつかお父さんより強くなって悪い人から守りたい!」

 

「そうか。だったら後ろを向いてみろ」

 

 

 俺の言葉に従って男の子は後ろを向いた。柄じゃねぇが今回だけ特別だ。あぁ、らしくねぇ。

 

 

「良いか? お前が越えるべき親父さんは近いように見えて遠いぞ。親ってのは大人げねぇからな……自分のガキにカッコつけてぇからお前が追い抜いた瞬間、後ろから逆に追い越すなんざ普通にあり得る。今から言う事は内緒な? 俺だって親父を超えたなんて思っちゃいねぇよ……王としても親父の方が上で、男としてもまだ負けてる。いつか勝つけどな! だから……なんだ、お前の夢は簡単なようで難しいぞ? 今日までお前や奥さんのために頑張ってる男をそう簡単に超えれるとは思うな……でもいつか超える時が来る。安心しろ、最低最悪な影龍王相手にハッキリと言葉に出来たんだ! 今すぐじゃなくても数年、数十年、数百年後には超えられる。その時になればそこらの上級悪魔よりもお前は強くなってるはずだ」

 

「……」

 

「……あー、涙目になるな。泣くなら自分の夢が叶った時だけにしとけ。お前が強くなるのを楽しみにしてるぜ! 他の奴らの夢も聞きたいがこれ以上は生徒会長から怒られかねないんで次の機会な!」

 

「「「「「えー!!」」」」」

 

「ゼハハハハハハ! そんな声を出しても無駄だぜ! 俺に夢を聞かせたかったらこの体験入学を全力で楽しみな! そうしたら……気が向いたら聞いてやるよ!」

 

 

 こうして俺にとって初めての授業っぽいものは終わった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

101話

遅くなりましたがあけましておめでとうございます。


「キマリス様、お疲れ様ですわ」

 

「ん? あぁ、お疲れさん。つっても適当にやったから疲れなんざ全く無いけどな……コーヒーありがと」

 

「いえ! これも私のおしご、こ、この私がコーヒーを淹れるなんて滅多に無いのですから存分に味わってお飲みくださいませ!」

 

 

 人生で初めてとも言えるD×D学園での授業が終わった俺はレイチェルと共に休憩室へと訪れていた。先輩と姫島先輩は別の場所で授業のサポートがあるためこの場には居ない……本来なら俺も先輩達と同じように他の場所に向かってサポートだのなんだのをしなければならないかもしれないが水無瀬と橘という真面目な二人がガキ共相手に授業してるから特に必要はない。四季音姉妹も犬月を使ってガキ共相手に何かしてるだろうし平家はグラムの手綱を握ってるから恐らく大丈夫だろう……きっと! なんとなく外から剣同士がぶつかり合っているような音が響いているような気がしないでも無いがきっと大丈夫だろう! なんかあったら四季音姉が止めるだろうし。

 

 そんなわけで夜空が居ない今、特にやることも無いのでこうしてサボ……休んでいるわけだ! たゆんと駒王学園の制服を着ていてもなお揺れる大きなお胸に目が行きつつ、レイチェルが淹れてくれたコーヒーを一口飲んでみる。流石に高級なものを使っているからか味も美味いには美味いんだがどうも水無瀬やセルスレベルのものを飲んでいるとなんか物足りない。まぁ、素晴らしいほどのドヤ顔をした金髪美少女なお姫様が淹れてくれたってだけでも価値はデカいと思うんだけどさ!

 

 

「そ、それにしてもキマリス様が真面目に授業をするとは思いませんでしたわ。い、いえ! 疑っていたわけではありませんがその……一瞬だけですが目を疑ってしまいました」

 

「真面目に授業をした気は無いけどな。いつも通り、好き勝手な事を言って、適当な事を言ってただけだし。それにレイチェル? 忘れてるかもしれないが俺はあっち(ガキ共)側だぞ。最上級悪魔の影龍王とかなんとか言われてるが相棒の力が無い俺はその辺にいる混血悪魔と何も変わらねぇしな」

 

 

 妖怪の長と同格だの最強の影龍王だの最上級悪魔の混血悪魔だのと周りが好き勝手に言っているがその全ては相棒のお陰だ。俺の力なんざ相棒に比べたらちっぽけなもので純血主義の奴らにとってはさっさと消し去りたいぐらいウザい存在だろう。もっとも相棒の力無しでも血筋だけの悪魔には負ける気は一切無いけどな……何度も死ぬかもしれない状態までこの体を痛めつけて強くなろうと頑張ったんだ。簡単に負けちまったら親父やセルスに悪い気がするしね。それにそんな事が起きたら夜空にも愛想を尽かされちまう! それだけは何があっても阻止しなければならないから死んだら蘇ってでも特訓を続けるつもりだ! うーん、この一途な思いを早く受け取ってほしいね!

 

 俺の言葉を聞いたレイチェルはあっ……という表情を浮かべたが首を大きく横に振って返答してきた。すげぇ……おっぱい揺れたよ。

 

 

「……確かにキマリス様は混血悪魔、それは覆せない事実ですわ。ですけど今日まで行ってきた努力は嘘なんかじゃありません! キマリス様のお傍で見てきた私が言うのですから間違いはありませんわ! 光栄に思ってくださいませ! このフェニックス家の双子姫であるこのレイチェル・フェニックスがキマリス様が神器頼りの男性では無いと証明して差し上げます!」

 

「いや……別に証明しなくても何か言ってきたらぶっ殺すつもりなんだけど?」

 

「証明してあげますわ! 良いですわね!」

 

 

 どうやら目の前のお姫様は何が何でも俺が神器頼りじゃないと証明したいらしい。別にそんな事をしなくったって俺は困らないんだけどなぁ……だって神器頼りなのは事実だし。でもなんだかんだで神器頼りじゃないと真剣な表情で言われるのは悪い気はしない……誘拐されそうになったのを助けてからずっとこんな感じだったっけ? とりあえず言えるのはこのお姫様は悪い男に引っかかりそうで怖いという事は確かだな! フェニックス家というかライザー……悪いことは言わないから男は狼だって教えた方が良いぞ! もう教えてるかもしれないが何度も言わないとあぶねぇぞマジで!

 

 

「そもそもお兄様も今はマシになりましたが昔は酷かったですのよ! フェニックスの能力があるから無敵だと言って修行もせずにハーレムだのと……お兄様の眷属になったお姉様が何度も陰口を言われていたのは今でも覚えています! 今の冥界は生まれ持った才能だけで満足する悪魔が多いのは事実……そしてキマリス様やシュンさんのように強くなろうと努力すれば皆で集まって笑う事自体がおかしいのですわ! その人達は一度完璧なまでに敗北を知るべきだと私は思います!」

 

「……あーレイチェル? 分かった、分かったからとりあえず落ち着こうか!」

 

「大丈夫です、落ち着いていますわ! その、私はキマリス様と契約した身……他の方からキマリス様がバカにされるのは我慢なりません! 一途で不器用な優しさを持つキマリス様だからこそ私はす、な、なんでもありませんわ! と、兎に角! キマリス様を悪く言う輩はこの私が焼いてしまいますから安心してくださいませ!」

 

 

 全然安心できませんけど大丈夫ですかお姫様! あれおかしいな……一途なのは夜空が好きだから否定しないけど不器用な優しさなんざ微塵も持ってませんけど? 本当に大丈夫か! 一度病院に行った方が良いんじゃないだろうか……それよりもなんでこんな状態になったんだ? 平家か! あの引きこもりがイジリまくったせいで此処まで歪んだんだなそうだなきっとそうだな! よし後で説教するか! あっ、ダメだご褒美になって喜びかねない……なんてめんどくさいんだあの引きこもり系覚妖怪は!

 

 まぁ、そんな事は置いておいてチラチラと何かを期待している目で見てくるこのお姫様をどうしようか……なんか可愛いなおい。

 

 

「レイチェル」

 

「は、はいですわ!」

 

「……あんがと」

 

 

 何故か知らないがパアァと一気に笑顔になったけど本当に大丈夫か……将来、変な男に引っかかりそうで本気で心配になるわ。そもそもなんで好き勝手に生きて、気にくわなかったらとりあえず殺すかと本気で思う超絶危険人物を好きになるかねぇ? いや恋愛は自由というけどその辺はもう少し危機感ぐらいは持とうぜ!

 

 

「あーなんか金髪美少女のお姫様が褒めてくるからやる気出たわー! 仕方ねぇなぁもう! 他の所の手伝いでもするか。レイチェル、お前はどうする?」

 

「勿論ご一緒させてもらいます! 私はキマリス様の契約者ですもの、常に一緒に居るべきですわ!」

 

「お、おう……まぁ、その辺はどうでも良いが――お前はどうする?」

 

 

 レイチェルの方ではなく反対側、誰も居ないはずの場所へと問いかける。レイチェルはキマリス様? と首を傾げているが俺には分かる……居るんだろ? いい加減隠れてないで出て来いよ!

 

 俺の言葉は周囲に響いた瞬間、真上から何かが落ちてきて後頭部と頬に素晴らしい感触が現れた。モチモチでぷにぷにの舐めまわしたくなるぐらい最高な太ももを持つ奴なんてこの世に一人しかいない……俺が大好きな片霧夜空ちゃんですね分かってます! いやぁ~毎度素晴らしい肌触りで俺のテンションがヤバい! 今すぐ帰ってオナニーしたいぐらいには興奮状態だ! 突然現れた存在にレイチェルは口をパクパクと驚いているが俺にとってはいつもの事なので驚くことは無い――むしろ大歓迎だ!

 

 

「――もっちろんいくぅ! てかぁ! さっきまで覗いてたけど真面目に授業とか笑えるんだけどぉ! あははははははははは! ドヤ顔で話すノワールとか気持ち悪くて笑いが止まらないんだけど!」

 

「おいおい夜空……どっからどう見てもイケメン教師だっただろうが! キモくねぇし! お前あれだぞ! 俺が教師になったらモテモテ確実だからな! なんせイケメンですしぃ~超絶分かりやすい授業で人気教師間違いありませんけどなんか文句あんのかゴラァ!」

 

「ばっかじゃねぇの。ノワールが先生になんてなったら手当たり次第にセクハラして捕まるに決まってるっしょ。つーか自分でイケメンとか言って恥ずかしくねぇの?」

 

「事実だろ?」

 

「まーイケメンだけどさぁ~自分で言うと空しくね?」

 

「それはある」

 

「なら言うなし」

 

「言いたくなるんだよ察しろ!」

 

 

 真上を向きながら話しているが後頭部に硬い何かが当たっている感触しかないのは何故だろう……あの平家でさえほんの少しだけ山があるというのに全くと言って良いほど柔らかい感触が無いんですけど! これは仕方ないな……あぁ、仕方ないから揉むしかないだろう! 男に揉まれるとおっぱいが大きくなるとか言うし夜空のバストアップのためにも意地でも揉んでやるのが俺の優しさってものだろう! もっともちっぱいのままでも何も問題無いけどね! むしろそれが良い!

 

 

「潰されてぇの?」

 

 

 なんで俺の心の声が分かるんですかねぇ?

 

 

「アンタが分かりやすいだけだつーの。よっと、にへへ~どう? どうっ! この超絶美少女の夜空ちゃんが制服着てやったんだから見惚れても良いんだよぉ?」

 

 

 俺の肩から飛び降りた夜空はくるりと一回転して自分の姿を見せつけてくる。たった一瞬、ヒラリと舞う長い茶髪にスカートの奥から見えた健康的な太もも、パンツが見えるか見えないかのギリギリに調節された絶対領域は言葉すら失うほどの代物だ。そして普段から羽織っているマント(神滅具)を消しているせいか目の前に居るのが光龍妃、規格外なんて呼ばれている女の子なのか分からなくなる……屈託のない笑顔で俺を見つめてくる夜空はどこからどう見ても普通の女の子にしか見えない。

 

 だからだろう……言葉が出ない。普段だったら可愛いぜ夜空! とか最高だぜ夜空! とか付き合ってくださいという言葉が飛び出るであろう口から言葉が出てくる気配が無い。ただひたすらに目の前に居る片霧夜空という女の子を見つめる事しか出来ない……もし、たった一つだけ言葉にするならば――今まで生きてきてよかったという事だけだろう。

 

 

「……」

 

「……おい、折角さぁ~この夜空ちゃんの制服姿を見せてやったってのに無言とか喧嘩売ってんの? おい、ノワール? ちょっと聞いてんの! 黙ってねぇでなんか言えよぉ!」

 

「……あ、いや、悪い……その、なんだ、あーと、見惚れてた……悪い。その、似合ってる、じゃない……可愛い、あぁと違うな……似合ってるし可愛いのは当然だ……えーと、悪い、なんかカッコよく言えそうにない」

 

 

 目の前の女の子に見惚れてうまく言葉が出てこないなんてカッコ悪いったらねぇな……!

 

 

「……ばーか。マジな反応すんなし」

 

「仕方ねぇだろ……普段も可愛いのにさらに可愛くなったら言葉なんて出せるかよ」

 

「ふーん、へー、ほー。まっ、仕方ねぇよね! だって私って超絶美少女だしぃ~童貞のノワールが見惚れちゃうのも分かるね! にへへ~そっかそっか……ねぇねぇノワール! 見学したいから案内してくんね?」

 

「断るわけねぇだろ。んじゃ、行くか……レイチェル? お前は……お前は……あ、あの、大丈夫でしょうか?」

 

「あのキマリス様が見惚れたと正直に告白するなんてあり得ませんわしかし目の前で実際に言われたのも事実しかしまだチャンスはありますあるはずですわきっとあるに違いありません私はキマリス様の契約者という立場で光龍妃はまだ恋人でもありませんそうですまだ勝つチャンスはあります」

 

「……夜空、気づかれないように外に出るぞ」

 

「うっわ。息しねぇでボソボソ話すとかキモ。つーかチャンスも何もノワールは私の(もの)だっつーの。ん? 外に行くん? べっつに良いけどあれどうするん?」

 

「残念だが置いていくしかねぇだろ……今の状態で外に出たらガキ共が泣きかねん」

 

「ふーん」

 

「最悪覚妖怪と結託してキマリス様の意識を私に向けさせるしか……はっ! 私はいったい何を……? あ、ま、待ってくださいキマリス様! わ、私も一緒に行きますわ!」

 

 

 俺と夜空が部屋を出ようとした瞬間、我に返ったレイチェルがダッシュで追いかけてきた。夜空を肩車しながら水無瀬と橘が教師をしている場所まで向かう途中に軽く話したがどうやら先ほどまでの記憶が無いらしい。無意識で病むとかレベル高すぎませんかねぇ……? 流石えっちぃの禁止委員会に所属しているだけはあるぜ! だって委員長の橘となんか同じ感じがするしな! なんだろうな……四季音姉の場合は物理的な危険性があるのに橘とレイチェルは精神的な危険性があるんだよ。水無瀬? アイツは両方だ。

 

 そんなこんなで夜空とレイチェルを引き連れて水無瀬と橘が居る場所へと向かう。そこではガキ共が必死に魔力を炎や水といったものに変換させようとしていたり一誠のように直接魔力を前方に放とうと頑張っているのが見える。確か他の場所ではヴァルキリーちゃんが魔法を教えてるんだっけか? 一緒に教えれば良いのに分ける意味あんのかねぇ?

 

 

「よっ、頑張ってんな」

 

「あっ、ノワールく……ん。えっと頑張っていると思います、よ? そ、それよりも……その」

 

「夜空の事は気にすんな、いつもの事だ。それよりガキ共に魔力の扱い方を教えてるって話だがどんな感じだ?」

 

「え、えっとですね。早織さんや花恋さんに協力して作ったお札を子供達に渡して魔力を使う感覚に近いことを体験してもらったんですけど好評……? だと思います。子供達は炎が出たとか水が出たとか喜んでますから! あ、あの……その、悪魔さんに褒めてもらったら志保、もっと頑張れると思います! はい!」

 

 

 百点以上のアイドルスマイルで俺を見つめてくる橘だがなんか怖い。昨日までの状態を知っているから笑顔がなんか怖いです! 別に褒めても良いんだがそうなると平家が五月蠅くなりそうだ……橘を褒めたんだらグラムの手綱を握っている私も褒めるべきそうするべきとかなんとかって感じでな。まぁ、でも頑張っているのは事実だし褒めるぐらいはしても良いか。

 

 というわけで橘からの期待の眼差しに応えるべく、ガキ共の面倒は大変だが頑張れよと言うと何故か分からないが一気に笑顔になった。おかしい……自分で言っておいてなんだが褒めてない気がするんだが? 聞く奴によっては聞き流したとか思われてもおかしくないと思う言葉だったはずなんだがなぁ! でも喜んでるなら良いか……だから夜空ちゃん! 嫉妬するなよ! 滅茶苦茶太ももを押し付けてきてるけどご褒美なのでもっとお願いします! いやマジで柔らかいなぁおい! これで風呂に入ってないとかだったらなおさら良いんだが珍しく石鹸の匂いがするから風呂に入ってきたんだろう……そう言えばかなり前になるが風呂に入らない状態で腋の匂いを嗅げという素晴らしいイベントが起きた気がする。よし! それをもう一回再現してくれ! それが俺のクリスマスプレゼントで良いからさ!

 

 

「一回死んでみる?」

 

「お前に殺されるなら本望だな。もっとも簡単には殺されるつもりはねぇけど」

 

「知ってるっての」

 

 

 デスヨネ!

 

 

「コホン。ノワール君、志保ちゃんを褒めるのも良いですけど子供達にこのお札を渡して体験させるということを考えたのはレイチェルですのでそちらも褒めてあげたらどうですか?」

 

 

 俺と夜空のやり取りを見ていた水無瀬が話を戻すように手に持っている札を見せながら話を続ける。水無瀬が持つこの札には平家と四季音姉妹の妖力が込められており、使用者のイメージによって先ほど橘が言った炎やら水やらに変化させることが可能だが欠点として一度使用すればただの紙切れになってしまう上、込めた相手の妖力の性質によって差異が生じるってことか。例えば平家なら基本的にバランスが良いから何でも変化可能、四季音姉なら平家よりは火力寄りだがこっちも基本的にはバランスが良い、四季音妹の場合は……変化とかそれ以前の問題で破壊力特化というか細かい事が出来ないって感じになる。まぁ、簡単に言ってしまえば一回限りの妖術使用アイテムって感じだな……水無瀬も橘も鬼の里で参曲(まがり)という猫妖怪に妖術を教えてもらったが平家達と違って「魔力」しか宿していないからこれを使う事でしか妖術を使用できないらしいが歌を歌って俺達を支援する橘は兎も角、水無瀬にはこの札がある事でさらに応用が利くようになってこっちとしては助かってるけどね。

 

 なんせテクニックタイプとして成長している水無瀬の攻め手が増えたのはかなりデカい。魔力を消費しないから逆転する砂時計による性質反転を連続で使用できるし魔力と妖術を組み合わせれば火力不足を若干だが補えるときたもんだ……良い女ってのは何でもできるってのが世の中の常識だからこれからも俺を楽しませてくれるだろう!

 

 

「い、いえ! こ、この程度であれば誰でも考える事が出来ますからほ、褒められるまででもありませんわ! し、しかしき、キマリス様が褒めたいというのであればこのレイチェル・フェニックス! 甘んじて受けたいと思います!」

 

「褒められたくねぇなら褒めなくて良いんじゃねーの」

 

 

 夜空ちゃん、思った事を口にするのは良い事だし、自分が褒められないからって嫉妬するのはいいが苦労するのは俺なんだからちょっとだけお口にチャックをしようかぁ! 見ろよレイチェルのあの顔を! 言い返したいけど言ってしまうと褒められたいというのがバレるから何も言えないって顔をしてるんだぞ! 仕方ねぇなぁもうっ!

 

 

「……まぁ、俺だったら適当に魔力使わせろとか殺し合って理解しろとかお前らに任すとかしか言わなかっただろうしレイチェルに任せて正解だったな。よし! こんな面倒な事が起きたらレイチェルに任せるからこれからも頼むわ」

 

「お、お任せあれですわ! キマリス様の恥にならないように全身全霊を持って臨ませていただきます!」

 

「チョロ」

 

「夜空ちゃん! シー! 思ってても言わないのがお約束だ!」

 

「マジで? んじゃ黙るぅ~! つーか此処にいるガキ共ってホントになんも出来ねぇんだ? 悪魔の癖にって言ったらノワールは怒る?」

 

「さぁな。俺だって霊体生成と霊体使役に極振りで水無瀬や平家のように炎やらなにやらに変化は得意じゃねぇしなぁ。てか出来る出来ないなんざ本人次第だろ? やれると思ったんならやれるし出来ないと思っても意地でもやるってのが悪魔っていうか魔力だしな」

 

 

 言ってしまえばどれだけ本気で想像や妄想をして全力で取り組めるかが魔力を上手く使えるか使えないかの差だろう。例として挙げれば一誠か……アイツは洋服崩壊と乳語翻訳という技を持ってるがどちらも自分の欲望を実現したいという強い思いがあったからこそ発現というか使えるようになったはずだ。それ以外だと基本的に魔力をそのまま砲撃として撃つぐらいしか出来てないしなぁ……そもそも女の服を弾き飛ばしたいと思い続けたら実現できるとか魔力万能すぎるだろって話だ。

 

 話を戻すが現に俺だってそうだ……自分の魔力をキマリスの固有能力の霊操に極振りしてるからそれ以外の事をやれと言われてもちょっとだけ困る。まぁ、普通に炎やら水やらには変化させれるだろうが影人形を生み出したりすること以上の事は出来ないだろう。だから魔力なんざ自分が何をしたいか、どうしたいかを心の底から思い続ければ勝手に発現するんだよ……きっと、タブンネ!

 

 

「そんなもんなん?」

 

「そうなんじゃねぇの? 現に俺だって影人形生成やらに極振り状態だろうが……今だから言うがお前に追いつこうと考えたらそれしかなかったんだよなぁ」

 

「なんでさ?」

 

「なんでってあの時の俺って真面目にお坊ちゃんしてたんだぜ? お前に助けられてから強くなろうと親父やセルス、相棒に手伝ってもらったのは良いが即効で理解したよ――俺には才能が無いってな。サイラオーグのように体を鍛えて強くなれるかと言われたら無理だなと普通に思ったし、水無瀬達のように魔力を変化して戦えるかと言われたら微妙と答えれる。それぐらい、あの時の俺は弱かったんだよ……それこそ今も魔力を変化させようと頑張っているその辺のガキ共と同じくらいな」

 

 

 周囲を見渡しながら軽く昔を思い出してみる。母さんが殺されそうになったあの日、俺が影龍王となったあの日、相棒と出会ったあの日、夜空に一目惚れしたあの日、誰も信じないと決めたあの日から親父とセルスに鍛えてもらったが結果は散々だった……貴族らしく振舞おうとしてた真面目なノワール君だったからこそ普通に弱かったのは今でも覚えている。セルスと戦えば痛みで簡単に涙を流したり逃げ出したくなったりと黒歴史認定するぐらいに無様だったなぁ……でも夜空の笑顔を見たい、強くなりたいと本気で思っていたから諦めはしなかったけどね。あと弱かったお陰で気づけたんだ――自分を鍛えても夜空に追いつくには時間がかかり過ぎるってことにな。

 

 

「良い機会だから水無瀬、橘、レイチェル。お前らにも教えておいてやるよ。俺が影人形を使役する事に特化してる理由だが……「自分自身」は無茶をすれば簡単に壊れるが「自分以外」だったら簡単に壊れないって考えを抱いたからだ」

 

「自分以外……ですか?」

 

「おう。悪魔も人間も簡単に腕は折れるし無茶をすれば再起不能になる。親父やセルスも俺を鍛えてくれたが自分の子供だからって理由で殺すようなことは出来なかったんだよ……何回も死ぬ一歩手前で止めやがる。その時の俺はそれが我慢できなくてなぁ、こっちは死んででも強くなりたいのにこれ以上は危険だの死んでしまうだのと言ってやめるんだぜ? ふざけんなって話だ。だから馬鹿な頭で必死に考えたり相棒に聞いてみたりして今の戦い方を思いついたってわけだ。我ながら天才だと思ったね! 影人形だったらどれだけ無茶しても俺の肉体は傷つかねぇしさ!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハ! 肉体は傷つかねぇが精神の方は死にかけてたけどな! ガキが自分の行動と影人形の行動を同時進行すりゃぁどうなるかなんざ分りきってるだろう? つってもあの頃の宿主様はとっくの昔にぶっ壊れてたからその辺は気にしちゃいなかったけどなぁ! テメェらは理解できるか? 両手両足が折れ、息をすることすら困難な状態のガキが「まだやれる」って本気で言うんだぜ! 最高に狂ってたな!』

 

「いや狂ってたって言われてもな……だってまだやれると思ってたから言っただけだぞ?」

 

『だからこそ宿主様は壊れてたのさ。それが気に入ったんだけどな! ゼハハハハハハハハハ! どうだユニア! テメェの宿主がどれだけ強かろうが俺様の息子は周りが引くレベルな事を平気でやってきたんだぜぇ! これはもう俺様達の勝ちって事で良いんじゃねぇか?』

 

『クフフフフフフフフフ。確かにノワール・キマリスが壊れているのは事実ですが夜空も負けてはいませんよ。有り余る才能を戦闘だけではなくノワール・キマリスを見ていたいという思いだけで監視できるように術を開発する! あまりに見当外れな方角への全力投球はこちらの勝ちで良いと思いますけども?』

 

『言うじゃねぇのくそビッチが! 良いか! 俺様の息子はなぁ!!』

『良いですか! 夜空はですね!』

 

 

 なんか知らないが地双龍同士によるうちの子自慢が始まってるがスルーしておこう。

 

 

「……まぁ、これが影人形が生まれた理由だよ。だから結局、魔力の扱い方なんざ自分次第なんだよ。さっきも言ったが自分がやれると思ったらそれは出来るし、出来ないと思っても死ぬつもりでやれば出来るんだ。というわけで夜空! 俺を褒めても良いんだぞ!」

 

「え? ヤダ」

 

「褒めても良いんだぞ!!」

 

「ヤダって言ってんじゃん」

 

 

 泣いて良いですか?

 

 

「……水無瀬、橘。とりあえずガキ共には人間界のゲームや漫画を読むように言っとけ。魔力の使い方のヒントぐらいにはなるからな」

 

「あ、はい。分かりました……ノワール君」

 

「んぁ?」

 

「ちゃんと子供たちの事を考えてるんですね」

 

「……さぁな」

 

 

 それを言い残して水無瀬と橘、レイチェルから離れて肩車状態の夜空と一緒に他の場所を回った。特に何かを話すわけでも無く学校という空気や風景を共に味わうように歩き続けた。

 

 

「ノワールってさぁ~やっぱり馬鹿だよね」

 

「いきなり何言ってんだ?」

 

「だって私に追いつきたいからって無茶するとか馬鹿じゃん」

 

「好きなんだから当然だろうが……良いか、恋愛ってのは命がけなんだぜ? 好きになった奴を手に入れたいから死んででも努力するもんなんだよ」

 

「知ってる。うん、ねぇノワール」

 

「あん?」

 

「好きだよ」

 

「知ってる。夜空、俺もお前が好きだぜ」

 

「んなの言われなくたって知ってるっての。だからさぁ~次に私が言いたい事は分かるっしょ?」

 

「分かるに決まってんだろ……逆に聞くが次に俺が言いたい事も分かるよな?」

 

「うん」

 

 

 考えるまでもない……俺も夜空も次に言うことは決まってる。

 

 

「――早く私に殺されろ」

「――早く俺に殺されろ」

 

 

 俺が上で夜空が下か、夜空が上で俺が下か、俺が夜空を護るのか夜空が俺を護るか、周りからすればどうでも良い事でも俺達にとっては重要な事だ。今日まで色んな事に巻き込まれたり自分から参加したりと忙しかったような気がするがもうすぐ一年が終わる……人間である夜空と過ごせる時間がまた減ってしまうからこそその言葉を言うしかない。互いに同じ言葉を言うと一瞬だけ無音になるが俺も夜空も何かがおかしかったのか一緒に笑い出す……やっぱり俺は夜空が好きなんだ。それだけは何があろうと変わらない。

 

 

「あはははははははははは! うっける! ちょっ! マジウケるんだけど!!」

 

「それはこっちの言葉だっての! ぷ、あははははははは! なんで学校の中で私に殺されろって言ってんだよ! エロゲでも中々ねぇぞ!」

 

「そっちだって同じこと言ったじゃん! つーか女の前でエロゲとか言うなし! さっきもマジな顔して語ってたけど本気でウケるんだけど!! あはははははははははは! 腹イテェ! もうっ、笑わせないでよノワール!」

 

「テメェが勝手に笑ってるだけだろうが! つーかドヤ顔で話して何か文句でもあんのか!?」

 

「べっつにぃ~あははははははは! うん! やっぱりノワールと居ると楽しい! すっげぇ楽しい! ねぇノワール、学校って案外悪くねぇかも!」

 

「……なら良かった」

 

 

 その言葉に俺は誘ってよかったと本気で思えるぐらい嬉しかった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

102話

「ふむ、悪くないな」

 

「キメ顔でラーメン食ってもカッコよくねぇぞ」

 

 

 D×D学園の体験入学初日も何事も……珍しく何事もなく無事に終了したのでサポートとして参加していた俺達は学生寮内に作られた食堂で若干遅めの夕食をとっていた。グレモリー、シトリー、バアル、キマリスの四眷属とヴァーリ達が全員入ってもまだ余裕があるぐらいの広さを持ち、貴族特有の豪華さよりも庶民的というか自分の家で食事をしているようにと思わせる落ち着いた色合いの内装と家具が配置されている。俺的にはキマリス領にある実家よりもこんな感じの食堂で食べる方が落ち着くからマジでありがたい……いい加減、あの城を撤去して作り替えろよって話だ。出来れば和風で頼む! 一度で良いから畳の部屋に住んでみたいんだよ!

 

 まぁ、そんなどうでも良いことは置いておいて俺の目の前にはムカつくぐらいにイケメンなヴァーリが見る女全てを魅了するんじゃないかと錯覚するぐらいのキメ顔でラーメンを食べている。麺を啜り、スープを飲み、具を食べるという普通の動作すらヴァーリがイケメンだと認めざるを得ないほどの美しさのような何かがある……死ねばいいのに。目の前の銀髪イケメンな最強ルシファー様が死んでくれると世の男全てが歓喜すると思うんですけどねぇ。

 

 

「別にキメ顔とやらはしてる覚えは無いんだが?」

 

「あーはいはい。お前の場合はどんな表情でもイケメンですからねぇ! 意識とかしてませんよねー! くっそムカつくんだけど……んで? 初めてかどうかは知らんが学校はどうだったよ?」

 

「……少なくとも嫌いではない。仮に俺が白龍皇でなく、ルシファーですらなかったのならばキミ達と同じように味わっていた世界なのだろう。ふっ、まさか今になってこのような空気を味わう事になるとは思わなかったよ」

 

「あっそ。つーか白龍皇のルシファー様でも学校ぐらい通っても良いだろうが……なんだったら駒王学園に来るか? 一誠もいるし俺もいるし元士郎も居るから少なくとも退屈はしねぇと思うぞ」

 

「遠慮させてもらおう。一つの場所に留まるよりも強者を探し、未知なる神秘を探求していた方が俺らしいとは思わないかい?」

 

「まぁな。少なくともお前が通ってみても良いかなんて言ったらマジかよって絶句する自信はある」

 

 

 あとついでに自分で言っておきながら駒王学園に来るんじゃねぇよとも言う自信はあるね! だってヴァーリだぜ? 銀髪のイケメンな白龍皇様だぞ? 転校してきたらもう女子共はうはうはのヒャッハー状態で私が先だとばかりに好感度上げに勤しむだろう……爆発すればいいのに! これだからイケメンは困るんだよ……! 少しばかりそのイケメンフェイスを分けてくれても罰は当たらねぇと思うんだがどうだろう!

 

 そんな事を思っていると別のテーブルで四季音姉妹や橘、レイチェルと共に食事をしている平家からノワールも黙っていればイケメンの類だよという言葉が飛んできた。おいおい黙ってればってなんだよ……俺様はどこからどう見てもイケメンだろうが! 黙っててもイケメンで口を開けば紳士的とか最高だろ。

 

 

「ギャグで言ってるならすべってるよ」

 

「んなわけねーだろ。どこからどう見てもイケメンだろうが。水無瀬、おかわり」

 

「はい。ノワール君、今日はお疲れさまでした。頑張っていたのでちょっとだけおまけです……えと、白龍皇さんは麺のおかわりはいりますか?」

 

「もらおう」

 

 

 気に入ったのか目の前のイケメン白龍皇様は麺のおかわりを所望しているらしい。仕方ないよね! だって作ったの水無瀬達だし。折角の機会だからと各眷属の料理自慢が集まって夕食を作ったんだが結構……いやかなり美味い。料理人の面々は美女や美少女、そして作られた料理は最高とかいくら出せば食えるのか分からねぇなおい……まっ、俺の目の前にある料理は全部水無瀬に作ってもらったけどね。なんて言うか普段食い慣れてると他の奴らが作った料理ってあんまり好きじゃないんだよなぁ。というよりも水無瀬の飯が食えない日があるなら軽く機嫌が悪くなる程度で俺の日常には必要不可欠な存在だと思う。

 

 

「ところで光龍妃も来ていたようだが姿が見えないのは何故だ?」

 

「んぁ? あー、帰ったぜ。またあとでだってさ」

 

「そうか」

 

 

 俺の言葉に納得したのかヴァーリは追加された麺を啜り始める。流石に夜空の事を知ってると即効で理解できるよな……俺と学校デートした後、アイツは凄く楽しそうな笑顔で「またあとでね」って言って消えていった。「またね」じゃなくて「またあとで」だから十中八九、この後何かをしでかす気満々ですね分かってます! あぁ、もうだから大好きなんだよ! 今度は何をするんだ? 今度は何を見せてくれる? お前が楽しめることはいったい何なんだよ夜空ちゃん! マジで楽しみだわ……まぁ、下手するとこのD×D学園が吹き飛ぶかもしれないが夜空が楽しいなら問題ねぇか。そもそもあんまり思い入れないし。

 

 平家からうわぁって感じの視線を浴びつつ水無瀬が作った料理を食べる。美味い、マジ美味い。流石大天使水無せんせーと男子生徒から崇められるだけはある。普通に美味いし毎日食べたくなる中毒性がある……これがデキる女って奴なのか!

 

 

「水無瀬」

 

「はい? なんですかノワール君?」

 

「美味いわ」

 

「良かったです」

 

 

 平家達とは別のテーブルで食事をしている水無瀬にその言葉を伝えると滅茶苦茶笑顔になった。普通に感想言っただけなのになんで笑顔になるか意味分からねぇ……まぁ、良いけどさ。

 

 

「……もっと料理を頑張らないと!」

 

「み、水無瀬先生の料理が美味しいことは分かっていましたが……光龍妃とは別な意味でさ、最大の敵ですわ……!」

 

「に、にししぃ~めっぐみぃ~んのごっはぁんはぁ~おいしぃもんねぇ――本格的に料理してみるべきかねぇ」

 

「伊吹が悩んでいる。分からない。先生のご飯は美味しい。それは事実。伊吹、悩んでいるなら言ってほしい。なんでも手伝う」

 

 

 何故か分からないがとある方々が張り切り出したんですがいったい誰だよあのメンツを従えている奴は……なんか離れてても怖いんだけど? 目に光は残っていると思いたいが普通に怖く感じるのはきっとここ数日間の出来事が原因だろうね! マジであの面々を率いている王って誰だよ! きっと素晴らしいほどの人格者でイケメンな人なんだろうなぁ! はいそこ、ノワールが人格者とか笑えるとか言わない。どっからどう見ても人格者だろうが! ヤンデレすら許容するこの懐の広さが分かんねぇのかお前は!

 

 

「まーた王様が爆弾爆破してるっすよ。水無せんせーの料理は世界一だってのは分かるけど出来れば家でお願いしたいっすね……モウアノコウケイハミタクナイケドネ」

 

「い、犬月……? だ、大丈夫か!? め、目が死んでるぞ!? 生きろ犬月! お前がどれだけ苦労してるかは俺が良く分かってる! 多分だが兵藤が一番良く分かってくれると思うぞ!」

 

「お、俺か!? い、いや分かんないって! だってあれってどう見ても黒井の事が……だろ! 俺もリアスやアーシアが作ったご飯を食った時には美味しいって言うけど二人共あんな感じにはならないぞ!?」

 

「兵藤……女子に、女子に囲まれて生活しているお前が言うと嫌味にしか聞こえねぇんだよぉぉっ! というか女子の手料理を毎日食えてるお前と黒井と犬月が羨ましぃィ!!!」

 

 

 隣のテーブルに集まっていたリア充一人、彼女いない歴多分年齢の童貞二人がなにやら騒ぎ出したが俺には関係ない。サイラオーグ達や生徒会長達はこの騒ぎに対して笑いながら観戦したり頭を押さえて呆れていたりと各々の反応をしている。とりあえず俺から言えるのは元士郎、頑張れ! あと一誠君……見えてないだけでお前が居ない場所ではドロドロのぐちゃぐちゃな感じが繰り広げられてると思うから刺されないように頑張れ! 監禁されたらとりあえず喜んで受け入れろよ! ハーレムは刺されたり監禁されることを受け入れられなかったら無理だからな!

 

 そんな事を思いながら水無瀬が作った料理を食べていると別方向から視線を感じたのでそちらを向くとヴァーリのところにいるイケメンメガネの妹ちゃんがチラチラと隠れながら俺を見ていた。んあ? なんだあの反応……? 何だって何か言いたそうだけど言えないような感じで見てくるんだ?

 

 

「……おいヴァーリ」

 

「なんだい」

 

「お前のところにいる魔法使いちゃんが俺をチラチラと見てくるんだが何かしたっけ?」

 

「……あぁ、その事か。なに、ルフェイは元々黄金の夜明け団に所属していてね。キミと光龍妃が黄金の夜明け団を襲撃して大多数の魔法使いを殺害した件についてこの後行われる生き残った魔法使い達との会談で何故虐殺を行ったかを聞きたいらしい」

 

「ふーん。何かと思えばそんな事かよ……てっきりどっかでフラグ立てたっけと勘違いするところだったわ。その質問の回答を今答えた方が良いか?」

 

「キミにお任せしよう」

 

「了解。まっ、俺の答えなんて決まってるけどな――魔法使いだからぶっ殺した。これ以上の理由はねぇから時間の無駄だと思うけど他になんて聞いてくるか楽しみにしてるわ」

 

 

 てかヴァーリに言われるまで忘れてたがこの後、魔法使い達との会談に出席するんだった……夜空と学校デートしたせいですっかり忘れてたわ! てか此処に集まって何話すつもりなんだろうねぇ? ぶっちゃけると目障りだから俺の視界に映らないでほしいぐらいだ……そもそも魔法使い側は俺の母さんの言葉が無かったら絶滅してたんだって分かってんのか? もし理解してないんだったら残念だが集まった奴らはこの世からおさらばしてもらうしかないな。文句を言われる? 和平に支障が出る? だからなんだよ。俺と夜空が気まぐれで生かしておいてやったのに死にに来た奴らに慈悲なんて与えるわけねぇんだよ。

 

 もっとも魔法使い側が何もしなかったら手出しはしないかもしれないけどね。会話の中でたかが人間を襲った程度なんて言葉が飛んで来たら話は別だけど。

 

 

『……クロム。やはり貴様の宿主は異常だな』

 

『ゼハハハハハハハハ! 当たり前だろうが白蜥蜴ちゃんよぉ! 俺様が認めた最強の影龍王にして俺様の息子だぜぇ? この程度なんざ当然なのよ! 文句があんなら殺し合うかぁ?』

 

『少なくともヴァーリとノワール・キマリスが本気で殺し合えばどちらも無事では済まないだろう。それはクロム、お前も分かっているはずだ。いかに不死身と言えども私の力を行使するヴァーリなら殺しきれるのだからな』

 

『ほう? 言うようになったじゃねぇのアルビオン。ドライグと和解したから強気になったってかぁ? だがこっちも言わせてもらうぜ! 俺様の宿主は確かにテメェの宿主ほどの才能はねぇさ。だがな宿主様は歴代でも最高に精神力が飛びぬけてんのさ! 自らの死すら意志一つで跳ね返し! あのクソババアの声すら無視して蘇れるほどになぁ!』

 

 

 クソババアの声ってもしかして死んだ時に聞こえるあれか? 確かに誰かが呼んでいるような感覚はあるがもしかして相棒は誰なのか知ってるのか? いや……相棒がクソババアって言う奴なんて多分少ないはずだから相手なんて限られる……まさかスカアハか? いやいや無いわ。うん、無いわ。影の国の女王が俺程度を呼ぶなんて普通にあり得ないわ。

 

 

「てか和解で思い出したがヴァーリ、お前の神器でなんか変わった事はあるのか? 何十何百年と続いた二天龍の和解だろ? 神器に何かしらの影響があっても良いと思うんだがどうなんだよ」

 

「ふっ、気になるなら試してみるかい? 食後の運動としては十分だと思うが?」

 

「オッケー! 俺も魔法使い如きの会談なんざに興味はねぇしな! いつもの地双龍の遊び場で良いか?」

 

「構わない」

 

「待てぇ!? いやいや待てって!! なにコンビニ行こうぜってノリで殺し合おうとしてるんだよ! リアスから聞いたけど黒井は絶対参加なんだろ!? だったら戦ってる暇なんて無いだろ!」

 

「だってヴァーリが教えてくれないから殺し合って確かめるしかねぇだろ。何だったら一誠も参加するか? 良いぞ良いぞ! 二天龍対地双龍って感じが滅茶苦茶盛り上がるだろうしきっと夜空も喜んで参加しそうじゃねぇか!」

 

「死ぬわ!? お前とあの人のコンビとか絶対に相手したくないぞ!」

 

「俺は構わないがな。ふふっ、影龍王と光龍妃のコンビが相手となれば全力を出せそうだ」

 

「ヴァーリ!? お前もお前でなんでノリノリなんだよ! ダメだこの二人……滅茶苦茶やる気じゃねぇか!?」

 

「兵藤……それがドラゴンだぜ。あっ、俺は遠慮するからな! 会長の手伝いの方が大事だし!」

 

 

 そんなきっと楽しくなるようなことを話していると平家がビクッと何かに反応したような動作をした顔思えば全身をまさぐられるような気色悪い感覚に襲われた。それはどうやら俺だけじゃないようでこの食堂内に居た全員が感じ取ったもののようだ……今の感じだとどこかに転移させられたってところか。ご丁寧に窓から外を見てみると紫色という冥界特有の空が真っ黒に染められているし周囲も人間界で言う深夜に近い暗さになってるから俺の予想は当たってるかもしれねぇな。

 

 確認の意味を含めて平家に視線を向けると無言で頷き、異空間から愛刀の龍刀「覚」を手にしていた。流石俺の眷属、対応が早い。

 

 

『――あーあー、マイクテスト中マイクテスト中~あれー流れてる? ホントに? うひゃひゃひゃ! やっはろーD×Dっていうチームだっけ? の諸君! リゼヴィムおじちゃんの校内放送はっじまっるよー!』

 

 

 突如として流れてきた声の主はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーことリゼちゃんだ。うわぁ、何しに来たんだよ……まさか遊びに来た? ありえそうだな。というよりも放送が流れたことでヴァーリの表情がヤバい、マジヤバい。表情からしてキレ始めてるのが凄く分かる! どこまで嫌いなんだよ……気持ちは分かるけどさ。でもなーんでか生理的に受け付けないぐらいの不快感はないんだよなぁ……なんでだろ?

 

 

『なんか貴族や上級悪魔でも無いのにレーティングゲームを学べる学校が出来たって言うんでお祝いにきちゃったぜ♪ さてさて聞いてるかどうかしらねーけどおっそとをご覧あれ!』

 

 

 先ほど外を確認するために視線を向けた窓からもう一度外を見ると暗闇の中に複数の集団が現れていた。普通だったら顔や姿まで判断できないだろうが悪魔の視力を甘く見てはいけない……ハッキリと見えていますしあれってどう見ても魔法使いですよね? だって黒いローブを纏っていかにも私達は魔法使いですって自己主張する集団なんてあいつ等ぐらいだろうし。てか俺と夜空が殺しまくって世界的に魔法使いの数が激変したってのは聞いてたけどまだあんなにいたんだな? ちょっとビックリだわ。

 

 先輩達もリゼちゃんの校内放送に加えて学生寮を取り囲んでいる魔法使い達の姿を見て警戒態勢を強め始めた。流石にこの状況で優雅に飯は食えないよな……あっ、俺は普通になんだ魔法使いかって感じで飯食ってます!

 

 

『じゃじゃじゃーん! なんと皆さんが居る場所を取り囲んでいるのは僕ちんが聖☆杯! のお力で復活させた魔法使い達なのですよ! うひゃひゃひゃひゃ! ノワールきゅん聞こえてる? アポプス君達が裏切ってくれちゃったせいで戦力的にもうおじちゃんだいぴーんちって感じでハーデスくんに相談したら彼らの魂を貰えたんだ! でさーなんかねー恨んでるらしいよ? なんで殺されなきゃいけないんだとか俺達は関係無いのにとかってちょー怒っております!』

 

「ふーん、どうでも良いな。てかあの骸骨野郎……また悪巧みつうかメンドクサイ事をしやがったのかよ。やっぱりあの時殺しておくべきだったかねぇ? おい平家、外の様子は?」

 

「普通に取り囲まれてるね。しかも全員がノワールに敵意や殺意を持ってるし復活した事も本当っぽい」

 

「なるほどな。その辺りはすっげぇどうでも良いからスルーするがリゼちゃんは学校か?」

 

「うん」

 

「それだけ分かれば十分だ。グラム」

 

『我ラのでバんだな! 分カってイるとも!』

 

 

 俺の言葉に素晴らしい笑顔を浮かべながら剣状態へと変化したがそこまで嬉しかったのかコイツ……取り囲んでいる魔法使い共に影龍破を放つ気満々だが今日まで俺を癒してくれた……あぁ、お前のポンコツ具合に何度癒されたか分からないから今回だけ特別に全力も全力! この空間の全てを切り刻むぐらいのパワーを放ってやろうじゃねぇか!

 

 俺の思いに感動したのかどうか分からないがグラムから流れてくる呪いが濃さを増していく。腕から身体に、足に、顔に、目に、脳に、心臓に、龍を殺す呪いが俺を染め上げる。同じドラゴン系神器を宿している一誠と元士郎は即座に距離を取りえ、お前まさかって表情を浮かべ、ヴァーリは不敵に笑っている。あと視界の端で黒猫ちゃんの妹ちゃんが体調が悪そうにしているけど俺のせいじゃない! ただ呪いを放ってるだけだし。この程度で体調を崩すとか弱すぎだろ……仙術を使うならこれぐらいは慣れておけよな。

 

 

「く、黒井? 俺も同じ邪龍だからお前が今からやろうとしていることは凄く分かる! むしろやらない方がおかしいって感じなんだがちょっと待って! やるならせめて会長の許可を取ってからやってくれ! 頼む! その方がまだ納得できるからぁ!!」

 

「えぇ……仕方ねぇな。生徒会長! 学校壊します! はい許可取った! 行くぜ影龍破!!」

 

「それ取ってない!? ただ言っただけ、ああああぁぁぁぁぁぁっ!? 学校がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 グラムから漏れ出す歓喜の声を形にしたかのような呪いの波動は食堂の壁を貫き、地面を抉るように切り刻んでD×D学園を飲み込んだ。先ほどまでガキ共が楽しそうに授業を受けていた学校がたった一日も持たずに壊されるなんて誰も思わないだろう。素晴らしいほど更地になったがリゼちゃんはちゃんと死んだよな? まぁ、流石に生きてるとは思うが死んでてくれないとさっさと帰れないだろ……てかついでに魔法使いの集団も巻き込んだけど数が多すぎて半分ぐらい残ったなぁ。はぁ……二撃目行くかぁ!!

 

 

「さぁて殺し合いの始まりだ! 敵は魔法使い! 俺に恨みがあるならそれに答えてやらねぇとな! ゼハハハハハハハハハハハ! 一人たりとも残すな! 生き返ったんならもう一度ぶっ殺してやらねぇと色んな所に迷惑だからな! 遠慮なく殺るぞ!」

 

「ういっす!! 人間の肉ってあんまり美味くねぇけど王様の母さんと姫様達を攫ったことはまだ忘れてねぇからな!」

 

「めんどくさいけどがんばろー。あっ、追い詰めすぎると邪龍に変化するから注意してね」

 

「にしし! そっちの方が面白そうじゃないか! イバラ、徹底的に殺るよ」

 

「分かった。伊吹の命令は絶対。魔法使いは殺す。殺す殺すコロスぅ!!!」

 

 

 犬月、平家、四季音姉妹という遠慮という言葉が頭から抜け落ちている面々が嬉々として影龍破で空いた穴から飛び出して取り囲んでいる魔法使い達へと向かう。チラリと背後に視線を向けると水無瀬と橘の二人は既に禁手状態になっており、いつでも頑張れますという表情を俺へと向けてくる。お前ら対応早すぎんだろ……周りを見てみろよ? 先輩達や生徒会長達なんざ絶句状態なんだぜ? サイラオーグに至っては戦う準備は出来ているが俺が破壊した校舎を見て地味に悲しそうにしてるってのにお前らは殺し合いと認識したら即効で対応するとか馬鹿じゃねぇの! 流石俺の眷属だ! やっぱり良い女ってのは仕事が早いね!

 

 

「悪魔さん、私は学生寮の屋上で歌おうと思うんですけど良いですか?」

 

「そうしてくれ。リゼちゃん側の戦力で現状、注意しないといけねぇのはオーフィスの力から生まれたリリスだけだ。リゼちゃん本人は神器を持たない奴らで挑めば苦戦はするが倒せるだろうぜ。ヴァーリ! 悪いがリリスは貰うぜ? 無限の力から生まれた存在と一回殺し合ってみたかったんでな!」

 

「譲ろう。だが代わりにリゼヴィムは俺が貰おう」

 

「ムカつくが俺だと神器無効化でダメージ与えれねぇからな……グラムで斬れば問題ねぇが今回は譲ってやるよ」

 

「別に譲らなくても良いんだがな。その時はリゼヴィムを殺す役目を賭けて戦えるというものだ」

 

「……そっちの方が面白そ、いや待て! それは夜空を交えてバトロワだろ? お前、アイツが生理的に無理って言ってるぐらい殺したい相手だぞ? 俺だって殺したいから今は殺すな! 精々両手両足ぶった切って背中の羽全部抜いてボッコボコにした後で優勝賞品として保管しろ! 良いな! 勝手に殺しやがったらグラムぶっぱするからな!」

 

「俺にその刃が届くというならばやってみると良いさ。だが簡単には当たるつもりは無いぞ」

 

 

 今までと変わらない不敵な笑みに微妙にイライラします。

 

 

「……匙、あのさ……戦闘だって認識したら即効で飛び出していった犬月達を驚けば良いのかこんな状況にもかかわらず目の前で殺し合いを始めようとしている黒井とヴァーリに驚けば良いのか、どっちだと思う?」

 

「犬月達の方を驚けば良いんじゃないかな! 対応早すぎるだろアイツら……! あとほら、黒井達はいつも通りだと思うしさ……うん。というよりも学校を破壊するんじゃねぇよ!? ちゃんと直してくれよ!? 明日も体験入学があるんだからな!」

 

「んぁ? あぁ、四季音姉妹に全力で直させるさ。さてと――リゼちゃーん! 生きてるー?」

 

 

 鎧を纏い、影の翼を生成して空へと昇りながら崩壊した校舎へと話しかけてみる。先ほどの一撃で死んでるわけがないとは思っていたが思った通りだ……オーフィスと全く同じ姿をしたリリスが盾となって防いでやがった! オーフィスの力から生まれたからドラゴンのはずだよな……龍殺しの呪いを持つグラムの一撃を受けてノーダメージとか反則じゃないですかねぇ? うわー無限龍様素敵! 片手で防ぎながらももう片方の手にドーナッツを持っているとかマスコット適正高すぎませんか!?

 

 

「生きてるー! もーノワールきゅんったらいきなりグラムの呪いを放ってこないでよー! おじちゃんの晩御飯が吹き飛んだじゃったよ」

 

「おじちゃん、晩御飯なら昨日食べたでしょう?」

 

「食べたよー! ものすっげぇ豪華な奴! うひゃひゃひゃ! いやーさっすがに対応が早いわ。普通は魔法使い達の要求とか聞くんじゃないの? 全く話し合う事も無く殺害とか悪魔過ぎておじちゃん、歓喜の涙を流しそうです!」

 

「敵だって言うならぶっ殺しが安定だしな。なんかあっても襲ってきたから殺しましたで通るし」

 

「だよね! うんうん、やっぱり悪魔は悪であるべきだよねぇ~素晴らしい! 今の冥界に居る悪魔もノワールきゅんのようにやりたい事をやってくれればいいのにサーゼクスくん達のせいで出来てないのにはガッカリです! 和平? しりませーん! 悪魔なんだから楽しいことしてなんぼじゃんねー!」

 

「その意見には同意だな。好き勝手に生きて、好き勝手に殺し合って、好き勝手に死んでいくのが俺達だ。勝手に仲間認定した挙句、正義の味方扱いとか死んでもごめんだ。正直、レイチェルの言葉が無かったらD×Dに加入なんかするわけねぇだろ」

 

「でもでも参加しちゃったノワールきゅんってすっげーツンデレだよねー! あっ、そうだ。生き返らせた魔法使い……うげぇ、数だけは大量に用意したのにもう少ししかいないじゃん。早すぎー! 折角邪龍に変化するように術式を埋め込んでたのに使う暇ないじゃん! とりあえずヴァーリきゅんの熱い視線に答えたくなっちゃうけどちょっと待ってねー! えーとキミで良いか。ハイ! 最大最悪の影龍王のノワールきゅんに言いたい事があればどうぞ!」

 

 

 リリスを従えているリゼちゃんは地上で蹂躙されている魔法使い達の中から一人を選び、近くへ転移させた。見た感じ、平凡そうというか特にこれといった特徴が無い男だが俺に言いたい事とか簡単に予想出来るんですけど……どーせ何で殺したとかだろ? ハイハイ、お決まりですねー! というよりも絶句状態から立ち直ったグレモリー眷属、シトリー眷属、もとから戦闘態勢だったバアル眷属が動き出してるから思いのほか早く終わると思うね! いやぁ、このメンツを相手に喧嘩を売ってきた度胸だけは認めても良いかもしれない!

 

 

「……ノワール。周りの魔法使いの心を読んだけどキマリス領が襲撃されてるみたい」

 

 

 平家からの言葉に犬月達の表情が一気に変わる。へぇ、そうなんだ。へーはーほー、俺にとっては心底どうでも良いがまー話ぐらいは聞いてやるか。

 

 

「そ、そうだ! リゼヴィム様のお陰で第二の生を得られた俺達はお前への復讐を果たすために行動したのだ! ハハハハハハハハハ! 今も俺達の仲間が全く関係のない奴らを殺しているのさ! それにだ――これを見ろ!!」

 

 

 男が魔法陣を描いて映し出すと呆れるほど殺意が湧いてくる光景が映し出された。どこかの建物内に鎖に繋がれ、暴力を振るわれたのか痣だらけな女――俺の母親が数人の魔法使いに囲まれている。あぁ、なるほどな……そうかそうか。死んだ程度では満足しなかったってことか。

 

 

「お前の母親は俺達が誘拐した! 殺されたくなかったら言う通りにしろ!」

 

 

 はいはいお約束お約束。

 

 

「……平家」

 

「偽物だよ。何故か知らないけどキマリス領を襲撃したら変な女とこれまた変なドラゴンがやってきて邪魔されたんだってさ」

 

「それが本当だという証拠はどこにある! 覚妖怪の言葉が真実だと何故分かる!! お前を気遣い、優しい嘘を言っている可能性もあるはずだ! ハハハハハハハハハ! さぁ、早く武器を捨てて――」

 

「真実ねぇ。おい、話ぐらいは出来んだろ? あーお前は()()()()()?」

 

『――ごめんねノワール、また捕まっちゃったわ……でも死にたくないの。貴方を残して、死にたくないわ……だから――』

 

 

 あっ、偽物だわ。

 

 

「そっか。じゃあ、死ねよ」

 

 

 手に持つグラムを振るうことなく、勝ち誇った男の首を、手を、胴体を、足を、肉片ひとつ残ることなく切り刻む。肉体を失った事で冥府へと戻ろうとしていた魂を霊操を使って俺の下へと近づかせて強く握る……このままだと俺の恐ろしさって奴を理解せずにまた同じことを繰り返すだろ? だから魂に刻み込んでやるよ――俺達の恐ろしさって奴をな。

 

 相棒に確認をすると問題ねぇ、良いからやりなというありがたい言葉を頂いたので男の魂をそのまま籠手部分の宝玉に叩き込む。最初からこうしておけばよかったんだ……感謝しろよ? 相棒の神器の中に入れるんだ……一生分の運を使っても中々起きない体験だろうぜ。精々、神器の中で永遠に苦しみ続けな。

 

 

『ま、待て! 見えないのか!! こ、この女はお前の――』

 

「母親じゃありませんけどぉ? あのな……アイツは捕まった()()で死にたくないなんざ絶対に言わねぇんだよ。その程度で言うなら俺を庇って大怪我なんてしねぇ。さてと――覚悟はできてるな?」

 

『ヒッ!?』

 

「逃がさねぇぞ。あぁ、逃がすものか……今日まで俺と夜空のきまぐれで生かしておいてやったのに馬鹿な奴らだな。高らかに宣言してやるよ――魔法使いは一人残らず殺してやる。隠れても見つけ出すからな? 泣いて謝っても許さねぇしやめるつもりも一切無い……が」

 

 

 グラムを振るうと俺の怒りが具現化されたかのように異常な量の呪いの波動が放たれる。周囲全てを切り刻む波動は一直線にリゼヴィムへと向かって行くが傍に居るリリスがそれを防ぐべく片手を前に出す――たった一撃、デコピンのように軽く放たれた波動によって俺が放った波動が防がれる。流石に簡単には殺せねぇか。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ! ざんねーん! 俺専用のボディーガードのリリスたんにはいくらグラムと言えども傷はつけれませーん! 怒った? ねぇねぇ怒った?」

 

「あぁ、激おこだ。なぁ、リゼヴィム……お前を殺すわ。おいヴァーリ、さっきの言葉は無しだ。コイツは俺に譲れ」

 

「……あぁ、構わない。どうやら俺が殺したい男ではないらしい」

 

「……どういう意味だ?」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ! なーんだバレてんのか~――なら、もう変装を解いても良いですね」

 

 

 目の前に居るリゼヴィムは掌で顔を隠すと黒い霧のようなものを纏い、別の姿へと変わった。

 

 

「やはり、あの方の真似は出来そうにないです。では改めて自己紹介をしましょう」

 

 

 それは――

 

 

「初めまして、ユーグリット・ルキフグスです」

 

 

 ――前に俺がぶっ殺した男だった。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

103話

「初めまして、ユーグリット・ルキフグスです」

 

 

 暗闇で染まっている周囲を輝かせる銀髪の男が俺達の目の前で自らの名前を名乗った。その声、その顔はいくらふざけていようと忘れるわけがない……俺の、いや俺達の逆鱗に触れた馬鹿野郎だからこそ忘れるわけにはいかない。でもおかしい……確か俺の記憶が正しいなら一切の慈悲すら与えず何回もボコっては夜空の回復能力で復活、そして相棒が持つ「苦痛」で徹底的に痛めつけて原型すら残さずぶっ殺したと思うんだがなんで生きてんだ? というよりもなんでリゼちゃんの声を聞いても嫌悪感が無かったのかその理由が今分かったわ! だって偽物なんだからあるわけないですよね! やっぱりスゲェなリゼちゃん……俺にここまで生理的に無理だと思わせるとか悪魔の鏡だわ。流石ルシファー! 今度会ったら褒めてあげようっと。

 

 さてそんなどうでも良いことは置いておいてだ……マジで何で生きてんだコイツ? あーもしかしてリゼちゃんが持って行った聖杯の力かねぇ? あんだけボコボコにしても魂は無事でしたとかちょっと最悪な気がするぞ……! ちっ、これだったらもっと痛めつけて魂の奥底まで俺達の怒りの恐ろしさを教えておけばよかったな。

 

 

「ルキフグス……! お義姉様と同じだなんて……!! いえ、それよりも一つだけ確認するわ――あなたはリゼヴィム・リヴァン・ルシファーに協力するルキフグス家の者なのかしら?」

 

「その問いに対する答えはYESです。こちらはルキフグスの悪魔として生まれました。しかし先ほど名乗ったのに何故確認を……あぁ、そういえばあのお方から現ルシファーに嫁いだルキフグスの者がいると聞かされていましたね。失礼、こう見えても生まれてから一月も経っていませんのでこの世界の情勢には疎いのです」

 

 

 地上で眷属と共に魔法使いと交戦していた先輩が怒りを抑えながら冷静な表情で目の前の男に問いかけると何事も無いかのように答えが返ってきた。そう言えば最強の女王ことグレイフィア様の身内なんだっけか? その辺りは本気でどうでも良いから置いておくとして――今なんて言いやがった? 生まれてから一月も経って無いと言ったよな……? どういうことだ?

 

 その疑問を確かめるように視線を静かに平家に向けると若干あり得ないと言いたそうな表情のまま小さく頷いた。アイツのあの表情、そして頷いたって事はマジで生まれたてのガキってことかよ! 基本的にキチガイで病みやすい性格をしているあの平家がガチで引くってことはかなり特殊な生まれ何だろうな! うん、マジで大丈夫かお前? なんだったら俺の心だけ読んどけよ? それよりもマジでリゼちゃんってば何をしたのか俺様、凄く気になります! あとさぁ……なんで悪魔の癖に龍の気配を感じるんだろうねぇ!!

 

 

「生まれてから一月も経っていない……? 馬鹿にしているのかしら?」

 

「いえ、真実ですよ。あぁ、説明をしなければ分かってもらえなさそうですね? 心を読む覚妖怪がこの場にいると聞いて対峙した瞬間にこちらの存在を知り、既に説明していると思っていました」

 

「はぁ? うちの平家を勝手に説明役なんかにすんじゃねぇよ。確かに言わなくても分かってくれるから俺的には覚妖怪最高! だがテメェの玩具みてぇなことを言うなっての……殺すぞ」

 

「これは失敬。()()と同じ末路にはなりたくありませんのでこちらから説明させてもらいましょう。しかし話をする前に――」

 

 

 パチンと銀髪男が指を鳴らすと地上で逃げ回っていた魔法使い達が一斉に黒い鱗のドラゴンに変異した。理性を失ったように血走った眼で周囲を見渡し、敵と判断したのか犬月達に襲い掛かる……が実力差は歴然ってな。そもそも俺と剣状態のドラゴン大好きすぎて殺したいなチョロインを除けばキマリス眷属最強の四季音姉妹にノワール君依存率ナンバーワンな覚妖怪、基本的に万能で耐性何それ美味しいのな水無瀬、歌って踊って殴りに行く橘、そして鬼の四天王に鍛えられた犬月が相手だから余裕ですね。普通に殴り飛ばしたり首を落とされたりして逆に刈られてます! うわぁ、ヒデェなおい。

 

 周囲がそんな状態のため銀髪男の話を聞くために先輩と一誠、生徒会長と副会長が上空に浮き、他の面々が地上で暴れている邪龍もどきを掃討という流れになった。ところでヴァーリ? お前は何かしないの? なんか腕組んで俺カッコイイなポーズしてるけど少し遊ぶとか何かしないわけ?

 

 

「失礼。予想していましたが魔法使い達があまりにも弱すぎたので補強させてもらいました。流石に下等な人間だと貴方達を相手にするには力が足りませんでした」

 

「いや普通に考えればムリゲーだろ。お前……このメンツを相手に勝てると思ってたならただの馬鹿だぞ?」

 

「あのお方が魔法使い達だけ引き連れて行けば面白くね☆ と言っていましたのでそれに従っただけですよ」

 

「あー余裕で言いそうだわ。なっ、ヴァーリ」

 

「……悪いがヤツに関する話題を俺に振らないで貰いたいな」

 

 

 うわ、地味にキレてんじゃん……気持ちは分かるけど!

 

 

「さて私という存在についてお教えしましょう。あのお方、リゼヴィム様も許可していますのでね。リアス・グレモリー、貴方が気にしていたであろうグレイフィア・ルキフグスとの関係ですが――血の繋がりだけで言うならば姉弟です。もっとも私は会った事も話した事もありませんが」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「先ほども言ったでしょう? こちらは生まれてから一月も経ってはいませんとね。この容姿は先代ユーグリット・ルキフグスとしてのもので間違いありませんが中身というべきものは全くの別人です。何故ならばこちらは()()()()()()()から生まれた存在であり、グレイフィア・ルキフグスの母からは生まれていませんよ」

 

「……全ての母? まさかとは思いますがリリスから生まれたと言っているのであればそれはあり得ません。何故ならリリスは遠い昔に行方が――」

 

「分からないと言いたいのであればご自由に。ソーナ・シトリー、聡明な貴方ならばこちらの言葉が真実であると理解できるはずだ。あぁ、勿論これは貴方達も同じですよ。ノワール・キマリス、ヴァーリ・ルシファー様、兵藤一誠。少なからず察しているのでしょう? こちらから漂っている龍の気をね」

 

『……あぁ、気に食わねぇ匂いがプンプンと匂ってんぜ雑魚ちゃんよぉ!! ゼハハハハハハハハ! 俺様達の逆鱗を前にしてビビった挙句に幼児退行しやがったクソ雑魚が今更何の用だぁ? また殺してほしいんだったら望み通りにしてやるぜ!』

 

「これはこれは影の龍ですか。先代ユーグリットが失礼な事をしまして申し訳ありません。しかしご安心を……何故こちらが生み出されたのかをご説明しますと――先代ユーグリット・ルキフグスの魂があまりにも貴方達、いえ地双龍のお二人に恐怖を抱いていたからです。あのお方曰く、魂の芯まで恐怖を植え付けられ戦う事はおろか地双龍に蹂躙され、何度も殺されては生き返り、そしてまた殺される幻覚を見続けているようです。邪龍達の反乱によって戦力低下を埋めるために冥府の神と交渉したのですが全くの無意味に終わったみたいです」

 

 

 マジかよ。誰だよそんな酷い事をしたのは! きっと最高にイケメンで性格最高! ヤンデレすら許容して腋が大好きな超絶イケメンとこの世界において女神と表現できる超絶美少女にして性格最高! 自由奔放な規格外様なんだろうなぁ! しっかし冥府で俺達をビビってるとか雑魚過ぎるだろ……元はと言えばお前が余計な事をしなかったら殺されなかったってのにさぁ! なんか俺達のせいにされるのって気に入らねぇんだけど! ただあの骸骨神は殺す。リゼちゃんと同じように殺す。絶対に殺す。

 

 先輩達からのマジかって視線をスルーしながら目の前に居る銀髪男を見る。確かに俺の前に居るのはあの時殺した男だ……声も全く同じ。違うとすれば実力ぐらいだろう……なんだコイツ? 夜空にボッコボコにされるってのはまぁ、普通にあり得ることだから良いがそれにしても強くなり過ぎじゃねぇか? 全ての悪魔の母から生まれた……生徒会長と同じく普通に考えるのであればリリスから生まれたって考えるのが自然だ。でも俺も親父からリリスは遠い昔に行方が分からなくなったって聞かされてたんだが実際は違う……あっ、そうだよ。リゼちゃんってルシファーとリリスから生まれてんじゃん! うわぁ、行方ぐらいは知っててもおかしくはねぇよなぁ……!

 

 

「――なるほど。確かにヤツならばリリスの行方を知っていてもおかしくはないか」

 

 

 ヴァーリも気づきやがった。いや当然か……アイツはリゼちゃんと血が繋がってるしなぁ。

 

 

「流石はあのお方の血を引く白龍皇。えぇ、本来であれば隠し続ける事ですが宣言しましょう――我々クリフォトは悪魔の母たるリリスを保有しています! そして母から生まれた()ルキフグスがこちらの正体です。もっとも別の遺伝子も混じっていますがね」

 

 

 銀髪男の手が異形のものへと変わる。赤い鱗をした悪魔ではないもの――ドラゴンの腕だ。ちっ、この龍の気は間違いない……! 一誠と同じ、いやドライグのものだな。あぁ、クソが……アポプス達がリゼちゃんを嫌う理由がなんとなく分かった気がする。確かにこれは従う気が失せるってもんだ。

 

 

「ドラゴンの腕……悪魔であり、ドラゴンだというのですか?」

 

「YES。そちらであれば分かるでしょう――赤い龍、ドライグ」

 

『――あぁ、分かるとも。貴様……! 何故俺と同じ龍の気を発している!! 似ているどころか全く同じともなれば話は別だ! 俺が宿る神器が相棒に宿っている限り、同じ気を放つなどあり得ない!』

 

『そうとも! 私の最大の友、ドライグが宿る赤龍帝の籠手は兵藤一誠が保有している! 何故お前はドライグと同じ鱗を! 龍の気を保有している! リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが私の友を模倣し、お前に与えたというのであれば容赦はしない!』

 

「……悪いが俺もアルビオンと答えは一緒だ。俺の宿敵である兵藤一誠、そしてアルビオンの最大の友、ドライグを真似たのであれば白龍皇としてお前を殺そう」

 

「あっ、俺は気になったけど心底どーでも良いんで続けてどーぞ」

 

 

 一誠がマジで? って顔をされたが宣言通り割とどうでも良いわけが無い! はい、俺も若干だがキレそうです。だって目の前の男から感じるオーラって寸分の狂いもなく一誠と同じなんだぜ? しかも生み出したのがあのリゼちゃんだって言うなら俺達に対する嫌がらせの一つや二つや三つぐらいは仕込んでてもおかしくはない。あの~そろそろ夜空ちゃん来ません? 二天龍と地双龍でボッコボコにするとか歴史的に残る大事件レベルで面白い状況だと思うんだが登場しても良いんだぜ!

 

 

「……流石は最強の白龍皇、その殺気だけでこちらの闘争心に火が付きそうです。ハハハ、しかし模倣ですか……残念ですがそれとは少し違いますね。何故ならこの身は先代ユーグリット・ルキフグスの遺伝子と赤い龍ドライグの肉体の一部、兵藤一誠の肉体から抽出したドライグの魂のデータで構成されていますからそうですね――ドライグの力を宿した悪魔というのでしょうか?」

 

 

 何言ってんだコイツ?

 

 

「……マジで何言ってんだコイツ。普通におかしくなってねぇか?」

 

『ゼハハハハハハハ! 現実逃避とは珍しいじゃねぇの宿主様! だがよぉ、マジだぜ? あの気配、あの鱗、俺様達と殺し合ってたドライグのものと全く同じだ! クソ雑魚ちゃんがドライグの肉体を使っただぁ? ゼハハハハハハハハハハハハハッ!! 殺されてぇか?』

 

『全くおかしなことを……! 我ら二天龍は聖書の神によって封じられた存在! 肉体など……肉体、など……ドライグ、私達の肉体はどうなったか覚えているか?』

 

『三大勢力によって切り刻まれたことは覚えているが聖書の神によって封じられた後は覚えてはいない。あぁ、そうだ! 俺とアルビオンの肉体がどこにあるかなんて今まで考えもしなかった!! 貴様! 俺の肉体に何をした!!!』

 

 

 一誠の籠手から怒りに満ちた声が響き渡る。気持ちは分かる……なんせ相棒もガチギレ寸前だからなぁ! 誇りあるドラゴンとして戦い、聖書の神に封じられたのはまだ許容できるかもしれない……だが自分の肉体を好き勝手に利用されるのは殺したくなるぐらい嫌なはずだ。あぁ、分かってるさ……もし相棒の肉体を利用したって言うなら確実に殺す! 俺のもう一人の父親とも言える相棒を侮辱するような行いは絶対に許さねぇし許す気すらねぇ! とりあえずリゼちゃんは見つけ次第、殺すかぁ。

 

 

「ドライグがここまで怒るってことはアイツの言ってることはマジなのかよ……! 確かにドラゴンっぽい感じはするけどそんなに似てるのか……? 」

 

「……イッセー、少なくとも私にはあの男が発するドラゴンのオーラはイッセーと同等のものよ。何度も龍の気を吸い取っていたんだもの間違いはしないわ!」

 

 

 一誠は分かっていなさそうだがお前を知っている者なら目の前に居る男から感じるドラゴンの力が全く同じものだって理解するはずだぜ。現に地上にいるグレモリー眷属の面々も銀髪男を警戒してるしな。

 

 

「なるほど。討伐後、行方が分からなかったドライグの肉体を利用したか……ヤツならば面白半分で利用するだろうな。さて、覚悟は良いな? 先ほども言ったが俺は白龍皇として、アルビオンの友としてお前を殺さなければならない。赤龍帝は兵藤一誠ただ一人、その力は二人も必要ない」

 

《その通りだ。ヴァーリ・ルシファー、その男の存在は我らドラゴンにとって許されるものではない》

 

 

 怒りを含んだ声が周囲に響いた。俺達とは別の場所に現れたのは司祭服に身を包んだ男――アポプスだ。あっ、久しぶり! 同窓会以来だが元気だった?

 

 

「よぉ、アポプス。久しぶり」

 

《久しぶりですね。クロム、ノワール・キマリス。おや? ユニアは来ていないのですか……キマリス領が襲撃されたと聞いてニーズヘッグは人間達の下へ向かい、ユニアも同じように動いたはずですが?》

 

「はぁ? 夜空は兎も角、ニーズヘッグもか?」

 

《ニーズヘッグは貴方に食料を恵んでもらった恩を返すと言っていましたよ。恐らく今も愚かな人間を食料と認識して捕食しているでしょうね》

 

 

 マジかよ……いや確かに同窓会の時に持って行ったお菓子とか食わせたけど恩返しされるようなものじゃないぞ? でもニーズヘッグ、ありがとよ。もしまた会えるんなら美味い飯屋にでも連れてってやるし特別だ! 水無瀬が作った料理も食わせてやる! てか夜空ちゃん!? マジでどこに居るの!? いい加減出てきても良いんだぞ!!

 

 とか思っていると背中に何かがのっかってくる感触があった、この匂い、鎧で分からないがこの重みは! はい夜空ちゃんですね分かってます! お前が来るのを待ってたぜ! というよりも本当にどこに行ってたのか教えてくれませんかねぇ?

 

 

「もうしっつけぇ~! あっ、ノワールじゃん。やっほー! すっげぇ忙しくて来るの遅れたけど許してねぇ~?」

 

「いや怒る気はねぇけど忙しかった……? キマリス領に現れた魔法使いでも殺してたのか?」

 

「んなことするわけねーじゃん。私がやろうとしてたのは魔法使いがいっぱいいるところに行ってぶっ潰すって事だし! まぁ、あらかたぶっ殺したんだけどね。雑魚が私の……に手を出そうとするとか耐えられねぇもん! でさぁ~聞いてよノワール!! 魔法使いを殺してたらいきなり変な女が現れてさぁ~なんか変なこと言ってきてちょーキモかったんよ! でもユニアが逃げろってマジで言うから今の今まで逃げてたんだけどさ……ムカつくけどね」

 

「は?」

 

 

 夜空が、あの夜空が戦いもせずに逃げを選択した? おいおい……マジかよ! ユニアですら逃げろって断言したほどの女が現れたってのか!? いや待って……じゃあ、キマリス領に現れた変な女って誰だ?

 

 

『えぇ、誠に遺憾ではありますが先ほどまで夜空と私は逃げていたのですよ。まさか影の国から外へ出てくるなどとは思っても居ませんでした……!』

 

『おいおいユニア……その口ぶりだとあのクソババアが現れたって聞こえるぜぇ! マジか、おいおいマジかよ!!』

 

『えぇ、マジです。彼女曰く、優秀なドルイドを捕獲して働かせるという理由のようです……いきなり夜空の前に現れて「お前の師匠として鍛えてやる」とルーンを駆使して捕獲しようとして来ました。あぁ、今思い出しても屈辱です……!!』

 

『あんのババア!! とうとうボケやがったか!! 師匠だぁ!! あぁ、クソがぁぁぁ!!!! テメェの脳内では俺様達も弟子って認識かぁ!! 魔術書の件と言い今回の件と言い!! 殺したくなってくる!!』

 

『なんだと……! スカアハが動いたというのか! 冗談はよせユニア! あの女は影の国から外に出る事をかたくなに拒んでいただろう! いや、そもそも現世に興味を示すはずがない!!』

 

『しかしユニアの口ぶりからするとドライグ、事実かもしれん……ヴァーリ、興味を持ったところ悪いがスカアハには関わるな。あれは相手にするだけ無駄だ……下手をするとクロムやユニアよりも頭のネジが狂っている女だからな』

 

 

 天龍と双龍である相棒達ですらこの反応って……マジでどんな女なんだよ? まさかキマリス領に現れた変な女ってスカアハじゃねぇだろうな……? おいおい冗談じゃねぇぞ! なんで影の国の女王様がアポなしで遊びに来てんだよ! いや違うな……夜空の所に現れたんだったらキマリス領に居るわけがない。マジで誰だ……?

 

 

《なるほど。クロウが動かなかった理由も分かりました……確かにあの女王は話が通じませんからね。さて新ユーグリット・ルキフグス、貴方の存在は我らドラゴンに対する侮辱に等しい。リゼヴィム王子に伝えてください――我ら邪龍は黙示録の獣(トラキヘイサ)を討つとね》

 

 

 アポプスの言葉に一番反応したのは先輩の眷属であるヴァルキリーちゃんだ。トラキヘイサ……? おいおいお前らはいったい何しようってんだ? ということで夜空! 説明よろしく! 平家に聞けばアポプスの心を読んで説明してくれるだろうがなんか大量に人が現れてる影響で若干体調悪そうだし休ませて置かねぇとな。あとなんだかんだでお前……アポプス達と連絡とり合ってるだろ? だから除け者にしないで俺にも教えてくださいお願いします! 影の国の女王も気になると言えば気になるがな!

 

 

「……なぁ、夜空」

 

「ん? なにさ?」

 

「スカアハ云々はどうでも良いとしてトラキヘイサってなんだ?」

 

「ん~アポプス達が言うにはグレートレッドの対存在らしいよぉ? ほらえーと黙示録って奴ぅ? それに出てくる獣だってさ。そうそう聞いてよノワール!! アイツら馬鹿なんだよ! アポプスもアジ・ダハーカもグレンデルもラードゥンもその獣と殺し合ってみたいからって理由で裏切ったんだよ? 凄くない! 最強の獣だよ! トンでも無いぐらい強いんだってさ! まぁ、興味ねーけど」

 

《馬鹿とは心外ですね。ドラゴンならば抱いて当然の欲望ですよ……グレートレッドと並ぶ獣の頂点、我ら邪龍がどこまで戦えるかを確かめてみたいのです! 既に我らは滅んだ身、戦いの果てに敗れ世界が終わりを迎えたとしても私達には関係ありません。新ユーグリット・ルキフグス、貴方達クリフォトがトラキヘイサを使役し、異世界へ進出するのならば我ら邪龍はトラキヘイサとの戦いを目標としています。アジ・ダハーカ、グレンデル、ラードゥン、八岐大蛇も同意しています》

 

 

 もっともクロウはドラゴンの行く末が見てみたい、ニーズヘッグは世界中の美味しいものが食べたいという欲を優先するみたいですがとアポプスは付け加えるように言ったが……ニーズヘッグ、お前なんか可愛いな。他の奴らが最強の獣と戦いたいとか言ってるのに美味しいもの食べたいとか……もしかして同窓会の時に食ったお菓子が原因か? おいおい、もしそうなら今までどんなもの食ってたんだよ? 仕方ねぇなぁもう! 後でお菓子類大量に持って会いに行くから思う存分食いやがれ!

 

 ニーズヘッグへの好感度が一気に上昇しながらアポプスが言った黙示録の獣について考えてみる。最強の獣……グレートレッドの対存在ねぇ。確かに黙示録って奴には獣の存在が描かれているとか獣の数字がどうたらってのはホラー番組なんかで何度も話題になるから存在はするんだろう。でももしそうなら今の今まで全く話題にすら上がらなかったのはなんでだ……? グレートレッドと渡り合えるほどの存在ならオーフィスと同じように世界中から危険視されてもおかしくは無いんだが……まさか誰も知らなかった? いやだったら黙示録に描かれることはしないはずだ。知っていた奴が居たがあえて周りに教えなかった……ってことは考えられるか。ただ問題はなんで隠そうとしたかだな。いや、これに関してはどうでも良いか。だって俺には関係無いし。

 

 あとすっごくどうでも良いんだが八岐大蛇さん、復活したんですか? えぇ……まさか冗談半分で言った別れた魂を一つにしようぜって奴をマジでやったわけ? おいおいなんでそんな面白いことを黙ってやるんだよ! 呼べよ! 俺だって見てみたかったわ!!

 

 

《この場に現れた理由はクリフォト、及びD×Dに対して宣言をするためです。そしてこの場を借りてクロム、ユニア、ヴリトラ。貴方達に問いかけます――私達に協力してもらえますか?》

 

 

 アポプスの問いにその場にいた全員が俺達の方を向いた。元士郎に関しては地上で戦ってたため攻撃の手をやめることになったがな……まぁ、安心しろ。俺は、俺達は変わらねぇからさ。

 

 

「夜空、一緒に言おうぜ」

 

「ん? べっつに良いけどぉ~せーの!」

 

「協力するわけねぇーだろ」

「協力するわけね―じゃん」

 

 俺と夜空の言葉が重なる。だよな……その言葉しかねぇよな!!

 

 

「アポプス、お前なんか勘違いしてるぞ? 俺はな――夜空と殺し合って、夜空とどうでも良い事を話して、イチャイチャしたいだけなんだよ。最強の獣と戦う? 異世界? ゼハハハハハハハ! 馬鹿じゃねぇの」

 

「そんなのに興味持つわけねーじゃん。まぁ、面白いってのは分かるけどそんな事をするよりノワールと殺し合って、くだらねぇ事を話して、残った人生全部使ってノワールと一緒に居たいだけだし。あはははははははは! ばーかばーか! やりたいなら勝手にすれば? でも先に言っておくけど――私達の邪魔をするなら殺すよ」

 

「俺も同意見だ。アポプス、最強の獣と殺し合うのも異世界行くのもお前達の自由だ。そんなの俺が止める理由にはならねぇ……が! 戦いの果てに世界が滅んでも構わないねぇ? ふざけんな。俺達の楽しみを邪魔する気か? そのセリフは現在(いま)を楽しんでいる俺達に喧嘩を売るって事で良いんだよな」

 

「正直さ、世界を滅ぼすんならノワールと一緒に滅ぼしたいんだよね。私も現在(いま)が楽しい! すっげぇ楽しい! だからそれを邪魔すんなら絶対に殺す」

 

 

 あぁ、そうだ。俺達は何も多くは望まない。覇王になるだとか最上級悪魔になるだとか本当にどうでも良いんだよ……ただ俺は夜空と一緒に現在を楽しみたいだけだ。何でもない日常を、クソつまらない平和を、最高に楽しい殺し合いを、親父達のように仲良く夫婦生活を送りたいだけなんだ……! 毎回毎回それを邪魔しようとしてくる奴らは何なんだよ!! ムカつくんだよ本当にな!

 

 

《なるほど。ではヴリトラ、貴方はどうですか?》

 

「『……嫌だね。悪いけど協力なんてするわけないだろ! お前達に協力したら……このD×D学園で未来に向かって進もうとしている子供達まで消えちまうかもしれない! アポプス……俺は、先生になりたいんだよ。名誉も地位もいらない! ただ、子供達が誇れる先生になりたいだけだ! くだらないなんて言わせねぇ! これは俺の……邪龍としての欲望だ!! 違う言葉でもお前と同じ欲望なんだよ!! それに……会長の夢はまだ始まったばっかりだ。これからも俺は会長の近くで手助けしたいんだよ! それを邪魔するなら――殺すぞ!!!』」

 

 

 纏う鎧から放出された邪炎は周囲の邪龍もどきを一瞬で灰にする。やっぱり最高だな元士郎……! 誰にも文句を言わせない、誰にも邪魔はさせないという強い欲望(おもい)が俺の心にまで響いてくるぜ! それで良いんだよ……! 邪龍なんだ、好き勝手に自分の欲望に忠実で何が悪い! アポプス達の欲望も否定はしない。だけど俺達の邪魔をするなら殺す! 我儘と言われようと、狂っていると言われようと関係ない……! これが俺達なんだからな!

 

 

《そう言うと思っていました。残念です……が同じ邪龍です、自らが抱いた欲望が優先されるのは当然の事。文句は言いません。では今回は此処で失礼します……あとはご自由に、八岐大蛇》

 

 

 アポプスがその名を呼ぶと地上に魔法陣が展開し、紫色の炎が周囲に広がった。燃え滾る業火の中心にいるのは剣を携えた黒髪の男で胸の中心には十字架の形をした炎が灯っている……ゼハハハハハハ! なるほどな! あれが八岐大蛇か! 中々の殺気じゃねぇの! この世の全てを恨んでいるかのような極悪な感じが俺の心にまで響いてきやがる……! アポプスはその男が登場すると同時にこの場から消え去ったが銀髪男は紫炎の炎を放つ男の登場に動じることなく、まるで観察するように距離を取った。流石に警戒ぐらいはするよな……しかも傍に居るリリスを自分の目の前に立たせるほどの警戒っぷりときたもんな。別にダッサとかは言わねぇし、俺も同じ立場だったら同じようにするだろう。

 

 そんな事は置いておいて同窓会で聞いた話だと神滅具の一つ、紫炎祭主による磔台と聖剣だったか何かに八岐大蛇の魂が分けられて復活してたんだっけか? 恐らくそれを一つに統合した結果があの男なんだろうが……なんかヤバい気がする。あの炎を浴びている邪龍もどきがもがき苦しみながら死んでいるところを見るとただの聖なる炎って感じじゃなさそうだ。下手をすると掠っただけでも死に直結するかもしれねぇ……平家、聞こえてるな。

 

 

「うん。皆、あの炎を浴びたら普通に死ぬから気を付けてね。悪魔に大ダメージな聖なる炎に猛毒が付加されてる……ノワールなら苦しみながらも再生して戦えるかもしれないけど私達だったら数分も持たないかも」

 

「……マジデ? 王様レベルじゃないとまともに戦えねぇとかなんなんだよこい、コイツゥ!? あっぶねぇ! 掠るところだった!!」

 

「『犬月! 会長! 皆! 俺の後ろに下がれ! 炎が相手なら俺だったら問題ねぇ!!』」

 

 

 元士郎が叫ぶと全員後退し始める。漆黒の邪炎を男目掛けて放つと応戦するように紫炎の炎を放出し、互いの炎がぶつかり合った。これ、冬だったら暖かいなぁで済むけど夏とかだったら地獄だよな……サウナ以上に熱いし。いやそもそもどっちも触れただけで死に直結する炎だから近づくなって感じだけどさ!

 

 

「ヴリトラの炎か……邪魔をしないで貰えないか?」

 

「『ふざけんな! 手当たり次第に炎を広げてる奴がそんな事を言うんじゃねぇよ!』」

 

「周りに虫が飛んでいたから消していただけさ。それと僕の目的は紫藤イリナって女の子を殺すだけだ。それ以外の存在には興味はないよ」

 

「……なんだと!」

 

 

 一誠が一瞬で転生天使ちゃんの近くへ移動して護るように戦闘態勢へと入る。なるほど……殺気だけでどれだけ殺したいかは良く分かる。いったい何をすればここまで恨まれるのかねぇ? もしかして清純そうに見えて実際は極悪だったりする? うわぁ、堕天使化待ったなしですね! まぁ、冗談だが……だって殺すと宣言された本人は何が何だか分からないって感じで戸惑ってるし。

 

 

「あ、あの! も、もしかしてどこかで、会ってたりしますか……?」

 

「……そうだね、キミが小さい時に会った事はあるかな。もっとも僕の顔なんて覚えてはいないだろうけどね。いや良いんだ。キミはここで殺されてくれればそれで十分だ」

 

「悪いがそれはさせねぇよ! イリナに何の恨みがあるか知らないけど俺の幼馴染をはいそうですかって殺させるわけねぇだろ!!」

 

「イッセー君……」

 

「恨みなんて無いさ。その子には何も恨みなんて無い……ただ殺したいだけさ。その子を殺して局長が絶望する姿を見たいだけだ。邪魔をするならキミも死んでもらおう」

 

「上等だ! どっからでも――」

 

 

 やる気十分な一誠を止めたのは元士郎だ。まぁ、デスヨネ。だって見た感じあの男が相手だと一誠じゃ相性が悪い。相棒から聞いたが八岐大蛇には魂を汚染する毒を持ってるらしいから近づいてきたところをはいバーンって感じで燃やして殺す事も可能だろう。だから元士郎の判断は正しい、あれは俺か元士郎のようなタイプが戦うべきだしね。

 

 

「匙! なんで止めるんだよ!!」

 

「『少し頭を冷やせって。さっき炎をぶつけてみて分かった……兵藤、お前だと相性が悪い。多分だけど俺か黒井のようなテクニックタイプじゃないとまともに戦えねぇよ』」

 

「っ!」

 

「『だからさ、アイツは俺に任せてくれ。紫藤は同じD×Dの仲間だ、殺させたりなんてするもんか! だから兵藤……お前はさっきから俺達を見下ろしてるユーグリットって奴を頼む! ヴリトラが教えてくれてるんだ……アイツは俺達ドラゴンの生き様を侮辱してるってな!』」

 

「……悪い、匙!!」

 

 

 ドラゴンの翼を広げた一誠は上空で佇んでいる銀髪男と向かい合うとなんとヴァーリも同じように並び始めた。え? まさかまさかの二天龍共闘ですか? うわぁ、ちょっとワクワクしてきた! よっしゃ! 乗るしかねぇなこの流れに!!

 

 

「なぁ、夜空」

 

「ん~どったん?」

 

「なんか一誠とヴァーリが共闘するっぽいぜ?」

 

「っぽいねぇ。なになに! やっちゃう?」

 

「ゼハハハハハハハハ! やるしかねぇだろ!!」

 

 

 影の翼を広げ、夜空と共に一誠とヴァーリの隣に並ぶ。手を貸してくれるのかって感じで見つめてくるけど勘違いするな……俺達の敵は銀髪男なんかじゃねぇよ! ソイツはお前達が殺すべき相手だ、俺達じゃない……だからさ! お膳立てっぽい事をしてやるよ!

 

 

「一誠、ヴァーリ。その銀髪男はくれてやる。だがリリス……オーフィスのそっくりちゃんは貰うぜ。どんだけ強いのか確かめてぇからな!!」

 

「うんうん! やっぱさぁ~最強だって言うなら倒してみたいじゃん! にへへ~共闘共闘! 曹操のせいでオーフィスが最強じゃなくなったから代わりって奴ぅ? でも面白そうじゃん! 二天龍と地双龍が同じ場所で共闘とかさ!」

 

「リリスとたたかう? リリスはつよいってリゼヴィムがいってた。だからかてない」

 

「ゼハハハハハハ! そんなのやってみねぇと分からねぇだろうが!! 平家、レイチェル! 悪いが今からこの偽龍神様と殺し合うからお前らの指揮をしてる暇はねぇ! まぁ、あれだ……いつも通りって奴な! 精々巻き込まれないように犬月達を頼むぜ!」

 

 

 地上から元気な声で返事をしたレイチェルと静かな声で返事をした平家の言葉が聞こえる。やっぱり良い女達だと思いながら手に持っていたグラムを適当な場所に放り投げると抗議の声とも言える呪いが飛んできた。だって邪魔だし……お前は黙ってその辺に居る邪龍もどきを相手にしてなさい! それから犬月! お前もうわぁって感じで見るな! 戦ってろ! 四季音姉妹に水無瀬に橘もだ! 精々死なないように戦ってろ!

 

 目の前でシュッシュと拳を突き出しているリリスを見た瞬間、ヤダちょっとかわいいと思ってしまったがそれはそれ、これはこれだ! 恐らく癒しを求めてるんだろうな! うん! きっとそうだ!

 

 とまぁ、くっだらない事を思っているといきなり上空にに巨大な魔法陣が展開されて何かが落ちてきた。黒い鱗に巨人のような体……どう見てもグレンデルですありがとうございました! おいおい……何しに来やがった?

 

 

『グハハハハハハハハ! 俺様の登場だ! おいおいテメェら!! なにクソ楽しそうなことしてんだぁ!! 混ぜろや! テメェらだけ楽しそうなことしてんじゃねぇぞぶっ殺すぞ!!』

 

「よぉ、グレンデル。いや楽しそうって言われても返答に困るんだが……てか見てたのかよ?」

 

『おうよ! 八岐大蛇が呼ばれたって聞いてよぉ、アジ・ダハーカの術でさっきから観戦してたってわけだ! もうじきラードゥンも来るぜ? てなわけで俺様も混ざるぜ! グハハハハハハハハハハ! サイラオーグ・バアルってのはどいつだ!!』

 

「……俺だ」

 

 

 威風堂々とした態度で巨大な姿であるグレンデル相手に臆せず前に出たのはサイラオーグだ。やべぇ、カッコイイ!

 

 

『テメェか!! 拳がスゲェってバアルってのは! じゃぁ、殺ろうぜ? 楽しい殺し合いをよぉ!!』

 

「――了解した。目の前の邪龍は俺をご指名らしい。俺の拳を味わってみたいというのであれば加減はしない! 覚悟しろグレンデル!!」

 

『グハハハハハハハハ!! 良い殺気だ! 楽しめそうじゃねぇの!!!』

 

「……グレンデルさん。あまり近くに居ると燃やしますよ? しかし僕はただ紫藤イリナを殺したいだけなんだが……仕方ない。ヴリトラが相手ともなれば油断できそうにない」

 

「『こっちも油断なんかするかよ! 悪いけど俺に燃やされるか帰ってくれるまで止める気はねぇからな!』」

 

「ヴァーリ。悪いが手を貸してくれ!」

 

「構わない。アルビオンもそれを望んでいるからね……それに俺の宿敵は兵藤一誠、キミだ。ドライグの力を持つ者はキミ以外に存在してはならない」

 

「二天龍が共闘、中々の光景です。先代ユーグリットも心を熱くしたでしょう。では、こちらの力を思う存分見せて差し上げよう!」

 

「右見ても左見ても殺し合いとか豪華すぎねぇかおい……まぁ、良いか! ゼハハハハハ! ドラゴン達によるちょっとしたパーティーって思えば良いか! 夜空、楽しめそうか?」

 

「とーぜん! 滅茶苦茶ワクワクするぅ!! つーわけで足引っ張んないでね?」

 

 

  グレンデルと対峙するのはサイラーグ、八岐大蛇と対峙するのは元士郎、銀髪男と対峙するのは一誠とヴァーリ、そして俺と夜空はオーフィスのそっくりちゃんことリリス……自分で言っておいてなんだが滅茶苦茶面白いじゃねぇの!

 

 こうしてドラゴン達による楽しい宴が始まった。




これが私の、いえドライグの力ですよ――全ての悪魔の母より生まれた者、ユーグリット・ルキフグス。

新ルキフグスとして生まれた悪魔は赤い翼を広げ、戦場を舞う。

アルビオン、力を貸してくれ――「赤い龍」ドライグ
構わないさドライグ、お前の友として当然の事だ――「白い龍」アルビオン
俺だって弱いままじゃねぇんだ! だって俺は……皆を護るおっぱいドラゴンだからな!――「赤龍帝」兵藤一誠
お前の存在はドラゴンに対する侮辱だ。だからこそ俺達の手で消えるが良い――「白龍皇」ヴァーリ・ルシファー

最弱だった者と最強である者が手を組み、ドラゴンを侮辱する愚か者へ戦いを挑む。

リリスはつよい、ぜんぜんきかない――無限の力より生まれた少女リリス

お菓子を食べながらも絶対的な力を放ち続ける。

とりあえず全裸にして腋チェックだな――「影龍王」ノワール・キマリス
まーた変態なこと言ってるし。とりあえず死ねよ――「光龍妃」片霧夜空

相思相愛な邪龍夫婦?は普段通りに楽しく殺し合う。

おうおうどうしたぁ!! その程度かよぉ獅子王の拳ってのは!!――「大罪の暴龍」グレンデル
この拳、その鱗を砕いて見せよう! グレンデル殿……今より俺は暴力を纏う!!――「獅子王」サイラオーグ・バアル

拳と拳、男同士による遠慮無しの殴り合いは激しさを増す。

邪魔をするな! 僕は、必ず復讐を果たさなければならない! その果てに破滅が待っていたとしてもだ!!――「霊妙を喰らう狂龍」八岐大蛇
お前の復讐ってのには興味なんかねぇ! でもな……俺のダチに言ったんだよ! 任せろって! だったら引くわけにはいかねぇんだ!――「黒邪の龍王」匙元士郎

復讐と憎悪の聖なる炎と愛する者の夢を叶えたい邪悪な炎がぶつかり合う。

※新年一発目の嘘予告ですので変更される恐れがあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

104話

サイラオーグVSグレンデル戦。
イメージを文章にするのはやっぱり難しいですね。


『さぁさぁ! 始めようかサイラオーグバアルゥッ!! 拳が得意なんだろ? だったら俺とは楽しく殺し合えると思うぜ! なんせ俺様の武器は拳だからな!!』

 

 

 俺の目の前には巨大な肉体を持つ怪物が居る。黒い鱗、銀色の双眸、その肉体は人間や悪魔の身長を優に超えており同等の大きさを誇る爪と牙の一撃は受けずとも致命傷レベルになると判断できる。しかしキマリス領にて影龍王殿や光龍妃殿と戦っているとは報告で聞いてはいたが……ここまでとはな! 立ち姿はドラゴンというよりも巨人と表現出来るものだが俺の目の前に居るのはまさしくドラゴンだ。影龍王殿、兵藤一誠と拳を交えた俺だからこそ相対した瞬間に理解してしまう――この者は強いと!

 

 傍らにはレグルスが控え、残った者達は周囲に出現した魔法使いがドラゴンへと突如変異したためにそちらを応戦している。俺と目の前に居るドラゴン、グレンデルが戦おうとしている場所以外でもD×D最強を誇る者達がそれぞれの覚悟を持って邪龍や悪魔と対峙……ハハ、なんという状況だ! どこか一つでも敗北するならば後ろにいる者達が危うくなるどころか俺達の戦いに巻き込まれる恐れがある! しかし……そんな状況下であってもお前達は後ろで戦い、俺達が目の前の敵との戦いに集中できるようにしてくれるのだな。感謝する……お前達の覚悟は受け取った! バアル眷属の(キング)、サイラオーグ・バアル! この身、この拳を持って全力で戦いへと向かわせてもらう!

 

 

「なるほど。見た目通り、ということか。ならば相手にとって不足は無い! 俺はバアルの滅びを受け継いでいない身だ。誇れるものと言えば鍛え上げたこの拳のみ! それをご所望というのであれば全力で行かせてもらおう!」

 

『グハハハハハハハハハハハ!! 良いねぇ! 良いぜおい!! なんだよなんだよ……クソ雑魚なベオウルフよりも楽しめそうじゃねぇか! その目、その拳!! 俺様好みだ!! そんじゃあよぉ!!』

 

 

 周囲に響き渡るほどの声量で高らかに叫んだグレンデルの肉体が深緑のオーラに包まれる。何をするつもりだと警戒した俺の目に前には――男が立っていた。2mを超えているで身長に深緑色が混じった髪をオールバックにし、力自慢だと主張するような肉体を持っている。ふむ、人間界で放送されている映画の中に今のグレンデルのような姿の者も居ると聞く、確か不良……だったか? 凶児ゼファードルとは違う印象だ。なるほど……ドラゴンの中には人型になれる者も居るとは聞いてはいたがこうして目にするのは初めてかもしれん。しかし何故だ……何故、人型になった? 俺との対格差は歴然、拳の大きさすら違い過ぎるほどだった。仮にだ、仮に先ほどまでの姿で戦うとなれば巨人故の力と拳の大きさによって俺が不利になったはずだ。だというのに何故人型へと変化したのだ……?

 

 

「――こっちで殺り合おうやぁ!!」

 

 

 男の声は先ほどまで聞こえていたグレンデルのもの。しかし向かい合っているだけで分かる……! 人型になったからと言って弱くなったわけではない! むしろ――

 

 

「――失礼を承知で尋ねよう。グレンデル、その姿は俺を敵として認めてくれたからか?」

 

「あったりまえだろうが!! おいおい脳みそまで筋肉で出来てんじゃねぇのか? 俺の武器は拳、テメェも拳! だというのにあんなデカイ図体で殴り合うなんざバカのする事だ! 殴り合いってのはなぁ……遠慮なんざ捨て去ってひたすら拳を叩き込むもんだ!! グハハハハハハハハハハ!! まぁ、疑う気持ちは分かるがよぉ」

 

 

 グレンデルは頬をかき、呆れた表情をする。見ただけであれば隙だらけに見えるが残念な事に隙なんてものは見当たらない。チャンスと思い前へ出れば瞬時に反応され、沈められるだろう。レグルスも理解しているからこそ冷静にグレンデルを見つめ、何時でも対応できるように警戒している。

 

 

「なんせ俺は邪龍だからな。それもとびっきり頭のおかしいドラゴンよ! ムカつくから殺して、気に入らねぇから殺して、楽しんでいると思わせてやっぱり飽きたから殺してってのを普通にやってきた。おう、だから気になったんだろ? 自分を弱者だって思ったのかってな! グハハハハハハハ! んなわけねぇだろうが!! 逆だ逆! テメェを前にした俺はこの姿で殴り合いたくなった! スゲェぜ、スゲェスゲェ!! こんな気分になるのはクロムやユニアだけかと思ったら違うじゃねぇか! つえぇな、お前!」

 

「……そうか。疑った事、謝罪しよう。しかしグレンデル、お前は俺を強いと言ったが残念だがまだ弱い。D×Dには俺よりもはるか高みに居る者達が何人もいるからこそ俺はまだ弱いのだ! だからこそ自らの口で強いとは言わぬ。だがもしも……貴殿ほどの強者と戦い、生き延びたなら俺は今よりも強くなれるだろう!」

 

「グハハハハハハハハッ!! 良いねぇ、良いぜおい!! 最高だ!! んじゃ、殺るか!!」

 

「了解した。レグルス!!!」

 

『はい!! この身、この力の全てはサイラオーグ様と共にあります!』

 

「良い返事だ!! では行くぞ!! 我が獅子よ! ネメアの王よ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 滅びを持たず、拳だけの男を強者と認識してくれたグレンデル殿と戦うべく、呪文(うた)を叫ぶ。今この時より死合を始めさせてもらう!

 

 

「禁手化ゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」

『禁手化!!!!』

 

 

 我が半身とも言える存在、レグルスが鎧となり俺の身体を覆う。既に枷は外している……禁手化による衝撃で周囲がかるく吹き飛んでしまったが背後で戦っている者達は気にもしていないらしい。なんという頼もしさだ! まさかとは思うがこのような状況が日常茶飯事だとでも言うのか? そんな事を思いたくなるほど慣れている反応をしている様に見える! 負けてはいられんな!

 

 

「それがテメェの鎧か? 最高にカッコいいじゃねぇか!! なるほどだから獅子王ってか! その闘気、見掛け倒しってわけじゃねぇよなぁ?」

 

「当然だ。この身を苛め抜いた末に会得したもの……その威力は殴り合いの中で確かめるが良い」

 

「そうさせてもらうぜ!! さてと……喧嘩の前に名乗りといこうじゃねぇか!! 俺様の名はグレンデル!!さぁ――」

 

「サイラオーグ・バアル! レグルス!! いざ――」

 

「行くぜぇぇぇ!!!」

 

「参る!!!」

 

 

 

 俺達は同時に前に出る。速度は互角、構えすら同じ。分かっている……殴り合いと称したのであればこれが望みだろう!!

 

 拳を強く握り、闘志を纏わせた一撃を放つ。それは目の前に居る男も同じだった……拳と拳、互いの一撃がぶつかり合うと衝撃によって周囲が吹き飛ぶがそれ以上に俺は驚いた。グレンデル殿が放った一撃によってわずかであるが俺が後ろに押されてしまった……そして拳から感じるこの感触! なんという硬度だ……影龍王殿に匹敵する防御力! ハハハ……なんという、なんという運命! まさかこれほどの防御力を持った相手と二度戦えるとは思っても居なかった! 一撃を放った拳が微かに痺れるとは……まだまだ未熟というべきか。

 

 

「なんという……なんという硬さか!」

 

「おうよ!! 俺の鱗は邪龍の中でも最高の硬度を誇ってるのさ!! まっ、クロムのアホの影より上だが障壁込のラードゥンには負けるがよ。ありゃかてぇ、硬すぎんだよ! グハハハハハハ!!! サイラオーグつったか? 良い拳だ、最高に心に響いたぜ! だがまだ弱いんだよ!!」

 

「あぁ、まだ弱い!! だからと言って引かぬぞグレンデル!!!」

 

「そうしてもらわねぇと困るんだよ!!」

 

 

 ぶつけていた拳を同時に引き、今度は胴体に一撃を叩き込む。グレンデルの拳は獅子の鎧を優に砕くも俺の拳は皮膚、いや龍の鱗すら砕くことは出来なかった。人型だからといって皮膚はドラゴンと同じものか……この防御力は驚異的だろう。仮に俺以外のD×Dメンバーが戦うならば兵藤一誠や影龍王殿レベルでなければ傷一つすら付けられず、戦いにすらならないか。あの面々以外だとリアスの滅びならばダメージを与えれるかもしれんが決定打になるかと言われたら――無理だ。今の攻防で理解した! 鈍足かと思いきや俺と同等の速度の上に強固な鱗を武器として使うグレンデルならば後衛にいるリアスの下へ一瞬で向かい、沈めるだろう。

 

 グレンデルの拳を受け、足に衝撃が走る。倒れろと、楽になるぞと言っているようだ……残念だが無理だ! 簡単には沈まんぞ!

 

 

「まだだ! まだ足りねぇぞ!! おうおうどうしたぁ!! その程度かよぉ獅子王の拳ってのは!!」

 

「いや、この程度なわけがないだろう!!!」

 

 

 震える足に力を入れ、グレンデルの胴体に二撃目を叩き込む。俺の意地、俺の覚悟、俺の誇り、目の前に居る強者との戦いに応えるように全力の拳をぶつける。その甲斐あってか先ほどは傷すらつけれなかった鱗を砕き、数センチほど後退させることが出来た。俺の拳は……あの程度で終わらんぞグレンデル!!

 

 

「ふぅ、グレンデル殿。今ので沈んだりはしないだろうな?」

 

「……沈むわけねぇだろうがぁ!! なんだよなんだよ!! やればできるじゃねぇか!! 誇れよ、テメェは現ルシファーのパシリになったベオウルフより上だぜ!」

 

「光栄だ。自慢では無いが影龍王殿の防御を突破するべく鍛え続けたからな」

 

 

 これは嘘ではない。影龍王殿とのゲームで思い知った……俺の拳が通じぬほどの防御力と挫けぬ精神力を持つ者と対峙すれば戦いにすらならないとな。だからこそ鍛えた、鍛え続けた。何物も砕けるように、貫けるように、この拳が母上の誇りになってもらえるように地獄のような修行を続けたのだ。もっともD×Dメンバーを見ていたらあの程度、地獄とは呼べんがな。今の俺の目標は影龍王殿の圧倒的なまでの防御力を砕くこと! おれほどの防御を突破できたなら俺の拳は――さらなる高みに至れるはずだ!

 

 

「まぁ、俺ほどじゃねぇがクロムの宿主はかてぇしな。だったらよぉ、こんなもんで終わらねぇよなぁ?」

 

「当然だ。今の一撃が最後では無いぞ! 次は骨を砕かせてもらおう!」

 

「やってみやがれ!!!」

 

 

 足腰に力を入れ、グレンデルへと走る。纏う闘気などにより周囲がまた吹き飛んでいくがもはや気にせん! この程度の状況など影龍王殿達にとっては普通だろう……現時点で俺以外の面々が派手に戦っているから周囲の至る所が影や光、砲撃や炎で包まれている。こんな状況下でもなお邪龍に変異した者達と戦っている者達の覚悟は頼もしいと言えるだろう! 微かに聞こえてくる声は楽しんでいるようだな……むぅ、さらに負けてはいられんな!

 

 高速で移動したはずが既にグレンデルは拳を放つ体勢に入っていた。やはりまだ遅いか……それとも反応速度が桁違いなだけか? いや……俺が遅いのだろう。まだまだだな、今以上の速度でなければドラゴンを相手にするのは難しいか! 俺とグレンデルは先ほどと同じように同時に拳を放つ。その衝撃によって俺が纏う鎧の籠手にヒビが入り、グレンデルの拳の皮膚からは血が流れる。パワーが自慢の俺ですら痺れるほどの威力に負けず、二撃、三撃と拳を放つ。影龍王殿と行ったラッシュの速さ比べというべき行為を何度も、何度も、何度も行う。籠手が砕け生身の拳が露出する……構わん。衝撃によって押し負けそうになる……ならば押し返す。引かぬ、引かぬ! 俺よりも強者が居ることは知っている!! いまさらその事実に直面したからと言って怯む俺ではない!!

 

 特異な能力も無く、俺もグレンデルは近距離で殴り合いを続ける。腕が痺れる……骨が軋む……体中が悲鳴を上げている……だというのに俺は笑っていた。世界には俺よりもはるかに強い者達が居る。現在(いま)を生きている者達、過去に生きていた者達、どれほどの鍛錬や地獄を見たのかは分からん……だが言えるのは俺はバアルに生まれて良かったという事だ!!

 

 

「テメェみたいな奴が居るとはな! なんだよ、もうちっと早く生まれて来いや!! そのせいで一回滅んじまっただろうがよぉ!!!」

 

「それは、すまぬ!」

 

「おう! だからこれでも喰らっとけ!!!」

 

 

 俺が放った拳をなんとグレンデルは拳ではなく胴体で受け止める。加減などしていないため鱗を砕き、衝撃によって息が口から洩れたが男の表情は笑っていた。知っている……知っているとも! 自らが傷つこうと関係無いのだろう!

 

 胴体で拳を受け止めたグレンデルは笑みと共に突き出された俺の腕を掴み、強靭な腕を振るい俺の胴体へ拳を叩き込んでくる。鎧の破損を修復することすら惜しかったため生身の部分が露出している箇所にドラゴンの拳だ……意識が飛びかけるほどの衝撃と何かが折れるような音が耳に響いた。口から血を吐きながらも足に力を入れ、倒れるどころか空いている腕でグレンデルの胴体に拳を叩き込む……この程度で倒れるなら俺は影龍王殿と、兵藤一誠と殴り合うなど出来ん!!

 

 

『サイラ、オーグ様!!』

 

「気にするなレグルス!! 俺は倒れん! 自分の意思を保つことのみ考えろ!!」

 

「怯むどころか一撃叩き込んでくるとはな! さいっこうに熱いじゃねぇの!!」

 

 

 掴んでいた腕を離し、頭部に拳が叩き込まれたことで俺は勢いよく背後へと吹き飛ばされた……なんという威力だ……先ほどから連続で意識が飛びかける! がはっ……! レグルスのダメージも見た通り、激しいか……! クソ! 今この時だけ俺が純血悪魔であることを恨むしかない!! もし我が身に人間の血が流れているならばここまでレグルスを傷つけることも無かっただろう!! それどころかこのたった僅かな攻防で俺は重症を負い、グレンデルに僅かなダメージしか与えられんとはな……!

 

 

 ――悔しいか。

 

 

 その時、声がした。俺の声でもない、レグルスの声でもない、眷属達の声でもない誰かの声だ。

 

 

 ――悔しいか。己よりも強く、纏う力を存分に操る者達が憎いか。

 

 

 これは……男の声か。若くはない、声の印象から年老いた者だろう。その者が俺に語り掛けてくる……なんだこれは? 意識が朦朧としている影響で幻聴でも聞こえ始めたとでもいうのか!

 

 

 ――聞こえているのだろう? 幻聴などではない。私は獅子王の戦斧の所有者だった男だ。

 

 

 なんと……過去にレグルスを、獅子王の戦斧を使っていた方でしたか! 失礼した……俺はサイラオーグ・バアル、現在レグルスと共に居る男です。しかし何故……? 私は貴方のようにレグルスを宿してはいません。貴方のような存在の声を聞くなど今まで一度も無かったはずです。

 

 

 ――出来なかったからな。既に私達はレグルスとして集約されている。今この瞬間は僅かながらに残った私の意識によるものだ。さて先ほどの問いに答えよ……悔しいか? 憎いか?

 

 

 そうでしたか……では、答えさせていただく。悔しいかと問われれば悔しいです。この拳、この身体、鍛え続けても周囲の者達は簡単に追い抜いてしまう……ですが憎くはありません。

 

 

 ――ほう。

 

 

 この身は尊敬する母から授かったもの。確かに先ほどは人間の血が流れているならばと思いました……ですがそれは今思えば影龍王殿に、特にレグルスに失礼だった。こんな殴るしか出来ない俺の下に居てくれる彼を道具扱いするなど一生の不覚です! 歴代殿、お声を聞かせていただき誠にありがとうございます……しかし今は目の前に居る男との戦いの最中、ここで意識を閉ざすわけにはいきません! 立たなければならない、拳を握らねばなりません、勝ちたいのです! この拳でグレンデルに勝ちたいのです!!

 

 

 ――そうか。ならば行け、私達が求めた覇の理はお前には似合わぬ。今でなくて良い、長き時間の中でお前だけの理を見つけるのだ。

 

 

 その言葉を最後に声は聞こえなくなった。その直後、俺は軽く意識を失っていたのだと認識することになる……まさか夢か? いや、違う。確かに聞こえたのだ……歴代の方の声が! 兵藤一誠や影龍王殿、ヴァーリ・ルシファー殿、光龍妃殿が見つけた己自身の理……今の俺では見つけることは出来ないだろう。だがいつか、いつか必ず見つけよう! 俺の、俺達だけの理を! ですから見ていてください……俺はこのまま終わる男ではありませんから!

 

 

「おっ、意識が戻ったか! そうこなくっちゃなぁ!! ほら、立てよ? 立てんだろ? もっと殴り合おうや!! 俺の骨を砕くんだろ? クロムのアホの防御を突破すんだろ? だったらそのまま倒れてるわけにはいかねぇよなぁ!!」

 

「……とう、ぜんだ!! 俺は、倒れん……!! まだ、この拳は死んではいない!!!」

 

 

 腹の底から、心の奥底から響かせるように雄たけびを上げながら立ち上がる。足が震える……倒れた方がマシだと身体が囁いてくる。いや、ダメだ! ここで倒れてしまっては魔王になるという夢が潰えるのと同じ事!! どれほどの苦難があろうと、どれだけの痛みがあろうと俺は立ち止まるわけにはいかない!! そうだろう……レグルス!!

 

 

『……はい! まだ、戦えます! 私の戦意は無くなってなどいません!!』

 

 

 心強い限りだ。レグルスよ、感謝するぞ……お前が居たからこそ今の俺がいる。拳だけの悪魔だったがお前が居たから俺はここまで強くなれた……だから頼む。目の前に居る男を倒すために力を貸してほしい!

 

 

『サイラオーグ様……違います。私は、私は……力を貸すのではなく合わせたいのです! 貴方と共にこれからも前に進み続けたい!!』

 

「……そう、だったな。力は合わせるもの……ハハ、すまんなレグルス。そんな簡単な事すら見落としていた。あぁ、だったらもう一度言わせてくれ……! レグルス! 俺と共に、グレンデルを倒してくれるか!」

 

『はい!! サイラオーグ様――覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)を使いましょう!』

 

「……! レグルス!! しかし……あれはまだ俺達が操れる代物ではない!! 未熟な身で発動するのは戦っている相手を侮辱するようなものだ!」

 

『大丈夫です……今はまだ覇の理に囚われているかもしれません! ですが今のサイラオーグ様ならきっと覇獣すら自らの力に出来ます! これは勝てないから言っているのではありません……貴方と力を合わせたいから言っているのです! 貴方の命が削られることも重々承知の上です! ですがどうか……どうか!!』

 

 

 レグルス……! 獣を封印した神器が扱う最上級の解放こそが覇獣。その力は神をも超えるとされているが代償は大きい……命は削られ、下手をすれば周りの者達を巻き込みかねない禁忌の代物。あの兵藤一誠ですら操る事が出来なかったほどの力を俺が扱うなど出来るのだろうか。いや、違うな……レグルスは勝てないから言ってきたのではない――俺と力を合わせて戦いたいからこそ提案してきたのだ! ハハ、これが影龍王殿ならば命が削られる? だからなんだと高笑いするところだろう! ならば同じ男である俺が怖がってどうするというのだ!!

 

 

「――グレンデル殿!」

 

「んぉ? どうした!」

 

「今より俺達が持つ最大の力を貴殿にぶつけようと思う! それは覇の理に囚われた代物……兵藤一誠達に比べるとあまりにも小さく、醜いものだが許してほしい」

 

「グハハハハハハハハハハ!!!! それは覇獣って奴か? 良いぜ良いぜ!! 獣の力がどれほどなのか俺に見せてくれよ!! 軽蔑なんざしねぇ! 醜くなんかねぇ! んなもんは俺達には関係ねぇだろうが!! 殺し合ってる俺達が楽しかったらそれで良いんだからな!! 」

 

「……感謝する。貴殿と戦えたことを誇りに思う! グレンデル殿……今より俺は暴力を纏う!!」

 

 

 滅びの魔力を持たず、肉体だけの男がたかが命程度を削られる恐怖に怯えてどうする! レグルス……行くぞ! 俺とお前は一心同体! 二人で一人の男だ!

 

 

「――此の身、此の魂魄が幾千と千尋に堕ちようとも!!」

 

 

 俺の叫びに鎧が呼応するように強く輝きだす。

 

 

『我と我が主は、此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がる!』

 

 

 レグルスの叫びに俺の肉体が呼応するように悲鳴を上げる。

 

 

「唸れ、誇れ、屠れ、そして輝け!!」

 

 

 身体の奥底から湧き上がる力の奔流に意識を持っていかれそうになる。だが、今となってはその程度だ! 俺にはレグルスが居る……後ろで戦っている眷属達が居る! 俺は一人ではない――仲間が居る!!

 

 

『此の身が摩なる獣であれど!』

 

「我が拳に宿れ、光輝の王威よ!」

 

 

 お前の強く、気高い魂は俺も見習いたいものだ。分かっているとも……合わせるぞ! 俺とお前の力を!

 

 

「舞え!」

 

『舞え!!』

 

「『咲き乱れろ!!』」

 

 

 花が開く。俺の身体から漏れ出す闘気が背に集まり、紫色の花を咲かす。今より我が身は俺だけのものではない……レグルス! お前の物でもある! 共に行くぞ! 滅びが宿らぬ拳ならば神をも砕く拳となればいい! 我が名はサイラオーグ・バアル! 魔王となる男にして拳の悪魔なり!!!

 

 

「『――覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)解放(クライム・オーバー)ァァァァァァァァァッ!!!!!』」

 

 

 地面が抉れ、風が舞う。黄金と紫色の鎧を纏った俺を恐れるように静寂が包み込む。一度、覇獣の存在を知り発動を試みた事があった。その結果は最悪なものだ……力の一つすら従えられずに全ての体力を使い切り、命を削った。思えばあの時は一人で戦うと思っていたからだろうな……今は違う。俺は一人ではない! 力を合わせてくれる仲間が、友が居る!! それがある限り――俺は戦えるのだから!!

 

 

「待たせた」

 

「あぁ、待ったぜ」

 

「すまない」

 

「別に良いさ――楽しかったら問題ねぇからな!!!」

 

 

 この鎧――獅子王(レグルス・レイ・レザー・レックス)()紫金剛皮(インペリアル・パーピュア)()覇獣式(ハジュウシキ)。未熟なこともあり俺の命を糧としなければ発動する事すら困難な禁忌の力……現に今も気を抜けば倒れかねないほどの体力を消費し、体中が悲鳴を上げている……! いつか、いつかは覇の理ではなく俺だけの理を見つけたいものだな!!

 

 俺とグレンデルは言葉を話すのをやめ、至近距離での殴り合いを開始する。先ほどまでとは比べ程にならない力をグレンデルは全身を鱗で纏い――受け止める。何かを砕いた音が響く、何かが奥を走った音がした。覇獣を発動した俺の拳はグレンデルの鱗を砕き、骨をも砕いた……なるほど、奥を走ったのは俺が放った拳の衝撃破か! だがこれでもグレンデルの骨が折れただけ! 身体に穴が開いたわけでも無い……折れただけというのが驚きだ!

 

 

「グハハハハハハハハハハハハ!!!! 良いねぇ、良いぞ!! さいっこうに響いて来たぜサイラオーグバアルゥゥッ!!」

 

「宣言したはずだ! 骨を砕くとな!! まだ、まだ終わらんぞ!!」

 

「それはこっちのセリフだ!! こんなに楽しい殴り合いは初めてだ!」

 

 

 グレンデルの拳が俺の胴体に叩き込まれるが気にせずグレンデルを殴る。殴っては殴られ、殴られては殴る。俺もグレンデルも嬉々として互いを殴り続ける。まだだ……まだだ……諦めぬ! 諦めてなるものか! 勝つ、勝ちたい、この男に……目の前のドラゴンに勝ちたい! 届かぬなら届くまで拳を放つまで! 倒れそうなら意地で持ち直すまで! 諦めなければ、必ず……勝てるのだから!!!

 

 

 ――サイラオーグ。魔王になるなら倒れてはダメ、勝ちなさい。貴方は私の自慢の息子なんだから出来るでしょう?

 

 

「――うううううおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」

 

 

 体中の骨が折れているというのに嬉々とした表情のグレンデルの拳を胴体で受ける。聞こえました……聞こえましたよ母上!!

 

 

「んなっ!?」

 

「ぬうううおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」

 

 

 突き出された腕を掴み、もう片方の拳に全ての力を籠め、グレンデルの胴体を殴る。周囲の光景を遮るほどの砂煙が宙を舞う……そしてそれが晴れた時、俺は自然と笑みを浮かべていた。全身全霊、全ての力を持って放った一撃はグレンデルの胴体に大きな穴を開けていたのだ……これを見て嬉しく思わない者は居ないだろう。俺の拳は、今までの辛い鍛錬は決して無駄ではなかった!!

 

 今のグレンデルを見れば俺の勝ちだと思う者も居るだろう……だが違うはずだ。少なくとも俺の近くに居た邪龍はこの程度で倒れるわけがない! まだ終わってはいない――そうだな!!

 

 

「――ぁあ、良い一撃だ。まさか俺の身体に穴が開くとは思わなかったぜ」

 

「……やはり、生きているか……!」

 

「あったりまえだろうが! この程度で死ねるんなら邪龍とは呼ばれねぇんだよ!!」

 

 

 先ほどのお返しとばかりに顔面を殴られる。体はボロボロ、足は今にも崩れそうだ。今の一撃で倒せぬなら無理だと何かが囁いてくる……だが知らぬ! 倒れぬなら倒れるまで、俺の拳を叩き込むだけだ!!

 

 意地と意地、拳と拳のぶつかり合い。殴ったら殴り返す、子供の喧嘩のようなことを俺達は何度も繰り返す。母上の声が聞こえたのだ……なら俺がすることは一つ! 倒れぬことだ!!

 

 

「グレンデルゥゥッ!!」

 

「サイラオーグゥゥッ!!」

 

 

 同時に互いの体に拳が叩き込まれ背後へと吹き飛ばされる。地面に倒れこんでしまうがそのままでいるわけにはいかん……立たねば、立たねばならん!!

 

 既にレグルスは限界を超えてしまったのか鎧としての姿を保てずに人型の姿となって地面に倒れこんでしまっている。分かっているさ……お前がどれだけ辛いかは俺が一番分かっている! 戦いたいのだな……まだ戦いのだろう! 軟弱な己を恥じているのだろう! それは違うぞ……お前は決して弱くはない! 俺の背を預けられる男が弱いわけないだろう!! お前の意思、お前の心は俺と共にある……さぁ、行くぞレグルス!

 

 

 

「……まだ、立ち上がるか!!」

 

「とう、ぜんだ……立たねば、男では、ない!!」

 

「そうだな……そうだよなぁぁ!! 生き返ってよかった! 邪龍で良かった! テメェと出会えたのが最高に幸せだ!! まだやれんだろ?」

 

「ふっ……見て、分からぬか……?」

 

「分かるぜ! その目、その闘志! 全然負けてねぇって言ってやがるからな! じゃぁ、続きを――」

 

 

 満面の笑みを浮かべたグレンデルが一歩前に出ようとした時、俺達の近くに数十のドラゴンが降りてきた。それは後ろの方で皆が戦っているドラゴンと全く同じ姿……つまり邪龍だ。くっ……援軍という事か!

 

 俺が現れた邪龍に意識を取られた瞬間――目の前に居る存在からとてつもないほどの怒号とオーラが放たれた。深緑の色合いをしたドラゴンのオーラは強烈な殺意を持って邪龍達に向けられる。

 

 

「――ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 人型の姿から巨人の姿へと変わったグレンデルは怒り狂いながら邪龍を踏みつぶし、叩き潰し、暴れ始める。既に俺のことなど眼中になく、あるのは戦いを邪魔した敵を殺すという意思だけだ……これがドラゴンの怒りか。たとえ同胞であったとしても自らの邪魔をするなら敵と判断して殺すとはな……なるほど単純なものだ。少しばかり邪龍というものを理解できた気がする。子供のような純粋さを持っているのが邪龍なのか……多くの物に興味を示し、これでもかというほど極めようとする。ハハ、強いわけだ。

 

 

「あぁクソがぁぁ!! あんのクソ野郎が!! 俺の、俺達の戦いの邪魔しやがって!!!! ぶち殺すぶち殺すブチ殺してやらぁぁ!!!! はぁはぁ……おう、悪いな。奴らは邪龍じゃねぇからよ、流儀ってのを分かってねぇんだ。本当に悪かった」

 

「……いや、気にしてはいない」

 

「そうかよ。でだ、悪いが続きは次に取っておくぜ。今回はテメェの勝ちだ、次は邪魔が入らねぇ場所でやろうや。そんでよぉ……その滅び、ちゃんと鍛えておけよ? そっちの方がさらに楽しめるからなぁ!!」

 

「……すまぬが無理だ。俺はバアルの滅びは――」

 

「馬鹿が! あるって言ってんだろうが!! テメェに殴られるとな……魂が削られんじゃねぇかってぐらい心に響くんだよ! サイラオーグよぉ、テメェはちゃんと受け継いでるぜ? その拳とその闘気にバアルの滅びってのが宿ってんじゃねぇか!! いうなれば滅びの闘気ってか? グハハハハハハハハハハ!! こりゃ傑作だ! 持ってねぇと思い込んでたらちゃんと持ってたんだからなぁ!! だからよ――頼む。次は誰にも邪魔させねぇから俺とお前の喧嘩をさせてくれ。初めてなんだよ……ここまで殴り合いが楽しめるのはな!」

 

 

 俺の拳と闘気に滅びが宿っている……信じて、良いのか……俺は、ちゃんと……バアルの滅びを受け継いでいると言って良いのか……!!

 

 

「――こちらこそお願い、したい。しかし俺の勝ちというのは間違いだ……引き分けという事にしてほしい。このような勝利は俺は望んではいない」

 

「そうかよ……まぁ、勝手にしろやぁ。サイラオーグ・バアル、覚えたぜ。あぁ、心の奥底に刻み付けぐらい覚えたぜ! あばよ。邪魔が入らなかったら一番良かったが……楽しかったぜ」

 

 

 その言葉を残しグレンデルは俺の目の前から消えた。魔法陣が描かれたという事はどこか別の場所に行ったという事だろうな……それを見届けた俺は体中の力が抜け、その場に倒れこんでしまう。既に周りに居た邪龍達は怒り狂ったグレンデルに酔って倒されたとはいえあまりにも無防備だろう……しかし残念ながら立ち上がる力すら残ってはいないらしい。あぁ、まだ鍛錬が足りぬか……!

 

 

「……レグルス」

 

『はい……』

 

「共に、今よりも強くなろう」

 

『――はい……!』

 

 

 心が躍る戦いが出来たこと、感謝しよう……グレンデル殿。




観覧ありがとうござました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

105話

遅くなってしまい申し訳ありません。
この作品の匙君は周りの環境(とある腋好きのキチガイ)によって原作よりも強化されております。


「まさか紫藤イリナを殺しに来たらヴリトラと殺し合う事になるとはね。いや、これが邪龍として普通の事なのかな」

 

 

 紫色の炎を放出しながら得体のしれない剣を握る男はやれやれと言ったような声を出す。兵藤には任せろ……なんてカッコいい事を言ったが正直、男が持っている剣を見ていると背筋が凍るというか身体が震えが出てきやがった。右を見ても左を見ても殺し合い、殺し合い、殺し合い、殺し合いでなんか即効で引きこもりたくなるぜ……こっちは一般家庭出身の転生悪魔だぞ!? 頭のネジが緩んでるんだか曲がってるんだか分からない黒井達とは違って殺し合いをする度胸なんて一切無いんだよ!! なんなんだよあの順応性!? さっきから嬉々として邪龍に変異した魔法使い達を殺しまくってるんですけどぉ!? 会長達は邪龍もどき相手に苦戦してるってのにあの人達……息をするように首落としたり喰ったり潰したり引き裂いたり真っ二つにしたりとかあり得ねぇっての。あっ、でもしほりんの生ライブだけは土下座レベルで感謝ものだな! ただ一つの癒しだと思う! ただ吐き気がするぐらい気持ち悪くなる雷を放出しているところは目を逸らしたいけどさ。破魔の霊力って怖い。

 

 

 ――我が分身よ、他の事に気を取られるな。目の前の相手の身に集中しろ。八岐大蛇を相手にするのだ、先のクロムとの殺し合い以上に集中せねば死ぬぞ。ヤツは魂を汚染する毒を持っているのだ、一度でも浴びれば先生にすらなれんぞ

 

 

 分かってるさヴリトラ、男が持ってる剣以上に目に見えている紫色の炎がマジでヤバいってことは本能が教えてくれてるしな。俺は兵藤達と比べて圧倒的に戦闘経験が少ないんだ……禁手に至ったとはいえこの状態でまともに戦える相手はシトリー眷属(俺の周り)には居なかったから一人で修行するかデュリオとの戦いぐらいだ。つまり全然アイツらに届かねぇぐらい弱いんだ! 気を抜くなんざ絶対に出来るか!!

 

 

「『さぁな! 少なくとも俺の周り……まぁ、黒井だったら普通だっていうだろうな。俺としてはありえないと思うけどさ』」

 

「なるほど。それじゃあ聞くが何故僕と戦うんだい? 先に宣言しておくが僕は紫藤イリナさえ殺せればそれで満足する。他の者には興味なんて無いよ」

 

「『それだよ。紫藤を殺すってところが気に入らない! そもそもダチの友達を……仲間を殺すと言われてはいそうですか、なんて言えるわけねぇだろ! だから止めるためにも殺し合うんだよ!』」

 

 

 もっとも黒井だったら「へー、じゃあソイツを殺したら殺し合おうぜ!」とか言うだろうけどな! アイツって自分の眷属とかその周りにしか興味ないっぽいし何よりD×Dメンバーを仲間とすら思ってないんじゃねぇか……うん。ありえる。普通にあり得る。ルーマニアでの一件とかそれ以前の行動とか見てると否定できない。そう考えると犬月って良く一緒に居られるよな……後でなんか奢ってやろう。きっと苦労してるだろうしな!

 

 纏う鎧から漆黒の邪炎を放出しながら男を見つめる。紫色の炎を放出して剣を握っているというところを除けば普通の一般人っぽい感じだ。年は二十代前半とかそのぐらいか……でもなんなんだろうな、この心の奥底まで響いてくるような負の感情はさ! この世の何もかもを恨んでいるような……俺の邪炎すら飲み込むんじゃないかってぐらいの呪詛というか、言葉に出来ないが一つだけ言えるのはアイツの心や感情を象徴しているのは放たれている炎だってことだ! 正直、別の場所で戦いたいぐらいだよマジで……この場所には会長達が居るから下手をすると巻き込まれる恐れがある……まぁ、上空で兵藤や黒井、地上でサイラオーグの旦那が戦ってる時点で巻き込まれるのは確定だけどな!! お願いだから大怪我とかしないでくれよ皆!

 

 ところで上空で戦ってる黒井さん? なんで味方……? だと思われる光龍妃の人と殺し合おうとしてんだ? こんな状況でも平常運転とか馬鹿かお前。

 

 

「止めるため、か。ならやってみるが良い。だけど一つだけ言っておくよ」

 

 

 胸に十字架の炎を灯した男が濃厚な殺気と共に全身から怒り()を出し――

 

 

「キミ程度で僕の復讐は止められない」

 

 

 ――地上を汚染する炎を俺へと放ってくる。ここで避けてしまえば目の前の男は確実に離れているところで戦っている皆……いや紫藤へとこの炎を向けるだろう。そんな事はさせねぇ! だってよ……言ったんだ!

 

 

「お前の復讐ってのには興味なんかねぇ! でもな……俺のダチに言ったんだよ! 任せろって! だったら引くわけにはいかねぇんだ!」

 

 

 

 あぁ、そうだ! ダチに言ったんだよ……任せろって! 体が震える? 吐き気がする? 知った事かそんなもの!! 兵藤も黒井も犬月も俺が気絶しそうになる修羅場を潜ってきたんだ! この程度でビビってたらシトリー眷属の兵士の名が廃る!!

 

 応戦するべく他者を呪う漆黒の炎を向かってくる紫色の炎へと放つ。常軌を逸した熱量を持つ互いの炎がぶつかり合うと周囲が焼け野原すら生温い一つの地獄へと変化した……触れたものは何者であれ呪い尽くすだろう俺の炎と何者であれ汚染するであろう男の炎。やっべぇ……! なんだよこの威力!! ドンだけ紫藤の事を殺したがってんだコイツ!!

 

 

「先ほども見たが……これがヴリトラの炎か。中々どうして……心に響く良い呪いだ」

 

「『そうかよ! おい! なんで紫藤を恨んでんだ!! アイツが何したってんだ!!』」

 

「何もしてはいないよ。少なくとも彼女はね……だが周りは違う。彼女の周りに居た人物は何があろうと生かしては置けない……あぁ、生かしておいてなるものか! 何事も無い顔で、のんきに笑って過ごしているアイツらを! 僕とクレーリアを否定したアイツらが許せない!! だから僕は彼女を殺す。その首を持って局長の前に現れてその顔を絶望に染めたいだけさ」

 

「『ふざけんな!!』」

 

 

 心からの叫びを放ちながら漆黒の炎の威力を上げる。なんだよそれ……! 紫藤は関係なくてただのとばっちりじゃねぇか! でも一つだけ分かるのは……この男はクレーリアって人を大事にしてたってことだ。全力で応戦しているはずなのに気を抜けば押し切られそうになるほどの威力がある炎を放つぐらい大事だったんだろう。でも……それでも! 殺させるわけにはいかねぇんだよ!!

 

 

「『そんなとばっちりで親友のダチを……仲間を殺させるわけにはいかねぇ!! 俺も邪龍を宿す存在だから何を言っても無駄だってことは分かってるけど……それでも言わせてもらうぜ!』」

 

「そうだね。邪龍とは自らの欲望に従うものなんだろう? なら僕は復讐という欲望に従うだけさ! 何故邪魔をするヴリトラ!! 親友とやらに任せろと言った程度で死ぬつもりか?」

 

「『死ぬつもりもねぇよ! 勝つからな!! 言っておくが……俺は結構しつこいぞ!!』」

 

 

 纏う炎を地面へと放ち、蛇のように地を這いながら男へと近づける。しかしそれを放置するほど相手も馬鹿じゃない……背からドラゴンの頭と首を模した紫色の炎を出現させて俺と同じように地面へと放った。その姿はまるで八つの首を持つドラゴンのようにも見える……なるほど、マジで八岐大蛇だな。しかも他と違って神滅具とかふざけんじゃねぇよ……そうだよな? だって前に黒井達が八岐大蛇を復活させようぜ! 核は神滅具な! 的な事を言ってたし! マジで何してんだよおい!? 面白そうってだけで本気でやるなよ!? これだから邪龍は嫌なんだ……俺も邪龍だけどさ!!

 

 周囲が轟音を鳴り響かせている中、俺と男はその場から動かず互いの炎をぶつけ続ける。接近しようにもあの炎を浴びたら下手すると死ぬだろうしあの剣で斬られてもアウトっぽいから下手には近づけない……これに関してはあっちも同じだろう。自慢じゃないが俺、いやヴリトラの邪炎は掠るだけでも死に直結する代物だ。解呪しようとしてもほんの僅かでも炎が残っていたら再度燃え上がる執念深い性質持ち……ハハ、怖いぐらい頼りになるよ!

 

 だが――俺達の攻防も長くは続かなかった。

 

 

「……ぐ、ぁ、つぅ……!!」

 

 

 周りを地獄へと変えるほどの炎を放ち続けていると男の様子がおかしくなった。自分の胸を強く抑え、何かの痛みに耐えるように歯を食いしばっている。なんだ……さっきまで普通だったのにいきなり変化しやがった? 俺の炎は一つも当たってない……ヤツの周りには自分の体から放たれている炎――まさか!

 

 

「『おい! まさかお前……自分の炎に焼かれてるのか!?』」

 

「……っぅ、あぁ、そうだよ。残念な事にまだ完全に馴染んでいないからね……体の内部が猛毒の炎で焼かれているだけさ」

 

「『……そんな状態になってまで紫藤を殺したいのかよ!!』」

 

「あぁ、そうだ!!」

 

 

 目から血を流しながら男は叫んだ。

 

 

「殺したいさ! 殺したくて何が悪い! お前達に何が分かる!! 何も望んでいない……ただ一緒に居たかっただけの僕達がお前達の、悪魔や天使達の都合で殺されたこの気持ちが! この心、この身にあるのは憎悪だけさ! 僕達を……いやクレーリアを殺した奴らは絶対に殺す!! 殺してやるさ!! 貴様達の都合で殺されたのならば今度は僕の都合で殺してやる!!! この身が修羅に落ちようと、邪龍へと成り果てようと必ずだ!! 平和な世界しか知らないお前には分からないだろう!!!」

 

 

 怒りの声、憎悪の炎が勢いを増す。空を焦がそうとする炎が、地上を汚染しようとする炎が俺へと迫ってくる……なんだよこれ! 自分の事は度外視でクレーリアって人の事しか考えていない! このままだと負ける……!

 

 

「僕達は一緒に居たかっただけだ! それだけで良かったんだ!! 誰にも迷惑をかけず静かに過ごしたかった!! 僕は教会に属する人間で彼女は純血悪魔! 生きる時間が違ったとしても一緒に居たかった!! 好きだった、心から愛していた!! なのに貴様らは……お前達悪魔は! 天使は!! 自分の都合しか考えず僕達を引き裂き――彼女を殺した!! 許すか! 許せるわけがないだろう! 身分違いの恋がなんだ! そんな理由で殺された僕のこの怒りをどこにぶつけたら良い!! 邪魔するなヴリトラ……たかが任せろという言葉で戦っているお前に僕の怒り! この憎悪を止めることは出来ない!!」

 

「『……たかがじゃねぇ!!!』」

 

 

 一歩、押し負けそうになる憎悪の炎に抗う様に前に出る。確かにこの男の言う通り、俺は平和な世界しか知らない。戦っている理由だって紫藤を殺させたくないってのと親友に任せろって言ったからだ……でも悪いけどそれを「たかが」なんて言われたくねぇ!

 

 

「『確かにお前の言う通り、俺は平和な世界しかしらねぇよ! 戦ってる理由だって皆を死なせたくないとか紫藤を殺させないとか兵藤に任せろって言ったからだ! でもな……それが俺だ!! ここで見捨てたら俺は先生になれないんだよ! 子供達に誇ってもらえる先生になる!! これが邪龍ヴリトラを宿す匙元士郎の欲望だ!! それの何が悪い!!!』」

 

「っ!」

 

「『アンタがそのクレーリアって人の事を大事にしていたのはこの炎を見れば分かるさ! 悔しかったんだろうしムカついたんだろうってのも良く分かる! だからこそ止める! 分かってんのかよ……! 今のアンタの姿をクレーリアって人は喜ぶと思ってんのか!! 目から血を流して体が焼ける痛みに耐えてるアンタを見たら泣きながらもうやめろって言うはずだ!』」

 

「だろうね!クレーリアが喜ばないことは分かってるさ……! でも止められるわけがない! たとえ見捨てられたとしても僕は必ず復讐を果たす! 邪魔をするなぁ!!」

 

 

 猛毒を宿した紫色の炎の勢いが増す。やべぇ……視界が赤くなってきた。俺が放つ漆黒の炎ですら防ぎきれないほどの質量を浴びてるから仕方ないんだけどさ。口の中が血の味しかし無いし前に進んでいるのかどうかすら分かんねぇ……でも進む! 前に進む!! この馬鹿野郎を一発ぶん殴ってやらないと気が済まねぇ!! 自分だけ不幸だって思ってるコイツだけは必ずぶん殴る!!

 

 一歩、また一歩と前へと進んでいくと地面から生えてきたドラゴンの頭を模した炎が俺の肩に噛みついきた。熱い、熱い……耳に焼ける音が響いてくる。それどころか視界が真っ暗になりつつある……魂すら汚染する猛毒を宿した聖遺物の炎を受ければ俺程度は簡単に死ぬ――わけないだろ!!

 

 

「……何故だ、なぜ生きている! 八岐大蛇の毒を! この聖遺物の炎を受けてなぜ生きている!!」

 

「『……あぁ、教えて、ほしいか?』」

 

「何……?」

 

 

 俺は黒井のように再生能力なんて無い。猛毒を喰らえば普通に死ぬし聖遺物の炎を浴びれば消滅するだろう。ハハ、きっと会長は怒るだろうなぁ……でも俺って馬鹿だからこれしか思いつかなかったんだよ。悪いなヴリトラ、辛いだろ?

 

 

 ――気にするな我が分身よ! この程度の痛みなど我が分身が味わっている苦痛に比べればなんてことはない! 進め! 前へと進め! 己が抱いた欲望を奴に見せてやるのだ!!

 

 

 あぁ、勿論だ!!

 

 

「『魂すら汚染する毒、あぁ……確かに視界が真っ赤になるし口の中が血の味しかしなくなったさ。知らないだろうから教えてやるけど俺の神器の大本は黒い龍脈だ……見えるよな? 俺の身体から生えているこの触手がそうだよ! こいつは相手の力を奪ったり出来る便利なものでさ……結構前に兵藤と戦った時は血液を奪い取った経験がまさかこんな所で役に立つとは思わなかったよ。さて、ネタばらしといこうか! やってることは簡単だ――これを自分に繋げて俺の身体に入って来た「猛毒」を抜き出してるんだよ!!』」

 

 

 禁手に至ってから今日まで黒い龍脈をメインに鍛え続けた結果、奪い取れるものを指定できるようになった。普通に相手の「力」から「血液」「生命力」とか奪い取れるし血管に直接呪詛の炎を流し込めるようにもなった。だからそれを利用して体内に入った「猛毒」を奪い取って外に出してるからこそ俺は今も歩けてるってわけだ……まぁ、解毒してるわけじゃないから辛いことには変わりなし血液も一緒に抜けてるかもしれないがそこは目を瞑ろう。

 

 

「八岐大蛇の毒を抜き出している……いや、ならば聖遺物の炎はどうやって!!」

 

「『気合、と……根性!!』」

 

「――」

 

 

 だって兵藤や黒井達と違って弱いから仕方がない。うん、泣きたくなるぐらい力の差があるのに体内に入った猛毒を抜き出しながら聖遺物の炎を完全に防ぐとか無理だ。精々やってるのは漆黒の炎を全身に纏ってる防いでいる程度……さっきからその防御を突破した熱で身体が焼かれてるけど気にしない。体が大火傷になろうと今は目の前に居る男をぶん殴るだけ考えていればいい!!

 

 

「『さっき言ったよな……結構しつこいって! 力の差があろうと俺は諦めねぇぞ……! 身体が焼けようと猛毒に汚染されようと一歩、また一歩と近づいてやる! だからそこを動くんじゃねぇぞ……!』」

 

「……何故、そこまでして僕の復讐を止めようとする。そこまでする価値があるのか!」

 

「『知らねぇ! これは俺がやりたいからやってるだけだ! 俺も邪龍だからな……一度決めたら真っすぐ突き進むしかないのさ! それに……一つだけ、俺はアンタと似てる所がある』」

 

「何……?」

 

「『身分違いの恋、それをしてるのはお前だけじゃねぇぇぇ!!!』」

 

 

 血管が切れるんじゃないかってぐらい大声で叫ぶとそれに呼応するように全身から放たれていた漆黒の炎の威力が上がる。よし、結構辛いがまだまだやれる!

 

 

「『俺は自分の主が……ソーナ・シトリーの事が好きだ! 俺は転生悪魔で会長は純血悪魔っていう身分の差があるが関係ない! 好きになっちまったもんはしょうがないだろ! だからお前の気持ちは少しだけ分かる……俺だって会長と一緒に居たいさ! 誰がなんと言おうとこの思いだけは邪魔させない! もしお前と同じような事があったら俺だって復讐に走るだろう……心の底から好きだったら当然だ!』」

 

「だったらなんで邪魔をする!」

 

「『決まってるだろ……誇れる先生になるためだぁぁぁ!!!』」

 

 

 もう何言ってんのか分かんないぐらいギリギリだ……でも、まだ倒れてたまるか! ここで倒れたら兵藤に任せろって言った意味が無くなる……それに会長が見てるんだ! カッコいい所を見せたいんだよ!

 

 その勢いのまま紫色の炎を突っ切って男の目の前までたどり着く。俺もアンタも立ってるのがやっとって感じだな……じゃあ、歯を食いしばれよ!

 

 

「『アンタの行動は間違ってるとは言わない……俺だって同じことをするだろうからな。でも、それでも! 紫藤は殺させない! 任せろって言ったのに、護れませんでしたじゃ先生失格だからな! それに……今のアンタの姿を見てるクレーリアって人の気持ちを考えろぉぉ!!』」

 

 

 拳を強く握り、全身全霊の力で男の顔面に叩き込む。既にこの世に居ないのは話の中で分かってる……それでも今のアンタの姿を空の上で見てるかもしれないだろ! もし、会長が殺されたら俺は何が何でも犯人を探し出して殺すだろう。それは考えなくても分かる……だから本当だったら俺がコイツに説教する資格なんて無いかもしれない。でもそれの何が悪い……元人間で今は悪魔! そして邪龍を宿してるのが今の俺だ。身勝手な人間が悪魔で邪龍になったらこうなるさ! 先生としてはダメかもしれないけどこれが俺だ……!

 

 脳裏には好き勝手に生きている黒井の姿が浮かんだ。ハハ、アイツはいつもこんな感じなのかな……? 分かりたくないけど分かってしまう自分がいる……良いか。だって俺は悪魔で邪龍なんだから夢に向かって突き進んでも誰も文句は言わないよな。

 

 最後の力を使い果たしたのか鎧すら維持できず地面へと倒れこむ。やべ……指一本すら動かせねぇ……!

 

 

「……馬鹿だな」

 

「……馬鹿で、悪いか」

 

「いや、悪くないだろうな。僕も大馬鹿者だ、ヴリトラ。悪いが一発殴られた程度で僕は倒れないぞ……たとえ呪いの炎に身を焦がそうともだ」

 

「し、ってる」

 

「この剣でキミを刺すだけで殺せるという事も分かっているかい」

 

「……しって、る!」

 

 

 指が動かないなら足を動かす。足が動かないなら体を動かす。体が動かないなら頭を動かす。地面に嚙り付いてでも戦意だけは失うわけにはいかない!

 

 

「――やめたよ。ここで紫藤イリナを殺すのはやめておこう。僕も限界だ……でも次は必ず殺そう。その時はまた止めに来るかい?」

 

「――当然、だ! 何度、でも止めてやる!」

 

「……そうか」

 

 

 真っ赤に染まった視界の中で男は若干だが嬉しそうな表情を浮かべて炎に包まれながら姿を消した。それを見届けた俺は誰かが泣き叫ぶ声を聞きながら――意識を失った。




遅くなってしまい申し訳ありません。
FGOが面白い+若干スランプに陥った+最近原作が悪い意味でカオスになったため読むのが辛くなった等によって投稿が遅れてしまいました……

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

106話

「まさか二天龍の共演をこの目で見る事が出来るとは……幸運とはこのような事を言うのでしょうね」

 

 

 俺の目の前には両手を広げ歓喜に震えた表情の男がいる。悪魔の羽に赤いドラゴンの翼、片腕は人間の腕だがもう片方はドラゴンの腕という異質な姿をしている……今日まで色んな相手と戦ったりしてたから分かるが強い。グレイフィアさんと同じ「ルキフグス」の悪魔でドライグの肉体の一部、さらにさらに次元の狭間に捨ててきた前の肉体からドライグの魂のデータ……? か何かを混ぜ合わせた存在らしいけど何が何だかさっぱり分かんねぇ! 話の内容から目の前に居る奴はドライグの力……つまり倍加と譲渡を使えるって考えた方が良いんだよな? まさか同じ力を持つ相手と戦う事になるとは思わなかったぜ!

 

 隣にはヴァーリが居るけど雰囲気からかなり怒っているみたいだ。それはドライグもアルビオンも同じみたいでなんと言うか……ロキとの戦いとはまた違った一体感ってのがあるな。正直俺も……話の内容とか色々わけわかんない所もあるけど一発ぶん殴りたい気分だぜ! だって俺の心のどっかで奴を許すなって思ってるからな……これがドラゴンとして当然の感情なのか分かんないけど俺はそれに従うつもりだ!

 

 

「すっげぇ余裕そうだな……ヴァーリ、さっきも言ったけど力を貸してくれ!」

 

「そのつもりだ。フッ、しかし俺と兵藤一誠を目の前にしてその態度とはな。リリスから生まれ、ドライグの力を宿した存在と言えどもお前のそれは偽物だ。仮初めの力で俺達に勝てると思っているのか?」

 

「さぁ、どうでしょうか。偽物が本物に叶わない道理は無いという言葉が人間界にはあるのでしょう? ならば戦ってみなければ分からないのは当然の事……それにこちらは現赤龍帝に劣っているとは思ってはいませんよ」

 

 

 不敵に笑うユーグリットが俺達に向かって手を伸ばすと濃厚な魔力が放出された。それを目にした俺とヴァーリは即座に戦闘態勢に入り二手に分かれる。上空を自由に移動しながら回避するヴァーリに対して俺は真っすぐ進んでは直角に曲がるのを繰り返して回避する……こればっかりはヴァーリとか黒井とか片霧さんとかが羨ましいぜ!

 

 

『相棒! すまんが俺は奴を生かしておくわけにはいかなくなった……いつも通り全力で行くぞ!』

 

「分かってる! 俺だって今日までキツイ修行をしてきたんだ! それを見せてやる!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 自分の力を連続で倍加させてユーグリットに向かってドラゴンショットを放つ。自慢じゃないが体を新調してから魔力が上がってるし特訓のお陰で新調前に比べて威力を上がってる! まぁ、黒井やヴァーリみたいに他の事は出来ないんだけどな……!

 

 

「現赤龍帝が得意とする攻撃ですか。ふむ」

 

 

 何かを考える様子を見せながらユーグリットはドラゴンの腕で俺が放ったドラゴンショットを――引き裂いた。嘘だろ……! 傷一つ付いてないどころか地上が軽く抉れたぞ!?

 

 

「弱いですね。もしや手加減をしてくれたのでしょうか? それならば遠慮はいりません。私を殺すつもりで来てください――と、現白龍皇の攻撃は受けるわけにはいきませんね。リゼヴィム様から反射の情報を聞いていますので」

 

「そうか。だが何時まで躱していられるかな?」

 

 

 北欧の魔法と悪魔本来の魔力を器用に放ちながらヴァーリはユーグリットへと接近していく。ヴァーリが持つ白龍皇の光翼の禁手が変異した姿、白龍皇の反射鎧はアルビオンが生前保有していた「反射」の力を宿している。本来だったらその名の通り何でもかんでも反射する事が出来るみたいだけど今は両手の籠手部分に触れないと発動できないみたいだ……俺からすればおっかないことには変わらないけどな! だって下手にヴァーリに攻撃しようものなら威力そのまま跳ね返ってくるとか怖すぎだろ!? ここ最近は黒井と模擬戦……遠くから観戦した事はあるけどあれって模擬戦って言って良いんだよな……? 黒井の切り札の漆黒の鎧とヴァーリの極覇龍が衝突してるけど殺し合いじゃなくて模擬戦をしてるんだよな!? ちゃんと加減して……ないよなぁ。だって黒井とヴァーリだし。俺だって何もしていないわけじゃないけど初代のじいさんから教わってる事って地味と言うかなんというか……基礎的な事だから強くなってるのかどうかいまいち実感しにくい。

 

 だって初代のじいさんが言うには総合的なバランスならヴァーリが一番、技術や防御力なら黒井が一番、攻撃力方面なら片霧さんが一番、そして俺はと言うと……その時のテンションによって追い越したりするが基本はビリらしいからな。言い返せないくらい妥当だよなとは自分でも思うがやっぱり悔しいものは悔しい!

 

 

『相棒! 気を抜くな!』

 

「っ、悪いドライグ!」

 

 

 そうだった、今は戦闘中……気を抜けば前みたいに死んじまう! 二度目の蘇生なんて絶対に無いからちゃんと集中しないとな!

 

 ヴァーリの速度に反応しながらユーグリットは俺達二人に攻撃をしてくる。ただ普通に魔力を放っているだけだがその威力は異常だ……躱してものが地上に当たった時の威力は下手をすると真紅の鎧状態で放つクリムゾンブラスター並みかそれ以上かもしれない。マジかよ……! 見た感じただ軽く放っただけだぞ!?

 

 

「……なるほど。ドライグの倍加の力で強化しているわけか」

 

「正解です。何しろこちらの体には赤き龍の帝王と称されたドライグの肉体の一部、そしてその力を宿しているのですから当然でしょう。もっとも()は倍加の力しか使えませんけどね」

 

 

 私はってことは譲渡の力を使えるお前もいるってことだよな……ちょっと何言ってるか分かんなくなってきたぞ! えーともしかしてこのユーグリットって奴は何人もいるのか?

 

 

『だろうな。ヤツは悪魔の母たるリリスから生まれたと言っていたからな、俺達と戦っている個体以外も存在するだろう……俺からすればふざけるなの一言だがな!』

 

『同感だ。我が友を侮辱することは許さん! ヴァーリ、ヤツの肉片一つ残さず消し去ろうか!』

 

「分かっているさアルビオン。兵藤一誠、すまないが加減無しでヤツを倒すとしよう。なに、ロキと戦った時のようにキミらしく戦えば良いさ。キミの場合は下手に考えるよりもその場の勢いで動いた方が実力が出せるはずだからな」

 

「……俺らしくか。ならいつも通りにやるだけだ! 俺はお前と違って天才じゃなくて馬鹿だからな! 正面からぶっ倒す!」

 

「それで良い」

 

 

 なんか認められてる気がして恥ずかしくなってくるな……でもいつも通りに戦うだけだ! 確かに俺は黒井やヴァーリ、片霧さん、犬月達と比べると実戦経験は殆ど無いし相手を殺す覚悟も無いけどさ……逃げたくはない! だから俺らしく戦う!

 

 ユーグリットが放ってくる攻撃を躱しながら次の手を考える。速度特化の龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)になれば直線だけならユーグリットを超えるだろう……でもヴァーリの速度に反応している相手に直線のみ速くなっても対応される。下手をするとカウンターで大ダメージを喰らう恐れもあるな……かといって砲撃特化の龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)でドラゴンブラスターを撃ってもさっきみたいに簡単に防がれる! だからと言って龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)は論外だ……動きが遅すぎて当たる前に反撃を喰らう! 畜生……トリアイナだとユーグリット相手には殆ど打つ手がない!

 

 

「正面からですか。ふむっ、面白いですね。速度特化の騎士か砲撃特化の僧侶、もしくは打撃特化の戦車でしょうか? それとも真紅の鎧になるのでしょうか? どれでも構いませんよ。兵藤一誠、貴方が何で来ようと受けて立ちましょう」

 

 

 余裕そうに言ってるがその内の三つは使用不可だっての! いくらヴァーリが味方だとしても足手まといにはなりたくないしな! となると……手は一つか!

 

 

『あぁ、真「女王」となろうか相棒! ヤツを相手にするならばトリアイナよりもそちらの方が良いだろう』

 

「だよな……おれもそれしかないと思ってたぜ! やろうぜドライグ! お前の偽物をこの手でぶん殴るためにな!」

 

『応!』

 

 

 覚悟を決めた俺は自分の体の中にある駒のシステムを変えるために呪文を唱える。それを見たヴァーリは俺から意識を逸らすためかユーグリット相手に接近戦をしかけ始める……助かるぜ! 本当に頼りになるライバルだよお前は!

 

 

「――我、目覚めるは」

 

 

 前までだったら歴代の先輩方の声が聞こえたが今はそれが無い。サマエルの毒から俺を護るために先輩方はその身を犠牲にして俺を救ってくれた……だけど神器の中には居なくても俺の中に、俺の魂には先輩方はいる! こんな弱い俺だけど一緒に戦ってくれ!

 

 

「――王の真理を天に掲げし赤龍帝なり」

 

 

 俺が纏う鎧が「赤」から「紅」に変化していく。俺は確かにヴァーリや黒井、片霧さん達に比べると弱いかもしれない。でもだからって逃げるわけにはいかない! だって俺は優しい赤龍帝に……そしてハーレム王になるんだからな!!

 

 

「――無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く」

 

 

 地上では邪龍に変化した魔法使い達を相手にリアス達や犬月達が戦っている。やっぱり黒井の近くに居るからか遠慮が無いというか……手慣れているというか感想に困るな! でもこんな時は凄く頼りになる!

 

 

「――我、紅き龍の帝王と成りて」

 

 

 さぁ、行こうぜドライグ!! 一緒にアイツをぶん殴ろうぜ!!

 

 

「――汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!!!」

 

《Cardinal Crimson Full Drive!!!!》

 

 

 ヴァーリのお陰で無事に真「女王」形態、真紅の赫龍帝になる事が出来たぜ! さてと助けてもらったんだから今度は俺が頑張らないとな!

 

 俺の鎧が変化した事にユーグリットは興味深そうな表情をしながら軽く拍手をしてきた。くっそ、ヴァーリと戦ってるくせに余裕そうだなおい……!

 

 

「それが真紅の鎧ですか……なるほど、現赤龍帝の主の髪色と同じとは運命を感じますね。さぁ、どこからでもかかってきてください!」

 

「だったら遠慮なくいかせてもらうぜ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

 背中から生えている翼からキャノンを展開して魔力を込める。挑発に乗って接近したら返り討ちなんてこともあり得るからな! だから一発デカいのぶっ放して体勢を崩す!

 

 周囲に響き渡るほど俺の鎧から音声が鳴り響き、俺の力が高まっていく。地上には撃てないが空中、しかも今のユーグリットが居る方角なら別だ……遠慮無しで撃ってもリアス達には当たらないから思いっきり行くぜ! 高めた力をキャノンに込めてユーグリットを狙う……俺の力が一気に高まったからか距離を取ろうとしたがヴァーリがそれを止めるように魔力や魔法で攻撃している。ヴァーリ……当たったらゴメンな!

 

 

「クリムゾンブラスタアアァァァァァァツ!!!!」

 

 

 背中の翼から展開したキャノンから真紅の砲撃がユーグリットへと放たれる。流石と言うべきかヴァーリはクリムゾンブラスターを放つ瞬間に離脱している……なんであのタイミングで動けるのか分からないがこれでヴァーリには当たらない!

 

 

「……これは」

 

 

 ユーグリットは龍の腕に力を込めて真横に振るって――俺が放ったクリムゾンブラスターを引き裂いた。と言っても二発同時にじゃなくて片方だけだ……それだけでもスゲェよ。まぁ、でも一発でも残ればこっちのものだ!

 

 逸れたクリムゾンブラスターに意識を向けて一気に曲げる。初代との修行の合間に魔力、正確に言えばドラゴンショットとかドラゴンブラスターとかを自在に曲げれるように訓練してたからたとえ外れても相手に当てられるんだよ! その分かなり難しいから動けないけどな……! 才能がないってのはつらいけどその辺りは気合と根性だ! 悪いがその辺りはヴァーリ達には負ける気は無いぜ!! なんせ俺はリアスの兵士だからな!

 

 

「なに……!」

 

 

 逸れたはずの砲撃が自分に向かってきたことに驚いたのか先ほどのように龍の腕で引き裂くことはしないで目の前に障壁を張って防ぎ始める。へへっ……弱いって言っても俺だって頑張ってるんだ! 余裕そうにするのもこの辺りで止めといたらどうだ!

 

 

「流石だ兵藤一誠。さて、隙を見せたな!」

 

 

 俺が放ったクリムゾンブラスターを防いでいるユーグリットを見たヴァーリが先ほどまでよりも速く動いて接近して胴体に拳を叩き込んだ。よし! ヴァーリの白龍皇の光翼は触れた相手の力を半分にする! これでユーグリットの力が一気に無くなる!

 

 

「お前がドライグの力をどこまで使えるか試してやろう」

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!』

 

「くっ……白龍皇の半減ですか! ですがこちらにはドライグが持つ倍加がある!」

 

「紛い物如きがアルビオンの力に追いつけるわけがないだろう? それにだ――兵藤一誠から視線を逸らすべきでは無いぞ」

 

「――はっ!?」

 

「ユーグリットォォォッ!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 

 背中から魔力を放出してユーグリットへ接近しながら一気に倍加! 何をするかなんて決まってるだろ……お前は言ったよな! 悪魔でありドラゴンであるって! だったら龍殺しは弱点だよな!!!

 

 

「ドライグゥ!! アスカロンに力の譲渡!!」

 

『Transfer!!!!』

 

 

 アスカロンが宿る拳でユーグリットの顔面をぶん殴る。高めた力を一気にアスカロンに譲渡したからドラゴンの力を宿す身にはかなり効くはずだ……なんせ最強の龍殺しってのを知ってるからな! それがどれだけ辛いかは俺が一番知ってる! でもまだまだ終わらねぇ!! 折角の学校を滅茶苦茶にしやがった分が残ってるからな!! 半分以上と言うか大部分は黒井だけどこの際だからお前に全部ぶつけるぜ!!

 

 両腕でユーグリットの肩を掴んで再び倍加する。俺がやれることは殴る事と砲撃を撃つこと……そしてもう一つは火を吐くことだ!! タンニーンのおっさん仕込みの火の息を喰らえ!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「また、倍加……!」

 

「龍王仕込みだから結構熱いぜ!」

 

『Transfer!!』

 

「させません! この程度――ぐぁ、ち、力が……!!」

 

「俺を忘れてもらっては困るな」

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!』

 

「ヴぁー、リ、ルシファァァァァァッ!!!」

 

 

 力が一気に半減されたことで初めて怒りの表情を浮かべるユーグリットに火の息を浴びせる。全身に燃え広がる炎にユーグリットは叫びだすが攻めるのを止めはしない……籠手からアスカロンの刃を出して龍の腕へと変化している方をぶった切る。これで攻撃も防御も弱体化したはずだ……後はこのまま一気にってところで腹に蹴りを喰らってユーグリットの肩から手を放してしまい、距離を取られてしまう。いや、気にするのは後だ……今は片腕を落とせただけラッキーと思おう!

 

 

「これが……二天龍ですか。競い合ってた存在同士が手を取り合うとこれほど厄介だとは……ですがまだ終わりではありません! 私は新ルキフグス! ここで逃げ出すような存在では無いのですから!!」

 

「そうか、ならば消えるが良い。兵藤一誠、俺は極覇龍を使う気は無いがあれを消し炭に出来るほどの攻撃が無いのであれば考えるがどうだい?」

 

「……へへっ、俺を誰だと思ってんだよ! 攻撃力なら片霧さんだって追い越す時があるんだぜ! あるに決まってるさ!! ドライグ!!」

 

『良いだろう。見せてやろうではないか相棒!! アルビオン……すまないが手を貸してくれないか?』

 

『勿論だとも。お前の苦しみは私の苦しみ、お前の敵は私の敵なのだからな! ヴァーリ!』

 

「了解した。ではそろそろ終わりとしようか!」

 

 

 本当に頼りになるライバルだよ! さてと……今から撃つのはとっておきのとっておき! ドライグとアルビオンが和解した事が切っ掛けで使えるようになった一撃だ。勿論、簡単には使えないし準備段階で俺は動けなくなる……だけどその分、威力だけならクリムゾンブラスターを遥かに超すぜ!

 

 

「何をしようとしているか分かりませんがそう簡単に――っ、これは……!!」

 

「言ったはずだぞ? そろそろ終わりにするとな!」

 

『Half Dimension!!!』

 

 

 ヴァーリが空間を歪めてユーグリットを拘束する。よし! あれならしばらくは動けないはずだ……この間に準備させてもらうぜ! 心の中でヴァーリに感謝しながら俺は地上へと降りて一気に力を高める。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!』

 

 

 全身から大音量で鳴り響く音声によって俺の力が極限まで高められる。その力を解き放つために鎧の胸部と腹部が変形していき、一つの砲台が現れるがそれだけでは終わらず背中の翼に格納しているキャノンを展開してユーグリットへと向ける。さらに全身の鎧が龍剛の戦車状態のように分厚くなって肩、腰、翼から魔力放出口が出現する。俺の鎧が変化していく中で極限まで高まった力が三つの砲身に集まっていくとまるで共鳴するように空間が軽く歪み始める……さぁ、準備完了だ! 覚悟しやがれ!!

 

 

『相棒! 遠慮はいらん! 全力で放て!!』

 

「応!! 行くぜ!!! トリニティ……クリムゾンブラスタアアァァァァァァァッ!!!!!!!!」

 

『Trinity Crimson Blaster!!!!』

 

 

 俺の叫びと共に、三つの砲身から真紅の砲撃が放たれる。ドライグとアルビオンが和解した事で現れた三つ目の砲身と元から有った二つの砲身から放たれるクリムゾンブラスターは極限までに高められた力を圧縮しているため威力は格段に……いや異常なほどに上がってる。勿論、三つ同時に放つから足場がちゃんとしてない所じゃないと撃てないし何より放った際の余波が凄いから周りに人がいると確実に巻き込んじまう……でも空中なら誰も居ないから遠慮無しで撃てる!

 

 

「――これが、死ですか」

 

 

 ユーグリットは俺の攻撃を防ぐ気すら無かったのか真紅の砲撃の中に取り込まれるように消えていった……なんと言うか最後は潔かったな? いや! 今は勝てたことを喜ぶべきだな! くっ、やっぱり体が痛いな……三つ同時に撃った衝撃が凄すぎるぞ!!

 

 

「……死んだか」

 

『そのようだ。しかし良かったのかヴァーリ? 先ほどまで怒りを抱いていただろう?』

 

「なに、ドライグの力を持つ存在は兵藤一誠の手で倒すべきだと判断しただけさ。俺の手で葬るべきだったのであれば謝ろう」

 

『構わんさ。リゼヴィムの事だ、別個体を複数用意していてもおかしくは無い。再度であった時に我らの手で葬れば良いだけの事……だがヴァーリ、その顔はどこか物足りないと言いたそうだぞ?』

 

「そうかもな」

 

 

 いやいや……あれで物足りないとか頭大丈夫かよ? 俺としては二度と戦いたくないってのにさ!

 

 

『残念だがそれは出来そうにないかもな。なに、相棒なら俺の力を使う紛い物などには負けんさ』

 

「ですよね……でも、そうだな! 負けたくないもんな!」

 

 

 これからもっと強くなって皆を護れる赤龍帝になる! そしてハーレム王にもなる! でもまずは――疲れたからリアスのおっぱいの中で眠りたいぜ!!




「トリニティ・クリムゾンブラスター」
ロンギヌス・スマッシャーを放つ砲身と背中の翼に格納されている砲身の三つ同時に放たれる砲撃。
イメージはガンダム00、セラヴィーガンダムのクアッドキャノン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

107話

今回は少し長いです。
あと変態要素多いです。


「さてと……リリスちゃん! お菓子食ってるところ悪いが付き合ってもらうぜ! なんせ周りが熱血やらシリアスやらに全力投球してるんでな。俺としてはお前の姿を見てるだけでなんか和むからこのままでも良い気がするんだけど――ってぇなおい! 踵でみぞおち狙ってくるんじゃねぇよ!!」

 

「ノワールがバカなこと言ったからじゃん。つーか和むって何さ? この超絶ぷりてぃで超絶可愛い夜空ちゃんが傍に居るの忘れてない? てか目が腐ってんじゃねぇの?」

 

「はっ! 甘く見るなよ夜空ちゃん……お前の可愛さなんてもう何年も前から知ってるんだよ! というよりそろそろお前の腋が見たいんだが露出する気は無い?」

 

「キモ」

 

 

 うーん、真上からまるで豚を見るよな視線を感じるがゾクゾクするな。鎧を纏ってはいるけど兜は外しているから頬に当たる夜空の太ももの感触は最高です! 普段は特に何も思わない駒王学園の制服でも夜空が着ると俺限定の特攻兵器になるんだから恐ろしいぜ……まぁ、それはそうとマジでここ最近、お前の腋を見た気がしないんだよ。もっとも今の恰好も最高に似合ってるしこのままお持ち帰りしたいぐらいの可愛さだけど腋が見たい、腋が見たい! 腋が見たいです!

 

 あと正直な所、制服姿の夜空を見た時はこのまま殺されても良いと思ったし生きててよかったとさえ思えたのは内緒だ。なんだよこの可愛さ……! 反則過ぎるだろ! 身近に見た目だけなら美少女の平家にアイドルしてたぐらい美少女な橘、年上最高と思えるぐらい美女な水無瀬とか見た目は幼いが中身と言うか素の性格はマジで最高な四季音姉にツンデレ最高なレイチェルという周りが死ねと言ってくるレベルの美少女に囲まれて生活してたのにマジで見惚れたからな……四季音妹? グラム? あ、あいつ等はマスコットとチョロインだからノーカンノーカン! それは兎も角としてやっぱり俺って夜空の事が好きなんだなぁ……まぁ、分かってはいたんだけどな。伊達に数年間片思いはしてねぇつもりだし。はぁ……このままエッチしたい。制服エッチとか最高じゃないですかね? しかも見た目は年下でも実年齢は年上、つまり先輩後輩プレイが成り立つとか本当に素晴らしいと思うんですがどうでしょうか! 俺的には年下相手に責められてメロメロになるけど強がってる態度を見せる先輩とか普通に大好物なんで是非初エッチの時はその路線も頼む! ビッチらしいユニアなら俺の願望に気が付いてくれると信じてるぞ!

 

 まぁ、そんな大事な事は置いておきたくは無いがとりあえず置いておくとしてだ……言葉では殺し合いを始めようぜ的な事を言ったがいまいちやる気が上がらん。いや理由は分かってる……分かってるんだよ……! 目の前に居る偽龍神様ことリリスの様子があまりにも場違い過ぎてなんかこのまま見ていたくなる。だって俺と夜空が目の前に居るのにお菓子食ってんだぞ!? しかもドーナッツ。表情一つ変えずにもぐもぐと食べているのを見たら男なら誰だって和んでしまうはずだ。やべぇ、マジでマスコットだよ。よくここまで育てたなリゼちゃん! そこに関しては褒めてやろう!

 

 

「リリスとたたかう? どこからでもかかってこい」

 

「……そう言ってる割には戦う気が無い気がするんだが?」

 

「リゼヴィムがいどまれたらこうかえせといった」

 

 

 流石リゼちゃん、分かってるな!

 

 

「そうか。じゃあ――死ねよ」

 

 

 即座に影人形を生み出してドーナッツをもぐもぐしているリリスへとラッシュタイムを放つ。自慢じゃないが通常時の鎧でも一発一発の威力は鬼相手でも通用するレベルの代物だ……いくらオーフィスの力から生まれたらしいリリスでも俺の影人形なら掠り傷というか蚊に刺された程度のダメージは与えれるはずじゃね? とか宝くじが当たる程度には思ってたんだがどうやら無理っぽい。いや……うん、知ってた。ドーナッツが見るも無残に粉砕されたが肝心のリリスにはダメージらしいダメージが入って無いし逆にワンパンで俺の影人形が消し飛ばされました! 殴る際にえいっという可愛い掛け声っぽいのと実際の威力が釣り合ってねぇぞおい……つーか離れてたはずなのに衝撃が俺達の所まで来たんですがマジでデコピン一つでも喰らったら大抵の奴らは死ぬんじゃね?

 

 

「うっわ、マジでワンパン? だっさ! まじだっせぇ!! 何が死ねよ……キリッさ! ダメージ与えられてねぇどころか返り討ちとかマジだっせぇ!!」

 

「おい、爆笑しているところ悪いがあの程度でマスコット属性特化のリリスちゃんにダメージ与えれると思ってたのか?」

 

「無理に決まってんじゃん」

 

「だったら爆笑するんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ?」

 

「だって面白かったし~! ほらこの超絶的つ~か女神的に可愛い夜空ちゃんの太ももで許してくんない?」

 

 

 そんな事を言われなくても許すに決まってんだろ、馬鹿かテメェ。

 

 

「あまりいたくなかった。でもおかしがなくなった。かなしい。でもまだいっぱいある。どんどんこい」

 

 

 どこからともなくお菓子を取り出してシャドーボクシングし始めた姿を見て和んでしまったのは仕方ないと思う。ぶっちゃけさぁ……オーフィスより感情あるだろ? もしかしてリゼちゃんがその辺を弄ったのかねぇ? まぁ、どうでも良いけどさ。

 

 さてふざけるのもこの辺にしてマジでどうすっかな……オーフィスの力から生まれたらしいから少なくともオーフィスよりは弱体化してると信じたいがそもそも無限から生まれてる以上、常識なんざ通じるわけがない。無数の影人形を生み出してタコ殴りと言う手もあるが絶対効かないだろうしなぁ、こんな事ならグラムを捨てるんじゃなかったぜ……いやあのチョロインは地上で邪龍もどきを平家と一緒に活き活きしながら首落としてるから呼ぶのもメンドイ。というかリリス相手に武器使うのはなんか負けた気がする。いやそもそも夜空が居るんだからカッコつけたい! ほら! 強大な相手に立ち向かうのって乙女心に響くとかエロゲーで言ってたような気がするしこれはやるしかねぇな! そしてなんだかんだでここ最近は良い雰囲気になってるっぽいからそのままお持ち帰りからの初エッチ! 完璧すぎて讃えてくれても良いレベルだ……そう思わねぇか相棒!

 

 

『宿主様……んな王道は却下だ! ヤるなら無理やりにでも押し倒せ! 泣き叫ぶ女の声が快楽に染まっていく過程は最高だからな!!』

 

 

 流石だぜ相棒! なんか夜空からキモいって言われた気がするが俺にとってはご褒美だし何も問題無いな!

 

 

「つーかマジでどうするん? 下手すると私の光でもダメージ与えれねぇよぉ? まー金色の鎧になっても良いんだけどいきなりそれはつまらねぇっしょ?」

 

「まぁな。俺も同じ理由で漆黒の鎧は即効で使いたくねぇ。なぁ、夜空? 気合で威力アップとかならねぇか?」

 

「無理に決まってんじゃん。ノワールこそどうなのさ~なんかこう、一気にパワーアップ! って感じになる方法とか無いん?」

 

「おいおい夜空ちゃん……聞いちゃう? それ聞いちゃう? そんなの……そんなの――あるに決まってんだろうが! 良いか夜空! お前の腋を舐めさせてくれたら神でも魔王でもリリスちゃんでも殺せるぐらい凄くパワーアップするぞ!! マジで強くなるから一回試してみようぜ!」

 

「死ねよ」

 

 

 う~ん! このゴミを見るような視線から放たれる光は何度浴びてもゾクゾクするぜ。はいはい再生再生っと。あれ……なんかいつも聞こえている女の声が聞こえないんだが気のせいか? まぁ、良いか。ぶっちゃけどうでも良いし。でも夜空……俺は間違った事は言ってないぜ! 夜空の腋を舐める事が出来たならきっと一勢力ぐらいは余裕で殲滅出来ると確信しているからな。だって腋だぜ? 夜空の腋だぜ? 最高じゃねぇか!

 

 

「いきなり何すんだよ?」

 

「ん? だってキモかったし」

 

「てんめ……! 人が折角真面目に答えてやったのにキモいってなんだよ!! 言っておくけどマジでパワーアップするからな! 俺の本気の本気が見たかったらさっさと腋を舐めさせろ」

 

「はぁ? なんでノワールにこのぷりてぃで美少女な夜空ちゃんの腋を舐めさせねぇといけねぇのさ。馬鹿じゃねぇの? つーか馬鹿だったのすっかり忘れてたかも。腋舐めてパワーアップとかするわけねーだろ」

 

「やってみないと分からねぇだろが! ほら、一誠もおっぱい絡みだったら俺と同じことするはずだぜ? つーわけで俺はいつでも準備万端だぜ!」

 

「死にてぇの?」

 

 

 少なくともお前を抱いてイチャイチャして子供を産んでもらうまでは死ぬ気はねぇよ。

 

 そんな事を思いつつ肩から降りた夜空と向かい合いながら殺気をぶつけ合う。何やら地上から「何で共闘なのに殺し合おうとしてるんすか!?」と頭おかしいと言いたそうな表情をしている犬月からツッコミが入ったが仕方ないんだよ……! だって俺にしては珍しいぐらい真面目に答えたのにキモいからの光ぶっぱだぜ? そりゃあ、こうなるだろ?

 

 

「あ、ごめんリリスちゃん。ちょっと今から夜空と殺し合うからそこで見物しててくれ……そう言えばここ最近お前と殺し合ってなかったな。良い機会だから久しぶりに殺し合おうぜ!」

 

「にひひ! そうこなくっちゃ!! つーかいい加減その変態思考やめた方が良いよぉ? この女神よりも優しい私だったら良いけど他の女が聞いたらドン引きもんっしょ」

 

「お前以外の女とかどうでもいいから問題ねぇよ」

 

「……ふーん、へー、ほー。うーん、ん? なにさユニア……? ノワール、チョイ待ってろ」

 

 

 何故か夜空が俺に背を向けた。恐らくユニアと会話をしているんだろうが珍しいこともあるもんだ……あの夜空が俺に背を向けるなんざ殆ど無いからな。約一分か二分ぐらい経った後で夜空が俺に振り向いたが何やら企んでいるような顔をしている……まーた何か思いつきやがったかぁ?

 

 

「ねぇ、ノワール」

 

「あん?」

 

「腋舐めたらパワーアップすんだっけ?」

 

「おう」

 

「――じゃあ、舐める?」

 

 

 ……マジで?

 

 

「……夜空、悪い。ここ最近ヤンデレに囲まれて生活してたから耳が遠くなったらしい。もう一回! もう一回だけ言ってくれ!」

 

「ん~? だから舐めてみるって言ったんだけどぉ! ほら結構前に汗臭いだの腋処理してないだのとか言われて匂い嗅げぇ! とか言った気がすんじゃん? でも結局できなかったしその続きをしても良いかなぁってね。あとノワールがドンだけパワーアップするか見て爆笑したい!」

 

『良いですよ夜空……! そのまま地上にいる敵に格の差を見せつけなさい! 私と歴代達は応援していますよ!!』

 

『ゼハハハハハハハハ!! 良かったじゃねぇか宿主様!! 念願だった惚れた女の腋を舐めるなんだ何が何でもパワーアップしねぇといけねぇぜ! 俺様も男の娘の腋を舐めても良いと言われたら喜んで全力を出すからなぁ! ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! 楽しくなってきやがったぜ! おいリリス! テメェはそこで菓子でも食って待ってやがれ!!』

 

「わかった」

 

 

 何やら地上から「王様!? 頼みますからこれ以上爆弾を爆破しないでください!!」とパシリ属性特化の犬月が吠えたが無理に決まってんだろ。いやマジで死に過ぎて幻聴が聞こえたかと思ったわ……え? マジで舐めて良いの? あのユニア様! これってもしかして貴方様が夜空に助言したのでしょうか! ありがとうございます!! マジでありがとうございます!!! お礼としてうちのパシリの童貞を捧げますのでこれからもよろしくお願いします! いやしかし地上からの威圧感がやべぇなおい……なんだあれ? 邪龍もどきが殺される速度が加速してるんですけど!? あーこの分だとあと数分で殲滅するな。つーか先輩方がドン引きしてるから程々にしとけよ?

 

 さてそんなどうでも良いことは置いておいて舐めて良いと言われたら悪魔として受けなければならない。これは決して俺の欲望とかじゃなくて目の前に居るリリスを倒すために必要な事だ。必要な事なんだ! ヤバイ……生まれて初めて女の裸と言うか初めて平家の裸を見た時ぐらいドキドキしてるんだがこのまま死ぬんじゃねぇかな? いやここまで真面目で誠実で品行方正で周りから尊敬されるように頑張ってきた俺に対するご褒美だろうきっとそうに違いないマジでそうだろ! よし……やるか。

 

 

 心の中から何かが溢れ出しそうになるのを抑えつつシャドーラビリンスを展開する。だって他の奴に夜空の腋を見られたくねぇし……見て良いのは俺だけだ。そのまま夜空に近づくと着ていた制服とYシャツを脱いだ。その動作一つ一つを脳内と心に刻み付ける作業を行いつつ視線はノーブラだったことでチラリと見えた胸から腋へと移る。なんだこのご褒美は……? 俺ってこの後死ぬのか? いや死んでも良いや。何が何でも生き返れば良いだけの話だしな! しかしヤバい、何がヤバいかってエロイ。マジでエロイ。平家や四季音姉のちっぱいなんかもはやエロくもなんともないと思えるぐらい目の前の夜空のちっぱいがエロい。そして何よりも腋が素敵すぎる件について! いやー今まで真面目に生きて本当に良かったわ!!

 

 

「……あのさ、つーかなんでこうなったん?」

 

「……いや、悪い。ぶっちゃけるとパワーアップ云々はノリで言った」

 

 

 今の俺達の状況を例えるならばオナニーしようとして偶には手を出さないジャンルをオカズにしてみたはいいけど終わってみたら「なんで俺……これでオナニーしたんだ?」と冷静になってしまった感じだろう。つまり賢者タイムって奴だ……うん、なぜこうなった? いや俺的には嬉しいから文句は無いけどね!

 

 

「そんなの知ってるっての。ほら……舐めるんならさっさと舐めてくんない? けっこー恥ずかしいんだからさ」

 

「お、おう」

 

 

 夜空が良いというなら俺は舐めるだけだ。前は水無瀬に邪魔されたがこの場に邪魔者はいない……夜空の腋に顔を近づけると汗のにおいがしたが嫌いなものでは無かった。むしろ最高だと叫びたいね! 本当ならばあと数時間ぐらいはこのままでいたいが待たせるのもあれだしそのまま一気に近づいてペロリと舐める。汗特有の味が口の中に広がるが今の俺からすればどんな飲み物よりも美味く感じた。

 

 

「……くすぐったいんだけど」

 

「……」

 

「……おいノワール? なんか言えよ」

 

「――た」

 

「ん?」

 

「きたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!!!!!!!!!!』

 

 

 夜空の腋を舐めたという現実に脳がようやく認識した瞬間、全身に力が行き渡り鎧に埋め込まれた宝玉が異常とも言えるほど輝きだした。能力の発動を知らせる音声があまりの力にエラーかと勘違いするほど今までになかった「S()」の音声を吐き出し続けて全てと飲み込むほどの影が俺から生み出され行く。先に発動していたシャドーラビリンスは即効で吹き飛んだせいで先ほどまでの光景へと戻ったがそれを覆いつくすように俺が生み出した影に周囲が包まれていく……それは光すら存在しないほど濃い漆黒のようなものでもぐもぐとお菓子を食べていたリリスが後ろに下がるほど異常な影が俺から生み出され続ける。正直、俺も何しているのか全くと言って良いほど分からないがこれだけは言える――

 

 ――今なら神だろうと魔王だろうと即座に殺せるぜ。

 

 

「ちからがあがった。こわい」

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 夢の一つ叶ったぁぁぁぁぁっ!!!!! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 今なら神だろうが魔王だろうが龍神だろうがなんだろうがぶっ殺せる気がするぜ! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!! いやったぁぁぁぁっ! さぁ! 待たせたなリリスちゃん!! 殺し合いの続きといこうぜ!!」

 

『SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!!!!!!!!!』

 

 

 通常の鎧で生み出されないであろう影が人型へと変化している。悪いがさっきまでとは威力が段違いだから気をつけろ!!

 

 生み出された影人形はその場だけが削り取られたと錯覚するほど濃い色合いで体から影が漏れ出している。それがリリスを敵と認識した瞬間、一気に距離を縮めて先ほどと同じようにラッシュタイムを放つ――あり得ないほどの轟音と地上が吹き飛ぶ音が周囲に鳴り響きリリスは遠くへと飛ばされる。ゼハハハハ……! まだ、まだ終わらねぇぞ!! 殺し合いは再開したばっかじゃねぇか! オーフィスと同じ力を持ってるんならこの程度で終わるんじゃねぇぞ!!

 

 俺のテンションに呼応するように音声が鳴り響くもあまりに異常な力の放出のためか鎧の宝玉が割れるという事態が発生したが傷が治るように即座に再生される。今まで能力を使用してて宝玉が割れる事なんて無かったんだがなんだこれ!? まぁ、良いか。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハハハ!!! 最高だぜ宿主様!! 惚れた女の腋を舐めただけで生前の俺様と匹敵する影を生み出すとはなぁ!! 最高だ! あぁ、最高過ぎるぜ!! やっぱり俺の宿主様は最強だ!!』

 

「うわすっげ、漆黒の鎧になってないのにこれとか……あははははははははは!!! さいっこう!! やっぱりノワールって馬鹿だ! マジで馬鹿だ! 腋舐めただけでテンション上がってこれとかもう最高! こんな事ならもっと早くやっとけばよかったかも!!」

 

『まさかこれほどとは……これが愛の力というものなのですね!! あぁ、なんて素晴らしい!! クフフフフフ! クロム! 私は夜空と出会えて、ノワール・キマリスと出会えて本当に良かったと思えます!』

 

『当然よぉ!! 俺様の宿主様が、俺の息子がその辺にいる雑魚と同じなわけねぇだろうが! ゼハハハハハハハハハハハハハハハハ! そうだもっともっと!! もっと上がれ! 聖書の神の封印なんざ内部からぶち壊せ!! ゼハハハハハハハハハ!! ゼハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

『腋を舐めただけでこれだとするとエッチした場合はどうなるのでしょうか……考えれば考えるだけ興味がわいてきます! 愛の力とは私の予想を大きく上回るものですね! 夜空、もういいでしょう? 既に条件は整っています――あとは貴方次第ですよ』

 

『そういやぁテメェの場合は……そうだったなぁ。良いんじゃねぇの? どうせ宿主様もテメェの宿主も相思相愛ってやつなんだ! この際だ! 盛大に暴露しても良いと俺様は思うぜ!』

 

「暴露って何さ? そもそも私がノワールの事が大好きだって知ってるっしょ?」

 

 

 なにやら相棒とユニアが楽しそうに語り合ってるが今はそれどころじゃない。夜空の腋を舐めた、腋を舐めた! 大事だから何度も言うが夜空の腋を舐めた!! 最高でした。うん、マジで最高過ぎて力が溢れ続けてくるんだがなんだこれ? いやーうん、ありがとう! マジでありがとう!!

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!』

 

 

 影が生まれ続けると同時に周囲全ての力が一気に奪われて俺の力となる。俺達を囚われている異空間自体が悲鳴を上げるように空間に亀裂が入っていくが驚くところは底ではない……力を奪う速度、そして力が高まる速度は通常の鎧だというのに異常なペースなんだ……下手をすると漆黒の鎧状態よりも速いかもしれない。うわぁ、ノワール君ってばテンション上がりすぎぃ! 仕方ないね! 夜空の腋を舐めたんだから上がっちゃってもおかしくないし! 夜空の腋を舐めた、腋汗美味い、マジ最高! 今ならリゼちゃんの神器無効化すら突破出来そうだ! 何やら地上からドン引きしているような視線を感じるが気のせいだな! うん気のせい気のせい!

 

 そのままの状態で吹っ飛ばされたリリスへと近づいて拳を叩き込もうとするとカウンターとばかりに一発の拳が俺の胴体に叩き込まれた。その威力は常軌を逸しており、脳が認識した時には体の大部分が吹き飛んでいた。たった一瞬、たった一発殴られただけでこの様だが……残念だが死ぬわけねぇだろうがぁ!!!

 

 

『UndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 今まで以上の速度で吹き飛んだ体が再生する。確かに今までだったら確実に死ぬかもしれない一撃だった……あんなの何発も喰らったら精神が折れそうになるかもしれないな。でも残念な事に今の俺達はそう簡単には死なねぇぞ! テンション上がり続けてる俺を甘く見るんじゃねぇよ!!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハ! どうしたリリス! オーフィスの力から生まれたくせにその程度かよ!! ふざけんじゃねぇぞ……今の俺を止めるんだったら全然足りねぇぞ!!」

 

「なんでたおれない……こわい、こわい」

 

「怖がってんじゃねぇよ! テメェもドラゴンだろうが! 楽しめよ! 目の前の戦いを……殺し合いを! オーフィスの力から生まれたって言ってもテメェはテメェだろうが!! ほら、来いよ! こっちは全力でテメェを殺しに行くんだからお前の力を俺に叩きこんできな! 夜空!!」

 

「ん~? どったん?」

 

「俺はお前が好きだ。だから……聞いとけよ!」

 

 

 この異空間が崩壊に向かって進んでいく中、俺は静かに呪文を唱え始める。聞かせてやるよ……俺の思いを! 欲望(ねがい)をな!

 

 

「我、目覚めるは」

《始まるか》《始まるのだな》

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり」

《我らは誤解していた》《あぁ、誤解していたな》

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る」

《この者が求めていたものはただ一つだ》《覇王などただの通過点に過ぎない》

 

「我、()()()()()()()()()()()()と成りて」

《この者はこれしか望まぬ!》《この欲望こそがこの者であるための証明なのだ!》

 

《だからこそ邪魔するならば神だろうと魔王だろうと世界だろうと全て滅ぼそう!!!!》

 

 

 さぁ、始めるぜ!

 

 

「「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!!!」」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 俺の纏う鎧が黒から漆黒へと変化する。気づいたか夜空……? この姿になるための呪文が変わってることによ! あぁ、そうだよ……俺はお前が好きだ。お前が欲しいんだ! 目指す場所は覇王なんかじゃない……お前の隣だ。覇王なんて興味ねぇ……夜空(おまえ)に惚れてる悪魔で十分だ! 誰にも邪魔なんてさせねぇ! 好き勝手に生きて好き勝手殺し合って好き勝手に死んでいくのが俺達なんだからな!

 

 漆黒の鎧を纏った事で俺達が囚われていた空間が崩壊してシトリー領の景色が現れる。もっとも即座に周囲が吹き飛んで行ったり体から漏れ出す呪いが広がって地獄になったりしてるけどな!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ!!! これが俺の辿り着いた通過点……真の影龍王の漆黒鎧・覇龍融合だ! まさか怖がってるわけじゃねぇよな? おいおいふざけんじゃねぇぞ! ドラゴンなら楽しめよ! 高笑いしながら殺し合おうぜ!!』」

 

「リリスはドラゴンじゃない。オーフィスのちからからうまれたそんざい。だからちがう」

 

「『はぁ? 違わねぇよ! オーフィスはドラゴンだ、そんでその力から生まれたんならテメェもドラゴンなんだよ! 小難しいこと考えんな! 自分はドラゴンだと胸張ってやりたい事やればいいんだよ! それより聞きてぇんだが――なんでテメェはリゼちゃんと一緒に居んだぁ?』」

 

「リゼヴィムをまもる。これがリリスのおしごと。だからいっしょにいる」

 

「『おいおいマジかよ? もったいねぇなおい! オーフィスみてぇに好きに生きれば良いだろうが! まぁ、それを決めんのはテメェだからこれ以上は言わねぇが……これだけは言っとくぜ。あんなのと一緒に居るよりテメェでやりたい事見つけて動いた方が百倍楽しいはずだぜ!』」

 

「わからない。たのしいってなに?」

 

「『んなのはテメェが感じる事だから聞くんじゃねぇよ! ほら一発行くぞ!』」

 

 

 疑問の表情を浮かべているリリスに一瞬で接近して拳を叩き込む。殴った感触から言えばなんて言うんだろうな……手応えがない。空気を殴ったような感じだ……まっ、痣が出来てるってことは効いてるんだろ! リリスはのそりと起き上がって波動らしきものを飛ばしてきたので影法師を生み出してラッシュタイムで防ぐ。放たれてくる波動は一発一発が異常な威力だろう……だがな! 今の俺はその程度じゃ止まらねぇぞ! ゼハハハハハハハハハハ! 呪文が変化した事によって出力が減るかと思ったら逆に上がり続けてやがる! やっぱり的外れな事を目指してるよりも心の奥底から目指す方が良いってことか!

 

 向かってくる波動を影法師のラッシュタイムで防ぎながら一歩、また一歩とリリスに近づいて行くがリリスは逆に俺が近づくごとに一歩、また一歩と後ろへ下がっていく……まぁ、だろうな。オーフィスの力から生まれたって言ってもオーフィスじゃねぇんだ。リリスはリリスという一人の女……女、だよな? まさかあの見た目で男だったら相棒が大喜びするが違うよな? やべ、気になってきた……まぁ、良いやめんどくせぇ。男だろうが女だろうがどうでもいいしな。

 

 そろそろ終わらせるために影法師を動かしてリリスの正面へと移動させて――拳を放つ。それは顔面に当たるスレスレで止まるも威力があり過ぎたのか背後を衝撃が通っていく。やべぇ……住宅地っぽい所が吹っ飛んだ。事故事故! うんうん事故だから仕方ないね! 殺し合いだから仕方ない!

 

 

「なんでなぐらない?」

 

「『んぁ? やる気のねぇ奴と殺し合ってもテンション上がらねぇんだよ。だからこれで遊びは終わりだ……帰ったらリゼちゃんに伝えとけ――次はテメェの番だってな』」

 

 

 俺の言葉を聞いたリリスは頷いてこの場から消え去った。さてと……さっさと帰りたいところだがまだ終わるわけにはいかねぇんだよな。

 

 

「『なぁ、夜空。ちょっと休んだら付き合ってほしい場所があるんだよ』」

 

「別に良いけどさぁ~どこ行くん?」

 

「『決まってんだろ……冥府だよ!』」

 

 

 

 

 

 

《ハーデス様。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが蘇らせた魔法使い達は全て殺害されたようです》

 

 

 場所は冥府、ギリシャ神話勢力の三柱が一人、ハーデスが治める神殿に少数の死神が集まっていた。彼らを従えているのはこの地の長であるハーデスだ。

 

 

《フォフォフォ、やはりあの程度では歯が立たんか。アポプスめはこちらの契約には乗らんか》

 

《はい。冥府に関わりがあるかの邪龍ならばこちらに力を貸してもらえると思っていましたが首を縦に振る気配はありません》

 

《よい。元より期待などしておらん。忌々しい邪龍共め……我が冥府を破壊した罪は必ず償ってもらわねば困る。しかしゼウスめ……何故サマエルの封印を強固にしたのだ。あれならばドラゴン共を確実に殺せるというのに……!》

 

 

 怒気を含んだ声で主神であるゼウスを批難するハーデスの心情は口調通り怒りに染まっている。先の魔獣騒動にて地双龍ことノワール・キマリス、片霧夜空の両名にて冥府は崩壊寸前まで破壊され多くの死神も虐殺された。この件に対しハーデスはゼウス達を始めとするギリシャの神々に和平を解除するように進言するもゼウスならびにポセイドン、そして多くの神々から返ってきた答えは「サマエルの封印を弱めテロリストに明け渡した貴様の責任だ」「あれらに喧嘩を売ったお前が悪い」とハーデスを批難するものだった。

 

 このことに対しハーデスは屈辱を覚え冥府を復興する傍らで復讐を行うべく行動を開始し始めた。多くの邪龍に離反され戦力を求めていたリゼヴィムに協力したのもそのためだ。地双龍に虐殺された多くの魔法使い達が復讐心に燃えていたことを知っていたからこそ彼らの魂を明け渡した――その結果、自らを破滅へと誘う事も知らずに。

 

 

《は、ハー、デス……さま》

 

 

 次なる手を考えていたハーデスの前に一人の死神が現れる。体から多くの出血に四肢の殆どが消し飛ばされているという痛々しい姿にハーデスを始めとした周囲の死神達は驚きの表情を浮かべた。そして同時に響き渡る多くの轟音と衝撃に彼らの脳裏には二人の存在が浮かび上がった。

 

 まさかそんな、ありえないと信じたくは無いと思い続ける死神を嘲笑うかのように一組の少年と少女が現れる。どこかの学生だと証明する制服を着た少年と少女は嗤いながら一歩、また一歩と近づいてくるたびに死神達は「死」を悟った。

 

 

「ヤッホークソ骸骨様。遊びに来たぜ」

 

「つーかホントにだっせぇ格好してるよね~骸骨のくせに司祭服だっけ? んなの着るんじゃねぇよ」

 

《……久しいな邪龍共。此度は何用だ? そこの死神の姿から察するに襲撃か。馬鹿め、これはれっきとした侵略行為と判断させてもらおうか》

 

「勝手にすれば良いだろ。てか先に手を出してきたのはテメェの方だろうが?」

 

《フォフォフォフォフォ、おかしなことを言う。我らは貴様らに破壊された冥府を時間が許す限り復興に力を注いでいたのだ。何をもって貴様らに手を出したという?》

 

「俺の領地、キマリス領で俺達がぶっ殺したはずの魔法使いが現れて襲撃したんだよ。ついでに言うと新しく建てた学校もな。声高々に暴露してくれたぜ? テメェがリゼちゃんと取引して魔法使いの魂を渡したってな」

 

《知らぬな。見ての通り、貴様らに破壊された事で抜け穴が多くなってしまった。かのルシファーの息子もそこから侵入した――》

 

 

 ハーデスの言葉は最後まで聞こえなかった。少年が得意とする式、影人形の拳がハーデスの胴体に叩き込まれたのだ。この場を支配するのはハーデスではない……明確な殺意を放つ少年と少女の姿に死神達は地に膝をつき始める。

 

 

「生憎、テメェの言葉なんざ知るか。どうせ隠れてコソコソなんかやってんだろ? 前にも言ったよなクソ骸骨様……俺達の邪魔をしたら殺すってよ。それにな、こっちは自分の領地を、そこに住んでる奴らを襲撃されてイライラしてんだ。覚悟は良いな?」

 

「言っておくけど今回はマジでぶっ殺すから。私の邪魔を……うーんなんか違う。そう! 私が惚れてる男との楽しみを邪魔すんじゃねーよ。なんだかんだで学校生活ってのすっげー楽しかったのにさ、何してんの? そもそもノワールの母親の姿真似て脅すとかあり得ねぇし。あれ殺していいの私だけだから」

 

「いや殺されても困るんだが……まぁ、本人は無事だったんだし良いだろう。もっとも許す気はねぇけどな――よくもこの俺にアイツを見捨てるような行動をさせたな。いや度胸あり過ぎてホントに笑いが出てくるわ」

 

 

 少年、ノワール・キマリスと少女、片霧夜空の表情は無表情だ。怒りの口調だとしても表情は変わることはない……自分達の楽しみを邪魔した愚か者を殺すためだけに此処に来たと理解したハーデスはいつもの様に不敵な笑みを浮かべる。冥府にいる限り不死である自分の前にノコノコと現れ、殺害する理由も十分にあるのだから当然と言えば当然である。

 

 

《ふむ、なにか勘違いをしておるようだが此度の件には我らは関係ない。しかし襲撃したのであれば応戦させてもらおう。思い上がるのも大概にせよ、その身に宿る神滅具諸共滅ぼして――》

 

 

 勝ち誇った声を出していたハーデスに()が襲い掛かる。神殿諸共周囲の死神すら貫く絶対的な力に襲われたハーデスは驚愕の表情を浮かべた。あり得ない、そんな事があるはずがないと目の前で起きた光景が理解できなかった。

 

 雷を放ったのは光龍妃と呼ばれる少女、片霧夜空。人間でありながら常軌を逸した力を持った規格外、その真実を知っている自分だが目の前の光景はあり得ないの一言だ――光を生み出し操る神器から「雷」が放たれたなど信じられるわけがない。なおノワール・キマリスも夜空から放たれた雷の事を知らなかったのか無表情から困惑へと変わっている。

 

 

「……え? あの~夜空ちゃん? なに今の?」

 

「ん? 生前のユニアが持ってた能力だけどぉ~? どうどうビックリした? にひひ! どっきり大成功って奴? つっても使えるようになったのって此処に来る前なんだけどね」

 

「マジで? てか使えるようになったなら教えろよ! マジでびっくりしたわ! 夜空、大好き! よしドンドンぶっ放せ!」

 

「がってん!」

 

『TonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonitrus!!!』

 

 

 全身を覆う美しい鎧を展開しながら笑みを浮かべて夜空は雷を放つ。槍のように鋭く、その威力は普段放たれるものを遥かに超えており、ハーデスが防ごうと展開した障壁を簡単に破壊する。再び雷に身体を貫かれたハーデスから痛みに耐える声が漏れるがそんな事は関係無いとばかりに夜空は雷と光の二つを同時に生み出し――雷光を放つ。

 

 纏っていた司祭服が吹き飛び、地にひれ伏したハーデスに対して夜空は、いや光龍妃と称される邪龍、ユニアは声を出す。

 

 

『感謝しますよギリシャの神、ハーデス。聖書の神によって封じられたこの力を引き出せたのは間接的とはいえ貴方のお陰なのですから。クフフフフフフ! あぁ、気分が良いですね! 一人の女を心の底から愛する男を知り! 一人の男を心の底から愛する女を知ったのですから! これが愛と言う感情! 中々悪くないですよ……さて私の雷のお味はいかがでしょう? クフフフフフ! 防御など無意味とだけ言っておきましょう。そして改めてご挨拶を――我が名はブリューナク、雷龍妃と称された邪龍です』

 

 

 ユニア、いやブリューナクは雷を操る邪龍だった。その身から放たれるそれはあらゆる防御を無意味にする破壊力を持っており太古の世界で神々が恐れたのもこの雷だった。触れば身を貫かれ、防ごうとしても全てを破壊する雷は彼女を孤独にした……だからこそ愛を求めた。男女の交わりなど彼女が居た世界、ケルトでは普通の事だったからこそ今の自分を愛してくれる存在を求め続けた。そして――クロムと出会った。

 

 彼女が操る雷に触れても死なず、何度殺しても蘇る彼を見たブリューナクは死なないならば殺してみたいと思い始める。影を操る彼に対抗するために「雷」を「光」へと替え、力を奪う能力に対抗するために力を高める能力を会得した。ブリューナクは自らが楽しみながら相手を殺す事が愛だと思っていたからこそクロムを殺すために力をつけ――光龍妃となった。

 

 

『ユニアなど一人の女であると知らしめるために名乗っていたに過ぎませんしブリューナクとして名乗るは数千年ぶりですね。光栄に思いなさい、私とクロムを宿す彼らに殺されるのですから!』

 

『ゼハハハハハハハハ! 懐かしいぜぇ! あのクソババアの下から離れて遊び回ってた俺様をぶっ殺そうとして来やがったんだからな! まぁ、勝ったがな! ほれ宿主様。さっさと帰ってしほりん達のお説教タイムといこうぜ!』

 

「説教されるために早めに帰るってなんかなぁ……まぁ、良いけど。と言うわけでさっさと死んでくれ――我、目覚めるは」

 

 

 ノワールの口から呪文が唱えられる。それと同時に彼の体から数多の怨念、呪い、負の感情と言うべきものが溢れ出した事にハーデスは無意識に一歩後ろへと下がった。死を司る神だからこそ彼の体、いや神滅具には無数の人間の魂が封じ込められていると理解してしまったのだ……呪文と共に聞こえる老若男女の声は醜悪で目を逸らしたくなるほど悪質な感情に染まり、その中で助けを求める声もある。そう――聖杯にて蘇った魔法使い達全ての魂は影龍王の手袋に封じ込められ未来永劫死すら生温い地獄に囚われ続ける羽目になったのだ。

 

 呪文が終わりノワールが漆黒の鎧を纏った直後、全てを染める呪いが冥府に広がる。生存した死神も、新しく生まれた死神も、死をもってこの地を訪れた魂すら飲み込む呪いにハーデスは怒りを覚える。ふざけるな、再び我が領域を穢すかとノワールの生命力を奪い取るべく接近した。

 

 

《見くびるな小童! 原初の時より生きる私の力を知るが良い!!》

 

 

 ハーデスの両手がノワールに触れた瞬間、彼の姿が白骨化した。悠久の時を生きる悪魔の寿命、生命力を全て奪い取ったからだ……目の前に広がる光景にハーデスは次は光龍妃だと視線を逸らした瞬間――白骨化したはずのノワールが動き出した。

 

 頭部を掴まれ地面へと叩きつけられた事にハーデスは全て奪い取ったはずなのになぜ動けると目の前の現実を認識出来ずにいた。

 

 

「『――おいおいクソ骸骨様! なに勝ち誇った顔になってんだ? たかが生命力を奪い取っただけだろうが!! その程度で死ねるんなら俺様は、いや俺達は影龍王と呼ばれてねぇよ!!』」

 

 

 無数の影が白骨化したノワールに集まっていき、時が巻き戻るように肉が、皮膚が、鎧が、魂が、生命力が再生していく。冥府に訪れる前に行っていたリリスとの戦いでノワールは神滅具に施された聖書の神の封印を内部から破壊するという荒業を行った。全ての封印を破壊したわけでは無いが他の封印系神器に比べると影の龍クロムが持つ力を生前に近い形で引き出せるようになった事により今のノワールは全身が吹き飛ぼうと生命力が無くなろうと魂の一欠片でも残っているならば死ぬことなく蘇る。彼を殺すならば再生する前に封印するしかないが……再生速度が異常なため愛する存在である夜空しか殺せないと知るのはクロムとブリューナクのみである。

 

 

《……ッ!!!!!》

 

 

 ハーデスが生命力を奪おうとノワールは再生し、影法師によるラッシュが叩き込まれる。何度奪おうと高笑いしながら蘇り、お返しとばかりにハーデスの力を奪い取りながら呪い(いたみ)を与える。魂に直接痛みを与えるクロムの呪いは神すら殺せるためハーデスですら逃れることはできない。

 

 影の龍クロムは影を生み出す事と不死身であるだけが取り柄だった。無論、強者と呼べるほどの実力を持っていたが生まれた地である影の国の女王、スカアハによって幾度も殺された事が原因で自らが味わった痛みを他者に与えたいと思うようになった。そして影の国から去り、今までの鬱憤を晴らすように多くの戦いと数えきれないほどの殺戮を行いながらも弱い自分から抜け出したいと、味わった苦痛を他者に与えたいと思い続けた事で力を奪う能力と痛みを与える能力に目覚め……そして力をつけすぎた彼は影龍王として神々から恐れられるようになった。

 

 

「『おいおいこんなもんかよ? しっかりしてくれよハーデスさまー! こんなんじゃ死なねぇぞ! ゼハハハハハハハハハハハハ!! ほらほら、頑張れ頑張れ!』」

 

《ヌ、ウゥゥ、あ、ァァァッ!!!》

 

「『まっ、もう飽きたから殺すけどな』」

 

『PainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 音声が鳴り響くとハーデスが痛みに耐えきれず悲鳴を上げる。何故私がこのような目に合わねばならない、何も間違った事はしていないのに何故だ、人間達を巻き込んでいるのは貴様達だと声に出せぬ状態であるため心の中で叫び続ける。このままハーデスが死ねば冥府は大混乱に陥り、人間界にも影響が出るだろう……しかしそんな事は関係無いとばかりにノワールと夜空は動き続ける。

 

 既に夜空も金色の鎧を纏っており、全てを浄化する光が冥府に広がっていく。魔を滅する浄化と全てを飲み込む呪いに染まった冥府は復興すら不可能だろう。

 

 

「『あっ、なんかなんで私がこんな目にって思ってそうだから言っておくぜ! ウザいからに決まってんだろ』」

 

「というわけで――さよなら」

 

 

 ノワールと夜空が手を繋ぐと光と影が混ざり合った混沌が生まれる。魔獣騒動にて超獣鬼を殺した一撃が神であるハーデスに向かって放たれる。光と影、浄化と呪いに雷という相反する属性によって生まれた渦に巻き込まれたハーデスは「苦痛」の能力によって倍増した痛みを浴びて――不死であることすら放棄し蘇ることなく消滅した。

 

 

「『――よし帰るか』」

 

「そうすっかぁ~でも良いの? あの骸骨不死身っぽいから蘇るぜ?」

 

「『蘇ったらまた殺しに来ればいいだけだろ? あーあ、帰ったら水無瀬や橘、レイチェルから説教とか最悪だな。ただ腋舐めただけでなんで怒られんだよ……!』」

 

「変態だからじゃね?」

 

「『変態じゃねぇよ紳士と呼べ』」

 

「うわうっざ」

 

 

 神を殺した二人は特に思うことなく冥府から姿を消した。

 

 この日、死を司る神であるハーデスは地双龍によって死を迎えた。




「雷」
ユニアことブリューナクが生前保有していた能力で「防御の類や耐性すら破壊する雷を生み出す」というノワール涙目な代物。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

108話

「えーこれよりキマリス領内の復興作業を開始しようと思う。昨日も今日もこのクッソ忙しい状況に加えて本当にめんどくせぇにも関わらずこの場に集まってくれた鬼、京都妖怪、東の妖怪達にはこの場を借りて感謝させてほしい。まぁ、長ったらしい挨拶は嫌われるんでこの辺にして……最後に一つだけだ! さっさと終わらせて宴会だぁ! そんでうちのアイドルの生ライブ楽しむぞぉ!!」

 

 

 剣の姿に変化しているグラムを握り、天へと掲げる動作と共に目の前に集まっている鬼や妖怪達に向かって叫ぶと俺の怒号に近い叫びを聞いた主に男の鬼や妖怪達は一斉に雄叫びを上げるようにうおぉぉぉ! と返答してくる。昨日も一昨日も思ったんだけどさ……皆さんテンション高くないですか? そこまでうちのアイドルの生ライブが見たいか! 流石鬼や妖怪達だ! ノリが良い! これがもしその辺にいる悪魔達だったらおーとやる気のない態度になるはずなのにクソめんどくせぇ復興作業を無償で手伝いに来てくれた挙句にノリノリとかやっぱり鬼と妖怪達って最高だわ!

 

 あっ、ちなみにグラムを剣にしてる理由は特にない。強いて言えばカッコつけのためだ……いやだって百を優に超す集団を前にしてそれっぽい恰好しないのはおかしいだろ? だからこれは必要な事だから納得しなさい……誰に言ってるって顔してるがただの復興作業なのに戦争行くみたいとか思ってるであろうお前に言ってるんだよ!

 

 

「総大将! 今日は何をすれば良いか教えてくれ!」

 

「そうだな……まぁ、昨日と殆ど変わらねぇよ。鬼達は四季音姉……じゃなかった、伊吹だ伊吹! いつも通りお前らの次期頭領様の指揮に従って動いてくれ。あいつはこっちで大工関連の仕事をしてたから俺なんかより何をすれば良いかが分かるはずだ……あーあと四季音妹……じゃねぇあーと茨だ茨! ソイツとも協力しろよ?」

 

「了解だ! 野郎共!! 伊吹様と茨様の下へと向かうぞ!! 俺達の日夜鍛え続けた腕力を総大将に見せる時だ!! 怠けた野郎はもれなく寧音様との殴り合いだってよ!!」

 

「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

 

 鬼達がやる気に満ち溢れた笑顔で俺から離れていくが……すいません! 寧音と殴り合いするなら俺も参加したいんですけど! あのー聞いてます!? そんな大事な事をなぜもっと早く言わねぇんだお前ら!! おい! 待て! マジで待て!

 

 

「総大将殿! 我々は何をすればよろしいか!!」

 

「京都妖怪達は……そうだな。昨日までと同じように力自慢な奴は鬼達と協力、料理が得意な奴は水無瀬の所に行って昼飯と宴会用の料理の準備だな。後は……あー空飛ぶのが得意な奴は上空から地形を把握して平家、俺の所の覚妖怪に伝えろ。平家からの指示があり次第、妖術が得意な奴は吹き飛んだり歪んだりしている地形を直す! よし完璧だな! 人手が足りなかったらその辺にいるニーズヘッグとうちのパシリをこき使っても一向に構わん! 最悪、俺が影人形を大量生産して時間短縮するから気楽にやろうぜ! とりあえず東の妖怪達も京都妖怪達と同じ内容で頼む。西も東も関係ねぇから協力してくれると凄く助かるな!」

 

「御意! 行くぞ皆の者!! 今日も総大将殿に我ら京都妖怪……いや日本妖怪の力を見せるのだ! この場に居ない八坂様と九重様! ぬらりひょん様のためにも死ぬ気でやるぞぉ!」

 

「怠けたものが居るなら八坂様が直々に仕置きをするらしい! 死に物狂いで働くのだ!」

 

「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

 

 雄叫びを上げながら妖怪達はそれぞれの持ち場へと向かって行くが……すいません! 人妻系美女の八坂にお仕置きされるってマジですか? だからなんでお前らはそんな大事な事を前もって言わねぇんだよ!! 俺だって寧音と殺し合いたいし八坂にお仕置きされたいわ! あっ、でも童貞喪失だけは勘弁な! それは夜空に捧げるために今もなお大事に取っておいてるんだしね!

 

 しっかしなんだかんだでこの数日間で復興作業も鬼や妖怪達の力もあって順調に進んでるなぁ。夜空と共にハーデス及び冥府を滅ぼして此処に帰ってきたらまぁ……酷かったよね! 戦場となった住宅地は原形が残ってるものがある教えて欲しいぐらい徹底的に破壊されてるし畑は吹き飛び農産物やらは見るも無残なお姿へと変わっていたからな。もっとも住んでいた住民達は魔法使い達の襲撃があったにもかかわらず戦えるものは応戦、親父達や何故か現れたニーズヘッグ、そしてあの()()()の活躍によって運が良いのか悪いのか知らんが死亡する奴らは俺が思ってたよりも少なかったと言う結果だ。まぁ、重傷者や軽症者が結構いたけど常日頃俺と夜空による殺し合いに慣れてたせいか命があるなら問題無いとか言ってた気がする。なんという逞しさ! 素晴らしいなというか馬鹿じゃねぇかな?

 

 あと全くどうでも良いがハーデスぶっ殺して実家に帰ってみたら魔法使い達が人質だ騒いでいた我らがお母様は普通に無事でした。いや俺達の前に映し出された映像の女は偽物だって知ってたから別に気にしてませんでしたけどね! この俺様が気にするわけないだろ? だからその顔はやめなさい。それはそれとしてハーデスぶっ殺したのに特にこれと言ってお咎め無しとか甘くねぇか……大丈夫か魔王共? 事情説明やら説教程度はされたが普通なら牢屋に拘束とかじゃねいの? まぁ、その場合は脱獄もどきするけど。

 

 

「ヤダ。お義母さんが無事だったことを確認できた時の表情は凄くホッとしてたくせによく言う」

 

「気のせいだな。つーか状況はどうよ?」

 

「鬼や妖怪達が張り切ってるお陰で全体の半分は修復済み。このペースだとあと数日で終わるかもしれないよ。変態行為をしてテンション上がったノワールのせいで破壊されたシトリー領はまだまだかかりそうだけどね」

 

「マジかよ……なんだかんだで被害はデカかったはずなんだがなぁ。まぁ、力自慢な鬼や器用な妖怪達、そして怪我が治った住民達が力を合わせて作業してればそうなるか。あとシトリー領に関しては先輩方が頑張ってるみたいだし大丈夫だろ」

 

「あっちは私達の方も手伝いたかったみたいだけどね」

 

 

 平家の言う通り、被害にあったキマリス領の復興を手伝いたいと先輩……いやもっと具体的に言うならグレモリー家が若干上から目線で言ってきたので丁重にお断りさせてもらった。確かに普通だったら人手が必要な状況で断るのはおかしいけど明らかに復興後にあれやこれやでこっちに干渉してくる気満々だったしな……というよりもグレモリー家が来る前に鬼や妖怪達が何も言ってないにも関わらず「総大将! 手伝いに来ましたぜ!」的な事を言って普通に作業してたから受ける以前にマジで必要無かったんだ! つーか人手が足りないなら影人形で補えば良いしね!

 

 

「ノワールがバッサリと断ったせいでリアス・グレモリー先輩が何か言いたそうだったよ」

 

「気のせいだ。そもそもD×Dに所属しているのはレイチェルとの契約云々で仲間じゃないしな。よくて知り合い? 親父がなんか言ってたがお断り安定なのはお前も分かってただろ?」

 

「まぁね。キマリス領の復興を手伝って両家の仲を深めて赤龍帝、影龍王の二人と関わり合いがあるというステータスが欲しかっただけ。あとリアス・グレモリー先輩のお母さんの言い方が気に入らなかった」

 

「それは分かる。マジで貴族ですって感じだったからなぁ……その点、フェニックス家は何も言わずに物資送ってくるとか流石だわ。まぁ……手伝うって言ってきたら断らなかったけどさ」

 

 

 レイチェルと契約している以上、断る理由は見当たらないし人手よりも物資が不足してるから受け取るしかない。もし今後もグレモリー家があーだこーだと言ってきても断り続けるつもりだ……なんでと言われたら身内に甘すぎる魔王が居た家と関わり合いになったら面倒な事が起きかねん。主におっぱいドラゴン絡みでな! 未だにあの特撮に出演してくれと言ってきてるんだぞ? なんで負けることが前提の役に出演しねぇとダメなんだって話だ! 仮に出演するならおっぱいドラゴンを倒す役が良いね!

 

 

『ゼハハハハハハハハ! その通りだぜ宿主様! たとえ作り物とはいえドライグに負けるなんざ俺様が許さねぇ! なんでこの俺様が乳を司る龍帝ちゃんなんぞに負けねぇといけねぇんだ! 仮に倒されるなら俺様好み男の娘が良いぜぇ!』

 

 

 いつもの様に高笑いしている相棒の声が聞こえているがその場所は俺の()の上からだ。今まで相棒の声が聞こえた場所は俺の手の甲だったが何故頭の上から聞こえてくるかと言うと――影龍人形から声が出てます。デフォルメされてぬいぐるみサイズになった影龍人形から相棒の声が聞こえています! なんと言うか見た目が見た目なだけに威厳がある声なのになんか可愛く思えてくるのは内緒だ。ちなみにこの影龍人形はキマリス領の新しい名産品として後々発売予定です! 誰が商品化すると言ったかって? 俺の母さんだよ!

 

 そんな大事な事だけどひとまず置いておいて……真面目な話、何故このような事になったかと言うと数日前に行ったリリスちゃんとの殺し合いで夜空の腋を! 女神級に可愛くて素晴らしいあの腋を舐めてパワーアップした結果……どうやら聖書の神が施した封印の一部を無意識に破壊したらしい。相棒曰く「外からの解呪は難しいが中からなら世界を塗りつぶすほどの欲があれば可能だぜぇ!」とは言ってたけどさ……いやぁ、最初はマジかよと言ったのは言うまでもない。そもそもいきなり相棒が俺様の姿を模した影人形を作れって言ったからお望み通り気合入れて作ったら突然喋り出したんだぜ? ビックリする以前にビビるわ! そしてそれを見た俺を含めたキマリス眷属全員が絶句したのは記憶に新しい。

 

 原理としてはいつもの様に影人形を生成する際、神器に封じられている相棒の魂を一部分だけ混ぜ合わせるだけだ。影龍王の手袋のような封印系神器でそんな事をすれば封じられているドラゴンが最悪死亡するか神器自体の機能が失われる可能性もあるんだが……最高な事に相棒は邪龍に加えて魂すら再生するほどの不死属性持ちだから魂の一部分だけ切り離したところで影響なんてあるわけがない! そんなわけで影人形……というか影龍人形に相棒の意識を宿らせることが可能となったため夢にまで見た相棒と一緒に戦うという事を疑似的にとはいえ行えるのはテンションが上がるのは言うまでもない! 元が影人形で相棒の魂そのものは神器の中に有る以上、俺は相棒の力を使えなくなるというわけじゃないし逆に相棒が生前のように力を自由に使えるわけじゃない。あくまで相棒の意志一つで動かせる遠隔操作兵器、ロボットアニメで言うならビット兵器扱い……で良いのか? 良く分からんがそんな感じだ。

 

 

「男の娘に負ける邪龍ってなんかカッコ悪くねぇか?」

 

『それが良いんだよ! それにな! 倒された後に復活からの仲間フラグ! 敵対していた者同士が手を取り合い新たな敵を倒す! そして最後には結ばれる!! 最高じゃねぇか!!』

 

「エロゲーだったら盛り上がるが特撮だと色々とアウトだよ」

 

『そりゃねぇぜ宿主様! ゼハハハハハハハハハハ!』

 

 

 えーと口調から分かるように影龍人形を通して現世を見渡せるようになった相棒のテンションが上がっております。前々から入りたいとか言ってた温泉に入る感覚や酒や美味い食事を食べる感覚も味わえるみたいだから気持ちは分からないでもない。なんせ今まで神器の中から見てるだけだったのがいきなり外の世界を見て回れるようになったんだもんなぁ……そりゃ、テンション上がるわ。

 

 余談だが一回だけ相棒の意識有の影龍人形と俺対犬月達と戦ったら四季音姉妹とグラム以外の面々から文句言われました! なにこのムリゲーやら絶対に無理やらどう考えても勝ち目がないとか言われたけどそこは頑張れよ! 見てた俺ですら「あっ、これは酷い」とか思ったけどさ……文句言わないで欲しいね!

 

 

「クロムが楽しそうで何より。それよりもノワール、いつまでグラムを剣のままにしてるの?」

 

「ん? あっ、すっかり忘れてた。コイツも働かせねぇとな……つーわけだ、戻れ」

 

 

 ポイっとその辺に持ってたグラムを捨てると人間体へと戻る。その表情は何もしてないにもかかわらずドヤ顔でちょっとだけ可愛い。

 

 

『なんダもうオワりか! 我がおウよ! マサかまたわレらに木ヲ斬らせル気か!!』

 

「おう。剣士がこぞって欲しがるほどの魔剣でなんでも斬れることが特徴なんだからさっさとし、い、伊吹だ伊吹。どうも慣れねぇなこの呼び方……まぁ、良いや。ほれ、さっさと行ってこい」

 

『ワれらハ我がオうの剣なり! 斧ノかわリなどにスルナ!!』

 

「文句言うんじゃねぇよ……実際に斬ったら滅茶苦茶早かっただろうが? その辺の斧を使うよりもテメェを使った方が時間効率が違うんだよ。黙ってやれ、働いたらまた全力の影龍破をぶっ放してやるから」

 

『ぬゥ! それナらバ仕方がなイな! よカろう! 我ラのきレ味をみテいるがイイ!!』

 

 

 満面の笑みで鬼勢力が担当している場所へと向かって行くが……うん、チョロイな。

 

 

「流石チョロイン、適当な事を言えばすぐにやる気になるな」

 

「あれがグラムだし仕方がない。それにグラムなら木材程度、紙みたいに斬れるから利用しない手はない。実際に花恋もあまりになんでも斬れるから今後も大工仕事手伝わせようかとか考えてるし」

 

「マジで? アイツだけニート状態だから仕事する分には俺は何も言わねぇぞ。さてと……平家、面倒な集まりまでまだ時間があるから暇なら復興作業を見て回るか?」

 

「そうする」

 

 

 キマリス領復興の全体指揮担当となっている平家と共にまずは近場の京都、東の妖怪連合が頑張ってる場所へと向かう。右を見ても左を見ても和風の衣装を纏った妖怪達がキマリス領の住民達と力を合わせながら建物を建てたり畑を耕したりと働いている……その中でも一際目立っているのが黒い鱗と黄土色の蛇の腹をした細長い生物――ニーズヘッグだ。巨体を活かすように背中に瓦礫やら木材やらを乗せてのそりのそりと歩いている姿はキモカワイイと表現できるだろう。

 

 

「よぉ、ニーズヘッグ。今日も悪いな、こんな事を手伝わせちまってよ」

 

『ぎ、ぎギ、気にしねぇでくれ! お、おで、俺が好きでやってんだからよぉ! こうしてお、おでのでっけぇ体が役にたたたつならい、いぐらでも頑張れんだ!』

 

 

 ニヤリと笑い涎を垂らしながら嬉しそうな声を出す。なんで此処にニーズヘッグが居るかと言うと魔法使い達がキマリス領を襲撃してきた際、救援として駆けつけてきたからだ。なんで来たんだと改めて理由を聞いてみたら飯を奢ってくれたり優しくしてくれたからその恩を返しに来たという心に響くもので若干だが素で泣きかけた。コイツって見た目で誤解されがちだけど中身は結構いい奴だよなぁ……邪龍ってなんだっけと思いたくなるぐらい純粋でお兄さん、悪い人に騙されないか心配です!

 

 そんなわけで飯とか奢る代わりに復興手伝わない? と契約を持ちかけたら滅茶苦茶頷いてくれたのでこうして皆と一緒にお仕事してるわけだ。近くに居ると異臭がしたりするが俺は殆ど気にしないしキマリス領の住民や鬼、妖怪達もまた同じ……皆、慣れすぎじゃね? いや良いんだけどさ。

 

 

『そ、それによぉ! 俺のすす姿見てもこわ、怖がらねぇし! お、オメェのおっかあも優しくしてくれたんだ! 嬉しくてよぉ! だから気にしねぇでくれ!』

 

『ゼハハハハハハハハ! そうだろうそうだろう! 宿主様の母上様はそりゃもう良い女よぉ! なんせこの俺様の声を聞いてもダンディと言ったんだぜ? ありゃ天然の邪龍たらしって奴だ! ゼハハハハハハ! おいニーズヘッグ! 今晩もめぐみんの飯でも食いながら語り合おうぜ!』

 

『いい良いなぁ!! 俺、俺! 此処で食う飯は美味くてす、好きだぁ! ク、グロムぅ! 俺、俺……こんなに美味いもの食べたり優しくされたのは、はは初めてだぁ! お、オメェは怖い奴だと思ってたがななな仲良く出来そうだ!』

 

『ゼハハハハハハ! それは俺様も同じよぉ! テメェは弱虫だと思ったが中々度胸あるじゃねぇの! カッコよかったぜ? 魔法使い共の攻撃を体一つで受け止めてたなんざ俺様、女だったら惚れちまってたところよぉ!』

 

『ギヒヒ! 俺はか、体がでっけぇからよ! お、恩返しだって思えたら痛いのも我慢できたし……で、でも褒められるの、う、嬉しいなぁ!』

 

「……この見た目でこの純粋さは反則だと思う」

 

「明らかに見た目で損してるタイプだもんなぁ。見た目と匂いと手当たり次第に食いたがる衝動さえ気にしなかったら良い奴なんだが……やっぱりこの世はイケメンしか許されねぇか」

 

「それだとノワールは許されるね」

 

 

 当然だろ? だって俺様、イケメンですし!

 

 というわけで滅茶苦茶純粋な性格の持ち主であるニーズヘッグとの話を終えて周辺で働いている奴らに挨拶した後、別の場所へと向かう。なんというか……近づけば異臭がするであろうニーズヘッグ相手に「一緒に頑張ろう!」とか「無理させてすまぬ!」とか話しかけて一致団結っぽい光景を見せつけられると邪龍ってなんだっけと本気で思うな。マジでなんだよあれ……ヤダ、うちの領民と妖怪達って心広すぎ!

 

 

「おーす、四季音姉。調子はどうだ?」

 

「んぅ~? 調子も何も皆やる気があるし楽しんでるよ。それよりもノワール? 大事な話し合いがあるのにこんな所で時間潰してて良いのかい?」

 

「別に大事でもねぇよ。あっちが勝手に指定してきただけだしな」

 

「そうかい。それよりもだ……名前」

 

「……なんか言った?」

 

「数日前にちゃんと言わなかったかい? い、いい、伊吹と呼べってさ……長い付き合いなんだ、いい加減名字呼びじゃなくて名前で呼びな! ほら早く!」

 

 

 さっさと言えという表情で俺を睨んでくるが……名前で呼ばれるのが恥ずかしいと思ってるのが丸分かりだぜ? いい加減、少女趣味も直せよな……見た目は兎も角として性格というか素のお前はマジで良い女なんだからさ。

 

 

「……なぁ? どうしてこんな面倒な事になったんだ?」

 

「ノワールが光龍妃の腋を舐めてテンション上がったからでしょ」

 

 

 デスヨネ! うん知ってた。

 

 なんでいきなり名前で呼べとか言い出したかと言うと……夜空の腋を舐めた事が原因らしい。なんだそれと思いたくもなるが事実だ……ハーデスぶっ殺して~と冥府を滅ぼして~と被害状況確認して~と色々と終ってから犬月達の下へ帰ってきたらいきなり水無瀬、橘、レイチェルというお決まりのメンバーに説教された。それだけならまぁ、いつも通りだがここからが問題で……うん、今回の件を許す代わりに名前で呼んでくださいという我らがアイドルこと橘様が破魔の霊力バリバリ状態で命令……じゃなくてお願い♪ と凄く可愛い笑顔で言ってきた。この時だけはマジで死を覚悟したね! おかしいな……俺って王だよね? なんで眷属に命令されてんの?

 

 

「ノワールが変態だからでしょ。それよりも花恋、恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」

 

「な、何が恥ずかしいだって!? べ、べべ、べっつに恥ずかしくはないさ! これはお仕置き……そうお仕置きだからね! いきなりハーデスを殺してきたと言って驚かせた罰さ! 良いじゃないか……光龍妃だけ名前呼びとかちょっとだけ羨ましかったしこれぐらいしてもさ……な、なに!?」

 

「別に。そのギャップが羨ましいなと思っただけ」

 

 

 俺様知ってる、お前のその表情は少女趣味過ぎてちょっと引くと思ってるだろ? 頷くんじゃねぇよ! 可哀想だろうが!

 

 

「……あーなんだ。伊吹、次期頭領様のカリスマってのでさっさと復興作業を終わらせてくれ」

 

「っ! に、にしし! そんなのいくらでも見せてやるよ! ほらお前達! 張り切って作業するよ!!」

 

 

 何故かやる気が上昇した四季音姉のカリスマっぽい何かによって作業を行っていた鬼達の速度が上がる。四季音妹なんて滅茶苦茶瓦礫の破片とかぶっ壊したり普通の奴なら数人がかりで運ぶ物を片手で運んだりしている……それを見た俺は四季音姉と同じように「茨、頑張れよ」と言うと若干嬉しそうな表情で分かったと返答してくる。うん、癒された! 流石キマリス眷属が誇るマスコット枠なだけはある!

 

 ちなみにだが平家は名前呼びとか全く興味無いらしい。コイツ曰く「別に名前で呼ばれなくてもノワールの傍に居られたら満足」との事だ。安定の依存っぷりで何よりですね!

 

 

「――というわけで見ての通り、クッソ忙しいのに何勝手にやってきてんだ?」

 

 

 作業を眺めたり影人形を操って仕事を手伝ったりと時間を潰した俺は実家へと戻ってきていた。現在このリビングには俺、平家、レイチェルに親父と母さん、セルスといった面々と見たくも無いし声すら聞きたくもないクソババアが集まっている。貴族特有のオーラというか雰囲気を纏ってセルスが淹れたコーヒーを飲んでるのは灰色の長髪をうなじ辺りで纏めている顔のシワが多いババア――ラベリー・キマリス。認めたくは無いが俺の親父の母親……つまり婆ちゃんだ。さっさと死ねばいいのに。

 

 目の前に居るクソババアを見る俺の機嫌が悪くなっている事に親父や母さん、セルスは困惑し俺の心を読んで全てを知っている平家と貴族だからこそ知っているレイチェルは別だ。俺の背後で平家は機嫌が悪くなり、レイチェルは貴族として対応したいが俺達の事情を知ってるからどのような態度を取れば良いのか分からないのか困惑と言った感じだ……確かにレイチェルからしたら困るよなぁ、だってコイツも一応は貴族だし。

 

 

「自分の家に帰ってくることがそんなにいけない事かい」

 

「誰がテメェの家だって? ボケてんじゃねぇぞクソババア……追い出された分際でノコノコ現れて家族面すんじゃねぇよ」

 

「まぁまぁノワール……落ち着いて。お久しぶりです母上、こうしてお会いするのは久しぶりですね……何故、こちらに? 先日の一件では助かりましたが私達の前には現れない約束では無かったでしょうか?」

 

「そうだね。本来ならこのキマリスが治める地には足を踏み入れない約束だった……が突如として魔法使いが襲撃してきたと言うじゃないか。居ても経っても居られずに加勢に来てやっただけさ。今日は来たのは……久しぶりにお前とハイネギアの顔でも見てやろうと思ってね」

 

「ぁ? 誰が孫だって……? おいおい、長く見なかった間に本当にボケ始めてねぇか? 俺と母さんを嫌った挙句、親父に追い出された奴がふざけたこと言ってんじゃねぇよ。あといつまでそんな姿でいる気だ? まさかとは思うがその姿でいれば殺されないとでも思ってるんなら大間違いだ――殺すぞ」

 

 

 周囲の雰囲気が一変するほど濃厚な殺気を目の前のクソババアに放つ。昔と全然変わってねぇな……この貴族特有の上から目線は死んでも治らねぇだろうな。まぁ、どうでもいいけど。

 

 俺の言葉を聞いたクソババアは魔力で自分の姿を変える。先ほどまでシワだらけだった老婆が一転して目つきが鋭い美女へと早変わり……やっぱり悪魔って卑怯だわ。気分一つで自分の姿を変えれるんだしな。

 

 

「気にしてたんならすまないね。長生きすると若作りする気も起きないのさ、老婆の姿の方が気持ち的に楽なのよ」

 

「あっそ。だったら今すぐ人生を終わらせてやっても良いぞ」

 

「もうっ、ノワール。少しは落ち着きなさい。ごめんなさいお義母様、こうしてまたお会いできて良かったです。お体は大丈夫ですか?」

 

「問題無いよ。長生きしてるからね……アンタも昔と変わらない姿で安心したよ。ノワール、後ろに居るのがアンタの眷属かい? さっきから殺意を向けてくる一人は噂の覚妖怪かい……こんなのと一緒に居るとアンタの精神を――」

 

 

 即座に影人形を生み出して拳を放ち、クソババアの顔面寸前で止める。音速すら超えるであろう速度で放たれたものが一気に止まったからかクソババアの背後に衝撃が走る。勝手に現れたくせに平家を見てこんなの呼ばわりとはマジで死にたいらしいな? だったら悪魔らしくその望みを叶えてやるよ。

 

 

「こんなの……ねぇ。おい、見ない間に偉くなったもんだな、昔世話になったから生かしておいてるが本来なら一族諸共ぶっ殺されててもおかしくは無いと自覚してんのか?」

 

「……っ」

 

「ノワール!」

 

「うるせぇ。テメェが何を言おうと止める気は一切ねぇよ。そもそもこの女は俺が次期当主、さらに言うならテメェと母さんが結婚する事には反対派の悪魔だろうが。なんでコイツが母さん襲撃事件に関与してねぇのか今でも謎なんだがそれはどうでもいい……おい、こっちは貴重な時間をテメェに使ってやってんだ。さっさと用件を言って帰れ」

 

 

 もっともそのまま帰ってくれても俺は一向に構わないけどな。

 

 

「……そうだね。なら言わせてもらおうか。ノワール、アンタを次期当主に認めるよ。そしてハイネギア、その子との結婚をこれ以上反対する気は無い。好きにしな」

 

 

 その言葉に親父と母さん、そしてセルスは驚きの表情を浮かべた。当然だ……目の前に居るラベリー・キマリスと言う女は完全な純血主義で親父と母さんの結婚を最後まで反対していた一人だからな。神器を持たず、転生悪魔ですらない普通の人間の母さんが純血悪魔の親父と結婚して俺という混血悪魔を産んだ事に嫌悪してあの一件を引き起こした一派とは違うが俺からすれば同じだ……まぁ、右も左もわからず良い子だったノワール君時代にちょっとだけ世話になったから他よりはまだマシ程度の認識だけど。

 

 チラリと平家に視線を向けると静かに頷いた。ちっ……ここで嘘でしたとかだったら殺せたのにマジで言ってんのかよコイツ! うわぁ、めんどくせぇ。

 

 

「……良いの、ですか?」

 

「その子と結婚してもう何年も経つからね。確かに混血悪魔のノワールが次期当主の座に就くのは反対だったさ……でもね、若手悪魔の中で最強と呼ばれ、さらには最上級悪魔にもなったんだ。認めざるを得ないよ。こう見えてもノワール、お前の活躍は毎回チェックしてるのさ……私の孫だからね。私の言葉なんて聞く耳は無いし認めないだろうがこれだけは言わせておくれ……自分の息子が無数にいる中から選んだ嫁が生んだ子を嫌うわけがないんだよ」

 

「お義母様……」

 

「母上……」

 

 

 はいはい茶番乙。今更マジで何言ってんだ? 会う度にこれだから人間はやら汚らわしいやら言ってきた分際で嫌うわけがないだ? その程度でこれからは仲良くしましょうとは思わねぇよ。ただ……まぁ、確認ぐらいはしても良いか。

 

 

「……おい」

 

「なんだい」

 

「俺が次期当主になるのに反対だったのは――俺達のためか?」

 

「さぁね。それを決めるのはお前だよ」

 

 

 俺の質問にセルスが淹れたコーヒーを飲みながら優雅に答えてくる。そうか……だったら俺からはこれしか言えねぇな。

 

 

「そうか。だったら俺から言えるのはこれだけだ……昔にあれだけ罵声やら何やらを言われたからテメェの顔も見たくねぇし声も聞きたくねぇ。他で何をしようと勝手だが二度と()の目の前に現れるな。あと……昔、俺が泣いてた時に飴くれた事は今でも感謝してるよ。そんでくっそ弱いのに加勢に来てくれた事もな」

 

 

 椅子から立ち上がってリビングから出る。隣を歩いているレイチェルから良いのですか的な視線を浴びるがこれで良いんだよ。今更お婆ちゃん大好きっていう年でもねぇしな……何だよその顔? 何か言いたそうだな?

 

 

「うん。ノワールって敵と判断したら容赦ないけど一度中に入れたら甘いよね」

 

「んなわけねぇだろ。単に世話になったから殺さないでいただけだ……つーかぶっ殺すと母さんが五月蠅いしな」

 

「そうしておく」

 

「おう。あっ、レイチェル? これからまた復興作業を手伝いに行くがお前はどうする?」

 

「勿論お供いたしますわ! えぇ、私はキマリス様の契約者、常に傍に居るのは当然ですもの! な、なんですか覚妖怪……休戦! 休戦ですわ! 志保さんや花恋さん達と話がついているでしょう……!」

 

「知らない。ほらノワール、お姫様はさっきの女と貴族らしいお話しするみたいで忙しいから早く行こう」

 

「ま、待ちなさい! 確かにそれは大切ですが今は復興作業の方が優先です! き、キマリス様! このレイチェル・フェニックスの指揮をどうぞ身近でご覧になっててください!」

 

 

 右腕に平家、左腕にレイチェルが抱き着いてきたが何だろうな……差があり過ぎて泣けてきた。壁と山ってこんなに違うんだな!

 

 地味に修羅場ってる二人に挟まれながら俺は廊下を歩きだす。たくっ、嫌うわけがないとかいまさら何言ってんだよ……もうガキじゃねぇんだぞ。大方、俺と母さんを此処から追い出して二人仲良く暮らせるようにとか考えての言動だったんだろうが残念な事に意味無かったと思うぜ? 今でこそ平穏っぽく過ごせているがあの連中が家から追い出された程度で俺達を生かしておくわけがない。自分の家の汚点を見逃すほど甘くねぇだろうしな……あと俺達を嫌うフリでもしないと周りや実家の奴らなんか言われるのは確実で悩んでたことぐらいは隠せよ。怖い夢を見たとかなんかそんな理由で泣いてる俺に飴を渡してきた時の表情は俺を嫌ってる奴がするものじゃなかったぜ。

 

 もっとも今後も仲良くする気は一切無いから俺は心底どうでも良いけどな。

 

 

 

 

 

 

「……予想外だったね、アザゼル」

 

「だな。いやゼウスやポセイドンの言い分も分かるっちゃ分かるけどな……キマリスと光龍妃に第二、第三の神殺しをされたらいくらギリシャと言えども持たねぇ。今回の結果は妥当だと思うぞ」

 

 

 俺の隣を歩くサーゼクスは何やら想定外だと言いたそうな表情を浮かべている。数日前にキマリスと光龍妃が引き起こしやがった大事件――神殺しの件で俺達三人はギリシャへと飛び、事の次第を説明やら今後の対策を話し合ったわけだが確かに俺達の予想を裏切る結果となった。たくっ、あのバカップルは限度ってものを知らねぇのか! なんで総督を辞任した俺がここまで胃を傷めないといけねぇんだっての……いやそれはサーゼクスも同じか。下手すると俺よりも酷いかもしれん。

 

 ちなみにだがミカエルもギリシャへと飛んでいたが会談が終わったと当時に即座に天界に戻りやがった。最後まで一緒に居ろとか思いもしたがあっちはあっちで大変だから俺も文句は言えん。リアスやイッセーから話を聞いた時も嘘だろと素で言ったぐらいだしな……まさか惚れた女の腋を舐めただけで異常ともいえる力を発揮、そのせいかどうかは知らんが「神器システム」に保有されている影龍王の手袋のデータに異常が出たらしいが一体全体何がどうなってんだって話だ。キマリスに神滅具見せろと言っても拒否しやがるしよ……今のところ分かっているのは能力を発動する際に流れる音声がエラー音のようになったってのとハーデスをぶち殺すほどの出力を引き出したってことぐらいか。全く! 今代の神滅具保有者は一体全体どうなってんだ!

 

 

「まさか冥府を襲撃して生存していた死神諸共ハーデスを殺害したというのにお咎めなしとはね。いや、こちらとしてはありがたいことなのだが……」

 

 

 サーゼクスが困惑した表情で呟いた。今回の件で俺達三人がギリシャに飛び、ゼウスやポセイドンといった神々と話をした結果がこれだ……サーゼクスからすれば困惑するのも頷ける。

 

 なんせ今回の一件で冥府は完全に機能を果たす事が不可能なぐらい浄化の気と醜悪な呪いが蔓延し、死者の魂を選別する役目を持つハーデスを殺害した事で人間界に大きく影響を与えることになった。この事件を引き起こしたキマリスを最悪封印か何かしてでも責任を取ろうとサーゼクスは思ってたらしいが……まさかのお咎め無しだ。流石の俺も幻聴か何かだと思って聞き返しちまったぜ……まっ、その代わりにこれまで「ハーデスが裏で関与していたこと」を「ハーデス個人で行っていたこと」にしてゼウス含めたギリシャの神々は関係ない事にしろと言われたがその程度で済むなら飲むしかねぇわな……現にギリシャは俺達三大勢力と和平を結ぶことに反対意見は無く、異議を唱えていたのはハーデスだけだ。ヤツの事だ、前にサマエルを英雄派に渡した件と死神達を大量殺害された件で苛立ち、仕返しのつもりでいたんだろうがまさか殺害されるとは思わなかっただろう。イッセー達ならそれで通用しただろうが相手が悪かったとしか言えん。

 

 あと一応被害者側であるギリシャは仮にキマリスと光龍妃にハーデスの仇だなんて襲撃なんてすれば今回の件と同様に神々が殺される恐れがある……ありえないと思いたいがただでさえ若手悪魔や人間という枠から外れているあの二人が仲良く手を組んだ場合、下手すると主神レベルでさえ命を落とすだろう。少しぐらいは否定させてもらいたいがあの二人なら普通にやりかねん……はぁ、早くくっ付いて大人しくなってもらいたいね。

 

 

「好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくを心情にしているキマリスと自分の欲望のためなら事件を起こす自由奔放な光龍妃にこれ以上、関われば他の神々がハーデスのように殺される恐れがある。それを防ぐための処置だろうな。良かったじゃねぇの、下手に賠償金だ封印だっつう面倒な事をしなくて済んだんだしよ」

 

「まぁ……ね。今回の件でキマリス領及びシトリー領の復興するのに資金がかかるからありがたいと言えばありがたいことだ。でも……このままお咎めなしで済ませるわけにもいかない――がそれだと妖怪勢力から反発があるかもしれない。下手をすると同盟を解除されるだろうね」

 

「八坂もぬらりひょんも寧音もキマリスが持つ力と自分勝手さに惚れこんでるからなぁ。鬼の里ではキマリスの戦車と兵士の四季音花恋、四季音祈里の婿扱いで裏京都じゃ千年邪龍計画ってのが進行中、ぬらりひょんが治める東ではぬらりひょんの後釜扱いときた……いつ引き抜かれてもおかしくねぇな。サーゼクス、追放したかったら何時でも言えよ? 俺達堕天使勢力が多額の金を払ってでも貰ってやるからよ」

 

「冗談でも言ってはいけない事があるよ?」

 

「分かってるっての」

 

 

 やってることは置いておいてキマリスの存在は悪魔勢力にとっても自分達を殺す武器になりかねないから下手に手放すわけにはいかないってのが現状だ。たくっ、八坂もぬらりひょんも寧音もあの自分勝手なキマリスと盃をどうやって交わせたのか今でも不思議なぐらいだぜ。いきなりキマリスは私達と盃を交わしたから何かあったら分かってるな的な事を言われた時はその場で吐きそうになったからな……あれか? 妖怪達が持つ自由さがキマリスにとって楽だったとかか? うーむ、波長が合いそうだと言われれば納得出来る気がするがこれはサーゼクスには言わない方が良いだろう。

 

 

「それより俺達の胃を苦しめている元凶は今なにやってんだ? まさか光龍妃か眷属達とイチャついてるんだったら一発文句言わねぇと気が済まんぞ」

 

「彼だったら魔法使い達に襲撃されたキマリス領の復興を鬼や妖怪達、フェニックス家の者達と共に行ってるらしい。リアスがも彼に手伝おうかと申し出たらしいが必要無いと断られたらしい……彼は私達を嫌っているのだろうか?」

 

 

 いやどちらかというと復興を手伝ったという事実を持ち出してグレモリー家があれこれ口出ししてくる可能性を消すためだろうな。こういう時ぐらいは周りを頼っても良いだろうが……いやこれがアイツか。とりあえずこのことは黙っておいた方が良さそうだ。これを知ったサーゼクスがまた見当違いな事をし始めたらさらに悪化しかねん。

 

 

「キマリスの性格なら当然と言えば当然か。まぁ、その辺りは諦めといた方が良いぞ? 対テロリスト用のチーム、D×Dに所属している面々すらアイツにとっては味方では無く敵だからな。俺としては若いんだから仲良くしろよとは思うけどよ。それよりもだサーゼクス、アジュカが動いていた件はどうなった?」

 

「まだ闇が深いこともあって早々に片が付かないだろうが候補者は絞れたらしい。彼もまさかここまで分かりやすくなるとは思わなかったと笑っていたね」

 

「こればっかりはキマリス……いや傍に居る覚妖怪に感謝ってか?」

 

 

 現冥界を賑わせているレーティングゲームに冥界上層部及び一部の参加者が行った大規模な不正をアジュカは極秘裏に探っていたがどうやら進展しているらしい。俺も悪魔の駒が何故「女王」までしか作られていないのか前々からおかしいとは思ってはいたがアジュカの口から真相を聞かされてようやく納得がいったからな……確かにあの効果で生成し続けてしまえば反乱が起きかねん。むしろ初期生産で止めたアジュカはナイスだと褒めたいぐらいだ。

 

 

「彼が最上級悪魔に昇格した後、一部の最上級悪魔達がほぼ同時に表舞台に出なくなった。さて……何故だろうね」

 

「本当に謎だな。まっ、真実がどうあれアジュカなら上手くやるだろ」

 

「そうだね」

 

 

 将来的にはリアスやイッセー、サイラオーグにソーナ、興味あるかどうかは知らないがキマリスを含めた若い世代達のためにも早々に片づけておいた方が良いだろう。俺としても成長したアイツらが正々堂々戦う舞台を眺めたいしな……だが今は起きてしまった大事件の片づけに専念しようかね。

 

 だがキマリス……後で俺の胃にダメージを与えた責任を取ってもらうぞ! 可能ならお前の神器を解析させてくれるなら許してやる!




これにて「影龍王と劣等生」編が終了です。

・あんぶらどらごん
キマリス領で発売予定のぬいぐるみ。
見た者を恐怖させる棘が生えた西洋ドラゴンを模しているがデフォルメされているためか可愛く見えるのが特徴。
発売が決定した原因はノワール・キマリスの母親の一言である。
なお、鎧を纏ったノワール・キマリスの人形が極稀に店に混ざる予定だが試作品が誰かに盗まれた模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王の番外編3
109話~パシリの普通な一日~


時系列は「影龍王と劣等生」終了後です。


「どうした由良っち! その程度じゃ俺は倒れねぇぞ!」

 

 

 戦っている相手である由良っちに挑発するように叫ぶ。上はTシャツ、下はジャージ姿で若干だが息を切らしている姿はなんというかドキドキするけど今は殺し合い……じゃなかった模擬戦の真っ最中だから気を抜けば負けちまう! なんせ相手は由良っちだけじゃないしね!

 

 

「……はぁはぁ、あれだけ打ち込んでいるのにまだ倒れないのか」

 

「いやちょっとあり得ませんって……私も結構蹴り入れてるのにまだ元気とか自信無くすんですけど!?」

 

 

 由良っちとは反対方向、俺の真後ろには太腿まで覆う脚甲型の()()()()を発動している仁村っちがいる。模擬戦を始めて既に十数分経過してるのにピンピンしている俺とは対照的に由良っちと同様に息を切らしているが……格好は由良っちと同じく上がTシャツ、下がジャージではあるもののとある一部分だけ格差が起きている。まぁ、しほりんとか水無せんせーレベルには届いてないようにも見えるが男としてはちょっとだけテンションが上がってしまうのは仕方ないと思う! 王様もきっと同じこと言うはず! そもそも家でも普通にセクハラもどきしてるしね! 羨ましい……実に羨ましい! とか思うけど一つ間違えれば即BADEND直行とか嫌だしこれからも遠くから見守り続けるつもりだ。王様から何とかしろという視線が来るけどそこはモテる男としてどうにかしてください! オレ、ムカンケイ!

 

 

「ハッハッハー! いくら人工神器込みの威力でも俺をダウンさせたかったら王様か酒飲みか茨木童子か鬼の四天王レベルのパワーじゃねぇと無駄っすよ! この程度で沈んでたらとっくの昔に死んでるしな! 割とマジで」

 

 

 最後の言葉だけトーンを落とす。きっと今の俺の眼は死んでるだろうが気にしない。

 

 確かに由良っちは戦車(ルーク)で駒の特徴である圧倒的なパワーと強固な防御力もある……が王様や酒飲みと比べると笑っちゃうくらい弱い。痛いのは確かだけど死ぬレベルじゃないからあと数百回受けた所で倒れることは無いだろう……そもそも酒飲みとか茨木童子とか鬼の四天王レベルから一発でもまともに喰らえばマジで普通に死ぬ。うん死ぬ。死ぬんだよ! 本当に水無せんせーとシトリー領にある病院にはお世話になりっぱなしだ……毎月支払われているバイト代もどきの大半が治療費になってるしあまりにも世話になり過ぎて「あぁ、いつものね」と医者からも言われて今ではメル友になってるレベルだしな! もっとも今後もやめる気は一切無いけど。

 

 

「目が死んでる!? というより最後の言葉でもう泣きそうなんですけど!? あ、あの犬月先輩! き、きっと良いことありますよ!」

 

「ありがとう仁村っち! ホントにその言葉だけでこれからも頑張れそうっすよ! んじゃ、続きすっか!」

 

 

 右腕と左足に妖力、左腕と右足に魔力を纏わせて駒のシステムを戦車(ルーク)から騎士(ナイト)へと変更する。なぜこんな複雑な事をしているかというと鬼の四天王から普段から難しい操作をし続けていればモード妖魔犬状態を今よりも操れると言われたからだ。鬼の里で行われた鬼ごっこ(殺し合い)は常にこの状態でここ最近の特訓でもまた同じ……簡単そうに見えるけど意外と難しい! 気を抜けば右半身が妖力、左半身が魔力って感じになるし。

 

 戦場を駆けるように走ると仁村っちが騎士状態の俺を振り切るために全力を出す。ちっ、モード妖魔犬状態なら問題無く追いつけるが素の状態での機動力はあっちが上か……騎士の特性とアザゼルが開発したという人工神器、その恩恵って奴かね? まっ! ただ速いだけなら引きこもり相手で慣れてるし問題ねぇ!

 

 

「っ、追いつかれそう……! でもまだまだ! てぇい!」

 

 

 高速で移動する仁村っちを追っていると突如として軌道を変え、真横から仁村っちの蹴りが飛んできた。週に何回かシトリー眷属と訓練する事はあるけど見た感じ、やっぱり仁村っちは戦車や僧侶なんかより確実に騎士が向いてるな。あの速度でこの機動力はシトリー眷属の中でもトップクラスだろう――引きこもりの方が速いし殺意も高いけど。

 

 放たれた蹴りを胴体で受ける瞬間、左足から攻撃が当たる箇所に纏った妖力を移動させる。女とは思えない威力の蹴りが俺を襲うが衝撃の大部分は妖力で防いだからまだまだ怯むことは無いだろう……へへっ! これぞあの地獄の中で生き抜くために編み出した防御術! 例えダメージを受けようと脳と心臓さえ無事なら骨が折れようが引き千切られようが関係無いしね! というより躱すより受けた方がすっげぇ楽!

 

 ちなみにこのピンポイントガード術は酒飲みと引きこもりに即効で真似されたのは言うまでもない。一回見ただけで俺以上に操るとかちょっと納得いかねぇ。

 

 

「うっそ!? まだ倒れないの!?」

 

「よっしゃ! 捕まえたっすよ!!」

 

「させない!」

 

 

 背後から由良っちが近づいてきて拳を放ってくるが当たるよりも早く仁村っちの足を掴む。今からやろうとしている事を止めれば余裕で回避出来るが折角のチャンスを捨てるのはもったいない……というわけで左腕に纏っている魔力を拳が当たる場所へと移動させて衝撃を軽減! 流石は戦車……軽減したとはいえ女の拳とは思えない威力だ。まぁ、酒飲みと比べると滅茶苦茶軽いけど。

 

 

「ハッハッハー!! それお返しだ!」

 

 

 ジャイアントスイングの要領で仁村っちを背後にいる由良っちへとぶつけて体勢を崩す。勿論、高速移動が可能な仁村っちの足は離さない! 何やら察したらしい仁村っちが顔を青くしているが気にしないでおこう。だってししょーや鬼の四天王が言ってたもんね……殺し合いに卑怯もクソも無い、利用できるものは何でも利用しろって! それは俺も思ってる事だからやめる気は無い! そもそも俺以外だと王様、酒飲み、引きこもりの頭おかしい三人衆はこの程度ぐらい普通にやるだろう。

 

 そんな事を考えながら武器扱いとなった仁村っちを由良っちに叩きつける。勿論、駒のシステムを騎士から戦車に変えたから威力倍増させるのも忘れない! 相手を武器にする手は当たろうがが外れようが武器となってる人物にはダメージ入るから利用しない手は無い。捕まる方が悪いんだ! さてさて戦車に昇格した俺の力に加えて仁村っちの体重――ドンぐらいあるか分かんねぇけど――が加算された強力な一撃は由良っちに大ダメージを与える結果となった。何故か観戦している他のメンバーからうわぁって感じで見られてる気がするけど安心してほしい! 俺はまだ優しい方だから!

 

 

「ちょ!? 犬月先輩!? 女の子にこれってあんまりだとおもうんですけ、いったあぁい!? ぎゃああぁぁぁぁ!?!? はやいはやいはやいぃぃぃ!!! しぬしぬしぬぅ!!!」

 

「大丈夫っすよ仁村っち! 転生悪魔とはいえこの程度で死にはしねぇっす!」

 

「死ぬ云々じゃなくてこれいったぁ!? むりむりむり!? たんこぶできるというかそもそもけがしますってぇぇぇぇ!! いやぁぁぁぁ!! しぬぅぅぅ!!」

 

「死なない死なない! それに骨が折れる程度は怪我の内に入らねぇって! まだまだ行くっすよ!」

 

「相変わらずどうなってんのよキマリス眷属ううぅぅぅ!!」

 

 

 俺達にとっては普通だからセーフだと思う!

 

 そんなこんなで殺し合い……じゃなかった模擬戦は進んでいくが泣き叫ぶ仁村っちが限界に達したことにより休憩を取ることになった。なんというか……由良っち、いやシトリー眷属と訓練するのは良いんだけど気絶しないし大怪我しないから何か違和感があるな。いや良い事なんだろうけどなんかなぁ……後で王様と殺し合いでもすっかね。

 

 

「訓練するたびに思うんだが……やっぱりお前もキマリス眷属なんだな。仁村を武器扱いとかマジかお前」

 

「え? 普通やるっしょ?」

 

「やらねぇよ! いや実戦なら分かるけどさ。お前……黒井に影響されすぎだろ? 仲間が武器扱いされて泣き叫んでる姿とか痛々しくて見てられねぇっての!」

 

「いやいやげんちぃ……殺し合いにアウトもセーフも無いんすよ。だから全然問題無し!」

 

「アウトだよ! 思いっきりアウト! しかも殺し合いじゃなくてこれ模擬戦! も・ぎ・せ・ん!! 分かってるか!? いや分かるぞ! お前が普段何やってるのか黒井の傍に居るから色々と理解してるけど頼むから普通に! 普通に頼む! 俺は兎も角、他はトンデモな力なんて無いんだからさ!」

 

「う、うっす! な、何とか出来るようにはしてみるっすけど……とりあえずげんちぃは仁村っちの所に行った方が良いっすよ? ほらほら早く早く! きっとげんちぃが行けば元気になるから!」

 

「お、おう? なんか良く分からんがまぁ、行くけど……頼むぞ犬月! 半常識人のお前まで頭がおかしいグループに入ったら水無瀬先生やしほりんが苦労するからな!」

 

 

 心配無用っすよげんちぃ! この犬月瞬、大天使水無せんせーとしほりんのためなら火の中水の中鬼の中どこで駆け付けるつもりだからな! もっともここ最近はおっかないけど。普段はもう素晴らしいぐらい可愛いし美しいし優しいけど王様が絡むとマジで怖いんだよな……光龍妃が原因で目に光が宿ってなかった時なんて――ワスレヨウ、モウワスレヨウ。オレ、ナニモミテナイ。

 

 

「犬月、飲み物を持ってきたが飲むか?」

 

 

 げんちぃが離れていった後、缶ジュースを持った由良っちが近づいてきた。首にタオルをかけて汗を拭いている若干だが汗の臭いがする。こればっかりは半分犬妖怪だから仕方ないと言えば仕方がない。俺も男だから嫌じゃないんだけどね!

 

 

「あんがとっす。くうぅ! やっぱり炭酸はサイコーだね」

 

「そうだな。しかし……うん、やはり鍛え方が違うのか。一応、全力で来いと言われたから加減無しの拳を放ってたんだが何も無かったようにされていると仁村では無いが自信を無くしそうだ」

 

「まぁ、常日頃から骨折れたり気絶したりしてるしねぇ。由良っちはパワー自体は問題無いと思うし俺達以外が相手なら何とかなるんと思うっすよ? ついでに今回は人工神器を使ってないからそれ使われてたら結果が変わってたかもしれないし」

 

「この前、飛ばした盾を利用したのを忘れたのか? まさか戻ってくる性質を利用して接近してくるとは思わなかったよ」

 

「いやだって勝手に動くから楽そうだったしな。あーでもとりあえず俺達の鍛え方は真似しない方が良いっすよ? 安全第一! 由良っちも女の子なんだから自分の身を大事に!」

 

「先ほど、仁村を武器扱いしていた男のセリフとは思えないな」

 

「殺し合いだし何も問題無いっしょ?」

 

 

 実際問題、殺し合いしてるのに相手が怪我するから加減するとかマジで論外。それやるなら引っ込んでろってのが俺の考えだ……いやげんちぃの言う通り王様に影響されすぎとか思うけどそもそも俺って元はぐれだしな。王様の兵士になる前だって俺を喰うために襲ってくる奴らとの殺し合いとか普通にしてたもんな。あと相手は殺す気で来てるのにこっちは加減するとかあり得ねぇ……もし殺さなかった事で後々大惨事になったら絶対後悔する。だから殺せるなら確実に殺す。こっちを殺しに来てるんだから死ぬ覚悟ぐらいは出来てるだろうしね。

 

 そう考えると今の環境って悪くない。王様は当然として酒飲み、茨木童子、引きこもり、グラム、鬼の四天王、ししょーと手加減何それ美味しいのと普通に思ってる人達との戦いは本気で強くなろうと思えるからね! その分マジで遠慮ないけど。

 

 

「実際の殺し合いは何があるか分かんねーしこういう扱いされたって体験は必要……とししょーや鬼達も言ってたぜ。まぁ……由良っち達シトリー眷属は基本裏方だからあんまり気にしなくても良いかもだけどさ」

 

「そうなんだがな……ほら、この前起きたD×D学園襲撃で敵の大半をキマリス眷属やグレモリー眷属に任せていたのが少しな。犬月、お前から見て私達はやはり弱いか?」

 

「まぁね。水無せんせーやしほりんならまだ……いや微妙か。でも酒飲みと引きこもりが相手なら瞬殺されるかな。あの二人、王様を除けば俺達の中じゃ二強状態だし」

 

 

 力の酒飲み、技の引きこもりと表現できるぐらい俺達の中じゃ群を抜いて強い。勿論、王様を除けば最強は酒飲みなのは言うまでも無いけど「さおりんとは戦いたくないねぇ」と言うぐらいあの引きこもりは強い。そもそも茨木童子が一発も当てる事無く敗北したしな……俺も何度も戦ってるが気が付いたら斬られてる。鬼の里で特訓相手だったぬらりひょんからちょっと技盗んできたとか言ってたけど大妖怪相手にやるなよ……マジでお前覚妖怪か? 別の妖怪ですって言われた方がまだ納得できるぞ。

 

 そんなわけでもしシトリー眷属が俺達と戦うならまず勝ち目はない。というよりも王様自体がどう倒せばいいのか分かんねぇぐらい強いし酒飲み、引きこもりというパワー最強、技術最強が待ち構えてるからなおさら無理だろう。鎧を纏ったげんちぃならまぁ……勝算はあるか? いやでも引きこもりが相手だと開始早々知らない間に斬られているし酒飲みが相手だと遠くから軽く腕振るうだけで災害起こすから……その時の状況次第か。

 

 

「実際、俺達とゲームしたら辛いと思うぜ? 王様の前に辿り着くには酒飲み、引きこもり、茨木童子、グラムというアホじゃねぇかってレベルの面々を相手にしないとダメでそれらから逃げ切ったとしてもしほりんと水無せんせーという支援兼テクニック&ウィザードコンビが遠距離からドーンだ。女王(クィーン)が居ないという状態でこれだから……うん、ごめん」

 

 

 下手するとこのメンツに光龍妃が加わる恐れがあるからマジでムリゲーが加速するぞ。現状でまともに殺し合い出来るのってグレモリー眷属ぐらいじゃね?

 

 

「思ってはいたが改めて聞くと攻略はほぼ不可能か。難しいな」

 

《そもそもあっしの鎌で影龍王の生命力を奪い取っても意味無いでしょうしね。ハーデスさまと戦って生きてる上、逆に殺害なんてした相手ですぜ? こっちの戦力じゃ正面から挑むのは文字通り死を意味するんで得策じゃねーですよ》

 

 

 俺と由良っちの会話に混ざってきたのは髑髏の仮面をつけたニーアっちだ。特訓している最中も髑髏の仮面を付けてるけど息苦しくないのかねぇ?

 

 

「おっすニーアっち。そっちも特訓終わりっすか?」

 

《そうですぜ。いやはや右を見ても左を見ても強い相手しかいないんで特訓のし甲斐がありやす》

 

「そりゃよかった。あと……うちの王様がまた冥府にご迷惑をかけて本当にごめん! ほんっとうにゴメン!!」

 

 

 数日前に起きたD×D学園襲撃事件の後で王様が光龍妃と共に冥府に殴り込みした上で冥府の神ことハーデスをぶっ殺すという大事件は冥界中、いや全世界に広まった。当然、和平を結んでいるとはいえ他所の勢力の神様を殺した王様は投獄される――わけではなく全くの無罪で今も家で引きこもりと積みゲーを崩している。なんでと言われたら引きこもり曰く「下手に投獄したりすると妖怪勢力が離れるし何より十数年しか生きてないのに古くから生きてる神を殺したノワールが怖いんだよ」とか言ってたがそれで他勢力が納得出来てるのはある意味凄い。

 

 そんなわけでハーデスが殺された事で管理者が無くなった冥府は三大勢力、北欧といった勢力が代わりに死者の魂を選別してるっぽい。なにやら一部の面々で王様に管理させた方が良いんじゃないかと言ってるみたいだがやめた方が良いと思う……だってどう考えても第二の地双龍の遊び場になる未来しか見えねぇし! 死者の皆さんに大変ご迷惑をおかけするんで本気でやめましょう!

 

 

《……気にしてないとは言えればどれだけ楽なんでしょうね。そもそもの発端はハーデスさまが影龍王相手にちょっかい掛けた事で起きた事件、そっちが謝る事でも無いですしこうしてあっしの特訓に付き合ってくれてるだけでも感謝ものですよ》

 

「別にそれぐらいなら誰でもやるっしょ?」

 

「それは犬月だけだ。ベンニーアとの特訓はちょっと複雑だと前に話しただろう? 犬月との特訓で使っている鎌はダメージの他にも生命力まで奪い取るから普段は似た形状をした別の鎌を使ってるんだ。犬月のように生命力を奪われること覚悟で特訓は……うん、ちょっと考えられない。私も犬月が殺す気で来いと言いだした時はちょっと熱でもあるのかと思ったよ」

 

《あっしは気楽で良いですけど流石キマリス眷属。ぶっ飛んでます》

 

 

 え? なんでそんな頭がおかしい人みたいな視線を受けないとダメなんだ!? だって……あーそう言えばシトリー眷属と特訓するようになった時に殺す気で来いとか言った気がする。でも普通っしょ? たかが生命力奪われた程度なら安い安い! だってあれ仙術で治せるっぽいから特訓後にグレモリーの所に居る猫又とか白龍皇の所に居る猫又とかにお願いすればプラマイゼロだし。確かに言われてみると初めて頼みに行った時のいっちぃ達の表情がありえねぇって感じだった気がする……え? 俺がおかしいだけ?

 

 

「……由良っち、ニーアっち。俺っておかしい?」

 

「少なくとも普通では無いな」

 

《仕方ねーですけどね。あの影龍王の傍に居たら普通が普通じゃねーと思いますし》

 

 

 マジか……俺って常識人ポジションでこれからもやっていこうと思ってたのに頭がおかしいグループに入ってたか。前に水無せんせーからも半身ぐらいはドップリ浸かってるとか言われてたけどそうか……そうか……き、気にしてないし! だって俺って王様以上に人脈というかコミュ力あるし! というよりもグレモリー、シトリーと協力してるのって俺としほりんと水無せんせーと姫様ぐらいじゃね? 仕方ないね! 王様も酒飲みも引きこもりも茨木童子もグラムも頭おかしいしコミュ障だし! 何だろう……帰ったら斬られる気がする。具体的に言うと王様の傍に居る覚妖怪辺りに。

 

 

「そう落ち込むな。その程度で嫌いはしないよ……まぁ、嬉々として人を喰うような真似を何度もしなければの話だが。流石に友人がそのような事をしていると……な」

 

「あーそれに関しては殺すと決めた相手以外はやらねぇっすよ。少なくとも味方相手にはやらないと誓っても良い!」

 

「是非そうしてくれ」

 

 

 安心したような表情でジュースを飲む由良っちはマジでイケメンだと思う。生まれる性別間違ってんじゃないかってぐらいのカッコ良さだ。そもそも性格がどっかの少女趣味な酒飲みとは違ってサバサバしてるし。

 

 

《前々から思ってたんですが二人は付き合ってるんですかい?》

 

 

 二人並んでジュースを飲んでいるとそれを見ていたニーアっちがそんな事を言ってきた。何やら離れた所に居る他のシトリー眷属達がてんやわんやしてるけどなんで?

 

 

「ハッハッハー! ニーアっち? 邪龍宿ってる上にカリスマ持ってる王様と違ってこの俺が由良っちみたいな美少女と付き合ってるわけないでしょーが。やべぇ、泣けてきた……ただの仲間で気の合う友達? そんな感じだぜ」

 

「そうだな。ただ私は犬月みたいな男は好きだぞ? 自分の意地を貫き通すところや何事にも全力なところはグッとくる。犬月は私みたいな女はどうだ?」

 

「やめて由良っち! 俺って彼女いたこと無いから勘違いする! ま、まぁ? 由良っちみたいにスパッと言ってくれたりするのは気が楽で良いし嫌いじゃない……か。やめよう! 何かマジで勘違いしそうだから!」

 

 

 とりあえず離れた所に居るシトリー眷属! キャーキャー騒ぎすぎっすよ!? どんだけ恋愛系の話題が好物何すか! あっ……そう言えばしほりん達も大好物でしたね。さっさと話題変えたいのに由良っちが若干嬉しそう……? 嬉しそう……? 分かんない! 王様みたいに鋭くないから分かんねぇ! 頼む引きこもり! 後でゲームぐらいなら買ってやるからアドバイスというか答え的な事をくれ!

 

 あっ、絶対にめんどくさいとか思われた気がする。デスヨネー。

 

 

「あーあーあー! なんか今すぐ死ぬ一歩手前まで特訓したくなった! じゃっ! そういうわけでちょっくらうちの酒飲み辺りに喧嘩売ってくるから離れるぜ! 由良っち、ニーアっち、今度はしほりん達と一緒に特訓しようぜ!」

 

 

 なんだか滅茶苦茶恥ずかしくなったんでダッシュでこの場から離れる。確かに彼女欲しいのは本当だ……でも王様みたいに強いなら兎も角、弱い俺にはまだ早すぎる。憧れって言うかなんというか……王様があの時言った護りたいって事を俺もやりたい。だから護るためには今よりもさらに強くならねぇとな! もっとも護る以前に彼女出来るかどうか分かんねぇけど!

 

 

「酒飲み! 復興作業中で忙しいだろうが暇なら相手頼む! 今滅茶苦茶特訓した……げぇ!? 四天王!? なんで居るんすか!?」

 

 

 冥界へと転移して酒飲み達が復興作業している場所へと向かうとちょうど休憩中だったのか鬼や妖怪達と一緒に酒を飲んでいた。ちなみにこれは鬼勢力達が自前で持ってきたものだ……他にも妖怪勢力からは野菜やらなにやらが持ち込まれて被害にあった場所に住んでた悪魔達のご飯として提供されている。これらを頼まずに持ってくる辺り、王様の事をよく理解している気がする。

 

 

「うぃ~? なんだ~いぱっしぃり~? 騒がしいぞぉ――人が折角、楽しく飲んでるのを邪魔するんじゃないよ。潰すよ?」

 

「王様なら良いかもしれないが俺のはやめろ! 未使用で再起不能とかマジで勘弁! てかホント、なんで居るんすか……? 四天王の方々って忙しいはずじゃ……?」

 

「ガハハ! そりゃ伊吹譲の手伝いするために時間作ったからな! おっしゃ! 特訓してぇなら俺らが相手してやるぜ!」

 

「頼むよ(ほし)、こっちは復興作業で忙しいからね。よし! 休憩終わりだよお前達! ノワールからこの辺りは鬼の里っぽく和風で作っても良いと言われてるからね! 気合入れていくよ!」

 

 

 酒飲みの声に休憩していた鬼や妖怪達が一斉に声を上げる。そんな中、俺は近づいてきた金髪の大男に担がれて別の場所に連れていかれることになった……このお方、星熊童子こと星さんで俺のししょーの一人。見た目通りというかなんというか考えるぐらいならとりあえず殴っとけみたいな感じだから俺としても楽といえば楽だ――ただし俺は死ぬ一歩手前辺りまで行くけど。

 

 

「……え? マジで? マジっすか?」

 

「遠慮すんなっての! ほれ金に虎に熊も付いて来いよ! 伊吹譲の旦那に仕えるってんなら精々俺らレベルまでは強くなってもらわねぇとな! よし! やる気満々そうだから全力で行くぜ!」

 

 

 あっ、死ぬなこれ。

 

 

「――上等! もっと強くなりたいしな!」

 

 

 王様に頼られる最強のパシリになるために! そしていずれ出来るであろう彼女を護るために! 今よりも強くなる!




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と影の国
110話


「そう言えばもうすぐ終業式でクリスマスっすね」

 

 

 いつもの様に水無瀬が作った夕飯を食べていると思いだしたかのように犬月が呟いた。この野郎……平家とエロゲーやら寧音達との殺し合いやらで必死に気づかないようにしてた俺の苦労をたった一言で台無しにしやがった……いや別にそこまで重要でも無いからどうでも良いんだがな。てかこの煮物うめぇ……流石キマリス眷属が誇る料理人、いつもの不幸体質はどこ行ったと言いたくなるぐらいの腕前だ。橘やレイチェルも料理が出来るし偶に昼飯とか作ってくれるけど俺はやっぱり水無瀬が作った飯が一番美味いと思う。こればっかりは俺と過ごした時間の違いかねぇ?

 

 

「ノワール、明日から私がご飯作ってあげるよ。何が食べたい? お勧めは私の体だよ」

 

 

 隣に座っている平家が俺の心の声を読んだのかそんな事を言ってくる。相変わらず過ぎて何も言えねぇな。

 

 

「腹壊すから却下……いってぇ!? 器用に足蹴ってくんじゃねぇよ!」

 

「季節外れの蚊が居たんだよ」

 

「マジか。つーかお前の飯も美味いんだが俺は水無瀬が作った奴じゃねぇと明日以降も頑張れないんだよ。というわけで明日以降も頼むわ」

 

「勿論です。えぇ、料理は私の仕事ですから! あ、あとノワール君……恵、です」

 

「むぅ、悪魔さん! 偶には私が作ったご飯を食べてください! た、確かに水無瀬先生が作った料理には及ばないかもしれませんけど愛情なら負けてません!」

 

「き、キマリス様……わ、私はキマリス様の契約者ですから対価としてて、手料理を差し上げても構いません! ご希望のものをお作り致しますわ!」

 

 

 何故か知らないが滅茶苦茶笑顔になった水無瀬に対抗するように私がと橘とレイチェルが声を出してきたが……いやうん、必死過ぎない? たかが手料理を作るだけでそこまで必死になるもんなのかねぇ。まぁ……参加したくても出来ない少女趣味で処女な鬼(四季音姉)よりはマシだと思うけども。

 

 

「にっしっしぃ~みんなぁひっしだぁ~のわぁ~るぅのおんなったらしぃ~」

 

 

 俺様知ってる、嫉妬だろ? 料理出来ないから羨ましいと思ってるんだろ? おい平家、正解だったら頷け……デスヨネ!

 

 

「モテる男はつらいぜ。いやぁ、どっかの鬼は手料理披露してやるとか言って盛大に台所破壊した事があったからそれに比べたら全然マシというかむしろ最高だわ! いやー誰だろうねぇー?」

 

「んなっ!? あ、あれは違うかんね! そ、そう!! 調理器具が思った以上に脆かったから出来なかっただけで本当はちゃ、ちゃんと出来るんだよ!」

 

「ちなみに四季音姉、お前の妹はちゃんと料理できるぞ」

 

「……え?」

 

 

 信じられないような表情で四季音妹を見つめているがこれは本当だ。鬼の里で一回だけ昼飯作ってもらった事があったが普通に美味かった。定番の洗剤混ぜたりから媚薬混ぜたりするかと思ったがそんな事は無く普通に……そう普通に芹の言う通りに作ってました。結局それは芹の手を借りたんじゃと思われがちだが俺の視線の先にいる鬼さん(四季音姉)は調理機器を手当たり次第にぶっ壊してるがうちのマスコット(四季音妹)はそんな事は一切しなかったので何も問題は無い。セーフ! 圧倒的にセーフだ!

 

 

「に、にしし! の、のののノワールも面白い事を言うね……い、イバラ……? で、出来ない、よね?」

 

「言われた通りなら出来るけど考えたりしながらは出来ない。主様にご飯を作った時は母様の言う通りに作った。だから出来た」

 

「ち、ちなみに包丁とかまな板とか鍋とか食材とか握りつぶしたりは……?」

 

「伊吹、ちゃんと加減すれば壊れない」

 

「――」

 

「つーか酒飲み……お前、マジで飯食う酒飲む以外出来ねぇとか女として――スイマセンデシタァ!!!」

 

 

 普段冗談半分で放つ殺気では無く俺と本気で殺し合ってる時の殺気を浴びた犬月は即座に謝った。分かる……分かるぞ……! だってコイツ、マジで飯食う殺し合う酒飲む寝るしかやってねぇし。いくらヤンデレすら許容範囲な俺でも料理のりの字すら知らないのは……普通ならアウトっぽい気がするがどんな代物が目の前に出てくるんだろうと考えるとそれはそれで面白いから許すだろう。料理下手な合法ロリ、有りだと思います!

 

 ちなみに夜空が手料理を作ってくれた場合は何が何でも胃の中に入れるのは間違いない。たとえそれが劇物が入っていたり洗剤、虫、その他諸々が混ざっていたとしても夜空の手料理ならば問題無く食べれるだろうね! むしろ残すわけがない! ただ俺の欲望を叶えてくれるなら腋おにぎりを生きている間に作ってくれると嬉しい! それを食べたら魔王ぐらいは鼻歌交じりで殺せるだろうし。

 

 

「私が作ってあげようか?」

 

 

 夜空が作ってくれた後でならいつでもウェルカム。

 

 

「了解、光龍妃がやったら毎日作ってあげる」

 

「……また早織さんと内緒話してます。ズルいです! 私ともいっぱいお話ししてください! 志保、悪魔さんとずっとお話ししたいな♪」

 

 

 そんな可愛い笑顔を向けないでください。惚れてしまいます。

 

 

「アーウラヤマシイナーオウサマヤッパリモテルナー! いやそれより酒飲みが女としてダメだってのは今更なんで置いとくとして……んな殺気向けんな!? マジ怖いっての! 兎に角! クリスマスですよクリスマス! キマリス領の復興も鬼や妖怪達が気合入れてやってるお陰で順調ですしこう、パーっと派手にやりません?」

 

「ん? まぁ、それぐらいは良いんじゃねぇか? 言っちゃなんだが母さんが皆で集まってご飯食べましょうとか言い出すんで毎年パーティーもどきはやってるが流石に今回は見送りっぽいしな。このメンツだけなら騒いでも文句は言わねぇだろ……いやそれよりもクリスマスが近づいてくるとか悪夢だな」

 

「なんでっすか?」

 

「いやお前……考えてみろ? 一年の中で恋人同士が確実にイチャイチャでラブラブなエッチをする日だぞ。今年こそ夜空とエッチする予定だったのに色んな事があり過ぎてエッチどころかまだ腋舐めしか出来てねぇ……いや考えてみればあの夜空の素敵な腋を舐めたって事は距離は近づいて行ってるに違いないな! まぁ、とりあえず夜空とエッチ出来ないクリスマスなんて無くなれば良いと思う」

 

「いやいやそんな理由で無くなれば良いとか言われましても……というより王様が妥協すれば付き合えるんーースイマセンダマリマススイマセンスイマセンスイマセンアーゴハンオイシイナー」

 

 

 四季音姉、橘、水無瀬、レイチェルという笑顔が素晴らしい女性陣からの圧力に屈した我がキマリス眷属のパシリは死んだような眼をしながら飯を食い始める。今の発言を気にしていないのは俺が夜空と付き合おうと傍に居られれば問題無しな平家、そもそも恋愛知ってるのか分からないがそこが可愛い四季音妹、絶対に恋愛なんて知らないが剣として使われれば何も問題無いチョロイン(グラム)の三人だが……まさかグラムにすら癒しを感じる事になろうとは眷属にした時には考えられなかったね!

 

 それにしても他の四人は最近グイグイと来てる気がするのは気のせいか? 橘はまぁ、いつも通りとして四季音姉と水無瀬は距離が何だか近くなってるしレイチェルに至っては契約者だからという理由で常の傍に居ようとしている。犬月からレイヴェルはおっぱいドラゴンで有名な一誠のマネージャーをしていると聞いたがそれの真似事か? 別に構わないんだが橘と一緒にベッドに潜り込まないでください。とても素敵なお山の感触でノワール君のノワール君が大変になります!

 

 

「にしし~ぱっしりぃはあっとっでつっぶすぅ~!」

 

「シュンさんは乙女心を知るべきですわ」

 

「犬月さん、そんなに急いで食べたら喉が詰まっちゃいますよ?」

 

「瞬君、まだまだありますから急いで食べなくても良いですよ。ノワール君、ご飯のおかわりはいりますか?」

 

 

 

 やべぇ、怖い。この四人の笑みが怖い。助けてくれ相棒!

 

 

『ゼハハハハ。俺様、空気が読める邪龍として定評があるからめぐみんのご飯を食べ続けているぜ!』

 

 

 テーブルの上に座りながらもぐもぐと水無瀬が作ったご飯を食べている相棒が親指を立てながらダンディな声色で返答してきた。すまん相棒……いくら人妻ですら誘惑できそうな声でも見た目(ぬいぐるみ)のせいで可愛いとしか思えないぞ! カッコよくもあり可愛くもあるとか流石だぜ!

 

 

「あーとりあえず貰うわ。そう言えば橘、クリスマスという一大イベントでアイドル活動は無いのか? 休業してるとはいえ今でもファンレターとか貰ってるんだろ?」

 

「はい! えっと実は一日だけ再開出来ないかとプロデューサーさんから連絡があったんですけど……参加しても良いでしょうか? あと悪魔さん! 志保だよ♪」

 

「別に参加するしないはたち、たちば、志保が決める事だしな。まっ、俺としてはアイドルなお前を見てみたいって気持ちは有るけどさ! もし参加することになっても毎日レッスンしてるし殺し合いの最中でも歌ってるんだから今更攻撃してこない観客を前にして緊張するわけがないだろ?」

 

「勿論です! じゃあ、一日だけアイドル橘志保として復活してみます! 悪魔さん、絶対に魅了しちゃうから覚悟しててね♪」

 

 

 キャーしほりーん! 可愛いよー! よし良いぞ! 淫乱アイドルから清純アイドルにジョブチェンジする時が来たから是非とも頼む!

 

 

「――元から淫乱だったけどね」

 

 

 それを言ったらおしまいだろうが。

 

 

「伊吹。志保が嬉しそう。アイドルをすれば主様は喜んでくれる?」

 

「どうだろうねぇ。ノワールの場合、楽しければ問題無いって性格だしあれはしほりん専用のアタック方法だからイバラが真似しても意味無いよ。そ、そもそもイバラがアイドルをやったら色々と大変だからね……絶対に真似したらダメだよ」

 

「分かった。伊吹の命令は絶対」

 

「まぁ、茨木童子がしほりんと同じくアイドルし始めたら王様が熱中するだろうね。てかアイドルというか芸能界って結構裏があるっぽいから騙される恐れがあるしやめた方が良いっすよ」

 

「アイドルにとって枕営業は基本」

 

「しません! 少なくとも私の事務所は真面目です!」

 

「志保ちゃんが所属しているところは大手ですからその手の話題はあまり無いと信じたいですね……いえそもそも早織が言ってる事はネットの噂話ですし志保ちゃんの傍にはキー君が居ますから何かあっても安心でしょう。最悪の場合はノワール君が何かすると思いますしね」

 

「のっわ~るぅのでばんがあっればぁ~みなごろっしぃ~」

 

 

 当然だな。一応、名目上というか立場上は王ですしー? 眷属に何かあれば解決しないといけないからな! 分かる……分かるぞ! だって橘って美少女だしおっぱい大きいしコミュ障で性格が悪い俺にすらフレンドリーというかおっぱいを使ったボディタッチをしてくるから手を出したい気持ちは良く分かる! だがもしも手を出したならば殺害からの一族全て惨殺は確定だ――と言っても俺が対処するよりも先に普段はオコジョ、正体は狐な神器の雷によって殺されるだろうけどな。

 

 ちなみに橘のボディーガード的な役割を持つオコジョは相棒の近くでお食事中だ。見た目だけなら可愛いオコジョだが本性を知っている俺からすれば可愛くもなんともない。むしろ相棒の方にしか目がいかないね!

 

 

「大丈夫ですわ! 今の志保さんなら神器とキマリス様が助けに来る前に体術で鎮圧できますもの!」

 

「性的な目的で襲い掛かったら一本背負いされて気絶させられるとか普通にありそうだな。マジでアイドルってなんだよ……! とりあえず元凶のガチムチハゲは殴っとくか」

 

「し、しません! ちょ、ちょっとえいっ! とする程度です! 危なくなったら悪魔さんを呼びますので助けてほしいです!」

 

「安心しろよマイビショップちゃん! 俺様、お前が相手を気絶させた後で登場してドン引きするから!」

 

「安心できません!」

 

 

 だってどう考えても俺が助けに入る前に終わってる未来しか見えねぇしな。だってお前……この前起きたD×D学園襲撃時を思い出してみろ? 殺し合いと認識したら即行動とか余裕だったからその程度でビビるわけないだろ。

 

 

「むしろ今日までノワールの傍に居て暴漢程度で驚いてたら眷属失格だよ」

 

「それっすよね……なんせ王様との殺し合いから始まって邪龍と戦ってるんだし今更殺人犯とか暴漢とかに襲われても小動物扱いっしょ。いやホント……慣れちまったなぁ」

 

「シュンさんが遠い目を……! あ、安心してくださいませ! これから先、まだまだ今以上の事が起きますもの!」

 

「姫様……それフォローじゃないっすよ!? いや当然の事だけどさぁ!!」

 

『ソれのなニがいけないと言ウのダ? 我ガおウが戦うのナらバワレらのでばンがあるというモの。わレらは我がオうの剣なり! たタかいがあるのナラば喜ンで殺しあオう! ソシておカわりだ』

 

「あ、はい」

 

「つーかお前、さっきから黙ってたくせに殺し合い関係の話題が出た途端に話し出しやがって……相変わらず過ぎて安心したわ。これからもその路線で頼む」

 

『よク分かラヌがこコろえた! 我が王ヨ! つギにあのおニ達と殺し合ウ日は何時だ!?』

 

「少なくとも数日以内にはまた特訓という名の殺し合いをやるだろうぜ」

 

 

 そんないつもと変わらない食事を過ごした後、俺はレイチェルと共にオカルト研究部の部室へと足を運んでいた。本来ならば平家を連れてくるのが安心なんだがイベントで忙しいと拒否られた結果、女王代理と自称しているレイチェルが同伴する事となった。何故か知らないが水無瀬達がぐぬぬ顔になってたような気がするが気のせいだろうし隣にいるレイチェルが滅茶苦茶ドヤ顔になってるのも気のせいだろう。この場所に呼ばれた理由だが普通にアザゼルからちょっと面かせやと呼び出しがあったからだ……まさかハーデスをぶち殺して冥府を崩壊させた件で説教か? あれに関しては水無瀬達から説教されたから勘弁してほしいんだけどなぁ。

 

 部室内へと転移すると先に待っていたであろう先輩と生徒会長、そして女王二人にアザゼルが椅子やソファーに座っていた。ちょっと待って……アザゼル、お前の前に置かれている胃薬って文字がデカデカと書かれた瓶は何だ? ツッコミ待ち? いやでも先輩達はスルーしてるし……まさか俺にしか見えないとかそんな感じ? マジでぇ。

 

 

「悪いなキマリス、いきなり呼び出したりしてよ」

 

「別に構わないが……なぁ、アザゼル。そのテーブルに置かれている存在感バリバリな瓶ってなんだ?」

 

「これか? どっかの頭がおかしい若手悪魔が惚れた女の腋を舐めただけで異常な力を発揮したり冥府襲撃したりハーデス殺したりと好き勝手にやってるお陰で胃に穴が開くんじゃねぇかってぐらい辛くなってな。最近はこれが無いとロクに寝る事も出来ん」

 

「マジか。誰だよそんな素敵イベント引き起こしてる奴は? きっと品行方正で真面目で性格が良いイケメンに違いないけどな。とりあえずお大事にとは言っとくぜ。きっとこれからもノリが軽くて身内にクソ甘い魔王絡みで苦労するだろうが頑張れよ! 応援してるぜ!」

 

「むしろお前が大人しくしてくれるだけで解決するんだがな!」

 

 

 それは無理だな。だって好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくのが俺だし。そもそも俺は夜空と殺し合って、イチャイチャして、今を楽しく生きて居られればそれで満足なのにお前らがあーだこーだと喧嘩売ってきたりなんだりするから面倒な事になるだけだ。まぁ、相棒を宿しているんだから厄介事に巻き込まれるのはどうしようもないんだけどね!

 

 

「もうっ、ただでさえ周りから色々と言われているのにあんな大事件を起こしたのよ? 少しぐらいは大人しくした方が良いわ。自分の領地に住んでいる悪魔達のためでもあるのよ?」

 

「そんな事言われましても……うちの領地に住んでる悪魔達って俺と夜空の殺し合いで慣れ切ってるんで魔法使い達が襲撃してきても驚くことなく対処してたぐらい頼もしいですし大人しくなくても問題無いんですよ」

 

「えぇ……キマリス領に住んでいる方々はキマリス様と光龍妃が殺し合う以上の事が起きなければまず驚きませんわ。恐らく冥界内でもっとも荒事に慣れ切っている方々だと思いますわ……褒めて良いのか分かりませんけども」

 

 

 レイチェルが呆れ口調で先輩達に言うが当然だろ? なんせ俺と夜空の殺し合いを何度も見てるんだぜ? 今更襲撃程度でビビるような連中じゃねぇよ。

 

 

「ついでに言うと四季音姉妹や平家に分け与えた土地に鬼や妖怪が住むから今後、今回のように襲ってきた場合は察してくれ。うん、ヒャッハーし返しだーと襲ったら力自慢の鬼や妖術得意な妖怪が出てくるとかある意味で怖いからな!」

 

「キマリスの悪名も合わせて冥界内で一番安全な場所だろうな。安心しろ、ハーデスを殺害したお前に喧嘩を売るような奴はリゼヴィムのような連中ぐらいだ。手を出せば殺されることは魔法使い達の件で理解してるだろうしな……しかし何度も思うが神滅具所有者が本当に神を滅ぼす事になろうとはな。キマリス、神器研究家の俺から言わせればお前はかなり危険な状態だぞ」

 

「いきなりなんだよ?」

 

「通常の神器とは違いお前が持つのは世界で十五種類しか存在しない特別な物だ。少し専門的な事になるが通常の神器と神滅具の違いは拡張性の違いだろうと判断している。所有者の才能や想像力……いやお前の言葉を借りるなら欲望か、それら全てを受け止めつつ研磨次第ではさらに成長出来るのが神滅具――だからこそ神すら滅ぼせるとされているわけだ」

 

 

 なにやらいきなり神器に関する授業が始まった件について。

 

 

「通常の神器と神滅具が至る禁手の種類は三種類ほど有るとされているがお前の場合は深淵面(アビス・サイド)と呼ばれるものだろう。これは簡単に言っちまえば異常なぐらい神器と向き合う奴が至る可能性だな。封印系神器を宿した奴が深淵面に至った場合は封じられている存在の力を最大限発揮できる代わりに無意識化で何かしら失ってもおかしくは無い……俺が危険と言ったのはこの部分だ。ただでさえお前は歴代所有者の呪いを受け入れ、影の龍クロムと同化してるんだ。ミカエルが言ってたぜ? 今のお前からは常人ならば発狂しているほどの呪いを感じているってな」

 

「まぁ、ハーデス殺す前に片っ端から魔法使いの魂を影龍王の手袋にぶち込んだしな。それが原因だろうぜ」

 

「やっぱりか……よくもまぁ意識を保ってられるもんだ」

 

「だって何があろうと俺は俺だしな」

 

 

 アイツよりも偉くなりたい、アイツよりも強くなりたい、アイツを殺したい、あの女を抱きたいという欲望を抱くのは生きているなら必ず思う事だ。俺だって夜空が欲しいし夜空と殺し合いたいし夜空とエッチしたいとか普通に思ってるからそれを否定する気は無い。だからリゼちゃんが蘇らせた魔法使い達の魂を神器の中にぶち込んでも俺にとっては何も変わらない……なんせ呪詛の類の言葉を言ってくるのは歴代達も同じだしさ。

 

 確かに前までの俺だったらちょっとだけきつかったかもしれないが徹夜して自分の事を見つめ返した結果、夜空が好きなだけの悪魔だと自覚できたからこれから先、歴代達や魔法使い達の魂が何を言おうともそれを貫き通す。だってこれが俺――ノワール・キマリスという一人の男なんだから。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハ!! その通りよぉ! 元総督ちゃん、テメェの心配なんざ宿主様にとっては全く意味のねぇ事なのさ! 俺様から見ても宿主様の精神力は異常なんだぜぇ? 俺様という邪龍すら受け入れ、歴代共の戯言すら許容し、自分という存在を自覚してるんだ! たかが呪い程度で狂うわけがねぇのさ!』

 

「というわけで危険だなんだと言われましてもこれが俺だから……としか言えねぇよ」

 

 

 俺と相棒の言葉に先輩を始めとした面々が絶句……というか俺の頭の上に視線を向けて言葉を失っている。あぁ、そう言えば復興作業中は殆ど相棒はこの姿だったけど先輩達には初めて見せるか。

 

 

「……相変わらずねと言いたいのだけれど一つ説明してもらえないかしら? キマリス君の頭の上に現れたそれは何?」

 

「声から推測すると影の龍……というのは理解できますが今まで手の甲から聞こえていましたよね? まさかサジと同じ……でしょうか?」

 

『その通りよ! ゼハハハハハ! 初めましてと言っておこうか? 俺様、影の龍クロム様だぜ! 宿主様が聖書の神の封印を内部から破壊してくれたおかげで得意とする影人形に俺様の意識を移せるようになったってわけだ! 今度この姿のぬいぐるみが発売されるから是非買ってくれよ!』

 

「……おいおい待て待て。噂で聞いてた話す影人形ってのはそれか!? あの聖書の神の封印を破壊しただと!? 腋舐めた程度でそんなもんやられるとこっちが困るぞ!」

 

「だって嬉しかったんだもん」

 

「男がだもんとか言うんじゃねぇ気持ち悪い! な、なぁキマリス……うちの女堕天使共とエロエロな事させてやるから一度影龍王の手袋を見せてくれ! 神器研究家としてはお前と光龍妃のデータが圧倒的に足りてねぇんだ! 頼む!」

 

「ダメですわ! いくらアザゼル先生とはいえキマリス様をそのような場所に行かせるわけにはいきません! これは契約者である私の命令ですわ……勿論、受けてもらえますわよね?」

 

 

 アッハイ。行きませんのでその笑顔をやめてください怖いです。

 

 

「悪いなアザゼル。うちの契約者がお怒りだから無理だわ。つーかいい加減本題に入ろうぜ? なんで呼んだんだよ」

 

「お、おうそうだった。この場には居ないD×Dのメンバーにも伝える予定だが少し厄介な事が起きてな」

 

「厄介な事……ですか?」

 

 

 生徒会長が疑問に満ちた声でアザゼルに尋ねると真面目な表情で頷いた。厄介事ねぇ……まさかまた夜空が何かしやがったか? そうだったら俺に内緒にするなよな! ちゃんと言ってほしいぞ!

 

 

「あぁ。先日起きたD×D学園及びキマリス領を襲撃した事件は当事者であるお前達も知っているだろう? 実はな……その陰でリゼヴィムが秘密裏に動いていたことが判明した」

 

「……なんですって?」

 

「本来ならば早めに判明してもおかしくは無かったんだが……各地を転々としながらリゼヴィムの名を叫び怒り狂うグレンデルとその補佐をするラードゥンの対処、地双龍の二人が冥府を襲撃してハーデスを殺害した事件に追われて発見が遅れた……いやそれら全てリゼヴィムの計画の内だったんだろうな。何があったか説明しよう――アガレス領内にある空中都市アグレアスで盗難事件があった。お前達もあそこがどういう場所か分かっているだろう?」

 

「悪い、なんだっけ?」

 

「キマリス君、流石に冗談よね……? 王としてアグレアスがどのような場所かは知っていて当然。常識よ?」

 

「だって興味無いんで。あーでもなんか王になるために通ってた学校とかで言ってたような気がする……悪いレイチェル、説明頼む」

 

 

 というわけで始まりましたレイチェル・フェニックスによるアグレアス説明会! 若干ドヤ顔で説明しているレイチェルが可愛いけど残念な事に知ってるんだよね! だってここで知ってますとか言うよりも先輩達困らせた方が面白そうだったし……仕方ないね!

 

 確か悪魔の駒の原材料が内部にあるとか無いとか旧魔王時代からの遺産だとか何とかだったはずだが……そこで盗難事件ねぇ? もしかして原材料が盗まれたとかか? あり得るな。だってリゼちゃんだし。ルシファーの名前って悪魔の中では特別中の特別で今の魔王よりもリゼちゃんの方が良いって悪魔も存在するだろうから可能性として考えるなら内部から手引きしたと判断するのが自然か。

 

 あとついでに別にリゼちゃんの掌の上でしたとか言われても何も思う事は無い。だって次にあったら殺すからね。

 

 

「――というわけで王であるならばアグレアスがどのような場所か知っておくべきですわ。し、仕方ありませんわね……このレイチェル・フェニックスがキマリス様のためにも今日から王としての常識を教えて差し上げますわ」

 

「えー」

 

「えーではありません! これは決定事項ですわ!」

 

「別に良いが対価は貰うぞ?」

 

「か、構いませんわ……」

 

 

 よっしゃ! 今更勉強なんざしたくは無いがお姫様の腋が見れるんなら安いもんだ!

 

 

「おうおうイチャつくのは後にしろっての。さて察している奴もいるだろう……盗まれたのは悪魔の駒の原材料だ。と言っても全部というわけじゃなく一部分だがな」

 

「リゼちゃんったら優しいな。全部持って行かなかったのかよ」

 

「流石にデカい上、あんなもんを保有してたら自分の場所を教えるようなもんだ。戦力に乏しいリゼヴィムはその辺も考えてるんだろうぜ……中身はお子様でもルシファーだ、頭の回転ならサーゼクスやアジュカすら上回るだろうしよ。原材料である結晶体を何に使用するかは分からんが今後はいつも以上に気を付けた方が良いだろう……話はそれだけだ」

 

 

 そんなわけでアザゼルの話が終わったので自宅へと戻ってきたわけだが……気を付けろと言われても今まで通りの事をすれば良いだけだろ? だったら特に考える事でもねぇな。つーかリゼちゃん絡みの件を考えるよりも先に目の前で起きている異常の方を考えるべきだしな――ちっ、まさか堂々と何かしてくる奴が居るとは思わなかったぜ。

 

 

「……おかしいですわね。水無瀬先生や花恋さん達の声が聞こえませんわ」

 

「部屋にいるってわけでもねぇな。そもそもこの時間帯なら四季音姉妹はリビングで酒飲んでるはずだ……相棒、どう思う?」

 

『どうもこうもねぇさ。分かっているんだろう? 俺様達が元総督と話している間に此処に居た連中が姿を消したって事によ! そもそも潜入しようがあの覚妖怪が居る以上、即効で対処できるはずだ。あれを欺くほどの術者となれば世界にそうはいねぇはずよぉ』

 

 

 だろうな。平家の感知能力は俺が信頼できるほどのものだ……引っかからないのはまだ良いがいくら何でもおかしい。キマリス眷属最強の四季音姉が居たんだぞ? アイツが居て連れ去られたとかちょっとあり得ねぇ……まさか神レベルか? いや、それなら色々と面倒事が起きるはずだ。とりあえず散策するしかねぇか。

 

 隣にいるレイチェルに傍を離れるなと伝えると静かに頷いた。ここで何かあったらフェニックス家に申し訳ないしな……悪いが全力で護らせてもらうぜ。

 

 周囲の警戒を怠らないままリビング、地下室、風呂場、各々の部屋を探してみるも誰一人として存在しなかった。マジか……ここまで堂々とした誘拐とか初めてすぎてテンション上がってきたぞ。とりあえず犯人には悪いが死ぬことすら生温い地獄を見せようかねぇ?

 

 

「……どこにもいませんわね。キマリス様……一度お義父様方にご相談した方が良いかもしれませんわ」

 

「だな。ちっ、夜空の悪ふざけってわけでもなさそうだ……アイツでもこんな事はしないだろうしな」

 

 

 家の中を片っ端から散策しても犬月達の姿を確認できずリビングに戻ってきた俺はレイチェルの不安そうな表情を視界に入れながら親父達に連絡をしようとする――といきなり床に魔法陣が展開された。色は真っ黒で何かの影と言われたら納得するようなものだ……なんだこの術式? いや待て……これって!!

 

 

「相棒!?」

 

『あぁそうだよ! あんのクソババアァァァァァッ!!!! 俺様達の家に土足で入り込みやがったな! ぶち殺してやる……あぁ、殺してやるぞ!!! 宿主様!』

 

「分かってる!」

 

 

 即座に鎧を纏い、全能力をフルに使って取り囲んだ転移術式を破壊しようと影人形のラッシュタイムを叩き込むが……ヒビすら入らなかった。マジかよ……だったら漆黒の鎧でぶち破、いや近くにレイチェルが居るからあんなもん使ったら下手すると死ぬな。くそったれ!!!

 

 怒りを力に変えるように目の前の壁を殴り続けていると突如として女が現れた。膝裏まで伸びている漆黒の長髪で目に光が宿っていない深淵の眼、透明な黒のヴェールと漆黒のドレスを纏った黒一色な美女だ。ソイツは俺達の姿を見てどこか呆れているような表情になり――声を発した。

 

 

「――この程度も破壊できぬか。ふむ、やはりこの(わたし)が鍛えてやらねばダメだな。ほれ、修行するぞ馬鹿弟子よ」

 

『誰が弟子だクソババアアァァァァァァァァァァッ!!!!!!!』

 

 

 その言葉の直後、俺達は視界は真っ黒に染まった。




「影龍王と影の国」編の開始です。
最後に登場した美女はいったい誰なんだろなー(棒)

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

111話

「……ここは、神器の中ってわけじゃねぇな。レイチェル、無事か?」

 

「は、はい……怪我一つ負ってはいませんわ。キマリス様……此処はいったいどこなのでしょうか?」

 

 

 全身真っ黒な女による転移術式によってどこかに飛ばされた俺達の目の前には異様な光景が広がっていた。天井や壁、家具類が黒一色で統一されており、少し離れた窓から見える空は真逆の真っ白に染まっている。それだけならまだ良いが天井からつり下がっているシャンデリアの明かりも白、床に敷いてある絨毯の模様も白とまるでモノクロの世界に迷い込んだかと錯覚しそうになる……というよりも黒と白以外の色を持つのは俺とレイチェルが着ている服ぐらいだ。周囲を見た時は一瞬、神器の中に意識を落としたのかと思ったがレイチェルが傍に居る以上、その線は無くなったが……マジで似てるな。

 

 

『――帰ってきちまったか。あぁ、クソがぁぁ!! あの若作りババア! いきなり現れて俺様達を弟子呼ばわりしやがった! 挙句の果てには()()()に飛ばしやがって! 殺してぇ! あぁ、殺してぇぞ!!!』

 

「……影の国と言いますと女王スカアハが治めるという異空間と文献や噂で聞いてはいましたが……此処がそうなのですか!?」

 

『おうよ。この俺様が生まれ、外に飛び出すまで何十何百何千何万と殺害され続けた故郷だ。宿主様、すまねぇ……まさかあのクソババアが強引な手段をとるとは思わなかったぜぇ。あれは究極の引きこもりでなぁ、外の世界に興味など抱かない奴だと思ってはいたがまさか自ら外に出て俺様達を連れ去るとは考えもしなかった』

 

「てことはあの全身真っ黒女がスカアハか……相棒、確か夜空の話ではD×D学園襲撃の際にも外に出てたらしいがまさかずっと外に居たって事か?」

 

『分からねぇがそれはねぇはずだ。あのクソババアが現世に出て戻ってこねぇなど分かればルーの野郎やダグザのジジイ、他のケルトに属する神々が放置するわけがねぇからな。なんせ此処を治めている女王が居なくなれば外で彷徨っている亡霊共が現世に出てちまうからよ。クソが……! 何考えてんだあの女は!!』

 

 

 俺の手の甲からガチギレしている相棒の声が響き渡る。何年も一緒に居るから今の相棒が心の底からキレている事は分かる……まぁ、スカアハに数えきれないぐらい殺害されたらそうなるよな。俺だって同じ目に合えば相棒のようにガチギレすると思うし。つーかあの真っ黒女がスカアハか……目に光が宿ってないとかヤンデレですか? やめてください、ヤンデレは水無瀬達だけで十分です。相棒達から頭がおかしいなどと言われている奴のヤンデレとか想像したくないんだが? もしかしてこんにちは死ねから始まって死んでずっとここに居ろとか言わないよな……いや俺が想像する以上の事があってもおかしくはないかもしれねぇ。うわぁ、帰りてぇ。

 

 不安そうなレイチェルを落ち着かせるために手を握りながら周囲を見渡す。キマリス領にある実家にも俺達が居るような部屋はあるから多分、客室かなんかだろうが俺達よりも先に巻き込まれたっぽい犬月達の姿は見えない。別の部屋か……つーか窓から外の景色が見えるけど怨霊やら亡霊やら色々居過ぎだろ。地面が見当たらないってことは此処は二階か……? あっ、違うわ。崖の上かよ……見た感じ底が見えないから落ちたら上がるの大変そうだ。でもなんで壁っぽいのが見えるんだ? まぁ、今はどうでも良いけども。というよりも亡霊の類が居ようと俺には全く問題無いが傍に居るレイチェルが体調不良になったらどうすんだよ。ただでさえ影の国に飛ばされましたって状況でもアウトなのに倒れたりでもしたらフェニックス家から責任とれとか言われかねない! だって明らかに結婚させようって動きしてるしな!

 

 

「……キマリス様」

 

「とりあえず犬月達を探すぞ。良いか、体調が悪くなったりしたらすぐに言え。心配させまいと無理して悪化でもされたらこっちが迷惑だからな……あと俺から離れるな」

 

「も、勿論ですわ……こ、このレイチェル・フェニックス、キマリス様を頼りにしていますもの!」

 

 

 こんな状況でもいつもの様にドヤ顔出来るのはある意味すげぇわ。流石お姫様ってか?

 

 レイチェルの度胸的な何かを目にしたからか地味に落ち着いた俺は部屋の扉を開けてすぐに外へ出ずに様子を窺う。この部屋同様に明かりは白くそれほど明るくないからか薄暗いという印象がある。長い廊下が続いており別の部屋に入るための扉がいくつか見えるが物音はしていないから誰かが居るわけでもなさそうだ……いやそれよりも分かっていたがマジで白と黒しかないなおい……この部屋に飾ってる絵画とか白黒だしちょっと離れた所に置かれている花も白黒。今は良いがこれが続くとなると流石に目が痛くなりそうだ。

 

 

「……見た感じ、俺の実家みたいな城――」

 

 

 部屋から出て一歩、たった一歩だけ歩いた瞬間、真下から槍のような鋭い何かが複数生えてきて俺の腹や腕、足を貫いた。目の前で殺人事件的な何かが起きたからか駆け寄るためにレイチェルは俺と同じように部屋の外に出ようとしたので腹から血を流しながらその場に居ろと命令する。クッソ……! 罠ぐらいはあるだろうなとは思ってたが初っ端からとはやってくれるじゃねぇか! いきなりの事で影人形を生み出す時間すらなかったぞ!? 部屋の中から凄く心配そうに見つめてくるレイチェルだが安心してくれ! 夜空との殺し合いで上半身が吹き飛んだり寧音や芹との殺し合いで骨という骨が粉々に砕かれたりしている俺からすれば()()()腹や腕を貫かれた程度だ! あまりにも優し過ぎて逆に涙が出てくるね! だがもし先に部屋を出たのがレイチェルだったら……柄じゃないが俺は自分が許せなかったかもしれねぇけどな。

 

 だって女の腹にこんなのが突き刺さる光景を目の当たりにするとかちょっと……ねぇ。一応、護るとか声高々に言ってるんだしさ! 俺がこんな目に合うのは良いのかって平家辺りから言われそうだが俺は良いんだよ、慣れてるし。

 

 

「キマリス様!?」

 

「気にすんな、たかが……腹を貫かれた程度だ。この程度で取り乱してたら俺の契約者は務まらねぇぞ」

 

 

 影人形を生成して床から生えた槍もどきをへし折ってそのまま腹から引き抜く。出血を止めていた栓とも言える槍もどきを引き抜いた事で貫通した穴からドボドボと赤い血が流れ始めたがいつもの光景なので取り乱すことなく「再生」を発動して傷を塞ぐ。前までだったら鎧を纏わなかったら使えなかったが今ではごらんのとおり! 鎧を纏わなくても相棒の力である「再生」能力を使えるようになった! いやマジでよかったわ! うん、これも夜空の腋を舐めたおかげか? もしそうなら夜空の腋を崇めるしかねぇな!

 

 

『わりぃ、言い忘れてたがこの城内をうろつくなら覚悟しといた方が良いぜぇ? 至る所にさっきみてぇな罠が仕込まれてるからな!』

 

「……絶対わざとだろ」

 

『ゼハハハハハハハ! 当然よぉ! 俺様の宿主様ならこの程度の罠ぐらいで死にはしねぇだろ? 俺様、空気が読める邪龍として非常に定評があるからな!』

 

「俺だったから良いがレイチェルが引っかかったらどうすんだよ……ちなみに一度発動したものは二度と起動しないという素敵仕様――じゃないようだな」

 

 

 同じ場所に立ち止まっていると再び槍もどきが生えてきて串刺し状態になる。デスヨネ! はいはい再生再生っと。

 

 ちなみにだが鎧を纏っていない状態でも再生能力を使えるようになったのに加えてなんと……なんと! 服まで再生するようになりました! これで鎧の下は全裸という状況にならずに済んで俺様、凄く感謝ものです! いや別にレイチェルが俺の全裸見たいって言うなら喜んで見せますけどね! まぁ、既に風呂とかで見られてるんだがな。

 

 

『さらに忘れてたぜ! 五秒以内には再起動するから気を付けろよな!』

 

「言うの遅いっての……俺だけならまだ良いがレイチェルが居るから軽く準備しないとダメだな。幸い、部屋の中は安全っぽいのが地味に助かる」

 

『え?』

 

「は?」

 

 

 おい相棒! なんだそのテメェはいったい何を言ってんだって感じの声色は!? まさか部屋の中も危険ですとか言うんじゃ――あぁ、うん。危険ですね! はい!

 

 視線の先には武装した亡霊っぽい何かが俺達を見つめている。なんか地面から生えてくるように現れたんだけど何あれ? 部屋の外から出れば串刺し、引きこもっていても亡霊に襲われるとかどうやって此処に住んでんだよ? 凄く退屈しなさそうで羨ましい……わけがねぇわ。これが平家辺りだったら引きこもれない部屋なんて存在して良いはずがないとか言ってマジギレしてるぞ。

 

 

「……一応聞くけどあれも罠か?」

 

『そうだぜ! 爆睡中に襲われても対処できるようにとスカアハが設置したものだな! ゼハハハハハハ! 部屋の中なら安全だと安心しきった弟子共が寝てる間にこいつらに殺されてよぉ! あのクソババアが呆れてたのを思い出したぜ! 懐かしいなぁ、帰ってきちまったなぁ。おいおい宿主様、まさかとは思うがこの場所に安全地帯みてぇなものがあると思ってたか?』

 

「まぁな」

 

『ゼハハハハハハハハ! あのクソババアが住む城、いやこの影の国にんなもんあるわけねぇだろうが!』

 

 

 納得しか出来ない言葉をありがとう!

 

 とりあえず襲ってきた亡霊共を霊操で支配して消滅させる。こういう時だけキマリスに生まれて良かったと思えるな……亡霊というか「霊」の類なら無双できるし。

 

 

「よし対処完了っと。いやマジでどうする……廊下に出れば串刺し、黙ってても亡霊に襲われる。いやさっきの奴らなら俺が居れば対処できるから問題無いが流石に何度もやられるとウザい。相棒、此処って壊せるか?」

 

『無理だな。俺様がまだ此処に居た頃の話だがこんのクソババア! ウゼェ! 死にやがれと城の中で大暴れしたが壊れもしなかったからよぉ。もっともその当時は影を生み出す力と不死身が取り柄のドラゴンだったから今だったら可能かもしれねぇけどな!』

 

「お、おう。ちなみに燃やすことは?」

 

『過去に俺様がやったが即効で消えたぜ。ついでに言うと窓の外だが見て分かる通り崖だ。落ちたら最後、這い上がってくるのは至難の業ってやつよ! 宿主様達は空を飛べるから幾分楽といえば楽だが罠が仕掛けられててなぁ~弾幕ゲー並みの攻撃が襲ってくるから要注意だぜ!』

 

「……いっその事、崖の下に落とすか」

 

『ゼハハハハハハハハ! わりぃ、宿主様。それも過去に俺様がやったがこの城自体が浮くから意味ねぇぜ!』

 

「マジかよ」

 

「いえ……そもそも試しすぎですわ」

 

 

 レイチェルが呆れ顔で呟いたが俺もそう思う。恐らくだが俺が思いつくものは全て相棒は試しているだろう……という事は対処の方法が無いってことになる。まじでぇ……あーめんどくせぇ。てか思ったんだが俺達を連れ去った本人はどこに居るんだよ? まさか私は此処だから会いに来いって奴なら平家以上のかまってちゃんだぞ! そう考えるとノワール君依存率ナンバーワンなアイツってまだ性格良かったんだな。今初めて知った衝撃の事実……か? とりあえず帰ったらモフっておこう。

 

 

『宿主様が考えた通りだぜ。あのクソバアアは宿主様が自分の前までやってこれるかどうか試してるのさ! 途中で死ねば呆れるし五体満足でやってくれば嬉々として今以上に辛い修行を行うだろう! あの女にとってこれぐらいは出来て当然、出来なければ死ねだからな! もっともケルトに属する奴らにとっちゃ常識なんだがよぉ!」

 

「……なぁ、それって普段俺達がやってる事とあんまり変わらない気がするんだが?」

 

「それはキマリス様だけですわ……」

 

 

 マジで?

 

 

『それよりもどうしたんだよ宿主様! やけに慎重じゃねぇか? いつもだったら罠があろうがとりあえず進んでみるかと言うだろうによぉ?』

 

「俺だけだったらな。だが傍にレイチェルが居るからよっしゃ突き進むか! とかは出来ねぇっての。いくらフェニックスの再生能力があったとしても目の前で知り合いが串刺しやらなにやらって感じになるのはなぁ……赤の他人だったら迷わず相棒が言った通りにしたけどさ」

 

「キマリス様……それならば問題ありませんわ! このレイチェル・フェニックス、キマリス様と契約した時からその手の類は覚悟していておりましたもの! それにフェニックスの再生能力を甘く見てもらっては困りますわ――お兄様のような豆腐メンタルとは違いますの! キマリス様や早織さん達と暮らして精神力だけならばフェニックス家の中でも一番だと自負しております!」

 

「さらっとライザーが貶されたような気がするんだが?」

 

「事実ですもの」

 

 

 おいライザー、お前自分の妹に豆腐メンタルとか言われてるけど大丈夫か? いやどうでも良いけど。

 

 

「――そっか。なら悪いが付き合ってもらうぞ。なに心配するな……怪我一つ負わせねぇよ」

 

 

 俺の言葉にレイチェルは頷いた。さてと……まずはあの真っ黒女に会いに行くとすっかねぇ! 犬月達の安否も気になると言えば気になるが仮にも俺の眷属だ、たかが拉致られた程度で黙ってるような連中じゃねぇしな。本当なら王権限で近くに呼べればいいんだがどうもその手の対策がされてるやがるのが地味にめんどくせぇ……まっ、アイツらなら俺が動いていればその内やってくるだろ。

 

 そんなわけで即座に鎧を纏い、レイチェルをお姫様抱っこする。顔を赤くしているお姫様が地味に可愛い! さてさて……覚悟は良いなスカアハ? 言っておくが俺を此処に呼んだことを後悔させてやるから覚悟しておけ!

 

 

「ゼハハハハハハハハハ! 行くぜ相棒! レイチェル!」

 

「はい!」

 

『おうよぉ! あのクソババアに俺様達の恐ろしさを見せつけてやろうぜ! さぁ、大暴れの時間だぁぁ!!!!』

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!!』

 

 

 全身から影を生み出して部屋中を覆い、廊下へを走らせる。俺が生み出した影に反応したのか槍もどきが床やら天井やらから生えてきたが知った事か……! レイチェルが覚悟を決めたんなら俺は俺らしくやるだけだからな!

 

 

「一歩でも外に出れば串刺しだ? 知った事かそんなもの! ゼハハハハハハハハハハ! 相棒! 罠があったらどうすんだっけ?」

 

『決まってんだろ――気にせず突き進めだ!!』

 

「おう! さらに言うと罠があろうが無かろうが手当たり次第にぶっ壊すのが俺達だ!!」

 

 

 影からいつもの様に影人形を生成して影やら床やら手当たり次第にラッシュタイムを放つ。勿論「捕食」の力を発動するのも忘れない! スカアハが暴れ回る相棒対策として強固にしたのかどうかは知らないがムカつくから破壊させてもらうぜ……確かに此処に拉致られた時は手も足も出なかったが甘く見過ぎだぜ? 勝手に連れてこられて自分の元までやってこいとか上から目線過ぎてすっごくムカつくからな! 何があろうと徹底的に破壊させてもらうから覚悟しとけ!!

 

 怒りを力へを変えるようにラッシュタイムを放つ影人形を使役しながら廊下を歩く。一歩進むごとに罠が起動するが出ると分かっているならば影人形で対処できるのでさっきまでのように串刺しとかにはならない。つーかマジで硬いな……ラードゥンの障壁並みだぞ? まっ、それでも壊すのが俺達だけどな!

 

 通り過ぎる部屋から出てくる亡霊共を支配してそれを媒体に影龍人形を生み出す。分かってるさ相棒……お前も破壊したいんだよな? だったら思いっきりやってくれ!!

 

 

『ゼハハハハハハハハッ! 流石は俺様の宿主様だ! よく分かってんじゃねぇの! 昔は無理だったかもしれねぇ……だがな! あの神に封印されて宿主様と出会った俺ならば不可能な事なんざあるわけがねぇんだよ!!』

 

 

 俺達が歩く廊下の広さでは収まりつかないほど巨大な影龍人形に意識を移した相棒は高笑いしながら壁や天井を押すような動作をし始める。なんと言うか窮屈そうだな……大丈夫か?

 

 

『宿主様!!』

 

「おう!」

 

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtain!!!!!』

 

 

 生み出した影、ラッシュタイムを放つ無数の影人形、そして窮屈な状況から逃れようと暴れている影龍人形という多くの「影」に触れている存在の力を一気に奪い取る。轟音が鳴り響き、地響きすら起こり始め普通の建物ならとっくの昔に崩壊している状況だが未だに健在とは恐れ入るよ――もっともそれも終わりだがな。

 

 ピキッとどこかに亀裂が入る音がした。それを聞いた俺と相棒はニヤリと笑い、ゼハハハハハと高笑いしながらさらに影を生み出し力を奪う。たとえ影の国だろうが関係ない! 好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくのが俺達だ! それを邪魔するって言うなら神だろうが魔王だろうが世界だろうがぶっ殺す!!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!』」

 

 

 影龍人形の頭部が天井を貫き、影人形のラッシュによって壁が破壊される。よし! 破壊できると分かればこっちのもんだ! 手当たり次第に壊し続けるだけだからな!! ちなみにお姫様抱っこ状態のレイチェルだがあまりの光景に絶句しているらしい。大丈夫大丈夫! これぐらいならいつもの事だから早く慣れた方が良いぜ!

 

 

『よっしゃぁっ! ほれ宿主様、頭に乗ってみろよ! 自慢じゃねぇが景色だけは良いからよぉ!』

 

 

 まるで子供のようにはしゃいでいる相棒の言う通りにレイチェルを抱えたまま影龍人形の頭部へと昇る。空は真っ白で建物の色は黒、遠く離れた森とかも黒……マジでモノクロの世界だな。白と黒しか存在していないという異様な光景だが相棒の言う通り景色だけは良いのは本当だ。というよりも気のせいか……かなり離れた森で誰かが暴れているんだが? つーかあれ四季音姉妹じゃね? だって一直線に地面抉るような破壊力を持つ奴なんてあいつ等ぐらいだし。マジかぁ……外に居たのかよ! 通りで建物内で暴れててもやってこないわけだ!

 

 

「き、キマリス様! あちらで何やら戦ってるような光景が見えますわ!」

 

「だな。あの威力からして四季音姉妹だな。どっちが居るかは分からんがとりあえず無事っぽい……とりあえず会いに行くか。相棒、頼むわ」

 

『任せとけ! 今の俺様は機嫌が良いからな! 紳士的に運んでやるぜ!!』

 

 

 逞しいと思える翼を広げて空を飛び、戦闘が行われているらしい場所へと飛ぶ。足元には影龍を模した人形、そして手元にはお姫様……どこかの映画かと言われたら納得しそうになるシチュエーションだな! 囚われのお姫様を救出した王子様とかなんかそんな感じの奴! なんだろう……平家辺りからどちらかというと誘拐した魔王だと言われた気がする。き、気のせいだな!

 

 空を飛びながら周囲を見渡すが何とも異様な光景だった……先ほどまで俺達が居たらしい建物は崖の上に建てられておりそれを囲うように七つの城壁が城から離れた場所に並んでいる。俺達が居た城に辿り着くには侵入者を突破させないためかデカいドラゴンや獣が門番らしき奴らを倒して唯一繋がる一本道を進む以外は無いみたいだな……いや空を飛べる奴ならどこからでも可能か。というよりもこれが影の国か……見た感じ、此処で暮らしている奴は居ないっぽいな。まぁ、亡霊共が彷徨ってる時点で居ないだろうとは思ってたけどよ。

 

 

「よぉ、無事か……おい、なんで居るんだよ?」

 

 

 戦闘が行われていた場所へ降り立つ俺の視線にこの場に居ないだろう人物が映っている。俺の予想通り四季音姉妹は楽しそうに怪物達と戦っており化け犬モードになった犬月が背に水無瀬と橘を乗せて駆け回り、平家とグラムが涼しい顔をして怪物達の首を落としている。大怪我らしいものは負ってないみたいで安心したが……マジで何で居るんですかねぇ? お前、俺の眷属だったっけ?

 

 俺の疑問に答えるように男は得物である何かの骨で出来た槍を回しながら振り返る。どこかの学生服の上からボロボロのローブを羽織った男……その名は――

 

 

「なんでと言われると説明には時間がかかるんだがな。しかしまさか影龍王までもが此処に来ていたとは驚いたよ。積もる話は敵を排除してからにしないか?」

 

 

 禍の団、英雄派のトップこと曹操だ。




観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

112話

「――そんで? なんでお前がこんな場所に居るんだよ。あっ、地味に美味いなこれ」

 

 

 先ほどまで戦っていた怪物……正式に言うなら獣っぽい何かを殲滅した俺達はその場で焚火をしながら肉を焼いていた。どこから調達してきたかと言われれば先ほどまで戦っていた獣っぽい何かを食いやすい大きさにカットして俺が生み出した影で貫き、そのまま火で焼くという原始的なものだ。塩胡椒やタレと言った調味料関連は無いのでそのまま食うしかないから女子力のある女性陣(水無瀬と橘とレイチェル)はえぇ……本当に食べるんですかと困惑してるが肉食系女子(四季音姉妹と平家とグラム)と犬月は何事も無いかのようにモグモグしている。流石は鬼と覚妖怪と剣だな! ただ肉を焼いただけとはいえ気にせず食べるとは男らしい!

 

 そんな事は置いておいて俺の質問に答えるために目の前の男――曹操は肉を食べるのを止める。この男、何の迷いもなくモグモグし始めたから恐らく俺達よりも前に此処に連れてこられてサバイバルしてたんだろう。原始的とも言える漫画肉を食べる姿もイケメンとかさっさと死んでくれねぇかなぁ。

 

 

「影龍王、キミは既に察しているはずだが?」

 

「まぁな。どーせスカアハに拉致られたとかだろ。何時からだ?」

 

「そうだな……キミがハーデスを殺害した頃と言えば良いか。キミ達が作ったD×D学園襲撃という事件に駆けつける事が出来ず止む無く人間界を放浪していたら英雄派……いや既に禍の団自体が崩壊寸前だから元英雄派だな。それの構成員と再会したら突然現れてね。俺達全員、此処に飛ばされたと言うわけさ」

 

「……全員?」

 

 

 曹操の言った言葉に疑問を覚えた俺は周囲を見渡してみる。山のように積んである怪物は勿論死んでいるし今も少しずつ犬月や四季音姉妹、グラムというメンツに食える部位を捌かれて焼かれている。そこは良い! だって現に美味いし。俺の膝の上に座る平家はお淑やか……お淑やか? 全く似合わない仕草でちょっとずつモグモグし、俺の横に座ったレイチェルと橘も豪快に食べる面々を視界に入れながら同じようにモグモグ、水無瀬に至っては肉を焼く作業で忙しい様子だ。うん、この場には俺達キマリス眷属とレイチェル、そして曹操しか居ない。離れた場所で待機しているのかと思ったがそれもなさそうだ……あぁ、そういう事か。

 

 

「なるほど、生き残ったのはお前だけか」

 

「――あぁ。俺以外は殺されたよ。この影の国を支配する女王様が与えた試練にね。このようにサバイバルをしていたら再度目の前に現れてそのように告げられた……だがもしかしたらそれは嘘で本当は生きている可能性もある」

 

『残念だがそれはねぇな。あのスカアハが殺したと言ったなら既に死んでるだろうぜ! どうせあのクソババアの事だ、軟弱な奴らだから鍛えてやろうという身勝手な行動によるものだろうぜ。俺様達ですらあの女からすれば弟子らしいからなぁ!』

 

「なるほど。キミ達が此処に飛ばされた理由は影龍王、キミが原因か」

 

「らしいな。レイチェルと一緒に家に帰ってきたら誰も居なくてビビったわ……まさか平家が居て拉致られるとは思ってなかったしな。おい、サボってたわけじゃねぇだろうな?」

 

「サボってないよ。自慢じゃないけど誰かが侵入しようものならすぐに気づくもん。今回の件に関しては私や花恋が気付く前にいきなり現れて転移させられた。私達は空から地上に落下で済んだけどノワールとお姫様は……あぁ、大変だったね。慰めてあげようか?」

 

「はいはい後でな。いやマジで大変だったわ……いきなり部屋の中に転移されて廊下に一歩出てみれば串刺しだぜ? 夜空の腋舐めてパワーアップしてなかったら危なかったわ! んぁ? どうしたそんな顔して……もしかして知らなかったか?」

 

「……まぁね。なるほど、俺が旅をしている間に影龍王と光龍妃の仲が深まっていたようだ。驚愕の事実だが一つ気になる事がある――いつ結婚するんだ? 可能であれば結婚式には参加させてもらいたいのだが」

 

「マジか。別に構わねぇぜ! 夜空との結婚式なぁ……そりゃもう決まってんだろ! 俺がちょっと頑張れば今すぐにでも――イエナンデモナイデスゴメンナサイウソデスハイ。つーか曹操、お前なんでその槍使ってんだ? ご自慢の聖槍があるだろうが」

 

 

 マスコット枠とチョロイン二名以外の女性陣から少しダマレ的な視線を浴びたので話題を変える。ナニコレ怖い……もしかして俺が夜空と結婚したら「ノワールは私と結婚するの!」とか言って殺し合いに発展しないだろうな? 俺的には大歓迎だからドンと来いだ! なんだったら寧音に芹に八坂という人妻勢の乱入でも良いぞ! 迫りくる集団を相手に新郎新婦による共同作業……最高だな! うんうん! もういっその事、殺し合い有りの結婚式でも良い気がしてきた。今度夜空にどんな結婚式が良いか聞いてみるかねぇ。

 

 そんな大事な事は置いておいてだ……俺の視線の先には何かの骨で出来た槍がある。確かに曹操の得物は槍なのは分かるがこんなのを使わなくても神だろうが魔王だろうが普通に殺せる神滅具こと聖槍があるはずだ。仲間が殺されている状況で縛りプレイをしてる暇は無いだろうに……それとも使えない理由があるのか?

 

 

「――ないんだよ」

 

「んぁ?」

 

「聖槍は既に手元に無い。女王スカアハに抜き取られてしまってね……「英雄とは何かと知りたいならばこのような玩具は必要ない、しかし取り戻したいというならば生き延びて妾の前に現れろ」とね。反論する間もなく気が付けばこの森の中だ。亡霊や獣、怪物の類を相手にただの人間が素手で相手できるわけがないから逃げ回っていたら偶然落ちているのを目にし、武器として使用したお陰で今日まで生き延びる事が出来た……これが無ければ俺は既に死んでいたよ」

 

 

 若干死んだような眼になった曹操とかレア過ぎるんで写真取りたい。

 

 

「あのさー曹操ちゃん? いくら聖槍有りだったとはいえ俺や一誠と正面から殺し合って五体満足かつ生き残ってる時点でただの人間とは言わねぇぞ?」

 

「キミ達と比べたらちっぽけな人間さ。だからこそ英雄に憧れた……今は自分探しの旅で忙しいけどね。天帝に捕らえられているゲオルグ、レオナルド、三大勢力に捕らえられているジャンヌには申し訳ない気持ちはあるしまた会う事があれば殴られたり斬られたりする覚悟はしているがやめる気は今のところは無いな」

 

「あっそ。まぁ、好きにすれば良いんじゃねぇの。人間なんざ欲望の塊だ、あれがやりたいあれが欲しい、あの女を抱きたいとかその時の気分でコロコロ変わるしよ。夜空を見てみろよ? あれこそ一番人間らしいぜ? あーしたいこーしたいでもあれしたくなーいとか普通に思って実行してるしな! ゼハハハハハハ! もしお前が英雄になったら殺し合おうぜ! どうせあと数十年後には……あぁ、そうか。お前もあと数十年しかないんだったな」

 

 

 俺や一誠、ヴァーリというドラゴンと正面から戦えるコイツも夜空と同じ人間だ。数十年後には寿命で死んでしまう……夜空と同じく曹操も人間として生きたいと思ってるはずだから俺達のような異形にはならないだろう。普通に人間らしく生きて、人間らしく死んでいく……これだから長生きできる俺は嫌になる。他の悪魔共は長生きできるよ! 凄いでしょとか言ってるが実際には長寿なんざ呪いみたいなもんだ……楽しく殺し合ってる相手がたった数十年後には死んじまうけど俺は生きているとか本当に死にたくなる。

 

 

「あぁ。悪魔でも天使でも堕天使でも妖怪でも無いちっぽけな人間だからね。光龍妃は……仙術が使えるから長生きできそうだが俺は聖槍が無ければその辺に居るタダの人間だ。長生きは出来ないし病にかかれば倒れる……だから今が楽しいとも思える。それはキミも同じだろう?」

 

「おう。今が楽しくて仕方がねぇ! 夜空、ヴァーリ、一誠、元士郎、そんでお前という最高で最強な奴らが近くに居て! 俺の眷属が日々成長してる今が楽しい! もっとも俺は夜空と殺し合って、どうでも良い事をあーだこーだと話して、リア充すら羨むようなイチャイチャが出来ればそれで満足だけどな。だって俺は――夜空が好きなだけの悪魔だからな」

 

 

 恥ずかしがらずに言うと曹操は静かに微笑み、肉をかじる。あぁ、そうだよ……俺は夜空が好きだ。その思いに嘘偽りなんか一切無いし今後も変わることは無い。だからこそあの呪文が生まれたんだ……もっともこれに気が付けたのはヴァーリのお陰なんだけどな! なんかあの銀髪で天才なイケメンに気づかされたと思うとちょっと……いやかなりムカつくけども! すっげームカつくけど!

 

 でも()()が楽しい。俺が前に進めば他の奴らも同じように自分の道を進んでいく。決して交わる事のない自分だけの道を突き進んで馬鹿じゃねぇかってぐらい強くなる現在(いま)が楽しい! 夜空とバカやるのが楽しい! 夜空と殺し合うのが楽しい! 夜空とイチャイチャするのが楽しい! それ以上の事なんざ望まない……俺は夜空と現在を楽しく過ごせればそれで満足なんだから。あっ、でも現在空いている女王(クィーン)にはなって欲しいし俺の子供を産んでほしい! はい! というかいい加減エッチしません? そろそろ童貞捨てたいんです! あと真面目な話……そろそろ俺の女王になってください。だって女王が空いているとフェニックス家というかレイチェルの母親から娘は現在フリーですよとかなんとか言ってくるんだよ! 契約者であり女王であるとかこれはもう夫婦以外ありえませんよね! いやぁ、フェニックス家怖い。マジ怖い。

 

 

「――羨ましいよ」

 

「あん?」

 

「そこまで自分に正直になれるのが羨ましいな。俺は何がしたいのか、これからどうしたいのかすらまだ未確定だ……いつか、俺も影龍王のように一つの事に人生を賭けられる日が来ると信じたいが今は此処から出る、いや聖槍を取り戻す事が先決か。流石にあれが無ければ今後も戦い抜くことは出来そうにない」

 

「ぶっちゃけその槍より安心できるだろうしなぁ。だって神滅具だぜ? しかも最強と言われてる聖槍を捨てるとか馬鹿かってアザゼル辺りからツッコミが来るぞ。いやそれよりも先にスカアハに盗られましたって伝えたら胃に穴が開くかもな……よし試してみるか!」

 

「ストップ! マジでストップ! 言っておきますけどアザゼルせんせーの胃はマジで崩壊寸前ですからね!? 流石にちょっとは優しくしてあげましょ!? ねっ! ねっ! てかそれよりもさっきからすっげぇツッコミたいんすけど……聖槍盗られたって結構マジでヤバくないっすか? あれ、王様が持ってる神器と同じで神や魔王すら殺せるやつでしょ!?」

 

「そうだな」

 

「神滅具だしな」

 

 

 普通に持ってるだけで他勢力と殺し合っても余裕で滅ぼせるだろうからかなりヤバいぞ。

 

 

「――いやいや!? 待って待って! なんで落ち着いてるんすか!? 普通はやべぇ、どうしよう……とかになりません? 王様はいつも通りなんで良いとしてアンタも持ち主なんだからもうちょっと焦ろうぜ!?」

 

「いや、最初は焦ったが……今までどれだけあの聖槍に頼っていたかを悟ってしまってね。身体能力は若干だが低下してしまうし槍捌きも聖槍の威力頼りで幼稚なものだった。この槍を武器にして怪物達と命のやり取りをしていて自分の技を磨くのも悪くない、此処の怪物達を相手に今の自分がどこまでやれるか試したくなった気持ちの方が強いんだ。人間なら当然だと思うが?」

 

「いやそれはあたまおかしい」

 

「……そうか?」

 

 

 コンコンと槍で地面を叩きながらキメ顔をする曹操に対して犬月が真顔でツッコミを入れる。まぁ、普通に考えれば身体能力は化け物でも人間だから一発でも攻撃を受ければ死ぬのに自分の実力がどこまで通じるか試したいとか言ったらそうなるわ。俺としては大変素晴らしいと思いますけどね! だがちょっと気づいちゃったことがあるんだよ。此処って影の国ですね! 影の国で有名なものと言えば骨から出来た槍ですよね! うん! なんか気づいちゃいけないものに気づいちゃった気がするんですけどこれはスルーしといた方が良いかなぁ! よしスルーしておこう!

 

 

「……なにかの骨で出来た槍のようですけど武器として機能するのですか? 神滅具の頂点である聖槍と比べると天と地の差があると思いますけど……? いえ、影の国で骨、槍……?」

 

「お姫様、下手に考えると正気度が減るよ」

 

「だな」

 

『ム、何故気ヅかぬ? そノ槍はゲいボ――ムがむガ!!』

 

「はいはいそこのチョロイン、黙ろうか!」

 

 

 影人形を生み出して答えを口走ろうとしたグラムの口をふさぐ。抗議するような目で俺を見てくるが知った事か! 俺もどう考えてもあれしか思い当たらないのにそれを言ったら色々とアウトだろ! ケルト神話というか影の国と言えばこれ的な感じで有名な槍がその辺に放置されてたとか苦情案件だしな!

 

 

「――あぁ、なるほど。これ()の正体に気が付いたか。いや俺もまさかとは思ったが()()以外思いつかなくてな……だが仮にこの槍があれだったとしてもその辺に捨ててあるなどあり得ないし武器としてなら聖槍の方が断然上なんだ。しかし使いやすいのは間違いないぞ? 強大なパワーを受け止めても折れないし切れ味も中々だ」

 

「でしょうね。俺達と共闘してた時も普通に怪物ぶっ殺してましたし」

 

「いかに強大な敵だろうと相手の防御が薄い箇所を的確に狙えば倒せるし影龍王みたいに再生する存在でなければ頭部と心臓を貫けば誰だろうと殺せる。ようは戦い方次第さ、今まで異形相手に研究してきたかいがあったよ」

 

「やっぱりあたまおかしい」

 

 

 おい、なんで俺も見るんだよ?

 

 

「にしし、正直に言うと人間で言うなら化け物レベルだね。さっきの戦いを見てたけど隙が無い、私やイバラ並みのパワーがないと倒せないよ。前にノワールと殺し合ったって聞いたから一回手合わせしてもらいたいね!」

 

「止めてくれ。流石に聖槍抜きで酒呑童子、いや影龍王の影響を受けているキミ達とは戦いたくはない。特にそこの覚妖怪は俺達英雄派の中では覚妖怪から進化、あるいは変異した全く新しい種族じゃないかという認識だからな。流石に今の状態でキミ達と戦えば俺は普通に死ぬよ」

 

 

 だろうな。四季音姉と殺し合うなら確実に聖槍が手元に無いと無理だ……だって軽く腕を振るえば地面が抉れ、本気で殴れば周囲が吹っ飛ぶレベルのパワーだし。いやそれよりも英雄派の中での平家ってそんな認識だったことにビックリだわ。まぁ、覚妖怪と言われたら俺だって覚妖怪……だよ? と疑問形で返す自信はあるけどさ!

 

 まぁ、心当たりは有るんだけどね。

 

 

「えっへん」

 

 

 無い胸を張ってドヤ顔しなくて良いからな。てかマジで思い当たる事が多すぎてヤバい……というよりも答えに気づいてるからマジでヤバい。だって何回コイツの手やら腋やら髪やら太腿やらでオナニーしたと思ってやがる! 何年も一緒に居る四季音姉や水無瀬辺りは察してるだろうがその答え的なものを今この場で言ったら俺は死ぬ。橘とかレイチェルというえっちぃの禁止委員会からのお仕置きによって肉体的にも精神的にも死ぬだろう。ぶっちゃけた話、平家(コイツ)は夜空よりも先に俺が出したアレの味知ってるし……毎回オナニーして出したアレさんを舐めてたり飲んだりと何年も続けてたらどう考えても変異ぐらいするだろ。

 

 つーか満面の笑みというか素晴らしいほどのドヤ顔を見てたらなんかムカついてきた。あとで放置プレイしてやろう……はいはいご褒美ですよね! 知ってるわ!

 

 

「まぁ、俺からしても覚妖怪? ハッ、嘘つくんじゃねぇよと言いたくなるっすからね。いやまぁ、王様と過ごしてる姿を見てたらなんでこうなったかという原因は察してますけども」

 

「シュンさんは分かっているのですか? 良ければこの覚妖怪がどうしてこうなったのか教えて貰えないでしょうか……な、なんですの覚妖怪! その勝ち誇った顔は!!」

 

「別に。ただ夢見がちなお子様には刺激が強いと思っただけ」

 

「……な、なんですってぇ……!!」

 

「アーハイハイイツモドオリデスネ。アトスイマセンヒメサマ、オレノクチカラソレヲイウトシヌンデイエマセンハイ」

 

 

 当然だな! だって教えたら俺は死ぬので絶対に教えません。自分で気づいてください! 常日頃、俺達が過ごしている光景を見ればわかるはずだぜ!

 

 

「……あ、あの悪魔さん? 話が変わるんですけどこれからどうするんですか? あと悪魔さん、帰ったらお話しをしましょう♪」

 

 

 周囲の光景、というよりも四季音姉と水無瀬が血涙を流しかねないほど悔しがっている空気を変えるためか橘がおっぱいを押し付けて上目遣いで聞いてきた。ヤバい可愛い! 流石アイドル! おっぱいの感触が素晴らしいですね! いやマジで同学年でこれ、しかも成長中とか女子力が無い鬼とチョロイ覚妖怪に謝った方が良い気がする。だってこいつら、いや平家はマジで一つ下だが四季音姉に至っては俺より長生きしてるくせに壁だからな! 母親の寧音からも大きくならないと断言されてるし……少しぐらい分けてあげても良いと思うぜ!

 

それはそれとして橘様、笑顔になるんだったら目も笑ってください。深淵の瞳とか表現出来そうなぐらい目に光が宿ってませんが大丈夫ですか? 怖いです。あと掴んでる腕に爪を突き立てるのもやめてください痛いです。おい狐……! テメェも指をかじるんじゃねぇよ! こんな時だけ肉食になりやがって!

 

 

「……すまない。失言だったようだ」

 

 

 あの曹操がドン引きするとか俺の眷属って凄くね?

 

 

「んぁ? 気にすんな、いつもの事だ」

 

「そう、なのか? いやジャンヌからも俺は色恋沙汰には疎すぎるとは言われたが流石の俺でも……いや影龍王がいつもの事というならそうかと言っておくしかない。巻き込まれるのはご免だからな」

 

「そうしておけ。よし! 飯も食ったしやる事やるか……橘、これからどうするかだったよな? んなもん決まってんだろ! 勝手に弟子認定した挙句こんな場所に連れてきやがった美熟女ことスカアハに文句言いに行くんだよ! よしグラム! 飯食ったな? さっさと剣になれ!」

 

『でバんだな! 出番なノダな! よカろう! 思うぞンぶん振るうがイイ!!』

 

 

 満面の笑みでいつもの剣の姿へと変化したグラムを握り再度鎧を纏う。俺の発言の意図を察したらしい四季音姉はまるで美少女の様に笑い、四季音妹はグッと拳を握り、平家は知ってたと言わんばかりの表情になる。やる気ならぬ殺る気に満ち溢れた面々とは対照的に犬月、橘、水無瀬、レイチェルはデスヨネとガクリと諦めの表情になったが安心しろ! いつもの事だから!

 

 俺達の様子を見ていた曹操はイケメン特有の不敵な笑みをしながら槍を握り立ち上がる。流石は英雄派を率いていた男だ……分かってる!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハ!! まずは邪魔な森をぶっ飛ばすかぁ!!」

 

『おうよ! 遠慮なんかすんじゃねぇぞ宿主様! あのクソババアをぶっ殺す勢いでぶっ放せ!』

 

「あったりまえだろうがぁ!!! つーかレイチェル巻き込んだ罪はマジで重いからな! 全裸になって腋見せてくれねぇと本当に許さねぇぞ!!」

 

『――やめとけ、吐くぞ』

 

 

 全身を蝕む呪いを放出するようにグラムを振るった瞬間、相棒がマジなトーンで止めてきた。いやいや吐くか吐かないかは俺が決める事だから問題無いぜ相棒!

 

 そんな大事な事だが一度置いておいて……はい! いつもの様に影龍破をぶっ放して影の国までの道作成終了です! うーん、影龍破が通ったルート上の森が見るも無残な姿になってるけど別に良いよね? だって相棒が気にするなって言ってたし!

 

 

「相変わらず出鱈目だ。ジークフリートが絶句するのも頷ける」

 

「てか王様……あれぶっ放すときにトンデモナイこと言いませんでした?」

 

「んぁ? あ~スカアハの腋見たいって奴か? いやだって見たいだろ! 夜空の腋舐めてから今までよりも腋好きになっちまったからな! だからそんな目で見ないでくれませんか橘様! 怖いです!」

 

「許しません♪」

 

「マジかよ。帰ったら俺死なないよな……? ここ最近、相棒の再生能力があっても死ぬ未来しか見えねぇんだよなぁ。まぁ、良いか。とりあえず二発目行くぞぉ!」

 

 

 背後から感じる威圧感から逃れるために再度グラムを振るう。影龍破が進行ルート上の障害物を破壊していくのを見ながら俺達はダッシュでスカアハが居るであろう城へと戻る。道中、騒ぎを感じたらしい怪物や亡霊が襲ってきたがグラムぶっぱや背後にいる恐ろしい鬼さんやアイドル達により即行で殲滅……おかしい、曹操の出番が無い。敵が現れた瞬間に戦闘態勢に入ったのに俺の眷属達が気合入りまくってるせいで動く前に決着がついてしまってます! おかしい……そこまでしてスカアハの腋見るのを阻止したいかお前ら! 俺の眷属ならば逆に応援しろよ!

 

 怪物達の首を容赦なく切り落としている平家から死ねば良いのにという視線を浴びながらこれと言って時間もかからず城へと到着。なんか門番らしい奴らが襲ってきたが……うん、俺を殺そうと気合入りまくりな鬼さんがワンパンで殺しちゃいました。マジで「邪魔」という一言で叩き潰すとか流石酒呑童子ですね! なんでお前少女趣味なんだ? 今のお前って普通に鬼してるってのによ!

 

 

「……おい四季音姉、マジ切れし過ぎだろ。そこまでして阻止してぇのか?」

 

「にしし。別に阻止したいわけじゃないさ――ただ無性にノワールを潰したいって欲が出てるだけだよ。あとい、いい、伊吹! いい加減そっちで呼ばなきゃマジで潰すかんね!!」

 

「なんで呼ばなかったら潰されるんだよ……あん? どうした四季音妹?」

 

「伊吹が怒ってる。主様が伊吹と読んだら凄く嬉しそうにはしゃいでた。私もイバラと呼ばれると凄く嬉しい。何故か分からないけど嬉しい。だから呼んでほしい」

 

「――イバラ、お前はやっぱりマスコット枠に相応しいわ」

 

 

 流石キマリス眷属が誇るマスコット枠! こんな場所でさえ俺を癒してくれるとは……てか四季音姉、本名呼ばれただけではしゃいでたのかよ。なんでその場面を俺に見せない! 盛大にからかってやるのにさ!

 

 

「……すまない犬月瞬。普段からこれなのか?」

 

「そうっすよ。毎回毎回王様が地雷踏み抜いて爆発させるから滅茶苦茶胃が痛い」

 

「そうか……俺からは頑張れとしか言えない」

 

「その言葉だけで充分っすよ」

 

 

 なんか男同士の友情が生まれたようだがそれは置いておいて……そういえば廊下に出れば串刺しだったな。ゼハハハハハハハ! さっきまではグラムが無かったから破壊力が足りなかったが今はこうして持ってる……つまり破壊し放題ってわけだ!

 

 場内に入る前に強くグラムを握り意識を落とす。龍を愛する(殺す)呪いが俺の身体に流れてくる……腕が震え、吐き気を催し、視界が赤くなるが構わず呪いの出力を跳ね上げる。確かにこの城は強固で破壊するのは困難だ……でも例外ってのは存在するんだぜ? 今にして思えばこのチョロインを手に入れて良かったとさえ思える。分かってる、全力も全力! お前の全てを俺にぶつけてこい! 俺は逃げる事無く受け止めてやる……お前は俺の剣だ。その言葉に嘘偽りはねぇよ! だから――切り刻んでやれ!!

 

 

「――!!!」

 

 

 声にならない叫びを放ちながらグラムを振るう。正面、空間、ありとあらゆるものが高濃度の呪いの波動によって切り刻まれていく。背後で平家が呪いに耐えきれずに吐いてる気がするが気のせいとしておこう。うん! なんか後で怖い気がするが今は無視だ無視!

 

 

「――よう、やっと会えたな」

 

「よもや(わたし)の城をここまで破壊する輩が居ようとはな。セタンタやコンラですらやらんかったぞ? しかし……うむ、一応は合格点と言うべきか」

 

 

 豪華絢爛っぽい城がたった一撃で更地になり、残っているのは玉座に座っている女――スカアハのみだ。漆黒の長髪、漆黒のドレスとヴェールと黒一色な女王様は自分が住む城が破壊されたというのに怒りの表情になるどころか次はどのような修行をと首に指をあてて考え込んでいる。嘘だろ……普通はよくもやってくれたなとかじゃないわけ? なんでそこで次の修行とか考えんだよ!

 

 

『ゼハハハハハハハハハハッ! 久しぶりだなクソババア!! どんな気分だ? 自分が住んでた城が劇的なリフォームされた気分はよぉ!! いやそれより言わせろや……誰が弟子だってぇ!? 何時から俺様達がテメェの弟子になったってんだよ!!』

 

「そんなもの最初からに決まっていよう。貴様は(わたし)の城で生まれたのだ。つまりは妾の所有物同然でありその貴様が宿っている存在ならば妾の弟子と言えるではないか。うむ、ふむ。鬼を見るのも久しいがそこの覚、なんだ貴様は? 面白いぞ。クハッ、長生きはしてみるものだな。しかしクロム――」

 

 

 美熟女ことスカアハの視線が俺を射抜いたかと思えば突如として腹の中や口の中、いや正確に言うならば体内から槍のような鋭い刃物が生えてきた……おいおいマジか! 夜空に吹き飛ばされたりなんだりしてるからこんなのは慣れてるがいきなりだと……! 地面からとか空中からとかじゃなくて俺の体内からなんざ馬鹿げてやがる!

 

 流石に身動きが取れないので影人形を生成して首を落として即座に再生。だってあのままだと息出来ないから仕方ないよね! あとレイチェル? そんな顔を青くしなくてもいつもの事だから気にしなくて良いぜ?

 

 

「誰がクソババアだ。師匠に向かってその口の聞き方は見逃せんぞ? そこは流石お師匠様と褒め称える場面であろう」

 

『ざけんじゃねぇ!! テメェを師匠だなんて認めるわけねぇだろうが! セタンタの野郎が自分から離れたってだけで俺様を殺し! ゲイボルグを作るから骨寄こせと俺様を殺し! その目は魔術の質を上げるから寄こせと殺しやがって!! 言い出したらキリがねぇくらいこっちはムカついてんだよ!』

 

「何故だ? 師匠である妾のためを思う弟子の鑑のような行いだったが怒る理由がどこにある? そうか……そうか。もしやクロム、貴様は修業を付けてほしかったのだな? クハッ、なんだなんだそうであったか! 全く、お前は昔から恥ずかしがり屋よのぉ」

 

『んなわけねぇだろうが!! そもそも()が不死身だからと言って殺しすぎなんだよ! どこをどう飛躍したら修行付けて欲しいという考えに至るんだこの痴呆野郎が!!』

 

「事実であろう? 毎日毎日稽古をつけてくれとせがんでいたではないか。師匠たるもの弟子の我儘にも付き合わねばならん。この寛大な心に感謝はあれど罵声を浴びる覚えはないが?」

 

『どっこまで自意識たけぇんだテメェはぁぁぁっ!!!! 宿主様! ぶっ殺すぞ!! この自意識高い系頭おかしいクソババアをこの世から消し去ってやろうぜ!!』

 

 

 相棒の怒りの叫びを耳にしたスカアハはため息をつく。すると先ほどと同じように体内から槍のような鋭い何かが飛び出してくる……マジでなんなんだこれ? まさか俺が知らない間に術式を埋め込まれた?

 

 

「妾との再会が嬉しいのは分かるが少し静かにしろ。今は次の修行について考えているのだ、お前との修行はその良く分からん檻から出てからだ。何が良いか……なにやら機嫌が悪いオイフェの元で修行させるか? いやあれに妾の弟子を取られるのは我慢ならん。やはりここはあ奴と競い合わせるのが良いな」

 

「……なぁ、頭おかしい頭おかしいと言われ続けてきた俺だけどなんか目の前に居る女の方が頭おかしい気がするんだが?」

 

「そっすね。王様の方が百倍以上はマシっすわ……てか大丈夫っすか?」

 

「慣れてるから問題ねぇよ。あん? どうした曹操?」

 

「……いや俺の前に現れたのは彼女ではないと思っただけだ。見た目は同じだが着ている服が違っていた……どういうことだ?」

 

『あぁ、なるほどな。曹操ちゃんよぉ! テメェの前に現れたのはオイフェだな。目の前に居るクソババアの双子の妹で見た目が瓜二つだから弟子相手によく入れ替わりゲームをやってんだ。んで間違えたら崖の下に落とされて修行再開、正解してもクソババアかオイフェのどちらかと殺し合いってな。正直言うぜ、スカアハと話すぐらいなら俺様はユニアが孕むまで子作りしてたほうがマシだ』

 

 

 デスヨネ。だって俺もうわぁと思ってるし! というよりもさっきから串刺しにし過ぎじゃね? いくら不死身と言えどもこう何回もやられたら我慢できずにグラムぶっぱするぜ?

 

 とか思っていると何かを思いついたらしいスカアハが指を鳴らすと俺達の視界が黒く染まり、別の場所へ飛ばされた。犬月達に無事かと尋ねながら振り向くと曹操の姿が無かったから恐らく俺達とは別の場所に転移されたんだろう……死なないよな? 流石に俺が殺すなら良いけど赤の他人がぶっ殺したとかなったらマジギレするぜ?

 

 

『弟子よ、自らが率いる軍勢と共にこやつと戦ってみろ。なに、話はついている。久しい旧友からの頼みとあらば妾とへ無視できん。さて、いつもの様に妾を楽しませてくれよ――弟子』

 

 

 頭の中に聞こえてくる声とかマジでどうでも良い。そんな事よりも俺達の目の前に居る存在の方が重要だからな……ちょっと待ってくれない? なんで居るんですかねぇ? なんであんな奴と関わってるんですかねぇ? マジで分かんないし下手すると犬月達が此処で死ぬかもしれん。いや割とマジで。

 

 

「――クロム、俺と戦え」

 

 

 相棒と同じく邪龍の筆頭格、三日月の暗黒龍ことクロウ・クルワッハが静かに口を開いた。




次回、影龍王眷属+レイチェルVSクロウ・クルワッハ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

113話

「クロム、俺と戦え」

 

 

 金色と黒色が入り混じった髪に同じように金と黒の瞳を持つ男――クロウ・クルワッハが腕を組みながら真剣な表情で俺達を見つめてくる。戦いと死を司るドラゴンであり相棒やグレンデル、アジ・ダハーカ達のような好戦的ではなくヴリトラ寄りの冷静で静かな性格……とドキドキ邪龍だらけの同窓会での印象だったが敵として向かい合うと迫力が段違いだ。纏うオーラの質は異常と言っても良いぐらい濃く、立っているだけなのに首元を締め付けられているかのような威圧感に俺はこう思わざるを得ない――強すぎると。

 

 静かに視線を犬月達へと向けると俺の予想通り冷や汗かきまくりで身動きが取れていない。ただ戦闘態勢に入ったまま目の前のドラゴンを見つめ返しているだけだ……犬月や橘、水無瀬にレイチェルは今までで一番ヤバいと思っているだろう。なんせ四季音姉妹、平家、グラムという頭おかしい勢力が無意識か意識をしてかは分からないが一歩下がったのを目にしたんだからな……ヤバイ。勝ち筋が漆黒の鎧発動しか見えねぇ……! というよりもそれ以前になんでお前が影の国に居るんだよ!?

 

 

『――おいおい冗談にもほどがあるぜクロウよぉ。なんでテメェが此処にいんだ?』

 

 

 圧倒的な威圧感により凍り付いた空気の中、相棒が問いかける。その声色は真剣そのものでこの接触は相棒自身も予想外だったらしい……そりゃそうですよね! だっていきなりスカアハに拉致られたと思えば邪龍の筆頭格として有名なクロウ・クルワッハが目の前にドーンだぜ? 俺は兎も角、犬月達は普段から俺と夜空に慣れてなかったら失神してもおかしくは無いっての!

 

 

「あの女王から妾の弟子と殺し合ってみないかと誘われてな。あれの行いは好かないがクロム、そしてノワール・キマリス、お前達と戦えるならば契約次第では付き合っても良いと判断した。その結果がこれだ」

 

『つまり……()達と殺し合おうって事か?』

 

「そうなるな。どうした? 素のお前になっているぞ。昔のお前ならば高笑いの一つを上げて嬉々として向かってきただろうに」

 

『あの頃とは状況が変わってんだ、少しは許しやがれ。チッ! あんのクソババアァッ!! 俺達の楽しみを此処で終わらす気か!! ふざけんじゃねぇぞ……! 宿主様、どうやら目の前の馬鹿は俺達と殺し合いを所望らしいぜ? どうするよ』

 

 

 普段のようなバカ騒ぎ大好きな声色とは違い俺、いや俺達全員を心配するように訪ねてくる。そう言えば同窓会の時でも今までみたいに喧嘩を売るような事は言わなかった気がする……確かユニアも同じだった。そうなると目の前に居るドラゴンは今の俺では勝つことが出来ないぐらい強いって事になる。いやそれ以前に生前の相棒達を超えてるとかも言ってたよな……恐らくだがこの場で戦えばまず敗北するだろう。俺自身は何が何でも蘇って見せるが犬月達は……確実に死ぬ。てかなんだろうな……今までだったらよし殺し合おうぜと笑っていたが脳内では「逃げろ」と悪魔である俺が訴えてきて「戦ってみたい」と邪龍の俺が訴えてきてる。珍しいこともあるもんだ……この俺が()()を心配するなんてさ。

 

 俺の答えを聞くために相棒もクロウも黙っている中、俺は相反する考えに板挟みにされながらも結局は一つの答えに辿り着いた――それはたとえどんな事があろうとも絶対に変わる事が無いものだった。

 

 

「クロウ・クルワッハ」

 

「なんだ」

 

「――お前は俺の楽しみを邪魔するのか」

 

 

 仮にこの場で戦って敗北、俺は相棒が持つ再生能力を意地でも発動して蘇ってみせるが他の奴らは……この場では再生能力を持つのはレイチェルのみだが圧倒的な実力差によって精神が折れたらそのまま死んでしまう。犬月達も同じだ……俺達が持つ再生能力なんて無いから蘇る以前に死ぬのは考えなくても分かる。もし、もしの話だ……コイツらが死んでしまったら俺の今後はどうなる……? 夜空は人間で精々あと数十年という短い時間しか生きられない。夜空が寿命で死んだ後の俺は何を楽しみに生きていれば良い……? 俺と夜空の息子、あるいは娘を大切に可愛がりながら一生を終えるのも悪くは無いし夜空が居なくなった悲しみを世界相手に八つ当たりするのも悪くない。何をするかはその時になってみないと分からないが俺は今と同じように笑えるのか、今と同じように楽しく毎日を過ごせるのか、昔の俺だったなら無理だなと思えたかもしれない。だけど()の俺はたった一つだけ言える事がある――

 

 ――夜空と居る時と同じようにこいつら(犬月達)と過ごす日々も悪くないってな。

 

 

「邪魔する気は無い。俺はドラゴンの行く末が見たいだけだ。この場に居るのもそれが目的だ――ノワール・キマリス、クロム、お前達が歩んできた道を戦いという名の舞台で感じ取りたい。これは俺の我儘……欲望のようなものだ。断る権利はお前達にある。あの女王が何か言おうものならこの力を持って叩き潰そう」

 

「……そっか。なら正直に言うぜ、悪魔としての俺はこの場から逃げろと言ってきてドラゴンとしての俺はお前と戦いたいと言ってんだ。つーか逃げろという選択肢を俺がまだ提案出来てるって事に俺自身がビックリだ……いやマジで。それぐらい今の俺達が戦えば勝ち目が無いんだろうなぁ~とは一瞬だけだが理解した――でも言わせてもらうぜ」

 

 

 全身からオーラを放ち、一歩前に出てクロウ・クルワッハを見つめる。

 

 

「だからなんだ。残念だが俺は喧嘩売られて怖いので逃げますごめんなさい許してくださいなんざ言えるわけねぇんだよ! そもそもテメェ程度に勝てなかったら夜空に勝てないんでね! ついでにな……後ろにいるコイツらは夜空が死んだ後、何をどうして良いか分かんねぇぐらい狂うしかない俺が持つ楽しみの一つなんだよ! テメェ如きに奪わせはしねぇし殺させもしねぇ! だから殺し合うなら俺だけ――と言いたいんだがなんだろうな、おいこら独り占めすんなって言いたそうだなお前ら?」

 

 

 チラリと犬月達を見ると当たり前だろと犬月、四季音姉妹、グラムが笑いながら拳を握り、平家はどうでも良いという表情を浮かべ、橘、水無瀬、レイチェルはいつもの事ですねと覚悟を決めていた。その様子を見た相棒は満足そうに笑いだす……心の底から嬉しく思いながら盛大に、高らかに声を上げる。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! そうだ、そうだよなぁ!! 今まで宿主様と一緒だったテメェらはクロウ程度に逃げるわけねぇんだよな! 最高だ! あぁ、最高だぜ宿主様! おいクロウ、俺も覚悟は決まったぜ……殺ろうや。テメェがドラゴンの行く末が見たいって欲望があるなら宿主様の欲望は一つだ! 惚れた女を手に入れてイチャイチャしたい! たったそれだけよぉ! 傑作だ! だけど歴代影龍王の中じゃ最高に突き進んでんのよ! しっかしクロウを程度と呼ぶとはよぉ……宿主様の怖いもの知らずっぷりには恐れを抱いちまう! ゼハハハハハハハハ! どんな気分だ? 好き勝手に生きてる人間より格下に見られた感想はよぉ?』

 

「思う事は無い。言葉など不要だろう? 全ては戦いの中で分かるのだからな」

 

「そりゃそうだ! さてと……一応聞いておくが俺はあいつと、最強の邪龍と呼ばれてるクロウ・クルワッハと殺し合おうと思ってるがお前達はどうする? 」

 

 

 再び犬月達の方を向くと聞くまでもないだろと言いたそうな表情を浮かべていた。圧倒的な実力差がある事は対峙した瞬間に理解しているはずなのに誰一人として怖いとか逃げたいという表情を浮かべずに戦えることを楽しみにしている顔だった……全くさぁ、馬鹿だよなぁお前ら! 普通は嘘だろとか言って逃げるはずなんだがねぇ? 流石、俺の眷属だ!

 

 

「馬鹿言ってんじゃないよ。楽しい戦いになりそうなのに逃げるわけないじゃないか! にしし! 尻尾巻いて逃げるぐらいなら此処で死んだ方がマシさ」

 

「伊吹が戦うと決めた。なら私も戦う。主様と伊吹と一緒に戦う。相手は強いのは分かってるけど逃げたくない。強い相手と戦うのはダイスキ!!」

 

 

 強い相手と戦えることが一番の楽しみだと言わんばかりに四季音姉妹は笑みを浮かべて拳を握る。

 

 

「しょーじきノワールと花恋以外勝ち目無いけどこの私がノワールの傍から離れると思ってるの? 残念だけど未来永劫ノワールの傍に居るもん。たとえ死んでも幽霊になってでも傍に居てあげる。まっ死なないけどね」

 

 

 戦う戦わない以前に私はノワールと一緒に居ると宣言した平家は龍刀「覚」を握りしめのらりくらりとクロウ・クルワッハを見つめる。

 

 

『いラぬしんパいをすルな我が王ヨ! わレらは我がおウの剣なり! 共に戦オう!!』

 

 

 実力差がある以前に俺の()だから戦うに決まってるだろうと宣言したグラムは両手を刃に変えて笑みを浮かべる。

 

 

「いやー正直なところマジで逃げたいっすね、ホントのホントに。もうすぐクリスマスだってのにいきなり影の国に飛ばされるわなんか知らないけど王様より強いっぽい邪龍と殺し合いするとか俺の運勢どうなってんだと思いたい……まっ、気にしてねぇっすけど! だっていつもの事ですし! ついでに王様!! 逃げろと言われても俺は逃げねぇっすよ! だって俺は王様のパシリっすからね!!」

 

 

 化け犬状態へと変化した犬月は闘志放ち、殺気を格上であるクロウ相手に向ける。

 

 

「もう、慣れました。この不幸体質と一緒に過ごしてきてここまで運が悪くなるとは思いませんでしたけども……私はノワール君と一緒に居ると眷属になった日から決めてます。逃げろと言われて分かりましたとは絶対に言いません! そもそもノワール君とエッチどころかラッキースケベイベントしてませんし! あとどうするとか聞かれてもいつもの事ですから……としか言えません!!」

 

「……本当はすっごく怖いですよ? こうして向かい合ってるだけでも勝てないと思っちゃってます……でも私は悪魔さんを魅了するって決めてます! だからこんな所では死ねません! 死にたくないですしまだ悪魔さんとエッチなことしてませんから絶対に死ねないんです! だからキー君と一緒に頑張ります! それに――勝てないなら魅了しちゃえば良いんです♪」

 

 

 キマリス眷属が誇る二大僧侶が頼もしい表情を浮かべながら黒衣のドレスと電気を放つ獣人となる。

 

 いやぁ、うん。分かってはいたけどさ……馬鹿だろお前ら。すっごく頼もしいとしか言えねぇわ! 流石俺の眷属……常日頃から無茶ぶりやらなにやらを経験してきただけの事はある! きっとこの場面を先輩達が見たら絶句するに違いないね! だって天龍や双龍よりも上と相棒が断言した存在と嬉々として殺し合う構えとか馬鹿だと思う。でも――そこが良いんだよなぁ!

 

 内心……まぁ、平家にはバレてはいるが喜びつつレイチェルを見つめる。普通だったらお前は逃げろと言うんだろうが残念な事に俺は頭がおかしいらしいからな! レイチェル自身の言葉で判断させてもらう……だって逃げる気一切無いんだもん! もしここでお前は逃げろとか言ったら逆切れされかねない! お姫様っていったいなんでしたっけ? 何時からそこまで逞しくなったの?

 

 

「愚問ですわね。心配無用ですわ! このレイチェル・フェニックス、キマリス様の契約者になった女ですわよ? この程度ならギリギリ……えぇ、ギリギリのギリギリですが許容範囲ですの! そ、それに……えぇいもうヤケですわ! 将来的にはキマリス様の女王(クィーン)になるのですから修羅場くらいドンと来いですわ!!」

 

 

 覚悟決めてるのに大変ゴメンナサイ……女王は夜空で決まってるんです。

 

 

「すげぇ姫様……言ったっす」

 

「レイチェルさん……言っちゃいました」

 

「レイレイって意外に度胸あるねぇ」

 

「主様の女王になる? 頑張れ頑張れ」

 

「死ねば良いのに」

 

「早織……」

 

 

 水無瀬、諦めろ。このノワール君依存率ナンバーワンな覚妖怪様が素直に祝福すると思いますか? いいえしません。むしろ邪魔者として立ちはだかります。はいはい正解ですよね! ドヤ顔しなくても良いぞ!

 

 

「――クロム」

 

『なんだぁ? やけに嬉しそうじゃねえか』

 

「当然だ。長く生きていると対峙した瞬間に降伏する者が多くなった。このように笑みを浮かべ、闘志を燃やし、勝つことを疑っていない者達と戦えることに俺は喜びを感じている! 良い仲間を持ったなクロム……そしてノワール・キマリス! これ以上の言葉など不要――やろうか」

 

 

 圧倒的な威圧感、馬鹿じゃねぇのと叫びたくなるほどのオーラを纏ったクロウ・クルワッハは俺達を見つめて笑みを浮かべる。やっべぇ……超楽しい! 戦う前からこんなにワクワクドキドキ下のは何時ぶりだ……少なくとも初めて夜空と殺し合った時並みにワクワクドキドキしてる気がするぞ! さて、相手は最強の邪龍と名高いクロウ・クルワッハ! 殺し合いで手を抜く事なんざ出来ねぇから全力全開で行かせてもらうぜ……と言いたいがぶっちゃけ漆黒の鎧になって初めてスタートラインだろう。平家……聞こえてるな? 悪いがちょっと別の事に集中するから少しでも良いから時間稼いでくれ。

 

 周りに気づかれないように僅かに頷いた平家を見た俺はゼハハハハハと高笑いを上げてオーラを高めると初手は貰ったとばかりに四季音姉が飛び出した。他の面々も一か所に集まらないように散開と手慣れた様子……じゃねぇな、かなり警戒しながら動き出す――その直後、耳をふさぎたくなるほどの轟音が鳴り響いた。

 

 

「……凄いね」

 

 

 一番手に飛び出した四季音姉は真っすぐ拳を放ったがクロウも同じように拳を放っていた。その光景を見た俺はマジかと言わざるを得なかった……キマリス眷属が誇る怪物にしてパワー最強の四季音姉が拳の威力で負けて押し返されたんだからな。うわぁ、一発喰らったら死ぬなこれ。

 

 

「鬼と拳を交えるのは久しぶりだ。鋭い一撃だ……だが俺を倒したいならば足りないぞ」

 

「そのようだね……腕が痺れるほどの威力とは恐れ入ったよ。にしし――遠慮はいらなそうで助かるね」

 

「あぁ。どんな攻撃だろうと俺は逃げも隠れもしないぞ」

 

「こっちもそのつもりだよ!」

 

 

 正面から殴り合いをしに行く四季音姉を援護するために四季音妹が雄たけびを上げてクロウへと接近する。鬼二人相手でも持つかどうか分からねぇって初めての経験でちょっとだけどうして良いか分かんない……まっ、だからと言って見てるだけなんて真似はしねぇけど!

 

 

「相棒!」

 

『ゼハハハハハハハハハ! 偶には配下と共に戦うのも悪くねぇもんだ! 死ぬ気で行くぜ宿主様!』

 

「おう!」

 

 

 俺自身はパワー特化というわけじゃないから四季音姉妹並みのパワーを出せるかと言われたら微妙だ。なんせその役目は夜空だしなぁ……だからこそ俺は俺の役目をさせてもらうとするか! 全身から影を生み出して即座に影法師(ドッペルゲンガー)を生成する。今までと同じように影人形(シャドール)出してラッシュタイムだオラァという戦法はクロウ相手だと厳しいだろう……四季音姉妹と殴り合って押し返している時点で壁にすらならねぇ! というわけで大変不本意ではありますがこの場だけは四季音……いや伊吹とイバラの盾にでもなるとすっか!

 

 戦車(ルーク)の酒呑童子と同じ戦車に昇格した茨木童子との殴り合いをしていたクロウは僅かに距離を取り、オーラを纏わせた拳をドラゴン並みにデカく変化させて殴る動作に入った。あの拳の威力は桁違いだろうとは受けなくても理解できたがそんな事は関係無いとばかりに俺は射線上に割り込む形で二人の壁となりその一撃を受けた。

 

 

「――ゼハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 一番前に俺、背後には影法師複数配置して俺自身を()という形にして拳を受けたら尋常では無い痛みと体中の骨という骨が砕け散る音が鳴り響いた気がした……よし死んだ! 再生再生! この流れもいつもの事だ! てか衝撃だけで背後の地面が抉れた件について! うわぁ、出鱈目すぎる!

 

 護られた二人は俺を心配する――という女の子らしい優しさすら見せずに妖魔放出状態へと移行し再びクロウへと接近した。人間並みの姿でありながら片腕がドラゴンの巨椀というアンバランスな姿となったクロウは静かに笑い、再び拳を放とうとするが犬月が腕に噛みつき、平家とグラムという素早さ全振りコンビが周囲を動き回って翻弄する。頑張ってるところ誠に申し訳ないがせめて誰か一人ぐらいは心配してくれても良いんじゃないですかねぇ!

 

 

「ぐるるるぅぅぅぅっ!!!!」

 

「犬に噛まれるなど久しぶりだ! だがその程度のパワーでは抑えにもならんぞ」

 

「知ってる。花恋と祈里相手でも止められない相手を私達が止めれるわけがない」

 

「ならばなぜ向かってくる?」

 

「ノワールが戦うから。それ以上の理由は無い」

 

 

 のらりくらりと先読みしているような動きでクロウの拳を躱しながら刀で斬りつけるも皮膚……いや鱗が硬すぎるのか出血すらさせられていない。そのような状態でも平家は怖がる様子も無く接近して翻弄し続ける……相変わらず度胸あるなおい! いくら影法師の護衛が居ると言っても一発喰らえば即死亡だってのによ!

 

 

「流石に硬いね。でも――グラム」

 

『こコろえた!!』

 

 

 両腕を刃に変えて満面の笑みを浮かべたグラムが騎士(ナイト)の特性である速度を駆使し、舞う様に動きながらクロウを切り刻む。平家が持つ刀はドラゴンの鱗から作られたという以外は至って普通の刀……だがグラムは違う。あんな見た目でも元は魔剣、それも帝王なんて呼ばれていたほどの代物でドラゴン相手には絶大な威力がある龍殺しの呪いがある! つまり邪龍であるクロウ相手に唯一通用する攻撃だろう……本来なら俺が剣を握ってゼハハハハハと影龍破連打すれば良いんだろうが今の俺がどこまで通用するか試してみたいからまだ使わない。と言ってもすぐに使う事になるだろうけどな……!

 

 

『ふハははハ! こノ様にして龍トたタかう事になるトはな!』

 

「龍殺し……グラムか。まさかこの時代で剣という存在自体と戦う事になるとはな! しかし何故剣として使わない? 魔獣騒動という事件があった際は使用していただろう」

 

「悪いがまだ使う気はねぇよ……それにだ! ソイツばっかりに集中してて良いのか?」

 

「花恋、祈里」

 

「分かってるよ!」

 

「下がって!」

 

 

 二人の言葉に平家とグラムは即座に距離を取るが犬月はと言うと腕に噛みついたまま動く気配はない。何してんだと普通の奴なら思うだろうが普段から一緒に居る俺達はその行動の意味を理解している……その目は俺ごとやれという決意に満ちているから気づくなって言う方が無理だ。迫りくる鬼の拳に対してクロウは焦ることなくドラゴンの巨椀となっている腕で防ごうとするが足に力を入れて踏ん張っている犬月によって動かし辛いと感じたのかもう片方の腕をドラゴンの巨椀にして防御の体勢に入った。

 

 俺以上は勿論、夜空並みの威力を持つだろう拳を防御したクロウは犬月ごと少し背後へ飛ばされる。体勢を立て直す暇なんて与えるわけないから全身に影を纏い突撃すると平家も同じように続くとクロウは微かに笑いながらドラゴンの尻尾を出現させて薙ぎ払いに来た。威力、速度共に馬鹿じゃねぇのと言いたくなるほどの代物が読心能力で先読みしているはずの平家に躱す暇すら与えずダメージを与えやがった。ちっ、直撃の瞬間に影法師数体を動かして盾にしたがそれごとかよ……見た感じ、影法師によって威力軽減されたとは直撃したならばかなりのダメージだろう――もっとも普通ならばだがな。

 

 チラリを平家を見ると離れた場所に吹き飛ばされてはいるが立ち上がる事は出来ていた。影法師諸共吹っ飛ばされそうになった瞬間、手に持っていた刀と自分の片腕を犠牲にして自分から飛ばされる方向に飛んでダメージを軽減したからだ! 相変わらずの度胸っぷりに俺様、珍しく惚れそうになったぜ! てか死ななきゃ安い安い! どうせアイツの事だから片腕でも参加するだろう……今ので武器が折れたからどうやって戦うかは知らんけども。

 

 まっ、何とかするだろうと思いながら俺は俺の仕事をするためにクロウと接近した。

 

 

「ゼハハハハハハハハハ! 見てるだけなのも暇なんでな! 近くまで来てやったぜクロウ・クルワッハ!」

 

「俺と接近戦をする気か! 良いだろう!一瞬で終わってくれるなよ?」

 

 

 犬月が噛みついている腕に力を入れて殴りかかってきたので影法師を生成して受け止める。先ほどまで放っていた威力とは桁違いのパワーが発揮されているらしく俺が生み出した影法師は簡単に破壊されて俺に拳が叩きつけられ、犬月は勢いに耐えきれずに遠くへ投げられるように飛んで行った……よし! これで後ろの奴らが攻撃しやすくなった! てかあとちょっとなんだがなぁ!

 

 思考の大部分を()の事に割きながら影法師を再度生成してラッシュタイムを放つもオーラを纏わせたクロウの拳によりダメージを与える前に破壊される……夜空以上のパワーは確実だな。放たれるたびに空間が軋んでるし衝撃破で後ろに飛ばされそうになる……! まぁ、この程度ぐらいは耐えられなきゃ夜空に勝てないから意地でも食らいつくけどな!

 

 

「おいおいその程度で俺が死ぬとでも思ってんのか! なめんじゃねぇぞ!! 俺はな……夜空とエッチするまで! 童貞捨てるまで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」

 

「ふはは! どうやらそのようだ! なるほど……確かにクロムの言ったことは本当のようだ! その行く末がどのようなものになるか俺は確かめたい! 俺に見せてくれ……ノワール・キマリスッ! クロム!!」

 

 

 勢いが増した拳は意識を失いそうになるほど強力なものだ……でも残念ながらこれぐらいなら夜空で慣れてるから気絶させたかったらこの数千倍は無いと無駄なんだよ!!

 

 

「キマリス様! 申し訳ありませんが耐えてください! 我が不死鳥の業火! 存分と味わってくださいませ!」

 

 

 炎の翼を生やしたレイチェルがクロウと接近戦を繰り広げている俺ごと焼き尽くすように業火を放つ。この容赦なさっぷりに成長したなと感動したくなったけど一つだけ言わせてほしい――滅茶苦茶熱いんですけど! うわぁ、火傷というレベルを超えてるなぁこれ! なんか同じように業火を浴びてるクロウは涼しい顔してるのがすっごくムカつくけども!

 

 

「フェニックスの炎か。だがこの程度では俺にダメージは与えられんぞ?」

 

「えぇ、知ってますわ。このレイチェル・フェニックス、兄とは違って相手との実力差は理解できてますの。これは次なる一手のために放ったのですわ! 水無瀬先生!」

 

「はい! 反転結界!」

 

 

 後方で待機していた水無瀬が影時計を返すと周囲を燃やしていた業火が一瞬で氷へと変わり俺とクロウの身体を拘束する。なるほど……俺が生み出している影と自分が生み出している影を連結して反転結界を発動しやがったか。それは別に良いんだが熱いと思ったからって今度は凍えるほど寒くしなくても良いんだぜ? 滅茶苦茶寒いんですけど!

 

 

「反転か。ふんっ!」

 

 

 無駄な事だと言わんばかりに自分を拘束している氷を軽く動いただけで破壊したが水無瀬達の表情に焦りは見えない。むしろ分かっていたと言いたそうだ……炎、氷、反転、あぁ……そういう事か! ヤバイ、この次に来ることが分かったんだけど!?

 

 

「捕らえておけない事ぐらいは分かっています! 今のは広範囲に氷を生み出すためです! まだまだ行きます! レイチェル、お願いします! 反転結界!」

 

「えぇ! 行きますわ!」

 

 

 レイチェルは上空に業火を放つと即座に氷へと変わる。固形物となった事で俺達へと落ちてくるが水無瀬の狙いはそこじゃない……落下する途中で氷が水へと変わり俺とクロウの体をびしょ濡れになる。水も滴る良い男とか言いたいけど次は橘様のターンですよね! 知ってます! これだけ広範囲が水浸しかつ俺達の体がびしょ濡れなら雷はよく通りますもんね!

 

 

「橘志保! 全力全開でいっきま~す♪ 悪魔さん、ごめんね♪」

 

 

 三尾状態の橘が満面の笑みで極大の雷を俺達へと落とす。デスヨネ! 炎、氷、水と続いた後は雷だってのは常識だし! ゼバババババババババ!? すっげぇ痺れる! すっごく痺れる! しかもこれタダの雷じゃなくて破魔の雷じゃねぇか!? なんという容赦のない攻撃……ちょっと惚れそうになるからやめてくれませんかねぇ!

 

 てか三尾? あれ……尻尾増えてね? まさかこのまま九尾になるとか言わないよなと感電しながら考えていたがそれ以上に正直しんどい件について。だってあのクロウの体から煙出るぐらいの威力だぜ? 僧侶の駒ブーストに加えて禁手ブースト、さらに倍とばかりに破魔の霊力込みとかマジで殺しに来てるとしか思えねぇ……お怒りですか橘様! スカアハの腋舐めたいとか思ったから怒ってるんですか橘様! やめてください死んでしまいます!

 

 

「……これでも大したダメージにはなりそうにありませんわね。ならば次の手です、キマリス様!」

 

「なんだ! 悪いがドSなアイドルによる感電死から逃れてる途中に加えてクロウと接近戦中だ! なんかあるなら手短に頼む!」

 

「グラムは使いますか?」

 

「まだ使わねぇよ!」

 

「分かりましたわ――覚妖怪!」

 

「しょーがない。グラム、ちょっと()になって」

 

『――致シ方なし。だガ狂っテもワれらは知ラぬゾ!』

 

「ノワールが好き過ぎて狂ってるから問題無い」

 

 

 何をとち狂ったか分からないが平家が剣状態のグラムを握って接近してきた。おいおいマジか……俺が簡単に使ってるせいで誤解されがちだが普通に魔剣だぞ? しかも心の声を聞く覚妖怪がそんなもの握りしめたら発狂するっての――まぁ、俺で慣れてる平家なら問題無いだろうが。

 

 のらりくらりと千鳥足のように歩き、折れていない腕でグラムを握り、右へ左へと大きく動かしながら近づいてくる。傍から見れば隙だらけで剣士としては最低の構えだろう……だがあの動きにはちゃんとした意味があるからなぁ。目の前に居るクロウも龍殺しの魔剣であるグラムを振るう存在に興味を持ったのか視線を平家に向ける……その間も俺に攻撃を仕掛けてるのは恐ろしいわ。

 

 近づいてくる平家からは殺気を感じられない。ただゆっくり歩いていると言われれば納得しそうになるぐらい静かだ――そして気が付けば斬られていた。グラムによる斬撃は俺の身体ごとクロウの皮膚を切り裂き、その余波が真っすぐ遠くの森を吹き飛ばす……やっべぇ、俺まで釣られた!

 

 

「……視線誘導か。面白い!」

 

 

 平家が何をしたかと言えばクロウの言った通り視線誘導……もっと別の言い方をすれば意識を自分以外に集中させた。前に鬼の里でぬらりひょんと修行した際にぬらりひょんという妖怪の性質を真似た芸当を覚えてきやがったんだよなぁ……殺気を消し、武器を大きく振りながらのらりくらりとゆっくり動いたのは自分以外、いや正確には自分の()()に意識を集中させ……自分から意識が外れた瞬間に騎士の速度を最大限発揮して接近、そして斬る。殺し合いしてる最中で狙うのは難しいはずなのに相手が何を考え、何処を見ているかを手に取るように分かる覚妖怪だからこそ簡単にやってのける……これのせいで犬月は開始早々、ぶった切られてるもんなぁ。

 

 先ほどの一撃を入れた平家は即座に距離を取り、その場に座り込む。流石にグラムを振るった弊害が出てきたらしい……まぁ、他の奴らのお陰で時間は稼げた。此処からは俺のターンってな!

 

 

「辛い……体力の殆ど持ってかれた……こんなの毎回普通に使ってるノワールって頭おかしい」

 

「テメェだって頭おかしいだろうが! どこの世界に魔剣握る覚妖怪が居るんだよ!」

 

「此処に居るよ? 覚妖怪なんて覚悟決めたら魔剣ぐらい握るし普通に使うよ」

 

「全世界の覚妖怪にまず謝っとけ! そんでテメェら! 時間稼ぎご苦労様ってなぁ! ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! クロウ! 見せてやるよ――俺の欲望(ねがい)をな!」

 

 

 全身から影を生み出し、高笑いしながら呪文を唱える。

 

 

「我、目覚めるは! 万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり! 獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る! 我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて! 汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 鎧が黒から漆黒へと変わり、全身から醜悪な呪いが一気に放出――されずに全身から霧のような瘴気が静かに僅かに漏れ、繭のようなって俺を包み込む。この姿に驚いているのは呪文を唱え始めた瞬間に、距離を取ろうと動いていた眷属の面々だ……デスヨネ! だって今までだったらこの辺り一帯が影と呪いに包まれてたんだしさ。この殺し合いの最中、ずっと思考の大部分を割いていたのはこれのためだ……前々から夜空以外との共闘時に使用するためにはどうすれば良いかと頭の片隅も片隅、多分あり得ねぇなというレベルだが考えていた答えがこれだ。コイツは元々、影龍王の再生鎧・影人形融合2が進化したものだ……だったらあの時と同じく余計な力を外に放出せず、俺の身体の中に凝縮するようにすれば問題無いんじゃないかってな!

 

 無理なら無理でいつも通りに使う、出来たならラッキー程度だったが思いのほか上手くいった! これなら……まぁ、今後も犬月達と一緒に戦ってても使える。だけどこの姿はまだ通過点だ……もっと先に、もっともっと突き進まねぇと夜空には勝てねぇ! 残念だが覇龍融合如きで俺は満足するわけねぇんだよ!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ!! 待たせたなクロウちゃんよぉ! なんだなんだぁ? 滅茶苦茶楽しそうじゃねぇか!』」

 

「あぁ。俺は今、この戦いが楽しくて仕方がない! お前達に影響された者達との戦い! そしてノワール・キマリスとクロウ! お前達との戦いにだ! 見せてくれ……お前達の本気を!」

 

「『仕方がねぇなぁ! だったらお望み通り見せてやるよ!』」

 

 

 即座に影法師を生成してクロウへと突撃する。今までと違って呪いの放出などが無くなった事で出力が下がった……というわけでは無くむしろ上がってる! 夜空の事が大好きな悪魔だと再認識した事で俺の自我が強まったのかどうかは知らないが前以上に強化されたのはありがたい! でも制限時間だけは伸びないのが解せねぇ……せめて一分とかそれぐらいは伸びても良いんじゃないかなぁ!

 

 そんなどうでも良い事を思いながら()()はクロウに向かってラッシュタイムを放つ。先ほどまでと同じようにオーラを纏わせた拳を放ってきたが数体の()()で受け止める……ゼハハハハハハハハ! 今度は壊れる事は無かった! よし、複数の()()だったら受け止められる! これが分かれば問題ねぇ!!

 

 

「先ほどまでよりも防御力が上がっているか。それにこの気配……そうか、そういうことか」

 

「『――ゼハハハハハ、気づきやがったか。その通りよぉ!』」

 

 

 ()以外の口から俺の声が聞こえてくる。その発生源は先ほど生み出した影法師からだ……そいつらは楽しそうな声色で次々と声を出す。

 

 

「『さてクロウちゃんよぉ? どれが本物か分かるかな?』」

 

「『俺が本物だぜ?』」

 

「『いやいや俺様が本物だぜ?』」

 

「『ゼハハハハハハ! 全員本物なんだけどなぁ! なんせ俺の魂が宿ってるしよ!』」

 

「『いやいや俺様の魂だろぉ! ゼハハハハハハハ!』」

 

「……ヤバイ、王様がドンドン人外化してってる」

 

「いつもの事だよ」

 

 

 何故か背後からドン引きしてる奴らの視線を感じるが無視だ無視! だって今は目の前の邪龍との殺し合いが楽しくて仕方がねぇからな!!

 

 

「『ゼハハハハハハハ! さぁ、もっともっと楽しもうかクロウ・クルワッハッ!!!』」

 

 

 

 

 

 

 ノワール・キマリス率いるキマリス眷属が影の国にて三日月の暗黒龍、クロウ・クルワッハと殺し合いを繰り広げている中、とある男が冥界――バアル領内のとある城を訪れていた。殺意に満ちた男が通った道には幾多の死体があり、彼らの者と思われる赤い血液が手に持つ剣に付着している。一歩、また一歩と進むごとに剣を握る力が強まっていく。

 

 男――八重垣正臣は最後の扉を力強く開ける。彼を待っていたのは紫色の双眸、貴族服を纏った初老の男だ。その男の名はゼクラム・バアル、初代バアル家当主の悪魔であり隠居した今であってもバアル、いや大王派と呼ばれる者達のトップとして君臨している。

 

 

「来訪にしては聊か物騒だ。何故私の城へとやってきた?」

 

「――復讐するためだ」

 

 

 ハッキリと告げた八重垣の言葉にゼクラムは呆れた表情を浮かべる。その姿を見た八重垣は今にも飛び出しそうになっている体を僅かに残った理性で抑え込む。相手はバアル、しかもルシファーが生み出した初代悪魔の一人である滅びの始祖と言える存在。考え無しに飛び込めばいかに邪龍となった身であろうと滅ぼされる……八重垣はそれを理解しているからこそ真っすぐ、そして殺意を秘めた瞳でゼクラムを見つめる。

 

 

「その顔は……あの時の戦士か。蘇ったとは聞いてはいたがまさか本当とはな。復讐と言ったが貴様が死んだあの件の事を言っているのか?」

 

「そうだ」

 

「ならば話は終わっている。あの時代に置いてお前とクレーリアは結ばれるべきでは無かった。今の時代に出会わなかった自分達を恨むべきだろう」

 

「……確かに僕とクレーリアが出会い、恋をした時代でお前や天界の奴らが行った事は間違ってはいなかったのだろう。でも――本当に僕とクレーリアが結ばれるのを阻止したかったならの話ならな」

 

「どういう、意味かな?」

 

「――()の駒」

 

 

 八重垣がポケットから取り出したのはとある駒。現魔王、アジュカ・ベルゼブブによって製作された悪魔の駒だが兵士、騎士、僧侶、戦車、女王といって物を象徴する形ではない。元となったチェスにおいて八重垣が持つ駒の形は(キング)を意味する形をしている。本来であれば王の駒などは存在しないと言うのが現冥界内では常識だが八重垣は嘘のような代物を実際に手に持っている。

 

 手にするだけで破壊したくなる衝動に駆られながらも必死に理性で抑え込む。此処で破壊してしまえば狡猾な悪魔であるゼクラムに逃げ道を与えてしまうからだ……しかし頭では分かっていても心が、体がそれを否定してる。彼が持つ駒こそ自分と愛する女性――クレーリア・ベリアルが殺害される原因となったのだから。

 

 

「こんな物のために彼女はお前達に殺された。ただ純血悪魔という理由だけで富と利権を貪っている貴様らにクレーリアは殺された! 乾いた笑いしか出ないよ……許されない恋の結果だと思っていた事がこんな物を知ってしまったために殺されたなんてね」

 

「……話は分かった。それで? 知らなくても良い事を知った愚かな女のためにわざわざ蘇ったと? そのような事を言うために私の前に殺されに来たとは馬鹿としか言えないな」

 

 

 玉座に座りながらゼクラムは八重垣を見つめる。その目、その表情は愚か者を始末すると発しているようなものだが殺すと宣言したにしては何かをするという動作は行わない。僅かな無音が広がる中、ゼクラムは突如として立ち上がり、八重垣を睨み付けた。私に何をしたと、答えろと騒ぎ出す。

 

 

「……大王派と呼ばれる奴らを纏める悪魔にしては頭が回らないな」

 

「なんだと……?」

 

「この僕が一人で此処に来られたと本気で思っていたのか?」

 

 

 八重垣の言葉の後、足音が響く。コツコツと近づいてくる音の正体は灰色の髪で貴族服を着ている男――ディハウザー・ベリアル。冥界内で行われているレーティングゲームにおいて最強と呼ばれている悪魔。その男が八重垣の隣に立ったのを見たゼクラムは理解し、さらに激怒する。

 

 

「お久しぶりですね、このように会うのは何度目でしょうか? おや、普段の態度からは想像もできないほど激怒している様子。初代悪魔と呼ばれた貴方には屈辱的なものだったかな?」

 

「……若造が! この私に無価値を使ったか! 何を使った……? 王の駒か! 皇帝とまで呼ばれたお前が不正をしたと知れば民衆は落胆するだろうな!」

 

 

 無価値――それはベリアル家に伝わる固有能力。バアルの滅び、キマリスの霊操とその血筋を引く者が使用できる能力をディハウザーはゼクラムに使用したのだ。無価値の効果は一次的な特性の無効化、この力によりゼクラムが持つ滅びは一時的に消失している。

 

 自らの能力を封じられたゼクラムはディハウザーが王の駒を使用したと思い込み罵り始める。初代悪魔である自分が若造の力如きで能力を封じられた事実を認められないからだ。

 

 

「何を勘違いしているのでしょうか?」

 

「どういう意味だ……?」

 

「この私が王の駒という玩具を使うと本気で思っていたのですか? 考えが甘いですね。これは貴方達が捨て去った鍛錬によるものだ。現魔王、アジュカ・ベルゼブブ様に誓おう。しかし……こんな男のためにクレーリアが死んでしまうとはな。自分の力の無さに涙が出そうだ……八重垣君」

 

「分かってる」

 

 

 一歩前に出た八重垣の体から炎が放出される。胸には十字架の炎が灯り、背からはドラゴンの顔と首を模した炎が現れる。八重垣が持つ神滅具、紫炎祭主による磔台に宿っている八岐大蛇の影響によってこのような姿となっている……その炎に触れれば魂すら汚染され、聖十字架であるため悪魔の身には絶大な威力を誇る代物を前にしたゼクラムは僅かに体を震わせて声を上げる。

 

 

「……待つが良い。あの女の件は私だけの責任ではない。私も命が惜しいからな……話そう。誰が主犯な――」

 

 

 言葉は続かない。聖十字架の炎を纏わせた八重垣の剣、天叢雲剣の一太刀によってゼクラム・バアルは二つに分かれ、背から生えるドラゴンを模した炎に噛まれ魂すら汚染されながらその身を燃やされる。彼にとって誰が主犯かを知るのは興味など無い……関わった者全てをこの手で殺すのだから今さら誰が主犯だろうと問題無いのだから。

 

 

「……ありがとう。キミのお陰で僕の復讐がまた一つ終わった」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。しかし……このようなやり方は彼女に怒られそうだ」

 

「僕もだよ。前に悪魔であり邪龍でもある男に言われたよ。今の僕を見ているクレーリアの気持ちを考えてみろとね。復讐なんて彼女は望んでいないのかもしれない……だけど、それでも僕は復讐しなければならない! 彼女を殺した者達全てをこの手で殺さなければこの心が……体が納得しないんだ!」

 

「……キミがクレーリアの事を心から愛している事は分かっている。八重垣正臣君、いや八岐大蛇。私と契約してほしい……キミ達邪龍の目的はトラキヘイサとの戦いだとは知っている。だが……クレーリアを大切に思っているキミの力を貸してほしい。お願いだ……!」

 

「……邪龍としてはまだまだ未熟だがそれでも良いのなら」

 

 

 肉が燃える匂いが充満する一室で二人の男が固い握手を交わす。




全く関係無いですがアニメでグラムの形状が判明してちょっとテンション上がりました。あんな形してたんだ……あと聖槍って案外デカいんですね。自分のイメージでは小さい感じだったんでビックリしました。

あと八坂が美人、ジャンヌ可愛い。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

114話

「ふむ、見逃されたとはいえクロウ相手に全員生き残ったか。まずまずと言っておくべきかそれともクロウに深手を負わせれなかった事に情けないと言っておくべきか悩むな」

 

 

 場所は変わってスカアハが住む影の城。クロウと殺し合う前にチョロインことグラムで破壊したはずなんだが再生でもしたかのように元通りになっていて唖然としたのは言うまでもない。まぁ、そんな事はどうでも良いとして俺と四季音姉以外が魂が抜けかけているというよりもこのまま死ぬと言われたら納得しか出来ない状態で地面に横になっているのを玉座に座りながら眺めながら先ほどのセリフを言っているスカアハをぶっ殺したい。これは相棒やユニアが嫌う理由も理解できるわ……最強の邪龍、天龍や双龍を超えていると名高いクロウと殺し合ってどうにか生き残った俺達によくやったとか面白かったぞの感想無しで先ほどのセリフだぜ? 体さえ動けば今すぐ殺しに行ってる所だ……!

 

 もっともよくやったとか言われてもなにも嬉しくはねぇけどな。実際問題、このスカアハの言う通りクロウとの殺し合いは俺達キマリス眷属の敗北だからな……マジで悔しい。死ぬほど悔しい! でも得られることが多かったのも事実だ……俺はまだ弱い。クロウ程度を倒せないほど弱い。ゼハハハハハハ! 助かったぜクロウ! 俺はまだまだ強くなれそうだ! 今よりももっと強くならなきゃ夜空を手に入れられないからな!

 

 

「弟子よ。確かにお前は歴代影龍王とやらの中では頂点に立つほどの存在だろう。今までにそこの馬鹿弟子を宿していた男や女どもはお前が居る領域まで達していなかったからな。(わたし)自身もお前とクロウの殺し合いは中々に面白かったが最後の最後で体力切れとは情けないぞ。ブリューナクの奴が宿っている小娘と一緒に居た時は体力切れなど無かったであろう? もしや腋を舐めておらんかったからか……ふむ、先に褒美ぐらいはやっても良かったか。そうすればもっと楽しめたかもしれんな」

 

『ふざけんじゃねぇ!! 誰が若作りクソババアの腋なんざ舐める――』

 

 

 スカアハの言葉に相棒が反論すると真上から弾幕ゲーも真っ青な量の光弾が降ってきた。おいおい勘弁してくれねぇか……! 今マジで疲れてるってのに殺すんじゃねぇよ!! はいはい再生再生っと。

 

 

「騒ぐな、弟子と話しているのだから割り込むでないわ馬鹿者が。お前はウアタハのような女の見た目をした男が好みだろうがそこの弟子は腋が好きなのだろう? ならばこの至高にして頂点とも言うべき妾の腋を舐めたならばさらなる領域に至れるのは言うまでも無かろうが」

 

「自分で至高にして頂点とか言いやがったよこの女」

 

『いつもの事だから流せばいいんだよ。生まれながらにして女王だったこの女は自分が世界の中心であり自分の言葉は世界の答えだと本気で思い込んでやがるからな。だから自分の見た目は世界一だとマジで思い込んでるってわけよ……俺様としてはウアタハの方が良い女、いや良い男の娘だがな!』

 

「……そういえばスルーしてたんだが男? なんかの文献で呼んだがウアタハって娘じゃなかったか?」

 

 

 ルーンや相棒絡みで色々と調べていた時に何回か名前が出てきたけど全て()と書かれてたはずだがまさかまさかの男でしたとか世界中の学者やら何やらがビックリするぞ?

 

 

『おうよ! 今のバロールも最高に良い男の娘だがウアタハも同じぐらいマジで良い男の娘だぜぇ! なんせこの俺様が生まれて初めて抱いたお相手だからなぁ! ゼハハハハハハハハハハ! 後で宿主様にも教えてやるよ! この俺様とウアタハの甘くてエロスな一夜ってのをな! ついでに一発襲っちまえ! きっと俺様と同じ感想を言うはずだぜぇ! おいクソババア!! ウタアハはどこに居やがる? 折角帰ってきたんだから顔と全裸ぐらいは見てぇんだよ!』

 

「あ奴か? 貴様が帰ってくると言ったら部屋に引き籠ったぞ。武術や魔術を教え込み、オイフェにも劣らぬ実力があるというのにこの様とは情けないの一言につきる。男同士でまぐわったとしても妾の子ならば堂々とすれば良いものを……会いたければ勝手に会うが良いさ。それとだな、師匠である妾をクソババアと呼ぶなと何度も言っておるだろう」

 

 

 この流れは何回目だよ……テメェも息をするように俺を殺害しないで貰えませんかねぇ? もしかして地味に年とか気にしてるのか? あと相棒! 俺はまだ夜空とエッチしてない童貞なんで初体験が男の娘とかちょっと難易度高いから童貞卒業してからでも良いか? いややめておこう。なんか背後辺りからヤンデレ達の視線が怖いしな!

 

 

「にしし、流石はこの世界を治めている女王だね。やる事が豪快だ! それとノワール? 聞くまでも無いけど生きてるよね?」

 

「当たり前だろうが……いくら体力の殆どが残ってなくても夜空とエッチするまで死ねねぇから意地でも再生してるっての。てか犬月達がマジで死にかけてるってのにお前は余裕そうだな?」

 

「これでも酒呑童子、しかも次期頭領だよ? 両腕が折れているけど動けないほどじゃないさ。でもイバラはちょっと辛そうだね……無理もないけどさ」

 

「まぁな。なんだかんだでクロウ・クルワッハという今までで最強の相手と殺し合ったんだ。体力の殆どを使い切ったり現在進行形で死にかけてたりしてもおかしくはねぇよ。つーかお前ら死んでねぇよな? 点呼とるぞ点呼! はい俺は生きてまーす! ほれ、さっさと声出しやがれ。死ぬなー生きろー」

 

 

 天使すら堕天する美声で死ぬ一歩手前、いや秒読みすらあり得る犬月達に呼び掛けると声は小さいが返答があったので生きているっぽい。先ほどのクロウとの殺し合いのせいで犬月は全身血まみれな上、両腕両足が折れているし平家も片腕が折れているに加えて全身から血を流している。四季音妹も両腕が折れているし全身から血を流してはいるが犬月と平家よりはマシらしく四季音姉の呼びかけに普通に応じている……流石鬼だね! 水無瀬、橘、レイチェルの三人は出血はしているがどこも折れてはいない……ただし体力と魔力、霊力といったものを全て使い果たしたのか現在進行形で死にかけている。

 

 グラム? あぁ、なんか知らないが邪龍であるクロウと正面から全力で殺し合えたのが嬉しかったのか最後の最後でイッ、ガクガクビクビクなあれになったらしく剣の状態のまま動く気配が無い。所謂賢者タイムって奴だから放置しておこう。どうせ無事だろきっと。

 

 

「ふむ、お前たち全員死んではいないようだな。クロウに見逃されたのだから当然と言えば当然だな。だがあまりにも無様だぞ? まだ本格的な修行すら始まっていないというのにその様ではこの先やっていけるか不安が出る。さてさてどうするべきか、妾としてはそこの弟子が手に入れば問題無いわけだからオイフェにでも投げるか。あ奴の方もそろそろ終わっておるだろうし……うむ、そうしよう」

 

「……今、すっげぇ、気に、なるワードいわな、かったっすか……?」

 

「マジだよ。うん、否定してほしいかもしれないけど、マジだよ。そしてマジでノワールを欲しがってるよこの女……マジで死ねば良いのに」

 

「おい平家、お前さっきからマジしか言ってないが本当に大丈夫か?」

 

「マジしか言えないぐらい疲れた……死ぬ、これ以上は普通に死ねる……でもノワールの子種飲めば回復できる。勿論飲むのは下の方希望」

 

「あっ、問題ねぇな」

 

 

 下ネタが言えるって事は普通に大丈夫だから放置しておくとして……本格的な修行云々よりもまず気になったのが俺が欲しいとかなんでだ? スカアハとは会うのは初めてで好感度上げすらしてなかった気がするんですが!! そもそも俺は夜空が大好きなんでお断りですけどね!

 

 まぁ、とりあえずこのままだと犬月達が本当に死ぬので回復させないとな……頼みの綱の水無瀬も疲れ切ってて禁手はおろか全員を治療する余裕も無い。と言う事は必然的に目の前に居るスカアハに頼むしかないわけだが……仕方ねぇか。

 

 

「なぁ、スカアハ」

 

「何だ弟子よ?」

 

「俺は兎も角として他の奴らが死にかけてるから治療頼めないか? 相棒は嫌がるだろうが背に腹は代えられねぇ……とりあえず話ぐらいはするからマジで頼むわ」

 

「ふむ。よかろう、弟子の頼みに応えるのも師匠の務め、先の戦いの褒美代わりに特別にやってやろう。なにせ他でもない弟子の頼みだからな。オイフェ、聞こえているか?」

 

 

 スカアハの言葉に反応するように背後に魔法陣が描かれて一人の美女が現れた。漆黒の長髪に光が宿っていない瞳、玉座に座っているスカアハと同じ容姿をもった女だ……違いと言えば軽鎧を身に纏っているぐらいだから服装をチェンジしたら見分けがつかないだろうな。コイツがオイフェか……恐らくだが双子の妹とはいえ性格は似たようなものなんだろうね! だってこれ(スカアハ)の妹だぜ? 同じ様に話が通じないと言われても納得する自信あるし!

 

 

「お呼びでしょうか、お姉様」

 

 

 ――嘘だろおい。

 

 

「呼んだぞ。こやつの連れを風呂にでも放り込んでおけ。妾は弟子と話をするので忙しいからな」

 

「えぇ、分かりました。貴方は……なるほど、貴方がクロムを宿しているお方でしたか。お初にお目にかかります。お姉様の妹でありこの影の国の戦士、オイフェと申します。以後お見知りおきを……おや? どうかしましたか?」

 

「いやこれ(スカアハ)の妹だから性格最低なんだろうなと思ってたから困惑してるだけだ。何故か知らないがこれ(スカアハ)の弟子になってるノワール・キマリスだ。悪いが犬月達を頼む」

 

「畏まりました。ご安心ください、この城の湯につかれば瞬く間に回復いたします。弟子になった方々も大層喜ばれていたほどのものですからお姉様とのお話が終わってからでもよろしいので貴方もどうぞ。勿論、道中の仕掛けは解除しておきます」

 

「マジか。おいおい相棒……どういうことだよ? 話通じるぜ? 本当にこれ(スカアハ)の妹か?」

 

 

 目に光が宿っていないとはいえ至って普通に話が出来ている事に地味に感動した俺は相棒に話しかける。だっていきなり現れて弟子認定した挙句、クロウと殺し合えとか至高にして頂点の体とかいう女の妹とかどう考えてもキチガイ以外の何物でもないだろ!? なんと言うか話が通じるって素晴らしいね! 俺も周りに比べて比較的常識人寄りだからキチガイの相手とか困るんだよね!

 

 なんだろうか……背後の覚妖怪からノワールが常識人だったら世界が滅んでるよとか言われそうな視線を感じるぞ。おいおい平家ちゃん……どこからどう見ても常識人だろうが! お前らヤンデレ属性に囲まれても怖がるどころか逃げる事すらしてないんだぜ? キチガイってのは玉座に座ってる女の事を言うんだからさっさと治療されて来い。

 

 

『……いい加減猫被るのもやめろや。テメェのその態度を見てると心底ムカつくからな』

 

「相棒?」

 

「――チッ、空気読めやクソ蜥蜴。テメェは空気が読める事に定評があるんじゃなかったかぁ?」

 

 

 なんかいきなり豹変した件について。

 

 

『ゼハハハハハハ!それとこれとは話が違うのよ!宿主様……残念だがこの影の国でお淑やか属性を持つのはウアタハ以外はいねぇ!このオイフェはこの影の国でスカアハに匹敵するほどの戦士で当然だが屈強な男共を従えてた事もある。先の態度は男を油断させるためなのさ!男ってのはお淑やかに弱いからなぁ、それで隙を見せたら最後ってわけよ!』

 

「……まじか、まじか」

 

『マジもマジだぜ。そもそもだな――この影の国でお淑やかな女なんざ存在しねぇんだよ!!甘い幻想を持つならウアタハだけにしろ!!アイツだけはマジで見た目と中身が一致してやがるからな!!宿主様よぉ……此処で過ごしてた()の苦労も分かるだろ?』

 

 

 分かり過ぎて泣きたくなったぜ相棒! この場所で過ごしていた相棒の言葉は説得力があり過ぎてどうしたらいいか分かんねぇぞマジで……! マジかぁ、マジかぁ……! さっきの態度が演技とか女って怖い! 相棒が男の娘に走るのもなんとなくだが分かる気がするね!

 

 

「たくっ、そこの蜥蜴がバラさなかったらもうちょっと楽しめたんだがな。悪いな、こっちが素なんだよ。別にさっきまでの態度も嫌じゃないんだが男共を相手にするならこっちの方が楽でさ、気が付いたらこうなったってわけだ。幻想抱いてたんなら悪かったな」

 

「……いや、うん。よく考えたら今までも周りがヤンデレだらけという状況だしこれ(スカアハ)に比べたらまだ話が通じるから問題ねぇわ。とりあえず犬月達を頼む」

 

「へぇ、引かねぇってのは珍しいもんだ。分かった、姉さんの頼みだし断る事はねぇから安心しろ。んじゃ姉さん、ノワール。こいつら連れていくが長く話し込むなよ? 飯作ってるんだからな」

 

 

 それを言い残して床に倒れている犬月達をルーン魔術か何かで浮かしてこの場から離れていく。四季音姉は動けるから普通に歩いてだが……荷物みたいに運ばれていく光景は中々シュールだな。まぁ、それは置いておいて性格がいきなり変わった事には驚いたが話した感じはまだ通じるのは助かるね! スカアハの妹だから頭おかしいんだろうなと思ってたがそんな事は無くて俺様、凄く助かりました! 相棒曰くこの城には温泉がありその湯に特別な術式やらなにやらを施しているから大怪我だろうとなんだろうと癒されるらしい……なんでも弟子だったセタンタという奴が温泉ぐらいゆっくり浸かりたいと言ったら色々と曲解して回復の温泉へと早変わりしたそうだ。マジで思考回路どうなってんだよ……!

 

 まぁ、そのお陰で犬月達が回復できるんだし文句は無いが……もしかしてメンドクサイだけで中身は結構チョロイ?

 

 

「クハッ、オイフェの悪癖すら気にせんとはな。いや、そう言えばお前はどのような女であれ気にはしないのだったか? 馬鹿弟子が傍に居てよくもまぁそのように育ったものだ」

 

『なんせ俺様を理解してくれた男だからなぁ! んで? いい加減、腹を割って話そうやスカアハ……何故俺達をこの影の国に呼んだ? テメェは宿主様とは初対面だろうが?』

 

「会うのは初めてだが存在は前々から知ってはいたぞ。同族に襲われ弟子の母が死にかけた事もブリューナクを宿した女と出会った事もその女に惚れて強くなろうとしていた事もな。なんだ? 何故と聞きたそうな顔だな? 確かに妾はこの影の国からは出られん。外に出たならばルーやダグザが五月蠅いからな。しかしちょうど良く外に出ていった奴が居るだろう? それを通して見ていただけの事だ」

 

『……そういう事かよ。俺様を目の代わりにして見てたってわけか! 勝手に覗き見るとか趣味が悪いんだよクソババア!! 引きこもりな上にストーカー気質とくればセタンタが逃げたのも頷けるぜ!』

 

「逃げたのではないぞ馬鹿弟子よ。貴様も知っておるだろうが? ケルトの男は武を競い、強くあろうとする。名のある勇士と競う事を捨てこの場所に留まるなどあ奴は考えていなかっただけの事だ。しかし貴様を通して外を見てはいたが退屈だったぞ……誰かを護りたいなどという考えで勝てたはずの存在にそのような玩具に封じられたのはまだ良い。それは貴様が決めた事で妾は関係無いからな。だが貴様を宿した男共だ、なんだあの体たらくは? 貴様の言葉一つで堕ちるなど弱すぎる」

 

 

 どこからともなく酒らしきものを取り出しグラスに注いで飲みながらスカアハは話し続ける。えーとつまりあれか? 相棒が見ていた光景はスカアハも見ていたと言う事になるんだよな……え? ちょっと待て! と言う事は俺のオナニーしているところも見られてたってわけか!? 待て待て待て! 確かに平家は俺のオナニーを読心で聞きながら自分もオナニーしてたけどさ! 他にも見られてたとかちょっと恥ずかしいんですけどぉ!! やだーノワール君のノワール君って小さいとか思われてたらどうしよう……オナニーでお世話になってるランキング上位の平家は何も言わなかったがまさか小さくて絶句してたとか? うわー死にたくなるわーマジで引きこもりたくなるわー!

 

 

『……宿主様、俺様が言うのもなんだが心配するところがそこか?』

 

「おう。ぶっちゃけ平家が傍に居る時点で常時見られているようなものだしな。今さら何されようがどうでも良いし」

 

「クハッ! 流石は妾が見込んだ弟子だ! この妾の誘いを断り続けていただけの事はある! 始めは驚いたぞ? お前が死を迎えた時にこのスカアハが直々に影の国へ誘おうとしてすれば断られたのだからな。それも一度では無く二度、三度、数えきれない数をだ。そのような事があったからこそ毎日が楽しくて仕方が無かった! 次も断るのだろうか、それとも誘われてくるだろうかと何度も思った! 馬鹿弟子が宿っている以上、お前はこのスカアハの弟子だ。日夜鍛錬を積み成長していく弟子を見て嬉しく思わないわけが無かろうが? その褒美として書物を送ったりもしたがちゃんと使用していたのもポイントが高い。うむうむ、ここまで鍛えたいと思ったのはセタンタとコンラだけだからな、誇っても良いぞ。弟子よ、貴様は過去の奴らでは至れなかった領域まで成長はしたがそこが限界ではあるまい? 人間と言うものはルシファーの小僧とリリスの小娘によって手が加えられておるせいか成長幅は妾達以上だからな。その点に関してはよくぞやったと褒めておくべきか? いやあ奴の狙いは別だったからそれはやめておいた方が良いか。しかしこうしてこの場に呼んでは見たもののブリューナクが宿っている娘も連れてくるべきだったな……お前を長く見続けていたから妾でも分かるがお前達は片方が強くなればもう片方も連鎖的に強くなる。どちらかが弱いまま過ごすなど無いと言うのは面白い! それ故に妾自らが誘いに行ったが逃亡したのは未だに許せんな。ブリューナクめ、誰が自己中心的な醜い老婆だ。一時期鍛えてやった恩を忘れていると見える……うむ、師匠として認識を正してやらぬとダメか。いやすまない話が逸れたが許せ。弟子よ、先の戦いを見て貴様はまだまだ成長限界に達しておらん。必要な経験があまりにも多すぎるがそれさえ経験すればセタンタやコンラとはいかぬがそれに近い領域まで成長できるだろう。クハッ、久しぶりに高ぶってきたな! 近年はまともな弟子すら居なかったから――」

 

 

 ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ! 話しが止まらねぇし自分の世界に入っているしなんか気になるワード言ってるしもうどうして良いか分かんねぇんだが! これあれだ! オタク特有の好きな話題になったら早口になっちゃうパターン! 俺も平家相手に腋関連で何回かなったことあるから良く分かる! ヤバいどうしよう……なんか目の前に居るキチガイが修行を乗り越えた褒美として「(わたし)を抱かせる」とか何とか言ってるんだが? いやいや無理無理。だって俺って女神級に可愛くて最高に素敵な夜空ちゃんを抱いてないもん! クリスマスが近いってのにまだ童貞なのは泣きたくなるが初めての相手が目の前に居るキチガイとかちょっとシャレになってないんで無理です。お断りします! 仮に襲われそうになったら仕方ねぇ……平家で捨ててでも抵抗してやらぁ!

 

 だって四季音姉が初めての相手だと自分が初めての相手って事で面倒な事になるだろうし水無瀬と橘はドヤ顔はしないだろうが今以上にヤンデレレベルが上がるだろう。レイチェルに関しては抱いた瞬間に即結婚という名の墓場に一直線だから論外。マジでまともなのが四季音妹とグラムしか居ないとか俺の眷属はどうなってんだよ……! まぁ、そんなわけで色々と精神的に死ぬかもしれない状況になるだろうから平家一択しかないわけだ! うん! なんかそれはそれで面倒な事になりかねない気がしないわけでも無いが夜空ちゃん! 俺の童貞が欲しかったら今すぐ助けに来て下さい!

 

 

「……相棒、辛かったんだな」

 

『分かってくれるか、宿主様よぉ』

 

「おう。後でウアタハって奴に会おうか……」

 

『是非そうしてくれ』

 

 

 なんだろうな、相棒との絆がまた一つ深まった気がする。

 

 そんな事を思っていると背後から尋常ではないほど巨大かつ濃い雷光がスカアハに向かって行った。もっともそれは片手で弾かれたけど……この雷光を使える人物は一人しか居ませんよねぇ!

 

 

「――私の(もの)を勝手に連れ去るとかふざけんじゃねぇよ」

 

 

 通常の鎧を纏い、ガチギレしている夜空を見た俺は……悪役に攫われたヒロインの気持ちが良く分かる気がした。ヤバイ素敵! カッコいい! キャー夜空ちゃーん! 抱いてくれー!!




Q:影の龍クロムが男の娘好きになった理由
A:ウアタハが男の娘だったから。

この作品内での影の国お住まいの方で常識人最上位はウアタハ、時点でオイフェ、絶対に超えられない壁でスカアハとなっております。
娘なのに男の娘? 沖田総司がなんか鵺になってるし神滅具が悪魔に転生とかなってるし大丈夫でしょうきっと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

115話

気が付いたら三ヶ月ぐらい経過していました……!


「クハッ! なんだなんだ、お主を此処まで招待した覚えは無いがどうやってきた? とは聞かんぞ。大方、ブリューナクの奴めが入り口を教えたのだろう? しかし……この(わたし)の肌を焼くか。やはりお主は歴代光龍妃とやらの中でもトップクラスの存在だなぁ! 良いぞ良いぞ、それでこそ鍛えがいがあると言うものだ! しかしなんだ? この(わたし)が直々に誘いに行った時は逃げた癖に弟子(こやつ)を鍛えると知った途端にやってくるとは……そうかそうか! 恥ずかしかっただけか! ブリューナク、今やユニアであったか? どちらでも良いがお前は性に関しては随一というのに根っこはまだ乙女な奴よな! クハッ! それがまた可愛いのだが生憎だがお前の相手は後だぞ。今の妾は弟子に夢中だからな! それが終わってからゆっくりと相手してやろう」

 

「は? あのさ……そいつは私の(もの)なんだけど勝手に自分の男扱いすんな。つーか勝手に現れて師匠面した挙句に私の男を攫ってくとか度胸あるじゃん――だから死ね」

 

 

 何故か機嫌が良くなっているスカアハを見て夜空はさらにブチキレたのか犬月達が居たならば即座に気絶するだろう殺気を放ちながら雷光を放つ。「Glow!!!」「Tonitrus!!!」という音声と同時に放たれた雷光は射線上の床を簡単に削りながらスカアハへと向かって行く……ハーデスと殺し合いした時も思ったけど破壊力あり過ぎじゃありませんか?

 

 雷――それが夜空に宿っている神滅具「光龍妃の外套」に封じられているユニア、いやブリューナクが生前保有していた能力だ。効果はその名の通り、自由自在に雷を生み出す事で身近だと橘が持つ神器と被っているようにも見えるが性能はトンデモナイの一言だ……ありとあらゆる防御、雷に対する耐性等々を完全に破壊するとかマジヤバイ! 俺がどれだけ防御を極めても女神以上に可愛い夜空の笑み一つで無意味になるからな! ハッキリと言わせてほしいんですけど……俺涙目じゃね?

 

 なお余談だが相棒曰く神器無効化能力を持つリゼちゃんにすらダメージを与えられるらしい。マジ理不尽。

 

 

「ふむ、元から有った雷に会得した光を合わせたか。妾ですら直撃すれば死にかねんがお前達の師匠たるもの弟子の一撃を防げぬわけが無かろう」

 

 

 どこからともなく何かの骨で作られた槍を手に取ったスカアハは玉座に座りながら突きを放つ。マジかよ……! 自分へと向かってきている雷光を槍の一突き、ぶっちゃけて言うと衝撃破的なもので弾き返しやがった。しかも大して腰が入っていない軽い一突きでだ……! 人間界で語り継がれているケルト神話でセタンタやコンラという存在を鍛え、相棒やユニアという最強の邪龍ですら頭おかしいと言わせるだけはある。てか見た感じ簡単そうに放った一突きで背後の扉が吹き飛んだんですが? うわぁ、マジでぇ。

 

 

「……ちっ。何でも無いように防がれたんだけど……むかつくぅ~!! てかノワールゥ!! なんで見てるだけなのさ! この超絶美少女にして女神と言ってもおかしくない夜空ちゃんを手伝えよぉ!」

 

 

 プンプン怒る夜空ちゃんマジ可愛い。結婚して!

 

 

「俺だって手伝いたいが残念な事に現在進行形でガス欠中なんだよ。さっきまで眷属総出でクロウと殺し合ってたしな」

 

「――は? この私がすっげぇ心配しながら一直線で飛んできたってのに何してんの?」

 

「仕方ねぇだろ! あそこにいる自分可愛いおばさ――だから腹から槍出す技使うんじゃねぇよビックリすんだろうが!! えー夜空には及ばないが出会った女の中ではトップ10入りするんじゃないかってぐらい美人なおししょーさまがクロウと殺し合えとか抜かしやがって別の場所に飛ばしやがってな……楽しかったけど一歩間違ってたら眷属死んでたぞおい」

 

「へー」

 

 

 なんだろうか。今の夜空が考えている事が手に取るように分かるぜ……この私が助けに来てやったのになんでテメェは別な事に夢中になってんだ? とかこの私抜きで何楽しいことしてんだこの野郎! とかこんな感じだろうきっと。おいおい夜空ちゃん……嫉妬か? おいおい嫉妬してるのか? 全力で助けに向かっていた自分よりもクロウに夢中になってたことに嫉妬してるのかい夜空ちゃん! いやーモテるって辛いわー! イケメンって本当に辛いわー!

 

 

「自分でイケメンとかキモ」

 

 

 お前は平家か? 毎回思うんだがなんで俺の心の声が分かるんですかねぇ? いや……これが噂に聞く愛の力か! いやだからその蔑んだ目をやめてください興奮してしまいます。

 

 

『クフフフフフ! 中々楽しい事をしていたのですねノワール・キマリス。あのクロウと殺し合うなど……なんて羨ましい! ノワール・キマリス、分かっているとは思いますが夜空は貴方を心配して此処までやって来ました。この影の国に通じる入口から一直線で突き進み、性根が腐っているとさえ言える罠を突破して……えぇ、渡るためには自分が教えた歩法でなければ無理とか渡らせる気がゼロのあの橋と上からゲイボルグの雨が降ってくる通路等々険しい道のりを得てこの場へとたどり着いたのですから夜空を褒め称えても罰は当たりませんよ』

 

「マジか。なんだかんだでお前の事だから簡単に来れたんだなぁって認識だったがそこまで辛かったのかよ……ユニア様、そんなの言われなくたって褒め称えるどころか夜空に結婚を申し込むっての! というわけで夜空ちゃん! いや夜空様! 悪役に攫われたヒロインの気持ちが理解出来ました! 俺と結婚を前提に付き合ってください! そしてあそこの玉座に座ってるキチガイよりも先に俺の童貞を貰ってください!」

 

「ノワールの童貞を貰う事や結婚は当然だけどさ、今はあのババアをぶち殺したいんだけど? 勝手に私の男を連れ去った上……自分の男扱いとか見たら我慢できねぇし。つーか殺されても文句言えねぇっしょ」

 

 

 うわぁ、ガチギレ状態だこれ。殺意しかない感じさせない目とか感情が抜け落ちてるとしか言えない無表情っぷりは心の底からキレてるんだろう。俺が囚われのお姫様になったらこの状態になるとか夜空……お前って俺の事好きすぎだろマジで。俺としては嬉しいけどな!

 

 そんな事を思っていると夜空が手を俺に向けて光を放ってきた。それはダメージを与えるものでは無く心の底から力が湧いてくるような温かいもの……目の前に居る夜空とは真逆な印象を持つ光を浴びた事により完全復活出来ました! あれだけ疲れ切ってたのに一気に全快とか……相変わらず先輩の所に居るシスターちゃん涙目な代物だなおい。

 

 

「――うっし! 完全回復! ぶっちゃけ犬月達と違ってドンだけ死のうが気合で復活もとい再生出来るから体力さえ戻ればこっちのもんだ! というわけでおししょーさまー? 弟子からの殺意(こころ)を込めたプレゼントだ! 喜んでくれよ!」

 

 

 即座に鎧を纏い、周囲全てを黒に染めるように影を生成する。そこからいつもの様に影人形を生み出してラッシュタイムを放つためにスカアハへと近づける。傍から見たら数の暴力とか何とか言われそうだが先ほどの光景を見たら手加減なんざ出来るわけがない……あの夜空の雷光を片手で弾きやがった女だ! 恐らくこの程度は殆ど無駄に終わるだろう。

 

 

「――甘い」

 

 

 俺の予想通り、槍を握ったスカアハは玉座から立ち上がりその場で舞った。上へ下へ、右へ左へと世の男が見惚れるような槍捌きにより俺が生み出した影人形を難なく切断した……分かってはいたが泣きたくなるな。これでも北欧の魔法やらルーン魔術やら霊力やらで防御力底上げしてるんだが全く意味ねぇとか死にたくなる。

 

 その光景を見て黙っているわけにはいかないのでオーラを高めてスカアハに接近。妖艶な笑み、またの名を肉食獣のように狙った獲物は逃がさないと表現できる顔をしているスカアハに背筋が凍りつつも全身から影を生み出す。それらが周囲を染めるよりも早く見事な槍捌きで俺の四肢や首、頭部と言った部位全てがみじん切りにされる……早すぎて見えねぇが! 俺()の狙いはこっちだ!

 

 

「――死ね」

 

 

 見えないが殺意レベルMaxの夜空が雷光を放つ。スカアハの目の前で影を生み出したのは視界を遮るため……あとは俺に意識を集中させるためだ。さっきまでの話だとこいつは俺に執着してるらしいから接近してくればほんの少しぐらいは夜空から意識が逸れるだろうという考えだ。まっ、無意味だったっぽいけどな。だって自慢の防御力を難なく破壊してスカアハへと向かって行った鋭い杭のような雷光は目にも止まらぬ刺突の連続で簡単に逸らされたんだからな。しかもただ逸らしただけじゃなく俺、そして背後にいる夜空にダメージを与えやがった……!

 

 鋭い突きの連続によって生じた衝撃で俺と夜空は見るも無残に破壊されたドア付近まで吹き飛ばされる。俺はいつもの様に再生して立ち上がり、夜空も腹部や肩、足といった部分を刺されたため血を流しているが回復効果を持つ光と仙術を使用して俺と同じように立ち上がる……もお互い、思う事はきっと同じ事だろう。

 

 

「……」

 

 

 強い。北欧の悪神が使役していたフェンリル、そしてクロウに匹敵するレベルの化け物が目の前に居やがる。さっきの攻撃も明らかに手を抜いたものだ……的確に夜空を狙えたんなら心臓を貫けたはずなのにあえて別の場所を刺しやがったからな。どうした、もうお終いかと言いたそうな表情のスカアハを見て俺は、俺達は――嗤った。純粋な子供のように、新しい玩具を得た子供のように、辛いやら苦しいやら逃げたいやらという考えよりも先に楽しさが心の奥底から湧き上がってきた。

 

 

「なぁ、夜空」

 

「何さ?」

 

「今の俺の心境さ、滅茶苦茶楽しいんだよ」

 

「こっちも同じ。すっげぇ楽しい!」

 

「だから夜空」

「だからノワール」

 

 

 ボロボロの鎧を復元しながら顔も見ずに次の言葉を言う。

 

 

「攻めは任せた」

「守りは任せたよ」

 

 

 コツンと互いの手の甲同士をぶつけて呪文を唱える。鎧のあちこちから老若男女の声が響き渡る……心を汚染するほどの呪詛の声が俺の鎧から流れ、心を浄化するほどの純真な光が夜空から放たれる。

 

 

「我、目覚めるは――」

《勝ち誇る貴様が気に入らん》《我らを見下しすぎだ》

 

「我、目覚めるは――」

《舐められたものですね》《あぁ、気に食わん》

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《実力差があれば従うとでも思ったか》《否、それは逆に我らを狂気の道へと進ませる》

 

「八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――」

《かの悪魔への愛はこの程度では止まらん》《何人たりとも二人の間に入る事は許されん》

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《我らが覇王、いや我らが悪魔は決して止まらん!》《一途な欲望を抱く我らが悪魔は止められん!》

 

「絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――」

《世界が終わるその時まで我らは見届けねばならない!》《我らが女王とかの悪魔が見せる未来を見なければならない!》

 

 

 俺の鎧から漏れ出す瘴気が周囲を染めるが夜空の鎧から漏れ出す炎のような光がそれを浄化する。

 

 

「我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて――」

「我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて――」

 

《だからこそ我らが悪魔の欲望を阻む貴様を殺そう!!》

《だからこそ我らが女王の未来を阻む貴様を殺そう!!》

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

『Juggernaut Queen Over Drive!!!!』

 

 

 漆黒の鎧と黄金の鎧が並び立つ。なんだろうな……クロウと殺し合ってた時以上に力が湧いてくる。それこそ無限にと言っても過言じゃないぐらいだ! 確かに最強の邪龍と呼ばれているクロウ相手に眷属達やレイチェルと共に戦った時も楽しかったし普段以上の力が出せた……でも今はそれすら簡単に超えてると思う。さっきまでの戦いと今の戦いで何が違うかなんてのは言うまでもなく分かってる――隣に夜空が居るからだ。夜空が隣に居て、夜空の盾になるこの状況だからこそ力が湧いてくる!!

 

 

『タスケテ』『ラクニナリタイ』『シナセテクレ』『ナンデオレガコンナメニ』『ダレノセイダ』『オマエノセイダ』『ソウダオマエノセイダ』『オマエノセイデオレハクルシンデイル』『シネ』『コロシテヤル』『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネェッ!!!!!!!!』

 

 

 俺の身体の内側から呪詛のように魂達が騒ぎ出すとこの部屋全体に広がり続けている影に触れた床や壁が瞬く間に腐敗していく。おいおい……クロウの時には何も言わなかったのに夜空と一緒に戦う時に騒ぐとかもしかして祝福してるのか? 何だよお前ら空気読んでるじゃねぇの! 良いぜ良いぜ! もっと声を出せよ魔法使い共(雑魚共)!! 頑張ってその程度の呪いなら俺は何時まで経っても死なねぇぜ? なんせその程度ならグラムで毎回味わってるからな! 俺を呪い殺したかったら――世界が滅びるレベルまで跳ね上げてみせろ!

 

 

「……良いぞ、良いぞ良いぞ弟子よ! なんだなんだ!? クロウと殺し合っていた時よりも出力が上がっているではないか! そんなに(わたし)に鍛えてもらえるのが嬉しいか! 良かろう! このスカアハ、弟子の期待に応えてやろうではないか! オイフェが食事を作って待ってはいるが……なに、これほど昂るのは久しぶりだからな! 奴も納得するだろう! むしろ納得させようか! よし、では行くぞ弟子よ。この妾を高ぶらせたのだから一息で終わってくれるなよ」

 

 

 先ほど夜空が放った雷光によってヒビ割れた槍を自ら砕き、新たな一本を手にしたスカアハが接近してくる。たった一歩、音も無く正面まで移動してきたことに俺は驚くこともせず、そして考える事も無く槍を受け止める。先ほどは俺の身体を難なく切り刻んだ槍の攻撃力は健在で腕を切り落とし、足を切り落とし、背後にいる夜空へと槍先を届けようとしてくる――がさせるわけがない。濃厚な影を背後に展開しながら迫りくる鋭い刺突を嬉々として口を開けて飲み込むように槍先を咥えて勢いよく噛みつく。

 

 

「ほう」

 

「『そんなほんはよ(そんなもんかよ)!!』」

 

 

 槍先が脳に達しているだろうが死ぬ気は一切無い。そもそも夜空とエッチしてないどころか童貞のまま死ねるわけがない! そんなくだらないようで実はかなり重要な考えを一瞬で切り離し、槍によって切り落とされた部位を影に変化させ、不気味な動きをしながらスカアハを捕えようと動くも即座に槍を手放して距離を取られる……流石に同じ場所に居続けるとかはしてくれないよな。知ってたけどよ。そのまま口に刺さっている槍を噛み砕き、影の中へと落とすと身に纏う瘴気のせいかどうかは知らないが見るも無残に腐敗――いや、もっと正確に言うならば俺達の身体の中へと溶け込んでいくように消えた。

 

 何故ならスカアハが使っている槍、ゲイボルグは元を辿れば相棒の肉体の一部……だからこそ魂レベルで融合している俺達の中へと戻ってきてもおかしくはない。まっ、相棒が出来ると言ったからやってみただけなんだけどな!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハハ!! 夜空ァァァァッ!!!』」

 

 

 俺の叫びと同時に全身を光へと変化させた夜空がスカアハと変わらない速度で接近して蹴りを叩き込む。勿論、全身が防御絶対貫くとさえ言える雷も合わせた一撃だから防ぐ事なんざ不可能。現にスカアハも往なすために触れた手が焼けたしな……マジで化け物だな。今のタイミングで大ダメージどころか最小限レベルで抑えやがった!

 

 

「ちっ!」

 

「良い動きだったが妾を蹴り殺したいならばもっと速度を上げよ」

 

 

 ダンスをやっているかのような体捌きで夜空を蹴りを放つ。勿論、ただの蹴りなんかじゃなく馬鹿じゃねぇかってぐらい無数のルーンが込められているらしいからまともに受けたならば人間なら即死だろうと相棒から教えられたが忘れてねぇか? 俺は今、夜空の盾になってんだぜ!!

 

 

「ほう」

 

 

 ()()の影から即座に再生して蹴りを受ける。マジでイテェ……こんなの喰らったら普通に死ぬわ。てか死んだわ! 普通に夜空の盾になって死んだから即座に生き返ってやったぜスカアハちゃん!! ゼハハハハハハハハ!! 影から影の移動なんて()()出来るわけねぇと思ってたがやれば出来るもんだな! いや違うな……今の俺達なら生前の相棒レベルの事すら出来る! あぁ、分かってるさ相棒……! 俺達は一心同体! 好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくことを信条にしている悪魔で邪龍だ!! 上から目線で師匠面しやがる女程度に負けるわけにはいかねぇ!!

 

 

「『おいおい忘れちまったのかスカアハちゃんよぉ! 俺が最も得意とするのは盾役なんだぜ? 惚れた女を護れるチャンスを逃すわけねぇだろうが!! 影法師!!!』」

 

 

 部屋中に広がった影から無数の俺達が現れる。どれもがゼハハハハと高らかに嗤いながら拳を握りスカアハへと殴りかかる。クロウとの戦いで見せたこの芸当の原理は簡単だ……自分の魂を分割して影法師の核にする。相棒の魂を影龍人形に埋め込む経験を元に編み出した漆黒の鎧状態でのみ発動できる絶技! 俺が指示しなくても埋め込まれた俺達の魂が勝手に判断して動いてくれるからこっちとしては滅茶苦茶楽だ! もっとも魂を分割するから下手すると死ぬ。精神的に死ぬ。てか普通に考えて邪龍以外に出来るわけがないと思うが――死ななければ良いだけだ。

 

 俺は死ねない。死にたくない。夜空を手に入れるまで、夜空とエッチするまで、夜空の子供を見るまで、夜空が笑って一生を終えるその時まで俺は何があっても死ぬわけにはいかない。例え何があっても生き返る……生命力を奪われようと影の国へと誘われようと肉体が滅ぼされたとしても何があっても生き返ってやる!

 

 ――だって俺は心の底から片霧夜空という女の子が好きだから!!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ! 俺様復活だ! 殴るぜ殴るぜちょー殴るぜぇ!!!』」

 

「『逃がしはしねぇぞスカアハ!! 積年の恨みを纏めて喰らいやがれ!!』」

 

「『夜空ちゃんの腋舐めたい』」

 

「『むしろエッチしたい』」

 

「『は?』」

 

「『は?』」

 

 

 よし、スカアハ諸共こいつらも殺そう。夜空とエッチしたり腋舐めたりして良いのは俺だけだ!

 

 なんか同士討ちが始まってるような気がしないでも無いが気のせいと言う事にして分割し過ぎて小さくなった魂を再生。てかなんだかんだで出力も上がってるんだけどなぁ……どこからともなく槍を出現させたスカアハの乱舞でみじん切りになってるのを見たら言葉も出ないわ。

 

 

「あのさぁ、その技キモいから二度と使わない方が良いんじゃね? 欠点多すぎっしょ」

 

 

 それは一途な愛の力って事にしてくれ。

 

 

『夜空。誰かを愛する力とは時にオーフィスやグレートレッドを凌駕するものです。歴代達も頷いています! ですから夜空も我慢しなくていいのですよ? 覚であろうと鬼であろうと人間達であろうと夜空の敗北はあり得ません』

 

「……知ってる! だって私が一番ノワールを愛してるし! つーわけで一発デカいのいっくぜぇ!!」

 

「『あったりまえだ! 俺様を護ってくれんだろ?』」

 

「――とーぜん!!」

 

 

 背後から身を焦がすほどの光と何物も貫くであろう雷が一か所に集まる。夜空が持つ絶技の発動を見たのかスカアハは笑みを浮かべて群がり続ける影法師を槍捌きとルーン魔術で殺害しながら接近してくる。狙いは恐らく無防備になっているであろう夜空への攻撃。だけどそれをやらせるわけにはいかねぇ……なんせ俺は夜空の盾だ、ここではいどうぞと通したら護るなんざ二度と言えない!

 

 夜空を中心とした影迷宮(シャドー・ラビリンス)を展開。これで発動までの時間を稼がせてもらおうか! 正直、漆黒の鎧を保てる制限時間なんざとっくの昔に過ぎてるから何時倒れてもおかしくはないが……残念な事に俺達の肉体が休めとは一言も言ってこない。むしろその逆で良いから目の前に居るムカつく女をぶっ殺せと叫んでやがる! だったら行けるところまで行くだけだ! ここまで楽しい殺し合いは二度と無いかもしれないしな!!

 

 床に広がる影を通じて全ての影法師を回収、自らの力へと変換する。この状況下でさらなる影法師生成は視界を遮る恐れがある……だからこそ俺自身で迎え撃つ!

 

 満面の笑みで放たれた突きを拳で受け、影を槍に流す。よしまた俺達の中に帰ってきやがった!!

 

 

「『ゼハハハハハハハハ! その槍は元々俺様の肉体の一部だろうが! 影法師なら兎も角、俺様本人にはもう効かねぇぜ!』」

 

「ならば拳だ」

 

 

 その宣言通り、殴打の雨が俺達を襲う。極限までに強化されたであろう防御力すら難なく粉砕する破壊力は女を止めているとさえ思える。てか何回死ぬんだ!? さっきから何度も再生しまくってるが問答無用で殺される! だけどそのお陰で――捕らえたぞ!!

 

 

「ふむ、殴り続けた事で肉体が全て影になったがそれを利用するか。夜伽では無く戦闘の最中にこの妾の体に触れた奴は数えるぐらいしか居らん。誇ってよいぞ」

 

「『全然誇りたくねぇよ!!』」

 

「そう照れるな。しかしこれでは満足に動けんな――ならばその魂を絞め殺そう。うむ、そこか」

 

 

 その言葉を言い放ったスカアハは自分の両腕を影となった俺達の体へと突き立てると何故か息苦しくなる。おいおいマジか……! ピンポイントで魂を見つけ出したってのかよ!! 指に力を入れているのか呼吸すら出来なくなっていき意識が遠のいていく……視界が暗くなっていく中で鮮明に映っているのは妖艶な笑みを浮かべているスカアハの姿。死ぬ、死ぬ……? 殺される……? この女に……こんな女に!!

 

 もはや原形すら保っていない体から片腕だけを再生してスカアハの首を掴む。ふざけんじゃねぇぞ……! 俺を殺していいのはお前なんかじゃない!!

 

 

「夜空以外に殺されて、たまるかよ」

 

 

 もはや意地、執念と言うべき感情で体を再生する。その光景を見たスカアハはさらに嬉しそうな表情になるが――時間だ。

 

 

「ノワールを殺していいのは世界中で私だけだっつーの」

 

 

 崩れ落ちる影迷宮から放たれた一筋の流星は俺の身体を包み込みながらこの部屋を、いやこの影の国自体に亀裂を入れたと表現できるほど遠く離れた地表すら抉った。何もかも投げ捨てて眠りたいと思えるほど暖かい空間から逃れるように意地と気合と根性で再生する。相変わらずトンデモナイ威力だが……クソがぁっ!!

 

 

「――いやはや、危うかったぞ。逃れるのが遅ければ死んでいたな」

 

 

 この影の城自体が崩壊している中、その主とも言えるスカアハはほぼ全裸という状態だが隠す事も無く降り立った。夜空の一撃が放たれる瞬間、俺の腕をねじ切ってルーンで転移しやがった……! あの余波で服は吹き飛んだらしいが傷は殆どついていない。マジで言葉が出ない……!

 

 それはそれとして堂々とし過ぎじゃねぇか? 露出狂なのかこの女? 目の保養になりましたありがとうございます! ちゃんと毛の処理とかしてるんですね!

 

 

「嘘でしょ……あれ躱すとかありえないんだけど」

 

「つーか殆ど無傷だぜ? 夜空……動けるか?」

 

「……無理。今ので全部使い切った。そっちは?」

 

「見ての通りだ」

 

「そっか」

 

「おう」

 

 

 俺達は寄り添いながら同じ言葉を言った。

 

 

「負けか」

 

「負けたぁ」

 

「師匠たるもの、弟子に負けるわけにはいかんからな。当然の結果と言うものだ弟子よ」

 

 

 この日、俺達は完膚なきまでの敗北を知った。




ノワール「我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて」
夜空「我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて」
ここで互いにお前の事が好きだよと言っている相思相愛っぷりです。
EX編書きたい(

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

116話

遅くなって大変申し訳ありません!


「……」

 

 

 重い。空気が重すぎる。息するのってこんなに苦しかったっけと誰かに聞きたいぐらい俺が今居る場所の空気が重すぎる。なんでこんな風になったんだっけ……えーと確か夜空と一緒にスカアハに挑んで敗北したんだったな。それは間違いない……が! なんつーか思い返すだけでもムカつくわ。だって漆黒の鎧状態の俺と黄金の鎧状態の夜空が共闘しても普通に負けたんだぜ? 俺と夜空がイチャイチャしながら戦えば神だろうと魔王だろうと負けはしないと思っていた矢先にこれだもんなぁ……師匠面するのはムカつくが実力は本物ってわけか。まぁ、この辺りは今よりも強くなってリベンジすれば良いだけだから置いておくとして今はそれどころじゃない――マジで何この空気?

 

 

「……」

 

 

 重い。本当に重すぎる。えーとマジでなんでこうなったんだっけ……? えっと勝手に師匠面してくるキチガイ系美女のスカアハに普通に負けて~とりあえず飯食うかと思ってたら食事の前にさっさと汗を流してこいとか何とか言ってこの温泉に転移させられて~なんか良く分からないけど夜空と混浴だぜやったーと歓喜の涙を流していたら先に入っていたらしい平家達と出会って……うん。これが全ての始まりだな!

 

 

「あのさぁ~邪魔だからどっか行ってくんない?」

 

「にしし……悪いね光龍妃。一応これでも眷属だからね、王の傍で護衛しないといけないのさ」

 

「この私が居るのに雑魚のお前らが居る必要ねぇんだけど?」

 

「念には念をって言葉を知らないのかい? 何時スカアハが襲ってくるか分からないんだ。今だけは共闘しても良いと思うけどね。それにだ――二人きりになんてさせるわけないだろう」

 

「ぁ?」

 

 

 俺に身体を預けている夜空がガチの殺気を四季音姉に向けているが相手も同じように殺気を返す。正直な所、夜空相手に喧嘩売れるのってこの中だとコイツ(四季音姉)ぐらいだよなぁ……水無瀬はまぁ、飯絡みだったら同じ事が出来るけど他の面々はまず無理だと思う。というよりもあまりにガチ過ぎてレイチェルが涙目になってるし。

 

 つーか周りを見渡してみると楽園過ぎるだろ……視線を下に落とせば全裸の夜空、全裸の夜空! そう全裸の夜空ちゃんが居るし左を向けば我関せずとばかりに腕に引っ付いている平家、仲良く引っ付いている俺達を羨ましそうに見ながら取り囲んでいる四季音姉、水無瀬、橘、レイチェルの四人……何故か視線はとある部分に集中気味だが気のせいと言う事にしよう。そして四季音妹とグラムの癒し枠二人は此処から少し離れた場所でぼけ~と湯に浸かっているよ。なにあのほのぼの空間! ちょっと俺も混ぜて欲しい!

 

 そして最後に自分達は無関係! 本当に関係無いので放っておいてくださいとばかりに耳と目を塞いでいる犬月と巻き込まれて困惑中の曹操。うん! なんだこのカオス空間? つーか四季音姉もそうだが水無瀬に橘にレイチェルの目がヤバい。絶対に二人きりにはさせないという鉄を通り越してオリハルコン並みの意志を感じるぞ。

 

 

「……犬月瞬。あれは、大丈夫なのか?」

 

「いつもの事っす。うんいつもの事っすね。きっと王様の事だから光だろうが雷だろうが炎だろうが喰らっても死なないんで心配するだけ無駄だよ。だから俺達はあっちを見ないようにしよう! というよりも俺……不可抗力とはいえあの面々の裸見てよく生きてるな……イキテルッテスバラシイ」

 

「……前から思ってはいたが苦労しているんだな」

 

「多分、この世界の中で一番苦労してると思う」

 

 

 自分達は無関係とばかりに仲良く談笑してるようだが助けてくれ。体感的に正妻と愛人がばったり出会っちまったような重い空気に耐えきれそうにないんだよ! 相棒に助けを求めようにもこの状況に爆笑して神器の奥底に引っ込むしさぁ! というよりもお前らどんだけ俺のこと好きなんだよ!? そこまで夜空とイチャイチャするのが気に入らないか!

 

 

「当然だね。だって私も含めてノワール相手だったら強引に迫られても喜んで股開くぐらい好きだし。ところでノワール、光龍妃の裸を見て戦闘態勢に入っているようだけど苦しくない? 今ならなんと私の下のお口に入れる事が出来るよ?」

 

「夜空とエッチした後でな。つーか気になってんだが犬月の奴、なんで鼻に石突っ込んでんだ?」

 

「私達の裸を見たら鼻血出した」

 

「マジか。殺してないとかお前ら心広すぎだろ」

 

「そもそもオイフェって人が男女分けずに裸にひん剥いたせいだしね。それに恵や花恋、志保にレイチェルは恥ずかしいけどパシリだったら見られても大丈夫なぐらい信頼してる。私も他なら兎も角、パシリなら問題無い。というよりも常日頃から男達に脳内限定で犯されてるし今更だよ」

 

 

 何事も無いかのように言ってるがそれはそれでアウトじゃね? まぁ、覚妖怪故に嫌でも聞こえてくるんだろうから仕方ないと言えば仕方ないか。つーかそれって駒王学園美少女連中全員に言える気がするぞ……グレモリー先輩は当然として姫島先輩にシスターちゃんにデュランダル使いに転生天使に黒猫ちゃんの妹にレイチェルにレイヴェル、水無瀬にヴァルキリーちゃんと続いていき平家に橘にシトリー眷属女性陣……あとはハーフ吸血鬼君辺りも妄想で犯されてそうだな。だって見た目女だし。うん、なんか笑えるぐらい数居るんだが……気のせいと言う事にしておこうか!

 

 ちなみに余談だが四季音妹は四季音姉が見せるなと言えば従うが基本的には見ても問題無く、グラムに至っては触ろうが何しようが別にどうでも良いらしい。なんという心の広さ……悪い男に引っかかったら大変だね!

 

 

「――おい」

 

 

 そんな事を思っているといきなり首を絞められた。誰にと言われたら目の前に居る女神以上に可愛い夜空ちゃんしかいない! 表情が抜け落ちたような顔をしながら的確に俺の喉へと手を伸ばしているのは見ていてかわいく思えてくる。実際可愛いんだけどね! しっかし爪と言うか指そのものを食い込ませるほど強く絞めているようだがまさか嫉妬か? もしかしなくても嫉妬ですか夜空ちゃん? 自分では無く隣にいる平家とばかり話していてズルいと思ったんですか夜空様! それだったら安心しろよ……俺の視線はお前に釘付けだぜ!

 

 だって目の前には夜空の全裸だぜ? 結構前に一誠の洋服崩壊で見て以来の夜空の全裸が目の前にあるのに他のおっぱいやら腋やらに目が行くわけがない。穢れを知らないであろうちっぱいを隠すことなく見せつけてくるに加えてわき腹や腰、お腹に夜空ちゃんの夜空ちゃんまで丸見え、そしてトドメとばかりにノワール君のノワール君を挟むふともも! この状況は夢が叶ったとさえ言える光景だ! 最高としか言えない。もしこのまま温泉エッチに発展したならばさっき負けたスカアハにさえ勝てるだろう……いや絶対に勝つね!

 

 そしてこの場の女性陣にも丸見えなんだが……ノワール君のノワール君がいつ出陣しても良いぐらい準備万端です。ただでさえ夜空のせいでヤバいのに隣の覚妖怪が指先で弄ってくるからさらにヤバい。そしてそれを見た周りの女性陣の目がヤバイの三連コンボ! これは酷いと思うのは俺だけか?

 

 

「この女神級に可愛い夜空ちゃんが目の前に居ながら覚と話しするとか……死にてぇの?」

 

 

 お前とエッチして俺達の子供を見るまでは死ぬ気はねぇな。

 

 

「アホか。少なくともお前とエッチして娘か息子産んでもらうまでは死ぬ気はねぇっての。何だ嫉妬か? おいおい嫉妬か? 安心しろよ夜空! 俺の視線は何時だってお前しか映ってないぜ! というわけで俺の細胞全てにお前の全裸姿を覚えさせたいんでこのまま見続けても良いか?」

 

「死ね」

 

 

 目の前が真っ暗になった上に激痛が走ったから多分目を潰されたんだろう。はいはい再生再生っと。

 

 

「いきなり目潰しやめろっての……たくっ、見られたくないんならタオルぐらい巻けよ。それはそれで俺は興奮するしな」

 

「別に恥ずかしくねーし。ただ……ちょっと早い、なんでもなーい! てかぁ!! ノワールからもこいつら邪魔だって言えよぉ~! さっきから見てきてウザいんだからさぁ!」

 

「そう言われてもなぁ……俺としては楽園だぜ? 右を見ても左を見ても美少女の裸が見えるし。ホントマジ最高! もっとも一番は夜空の裸だけどね!! だから四季音姉に水無瀬に橘にレイチェル、目に光を宿してください。そんな深淵のような目でこっち見ないでください怖いです」

 

「そ、そんな目はしてません! そ、それよりも悪魔……さん。あの、背中とか痛くないですか……? こ、ここに柔らかいま、枕がありますよ……? きっと凄くや、柔らかいです、よ?」

 

 

 人気アイドルが自分のおっぱいを持ち上げる姿ってかなりエロいと思うのは俺だけか?

 

 

「ぁ?」

 

「志保、表に出ようか。切り落としてあげる」

 

「……いっその事変化の術で大きくすればいいだけだ問題無しでもあれは無駄肉無駄肉」

 

 

 ちっぱい連合が圧倒的擲戦闘力を持つおっぱい相手にガチギレしたんだがスルーした方が良いな。てかそれよりも水無瀬にレイチェル、お前らも真似しようとするなっての……血が流れるぞ? 手当たり次第に掘ったとしか思えない穴に湯が入っているとしか思えない作りだから夜空の雷光一つで犬月と曹操が居る場所まで被害が行くのは確実だ。でもオナニー用に写真撮りたいから水無瀬は影の国(ここ)から帰った後で俺の部屋まで来るように。え? だって年上が自分のおっぱい持ち上げる姿って興奮するし!

 

 

「……」

 

 

 そして平家、夜空が離れた瞬間にノワール君のノワール君を触らないでください。

 

 

「――おい覚」

 

「どうしたの光龍妃?」

 

「いい加減この掴んでる奴離せ」

 

「ノワールが苦しそうだから楽にしてあげようと思っただけ。というよりもこれって私の仕事のようなものだし……光龍妃も一緒にどう? きっと喜ぶよ」

 

 

 土下座レベルで喜びますね。

 

 

「確かにこの夜空ちゃんのお尻に当たっててどうにかしたかったけどさ、毎回毎回触り過ぎなんだよ。ここまで許したつもりはねーんだけど?」

 

「――大丈夫、私って正妻じゃなくてもオッケーなタイプだし。ノワールの傍に居れるなら肉奴隷でも便器扱いでもティッシュ扱いでも良いしね。だから光龍妃の立場までは奪わないよ」

 

 

 夜空は平家を睨んだまま数秒間無言だったが特に何も言うことなく先ほどと同じように俺に体を預けてくる。なんか良く分からんが停戦協定らしきものが結ばれたようだ……どんなやり取りをしたかは知らん。ただ他の面々が血涙流しているのは恐怖としか言えねぇな……ここ最近思うんだがいったい何時から俺の眷属はヤンデレまみれになったんですかねぇ?

 

 

「割と最初からだよ」

 

 

 デスヨネ。

 

 

「……俺が言うのもあれだが良いのか?」

 

「まーコイツって私から奪うようなことしねぇし。ムカつくけど……あっ! すっげぇちょうど良いから言うけどさ――これ(ノワール)、私の(もの)だから手出したらぶっ殺す」

 

 

 その言葉と同時に遠く離れていたはずの犬月は曹操の手を取って即座にさらに奥へとダッシュした。居合わせてくれ犬月……反応速すぎじゃねぇか? てか俺のパシリなんだからいい加減主である俺を助けろよ! 夜空の一言でまた辺りの空気が重くなったんだからさぁ!!

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 ヤバイ。空気が重い。なんか言葉では無く視線で殺し合ってるっぽいんだが……まぁ、いつもの様に殺し合いをしたら四季音姉以外は確実死ぬから比較的安全と言えば安全か。しっかし今更ながら俺ってモテすぎじゃね? なんだかんだでスルーしてたような気がするけどこの場にいる女性陣全員から好意持たれているとか男としては最高だと思う――ただし病んでるけども。やっぱりハーレム築くともれなくヤンデレ量産されるもんなんかねぇ? 暇なときにでもライザー辺りに色々聞いてみるか。だってアイツ、誰も病むことなくハーレム築いた男ですし!

 

 目の前で繰り広げられる光景を眺めつつ夜空の髪をクンカクンカしていると先ほどまで大爆笑していた相棒から龍門での呼び出しがあったと聞かされたので名残惜しい様子を見せながらこの場から離れる。決して……決して数歩離れた途端にダッシュしたとかではないから逃げたという視線を向けてこないように!

 

 

『――やっと繋がったか! おいキマリス!! お前いったいどこ……何で優雅に温泉に入ってるんだお前は!!』

 

 

 影龍王の手袋に埋め込まれている宝玉から一筋の光が上空に伸びるとデカいスクリーンみたいなものが投影された。視線を向けるとアザゼル、グレモリー先輩達、生徒会長達、ヴァーリ達、タンニーン様といつもと変わらない面々が映っていたが男性陣は「え?」と言いたそうな顔をし、女性陣は「ギャー!」と自分の目を隠し始める。男共は良いとしておい黒猫ちゃん以外の女性陣……その悲鳴の理由を是非聞かせてほしいんですがダメですか!

 

 

「だって温泉があるんだし入らないとダメだろ? いやーでもマジで助かったわアザゼル! お陰でヤンデレ達による修羅場から抜け出せた! んで? なんか用か?」

 

『なんか用か? じゃねぇぞキマリス! こっちではお前達キマリス眷属とレイチェル・フェニックスが行方不明になった以外にも色々あって大忙しだ! あと見て分かるように女が多いから下ぐらい隠せ。俺達も見たくはないものが丸見えだぞ?』

 

「隠すも何も温泉に入ってるしなぁ。別に問題ねぇだろ? 見られて恥ずかしいような鍛え方はしてないと思うし。え? もっと見たい? 仕方ねぇなぁ……ちょっとだけだぜ?」

 

『男のヌードなんざ見たくも無いわ! えぇい話が進まんからそのまま聞け! お前……今どこに居る?』

 

「影の国だが?」

 

『……何?』

 

「何って影の国だよ影の国。相棒の故郷、ケルト神話に登場する影の国に俺含めたキマリス眷属+α(アルファ)が拉致されてやってきましたー! いえーいスカアハ死ねば良いのにー! あっ、実行犯を言うと此処の女王こと頭がとち狂っている美熟女のスカアハで――だから槍生やすのやめてくれませんかねぇ?」

 

『『『『『ギヤァァァッ!?!?』』』』』

 

 

 俺の腹から槍が飛び出すのと同時に一誠達が悲鳴を上げ、何故か関係無いアザゼルの口から赤い液体が飛び出した。アザゼルに関してはそのまま倒れるかと思いきやテーブルに置いていた水を一気に飲み、そもまま何かの錠剤を口に入れてまた水を大量に飲み始めたから無事っぽい。でもなんかいつもの悪役面から年老いたジジイみたいな感じになってるような気がする……キノセイダネ!

 

 とりあえず再生再生っと。たくっ、この場に居ないのに人の腹から槍生やしやがって! 何度も再生するの面倒なんだからな!

 

 

「おいアザゼル、なんか口から赤い液体っぽいの飛び出したが大丈夫か?」

 

『天然のトマトジュースを噴出しただけだ。大丈夫だ問題ねぇ……それよりもお前さんは、いやお前さんなら問題無いか。それよりもスカアハだと? あのスカアハか!?』

 

「おう。影の国を支配する女王にしてセタンタを鍛え上げたで有名なあのスカアハだよ。まさか家にいきなりやってきて俺達全員を攫って行くとは思わなかった」

 

『それはこっちのセリフだ馬鹿野郎……クソ! 確かにお前の家からはルーン魔術の痕跡があったがまさかスカアハ本人がやるとは思わねぇっての! そもそもこの地にやってきたら俺達が気付いてもおかしくねぇの全く気付かなかった!』

 

『ゼハハハハハハハハ! あの若作り系キチガイクソ女を舐めんじゃねぇぜ! その気になればそっちにいるドライグにアルビオン、ヴリトラにも気づかれる事無くこの影の国へご招待できるからなぁ! 無駄に年寄りだからそれぐらいは楽勝も楽勝よぉ! だから悔しがる必要はねぇぜアザゼルちゃんよぉ!』

 

「ぶっちゃけ俺と夜空の二人に圧勝するぐらいだしな。多分だがルーン魔術の痕跡はわざと残したと思うぜ? あーと辿り着けるものならやってみろって感じか?」

 

 

 その言葉に再び絶句したようだがこんなのまだまだ序の口だぜ? だって本当に頭おかしいからなあの女!

 

 

『……影龍王。一つ確認したい事がある』

 

「何だヴァーリ?」

 

『キミと光龍妃が負けたと言っていたが本当か?』

 

「……本当だよ。漆黒の鎧状態の俺と金色の鎧状態の夜空で挑んで惨敗した。正直、二天龍と地双龍が協力して挑んでも普通に勝つだろうよ」

 

『そうか。ハハッ! ケルト神話のスカアハは表舞台に出ないが実力はトップクラスという噂があったが本当だったみたいだな。機会があれば戦ってみたいものだ』

 

『止めろヴァーリ。スカアハには関わるな……あの女はクロムとユニアを足して百倍したとしても足りないほど頭がおかしい女だ。もし影の国へ向かうと言うのであれば残念だが私はもう二度とお前に手を貸さん。絶対にだ! 関わりたくないでござる!!』

 

『俺もだぜ相棒。確かにスカアハは見た目だけならば美人……美人なんだが中身はアルビオンが言ったようにとち狂っている。もしアイツが俺達の目の前に出てくるようならば……ぼくはおっぱいドラゴンのどらいぐ! として赤の他人の振りをしてでもヤツから逃げるぞ』

 

『当然だな。我もあの女とは関わり合いになりたくもない。もしも出会ったならば即座に我が分身を連れてこの地を去り、生涯を終えるまで表舞台から身を引くだろう。いやむしろ今からでも遅くはないか……ソーナ・シトリーよ。済まないが我と我が分身は今日この日をもってお前達の前から姿を消す。文句があるならばスカアハにでも言っておけ』

 

『……否定したいが事実だからな。たとえ邪龍であろうと自ら進んで影の国へ向かうような真似はせん。それほど関わり合いになりたくはない女だ』

 

『ざまぁ、本当にざまぁだねクロム。これが愉悦って奴かな? お前の不幸でトマトジュースが美味いよ。とりあえずイッセー先輩達の下にあの女が来ないようにそのまま生贄になってろバーカ』

 

『とりあえず色々言いたいことあるけどなんか普段のギャスパーと違うぞ!?』

 

 

 なんという事でしょう。天龍に龍王が逃げる気満々に加えてハーフ吸血鬼……相棒曰くバロールが凄く良い笑顔で笑っています。流石ケルト出身の魔神、相棒と良く似てるわ。だって笑い方とかそっくりですし! ただあまりにも普段と違い過ぎて先輩達が言葉を失ってるみたいだが俺達は悪くない。全部スカアハが悪い。

 

 

『おいおいバロール。いきなり表に出てきて面白れぇこと言うじゃねぇの! テメェこそスカアハに拉致される可能性極大だろうが!!』

 

『だろうね。だがあの女の性格からして今はお前の宿主にご執心なんだろう? そうでなければ連れ去るなんて真似はしないはずさ。それに忘れたとは言わせないよ? お前達の行いのせいでヴァレリーが今も目を覚まさず寝たきりなんだ。これぐらいは言わせてもらわないとね』

 

『……ちっ、お見通しか。大正解だぜバロール! なんでか知らんがスカアハは宿主様にご執心でなぁ……このままだと一生出られんかもな』

 

『ワイングラスが今ほど欲しいね。今日ほど良い日は無いよクロム。ただ童貞でも魂でも何でもいいから捧げてお前以外をこっちに返してもらう様にお願いしなよ。尊くも無い犠牲で全て解決さ』

 

『ゼハハハハハハハハハハ!! 帰ったら覚えとけよバロール。この()と宿主様がテメェを男に抱かれてないと生きていけねぇ体にしてやるからよ!』

 

『二度と動けないようにお前の時間を止めてやるからその願いは叶わないよ』

 

 

 相棒がマジギレ状態になったのは良いけど巻き込まないでください。まだ俺童貞なんです! 男で童貞喪失はしたくないです! せめて夜空を抱いてからにしてください本当にお願いします! い、いや先輩方……指の隙間から男もいけるんだって感じの視線を止めてもらえません? 仕方ねぇんだよ! だって平家のせいで俺の性癖はかなり歪みまくってるんだしさぁ! ハーフ吸血鬼レベルの男なら……普通にいけるわ。多分これ相棒の影響かどうかは知らんがいけるいけないで言うと普通にいける気がする。あっ、なんか相棒がニッコリと笑った気がする。

 

 そんなカオスな空間になりつつあったのをバッサリと断ち切ったのはレイヴェルだ。俺の裸を見ないように自分の手で顔を覆ってはいるが指の隙間からコッソリと覗いているのは気づかないフリをしておこう……だって俺様紳士ですし!

 

 

『き、キマリスさま……れ、レイチェルはぶ、無事なのでしょうか……?』

 

「無事だぜ。さっきまでクロウと殺し合ってぶっ倒れてたけど今は……夜空相手に口で喧嘩売ってるな。すげー元気。なんかもうおっぱい揺れまくりで目の保養になるわ」

 

『その光景が見たいんだが!!』

 

「見ても良いが夜空も居るからさ、見た瞬間にお前ら全員殺すけど良いか?」

 

『すまんなんでもない!』

 

『……待て待て。クロウってのはあのクロウ・クルワッハか?』

 

「大正解。スカアハと殺し合う前にクロウ相手に眷属総出で殺し合ったんだよ。いやーマジで強いなアイツ! ふっつうに見逃されたわ」

 

『こ、ころしあい……さいきょうのじゃりゅう……きゅー』

 

『イッセーさん!? レイヴェルさんが倒れちゃいました!!』

 

 

 なんか自分の思考が追い付かなかったのかコントのように倒れたな。まぁ、黒猫ちゃんの妹ちゃんやらが支えたから怪我は無いだろうけど。でも確かに倒れたくもなるか……いきなり行方不明になったと思えば影の国に攫われた挙句、最強の邪龍と殺し合ったなんて聞かされれば誰だって気絶するわ。もっとレイチェル本人は俺の女王になるとか何とか言ってやる気だったけども……だ、誰の影響だろうねー!

 

 

「とりあえずレイチェルに関しては何とかしてそっちに返すから安心しろ。んで? 俺達の他になんかあったのか?」

 

『……その話題に行くまでかなりかかった気がするぞ。バアル家初代当主が何者かに殺害された……といっても十中八九、八岐大蛇だろう。聖遺物の炎なんざそいつしかいねぇしな』

 

「あららご愁傷様。でもサイラオーグ的には助かったんじゃねぇの? なんでもバアル家は引退したそいつの言う事しか聞かないとかなんとかって話だったしさ。これで好き勝手出来るんだし八岐大蛇に感謝しても罰は当たらねぇと思うぜ?」

 

『言うと思った。まぁ、それに関してはこっちも同意見だ。大王派のトップが居なくなったことでサーゼクス達も今以上に動きやすくなる。サイラオーグの前では言えないけどな……ただ疑問点が残っている。まずはどうやって八岐大蛇はバアル家初代当主の所まで誰にも気づかれずに辿り着けたのかだ。ぶっちゃけると光龍妃、いや邪龍達が絡んでるんじゃないかと思ってるが……どうだ?』

 

「さぁ? 夜空が何しようと俺はどうでも良い。つーか俺達が此処に攫われてから一直線で此処に向かったらしいから八岐大蛇の手助けなんざ出来ねぇと思うぞ? 何だったら聞いてみるか?」

 

『やめろ。お前は俺達に死ねと言うか』

 

「……ちっ」

 

『その舌打ちは聞かなかったことにするぞ。八岐大蛇を探そうにも行方が分からん以上、どうする事も出来ん……が恐らく近い内に俺達の前に現れるだろう』

 

「なんで?」

 

『紫藤イリナの父親がこっちに向かっているからだ。イッセー達の話じゃ明確な殺意を抱いていたらしいからな……それを狙って襲撃してきてもおかしくは無いだろう』

 

「ふーん。まぁ、頑張れ頑張れ。俺達には関係無いからそっちで何とかしろよ? あーそれとアザゼル……一つ聞きたいんだが良いか?」

 

 

 通信を切る前に気になっていたことを聞いてみる。あの女が得意げに言っていたあの言葉……落ち着いたら気になって仕方がねぇんだよ……! なんせハーデスが知っていた夜空すら知らない秘密かもしれないからな。

 

 

『なんだ?』

 

「――初代ルシファーとリリスが人間に何かしたって話、聞いたことあるか?」

 

 

 殺し合う前にあの女の『人間と言うものはルシファーの小僧とリリスの小娘によって手が加えられておるせいか成長幅は妾達以上だからな』とリゼちゃんの『う~ん、ママンが絡んでるから長生きすんじゃねぇかなぁ』という言葉、そしてハーデスの『そこの娘すら知らぬ真実、それを教えてやろう』という言葉は無関係とは思えない。さっきまでは夜空と共闘だヒャッハー状態だったからスルーしてたけどいざ落ち着いてみるとあれ? もしかして……? って感じになる。

 

 多分、この言葉通り初代ルシファーとリリスは人間に何かをしたのをハーデスとリゼちゃんが知った。そしてそれは巡りに巡って夜空……いや今を生きる人間に何かしらの影響を与えた可能性がある。問題は何をしたかだが……リゼちゃんとスカアハは確実に知ってるだろうがそれをアザゼル達が知ってるかどうかだ……!

 

 

『……いや、聞いたことが無いな。おいキマリス! お前……そこで何を知った?』

 

「いや、何かを知ったわけじゃねぇよ。知らねぇなら良いや、通信切るぜ」

 

『答えろキマリス!!』

 

「あっ! アザゼルー! なんか此処に曹操が居てー聖槍盗られちゃった! それだけ伝えとくぜ!!」

 

『――ゴハッ!?』

 

『ギャー!? 先生が血を吐いて倒れたー!!』

 

 

 口から大量のトマトジュース(仮)を吐き出すアザゼルを見てから龍門を閉じる。

 

 

「……なぁ、相棒」

 

『どうした宿主様?』

 

「スカアハに勝つぞ」

 

『――ゼハハハハハ。当然よぉ! 負けっぱなしは()も嫌なんでなぁ!!』

 

 

 何を知っているか分からないが夜空が関係するなら意地でも聞きだすだけだ。その内容によっては……俺は冥界を滅ぼすかもしれないがな。




「犬月瞬に対する好感度」
四季音花恋・・・裸を見られても問題無いが襲ってきたならば潰す。
平家早織・・・裸を見られても問題無いが襲ってきたならば切り落とす。
水無瀬恵・・・裸を見られても問題無いが極稀にラッキースケベ展開が発生する。
橘志保・・・裸を見られても問題無いが襲ってきたならば狐が電撃を放つ。
四季音祈里・・・裸を見られても問題無いが花恋がダメと言うならグーパンを放つ。
グラム・・・見ても良いし襲ってきても良い。普通にどうでも良い態度。
レイチェル・フェニックス・・・裸を見られても問題無いが襲ってきたならば燃やす。

結論、犬月瞬は勝ち組。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

117話

大変お待たせいたしました……!
今回は一誠sideです。


「――流石に昨日今日で戻ってこないよなぁ」

 

 

 黒井達が居なくなった事を除けば特に何も変わらない一日を過ごした俺は自分の部屋に向かう途中でボソリと呟いた。

 

 ケルト神話に登場するスカアハという人に連れ去られたらしい黒井達キマリス眷属は風邪やら親の都合やらという理由で休みとなっているがこれが長く続くようなら誤魔化すのも厳しくなると匙が言っていたが……流石の黒井達もすぐには戻ってはこれ無いみたいだ。昨日の龍門での会話でアザゼル先生は胃に穴が開いたとかでシトリー領の病院に緊急入院しちゃって対策とかも出来ないしリアスも相手側があまりにも立場が上のため何も出来ないとか言ってる始末……まぁ、黒井に関しては片霧さん(あの人)が居るみたいだから大丈夫だろうけど問題は犬月とかしほりんとか水無瀬先生とかだよ!

 

 確かに黒井の傍に居るせいか荒事には慣れてるだろうけども今回ばかりは心配にもなる……! 特にレイヴェルの妹のレイチェルは早く戻ってきてもらわないとレイヴェルが元気にならないしな! あと犬月……お前は死ぬなとしか言えねぇぜ! 帰ってきたら何か奢るからな!

 

 

『流石のクロムの宿主でも相手が相手だ、そう簡単には戻ってこれないだろうさ。俺達が出来るのはただ待つだけと言う事だろう』

 

「……だとしても友達が滅茶苦茶危険な目に合ってるのに黙ってるのは出来ねぇって。なぁ、ドライグ? 何か手はないのかよ?」

 

『無いな。仮に手があったとしても俺は何もする気は無いさ相棒……影の国、それもスカアハが絡んでいるならば猶更だ。下手をすると相棒だけでは無くリアス・グレモリー、周りの眷属達すら巻き込まれるぞ』

 

「……マジか?」

 

『あぁ。あのクロムとユニアが心の底から毛嫌いしている女にして邪龍を含めた全ドラゴンが関わりたくないと思っている女だからな。一度ヤツの前に出ようものなら弟子として鍛えてやろう! とでも言って影の国へとご招待される……その場合、待っているのは訓練とは名ばかりの殺し合いで生き残るか死ぬかの二択だけ。当然、普段相棒達が行っているような無傷で終わらせるなどという甘いものでは無いぞ? 腕が折れようが体の一部が無くなろうが関係無く続くからな』

 

 

 怖すぎるわ! 確かに昨日もドライグにアルビオン、ヴリトラがやべー奴発言してたけどそこまでかよ……いやルーマニアの時も似たようなこと言ってた気がする! あの時は黒井にボコボコにされてたから記憶曖昧だけども……と、とりあえず関わるなフリじゃないぞ絶対に関わるなって事だな?

 

 

『そうだ。俺としてもあの女とは関わりたくないからな……相棒もまた死にたくは無いだろう?』

 

「……ま、まぁな。でもなぁ……なんとかならねーもんか」

 

 

 ドライグと話しをしながら部屋の扉を開ける。いつもと変わらない……というかやっと慣れてきたと言っても良い光景が目に入るがどうやら先客がいたらしい。

 

 『働いたら負け』という文字が書かれたTシャツが歪むほどの巨乳に思わず飛び掛かりたくなる太ももを晒す短パン姿、右へ左へと揺れている尻尾を生やした人物――黒歌だ。

 

 

「赤龍帝ちんおかえりー、お邪魔してるにゃん」

 

 

 ベッドの上で寝そべりながらポチポチと携帯ゲームをしている黒歌を見るのは初めてじゃない。というよりも俺の家に居候するようになってから結構な頻度で見かけるほどだ……ふむ、今日も素晴らしいおっぱいで心が落ち着くな!

 

 ちなみに黒歌が着ている服は自前では無く黒井の騎士、つまり平家さんが渡したものらしい。何かしらの戦いがあって結果的に受け取る事になったとか黒歌が愚痴っぽい事を言ってた……その時は全身切傷とか戦闘が行われたっぽい痕があったけどな! 特に首とおっぱいが重点的に狙われてた! ま、まぁ……首は置いておいておっぱいに関しては平家さんは小猫ちゃん並みだから嫉妬するのも無理はない。ヤバイ殺される気がするから早く忘れよう!

 

 

「毎回毎回なんで居るんだ? 小猫ちゃんの部屋にいれば良いだろ?」

 

「だって白音の部屋じゃ赤龍帝ちんをゆーわくできないっしょ? かげりゅーおーを誘惑しようとしたらあの覚妖怪にボッコボコにされてターゲット変更せざるを得なくなったんだし。にゃん♪ 襲うなら今の内にゃん♪」

 

 

 くっ! Tシャツの裾を指で摘んで下乳を見せてきても俺は襲わないぞ! だってそんなことしたらリアスに殺されるしアーシアも悲しむからな! それに小猫ちゃんに見られたら殴られる気がする! だから襲わず脳内メモリーに記憶しておこう! それぐらいは許されるはずだ!

 

 

「ほらほら~この素敵おっぱいに顔を埋めたくない? 揉んでも良いし吸っても良いにゃん♪」

 

「……そ、そんな事を言われても俺は屈しないぞ!」

 

「鼻の下伸びてるしすぐにでも襲いたいって顔してるけど?」

 

「気のせいだ!」

 

 

 というよりも健全な男子高校生なら黒歌レベルの美女が目の前に居ておっぱい見せてきたら俺みたいになってもおかしくは無いはずだ! きっと黒井も同意するだろうしなんなら何か奢るからエロいポーズしてくれとか言うと思う! 皆が居る前でレイチェルの腋をなんたらとか言ったぐらいだからこれぐらいは当然するだろう……! 頭おかしくなかったら滅茶苦茶仲良く出来そうな気がするんだけどなぁ。

 

 

「と、というか誘惑するなら今は居ないが黒井にすれば良いだろ? 平家さんと何があったか知らないけど諦めるとかお前らしくないぞ?」

 

「あの覚妖怪変異種と二度と戦いたく無いにゃん! 分かる!? かげりゅーおーに近づこうと思ったら雌猫発見したから駆除するねとか刀持って切りかかってきてマジのマジで首落とそうとしてくるあの恐怖! 妖術仙術魔術総動員しても放つ前から対応された上に何個か真似されるあの屈辱感! やっぱり常日頃かげりゅーおーの精子飲みまくってる奴はなんかおかしいにゃ……普通の覚妖怪はあんなんじゃないし」

 

「……えっと、平家さんって他の覚妖怪と違うのか? 小猫ちゃんもあれはおかしいとか言ってたけどさ」

 

「違うに決まってんでしょ!! 普通の覚妖怪は人間……というか男の傍に居ようとしないし刀は持たないし戦闘能力自体も結構低いの。ただ心の声を聞いてそれを口にして嫌がらせするような種族だからもし他の覚妖怪に出会っても同じように見ない方が良いにゃん」

 

 

 かなり遠い目をしながら愚痴るように呟く黒歌だが俺としてはボソリと言った言葉が気になって仕方がない……常日頃精子飲みまくってるってなんだよ! い、いや……前々からその、羨ましい事してるしされてるんだろうなと思ってたけどそこまでなのか!? あいつ片霧さん(あの人)一筋じゃなかったのか!? 待て落ち着け兵藤一誠! なにも経験してるとかそういうわけじゃないはずだ……きっと口とかそんな感じだろうな! 羨ましいぜ全く影の国から帰ってこなくても良いぞ! あっ、犬月達は帰ってきてくれよ!

 

 黒歌が言うには黒井が持つ神滅具、影龍王の手袋の影響で血液やらなにやらにドラゴンの力が宿ってるがその中でも精子は特に強いらしい。そんなものを毎日摂取すれば何かしら変化してもおかしくないとか何とか……確かにリアスや朱乃さんも俺のドラゴンのオーラが影響で色々出来るようになったから否定はできないな。やっぱり黒井は影の国から戻ってこなくても良いんじゃないだろうか……? う、羨ましいぜ!

 

 

「まっ、諦めるとかこの黒歌様の辞書には無いけどね。あんな妖怪好みの空気纏ってる超超超優良物件をそう簡単に見逃さないにゃ。でも光龍妃が出てきたら即撤退するけどね」

 

「やっぱりお前でも片霧さん(あの人)は怖いのか」

 

「あったりまえでしょうがぁ! あのねぇ、言っちゃなんだけど曹操やアーサー以上の出鱈目生物よ!? 何がどうしてどうなってあんなのが生まれたのかわっかんないぐらいおっかないんだから! 私達の中で勝手に決めてる最強の人間リストの中にも含まれてるんだから」

 

「……なんだよそれ?」

 

「人間の中で誰が一番強いのかって話し合ってるものにゃん。ほら人間でも結構強い奴とかいるっしょ? それでヴァーリが戦いたいとか言うから美猴とかとそれじゃあ勝手に決めちゃおう的なノリで色々とちょーさしてるってわけよ。ちなみに光龍妃は現在トップ独走中にゃ」

 

 

 だろうな! 俺からしても片霧さん(あの人)は人間定義して良いか分からないし……というかD×D内最強の黒井と片霧さん(あの人)が本気を出したにも関わらず勝ったらしいスカアハってどんだけ強いんだよ!?

 

 この後はアーシアや小猫ちゃん達が部屋にやってきてあーだこーだと世間話をしながら夜に備えて準備を行う。黒井達のこともあるが俺達は俺達でやることがあるからな……イリナの父さんが今日の夜に日本に到着するから護衛も兼ねて迎えに行かないといけない。D×D学園襲撃事件の際に現れてイリナに対しかなり殺意を抱いていた八岐大蛇が襲撃してくる可能性があるからな……サイラオーグさんの家もそいつが原因で色々と大変みたいだしなによりイリナの父さんが襲われてイリナが悲しむことは絶対に阻止しないと!

 

 

「ロスヴァイセさん、ここで待ってれば良いんですよね?」

 

 

 時間は進んで夜中、結構遅い時間帯に俺、木場、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさんは空港に訪れていた。普通ならこんな時間に高校生の俺達が空港を訪れたら怪しまれるけど今居る場所は三大勢力や各神話関係者が利用する特別区域だから問題無い。

 

 本当ならアザゼル先生も一緒に居るはずだったんだが現在シトリー領の病院に緊急入院しているから俺達グレモリー眷属だけだ……リアスはサイラオーグさんの家の事と黒井達の事で忙しくて、ヴァーリ達は面倒の一言で拒否、デュリオ達は何やら天界勢力内でいざこざが有ったのかそっちの処理で忙しいという滅茶苦茶大変な事になってる。もうすぐ冬休みでクリスマスも近いってのになんかなぁ……まぁ、仕方ないけどさ。

 

 

「えぇ。もう少しすれば到着するようですね……影龍王がアザゼル先生の胃を破壊してしまったために私達だけでの護衛ですが頑張りましょう」

 

 

 アザゼル先生の胃はもう限界寸前だったもんなぁ。黒井達がやる事全ての処理をしてたせいで最近は胃薬が無いと寝られないとかも言ってたし……というよりも忘れてたけど影の国に曹操が持ってた聖槍があるんだったな! その一言を隠すなとは言わないがもう少しだけ言うの待ってくれても良いと思うんだよ! 最後に見た黒井の笑みは絶対に狙ってたとしか思えないし!

 

 

「……流石に聖槍が奪われたともなれば驚くしかないさ。影龍王と光龍妃が負けたと同じくらい私も言葉を失ったぐらいだ」

 

「ははは……うん、曹操が影の国に居たと言う事だけでも驚きなのに聖槍が盗られたともなればね。早く回復できるように後でお見舞いでも行こうか」

 

 

 ゼノヴィアも木場もアザゼル先生の胃を心配しているらしい。いきなり血を吐いて倒れたしなぁ……後で何か持ってきますね!

 

 

「――おぉ、イリナ! パパがやってきたぞ!」

 

「パパ!」

 

 

 周りを警戒しながら待っていると牧師服を着た栗毛の男性が護衛と思われる人と共にやってきた。イリナがパパと呼んだと言う事はお父さんだろう……俺もなんか見覚えがあるし。

 

 

「はっはっは! 元気そうで何よりだマイエンジェル! そして……久しぶりだね兵藤一誠君。私の事は覚えているかな?」

 

「あーえっと……おぼろげですけど……でも昔遊んでもらったような事があるのは分かります」

 

「あの時はまだ幼かったし仕方ないさ。こちらの事情で護衛なんてしてもらって申し訳ないよ……積もる話もあるだろうがまずは移動しようか。いつ襲撃してくるか分からないからね」

 

「あ、はい! じゃあロスヴァイセさんの車で――」

 

 

 俺の言葉を遮るようにゼノヴィアと木場がデュランダル、聖魔剣を握りしめ護衛としてやってきた人物の一人に斬りかかった。騎士としての速度を最大限生かした速度で接近しての斬撃であわや大惨事! と思ったが現実は違った。

 

 帽子を深くかぶった人物は二人の斬撃を容易く躱し、距離を取った。体格的に男の人らしいがあまりにも鮮やか過ぎて切りかかった二人も驚いているようだ。

 

 

「お、おい木場! ゼノヴィア!」

 

「イッセー君……気を付けて。この人、昔の僕と同じ目をしている」

 

「あぁ。隠しているようだがほんの一瞬、殺気が漏れていた……それにだ、その体から影龍王と同じ感じがする……お前は邪龍だな?」

 

「は?」

 

「――はぁ、凄いな。これでもアジ・ダハーカの術を纏ってるんだけどね」

 

 

 やれやれといった様子を見せながら深くかぶっていた帽子を脱ぐ。露わになった顔は悪そうな事をしない印象を持っていたが突如として亀裂が入り、固まった土が砕けるように皮膚が落ちていく。そして現れたのはD×D学園襲撃事件で襲ってきた男――邪龍の八岐大蛇だ。

 

 

「千の魔術を操るアジ・ダハーカの術でも感覚で見破られるか……いや露見しないように抑えていたからか。後は僕自身が殺気を抑えきれなかっただけ……本来ならもう少し待つつもりだったんだけどね」

 

「……や、八重垣君……なのか?」

 

 

 イリナのお父さんが驚いているけどまさか知り合いなのか?

 

 

「えぇ、お久しぶりですね局長。貴方を殺すために地獄より蘇りました……現在の名は八岐大蛇です。正体がバレた以上、長居をする気はありません……この地を汚すような真似はしたくは無いですしね」

 

「逃がすと思っているのか?」

 

「逆だよ、見逃してあげると言っているんだ」

 

 

 目の前の男、いや八岐大蛇は全身から紫色の炎を放出し紙のようなものを破って剣を出現させた。やべぇ……あの時は匙が戦ったけど正面に立つとヤバさが全身を貫いてきやがる! 確か平家さんがあの炎を浴びたら黒井レベルじゃないと即死とか言ってたな……! どうする……どうする!

 

 

「あ、あの! 最初に会った時から聞きたかったんですけど……どうして私を殺そうとするんですか!? それにパパもなんで狙うの!」

 

「復讐だよ。僕とクレーリアを殺した局長たちに対するね。既に初代バアルは殺した……次は貴方の番だ。いやはや僕が死んでから色々と幸福そうで何よりです……擬態していた僕に娘が可愛い妻が可愛いと自慢していましたよね……何度、何度殺そうと思った事か……! 僕達を殺しておいて!!」

 

「……違うんだ八重垣君……! 違うんだよ……! ま、待て! 彼は! 先ほどまで居た彼は……!」

 

「殺しました。アジ・ダハーカの術の生贄になったので既に遺体もありませんけどね」

 

「八重垣君……そこまでして私を……分かった、キミの好きにするが良い。だが……娘だけは! 私の命だけでどうか許してほしい! この通りだ!!」

 

 

 土下座の体勢で謝罪をするイリナのお父さんに対し、怒りからか炎の放出を強める八岐大蛇。俺は既に鎧を纏っているしロスヴァイセ先生も戦闘時に来ているエロい鎧になってるし木場、ゼノヴィアは言うまでもない……が何かおかしい。なんと言うか……息苦しい、気がする……あと、目が霞んで……!

 

 体の不調を感じていたのは俺だけでは無く術式を展開しようとしていたロスヴァイセさんが突然膝をついた。首を抑えて何やら苦しそうだ……なんだ、なんで!? 俺が疑問に思ったのと同時に木場、ゼノヴィアの二人も剣を落とし息をする事すら苦しそうにもがき始める……俺はまだ、大丈夫みたいだが……なんなんだよ!?

 

 

 

「皆!? な、なん……ゴホッ! あ、あぁ、ぁ……くる、しいぃ……!!」

 

「イリナ!? 木場! ゼノヴィア! ロスヴァイセさん!! 何がどうなって……! おい! 何しやがった!!」

 

「……あぁ、すまない。怒りのあまり炎の濃度を上げてしまった。いや逆に好都合か……僕はこの地で血を流すような殺しをしたくは無いし離れるにはもってこいの状況だ。あぁ、今ならまだ治療すれば死にはしないよ」

 

「なん、だと……!」

 

「少しばかり戦闘に関して学ぶことがあってね、教えと言うものは馬鹿には出来ないらしい。僕が持つ紫炎祭主による磔台による炎(インシネレート・アンセム)には八岐大蛇の魂が埋め込まれている。それによって聖遺物でありながら魂すら汚染する猛毒を会得しているわけだ……分かるかな? 悪魔の身では耐えきる事すら困難な聖遺物の炎と猛毒がキミ達の前に広がっている。当然、目には見えないほど小さな炎も例外ではない」

 

『っ! そういう事か……! 相棒! 息を吸うな!! この男は怒りのあまり炎を広げているわけではない! 八岐大蛇が持つ猛毒を宿した極小の炎を散布し相棒達に吸わせるのが目的だ! 相棒はサマエルの毒を浴びた経験がありその体はグレートレッド、オーフィスにより作られユニアの宿主によって生命力を高められているからまだ問題無いが……他は違う! このままでは死ぬぞ!』

 

 

 嘘だろドライグ!? さっきから感じてた体の不調はアイツのせいかよ! クッソ! こんな戦い方……有りかよ!!

 

 

「正体がバレた以上、僕は帰らせてもらうよ。本来ならば隙を見せた瞬間に紫藤イリナを人質にするつもりだったが……上手くはいかないようだ。局長、先ほどの言葉ですが許すつもりはありませんよ。ただし……僕の言う通りにしてくれれば考えますがね」

 

「……なんだ……なにを、すればいい……!」

 

「自分の娘を殺してください」

 

「っ!!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の身体は八岐大蛇へと向かいだしていた。限界まで力を高めアスカロンに力を譲渡し殴りかかるが八岐大蛇が持つ剣によってそれが阻まれる。猛毒を宿す炎に近づいたせいで体中に尋常じゃないほど痛みが走るが関係ねぇ! 此処で倒さなかったらイリナが悲しむ!

 

 

「ふざけんじゃねぇぞテメェ! 何があったか知らねぇけどイリナを殺す!? そんな事はさせねぇぞ!!」

 

「何度も言っているだろう……僕は局長を、そして紫藤イリナを殺したいだけだ。自分の欲望を優先して何が悪い? しかし……ヴリトラといい赤龍帝といい怖いもの知らずか」

 

 

 剣によって拳を弾かれた俺は一瞬の間に全身を斬られていた……見えねぇ……! 剣技は木場達以上かよ……!

 

 

『相棒! 奴が持つ剣は恐らく聖剣だ! あの形状は……天叢雲剣か!』

 

「正解。正真正銘本物の聖剣で悪魔のキミ達には天敵だ。赤龍帝、怒りを露わにするのは良いが長居されて困るのはキミ達の方だろう? 仲間が死ぬよ」

 

 

 ハッと周りを見渡すと苦しみ続けている仲間達の姿があった……畜生……畜生!!

 

 悔しさのあまり涙を流していると八岐大蛇が放出している炎が突如として形状が変わりだした。それはドラゴンの首のようなもので凶悪な印象を抱かせるものだ。

 

 

『――ブザマ、トシカ、イえねぇなぁ』

 

『……その声は八岐大蛇か』

 

『だいせーかいだ! キィヒッヒヒヒッ! 喋るのなんざ久しぶりで忘れちまってたぜ。ドライグよぉ、無様だなぁ、ぶーざーまーだ! オレの肉体様に為す術もなく殺されるなんざ笑いが止まらねぇぜおいおい! おう雑魚共、良かったなぁ! オレの肉体様は殺さねぇってよ! キィヒッヒヒヒッ! ほらほら泣け泣け! オレを笑わせろ!』

 

「……話せたのか」

 

『ん~ん? あぁ、一時的にだがな。普段の行動はテメェに全任せしてやらぁ。まだ完全復活じゃねぇしな、それにオレはテメェの事が気に入ってる。適当に話しかけることもあるだろうが勝手にしろ』

 

「……感謝する」

 

 

 八岐大蛇は懐から取り出した紙のようなものを破る。すると足元に魔法陣のようなものが展開された……逃げる気か……!

 

 

「宣言通り、離れるとしよう。あぁ、そうだ局長……僕が殺されたあの場所で待っています。紫藤イリナを殺したらそこで会いましょう……証拠は首でお願いしますね。もし自分の娘を殺さずに現れたならば貴方のもう一人の大事な人が死ぬだけですので……そのつもりで」

 

「……ま、さか……妻を! 頼む妻に手を出さないでくれ!! 頼む……八重垣君……八重垣君……!」

 

「無理ですよ。だってこれが僕の復讐ですから」

 

『盛り上がってきやがった! オレは楽しみにしてっからな! また会おうぜぇ!』

 

 

 八岐大蛇は消え、この場にはイリナのお父さんの叫び声だけが響き渡った。




勘を取り戻すべく1話から見返してみた上、今回の話を書いて思いました。
この作品、グレモリー眷属絡みに厳し過ぎる(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

118話

やっと……ここまで……!


 周囲に展開されている魔法陣から何かの骨で作られた槍が飛び出し、俺の頭部、腕、足、胴体、ありとあらゆる部分を貫いていく。これで何度目の死か覚えていない……むしろ百回近くまで数えていたのは覚えているがその先は面倒になったので数えるのを止めた。だってマジでめんどくさくなったし……そもそも死に過ぎて意思を保つのも辛くなってきたと言うのもあるかもしれない。

 

 ただの槍による刺殺だけならまだ良い……日本人は慣れたら大抵の事はスルー出来るからな。だがルーン魔術による弾幕での死から始まり目の前に居る女による絞殺、何処からともなく呼び出した大量の虫を生きたまま俺の身体の中に埋め込んで毒殺、意識がある状態のままミキサーされてショック死などなど恐らく現存する死因を全て経験するともなれば話は違う。特にムカデやらサソリやら蜂やらの多種多様な虫を生きたまま体内にぶち込まれた時は本気で死にたかった……何かが体の中を這いずる感覚、体の中を飛び回る羽音、普通なら死んでいるであろう毒とかいっぺんに味わいたくもないね!

 

 まぁ、こんな事を思っている間も――

 

 

「クハッ! また死んでは蘇ったか! 良いぞ良いぞ! あと何回持つ? それとも次で終わりか? 弟子よ、これで終わりとは思わぬことだ。まだまだこれからと言うものだな! さてさて次は何をしようか……ふむ、カラドボルグで殺してみるか。 ゲイ・ジャルグとゲイ・ボーは……オイフェの奴が今使用していたな。(わたし)ともあろう者がうっかりさんになってしまった。許すが良い。では弟子よ、待たせたな……死ぬが良い」

 

「てめ、いいか――」

 

 

 どこからともなく取り出した剣を振るうと刃が鞭のように伸びて再生した俺の首に巻き付いた。今すぐ外そうと影のような真っ黒い液体のような良く分からない状態からなんとか片腕だけを再生するも間に合わず――首を捩じ切られる。それはもう見事だと言えるほどの回転だ……俺の首だけな! また殺害された事で意識が遠のくも意地と根性で死なないように保つ。この間も槍やら弾幕やらで体がまた良く分からん状態……いやミンチ状にされてもう大変だ! クソが……! マジでふざけんじゃねぇぞ……!

 

 何故俺が何十何百と殺され続けているかというと理由は簡単――目の前に居るスカアハによる修行が始まっているからだ。龍門でアザゼル達と話をした後、温泉で修羅場となっている光景に俺ってやっぱりモテるなぁと再確認からの普段と変わらない四季音妹とグラムに癒され、オイフェが作った料理を食べるべくダイニングルームと思われる場所へと移動したのが全ての始まりだ。もしあの時……よし帰るかと本気で思っていればこんなに死ぬ事は無かっただろう。

 

 料理自体は毒とか入っているわけでも無く至って普通のごちそうだった。夜空が手当たり次第に食ったせいで橘とレイチェルが唖然としたり、引きこもっていたらしい黒髪ロング美少女ことウアタハが登場したせいで相棒のテンションがヤバい事になったりと和気藹々と言った感じで進んでいった。あぁ、ここまでは幸せだったね! 割とマジで!

 

 

『おいおいウアタハたん! 久しぶりじゃねぇか……なんだなんだ? 見ない間にまた美少女(ちから)が跳ね上がってるじゃねぇの! うーんこのすべすべつやつやな黒髪に男を興奮させる体臭が懐かしいぜぇ! はぁ~生きてるって素晴らしいって奴だな! なぁウアタハたん……スケベしようぜぇ……? 今の俺様は無理だがなんと俺様の宿主様がお相手だ! ゼハハハハハハハハ! そう残念そうな顔をするんじゃねぇぜ悲しくなっちまう! あぁ……ウアタハたん、好きです愛してます俺様と結婚してください』

 

『ふ・ざ・け・ん・なぁぁぁぁぁっ!!! いい加減にしろぉ! 僕を女扱いするなと何度言ったら分かるんだ! そもそも僕は男だぞ!? いくらその……した事あるとは言っても男は女、女は男と関係を持つのが常識ってものだぞ! それに聞いたぞ!? お前の今の宿主ってユニアの宿主の事が大好きなんだろ!? だったら僕なんか眼中にないだろうと言うか男を好きになるわけないだろ馬鹿か!』

 

『との事だが宿主様?』

 

『――フッ、夜空とエッチして童貞捨てた後ならいつでもウェルカム! なんせ俺の性癖はそこに居るなんちゃって覚妖怪にどっぷりがっつりこれでもかってぐらい歪められてるしなぁ。知ってるか? 俺達が居る日本って基本的に変態の国なんだぜ。エロのためなら無機物すら美少女化するし過去の英雄すらもまた同じだ。あとエロゲーやら薄い本には男の娘もあるし……ウアタハ、お前なら余裕で抱ける』

 

『流石俺様の宿主様だ! 出会って間もないウアタハたんの素晴らしさに気が付いたか! どうだ……惚れるだろ?』

 

『あーうん。これは歪むわ……だってスカアハ(アレ)とまだマシなオイフェ(これ)とこの子だろ? 性別とか気にする必要ねぇな……流石黒髪ロング美少女。どこぞのなんちゃって覚妖怪とは段違いだわ』

 

『お前もかあぁぁぁぁっ!! やめろよ! ぼ、僕はノーマルだからな! 好きで女顔してるわけじゃないんだからなあぁぁぁぁっ!』

 

 

 今思えば本当に和気藹々してたなぁ……特に自室に引き籠っていたらしい黒髪ロング美少女ことウアタハが現れてから空気が変わったし。真っ黒いジャージ姿で若干だが低身長、そして膝裏まで伸びている黒髪ロングと目に光があるしお淑やかと表現できる美少女顔……ここまで来ると平家とチェンジと言いたくなる美少女なんだが残念な事に性別は男だ。男なんだ。あれ……むしろ男で良かった感があるのはきっと相棒の事を理解した結果だな! 今の俺なら三日間ぐらいは相棒と男の娘談義出来る気がする。

 

 なおこの時の状況だが夜空は女がしてはいけないレベルの表情になり平家はキャラ被りかつ上位互換の登場にぐぬぬ――するわけでもなく平家とチェンジと思った事にキレて、橘と水無瀬と四季音姉とレイチェルは目の光を無くして「ナニヲイッテイルノデスカ」と瘴気っぽい空気を出し、犬月と曹操はそっとその場を離れた。おい……英雄目指してた男と俺の飼い犬が即座に逃げ出すってどうなの?

 

 そんな大事な事は置いておきたくは無いけどマジで死にかけてるから置いておくとして……本当にふざけんじゃねぇぞおい! いくら()()なるとはいえここまで殺されると文句言いたくなるってもんだ!

 

 

「……はぁ、はぁ……! てめ、まじ、ふざけ……な……!」

 

 

 もはや何度目かになる首から上の再生を終えて恍惚の表情を浮かべているスカアハに文句を言う。あれって確かヤンデレが良くやる奴だよな……橘様も偶にやるけど恐怖度が全然違う件について。てか橘の方が怖い。なんか知らんが怖い。いやそれは良いんだよ……冗談抜きでマジで死にそうなんだが……!

 

 

「クハッ! まだ余裕そうだな弟子よ! 良いぞ良いぞ! それでこそ我が弟子だ! さて次は何をしようか……ふむ、偶には運動もせねば太ってしまいかねん。武器のいくつかはオイフェとあの覚めに渡しておる故、(わたし)の元にある物で我慢するとしよう」

 

「……マジかよ! はぁ……はぁ……! おい、弟子の言葉に耳を傾けようとか……思わねぇのかよ?」

 

「傾けておるとも。しかし今はお前を鍛える事が何よりも楽しくてな! お師匠様最高ですと言ってもよいぞ?」

 

「誰が言うか! 言っておくけどな……何度殺されても俺は死なねぇぞ……! 夜空以外に殺されてたくねぇしな!」

 

「――クハッ! 良いぞ、実に良い! お前の目には(わたし)は映っておらぬ。お主が見ている先にはブリューナクの宿主であろう? ならば急ぐが良い。奴もオイフェとの修行で力を付けているはずだ。何度も見てきたからこそ分かるとも……奴の背中を見たくはないのだろう? 追い抜きたいのであろう? だからこそ(わたし)が鍛えてやると言っているのだ。弟子よ、忘れたわけではあるまい? (わたし)が修行を行う前になんと言った?」

 

「……忘れるわけ、ねぇだろ……! あぁ、言ってやるよ! 俺の禁手が()()()だってんだろ!? 忘れたくても忘れられるかってんだ……!」

 

 

 料理を食べ終え、和気藹々となっていた空気もこの女が言った一言で全てが無になった。突如として放たれた言葉にあの場に居たすべての人物が驚くことになる……当然だ、なんせ俺が今まで使っていた影龍王の再生鎧(シェイド・グローブ・アンデッドメイル)が未完成だってんだからな。

 

 いや……正確には完成だったものが未完成になったと言うべきだろう。俺としても理解は出来るし納得も出来る……が面と言われるとはぁ? 何言ってんだコイツとしか言えなくなる。

 

 

「その通りだ弟子よ。お前が纏う鎧は確かに昔は完成されていたであろう。しかし聖書の神めに封じられていた馬鹿弟子が持つ力を全て解き放った今はどうだ? 不死とも言える再生能力? 馬鹿者、それは馬鹿弟子の力でありお前の力ではあるまい。力を解放したその瞬間からお前が纏う鎧は()()となった事に何故気づかぬ? 何故覇の力にばかり拘る? 目先の物にしか見えておらぬ愚か者を正すのも師匠の務め。(わたし)の全てを持ってお前を鍛え上げよう。感謝される事は有れど文句を言われる理由は無いと思うがな?」

 

 

 あの時、そしてこの時もそうだが腐っても英雄を育て上げた女だと再認識するよ……割とマジで。

 

 言われるまで考えもしなかった……昔は欠損限定での再生だったが相棒と力を合わせ、一緒に強くなって、封じられていたであろう能力を解放してからはどんな怪我だろうがたとえ死のうとも即座に蘇る事が出来た。でもそれは『相棒の力』であって亜種禁手で会得した『俺の力』じゃない……この女が言う様にあの時あの瞬間から俺が纏っていたのは影龍王の再生鎧では無く――影龍王の鎧だったんだろう。

 

 夜空を手に入れるため、夜空とエッチするため、夜空と結婚するため、夜空に子供を産ませるため、夜空の笑顔を見るため、夜空を倒すため、夜空を超えるため、夜空を女王にするため、何度も死に続けながらも結局はその為だけに戦い続けていたし強くなろうとしていた。必死の思いで会得した覇龍融合に目を向けていたからこそ気づかなかった……が! 指摘されたら指摘されたでムカつくのは悪魔的には間違ってはいないはず! すっごくムカつきます! 特にどうだ良い事を言っただろうとドヤ顔してるスカアハがマジでムカつきます!

 

 

「……」

 

 

 だからこそ今も俺は死に続けている。この女が修行を開始する前に言った言葉――『生きるとは死ぬと同じ事、そして死ぬとは生きる事と同じ事だぞ我が弟子よ。生きた時間を持って過去を思い、死を持って未来を思え。悪魔であり人であるお前ならば生と死を理解した瞬間に抱いた「欲」こそ真なる願いであろう』の言葉を実践しているわけなんだが……割と何言ってんだコイツ感がヤバい。

 

 まぁ、あれだ……多分だがこれを繰り返して禁手を亜種化させようとしてるんだろう。元々亜種化してたのをさらに亜種化とか出来るのかってツッコミもあるが……アザゼルも神滅具は所有者の願いとかを全て受け入れつつさらに成長させれるとか何とか言ってた気がするし……問題無いか。問題無いと言う事にしよう!

 

 

「ふむ、しかしかれこれ休み無しで死に続けたのだから休憩も必要か。良かろう、しばしの休憩とする。我が弟子よ、師匠であるこの(わたし)がタメになる話とやらをしてやろう」

 

「は?」

 

「良いか? 人間が持つ力で最も優れているのは想像力と行動力だ。矮小な力であろうと発想次第で強者を倒す、それを長い年月行ってきたのが人間と言うものだ。それ故に聖書の神めも神器という玩具を与えたわけだな……クハッ! まさかそれをルシファーの小僧に利用されるとは思いもよらなかったであろう! 気づいておるのだろう? 太古の昔、人間に何かをしたと? その通りだ弟子よ。では聞こう、なぜ世界には天才と呼ばれる存在がおると思う?」

 

「なんかいきなり始まったんだが……てか知るわけねぇだろ。そもそも何言ってんだお前?」

 

「知らぬと申すか。ならば師匠の言葉で知るが良い――簡単よ、天上の世界。天界と言ったか? そこにある生命の実を人間に使ったからだ」

 

 

 なんか天地がひっくり返る発言をした気がするぞ? これ、聞かない方が良いんじゃね?

 

 

「考えても見よ? 敵対していた勢力は天敵とも言える力を有していたのだぞ? 無策で挑めば全滅も確実、だからこそルシファーの小僧は人間と神器に目を付けた。悪魔を、天使を、堕天使を、そして神すら滅ぼせるであろう可能性を持った者を利用したとえ長い年月が経とうと必ずやという野望を持ってな! クハッ! 人間とは善にも悪にもなる生物、仲間にするのは容易かろう。生命の実もヤツの傍には天上の世界から降りてきた女がいたからな! 簡単に手に入れられたに違いない。それにハーデスめも驚いたであろうな! 死者の魂に生命の実が持つ力が宿っておったのだから! あの者が隠蔽しなければ露見していただろうがあ奴はあ奴で考えがあったのだろうよ」

 

「……ちっ、なるほどな。それがあのクソ骸骨が俺達に言おうとしてた事か」

 

「その通りだ。さて弟子よ? 理解したであろう……この先、(わたし)が言う言葉とはなんだ?」

 

「――夜空にも、その生命の実の力が流れてるって言いたいんだろ?」

 

 

 むしろそれ以外考えられねぇ。生命の実って奴がどんな物でどんな力があるのかは知らねぇがここまで言われて気づくなって言う方が難しいだろ。そうかぁ……夜空が苦労してた事の全てがルシファー、つまり悪魔が原因かぁ……殺そうにも当の本人死んでるしヴァーリに八つ当たりってのもな。よし、夜空が死んだら冥界滅ぼすか。ついでにこの事を知ってるであろう神も殺すか。うん、それが良い。

 

 特に冥界は前々から滅ぼすか的な事も言ってたし何も問題ねぇだろ。

 

 

「その通りだ弟子よ。生命の実が持つ力とは文字通り、生命を操れるのだ。肉体が強化されることもあれば知恵が優れることもある。世界中の天才と呼ばれる人間は皆、無意識化で力を引き出しているに過ぎぬ。これが面白いのだ我が弟子よ! 聖書の神めが作った神器と生命の実の力を宿した人間、真に相性が良い者同士だとブリューナクの宿主のようになるわけだ! 聖槍の小僧に目を付けたのもこれが理由よ! 面白い、実に面白いぞ! なんだ今代の者達は? 誰もかれもが長い年月を経て薄まっているであろう生命の実の力を引き出しているではないか! ブリューナクの宿主、聖槍の小僧、今代の白龍皇もそうだな。そう落ち込むな弟子よ、お前の場合は例外だ。確かに引き出していたが大きく引き出す切っ掛けにはこの(わたし)も笑ったぞ! クハッ! しかし鍛えたい、鍛えたいぞ! あぁ、勘違いするな弟子よ。お前はその中でも特別だ。このスカアハが目を付け、心の奥底から鍛えたいと思った男だ。逃がさんぞ? お前はこの(わたし)が満足するまで鍛えてやろう」

 

「いや遠慮します――おい、休憩中じゃねぇのかよ? 殺すんじゃねぇよ!」

 

「そう遠慮するな! そこはお願いしますお師匠様という場面であろう? さてだ弟子よ。分かったであろう? いかにお前が足掻いたとしても夜空(あ奴)はスタートラインが違うのだ。そして今も、これからもな。弟子よ、お前の考えを聞かせよ」

 

 

 俺の考え? 馬鹿じゃねぇの……いきなり良く分からんと言うか超が大量につく特大の爆弾を教えやがって! これ平家も知る事になるなおい……いやアイツは広めたりしないから別に良いんだが。つーか俺の考えなんざ今も昔も変わってねぇんだよ――

 

 

「――別に?」

 

「ほう」

 

「ぶっちゃけ最初っから格が違い過ぎたのは理解してるしな。んで? 聞きたいのはそれか? それとも夜空が生命の実が持つ力を引き出してる人外だって事か? アホか、アイツは今も昔もその辺に居る普通の人間で普通の女だよ。俺はあいつの、夜空の力に惚れたんじゃない……片霧夜空という一人の女に惚れたんだ。心の底からな! おいスカアハ? お前さっき言ったな……? 俺も生命の実の力を引き出しているって? 勝手に決めつけんな。俺が強くなる理由をそんなどうでも良いもんで片付けられてたまるか。つーかぶっ殺すぞ。俺は俺のために、あいつのために、自分の願いのために強くなってるだけだ。だからさ――」

 

 

 ボロボロの体を即座に再生させ、殺意を持ってスカアハの下へと向かう。ルーン魔術に槍に剣にと色んなものが飛んでくるが関係無い……やっぱり俺って馬鹿だからこれしか思いつかねぇんだわ。禁手を亜種化させろ? あぁ、やってやるよ。もっともそのやり方は俺が決めるけどな。

 

 

「――死ねよ」

 

 

 影人形を生み出してスカアハを殴る。今までにないほどの速度、威力だがまだ足りねぇ。まだだ……まだなんだよ! ゼハハハハハハハハハ!! やっぱり俺達は()()しかないよな!

 

 

「クハッ! そうかそうか! 弟子の願いを叶えるのも師匠の務めというものだ! よかろう、気が済むまで相手をしてやろう!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハハッ!! あぁ、そうだ! ()達にはこれが一番だよなぁ! 宿主様、今までの会話は聞いていたぜ? 黙っていたのは空気が読める邪龍として定評があるからだ! ここでもう一度聞いておこうか――宿主様、テメェの願いは何だ?』

 

「決まってんだろ……! 夜空を手に入れる! 夜空の笑顔を見る! 俺には夜空以外見えてねぇし考えてねぇからな! 相棒……やるか!」

 

『応とも! スカアハちゃんよぉ……分かってねぇなぁ。だからセタンタに逃げられるんだぜ? 宿主様の強さは生命の実なんざ頼ってねぇのよ! 恋、そして愛というものは時として神すら超える力を引き出すんだぜ? ゼハハハハハハハハハッ! だが感謝するぜ? お陰で将来の目標を再確認できたわけだしな!』

 

「まぁな。んじゃ――始めっかぁ!」

 

 

 楽しい楽しい殺し合いを!




・片霧夜空が規格外な理由
太古の世界、リリスが天界より持ち出した生命の実をルシファーがその辺に生きてた当時の人間に使用したのが全ての始まり。
繁殖能力に優れる人間が長い年月をかけて増え続けた事で世界中の「人間」は生命の実の力を宿す事になる――何かに優れている所謂天才とかは無意識化で薄まっている生命の実の力を引き出している。
聖書の神が作り出した神器、特に神滅具との相性が良い場合だがその特性により薄まっている生命の実の力が強く引き出される。
ただし鍛え方によっては神器を宿していなくとも引き出す可能性もある。
「人間」の血を引いているならば遠からず宿しておりスカアハが確認しただけでもヴァーリ、曹操、夜空が該当し他にもいる可能性有。
多分、原作を読めば他のメンツは分かるはず……。

・片霧夜空の亜種禁手
ノワールを愛しているからこそ流れる血、そして魂に刻まれている生命の実の力を「禁手」として引き出す事になった。
まさに規格外。

・この事実を知っている勢力
恐らく「死」に関連する神が所属しているなら知ってる可能性有。
やったねノワール、獲物が多いよ(

・ノワールの亜種禁手
当初はクロムの力が封じられてた為、禁手の能力として使用していたのでスカアハに亜種禁手判定される。
しかしクロムの全能力が解放された後は亜種禁手特有の能力発現が無いのでスカアハに通常禁手判定される。
そのためよっしゃ亜種禁手化させようと張り切った様子。

・ノワールの秘密
ある出来事が起きた事で「人間」の血に流れる生命の実の力を急激に引き出す事になった。
ネタバレになるがグラムぷっぱしても問題無いのはこれが大きい。
出来事のヒントは「無限」



この設定出すのにかなり年月掛かったなぁ(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

119話

今回は一誠side。
この作品の匙君はとあるキチガイ共の影響により(ry


「……全て、お話しします」

 

 

 八岐大蛇の襲撃から数時間後、既に日が昇りだしている時間帯に俺の家に集まっていた。勿論、悪魔や天使と言った事情を知らない父さんと母さんにバレないようにVIPルームだ……もっともこの時間帯だとゆっくり夢の中かもしれないけどな。

 

 集まっているのは俺とリアス、ソーナ会長と匙、イリナとイリナの父さん、そしてこの場には居ないが通信で参加しているアザゼル先生だ。アーシア達はシトリー領の病院に運ばれた木場達のお見舞いに行ってもらってる……本当だったら俺達も行きたいところだが事情が事情のため役割分担と言った感じだ。あの場に居た俺は殆ど問題無いのはやっぱりこの身体のお陰なんだろう……まぁ、逆に皆とは違うんだと思ったのは内緒だ。此処に平家さんが居なくて良かったかもしれない……!

 

 

「パパ……」

 

「……心配させてごめんよイリナちゃん。でもこれはあの日、あの時、あの瞬間に彼を救えず今まで見ないふりをしてきた私に対する罰だ。巻き込んでしまった妻と……イリナちゃん、そしてキミ達には本当に申し訳ない」

 

 

 イリナの父さんは今にも倒れそうな顔色だ。当然と言えば当然だろう……八岐大蛇が居なくなった後、イリナの母さんの安否を確認したら行方不明だったんだからな。警護に当たっていた人達も殺害されていてバレないように術か何かで隠蔽されてたそうだ……匙とヴリトラが言うには十中八九、邪龍の一体のアジ・ダハーカだと断言してるしアザゼル先生やドライグも同意見らしいからまず間違いないだろう。

 

 魔源(ディアボリズム・)の禁龍(サウザンド・ドラゴン)アジ・ダハーカ。地双龍と称されている影の龍クロムと陽光の龍ユニアと同じ邪龍であり特に凶悪な存在として筆頭格とまで呼ばれているほどのドラゴン。あり得ないほどの魔法力を有していて魔術だろうが禁術だろうが何でもできるとヴリトラから教えてもらったが……周囲全て欺けるとかどう防げばいいんだよ! ロスヴァイセさん以上ってだけでもあり得ないのに下手すると聖杯で蘇った影響で昔よりもパワーアップしてる可能性もあるとかもうどうすりゃいいんだよ……!

 

 

『行方不明になった……いや違うな。誘拐されたであろう紫藤イリナの母親に関してはヴァーリ達に探させている。八岐大蛇の傍に居るという可能性もあるが念には念をとな……この手の事で頼みの綱なキマリスは影の国に拉致られて戻ってくるのは数日後と来たもんだ……これに関しては待つしかないだろう』

 

 

 そう、この場にヴァーリが居ないのはイリナの母さんを探すために動いているからだ! 最初は乗り気では無かったんだがアザゼル先生による交渉……というか脅しと言うかなんかそんな感じの事を言われたら渋々探しに行ってくれた。アザゼル先生はシトリー領の病院に入院中だから映像での話し合いだったけど……あのテープはなんなんだ? それを見たヴァーリが今まで見たことないくらい取り乱してたけどさ!

 

 まぁでも探してくれるのはありがたいから文句は言わないさ! 八岐大蛇が居る場所は見当がついてるらしいし同じ場所に居るかもしれないが……もしかしたらと言う事もある! ヴァーリ……頼むぞ!

 

 

「感謝します……さてまずは何を話そうか。あぁ、そうだな……まず彼の名前からお伝えしましょう。彼の名は八重垣正臣、私の部下()()()男です」

 

「……だった?」

 

「――彼はもう何年も前に、それこそイリナちゃんがまだ小さい時に死んでいるのです。それも……我々教会側が粛清という形でね」

 

 

 俺の疑問にイリナの父さんは答えてくれたけどその内容は驚きの一言だ。だって既に死んでいる人が俺達の前に現れてしかも八岐大蛇と言う邪龍になっていたんだからな! リアスやソーナ会長の表情を見ると俺と同じ事を考え付いたんだろう……聖杯。ギャスパーの幼馴染のヴァレリーが持つ神滅具の一つ、幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の力で蘇ったに違いない! 本当だったら一個しかない存在しない聖杯がヴァレリーの神滅具が亜種だったせいで現状だとリゼヴィムが一つ、邪龍達が一つ持ってかれて好き勝手されてるしな!

 

 まぁ、邪龍側に関しては取り戻すタイミングがあったのに黒井達がスルーしたのが原因だけども!

 

 

『――それはベリアル家のご令嬢が原因で?』

 

「……ご存知でしたか」

 

『こちらで一番最初に対峙した匙から聞いた内容を元に調べさせてもらった。と言っても内容の殆どは同じベリアル家から聞いたようなものだが……バアル家も絡んでいるとなれば情報が出て来なくて当然と言えば当然だったがな』

 

「アザゼル、説明して頂戴! 私達は全く知らないのよ……何を知っているの?」

 

『……これに関してはリアス、お前も無関係じゃないとだけは言っておこう。昔、この駒王町を治めていた悪魔の事は知っているな?』

 

「えぇ……クレーリア・ベリアルという女性悪魔の前任者が居たとお母さまから聞いているわ。それ以外だと詳しくは聞けなかったけれどね」

 

『よし、次に匙。八岐大蛇と戦った時にクレーリアと言っていたのは間違いないな?』

 

「は、はい! 間違いないです……あと、身分違いの恋だったとか……言ってました」

 

 

 その時は俺はヴァーリと一緒に敵と戦ってたから会話の内容は知らないけど……どうやらそれが関係してるらしい。匙の言葉を聞いたアザゼル先生はベッドに深く横たわりながら少し溜息をついた。

 

 

『こっちでも調べていた時の話だ。俺が独自にベリアルに関する事を調べていると知ったのか接触してきた悪魔が居てな……名はディハウザー・ベリアル。お前達も名前ぐらいは知っているだろう? 冥界で行われているレーティングゲームのトップランカー。あちらさんから周りにバレないようにと極秘裏に接触したのには疑問を抱いたが……色々と話しを聞いたら納得がいった。これは外に漏れたらベリアル家に大きなダメージとなりかねん』

 

「そ、そんなにですか!?」

 

『あぁ。結論から言おう――八岐大蛇、いや八重垣という男とベリアル家の令嬢クレーリア、この二人が俺達が居る駒王町で恋に落ちたのが全ての始まりだ。恐らく……教会側でも殺害されている面々はこれに関係する人物達でしょう?』

 

「……はい。八重垣君は昔、この地を治めていたクレーリアという女性悪魔と恋に落ちました。それはもう深く、深すぎるほどに……今の時代ならばまだ……まだ良かったでしょう! 和平も結び手を取り合っているのですから! ですがあの時は……前例があったとはいえあの時代はそれを許せるほど甘くは無かった……! だからこそ私達は彼を粛正して……上司としての責任として海外へ飛ばされることになったのです」

 

「前例……?」

 

「――キマリス君、いえキマリス家の事ね」

 

 

 俺の疑問に答えるようにリアスが言う。そうだ! 今まで特に何も思わなかったけど黒井って純血悪魔と人間の間に生まれた混血悪魔……この話しの内容と状況は似てる!

 

 

『ただの人間と結婚した純血悪魔、この一点だけならば同じ状況と言えるだろう。だが問題は相手側の立場だ……キマリスの場合はあまり言いたくは無いしもし聞かれたならば何をされるか分からんが言うしかないから言うぞ……! 言いたくねぇなぁ……どうせ覚妖怪経由でバレるだろうしなぁ……!』

 

 

 先生すいません! そこを頑張ってでも教えてください! 黒井には後でエロ本とかなんか差し出して怒りを治めてもらうんで!

 

 

『畜生胃がイテェがもうヤケだ! 同じ状況下で何故キマリス家が許されたかだがまず家としての格の差だろう。今でこそ最強の影龍王として有名なキマリス家だったがあの当時はまだ有名では無かったし現当主も純血悪魔の中で平凡と呼べる存在、そして相手側が一般家庭の人間だったからこそまだ許された。だがベリアル家の場合は別だ……まずレーティングゲーム王者のディハウザー氏を輩出した事が大きい上、相手側が教会の人間……あの時代ならまず間違いなく反対されるだろう』

 

「おっしゃる通りです。彼女……クレーリアさんも純血悪魔と結ばれた人間が居ると話していましたがそれを許せるかと言われれば……まず無理でした。悪魔側と教会側が手を結ぶなどあり得ないと本気で思っていた時代ですからね。これを許してしまえば他がどう動くか分からぬ以上……慎重に対処するしか……!」

 

「……だから、殺したんですか……! 無理だとかありえないとかそんな理由で!!」

 

「サジ!」

 

「……すいません」

 

 

 言葉では謝っているが匙の表情から察するに納得は出来て無いみたいだ。現に今も血が出るほど拳を握っているし……俺だってふざけるなと声を出したいさ! でも……多分だけど俺は言える立場じゃないんだろう。

 

 チラリとリアスを見る。元々俺はドライグを宿していただけの転生悪魔でリアスは純血悪魔、形は違うかもしれないが八岐大蛇とクレーリアって人と同じ状況だ。リアスを心から愛していて付き合う事を許された俺には言う資格は……無いよな。

 

 

『ディハウザー氏は八重垣正臣とクレーリアの一件は悪魔と教会の体裁のために殺されたのではないかと語っていたが……まず間違いないだろう。たったそれだけのために殺された男による復讐……頭が痛くなる案件だ。恐らくヤツは邪龍達の手を借りバアル家初代当主を殺害、今回の一件に関係する人物達も同様に殺害……そして最後は貴方だろう』

 

「……はい。今まで隠していたことを話したお陰で少し胸が軽くなりました。イリナちゃん、私が言う資格はないかもしれないが……自分の気持ちに嘘をダメだよ。私は、父親として……応援しているから」

 

「パパ……? 何を言ってるの……?」

 

 

 イリナの父さんは何かを決意した表情を浮かべた。多分……八岐大蛇の所に行くつもりだ! 自分の命で許してもらおうとか思ってるに違いない! ふざけんな! そんな事をしたらイリナがどう思う!? たとえそれしかないとしても……別の方法がきっと!

 

 俺が言葉を発するよりも先に匙が動き出した。表情が見えないほど下を向きながら立ち上がり、拳を強く握りしめて思いっきりイリナの父さんを殴った。

 

 

「サジ!」

 

「止めないでください! ふざけんじゃねぇぞおい!! アンタ……何しようとした!? まさか自分の命で許してもらおうとか思ってるんじゃないよな!!」

 

「……その通りだよ。妻を救うには……これしか……ないんだ」

 

「馬鹿じゃねぇの!! アンタ……相手が何なのか知ってるのか!? 邪龍だぞ! 俺や黒井と同じ存在なんだぞ!! 約束なんか破るに決まってるだろ!! アンタが死んだ後に紫藤も紫藤の母さんも殺すのが俺達なんだよ!!! 例え何を言われても自分の欲望に一直線に突き進むからな……! 否定したくても否定できねぇんだ! あいつが……黒井が、そんで俺もそうだから!!」

 

 

 今まで見たことない匙の表情と声に俺達は何も言えなくなった。言葉を失っている俺達を他所に匙は自分の思いをぶちまけるようにイリナの父さんの胸倉を掴んで言葉を続ける。

 

 

「なんで一人で解決しようとするんだよ! なんで一人でカッコつけようとするんだよ! 良いか……親が居なくなった子供ってのはなぁっ!! 寂しいんだよ……! 心に穴が開いたんじゃないかってぐらい辛いんだよ!! そんなもんを自分の娘に、紫藤に味合わせる気かアンタは!! ふざけんな!! 状況が詰んでる? あぁ、詰んでるよ!! 自分の大切なもんを邪龍に狙われて何も出来てない時点でもう敗北してんだ! カッコつけたこと言ってるが結局はヤケになってるだけだろうがぁっ!」

 

「……なら、なら! どうすればいい!? 妻の行方も分からず私の命どころか愛する娘の命すら狙われている状況で何ができると!? どうすれば……妻を助けられると……言うんだ!」

 

「頼れよ!! 何のための俺達だ! 一人で無理なら二人だ! 二人でダメなら三人だ! だから俺達を頼ってくれよ……! ここでアンタを見捨てたら俺は先生として失格なんだよ!! こんな状況でも自分の事しか考えてないとかいうなよ!? これが俺だ! あぁ、何度でも言うぞ! これが邪龍(おれ)なんだよ!! それにな……俺がキレてんのはアンタだけじゃねぇ! おい兵藤ォォっ!!」

 

 

 黙って見ていた俺に匙は殺気を放ちながら近づいてきて――拳を叩き込んできた。受け身も取れず床に倒れこんだ俺の胸倉を掴み、周りの声すら気にせず言葉を続けてくる。

 

 

「さっきから何黙ってんだよ! テメェの幼馴染だろ?! なんで黙ってんだよ……! 救いたくねぇのかよ!! 仲間じゃねぇのかよ!! 答えろ兵藤!!」

 

「……匙」

 

「良いか……何を思ってるか知らねぇがお前はお前だ! 俺じゃねぇし黒井でもねぇし白龍皇でもねぇし光龍妃でもねぇ!! 兵藤一誠っていう男だろうがぁ! 何他人に同情してやがるなんで馬鹿正直に助け出そうとか言わねぇんだよ!! いつものおまえはどうした!? どんな時でもおっぱいおっぱい言ってただろうが!! それで良いんだよ! 周りなんざ知った事か……テメェの事だけ考えれば良いんだ! それがドラゴンだ! だから言えよ……テメェは何してぇんだ!!」

 

 

 そんなの決まってるだろ――

 

 

「――助けてぇよ! イリナの危機だぞ!? たとえイリナの母さんとは昔しか会ったことなくても危ないなら助けたい!!」

 

 

 あぁ、そうだ……助けたい! 今にも倒れそうなイリナを笑顔にしたい! だって俺の幼馴染で仲間だからな!

 

 

「だったら今からやる事……分かるよな!」

 

「あぁ! 八岐大蛇をぶっ飛ばす! イリナの母さんを助けだす!」

 

「それで良い! 昔は昔! 今は今だ! 他人の事なんざ無視して自分の欲望まっしぐら! それで良いだろ……やらないよりはやった方が良い精神だ! 後悔するならやって後悔だ! 紫藤には酷かもしれねぇけどもう間に合わないかもしれねぇ! でもな! ここで黙ってたら俺達じゃねぇだろ!」

 

「おう! もし無理だったらとかは後回しだ! その時はその時……いや俺がイリナを幸せにする! だから匙……力を貸してくれ!」

 

「当たり前だろ! ここで手を貸さなかったらお前を殴った意味がねぇ! それに……八岐大蛇に言ったからさ。何度でも止めるって……だって所謂身分違いの恋って奴をしてるのはあっちだけじゃねぇしさ」

 

 

 そう言って匙はチラリとソーナ会長を見る。そう言えばD×D学園襲撃事件から進展したんだっけ……? 付き合ってるとかそう言うのじゃなくてまだ保留らしいけど……あっ! ソーナ会長が照れてる! 凄く照れてる!

 

 

『……はぁ、匙。お前、そう言うところキマリスに似てきたぞ?』

 

「同じ邪龍ですから! いやあそこまでド外道にはなりたくは無いですけど……えっとだからお願いします! アイツが居る場所を教えてください!」

 

「俺からもお願いだ! イリナの母さんを絶対……助けてきます!」

 

 

 俺と匙は紫藤の父さんと向かい合って頭を下げる。畜生……匙を越したと思ってたけど追い越されてたぜ! そうだよな……俺、悪魔であると同時にドラゴンだもんな。しかもオーフィスとグレートレッドの力で生まれた超ハイブリットだ! 黒井みたいに好き勝手は……あれだがこんな時ぐらいは良いだろ! きっと許される! むしろ許してください! 黒井よりは絶対マシだから!

 

 

「……すま、ない……本当に……! お願いだ……妻を……イリナちゃんを……助けてほしい!」

 

「ママをお願いします……お願いします!!」

 

「「はい!」」

 

「もぅ、仕方ないわね。イッセー、王として命じるわ……絶対に帰って来なさい。必ずよ」

 

「私からも……サジ。必ず帰ってきてください……約束しましたよね? それに、えぇと……貴方が上級悪魔になってもらわないと独り身になってしまいますので……お姉様も五月蠅くなるのでえとえと、や、約束の時まで死ぬのは許しません!」

 

「勿論です! 必ず帰ってきます! だって俺はソーナの兵士ですから!」

 

『たくっ、イチャコラしやがって。ヴァーリから連絡が入ったがどうやらこっちの予想通り八岐大蛇の下に居るらしい。黒歌曰くまだ生命力があるそうだからまだ生きているだろう……ただヴァーリの加勢は期待するな。アジ・ダハーカと戦闘に入ってるらしい』

 

 

 マジか!? いやでも匙と一緒なら大丈夫だ! なんか知らないが俺って毒とかに耐性あるっぽいしな! きっとこの身体のおかげなんだろうけど……!

 

 匙と一緒に部屋を出る。勿論行く先は八岐大蛇が居る場所だ……海外らしいが転移魔法でなんとか行けるらしい。これに関してはありがたい……空港とかだと時間かかるしさ!

 

 

「兵藤」

 

「なんだ?」

 

「頼りにしてるぜ」

 

「こっちこそ!」

 

 

 コツンと互いの拳をぶつけ合う。イリナ……必ずお前の母さんを助けてくるからな!




脳内のデータを出力した結果、なんか長くなりそうなので区切りました。
次も一誠sideです……八重垣君関連は書きたい事ばっかりですので!
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

120話

おかしい……予定では戦闘してたのになんか伸びてしまった。


「なぁ……匙?」

 

「どうした兵藤? もしかして今更ビビったのか?」

 

「そんなわけないだろ! いやあのさ……お前に殴ってもらったおかげでなんか目が覚めたって言うか、その踏ん切りがついたって言うか……サンキューな」

 

 

 先ほどまで居たVIPルームを飛び出した俺達は八岐大蛇が居るとされる場所に向かおうとしていた。

 

 目の前には魔法陣が展開されていて今は安全に転移が出来るように準備中というわけだ。まぁ、あと数分で終わるっぽいけどな! だから終わるまでの間、俺は先ほど匙から言われた言葉を思い出して自分の頬をかきながら感謝の言葉を言った。遠慮なくぶん殴られたから今も顔が痛いが不思議とイラつくという感情は一切ない……むしろ逆にありがとうって感じだ。多分だが匙に殴られなかったら今も一歩前に踏み出せなくてアザゼル先生達が立てるであろう作戦を待ってただろう。へへっ……持つべきものは友達と言うかライバルと言うかそんなもんだな!

 

 

「……いやこっちこそいきなり殴って悪かった。なんつーか……見てらんなくてよ。紫藤が俺みたいになるんじゃないかって思ったら猶更な」

 

「ん? 俺みたいってどういう意味だよ?」

 

「あーそうか。兵藤は知らないと思うけどさ――俺って両親いないんだよ」

 

 

 バツが悪そうに匙が言うが俺としては驚くしかない。というよりもマジか!? なんだかんだでシトリー眷属とも仲が良いけどそれは初耳だぞ! そっか……だからイリナの父さんが自分を犠牲にしようとした事に苛立ったのか……?

 

 

「俺の両親は昔事故で死んじまってさ、代わりに世話してくれた爺ちゃんも去年あたりに病気で死んじまった。だから俺の家族は妹と弟だけなんだよ……ソーナの眷属になったお陰で今も三人一緒に過ごせているからホントに頭が上がらねぇんだよなぁ。ホント、出会えてなかったらどうなってたか分からねぇし」

 

 

 その当時の事を思い出しているのか匙はなんか気恥ずかしそうにしている。でも気持ちは何となく分かる気がする……俺もリアスに出会えてなかったらそもそも今日まで生きて無いしさ。あの時、出会いは死ぬかどうかの瀬戸際だったけどあの場所でリアスと出会えた事が俺にとっての幸運で……そして運命みたいなものだったんだろう。それは匙も同じでソーナ会長との出会いが運命だったんだろう。

 

 だからこそ俺と匙は似ているんだ――好きになった人が自分の主で、自分よりも身分が高い人なんだから。

 

 

「……俺もリアスと出会えてなかったらレイナーレ……俺の初恋で初彼女だった堕天使に殺されて人生が終わってた。まぁ、その後にも一回死んでは生き返ってるけどさ」

 

「あの時はマジでビビったぜ? お前が死んだとか聞かされたと思えば復活しましただもんな! たくっ、俺の涙を返しやがれ畜生!」

 

「お、俺だってまさか復活できるとは思わなかったんだって! オーフィスとグレートレッドだけでもはぁ!? な感じなのに片霧さん(あの人)がいきなり現れて俺の身体作成手伝ったんだぞ! ビックリしたわ!」

 

「あー片霧さんレベルなら出来るわな。むしろ出来ないものって告白ぐらいだ――やめよう。何か殺されそうだ。黒井がドキドキ邪龍同窓会とか名付けたあの集会でマジの殺気喰らったの思い出した……次は絶対に殺される……!」

 

 

 俺も下手なこと言ったら殺されそうだからやめとこう。なんせ黒井辺りが確実に俺も俺も的な感じで乱入からの殺し合いだろ!? 俺はまだ死にたくないから口にチャックどころか接着剤辺りでもしとこう!

 

 

「……あー片霧さん(あの人)の話は置いておいてさ、俺ってさ……八岐大蛇と同じ事してるんだよな。そして俺の場合、否定されるどころか肯定されて祝福されてる……お前に殴られなかったら八岐大蛇、いや八重垣って人には何も言えなかった気がするし今のような行動もとれなかったと思う。だから改めてサンキューな、ぶん殴って……俺の背中を押してくれてさ」

 

「だから気にすんなって。俺だってあれだぜ? ソーナとの関係が進んだのは八岐大蛇との戦いがあったからだ。無我夢中で色んな事を暴露して病院で目が覚めたらその話されて……クソ恥ずかしくなったけど後には引けないから告ってとアイツのお陰で前に進めたようなもんだ」

 

 

 あっ、それはリアスやアーシアから聞いてるぜ! D×D内で行われたらしい女子会でやけ酒ならぬヤケコーラややけソーダしながら匙の事が好きな二人が嘆いてたって……確か告白自体は保留で匙が上級悪魔になったら改めて告白を受けて返事をするとかだっけか? 頑張れ匙! 俺は応援してるぜ!

 

 余談だがその女子会で水無瀬先生とロスヴァイセ先生が意気投合して外に飛び出して二次会行ったらしいけど……ま、まぁ大丈夫だったんだろうきっと! 水無瀬先生を信じよう!

 

 

「だからアイツの事は悪く言えねぇし……やってる事とかも否定も出来ねぇ。だって俺も同じ立場だったら似たようなことするしな。でもだからって放っておくわけにはいかねぇんだ……なんて言うんだろうな、親近感って言うか俺となんか似てるような気がするって言うか……上手く言えねぇけど放っておけねぇんだよ。知らないままだったら関わらなかったかもしれないけど知っちまったからにはアイツと関わるしかねぇじゃん? だって俺も邪龍(同じ)なんだから。八岐大蛇がやりたい事をやるなら俺もやりたい事をやるだけだ……兵藤、お前はお前のやりたい事をやればいい! 誰も文句は言わねぇ! なんせ俺達はドラゴンなんだからな!」

 

「匙……あぁ! 俺は、俺は兵藤一誠! 誰でもない……俺は俺だぜ! リアスの兵士で! 世界一優しい赤龍帝で! おっぱいドラゴンだ! きっと八岐大蛇と顔を合わせれば色々言われるかもしれない……けど! それも含めて俺がやりたい事を……イリナの母さんを助け出す!」

 

「おう! その意気だぜ! 心配すんな……また立ち止まったらぶん殴ってでも前に進ませてやる! なんせ俺達は――」

 

「「ダチだからな!」」

 

 

 俺も匙もその言葉だけは同じだった。よし! 悩みも吹っ切れたし気合も十分! 後はイリナの母さんを助けるだけだ! もしかしたらとか考えるのは後回し! 俺は俺らしくやる! だよなドライグ!!

 

 

『あぁ、その通りだぜ相棒! 確かに八岐大蛇……いや八重垣と言ったか。奴と相棒は似ていると言っても良いだろう。純血悪魔に恋をした男同士、片や否定され片や肯定された者。なぜ差が付いたのかと問われれば俺は迷わず答えよう――神滅具の有無だとな。文句は聞かんぞ相棒! それは相棒を見ているであろう者達が少なからず思っている事だからな! だがそんなものは気にするな! 何故なら……お前が、兵藤一誠という男が俺を引き寄せたのだ! 胸を張れ! 堂々としろ! お前は世界で最高の赤龍帝になる男なんだからな!』

 

『ほう? 一時期は乳だの尻だので精神崩壊寸前だった奴が大きく出たな。しかし我とて気持ちは同じだぞ我が分身よ。お前はこの我を宿すに相応しい男だ……ここまで来たのならば迷いなど不要! 我が分身が抱いた欲望(おもい)を貫き通せ! ククク、ハーハハハハッ! 我は黒邪の龍王と呼ばれし邪龍! さぁ行こうか我が分身! 我が炎が奴に負けることなどあり得ん! この際だ、我が宿っている神器の名も変えるべきか? ククク! 我が目覚めているというのに何時までも黒い龍脈(アブソーブション・ライン)などではカッコつかん。さて何が良いか……ふむこれは夜通しで考えておくべきもしれん』

 

「ヴリトラ……?」

 

『気にするな。少々昔の頃に戻っただけだ』

 

 

 それって所謂中二病……いやここは匙の精神安定のために黙っておこう! 長いドラゴン生活、ちょっとしたことが一つや二つや三つぐらいあるよな!

 

 そんな事を思っていると転移の準備が終わったらしい。俺と匙は鎧を纏って魔法陣の上に立ち――八岐大蛇の下へと向かった。

 

 

「――やはりか」

 

 

 眩い光が視界を覆い、それが終わったと思えば俺達は別の場所に立っていた。何年も使われていないのか埃まみれで壁や長椅子もボロボロだ。こんな場所を俺は昔見た事がある……なんて言うか俺がまだ悪魔になりたての頃、アーシアを助けるために向かった教会がこんな感じだった気がする。

 

 俺達が転移してきた事に気が付いたのかボロボロの長椅子に座っていた八岐大蛇が静かに立ち上がり、こっちを見る。手には聖剣が握られて何時でも切りかかってきてもおかしくはない様子だ……静かに戦闘態勢を取りつつ辺りを見渡すと八岐大蛇の奥、祭壇と言うべき場所に一人の女性が居た。黒髪でどことなく昔あった事があるような気がするから多分イリナの母さんだ。なんて言うかイリナに似てる気がする……やっぱり髪の色は違うけど親子だからか?

 

 

「赤龍帝、そしてヴリトラ。キミ達が来るのは分かっていたよ……局長が愛する自分の娘を殺してここに来るわけが無いからね。それとも本当に来ようとしたのをキミ達が止めたのかな?」

 

「その通りだ。紫藤の父さんは自分の命をお前に捧げようとしてたぜ……というよりも兵藤はまだ良いとして俺が来るのを予想してたのか?」

 

「あぁ。僕が現れたとなったらキミはどこに居ようと向かってくるだろう?」

 

「当然だ!」

 

「だからずっと考えていたよ……赤龍帝とキミの二人をどう対処するべきかとね。数的には僕が不利なのは間違いないだろう……けど一応聞いておこうか。紫藤イリナの母親はまだこちらの手にある状況でどう動くのかな?」

 

 

 イリナの母さんと八岐大蛇は離れていると言ってもあの炎……神滅具が放つ紫炎がある! いくら龍星の騎士になっても即座に対処されて殺されるだろうな! 考えろ兵藤一誠……! 一瞬の隙を突こうにも俺程度の実力じゃ対処される! いや……違うよな! 俺らしくやるって決めただろ! だったらやる事は一つだ!

 

 

「そんなの決まってるだろ――正面突破だ!」

 

 

 フェイントとかそんなテクニックタイプのようなことは俺は出来ない! 頭の先からつま先までパワータイプの動きしかやってこなかったからな! だからどう動くと言われたら正面からと答えやる! それが俺の戦い方だ!

 

 そんな俺の言葉がおかしかったのか八岐大蛇は静かに笑った。確かにおかしいよな……正面突破するって堂々と言ってるんだから! それがどれだけ間違ってるか理解してなくて本気で言ってるんだから笑われても仕方ない! でも気にしねぇ! 笑われようが俺は俺のやり方を貫くだけだ!

 

 

「正面突破……なるほど、赤龍帝ならではの策というわけか。しかし良いのかい? その選択は彼女を殺す事になるよ?」

 

「だろうな……でも色々考えて、慣れない頭使って! それでも辿り着いた答えだ! イリナの母さんを危険な目に合わせる事は十分分かってる! でもよ――お前よりも早く動けばこっちの勝ちだ!」

 

「出来るとでも?」

 

「やってやるさ! 言っておくけどな……真っすぐ進ませたら俺の右に出る奴は居ねぇんだぜ! なんせ曲がる事出来ねぇからな!」

 

「そういうこった……悪いが勝負といこうぜ八岐大蛇! 前の戦いで理解してると思うが俺は結構しつこいぜ? いくらお前が放つ炎が猛毒を宿してようが関係ねぇ! またお前の顔面ぶん殴ってやる! 兵藤が勝つか俺が勝つか……それとも紫藤の母さんを殺してお前が勝つか!」

 

 

 俺は一人じゃない! 隣には最高のダチがいる! 無理だとか出来なかったとかやっぱり無謀だったとか間違っていたとかは終わってから考える!

 

 

「……なるほど。覚悟は十分というわけか。そうか……真っすぐすぎる答えだよ本当に――反吐が出る」

 

 

 俺の身体を鋭い刃物で貫くような殺気を放ち、八岐大蛇は一歩前に出た。クッソ……怖いぜ! こう見えても元一般人並みとしては本気で殺すと宣言するような殺気は何度戦闘を経験しても慣れねぇ! きっと黒井とかヴァーリは涼しい顔して受け流すんだろうけど生憎と俺はそこまで戦闘経験者ってわけじゃないからまだ出来そうにない!

 

 

「別にキミ達が此処に来るのは問題無い。むしろ想定の範囲内……だが! 何故局長は来ない? あれだけ自慢の妻だの愛しているだの言っていた相手を何故自分で助けに来ない! ドラゴンとは言えどうしてそこまで悪魔を信頼できる! 僕とクレーリアが愛し合う事を否定した分際で何故悪魔に頼る事が出来る! ふざけるな……! 自分の娘が好意を抱いている相手だから!? そんな言葉を言う資格が無いだろう! 悪魔の提案に乗って僕達を殺した男が! キミ達もだ……何故教会の人間を信じられる! 敵対していた相手だというのに何故命を賭けられる!」

 

「んなの決まってる――仲間だからさ!」

 

「確かにイリナとは敵対したこともあった! 俺は悪魔でイリナは教会の剣士、そして今は転生天使だ! でもそれは昔の事で今は仲間……いやそんな事があって無くても俺はイリナの幼馴染だ! 大事な幼馴染が悲しんでるのに黙って見てるとか出来るわけがない! だから命も賭けられる! アンタだって同じだろ!」

 

「……同じ?」

 

「クレーリアって人がどんな人なのか俺は知らない! でも好きになったんならきっと良い人だったんだってのは分かるさ! 俺もアンタと同じだ……自分よりも身分が高い人を好きになった。アンタからすれば俺はムカつく対象だろうさ! なんせ否定されなかったんだからな!」

 

「あぁそうさ! イラつくよ! 心の底から憎しみが溢れ出すぐらいにね! 僕は否定されキミは肯定された……理解しているんだろう? 何故否定されなかったのか! 僕には神器が無かった……でもキミは違う! 神滅具というものを宿しているからこそ求められた! 悪魔と言うものは醜い存在だ……! たったそれだけで顔色と主張も変えるんだから!!」

 

「確かにアンタの言う通りかもしれない……最初は俺の、俺に宿ったドライグの力が目当てだったのかもしれない。それは俺には分かんねぇよ! でも! それでも好きになっちまったんだからしょうがないだろ! 惹かれちまったんだ……たとえアンタでも俺のこの思いは否定させねぇ!」

 

 

 俺はリアスを好きになった。最初はハーレム王になるという夢でそれは今も続いているけれどこの思いは俺が抱いた本当の思いだ。俺の命を救ってくれたリアスの恩返しじゃない……普段は凛々しいのに時折見せる可愛い部分や人知れず努力しているところを知ったら好きになってた。気づくのは結構遅かったけどこれは俺が抱いた紛れもない気持ち……他の奴が俺を利用しようとするなら勝手にしろ! 俺はもう迷わねぇ!

 

 俺はハーレム王に! リアスに相応しい男に! やりたいことはいっぱいあるけどまずはそれを目標に突き進む! 誰になんと言われても俺は絶対に諦めねぇ! でもリアス達に危害を加えようとしたら本気の本気でぶっ飛ばす! たとえ神様や魔王様でもな!

 

 

「……好きになったのだから仕方がないか。確かにその通りだ、僕もクレーリアと出会って……彼女の笑顔やその人柄に惹かれて、キミの言う通り本気で好きになっていた。だから認めてもらいたかった……! 好きだから! 愛していたから!! でも――こんな物のために彼女が殺されたと知った僕はどうしたら良い!」

 

 

 懐から何かを取り出した八岐大蛇はそれを強く地面に叩きつけた。何度かバウンドして俺達の方に転がってきたそれを見た俺と匙は一瞬、理解できなかった。

 

 俺達の視線の先にはチェスの駒のようなものが落ちている。形からそれが王の駒であることは俺でも分かる……けど問題はそれじゃない。あれだけ強く叩きつけてもヒビ割れる事もせず形を保っているその駒の正体をなんとなくだが察したけど……頭の中では兵士から女王までしか存在しないという教えられたからこそ理解するのに時間がかかっているんだ。

 

 

(キング)の駒。キミ達が悪魔になった駒の中で最も強力で、生み出されてはいけないもの……今の冥界が腐った原因だ」

 

「……嘘だろ。いや、噂ではあるかもとか……情報誌とかで嘘情報みたいに載ってたりとかもしてたけどさ、マジで存在したのかよ……!」

 

 

 匙が本気で戸惑っている声を出す。俺だって驚いているさ! リアスから王の駒は存在しないと教えられていたからな! でもそれが現に俺達の目の前にある……いやまだ俺達を動揺させようと滅茶苦茶固い素材で出来た駒を使ってるかもしれない!

 

 

「偽物じゃないよ。これは正真正銘、悪魔の駒だ。恐らく現魔王は勿論、堕天使の総督……いや元総督だったかな? 彼も知っているだろう。なんせ現魔王と一番繋がりがあるのは彼だ。キミ達の様子から察しが付くよ……王の駒は存在しないとでも教えられていたんだろう? それは間違いだ。王の駒はこのように存在するしこれを利用している悪魔も勿論、居るとも。何故隠されていたか……知られたら古い悪魔が困るからだよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「この王の駒はね、力を跳ね上げる特性を持っている。赤龍帝、キミが普段使う倍加と同じと思ってくれても良い。もっとも二倍どころでは無く十倍は高めるだろうけどね」

 

 

 マジかよ……! てことは使うだけでかなり強くなれるって事だよな! 確かにこんなのが出回ってたら誰もかれもが強者だらけで大変な事になる……かもしれない! 少なくとも隠されるだけの価値はあるって事だからかなりヤバい代物なんだろう!

 

 

「知っていると思うが悪魔は権力を求める生物だ。レーティングゲームだったかい? 冥界で人気のあれは単なるやらせに過ぎない。まぁ、その辺りは僕は詳しくはないから説明は出来ないけどね。ただ言えるのはこれだけだ――僕の愛した人は、クレーリアはこの事実を知ってしまった為に殺された! こんな物のために僕たちは殺されたんだ……! 分かるかい? 認められなかったでは無くこんな理由で殺されたんだ!!」

 

 

 八岐大蛇の心からの叫びが木霊する。此処に来る前までは俺と匙は八岐大蛇と同じだと思ってた……でも蓋を開ければ全然違うじゃねぇか! 認める認めない以前に……隠されてたことを知っただけで殺されるとか最悪じゃねぇか!!

 

 そう言えば結構前に黒井が言ってたっけな……ニヤニヤ顔で近寄ってくる奴は全て敵、煽てる奴も敵、馬鹿な反論をする奴も敵とかなんとかってさ。俺よりも長い間、悪魔の世界を知ってたからこそ悪魔がどんな存在なのか理解してたんだろう。

 

 

「赤龍帝、そしてヴリトラ。僕の邪魔をしないで欲しい……! あと少しなんだ! バアルは殺した! 局長も殺す! あの時関わってた者達は既に殺してる! もう少し……もう少しなんだ!」

 

「――悪いが、それでも止めるぜ。八岐大蛇」

 

 

 魂からの言葉を否定したのは俺と同じく動揺していた匙だった。

 

 

「確かにそんな理由で好きな人を殺されたら復讐したくもなる。俺だって同じことするさ」

 

「だったら何故邪魔をする?」

 

「それが俺の欲望(やりたい事)だからだ。お前は復讐がしたい、俺はそれを止めたいし紫藤の母さんを助けたい。お前の行動自体は俺は否定しないしする気もねぇよ……悪魔の俺にはその資格みたいなもんはねぇからな。でも俺の欲望(やりたい事)だけは否定させねぇ! 前の戦いで嫌と言うほど理解しただろ――これが俺だ!」

 

「匙……俺も同じだ! あんたにどんな理由があろうとイリナを悲しませることは出来ない! でもお陰で俺のやりたい事リストがまた一つ増えた! アンタみたいな人を生み出さない冥界にする! 今すぐは出来ないけど必ずやって見せる!」

 

「そんな言葉を信じろと! 何時になるか分からない絵空事を!」

 

「あぁそうさ! 夢物語とか思っても全然構わねぇ! でも俺は何時か絶対……やってやる! だって俺は子供たちのヒーロー! おっぱいドラゴンで……世界一優しい赤龍帝になる男だから!」

 

 

 上級悪魔にすら何時になれるか分かんないが悪魔の人生は長い! 絶対にやってみせる!

 

 俺達の言葉を聞いた八岐大蛇は静かに笑いだす。確かに言ってる事は滅茶苦茶で夢物語だろうから笑われても仕方がない。でも本気だからな! これだけは理解してくれ!

 

 

「僕みたいな存在を生み出さない冥界を作る……ハハ、夢物語過ぎる。実現できるわけがないのになぜそこまで断言できる……? でもそうか、そうだったな……クレーリアも夢を語っていた。そして僕も……同じか」

 

 

 何かを思い出すように呟く八岐大蛇は一歩、また一歩と俺達に近づいてくる。てっきり接近戦をするのかと思ったけど八岐大蛇は俺達を通り過ぎて後ろにある入り口へと向かって行った。

 

 

「……彼女を殺すのは今はやめておこう。だが僕の苛立ちを解消するために八つ当たりさせてくれ」

 

「戦わないって選択肢は無いんだな……?」

 

「無いさ。僕は彼女も殺したいし局長も殺したい。キミ達は僕を止めたい……なら殺し合うしかないだろう? それがドラゴン、邪龍の考えというものらしい。断ってくれても構わない――その時は紫藤イリナの母親をこの場で殺そう」

 

「そんな事を言われたら戦うしかねぇだろ。なぁ、兵藤?」

 

「お、おう!」

 

「――場所を移動しよう。此処で戦えば先ほどの言葉を否定することになる。一応理由もあるんだ……局長の目の前で愛した女性を殺すというちっぽけな目的を達成するために此処で殺すわけにもいかないんだよ。馬鹿にしても構わない、笑ってくれても構わない……でもこれが僕の欲望(やりたい事)だ。あと言っておくが手加減はしない……全身全霊を持ってキミ達を殺そう」

 

 

 その言葉を言った八岐大蛇……いや八重垣さんはどこか納得したような、憑き物が落ちたようなそんな感じの表情だった。




~その頃の影の国~

夜空ガチ勢「スカアハ死ね! マジで死ね! つーか本気で死ね! 夜空ちゃんマジ愛してる!!」
キチガイ師匠「クハッ! よいぞよいぞ! まだ死なぬと言うのなら次はこの手はどうだ?」

ノワールガチ勢「死ね」
ややキチガイ妹「おいおいまだ力が跳ね上がるってか? くぅ~! 良いぜ良いぜ! もっと来いよ!」

パシリ「アースゴイナーアコガレチャウナーツカヨクイキテンナーオレ」
なんちゃって覚「殺す相手を光龍妃に盗られた件について」
少女趣味「にしし~まぁ~いいんじゃないのぉ~?」
マスコット「伊吹が良いなら私も良い」
不幸体質「ホント……治療してもらって本当にありがとうございます……!」
クロムの嫁「いやうん……こっちこそ母さんが迷惑かけてごめんなさい。絶対怪我無く帰すから」
アイドル(淫乱)「私達の修行……ですよね? 光龍妃さんに盗られちゃいました」
不死鳥「むしろありがたい事では……?」
チョロイン「我ガ王ヨ! 何ゼワレらを使わぬ!」

きっと一誠達がシリアスっぽいことしてる今も暴れてるでしょうきっと(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

121話

大変……大変お待たせいたしました!


「――ここなら問題無いだろう」

 

 

 八岐大蛇……いや八重垣さんと共に向かった先は広い空き地のような場所だった。辺りには長い間放置されていたのかボロボロになっている木刀のようなものから槍、まぁ……言ってしまえば武器のようなものが多数散らばっている。

 

 歩いている間は俺も匙も八重垣さんも無言……かなり空気が重かったように感じたけどこれから殺し合うと思うと何も感じなくなった。俺は勿論、匙に至っては鎧を纏って表情は見えないが覚悟完了だと宣言してるように堂々と歩いている。くっ……! いつの間にかドンドン実力をつけてるよな! 黒井と殺し合って禁手に至って、触れたら死ぬと分かってる八重垣さんの炎に自分から飛び込んで……そして今は命のやり取りをしようとしてる。

 

 シトリー眷属の女性陣も言ってたな……匙の顔つきが昔と違うって。多分、自分の夢――いや欲望って言えばいいのか? それがあるから真剣に、そしてドンドン強くなってるんだろう。歩いている姿を見るだけでグレモリー対シトリーのゲームで戦った時とは全く違うってのも理解できるぐらいだ! 俺も強くなってると思いたいが……きっと今戦えば俺は負けるかもしれない。なんというか……そんな気がする。

 

 

「『……ここは?』」

 

「僕がまだ教会の戦士だった頃に訓練で使用した場所さ。もっとも僕とクレーリアの一件があってからは使用されなくなったみたいだけどね」

 

「へぇ、そうなのか……って!? 此処って教会から近いだろ! イリナの母さんが居るのにこんな近くで戦ったら――」

 

「『――いや、心配なさそうだぜ兵藤! 居るんだろ! ラードゥン!!』」

 

 

 匙が空に向かって叫ぶと俺達が居た場所が何かで覆われた。この結界みたいなものは見覚えがある……! D×D学園で戦ってた時に襲ってきた邪龍が使ってた! 確か名前はラードゥン!!

 

 

「えぇ、よくお分かりですねヴリトラ。ルーマニアに居た頃よりも強くなっているようで何よりです」

 

 

 結界のような壁の奥から現れたのは長めの茶髪、見た感じ何も食べてないと思いたくなるほどのガリガリ体型のお、女の人……? が居た。あれ……ラードゥンって確か巨大な木のドラゴンだった気がするんだが本当にあの人がラードゥンなのか?

 

 

『間違いないぞ相棒。あれは単に人型になっているに過ぎん。力があるドラゴンならば人に近い姿になれるのを忘れたか?』

 

「その通りですよドライグ。この姿の方が何かと都合が良いんですよ。この姿でも私自身の力を発揮できますのでご安心を……しかしヴリトラ、気配を消していたはずですが何故私が居ると気が付いたのですか?」

 

「『こんな場所で戦うならお前が居ないとおかしいってので気づいた。外れてたら俺もまだまだって事にすればいいだけ……まっ、今回だけは感謝する。これで全力で戦っても問題無いからな!』」

 

「親しくもない私をそこまで信用するとは。えぇ、邪魔はしませんよ。これはドラゴン同士の戦い、それも八岐大蛇と貴方達による闘争! 結界に手を抜いたとあっては邪龍の名に傷がつきます。だから思う存分、殺し合ってください」

 

 

 出来れば殺し合いたくは無いんだが……でもラードゥンの結界って確か黒井の戦車の人ですら壊せなかったぐらい硬かった気がする。つまり俺と匙の力じゃどのみち破壊する事なんてまぁ、無理だ……下手するとあの壁を壊す前に俺の腕が折れる気がするし。

 

 俺と匙がラードゥンに意識を受けていると八重垣さんの体から炎が漏れ出す。それは辺りに広がる事も無くドラゴンの首のように変化した。

 

 

『キィヒッヒヒヒッ! おいおいラードゥン! 随分物分かりが良いなぁおい! そんな性格じゃねぇはずだろうがぁテメェはよぉ!』

 

「これでも現世を楽しんでいる身ですので。それに邪魔をすればグレンデルのように怒るでしょう?」

 

『当然よぉ! ひっさしぶりのドライグとヴリトラとの殺し合いだぜ? 譲れよ枯れ木野郎! オレの復活祝いとして受け取ってやるからさぁ!』

 

『……やはり話せるまでに回復しているのか。ヴリトラと言いお前と言い、しつこいにもほどがあるぞ』

 

『邪龍ですしぃ! キィヒッヒヒヒッ! しつこいのがいけないのかよドライグぅ! 余裕ぶっこいてるようだがテメェ、オレの肉体様にボコられてんの忘れたのか? 今のテメェは二天龍なんつう大層な異名持ちじゃねぇって事をいい加減理解しろやボケ!』

 

『生憎だが八岐大蛇。俺の相棒を甘く見ては死ぬぞ? 俺の相棒こそ世界で最高の赤龍帝になった男だからな! 良いか! 最初から全力でなければ今度こそ死ぬぞ!』

 

 

 分かってるさドライグ! 八重垣さんの体から炎が出てきたって事は前と同じように目に見えない小さな炎が周囲に舞ってるって事だ…時間が経てば経つほど俺達が不利になる! だからこそ――最初っから全力全開! 真紅の鎧で行くぜ!

 

 

「おう! 我、目覚めるは! 王の真理を天に掲げし赤龍帝なり! 無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて――汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!!」

 

 

 俺の鎧がリアスの髪色と同じ真紅に変わる。それを見届けた八重垣さんは身震いするほどの殺気と共に得物である聖剣――天叢雲剣を強く握った。

 

 対する俺達も放たれた殺気に対抗するように気を引き締める。俺は即座に連続で倍加して力を高め、匙は自分の体から周囲全てに向かって黒炎を放つ。恐らく八重垣さんが放った目に見えないほど小さなの炎を自分の炎で消滅させようとしてるんだろう……が俺からすればどっちも怖いってもんだ! 相手は悪魔の天敵ともいえる聖遺物から放たれる炎で触れたら猛毒、匙のは触れたら激痛間違いなしの呪詛の炎! 味方である俺には無害になるようにしてると思われるがそれでも怖いものは怖い。

 

 

「なるほど。前と同じように炎で対抗しようとしてるのか――だが前の僕とは違うよ」

 

 

 聖剣を握った八重垣さんは体から放出される炎を器用に変化させながら俺達に向かってくる。最初は膨大な炎が放出されていたが今の八重垣さんからは小さな炎しか出されていない……でも向かってくる速度は下手をすると木場以上だ!

 

 俺を殺すべく間合いに入って八重垣さんは人間とは思えないほど速く聖剣を振るってきたがそれをどうにか魔力を放出して躱す……ちっ! やっぱり戦闘、それも殺し合いに慣れてる相手だから剣を振るのが上手い! 躱したと思っても体捌きと踏み込み、そして恐らくだが体から出る炎による推進力みたいなものを利用して先読みされた!

 

 

「っ……ただでやられるかっての!」

 

 

 籠手の先からアスカロンの刃を出して腕を振るも空振りに終わる。速い……! 聖剣の威力に神滅具の力を無駄なく利用してる! 完全なテクニックタイプ……俺みたいなパワータイプとは相性最悪だぞ!?

 

 

「無駄が多いぞ赤龍帝。力を高めるのも良いがそれは相手に行動を教えているようなものだ」

 

「……英雄派の曹操にも同じこと言われたぜ。でも悪いが俺って馬鹿だからさ! 考えるよりもこうして――殴る方が似合ってるんだよ!」

 

 

 背中より魔力を放出して八重垣さんに向かう。全てを見通していると錯覚するほどの視線が俺を射抜くが臆せず突撃していくと……いきなり地面から炎が噴き出した。悪魔に対して絶大な威力を誇る聖遺物の炎が俺の身体に纏わりつくが俺は止まる気は一切無い! 何故なら俺は一人じゃないからな!

 

 俺が炎を受ける直前、背中に匙が得意とするラインが一本くっ付いている。猛毒が付加されている炎を受け続けたらいくらグレートレッドとオーフィスの力で作られたこのハイスペックボディでさえ死に至るだろう……だが俺の身体を蝕む猛毒は匙によって外に排出されている。俺は知ってるからな……あれだけ真剣に、そしてぶっ倒れても続けた特訓をな!

 

 だからこそ――

 

 

「ううおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 雄たけびと共に炎の壁を突破。猛毒さえどうにか出来れば残るのは滅茶苦茶痛い炎だけ! そんなのは俺なら耐えられる! なんせサマエルの毒を味わってるんだ! それに比べたら聖遺物の炎程度! 問題ねぇ!

 

 

「まさか……! 突破してくるだと!」

 

「俺一人じゃねぇんだよ八岐大蛇ぃ!!!」

 

 

 溜めに溜めまくった魔力を拳前に集めてぶっ放す! 炎の壁と八重垣さんとの間には結構な距離があった……もし殴りかかっていったらさっきと同じように躱されると判断したからだ!

 

 極大の魔力砲が真っすぐ飛んでくるのを見た八重垣さんは背から複数のドラゴンの首を模した炎を盾代わりに放つ。俺が放った魔力の塊程度なら恐らく防がれる……がさっきも言った通り俺は一人じゃねぇ!

 

 

「『兵藤!!』」

 

 

 匙の言葉を聞いた俺は即座に背中にくっ付いているラインを握る。行くぜ匙! 俺の力を受け取れ!!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

『Transfer!!!』

 

 

 一瞬で高められた力の全てを匙に譲渡する。なんでこんな事をしたかと言えば簡単だ――匙はもう八重垣さんを攻撃してるんだからな!

 

 

「――なっ!?」

 

「『兵藤にした事……そっくりそのままお返しだぜ!!』」

 

 

 俺の目の前で黒炎の柱が現れる。あれは匙が得意としている呪詛の炎……ラインを通すか自分の体からしか放たれないであろう炎がなんで匙から離れている八重垣さんの所に現れたのか――文字通りやり返しだ。

 

 恐らく俺をサポートしながら八重垣さんと同じように地面に向かってラインを伸ばしていたんだろう。そして辿り着いた瞬間に俺からの譲渡を望んだ……ってところか。へへっ! 打ち合わせ無しの一発勝負だったが正解してよかったぜ!

 

 黒炎の柱を見ながら地面に着地すると背中のラインが外れる。そして次の行動に入ろうとした俺だったが喉や体から痛みが走った。いくら匙に解毒を頼んでも聖遺物の炎だから悪魔の俺には効果抜群ってか……! でもイリナやイリナの父さんが受けた苦しみに比べたら全然耐えられる! こんなので痛がってたら俺は……八重垣さんと向かい合えない!!

 

 

「――な、め、るなぁぁっ!!!」

 

 

 全てを憎むほどの声と共に黒炎の柱は別の炎に飲み込まれた。その炎はある姿へと変化していく……8本の首を持つ一体のドラゴン、俺もゲームとかやるからイメージしやすいその形は紛れもない八岐大蛇そのものだ。炎で形作られた口が大きく開かれ、咆哮されると俺の身体に震えが走る。巨大な姿からのその咆哮は反則だろ……!

 

 

『キィヒッヒヒヒッ! おいおい肉体様ぁ? テメェ自分の体どうなってるか分かってますかぁ? 焦げてんぜ? それはもう尋常じゃねぇぐらいになぁ!』

 

「だ、からなんだ……! こんなもの……クレーリアが受けた苦しみに比べれば! 八岐大蛇……僕は自分の命なんか惜しくはない! ただ――この戦いに勝利するなら体が焦げようが構わない!!」

 

『――良いぜ。良いぜ良いぜ良いぜぇ!! 気に入った! これが宿主ってものかよ! ユニアのクソ女がなんで封印されてんのに大人しいか今分かった! 肉体様、いや八重垣正臣! このオレ! 八岐大蛇がお前を真の宿主と認めよう! テメェの怒りは俺の怒りだ! オレの楽しみはテメェの楽しみだ! だからよぉ……オレ以外の意識なんざいらねぇよな』

 

 

 8本の首全てが炎の中心に居る八重垣さんの向かって行き――その巨大な口で噛みついた。いきなりの事で俺も匙もその場に硬直してしまう……けどそれはチャンスを不意にしたのだとすぐに気づくことになった。

 

 炎の中で苦しんでいた八重垣さんに噛みついた首達はその体に吸い込まれるかのように消えていく。それは放出されていた炎も例外じゃなくまるで最初から無かったかのように消えた……何が起きた? 八岐大蛇はいったい何をしたんだ!?

 

 

「……これ、は……?」

 

『――あぁ~まっずい味だぜオイ! なぁ肉体様、気分はどうよ?』

 

「……何をしたんだ?」

 

『何をしたか……ねぇ。オレの入れ物でありテメェが持つ神滅具紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)つったか? そいつの中にあった()()をオレが喰っただけのこと。前々からウザかったしな、勝手に離れようとした挙句、オレの肉体様を焼き殺そうとしてやがった。だから逆にオレが喰ってこの神滅具を正真正銘オレの入れ物にしたわけよぉ! キィヒッヒヒヒッ! さっぱりさっぱり! 喜べ! オレ完全復活だ!』

 

「……何が何だか、僕は理解できないが……少なくとも先ほどまでよりは、体が軽いのは分かる」

 

『そりゃそうさ! 邪魔者は居ない! オレはお前を気に入った! 認めた! なら後は勝つだけだぜ! オレの肉体様は世界最強だとテメェの敵に知らしめよう! そのためにはこの入れ物の名も変えねぇとなぁ……なんにすっか? おい肉体様、テメェなんかいい案ねぇかよ?』

 

「……あまりその手の事は得意ではないが……そうだな、これはどうだ? 狂炎龍主の聖十字架(ウェネーヌム・カリドゥス・クルクス)と言うのはどうだろう?」

 

『安直すぎるが……まぁ、良いか。分かってんなオイ、敵はまだピンピンしてるがテメェはボロボロだ。勝ちたいなら、欲望を満たしたいなら! お前が今するべきことぐらい理解してんだろ?』

 

「――あぁ、僕の欲望(ねがい)は復讐だ! 此処で終わってたまるか! 負けるわけにはいかない!!」

 

 

 八重垣さんから途方もない力を感じ始める……拙い、この感じを俺は知っている! だってこれは――俺も体験した事だから!!

 

 

「クレーリア! たとえキミが僕を許さなくても……僕は君の仇を討つ! その為ならたとえ神であろうと! 魔王であろうと! その全てを燃やし尽くそう!!」

 

『オレの楽しみを邪魔するなら殺す! オレはオレの意思でこの男に力を貸そう!』

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)!!』」

 

 

 溢れ出る炎を纏った八重垣さんの姿が胸に十字架が逆さまになった模様がある全身鎧へと変わる。背中からは8本のドラゴンの首は各々の意思を持つかのように動き続け、その眼は俺達を見ている。

 

 

憎悪の(マーレボルジェ・)狂炎龍主(ヴェノム・ブラッド・アクセプト)。赤龍帝、ヴリトラ。先ほどまでのようにはいかないよ――僕は僕の意思で、僕のやり方で復讐を叶えよう。この身は既に限界だとしても邪魔をするならその身、その魂を燃やし尽くす」

 

「『……悪いけどさ、はいそうですかって言えるか! むしろ勝負はここからだろ! 兵藤! まさかビビってねぇよな!?』」

 

「……へっ! まさか! むしろリアス達の嫉妬の方が怖いね! 匙……行くぜ!」

 

「『おう!』」

 

「……あぁ、来るが良い! 僕の全身全霊を持ってキミ達を殺す!」

 

 

 決意を新たに即座に倍加! 力を高めていると八重垣さんが動き出す。背中から放出されている8本の首を炎だけに変化させ器用に宙を舞う。その動きは先ほどまでとは別次元と言っても過言では無く炎を羽のように展開し、弾丸に変化させた炎を飛ばしてくる。上空から降り注ぐ聖遺物の炎は匙が自身の炎で応対するのを分かっていたので俺は八重垣さん本体へと突撃した。

 

 

「『兵藤! 構わず突っ込め!』」

 

「分かってる!」

 

「悪いけど――先ほどまでの僕とは違う!」

 

 

 ドラゴンオーラ全開で突っ込むと突然目の前が眩しくなり目を瞑ってしまう。その一瞬を狙ったのか炎の推進力を利用した斬撃を受けてしまった……離れていたのに目くらましからの一撃! 戦い方が一気に変わった!?

 

 匙の体から伸びる無数のラインも8本のドラゴンの首による火炎で燃やし尽くされる。だけど匙も負けずにこの結界内に入っている地面全てに炎を流し、ラインを生み出した。いくら俺の譲渡があったとしてもこれほどまでの力は匙自身に負担がかかり過ぎているはずだ……でも気にしていないのはそれほどの覚悟で八重垣さんと戦っているからだ。地面より生えるラインより黒炎が放たれるもその全てを防ぎ、手に持つ聖剣で両断していく。だとしても匙は諦めない……自身の解毒すら無視してるのか喉が裂けるほどの声を上げながらも八重垣さんを攻撃していく。

 

 

「数が減らない……!」

 

「『逃がすかよ……! 逃がすわけねぇだろ……! アンタが限界だって言うなら俺も限界まで! その先まで使ってアンタを倒す!! 前に言ったよな……? 俺はしつこいんだよ! いくら切ろうが防ごうが! 俺とヴリトラは諦めねぇ!!』」

 

「――あぁ! 知っているとも!! キミは、そういう男だとね!!」

 

「『知っててくれてありがとよ!! 俺はクレーリアさんの事はしらねぇ! でもここで止めなきゃ俺は……俺の欲望(ゆめ)は叶わねぇんだ!! 友達一人救えない先生になんか――なりたくねぇぇっ!!』」

 

 

 黒炎を放ちながら叫ぶ匙は自身のラインを巻きつけ空へと向かう。その数は尋常では無く傍から見ればそれは蛇の下半身にも見える……俺が居る場所以外は全て匙の領域、黒炎の中で俺はあるサインを見た。

 

 

 ――任せろ、兵藤。

 

 

 言葉は聞こえずとも魂で理解した。だからこそ俺は心の中で号泣しながら覚悟を決める。俺の全力を持って八重垣さんを倒す! だからドライグ……ちょっとは覚悟してもらうぜ!

 

 

『――気にするな相棒! 思うがままに戦え!』

 

 

 サンキュー! なら思いっきり行くぜ!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!!』

 

 

 全身の宝玉から今までに聞いた事のない「B」の音声は親友の思いに応える為には発せられたのだと理解した。その聞いた事のない音声に警戒したのか八重垣さんも匙の攻撃を捌きながら俺達を見下ろす高度まで飛ぶ――がそれは俺の親友が許さない。

 

 

「『逃がすか……逃がすか……! ニガスカァァァァァッ!!!』」

 

 

 ラードゥンが張った結界すら既に匙の領域と化しており八重垣さんが逃げれるスペースは次々と消えていく。無数の触手と黒炎に支配されたのを見て八重垣さんは迷わず匙へと標的を変える。近づけば捕らえられると分かっているからこそ自身の炎による攻撃……だが匙はそれすら構わず八重垣さんを追い続ける。聖遺物の炎で体が燃えようが関係無いとばかりに八重垣さんだけを見続ける。

 

 

「――しまっ!?」

 

 

 匙に意識を向けたのが悪かったのか死角から迫る触手に反応できず……ついに匙は八重垣さんを捕えることに成功した。引きはがそうにも力を吸われ、次から次へと纏わりつく触手の数に抵抗できず迫りくる匙の止める事は出来なかった。

 

 

「『やえ、ガキィィッ!!』」

 

 

 執念の鬼、いや邪龍と化した匙は黒炎を纏った拳で八重垣さんを殴る。何度も、何度も、何度も。自分の考えを伝えるように叩き込む。

 

 力を高めている俺はそれを見続けているが……既に周りは地獄そのものだ。熱さのせいで体の水分がもう無くなりそうで何時倒れてもおかしくは無いだろう。でも俺は倒れない……倒れたらダメだ! チャンスは一瞬……それに全てを込める!

 

 

「ぼく、を捕えたつもりかヴリトラ!! 僕はまだ終わらない!!!」

 

 

 全身より炎をを放出し纏わりつく触手を燃やし尽くす。その熱量故に攻撃の手が止まった匙に対し手に持つ聖剣で一閃……悪魔の身には即死レベルの一撃だろうと匙は止まらない。地面へと落ちる中で最後の力を振り絞り――八重垣さんを再び拘束した。

 

 

 ――決めろ、親友。

 

 

 あぁ、決めるぜ親友。

 

 

「受け取れ……俺達の思いをなぁっ!!」

 

 

 背中の翼に格納しているキャノンと鎧の胸部と腹部が変形した一つの砲台を上空に居る八重垣さんに向ける。防げるもんなら――防いでみやがれぇ!!

 

 

「セキリュウテェェェッ!!!!」

 

「トリニティ……クリムゾンブラスタアアァァァァァァァッ!!!!!!!!」

 

『Trinity Crimson Blaster!!!!』

 

 

 八重垣さんが身に纏わりつく触手を燃やし尽くし、全ての炎を1本のドラゴンの首へと変化させる。そこから放たれるのは八重垣さんが持つ力の全て、最強と思われるドラゴンのブレスだろう。それが俺に向かって放たれるけど俺も今持ちうる最強の一撃で迎え撃つ。

 

 

「――」

 

 

 真紅の極砲が目の前全てを飲み込み、ラードゥンが張った障壁すら突き抜けて空へと消えていく。

 

 そこからは無音が続き、その数秒後に何かが地面に落ちる音が響く。それは鎧姿では無く生身の状態の八重垣さん。一瞬防がれたと思ったけど右腕と右足が吹き飛んでいるのが見えた……躱されたのか……! 今の一撃を……!

 

 

『――安心しろや。負けだ。もう戦う力すら残ってねぇ』

 

「……八岐大蛇」

 

『本当なら全て受けなきゃいけねぇ一撃だ。でもな……オレの楽しみなんだ。わりぃなドライグ』

 

『気にせんさ。お前がしたいのならばそうすればいい。それが邪龍だろう』

 

『……あぁ。今の一撃を持ってオレ達の負けだ、テメェらの軍門に下ると誓おう。それで良いな――おい!』

 

 

 既に瀕死に近い状態の八重垣さんを庇う様に1本の首がある方向を向く。俺も倒れそうな体で無理やり同じ方向に向けると先ほどまで居なかった人物がそこに居た。

 

 灰色の髪をしたその人を俺は知っている……だってあまりにも有名だったからだ。リアスからも教えられていて顔ぐらいは知っていた。

 

 

「勿論だ。これ以上、彼を苦しめたりはしない」

 

「……ディハウザー・ベリアル……?」

 

「いかにも。どうやら何故私が此処に居るか分からないという様子だね」

 

「え、えぇ……まぁ、はい」

 

「なら答えよう。八重垣君と私は契約関係にある。冥界を騒がせているバアル家初代当主殺害、あれは私も手を貸していると言えば……何を意味するか分かるかな?」

 

「は?」

 

 

 思わず素で返した俺だったがこればっかりは文句言われたくはない。だっていきなり現れたレーティングゲームの王者がサイラオーグさんの所の事件に関わってると言ってきたんだぜ? 驚くなって言う方が無理だ。

 

 

「警戒しなくても良い。私の仕込みは既に済んでいる。そもそも影龍王の眷属である覚妖怪が居る以上、隠していても仕方が無いからね。此処に現れたのは――彼を、八重垣君を殺さないで欲しいという事を言いに来ただけだ」

 

「……そのため、だけに、ですか?」

 

「あぁ、その為だけだ。たとえベリアルの名に傷が付こうともクレーリアが愛した男をまた死なせるわけにはいかない。既にアザゼル氏にもこの件は伝えているからもうじき救出班がやってくる。私は抵抗せず捕まる事を約束しよう」

 

 

 その一言を持って俺と匙が命を懸けた戦いは驚きの最後で終わった。




・狂炎龍主の聖十字架《ウェネーヌム・カリドゥス・クルクス》
八岐大蛇が自らの意思を持って炎祭主による磔台に宿る「意識」を喰らいつくした事により変異した神滅具。
独立具現型であったがこの一件により封印型になったとも言える。
能力は「聖遺物の炎を生み出す」「生み出される炎に魂を汚染する猛毒を付加する」

・憎悪の狂炎龍主《マーレボルジェ・ヴェノム・ブラッド・アクセプ》
狂炎龍主の聖十字架の亜種禁手とされているがそもそも色々な事情により変異した神滅具の禁手のため亜種かどうかも不明。
形状は逆十字の模様がある全身鎧、背中から炎で作られた8本のドラゴンの首が出ている。
首自体はそれぞれ独立しているので使用者以外、つまり八岐大蛇によって自由に動かせる。



恐らく次の一誠sideでこの章は終わりかと思われます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

122話

 匙と共に八重垣さんと命を懸けた戦いから数日が経ち、俺は未だにシトリー領にある病院から出られずにいた。悪魔に対して絶大な威力を持つ聖遺物の炎に加えて八岐大蛇が持つ猛毒を浴びた俺と匙は八重垣さん、そしてディハウザー・ベリアルさんを捕えるためにやってきた人達によってこの場所に運ばれた。俺はと言うと匙による解毒とこの身体のお陰か比較的軽症であと何回か検査したら退院出来る……けど匙は別だ。

 

 全身火傷に加えて聖剣での一撃も有り今もベッドの上から動けないでいる。もっともただ動けないだけで意識ははっきりしているしきっと今もシトリー眷属女性陣から熱烈な看病を受けている事だろう。此処に運ばれた時は見て分かる通り、かなりの重傷で医者からも生きられるかどうかは彼次第です……なんて言われたにも関わらず恋人(仮)さんに名前を呼ばれた際に――

 

 

 ――ソーナとエッチするまで死んでたまるかぁっ!

 

 

 という魂の咆哮とも言える声をあげて意識が目覚めたからな! 最初は匙……! とかなり心配してたのにその言葉のせいで一気に気が抜けて泣きながら爆笑したのも言うまでもない! 今は八岐大蛇の毒と聖遺物の炎による火傷を少しずつ治している最中だが期間的に終業式には間に合わないようだ。イリナもかなり申し訳なさそうにしてたけど匙は「俺の我儘で動いた結果だから気にするな」と笑顔で言い放ってた……クッソ、カッコいいぜ!

 

 

『相棒、今日も行くのか?』

 

「あぁ。もう意識が戻ったらしいしな。少しでも話がしたいんだよ……」

 

 

 入院中の俺が今向かっている先は八重垣さんが居る病室だ。俺と匙によって八重垣さんも重症を負い、ディハウザーさんの願いもあって現在治療中というわけだ。昨日までも何度か足を運んだけど戦闘の疲れとダメージのせいか意識は無かったけど今日やっと目が覚めたらしいのでやっと話が出来る。

 

 

『そうか。相棒が決めたんなら好きにするが良いさ、少なくとも奴にとっては必要な事だろう』

 

 

 ドライグも反対する事は無いので八重垣さんの病室まで止まることなく進み続ける。そして特に何事も無く目的地にたどり着いたので目の前の扉をノックすると返事があった。その声は間違いなく八重垣さんの物だと分かったので中に入ると……復讐する事だけを目的としていた八重垣さんでは無く恐らく、いやきっとクレーリアさんと一緒に居た時であろう八重垣さんがベッドの上に居た。

 

 

「……赤龍帝」

 

「えっと……失礼します」

 

「……あぁ、どうぞ」

 

 

 声も穏やかで命のやり取りをしていたとは思えない空気が流れるけど俺は気にせずベッドの隣にある椅子に座った。

 

 

「僕が意識を失っている間も来ていたと聞いた……物好きだね。キミの大切な人を殺そうとしていた相手に何故そんな事が出来る?」

 

「……確かにイリナを泣かせて、イリナのお父さん達を殺そうとしたのは許せません。でも……だからと言ってちゃんと話もしないで終わりたくなかったんです。それに何もしないでいると親友にぶん殴られます!」

 

「ヴリトラか……確かに彼なら迷わず殴るだろうね。おかしな男だ……全く関係のない男の前に立ちふさがって、自分の言いたい事を言って……お陰で色々と思い出す事になった。赤龍帝、敗者の言葉ではないが少し聞いてもらっても良いかい?」

 

「――はい! いくらでも話してください! 何だったら俺の事や匙の事も聞いてくれていいです!」

 

 

 俺の言葉に最初はきょとんとしていた八重垣さんは静かに笑みを浮かべる。きっと復讐に囚われる前はこんな風に落ち着いた人だったんだろう……でもクレーリアさんを失って、自分も殺されて、生き返った後で愛した人が殺された原因が悪魔が隠していた事実を知ってしまったからと知って……色んな事があったからこそ止まれなかったんだ。止まってしまったら……愛した人を見捨てた事になるから……!

 

 

「……僕がクレーリアと出会ったのはほんの偶然だった。悪魔と気づいていたけど何か困っている彼女を見た時……つい、手を貸してしまった。教会の戦士としては失格と言っても良い行為だったけど少なくとも僕は後悔は無かった。彼女も教会の人間だと気づいてたはずなのに笑顔でお礼を言ってきてね……悪魔から礼を言われるとは思わなかったけど不思議と嫌では無かった。そこからだ……街ですれ違った時に話をして、連絡先も交換して、周りにバレないようにいろんな場所へと向かって……気づいた時には彼女が、クレーリアを愛していた……どうしようもないぐらいにね」

 

「……俺も、リアスの兵士になった時はハーレムを築ける! って風にしか考えて無くてなんで俺がとかは二の次でした。でもいつからかリアスの顔を見ていると力になりたいとかって思う様になって……多分、その時にはもう好きになってたんだと思います」

 

「あぁ。僕もそうだ……誰かを好きになるなんて誰にでもできる。それこそ悪魔であろうと教会の戦士であろうとね……でもキミには力があって僕には力が無かった。悪魔の中でも貴族と呼ばれる立場に居る人を愛した事は同じでもそこだけが違った……! 神滅具という大きな力が僕には無かった……! それ以外はキミも僕も、そしてヴリトラも同じだった」

 

 

 うん。八重垣さんの言う通り俺はリアス、匙はソーナさん、八重垣さんはクレーリアさんと身分が上の人を愛している。似た者同士ってわけじゃないけど……時期さえ合えばこうして似たような話題で話せる友達になれたに違いない。

 

 でもそれが出来なかった。八重垣さんとクレーリアさんは悪魔と教会の身勝手な理由で殺され、俺と匙は少なくとも否定されず祝福された。その差が神器や神滅具だとしても俺達は祝福されてしまった……! 否定された人が居たのにも気づかずのほほんと今日まで生きてたんだ!!

 

 

「赤龍帝、キミにも文句を言ったのを覚えているかい?」

 

「……はい。勿論です」

 

「そんな事を言ったせいか……先ほどまである夢を見ていたんだ。彼女と隠れて会っていた場所に僕が居て目の前にはクレーリアが居た……きっと僕は死んだんだと思ったけど実際は違ってね――彼女におもいっきり殴られた」

 

「ゆ、夢の中ですよね……?」

 

「そうだと思う。でもあまりにリアルな痛みで思わず固まってしまったよ……そして僕を殴ったクレーリアがなんて言ったと思う? 神器が目当てで貴方と結ばれたかったわけじゃない……そんな事を言う口はここかって頬も引っ張られて……ロマンチックな夢からほど遠くて、逆に説教に満ちた夢だったよ」

 

 

 呆れたように話す八重垣さんだったけどどこか幸せそうだった。多分だけど復讐に囚われていた自分をちゃんと叱ってくれた事が嬉しかったんだろう……たとえそれが夢だったとしても今の八重垣さんには絶対に必要な事だったに違いない。

 

 

「そんな中でクレーリアが言ったんだ……折角生き返ったんだからこれからは生きなさいってね。死ぬなんて許さないとも……赤龍帝、僕は……これからどうすれば良い? 復讐は止められた……死ぬ事すらクレーリアが許してくれない……! 僕は、何をして生きれば良いんだ……!」

 

「――分かりません。でも、俺が言うとあれかもしれないですけど……クレーリアさんが生きていて欲しいと願っていたと思います。だから……何をすれば良いかなんて今から考えれば良いと、俺は思います!」

 

「……バアルを殺した僕が生きられるわけもない。この傷が治れば恐らく悪魔は僕を殺すだろう……それほどの事をしたんだから当然だ」

 

「……その事なんですけど多分大丈夫です。八重垣さんが寝ていた間に冥界でも色々とあったんですよ」

 

 

 ここからは俺が八重垣さんに説明する番だ。

 

 まずディハウザー・ベリアルさんが何をしたかと言うと王の駒及び王の駒使用者、現レーティングゲーム運営の闇、過去の教会側との取引などなど隠されていたであろう出来事や情報を全て公開したんだ。勿論、普通に公開するだけだったらもみ消されたりすると思うけどディハウザーさんは冥界で人気の動画配信サイト「デビチューブ」という物に顔だしで動画投稿、それと同時に各神話にも同じように動画を送り付けたようだ。冥界のTV局とかだと圧力がかかってダメみたいだが動画配信サイトならば一度上がってしまえば後はもう人間界と同じだ……止めようにも次から次へと色んな所に飛び火する! しかも内容が内容なだけにそれは尋常じゃない速度だったようだ。

 

 そしてトドメに現魔王のアジュカ様もノリノリで動画投稿して王の駒関連の情報暴露により今でも冥界上層部……特にゲーム運営はヤバい事になってるそうだ。

 

 

「……と言う事がありまして。ディハウザーさんも動画の中で八重垣さんは被害者でバアル家初代当主って人を殺したのは自分だとも言ってました」

 

「……あの人は僕に隠れて何をしているんだ。そんなものを信じるほど悪魔は甘くは無いはずだ!」

 

「えーとそれなんですけど……ぶっちゃけます。黒井と光龍妃(あの人)、そして邪龍達が滅茶苦茶満面の笑みを浮かべて便乗してまして……!」

 

「――は?」

 

 

 それは影の国という滅茶苦茶ヤバい所に連れ去られていた黒井達が戻ってきた時の話になる。

 

 二日ほど前にキマリス眷属全員五体満足で死者無しという状態で帰って来たんだがその時にはもう王の駒関連の情報が全神話に広がってたわけで……その事を平家さん経由で知った黒井がこんな事を言った。

 

 

『え? 俺が夜空のお手手でオナニーして夜空の女神級に素敵な腋に液体ぶっかけるという素敵イベントしてる間に何面白い事やってんだよ? はぁ!? ちょっと待て……普通に炎上案件だろこれ。マジか! 炎上も炎上! 大炎上じゃねぇか! クッソ乗り遅れたぁぁっ!! あれちょっと待て……うーんそう言えば最上級悪魔という肩書だったよな俺って……よっしゃ! 偶には最上級悪魔らしく動くとすっか! グラム、ちょっと剣なれ!』

 

『王様、一応聞きますけど何するつもりっすか?』

 

『は? 見れば分かんだろ。ゲーム運営に影龍破ぶっ放すんだよ。ネットで大炎上してるのにリアルで炎上しないとかおかしいじゃん? だったら最上級悪魔らしくね! TV局にも映像という意味で貢献しなきゃダメだろ』

 

『最上級悪魔ってそんなんでしたっけ?』

 

『そんなもんだぞ。おーいよっぞっら~! 今冥界で素敵イベントしてんだけどちょっとデートしませんか! デートしてくださいお願いします!!』

 

『は? ヤダけど』

 

『……あのな夜空ちゃん。俺達影の国でエロイことした仲まで進んだだろ? 普通のデートぐらいしても良いと思うんだよなー! あ、亜種禁手絡みでは大変お世話になりました!』

 

『は? 未だに童貞の分際で何言ってんの? ぶっちゃけさ~アレで禁手変化するとかマジ爆笑もんなんだけど! まーでもいっかー! ちなみにどこ行くん?』

 

『レーティングゲーム運営が居る場所だな。ちょっとリアル炎上させようぜ! 大丈夫だ夜空! 今なら誤射って事で魔王辺りも許してくれる!』

 

『マジで! やっべー魔王って良い奴じゃん!』

 

 

 うん。改めて思い返してみるとひっどいなこれ。特に黒井のセリフ辺りが本当に酷い……! 俺と匙が真面目に! そして凄く真剣に八重垣さんと向かい合ってたのにお前何してたんだよ!? と言うかなんで亜種禁手が変化してんだよ!? 犬月から聞いた時は思わず二度見しちゃったじゃねぇか!! ついでにそんな事を聞かされたアザゼル先生の胃をこれ以上壊さないでくれよぉ!! 一瞬で白髪化した挙句、血吐いたんだからな!!

 

 そんな事で騒いでいるとどこからともなく人間体になったグレンデルとラードゥンが俺達の前に現れて襲撃か? 良いぜ良いぜやろうぜ! とノリノリで外に出て――宣言通り、レーティングゲーム運営及びそれ関係があった場所が更地になりました! 一応苦情対策で偶然邪龍達の殺し合いをしていた場所がそこだったという感じにしたっぽいけど周りからすれば明らかにわざとだと分かるほどだった。うん、やっぱり黒井って頭おかしいよな?

 

 

「……そんな事があったので八重垣さんにもし何かあれば……また黒井達が何かしでかす可能性もあるんで……サーゼクス様達も事情が事情なのでとりあえず捕虜という扱いで命までは取らないと言うのも決めたみたいです」

 

『あとオレの一声のお陰だぜ肉体様よぉ!』

 

「八岐大蛇……?」

 

『オレの肉体様になんかしやがったら完全復活してテメェら全員殺すって言ったんだよぉ! キィヒッヒヒヒッ! アジ・ダハーカもアポプスもグレンデルもラードゥンもそん時は呼べって言ったからなぁ!』

 

 

 ちなみに黒井と片霧さん(あの人)は殺し合いと言うなら参戦せざるを得ない、開催日何時? と平常運転だった。ニーズヘッグはどうやら興味無いらしいけどさ……犬月、お前良く一緒に居られるな。俺ならまず真っ先に胃に穴が開くと思う。今度なんか奢るとしよう!

 

 

「……は、はははははは! なんだそれは……なんなんだそれは……!! 僕とクレーリアを殺した悪魔達が……僕より年下の、しかも同じ悪魔に振り回されるなんて……! はは、はははははは!!!」

 

 

 あまりにも馬鹿げた内容のためか八重垣さんは笑い出した。それもまるで子供のように笑い続ける……暗い空気が一気に変わったけど改めて見て黒井……やっぱアイツおかしい! 絶対におかしい!!

 

 

「こんなに……笑ったのは久しぶりだ……! 赤龍帝、面白い話をありがとう。笑い過ぎて傷が開きそうだ」

 

「ちょ!? それって駄目じゃないですか! えっとい、医者呼びますか!?」

 

「必要無いよ。あぁ、必要ないさ。ただ笑い過ぎて少し疲れた……僕から話してなんだけどもう休んでも良いかな?」

 

「はい! 全然構いません! それじゃあ俺はこれで!」

 

 

 勢いよく立ち上がり扉の前まで移動する。そして取っ手を握り外へ出ようとして――再度八重垣さんの方を向く。

 

 

「……八重垣さん」

 

「なんだい?」

 

「もし、もしですよ? また辛い事があったら……その時は言ってください。どんな事でも俺と匙が力になります! だから……一人で抱え込まないでください」

 

「……はは。あぁ、その時はお願いしようかな」

 

「はい! じゃあ、今度こそこれで失礼します!」

 

 

 八重垣さんの病室から出て自分の病室へと向かっているとお菓子の類を持った犬月とすれ違った。どうやら匙のお見舞いに来たらしいので俺も一緒に付いていくことにした。

 

 

「そう言えば犬月、黒井って今何してるんだ? あんな事したから結構騒がれてただろ?」

 

「あー王様ならいつも通りっすよ? 文句云々は昔から変わらねぇとか実害あるなら殺せばいいとか……うんいつも通り。確か今日はあーなんだっけ……煽られたのに仕返ししないのは悪魔的にも邪龍的にもダメだからちょっとバロールにマイクロビキニ着せてくるとか言ってた」

 

「おいちょっと待て! うちの後輩に何しようとしてんだアイツ!? というかギャスパーは男だぞ?」

 

「美少女に見えるなら男でも構わんという領域に至ってるしなぁうちの王様。現にウアタハっちにも普通に抱けるとか言ったし……そのせいで女性陣の目が、目が……! クライコワイミエナイナニモキコエナイガガガガガガガガガ!」

 

「落ちつけ犬月! マジで落ち着け!!」

 

 

 体が震え始めた犬月を落ち着かせるけどこれは仕方ないと思う。だって話しを聞いてるだけでも黒井が色々と爆弾的なものを積極的に爆破してるようにしか見えないしな! 影の国で片霧さん(あの人)とそのなんと言うか……ちょっと先に進んだらしいから余計に色んな所に影響が出てるっぽい。

 

 頑張れ犬月! 何かあったら泊りに来て良いぞ!!

 

 

「と、とりあえずさ! もう少しで終業式にクリスマスだ! しほりんもイベントでクリスマスライブするんだろ? だったら匙と一緒に行こうぜ! 偶には男だけで騒ぐってのも悪くないしな!」

 

「――あ、ごめんいっちぃ。それ、無理」

 

「え? なんでだ?」

 

「いやだって――」

 

 

 犬月が何やら言い辛そうに俺の方を向いて。

 

 

 「――王様、クリスマスの日に光龍妃と決着付けるみたいなんだ」

 

 

 とびきり巨大な爆弾を放り込んできた。

 

 

 

 

 

 

「……一人で抱え込まないでください、か。本当に……お人好しだ」

 

 

 出会って間もない上、殺し合った相手に対してのその言葉は正気を疑うものだ。でもどこか悪くないという思う自分が居る事に心底驚いている。

 

 

『まさにその通りだぁ! 馬鹿じゃねぇかアイツ! だが――悪くねぇ。少なくともオレはそう思うぜ肉体様』

 

 

 背中から生えている1本の首が話しかけてくる。僕が持つ神滅具に封じ込まれた……いや違う。魂を入れられた八岐大蛇だ。

 

 

「……そう、だな。僕からすれば眩し過ぎる」

 

『抱えてたもん全部なくなったもんなぁテメェ! キィヒッヒヒヒッ! んで? 怪我治ったら何するよ?』

 

「僕から離れる気は無いのか?」

 

『ばーか! ばーかーもーのーめー! オレが気に入った、力を貸しても良いと思った、なら後は一緒に好き勝手にするだけだ。少なくともテメェが死ぬまでは離れる気はねぇ!』

 

「……そうか」

 

 

 討伐された邪龍、日本において知名度の高い八岐大蛇ともあろうドラゴンが僕のような人間を気に入るとはね。何が切っ掛けかなんては分からない……でも僕も悪くは無いと思えている。

 

 

「なら、そうだな……駒王町を見て回りたいんだが付いてきてくれるか?」

 

『良いぜぇ! 美味いもん食って! 面白いもん見て! 精一杯生きようじゃねぇの! あーオレあれ食いてぇ! 寿司!! アポプスの奴が食ってたのを見て滅茶苦茶食いてぇんだ!』

 

「そうか。なら、寿司屋にでも行こうか」

 

 

 もっとも金が無いから行くのは結構先になりそうだけども。

 

 そんな事を思っていると扉がノックされた。今日は来訪者が多い……がいったい誰だと思いながらも返事をする。そして入って来たのは――

 

 

「――局長」

 

 

 僕が殺したかった相手、その人物が入って来た。牧師の服装では無く比較的ラフな私服だ。

 

 

「はは、や、やぁ……八重垣君。今、良いかな……?」

 

「……えぇ、構いませんよ。先ほどまで赤龍帝が来ていたので少し疲れてはいますが話す程度なら問題ありません」

 

「お、おぉ! 彼が! そうか……そうか」

 

 

 なにやら嬉しそうにしながらも先ほどの赤龍帝と同じく椅子に座り始める。こうして顔を合わせて話をするのはいつ以来だろう……クレーリアの一件で僕と局長は話すということすらあまり出来なかったから約十年ぶり……かな?

 

 

「今日は、どんな用件ですか? 教会の人間、しかも貴方のほどの立場の人間が冥界までやってくるとは随分暇なんですね」

 

「……いやー手厳しいね八重垣君。その件だが安心したまえ――今の私は無職だ」

 

「――は?」

 

「今回の一件、そしてキミを守れなかった責任を取って教会を辞めてきた。此処に居るのはこれから職を探す事になる中年おじさんというわけだ」

 

「ば、馬鹿ですか貴方は!! 責任!? そんなの……それは!」

 

「私の責任だ。キミの件が有ったに関わらず自分の娘にそれを伝えずにいた馬鹿な親として……そして娘が愛している男とその友人にキミの事を任せてしまった。しかし……久しぶりに見たよ。八重垣君が驚くところ」

 

「なっ、ぁ、ぐぅ……! 本当に貴方は変わらない! 本当に……!」

 

 

 昔も今のように突然驚くような事をしては周りを明るくしようとしていた。そんな貴方だから……僕はついて行こうと思えた。後悔もした……クレーリアを愛してしまった事で巻き込んでしまったと。悪いのは全て僕だというのに貴方に責任を押し付けたにも拘らず何故そんな風に笑えるのですか?

 

 

「そんな事を……そんな事を言うためだけにやってきたのですか?」

 

「そうだね。ちゃんと言わないといけないと思ったからここまでやってきた。そしてこの言葉もキミに言いたくてね」

 

 

 局長は椅子から立ち上がり姿勢を正す。そして僕の目を見ながら――

 

 

()()()()()! 紫藤トウジと申します! 生まれてこのかた教会での常識しか知らず無職のためこれから新たな職を探す旅に出る男です! どうか……そんな私の()()になっていただきたい!」

 

 

 ――頭を下げた。

 

 

「……なにを、馬鹿な事を……」

 

 

 いきなり何を言い出しているのだこの人は……なんでそんな馬鹿げたことを真剣に言えるんだ。

 

 何時まで頭を下げるつもりだ。これほど迷惑を掛けて、貴方の娘を殺そうとしたこの僕に何故……!

 

 断る事は簡単だ。無理だと言えば良いだけだ。だが――それはどうやら出来そうにないらしい。

 

 

「――()()()()()。八重垣正臣と言います。僕も職が無く当てのない旅に出ようとしている男です。こんな……僕で良ければ新しい友人になってください」

 

 

 逃げる事は簡単だ。でも……キミは望んでいないだろう?

 

 そうだろう――クレーリア。




俺はお前の事が好きだ――「影龍王」ノワール・キマリス

とある悪魔はある一人の女の子に恋をした。

さーて色々忙しくなるよ――「覚妖怪」平家早織
にしし! とうとう決着をつけるつもりかい……誰にも邪魔なんてさせないさ――「酒呑童子」四季音花恋
とりあえず……ご飯大目に作っておきますね――「常識人」水無瀬恵

ノワール・キマリスという男を理解している女達は動き出す。

うひゃひゃひゃ! マジで決める気だよノワールきゅん♪ おじちゃん、興奮しちゃう!――「超越者」リゼヴィム・リヴァン・ルシファー
これが地双龍同士の戦いですか。勉強になります――「全ての悪魔の母より生まれた者」ユーグリット・ルキフグス

どうやら彼らはただの観戦者となったらしい。

ふれー! ふれー! 悪魔さーん!――「アイドル」橘志保
ふ、ふれー! ふれーですわ!――「双子姫」レイチェル・フェニックス
主様、がんばれ。がんばれ――「茨木童子」四季音祈里

どこから見ても真面目な戦いのはずなのに何故チア服を着ているのか。

割とマジな感じなのになんでこんなに周りの空気が緩いんすかぁ!!――「パシリ」犬月瞬
我が王よ! 何故我らを使わん! 今こそ我らを使う時だろう!――「魔帝剣」グラム

安定のポンコツ枠で不憫枠である。

ゼハハハハハ! とうとう決着の時だぜユニア! 勝つのは俺様の宿主様だ!――「影の龍」クロム
クフフフフフ! そのセリフ、そっくりそのままお返ししましょう!――「陽光の龍」ユニア

全ては自らの宿主が最強だと証明するために。

クハッ! 良いぞ良いぞ! お前の強さを証明してみせろ我が弟子よ!「真なる師匠」スカアハ
おいおい姉さん。今回は邪魔は無しだぜ?――「師匠」オイフェ
だからなんで僕を女装させようとするんだぁー!!――「影の龍の嫁」ウアタハ

章名が影の国というのに途中から八重垣ストーリーになったために出番が少なくなった彼らは……!

ノワール、さようなら「光龍妃」片霧夜空


遂に彼らの決着が――


次章「影龍王と光龍妃」


※予告通りになるかは作者次第。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王の番外編4
とある昔の影龍王


何故か本編よりも先に書きあがってしまった番外編です。
時系列的には本編開始前、ノワール・キマリス君12~13歳ぐらいの出来事。


「ではでは~これより第一回! 沙良様のダイエット大作戦会議の開始でっす☆」

 

 

 思わず揉みたくなるほどのお胸を強調し、ババーンという効果音が響き渡りそうなほどテンションがクソ高いミア……いや蛇女が俺の目の前に居る。沙良様ダイエット大作戦と大きく書かれたホワイトボードをどこからともなく持ってきてる上、これまたどこから手に入れたか分からないが人間界にある学校での体操服――即ちブルマ姿を晒しているが俺からすれば実年齢考えろとかおい無理すんなと言いたくなる。

 

 

「おい蛇女、お前年考えろ」

 

「ノワール様☆ 殺しますよ☆」

 

 

 言いたくなると言うか思わず言ってしまった俺は悪くない。だからそんなクソ弱い殺気を向けてくるんじゃねぇよ……事実だろうが。

 

 

「もう、ダメよノワール。女の子は何時でも可愛い服を着たいものなの。もし夜空ちゃんがお洒落してノワールに会いに来てもそんな事を言っちゃだめよ?」

 

 

 今回の超重要人物っぽい立ち位置に居る我がお母様がなんか言ってるが……女の子? 実年齢百超えてるコイツが女の子扱いで問題無いのかかなり疑問なんでけど?

 

 

「アホか……そこの蛇女と夜空を対等に扱うわけないだろ? それはもうその辺の貴族どころか神様以上に褒め称えるに決まってんだろうが」

 

「ヘタレのノワール様がそんなこと言えるわけないでっす☆」

 

「ハッ! 男は何時だってレベルアップ的なことするもんだぜ? 平家のお陰で女性慣れした今の俺ならば問題ねぇんだよ」

 

「クソ童貞乙でっす☆ いつも通り何も言えないにお酒賭けときますね☆」

 

「その痛すぎて逆に引く格好をどうにかしねぇと彼氏無しの年増蛇から卒業できないぜ?」

 

 

 互いに満面の笑みで殺気をぶつけあっていると母さんの隣に座っている我が父親がそこまでと言って会話を一刀両断する。ちっ……運が良かったな彼氏無しの蛇女! 今日の俺はちょっと優しい気がするから命だけは取らないでおいてやる。ただし後で人間界から取り寄せたマイクロビキニを着てもらうけどな! サイズ辺りは平家に任せておけばいいだろ。アイツ覚妖怪だし。

 

 とまぁ、コントのような何かを終えて改めて状況確認をしてみる。まずホワイトボードに書かれた沙良様ダイエット大作戦なる文字から予想すると……我がマイマザーが太ったんでダイエットしたいと言う事なんだろう。チラリと実年齢より若く見えるとメイド達から評判の母親を見てみるがそこまで劇的に太ったという感じはしない。むしろもっと食った方が良いんじゃないかと思わなくもない……まぁ、世の中にはどれだけ食おうと身長体重が一切変化しない奴もいるから俺の考えなんざ当てにならんが。

 

 そもそもあの規格外……マジで何で太らないのか凄く謎なんだが? 誰かあの謎を解明してくれ。

 

 

「はいはいわかりましたよーだ。んで? そのダイエット大作戦ってなんだよ? 母さん、太ったのか?」

 

「そうなのよぉ~ほらこの前ね、体重計に乗ってみたら……もう嫌になるぐらい増えてたの! それでミアに相談したらダイエットしましょうって事になったのよ」

 

「ちなみに何キロ?」

 

「ノワール、メッよ! 女の子に体重を聞くのは絶対にダメなんだからね」

 

「いやそこ重要だろ? ちなみに俺の予想は一キロぐらいと見てるがどうよ?」

 

 

 俺の言葉を聞くと我がお母様はぷいっと首ごと視線を逸らした。マジか……当たりかよ。というかミアと他メイド勢からもなんで分かった的な視線が凄い件について。すまん、俺も適当に言ったら当たっただけだから気にしないで欲しい。

 

 あとさ――

 

 

「――誤差じゃねぇか」

 

 

 心の中で思ってた言葉をつい言ってしまったがなんか知らないけど女性陣から殺意がこもった視線が飛んできた。あれ……? 一応この場に集まっているメイド達に聞くけどさ、俺ってこの場では親父達の次くらいに偉い立場だと思うんですがそんな態度で良いの? もしこれが他の家だったら即解雇だぜ? まぁ、この程度なら全然怖くないから良いけどよ。あと言ったからには開き直るけど一キロとか誤差じゃねぇの? ぶっちゃけ十キロとかだったらダイエットしようとか思うだろうが此処で食ってる飯で一キロならまだ軽くね? だって毎日カロリー高めな奴っぽいし。

 

 

「ノワール」

 

「あ、はい」

 

「ちょっとこっちに来なさい」

 

 

 これは逆らったらダメな奴と判断して素直に母さんの隣へと向かうと――両頬を引っ張られた。それはもう遠慮なく! そして全力で! 地味に痛いですお母様!

 

 

「女の子の体重で誤差なんて無いの! この口ね! そんな悪い事を言うのは!」

 

「わかっはからひゃめろ。はぁいさーしぇん」

 

「沙良様☆ もっと強めでも問題無いでっす☆ むしろゴーでっす☆」

 

「やれやれ……少しは乙女心と言うものを理解した方が良いと思うがね。あと志月、キミはもう少し女性に慣れたまえ」

 

「……雄介、それは……難しい」

 

 

 俺が両頬を引っ張られているにも拘らず父さんの騎士と僧侶が呆れた顔をしながら談笑している。俺って一応キマリス家次期当主的な立場なんだが助けるとかしないの? あ、しないっぽいな。

 

 この裏切り者めとでも心の中で言っとくぜ。

 

 

「……え、えっと話を戻そうかな? 沙良ちゃんがダイエットする事には反対はしないよ。むしろ協力出来る事なら何でもするつもりだ!」

 

「ネギ君……素敵!」

 

「沙良ちゃん……!」

 

 

 目の前で超ド級年の差カップルが熱い抱擁……というかくそムカつくほどイチャついているので即座に距離を取る。だって近くに居たら口の中が甘くなりそうだし。

 

 そんなこんなで親父達の見たくもないイチャつきを無視しながら第一回母さんダイエット作戦が開始されることになった。ダイエットと言っても我がお母様はどこかのクソ雑魚クソ甘クソ真面目では無いけどクソ雑魚なお坊ちゃまのせいで片足が動かしにくくなってるのでやれることは限られる。そんな中で我がお母様が選んだのは――歩くことだった。

 

 普通に考えて馬鹿だ。杖での生活だってのに歩いてダイエットすると言ったんだからな……当の本人はリハビリにもなるしダイエットにもなるから一石二鳥よ! みたいなことを言ってたがマジで大馬鹿である。えぇはい……絶句ですね。大馬鹿な親父ですらえ、あの……大丈夫? みたいなことを言ったぐらいだし。

 

 

『ゼハハハハハハハ! ダイエットするから歩くとは宿主様のお母様は面白れぇ! うーん! 俺様的にもポイントは高いぜぇ!』

 

「いや単に馬鹿なだけだろ?」

 

『分かってねぇなぁ宿主様! 努力する女ってのはそれだけ良い女なんだぜ? 一歩進むことが難しくとも、辛いと分かっていても実行するあの行動力! 流石はお母様! ゼハハハハハハハハ! これは全力で見守らねぇとなぁ!』

 

「……まぁ、昔みたいなことにはならねぇと思うけどな。歩くのだって領内、近くにミアがいるし四季音と平家にも見張らせてる……あと俺だってあの時と違うからさ」

 

『そうだなぁ! 禁手に至って約一、二年ぐらいか? あの地獄でもねぇが辛い日々を乗り越えた宿主様ならその辺に居る雑魚共なんざ瞬殺よぉ!』

 

 

 木に寄りかかりながらあの日の事を思い出す。俺が「俺」として生まれ変わった日、現実を知った日、誰も信じられなくなった日、そして……アイツと出会ったあの日。キマリス家の奴らによって殺されそうな所をアイツ――片霧夜空に助けられた。勝てるかどうかも分からなかった奴らを瞬殺して俺達の前に現れた時は思わず女神かと思ったのは内緒だ……平家には普通にバレてるけども。

 

 ――これが私のライバルなん? 弱すぎ。

 

 この言葉は今も俺の心に突き刺さっている。当然と言えば当然だ……神器すら無いただの人間である母さんに護られて、そして死なせるところだったんだから。でもそのお陰で今の俺がある……禁手に至るのがちょっと長すぎた気がするがその件に関してはまだ全力を出し切れてないとかそんな感じで思っておこう。うんそうしよう!

 

 

「まっ、慢心しないようには頑張るさ。ところで――そこに居て楽しいか?」

 

 

 視線を斜め上に向けると先ほどまで居なかった人物が座っていた。ノースリーブにミニスカと誘ってるんじゃないかと思われても仕方がない恰好の女――片霧夜空。俺の命の恩人にして惚れた相手だ。

 

 

「別に。暇だったから来ただけ。つーかあれ何してんの?」

 

「ダイエット」

 

「足悪いんじゃなかったん?」

 

「どこかの雑魚お坊ちゃまのせいで杖生活してるぐらいには悪いぞ」

 

「馬鹿じゃん」

 

「馬鹿だよ」

 

 

 コイツ……夜空とこうして話すようになったのは俺の並々ならぬ努力の成果だ。特訓しても禁手にも至れない日々を送っていたある日、何の気まぐれか話しかけてきたんだが滅茶苦茶ビビったのは言うまでもない。だっていきなり現れて死んだような眼をしながら俺を見てきたんだぜ? 俺としては会うにもまずは禁手い至ってからだと思ってたから余計にビビった。

 

 話の内容? ハハ……緊張しまくりで会話という会話が出来ませんでしたが何か? 仕方ねぇだろ! 女の子と話をする機会なんざ無かったんだよ!

 

 今のやり取りだって心臓破れんじゃねぇかってぐらい緊張してるんだからな! 話をしようとしたらいつの間にか消えてて独り言話してた状況は軽くトラウマってるし! もっとも今は何となく気配ぐらいは分かるようになったから成長してるってことにしよう! 流石俺!

 

 

「……まっ、飯食わせてくれた礼に仙術で治してやるって言っても断るんだから馬鹿だとは思ったけどさ。ふーんダイエットねぇ~楽しいん?」

 

「知らん。少なくとも俺はしたことが無いしな」

 

「なんで?」

 

「食っては死にかけてるのを繰り返してるから体重増えねぇ」

 

「雑魚だもんなお前」

 

「……こ、これでも強くなってるんだぜ? お、おお、お前を護れるぐ、ぐらいにはな!」

 

「あっそ」

 

 

 俺知ってる。これってスルーされてるわけじゃない。マジで興味無いから無関心なだけだ。マジかぁ……結構頑張ったんだけどなぁ! やはりもう少し女の子に慣れるべきか……? 最近ようやく平家の裸に触れても問題無いレベルまで成長したんだがまだまだと言う事か!

 

 チラリと夜空の姿を見る。俺の視界を覆いつくす太腿は思わず手を伸ばしたくなる……が! 俺としては腋も良いと思うわけですよ! 特に腋から腰にかけてのラインっていうの? 腕を上げて腋を見せつけてくるあのポーズとか良いと思う! ぶっちゃけ平家が見せつけてきた時はエロと言ったぐらいだし。

 

 でも女の子は男の視線に敏感だと平家が言ってたから見過ぎるとあれか……よし視線を逸らそう。というかこれってチャンスだよな? 前みたいに飯を誘うぐらいは良いだろきっと! ダイエット大作戦なるものが進行中だがそれはそれ、これはこれって事で!

 

 

「あーえっと……なんだ……きょ、今日さ! 良かったら前みたいに飯でも食ってかないか? 母さんだって喜ぶだろうし……お、俺だって嬉しいし!」

 

 

 反応を確かめるべく視線を向けるとそこには誰も居なかった。恐らく俺が視線を逸らしたタイミングでいつもの様にどこかへ行ったんだろう……マジか……マジかぁ……!

 

 

『ゼハハハハハハハハハッ! フラれちまったなぁ宿主様! やっぱ経験が足りてねぇ! 女を誘うんならもっと堂々とするべきだぜ!』

 

「……それが出来れば苦労はしねぇって」

 

『できなきゃ一生誘う事なんざ不可能ってわけよ。俺様としてもユニアが相手ってのは非常に! 非常に不愉快だが宿主様の恋愛だからなぁ! 我慢してやってるんだから絶対に手に入れろよ? 何だったらあの覚妖怪辺りで練習しとけばいいさ』

 

「練習した結果、合体してましたじゃ意味無いんだが?」

 

『それはそれで良いだろうに。あれは宿主様の命令なら何でもするぜぇ? 犬になれと言えばなるし誰かに抱かれろと言えば抱かれるだろうさ。まっ! 宿主様はお優しいからそんな事はしねぇだろうがよぉ!』

 

「……まぁ、うん。はぁ……とりあえずもっと言いたいこと言えるレベルまで練習すっか」

 

『それが良い。頑張れよ宿主様』

 

「おう」

 

 

 結局その日は夜空と再開する事も無く一日が終わった。

 

 そしてダイエット大作戦なるものだが歩くことが結構辛いのと晩飯が腹いっぱい食えなくなると言う事で平家が人間界から取り寄せた運動できるゲームに切り替えた事でどうにか体重を減らせたようだ。

 

 最初からそれにすればよかったとは俺の言葉である。




ノワールと夜空は本編開始時で既に相思相愛ですけどもこんな時期があったんです。
余談ですが四季音花恋と平家早織はほぼ同時期で眷属入りです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

断章:その欲望は全てを変えて

時系列的には一誠、匙両名が八重垣君相手にシリアスしてた辺り。
あの裏側ではこんな事が起きてと思っていただければ……


 死んだ。

 

 また死んだ。

 

 どれだけ死ねば良いのだろうと、あと何度死ねば良いのだろうと思いたくなるほど俺は殺され続ける。

 

 

「――グゥッ……! ァッアアアアアアアァァァッ!!」

 

 

 楽になろうとする意識を無理やり起こし、再び立ち上がる。もう何度このやり取りをしたのか分からないがそんなものを考えるぐらいならば目の前の事だけを考えろ! 余計な事を考えてたらこの殺し合いは一生終わらない! そんな……そんな簡単な事すら思い続けなければならないほど俺は疲弊していた。

 

 

「――クハッ! 良いぞ良いぞ! 良く立ち上がった我が弟子よ! そうでなくては鍛えがいが無いと言うものだ。しかし驚いたぞ? よもやそこまでの()を引き出すとはな!」

 

 

 真っ白の空をバックに俺を見下しているのはこの影の国の支配者にして相棒が最も嫌悪する存在――スカアハ。漆黒のドレスを身に纏い、何かの骨で作られたと思われる槍を手にしながら笑っている……が正直な所、マジでヤバい。既に何日経過したか分からないほど時間が流れてるに加えて飯はおろか水すら口にしてないこの状況、そして何よりも――漆黒の鎧を使い切ったのだからさらに拙い。

 

 得意とする影人形による攻撃もあの槍で真っ二つにされ……死にかけのこの状態で無理やり数を増やしても思考が上手くいかずにルーンによる弾幕で吹き飛ばされる。最悪だ……最悪の状況でもなお俺は諦めたくはないらしい。休憩したいならば好きにするが良いなんて言う言葉があったような気がするが多分……休んだら何もかも最初からのやり直しになるだろう。

 

 

「……」

 

 

 スカアハの言葉に言い返そうにも漆黒の鎧を使用した事による疲れ、休み無しでの影人形精製と使役……夜空との殺し合いで慣れているとはいえどうも今までとは違う気がする。相手が夜空では無いからか? それとも殺し合う前から数百以上は殺されているからか? それとも影の国という場所だからかは知らねぇが今の俺は限界も限界、崖から落ちるのを必死に耐えていると思えるほど死にかけてる。

 

 さらに最悪な事に――

 

 

 ――夜空が規格外になった理由は悪魔、それもルシファー! だったらリゼヴィム、ヴァーリ! 同じルシファーなんだから見つけ出して必ず殺す!

 ――冥界も滅ぼす! 悪魔も皆殺し! 誰であれ生かしてなるものか!

 ――悪魔が居なければ夜空は普通の女の子でいられたのによくも……よくも!!

 

 

 頭の中で今とは関係無い事が何度も何度も響いてくる。全てはこの殺し合いを始める前に聞いたルシファーが行った事を聞いてからだ……! 考えないようにすればするほどどうでも良い事が頭の中に響いてきやがる……!!

 

 

『……様! 宿主様よぉ! 聞こえてんのか!!』

 

「あぁ……聞こえてるよ……! あぁクソ……本当に強いなアイツ!」

 

『当たり前だぜ宿主様! なにせこの()が殺せなかったほどの女だからな! しかし今の宿主様は雑念ばっかでちっとも集中できてねぇ! あと少しなんだぜ? ほんのあと一歩で至るってのに何やってやがる!!』

 

 

 分かってる……あと一歩、いや一手足りてない。

 

 そして最悪な事にそれが何なのか俺は全く分かってないって事だ。

 

 

「……悪い、集中しようにも頭の中で色んなもんが響いててな……! 言い訳にしかならねぇのも分かってるがマジで集中できてねぇよ」

 

『だろうな。大方、あのクソババアが言ったルシファー関連だろう? 俺様は宿主様が思ってることや感じてる事は全て分かるからよぉ! 察しちまうんだなぁこれが! なぁ、宿主様? お前――』

 

「殺し合ってる中で意識を逸らすな馬鹿弟子め」

 

「っ、クソがぁぁ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!』

 

 

 瞬きした瞬間には星空かと見間違うほどの弾幕が降り注いでくる。即座に影を生み出すのと同時に影人形を生成、ラッシュにて防ごうとするも雑念混じりのせいか疲れのせいかは分からないが全くの無駄で俺の体は僅かな肉片程度にしか残らなかった。

 

 

『UndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUndeadUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!』

 

 

 残った肉片から影が生まれ、元の姿へと再構築する。リリスとの殺し合い時に出来たこのバグった音声もどうにか使えるようになったのは良いがまだまだ足りない……! 出力が上がってるのは確かだが全然全く足りてない!! 理由は分かってる――俺の実力不足! それだけだ!!

 

 

「ま、だぁっ!!」

 

「再生するのも良いが速度が足りん。あの馬鹿者ならば(わたし)が接近する前には再生していたぞ」

 

 

 体を再生させた頃には既に槍による攻撃を受けていた。鎧を纏っていようが関係無しに刺殺、薙ぎ払い、体術を絡めた槍捌きにて俺の命を奪っていく。死ぬ度に瞼が重くなっていくも強引に開眼させて体を再生、距離を取るもそこには既にスカアハの攻撃が設置されていた。

 

 気づいたころには既に遅く、足元よりルーンの魔法陣が展開したと思えば俺の視界が一気に変わる。

 

 

「……まじ、かよ!」

 

 

 先ほどまで居た平地ではなく今の俺が居るのが地上でも何でもない空中……いや現在進行形で城から見えたであろう底なしの闇、つまりは崖の下へと向かってるのだろう。背中から悪魔の羽と影の翼を展開しようとすると辺りからスカアハの声が響き渡った。

 

 

「弟子よ、今一度自らを見直すが良い。この妾が鍛えてやりたい男は今の貴様ではない。しばしの休憩とでも思うが良いぞ。あぁ、それと流石お師匠様と叫ぶようにな?」

 

 

 文句の言葉を言う間もなく俺は無数のルーンによる弾幕で何度目かになる死を経験する事になった。

 

 体を再生しようとすれば即座に殺され、死にたくないからまた再生する。そしてそれをどこかからか感知しているのかまた俺を殺しの繰り返し……結局完全な状態で再生出来た時には落下し終えた後だった。

 

 

「……滅茶苦茶、落ちたなおい……俺じゃ、なかったら死んでる……ぞ」

 

 

 辺りを見渡そうにも体が思うように動かない。どうやらそれほどまでに俺は弱ってるらしい……唯一分かるのはクソ硬い棘っぽい何かが大量にあるって事だ。触った感じだと岩という感じでもないが首も動かない上、視界が黒一色に染まってるからマジでなんの上に居るのか分からねぇ……!

 

 

『……あのクソババア、変な気を使いやがって。そんな事が出来るんなら普段からしろってんだ』

 

「あい、ぼう……?」

 

『宿主様、ちょっとした休憩といこうじゃねぇの。幸い、あのクソババアが認めやがったから時間は有るらしいしよ。くそが、マジで死ねあのババア!! まぁ、良い。なぁ宿主様? いい加減認めたらどうだ?』

 

「……何がだ?」

 

『ルシファーがした事によってユニアの宿主はあれほど規格外になったのは言うまでもない。そして全ての元凶は悪魔、だったらそいつらを皆殺しにするってのも当然と言えば当然よぉ。だがな宿主様? お前、こうも思ってるだろ? ルシファーが人間に手を加えた事によってユニアの宿主と出会えた、ここまで生きていられたとな』

 

 

 長年連れ添った相棒から放たれた言葉は俺が頭の中から消そうとしていた事だ。確かにルシファーが生命の実を人間……まぁ、今よりもかなり昔の奴らだがそいつらに使用した事によって今を生きている人間とその血が流れている奴らには「生命の実の力」ってのが流れているんだろう。

 

 夜空があれほどの力を持っていたのもそれが原因でそのせいでアイツは普通からかけ離れる事になった。スカアハと殺し合う前はふざけるな、関わった奴ら全て殺すと思ったが俺が夜空と出会えたのと俺が今まで生きてこれたのは――それがあったからだと気が付くのに時間は掛からなかった。何度頭の中から消そうとしても消えず、余計な事でかき消そうとした結果がこの様だ……夜空の事を考えようとすれば別な事を考えてしまい、雑念しかないから何も起きない……落ち着いて考えてみれば結局はこんな所なんだろうな。

 

 

「――あぁ。そうだよ……ムカつくけどそれがあったから今の俺が居る! 今の夜空と出会えた!! あぁクソ……俺達悪魔のせいで夜空の、惚れた女の人生が狂ったとか、どうしろってんだよ……!!」

 

 

 結局はそれだ。惚れた女が異常になったのは俺達悪魔が原因で、その元凶とも言える悪魔が作った奴の子供……子孫的な感じの俺が悪魔のせいで規格外になった女に惚れる……なんだこれ? マジでなんだこれ? 俺が原因では無いとしても俺達「悪魔」が夜空の人生を狂わせたのに俺は何してんだよ……ホントにさ。

 

 考えれば考えるほど涙が出てくる。普段は絶対に流さないようにしているにも拘らず今この時だけはガキのように泣き続けた……元凶とも言える奴は既にいないしハーデスも殺している! リゼヴィムやヴァーリに言ってもだから? と言われるし何よりも俺の心が晴れない! クソが……クソ、くそぉ……!

 

 

『別に良いんじゃねぇか?』

 

「……は?」

 

『仮にルシファーが原因だとしてもだ、宿主様は宿主様だ。ゼハハハハハハハハ!! おいおいどうしたんだよ? いつもの様に嗤おうぜ! 大声で! 何もかも楽しくなぁ! なぁ、宿主――いやノワール。テメェの欲望(ねがい)はなんだった?』

 

 

 俺の欲望(ねがい)……それは。

 

 

「夜空が欲しい」

 

『おう』

 

「夜空の笑顔が見たい」

 

『そうだったな』

 

「夜空を受け止める……何があろうと……絶対に!」

 

『あぁ、それもだったな! ゼハハハハハハハハハハッ! しっかり覚えてるじゃねぇの! だったらこれも聞くぜ? ユニアの宿主が、あの女が一度でも今の生き方を悔いた事があったか?』

 

 

 ――私は私、ただの普通の女の子な光龍妃で十分。自分が異常だって事は私が一番知ってるし! んなもんを気にしてる時間があるなら楽しいことした方が一番良い! どーせ数十年したら寿命で死ぬんだしさ、今を楽しんでなんか文句ある? ノワール!

 ――へぇ、少しはやるじゃん。ふーん、あのさお前の名前なんだっけ?

 ――あははははははは! お前ほんっと面白いんだけど! うん、これならもっと面白くなりそう!

 ――うんめぇ!! ねぇねぇノワール! これ滅茶苦茶うめぇんだけど!! ちょ、もっと寄こせ! おかわりぃ!! は? 言っとくけど私ってホームレスだぜ? 食える時に食ってなんか文句あんの?

 

 

 思い返してみるとアイツ、今の境遇というか生き方と言うかその辺全く気にしてなかったわ。むしろそれすら受け入れた上で楽しく生きてたな……く、ククク、アハハハハハハ!! あーなんだよ! あーだこーだ言って考え過ぎて自分を見失ってたのは俺じゃねぇか! ガキだなぁ俺って……本当にガキだなぁ。

 

 

「――ねぇな」

 

『だろう? だったら良いじゃねぇの! 元凶は元凶で俺様達には一切全くこれっぽっちも関係ねぇ! まぁ~あれだ。リゼちゃん辺りはぶち殺して良しとしようや。ゼハハハハハハ! なぁノワール。今のお前が出来るのは惚れた女を幸せにすることだ。これでもかってぐらい構って構って構いまくって幸せにしてやれ! 勿論抱きまくってガキも沢山産ませるのも忘れんなよぉ! ()の将来の楽しみなんだからな! ゼハハハハハハハハハ! 俺様! 早くお爺ちゃんと呼ばれてぇのよ! もしくはパパでも可だ!』

 

「……なんだそれ? あ、言っておくがパパもお父さんもお父さま父上とーさまといった類は俺専用だから! いくら相棒でも……うん別に良いや。だって俺達、一心同体だしな」

 

『そうこなくっちゃ! 何だよ宿主様? 調子戻って来たじゃねぇか! それでこそ()の宿主様だ!』

 

 

 ゼハハハハハハと楽しそうに笑う相棒だったけど今この時は本当にお前が相棒で良かったと思える。俺が感じた事は相棒も感じて、相棒が思った事は俺も思って、二人で一人、一心同体だからこそのノワール・キマリスなんだ! なんかおもいっきり笑ったら腹減ってきたな……マジで腹減った。

 

 体力もある程度回復したので起き上がって辺りを見渡すもやはり黒一色。唯一分かる地面もなんか土でも無ければ石でも岩でもない別の物……うん、食い物もないと言うか全く分かんねぇ。

 

 

『あ、ちなみにだが宿主様? 今何の上に居るか理解してるか?』

 

「いや全然。え? 俺って何かの上に居んの?」

 

『ゼハハハハハハハハハ! 当然だぜ宿主様! 良いかよく聞けよ? 今宿主様が居るのはな――俺様の肉体の上よぉ!!』

 

 

 自信満々に言い放ってるところ悪いけどちょっと今考える時間をくれ、いやください。え? この土でも石でも岩でもないこれって相棒の体なの? うっそマジで? え? なんでこんな場所にあるんだよ!? 普通は城の中とか……いやうん、あのスカアハだからこれぐらいしてもおかしくは無いな。マジか、マジかぁ。

 

 

『聖書の神によって神滅具に魂を封じられた後で回収してたらしいな! あのクソババア! やってるとは思ったがよりによってこんな地の底とは思わなかったぜぇ! まぁ良い。宿主様、腹減ったなら俺様の肉でも食え! ゼハハハハハ! 味は勿論保証するぜ? 滅茶苦茶美味いと評判だったしなぁ!』

 

「えー……えー……? てか食われたことあるのかよ」

 

『スカアハの奴がまだガキだった時な、腹減ったと言って俺様を指を切り落として食いやがったのよ。そんでドハマりしたのか定期的に食われてたなぁ……思い出したらムカついて来たぜぇ! おい宿主様! とりあえず腹いっぱい食ってスッキリしてから再戦と行こうや!』

 

「お、おう。うん? スッキリ?」

 

『あったりめぇよぉ!! 考えて見りゃ宿主様、影の国(こっち)に来てからオナニーしてねぇだろ? ムラムラしてっから変な事考えちまうんだぜ! だったら一回スッキリしちまえばきっと何かが起きるに違いねぇ!! なんせあと一歩だったからなぁ!』

 

 

 とりあえず相棒が変なテンションになったっぽいので落ち着く為にも飯でも食おう。相棒が食って良いと言ったから遠慮なく影人形で鱗……で良いんだよな? それを引き千切り、肉の部分を抉る。見た目はどんな物か確かめようにも真っ暗すぎて何も見えないのでもう諦めてそのまま口にした。

 

 結論から言うと滅茶苦茶美味かった。うん、思わず手当たり次第に肉抉って食った程度には美味かったとだけ言っとく。ドラゴンの肉ってこんなに美味いのかよ……! そりゃドハマりするわ。あ、ちなみに魂が入ってない状態でも相棒曰く再生するっぽい。元々が影の国の「影」から生まれたからそこは魂関係無く発動するんだとか何とか……スゲェなおい。

 

 

「――よし腹いっぱい食った! あとはオナニーするだけだが……オカズないんだけど?」

 

『安心しろ宿主様! 此処にはウアタハたんという素敵女神が居るからよぉ……! 男のくせに男を惑わすあの体! 果実を思わせるあの体臭! 程よい筋肉からの柔らかいあの尻穴……!! 俺様が補償するぜ宿主様!! いざウアタハたんの下へ急げって奴だ!』

 

「なぁ、相棒。ぶっちゃけ相棒がスッキリしたいだけだろ?」

 

『当然だかなんか文句あるか?』

 

 

 あるわ! なんで夜空のために別の亜種禁手に変化させようとしてるのに別の奴、しかも男の娘に浮気しないといけないんだよ! んなことしたら夜空ブチギレからの眷属女性陣がヤンデレモード突入するわ!! 犬月死ぬぞ? マジで死ぬぞ? いい加減アイツの胃に穴が開いてもおかしくないほど現状ヤバいんだからな!

 

 ん? 夜空のため……よし! その手があった!! よっしゃ! 待ってろ夜空!

 

 思ったら即行動は邪龍としても悪魔としても当然なわけで即座に影の翼を生やし、オーラを纏いながら上空へと飛んだ。上に行くにつれて撃ち落とそうとする弾幕が放たれてくるが今更そんな物に構ってる暇は無いので今までで見た事が無いほどの再生速度で突破する。弱音吐いたらマジで楽になったわ……サンキュー相棒!

 

 

「――クハッ! そうだ! それでこそ我が弟子だぞ! 良い、実に良い! 良かろう、このスカアハ。全身全霊を持って貴様を鍛えようか!」

 

 

 全力で飛んだお陰で比較的早めに戻ってこれたのは良いが今度は満面の笑みでわけわからんことを言い放ってるスカアハが待ち受けていた。いや待って! 今お前に構ってられないの! お前を相手にする前にまずは夜空だからマジで待ってろ!

 

 

「師匠! 師匠様! ちょっとオナニーしたいんでもうちょっと待ってもらって良いですか! あ! それが終わったらきっと亜種禁手が変化しますんで!」

 

「ほう。確かに溜まったままでは雑念が入るのも確か。良かろう! ここまで生き延びた褒美としてこの妾が手伝ってやろう。なに遠慮するな、むしろ光栄に思えよ我が弟子よ。なにせ妾自ら手伝う事は滅多に無いのだからな! うむ、最後にしたのは何時だったか……セタンタを鍛えていた時か。クハッ! そう嫉妬はするな我が弟子よ? 今の妾はお前しか見ておらぬのだからな! むしろ手伝うではなくそのまま貪っても一向に構わんぞ。聞けばいまだに童貞と言うではないか? このスカアハの弟子がそれでは師匠として恥ずかしいというもの、故にその手の類も鍛えてやろうではないか! まずは無難に妾、慣れてきた辺りでオイフェも混ぜるか。うむ、ウアタハも男ではあるが何事も経験も必要というものか……あの馬鹿弟子の件もある。よし呼ぶとするか!」

 

「何言ってるか分かんないけど夜空に頼むんでいらないです」

 

「馬鹿者。そこはお願いしますお師匠様という所であろう? しかし……良いだろう。思う存分発散してくるといい。しかしそれでもなお変化しないならば――分かっているな」

 

 

 今以上に殺されるんですね分かります。

 

 

「ア、ハイ。つーわけで夜空ちゃーん! オイフェと殺し合ってるところ悪いんだけどちょっと手伝ってくれ! いや手伝ってくださいお願いします!!」

 

「は? なんの?」

 

「オナニー!」

 

「死ね」

 

 

 遠く離れてるので大声で言ったら雷光が飛んできた件について。この野郎……!! 人が聞こえないだろうと思って親切全開で言ったというのに雷光飛ばすんじゃねぇよ!! ぶっちゃけそれって俺の天敵みたいなもんだからな! どんだけ硬かろうが普通に突破されるって悪夢でしかねぇよ!!

 

 即座に再生しながらスカアハから離れて夜空の下へと向かう。こっちはこっちでかなり激戦だったのか辺り一面焦土になってるが気にしないでおく。

 

 

「はい再生再生っと。あのな夜空? 俺がいつもやってるオナニーをしたいがためにお前に頼んでるわけじゃねぇんだよ。ぶっちゃけ俺の亜種禁手変化にはお前の力が……いやそのお手手! そしてなによりもその腋が必要なんだ!」

 

「いや知らねぇし。つーかそんなもんのためにこの女神級に可愛い夜空ちゃんの手とかを汚すわけねーじゃん。寝言は寝て言えって言葉知ってる?」

 

「知ってるが今は置いておいてだ……お前リリスちゃんと殺し合った時の事を覚えてるか? あの時はお前の素敵すぎる腋を舐めたら滅茶苦茶パワーアップしただろ? だったら今度はお前にオナニー手伝ってくれたらきっとあれ以上の事が起きると思うんだよ! いやむしろ起きると言っても良い!」

 

「コイツ死に過ぎて頭おかしくなってんだけど? 一回目覚まし代わりに死んどく?」

 

「安心しろよ夜空! さっきまで弱音吐きまくりのクソ雑魚ノワール君だったけど今は平常運転ノワール君だぜ! そもそもお前以外に頼むわけねーだろアホか」

 

「覚妖怪」

 

「あれはノーカンで。良いのか? 此処で断ったらアイツ、満面の笑みでこっち来るぜ?」

 

 

 ちらりと視線を感じる方を向くとどこで見つけたか分からないが「呼べば何時でも使えるノワールのオナホです」と書かれたプラカード持ってこっち見てる平家が居た。アイツ何してんだ? あとそれどこで見つけたのか後で教えなさい。あーそれとなんか知らないけどヤンデレモードになってる四季音達をどうにかしてくれ! うん! 犬月と曹操が見当たらないけどそこにある二つの段ボールが全てを物語ってるから早急に頼むわ!

 

 

「な?」

 

「……やっぱアイツ殺しとくか。つーかぁ! この夜空ちゃん抜きでスカアハと殺し合うとかズルいぞぉ! 混ぜろよぉ~こっちはこっちで楽しいけどやっぱ気分的にはそっちじゃん? そもそもそんな馬鹿なことしてマジで勝てるん?」

 

「勝つな。そもそもお前絡みで俺が強くならなかったことがあるか?」

 

「……うーんチョイタイム」

 

 

 なにやらこそこそとユニアと会話し始めたがこれはイケるのではないだろうか! なんだかんだで夜空ってクッソチョロイ気がするし押せば何とかなるかもしれん! あれ? マジでイケるだろこれ! 夢にまで見たというか我慢できずに自分だけのエロゲ作れると評判のエロゲでシーン作成したぐらい妄想しまくった光景がもうすぐそことか……魂が熱くなるな。

 

 

「ねぇノワール」

 

「ん?」

 

「マジで強くなるん?」

 

「おう」

 

「――だったら手でシテやってもいいけど?」

 

 

 無言のガッツポーズからの無意識レベルでシャドーラビリンス発動していた俺は流石だと思いたい。どこからか死ねば良いのにという言葉が聞こえた気がするがきっとなんちゃって覚妖怪辺りだろうと勝手に判断する。

 

 

「夜空」

 

「ん~なにさ?」

 

「マジで言いの?」

 

「……まぁ、良いけど。ぶっちゃけあの覚妖怪に先越されたまんまってのもムカつくし」

 

 

 鎧状態を解除した夜空が凄く照れてるようにも見えなくもない。クッソ可愛い。女神かよ、女神だったわ。

 

 

「夜空。今から言う事を実行してくれ……まずは服を脱ぎます。あ、半脱ぎで! 全部脱ぐより半脱ぎの方がエロいから! そんで手でシテる時はこう、キモみたいな感じの目線で頼む。ついでにボロクソ言っても構わん! むしろお願いします! あと腋にも擦り付けたりなんだりするが気にするな。むしろそこが本命だから――」

 

「キモ」

 

 

 ()()が終わった後、俺は新しい亜種禁手を手に入れた。




◇ノワール・キマリス
片霧夜空の手と腋によって「影龍王の再生鎧」から「???」へと変化した。
なにやら今まで生きてきて一番嬉しかったらしく新生亜種禁手に至った後、スカアハの片腕を引き千切った上、片膝をつかせることに成功した模様。
これには影の龍クロムもニッコリである。

◇片霧夜空
いきなり惚れてる相手がとち狂った事を言ってきたがここで「手伝えば」他の女達に一生勝ち続けるぞと半身とも言える陽光の龍ユニアに唆されたのでまぁ別に自分の男に手を出すのは普通っしょ普通、つーかあの覚妖怪何勝手に手を出してんだよマジで覚えとけなどの乙女心的な何かを全開にした結果、ノワールの亜種禁手が本当に変化したので爆笑した。

◇眷属陣
ノワールと夜空がシャドーラビリンス内で何をしていたかはグラムと四季音妹以外の眷属女性陣は気づいているため平家以外はしばらくヤンデレモードに入っていたとか何とか。
犬月? 曹操とメル友になった以外はいつも通り。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と光龍妃
123話


 これは夢なんだろう。

 

 黒、黒、黒と辺り一面がその色で染められている世界が見える。黒色……いや影での作られた城の内部、豪華な装飾すらない真っ黒いだけの部屋を俺は真上から見下ろしている。ただしかしそれだけだ……見えるだけで体を動かせるわけでも何かに触れるわけでも無く、ただ()()()()事しか出来ない。どう考えても俺が持つ影龍王の手袋内の光景を見てるとしか思えないが現実の俺は既に爆睡中でその前の出来事を思い出したとしても橘達が平家相手に俺の膝の上やら真横争奪戦と称したゲーム大会を挑んでいるのを見てドン引き、なんとかしろと犬月を見ればどこから用意したのか分からない段ボールの中に入り込み無視を決め込んだのを見て爆笑したぐらいだ。つまり影の国から戻ってきてから至って普通の日常を送っていたから神器内に意識を落とす理由は一切ない。

 

 だからこんな風に無理やり神器内に意識を送られる切っ掛けらしい切っ掛けは無いと言っても良い。しかし起きてしまった以上は仕方がないので目が覚めるまで楽しむとしようかねぇ? なんか面白そうだし。

 

 

《我らが悪魔が宿敵である女王と決着をつけるようだ》

 

 

 上から下まで真っ黒のローブを着た誰かが突如現れ、胡坐をかきながら先の言葉を言った。顔は見えないが声からして男、真上から見ている俺からすれば歴代影龍王の内の誰かだろうという認識だ。

 

 

《や~れやれ、ようやくかよ。待たせ過ぎだって話だ》

 

 

 数多の屍の上で座り込んでいる男が声を上げる。こちらはローブこそ着ているが顔を見せている。しかし表情はまるで削り取られたかのように黒い何かで覆われており分からない……が俺はこいつを知っている。確か俺が歴代共を自分の呪いで染めようとした時に一番早く同意した奴だ。

 

 ソイツは趣味の悪い屍の山という椅子に座り込み声が荒々しく上げて周りに問いかけ始めた。

 

 

《なぁおい? お前らもそう思うだろ?》

《私としてはもう少し先かと思ってたけどね》

《左様。次々と起こる……なんと言ったか? そうイベントという奴だ。それがある故にまだ起こらぬと思っておった 》

《我らが悪魔が決めたのなら異論は無い。それともアンタらは反対なのか?》

《まさか。むしろ大賛成してるわよ。ようやくあの女王を跪かせる事が出来るんだもの》

《反論などあるはずが無かろう。我らが悪魔が決めたのならば我らはそれに付き合うのみ》

 

 

 男、女、少年、少女、老人と影龍王の手袋を宿していたであろう者達が次々と現れる。そのどれもが真っ黒いローブを身に纏い、表情が黒い影で塗りつぶされている。それらが現れた事を見た屍の山に座った男は呆れた声色で話し出す。

 

 

《反対だの賛成だのくっだらねぇ。殺したいなら殺す、犯したいなら犯す、食いたいから食う、寝たいから寝る。俺達の存在意義なんざそんなもんだったろ? アレがやるっつうなら俺はやりたいようにやる! それで十分だろうがよ 》

《然り。我らは各々がやりたいようにやる事を我らが悪魔より許されただろう。ならその通りにするだけの話。それとも臆したか?》

《それこそあり得ない。かの女王との決着は必要不可欠な事だ、逃げ出すくらいならばこの思念(からだ)が消滅するまで殺し合う事を選ぼう》

《その選択は間違いではない。現に我らはそれ()選んでいるんだからな。恐らく――代目はあの女王に勝つために我らが出来る事は何だと言う事を言いたいのだろう》

 

 

 腕も動かせず、足も動かせない俺は会話を聞くことしか出来ないが……まさか俺を呼んだ理由ってそれか? マジかお前ら……いきなりなにやってんの?

 

 

《それこそ決まってんだろ。やりたい事をやる、全てはこれなんだよ。今さら俺達が何かした程度で強くなるんならとうの昔にやってんだろうが? アレの勝利を願うんなら俺達がやりたいようにやれば良い! 今から楽しみだぜ……あの強がってる女が屈服する瞬間! 女は男に勝てねぇという事実! その全てを教え込めるんだからよぉ! 》

《然り。此処に居るのは――代目のようにどうしようもないクズしか居ない。我ら全てを受け入れた悪魔(やつ)を思うならば少しでも欲を高めておけ》

《勝てるか勝てないかじゃない。勝つんだよ、僕達は。そもそもそれしか目指してなかっただろう? どうせならそんな当たり前な話じゃなくてもっと先の話をしようよ。何の話かって? ハハハ、あの女王の調教する事に決まってるだろう? あの女王って絶対尻穴弱いと思うからそこを重点的に調教するように悪魔(かれ)に言っても良い?》

《言わなくても我らが悪魔なら既に攻める事は確定している。あの女王は尻が弱点だろうからな》

《見るからに弱そうよね、尻穴》

《うむ》

《一度その快感を味わえば即堕ちするだろうな》

 

 

 うん、俺もそう思う。

 

 

《お前達は何も分かっていない! 悪魔(アイツ)は腋が全て! 腋こそ至高だのと言っているが相手がロリなら生やすべきだ! 早急に堕天使共に道具作成するように脅すべきだと悪魔(アイツ)に言うのが先だと思うが?》

《言われなくても我らが悪魔なら既に実行まで秒読み状態だ。もっとも一番手はあの鬼だろうがな。むしろそうするべきだと伝えるべきだ》

《生やされた鬼が自分を慕っている鬼を犯す。最高という奴だな》

《触手はどうする?》

《あの悪魔(おとこ)ならば影の人形を操れば自前で出来るだろう。問題無いはずだ》

《ならばよし》

《お前ら女神の血シリーズに影響されただろ》

 

 

 まぁ、そもそも俺の呪いで染め上げたからなぁ。影響されても仕方ないネ!

 

 

《早く覚妖怪を屈服させたい》

《そもそもあれはもう屈服したと言っても良い状態だろうが》

《あのアイドルとAV堕ちプレイを――》

《既に我らが悪魔のやりたい事リストに入っている》

《あの魔剣をメス堕ちさせたい》

《既に我らが悪魔のやりたい事リストに入っている》

《保険医といけないプレイを――》

《既に我らが悪魔のやりたい事リストに入っている》

《バロールをメス堕ちさせるべきだ》

《マイクロビキニを着せたのだから遅かれ早かれ必ず行うだろうな》

《あの不死鳥姫を調教したい》

《既に我らが悪魔のやりたい事リストに入っている》

《母娘丼》

《必ずやってくるから安心しろ。なんならおかわりもあるぞ》

 

 

 そこは否定してくれませんかねぇ? 俺もそのイベントは絶対に発生するだろうとは思ってるけどそこは否定してくれませんか? あとツッコミご苦労様。

 

 

《どいつもこいつもエロ系しか頭にないのか? やりたい事と言ったらまず第一に殺戮だろうが。悪魔は殺す、天使も殺す、堕天使も人間も獣も神も例外なくだ! 殺して殺して殺しまくって歓喜の声を上げようぜ!》

《他の奴らの気持ちも分かるわよ? だって悪魔(アイツ)の傍に居る女ってみ~んな美形だものね。汚したいって気持ちは十分理解できる。で・も♪ それはそれ、これはこれって感じでさ~あの女王に勝ったならあとは邪魔な奴らを皆殺しが最優先だと思うの。だってウザいじゃない? 私含め此処に居る全員、今まで危険だからって理由で殺されたのに今になってひつよーだーとか♪ う~ん、殺したい♪》

《一緒にしてもらっちゃ困るな。そんなアホらしい理由で殺されたのは影龍に唆されて堕ちた元善人共だけだろ? 俺は他の神滅具使いとの殺し合いの果てで死んでんだ。叶うならばあの狗とはもう一度殺し合いてぇな》

《あの狗か。確か――代目はアレの保有者に敗北していたな? 安心するが良い、我らが悪魔ならば必ずやあの狗相手にも勝利するだろう》

《ヴリトラとも殺し合いたいものだ。あれほどの素直な欲の持ち主は中々居ない》

 

 

 こっちはこっちで殺戮系の話題が飛び交っている。流石俺の先輩方、頭がおかしい。改めて思うが俺って良くコイツらを呪いで染め上げれたな……ま、この程度なら別に嫌悪するわけじゃないから問題無いけども。だって生きているなら誰だって思う感情を言ってるだけだしな。

 

 

《それで良い。あぁ、それで良いんだよテメェら。堅苦しい空気よりもこっちの空気の方が()()()ってな。アレに協力したいなら各々勝手に、好き勝手に! やりたいようにやるのが一番って奴だろうぜ。なんせ歪んだ欲望(ねがい)覇の理(おれたち)を強くし、そして巡りに巡ってアレの為になる》

 

 

 数多の屍の上に座る男は真上……つまり俺を見て――

 

 

《なぁ、後輩。俺達は俺達で好きにやるからよぉ、テメェも好きに生きろや。そんで俺達をもっと楽しませろ。お前は俺が心の底から従っても良いと思った男なんだからな――あと腋よりも胸だろばーか》

 

 

 ――影で削り取られた顔で静かに嗤った。

 

 

 

 

 

 

「……いや腋だろ」

 

 

 いつもの朝、見慣れた天井が視界に映る。普段あまり夢は見ないような気がするが珍しく夢を……しかもとびっきり良い夢を見た気がする。しっかし歴代の奴ら、滅茶苦茶はしゃいでるなおい! 俺が夜空と決着をつけると聞いて各々出来る事を探すとか……そこまで親切だったっけ? ありがたいような気がするけど俺としてはお前らじゃなくて夜空の夢が見たかった。具体的に言うとエロエロイチャイチャ系の奴な!

 

 

「影の国で散々したくせに何を言う。あとおはよう」

 

「あんなのイチャイチャの内に入らねぇっての。つーか珍しいな? お前がこんな早起きするなんてよ。そしておはようだ」

 

 

 俺の左腕に抱き着くように寝ている平家が若干眠そうな目で俺を見つめてくる。コイツがベッドの中に居ること自体は別段驚くようなことでもない……というよりも昨日は争奪戦に完全勝利した平家を引き連れてエロゲして眠くなったからそのまま一緒に寝たしな。そもそも平家相手にゲームを挑むこと自体が無謀だぞと発案者の橘に後で言うとして――右腕が滅茶苦茶気持ち良い件について。

 

 チラリと右腕を見るとすーすーと寝息を立てているレイチェルが居る。パジャマ姿で俺の右腕を絶対に離さないという強い意志を持って抱き着いているのだろう……平家には無いそのおっぱいの感触が非常に素晴らしい。最高だね! 季節は冬だというのに薄めのパジャマと言うのもまた良い! まぁ、それはそれとしてなんで居るんだ? 確か争奪戦という名のゲーム大会は平家の圧勝だった気がするんだが?

 

 

「お姫様達だけで潜り込み券を賭けてゲームしてたみたい」

 

「なるほど、それに勝ったのはレイチェルというわけか」

 

「協力するフリをして普通に裏切りとかあったから凄く醜い争いだったね。知りたいなら話す――うん、後で話してあげる」

 

 

 そんな……そんな面白そうな事を黙ってろとか言うわけないだろ。とりあえず昼飯辺りに頼むわ。

 

 

「……きま、りす、さま……?」

 

 

 平家と話しているとレイチェルが目を覚ました。寝起きの美少女ってなんか……良いよね! 多分歴代の何人かは同意してくれる気がする! まぁ! 俺は腋こそ至高だと思ってますしぃ! 夜空の腋が一番素敵だと思ってますからぁ! おっぱいの魔力には負けませんけどね!!

 

 

「おはようさん」

 

「おはよう……ございます……」

 

 

 もぞもぞと右腕に抱き着く力が強まった事により俺は一つの考えに至る。

 

 やっぱりおっぱいも良いよね!

 

 

「即落ち乙」

 

「仕方ねぇだろ。むしろこれやられて即落ちしない奴なんざヴァーリぐらいだぞ」

 

 

 まぁ、あの戦闘狂でラーメン好きなクソイケメン白龍皇様はそもそも女と一緒にベッドの中に居ること自体ないだろうが。そんな事が起きてたらあの黒猫ちゃんが美味しく頂いてるだろうし。

 

 そんなこんなで今日は終業式なので三人仲良くリビングへと向かう。途中、平家がレイチェル相手に卑しいだの無駄な努力乙だの身体使っても光龍妃に勝てないだのと煽りのような何かを言っては仲良く喧嘩してたのは言うまでもない。うーん! これだよこれ! 影の国に向かう前に起きてた日常的風景! そうこれなんだよな! 流石に朝っぱらからヤンデレ系イベントは起きるわけないし今は水無瀬が作る朝飯でも食べて夜空との決戦だけを考えようかねぇ。

 

 

「あっ! おはようございます♪ 悪魔さん♪」

 

 

 初っ端から満面の笑みにも拘らず目に光が無いアイドルと出会ったんですけど?

 

 

「おはようさん。たちば――シホダケカ?」

 

「はい♪ 花恋さん達ももうすぐ起きると思うので悪魔さんは先に座っててください。今、水無瀬先生がご飯作ってますから♪」

 

 

 あのー滅茶苦茶怖いんですけどー! 声のトーンは普通、笑顔も非常に素晴らしいのに目に光だけ無いんですけどー! あとなんか隙見せたら食われそうな感じがするんですけどー! おかしいな……クリスマスにはみんなのアイドル橘志保が一日限定で復活するというのに今のままではファンの子達が泣いてしまいますよ! しかも今回に限っては鬼や妖怪共が「しほりん居る所に我ら有り!」とか何とか言って親衛隊もどきするというのに……まぁ、この状態でもあいつ等にとってはご褒美か。

 

 しかしなんでまぁ……こうなってんだ?

 

 

「ノワールと光龍妃の仲を改めて理解したからこそ焦ってるんだよ」

 

「マジか? 理解も何も俺の眷属になる前から分かってたと思うんだがなぁ」

 

「……女性と言うものは頭では理解できても心は理解できないのですわ。えぇ、私も志保さんと同じ気持ちですもの」

 

 

 頭と心の両方で理解してくれませんかねぇ? あとレイチェル? 目に光を宿してくれません? 平家の煽りに屈したらダメだぜ!

 

 そんなこんなで起きてきた四季音姉妹にグラム、犬月と合流し水無瀬が作った朝飯を食べる。白米に味噌汁、おかずが何点かという一般家庭ならば至って普通な和食だ。テレビのニュースを見ながら食べ続けるが流石水無瀬、俺好みの味付けだ……橘やレイチェルが作る飯も美味しいし俺好みの味付けになってきてるけど俺としては水無瀬が作る飯が一番だな。

 

 

「あー先に聞いとくが終業式終わった後、なんか予定有る奴いるか?」

 

 

 俺の質問に対して犬月達はそれぞれ特に無いと返答してくる。まぁ、分かりきってた事だから問題無いとして……おい犬月? お前目が死んでるけど大丈夫か? まさか今の状況で心にダメージを負ってるんだったらもう諦めろ。うん……諦めろ! 大丈夫だって! ただ平家とグラムと四季音妹を除いた女性陣の目が狩人になってるだけだからさ! いつもの事いつもの事!

 

 

「……あのさ、その捕食者みてぇな視線止めない?」

 

「悪魔さん? 何を言ってるんですか?」

 

「にしし~あっさかぁ~ら~へんなこと~いってるぅ~このかわいぃおにさんがぁ~そぉ~んな怖い目をするわけないだろう?」

 

「最後だけ素に戻るんじゃ――ハイスイマセンダマリマスアーゴハンオイシイー!!」

 

 

 屈するな犬月! 負けるな犬月! お前が最後の砦だ!

 

 

「ノワール君、朝から変なこと言わないでください。それよりも予定を聞いてどうしたんですか?」

 

「え? 普通に思った事聞いただけなんだが……まぁ、良いか。いや影の国から帰ってきた時にも言ったがクリスマスに夜空と決着つけるからその打ち合わせ的な? まぁ、話し合い?」

 

「……キマリス様の様子から分かっていましたけれど本当に決着を付けますのね」

 

『ツまり我ラの出番トいウ事だな! ヨカロう! わレらを思うゾンぶん使うが良イ!』

 

「いや使わねぇけど? てかなんで使うと思ってんだお前?」

 

『ナヌぅ!』

 

「はいはーい、グラムは飯でも食ってろーっと。あの王様? 打ち合わせって一体何するんすか? 特に俺達が準備するようなことってないと思うんけど?」

 

「ノワールと光龍妃が戦ってる最中に邪魔者が来たらどうなるか予想してみれば?」

 

「よーし分かった! 分かったっすよ王様! 全力で邪魔が入らないようにしますね!」

 

 

 平家の言葉で犬月や他の面々……いや四季音姉は既に知ってるし隣に座っているレイチェルは察してたみたいだな。ぶっちゃけ平家の言う通り、俺と夜空が殺し合ってる最中に乱入してくる奴が居たら……どうなるかはお察しだ。乱入者が悪魔だった場合は普通にキマリス領とフェニックス領以外の場所を消し飛ばすし他神話体系、特にギリシャ辺りだった場合は即戦争するつもりだし。

 

 もっとも寧音に八坂、ぬらりひょんが配下を連れて決戦場所である地双龍の遊び場を囲むらしいから乱入できるもんならしてみろと言えるけどね。そもそも平家が居る以上、乱入する前に分かるだろう……相変わらず便利だなコイツ。

 

 

「いつでもどこでも色んな意味で使える女だよ。もし妖怪たちの中に邪魔しようとする奴が居たらベガルタで斬っとく」

 

 

 いやお前、単にベガルタ使いたいだけだろ……頷くなし。

 

 影の国内でクロウ・クルワッハと殺し合った際に愛刀が破損したのは記憶に新しい。俺が新生亜種禁手に至り、どうにかこうにかこっちに戻ってくる時にオイフェから手土産感覚で渡されたのが「ベガルタ」という一本の刀。本来は「剣」だったようだが神滅具に封じられる前の相棒がケルト神話の英雄、ディルムッドと殺し合った時に破損させたようでその残骸をオイフェとウアタハたんが「刀」に作り直したようだ。

 

 相棒レベルの硬さで無ければ刃こぼれしない超頑丈とのことで実際に四季音姉がぶん殴っても壊れなかった……それを破損させた生前の相棒は凄いとしか言えねぇな。ちなみにディルムッドさんだが相棒曰く喧嘩売られたからぶっ殺したらしい……ど、ドンマイ?

 

 

「あれ凄いよ? 花恋相手でも壊れないし大抵の相手なら軽く振るだけで真っ二つ……前まで使ってた刀より耐久力と切れ味が何倍も上という超高性能。最高だね」

 

『ゼハハハハハハハハ! そりゃぁウアタハたんのお力が入ってるしなぁ! ベガルタはモラルタに比べて破壊力がねぇがさおりんが使うならそれで十分ってもんよ! そもそもモラルタはデュランダル並みに扱いがムズイしなぁ』

 

「あーなんかオイフェが波動的なもんバンバン放ってたな。あれモラルタかよ……」

 

『おうよ! ゼハハハハハハハハ! 宿主様はぐらむんがあるから必要ねぇだろうがな! 借りようと思えば借りられると思うぜ? その代り……分かってるな?』

 

 

 スカアハが修行だヒャッハーするんですね、分かってます。

 

 そのまま適当な雑談をしながら食べ続ける。そして食べ終えた後は四季音姉妹とグラムを残して学園へ登校、終業式も特に何事も無く終わる事になった。ただ残念な事に元士郎に関しては八岐大蛇との戦闘で負った傷が完治していない為、今日は出席していない。周りには見知らぬ誰かを庇って怪我したという美談になっていたが……ま、まぁ! あながち間違いでも無いね! だって転生天使ちゃんの母親とか俺も知らないし!

 

 そんなどうでも良い事を思いながら長いようで短かった二学期が終わり、最後になるかもしれない冬休みが始まった。




・歴代影龍王
当初は覇を求めていたが現影龍王であるノワールがそれを受け入れた上、自身の欲という名の呪いで染め上げた結果、エロ系や闘争系や殺戮系など幅広い欲に目覚めた集団。
最近の日課は眷属女性陣相手に行うエロ系談義と強者との殺し合い談義、あとついでに魔法使いの魂相手に色々とエグイ事をして怨嗟の声を上げさせる事。
各々が好き勝手にするため統率は取れそうにないが現光龍妃である片霧夜空に対しては「尻が弱点」という共通認識を持っているらしい。

今回より「影龍王と光龍妃」編が開始します!
観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

124話

「――で? いきなり呼び出して何の用だよ?」

 

 

 時刻は放課後、場所はアザゼル宅。終業式も何事も無く終わり、家に帰って夜空との決戦に備えて色々とやろうとした矢先にアザゼルから呼び出される事になった。俺の記憶ではシトリー領にある犬月が普段から世話になっている病院に緊急入院していたような気がするがどうやら問題無く退院できたらしい。確かあまりの重労働のせいで胃に穴が開いたんだったか? その辺りは心底どうでも良いが魔王共……仕事押し付けすぎじゃないか? そんなんだから一番仕事してるアザゼルがぶっ倒れるんだぞ!

 

 あっ、どこからか元凶が何を言うとか言われた気がする。具体的にはクラスの連中からクリスマスパーティーなるものに参加しないかと言われて即断った覚妖怪辺りから。

 

 

「そんな嫌そうな顔するなっての。こっちはお前さんに色々言いたい事があるんだからな……何飲む?」

 

「コーラ」

 

「ほらよ」

 

 

 ラフな格好に着替えたアザゼルは冷蔵庫からコーラを取り出して俺に手渡し、自分用の椅子に座る。

 

 俺はと言うと前回と同じようにソファーに座り込んでいる。なんだかんだでこのソファーは座り心地が良いんだよな……普段から良く分からんことに全力投球してるようで意外と家具なんかにも金かけてんだな。

 

 

「んで? 言いたい事ってなんだよ? こっちはクリスマスに向けての準備でクソ忙しいんだが?」

 

「クリスマス……あぁ、イッセーから聞いたが光龍妃と決着をつけるとか言う奴か。キマリス、それは冗談なんかじゃなく本気で光龍妃――いやお前が心から愛する女と殺し合うって事で間違いないんだな?」

 

「当然だろ。常日頃……いやまぁ、ここ最近は無かったどころか逆に共闘が多かった気がするが流石に冗談で言うわけねぇだろ。既に八坂達にも伝えてるし犬月達には勿論、夜空にも本気だと言ってるよ」

 

「そうか……それは影の国で()()()を知ってしまったからと言う事で良いんだな? それも特大中の特大、世界を震え上がらせるほどの爆弾……それがなんなのか研究者として興味を持つが今聞けばまず間違いなくまた病院戻りになるだろうな」

 

「えーとーねー! 実はー!」

 

「言うな! 言うんじゃない!! 俺はまたあの質素な病院食を味わいたくないぞ!! なんだその顔は!? 前々から思っていたがお前俺のこと嫌いだろ!?」

 

「うん」

 

「……即答されるとそれはそれで返答に困るんだがな」

 

 

 だってそこまで仲良くないし。いや魔王共に比べたらかなーり好感度は高いけどぶっちゃけた話、元士郎より下だぜ? より正確に言えば夜空、四季音姉、平家、水無瀬、元士郎に続く五番目辺りの好感度だしな。ただ一つ言わせてもらうと五番目には橘達も含まれてるから順位的には中途半端なんだけどね。

 

 そして受け取ったコーラを飲むとキンキンに冷やされてて凄く美味い。

 

 

「だってそこまで仲良くないし」

 

「……これでも結構話してる方だと思うけどな。まぁ良い、お前さんのそれは今に始まった事じゃないからもう何も言わん。とりあえず呼びだした理由だがクリスマスの日にチームD×Dで駒王町に住む住民たちにプレゼントを配るという企画があってな……返答なんざ分りきってはいるがお前さん、参加するか?」

 

「パス」

 

「だろうな。むしろ参加すると言われたらどうしようと思ったぐらいだ。リアス達なら兎も角、お前さんは他人に施しをやるなんて性格じゃないしな」

 

「当然だろ? まっ、こっちの都合で巻き込みがちとかは頭の片隅程度には思ってるがそこまでする義理はねぇよ。つーかその日はスケジュールがひっでぇんだよ……橘のライブ見た後には夜空との殺し合いだしな。んなことしてる暇はねぇよ」

 

 

 もっとも駒王町の住民にはしないが俺が管理している場所に居るホームレス達には一日早いクリスマスパーティーなるものを行う予定だ。こればっかりは例年やってることだし今年だけやらないってのもなんかあれだからな……鬼や妖怪達の建設関連では大変世話になってるし。

 

 なんせ食い物は確定として希望した奴には金銭、凍死しない程度の物……具体的に言うと寝袋やらカイロ辺りを与える代わりに裏京都と同じように作られた異空間内で街建設を手伝わせてるしなぁ。なんでホームレスだけ対象かと言うとあまり言いたくはないが表の世界では居ても居なくても構わないからだ。今まで居た場所からしばらく居なくなっても誰も疑問に思わないし裏で何かしていても誰も気が付かない。あと夜空がホームレススゲェんだからなとか前々から言ってたのとなんだかんだで世話になってたと言うのもある。実際マジ凄い……裏事情を知らないはずなのにドンピシャで情報提供してくるとかホントスゲェ……今でも親父達がそれを元に色々と対処出来てるしな。

 

 そんなわけで何に使うかさっぱり……ウン! さっぱり分からない街作りをしてもらってるけど率先して指揮をしている八坂に何のためだと聞いても将来の為だとか言って誤魔化すし、同じように指揮をしているぬらりひょんに聞いてもボケたフリして何も言わねぇ、寧音に聞いてもそんな事より宴だ宴と酒飲ませようとしてくるときた! まっ! 平家からの聞いてるから聞かなくても良いんだが……双龍御子千年計画ってマジで進行してた事にビックリだわ。あと寧音、お前酒飲ませて四季音姉とエッチさせようとか考えないで貰えます?

 

 

「つーか分りきってる事聞いてくんなよ。俺的には亜種禁手辺りを聞いてくると思ったんだが違うのか?」

 

「おう! 本命はそっちだ!! な、なぁキマリス……? ここはドラゴン、いや邪龍的に取引と行こうか! お前さんは亜種禁手絡みの事を言う! 俺はお前の望んだ対価を払う! 破格の条件だがどうだ! さぁ吐け! 何しやがった!! どんな能力だ! そもそも亜種禁手から別の亜種禁手に変化するなんざ前代未聞も良いところだ! 元々お前さんの亜種禁手……あぁ勿論変化前の奴だが深淵面だったのは間違いない! だがそれがさらに変化するなんて俺でも知らん出来事だ!!」

 

「滅茶苦茶早口ってるところ悪いが言う気はねぇぞ?」

 

「そこをなんとか! いや頼むキマリス! 昇華面(クレスト・サイド)から深淵面への変化はあり得る事は把握しているが深淵面からさらなる深淵面は見た事が無い! ほんの少しだけでも頼む! 神器研究者として知らなきゃいけない事なんだよキマリス!!」

 

「……昇華面?」

 

 

 なんか知らない単語が出てきた件について。深淵面(アビス・サイド)は確か影の国に行く前に行ってた奴だよな……異常なぐらい神器と向き合う奴が至る可能性とか何とかって奴だった気がする。

 

 

「あぁ、そう言えば三つの可能性とは言ったが深淵面しか説明してなかったか。まず昇華面(クレスト・サイド)だが純粋に能力が強化される可能性だ。一般的に禁手と言えばこれになるだろう。次に深淵面(アビス・サイド)だが前に説明した通りだから省略するとして最後は慮外面(イクス・サイド)と呼ばれるものだ。これは昇華面と深淵面では説明できない突然変異の可能性だ。これに関しちゃ滅多に起きん……がこの時代はどうもこの可能性に至る奴が何人かいてな、匙とヴリトラがまずこれに当てはまるだろう。次だとイッセー辺りもそうかもしれん」

 

「……ぶっちゃけ俺もその慮外面なんじゃねーの? 説明できねぇんだったら間違いなくそれだろ」

 

「まぁな。正直、深淵面と慮外面の複合と見ても良いが普段のお前さんを見ているとな……突然変異の慮外面というよりも純粋な深淵面、それもその道を突き進んだ先にあるナニカと俺は考えている。どんな能力かは知らんが少なくとも慮外面よりはそっちの方がお前らしい」

 

 

 なんかカッコイイこと言ってるけど中二病ですか? 病院行った方が良いぜ?

 

 

「というわけだキマリス! より正確に判定するためにもお前さんの亜種禁手の名称! 能力! 至った経緯! 全て吐いてもらうぞ……! こちとらそれが来になって仕方がねぇんじゃぁ!!」

 

「えーとまず影龍王の再生鎧――」

 

「それは変化前だろうが! 変化後だ変化後! 最悪名称だけでも構わん! 頼むキマリス! この通りだ……!」

 

 

 目の前でいい年したおっさんが本気で頼み込んでる姿を目の当たりにすると……ちょっと引くわ。うん、マジで引く。そこまでして知りたいのかよ……? いやまぁ、気持ちは分かるけどさ。ぶっちゃけヴァーリからも遠回しに聞かれたし。さてどうすっかなぁ……俺が望んだ対価を払ってくれるっぽいし俺と平家だけじゃ調べれない事を聞くのも手か。

 

 仕方ねぇ……名前だけでも言っておくか。正直な話、俺の新亜種禁手の名称を言っても発現したであろう能力とはすぐに一致しないし。

 

 

「――影龍皇(コクマリス・アンブラ)の淵源鎧(・インカーネーション)。王は白龍皇の皇になってて鎧の前に淵源(えんげん)が付く」

 

 

 俺が呆れながら言うとアザゼルはキリッという表情に変わりそのまま考え始める。

 

 

「影龍皇の淵源鎧……王の部分が(すめらぎ)に変化してコクマリス……ダメだ、該当するものが浮かばん。もしかしたら造語か……? マリスの部分は恐らくお前さんの血筋でもあるキマリス、そこにコクが付く文字を合わせたという所か。インカネーションもまぁ、意味合い的にはお前さんらしいが……とするとやはり区分的には深淵面と見て良いかもしれんな。少なくとも歴代影龍王でも誰一人としてたどり着けなかった領域に至ったと見て良いだろう……くぅ! これだから神器研究はやめられん!」

 

「あのー! なんかブツブツ言ってるところ悪いが名称を教えたんだから対価貰うぜ?」

 

「お、おぉ! 少なくとも俺が出来る範囲ならば叶えてやろう!」

 

「じゃぁ、ルシファーに関する情報よこせ」

 

 

 放たれた言葉にアザゼルは先ほどまでウキウキ気分だったはずなのに深刻そうな表情へと変わる。まぁ、当然と言えば当然か……俺が望んだと言う事はつまりそういうことなんだから。

 

 

「……それはお前が知ったナニカ絡みと見るが良いんだな?」

 

「さぁな。ほら! 俺って一応悪魔ですしぃ~? 偉大なるルシファー様の事を知りたくなったかもしれないだろ?」

 

「……分かった。お前さんでは得られないだろう情報を探してきてやる。お前さんが()()()表情になるほどだ、なんでとは聞かないでおいてやる。ただ一応言っておくぞ――今のお前さん、キレた光龍妃みたいに無表情だぞ。隠し事をするなら演技ぐらいしておくんだな」

 

「そうしとく」

 

 

 その言葉を最後に受け取ったコーラを一気に飲み干して自分の家へと戻る。去り際に何か言いたげな感じだったが無視だ無視……とりあえずこれでルシファー関連の事は一般的な事から知られていない事までは把握できる。別にアザゼルに頼まなくても平家を使っても良いがアイツが動けばまず間違いなく警戒されるだろう。なんせ覚妖怪亜種だしな……悪魔であっても知られたくない事が一つや二つや百ぐらいあるだろうし借りにアザゼルの身に何か起きても()()だからこっちには何も非が無い。

 

 とりあえず演技の練習するかと思いつつ家に戻ると先に戻っていた犬月達が居た。水無瀬に関しては学園絡みで遅れているようだが晩飯が若干遅れる程度だから特に問題はない。

 

 

「水無瀬が居ないが打ち合わせ始めるぞ。まっ、打ち合わせと言っても特にやることは無いけどな。俺と夜空が地双龍の遊び場で正真正銘、本気の本気で殺し合うだけだし」

 

「にしし! 当日の警備は任せておきなノワール。母様と芹様が四天王と配下の鬼達を引き連れて誰も邪魔しないように見張ってるからね。仮に乱入者がもし三大勢力の誰かならその時が和平終了の時さ」

 

「母様と寧音様、凄く張り切ってた。配下の鬼達、凄く気合入れてた。私も頑張る。主様が勝つと信じて応援する」

 

「西と東、両方の妖怪勢力側からも似たような言葉が来たよ。八坂からは影龍王、周りは気にせず思う存分戦えと言った感じでぬらりひょんからはもし生き残ったならば与えたい名があるだってさ。ぶっちゃけ警備に関しては過剰と言っても良いよ。うん、凄いねこれ」

 

「今回の件でお父様やお兄様達も動くようで漁夫の利を狙おうとする輩が居れば対処するようですわ。キマリス様と光龍妃様、お二人は今や冥界だけでは無く全神話で注目されていますもの、愚かな事をしようとする輩も出てくる可能性もありますから当日は覚妖怪と共に見張っておりますわ」

 

 

 整理すると妖怪勢力と鬼、ついでにフェニックス家が全面的に邪魔が入らないように見張ってくれるというわけか……これに関しては親父達も同じ事をすると言ってたがマジで多いなこれ。下手な戦力だったらまず返り討ちに合うと思うんですけど? とりあえず今の所、邪魔又は乱入してこようとする勢力はリゼちゃん勢力とギリシャ辺りか。特にギリシャはハーデス殺してるから仕返しとしてマジでやりかねん。まぁ、その場合は即戦争なんだけども。え? 勿論、その場合は主神だろうが何だろうが邪魔する者全て皆殺しですけど何か?

 

 

「なんか凄い事になってますよね……あっ、そういえばなんかD×Dでクリスマス当日に駒王町の住民相手にプレゼント配るとか何とかってやるらしいっすけど不参加って事で良いんすよね?」

 

「別に参加したいなら別に良いぞ?」

 

「いや王様と光龍妃の決戦の方が大事なんでパスしますけども」

 

「あの……クリスマスに私のライブがあるんですけど悪魔さんは来てくれないんですか?」

 

「え? それ終わった後で開戦に決まってるだろ。時間的にもちょうど良いしな」

 

「良かったです♪ 志保、思いっきり歌っちゃいますね♪」

 

 

 そう! その笑顔ですよ橘様! 今まで見たいにヤンデレモードだの捕食者の目だのはアイドルとして相応しくありません! その笑顔を忘れないでください! 見ろよ犬月が推しを見て浄化されたオタクのような顔になってるんだぜ! いやー流石アイドル!! 笑顔ってやっぱり素敵だね!

 

 

「なお心の中でどうして私だけを見てくれないのかとドス黒い感情を抑え込んでる件について」

 

 

 俺は何も聞かなかった。

 

 

「早織さん? 何を言っているんですか?」

 

「別に。最近忘れられている覚妖怪らしくしただけだよ」

 

「アーオレチョットヒキコモリマスネーイヤーダンボールノナカッテホントウニアンシンスルナー」

 

 

 橘と肩に乗ったオコジョが平家を見つめ始めると何やら重苦しい空気が流れ始める。片や見惚れるような笑みだがなんでバラしたんですかと言いたそうな視線、片や特に何事も無いかの表情。背後になんか九尾の狐と俺っぽいなんかが激しくバトってるんですけどこれは気のせいと言う事で良いかな? つーかあまりの怖さに犬月が段ボールの中に引き籠ってるが最近お前、その中に籠ること多くなったけど居心地良いのか? あっ、犬だから落ち着くと……そ、そうか……そうか。

 

 頑張れ犬月、負けるな犬月。お前が最後の砦だ。

 

 

「主様。ライブの時何をすればいい? ふれーふれーとすればいい?」

 

「あ、それは俺の時に頼むわ。何ならチア服着てくれても良いぞ」

 

「分かった。主様のために応援する。ちゃんと応援する」

 

 

 やっぱ俺のマスコットは四季音妹なんだなってハッキリと分かったわ。

 

 

「ノワール?」

 

「はいはいじょーだんだよじょーだん。んな顔すんなって……あっ、ちなみにだが俺の新亜種禁手の調整の相手とかするつもり有るか? いや断ってくれても良いけどー! だってグレンデル辺りは呼べば来るだろうしー!」

 

「――にしし! 断るわけないだろう? 良いさ、ちょうど私も全力で動きたかったんだ! それに新しい禁手とは一度も殺り合ってなかったしね!」

 

 

 たくっ、さっきまで嫉妬してますって顔してた癖に良い笑顔になりやがったなおい。まぁ、俺としては助かるから文句は無いんだよなぁ……現状、俺が本気で殺し合える相手はこの中だと四季音姉ぐらいだ。夜空との決戦まで残り僅か、いくらスカアハとの殺し合いで慣らしたとはいえ今よりも少しでも先に進んどかないと拙い気がする。こう、なんと言うんだろうな……本能的な何かがそう言っている気がする。

 

 ――それにあの夜空が()のままで居るとは思えないしな。

 

 というわけで水無瀬が帰ってきて晩飯を食べた後は四季音姉と共にいつもの如く地双龍の遊び場へと移動する。今さらながら毎回毎回派手に殺し合ってるせいかもう原形留めて無いしひっどい有様になってるな……別に気にしないけど。だっていつもの事だし。

 

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 動きやすい恰好に着替えた四季音姉、いや伊吹の前に立った俺は新しくなった鎧を纏う。対する伊吹は嬉々とした表情で体から視認するのが困難なほど薄い赤紫色のオーラを放つ……それは俺や夜空レベルじゃないと殆ど使わない妖魔放出。犬月が編み出した妖力と魔力を混ぜ合わせた技でコイツが使えば普通に禁手レベルに匹敵する一種の強化形態……元々編み出した犬月よりも上手く扱えてたが影の国でクロウ・クルワッハ、そしてオイフェと言った強者と戦った事により前までとは比べれられないレベルまで跳ね上がってやがる。

 

 

「新しい禁手とは言ってるけど見た目はあんまり変わらないねぇ。にしし! 別に気にはしないけどさ!」

 

「気にしないなら言うんじゃねぇよ。安心しろ、見た目は殆ど変わらなくても能力は()()()()物になってるからな」

 

「知ってるよ。影の国で見てたからね! ノワール、光龍妃と決戦前に殺されても文句は言うんじゃないよ?」

 

「誰が言うか。あと――やれるもんならやってみろ」

 

 

 その言葉を言い終えた瞬間、轟音が鳴り響く。

 

 音も無く接近してきた伊吹と俺が生み出した新生影人形(シャドール)が互いの拳をぶつけている。インパクトの瞬間、あまりにも薄かったオーラが一気に跳ね上がり打撃の威力を飛躍的に高めるのが伊吹が操る妖魔放出……全く、俺じゃなかったら即死してる威力だぞ?

 

 

「――ホント、硬くなったもんだね」

 

 

 伊吹と拳をぶつけた俺の影人形は傷どころかヒビすら入っていない。丸みを帯びた黒い人型だった姿はもう過去の物……一つ目である事と人型である事には変わりないが影龍王の再生鎧を薄い装甲にしてスリムにしたような姿となっている。これは時折使用していた影法師(ドッペルゲンガー)の発展形、そして原点回帰といった感じだ。

 

 

「おいおい伊吹ちゃん? 俺を殺すんじゃなかったのか? その程度の威力じゃ俺の新生影人形は壊れないぜ?」

 

「馬鹿かいノワール! まだまだ上がるさ!!」

 

 

 影人形の拳を押し返し、そのままラッシュを放ってくるのでこちらも応戦するべく影人形を操りラッシュタイムを行う。

 

 

「にししししし!!」

 

「ゼハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 目にも止まらぬラッシュの応戦に周囲がいつもの様に吹き飛んでいく。前までの俺だったならば既に影人形が砕かれて接近を許していただろう……だが今の俺は違うんだぜ?

 

 伊吹が放つラッシュよりも速く、そして鋭く撃ち込みその小さな体にラッシュを叩き込む。数えきれないほどの拳を叩き込まれた事により伊吹はそのまま後ろへ吹き飛ばされる……が気絶させるほどの物では無かったようだ。ラッシュを受けた部分を妖力と魔力で防御しやがった……確かこれも犬月が得意としてた防御術だったはずだが普通にアイツより上手く扱えてるなぁおい。

 

 

「既に気づいてるだろうが一応言っとくぜ? 夜空への思いを自覚し、俺自身を再認識した事で発現したこの姿はその程度じゃ突破出来ねぇよ。ほら立てよ伊吹、俺が選んだ最強の眷属だろうが? だったら向かってこい! その全てを受け止めてやる!」

 

 

 俺の言葉に伊吹は嬉しそうな笑みを浮かべ、こちらへと向かってくる。

 

 結局、その日は俺も伊吹も思う存分、そして滅茶苦茶楽しく殺し合った。




・「昇華面《クレスト・サイド》」「深淵面《アビス・サイド》」「慮外面《イクス・サイド》」
神器の強化形態である禁手の可能性として邪龍戦役辺りから出てきた専門用語。
昇華面が「神器の能力を強化、進化させた禁手」
深淵面が「神器と狂気なほど向かい合った末に発現した禁手」
虚外面が「どれにも当てはまらない未知の禁手」
要約するとこんな感じ。

昇華面→深淵面に変化する事は稀にある上、通常禁手から深淵面禁手には自由に変更可能との事で今作では原作同様「幾瀬飛雄」と「片霧夜空」が該当。
現状、ノワール含めたキマリス眷属神器保有者は深淵面判定。

・影龍皇の淵源鎧《コクマリス・アンブラ・インカーネーション》
「断章」にてアホみたいな事をした結果、ノワール・キマリスが至った新生亜種禁手。
コクマリスはセフィラの一つ「コクマー」+「キマリス」が合わさった物。
当初は宝具みたいなクソ長いものだったがノワールらしくないと言う事で没になり、考えては消し手を繰り返した末にシャドール新規が出たと言う事を知り、これに決定。遊戯王wikiは偉大。
一応「皇」に変化したのはノワール(黒)が皇(白)を纏いコクマーが象徴する灰色になる事と「コクマー→ティファレト」のパスに該当するタロット「皇帝」も合わせている。
ぶっちゃけもう名称考えたくはないぐらい考えた末がこれである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

125話

「ノワール、気づいていると思うけど妖怪達の配備は終わってるよ。勿論、ノワールと光龍妃が弱った所を狙うような奴らも居ないから安心ね」

 

 

 時刻は深夜、場所は決戦場所から少し離れた空き地。影の国で手に入れた覚刀「ベガルタ」を携えた平家がいつもの表情で俺に伝えてくる。妖怪達が決戦場所である地双龍の遊び場全域を囲っているのも分かっているし反乱者的な奴が居ないと言うのも分かっている。だって前者は此処からでも見えるぐらい妖怪達が大量に居るし、後者に関してはそんな事をしようものならば妖怪達の最後だからな……アイツらを率いている寧音や八坂、ぬらりひょんが許すわけもない。

 

 それに近くに居る四季音姉が割とマジな表情で決戦場所を見ているから猶更だ……お前のそんな表情、久しぶりに見た気がする。

 

 

「……なんだいノワール?」

 

 

 俺が見ている事に気が付いたのかこれまたいつもの表情でこちらを向いた。

 

 

「別に。なんかマジになってんなと思っただけだよ。お前がそんな表情するなんざ久しぶりだしな」

 

「そうだったかい? にしし! それだけ気合を入れていると思ってくれれば良いさ。一応これでも次期頭領だからね……自分を従えている(あるじ)の決戦に余計な事をされたくないんだよ。母様と芹様も同意見と思ってくれていいよ」

 

「その辺りは言われなくても知ってる。ホント……赤の他人が行う殺し合いだってのにあそこまでマジになってくれるとはな。今度時間があったら前の殺し合いの続きでも誘ってみるか」

 

「にしし。だったら光龍妃に勝たないとね。そ、それにね……あ、あああ赤のた、他人じゃなくななななるかもしれないだろう! た、例えば……の、ノワールのお嫁……になるとか……さ!」

 

「お嫁さんという単語を言うだけでそれとかマジかお前。ちょっとは平家を見習った方が良いぞ?」

 

「花恋、初心すぎて逆に引くからもうちょっとエロ系に慣れといた方が良いと思う」

 

 

 俺と平家の言葉に先ほどまでマジな表情をしていた四季音姉は顔を真っ赤にして抗議の言葉を言ってきたが無視する事にした。だって平家が言った通り、初心すぎるだろ……そりゃあ寧音もさっさと処女捨てろ的な事を言うわ……愛読書が少女漫画な時点でお察しだったが俺達と一緒に過ごしてきてなおこれとかある意味凄いとしか言えないネ! というかなんでそれじゃなくてヤンデレ方面が成長してるんですかねぇ? 割とマジな話、新生亜種禁手に至った後辺りから俺の横に座りたがってるし、平家となんやかんやしてると夜空並みとはいかないがそれに近い感じの殺気を飛ばしてきてるしなぁ。

 

 どうしてそこが成長してそっちは未成長なんだと考えていると落ち着きを取り戻したらしい四季音姉が鬼の里名物の酒を取り出して飲み始める。確かそれって水無瀬が軽く一口飲んだだけで意識失ったほどヤバい奴だった気がするんだが……鬼って本当に酔わねぇなおい。

 

 

「……と、ところで勝算はどうなんだい? まさか勝てそうにないとか言うわけじゃないよね?」

 

「アホ。勝つに決まってんだろ? そのために今日までお前やグレンデル、ヴァーリとかと殺し合ってたんだろうが。それに自分から言い出しといて絶対に勝てないとか思うわけないだろうが?」

 

「なら良いさ。勝ってきなノワール、こんな場所で死んだら絶対に許さないからね」

 

 

 それこそ言われなくても分かってるっての。

 

 平家が何も言わずにキンキンに冷えた缶コーラを持ってきたので受け取り、四季音姉――伊吹に近づいて乾杯するように互いの飲み物を軽くぶつける。そのまま一口飲むと冷えているので普通に美味かった……しかしなんで用意してたんだ? あぁ、こんなこともあろうかとって奴をしたかったと。畜生、お前だったら普通に出来るから何も言えねぇじゃねぇか!

 

 

「悪魔さん! 準備出来ました♪」

 

 

 次に話しかけてきたのは何故かチア服に着替えている橘、四季音妹、グラムの面々。なんでチア服かと言われたら応援するならこれです! と大多数の妖怪と鬼達による熱い……熱すぎるお言葉の数々により却下されることも無く実行されたようだ。橘は兎も角、四季音妹とグラムが着ているのは単に近くに居たからか芹辺りが着るように伝えたかのどっちかだな! まぁ、別に構いませんがね! ただ一つだけ言わせてもらうと戦力差……つまりおっぱいの差が酷いと思うんですよ! 見ろよ隣にいる平家の顔を! 今にも切り落とそうとして――はいないが内心では必死過ぎとか何とか思ってるに違いない。

 

 心を読んだらしい平家は普通に頷いたのでマジで思ってるらしい。

 

 

「主様。応援する時はこれを着ると母様や鬼達から聞いた。だから着てみた。主様が勝てるように応援する」

 

『我ガおウよ! 覚トともニしてイるエロげで知ッているぞ! これヲ着れバこうフんするのだロウ! ナラばおもウ存分興奮スるがイい!』

 

 

 片やマスコット感満載な表情、片や思わず拍手したくなるほどのドヤ顔。駒王学園のチア服を真似て作ったんだろうが金髪美少女と褐色美少女が着ると絵になるね! あと四季音妹は可愛いを連呼したくなるほどかわいいけどグラム、お前もう駄目だわ。俺と同じく平家に毒されてしまったばっかりに……! おい、そこでよくそこまで成長した的な表情になってる覚妖怪亜種。お前……お前……よくやった! これからもグラムの教育は任せた!

 

 

「アーハイハイコウフンシテマスヨースゴクシテマスヨー」

 

『そウだろう! なラば! 此度のいッセんに我らモ参加させヨ! 敵ハどラごんなラバわレらの出番であロウ!』

 

「いや無理だけど? お前は黙ってそれ着て応援でもしてろ。つーか下どうなってんだ……?」

 

 

 何故参加させないのだやらいい加減ドラゴン相手に使えなどと言ってくるグラムを無視してとりあえずスカートを捲ってみる。スパッツでも履いてるかと思ったら普通にパンツ、それも女物だった……誰が履かせたかは知らないがよくやった。あと四季音妹? お前はスカート捲らなくても良いんだぞ? それをすると初心なくせに凄く怖くて最強な鬼がやってくるからね! あと橘様が怖いのでやらなくて良いぞマジで!!

 

 

「悪魔さん?」

 

 

 橘様、橘様! その満面の笑みでこちらを見ないでください! 怖いです。普通に怖いです。どうしたんですが橘様! 此処に来る前までの貴方様は凄くアイドルだったじゃないですか! クリスマスライブという一大イベント、ドーム一つ貸し切って行ったライブでは休業中にも関わらず他のアイドル達を蹂躙するように歌いまくって輝いていたじゃないですか! だから破魔の霊力を威圧に使ってはいけません! それをすると他の妖怪達が死んじゃうからね! ついでにそこのオコジョも狐にならなくて良いからな!

 

 

「橘。違うんだよ……これはな、チア服を着て応援するなら下着が見えるからちゃんとしているか確認のために――ハイゴメンナサイ」

 

 

 アイドルスマイル全開での威圧には耐えれなかったよ。

 

 

「良いですか悪魔さん、いくら相手がグラムさんだとしてもいきなりスカートをまくるのはダメです! したいならいつでも私のスカートを捲って下着を確認してください! あっ……でも前もって言ってくれれば悪魔さん好みの下着を履きますからね!」

 

「アッハイ。その時はお願いするとしてだ……疲れとか無いのか? クリスマスライブで歌いまくった後だろ?」

 

「大丈夫です♪ あの程度は準備運動にもなりませんから!」

 

 

 流石はキマリス眷属が誇るアイドル、準備運動にすらならないときたか。まぁ、確かに常日頃、殺すか殺されるかの戦場で自分の声と歌を武器に戦ってきたし禁手含め俺達と特訓してたからあの程度は問題無くてもおかしくはない。

 

 クリスマスライブは俺は勿論、全力でアイドルしほりんを推す格好をした犬月と一緒にVIP席的な場所で見ていたが……他の奴らが可哀想と思えるぐらいの代物だった。声量や表現力と言ったものが段違いで内心、これってクリスマスライブじゃなくて橘志保復活ライブだっけ? と普通に思うぐらい凄かった。あと正規の手段で手に入れたらしい鬼や妖怪達――通称しほりんファンクラブも凄かった。なんせVIP席にもいたからなあいつ等! どう考えても奪い取ったとしか思えない数だったが平家からはそんな事はしていないという言葉により猶更意味が分からないね!

 

 あっ、ちなみにだがライブに来ていた連中は寧音とか八坂、ぬらりひょんの指示を無視というかそれはそれ、これはこれと言う感じでやってきてたようでライブ終了後に各々のトップから説教というされたらしい。ぬらりひょんは兎も角、寧音と八坂に説教されるとか羨ましいんですけど……!

 

 

「さっすが。俺も見てたけどやっぱお前……アイドルだったんだなと思えるぐらい輝いてたぜ」

 

「ありがとうございます! これからも悪魔さんを魅了し続けますので……絶対に帰ってきてください」

 

 

 満面の笑みから一転、心配そうな表情に変わった橘からの一言に俺はやれやれと言った感じの態度をとる。全く、そこまで心配なのか? 少しは俺を信用しろっての。

 

 

「主様。いっぱい応援する。だから帰ってきて欲しい。居なくなったら私も伊吹も寂しくなる」

 

『ワガ王よ! 負けルなとはイワぬぞ。勝て、かツのだ』

 

 

 橘に続き四季音妹とグラムからも似たようなことを言われる。ヤバいな……善意でしてるんだろうけどこれ続けられると負けフラグになる気がするんだが? まぁ、嫌じゃないけども。

 

 その言葉に軽い笑みを浮かべると平家が先ほどと同じようにどこから取り出したか分からないが酒とコーラを取り出して橘達に渡す。いきなり飲み物を渡されて橘だけが一瞬だけ疑問の表情にすぐに理解して強いね妹の手を、平家がグラムの手を取って俺が持っている缶コーラに軽く飲み物をぶつける。そしてそのまま一口飲むと先ほどと変わらない冷たさ……おい平家、お前この缶にルーン的なもの使ってるだろ? あ、やっぱりな。

 

 

「ノワール君、それに早織も……時間まであと少しですけどどうしたんですか?」

 

 

 橘達と別れた俺と平家は炊き出しっぽい事をしている水無瀬、レイチェルの所へと向かう。料理自慢の妖怪や鬼達と一緒に行っているせいかこのまま宴会をしても問題無いレベルの料理の数が出来上がっている。別の場所ではあれもってこいだのこれ持ってきてだのと言われて右往左往している犬月もいるが……どこからどう見てもパシリですね、ありがとうございます。

 

 

「別に、単なる暇潰しだ。つーか飯作るとは言ってたが……作り過ぎだろ? 何だったらこのまま宴会直行でも問題無いレベルだぞ?」

 

「だってノワール君達、これぐらい食べるじゃないですか?」

 

 

 俺の顔を見ながらこれぐらい作るのは当然ですと言いたそうな表情になる水無瀬だが一つだけ言わせてくれ……流石に俺はこれ全部は食えません! 食えるのはあの胃の中がブラックホールになってる規格外だけです! というよりお前、俺が負ける事を微塵も思ってないですよね? 普通に勝利して戻ってくるとか思ってますよね……あ、平家が頷いた。マジかお前。

 

 

「……いや俺は普通に無理だからな。夜空ならこの倍くらいは食えると思うが……なぁ、水無瀬? お前、俺が負けるとは思ってないのか?」

 

「え? 勝てないんですか?」

 

「いや勝つけど。勝ちますけどぉ! え? あのさ、ここに来る前に四季音姉やら橘やらと会ってたけど勝ちますよね? 絶対に勝ちますよね? とか言ってたけど……お前、なんで言わないんだよ。うわぁ……引くわ」

 

「ちょっと酷くないですか!? だ、だってノワール君! 勝つと言ったら絶対に勝つじゃないですか! そ、そうですよね!? ね!」

 

 

 水無瀬は自分の言葉が正しいと証明してほしいのか鍋を見ていたレイチェルを見る。え、私ですか? と言いたそうな表情を一瞬するが仕方ありませんわね……とまるでお姫様の様に優雅な表情を浮かべてこっちにやってくる。

 

 ちなみだが会話に混ざりたかったけど鍋を見ないといけなかったから話しかけてくださいオーラ全開だったよとは平家の言葉だ。真面目だ。

 

 

「そ、そうですわね。キマリス様が勝っていただかないと作った料理が無駄になってしまいますわ。水無瀬先生や他の妖怪達と一緒に作りましたし……それに私もキマリス様に食べてもらえるように頑張って作ったんですもの! ですから……ちゃんと勝ってきてくださいませ!」

 

「……」

 

「なんですか覚妖怪? 言いたい事があるならばちゃんと言葉にしてもらえませんこと?」

 

 

 レイチェルの心を読んだのかうわぁ……と言いたそう、というか普通に言った平家とそれに文句があるレイチェルがいつもの様に口喧嘩を始める。前々から思ってたけどお前ら、普通に仲良いよな? 喧嘩するほどなんとやらとか言うし。あと百合の花は何時咲きますか? 俺としてはそれに混ざるのはいけない事だとは思いつつもやっぱり混ざりたいお年頃だから咲く時は言ってくれよ?

 

 

「うげ……まーた喧嘩してるっすね。あっ、水無せんせー! 頼まれてた物は運んできたっすよー!」

 

「あっ、瞬君。それが終わったらあっちの方で男手が必要みたいなのでお願いしても良いですか……?」

 

「任せてください水無せんせー! しほりんのライブを目にした事によりこの犬月瞬! パシリ(ちから)は極限まで高まってますよ! てか王様? なんで此処に居るんすか? あともうちょっとで時間っすよ?」

 

「いや暇なんだよ」

 

「……なんか俺のイメージ的に時間まで現地で待ってると思ってたんすけど?」

 

「それやっても良かったんだが……寂しいんだもん」

 

「男がもんとか言っても可愛くないっすよ」

 

 

 知ってる。男がもんを付けて可愛いのはウアタハだけだろうね! というかすっげぇ今更なんだけど影の国に残してきた曹操って生きてんのか? まぁ、全ての男を狂わせる魔性のウアタハたんが居るから死にはしないだろうけど下手すると相棒と同じ道を進むことになりそうなんだが? それはそれで面白いから良いけども。

 

 

「まっ、王様ですし別に良いっすけどね。あーそう言えば別に言わなくて良いかもしんないけどこれだけは言っとくっすよ――勝ってくださいね」

 

 

 その言葉にやっぱり負けフラグ立ってるよなと思った俺は悪くないはずだ。

 

 

「当たり前だ。なんせ夜空とイチャイチャしたいし結婚したいし子供産ませたいしとやりたい事がかーなーりあるからな! はいと言うわけでなんかもうお決まりになったかもしれないアレやるぞ」

 

「アレって何す……いやおい引きこもり。お前それどっから出した!?」

 

「こんな事もあろうかと」

 

「いやお前が言うとネタにならねぇんだっての」

 

「早織ですし……」

 

「心を読めますものね……」

 

 

 なんて言ったってキマリス眷属の軍師的な何かだしな。コイツが居なかったら基本、俺達って回らないだろうし……あれ? 俺って王だよな? まぁ、別に良いか。俺って基本脳筋だし作戦を思いつくほど頭良くないしぃ! ぶっちゃけレベルを上げて物量で押せば何とかなりますしー!! 殺し合いは数だよと偉い人も言ってたから間違ってないはずだ! というわけでこれからも指揮系統よろしく! うわっ、満面の笑み。

 

 そんなわけで平家がまたもやどこから取り出したか分からない飲み物を犬月達に渡す。そしてそのまま乾杯してコーラを一口飲む……うん、飲み切ったけど最後まで冷やされてたなこれ。

 

 

「さてと……大体終わったか」

 

 

 犬月達と別れ、平家を引き連れたまま人気が無い場所へと向かった俺は誰も居ないのを確認してから今の言葉を言った。既に約束の時間まであとわずかだが決戦場所には転移で行けるからまだ此処に居ても問題無い。

 

 

「とりあえず最後になるかもしれないから顔だけは出しておこう作戦だけどぶっちゃけ、皆気づいていたよ?」

 

「マジか? 割と主演男優賞取れるレベルで演技してたんだがなぁ」

 

「ノワールだし」

 

 

 その言葉を言った表情はやれやれと言った感じだ。まぁ、別に気づかれようと構わないけどな……そこまで演技派ってわけでも無いし四季音姉や水無瀬を欺けるとも思ってない。俺と一緒に過ごしてきた時間は犬月達よりも上だから下手に隠そうとしてもぶっちゃけすぐにバレる。

 

 

「あと負けフラグ立て続けたら逆転フラグ立つんじゃね? とか思ってたみたいだけど現状だと負ける未来しか見えないよ。普通にアニメとかだとやったか……! して負けるなう」

 

「そこをどうにかするのが俺なんだよ。あーなんだ……お前には言う事無いしそろそろ行ってくる。安心しろ、お前が自殺しないように勝ってくるさ」

 

「ん」

 

 

 打ち合わせとか一切していないにも関わらず既に空になった缶コーラと同じくどこからか取り出した缶コーラで乾杯する。そして何も言わずに決戦場所――地双龍の遊び場へと転移した。

 

 

「――終わったん?」

 

 

 転移してしばらく経つといつもの様に空間に穴を開けて夜空が俺の目の前に降り立った。その表情、そして誰もがひれ伏すような殺気を放ちながらも口調は凄く軽い。しかし殺気だけは別格で気を抜くと呼吸する事を忘れそうなほどだ……最も屈するわけにはいかないので俺の方も同じように殺気を放っているけどな。

 

 

「まぁな。別に混ざっても良かったんだぜ?」

 

「ばっかじゃねーの。この夜空ちゃんにだって空気を読むってことぐらいできんの! ねぇ、ノワール。言っておくけどマジで殺すから。いつもの様にはい終わり! ご飯食べよー! とか無いけど別に良いっしょ? テメェが言いだしたんだから納得してるとは思うけどさ」

 

「当たり前だろ。ここでやっぱり無しは俺が許さない。なぁ、夜空……俺がお前と出会ってから今日まで長いようで短い時間が経ったよな。これからも今まで通りやりたい事やって、お前が楽しい事をやってを繰り返すかと思ったが――影の国でアレを知った以上、無理だわ。マジで無理」

 

 

 夜空が規格外な理由、それこそがこの最終決戦を行った最大の理由()()()。悪魔、それもルシファーが絡んでいるとなったら今まで通りは無理だ。誰もが気にしなくても良いとか思ってるだろうがそんなのは俺の心が許さない……どこかでちゃんとした決着をつけないとダメでそれが今だっただけの話。

 

 

「……この夜空ちゃんの規格外っぷりはルシファーが大昔にやらかしたせいって奴っしょ。あの骸骨に気にしてないとか言ったけどノワールの言う通り、今まで通りは無理。マジ無理。悪魔のせいでガキの頃、苦労したのに無かった事にとか出来ねぇっての」

 

「あぁ。正直、ルシファー的には野望成功したようなもんだからな。だからそれは全然違いました残念賞! と煽ってやるためにも夜空……お前に勝つ。ただの混血悪魔に負ける普通の人間だと証明するためにな――と言えたら良かった」

 

「こっちとしては人が生まれる前に何してんのとか言いたいからさ、全力で八つ当たりさせろ――とか言えたら良いんだけど。ぶっちゃけもうどうでも良い」

 

 

 あーだこーだカッコイイことを言ってみたが決着をつけると本気で思いながら向かい合うとルシファーがどうのとかもうどうでも良い。

 

 

「夜空、俺はお前の事が好きだ」

 

「ノワール、私はお前の事が好きだよ」

 

 

 結局のところ――

 

 

「――だから俺がお前を守る」

 

「――だから私がお前を守る」

 

 

 ちゃんとした決着をする理由が欲しかっただけだ。ルシファーなんてもうどうでも良い、大昔に何をしたかなんざ興味はない。ただ目の前に居る女が、心の奥底から欲している一人の女が欲しいから殺し合う。そしてどちらが上でどちらが下か、どっちが守るかを決めたいだけなんだ。

 

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

『Luce Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 互いに鎧を纏うと片や光、片や影を生み出して戦場全てを覆う。

 

 

「夜空」

 

「ノワール」

 

「「死ねぇ!!」」

 

 

 相手が欲しいという理由で行われる殺し合いが始まった。




「ノワール」
ルシファーの思惑通りになるのはムカつくから夜空が普通の女の子だと証明するために決着を付けよう。

「夜空」
悪魔のせいで昔、苦労したから八つ当たりしたい。

というありがちな理由で決着をつける予定だったが……

「ノワール」
ルシファーとかマジでどうでも良い。夜空、好きです。

「夜空」
昔の事とかぶっちゃけどうでも良い。ノワール、好きです。

ノワールと夜空の両名、結局のところちゃんとした決着をつける理由が欲しかっただけでした。


さて……頑張りますよ……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

126話

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

 

 紫色の空に無数の光が現れる。

 

 本来、光すらささない冥界の空にそれらを生み出しているのは一人の少女。山吹色のドラゴンを模したであろう全身鎧を身に纏い、心から楽しんでいるのだろう笑い声を上げている少女の名は片霧夜空。光龍妃と呼ばれる規格外(ふつう)な少女は鎧から放たれる音声と共に一秒も掛からず生み出した無数の光を明確な殺意を持って地上に居る存在へ放つ。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!』

 

 

 地上を蹂躙するであろう光を前にしているにも拘らず逃げる事もせず、逆に高らかに嗤うのは一人の少年。禍々しいと言える巨大な棘を生やしたドラゴンを模した全身鎧を身に纏い、全身より壊れかけたエラー音のような音声と共に地上全てを覆う影を生み出している少年の名はノワール・キマリス。影龍王と呼ばれた混血悪魔は自身と似た姿をした人形――影人形(シャドール)を出現させ、降り注ぐ(あめ)をその拳で叩き落とす。

 

 ノワールは動く事もせず影人形を操作し、目にも止まらぬ拳の連打――ラッシュにて次々と光を防ぐ。それを見ている者達からすれば簡単なように見えるが夜空が生み出した光の雨はたとえ小さくとも彼女の実力の高さから最上級悪魔、下手をすると魔王級ですら防ぐ事が困難な程の威力を有している。何故ノワールが使役する影人形が防げている理由は彼が至った亜種禁手によるものだ。

 

 影龍皇(コクマリス・アンブラ)の淵源鎧(・インカーネーション)。影の国の女王スカアハとの殺し合いの果てに至った彼だけの力の理。その姿は変化前の禁手、影龍王の再生鎧と殆ど変わらないが生み出される影人形だけは発現したであろう能力の影響を受けてノワールが纏う鎧に似た姿となり、変化前と比べ格段と強化されていからこそ夜空が放つ光であっても防ぐことが可能となっている。

 

 

「アハハハハハハハハハ! すっげぇじゃんノワール! それじゃーこれはどうだぁ!!」

 

『Tonitrus!!!』

 

 

 目の前で起きているラッシュによる防御に興奮した夜空の鎧から音声が響き渡った瞬間、地上を焦土に変える光の雨に「雷」が纏い始める。夜空に宿る神滅具、光龍妃の外套に封じられた陽光の龍ユニアーーいや雷の龍ブリューナクが生前保有していた能力であり、ありとあらゆる防御や耐性などを破壊したとえ神であってもその身を貫き殺せるほどの威力を持っている。

 

 雷を帯びた光の雨――いや既に弾丸と化したそれらは一斉にノワールの下へと降り注ぐ。

 

 

「――なめんじゃねぇぞ夜空ぁぁッ!!!」

 

 

 小さい塊であるが一粒でも浴びれば体に穴が開き、死に至るであろう代物に対してなおノワールは逃げる事もせず影人形のラッシュをさらに速めた。影人形の拳が自身を襲う弾丸に触れたが即座に破壊される事も無く難なく防ぎきっていく。その光景に夜空は勿論、神器の中に居るブリューナクは戸惑う事もせず、逆に嬉々の笑みを浮かべ光の弾丸のさらに放つ。

 

 ノワール・キマリスという男は何かに秀でた才能は無い。力を持たない人間の母すらまともに守れず、逆に守られるほど弱い存在である事は神滅具の目覚めと共に自覚している。ならば何故。圧倒的に上であるはずの片霧夜空と戦えている理由は単純かつシンプルに言うと彼女に対する「愛」である。たとえ周囲に誰もが見惚れるであろう女性達が居たとしても徹頭徹尾、彼女の事だけを思い続けた果てに至った境地。狂気という言葉では収まらないほど自らの力と共に神器と混ざり合い、封じられた影の龍クロムと真に絆を深め、そして片霧夜空という愛する女性への強い思いによって引き起こされた世界すら染めるほどの劇的な変化により――その能力は発現した。

 

 

 ――影人形の強化

 

 

 これこそノワール・キマリスが手に入れた力の理。影の龍クロムと並び自身が信頼する存在に対してのみ常時発動される能力である。亜種禁手として変化した際の力の全てを注ぎ込んだ事により、その上昇量は別格でノワールの戦車である四季音花恋、邪龍の一体であるグレンデルですら壊すためには時間がかかるほどの硬度を会得している。それほどの防御力を持っている影人形でさえ夜空が放つ雷の前では無力――というのが前までのノワールの考えだったが()のノワールは違う。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハハ!!!! 足りない頭で考えて考えて考えまくったぜ夜空!! お前の雷は俺にとって天敵も天敵! 最悪の相性だ! だがな……破壊されるって言うならそれよりも速く復元すれば良いだけの話だろうがぁ!!」

 

 

 雷を帯びた光の弾丸に触れてもなお存在し続ける影人形の秘密こそノワールが語った言葉通りである。なにもかも破壊する雷に触れ、崩壊するであろう影人形を「壊れるよりも速く治している」だけに過ぎない。言うは簡単ではあるが行う事は難しい事は観戦している者達、特にノワールと共に過ごしてきた者達は思っている。神ですら恐れたブリューナクの「雷」はその程度で突破出来るほど優しくは無い事を知っているからこそノワールが簡単そうに行っているのを見て呆れている。

 

 やっぱ王様頭おかしいとは犬月瞬の言葉である。

 

 宣言通り、放たれる全ての弾丸を難なく防ぎきったノワールは影人形と共に夜空を見る。攻撃を防がれたというにも拘らず夜空はもっと楽しませろと言わんばかりに光を生み出している。彼女は光を自由に生み出し操る能力の他に自身が光を浴び続ける限り、力が上がっていく能力を持つ。光を放てば放つほど、攻撃すればするほど夜空は力を増していくが攻撃の手を止めてまで自身の力を上場させているのはこれから始まるであろうノワールの攻撃に対して逃げる事もせず迎え撃つつもりだからである。

 

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRise!!!』

 

 

 夜空の鎧から音声が鳴り続けるたびに彼女の力が高まっていくがノワールはそれをただ黙って見ている事はせず地上を染めた影より影人形を出現させる。その数は百や二百では無く正確な数は分からないが軽く千は存在しているだろう影人形達全てを使役し、目標である夜空に向けて動かした。

 

 天に浮かぶ太陽を落とすように地上より影で作られた集団が彼女に向かって行く。勿論、尋常ではない数を前に黙っているのならば流石の夜空でも数の暴力により殺されるためか全身に雷と光を混ぜ合わせたもの――雷光を纏い空を縦横無尽に移動し始める。

 

 

「うわっ、キモ。つーかマジキモ! 近寄んな気持ち悪い! ひぃ~さぁ~つぅ!! ろりぃ~たアタックえとせとらぁ!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlow!!!』

 

『Tonitrus!!!』

 

 

 飛び回る夜空を捕まえようと迫りくる影人形に向けて掌より雷光の砲撃が放たれる。アホみたいな技名ではあるが天使長ミカエルが放つ以上の威力を誇っており、一度でも触れてしまえば「雷」によって耐性すら破壊されるという防御不可な砲撃であるが――ノワールが操る影人形の前ではなんてことはないただの砲撃である。

 

 砲撃を浴びたにも拘らず影人形達は崩壊した体を復元しながら夜空へと向かってくる。その光景に軽く舌打ちをした後、人間界でも有名なドラゴン破に似た構えと共に先ほど放った砲撃よりも威力を跳ね上げた代物を放つ。一点だけの砲撃では無くそのまま夜空自身も移動し、右へ左へ上へ下へ至る所に向けて砲撃――いやビームサーベルのような何かを振り続ける。勿論、そんな事をすれば観戦している妖怪や鬼達も巻き込まれるが当たる直前に別の場所へ転移しているため肉体的には何も問題はない。

 

 走馬灯及び死を確信した事による精神的な損失までは転移させた術者――オイフェは護る気はない。傍に居るウアタハだけは後でカウンセラーしておこうとは考えているが。

 

 

「オイフェ姉さん。絶対に死なせないで、絶対にだからね! あっ、フリじゃないから! いややっぱり僕がやる! 絶対僕がやった方が良い気がする!!」

 

「クハッ! そう騒ぐ出ないぞ我が息子。言われずとも死なせるわけが無かろうが!」

 

「母さんインストールしなくていいから。あのさ……凄く今更なんだけどなんでみんな逃げないわけ!? 何で観戦してるの!? 馬鹿なの! 妖怪達って馬鹿なの!?」

 

「おいおい馬鹿とか言うなよ。こればっかりは仕方ないってな! これほどの殺し合いを目にするなんざ滅多に無いからな! こっちだって混ざれるなら混ざりたいがそれをすると姉さんが五月蠅くなる」

 

「母さん、彼の事を気に入り過ぎでしょ」

 

 

 ウアタハは実の母親が年齢が圧倒的に下であるはずのノワールを気に入っている事に呆れ、言葉には出さないが可哀想と思っている。

 

 何故影の国に居るはずの彼女達がノワールと夜空の決戦場所に居るかと言うと自称彼らの師匠の女王スカアハが原因である。ノワールと夜空の決戦を師匠として現地で観戦しようとしたスカアハをケルト神話の神々、修行中で偶然黄昏の聖槍を取り戻していた曹操と共に必死に止めたが納得せず、逆に彼らを蹴散らして影の国を出ようとしたのでオイフェが彼女の目となる事、決戦終了後にノワールを影の国へ連れてくる、あとついでにノワールの貞操を捧げるという条件によりどうにか引き留めることに成功した。最後の条件は果たして必要なのかとその場にいた曹操は思ったが残念な事に死ぬ一歩手前、いや普通にウアタハが居なければ死んでいたレベルで瀕死状態だったので何も言えなかった。

 

 故にオイフェが現地での観戦が決定したが関係無いはずのウアタハが居る理由は彼らの戦いに巻き込まれるであろう者達を死なせないためである。控えめに言って女神である。男であるが。

 

 

「テメェ夜空! んなもん振り回すんじゃねぇよ!? キマリス領が大変な事になるだろがぁ!」

 

「はぁ!? なんかキモイもんが迫ってくんだから仕方ねーじゃん!! 止めてほしかったらノワールが止めたらぁ~?」

 

「やめるわけねぇだろ! 別にキマリス領が大変な事になろうが後で治せばいいだけだしな!」

 

「じゃあ続けるぅ! ひぃ~さぁっつ!! 美少女ぶれーどぉ!!」

 

 

 たとえ神や魔王であっても両断するであろう雷光を迫りくる影人形に向けて薙ぎ払う。それはもう手あたり次第で元が砲撃であるためかキマリス領、そして隣接している領地にも被害を出している。もっともキマリス領に住む者達だけは事前に知らされており鬼や妖怪達の領地に避難しており、その場でノワールと夜空の戦いを観戦している。ぶっちゃけ現在進行形で宴会状態で自分達が住んでいる場所が吹き飛んだとしても泣き叫んだりせず逆に新築になるためかガッツポーズする猛者しかいない。ちなみにノワールの父親、現当主のハイネギアはあまりの事態に気絶中である。

 

 作物関係に関してはウアタハは勿論、妖怪や鬼達がなんとかするのでキマリス領だけは何も問題無い。他は領地の被害は知らないが。

 

 

「ゼハハハハハハハハハハッ!!」

 

『ObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtainObtOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 

 周囲を薙ぎ払い続ける極大の砲撃に対し影人形達によるラッシュが放たれる。一度触れれば力を奪うものが連続、しかも複数のためかノワールの力が夜空に匹敵するレベルで上昇していく。雷光の砲撃を放ちながら移動し続ける夜空だが薙ぎ払った先で元の姿へと戻る影人形に砲撃を振り回すのを止め、全身に雷光を纏いノワールの下へと向かい始める。

 

 それを捕えようとする影人形達だが雷光を纏った夜空の拳、蹴りにより体が半壊する事になるが攻撃を放った側である夜空からすれば完全に壊れない上、自分の手足が若干痺れるほどの硬度に呆れる――が嬉々の表情と共にさらに力を跳ね上げた。

 

 

「アハハハハハハハハハハッ!! 楽しいよノワール! すっげぇ楽しい!! もっと、もっともっともっとぉ!! 楽しもうっかノワールゥ!!」

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!』

 

「……マジかよ」

 

 

 夜空の鎧から発生するエラー音のようななにかを聞いたノワールは言葉には出さないがドン引きしている。何故ならここに来て発揮された規格外さを目の当たりにし、先ほどまでと比べられないほど跳ね上がった夜空の力を目にしたからだ。現に自分に向かってきている夜空を止めるべく操作している影人形達が触れた先で消し飛び、美少女ブレードなる技にて薙ぎ払われているのだから猶更理不尽と思っても仕方がない。

 

 どれだけ防御力を高めようとブリューナクが持つ「雷」とは相性が悪いからこそ影人形が破壊される前に復元するという方法を取ったノワールだが復元するよりも先に破壊されては打つ手がない――というのにノワールはさらに嗤った。自分が出来たのだから夜空も出来てもおかしくはないと思っているからこその反応だ。

 

 縦横無尽に移動し続け自分へと向かってくる夜空を受け止めるべくノワールはさらに力を高め、編み出した技を放つ。

 

 

「ゼハハハハハハッ! そうだよな! そう簡単には終わらねぇよな夜空! 来るって言うなら正面から受け止めてやるよ! 来やがれシャドールゥッ!!」

 

『Shaddoll Fusion!!』

 

 

 ノワールの鎧から発せられた音声により周囲に出現させている影人形達が次々と一つに集まっていき、それをまるで服を着るかのように纏う。新生亜種禁手を会得し、影の国でスカアハと殺し合っている最中にノワール・キマリスが編み出した絶技の名は影人形融合(シャドール・フュージョン)。たとえ影人形が強化されようと本体が弱いままでは意味が無いと何度も死に続ける中で掴み取った一つの力であり影龍王の再生鎧ver影人形融合と呼ばれた技の完成系。本来使役するはずの影人形達を集結させた影を自ら纏う事で攻防共に上昇させ夜空レベルの相手との接近戦であっても問題無く戦えるようになった。

 

 禍々しい棘が目立つ全身鎧を黒い膜のようなもの覆われるとノワールは雷光と化した夜空へと向かうと――爆音が鳴り響く。片や全てを破壊する雷光、片や全てを防ぐ影を纏う夜空とノワールが全力で正面からぶつかり合う。互いの拳がぶつかった際の衝撃により周囲が吹き飛ばされるも両者共に兜の中で笑みを浮かべる。夜空はこの一撃でも壊れないノワールの防御力に喜び、ノワールは自らが高め続けた防御力で無ければ受け止めきれない夜空の攻撃力に喜んだ。

 

 

「アハハハハハハハ!!」

 

「ゼハハハハハハハハ!!」

 

 

 その事実に過去、現在、未来で最強の地双龍と呼ばれた二人は心の底から笑い合う。正面からぶつかり合っても受け止めてくれる、受け止められるという事実がノワールと夜空の心を満たしていく。

 

 

「ハハハ! 見ろアルビオン!! 影龍王と光龍妃! あの二人の衝突でこれだ! 凄いとは思わないか?」

 

 

 山吹色の雷光と黒の影が空中で何度も衝突しているのを見ているのはヴァーリ・ルシファー。背に白龍皇の光翼を出現させ自らも宙に浮きながらノワールと夜空の攻防を観戦している。彼がこの場に居る理由はただ一つ、地双龍の決戦が行われるのだからそれを観戦しないなど白龍皇として許さないという感情の為だ。本来ならばチームD×Dが駒王町で行っているプレゼント大作戦なるものに参加するように言われていたがこの一戦を理由に拒否、こうして足を運んでいる。

 

 

『スゴイネ』

 

「……アルビオン?」

 

『アルビオン違う。私、ヒップドラゴンのア・ルビーオン。白い龍のアルビオン違う』

 

「いやアルビオンだろう?」

 

『――ヴァーリ、今だけはその名で通してくれ。あれを見ろ……! あの姿! 間違いなくスカアハ……いやオイフェだ! あれがいるならば間違いなくあの女も見ていると言う事になる! 私は嫌だぞ!? あれに目を付けられて影の国に連れていかれるなど……! 絶対に行きたくでござる!!』

 

 

 普段ならまず間違いなく見ないであろうアルビオンの様子に流石のヴァーリも困惑の表情を浮かべる。共に生きてきた友であるアルビオンが示した先にいるのは一人の女性。十人いたら十人とも美女と呼ぶほどの女性だがヴァーリは容姿よりも先にその実力の高さに注目した。離れた場所からであっても自身が全力を出しても問題無いほどの強さを有している事に気づき、戦ってみたいという感情を起こす。

 

 

『やめろ。ヤツと戦うと言うのならば今後一切、絶対に! 絶対にお前に力なんて貸さないぞ! フリでは無いぞヴァーリ! この私はやると言ったら絶対にやるドラゴンだ!』

 

「……仕方がない。彼女との一戦はまた今度にするとしよう」

 

『戦うなと言っているだろうが!!』

 

 

 アルビオンからの抗議の声を受け流したヴァーリは再びノワールと夜空の攻防へと意識を向ける。

 

 

「アハハハハハハッ! すっごいすっごい!! すっげぇ硬いじゃんノワールゥ!!」

 

「当たり前だろうが!! お前を受け止めるため! お前を守るため! 何度も死にながら高め続けた防御力だぞ? その程度の攻撃で突破されてたまるかってなぁ!!」

 

「だったらさぁ! だったらさぁ!! こんなのはどぉ~だぁ!! ひぃ~っさつぅ! ひんにゅぅかいひぃ!! ぁ゛? 誰が貧乳だぁ!!」

 

「テメェが言ったん――ががぁっ!!」

 

 

 影を纏ったノワールの拳をギリギリで躱した夜空は自身が発した言葉にブチギレながらカウンターとして蹴りを放つ。勿論、雷光を纏っていたとしても無数の影人形が集結した影を纏っているノワールには大したダメージは入らないの――狙いはその続きだ。

 

 人間が放つものとは思えないほど重く、鋭く、そして速い蹴りのラッシュを一瞬だけ隙が生まれたノワールに叩き込む。反撃を食らわないように体を回転させ、フィニッシュには膨大な雷光を足に一点集中させて彼の胴体に叩き込んだ。規格外と呼べるほどの一撃を受けたノワールはその勢いと共に地面に叩きつけられる。影を纏った全身鎧の胴体部分は威力の高さを知らしめるように穴が開いており、ノワール自身も骨が粉砕したりと普通であるなら死ぬであろう大怪我を負っている。しかし彼は死なない。

 

 

『Undead!!』

 

 

 影の龍クロムが持つ不死性、驚異的な再生能力により全身の怪我も鎧の破損も元に戻る。再生を終えたノワールが空を見るとそこには光の槍が今まさに落ちてこようとしていた。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハッ! 美少女アタックうるとらぁ!!」

 

『GlowGlowGlowGlowGlowGlowGlowGlGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!』

 

『RiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiseRiRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!』

 

『TonitrusTonitrusTonitrusTonitrusTonTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT!!』

 

『Starlight Spear!!!』

 

 

 夜空はまたもやアホみたいな技名と共に穂先が五つに分かれている槍を作り出す。地上に大きな影を作り出すほどの大きさを誇るそれは雷の龍ブリューナクが持つ絶技、光龍の爪(スターライト・スピア)。彼女の生みの親とも言えるケルト神話の太陽神ルーが持つ槍を真似た技で長年行動を共にしていた影の龍クロムも認めるほどの威力を有している。勿論、最大の威力を有していた時は神器に封じられる前だったが現在、その技を操る者は生前のブリューナクに届きうる力を引き出している夜空のため一度放たれれば神ですら葬れるほどの威力だろう。

 

 その槍を見たノワールは影人形を生み出す事はせず自ら纏う影を強め、上空へと飛び立った。あの技の威力は彼自身も知っており無数の影人形のラッシュでさえ防ぎきる事は不可能と本能で理解したからこそ無駄な事はせず夜空へと向かって行く。

 

 

『ゼハハハハハハハ! どうする宿主様! あれ食らうと死ぬかもしれねぇぜぇ?』

 

「そんな無駄な事聞くなよ相棒! 分かってんだろ!?」

 

『当然よぉ! ゼハハハハハハ!!』

 

 

 空より降ってくる巨大な槍に突っ込んだノワールは全員から音声を流し続ける。超高密度の光、そしてあらゆる防御を貫く雷の集合体のため想像を絶する痛みを浴び続ける。常人ならば既に発狂しているであろう痛みの連続に一度死に、再度死に、何度も何度も何度も死に続けては再生し続け一直線に突き進む。死ぬ事は良きる事と同じ事、生きる事は死ぬ事と同じ事という言葉をスカアハより言われ当初は何を言っているか理解できなかったが今のノワールは理解していた。

 

 死ぬのはいつもの事で生きる事は当たり前。だから俺は何が有っても死なない。

 

 誰もが首を傾げる言葉を胸に秘め、全身より複数のエラー音を鳴らし続けること数十秒――ついにその言葉通り死ぬ事も無く突破した。

 

 

「――ゼハハハハハハハハッ!!」

 

 

 漆黒の流星を化したノワールは勢いを止めずに夜空と衝突する。神や魔王の一撃ですら難なく防ぐであろう防御力を持つノワールが神速染み勢いでぶつかればどうなるかは誰もだって予想できる。膨大な生命力が炎として可視化され、それを纏っている山吹色の全身鎧が粉砕し夜空自身も血を吐いた。人間ならば絶命するほどの威力であっても夜空は死ぬ前に自らを「回復」し、鋭い殺気と共に彼を見るが――次に待っていたのは尋常では無い痛みだった。

 

 

『PainePainePainePainePainePainePainePaiPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!』

 

 

 普段のノワールからは考えられない拳でのラッシュ。彼の鎧から発せられるエラー音により一撃が叩き込まれるたびに夜空は発狂しそうになるほどの「痛み」が襲い掛かる。影の龍クロムが持つ呪い、自らが与える痛みを倍増させるそれはたとえ夜空であっても逃れる事は出来ない。拳を叩き込まれてはその痛みが倍増し続ける事は拙いと彼女の本能が理解したのかノワールの顔面に一撃を入れ距離を取る。そして軽く指パッチンすると追撃しようとしていたノワールの体が突如、爆発しバラバラになった肉片が地上に落ちる。

 

 

「……いってぇ……! マジ痛いんだけど……! 許さねぇからなノワール!」

 

「……こっちにセリフだ馬鹿野郎……! 人の体内で光放出とかエグイことしやがって……!」

 

 

 片やバラバラになった肉体を再生、片や受けたダメージを回復し恨み言のように再度向かい合う。先ほど放たれた光龍の爪によって地上には隕石でも降って来たのかと思うほど巨大なクレーターが出来ている。本来ならばこれほどの被害が出れば魔王達による停止命令が出るが今回ばかりは彼らは止める気は無い。

 

 止めてしまえば怒りの矛先が自分達、そして冥界に生きる悪魔達に及んでしまうからこそ放置せざるを得ない。

 

 

「いい加減、負けやがれ……! お前を守らせろ!」

 

「こっちのセリフだっつーの! 私に守らせろ!」

 

「ふざけんな! 俺はお前を守りたいんだよ! 男が好きな女を守りたいと思って何が悪い!!」

 

「それこそ私だって同じ! 私はノワールを守りたい! 女が惚れた男を守りたいと思って何が悪いのさ!」

 

 

 クレーター内で行われで突如行われる告白合戦。長生きしている妖怪や鬼達は青春だと感動し、彼ら二人を知っているキマリス領民達は良いぞ良いぞもっとやれと酒がさらに進み、死人が出ないように巻き込まれそうになった者達を転移させていたオイフェは爆笑しウアタハは相思相愛ならさっさとくっ付けよと呆れる。

 

 観戦していた者達の感情など当人達には届かず、クリスマスだからか、それとも決戦だからかは分からないが互いに言いたい事を全力で言い続ける。

 

 

「好きなんだよ! 初恋だったんだ……! 一目惚れだった!! お前に助けられた時から今日までお前の事しか考えられないほどにな! あの時のお前……本当にひっどい顔してたから笑顔にしてやりたくてここまで強くなった! だから意地張らずに俺を頼れよ! 頼ってくれよ頼むから!!」

 

「私だってノワールの事が大好きなんだよ! こんな私を怖がらずに接してくれて! ご飯食べさせてくれたり私がやった事とか怒らず受け止めてくれて! 今だから言うけど私だって一目惚れだかんな! お前を助けた時からずっと……ずっと! でもどうしたら良いか分かんないから無視したりとかしたけど……それでも話しかけてくれてすっごく嬉しかった! だから……頼ってよ! もっと頼ってくれても良いじゃん!!」

 

「頼りたいさ! でも頼りっぱなしは嫌なんだよ!! お前に守られると……また俺は! 弱い存在になっちまう! 嫌なんだよ! 無力な俺に戻るのは嫌なんだ!!」

 

「知ってる! ノワールがずっとそう思ってたことぐらいお見通し! 私だって……同じ! でもノワールに頼りっぱなしだと嫌だ! 好きって思いに甘えてたくない!」

 

「男の気持ちぐらい理解しろ馬鹿!!」

 

「女の気持ち理解しろ馬鹿!!」

 

 

 相手に対する思いを赤裸々に暴露し続けるノワールと夜空だが一向に譲る気は無いと理解すると静かに相手を見つめる。

 

 

「やっぱりあれだな……お前に勝たないと納得しないって事は分かった」

 

「やっぱお前に勝たないと納得しないって事は分かった」

 

「だったら続きしようぜ」

 

「当然。ぜってぇ納得させる」

 

 

 見る者全てを震え上がらせるほどの殺気と共にノワールと夜空の二人は切り札と言うべき代物を解き放つ準備に入る。

 

 片やあらゆる邪悪を浄化するほどのオーラ、片やあらゆるものを汚染する瘴気を放出する。それに伴い、彼らの鎧から老若男女の声が響き渡る。

 

 

「我、目覚めるは――」

《我らは止まらぬ》《止まる事など許されぬ》

 

「我、目覚めるは――」

《もはや止めることなど不可能》《分かり合うためにはこれしかない》

 

 

 影龍王の手袋と光龍妃の外套に宿る歴代所有者の思念が開戦を告げる。

 

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《真に欲するならばこそ》《真に愛するならばこそ》

 

「八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――」

《好きだからこそ》《愛しているからこそ》

 

 

 既に死を迎えた魂であろうと互いの思いを、欲望(ねがい)を知っているからこそ自らが持つ力の全てをこの一戦に注ぎ込む。

 

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《一度殺すしかない》《殺す以外の道などない》

 

「絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――」

《勝者になるしかない》《全てぶつけるしかない》

 

 

 全ては自分達が従う王を勝たせるために。

 

 

「我、夜空求める影龍()の悪魔と成りて――」

 

「我、()()()()()()()()()()()()と成りて――」

 

《我らが悪魔こそ勝利者なり! 跪け光龍妃!》

《我らが女王こそ勝利者なり! 受け取るが良い女王の思いを! 》

 

「「「「「汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」」」」」

 

「「「「「汝を金色の夢想と運命の舞台へと誘おう!!」」」」」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!』

 

『Tiphereth Queen Over Drive!!!!』

 

 

 ノワールは夜空を、そして夜空はノワールを求めることを呪文に付け加え、その思いを込めた事により彼らが会得した切り札が顕現する。

 

 影龍皇の漆黒鎧(プルシャドール・ジャガーノート)()覇龍融合(オーバーフュージョン)。ノワール・キマリスが放つ邪悪の化身、片霧夜空と言う一人の少女を追い求めた先の形態である。彼の亜種禁手が変化した事によりその力も変化前と比べ格段に向上している。しかしそれは対する彼女も同じである。

 

 雷光龍妃の金色鎧(ティファレト・ジャガーノート)()覇龍昇華(クィーンドライブ)。片霧夜空が放つ神聖の化身、ノワール・キマリスと言う一人の少年を追い求めた先の形態である。彼の口より語られた自身の秘密、夜空の魂に秘められた生命の実の力と真に愛する事を理解した雷の龍ブリューナクと力を合わせた結果。この形態になる事が出来た。本来「覇」を求める歴代思念達を「ノワール・キマリスを愛する」という強い思いによって屈服させており、自由気ままに生きる夜空の気質を反映してか発動時の命の危険性は限りなく低いが発動時間は数分程度でその時の夜空の気分によってさらに上昇する。恐らく今回の一戦は現在の夜空が耐えられる限界まで伸びているだろう。

 

 

「『ゼハハハハハハハハハ! なんだよ夜空ちゃん! やっぱり隠し玉があったか!!』」

 

「『アハハハハハハハハハ! 当然じゃんノワール! この私があのままで止まると思ってんの?』」

 

 

 ノワールは影の龍クロムと、夜空は雷の龍ブリューナクと声が重なっているがどちらも封じられた邪龍と心を一つにし、真に絆を深めた事によるものだ。

 

 雷光龍妃の金色鎧(ティファレト・ジャガーノート)()覇龍昇華(クィーンドライブ)という隠し玉を見たノワールは心の底から嬉しさを表すために笑う。金色のドラゴンを模した全身鎧に背はマントと姿に変化は無いが周囲には雷の球体が複数浮遊しており放たれる浄化のオーラと合わせて不用意に近づけば大抵の存在は絶命すると理解できるほどの存在感がある。

 

 

「『なんとなく凄いことしてくるとは思ってたが……最高だぜ夜空! ますます好きになった!』」

 

「『ふっふ~ん! もっと惚れても良いんだぜ? 言っとくけど気を抜いたらどうなるか……分かってるよね!』」

 

「『当然だ! それじゃ――第二ラウンドの始まりと行くかぁ!』」

 

 

 神や魔王ですら止める事が出来ない戦いが再び始まった。




・影龍皇の淵源鎧《コクマリス・アンブラ・インカーネーション》
ノワール・キマリスが宿す影龍王の手袋の亜種禁手。
「影人形の強化」という常時発動する能力が発現している。
強化された影人形はノワールの戦車、四季音花恋ですら破壊するのに時間がかかるほどの硬度がある。
強化対象は一体だけでは無く生み出される全てに作用されるので大量に生み出せば酷い事になるがノワールの僧侶、水無瀬恵の禁手ならば強化を「反転」出来るので彼女のみが現状唯一の弱点的な何かである。
「恵が居ないとムリゲー」「一人だけやってる事が違うですけど」「水無瀬先生が居ないと詰みますよね」「私だけ責任重大過ぎるんですけど」
以上がキマリス眷属のお言葉である。

・雷光龍妃の金色鎧・覇龍昇華《ティファレト・ジャガーノート・クィーンドライブ》
ノワール・キマリスにより隠されていた自身の秘密を知り、それを受け入れた上で母親代わりの陽光の龍ユニアと真に力を合わせた事により耀龍女王の金色鎧・覇龍昇華が強化された形態。
状態時は夜空と陽光の龍ユニアの声が重なった音声になっている。
「光龍妃の外套」の奥底に眠る歴代光龍妃の思念達を「ノワール・キマリスに対する愛」によって屈服させている。
命の危険性は限りなく低いが発動時間は数分程度でその時の夜空の気分によって上昇し、基本的にノワール・キマリスが関わっているならば発動時間伸びるらしい。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

127話

初めて特殊タグを使いました。
こんな風になるんですね……。


 ノワール・キマリスにとって片霧夜空と言う少女の第一印象は綺麗であった。

 

 彼の人生は()()()()を迎えるまでは平凡そのものだった。何かに優れているわけでも無く、何かに劣っているわけでも無い。そんな彼が周りと違う点と言えば純血悪魔では無く混血悪魔と言う事実だけだった。元七十二柱の一つ、キマリスの血を引く純血悪魔の父と何の力も持たないただの人間である母親の間に生まれた混血悪魔、それがノワール・キマリスである。

 

 純血悪魔は同じ純血悪魔と結ばれるべきと多くの貴族、冥界上層部ですら声を揃えて言っていた中でまるで反抗するように結婚した両親から彼は周りの事など気にしないとばかりに愛された。しかし幼い彼は純血主義を掲げていた貴族達からはまるで家畜でも見るような、凡そ子供ではないなにかを見ているような視線で見られ続ける事で周りと違うと理解するのは遅くは無かった。だからこそ彼は認められるように良い子であろうとした。両親が誇れるように頑張ろうと思っていた――がそれは単なる甘えだったと理解する事になる。

 

 その日、人間界は普通の日だった。世間が驚く発明があったわけもなく誰もが恐怖する大事件があったわけでも無い。ただ冥界に住んでいた母親が久しぶりに人間界に行きたい、ノワールに外の世界を見せたいと言う親心から母親と息子の二人で人間界へと赴いた。しかし親子での外出、行先は人間界と消すには都合の良い条件が揃っていた事からノワールとその母親を疎んでいたキマリス家、そしてそれに従う悪魔達は行動を起こした。信じていた者達による裏切りによる困惑、自分達を殺そうとする殺意から逃れるために戦う力を持たない母親に手を引かれ、庇われ、最後には目の前で倒れる状況を改めて自覚した事により――ノワール・キマリスという混血悪魔に宿った()()は発現した。

 

 ――影龍王の手袋(シェイド・グローブ)

 

 人間あるいは人間の血が流れる者にしか宿らない神器(セイグリット・ギア)の中でも十五種しかない神を滅ぼせる代物の一つ。地双龍と呼ばれる邪龍の一体が封じられ、宿す者は影龍王と呼ばれる神滅具をその場で発現した事により彼は自分の「運命」に出会った。

 

 

「『夜空ァァァッ!!』」

 

 

 最愛の相手である少女の名をノワールは強く叫ぶ。

 

 神を滅ぼせる神器を発現したとしても当時のノワールは戦闘経験が無かった。目の前では母親が血まみれで今にも死にそうな状況で唯一出来る事と言えば襲撃者を殺意を込めた目で見る事と自分達を神滅具の力で守る事だけ。そんな状況をまるで最初から何も無かったかのようにしたのは誰でも無い、ノワールの目の前に居る片霧夜空と言う少女。たった一瞬で襲撃者を消滅させた彼女にノワールは凄い、強いなどの感情を抱く前に純粋に綺麗だと思った。

 

 お礼を言う間もなく見惚れた彼女からの一言は今もなおノワール・キマリスと言う男の心に突き刺さっている。自分が弱かったからこの状況になり、周りを信用してしまったから母親が死にかけたと誰かに言われるまでもなく理解した。だからこそノワールは自分を偽るのを止めた。良い子になっても誰も喜びはしない、両親が誇れるような息子になった所で周りはいつか必ず裏切る、弱い事が罪ならば強くなる、この世で信じられるのは自分と神滅具の中に居る邪龍だけと心に決め、両親すら自分が強くなる踏み台にする事を覚悟した。

 

 全てはあの日、あの時に出会った彼女に追いつくために。

 

 ノワール・キマリスという混血悪魔は片霧夜空と言う少女に出会った事で本当の意味で生まれたのだ。

 

 

「『ノワールゥゥゥッ!!』」

 

 

 最愛の相手である少年の名を強く叫ぶのは片霧夜空。

 

 彼女の人生は()()()()を迎えるまでは波乱万丈であった。彼女は覚えてはいないが母親の腹の中に居た時期には既に自らに宿る神滅具の一つ、光龍妃の外套(グリッター・オーバーコート)に封じられた邪龍を視認し、生まれた後も赤ん坊の腕力では壊せないはずの玩具を握力だけで握りつぶす、高い場所から落ちても怪我をしないなどの異常性があった。

 

 彼女の両親は至って普通の人間である。だからこそ自分達の子供がおかしいと言う事に気づく事になるが人間故に最初は愛そうとした、ちゃんと受け入れようとしたが年月が経つにつれ自分の子供とは思えない異常性を次々と目の当たりにした事でそれは恐怖に代わる事になり――片霧夜空と言う少女は普通ならば右も左も判断できない年齢にも拘らず両親に捨てられた。

 

 捨てられた彼女は幼い子供とは思えないほど自分の状況を理解していた。このままでは死ぬと本能が理解していたから行動を起こす。生きるために必要だったのである時は草を食べた。ある時はカビが生えた食べ物を口にした。ある時は排水溝に住む鼠を食べた。喉を潤すために汚れた水を、小動物の血を、自分の排泄物ですら飲み干した。寒さを凌ぐために悪臭が酷い場所で、自分の身の丈を超す草木の中で、神滅具の力を使い穴を掘り土に塗れながら眠った。普通の人間ならば一日も経たずに病気になり死を迎えるだろう状況にも拘らず彼女は自らに宿る神滅具に封じられた邪龍と共に生き続けた。

 

 幼い少女というだけで狙う輩を返り討ちにした事もある。ボロボロの服装を見て同い年の子供に笑われたこともある。見るに見かねて善意で保護しようとした人達すら信じず夜空は一人で居続けた。何故なら信じられるのは自分と一緒に居てくれる邪龍だけだと理解していたからこそ誰にも従わず、誰も信じず生き続けた――運命と呼べる日までは。

 

 片霧夜空にとってノワール・キマリスという少年の第一印象は良く分からないである。

 

 自分が唯一信じる邪龍の言葉に従い、違和感しかない空間に足を踏み入れてみれば名も知らない親子らしき者を痛めつけている存在が居た。この世界は弱肉強食、弱いのが悪いと分かっていたが何故か助けていた。その事に気づいたのは全てが終わった後で我に返った彼女、片霧夜空は彼と出会った。

 

 目の前に居る助けた男が自分を見る目が夜空は理解できなかった。幼い自分に欲情して襲ってくる男のような目でも無く自分の恰好に同情している男のような目でも無い。自分を捨てた両親を見つけ出し捨てた事に対する恨みから殺害した際の化け物を見るような目でも無い――彼、ノワール・キマリスの目を見て相手が何を考えているのか分からなかった。その目をずっと見ていたくなる自分が怖くなり彼女はそれらしい言葉と共に逃げるようにその場を去るも時間が経てど彼の顔が頭から離れなかった。

 

 だから気になった。なんで自分は彼を助けたのか、あの目はどんな意味を持つ目だったのかを知るためにいつの間にか使えるようになった仙術と呼ばれるものを利用して彼を見続けた。化け物と呼ばれた自分を見つけると何事も無いかのように話しかけてくるたびに不思議と顔が熱くなった。ただ見ているだけにも拘らず何故か楽しいと思えた。辛いはずの明日が来るのが楽しみになった。

 

 片霧夜空はノワール・キマリスと言う少年に出会った事で人間らしさを取り戻した。

 

 

「『ゼハハハハハハハ!! 相変わらずおっかねぇなぁおい!! 触れたら普通に消滅するじゃねぇか!!』」

 

「『アハハハハハハハ!! 当然! この超絶美少女夜空ちゃんに簡単に触れようとかおもうんじゃねーよばーか!! つーかかったいんだよ! 手が痛くなんじゃん!!』」

 

「『当然だろうが! 俺がここまでの硬さを! 防御を求めたのはお前を受け入れるためだからな!! だから感謝してどんどん向かって来い夜空!!』」

 

 

 何もかも汚染する醜悪な漆黒(ノワール)と何もかも全て浄化する金色(よぞら)が衝突し続ける。

 

 彼らが纏う力はドラゴンを封じる神器だけが扱える覇龍と呼ばれる禁忌の力を自らの欲望(ねがい)だけで強化または変質させたもの。その欲望(ねがい)は単純かつシンプル――自分が心から求める相手への愛である。歴代影龍王、光龍妃の面々ですら飲み込まれた「覇」の理、発動すれば命を落としかねない危険な代物を愛の感情だけで自らの力に変えた。

 

 影の龍クロムは語った――ユニアの宿主と出会う事こそが運命だったんだろうぜ、と。

 

 陽光の龍ユニアは語った――ノワール・キマリスと出会う事こそ運命だったのでしょう、と。

 

 二体の邪龍は語った――俺(私)達は最高の宿主と出会う事が出来た、と。

 

 ノワール・キマリスは片霧夜空を心の底から愛し、片霧夜空もノワール・キマリスを心の底から愛している。長い年月、殺し合いを続けていた影龍王と光龍妃が互いを愛し合う状況はこの時代で初めて行われた事であるがそれ故に歴代の者達では至れなかった境地に辿り着いた。

 

 

「「『『しねぇぇっ!!!』』」」

 

 

 ノワールと夜空は何度もぶつかり合う。

 

 神話に登場する神ですら実際に滅ぼしたほどの力を遠慮も加減もせずに正面からぶつかり続ける。彼らの決戦の地である地双龍の遊び場はもはやそこには何があったのか分からないほど原形を留めておらずノワールが将来治めるであろうキマリス領全体が衝突の余波で吹き飛んでいる。勿論、キマリス領に隣接する領地も例外では無く夜空が放つ極大の雷光が、ノワールが放つ極大の影の波動が薙ぎ払われるたびに魔獣騒動と呼ばれる災害以上に被害が出ている。

 

 当初は観戦していた妖怪達全員、キマリス領民が避難している場所へと転移させられ映像にて被害を見ているが誰もが文句を言わず逆に良いぞ良いぞと酒が進んでいるに対し、キマリス領民以外の悪魔達は今すぐ止めるようにと魔王達に願い出ている。しかし止まる事は無い。何故なら魔王達はおろか神ですらこの戦いに介入は出来ないからだ。一歩でも彼らの前に姿を現せば怒りの矛先が自分達、そして冥界全土に広がる恐れがあるため魔王達は領民の避難誘導を続けるしかない。

 

 各地の被害に頭を悩ませている魔王の事など全く気にする事も無くノワールと夜空は持てる力の全てを使って自分の思いをぶつける。

 

 

「『夜空! 俺は……俺はァ!! お前の事が好きだぁ!!』」

 

「『私だって……お前の事が大好きだぁ!!』」

 

「『分かってるなら……俺にお前を守らせろよ! お前も守るために此処まで強くなったって! 分かってくれても良いだろうが!!』」

 

「『そっちこそ私に守らせてくれても良いじゃん!! 嬉しかった……嬉しかったんだから! 化け物じゃなくて普通の女の子として接してくれたのはノワールだけだった! その恩返しをさせてよ! てかさせろぉ!!』」

 

「『それを言うなら……俺はお前に命を救われてるんだよ! 俺だけじゃない母さんの命もな! その恩返しをさせてくれよ頼むから!!』」

 

「『だったらお前が私を認めろぉ!』」

 

「『ふざけんな! お前が俺を認めろよ!!』」

 

「『やだ!!』」

 

「『俺だって嫌だね!』」

 

「「『『この分からず屋!!!』』」」

 

 

 互いの拳が真っすぐ相手の拳とぶつかる。その衝撃で冥界の空に、彼らの周囲の空間に小さな亀裂が入る。実際に神すら滅ぼしたほどの強大な力が加減も無く衝突し続ければ空間に影響が出るのは当然、かれこれ数分間はぶつかっては離れ、またぶつかるを繰り返している事により冥界と言う空間ですら耐えきれなくなっている。しかし彼らは止める事は無い。空間()()を気にするよりも相手に思いをぶつける事が先と本気で思っているからこそ空中でぶつかり合う。

 

 漆黒の影を纏った拳が黄金の鎧を砕き、目を奪われるほど美しい極大な雷光が漆黒の鎧を消滅させる。全身を影龍を模した顔へと変化させ、口から削り取られたかと錯覚するほどの黒い砲撃を放つと迎え撃つように全身を光龍を模した顔へと変化させ、口から目を瞑りたくなるほど眩しい黄金の砲撃を放つ。お互いの攻撃で自らが傷つこうとも即座に再生、回復し何度も、何度も何度も何度も二人は戦い続ける。手加減など一切無い純粋な力と力のぶつかり合いは永遠に続くかと思われたが――そんなものなどあり得ない。

 

 

「『まだ、まだぁ!!』」

 

「『もう、すこしぃ!!』」

 

 

 何もかも吹き飛んだ大地へ同時に落ちたノワールと夜空は苦しげな声を上げながら相手を見る。

 

 ノワールが放つ影龍皇の漆黒鎧・覇龍融合は片霧夜空が関わっていれば発動時間が延びる性質を持ち、片霧夜空が放つ雷光龍妃の金色鎧・覇龍昇華もまた同じくノワール・キマリスが関わっていれば発動時間が延びる性質を持っている。

 

 相手を求めているが故に同じ性質を持った切り札は十分という長いようで短い時間が経過した事によって限界を迎えようとしていた。しかしそれは二人は認めない。認める事など出来はしない。まだ相手に自分の思いを伝えきれていないにも拘らず限界が来るなどあり得ないと獣――いやドラゴンですら竦む雄叫びと共に立ち上がる。

 

 

「『よぞらぁぁぁっ!!!』」

 

「『のわーるぅぅぅ!!!』」

 

 

 全ての力を込めた拳が互いの体を捕える。

 

 黄金と漆黒の輝きが周囲を染め上げ、ただでさえ痛めつけられた冥界の大地が、空間が壊れるほどの衝撃が起きる。その中心地に居たノワールと夜空はお互い、後ろへと吹き飛ばされ――離れた場所で地面に倒れる事になった。

 

 黄金の鎧が、漆黒の鎧が、神すら滅ぼした力が消えた事により二人は生身の状態で倒れている。長く続いた相手に自分の思いを伝える告白合戦が無くなり、力と力の衝突が消え去った事で周囲は無音となった。最後までこの地に居たのは影の国よりやってきたオイフェとウアタハ、そしてノワールの眷属達だけであり誰もが言葉すら出さない状況が一秒、二秒と続いていく。

 

 これで終わりなのか――と誰かが思った時、その場に声が響く。

 

 

『――てよ!』

 

『――って!!』

 

 

 声の発生源はノワール、そして夜空からだが彼らの声ではない。神器の中に封じられた影の龍クロムはノワールの影から、陽光の龍ユニア改め雷の龍ブリューナクは夜空の影から霊体のような形で顔だけ顕現し、自分の宿主に向けて声を放つ。

 

 

『立てよ!! 宿主様!!』

 

『立ってください夜空!!』

 

 

 自らの欲望だけで世界各地を暴れ回った末に神器に封じられた地双龍が自らの宿主に向けて叫ぶ。影の龍クロムはノワール・キマリスと出会った事で護る事の素晴らしさを理解し、雷の龍ブリューナクは片霧夜空と出会った事で誰かを愛する事の素晴らしさを知った。聖書の神と呼ばれる存在の言葉により知りたいと思った感情を長い年月を得て知る事が出来た彼らが今この時、この瞬間にあるのは自分の宿主こそが最高であるという感情のみ。

 

 だからこそ悔いを残さぬよう彼らに呼び掛けるのだ。

 

 

『宿主様! こんな所で寝てて良いのかよ! ここで終わったらまたいつもみたいになっちまう!!』

 

『夜空! 起きてください!! 今この時! この瞬間でなければダメなのです! ここまで来たなら最後まで! あなたの思いをぶつけてください!』

 

『目の前の女を手に入れたいんだろう!? その為だけに此処まで来たんだろうが!! だったら終わるな! 終わらせんな!!』

 

『貴方が彼をどれだけ愛しているのか私は知っています! だから……だから! 起きて!!』

 

『ノワール!!!』

 

『夜空!!!』

 

 

 二体の邪龍の叫びが響き渡る。

 

 それは世界に響き渡るほどの強い思いであり、純粋に宿主を思うが故に放たれた願いはノワールと夜空に力を与える。最初に指が動き、次に足が動く。生まれたての小鹿のように立つ事すら困難だと見ている者すら察するほど疲弊し、全ての力を使い果たしたかと思われた二人はその声に答えるように立ち上がる。

 

 全ては相手に思いを伝えるために。

 

 

「……相棒、にそこまで、言われたら……! 寝てられ、ねぇよなぁ!!」

 

「う、っさい……! 寝る、わけねぇじゃ、ん!!!」

 

 

 今にも倒れそうな状態でノワールと夜空は立ち上がり、向かい合う。そして一歩、また一歩と最愛の相手に近づいて行く。自らが編み出した切り札の代償として他者が指一本だけで押せば気絶しそうなほど疲弊している状態であっても二人は戦うのを止めない。その目には既に目の前に居る相手しか映っておらず、周りの音すらも聞こえてはいない。そんな姿を映像で見ていたキマリス領民と妖怪達は顔を見合わせ――静かに映像を切った。確かに二人の戦いを見届けるとは言ったがそれはあまりにも度が過ぎた行為と映像越しで理解できたからこその行動である。

 

 此処から先を見る権利があるのは――現地に居るノワールの眷属達だけだと彼らの思いは一致した。

 

 

「――ッァ!!」

 

 

 最初に拳を握り、振りかぶったのはノワールの方だった。神器を出現させる気力も無く魔力を練るほど余裕もない彼が最後に選んだのは純粋な殴り合い。美少女と呼べるほど整っている夜空の顔に遠慮なく拳を叩き込むと耐える事も無く彼女は地面に倒れる。

 

 

「よ、ぞ――ァァァッ!?!?

 

 

 倒れる彼女に跨り再度拳を叩き込もうとするノワールだったが耳を塞ぎたくなるほどの叫びを上げる。視線の先には自分の脇腹に指を喰い込ませている夜空の姿があり、女の腕力では考えられないほどの勢いで骨を砕かれ肉を抉られる。尋常では無い痛みによって行動が止まった隙を夜空は見逃さず、もう片方の手で反対側の胴体を殴る。神器が無くともコンクリート程度ならば容易く砕く夜空の拳は生身のノワールにとって耐えきれるものでは無く先ほどとは逆に自分が地面に倒される。

 

 

「ァ、ッ! ァァァァッ!!!」

 

 

 ノワールがやろうとしたことを夜空はそのまま実行する。ノワールに跨り一回、二回、三回と連続で彼の顔を殴る。衝撃で地面が砕けるほどの威力を浴び続け――十回目の拳が叩き込まれる頃にはノワールは動かなくなった。

 

 

「――さようなら」

 

 

 微かに息はある事に気づいた夜空は最後、トドメの一撃を与えようとする――が。

 

 

「――ふざ、けんなぁっ!!

 

 

 ノワールの瞳にはまだ生気が残っていた。死ぬわけにはいかない、負けるわけにはいかない、自分の思いはこの程度では終わらないという意味を込めた叫びと共に夜空の顔を掴み勢いよく地面に叩きつける。その行動により夜空の片目は潰れ、鼻は折れる事になるがノワールは止まる事も彼女の頭を掴み再度地面に叩きつける。

 

 二度目の叩きつけで夜空の前歯は折れるも潰される事の無かった片目にはまだ生気が残っていた。ノワールと同じく死ぬわけにはいかない、負けるわけにいかない、自分の思いはこの程度では止まらないという強い視線と共にノワールの胴体に指を喰い込ませ、骨を掴んで引っこ抜く。常人なら痛みで絶命するであろう状況であってもノワールは死なない。この程度の痛みなら何度も味わっている経験がこの場において活かされているからだ。

 

 もはや男も女も関係無い攻防を見続けている犬月瞬はその姿に憧れを抱く。いつか自分もこのような殺し合いが出来るような相手が欲しいと、自分の宿敵であるアリス・ラーナとこんなやり取りをしたかったと瞬きすら忘れるように二人を見続ける。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……ぁ……ぁ……」

 

 

 先の攻防の果て、既に死に体で指一本すら動かせないとばかりにノワールと夜空は地面に倒れている。しかし視線は相手を見続け、もう限界だと自分に語り掛けてくる何かに抗う様に再度立ち上がる。向かい合う二人に対し周囲は風の音だけが聞こえているこの状況はまるでガンマンの早打ち勝負のように錯覚されるだろう。

 

 そして――

 

 

「『よぞらぁぁぁっ!!!』」

 

「『のわーるぅぅぅ!!!』」

 

 

 全く同時に動いた二人は最後の力を込めた拳を相手に叩き込む。

 

 避ける事は考えず真っすぐに相手だけを見つめた彼らはその状態のまま硬直する。

 

 時間が止まったかのように思われた静寂は()()が倒れた音により消え去った。

 

 

「――」

 

 

 それは決着がついた音。

 

 相手を守ろうと思うが故に相手よりも上に行こうとした戦いが終わりを告げた音。

 

 最後に立っていたのは――その場にいた者達しか知らない。




次回で「影龍王と光龍妃」編が終了です。
参考資料:スクライド最終回。
観覧ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

128話

「……ぁ……どこだ……ここ……?」

 

 

 目が覚めると俺はどこかの部屋で寝かされていた。いったいどれだけの時間寝ていたのかは分からないが少なくとも自分の体が滅茶苦茶重くなっているのを考えると結構な時間、意識を失っていたのは確かだ。

 

 

「あぁ……クソ……なんで俺、寝て……?」

 

 

 自分がどこかの部屋で寝ている事を思い出そうと両手で顔を覆いたかったが何故か左腕が何かに固定されているように動く気配も無かったので残った右腕で顔を覆う。瞼が必死に閉じようとするのを右手で何とか止めつつつい先ほどまでの事を思い返す……そもそもなんで俺は気を失って……? あぁ、そう言えば夜空と正真正銘、本気の本気の殺し合いをしてたんだったな。ヤバイ……全然記憶にない。結構大事な事だったはずなのに途中までしか思い出せん。とりあえず漆黒の鎧を使った所までは辛うじて……なんとか思い出せるがその先が全然全くこれっぽちも記憶に無いんだが?

 

 眠気がドンドン迫ってくる。あれ……俺が意識を失ってたって事はこれってもしかして――負けた? いや違う。負けてないはず。うん、負けてない。だってほら……記憶に無いけど夜空ぶん殴って倒したような気がしないでもないし。うんうん勝った勝った勝ったんだよ。よっしゃ! 俺の勝ちって事で良いな!!

 

 

「……俺が勝ったんだな」

 

「んなわけねーじゃん」

 

 

 どこからともなく愛しの夜空ちゃんの声がした。ついでにどうも左側から吐息っぽい感じで生暖かい風がするし心地良い温度をした何かに包まれている気がする……そんな風に気になる要素満載だったので体が重いのを我慢して首を動かして自分の左腕付近を見ると――女神が居た。

 

 俺の視線の先には左腕を抱き枕代わりにしている女神(よぞら)がジト目でこっちを見つめていた。何この可愛い生き物……! しゃ、写真……! 写真撮りたいんですけど!? スマホ……スマホ……畜生! 体が重くて右腕動かすの辛いしなんか近くに無い感じがするんだが!? 平家! 平家ちゃん! 早織様! 後で色々と気持ち良い事してやるから俺のスマホ持ってきてくれ!! 割と早めに! そして全力で持ってきてくださいお願いします!!

 

 

「あの覚だったら此処に居ねぇよ」

 

 

 なんで俺の思ってることが分かるんですかねぇ?

 

 

「仙術」

 

「お前、何かあったらそれ言えば解決するとか思ってないか?」

 

「ん~割と思ってるけどぉ?」

 

「ア、ハイ」

 

 

 左腕にスリスリと猫のようにマーキング行為擬きをしている夜空を見たせいか先ほどまでの疲れが一気に無くなった気がした。可愛い。可愛すぎる……! 猫耳付けたい。平家相手にした雌猫プレイしたい割と真剣に。確かあれって水無瀬の部屋からパクってきたんだっけか……? 税抜き九千九百八十円の結構高めのコスプレセット的な何かを持ってた事にドン引きした記憶があるが今ほどあれがある事を知ってて良かった気がする! 良し! 此処がどこだか分からないが今の俺だったら空間ぶっ壊して水無瀬の部屋に突入できるだろうからこの可愛い生物基女神にはちょっと待っててもらおうかな!?

 

 

「殺すぞ」

 

 

 この女神様は俺と離れたくないらしい。可愛いかよ。

 

 

「いやだってお前……そんな可愛い仕草を見せられたらちょっと猫耳付けたくなるんだよ」

 

「いつだったか忘れたけど覚が付けてたアレ? キモ」

 

「キモイ言うな。男としては健全な……夜空、そう言えば全く記憶に無いんだがお前の目とか潰した気がするんだが……ふっつうに治ってるな?」

 

 

 ぐるりと寝返りして夜空と向かい合う。触れたら壊れそうなほど小さい……そう色んな意味で小さい夜空の顔を見つめるが傷一つ無かった。漆黒の鎧を纏った状態で正面から全力かつ加減せずにぶん殴りまくったらどこか怪我しててもおかしくないんだが……全くそんな感じがしない。

 

 

「ん? 怪我ならあの男女が治したみたい。つっても私も気を失っててさっき目覚めたばっかだから良く分かんねーけどさ」

 

「男女……あぁ、ウアタハか。確かにアイツなら怪我一つないのは納得だ」

 

 

 影の国が誇る唯一無二の女神ことウアタハたんは体術得意、魔術得意、そして治療大得意という高スペックの持ち主だ。あのスカアハの息子だから当然と言えば当然なんだが治療が得意になった理由がスカアハとオイフェがキチガイ過ぎて弟子達の命がヤバかったのでそれを護るためという優しい……そうとてつもなく優しい理由がある。まぁ、俺は相棒から聞いただけだからその辺は詳しくは分からないけど少なくとも影の国から俺以外の眷属全員が死なずに戻ってこれたのはウアタハたんのお力が大きい。

 

 普通にグレモリー先輩の所に居るシスターちゃん以上の治癒力、下手すると夜空すら超えると言えばその凄さが分かるだろう。相棒も毎回治療してもらってたらしいからな……そんな事を何度もされていれば惚れるのも分かる。俺もウアタハたん相手だったらたとえ男と分かっていても普通に抱けると思いますし。

 

 

「あの男女、回復作業させたらこの夜空ちゃん以上だしね。なんかユニアが言うには此処もルーンだったかなんかで直して私らを寝かしたらしいよ」

 

 

 そう言えば此処っていったいどこなんだという疑問があったので軽く周りを見渡してみるとどこか見覚えがある家具とかがある……いやこれ俺の部屋じゃん。人間界じゃなくて冥界の方だがこのクソ豪華な感じは間違いなく俺の部屋だわ……! ウアタハたん、俺と夜空の殺し合いで吹き飛んだと思われる実家を直してくれたのかよ……! 女神か。女神だったわ。

 

 

「ウアタハたん……俺の実家直してくれたのかよ」

 

「あ゛?」

 

「ナンデモナイデス」

 

 

 なんという事でしょう……目の前に居る夜空ちゃんはウアタハ"たん"と呼んだだけで震えるほど濃い殺気を飛ばしてきましたよ。これは嫉妬ですね? 嫉妬と断定しても良いですね? 何故か相棒は神器の奥底に引っ込んでるから聞けないけどこれは嫉妬と思っても良いと思うんですよ! なんだよ可愛いかよ! 可愛いんですけどぉ!! 何この可愛い生き物!! クッソ可愛い!

 

 心の中で可愛い連呼していたせいか夜空を抱きしめてしまう。左腕が夜空専用の抱き枕になってるから右腕だけ夜空の背中側に回すという感じになったが俺的には満足だ……あ、ちなみにこれは故意です。よくある無意識でつい……とか言うエロゲ主人公的な感じではありません。割と真剣に可愛いと思ったから抱きしめようとしたんです。とりあえず平家辺りに説明してみたがアイツ聞いてんのか?

 

 

「……何してんの?」

 

「可愛いから抱きしめてみた」

 

「……あっそ」

 

 

 なんという事でしょう。左腕を抱き枕にしていた夜空ちゃんがモゾモゾと動いたかと思えば俺の胸へと飛び込んできました……クッソ可愛い。何この生き物、クッソ可愛い。ウアタハたんと呼んだだけで嫉妬して殺気出してきただけでも可愛いのに抱きしめたら胸に飛び込んでくるとか可愛すぎるんですけどぉ……!

 

 これはきっと俺が勝ったからだな! お前を守れると理解したからこその反応と言う事で間違いないですよね? いやったぁぁぁっ!!! 勝ったぁぁぁぁ!!! よくやった意識を失う前の俺!! よく頑張った意識を失う前の俺!! 流石だぜ意識を失う前の俺!! その褒美として今の俺が夜空とイチャイチャするぞ! 文句は受け付けません!

 

 

「あのさ……心臓動き過ぎじゃね?」

 

「……お前を抱きしめてるに加えてこの状況だからな、仕方ないんだよ」

 

「……ふーん」

 

 

 あーダメです夜空様! その可愛らしいお鼻を俺の胸に押し付けて匂いを嗅ぐなんていけませんいけません! 何時だったか忘れたけど一緒の布団で寝た四季音姉も同じような事してたけど可愛さが段違いなんですけど……? やはり見た目がロリなだけの鬼とは違うと言うわけだな。夜空からそんな事をされてはいくら紳士な俺でも我慢の限界というわけですよ……目の前には夜空の頭部があるのでおもいっきり顔を埋めて匂いを嗅がせてもらいましょう。

 

 控えめに言ってこれだけで一年ぐらい生きていける気がする。

 

 

「何してんの?」

 

「お前の髪の臭い嗅いでる」

 

「……今日風呂入って無いと思うんだけど?」

 

「それ言ったら多分俺もなんだが? 意識失ってどれぐらい寝てたかは知らんけど」

 

「臭くない……?」

 

「ぶっちゃけこれだけで生きていけるぐらい良い匂いがするから安心しろ」

 

 

 何で見たかは覚えてないが相手の臭いで興奮するならそれは細胞レベルで相性が良いとか何とかとだった気がする……割と当たってるなこれ。正直、すげぇ興奮する。あれ……夜空ってこんなに良い匂いしたっけ? いやそもそもこんな風に匂いを嗅ぎ合うなんて事をしてないからか。うん。しゅき。

 

 何秒、いや何分くらいそうしていたかは分からないが少なくとも俺も夜空もやめる気は無かった。そして不意に俺の脳裏にある言葉が浮かび上がる――これいけるんじゃね? と。割と真剣に今以上の雰囲気は今後起きない可能性が高いからこそ今しかない! むしろ今じゃね! 今こそ童貞卒業のチャンスだと心の奥底から次々と語り掛けてくる。つーかこれ如何考えても歴代共じゃねぇか!? お前らこんな時でも平常運転だなおい!!

 

 ま、まぁ! それはとても大事な事だけど俺としてはまず確認しなければいけない事があるわけで……! 決して日和ったわけではない。ヘタレでも無い。とりあえずお前ら、後で覚えてろ。

 

 

「……夜空」

 

「……なに?」

 

「勝敗なんだが俺の勝ちで良いんだよな?」

 

 

 そう確信しての発言だったが――

 

 

「は?」

 

 

 何故か夜空が何言ってんのお前と言う表情になった。

 

 

「……俺の勝ちだよな?」

 

「は?」

 

「俺の勝ち」

 

「は?」

 

「……」

 

「は?」

 

「いや何も言ってないけど……いや待て待て、待ってくれ夜空ちゃん! 俺の勝ちだろ!? この状況的に考えてさ! どう見てもお前が屈服してる感満載じゃん!! 俺の勝ちでしょ! 俺の勝ちと言えよオラァ!!」

 

「はぁぁっ!? ふっざけんなよマジで!! 誰が屈服したってぇ!? してねーじゃん!! つーか私の勝ちだけど? 覚えてないけど最後まで立ってた気がするし私の勝ちですけどぉ!!」

 

「いやいや俺の勝ちだろ!? 覚えてないけど俺が勝った気がするし! 後屈服してないとか言ってるがお前鏡見ろ! 十人が十人とも屈服判定下すぐらいの屈服っぷり晒してるぞ!!」

 

「してねぇし!! そっちこそこの夜空ちゃんの色香に惑わされてんじゃん! これ私が勝ったからっしょ!! とりまさー! 私の勝ちですって言えよ? ほら早く」

 

「おいおい……お前の色香に惑わされるなんざとっくの昔からですけどぉ!! お前から貰ったパンツで何度もオナニーしたし妄想でも何度もお世話になってますがぁ!? とりあえず夜空、俺の勝ちですって言えよ。優しいノワール君は少しだけ待ってやるからほら早く」

 

「……」

 

「……」

 

 

 互いに満面の笑みで向かい合う。相変わらず可愛いな……少なくとも夜空以上の美少女は見た事無いと断言できる。

 

 

「「ぶっ殺すぞ」」

 

 

 いくら経ってもノワールの勝ちですという言葉が聞こえないので思わずその言葉を言ってしまったが俺は悪くないと思う。だってどう考えても俺の勝ちじゃん? この状況的にさ。全く覚えてないけど。もしかして夜空ちゃん……負けたのが悔しいだけか? あぁ、そうかそうか! 恥ずかしいだけか!! なんだよ可愛いなぁおい! やっぱり可愛いわマジで! これは所謂わからせをしろって事だな? そのプレイだけは平家相手でも全く興奮しなかったからちょっと楽しみである。

 

 まぁ……本番無しだったからと言うのもあるだろうが少なくとも常時屈服状態のアイツがメスガキ風味になっても全くエロくないのが原因だろう。他の男共は知らんけど。

 

 

「夜空……俺の勝ちだよな?」

 

「ノワール……私の勝ちっしょ?」

 

 

 自分の勝ちを疑わない強い瞳が視界一杯に広がる。ゆっくりと、そして着実にその瞳に吸い寄せられるように夜空の顔が近づいてきて――

 

 

 ――チュッ。

 

 

 気が付けばお互いの唇が軽く触れあっていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 俺は勿論、夜空も今自分は何をしたって表情になっている。あれ……俺今何した? え、ちょ、えーと、えーと……あーえーあー……うん。

 

 

 ――ちゅっ。

 

 

 もうどうでも良いや。

 

 

「……なぁ、夜空」

 

「……ねぇ、ノワール」

 

「俺の負けか?」

「私の負け?」

 

 

 同時に同じような事を言い放った俺達の脳裏には先ほどの行為しか存在しない。うん、普通にキスしちゃいましたね。しちゃいましたね……うん。あの……夜空の唇なんですけど柔らかすぎるんですけど? 毎日ケアしてるんじゃないかってぐらいの代物だったんですけど。ほぼ毎日のように平家の唇触り続けてて良かったと今になって思う……平家、ささやかな礼としてはあれだが課金額増やしていいぞ。

 

 

「……負けたわ」

 

「うん……負けた」

 

「俺も夜空も勝って、そして負けた……にしとくか」

 

「今のところはそれで良いんじゃねーの……?

 

「……決着はまた何時かって事で。なぁ、夜空」

 

「何?」

 

「――俺の、女王(クイーン)になってください」

 

 

 なけなしの魔力で手元に呼び出した未使用の女王(クィーン)の駒を夜空に見せる。恐らく殆どの奴らに忘れられていると思うが俺の眷属にはまだ空きが存在する……それが女王。その座には夜空しかあり得ないと今の今まで使わなかった駒を使う時が来たというわけだ。

 

 

「……」

 

 

 夜空は俺が持つ女王の駒を受け取る。そして平家達にしたように強く、強く願うと――

 

 

「あのさ、ノワール」

 

「……ナンデスカ」

 

「なんも変化ねぇけど?」

 

 

 ――夜空の手元には女王の駒があり、いくら経っても吸い込まれたり消えたり砕け散ったりという変化が起きない。起きる気配が無い。全然全くこれっぽっちも!! あぁ、なるほどなるほど……うん、知ってた!!

 

 

「……まぁ、無理ですよね」

 

 

 少なくとも覇龍を昇華させた辺りでなんとなく察してはいた。そもそも夜空のスペックに神滅具、覇龍昇華やら生命の実の力等々をたかが女王の駒程度が受け止められるわけがない。グレモリー先輩が一誠を眷属にしても影響的な事が一切無いのは魔王辺りがなんかしたからだろうし、何もされてない俺の駒が夜空を眷属に出来るほどのスペックを持ってるとは思えない。

 

 分かってはいた……理解も出来ている。だけど悔しいと思うのと同時に眷属に出来なくて良かったと思えるのは何故だろう。俺の夢だった、俺の願いだった……でもそれは人間として生きたい夜空の願いを潰すもの。だから……この結果でも後悔は無い。

 

 

「……知ってたん?」

 

「知ってたというよりも本能的な奴で理解してたって感じだな。そもそもお前ほどの存在をこれ程度が受け止めきれるわけもねぇってな。俺の夢は潰えたが……これで良いんだよ」

 

「ふ~ん。んで? これどうするん?」

 

「どうすっかなぁ……別に女王不在でも問題無いしこのまま未使用のままってのも有りか」

 

「だったらあの焼き鳥に使えばぁ?」

 

「は?」

 

 

 今コイツ、なんて言った? え、今なんて言ったの? レイチェルに使えって言った? うっそだろぉ!? 俺に近づく女は気に入らない態度してたくせにそこ許すの!?

 

 

「いや……は?」

 

「ぶっちゃけ今更知らない奴に使われるよりはマシだし。アイツ、影の国で私に喧嘩売ってきた度胸あるからまーうん……ギリギリのギリ程度で許しても良い」

 

「マジかよ」

 

「だけどその代り――」

 

「ん?」

 

「――抱け」

 

 

 なんか今、凄く男らしいセリフが聞こえたんですけど?

 

 

「……ホワイ?」

 

「慰め目的じゃねぇから。まー……うん……クリスマスだったし、いい加減処女捨てたいし……あとそんな駒で得られる地位とかじゃなくて、さ……お前の真の女王は私って証が欲しい。だから抱け」

 

「――すーはー」

 

 

 深呼吸した事により俺は落ち着いた。落ち着く事が出来た。さて神器の奥底に引っ込んだ相棒、そして歴代共。今の俺が絶対にやらなければならない事は何だと思う? 目の前で男らしいセリフを言い放った夜空を抱くのが一般的な男子高校生の思考だと思う。だが待て、待つんだ歴代共。心の奥底で調教の時間じゃと騒ぎまくる所を大変申し訳ないが……お前ら、ちょっと奥底に引っ込んでてくれます?

 

 覚悟を決めた表情をしている夜空をそっと……そっとベッドに寝かせた俺は勢いよく押し入れまでダッシュする。と言ってもそこまで遠くは無いんだが目的はその中にある段ボール! ウアタハたんならきっとこういう所も直してくれていたはずと信じて勢いよく押し入れの扉を開けると――そこにはなんと目的の段ボールが存在した!

 

 それを掴んだ俺は中身が飛び出る事を承知でベッド近くまで放り投げる。ゴロンゴロンと中身を飛び散らせながら放り投げられた段ボールを夜空は何だという顔をして見つめている。中身? 何時でもこんな状況になっても良いように定期的に買い続けた避妊具ですけどなんか文句あります?

 

 

「……なにこれ?」

 

「避妊具」

 

「……大量にあるんだけど」

 

「定期的に買ってたしな」

 

「……てか、使うん?」

 

「それがマナーですし」

 

 

 よく考えろ夜空。俺は最強の影龍王だのと言われてるがまだ学生です。少なくとも母さんが大学ぐらいは行った方が良いとか何とか言ってたから高校卒業後は大学進学する気な高校生です。あと一年程度は駒王学園に通わないといけないしお前養うにもまず当主にならないとダメな経済力皆無の高校生なんですよ夜空ちゃん。安心しろ、結構な頻度で平家が薄い本とかでよくある使用済みな奴をスカートっぽく腰辺りに付けた奴を俺に見せていたからな! 使い方はバッチリです。しかも新品なので穴も開いてないから安心しろ。

 

 

「……あのさ、処女相手にこれ全部使うん? 頭おかしくない?」

 

「むしろ足りるか分からん」

 

「……キモ」

 

 

 意気揚々と避妊具さんの箱を開けていると俺の枕で顔を隠している夜空が居る。あのな、そんな仕草をするから興奮すると何故分からん? いや良いけど。別に良いですけど。ヤバいなこれ……マジで足りるかどうか分からん。処女だから遠慮? 理性さんが頑張れば多分してくれるんじゃないですかね?

 

 

「――ただ、最初は優しくしろよ……?」

 

 

 理性さんお亡くなりになりました。

 

 

「頑張ってみるが……無理だったらすまん」

 

 

 そして次に意識が戻ったのは――三日後でした。




女王の駒「原作18巻目にしてようやく出番があるかと思えばそんな事は有りませんでした」
???「そんな貴方に朗報ですわ!」

これにて「影龍王と光龍妃」編終了です。
長かったなぁ……(しんみり)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王の番外編5
129話~パシリの地獄な一日~


割と真剣に考えると……ハーレム築いている人物と一緒に住むって地獄だと思う。


 地獄。

 

 其処は俺が仮に……何かの間違いで、いや普通に強い相手と殺し合った末に敗北、そのまま死んだ時に行く場所だと思う。親父とおふくろを悪魔祓いとアリス・ラーナに殺されて……生きるために、復讐するために逃げ続けていた時期には多くの悪魔や追ってきた人間の命を奪った。王様の兵士(パシリ)になってからも魔法使いや色んな相手と戦っては殺してきた。だから誰にも迷惑を掛ける事も無く平凡に生きていた両親が居る場所には行けない事は分かっている……多くの敵を殺しすぎたこともあるがただの「シュン」ではなく王様の兵士(パシリ)、「犬月瞬」として生まれ変わったケジメだと個人的に思っている。

 

 そんな俺でも、今この時だけ……一つだけ言いたい事は有る――

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 流石に生きている内に地獄を見る事になるっておかしくないっすか?

 

 

「あ、アーご、ゴハンオイシイナーコレハオカワリデキソウッスネー」

 

 

 恐らく、いや確実に今の自分の目は死んだ魚のようなものに変化しているだろう。クリスマス当日、キマリス領にある地双龍の遊び場と呼ばれた俺達キマリス眷属も利用する修練場のような何か……其処で王様と光龍妃の正真正銘ガチバトル、通称クリスマスだよ! イチャイチャするぞ決戦! が行われた。いや長いわ。鬼と妖怪達が面白半分でそんな題名を付けてたらしいが長いって! せめて九重姫が付けた双龍決戦がまだマシな部類だろう……! いやそうじゃない……! そこは別に今の状況には全く影響してないからな! 問題は……それが()()()()後だ。

 

 現地で命懸けで観戦していた俺は目の前で行われていた暴力と暴力のぶつかり合い! 手に汗握るような加減無しでお互いの全力の全力を出し尽くすような殺し合い。凄く……感動する一戦だったのは言うまでもない。俺もいつかこんな風に殺し合える相手が欲しいと思えるようなそんな戦いも勝者と敗者、決定的な事実が発生した事により終わりを告げ……見るも無残になったキマリス領をウアタハっちがルーンで修復、その際に王様の実家に倒れた二人を寝かせたまでは良かった! そこまでは……ギリ、ギリギリのギリセーフだと思いたいがまだ良かったんだ!!

 

 

【ノワールと光龍妃が初エッチしてるなう】

 

 

 全ての元凶はこの一文。

 

 心を読むことができる覚妖怪だから寝ている二人に対して何かしようとする馬鹿が居ても即効で対処できるからと護衛……と言うべきかどうかは分からないがあの引きこもりがしほりんや水無せんせー、酒飲み、姫様相手に口撃で勝利し、王様の実家に残った事が全ての始まり。それからどれぐらい経ったかなんて今となっては分からないが定期連絡が届いたと思ったらまさかのこれである。

 

 

『ノワールと光龍妃が寝てるから誰かが護衛しないとダメだと思う。まぁ、その役目は私が適任だけどね』

 

『にしし……さおりん? いくらさおりんでもそんな美味しい……大事な事を独り占めはさせないよ。ここは一番強いこの鬼さんに任せても良いと思うけどね……?』

 

『花恋、早織……それに志保ちゃんとレイチェルもですけどキマリス領復興作業には皆の力が必要です。その点で言えば私は……えぇ、怪我をしている人はウアタハさんが治していますし手が空いています。そ、それに保険医ですから私以上に適任はいないと思いますよ?』

 

『い、異議有りです! 確かに復興作業も大切ですけど私は悪魔さんのアイドルです! ファンサービスは必要ですし水無瀬先生だってご飯作ったり忙しいと思います……早織さん達は妖怪の皆さんの指揮とかに集中した方が良いです♪ そっちの方が適任ですから! だから比較的手が空いている私に悪魔さんの傍に居る役目を譲ってくれても良いと思います!』

 

『コホン。皆さま、お忘れでは無いと思いますが……私はキマリス様の契約者ですわ! 契約者たる者! キマリス様のお傍に居るのが当然の事! フェニックス家に関してはお兄様達が何とかしますし私は私の役目を果たす事が第一優先……どうぞ皆さまは各々の仕事をしてもらっても構いませんわ』

 

 

 今思い返してみても凄く……修羅場でした。この四人の背後に守護霊的なものが現れてたしな!? なおグラムと茨木童子に関しては何してんだとか言いたそうな表情だった……王様、マスコット枠って良いですね。俺は大事だと思います。これからも……特に茨木童子には癒されて行こうと心に誓いますよ。

 

 ちなみにだがこの修羅場の勝者は当然引きこもりだ。アイツ、顔色変えずに「心が読める私以上に役に立てる所があるなら言ってみると良いよ。参考までに聞いてあげる」とか言って三人の発言を封じての大勝利。うん……今まで一緒に戦ってきてこの手の事でアイツ以上に働けるとか思えません。割と俺もアイツの指示で助かってるし……まぁ、あの状況で何事も無く言う辺り、頭おかしいけども。

 

 

「「「……」」」」

 

 

 そんなわけで空気が重いです。誰でも良いので助けてください。

 

 王様達の護衛……? かどうかは知らんけどそれになった引きこもりから送られてきたこの一文のせいで現在進行形で空気がヤバいです。絶対零度と錯覚するほど冷え切ってるし酒飲み、しほりん、水無せんせー、姫様の表情がなんかヤバくなってる……何も変化無しなのは安定のグラムと茨木童子だ。もう何なんだこの二人……! 頼むからお前達だけは変わらないでくれ!! 頼むから!!!

 

 まぁ、ね! 王様と光龍妃が初エッチなうとかいうふざけた文章が送られてきたもんだから酒飲み達が無言で引きこもりに連絡する……が! あの野郎、通信関係は一切無視したせいでさらに空気が悪くなったのは言うまでもない。やっぱりアイツって頭おかしいんだな。うん。タスケテ!

 

 

「ヤッパリミナセンセーノゴハンはオイシイナー! ア、キョウノニュースはナンダローナー!」

 

 

 滅茶苦茶地獄です。滅茶苦茶空気重いっす。滅茶苦茶逃げ出したいっす。タスケテ。

 

 いつもだったら和気藹々な食事風景も頭おかしい引きこもりのせいで地獄絵図と化しております。そもそもあの引きこもり……! 此処に居る女性陣を煽るような連絡を一定間隔でしてくるからドンドン空気が悪くなる! ホントあの引きこもりは性格悪いなマジで! 冥界にある王様の実家へ突撃しようとすると先読みで自分の役目すら放棄する奴を王様が好きになると思う的な言葉で完全に封殺……やっぱりアイツ相手に口で勝てる気がしない。

 

 一応その時の状況を一言で言うならば血涙でした。ホラーゲームよりもホラーだったね!

 

 

【無事一回戦目終了】

【そして二回戦目突入なう】

【ノワールが光龍妃をメス堕ちさせる気満々で草】

【ノワールは私が育てた】

【食料を部屋に放り込んどいた】

【気づかれずに部屋掃除した】

【搾りたておいしい(風船的なナニカが映った写真付き)】

【おたからたくさん】

【ぜつりんすぎてくさ】

【えいようほきゅうなう】

 

 

 王様達の殺し合いから一日経過したけどその間に引きこもりから送られてきた文章を抜粋したが……見て改めて思う。うん、ひっでぇ。マジで酷いなこれ。なんでこんな文章と共に何か……えぇ、何か良く分からないと言ったら分からないような写真を送ってくるんですかねぇ? それを見せられている俺はどう反応しろと? マジで頭おかしい。というかさ……時間経過と共になんで送られてくる文章がひらがなになってるですかねぇ? 理解したくは無いですけど! だって理解したら……その、あれだしな! 青少年的には理解しない方が良いだろう! 特に栄養補給とかな! 栄養補給って……!

 

 その文章見た時に酒飲み達の顔は思い出したくもない。

 

 

「……悪魔さんが帰ってこなくて、一日……経ちましたね」

 

 

 声ひっく!? あ、あのしほりん……? いつもの明るいお声はどうしたのでしょうか? 今までで聞いた事無いような低いお声でしたよ!? こ、心なしか目が死んでる……気がするっすね。こ、怖いっすマジで怖い。タスケテ!

 

 

「はい……一日、経ちましたね……ノワール君の分も、作ったんですけど……どうしましょうか」

 

 

 声ひっく!? あ、あの水無せんせー……? い、いつものお姉さんボイスはどうしたのでしょうか? 今まで聞いた事のないような低いお声でしたけども!? こ、心なしか目が死んでる……! そして感情が宿ってないっすぅ!? 怖い……タスケテ! ダレカタスケテェ!!

 

 

「……」

 

 

 頼む酒飲み。何か喋ってくれ。頼むから一言だけでも良いから何か単語を頼む切実に。め、目が完全に捕食者と化してるっすよ……! 王様が戻ってきたら即効で襲う気満々じゃねぇか!? 出来るか知らんけど。そもそもね……今までの酒飲みだと襲う手前で日和ると思うから現時点では怖いとは思うがまだ! まだしほりんと水無せんせーよりはまだマシな気がする。根っこの部分が乙女すぎ――ピィ、タスケテ、タスケテ。

 

 

「……きっと、そろそろキマリス様は戻ってきますわ。捨てずに……冷蔵庫に入れておくべきです……お疲れでしょうから沢山……用意しても良いと思いますわね」

 

 

 声ひっく!? あ、あの姫様……いつものお嬢様声はどうしたんすか? 今までで聞いた事のないような低いお声でしたしお顔がやつれていますわよ? 不眠はお肌の天敵なんでや、休んでも良いと思います!! 他三人に比べてなんかこう……怖いの部類が違う気がする!! タスケテ……タスケテ……!!

 

 

「……瞬君は、どう思いますか?」

 

 

 お願いします水無せんせー、そのような恐ろしい瞳で俺を見ないでください。

 

 

「き、キットモウスグカエッテキマスヨ。ダカラオレモトッテオクニイッピョウッス」

 

 

 声が震え、箸を持っている手すら自分の体では無いかのような反応をしている。ぶっちゃけ携帯のマナーモードの物真似選手権なら俺、優勝できそう。落ち着け……落ち着くんすよ犬月瞬! 俺はパシリ、つまり犬! 飼い犬は飼い主に尻尾振っておけばとりあえず俺の命は助かる! 飼い主の為ならば日の中水の中修羅場の中! 王様が爆弾管理しないなら俺がどうにかこうにか頑張って導火線を延長していれば少なくとも俺は助かる! は? そのままだと王様の身が危なくなる? ハハハ。知らんな。

 

 ごめんなさい王様。俺は犬……目の前に居る飼い主に絶対服従なワンちゃんなのです。爆弾関係はなんとか破裂させずに留めておくので帰ってきたら処理をお願いします。オレ、シニタクナイ。

 

 

【帰るまでまだかかりそうなう】

 

 

 なんとか現状維持に努めようとした矢先にこれである。控えめに言ってあの引きこもり、一回マジで痛い目合えば良いと思う。

 

 

【処女喪失の痛みならもうじき味わえるからその願いは叶うね】

 

 

 冥界と人間界という圧倒的に離れている場所から俺の心の声に返答しないで貰えませんかね? あとそれ、此処に居る皆さんに喧嘩売ってますよね?

 

 

【なう】

 

 

 死ねば良いのに。マジで死ねば良いのに。

 

 

「……まだ、帰ってこないようですね」

 

「はい……悪魔さん、まだ帰ってこないみたいです」

 

「……」

 

「お昼ご飯……も作っておきましょう。水無瀬先生……一緒に、作りませんか……?」

 

「えぇ……沢山、作りましょう……うふ、うふふふ……」

 

 

 もはや制御が効かない体を無理に従えた俺は目の前に出された食事を一気に胃の中へとぶち込みごちそうさまをする。そのまま逃げるようにリビングの隅へと移動して慣れ親しんだ段ボールに閉じこもる。あれ駄目だ。もう駄目っすわ。あの四人から瘴気が漏れ始めてるっす……妖怪ですら逃げ出すぐらいのドスぐらい奴! 引きこもり……マジ許せねぇ!!

 

 

「――パシリパシリ」

 

 

 俺のマイホームを叩いてくるのは茨木童子。この空間内に置いてもっとも純粋で最も安全に接する事が出来る人物……これがマスコット力! や、やるじゃねぇか……! 地獄のような場所に居る俺の心が癒されたっすよ!

 

 

「……な、なんだよ茨木童子?」

 

「伊吹怒ってる。凄く怒ってる。主様が帰ってこないからだと思う。どうすれば主様帰ってくる?」

 

「……えーとっすね、王様と光龍妃が満足したら……かなぁ? だからもう少――待てよ……! 茨木童子! お前に頼みがある! ちょっと俺の話を聞いてくれ!」

 

「パシリにはお世話になってる。一回ぐらいなら頼み事聞く」

 

「一回っすか……え、割と俺ってお前の世話してる気がするんだけどこれが王様と俺の差というわけね。いや良い! それが俺! あのな茨木童子……見て分かる通り、酒飲みは非常にお怒りだ。そこでお前の出番っす! とりあえず思いつく事なんでも良いからあいつを落ち着かせてほしい! 大丈夫だ! お前ならできる!!」

 

「思いつく事ならなんでも言えば良い?」

 

「おう! ただし王様関連はダメだ……マジで駄目だ!! 頼むからその話題だけはしないでくれ頼むから!」

 

「分かった。主様の事は話さない。別な事で伊吹に話しかける」

 

「頼んだぞ! あと出来ればグラムにこっちに来るように伝えてくれ!」

 

 

 茨木童子に頼むと分かったと言ってグラムの下へと行き、話しかけ始める。そしてご飯を食べ終えたであろうグラムが俺の下へと歩いてくる。

 

 

『我ラをよンだか? パシリよ』

 

 

 相変わらず男なのか女なのか分からない声だな。その姿になって結構時間たったと思うんだがまだ安定しないのか……いや良いけど。俺的にはどうでも良いけども。何か王様と引きこもりがメス堕ち計画云々とか言ってた気がするけど俺は何も聞いてない。早く忘れることにしよう。

 

 

「おう。呼んだぜグラムさんよ……ちなみに、一応聞いておくっすけど今の空気的なものは理解してますかね?」

 

『エロゲなルものト同じじょウきョうだろう? 別ニ気にすルような事デモあるまイ』

 

「いや気にしますからね? お前……は一応性別的な事になると女の子っしょ? 俺は男。ハーレム的状況を築いている主と一緒に過ごしているって普通に……いや割とマジで意味分かんないけど! 此処で俺が家出でもしようものなら……! 分かるだろお前にも!!」

 

『知らヌ』

 

「分かれよぉ!!」

 

 

 自分で言っておいてなんだが俺と王様以外が女性、しかもその殆どが王様Loveという状況下にある家に住んでるって世間一般的にはお邪魔虫というのではないだろうか? いや待ってほしい……俺もね! 割と早い段階で一人暮らしを考えたんだよ! でもなんだかんだでそのタイミングがズレにズレて……気が付けばあら不思議! 周りの女性陣病んでたの! これを見てさ……一人暮らししますと言ってこの家から出ていけばどうなるか――誰だって分かる。

 

 ――多分、キマリス眷属が酷い事になる。

 

 

「お前はさ……他と違って王様Loveじゃないだろ? 今のところは! 今のところは!! 此処で俺がこの家から居なくなったら多分ひっどい事になるんだよ! 俺が居るから皆さんまだ自重的な事をしてくれてたはずなんすよ! あと王様がお童貞であったから成り立ってた気がするの! でもお童貞をお卒業されちゃったらもう酷くなるじゃん! 絶対に酷くなるでしょ!?」

 

『ふム。確かニな』

 

「だろう? 俺の本能的なものが言ってるんだよ――俺自身が最後の生命線だって! だって……だって……!」

 

 

 チラリとどす黒い瘴気を纏っている方々を見る。うん駄目だわ。王様がお童貞をお卒業された今、きっとあの人達肉食獣すら生温い存在になるわ。その筆頭が引きこもりなわけだが……此処で俺が居なくなったらこの家の至る所が大変な事になると思うし! キマリス眷属全体がもうやっべぇ感じになると思う! だからお邪魔虫と思われようと俺は逃げない! だってパシリだし! 最強のパシリになるためならばこの程度……逃げてぇなぁ。逃げたいなぁ!

 

 なんでいっちぃ達の所、あんなに仲良いんだろうなぁ? 普通だったらドロドロしててもおかしくないんだけどなー!

 

 

「良いかグラム……! お前に頼みたい事があるっす! 何でも良いからちょっとあの面々の瘴気を晴らしてくんない? 王様関連の話題無しで! 何とかしてくれたら後で王様にお前が頑張ってた的な事を言ってバンバン使ってもらう様に頼んでみるから!」

 

『ヌ! そレは本当ダろウな?』

 

「パシリ、嘘つかない」

 

『ヨかろウ! 我ラにまカせるガ良い』

 

 

 くっそちょろいぜ!

 

 グラムに何ができるか俺は分からないけど多分、何かしらしてくれるはず。そう願って俺は再び段ボールの中へと引きこもった。

 

 この狭い空間が俺の心を癒してくれる……外の世界怖い。女の人怖い。スゲェ怖い……でも彼女欲しい! 普通に欲しい!! 俺だって王様のようにお童貞お卒業したいんすよぉ! きっと王様は他の方々ともエッチするんでしょうけども……羨ましいなぁ。どうやったら彼女って出来るんだろうか? やっぱり強くなかったら駄目だろうな! うん! はぁ……彼女欲しい。

 

 

「……とりあえず」

 

 

 携帯を取り出してある言葉をSNSへと上げる。多分だがこの文面でD×Dメンバーは察してくれるだろうきっと。

 

 

 ――タスケテ。

 

 

 その文字を上げて数秒後、いっちぃ達グレモリー眷属面々、げんちぃ達シトリー眷属面々、曹操っちなどなど仲が良い人達から一斉に通知が来たのは言うまでもない。




・「タスケテ」という文章を見た面々の反応。
ヴリトラ:文章から漂う精神的に死にかけてる感は何なんだ……!
乳龍帝:犬月が……死にかけてるぅ!?
聖槍:後で何か奢ろうか。きっと辛いだろう。
クロムの嫁(男):あっ(察し)
彼女候補①:犬月が死にかけているんだがどうすれば良い?
グレモリー眷属面々:あっ……死にかけてる!?
シトリー眷属面々:あ、死にかけてる……!!





お父さま、貴方にお伝えしたい事があります。
――黒と金が入り混じった狐耳少女。

その少女の来訪は新たな戦いの始まりでもあった。

にしっ! マジで若いな。いや時代的には仕方がないか……初めましてだな親父殿。ところで美少女は居るかい?
――黒髪に桜色のメッシュが入った袴を着た青年。

"グレモリー"以外の美少女相手にナンパを仕掛ける謎の男。

嘘、だろう?
――「酒呑童子」四季音花恋。

その青年を見た鬼は絶句した。

本来ならば出会ってはいけない。でも……母さんが居る以上、隠れる事は不可能だからな。未来が変わろうが僕達には関係ないしこうして顔を見せたってわけだ。
――どこかノワール・キマリスに似ている黒髪の青年。

無数の魔剣を使う青年は何でもないかのように語る。

大勝利なう
――「覚妖怪」平家早織。

その青年が来ることをいち早く知った彼女はコロンビアした。

えっと……未来が変わったら大変な事になるんだけど……?
――紅髪の少年。

は? 知らねぇけど。つーか話しかけんなゴミ。あっ! おとーさん! だいすきぃ!
――片霧夜空と瓜二つな黒髪の少女。

どこからか現れた紅髪の少年に無表情で殺気を向けた少女は即座に満面の笑みとなり"おとーさん"へと突撃する。

あ゛?
――「光龍妃」片霧夜空。

自分と瓜二つの少女が旦那(予定)に突撃した時の反応である。

控えめに言って天国なんですけど?
――「影龍王」ノワール・キマリス。

嫁(予定)と少女に挟まれた男は幸せそうであった。

なるほど……これは俺の胃がまたヤバくなるパターンだな?
――グレゴリ元総督 アザゼル。

恐らく一番働いているであろう男の胃はまた破壊される。


いつぞやの恨み、此処で晴らすぞ小童! 生まれ変わった私の力を思い知るが良い!
――機械のような祭服を纏った○○

全く、俺の子供達はやんちゃ過ぎる。誰に似たんだか……あと勝てないからって過去の"俺"達に挑むとかマジで衰えたな。昔戦った時の方がまだマシだぜ? まぁ、夜空とのデートを邪魔したんだから殺す事は確定だがな
――漆黒の全身鎧を纏う男。

これは――ある未来で行われるはずだった戦いである。

「影龍王と未来の子供達」編!
何時か書きます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とある昔の光龍妃

リハビリのため番外編となります。
時系列は本編開始前、大体ノワール・キマリス君高校一年生辺り。
なお今回のネタを思いついたのはゴッホちゃんのバレンタインデーイベントです。


「あのさーユニア? なんでこの夜空ちゃんがさぁ! こんなめんどくせー事をしないとダメなん?」

 

 

 私に宿る神滅具、光龍妃の外套に封じられている存在であり母親代わりとも言える邪龍に今のセリフを問いかける。声のトーンは自分でもビックリな程めんどーだなーやめたいなー逆に食いたいなーと言った感情がハッキリと乗せられている……が当然と言えば当然! だって普通にメンドクサイし。

 

 

『クフフフフフ! それはですね夜空……今日が二月十四日だからですよ』

 

「それさっき十回ぐらいノワールが言ってた事っしょ? それがどうしたのさ?」

 

 

 こんな面倒な事をする事になった元凶とも言える男を思い浮かべる。出会った頃はまぁ……よわっちぃガキと思ってたけどなんだかんだで会話したり飯食わせてもらったり殺し合ったりしている内に気が付けば何とも言えない感じになってた男。ユニア基準だとイケメンだーとかなんとか言ってたけど私からすれば生意気で昔よりは強くなったっぽいけどまだ弱いからまーこの私が護ってやっても良いかなー程度に思える……そんな感じの男――それがノワール。

 

 そのノワールに腹が減ったから飯食わせろと会いに行ってみると何度も二月十四日を連呼してきたから適当にへーへーとか言ってたら「美少女からチョコを貰える日だぜ!」だの「チョコくれ!!」だのと何度も言ってきた。ぶっちゃけさー最後のセリフが答えっぽいけど夜空ちゃんはホームレスだから知りません。しりませーん! だから飯食わせてもらった後に何も渡さず転移したのは間違ってないと思うんだよね。

 

 あと念のため言っておくけど飯を食わせてもらうならノワールとその辺に居る男、どっちが良いと言われたら問答無用でノワールを選ぶけどね。この超絶美少女夜空ちゃんに話しかけて良い奴はノワールしか認めてねーし。誰に説明していると言われたらどーせ盗聴してるであろうあの覚にだ……今のところはまームカつく事はしてないとは言わないが殺すレベルには至って無いしまーまー……見逃しても良いっしょ。

 

 

『夜空。二月十四日とはバレンタインデーと言いまして……愛する男にチョコを送る日なのです! あぁ……チョコと言う名の私を食べてと合法的に言えるだなんてなんて素晴らしい! クフフフフフフ! 良いですか夜空、ノワール・キマリスも目に涙を浮かべながらチョコをくださいと言っていたでしょう? だから欲しいと言っている以上! 餌を与えるのがイイ女というものですよ』

 

「いや目に涙なんて浮かべてなかったけど?」

 

 

 その代わりめっちゃ真剣な感じだったけどね。

 

 

『……クフフフフ! 違いますよ夜空。彼は心の中で泣いていたのです! あぁ……可哀想に……誰からもチョコを貰えず一日を終え、そのまま眠りについて枕を濡らしてしまうと考えてしまうと……男として立ち直れないに違いない! あぁ……私に肉体があれば身体で癒して――』

 

あ゛?

 

『いえ、何でもありませんよ。夜空、彼は今日を過ぎてしまうと誰からもチョコが貰えなかった哀れな男になってしまうでしょう……! ですが夜空がチョコを渡せば! きっと今以上に夜空を愛してくれるに違いありません!』

 

「ふーんへーほーふーん」

 

『あと夜空が渡さないとあの覚妖怪が横取り――』

 

「で? 何すれば良いん?」

 

 

 ぶっちゃけた話、バレンタインデーとか全くと言って良いほど縁が無いのは言うまでもない。だって今までホームレスだったし。でも思い返してみればチョコ類が大量に捨てられる日があったような無かったような……まぁ、昔の事だし思い出してもしょーがないので今はチョコを作る事だけ考えよっと。

 

 そんなわけで道具類とか買う金が無いのでゴミ捨て場にあった割と綺麗めな皿類を公園の水とかで洗って光ピカーとして乾かしたものを目の前に置く。そして肝心なチョコは何故か知んないけどゴミ箱に箱ごと捨てられてたからそれを使うから問題無し……仮に腹を壊してもノワールなら問題無いっしょきっと。

 

 

『……素直にチョコを渡すから道具類を買ってくれと言えば良いのでは?』

 

 

 それはそれでムカつくからヤダ。

 

 

『……まぁ、ノワール・キマリスの事ですからたとえゲテモノでも喜ぶでしょう。さて! 手作りチョコの作り方を教えますよ』

 

「よろしくー」

 

 

 まずはチョコを溶かすと……湯煎? なにそれ? へーそんなめんどくせー事すんの……? いや別に光というか熱で溶かせばよくない? よしめんどーだからそれでやろっと!

 

 

「……溶けないけど?」

 

『焦げるのは当然だと思いますよ? 世の女性は光の熱でチョコを溶かしてはいませんので』

 

「ここに居るけど?」

 

『夜空は別です』

 

 

 なんか腑に落ちない。てかさー! そもそも――

 

 

「――ユニア、どうやって湯煎だっけ? それすんの?」

 

 

 ぶっちゃけた話、目の前にあるのは皿とチョコだけでお湯沸かすとかそんな事が出来る道具なんて存在しないんだけど……? まー火に関してはその辺の枝とか使えば問題無いけどその先が問題な気がする。まー私は別にどうでも良いと言えばどうでも良いけどね。だって食えれば何でも良いじゃん。

 

 

『……』

 

「ユニア?」

 

『夜空……私の光を良い感じに使って溶かしましょう!!』

 

 

 さっきの発言どこ行ったん? まーそれしか無いから別に良いけどさ。

 

 

『あれですよ夜空! 溶かすときに水、えぇそうです! 液体が有ればきっと良い感じに溶けるはずです!! 正直食えれば良いんですよ食えればぁッ!!! さぁ夜空! 水と一緒に溶かしましょう!!』

 

「んー水かー……なんかさー! この夜空ちゃんが作るのに普通すぎない?」

 

『……ほう?』

 

 

 仮に、仮に水とか使って良い感じに出来たとしてそれは果たしてあのノワールに渡すに相応しいのかと言われた微妙だと思う。うん微妙っしょマジで! だってあの覚が居んだよ? アイツがもし私よりもいい感じの奴渡したらこの超絶美少女夜空ちゃんが下になんじゃん! それだけはぜってぇ……ぜってぇ阻止するためにも別な何かを考えないと……!

 

 そして考えること数秒、この天才美少女夜空ちゃんは閃きました! さっすが私! なんかどっかで料理は愛情とか何とかって言ってたしきっとノワールなら問題無く食えるはず!!

 

 

『……夜空。えぇ、確かに()()をする女性も居ますが念のため聞いておきます。何をしているんですか?』

 

「ん? 私の血を混ぜてっけど?」

 

 

 とりあえずコップ一杯程度の血を混ぜながら光を操り残ったチョコ全部を溶かす……が先ほどと同じように黒い塊になった。それ自体は別に問題無いと言えば問題無い……だって私の血が混じってると言う事が大事なんだし。ん~装飾とかなんかした方が良い気がするけどこれ以上はまぁ、初めてだしこれで良いっしょきっと! さっさと転移してノワールに渡せば良いだけの事だしさ! きっとノワールも泣いて喜ぶに違いない!

 

 

「かんせー! どうよユニア! これなら文句ないっしょ!! どっからどー見ても私オリジナルのチョコだぜ!」

 

『……ソウデスネ。ノワール・キマリス……いつの日か、いつの日か……夜空に料理を教えてあげてください……!』

 

 

 なんかユニアが言ってるけどそれは一旦置いておいて再度ノワール元へ転移する。

 

 そのまま出来上がった手作りチョコを渡すと……まーなんと言うか滅茶苦茶喜んで食べてくれた。ノワールが「これで死ぬまで戦える」とか言ってきたけどさ……お前って死ぬ気有るって感じで再生しまくってる気が済んだけど? まー別に良いけど。

 

 とりあえず初めてのバレンタインデーは個人的には満足と言えば満足な気がする。

 

 次は――何混ぜよっかなぁ。




ノワール君は血が混じってる事に気づいてますが夜空からチョコが貰えたことに心の底から喜んでいるのでその程度は全く、全く、全く気にしていません。
むしろありがとうございますと言えるレベルの変態のため皆さんは真似をしないでください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影龍王と奇跡の子
130話


「めっし! めっしぃ!! タダ飯食えるとかマジサイコーじゃん! おいパシリぃ! 飯早くぅ!」

 

「了解しました姐さん! この犬月瞬! 全身全霊最短最速で持って行くっすぅ!!」

 

 

 俺の膝の上に座っている夜空は世の男達を虜のするであろう笑みと犬月に料理の催促をしている。

 

 クリスマスに行われた俺と夜空による冥界全土を巻き込んだらしい最終決戦……通称双龍決戦から気が付けば数日が経ち、あと数時間で新年に突入するという時間帯に俺達キマリス眷属と夜空は人間界にある一誠へと足を運んでいた。理由なんて単純明快至ってシンプル――単なる忘年会をするためだ。いくら悪魔で邪龍の俺でも年末は邪龍特攻持ちと評判の母さんのお言葉により冥界にある実家へと帰っていたが……今年は大変、えぇ大変残念な事に実家へと帰る事は人間界の家で夜空と恋人らしくゆっくり過ごし、新年になったら着物姿の夜空で姫始めをしようと思っていました……が! その結果がこれである。

 

 事の始まりは約数時間前……昨日からぶっ通しで平家とエッチしている最中に部屋に入ってきた水無瀬より忘年会参加を聞かされたまでは良い。ぶっちゃけ興味無かったから即座に拒否ったがそれがダメだったのかイケメンが一目惚れするであろう笑みと共にいい加減にしろ! 良いから忘年会参加です的な事を言われた挙句、仮に拒否った場合は明日から毎日枝豆しか出さないという脅しをされる事になった。前々から思ってたんだがお前って枝豆好きだよな? 冷蔵庫にいつも入ってるしさ……いや美味いから別に良いけども。

 

 そんなわけで枝豆しか食えなくなるのはあまりにもアレな為、泣く泣くチームD×Dメンバーにより忘年会に参加する事になりました! 発案者は今すぐ俺の前に姿を見せてくれません? 大丈夫! 今ならチョロインによる影龍破数発程度で済ませてやるから!

 

 

「光龍妃が参加すると聞いて即掌返しした男が何を言う」

 

 

 俺の横に体を預けるように座っている平家が心の声を聞いたのかツッコミを入れてくる。おいおい平家……俺の彼女が! 俺の彼女が!! この女神よりも可愛い俺の恋人がタダ飯食えるなら参加すると満面の笑みで言ってきたらどんな用事があろうと即座にキャンセルして参加するのは彼氏……いや旦那さんとして当然だろうが。 つーかお前大丈夫か……? かなり疲れ切ってるようだが無理そうなら家で待機してても良いぞ?

 

 

「ノワールが絶倫すぎて身体がもう無理……でもこれからもノワール専用のオナホとして使われると思うと凄く興奮する。控えめに言って今まで生きてきて最高の時間だったね……でも疲れたからノワール、私のご飯取って欲しい」

 

「はいはい。つっても俺の方もヤバいけどな……! 夜空と三日間ぶっ通しからのお前と一日ぶっ通しとか普通の男だったら干乾びてるからな? その辺りもちゃんと考えて欲しいんだがどうよ?」

 

「んじゃ抱かなきゃ良いじゃん。そもそもさ――なんで私じゃなくて覚抱いてんの?」

 

 

 くるりと俺の方を向いた夜空が手加減無しの殺気と共に俺の首を掴む。マジギレ状態の為か目に光なんか存在せず俺の首を掴んでいる指に至っては爪ではなく指そのものが食いこんでる……何この可愛い生き物。嫉妬してる夜空ちゃんマジ可愛い! 普通に最高なんですが! とりあえず夜空……安心しろ! 少なくともお前が許可した女以外は抱く気は無いし子作りエッチもお前が一番最初と心、いや魂に誓ってるからさ! 俺の隣に居る現覚妖怪、前世サキュバスの平家とエッチして一度も避妊具無しでヤってない事をまず褒めろ! ちょっと褒めてくれても良いんじゃないかな夜空様?

 

 

「夜空……そもそもコイツが童貞捨てた俺を見て黙ってると思うか?」

 

「目の前に高級お肉が有ったら食べるよね? それと一緒だよ」

 

「だそうだが?」

 

「――は?

 

 

 何故か分からないがこの部屋の空気が一気に下がった気がする。一誠君! なんでか分からないけどこの部屋の暖房が機能してないから早く直してくれません? てかそもそも忘年会の開始前だけどさ……このノワール・キマリス専用席って何なの? 俺達キマリス眷属にグレモリー眷属、シトリー眷属にバアル眷属、ヴァーリ達にじ、じ……アガレス家次期当主等々結構嘉数が集まってるにも拘らずまだ余裕があるこの部屋の片隅一帯が俺専用とか扱い悪くない?

 

 あと嫉妬してる夜空が可愛すぎて写真撮りたい。

 

 

「ノワールと光龍妃が居る以上、仕方ないと思うよ?」

 

 

 デスヨネ。

 

 

「おいそこのバカップル。夫婦喧嘩なら家に帰ってからしろ……たくっ、光龍妃の殺気のせいで折角の忘年会の空気がヤバくなってるじゃねぇか」

 

 

 冬だというのに浴衣姿かつ手に酒瓶を握りしめているアザゼルが俺達の方に向かってきた。ちなみにだがその酒瓶の提供者は俺達……もっと具体的に言えば四季音姉妹だ。何故か知らないが此処数日間でストレスが溜まりまくってるようで飲みまくるとかなんとか言ってたから溜めに溜めまくった酒を片っ端から持ってきました! 恐らくアザゼルもその中から一本拝借したという感じだろう……なんで分かるかと言われたらラベルに思いっきり鬼印って書いてるし。

 

 

「文句なら此処に連れてきた水無瀬とかこの忘年会の発案者辺りに言ってくれ。俺としては家で夜空と仲良くイチャイチャしたかったんだよ……誰だよ俺達を呼ぼうとか言った奴は?」

 

「あぁ、それは俺だな」

 

「アザゼル? あのー! 実はですねー! 今ならなんとチョロインの的になるというお仕事があるんですけどやってみる気有る?」

 

「残念ながらこれでも仕事が忙しくてな。んなもんになってる暇はねぇっての……しっかしキマリス、鬼が作った酒を持ってくるとはなかなか分かってるじゃねぇの! 同盟を結んだとはいえ出回ってるのがキマリス領とフェニックス領のみだから中々飲む機会が無くてなぁ……な、なぁ相談なんだが堕天使勢力にも卸してくれねぇか?」

 

「んぁ? 四季音姉に交渉すれば良いだろ。アイツ、なんだかんだで鬼勢力の次期頭領だしな」

 

「馬鹿かお前……あんな状態の女に近づく男がどこに居ると思う?」

 

 

 アザゼルが何言ってんだお前という感じの声色で言ってきたので夜空の指が首に突き刺さったままチラリと四季音姉が居る場所を見ると――控えめに言って酷い状態だった。2m以上はある大樽やら一般的な大きさの酒瓶らしきものが大量に地べたに置かれている。その中心にいるのが我がキマリス眷属の戦車であり最終兵器的な感じになってる四季音姉だ……本当に何故か分からないがイライラが溜まりに溜まってるらしく表情も女を捨ててると言っても良い感じになってます! お供の四季音妹……通称キマリス眷属マスコット枠が何とかするかもしれないが普通にひっどいなあれ。

 

 おい平家、なんであんな風になってんだ?

 

 

「光龍妃と三日間ぶっ通しエッチしたのと私と一日ぶっ通しエッチのせいだね。少女漫画大好きの乙女だったけど普通にノワールの童貞狙ってたから光龍妃に奪われ、さらに私に先を越されてご立腹状態なう」

 

「デスヨネ。つってもなぁ……いやヤンデレ状態になるのは俺的には何も問題無いし逆レしたいならいつでもウェルカムだが一応抱きに行くのは確定してるんだぞ? ただ問題はその後なんだよ……いやマジで」

 

 

 なんか視界の端で口に含んだ酒を噴出した鬼が居たような気がするが気のせいってことにしよう。

 

 何を隠そう四季音姉は夜空ちゃんも認めているし俺自身も前々から童貞捨てたら抱きに行くと言ってたからな。ただ四季音姉が夜空よりも上……一番近い言葉で言うならば正妻的な感じの地位を狙おうするだろうからその辺りは気に入らないっぽいけども。あと付け加えるなら俺が夜空以外の女ばかり……簡単に言うと他の女に夢中になったりした場合もダメ、夜空が認めていないかつ知らない女を抱くのもダメ、夜空の都合が最優先でそれ以外……まぁ母さん以外の女の予定を優先した場合もダメという何が何でも自分が絶対に一番という徹底ぶり!うーん可愛い……片霧夜空ちゃんマジプリティ! 普通に惚れ直しました!

 

 ちなみにだが日常的にノワール君専用オナホだの肉便器だの何度も使用可能のティッシュだのと言っている平家が問題無いのは夜空よりも「上」に行く気が無いからだそうだ。まぁ、平家自身は何度も言っているように俺の傍に居られるなら満足っぽいしこの辺りは結構前……少なくともコイツらが出会った時には既に解決してたっぽい。

 

 改めて思うが夜空が即認めるとかこのなんちゃって覚妖怪変異種ってすげぇな。

 

 

「光龍妃って分かりやすいからね。ちなみに花恋とエッチした場合はもれなく母娘丼だね。おかわりもあるよ」

 

「だから困ってんだよ……! こっちは大学卒業か当主就任するまでは子作りエッチ禁止を決めてるのにあの人妻共はどう考えても狙ってくるだろ? だから困ってんだよなぁ。個人的には母娘丼とか好物だから嫌では無いけども」

 

 

 その言葉と同時に俺の首に抉り取られた。犯人は誰だと言われたら勿論、俺の膝の上に座っている夜空ちゃん! 恐らく……いや確実に母娘丼が好物という言葉にブチギレたんだろう。いや待て、待ってほしい! あのな夜空……人妻が嫌いな男は居ません! 子持ち属性とか興奮するしか無いんですよ! 世の男達は見た目が若い母親とその娘を一緒に抱く事を望み続けているんです! その辺りは分かってくれません?

 

 

「――」

 

 

 あっ、これ無理だわ。マジで殺すという言葉以外が見当たらないお目目をしてますよ! でも可愛い。やっぱり可愛い! おい平家、あとで水無瀬の部屋にある「今日から貴方はドМな雌犬セット」を使ってやるから写真よろしく。

 

 とりあえず再生再生っと。

 

 

「おい夜空……飯食う前から血まみれになる気かよ? てか嫉妬? 嫉妬したのかい夜空ちゃん!」

 

「死ね、ウザい、キモいんだよ話しかけんなゴミ」

 

「……すまん。ちょっと今から水無瀬の部屋にある手錠だの目隠しだの一通り持ってきて装備するからもう一度その言葉を言ってくれない?」

 

「キモ」

 

 

 うーん、最高だね! なんか遠くの方から何を言っているんですかという隠れドМな保険医からの声が聞こえている気がするけど気のせいって事にしておこう。そもそもアイツ、給料で買ったであろう調教系の道具を隠し持ってるのが悪い。押し入れの中から蝋燭やら鞭とかを見つけた時はドン引きしたぞ……いや望むなら使うけど。

 

 

「つーか飯まだ? あの鬼はどうでも良いけどまず飯食わせろ」

 

「だそうだが? おい犬月~飯まだかぁ?」

 

 

 最短最速で持ってくるとか言ってたパシリは現在全く音沙汰が無いので試しに呼んでみると大量の料理が置かれたカート的な奴と共に俺達の前に現れた。その表情はちょっと意味分かんないとか言いたそうな感じだけどいったいどうした? てか数多いけどよく持ってこれたな……?

 

 

「――あのですね王様。この空気の中、持って行けるわけないでしょうがぁ!! 姐さんお待たせしましたどうぞお受け取りください!!」

 

「パシリ遅い。あと私の分は?」

 

「……?」

 

「いやお前何言ってんだとか思うよりも先に私の分が無いけど?」

 

「心の中で思った言葉をそのまま言ってやるっすよ。いやお前何言ってんだ? そんなの自分で取りに行けばいいだろ」

 

「ノワールに抱かれまくって動けないなう。今も下半身がヤバい」

 

「いや知らねぇけど……そもそも引きこもり、此処数日間でお前がした事を言ってみ?」

 

「ノワールと光龍妃の護衛、あとノワールのオナホになってたけど?」

 

「――テメェがしほりん達を煽りまくったせいで家の中が地獄になったのもう忘れたのかぁぁっ!! ほらよ飯だ受け取れぇぇっ!!!」

 

 

 犬月瞬、一世一代の叫びと共に平家、あとついでに俺の分と思われる料理が別のテーブルに置かれる。なんだかんだでちゃんと渡してくれるとかツンデレかよお前……男のツンデレとか萌えな、いやウアタハたん辺りなら普通に萌える。まぁ、その本人はこの数日間で被害にあった場所全てを修復して影の国に帰ったけども……それを聞いた相棒の悲痛な声は今でも覚えているぜ。

 

 ちなみにだが家の中が地獄になったのはまず間違いない。エッチし終わって家に帰ったら凄く……空気が重かったんだよ。俺の目から見てもキマリス眷属女性陣は美女、美少女の集まりなんだが四季音妹とチョロイン以外の目が死んでました。というよりも目の焦点があって無かった感じがする……が童貞を捨てた俺からすればいつもと変わらないので特に何も思わなかったがどうやら犬月は違うらしい。

 

 

「テメェが定期連絡とか何とか言って大量の煽り文送ってきた挙句、王様とエッチし始めるとかマジでさぁ! 流石の俺も家出したくなったんだよぉ!!」

 

「別に家出しても良いよ?」

 

「家出したらさらにヤバくなるから出来ねぇんだよ察しろよぉ!!!」

 

 

 犬月はその言葉と共に崩れ落ちる。まぁ、うん。仮に犬月が家出した場合は俺の家がヤバい事になるのは確実だろう……なんせ現時点で犬月が居るから少しは自重しよう的な感じで動いていると思うし。目に光が宿らないとか視線で殺し合ってるとか軽い軽い。うんうん……だから犬月、俺が全員抱くまでなんとか頑張れ! 何時になるか知らんけど!

 

 

「――犬月ぃ!!」

 

 

 遠くの席で一誠がガチ泣きしてるのは何故だろうか?

 

 

「犬月……! 俺は、ダチ一人救えないのか……!!」

 

「ヴリトラ。あれは救う以前の問題だと思うのだが……?」

 

 

 シトリー眷属に囲まれている元士郎が涙を流しながら床を叩いている。今のやり取りでそこまで無く要素合ったかと疑問に思うがそれよりも先に八岐大蛇! お前……お前! なんでシトリー側にいるんだよ! そこは邪龍仲間的な感じでこっち来いよ!!

 

 

 

「ねぇねぇ白音……話を纏めるとかげりゅーおーって絶倫らしいにゃ! これはお姉ちゃん本気だそっかにゃ~♪」

 

「姉様……死ぬならせめて全部教え切ってからにしてください」

 

 

 この流れでそこをチョイスした黒猫ちゃんマジ黒猫ちゃん。あっ、エッチしたいなら夜空ちゃんと面接してからでお願いします! 多分殺されるだろうけども。主に胸が原因で。

 

 

「……犬月瞬。辛いならばウアタハ殿を頼ると良いぞ」

 

「ハハッ! お前が他人を頼るなど珍しいな。いやそれ以前にこの場に居る事自体がそうか」

 

「そのセリフ、そのまま返すとしよう。かの白龍皇がこのような場に来るとは珍しい事もあるものだ。俺の記憶の中のお前はこの手の集まりは嫌いだと思っていたが?」

 

「アザゼルが五月蠅くてね。仕方が無くさ」

 

 

 影の国代表枠とか何とかでやってきた曹操ちゃん! ヴァーリと視線で殺し合ってる暇があるなら影の国で修行した仲だろ? こっち来ても良いぜ! 何だったらヴァーリも一緒でも構わん! なんでと言われらたなんか隔離されてる感じがして寂しいんだよ言わせんな恥ずかしい!

 

 あとゴメン。そろそろ現実逃避するのやめるわ……おい犬月、持ってきた飯の半分が無くなったから補充頼む。

 

 

「タダ飯食えるとかやっぱ忘年会サイコーじゃん! おいパシリ、飯追加ぁ!」

 

「イエッサー!!」

 

 

 哀れ犬月。今日一日は夜空のパシリか……羨ましいから後で地双龍の遊び場に集合な?

 

 

「――はぁ。バカップルの相手は疲れるがそろそろ始めるとするか。キマリスと光龍妃はもう好きにしてろ! 俺は知らん! よしお前らぁ! 色々と思う事は有るだろうが忘年会開始するぞぉ! ウハハハハハハ! 酒ださけぇ! 飲み放題じゃァ!!」

 

 

 若干カオスになりかけていたがアザゼルの言葉によりチームD×Dメンバーによる忘年会がスタートした。

 

 

 

 

 

 

「リゼヴィム様。処理が終わりました」

 

 

 薄暗い小部屋で()()鱗をした龍の腕に付いた血を拭っている銀髪の男。その名はユーグリット・ルキフグス、悪魔の母たるリリスより生まれた新ルキフグスの一体である。彼の視線の先にはコタツに入って年末特番らしい番組を見ている銀髪の男はその言葉に煎餅を持った手をひらひらと揺らした。

 

 

「ごっくろ~♪ どうだいユーグリット君、煎餅食べるかい? これ結構美味しいよぉ~?」

 

「結構です。この後も仕事がありますので」

 

「ありゃや、フラれちゃったよ♪ うひゃひゃひゃ! しっかしさぁ~あのゴミ達はどんな感じだったん?」

 

「何故ですかリゼヴィム様。我々は貴方のお役に立つためになど似たような言葉を言っていましたよ。お望みならば全てお伝えしますが?」

 

「いんや、いらね~よん。でも馬鹿だね~ホントさ♪ 僕ちんがちょっと声を掛けたら罠だと知らずにやってくるんだもん♪ こっちはお前らの事なんてこれっぽっちも期待してないってのにさぁ~!」

 

 

 うひゃひゃと笑っているのはリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。現白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの祖父であり「クリフォト」と呼ばれる組織の長でもある。彼がユーグリットにとある指示をしたのは今より数日前に起きたとある事件――京都妖怪の姫君が名付けた双龍決戦と呼ばれる影龍王、ノワール・キマリスと光龍妃、片霧夜空の直接対決の時である。

 

 自らの手で蘇らせた名のある邪龍達が反乱した事で戦力が減少しただけでは無く大罪の暴龍グレンデルがリゼヴィムを殺すべく定期的に彼の秘密基地を襲撃しているためか「リリス」より生み出されるユーグリット・ルキフグスを防衛に回し、その数も一体、また一体とグレンデルによって殺され数を減らしていることからクリフォトという組織的にはかなり戦力が減少していると言っても良い。

 

 それを解消するべくリゼヴィムは自身が冥界に居た時にすり寄って来た純血悪魔の貴族達を言葉巧みに唆し、自らの陣営に加える――フリをした。

 

 

「そもそも殺し合いから何百年も離れていた老害を戦力に加えるわけねえじゃんよぉ~♪ それにさ~頼んでもいないのにノワールきゅんが気に入らないからって夜空きゅんを寝取ろうとかあ・り・え・ま・せ~ん♪ そんな事されたらただでさえ戦力やべーのにさらにヤバくなるじゃないの」

 

 

 ふざけた様子から一変して真面目な表情になったリゼヴィムは煎餅を齧る。別な目的で声を掛けた貴族達が何をとち狂ったのかノワールと戦い、疲弊した片霧夜空を捕えた上でリゼヴィムに献上するという作戦を隠さず提案したのが彼らが死ぬ原因となった。

 

 

「いくら疲弊したと言ってもあのノワールきゅんだよ? 目の前で奪おうとしたら逆鱗状態突入してぶっ殺されるに決まってるでしょうが。しかもご丁寧に僕ちんの名前とか絶対出すでしょー? そうしたらほら! グレンデルだけじゃなくてノワールきゅんも全力で僕ちんを殺しに来ること間違いなし! なんせ魔法使い全体を虐殺した前科持ちだからね~普通にあり得まーす! うひゃひゃひゃ! もっとも覚妖怪が即効で気づいて対処されるだろうけどさ♪」

 

「でしょうね。元々"養分"にする予定でしたがそれを早めた理由はそれでしたか」

 

「だいせいかーい♪ 流石に僕ちんの名前出されたら打つ手無くなります♪ あー失敗したな~こんな事なら教会勢力煽った時に見捨てなきゃ良かったよ」

 

「あの頃はまだ戦力的には問題無かったですからね。ではリゼヴィム様、仕事に戻ります」

 

「はいはーい♪ あっ、そうだユーグリット君」

 

 

 その場を去ろうとするユーグリットをリゼヴィムは呼び止める。

 

 

「――彼らの魔力、美味しかったかい?」

 

 

 その問いに対しユーグリットは静かに微笑んだ。

 

 

「いいえ。凄く不味かったですよ」

 

 

 その言葉を残したユーグリットは"仕事場"へと戻り、リゼヴィムは再びTVを見始めた。




「ノワール・キマリス」
双龍決戦から数日間で経験人数二人になった。
基本的にはドSだが夜空相手だとドМにもなる。
罵詈雑言とか言われても夜空が相手だと普通に興奮するやべー奴。

「片霧夜空」
自分が一番じゃないと気が済まないやべー奴。
ノワールが他の女とエッチするためには彼女の面接に合格しなければならない。
ちなみに自分よりも「上」に行こうとする女は即殺害する

「平家早織」
ノワールが夜空と三日間に及ぶ情事が終わった瞬間にマイクロビキニ装備で突撃した。
覚妖怪故にノワールの弱点を知り尽くしサキュバス認定された。
今後は気軽に使ってもらえると本気で思っているやべーやつ。

「犬月瞬」
不憫枠。



今回より「影龍王と奇跡の子」編が始まります。
ちなみに忘年会はまだ始まったばかりです……!
あと1話……か2話ぐらいは某宴会が続くと思われます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

131話

本当はノワール視点で書きたかったがどう頑張っても夜空と平家の二人しか話さない上、イチャイチャしまくって話が進まなかったので一誠視点です。



 それはチームD×Dメンバーによる忘年会が開始してから三十分ほど経過した時に起こった。

 

 あと数時間で新年突入する今日……俺達グレモリー眷属や黒井達キマリス眷属、匙達シトリー眷属等々かなり豪華な面々が俺の家に集まり今までお疲れさまでした! 来年も頑張ろう!! という気持ちを込めて開かれたこの集まり……俺としても今年は波乱に満ちたものだったと思う。レイナーレ……俺の初恋で初の彼女となった人に殺されたと思えば隣に座っているリアスの眷属となり、俺に宿った神器が神滅具と呼ばれる凄い物で色んな戦いを経ていつの間にか赤龍帝とかおっぱいドラゴンとか乳龍帝とか呼ばれる事になったり……思い返してみても波瀾万丈とも言っても良い出来事ばっかりしか起きてない気がする。

 

 だからこそこのチームD×Dメンバーによる忘年会で今までの疲れとか冥界で起きている出来事とか……とりあえず色々な事を一旦忘れて楽しもうと俺は思っていたんだが……なんだかんだ色々あり過ぎて忘れていた事が一つだけあったのを今この時に思い出した。俺達も所属しているチームD×Dには世界レベルでヤバい奴が所属している事をな……!

 

 

「……あのさ、食いづらいんだけど?」

 

「……」

 

「聞いてんの?」

 

「――あっ、悪い。お前の髪の臭い嗅ぐのに全神経使ってた。いったいどうしたよ?」

 

「いやどうしたよじゃなくてさ。そんな風に頭固定されると食いづらいんだけど?」

 

「嫌か? 嫌なら……まぁ、やめるが。ガチ泣きするけど」

 

「……別に嫌じゃねぇけど。そんなにこの夜空ちゃんの臭いかぎてぇの?」

 

「少なくともこの場の出てくる料理以上に嗅ぎたい。というかこれだけで一週間ぐらい何も食わなくても持つ」

 

「……ふーん。なら、良いけど」

 

 

 この部屋の片隅にある"ノワール・キマリス専用席"と書かれた看板が置いてある場所で若干……いや見続けていたら確実に胸やけと砂糖が吐ける気がする光景が俺、いや俺達の視界に映っている。

 

 忘年会だというのにラーメン、炒飯、オムライス、ケーキ、大量のお菓子にジュース等々がこれでもかとテーブルに置かれている。普通だったら一種類食べればもう腹いっぱいになるであろう量を食べているのはあの人……光龍妃と呼ばれている片霧さんだ。一目見ただけであっ、幸せそうだという表情の黒井の膝の上に座りラーメンを食べてはお菓子を食べ、ジュースを飲んで炒飯と体型に絶対に入りきらないであろう量を食べ続けている。俺はまぁ……ヴァーリと一緒に店に行った時に見たから凄いな程度だったが――リアス達は違うらしい。

 

 というよりもあれはイチャイチャと言うものではないだろうか? 犬月から……お童貞をお卒業されたらしいとは聞いてたけども! クリスマスから今日までたった数日程度で二人!! しかもそのお相手が幻のお姫様と呼ばれている平家さんとか羨ましいんだよぉ!! 俺だって……俺だってぇなぁっ!! お童貞お卒業したい……!!

 

 

「……ねぇ、イッセー?」

 

「り、リアス……? どうしたんだ……?」

 

「あの場所だけ……そう、あの場所だけね? 仕切りとかで見えないようにできないかしら……?」

 

 

 俺の隣に座りジュースを飲んでいたリアスだがある一部分を見続けているリアスの目が若干……いや今まで見た事も無いレベルで何かを言いたそうにしている。それは俺だけでは無く黒歌と並んで座っている小猫ちゃんに少し離れた場所にロスヴァイセさん、そんな表情になるのはかなり珍しいアーシア等々……言ってしまえばグレモリー眷属女性陣の殆どが黒井と片霧さん、あと必然的に平家さんの三人を見続けている。

 

 恐る恐るリアスの目を見てみるが……なんとなく言いたい事は分かったような気がする。リアスは勿論、アーシアや小猫ちゃんだって女の子だ……! 甘い物はいっぱい食べたいし美味しい物だって好きなだけ食べたいだろう。でも出来ない……女の子であるからこそそれだけだ出来ない! だって食べ過ぎたら体重という女の子の敵が牙を剥くんだから!!

 

 

「……甘い物、いっぱい……たべ、たい……!」

 

「あれだけ食べて……体重とか……変化、しないの……?」

 

「体重が増えないの……羨ましいです……!」

 

 

 小猫ちゃん、イリナ、アーシアの順で各々が思った事を口にした。それもこれも黒井と片霧さんの会話のせいだ! あの会話さえ無ければ……! 無ければ……まだ幸せだったに違いない!!

 

 

『つーかお前、相変わらず食うな? 此処に来る前も菓子類食ってなかったか?』

 

『はぁ? まだお腹に入るんだから食うに決まってんじゃん! それに忘れたぁ? この超絶美少女の夜空ちゃんはどんだけ食っても太んねぇんだぜ?』

 

『知ってる。なんでか知らないがお前太らないよな……? とりあえず全世界の女子に謝った方が良いぞ』

 

『知らねぇし。太る方が悪い』

 

 

 言わせて欲しい。お、お前ら……!! 声には出せないけどそこのイチャついてるバカップル!! この場にどれだけの女の子がいると思ってるんだ!? 男子なんて数える程度しかいないってのにこの場に居る全ての女の子を敵に回す発言を良く出来るな!? いや確かに全世界の魔法使い虐殺とか言う頭おかしいレベルを通り越している事件の犯人だけどさ! ちょっとは周りの空気を考えてくれないか頼むから!!

 

 とか思ってると黒井に寄りかかっている平家さんが無理と言いたそうな表情で首を振った。あっ……そう言えば心の声とか、聞こえるんでしたっけ……? す、すいません!

 

 

「……水無瀬先生。あの、あの……!」

 

「分かりますよロスヴァイセ先生……! あれは理不尽です……! 理不尽の塊なんです!! 分かりますか!? 私達が毎日体重と戦い! 日頃のご褒美にデザートを食べているというのに彼女は……彼女は! あれだけ食べても太らないんですよっ!! 何でですか……! 理不尽です! ノワール君は完全に彼女しか見てないですしぃ!! もうヤケです!飲みましょう! 今日はとことん飲みましょう!」

 

「えぇ! 飲みましょう水無瀬先生!! 辛い事など全部吐き出しちゃいましょう!!」

 

 

 どうやら成人組……ロスヴァイセさんと大天使水無せんせーの二人はヤケ酒をするようだ。というか水無瀬先生……さっきまで料理し続けたのによく元気ですね? まさか毎日あんな感じだったのか……?

 

 

「……いえ、大丈夫よリアス。えぇ大丈夫なのよ……! だって私はリアス・グレモリー……目の前にある料理を食べても体重変化は無いわ。無いのよ……昨日だっていっぱい動いたんだから事実上カロリーオフよ。オフと言ったらオフなの……!」

 

「リアスお姉さま……! 食べましょう!」

 

「アーシア……えぇ! そうね!」

 

「わ、私だって日頃から運動してるし! あと天使だもん! ふ、太らないもん!! だ、ダーリンもそう思うでしょ!?」

 

 

 イリナが泣きそうな表情で俺に聞いてきた。それと同時にリアスとアーシアの視線も俺へと向けられるがその瞳は太らないと言ってほしいという思いが込められている……気がする。や、ヤバイ!? ここで変な事を言ったら精神的に死ぬかもしれない……! ここは匙や犬月に助けを求めるべきだ!

 

 視線をそっと……そっと匙に向けると俺と同じようにシトリー眷属女性陣に問い詰められていた。ダメだ、役に立たない……! ならば犬月はと視線を向けると由良とベンニーアに介護らしき事をされていた。あれはダメだ……! しばらく生き返りそうにない! というか由良は分かるけどベンニーアもとは珍しい気がする。いやキマリスやシトリーと合同で特訓してる時はいつも一緒だからそのお礼かなんかか? 犬月……今だけは美少女に介護されておけ! きっと幸せになれるからな!!

 

 

「イッセー!」

 

「イッセーさん!」

 

「ダーリン!!」

 

 

 畜生! これは逃げる事が出来ない……! し、仕方がない!! 男の見せどころと言う事で頑張るぜ!

 

 

「え、えーと……いや、お、俺の目から見ても三人とも太ってはいないから大丈夫だ! 逆にいっぱい食べておっぱいを大きくしてくれ!!」

 

 

 我ながら完璧すぎる回答だと思う。褒めてくれ皆! 俺は……やったんだ!

 

 

『なおその場凌ぎの回答だよ』

 

 

 なんか変な事を書いているプラカードを持っている平家さんとか見えない! 俺の目には何も映っていない!! いやそもそもそれどこから持ってきたんだ!?

 

 

『影の国から持ってきた』

 

 

 ドライグもアルビオンもヴリトラもヤバイというその場所からなんでそれ持ってきたのか非常に気になるんだが!? というよりも何故有った!?

 

 

「んあ? お前何してんだ?」

 

「赤龍帝がプチ修羅場ってたから暇潰しに遊んでる」

 

「修羅場……? どうせ夜空の太らない発言でこのまま食べて良いのか的な事を思ってるだけだろ?」

 

「大正解」

 

「別に気にする必要ねぇだろ……どうせ夜空とは違って胸に栄養行くん――」

 

 

 いきなり黒井の頭部に雷の槍っぽいのが突き刺さった件について。黒井……! お前って奴は頭がおかしいと思ってたけど本当に頭おかしい奴だったんだな! 普通は絶対に言わないぞそんな事!? 滅茶苦茶殺気出してるじゃねぇか! あと……一応俺の家だから流血沙汰――あぁ、再生したから問題無いっぽいな。うん。やっぱりあの再生能力おかしい……どれだけ頑張っても一瞬で元通りになるし見た感じライザー以上の再生能力だろうから勝ち筋が一切見えない! レーティングゲームで戦った場合はマジでルール次第になると思うんだけどさ! 本当にどうやって倒せばいいんだよ! 味方な場合は本気で頼もしいけどさ!!

 

 あとちょっと真面目な話になるが俺はドライグが持つ力を完全には把握していない。いやちゃんと神器の中に潜って色々と模索しているし今の龍神ボディに切り替わる前に手に入れた白龍皇の力だって何とか使いこなそうと頑張ってる……と思う。でもどれだけやっても今以上の力を手に入れられる気がしない……ドライグが言うには何かきっかけがあれば発現しそうな気がするとは言ってるけどそのきっかけ自体が全く思い浮かばない!

 

 

「……」

 

 

 真面目に考えていると何故か周りが静かになった……多分、殺気の流血沙汰を見てドン引きしているんだろう。やっぱり皆思うよな!? 絶対に思うよな!!

 

 

「相変わらず影龍王と光龍妃は仲が良いな」

 

「どうやらようやく恋人同士になったようだ。それよりもヴァーリ、相変わらず反応するところがズレているぞ?」

 

「ハハッ! そういうお前は少し人間味が増えたようだな。影の国で何を経験した? アルビオンが関わるなと言っている以上、俺としては残念だが関わる事が出来ないんだよ。だからいい機会だ、色々と話しを聞かせてもらおうか?」

 

「……ヴァーリ。その選択は正解だ……関わるな、死ぬぞ。心がな!」

 

「ほう」

 

 

 いや訂正する……ヴァーリと曹操だけは俺達とは違う反応だった! いやそれよりも曹操!! お前……なんで此処に居るんだ!? 影の国代表とか言って食べ物とか持ってきてくれたけど一応指名手配されてるんだぞ! ま、まぁ……アザゼル先生が何かしない限りは放っておけと言ってたからそうするけどさ!

 

 

「良いか……影の国には基本頭のネジが狂っている奴しかいない! ウアタハ殿だけは別だ! 彼女……いや彼だけは話しを聞いてくれるし何なら同情してくれる本当に優しい人が居るがそれ以外の二人はキチガイなんだよ!! 特訓も出来て当たり前! 出来なければ死ねが共通認識!! お前に分かるか……! 寝ていても反応出来なければ悪霊達に殺され! 寝起きだというのに影の国内を全力疾走させられ少しでもペースが落ちれば体重が倍になる術式発動! しかもそれでペースが落ちるとさらに体重が倍になり続ける悪循環!! 生きたまま獣に内臓を喰われるなどまだまだ軽い……! 一番頭おかしかったと思ったのは『お前は右で槍を持つことが多いから左を鍛えよう』と俺の右腕切り落として左腕だけで影の国サバイバルだ!! 分かるかヴァーリ……今日が終わり影の国に帰ったら、また地獄なんだ……!」

 

 

 俺の目には信じられない光景が映し出されている。あの曹操が……英雄派を率いて俺達と対峙していたあの曹操が震えながら愚痴を零すように語っている。影の国で修行していたとか言ってたからちょっと気になってたのは事実で悪魔特融の耳の良さをフルに使って話しを聞いてたが……ヤバイ。影の国ってヤバい場所じゃないか! これはドライグ達も口を揃えてヤバいと言うわ!?

 

 隣に座っているリアスとかもえぇ……? って感じの表情になってるし! 曹操……お前、お前! 良く生きてたな!! サバイバルした事がある俺ですら片腕切り落としたりはしなかったぞ!?

 

 

『曹操……あの女に目を付けられた事が全ての原因だ。諦めろ』

 

「白い龍アルビオンか……ははっ、諦めるか。英雄派の残党達と共に拉致され、強制的に弟子にされ……俺以外が殺された今となっては諦める事など出来るはずがない! ちっぽけな人間だからね……託された思いと言うものには弱いんだよ。弱音を吐いた手前、信じられないとは思うが俺は必ずスカアハを倒す。聖槍が無い身ではあるがあの地獄を共に生き抜いた愛槍――ゲイボルグと共にこれからも強くなるさ」

 

「ゲイボルグ……ケルト神話に登場する槍か。ハハッ! 面白いな! どうだ? 今のお前がどれだけ戦えるか試すと言うのはどうだ?」

 

「別に構わない。聖槍を持たずとも異形に喰らい付ける所を見せるとしよう! 白い龍、俺から一つキミに……いやこれはこの場に居るドラゴン達に言いたい事がある」

 

『ほう』

 

 

 あの曹操がこの場に居るドラゴン……つまりドライグやアルビオン、ヴリトラ、八岐大蛇などに言いたい事ってなんだ……? まさか黒井みたいに全員で殺し合おうとか言わないよな?

 

 

「――影龍王が見ている景色はスカアハも見ているんだ」

 

『ヴァーリ! そのラーメンを食い切る前にこの場から逃げるぞ!! 全速力でだ!!』

 

『相棒! 何をしている今すぐこの場から逃げるぞ!! 安心しろ隠れ家なら大量にある!! ひとまずは其処で数百年程度過ごすぞ!!』

 

『我が分身よ! 今すぐこの場から離れるのだ!! そして二度と奴らの前には姿を現すな!!』

 

『げぇ、あの女が見てんのかよ。キィッヒヒヒッ!! 面白れぇ! 久しぶりに顔でも見に行くか肉体様――と言いてぇが流石にこれは逃げ一択だな。あの女に捕まったら肉体様がマジで死ぬしなぁ』

 

『アーシアたん。俺様、いったん家に帰る。怖くなったらおパンツください。頑張って助けに来るよ』

 

 

 周りが驚くよりも先にこの場に居るドラゴン達が一斉に逃げの姿勢に入った。この中で爆笑していたのは黒井と黒井に宿っている神滅具に封じられているドラゴンだけでそれはもうざまぁ! と言いたそうな表情だ。アイツ……! 自分が関係無いからって爆笑し過ぎだろ!?

 

 

「……影龍王。清々しい顔で笑っている所を大変済まないがキミにも言う事があるんだ」

 

「ゼハハハハハハハ! 何だよ曹操ちゃん! いや待って。何そのマジな顔……あのさ、まさかとは思うけどまた影の国来いとかそんな事は言わねぇよな?」

 

「……すまない」

 

「あっ、これはガチな奴か。マジかよあの女……! 普通に考えて頭おかしいだろ……普通に行きたくないんだけど。いや無理だわ、うん。まぁ、でも仮にだぞ? 仮に行くとしても道連れは連れていくぞマジで。とりあえず一誠と元士郎とヴァーリは確定として……あとバロールも連れていくか。よしこのメンツだったらあのクソ師匠も俺から標的逸らすだろう! 我ながら天才じゃね? よっしゃ褒めてくれても良いぞ!」

 

「「ちょっとまてぇぇ!!!」」

 

 

 流石に今の発言は見逃せないのでドヤ顔している黒井にツッコミを入れる。流石匙! 俺と同じタイミングとは心が通じ合ってるな! もはやお前とは親友と言っても良い感じだから当然と言えば当然なんだが……問題は黒井だ。なんか俺達の言葉に疑問を持ってるような表情だけど俺達からするとヤバい奴が居る場所になんで俺達を連れていこうとするのか理解できないからな!?

 

 そんなわけで俺と匙は仲良く肩を組んで黒井が居る場所へと向かう。何故肩を組んでいるかというと片霧さんが怖いからだ……問答無用であの雷の槍が飛んできそうだしな!!

 

 

「おい黒井!? お前……お前さぁ! いや分かるよ! ヴリトラがここまで拒否反応示してる場所に行きたくないのは凄く分かるけどさ!! 俺達生贄にする気か!?」

 

「そうだぜ! お前って影の国経験者だろ!? だったらまだ良いじゃねぇか!! ドライグがヤバいと言ってる場所になんか行きたくねぇって!!」

 

「はぁ? お前らな……この全世界が見習うほどお優しい俺がチャンスを与えてやってるのにその言い方はどうよ?」

 

「悪い。お前の事は全世界が見習うどころか全世界が頭おかしいと思ってるぜ?」

 

「あとチャンスって何のチャンスだよ……?」

 

「そんなの童貞喪失のチャンスに決まってんだろ言わせんな恥ずかしい」

 

 

 オッケーオッケー! ちょっと目の前のイケメンぶん殴って良いか? コイツ、お童貞をお卒業されて経験者になったから調子乗ってる! なんでコイツ、自分が良い事言ったかのような表情になってんの? すっげぇ意味分からないんだが!!

 

 

「ノワール。童貞共が怒ってるよ」

 

「いや意味分かんねぇ。あのな一誠、そして元士郎……ぶっちゃけ俺と相棒から見てもスカアハって女はガチでヤバイけど見た目……見た目だけは美人だぞ? 性格とか色々無視すれば童貞卒業相手としては最高だと思うんだよ! 俺は嫌だけど。ぶっちゃけアイツとエッチするぐらいなら平家孕ませた方がまだマシと思えるレベルでマジで嫌だから生贄……生贄になってくれません?」

 

「言い直せ! せめて言い直せよお前!!」

 

「お前がヤバいと思える相手とかマジでヤバいに決まってるだろ!? あと目の前にいらっしゃるお方が怖いんですけど何とかしてくださいお願いします!!」

 

 

 平家さんを孕ませる発言で激怒したのか無表情で黒井を見続けている片霧さんが怖い。本当に怖い。確かに俺もリアスや朱乃さん達が喧嘩している所を何度も見てきたけどそれを上回る恐怖が目の前に居る……俺ってさ、なんだかんだで黒井の事は頭おかしいと本気で思ってるのは確かだ。けど修羅場的な感じをスルー出来るその性格は凄いと思ってる……だからお願いしますから何とかしてくれ!

 

 隣にいる匙を見ると――滅茶苦茶足が震えていた。だよなと俺も自分の足を見るとガチで震えてたのは言うまでもない。

 

 

「――ほら見ろ! 俺の可愛い夜空ちゃんもお前ら生贄になれって言ってる!」

 

 

 いや言ってない。絶対に言ってない。

 

 

「ノワール」

 

「なんだ?」

 

「あのさ――お前一回死んだ方が良いぞ」

 

「仮に一回死んでもお前孕ませるためにその倍は生き返るが良いか? つーか何だよ夜空……嫉妬? 嫉妬なの? そこは私を孕ませるとか言ってほしかったのか夜空ちゃん!! 安心しろよ……俺の身も心も魂も全部お前の物だぜ!!」

 

「ウゼェ」

 

 

 目の前で再び黒井が殺害されたけどさ……やっぱり頭おかしいなって思う。少なくとも俺にはあの返しは無理だ……いや普通に無理だって!

 

 

「――はい再生再生っと。相変わらず容赦ねぇなおい……いやそこが可愛いけども。ますます好きになったわ! んでスカアハの生贄問題だが……良いや、最悪バロールぶん投げておけば良いだろ。同じケルトだし」

 

「お前……うちのギャー助を一体何だと思ってんだよ?」

 

「分からせたいメスガキ」

 

「アイツ男だけどぉ!?」

 

 

 見た目は兎も角、性別的には男なんだが黒井的には何も問題無いらしい……ギャスパー、いや多分あの感じはバロールだな! なんか離れた場所で絶対殺すという表情をしているけど絶対に気づいているよな……黒井の頭の上に乗ってる黒いミニドラゴンが挑発してるし。

 

 主に黒井と曹操のせいでこの場の空気がカオスになってきた時、突然床に魔法陣が展開される。黒粒子を巻き散らしながら転移してきた人物を見た瞬間――

 

 

「――クハッ! 我が弟子ともあろう者が何を遠慮している。そう照れずとも師匠であるこの(わたし)が思う存分、鍛えてやろうではないか! しかしなんだなんだ? 此処には面白い者達が居るな! これは久しぶりに腕が鳴ると言うもの! 期待しても良いぞ我が弟子達よ」

 

 

『『『ギャアアアアアッ!?!?』』』

 

 

 黒いドレスを着た凄まじい美女を見た瞬間、ドライグとアルビオンとヴリトラが発狂し視界の端で曹操がジュースを噴出し、寿司ばっかり食ってた八岐大蛇は即座に八重垣さんの体の中に引っ込むなど各々が今までに見た事が無い反応をしている……ドライグがこの反応と言う事はこの人が、スカアハ!?

 

 

「……オイフェ、お前何しに来たんだ?」

 

「――んだよ、バラすなよなぁ! てか、良く分かったな?」

 

 

 え? スカアハじゃないの!?

 

 とりあえず俺が思う事は一つ……この忘年会、荒れるぞ!




17巻~18巻でユーグリットやリゼヴィムなどと戦わなかった影響により原作よりも一誠の戦闘能力が下がっております。
白龍皇の力が昇華されてませんしドライグの力も完全開放には至っておりません。
それもこれも全部影龍王とか言う奴が暴れ回ったせいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

132話

「……ん、ぷ、はぁっ……! 良い酒だなおい! いや悪いな、いきなりやって来たってのに酒まで貰ってよ」

 

「貰ったというよりも勝手に飲んだが正解だからな。たくっ、周り見てみろよ……お前がいきなりスカアハの真似して登場するから他の奴らは警戒しっぱなしだぞ?」

 

 

 先ほどまで比較的楽しい時間が流れていたはずの忘年会も現在は物音一つ無いほど静かとなっている。

 

 その原因は俺の目の前に座っている女……影の国の女王スカアハの双子の妹ことオイフェが呼ばれてもいないのにこの場にスカアハの真似をして登場したから周り……特にドラゴン達が阿鼻叫喚という面白、うん! 結構面白い状態となったが俺としては曹操が言った"影の国に連れていく"発言がマジのマジっぽい事にかなりドン引きしている。

 

 "ノワールキマリス専用席"という看板があるこの部屋の片隅に俺は勿論、俺の膝に座りっぱなしの夜空、流石に放置できないと理解したのか平家の代わりにアザゼルが俺の隣に座る。アザゼルの表情は険しくなっており手には何かの錠剤が入っている瓶が握られている……多分だが内容次第ではまた入院するすると思うけど頑張れよ! あんまり仲良くないけど同情ぐらいはしておいてやる! そしてそれ以外の面々だが……俺達が居る場所から若干距離を取りつつ、いざとなれば即行動出来るっぽい感じになっているが……多分、一歩動いた瞬間に槍かルーンのどっちかで殺されると思うから諦めてさっきまでのように騒いでいた方が良いと思う。ぶっちゃけコイツ、スカアハには劣るが強いし。

 

 

「クハッ! 良いじゃねぇかよノワール! 久しぶりに会う奴も居たんだ?ぜ? ちょっとしたジョークって奴だ。神器(セイクリッド・ギア)ってのに封じられてから音沙汰なかったもんなぁ……おいドライグ、そんでアルビオン……テメェらの事だよ。外でドンパチするのは勝手だがお前らウェールズ出身だろうが? なんで影の国に来ねぇんだよ?」

 

 

 俺の目の前にあるソファーに座りこんだオイフェはルーンを使用して四季音姉の周りにあった酒瓶を自分の手元に出現させてラッパ飲みしつつ一誠とヴァーリへと視線を向けた。漆黒の長髪に光が宿っていない瞳というヤバイ女感が半端なく、どこからどう見てもスカアハにしか見えないオイフェだが見た目的には絶世の美女と言っても良いほどだ……中身を知らない男だったら即ナンパするだろうね! 多分死ぬけど。

 

 あとラッパ飲みしたから口元から垂れた雫が指を突っ込みたくなる谷間に落ちて普通にエロい。胸元を見せつけるようなドレスだから目のやり場に困る……わけでは無く普通に目の保養になるわ。最近はちっぱいしか見てなかったしな! 揺れないちっぱいも良いが揺れるおっぱいを見ておくのも悪くないと思う! ただ俺としては腋が見たいけども。

 

 

『ぼ、僕はドライグって名前じゃないよ! おっぱいドラゴンのド・ライーグっていう名前なんだ! えへん!』

 

『拙者の名はヒップドラゴンのア・ルビーオンと申す。デュフフ! アルビオンというカッコ良い名ではござらんぞ!』

 

 

 一誠とヴァーリから全力で子供声になっているドライグと全力でオタクの真似をしているアルビオンの声が聞こえる。えっと……悪い! どっちも威厳に満ちた声だから無理やり感が凄いし何よりも普通に面白いんですけど! そこまでして逃れたいのかよ! ゼハハハハハハハ!! 伝説の! それも二天龍なんて呼ばれているドラゴンが逃げの一手とか……! それを見た相棒とユニアも爆笑しているけど本人達はマジでやってるとかなんだよこのカオス!

 

 

「……ドライグ!!」

 

「アルビオン……疲れているのか?」

 

 

 宿主の一誠は勿論、あのヴァーリですら困惑と言う珍しい事態になってるなおい。

 

 

「ア? テメェら何ふざけてんだ……? あーと姉さん、ドライグとアルビオンが遊んでほ――」

 

『やめろ!? いやマジでやめろよ!! それだけはダメだ!!!』

 

『オイフェ貴様ぁ!! 我らに何の恨みがあってそのような恐ろしい事を!!』

 

「テメェらがふざけてっからだろうが。まっ、テメェらの相手は後だ……悪いな。旧友ってのに会ったんで話し込んじまった。名前ぐらいは知ってるだろうが挨拶しとくぜ――オイフェだ。そこの黒蜥蜴の……あーなんだ? なんて言えばいいんだろうな……とりあえず師匠その一って事にしといてくれ」

 

『ゼハハハハハハハッ! おいおい面白い事を言うじゃねぇかよ……! 誰が師匠その一だぁ? ぶち殺すぞ!!』

 

 

 オイフェの発言に俺の頭の上に乗っている影龍人形状態の相棒がスカアハを相手にしている時と同じぐらいマジギレした……やっぱりスカアハと同じ顔だから師匠面されると嫌なんだな! 安心しろよ相棒! それは俺も嫌だから!!

 

 

「影の龍。悪いが話を進めさせてもらうぞ……俺の名も知っているだろうが一応挨拶しておこうか。アザゼルだ、テロリスト対策チーム"D×D"の総監督って立場になってる。このような場で会えて光栄だ……ケルト神話は俺達との和平に賛成なのか反対なのか未だに分からん状態だからな」

 

「そりゃそうだろ? そこのアホ共が勝手に軍門に下ったとはいえこっちの勢力を神器っつう檻の中に閉じ込めて所有物扱いしてんだから。でも安心しろよ、ダグザとダヌーの名に誓い、和平を結んでも良いって感じで落ち着いた。近々、ダグザが挨拶に行くと思うぜ」

 

「……あい分かった。こっちでもサーゼクスとミカエルに伝えておこう。でだ、本題に入ろうか……此処に現れた理由を教えてもらえると助かる。なにせこっちは新年に向けて忘年会の真っ最中でね、それが台無しにされると少しばかり困るってもんだ。友好の証に()()と聞かせてもらいたいがどうだ?」

 

「クハッ! 別に良いぜ? こっちも姉さんが迷惑かけたからな。つってもやってきた理由だがほれ、うちの弟子が語っただろ? ノワールを影の国に連れていくためだよ」

 

 

 あっ、嘘だと思いたかったがやっぱりマジだったか……! いや影の国で修行中の曹操が言ってたからマジのマジだとは思ってたけどもガチャでSSRを複数枚引き当てる程度には嘘だと思いたかったね! だって影の国に行ったらあのキチガイ中のキチガイで何言ってるか全然分からんクソババアで死ねば良いと本気で思ってるあのスカアハと会わなきゃいけなくなる……! 俺としてはスカアハよりもウアタハたんに会いたい! 会ってキマリス領を治してくれたお礼としてエッチな事をしたい。ほら……体で返すとか言うじゃん? それよそれ! だから覚妖怪でも無いのに俺の心を読んだと思われる夜空ちゃん? ちょっとその深淵の瞳を止めてもらえません? 興奮しちゃうから!

 

 

「チッ」

 

 

 あのマジな舌打ちやめてもらって良いですか? 興奮するって言ってるだろ! やっべぇ……普通にゾクゾクする! 頼む夜空! その瞳のまま全力で罵ってください! お前専用のドМになりますんで! 足舐めろと言われたら舐めますしリード付けたいなら水無瀬の部屋から首輪とリード持ってくるからさ! お願いします!!

 

 

「キモ」

 

 

 ありがとうございます!! その表情と一言だけでこれからも頑張っていけるわ!

 

 

「おいおい、なに二人だけの世界に入ってんだ? 私の話聞いてたのかよ?」

 

「あっ、悪いオイフェ。夜空とイチャついてて全然聞いてなかったわ……あーとバロールを影の国に連れていくんだっけか? 別に良いと思うぜ! 何だったら修行の一環としてウアタハたんと並べてマイクロビキニ着せるっていうのも手だと思う! 金払うから写真撮影頼む!」

 

「残念ながら私にお得意の話題逸らしは効かねぇぜ。もっともバロールに関しちゃ姉さんが連れて来いって言ってた以上、ダルマにしてでも連れてくけどよ」

 

《――おい、今なんて言った?》

 

 

 ドスが聞いた声を出したのはハーフ吸血鬼君……では無くバロールだ。離れた場所でこっちの様子を窺ってたようだが影の国に連れて良く発言を聞いては流石に黙っていられなかったんだろう……男の娘特有の可愛らしいお顔がなんという事でしょう! かなり引きつった表情となっております! 安心しろよバロール! 俺は助けないから! むしろ生贄として一緒に行く事を望んでるから!

 

 

《何故……僕が影の国に行かなきゃいけない?》

 

「それを私に聞く気かよバロール? テメェだって分かってんだろ……今のお前、生前の力を殆ど使えてねぇだろ。ノワールの視界を通してこっちでも見てたがルーマニアでルシファーの息子を殺せねぇとか弱すぎる。生前のテメェなら見ただけで殺せただろうが?」

 

《生憎だが今の僕は「魔」の部分しか存在しない。神性があったならばあの男は勿論、そこに居るノワール・キマリスを殺す事は出来るのは事実だが今は神器の力に頼らなければ戦えない状態さ。弱くなったと言えば確かにそうなんだろうな》

 

「言い訳は結構。姉さんが呆れてたぜ? あんな雑魚に傷一つ付けられない挙句、邪龍共に惚れた女を弄ばれてなお特に何もせずに生きてる始末……あぁ、勿論ノワールにも負けてマイクロビキニ着せられたのも知ってるぜ。どんな気分だったよ? 殺したい相手にすらボロ負けして性欲の捌け口にされるってのは生前じゃ味わえなかったろ……是非とも教えて欲しいね()()()

 

《――殺すぞ》

 

 

 オイフェの煽りにキレたのかバロールは全身を黒……いや闇で包み込み獣のような姿へと変化し始める。ちなみにバロールとは影の国から戻ってきた直後に殺し合いました! 勿論履修は煽られた仕返しとして! いや確かに強かったのは事実であの闇はかなり厄介だったが……自分から身体をデカくしてくれたから相棒が持つ能力を使用しやすかった。特に「苦痛」が刺さりまくった! あの時だけはこの能力がエグイと思った事は無いね……まぁ、影龍王の手袋自体を停止させられて能力が使えなくなった瞬間もあったからもし成長したならば勝敗は分からないと思う。でも勝つけど! 夜空以外に負けるわけにはいかないしな。

 

 殺気全開のバロールビーストモードに対しオイフェは余裕そうに酒瓶をラッパ飲みしている……がその視線は殺意に満ちている。互いの殺気により周りは動こうとしても動けず、あまりの事態に動揺しているが俺としてはオイフェの爺さん発言がちょっとだけ気になる……だって殺し合いしたいなら勝手にしろって感じだし。

 

 

「相棒? オイフェが言った爺さんってどういう意味だ?」

 

『簡単だぜ宿主様。バロールはルーの祖父でな! そんでオイフェはセタンタのガキ……コンラを産んでるから身内とも言える関係ってわけよぉ! ゼハハハハハハハ! これに関しちゃユニアも似たようなもんだがな!』

 

『……えぇ。私はルーが持つ槍より生まれた存在ですしバロールを祖父と言っても良いかもしれません。あまり認めたくは無いですけどね』

 

「ふーん。なんか複雑そーじゃん。でもユニアってばあんまり昔の事は言わねぇから聞けて良かったかも。てかなんであれにマイクロビキニ着せたし?」

 

「男の娘がマイクロビキニ着たらエロイだろ? あと煽られた仕返しと世話になってる相棒に恩返し的な感じだな」

 

『大変素晴らしいものだったぜ!』

 

 

 負けて悔しがっている金髪男の娘のマイクロビキニ写真は相棒は勿論、俺としても大変お世話になるであろう一品でした。でも何故だろう……周りからの視線が痛い気がする。特に俺の眷属達から瘴気的な何かが出てる気がするけど気のせいってことにしようか! あと夜空ちゃん……? ノワール君のノワール君を潰そうとするのはやめてくれません? せめてやるならお前男になってからにしろ! 全力で女の子になるから!

 

 そんな事を思ったら夜空からキモいと言われたけど……この一言だけでご飯三杯行ける気がする!

 

 

「……あまり、私の、か、可愛い眷属達を……侮辱しないで貰えな、いかしら……?」

 

 

 バロールの前に立ったグレモリー先輩が震えながらだがオイフェに対して文句を言った。やべぇ……先輩カッコ良い気がする! 前までの先輩だったら何も言えなかったと思うが……なるほど、なんだかんだで成長しているってわけか。

 

 

「クハッ! 悪い悪い! 反応が面白くてついな。だがバロール……これはアンタの血筋を引くセタンタの嫁だった女からの忠告だが今のままじゃその()が持たなくなるぜ? お前とその器、両方鍛えねぇと――死ぬぜ?」

 

 

 先ほどまでとは打って変わり、真面目な表情となったオイフェにバロールはビーストモードを解いた。多分、今の言葉は俺達も当てはまるかもしれない……なんせ「俺」がひ弱だったらいくら相棒の力と言っても使いこなせず殺されるのは当然。そしてバロールからすれば自分では無くハーフ吸血鬼君の体を借りて戦うんだから「バロール」側の力を強めても肉体側である「ハーフ吸血鬼君」が耐えられなかったら意味が無い……たくっ、そう言うところはマジでスカアハそっくりだなおい。

 

 バロールもそれが分かっているからか無言を貫いた。正直、俺や夜空、一誠にヴァーリのように相棒が神器に封印されている神器というわけでは無いっぽいしな……一番近い言葉を言うならば二重人格か? それも他の魂が別の体に入り込んでる系の奴。てかそもそもハーフ吸血鬼君の戦闘スタイルって俺達とレーティングゲームもどきした時は神器による時止め、今はバロール頼りだから猶更鍛えないとダメだろう……そう考えるとグレモリー先輩、よくコイツを眷属に出来たな?

 

 

「畜生、話題逸らしは効かねぇとか言っておいて普通に逸れちまったじゃねぇか。そんじゃま、本題に入るか……ノワールを影の国に連れていく理由だが姉さんが原因な」

 

 

 やっちまったと言いたそうな表情のオイフェは瓶一本飲み干したのか今度は水無瀬達がヤケ酒してたテーブルに置いてあった缶ビールを手元に出現させて飲み始める。お前……この空気で話進めるのかよ? 流石スカアハの双子の妹!

 

 

「姉さん……影の国の女王スカアハか。俺としては非常に疑問なんだがな、何故スカアハともあろう者がキマリスに執着する? 三大勢力が他勢力に和平を持ちかけたのは今年の話でそれ以前は接点すら無かっただろう?」

 

「それなんだがな……影の国という領域を治める女王って立場のせいで外の世界を知る機会はかなり少ない。それこそ私やウアタハが適度に外の情報をルー辺りに聞きに行く程度には縁が無いんだよ……もっとも姉さんは外の事なんざあまり興味を示さなかったがちょうど良くそこの黒蜥蜴が影の国を飛び出してな、ソイツの視界を暇潰し程度に共有し始めたのが始まりって感じか?」

 

()としては今すぐ視界共有を止めろと言いてぇがな』

 

「諦めろ。お前も姉さんのお気に入りの一つだ、逃げられねぇよ。ソレが神器ってのに封じられた後も宿主の視界を共有してたぜ? 弱すぎるって飽きれてたが一応はお気に入りの関係者だから死んだ後の魂は影の国へ姉さん直々に回収してたら――ある奴が拒否った上、生き返ってな! クハッ! いきなりあの姉さんが笑い出すから何事かって思ったぜ? そいつがノワール……お前だよ」

 

「……なるほど。歴代影龍王達の死後、影の国へと誘っていたら今代の影龍王のキマリスが死んでは蘇りを繰り返した結果、スカアハが興味を示したって事か……お前さん、厄介な女に好かれるな?」

 

「厄介な女判定に夜空が入ってるかどうかでお前の生死が決まるけど? どこからどう見ても厄介どころか全世界が見習うべき素敵な美少女だろうが! 見ろよこの可愛らしさ! 抱き枕に最適なこの身体! ネコっぽい性質のこの性格!! 可愛い……滅茶苦茶可愛いんですけど! しかもこの子……俺の彼女なんです!」

 

 

 なんか夜空の可愛さを力説したら呆れられたんですけど? なんでですかねぇ……? 納得しろよ殺すぞマジで。

 

 

「あー分かった分かった。いちゃつくなら家でしろ家で……にしてもキマリスは一度影の国へと連れて行ってるだろう? 今回連れていく理由は?」

 

「数日前にノワールとそこのちんま――っとあっぶねぇなおい。いきなり雷光飛ばすなっての……」

 

 

 恐らく"ちんまい"と言おうとしたんだろうが言い切る前に夜空が殺気と共に雷光を放つ……がオイフェは避ける事も無く手の甲で弾いた。いや……まぁ、夜空ちゃんが放つ雷光って防御やら耐性やら全部貫通と言うか破壊するから防御しても意味無いけどさ! 手の甲で弾くとかお前スカアハかよ? いや双子の妹だったわ。なお弾かれた雷光により部屋の一部がヤバい事になったが別に良いか、俺の家じゃないし。

 

 雷光を弾いた事により皮膚が焼けたにも拘らず、何事も無いかのようにルーンにて治療し始めるオイフェに周りは唖然としている。いや訂正する……ヴァーリとサイラオーグだけは滅茶苦茶目を輝かせてる! なんか手合わせしたい的な感じになってるなあれ!

 

 

「話を戻すがそこの二人が殺し合っただろ? それを現地観戦するんだって珍しく駄々をこねてな……影の国から出ようとするのを止めたは良いがこっちの話ガン無視でまた出ようとするし、もうこれはノワールを影の国に連れてきた方が早いと思ったんで殺し合いが終わったら連れて来るって言ったんだよ。だから来てくれないと困るわけだ……よしノワール! 影の国行くぞ! 姉さんが待ってるからな!」

 

「嫌です」

 

「安心しろって。学校ってのが始まる数時間前には帰してやるから」

 

「嫌です」

 

「ウアタハにエロイ事をして良いからよ」

 

「行きます!」

 

あ゛?

 

 

 すいません……目の前から今まで聞いた事のない声が聞こえたんですけど? その発生源は勿論! 俺の膝の上に座っている夜空ちゃんです! もはや恒例となった首絞めから始まりあとちょっと顔を動かせばキス出来るほど顔を近づけてきました! 目に光無いけど。あと無表情だけど。もしかしてなんだがこれは嫉妬と言うものでは無いだろうか……? いや嫉妬ですねこれ! 自分の彼氏が男の娘に取られると知って嫉妬しましたね夜空ちゃん! いやーモテる男はつらいネ!

 

 でもすいません。うちの眷属達からどす黒い瘴気出てるんですけどあれ何とかしてくれません? 天界勢力の方々! 出番ですよ!

 

 

「あのさ、この夜空ちゃんが居るってのに男に走るって何考えてんの? ふざけんなよマジで。死ね。テメェが誰の(もの)かその口で言ってみ?」

 

「そんなのお前に決まってんだろ? それにな夜空ちゃん! ウアタハたんは男では無く男の娘だぜ! つまり実質女の子! セーフ! セーフだから!! 男ってのは男の娘に興味持つ生き物なんだよ夜空ちゃん! 見ろよ相棒の表情を!! 幸せそうだろ? 今まで苦労を掛けてる相棒の為にも……そして今後の俺のオカズの為にも! ウアタハたんにはエロイ事をしなければならないんだ! 分かってくれません?」

 

「――」

 

「……夜空。分かってくれたか!!」

 

「黒井……多分だけどさ、あの……片霧さん、全然理解してないと思うし許す気ないと思うんだが……?」

 

「むしろお前……それ見て良く分かってくれたと思えたな? そういう所だけは尊敬するぞ本当に」

 

 

 おいおい一誠に元士郎……分かって無いな! 見ろよこの可愛い顔! 現在進行形で無表情でまるで深淵を見ているような瞳……これは嫉妬し過ぎてもうすぐお前を殺すと言ってるお顔ですね間違いない! 相棒、分かってもらえなかったぜ……!

 

 

『宿主様。俺様だけは分かってるぜ』

 

 

 流石だぜ相棒! これからもよろしくな!!

 

 そんなわけで嫉妬に狂った夜空ちゃんにその場で数回殺されたけど愛情表現として受け取っておくとして……そろそろ話を戻すか。

 

 

「悪いなオイフェ。ちょっとイチャついてた」

 

「ほんっとにお前ら、仲良いよなぁ。一応姉さん絡みってのは本当だが私としても連れて行くのには賛成なんだぜ? お前――これからどうするつもりだ?」

 

「……は?」

 

「お前はその女を手に入れる為だけに強さを求めていた。そしてこの前の殺し合いでそれを叶えた……そこまでは良いさ。強さを求めた先に得られる結果ってのは当然だからな。問題はその後だよノワール。お前……これからどうする気だ? 欲しいと思い続けた女を手に入れた後は堕落するだけか? 次は何を目標に生きる気だよ?」

 

 

 なるほど……オイフェの表情から推測するとソレを確認するためだけにやって来たって感じか。確かに俺は夜空のためだけ考えて続けていた……強くなろうと決めたあの日からずっと、ずっとだ。たとえ周りから何を言われようとただひたすら夜空の事を思い続けた末にようやく……ようやく思いが伝わった。確かにオイフェやスカアハからすれば目標を叶えた以上、この後は何もせずに堕落していくかもしれないと思われてもおかしくねぇな――もっともそんな事にはならないが。

 

 手元に未使用の女王の駒を取り出す。夜空を女王にする……そんな願いはあの時、あの瞬間で崩れ落ちたが俺自身は覚悟していた事だ。規格外な成長をし続ける夜空をこの程度の物で転生できるわけがないし改めて考えてみれば仮に転生出来たとしても夜空の成長に駒側が付いてこれず何らかの不具合を出していたと思う。俺の我儘で夜空が苦しむなら転生できなかった方がまだマシだ……それに、こんな物が無くてもノワール・キマリスの真の女王は夜空だから。

 

 まぁ、これから"女王"の座に就くであろう人物には悪いけどな。

 

 

「何を目標……にか。確かに夜空と決着をつける前は好き勝手に生きて、好き勝手に夜空と殺し合って、好き勝手に死んでいく事を信条にして徹頭徹尾、夜空の事しか考えて無かったよ! ゼハハハハハハハッ! 数日前に夜空と決着を付けたのは事実だ! 勝敗なんざ全く記憶に無いけどな。オイフェ? この俺が夜空と恋人同士になったのと同時にそのまま堕落するとでも思ったのかよ? 答えはノーだ! 確かに俺の夢は叶った……女王にするって夢はあえなく散ったけど! 滅茶苦茶悔しかった半面、それで良かったと思えたよ! なんせ夜空の願いは"人間として生きたい"だからな! だからこそこのまま堕落するわけにはいかねぇんだ!」

 

「クハッ! だったら聞かせてもらおうか? お前は何のために強くなるんだ?」

 

「そんなの決まってるさ――夜空を楽しませる。今までも、そしてこれからもそれは変わらねぇよ! 夜空が退屈しないように! 夜空が笑って死ねるように突き進むだけだ! だから俺達の楽しみを邪魔する奴は殺す。神であろうと魔王であろうと関係無い! ゼハハハハハハハッ! 勿論、スカアハであろうとな!」

 

「……クハッ! だろうと思ったぜ! ホントお前っていう男は分かりやすい! それじゃあどうする? 影の国には来ないのか?」

 

「――いや、行くさ。正直、あの時は亜種禁手変化に全力投球してたせいで相棒の肉体をじっくり見れてないからな。それに漆黒の鎧もまだ完成してない……相棒の力があの程度で終わって良いはずがない! さっきのバロールと同じさオイフェ! 相棒の力を完全に引き出せてない以上、俺が強くならないとダメなんだよ! だからスカアハの思惑に乗ってやるよ……ただしまた片腕引き千切るかもしれねぇけどな」

 

「別に良いさ。むしろ姉さんを楽しませてやってくれ……お前はどうする?」

 

「ノワールが行くなら行くに決まってんじゃん。いい加減、あの女にノワールは私の(もの)だって分からせねぇとだし……そう言えばユニアの肉体ってどこにあんの? 私も見たいんだけど?」

 

 

 そう言えば前に影の国に行った時は相棒の肉体しかいてない気がする……影の国内のどこかにあるのか?

 

 

「あぁ、それか。ルーの奴が回収してるから見たいんなら伝えとくぜ」

 

『……一応、礼だけは言っておきますよ』

 

「それはルーの奴に言ってくれ。でだ……バロール、どうする?」

 

 

 バロールは静かにグレモリー先輩の前に立った。その表情はこっちからじゃ分からないがグレモリー先輩が何かを覚悟した感じになっているから答えは多分、俺と同じなんだろう。

 

 

「……行くのね」

 

《――はい。少なくとも今以上に強くならないとヴァレリーを守れないしね。必ず、帰ってきます》

 

「……分かったわ。本当なら私も一緒に行きたいけれどお兄様が何をするか分からないし、自分の事は自分で何とかしてみせる。でもね……ちゃんと帰ってきて頂戴。貴方も私の可愛い眷属なんだから」

 

《……はい》

 

「ギャスパー……あの! 俺も行っても良いですか!」

 

『相棒!?』

 

「ドライグ……嫌かもしれないけど俺だって強くなりたい! それに後輩が体を張ってるのに俺が安全な場所に居るってのはなんか……な! あと俺はリアス・グレモリーの最強の兵士になるって決めてるから! 今以上に強くなってみせるさ!」

 

「イッセー……もうっ、絶対言うとは思っていたけれどまさか本当に言うなんてね。貴方も必ず帰ってきて頂戴。約束よ?」

 

「はい!」

 

 

 なるほど……一誠もなんだかんだで考えてるんだな。安心してくださいグレモリー先輩! 一誠を死なせるなんて真似はしませんから! だって何かあった時用の生贄ですし! それにウアタハたんが居るからとりあえず死ぬ事は無いと思いますよ? ただ死ぬ一歩手前までは行くとは思いますが。

 

 

「兵藤一誠が行くならば俺も行こうか。生前の影の龍と陽光の龍の肉体が見られる上、影の国を訪れる事が出来るならば参加するしかないだろう」

 

 

 あっ、ヴァーリに関してはどうでも良いわ。イケメンだし。とりあえず生贄がさらに増えたぜ!!

 

 

「挙手制と言うならば俺とレグルスも頼みたい! 恥ずかしい話だが俺だけの理というものを掴む切っ掛けが欲しい! オイフェ殿……突然の頼みだがどうか、お願いしたい!!」

 

 

 まさかのサイラオーグ参戦かよ……いや当然と言えば当然か? まぁ、とりあえず生贄がいっぱい増えて俺としては非常に満足です! 仮にスカアハが迫ってきたら一誠かヴァーリかバロールかサイラオーグ辺りを放り込んでおこう! いくら俺でもスカアハとエッチは無理です! ウアタハたんならいつでもウェルカムだがな!

 

 

『――ア・ルビーオンくん! 僕達、ずっと友達だよ!』

 

『デュフフフ! ド・ライーグ氏! 拙者達はずっ友ですぞ!』

 

 

 二天龍が壊れたような気がするが気にしない事にしよう。

 

 

「……はぁ。また胃が痛くなる事をしやがって。いや確かにこれからの事に備えて鍛えるならば打って付けだとは思うが……サーゼクス達になんて説明すりゃいいんだ。まぁ、良い。若いってのは素晴らしいって事にしておくとしてだ、キマリス? お前さん、その女王の駒をどうする気だ? まさか未使用のままなんて言わんだろう?」

 

「んぁ? まぁ、最有力候補の夜空が無理だったしな。とりあえずもう一人当てがあるし、仮に断られたらそのまま夜空の結婚指輪にでも加工するさ」

 

 

 なんか後ろからその話詳しくって感じの圧が飛んできたけど今はスルーしておこう。いやね、なんかこう……タイミングがさ! 一応ね! うん! だから影の国から戻ってくるまで我慢しててくださいお願いします!

 

 それからはと言うと最後の宴だ的な感じで橘が生ライブしたり俺と夜空でデュエットしたりアザゼルやら水無瀬やら四季音姉やらがヤケ酒してたりなんだりと色々楽しんだ後はオイフェと共に影の国へと直行した。まさかまた来ることになるとは思わなかったが……まぁ、夜空と一緒なら何があろうと問題無いけどもね!

 

 こうして俺達は駒王学園三学期が始まるまで影の国で死すら生温い修行をすることになった。俺と夜空はスカアハとの殺し合い、一誠とヴァーリは何故かやって来たクロウとの殺し合い、バロールはウアタハたんと一緒に修行でサイラオーグに関してはオイフェが担当という感じだった……曹操? アイツはケルトの神々となんかバトルしてたぜ? いつも通りだってさ!

 

 ただ……うん。やっぱり夜空と一緒ならどんな場所でも楽しめるもんだな。




・「バロール」
ケルト神話に登場する魔神。
ギャスパー・ウラディとはAIBO! もう一人の僕! な状態。
この作品に置いて「ギャスパー」よりも「バロール」として出る事が多い。
変異の駒により僧侶の駒1個で転生しているが明らかに釣り合っていない疑惑有。
恐らく成長したならば神器無効化持ちのリゼヴィムですら瞬殺出来る可能性がある人物。
スカアハが迫ってきた時用の生贄その1。

・「二天龍」
かわいそうなドラゴン達。
CVはマダオ(銀魂)、ルシフェル(エルシャダイ)
お互いにずっと友達宣言した。

・「兵藤一誠」
ギャスパーが命を懸けるなら自分もと影の国へ向かう事を決めた漢。
ヤバイとは聞いていたが思った以上にヤバイところで泣きそうになった上、修行内容がクロウ・クルワッハとかいう邪龍との殺し合いだったので普通に泣いた。
おっぱいが恋しくなり近くに来ていた悪霊達におっぱいの素晴らしさを説いて仲間にするというトンデモ事件を引き起こしたとか。
スカアハが迫ってきた時用の生贄その2。

・「ヴァーリ・ルシファー」
影の国での修行を楽しんでいる戦闘狂。
スカアハが迫ってきた時用の生贄その3。

・「サイラオーグ・バアル」
覇獣を強化するべく自ら影の国へと向かう事を決めた漢。
世界は広いと修行を楽しんでいる強者。
スカアハが迫ってきた時用の生贄その4。

・「犬月瞬」
家の中がヤバくなったので近い内に倒れる。




此処まで書いて思った……番外編にしておけばよかったと!
恐らく……恐らく次回は19巻の内容に入るかもしれません!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

133話

「――では第一回、キマリス眷属緊急会議を始めたいと思います」

 

 

 真剣な表情と口調でその言葉を言い放ったのはレイチェル・フェニックス。お嬢様っぽさがある部屋着に髪型もポニーテールにして気合十分という様子でソファーに座っている。何故このような事になっているかと言うと俺も良く分かっていない……新年初日から今日まで影の国で夜空と一緒に、そう夜空と一緒に! スカアハにクロウ、オイフェと言った面々と殺し合いをしていたがウアタハたんより明日から三学期が始まるからと人間界にある自宅へと帰された。そこまでは良い……そこまではまだ許される! むしろウアタハたんマジ女神と拍手喝采で求婚を申し込むレベルだ! 問題は自宅のドアを開けて家の中に入ってからだ。

 

 出迎えてくれたのは目の前に居るレイチェルでイケメンすら見惚れるほどの笑みを浮かべたまま俺の腕を掴んでリビングへと通されたら……これでした。控えめに言ってなんだこれ状態なんだが? そもそもキマリス眷属緊急会議ってなんだよ……しかも第一回とかさ! 絶対違うだろ! 少なくとも十回ぐらいは水無瀬辺りが開いてるだろというツッコミを入れたいが周りの空気がそれを許してはくれなさそうだ。

 

 

「……平家。説明プリーズ」

 

 

 視線を右へと向けるとスマホでアプリゲームをしているであろう平家がこれまたどこから持ってきたか分からないパイプ椅子に座っていた。リビングに通された俺はそのまま有無を言わさず床に座らされたので視線の高さとしては平家の下半身辺り……しかも自宅だと言うのにスカートを穿いてるから太腿が良く見えます。夜空には及ばないがこうしてみると平家の太腿も素晴らしいと言えるのが何ともムカつく……あのスイマセン、見せつけるようにスカートを捲らないで貰えます? 周りに居る女性陣から瘴気が漏れ出してるんで! なんせ床に座った俺を取り囲むように橘と四季音姉が同じようにパイプ椅子に座ってるしな! 水無瀬? アイツなら台所で飯でも作ってるんだろうきっと。

 

 

「忘年会の時にノワールが女王は光龍妃以外で一人当てがあるみたいな事を言ったせいだよ。あと今穿いてるのは清楚系下着だけど興奮する?」

 

「当然だろ。やっぱり男ってのはスカートの中を見ると相手が誰であろうと興奮する生き物なんだなって再確認できたわ。つーかこの……何? キマリス眷属緊急会議が開かれた理由ってそれが原因かよ?」

 

「そもそもノワールが忘年会の時に光龍妃とイチャイチャしてお姫様達に何も言わなかったのが悪い」

 

 

 だって夜空とイチャイチャしたかったんだもん。まぁ、その本人は現在地下にある温泉でゆっくりしてるだろうけども……本来だったら俺も一緒に温泉入りたかったが有無を言わさず床に座らされたから出来なかったんだよね! 畜生……! 影の国ではウアタハたんが気を使って他の面々とは違う場所に温泉作ってくれたから誰にも邪魔されずに夜空と温泉入れたというのに!

 

 

「覚妖怪……何をしていますの?」

 

「見て分からない?」

 

「早織さん! 悪魔さんに下着を見せつけるのはダメです! 今は大事な会議中なんですから悪魔さんとイチャつかないでください! 不公平です!」

 

「志保さん……! えぇ、その通りですわ覚妖怪! いくらその……キマリス様と、……をしたとはいえ! 今はキマリス眷属の今後に関する大事な場! そのような行いはご遠慮願いますわ!」

 

「レイチェルさんの言う通りです!」

 

「二人共、心の中で自分だけ見ててほしいとか思ってるのバレバレだよ」

 

「それはそれ! これはこれなんです! あっ! えっと悪魔さん……? 最近、下着が合わなくなったみたいで新調したんですけど……後で見てもらっても良いですか……?」

 

「志保さん!?」

 

 

 レイチェルと橘は共闘して平家相手に言葉での戦いを挑んだと思えば橘様、渾身の裏切り行為。しかもご丁寧にご自慢のお胸を下から持ち上げるように見せつける仕草付きと来た……やっぱりおっぱいも素晴らしいね! 一番は腋だけど。橘からの裏切り行為っぽい何かを受けたレイチェルと引きつった表情になっている四季音姉の二人から断るよな的な視線が飛んでくるが男として、しかも悪魔で邪龍な俺としては断るわけがありません! 見ても良いと言うのであれば思う存分、見させていただきますけど何か?

 

 

「――」

 

 

 ヤバイ。四季音姉が俺の心を読んだのかどうか分からないがマジギレしてるんですけど? もしかして嫉妬か? 自分が幼児体型でちっぱいだからキマリス眷属一の巨乳な橘に嫉妬してるのか伊吹ちゃん! 安心しろよ……お前あったら普通に抱けるから。合法ロリを嫌いな男は居ないからそこだけはマジで安心でも良いぞ!

 

 

「花恋。とりあえず下着ぐらいはエロいの買った方が良いよ」

 

「な、なにを、言って! いるんだい!? に、にしし……お、鬼さんはさ、さおりんみたいな物はか、かわないんだよ?」

 

「ノワール好みのやつ教えても良いけど?」

 

「……ちょ、ちょっとさおりん? あ、後で……話があるんだけど良いかい?」

 

「りょーかい。暇人だから何時でも良いよ」

 

 

 なるほど……これは難聴主人公みたいにえ? なんだって? をする場面か。良いだろう! 一回ぐらいは真似したかったし聞かなかった事にするとして……そう言えばこの会議的な何かが始まってから犬月のツッコミが聞こえない気がする。試しに周りを見渡しても携帯のマナーモードのように震える段ボールが見当たらない……まさか、犬月の奴……!

 

 

「パシリなら胃に穴が開いて入院中だよ」

 

「マジで倒れたか」

 

 

 予想はしていたがついに倒れたか……まぁ、死んでないなら良いが。どうせこの先、何度も修羅場は勿論、女性陣達による視線での殺し合いが幾度も行われるだろうから倒れる事に慣れておいた方が良い。頑張れ犬月、負けるな犬月。お前が居ないとこの家が肉食獣と化した女性陣によってヤリ部屋的な何かに代わってしまうから可能なら早めに復活してくれ! そして倒れるなら俺が居ない時で頼む!

 

 あっ、なんか知らないけど理不尽すぎるとか言われた気がする。まぁ、今の俺は難聴系主人公だから聞こえなかった事にするけどね!

 

 

「ちなみに明日から三学期始まるがアイツ、どうするんだ?」

 

「明日には治るってさ。意地でも治すって言ってたよ」

 

「なるほどな」

 

「……コホン。き、キマリス様……? そろそろ本題に入ろうと思うのですけどよろしいでしょうか?」

 

「本題……あぁ、俺の女王の件か」

 

「そうですわ! 光龍妃……いえ、あのお方以外でキマリス様はいったい誰を女王として眷属に加えようとしておりますの! そ、それは私達も知っている方で間違いないでしょうか!!」

 

「いや誰も何も……俺の目の前に居るけど?」

 

 

 その言葉にレイチェルは勿論、橘達もポカンとした表情になった。数秒間、ポカンと言う感じになったと思えば俺が見ている方向へと顔を動かした。当然、俺が現在見ているのはレイチェルだが……当の本人は自分の後ろへと顔を向けると言う若干コントのようなことをし始めた……おいおいマジか。え? そこまで信じられないの? ノワール君ちょっとショックなんですけどー!

 

 

「……キマリス様、誰も居ませんわよ?」

 

「いや気づけ、普通に気づいてくれませんかねぇ……まぁ、良いか。レイチェル、突然だが俺の女王になってくれないか?」

 

「――え、えっ、えぇぇぇぇぇっ!?!?」

 

 

 レイチェル・フェニックスちゃん渾身の叫びがリビング中に響き渡った。台所で料理をしていたであろう水無瀬は何事かと言った感じでこっちへと顔だけ出したが何だろうな……あの新妻感。いや年齢的にはそろそろ結婚も視野に入れないとダメな感じではあるから間違っていないと言えば間違ってはいないんだが……よし。後で夜空にエプロンを着てもらって同じ事をしてもらおう! それを見たならばきっと一週間ぐらいは何も食わなくても生きていける気がするし!

 

 

「あの……どうしたんですか?」

 

「え、あ、えぇっ!? えとっ、えぇっとぉ!?」

 

「水無瀬先生! 大変です! レイチェルさんが悪魔さんの女王になっちゃいます!」

 

「……はい?」

 

「にしし。なるほどね……時にノワール。それは光龍妃も知ってるって事で良いのかい?」

 

「んぁ? そんなの当然だろうが……つーか夜空直々の指名みたいなもんだぞ」

 

 

 もっとも自分が知らない奴が女王になるくらいなら……と言う感じっぽいがな。俺としてもレイチェルが嫌ですとか無理ですとか他の人にしてくださいとか言うなら諦めるつもりだ……なおその場合はキマリス眷属は俺が死ぬまで女王という役職が不在で平家か四季音姉がその代わりを務める事になります。なんせ実質女王(仮)みたいな平家と根っこはアレだがカリスマなら多分俺以上のキマリス眷属最終兵器な四季音姉なら何があろうと問題無いからな……そう考えると女王いらなくね? いや一度言った以上はレイチェルの返答を待つとしよう!

 

 

「お姫様。嫌なら断っても良いよ。むしろ断るべきそうすべき」

 

「さおりん……そこは許しても良いと鬼さんは思うな~にしし! 先に言っておくけどあの光龍妃が認めたなら私は異論は無いよ」

 

「女王不在だと私か花恋のどっちかが代わりを務める事になるとしても?」

 

「……お、鬼さ、鬼さんはい、いいい一度言った事は取り消さない、よ……?」

 

 

 伊吹ちゃん伊吹ちゃん。手が震えてるぞ? なんかアル中みたいに手が震えまくってるし顔も言わなきゃ良かったとか言いたそうな感じなってますけど?

 

 とりあえずうちの最終兵器のメンタル的な何かがヤバそうなのでキマリス眷属が誇るマスコットこと四季音妹に介護を頼んでおく。多分だが明日には回復してるだろきっと……仮にダメだったら一日付きっきりで話しでもしてれば治るだろ。

 

 

「――しょ、少々お待ちを! い、家に連絡してきますわぁッ!!」

 

 

 真っ赤な顔でレイチェルはリビングを飛び出していった。行先は恐らく自分の部屋だろうが……フェニックス家に報告されるとなるとやっぱりアレをやらないとダメだよな。仕方ない! レイチェルの両親に娘さんを私にくださいと言ってくるか! 寧音や芹のように事後報告になったら面倒な事になりかねないしな。でもちょっと待て……ヤバイ、少しだけテンション上がって来た! いやー男だったら一度くらいはそのセリフを言いたくなるし返しの言葉としてお前なんかに娘はやれん! みたいなやり取りもしたい! ただ俺の本音を言わせてもらうと最初はレイチェルの両親じゃなくて夜空の両親に言いたい。

 

 まぁ、既に夜空が殺害してるから言えないけども。

 

 そんな大事なようで大事じゃない事を考えていると風呂上りの夜空がリビングへと入って来た。ちょっと待って! ちょっと待ってくれよ……! ワイシャツ姿とかエロ過ぎませんか夜空ちゃん!! 大きさの合わないぶかぶかなソレを何も言わずに着てくれるとか……! いくら払えばいい? 言い値で払おう。あとオプション的な奴で谷間とか見せてくれても良いんだぞ? 絶壁だけど。

 

 

「死ねば?」

 

 

 うーん、ゾクゾクする。いや最高だね!

 

 

「お前が寿命で死ぬまで死ぬ気はねぇよ。つーかお前……ワイシャツ姿にテンション上がって見落としたが髪ぐらいちゃんと拭けよ? 殆ど濡れてるじゃねぇか」

 

「メンドイ。何? 気になんの?」

 

「そりゃ気になるだろ。お前の髪って綺麗だし」

 

「ふーん……ん、ん!」

 

 

 俺の返答に何か思ったのかペタペタとこちらへ歩いてきた夜空は俺の膝の上へと座った。そして視線でさっさと拭け的な感じ事を言いながら頭を俺の胸板に押し付けてくる……あのさ、なにこの可愛い生き物! おいおいこんなに可愛い仕草されたら軽く百万ぐらいはポンっと出せるぞマジで! でも知ってますか! この子……俺の彼女なんですよ!! 普段はツン二百ぐらいだが偶にね! デレ三百ぐらいになる時あるの! くっそ可愛いい……マジ可愛い! さてさて夜空ちゃん……拭けと言うのであれば仕方がないね! 彼氏として全力で拭いてやろう! なんならいつか夜空の髪を手入れする時が来ると信じて平家に調教……教えられた事を見せてやるぜ!

 

 あとちょっと気になったんですけど……橘様? 何故、神器の狐に水を運ばせてるんですか? てか凄いなおい……どこからそのバケツ持ってきたのかというよりも結構重いであろうその重量を口で咥えて持ってきてる事にビックリだ。いやまぁ……今の俺は夜空以外鈍感な主人公設定だからスルーしておきますね?

 

 とりあえず平家がこんなこともあろうかとって感じで持っていたドライヤーと櫛、バスタオルを受け取る。マジでどっから持ってきたとかツッコミはしないぞ……!

 

 

「てかさーあの焼き鳥に何言ったん?」

 

「俺の女王になってくれとな。いやホントに長いな……痛くないか……?」

 

「もんだいなしーてかマジで言ったん?」

 

「まぁな。レイチェルにお情けで女王に指名されたとか思われるだろうけども……反論は出来ねぇな」

 

「いいんじゃねーのー? ぶっちゃけ嫌なら断れば良いだけだし。ん……ちょっと上手くない?」

 

「こんなこともあろうかと……! 平家で練習しまくったからな!!」

 

「チッ」

 

「マジな舌打ちやめてくれません?」

 

 

 一瞬にして機嫌が悪くなったようだが……これは嫉妬と言う事で良いでしょうか! 嫉妬ですよね? 自分が最初じゃないのが気に入らないとかそんな感じですよね夜空ちゃん! いやーマジ可愛い。ふっつうに可愛い! 女神よりも女神なくらいクッソ可愛い! というか夜空の髪を拭く事に全力だったけどこれさ……ノワール君のノワール君が反応しても文句は言われませんよね? いやだって風呂上り、ノーブラワイシャツ姿で膝の上に座るとか反応するなって方が無理です。あと目の保養ですね。うん。控えめに言って最高です。

 

 そんなこんなで数分が経過し、何故か橘と四季音姉、あと夜空から飲み物の催促を受けてこっちに来た水無瀬の三人が血涙を流しているというカオスな状況になった所にレイチェルが部屋から戻って来た。先ほどまでのテンパり具合は無くなっておりいつも通りなお嬢様っぽい感じになっている……そしてその表情はドヤ顔に満ちていた。もっとも俺と夜空を見た瞬間に引きつった笑みへと変わったが。

 

 

「ただいま戻りました……わ。こ、光龍妃……な、なんてうらやま、うらやま……!」

 

「あ゛? なんか文句あんの?」

 

「ナンデモアリマセンワ!」

 

 

 レイチェル……何か言いたそうだけど多分平家じゃないと無理だぞ。あとどう頑張ってもこの上下関係だけは覆せないと思う。

 

 

「……コホン。き、キマリス様……先ほどの件ですけども! 勿論、お受けいたします! このレイチェル・フェニックス……キマリス様の女王としてこれからもお世話いたしますわ!!」

 

「この焼き鳥、女王の所だけ強調したんだけど?」

 

「それを言うしか勝ち目無いからだよ。でも光龍妃、本当に良いの?」

 

「知らねー奴よりはマシだし――コイツの真の女王は私だから。お情けの女王で満足しとけば良いんじゃねーの」

 

 

 聞きましたか……この夜空ちゃん、真のという部分を強調しましたよ! これはマウント取ってますね! その効果は絶大で周りの女性陣が崩れ落ちております。まぁ、俺はそんな事よりも夜空の髪を手入れする事に全力を尽くしているが……女の髪は命よりも重いとか言うし彼氏としては当然ですよね! ね!

 

 

「あーとなるとフェニックス家に挨拶しとくか……レイチェル、お前の両親って何時頃暇とか分かるか? 俺としては眷属に加えるってことを伝えてから転生させたいんだが……?」

 

「そのように仰ると思いまして既に確認済みです! お父さまもお母様もキマリス様の予定に合わせてくれるそうです……今すぐでも構わないとも――」

 

「よし! だったら夜空の髪の手入れが終わったら向かうか。水無瀬、飯作ってると思うが先に食っててくれ」

 

「あ、はい……えっと、レイチェル。おめでとうございます……?」

 

「レイチェルさん! おめでとうございます! 眷属としては私は先輩ですけどいつもと変わらずに接してください!」

 

「ん~にっしっしぃ~わったしぃもぉ~せんぱいだぞぉ~! だから存分に頼っても良いよ。にしし」

 

 

 あのすいません。確かにレイチェルは"眷属"としては後輩になるとはいえいきなり先輩方面でマウント取らないで貰えます? え、何こいつら……口では祝福してるけど目が笑ってないんだけど。凄く羨ましいと言ってるよなこれ……よし、スルーしておこう。なーに! なんかあっても犬月が倒れるだけだ! 問題無い!

 

 というわけでそこから十分ぐらい掛けて夜空の髪を手入れした後、風呂上がりの夜空の体臭を嗅ぎまくって気持ちを落ち着かせてからレイチェルと一緒に冥界にあるフェニックス家の実家へと向かう。いきなりの来訪にも拘らずレイチェルの両親は嫌な顔をせず、満面の笑みで出迎えてくれた……流石貴族。てっきりいきなりやってくるとはこの礼儀知らずが! とか言われると思ったのに! 全くそんな感じが無いんですけど?

 

 そして通された一室に俺、レイチェル、レイチェルの両親が集まり本題へ入る。本来ならばレイチェルを持ち上げるような発言をすれば良いと誰もが思うだろうけど夜空絡みで嘘は言いたくありません。なので! 普通に"何年も前から夜空を女王にしようとしていた事"と"長年の夢が叶わず女王は空席にしようと思ったが夜空の後押しもあったのでレイチェルを眷属に加えようとしている事"など隠しておいた方が良い事を包み隠さずぶっちゃけました。我ながらこれは外道だなと思ったがレイチェルの親父さんはそれを聞いて大爆笑、レイチェルの母親もあらあらまぁまぁと怒る気配なし……いやそこは怒ってください。怒る場面だと思うんだが?

 

 

「なぁ、お前の所の両親って変わってるとか言われない? えーと、こうか」

 

「いやむしろ変わっているのはお前の方だと思うがな。それは悪手だぞ」

 

「げ」

 

 

 俺が考えた一手を目の前の男――ライザー・フェニックスは平然と対応しやがった。いやチェスに関しては勝ち目無いから当然と言えば当然なんだが……やられた身としてはちょっとムカつくのは言うまでもない。

 

 結局、レイチェルを眷属に加える発言は反対されるどころかこれからもよろしく頼むという感じで終わり、なにやら"女王"としての仕事を教えるとかでレイチェルは両親……主に母親と別の部屋に行ってしまったので暇になった俺はこの騒ぎを聞きつけたらしいライザーとチェスをする事にしたわけだ。結果? 普通になんども負けたけどなんか文句あるか?

 

 

「そもそも……妹を女王にすると聞いた時は驚いたものだ。てっきり、光龍妃をその座に置くと思ってたしな」

 

「普通に無理だったんだよ。駒が消えたり砕け散ったりする事も無くな……まっ、後悔はしてないけどな。つーか俺としては「お前なんかに娘はやれん!」とか言われると思ったんだが全く反対しないとか大丈夫か? 一応、悪名だけは広がりまくってるんだぞ?」

 

「少なくともお前以外の奴に妹を任せる方が怖いと言う事だ。わざわざ家にまで来た上、眷属にしますと挨拶に来てる時点でかなりマシなんだぞ? それぐらいは分かるだろ」

 

「いや普通じゃね……とか思ったけど貴族からしたらおかしいか。えーと……この私の眷属になったのだ、誇っても良いぞって感じか? 流石にガキの頃、しかも初期の方しか見た事無いけど実際どうなんだよお義兄さん」

 

「お義兄さん言うな気持ち悪い! まっ、家柄しか取り柄が無い奴なら本気で言うだろうとだけ言っておくが……しかし、良いのか? フェニックス家としてはキマリス家、しかもお前との仲が深まるから反対どころか大賛成になるが光龍妃が怒り狂ったりしたら……?」

 

「その夜空ちゃんのご指名だったから安心しろ」

 

「……俺の妹は光龍妃から指名されるほどになったのか」

 

 

 目の前に居るホスト風お義兄ちゃんは若干、いやかなり遠い目をし始める。まぁ、気持ちは分かる。あの夜空が直々に指名したとなったら俺は嬉しいけど周りからしたら死刑宣告みたいなもんだしな。もっともレイチェル本人はまったく気にして……気にしてないのかは知らないけどとりあえず意識はしてないっぽいが。

 

 

「ところでライザー、一つだけ聞いて良いか?」

 

「なんだ?」

 

「お前の事はお義兄さん、お義兄ちゃん、お義兄ちゃま、お義兄たま、どれで呼べば良い? リクエストもありだぞ!」

 

「普通で良いわ!? お前にそんな風に呼ばれたら吐き気がする! その手の呼び方はロリ系美少女が一番似合うと知ってるだろうに!」

 

「知ってるわ。俺だって夜空からにぃにとか兄さんとか呼ばれてぇんだよ! てかさー! なんでハーレム築いてるのに修羅場ってねぇんだよお前!! こっちは……犬月の胃に穴が開いて入院する程度には修羅場ってんだぞ!」

 

「……混血悪魔君。いや未来の弟よ……女と言うものは色んなもので素顔を隠している生き物なのさ」

 

 

 あぁ……なるほど。

 

 

「修羅場ってんだな」

 

「……見えないところでな」

 

「死ぬなよ?」

 

「死んでも蘇るから問題無いさ」

 

 

 キャーイケメーン! くっそ使えねぇ。ハーレム築くコツとか聞こうと思ったのに結局は刺されても復活するから好きにさせるが正解じゃねぇか! いや良いけど! 別に監禁しようが両手両足切断しようが殺傷沙汰になろうが受け止めますけども! 少しは年上らしくまともなアドバイスぐらいは教えてくれませんかねぇ?

 

 なんか苦労するよな俺達みたいな空気になったがそれをぶち壊すように扉がバーンと開かれる。入って来たのは勿論、ライザーの妹でありキマリス眷属女王のレイチェルだ。その笑みはなんだろうな……なんか勝ち誇ったと言うか勝利は決まったも同然と言いたそうな感じだ。ちょっと未来のお義母様……何を吹き込んだんですかねぇ? 内容によっては夜空がマジギレすると思うんで教えてもらえません?

 

 

「お待たせいたしましたわ! このレイチェル・フェニックス! お母様より女王としての必要な事を伝授してもらいました……えぇ! これからもキマリス様のお役に立ちますので――よろしくお願いいたします」

 

「お、おう……おいライザー、なんかお宅の妹さん、ちょっと見ない間に怖くなってんだけど……?」

 

「……恐らくだがロクでも無い事を教えられたんだろうが、未来の弟よ。まぁ、頑張るが良い」

 

「そんなお義兄たま! 見捨てるなんてひどい!」

 

「えぇい気持ち悪い!! 普通に呼べ普通に!!」

 

「仕方ねぇな……さて、どうでも良い事は置いておいてだ。レイチェル、こんな何しでかすか分からない夜空狂いの男だが……うん、よろしく頼む」

 

「はいですわ! どんとお任せくださいませ!」

 

 

 この日、空白だったキマリス眷属の"女王"がついに誕生した。

 

 とりあえず……母さんにレイチェルを眷属にしたと言わないとな。なんせ言わなかったら拗ねて何してくるか分かんねぇし……あーめんどくせぇ。




・「犬月瞬」
ノワール達が影の国に行っている間、自宅内の空気がヤバかったらしく胃に穴が開いた事で入院中。
日頃のお礼と言う事でシトリー眷属が見舞いに来てくれている。
恐らく今後も倒れる。

・「レイチェル・フェニックス」
予想されていたであろうキマリス眷属「女王」枠。
母親より今は側室で落ち着き、夜空の死後に本妻を狙えと言うありがたい言葉を聞き、将来に向けてプランを考え始める。
なお似たようなことを考える者達が居る事には気づいていない。

観覧ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

134話

「はぁ……はぁ……! ほんっ、とにぃ! すばしっこいですわねぇぇっ!!」

 

 

 疲労困憊と言っても良い状態のレイチェルは足腰に力を入れて地面を駆ける。

 

 レイチェルが無事に俺の"女王(クィーン)"として転生した翌日、水無瀬、四季音姉妹を除いた俺達キマリス眷属はいつもの場所こと地双龍の遊び場へと足を運んでいた。本日は駒王学園三学期初日ではあるが特に面白い事も無く……いや無くは無かったが精々次の生徒会長は誰だ的な奴だから俺としては面白い事なんて無かった判定になる。まぁ、橘からグレモリー眷属のデュランダルが次の生徒会長に立候補したと聞いた時は少し驚いたが同じクラスのシトリー眷属の一人が生徒会長に立候補したっぽいのですぐに興味が無くなったのは言うまでもない。周りでは名前殆ど覚えてないけどその二人による頂上決戦が行われる事に興奮気味だが……どう考えてもさ! シトリー眷属の勝利で終わると思うんですけど! 普通に考えて生徒会経験者と途中編入者のどちらに投票するかなんて分りきってるし。

 

 そんなわけで特に楽しい事も無く時間は進んで今現在、他の部活動や同好会は今後の活動内容の確認をするべく会議をしているようだがなんちゃって同好会に所属している俺達には関係無いので……その時間を有効に使うべくこうして地双龍の遊び場に集まっているわけだ。本来ならばクリスマスに行われた俺と夜空のガチバトル、通称双龍決戦の影響で此処に近づいただけで常人なら発狂する瘴気やら魔に属する者なら即死する浄化の気やらが蔓延していたがその辺りはウアタハたんが何とかしてくれたらしい。流石ウアタハたん! このお礼は何時か身体で返すからな!

 

 

「ほらほらお姫様。どうしたの? 全然当たって無いけど……当てる気無いの?」

 

 

 ひょいひょいと軽やかな動きでレイチェルの攻撃を躱しているのは平家だ。手には新しい得物である覚刀「ベガルタ」が握られており、カウンターとばかりに腕やら首やらおっぱいやらを切り落としていく。見た目はアニメや漫画でよくある黒刀で元が魔剣っぽい感じだったせいかグラムには劣るがそれでも異常とも言える切れ味を持っている……冬休み中に影の国で修行した時にウアタハたんやオイフェに聞いてみた所、材料として相棒の鱗が使われているらしい。そのせいか刃こぼれしても勝手に直るし強度は勿論凄いと言うね!

 

 その事を聞かされた相棒は怒る――事は無くむしろウアタハたんならいつでもどこでもいくらでも使っても良いと満面の笑みで言い放った。流石だぜ相棒……! カッコいいぜ!

 

 

「それっ! は! いつもと戦いっ! かた……がぁっ!!」

 

「だから何? はい首貰うよ。ねぇお姫様、女王の駒の特性は分かってるよね? 戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)騎士(ナイト)の特性全てだよ? 私や花恋達とは違ってお姫様のは扱いが難しい事で有名でこのままグレモリーの女王みたいに魔力一点特化で他はクソ雑魚になると困るわけ」

 

「わか、ってぇ! ますわぁっ!!」

 

「分かって無いよ。いくらお姫様が生粋のウィザードタイプで"僧侶"の特性を重点的に伸ばすのが正解かもしれないけど――そんなもので光龍妃は許すと思う?」

 

「――っ!」

 

「ノワールの"女王"はそんな甘い考えでなって良い物じゃないよ? 今のままじゃ光龍妃がマジギレして殺しに行くと思うけど……死にたいんなら手を抜いてあげる。どうする?」

 

「そん、なのぉ! 決まっていますわぁッ!! 私は……キマリス様の女王に! なったのです! そう、簡単にあきらめたりはしませんわ!! さ、さぁ……! 続けますわよ!!」

 

「りょーかい」

 

 

 平家の煽りに対してレイチェルは額から流れる汗を拭い、続けるように言い放つ。それを聞いた平家はちょっとだけ笑みを浮かべ……ては無いがきっと及第点程度には感じ取ったんだろう。

 

 なんで平家とレイチェルが地双龍の遊び場で殺し合っているのかと言うとレイチェルと女王の駒の相性確認をするためだ。戦車、僧侶、騎士の特性全てを宿す事になる"女王"は何かに特化していない分、扱いが非常に難しいとされている。だからこそリゼちゃん絡みでの殺し合いが始まる前にレイチェルが得意とする特性と苦手としている特性を把握しようと言う今回の試みは……見ての通り、成功と言っても良いと思う。

 

 最初はシトリー領に入院していた犬月が復帰後の準備運動としてレイチェルと殺し合ったがスピードで翻弄する犬月に対してレイチェルはお得意のフェニックスの炎ぶっぱで応戦した……が広範囲に展開された炎なんざ知った事じゃねぇとばかりに犬月が接近してきた際には回避できずに一撃を食らう事になった。それを見た平家が犬月を休ませるという建前で変わり――今に至る。

 

 

「……いきなり引きこもりが変われって言った時は何事かと思ったけど、案外マジで相手してるんすね」

 

 

 ドラゴンの鱗すら切り裂くとされるフェニックスの炎、しかもレイチェルの場合は女王の駒による強化がされている炎を受けたにも拘らず、犬月は大火傷する事も無く俺の隣に座りながら水を飲んでいる。

 

 

「まぁな。普段はアレだが俺達の中で一番自分の役目を気にしている女だぞ? 俺としても姫島先輩のように防御面クソ雑魚にはなって欲しくないから平家の言ってる事には同意だ。確認作業に入る前からレイチェルと相性が良いのは"僧侶"の特性だってのは分かってたが……それだけしか伸ばさないってのはなぁ。正直、雑魚のままだと平家が言った通り、夜空がブチギレる」

 

「……あー、姐さんなら普通に殺しますね。はい。いやそんな事はって思うよりも前に絶対しそうって思えるのはおかしいけども……王様?」

 

「なんだ?」

 

「いや、今更なんですけど……本当に姫様って王様の女王になったんすね」

 

「え……今更?」

 

「いやいや!? だって俺! 今日の朝まで入院してたんすよ!? 早く治さないといけないと頑張って退院してきたと思ったら姫様が女王になったとか聞いてビックリですよ! そもそもよく姐さんが許しましたね!?」

 

「まー知らない奴よりはって感じだけどな。てかお前……もう大丈夫なのか?」

 

「へへっ! なんかメル友になってる医者から『キミぃ……なんか治癒力上がってない?』って言われるぐらいの回復力を手に入れたんで問題無しっす! 普通にさっきの姫様の炎によるダメージもほら?」

 

 

 そう言って犬月は二の腕を俺に見せてたので視線をそちらへと向けると……先ほどの炎によるダメージと言うか火傷が少しずつ回復し続けていた。相棒が持つ『再生』のように一瞬では元通りにはならないが普通の混血悪魔としては異常だと思う、これはあれか……? 普段から死ぬ一歩手前辺りまでボロボロになり続けたせいで肉体が変化した可能性あるぞ? こう……なんだ、何時も死にかけてるから早く治さないとって感じで細胞的なものが頑張ってる気がする! 多分だがコイツ……このままだと早死にするかもしれない。

 

 まぁ、今後も止める気は無いけども。ぶっちゃけ犬月も覚悟の上だろうしな。

 

 

「問題無いなら別に良いが……とりあえず犬月。倒れるなら俺が居ない時で頼むわ」

 

「あっ、倒れる前提なんすね」

 

「え? 倒れないの?」

 

「倒れますけど。普通に倒れますけど! いや王様……? 世間一般的に、常識的に、普通に考えて毎日自分の目の前で修羅場が発生した上、巻き込まれたら胃に穴が開くと思いません?」

 

「そこは頑張るとかさ! 何とかしろ!」

 

「理不尽すぎません!?」

 

 

 いやだってそれしか言えないし。俺的には修羅場が起きようと殺傷事件が起きようと甘んじて受け止めるつもりだからどうでも良いと言えばどうでも良い。ぶっちゃけ夜空が俺の家に住み始めたから修羅場に関しては毎日どころか毎分毎秒単位で起きるから頑張れ犬月! 倒れるのは良いが俺が居ない時でマジで頼むな!

 

 そんな事を話していると平家とレイチェルの殺し合いが一旦終わったらしい。ベガルタを振り回していた平家は特に疲れた様子も無く得物を見て若干だがうっとり気味だ……言葉を言わなくても分かる。あれはベガルタの切れ味と使い心地に満足してる顔だ。いやこっち見て頷くな分かってるから!

 

 対するレイチェルはと言うと疲労困憊で地面に倒れ込んでいる。動く事すら……いや指一本も動かす気力が無いためか平家が呆れた顔はしていないけどレイチェルの足を持ってズズズとこっちまで引きずってきた。途中何度か覚妖怪覚えてろ的なセリフが聞こえたけど俺は聞こえなかった事にする……いやまさかフェニックスの双子姫とも呼ばれた美少女がそんなそんな……殺すだの覚えてろだの言うわけ無いし! そんな事を言う奴は夜空ぐらいだ。俺としては何時でもウェルカムだけどね!

 

 

「ノワール、疲れたから水が欲しい。口移し希望なう」

 

「ん? 別に良いぞ」

 

 

 後ろにあるクーラーボックスから水が入ったペットボトルを取り出して蓋を開ける。そのまま口に水を含んだ後、平家の顔をグィっと引き寄せて口を塞ぐ。そのまま口移しで水を飲ませ、ついでに若干だが舌も絡めること数秒……なんという事でしょう。背後から殺気が飛んできました。

 

 

「――悪魔、さん?」

 

 

 平家と口移し……というよりも普通にキスしていたのを止めて振り返るとグラムと訓練していたであろう橘様が引きつった笑みで俺達を見ていた。なんかこう、ギギギって感じの効果音が流れそうな感じの表情で例えるなら浮気現場を見た新婚妻みたいな感じだ。ぶっちゃけ普通に怖い。なんか怖い。足元に居る狐がこの節操無しがと言いたそうな目をしてる気がする……いや橘様。そんな浮気現場見たような顔をしないでください! こんなのまだ序の口です! 口移しで水が飲みたいとか平家的に言えばまだセーフだからね!

 

 なお犬月はいつの間にか段ボールの中に引きこもってた。コイツ……逃げやがった!

 

 

「なにを、しているんですか……?」

 

「口移しで水飲ませてたが? どうしたんだよ橘様! あっ、もしかして水飲みたいのか?」

 

「あっ、はい! 飲みたいです! その……ちょっと疲れちゃいまして今ですね、両手が動かせないんですけど……悪魔さん、お願いしても良いですか?」

 

「了解。さぁ志保、口を開けてね」

 

「え、ちょ!? ちが! わた――」

 

 

 くっそ可愛いと思ったのも束の間、平家が水が入ったペットボトルを橘の口に突っ込み始めた。ご丁寧に逃げられないように頭を掴みながら水を流し込んでるが……まぁ、良いか。仲が良い証拠と言う事にしておこう。ただ一つ言わせてもらうと百合百合な感じを期待してるから次やる時は頼むぜ!

 

 そんな事を思いつつ残った水を飲んでいるとグラムが近づいてきた。見た感じ、疲れている様子はないから橘とは軽く流す程度で戦ってたっぽいな。

 

 

『ワガ王よ! 次ハ我ラのばンであろウ!』

 

「んぁ? なんでそうな――いや待てよ……あーそうだな。やっぱり(キング)である以上、眷属のレイチェルのために俺も頑張らないとダメだよな! よしグラム! いつも通り剣になれ!」

 

『良かロう! ぜン力で振ルウがイい!』

 

 

 まるで玩具を与えられた子供のような笑みを浮かべたグラムはそのまま剣へと変化する。いやね! ちょっとだけ思ったんだが……最近、グラム握って影龍破ぶっぱしてないなと。クリスマスは勿論、冬休み中は影の国にグラムなんて連れてきてないから当然ぶっ放してないわけで……この辺で一発、コイツの欲求満たすついでにレイチェルを鍛えるとしよう! うーん、これは眷属思いの良い王と呼ばれるに違いない!

 

 久しぶりに握られたせいかグラムから吐き気どころか視界が真っ赤に染まり体中から出血が始まるほどの呪いが放出されているが影の国で何十何百何千何万と殺された俺にとっては滅茶苦茶軽すぎるので気にしない。正直、生きた虫を体に埋め込まれたり毒虫と一緒にシェイクされた時の方がまだ気持ち悪かったしな。

 

 

「……き、キマリス様……? な、何故、グラムを握っているのですか……?」

 

「お前を鍛えるついでに影龍破をぶっ放しとこうとな。最近撃ってなかったしね! よしレイチェル、休憩は終わりだから続きやるぞ? あーちなみに担当は見て分かる通り、俺な!」

 

「――」

 

 

 俺の言葉にレイチェルは絶望を通り越したなにかな表情になった。ヤバイ……凄く興奮する!

 

 

「……姫様。強く生きるっすよ」

 

「グラムの攻撃程度で死ぬならノワールの女王は無理だよ。ん? 志保どうしたの? 二本目希望なんてこの欲張りさんめ」

 

「もが!? が、ぁ、ぱぁっ……! さ、さお、りさ! ちょっ! ちがっ!?」

 

 

 よし! 百合百合っぽいナニカな光景が見れたから元気百倍で影龍破ぶっ放すとしよう!

 

 

「ちなみにレイチェル。この適性検査もどきなんだが……準備運動で犬月達、初級で平家って感じだから! 最終的には禁手化した俺と夜空の二人を相手に数分耐えきれたらまぁ……終わりではないが一旦終了と言う事でよろしく頼む。なーに、俺の女王ならこの程度は耐えきってくれよ?」

 

 

 というわけで絶望しているレイチェルを連れてスタート地点へと向かうも開始早々、レイチェルが全力で逃げようとしたので即座に影龍破ぶっぱで地面へと落とす。フェニックス故に死ぬ事も無く再生し始めたのを確認した俺はそのまま二発目の影龍破をぶっぱなす。そこからは簡単に言うと作業ゲーのような光景だったと思う……だって一に影龍破、二に影龍破、三と四と五も影龍破、六と七と八と九と十も影龍破とグラムが満足するまで連続でレイチェル目掛けてぶっ放し続ける。

 

 勿論、レイチェルもただ殺され続けたわけじゃない……女王の駒で強化されたフェニックスの炎を飛ばして応戦しようとしたが俺に言わせれば威力不足、影龍破を押し返すほどでは無かったのでそのまま呪いの渦に飲み込まれる事になった。まぁ、若干だが拮抗出来た時点で十分強いとは思うが俺の"女王"ならせめて冥界最強とか言われてる年増女王を瞬殺してもらわないと困る。だって夜空だったら年増女王どころか魔王すら殺せるだろうし。

 

 

「――なるほどね。あのれいれいがヤケ食いする理由も分かるよ」

 

 

 そんなわけで楽しい楽しい殺し合いもどきも終わって時刻は深夜、俺は四季音姉と一緒に鬼の里までやってきていた。理由としては新年になったのに一度も挨拶に来ていないのを思い出したからだ……そのために四季音姉に寧音の都合を聞いてくるように頼んだんだし。いやまぁ……今日空いてるから来て良いぞと言われるとは思わなかったが。

 

 寧音を待っている間に晩飯時に起きた出来事について聞いてきた四季音姉にキマリス眷属女王適性検査の内容を伝えると呆れた表情になった。此処に来る前に水無瀬が作った晩飯を食べてきたんだがあまりのストレス……かどうか分からないがあのレイチェルが体重も気にせずにヤケ食いし始めたのを見た時はやべぇ、壊れたと思ったのは内緒だ。まぁ、夜空の「焼き鳥、テメェ食い過ぎ」の一言で即終わったけども。

 

 

「ノワール。いくら必要と言ってもいきなりはやり過ぎじゃないかい? れいれいを鍛えるなら順序良くいかないとストレスで倒れる事になるよ」

 

「あの程度で倒れるなら夜空が殺すと思うけどな」

 

「にしし、否定はしないよ」

 

 

 隣に座っている四季音姉は先ほどまで呆れた表情から一転して笑みを浮かべ始めた。その手には酒瓶が握られていてラッパ飲みという女を捨てていると言っても良い飲み方をしている……見た目ロリの癖に実年齢は俺よりも年上なんだぜ? 妖怪とか悪魔って年齢詐欺多すぎないか?

 

 そんな大事でもない事を思っているとエロイ着物風の恰好をした寧音がやってきた。何度も思う事だがどうして目の前に居るエロイ人妻からこんな少女趣味満載の娘が生まれるんだ? 非常に謎だな。どれぐらい謎かと言うと不幸体質の癖に台所では一切不幸が発生しない水無瀬並みに謎だ。まぁ、それはそれとして此処って鬼の里だよな? なんで八坂とぬらりひょんが居るんだ? いやぬらりひょんはどうでも良いとして八坂さん、相変わらずエロい格好ですね!

 

 

「かっかっか! 待たせたね影龍の。うちのバカ娘の旦那になるってのに新年の挨拶がちょっと遅いんじゃないかい?」

 

「悪いな。クリスマスから昨日まで忙しかったんだよ……だからこうして都合が良い日に挨拶に来たんだろうが? あと、なんで八坂とぬらりひょんが居るんだよ?」

 

「そりゃ寧音から連絡が来やがったからよ。お前に伝えたい事があったからここまで来たってわけだ」

 

「ほっほっほ! こちらも同じやわ~寧音から連絡が来てなぁ、丁度暇やったから遊びに来たんやわぁ。お久しぶりや影龍王はん。何時頃京都へ遊びに来てくれはるん? 京都妖怪一同は勿論、九重も待っとるで?」

 

「あー……とりあえず時間が空いたらって感じか。だって基本的に俺って夜空中心の生き方だしな。とりあえずだ……寧音、八坂、ぬらりひょん。新年の挨拶が遅れた事、すまなかった。今年もキマリス領民共々よろしく頼む」

 

 

 その場に座りながら寧音達に頭を下げる。なんだかんだと言って挨拶が遅れた事はこっちが原因だからな……まぁ、相手はまったく気にしてはいないようだけども。

 

 

「こっちもよろしく頼むよ影龍の。しっかし……この前の一戦から今日までかなり経験を積んだようだねぇ! 見ただけで身体が疼いちまうよ! かっかっか! 後はバカ娘さえ抱いてくれりゃあ文句無しって奴さ」

 

「あっ、俺としては抱くつもりなんでそれは叶うと思うぞ。何時になるか分からんが」

 

「ノワール!?」

 

「だったらこの後すぐってのはどうだい影龍の。今ならなんと私も付いてくるよ? 旦那を無くしてから今日まで男に抱かれてないからねぇ……男ってのは母娘同時ってのが大好物なんだろう? かっかっか! 望むなら芹も混ぜても良いよ?」

 

「大好物ですが何か? あとマジで? 俺としては凄くお願いしますなんだが……それをするとお宅の娘さんが大暴れしそうなんで機会があればって事にしてください」

 

 

 なんせ隣から滅茶苦茶怖い殺気が飛んできてるしな! とりあえず伊吹ちゃん! 近い内に抱きに行くから年上らしくエロイ下着を着て待ってろよ!

 

 

「相変わらず女にモテるねぇ。でだ……俺らがやってきた理由ってのは外でもねぇ――坊主、お前に名乗って欲しい名があるんだよ」

 

 

 ぬらりひょんが酒を片手にそんな事を言い出した。妖怪達が名乗って欲しいってかなりヤバそうな奴じゃね? そう言えばクリスマスで夜空とガチバトルする前だったか影の国に行く前だったかで生き残ったら名乗って欲しい名がある的な事を言ってたっけ? うわぁ、帰りてぇ。

 

 

「……どうせお前らの事だから断っても広めるんだろ?」

 

「当然だろうが。この名は坊主、お前が一番ふさわしいんだからよ。これに関しては寧音に八坂も同意見って奴だ、俺らの配下の奴らからも反論は出てねぇぜ」

 

「そりゃトップが決めた事には反対しないだろ……で? その名ってのは?」

 

「――空亡(そらなき)

 

 

 ぬらりひょんがその名を言った瞬間、四季音姉が反応した。

 

 

「一つ良いかい……それは人工的に作られた妖怪の名だったはずだよ? あと確か……何年も前に倒されたと聞いたけどね。あと母様、私には知らされてないんだけど……何か言うとこはあるかい?」

 

「サプライズって奴さね。それぐらいは大目にみなバカ娘。元はと言えばお前が影龍のを誘惑しないからだろうに……はぁ、その年で未だに処女なんて泣けてくるね。いい加減さっさと抱かれな。むしろ抱きに行け」

 

「母様!!」

 

「寧音。親子の語らいはわりぃが後にしてくれや。今は……俺達としては失ったその名を坊主に名乗ってもらいてぇってわけよ。なんせお前は俺達妖怪と鬼が従っても良いと本気で思った男だ。むしろその名を名乗ってもらわねぇと困るって話だ」

 

「……伊吹、説明頼む。妖怪方面はあんまり知らないんだよ」

 

「だろうね。空亡ってのはさっき言った通り、人工的に作られた奴の名前でね。昔、ちょっと暴れた事があって今は死んでるんだが……人間界じゃ百鬼夜行の終わりを司る大妖怪って事で広まってるはずだよ。にしし! 良かったじゃないかノワール、私達からすればこれはかなり名誉なことなんだよ? 言うなれば"空亡の影龍王"ってところかい?」

 

 

 百鬼夜行の最後を司る大妖怪ねぇ……あのすいません。俺、一応悪魔と人間の混血なんですよ! 妖怪の血すら入って無いんですが良いのか……? いや良いんだったら良いけども。てかその話を聞いて思い出した事がある……なんか昔、夜空が外で面白い事起きてるとか言ってた気がするんだよ! もしかしてそれか? でもたしかあの時ってさ、強くなる事に必死で他の事なんて全く気にしてる余裕なかったんだよね! あと俺も夜空以外全く興味無かったからその場では詳しくは聞かなかったけど……こうなるんだったら死ぬ前の姿だけでも見とけば良かったぜ。

 

 

「なんだい影龍の? 不服かい?」

 

「いや……至って普通の混血悪魔の俺には勿体ないと思っただけだ。断っても意味無さそうだから仕方ねぇ、名乗ってやるよ。ただ――後悔するなよ? なんせ夜空の事しか頭にない上、俺の敵になるようだったらお前ら全員殺害対象に入るからな」

 

 

 その言葉に対し寧音、八坂、ぬらりひょんの三人はニヤリと笑って返してきた。

 

 なんだかんだで俺と話す機会が多いからその辺りは分かった上でのことだろう……しっかし空亡の影龍王か。大層な異名だが名乗る以上は今まで以上に負けは許されないな。もっとも夜空以外に負けるつもりは一切無いけどね。




・「空亡」
時系列的には番外編「とある昔の影龍王」辺りに発生した【堕天の狗神SLASHDØG】に
登場した人工妖怪。
本編では既に倒されている。
なおノワール&夜空はは堕天の狗神編では互いにイチャイチャしようと頑張ってた時期なので殆ど出番無し。

・キマリス眷属"女王"適性検査
別名レイチェル・フェニックス改造計画。
準備運動で犬月、橘、水無瀬の誰かとの戦い。
初級で平家早織との殺し合い。
中級で四季音祈里との殺し合い。
上級で四季音花恋との殺し合い。
最上級でノワール(鎧無し+グラム装備)との殺し合い。
理不尽級で鎧状態のノワール&夜空との殺し合い。

扱いにくいとされている女王の駒を完全に扱うべく今後もレイチェルは発狂しながら殺し合いをしていく事になる……王の補佐? 平家が居ますので問題ありません。
まずは実力を高める事からスタートです。
当面の目標としてはグレイフィア・ルキフグスを瞬殺できるレベルまで成長させる事らしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

135話

新年明けましておめでとうございます。
約一年ぶりの投稿です。


「――で? いきなり呼び出されたと思ったら何クソめんどくせぇ事に巻き込んでんだよ?」

 

 

 八坂、ぬらりひょん、寧々の妖怪勢力のトップ勢から「空亡(そらなき)」という二つ名的なものを受け取ってから数日が経過した深夜、俺は一誠の家のVIPルームらしい場所に呼び出されていた。

 

 参加者は俺、アザゼル、グレモリー先輩とその眷属、生徒会長、グリなんとかと転生天使ちゃんといういつもの面々……いや一人だけ違う気がするがいつもの面々という事にしておくがぶっちゃけた話、俺としてはアザゼルからの呼び出しに応じる理由もないから家で夜空とイチャイチャでラブラブなエッチ三昧を送りたかったのが本音だ。でもどうやら色々と訳ありな事が発生したようであのアザゼルが! あのアザゼルが!! なんと俺の目の前でトリプル回転しながら土下座し始めるぐらいには面倒事っぽいのでそれを見ていた水無瀬の言葉もあり、渋々此処までやってきたわけなんだが……マジで面倒事じゃねぇか。

 

 若干……いや普通にめんどくせぇという表情とキレ気味の声を出した事でグレモリー先輩の背後に立ってるデュランダル使いやファーブニルの飼い主、天界勢力のお偉いさんの後ろに立ってる転生天使ちゃんが申し訳なさそうな表情をしているが何度も言おう――マジでめんどくせぇ!

 

 

「天界勢力の戦士、エクソシストやらが一斉にクーデターを起こしたのはぶっちゃけた話、俺達悪魔勢力と堕天使勢力と同盟を結んだんだからいずれは起きてたのは分かる……てか禍の団絡みで地味に話題にもなってたしな。それは別に良いんだよ……俺には関係ねぇし。たださ~! なんでクーデター起こした奴らとD×D(俺達)が戦わないといけないんだ?」

 

 

 アザゼルに呼ばれた理由は単純明快、それでいてシンプルな事――天界勢力所属の戦士達がクーデターを起こして何故か知らんが俺達「D×D」と戦いたいと言って一誠達に果たし状っぽい何かを渡したのが原因だ。正直な所……なんで俺達? いや天界勢力に文句があるからクーデターを起こしたのは分かる。だって旧魔王派だって似たような理由だったっぽいし理由としてはよくある事だ……が! それと俺達は何も関係ない気がするんですけどねぇ!

 

 

「……まっ、お前さんならそう言うと思ったよ。どうやら相手さんはエクソシストの権利と主張を守りたいらしい。良い悪魔も居るが滅ぼさなければならない悪魔もいるってな……そこで同盟の決め手となったこの駒王町で悪魔、天使、堕天使の面々が所属している「D×D」と戦って自分達の主張を伝えたいんだろうな」

 

「事実、今回のクーデターに関与した者達は過去に悪魔や妖怪、吸血鬼といった異形に親類、最愛の人を殺された者達ばかりです……同盟を結んだ事により自らが敵としていた者達を殺す事が出来なくなり……多くの葛藤の上で今回の一件を起こしたのでしょう……」

 

 

 アザゼルとグリなんとかが今回の一件が起きた原因を話し始めるが……俺としてはマジで他人事だ。ぶっちゃけ今回の出来事って簡単に言うと同盟を結んだから他人を殺せなくなりました! それが耐えられません! だからクーデターを起こします! って事だろ? 自分達の敵を殺せなくなったとかカッコイイ言い方をしてるけど結局は他人を合法的に殺したいだけでそれを自慢したいだけだろうしな。あと俺達D×Dと戦った所で同盟が破棄されることなんてないだろうし仮に……そう仮の話だが俺達が負けたとしても相手側の言い分が通る事も無い。

 

 そもそも悪魔や妖怪、吸血鬼を殺したいんだったら誰かに許可を貰わず殺したいなら殺せばいいだけだし同盟反対と思うんなら天界のトップのミカエルに直談判するなり、リゼちゃんの所に行けばいいだけだろ……いや悪魔と吸血鬼を殺しても別に文句は言わないが妖怪達を殺したんなら喧嘩売ってきた判定で天界勢力皆殺しにするけど。とりあえず俺が言えるのはこんな話を聞かされて仕方ないとか理解はできるという表情をしてる生徒会長やグリなんとかはアホだと思う。ただグレモリー先輩は何考えてるか分からないが少なくともあの二人よりはマシな事を考えてるっぽい表情をしてるけど……この辺りは経験の差かねぇ?

 

 

「で? そんなアホみてぇな理由で俺達が天界勢力の代わりに戦えって? ゼハハハハハハハハ! アホだろ。同盟結んだから合法的に殺せなくなりました! それが嫌です! って我儘言ってるだけの連中相手に天界勢力は兎も角、俺達悪魔や堕天使が動かないとダメなんだ? 別に殺したいなら勝手に殺せよ……他人を殺す理由を他人に求めんな。それともアレか? 今まで俺はこれだけの悪魔や吸血鬼を殺したんだぜって自慢できなくなったからか? だとしたらマジでアホだろ」

 

「……彼らへの侮辱は見過ごせません。影龍王、その発言を撤回してただけますか……!」

 

「嫌だけど。あぁ、もしかして図星か? だったら遅かれ早かれ俺以外の奴らにも言われてたと思うぞ。たくっ……夜空とイチャイチャする時間削った結果がこれかよ……あのさ――殺すぞ」

 

 

 ほぼ八つ当たり100%の殺気をグリなんとか含めたこの場にいる全員に放つと各々が険しい表情となったり息が出来なくて震え始める奴らも居るが俺は気にせず椅子に座りながらコーラを飲む……がヤバい。普通に()()痛いんだけど!?

 

 

「アザゼル。元凶の天界勢力はどうなってんだよ? 内容によっては今から天界勢力滅ぼすけど?」

 

「今から説明するからその殺気は収めろ……影の国に行ってからますます手が付けられなくなりやがって。まずミカエルだがチームD×Dに任せず、自分で動こうとしていた――がそれは俺が止めさせた。今回の件は奇跡の子――言ってしまえば天使と人間のハーフも絡んでいる上、デュランダルの前所有者もクーデター側に居る状況だ……天界としてもクーデター側にヤバイ連中が居る以上はお前さん達レベルじゃないと収拾が付かないんだよ……だからキマリス、お前さんが面倒と思うなら今回の件から外れても構わん。元々そういう契約だからな」

 

 

 アザゼルの言う通り、仮にチームD×Dが動く場面でも俺達キマリス眷属は自分達の意思、あるいはレイチェルの指示が無いと動かないというのは前に伝えているから今回の件に関しては別に不参加でも問題はない。ただなぁ……夜空とのイチャイチャでネチャネチャなズッコンバッコンのお時間が削られたこの怒りをはい不参加! ってだけで流すのも邪龍としても悪魔としてもダメな気がする。

 

 

「奇跡の子ねぇ……」

 

 

 アザゼルの言葉の中で気になる事と言えば奇跡の子……つまりは滅茶苦茶レア、ガチャで言うならSSR並みの存在である天使と人間のハーフだ。

 

 悪魔と人間、堕天使と人間の間のハーフが居るように天使と人間のハーフも存在はするが……確かあれって滅茶苦茶難易度高かった気がするんだが? エッチしてる最中にエロい事を考えちゃダメとか快楽に落ちたらダメとかまず無理……普通に無理だわ。だって夜空の腋見ただけでノワール君のノワール君が戦闘態勢に入るぐらい興奮するし!

 

 まぁ、それはどうでも良いとして……デュランダルの前所有者は俺としては気になる所だ。相棒曰く夜空レベルにバグってるっぽいし相手が殺し合いを求めてるんなら別に殺しても文句は言われないはずだ……でもそうなると天界勢力のパシリにされるよなぁ……どう考えても味をしめて次から次へと尻拭いをさせてくるに違いない。

 

 

『ゼハハハハハハハハハッ! 宿主様よぉ! 俺様としては天使共のパシリになっても良いと思うぜぇ!』

 

「……デュランダルの前所有者か?」

 

『その通りよぉ! 今の宿主様なら負けることはねぇが一度本気のデュランダルと殺しあうってのも悪くねぇと思わねぇか? ゼハハハハハハハハ! 実力ならこの俺様が保証してやるぜ! 確かにこんなクソくだらねぇ理由でウアタハたんのマイクロビキニ写真を眺める時間が削れた事には殺意しか出ねぇがそれはそれ、これはこれって奴よぉ!』

 

 

 俺の手の甲から気分が良さそうな相棒の声が聞こえる。

 

 確かにこんなクソくだらねぇ理由でパシリになるぐらいならスカアハに抱かれた方がマシと思えるが本気のデュランダルか……確かにデュランダル使いよりも確実に上だろうしデュランダルVSグラム(チョロイン)も悪くない気がする。何だかんだで使う機会が減ってきたのは事実だしそろそろ構ってやらねぇと平家二号にでもなったら面倒だ。ただでさえ夜空とイチャイチャしようとすると私も私もと寄ってくるし……下手すると俺、夜空、平家の三人で夜の大運動会が始まってもおかしくない。いや別に良いけど強いて言うならおっぱいが足りねぇな……!!

 

 あと相棒……俺が撮影したマイクロビキニ姿のウアタハたんの写真を気に入ってくれて嬉しいぜ……! 最初は嫌だと抵抗していたがあの夜空ちゃんですら堕ちたイケメンボイスで説得の説得、相棒のために滅茶苦茶頑張った末に撮影できた代物だからな! 正直、ウアタハたんなら抱ける。男の娘は女の子! はいこれはテストに出るから覚えておくように!

 

 

「――それもそうだな。満足したらミカエルぶっ殺せば良いだけだしぃ~! 偶には最上級悪魔っぽい事もしないと駄目だよなぁ~相棒!」

 

『そうだぜ宿主様! なんせ妖怪共から空亡っつう二つ名も貰っちまったしなぁ! ゼハハハハハッ!! 空亡の影龍王の初陣にはちょうど良い!』

 

「よし! アザゼル! やっぱり同盟結んでるからには持ちつ持たれつの精神は大事だよな! 任せろ!! 久しぶりに使うチョロイン魔剣で全員消し炭にしてやるからさ!」

 

 

 世界中の美少女が見惚れるであろうイケメンスマイルをすると俺以外の全員が頭を抱えるような仕草をし始める。おかしい……別に変な事を言ったつもりは無いんだがなんでそんな反応になるんですかねぇ? もしかして俺がイケメン過ぎた……! やっぱりかぁ! なんせあの夜空ちゃんを彼女に! 彼女に!! 出来たくらいには俺様カッコいいですし!

 

 てか夜空で思い出したが四季音姉はちゃんと生きてるよな……? 家に帰ったら首だけ残ってたとかホラーだからちょっと勘弁してほしい。まぁ、殆ど俺が悪いような気がしないでもないけども。

 

 

「……キマリス。数分前の発言は覚えてるか?」

 

「おいおいアザゼル? この世界で一番優しくてイケメンで人の心がよく分かる俺だぜ? 最初っからクーデター止めなきゃ! とかなんかそんな感じのこと言ってただろ」

 

「キマリス君……貴方、おもいっきり反対の事を言ってたわよ?」

 

「……何をどうしたら、言ってることを正反対に出来るのでしょうか……?」

 

 

 アザゼル、グレモリー先輩、生徒会長がお前マジかって顔してるけど気のせい気のせい。何だったら二人の背後に立ってる一誠と元士郎は「あぁ……うん。いつもの黒井だ」って顔になってるけど気のせい気のせい! だって自分の欲望優先は悪魔で邪龍な俺にとってはいつもの事だし。

 

 あとゴメン! グリなんとかさん! 口が空きっぱなしだけど大丈夫? 顎外れた?

 

 

「……いや待てキマリス!? 空亡だと!! この数日間で何しやがった!!」

 

「んあ? いやこの前妖怪勢力のトップに挨拶に行ったらなんかぬらりひょんや八坂、寧々の三人から名乗っていいぞって言われたんだよ。だから今度から空亡の影龍王と呼んでも良いぜ!」

 

「安心しろ。お前さんは遅かれ早かれ二つ名で呼ばれるようになるだろうさ……しかしよりにもよって空亡とはねぇ。まぁ、実質東西の妖怪勢力を束ねてるお前さんなら文句は言われんだろうが……キマリス。一応聞いておくが悪魔と妖怪、どっちが好感度高い?」

 

「妖怪」

 

「即答ありがとよ……またサーゼクスが苦労しやがるが、良いか! 偶には俺の苦労も味わってもらわんと困る!」

 

「まぁ、文句があるなら俺じゃなくて八坂達に言ってくれ。んじゃアザゼル、帰っていいか? 普通に我慢してたけど背中いてぇんだよ……」

 

 

 恐らくだが服の背中側は出血によって真っ赤に染まってるだろう……でも仕方がないことなんだ! これに関しては! 絶対に相棒の"再生"で治すわけにはいかないんだよ……!!

 

 

「なんだぁ? 光龍妃と喧嘩でもしたか?」

 

「喧嘩するわけねぇだろ……あるとしたらただのイチャイチャだっての。なんていうかあれだ……四季音姉と一日ぶっ通しでエッチした事がバレてマジギレされてな。百回ぐらい殺された後に背中にデカく"よぞら"って書かれたからそれが塞がってないだけだよ……あっ! 見たいって!? 仕方ねぇなぁ……! 今回だけだぜ!」

 

 

 というわけでなんか期待されたっぽいのでその場で上半身裸になってアザゼル達に背中を見せる。

 

 俺の背中全体にデカデカと書かれた……いや刻まれた"よぞら"という文字を見たせいか何人かはヒィッとビックリしたような声を上げ、何人かはうわぁとドン引きしたような声を上げた気がしたが気のせいと言う事にしておこう。だってこれって夜空なりの愛情表現ですし! 指先に雷光を集めた夜空が俺の背中に名前を刻んでいる間はマジで死にかけたが愛の力によってなんとか耐えきったのは言うまでもない……ただそのせいでここ数日間、出血が止まらねぇんだよなぁ。

 

 ちなみになんでこんな風になってるのかというと俺の発言通り、四季音姉……いや伊吹を抱いたからです! だって八坂達に挨拶をした後、家に帰ろうとしたら泊って行けと寧々が言い出して断れずにまた同じ部屋にされた結果がこれです……! まぁ、仕方ないよね! 前々から童貞捨てたら抱くって言ってたし! あと四季音姉が浴衣の下にマイクロビキニ着てたのが悪い。合法ロリがマイクロビキニ着て見せてきたら普通に抱くのは男としても悪魔としても邪龍として当然!

 

 ちなみに感想としては小学生相手にしてるようで背徳感やらなにやらで物凄く興奮しました! ただその代わりエッチしてる最中は鬼の怪力に戦車のパワーが合わさってるせいで腕砕かれたり背骨折られたりノワール君のノワール君を握り潰されたりと色々あったのは内緒だ。

 

 そんなわけで四季音姉を抱いた翌日は鬼の里ではお祭り騒ぎになったのは言うまでもない……寧々から娘を傷物にして逃げれると思うなよ的な事も言われたし、なんだったら四季音姉から滅茶苦茶顔真っ赤にしながら旦那様とか言い出してきりと地味に調子乗った結果、家に帰ってきたら夜空がキレてたわけで……玄関開けたら無表情で仁王立ちしてる夜空を見たときは漏らすかと思ったね! とりあえず夜空と四季音姉で話し合いという名の殺し合いが発生してると思うんだがマジで生きてるよな? アイツが簡単に殺されるとは思わないがその場にいた犬月が巻き添え食らって代わりに死んでるのは普通にあり得る。その場合は手でも合わせてドンマイとでも言っておこう。

 

 

「……なぁ、黒井。お前……プールの授業とかどうする気だ……?」

 

「は? このまま出るけど?」

 

「アホかぁ!! いくら何でも背中にそんな……す、ステキナオナマエを、刻んで、受けれる、受け、やべぇよ兵藤……! これなんか言ったら片霧さんに殺される未来しか見えねぇ!!」

 

「匙ぃ!! それは……俺もそう思う!!」

 

 

 夜空の恐怖に怯えているのかガクガクブルブル状態の一誠と元士郎が何か言ってるようだが俺としては別に気にしてないんだよなぁ。だってあの夜空が嫉妬心全開で名前を書いたんだぜ? 彼氏としては両手広げて全力で受け入れるだろ……あぁ、そうか……こいつら、まだ童貞だから分からないのか……!

 

 

「一誠、元士郎……たとえ背中に名前刻まれても満面の笑みで受け入れるぐらいの心の広さが無いとモテねぇぜ? あっ、ごめん。お前ら彼女いないどころかまだ童貞だったな……悪い悪い。俺ってもう脱童貞してるから忘れてたぜ! なんだったらスカアハに頼んで卒業するか? 適当になんやかんや言えば多分可能だぜ?」

 

「ふ、ふざけんなぁぁっ!! あ、あんな……あんな目には!! いやもう二度と会いたくないんだよぉ!! 嫌だ……いやだ……が、がっががががががががっ!?!!?!?!」

 

「兵藤!?」

 

 

 なんか影の国での出来事がトラウマになってるのか一誠が壊れた気がするけど気のせいだな! うん気のせい気のせい!! いや普通にトラウマになるのは理解できるしなんだったら同情するけど俺から言わせればまだ軽い方だったからな! 俺と夜空なんて朝から晩までほぼ不眠不休でスカアハと殺し合い! クロウ・クルワッハとの殺し合い! なんだったら一回神滅具抜き取られて影の国フルマラソンさせられて再生能力無しで微塵切りとか普通にあったんだぞ! 死ななかったけど! なんとか夜空への愛で乗り切ったけど!!

 

 

「……タンニーンとの修行すら順応したイッセーがここまでなるなんざ驚きしかないが……おいキマリス? 影の国での修行はどんな地獄だった?」

 

「何も言ってねぇのに地獄認定かよ? いや地獄だったけどよ。あーたしかオイフェが担当してたが俺や夜空に比べたらかなりマシだぜ? 寝てる間に襲撃されても対応できるようになるまで訓練したり死ぬ一歩手前までボロボロにされたり、白龍皇の力を使いこなせるようになるまでオナニー禁止……いや去勢されてたな。あと確かおっぱいしかない空間に放り込まれて本物のおっぱいに触れば脱出、偽物に触ったら爆発とか意味不明なゲームさせられてたぞ。あとは――」

 

「いやもういい。もう言わんでいい」

 

「あと女体化したヴァーリのおっぱい突くまで出られません的な部屋にもぶちこまれ――」

 

「あーあーあー!! 俺は聞いてない! 聞いてないからなー!!!」

 

 

 俺の言葉を聞いたアザゼルは必死に耳を塞ぎだし、グレモリー先輩達は一誠を見つめてマジでって表情をし始め、元士郎は一誠の肩に手を置いて泣き出した。いや……うん……あれは悲しい事件だった……白龍皇の力を最大限に引き出せるようになるために必要……かどうかは知らんが女体化したヴァーリの胸を突くという地獄っぽい何かをさせられた一誠は血涙流しながら発狂、ドライグとアルビオンの心すら粉々にした恐ろしい事件だった。まぁ、それを見てた俺達は爆笑したのは言うまでもない。

 

 ちなみに爆笑してたら俺が女に、夜空が男にさせられて同じような部屋にぶち込まれたけど普通にエッチしたので問題なく出られました。

 

 そんなわけで話し合い的な何かが終わったと判断した俺は若干カオスになりつつあるこの部屋から出て自宅へと戻る。クーデターを起こした奴らとの殺し合いが何時なのか聞いてないがそれは平家に聞けば良いだけだしな……決して聞き忘れたとかではない。絶対にない。

 

 

「――家が吹き飛んでるかと思ったがそんなことはなかったぜ」

 

 

 自宅に戻った俺の目の前にはいつも通りの光景が広がっていた。夜空と四季音姉が向かい合うように椅子に座って無言で睨み合い、平家はソファーに寝転んでスマホゲーぽちぽちしてるし、犬月は部屋の隅で死んでるし……ヨシ! いつも通りだな!!

 

 

「悪魔さん♪ おかえりなさい! アザゼル先生のお話ってなんだったんですか?」

 

 

 我がキマリス眷属が誇るアイドルが俺の腕に抱き着いておっぱいを押し付けてきたがこれもいつも通りいつも通り……やっぱりデカい。さすがアイドル! あとスイマセン……声が明るいのに目が笑ってないのは普通にホラーなんでやめてもらっていいですか……?

 

 

「なんかめんどくせぇことに巻き込まれた。平家」

 

「りょーかい。あとでベッドの中で教えてあげる。ちなみに志保が早くエッチしたいとか思ってるよ」

 

「悪いが順番的に次は水無瀬だからもうちょっと我慢してくれ。あーとりあえず先に言っておくが近々、教会の戦士共と殺し合いするから参加したい奴は俺に言えよ? 不参加OKだからな」

 

 

 キッチンの方からドンガラガッシャンと結構デカい音が響いたが気のせいと言う事にしておこう。




・ノワール・キマリス
嫉妬した夜空によって暴力系ヒロインがドン引きして悔い改めるレベルの行為をされたり背中にデカデカと"よぞら"と名前が刻まれたが満面の笑みで全て受け切った大馬鹿。
たとえ弱点になるとしても背中の名前は絶対に治さないらしい。
スカアハの手によって女にされた際はクール系黒髪ロング巨乳美少女になり、夜空に胸を引き千切られた。

・兵藤一誠
影の国での記憶はトラウマとなっている。

・ドライグ&アルビオン
ボクタチズットトモダチダヨー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

136話

「ゼハハハハハハハハハッ!! おいおいその程度かよ曹操ちゃん! 俺以上に影の国にいるんだからもっと楽しませてくれよ!」

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS!!!』

 

 

 絶え間なく鳴り響く音声と共に全身から影を生み出して周囲へと展開する。

 

 影の中から生まれ出る影人形が俺の視線の先にいる男――曹操へと向かって空へと飛んでいくが曹操は足元に宝玉に乗って空を浮遊しながら自身の得物であり、宿している神滅具である黄昏の聖槍をクルクルと回しながら器用に影人形の拳を受け流していく。俺の影人形の攻撃を往なしていくその姿は手慣れている、もしくは踊るように軽やかなもので京都での一戦とは比べようがないほどの体捌きだ……てかよくあんな長い槍を起用に回しながら受け流せるな? 俺だったら普通に落とすと思う。割とマジで。

 

 あと現在進行形で影の国内の森が枯れたりなんだりとしてるが見た目最高! 中身外道でキチガイで人の話なんか聞かない世界は自分中心で回ってる系女王でありなんか頼んでもいないのに師匠面しているスカアハが統治している場所だから問題ない! なんせ相棒も良いぞ良いぞって言ってるぐらいだし。まぁ……ウアタハたん! 本当に申し訳ないと多少……ちょっと、ほんの少しだけ思ってるからまた直しといてくれ!

 

 

「……聖槍での斬撃すら通じないほどの防御力とはね。流石は防御だけならば各神話体系に属する者の中でもトップに近い存在が作り出した人形だ。いやはや、ちっぽけな人間がこんなラスボスどころか裏ボスレベルを相手に殺し合いをする事になるとは……! 楽しいじゃないか!」

 

 

 曹操は禁手の能力の一つであろう転移を使用して影人形に囲まれた状況から抜け出すと足元の宝玉の一つが輝き出し、曹操に似たナニカが大量に表れる。京都での戦った時は光り輝く人形だったが影の国での修行という名の地獄を経験したせいか前回とは姿が違うな……現れた人形が黄昏の聖槍っぽい槍を持ってるし何よりも俺の影人形と同じような威圧感がある!

 

 現れた槍を持つ人形達は俺が操る影人形達と交戦するようにその槍を振るい始めたので俺の方もこぶしで対抗するように操作する。完全な亜種禁手に至った事によって会得した"影人形強化"によって四季音姉は勿論、夜空ですら「雷」を使用しなければ破壊できないほどに高まった防御力を持つ影人形の拳はたとえ神滅具の効果で作られた槍程度の耐久力なら難なく破壊できる。

 

 その事を曹操は分かっているのか自分に向かっている影人形を優先して足止めするように槍を持つ人形を操って影の国で鍛え上げたであろう槍捌きと体捌きを行っていく。成程……あの人形共には曹操が持つ技量そのものを付加してるって感じか……面倒な能力になりやがって! あと曹操……滅茶苦茶頑張ったな! きっと出来なかったら死ねとか出来て当然、出来ないならば生きる価値無しとかとりあえず死んででも覚えろとかされたに違いない……! そう思うと涙が出てくるね!

 

 

居士宝(ガハパティラタナ)。前回と同じと思わないほうがいいぞ影龍王? いや、この言葉は必要無いみたいだがお決まりだからな。一度言ってみたかったんだ」

 

「ゼハハハハハハ! そんなの言われなくたって同じとは思わねぇっての! つーか曹操……お前、マジで頑張ったんだな。流石の俺でも同情しそうになってるんだが?」

 

「――これぐらい出来なければ影の国では、いやそもそも今この場に、キミの前には居ないさ」

 

 

 すげぇ……あの曹操の目が死んだ魚のような感じになった。

 

 てか言われてみれば当然といえば当然か……スカアハに拉致られて強制的に弟子にさせられてからずっと影の国で修業し続けてるんだし。気を抜けば死ぬ、気を抜かなくても死ぬ、何が何でも生きようとしても殺されて死ぬという状況下で鍛えられた曹操は間違いなく――京都で戦った時よりも強い。

 

 その証拠に自分の動きの邪魔になるであろう影人形を自分が操る人形で妨害しながら聖槍を器用に回して切り払ったり聖槍パワーっぽい光で吹っ飛ばしたりと数百は居るであろう影人形の拳が一発も当たってない。まぁ……曹操の周りにいる人形の操作を優先してるせいか離れた場所に展開した人形達は見るも無残な姿となってるが。圧倒的な防御力を誇る影人形の拳はクロウやスカアハ、オイフェと言ったよっぽどな相手じゃない限りは骨を砕いたり生身だったら余裕で貫通、ミンチ肉にすら出来るレベルだし。

 

 とりあえずそんな大事な様で大事じゃない事は置いておいて――そこか。

 

 

「――相変わらずの索敵能力だ。まさか、()()()()はずの将軍宝(パリナーヤカラタナ)を捕まれるとはね」

 

 

 お前マジかって表情をした曹操の言葉が聞こえる。

 

 なんでと言われたら槍を持つ人形と影人形という密集地帯のせいで周りが視認しづらい状況下で俺の死角から突進してきた球体を新たに生み出した影人形で掴んだからだ。もっとも球体と言っても俺の目には何も映っていないので影人形が掴んでいる感じからの予想……というか禁手の時に複数の球体が飛んでたから恐らく球体で間違いないはず! 俺としては割とどうでも良いが。

 

 

「槍を持つ人形で意識を分散させて死角から一撃……か。えっぐいなおい……別に防がなくても無傷だったと思うから無視しても良かったんだがほら! 夏場とか蚊が居る音とか気になるだろ! あんな感じでウザかったから捕まえさせてもらったよ」

 

「……確かに、今のキミならばたとえ直撃したとしてもダメージは与えられないだろう。全く……悪魔である以上は特攻であるはずの聖槍の一撃すらその鎧を貫けるイメージが浮かばない。おかげでダメージを与えられる策が覇輝(トゥルース・イデア)ぐらいしか無いのはあまりにも理不尽だ……火力は二天龍や光龍妃には劣るが防御力、そして精神力ならばあの三人相手ですら勝利できるだろう」

 

「おいおいそんなに褒めんなよ。ぶっちゃけた話、あの夜空ですら「雷」使わないと無理って時点で察してくれ」

 

 

 俺と夜空が恋人になった記念すべき日……あのクリスマス決戦でも夜空が生み出した「光」を俺は難なく防げてたしな。防御や耐性そのものを破壊するユニアの「雷」が無ければ今の俺に傷一つ付けられないレベルの防御力だと自覚してるからたかが聖槍程度の一撃なら割と問題ないと思う。

 

 だってその程度で死んでるんなら俺は夜空の恋人になる前に既に死んでるしな。

 

 

「それとな曹操! 物凄く良い感じに聞こえる言葉を教えてやるよ!! "生きる事は死ぬ事と同じ、死ぬ事は生きる事と同じ"ってな!! スカアハが言ってたんだが……割と意味不明だと思うだろ? だけどな! その通りなんだよ!! 死ぬのはいつもの事で生きる事は当たり前! だから俺は何が有っても死なないぜ!! ゼハハハハハハハハハハハッ!!! 覇輝だがなんだか知らねぇが使いたかったら勝手に使えよ! どんな事があっても、たとえこの身体が溶けてなんかよく分からねぇ物と混ざってもそれを喰らい尽くして蘇ってやる!!」

 

「……困ったな。俺自身も覇輝を使用しても殺しきれずにカウンターを受ける未来しか見えない。その精神力が羨ましいよ影龍王……キミなら影の国での生活も苦ではないだろうな」

 

「スカアハが居る時点で嫌なんだが?」

 

「……そうか。うん、俺も何か言った方が良いのだろうが殺されるだろうからね! あえて何も言わない選択肢を取らせてもらおう」

 

「別に言っても良いと思うぜ! ほら色々とあるだろ? 師匠面してウゼェとか若作りしすぎだろとか外道でクソで自己中で世界が自分中心だとマジで思ってるとか大丈夫か病院行けよマジでとか!! 安心しろよ曹操ちゃん! もしなにかあっても死ぬだけだからさ!」

 

「ノーコメントだ!!」

 

 

 残念ながらスカアハに対する苦情を言うつもりがない曹操は聖槍の先端に操っていた球体を集めると神々しいと言えるほどの光が槍全体を包み込んだ。

 

 その光……いやオーラはその辺にいる悪魔ならば触れずに即死させるには十分すぎるほどの質量で正しく聖槍という名に相応しいだろう――が俺からしたらまだ足りねぇ! たとえそれが神すら滅ぼすとされる神滅具の頂点だったとしてもだ!! 確かに見ただけで悪魔を滅する程なのは確かだが()()()()の光は何度も経験済みなんだよ! 俺を殺したいなら……最低でも夜空を連れてこい!!

 

 

「今の俺が持てる全ての力をこの一撃に込めよう――うん、良いな。さいっこうにカッコイイと思わないか影龍王?」

 

「ゼハハハハハハハ! さいっこうにカッコイイに決まってんだろ!! 来いよ曹操! その程度の光で俺を殺せるかどうか試してみろよ!!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハッ!!!! その通りだぜ!! たかが聖槍程度が俺様を! いや俺様達を殺せると思ってるなら逆に殺し返してやろうぜ宿主様!!』

 

『Shaddoll Fusion!!!』

 

 

 周囲に生み出していた影人形全てを俺の体に集約するように纏い、自分自身を影の化身というべき姿へと変えて曹操が投擲した聖槍を拳で迎え撃つ。

 

 悪魔や邪悪を滅する光と化した聖槍を拳で受け止めた瞬間、全身が遠い場所へと誘われるような感覚に陥り、全身が滅茶苦茶というかアホというかこの世の地獄かってくらいの激痛が広がったが生憎……この程度なら常日頃! 特に夜空から愛情表現で何度も受けてんだよ!!

 

 時間的には数秒だろうが体感では数十分間と思えるぐらいの攻防を制したのは――当然、俺だ!

 

 

「――降参だ。いやはや……影龍王を殺しきるにはまだ修業が足りないとはね」

 

「――ゼハハハハハハッ! 俺を殺せるのは夜空しかいないからな! てかそもそも夜空が死ぬまで俺は何が何でも死ぬ気はねぇけど」

 

 

 受け止めた聖槍をその辺に放り投げながら降参のポーズを取っている曹操を見る。夜空が聞けばきっと惚れ直したといってマイクロビキニ着てくれるぐらいには好感度爆上げカッコイイ事言ったは良いが……ぶっちゃけた話、その辺の上級悪魔や最上級悪魔程度なら余裕で殺しきれる威力だったんだが? 四季音姉レベルなら片腕犠牲にして……いやアイツは逆に跳ね返しそうだな。なんせ最近、グレンデルの龍鱗を砕ける程度にはパワーが上がってるし。

 

 そんなこんなで曹操との殺し合い……という名の模擬戦を終えた俺は襲い来る罠の全てを全身で受けつつとある部屋を目指して歩き続ける。相変わらずの罠の量というか、もはや生かす気は無く確実に殺しに来てると思いたくなるが夜空の愛情表現のほうがまだ過激な気がする……うん! やっぱり俺って愛されてるわ!

 

 

「――ウアタハた~ん! 相棒が会いたいって言ってたから会いに来たぜ~!!」

 

 

 ガチャガチャと鍵がかかっている扉を影人形によるラッシュタイムで壊しながら中にいるであろう人物に話しかける。

 

 漫画やアニメのDVDが納められた棚が多数存在し、恐らく俺達キマリス眷属全員が一緒に寝られるであろうクソデカい布団の中でこれまた一般家庭では見られないであろうデカさのTVでゲームをしている美少女――に見える男の娘ことウアタハたんは吹き飛んだ扉の残骸を俺の方を見る事もなく、ルーンを使用して空中で静止からの即復元という神業みたいな芸当をすると呆れたような声を出した。

 

 

「あ・の・さぁ~……鍵、かけてたと思うんだけどぉ? 人の部屋に強引に入らないでよね……あと、僕は会いたくなんかないって言ってるでしょ?」

 

「嫌だ嫌だと言っても実際には会いに来てくれなきゃ殺しちゃうぞ♪みたいな言葉があるからな! あと常日頃……相棒にはかなり、そう! か~な~りお世話になってるからな! 頭おかしいとかコイツ何しでかすか分からねぇとか頭おかしいとか言われ続けてたからこの辺で俺の凄く優しい一面を見せようと思ったわけだ……というわけで相棒! 後はお好きにどうぞ!!」

 

『――俺様は良い息子を持ったぜぇ……! ゼハハハハハハハハハハッ! ウアタハたん!! お前の旦那様が会いに来てやったぜ! う~ん、布団越しでも感じるこのもちもちな弾力のお尻は昔を思い出すってもんよ!』

 

「……だ・れ・が! い・つ!! お前のお嫁さんになったんだよぉっ!!」

 

 

 影龍人形に意識を移している相棒はウアタハたんのお尻目掛けて突撃するとその感触を心から堪能するような声を上げる相棒に対してセクハラを受けているウアタハたんは即座に無数のルーンを出現させると相棒を攻撃し、まるでボールのような何度も何度も反射させた後は俺に向けて飛ばしてくる。

 

 ここで躱すのは簡単だが俺と相棒は一心同体なので甘んじて飛んできた相棒を身体で受け止める。なんか骨が何本か折れたような気がしたけど気のせい気のせい。ぶっちゃけ夜空の愛情表現に比べたら安いしな……でもなんだろうネ! 多分だが家に帰ったら殺されるんじゃないだろうかってぐらい寒気がする! これは夜空ちゃん……嫉妬してるな! 長年の夜空ちゃんセンサーがそう言ってる気がする!

 

 

「そもそもなんで僕に会いに来たのさ。クロム(そいつ)は兎も角、お前はちゃんとしたお嫁さんがいるじゃん。こんな見た目でも男なんだから抱くだのなんだの言わずにあっち行ってよ。トロフィーコンプするのに忙しいし」

 

 

 ポチポチと人間界では最新機種であろう奴で遊んでいるウアタハたんは呆れた表情を浮かべている。

 

 見た目は黒髪ロングの超絶美少女、中身もどこぞの覚妖怪変異種のように汚れてもいなければ非常識ですらないからエロゲーでの立ち位置はきっとメインヒロイン的な感じだろう。目の前でゲームやってるけど平家よりは全然マシなのでセーフ!! セーフと言ったらセーフ!!! あと性別は男だが人間界はエロイならば男でも問題ねぇという奴らしか居ないので何も問題ない……そもそも俺も普通にウアタハたんなら抱けるし。

 

 何やら相棒が流石は俺様の息子だぜぇ……!とか言いたそうな表情をしているので当然だぜという感じでキメ顔をした後はウアタハたんのお尻辺りに置いておく。ここ最近は忙しかったので存分に癒されてくれ相棒……!!

 

 

「重いんですけどぉ」

 

「相棒のリフレッシュ的な感じだから気にせずゲームしててくれよウアタハたん! それはそれとして置いておくとして……出来てる?」

 

「もち。曹操と殺しあってる最中に調整はしゅーりょーしてるー。あっ、ミスった……前の場面でこれ使っておけば良かったなぁ……というか、グラムはサブウェポンなんじゃないの? 少なくとも僕はそういう認識だったんだけど?」

 

「俺もそんな感じだったんだけどなぁ。ほら、デュランダルの前所有者と殺しあう事になったからこっちもって感じだよ……それにいい加減、愚痴ぐらいは聞かねぇとアレだし」

 

 

 視線を部屋の隅っこに向けるとこれでもかという感じのルーンに囲まれているグラムがまるで勇者の到来を待つかのように床に突き刺さっていた。

 

 俺がウアタハたんに会いに来たのも相棒の為が半分、そしてもう半分がグラムの調整を頼んでいたからだ。折角、デュランダルの前所有者と殺しあうんだからグレモリー先輩の所にいるデュランダル使いから聖剣奪った上でグラムとの最強聖剣魔剣対決したいという欲望があるのでここでパワーアップ的な事をしても良いだろうと思ったわけだ。そもそもの話……アザゼルや北欧勢力、八坂などの手によって今の形になっているグラムだが元々は各々が意思を持つ複数の魔剣というちょっとメンドクサイ感じの代物……一つの意思に統合されたと言っても俺に対する文句やら要望があると思うし、なんだったら"今"の人格であるグラムも最大出力が出来てない可能性だってある。そんなわけでちょうど良い機会だからスカアハに相談的なことをした結果――ウアタハたんに任せれば良いと言われたわけです!! キャーウアタハタンステキー!!

 

 そもそもこんな見た目でもあのスカアハの息子という事でルーン魔術は勿論、槍を握れば曹操よりも扱いが上手いしさっきみたいに破壊された物の復元、再生等などなんでも有りという超ハイスペック男の娘! うーん、これで性格が良いとくれば惚れても誰も文句は言わない。相棒は何も間違っていないな!!

 

 

「雑に扱ってきたせいだよ。あっ、始めるならその辺でお願い」

 

「了解。んじゃ、ちょっと愚痴聞いてくるか……」

 

 

 俺を待っているであろうグラムを握ると龍殺しの呪いが全身に広がってくる。

 

 何度味わっても吐き気や眩暈も酷いし身体が腐るんじゃないかって感じにもなるが夜空の愛情表現の方がもっとヤバイ気がするので俺的には普通に問題ない。そもそもグラムと夜空を比べたら圧倒的大差というか満場一致で夜空ちゃん大好き愛してるキャー結婚してー!になるから勝負にならねぇけど。

 

 テンションが上がってるのか分からないが呪いをまき散らしているグラムの切っ先を俺の心臓へと向け、そのまま一気に突き刺すと先ほど以上の呪いと激痛、吐き気、眩暈、身体を掻き毟りたくなるようなナニカが全身へと広がっていく。こうして面と向かって話し合うのは初めて……だと思うから言いたい事やらなにやら全部吐き出してもらうぞ……!

 

 なんせ――デュランダルと殺しあうんだからな!!




・夜空の愛情表現
暴力系ヒロインが素直に土下座して今までの事を謝罪かつ許してほしい、もう二度としないと改心するレベル。

・曹操
影の国での修行の末、槍を操る技術は向上し禁手の能力もいくつか変化している。
「居士宝」は曹操が持つ槍の技術と体術を反映できるようになっている上、操作も格段に上手くなっている。
「将軍宝」は威力をそのままで"透明"となっており、話術や他の能力で意識を逸らした後で一撃を叩き込むという初見殺しを行えるようになっている。

・ウアタハ
スカアハの息子で黒髪ロングの超絶美少女な見た目をしているが性別は男。
実力は非常に高く、たとえどんな大怪我も数秒で完治させたり壊れた場所を復元、再生などルーン魔術かこれ?と思えるような芸当を普通に出来る。
性格もスカアハ、オイフェと比べると常識人であるので何人もの弟子達を男の娘好きへと落としてきた魔性の男の娘。
なお"後ろ"の初めては影の龍クロムが奪った模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。