NARUTO~行商人珍道中~ (fall)
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NARUTO~行商人珍道中~

 

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 アイテム、とは主にアニメやゲーム等の創作物に登場する便利なお助け道具のことであると俺は思う。

 ジャパニメーションで例えるとするならば、みんな大好きな二十二世紀の未来からやってきたという青タヌキのアレコレ。

 ポケットサイズに収縮・収納可能なモンスターを育成&バトルなんかしちゃう人々のアレソレ。

RPGなら回復ポーションだとかと言ったところか。

 

 さて、どうしてアイテムについて俺が講釈垂れているのかというとだ。

 

 所謂≪テンプレ≫というものに俺も運良く?悪く?当たってしまったからだ。テンプレ、テンプレートと呼称されるそれは簡潔に行ってしまえば、理由付けや説明が面倒な事柄を原本として誰でも使えるように簡略化したモノである。

 この場合で言えば、≪神様転生≫に当たる。

 

『私のミスで~云々、あなたは本当は死ぬはずじゃなかったんです~記憶の持ち越しと能力一つ差し上げますから転生してください。』

 

 なんて出会って即座に詰め寄られ、願いを叶えて差し上げるのでさっさと決めてくださいハリーハリーハリーてな感じでお前本当に反省してんのか?と問いただしたい位に捲し立てられるしだい。

 

 余り刺激しないほうが得策だと過去の教訓を糧にして、早々に願いを叶えてもらい深く関わり合いにならぬようにするべきだと思い至り、何を願おうかと思案していた所、超弩級の爆弾が落とされたのである。

 

 

 

 

――――曰く、転生先はNARUTOの平行世界である。と

 

 

 

 

 知らない人はおそらくいないと思うが敢えて言っておこう。NARUTOとは週刊少年ジャンプという漫画雑誌において連載されている世界中で人気の漫画なのだと。

 

 主人公を始めとする忍者達のド派手なハチャメチャ忍術のオンパレードが売りの作品でお前ら忍べよと突っ込みが入るほど忍ばない忍者たちの物語。

 

 

 

 ちなみにだが、俺はこの作品をほぼゲームでしか知らない。昔は立ち読みやらしていたのだが、職に就いてからというもの全くと言っていいほど時間が取れず読むことは終ぞなかった。もうそろそろ最終回が近いと友人から聞き及んでいる。

 

 任天堂のゲームボーイアドバンスにて登場したナルトRPGという作品並びに同ゲーム会社の後継機であるディーエス通称DSにて発売されたナルトRPG2を友人から借りてプレイした程度の知識しか持っていないのだ。

 

 確か3までは発売していた気がするのだが、どうやら友人はその際に金がなく買えなかったようで(加えて原作との内容にあまり関わらないオリジナル作品だったもよう)俺もプレイすることなく今に至る。

 

 というわけで、俺はナルトの世界に転生させられるとなると、非常に不味いことになるというのがよくご理解いただけるかと思う。

 

 小学校(アカデミー)を卒業した程度のガキでさえ、忍術なんていう常識外の災害を引き起こす力を持つ世界だ。一般ぴーぽーである俺が下手な能力を持って転生若しくはトリップでもしてみろ、あっという間に殺されてBADEND確定じゃないか。

 

 そうじゃなくても、チャクラや印を組まずに炎やら雷やら出してみれば、血継限界やら特殊な事例だとか言われて保護という名のモルモットコースへ一直線。

 

……ダメだ。どう足掻いても絶望的じゃないか。

 

 というか、さっきから『ねぇねぇ~早く決めないとそのまま送り出しちゃうよ~早く早く~』なんて言ってくるクソ女が物っ凄く鬱陶しい。

 こちとら、命が掛かっとんじゃ黙っとれと言いたい。しかし、どうしたものか。

 

 

 

 うーむ、反則染みたものは恐らくバレれれば排斥オアモルモットでBAD行きだからそれ程目立たなくて地味、尚且つ使えるものを選択しなければ。

 

……となると、忍術に近しいものか便利なお助けアイテム、もしくは助っ人辺りが無難な感じになるのかな。

 

 忍術や別作品の技もやめておこうと思う。俺にあんな高速で指動かすとか無理そうだし。そもそも下手に忍術なんて使える事が分かったら忍者に勧誘されて任務とかさせられるだろう。人とか動物とか殺したくないからパス。というか断固拒否する。害ある獣ならともかく人間相手に剣やら不思議能力を向けるとかどう考えても無理だ。

 

 

 次にアイテムだがこれは多分一番まともで有用な物だと思う。青タヌキの未来道具とか、ゲームのアイテムとか使えれば、例え殺し合いとか戦争に巻き込まれても倒したりする事はできずとも逃げるだけならできるはずだ。

 

 ただ、問題点を挙げるとするならば重量とか数量等の持ち運び関係とあの女から許可が下りるアイテムが分からない事だ。保留だな。

 

 

 最後に助っ人、これは言わずともわかると思うが文字通り助っ人を着けて貰うという案である。ナルトの世界は極めて危険である。主人公たちの裏側や彼らの道中にも人は簡単に死んでいくだろう。

 

 それこそ、雑草を切り取るよりも簡単にだ。そこで、心強い味方である助っ人の登場である。彼、もしくは彼女の戦闘力に期待して自分はそれに護ってもらう……情けないな、でも俺が生き残るには必要だ。

 

 これにも当然問題がある。彼、彼女の戦闘能力がどれほどのものかは素人である俺には分からないといった点だ。例えば、俺(数回程度の殴り合いの喧嘩しかしていない素人)と手合せをして助っ人が圧勝したとしても本来の仮想敵は忍術なんて言う超常現象を意図も容易く引き起こせるびっくり人間の集まりで囲まれて叩かれたらその時点で詰んでしまう。

 

 加えて、相性の問題もある。彼らの性格や趣向が合わなければ見捨てられるか殺される可能性もある。

 見捨てられれば、防衛手段の無い俺は路頭に迷い獣等に襲われるかして野垂れ死ぬし、殺そうと思われてしまったのならばこれまた死ぬ。

リスクがデカ過ぎる。

 

 

 つまり、残された道はただ一つ、アイテムの使用許可をもぎ取ることである。出来れば、使用回数、使用個数を無限に近しい物にしたいところ。

 これが出来れば、アイテムを売りさばいて安全に豪遊もできるやもしれん。何よりも先ず第一に生き残らなければ苦楽をすることさえ出来ないのだから。

 

 

 

 

――――そうと決まれば交渉開始だッ

 

 

 

 

 

 

 

『ぇ?何決まったの?なら早く言ってよ、アタシも時間無いからさぁ一つだけなら何でもいいよ~え?そんなんで良いの?もっと、凄いのでもいいんだよ?へーそうなの、んじゃそれで、あ?なに?使用数増やしてほしい?あ~ハイハイじゃあメンドくさいから無限でいいよね?ハイ決まりッ!んじゃ、精々頑張って~』

 

 

 化けの皮が剥がれてんぞと突っ込みたい気持ちを抑え込みつつ要望を言ってみた結果、あっさりと決まってしまい拍子抜けである。交渉だー何だかんだと無い頭こねくり回して考えた案が無駄になってしまったりしたが、それはまぁいい。

 これで、俺の身の安全は確保されたも同義……どんな手を使ってでも俺は生き残ってやる。

 

 

『それじゃあ、良い次生を~あでゅ~』

 

 へらへらと笑いながら手を振る女に最後までふざけた奴だったと記憶に留める。次第に意識が薄れていく感覚がしはじめ俺はそれに誘われる様に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 女がただ笑っているのではなく、俺を嘲笑っていた事など露程も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フッと夢から覚めるように意識が浮上するのを感じ、瞼を開き辺りを見回す。

 

 

 ジメッとした嫌な温度にシトシトと降る雨、見渡す限りに木々が生い茂っている事から此処が湿地帯に有る森を連想させる。

 

「ふぅ……なぜこんな所に転移させたのかはわからないが、とりあえず状況確認だ。」

 

 体をあちこち触診したが、いつもの通りだと自己診断を終えるとスーツの胸ポケットに違和感を感じた。

 

 ポケットに手を突っ込み引き出す。出てきたものは四等分の歪な形に折られた茶封筒。なんだこれは、と警戒をしつつ恐る恐る中身を取り出す。

 

「これは、手紙?」

 

 茶封筒から取り出したものはA4サイズの紙が数枚に女性特有の丸まった文字が書かれた手紙だった。

 

 手紙の内容を簡略化するとすれば、『付ける筈の能力を間違えちゃった。許してね☆』という一文のみである。季節の挨拶から始まって一体どうしてしまったのかと思ったらこれだよ。

 

 で、俺が貰うはずだった≪お助けアイテム≫は大幅に弱体化?して、ゲームの作品である≪ナルトRPG≫シリーズのアイテムを無制限で使用できるという能力へと変貌したのである。

 正直に言って、青タヌキの未来道具や別RPGの霊薬等が使えないことは痛手である、がそれでも一応俺が望んだ≪アイテムの無制限使用権≫は失効されていないので何とかなると思う。

 

 A4の紙には能力の使い方が事細かく記載されおり、これらすべてを頭に叩き込まなければならないとなると若干頭が痛い。

 

 

 とりあえず、一度試してみるかと安易に考えてしまったことをあとで後悔することになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹減ってるから《おむすび》でいいや、《出てこいおむすび》」

 

 アイテムをストレージから出すには声に出さなければならない、というのが第一の制約だ。

 

 俺の掌にぼふんっという音と同時に白煙が発生し、煙が晴れるとそこにはおむすびが鎮座していた。

「おおっ!出てきた出てきたっ」

 興奮も冷めやらぬといった様子ではしゃぐ俺(三十路手前)は周囲から見たら奇人変人のたぐいだと思われることだろう。

 

「おかかだったかぁ……あまり好きじゃないけど、味もちゃんとするし成功と言っていいな」

 

 食べ物の次は攻撃系統の道具だな、と気合を入れる。

 

 

「≪来いっ!水とんの巻物≫」

 

 先ほどと同じように手のひらに水色の巻物が現れる。さて、どれほどの効力を発揮するのやら、わくわくするなぁ。

 あぁ、でももし威力が高すぎて危険になった場合を考えてっと「≪変わり身の巻物≫」

 取り出した変わり身の巻物をひも解く、すると巻物から白煙が立ち上り俺を包む。気が付くと俺は先ほど居た場所から三十メートル程度離れた位置に佇んでいた。

 なるほど、こうなる訳かと納得しもう一巻変わり身の巻物を取り出すと今度こそ水とんの巻物を開く

 

 

 

――――ズゴゴゴゴゴゴゴ

 

 巻物から大量の水が、というか波が垂れ流しにされる。……これは不味いっ、急ぎ変わり身の巻物を開き自身と丸太を入れ替え離脱を図る。

 

 しかし、問屋は降ろさなかった。巻物から出る水の量は刻一刻と増え続けどんどんと辺りを侵食していく。

 

 

 巻物ってこんなに効力無かったはずだ、俺が知っている巻物は精々水球が勢いよく飛んでいく位のものなんだが……ん?何々、『流石に可哀想かなぁっと思ってアイテムの効力は3倍増しにしといたよっ!感謝してね☆』イラン事すんじゃねぇよっ!つか、これどうすりゃ止まるんだよ。

 

 

「戻れっカムバックっ≪回収≫っ戻ってこーい、ばっちこーい……は違うか」

 

 手当たり次第に戻ってくるよう声に出して言う。どれが当ただったのかは分からかったが無事に水とんの巻物は手のひらに収まった。要練習の必要ありだな。

 

 ふぅ……これ、多分≪水とんの術・参の巻≫位の威力と範囲があるんじゃなかろうか。

≪火とんの巻物≫や≪雷とんの巻物≫じゃなくて良かったよ。危うく大惨事になるところだ。

 使い時と使い道がかなり狭まった気がするが、戦闘において主戦力級になることは確かだ。この分だと武器やら防具やらも大変なことになっているやもしれん。

 

 先が思いやられるぜ……あぁ、そういえば基礎力を上げるカンポウ丸なんてのも有ったな。あれらの効果も三倍となるとかなりチートな能力であると言えるな。

 

 加えて、相手の行動を阻害する≪ふういん玉≫や≪まきびし≫、≪よわき玉≫なんて使ったらと思うと胃がとても痛い。

 

 

 衣と食は何とか成るが、住居の問題があることを不意に思い出した。近くに街や村が有れば良いんだが、流石に日も暮れてきたし、これから移動するというのも危険だ。今日はというか暫くの間野宿生活かな?しかし、屋根がないと流石に困るな。

 

 うん、アノ手を使おう。先ず≪門ばんのぼう≫と≪四代目のマント≫そして≪鉄くさり≫を取り出す。次いで、手ごろな高さに生えている木々を探す。枝と枝との間に門ばんのぼうを幾本も掛けてマントを数枚乗せる、これだけでは風が吹いてしまえば飛ばされてしまうので鎖鎌である鉄くさりを使って固定化。上はとりあえずこんな物でいいやと問題点が起きるまで放置することに。

 

 続いて側面。風はそこまで強くはないが如何せん霧が有って視界が悪い。それにこれ以上濡れて風邪でもひいたら洒落にならない。と言うわけで早急に壁を作らなければならない。 

 

 先ほどと同じく棒とマント、鎖そして布止めとして≪千本≫を用意する。複数の棒を固めて地面に差し、鎖で近くの木に巻き付け固定。これを屋根と一体になるよう四方同様に行う。多少棒の長さが足りず隙間が出来たが壁と同様に複数枚を千本で纏めたマントを垂れ幕の様に掛けて補う。

 千本の針がむき出しなのは安全性に掛けるため≪ちぎれたページ≫を重ねて千本に刺し針がむき出しにならぬよう埋めた。

 

 うし、このくらいで大丈夫だろう。最後に地べたで眠るのは嫌だったので再びマントを複数枚取り出し地面から五センチ位の余裕を持たせるようにして敷き詰める。

 

 初めて作った簡易テント。所々歪で不格好ではあるが我ながらに上出来だと思う。外見などこの際気にして等居られない。何時の間にやら辺りは真っ暗だ。夜の森は恐ろしいと聞きかじっているので下手に動かず、テント周りに≪起爆札≫を設置。これで漸く安心して寝ることが出来る。

 

 初めての事だらけで疲れが出たのか服を着替えるとすぐさま俺の意識は微睡みへと誘われた。明日から一体どうしようか。何て事は考えられず深い眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 



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1 修行ってなにすりゃいいんだろう

NARUTO~行商人珍道中~

 

1 修行ってなにすりゃいいんだろう

 

 

 

 

 あの≪水とんの巻物≫暴発事件から一週間が経過した今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?わたくしめは今現在、修行中です。

 

 

 

 

 

 

 忌々しい一週間前のあの日サニティー(正気)の値が大幅に減少した事に愕然とし、暫くの間攻撃系の巻物に触れる事は無く、そそくさとテントを≪回収≫して片づけ、水浸しになってしまったあの場から朝一にとんずらこいた訳ですが。

 

 当然、異変に気づく人々がいらっしゃったようでしてわたくし……ええいっこの口調は合わん。

 

 

 如何にも忍者ですみたいな服装にNARUTO特有の≪額当て≫をした若い三人組を見かけると同時、わたくしもとい俺は≪瞬身の巻物≫を途方もないくらいの数を使用しその場を離脱したのだ。

 アレは恐らく昨日の水遁の調査でもしているのだろう。バレれば質問若しくは尋問されかねないので逃げて正解だったと思う。

 

 

 額に巻かれた額当ての模様から察するに恐らくは≪再不斬≫と同じ≪霧隠れ≫の忍びだと思われる。

 とは言え、額当てなんて≪木の葉≫と≪霧隠れ≫、≪砂隠れ≫等の有名どころくらいしか覚えていないのだけれども。

 

 

 

 まぁ、俺のせいにされずに済み尚且つ此処が≪水の国≫のどこかであるということが分かり、一先ず安心している。

 

 

 

 場所を移した俺は昨日作った簡易テント二号を即席で作成した後、ほとぼりが覚めるまでの間森でテント生活をすることに決めた。近場の街や村に行こうにも場所が分からないし、むやみやたらに動けば彼ら霧の忍者に見つかる恐れもある。こんな森でばったり出会ってしまえばあらぬ疑い(自分でやってしまった事だが)を掛けられる恐れもある。せめて、能力をある程度使えるようになってから動くべきだ。と考え修行を決行することにしたのである。

 

 大層に修行と云ったが、本音をぶっちゃけてしまうと身体が自分の考える通り以上に動いてくれるため、楽しくて仕方がなかったのだ。

 

 

 さて、先ほど修行中だと話した通り俺は現在アイテムの出し入れをスムーズにするよう出したり入れたりを繰り返している。

 

 その最中、≪カンポウ丸≫の存在を思い出しぼりぼりと貪りながら同時並行としてステータスアップを図っているのだ。

 

 カンポウ丸には幾つかの種類がある。≪こうげき≫≪ぼうぎょ≫≪スタミナ≫≪すばやさ≫≪チャクラ≫≪どうさつ≫≪にんりょく≫主にこの七つがゲーム内で能力値とされレベルが上昇するたびにこれらの数値も上がっていくといったものであり、これらの値を上げることができるアイテムとしてカンポウ丸がゲーム内で登場していた。

 

 

 大きいものとふつうの大きさのカンポウ丸の二種類が存在する。自然、大きいほうが能力値をよりアップさせるようだが。

 

 バリバリむしゃむしゃ、とけして上品では無い食べ方をする俺のステータスは恐らくカンストに近いものがあるのだろう。

 

 初めの二、三日は目に見えるほど身体能力の上昇が伺えたが、今では全く普遍で変わらない。

それでも、カンポウ丸を食べているおかげか体の調子はすこぶる良く今ならバク転や空中前転なんてものもできそうだ。

 

 

 

 

 

 

この一週間やってきた修行は大きく分けて二つ

 

一つ、アイテムを即座に取り出せるようにすること

 

二つ、カンポウ丸を使用した身体能力の向上並びにスペックの上がった体を慣らすこと

 

 

 

 重点的にやったのはこの二つだが、別にこれしかやっていないわけではない。学生時代を思い出し、腕立て、腹筋背筋、走り込みを始めとする基礎的な筋肉トレーニングを限界近くまで遣り込み≪ガマ印の兵糧丸≫を使用して体力を完全回復させて再び繰り返してきたのだ。

 

 

 元より体を動かすことは得意ではあったのだがやはり、カンポウ丸の力はすさまじくデスクワークで鉛に鈍っていた体があっという間に現役時代以上に動かせるようになり軽く凹んだのは内緒である。

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺は修行を続けている。暫くの間この森で体をひたすらに鍛えることで忍者は無理にしろ野盗や山賊、狂暴な野生動物に対抗する術を身に着けていこうとも考えている。

 

 

 

 



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2 そろそろ移動しよう

NARUTO~行商人珍道中~

 

2 そろそろ移動しよう

 

 

 

 

 修行をあの後三週間程度続けた結果、俺の体は下忍位ならやっていけるのではないか?と自負できる程度には鍛えることができたと思う。それから、ストレージを探っていたら≪ロック・リー≫が愛用していたと思われる。≪こんじょうおもり≫なるものを発見し、≪リストバンド≫におもりをつけた物を手足にそれぞれ巻いている。

 これが、なかなかに重く最初の五日間はかなり堪えた。それでも、生き残るためとして、我慢して使用し続けている。

 

 

 そろそろ、この場所ともおさらばしようと思う。長い間、とはいっても一か月程度だが雨風を凌いでくれた≪四代目のマント≫と≪門ばんのぼう≫を始めとして作り上げた簡易テントを軽くなでる。

 

 ありがとう四代目、お陰様で風邪をひくことなく生活できました。こんな使い方をするのは多分俺だけだと思いますが感謝しています。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(そんなことは置いといて)

 

 

 

 

 

 さて、テントも片づけ近くに街か村があればいいなぁと思いアイテムストレージを覗く。修行中、素振りに使った≪木刀≫をストレージに戻し新たに≪あまのはばおり≫と≪九尾のかたびら≫を取り出し身に着ける。

 

 それぞれ、動物に大ダメージを与える能力と忍術に耐性がつく効力を備えている。少し前に、目尺で五十センチ位のヒルと毒蛇に襲われかけてから野生動物に対して警戒をしている。

 

 ヒルは動きが鈍かったので木刀を使い叩きのめして退けることができたが、毒蛇は完全にこちらを餌だと思って攻撃してきたため、あまのはばおりを使用して一刀両断したのである。

 

 初めての殺傷、動物であったことが唯一の救いだが、あの骨肉を斬る嫌な感触は此処が漫画やゲームの世界ではないことを改めて痛感させられた。

 

 

 そんなこともあり、俺の野生動物並びに忍者含める原住民には深い警戒心が芽生えたのである。とはいえ、いきなり襲い掛かって来たりしない限りはこちらからは手を出さないつもりではあるのだが。

 

 

 

 準備完了、忘れ物なし、さあ出発だ。あれから一か月、居ないとは思うが忍び達には注意しながら移動しよう。こうして俺は初めてのキャンプ生活?を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリップ当初、俺が居たのは森である。それも湿地帯と呼ばれるタイプのじめじめとした一年中雨が降っているのではないかと錯覚させるような薄い霧に包まれた森である。

 

 

 いきなり悟りを開いた様な語りに、一体何が言いたいのかと思ったことだろう。ひとこと言わせてもらおう。迷った。

 

 そう、俺は齢(よわい)二十八にして迷子になってしまったのである。まぁ元より迷子みたいなものだろう等という野暮なことは言うまい。

 

 考えてみればすぐにわかることだった。俺はこの世界のことなぞ、生まれたての赤子並みに知らないのだから。

 

 大まかな国の位置や原作で言う≪サスケ≫の里抜け位までの物語しか知りえていない俺が、近隣の村や街、隠れ里がどこにあるのかなど知る由もないのだ。

 

 

 くそぅ、こんなことならばやはり≪助っ人≫にするべきだったか……?いや、しかし裏切りは怖い。などと、今更意味のない問答を一人繰り広げる。

 

 歩き続けて既に三日ほど経過している。そろそろ、屋根のちゃんとしたところで休みたいものだと思うのも仕方のないことだと思う。

 

 俯きがちだった俺は足元から目を上げると、辺りを包む森が途切れている事に気が付いた。これは、街道に近いんじゃあなかろうか?と小躍りしたい気分を抑え込み、足早にその場を駆け出す。

 

 

 

 

 森を抜けると踏み鳴らされ剥げた地面に轍が所々に残っていることから街道だと思われる道を発見することができた。街か村が近いことを予見させる。

 

 道は東西に別れており北の森から来た俺は当然又しても迷うことになる。西か、それとも東かどちらが正解なのかと数瞬悩んだが、とりあえず西へと行けば港町位にはたどり着けて船を使えれば火の国か、波の国位にはたどり着けるんじゃあなかろうか。

 

 というか、ゲームの地図なんて有ってないようなものだし多分西であっている筈だ、恐らくきっとめいびー。

 

 

 

 そうと決まればさっそく行動。ストレージから≪しっぷう丸≫を取り出し飲み込む、しっぷう丸は使用者の素早さを一時的に二倍するというとんでも能力を持つアイテムだ。

 

 

 最初からなぜこれを使わなかったのか?というとだ、俺の身体スペックが先の修行のおかげで上がりに上がってしまったせいで一度試してみたところ、駆け足程度で移動した筈が気が付いたら木に激突していた。なんて事が起こってしまったため、森でなんぞ恐ろしくて使えるかっ!となった次第である。

 

 加えて、あの女(俺に能力を付けた神)がアイテムの効力を三倍増しにしたおかげで食べ物以外のほとんどがかなり危険なものになってしまったのだ。そんな愚痴は横に置き、ロケットダッシュの要領で手を地に着け腰を上げる。

 

 

 

位置について、よーい、ドンっ

 

 

 

瞬間、轟っという音を置き去りにし俺は風になった。早い速い疾い、びゅんびゅんと周りの光景が後ろへと流れていく。水たまりを飛び越えながらも走り続けた。

 

 

 

 

 どれほどの間走ったのだろうか、数分か、あるいは数十秒か、みるみるうちに遥か遠くのほうにあった建物群らしきものが近づいてくる。もとい、俺が近づいていく。

 

 このままの速度で行けばまず間違いなく、かまいたちに似た強烈な風が街を襲うことになるだろうと予測し減速をし始める。段々と緩やかになっていく歩幅に一安心しつつ街までの残り道をゆっくりと歩いていく。

 

 

 

 つ、着いた……やったよ、俺。本当によくやった、俺。ようやっとまともな屋根がある部屋で休めるぞ、俺っ!

 

 意気揚々と街を眺めているとふと、頭に黄色い何かがよぎる。即ちそれはお金。英語で言えばマネー。そう言えば俺、金持ってないよねっと。

 

 

 ぁああああああああっ!どうすんだよ金無かったら宿屋に泊まれないのは勿論の事ながら飯すら食えない事になる。それは非常にまずい。この一か月間、今まで食べてきたモノは全て仮想の倉庫であるストレージから取り出せる握り飯やらカップ麺やらの手の全く込んでいない代物ばかりだったのだ。

 いい加減に味噌汁とか肉とか食べたくて仕方なく街までやってきたというのに肝心の金が無いなんて一体どうすれば良いんだ。どうすんだよ、やべぇよ。死活問題だよ。

 

 

 

 

 

……なんてことにはならない。俺に考えがある。とは言っても、アイテムストレージから食べ物とかを売るだけなんだけれども。

 

 

 市場の平均的な価格をメモしてそれの二割減した価格で提供すれば、元手がかからない分俺の売る物でも売れるはずだ。

 

 役職としては流れの行商人といったところか?しかし、信用や信頼がないからそれでも売れるかは微妙と言わざるを得ないが。それに加えて荷車がないと怪しまれるかもしれん。…………まぁ、いざとなれば忍者崩れの商人だと言い張れば何とかなるはずだと気合を入れ活気のある中心部へと移動する。

 

 

 

 

 



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3 商売繁盛なるか?そして、新たなる決意

注意※今話並びに次話にかけて厨二臭(体がむず痒くなったり、人によっては吐き気を催す場合もある)のする描写がございます。※

気分を損なわれる可能性が無きにしも非ずなので、十分に御気を付けてご覧下さい。

尚、気分を損なう事を恐れる方々にはブラウザバックを推奨させていただきます。



NARUTO~行商人珍道中~

 

3 商売繁盛なるか?そして、新たなる決意

 

 

 

 

 さて、活気ある街の中心部へと移動したわけだが、はてさて市場の価格は如何ほどのものかな?先ずは八百屋から見て回るか、ええと、何々大根が百五十両にキャベツが二百両、人参玉ねぎジャガイモがそれぞれ五十両っと、そういえばNARUTO世界って時代背景が不明なんだよな……加えて一両が日本でいうところの一円と同等だったような気がするし。

 それにしては、ゲームで≪小太刀≫が六百両で買えちゃったりしてアレ?っと思うことがあったのだけれども。あの価格は絶対におかしいよなぁ。

 

 

 不審がられないように大まかなメモを取りつつ、次の店へと移動する。隣はアクセサリー店かな?貝殻のネックレス?みたいなものとか、シンプルな装飾品各種にリストバンド……メモメモっと。

 

 うーん、まぁここまでは許容範囲以内かな。次いこう次、武器屋崩れのよろず屋かな?茣蓙の上にクナイとかの一般人でも使えそうな忍具や白紙の巻物に、携帯食料、ベストがマネキンに掛けられて置かれている。

 

 これは、特に重要だ。多少怪しまれてもいいから片っ端からメモを取る。その後、宿屋、甘味どころ、御茶屋、本屋、花屋等も一応見て回りそれぞれある程度メモを取ってきた。

 

 宿屋の価格が目下の問題である。安いところで八十両、ホテルのようなところは千両超えとかなりのバラつきがあった。一般的な宿屋は百五十から三百位が目安となるだろう。

 

 

 小耳に挟んだ街人の話では上納金の存在が無いという驚くべき話を聞いてしまった。どこぞの商会に売り上げの何割かを持って行かねば成らないと覚悟してはいたのだが、まさか≪楽市楽座≫を行っているとは予想だにしていなかった。

 噂によればここら一帯を取り仕切る大名様の施策で楽市楽座を取り入れたような商売システムを試験的に行っているらしく、税を払わなくてもいいということで流れの商人が多く集まる街なのだそうだ。これのおかげで、この街は他の街よりも発展し、懐具合も潤っているようだ。

 

 

 

 大方のメモ取りや市場調査を終えた俺は空きスペースを今現在探している。人通りが良い所は既にそのほとんどが露店商人らに埋め尽くされており、店を広げられるとしても狭く置き場があまり無い場所しか残っていないためである。

 

 

 

 

 ここなんてどうだろうか?スペースはあまり広くはないが中々に人通りがある場所だ。さて、場所は決まった。後は茣蓙に商品を陳列するのみだ。しかしここまで、人通りが多いとあからさまな能力の行使はしづらいな。

 

 

……そうだ、アノ手を使おう。

 

 

 たしか、俺の記憶が正しければ巻物から忍具やら何やらを取り出して使っていた様な描写が有ったはずだ。カムフラージュとして、巻物を手にしながらいかにも巻物の中から取り出した様に見せれば、能力の使用はある程度隠せる筈だ。

 

 この手を使えば、多少不思議がられはするだろうがいきなり手のひらに物が現れるより、幾分かはましと言えるだろう。そうと決まれば、早速実践しようじゃあないか。

 

 

 

 

 能力について修行していて最近分かったことがある。

 

 トリップ初日のA4紙に事細かく書かれ制約として設けられあった、声に出して取り出す動作が修行のおかげか≪出てこいと念じる≫だけで出現するようになってきたのである。このことから察するにこの能力にも熟練度のようなものが存在する可能性が出てきた。

 

 これのおかげで物を取り出す際にわざわざ声に出さなくて済み、戦闘や生活により便利な能力へと変貌したのだ。それと、武器・防具についてだが、これらはあくまでもゲーム内の≪こうげき力≫と≪ぼうぎょ力≫を参照しているらしい。しかし、付属効果については別らしく、他のアイテムと同じく三倍増しになっているようだ。

 

 

 長々とした説明を終え、再び≪四代目のマント≫を今度は茣蓙として敷き詰める。毎度、感謝しております。四代目様。貴方様のおかげでわたくしは商いをすることができます。亡き四代目火影に冥福を祈り、茣蓙となったマントの上にどかりと腰を下ろす。

 

 

 その後、商品として売り出してもよさそうなものを片っ端から探し出し、見本として一品ずつ置いていく。

 

≪カップラーメン≫≪おかしのつめあわせ ≫≪カラクリ(飲料水)≫≪酢コンブ≫≪HAPPYゴーグル≫≪水ふうせん≫≪てぬぐい≫≪リストバンド≫≪ぶき大ぜんしゅう≫≪バラのはなたば ≫≪はちうえさいばいキット ≫等など統一性は全くないが兎に角、売れそうなものを客が見やすいように気を使い置いていく。

 

 

 当然、売れなければ困るので、価格は一部を除きそれぞれの店で売っていた値札を平均化して二割減した価格で提供しようと考えている。

 

 

 次に、忍者用品兼自衛用品として、≪木刀≫≪忍刀(しのびがたな)≫や≪てっせん≫≪クナイ≫≪手裏剣≫≪千本≫マネキンに≪金らんの胴丸≫と≪鉄ビョウの脚絆≫を着せたものを配置しておく。

 

 

 それと、裏(大人男性向けプラスアルファ)商品として≪綱手のしゃしん≫≪四代目のブロマイド ≫≪三忍のブロマイド≫≪ガイのブロマイド≫≪イチャイチャパラダイス上・中・下≫≪イチャイチャパラダイス(総集本)≫≪イチャイチャバイオレンス≫≪イチャイチャライセンス≫≪イチャパラSLG(シュミレーションゲーム)≫≪イチャパラストラップ≫≪イチャパラDVD≫等を執筆なさった、またはなさることになる。かの著名な≪自来也≫氏がお書きになられたイチャイチャシリーズもメニュー表の隅に小さな文字で書き込んでおく。

 

 これらは現在の時間軸が不明瞭なため、あまり売りに出したくはないのだが、いかんせん今の俺には金が必要なので、何か問題が起きてしまった場合それもやむなしとして受け止めることとしよう。それに、これらに関しては殆ど市場に表立って出回らないような代物だと勝手に解釈しているので価格を最高値にしてこの場限りの限定販売とする事に決めたのだ。

 

 

 さて、準備は整い後は呼子をするのみとなった。これより、俺の長い行商人人生が始まるのだ。それでは、大きな声で、いらっしゃいませーっ!いい品置いてますよー!ちょっと見ていかれませんかー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやー儲かった儲かった。余は満足じゃ、はっはっはっ、と思わず殿様気分になってしまうほどに儲かりに儲かった。まさか、ああも飛ぶように物が売れるとは思わなかった。あれほど、どんどことアイテムを取り出したのはトリップ初日以来初めてのことだろう。

 

 初めはぽつりぽつりとまばらに足を止めた客だったのが、巻物から取り出す動作も相まってか、大道芸かなにかかと周囲に人が集まって人垣ができたのも原因の一つだろうと思う。調子に乗って能力を使用したインチキ手品をした事も一因になっているだろうが。いずれにせよ、金がかなり儲かった事は事実だ。

 

≪元手が掛らないからマイナスの値に行くことはない≫というのはかなりの強みである。

 

 それにしても思ったより、裏メニューに気が付く男性陣が多く驚いた。女性陣もそれなりにいたが。彼らのおかげで必要となっていた宿屋代の百両を瞬く間に集めることができ、尚且つ当面は商売をすることなく豪遊することさえ、できそうな位には集まった。

 

 それにしても、意外と人気があるんだな……若いころの綱手姫。いや、まぁスタイル抜群だし顔も良い。金糸の様に流れる長髪金髪美人に見惚れるのも無理はない。性格と酒癖、ギャンブル癖さえなければ本当に完璧な美人だものな。見ている分には見目麗しい女性だわな。家柄も火影様の孫とか高嶺の花そのものだしな。

 

 

 四代目のブロマイドも概ね盛況で金髪イケメンの爽やか笑顔に胸を射抜かれた女性陣が多数出没し、もっと別の写真はないのか、この殿方はどこのどなたなのですかっ!?と鬼気迫る表情で詰め寄られ辟易した次第である。

 

 

 しかし、本当に驚いたのは奴のブロマイドである。ガイ。なぜか、オカマ連中に好かれ大量に買われていった彼の写真。果たしてどの様な末路をたどるのであろうか。

さぶいぼが立ってきたのでこれ以上考えるのはやめておこう。

 

 俺は、心底祈りたくもない冥福を祈りつつ合掌しておいた。安らかに眠れ。オカマと共に。自来也氏のブロマイドは……うん、余りに売れずに哀れだったからイチャイチャシリーズの購入者におまけとしてつけておいた。っと、余計な話は置いておき、今回の儲け分の集計をしようと思う。

 

 

 携帯食料・お菓子、嗜好品各種の集計額は十五万七千両。これは、現代日本でも行われている。≪たたき売り≫を使ったものだ。

 

 適当な詰め合わせセットを作成して、セット価格として若干安めにして投げ売りのような形で売りに出した。結果は言わずもがな、女・子どもに大反響でこれは大成功だったといえるだろう。

 

 

 

 次に、ゴーグルなどの雑貨用品。これらはある程度は売れたがあまり客足は多くなかった。集計額は四千五百両と少し。少々低目な理由は顧客がたたき売りのせいでか、客層が低くなりがちなために起こった問題だ。次回、たたき売りをする際は少し控えめにしようかと思う。

 

 

 お次は、忍者用品兼自衛用品である。これはそこそこに売れはしたが、ほぼ予想通りの集金となった。集計額は十六万四千両と少しである。大体、二十万両程度儲かればいいなと思っていたが許容範囲以内である。

 

 忍具に余り関心がないのか、珍しがって買っていく者や如何にもヤの付く自営業の方が忍刀を買いたいと言われた時は思わず肝を冷やした。丁重に接客をこなしたおかげか、早々に帰っていただけて本当に助かった。

 

 

 

 

 さて、ラストだ。裏メニューの集計に移ろうと思う。先にも、言った通り予想をはるかに上回った男性陣がこぞって買いあさった十八禁のイチャイチャシリーズ並びに綱手姫の写真はこれまた飛ぶように売れた。

 

 買っていった男性陣が知人友人にも教えたのか、どんどんと≪ネズミ講≫並みに増え続け、中には各種三冊や複数枚の写真を買っていく猛者もいた。どこの世界にもコレクター(収集家)ってのは居るもんだなと何故かしんみりと思うことになった。

 

 男ってやつはいつまでたってもバカなんだぜ……。と若干ブルーな気分になりつつも、意気揚々とスキップしながら帰っていく男たちを白い目で見つめていた女性陣に男性陣の近い将来に起こるであろう惨状を憂いた。

 

 貴女たちも人のことをとやかく言えないじゃないですか。と思わず口から声が出そうになり、慌てて口を噤むことができて本当に良かったと思う。

 

 

 

 

 さて、気を取り直して、集計に移ろうと思う。集計額はダントツの一位。聞いて驚け、なんと九十四万五千両である。いや、どんだけ売れたらこんな金額になるんだよっ!と聞かれそうであるから先に説明しておくと。

 

 イチャイチャシリーズ一巻につき約五千両で販売することにしていたので軽く百冊以上売れた計算になる。とはいえ、流石に本一冊に五千両も出す者は少なかったため、とあるテレビ番組を思い出し、≪イチャイチャ九種類お得セット≫で買うならば通常の三割引きの価格で販売するジャ〇ネット方式で売りにかけた。

 

 希少価値が高いことも有ったのか、市場に出回っていないらしく皆、珍しがって飛ぶように売れたのだ。それに加え、綱手姫の写真や四代目のブロマイド、予想に反してガイのブロマイドも数えるのも億劫な位の量を売り払ったのでこのとんでもない額を一日にして荒稼ぎしてしまったのだ。

 

 まぁ、元手が全くかからない分、売れば売るほどそれが純利益につながるのだから、この結果はある意味では当然と言えるだろう。

 

 いやぁそれにしても男性陣並びに女性陣の皆様そして、オカマの皆様。お買い上げ誠にありがとうございます。お陰様でわたくしの懐具合はかなり潤っております。

 

 まさに、笑いが止まらないとはこのことですな。わははっ。しかし、油断や慢心は危険だ。と気を引き締める。それでも緩む心を抱えて今日の宿へと歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲は既に夕刻時である。太陽が山の背へと差し掛かり、じきに夜になろうかという時間帯、俺は露店を切り上げ悠々と宿屋への道のりを歩いていた。ふと、何かが視界の隅に見えたのでわき道へと視線を見やると暗がりに誰かが倒れているのを発見する。

 

 

 ははーん、さては酒でも飲んで酔いつぶれたか?と気分が乗りに乗って調子付き、緩みに緩んでいた俺は親切心から暗がりへと身を遣った。陰で頭部だけしか見えなかった人物が近づくにつれて段々と明瞭に見えてくる。と同時、俺はその人物に急ぎ駆け寄った。

 

 

 

 

 

 倒れていたのは四、五歳程度のガキだった。ひどく衰弱しており、衣服は彼方此方すり切れ、長い間散髪していないのか髪は伸びに伸びきり煤と埃に汚れていた。薄く消え入りそうな吐息は浅く、風邪か何らかの病気を患っているのか熱を帯びてぐったりとしている。

 

 正直、この子どもの姿は恐ろしい、そして同時に憐れだ。嫌悪の念すら抱くほどに。現代日本に住んでいた俺からすればこれほどまでに汚らしく衰弱しきっている子どもなど見るはずもなく。いや、元の世界中をくまなく探せばこれよりも酷い状態の子どもを見つけることが出来るかも知れないのだが。

 

 俺自身、直接これほど迄の劣悪な状態のガキを見るのは初めてのことだった。それほどまでに弱り切った子どもを初めて、見てしまった。見つけてしまった。知ってしまった。

 

 

 

 体中を筆舌しがたい熱い何かが駆け巡る。行き場をなくした感情が胸を早鐘のように激しく打ち鳴らす。今にも、死んでしまいそうな、苦痛に表情をゆがめる子どもに、己が如何に恵まれた環境にいたのかを様々と見せつけられる。

 

 分かってはいた。いいや、分かっていたつもりだった。というのが正解か。

 

 

 この世界はNARUTOの平行世界だ。あくまでそれは大本となる根底がNARUTOの世界というだけで、これはれっきとした現実だったのだ。それをあたかも傍観者にでもなったつもりでのうのうと過ごして居たのかもしれない。

 

 

 不本意ながらテンプレ神と呼ばれる神様に出会い能力をつけられトリップをし、今の今までうまくいき過ぎていたことで俺はこの世界はまだ、他の漫画やゲームの様に人死にが起こらない、いや例え起きたとしても原作主人公たちの周囲のみのことであって、俺の周りではそんなものは起こらないと心の片隅で甘い考えをしていたのかもしれない。

 

 

 

 俺がこの子をこんな風にしたわけではない。この子みたいな子どもがいることなど知らなかった。見て見ぬふりをすればいい。……少し考えれば言い訳はいくらでも出てきた。だがしかし、それで本当に良いのだろうか?

 

 今ここで、知らない振りをすれば、俺はいつの日かきっと後悔するんじゃないだろうか。諦める。見て見ぬふりをする。という行動は一種の毒だ。自分には出来ない。自信が無いから。とやろうとする前から諦めて辞めてしまう。ただの一度でもそれを犯してしまうとその後も何かと言い訳を見つけてそれを盾にやろうとはせずに終えてしまう。……過去の俺は少なからずそうだった。

 

 勉強など別にやらなくても生きていける等と息巻き。甘く、愚かな考えで楽観的に過ごしてしまい、後々の卒業間近になってから、嗚呼、もっと勉強しておけば良かった。と後悔をしたのだ。

 

……本当に、それでも良いのか。俺。それでは、過去の俺と全く同じじゃないか。

 

 

 作中で語られた≪物語≫はあくまでも物語でしかない。極端に言ってしまえば主人公たちの心や体を強化するイベントでしかないのだ。

 

 敵を殺すことの意味。護るという事の意味を知る。友人、恩人との出会いと別れ、裏切り、自身の住む街の崩壊とそれに伴う感情の変化。

 

 さまざまな出来事を乗り越え心も体も絆も共に強くなっていく。彼らの舞台装置でしかない脇役はこうやって、ひっそりと消えていく、死んでいく。ひょっとしたら、その中に俺も含まれているのかもしれない。

 

 

…………そんなのは、あんまりだ。例えそれが、彼らが謳う最善の行動の結果なのだとしても。

 

 

 

 

 

 

 

――――死なせはしない。俺の手の届く範囲に助けられる命があるとするのなら。仮初の力だろうがなんだろうが使ってやる。たとえ、それがどんな命だろうと失って良い筈は無いのだから。

 

 

 

 この世界に来てからずっと、心のどこかで燻っていたのかもしれない。現実では到底なりえない、時代遅れだと時に囁かれる。英雄(ヒーロー)達の様になってみたいと。

 

 幼い頃、夢描いた。助けを求める誰かを人知れず救っている彼らのように。己惚れるなと、たかが一人で何ができると笑いたければ笑うがいい。貶したければ、虚仮にしたければ勝手にしていろ。

 

 

 俺には力がある。この世界の異分子たる俺には。それも、とびっきりの反則(チート)がだ。脇役の一人や二人いや、十人や百人救ってやろうじゃないかっ!

 

 

――――最初の一人目はお前だ。まずは、お前を救ってやる。だから、死ぬなよ。ガキ。

 

 

 



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4 倒れた者と俺の出会い

NARUTO~行商人珍道中~

 

4 倒れた者と俺の出会い

 

 

 

 

 決意を新たにした後、倒れた子どもに≪ちょうぜつ印の万能丸≫を無理やり飲ませ、なんとか衰弱状態から脱させることができた。しかしそれでもなお、幼い体に熱を帯びぼんやりとしている子どもを路地裏にそのまま放置するわけにもいかず、泊まろうと思って目をつけていた宿屋まで背負っていったのだが。

 

 

 背負った子どもの身なりを見るなり、門前払いをくらわされ、彼方此方走り回った結果。ボロボロで隙間風すらする安い宿屋に宿泊することになった。

 

 ベッドは固くとてもじゃないが、安眠できるとは思わなかったので深い眠りについている子どもを寝かせ≪てぬぐい≫を取り出し、同じく取り出した≪カラクリ≫の水を使って濡れタオルを作成し、額へと置く。暖を取らせるため掛け布団として≪四代目のマント≫を複数枚重ねて被せる。

 

 

 自身は四代目のマントと≪暁のマント≫とを重ね合わせた即席の布団を作成し床に敷き眠りについた。四代目並びに暁の皆様方、あなた方の御力、有りがたく拝借させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が窓の隙間から差し込み始めたころ、俺は微睡みから目覚めた。大きな欠伸を一つしながら凝り固まった体を伸ばしてほぐす。

 

 

 今日も一日頑張ろうと、顔を勢いよくはたき気合を入れる。ふと、ベッドの方を見やると訝しげな表情を浮かべた子どもが一人。

 

 

 とりあえず、コミュニケーションの基本は挨拶だと思い。「おはよう」と安心させるように声をかける。返答は口ごもって聞き取りづらかったが、か細い声で「っはよぅ」と返してくれた。

 

 さて、どうやってこの子どもに説明しようか。理解力を五歳児に求めるのは酷だろうし。なるべく分かり易い説明をしなければならないな。と一人意気込む。

 

「あー、とりあえず自己紹介しないか?」

 

 そう、まずは自己紹介から始めよう。名前が分からなければ、呼び方が、おいとかお前とかだと冷たい言葉になってしまい、恐怖心を煽る事に繋がってしまうだろうし、何よりそんな呼び方はあんまりだと思う。

 

 というわけでだ、まずは自己紹介、時点で好きなものとかを話して甘味を食べさせて心を開いてもらう。餌付けするみたいであまり気が進まないがそんなことは言っていられない。続いて、この場に居る理由を砕いて説明した後、親や兄弟等の家族に関してできる限り話してもらう。

 

 最後に、帰る場所が有るのなら、そこまで送り届けるように便宜を図る。もし、いやこの場合高確率で当たりそうな口減らしもしくは、親が戦争やらで亡くなっている場合の可能性もあるという事もこの世界の根底からして予想しておくべきだ。

 

 常に最悪の状況を想定しているべき。そう、昔の偉人は言った。俺もそれに倣うわけではないが、一応そんなことも有るだろうと頭の片隅に常に置いておこうと思っている。

 

「じゃあ、まずは俺から、俺の名前はアマミヤ。好きなものは読書かな、キミの名前は?」

 

 できる限り、やさしい声で目線をかがみ込んで合わせながら反応を待つ。

 

「……くは、ゅきか、っはくでっ」

 

 長い間、話さなかったのが原因だろうとあたりをつけ。声がか細く小さかったため名前らしく聞こえたのは、ユキとハクという言葉のみであった。自分の声が余りにか細く弱弱しいことに動揺しているハク(暫定)に大丈夫だと言い。ゆっくりでいいから、もう一度いってごらんと声をかける。

 

 

「ぼくは、ゆきかぜはくです」

 

 幾度も繰り返しそのたびに段々と声がしっかりとしたものへと変わり、ついには拙いながらも名前を言うことができた。よくできました。の声と共に赤子をあやすよう、やさしくゆっくりと頭を撫でる。

 

 見知らぬ場所に加え、見知らぬ男に突然出会い緊張していた、ハクは次第に体を震わせ嗚咽を漏らしだした。ハクが泣き止むまで頭をゆっくりと撫で続ける。

 

 もう大丈夫だと、怖いものはもうどこにも有りはしないと声を続けてかけていく。その言葉たちがハクの琴線に触れたのか、小さく漏らしていた泣き声は次第に大きくなり、部屋中を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、落ち着いたか?」

 

 先ほどより幾分かましになりながらも未だしゃくりを上げるハクに大丈夫かと問う。

 

「っひく、はぃ、だいじょうぶです。いきなり泣き出してごめんなさい」

 

 頭を下げようとするハクに、待ったと言って押しとどめる。

 

「腹へってないか?減っているのならこれでも食べると良い」

 

 そう言いながら、ストレージから取り出した、≪白玉あんみつ≫を手渡す。

 

「腹が減ってると、悪いほうへ悪いほうへと考えが暗くなるからな。それでも食べて元気を出せ」

 

 突然差し出された餡蜜に驚きの表情を浮かべるハクに思わず笑ってしまった。

 

「そんな表情(かお)もできるんだな。安心したよ。さっきから、泣き顔と今にも死にそうな顔しか見てなかったからな。」

 

 俺の言に顔を上気させ頬を赤く染め、俯くハク。

 

「いや、済まなかった。今の発言は無神経だったな。悪い、許してくれ。」

 

 

 俺が頭を下げようとすると、先ほど部屋中を包んだ鳴き声よりも大きな声でそんなことはないっと否定の言葉を投げかけられた。

 

 

「そ、そんなことは、ないよ、おじさんは、ボクをたすけてくれたんでしょ?ボク、しってるよ。おじさんがおくすりを飲ませてくれたこと。おんぶしてこの宿まで走り回ってくれたこと。ぜんぶは聞き取れなかったけど、でもっ、ボクをたすけてくれたのはおじさんだよっ!だからっ、だから……ありがとう。」

 

 吠えるように、金切り声に近い大声を上げるハクに俺は感謝した。

……ありがとう。その一言だけで俺がこの子を助けたかいがあった。どうして、あのまま死なせてくれなかったのかなんて言葉を言われる覚悟もしていた。それゆえに俺はハクに深く深く感謝した。

 

「ありがとうは、俺の台詞だ。生きていてくれてありがとう。生きようとしてくれてありがとう。……キミがもし、生きることを諦めていたら、きっとキミは助からなかっただろう。これは冗談でも何でもない。キミ自身の意思で勝ち取った生だよ。俺はキミの手助けをしただけさ。だから、感謝するのは俺の方だ。ありがとう。」

 

 自然と俺の頬をつぅっと涙が伝っていくのを感じた。あぁ、俺はまず一人、救うことができたんだ。仮初の力ではあるけれど、人を一人救うことができた。

 

 これほどにうれしいことはない。俺にも救うことが出来たんだと。安堵するとともに張りつめていた心と肩の荷が降りるような気がした。

 

 

 

 

 ハクがベットから身を乗り出し、こちらに手を差し出してきた。病的なまでに白く幼いほっそりとした腕だ。白魚のような指と表現してもいいくらいに美しく、触れてしまえば壊れてしまうような陶磁器を彷彿とさせる。それは次第に俺の目元へと向かい、流れ続ける涙をせき止めるようにして置かれた。

 

「おじさん、どこか痛いの?」

 

 突然に泣き出した俺に困惑の表情を浮かべ、片方の手で先ほど俺がしたように頭をゆっくりと撫でられる。情けないなぁ……あぁ、情けない。

 

 こんな子どもに気を使われるだなんて本当に情けない。でも、もう少しだけ、キミの温もりを感じていてもいいかな?ハク。

 

 声には出さず、やさしく撫でられることを享受する。

 

 

 

 

 

 暫くして、俺の涙も止まった。ほんとうにだいじょうぶ?と尋ねてくるハクに、少し目にゴミが入っただけだと苦しい言い訳をして話を元に戻す。

 

 

「キミを助けたのは確かに俺だ。とは言え、薬を飲ませてこの宿まで運び、多少の看病をしただけだが。それで、ハク、一つキミに聞きたいことがある。ご両親や兄弟はどうした?なぜ、あんなところに倒れていたんだ?」

 

 助けたのが俺と聞いて喜びの笑みを浮かべる。しかし、俺が続けて家族の話をすると次第にハクは表情を曇らせていき、ぶんぶんっと首を激しく横に振り始める。

 

 言いたくない、ようだな。こうなることも一応は予想していた。恐らくは、考えうる最悪のパターンがくる可能性も大いに有るだろう。

 

「言いたくないのなら、言わなくてもいい。俺の事が信用できないのも無理はない。それに、無理に聞き出そうとしてもキミを傷つけるだけだろうしね。」

 

 俺の予想が正しければ、捨て子の可能性が一番高い。あのような所に倒れて動けない状態だったのだ。着た切り雀で一体どれ程の間生活していたのか、髪も服も皺やシミ、汚れや擦り切れが目立つ。

 

 なれば、わざわざ昔の話を掘り返すのもハクに悪い。親に捨てられた。あるいは親が亡くなってしまった。ことを思い出させるのは五歳児にとってストレスにしかならないし、せっかく助けることができた命が不要な事をしてしまい危険に晒してしまえば俺がしたことの意味がなくなってしまう。

 

 ハクは少し、考え込むような姿勢をし、ぽつりと呟いた。ごめんなさい。と、その言葉は一体何に対してのごめんなさいだったのか、純粋に深く問い詰めなかったことに対して言ったのか。それとも……俺ではない、別の誰かへと向けたものなのか。

 

 多少の疑惑を抱えながらも、流石にいつまでもすり切れてボロボロになった着物を着させているのは忍びないという考えに至った。

 

「よしっ、買い物にいこうか?ハク。」

 

 またしても、突然に声を投げかけられ、きょとんと小首を傾げるハク。

 

「ええと、どうして、ボクも一緒に行くんですか?」

 

 一体どうして、買い物に付き合わされるのだろうと心底不思議に思っていそうなハクに対し、服を指さす。

 

「ハク、キミはそんな恰好でいつまでも居るつもりかい?」

 

 そんな恰好とは一体何のことだと目線を俺から外し、段々と下へ下へと下げていく。あ、っと今更に気が付いたような素っ頓狂な声を出し、見ないでくださいといって顔を赤らめ、毛布に包まる。

 

 ああ、少し意地悪だったかな。

 

「少し待ってな、何か外套的なものはあったかな?」

 ストレージを探る。……お、これなんかいいんじゃないだろうか、≪風のはごろも≫羽衣って言うくらいだから外套系の防具だと思う。

 

 うおっ!?これは流石に……というか、一人称がボクであるからして男であろうハクにこれを着せるのは如何なものかと。布地が袖と胸、下半身の一部にしか付いておらず、新手の水着か何かかと見間違えるほどに奇抜な羽衣であった。当然着せる訳にはいかないのでそっと元に戻して別の外套を探す。

 

 暫くしてこれなら何とか、着れそうだと思う≪木の葉のはごろも≫を手に取る。

 

「ほら、とりあえず今着ている着物を着替えると良い」

 

 布団にくるまりながらも、顔だけは此方に向けていたハクへと放り投げて渡す。あわわわっ、と慌てふためきながらも投げられた羽衣を受け止めようと手を広げて伸ばし、顔から受け止める。

 

「うわぁっ!綺麗な着物。おじさんこれどうしたの?」

 

「あぁ、昔ちょっとな。それより、早く着替えないと時間が勿体ないぞ」

 

 目をキラキラとさせながら聞いてくるハクに不愛想にしながら誤魔化す。

 

「これ、本当に着てもいいの?」

 

 嬉しさ半分、本当に着てもいいのかと疑う気持ちも半分にして、上目遣いをしながら此方をじっと見つめる。っ……あぁ。とこれまた情けない声で肯定する。内心、男にそれも五歳児相手に何をドギマギしているのだと己を叱咤する。

 

 後ろを向いていてほしいと言われ、その通りに後ろを向く。するすると布がこすれる音が微かにし、見ちゃだめだからねっ!と念を押されつつ着替えが終わるのを待つ。

 

 

 

 少しの間そうしていると、もういいよの一声が掛り、振り返る。そこには、一輪の黒百合が咲いていた。

 

 手櫛である程度整えたのか、長く足元までに届きそうなくらいの長い黒髪が未だ開かぬ蕾を思わせる。白をベースにし、袖と胸元は若葉色で色付けされている、木の葉模様を要所要所にあしらった羽衣が地肌の病的な白さと相まって、儚げな姿を幻視させる。

 

「どう、ですか?」

 

 不安げな、それでいて何かを期待するような声で伺い立てる。

 

「あぁ、綺麗だ。よく似合っているぞ、ハク。」

 

 似合っている。と言われ頬を赤く染め、嬉しさに口元が緩んでいるのが見て取れる。世の中、本当に男の娘なんて者が居るのだと何故か感心しつつ。

 

「でも、それだとまだ、野花だな。買い物の前に、風呂屋と床屋に行くとしよう。素材が良いんだから、生け花のように綺麗にしてもらえよ?」

 

 冗談めかして、ニヤつきそうになる自身の頬を引き締めながらも、行くべき場所が増えたことにこの後の計画を練り直していく。はいっ!と嬉しそうにハニカム顔が見れただけでもこの子を助けることが出来て良かったと改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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5 いざ、買い物へ

NARUTO~行商人珍道中~

 

5 いざ、買い物へ

 

 

 

 

 

≪木の葉のはごろも≫に着替えたハクを伴い、宿屋を後にする。まずは風呂屋だと朝日が登り切っていない街へと繰り出す。

 

 

 風呂屋に到着したが朝一から風呂に入る物好きはこの街にはいないらしく、俺たち以外の客の姿は見えず、貸し切り状態だった。この風呂屋は何でも、近くにある温泉源から直接引っ張ってきているらしく、二十四時間絶えず暖かい風呂を味わえるというのが売りの風呂屋なのだとか。……しかし、客足はそこまで多くないようである。

 

 温泉が二十四時間入り放題、実にいい響きだ。店主に挨拶し、料金を払って奥へと進む。俺自身も風呂に入るのは久しぶりのことで、この街につく前までは手拭いに水をつけ体を拭いたり、水とんの巻物をシャワー代わりに使って汗を流す程度のことしかしていなかったため。実際、かなり嬉しい。

 

 脱衣所で服を脱ぎ、手拭いを腰に巻きいざ、風呂へ。と向かおうとしたのだが、ハクが何やらもじもじとしており、一向に羽衣を脱ごうとしないので、何をしているんだと声をかけ、先に入っているぞと言い残して久方ぶりの風呂を満喫しようと高いテンションで引き戸を開いた。

 

 

 

 内装はまさにジャパニーズ銭湯と言った感じで、富士山に似た山の一枚絵に木で作られた桶にたわしと石鹸、それと広い浴槽が全てだ。早々に髪と体の汚れを洗い落とし、さっぱりとした俺は浴槽でゆったりと寛ぐこととした。

 

 

 

 

 

 

 ハクの奴遅いな。何をやっているんだ。俺が浴槽に浸かってから裕に二十分は経過しているだろう。しかし、ハクは未だに姿を現さず、えも言われぬ不安に掻き立てられる。

 

 ひょっとして、風呂に入るのは嫌だったのか?いや、しかし、ああまで汚れていてはもはや、例え風呂嫌いなのだとして無理にでも入れる事も考えねば。

 

 

 そう思いたち、浴槽から立ち上がると。ガララっと引き戸が開く音がして、ヒタヒタと軽い足音が此方に向かってくる。湯煙で薄らと見える小さな人影がハクだということを分からせる、のだが。

 

 

 

 

 

 

「ハク。お前、女の子、だったのか……?」

 

 胸を手で覆い隠し、下半身を手拭いで巻いて隠しているハク。俯きながらも己の性別にうなずき、答える。

 

「はぃ、ボクは女子(おなご)です。あの……そんなに見ないでください」

 

 顔を赤らめ恥ずかしさ故にか体を時折捩じらせる。その姿は俺のような汚れた大人が見るには居た堪れなくなる。かつ肢体を布一枚を隔てて恥ずかしげにする仕草はその筋の人から見れば垂涎ものであろう。

 

 

 

 

 

……なんてことだ。いや、まて、少し考えてみれば分かることだろう俺。なぜ気が付かなかったっ。というか、あの時泣き出したのはそういう意味合いも有ったっていうことなのかっ!?

 

 まて、待て待て待て。初めに言っておくぞ、俺は何もしていないからな。いや、正確に言えば。倒れていた所に薬を飲ませて、宿屋まで背負って運んでベッドに寝かせただけだからっ……ってこの説明の仕方じゃあ完全に変態じゃないかっ!?

 

 まて、落ち着け俺。何も悪いことはしていない。それにだ、いくら独身生活が長かったとはいえ五歳児相手に情欲を掻き立てるほどの精神は持ち合わせていないぞ。大丈夫、俺はロリータコンプレックス等という感情は到底持ち得ていないのだから。一人、赤くなったり青くなったり百面相する俺を怪訝な表情でじぃっと見つめるハク。

 

「と、ところで、ハク。風呂に入る前は体の汚れを落とさなければならないのは知ってるよな?」

 

 若干というか、かなり焦っている俺は上ずった声を出しながらハクへと問う。

 

「ぅん、そ、それでね、おじさん。……ボクまだ髪の毛を上手く洗えないんだ。だっ、だからね、もし良ければなんだけど。お、おじさんが洗ってくれないかな?お願いっ」

 

 恥ずかしげに、それでいて懇願するように顔の前で手を合わせながら、かわいらしく。≪お願い≫をされてしまった俺は、断るにも断れなくなってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 女の子と分かってしまったからには、それ相応の髪の洗い方なんてものが有るのだろうが、生憎と女性とそこまで深い付き合いが有ったわけではない俺にそんな洗い方など知る由もなく、なるべく優しく、爪を立てないように洗っていく。

 

 どうやら、ハクは泡が目に入らないようにギュッと目を瞑っているようだ。痒いところはないかとか、痛くは無いかと聞きながら、汚れているところを重点的に洗ってやる。暫くして、長い髪を洗い終える。泡で真っ白になっている髪にお湯、掛けるぞ。と一声かけて泡を洗い流す様に頭のてっぺんから掛けていく。

 

 

 

 その後、体の方は自分で洗えよと言い残し、急ぎ足で脱皮のごとく浴槽へと駆け寄りダイブした。他に客も居ないためマナーが悪いことは許してもらいたい。

 

「はぁ~癒される。風呂は心の洗濯だとは良く言ったものだな。」

 

 等と、慣れないことをして、凝り固まった肩と腕をもみほぐしながら、呟く。すると、ちゃぷんという音とともに体を洗い終えたハクが浴槽へと入ってくるのが見えた。

 

「ずいぶんと、小奇麗になったものだ。」

 

「はい、おじさんに髪も洗って貰いましたし、本当は体の方も洗ってほしかったのですが……。綺麗になりましたよっ、おじさん。」

 

「それはよかった。しかしだ、体は簡単に男に許しちゃいけないよ。それは本当に≪好き≫になった人にだけ許してあげるんだ。分かったかい?」

 

「ぇ?でも、おじさんの事、ボクは好きだよ。」

 

「あぁ、その気持ちはとても嬉しいが、ハク。キミのそれは俺の言っている≪好き≫じゃあないんだ。ハクがもう少し、大人になれば分かるはずだから、それまでは誰にも体を許しちゃいけないよ。勿論、おじさんにもだ。約束出来るかい?」

 

「ぅ、うん。分かった。……でも、髪の毛は洗ってくれるよね?ボク、まだ、一人じゃ洗えないから。」

 

「あぁ、それくらいならいつでもやってやるさ。」

 

 不安と疑問とが織り交ざる表情をしながらも俺が髪の毛を洗うと約束しただけで、ハクは満面の笑顔に表情を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久方ぶりの風呂を満喫した俺とハクは風呂屋を後にして、今度は床屋へと足を向けた。床屋では、とりあえず伸びに伸びきった、足元にまで届きそうなくらいの黒髪を背中あたりまでにカットしてもらい、前髪もだいぶ伸びていたのでこれまた目に入らないように、自然にカットしてもらった。

 

「これで、いかがかしら?素材が良かったから、この子に合う髪型選ぶのに時間かかったわ。」

 

「あぁ、ハク。どうだ、他に要望はあるか?」

 

「はい、これくらいで丁度いいです。」

 

「ん、じゃあ、勘定して次行くとしますか。」

 

 そう言いながら、店主に会計を頼む。

 

「あら、そういえば、貴方どこかで見たことがあると思ったら。昨日ここらで露天商してた人じゃない?」

 

「ん。まぁ、そうだが。それがどうかしたか?何か入り用か?」

 

 

「ええ。彼の写真。まだあるかしら?ほら、あの太眉毛の。目が凛々しくて……はぁはぁ」

 

 太い眉毛?凛々しい目?っガイの事かっ!でも、一体全体あんな奴の写真を買ってどうするつもりなんだ?

 

「確かに、まだあるが。……これのことだろう?」

 懐から取り出したかのように見せ、ガイの写真を店主へと手渡す。

 

「ああん。これよ、この凛々しい眼差し!鍛えられた鋼のような体躯、それでいて、写真越しにも力強さを感じさせる雰囲気っいいわぁ凄くいい」

 

 体をくねくねと捩じらせながら手に握った写真へと熱い眼差しを送る店主に、ふと、昨日のオカマ達を思い出す。嗚呼、そういえば、あのオカマにものすごく似ている。と

 

 

 

「喜んでいただけて何よりだ。それで、その。取り込み中のところ済まないのだが。散髪の会計を済ませたいのだが。」

 

 このまま放っておくとずっと身を捩じらせ続けるのではないかと錯覚させる程に写真と見つめあう店主。

 

「っは!お会計なら、この写真でいいわ。さて、ワタシはこれから、ヤることが出来たから。今日はこれで店じまい。さぁ、帰った帰った。」

 

 やることって、一体ナニをやるんだ……?それにまだ昼前だぞ。そんな勝手に休みにして大丈夫なのか。まぁ、散髪代が浮いたことは有りがたいし、深く突っ込むと藪蛇になるから早々にこの場を立ち去ろう。ハクに悪影響を与えかねん。

 

 少しばかり急ぎハクに早く店から出ようと言い、床屋を後にして表通りへと向かう。

 

 

 

 

 表通りには露天商が所狭しと並び、それぞれ、客を集めていた。街は今日も賑わっているようだ。

 

「ハク、離れないように近くに居るんだぞ。」

 

「はいっおじさん。」

 

 あの衰弱が嘘だったように元気よく返事を返すハクに目を細め、優しく切りそろえられた髪を撫でる。

 

 

 

 

 

 アイテムストレージ(別称倉庫)に関して新たに判明した事を書き記す。

 

 俺の能力である。≪ナルトRPG内におけるアイテムの無制限使用権≫は初め、ナルトRPGという一から三まで発売されたゲーム内アイテムの使用並びに行使、取り出し入れが出来る。というものだったのだが、俺は一つ、疑問に思うことが有った。それすなわち、ゲーム内に登場していない物をストレージに取り込んだ場合、その物はどうなってしまうのか?という、至極普通の些細な問いだった。

 

 

 大方の予想としては、失敗ならば当然入らないだろうと。しかし、もし上手くいけば、ゲームアイテム化が適用されるのではないか?と冗談半分で予想を立てていたのだが。まさか、本当にそうなってしまうとは思いもよらず、これにて、またしても、この≪間違えて付けた≫能力と書き残した神の真意を疑うことになった。

 

 まぁ、真意を疑うも何も、あの見るからに頭の軽そうな女にそんな思慮深いことを考えられるとは微塵にも思っていないのだが。一応、本当に一応。何らかの意図があってこの力を付けたとしたのなら、奴の狙いは何なのだ?と今更になって疑問に思った次第である。

 

 とは言ったものの、あの女とはもう、逢うことはないだろうと心のどこかで理解している。あの女も仮とは言え神の一柱。神が世界に干渉してきたことは有史以来一度たりとも有りはしない。

 

 たとえ、神が何らかの干渉をしてきたとしても、それに対して俺たち人間は奴らの圧倒的な力の前では無力でしかない。つまり、何が言いたいのかと言うと、成るようにしかならないのだ。というわけだ。

 

 起こりもしない事にびくびくと怯えていても意味は無いし、そんな無駄なことをする時間があるのなら、修行や露天商人並びに行商人として金を稼がなければならない。何をするにも金が必要だ。まず、当面の目的は金を集め、家を建てることだ。

 

 

 根なし草な俺はとりあえずのところ、安全で、安心に眠ることができる住居が欲しい。のだが、木の葉、てめぇはダメだ。何回襲撃されれば気が済むんだと言いたいほど短期間で街を壊滅させられる、我らが原作主人公達の隠れ里である木の葉隠れの里。俺が知る限り、九尾の襲撃並びに大蛇丸の木の葉崩し、加えて、もう一度暁のメンバーによる襲撃が有ると友人からネタバレをさせられた記憶がある。

 

 俺が知る限りで大きな襲撃は三回、少なく見積もってこれだ。小さな小競り合いも含めると二桁は軽いだろう。

 

 それにだ、あそこにはいろいろと厄介な一族が多すぎる。≪うちは≫≪日向≫≪奈良≫≪山中≫と言った、特殊な能力を操る、敵に回すと厄介すぎる一族が多すぎるというのが木の葉の嫌らしい一点だ。

 

 それに、うちはは、一族郎党が一人の男にガキ(弟)一人を除き全員殺されている。そんな恐ろしいところにノコノコといける訳がない。もし、万が一いや億が一そんな現場にでも遭遇してみろ、目撃者として即お陀仏だ。

 

 というわけで、なるべく危険を回避しながら各国を渡り歩きつつ行商を行おうと算段しているわけだ。詰まる所の問題点としての食糧はすでに一種類ずつ買い込み、ストレージにてアイテム化してある。勿論、食器類もだ。それと、酒は何処に行っても色々と使えるためこれもまた各種取り入れた。

 

 

 全国を見て回ろうと思っているので見やすい地図を買いあさり、次々にストレージへと入れていく。ああ、地図で思い出したが。今いるこの街は≪水の国≫の北西部に位置するタンバと呼ばれる街なのだそうだ。道理で湿地帯やマングローブ林が多かったり、海が近いと思ったよ。

 

 トリップ当初は波の国なのかな?と思ったりしたのだが、波の国には忍者が居ないと≪カカシ≫が言っていたような気もするので、違うんだろうなとあたりをつけていた。

 

 そういえば、火を起こすことに時間がかかったなぁと思い、マッチや何かと使えるであろうロープやら簡易テント等なども買い込み、キャンプに行くときのそれと余り変わらないなぁと苦笑交じりに店を見て回って行った。

 

 最後に、いい加減、スーツ姿のままでは色々と不便だと思い至り、動きやすい服を買うため、呉服屋へと向かい、自分で服をコーディネイトする程のセンスは持ちあわせて居ないため、動きやすい服と告げて甚平、フォーマルな上下を二、三点見繕ってもらった。

 

 

 結果、今日一日だけで昨日の稼ぎである百数万両の内約、四分の三の金が消えたのだった。…………マイホームを購入するまで、まだまだ時間が掛りそうだ。

 

 



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6 出立、二度目の……

NARUTO~行商人珍道中~

 

6 出立、二度目の……

 

 

 

 

 ハクを身綺麗にし、買い物を滞りなく終えた俺達は、軽食をとっていた。イギリス名物のフィッシュアンドチップスのようなものだ。白身魚の切り身とじゃがいもをフライにし、食べ歩き出来るように包装紙で包んだものを露店で売っていたため、朝食兼昼食にもってこいだと考え、こうしてハクと食べている。

 

「中々にいけるな、ハクはどう思う?」

 

「はい、おいしいです。作り方は簡単なのにこんなにおいしいなんて思いもしませんでした。」

 

 ニコニコと笑顔でフライを頬張るハクに熱いから気を付けて食べるんだぞと注意を呼びかけておく。

 

 

 

 

 

 暫くして、軽食を食べ終え、今後のことをどうするか検討する。まずは、ハクだ。親や家族がいるのかいないのかは分からないが、分からないまま連れていく訳にもいくまい。

 

 よしんばいないとして、俺とともに同行するにしても。行商の道中全てが安全とは言えないだろうし、もしかしたら俺自身の命を落とすことも有るかもしれない。

 

 人に殺されるか野生動物に殺されるのか、はたまた事故死かは分からないが、仮に殺されたとして、困るのはハクだ。

 

 力を持たない普通の少女。逃げ出せたとしても、また俺が助けたときのように浮浪児として無事に街や村にたどり着ける保証はない。加えて、たどり着けたとしても、金も親も知り合いさえも居ないそんな場所で生きていくことは過酷で難しいと言えるだろう。

 

 もしかすれば、俺のように気の良い人に拾ってもらえるのかもしれないが、そんな都合の良いことは早々起きはしない。俺と一緒になって、カンポウ丸による底上げや修行でもすれば良いのかもしれないが、戦闘に関してはまるっきりの素人な俺に戦術的な指導などできるはずもなく、誤ったことを教えてしまう可能性もある。

 

 以上のことからこれらに関しては、ハクの意思次第で決めようかと考えている。

 

 

 

 

 次に知っておきたいのは、今が、いつ頃、なのかだ。これは、現在の主人公らの現状を知りたいがためである。

 

 まずないとは思うが、原作が終わった後の時間軸なのかも知れないし、原作中のどこかなのかもしれない。更に言うならば始まってすらいない時間軸なのかもしれない。……ということが今の俺には分からないのである。

 

 もし、原作が終わっている時間軸ならば、これ以降世界を揺るがしそうな大きな事件は恐らく余り起こらないであろう。だが、原作中もしくは原作の前の時間軸ならば当然その最中に行われるイベント(事件)に巻き込まれる可能性が十二分にある。

 

 加えて言うのならば、俺の原作知識なぞ≪サスケ≫の奪還編辺りまでと飛ばし飛ばし立ち読みした疾風伝編、友人から聞かされたネタバレ的なアレコレしか覚えていないのだ。

 

 そのネタバレも時系列的にどのあたりに位置しているのか皆目見当が付いておらず、≪カブト≫の小物臭が半端じゃないということ程度しか明確に分かっていない。であるからして、まずもって向かう先は≪火の国・木の葉の里≫だ。

 

 ここで、今が一体何時頃なのかある程度聞き込みや見回りを行う。出来ることであれば、原作前か後で頼むぞ。原作中であれば、体を鍛える暇すらないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハク、俺はこれから先行商人として様々な国や街、村へと商売をしに行くわけだが、キミはどうする?俺に付いて来るか来ないかは別として、家族や知り合いが未だにいるのかだけは教えてくれないか?もし、居ないのであるとすれば一緒に連れて行ってもいい。……だが、嘘は吐くなよ」

 

 急に真剣な声色で話しかけられたハクは、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた表情を浮かべ狼狽える。

 

「ぃ、いきなり、どうしたのおじさん。家……族はもう誰も、居ないよ。僕一人だけ。もう、一人は嫌なんだ。…………何もできない僕だけれど一緒に連れて行ってくれますか?」

 

 縋るように、懇願する様に両の手をギュッと握りしめながら此方を見上げるハクは何かを思い出したかのように黒く澄んだ瞳から小さく零れた雫がきらりと光る。

 

 

 

「ああ、連れて行ってやるとも。いつまでだってどこまでも、ハクが望む限り。」

 

 そこで、ハクの涙腺は完全に決壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクを連れていく事になり、早一週間が経過した。この期間のうちにまたしても露天商を二度ほど行い当面の資金を稼いだ。近くに出店していた同業者からはかなりキツイ睨みを利かされたが、もうそれも今日でおさらばだ。

 

 

 呼子はハクに担当してもらい、可愛らしい容姿のハクに連れられて男連中が集まり、商品を大量に買っていって下さった。尚、イチャイチャシリーズは限定販売として前回使ってしまったので流石に自重した。アイテム化できた、食料品関連もそこそこに売れ、繁盛したといっていいだろう。

 

 

 

 では、このタンバの街も見納めだ。長いようで短く、色々と勉強させてもらった街だった。ありがとう。感謝している。心中で感謝しながら街を出て、西へと向かう。次の目的地は港町、ナギサだ。此処で船に乗り本土へと渡る。

 

 頼むから、山賊や厄介ごとに出くわさないでくれよと願いつつ、ハクを伴いタンバを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タンバの街を出て一日半、ハクと共に初めてまともな野営を行いつつナギサへと向けて移動している。地域住民の間で比較的、安全な街道と呼ばれている近くにマングローブ林が生い茂るハマヅラ街道を通行していると、前から一人、誰かがやってくるのを視認した。

 

 

 

 齢の程は十五、六だろうか?格好は≪イルカ≫や≪シカマル≫が着用していた中忍・上忍用のベストを着ている。顔の下半分を覆い隠す包帯。おまけに背中からチラチラと見え隠れする長い出刃包丁のような巨大な刀。

 

 

 

 

 

 

 

――――あ、再不斬だわコイツ

 

 

 気づいた瞬間、引き攣りそうになる頬を変えさせないように力を入れて睨む様にして前を向く。内心、思いっきり原作前じゃねぇか、いやしかし、コイツがこんなにも若いってことは少なくても五年いや、十年は前ってことになるんじゃあなかろうか。と総突っ込みを独り入れる。

 

 というかだ、あいつ、俺たちの方へと段々と向かってきていないか?いや、タンバの街へと行く予定があるとするなら俺たちが来た方角で合っているのだが。

 

 

 

 互いに歩を進める。それは次第にお互いが近寄っていく事に繋がり、俺は会釈をしてその横を通り過ぎようとした。

 

 

 

 

 が、そうは上手く行かなかった。

 

「オイ、お前止まれ」

 

 近くで見るとより一層悪人面が目立つ、眉毛が無いことも有ってかその人相はかなりひどいものだ。目は鋭く口と鼻に包帯を巻いているため声がくぐもって聞こえる。それにより対峙する者を否が応でも威圧する。

 

 はい、なんでしょうか?と出来る限り愛想の良い表情と声で再不斬へと聞き返す。

 

「お前じゃねェそのガキだ、ガキから血のにおいがする。それも一人や二人じゃあない」

 

 何のことだ?ハクから血のにおいがする訳がないじゃないか。風呂にも毎日入れているし、どこか怪我をしている様子もない。俺は再不斬が何を言っているのかが理解できなかった。

 

「一体、何の事ですか?ハクは普通の女の子ですよ。血のにおいなんてする訳がないじゃないですか」

 

 俺が問いかけると気が付いていないのかと怪訝そうな表情を浮かべ、クックックと不快な笑いを上げる。

 

「なら、お前の隣で震えているガキに直接聞いてみればいいじゃないか、ククッ」

 

 まるで面白いものを見たと言わんばかりにニヤついた笑みを浮かべながら俺の足にしがみ付いているハクを指さした。

 

 

 

「ああ、そうさせて貰うよ。だが、それは今じゃなくてもいいだろう。ハクが自分から話そうとする時を気長に待つさ。所で、話はこれで終わりか?だったら俺たちは次の街へと行きたいんだが」

 

「クックック、そう慌てるな。久々に面白いものを見つけたんだ。……手に入れてみるのも一興だろう?」

 

「手に入れる?何をだ。……ッ!ハクの事かっ!そんな事はさせないっ」

 

「クク、その威勢いつまで持つかな?」

 

 そう言って背にある≪大刀・断刀首斬り包丁≫へと手を伸ばす再不斬。

 

「ッ待て、こんな街道でおっぱじめるつもりか?人が来たらどうする。それに、ハクに殺し合い何て物を見せるつもりは俺には毛頭ないぞ。殺り合うにしても、場所を移したらどうだ」

 

 興が削がれたような表情を数瞬浮かべたかと思うと向かって右にある森を首切り包丁で指す、森の奥で待っているということか。……奇襲、暗殺が得意な奴にとって有利なフィールドに引きづり込まれてしまった。

 

 精々、最後の別れ話でもしておくんだなと言い残して森へと消えていく。

 

 

 

 

 再不斬の奴が森へと消え、見えなくなった瞬間俺のひざはガクガクと震え、立っていられなくなった。初めて向けられた≪殺意≫に情けなくも虚勢を張って耐えることしかできなかった。

 

 すると、足にしがみ付いていたハクも座り込み、気が抜けたかのようにホロホロと涙を流す。大丈夫だ、俺が護ってやるからと言って優しく胸元へとハクの頭を抱き込み背中を撫でる。

 

 正直、原作の数年前とは言え、首切り包丁を既に持っているアイツに勝てるとは思ってはいない。そこまで、己惚れるほど俺は堕ちちゃあいない。

 

 

 良くても、相討ち、悪ければ……死ぬ。トリップして来てから最初で最大の強敵となることだろう。あのカカシでさえ、≪水牢の術≫に嵌められ危うく命を落とすところだったんだ。精々の戦闘能力が下忍並みもしくはそれ以下の俺がまともに殺り合って勝てる訳がない。

 

 

 が、一応の手は有る。それは完全に打つ手なしとなった時に唯一使える最後の賭けと呼んでもいいほどに成功確率がかなり低い手なのだが。

 

……自爆特攻は当然できない。それをしてしまえば奴に大ダメージを与えることは出来るかも知れないが、これは実体を持つ≪水分身の術≫による数の暴力や≪変わり身の術≫何て物が使われてしまえば、俺の負けは確定し、結果ハクのみを悲しませることになる。

 

 また、奴が得意とする殺し方は≪無音殺人術(サイレントキリング)≫と呼ばれるもので、その名の通り音もなく近づき気が付いた時にはすでに時遅しとなっている暗殺術の担い手なのだ。

 

 まさに、八方塞がり。デッドエンド確定のこの状況。回避する術は天運に身を任せるか、前述したとおり、成功確率が五パーセントあれば良いほうの生か死かどちらかしかない賭けのみ。例え成功したとしても、ハクの身の安全は……保証できない。

 

 分の悪い賭けは嫌いじゃない。誰だったかは忘れたがそんな事を言った奴がいた気がする。確かに、分の悪い賭けほど成功する場合もある。が所詮、それは実力や経験を持った者が言うからこそ、その様な大口を利けるのである。

 

 俺のような戦争を体験したことが無く、お遊びみたいな喧嘩を数回した程度の人間が殺し合いを行おうとするのは無謀だ。敵とは言え人に向けて剣を振るうのなんてとても出来ないだろう。それは、日本では当たり前で、ここでは、異端だ。

 

 

――――死にたくなければ、生きていたいのならば、殺せ。

 

 

 心から、黒くて暗い感情が滲み出てくる。死にたくない、失いたくない、でも、殺したくない。矛盾している事は分っている。敵を、再不斬を倒さなければ俺は殺され、ハクは連れ去られるだろう。

 

 人を殺さずに生かして捕えるには、相手よりも上の力量を持っていなければいけない。しかし、今の俺は弱い、それはドーピング丸薬を使用したとしても。力が、じゃない。確かに、それも有るのだろうが、俺に足りていないのは、圧倒的な戦闘経験の無さ、そして……人を傷つけ、殺す覚悟。

 

 俺と再不斬の状況を例えるのなら、世界王者のボクシングプレイヤーに無手で挑もうとする三下チンピラと言った所か。俺がチンピラという立場なのがとても嫌なのだが、事実チンピラと五十歩百歩なので仕方がない。

 

 分かり易く簡単な例を出したが、この差にプラスして忍術という代物も上乗せされるためこれ以上に再不斬と俺との間には確たる差が存在している。対話によって御帰り願いたいが、そんな甘っちょろい人間ではないだろうから十中八九戦闘になるだろう、役に立つかどうかはわからないが一応の対策を立てて置く。

 

 兎に角守備に徹する。奴の首切り包丁はかなりデカい、懐へと入り込めば一太刀は与えられるだろう。しかし、相手は少なく見積もっても百人以上は殺している、人殺しの鬼だ。そうそう、隙を見せてくれるとは思わない事だ。

 

 攻撃的な忍術を使われても一発程度なら九尾の帷子が耐えてくれる。本当に怖いのは、急所への無音攻撃。これの対処法はアレさえ使えれば何とかなるのだが、如何せん今の俺はチャクラを使えないので不可能だ。つらつらと再不斬に対する対処法を考えどう乗り越えようかと思案する。

 

 

 

 

 

「ボク……本当のことを話すよ。おじさん、いいえ、アマミヤさん。聞いて、くれますか?」

 

 抱きしめられながら涙を流していたハクは覚悟を決めたかのように、赤く染まった両の目で真っ直ぐに俺の目を見つめる。

 

「辛いのなら、苦しいのなら、言わなくても良いんだぞハク。俺はいつまでも待っているから」

 

「いいえ、今お話しておかないとアマミヤさんがどこか遠くへ行ってしまうような、そんな気がして。だから、今、お話しさせてもらいます」

 

 そう言って、ハクは静かに語り始めた。己の犯してしまった罪を。懺悔を請う様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクが生まれたのはこの≪水の国≫の北部に存在した雪が年中降り注ぐ小さな山村だったそうだ。そこで、両親と共に幸せに過ごしていたハクは、物心が付き始めた四歳の頃に、父親が母親の首に手を掛け殺して居るところを見てしまったのだそうだ。

 

 何故、母親を殺したのかと問い詰めたところ、ハクの母とその血を受け継ぐハクには≪血継限界・氷遁忍術≫と呼ばれる、類稀なる才能が受け継がれて居たからなのだとか。

 

 

 血継限界は特殊な一族並びに血筋にしか現れない珍しく強力な能力を有しており、またそれらを保持・所有している者は忍となって居ることが多い。しかし反面、大きすぎる力は災いを呼ぶ。と真かウソか分からない噂により、廃れた血筋の者の殆どは煙たがられ又、排斥されている。

 

 ハクが持つ氷遁忍術は文字通り、氷を操ることが出来る能力である。これは、風と水とのチャクラの形質変化を用いることによって出来る。雪一族が持つ血継限界であり、年中雪が降り積もる雪深い山村において警戒される要因の一つになったのだろう。

 

 

 

 このことを父親が知ってしまい、恐怖した父親は母親を殺し、その血を受け継ぐハクも殺そうと首に手をかけられたのだと語る。しかし、手をかけらた後の記憶はハクには存在せず、ただ気が付いた時には赤く血に染まった自身の体と物言わぬ父だった骸がそばに横たわっていたのだと語る。

 

 そこからは、村中を巻き込んだ氷の暴走。嵐のように空から氷が降り注ぎ、大地からは氷の柱が生えた。これによってハクが住んでいた村は氷の暴走に犯され、村人のすべてが死に絶えたのだと。

 

 そうして、這う這うの体で命からがら近くの街や村を約一年の間放浪し、行き着いたタンバの街で俺と出会ったのだという。

 

 

 

 

 

 ようやく……気が付いた。何故俺がハクを見てあれほどにも焦ったのかを。ゆきかぜハクは…………原作キャラの一人、白(はく)なのだと。俺が、ハクを助けなければ、再不斬の奴がハクを白として助けたことだろう。

 

 言い知れぬ恐怖が体を駆ける。知らない間に起こっていた否、起こしていた、原作への介入行為。この俺の行いで、もし、白が再不斬と共に≪アノ終わり≫を向かえなければ、主人公達はどうなる?初めての殺し合い、忍者に成るという事は人を殺す覚悟を、味方が殺される覚悟をしなければならない。

 

 あの事件の結末は白が居たからこそ主人公たちの心を、覚悟を強くする事が出来たのだ。その大事な経験が、無くなってしまうとすれば…………もしかしたら、歴史の修正力とやらが働いて、ハクの代わりに別の誰かを宛がうのかも知れない。

 

 しかし、そんなモノが無ければ……?俺は、とんでもないことを仕出かしてしまったのかもしれない。ハクを助けたことに後悔はしていない。ハクを助けようと決意したアノ誓いは嘘にはできないし、したくはない。

 

 だが、もし……なんてことが頭の中をグルグルと回る。

 

 

 

 

 不安げな表情を浮かべ、此方を見つめるハクに気が付いたのは数分後のことだった。

 

 

 

「やっぱり、こんな人殺しと一緒に旅をするのは嫌、ですよね……アマミヤさん今までありがとうございました。もう、ボクは貴方の前に姿を見せることは無いようにしますから、最後にもう一度だけ、抱きしめて貰ってもッいいですか?」

 

 涙ながらに悲痛な声を上げ最後に抱きしめてほしいと懇願するハク。

……俺のバカ野郎がッ!こんなにも可愛らしい少女が泣いているのにも関わらずに、自分の事ばかり考えていやがってッ人を殺した?原作のキャラクターだ?未来がどうなるか分からない?そんなことは今はどうでも良い。

 

 今はただ、この泣き続けている少女を慰めてあげたい。後の事なんてその時考えれば良い。

 

「違うッ!そうじゃないっ……嗚呼、ハク。俺は本当にバカ野郎だ。こんなにも、娘のように大切なキミを俺の身勝手な考えで泣かしてしまって、本当に済まない。俺はキミを嫌ったりしないし、キミを傷つけるようなこともしたくない。人殺しだ、血継限界がなんだと言うんだ。キミはそんなモノを持つ前にただ一人の普通の可愛い女の子だ。一緒に、旅をしよう。どこまでも、この狭い国から飛び出して、世界中を一緒に見て回るんだ。いいね?俺との約束だ。」

 

 約束と言って右手の薬指をハクへと差し出す。つられて差し出されたハクのソレと絡み合わせる。

 

 

――――ゆびきり、げんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます、ゆびきった。

 

 

 

 

 

 

 

 指切りをしてハクから離れようとした時、背後からザクリッとナニかの音がして何かが腹部から飛び出てきたのを視認した。見紛うことなくそれは硬質で赤い液体が付着した鈍く光る鉄の塊。

 

 

 

 

 ぁあ?どうして、俺の腹に、首切り包丁が生えてるんだ……?まるで、他人事のように、理解できない、いや理解したくないというべきか理由など分かり易いほどに分かり切っているというのに……奴は、再不斬は初めから森でなんて待っていなかったのだ。

 

 ズサッと突き刺さっていた刃が引き抜かれた。腹部から吹き出る血しぶきがハクへと飛びかかる。

 

「アァ、胸糞わりィもん見せてんじゃねェよ。おかげで今のオレ様の気分は最悪だァ」

 

 そう、唾棄する様に俺に言い放ち、首切り包丁に付いた俺の血を横なぎに振り払い、纏わり付いていた血を払い飛ばす。

 

 

 

 

「嫌ぁッ!アマミヤさんッ!アマミヤさんッッッ!」

 

 一体何が起きたのかまるで分らないという様子で体中にべっとりと俺の血を纏わり付かせたハクが追い縋って倒れ伏した俺へとしな垂れかかる。

 

「死なないでッ!独りにしないでッ!独りはもう嫌なのッ!一緒にッ、旅に連れて行ってくれるんでしょッッッ!」

 

「ぁ……、済まな、そ、約束は出来そ、になぃ。」

 

「嫌っ嫌だよっ……ボクを置いて行かないでよッ!」

 

「いつ、か……迎え、に行く…………だか、らそ、れまで、ッ待っててくれェッッッ」

 

「うん、うんうんッ!待ってるッずっと待ってるから!……だから、早く迎えに来てね」

 

 

 嗚呼、漸く思い出した。この感覚(痛み)はあの時と同じだ……神を自称する女と出会う前、明らかに暴走するトラックに撥ねられ錐揉みしながら吹き飛ばされ、アスファルトに激突したあの日、あの時と同じだ。体はミノムシの様にしか動かなくて、体中が熱くて、痛くて、それでも手足から段々と寒くなって、頭が朦朧として何も考えられ無くなって最後には光も、音も何もかもが消えて行って、空虚になる。そんな感覚。

 

 何故、今の今まで忘れていたのだろうか、あれほどまでに恐ろしく、全身の毛が逆立って身震いするほどの死への、無への恐怖を。

 

 視界が霞む、ドクドクと今もなお流れ続ける赤い血をぼぅっと眺めたまま、手も足も、出ず。ましてや気配さえも気づくことが出来なかった己の不甲斐なさを後悔しながら霞む意識を振り絞り、俺はアイテムストレージを音もなく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……詰まんねェ茶番だったぜ、まぁいいか、邪魔な奴は排除した。後は、コイツを連れていくだけだ」

 

「……っさない、許さない、許さないッ!アマミヤさんをよくもッッッ!」

 

 ハクの体から吹き出る白く凍えるチャクラが足元を伝って辺りを霜で覆っていく。

 

「なんだぁ?お前が殺り合おうってのか?このクズの為に?クックックック、面白い、道具として使えるかテストしてやる。オラ、かかって来い」

 

「嗚呼ぁあああああああああああああッ!」

 

 のどが張り裂けんばかりの咆哮、そしてチャクラの暴走によって次第に出来た氷柱が地面を伝って再不斬へと襲い掛かる。

 

「遅せェよ、そんなんじゃ飛んでるハエも殺せやしなねェ。血継限界、それも氷遁忍術なんてレアなモノを持っててもそれじゃァ宝の持ち腐れだ。忍術ってのはなァこうヤるんだよォッ!≪水遁・鉄砲玉≫ァッ!」

 

 肺一杯に空気を吸い込み、吐き出した時には巨大な水球となって、ハクへと殺到する。しかし、ハクの前に突如として現れた氷の板が再不斬のそれを阻む。続けて放たれた氷の礫が再不斬へと飛翔するが、それらは全て両の手に握られた首切り包丁で切り払われてしまう。

 

「オイオイ、これまた随分と面白ェモノを出しやがるな。誉めてやろう。だが、遊びはこれで終わりだ、褒美にとっておきを見せてやる≪水遁・水龍弾の術≫」

 

 再不斬が高速に腕を動かしたかと思うと彼の右隣に水でできた巨大な龍が突如として現れる。その龍はまるで意識を持っているかのように大きく口を開け、咆哮したかと思うとハクへと猛烈な速度で殺到する。

 

 対するハクも先ほど作り出した氷の板を複数枚新たに作り出し、層を重ね氷の盾として受け止める。

 

「くぅ、嗚呼ああああああああああああああッッッ!」

 

 衝突、否、激突後、拮抗するもじりじりと押されていく氷壁、ついにはぴしりと音を立てて罅が入った直後砕けてしまい、勢いを削げ切れなかった水龍の猛攻を直に受ける。水龍はハクの体を喰らい散らかすようにして飲み込む。しかし、それだけでは満足できないと周囲を巻き込みながら込められたチャクラが胡散する間暴虐の限りを尽くし、消えていった。

 

 水龍が消えると同時にハクは三、四度と地面へと叩きつけられるようにしてバウンドしながら吹き飛ばされる。ハクの体は既に満身創痍、羽衣の防御力が無ければ即死していても可笑しくない程の暴力の限りを彼方此方に受けていた。

 

 さして鍛えてもいない少女の体がこれ以上動ける訳もなくそのまま地へと倒れ伏す。

 

「ッぁ、アマミヤさん、すみません。敵討ち……出来ませんでした」

 

 アマミヤへと弱弱しく手を伸ばしながら言い残し、物言わぬ骸へと姿を変えたアマミヤを数瞬の間見つめたかと思うと、完全にハクの動きが止まった。

 

「フゥ……まさか覚えたてのこの術を使う羽目になるとは思いもしなかったぜ。血継限界それも氷遁忍術、か上手く道具として育てることが出来れば、有るいは……クックックック、ハァーハッハッハッハッ」

 

 

 再不斬以外、意識が有る者は街道には存在してはいなかった。彼の特徴的な狂気と野心に満ち満ちた笑い声が街道中をいつまでも、いつまでも響き続けていた。

 

 

 

 

 




BADEND


これにて完結








何て事にならないように、頑張ります


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6.5 ハクと白

暫くの間、少し暗い展開が続きます。鬱耐性の無い方には、ブラウザバックを推奨させて頂きます。

とは言え、全編ぶっ通しっで暗い話をするつもりは無いのでしばしの間我慢していただきたいです。それでは、本編をどうぞ


NARUTO~行商人珍道中~

 

6.5 ハクと白

 

 

 

 

 森、小鳥たちが囁く緑の森に二人分の影がユラユラと揺れていた。一人は、長身の若い男。顔の下半分を包帯で巻き、素顔を見せない様にしており、その背には巨大な出刃包丁に似た刀を背負っている。

 

 もう一人は、彼の肩にまるで米俵を担ぐようにして、適当に持たれている、意識のない少女。その身は、酸化し黒く変色した血に汚れており、乾ききっていることから、相当前に付着したものだと思われる。

 

 彼らの雰囲気は尋常なモノでないことが見て取れる。例えを出すとすればそう、殺人犯と誘拐されている少女という表現が適切か。

 

 

 

 

 

 

 ハクが目が覚めると、誰かに米俵のように担がれている事に気が付いた。

 

 

――――アマミヤさん……はこんな運び方はしない。それ以前に、アマミヤさんは、きっともう…………。でも、それでも約束してくれたんだ、迎えに来てくれるって。だから……。

 

 

 悲しみに涙を浮かべそうになるが、グッと目に力を入れて、泣き出すことを我慢する。アマミヤさんは嘘を付いたりする人じゃない。きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて、泣くのをこらえる。

 

 ふと、上下に揺れていた動きが止まっていることを理解する。

 

「餓鬼、目が覚めたのなら、自分で歩け」

 

 底冷えするような、ドスの利いた籠った声でぶっきらぼうに話しかける男を見て、一瞬強張ったかと思うと、瞬時に身構える。

 

「ぉ、まえ、お前ェええええええええッッッ!よくも、アマミヤさんをッ!離せッ!殺してやるッ」

 

 パキパキとハクの体中から白く冷気を纏ったチャクラが吹き出す。

 

「ハァ、またそれか、いい加減芸のない奴だ」

 

「黙れェええええええッ!」

 

 鋭く尖った氷の杭が再不斬へと殺到する。が、それは軽く手を振り払う動作だけで消し飛ばされてしまう。

 

「嗚呼ぁあああああああああああッ!」

 

 しかし、ハクは負けじと更に薄く鋭く、千本に返し針を付けたような氷の杭を数百に届くかという位の量を周囲に漂わせ、一斉に掃射した。ヒュンヒュンと連続的に風切り音が続き、再不斬は串刺しにされた。……かのように見えた。

 

 ボフンという間の抜けた音と白煙が立ち込めるとともに串刺しにされた再不斬だったモノは雪のように白いウサギへと姿を変えた。

 

 

 

 変わり身の術である。自身とそのほかのモノとを入れ替える初歩の忍術の一つで、忍者であれば殆どすべての人間が使用する事の出来る。非常に使用頻度の高い術の一つである。だが、そんなモノの存在を知らないハクは、突然雪うさぎに変わった再不斬を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 何故、どうして、自身が攻撃したものは確かに再不斬だった筈。混乱しているハクは後ろに現れた、再不斬に気づくことはなく、そのまま蹴り飛ばされた。十メートルは飛ばされただろうか?途中、生えている草木の葉や枝によってあちこちに切り傷を作っていく。そして、ゴロゴロと転がり、太い木の幹に激突する。

 

 かはっと肺から息を吐き出す。それに多少の血が混じっていることから内臓のどこかを傷つけたことを理解する。

 

「はぁ、はぁ……どうして、ちゃんと当たった筈なのにッ」

 

 訳が分からないと言った様子で困惑しているハクに再不斬はそんな事も知らないのかと、嘲笑いながら説明する。

 

「俺達忍者ってのはな、チャクラを使うことで色々と現象を引き起こすことが出来んだよォ。その中の一つに変わり身の術ってのがあってなァ……こんな風に別の何かと俺自身を入れ替えることが出来んだよォ」

 

 そういって、先ほどハリネズミのごとく串刺しにされた雪うさぎを手にしながら、ハクに高説垂れる。

 

「あーあァ、こりゃあダメだなァ、完全に死んでやがる。ホレ、初めて自分の意志で殺した感想はどうだァ?」

 

 ニヤニヤと目元を歪めながら、ハクの目に入る様にと串刺しにされたウサギを投げ捨てる。

 

「ぁ、嗚呼……ボ、ボクが、こ……ろした?…………ぅ嗚呼ああああああああああああああッッッ」

 

 再び、暴走。ハクを中心として、氷の剣山がハク護るかのようにハクを中心として円形状に生える。

 

「ボクが、ころした、殺した、コロシタ、父さんを村のみんなを……ち、違うッちがうッボクはッボクのせいじゃ……」

 

「いいや、お前が殺したんだ。お前の意志でなァ……母親を殺されて憎かったんだろゥ?恐怖の眼差しで見られて恐ろしかったんだろゥ?お前はオレと変わらない、人殺しだァ」

 

 

「違うっ!ボクはお前なんかとは……」

 

「違わねェなァ、お前は立派な人殺しなんだよォッ!普通の人間ってやつはよォ、人が目の前で殺されたら、委縮して動けねェかどうやって逃げだそうかと考えるモンなんだよォ。だと言うのに、お前はどう行動したァ?……そうだ、オレ様を殺そうとしやがったんだよなァ?それも、明確な殺意を持ってなァッ!」

 

「ち……がぅッ!ボクは…………お前なんかと。ぅうううう」

 

 意地でも、己は人殺しなんかじゃないと認めようとしないハクへ、ついに聞いてはいけない言の葉が投げかけられた。

 

「あの男も、お前みたいな奴と旅をしなくて良かったかもしれねェなァ。お前なんかと一緒に旅をしようものなら、いつ、人を殺すか冷や冷やしながら日々を暮さなきゃいけねェんだから、引き取ってやったオレ様に感謝してもらいたいもんだ。クックックック」

 

「そ、んなことは無いッ!アマミヤさんはそんな人じゃないッ!ボクを助けてくれたあの人は、太陽みたいに暖かくて優しい人なんだッ!」

 

「嗚呼、優しくて、甘っちょろくて、この桃地再不斬様に一刺しにされてくたばったバカな男だ。まさか、霧の忍者が依頼以外の約束事を守るなんて思っているような甘ちゃんだとは思いもしなかったがなァ……クックック。それにしても、お前、まだ分からないのか?あの男は既に死んだ。まさか、死した人間が生き返るなんて今どき絵本の中でも登場しない絵空事を本気で信じているのか?そうだとしたら、これまたトンデモナイ、お笑い種だなァ。クックックッ、ハァーッハッハッハ」

 

「死、んだ?アマミヤさんが……?で、でも、いつか、迎えに来てくれるって、言って」

 

 アマミヤが死んだと聞かされ、否、認めたくない事実を突きつけられ急に情緒が不安定になっていくハク。対して、これは当たりを引いたと悠々と弁舌になっていく再不斬。

 

「嗚呼、そうだ、アマミヤとかいう男は死んだ。いいや、オレ様が殺した。この首切り包丁でなァ……アイツの間抜けた顔を思い出すと今でも笑いが込み上げてくるぜェ、ククッそれに、お前の体をよく見てみろ。あの男の血で綺麗なアカイロに染まってるじゃァねェか?」

 

 

「アマミヤさんの血?これが?そ、そんな……アマミヤさん。どうして、嘘を……迎えに来てくれるって。そんな…………」

 

 

 俯いてしまい、自身の世界に閉じこもってしまうハク。楽しかった。あの頃に、思いを馳せる。汚らしい、路地裏からヒーローの様に助けてくれた彼を。綺麗な羽衣を着せてくれたあの人との思い出を。風呂屋で、ぎこちなくはあるが優しく洗ってもらった自慢の髪を。頬に付いたご飯粒を取ってくれた彼を。ひと肌恋しくて眠れない夜を隣で一緒に眠った日。初めて彼と一緒にした商売を。彼と過ごしたシアワセな一週間を繰り返して遠いところから眺める。

 

 

 しかし、それは再不斬という鬼にぶち壊される。ハクの身の丈を遥かに超える程の大きさの剣を振り回し、思い出という思い出を次々に壊していく。止めてッと、どれ程叫んでも、縋っても、鬼は止まってくれない。壊れていく大切なものをただただ呆然と見つめ、涙を流すことしかできない己の弱さを呪う。

 

 助けてと、震える声で彼の名を呼んでも応えるものは、居ない。同時にもう本当に彼は居ないんだと理解する。いや、彼がもうこの世の何処にも居ないことなど疾(と)っくの疾うに気が付いていて、それでも、彼ならばと、彼の言葉を信じていたかったのかもしれない。

 

 

 

 その様を嘲笑うかのように鬼は両の手に握る巨大な剣を上段に構え、一気に振り下ろした。

 

 

――――パキンッと何かが割れる音がする。それは、ガラスの様で、大小様々にバラバラに散らばってしまう。

 

 粉々になったソレを必死になってかき集めるハク。しかし、割れて砕けてしまったナニかをかき集めるようにして出来たものは所々欠けた別のモノだった。一度壊れてしまったものはもう元に戻ることは無い。出来るのはそれに限りなく近しい別のモノか、全く似ても似つかないモノの二つに一つ。

 

 

 

 

 

 それは、ハクの心だった。アマミヤを亡くし、再不斬にその傷(弱み)を抉られ、修復不可能となってしまった壊れた心。ハクには大切で幸せな思い出であったアマミヤとの記憶を護る様に心の奥底へと沈めて封をする事しか出来なかったのだ。いつまでも一緒だと、自身の意識さえもそれと一緒に封じ込めることで。永遠に優しい彼の幻想と共に過ごし、朽ち果てようと。彼が居ない世界など自分には何も無いも同然だと。

 

 

 

 

 自然、後に出来るのはハクだったモノの抜け殻。自意識の無い人形に近いナニか。先ほどまでの感情の起伏が全く見られないその顔は能面の様である。それを、再不斬は大層喜んだ。まるで新しい玩具を買ってもらった子どものように。

 

 

「今日から、お前の名前は白だ。オレ様の野望のため。オレ様の道具として役に立って貰う。いいな?」

 

「はい、再不斬さん」

 

 

 虚ろな目で、憎かったはずの再不斬をさん付けで呼ぶハク。否、白は正気とはとても思えないほどに薄く歪んだ笑みを浮かべていた。それを眺め、更に上機嫌になった再不斬は高笑いを一つ決めると、自身の目的地である。霧隠れの里へと向け歩き出した。

 

 

 

 

 

 



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7 短き夢…伝説の一人

久方ぶりに土曜日が休みとなったので三時の休憩にどうぞ


NARUTO~行商人珍道中~

 

7 短き夢…伝説の一人

 

 

 

 

 どてっぱらに首切り包丁を突き刺され、倒れ伏しそれでもアイテムストレージを無理やりに開いた俺はその中から≪シズネのお守り≫≪しのび札・どこんじょう≫を見つからぬように出せるだけ取り出し、心臓近くの胸部へと貼り付ける。

 

 

 これらの効力は≪一度だけ、行動不能から復帰する≫つまりは、蘇生系統のアイテムと言えるわけだ。これの利点は、貼り付けたものを一度だけとはいえ生き長らえさせるという点であって、一度死ぬことにより、≪心臓を止めた死んだふり≫が擬似的にとは言え出来るのだ。

 

 

 ただし、俺はこれの効力を試したことはない。それも当然である。これの発動条件である。≪行動不能≫は死か、それに近しい状況でなければ発動しないのだから今の今まで試す機会など有りはしないし、態々死にかける様な目に自分から遭いに行くほどのマゾヒストでもない。

 

 そも、発動するのかどうかも怪しいモノに俺は頼りたくはない。のだが、今、この状況において出来ることはこれしか存在せず、やむを得ず精々の成功確率が半々と思われるこれをぶっつけ本番で試すことになったのだ。

 

 既に目は見えず耳だけが周囲の音を辛うじて拾っている。どうやら、ハクは俺の為に戦ってくれているようだ。知らないうちにこれほどまでに懐かれているとは思いもしなかった。吊り橋効果や餌付け効果の結果なのだとは思うが素直に嬉しい。

 

 出来ることならば今すぐにでもハクと共にこの場から逃げ出したいモノなのだが、そろそろ意識も朦朧として来た。次に目が覚めた時にはハクも再不斬の奴も居ないだろうと思いつつ、どこんじょう並びにシズネのお守りが発動する事を願い、意識を手放した。

 

 

――――嗚呼ちくしょう、ハクと一緒に旅をしたかった、なぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ、起きろ!天宮ッ!お前、いつまで寝てんだよッ」

 

 ふと、懐かしい声が聞こえる気がする。どうやら、声の主は俺に対して何やら怒鳴っている様子だ。……はて、俺は今まで、何をしていたのだろうか?微かにしか思い出せないが、何か幸せな夢を見ていたような気がする。

 

「いい加減に、起きろッ!」

 

 体を揺らしながら、俺にさっさと起きろと催促する主は次第に苛立ちを募らせたのか激しく暴力的になっていく。そろそろ、起きるとしようか。一息欠伸をして背筋を伸ばしながら起き上がる。

 

 目が覚めると、そこはアニメ調の魔法少女の描かれたポスターが所狭しと飾られ、彼方此方に漫画やらゲームソフトの箱が詰まれており足の踏み場もない六畳間の小狭い部屋だった。そんな部屋の持ち主である、男友達の佐久間は横になって寝ていた俺に何やらぶつくさと文句を投げかけていた。

 

 

「嗚呼、どうした。佐久間?」

 

「どうしたじゃないッ!人がせっかく休日潰してまでNARUTOについて説明してやっているというのに居眠りこくとは一体どういった了見だッ!」

 

「んー?そんなこと言っていたか?悪い、仕事の疲れが溜まってんのかも知れねぇ、つうか、お前元気だね?何か良いことでもあったの?」

 

「ハァ……天宮は本当にマイペースだな。まぁいいや、それでだ、今週のNARUTO凄かったんだぜぇ、何が凄かったかっていうとだな……」

 

 

 

 別段、聞いてもいないことをだらだらとまるでマシンガンの如く熱く語りだすコイツの名前は佐久間、所謂幼馴染というやつである。とは言え性別が女性ではなく男という点が現実と二次元の差を明瞭に思い知らせてくれる。何故、女に生まれてこなかったんだお前。

 

 

 コイツの悪い点として、何かに熱中すると周りの人間を巻き込んで熱く語ってしまうというちょっと迷惑というか、アレな部分のおかげで俺と同じく三十手前にもなって彼女はおろか、男女交際をした事も無いという、今どきの草食系?男子となっているのだ。

 

 顔が良いだけに、この欠点さえ無くせば彼女の一人や二人簡単に作れるだろうに……はぁ。というか、同じ職場で働くコイツと一緒にいると腐った方々が色々とアレな事になっているので正直困っていた。まぁ、とりあえずの愚痴はこれくらいにして、何かとても、忘れてはいけないことが有った気がするんだが、まるで思い出せない。

 

「嗚呼、イラつく、なんだってんだ一体何を忘れているっていうんだッ!」

 

 急に頭を掻き毟り、叫ぶ俺に驚愕の目を向け、おろおろとど、どうした?オレの話詰まんなかったか?とどもり声をかけてくる佐久間。

 

 

「あぁ、いや、すまん。何か大切な事を忘れている気がしてな。それが気になってつい、叫んじまった。悪い」

 

「まぁ、それなら良いんだが。にしても何がそんなに気にかかるんだ?……まさか、オレを裏切って彼女とか作りやがったのかっ!?」

 

「おいおい、どうしてそうなるんだよ。ちげぇよ、そもそも俺にそんなもん出来る訳ねぇだろ顔も背も頭の出来も平均的な俺にそん…………ぁ?」

 

 

 頭痛がする。次いでズキリと腹と背が痛む。まるでナイフか何か鋭利な物に刺されたかのように。

 

 

 ふいに脳裏に誰かの姿が過る。路地裏でボロボロになって、倒れている薄汚れたガキ。簡素なベッドの上から涙を流す俺に手を差し伸べてくる子ども。黒く艶やかなそれでいて背中辺りまで伸びる長い髪と、それに反するように白く、まるで、雪の様に白い肌、笑えばそれはそれはとても可愛らしいだろうなと思わせる幼く整った顔の少女。それが血に濡れ、この世の終わりかと涙する少女――――瞬間、思い出した。

 

 

 全てを、思い出した。俺は、何をしている?こんな所でくっちゃベっている暇はない。アイツを、ハクを助けなければ、勝てる、勝てないは関係ない。足掻くんだ。俺は……生きるッ!ヒーローの様になるんだ。大切な女の子一人護れないで何がヒーローだ。

 

 決意、覚悟。腹を括る。言い方は違えど、再びいや、何度だって誓おう。例え、何度破れようとも、幾度死んだとしてもあの子だけはもうこれ以上傷つけさせたりはしない。

 

 

 

「……佐久間、悪い、俺。少し行く所ができた。ちょっとばかし長い旅に出てくるよ。多分、もう帰ってこないと思う」

 

 俯き、そして頭を上げた時には真剣そのものの表情を浮かべた俺を同じく、いつに無く真面目な顔をした佐久間が此方を見つめてくる。

 

「そうか、思い出したのか……本当に行くのか?天宮。痛く、辛い思いをすることになるぞ。ここに残っていればいいじゃないか、オレもいる。お前が望めばどんなことだって出来るんだぞ?……ハクちゃんの事だって」

 

「佐久間、お前、どうして知って……いや、そうか、これは夢なんだな。俺が望んだからお前が此処に居て俺に都合の良いように存在しているんだな。でも、駄目だ。俺は生きていたいし、ハクに迎えに行くと約束したんだ。」

 

「気づかれちまったか、なら仕方ないな。まぁ、お前が此処に残る何てふざけた台詞を言い出したらぶん殴ってた所だったけどよ、変わって(ヘタれて)無くて良かったよ。……助けてやれよ、彼女。ハクは、いいやあそこに居る人たちはもう、キャラクターなんかじゃあ無い。皆、生きている人間だ。原作何てお前が存在する時点で有って無いようなもんだ、ぶち壊しちまえ」

 

「嗚呼、そんな事お前に言われずとも分かっているさ。必ず助け出す。例え、何年、何十年と掛ろうと、幾度殺されようとも。アイツは俺の特別(はじめて)だからな」

 

「うん、それでいい。頑張れよ天宮。いや、ヒーロー(ロリコン)と呼んだ方が良いか?」

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらに茶化してくる佐久間。

 

「おい、お前ルビに何振ってやがった?折角いい感じに分かれる事が出来ると思ったのに……くくっ俺たちらしいな」

 

「ははっそうだな、いつものオレたちだ。だが、それもこれで最後だ。…………賽は既に投げられた。後はお前が頑張るだけだ。じゃあな、親友」

 

「あぁ、じゃあな佐久間お前も頑張れよ……ありがとうな」

 

 佐久間の輪郭が徐々にノイズが走ったかのようにザザッと掠れ次第に消えていく。同時にごちゃごちゃとした六畳間だった場所も掻き消え、俺の意識も段々と薄れていく。

 

「本当にお前に会えて良かったよ。佐久間。それじゃあ行ってくる」

 

 

 

――――ありがとうはこっちの台詞だ。忘れるなよ?お前の味方はすぐ傍に居る。頑張れ、天宮(ヒーロー)。

 

 

 姿は見えず、聞こえるはずのない声が最後に聞こえたかと思うとそこで俺の意識は完全に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の日差しがまぶしい。背が、腹が、痛む。ズキズキと。うつぶせに倒れた俺からはドクドクと致死量を遥かに超えた量の血が垂れ流されている。意識が途絶える前に取り出した百を超える数のシズネのお守りは既に残り十を切っていた。

 

 絶命と復帰を幾度繰り返したのだろうか。……単純計算で九十回程、生と死の狭間を行き来したと考えると恐ろしいな。

 

 しかしどうやら、外傷までは治してくれないようだ。全く、最悪の予想を立てて置いて良かったよ。

 

 

 呻き声を上げながらもアイテムストレージを開き、その中から、≪ちょうぜつ印の万能丸≫を始めとする≪秘伝のきずぐすり≫≪秋道いちぞくの三色丸≫≪大蛇丸の秘薬≫等の薬関係に加えて≪いりょうパック≫≪忍び札・やくそうのちしき≫をそれぞれ取り出す。

 

 その後貼り付けた、やくそうのちしきによって手に入れた治療方法を参考にして腹と背中をいりょうパックに入っていた、包帯でこれ以上血が流れださないようにグルグル巻きにする。同じく中に入っていた、増血剤それに取り出した薬系統を水で一気に流し込む。暫くして、効果が現れたのか体が段々と暖かくなっていく。否、熱く成って行った。

 

「ぐぅ……嗚呼ぁあ゛あ゛あ゛あああああああああッッッ!」

 

 体中を火あぶりにされているような錯覚、時折、体中を駆け巡る激痛で頭が、身体がぐちゃぐちゃにかき乱される。これは、洒落にならない。己の身体が意志に反して激しく脈動し、暴れまわり地に爪を立てもがく。

 

 いたい、痛い、イタイ。頭がどうにかなりそうだ。狂ってしまいそうになるくらいに、骨を溶かしてしまうような熱が猛烈に激しい痛みを伴って全身を奔って巡る。絶叫し、泣き叫ぶ様に声の限りにひきつれた叫びとも断末魔の叫びともつかない阿鼻叫喚の限りを尽くした獣のような声ともつかぬ雄叫びが口から飛び出す。

 

 苦しい、痛い、助けてくれと声に出せずに、ただただ終わりが早く過ぎ去ってくれるように叫びを上げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 どれ程の間、泣き叫び続けていただろうか、次第に俺を包んでいた熱はいつの間にか、綺麗さっぱりと消えていた。流石に、死にそうな状況から脱する為とはいえ、無理をし過ぎたか。薬の副作用が恐ろしいな。

 

 いや、そんなモノがあるのかどうかは分からないのだが。それでも、ほぼ死人同然だった状態から完全とは言えないもの、復帰することはできた。これほどの効力を持つ薬達に副作用が無い訳がない。ようやく、血が止まった。とは言え、包帯から滲む赤色や、地に広がった血溜まりは流石に誤魔化すことはできないだろう。

 

 しかしこれで、アノ人を呼ぶことが出来る。感謝するぞ佐久間。お前が教えてくれたから、あれらを思い出すことが出来た。手のひらに意識を傾ける。取り出すべきものは既に決まっている。≪忍識札・綱手の忍しき札≫を取り出す。

 

 これに、俺の血を一滴垂らす。俺が今、行おうとしていることを簡単に言えば、≪口寄せの術≫みたいなものだ。チャクラが使えなくても血がそれを補ってくれるはずだ。……頼むから、成功してくれよ。来てくれ、綱手姫。

 

 

 

 ぽたりと忍識札の上に血が垂れるや否や、忍識札は白煙に変わり、煙が晴れたころには、近い未来に於いて、五代目火影に就任することになる伝説の三人の紅一点。綱手が此方を見下ろしていた。

 

 

「この様な無様極まりない姿でお呼びする無礼をお許しください。俺の名前はアマミヤと申します。貴女様は、かの高名な綱手様でいらっしゃいますでしょうか?」

 

「如何にも、私は綱手だが。しかし、綱手であって、綱手ではない。」

 

「と、言いますと?まさか、失敗……」

 

「いいや、失敗はしていないよ。私は謂わば、綱手の分身体とでも言えばいいのか。そう、ある程度の力と知識を持った別の存在と考えてくれ」

 

 綱手の分身?別の存在?それでは、まるで……いや、アイテムの効力は三倍増しに成っている筈だ。それならば、忍識札も同じことだろう。それに、別個体だというのも頷ける。ゲーム内では忍識札によって仲間に入れられるキャラクター達と同じキャラが家に居たりだとかしていたのだし、そういう仕様であると本人から言われればそうなのだとしか理解しようがない。

 

 それに今は、考察をしている場合じゃない。早く傷を診てもらって、奴を倒すための力を早急に手に入れなければならない。

 

「差し出がましいのですが、治療をお願いしてもよろしいでしょうか?背中と腹に掛けて大剣を刺され、血が大分出ているため少し、注意して欲しいのですが」

 

「嗚呼、なんだ、私が血液恐怖症を克服していないと思っているのか。気遣いは有りがたいが、それには及ばんよ。私はオリジナルとは違って苦手なものは無いからな。どれ、傷口を見せてみろ」

 

「な……何故その事を?」

 

「ん?どうして、分かったのか不思議そうな顔をしているな。当然であろう?私はお前の≪式≫なのだから。説明は後にしよう。治療をしながらでも話してやるから、さっさと傷口を見せろ」

 

 困惑する俺に早く包帯を解けと催促する偽・綱手。式とやらの説明を受けるため渋々きつく締め上げた包帯をするすると解いていく。

 

「これは、酷いな。背後から一刺し、か。よくもまあこれほどの傷を受けて生きていられるものだ。」

 

 何やら、その後も腹と背を交互に見ながら頷いたり、耳に届かぬくらいの小さな声で呟いたかと思うと慣れた手つきで印を結ぶ、結んだ後に両の手に纏わり付くように淡い緑光がユラユラと漂いだす。それを腹部へと持っていき、傷ついた患部へ直接当てる。

 

 当然、細胞が無理やりに修復されるわけだからとても痛い。先ほどの薬と同等、若しくはそれ以上の痛みがズキズキと奔る。口元に手の甲を当てがい、肉を噛むようにして激痛から出る絶叫を押し殺す。

 

 それでも、耐えられずに零れる声を不快と思わず、眉一つ動かすことなく淡々と機械のようにテキパキと治療を施していく綱手に感謝をした。

 

 

 

 

 

 

 どれ程の時間激痛から耐え続けただろうか。十や二十分では足りない程の間、堪え続けた俺の体は脂汗でぐっしょりと湿っていた。綱手の方も額に薄らと汗を浮かべ苦悶とは言わないものの、少し疲れた表情を浮かべていた。

 

「これで、終わりだ。式についての説明は後日改めて説明させてもらおう。今は、安静にしてゆっくり休め」

 

 

 

 そうは行かないと見っとも無く、そして情けなく這い蹲っていた体をゆっくりと起こす。涙や自身の血やら吐瀉物やらで汚れた口元と服を拭い去り、傍らに転がるパックリと穴が開いた≪九尾のかたびら≫をストレージに戻し、新しく≪火影のかたびら≫と≪いだてんのきゃはん≫を取り出し、身に着け、その上に紺色の甚平を羽織る。

 

「おい、人の話を聞け。お前はしばらく絶対安静にしておかなければ……」

 

「これ少し、特殊な薬なんです。これを飲めば体力はあっという間に快復します」

 

 取り出したのは≪秘伝のきずぐすり≫日向にて伝わる超一級品の薬である。スタミナとチャクラを全快復するというとんでもアイテムである。

 

 

 

 何の役にも立たなかった≪あまのはばおり≫をストレージ内に苛立たしげに戻し、≪ガマのドス≫を取り出し、背に背負おうとした所で身体がふらりと傾き、再度地面とキスをすることになった。それ見たことかと綱手は俺を見て鼻で一笑すると、ガマのドスを握って持ち上げた。どうだ、と真上に掲げて自慢げにする様は、幼子が親に向かって褒めて貰いたいが為にする時の様であった。

 

 苦笑しながら、褒めるとぶんぶんと素振りをするかのようにドスを振り回し力自慢をアピールしていた。

 

 

 ガマのドスは≪ガマブン太≫が使用するあのバカでかいドスに似せて作られたものだ。俺たち人間からすれば両の手でも持つことが出来るか、不安になる程の巨大な大剣である。綱手はともかくとして俺が、そんなモノを扱うことが出来るのかと思うことだろうが、この世界で行った。カンポウ丸による基礎能力の向上のおかげで持って振り回すことは出来る。

 

……剣術なんて技術を小中学校の剣道の授業や漫画くらいでしか知らない俺程度が、日本刀何て洒落た物を扱おうなんて思ったことがいけなかったんだ。

 

 大人しく、棍棒やハンマーみたいな面で攻撃できる武器を持つべきだった。その結果が不意打ちとは言え、背後からによる刺殺で一度殺されるのだなんて。なんて失態、なんて愚か。なんて、無様な。

 

 慢心、していた。現役時代程度の鍛錬が軽くできて、フルマラソンをしても汗を額に滲ませる程度にしか疲れない。なんて浮かれて対人・動物、それも一番警戒しなければならない気配の感知能力を鍛えることを怠った。

 

 加えて、心のどこかで、再不斬は≪良いヤツ≫だと思い込んでいたのかも知れない。ゲームや原作で白に対して優しかった様な描写が有ったがために、油断していた。いいや、これも言い訳か。とことん言い訳がましい男だな、俺は。覚悟だ。決意だなんだと意気込んでいたのは結局のところ唯の格好つけの様なものだった。情けない……本当に、情けない。

 

 俺は反則(チート)を持っているのだから、死ぬことは無い。有る筈がない。と奥底で未だに温い考えを抱えて、どれ程この世界が自分にとって厳しいのかを理解し切れていなかった。

 

……そうだよな、死ぬときは死ぬ。終わりは、必ずやってくる。それは、どれ程強力無比な力を持っていたとしても誰しもに平等に訪れるんだよな。

 

 万象全てを自在に操れようと、究極の生命体と呼ばれて恐れられたモノだとしても、必ず、平等に終わりは訪れる。そんな事、さんざ、分かっていたつもりだったって言うのに。本当に俺って野郎は度し難い。思わず、苦笑と溜息とが織り交ざった吐息が口からこぼれる。

 

 くくっ、あぁ、そうだ、俺の思い通りにならない。否、思い通りにすることが出来ない、これが現実。いつもの通りだ。どうしようもないほどに、世界は厳しい。それは≪NARUTO≫の世界に来ようと変わらない。いや、この際だ。佐久間の言う通り、NARUTO何て物の事はもう考え無いようにしよう。あくまでも知識として利用できるところに使うのみ。

 

 思い通りに成らないからこそ、俺達は躍起になって、足掻くんだ。誰も見ることが出来ないその先に待ち受けるモノが幸せであるように願って。

 

 

 

 

…………今の俺じゃあ、ハクを助けることはできない。これは俺が逆立ちしたって覆すことのできないれっきとした事実だ。では、どうすればいいのか。簡単なことだ、力を付ける。否、更なる力を手に入れる。幸いにして、俺は忍術というものの存在を知っている。

 

 これを完全に習得することが出来れば奴を打ち倒すことも出来るだろう。それに、俺は一人じゃあない。認識札。護衛として、戦力として、最高クラスの人材を呼び出すことが出来るんだ。原作前の再不斬なぞ敵にすらならない。……筈だ。

 

 

 

 

 波の国。そこが奴の正史における墓場だ。俺には奴がここ十数年以内に死ぬ事を知っている。だが、所詮それは原作という流れに沿って再不斬達が行動すればという注釈が付く。佐久間が言った通り、ここは既に俺にとっても現実である。人を殺せば人殺しになるのは当然、ハクがソレを行ってもまた然りだ。

 

 優しいあの娘のことだ。人を害することに強い拒否感を抱くだろう。……しかし、再不斬はそれを良しとしない。結果、ハクは否が応でも人を害して、殺してしまうだろう。身勝手な願いかも知れないが、俺はあの娘にこれ以上人を殺して欲しくない。あの娘には陽だまりの中で笑っていてほしい。

 

 別に、俺があの娘に、ハクに恩を着せて如何こうしようなんて言う下種た事は考えていない。ただ、彼女の為ならばどんなことでも出来そうな気がするんだ。

 

 

――――そのためならば、俺はどこまでも汚くなってやる。例えそれが、人を殺すことになろうとも。

 

 

 

 

 

 奴の弱点は、既に知っている。気配や姿は消せても、匂いまでは消せない。であれば、カカシと同じ対策を施すまで。そして、必殺の一撃を入れてやれば……。汚い、と罵られても良い。卑怯だと思いたければ糾弾してくれていい。だが、そんな事では俺は止まらない、いいや、止まってやれない。

 

 原作がどうなろうと知った事か。俺は俺自身の身の回りの事で精一杯なんだ。手の届く範囲で出る死傷者には手助けをしてやれるが、見知らぬそいつらの面倒をまとめて見るような余裕は今の俺には無い。

 

 

 俺は、無力だ。三十路に近かろうが五十を過ぎようが、所詮それは子どもが歳月を経て図体ばかりがデカくなっただけ。大人になったからと言って出来ることが増える訳じゃあない。どうしたって、出来ない事がいくつもあるんだ。大衆を救う英雄(ヒーロー)になんて成れない。どれ程焦がれようとも、俺には無理なのだと解ったから。……それでも、俺は助けられるのならば助けたいし、敵意を向けられるのならば弱いながらに立ち向かおう。

 

 

――――だから、もう少しだけ、待っていてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり、自分の世界に入り込み、素振りを終えて声を掛け続けていた綱手が無視を決め込んでいると判断し、デコピンを炸裂させたのはそれから、数分もしないうちであった。……痛い、本当にデコピン一発で数十メートル吹き飛ぶってどんな怪力してるんだよ。と恨みがましく一度綱手を睨むと疲れが出たのか近づいてくる綱手の足音を子守唄に深い眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 



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8 拘束された俺、式とは

NARUTO~行商人珍道中~

 

8 拘束された俺、式とは

 

 

 

 

 綱手によるデコピン制裁を受け意識を落とした俺だったが、目を覚ますと街道からタンバの街に逆戻りしていた。というのも、綱手が≪口寄せの術≫を使用して≪カツユ≫と呼ばれる蛞蝓を呼び出し俺を背負って近場の街であるタンバへと引き返していただけだったのだが。

 

 ハクと再不斬は俺が死地から戻った際には既におらず、あの日から既に五日が経とうとしている。のだが俺は目を覚ましてから一歩も動けずにいる。

 

 綱手から絶対安静にしろと言われ文字通り、ベッドに拘束された俺は傷が快復するまでの間自分から動くことを禁止された。当然、綱手自身も俺と同室に居を構え見張りとして四六時中監視を行っている。

 

 疲れないのかと聞いてみたがむしろ悠々と楽しそうにお前は見張っていないと何を仕出かすか分からんと一蹴されてしまった。……何故脱走することがバレたのだろうか。そんなこんなで動けないことを仕方なしに適度に相互、コミュニケーションを行いつつ、≪式≫について説明をしてもらった。

 

 綱手曰く、式とは平安時代をベースにした漫画によく有る陰陽師が使役する≪式神≫と似たような存在らしい。死に至る一撃を受けるか、完全に力を使い果たしたときに元の札俺の場合は≪忍識札≫が消滅し召喚された式も同時に一時消滅するのだとか。

 

 それって、仮にとは言え一度殺されたことになるのではないか?と聞いたところ。厳密にはそうではないらしい。痛みは確かに受ける様だが、俺の場合は忍識札自体を幾らでも用意・使用することが出来るため忍識札が消滅しても、次に取り出した若しくは既に取り出している同一の忍識札に意識が移るのだとか。

 

 しかし、出来ることならば消滅はしたくないらしく……当然か、受ける痛みは本物なのだから、俺も幾ら完全とは言えないもの生き返ることが出来るとしてもあれ程の痛みと喪失感は二度と体験したくない。その他にも、オリジナルとの相違点や他の式を呼び出すときの注意点を教えてもらい、綱手にはとても感謝している。

 

「綱手様。何かお礼をさせて貰えないでしょうか?とは言え俺で叶えられる範囲であればでは有りますが」

 

 俺が礼を申し出ると、綱手は待っていました!と言った風に目をきらりと輝かせた。

 

「ほぅ……何でも良いとな?であれば、私に名をくれ。そして、その妙ちきりんな敬語を辞めろ」

 

 酒をくれとかギャンブルをさせろとか即物的なものじゃあ無いだと……?それに、名前?どうしてそんなモノを欲しがるのだろうか?

 

「何をしている。早く名前を付けんか。それとも、何か不都合でも有るのか?」

 

「いえ、そう言うことではないのですが……どうして名前を?今のままでも宜しいのでは?」

 

「敬語は辞めろと言ったはずだが?……まぁいい、アマミヤ。私が誰か言ってみろ」

 

「ぇ?ええと、伝説の三忍の紅一点綱手様……嗚呼、成程合点がいきました。つまりはそっくりそのままなお姿と名前で呼ばれるのは非常に拙いというわけですね?」

 

「うむ、加えて私のオリジナルは≪伝説のカモ≫やら名医等と彼方此方で名と顔が売れている。厄介ごとに巻き込まれたくないお前なら分かるだろうが、お前の式である私も無類のお人よしでは無くてな、巻き込まれるのは御免だ……というわけでだ。さっさと新しい名前を寄越せ。この私がお前如きの付けた名を名乗ってやるのだ感謝しろよ?」

 

 ふふんっと腰に手を当て胸を張り、早くしろと催促してくる綱手に一瞬でも可愛らしいと思ってしまったのは一生モノの不覚だ。……幾ら見た目二十代の金髪美人だとしても相手は五十代だぞ、見た目にだまされるな俺。

 

「今、齢のことを考えていなかったか?アマミヤ。女性に対してそれはいけないな」

 

「い、いえ。けしてその様な事は。俺はどんな名前が似合うだろうかと……」

 

「ふんっそう言うことにしておいてやろう。ただし、次はないぞ。それと敬語を辞めろと何回言えば分かるのだ?」

 

 やばい、怒らせてしまった。これで、名前の選択を誤ったら今度はデコピンなんか目じゃないくらいの拳が飛んできそうだ。…………どうする。名前なんて飼い犬のベロニカ位しか付けたことはないぞっ!?ベロニカ、元気だろうか。

 

 

 

 

 

「な、撫子(なでこ)ってのはどうで……だ?」

 

 これ以上怒らせては命の危険に関わりそうなので恐る恐るのうちにふと頭に浮かんだ名を口に出す。

 

「ほぅ?何故その名にしようととしたか聞いても良いか?」

 

「え゛、あの、その、撫子(なでしこ)の花言葉は気高いとか……あと、その変な意味ではないのですが、長く続く愛情と言いまして…………貴女に似合っているかなぁと」

 

「そ、そうか。気高く……愛か。ふふっ撫子。よし、これより、私の名は撫子だ。くれぐれも間違えるなよ?アマミヤ、よろしく頼む」

 

 こちらこそと差し出された手を握り返す。……ふぅ、どうやら無事機嫌を直すことが出来た。助かったぁ。ホッと胸を撫でおろし、バクバクと緊張によって脈打っていた心臓を宥めすかす。

 

 殊の外上機嫌になった綱手、ではなく撫子は小さく己に新たに付けられた名を繰り返して呟いていた。時折、口の端を弧を描くように歪ませる様から嬉しさが滲み出ているのが見て取れる。しかし、本当に見た目は完璧に美人だなぁとその姿をぼーっと眺める俺に気がついたのか、顔を少し赤らめながらに詰め寄ってくる。

 

「あ、アマミヤ!これは違うぞっ別に新しい名前が嬉しかったとかそう言うのではなくてだな。そう、花の名前をもじっただけだというお前のセンスを笑っていただけというか……」

 

「んじゃあ、別の名前に変えようか?……気に入らなかったのならもっと早く言ってくれれば良かったのに。もしかして気を使わせてしまったか?すまない」

 

「いやっ良い!この名でいいんだっ……そうだっ!お前がどうしてそこまで力に固執するのか聞いても良いか?」

 

「遠慮しなくてもいいのだが。……それにしても、俺が力を手に入れる事に固執する理由、か。」

 

「ああ、あれほどの傷を受けてなお無理にでも動き出そうとするのは余程の理由が有るのだろう?でなければこの私に忍体術を叩き込んでくれ等と頼み込まないだろうしな」

 

 そう、俺は気絶していた約二日を除いた三日間の間、撫子に忍術と体術を教えてくれるように頼み込んだ。しかしそのたびにぬらりくらりと先の様に話を逸らされ、色よい返事を貰うことが出来なかった。

 

「そうだな。撫子には話して置くべきだな。……俺がどうして、力を求めているか。それはある人を助けるためだ。どうしようもなく無力で情けなく、そして愚かな自分のせいで攫われてしまったあの娘を」

 

 ぎりりっと歯ぎしりを一つして爪が掌に食い込み血が出る迄に強く握りしめる。

 

「そうか、しかし、その人物の身の安全は保証されているのか?もしかしたら既に……」

 

「ッそんな事はないっ!……筈だ。連れ去った奴は≪手に入れてみるのも一興≫と言って居たから、生きては、居る筈だ。ただ、ハクの心がどうなっているのかは分からない。」

 

「ハクというのだな。そいつは、そこまでお前に思われている、か。とても幸せな奴だな。安心しろ、例え心が壊れていようと命が有りさえすれば時間は掛るだろうが、この私が治してやる」

 

「本当かッ!?忍体術の教示共々よろしく頼む撫子ッ」

 

 地獄に救いの糸が垂らされたかのように暗く不安だった心は撫子という希望の糸で随分と楽になった。感謝してもし切れないと拘束され身動きが取れない体を必死に動かし頭を下げる。

 

「よ、止さないか。大口は叩いたが、実際にそいつと逢った時にしか治療が必要なのかどうかすらも分からないのだから、今お前が頭を下げる必要はない……し、しかし、どうしても礼をしたいというのなら。貰ってやらん事も無いぞ?」

 

 無理やりに頭を下げる俺にアタフタとした様子で再度礼を求める撫子。礼と言われても、何か欲しい物でもあるのだろうか?

 

「ああっ!何でも言ってくれ!叶えられる事なら幾らでも叶えてやる」

 

「ほ、本当かっ!?言質は取ったぞ?やはり、無理だ等と言っても聞かんからな?」

 

「おうッ男に二言は無い!」

 

「そ、それなら……明日、買い物に付き合ってくれ。」

 

「了解、買い物だな。金は十分に有るから気にせずに必要なものを言ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日のことだ。久々にベットから解放され、自由の身となった俺は撫子と共にタンバの市場を見て回った。ハクとは違って撫子は、見るもの見るものに目を輝かせ、まるで、知ってはいるものの、初めて見る全てに驚きと関心を示すかのように、はしゃいだ。

 

 アレは何だとかアレを食べてみたいとか。見た目と言動がかみ合わない彼女。俺はそれに合わせ、彼女の要望を聞いて回る。

 

「アマミヤッ!何をしているっ!早くしろ置いていくぞッ」

 

 興奮気味に捲し立てる撫子は、それはとてもとても、綺麗な笑顔を浮かべていた。嗚呼、ハイハイ今行きますよと適当に返事を返しながら、はぐれない様に駆けまわる撫子を追う。時々立ち止まり、チラチラと此方を伺う様はさながら気分屋の猫の様だ。

 

 アクセサリー店。呉服屋。食い物関係の屋台やらを次々に見て、買って、食べて回るとあっと言う間に日は沈んでいた。ごねる撫子を連れて、約四日もの間、監禁されていた宿屋へと足を向けた。

 

 

 部屋に着くと同時に彼女が昨日話した式の説明をぼんやりと思い出す。彼女は、いや、彼女らと言った方が良いか。俺の式達は知識は持っていても、経験や、彼ら本来の記憶は持ち合わせていない。

 

 簡単に言うとするのならば、呼び出した瞬間に誰のモノとも分からない知識を自身のモノとしてインストールされる様なものだ。そして、呼び出されると同時、召喚主である者に一定の好意を持ち合わせるようになっており、裏切りを引き起こさないように、何らかの形で好意を抱くように、刷り込みを行う……らしい。

 

 戦闘の経験は無い。しかし、知識として有るソレと同じように体は動く。初めて出会う者に無理やりに好意的な感情を抱く。……なんて恐ろしいことなのだろうか。己の事が知識としてしか分からなく。何処で生まれて、育って、誰かを好きになって、喧嘩して、戦闘技能を磨いて……でも、その記憶は自分のものではなくて、挙句の果てには呼び出した者の奴隷同前の都合の良い存在として存在しなければならない。彼女が、撫子が名前を欲しがった本当の理由が分かった気がする。

 

 面倒事に巻き込まれたくない。何て言うのは方便だ。本当は、自分が自分として存在していないことに恐怖を抱いていたんだ。オリジナル(綱手)と劣化品(撫子)の間に起こる差を。ふてぶてしく、不遜な言動をしているのもそのためだ。

 

 

 記憶が無い。それは、とても悲しいことだ。己を生んで育ててくれた者の暖かさを知らない。バカをやって一緒に叱られる友人との経験も無い。人を好きになるという甘くて苦いそれも。全部が、偽物で彼女たちには、無い。

 

 

 便利な、道具。たまたま、それが人型を模しているだけだとそう考えれば、割り切れば…………無理だ。彼女は生きて、いるんだ。例えそれが、忍識札という道具によって生み出された偽りの命なのだとしても。

 

 どうしてこう、嫌な気分になるのだろう。力を貰った時にはあれ程までに嬉しく、気持ちが良かった筈なのに。多分、こうなることは分かって居た筈なのに。

 

 神は恐らく、俺の願いを全て叶えた上で今の俺を見て哂っているのだろう。原作の前にトリップさせたのも、ハクを助けるように仕向けたのも、ハクと一緒に笑いあって、仲良くなって……そして、再不斬と出会って、大切なものを喪った。……道化だ。あの女が用意した舞台の上で愉快に踊らされているピエロ。それが俺だ。どうしようもなく、愚かな俺はこれ以降も踊らされ続けるのだろう。それこそ壊れて、死ぬまでずっと。

 

 

「おいっアマミヤッどうした?」

 

 不安げな顔がハクと重なる。全く似ていないはずなのに。どうして、見間違えたのだろうか。……嗚呼、そうだ。キミのその純粋さが、本当に心の底から心配しているその表情が。ハクとそっくりだ。

 

「泣いて、いるのか……?全く、仕方がない男だな」

 

 そう言って、差し伸ばされた手もあの娘を思い起こす。よしよしと声を掛けつつも、赤子を撫でるように頭を撫でる撫子。

 

……ガキか、俺は。実年齢は零歳と呼んでいい位に心が育ち切っていない撫子に心配を掛けて、剰え(あまつさえ)あやす様に頭を撫でられるなど、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

 

「アマミヤは泣き虫だな。あの時もそうだった」

 

 あの時?一体何時のことだろうか。ハクとは直接有っていないだろうし、それにあの時には撫子はストレージで眠りについていたはずだ。撫子に何時の話だと尋ねてみたが、「何のことだ?そんな事より明日から修行を付けてやる」と上手く誤魔化されてしまい、まぁ無理に聞き出すべきでもないかと思い直し追究するのは辞めた。

 

 本音を言えばそれよりも、忍体術の修行の方が気になったからである。明日以降には念願の三忍の一人の指導の下、忍術を習得するための授業が始まる。

 

 それに、撫子の事を信用し過ぎるのも良くないと思ってしまったからでもある。いくら、俺に友好的な態度を取っていても、それは所詮洗脳染みた刷り込みによる結果だ。いつ何処で、それが裏返り、俺に反旗を翻すか分からない。

 

 

…………嗚呼、嫌だ。誰も信じられない俺が。疑心暗鬼に成りつつある腐って行く心が。でも、漸くだ漸く、貰った力ではなく、本当の意味での俺自身の力を手に入れることが出来るんだ。待ってろよハク。必ず、助け出して見せるから。

 

 だから、もう少しの間、待っていてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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9 忍術に必要なモノ

プロット並びに構成を練る前に書いた最後の文です。以降、改訂が入る恐れもあります。
なお、今話以降は不定期の更新と成ります。より良い作品にするためご協力とご了承ください。


NARUTO~行商人珍道中~

 

9 忍術に必要なモノ

 

 

 

 

 待ちに待った今日という日を遠足前の子どものようにワクワクと胸を膨らませながら、長い夜を悶々と過ごした。

 

 おかげで目は一段と増して、薄く、細くなりキツネ目と呼べるくらいの眠気まなこと化していた。……眠い、ただひたすらに眠い。こんな事では、撫子の授業中に居眠りをしてしまう。それに、眠るとまた、悪夢を見てしまいそうで怖いんだ。どんなに手を伸ばしても届かないハクが再不斬に首切り包丁で斬殺される悪夢を。

 

 朝っぱらから暗い気持ちになるが、それではいかんと目を覚ます為に冷水で顔をごしごしと洗い、両の手で顔を一本締めの要領で叩いて気合を入れる。さて、行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 やってきたのはタンバの街から出て、北に少し歩いたところに有る雑木林だ。ここならば、人目に付くことは少ないだろうとあらかじめ撫子が下見と木を引っこ抜いて簡易的な広場を作成して置いてくれたのだ。

 

 簡単に木をひっこぬくって本当にどんな怪力をしてるんだろうか。見た目は筋肉とは無縁そうな綺麗な肢体をしているのに、何処からそんな力が……ああ、そうかチャクラを応用しているのか。

 

 便利だよな、チャクラ。忍術を初めとした、強力な現象発生に加えて、手や腕に集めて使えば木なんて紙同前に貫ける位の力を手に入れられるんだし。足に込めれば、手を使わずに歩いて木を上ることも出来て尚且つ、水面も歩くことも出来るんだから。

 

 やばい、本気で便利すぎんだろチャクラ。そりゃあ、一般人が如何こうできる訳ない筈だ。そんな益体もないことをだらだらと頭の中で垂れ流していると目的地である広場に着いた。既に撫子はスタンバイしており、俺を今か今かと待ち構えていた。

 

 少し、イタズラしてやろうとストレージから≪かくれみの≫を取り出して、頭から外套のように被る。これを簡単に説明すると某丸メガネの少年魔法使いが幾度か使用したことがある≪透明マント≫に似た代物である。とは言え、このかくれみのは時間制限付きなのであるが。

 

 かくれみのを被り、こっそりと撫子の後ろ側へと移動していく、ジリジリと近づき、肩に手が触れそうになった瞬間、俺の体は宙を舞っていた。

 

 

 

 何のことはない。ただ、背負い投げの様に腕を掴まれそのまま投げられたのだ。ドスンと体が地へと叩きつけられる音と衝撃を受けその拍子に剥がれたかくれみのは消滅する。布が消えたことにより下手人の姿が露になる。当然、布で己が体を隠していた人物つまり俺は此方をゴミでも見るような目を向けてくる撫子に冷や汗をダラダラと流した。

 

「何をしている?アマミヤ」

 

「ええと、何してるんでしょうね?」

 

「質問に質問で返すなと親や師から習わなかったのか?」

 

「すみません、少し、イタズラしようかと」

 

 イタズラと言う単語が撫子の耳に届くや否や撫子の顔は凄く良い笑顔を此方に向けた。拙いこれは、ブチギレ一歩手前の笑顔だ。間違いない。

 

「ほう、この私にイタズラをしようとしていたと?制裁を加える前に一応、聞いておいてやろう。何故、その様な低俗な行為を行おうとしていたのかを」

 

 下手なことを言えば殴られるだろうそれも全力(本気)で。もし、そんなモノを喰らってしまえば今度は三日では済まない期間、ベッドの上に居なければならなくなるだろう。それは困る。何とか、上手い言い訳を考えなければ。

 

「な、撫子が余りにも綺麗だったから。後ろから抱き付いてみようかなぁって」

 

「……」

 

 しまった。これは失敗か?というか、何故この様な恥ずかしい台詞を言ってしまったんだ。おかげで俺の顔は真っ赤だ。それと同じくして怒りに顔を赤らめふるふると肩を怒らせながら拳を握って耐えている撫子の姿はまさに爆発寸前と表現できる。無言で此方へとゆっくり、大地を踏みしめるように歩いてくる姿は恐怖を増長させる。

 

 

「いや、すまんっ。ほんの出来心だったんだ。グーだけは止めてくれッ」

 

 必死に暴力は良くない。人間は対話で事を納めるべきだと説得するも終ぞ撫子は俺の言葉に応じず、俺の顔を覗くようにしてしゃがみこんでくる。ふわりと女性特有の甘い香りが俺の鼻腔をくすぐり、少し顔を動かせばキスしてしまいそうな距離に有る整った顔がとても綺麗で思わず見惚れてしまう。

 

「頬と首が赤い、目は泳いではいるがどうやら嘘では無い様だ。……ふんっ、まぁいい。早速講義を始めるぞ」

 

 どうやら、機嫌を多少は治してくれたのか暴力は振るわずに忍術の講義をしてくれるようだ。首の皮一枚繋がった、恥ずかしい思いをして良かった。

 

「何をしている。早く起き上がらないか。それとも、その体制で私の講義を受けるつもりか?」

 

 ぐったりと、仰向けになって倒れていた状態から飛び上がり、横倒しにされた木の上に腰を降ろしている撫子へと駆け寄った。

 

「さて、それでは講義を始めよう。まず、忍術とは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍術。それはチャクラと呼ばれる、精神から織り成されるエネルギーと細胞の一つ一つから生み出される身体エネルギーとを均一に混ぜ合わせたモノを練り上げ、形とする事によって起こす現象のことを指す。

 

 術の種類は多種多様。≪火遁≫を始めとする五属性(「火遁」「風遁」「雷遁」「土遁」「水遁」)≪医療≫≪幻術≫≪転生≫≪時空間≫≪分身≫≪結界≫に加えて新しく自身で考案したモノ等々、有名・マイナー含めるとそれはもう数えきれないほどの数が存在している。これらを扱うためには弛まない努力と才能とが必要となる。一朝一夕で身に着けられるモノではない。等々、基本的な忍術についての講義が進められた。

 

 

 

 

 

「さて、話ばかりでは退屈する事だろう。どれ、一度忍術を見せてやるから、真似をしてやってみると良い≪分身の術≫」

 

 印を結ぶと白煙が発生して撫子が五人に増えた。どうやら成功したようだ。

 

「おおっ、流石は撫子先生。俺にも出来るのかな」

 

「これくらい、アカデミーを卒業したものならば誰でもできるさ。さぁ、お前もやってみろ」

 

 印の組み方は分かった。早速やってみようじゃあないか。ぬんっ…………。チャクラってどうやって練ればいいんだ?身体エネルギーと精神エネルギーを混ぜてって既にそこから訳が分からない。臍がどうとか言ってた気がするが、何のことやら。これは一度恥を忍んで聞いてみるしかない。

 

「撫子、チャクラってどうやって練ればいいんだ?」

 

 俺がそう問いかけると撫子は何を言っているんだと怪訝な表情を浮かべた。

 

「アマミヤ、お前私の話は聞いていたか?もう一度説明してやる。精神エネルギーと身体エネルギーを……」

 

「いや、そうじゃなくて。そもそも、精神やら身体エネルギーってのはどっから出て来た言葉なんだ?」

 

 

「むっ、そう言われれば確かにそうだな。しかし、私は知識として既に知っていたからな。どうすればチャクラを練ることが出来るか?と聞かれても……そうだ、アレが良い。少し、待て」

 

 腰に付いたポーチに手を入れ、何を掴み出したのかと注視するとそれは≪クナイ≫だった。

 

「まて、それで何をするつもりだ。」

 

「何をって、チャクラの練り方を教えようかと」

 

「可笑しいだろう。チャクラを練るために何故クナイが必要なんだ。そこは普通、教本とかじゃあ無いのか?ほら、サルでも分かる忍術編とか」

 

「?普通のサルは忍術なんぞ使えないが。それに、習うより慣れよという言葉が有る。実際にやってみて身体に叩き込めば、嫌でも身に付くさ」

 

 可愛らしく小首を傾げる様は見ていて気持ちが良いが、やろうとしていることが野蛮過ぎて、可愛さ半減どころかマイナスだ。

 

「ええい、往生しろ、男だろう。チクっとするだけだ。」

 

 クナイを手に近づいてくる撫子、後退りする俺。部外者が見れば、浮気した男が嫉妬に狂った彼女に凶器片手に追いつめられている様に見える事だろう。

 

「ハクとやらの為に頑張るのではなかったのか?お前の覚悟とやらはその程度のモノなのか?」

 

 真剣な声色と表情を浮かべ、此方を見定める様にじっと見つめる撫子。……嗚呼、そうだ。俺はこんな所で油を売っている暇はない。チャクラがなんだ、精神?身体エネルギー?力を手にしなければ、俺はこれからもずっと無力なままだ。だったら、やることは一つしかねぇだろ。

 

「よしっ、どっからでも来いッ!」

 

「ふんっ多少はましな面構えになったな。いつまでも腑抜けていれば殴ってでも矯正してやったものを、残念だ。……しかし、何を勘違いしているのかは知らんが、指先を少し斬るだけだぞ?」

 

「ぇ?それだけ?俺の意気込みとか」

 

「恥ずかしい奴だ。指先一つ斬るだけにも拘らず、発破を掛けてやらねばならぬとは」

 

 ぐぉおおおっ恥ずかしい、ものすごく恥ずかしい。羞恥心で顔が熱い。というかそれだけなら始めに説明位してくれよ。

 

「さぁ、気を取り直して、やるぞ。まずは手本を見せる。手を出せ」

 

 言われるがままに右手を掌が見えるようにして差し出す。差し出されると同時にクナイを持つ手が人差し指に宛がわれ、ゆっくりと切開するように横に動く。ぷくりと赤い玉が斬られた隙間から出てくる。次第にそれは雫となって指を伝い、地へと落ちていく。

 

「よく見ていろ。そして、感じろ。私のチャクラを」

 

 有無を言わせぬ物言いで俺に覚えさせるように印をゆっくりと組む、以前治療して貰った時に似た緑光が両手に宿り始める。それを人差し指へと持っていき、患部へと当てる。暖かな緑光が煌めき傷に纏わり付き傷を修復していく。それは数秒も掛らぬうちに傷跡無く治してしまった。

 

「これが≪掌仙術≫だ。医療忍術の一つで最も治療に使われるものだ。……術が発動するように考えながら臍に力を込め、チャクラという水を汲み上げ必要な個所に流すという一連のイメージを持て。これだけでも多少変わるはずだ。」

 

「嗚呼、ありがとう撫子。やってみるよ」

 

 チャクラ、要するに生命力とか霊力とか魔力とか気とかそんな感じのイメージをすればいいんだろう?ファンタジー系統なら相応の数は読んできた自信はある。だからどうしたと言われても困るが、イメージさえ出来れば何とかなるはずだ。想いを形にする、印を組むのはイメージをより強固な形にするためのプロセス。印なんて組まなくてもハクは氷の矢を放っていた。つまり、術を発動させるためには想像力とそれを発動させるための源となる何か(この場合はチャクラ)が有れば良い。

 

 クナイを右手に握り、左人差し指へ宛がう。自傷癖は無いんだがなぁと苦笑しながらゆっくりと斬る。先ほどと同じように血が流れ出す。胸から腹へ臍へと意識を移し、初めて、撫子に治療を施してもらった時の事とつい先ほど受けた治療を思い浮かべる。

 

 暖かく、触れた者を安心させるソレを今度は自身の中から探し出す。…………これが、チャクラ。俺のチャクラか、弱弱しいな。

 

 小さく炎の様に時折揺らぐそれは確かに、撫子のソレと似ていた。これを、汲み上げて掌仙術という形に変える。両の手に燃え盛る炎を移動させる。それは印を組んでいないにも関わらず撫子と同様、掌仙術特有の淡い緑光を放つ。

 

「なッ、アマミヤお前、今印を結んだか?」

 

「いいや、チャクラと思わしきものを両手に集めたら勝手にこうなっていた」

 

 クナイによってできた切り傷は既に綺麗さっぱり消えていた。それでもなお緑光は止まらない。否、止められない。

 

「な、撫子。チャクラを放出する事は出来たんだが、止め方が分からないんだ。どうすればいい?」

 

「ば、莫迦者ッ!何を悠長に言っているっさっさと止めないとチャクラの枯渇で大変なことになるぞッッッ」

 

「た、大変な事って?気絶するとか?忍術が使えなくなるとかか?」

 

「それも有るが、チャクラの過剰使用は命の危険に繋がる。初めて使用するのなら尚更だ。チャクラは元来、自身の精神と身体を酷使する。分かり易く言えば、命を削っているに等しい行為だ。使い過ぎれば廃人と化す恐れもある。だから、早く止めろと言っている」

 

「そ、そんな事言われてもなぁ……っとそう言えばアレがあったな」

 

 命に関わると聞かされれば黙っていられない。手早く、ストレージを開き中から≪ふういん玉≫を取り出し、俺自身に向けてそれを投げる様に撫子に言う。

 

 始めに言っておくが、自棄になった訳でも、急にマゾヒストに目覚めた訳でもない。当然この様な奇行を行う理由は有る。ふういん玉の効力は当たったモノを九分間の間≪術封じ状態≫にするという効果を秘めている。これの意味する所つまりはチャクラを使った、体術以外の術を使用できない様にするのだ。一度チャクラと言う水を垂れ流す蛇口を無理やりに閉めてしまえばこれ以上チャクラが漏れだすことはないという訳である。

 

 

 俺の突発的な奇行について撫子に説明するとやっと得心がいったのかコクコクと頷いたり小声で小さく何やら呟き、そして俺に向かってふういん玉を全力で投げた。

 

 

 思わずストライクッ!と叫びたくなる位の剛速球(ストレート)が腹にクリーンヒットしその痛みに悶絶しながら意識を手放す。……最近、意識を飛ばす頻度が高くなってきた気がする。

 

 

 

 



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10 悪夢、壊れ行く心

取りあえず、序章が終わる位までは今有る穴だらけのプロットで書いてみようと思います。

致命的な穴やその他諸々有るかと思いますが感想にてご指摘いただけると有りがたいです。

話はドンドン暗くなるばかりですがそれでも良い方はどうぞ。

※グロ&鬱描写がございます。苦手な方はブラウザバックを推奨させて頂きます。


NARUTO~行商人珍道中~

 

10 悪夢、壊れ行く心

 

 

 

 

――――嗚呼、またか。また、この光景だ。

 

 薄ぼんやりとした意識の中であの日から永遠と壊れたテレビの様に続く夢を見る。夢だと分かって居てもなお、この光景はもう見たくない。

 

 俺の身体は大地に伏している。否、巨大な出刃包丁のような刀。銘を首切り包丁と呼ばれるそれが俺と地面とを縫い付けて動けない様にされて居るのだ。どれ程もがこうと足掻こうとしても俺の身体はピクリとも動いてくれない。

 

 そこへ、何時の間に現れたのか俺の血を浴びて真っ赤に染まりながら宙を仰ぐズタボロなハクともう一本の首切り包丁をハクに向けて上段に構えている再不斬。何やら、ここからでは聞き取れない会話を二言三言交わしたかと思うと構えられたそれを勢いよく振り下ろした。

 

 

 バッサリ、そう表現する事が一番適切であろう。脳天から股下にかけて一刀のもとに両断されたそれは左右に割れ、肉の内に隠された臓物を外気に晒す。ダラダラと流れ出てきた赤い血は地へと広がり血溜まりとなってハクの亡骸を更に紅く染め上げる。

 

 直後、狂ったような大きな嗤い声が周囲を包み込む。それに混じって俺を責める様にハクの声が木霊する。助けて。約束してくれたのに。どうして来てくれないの。痛いよ。……お願い、早く殺して。もう、楽にさせてよ。耳元で囁かれる言葉が刃となって襲い掛かってくる。

 

 

 それが、何度も、何度も何度も、繰り返し、永遠にリピートされる。…………もう、止めてくれ。頼むから、止めてくれ。両の目を閉じようとしても。両の手で目を覆い隠そうとしても。耳を塞ごうとしても。俺の身体は微塵も動いてはくれない。

 

 

 様々とハクが殺される光景を沸々と心に何かが溜まっていく事を感じながら、呆然と見続ける。見せつけられる。聞かされ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めてくれぇッッッ!ハァッ、ハァッ……はぁっ」

 

 覚める。アノ長く忌々しい夢から。目が覚めた場所はどうやら、宿のベッドの上の様だ。外はもう既に日が落ちている。満月と成っている闇夜を黄金に光照らす球体がまさか、太陽の光を反射しているに過ぎない事をこの世界の人々は知っているだろうか。と不意に詰まらない思考が脳裏を過る。

 

 後、どれ程の間この最悪で最低な夢を見続けなければ成らないのだろうか。ハクは本当に無事なのだろうか。俺は奴に勝てるのだろうか。不安が、一挙に押し寄せてくる。

 

 駄目だな。こんな弱気では、ハクや撫子に心配されてしまう。……俺は、大丈夫だ。俺は大丈夫だ。まだいける。まだやれる。自身に暗示を掛ける。俺はまだやれるのだと。こんな所で諦めるような男ではないと。

 

 あの日以降、恒例化してしまった自己暗示をこなすと自身の周囲を見渡す。そういえば、悪夢を見る前に俺は撫子によって気絶させられたのだったなと苦笑が浮かぶ。くくっ、まさか投げろと言ったからと言って全力投球されるとは思わなかったぞ。

 

 看病をしながら寝てしまったのか、目の端に薄らと涙の後を残したあどけない表情を浮かべた撫子がベッド脇に伏して寝ているのを確認する。嗚呼、また泣かしてしまったな。どうして俺の周りの人間というか俺も含めてこうも涙脆いというか泣き虫が多いんだろうな……ハクしかり撫子も。それでも不思議と俺の事を心底心配してくれたのだと分かってとても心が暖かくなる。

 

「くくっ涎何て垂らして、一体どんな夢を見ているんだか……」

 

「ぅ……ぁ、ミヤ駄目だそれは私の肉まんだ……っあ、やめっ」

 

「本当にどんな夢見てんだよ、俺の悪夢と交換して欲しいくらいだな」

 

 撫子は頬を少し赤らめながら何やら寝言を漏らしだす。それに突っ込みを独り入れながらも昨日のアレを思い出す。……チャクラをコントロール出来なかった。いや違うか、出すことは出来たのにも関わらずどれ程止めようとしても止まらなかったのだ。仮説を建てるのならば俺自身がただ単に扱いきれていない事が一点。そもそも俺のチャクラは放出する事だけにしか使えないという点。その他にも色々と原因は思い浮かんだが取りあえずこのうちのどちらかが原因とする。

 

 さて、どちらが本命かな?と突き詰めようとした所で扉がリズム良く三々七拍子に叩かれた。……合図だ。漸くアイツらの居場所を突き止めてくれたのか。この一週間、待った甲斐が有ったというものだ。

 

「入ってくれ。ナズナ」

 

 俺の声が聞こえると同時、音もなく扉を開き入ってくる暗部装束の女性ナズナ。彼女には連れ去られたハクと連れ去った再不斬を追って貰っていたのだ。俺が撫子のデコピンによって気絶してから二日後ベッドに拘束された後、撫子が花を摘みに行っている最中に呼び出し、主に追跡系統の≪忍び札≫を装備させて追って居て貰ったのである。

 

 まさか、これほどまで速く知らせをしてくるとは思っていなかったが……どうやら式達は俺が思っている以上に優秀なようだ。それこそ独りでも再不斬程度の命を刈り取る程度には。しかし、俺が依頼した事は再不斬の殺害ではない。ハクの安否確認と現在地の把握にのみを最優先に行動してほしいと頼み込んだのだ。

 

 結果、一週間もの長い期間が空いてしまった再不斬達を迅速に発見、報告をしてくれているのだから今ばかりは色々と厄介な忍識札に感謝をしている。

 

 ナズナに持たせた≪巻物間移動・瞬身の巻物≫はAの巻物と紐付けされた同一のAの巻物に長距離、短距離関わらず移動できる効力を持たせたものである。これを使い、Aを俺の元に置き、ナズナがハクを発見、目的地から少し離れた場所に新しくBの巻物を置いてAを使って俺の元に帰ってくるという方法を取った。

 

 これは、ナルトRPG内でも移動ギミックとして使われており、参考にしてやってみたら出来てしまったというレアなケースである。尚、その後分かった話ではあるが、原作主人公の父≪四代目火影・波風ミナト≫は時空間忍術と呼ばれる忍術のエキスパートで≪飛雷神の術≫と呼ばれる術を用い此れと同じ様な瞬間移動からの高速戦闘を主としていたそうだ。

 

 

 それは兎も角ナズナの報告では再不斬達は霧隠れの里に向かおうとしているとの事。命令とあらば私が首級をお持ちいたしますとまで言ってくれたが、奴には借りがある為に出来る事であれば俺自身の手で蹴りを付けたい旨を告げ、ハクの身の安全を最優先するように言い渡した。

 

 正直、奴の事を考えるだけで恐怖と怒りとで身体が震えてくるが、それは武者震いだと自身を誤魔化し、奴を倒すための策を練る。とは言え今度は此方が奇襲を掛ける番だ。

 

 

 借りを借りのままにして置く事は主義じゃない。やられたからにはやり返す。ハンムラビ法典万歳だ。この怒りを鎮めるためには、奴と決着を付けなければ収まりそうも無い。ここまでは俺自身の事情だ。そして、ここからはハクの為でもある。誰々の為という言葉は余り、使いたくは無い表現方法だが、今回ばかりは致し方ない。

 

 奴、即ち再不斬は霧隠れの里に於いてクーデターを引き起こす。しかし、計画は破綻。再不斬を含むクーデターの首謀者等は散り散りになって国外へ逃げ出すことになる。

 

 何故、その様な事を企て、協力・実行したのかまでは俺は知らないが、正直に言わせて貰うと無謀だ。数十若しくは数百の忍び対隠れ里引いては国と戦おうと言うのだ。どだい再不斬の無音殺人術(サイレントキリング)が優秀であろうと人間には限界というものがある。いつの日か返り討ちに遭うかして、その身を滅ぼすだろう。

 

 どう足掻いても、数十、数百程度の人員では小競り合いを起こす事すら不可能と言えるだろう。そも、そんな危険な行動をしようとする輩にハクの身を任せる訳にはいかない。この世界は既に、道筋から外れてしまっているのだから。不測の事態何て物はいつやって来ても可笑しくは無い。

 

 前にも言ったが、ハクには優しい光の中で生きて欲しい。いつ、この手を汚してしまうか分からない俺よりかは、木の葉辺りに式でも付けて暮して貰うのも良いかもしれない。

 

 大衆の為のヒーローではなく、彼女の為だけの仮面のヒーローに俺は成る。報われ様等と甘えた事はもう、言わない。吐かない。どれ程の汚名を受けようと、屈辱に晒されようと。俺は、決めたのだ。

 

 迷わない。逃げたりしない。敵が強かろうが。状況が絶望的だろうが。足掻いて足掻いて、足掻き続けてやる。

 

 

――――どうせ、殺し殺されたとしても万能丸が半死半生程度まで回復させてくれる。……なぁんだ。どうして俺はそんなつまらない事に躊躇していたんだろう。人を殺める事に抵抗を持っていたのだろう。

 

 

 何かが、崩れていく。壊れていく。壊してはいけない。越えていけないナニかを。しかし、それをアマミヤは思い出せない。否、思い出すことを諦めた。それはこの世界では不要だと断じた。甘さだと。弱さであると。

 

 同時、ぽっかりと空いたそこへ夢の中で溜めに溜め込んだドス黒い感情が流れ込む。倒せ、殺せ、奪え……ありとあらゆる劣情が。暗く、とても一人では抱えきれないそれがアマミヤへと一気に流れ込んでしまった。

 

「くくっ、くふふっははははっ」

 

 狂った様に笑い出すアマミヤは、正気ではなかった。それも当然。日々、日夜問わず押しつぶされそうな罪の重責が襲い、夜眠りに付けば、手出し不可能な状況化に於いて助けたいと願い続けた少女が幾度も幾度も目の前で斬殺される光景を様々と見せつけられ、終いにはその少女から恨み言を言われる始末。

 

 これで、狂わないと言える者はもはや人ではない。加えて、アマミヤには中途半端な力が有ったことも災いした。いっそ無力であれば、ハクの事も見て見ぬふりをすることも出来たであろう。しかして、彼には神を自称する女性から力を与えられてしまったのだ。使い方を誤れば世界を壊すことも可能な強力にして強大な力を。

 

 

 分不相応な力は得てして人を不幸にする。強大な力は災いを呼び起こす。強い力を持つ者同士は惹かれ合う定めにある。

 

 どれもこれも、何処かで、聞いたことの有るフレーズであるだろう。しかし、これは真実でもある。強力が故に力を自慢し、誇示すれば人は当然良い顔をしない。人とは己より優っている者に対しては往々にして、冷たい生き物だ。

 

 そうして、気に入らないものはドンドンと排除し、己の都合の良い世界を創ろうと考える。独裁の始まりである。

 

 一度、マイナスのイメージを持たれたモノはそうそう簡単にプラスには成らない。否、成れないと言った方が適切か。

 

 アマミヤの場合、不幸な事故により一度死を受けた。しかし、神によって強力な力を貰い受けトリップという形でこの世界へとやってきたのだ。そして、とんとん拍子に事が上手く運び、ハクと出会った。彼女を通してこの世界が現実のそれと変わらないことを再認識した幸せなアマミヤは絶望と出会う。

 

 幸福から、一気に奈落の底へと突き落とされた。日々、蝕まれていく心。心が壊れてしまうまでの限界は近かった。

 

「嗚呼、最高だ。今までに無いくらいの良い気分だ」

 

 抑圧された感情が反発し、頬は上気し酒にでも酔ったかの様な気分に浸る。

 

「ナズナ、奴は、再不斬は何処に居る?」

 

 スッと差し出された巻物を受け取ると満面の笑顔を浮かべ、それをひも解く。次の瞬間には白煙が立ち込め、そして消えるとアマミヤの姿は何処にもなかった。

 

 

「御武運を」

 

 一言小さく呟いたと思うとナズナもまた巻物を開くと白煙を残し、その場を去る。撫子はといえば、スヤスヤと寝息を立てながら眠り続けている様に見せかけ、巻物を開いた隙を狙ってナズナに躍りかかる。と同時に発動した瞬身の巻物に巻き込まれたのだった。

 

 こうして宿屋の一室は一夜にしてもぬけの殻となり、また街から出ていく姿を誰も見なかったことから神隠しにでも有ったのでは無いかと囁かれることになる。

 

 

 

 



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11 闘争の序曲

遅れて申し訳ない。今後も二週間か三週間に一回くらいの更新ペースに成ると思います。
早く続きを書ければいいのですが、何分私は社会人な物でして仕事が最優先に成ってしまいます。
少し、仕事の方が忙しい為のんびり更新になると思います。

私のような素人の作品と言うのも烏滸がましい駄文を楽しみにしていてくれる方が居るのかは分かりませんが、のんびりとお待ちくださると有りがたいです。


NARUTO~行商人珍道中~

 

11 闘争の序曲

 

 

 

 

 

「くくっ……さて、策は練った後は結果を御覧じろってな。くふふっ」

 

 悪戯を考え付いた悪ガキの様な笑顔を前面に浮かべるアマミヤの顔には忍び札が彼方此方に乱雑に貼り付けられていた。両の目には当然の様に貼り付けられており、それで前が見えているのかと見ている方が心配に成るが彼の足取りは確りとしたものであり、その心配は無用であることが伺える。

 

 彼が両の瞼に張り付けている忍び札は≪秘伝・しゃりんがん≫と≪秘伝・びゃくがん≫の二種類である。効力は説明するまでもないだろう。察しの通り、≪日向≫並びに≪うちは≫の血族でも無いに関わらず、≪写輪眼≫と≪白眼≫を使用可能にするというとんでもない反則級の忍び札である。

 

 白眼で周囲の状況を探知。写輪眼で対峙する相手の動きを察知する。まさにいい所取りと言えるだろう。しかし、これにも弱点がある。これらを発動すると常時チャクラを消費してしまうという点である。

 

 元々チャクラ等という超常のソレを持ち合わせていなかったアマミヤは、カンポウ丸によってソレを無理やりに手に入れたのだ。結果としてチャクラを手に入れることはできたが、それのコントロール技能は最低。現在においては放出する事しか出来ないのである。加えて、無理に手に入れたアマミヤにはチャクラの形質変化が出来ないという欠点も存在している。……とは言え、それを克服する方法は既に確立されており、実質的の問題点はチャクラコントロールの未熟さと絶対的なチャクラ量の少なさのみである。

 

 しかし、チャクラ量の問題もまた簡単に覆してしまうのが神より授かり受けた力の恐ろしいところである。≪忍び札・九尾のチャクラ≫本来であればナルトのみが装備・使用出来るソレをアマミヤは装備出来ると共に使用することが出来るのだ。効力は、一度チャクラを一定量支払い、十二分もの間必要なチャクラ量を無視してチャクラを行使する事が出来る様になるという完全にぶっ壊れのアイテムだ。此れとチャクラを回復させる≪チャクラ丸≫を始めとするアイテムを使用してしまえば、ほぼ無尽蔵にチャクラを行使することが出来てしまう。

 

 それ以外にもハクの持つ氷遁を始めとする血継限界や不死等という札まで存在している。これらすべてを今のアマミヤが併用しており、尚且つ暴走を引き起こしたり等すれば……再不斬どころか水の国、ひいては世界が危険な状態に陥るであろう事は自明の理である。

 

 

 

 

 

 

 

「見ぃつけたぁ、今助けるからねぇ……ハク」

 

 忍び札はと言えば顔中に札を張り付け、目に見える場所にある腕やら胸やらにも同様に貼り付けられている。その見た目からして完全に奇人変人の類ではあるが、今のアマミヤは何を仕出かすかわからない恐ろしさを纏っている。精神的にも不安定な状態で、ゆったりとした足取りでハクのもとへと歩き出すアマミヤは幽鬼のそれに似ていた。

 

 

「よォ、久しぶりじゃあねェか。どうした?面白れェ面構えに成って来やがったじゃねェか。あの間抜け面(ツラ)を隠すために態々、札を顔面中に張り付けるセンスは分からねェが、テメェの大事な連れならもう既にオレ様の玩具だぜ?クックック、なあ白よ」

 

「はい、ボクは再不斬さんの道具ですから」

 

 アマミヤの気配に気が付いたのか振り返りながらに挑発をする再不斬。それに応えるようにハク、否白は能面染みた顔を薄く歪ませ再不斬の言葉を肯定する。対するアマミヤはそんな事に興味はなさそうにしてハクへと歩を進める。

 

「助けに来たよぉハク。今すぐに助けてあげるから、ちょっとだけ待っててねぇ」

 

「ハァ?助けるってェ?誰がどうやって誰を助けるんだよォまさか、テメェ如きがオレ様を倒そうなんて考えてるんじゃあねェだろうな?……そうだとしたらテメェら揃って馬鹿ってなもんだぜ。クックックック、ハァーハッハッハッハ」

 

「あー煩いなぁ、もう俺は今、ハクに話しかけてるんだってばぁ虫けらの相手なんてしてないの。分かったぁ?ごめんね、ハク。この前は助けて上げられなくて。今度はさ、こんな奴さっさと片づけちゃうからさぁ……少し、待ってて」

 

 再不斬はアマミヤを小馬鹿にし、アマミヤは再不斬の事など眼中に無い様子でハクへと続けて間延びした声を投げかけ続ける。当然、一度殺した男に自身が馬鹿にされるどころか無視までされ、怒り狂った再不斬は背負っていた首切り包丁を手に掛け、苛立ちの元を早く解消してしまおうと不意を付くようにアマミヤに向けて素早く斬りかかる。

 

 殺った。そう確信した再不斬は口元に笑みを浮かべる。アマミヤの身体に刃が降り注ぐ。そのまま当たってしまえば一刀の下にアノ悪夢と同様、真っ二つにされてしまうだろう。凶刃がアマミヤの身体に触れる。その刹那、再不斬の動きがピタリと止まった。しかし、それは一瞬の出来事であり、そのままいとも容易く、斬りつけられたアマミヤの身体は無残にも両断されてしまった。

 

 

 色鮮やかな赤色が再不斬を。草木を。大地に降り注ぎ、紅く染め上げる。あれだけの大言を吐きながらも呆気なく両断されたアマミヤをやはり、口だけだったかと落胆と失望をしながら白へと振り返るとそこには傷一つない≪無傷≫のアマミヤのみが存在していた。

 

「テメェ……一体どんな手品を使ったのかは知らねェがどうして生きていやがる。それに、オレ様の道具を何処へ遣った?」

 

「くふっ、くひひ、さぁてなんででしょうねぇ?……そもそも、お前の道具なんてもうこの世の何処にも存在していないのに、ね。後ろを振り返って見ると良い。面白いものが見えるよ…………そして、俺と同じ苦しみを存分に味わうと良い」

 

 アマミヤの言に訝しげな表情を浮かべながら再不斬はアマミヤの挙動に注意しながら、先ほどアマミヤが両断された筈の場所である後方へゆっくりと振り返る。確かに、ヒト型は両断されて居た。…………ただし、アマミヤとは似ても似つかない幼い少女が。と注釈が付くが。

 

「……テメェ。ソイツはテメェの大切なモノって奴じゃあ無かったのかよォ……ッ!変わり身の術か?ヒデェ事をしやがる。反吐が出るぜッッッ」

 

「くははッ……ソレをお前が言うのか?俺から大事なモノを根こそぎ奪っていったお前がッ!……なんだ、情でも移ったのか?アノ≪鬼人≫が?くくっこれは面白いッ人の命を奪いに奪い、挙句の果てには攫って行った年端もいかない少女に思慕を募らせたと?……これを笑わずして何を笑えというんだ。くくくっくっくっく」

 

 狂った様に笑い出すアマミヤは両の手を大きく広げ、まるで演説をするかのように朗々と再不斬に向かって語りかける。

 

「なぁ……どんな気分だよ。初めてなんじゃ無いのか?お前はいつも奪う側で、力のない者達からその何もかもを奪っていく。尊厳を踏みにじり、泣いて許しを請う者の命を奪い。その亡骸へ唾を吐き掛ける。それが、今は真逆だ。自身の手で大切な道具とやらを壊して、その怒りの対象を俺へと向けようとしている。くくっ、でも残念。……お前じゃ俺には勝てねぇよ。俺が受けた絶望をお前にも味遭わせてやる」

 

 

 アマミヤのその言葉を皮切りに、再不斬は無言で走り出す。その顔に憤怒の形相を浮かべながら両の手に握る首切り包丁を強く、強く握りしめ。殺すべき敵を正眼に捉え駆ける。

 

 

――――ころす。コロス。殺す。殺してやる。必ず、どんな手を用いても。殺してやる。あのふざけた野郎を。

 

 接敵、武器を未だに持たないアマミヤに上段から斬りかかる。しかし、それはまるで風に吹かれる柳の葉の如くゆらりゆらりと簡単に避けられてしまう。なれば、忍術だと素早くチャクラを汲み出し、印を組む。しかし、それを待っていたと対峙するアマミヤは口元に歪んだ笑みを浮かべる。再不斬が結んだ印は奇しくも≪カカシ≫との初戦に於いて用いられた≪水遁・水龍弾の術≫の印だった。再不斬と同様、否それ以上の動きで印を組み上げるアマミヤ。当然、先に術を発動させる者は再不斬ではなくアマミヤであった。

 

 チャクラが巨大な水龍を形作る。出来上がったソレは青々とした体躯に大きな顎を備え、生誕を喜ぶように天に向かって咆哮を上げる。操り手であるアマミヤが手を再不斬に向けて翳すとそれに呼応するようにもう一度咆哮をし、その体躯に似合わぬ素早い速度で地を這いながら再不斬へと突撃する。

 

 何故、自身が発動させようとした術を先取りされたのかと混乱気味の再不斬は、アマミヤから遅れる事数秒後、同様に水龍を作り上げ、アマミヤの作り出した水龍を相殺するように指示を出す。

 

 激突。龍と龍とが互いにぶつかり合い、絡み合って錐揉みし、最後には両者共に身体を構成していた大量の水を周囲に四散させ掻き消える。

 

「テメェ、一体どう言うつもりだ?どうして俺の行動を先読み出来やがった」

 

「素直に教えるとでも?くくっ、一つ教えてやるよ、俺には未来が見えるんだよ。……その未来で、お前は死ぬ。戯言だと言いたいのなら言っていると良い。直ぐに俺がその通りにしてやるからな」

 

 無駄話しは終わりだと締めくくり再び対峙する両者。双方、相手の出方を伺いながら策を巡らせる。余裕綽々の表情を浮かべるアマミヤに対し、再不斬は表向き平静を装いながらも内心動揺していた。

 

――――オレ様が死ぬ?それもあの男に殺られてだと?未来が見える何て言う妄言は一先ず置いておくにしても、奴はどうやって俺の手を読んだ?そもそも前が見えているのかも分からない珍妙な(おかしな)格好でオレ様の攻撃を避け続けられている事自体が可笑しい。……奴には本当に未来が見えているとでも言うのか?

 

 じりじりと距離を縮めながら再不斬は考察を続け、己の得物の間合いにアマミヤが入ったことを確認し、再度二人は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これ以上勘違いされる前にいい加減ネタばらしに移ろう。現在、再不斬は≪幻術≫に罹っている。当然嵌めたのはアマミヤである。初め、不意打ち気味に襲い掛かった再不斬の動きが停止した時にとある瞳術を発動させたためである。

 

 朱い眼。ソレと視線が合ってしまったが故に一瞬の間動きを止めたのだ。朱い眼の正体は当然、写輪眼である。正しくは写輪眼の前に≪万華鏡≫と付くが。≪万華鏡写輪眼≫それは、うちは一族に伝わる最強にして最悪の眼である。発眼条件は写輪眼を使用することが出来る男性、かつ親しい友人、若しくは直系の家族を自身の手で殺めるか、殺害される瞬間を自身の眼で見る等の何れかである。

 

 発眼した場合、その眼に浮かぶ模様がまるで万華鏡に映る模様に酷似したものに変わる事から、この様な名称が付いたのだ。万華鏡写輪眼を保持する者には特別な能力が付与させる。例を上げるのならば再不斬に対して使用した強力な幻術を見せるモノ。精神に多大なダメージを与えるモノ。消す事の出来ない黒焔を出すモノ。等々、多種多様な強力な効力を発揮するモノが多い。その反面、使用するための膨大なチャクラ量やそもそもの発眼条件。使い過ぎれば失明するなど弱点も確かに存在するが、それらの殆どは今のアマミヤには関係の無いことなのだ。

 

≪忍び札・秘伝・うちはの力≫この札の効力により、万華鏡写輪眼や火遁を始めとするうちは一族の得意とする忍術・瞳術はほぼ全て使用可能となっている。そして、右眼に張られた忍び札である秘伝・しゃりんがんは、とても厄介な性質を持っている。札を貼っているのにも拘らず視界は札を透過し、相手の目と視線が合えばその効力をいかんなく発揮してしまうのだから。

 

 

 今、再不斬が見ている幻術は≪うちはシスイ≫が使用したとされる瞳術を使用したモノである。アマミヤ(変わり身)が斬られ、しかし本当に斬られていたのは白(幻)だったと誤認させる。大見栄切って助けると宣言したにも拘らず助けようとする少女を非情にも身代わりにする所業に当然、再不斬は戸惑いを覚える。後は、幻術によって出来たアマミヤが救い様も無い悪役(ヒール)を演じる。再不斬が激昂したのは予定外の事ではあった様ではあるが、怒りは思考を停滞させ幻術に傾倒させるためマイナスではなくプラスにしかなっていないのだ。

 

 効力の程は、掛った相手が幻術に掛っている事を理解する事も無く、同士討ちを引き起こすか幻惑に惑わされ、自身の意志とは関係なく自傷を行ってしまう等の受ける側からすれば途轍もなく厄介な瞳術の一つである。

 

 当然、幻術である為解除する術(すべ)は存在しているが、今の激昂し不安定な精神状態の再不斬では自滅するのも時間の問題である。……そう、自身から戦闘などする必要はないのだ瞳術にさえ嵌めてしまえば後は勝手に自滅をするか手傷を負ってくれるのだから、正々堂々正面衝突なんて事をしようとするのは阿呆の考えであると言えよう。

 

 

 

 アマミヤと白の視線は虚空に向かって斬りかかったり水龍を出したり激昂したりといった奇行に走る再不斬へと向けられていた。アマミヤは上手くいったと確信して口元を薄く歪め、白は能面めいた顔を驚きへと変えていた。

 

「ふぅ……初めて使ったにしては上出来だな。それと、久しぶりだねハク。大丈夫だったか?痛いこととか酷いことはされていないか?」

 

「貴方は誰ですか?どうして再不斬さんはあのような奇行をしているのですか?もし、再不斬さんの敵であるのならば……殺します」

 

 安心させるように微笑を湛えながら話しかけるアマミヤに、氷の様に冷たい現実が突きつけられる。アマミヤを見る目は凍てつき可笑しな挙動を少しでも起こせば言葉通りにハクの後方中空に待機させた無数の氷の杭を射出させることだろう。

 

 「覚えて、いないのか……?約束もした筈だ。俺と一緒に旅をするんだと、必ず迎えに行くと。本当に覚えていないのか?ハク」

 

「くどいです。貴方の事など知りません。ボクと一緒に旅をしているのは再不斬さんただ一人です。……それに、例え知っていたとしても今の貴方の顔では誰が見ても分かりませんよ」

 

 再度、知らないと拒絶され、そして剰え一緒に旅をしている人物の名前がアノ再不斬であるとハク自身の口から聞いてしまう。顔の約半分以上を札で隠して居るのは必要な事であり、剥がしてしまえば当然効力が消えてしまうため素顔を晒せないのである。それに、例え素顔を晒したところでハクの記憶が戻るか否かの確率は五割有るかどうか、であるとするならば多少手荒な真似をする事も吝かではない。

 

 「最後に聞かせてくれ、アマミヤという名前に聞き覚えや何か感じることは無いか?……身勝手で泣き虫で弱弱しくて女々しい男の名前だ」

 

 「だから、知らないと何度も言って……ぁ、マミヤ?おじさん?路地裏。薬。綺麗な和服…………ッしらない、知らない知らないよッッッボクは、こんなの知らないッ!誰っ!?誰なのッ貴方はッッッ!!誰か、助けて……怖い、胸が痛い、苦しいっ助けてよッ」

 

 アマミヤの名を聞くとハクは頭を抱えてしゃがみ込み、苦しみ始める。その表情は苦悶に彩られ額に玉のような汗をかき、頭痛がするためか時折眉根を歪ませる。痛い。苦しい。助けて。何度も何度も繰り返し壊れたレコーダーの様に繰り返すハクの姿はとても痛ましく、楽に出来るのであれば早くして上げたいと願うばかりである。

 

 

 

 

「完全に記憶が消えたり、無くなった訳じゃない。……ただ、心の奥底に封印しているだけさ」

 

 凛として透き通った声がアマミヤの鼓膜を叩く。後方から二つの足音が聞こえ、新手の敵かと急いで振り返るアマミヤ。しかしてそこに立っていたのは、良く見知った顔だった。

 

「なんだ。撫子とナズナか、驚かすなよ。危うく斬りかかるところだったぞ」

 

「ふんっ、貴様程度の腕では返り討ちに遭うのが落ちだ。……何故、私を置いていった?それに、コイツは一体何だ」

 

 コイツと言ってナズナを顎で指す撫子は私怒ってますっと言わんばかりに嘘は許さないと強烈な睨みを利かした。睨まれているナズナはと言うと何のことやらとばかりに小さく小首を傾げながらに、一応背にある≪雷神の剣≫へと手をかける。まさに一触即発のこの状況。これに油どころかガソリンをぶちまけたのは当然のことながらアマミヤであった。

 

「両方とも落ち着け。今は、そんな事はどうでも良い。説明は後回しだ」

 

「どうでも良い……だと?私にとって重要極まりない事をどうでも良いだと?ふふふっ……後で覚悟しておけよアマミヤ」

 

「嗚呼、その時はお手柔らかに頼むよ。ナズナも自己紹介とか考えておいてくれると助かる。よろしくな」

 

「はい、了解致しました。しかし、主(あるじ)。自己紹介とは一体どの様にすれば宜しいのでしょうか?お恥ずかしい話ではあるのですが、私(わたくし)戦闘面以外はからっきしなものでして。御教示頂けると幸いでございます」

 

「うん、それじゃあ蹴りが付いたら一緒に考えようか?といっても俺もそこまで得意じゃないんだけどね」

 

「ん、んん゛アマミヤ。あの娘の事はどうするつもりだ?」

 

 朗らかに初々しいカップルの様に二人だけの空間を作り出すアマミヤとナズナに蚊帳の外にされて居ると感じた撫子は当然二人の仲を邪魔をしようと声を荒げて会話に割り込んだ。当然、見知った顔を見て気が緩んでいたアマミヤはハッと現実に引き戻される。

 

「ありがとう撫子。約束通り、ハクの治療をお願いしても良いかな?」

 

「出来るかどうかの確約は出来ないが、約束はどんな手を使ってでも必ず果たすのが私だ。が、さっきのお前らの会話を聞いていたらモチベーションが下がった。なので、今度街に着いたらまた買い物に付き合ってくれ」

 

「くくっ嗚呼、その位なら何時でも大歓迎だ。それにこれは、お前にしか出来ないし、お前だからこそ頼んでいるんだ。だから、頼むぞ。撫子」

 

「ふんっ、今更ご機嫌取りをしたって遅いわ、馬鹿アマミヤ。……でも、その信頼には応えてやる」

 

 顔にはほんの少ししか出さないが首筋が紅く染まっている撫子。素直になれない乙女が確かにそこに居た。

 

 

 

 

 

 

「さて、治療といったが実はやる事は簡単だ。まぁ、多少荒療治には成ってしまうがな。今できる治療はやっておくから、あの喧しい男を何とかして治めて置け」

 

「嗚呼、了解した。再不斬は適当に黙らせておくから撫子は治療に専念していてくれ。それと何かと手が必要だと思うからナズナをサポートに付けておくからな」

 

「っ主、それは私(わたくし)が戦力にならないと言外に仰っているのですか?もしそうであるとするのならば私は全身全霊を以ってその認識を変えさせて頂かねばなりません」

 

「いや、そうじゃない。今回は俺一人で十分だと判断しただけだ。ナズナも弱者をいたぶるのは好きではないだろう?それに、今回の俺の目的はあくまでもハクの奪還とその心の治療にある。当然、お前の実力は良く分かって居る。忍び札を使用したとはいえ、経った一週間足らずでハク達を発見してくれたその順応力の高さは恐らく誰にも劣る事は無いだろうし、俺を主と仰いでくれるその誠実さも良く分かって居るつもりだ。だからという訳ではないが、お前を信頼して撫子のひいてはハクの治療の手伝いをして貰いたい。」

 

 最後に頼むと言って首を垂れるアマミヤにあたふたと焦りの色を浮かべるナズナ。自身が主と仰ぐアマミヤに頭を下げさせてしまってどうすればいいのかと困惑顔で撫子に助けを求める。が、肝心の撫子はと言えばその光景を面白がってニヤついた笑みを浮かべるのみで助け船を出そうとはしない。パニックに陥ったナズナはもうどうしていいのか分からずに、あうあうと言葉にならない声を上げ、頭からは知恵熱を出したかのように煙が出ている。

 

「ふふっ、アマミヤ。そろそろ頭を上げろ、ナズナとやらが大変なことになっているぞ。助手が使い物にならなくなると私としても困るのだがな」

 

「ん?ッナズナ!?頭から煙が出てるぞっ大丈夫かっ!?」

 

「あうあうあう~主に恥を掻かせるなんて、忍者失格です。今すぐ自刃致しますのでどうかお許しをっ」

 

 自刃、つまりは切腹である。をすると言って背の雷神の剣を抜き放ち自身に向けて突き刺そうと大きく振りかぶる錯乱状態のナズナに急ぎ駆け寄りその狂行を止めるアマミヤと撫子。

 

「待て待て待てっ!俺は別に恥をかいたなどと思っていないし第一、恥何て物は今まででそれこそ数えきれないくらいにかいてきたんだ。今更、一つや二つ増えた所で別にどうってことはないぞ」

 

「そっそうだ。アマミヤの言う通りだぞ。アイツは絶えず恥をかき続けているようなものだからな。気に病む必要など欠片も無いぞッ」

 

「おい、それは一体どういう意味だ。まるで俺が生きていること自体が恥みたいな言いぐさじゃないかっ」

 

「ふんっ、今更気が付いたのかその通りだ。大した力もないくせに自分より強い者に対して無謀にも突っ込んで行く所とか、少しの失敗で泣きべそかいたり剰え……わ、私に慰められたりしていたではないかっ」

 

「ぐっ、それを言うならお前だって、街に繰り出した時にアレは何だとかこれは美味いっとか、はしゃぎ回って俺に話しかけてくるもんだから物凄く見られて恥ずかしかったんだからなっ」

 

「なっ……そ、それは仕方がない事ではないかッ!そもそも私は知識としてそれらの物を知っていても実際にみることは無かったのだっ初めて見るものに感動することは恥ずべき行為ではない筈だっそれに、貴様の方こそ」

 

 撫子が反論を返そうとしたところでクスリと笑い声が両者の耳に入る。発生源はどこだと探すと肩を震わせながら必死に笑いを堪えるナズナの姿を見とめた。

 

「ぷっ、あははははっ……あっ、申し訳ございません。御二人は本当に仲が宜しいのですね。私(わたくし)妬いてしまいそうになります」

 

「何処をどう見たらそんな風に見えるのか知りたいが、まぁ殺し合いをするほど仲が悪い訳でもないし、良いか悪いかの二択で聞かれたら良いと答えるんじゃあないかな?撫子はどう思う?」

 

「ふんっ、忌々しい事にお前と同意見だ。だが、勘違いをするなよ。私とお前は忍識札という楔(契約)によってこの関係を保っているに過ぎないのだからな」

 

「あははっ撫子さんは素直では無いようですね。……では、僭越ながら私(わたくし)が主を頂きますね。従者と主の禁断の関係。良いと思いませんか?」

 

「ふ、ふざけるなっ!アイツは私が先に目を付けたのだッ貴様のようなどこの馬の骨とも知れぬ後から来たものに遣るものかっ」

 

「ふふっ、先も後も関係ありませんよ。……そういう関係に成ってしまえばね。それこそ早い者勝ちと言うものです。ですが、撫子さんは素直に成れない御様子。少しハンデを差し上げましょう。この件が解決してから一週間、私(わたくし)からは主に手出ししません。逆に求められれば話しは別ですが。どうします?乗らないのであれば、私はすぐにでもアプローチを掛けますが?」

 

「くっ卑怯なッ!……分かった、一週間だな。良いだろう、貴様などには見向きもしない様一週間以内に私色に染め上げてやるっ」

 

「ええ、どうぞ頑張って下さいな」

 

 炎のごとく燃える撫子。流水のごとく静かなナズナ。両者の視線からは火花が散っていた。そうして今、此処に女同士の熱い戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

 

「おーい、いい加減に戻ってきてくれないと困るんだが。撫子とナズナの仲がいいのは良く分かったから早くハクの治療をしてくれないか?早く助けてやってくれ。その間に、俺は奴との蹴りを付ける」

 

「アマミヤッ約束は確りと護れよっ!」

 

「主、私(わたくし)の約束もお忘れ無きよう」

 

「嗚呼、分かって居るからハクの事は頼んだぞっ二人とも」

 

 各々、目的は違えど今だけは強固な協力関係を築き上げていた。この一件が無事に終われば。と期待に胸を膨らませるのは彼ら全員の総意であった事だけは間違いない事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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12 彼の記憶……変貌し行く物語

遅れましたすみません。

今話以降、オリジナル展開並びに捏造が多々入ると思います。主に、マダラ関連の出来事と神無毘橋の戦い等の時系列が前倒ししています。

正直、この作品はナルトという世界を借りた全くの別物に成ります。原作崩壊は確実です。



NARUTO~行商人珍道中~

 

12 彼の記憶……変貌し行く物語

 

 

 

 

 

 狂笑が森に木霊し木々を震わせる。低く、くつくつとした小さな笑い声だったソレは次第に大きくなり聞く者全てを不快な気分にさせるものへと変貌する。

 

 その男を実に不快そうに睨みつける者が一人。その名を桃地再不斬と云う。彼と男とは別段友人等といった関係ではなく、むしろ殺し殺されの敵対関係に有る。

 

 彼らは現在、互いに殺し合いと呼ぶべき戦闘を続けていた。いや、この表現では語弊があるか。再不斬が一方的に男へと攻撃を仕掛け、ソレを躱し、時にいなすのが嗤っている男だ。彼らが如何にしてこの様な関係に成ったのか端的に説明すると、一人の少女を廻って争いを起こしていると云えばいいのだろうか。

 

 相対する男と再不斬。どちらも相応の恨みを持ち、眼前の敵をどの様に殺してくれようかと常に思考を巡らせている。

 

 男は、自身を一度殺し、尚且つ同行していた少女を攫って行った再不斬に同様以上の苦しみを味遭わせようと。再不斬は、男が保身のために少女を身代わりに殺した事に対して怒りの感情で。

 

 双方の言い分は決して交わる事のない平行線だ。再不斬が男を串刺しにした事は事実であるし、男が少女を盾にしたという事実はしかと再不斬の目に映っていた。

 

 男と対峙する再不斬は、不意に疑問に思う。何故、自身はあの少女にこれまでの激情を掻き立てられているのかと。たった一週間足らず、少女と過ごしただけにも拘らずどうしてマグマの様に沸々とした怒りが腹の底から込み上げてくるのかと自問自答を繰り返す。

 

 何故、どうして、しかし解らない。頭の奥に霞みがかった靄のような物が湧き出す。ソレは再不斬の思考を邪魔するように脳内を埋め尽くす。薄らと見えたソレは幼い頃の自分を映し出していた。

 

 アカデミー時代か?と若干の懐かしさを覚えながらも、何故そんな記憶があの少女と関係しているのかと再び疑問が再燃する。正眼に捉える男が何やら呟いたと思うと周囲がぐにゃりと捩れた。

 

 突如として、再不斬を取り囲む世界は急変した。対峙する憎き男を始めとして再不斬以外の全てがまるで始めから無かったかのように掻き消え、ぐるりと視界が反転する。次に目にしたものは、無邪気に走り回るあの少女に似た別の少女とそれに溜息を吐きながらに付き合う自分だった。

 

 

 

 

 何が、起きていやがる……?再不斬の気持ちを代弁するのならばこの一言に尽きるだろう。当然、幻術の類だと一瞬にして見破った再不斬は解術するべくチャクラを練ろうと腹へと力を込める。がしかし、チャクラを練ることが出来なかった。再不斬にしてはチャクラを練ることが出来ないなど今まで体験したことのない事であった。

 

 再び混乱する。訳が分からない。術を仕掛けたあの男は一体どうしてこんな事をしているのだろうか?オレを殺したいのならばさっさと殺せば良いものを悠長に気懸りな記憶を掘り起こしてくれやがった。……奴も、この記憶に何かを感じたとでも云うのか?まあ良い。見せてくれるのならば見せて貰おうじゃねェか。

 

 

 

 

 

 眼前を駆ける少女は見れば見るほどあの少女にそっくりだ。少女は幼い再不斬の手を引いて何処かへと連れて行こうとしている様だ。歩を進めながら取り留めのない話しを少女が少年へと投げかけ、それを適当な相槌で少女へと返す。少女は時に、本当に聞いているのかと怒り気味に問い詰めたり、端正な顔を可憐な笑みへと変化させ表情をコロコロと変える。少女の笑みに釣られて少年も薄く口の端を釣り上げる。そんな少年を見てオーバーなリアクションをとってまた、笑みを深くする少女。

 

 

 現在のこの訳の解らない光景を見せられている再不斬からしてみれば驚きの連続であった。あの少女(ハク)そっくりの少女と幼い頃の自分がさも仲良さげに会話をし、互いに笑みを浮かべ楽しそうに笑っているのだから驚かない筈がない。

 

 

 

 オレはこんな記憶、知らない……お前は、誰だ。何故、そんなに楽しそうにオレと会話をしている?オレも、どうして笑みを浮かべているんだ。何故。何故だ。何故、オレは覚えていない。べったりと血塗られたオレから見ても眩しく……そして、嘗て望んで止まなかったソレを。

 

 

 

 都合の良い幻だと冷静な自分が脳に告げる。一方で、感情がこれは幻ではなく、事実だと否定する。冷静な己は「そうで有って欲しいだけだろう?」と挑発をし、対する感情は「あの少女を初めて見た時の確かな既視感と暖かな温もりを忘れたのか」と声を大にして非難する。

 

 

 今思えばあの時の自分はどうかしていたのだろう。子連れの平和ボケし腐った間抜け顔をした男に難癖を付け、気分のままに殺した。少女の方も同様だ。特に理由も無いにも関わらず漠然とした使命感とも付かない感情で連れ去った。氷遁等と云う珍しい力に魅せられたと云うのも一応はあるが、タダの道具だとしか思っていないにも関わらず、あの男の代わり身として斬ってしまった際には自身でも驚く程に取り乱しもした。

 

 いつもの自分らしくない行動であったことは事実だ。アレらの行動が無意識的な物なのだと仮定するとやはり、この記憶に何らかの形で関わってくるのだろう。見覚えのない、未だ血塗られていなかった頃のオレと笑い合う少女。しかし、その少女を見るたびに胸が激しく動悸するのは確実に少女に何らかの反応しているためであろう。

 

 正直な所、再不斬にしてみればこの幻術内に於いて起きる出来事が事実であろうとそうでなかろうとどうでも良かったのである。虚実であれば、やはりそうだったかと落胆し、ふざけた幻を見せた元凶(男)を殺す動機が増えるだけであった。事実であれば、如何して自身はこの記憶を忘れていたのかを思い出すことが出来る。どちらに転んでも、余り変わりはないのだからさっさと続きを見たかったのだ。

 

 

 

 どうやら少女は何かを少年に見せたいようでグイグイと手を引き大股に歩いていく。暫くして、様々な屋敷が立ち並ぶ内の最も立派と言える囲いのある巨大な武家屋敷の裏辺りにたどり着いた。

 

 少女はその屋敷の内側に生えている一本の木を「アレ」と指を指して少年へと振り返る。嗚呼、成程と理解した再不斬は少女らがこの後どうするのかを静観することにした。

 

 どうやって登ったのかは解らないが、丁度少女らの居る辺りから見える囲いより少し上の枝に白色をした仔猫が一匹降りれなくなったのか心細そうに小さくニャーニャーと鳴いていた。

 

「助けて上げて欲しい」と少女は少年再不斬へ願う。これに少年は「自分で助けてやれば良い」とぶっきら棒に返す。しかし少女は哀しげに目を伏せ「アレルギーを持っているから不可能」であることを告げて再度懇願する。そんな少女にバツの悪そうな表情を浮かべて軽く謝り、了解の旨を告げその場から飛び上がり囲いに移る。その後、少年を追うようにして少女自身も同様に囲いに飛び乗る。

 

 

 

 軽く前後に身体を揺らして勢いを付け仔猫が居る木へと飛び移る。軽い着地音と仔猫の驚きの鳴き声が少女の鼓膜に届く。仔猫の脇に手を入れ万歳をさせて少女へ無事だとアピールする。気だるげな少年の表情と仔猫の驚いた顔を見て、またもやくすくすと笑う少女。

 

 そこへ人影が二つほどやってきた。勝手に敷地内に入ったことを知られると拙いと思った少女らは急ぎ草木の影へと隠れた。どうやら、その二人は何やら込み入った話しをしているようで二人の存在には未だ気が付いていない様子である。

 

 

 現れた二人はどちらも珍妙な姿を晒していた。一人は青白い肌をした鮫の様にギラついた厳つい顔付きの男。その背丈はかなりの大柄で背に負っている包帯でグルグル巻きにした得物はまるで生きているかのように時折脈動する。もう一人はお面だろうか?赤茶色を基調として渦を巻いた妙な面を身に着けている素性の分からない人型。

 

「まさか、貴方が本当の水影様だったとは……成程、やぐらの性格が急変した理由もそれでですか」

 

「嗚呼、そうだ。オレが奴を傀儡(かいらい)とし今の血霧の里へと変貌せしめた。が、それを知ったお前はどうする?オレを殺すか?……まぁ、出来るとは到底思えんがな」

 

「でしょうね。今の私では貴方に指一本触れることは出来ないでしょうね。……私は貴方が何を成すのかを見てみたい。貴方の作る世界を。貴方の望む結末を。貴方がその世界(理想)で何をするのか大変興味が湧きますねぇ」

 

「そうか。であればオレと共に来い。オレが創る世界をお前にも見せてやる」

 

「光栄です。……そう云えば、未だ貴方の名前を伺っていませんでしたね。教えて頂けますか?」

 

「……マダラだ。うちはマダラ。嘗て、千手に敗れた怨念。いや亡霊と呼んだ方が良いか。オレと共に来るのであればそれ相応の覚悟を決めて置け」

 

 仮面の男は自身の名を言う際に、少しの逡巡とも迷いともつかぬ間を開けその名を名乗った。

 

 

 息を潜める少女達と怪しげな話しをする彼らを除き、人の気配どころか蟻一匹すらいない屋敷が不穏な空気に包まれる。そんな中、傍観者たる再不斬は混乱の境地に居た。

 

 こいつ等は一体、何の話しをしている?本物の水影?ならば今の四代目は一体……?それに、≪うちは≫だとッ!?木の葉の忍びが何故此処に居る?クソッ、余計に訳が分からなくなって来やがった。

 

 

「ええ。それは勿論です。……ところでネズミが数匹紛れ込んでいるようですが?如何します?」

 

「ふっ気が付いていたか。そうだな、良い機会だ。オレの力の一端を見せてやろう」

 

 息を潜め、聞き耳を立てていた少女らはマダラの言葉から何かが来ると急ぎその場から脱兎のごとく離れる。

 

 瞬間。爆発。爆音と爆風が少女らを軽々と吹き飛ばす。アカデミーで習った通りに衝撃を減らすべく受け身を取る為にゴロゴロと転がり衝撃を外へと逃す。しかし、彼らからは逃れることはできなかった。

 

「おやおや、随分と小さなネズミですねぇ。……ん?そちらは再不斬の小僧じゃあないですか。一体こんな場所で何をしていたんですかねぇ?」

 

「知り合いか?であればそちらの処理は任せる。オレは此方に試してみたいことが出来た」

 

「解りましたよ。……小僧、久しぶりに遊んでやりますよ」

 

 

 

 

 

 

 ゴホゴホと咳き込みながら弱弱しい足取りで立ち上がる少年。少年は対峙する男≪干柿鬼鮫≫を睨みつける。少年と鬼鮫との間には並々ならぬ因縁が有る様でにらみ合う二人は互いの得物をしかと握り締め、ほぼ同時に距離を詰める。

 

 再不斬は少年と鬼鮫が繰り広げる戦闘を冷めた目で見つめていた。まるで戦いに成っていないのだ。少年が斬りかかると鬼鮫はソレを彼の得物である≪大刀・鮫肌≫を用い、いなして少年のチャクラを喰らう。しかし、少年は余程少女の事が気になるのか戦闘に身が入っていない。早く鬼鮫を倒して少女の救援に向かおうと躍起になり、単調な動きに成りがちになってしまう。それでも無策に斬りかかる少年にいい加減業を煮やしたのか鬼鮫は大きく鮫肌を薙いだ。

 

 

 一際(ひときわ)激しい金属音が響く。気が付くと少年の手に握られていた刀は真ん中辺りからぽっきりと折れていた。呆然とする少年。続いて、その身に大刀が迫り、その身に受ける。右肩から左腰辺りまでを斜めに深く斬りつけられた少年は苦悶の声を上げ、地へと倒れ伏す。

 

 本来であれば、致命傷。放っておけば数分もしない内に死に至るだろう。しかし、それ程までの傷を受けてなお立ち上がろうとする少年の視線は鬼鮫ではなく少女とマダラへと向けられていた。じっとその先を見つめる少年の顔は次第に青ざめていった。

 

 

 

 ぐぅッ!頭痛が激しくなって来やがったッ…………っ嗚呼。思い出した。この後、オレは。彼女を、白雪を殺すのだ。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、試作品……そうだな銘を≪ペイン≫とでも呼ぼうか?初めての仕事をして貰おう。彼に止めを刺すんだ」

 

 マダラの命令に少女は黙り頷くとゆっくりとした足取りで倒れ伏す少年の元へと歩き出す。一歩一歩踏みしめるように歩く少女の両手には一振りの大きな出刃包丁に似た刀が握られていた。ソレをずるずると地に引きずりながら少年の元へと歩き続ける少女の両の目からは雫が絶えず流れ続け、その顔は涙に濡れていた。

 

 鬼鮫は少女がどのように少年を殺すのか楽しみだと云わんばかりにその顔をニヤけさせ少年から距離を取る。マダラはと云えば腕を組み、どんな結末に成るのやらと仮面から覗く紅い右眼を凝らす。

 

 

 

 ピタリと少女の足が止まった。それは少女の持つ得物の攻撃範囲に少年が入ったことを知らせる。そうしてぎちぎちと震える両手をブリキ人形の様にゆっくりと真上に掲げ、重力に従って大刀を勢い良く振り下ろす。

 

 衝撃音と共に土煙が舞い上がる。それは少女と少年を瞬く間に覆い隠した。……土煙が晴れるとそこには倒れ伏した少女の姿とドクドクと夥しい血を流す真っ二つに両断された赤く染まった白色の仔猫の姿が有った。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、白雪。ぼくでは君を助けられない。……だから、今から楽にさせて上げる。…………好きだったよ」

 

 小さく呟いた少年の言葉は少女には届かなかった。振り上げられた大きな刀を見つめ決意を決めた少年は行動に移す。振り下ろされるソレに合わせて変わり身の術を発動させる。対象は、先ほど助けた仔猫だ。叩きつけられる首切り包丁はもくもくと土煙を上げた。少女と少年を包み込んだその刹那、少年は鬼鮫によって折られた刀を少女の胸へと突き立てた。皮肉な話ではあるが少年はこの時≪無音殺人術(サイレントキリング)≫を初めて成功させたのだ。

 

 

「かふッ!……ぁ、ご、めんね。あり、がとう。わた、しも……再、不斬の事、す、きだった。……ねぇ、ざぶざ。わた、しのぶんまでしあわ、せになって……ね」

 

「……うん。約束するよ。白雪の分まで……白雪が羨ましがる位にぼくは、オレは、幸せになってやるっ約束だッ!」

 

「そっか、でも、くやしい、なぁ。わたしね、わたしのっゆめは……ざぶざのおよめ」

 

 さん。と続けられるべき言葉は少女の口からは紡がれなかった。少女の心臓の鼓動が完全に停止してしまったがためだ。もう二度と、少女の夢が叶えられることは、無い。

 

 

 

 慟哭(どうこく)。少年の口からは雄叫びと呼ぶべきであろう咆哮に近しいソレが放たれ続けていた。少女の亡骸をかき抱く様にして抱きしめる。段々と薄れていく体温が、少女の死を確実に証明している。それでも、認めたくないのか、少年は「まだ、お前の夢を最後まで聞いていないぞ」と少女に返答のない声を投げかける。

 

 

 

「ペインとなるにはまだ何かが足りないか……哀しいなぁ、世界はいつの世も、残酷な結末に溢れている。…………だからこそ、オレは世界を創り変える。死者と生者とが皆、平等に平和に暮す理想の世界を」

 

「ソレが、貴方の目指す世界、ですか。……益々、貴方という人に興味が湧いてきました。で、アレはどうされます?殺しておきますか?」

 

「いや、少し試しておきたいことが増えた。その実験に付き合って貰おう」

 

 

 喚く(わめく)少年に向けてマダラは歩を進める。近づいてくるマダラに気が付いた少年は少女を壊れ物を扱うがごとくそっと優しく地へと寝かしその傍らにあった首切り包丁の柄を掴みマダラに向けて疾走する。スピードを乗せた重厚な刃を横薙ぎに振り払い回転斬りの要領でマダラの胴体へと勢いよく叩きつけた。……がしかし、その渾身の一撃はまるでマダラの身体をすり抜けたかのように透過し空振り、失敗に終わる。当然、マダラは隙だらけになった少年の身体を思い切り、大地へと叩きつけた。

 

 

 少女との戦闘をこなす事すら気力のみで行っていたに等しい少年は最後となる攻撃の失敗と叩きつけられたことでほぼ力尽きかけていた。それでもなおその眼だけは自身を踏みつけるマダラと呼ばれた男を睨みつける。

 

 

「良い眼だ。その眼は嘗ての……いや、これはどうでも良いことか。お前、オレと共に来る気は無いか?オレの創る世界は死者も生者も皆平等で平和な理想の世界だ。あの少女も生き返ることが出来る。そんな素晴らしい世界だぞ?どうだ。共に来い。そうすれば、あの娘と永遠に一緒に居られるぞ?」

 

「……ぃ。…………くだ。」

 

「ん?どうした。聞こえんぞ?返答は大きな声で頼む」

 

「ない。いらない。ッそんな世界ッッッ要らないッ!!!オレは、約束したんだ。白雪の分まで、いやそれ以上に幸せになると。アイツが羨ましがる位に幸せになってやるとッ!」

 

「は、ぁ?何を言っている?あの少女も蘇るのだぞ?お前が愛した、愛された。少女がだッ!」

 

「……それでも、死んだ人間は蘇ったりしない。しては、いけない。お前のやろうとしていることはッ死者に対する冒涜だッッッ!」

 

「ぉ、れが、リンを冒涜している……?ちがうッ違うッ違うッッッ!オレは間違ってなんていないッ……そうだ。計画さえ成功すれば、また、リンとカカシと先生と一緒に居られる。だからっ」

 

「死者は蘇らない。そんな事、オレみたいなガキでも知ってる事だ。お前は、既に壊れている。例え、お前が掲げる理想とやらを実現しようとした所で誰かがお前を止める。必ずだ」

 

「黙れッ!お前に何が解るっ!?戦争を経験した事も無いガキがッ!大切だった人が、物が壊れていく様を何もできずに指を咥えて見ていることしかできない悔しさをっ知らないガキがッッッ」

 

「ああ、知らなかった。でも、ついさっき知ったよ。大切なものって奴が壊れる瞬間を。自分の手で壊すしかなかった。お前のせいでッ!」

 

 マダラは地に伏し睨み上げる少年の眼光に≪何か≫を見たのかピクリと肩を上げ、長い溜息を吐いた。そうしてその≪何か≫を振り払うように首を横に振った。

 

「……もういい。お前と話すのは時間の無駄だ。お前には、特別に面白い術を掛けてやる。嗚呼、安心しろ。別に殺すわけじゃあない。ただ、殺人に対して大きな愉悦と快楽、悦楽を感じるようにしてやるだけだ。それと、オレと出会った記憶は消してやる。あの少女の事もな。…………くくっどうした?震えているぞ。覚えていても辛く、苦しい記憶なのだから消してやる事に感謝してもらいたいくらいだ……もし、記憶を取り戻しオレに会いに来るのであればまたこの場所、水影邸に来るが良い。それでは、オヤスミ」

 

「ぐッぁああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「くくくっくははははっ」

 

 苦しみもがく少年を見下ろし、楽しい愉しい余興だと嗤うマダラ。そんな彼らを一人、じっと無言に口の端を釣り上げ眺める鬼鮫。正史に於いて、≪暁≫と呼ばれる組織の構成員たる二人は互いに嗤いあっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 何だ。このクソッタレな記憶はッ!クソッ、嘗め腐りやがってッッッ!そうか、つまりは奴、マダラとか云う輩のせいでオレはあの少女の記憶を喪い、かつ、四代目を操り、傀儡政治を行ってクソッタレな国へと変えた。加えて、奴はあのふざけた野郎(アマミヤ)以上に厄介な術を持っていやがる。とそう言う訳か。

 

 理想の世界。ハッ、鼻水が出るぜ。死者と生者が皆平等で平和だァ?そんな世界クソ喰らえッ!そんな世界に何の価値がある?人間は争って、競い合って初めて進化をする生き物だ。ソレを停滞させようなんざ、生きとし生けるもの全てに対する侮辱でしかない。

 

 それに、思い出したら気に食わねェ事ばかりだ。白雪……の墓参りもしてねェし、そもそも遺体が有るのかすらも解らねェ。白雪との約束は、護れねェかもしれねェが、今は記憶を取り戻せただけで十分だ。……もう、ふざけた野郎に構っている暇はねェ。クーデターを起こすのはもう少し、後にする予定だったが、気が変わった。あの嘗め腐った仮面をぶち壊して、その面(つら)に首切り包丁をブチ込んでやらァ。

 

 

「と、いう訳でだ。さっさと此処から出せッ!見てたんだろ?テメェもッ!なら、さっさと此処から出しやがれッッッ!!」

 

 

「あーはいはい。解ったよ。出せばいいんだろ出せば。ちょっと待ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

 幻術を解除された再不斬の目に飛び込んできたのは青く澄んだ空とピーヒョロと鳴くトンビだった。どうやら、仰向けにして寝かせられているらしい。と直感した再不斬は起き上がろうとして、身体に違和感を感じた。その違和感の正体とは、胴体を強固に数重に巻かれた鎖鎌で有った。手は勿論の事ながら、足も使えない様に見た事も無い不気味な色をした脚絆(きゃはん)が嵌められていた。

 

 「オイオイ、これは一体どういうつもりだァ?まさかとは思うが、この程度でオレ様を拘束したなんて云うんじゃあねェだろうなァ?」

 

 そう零しながら、両腕に力を込める再不斬。しかし、筋力のみでは流石に引き千切れなかったのか、今度はチャクラを併用して引き千切ろうと力を込める。が、先ほどと全く変わらない。それもそのはず大前提のチャクラが練れない今の再不斬では先ほどの焼き増しで、純粋な筋力で引き千切ろうとしているだけに過ぎない。

 

 それでもと再不斬がチャクラを使用するべくチャクラを込めた際、彼の両足に取り付けられた脚絆が怪しく、そして不気味に紫色に淡い光を放つ。

 

 「無駄だ。今のお前はチャクラを使えない。如何に身体を鍛えていようが、俺の所持する最高硬度の鎖鎌だ。そう簡単に引き千切れはしないし、引き千切ったところでチャクラが使えないお前なんて怖くもなんともない。……だから、少し話しをしないか?」

 

「ハッ、話しだァ?テメェオレ様の過去を覗いておいて今更一体何の話しをしようってんだ?」

 

「……記憶を覗いたことは謝る。が、それでも確かめたいことがあった。それが解った今、お前と無意味に剣を交えるつもりはない」

 

「そうかよ。なら先ずはこの鎖鎌を外せ、話しはそれからだ」

 

「いいや駄目だ。鎖を外せばお前は一目散に霧隠れの里へと向かうだろう?そうして仲間と共にクーデターを引き起こし、その最中に水影、ひいてはうちはマダラと名乗った男を殺そうとするはずだ」

 

 違うか?と再不斬の顔に自身の顔を近づけるアマミヤ。自身の行動が見透かされているかのように感じる再不斬は更にアマミヤに薄気味悪さと共に嫌悪の念を抱く。

 

「そうだ。気に食わねェがテメェの言う通りだ。記憶を覗き見たテメェなら解るだろうがオレは奴らを完膚なきまでにぶちのめしテェんだ。今までオレを生かしてきたことをそして、白雪を傀儡にし穢したことを後悔させてやるッ!」

 

「気持ちは解るがどう考えてもお前だけでは奴には勝てないだろうさ。……そう睨むな、俺は事実を述べただけだろう?それに、お前も心の中では分かって居るはずだ」

 

 そうだろう?と再不斬の心に語りかける。すると苦虫を噛み潰したように渋い表情を浮かべる。しかし、それでもと声を上げる再不斬。

 

「そうだ、確かに勝てねェかもしれねェ。いいや、十中八九無様に負けるだろうさ。だがな、それでもオレの中の怒りはもう止められねェんだ。こんな記憶が無けりゃあ今まで通りに面白おかしく己の快楽の為だけに行動してたんだろうけどなァ……全く、厄介なもんだぜ女ってのはよォ」

 

 再不斬は自分自身に語りかけるかのようにとつとつと事の葉を紡ぐ。五年もの時間封じ込まれていた白雪への想い。マダラへの激しい怒りの感情が冷めきった心に燃料をドクドクと流し込み、爆発寸前の状態へと至っていた。

 

「だから、邪魔をするのならどんな手を使ってでもテメェを殺して先に進むぜ?」

 

「……誰が、邪魔をするなんて言ったよ?むしろ俺はお前の手伝いをしてやろうと言おうとしていたんだがな?」

 

「ハァ?テメェ、自分が何を言っているのか解ってんのか?そもそもテメェ程度の実力じゃあ戦力にすらなりゃしねェよ。尻尾巻いて逃げ出した方が身のためってもんだぜ」

 

「くくっ、俺を甘く見るなよ?以前はお前に不覚を取ったが、今の俺とお前ならまず間違いなく俺の方が強い」

 

「ハッ負け犬が良く吠えるぜ。……良いだろう、オレにそこまで啖呵切ったんだ使ってやるよ。で、テメェの目的は何だ?まさかとは思うが、オレ様に同情して協力しようなんて考えじゃあねェだろうな?もしそうだとすれば、今この場でテメェの胴体を綺麗に真っ二つにしてやるよォ」

 

「血気盛んなのは良いが、俺はそこまでお人よしじゃあ無いんでね。……そうだな、理由は大きく分けて二つ。一つは、あのマダラと名乗った男を殺害、若しくは拘束する必要があるという点。もう一つは、クーデター成功後の≪打算≫の為だよ」

 

 クーデターの成功そして≪打算≫という言葉に反応して再不斬の動きがピタリと止まる。どういうことだと目線を送り、先を促す。

 

「なに、簡単な事だ。お前が企てたクーデターが成功すれば、当然邪魔者は消える。現在の傀儡となった水影しかりマダラしかりだ。そこで必要になる人間は当然新しい水影となる。クーデターとは言え操り人形同然の里長を下し、里の危機を退けた英雄だ。直にお前が五代目となる筈だ。……お前とて水影に憧れがない訳ではない筈だろう?それにだ。≪彼女≫の行方もマダラを下し水影となれば解るやもしれんぞ」

 

 彼女、つまりは白雪の事だろうと当たりをつけた再不斬の心は騒めき出す。見せられた記憶では確実に死しているであろう彼女。もう生きて会う事は叶わないであろう彼女。せめて、その遺体を供養してやりたいと願うことは再不斬にとって贖罪と彼女のことを忘れないためにも最重要な事であった。再不斬の両の瞳に憎悪の光とは別の確固たる決意の炎が灯る。

 

「テメェが何を企んでいるのかはこの際どうでも良い。オレ様の邪魔さえしなければ何をしようが関係ェねェ。奴をぶちのめし、白雪を取り戻す。それさえできればテメェのその≪打算≫とやらにも協力してやるよ……だから、テメェを利用させてもらうぜ」

 

「嗚呼、望むところだ。それとその台詞忘れるなよ?たっぷり協力してもらうからな、死ぬんじゃねぇぞ」

 

「ハッ、テメェこそオレ様に大口叩いたんだ。そこらの雑魚に殺られて無様に死体を晒すんじゃねェぞ」

 

 くっくっくとくぐもった二人分の笑い声が不気味に森に木霊する。存外この二人の相性は良いようで双方イタズラを思いついた悪ガキの様に笑い声を上げ続けていた。

 

 

 

 

 




実は、この作品の真の主人公は再不斬さんだったんだよッ!!!

ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?


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