学園の守護者 (新稲結城)
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序章
第一話 新世紀


西暦二〇〇一年一月一日、人々は『戦争の世紀』と呼ばれる時代が終え、平和な時代が迎えることを願った。

だがその期待はすぐさま裏切られる、零時を迎え二一世紀が始まると同時に世界各地から日本に向けて二千発以上の核弾頭搭載する弾道誘導弾・巡航誘導弾が発射された。

日本の国防を担う国防軍と在日米軍はすぐさま弾道誘導弾を迎撃を開始したが、導入したばかりの信頼性の欠ける迎撃誘導弾と二千発以上の誘導弾の数に成すすべもなかった。

だがその時、白く輝く人型の飛行物体が突如国防軍と在日米軍の目の前に現れ、約半数の誘導弾を撃墜せしめた。

その活躍に日本国民は突如現れた飛行物体“IS”を神の遣わした守護神のように崇めたが、いくつかの大国、特にアメリカ合衆国は“IS”と呼ばれる兵器に恐怖を覚えた。

たった一機の兵器で大量の弾道誘導弾が防がれたとなれば、我が国の核戦略が意味を成さなくなり優位性が保てなくなる危機をアメリカなどの大国は恐怖のもとである“IS”の破壊を目的として利害が一致した。

結果、三日後の国連の安全保障理事会で常任理事国アメリカ合衆国・ロシア連邦・イギリス連合王国・フランス共和国・中華人民共和国の五カ国を含む十五カ国の全会一致で“IS”の破壊が決定した。

その決議が可決されると共に北西太平洋上に浮かぶマリアナ諸島のグアム島に白い“IS”が現れた。

“IS”はアンダーセン空軍基地に襲い掛かり駐機していたF-15E・B-52・B-2などの軍用機をすべて破壊し、滑走路を破壊した。

さらにアプラ港に停泊するロサンゼルス級原子力潜水艦が数隻撃沈され、軍港施設はすべて破壊された。

すぐにアメリカは大国の威信にかけて海軍の第七艦隊・第三艦隊をグアムに派遣し、追随して常任理事国各国は艦隊を送り込んで多国籍軍を編成した。

各国の首脳は頭の中で“IS”が撃墜され「平和は保たれた」と演説する自らの姿を想像していたが現実は悲惨だった。

 

「キャプテン!」

 

一艘の救命ボートに、腕を失った海軍の軍人が引き揚げられた。

白髪交じりの髪をして肩にある階級章には黒地にひとつ星と黄色い線が四本入っている。

彼は乗組員に引き揚げられると上空を二機のF-14“トムキャット”戦闘機が飛び去り、AIM-9サイドワインダーを発射した。

サイドワインダーは蛇行しながら猛進し、飛行物体に接近して炸裂した。

だが白煙から現れた白い騎士は、飛び去るF-14よりも高速で接近して持っている刀で二機を切断した。

そして顔を横に向けると第七艦隊最後のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦カウペンスが見えた。

そこに二機のF-14を撃墜した騎士が高速で向かって来る。

 

「...やめてくれ...最後の一隻なんだ...」

 

彼は騎士に向かって、弱々しい声で訴えるが当然ながら届かない。

速射砲とCIWSが弾幕を必死に張るが意味もなく後部から接近すると大型荷電粒子砲を召喚し、撃ち込んだ。

照射されたカウペンスの艦上構造物は一瞬にして融解し、残った構造物は赤々と溶けていた。

燃え広がった炎が弾薬庫にまで達し、大爆発と共に船体はふたつに折れ速射砲の砲塔が遠く離れた救命ボートの近くに落下した。

 

「艦長!俺達のキティホークが...」

 

一人の水兵が指差す方向には、巨大な船体が傾き船尾の巨大なスクリューが顔を見せていた。

そして大きく傾いた飛行甲板からは残骸となった軍用機や装備が海面に滑り落ちていた。

アメリカが大国の象徴でもある巨大空母は太平洋の海に沈もうとしていた。

それはこれからのアメリカの未来を表しているように海軍将兵達は感じ取った。

 

「この世界は大きく変わる...」

 

キティホークの艦長は自らの艦が沈む光景を見ながら言った。

 

「あの兵器は世界のすべての変える...大国は影響力を失い、大国を失った世界は終わることのない戦争に向かう...文化や価値観も変える...どうかアメリカに神の御加護があるように...」

 

艦長は息絶え、新たに海域に到着したイギリス・フランス・ロシア・中国の艦隊も第七艦隊・第三艦隊と同じ運命を辿った。

その後、世界の情勢は大きく変わった。

アメリカはグアム沖海戦での敗北と数ヵ月後に起きた旅客機による自爆テロにより世界各国から国債が大量に売却され、ドルの価値が暴落した。

多額の損失を被ることにより多数の投資銀行が倒産し、それに伴う大企業の倒産、そして大量の失業者が発生し財政危機を迎えた。

ISの研究開発と財政の建て直しを優先して行う為に軍事力の大幅削減が行われた結果、空母戦闘群は十年で十個から五個空母戦闘群に削減され、総兵力は一四〇万人から五〇万人まで削減された。

また海外にある米軍基地を閉鎖し海外に駐留する部隊をすべて本土に撤収させた。

この事件による経済混乱は世界各国に波及した。

時間が経つにつれ混乱は大きくいくつかの国では無政府状態に陥り、アフリカや中南米諸国では民兵や軍人による軍閥が活動し、政府軍と食料などの奪いあっていた。

ヨーロッパでは経済不況により移民の多くが職を失い、次第に政府への不満を募らせテロや暴動が多発。

それに対し若者を中心とするネオナチ活動が活発となり、政治活動に始まり、外国人襲撃を行ったり時には移民との大規模の乱闘にもなる状態であった。

中東ではアメリカの後ろ盾を失ったイスラエル民主共和国に対し中東諸国が宣戦布告、第五次中東戦争が勃発。

アラブ連盟軍はイスラエル軍と死闘を繰り広げ、イスラエルの領土の一部を占領した。

そしてIS開発国である日本は大きく変わることになった。




久ぶりに投稿です。
予告通り、いちからストーリーを作り直す事にしました。
しかし久しぶりに小説を書くと時間を忘れますね、午後の一時から執筆し始めたら何時の間にか夜の七時を回っていて驚きました。
親が呼びに来なければ何時まで書き続けていたのか・・・
大学受験も終わり、冬休みなどの休みが増え執筆時間はあると思いますが、残念ながらAO入試なんで歴史に関する課題文を書かなければなりません。
また暇があるときにボチボチ書こうと思うます。
あとユーザー名が変わりましたので、あらためてよろしくお願いします。


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第二話 日本国

日本。

極東アジア、朝鮮半島から満州までを領土とする大韓帝国と日本海を挟んで東にある島国。

幕末の開国から急速に発展し、当時の清・ロシア帝国を破り列強の一国に数えられる国家となった。

だが太平洋戦争における敗戦により、旧帝国海軍・陸軍は解体される運命を辿ろうとしていた。

しかし終戦直後の大韓帝国で革命が勃発し、当時のソ連に援助された共産主義者を中心とする政権が立てられると、日本に奪われた領土の奪還と称し『対馬』に侵攻。

アメリカ政府は日本への共産主義の拡大を阻止する為に日本本土へのアメリカ軍の派遣を決めたが、大韓帝国と戦端を開けば背後に控えるソ連が参戦してくるのではないかと考えた。

そのためアメリカは日本へ石油などの物資を満載した輸送船を数十隻送り込み、帝国陸海軍を復活させた。

石由を得た海軍は対馬を包囲する韓国艦隊を大和型戦艦三番艦『信濃』率いる残存艦艇で突破し、陸軍は対馬への増援を送り込み韓国陸軍と激闘を制し対馬を奪還した。

この出来事は『対馬紛争』と呼ばれ、連合国は日本への賠償よりも共産主義の拡大に対して恐怖を覚え、日本を共産主義の防波堤とするべく多大な復興支援や経済支援を行った。

そして大日本国憲法は廃止され、新たに制定された日本国憲法は平和を願う条文と共に国防の為に『国防軍』の創設を条文を盛り込んだ。

結果、帝国陸海軍の流れを汲んだ国防空軍・国防陸軍そして国防海軍が創設された。

西側諸国の支援により、最新鋭の軍備を備えた国防軍はその後アメリカの平和を守る為に共闘した。

ベトナム戦争・湾岸戦争などの戦争に参戦、また国連の平和維持活動に参加した。

一方、経済は西側諸国の経済支援と復興支援により瞬く間に経済は復活し西側諸国を日本製の製品で埋め尽くした。

高度経済成長・バブル景気と続き日本は世界第二位の経済大国にも上り詰めたが、バブル崩壊後の混乱による不況に陥った。

だが二〇〇一年を迎え、白騎士事件がすべてを変えた。

白騎士事件により、篠ノ之束とよばれる女性が開発した“IS”と呼ばれる兵器が核兵器に変わるものだと認識された。

さらに“IS”に使われている電子装置や推力系・材質は数世代進んだ技術であり、様々な分野に応用した。

特に遅れていた航空機産業は大きく発展し、国産旅客機と国産戦闘機を開発した。

政治では時の総理大臣による経済対策により、アメリカ発の恐慌を最小限に食い止め、“IS”技術を応用したインフラ設備や兵器産業に大きく力を入れた。

だが“IS”が女性しか乗れない兵器として認知されると、女性は国家の根幹を構築する重要な存在だと認識された。

結果、二一世紀始めての衆参総選挙は国民の反対を押し切ったアラスカ条約を調印により支持率は下落により議席を大きく減らし、代わりに女性の権利拡大を要求する過激なフェミニストが集まった政党である社会国民党が選挙により大幅に議席を獲得し、当時与党であった自由党は社会国民党と連立政権を作り上げた。

議席を脅しに使い社会国民党のフェミニスト達は様々な法案を通した。

『女性就職優先雇用政策』による女性の就職優遇、『女性減税政策』による女性への減税、『女性の学費無料化政策』による女性への教育優遇などを施行。

また同時に『特定機密保護法』を制定し、政権内で作られた法案や不正を機密にし、様々な男性差別法案を通した。

そんな中、東アジアにおける安定を保証してきた在日米軍の撤退により、国防の空白が生まれる事態が起きた。

日本の国防政策を担う国防省統合参謀本部は内閣の指示により、大陸の仮想敵国『大韓帝国』と『中華人民共和国』に対し日本国が単独で戦うには戦力不足していると報告した。

すぐに開発されたばかりの新兵器や装備・アメリカから購入した兵器を国防軍に配備したが、兵器を使い戦闘する人員がいない事が問題となった。

そんな時、社会に吹き荒れる女性優位論の中に『優残劣捨論』というのが流行っている事に連立政権の内閣は気がついた。

『優残劣捨論』は男性者別主義の過激な主張のひとつで“必要以上”にいる男子の内優秀な男子のみ残し劣っている男子を切り捨てる理論だった。

“必要以上”とよばれるのは知的・身体的障害者に棄児それに低所得者の子供を指していた。

これらの子供は将来的に成果を見出せず、逆に国の負担となるならば切り捨ててしまえばいいという主張だった。

それを知った政府はすぐさま『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』と『高所得者及び著名人の子供出産減税法』を国会に提出された。

『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』は知的・身体障害で生まれた男児を一人頭五万円と棄児並びに年収五百万円以下の家庭や生活保護を受けている家庭から生まれた男児を満五歳時に一人頭十五万円と交換しする法律で、兵士になるだけではなく人体実験や臓器提供にも使われる事だったが『特定機密保護法』により国民には伏せられた。。

それに対し『高所得者及び著名人の子供出産減税法』は年収七百万円以上の家又はオリンピック選手や各界の著名な家から生まれた男女を三人以上生むと減税されることを定めた法律。

この法案の真意を知った自由党は連立から離脱し、今までの社会国民党が行ってきた不正を纏めた資料を国民の前で公表しようとした。

だがそれを知った社会国民党は逆手に取り『特定機密保護法』により息の掛かっていた警察官僚達に命じて自由党の議員を全員逮捕し、そのまま国会で強行採決を行い法案を通した。

この法律は一年を必要とする施行準備を“国家の緊急事項”として翌日に施行。

また衆議院を解散し、総選挙で圧倒的多数で社会国民党は与党として君臨した。

『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』により全国では病院から知的・身体障害者と棄児を強制的に徴用、また各市町村の役場では住民基本台帳を元に役場に呼び出した。

 

「次の方。」

 

市役所の中に置かれた受付所では小さな子供をつれた親が並んでいた。

列の中から一人の母親が子供を抱いて受付の窓口まで来る。

 

「・・・書類です。」

 

母親は茶封筒を差し出すと役人は受け取り、中の書類を見る。

すると母親は恐る恐る役人に聞いた。

 

「あの・・・書類の中にこの子の名前を書く欄が無かったのですが?」

 

役人は母親の顔を一切見ずに言った。

 

「名前は必要ありません、この子はもう国の所有物ですから。」

 

書類を見通すと茶封筒に入れ直す。

そして母親に宣言した。

 

「低所得者男児徴用法により国民番号56835904368の男児一名を徴用します。」

 

「・・・はい。」

 

もう一人の役人が腕に抱く男児を引き取ろうと手を差し出したが、母親は少し引いた。

自分で産んだ子を引き離される事に抵抗感を感じた。

すると机に座っている役人が母親に向かって低い声で警告した。

 

「これは国民の義務です。従わない場合懲役十年の刑に処します。」

 

役人は市役所の外に視線を向ける。

つられて目を外に向けると外には社会国民党の支持母体『女性優遇推進会』の街宣車と支持者が拡声器を使い周囲に言葉を撒き散らす。

 

《これは名誉ある国民の義務です!どうせ役に立たない劣った男は社会に必要ありません!》

 

《義務に従わない人は非国民だ!》

 

《いらない子供は国の為にりようされます。これこそリサイクルなんです、皆さん協力しましょう!》

 

もしここで抵抗すれば刑務所に入れられ、出所しても一生非国民のレッテルを貼られる。

母親は目に涙を浮かべながら子供を役人に引き渡した。

 

「ありがとうございます、この子を提供した事で国に貢献しました。これが貢献料です。」

 

役人は笑みを浮かべながら、たった十五万円の入った封筒を渡した。

国民は当初、集められた子供達がどのように利用されるかはわからず、公安警察の恐怖と社会の空気に逆らえずただ従うことしか出来なかった。

知的・身体的障害者と軍務につけない体の弱い子供は人体実験と臓器提供に使われ、選別された子供達は七年に及ぶ国防省直轄の『徴用兵教育師団』で過酷な訓練と勉学により兵・下士官・尉官に分かれ、さらに二年間の陸海空軍の各専門課程を学び実戦配備された。

そして『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』が施行されてから十年後の西暦二〇一一年、日韓戦争勃発。

十年間が経ち、第一期徴用された三十五万人の十四歳の少年達は大陸に派兵された。

 




第一話に続けての第二話です。
今回は戦後日本の歴史と国防軍創設、そして白騎士事件以後の日本の混乱を取り扱いました。
これにより序章は終わり、第一章 日韓戦争を取り扱います。
それではよろしくお願いします。


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第一章 日韓戦争
第三話 対馬海峡航空戦


『F/A―3A“流星”戦闘攻撃機』
日本初の純国産戦闘機
スペック
・乗員:二名
・全長:19m
・全幅:14m
・最大速度:M1.5
・航続距離:3,500㎞
兵装
・二五mm多銃身航空機関砲×2(一門につき400発)
・〇七式空対空誘導弾(最大8発搭載)
・九九式空対空誘導弾(最大4発搭載)
・九三式空対艦誘導弾(最大4発搭載)
・〇九式対戦車誘導弾(最大8発搭載)
・〇七式対レーダー誘導弾(最大4発搭載)
その他、通常爆弾

『赤城型空母“瑞鶴”』
スペック
・全長:330m
・全幅:40m/80m(飛行甲板)
・吃水:12m
・基準排水量:6万トン
・最大速力:32ノット
・乗組員:3000名
・搭載機:最大80機
武装
・高性能20mm機関砲×2
・RAM近SAM21連装発射機×2


白騎士事件から十年後の二〇一一年六月、四国沖。

“知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法”により集められたうちの一人、五十嵐裕也少尉は艦内の待機室で第一航空団の面々と共にパイロットスーツを着込み静かに時を待つ。

彼は九年前に集められた第一期徴用の中で飛行士適性があると診断され海軍航空隊の過程をクリアし赤城型航空母艦“瑞鶴”にいる第一航空団に配属された。

徴用兵は五歳の男児を全国から集め幼い頃から一般教育である基礎課程と共に軍事訓練と思想教育を施した後、十二歳で各人の適性を見て陸海空軍に分けられ専門教育に移る。

第一期徴用で集められた三五万人の兵士の内、一万人が尉官に選ばれ、さらにその中から四〇〇名しか戦闘機パイロットに進めない狭き門であった。

第一航空団のパイロットの中にはイラク戦争に参加したパイロットもいれば、初の実戦で戦闘経験の者も居た。五十嵐少尉も初の実戦に参加するパイロット。

厳しい訓練に耐えたことがあるが、いざ実戦となれば別で緊張していた。

今回、彼らが警戒態勢でいるのは一ヶ月前の対馬沖での巡視船銃撃事件だ。

日本の海上保安庁と大韓帝国の沿岸警備隊が境界線上で銃撃戦になった事件で、武装に勝る沿岸警備隊の警備艦に海保の巡視船は多数の死傷者を出し敗走。

半世紀前の“対馬紛争”以来、日韓の対立が続き、両国の国民は戦争を望む声が大きくなっていた。

また日本海での膨大な海底資源を両国が領有を争っている事も要因かもしれない。

そして日本が打ち上げた軍事衛星が各地の軍事基地から移動式弾道誘導弾発射器が移動を確認、開戦間近だと判断され国防海軍は全艦出港した。

 

《第一種戦闘配置!航空部隊は機体に搭乗せよ!》

 

赤色灯の明かりが灯り、鐘の音が鳴り響く。

 

「行くぞ、五反田。」

 

「わかってる。」

 

五反田弾少尉は五十嵐少尉が乗る戦闘機の後席で兵装システム士官として乗り込む兵士だ。

冗談交じりに話す男だが、この時だけは冗談を言わずに五十嵐の後ろを走る。

編制割で指示された機体に乗り込みヘルメットを被り、整備員と共に作動確認を行う。

 

「すぐに機体を上げろ!敵は本土に向かっているぞ!」

 

整備班長が怒鳴る中、早くも二機のF/A-3A“流星”戦闘攻撃機が電磁カタパルトに射出され、空に飛び上がる。

確認が終わると機体をカタパルトの上に載せられ後ろでは遮蔽板が上げられエンジンからの熱を逸らす。

射出されると一気に二七〇キロの速度まで加速され、全体にGがのし掛かる。

打ち出されるとフル装備の機体は少し海面に下降するが、フルスロットルでエンジンを吹かして上昇する

 

《こちらアスター1、大韓帝国空軍機が韓国領内の空軍基地から離陸を確認!対馬は空爆されている、グローリー各機は後続の航空部隊を阻止せよ。》

 

「こちらグローリー10、了解!」

 

上空で編隊を組むと四国上空を飛び越え、北九州に向けて飛行する

 

「くそ、やっぱりレーダーが使えねえな。」

 

北九州に近づいた頃、レーダーがホワイトアウトし後席の五反田が嘆いた。

IS技術の転用・応用発展でジャミング技術は大きく発展し、戦闘機に搭載されるレーダーの出力では対抗できないほどになっていた。

こちらも地上と電子戦機を展開している為、敵も同じだが。

このために日本では赤外線ホーミングとアクティブ・レーダー・ホーミングの両方の誘導方式を備えた“〇七式空対空誘導弾”が開発され、戦闘機の設計と訓練は格闘戦を主眼としている。

そして新型誘導弾と共に開発されたのがF/A-3A“流星”戦闘攻撃機だ。

日本初めての純国産戦闘機で、対地対空対艦のすべての作戦行動を行える上に多くのハードポイントを備え多数の誘導弾を搭載した重武装の機体だ。

そして一番の特徴は二五mm口径五砲身のガトリング式ロータリー機関砲を二門備え、旋回能力が高く格闘戦では大きな戦闘能力を持つ機体だ。

だが一年前にF-6A“陣風”戦闘機と呼ばれるステルス戦闘機を始とした第五世代戦闘機の登場で旧式化した機体でもあるが。

なんとかジャミングはレーダーのみに影響し、無線は正常に作動していた。

レーダーが使えない以上、空中警戒管制機E-767“景雲”と防空指揮所の指示が頼りであった。

 

《こちらアスター1からグローリー各機へ。敵機は対馬上空を飛び越え真っ直ぐ北九州に向け高度一〇〇〇メートルを飛行中。》

 

北九州を越してすぐ五十嵐は二キロ先に大韓帝国空軍のSU-35K“スーパーフランカー”とSu-34K“フルバック”戦闘爆撃機を見つけた。

 

「こちらシュウター!十一時の方向に敵機発見!数は六〇!」

 

だが他のパイロットは五十嵐と同じように十一時方向に目を向けるが見えなかった。

 

《シュウター!本当か!》

 

確認の為に編隊長から問いただされる。

 

「はい!確実に我々と同高度でこちらに向け接近中!」

 

やっと他の機の後席が敵機を確認した。

 

《よし、高度を上げ一撃離脱しその後は二機編隊で戦闘に入れ!》

 

「了解!」

 

編隊は速度と高度を上げ、敵編隊の上方に付けて機首を敵機に向けて降下する。

〇七式空対空誘導弾を赤外線ホーミングに選択して、一機にロックオンする。

 

《FOX2!》

 

合図と共に三〇機の“流星”戦闘攻撃機が一斉に発射する。

敵機は発射されたことに気づいてフレアを焚きながら回避行動するが、瞬く間に二〇機を撃墜する。

五十嵐は一機に狙いを付け、接近して二五mm機関砲で銃撃しようとする。

 

「FOX3!」

 

敵機は回避しようと主翼のフラップが動いたのを見つけ狙いを少し横にずらして発射ボタンを押す。

曳光弾のシャワーの中に入り、敵機は穴だらけになり煙を吐きながら落ちて行った。

 

「五十嵐!五時の方向に敵機!」

 

敵編隊を飛び越して下降すると一機のSU-35Kが背後に付いていた。

 

《シュウター!俺がやる!》

 

二機編隊を組む先輩パイロットの機体が敵機の背後に付いた。

 

「了解!」

 

操縦桿を倒して旋回して、小刻みに機体を動かして敵機の照準に捉えられないようにする。

丸と四角のマーカーが敵機に重なり、ロックを知らせる音が鳴り響いた。

 

《よし、FOX2!》

 

先輩パイロットが発射ボタンを押そうとした時、誘導弾警報が鳴り響いた。

次の瞬間には先輩パイロットの機体を誘導弾が突き刺さり爆散した。

 

「五十嵐!先輩がやられた!」

 

「くそ!」

 

スロットルを全開にして敵機を引き離そうとするが、敵機のSU-35kと五十嵐の乗る流星ではSU-35kの方が速度が勝っていた。

五反田は後席で後ろを振り返りながら叫んだ。

 

「敵機が後ろについたぞ!」

 

すぐにフットペダルを右に踏み込み、操縦桿を左に倒して水平に保つと機体は機首を前方に向け気味のまま右方向に横滑りする。

三〇mm機関砲弾の曳光弾が機体の左側を通り過ぎ難を逃れる。

 

「五十嵐!二機がすぐ近くまで迫っているぞ!」

 

五反田の悲鳴のような叫び声に、五十嵐も叫んで返した。

 

「分かっている!気をしっかり保てよ。」

 

「へぇ?」

 

五十嵐は一気に操縦桿を引き、機首を引き上げ急上昇しつつ九〇度前後のロールを加えて回避、そのまま機速が落ちたところでラダーを使い一八〇度ターンする。

急激なGが二人の体を襲い、五反田が悲鳴を上げる中、五十嵐は敵機に目で捉え続ける。

 

「FOX3!」

 

一瞬にして敵機の背後につき二五mm機関砲二門の機銃掃射を食らわせる。

敵機は左翼をもぎ取られ機体は燃えて回転しながら墜ちて行った。

 

「...五十嵐...もう...きついぜ...」

 

五反田は息を切らしながらも五十嵐に愚痴をこぼすが、当の五十嵐には聞こえなかった。

もう一機はすぐに左急旋回して距離を取ろうとしていた。

 

「もう一機やるぞ!」

 

五十嵐も敵機を追って速度を上げ、左急旋回する。

五反田は再び悲鳴を上げる。

旋回しながらHUDの中央に映る円内に敵機と重なって映る四角いマーカーと重なり合わせる。

 

「FOX2!」

 

右翼のハードポイントから一発が発射されるがフレアを焚かれて逸らされる。

だが時間差でもう一発発射し、必死に回避行動する敵機に近づき近接信管が作動して爆発する。

破片を機体全面に食らった敵機からキャノピーを突き破って敵パイロットは脱出した。

三機を撃墜したところで敵のジャミングが晴れてレーダーが回復した。

 

「五十嵐、あらかたの戦闘機は撃墜したらしい。数機が半島方面に引き返している。」

 

「そうか。緒戦で三機撃墜は良い方だな。」

 

「ああ、だけどもう急旋回を多用するのはやめてくれ。お前ほど体は強くはねえからな、主席さんよ。」

 

第一期徴用された新兵の中で五十嵐少尉は優秀で主席になった。

ちなみに後ろに座る五反田少尉は十番目だ。

 

「その要請は却下する。」

 

その後編隊長から合流するように命じられ、編隊を組むと瑞鶴に帰還した。

その後の戦闘は日本側の優勢で終わった。

制空権を奪取した日本海軍は対馬を包囲した韓国海軍を航空攻撃で損害を与え、海戦で韓国海軍を壊滅させた。

だが大韓帝国は中国に並ぶ陸軍国家であり、韓国には多くの陸軍兵力と航空兵力が残っており、まだ降伏する気配は無かった。




第三話目です。
書き直しする前の作品で織斑一夏の友人、五反田弾が犠牲になってしまったので五十嵐裕也の相棒の兵装システム士官として登場させることにしました。
五十嵐と五反田のコンビをどう描くかが問題ですが、出来る限り面白く描きたいと思います。
ただ五反田が原作ではどのような人物であるか研究中で、次話も一週間以上かかりそうです。
では次回もよろしくお願いします。


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第四話 敵防空網制圧

航空戦艦『信濃』
大和型戦艦三番艦で一九四五年に就役したが、就役直後に終戦。
だが対馬紛争勃発により帝国海軍最後の旗艦を努め、実戦に参加。
その後、アメリカ海軍に接収されて数回に渡る近代改装を行いながらアメリカ海軍艦艇として湾岸戦争に参加した後に一九九八年に日本に返還された。
返還直後の日本政府と国防省は日本海海戦の記念艦となった戦艦『三笠』と同じように記念艦として広島の呉に置こうと計画した。
しかし三年後の二〇〇一年に起きた白騎士事件の影響で在日米軍は撤退した穴埋めの戦力として復活。
その際に大規模改修が行われ、対IS戦闘を意識したイージスシステムの搭載と多くの対空兵装の搭載、それと共に後部の46cm三連装砲一基を撤去して開いたスペースを飛行甲板に改造した。これにより、多種多様の回転翼機を搭載・運用することに成功。
また省人化により余ったスペースに物資と人員を乗せることにより、強襲揚陸艦としての機能も追加された。
スペック
排水量
・基準:64,000t
・公試:68,200t
・満載:71,100t
全長
・263.0m
全幅
・38.9m
速力
・30ノット
乗員
・五〇〇名
兵装
・45口径46cm三連装砲 二基
・MK.45 62口径5インチ単装砲 十基
・高性能20mm機関砲 二十基
・RAM近SAM21連装発射機 六基
・九〇式艦対艦誘導弾四連装発射筒 二基
・MK.41 VLS 十二基96セル
艦載機 最大十五機
・SH-60K『シーホーク』
・AH-64D『アパッチ・ロングボウ』
・AH-1S改『スーパーコブラ』
・OH-1『ニンジャ』
・CH-47JA『チヌーク』
・V-22『オスプレイ』
・その他各種無人機
収容能力
・歩兵一〇〇〇名
・車輌 最大四〇台


一週間に亘る対馬海峡航空戦は日本海側の諸都市と軍事基地に損害を与えたが、日本国防軍の防空システムの前に韓国空軍の航空戦力は多くが損耗した。

また海軍と海兵隊による対馬上陸作戦は日本の勝利に終わり、主力の海軍艦艇を失い多くの海兵隊員が捕虜になった。

韓国は弾道誘導弾と巡航誘導弾を毎日のように打ち上げたが、白騎士事件以後に強化された日本の防空システムの前には歯が立たず、発射台が発見されるとステルス爆撃機と無人攻撃機による攻撃で次々と破壊された。

そんな中、日本政府は現状打開の為に国防軍に対しに“対韓作戦計画”を発動。

命令を受けた国防省統合参謀本部は作戦計画通りに、半島上陸の足掛かりとなる港湾施設と空港がある釜山を攻略する作戦を行った。

この作戦で重要なのは港湾施設と空港の確保であり、韓国側が破壊する前に確保しなければならなかった。

そのために金海国際空港と釜山港を確保する為に徴用兵主体の三個空挺師団四万五千人の空挺作戦を行うことを決めた。

陸軍には空挺師団と海兵師団と呼ばれる師団があり、危険な空挺作戦と上陸作戦を行う為に編成され徴用兵を主体にした戦力だ。

空挺作戦を成功させる為に、対空兵器や市内に展開する地上戦力の撃滅に向け空爆が空挺作戦五時間前に行われた。

第四機動艦隊の空母『瑞鶴』から五十嵐少尉を含めた十二機のF/A-3A『流星』戦闘攻撃機が発艦した。

彼等の任務はB-52戦略爆撃機による空爆前に釜山周辺や沿岸部に展開する防空部隊を叩く為に機体には四発の〇七式対レーダー誘導弾を四発搭載されていた。

五十嵐少尉と五反田少尉の乗る機体は四機編隊の左翼側を飛行していた。

 

「五反田、機器のほうは大丈夫か?」

 

「なんとかな、敵の妨害電波がうざいがな。」

 

五十嵐少尉は夜間の海を赤外線暗視装置で僚機との距離を確認しつつ計器を見ながら低空を飛行する。

現在、韓国南部に点在するレーダーサイトは巡航誘導弾の攻撃で破壊され、レーダーサイトに発見されることはない。

遥か上空には電子戦機型の流星も飛行して、搭載された高度の電子戦システムにより敵のレーダー波を発見すると同時に電子妨害を行う。

すると編隊長から指示が飛ぶ。

 

《電子戦機が敵のレーダーを感知した。各機は散開後、任意で攻撃を開始しろ。》

 

「こちらシュウター、了解。」

 

四機は散開すると、釜山の海岸に近づく。

五十嵐は機首を空港に向けたまま海上で機首を上げると、レーダー警報装置が鳴り響く。

空港を防衛する韓国軍のレーダー波を機体各所のアンテナが感知して妨害装置が対抗措置を行うと同時にコンピューターが分析を始めた。

電子戦装置に分析結果が出ると五反田は五十嵐に結果を伝えた。

 

「探知したのはSA-22の捜索レーダーの可能性が高い!方位0-2-6!」

 

「方位0-2-6...」

 

レーダーの捜索範囲より低空に入ると、五十嵐はその方向に機首を向けた。

流星はSA-22に接近しつつジグザグに飛行しながら、何度か上昇してSA-22の発信電波を探った。

何度か観測したSA-22のレーダー発信方位に、GPSによって記録される自機の位置を重ねれば、三角測量の原理で目標の敵の精密な位置を測定できる。

 

「目標の大体の位置が分かった!」

 

「了解、仕掛けるぞ。」

 

五十嵐は操縦桿を引き、一気に上昇すると再びレーダー警報装置が鳴り出した。

だが五反田は探知したレーダー波が捜索用レーダーと違うこと気がついた。

 

「新たな発信電波を確認!発信点はこれまでと同一!追跡レーダーだ!」

 

追跡レーダーに捉えられたという事はSA-22が流星に照準を合わせている事だ。

そしてもう一基のSA-22からも捉えられる。

 

「別のレーダーから照射を受けた!方位3-5-6!」

 

「すぐにデータを入力しろ!」

 

五反田はふたつのレーダー波を解析し、そのデータを〇七式対レーダー誘導弾に入力した。

 

「一番及び四番に目標の情報を入力!」

 

後席の報告を聞いた五十嵐は機首の一方のSA-22に向けた。

 

「よし、グローリー10!マグナム!」

 

最初の目標に向け〇七式対レーダー誘導弾がまず一発、発射された。

そして、つかさず機首をはふたつ目の目標に向ける。

 

「マグナム!」

 

二発の〇七式対レーダー誘導弾がそれぞれの目標に向かって進んでいった。

同時にSA-22からも誘導弾が発射され、計二発向かっていた。

 

「来たぞ!敵の誘導弾だ!」

 

五反田の怒鳴り声を聞くと同時に五十嵐は操縦桿を横に倒し、急旋回をした。

それと同時に後席の五反田は電子戦装置の出力を上げてミサイルの妨害を開始した。

流星に有利だったのは、〇七式対レーダー誘導弾が敵のレーダー波を追う撃ちっ放し型のミサイルであるという点で、発射してしまった今は逃げることに専念できる。

それに対してSA-22はレーダーによる誘導を受ける必要があり、地上の発射機は逃げることができない。

だが一方で流星も対空兵器の破壊が目的である以上、簡単に逃げることは出来ない。

最も簡単な回避行動には超低空を飛行する方法があるが、相手のレーダー画面から消えれば相手はすぐにレーダーの電源を切り移動するだろう。

そうなれば撃ちっ放し型の〇七式対レーダー誘導弾は目標の無い地面に突き刺さるだけで終わってしまうため、射程内に留まりつつミサイルをやり過ごすという難しい飛行が要求される。

 

「見えた!二発が追ってきているぞ!」

 

五反田が叫ぶと同時にチャフを放つが、地上から誘導を受ける誘導弾は惑わされずに向かって来る。

五十嵐は必死に急旋回、回転、急上昇に急降下を繰り返し、五反田はその間も妨害装置を絶えず操作して妨害パターンを変える。

だがその努力もむなしく二発の誘導弾は徐々に距離を詰める。

 

「くそ、限界だ!五反田、レーダーの射程外から出る!」

 

その言葉と同時に五十嵐は操縦桿を一気に押し倒して、流星は機首を海面に向けて一気に急降下した。

海面がぐんぐん迫ってきて、後席に座る五反田はまるで流星が海面に向かって突っ込んでいくような錯覚を覚えて悲鳴を上げる。

五反田の悲鳴を無視し五十嵐はキャノピー越しに見える海面と、コクピットの様々な計器を交互に見ながらタイミングを計っていた。

海面との距離は一〇〇〇mを切っている。

 

「今だ!」

 

五十嵐は操縦桿を手前に引いき、機首が一気に持ち上がり流星は水平飛行に移る。

海面との距離は一〇〇mもなく、海から見れば海面スレスレを飛んでいるように見えた。

二発の誘導弾は海面に突っ込み爆発する。

 

「なんとか避けたぞ!」

 

「もうやだ...」

 

避けきった五十嵐は素直に喜んだが、後席の五反田は恐怖から開放され機器に伏せていた。

一方、〇七式対レーダー誘導弾がSA-22を破壊することに成功した。

空港方面からふたつの発光が見え、爆発だと分かった。

すべての機体が攻撃を終えると編隊長から無線が入る。

 

《電子戦機からの報告で敵のレーダー照射を検知できないと報告があった。皆、よくやった。》

 

するとAWACSから無線が入る。

 

《グローリー各機へ、これから爆撃部隊による空爆が始まる。空母へ帰還せよ。》

 

「こちらグローリー10、了解。五反田、帰るぞ」

 

五反田はただ頷く事だけしか出来なかった。

その後、B-52戦略爆撃機による空爆と交代で来た流星により地上部隊は壊滅。

その直後にC-2輸送機とC-130J『スーパーハキューズ』輸送機による空挺作戦が展開され、多くの戦死者を出しながらも金海国際空港と釜山港の確保に成功し、港湾施設には多数の輸送船が入港して兵員と戦車や装甲車などの車輌と大量の物資を揚陸する。

空港では輸送機を使って兵員と物資を運び込み、一方では近接航空支援の為に戦闘ヘリ部隊や空軍と海軍の航空部隊が空港に配備された。

韓国軍は地上兵力と航空戦力を投入したが、航空戦艦『信濃』を始めとする海軍艦艇と航空戦力によって阻止され多くの兵力を失った。

それに対し日本国防軍は態勢を整えると三十三万人の兵士を黄海側・内陸・日本海側の三つの軍に分けて進撃を開始した。




第四話を投稿しました。
なんとか期末試験を乗り切って、卒業は確定しました。
まあ卒業できないようでは大学にはいけませんが。
これで私はあと三~四ヶ月で大学に入ることになるが、楽しみである一面英語が苦手なのが心配で毎日勉強しつつ作品を少しずつ書いている日々です。
ではまた次話で。


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第五話 戦争犯罪

釜山への空挺作戦が成功してから一ヶ月が経った七月末。

日本国防軍は抵抗もなく進撃を続け七月中旬に首都であるソウルを占領することに成功したが、韓国軍は主力部隊を朝鮮半島北部に移動させていた。

政府機能も北部の平壌に移され、残ったのは多くの瓦礫で埋まったソウルの町であった。

ソウル占領後も進撃を続けたが、当初より速い進撃スピードで進軍した為に補給線が伸び切り、また占領地域各地で韓国軍兵士と住民によるゲリラ戦で補給線が寸断されるようになった。

そのために北緯三八度線で進撃を停止、一部の戦力を引き抜いてゲリラ掃討作戦を行った。

国防陸軍の要請を受け、国防海軍第一航空団は群山空港に展開して近接航空支援を行っているある日のことだった。

陸軍の要請で五十嵐少尉と五反田少尉は愛機のF/A-3A『流星』戦闘攻撃機に飛び乗り、エレメントリーダーである大尉の機体に続いて離陸した。

突然の緊急発進で大慌てで乗り込んだために、支援の内容などの詳細を聞かされていなかった。

だが、五十嵐少尉は乗り込む際に一瞬左翼のハードポイントを見て疑問に思った。

ハードポイントには〇七式空対空誘導弾と共に白い増槽のような物がふたつ吊り下がっていたが、すぐに何か分かった。

ナパームと呼ばれる爆弾の一種とされている兵器だ。

 

「こちらグローリー10からグローリー4へ。今回の任務はどのような任務ですか?そしてなぜナパームが搭載されているのですか?」

 

上官に対して五十嵐は無線で今回の任務と搭載されているナパームについて聞く。

すると無線越しに怒声が響いた。

 

《こちらグローリー4!ナパームではない、“特殊爆弾”だ!正しい名称を使え!》

 

「...了解。」

 

その後に任務についての詳細を説明された。

任務は陸軍が発見したゲリラの拠点となっている村に対し、“特殊爆弾”を用いて空爆して破壊・殲滅することであった。

山間部を数分間飛行すると開けた土地が見え、畑が一面に広がる先に集落の様なものがあった。

 

《グローリー10。あれが目標だ、攻撃しろ。》

 

「了解。」

 

HMDを対地攻撃モードへの変更をするとエンジン出力を絞り、低空で接近する。

目標との距離が近かった為に一度確認の為に上空を通過して旋回後に攻撃を仕掛けることにした。

低速で接近して機体を傾けて集落を見ると古い家屋が立ち並び村人達がこちらを見上げていた。

洗濯を干していた者や収穫した農作物を纏める者、そして無邪気な笑顔を見せて五十嵐に手を振る子供達の姿が見えた。

通過すると五反田が思わず言葉を漏らす。

 

「見たか?子供達が手を振るのを、彼等を攻撃するのか?」

 

「信じられないが、この集落が目標らしい。」

 

五反田は思わず無線でエレメントリーダーを呼び出す。

 

「グローリー4へ。目標の再確認を願う!」

 

《グローリー10!目標は貴様が上空を通った集落だ!早く攻撃しろ!》

 

五十嵐は操縦桿を握り締め、旋回を始める。

この間にも前線で戦っている徴用兵の仲間達は韓国軍と戦い続けている。

そんな仲間達の為にも補給路を確保させ、少しでも前線に食料・弾薬を届けたい。

その為には目の前にあるゲリラの拠点とされる集落を空爆しなければならない。

仲間の為にも、そして日本国の為にも一個でも多くの拠点を破壊しなければならない。

徴用兵である俺達は常に上官の命令に従い、日本国の為に戦い死に行くことが存在理由。

五十嵐は自分にこう言い聞かせる。

旋回を終え低速低空で村落に近づき、HMDが示した最適の投下地点まで真っ直ぐ行く。

ゲリラ兵というのは民間人に隠れて背後から攻撃する卑怯者。

民間人の中からゲリラ兵を見分けることは困難であり、見分けている間にも仲間達は死んでいる。

ゲリラ兵を匿っている村人が悪いんだ、これは正当な攻撃手段なんだ。

自らにこう言い聞かせている間に投下地点に到達した。

 

「...俺は悪くない...投下。」

 

最後に小声で言うと同時にナパーム爆弾を投下した。

投下した二発のナパームは放物線描いて、村の中心部に落ちた。

激しい炎が村を包み、家屋は一瞬にして焼けて村の体も燃え、苦しみながら死んでいった。

燃えながら走って行き水田に飛び込む村人の姿を五十嵐と五反田は見せ付けられた。

自らの犯した過ちに何も言えずにただただ眺めることしか出来ない。

その惨状の前でエレメントリーダーは更なる攻撃を命じた。

再び旋回して残ったナパーム爆弾を二発を連続投下して村を完全に焼き尽くした。

その時に必死に逃げる親子の姿を見つけた。

 

《グローリー10、ゲリラの残党を掃討しろ。》

 

エレメントリーダーは五十嵐に目の前を必死で逃げる親子を殺せと命令された。

だがどのように見ても目の前にいる母と幼い子はゲリラには見えず、武器を携行していない。

 

「ゲリラが見当たりません!」

 

五十嵐は自らが思った事をただ伝えた。

目の前の親子を見逃す事で少しは罪滅ぼしになるのならと思っての命令拒否であった。

 

「五十嵐!」

 

五反田が叫び、再び五十嵐は親子を見る。

だが現実は残酷であった。

草むらに隠れていた陸軍兵が現れて親子を目の前で射殺した。

この任務で起きた出来事を思い出し、目に涙を浮かべながら群山空港に降り立つと先に降りていたエレメントリーダーが五十嵐の事を殴りつけた。

 

「この根性無しが!」

 

堅いコンクリートの上に倒れた五十嵐を大尉はさらに蹴り続けた。

 

「お前は海軍の面汚しだ!命令を最後まで完遂できない馬鹿だ!」

 

「...面汚し。」

 

「そうだ!お前は面汚しだ!お前が情なんか見せるから日本は舐められるんだ!」

 

さらに大尉は蹴り続ける。

 

「徴用兵はな!ただ上官の命令に!従えう!ただの兵士だ!こんな事が出来ない兵士は!いらん!」

 

大尉は気が済むまで一時間以上罵倒し、蹴り続けた。

その夜、五十嵐は自らの立場を再確認した。

自分はただの兵士、日本の為に戦う兵士に心はいらない。

今回の“失敗”は日本を体面を汚す事になった、自分に心があったからだ。

情なんかなければ、流星の25mm機関砲を一連射浴びせて殺せた。

徴用兵は日本国の為に上官の言う通りに従い、日本国の為に戦い死に行く兵士であり心は必要ない。

そして五十嵐は心という物を捨てることを決意した。

数日が立ったある日、五十嵐がナパームを投下した集落はゲリラの拠点ではなく、陸軍への協力を拒んだ見せしめとしての攻撃だったと知ったが彼は気に留めることはなかった。

そしてあの任務から同じような任務を淡々とこなすようになった。




第五話目です。
ここ最近は高校最後の冬休みに近づき、残すは終業式だけという時期になりました。
そういえば政府は防衛大綱と中期防衛力整備計画が発表されましたね。
新聞で見た別表を見ると陸海空の大きな戦力増強が見られますが、少し心配する内容でしたね。
特に中期防衛力整備計画によると陸自では最近発表された機動戦闘車を五年で99両、水陸両用車を52両、そしてオスプレイを17機などを五年で整備するのは体験したこともない配備スピードになると思いました。
また特に海自も護衛艦五隻と潜水艦五隻と建造ラッシュになるのは間違えない。
今まで埋蔵金やら騒いでいた政府の予算にこんな余裕があるのは驚きでした。
また海自では今でも艦艇に乗り込む乗組員の定員割れが起きている状態でさらに新造艦を作っても乗る人はいるのだろうか。
急に募集人員を増やしても高い錬度を維持できるのか心配だ。
ではここでさようなら。
すぐにでももう一話投稿する予定です。お楽しみに。


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第六話 死闘

八月に入り、国防軍は北緯三八度線の韓国軍防衛線を突破して平壌近郊の防衛線を攻撃していた。

あれから五十嵐少尉は淡々と任務をこなしていくつもの村や町を焼き払っていた。

また韓国軍の度重なる攻撃を迎撃して、多くの敵機と戦車を破壊した事により五反田と共に中尉に昇進してエレメントリーダーの資格を得た。

そして今日、五十嵐中尉は初めてエレメントリーダーとして同じ徴用兵出身のパイロットを率いて空に上がり、ゲリラ的に現れる敵攻撃機の警戒にあたっていた。

五十嵐が前席で機体を操っているのを見ながら、五反田中尉はあの村を焼き払ってから大きく変わったのを思い出していた。

あの日から次の日には自分が手で目を覆い隠しているのに対し、五十嵐は無言で容赦なくナパーム爆弾を投下する。

そして兵士・民間人問わずに生き残っているか機関砲の弾薬が切れるまで徹底的に殺すようになった。

ある日の任務が終わってから五十嵐になぜ民間人を銃撃するのか聞くとこう答えた。

 

「徴用兵として敵を殺すのは当然の義務であり、日本のためであるから。」

 

昔は自分の冗談にツッコミを入れる五十嵐であったが、任務をこなすごとに口数を減らし反応しなくなってしまった。

今日の戦闘空中哨戒もコックピットの中では二人は無言で彼此一時間以上任務に就いていた。

 

「今日も暇だな。」

 

「...ああ。」

 

五反田が会話を振るが五十嵐は素っ気無く答える。

沈黙が嫌いで出来れば開戦前のように五十嵐と話しながら任務に就きたいと五反田は思うが出来なかった。

地上では国防陸軍の砲兵部隊が韓国軍陣地に向け砲撃を絶え間なく撃ち込んでいるところであった。

するとAWACSから通信が入る。

 

《こちらアスター1、高速で接近する飛行物体があり。確認せよ。》

 

「了解、グローリー10。グローリー11、行くぞ。」

 

僚機と共に旋回して確認に向かおうとした時であった。

空から発光が見えたと同時に多数の小型の誘導弾が砲陣地を襲い掛かり、山肌を削り取り榴弾砲や砲兵を吹き飛ばした。

 

「高度を下げろ!」

 

五十嵐は直感で僚機に命じると高度を下げ、北の方角を見る。

すると二キロ先から一機の人の形をした飛行物体が急速に近づいてくるのが見えた。

山肌を沿うように飛行しながら身を潜めて伺うと、飛行物体は通り過ぎ地上に展開する陸軍部隊に襲い掛かった。

 

《グローリー10!何が起きた!》

 

AWACSが報告を求め、五反田が報告する。

 

「こちらグローリー10!ISと思われる敵機が地上に展開する陸軍部隊を攻撃しました!」

 

《了...解...すぐに...》

 

ISの強力な妨害電波で無線通信が不可能になり、レーダー画面はホワイトアウトしていた。

僚機は五十嵐の横についてハンドサインで指示を求める。

五十嵐はすぐにハンドサインで攻撃をする事を決め、付いて来るように命じた。

それを見た五反田はすぐに五十嵐の決定に反論した。

 

「五十嵐!すぐに撤退しよう、ISに俺達だけでは追い返すことも出来ない!」

 

「目の前の陸軍部隊には俺達に仲間がいるのに見殺しにしろと言うのか五反田!」

 

五反田の言葉に五十嵐は強い口調で答える。

 

「そうではない!味方のIS教導隊が来るはずだ!俺達だけではただ殺されるのが落ちだ!」

 

「あいつらが来るまでに何時間掛かる!その間に目の前にいる仲間達は全滅する!」

 

五十嵐の考えは当たっていた。

日本国防軍が誇る実戦部隊IS教導隊が海外に展開するには内閣の閣議決定が必要だ。

そして承認されても日本国内にいる教導隊がこの戦場まで駆けつけるのに最低でも二時間。

その間に目の前で殺されている陸軍部隊、最低でも二個師団二万人は全滅するだろう。

その為にも時間稼ぎには自分達が行くしかない。

五十嵐は最後に言った。

 

「大丈夫だ、お前まで死なせはしない。」

 

左に操縦桿を倒すと速度を上げ木々に触れそうなほどの低空を飛行する。

五十嵐の考えは徴用兵教育団時代の授業を思い出した。

元々ISは宇宙空間での活動を想定されて開発されたマルチフォーム・スーツであり、レーダーなどの電子機器は無く代わりにハイパーセンサーと呼ばれる視野補助装置がある。

これは目視が出来ない遠距離や後方までも知覚できるようになっている。

問題は操縦者が全周囲を常に見ているかどうかだ。

一部の軍用ISにはレーダー類も追加装備されるが韓国のISは研究・競技用に導入されている為に電子機器は搭載されていないだろう。

また一方に集中している時に襲われればISと言えどもやられるだろう、さらに競技に出る操縦者の殆どは一対一の訓練しかしていないので二対一の戦闘には不慣れだろう。

それらを踏まえ接近して空爆で燃やし尽くされた陣地から流れた黒煙を抜けると一機のISが見えた。

白いISは右肩にミサイルポットを浮かべもうひとつの陣地を攻撃しようとする。

アフターバーナーを焚き一気に近づくと真下に入り機首を急角度に上げ、四発の〇七式空対空誘導弾を一斉発射する。

 

「FOX2!」

 

マッハで通り過ぎた戦闘機を見てISの操縦者は誘導弾から逃れようとしたが時既に遅かった。

二機から計八発の空対空誘導弾を喰らい、操縦者はアサルトライフルを展開して銃撃する。

ISは五十嵐の機体に向け銃撃するがその間に僚機が再度〇七式空対空誘導弾を発射する。

標的が変わると次に五十嵐中尉が一気に近づき〇七式空対空誘導弾を発射し、顔面に向け25mm機関砲を撃ち込む。

相手は次々攻撃され混乱に陥りどちらを先に攻撃すればいいのか分からなくなり、空域を離脱しようとしたがすぐに攻撃され塞がれる。

この状況を打破しようとISはミサイルポットを展開し十八発の小型ミサイルを発射する。

五十嵐中尉はすぐ、フレアとチャフを放出し回避機動を行い半数はそれ、あと十発が追ってくる。

急降下し地上に向かい衝突警告が出るぐらいで機体を引き起こして一気に急上昇するとミサイルは五十嵐の機動に追いつけずそのまま地面に突っ込んだ。

 

《落ちろ!》

 

すると僚機が25mm機関砲を乱射しながら近距離で〇七式空対空誘導弾を発射する。

しかしISはミサイルをアサルトライフルで迎撃するとそのまま僚機を銃撃した。

回避する暇も無く機体全体が穴だらけになり機体は炎に包まれコックピットの電子機器を破壊し生き残った計器が警報を鳴らす。

僚機の部下は“上官”である五十嵐中尉に言った。

 

《五十嵐中尉...先に皆の所へ行きます...日本国万歳!》

 

最後の力を振り絞り操縦桿を握りアフターバーナーを点火させISに突っ込む。

火を吹いた戦闘機が高速で迫ってくるのを見てISは回避行動をするが、最後まで操縦し続けた部下の手で機体はISに突っ込んだ。

機体に残っていた空対空誘導弾が誘爆を引き起こし、引火したジェット燃料が飛び散り機体を焼く。

部下の死に怒りが込み上げ、五十嵐は叫びながら急旋回する。

再度攻撃しようと旋回する五十嵐の機体を見て、小型誘導弾を一発発射する。

 

「くっ!」

 

すぐに機体を捻りこみ、僅かな差で避けるが近接信管が作動して至近距離で爆発した。

爆風と共に金属の破片が機体を襲い、機体を切り裂いていく。

五反田はすぐに被害を確認すると、機体は幾つもの電子回路が切れ誘導弾は発射不可能。

右翼の翼はなんとか原形を保っているに過ぎず、燃料と油が漏れて油圧が下がる。

 

「五十嵐!もうこの機体は持たないぞ!」

 

警告すると五十嵐が叫んだ。

 

「射出させる!衝撃に備えろ!」

 

ロケットモーターが点火して五反田の座る射出座席はキャノピーを突き破って脱出した。

飛び出されパラシュートが開き、五反田は五十嵐の操る流星の姿を見た。

二門の25mm機関砲を連射し続け、エンジンを全力で吹かしてISに突っ込む。

五反田は五十嵐のやろうとしている事に気づく。

 

「あいつ突っ込む気か!」

 

五十嵐は操縦桿を握り締め、ISと一騎打ちで銃撃していた。

目の前をアサルトライフルから撃ち出される機銃弾が包み込み、こちらからも25mm機関砲の曳光弾がISに向かって行く。

ISは部下の特攻を受けてエンジンが破壊されたのか移動せず、アサルトライフルを撃ち続ける。

 

「...道連れにしてやる!」

 

そして25mm機関銃の銃弾が切れ、五十嵐はただ突っ込む。

ここで死にたくないという思いが一瞬よぎるが頭を振る。

 

「違う...俺は日本の為に死ぬんだ...日本国万歳!」

 

目を閉じすべてを覚悟に決めて突入した。

だがISのアサルトライフルが至近距離で放った一発の銃弾が左翼の根元に当り、その衝撃で機体は大きく傾き右翼がISパイロットの首元に衝突した。

強い衝撃を喰らいシールドエネルギーが切れ、競技用のISは強制解除されて右翼の翼は韓国のISパイロットの首を力ずくで切り落とした。

意識がある事に気づいた五十嵐は目を開き現状を確認した。

右翼は根元から引き千切れ、機体はバランスを失って回転しながら地面に向かっていた。

状況を理解した五十嵐は反射的に射出レバー引き、脱出する。

ロッケトモーターが点火して強制的に空へ打ち出されるが、急激なGを受けて意識を失った。

 




第六話目です。
IS第二期の第十一話を見ましたが・・・何やってくれてんだ!
亡国機業はなんで京都でテロ起こすんだ!そして何で学園は修学旅行させる!
・・・もともと原作的には第十話目で八巻の内容は終わっている。
出来ればアニメ原作ということにしてくれないかな~
大体京都を舞台に国防軍、特に学園警備隊はどのように警護すればいいんだ...
京都市内を封鎖してIS学園生徒と観光地の関係者だけを入れる。
...だめだ、そうすればアニメの中に出てくる他にも観光客の説明はつかないし、改変してIS学園生徒のみにすれば観光地としては大打撃。
それに京都に迷彩服の兵士と装甲車を展開すればそれだけで景観をぶち壊しだ!
しかも亡国機業はISを使って学園生徒を襲い掛かる...国防軍も京都市内で市街戦を展開しろとでも?
米軍でさえも京都への空襲を躊躇ったのに、その文化財を守るはずの国が壊したら国内外問わずに非難集中は必至。
...九巻目に京都の修学旅行がないように。
ではまた今度。


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第七話 二〇九高地

「...うっ。」

 

五十嵐中尉は体が揺れているのに気づいて目覚める。

目を開けると暗く天井は土らしく、口の中がジャリジャリして揺れると共に細かい土が降ってくる。

 

「起きたか、五十嵐。」

 

聞き覚えのある声を聞き、聞こえた方向に顔を向けると見覚えのある顔だった。

 

「久しぶりだな、五十嵐。ここで会うとはな。」

 

「荒井...亮太...久しぶりだな。」

 

荒井亮太、東部徴用兵教育団時代の同期であり首席の自分に次いで二位で五十嵐の良き友人である。

彼は五十嵐と教育団時代に両者共にライバル視しながらも協力し合って教育団時代を生き抜いた。

そして五十嵐は海軍航空士官候補生、荒井は陸軍士官候補生と別の道を歩んだ。

 

「今は国防陸軍第四海兵師団第二連隊の一個中隊を預かる中尉だ。」

 

「そうか...お前も中尉か。」

 

「今度からはどちらが早く昇進するかの競争だな。」

 

少し世間話すると五十嵐は現状を聞く。

 

「荒井、今外では何が起きているんだ?」

 

「それはだな....」

 

荒井中尉は五十嵐中尉が撃墜されてから目覚めるまでの二日間を語った。

ISは撃墜されたものの、韓国軍は隠していた戦力を一挙に繰り出して前線に近い空軍の航空基地を短距離弾道誘導弾で攻撃すると同時に地上戦力と航空戦力を一気に我々の防衛線に叩き込み防衛線は崩壊。

第四海兵師団第二連隊が防衛を担っている二〇九高地以外の拠点は壊滅、味方部隊は後退した為に第四海兵師団第二連隊は二〇九高地で包囲されて、現在包囲されて砲撃を受けているとの事だった。

またこの陣地は韓国軍の補給路の近くにあり、韓国軍の障害である事。

 

「撃墜されるのを目撃したうちの偵察隊の兵士がお前を見つけてここに運んで来た。これで一通りの説明は終わりだ。」

 

「五反田...五反田弾中尉は知らないか?」

 

荒井は首を振る。

 

「そうか。」

 

丁度話が終わるのと同時に断続的な揺れが収まり、着弾音が聞こえなくなった。

それと共に遠くから幾人もの雄叫びのような声が聞こえ、新たな揺れが感じる。

 

「教本通りの砲撃の後の突撃だ。お前もこれを持って戦え。」

 

すると荒井は八九式小銃を手渡し、5.56mm普通弾の三〇発用弾倉が六個入った弾帯を渡す。

本来なら射撃訓練をあまりしない航空兵に渡さないが、荒井は五十嵐が教育団時代に優秀な狙撃手と同等の射撃の腕を持っていることを覚えていた。

 

「期待に答えないとな。」

 

二人は他の兵士と共に退避壕から飛び出し、目の前の土の壁に体を預け銃を構える。

目の前にある鉄条網の先にはこの二日間で戦死した韓国兵の死体が倒れ、死臭の臭いが鼻につく。

下の斜面から大量の韓国兵が陣地に向けて銃剣を取り付けた小銃を構え突撃する。

荒井はまだ撃たないように命じ、距離が詰まるのを待つ。

段々と韓国兵の走る地響きが近づき、緊張で額から汗が垂れるのを感じる。

 

「撃て!」

 

新井の号令と共に塹壕に取り付く兵士達が一斉に銃撃を始め、五十嵐無我夢中で撃ち続ける。

後方の何門かの迫撃砲の砲撃と地雷、そして機関銃による十字砲火を浴びせられ、韓国兵は数を減らす。

数人が鉄条網に取り付くがすぐに歩兵の銃撃により殺されるが、それでも勇敢な韓国兵は突撃を続け鉄条網を突破しようとするが阻止される。

五十嵐は韓国兵の波の中から指揮官らしき兵士と通信兵を探し出して狙撃する。

指揮官を失った韓国兵は最後まで突撃を続け、少数の生存者を除いて全滅した。

戦場の静けさと鉄条網の先には先の戦闘で死んだ兵士に折り重ねるように大量の死体が横たわるのを見て、終わったと感じた。

呆然としていると荒井は大声で退避壕に退避するように言った。

 

「退避!退避しろ!」

 

同時に戦場の静けさを切り裂き一発の砲弾が塹壕に着弾する。

爆風が大量の土を巻き上げ、破片が降り掛かる。

反射的に走ると頭に何かが当たり、落ちたものを見るとそれは切断された人間の腕だった。

 

「走れ!」

 

荒井に押されて退避壕に飛び込み、砲撃から逃れる。

息を切らして退避壕に入ると荒井を含めた陸軍兵はダンボールから食事を取り出して昼食を取っていた。

 

「お前らは砲撃と死臭の中よく平然と飯が食えるな。」

 

五十嵐は彼等の行動に驚いて言うと荒井はこう返した。

 

「五十嵐、腹が減っては戦は出来ぬと言うだろ。それに人間は環境に順応する生き物だ。」

 

その言葉を聞いて、五十嵐は満更でもない顔をするが自らも思い当たる節があり納得する。

荒井は戦闘糧食Ⅱ型、通称パックメシのチキンステーキを持って来て食べるように進める。

 

「ここで休める時間は夜と砲撃の間だ。あとこれもな。」

 

それと別に戦闘服である迷彩服三型と八八式鉄帽などを受け取った。

 

「その格好だと戦いにくいだろう。」

 

自らの目で見るとパイロットスーツを着込み、動きにくく八月の暑さに耐えられない。

すぐに戦闘服に着替え、パックメシを食べ終えると砲撃が止む。

先程と同じように退避壕を飛び出すと土の壁に身を預け小銃を構え、ある程度の距離を詰めると荒井の号令で一斉に射撃を始める。

 

「時間的に今日はこれで最後の突撃だな。」

 

陽は大きく傾き、夜まで後もう少しであった。

すると突然近くの塹壕が吹き飛び土と共に兵士が撒き上がる。

五十嵐の後ろに死体が落ちて来て、後ろを振り返り直視すると食べたチキンステーキを地面に戻した。

死体は綺麗に上半身だけ飛んで来て、切断された体から腸がはみ出して顔の半分は原形を留めずにいたのを見て吐き気を覚えた。

 

「中隊長!敵戦車接近!」

 

目の前に視線を戻すと一両の戦車が歩兵の盾となって接近してくる。

 

「くそ!対戦車兵!」

 

「今行きます!」

 

後ろの塹壕から連絡壕を伝って84mm無反動砲を担いだ歩兵が向かっていた。

しかし近くまで来たた時に戦車の砲撃で歩兵は木っ端微塵に吹き飛ばされ、無反動砲は連絡壕の外である塹壕のない平地に落下した。

 

「くそ!今日はツイていないぜ!」

 

五十嵐は顔についた肉片を手で拭き取ると荒井に言った。

 

「俺が取ってくる!」

 

「おい!」

 

荒井は止めようとしたが遅く、八九式小銃と弾帯を捨てると塹壕から飛び出る。

気づいた敵戦車が同軸機銃で銃撃してくるが、ものともせずに走り続ける。

後ろから銃弾が跳ねた弾痕が近づいてくる中、84mm無反動砲のスリングを手掴みして拾うと近くの塹壕に飛び込んだ。

すぐに肩に担いで後方確認して強力な後方爆風の逃げ場を確認、そして立ち上がって照準器を覗き込んで戦車のキャタピラを狙って引き金を引く。

充分な距離に近づいた戦車のキャタピラに着弾して様々な部品が吹き飛んで擱座する。

その他の場所でも戦車は撃破されて韓国兵の戦意を挫き撤退に追い込んだ。

 

「今日はこれで終わりだ。」

 

五十嵐は続けざまの戦闘で忘れていた疲れが一気に体を襲い掛かりその場に座り込んだ。

 

「大丈夫か?」

 

心配して荒井が手を貸して姿勢を起こすと、目の前に中佐の階級章をつけた髭面の男性が来た。

 

「勇敢な海軍航空兵だな、君は。」

 

「ありがとうございます、中佐。」

 

「自己紹介はまだであったな、第四海兵師団第二連隊長加畑大智中佐だ。」

 

加畑大佐は握手を求めて手を差し出して、それに答えた。

 

「海軍第一航空団の五十嵐裕也中尉です。」

 

握手し終えるとその場にいた兵士に向けて加畑中佐は言った。

 

「今日の戦闘は終わりだ!今日の夜はこの勇敢な海軍航空兵の武勇伝聞こうではないか!」

 

「「「「「「「おお!」」」」」」

 

五十嵐は突然の事に驚きながらも、兵士の好奇心溢れる眼差しに答えた。

その夜は夕食を歩哨を除いた兵士達と共に取りながら、ISを撃墜した話や荒井のフリで教育団時代の話を語った。

この話は兵士達を勇気付けて、戦意を高めた。

だが死臭と死体・硝煙・爆音に包まれた二〇九高地での塹壕戦は一週間以上に渡って戦われた。

 




こんばんわ!第七話目です。
後もう数話で日韓戦争編は終わりそうですが、ISの設定について独自設定を入れるか考え中。
・アラスカ条約について
・軍用と競技用の棲み分け
・コアは五〇〇機以下なのに量産って...
・IS学園の場所

考えてはあるがな~これでいいのかレベルの状態だ。
もう頑張るしかないな。


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第八話 捨身

二〇九高地の戦いは奇跡的にも第四海兵師団第二連隊は二週間を越えることができた。

幾度もの砲撃と突撃を繰り返されたが、韓国空軍が制空権を完全に掌握出来ず日本国防空軍の戦闘機部隊に近接航空支援を阻止されたお陰で強力な空爆に晒されず五十嵐達は今日まで生き残れたのであった。

しかし第四海兵師団第二連隊の二〇〇〇人の兵士は八〇〇名を切り、機関砲や迫撃砲の弾薬は底をついて食料も僅かな乾パンを皆で分け与えている状況だった。

五十嵐は死臭が漂う塹壕の中で腐った死体を前に一日二個配給される乾パンを食べていた。

弾薬が切れた為に度々塹壕に韓国兵が突入して乱戦になって周りは何時の間にか死体の山が出来上がった中で食べる“最後”の乾パンはなぜかおいしいように感じた。

初日の戦闘で頭に落ちてきた腕は日に経つにつれネズミに食べられ骨だけなっている。

ネズミにとって人間の死体は好物らしく、死体に数匹のネズミが必死に人間の顔を食っていたのを見かけたこともある、何時自分が食べられる出番なのかを考えるようにもなった。

だがここに来て二週間、この状態に慣れていた、いや慣れなければならない。

戦場でのありふれた悲劇にいちいち心を動かしていては、気がおかしくなる。

周りの兵士は皆生きる希望を失い、ただただ死ぬ順番を待っている状態だ。

荒井は指揮所に呼ばれて打ち合わせに行ったが、彼は「これで最後の作戦会議だ」と五十嵐に冗談らしく笑顔で言ったが、実際は本当のことであるのだろう。

 

「皆聞いてくれ!」

 

戻って来た荒井亮太中尉は部下達に最後の命令を伝え、準備を指揮した。

内容は残ったC4爆薬を最前線の塹壕に仕掛けて、敵兵が雪崩込んだところで起爆。

次に手榴弾を投げ込んだ後に銃剣突撃、敵を足止めしている間に後方で生き残った砲撃陣地から陣地後と吹き飛ばし韓国軍に打撃を与えるというものであった。

それは即ち自らの命を引き換えに韓国兵を道ずれにする作戦、本来なら作戦と呼べないが彼等に残された反撃手段は他になく、五十嵐を含めたすべての兵士は覚悟を決めて爆薬を敷設した。

 

「準備完了しました!」

 

工兵と協力して敷設を終えると後方の塹壕に移り、一発ずつ手榴弾が手渡される。

 

「これで最後か荒井。」

 

「そのようだな、お前と昇進競争は出来なさそうだな。」

 

加畑中佐は最前線に出向いて訓示する。

 

「私と共にここまで戦ってくれた事を本当に感謝する。そして包囲された無能な指揮官を憎んでくれ!私は包囲される事を分かっていながら、他の部隊の撤退を優先していた間に退路を塞がれてしまった。君達のことは考えずにだ!本当に済まない!だが今日君達と共に戦って死ねることを本当に感謝している!」

 

加畑中佐は涙ながらに訓示して、自らを卑下して語った。

敵が突撃するまでの間、五十嵐と荒井は昔を懐かしみながら語った。

 

「教育兵団時代はさ皆で教官に悪戯を仕掛けたりしたよな、五十嵐。」

 

「ああ、特にお前が泳ぐのが苦手でプールの設備を一人で半年使用不能にしたのは面白かった。」

 

「お前だって嫌いだった教官の水筒に5.56mm普通弾の火薬を混入させて病院送りにしたのは面白かったぜ。しかし二人ともにばれていないのが不思議だが。」

 

「当然だろう、俺達は優秀だからさ。」

 

韓国兵の雄叫びが聞こえ、大量の兵士が走ってくる振動が地面を伝って響く。

 

「総員着剣!」

 

加畑中佐の号令で一斉に八九式多用途銃剣を銃口に取り付ける。

 

「だが、その遊びも今となってはもう出来ないな。」

 

「いや、ここを体験した者はもう昔の自分には戻れないさ。俺達を含めて。」

 

韓国兵の先頭を走る敵兵達が最前線の塹壕に雪崩込む。

それと同時に工兵が起爆装置を起動して、敷設したC4爆薬を一斉に起爆する。

土砂が降って来ると手榴弾の安全ピンを引き抜いて、塹壕の外にいる韓国兵に向けて投げ込む。

五十嵐と荒井に続いて次々と投げ込み、韓国兵達に破片が降り掛かる。

 

「予定通り三分後に砲撃をしろ。」

 

中佐は砲兵部隊と通信を終えると立ち上がって、今までの号令の中で大きな声で発した。

 

「総員突撃!」

 

「「「「日本国万歳!」」」」

 

中佐を先頭に銃剣を突き立てて韓国兵に突撃を行う。

近距離での突撃で韓国兵は混乱に陥り、その間に敵兵に飛び込んで乱戦に持ち込んだ。

五十嵐は塹壕の中にいた韓国兵に飛び掛り、喉仏の下に銃剣を突き刺して一気に引き抜く。

血が流れると共に空気が抜けると音が聞こえるが、右から飛び掛ってきた兵士を銃床で殴りつけて地面に倒して顔面を何回も銃床で殴り続ける。

頭が潰れると血が噴出して顔に付着して、ピンク色の脳漿が垂れ出るのを見た。

しかし背後から近づいていた韓国兵に銃剣で脇腹辺りの背中を突き刺される。

一気に引き抜かれ肉を削られる痛みを堪え振り返って、刺した韓国兵を襲い掛かる。

だが相手の方が力が強く地面に倒されて馬乗りになり幾度も顔を殴り続けた。

五十嵐は護身用もとい自決用の9mm拳銃をホルスターから引き抜いて、防弾チョッキの隙間である敵兵の脇腹に向けて一発撃ち込んだ。

力尽きた敵兵を退かして近くに落ちていたスコップを手に取ると目の前にいる韓国兵を片っ端から殴りつけて殺していく。

だが五人目を殺した時、幾つもの風を切る音が聞こえると思った次の瞬間、そして後ろから倒され、誰かが覆いかぶさったが分かった。

周りに砲弾が着弾し、吹き飛ばされる敵味方の悲鳴が聞こえあたりは真っ白になる。

それから数分間砲撃が止むのを伏せたまま耐えた続けた。

砲撃が止み周りが静かになり、五十嵐は覆いかぶさった人をどけて顔を見るとそれは荒井だった。

 

「荒井!何やっているんだ馬鹿野郎!」

 

体を抱き上げて大声で叫ぶと、目を開いて擦れる声で言った。

 

「五十嵐...お前には...生きてて欲しいんだ...」

 

荒井が何を言っているのか、五十嵐は分からなかった。

戦闘服の背中には破片で切り裂かれ大量の血が体内から流れ、大きな破片が内臓に達しているほど深く突き刺さっているのが五十嵐が見て分かり長く無いと悟った。

 

「俺達が...ここで死んだこと..が..無駄では...なかったことを...お前が生きて見てくれ!俺達の存在は日本国のためになったのか...を..」

 

そこまで荒井は言うと首をうな垂れて、手首に指を当てて脈を診て死んだことが分かった。

五十嵐は地面に彼の体を横たわらせて手を掴んで言った。

 

「わかった、俺がお前達が犬死した訳ではないことを見届けてやる!」

 

上空を味方の戦闘機が飛び越え、展開する韓国軍を空爆する。

その後、韓国軍が二〇九高地に戦力を割いている間に国防軍は反撃を開始。

沿岸から航空戦艦『信濃』による艦砲射撃と空母から発艦した戦闘攻撃機『流星』とB-52戦略爆撃機による航空攻撃で韓国軍の主力地上部隊は壊滅、並びに航空戦力も飛行場への攻撃と航空戦により大きな損失を出して敗走した。

韓国軍は日本軍に対しての反撃する戦力を失い、政府は平壌を放棄して吉林に移動した。

中国・ロシア国境に配備していた戦力を日本軍との戦闘に回す為であったが、これにより国境線の警備は手薄になった。

これを見越して、中華共産主義共和国とロシア共和国は『IS協定違反』として大韓帝国政府を強く批判すると共に宣戦布告、制裁として国境に配備していた軍を大韓帝国領内の満州地域に侵攻を始めた。

一方、日本国政府に両国から共同戦線の構築を持ち掛けられ、戦争を早期に終わらせたいと考える日本政府は承諾することに決めた。

五十嵐中尉はソウルの軍病院に運ばれ、数週間の入院を命じられると共に同じように入院していた五反田中尉と再会することが出来た。

だが徴用兵の運用規則により、徴用兵の死体はその場に埋葬されるか又は放置される事になっている。

荒井中尉の遺体はあの二〇九高地に埋められ、五十嵐は入院している部屋からその方角に向けて体を向けた。

 

「お前との約束通り最後まで見届けてやろう、この戦争を。」

 

その日から五十嵐中尉は毎朝決まった時間に二〇九高地がある方角に向けて敬礼するようになった。




第八話目です。

アニメの第二期ISの終わり方はいろいろと怒りを感じましたね。
ありきたりな展開...というより第一期の臨海学校と同じでは?
しかも軍のISは的のように撃墜されたうえに、死傷者ゼロ。

まだまだ不満がありますが、眠たいのでここで終わりにします。
ではまた今度。


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第九話 帰還命令

二〇九高地の戦いから生き残り、五十嵐中尉は九月末に軍病院からの退院を許されたが五反田中尉は着地の失敗で足を複雑骨折した事により本土に移送されて手術となった。

大韓帝国の競技用ISを撃墜したものの中央からは勲章も賛美もされず、緘口令が敷かれIS撃墜時の事を郊外しないよう命じられ、政府発表はただ海軍機がISを撃墜したとだけ報道された。

二〇九高地で戦闘している最中に日韓戦争の戦場に潜入していた外国人ジャーナリストが後方支援で派遣されている日本国防軍正規兵による韓国人への暴力・強姦・略奪の事実が世界中に広めたからだ。

事態を収拾しようとした政府がすべての罪を徴用兵に擦り付けて責任を回避しようとした。

日本国内の報道は『報道規制法』により政府の管理下にあり、意図してすべての報道で徴用兵を卑劣で醜い人間以下の存在だと触れ回り、日本国民に非道な徴用兵像を作り上げ批判の対象とした。

これにより戦場の情報を知らない国民は初めて徴用兵がどのように使われているのかを知り、特に女性至上主義者は徹底的に徴用兵を糾弾した。

そんな中でISを撃墜した英雄的が徴用兵だと知れれば、政府が作り上げた徴用兵像が崩れ政府批判が始まってしまう恐怖があったからだ。

しかしそんな言い訳で国民すべてが納得させることは出来ず逆に政府批判が強まり、海外からの追求も相まって内閣支持率は急落してしまい一週間後には内閣解散に追い込まれ、新たに社会国民党の漆原美由紀が第九二代内閣総理大臣として就任した。

この一週間の間に日中露から無条件降伏をするように要求された大韓民国は拒否し、吉林市を中心に何重もの防衛線を構築して頑強な陣地を作り上げ徹底抗戦の構えであった。

国防陸軍は南からひとつずつ陣地を攻略していたが、何重にも及ぶ防衛線を攻略と気の遠くなるような戦闘、そして上官の無理難題な命令に兵士達は疲れを感じていた。

五十嵐中尉は五反田中尉がいない代わりに他の兵装システム士官と組んで陸軍への近接航空支援を行っている。

十月末のある日もいつものように近接航空支援を終えて急造された前線航空基地に戻ると同僚の航空兵から飛行団長にに呼ばれていると言われ指揮所へと行く。

 

「五十嵐中尉、飛行団長に呼ばれたのですが。」

 

「入れ。」

 

急造で作られた基地である為に指揮所は業務用天幕の中にあり、通信機器に囲まれた中で長机をふたつ並べた上に広げられた地図を見ていた男性が手招きをした。

 

「五十嵐中尉、朝鮮派遣軍司令部から君に本土への帰還命令が来ている。」

 

「なぜですか?」

 

すると天幕の中に背広服に身を包んだ戦場に似つかわしくない男性が入る。

 

「私は内閣府外局IS統合管理局の職員だ。」

 

IS統合管理局はIS登場当初に国防省・国土交通省・経済産業省・文部科学省などの省庁に乱立したIS関連部署を統合・設立した機関である。

国内でのISの開発・運用の管理、IS関連企業への政策、国家代表の選定、IS学園の運用、海外のISに関する開発・運用についての情報の収集などを行っている。

 

「君には本土に戻ってIS撃墜時について詳しく聞きたい。」

 

「それは命令でありますか。」

 

「当然だ、国防省にも承諾を受けている。すぐに荷物を纏めてヘリに乗れ。詳しい話はその後だ。」

 

「了解しました。」

 

荷物を纏め制服に身を包むと職員の後に続いてUH-60JA“ブラックホーク”に乗り込む。

空に上がるとIS撃墜に関する詳しい話と今後の予定を聞かされた。

五十嵐中尉が撃墜したISはIS学園警備隊による回収作戦により回収されたコアの破片から韓国で開発された量産型コアを用いた競技用IS“天弓”と呼ばれるISであると聞かされた。

量産型コアとは篠ノ之束博士が失踪後に各国が独自に開発したコアであるが、量産型と対比してオリジナルコアと呼ばれた篠ノ之博士作製のコアに比べ性能は格段に下がり、生産費用・維持費は一個につき最低でイージス駆逐艦一隻と同等の費用が掛かる。

オリジナルコアと量産型コアでの戦闘ではキルレシオは1:15となり、オリジナルコアの代替とならなかったが通常兵器への戦闘には有効であった。

しかしアラスカ条約後に開発された量産型コアが条約にあたるか国際連合の関連機関国際IS委員会において議論となり日本は量産型ISによる先制攻撃を恐れ条約に当たると主張したが欧州諸国は適用されないと主張して量産型コアによる軍事配備を推し進めた。

だが欧州諸国内で起きたIS開発競争は日本とアジア諸国が開催した第二次アラスカ条約により停滞する。

第二次アラスカ条約は軍事利用の一部制限を決定し、量産型ISの“先制攻撃の禁止”を定めて敵国がISを使用して自国を攻撃した際への反撃は認められた。

その為に量産型ISを開発した国々は白騎士事件により産廃となった大陸間弾道誘導弾の代わりにISを配備を行い報復兵器と位置づけ、新たに『IS抑止論』と呼ばれる考え方が現れた。

量産型コアを使用したISと言えども、それを戦闘機で撃墜したことはISへの新たな対抗策になると考えられていると職員は答えた。

また大韓帝国が保有する三個のオリジナルコアは回収されたが、量産型コアについては何処まで完成しているか分からないと語った。

そして五十嵐中尉には平壌国際空港でIS学園警備隊強襲中隊が回収したオリジナルコアを使用した“天弓”と共に日本に戻るように命じた。

彼は多くの仲間が戦っているのに自分だけが戦場から離れるのに不満を持ったが、命令なので渋々従った。

ヘリは平壌国際空港に到着するとC-2輸送機の傍に着陸する。

 

「中尉、私はここまで!あとは輸送機に乗って岐阜基地で飛行開発実験隊の隊員が待ってる!」

 

「了解しました、これで!」

 

五十嵐中尉は輸送機に乗り込むと貨物室の奥には塗装を剥がされ白い機体になり、周りを鉄の骨組みで組み立てられた箱状の中に入れられ、機内に搬入され固定された天弓の姿があった。

五十嵐中尉が搭乗した輸送機は平壌国際空港を飛び立ち、日本海に出ると右旋回して日本に機首を向けた。

機内では一機の天弓と五十嵐中尉の他に警備の為に四人が武装したIS学園警備隊の隊員が乗り込み、途中で空軍のF-15J『イーグル』戦闘機二機が護衛に就く。

日本海を飛行している時に副機長が定期的にレーダー画面を見ると機体後方にひとつの光点現れた。

 

「機長、六時の方向に反応あり。なんでしょう?」

 

発見と同時に前を飛んでいた一機のF-15Jが撃墜され、レーダーからふたつの光点が消えた。

副機長は後方を見ると一機の黒いISの姿を認めた。

 

「ISが四時の方向に出現!」

 

ミサイル警報が機内に鳴り響き、チャフとフレアが自動的に射出される。

機長は自動操縦装置を手動に切り替え操縦桿を押して急降下を始めた。

五十嵐中尉は突然の急降下に驚き、床に転げ落ちてしまい、仰向けに倒れた彼等は次に断続的な揺れと窓から眩い光が見え、窓に飛び付くと一機の真っ黒なISが接近しているのが見えた。

 

《衝撃に備え!》

 

機長の機内アナウンスを聞いた瞬間、コックピットとキャビンに刃が入り切り裂かれた。

貨物室にいた五十嵐中尉を含む兵士達は大気圧の差で大空に吹き飛ばされてしまう。

切り裂かれた輸送機は爆発して四散し高度一万メートルの大空に吹き飛ばされた彼は目を開けると体は海面に向け頭から急降下していた。

すぐに手足を伸ばし空気抵抗を増やし降下速度を落として周囲を見渡すと四散した機体から飛び散った破片や積荷が海面に向かって落ちていた。

 

「くそ...このまま海面に叩きつけられて死ぬのか...それもそれで悲惨だな、笑えるな。」

 

五十嵐中尉は今までの記憶を思い出し、死ぬ覚悟を決めようとしていた。

何かが脇から追い抜いたのに気づいて、目を開けると天弓が海面に向かって落ちている。

 

「一度くらい...触ってみようか。」

 

彼は腕と足を閉じて体を傾け、落下速度を上げると徐々に近づき天弓に近づいた。

どのような感触なのか、同じ空を飛ぶものとしての興味が彼を動かし手を伸ばさせた。

そして伸ばした右手がISに触れた。

 




第九話目です。
最近、アメリカ独立戦争を扱った『パトリオット』やフランスのナポレオン百日天下の最後『ワーテルロー』などの映画を見て戦列歩兵に興味を持ちました。
多くの兵士が綺麗に一列に並び行進曲に合わせて敵に向かって白目が見えるまで前進し、銃撃を受けても隣の兵士が倒れても進み続けて銃撃する姿がすごく綺麗なのに感動して興味を持ちましたね・・・・自分はやりたくありませんが・・・

また騎兵も今期のアニメや映画に影響されて少し興味と憧れを持ってしまいましたね。
ただ『戦火の馬』で機関銃座に突撃する騎兵隊のシーンはひとつの時代が終わり、新たな戦術・兵器に移り変わったのを表しているように思えました・・・なんとなく悲しい・・・

なんとなく自分は何かしらの作品に影響されて、興味を持つ時代が遡っているのをここ最近感じるようになりました。
史学科へ進むことを決めた身ですが、あるアニメのお陰で中世の馬上槍試合について調べているのもふと考えると自分の興味は止まることを知らないように感じて笑ってしまう。

ではまた今度。


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第十話 天弓

五十嵐中尉は手を伸ばし、大韓帝国競技用IS“天弓”に触れる。

 

「え!?」

 

目の前で火花が飛び散ったと思うと突如眩い光に包まれた。

驚き頭の中が混乱する中、何かの記憶が一気に脳内に注がれ激しい頭痛を起こした。

 

《言語設定:日本語に設定。》

 

《皮膜装甲展開完了。》

 

《高周波ブレード展開。》

 

《ハイパーセンサー最適化終了。》

 

《・・・大韓帝国競技用IS“天弓”展開完了。》

 

頭を引き裂かれそうな痛みが引き、目を開けると画面が目の前に現れ次々と設定していた。

手足を見ると体にはISの器具が装着され、天弓の姿が現れた。

 

「俺はISを装着しているのか?」

 

五十嵐は自分がISに乗っていることが信じられなかったが、彼はもうひとつあることに気付いた。

現在進行形で海面に向けて頭から急降下していることだった。

すぐに前のバイザーを見るが特に書かれていなく、操縦装置も無く混乱した。

 

「どうやって飛ぶんだ!くそ!」

 

大声で叫び、心の中で“飛べ”と念じ続け頭の中で飛行中のF/A-3A“流星”で空を飛ぶ感触を思い出すとスラスターが点火してさらに高速で急降下を始めた。

 

「念じればいいのか?・・・いやイメージすればいいのか!」

 

操縦のコツを掴むと水平飛行をイメージすると、脚部スラスターが噴射され体を水平にすると全スラスターが噴射され飛行できるようになった。

 

「よし、あとは日本に・・・!?」

 

突然痛みと衝撃に驚き後ろを振り返ると一機の真っ黒なISがいた。

金属片のようなものが天弓から剥がれ、バイザーに映る100%が減る。

 

《警告!大韓帝国空軍軍用IS“黒豹”誘導弾発射体勢に移行。ロックオン確認。》

 

後ろから黒豹と呼ばれる軍用ISが機関砲のような武器でこちらに銃撃していた。

『韓国に提供されたオリジナルコア三個は回収された』

IS統合管理局の職員の話が本当であれば、量産型コアを使った黒豹よりオリジナルコアを使用したこの天弓には有利であったが五十嵐は海面に降下しながらスラスターを出力を全開までに上げて、黒豹を引き離そうとする。

相手は残り少ない量産型コアを託された熟練の操縦者であるに違いない。

数々の戦闘を乗り越えた航空兵と言えどもISに関しては素人だと五十嵐は考え、一刻も早く日本本土に戻り無事に天弓を運ぶことに決めた。

 

「日本までの飛行ルート検索並びに日本国防空軍中部方面防空司令部に通信繋げ。」

 

《了解。》

 

ISの電子機器は手で操作する訳ではなく、言葉や目の動きで必要な情報を取り寄せることが出来る。

スラスターを全開に吹かし、軍用ISから距離を取ろうとするが敵機は小型誘導弾を十発斉射する。

誘導弾を引き付けると一気に海面まで降下して、海面ギリギリで急上昇。

機動に追いつけない誘導弾は海面に叩き付けられ爆発するが、五発が生き残る。

しかし急激な機動でも操縦者を防護する機能があるのか急激なGに触れることもなくブラックアウトすることもない。

五十嵐はISの機能に感心しつつ、武装を確認し小銃を見つけると展開し、一気に後ろ斜め急上昇する。

誘導弾は彼の真下を通り過ぎ見失うが、再度五十嵐を捕捉した誘導弾は急旋回し突っ込んでくる。

小銃を構えると五発の誘導弾をロックオンし引き金を引くと次々と迎撃するが近距離で撃墜した為に破片が天弓を傷付けパーセントの数値が下がる。

一気に降下し五十嵐は速度を稼ぐとバイザーに地図が現れ現在地と最寄の飛行場までの赤い線が伸び、目の前にも赤い矢印が表れた。

 

《日本、石川県小松基地までのルートを検索、誘導します。通信を繋げます。》

 

海面上で急停止すると左スラスターを真横に吹かして右に旋回する。

針路を小松基地に向けると共に回避行動であり、後方から銃撃する黒豹の銃弾が海面を叩く。

必死に飛行場を目指すが急加速で接近した敵機が高周波ブレードで右肩を切りつけた。

衝撃で機体のバランスを崩すがすぐに建て直し、水平飛行に戻す。

右肩を見ると装甲が切り取られ、昔に怪我した銃創が斬り開き出血する。

 

《こちら中部方面防空司令部、所属を答えよ。》

 

「こちらグローリー10!第一航空団五十嵐裕也海軍中尉!敵ISに追われている!」

 

《五十嵐中尉ですか!つい先程行方不明になった輸送機に搭乗していましたよね?》

 

「ああ!ちょっとあって積荷のISを操縦している、レーダーで確認しろ!」

 

迎撃管制官はレーダーに表示される二機のISを見て驚いたのか、震え声だった。

 

《りょ、了解。確認しました。現状をどうぞ!》

 

「現在日本海上空をISにて小松基地へ向け飛行中!されど輸送機を撃墜した敵ISが攻撃してくる、すぐに救援を要請する!」

 

《了解!》

 

俺は通信を切ると飛行に意識を集中する。

敵機は一定の距離を保ち小銃と誘導弾を交互に発射する。

誘導弾は高機動で回避し、小銃の連射はジグザグに飛行し火線から逸れる。

だが時々銃弾や近接信管の誘導弾を喰らい、バイザーに現れる数値が下がる。

そしてまた銃弾を受けてとうとうシールドを貫通して太腿を貫いた。

白い塗装の装甲が飛び散った血で赤く染まりドロドロと流れ、激しい痛みが走るが飛行を続ける。

 

《警告!敵IS誘導弾発射体勢に移行。ロックオン確認。》

 

「またか、くそ!」

 

スラスターを噴射し急上昇するが、銃創から流れ出る血が多く意識が朦朧としてきた。

集中力が低下して左右スラスターの出力にバラつきが出始め、機体が不安定になるが気力で必死に意識を繋ぎとめる。

どうしても日本に帰りたかった、ISを操縦していると言う事実と共に。

急上昇し体を捻り急降下させ誘導弾を“兄弟殺し”させるが爆煙から一発の誘導弾が飛び出した。

すぐに回避しようとするが高速で背中に突き刺さり爆発する。

 

「ぐっは!」

 

背中の装甲やスラスターを吹き飛ばされ、一気に海面へ向け急降下する。

頭から噴出した血で顔を真っ赤に染め、赤い中に見えた敵ISは小銃をこちらに向け止めを刺そうとした。

 

「ここまでか・・・・」

 

意識が朦朧として目の前の光景が血で真っ赤になり、歪んで見える。

ここで終わりなのか、終わりたくないがもう眠りそうになっている。

だが黒豹に地上から発射された地対空誘導弾がISに突き刺さり爆発する。

そして一機のIS、肩の装甲に旭日旗が描かれた灰色のISが刀のような物で切りかかった。

識別からISは日本国防空軍航空総軍直轄部隊IS教導隊の主力IS“烈風改”だった。

だが煙から高周波ブレードが現れ刀を受け止め、振り払い距離を離すと小銃を素早く展開し至近距離から銃撃する。

五十嵐中尉は意識を取り戻しISの姿勢を戻すとそれを眺めてしまった。

空中での格闘技、五十嵐には戦闘機の格闘戦とは違う戦い方に魅了された。

すると隣に一機の烈風改が止まり、操縦者が俺に向けて言った。

 

《お前がどう言う訳で操縦できるが知らんが、ここは任せてすぐに小松基地に向かえ。その傷では意識がなくなるまでそう長くない。》

 

五十嵐は返答を言う力もなく、ただ頷いて残り数キロの小松基地までの飛行をする。

目の前が暗くなり掛ける中、目の前に長い滑走路が現れ周囲を陸軍の高射部隊が展開しているのが見えた。

五十嵐中尉は滑走路に入ると同時に意識を失い体を滑走路のコンクリートに叩き付けられ、回転したあと止まった。

シールドエネルギーが切れ光の粒となってISの機体が消えるとそこには血に染まった白い海軍士官服を着た五十嵐中尉の姿があり、すぐに憲兵が周囲を固め一般人から見えないようにブルーシートを上げ担架に載せられた五十嵐は衛生兵に運ばれ救急車に乗せられると病院に緊急搬送となった。

すぐに一連の事件の詳細は首相官邸に届けられた。

 




第十話目です。

とうとう今日はクリスマスイブ!
昔は両親と共に豪勢な料理を食べるのが楽しみでしたが、今年は艦コレのクリスマスイベントが楽しみ・・・昔のほうが無垢な少年だったな・・・すみません・・・

では、また今度・・・


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第十一話 漆原美由紀

東京都千代田区永田町、日本の政治の中枢であるこの町の一角にある首相官邸で漆原美由紀総理大臣は日韓戦争後の朝鮮半島及び満州の処遇についての会議に出席していた。

担当閣僚や経済団体の代表が集まり平和的な統治よりも朝鮮半島でどのくらい利益が出るかに、いやどのように利益を出させるかについて話し合わせれていた。

 

「・・・です。また朝鮮半島北部には鉱山資源が豊富で大韓帝国政府の管理下で調整しながら採掘されていますので多く残っているでしょう。出来れば満州地域は欲しかったですが最低でも朝鮮半島全土を我が国の支配下に入れませんと戦時緊急予算を回収することはできません。」

 

経済産業大臣が大韓帝国領内で採掘される地下資源を試算した報告を行った。

 

「国防軍には頑張っても貰わないとね。安上がりな徴用兵をどんどん突っ込ませて中国やロシアより多く領土を取って採算をあわせなくては。」

 

一人の経済団体の代表が発言すると他の代表も頷く。

首相はここにいる代表達を内心軽蔑するも、適当に答えて会議を流れを戻す。

彼女には戦争の利益よりも自らの復讐心に燃えていた。

九年前、授かった子供をあの『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』が奪った。

ただ愛した夫との子を収入が少なく不幸だと言って、あの日役人達は私の前で番号を読み上げ愛する息子を無理矢理奪った。

それから子を失って夫との関係が上手く行かなくなり離婚してしまった。

あの日に抱いた政府への復讐心が自らを突き動かし、女性優遇推進会に入会して様々な活動で名前を売り、社会国民党の議員として入党してから様々な駆け引きを行い党内の一大派閥を作り上げ前首相の失態のお陰で計画よりも早く権力の座についた。

あの時、そしてそれからも子供達と低所得者を迫害してきた者に復讐をするために。

そして男女平等を訴えた九年前のように戻し、徴用兵を解放して幸せに暮らせる日本を作る。

それが漆原首相の考えていた新たな日本、その思想は一部の者しか知らない。

この政府や世間にはそれを反対する組織が必ずいる。

女性優遇推進会・社会国民党・女性真理教・そしてそれらのシンパの多くが幹部になっている警察庁を初めとする警察やIS統合管理局の元国家代表候補生で構成される代表会など数え切れない政治団体が妨害をするのは確実であった。

それらをどのように権力を剥がして影響力を排除し、最後はどのように罪を償わせるか目下の問題であった。

すると会議室のドアが会議中に関わらず開かれ秘書官が挨拶せずに真っ直ぐ漆原首相に駆け寄ってくる。

 

「何事だ?」

 

「国防省から緊急事態が起きたと連絡が。」

 

「対韓国戦争について?」

 

「首相本人にしか話せないと。総理執務室にて国防大臣と統合参謀長が見えています。」

 

「わかった。」

 

首相は立ち上がると会議の中断と延期開催を宣言するとすぐに執務室に向かう。

執務室に入ると背広姿の国防大臣と右胸にいくつかの勲章を下げた統合参謀長が立っていた。

女尊男卑の時代殆どの官僚は女性に入れ替わったが、死亡率の高く危険な職である国防軍には女性幹部は少ない代わりに多くの男性が重要な地位に就いていた。

特に国防は国家の重要な要素であり経験の少ない女性閣僚ではなく男性閣僚が国防大臣に就いている。

そのため国防大臣を含む軍部は漆原首相の考えに賛同する最大の後ろ盾であった。

 

「国防大臣、緊急事態とはなんだ?」

 

国防大臣は恐るおそる前置きをしてから言った。

 

「中部防空司令部の報告で日本海上空に大韓帝国空軍の軍用ISが出現。我が国のISが撃墜しました。」

 

「確かに緊急事態だ。だがそれだけではないな?」

 

ISの軍用使用は確かに重大な事態だが、会議を止めるほどではない。

実際に前首相の際にISが出現した際に首相の判断する前に国防軍が実力で倒してしまった事例がある。

 

「はい、その際韓国空軍のISは我が国の空軍の輸送機が撃墜されたのですが・・・」

 

一呼吸置き、国防大臣は言った。

 

「国防海軍航空兵が輸送していた競技用ISに乗り込み脱出しました。」

 

首相は執務室の椅子に深く座り、メガネを机に置くと大きくため息をついた。

 

「ちょっと待て!航空兵と言ったのは“男性"だよね!」

 

男性が主体の国防軍で航空兵は男性しかいない。

 

「はい。」

 

「ではISに男性が乗り込んだと!?」

 

国防大臣はただ頷いた。

常識的に考えればISは男性が操縦できないことを理由以外は誰でも知っている。

 

「ISは女性しか操縦できない兵器でないの?」

 

「本来そうなのですが、原因は分かりません。統合参謀長、説明を。」

 

アタッシュケースの中から書類を取り出し机に置いた。

メガネを掛け直すと一人の男性、いや少年の写真が載っていた。

首相は顔写真に写っている少年の顔が何となく九年前に奪われた子供に似ているように思えたが、偶然だろうと思い統合参謀長の説明に耳を傾ける。

 

「操縦したのは日本国防海軍第一航空団五十嵐裕也中尉です。彼は東部徴用兵教育団第一期訓練兵で二年前に首席で卒業し、海軍の戦闘機操縦課程を経て現在空母瑞鶴のF/A-3“流星”戦闘攻撃機航空兵です。」

 

「統合参謀長、徴用兵の名前は徴用した際の名前と同じなのか?」

 

首相は彼の名前を聞いて目を見開き、質問する。

 

「はい。当初は番号を振って番号で呼ぼうとしたのですが、何十万人もいる子供達にに番号を振り分ければ下四桁では済まず現場の混乱を想定して徴用時の名前を流用して運用させています。」

 

「そ、そうか。」

 

動揺を隠しつつも、気分が高揚した。

漆原美由紀の名は旧姓であり、結婚した際に五十嵐の名に変えて生まれた子供に『裕也』と名付けた。

目の前に置かれた顔写真の少年とあの日に取り上げられた子供と同姓同名であった。

 

「今はどうしている?」

 

「はい、現在石川県の国防軍病院で治療中であります。」

 

首相は内心安心すると今後の処遇について頭を悩ませた。

 

「しかしISを撃墜した徴用兵が操縦まで出来るとなれば今の日本を変えるキッカケになるだろう。しかしこのことが外部に漏れれば国内の過激派は何をしでかすか分からない。」

 

彼女の頭の中ではある新興宗教団体が思い浮かぶ。

“女性真理教”というすべての支配者は女性であり男性は女性の奴隷という主張をして、今は静かだが昔は自分たちの主張に反する主張をする人・団体は暗殺されたり施設を爆破を行った。

だが現在の彼女達を止めることはできない。

政府内部、特に警察官僚は女性心理教のシンパが多くいるからだ。

もし奴らがこの事実を知ったら何をしでかすか分からないが、理由もなく解任すれば問題だ。

だが五十嵐中尉の存在はこの日本にとって新たな可能性だ、簡単には失うことは出来ない。

 

「この件は第一級機密に指定する!すぐに関わった者に緘口令を敷け。」

 

「わかりました。」

 

国防大臣は命令を受けると統合参謀長はある提案をする。

 

「首相、出来れば彼を前線に戻したいと思います。」

 

この提案に首相は激怒する。

 

「何を言っている!危険な場所に送り込んでどうする!」

 

「戻さなければ内部で動いているシンパの目に止まるかもしれません。我々は内部の一新を図りシンパを一掃するまでを期限として彼には前線にいてもらいます。出来る限り任務に就くのを減らしますからお願いします。」

 

国防省内部にも女性至上主義者のシンパがいるのは確かだ。

そこから漏れるのを考え、統合参謀長の提案を認めた。

 

「ああ、そうしよう。だが統合参謀長、君達はできる限り戦争を早期に終結させろ。領土はいい、すぐさま首都に軍を送り込み会談の場に大韓帝国首脳を引き出せ!」

 

しかし、自分の子供やその他の少年達がこれ以上戦争で死ぬことは彼女は認めなかった。

統合参謀長に戦争の早期終結を目指すように念を押す。

 

「了解!」

 

すぐに統合参謀長は執務室を出る

残った国防大臣はある書類を取り出して、首相に手渡した。

 

「首相の命令で作らせた『国家親衛隊構想』の書類です。」

 

『国家親衛隊』それは漆原首相が就任直後に信頼できる国防大臣に計画を頼んだ警察に代わる組織であった。

公安警察庁の指揮下に徴用兵を主体とした部隊を作り、警察に代わり首都圏の治安維持と首相の警護や過激派・テロ組織への対処などを行う。

激化するテロや暴動に対して警察では実力不足とし、新たに対テロ部隊を設立するというのが表向きの理由であったが、今後の首相の計画を妨害するであろう警察を解体し、女性真理教などの過激派との対立を考慮しての事である。

その為に警察庁や公安警察庁でもなく徴用兵を所管する国防省に計画立案を命じたのだ。

計画では徴用兵を投入することにしたのだが、首相自身は少年達を自らの戦いに巻き込むのを嫌がった。

しかし警察庁から分離して作られた公安警察庁は情報機関としては優秀であるが独自の実戦部隊を持っていない問題があったからだ。

 

「出来れば徴用兵を投入したくなかった。」

 

「すぐに警察官以外で対テロ部隊を作るとなると長年訓練をし続けていた徴用兵を投入しなければ一年以内の設立は難しいです。これは彼等少年達を開放するための最後の戦いだと思うしかありません。」

 

「そうだな、そう割り切るしかないな。ご苦労であった、すぐにでも閣議に回そう。」

 

「ありがとうございます。」

 

国防大臣が部屋を出ると椅子に深く座り、机に置かれた顔写真を手に取った。

 

「まさか彼が・・・」

 

彼女は少しの間、写真も眺めた。

 




第十一話目です。

艦コレのコラボイベントは無事に終わりました。
資源を一万ほど溶かして最後は金剛がコンゴウに連撃で倒したのは感動的だった。
しかし不満を言えばハルナではなくキリシマの方が欲しかったし、超重力砲いらないからこれからも残してもらいたいと思う。
ハルナとタカオの二連続の超重力砲で空母を一隻だけ残して他の艦艇は沈んだのもいい体験。
あと軍神イオナは凄かった、夜戦まで縺れ込んでハルナだけをカットインで撃沈は衝撃。

では、また今度。


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第十二話 終戦

十二月末、多くの国民がクリスマスを祝うなかで日本国防軍は中露両軍と共に吉林市へ最後の攻勢をかけた。

満州の土地は雪で覆われ、気温がマイナスの世界で一〇式戦車を先頭に大韓帝国最後の抵抗拠点吉林市へ日本国防陸軍の海兵師団が進軍する上空を五十嵐大尉が操縦するF/A-3A“流星”は飛び越えた。

ISを操縦してから二ヶ月、五十嵐と五反田はISを撃墜した功績により一階級特進して大尉となる。

その間に三方から攻め込まれた大韓帝国軍は次々と防衛線を破られ最後の拠点吉林まで後退。

制空権は完全に日中露の航空戦力により確保され、連日連夜に及ぶ空爆で街並みは崩壊した建物一杯だ。

兵士達はその光景を見て今日の総攻撃、もしかしたら最後の任務かもしれないという憶測が流れた。

この攻撃が終われば大韓帝国は降伏し講話会議に出るだろう、いや出るしかない。

もう彼らにある抵抗する力は僅かであり、この総攻撃も僅かな敵戦力の壊滅が目的だ。

急造の前線基地から飛び上がった機体には〇七式対戦車誘導弾と通常爆弾を抱えて出撃する。

敵の対空兵器は連日の航空攻撃により壊滅、せいぜい携帯地対空誘導弾を持っているのぐらいだ。

吉林市上空に達すると目に付いた敵から攻撃していく。

国防軍が吉林市に突入するのに対して町の入口で韓国軍が防衛拠点を構築して、戦車を砲台のように使っているのが見えた。

旋回してHMDを対地モードに切換、戦車にロックオンすると右翼から〇七式対戦車誘導弾が飛び出す。

上空から撃ち込んだ〇七式対戦車誘導弾は戦車の砲塔上面を突き破って爆発、砲弾に引火して誘爆する。

砲塔が吹き飛び近くに爆風に煽られて倒れた韓国兵の上に落ちる

 

「うお~吹き飛んだな~」

 

後席には五反田大尉ではなく別の兵装システム士官が乗り込む。

五反田は両足の複雑骨折により数ヶ月の入院を命じられ、この戦争を内地で過ごすことができた。

あれから前線に戻ったが出撃回数が極端に減らされ、飛行団長に出撃させるように懇願した日もある。

皆が戦っている中で自分だけが基地で待機させられているのは我慢ならなかった。

ISを操縦したことにより損失したくないのだろうが、今回の総攻撃が最後かもしれないと聞き彼は飛行団長に懇願して出撃したのであった。

突然機内にミサイル警報が鳴り響き、後席が叫ぶ。

 

「五時の方向から誘導弾!」

 

すぐに右に操縦桿を倒しながら引き、右に旋回しながら上昇してチャフとフレアを発射する。

誘導弾はフレアを追って飛行して近くの建物に衝突して爆発する。

五十嵐は後席に発射位置を聞く。

 

「おい!敵は何処から撃った!」

 

「三時の方向にあるビルの屋上から歩兵が携帯地対空誘導弾を撃って来た!」

 

屋上に敵兵の姿を捉えると旋回を続け、機首をビルの屋上に向ける。

敵兵は急いで次の携帯地対空誘導弾を準備するが、先に発射ボタンを一瞬押して二門の25mm機関砲を一連射だけ銃撃する。

分速三六〇〇発で撃ち出された25mm機関砲弾は数人の歩兵を瞬時に肉片に変え、腕や足が中に舞う。

 

「えげつないな、大尉。」

 

五十嵐はその先の道路を走る車列に25mm機関砲弾を浴びせ去り際に通常爆弾を投下する。

彼は目に付いた敵を逃がさず攻撃・破壊して搭載兵装のすべてを使い果たそうとした。

一発の対戦車誘導弾を残し、すべての兵装を使い果たすと最後の目標である戦車に向かう。

上手く建物の陰に隠れた戦車を五十嵐は一度旋回して上空から戦車後方に向けて接近する。

HMDが戦車を捉え電子音が鳴り、操縦桿の誘導弾の発射ボタンに指を置く。

 

《全機に告ぐ!戦闘停止せよ!繰り返す戦闘を停止せよ!》

 

五十嵐はすぐに攻撃を止め、操縦桿を引き起こす。

戦車の上を轟音を響かせて通り過ぎ、韓国兵が見守る中で上昇する。

無線に司令部からの声が入る。

 

《韓国が停戦を申し入れ朝鮮派遣軍司令部はこれ受け入れ、現時刻をもって一切の戦闘行動を停止する。》

 

「終わったのか、戦争が?」

 

「一時的な停戦だ。翌日になって戦闘が再開されるかもしれないが、帰投するぞ。」

 

そして停戦から数日後に大韓帝国は日中露の無条件降伏を受け入れ戦争は終結した。

その後の日中露の取り決め通りに満州地域は中露により分割され、日本は朝鮮半島は日本の管理下に置かれ帝政の廃止と新政府の新政府を樹立することになった。

国防軍の戦死者は四千人だと発表され政府は損害を少ない上での勝利だと政府は発表したが、その数に徴用兵は含まれていない。

開戦時に朝鮮に派遣された三十三万人の徴用兵の内戦死者は十五万人に上ったがこの真実は発表されなかった。

公表された書類の上では徴用兵は弾薬と同じ欄に並べられ、発表による過激派の反発を考慮しての事だった。

実際に公表しようとした出版社はいくつかあったが、過激派による襲撃や警察の弾圧により失敗に終わった。

東京の銀座で後方で犯罪行為をするぐらいしかなかった正規兵は多くの国民に対して戦勝パレードに出る一方で、五十嵐大尉の他前線で戦った徴用兵は人目につかぬように本土に帰還した。

だが朝鮮半島に残った十万人の兵士は帰還することは適わず、抵抗勢力との戦闘に駆り出された。

帰還してから年が明けて二〇一一年一月の上旬、五十嵐大尉は厚木基地の宿舎で寝ているところを起こされた。

 

「五十嵐大尉です。」

 

「どうぞ。」

 

ドアを開け室内に入ると中には白髪交じりの初老の男性が執務机に座り、ソファには飛行団長も座っていた。

初老の男性、基地司令にソファに座るように勧められ、座ると飛行団長が口を開いた。

 

「君がISを動かしたと聞いた時は驚いた。」

 

「え?」

 

ISを操縦したことは航空団内の誰にも言っていないのなぜ知るのだろうか。

すぐにその疑問は基地司令の言葉でわかった。

 

「実を言うと君に統合参謀本部から直接命令が私に来たんだ。君のIS教導隊への移動命令が。」

 

IS教導隊とは日本の中で精鋭のIS操縦者が集まる部隊であり、日本代表候補生の訓練も請け負っている。

任務は代表候補生の実戦訓練・ISを使用したテロや紛争への防衛・対IS戦闘訓練の支援を行う。

 

「君は男性で唯一ISを動かす男だ。政府は君をどのように運用するのか分からない、だが君は謎とされているIS技術の手掛かりかも知れない。日本の為にISを使いこなし、国防に役立ててくれ。」

 

「了解。」

 

五十嵐は承諾すると基地司令は移動日時を伝えた。

 

「今滑走路にC-2が待機している。最低限の荷物を持ったらすぐに移動しろ。」

 

「わかりました。」

 

基地司令室を出ると大急ぎで宿舎の戻り、生活に必要な物を纏めてすぐに輸送機に乗り込んだ。

空に上がるC-2戦術輸送機を見ながら飛行団長は基地司令に言った。

 

「しかし大丈夫ですかねえ。彼のような徴用兵に何の説明もなく教導隊に突っ込むのは。」

 

「女性と初めて接触することに心配なのかね。」

 

徴用兵は教育期間中に女性と会うことなく生活している。

生まれた頃の記憶を持つものは少なく、殆どの兵士は母親と言う存在を忘れてここまで来てしまった。

さらには女性至上主義者と問題が起きることを飛行団長は心配していた。

 

「はい、徴用兵のような存在を快く思わない女性は多いですから。」

 

「大丈夫だ、向こうの指揮官には直接会ったことがある。第一に教導隊をIS統合運用局の代表会のような輩と一緒にするな。」

 

「...はい、わかりました。」

 

「まあ...カルチャーショックを受けるとは思わないが...」

 

最後に基地司令は歯切れ悪く言った。

 




第十二話目です

今回の十二話で第一章終わりとして年明けから第二章に入りたいと思います。

推薦で大学に受かり歴史関係の課題文を終わらせてから第二章に入りたいです。
ですので少し時間が掛かるかもしれません。

では、また今度。


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第二章 混乱
第十三話 適性試験


岐阜基地に降り立った五十嵐裕也大尉の制服は旧帝国海軍の第一種軍装と似た制服を着ている。

これは対馬紛争後に創設された国防海軍が旧帝国海軍の制服を流用してからの伝統であった。

流石に現代では陸軍士官のように帯刀せず、最高指揮官は首相であり海軍艦艇の艦首には皇帝の紋章は飾っていない。

一方で戦後に創設された国防空軍はアメリカ合衆国空軍に倣った制服である。

降り立つとすぐに中佐の階級章をつけた女性士官が五十嵐のもとまで来て敬礼した。

 

「IS教導隊へようこそ。五十嵐大尉」

 

「こちらこそよろしくお願いします、中佐。」

 

五十嵐大尉は目の前に空軍士官を見ていろいろな部分が違うことに内心驚いていた。

徴用兵は本来女性と会うことは想定されず、関連する教育は施されていない。

顔の形、体格の違いを確認しながら敬礼を返した。

 

「IS教導隊隊長佐々木琴音大佐がお待ちです。こちらへ。」

 

彼女について行き建物内にある一室に案内され、そのドアには『教導隊司令室』と書かれた札が貼られていた。

ノックすると自分より高い声がして入室の許可が下り、部屋に入室する。

そこには空軍の士官服を着た短髪の三十代ぐらいの女性が立っていた。

 

「第一航空団から参りました五十嵐大尉です。」

 

「IS教導隊の隊長佐々木大佐だ。君が世界で唯一男でISを使えると。」

 

「はい。」

 

「平成十三年国防省東部徴用兵教育団に入団、全教育団射撃大会で優勝、卒業戦闘試験では指揮する部隊を全員生存して帰還、卒業後空軍に入隊しF/A-3A“流星"の戦闘機操縦課程を終え日韓戦争に従軍。そして戦場でISを撃墜した上に操縦までしてしまった。これで合っているかな?」

 

佐々木大佐は目線をこちらに向け、同意を求める。

 

「はい。」

 

「私は国防省から君をISパイロットとして使えるようにしろと命令を与えられている。この先君はISに乗り込み国防に従事することになる。君には訓練耐える事と戦闘機から離れる覚悟はあるか?」

 

愛着のある流星から離れる事は五十嵐にとって長年組んで来た相棒を捨てるように感じた。

だが徴用兵として日本国の為に戦うことを命じられた彼にとって軍の命令は絶対に守る義務がある。

徴用兵は死ねと命令されれば死ぬ、特攻しろと命令されれば爆弾を抱えて突っ込む。

それが徴用兵の教えられた国家への奉仕の仕方であり、自分達を育ててくれた日本への感謝だった。

日本国の消耗品であり、国の為に死ぬそれが徴用兵だ。

 

「当然ながらあります!」

 

「そうか、15:00からIS適性試験を行う。中佐、あとは任せた。」

 

「はい。」

 

そうして五十嵐は中佐は部屋を出るとすぐに彼女に質問する。

 

「IS適正とはなんですか?」

 

「ISを操縦するための肉体的素質です。CからSまであります。」

 

「そうですか。ではどうやって測るのですか?」

 

「それは実際にISを操縦して戦います。」

 

中佐の案内で更衣室に行くとそこにはスキューバダイビングの全身水着みたいなスーツが置かれていた。

それはISスーツと呼ばれるパイロットスーツであり、日本の風土に適した迷彩柄がプリントされている。

とても着づらいかったが何とか時間までに着替えると訓練場に向かうと空軍の森林迷彩が塗装された一機のISが置かれていた。

 

《これからIS適正を測る。五十嵐大尉すぐに乗れ。》

 

ゲート内の放送で指示され俺はISに背中を預ける、すると装甲が開き体を包んだ。

 

《3...2...1...射出!》

 

電磁カタパルトに両足を乗せると射出員の合図と共に空に撃ち出される。

あの時の飛行を思い出しながら訓練場の空に上がる。

訓練場を指定された方角に飛行すると通信が入り、佐々木大佐が装着したISについて説明された。

 

《その機体は日本国防空軍主力IS“烈風改”だ。烈風は後付け装備により多種多様な戦闘任務を遂行できる機体であるが、元々本土防衛を主眼に作られている為に海外展開は難しく、アップグレードした機体だが他国の最新鋭機に太刀打ちできない可能性もあるが現在開発中の第三世代ISが完成するまでは現行の機体で我慢するしかない。》

 

次に適性試験の内容を説明した。

 

《IS学園という代表候補生を教育する機関があるがその入学試験とは違う。軍の適性試験は一対一の戦闘ではなく、実戦に即した状況で行う。今回は一対一で行うが複数で行うこともある。訓練空域に入ると同時に状況開始だ。では状況を達する、赤国IS機が岐阜県内に潜伏、これを発見・撃墜せよ。》

 

「了解。」

 

すると突然森の中に閃光が迸り銃弾が足の装甲とスラスターを吹き飛ばした。

すぐにハイパーセンサーで確認すると森の中には一機の烈風改が狙撃銃を展開しこちらに銃口を向けている。

武装を確認するとすぐに多連装小型誘導弾発射機を展開させてロックオンする。

二十四発の小型誘導弾が四箇所の発射器から発射され多方向から相手機に迫る。

相手機はすぐにその場から離れ狙撃銃から小銃に切り替え後方から迫り来る小型誘導弾に対し銃撃し撃墜する。

さらに右方向から来る小型誘導弾を寸前で身を翻し左から来る小型誘導弾と激突させ誘爆させる。

そして一気に上昇し生き残った小型誘導弾に対しチャフ&フレア発射機を出して射出する。

その間に二十式五十口径狙撃銃を五十嵐大尉は構え、急上昇する時に引き金を絞り狙撃する。

一発の銃弾が相手機の腕に命中して、腕の装甲を吹き飛ばした。

銃口から白煙が漂い、ボルトを引き空薬莢を排出して次弾を装填すると頭部を十字レクティルに合わせ引き金を絞り、一発の銃弾が頭部目掛けて発射される。

だが相手機は狙撃を回避すると狙撃戦を不利と見て近接戦闘に切り替える。

手から高周波日本刀を展開させ突っ込んで来るのを、こちらも高周波日本刀を展開させ突っ込み切り結ぶ。

相手機は力を入れジリジリと刃先が顔に近づくが一気に押し返すと同時に二十式五十口径狙撃銃を呼び出し腰だめに構え銃撃した。

相手機は腹部に一発の銃弾を受け衝撃で体が吹き飛ばされる、さらに五十嵐は武装一覧から見つけた二十式回転式擲弾発射機を呼び出し連射する。

倒れた相手機の周りに着弾し、爆発すると破片を撒き散らし機体を傷つける。

後退すると敵機役は多連装小型誘導弾発射機から小型誘導弾を放つ。

二十式小銃を展開させ二十四発の小型誘導弾を次々と撃墜すると、スラスターを全開で吹かし高周波日本刀を呼び出し突っ込む。

爆煙から飛び出した五十嵐機に驚いた相手機はすぐに高周波日本刀を展開させようとしたが、その前に接近して斬りつけ次の瞬間突き刺した。

 

《赤国IS、撃墜。IS適性試験を終了する、二機は帰還せよ。》

 

「了解。」

 

俺は撃ち出されたゲートに戻り、ゆっくりと着陸する。

ISから降りると佐々木大佐が出迎え、こう言った。

 

「初めての訓練でうちの操縦者を撃墜するとは。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それでだ、君のIS適性はAランクだ。IS操縦者として素質はあるな。」

 

五十嵐は操縦者として認められたことを内心では喜んだが、癖で顔には出さなかった。

人に表情を読み取られないように教育された習慣を見た大佐は五十嵐の首に腕を回して引き寄せた。

 

「素直に喜べ、大尉。これで君もこの部隊の一員だ!」

 

すると集まった敵機役の操縦者や部隊の操縦者・整備士が一斉に拍手した。

 

「あ、ありがとうございます...」

 

五十嵐は初めて多くの人から拍手を送られ、動揺をしてしまった。

 

「君にはこれからは実戦的な訓練を受け、ISを使用したテロ・犯罪に対応出来る人材になってもらう。」

 

「了解!」

 

次の日から様々な訓練が課せられた。

ISの基礎理論・基本的な操縦訓練・基本的整備方法・近接戦闘訓練・狙撃訓練・高速機動訓練・ISによる潜入訓練・編隊訓練及び戦闘訓練・応急整備などを短い間に五十嵐大尉はIS操縦者としての知識を習得した。

国防省統合参謀本部は彼の教育訓練がうまく行っていることを受け、彼を有効的に使う方法を模索している中、その二月に事件が起きた事により事態は急変した。

第二の男性IS操縦者、織斑一夏の登場によって。

 




あけましておめでとうございます!

新たな年を迎え、私としては大学という新たな場所に身を置きます。
これから何が起きるかは分かりませんが、平和で楽しく無事にすごせるように願います。

今年も新稲結城並びに『学園の守護者』をよろしくお願いします。


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第十四話 異常事態

※少し短めです。


冬の凍てつく大地にあるアメリカ連邦国アラスカ州の州都ジュノーにある国連の関連機関国際IS委員会は日本で起きた“異常事態”について緊急会議が招集された。

“異常事態”とは二月一日、日本で行われた“IS操縦者育成特殊国立高等学校”通称IS学園の試験会場において織斑一夏という男子中学生がISを触れた際に起動、複数の試験官が目撃した事件だ。

国際IS委員会はアラスカ条約に基づいて設置された国際機関であり、ISに関する国際的な問題などをIS運用国で構成される会議で協議を行う場である。

今回の事件は緊急を要する為に各国の大使が緊急招集され、議長の開会宣言と共に緊急会議は開催された。

 

「議長、私から会議に関連する新たな情報があります。」

 

アメリカ合衆国特命全権大使が会議早々議長に発言を求め、議長は了承した。

 

「我が国の情報機関が日本国防軍内に“もう一人”のIS操縦可能な兵士がいるとの情報を得ました。」

 

アメリカ大使の報告に日本国の大使を含めた他国の大使は驚いた。

男性操縦者が現れた事態が異常なのが日本に二人も現れた事に議場はざわめいた。

 

「それは本当なのですか!?」

 

イギリス連合王国特命全権大使が聞くとアメリカ大使は日本国特命全権大使を見ながら言った。

 

「信憑性の高い情報だと我々は考えております。あとはあなたがどのように説明するかでしょうな。」

 

人々の視線は一斉に日本国大使に注がれたが、彼女には一切の情報は与えられていなかった。

 

「いえ...私には一切そのような事は聞いておりません。」

 

「そうですか。ではここですべてを発表しましょう。」

 

アメリカ大使は書類を片手に読み上げる。

日本国国防海軍第一航空団に所属する士官、五十嵐祐也大尉だと言い放った。

他に衛星写真や飛行する五十嵐大尉の写真が会議の場で公開された。

各国の大使は一斉に日本国大使に詰め寄ったが、何も知らない彼女にとって苦痛でしかなかった。

この状況にどのように対応するか苦慮して、日本国大使は議長に一時休憩を申し込み承諾された。

すぐに大使は本国政府に連絡して、外部に情報が漏れていることを首相は知った。

 

「これはどういうことですか首相!我々にこんな重要なことを隠すとは!」

 

首相官邸の閣議室では外務省から上がった情報に外務大臣は怒り狂っていた。

 

「我々は国際会議の場で醜態を晒してしまった!あんたが情報を与えなかったからだ!」

 

「そんなことよりどのようにこの事態を収拾するかを考えなければんりません。」

 

国防大臣が外務大臣を収めようとすると国土交通大臣が口を挟む。

 

「第一に国防省内部から情報が漏れたのが問題なんだ。君達の不祥事をどのように責任を取るんだ!」

 

「もうやめろ!...とにかく私はすべてを発表しようと思う。」

 

漆原首相の言葉に閣僚達は凍りつき、文部科学大臣は怒り狂った。

 

「首相!何を言っておられるのか、英雄である織斑千冬の弟である織斑一夏ならまだしも徴用兵と呼ばれる貧困者が無闇に産んだ子供達にいるとは我が国の恥だ!」

 

「世界から見れば彼等にも人権はあります。第一彼等を蔑ろにすれば世界から非難されるのは必至だと思いますけど?」

 

首相は文部科学大臣を説得するが、彼女はさらに捲くし立てる。

 

「こんなことは許されません!我々の支持母体はいい顔はしないぞ!」

 

「支持なんてけっこう、私は多くの国民に支持されるでしょう。私をフェミニストと一緒にしないで下さい!」

 

「なにを!」

 

文部科学大臣は立ち上がり、首相に詰め寄ろうとしたが国防大臣に制止させられる。

 

「現時刻をもって文部科学大臣を罷免します。」

 

首相は文部科学大臣に罷免を宣言した。

 

「勝手にしろ!どうなろうと私は知らん!」

 

彼女は閣議室のドアを乱暴に開け出て行く。

 

「発表することに反対の方はここで挙手してください。」

 

首相は周囲の大臣を見回すが、罷免を恐れて挙手はしない。

 

「では閣議を終了する。」

 

閣議室から大臣達が出ていく中、首相は国防大臣を呼び止め執務室に来るように命じた。

 

「国際IS委員会は二人をIS学園で管理しようとするだろう。」

 

「あそこなら我が国を含めて他国の干渉を受けずに三年間は管理が出来る。たった数ヶ月では諸外国との調整はつかないでしょうから。」

 

「そうだな、国防大臣。すぐに五十嵐裕也大尉をIS学園警備総隊に移動させて管理しろ。国際IS委員会の決定が決まり次第織斑一夏をIS学園内に護送しろ。」

 

「決定次第でありますか?」

 

漆原首相は頷く。

 

「ああ、この国にはISを神格化したり自らの地位を築き上げる為に使う者がいる。彼等にとって二人は自らの生活を破壊する存在となりえる。」

 

「...消そうとするものが現れると。」

 

「そうだ、残念ながら私の内閣にもいる。特に国家親衛隊構想で対立する警察組織とはな。」

 

「わかりました。我々国防省と国防軍に任せてください。」

 

「よろしく頼む。」

 

国防大臣が執務室を出ると首相は執務机の椅子に深く座る。

これ以上自分達の子供達が血を流すのを見過ごすことは出来ないと心に誓い、これを乗り越え開放する日が来る事を願った。

数日間の国際IS委員会の会議は漆原首相の予想通り五十嵐裕也と織斑一夏両名のIS学園入学させることを決定し、日本政府に命じた。

 




第十四話目です。

なんかソードアート・オンライン(原作未読)の新作PVにフランスのPGM『へカートⅡ』らしき対物ライフルを構えた少女が登場して少し興味が出ました。

自分はアニメを決める際に世界観や軍隊・兵器が登場するのを優先して視聴しますね。
ISも『現行の兵器を凌駕する』という言葉に引かれて見たのがキッカケですね。

ではまた次話で。


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第十五話 徴用兵

東京湾に浮かぶIS学園島。

アラスカ条約において設置を求められた日本政府がバブル時代に巨大レジャー施設やカジノなどを擁した人工島の計画で作られバブル崩壊時に放棄された九割程完成していた人工島を買取り、その上に学園やIS関連企業・研究所を設置する特別区を作り出来た。

IS学園はIS操縦者育成の為に設置された特殊国立高等学校で、日本政府が国際社会からの要求により多額の予算を費やした施設の為、最新設備の整った教育機関となり世界中のIS操縦者候補が学び来ている。

学園内にある正門近くのビルの玄関口にIS学園警備総隊司令小室浩司准将は国防省の高官の到着を待っていた。

IS学園警備総隊は国防省警備司令部隷下にあり、IS学園並びに関連施設の警備・教員生徒の警護・IS関連の事件に対応する部隊ではあるが学園内は治外法権の為施設の周辺警備に限られ内部に入るには日本国首相と安全保障理事会の同意又は緊急時はIS学園理事長の要請の時のみ入れる。

この日はIS学園と国防省の会議が開かれることになった。

それはIS学園側が五十嵐大尉の入学に際して彼に関する説明を求めた為に国防省とIS学園との間で扱いに関する会議が開かれた。

時間通り一台の黒塗りの公用車が玄関口に停車すると車内から東部の徴用兵の教育を管轄する東部徴用兵教育団司令若葉少将が降りると准将は敬礼した。

 

「案内してくれ。」

 

小室准将は若葉少将を案内し、ひとつの会議室に案内した。

そこにはIS学園理事長と二〇一二年度新入生を管理する織斑千冬が座っていた。

双方が揃うと会議が始まった。

 

「私はIS学園理事長轡木です。こちらは五十嵐くんを預かることになる担任の織斑先生です。

 

「日本国国防省東部徴用兵教育団司令若葉少将です。」

 

「ここでの会話や書類はすべて最上級機密として扱います。ご安心してください。」

 

「ありがとうございます。一応、警備隊の“掃除”も丁寧してもらったので充分安心できます。」

 

挨拶するとまずIS学園理事長は口を開いた。

 

「若葉少将、我々教師一同は徴用兵について恐れています。我々は情報を今まで開示されずどのような人間達か分からない上に帰還兵となると扱いが難しいと考えます。アメリカではベトナム戦争後心に傷を負った帰還兵が事件を起こすなどの帰還兵問題が起きています。もし彼が何かを起こす可能性があると考えています。」

 

若葉少将は笑顔で答えた。

 

「確かに帰還兵問題はありますが、私達が育てた徴用兵はそんなことはありません。彼らは基準をクリアし長時間に及ぶ教育で日韓戦争では略奪・強姦などの問題を起こした徴用兵はいません。」

 

「どのような基準と教育ですか?」

 

織斑先生が質問すると若葉少将は丁寧に説明した。

 

「まず集められた子供達の中から選別します。当然ながら出産した病院の検査で身体的・知的障害が発覚した者・体が平均よりも貧弱な子供など軍務に支障がある者は除外します。」

 

「除外された子供は?」

 

「国民の為に異常のない臓器をすべて摘出して、病院で臓器移植を待つものに提供します。」

 

「臓器をすべて...摘出した子供は死ぬのですか?」

 

「はい、当然ながら。」

 

平然と答える若葉少将に二人が唖然としている間も説明を続ける。

 

「第二段階に基準をクリアした子供達に手術を受けさせます。」

 

「...手術ですか?」

 

「はい、医療技術の進歩で脳の構造がある程度分かり放射線治療で感情を司る部分の一部を破壊します。特に六情の喜怒哀楽愛憎の内愛の部分を破壊します、これにより民間人のように人を愛したり性的感情を抱く事を阻止します。本当であればすべての感情を無くしロボットのようにしようと思いましたが、そうなると思考能力を無くしてしまうと戦力にならなくなってしまうので中止しました。」

 

「あなたは人間として平気なのか?」

 

織斑先生は怒りを込めた言葉で言うが、若葉少将は言い返した。

 

「あなた方が運用しているISがあるせいで私はしなければならないんだ...それを知っているのか...」

 

少しの沈黙が三人の間で漂い、理事長が続けるように指示すると少将は説明を再開した。

 

「手術後は第三段階として教育団で基礎教育を始めます。兵・曹・士官によっても違いますが五十嵐裕也は優秀な成績から士官課程で高卒程度の数学・国語・英語・理科・社会と第二外国語を十二歳までに終わらせます。並行して思想教育を行います。」

 

「思想教育?」

 

「思想教育の内容は基本的な命令服従と日本への忠誠心を育てる事です。彼らにはとにかく日本を本当の親のように慕わせます。お前達は親から十五万円で売られたと教え、だが金にしか目のない親のもとにいたらどうなっていたか教え、日本に救われたと思い込ませます。そして今、今度は俺達が親の日本の為に戦おうという心を作ります。日韓戦争では多くな危険な任務自ら率先して志願し戦死した兵士は多いです。五十嵐大尉もその思いでISに立ち向かいました。」

 

「何が売った?お前達が売らせたんだろう。」

 

織斑先生の言葉を若葉少将は気にせずに続けた。

 

「また同時に基礎的な戦闘訓練を行います。格闘から小火器・爆弾の扱いを一通り行います。五十嵐大尉は特に射撃に秀でていました。」

 

「しかし彼は海軍戦闘機パイロットでしたよね?」

 

理事長が質問する。

 

「はい、私達は彼らの希望と適性診断で海軍戦闘機パイロットの道に進めました。第四段階の専門課程は陸海空三軍に振り分けられ、そこでだいたい二年間となっています。そして最終段階です。」

 

「最終段階?」

 

「最終段階は実際に戦場に送り込み精神を鍛えさせます。それが日韓戦争で徴用兵を送り込んだ理由であり、結果は所謂PTSDなどの精神病は現れませんでした。特に五十嵐大尉は優秀で徴用兵教育団卒業時より精神状態も問題無く、いえそれ以上に良くなっています。」

 

「そうですか...」

 

理事長は説明を理解すると、織斑先生が質問した。

 

「そう言えば、なぜ五十嵐裕也大尉はISに操縦出来たのか解明されたのか?」

 

すると少将はアタッシュケースから書類を取り出して見せた。

 

「漆原首相から一切の情報を開示するように命じられているために開示します。」

 

その書類の表紙には『人体実験による男性のIS操縦者化計画』と表記され二人は驚いた。

 

「これはどういう事でだ!お前達は最初からISが男性でも動かせることを知っていたのか!」

 

織斑先生が大声で詰め寄ると少将は落ち着くよう言った。

 

「説明を最後まで聞いて下さい!」

 

「...すまない。」

 

謝ると説明を少将は始めた。

 

「十年前の徴用兵招集と同時期にこの計画は持ち上がりました。ドイツの遺伝子強化試験体に関する実験と共同で被験者三十名の子供を対象に人体実験を行いました。様々な実験を行いましたが男性にISを操縦させる事は出来ず、三十名中二十九名が死亡し生き残ったのが五十嵐裕也です。彼には脳の神経組織や筋肉組織などに薬剤を投与したり、またドイツで開発されたヴォーダン・オージェ、越界の瞳と呼ばれる処置を行いました。結果は身体能力の向上・知能の上昇・視覚能力の向上などが見られましたがISを操縦させることは叶わず計画は中止されました。原因は現在も解明されておりません。」

 

この話を聞いた織斑先生は怒りが込み上げ長机を殴り、立ち上がると少将の首元を掴む。

 

「貴様はよくもまあ平気で喋れるな、お前達の計画どれだけの子供が死んでいるんだ!知っているのか!」

 

少将は負けずに反論した。

 

「お前達が所有しているISが現れたのがすべての元凶だ!私だってやりたくはないが、政府の命令は絶対だ!...ただISが現れなければ...」

 

すると会議室に備え付けられている電話が鳴った。

 

「どうしました?」

 

理事長が受話器を取って聞くと、相手は慌てて言った。

 

《織斑一夏が襲撃されました!》

 




第十五話目です。

今回は東京湾にIS学園を置きました。
まあサイズなどのは一切無視して昔に感想欄で送られてきた東京湾説にしました。
・他の海域では水深が深すぎるか遠すぎる
・に国際色豊か(非日本人生徒が半分)のため国際空港が近くにある事が要求されるが出身国に至る直行便が無い国(日⇔生徒国でなく日⇔乗換え国⇔生徒国)の生徒に負担を掛けないように考慮すると東京湾が好立地
この二点に大きく説得させられました。
また自分的には湘南地域はないな~と地元民ですがそう思ってしまったのもあります。

では、また次話で。


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第十六話 救出

IS学園警備隊
学園警備総隊本部_警備隊(各小隊定員五十名×四:計二百名)
       | |―第一警備隊
       | |―第二警備隊
       | |―第三警備隊
       | |―第四警備隊
       |
       |_強襲隊(各隊定員十名×四:計四十人)   
       |  |―第一強襲隊
       |  |―第二強襲隊
       |  |―第三強襲隊
       |  |―第四強襲隊
       |
        |_衛生隊
       |_工兵隊
       |_通信隊  
       |_警備システム運用隊
       |_海上警備隊
       |_飛行隊
       |_整備隊

主要装備
・高機動車改型(見た目は米軍のハンヴィーと似ている)
従来の高機動車に防弾仕様を施し、屋根は幌ではなく金属で覆い銃座を取り付けた。
12.7mm重機関銃M2又は5.56mm機関銃MINIMI・九六式40mm自動擲弾銃を装備する事が出来る。
飛行隊
・UH-60JA『ブラックホーク』
高射隊 
・九三式近距離地対空誘導弾
・対空機関砲VADS
海上警備隊
・とから型巡視船
・かがゆき型巡視艇
※水上警備艦隊は海上保安庁がおこなう



若葉少将と織斑千冬が会談している日、五十嵐大尉と五反田大尉はIS学園島にあるIS学園警備総隊駐屯地にいた。

二人は国際IS委員会の会議が開催されてすぐに異動命令下り、学園警備総隊の警備隊第二警備隊に配属された。

学園警備総隊は大きく学園施設の警備と学生の身辺警護に当たる警備隊とISに関するテロなどにあたる強襲隊の二隊に分けられる。

二人は毎日のように訓練が繰り返され、身辺警護や射撃の訓練が行われた。

だが織斑一夏の護送任務は第一警備隊の第一分隊が任され、五十嵐大尉は任務に就くことはなかった。

それは首相の要望により出来うる限り危険な場所から離す為の処置だとは知らなかった。

 

《総員戦闘準備!》

 

宿舎で休んでいると突然の呼集があり、ロッカーを空け市街戦用の迷彩服に着替えると宿舎の前に隊員達と並ぶ。

並び終えるとすぐに号令を掛け、番号を叫び全員いることを確認する。

 

「隊長!第二警備隊総員五十名、不明者無し!」

 

「よし。」

 

目の前に立つ大柄の男は第二警備隊を率いる向井啓司少佐である。

この部隊での五十嵐の立場は副隊長を任されている。

 

「緊急事態につき追って任務は無線で説明する。急ぎ準備せよ!」

 

急ぎ武器庫で八九式小銃と9mm拳銃・弾倉・防弾チョッキを受け取り装着すると待機していた先頭の高機動車改型に乗り込む。

五反田が運転席に乗り込み助手席に向井が乗り込むと五十嵐は後部座席に乗り銃座に他の隊員が取り付く。

十五台の車列は学園警備隊駐屯地を出ると千葉県と繋がる“第二学園連絡橋”を渡る。

 

「第一警備隊第一分隊が護送中に襲撃され、現在千葉市内の雑居ビルで篭城している。俺達は先発した第一強襲隊と護衛対象並びに第一警備隊第一分隊を回収する。」

 

「了解!」

 

“第二学園連絡橋”を渡り終え、搭載されたナビに従い高速を下り千葉市内に入る。

高速を降り走行すると角を曲がったところで目の前に車を並ばせたバリケードが敷かれ、RPG-7を構えた男が現れた。

 

「くそ!」

 

向井少佐は五反田の持つハンドルを左に切らせると発射された弾頭は車体を掠めてコンビニを爆破する。

 

「兵長!撃ちまくれ!」

 

銃座に就いていた兵長は12.7mm重機関銃のチャージング・ハンドルを引いてバリケードに向けて銃撃する。

五反田はアクセルを踏み込み車体を無理矢理押し退けて進み続ける。

すると無線機から悲鳴のような音声が入った。

 

《レイブン1!対空誘導弾に狙われている!》

 

五十嵐は顔を車窓に押し付けるようにして空を眺める。

上空を飛行する一機のブラックホークにひとつの白煙が伸びて行きヘリのキャビンを吹き飛ばした。

 

《レイブン1が撃墜された!敵は地対空誘導弾を...》

 

もう一機のパイロットが報告する中、もう一機にも誘導弾が命中して火達磨となって落ちていく。

 

「最後尾の四台は二手に別れ撃墜地点に向かい生存者救出に当たれ!」

 

《了解!》

 

向井少佐の命令で車列から四台が離れ、十一台の車列は進み続ける。

 

「これで我々だけです、隊長。」

 

「ああ、そうだな副長。おい兵長!敵のいそうな場所に満遍なく撃ち込め!」

 

「了解!」

 

機銃座に就く隊員は返答すると右側の雑居ビルの屋上に向け銃撃して上半身だけの死体がボンネットに降って来る。

ビルや路地裏など敵が潜んでいそうな場所に12.7mm重機関銃を浴びせながら敵の真っ只中を突破する。

車列は銃火を掻い潜り第一警備隊第一分隊が篭城する雑居ビルの裏手に止めた。

 

「副長!突入の指揮を任せる!」

 

「了解!」

 

五十嵐は八九式小銃に銃弾を装填し十名の隊員が突入準備を整える。

 

「突入!」

 

隊員がドアを蹴破ると同時に突入すると目の前にAK-47を構えた男と遭遇する。

即座に引き金を引き三発を叩き込み、さらに奥に進み入口に出ると数名の男達がこちらに向かって走ってくる。

すぐに銃撃して接近を阻止すると向かいにある雑居ビルからRPK軽機関銃を乱射され退避する。

部下達が一階部分を制圧すると続いて二階に上がる階段を登り踊り場に出ると上から銃声が響く。

階段を頭部の半分を失った男の死体が滑り落ち、階段は真っ赤に染まる。

さらに二階に近づくと数人の襲撃者の死体と第一警備隊の隊員の死体が折り重なっているのが見える。

 

「IS学園警備隊の第二警備隊だ!救助に来た!」

 

誤射を避けるために上の階に向かって叫ぶが返答はない。

慎重にゆっくりと歩みを進め、死体を越えて二階のフロアに顔を出すと目の前に銃口が現れた。

その先には同じ市街戦用の戦闘服を着た第一警備隊の隊長の姿だった。

戦闘服はいくつかの小さな穴が空き、そこから血が流れ服は血に染まっていた。

 

「お前達か...護衛対象は奥にいる...気は失っているが怪我はしていない。」

 

そこまで言うと隊長は壁に背中をつけてそのまま地面に座り込んだ。

表通りに面するフロアの窓はすべて割れ、壁にはいくつもの弾痕が残り一部の壁は崩れていた。

廊下や階段には負傷した隊員の姿があり、奥のトイレに衛生兵と護衛対象の姿があった。

 

「すぐに負傷者を運び出せ!」

 

手の空いている部下に命じると衛生兵に護衛対象の容態を聞く。

 

「護衛対象の状態は?」

 

頭に包帯を巻いた衛生兵は答える。

 

「対戦車ロケットの爆発で護送車が横転した際に気絶してますと多少の外傷を負っていますが特にありません。」

 

「動かせるのか?」

 

「大丈夫です。」

 

八九式小銃を肩に掛けるとすぐに衛生兵と共に護衛対象の担架を持ち上げる。

 

「そう言えば護衛対象の名前は?」

 

「織斑一夏という名前です。」

 

すぐに担架で運び出すと車列の中央部の高機動車改型に乗せるとすぐに先頭車両に戻る。

 

「隊長!護衛対象並びに隊員の収容を完了しました!」

 

「わかった!総員撤収する!」

 

全員が乗り込むと五反田はアクセルを踏み込み路地裏を飛び出す。

飛び出すとすぐに銃撃を浴びせられ防弾板が銃弾を弾く音が車内に響き渡る。

機銃座に就く兵長は必死に撃ち返し、空薬莢が雨のように車内に降り注ぐ。

車列は一路IS学園に向かっている中、最後尾の車輌が発射された対戦車ロケットの餌食となった。

 

「最後尾の車輌がやられました!」

 

五十嵐は助手席に座る向井隊長に叫びながら前を振り返ると一人の男が飛び出してAK-47を構える。

気づいた機銃座に就く兵長は前に銃口を向けるが、男の銃撃が顔面に撃ちこまれた。

操り人形の糸が切れたように体は車内に落下して、五十嵐の膝に落ちてきた。

顔面は銃弾で原型を留めず認識票がなければ判別が出来ないほどだ。

 

「くそ!すぐに誰か機銃に就け!」

 

「...了解。」

 

向井隊長が叫ぶと五十嵐は機銃座に就きチャージング・ハンドルを引き銃弾を装填する。

目に付いた建物から次々と流れ作業のように銃撃して、中にいる襲撃者を殺していく。

機銃座の周りを銃弾が飛び交い車体を銃弾が削り火花が散る。

 

「うっ!」

 

一発の銃弾が防弾チョッキに命中する。

貫通はしないがバットか何かで思いっきり胸を殴られたような痛みで体がよろめいた。

 

「大丈夫か!」

 

先輩隊員である軍曹が心配をして声を掛ける。

 

「くっ...大丈夫です...」

 

五十嵐は手を離した機銃を再度持ち上げ、引き金を引く。

脳内にアドレナリンが回ったのか破片や銃弾が顔を掠めようが肩を撃ち抜こうが痛みを無視して撃った奴らを銃撃する。

五十嵐の乗る車輌は千葉市内を出ようとした時だった。

胸に強い衝撃が加わり、機銃座の上で仰け反るようになり白い雲と青い空が見えた。

その空に赤い点が次々と現われ、その点が顔に降って来て肌を滴るとわかった。

自分は撃たれたのだと。

 

「五十嵐!?」

 

後ろで床に倒れる音を聞いた五反田が彼の名前を叫ぶ。

軍曹はすぐに防弾チョッキを脱がせると左胸に銃創があり、床に大量の血が流れる。

 

「隊長!五十嵐大尉が撃たれました!」

 

「くそ!すぐに機銃を代われ!」

 

軍曹は医療キットを出してガーゼや包帯を左胸の銃創を押さえつけるが出血は止まらない。

もうひとりの隊員が防弾チョッキを見ると左胸のあたりに見事に穴が開いていた。

一発目の銃弾で破壊された防弾チョッキの部分にもう一発撃たれ完全に破壊されたのだろうと推測した。

 

「出血が酷い!」

 

軍曹の手は彼の鮮血で赤くなり、彼等にはどうすることも出来なかった。

向井隊長は軍曹に質問した。

 

「脈はあるのか!」

 

「はい!あります!」

 

「なら大丈夫だ!この速度でIS学園に突っ込めば高度な手術が受けられる、押さえ続けるんだ軍曹!」

 

高速道路を上がり“第二学園連絡橋”を目指す。

だが“第二学園連絡橋”に差し掛かったとき、橋に二台の装甲車で固められたバリケードが敷いてある。

装甲車には青と白の塗装が塗られており、警察の機動隊車輌であった。

しかし向井隊長は警察が橋を警護しているとは聞いておらず、嫌な予感が頭の中で警告を鳴らす。

 

「五反田!橋に入らずこのまま真っ直ぐ上がれ!」

 

「はい!?五十嵐がやばいんですよ!」

 

五反田は五十嵐の容態を気に掛けて向井隊長に食って掛かる。

だが橋に差し掛かった時、バリケードから機動隊の格好をした警官が車列に向かって銃撃する。

 

「何なんだよ!」

 

五反田はハンドルを切り車線を変更して、車列はそのまま高速道路を北上する。

警察の襲撃と五十嵐を含める負傷者達の事で向井隊長は混乱する。

混乱する中でも、隊長は指示を出し高速道路の傍にある立体駐車場に車列を誘導した。




第十六話です。

高校最後の三学期が始まりました。
自分はなかなか大学に提出する課題文が終わらず(あと二ヵ月後だが)、図書館で調べ物をしていて小説を書くのが遅くなっています。
すみません。

今はドイツ帝国の建国者ビスマルクについて調べているのすが、図書館に行ったらビスマルク関連の本が六冊中四冊が借りられ予約が最大で五件!...どんだけ人気なんだよビスマルク...

そう言えば艦コレの外来艦は枢軸側が優先されると聞いたのですが...
戦艦ビスマルク...鉄血宰相のような艦娘が来るのかな...

ではまた次話で!


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第十七話 突破

織斑一夏襲撃事件発生同時刻

 

「織斑が襲われただと!」

 

午前の職務を終えて漆原首相が首相官邸に戻ると電話口で国防大臣から連絡が入る。

 

「織斑くんは大丈夫なのか!」

 

《はい、護送部隊からは無事であると。学園警備隊が救助の部隊を送りました。》

 

「...五十嵐くんは救助には行かせてないよね?」

 

国防大臣は電話の向こうで慌てて部下に問いかける声が聞こえる。

 

《いえ...こちらでは...》

 

「国防大臣?」

 

突然電話が切れて電子音が聞こえると執務室のドアがいきなり開かれる。

 

「入室を許可していぞ!」

 

漆原首相はドアに向けて怒鳴るとそこのは拳銃をこちらに構えた警護官が入る。

 

「漆原さん、あなたには首相を降りてもらいます。」

 

「官房長官?...」

 

警護官と共に執務室に入ったのは信頼をしていた議員の中でも信頼していた一人であった。

 

「これは...どういう?」

 

「我々は日本の国益のために蜂起しました。」

 

 

織斑一夏襲撃事件発生から三時間

 

担架に乗せられ地面に置かれた織斑一夏は目を開けると灰色の天井が見え、周りを見渡すと軍用車が周りを囲み周囲に武装した兵士が立っていた。

隣には同じように担架に乗せられた迷彩服姿の兵士が血を流し、呻き痛みに悶え苦しんでいた。

 

「気分はどうだ、水を飲むか?」

 

一人の兵士が水筒を差し出しながらヘルメットを外しながら屈み込む。

顔を見て自分とさほど年が変わらない少年であると分かり驚く。

 

「ありがとうございます。」

 

渡された水筒で水を飲み喉の渇きを癒す。

織斑は自分の記憶にある気絶するまでの記憶を思い出す。

 

「...俺は車でIS学園に行く途中で車が横転して...」

 

「そうだ、その間に俺達IS学園警備隊はお前を助ける為に六十名の兵士を投入して、多くが負傷し死んだ者もいる。」

 

五反田大尉は自分達が置かれている状況を護衛対象である彼に教える為に見渡しながら話をする。

だが護衛対象が言った言葉が親友が瀕死である大尉の心を刺激した。

 

「助けが来たならもう大丈夫か、もう少し寝るか。」

 

五反田は怒りが爆発し、襟元を両手で掴むと体を引張り上げ顔を近づけた。

 

「もう一回大きな声で言ってみろ、お気楽野郎!お前のようなお気楽野郎の為に何人死んだと思っていやがる糞餓鬼!」

 

そのまま隣に無理矢理体勢を変えさせると織斑の視線に一人の兵士が入る。

胸の辺りに白い包帯が幾度も巻かれ、左胸のあたりは血で真っ赤に染まっていた。

彼も襟元を引張る兵士と同じように顔を見る限り若かった。

 

「五十嵐はお前の為に今死に掛けているんだ!もし死んだら絶対にお前を許さん!こんな馬鹿の為に死んだと口が裂けても先に逝った者達には恥ずかしくて言えない!」

 

激しい口調で言い放つ五反田に織斑は自分の言った言葉に非がある事を認めた。

周囲の兵士が二人を離して、暴れる大尉を押さえ付ける。

 

「うるさいぞ大尉!」

 

向井少佐は五反田大尉に怒鳴ると高機動車改型に搭載されている無線機の受話器を取る。

通信の相手は警備総隊司令の小室准将である。

 

「司令、現在我々は湾岸道路学園ICを少し過ぎたあたりの立体駐車場です。」

 

《戦死者・負傷者は?》

 

「第一、第二警備隊を含め戦死者三十名負傷者は二十名です。満足な戦闘は行えません。」

 

《そうか、今から我々の置かれている状況を説明する。》

 

「はい。」

 

《我々学園警備隊は学園を人質に取り蜂起、クーデターを起こした。首相は職務を行えない状況のため首相代理の官房長官は関東圏に戒厳令を引き警察に織斑・五十嵐並びに国防軍首脳部と俺達は国家反逆罪で逮捕だそうだ...ふざけるのも程々にして欲しいくらいだ。》

 

「司令は今どこにおられますか?」

 

《駐屯地を放棄して学園のある“学び舎の丘”に防衛線を引いて立て篭もっている。》

 

警備隊の任務は対人間における戦闘を主眼として、警察と同じような暴徒鎮圧用の装備も含めた軽装備の部隊であるが故に橋を封鎖してる装甲車を吹き飛ばすような兵器は残念ながらない。

もしも戦車でも現われた際には近くの駐屯地や空軍基地から戦車や戦闘機の支援が来るが、国防軍がクーデターを起こしたと言う濡れ衣がある限り、官房長官は動かさないだろう。

 

「とにかく我々は我々で突破方法を考えます。そちらは学園防衛をお願いします。」

 

《君に言われなくても、それが私や私たちの任務だ。通信終わり。》

 

通信が切られるとそばにいる通信兵を呼ぶ。

 

「墜落機救出に向かった車輌から連絡は?」

 

「呼びかけていますが一時間以上通信が途絶えたままです。」

 

四両の車輌は救出に向かって以来通信は途絶え、帰ってこない。

そして負傷者の中でも特に重症負った五十嵐大尉の容態はなんとか保っているが衛生兵によればこれ以上待てないらしい。

救出に向かった車輌は全滅と考え行動することにする。

 

「隊長、海上警備隊の艦艇で移送することは出来ないのですか?」

 

一人の分隊長が提案する。

 

「残念ながら海上警備隊の艦艇は制圧されたらしい。」

 

飛行隊は二機のブラックホークが落とされ残るのは二機はあるが地対空誘導弾の攻撃には晒せない。

海上警備隊の艦艇は先程も言ったように警察により占拠された。

あとは陸路のみしかないが高機動車改型の馬力では特型警備車を押し退けて突破することは不可能。

バリケードを制圧しようとも多くの負傷者を抱える我が部隊にはさらなる戦闘は荷が重過ぎる。

近くの駐屯地や軍病院は手際よく包囲されるか制圧されているらしい。

ここにいる負傷者を一刻も早く治療を受けさせるにはバリケードを突破して部隊に戻るしかない。

 

「バリケードをどうするか...」

 

手に持つ双眼鏡を覗き込むと橋には入口と中間に二重のバリケードが敷かれ万が一入口のバリケードを突破しても中程にあるバリケードで阻止出来るようにされている。

それにIS学園警備の管轄を巡って国防省と警察庁双方の威信に掛けた対立の結果国防軍と警察双方の警備隊が置かれ、残念ながら人員は向こうの方が多く装備は同等。

橋の奪還を目指して強襲隊が襲撃したが多勢に無勢で追い返されたらしい。

 

「お!」

 

双眼鏡で周囲を見渡すと向井隊長は何かを見ると作戦を思いつき、口角を上げた。

 

「五反田大尉!工兵を呼んで一緒に来い!」

 

「了解!」

 

程無くして工兵と共に五反田大尉は隊長の前に集まった。

 

「大尉、私はお前に暴れた罰を科さなければならない。それでだ・・・」

 

 

織斑一夏襲撃事件発生から三時間三十分

 

「これなら誰も通す事は出来ないわ。徴用兵の成り上がりめ、苦しんで死ねばいい。」

 

“第二学園連絡橋”の中程に設置されたバリケードで陣頭指揮にあたる女性警察官は目の前のバリケードを見て自信を持って言った。

重量のある特型警備車を押し退けるほどの力のある頑丈な車輌を国防軍IS学園の警備隊が持っているはずはない。

そして仲間である女性真理教の洗脳された男性信者や移民政策で雪崩れ込んできた外国人から掻き集めた傭兵共の集団に包囲された中で生き残れるわけがない。

それに徴用兵のIS乗りが撃たれたとの報告を聞き、女性警察官は上機嫌であった。

 

「隊長!バリケードが!」

 

一人の隊員が前を指差して叫ぶと車が衝突したような衝突音が前から聞こえた。

 

「何事!」

 

飛び出す千葉方面に設置したバリケードの特型警備車が衝撃で押し退けられ一台が乗員ごと海に飛び込んだ。

そこに現われたのは運転席を鉄板で覆った巨大なトレーラーが猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 

「撃ちまくれ!」

 

機動隊員達は運転席に向けて八九式小銃やMP5短機関銃を構え銃撃する。

女性警察官も自らの拳銃を引き抜いて撃ちまくるが銃弾は鉄板で弾かれる。

 

「ふざけんじゃねえ少佐!絶対後で殴ってやる!」

 

トレーラーの運転席では五反田大尉が鉄板の隙間から外を見ながら運転する。

銃弾を鉄板が弾く音が幾度も運転席に響き、耳が痛くなるが親友の為にアクセルを踏み込み一車線をふさぐ一台の特型警備車に進路を向ける。

隊長は近くの工場に止めたあったトレーラーを見つけ、工兵に工場で見つけた鉄板で運転席を強化させてバリケードに突っ込ませて進路を切り開く荒唐無稽な作戦だった。

 

「退避~!」

 

一人の機動隊員が逃げると同時に巨大トレーラーの恐怖に負けてバリケードから次々と隊員が離れて逃げる。

 

「貴様ら離れるな!逃亡者は銃殺するぞ!」

 

女性警察官がそう叫んでいると目の前に巨大トレーラーが迫っていた。

次の瞬間女性警察官は特型警備車と巨大トレーラに挟まれて圧死され、先のバリケードと同じように吹き飛ばされて海に落ちた。

 

「よし!そのまま突っ込め!」

 

トレーラーに続いて高機動車改型の車列が次々とバリケードに開いた穴を通って学園島に入る。

市街地を抜けるとすぐに“学び舎の丘”に通じる坂を上り、向井少佐の乗る車輌は学園正門前に停車した。

 

「よく突破した、隊長!すぐに二人を!」

 

小室司令と共にIS学園医療班の医者と看護師がストレッチャーを運んでくる。

高機動車改型のトランクのドアを開けると担架に乗せた五十嵐の体をストレッチャーに移して学園内に運び込む。

 

「千冬姉...」

 

同じ高機動車改型から降りた織斑一夏は医者達と共に来たIS学園教諭である織斑千冬の姿を見つけた。

織斑先生は弟を一瞥すると表情を変えずに小室准将に感謝を述べた。

 

「小室司令、我が校の入学予定者の護衛をありがとうございます。」

 

「織斑さん、私達の任務は命を掛けてこの学園を守ることでですから当然の事です。こちらこそ私の部下、五十嵐裕也大尉の事をよろしくのお願いします。」

 

「はい、我が校の入学予定者です。責任を持って治療と教育を行います。」

 

織斑先生は振り返ると弟の傍に行く。

 

「行くぞ。」

 

すると小室准将は織斑先生を呼び止めた。

 

「織斑さん、感謝は五十嵐くんにしてあげて下さい。」

 

「はい。」

 

学園は島外から集まった警察部隊に包囲され、中央からの指示も無く孤立していた。

そして舞台はIS学園から首相官邸・国防省に移る。

 




第十七話です。

自分は小説を書いる中でいつも思うのは登場人物の感情表現をどのようにするかですね。
一人ひとりの喜怒哀楽をどのように表して言葉にしていくか、自分がいつも苦戦させられているところですね。
特に篠ノ之束に関しては不明すぎて一番の悩みどころですね。
ちなみに第十七話での織斑一夏の発言は危機感が無い、または一度危機が過ぎると忘れてしまうところを表したのですが・・・どうですかね?(銃撃されても翌日には忘れていつものような生活を送る男ですからねえ)

ではまた今度。


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第十八話 正当性

国防大臣は大臣室で正門の状況を見る。

憲兵隊と機動隊が双方が盾でバリケードを作り対峙している。

昼頃に官房長官が突然理由もなく首相の職務継続が不可能だとして“日本国首相の継承順位”に従って継承第二位の官房長官が首相の権限を移行する発表すると共に国防大臣の扇動によるIS学園警備総隊のクーデターが起きたとして憲法の一時停止を行い警察に行政権と司法権を委譲、戒厳令を発令と共に国家反逆罪としてクーデターに関与したとして国防軍首脳部・織斑一夏・五十嵐裕也大尉の他警備総隊全兵士に逮捕状が出された。

 

「...首相やその他の国務大臣の居場所は?」

 

大臣室に共にいる統合幕僚長に大臣は聞くが首を振る。

 

「分かりません、衛星の画像からして首相官邸から動いていないと思われますが確実ではありません。ただ大臣を除いて他の大臣は...」

 

「分かった、官房長官の馬鹿に扇動されたんだろうな!くそ!」

 

国防大臣は裏切られた怒りを執務机にぶつける。

国防軍にはこの時の為の治安出動という手段がある。

だがそのためには拘束されている首相を解放して正当性を国民に示して行動に移さなければ、官房長官の言うように国防軍は反乱軍になる。

すると空軍士官が大臣室に飛び込んだ。

 

「緊急事態です!すぐに中央指揮所へお越し下さい!」

 

「どうした!?」

 

士官はそのまま大臣室のテレビを点け、チャンネルを操作して海外のニュース番組に変えた。

アメリカのニュース番組で白人のアナンサーが速報を読み上げていた。

 

《ターナー大統領は日本国におけるクーデターにおいて代表候補生に危険が及ぶと判断し、グアムの第三海兵遠征軍に出動命令を発令しました、また中国やEU諸国が軍に対し出動待機を発令しました。繰り返します・・・》

 

「なんだと!わかった。統合参謀長、中央指揮所に下りるぞ!」

 

エレベーターに乗り込むとICカードを機械にかざすと地下にある中央指揮所へ降りた。

シェルターである指揮所はへは分厚い金属の扉を潜り、中に入るといくつもの大画面のディスプレイと多くの陸海空軍のオペレーターと参謀そして三軍のそれぞれのトップである参謀長が敬礼する。

中央指揮所の真ん中にある円卓に座ると四人が座った。

早速国防大臣は海軍参謀長に聞く。

 

「海軍参謀長、アメリカ海兵隊はどのくらいでIS学園に到達する。」

 

「オスプレイを往復で飛ばせる地点とすると遅くとも四日後には到達します。」

 

次に空軍参謀長が報告する。

 

「先ほどからスクランブルが増加してます。他国は今の段階では我が軍が正常に機能しているか試していますが、早急に事態を収拾しなければ直接学園まで護衛付きの輸送機で空挺部隊を送り込むかもしれません。」

 

空軍参謀長の進言に陸軍参謀長が援軍を出す。

 

「この状態なら独自の判断で出動命令を出しても国際的な批判はありません、逆に我々の行動が正しいと評価せれるでしょう!」

 

「しかし!」

 

国防大臣は参謀長達の言葉を止めた。

 

「我が国民はどう思う?今でもマスコミに扇動された国民は命を掛けて戦った部下を叩いているのだぞ!この状況で排除に出たら国民からの信頼は無くなるぞ、我々はあくまでも国民の味方ではなければならない。それが国防軍なのだぞ!我々は“国民”の軍隊なんだ!」

 

参謀長達はその言葉を重く受け止めたが、統合参謀長は国防大臣に言った。

 

「ですが大臣、決断を早めに出さなければなりません。」

 

「...わかっている、だが...」

 

すると統合参謀長の携帯電話が鳴り、彼が電話に出るといくつか言葉を交わして国防大臣に差し出す。

 

「大臣、我が国の安全保障に大きく関わる方からの電話です。」

 

統合参謀長は妙に畏まった言葉遣いをするので国防大臣は妙に思った。

大臣は差し出された携帯電話を耳に当てると若い女性の声が聞こえた。

 

《こんにちわ国防大臣。》

 

受話器から流れる声は若い女性の声だった。

 

「あなたは誰ですか?」

 

《そう言えば初めましてですね。前任者とは一緒に仕事をさせてもらいました、更識家第十七代当主更識楯無。詳しいことは周りに居る統合参謀長か情報局局長に聞いて下さい。》

 

「....わかった。本題は?」

 

《我々は首相の居場所を発見しました。》

 

「本当か!何処に居るんだ!?」

 

《慌てずに、もう我々の部隊が救出に向かっています。三十分でそちらにお届けします、我が更識家実戦部隊“楯”の力を使って。》

 

そこで電話を切るとIS学園生徒会長更識楯無は生徒会室にある無線機であるところに連絡した。

 

「聞いてた?」

 

《バッチリと、しかし三十分ってハード過ぎですよ。》

 

「貴方達の力を信用しているから、お願いね。」

 

《了解、かわいい当主様に頼まれたら幾らでもしますよ。通信終わり!》

 

杉崎大尉は総理大臣公邸の真下にある地下空間に待機していた。

ここは太平洋戦争時に作られた脱出用トンネルの一部であり、地下鉄工事や周辺の再開発で埋めたのを首相官邸が占拠された際の奪還用に数年前に繋ぎ合わせて秘密裏に急造された空間であった。

公邸の真下には爆薬をいくつも設置され、吹き飛ばす準備がなされた。

その頃首相官邸では漆原首相は執務室に閉じ込められていた。

 

「官房長官、君は何の為にこんなことを?」

 

漆原首相は反乱の首謀者である官房長官に蜂起した理由を尋ねる。

 

「君が掲げている弱者救済・差別解消私の政策に私の支援者は反対なんだ。国益の為にこの差別は必要なんだ。」

 

「どうして必要なのかしら?」

 

「一言で言えば政府批判を避けるためだ。今までの政権は弱者を締め付け税金を搾り取れるまで取る。だがこの国は“一応”は民主主義国家だ。国民に必死に働いてもらうには不満の捌け口が必要だ。それが戦争と徴用兵制度だ。君の政策はただの予算の無駄遣いだ。」

 

「だったら弱者を救済して不満を解消すればいいじゃない。」

 

すると官房長官は激しい口調で言い放った。

 

「低所得者を救済して国益になるか!エリートにこそ金は必要なんだ!どうせ底辺のゴミ共がいくら頑張ったからと言って何になるか!我々エリートの役目はこの国の国益を最大限までに多くすること、君のような這い上がりの平民崩れには分からない話でしょうが。」

 

官房長官が怒り狂って激しい口調で訴えていると扉が開き、警察官の一人が入る。

 

「官房長官、学園警備隊への総攻撃準備が整いました。」

 

「わかった、今から危機管理センターに行く。」

 

官房長官は首相官邸の地下にある危機管理センターに入った。

ここには国防大臣を除いた国務大臣と警察庁長官が集まり、テレビ回線で警視庁長官をはじめ首都圏の各県警本部長とIS学園を包囲する警察部隊の指揮官と繋がっていた。

 

「これより我々の正当性を認めさせるときが来た、首相をはじめ国防軍はこの社会秩序を破壊しようとした。その裁きを与えよう。警視、総攻撃を命じ」

 

総攻撃を命じようとしたときであった。

突然室内の照明が落ち、テレビ画面が暗くなる。

 

「停電か!?」

 

だが停電ならすぐに非常用電源が入り復旧するが、一行に復旧する気配はしない。

するとテレビ画面に明かりが点き、待機画面から映像が切り替わると奇妙な格好をする女性の姿が現われた。

おとぎ話のひとつ“不思議の国のアリス”に登場するアリスが着ているような青と白のワンピースを着る女性は政府や警察関係者なら誰でも知っている女性であった。

 

「篠ノ之束だと!」

 

そう彼女こそ現在の世界情勢を作り上げることとなった元凶であるISを作り上げた研究者“篠ノ之束”であった。

 

《あななたちいっくんをいじめようとしているけど、この束さんを激おこにさせたねっ!どうなるか教えて上げるよ!》

 

一方的に言うと画面は切れ、そのままテレビ画面は真っ暗なまま沈黙した。

 

「大変です!各所との連絡が不能!」

 

一人の職員が報告すると全職員がすぐに無線機を操作するが応答は無い。

次に携帯電話を操作しようと取り出すが、圏外と表示されタブレットのネットワークも切られていた。

極め付けに危機管理センターの扉は警備用重要な区画なのでオートロック式であったために篠ノ之束のハッキングで閉じられてしまった。

 

「なぜあの女が?」

 

官房長官は慌てふためく大臣と職員達の中で何も映らないテレビ画面を睨み続けた。

すると突然床が持ち上がったように感じると大きく揺れ爆音が響き渡った。

 




第十八話目です。

自分は架空の兵器の名称や人名に凝った名前をつけることが苦手です。
この話ではオリジナルキャラは一般の人々として普通の名前をつけているのもありますが、兵器に関して言うと他の人々のような和名の兵器名をつける事が苦手です。
自分は小説を読む通り太平洋戦争時の航空機の名称を付けていますが、当時名称を名付けた人々の発想が羨ましいです。
また他のネット小説でも新兵器の名前などに凝った名前を付けられる能力に脱帽します。

ではまた今度。


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第十九話 終結

使われていない首相公邸の床を吹き飛ばすとすぐさま梯子を使って二人の隊員が突入する。

この兵士達は更識家実働部隊“楯”の兵士達であり、記録上は死亡した事にされている元国防軍人の精鋭が集められた部隊である。

この部隊の名の通りこの部隊は日本国政府が最後の“楯”として投入する特殊部隊であり世界各地で日本国に対するテロなどを阻止している。

すぐに杉崎大尉を含めた全員が登ると首相公邸の一階に出ると西側の庭園に出る。

 

「侵入者だ!」

 

庭園に出ると警備の機動隊員と警護官が拳銃を構えて接近する。

だが突入前の送電設備の爆破で官邸の電力は失い、さらには篠ノ之束のハッキングで周囲の建物の電気は止められ官邸の外は文字通り暗闇であった。

“盾”の兵士達は装着した暗視装置を用いてサプレッサー付きのMP7で一方的に位置を把握して銃撃する。

警官は暗闇から放たれる銃弾に次々と倒れ、防弾チョッキも役に立たず適当に撃って位置を暴露して撃たれる者もいた。

数分で首相公邸から首相官邸に移動するとガラスを割って突入するとすぐさま中にいる数人の警官を無力化すると五階にある執務室まで一気に上がるとフロアに出る扉をゆっくりと明けるとスネークカメラを用いて五階の様子を探る。

執務室の前には机や椅子で作られたバリケードの中で数人の特殊部隊員がMP5を構えて守っていた。

すぐに扉を開けて閃光音響手榴弾を投げ込むと扉を閉め、爆発音が聞こえると突入した。

辛うじて立っていた者に容赦無く銃弾を足や肩に撃ち込んで無力化し、倒れている者にはプラスチックバンドで拘束する。

 

「首相、お迎えに上がりました。」

 

杉崎大尉は執務室の扉を開くと漆原首相は恐る恐る聞いた。

 

「・・・貴方達は?」

 

「更識家の使いの者です。我々の事は後で説明しますので、国防省に向かいましょう。」

 

状況を掴めなかった漆原首相だったが、彼の言う通りに国防省に向かった。

 

「ここにいるはずの官房長官などは?」

 

「どういうわけか地下の危機管理センターに閉じ込められたようです。」

 

「そうか、では屋上へ行こう。」

 

首相官邸の屋上出るとタイミングを合わせたかのようにヘリポートにMH-60のステルス型“ブラックホークステルスヘリコプター”が舞い降りた。

ヘリのローターが叩きつけるダウンウォッシュの中、首相を乗せるとすぐに国防省に数分で向かい国防省のヘリポートに降りた。

 

「首相!」

 

ヘリのキャビンドアが開かれると国防大臣達の前にハイヒールの踵がコツコツと音を響かせ漆原首相が現われた。

 

「国防大臣、ご苦労であった。すぐに国営放送のカメラで会見を行う。すぐに近隣の部隊・・・いや、新たに創設中の“国家親衛隊”を出動させろ!」

 

「わかりました、首相。統合参謀長、すぐに取り掛かれ!」

 

「了解!」

 

首相の命令により陸海軍が動いた。

真夜中に宇都宮駐屯地の門が開かれると包囲していた警察部隊を蹴散らして、国防陸軍の五式機動戦闘車を先頭に次々と“国家親衛隊”の隊員達を乗せた装甲車やトラックが出動する。

漆原首相が作り上げた国家親衛隊は名称にあるように徴用兵と公安警察の人員から特に国家への忠誠心の高いものが選抜され集められている。

このような女性至上主義者による反乱の鎮圧を目的とした部隊であり、力を見せ付ける良い機会であった。

首都特別区の鎮圧は国家親衛隊に任され、その他の地域は国防陸軍各部隊が展開し鎮圧に当たった。

横須賀軍港では航空戦艦“信濃"を初めとした艦隊が次々と出港して東京湾を北上する。

 

「国民の皆様、こんばんわ。第九十二代内閣総理大臣漆原美由紀です。私はこの通り生きており、官房長官をはじめとする警察・女性真理教の大規模反乱は私の指揮下にある国防軍並びに国家親衛隊が鎮圧に当たっております。彼女らは自らの野心の為に私を亡き者にしようとし、国防を担う国防軍にクーデターの濡れ衣を着せました。私はこの反乱に加担した者に必ずや罪を償わせます。国民の皆様、あと数時間耐えていただきたい。」

 

国防省の会見場で行われた首相の会見は国営放送以外にも篠ノ之束の電波ジャックにより他の放送局の電波で流され、全国のすべての国民が真相を知ることとなった。

数時間後、特別区に入った国家親衛隊の部隊は首相官邸の他政府機関を奪還してIS学園周辺に展開していた警察部隊を制圧した。

朝になると都内では国家親衛隊の装甲車両や隊員が駅や市庁舎などの前で警備を行い、東京湾では航空戦艦“信濃”が自らの巨大な船体と砲を見せ付ける事により威圧した。

官房長官以下の反乱に関わった大臣や官僚などは全員逮捕され、一連の『二月反乱』は女性真理教信者の一斉逮捕を最後に終息した。

これらの対処に硫黄島まで接近していた米海兵隊の揚陸艦隊は回頭しグアムに帰還し、各国は軍への待機命令を解除した。

反乱が終息して数日後、元通りに修繕された首相官邸の執務室に戻った漆原首相は今後についてを相談していた国防大臣に聞いた。

 

「ここで私を救出してくれた部隊は“更識家の使いの者”だと言っていた。何者か知っているか?」

 

国防大臣は大きく溜息をつきながら統合参謀長に説明された事を首相に語った。

 

「更識家は我が日本の対暗部用暗部、日本の最後の盾である秘密組織らしいです。戦前から続く名家であり彼らはこの国の安全保障の為に尽くす組織だと。ソ連崩壊後の北方領土返還条約の際にロシアの情報をずいぶん正確に伝えてくれて交渉は我々の有利な形で終わることが出来たとか・・・しかし十六歳の女子高校生が当主だと聞いた時は驚きましたよ。」

 

「十六歳の女子高校生!?」

 

「はい、IS学園最強のIS操縦者である更識楯無という高校生です。」

 

首相はこの反乱を解決に導いた秘密組織のトップが十六歳の女子高校生だと聞き、驚いた。

 

「そんなすごい高校生が世の中にいるとわね。驚きだわ、一度会ってみたい。」

 

「では首相。これから二月反乱で活躍した兵士への勲章の授与式がありますので。」

 

国防大臣と今後について話し終えると執務室で温かいコーヒーの入ったコーヒーカップに口を付ける。

すると執務机にある電話が鳴り、慌ててコーヒーカップを置くと電話にあるボタンを押す。

部屋の前にいる秘書からの声が入る。

 

「首相、お客様がおみえになっております。」

 

「今日は国防大臣と合う予定以外ないはずだが?」

 

首相は記憶している予定を照らし合わせて予定がないことを確認すると秘書に言った。

 

「それが・・・“更識楯無”と言えば会うだろうと。」

 

「会おう、入れてあげて。」

 

執務室の扉が秘書によって開けられると目の前にIS学園の制服を身に纏い、多くの人が見ても美女だと感じるような容姿と見るからに感じるカリスマ性を持ち合わせた高校生であった。

 

「あなたが私を救ってくれた更識家当主の更識楯無かな。」

 

「はい、私が更識家第十七代当主更識楯無です。挨拶に参りました。」

 

目の前の女子高校生を首相は真面目そうな女性だと見て好印象を持った。

 

「あの時助けられたことには本当に感謝するわ。」

 

「それが更識家の務めであります。今日は首相にお見せしたいものがあります。」

 

そう言うと彼女は鞄から封筒に入った書類を取り出し、首相の前に差し出した。

 

「これは?」

 

「首相が一番気になることかと思いまして、IS学園医療局で手術を受けた五十嵐裕也国防海軍大尉の口内の粘膜を採取して首相が過去に受けた治療で採取したサンプルを使い我々でDNA鑑定を行いました。」

 

首相は勝手にサンプルを採取された怒りよりも鑑定結果が気になり、書類をめくった。

 

「結果を申しますと・・・」

 

書類の最後をめくると結果の欄に「99.999%の確立で親子である」と書かれていた。

首相は自分の息子を見つける事の出来た事に対して嬉しさが込み上げ、嗚咽を手で押さえ目から涙がこぼれる。

 

「首相、息子さんと会っては如何でしょうか?彼らを解放する前にまずは自分の息子と再会して、今まで出来なかった親としての責務を果たしたら如何でしょうか?」

 

更識楯無が再会を提案してから約一ヵ月後、回復した五十嵐裕也大尉は入学式の席上で他の新入生達と共に入学式に出席をする。

この入学式は五十嵐裕也にとって新たな戦場を迎える事を意味していた。

 




第十九話目です。
これで第二章を終わらせ第三章に移ります。

一昨日、センター試験を受けました。
推薦で受かっていますが、高校生最後の試験だと思い受けました。
得意な世界史Bが7割だったのですが、余った試験時間でAの方も解いて見ましたら9割も取っていました。EUの通貨は?←常識的にユーロ一択で簡単すぎて笑った。
4月あたりに成績通知が送られてくるのですがAを選んでおけばよかったと後悔しています。
国語は古文漢文はほぼ壊滅でしたが、現代文で何とか五割を超えました。
特に漢文はなんで竹の子の話で苦いか甘いか選ぶんだよ!と思いながら解いていました。
しかし後々ネット上でのセンター試験問題のネタを見て笑うポイントを見つけましたけどね。

ただ世界史の問題文を読むと少し頭で想像して笑ってしまう部分もあった。
エジプトは第一次中東戦争でイスラエルにシナイ半島を占領された←エジプト弱い!&イスラエル強い!
イタリアではユンカーと呼ばれる地主貴族が政治と軍事を担った。←たぶんイタリアは纏まって弱く無いと思う・・・
アメリカ合衆国のカストロは善隣外交を推進した。←アメリカで革命か!
ドイツのアイゼンハウアーは協調外交を推進した。←ドイツにもう一人名将が増えたな
19~20世紀のヨーロッパ国際関係はドイツ対イタリアの対立を軸にしていた。←イタリアは凄い!
ルイ14世はナントの勅令を廃止したためにカトリック教徒が亡命した。←フランスの人口激減!
オーストリア帝位継承者夫妻はロシア人に暗殺された。←何やってんのアンタ!
フランスはアメリカ独立戦争でイギリスを支援した。←何時の間にか仲良くなってアメリカオワタ
ルネサンス期に重装歩兵の発達によって騎士は没落した。←重装歩兵最強説
フランスがスエズ運河の国有化の宣言をした。←フランス強気すぎる

ではまた今度。


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第三章 IS学園~第一学期~
第二十話 再会


入学式の朝、五十嵐は警備総隊駐屯地の宿舎でIS学園の制服に袖を通す。

学園の制服はある程度のアレンジを認められ、緊急時に軍服と認められるために上衣の左腕には旭日旗と右腕はIS学園警備隊を表す部隊章を縫い付けられた。

さらに『二月反乱』を受けて学園側は特殊警棒と拳銃の携行が許され、ヒップホルスターに国防軍正式拳銃の9mm拳銃を収めると学生鞄を持って宿舎を出る。

 

「制服姿も様になっているな大尉。」

 

宿舎を出ると黒塗りの公用車の前に警備総隊司令の小室准将が待っていた。

 

「ありがとうございます、司令。」

 

皮肉にも徴用兵の立場の男が“高貴”なIS学園生徒の制服を着ている。

これ以上に学園生徒を挑発する姿はないだろう。

二人は公用車に乗り込むと駐屯地を出て、IS学園の正門で警備隊員に見送られ門をくぐると近くにあるビルの玄関口に乗り付けた。

 

「司令、講堂に行くのでは?」

 

五十嵐は予定と違う行動に怪しむような目で司令を見た。

 

「君に会いたい方がいるので会って貰う。」

 

「了解しました。」

 

ビルに入ると奥に案内され、歩くと国家親衛隊の警護官二人が立つドアの前へ来た。

警護官の一人がドアをノックして我々が来た事を伝えると中から入るように言われる。

 

「失礼します。」

 

小室司令に続いて部屋に入ると、そこには自分の出身部隊の指揮官である東部徴用兵教育団司令若葉少将と共にもう一人の女性が立ち上がり迎えた。

その女性は日本国総理大臣であり国防軍最高指揮官である漆原美由紀だと分かると五十嵐は一気に緊張が体を覆い、目の前に来ると十度の会釈をする。

 

「国防海軍大尉五十嵐裕也であります...!?」

 

会釈を終えて体を戻すと首相の目から涙が流れているのに驚いて、何か非礼があったのだと思った。

すると突然首相は泣きながら五十嵐の体を抱いた。

 

「裕也...今まで見つけられず、すまない...私が君の母親だ。」

 

首相が自分の事を母親だと宣言したのに非常に驚き唖然とした。

二人は小室司令に座るように勧められソファに向かい合って座り、五十嵐は若葉少将からDNA鑑定の結果を詳細に教えられ、首相からは今後の政策を教えられた。

将来的に徴用兵制度を廃止して徴用兵全員を一般人と同じ権利を与えて社会で暮らせるようにすると。

最後に首相は彼に自分の息子として軍務を辞めて欲しいと言った。

 

「裕也、私のところに戻って来ないか。君が本来いる場所は戦場ではない、一般人と同じ社会だ。」

 

だが彼は首相の言葉を聞くと怒りが込み上げ、最後の誘いに怒りが爆発した。

 

「首相、私はあなたの息子になりたくはありません。十一年前に私を十五万円で売り捨て、戦場に行かせておいて母親面されたくはありません。」

 

「あの時は法律で強制的に」

 

「ですが貴方はその法律に屈して売り捨てた、違いますか?普通の親なら最後まで話が子を守るのではないですか。あなたのような最低な親のもとに私は絶対に戻りたくはありません。」

 

淡々と語るが五十嵐の表情は無表情であるが目は猛禽類のような鋭い目つきで首相を睨みつけた。

あの幼い頃に見た息子の愛らしい目ではなく、野生の動物のような目に変わったのを見て罪悪感を感じた。

若林少将はこの目が戦闘時の徴用兵達の目つきだとすぐに分かり、彼は本気で怒っているのがわかった。

 

「それに私の居場所は戦場以外にありません。あの戦場で死んだ仲間達を裏切って兵士を辞めることは私の中で最大の恥だと考えます。」

 

五十嵐は立ち上がり部屋を出ようとする。

すぐに小室司令が止めた。

 

「待て、大尉。まだ話は終わっていない。」

 

「もう話すことはありません。部屋を出るなと命じるても私は部屋を出るので命令違反として国防軍法で銃殺刑にして下さい。私が一番欲しているのは死に場所です。」

 

そう言って五十嵐は部屋を出て入学式の行われる講堂に歩いて向かった。

 

「彼はあの頃とは大きく変わってしまったのか...」

 

窓から息子の背中を見つめる漆原首相に若葉少将は言った。

 

「残念ながら十一年前に我々が考えた教育は“人間から戦闘ロボット”に変えることを目指しました。結果として彼らの多くは怒りと憎しみ以外の感情を失くすことができたと考えます。もう彼は人間には戻る事は出来ないでしょう。」

 

するとドアがノックされて、入学式が始まるとIS学園の職員が伝えた。

 

「では、私は行きます。」

 

首相は警護官と共に入学式の壇上で祝辞を述べる為に講堂へ向かった。

若葉少将は副官と共に公用車に乗り込むと、東部徴用兵教育団が置かれる長野県に戻ろうとしていた。

すると高速道路を走行中に所持している携帯電話が鳴る。

 

「若葉だ。」

 

《司令!緊急をようすると思われる事態が...》

 

「思われる?はっきり言え!」

 

部下からの曖昧な電話に少将は一喝すると、部下はすぐに答えた。

 

「はっ!北部徴用兵教育団からの報告で徴用兵から“PTSD”と思われる症状が現われたと報告が。」

 

 




第二十話目です。

そういえば学園の警備についていろいろと考えたました。
仮に学園警備隊の警備を抜けて敷地内に侵入した際はどうするか。
日本人の女性で構成された別の警備員がいるとか、永世中立国であるスイス軍の女性兵士が国際IS委員会の要請で配置されている又は国連の常任理事国+日本の多国籍部隊が警備にあたるのかな~と考えたりしました。
しかし日本の女尊男卑の女性警備員と五十嵐は暴力沙汰になるのは目に見えるし、スイス軍は派遣してくれるか、多国籍部隊は部隊でめんどくさいですね。
普通の学校のように教師が不審者対処にあたってもらった方が自然ですね(まあIS学園の教師なら常人レベルではなさそうですしね)。

次話からはどのように五十嵐を追い込んでいくかを考えないとな。
あと学園警備総隊の部隊章とか考えておこうかな?

ではまた今度。


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第二十一話 SHR

「全員揃っていますねー。それじゃあSHRはじめます!」

 

黒板の前には一年一組副担任山田真耶が立ち、自己紹介をする。

身長は五十嵐より低く、教官としての威厳の無く頼りなさそうというのが彼の第一印象だ。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いします。」

 

だがこの教室に包まれた雰囲気は返答する余裕を与えない。

なにせこの教室には本来居てはいけない存在が二人居る。

一人は隣に座る織斑一夏、一ヶ月前にIS操縦が出来ることが発覚して女子校であるIS学園に入学することとなった少年。

もう一人は織斑一夏と同じようにIS操縦が可能であると発覚、織斑の護衛任務を一任されて入学した五十嵐裕也という名の兵士。

二人は同じ男性ではあるが後ろから浴びせられる視線は違うものだった。

織斑には興味や関心で集まる好意的な視線が集まっているが、一部の生徒から侮蔑、憎悪、嫌悪、恐怖そして敵意の感情がこもった視線が五十嵐の背中に感じる。

 

「次、五十嵐くん。」

 

副“教官”が順番に自己紹介を進め、五十嵐の番になる。

ゆっくりと余裕を見せながら立ち上がり、背筋を伸ばす。

 

「日本国防海軍大尉、五十嵐裕也。」

 

所属と名前だけを言うと座る。

すると後ろから聞こえるような声で後方の席にいる女子が言った。

 

「...徴用兵が人前で喋るなよ....」

 

「...なんであんな奴が私達の前にいるの...目障りだわ。」

 

隣の織斑も聞こえたらしく五十嵐を心配して顔を見るが、彼の顔は聞こえなかったように無表情だった。

綺麗に磨かれた窓に映る彼女達の顔を見て、入学前に渡されたある生徒達のリストと照らし合わせる。

この教室には“候補生学校”出身の生徒が数人いるのを確認する。

統合管理局が運用している“候補生学校”は小学校入学前の女子に対する一斉適性検査の中で選抜され、自らの意思で入校した生徒を幼い頃から代表候補生として育成する学校であり、ISについての基礎知識を学び、日本国の代表として国際大会に出ることを考え女性としての品格を磨き常識のある女性を育てるのが目的だ。

ただしIS政策に影響力を持つ元国家代表候補生で構成される代表会の方針で男性を見下すような態度や行動をすることで有名であり、五十嵐のような徴用兵を人間としてみないように教育されている。

この学園には国籍を問わずに入学する為に織斑一夏の誘拐・殺害を企てて入学してくる他国の工作員から織斑の身を守るのが表向きの理由であるが実際は自国の候補生が国際的に注目を集めている織斑を危害を加えないように五十嵐は送り込まれた。

 

「えー・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします。」

 

頭を下げるが彼にはもっと喋って欲しいという要求が彼女達から感じられる。

護衛対象は少なくとも好意的に見られ危険は無いだろう、代わりに護衛である俺がすべてを引き受けることになるだろうと彼は思った。

日本の為に一般人の嫌がるような事を率先して行動するのが彼ら徴用兵の存在意義だ。

 

「以上です。」

 

一夏は紹介を終わらせると数人の女子が席から滑り落ちる。

続けざまに織斑千冬が自分の弟を出席簿で叩く。

それからのコントのようなシーンが見せられる中で後ろに座る縦ロールを巻いた金髪の白人女性は疑問に思った。

 

「(なぜあの方は他の生徒から蔑まれた目で見ているのでしょうか?)」

 

セシリア・オルコットは五十嵐に対する異常なまでの風当たりに疑問に思った。

女尊男卑の世界ではあるが、外国人であるオルコットにとっては彼女達の五十嵐に対する言葉や雰囲気がいくらなんでも尋常ではないことを感じ取っていた。

一時間目と二時間目の数分間、オルコットは前にいる生徒に彼について聞いてみた。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「はい?」

 

「あの方にはなぜ皆様から嫌われて」

 

するとその生徒はオルコットの言葉を遮り、様々な蔑む言葉で五十嵐を罵った。

 

「ああ、数々の戦争犯罪をした人殺しの一人だからよ。徴用兵達は他国まで行って民間人を笑いながら殺しまくって、略奪や強姦なんてやらかす人間以下の輩だよ。どうせ金の無い貧者共が考えずに産んで捨てられるような存在なのだから当然よね。」

 

彼女の言葉には熱があり、あたかも本当にあったかのように喋るのでオルコットは信じた。

実際は徴用兵達は命令である者は泣きながら民間人を殺し略奪を行ったが、強姦は誰一人もやらなかった。

しかし後方支援に派遣された正規兵が暇になって犯罪を前政権が徴用兵に擦り付けたのだ。

 

「なぜそんなのが学園にいるのかしら?」

 

「それは何も知らない国際IS委員会の人達が騙されて入れてしまったのよ。まさかISに乗れる人間に居るとは思わないしね。本当に同じ空間にいるだけで虫唾が走るよ。この学園を守る為には私達が」

 

「熱弁を振るうのはそこまでにしておけエリート気取りの小娘。」

 

授業開始の鐘が鳴り織斑先生が後ろの扉から入り、彼女達の会話を止める。

先生がオルコットを含む彼女達を睨みつけると彼女達は自分の席に座った。

 

「徴用兵...」

 

オルコットは前に見える五十嵐の背中を見つめた。

そして二時目の授業が始まる。




第二十一話目です。

今回はセシリアについての描写を入れました。
日本のことを馬鹿にするような外国人が日本の内政まで知るわけがないのでこのようなシーンを入れました。
これから先の話は一話毎の戦闘シーン以外の文字数は少なくなると思います。
ただ最近五十嵐をどのように追い込むか、ネットでさまざまないじめ事件を調べています。
ただただ嫌な気分になります、まあそれが人間社会というものなのでしょう。
少しでも自分達とは違う人間を排除しようとしますからね。
あと悩み事といえば、生徒たちの台詞に蔑む言葉を入れてますが自分は語彙が少なく困っています(第一使わないし・・・)。

ではまた今度。


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第二十二話 宣戦布告

二限目の授業が終わり休み時間を迎える。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

机の前に現われた女子は金髪でブルーの瞳から白人だと主張した。

五十嵐は身に纏っている雰囲気で彼女がある程度地位の高い人間だと分かった。

彼女の態度と外国人であるが為に警戒を高め見えないように腰にあるホルスターの9mm拳銃の安全装置を外す。

 

「訊いてますの?お返事は?」

 

「へ?」

 

彼女は織斑に話し掛けているらしい、五十嵐の様な低い身分の人間には眼中に無かった。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし。」

 

彼はSHRの自己紹介を思い出して、セシリア・オルコットという名前を思い出す。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

知るわけが無いだろう、国家代表なら有名であろうが候補生など自国以外では知られないだろう。

まだ成果も上げない人間が有名になるなどありえない。

すると織斑はオルコットに質問する。

 

「代表候補生って、何?」

 

その言葉にオルコットはすごい剣幕で怒りをあらわにしていた。

五十嵐は思わず織斑に説明してしまい、火に油を注ぐ。

 

「国家代表候補生は国家代表IS操縦者になるための候補生制度だ。それぐらい名前でわかるだろう。」

 

「そう言えばそうだな、ありがとう裕也。」

 

オルコットは五十嵐が割り込んできたのに激昂した。

 

「わたくしの前であなたは口を開かないで貰いますか!汚らわしい、homicide(殺人者)が!」

 

五十嵐は何も言わず、姿勢を正すと満足したのかオルコットは織斑へ自慢話を始めた。

頭の中で彼はオルコットをブラックリストに入れ、警戒することにした。

だが織斑の答えにオルコットは自爆するが、鐘が鳴り三時間目が始まる。

織斑先生は教壇に立つと授業の説明をすると何かを思い出したかのように生徒の方を向く。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。」

 

クラス代表者を教育団での経験から学生分隊長にあたるものだと五十嵐は思った。

生徒会の開く会議や委員会そして対抗戦に出る重要な立場だと付け加えて説明する。

教室がざわめく中で一人の女子が立ち上がる。

 

「はいっ!織斑くんを推薦します!」

 

彼女を皮切りに次々と織斑を推す声が高まり、織斑で決まる流れになっていた。

 

「では織斑一夏....他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ。」

 

一夏が反論するが織斑先生に抑えられる。

すると一人が机を思いっきり叩き、この流れを断ち切った。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

席を立ったのは五十嵐のブラックリストに入ったセシリア・オルコットであった。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!」

 

彼女は自らのプライドを傷つけられたのかのような激怒する。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいという理由で極東の猿にされては困ります。わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

次々とオルコットの言葉から日本を馬鹿にする言葉が並び、織斑は怒りが込み上げてくるのを感じた。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップのがなるべき、そしてそれはわたくしですは!」

 

五十嵐は織斑の手が小刻みに震えて起こっているのを感じ取った。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で・・・」

 

「イギ」

 

「日本を馬鹿にするな...後進国の負け犬が。」

 

織斑を遮って五十嵐が立ち上がってオルコットに面を向かって対峙した。

護衛対象が不利にならないように彼は自ら彼女達の不満を被ることにした。

 

「今なんとおっしゃいました、こ、後進国と....」

 

五十嵐少佐は立ち上がり、オルコットに言い放った。

 

「ああ、世界を散々荒らしまわった海賊国家だったのに今では経済も軍隊も後進国レベル。我が国より劣っている、おまけに軍縮した隙に荒らしまわされた国々に恨まれてテロを起こされていい気味だ。」

 

五十嵐の言葉にオルコットは顔を真っ赤にする。

すると日本の国家代表候補生達が青筋を立てて怒って、五十嵐を罵る。

 

「徴用兵が口答えするんじゃねえ!」

 

「何様のつもりだ屑野郎!お前みたいな人殺しに何が言えるか!」

 

「さっさと死ね!消えろ、気持ち悪い!」

 

他の生徒たちは巻き込まれないようにこの状況を無視する。

ここで異を唱えれば国家代表候補生の学閥から目を付けられ、追い出されるか死ぬまでいじめぬかれるからだ。

一人の生徒から金属製の筆箱が投げられ頭にぶつけられる。

頭の皮膚を浅く切り付けて血が滲み出る。

 

「おい!もうやめに」

 

織斑が彼女達を止めようと立ち上がろうとすると五十嵐は片手で彼の肩を押さえて席に座らせた。

 

「静かにしていろ。」

 

五十嵐の力は腕の太さからは想像がつかない力で押さえつけられ立ち上がることは出来なかった。

すると織斑の前で彼はオルコットに頬を思いっきり殴られる。

さすが代表候補生は基本的な戦闘訓練を受けているのか力任せに殴られた反動で床に肘をついた。

 

「このhomicide(殺人者)!ここでzap(撃ち殺)してあげますわ!」

 

そう言うとオルコットは瞬時に専用機の狙撃銃らしき武器を部分展開し、砲口をこちらに向ける。

五十嵐は拳銃を抜こうとしたが、オルコットの目を見て悟り取り出すのをやめた。

立ち上がるとオルコットに近づき銃身を持ち上げ、砲口を自らの頭に合わせた。

国家代表候補生達もこの状況に口を閉じるしかなかった。

 

「撃て、撃てるものなら撃て。俺を殺したとしても問題は無いぞ。」

 

オルコットは引き金に指を置くが手が震え、顔には冷や汗を流していた。

こいつは撃つ勇気は無い、五十嵐はそう判断した。

 

「撃てないのか?撃てない奴の銃なんか怖くは無い、もはや滑稽に見えるだけだ。」

 

挑発するが一行にオルコットは引き金を引かなかった。

するとオルコットの肩に織斑先生が手を置き、諭した。

 

「オルコット、展開を解除しろ。ここは教室だ、ISは展開することは許されないぞ。」

 

オルコットは息を切らしながら狙撃銃を仕舞った。

 

「五十嵐、保健室へ行きなさい。」

 

五十嵐はお辞儀すると教室を出ようとした。

するとオルコットは俺を指差して言った。

 

「あなたを推薦します!決闘ですわ!」

 

五十嵐は頷くと教室を出てゆっくりと保健室に行った。




第二十二話目です。

ここから数話は一日目の話が続きます。
やっと課題文が終わり書く時間が取れるようになってサクサク書けます。
ただこのような時に怖いのが誤字脱字ですね。
もし見つけた際はすぐに報告をお願いします。

ではまた今度。


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第二十三話 掟

四時間目が終わり生徒達が食堂で友人達と食べている時に五十嵐は宿舎に向けて歩いていた。

授業終了後に彼が食堂に行くと先に来ていた国家代表候補生の先輩方に入口で止められた。

 

『ここは人間が食事するところだ、薄汚い害虫め!出て行け!』

 

そこで数人から殴り蹴りを喰らわされ、揉め事を収めるために退散すると彼女達は正義の勝利と祝った。

おかげで制服は汚れ、踏みつけられた旭日旗は半分が破られていた。

 

「五十嵐裕也。」

 

ふと名前を呼ばれて振り返るとそこには同じ教室である篠ノ之箒の姿があった。

彼女はこの世界を作り上げたともいえるISの開発者篠ノ之束の妹であり、監視も含めた意味での日本国の重要保護対象として認定されている。

特徴的な馬の尻尾のような髪で凛々しい顔は頼もしく見えるが、彼の姿を見た彼女は思わず二度見する。

 

「どうした篠ノ之。」

 

「い、五十嵐。少し話をしたい。」

 

「わかった。人目の付かない所でしよう。」

 

二人は場所を変えて学園内にある人気の無い庭園に来た。

 

「なぜそのような格好をしている?顔の傷は?」

 

篠ノ之は五十嵐に質問する。

 

「食堂で先輩方から数発殴り蹴りを食らっただけだ。すぐに宿舎で着替えるから大丈夫だ。」

 

「すまない!五十嵐、私の姉の身勝手な行いのせいでお前が苦しむことになった。」

 

突然彼女は頭下げて、五十嵐に対して謝り始めた。

 

「あのISのせいで戦場に送られ、戦わされたのだろう。しかもこの学園に入れられ暴力を振るわれる。私が謝って済むことではないのは重々承知だ。だがこの私に姉の代わりに謝らせてくれ!」

 

彼女は必死になって五十嵐に悔いるが、五十嵐は化石のように乾いた顔で表情を一切変えなかった。

これに篠ノ之は恐怖を感じて口を震わせて、口が利けなくなる。

彼は私に恨みを持っているのだろうか、だが姉が起こしたことを思えば当然だと思い覚悟を決めて目を閉じ歯を食いしばる。

 

「だからなんだ?」

 

彼から発せられた言葉に篠ノ之は驚いて目を開き、彼の顔を見る。

 

「ど、どういうことだ?お前は私に恨みを持たないのか、私はあの篠ノ之束の妹なのだぞ。」

 

「お前を殴ったところでどうなる。どうこうしたいという感情はもうあの戦場に捨てたんだ、もうどうでもいいんだ。自分は定められた運命を辿ることしかできないんだ。第一俺には罪がある。」

 

「...なんだ?」

 

「この世に生まれたことだ。」

 

五十嵐の答えに篠ノ之は驚いてその場に固まる。

彼は振り返っていなくなろうとした時言葉を発した。

 

「そうだった、篠ノ之。」

 

「なんだ?」

 

突然五十嵐は振り返ると篠ノ之の顔目掛けて拳を突き出す。

反射的にかわすが次に右ストレートをかわせずに腕で防御して、こちらも押さえ込もうと反撃に移る。

両者共に時間一杯までに激しい攻防を繰り返して、篠ノ之は息を切らして何食わぬ顔をする五十嵐を睨んだ。

 

「五十嵐...どういうつもりだ?」

 

「少し試しただけだ、あとで話があるだろう。」

 

五十嵐はただそれだけを言うとその場を立ち去ってしまった。

その夜、五十嵐は学園から与えられた寮の自室で破れた制服の修復を行っているとドアが激しく叩く音が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

廊下には不機嫌そうな顔をした篠ノ之と困惑した表情の織斑の二人が立っていた。

 

「なんで一夏と同じ部屋にしたんだ!」

 

「千冬姉に聞いたら“五十嵐が提案したんだ”と言われたんだ!」

 

五十嵐は放課後、職員室で織斑先生に提案した時の会話を思い出した。

 

「織斑と篠ノ之を同室にするだと!?」

 

「はい。」

 

突拍子も無い提案に精悍な顔つきの先生は普段見せないようなキョトンとした顔を見せた。

なぜ先生が驚いているのか分からないが、五十嵐は理由を続ける。

 

「現在の政情から織斑には学園内での生活を続けてもらいます。そして同室の者として俺は篠ノ之箒を推します。彼女ならある程度護衛を任せられる人物です。幼い頃から友人であり信頼に値します、剣術も申分の無い成績を持っております。私が少し試しましたが近接戦も十分対応できるものだと考えます。」

 

「それはわかる...しかし五十嵐。未成年の女子と男子を一緒の部屋に住まわせると言うことに問題があるだろう。」

 

「何か問題がありますか?」

 

徴用兵というのは戦いのプロではあるが社会で生きていくうえでの知識が無いことに先生は実感した。

 

「まあ、そのことは置いといて...お前では駄目なのか?弟なら誰とでも仲良くなるからお前ともいい友人になるだろう。」

 

人差し指を彼に指して示すと、首を振った。

 

「俺と同室になると彼女達の攻撃に巻き込まれるかもしれません。」

 

「それなら私と隣の部屋を使えばいい。そんな輩が襲ってきたら直接私が指導する。」

 

拳を握り、骨をポキポキと音を立てさせる先生に五十嵐はまたもや首を振った。

 

「いえ、教官に手を焼かせるわけにはいきません。この学園では教官は英雄的存在、それゆえ俺に肩入れした時の反発は必死です。この学園で織斑が頼れるのは貴方と篠ノ之以外にいません。それに俺は織斑と親友になろうとは思いません。」

 

「ここは軍ではない、先生だ。...それでなぜだ?」

 

「すみません先生...あいつには友人を失う気持ちを体験させないことも護衛任務のひとつだと心得ています。私は幼い頃に共に過ごした教育団の戦友をすべて失いました。自分にあるのはこの祖国の為に死ぬ事、ただそれだけです。ですからあいつとは友人になりません。」

 

腕を組んで少し考えると先生は決断した。

 

「...そうか。それなら許可しよう。」

 

五十嵐は同室にした理由をかいつまんで二人に話した。

 

「しかし五十嵐、男女が同じ部屋で同居...いや、なんていうかその...」

 

篠ノ之が言葉に困って色々と言っていると五十嵐は畳み掛けた。

 

「篠ノ之、お前は織斑のことが嫌いなのか?」

 

五十嵐はただ直感的に思った事を言っただけなのだが、彼女は焦りながら慌てて手を振る。

 

「いや!そ、そんなことはないぞ。任せろ、五十嵐、役目は心得た。」

 

頷くと織斑にも聞く。

 

「織斑、篠ノ之と同室になるが不満はあるか?」

 

「そりゃあ不満が」

 

織斑は異を唱えようとしたが隣にいる篠ノ之に肘で突かれ、恐ろしい剣幕で織斑を脅した。

 

「いや、なんでもない。大丈夫だ、問題ない。」

 

「よし、最後にここでの生活で守って欲しいことがある。」

 

五十嵐は七つの掟を提示した。

1.学園内では俺に挨拶をするな

2.学園内では俺と会話するな

3.もし俺が他の学生に襲われても助けず無視しろ

4.強要された際は手加減無く俺を攻撃しろ

5.もし話したいときは携帯電話のメールで伝えろ

6.緊急時は織斑先生に指示を仰げ

7.もし俺が死んだ際は喜べ

 

「これを守れと言うのか、五十嵐?」

 

織斑は納得のいかないような顔で顔を見るが五十嵐は目を真っ直ぐ見て頷いた。

 

「これはお前たちを守る為だ。どうせ大した事は出来ないだろう、今日のことぐらいは兵士には朝飯前だ。」

 

二人はゆっくりと頷く。

 

「では帰ってくれ、就寝時間だ。」

 

二人をドアまで見送り、篠ノ之が部屋を出ようとした時五十嵐は彼女に小声で言った。

 

「もしもの時は俺に代わってあいつを守れ。」

 

彼女は頷いて部屋を出るとドアを閉めて溜息を付いた。

五十嵐は緊急時の為に寝巻きは国防陸軍の迷彩服で、着替えると電気を消してベットに寝た。

そしてその日の夜に事件は起きた。

 




第二十三話目です。

やっと大学の課題文が終わりましたが、もう一冊分書く余裕があるので頑張っています。
皆様はどうしているのでしょうか?
最近ノロウイルスについて話題になっていますが、この私は中高六年間一度も無遅刻無欠席で過ごしてきました。
ただ小学五年生の頃にインフルエンザとノロウイルスを連続して発症したことがありますね。
インフルが直ったと思ったら二、三週間後にノロウイルスに感染するとは...
比べるとノロのほうが本当に辛いですね、ずっと下痢が出続けて水分がすぐになくなって喉が渇く。ミ皆さん、ウイルスに気をつけましょうね。

では、また今度。


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第二十四話 闇討ち

入学初日の深夜、学園全体が闇に包まれ学生達が疲れで寝静まった夜。

五十嵐が寝る寮の部屋の扉がゆっくりと開けられ、様々な工具を構えた三人の人間が忍び込んだ。

ハンドサインで目標である五十嵐裕也大尉が奥のベットにいる事を伝えるとゆっくりと周りを囲もうとした。

だが人間が近づいてくるのを感じた五十嵐は起きると枕で近づく人間に投げつて立ち上がる。

スパナを振りかざしてくるのを易々と避けると顔面に右ストレートで一発殴って倒す。

もう一人がトンカチで殴ってくるのを腕を掴んで床に投げると鳩尾にかかと落としを決める。

暗闇から女性の呻き声が聞こえ、日本代表候補生の生徒だと推測した時だった。

投げた時に潜んでいたもう一人の女子が後ろからハンマーで襲い掛かってきた。

思いっきり振ったハンマーは五十嵐の頭に当たり、衝撃で床に倒れると女子が飛び掛って馬乗りになると顔を集中的に殴った。

朦朧とした意識の中でハンマーを頭を動かして避けるが一発さらに殴られて傷口から流れた鮮血が飛び跳ね、壁や彼女の手や服には飛び散った血が付着する。

五十嵐は馬乗りになった女子の襟元を掴むと引き離して床に飛ばして立ち上がった。

その時、暗闇から金属音が聞こえ夜目が効いた目で凝らしてみると、引き離した女子の手に9mm拳銃がありこちらへ向けていた。

ホルスターに手をやると自分が持っている9mm拳銃がなくなっていることに気づいて、すぐに取り返そうと腕を伸ばす。

 

「死ね。」

 

女子が一言冷酷に言い放つと容赦無く引き金を何度も引き、銃声が数発轟き部屋一瞬明るくなる。

五十嵐は撃たれた腹を手で押さえると後ずさりして壁にもたれかけた。

女子三人組は銃をその場に落すとすぐに走って部屋から逃げると廊下の照明が灯って、隣室の織斑と篠ノ之が駆けつけた。

 

「五十嵐!」

 

鍵を壊された部屋に入って照明をつけると言葉を失った。

壁や床に黒い血が海のように広がり、五十嵐の頭や撃たれた腕や腹から血が流れその他にも殴られたあざがくっきりと残っていた。

 

「一夏!すぐに医者を呼べ!」

 

「わかった!」

 

織斑が外に出ると廊下では織斑先生と他の教員が三人の女子を確保していた。

暴れる女子生徒の顔を見るが一年生の生徒では見た顔ではなく、上の学年だと思いながらも階ごとにある備え付けの内線電話で医療局に連絡した。

 

「なにをやっているんだ!」

 

織斑先生は確保した女子生徒に怒号のように問いかける。

床に押さえつけられた女子生徒は織斑先生に口調が怒気が混じりながら言い放った。

 

「先生こそおかしいです!あんな奴を野放しにするとは職務放棄だ!貴方がたが処分するのが本来の役目ではないんですか!」

 

この日本代表候補生三人とここで尋問しても意味が無いと感じた先生達はすぐに生徒指導室に突っ込んだ。

そんな中、応急手当に心得ていた篠ノ之が備え付けの救急箱を広げ手当てを始めたが芳しくなかった。

腕の銃創や頭の裂傷にガーゼを当てて包帯を巻きつけて処置するが、腹の銃創は押さえても黒い血が絶えず流れ出る。

 

「くそ!血が止まらない!」

 

すると手に付いた血を見て五十嵐が微かに口元がほころび言った。

 

「...ふ、内臓がやられたみたいだな...」

 

「何も喋るな!」

 

篠ノ之が怒鳴りつけるが五十嵐はそのまま続けた。

 

「篠ノ之...俺の心配より織斑の心配をしろ。俺が襲われた以上...次は織斑にいくかもしれない。」

 

「ああ、分かっている!だが今はお前の命が危ないだろうが!」

 

救急箱にあるガーゼなどが血を吸って無くなる。

そこに織斑が戻ってくると惨状を見て、ベットのシーツを引き裂いて篠ノ之に渡す。

 

「医者は?」

 

「すぐに来る。容態は?」

 

篠ノ之は黙って首を振ると、五十嵐がうわ言のように話し続ける。

 

「...俺は徴用兵だ。任務の為に死ぬのは普通だ...俺に時間を掛けても無駄だ。」

 

「お前は生きようと思わないのか!」

 

五十嵐が諦めるような口調で喋るのに、篠ノ之は怒りを感じて怒鳴った。

 

「もう俺には友人と呼べる者は...あの世に逝った者が殆どだ。あいつらと同じ場所に行くのも悪くない...五反田には悪いが...」

 

すると織斑が五十嵐の手を取って言った。

 

「お前は俺の友達だ!だから死なないでくれ、お前にはISのことなどまだ教えてもらっていないからな!」

 

「...それはやめたほうがいいぞ。」

 

「なんでだよ!」

 

「俺は...俺を撃った奴の通り...殺人者だからだ。」

 

そう言って織斑の手から五十嵐の手がするりと落ちていき、眠るように目を閉じた。

すぐに来た医療班が医療局に運び、緊急手術を行って一命を取り留めたがその後が大変だった。

翌日に召集された職員会議で全会一致で三人を退学処分に処する決定を下し、門を出されたところで殺人未遂罪や凶器準備結集罪などで警察に逮捕された。

また処分が決まった際にIS統合管理局の一部職員による反乱騒ぎが起きようとしたが、国防軍IS教導隊により制圧された。

これに対して社会国民党の右派を始めとする女性至上主義を訴える人々が一斉に不当逮捕だと訴えた。

これは女性第一の国是を認めない国防軍や男性共に取り込まれた漆原首相などが女性至上主義者を排除するために起こした陰謀だと訴え首相に退陣要求を求めるデモや集会が都心でいくつも開かれ国会と首相官邸を連日包囲した。

だがそれらのデモや集会は女性至上主義の恩恵を受けている富裕層や女性至上主義者達が中心で大部分の国民は漆原首相についていた。

これを知っていた漆原首相は国会の場で女性至上主義を批判する演説を行い、右派の離党を促した。

結果社会国民党の議員半分が離党したところで首相は衆議院解散を行い総戦況を戦う決意をした。

 

「しかし徴用兵制度一時停止を閣議決定した後でよかったわ。」

 

首相は執務室でほっと一息を付いた。

徴用兵制度は初年度の二〇〇一年に第一期徴用で三十五万人以上を徴用して以来は年十万人を選抜徴兵制のように満五歳の国民から選ばれた子供が徴徴用兵としおて徴用される。

そのために徴用されなかった織斑と徴用された五反田のようになるものとならないものが現われた。

しかし二〇一二年度の徴用は漆原首相の尽力で停止まで踏み込んだ。

 

「この衆議院選挙で右派を追い出して、今度こそ徴用兵法を停止させるわ。」

 

《我々も上手くいくように願ってますわ首相。ただそれを伝える為に私に電話したわけではないですよね?》

 

電話の相手はIS学園生徒会長の更識楯無であった。

 

「そうよ、私の息子。五十嵐裕也についてだが、ふたつ頼みがある。ひとつは代表候補生で過激行動に出る生徒から彼らを守って欲しい。もうひとつは五十嵐裕也の心理状態を確認して欲しい。」

 

《ひとつ目はわかりましたが、ふたつ目はなぜ?》

 

更識会長が疑問を述べると執務机にあるひとつの報告書を一目見た。

『徴用兵のPTSD患者について』という題された報告書であった。

 

「徴用兵の中にPTSD患者が現われたわ。もしかしたら彼も学校内での虐めで病んでいるかも知れない。あと出来れば彼を人間らしくして欲しい。」

 

《人間らしくですか...得意な分野ではありませんが、学園の生徒会長として生徒の管理は私の職務の一部ですので引き受けます。》

 

「ありがとう。」

 

電話を切ると電話を掛け直してまた別の場所に連絡した。

 

「国防大臣?私だけど二人の専用ISについてだけど。」

 

《はい。織斑くんに関してはIS統合管理局を制圧した際にあったコアを使用した“白式”、五十嵐大尉には試験飛行隊で試験飛行中の第三世代IS“紫電”を与えることにしました。》

 

「私の我がままに付き合わせてしまってすまないわ。」

 

《いいえ、首相の理想のために我々は協力します。では。》

 

受話器を置くと椅子に深く座り、連日の公務の疲れで眠ってしまった。




第二十四話です。

今回は女性至上主義に染まった代表候補生の襲撃でした。
少し見直して思ったのですが、9mm拳銃を奪われたところは五十嵐の特徴ですかね。
設定的には射撃などは上ですが格闘などの近接戦闘が苦手であり、陸軍に選ばれなかったというのがあります。

ただもうひとつ言うことがあれば、流石に学園生徒が全員女性至上主義に染まっているのはどうかと思いますね。
なんせ女性至上主義が一番強い国である日本は分かりますが、外国人生徒も居ますからね。
特にイスラム教圏の国々から来た生徒はどうなるんでしょうね?
少しは良心ある生徒もいないとね、この状況じゃ五十嵐も本当に死んでしまう。

では、また今度。


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第二十五話 心

名称:紫電
型式:紫電(領収年号)(世代)(機種区分)001(製造番号)
世代:第三世代
国家:日本
分類:多用途戦闘型
装備:・十式小銃(銃剣付き)
   ・十式五五口径一二〇mm狙撃銃又は150mm速射砲
   ・十式多連装小型誘導弾発射機(浮遊式発射器×4)又は十式中距離空対空誘導弾発射器
   ・十式チャフ&フレア発射機
   ・十式発煙弾発射装置
   ・十式射撃管制装置
装甲: 複合装甲
仕様: 大容量バススロット、野戦整備可能、様々な電子機器(試験中)
概要
日本国防軍が開発した第三世代の最新鋭IS。さまざまな戦闘に対応することが可能な軍用ISであり、スラスターや各部位はステルス形状が施され、優れた電子機器で戦闘を優位に進めることが出来る。また整備を簡易化させ長期間の敵地潜入中が可能になった。

※現段階で考えている紫電の詳細。型式には航空自衛隊の機体番号を参考にしました。
ストーリー上新たな装備が増えると思います(特に電子機器)


「入るぞ。」

 

織斑と篠ノ之は五十嵐にメールで呼び出されて、医療局にある病室に来ていた。

ドアを叩くとスライドドアを開くと、白い病室の中で一人、重傷を負った五十嵐が病床に伏していた。

 

「大丈夫なのか?起きていて。」

 

「ああ活性化再生治療という治療である程度早く治るらしい。決闘までには出れるようにする。」

 

白騎士事件以後の科学技術の発展は目覚しく、医療技術も飛躍的に伸びて医療先進国となった。

海外から安く・早く・安全に手術を行える日本で手術を行い、移植手術でもドナーを待つ人々が臓器が“余っている”日本での手術を希望している。

ここ最近では再生医療の技術も確立されたが、余裕のある日本人ではなく外国人の為に使われるのだろう。

 

「銃弾を二発受けて戦えるのか?」

 

「大丈夫だ。ただの拳銃の弾で死なない、なぜか知らないが治りだけは早いからな。」

 

「それで俺達を呼んだのは?」

 

五十嵐は起き上がると茶封筒を取り出した。

中から取り出して机に置いた書類の一枚には決闘を申し込んだセシリア・オルコットの顔写真があった。

 

「これは?」

 

「国防省から取り寄せたイギリス代表候補生セシリア・オルコットの情報だ。」

 

書類の一枚を引き抜いて織斑に渡す。

 

「なんか相手の情報を見るのは卑怯な感じがするんだが...」

 

「何を言っているんだ?戦いに卑怯も糞も無い、勝つ為には“敵”の情報を仕入れるのは普通だ。」

 

書類を見るとカラーで印刷された一機のISと各性能表示が書かれていた。

 

「ブルー・ティアーズ...」

 

名前の通りに青い塗装が全体的に塗られ、両腕で抱える巨大な銃器に織斑は圧倒されるような感覚を覚えた。

その書類を篠ノ之は横目見て狙撃仕様の機体だと直感的に分かった。

 

「見た限りでは狙撃銃を主装備とする高速で機動力のある機体だな。」

 

織斑は幼馴染が案外詳しいのに目をパチクリさせる。

五十嵐は頷くと細かい説明を淡々と説明した。

 

「中距離射撃型の第三世代IS。BT兵器の実働データをサンプリングすることを目的とした試験機であり、イギリス空軍次期主力機として開発中。主武装は六七口径特殊レーザーライフル“スターライトmkⅢ”、また操縦者が意識を集中させることにより操作する独立機動兵器“ブルー・ティアーズ”だ。やっかいなのは射撃型特殊レーザービット四基と弾道型ミサイル二基あり、一対一の戦闘では様々の方向から攻撃を受けるる事になる。」

 

ヨーロッパ諸国は独自のIS開発を進めている。

それは白騎士事件以降の経済・移民問題などによるEU(欧州連合)の崩壊と台頭した民族主義による各国の対立があったからだ。

 

「じゃあ俺も銃火器で対抗するのか?」

 

織斑がそう言うとライフルを構えるような仕草をしたが五十嵐に否定される。

 

「あと数日では不可能だ。銃火器の基本的な知識が無いのに狙撃銃を運用するオルコットにどう対抗する?お前が銃を持ったところで手に余ってただ撃ち落とされるだけだ。」

 

「ではどうすればいいのだ、五十嵐。」

 

篠ノ之が質問するとさらにもう一枚の書類を差し出した。

そこには英語で各項目が表記された表にはアルファベットが各項目に書かれていた。

 

marksmanship(射撃技術)がS...swordsmanship(剣術)がC...え、C!」

 

SやAが並ぶ項目を見ているうちに優秀だと確信していた中で突然Cという文字を見て二度見した。

 

「ここで暇をしている間入手した訓練映像から推測するにオルコットは近接戦闘は不得意、いや苦手にしている。織斑、お前は剣道を小学校まではやっていたな。」

 

「そ、そうだが...」

 

五十嵐の口から次々と一般人が知りえない情報や自分の情報が出てくるのに織斑は目を丸くする。

篠ノ之に視線を移すと訓練の内容を伝えた。

 

「織斑が勝つにはオルコットの狙撃を凌いで近接戦闘に持ち込んで戦うしかない。そこで篠ノ之、君が織斑の剣道を取り戻せせてくれ。」

 

「それはいいがISの操縦はどうする?」

 

「現実的に考えて基礎を教えるだけでも一ヶ月必要だ。あと五日で教えるのは不可能だ。」

 

「ならば訓練機を使ってコツを少しでも掴めば有利になるのでは?」

 

「訓練機は“なぜか”全機体出払っているし、第一誰が教えるんだ。」

 

「それは...」

 

篠ノ之と五十嵐が訓練について話し合っていると織斑は机にある書類を手に取った。

それはオルコット家の家族関係や関係がある会社、イギリス代表候補生としての活動が書かれていた。

母親は名家の娘でありいくつもの会社を経営する経営者、父親はその名家に婿入りした立場で母親には相当弱かった。

その両親は数年前に列車事故で死亡、残った遺産を周囲の金の亡者から彼女は守る必要に迫られた。

守るために様々な行動を起こした際に受けたIS適性試験を通して代表候補生になったと書かれていた。

 

「父親や取り巻き達影響からあの高圧的な態度になったのか?」

 

オルコットの様々な経験を想い、彼女に同情的になっていると手から書類が奪われた。

 

「あ!」

 

奪った五十嵐はクシャクシャに丸めると屑入れに投げ込んだ。

織斑を咎めるような視線で五十嵐は睨みつけて言った。

 

「“敵”について考えるな、手を抜く原因になる。お前はただ“敵”をどう叩き潰すかだけ考えろ。」

 

「...お前は読んだのか?」

 

織斑は“同級生”であるオルコットを全否定したような言動に怒りがこみ上げた。

 

「読んだがそれがどうした?」

 

「五十嵐...お前には心はあるのか?」

 

必死に怒りを抑えて口を震わせながら質問する。

何時見ても喜びも悲しみも凍り付いてしまったような表情しかせず、何を考えているのか分からない五十嵐に苛立っていた。

 

「心は朝鮮半島の戦場に捨ててきた...戦うには邪魔だからだ。」

 

五十嵐は一瞬“親子”を殺し損ね上官に蹴り続けられたあの日を思い出した。

朝鮮半島で何が起きたか知らない織斑は五十嵐がただの“異常者”に見えた。

 

「そうか、やはりお前は壊れているな。」

 

「おい!」

 

篠ノ之が織斑を咎める。

 

「ああ、壊れているさ。人を数十、数百殺すためには心は邪魔だ。」

 

「おかしい!人を殺して平気でいられる奴はおかしいぞ!」

 

そう叫ぶと織斑は病室を飛び出して行った。

 

「五十嵐、すまない!」

 

篠ノ之は謝ると彼を追って病室を出て行く。

それを見送ると五十嵐は机にある書類を手に取った。

 

「どうやって倒すか...」

 

 

 




第二十五話目です。

久しぶりにWOTをやろうとしてみたらパスワード忘れたOrz
タイガーⅠまで行ったのに...一からやり直しでやっと四号戦車...キツイ

ではまた今度。


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第二十六話 決闘

月曜日、決闘の日。

クラス代表を決める試合は、五十嵐がクラス代表を辞退している為にまずクラス代表を決める織斑対オルコットを最初に始め、次に私的な決闘として五十嵐対オルコットの試合をした後に織斑と私的な決闘をする。

第三アリーナの更衣室にあるひとつのベンチに座って、出番まで目を閉じて精神を集中する。

一切の物音が響かない室内で、五十嵐は何かが近づくのを感じて拳銃に手を伸ばして後ろを振り返る。

 

「やあ。」

 

9mm拳銃の向く先に扇子を手に持った一人の女性が立っていた。

銃を向けられても動ずることなく、逆に余裕を見せている態度を見せるのに只者では無いと感じた。

さらにリボンの色から二年生だと分かると拳銃を構え直して警戒する。

 

「大丈夫、私は君を殺そうとは思っては無い。ただ話し来ただけ。」

 

扇子を口元に持っていくと笑みを見せながら近づこうとした。

 

「止まれ、撃つぞ。」

 

相手が見知らぬ上級生である以上、五十嵐は警戒するしかなかった。

また彼女の裏に潜むもうひとつの雰囲気、自分達兵士と似た雰囲気を感じとっていた。

 

「私は更識楯無、この学園の生徒会長よ。今日は君に会いたくて来た。」

 

「なぜ?」

 

「君のような人間に興味があるの、戦場で生きてきた者がここでどのように振舞うか。」

 

すると室内のスピーカーで副担任が試合の準備をするように命じた。

 

「では、失礼します。」

 

拳銃を仕舞ってジャージの上着を脱ぐとアリーナのピットに向けて歩みを進める。

 

「頑張ってね。」

 

後ろから会長が声を掛けるが無視して歩みを進める。

当然手を抜くことはしない、我が徴用兵はすべての戦いを全身全霊で戦うように教育されているからだ。

ピットに入り電磁カタパルトの上に立つと首に下げる認識票を握り締める。

紫電を呼ぶと光に包まれ足から装甲とスラスターが現れ、最後に頭部のバイザーが展開する。

 

「こちら五十嵐、準備完了。」

 

《了解、射出!》

 

勢いよく飛び出すとバイザーに一機のISが映る、イギリス第3世代IS“ブルー・ティアーズ”の機体が待っていた。

オルコットや女子生徒は五十嵐少佐の機体を見て第二・五世代IS“烈風改”でないのに気付き警戒する。

機体は自分より装甲が追加され大きめの機体にはステルス性を高めるための形状が施され、全体的に重武装な戦闘機のような印象だった。

オルコットの前に空中停止すると、客席から罵声が響く。

 

「出て行け、殺人者!殺戮者!」

 

「セシリアさん!絶対に倒して立場を分からせて!」

 

「卑しい五十嵐を排除しろ!」

 

アリーナの客席は一年一組の生徒だけではなく、多くの生徒が五十嵐大尉が完敗するのを見に集まっていた。

そんな中、対峙したオルコットからコア・ネットワークのオープンチャンネルを繋げて来た。

 

《日本には奴隷に機体を与えるほど余裕があるのですか?それ共優秀なパイロットがいないのですか?》

 

「関係ないだろ、さっさと始めるぞ。小娘。」

 

五十嵐大尉はわざとオルコットをキレさせるような言葉を投げかける。

予想通りオルコットは教室で激昂したように罵り始めた。

 

《なんですって!あなたのような奴隷に小娘など...》

 

すると試合開始の鐘が鳴るがオルコットは罵り続ける。

五十嵐大尉は十式発煙弾発射装置を射出する。

 

「小賢しい真似を!」

 

突然煙幕に視界を奪われオルコットは我に帰り、一気に後退するとハイパーセンサーの力を借り周囲を見渡すが五十嵐大尉の姿は煙幕で捉えられずにいると爆炎と共に砲弾が一直線に向かって来る。

すぐに回避するがすぐさま二発目の砲弾が高速で腰の辺りの一部のスカートを吹き飛ばした。

五十嵐大尉は搭載してある暗視装置で煙幕の中にいるブルー・ティアーズのシルエットが照準器のレンズに浮かび上がるのを目標に引き金を引く。

だが十式55口径120mm狙撃銃は銃口から発する爆風で煙幕を吹き飛ばしオルコットの前に紫電の姿が現れた。

三発目を僅かに避けると照準器のレクティルの中心に合わせスターライトmkⅢの引き金を引く。

銃口から飛び出した熱線が紫電に向かうが、五十嵐少佐は煙幕が晴れたのを見て移動した瞬間だったのでアリーナの防壁を焼いただけであった。

五十嵐は撹乱する為に十式多連装小型誘導弾発射機を展開させると即座にロックオンして一斉発射する。

オルコットが迎撃している間に壁際まで後退すると時計回りに高速で移動しながら狙撃する。

迎撃し終えたオルコットは空中で停止しながら狙撃するがオルコットは五十嵐の動きについていけず、紫電が通り過ぎた場所に熱線が着弾するだけで、五十嵐の放つ砲弾はオルコットに命中してエネルギーが削られる。

 

「くっ...ブルーティアーズよ行きなさい!」

 

レーザーピットが四基が直線機動で迫ってくると、進路を塞ぐように攻撃をかける。

いくつか攻撃を受けてシールドエネルギーが削られるが誤差の範囲だった。

一気に上昇しつつ十式50口径12.7mm小銃とを展開させて素早く動くピットに対してレーダーで捉えた情報をもとに迎撃を開始する。

後ろに就いたピットが銃撃した瞬間に身を翻して回避すると正面に捉えたピットを弾丸の雨で撃墜すると即座に弾倉を交換するとさらに十式25mm汎用機関銃を展開させる。

そしてISのハイパーセンサーを用いて左右から迫るピットを捉えると二丁の銃を双方に向けて銃撃する。

空から金色に光る磨かれた空薬莢が空から煌めきながら落ち、二基のピットは撃墜される。

その驚異的な反応速度にオルコットは驚かされる。

最後の一基には十式多連装小型誘導弾の発射器ひとつを展開させて発射して、飽和攻撃を受けたピットは瞬く間に撃墜された。

逆に五十嵐は残り三つの発射器を展開させると一斉射撃を行い、三方向から襲わせる。

苦虫を噛むような顔をするオルコットは左右と下方向から襲ってくる誘導弾を避けるために急上昇する。

同時に迎撃する為に弾道型のピットがスカート状のアーマーから現われたのを確認すると十式55口径120mm狙撃銃で破壊する。

 

「わたくしが負けるなんて...そんなことはありえませんわ!」

 

オルコットは残ったスターライトmkⅢで迎撃しつつ必死に回避機動を繰り返すが無駄であった。

高速で迫る三十六発の小型誘導弾のいくつかは撃墜されたが、オルコットに多くが殺到した。

 

《試合終了!勝者、五十嵐裕也。》

 

爆煙がアリーナ一体を包むと、煙の中から傷だらけの機体が地面に墜落すると展開が解除される。

近づいてくる陰に気づいて顔を向けると五十嵐が立っていた。

 

「もう少し射撃の腕を磨いたほうがいい。」

 

五十嵐はオルコットにそう言うとピットに戻って行った。

次の織斑との試合は、織斑に近接戦闘に持ち込まれないように弾幕を張って寄り付けさせずじわじわとシールドエネルギーを削って勝利した。

その夜、オルコットはシャワーを浴びながら今日の出来事を振り返っていた。

織斑一夏への強い想いを確認すると、今日負った傷を触り五十嵐裕也という軍人について考えた。

正確無比の狙撃、次々と迷い無く攻撃を加える素早さにオルコットは能力を持った人間だと感じた。

また悪態をついている自分と違い彼は最後まで冷静に戦った、なぜ冷静な判断を保ち続けられるのか。

それが多くの人々を殺して得た能力なのだろうか。

オルコットは蛇口を閉めると体を拭き、着替えると部屋に出る。

すると付けっ放しにされたテレビは国営放送のニュースを報道していた。

 

《...国防省が公開した徴用兵と日韓戦争における一部記録の開示がされました。その結果、ISを撃墜した戦闘機パイロットの存在が分かりました。》

 

まだイギリスにいた頃にもニュースになったIS撃墜事件。

戦闘機でISを撃墜したというニュースは世界を駆け巡り、誰でも知っている事件だが日本政府の徹底した報道規制で誰が撃墜したのか分からなかった。

IS操縦者であるオルコットは当然興味を引いて、ベットに座りながら画面を見つめた。

 

《ISを撃墜したのは五十嵐裕也海軍大尉、五反田弾海軍大尉、宮坂勉海軍大尉、水瀬純一郎海軍大尉の四名で、内宮坂大尉と水瀬大尉は戦死され二階級特進されています。彼ら四人には本日付で皇帝陛下から金鵄勲章功五級を授与されることが決定され、その他にも日韓戦争に従軍した兵士にも...》

 

ISを落とした戦闘機パイロット、その人がすぐ近くにいることにオルコットは飛び上がるほど驚いた。

 

《今回の記録開示は国防省HPでも公開されています。》

 

急いでパソコンを起動させ、国防省HPを開いた。

タイミング良く公開された記録は彼ら徴用兵の印象を変えるキッカケになったが、黒い部分については公開されなかった。

しかしオルコットは記録を読むうちに、自分の偏った知識が偏見が彼を傷つけた事に罪悪感を感じた。

謝らなければならない、自分の犯した過ちを。




第二十六話目です。

やはり戦闘シーンはどうしても長くなってしまいますね。

話は変わりますが先週末の雪で大変な目に会いました。
雪なので家でゆっくりしようとしたら...

親「週末の間iPhone5Sを家族で乗り換えると24万円もらえるから行くよ!」

作者「Σ(゚Д゚;マジデ!?」

ということで歩いてバスと電車で遠くの電気店まで行って乗り換えて乗り換えました。
そして昼飯を食べて駅に戻ると。

JR「〇〇〇線は終日運休になりました。」

作者「Σ(゚д゚lll)ガーン」

バス「運行を停止しました。」

作者「(゜д゜)」

結果的に帰宅難民状態になってしまい、駅で200名ぐらいのタクシー待ちの列に並んで十時間まって日付を跨いで帰宅できました。
二十四万円の為にこんな苦労するとは...金を稼ぐ苦労を知りました(;゚д゚)ゴクリ…
家に帰宅した後に誰もいない所で傘をライフルに見立てて雪上戦ごっこをして楽しんだり...子供だな(ノ∀`)アチャー
タクシーに乗ると途中で乗り捨てられた車と徒歩で帰宅する人が通るタクシーを期待して振り向いたり思わず手を上げる人が見受けられて何ともいえませんでした。
みなさんは先週末どうでしたか?

ではまた今度。


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第二十七話 オフレコ

クラス代表決定戦の翌日。

夕食後の自由時間、五十嵐は一人第四アリーナ整備室で日本国防軍第三世代IS“紫電”の整備を行っていた。

本来なら寮から遠くにある整備室での整備は夕食前までにして自由時間を満喫するのが普通だが、国防軍の試作ISをあまり見られたくないのと日本代表候補生に妨害されるのを嫌い夕食後の自由時間に整備をしていた。

自由時間と言っても一ヶ月毎の報告書作成と銃の整備、運動ぐらいしかやることない五十嵐には問題は無かった。

五十嵐は整備マニュアルに従って十式55口径120mm狙撃銃の整備を行う。

長いクリーニングロッドを組み立て砲口から入れて砲身内に残った砲弾の発射火薬の燃えカスや発射薬が燃えてできた煤を拭き取る。

背後から気配を感じて、ホルスターから9mm拳銃を抜いて振り返る。

 

「きゃ!」

 

銃口を向けた先には眼鏡を掛け、髪を後ろで纏めた女子生徒が驚いて床に尻餅をついていた。

 

「お前は誰だ?」

 

「わ、私は二年の黛薫子!し、新聞部の副部長をしているの!」

 

女子生徒は銃を向けられて、焦った様子で喋る。

五十嵐は害は無い生徒だと思い、銃口を下げてホルスターに仕舞った。

 

「...私をあんな馬鹿な代表候補生と一緒にして欲しくないな...あと、これ名刺。」

 

「...それで何の用ですか?」

 

名刺を胸ポケットに仕舞うと、工具箱を置いた机に体を向けた。

黛は何時もの通りに戻ったのかボイスレコーダーを向けて、無邪気な子供の様な瞳を向けた。

その瞳を見たときあの“空爆”を思い出して、足元の危うくなるような不安が襲った。

 

「世界で初めて通常兵器でISを撃墜した新入生にインタビューしようと思って!」

 

五十嵐は顔を背けると帰るように促した。

 

「俺は日本国防海軍の軍人だ、話せるような事は何もない。それに俺と関わると面倒なことになる。」

 

そう言われた黛は五十嵐に見せるように電源を消してボイスレコーダーを仕舞う。

 

「じゃあオフレコということにしよう!」

 

「オフレコ?」

 

初めて聞いた言葉に驚きの表情を見せると黛はにっこりとした。

 

「君は案外いい表情するね。それでオフレコは私と君の間で話した内容を一切公開しないこと。この取材は私の単なる趣味だから公開することはしない。なんならボイスレコーダーや筆記用具を君に渡してもいいよ。」

 

「...いいです。機密に当たるものは一切喋りませんがそれでもいいですか?」

 

「それでいいよ、まずここでの学園生活はどう?」

 

「特に何もありません。ただ言えることは戦場よりマシとだけ。」

 

「少しは楽しんだほうがいいよ、君は織斑くんとは雰囲気が違うけど美形なんだからもったいないよ。みんながあの代表候補生達みたいじゃないから、政府の発表から代表候補生以外は君に興味を示しているよ。」

 

確かに政府が日韓戦争の情報を公表してから周りの雰囲気が変わった。

日本代表候補生が五十嵐の教科書を燃やそうとした際は他の生徒が阻止して教師に突き出し、特に海外組の生徒から食堂で一緒に食事を食べようと誘いが来た。

五十嵐としては日本代表候補生達の攻撃に巻き込むようなことになるのでやめて欲しいところであった。

 

「その必要はない。織斑の身辺警護とISの操縦技術を学ぶ任務を与えられた兵士ですから。」

 

「任務に忠実なんだね。」

 

「はい、我々徴用兵は祖国から戦い死ぬ名誉を与えられた。祖国からの期待を背くことはできない。」

 

彼の考えが自分達の考え方を比べ黛は違いを感じた。

 

「...じゃあ五十嵐くんはこれからの展望とかあるの?」

 

「展望...?」

 

五十嵐は答えに詰まり、困惑した顔で下を向いた。

 

「ほら!学園最強のIS乗りになるとか将来の目標だとか。」

 

黛は思いつかずに悩んでいると思い助け舟を出す。

 

「俺は...ただ国の為に戦い死ぬ。将来などありません。」

 

「そう...」

 

五十嵐の答えに黛は声を掛ける言葉を失った。

彼女は重い雰囲気になったのを吹き飛ばそうと話題を変えようとした。

 

「そうだ!今織斑くんのクラス代表就任パーティをしているけど行かない?」

 

「いいえ、俺には不釣合いな場所です。行っても代表候補生に殴られるだけならここで“紫電”の整備をしてます。」

 

「“紫電”って言うんだ、君のIS。試合では突然現われた新型機にみんな驚いていたよ!」

 

「そうですか。」

 

会話をしながら整備に戻り、クリーニングロッドを抜き出して短く分解する。

 

「砲身の清掃か~見た感じ君のISは長期戦を想定してエネルギーをあまり消費しない実弾兵器を多数搭載して様々な状況に対応、電子機器類や主武装である高威力の狙撃銃で他国の最新鋭機に対抗する感じかな?」

 

「そうです、よく分かりましたね。」

 

彼女は自慢げな顔をして五十嵐を見る。

 

「私は整備課の生徒だから装備を見るだけで機体がどのような戦闘を想定して戦うのか分かるもん。しかし見たところ君一人では大変そうだね。手伝ってあげようか?」

 

「大丈夫です、この機体は野外での整備が出来るように各装備は部品点数を少なくしたりして整備しやすく作られています。」

 

こう言うがすべての装備を分解清掃するのは一人では数時間も掛かることで、戦場で想定される運用方法も故障した部分のみを整備するのが限界としている。

 

「あ、時間だ!じゃあね、五十嵐くん!」

 

五十嵐はお辞儀して見送った。

黛は急いでるように見せるために小走りで整備室を出ると隠して作動させていたボイスレコーダーを外にいた人物に渡した。

 

「あなたが私にこうゆう手伝いをさせるのは意外だね、更識生徒会長。」

 

「ごめんね、薫子ちゃん。」

 

更識は手を合わせて謝るような仕草をする。

 

「いいよ、私も取材したかったから。しかし会長が彼に興味があるなんて...」

 

黛は何かを感じたのか怪しい笑みを浮かべる。

 

「もしかして会長は五十嵐くんを好きだったりして~」

 

彼女の思いがけない問いに少し驚きつつも微笑を浮かべながら否定する。

 

「ただの人間観察だよ、薫子ちゃん。」

 

「だよね~『生徒会長、五十嵐裕也に好意を寄せる!』だったら学園の話題になるのにな~」

 

「そうかもね、じゃあボイスレコーダーのデータをコピーしたら返すね。」

 

約束をすると二人は別れた。

更識生徒会長は五十嵐の精神状態を測る為に黛に取材させたのであり、彼女もまた任務に忠実な人間だった。

 




第二十七話目です。

やっぱり感情表現は難しい...

ではまた今度。


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第二十八話 襲来、凰鈴音

「織斑くんと五十嵐くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

織斑と共に教室に入った五十嵐は挨拶を返しながら質問に答えた。

 

「中華人民共和国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンメイ)の事か?」

 

「へえー、名前まで知っているんだ。」

 

当然の事ながら五十嵐には警備隊から連絡が入っていた。

彼は当然ながら普通の学校のことは知らず、小室准将が珍しい事だと言っていたことを思い出していた。

 

「鈴の事か!」

 

すると名前を聞いた織斑が驚きの表情を見せた。

 

「知っているのか?」

 

織斑の表情に何時の間にか近くにいた篠ノ之が問いかける。

 

「鈴は幼馴染で、親が中華料理屋をしていてよく食べに行っていたぞ。中学二年の頃に帰国してな。」

 

「幼馴染...?」

 

「くっ...なんでまた幼馴染が...」

 

幼馴染という単語を聞いて篠ノ之とオルコットは怪訝そうな声が聞こえる。

五十嵐は幼馴染というのは、彼女達が羨む何か重要な立場なのか詮索する。

 

「しかし、あいつが来たなら挨拶しないとな。」

 

「織斑一夏。」

 

織斑が立ち上がろうとすると、教室の入口から声が聞こえた。

 

「中国代表候補生、凰鈴音。今日は一組に宣戦布告に来たわ。」

 

そこに立つのは小柄な体でふたつの紐のように束ねた髪、ツインテールとよばれる髪型をした生徒が腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた。

敵の拠点に乗り込んでくる姿から肝の据わった操縦者なのだろうと五十嵐は思ったがそれは違った。

 

「鈴、何格好付けているんだ?すげえ似合わないぞ。」

 

「んなっ...!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

先の気取った態度とは違い、声を荒げる姿が本来の姿だとわかった。

凰が大声で言い放つと五十嵐は彼女を指差した。

 

「...何よ!?」

 

「後方警戒不十分。」

 

慌てて振り返るとそこには鬼教官らしく恐ろしいオーラを放つ織斑千冬先生の姿があった。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ。」

 

あの気性の荒々しい生徒でも先生には逆らえず、脱兎の如く二組の教室へ戻って行った。

 

 

 

何時もの通りに過ごすと放課後はオルコットと共に織斑のIS操縦訓練に付き合う。

織斑は五十嵐の主張を納得せずにいたが、彼の実力と仲良くしたいという願望から問うことは無かった。

第三アリーナに行くと一機の機体が鎮座していた。

日本国の第二世代競技用IS『打鉄』、火力に難があるが初心者でも扱える操縦性の良さと高い継戦能力などから訓練機として採用されることが多い。

また日本国防軍でも改造型の第二.五世代軍用IS『烈風改』として運用している。

 

「あれは篠ノ之か。やっと訓練機の使用許可でも下りたのか。」

 

織斑とオルコットが驚いている中、五十嵐は胸のつかえが取れた感じがした。

今、織斑に足りないのはISにおける近接格闘訓練である。

篠ノ之が訓練に参加できることにより、織斑が近接格闘訓練が出来るのはよいことだった。

しかしなぜかオルコットの顔は悔しさを滲ませていた。

 

「では一夏、はじめようとしよう。刀を抜け。」

 

「おう。」

 

二人は刀を向け合い静かに戦が始まるのを待つ。

 

「では参る!」

 

篠ノ之の言葉で始まろうとした時、オルコットが乱入する。

 

「お待ちなさい!一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!?」

 

「ええい、邪魔な!ならば斬る!」

 

「訓練機ごときに後れを取るほど、優しくはなくってよ!」

 

なぜ二人が突然戦いを始めるのか五十嵐は理解に苦しんだ。

彼女達が戦わなくてはいけないほど譲れない何かがあるのだろうか。

 

「一夏!」

 

「なにを黙って見てますの!?」

 

すると双方から織斑に援護に入るように命じられるが、織斑は文句を言った。

 

「うえっ!?何を黙ってって...どちらかに味方をしたらお前ら怒るだろう?」

 

「当然だ!」

 

「当然ですわ!」

 

そしてなぜか織斑対篠ノ之・オルコットで戦いが始まる。

 

「裕也!助けてくれ!」

 

織斑は五十嵐に助けを求めたが、五十嵐は手を差し出さなかった。

 

「織斑、どんな状況であろうと諦めたら死ぬだけだ。とにかく戦い続けろ、その経験こそがお前を強くするだろう。」

 

そう言うと五十嵐は帰って行った。

 

 

 

疲労困憊で織斑は篠ノ之とピットに帰ってくるとスライドドアが開きスポーツドリンクとタオルを持った凰が現われた。

篠ノ之は自分を差し置いて織斑と凰が仲良くしているのに機嫌を悪くするとわざとらしく咳払いをする。

 

「一夏、私は先に帰る。シャワーの件だが、先に使っていいぞ。」

 

「おお、そりゃありがたい。」

 

「では、また後で。一夏。」

 

篠ノ之はわざと凰の前で同室であることを教えるとピットから出て行く。

 

「...一夏、今のどういうこと?」

 

上機嫌だった凰は篠ノ之の言葉を聞いて不機嫌になり、低い声で問い詰める。

 

「ああ、箒とは同じ部屋なんだ。警備上の問題から一緒になったんだ。」

 

「あの子と何で一緒なの!?」

 

突然の事に凰は取り乱し、必死に理由を聞いてくる。

 

「ああ、幼馴染で信頼が出来るし裕也が箒と戦って認めたからだったかな。」

 

織斑は前に同室になった時に五十嵐から理由を聞かされた時の事を思い出して言った。

 

「...で...認めさせれば、いいわけね。」

 

「?」

 

それを聞いた凰は俯いて小声で何を言っているのか聞こえず、織斑は耳を傾ける。

 

「幼馴染で五十嵐を倒せばいいってわけね!?」

 

「うおっ!?」

 

突然顔を上げたのに驚いて後ろに身を引く。

 

「わかったわ、あいつを倒せば...一夏!幼馴染は二人いること、覚えておきなさいよ!」

 

凰はそう言い放つとピットを急いで出て行った。

 

 

 

五十嵐は駐屯地に行き、クラス代表決定戦で消耗した分の弾薬を受け取って機体に装填する作業を終えると寮への帰路についていた。

夕映えが燃え立つような赤さを見せる中、五十嵐は受け取った弾薬が書かれた書類を見ながら歩いていた。

 

「ん?」

 

なにかとてつもない気配を感じ、後ろに振り返った。

 

「五十嵐!」

 

振り返ると転校生が助走をつけて飛び蹴りを食らわせようとした。

考えるよりも体が反応して避けると、五十嵐を飛び越して着地するとすぐさま飛び込んでくる。

 

「なんで避けるのよ!」

 

避けるのが普通だろうと突っ込みを入れるのが普通なのだろうか分からない。

五十嵐は凰の素早いジャブと蹴りのコンボを避ける。

襲ってくるという事は自分を敵視し、排除する目的がある。

それならば敵として五十嵐は見なし、制圧に移る。

 

「グフッ!」

 

五十嵐は避けつつ隙を見て顔面に重い正拳突きを食らわす。

小柄な彼女の体は宙を飛び、鼻血を噴出しながらレンガで敷き詰められた地面に叩きつけられた。

あまりの痛さに顔を手で覆い、転げまわる。

 

「なにしてんのよ!痛いじゃない!」

 

凰は鼻血をたらした顔で五十嵐に文句を言うと目の前には冷たく銀色に輝く銃口が見えた。

五十嵐は訓練通りに倒れた凰に9mm拳銃を向けて制圧する。

 

「地面に伏せろ!」

 

「な、なに言ってるの...」

 

彼女にとって織斑に絡む時と同じように接しただけであった。

だが五十嵐には冗談とは分からなかった。

 

「ただちょっかい出しただけじゃない...」

 

「早く地面に伏せろ!」

 

「はい...」

 

怒声に押されて凰はどうすることも出来ないと悟り、そのまま指示に従った。

その後凰は織斑先生の所に突き出され、恥ずかしい襲撃理由を言わされた挙句に説教を喰らった。

凰は冗談半分で五十嵐を襲う危険を学び、高い授業料を払わされた。

 




第二十八話目です。

「凰」という漢字は変換できないのでしょうか。
辞書で調べたら読みが「オウ」、「コウ」、「おおとり」と書かれていたがどれを試しても変換できない。
「おおとり」で変換しても出るのは「鳳」ですねえ...どうだすのだろうか?
いちいちコピー&貼り付けはめんどくさいなぁ...

ではまた今度。


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第二十九話 クラス対抗戦

・特殊貫通炸裂弾
装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)と同じ構造の砲弾。
発射すると装弾筒が四つに別れ、炸薬の入った矢型の弾体が着弾と共に遅延信管が作動して装甲や装備を破壊させる。
また高い貫通力を持ち、絶対防御を破って操縦者を直接攻撃することが出来る。
その為に試合での使用は禁止され、リミッターを解除しないと使えない。

※今回は長いです


クラス対抗戦の当日。

第二アリーナの会場は最新鋭の機体を持つ一組の織斑と二組の凰による第一試合が行われ為に多くの生徒と関係者が押し掛けた。

アリーナの席は全席満員となり、入りきらなかった観客は場外のモニターで観戦しなければならなかった。

 

「教えた通りに戦え、お前が勝つにはこの戦法しかない。」

 

「大丈夫だ、何回も練習したんだ。じゃあ行って来るぜ、裕也。」

 

織斑の白式は五十嵐にそう言うと電磁カタパルトで打ち出され、空に上がった。

五十嵐は織斑を送り出すとピット上部にあるコントロール室に上がる。

 

「それでは両者、規定の位置まで移動してください。」

 

山田真耶先生の指示により両者が規定位置に移動する。

 

「それでは両者、試合を開始してください。」

 

そしてブザーが鳴ると同時に戦闘は始まる。

織斑は開始早々攻勢掛け、“雪片弐型”で切りかかるが凰が両端に刃を備えた翼形の青龍刀“双天牙月”で防がれる。

装備が刀しかない織斑が勝つには守勢に回らず攻勢を掛け続け、隙を見て“瞬間加速”で間合いに入り“バリアー無効化攻撃”でシールドエネルギーを削るしかない。

だが現状ではジャブのような攻撃に守勢に立たされ、拘束されている。

身動きが取れない織斑は第三世代IS“甲龍”の肩アーマーから現われた“龍砲”の砲撃を受ける。

 

「なんだあれは...」

 

篠ノ之の呟きに五十嵐が答える。

 

「“衝撃砲”だ。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器。砲身も砲弾も眼に見えないのが特徴で砲身斜角がほぼ制限なしで撃てる。」

 

と言っても撃ち出される方向は敵機である自機しかない。

止まらず高機動で回避し続ければ避けれる。

現に織斑は持ち前の機動力でジグザグにアリーナーステージを飛行して避け続けている。

長期戦となれば一回の攻撃で大きく消費する白式は追い込まれて撃墜されるだろう。

だが織斑の攻撃が決まれば勝利は確実だ。

この状況を理解している五十嵐を含めその場にいる観客達はぎりぎりの戦いに息を呑む。

 

 

 

その頃、横田にある国防軍宇宙空間防衛司令部で衛星軌道上から物体が降下しているのに一人の空軍オペレーターが叫んだ。

 

「緊急!衛星軌道上から大型物体が降下中!」

 

すぐに地下にあるスーパーコンピューターにより瞬時に計算され、落下地点が割り出される。

その結果に呼び出された司令官は驚愕した。

 

「やばいぞ...神奈川・東京・千葉にジェイアラート発令!」

 

 

 

試合に集中する五十嵐に、突如として鳴ったサイレンが呼び戻す。

 

《ミサイル発射情報。ミサイル発射情報。当地域に着弾する可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをついけてください。》

 

コントロール室にあるテレビを急いで点けると“国民保護に関する情報”と表示されるが発射した場所は“不明”と表示された。

 

「全員伏せろ!」

 

織斑先生が叫ぶとオルコットを除いた室内にいた全員が机の下などに伏せた。

避難訓練を頻繁に行う日本国民には慣れた状況であったが、日本に来たばかりの外国人は戸惑った。

 

「これは一体...」

 

「危ない!伏せろ!」

 

その場に棒立ちしているオルコットに五十嵐は突き飛ばして覆いかぶさる。

丁度その時、大きな揺れと共に衝撃が襲う。

コントロール室のガラスが割れて砕け散り、揺れで照明や備え付けのテレビが落ちてくる。

 

「オルコット、大丈夫か?」

 

揺れが収まると五十嵐は起き上がる。

 

「はい、大丈夫ですわ...五十嵐さん!」

 

五十嵐の顔を見たオルコットは驚いた。

落ちてきた照明のガラス片で切った傷で頭から血を流していた。

 

「このくらい大丈夫だ...織斑先生!山田先生!篠ノ之!」

 

「大丈夫だ。」

 

「なんとか...」

 

「こっちも大丈夫だ。」

 

すぐさま点呼を取ると立ち上がってモニターを見つめる。

そこには熱線を回避する織斑と鳳の機体が映る。

 

「ステージ中央に熱源反応あり...所属不明のISだと思われます。」

 

「映像を!」

 

山田先生はカメラを操作して砂煙が立つ方向に向ける。

そこには全身を装甲で包み、異形なISの姿があった。

不規則なセンサーの並び方、異様なまでの腕の長さに纏められた砲口、そして本来なら必要の無い装甲。

到底バランスという言葉が抜けた機体だった。

 

「織斑くん!凰さん!すぐに戻ってください!」

 

山田先生はマイクに叫ぶが二人は所属不明のISに攻撃を仕掛ける。

 

「本人達はやる気だ。やらせてみてもいいだろう。」

 

「織斑先生!なにを暢気なことを言っているんですか!?」

 

織斑先生の言葉に山田先生は反論する。

そこに五十嵐が会話に入る。

 

「あのISは遮断シールドを破って入ってきました。あの威力で客席を吹き飛ばされたら二桁台の死人が出るでしょう。それなら二人に引き付けて貰う方が安全です。」

 

「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐに出撃できます。」

 

オルコットは出撃を求めたが、織斑先生はタブレット型端末を操作して彼女に見せた。

 

「遮断シールドがレベル4に設定...?しかも、扉がすべてロックされて...あのISの仕業ですの!?」

 

この状況ではアリーナステージに入ることは出来ず、場外からの狙撃も遮断シールドで跳ね返される。

オルコットは二人が心配なのか織斑先生に食って掛かる。

確かに凰ならば大丈夫だろうが、素人同然の織斑がいる状態では重い荷物を担いで戦っていると同じだ。

心配になるのも当然だろう。

そこに内線電話が鳴り、織斑先生が出ると五十嵐に受話器を差し出した。

 

「五十嵐です。」

 

《小室だ。たった今、IS学園から政府に防衛出動の要請が入った。君は警備隊本部の指揮下、事件の対処に当たってくれ。》

 

「了解しました。」

 

受話器を返すと五十嵐は背筋を伸ばし足を揃える。

 

「日本国国防軍IS学園警備隊の五十嵐裕也大尉。要請により派遣されました。」

 

「大尉、IS学園内での作戦行動を認める。」

 

織斑先生が許可をすると五十嵐大尉はお辞儀をする。

 

「扉から全員離れろ!」

 

室内にいる者が全員ドアから離れるとISを一部展開する。

十式50口径12.7mm小銃を構えると扉に向けて銃撃する。

扉は銃撃されてボロボロになり、五十嵐が蹴ると倒れて出れるようになった。

急いで走り、障害となる扉や防御シャッターなどを吹き飛ばして外に出ると紫電を展開させたて飛び上がる。

 

「リミッター解除。」

 

競技用の制限がなされたISはリミッターを外すことで軍用に戻すことが可能だ。

学園の中央にある中央タワーまで一気に飛び上がると最上階に降り立った。

脚部の足底からスパイクが打ち出され狙撃体勢を固定すると十式55口径120mm狙撃銃を展開させる。

弾倉を特殊貫通炸裂弾が五発入った物に入れ替えるとボルト・ハンドルを引いて装填する。

そしてコマのように高速で回転しながら攻撃する謎のISに照準を合わせる。

目標までの距離2キロ、気温18度、湿度63%、気圧1012hPa、それに重力による弾道の下降を計算に入れ修正を入れる。

これらの計算は射撃管制装置が計算して割り出し、照準器に修正が入る。

それに合わせて五十嵐は狙撃銃を構え直して、十字レクティルに合わせる。

あとは遮断シールドを解除されるのを待つのみだった。

 

 

 

織斑は“零落白夜”を発現させた雪片弐型で敵ISの右腕を切り落とした。

敵ISは左拳で織斑を殴りつけると左腕の砲口を向け、ゼロ距離から熱線を叩き込もうとする。

 

「...狙いは?」

 

《完璧ですわ!》

 

オルコットの声と共にブルー・ティアーズが四基同時狙撃を敵ISを襲った。

外部から現われた三機目のISの攻撃を予測できなかった敵ISは攻撃を受けて爆発した。

 

《ギリギリのタイミングでしたわ。》

 

「セシリアならやれると思っていたさ。」

 

オルコットは織斑の言葉に驚いたのか酷く狼狽する。

 

《そうですの...とっ、当然ですわね!何せわたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表なのですから!》

 

オルコットは胸を張って言った。

 

「...ふう、なんにしてもこれで終わ」

 

《敵ISの再起動を確認!警告!ロックされています!》

 

電子音声が警告を発する。

最大出力形態に変形させたISが片方が残った左腕を突き出して地上から織斑を狙っていた。

 

「くそ!」

 

織斑は雪片弐型を構えて突っ込む。

だがその時、真横になにかが通り過ぎる音と共に目の前にいる敵ISの左腕が爆発した。

さらに胴体の真中に“矢”のような物が突き刺さると爆発、敵ISはそのまま仰向けに倒れた。

 

「なにが?」

 

オルコットは突然の事に驚くと、後ろから砲声が聞こえたのに気づいて振り向く。

ハイパーセンサーで中央タワー最上部を拡大すると五十嵐の紫電の姿が見えた。

 

《最後まで油断するな。敵の死体を見てから会話しろ。》

 

オープン・チャンネルで織斑とオルコットに言葉を投げかけると紫電の展開を解除させて視界から消えた。

二キロもの距離からの小さいコアを一撃で仕留める五十嵐の狙撃にオルコットは驚きの色を隠せなかった。

いくら機械の補助があるとはいえ、長距離から連射で狙ったところを外さずに狙撃する。

オルコットは五十嵐の狙撃技術に感心させられた。

 

 

 

その夜、国防海軍の第一種軍装に着替えた五十嵐大尉はエレベーターに乗っていた。

学園の地下一五メートルにある空間はレベル4の権限を与えられた者のみ入ることが許された研究施設だ。

織斑先生に呼ばれた五十嵐大尉はエレベーターが止まり、ドアが開くと前のドアにを開く為の操作を行う。

 

「国防海軍五十嵐大尉です、入室許可を。」

 

カメラに向け顔を上げる。

 

《どうぞ》

 

スピーカーから織斑先生の声が聞こえるとドアが開き入室する。

そこには何面ものディスプレイが並べられ、山田先生と織斑先生がいた。

 

「遅れました。」

 

「そうか、山田先生。揃ったから始めよう。」

 

「はい、ISの解析結果が出ました。」

 

「ああ。どうだった?」

 

「はい。あれは無人機です。」

 

全世界の研究所が開発出来ていないISの無人兵器化、遠隔操作と独立稼動技術。

そのどちらか、あるいは両方の技術が使われているのなれば国防上危険な技術の登場だった。

国防軍はこれから死も恐れないIS兵器によるテロに怯えなければならない。

 

「どのような方法で動いていたのかは不明です。五十嵐くんの最後の攻撃でコアと機能中区が破壊されたので修復も、おそらく無理でしょう。」

 

「コアは判別できたか?」

 

「なんとか...ですが、登録されてないコアでした。」

 

「では、このことを国防省に報告します。」

 

「わかった。」

 

五十嵐大尉はドア出るとその足で警備隊駐屯地に出向き今回の事件の報告を行った。




第二十九話目です。

やっと一巻目を終わることが出来ました。
前話で単語登録について多くの人が教えてくれてありがとうございます。

さて二巻目は大変なことになりそうだ。
ドイツ代表とフランス代表が厄介ごとを持ってくる。
特にフランス代表の問題はきな臭い(旧・学園の守護者を読んだ人なら分かるかも)。

ではまた今度。


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第三十話 五反田

六月の初め、梅雨独特の湿度と匂いが町を覆う。

 

「わざわざ一緒に来てくれて助かった。」

 

「いいぜ、このくらいの事。」

 

五反田は織斑の肩を叩きながら上機嫌な表情を浮かべた。

休日、織斑が実家の様子を見に行くというので、五十嵐と五反田が護衛として付けられた。

二人は任務上制服ではなく隊員から借りた私服を着用していた。

 

「ただの任務だ、気にするな。」

 

「素直になろうぜ五十嵐、任務のついでに遊べて嬉しいだろう〜」

 

「たるんでいるぞ!五反田!」

 

五反田は街に出ると見るもの全てに興味を持ち、目を輝かせていた。

徴用兵は田舎の山にある駐屯地で過ごし、見るものと言えば豊かな自然と兵器。

都会に行ったことはあるが、それは陥落したソウルと平壌の廃墟と化した街並みだった。

目の前にあるのは人々の活気が満ち溢れ、電車が何本も走り高いビルが建ち並ぶ。

そして自分達に守られ平和に自由に暮らす国民の姿だった。

今いるのは織斑の住む住宅街を出たところの車道の側を歩いていた。

 

「もう昼飯の時間だから食べに行かないか?いい店を知っている。」

 

織斑は時計を見るとそう提案した。

二人は顔を見合わせてるとポケットから財布を取り出した。

 

「...外で食べる時はこの紙が必要なんだよな?」

 

五反田が手に取った人物画が描かれた紙。

それは紙幣と呼ばれるもので、この世界で何かを得るために必要な紙だ。

彼ら徴用兵は駐屯地内で生活している限り必要最低限の生活が保証されている。

漆原首相は“徴用兵社会復帰プロジェクト"の名の下で給料を給付することを決めた。

しかし五十嵐は母親の偽善に怒りが湧いた。

今頃になって人扱いして許しを請いたいのか、“金”という物で俺達の苦しみは拭えると思っているのか。

俺を売った時のように“金”で解決するのかと。

 

「いいよ、俺が奢ってやるから。」

 

織斑はそう言って歩いていく。

 

「ここがお勧めの食堂だ。」

 

立ち止まった先には壁面に蔦が絡まり、長年の汚れが目立つ建物だった。

看板には『五反田食堂』とあり、織斑は五反田に話しかけた。

 

「そう言えば偶然にも弾と同じ苗字だな。」

 

織斑は軽い話題を振ったが、五反田の陽気な答えが返ってこない。

五十嵐は五反田の顔を見ると看板を見上げ戸惑ったような複雑な表情を見せていた。

普段見せない表情に心配になり声を掛ける。

 

「どうした、五反田?」

 

「...いや、なんでもない。」

 

意識を取り戻したかのように答える

三人は何事も無かったように入店する。

 

「いらっしゃいませ!」

 

店に入ると一人の少女が出迎えた。

 

「あ、久しぶり。」

 

「いっ、一夏さん!ひ、久しぶりですね。」

 

織斑はその少女に挨拶をするといくつか言葉を交わす。

その後に五十嵐達を紹介した。

 

「同級生の裕也とその友人の弾だ。」

 

「五十嵐裕也だ。」

 

「五反田弾です。」

 

二人は自己紹介すると目の前にいる少女の自己紹介に移った。

 

「この見せの娘さんで、バイトで入った時に知り合った蘭だ。」

 

「五反田蘭です。」

 

蘭は二人の顔を見る

弾を見た時一瞬だが不意打ちに合ったような表情を見せた。

五十嵐は不審に思ったが織斑が座るように勧めたので座った。

 

「ここのお勧めはカレイの煮付け定食だ。」

 

「それでいい。五反田は?」

 

カウンター席で端に座る五反田の方を向く。

五反田は店の内装をキョロキョロと落ち着き無く見回していた。

 

「おい、五反田。」

 

「おう!」

 

もう一度呼びかけると気付く。

 

「カレイの煮付け定食でいいか聞いているんだが?」

 

「ああ、それでいいぜ!」

 

三人ともカレイの煮付け定食で決めると織斑は蘭に注文をした。

 

「五反田、お前は様子がおかしいぞ。何かあったか?」

 

その間に五十嵐は不審に思った事を五反田に問う。

 

「いや...」

 

五反田は目を泳がす。

 

「こんな店に来るのは初めてなのか?」

 

「ああ!そうなんだ...こうゆうところに来るのは初めてでな。」

 

注文を終えた織斑が五反田に聞くと肯定して答えた。

だが五十嵐の目からしても隠し事をしているのは分かった。

さらに突っ込んで聞こうとした時、ある一人の作業着を着た男性が声を掛けてきた。

 

「そこの二人...もしかしてISを撃墜した二人か!」

 

「...はい。」

 

あの発表からすぐの日曜日。

宮城において皇帝陛下自ら五十嵐と五反田に金鵄勲章功五級を授けられた。

この授与式は国営放送にて放送され、二人は一躍有名になった。

これをキッカケに徴用兵に対するイメージを大きく変えることになった。

 

「あの式典の時の君達、すごく格好が良かったぞ!」

 

皇帝陛下に拝謁する場で二人は最上級の儀礼服装で臨んだので当然といえば当然だった。

その男性は徴用兵について語り始めた。

 

「俺の息子も十年前に徴用されたんだ。たった十五万円で無理矢理...」

 

「無理矢理?」

 

「ああ、政府の役人共が十五万円無理矢理掴ませて息子を攫ったんだ!」

 

自分達が教えられていた事を矛盾しているのに二人は気付いた。

『薄情な親達は自分達の利益の為に喜んで君達を捨てた』と教えられた。

だが目の前にいる男性を見る限り、そうとは言えない。

 

「抵抗する者もいたが公安警察に捕まって、保釈されたら女性至上主義者共が非国民扱いして差別する。俺は手放したくは無かった。だが家族が生きる為には必要だったんだ!」

 

目の前にいる男性は涙を浮かべながら訴え、二人に頭を何度も下げる。

それは自分が息子を手放した罪を悔いているのだろうか。

 

「今何処に私の息子がいるか分からない。もしかしたら死んでいるかもしれない。だが君達があの日、勲章を授与したのは私の息子の事のように喜んだ。君達は我々の息子だ。」

 

五十嵐はその男性を見て複雑な心境に置かれた。

“母親”、いや首相は自分を捨てた時同じ心境だったのか。

 

「そんなわけがない...」

 

だったらなぜ戦争に送り込んだ。

この国の最高指導者なら戦争を辞めさせ、すぐに開放させることが出来たはず。

しかし首相は戦争に送り込み、人を殺させた。

子供達の頭上にナパームを投下した日、俺は人間を辞めさせられた。

戦う兵器として生かされた。

するとカレイの煮付け定食が運ばれ、三人の前に並んだ。

 

「蘭ちゃん、この三人の勘定を代わりに俺が払うわ。」

 

「いいんですか!?」

 

織斑と五反田が立ち上がる。

 

「いいよ、二人の息子とその友人だと思えば。遠慮せずに食べなさい。」

 

「すみません、こんなにしてもらって...」

 

男性は店内にあるテレビを見る。

そこには漆原首相が映り、『徴用兵解散』というテロップが映し出されていた。

 

「首相は徴用兵制度廃止を争点に衆議院解散した。右派の馬鹿共は離脱して国民党を結成、だが漆原首相を始めとする社会国民党は野党と手を組んで選挙に挑む。数的にも圧勝は間違いない。」

 

嬉しそうに話す男性の話で今の情勢が分かった。

母親は摂取されていた人々を味方につけてこの制度を壊そうとしている。

だが精神を病み、血で染まった俺達に帰る場所はあるのだろうか。

あの戦場で死んだ戦友達を差し置いて。

 

「もう時間だ、仕事に戻らないと。」

 

男性は五十嵐達三人分と一緒に会計する。

 

「じゃあ元気でな!」

 

そう言って男性は店を出て行った。

自分達は何気も無い会話をしながら食事をした。

二十分程食べ終わると三人は店を出て帰路就く。

 

 

 

 

「俺は一旦駐屯地に戻る。先に寮に戻れ。」

 

「わかった、また後でな。」

 

五十嵐と五反田は、織斑を正門前まで見送ると駐屯地に引き返した。

緑生い茂る並木の下を歩いていると五反田が話し掛けてきた。

 

「なあ、裕也。」

 

「なんだ?」

 

「俺...前にあの店に行ったような記憶があるんだ。」

 

「そうなのか?」

 

五反田があの店で落ち着きが無かったの思い出した。

 

「ああ...雰囲気も内装も匂いも懐かしく思うんだ。あと...」

 

「あと?」

 

「あの蘭という子に覚えがあるんだ。」

 




第三十話目です。

しかし人間の心情面を描こうというのは難しい。
この回の書き方もあんまり上手く出来たと思えない。
一番難しいのは恋愛の部分を書くことですかね。
昔書いていた時に一番苦労した部分ですね。
経験した事も無いのに書くと想像力で補うが、その部分が一番難しい。

ではまた今度。


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第三十一話 転校生

《シュウター!車列を攻撃しろ!》

 

五十嵐大尉は機首を車列に向け、使用武器をクラスター爆弾に選択する。

韓国軍の車列はF/A-3A“流星”が迫って来るのに気づき、兵士達が降りて各々の小火器で応戦する。

だが高速で飛び去るジェット戦闘機に豆鉄砲の弾では落とせない。

 

「投下!」

 

クラスター爆弾は投下されると、空中で破裂して子弾をばら撒く。

子弾は車列の周囲で一斉に爆発を起こしてトラックが横転する。

横転したトラックから多くの人間が飛び出して蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。

 

《シュウター!逃げる兵士を殺せ!》

 

「了...」

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)”の入った五十嵐の目は捉えた。

そこには兵士と違う服を着て、子供や老人・女性が逃げ惑っていた。

 

「あれは民間人です!」

 

五十嵐の攻撃したのは避難民を乗せた車列であった。

攻撃中止を求めるが、上官は聞き入れず攻撃を命じる。

 

《いいか!お前の任務は日本のために目の前にいる“敵”を全員殺すことだ!》

 

「...了解。」

 

旋回を終えると逃げ惑う人々に照準を合わせ、使用火器を機関砲に変える。

そして発射ボタンを押した。

 

 

 

「ウワァァァァ!」

 

五十嵐は起き上がると、状況を掴めず辺りを見回す。

自分はベットに起き、この部屋はIS学園一年生用の寮。

 

「またか...」

 

クラス対抗戦時の襲撃時件以来、あの戦場での出来事が悪夢としてよみがえる。

時間は午前四時、授業が始まる八時半まで時間はある。

寝ている間に噴き出た冷や汗をシャワーで流し、新たに送られた報告書を読みながら9mm拳銃の整備をする。

 

「三人目の男性IS操縦者か...」

 

 

 

HRが始まると副担任の山田真耶先生から転校生二名の話が切り出される。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

クラスにいる女子達は驚き、転校生について色めき立った。

教室のドアが開き、シャルル・デュノアともう一人、銀髪で黒い眼帯を左目にしている女性。

歩き方と身に纏う雰囲気で彼女が軍人、しかも我々徴用兵と同じような人間だと悟った。

そして戦艦大和のように対空火器が大量に並べられたように警戒感を周囲に撒き散らす。

五十嵐は危険だと直感で感じると腰に手をやり9mm拳銃の安全装置を解除する。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」

 

礼儀正しい立ち振る舞いと中性的な顔立ちにクラスの女子は一斉に歓声を上げる。

デュノア自身女子達の熱気に驚かされる。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

副担任が場を収めると忘れかけていた軍人だと思われる転校生の哨戒に移る。

 

「・・・・・・・・。」

 

だが黙って腕を組み、このクラスにいる生徒をくだらなそうに見ている。

織斑先生が自己紹介するように言った。

 

「・・・・・・挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「はい、教官。」

 

するとドイツ連邦軍の敬礼をする。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ。」

 

織斑先生は昔ドイツ連邦軍の顧問として現地に飛んだことがあるらしい。

その時の教え子なのだろうと推測した。

 

「了解しました。」

 

ラウラと呼ばれた彼女は自己紹介に移る。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒはただ自らの名を言うと口を閉ざした。

 

「あ、あの、以上ですか。」

 

「以上だ。」

 

山田先生は出来る限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、帰ってきたのは通信の終わりを示す言葉だった。

すると一夏とボーデヴィッヒの目が合うと一夏に向かって歩き出した。

 

「貴様が!」

 

席から飛び出す、そしてボーデヴィッヒは手を振り上げ、一気に降ろす。

五十嵐は織斑の頬に当たる瞬間に手首をつかみ捻る。

 

「うっ!...何するんだ!」

 

五十嵐はボーデヴィッヒを冷徹な目で睨む。

 

「日本国国防海軍大尉五十嵐裕也だ。織斑一夏の護衛任務を受けている。」

 

軍人に対して任務だと言えば引く。

彼女が織斑を殴るには五十嵐と一戦交えなければならない。

こいつを殴るのにそこまでの価値は無い、無駄な労力だ。

ボーデヴィッヒは腕を振りほどくと五十嵐を一瞥して自分の席に向かった。

転校生の突然の行動に教室には微妙な空気が流れていた。

 

「ゴホン!ではSHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グランドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

次の時間は実習で、ISスーツに着替えなくてはならない。

一夏が立ち上がると感謝の言葉を送った。

 

「いつもすまないな、裕也。」

 

「いつもの事だ、今度から対人格闘の訓練も必要だな。」

 

すると織斑先生から言い付けられる。

 

「おい織斑、五十嵐。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ。」

 

「了解。」

 

デュノアは初対面の織斑に挨拶するが、織斑は遮る。

 

「君が織斑君?初めまして。僕は・・・。」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから。」

 

織斑はデュノアの手を取るとそのまま教室を出る。

五十嵐は俊足を生かして先を走り、偵察を行う。

 

「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これからの実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ。」

 

「う、うん。」

 

デュノアは妙に落ち着かなそうにしている。

織斑は心配して声を掛ける。

 

「トイレか?」

 

「トイ・・・・っ違うよ!」

 

「そうか。それは何よりだ。」

 

すると先発する五十嵐が、廊下から迫る他クラスの女子達の波を捉える。

 

「織斑!早くしろ。包囲されるぞ。」

 

そして階段を下って一階からアリーナまで迂回することにした。

 

「ああっ!転校生発見!」

 

だが先回りされ尖兵に出会ってしまう。

 

「者ども出会え出会えい!」

 

ここは戦国時代なのか、とにかく迂回路を使いここは凌ぐしかない。

 

「こっちだ!」

 

五十嵐は誘導すると走り出し、一夏とデュノアも走る。

デュノアはこの状況が飲み込めずに一夏に聞く。

 

「な、なに?何でみんな騒いでいるの?」

 

「そりゃ男子が俺達だけだからだろ。」

 

だがデュノアは理解できずにいたが、これに関しては五十嵐も同じであった。

その間にも女子達は距離を詰める、五十嵐は腹を括り上着からあるものを取り出した。

筒状のそれは発煙手榴弾だった。

 

「ふたりとも次の角で飛び込め。」

 

そう言うと五十嵐はピンを歯で引き抜き、後ろに投げ込むと女子達の目の前に煙が焚かれる。

そこに突っ込んで煙を突き抜けるとその先には誰もいなかく、火災報知機が鳴り響きスプリンクラーが撒かれる。

なんとか更衣室に着くとすぐに着替え第二グランドに向かうが時既に遅かった。

腕を組んだ織斑先生が怒鳴ると織斑、五十嵐に出席簿による打撃が加えられる。

 

「五十嵐、いくら追っ手を撒くとは言え室内で発煙手榴弾を使うな。水浸しになったぞ。」

 

「以後気を付けます。」

 

「まあ各担任には厳しく言うようにした。後ろに並べ。」

 

お辞儀すると織斑と共に最後尾の列に並ぶ。

それから五十嵐は実習授業を受けるが、常にボーデヴィッヒに見られているのに気づいた。

 

 




第三十一話目です。

今回の話は旧・学園の守護者とあまり変わりません。
次話から新たな展開を入れ込もうと思います。

しかしISについての設定議論はすごいですね。
あそこまで考える人々がいるとは...

ではまた今度。

※誤字脱字を見つけた方は報告お願いします。


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第三十二話 警告

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。」

 

昼休み、五十嵐は中庭を歩くボーデヴィッヒを呼び止めた。

 

「なんだ、五十嵐大尉?」

 

「織斑一夏に対して敵対行動に出る理由と目的を教えていただきたい。」

 

彼女は踵を返して向かい合う。

 

「私の目的は織斑千冬“教官”を本国...ドイツ連邦軍に戻ってもらう為だ。」

 

「それはドイツの意向か?」

 

「いいや、黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)指揮官としての判断だ。」

 

独断専行、ボーデヴィッヒ少佐の行動はただこの一言に表せる。

 

「それは本当に黒ウサギ隊の為であるのか?ただ自分自身の満足の為ではないか?」

 

ドイツ連邦は日本との軍事協定を結んだ国家であり、軍事交流と共に情報も流れる。

元々徴用兵の教育制度はボーデヴィッヒを始めとする遺伝子強化試験体を教育するに当たっての経験をもとに作られた。

その為、彼女についても送られてきた詳細な資料で織斑先生に対する“信仰”があるのは分かっていた。

人体改造による弊害で能力が低下、部隊からは“失敗作”という評価を与えられ蔑まされた。

だが織斑先生の手で彼女は大きく能力を伸ばし、部隊内での評価が大きく上がった。

織斑に対して信仰心を抱くのも頷ける。

 

「第一、この学園に“教官”が教えに値する人間はいない。君も軍人なら分かるだろう、ここの生徒は意識が甘く・危機感に疎く・ISを何かのファッションかなにかと勘違いしている。そうじゃないか、“大尉”。」

 

五十嵐はこれには同意見であった。

今やISは女性達がこの国で権力を手に入れるためのただの道具。

だが持っている物は大量破壊兵器に等しい物、だが彼女達にとっては一種のステータスでしかない。

この兵器が及ぼす影響を知らずに乗りこなそうとしている。

あの白騎士事件があったのに関わらず。

 

「ああ、だが“少佐”。織斑一夏を攻撃する理由にはならない。」

 

「そうだな、織斑一夏は自らの失態で教官の偉業を果たすのを邪魔をした。そんな人間が“弟”であり“IS操縦者”であることが許せない!そして“弟”という存在が教官を拘束している!」

 

ボーデヴィッヒは怒りで段々と熱く語る。

 

「教官を解放するためにはどんな手段を使ってでも...」

 

「解放?聞いていると“少佐”は自己満足でしかない。そして『どんな手段を使ってでも』と言ったな。」

 

「ああ、そうだ。教官をドイツに戻す為にどんな手段でも。」

 

「“殺害”も含まれるか。」

 

「ああ。」

 

流れでボーデヴィッヒは答えた。

その言葉を聞いた瞬間五十嵐はボーデヴィッヒに一気に近づいた。

彼女も気付いてホルスターからP12拳銃を引き抜いたが、右腕を押さえられ腹部に9mm拳銃の銃口を押さえつけられる。

撃鉄を起こす音と服越しからも伝わる銃口の冷たさに内心だが恐怖を感じた。

 

「もし試合以外で織斑一夏に対して攻撃を仕掛けた際には容赦無く反撃を加えます。」

 

化石のように乾いた表情で感情のこもらない声はボーデヴィッヒには恐怖を与える警告になった。

 

「...わかった。」

 

ボーデヴィッヒは諦めると右腕をゆっくりと降ろして拳銃を仕舞う。

五十嵐も拳銃をホルスターに戻すと踵を返して去って行った。

 

「彼は拳銃を突き付けないと人と話せないのかなぁ。」

 

近くで見守っていた更識楯無は収まると、静かにその場を離れて行った。

その場に残されたボーデヴィッヒは拳銃を突き付けられ、五十嵐の顔を間近で見つめた時あることに気付いた。

 

「あの目はヴォーダン・オージェ(越界の瞳)を持った我々と同じ目をしている。」

 

 

 

 

その夜、五十嵐は寮の自室である場所に支給された携帯電話で電話をした。

備え付けの机の上にはある名刺が置かれ、そこに書かれた電話番号を押す。

耳に当て、呼び出し音を数回聞いた後で相手が出る。

 

《はい、総理大臣秘書官室です。》

 

「日本国防海軍大尉五十嵐裕也です。」

 

《少々お待ち下さい。》

 

電話が切り替わると、漆原首相が電話口に出た。

 

《裕也、どうかした?》

 

漆原首相は優しい口調で迎えたが、五十嵐は意に介さずに続ける。

 

「漆原“首相”に折り入って頼みがあります。」

 

《どんな事?》

 

「報告書で私を知っているのなら知っているでしょうが、日韓戦争で私の後席を勤めた五反田弾海軍大尉の家族について調べて欲しいのですが。」

 

《わかった、すぐに調べよう。》

 

「ありがとうございます、“首相”。では用件は済ませましたので。」

 

五十嵐は一方的に電話を切った。




第三十二話目です。

ここから数話は短く区切って投稿しようと思います。

五十嵐のお陰でオルコットと鳳は助かりましたね、ボーデヴィッヒにフルボッコにされずに。
他にオルコットと鳳を織斑が助けている間にボーデヴィッヒと五十嵐で一騎打ち。
そして仲裁に入った織斑先生が、興奮納まらない二人に素手での勝負を提案。
そして軍人同士の格闘戦とか考えてましたねえ。

ではまた今度。


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第三十三話 作戦

「おおおおっ!」

 

学年別トーナメントに近づいた土曜日の午後。

第三アリーナで織斑は零落百夜を纏わせた雪片弐型を構え、瞬間加速を用いてオルコットに突撃を仕掛ける。

だが直線的な機動は簡単に読まれ、回避されると背後からスターライトmkⅢの銃撃を受ける。

防御手段の無い白式は数発浴びせられシールドエネルギーを削られる。

 

「くそ...またやられたか...」

 

目の前にはデジタル表示の数値が“ゼロ”と表示されていた。

今日の模擬戦では零勝三敗の結果に終わっていた。

 

「...単純な動きだ。」

 

駐屯地から直接第三アリーナを訪れた五十嵐は偶然見掛け、一言呟いた。

空戦は常に敵機に自分達の攻撃を分からせないように戦う。

だが織斑の戦い方は簡単に読まれる。

ただ真っ直ぐ突っ込んで来るところに弾幕を張り、回避して背後に銃撃の繰り返し。

そして零落百夜と瞬間加速を多用する織斑はシールドエネルギーを使い切って自滅する。

銃を用いるISにとってはこれほど退屈な相手はいない。

 

「ええとね、一夏がオルコットさんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握して無いからだよ。」

 

デュノアは戻ってきた織斑にアドバイスを始める。

数日前から訓練に参加してから織斑の頼れる教官役となっている。

何回か五十嵐も見たが他で忙しく篠ノ之、オルコット、凰の三人が殆ど訓練を見ていたがどれも教官には向いていない。

篠ノ之はISについて無知に近く、凰は理論や知識より感覚で飛ばしている二人のアドバイスは曖昧。

一方オルコットは豊富な知識と経験を持ち合わせているが、それを織斑のような新人に詳しく説明しすぎて伝わらない。

だが五十嵐自身も人のことを言えなかった。

戦闘機パイロットとしての経験は多くあるが、“IS学園”での戦闘方法についてはアドバイスする経験を持ち合わせていない。

戦闘機や軍用ISの戦術は二人一組の編隊を組んだチームプレイだ。

一方IS学園でのISの戦い方は競技用の一対一の戦い、雪片しか持たない織斑の装備では精々回避し続けるしかないと五十嵐も考えアドバイスが出来なかった。

しかしデュノアは代表候補生で、アドバイスは相手に分かりやすく丁寧に教える。

これで織斑の教育はデュノア、戦術は五十嵐と役割分担が出来た。

アリーナの観客席に座るとタブレットPCを開いてボーデヴィッヒへの対策を考える。

彼女とは絶対に試合で方を付けると織斑は考えているので協力している。

戦闘訓練の映像を見ながら訓練時の映像を見比べる。

ドイツの第三世代IS“シュヴァルツェア・レーゲン(黒雨)”。

全距離に対応したISだが、大型レールカノンを除いた近接格闘戦の装備だ。

大型レールカノンはその火力で他の機体を援護、近接戦での敵機撃破をする戦い方なのだろうか。

 

「...これはなんだ?」

 

タブレットPCで流していた訓練映像を巻き戻し、見直す。

そこにはシュヴァルツェア・レーゲンに乗ったボーデヴィッヒが右手を突き出す。

発射された銃弾は右手に突き出した手前で空中停止し、右手を下げると地面に落ちた。

 

「これがアクティブ・イナーシャル・キャンセラー(慣性停止能力(AIC))...」

 

ISに搭載されているPICを応用したもので、対象を任意に停止させることが出来る。

しかしこの能力を使うには多量の集中力が必要のが弱点で多数の機体と戦うには不利だが、一対一の競技なら問題は無い。

零落百夜の能力ならこの盾を切り裂いて、続けて切り裂けばいいだろうと考えた。

だがこの考えは否定される。

 

「映像を見る限る、細かく調節が効くな。」

 

実体がある物なら動きを止める事ができる。

特に織斑のように剣術を使うと腕は縦や横に腕が一直線に動くので動きを読めれば交差するように展開すれば腕を拘束して、あとは砲撃を叩き込むかプラズマ手刀で切り刻めばいい。

どうするべきか、五十嵐は考え込むが一向に作戦が立てられない。

 

「もう一機あれば...」

 

「ならばタッグを組ませてやろう。」

 

五十嵐の呟きを聞き、織斑先生が背後から声を掛けた。

 

「これを下にいる織斑達に知らせろ。」

 

「わかりました。」

 

一枚のプリントを渡されると去って行き、プリントに書かれている内容を読んだ。

 

『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行うため、二人組みでの参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。』

 

「これなら勝機があるな。」

 

ボーデヴィッヒのAICは多数との戦闘に対応できない。

これなら織斑の白式の弱点をカバー出来る射撃火器を使うISを組ませることで解決できるだろう。

そして学年別、一年で専用機を持つものはボーデヴィッヒ以外に自分、オルコット、凰、デュノアの四人。

さらに射撃火器で中距離から遠距離で自分、オルコット、デュノアに限られる。

この三人の中なら全距離に対応できるデュノアが適任であろう。

問題はボーデヴィッヒとタッグを組むのは誰なのか。

『ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。』

という条件ならば今いる専用機持ちを全員ペアを組ませて、ボーデヴィッヒを一年の訓練機と組ませる。

そうなれば即座に訓練機を潰して一対二に追い込むことが可能だ。

ならば織斑とデュノアを組ませたように近距離&中・遠距離で組ませるとしたらオルコット又は自分と鳳で組ませよう。

さらに考えを纏めるとピットに戻ってきた五人に説明した。

 

「...という理由から織斑には全距離に対応出来るデュノアが適任であると考える。」

 

五十嵐の理に適った説明で最初は文句を言っていた女子三人は黙ってしまった。

 

「しかし卑怯じゃないか、ラウラを孤立させるとか...」

 

「そうじゃないと勝てる可能性は一切無いぞ、織斑。戦いとはどんな手を使っても勝つものだ。」

 

「そうか...俺はそれでいいぜ。」

 

織斑は渋々五十嵐の提案に従った。

 

「僕もいいよ。」

 

「ではすぐに申込用紙に書いてくれ。問題は我々だ。」

 

五十嵐、オルコット、凰の三人は円になり話し合う。

 

「五十嵐が勝つためにはボーデヴィッヒと専用機持ちを組ませたくは無い。協力して欲しい。」

 

オルコットと鳳は顔を見合わせるが、二人とも忌々しげな顔してそっぽを向く。

 

「わたくしは優勝を狙っているのです、二人で優勝となると...決定的ではありませんわ。」

 

「あたしだって優勝を狙っているし...あんたとじゃあ優勝は狙い無い。」

 

凰の言うように実習での連携は訓練でどうにかできるのか心配な程に連携は取れていない。

また何かの噂だが『優勝すれば織斑と交際できる』と。

どうのような意味か分からないが、女子生徒にとっては重要なものらしい。

目の前いにいるオルコットが心配しているのはそのことなのだろう。

学年別の為、学年別に優勝者が出る。

その中で専用機を持つ者は当然ながら訓練機とは比べ物にならないアドヴァンテージだ。

優勝となれば専用機持ちであるのは当然であるからこそ優勝を一人のものにしたいのだろう。

三人は考え込むと凰が答えを出した。

 

「わかったわよ。五十嵐、あたしと組みなさい。」

 

そうして五十嵐は凰とペアを組むことになった。

その後オルコットは同室のルームメイトと組むことで決着が付き、ボーデヴィッヒを孤立させる包囲網を完成させた。

 




第三十三話です。

なんとなく五十嵐の作戦は卑怯の一言が言えますね...

そう言えば詳しく知りたいのが新装版の白式の解説で《アサルトライフル『焔備(ほむらび)』》なるものが書かれているのですが、アサルトライフル装備できたんですか?

ではまた今度。


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第三十四話 発覚

夕食後、五十嵐は静かな寮の廊下を歩いていた。

ここ最近なぜか眠れず、おぼつかない足取りで夕食を早めに取ると自室に戻っていた。

すると突然角から手が伸び暗闇の引き込まれた。

 

「私だ。」

 

抵抗しようとしたが押さえ付けられ、顔を見ると更識生徒会長であった。

目の前に『謝意』と書かれた扇子を開いて微笑む。

五十嵐は呆れたような顔をする。

 

「それで生徒会長、何の用件でしょうか?」

 

「今、一夏くんと同室なのはシャルル・デュノアという子だよね?」

 

あれから候補生学校出身日本代表候補生の一斉退学で部屋が空いたのと、男女が同室のなのは黙認出来ないと教師から意見があった。

転校してきたデュノアが適任だとして部屋を変えた。

 

「はい。」

 

「なんでかなぁ~“女子”と同室するのかな。」

 

「...仰る意味が分かりません。」

 

生徒会長はなにを言っているんだ。

織斑と同室なのは“男子”のシャルル・デュノアのはずだが。

 

「そのまんまの意味よ。」

 

扇子を再度広げると『詐称』と書かれていた。

 

「シャルル・デュノアは“女”だったのよ。」

 

「...意味は分かりましたが現状が飲み込めません。」

 

この学園になぜ性別を詐称してまで入学するのか、しかも“男性”として。

フランス代表候補生という国を背負った立場で年齢詐称となれば大きく取り上げられ問題となるだろう。

なのになぜ送り込むのか。

 

「まあ詳しいところは君の同僚達が教えてくれると思う。学園内で日本政府の指示通りに動くのは君だけだから。」

 

「...わかりました。」

 

更識生徒会長と別れると顔を叩き、意識をハッキリさせると急いで自室に戻る。

充電器に繋いでいる携帯電話を確認すると不在着信履歴に小室准将の名前が入っていた。

 

「五十嵐です。」

 

《なぜすぐに出なかった!》

 

電話が繋がると准将の怒声が耳に響いた。

 

「...学内では自由時間以外使用禁止です。」

 

《...そうだったな。それより緊急事態だ。》

 

「なんでしょうか?」

 

緊急事態という言葉に五十嵐は身を引き締める。

 

《シャルルは女だ。》

 

准将の口から出たのは更識生徒会長の言う通りの話題だった。

 

《デュノア社は知っているな。》

 

「はい。フランスの大手企業で軍需産業の一翼を担っている企業ですね。」

 

《ああ、そうだ。学園に送られた資料ではシャルル・デュノアはその企業の親族の一人でテストパイロットとしか分からなかった。》

 

ベットに腰を下ろし話を聞く。

 

《政府は怪しんで少し探りを入れたらシャルルの幼少期について断片的に分かった。詳しく調査する為にフランスに飛んだ国防省情報局の職員がフランス国内で調査した結果...》

 

五十嵐は固唾を呑む。

 

《シャルルは社長と愛人との間で生まれた“娘”で、2年前に母親と死別した際にデュノア家に引き取られた事がわかった。》

 

「よくわかりましたね。」

 

《だがこの事実がわかるまでに二人の職員が“殺害”された。この情報は在仏日本大使館に逃げ込んだ職員が持ち帰った情報だ。》

 

准将は殺害という二文字を強調して言った。

 

「それは・・・・。」

 

《フランス国内で事実を知られたくない組織があるのかもしれない。》

 

それは新たな敵勢力の出現を示していると五十嵐は考えた。

 

《五十嵐大尉、聞いているか。》

 

「...はい、それで私はなにをすれば?」

 

《政府はシャルル本人に事情を追求し、場合によっては我が国への亡命を認めると。》

 

「亡命ですか?」

 

《ああ、政府の考えは分からないがこの事実を公表するつもりだ。》

 

五十嵐は准将からどのような文句で説得させるかを教えられた。

 

「わかりました、すぐに取り掛かります。」

 

電話を切るとホルスターにある9mm拳銃に触れる。

なぜか一瞬「銃を取りたくない」という考えが頭を過ぎる。

「徴用兵に課せられた義務をこなさなければならない。」と言い聞かせてホルスターから引き抜く。

スライドを少し引いて銃弾が装填されているのを確認するとホルスターに戻して部屋を出る。

織斑の部屋の前に来ると五十嵐はドアをノックせずに開けて入る。

そこには一夏と男装をしていないシャルルがいた。

 

「五十嵐。これはな・・・・。」

 

織斑は驚くもすぐにデュノアを庇い前に塞がる。

 

「わかっている。デュノアが女ということは。」

 

「何で知ってるんだ?」

 

「国防軍の情報力を侮るな。私はデュノアに聞かなければならない事がある。」

 

五十嵐は織斑を避けるとデュノアの前に立つ。

 

「性別を詐称し、学園に入学した理由と目的を答えろ。」

 

デュノアは目の前に立つ五十嵐の気迫に押され、淡々と喋り始めようとした時だった。

 

「一夏さん、いらっしゃいます?夕食をまだ取られてないようですけど、体の具合でも悪いのですか?」

 

ドアのノックが部屋に響き渡り、オルコットの声が外から聞こえた。

具合が悪いように演演じろと指示をし、織斑にはオルコットに対応するように指示した。

織斑がドアを開きオルコットといくつか言葉を交わすとオルコットは俺にも声を掛けた。

そしてオルコットに腕を引っ張られて一夏は部屋を出た。

 

「デュノア、もういいぞ。」

 

デュノアは起き上がりベットに座る。

備え付けられている椅子を引張り、彼女の目の前に座ると事情を聞く。

 

「実を言うと実家の方から...父から直接命令されてこの学園に来た。日本で現れた特異ケースと接触し可能であればその使用機体と本人のデータを取ることだったの。」

 

「実家と言うのはフランスの大企業デュノア社の事か?」

 

黙って彼女は頷く。

 

「デュノア社か...しかし大企業が男装している事がバレるリスクを背負って送り込んだ?」

 

「今デュノア社は深刻な経営危機に陥っているの。兵器関連もそうだけどラファール・リヴァイヴ以降の第三世代ISの開発が難航している。イギリスやドイツと対抗出来る第三世代ISを開発できないと競合している企業に顧客を取られるかもしれない。しかも手広く広げた事業がだんだん上手く行かなくて赤字を出すようになった。援助資金でなんとか凌いでいたけど次のトライヤルで選ばれなかったら全面カットされてデュノア社は倒産するかもしれない。そのために資金を募るための広告塔の役割もあったし、特に実戦配備間近の裕也君の紫電は参考になるデータだった。その為には女子より男性のほうが近づきやすいと考えて、男性として送り込まれたんだ。」

 

この話でデュノア社の目的が分かった。

デュノア社が生き残る為には、第三世代ISの開発競争で一番進んでいる日本の紫電の技術を盗み取るしかない。

また男性がISを操縦できる方法が分かれば新たな革新的技術を得ることが出来る。

五十嵐は准将から頼まれた日本政府の提案をする。

 

「それでだ、お前は特記事項第二十一で三年間保護できる。」

 

「分かってる、一夏から聞いた。」

 

「その後をどうする。」

 

デュノアは顔を背ける。

 

「わからない、でも本国に帰れば牢獄かな...」

 

「我々日本政府はお前の亡命を受け入れることが可能だ。」

 

「えっ!」

 

突然の事にデュノアは驚き、面食らってぽかんとする。

 

「亡命すれば、ここを卒業した後も日本政府の庇護のもとで日本で生活が出来るする。またIS操縦者として研究所のテストパイロットなどに採用してもいい。」

 

「それはすぐにできるの?」

 

「そうだ、日本政府は準備が出来ている。あとは君が決めるだけだ。」

 

「・・・・・考えてみるよ。ありがとう五十嵐。」

 

デュノアは頭を下げる。

 

「ただ任務の一環で日本政府の提案を伝えたまでだ。」

 

五十嵐はそう言って部屋を出た。




第三十四話目です。

急ぎ足な感じで話を進めていますので、文字数が三千近くなる...
しかしこれからを考えると五十嵐が本当に大変なほどに戦闘ばかりになるかもしれない...

とうとう三日後、卒業式になりました。
昨日、アークⅢという非常食と卒業アルバム・記念品を渡されて帰りました。
このアークⅢと卒業アルバムは本当に重くて、鞄の一部が裂けてしまいました。
おかげで帰った後、足と腕が筋肉痛で肩が痛いです。

ではまた今度。


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第三十五話 射殺許可

学年別トーナメント当日を迎えた。

前回の襲撃を踏まえ、この日は各国の政府関係者等が観戦に訪れる為に警備が強化された。

島内の空き地にはPAC-3と03式中距離地対空誘導弾が配備され、海上には二隻の秋月型防空駆逐艦が配備され空からの襲撃に備えていた。

またIS教導隊が羽田空港・入間基地・横田基地に第二・五世代IS『烈風改』が分散して配備されていた。

五十嵐と凰ペアは織斑&デュノア対ボーデヴィッヒ&篠ノ之の試合の次が出番である為にピット内で待機していた。

 

「裕也、どっちが勝つと思う?」

 

凰はピット内にある備え付け液晶テレビを見上げながら五十嵐に問いかけた。

 

「織斑&シャルルのペアが必ず勝つ。」

 

「なんでそう思うのよ?」

 

「『僚機を失った者は戦術的に負けている。個人技ではなくチームプレイの重要さを語っている。』」

 

凰は五十嵐が常識のように語った格言を分からず、首を傾げる。

彼女が怪訝な顔をしているのを見て五十嵐は付け加える。

 

「ドイツの撃墜王エーリッヒ・ハルトマンの言葉だ。織斑&デュノアは何日も訓練を重ねて上手く連携が取れる。一方ボーデヴィッヒ&篠ノ之は今日突然組まされたペアだ、連携を取ることは出来ない上に俺の作戦通りの環境だ。それにボーデヴィッヒは機体の特性と性格から最初から篠ノ之をいない事にして戦うだろう。」

 

そしてブザーと共に試合が始まる。

織斑は開始直後ボーデヴィッヒに突撃するが、手前でAICで止められてしまう。

 

「なによ、あいつ!開始早々捕らえられているじゃない!」

 

「いや、あれは罠だ。」

 

デュノアは織斑の後方から頭の上を飛び越えてアサルトカノンでラウラの大型レールカノンの砲弾を逸らす。

ボーデヴィッヒが後退するとシャルルは即座にアサルトライフルに換え追撃。

そこに篠ノ之が突撃してくるがボーデヴィッヒのAICから開放された織斑が瞬間加速でデュノアの背中に。

そしてデュノアが宙返りしてお互いの場所を入れ替えるという機動を行なった。

 

「訓練した甲斐があったな。」

 

篠ノ之の一撃を雪片弐型で受け止めると、織斑の背後に控えていたデュノアがショットガンを向ける。

至近距離から散弾を避けることは出来ない、五十嵐はそう思った時ボーデヴィッヒは予想外の行動に出る。

篠ノ之の脚にワイヤーブレードを巻きつけると、遠心力で投げ飛ばした。

それは味方を助ける訳ではなく、ただ織斑を攻撃するのに邪魔だったので“排除”したに過ぎなかった。

 

「あいつ、箒を!」

 

凰は威嚇する犬のように口元を歪ませて怒りを露にしていた。

ボーデヴィッヒの行動は編隊行動とは程遠く、ただ自分勝手に戦っていた。

 

「軍人とは思えない戦い方だ。」

 

すると織斑とデュノアは一瞬目を合わせると分かれた。

織斑がボーデヴィッヒの猛攻を一人耐える中でデュノアは篠ノ之を追撃する。

その行動は篠ノ之を先に倒して、二対一に持ち込む作戦だと直感的に伝わった。

五十嵐の読み通りにボーデヴィッヒは孤立すると二人は猛攻を加える。

ボーデヴィッヒは一人果敢に互角に戦うがとうとう終わりが近づいた。

織斑は零落百夜を発言させると切り掛かるがAICで止められる。

しかしAICは対象物に集中せねばならず、その隙を零距離からデュノアの銃撃で大型レールカノンは破壊される。

 

「マランの空戦十則の三。常に周囲を警戒せよ。特に後方に注意。」

 

AICの呪縛を逃れた織斑は零落百夜を纏った雪片弐型で再度切り掛かる。

だが刃先から光が消失した、織斑はエネルギーを使い切ってしまった。

ボーデヴィッヒはすぐに織斑を攻撃するが、デュノアの援護に邪魔され目標を瀕死の織斑からデュノアに変えた。

デュノアもボーデヴィッヒの猛攻に苦戦するが織斑の銃撃で戦況は変わる。

ボーデヴィッヒの間合いに入ったデュノアは第二世代最強の装備“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”別名“盾殺し(シールド・ピアース)の連続砲撃でボーデヴィッヒのISは強制解除の兆候を見せた。

 

「やった!」

 

凰がガッツポーズをするが、事態はボーデヴィッヒの絶叫で急変した。

シュヴァルツェア・レーゲンは激しい電撃を放ち近くにいたデュノアの体を吹き飛ばした。

装甲の表面が溶けたチョコレートのようにドロドロと流れ、その液体はボーデヴィッヒの体を包み変形をした。

 

「裕也!」

 

凰はテレビ画面に注視していると五十嵐は紫電を展開と同時にリミッターを解除する。

アリーナーに出るピットの縁に立つと10式55口径120mm狙撃銃を展開させ、薬室に特殊貫通炸裂弾を装填する。

 

「こちらシュウター!緊急事態発生!」

 

紫電の頭部に載せられた小型カメラを中継して入間基地に指揮所を置く佐々木大佐のもとに映像が送られる。

 

《シュウター、あれはVTシステム(ヴァルキリー・トレース・システム)と呼ばれる条約で現在どの国家・組織・企業においても研究、開発、使用全てが禁止されている代物だ。》

 

シュヴァルツェア・レーゲンは形を変え、その姿は一種のISを模り手に持つ刀は織斑の白式唯一の武器“雪片弐型”と酷似する。

謎のISは織斑の雪片弐型を弾いて、切り掛かる。

 

《各基地から烈風改六機が支援に向かっているが、現在学園から支援要請は無い。学園指揮下で対応しろ。以上。》

 

「了解。」

 

五十嵐は照準器の十字レクティルの中心に謎のISの胴体を狙う。

薬室に装填した特殊貫通炸裂弾なら一発で搭乗者を仕留める威力を持つ。

即座にこの緊急事態を収拾するには射殺しかない。

 

「こちら五十嵐。織斑先生、ボーデヴィッヒの射殺許可を要請します。」

 

オープンチャンネルで織斑先生に要請する。

篠ノ之に押さえられた織斑がそれを聞いて割り込む。

 

《なにを言っているんだ、五十嵐!同級生を殺すなんて!》

 

「俺はお前を護衛する任務がある。任務を遂行する上で最適な手段を選んだまでだ。」

 

《ふざけるな!お前はただ人を殺したいだけじゃないのか!》

 

織斑は信ずるものを犯されたのか遠くにいる五十嵐を睨みつける。

 

「狙撃の邪魔だ、織斑。お前がいる意味は無い、退避しろ。」

 

《あるさ!あれは千冬姉の紛い物だ!》

 

「だからなんだ?」

 

《千冬姉だけのものを奪って気に入らない!わけわからない力に振り回されているラウラも気に入らない!...俺は真剣を初めて持った時に人を殺す武器の重さを知った。その重さを知らずに振る剣はただの暴力だ!》

 

織斑の言葉に五十嵐は一言言った。

 

「...なにを言っているんだ。」

 

五十嵐は銃口を構えながら織斑に語る。

 

「俺が構えている銃は引き金を引くだけでボーデヴィッヒを殺せる。同じように戦闘機の操縦桿にあるボタンひとつで多くの人を殺せる、その時何を感じると思う。」

 

《...なんだ。》

 

「何も感じない。ただ命令通りに人を殺すだけ、重さも何も無い。」

 

初めて民間人を殺したときは感じるものがあった。

だが戦場で戦っているうちに日常になり、いつもの風景として脳内の記憶が処理する。

あの時を除いて。

 

《織斑だ、この事態に教師部隊が対応する。五十嵐はその場で別命あるまで待機。》

 

「了解。」

 

織斑先生の指示を聞くと織斑に命じる。

 

「お前の機体はもう動かない。あとは教師部隊に任せろ。」

 

だが織斑は五十嵐の指示を聞かず、ただ立ち止まる。

 

《五十嵐、俺はあいつを殴りたいんだ。他の誰がやるとか、知らない。大体ここで引いたら俺じゃない。》

 

「いい加減にしろ、戦闘の邪魔だ。お前のISはもう動か」

 

《無いなら他から持ってくればいい。でしょ?一夏。》

 

電撃から立ち直ったデュノアが織斑の横に来てケーブルを伸ばす。

コア・バイパス、軍用ISならば必ず搭載される装備で他の機体へのエネルギーを供給できる。

なにをするのか五十嵐はすぐに察しがついて呆れる。

 

「勝手にしろ。」

 

五十嵐はそれを見てそう言った。

白式にエネルギーがすべて供給され、織斑は部分展開で武器と右腕だけ展開する。

零落白夜を発動し、ラウラのISが刀を振り下ろすがそれを避け一気に切りつけた。

切りつけられたところからラウラが出てきたのを一夏が抱きかかえた。

これで今回の試合は終わりだ。

 

 

 

 

五十嵐は一人、寮の自室に戻ると丁度携帯電話が鳴った。

 

《裕也、亡命の件で話があるの。》

 

電話を出るとそれはデュノアからだった。

 

《あとで第三校舎の裏に来て。》

 

そして電話が切れ、五十嵐は急いで第三校舎の裏にある庭園に足を踏み入れた。

 

「止まって。」

 

背後から声が聞こえ、後ろを振り返るとベレッタM92Fのフランス・ライセンス版“PA―MAS G1”を構えたデュノアがいた。

 

「ごめんね、裕也。銃を捨てて、こっちに蹴って。」

 

デュノアは涙を薄っすらと浮かべながら声を震わせて言った。

五十嵐は黙って拳銃を地面に置くとデュノアに向けて蹴った。

 

「どういう事だ、デュノア。」

 

睨み付ける五十嵐に背後から爆発音が響き、聞こえた。

それは駐屯地からだった。




第三十五話目です。

三日前に無事に卒業しました、あと一ヶ月で大学の入学式。
案外すぐですね、時が立つのは早い。

前に感想で『更識楯無の喋り方がおかしい』とありましたが、何処を直せばいいか悩んでます。
織斑一夏に対しての喋り方ではなく、轡木十蔵に対する喋り方のほうがこの作品では多いと思います。
関係的には一夏に対しては友人(恋愛対象?)ですが、五十嵐とは上官・部下のような関係ですからこの喋り方が妥当だと思います。
もしアドバイスがあれば教えてください。

あと遮断シールドとはなんですかね?
あのエネルギーがISコア以外であれば艦艇の載せて対空対艦防御につかえるのかな?
ふと思った疑問。

ではまた今度。


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第三十六話 裏切り者

「なにがどうなっているか、早く報告を上げろ!」

 

駐屯地の地下にある学園警備総隊本部指揮所では、小室准将が周りの兵士に怒声を上げた。

陽が落ちると港湾部・研究所地域の爆破と共に島内各所で武装勢力が現われた。

現状は駐屯地を包囲され、駐屯地内にいた部隊が応戦している。

 

「学園には状況を伝えたか!」

 

「はい!向こうは生徒の避難を行っています!」

 

通信兵が答える。

同時に爆音と共に天井の埃が落ち、床が揺れる。

どうも敵は対戦車ロケットまたは迫撃砲を持っているかもしれない。

 

「報告!」

 

指揮所に転がるように入った来た五反田大尉が小室准将のもとへ来て報告する。

 

「包囲している武装勢力は100名以上!武器は小銃・汎用機関銃・対戦車ロケット等!」

 

「港湾部・研究所地域で孤立している第三警備隊と救援に向かった第二警備隊。それに国家親衛隊の報告を合わせると200名近く...」

 

しかも重武装の兵士。

この島に入るにはふたつの橋にある検問を潜らなければならない。

そこでは車体全体を検査するⅩ線検査や身分証明の提出等、アメリカの国境検問所を参考にして作られた検問所だ。

そこをすり抜けられるのはIS学園生徒・外交特権を持つ外交官・学園へのIS又は装備運搬中の輸送車輌ぐらいだ。

 

「司令、発言よろしいですか?」

 

「ん?いいぞ。」

 

五反田大尉は気付いた事を小室准将に伝えた。

 

「正門のところに築いた土嚢まで行きましたが、敵の動きは訓練されたか戦場に行った経験がある者の動きです。少数でありながら動きには無駄がありません。」

 

「だろうな。」

 

司令は知っていたかのように答えた。

各部隊の位置が書かれた地図を指しながら五反田大尉に説明した。

 

「敵は各部隊を学園に向かわせないように足止めしているだけだ。じきに学園を警備している第四警備隊から」

 

「報告!学園正門詰所に襲撃、第四警備隊が応戦中!」

 

「一刻も早く包囲を突破し、学園に向かわせなければならない。問題は五十嵐大尉と連絡が途絶えたままだ。」

 

 

 

 

「何のつもりだ、デュノア?」

 

五十嵐はデュノアに銃を向けられ、指示された通りに西側にある人気の無い倉庫群まで歩かされた。

止まるように指示されると振り返って、デュノアと面を向かって話す。

島の東側にある駐屯地や港湾部から聞こえる銃声と爆発音は遠くに聞こえ、西側は暗闇と静粛に包まれ街灯が点々と道を照らす。

 

「ごめんね、裕也。」

 

「謝るくらいなら銃を捨てろ。」

 

「それは出来ない。」

 

彼女は目に涙を浮かべながら、首を横に振る。

なにを思って泣いているのか、五十嵐は分からない。

この行為に至った理由をデュノアに聞く。

 

「なぜこのようなことをする?」

 

「学年別トーナメント前に手紙が来たんだ、父から。内容は『最後のチャンスをやる。』って書いてあって裕也と紫電を確保してフランスに持ち帰ったら家族の一員として認めるって、今頃だけど。」

 

二年前に母親が死んでデュノア家に引き取られたが、愛人の娘にである為に家族の中に入れなかった。

そのデュノアの父親は娘をいいように自分の駒として使う。

俺の母親と同じだ、と五十嵐は思った。

 

「でも一夏と裕也がここに居場所を作ってくれた、だから断った。私は日本に亡命するって、でもそれじゃあ父は引いてくれなかった。今度は一夏を人質に脅したんだ。」

 

「なに!?」

 

五十嵐は驚きを隠せず、仮面のような顔を壊した。

 

「裕也でも驚く時は驚くんだね。」

 

その表情を意外と思いデュノアの口元がほころぶ。

 

「IS学園教員の中に所謂スパイがいるんだ、高橋先生ていう英語の教師。もし裏切ったら一夏を殺すって脅された。それで協力するしかなくて、今日の学年別トーナメントで来たフランス大使に付き添っていた武官から拳銃を渡された。」

 

彼女もといフランスとデュノア社の目的は俺の体と紫電。

これらは日本の国防に関わる重要な技術でもある、渡すわけにも行かない。

なんとしてでもここを切り抜けたいが、最終手段として自殺することだ。

紫電には心肺停止が確認すれば自壊する機能が組み込まれている。

そうすれば日本の国防に影響は最小限に済むだろう。

 

「デュノア。」

 

「なに?」

 

「俺を撃て。」

 

五十嵐の言葉にデュノアの表情は固まる。

 

「裕也...なに言ってるの?」

 

「いいから俺を撃て!撃ってくれ!」

 

「そこまでだ君達。」

 

すると倉庫の陰から黒い覆面と迷彩服をした男が現われた。

100連ドラムマガジンにM203グレネードランチャーを装着したM4A1を構えていた。

 

「フランス海軍の海軍コマンド『コマンドー・トレペル』のロベール中尉だ。」

 

英語で自己紹介しながらヘルメットを脱ぎ覆面を脱ぐと白人の男性であった。

見渡すと彼の部下が周囲に展開している。

 

「君がユウヤ・イガラシ、『ISキラー』か。」

 

「ISを撃墜したのは確かだ。自己紹介するとは大胆だな。」

 

「君はすぐにフランスに来てもらうからな。腕を後ろに回せ。」

 

五十嵐は指示通りに腕を回すと両手首に金属製の手錠が掛けられる。

ロベール中尉は五十嵐を傍に寄せるとデュノアに銃を渡すように求める。

 

「デュノアさん、もう終わりました。部下に拳銃を渡してください。」

 

デュノアは傍に寄って来た隊員に拳銃を渡す。

するとロベール中尉はレッグホルスターから拳銃を引き抜きデュノアに向ける。

彼女の顔は恐怖で引きつる。

 

「...僕を殺すの?」

 

「我が祖国には裏切り者は必要ない。」

 

向けられた拳銃の撃鉄が起こされ、引き金がゆっくりと絞られる。

デュノアは覚悟を決め、目を閉じる。

 

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

そして人気の無い倉庫群の間に銃声が轟く。




第三十六話目です。

評価欄で『五反田の性格が違う。』と書かれました、反省してます。
残念ながらあのままの性格で五反田が過ごしてしまうと徴用兵不適合で臓器提供者にされてしまいますので、大幅に変えて五十嵐の頼れるパートナーの役に徹してもらっています。

あと今回、五十嵐の回収にフランスの海軍コマンドを選んだのは適役だと思ったので。
フランス軍の特殊部隊には第1海兵歩兵落下傘連隊・第13竜騎兵落下傘連隊・海軍コマンド・空軍第10落下傘コマンドー・空軍特殊作戦団・国家憲兵隊治安介入部隊・国家憲兵隊空挺介入中隊・第11落下傘旅団落下傘コマンドーグループ/潜入情報行動コマンドー - 11BP GCP/CRAPなどありますが、これらの中で今回の任務に最適なのは海軍コマンドだと思いました。
外人部隊は取り上げて見たいと思いましたが、精鋭部隊であり特殊部隊ではないので適役では無いと判断しました。
また別で取り上げようと思います。

では、また今度。


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第三十七話 後衛

「え...」

 

デュノアは銃声は聞こえてから何も起きないので目を開けた。

その先にいる五十嵐の顔には血がベッタリと塗られていた。

ロベール中尉の手は真っ赤に染まり、地面には血溜まりに拳銃が落ちていた。

 

「きゃ!」

 

すると五十嵐はロベール中尉の腹を肘で殴りつけるとデュノアに突っ込む。

デュノアは五十嵐に肩で押されながら走らされる。

 

「撃て!」

 

海軍コマンドの隊員達が一斉に銃撃する中、五十嵐は体でデュノアを角に倒した。

 

「大丈夫か?すぐに手錠を外す。」

 

そこにはM4A1カービンを構えたボーデヴィッヒがいた。

そばには流血した隊員の姿があった。

M4A1の銃撃で手錠を破壊させてもらうと五十嵐は一喝する。

 

「なぜお前がいる!」

 

ボーデヴィッヒは角から銃撃しながら答える。

 

「二人が外に出るのを見かけた。雰囲気がいつもと違うから追ってみただけだ。」

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「お前が私の体の心配か?私も軍人だ、これぐらい大丈夫だ。」

 

ボーデヴィッヒは今まで見せなかった微笑で返した。

 

「とにかくデュノア、ボーデヴィッヒと一緒に織斑を助けに行け!」

 

「私の嫁がどうした?」

 

五十嵐とデュノアはボーデヴィッヒが言った言葉に気付かずに事の顛末を話した。

 

「それはヤバイな。すぐに行きたいがマズルフラッシュからして十人以上はいるぞ。」

 

「ここは俺が食い止める。二人は織斑を守れ。」

 

五十嵐は死んだ隊員から手榴弾と弾倉を引き抜きながら答えた。

デュノアは五十嵐の肩が撃ち抜かれているのに気付いて制服の一部を切り裂いて傷口に当てた。

痛みに顔を歪ませる五十嵐にボーデヴィッヒは決定を決めた。

 

「わかった、五十嵐。後衛を任せる。」

 

ボーデヴィッヒはM4A1カービンを五十嵐に渡した。

 

「これを織斑先生に渡してくれ。」

 

交換に五十嵐はボーデヴィッヒに認識票を渡した。

 

「これは...」

 

同じ軍人であるボーデヴィッヒには死を覚悟した行為に捉えられた。

彼女の表情に五十嵐は察しがついて、説明した。

 

「それは認識表に模した紫電の待機形態だ。本物はもう一枚ある。」

 

「そうか、ならいいんだ。生きて帰ってくれ。」

 

「善処する。俺が合図したらデュノアを先に飛び出して逃げろ。」

 

デュノアから拝借した手鏡で角を見ると二人の兵士がこちらに近づいている。

五十嵐は確実に殺せる距離まで誘き寄せると合図した。

 

「今だ!」

 

飛び出したデュノアに二人の隊員が視線を逸らすと銃口を向けて顔面に銃撃する。

三点バーストで即座に一人の隊員の顔を破壊する。

次に飛び出したボーデヴィッヒはP12でもう一人の隊員を銃撃しながら去った。

五十嵐はM4A1カービンの銃身の下にあるM203グレネードランチャーで威嚇に撃ち込む。

この角にいることを示して、ここに引き付ける。

フランス兵の任務は俺を持ち帰ることなら、ボーデヴィッヒやデュノアではなく俺を狙うだろう。

十分間、この時間があれば二人は学園まで逃げれるだろう。

再度身を乗り出すと多方向から銃撃を浴びせれ、倉庫の外壁や地面のコンクリートの破片が五十嵐を傷つける。

 

「くそ、ここじゃあ十分も持たない。」

 

五十嵐は近くの倉庫に目を付けると最後のグレネードランチャーを撃ち込む

ドアを吹き飛ばすと一気に走り込む。

相手は銃撃してくるがどれもわざと外しながら銃撃してくる。

だが一発の銃弾が左足を撃ち抜いて倉庫に辿り着く前に倒れる。

左足は使えず右足で立つが右足も撃ち抜かれる。

匍匐前進で必死に倉庫に入るが、その間にも左腕もやられる。

脂汗を制服に滲ませながら奥まで行くと、壁にもたれ掛けた。

体をぶつけて前にある箱を倒させて、箱の上に銃身を載せる。

丁度良くドアから月明かりが入り、人が入ったらシルエットを目標に撃てる場所だった。

 

「面倒な場所に入られたな。」

 

右手を失ったロベール中尉はそれを見て困った顔をした。

 

「俺達の装備では壁を壊して側面から襲うことは出来ない。」

 

「どうします。」

 

隊員が聞いてくると指示を出した。

 

「しょうがない、正面から行くしかない。」

 

五十嵐は銃を構えて敵が来るのをじっと持つ。

体に出来た切り傷や銃創から血が流れるのを感じる。

座った場所は一面に血の海が出来て、制服が濡れて不快に感じる。

意識が遠のきながらも必死に繋ぎとめていると、ドアから何かが投げ込まれる。

焦点が合うとそれが手榴弾であることがわかって、急いで伏せる。

炸裂すると眩い光と爆音が倉庫に響き渡り、一時的に聴力を失う。

だが敵が来ているのは明白だった。

起き上がると痛みを抑えながら左手で銃身を必死に押さえて銃弾をばら撒く。

100連ドラムマガジンが空になるとM4A1を捨て、PAMAS-G1に持ち替えて銃口を向ける。

目の前にはフランス兵が倒れていた。

その先にも一人が倒れ、二人を殺したのだろうと思った。

 

「ユウヤ!これ以上の戦闘は無意味だ、こちらに投降しろ!」

 

外からロベール中尉の声が聞こえる。

俺を説得しに来たのだろう、手段を失って。

 

「お前は祖国の為に必死に戦った兵士であるが、祖国はそれを称えず虐げた!」

 

ロベール中尉の言葉はその通りだろう。

だが。

 

「そんな国を捨て、新たな土地で新たな人生は始めようとは思わないか!?」

 

五十嵐は残った力を振り絞ってロベール中尉に言い放った。

 

「日本国軍人は裏切らん!」

 

ロベール中尉は五十嵐の絶対的な意思に屈した。

彼を説得することは出来ない、ならば強硬手段に出るしかない。

 

「しょうがない、総員」

 

《駐屯部隊がこちらに向かってきています!》

 

無線に道を監視していた隊員からの連絡が入る。

 

「時間切れか、遺体を回収して撤退する。」

 

隊員達はすぐさま回収出来る死体を集めて海辺に隠していたゴムボートに乗ると東京湾の海に消えた。

 

「五十嵐大尉!」

 

機動戦闘車を先頭に行軍する兵士達の列にいる五反田が叫ぶ。

するとドアを激しく破壊された倉庫の前に来る。

三人の兵士を引き連れて中に入ると、ライトの光の先に二体の死体が転がっていた。

その先をライトで照らすと五反田は息を呑んだ。

全身血まみれになった五十嵐の姿が現われ、目を閉じてその場に伏していた。

 

「五十嵐!」

 

五反田は駆け寄ると絶句する。

白い制服は全身が血で染まり、地面は大量の血で海が出来ていた。

すぐに衛生兵を呼び寄せ、五十嵐はすぐに同行していた救急車で1トン半救急車で運ばれた。

翌日、夜が明けると共に政府は発表がなされた。

IS学園の島内でのテロの死傷者は国防軍・国家親衛隊200名、民間人30名に収まった。

一方テロ行為を行った外国人は200人死亡、逮捕50名になった。

日本政府は国防省情報局と公安警察それに更識楯無の情報をもとにフランス政府の仕業だと発表した。

現場に残された死体、逮捕された外国人は多くが黒人でありフランスに関連する民間軍事会社に雇われた民間人達でアフリカの内戦で経験を培った人達であった。

またに二名のフランス兵の遺体を調べ、調査した情報を照らし合わせてフランス軍人であることを証明した。

同時にシャルル・デュノアはデュノア社の社長の指示をすべて暴露した。

その上で日本国に亡命を申請した。

一方学園側は織斑一夏殺害未遂で高橋先生を追放と検査結果を改竄した容疑で二名の教師が追放と同時に警察に逮捕された。

一連の騒動にフランス政府は関与を否定すると思われたが、逆に認めた上で発表した。

 

『日本政府の非合法な手段により誘拐された我が国の優秀なパイロットであるシャルル・デュノアは洗脳か拷問により強制的に女性であると言わされ、亡命を認めさせられた。我々は日本政府に対して秘密裏に解放を求めたものの日本政府は拒否した。フランス政府は彼を奪還する為にフランス海軍の海軍コマンドの出動を命じた。勇敢なる海軍コマンドは日本軍の軍事施設を攻撃した。しかし奪還に失敗したが日本軍に大きな損害を与えた。我が国は再度IS操縦者の返還を強く求め、平和的な解決を求める。もしこれを蹴った場合、様々な制裁と実力行使を行う。』

 




第三十七話目です。

次はフランス政府の登場ですかね?

ではまた今度。


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第三十八話 野望

フランス、パリにある共和国大統領官邸エリゼ宮殿。

その執務室ではフランス共和国第五共和政第七代大統領ダニエル・モルカドはソファに座っていた。

彼は“共和国戦線”という極右政党の党首であり、白騎士事件後の移民による暴動などが頻発する中で票を伸ばして当選した。

 

「まさかジャック・デュノアがあんなことをするとはな。」

 

「ですが我々の計画には丁度良いマッチポンプになりました。」

 

対面するアルフレッド・アラゴン統合参謀総長は笑みを浮かべながら話す。

 

「そうだな。それで彼はどうする?」

 

「ジャック・デュノアは娘を奪われた父親を演じてもらいます。」

 

「そうだな。お陰で二区にある日本人街が襲撃を受けている。いい気味だ。」

 

デュノア事件はフランス国内で野蛮な日本の横暴として報道され、フランス国民は民族主義に即発された。

パリの二区では日本人狩りが起き、日本大使館は連日包囲されていた。

大統領は立ち上がると執務室の壁に貼られた巨大な地図を見上げながら話す。

 

「世界の再建、西洋を中心とした世界支配を取り戻す。我々“世界再建委員会”の目的だ。第二次世界大戦後米ソ冷戦を経てアメリカ・EUを中心とした世界構築を行った。しかし東洋の黄色い猿共が我々の世界を破壊した。」

 

「白騎士事件。覚えていますよ。」

 

「そうだったな、あの時、国連軍フランス艦隊指揮官は君だったな。」

 

統合参謀総長は目を閉じて思い出しながら語った。

 

「はい。あの日、旗艦“カサール”の艦橋から米海軍の“キティホーク”が撃沈するのを見た時はひとつの時代が終わったと思いました。」

 

 

 

十一年前の太平洋、グアム沖。

旗艦カサール級駆逐艦“カサール”に乗る当時中将だったアラゴン統合参謀総長は艦隊を率いて未知の兵器『白騎士』に向かって行った。

 

「何が起きているんだ...」

 

アラゴン中将は目の前に広がる光景に絶句した。

そこにいるはずの米海軍第七艦隊は存在せず、海には油と米海軍兵士の死体などが浮かぶ中を“カサール”は進んでいた。

 

「司令官!米海軍“キティホーク”の艦尾が見えます!」

 

「なに!」

 

水兵が指差す先にアメリカの力の象徴“キティホーク”の艦尾だけが海面から見えていた。

 

「敵機、左舷方向から接近!」

 

左舷側にいた駆逐艦“フォルバン”とフリゲート“ゲプラット”が100mm艦砲と20mm機関砲で弾幕を張るが、“白騎士”は砲弾をすべて回避し、“フォルバン”の後部甲板を刀みたいな物で切り付けた。

するとヘリコプター甲板を貫通し、機関室のガスタービンを真っ二つに切ってしまった。

“フォルバン”は一拍子おいて機関部から火の手が上がり爆沈した。

そして後方にいた“ゲプラット”に飛び、大型荷電粒子砲を発射した。

“ケプラット”は艦上構造物は一瞬にして融解し、残った構造物は赤々と溶けてしまった。

熱で弾薬庫の砲弾やミサイルが誘爆を起こして真っ二つに船体が折れる。

この出来事はアラゴン中将の目の前で一瞬にして起こった。

 

「なんなんだ、あの兵器は!」

 

なす術も無く撃沈された怒りで壁を殴る。

 

「“フォルバン”並びに“ゲプラット”が撃沈!」

 

「敵機がこっちに向かってきます!」

 

水兵達が悲痛の叫びを上げる。

 

「なんとしてでも落とせ!」

 

そして“白騎士”は“カサール”の対空射撃を掻い潜り一気に近づく。

100mm艦砲の砲身を叩き切り、20mm単装機関砲を切る。

アラゴン中将はその時、艦橋から“白騎士”の操縦者が見えた。

顔はバイザーらしき物で隠されていたが、一つだけわかったことは女だったことだけ。

“白騎士”は大型荷電粒子砲を出し、砲口が光った。

アラゴン中将はそこで気を失ってしまい、起きたのは救命ボートの上だった。

だが周りの惨状を見て絶句した。

すべての艦艇が沈没していた。

 

 

 

 

統合参謀長は目を開けた。

大統領は白騎士事件後の世界を思い出しながら語る。

 

「ああ、あの日から世界は崩れた。アメリカの衰退、地域紛争の激化、移民の大量流入、移民による大規模暴動に独立騒ぎ、EU崩壊とあの兵器は我々の世界を引っ掻き回した。そしてその兵器を作り、世界の覇権を狙う日本には制裁が必要だった。」

 

「それがアラスカ条約ですか。」

 

「そうだ。日本にISを独り占めさせず、力を削ぐ為に条約を作ったのだ。」

 

「あの律儀な日本は従順に従い、最新技術を自ら教えてくれる。お陰で苦労せずに我がフランスは第三世代IS“グロワール”は極秘裏に開発を進めることが出来ました。実戦配備にはもう少し時間が掛かりますが。」

 

それを聞くと大統領は上機嫌な表情で笑みを浮かべる。

 

「計画には残念ながらISが必要だ。だが米国からそれは供給される。」

 

「はい。」

 

「しかし、イギリス・ドイツ連中の馬鹿共はこの計画の偉大さに気が付かない。」

 

呆れたような顔で大統領は言った。

話を戻して計画の進捗状況を聞く。

 

「海軍は準備しているのか?」

 

「将兵には大規模な演習だと通達しています。抜かりはありません。」

 

「そうか。先日アメリカのターナー大統領と会談で計画の承認を得た、あとは何時動くかだ。」

 

すると統合参謀総長の携帯電話が鳴る。

 

「出ていいぞ。」

 

「失礼します、大統領。」

 

統合参謀総長はいくつか言葉を交わすと携帯電話を閉じて大統領に報告した。

 

「ハワイでアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代ISが暴走した模様です。」

 

 




第三十八話目です。

フランス第三世代IS“グロワール”の登場。
しかし作者自身、その兵器の装備・性能を思いつかない!
紫電と被っちゃう!ワンオフアビリティーはなに!

なにかいい案は無いですか?

ではまた今度。


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第三十九話 異変

病室のドアを叩く音が聞こえた。

その音に病床に横たわっていた五十嵐は驚き、近くに置いていた9mm拳銃を手に取った。

銃口をドアに向けるが、その手は震えていた。

 

「私だ、裕也。」

 

「...ドアは開いている。」

 

その声はボーデヴィッヒであり、彼女は病室にあるパイプ椅子を広げて病床の傍に座った。

彼女の目はベットの上にある9mm拳銃に向けられた。

 

「なぜ拳銃を持っているんだ?」

 

「.............」

 

五十嵐は手に持つ9mm拳銃をぼーっと見つめるが、なにも言わなかった。

 

「まあ、いい。私はこれから臨海学校に行く。」

 

「...そうか...俺の代わりに生徒達の護衛を頼む。」

 

「国防軍の護衛もある、安心していいだろう。」

 

「そうか...」

 

五十嵐の言葉は一切の抑揚がなく、俯いて視線は定かではなかった。

感情を見せないのは普段の事ではあったが、ボーデヴィッヒの目からは異常に思えた。

さらに最近は五十嵐の行動には不可解な部分があった。

五反田や軍関係者との面会を拒否、言葉数の激減。

襲撃時に受けた外傷とは関係が無いと思われるが、報告書作成中に吐き気を催す。

検診に来た医師・看護師を見た際に鬼の形相で奇声を発しながら襲い掛かる。

今日のように拳銃を常に手に持ちながらの会話など以前にはない行動がある。

ボーデヴィッヒは戦友として心配になり五十嵐に時間ギリギリまで付き添うが、その間会話は無かった。

 

「時間だ、私は行く。」

 

「.......」

 

ボーデヴィッヒはドアを閉める時に振り返って五十嵐を見るが、ただぼーっと前を見ていた。

急いで最後に輸送バスに乗る。

 

「遅れてすみません、織斑先生。」

 

いつもの出席簿アタックを食らうと隣席に座るように言われる。

本当なら織斑の隣席を望んだがすでにシャルロット・デュノアが押さえ、その他も近くに座っていた為今から座るにも座る場所が無かった。

それに恩師でもある教官の指示に従わなければならない。

 

「...わかりました。」

 

隣に座る。

それから輸送バスは出発するが、島外に出るまで会話は無かった。

先頭を国防軍の高機動車・機動戦闘車に先導されながら車列は臨海学校に向かう。

 

「ボーデヴィッヒ、五十嵐の様子はどうだった?」

 

島外に出て一時間後、車内が生徒達の喧騒に包まれると織斑先生は切り出した。

 

「...彼は落ち込んでいる...と言えば語弊がありますが襲撃前とは明らかに違います。」

 

「弟や篠ノ之から見たら何時もの五十嵐だが、どうも以前とは違う。」

 

「もしかして彼は...」

 

すると織斑先生は革の鞄からひとつの書類を出して、ボーデヴィッヒに渡した。

 

「これは...」

 

「国防海軍大尉五十嵐裕也の公開されていない内容も含めた戦歴だ。」

 

「いいのですか!これは国家機密です、一介の生徒に見せるのは...」

 

織斑先生は大声を出さぬように口に人差し指を当てる。

すぐに声を抑える、近くに二人いた生徒が気付いて振り返るがすぐに楽しい会話に戻った。

 

「わかっている。しかし五十嵐を分かる事が出来るのは同じ軍人であるお前しかいない。」

 

ボーデヴィッヒは織斑先生の考えを分かるとひとつ質問した。

 

「なぜ織斑先生は裕也の為にここまでするのですか?」

 

織斑先生はボーデヴィッヒから顔を逸らし、車窓から見える海を見ながら答えた。

 

「五十嵐をここまでした責任は私にある...こんな世界にした私に...」

 

太腿に置いた右手を強く握り締める。

ボーデヴィッヒはISを駆ってモンド・グロッソに優勝した行為などが影響して彼等徴用兵を生み出したと言いたいのだと思った。

 

「先生はISに乗ってただ大会で優勝しただけです。こんな世界になったのは白騎士のせいです、先生ではありません。」

 

「...とにかく到着までにその書類に目を通しておけ。到着したら私に返却しろ。」

 

「はい。」

 

ボーデヴィッヒはすぐに書類に目を通した。

五十嵐大尉の関わった戦争犯罪を知ることになった。

その後、バスは予定地に到着して一日目は何事も無く終了したが、翌日に事件は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

―ハワイ沖-

 

 

 

 

 

 

 

「キャプテン、試験機が一分後に試験空域に入ります。」

 

「わかった。全艦に達する、これより“シルバリオ・ゴスペル”の迎撃試験を行う。」

 

アメリカ海軍太平洋艦隊アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦“マスティン”の戦闘指揮所。

新型ISの迎撃能力を測る為に“マスティン”から艦対空ミサイルを発射、ISが迎撃する実験だった。

この試験により装備の不具合を実戦に近い状態で確認するのが今回の目的だった。

ついでに駆逐艦の対空戦闘訓練も兼ねて行う。

 

「砲雷長、対空戦闘用意!」

 

「了解、対空戦闘用意!」

 

砲雷長の復唱と共にサイレンが艦内に響き、水兵達が艦内を急いで駆け抜け水密扉を閉じる。

 

「目標探知!数1、距離120マイル、速力640ノット!」

 

「高速で近づいてくるか...ESSM(発展型シースパロー)発射用意。射程内に入り次第迎撃する。」

 

そして“シルバリオ・ゴスペル”が射程内に入ると迎撃を命じた。

 

「ESSM、発射始め!サルボー!」

 

前甲板のMk41VLSから四発のESSMが発射される。

レーダー上には目標に高速で進む四つの光点。

その四つの光点は予定通りに目標に迎撃された。

 

「いつになったらISに命中弾得られるんでしょうね。」

 

あるレーダー員がぼやきを漏らす。

だが砲雷長はレーダー画面に映る目標の異変気付いた。

 

「ISが急降下しているぞ!」

 

「通信士!ISに連絡できるか!」

 

艦長はすぐに通信士に無線を繋げるように命じるが、通信士は首を振った。

 

「駄目です、応答ありません!」

 

「故障か?すぐに司令部に通信を繋げろ!」

 

「砲雷長、ISの降下が止まり水平飛行に移りました。」

 

艦長の他、戦闘指揮所にいた乗組員は胸を撫で下ろす。

 

「驚かすな~、後でISパイロットに文句言ってやろう。」

 

砲雷長に艦長が冗談を言うと通信士が報告する。

 

「艦長、依然ISからの通信がありません。」

 

「目標、高速で本艦に近づく。」

 

「そんなストーリーか?」

 

予定とは違うISの動きに艦長は首を傾げる。

 

「我が艦の近接防空戦闘を見たいのでしょうか?」

 

「それだったら臨むところだ。さらにESSMを撃ち込め。」

 

「了解、ESSM発射。5インチ単装砲並びにCIWSスタンバイ。」

 

さらにVLSからESSMが数発発射されるが、何時もの通り迎撃される。

 

《目標を目視にて確認、急速に近づく!》

 

「5インチ単装砲、撃て!」

 

砲雷長の指示で5インチ単装砲の砲撃が加えられ、ISの周囲で炸裂する。

だがISはそれでも止まらず、砲撃を掻い潜って近づくと白い光を放った。

艦橋にいる乗組員がマイクに必死に叫ぶ。

 

《ISから攻撃!攻撃!》

 

「なに!?」

 

「レーダーに感あり!三発の光弾の発射を確認!」

 

「迎撃間に合いません!」

 

砲雷長やレーダー員の悲鳴に近い声を聞いて攻撃を受けていることを艦長は実感した。

 

「CIWSで迎撃しろ!」

 

「もう間に合いません!」

 

「総員衝撃に備え!」

 

艦長の叫びと同時に光弾は艦上構造物を完全に吹き飛ばし、燃える船体だけ残った。

“シルバリオ・ゴスペル”はアメリカ空軍の戦闘機を撃墜すると西へと飛び去った。

 

 

 

 

 

 

―IS学園医療局病室―

 

 

 

 

 

 

 

「裕也くん、大丈夫?」

 

更識楯無は笑顔で五十嵐の病室を訪れた。

HRが始まる前に見舞いに来たのであった。

 

「生徒会長...」

 

五十嵐は苦しそうに起き上がろうとするが止める。

 

「体を大事にしなさい、裕也くん。」

 

すると会長の携帯が鳴り、五十嵐に断ると振り返ってすぐに出た。

それは部下である更識家の諜報員からの電話であった。

 

「...なに。米軍の第三世代ISが暴走...臨海学校の上空に向かっている!」

 

五十嵐はそれを聞くと、自然と体が飛び上がり畳んでいた海軍士官服に着替える。

いくつか会長が言葉を交わしているうちに着替え終わり、9mm拳銃をホルスターに仕舞う。

 

「篠ノ之束が現われたと思ったら次にこれね。ありがとう...って裕也くん!」

 

五十嵐は撃たれた片足を引き摺りながらドアに向かう。

 

「まだ動いちゃダメって!」

 

更識楯無は五十嵐を止めようとする。

すると五十嵐は病室に怒声を響かせた。

 

「止めないで下さい!このままだと壊れそうなんです...戦わないと...」

 

会長はその言葉に驚いて口を開けてポカンとしている。

入学してから繰り返される悪夢や心理的・生理的苦痛などを忘れられるのは戦闘しかなかった。

そして前の戦闘ではなぜか分からないが、209高地で戦っていると思っていた。

ここ最近の悪夢や恐怖感に耐えることはもう出来なかった。

それなら戦闘で死んだほうがマシだ。

五十嵐はそのまま続ける。

 

「それに戦うことは私の義務ですから。」

 

そう言って五十嵐は病室を出た。

 




第三十九話目です。

場面が変わるところを変えてみましたがどうでしょう?

次でとうとう第四十話目になります。
急ぎ足な感じは否めませんが、大学が始まる前までには夏休み期間を終わらせたい...

あと最近で言えば親がバイトしてみたらと進められますね。
でも近くにバイトの募集がしていない悲劇、支給してくれる交通費では赤字です...


では、また今度。


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第四十話 敗北

・太平洋艦隊
白騎士事件以後の軍事費削減によりアメリカ海軍は艦隊を再編。
太平洋艦隊と大西洋艦隊のふたつに分けて運用。
各艦隊に原子力空母が三隻配備されている。

・F-6A“陣風”戦闘機
アメリカ空軍のF-22の日本版
空対空戦闘に特化、対IS戦闘機
第三世代ISと同程度の速度を備える

乗員: 1
全長: 20m
全高: 6m
翼幅: 15m
最大速度:マッハ2.5・ 3000km/h
巡航速度:マッハ1・ 1,200km/h
航続距離: 3000km
固定武装
五式多銃身20mm機関砲×2(弾数960発)
空対空戦闘時
九九式空対空誘導弾×8(胴体下ウェポンベイ)
四式空対空誘導弾×4(空気取り入れ口側面ウェポンベイ)





五十嵐を乗せIS学園駐屯地から飛び立ったUH―60JA“ブラックホーク”は研修先である花月荘の目の前にある砂浜に着陸する。

ヘリのダウンウオッシュが地面を激しく叩く中、キャビンから飛び出す。

 

「なんで来た、五十嵐大尉!」

 

降りると砂浜には増援として送られた国防軍IS教導隊の佐々木大佐が出迎えた。

織斑先生から連絡を受けて五十嵐の状態を知っていた。

 

「義務ですから!現状は...うっ!」

 

五十嵐は周囲を見渡した時、航空支援に向かった仁川上陸作戦の記憶が蘇った。

海の色は兵士達の流した血で真っ赤に染まり、砂浜には数え切れない兵士の屍が折り重ねるように倒れていた。

その中をただ立ち尽くしているような幻覚に襲われた。

 

「五十嵐大尉!」

 

佐々木大佐は五十嵐の体を揺らして意識を取り戻した。

 

「大丈夫です...現状は...」

 

「国防陸軍高射連隊が展開、海上は国防海軍第一艦隊、空軍は戦闘機での空中哨戒を行っている。我々は“烈風改”が六機三個小隊に君の試作IS“紫電”が一機だ。」

 

「とにかく私はIS学園所属なのでそこの建物に行きます。」

 

「一応言っておくが旅館だ。」

 

五十嵐は旅館に行くと教員に織斑先生は何処にいるか尋ねて場所を知ると真っ直ぐ行く。

近づくと織斑先生と織斑達の声に混じって聞き覚えの無い声が聞こえた。

 

「ちなみに“紅椿”の調整時間は七分あれば余裕だね★」

 

「よし。では本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は三十分後。」

 

「失礼します。」

 

障子を開けると一礼して入室した。

 

「裕也、なぜここにいる!」

 

彼の姿を見たボーデヴィッヒは机を叩いて五十嵐に大声を張る。

問われた五十嵐はボーデヴィッヒの言葉に耳を貸さず、目の前にいる奇妙な格好をした女性に視線を向けていた。

青と白のワンピースを着て、頭には奇妙な飾りをつけていた。

五十嵐は彼女の顔に見覚えがあった。

国際指名手配者であり、ISの産みの親であり、そして俺達徴用兵を生み出したキッカケを作った女性。

 

「篠ノ之束!」

 

五十嵐は目一杯怒声を聞かせると9mm拳銃を引き抜き銃弾を装填して銃口を向ける。

織斑達は五十嵐が怒声を響かせ怒り狂った犬のように歯を見せている姿を初めて見て驚く。

特に織斑一夏は二ヶ月以上共にすごした友人の一面を見て引いた。

いつも無表情で感情の無いような五十嵐が怒りを見せた時なのだと。

 

「よっ!」

 

銃口を向けられた篠ノ之束は臆せず、目にも止まらない拳銃に手を伸ばした。

 

「!?」

 

スライドを一気に押し戻すと装弾された銃弾を取り出す。

さらにマガジンキャッチを押し込まれ弾倉を落とされ、次にテイクダウンレバーを指先で押し込む。

篠ノ之束が手を離すとスライドは奪われ、銃身やリコイルスプリングを畳みの床に落とされる。

 

「私に銃口を向けるなんて1000年早いよ!」

 

五十嵐の持つ9mm拳銃は分解され、銃弾を撃つことはできなかった。

 

「くそ!」

 

しかし怒りを納めることは出来ず、篠ノ之束に拳銃を投げつけると殴り掛かった。

 

「ほい!」

 

五十嵐の拳は身軽の避けられ、背中にエルボーを加えられる。

殴られた衝撃で床に倒れて咳き込み、背中の銃創が開いて純白の海軍服に赤い染みが広がる。

 

「五十嵐、感情に任せて戦う事はお前のやり方じゃないだろう。冷静になれ、今やりやっている暇はない。」

 

「...はい。」

 

織斑先生は五十嵐に言い聞かせると篠ノ之束にも言い聞かせた。

 

「束、少しは話を聞いてやれ。お前のせいで」

 

「なにが?どうでもいいことに労力を使うことは嫌いなの。突然銃を向けるような人間は一杯いるけど、その人達の話を聞く広い心はこの束さまには備わってないの。っていうか誰だよコイツ。」

 

これを聞いた篠ノ之箒は姉である篠ノ之束に食って掛かる。

 

「裕也は姉さんのせいで人生を壊されたんだぞ!少しぐらい謝意の気持ちは無いのか!」

 

篠ノ之束は倒れている五十嵐を一瞥して言った。

 

「ああ、徴用兵っていう奴隷兵だっけ?まあ有史以来搾取される側なんて幾らでもいるし、人々が勝手に作って私の作ったISのせいじゃないから関係ないでしょ。じゃあ箒ちゃん、紅椿をセットアップしようか。」

 

篠ノ之束は持論を展開すると、篠ノ之箒は呆れて一言も言えなくなった

 

「後で行きます、さっさと出て行ってください。」

 

「はいはい~」

 

軽い足取りで篠ノ之束は作戦室を出て行った。

 

「手が空いている者はそれぞれ運搬など手伝える範囲で行動しろ。作戦要員はISの調整をしろ。もたもたするな!」

 

織斑先生は重い空気でどうすればいい分からない専用機持ちを追い出す。

 

「裕也、私の姉さんがお前の事を考えずに言った事を謝る。」

 

篠ノ之箒は留まって、山田先生に開いた銃創を縫ってもらっている五十嵐に深く謝った。

 

「...もういい。」

 

五十嵐はただそれだけしか言わず、顔を背けた。

それから三十分後、作戦開始時間になる。

作戦室で五十嵐はヘッドセットを付けて、山田先生と共に並べられたコンソールに座る空軍のレーダー操作員と共にレーダー画面を覗く。

そこには海上に展開する防空駆逐艦並びに近隣のレーダーサイトから送られて来る情報を統合した画面だ。

 

「こちらIS学園特設作戦室、エルボー1応答せよ。」

 

《こちらエルボー1、どうぞ。》

 

“シルバリオ・ゴスペル”の後方から監視する百里から飛び上がったF-6A“陣風”ステルス戦闘機と連絡を取る。

 

「目標に変わった動きは?」

 

《依然変わらずにマッハ1の巡航速度で作戦空域に向かっています。》

 

「予定時間に変わりなし...エルボー1・2御苦労、追跡を終了せよ。」

 

《了解、エルボー1。百里にRTB。》

 

レーダー上の光点から後方にいたふたつの光点が離れる。

 

「織斑先生、予定通りに目標は作戦空域に入ります。」

 

「わかった、五十嵐...では、はじめ!」

 

折り重なったふたつの光点が現われる。

尋常ではない速度で紅椿と白式は高度を上げているのが分かる。

光点の横に表示される速度を表すデジタル表示が忙しく変わる。

 

「三百...五百...高度六百、目標と同高度につけました。」

 

「接触まで十秒。」

 

レーダー員と山田先生がそれぞれ報告する。

そして三つの光点が重なり合う。

 

「目標と接触、戦闘開始。」

 

作戦室にいる面々はレーダー画面上で高機動戦闘を行う機体を静かに見続ける。

しかし接触してから数分が立つが決定打を得られないのか織斑は何度も切りかかる。

 

「このままだと白式のエネルギーがなくなりますよ。」

 

山田先生の言う通りだった、一撃必殺である零落百夜の多用した攻撃はエネルギーの大幅な浪費だ。

このまま使い続ければエネルギー切れを起こすだろう、それは篠ノ之の方も同じかも知らないが。

すると援護に回っていた篠ノ之の紅椿が右に回り込み、左に白式が入る。

挟み撃ちだ、これは絶対決まる。

そう思ったときレーダー上に何かが写る。

 

「これは...」

 

「船です...大きさからして漁船。」

 

五十嵐は織斑先生に伝えた。

 

「作戦区域に一隻船が進入しています。」

 

「なに!封鎖をしていたはずだ、なにをやっているんだ!」

 

どうやら学園の関係ではないらしい、なら不審船だ。

 

「すぐに近海にいる駆逐艦に連絡!拿捕させろ!」

 

「了解!」

 

「織斑くんが海面に降下します!」

 

連絡を命じると山田先生が叫び、画面に視線を戻す。

 

「なにやっているんだ!」

 

今度は白式は紅椿とシルバリオ・ゴスペルの間に入り、レーダー上から消失した。

 

《こちら駆逐艦“暁”。二機の学園所属ISが墜落、目標は健在。救援を求む。》

 

「了解...佐々木大佐、烈風改を出撃させてください!」

 

《了解、第二・五世代では目標の攻撃を逸らすのが限界だが善処する。》

 

「お願いします...」

 

織斑と篠ノ之の機体は撃墜され、シルバリオ・ゴスペルはレーダー画面から消えた。

その後、国防海軍のSH-60K“シーホーク”によって二人は救出された。

二人とも軽症で済んだが、織斑は受けたダメージにより意識不明。

作戦は失敗という結果に終わった。




第四十話目です。

連日、連投で話がサクサク進むが心配なのが誤字脱字。
一応確認してますが、自身が無い...

前に徴用兵が歌ってそうな曲としてバンドオブブラザーズに登場する「空挺部隊の歌」(http://www.youtube.com/watch?v=V2ka1BXNMw8)を紹介しました。
最近ですが軍歌や民謡を聞くのが趣味で調べていたら日本の軍歌で「戦友」(http://www.youtube.com/watch?v=gH9W0oVCjRA)が徴用兵の戦いを表しているに近いと思いました。
日露戦争中に作られた曲で戦友を失う兵士の哀愁を切々と歌い込む歌詞と曲で戦前の日本では知らない人がいないと言われるほど広まりまったらしいです。
動画には六番までですが全部で十四番まであります。
同じ朝鮮・満州の地で戦い、歌詞にあるとおり五十嵐にとっても戦友との永久の分かれになった戦場。

ちなみに私が“今”好きな軍歌は「我等がロンメル」
(http://www.youtube.com/watch?v=cXTaeaeywRE)ですね。
好きな軍歌が多くて気分によって変わりますから、好きなのは日によって変わります。

ではまた今度。



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第四十一話 涙

織斑一夏は旅館の一室のベットで横たわり、その傍らで篠ノ之箒が控えていた。

救出してから五時間以上、ISの操縦者絶対防御により昏睡状態にあった。

ボーデヴィッヒは凰が落ち込んだ篠ノ之を奮い立たせるのを襖の前で待っていた。

他にもオルコット・デュノアも控えていて、タイミングを計っている。

それは五名の専用機持ちによる復讐的な行動、織斑先生の命令を無視して“シルバリオ・ゴスペル”迎撃を企てた。

すると凰の言葉が篠ノ之の奮い立たせて、大声が聞こえた。

 

「場所ならわかるわ。今ラウラが・・・・」

 

凰の掛け声と同時に合わせて襖を開けて登場する。

 

「ここから30キロ離れた沖合い上空に目標を確認した。ステルスモードに入っているが光学迷彩は持っていないようだ。衛星の目視で発見したぞ。」

 

「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね。」

 

「ふん...。お前の方はどうなんだ。準備は出来ているのか?」

 

「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。シャルロットとセシリアの方こそどうなのよ。」

 

すると反対側の襖が開く

 

「たった今完了しましたわ。」

 

「準備オッケーだよ。いつでもいける。」

 

「で、あんたはどうするの?」

 

篠ノ之に全員の視線が集まる。

覚悟を決めると拳を握り締め、顔を上げた。

 

「戦う・・・戦って、勝つ!今度こそ負けはしない!」

 

「決まりね。」

 

全員の意思が固まり、作戦会議に移ろうとした。

ボーデヴィッヒは衛生写真を表示しようとタブレットPCを取り出して開いた。

 

「ん?」

 

衛生写真は自動的に更新されて、一番新しい写真に変えられた。

ボーデヴィッヒはそこに写る一点の黒点を見つけると拡大する。

 

「これは!?」

 

そこに写るのは一機の紫電、五十嵐裕也の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―二時間前/臨海学校警備指揮所・会議室―

 

 

 

 

 

 

 

《IS学園による迎撃作戦は失敗...ということでいいのね。》

 

「はい、首相。IS学園警備主任織斑千冬は作戦行動を行わないと判断しました。」

 

《と言われても現に日本国領空に何時間も他国のISが滞空しているのは容認できないわ。》

 

IS教導隊指揮官佐々木琴音大佐は多数の将校と共に日本国総理大臣漆原美由紀とテレビ会議を行っていた。

漆原首相は前回の選挙で大勝利して、野党と連立政権を組むことに成功した。

 

《国防軍には手立ては無いの?》

 

「我がIS教導隊が保有する第二・五世代IS“烈風改”では目標と戦う事は出来ません。開発中の第三世代ISの“紫電”一号機は飛行試験用で装備のインストーを行っていますが今日中に不可能。二号機の実戦投入用は乗員の心身の問題...五十嵐大尉の健康状態から不可能でこちらも乗員の選定と初期化・最適化に時間が。三号機に関しては企業の工場で組み立て中です。」

 

《つまり手は無いと?》

 

「五十嵐大尉が戦闘機でISを撃墜した例がありますが、相手はオリジナル・コアを使った機体です。研究の結果通常兵器による撃墜は理論上可能ですが、莫大な戦力と弾薬を消費することになります。」

 

漆原首相は画面越しに大きく溜息をつく。

この答えだと前政権の女性至上主義者のように徴用兵を“大量消費”して撃破する考えになる。

だが徴用兵の廃止を訴えている首相にとって絶対に取れない方法だった。

 

《それはもう学園に任せるしか無いという事か。》

 

「は」

 

「私を出撃させてください、首相。」

 

会議室に突然五十嵐大尉が乗り込んできた。

服装は軍服ではなく教導隊仕様のISスーツに着替えられていた。

 

「君!勝手に会議室に入るな!」

 

高射連隊長が五十嵐大尉を怒鳴りつける。

五十嵐大尉は怯まず実の母親が写るテレビ画面に向かって言った。

 

「日本国国防海軍大尉五十嵐裕也です。私は心身共に健康であり、出撃は可能です。」

 

「虚偽の報告をするな大尉。それにお前の体は戦闘に耐えられない。」

 

五十嵐の体は襲撃事件で幾つもの傷を負い、深い傷もあった。

それから一週間も経たず、傷は完全に塞がっておらず精神的な面でも無理があることは首相にも知らされていた。

 

《裕也、お前の体は癒えていない。それにお前を失うことは出来ない!》

 

貴重な男性IS乗りだからか?

どうせ物としか見てない母親だ、俺を失っても痛くも痒くも無いくせに。

俺を捨てた時のように。

 

「だが現に目標は領空に居座っている。もし国民に被害があったら」

 

《緊急!伊豆諸島新島がISの空襲を受け被害甚大!》

 

合わせるように目標は近くの島を攻撃して、判断の余裕を奪った。

 

「首相!今すぐ出撃を!」

 

五十嵐大尉は首相に進言する。

首相は出撃を命じなければならない状態に陥り、快諾すると思った。

 

《...わかった...出撃を許可しよう...》

 

五十嵐大尉は念願の出撃許可を得たが、画面に写る漆原首相の姿を見て驚いた。

伏せた顔からは大粒の涙を落として、嗚咽を漏らしているのが画面越しからわかった。

回れ右をして会議室を出ようとした時、首相、いや母親の声が聞こえた。

 

《生きて帰ってきて...》

 

五十嵐は一度立ち止まったが、すぐに歩き出して会議室を出た。




第四十一話目です。

連投で第四十二話をお送りします。


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第四十二話 シルバリオ・ゴスペル迎撃戦

・烈風改(2011年現在)
名称:烈風改
型式:烈風改(領収年号)(世代)(機種区分)001(製造番号)
世代:第二・五世代
国家:日本
分類:全距離対応万能型
装備:・十式小銃(銃剣付き)
   ・五式44口径76mm狙撃銃
   ・四式空対空誘導弾
   ・中距離多目的誘導弾
   ・十式チャフ&フレア発射機
   ・十式発煙弾発射装置
   ・五式火器管制レーダー
装甲: 反衝撃性硬化装甲
仕様: 高機動
概要
日本の量産型ISであり、シェアは世界第二位の“打鉄”の軍用版IS。
装備の搭載と高機動性の為に防御シールド高速修復を捨て、武装・高機動性を得た。
しかし幾度ものプログラムの更新や武器の更新などの改修を行ったが、第三世代ISの登場で高機動性のアドバンテージが失われた。

・拠点防衛型
装備:・GAU-8機関砲×4
   ・九三式近距離地対空誘導弾
   
概要
“クアッド・ガトリングパッケージ”を模倣・強化したパッケージ。
違いは30mm機関砲弾を使用している部分・地対空誘導弾の追加搭載・多少の移動可能。
名前の通り、重要拠点の防衛用に装備されるパッケージ。


―現在/太平洋・石廊崎から南に約40キロ洋上―

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は紫電を駆って、水面近くを高速で飛び続ける。

最後に報告された新島に向かって飛行すると、遠くから黒煙が上がっているのが見えた。

あの煙の下では多くの国民が殺されている、俺がもっと早く来れば抑えられたのかもしれない。

俺は徴用兵、親の欲の為に捨てられ国民の為に犠牲になるのが使命。

親の欲の為に捨てられ、それは本当なのかと疑問を抱く。

今まで見たことのない母親の涙、本当に欲の為に捨てたのか?

 

「うっ!」

 

考え込んでいると戦場の記憶を思い出して取り乱す。

戦闘に集中するんだ、五十嵐。

 

《シュウター、大丈夫か?》

 

機体をモニタリングしている佐々木大佐から通信が入る。

 

「...大丈夫です。」

 

《五十嵐!なにを勝手な行動をしている!》

 

通信に織斑先生の怒声が入ってくる。

 

「先生、私は自主的に軍務に復帰。条約違反ではありません。」

 

《違う!お前の体では戦闘は無理だ!》

 

怒っている理由は佐々木大佐と同じであった。

 

「先生、私は徴用兵です。国民の為に犠牲になるのが使命。戦闘空域に入るので無線封鎖を行います。」

 

五十嵐はISの通信機能を一切止める。

新島の隣にある地内島の陰に入り、禿げた山の上に陣取ると十式55口径120mm狙撃銃を展開させる。

照準器のレンズを通して目標の“シルバリオ・ゴスペル”に十字レクティルを合わせる。

名前の通り銀色の機体は赤々と燃える市街地の上空を滞空している。

特別な銃弾を入れた弾倉を挿入して、ボルトを引いて装弾するとすぐさま狙いを付けて銃撃する。

一発の銃弾は真っ直ぐと飛翔してシルバリオ・ゴスペルの背中に命中する。

目標は衝撃で体を仰け反るが、砲弾は爆発もせずに突き刺さっていた。

五十嵐は紫電を見せ付けるように飛行すると一気に加速して洋上に向かう。

 

《敵機確認。迎撃モードへ移行。“銀の鐘”シルバー・ベル、稼動開始。》

 

シルバリオ・ゴスペルは紫電を見つけると一直線に飛んでくる。

とにかく進み続けて、どの有人島からも離れている恩馳島に誘導する。

数分で到達すると恩馳島上空を飛び越え、シルバリオ・ゴスペルもそれに倣う。

 

《目標視認、防空戦闘開始!》

 

恩馳島から四つの火点から濃密な弾幕が形成され、シルバリオ・ゴスペルを阻む。

島には事前に国防陸軍のV-22J“オスプレイ”によって輸送された拠点防衛型烈風改が配置されていた。

拠点防衛型とはフランス第二世代IS“ラファール”のパッケージ“クアッドガトリングパッケージ”を参考として強化させた烈風改のパッケージである。

A-10攻撃機“サンダーボルトⅡ”に搭載されたGAU-8機関砲を四門搭載して濃密な弾幕と30mm機関砲弾の脅威的な威力をシルバリオ・ゴスペルに浴びせる。

また地対空誘導弾を備え、弾幕の中を縫ってシルバリオ・ゴスペルに襲い掛かる。

 

《第一艦隊旗艦“信濃”、艦対空誘導弾発射!》

 

近海に展開している艦隊から誘導弾による攻撃が行われる。

高いステルス性を誇るシルバリオ・ゴスペルだが、先程撃った“目標弾”により捉えられた。

電波を出して誘導弾を誘導する装置で、発射された誘導弾は次々と襲い掛かる。

五十嵐は十式多連装小型誘導弾発射機を全弾を発射すると島に着陸、立て続けに十式55口径120mm狙撃銃で狙撃する。

多方向からの銃弾・砲弾・誘導弾に包まれながらも、シルバリオ・ゴスペルは多方向推進装置の能力をすべて出し切って回避し続ける。

だが、多数の弾幕に命中弾が多く片翼が破損した。

 

《異物の付着を発見。》

 

するとシルバリオ・ゴスペルは目標弾の存在に気付いて、付着する部分の装甲をパージする。

ここから流れが変わった。

 

《敵機B~Eまで確認。優先順位をB~Eの撃破に変更。シルバー・ベル、最大稼動開始。》

 

艦隊からの誘導弾攻撃がなくなると島に展開する拠点防衛型烈風改に急襲する。

 

《くそ!》

 

弾幕を張り続けるが横方向に飛び続け、旋回速度が追いつけずに背後に回られる。

 

《ウワァァァ!》

 

背後から接近を許して、零距離からエネルギー弾を浴びせられる。

もともと“打鉄”の装甲を削って強力な武装と機動性を確保した機体。

防御拠点型にある増設された装甲も焼け石に水、瞬く間に引き裂かれ爆発する。

目標弾の装填に手間取っていた五十嵐の目の前にあるバイザーは一人の戦死を示した。

 

《こっちに来る!落ちて!》

 

一人の死で一人が混乱に陥る。

地を這うように移動して突然目の前に現われたシルバリオ・ゴスペルに無我夢中で銃弾を送る。

だが瞬時にシルバリオ・ゴスペルは真下に移動して、その先にいた同じ友軍機に命中する。

瞬時に穴だらけで大破してパイロットは機体を捨てて退避した。

 

《え!》

 

誤射した友軍機は辺りを見回すが姿が見えなかった。

 

《ん?》

 

すると周りが暗くなり、真上を見上げるとシルバリオ・ゴスペルの姿があった。

エネルギー弾の一斉射撃を受けて爆散した。

 

「退避しろ!」

 

《了解!》

 

最後の友軍機は装備をパージして上空に逃げようとしたが、自機を上回るスピードで追いつかれる。

そして強力な回し蹴りを喰らって地面に落とされるとそこにエネルギー弾を撃ちこまれ、戦死した。

残るは五十嵐大尉ただ一人のみとなった。

五十嵐は加速して島の上空から離れると海上で格闘戦に持ち込んだ。

訓練では出来た戦闘だが実戦で使うのは初めてであった。

十式25mm汎用機関銃を展開させると右に旋回する。

そして無反動旋回ゼロリアクト・ターンで正面を向き合うとシュウターフローで銃撃戦に持ち込む。

相手も乗って円軌道で射撃を行いながらも同時に回避も行う。

しかしこの戦技は射撃と高度なマニュアル機体制御を同時に行う為に、意識を両方に割いて戦闘を行う。

五十嵐の体は異常をきたしている中での戦闘は難しかったが必死に機体制御を行う。

またシルバリオ・ゴスペルを倒す為には25mm機銃弾では決定打に欠け、十式55口径120mm狙撃銃による銃撃が必要だった。

だが運用中に分かった欠点があり、長銃身の巨大な狙撃銃はとても速い戦闘では取り回しが聞かない事が判明した。

また狙撃するには射撃管制装置の補助があったとしても高速下では不可能に近かった。

この銃撃戦は増援の到着を待つ為の時間稼ぎに過ぎなかった。

五十嵐は必死に機体を制御して、シルバリオ・ゴスペルに銃弾を送り込む。

だがシルバリオ・ゴスペルのシルバー・ベルの36の砲門を使い分けて着弾修正しながら砲撃してくる。

少しずつ回避の空間を失い、とうとうエネルギー弾を数発、紫電に着弾した。

 

「グフッ!」

 

衝撃で銃創が開いて出血して、肋骨が何本かが折れた感触がした。

その間に直線飛行をしてしまい、さらに一斉射撃を浴びせられる。

 

《スラスター一番・四番損傷、戦闘飛行不可能》

 

《十式射撃指揮装置破損》

 

《十式多連装小型誘導弾発射機が危険温度に上昇、投棄します。》

 

《十式25mm汎用機関銃破損。》

 

機体から発せられる電子音声は叫ぶ、『戦えない』と。

だが五十嵐は戦いをやめない、戦いこそ自分が解放される場所。

そして望む死に。

 

「オリャァァァァアア!!」

 

《!?》

 

叫びながら十式55口径120mm狙撃銃を腰に抱えると瞬時加速で一気に突撃する。

シルバリオ・ゴスペルは予想外の攻撃に動きが止まった。

これなら行けると五十嵐は思った。

弾倉に入れられた特殊貫通炸裂弾を至近距離から撃ち込んだ。

五発の砲弾はシルバリオ・ゴスペルに命中して爆発して、機体は黒煙に包まれる。

一瞬撃破出来たのかと思ったが、そう甘くは無かった。

黒煙の中から幾つものエネルギー弾の連射が撃ち込まれ、機体は操縦者生命危険域を遥かに超えて紫電は強制解除された。

 

「こいつ!」

 

空中に投げ出された五十嵐はシルバリオ・ゴスペルへの闘志を捨てずにホルスターから9mm拳銃を抜いた。

だが銃口を向けた時、目の前に迫ったシルバリオ・ゴスペルは翼を羽ばたかせた。

翼の縁には磨かれた刃が付けられ、五十嵐の体は左脇腹から右胸のあたりにかけて一筋に切られた。

目の前に血が噴出して、五十嵐は自分が切られた事に気付いた。

入学式前の戦闘のように血を見て気付いたように。

五十嵐はそのまま海面に向けて落下した。




第四十二話目です。

今日は連投となりました。
第四十一話と第四十二話を一話として書いてましたが、途中で区切った方がいいと思い区切って二話に分けました。誤字脱字に気をつけてください(睡魔・一応確認した)。

そういえば先日、オーバーラップからIS9巻の発売が4月25日に発売の“予定”になりました。
この作品の予定では出来れば冬まで原作沿いで行き、その先は独自のストーリーにする予定です。

??「何が始まるんです?」

??「第三次世界大戦だ!」

...お楽しみに....


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第四十三話 介錯

海面を五機のISが白波を立てながらシルバリオ・ゴスペルに進む。

彼女達は焦っていた。

更新される衛星写真をバイザーで見る限り、国防軍の作戦は破綻。

五十嵐が一人で有人島から引き離して戦闘をしているが、彼が戦闘に耐えられない状態なのは彼女たちも知っていた。

 

《目標まで10キロ!》

 

ボーデヴィッヒは逐次距離を報告してくる。

 

「わかった...!?」

 

篠ノ之はハイパーセンサーで目標を拡大した時、海面に落下する人を捉えた。

 

「裕也!」

 

五十嵐を助ける為に“紅椿”の展開装甲のすべてを推進力に回す。

 

《シャルロットは箒の援護を!》

 

《うん、わかった!》

 

オルコット・ボーデヴィッヒ・凰が即座に攻撃を仕掛けて引き付ける。

その間に篠ノ之は落下してくる五十嵐の体を受け止めた。

 

「裕也!」

 

ISスーツは左脇腹から右胸にかけて切り裂かれ、一筋の刀傷から流血する。

また治り切っていなかった銃創が開いて、紅椿の装甲を濡らす。

入学式の日に襲われたときと同じように重症だった。

 

「お前はいつもこれだ...裕也。」

 

おもわず篠ノ之は呟く。

 

《箒!すぐに近くの艦艇まで運ぼうよ》

 

「わかった!」

 

デュノアの提案で、二人は出せる限りのスピードで国防海軍の艦艇に向かう。

国防海軍の艦隊の位置は常に知らされていた。

そこに行けば五十嵐の治療をする事が出来ると考えた。

猛スピードで艦隊に近づく。

輪形陣の外側を形成する駆逐艦に差し掛かると、艦から発光信号が送られる。

 

《『戦艦“信濃”に受け入れる用意あり』だって。》

 

「戦艦信濃に向かおう。」

 

艦隊の間を抜けて、輪形陣の中央にある巨大な戦艦を見つける。

担架などを持った数人の乗組員が待っている後部飛行甲板にアプローチしてゆっくりと着艦する。

 

「走れ!早く運ぶぞ!」

 

着艦すると控えていた水兵達が駆け寄ってくる。

 

「ん?」

 

五十嵐の手が篠ノ之の頬に触れた。

それはひどく冷たかった。

 

「篠ノ之...絶対に...倒せ...」

 

「わかった、もう喋るな。」

 

五十嵐を担架に移すとすぐにシルバリオ・ゴスペルの迎撃に飛び上がった。

医務室に運ばれる最中、五十嵐は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

―一年前/朝鮮半島・二〇九高地ー

 

 

 

 

 

 

 

韓国軍の総攻撃が始まって一週間が経った。

塹壕の周囲には日韓両軍の将兵の死体で埋まり、夏の暑さで死体はすぐに腐り死臭が立ち込める。

戦闘服を着た五十嵐大尉は戦闘の終わった塹壕を歩いていた。

この日の攻撃で第一線塹壕は突破され、塹壕内は両軍の兵士の死体で一杯になっていた。

死体を避けながら歩いていると突然右足首を掴まれた。

掴んだ兵士の姿を見て五十嵐は驚いた。

迫撃砲か手榴弾にやられたのか、右腕を残して左腕・両足を失っている。

それでも彼は生きていた。

 

「大尉...大尉...大尉...」

 

その兵士は呻くように五十嵐大尉に助けてもらえるよう懇願していた。

だが彼を助ける為の医薬品はとっくのとうに無くなり、どうすることも出来なかった。

無言で五十嵐大尉はホルスターから9mm拳銃を抜く。

このまま生かしていても苦しむだけだ、苦しみから解放するには介錯をするしかなかった。

しかし同じ徴用兵であり味方の兵士を殺すのは抵抗があった。

 

「すまない。」

 

五十嵐は顔を背けると引き金を引いた。

一発の乾いた銃声が陣地に響き、金色に輝く空薬莢が土の上に落ちる。

その兵士は頭を撃ち抜かれ、脳漿があたりに散らばった。

 

 

 

 

 

 

 

―現在/IS学園医療局病室―

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は目を覚ました。

あたりを見渡すと白い壁に白い床、そしてベットに薬品の匂い。

見覚えのあるIS学園医療局の病室だった。

室内は暗く、窓を見ると月が高く上がり真夜中であることが分かった。

あの戦闘で切られてからどのくらい寝ていたのかは分からない。

その間、あの戦争での酷い記憶を駆け巡った。

切られた上半身の痛みを堪えながら起き上がる。

近くにある机の上には制服と共にホルスターに収められた拳銃があった。

痛みを堪えて腕を伸ばしてそれを掴むと手元において眺める。

もうあの時の記憶を思い出すのはもう嫌であった。

突然現われて五十嵐を襲う。

そして眠らせもせず、ただ自分に恐怖感を与える。

もうそんな生活が嫌だった。

どうせ死ぬのなら。

 

「一発撃てば...楽になれるか。」

 

ホルスターから9mm拳銃を抜くと弾倉を抜く。

一杯に銃弾が装填されているのを確認すると、挿入してスライドを引いて装填する。

そして自らのこめかみに銃口を当て、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

 

 

 

銃声が医療局の建物全体に響いた。




第四十三話目です。

五十嵐裕也の異常とは。
そしてライトノベルではおなじみの夏休みイベント?
原作キャラが原作通りの事をする(予定)の中、五十嵐は苦難に立ち向かう。
そして漆原首相も変化する国際情勢に悩まされる。




昨日、高校の卒業生と集まって遠くの進路先に行く同級生を見送る目的で集まった。
久しぶりに集まった同級生とバイキングで食べながら楽しく過ごした。
最後に司会役の同級生が二次会について語ろうとしたが、皆がお喋りで聞かなかった。
まあ学校では何時も通りの事だったが。
さっさと済ませようと自分が「おい!」と低い声で言った。
そのせいでバイキングに来ていた他の高校の集まりまで沈めてしまった。
すみません。

その後二次会のボーリングに行って、久しぶりに盛り上がった。
精一杯頑張ったせいで、今も脚や腕が筋肉痛で昨日は眠れなかった。
痛い。


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第四十四話 心的外傷後ストレス障害

確かに銃声が聞こえたが、俺は死ななかった。

右手は誰かに掴まれ銃口は天井を向き、発射された銃弾は天井を抉った。

部屋の電気はつけられ明るくなると、右手を掴んでいるのが誰か分かった。

 

「織斑...」

 

「なにやってんだ馬鹿野郎!」

 

織斑一夏だった。

その他にも部屋には他の五人がいた。

ボーデヴィッヒが五十嵐から拳銃を引き取り、銃弾を抜く。

すぐにナースコールの呼び出しボタンが押されて、医師と看護師が集まった。

それで分かったのはシルバリオ・ゴスペル迎撃戦から二週間、一学期が終わる寸前だった。

 

「なんで死のうとするんだ!」

 

織斑は激しい口調で迫る。

彼にとって友人が自殺しようとした事実に怒りが湧いたのだろう。

命を粗末にするな、聞き飽きた言葉だ。

 

「...もうあの時の記憶に悩まされるのは無理だ。徴用兵たる者はあの戦場で死ぬべきだったんだ。」

 

「なんでそうなるんだよ!徴用兵がなんだ!」

 

「戦場で犯した罪をあの世で請う為だ!」

 

五十嵐は大声で叫んで咳き込む。

彼らは感情的になって叫ぶ五十嵐を見て驚く。

滅多に感情を表さない人が突然怒ったのに、彼に何かがあったと悟った。

 

「織斑、静かにしろ。」

 

出席簿アタックを喰らい、目の前にあった織斑の顔が無くなる。

見上げると織斑先生の姿が見えた。

 

「お前らは廊下に出ろ。五十嵐、お前は安静にしていろ。」

 

ゾロゾロと織斑達は先生について行って廊下に出る。

五十嵐は医師と看護師に囲まれ、質問を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

―医療局・廊下-

 

 

 

 

 

 

 

「PTSD?」

 

「PTSD、心的外傷後ストレス障害の事だ。」

 

織斑先生は五人に五十嵐の病名を聞かせた。

 

「災害や戦争・犯罪・虐待な出来事の後に起こり、心に加えられた傷が元で様々なストレス障害を引き起こす神経症のことですね。」

 

ボーデヴィッヒがそう答えると先生は頷いた。

 

「そうだ。医師からの説明によると彼の軍歴や今までの医療記録から“可能性が高い”。」

 

「『可能性が高い』って確実じゃないのか。」

 

織斑の質問に『そうだ。』と答える。

 

「あいつは最低でも臨海学校には発症していたはずだ。それにもかかわらず戦闘に参加した、トラウマを持っているならば戦闘に参加したりしないだろう。またあの戦争から数ヶ月が経ち、入学式前の軍の記録では異常はなかった。この神経症は何かをキッカケにあの戦争での出来事が一気に現われた。」

 

「もしかして入学式の襲撃が!?」

 

篠ノ之が思いついたように言った。

 

「そうかもしれん。また彼がトラウマとなった記憶は何なのかも問題だ。」

 

五十嵐の周りでは事件が起きすぎて何が原因か分からない。

自分達のせいかもしれないと考え始めた。

 

「もしかしてわたくしが酷いことをした際に...」

 

「...あたしが襲ったから?」

 

「僕の為に戦ってくれた時に...」

 

それぞれが思い当る節を上げていく。

織斑先生は分かった分かったと鬱陶しそうな態度で彼女達の考えを中断させる。

 

「どうすれば裕也を助けられるんだ?」

 

織斑一夏は聞いた。

 

「医師が診断をしているが、後で結果が分かり次第五十嵐に自らの病気について説明する。」

 

生徒達は頷く。

 

「次に認知行動療法だ。トラウマを片付けるには、繰り返し語り、安全な環境の中で再体験し、記憶の再統合することが必要だ。自責感を軽減し正常であることを保障すること、自己統御感や自己尊重感の回復させる作業だ。これに君達に手伝って欲しい。だが記憶を思い出させることで不安定になり混乱状態になってしまう可能性もある。」

 

織斑先生は頭を下げて生徒達に願い出た。

 

「五十嵐を良く知っているのは戦友だったものだが、彼らと会うことでトラウマを彷彿させる可能性がある。唯一彼を良く知るのは君達だ。治療の時は傍にいて欲しい。」

 

「家族はいないんですか?」

 

デュノアの質問に篠ノ之が答えた。

 

「そうだ。彼らは無理矢理引き離され、誰が家族か知らずに生きてきた。私の姉のせいで。」

 

心の中に怒りが沸き立ち、拳に力を入れて握る。

 

「分かった、引き受けるよ。」

 

すると織斑が一歩前に出て言った。

 

「俺とあいつは色々あったが友人に変わりない。」

 

織斑を合図に他の五人も進み出た。

 

「私の姉のせいで五十嵐はこうなった。責任がある。」

 

「わたくしも裕也さんには迷惑かけましたから。」

 

「あたしも少し迷惑をかけたから...」

 

「僕も助けてもらったお礼返しにこのくらい引き受けます。」

 

「私は同じ軍人として裕也を理解できると思います。」

 

「治療は夏休み中になるかもしれないがよろしく頼む。今日は解散しろ。」

 

織斑先生は生徒達を見送ると背後から見ていた人物に声を掛けた。

 

「貴様、これでいいのか。」

 

「織斑先生、協力ありがとうございます。」

 

背後に現われたのは更識楯無生徒会長であった。

行動認知療法に織斑達を参加させる提案をしたのは彼女であった。

これをキッカケに五十嵐の母親から頼まれた任務を進めようとしたのだ。

 

「貴様がなにを考えてこんな事をさせるか分からないが、ろくな事は無いぞ。」

 

「そうですかね?私には効果絶大だと思いますけど。」

 

「どうかな。」

 

織斑先生は歩き始めると更識会長は引きとめた。

 

「診断が終わって何か分かったそうですよ、織斑先生。」

 

織斑先生は向きを変えると黙って診察室のある場所まで歩き始め、その後ろを更識会長が続く。

二人は距離を離して歩いて、医師が待っている診察室に行く。

 

「失礼します。」

 

織斑先生がドアを叩くと返事が帰ってくる。

診察室に入ると白衣を着て眼鏡をかけた女性が待っていた。

 

「まず結論から申しますとPTSDだと思われます。当初お伝えした方法で治療を行います。」

 

「そうですか。」

 

この答えは予想した通りだった。

 

「ですが問題があります。」

 

「ん?」

 

医師の言葉に織斑先生は目を大きく開く。

 

「様々な記録と更識さんから提供された資料を基に調べると彼はクラス代表決定戦後には兆候が現れていました。しかしそれから数ヶ月間普通に暮らして任務を遂行していました。問題は今までに例は無い事ですね。」

 

「どういう事ですか?」

 

「この時点で兆候は出始め睡眠障害、幻覚を見始めています。ですがその後も何事も無く戦闘にまで従事しています。普通ならありえません。」

 

「しかし神経症というのは個人差があるといわれていますが?」

 

「確かにそうです。私が五十嵐くんに質問した所『義務だから』と答えました。」

 

「そこが彼がISに乗れる理由かもしれない。」

 

「なにを言っているん?」

 

更識会長の突拍子も無い言葉に織斑先生は呆れた顔をした。

 

「国防軍の研究機関はここでの身体検査で得られたデータを見ましたが。」

 

扇子を開くと『皆無』という熟語が書かれていた。

 

「織斑くんと五十嵐くんに共通する部分は男性である点でしかありません。そこから仮説として彼らの心理状態に秘密があると考えたらしいです。」

 

「心理状態?二人は全く別の人生を経験しているぞ。」

 

「しかし二人とも過去に事件に巻き込まれていますね。」

 

「そうだった...」

 

織斑千冬は思い出した。

第二回モンド・グロッソ決勝戦当日、織斑が正体不明の謎の組織に誘拐された事件があった事を思い出した。

自分は棄権してドイツ連邦軍つてで情報を貰い救出、対価にドイツ連邦軍の教官を務めることになった。

 

「二人は特別な経験をした。二人にはある思いを抱いてそれにISが答えた、という仮説です。」

 

「だが戦争体験や犯罪なら多くの人達が経験した。そしたら他の兵士や人々も起動出来る事になるぞ。」

 

織斑千冬はこの仮説の欠点を突いた。

 

「そうです、そこで五十嵐が関わった出来事が彼自身になにを与えたのかを知るチャンスではないのですか?」

 

「そうだな...それでは五十嵐をよろしく頼みます。」

 

「わかりました。」

 

織斑先生は医師に頭を下げると診察室を出た。




第四十四話です。

ここまでで『第三章 IS学園~第一学期~』を終わります。
次話から『第四章 IS学園~夏季休暇~』として続けます。

ここを境に五十嵐は人として戻れるか?
そしてISを動かせる理由を突き詰めたいと思います。(予定)

ではまた今度。


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第四章 夏季休暇
第四十五話 記憶の整理


夏休みを迎えた初日。

織斑・オルコット・ボーデヴィッヒの三人は医師と共に廊下を歩いていた。

医師は五十嵐裕也の治療について語りながら案内する。

 

「裕也くんは薬物の投与で前よりは落ち着いているわ。」

 

「そうですか。」

 

織斑一夏は安心したかのような表情を見せる。

目を覚ました直後の自殺未遂から錯乱状態になる事がしばしばあった。

それが収まったことは喜ばしい事だった。

 

「だけどそれだけでは駄目なんだよ。根本的な解決にはならないわ。」

 

記憶を自らコントロールできるようにしなければ解決することはない。

 

「それでわたくし達は?」

 

セシリア・オルコットは自分達の役割について聞く。

神経症の治療など誰も経験がした事が無く、なにをすればいいか全然分からなかった。

 

「そうね~病室内にいればいいよ。」

 

医師が言ったのはそれだけだった。

その指示に三人は唖然とする。

 

「あ...いや、彼にとって友人の存在は安心感を与えるから。」

 

医師は慌てて言い直したが、ラウラ・ボーデヴィッヒとオルコットは別の目的があると感じた。

しかし病室前に着いて、聞く前に医師はドアをノックして入室する。

六人は部屋の中に入るとベットの上にいる五十嵐裕也の姿があった。

彼の表情は何時もの通り無表情に見えたが、元気が無いように見えた。

 

「では前に予告した通り、これから五十嵐くんと行動認知療法を行います。」

 

医師はベットの傍にある椅子に座り、六人は少し離れた場所から治療を眺めた。

 

「...はい。」

 

声は弱々しく、目には力が無い。

 

「無理に思い出さなくていいんですよ。五十嵐くんが思い出せる範囲でいいんです。」

 

「はい...どこから話せば?」

 

「まず目を閉じて、群山空港での近接航空支援について出来るだけ詳しく語ってください。出来るだけその時の気持ちになって話してください。」

 

指示通りに五十嵐は目を閉じて語り始めた。

 

「その日、スクランブル待機をしていた。陸軍から近接航空支援の要請が入った。」

 

五十嵐は淡々と語る。

 

「慌てて“流星”に乗る時にアレを見たんです。」

 

「何を?」

 

医師は詳しく聞く。

 

「我が軍では“特殊爆弾”と呼ばれるナパーム爆弾でした。白い増槽のような形だった。」

 

「ナパームってなんだ?」

 

織斑は軍人であるボーデヴィッヒに質問した。

 

「燃焼材のナフサにナパーム剤と呼ばれる増粘剤を添加してゼリー状にしたものを充填した油脂焼夷弾だ。周辺を900度から1300度の高温で焼き尽くす非人道的な爆弾だ。」

 

医師は五十嵐に語るように促す。

 

「それから?」

 

「編隊長に続いて離陸して、ゲリラの拠点に向かった。そこまで行くのにさほど時間は掛からずに一度村の上空を通り過ぎた。」

 

「なにが見えました?」

 

「洗濯を干す人や農作物を纏める人、そして無邪気な子供達が見えた。」

 

「それらを見てどう思いましたか?」

 

「ここが本当にゲリラの拠点なのか疑問を持ったが、前線で苦しむ仲間達の為にしょうがないと思った。」

 

「続けて。」

 

「俺は編隊長から命令でその村にナパームを落さなければならなかった。五反田が反論したが、命令でありゲリラの拠点であるならば攻撃するの必要はあった。気持ちを抑えて低空低速で村に近づいてナパームを落とした。さらに命令でさらに二発落とした。」

 

五十嵐は逆らえなかった悔しさで布団を強く握る。

 

「...子供がいる所にあんなものを落としたのか?」

 

織斑は小声で言うとオルコットが返した。

 

「前線に続く兵站を攻撃するゲリラを排除しなければ味方の被害が大きくなりますわ。それにゲリラを匿っている時点で攻撃されてもしかたがありませんわ。」

 

だがオルコットは五十嵐の次の言葉で自分の発言を撤回する。

 

「実際はゲリラの拠点でもなんでもなく、陸軍兵に食料を提供しなかった腹いせにナパームを落すように命じた事をのちに帰還して知った...くそ!なんで俺は些細なことの為に数十人を焼き殺したんだ!」

 

五十嵐は拳を振り上げてベットを思いっきり殴りつける。

それを聴いた瞬間に三人の思考は停止した。

ただ食料を差し出さなかった腹いせに非人道的な兵器を落とした。

さらにその兵器の投下を未成年の少年にやらせたのだ。

この事実は彼らが考える以上に意味の無い行為であった。

ボーデヴィッヒは小声で言った。

 

「命令を無視すればいいのに...」

 

ボーデヴィッヒが軍人らしからぬ発言をする。

それはドイツ連邦軍の“抗命権”という制度があるからだ。

ドイツ基本法及び軍人法には“軍人もまた市民であり基本権を保持する”という規定、「抗命権」及び発動された場合の不利益処分禁止が明文規定されている法律がある文化であるからだった。

残念ながら国防軍、特に徴用兵にはそんな権利はない。

 

「さらに逃げる民間人を殺せと命じられた。これ以上民間人を殺す必要があるのか考えた。結局は周囲を包囲していた陸軍兵に銃殺された。」

 

「そのあとあなたはどうされましたか?」

 

「基地に帰還しました。機を降りると編隊長に殴りつけられた、『海軍の面汚し』と。」

 

「そう言われてどう思いましたか?」

 

「徴用兵は日本国の為に上官の言う通りに従い、日本国の為に戦い死に行く兵士であり心は必要ないと考えた。心は躊躇を生み出し、味方を殺す。」

 

医師は腕時計を見ると始まってから四十五分を経過していた。

 

「では今日はここまでにします。」

 

医師は立ち上がると織斑達と共に病室を出て、五十嵐を一人残した。

廊下で今後の治療について話した。

 

「あのように記憶の中にある出来事を自らが選んで話せるようにするのがこの治療での目的。君達には彼に何があったか、そして治療した後彼を受け入れる心構えを持って欲しい。」

 

「...わかりました。」

 

織斑は返事をするとあとの二人も頷く。

 

「この治療を後数回行うわ。今日はもう終わり、昼を食べてきなさい。」

 

医師はそう言ってその場を立ち去る。

三人は医療局の廊下を何も喋らず歩いて出入り口を出た。

 

「くそ!なんでなんだ!」

 

突然織斑は医療局の壁を殴った。

それに二人は驚いて目を白黒させる。

 

「束さんの作ったISが五十嵐のような存在を作ったんだ!納得が出来ない!」

 

大声で叫びさらに数発壁を殴る。

自分は姉の影でのうのうと暮らし、代わりに五十嵐達に人殺しを強要していた。

織斑一夏は何も知らずに暮らしていた事を恥じ、悔しさから壁を殴る。

 

「一夏さん...」

 

オルコットは止めようと掛けるが、織斑の怒りは止まらない。

 

「ISが動かせる女性が偉いのはまだ分かるさ!だけどなんで五十嵐のような徴用兵が出てくるんだ?それになぜ彼らに虐殺をさせたんだ!おかしいだろ!」

 

織斑は思った事を大声で吐き出す。

理解が出来ない、少年達を集めて戦わせ虐殺を行わせた理由。

理解出来ない、国民達はそれを知りながら賛成し黙認した理由。

そしてなぜ彼らは犠牲にならなければならないのか。

するとボーデヴィッヒは近づくと織斑の腹にパンチを一発見舞った。

腹を殴られ織斑は咳き込み痛みで屈み込む。

 

「大声で喚くな。」

 

織斑は周囲を見渡すと職員や生徒達がこちらを見ていた。

 

「とにかく食堂に行こう。」

 

ボーデヴィッヒがそう言うと二人は食堂に行く。

午後、織斑は図書館に行き白騎士事件以降の日本の政争・防衛政策・世界情勢について書かれた本を片っ端から読んだ。

そして今の世界について考え、見直した。




第四十五話です。

皆様小説の投稿が遅れてすみません。
ここ最近様々な事が立て込んで小説を更新するのが大きく遅れました。
作品について、近況について順を追って説明しようと思います。

①第四十五話について

今回の話の終わり方に自分は正直言うと不満で実力不足だと言うことが終わりました。
本来は織斑・篠ノ之・凰・オルコット・デユノア・ボーデヴィッヒと一話ずつ会話して日韓戦争と一般人と徴用兵の相違を描こうと思いましたが、全部で五話も描く程のネタもなく時間的にも余裕がないのでこんな終わり方にしてしまいました。すみません。

②近況―大学

無事四月一日に入学式を経て大学に入学しました。けれど、誰だ!文系は暇だって言ったのは!確かに理系よりは暇だろうが授業・バイト・部活しようとしたら全然暇じゃない!絶対聖域だった土曜日曜も削らなければならないなんて!小説書く暇ないじゃん!ちくしょーめ!(鉛筆を机に叩きつける)

次話に続く


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第四十六話 外出

夏休みに入り、二週間が経った八月一日。

五十嵐の治療は順調に進み、時々トラウマを思い出す事があるが外出が出来るまでに回復した。

この日、五十嵐は織斑とデュノアに付き添われて五反田弾を都内にある駅まで見送りに来ていた。

 

「大丈夫なのか、五十嵐?俺を見送りに来る余裕があるのか?」

 

五十嵐と五反田は横に並んでホームを歩く。

だがこの日の二人の服装は同じ海軍士官服ではなく、五反田はジーパンにポロシャツの私服であった。

 

「大丈夫だ。それに戦友の帰還を見送らない奴がどこにいる。」

 

五十嵐は微笑しながら言った。

 

「お前にそう言われるのは久しぶりだな。」

 

五反田は表情を見て心中ひそかに喜ぶ。

五十嵐が戦争に行く前の感じに戻っているのが嬉しかった。

前向きで表情豊かな人間だったが戦争で大きく変わった。

戦争終盤には顔から表情がなくなり、人生に否定的な言葉を呟くことが多かった。

 

「...五十嵐すまないな。相棒を置いて先に“帰宅”するなんてな...」

 

数日前に漆原首相は徴用兵の帰還事業の開始を発表した。

徴用兵を受け入れる体制が整備されたと判断され、社会復帰が可能だと判断された徴用兵を順次退役させる事を決めた。

その第一陣として日韓戦争に従軍した徴用兵の内一万人の退役が八月一日だった。

五反田はその第一陣に選ばれた。

また衆議院解散総選挙後に行われる特別会において徴用兵制度が廃止されるのが確定となった。

 

「気にするな、たとえ俺が健常でも俺はISを動かせる能力のせいで退役するのは早くても学園を卒業するまでは無理だろう。しかし五反田、この荷物の量はなんだ?」

 

五十嵐は片手に持つ旅行バックと五反田が両手に抱える荷物を交互に見て言った。

 

「案外、外の生活がよくてな。“ファッション”や“ゲーム”が楽しくていろいろ買ってしまった。」

 

彼は駐屯地には無い生活を満喫していた。

それを聞いて五十嵐は少し興味を持つ。

二人は改札を出て、待ち合わせ用のロータリーに面する歩道に出る。

 

「弾!」

 

大きな声で五反田の名前が聞こえ、二人は声がする方向を向いた。

そこには両親と見られる男女と同年代に見える女子が一人いた。

その女子は昔に寄った五反田定食の娘だと五十嵐は思い出した。

 

「弾!弾なのか...」

 

父親は五反田に駆け寄ると手を握って聞いてくる。

両脇に母と妹も駆け寄る。

 

「...弾...俺は五反田弾だよ、お父さん!お母さん!」

 

五反田は目に涙を浮かべながら、大きな声で言う。

そして十年ぶりに再会出来た思いで二人とも涙を流しながら抱きしめた。

いくつか言葉を交わすと五反田は振り向いて五十嵐を紹介した。

 

「五十嵐裕也海軍大尉、戦場で一緒に戦った戦友だ。」

 

「五十嵐です。」

 

お辞儀をすると五反田の両親がお辞儀を返す。

 

「私達の弾を無事に帰してくれた事に感謝します。」

 

「いえ、こちらこそ五反田が相棒で良かったです。」

 

「五十嵐さんは退役の予定はあるのですか?」

 

母親の五反田蓮は五十嵐の軍装姿を見て聞いた。

 

「今のところはIS学園生徒なので退役は先になります。」

 

五十嵐はIS学園警備隊から国防軍試験飛行隊への異動が決まり、戦闘職種から離れる事は決まっていた。

 

「そうですか。“五反田食堂”に何時でも遊びに来てね、弾も喜ぶから。」

 

母親はにこっりして言った。

 

「五十嵐!また今度会おうな!」

 

そして五反田の家族が軽自動車に乗ると弾は五十嵐に手を振った。

 

「ああ、戦場以外でな!」

 

冗談交じりに笑顔で応えると軽自動車は町の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐と織斑・デュノアは電車に乗ってIS学園に帰ろうとしていた。

電車が到着して三人が空いている座席に座った時、デュノアは五十嵐に聞いた。

 

「そう言えば、裕也くんは私服持ってないの?」

 

「そうだが、何か問題でも?」

 

「軍服は目立つし...何より勿体無いよ!」

 

デュノアは突然顔を振り上げてこちらを見た。

一方織斑はデュノアの言う事には同感だった。

学内では学園の制服以外に戦闘服か作業着、学外では制服という服装で前者は威圧感を与え後者は目立っていた。

この車内でも電車に乗車した人々がチラチラと五十嵐を物珍しそうに見て、子供達の中には目をキラキラさせて眺める子もいる。

それに自分とは違い五十嵐は贅肉の無い引き締まった体格に精悍な顔立ちを持っていた。

多くの生徒が兼業でモデルをやっているような学園で軍服や学生服しか着ない五十嵐はハッキリ言ってダサく見られていた。

一部の生徒からは支持を得ていたが。

今までの環境がそうさせたのかも知れないが非常に勿体無い、もっと服に気を配れば自分と違い好意を持ってくれる生徒が出てくるかもしれないと織斑は自分の事を自覚せずに思った。

だが五十嵐はやっと歩くことが出来るまでに回復したばかりだ、無理をさせるわけには行かない。

 

「シャルロット、裕也は回復したばかりで」

 

「よし、行こう。」

 

織斑の忠告を遮って、決然たる瞳で五十嵐はデュノアに言った。

五十嵐は織斑がいろいろ考えている間にデュノアにいろいろ吹き込まれ、さらに五反田の言葉を思い出して決断した。

その言葉にデュノアは目を輝かせて力強く頷く。

電車が臨海学校で織斑とデュノアが水着を買いに行った駅前のショッピングセンターがある駅に到着する。

デュノアは五十嵐の手を引張り、ショッピングセンターに入る。

彼女は人の世話を焼くのが好きなのだろう、特にファッションについてはと織斑は考えた。

 

 

 

 

 

服を一通り買え揃えると、紙袋を抱えてショッピングモール内にあるレストランへと入る。

冷房の効いた店内のテーブル席に通されると織斑が店員と会話してメニューを決める。

店員が去って行くと織斑は五十嵐にこれからの事を聞いた。

 

「裕也、これからどうするんだ?お前はもう戦わずに済む事になるが...」

 

五十嵐はあと一ヶ月もすれば戦いから離れ、普通の高校生と同じような暮らしが提供される。

だが五十嵐が直面している問題は“生きる意味”はなんなのか。

五反田以外の親しい友人をすべて失い孤独となり、軍務から事実上解放されるとなると彼は心の支えであった国家への献身をする必要がなくなる。

五十嵐が自殺しようとしたのは病んだ自分が国家の為に戦えないと判断したからでもあった。

医師は彼に人生の目的を与えることで回復に向かいやすくなるという助言もあった。

 

「...これから三年間はIS学園に所属することになるだろう。だがその先どうすればいいのか全然分からないんだ...」

 

五十嵐は俯いて言った。

戦場しか知らない五十嵐にとって外の世界は未知であり、どのような社会であるか分からず恐怖心もあった。

そしてその世界で何の為に生きていけばいいのか分からなかった。

織斑もデュノアもそのことは理解していた。

するとデュノアが励ましの言葉を掛けた。

 

「大丈夫だよ、まだ夏休みが一ヶ月もあるからその間に様々体験をすればいいし三年間もあるんだからじっくり考えればいいよ。」

 

確かに今はまだ八月に入ったばかりだ。

まだまだいろいろなイベントが控えているし、この社会を知る機会はいくらでもある。

夏休みで答えが出なくても冬休み・春休み、来年度だってあるのだからいくらでも考える時間はある。

 

「そうだな、まだまだ時間はある。俺も一緒に考えてやるよ。」

 

「僕も三年後の身の振り方の答えをまだ出していないから一緒に考えよう、裕也。」

 

「すまない、織斑・デュノア。」

 

五十嵐は二人の優しさに感謝する。

 

「お待たせいたしました。」

 

そしてランチがテーブルに運ばれる。

 




第四十六話です

③近況―バイト

最近必死にバイトを探しています。
けれど二件のバイトに応募して一件目が攻略失敗、二件目が結果待ちの状態です。
いろいろな業種を考えているのですが大学の授業と部活をしながらバイトしようとすると週2から週3で四時間から五時間が限界。これは大学近辺で働く条件で地元の周辺ならもっと働けると思います。親曰く『この条件じゃあ受かりにくいよ』と。あと自宅近辺だと居酒屋かいろいろ話題になってる牛丼チェーン店ぐらい。もう二件目が駄目だったら小説を書ける土曜日曜を潰して登録制のイベント会場のスタッフをやろうか考え中です。

次話に続く


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第四十七話 戦没者

八月に入って数日が過ぎたある日。

五十嵐はラウラ・ボーデヴィッヒに付き添われて都内の一等地にある公園の日韓戦争戦没者記念碑にいた。

二人は所属する日本国防海軍・ドイツ連邦陸軍の制服を着て訪れていた。

この公園には対馬紛争・ベトナム戦争・湾岸戦争などで戦死した国防軍戦没者を追悼する戦争祈念施設がある。

その中で日韓戦争戦没者記念碑は公園の置くに設置されていた。

大きな花崗岩で作られた壁には戦死した陸海空国防軍の戦没者の名前が刻まれ、徴用兵の名前もあった。

壁の下には何束かの花束が置かれ戦没者の遺族が訪れているのが分かった。

壁面を見ながら進むと五十嵐は壁の中ほどで止まる。

 

『荒井亮太』

 

二〇九高地で再会して目の前で戦死した友人の名前を見つける。

五十嵐は地面に花束を供える。

 

「ここの列に刻まれているのは二〇九高地で戦った兵士だ。」

 

壁の名前は亡くなった順番に刻まれている。

二〇九高地での数日間、多くの兵士が二〇九高地で戦死したので名前が集中した。

ボーデヴィッヒは目を閉じて壁にお辞儀をする。

 

「お前は二〇九高地の兵士と共に戦ったんだよな?」

 

彼女は五十嵐に聞くと彼は頷く。

 

「戦闘機から脱出した際に二〇九高地に陣取っていた第四海兵師団第二連隊に助けられたんだ。」

 

そうボーデヴィッヒに語ると五十嵐は親友の名前に触れると指でなぞり始めた。

 

「荒井は東部徴用兵教育団時代の同期で、色んなことで競っていた。」

 

五十嵐は荒井の後に続く名前をなぞりながら小声で呼んでいく。

それを続けていると五十嵐の頭の中で二〇九高地の記憶が自らの意思で思い出されていく。

再会・戦闘・交流そして最後を思い出した。

 

「二〇九高地の戦闘が終結したその日、俺は戦死報告書を書かねばならなかった。」

 

五十嵐の言葉をボーデヴィッヒは黙って聞く。

 

「荒井や加畑さんが戦死して二〇九高地唯一生き残った士官が俺だけになった。彼らの戦死報告書を書く仕事が俺に与えられて、一人ずつの認識票が入ったダンボールを置かれた。一人ずつ名前を書類に書いた。」

 

その時の感情を思い出して五十嵐は声を震わせながら語る。

 

「あそこでの二週間、多くの兵士と過ごした。その記憶が一人ひとり蘇るんだ、けれど俺は...俺はあいつらを二〇九高地に置き去りにしてのうのうと暮らしている。俺は毎日自分に問いただした、『あいつらを置き去りにして生きてていいのか』と。あいつらは死んで、俺は生き残った。あいつらは俺を卑怯者だと思っているんじゃないか?...だから...だから死のうとした...謝る為に。」

 

「...それは違うのでは?」

 

ボーデヴィッヒはボソッと答える。

五十嵐はそれを聞いて振り返る。

 

「少なくとも卑怯者だと思っていないだろう...私が言うのもおかしいが...もしも私が彼の地で共に戦った兵士ならお前が生きている事を喜んでいるだろう。」

 

「なぜそう思うんだ?」

 

「自分達が戦った事を覚えている友人が生きていれば、自分達の存在を忘れず語り続けてくれる。そして自分達が命がけで護った国がどうなったかを代わりに見てくれるから...私はそう思う。」

 

違う国の軍人と言えども思うことは同じだった。

五十嵐はボーデヴィッヒの言葉を聞き、荒井が死ぬ間際に自分に言った言葉を思い出した。

 

『俺達が...ここで死んだこと..が..無駄では...なかったことを...お前が生きて見てくれ!俺達の存在は日本国のためになったのか...を..』

 

今まで彼の言葉を忘れていた事を恥じて、五十嵐は地面に伏せる。

ボーデヴィッヒは驚き駆け寄って、顔を覗き込む。

彼は涙を流して謝り続けた。

 

「すまない...すまない!俺はお前の言葉を忘れていた!」

 

五十嵐は壁に何度も頭を地面に擦るほどの土下座をする。

ボーデヴィッヒは離れて見守ることしか出来なかった。

十分程が経って五十嵐は立ち上がると後ろに控えるボーデヴィッヒに言った。

 

「ボーデヴィッヒ、俺が生きる意味を見出せたかもしれない。」

 

「そうか。」

 

ボーデヴィッヒはただそう応えた。

 

「彼らの最期を語り続けることだ。」

 

彼が決意を決めるとポケットに入っている携帯が震える。

すぐさま出ると相手は副担任の山田真耶先生だった。

 

《五十嵐くんですか!?》

 

携帯越しに大きな声で言われ、携帯を一瞬耳から遠ざける。

とても焦っていることがわかる。

 

「そうですが、何かありました?」

 

《オルコットさんと凰さんがウォーターワールド内でISを起動して施設を破壊、国家親衛隊に身柄を確保されました!》

 

五十嵐は事情を知って頭を抱える。

 

「なんでそんな事を?」

 

《国家親衛隊の話だと景品を巡っての争いだそうで...すみませんが二人を迎えに行ってもらえませんか?》

 

「...わかりました。」

 

五十嵐は携帯を閉じると深い溜息をついた。

 

「どうしたんだ、五十嵐?」

 

その姿にボーデヴィッヒは首を傾げながら聞いてきた。

 

「オルコットと凰が馬鹿をやって国家親衛隊に世話になっているらしい。」

 

「あの二人が一緒だったら厄介ごとを起こすと私は前々から思っていた。」

 

「とにかくウォーターワールドというところに行くぞ。」

 

二人は公園近くの駐車場に駐車している公用車に乗り込むと、ボーデヴィッヒの運転でエンジンを始動させる。

少し時間が経つとラジオ放送が車内に流れ、ある重大な事件を知ることになる。




第四十七話です

④近況―大学での部活動

自分はアーチェリーを中高六年間やっていました。大学でも続けようと思ったらアーチェリー部が別キャンパスだった事で、しかも活動日に講義が入って活動できないのが分かりました。そこで自分は弓道部かワンダーフォーゲル部か二択に絞り考えた結果、ワンダーフォーゲル部にしました。弓道部は週四での活動に装備一式は親の金で買う、時間も無いし家にそのような余裕は無く弓道部は諦めました。一方で週2で体を鍛え旅行も出来て結構高い山に登るのに憧れてワンダーフォーゲル部にしました。(ちなみに山岳部は世界の山々に登るのが目的で経験者のみが入れるサークルで昔に死人が出たようですので選択から外しました。)サークルは?いいえ、本気でやりたいので体育会の部活に入りました。お陰で土曜日も部活があります。明日は新入生歓迎として高尾山に行きます、今から楽しみです。

次話に続く


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第四十八話 琉球進駐

・フランス軍

白騎士事件以降ヨーロッパにおける絶対的地位を得る為に“大陸軍構想”の下で軍備拡張を行った。
兵員数130万人までにのぼり、イギリス・ドイツは危機感を覚え対抗して軍拡を行っている。
ただし三国とも無理をしながら軍拡を進めている。


ウォーターワールドの駐車場に入ろうとすると国家親衛隊の隊員が身分証明書を提示するように言う。

二人は学生証と軍の身分証を隊員に渡すと周囲の状況を見渡す。

何台もの消防車や装甲車・兵員輸送トラックが広い駐車場にひしめき、完全武装の国家親衛隊の隊員が厳戒態勢で警備に当たる。

その様はテロ事件が起きた現場同様の有様だった。

身分証が返され入ることを許されると公用車を駐車場の空いてるスペースにボーデヴィッヒは駐車する。

五十嵐が降りると連絡を受けていた親衛隊少尉が駆け寄ってウォーターワールド内を案内された。

レースが行われたプールは滅茶苦茶に破壊され、底や壁面はひび割れ・タイルが剥がれていた。

照明や放送設備も破壊され、幸いにも死傷者が出なかっただけでも幸運だっただろう。

親衛隊少尉は調書や目撃者の証言・警察の鑑識などの調査で分かっていること事細かに説明した。

本当に馬鹿な事をしてくれたと二人は溜息をつく。

 

「ではこちらでお待ち下さい。」

 

最期にオーナーに謝罪するとオルコットと凰の所に案内された。

しばらく待つと二人は床を見つめるように下を向きながら事務所から出て来た。

 

「本当にお前らは馬鹿をやってくれるな。」

 

腕を組みながら仁王立ちで五十嵐は待ち受ける。

彼の声に気がついた二人は顔を上げる。

 

「すみません。」

 

「...ごめんなさい。」

 

二人は大きく頭を下げて迎えに来た五十嵐に謝る。

 

「琉球旅行五泊六日の為にここまで壊しやがって...まあ優勝しても旅券は紙くずだがな。」

 

「「はい!?」」

 

二人は五十嵐の言葉に驚く。

 

「フランスが琉球共和国と軍事同盟を締結。フランス陸海空軍が琉球に進駐し、君たちの祖国が渡航制限を設けた。」

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻/首相官邸地下・官邸危機管理センター―

 

 

 

 

 

 

 

「突然だったわね、外務大臣。」

 

漆原首相は外務大臣に視線を向ける。

その視線には事前にこの事態を予測できなかった外務省の失態への怒りが含まれていた。

三時間前、琉球共和国はアメリカとの安全保障条約の破棄と同時にフランスと安全保障条約を結んだことを発表した。

琉球共和国は太平洋戦争後にアメリカの琉球統治を経て独立した国家だった。

十年前の白騎士事件以降の在琉アメリカ軍の撤退により、琉球共和国は拡大主義の中華人民共和国と歴史問題で対立する日本国の侵攻に怯えアメリカに代わる庇護者を求めた。

それに答えたのがフランスだった。

フランスは日本への侵攻拠点として琉球を必要として、フランスは安全保障条約締結を琉球共和国に打診するとすぐに琉球共和国は快諾した。

すぐさまフランスは大量の兵員と装備を航空・海上輸送により琉球に送り込んだ。

 

「首相、統合参謀長から在琉フランス軍の戦力について説明があります。」

 

「お願い。」

 

統合参謀長は立ち上がると同時に室内は暗くなり、机の中央に空中投撮ディスプレイが投影された。

そこには琉球本島の立体的な地図が現われ、衛星画像が貼り付けられていた。

 

「現在分かっているだけで陸上兵力は兵員約三十万人、戦車約四百両、装甲車約六百両、火砲約千門程だと」

 

「そんな戦力がいるの!?」

 

報告された数に驚き首相は思わず声を出してしまう。

 

「はい、旧在琉米軍が使用していた基地では賄い切れず演習場に急造の駐屯地を設営して対処しています。続けてよろしいですか?」

 

首相は頷く。

 

「次に航空戦力は作戦機五百機です、こちらも嘉手納基地や普天間基地は溢れ那覇国際空港も使われています。次いで海上戦力は琉球近海に正規空母二隻を擁する二個航空艦隊、さらに那覇港には数隻の揚陸艦と大量の輸送船でひしめき合っています。」

 

統合参謀長の言う通り衛星画像に写る那覇港には大量の輸送船、飛行場には大量の戦闘機、陸上には列をなす機甲戦力と兵士達の姿があった。

 

「統合参謀長の説明に補足があります。」

 

「私からも。」

 

統合参謀長の説明が終わると海軍参謀長と空軍参謀長が手を上げた。

 

「海軍参謀長からどうぞ。」

 

「はい。鹿屋航空基地所属のP-1哨戒機が太平洋上でフランス海軍のル・トリオンファン級原子力潜水艦と思われる潜水艦を探知、追尾しています。」

 

「私の方は未確認情報ながら巡航誘導弾“ストーム・シャドウ”が琉球本島に運び込まれたと言う情報があります。」

 

これらの報告を聞き、首相は考え込む。

フランスは大量の戦力を我々の目と鼻の先にある琉球に送り込んだ。

これはどうみても琉球を前線基地として日本国に対して侵攻を仕掛ける準備に違いない。

 

「外務大臣、すぐに抗議文をフランスに送って。」

 

「わかりました。」

 

すると傍にいる官房長官が小声で漆原首相に報告する。

 

「連立を組んでいる党から徴用兵の帰還事業停止と帰還した兵士の招集をすべきとの声が挙がって」

 

「それは絶対に駄目だ!」

 

徴用兵を抜いた国防軍の戦力は三分の一減るのは確かだ。

だが自分の息子を含め少年たちをこれ以上戦争に借り出すのは許せなかった。

部屋は首相の怒号で静まり返る。

その中を外務大臣の秘書がコツコツと音を立てて外務大臣に駆け寄る。

 

「首相、フランスのこの行為に対しイギリス・ドイツ・中国が抗議の上で自国民に対して渡航制限を敷きました。」

 

イギリス・ドイツはフランスの軍備増強に対して常に危機感を持ち、対立していた。

中国は汪共和国主席はアジアの安定化を目指して近年日本との接近を図っていた最中であった。

 

「イギリス・ドイツはともかく中国がこちら側についてくれているのは心強いわ。」

 

「フランスと言えども我々と同時に中国を相手取ることは出来ないでしょう。」

 

首相は少し安心したかのようにその時は思えた。




第四十八話

⑤これからの執筆活動について

出来うる限り投稿しようと思います。
月に二話から五話のペースで投稿して行こうと思いますが、少し早足で物語を進めていきます。
学園生活三年間描こうと思いましたが一年に短縮してお送りしようと思います。

次話に続く


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第四十九話 夏祭り

八月のお盆週のある日、五十嵐は織斑と共に篠ノ之神社に来ていた。

鳥居の傍で織斑と別れると、人混みを避けて鳥居の柱に寄りかかる。

この神社は織斑の幼馴染、篠ノ之箒の実家だ。

だが白騎士事件以後に家族は日本政府の保護下に置かれ、家族は離れ離れになっている。

彼女もまたISの被害者なのかもしれない。

 

「おー、五十嵐。久しぶり~」

 

人込みから腑抜けた聞き覚えのある声が聞こえる。

五十嵐は近づいて声の主の腹に一発殴る。

 

「五反田、軍を辞めて腑抜けてるんじゃないか。」

 

「く~痛いぜ!」

 

その声は五反田だった。

軍を去ってから二週間、久しぶりに顔を合わせようと篠ノ之神社の夏祭りに二人は来たのだ。

 

「お前の私服姿は新鮮だな!」

 

この日、五十嵐は何時もの海軍の制服ではなくデュノアが選んだ服装だった。

 

「まあな、町じゃあ目立ってしょうがないからさ。」

 

「そりゃあそうだな!とにかく何かかって食べながら話そう。」

 

「そうだな。」

 

二人は参道の人込みを掻き分けながら進む。

五十嵐は人混みで狭い参道に鬱陶しく思ったが、来ている人々の顔を見ておかしく感じた。

多くの人が窮屈な参道を笑顔で進む、だれも嫌な顔をせず逆に笑い声で溢れる。

なぜこんな人が多くて窮屈な場所にいるのに楽しめるの分からなかった。

だが自然と祭りの雰囲気に呑まれ、だんだんと気分が高揚しているように思えた。

二人は汗を流しながらも屋台でプラスチックの容器に入った焼きそばを買うと近くに空いていたベンチに座る。

 

「そう言えばお前の妹は来ているのか?」

 

五十嵐は帰還時に弾を迎えに来た妹の存在をふと思い出して聞いた。

 

「今日は中学校の友人と回っているらしい。なんでも学園祭のアイディアを探すんだとさ。」

 

「そう言えばIS学園も学園祭があったな。そんなに学園祭は重要なものなのか?」

 

「そりゃあ年に一度しかない行事だからじゃないのか?それに蘭は生徒会長というのをしているらしい。」

 

「生徒会長?」

 

「なんでも200人ぐらいの生徒を束ねる指導者らしい。」

 

「すごいな、十四歳ぐらいで一個中隊程を率いているのか。」

 

二人は焼きそばを食べながら近況を語り合う。

 

「お前の方は大丈夫なのか?」

 

「なんとか症状は治まった、時々あの時を思い出すが。」

 

「まあいいんじゃね、簡単に治るようなものではないしな。時間を掛ければ完治するだろう。」

 

五十嵐は食べ終わって空となったプラスチックの容器を傍に置く。

 

「そうだな、時間も経てば治るだろう。だけど...これから先俺は何をすればいい?」

 

「は?」

 

唐突に五十嵐は五反田に聞く。

 

「突然なんだ。」

 

「俺達は軍務を離れて民間人として生きていくことになる。けれど民間人となって何をすればいいのか分からない。最低でもあと二年と六ヶ月はIS学園で過ごすだろう。けれどその後はどうすればいいのだろうか。五反田、お前は決めたのか?」

 

五十嵐は今まで自分を縛っていた規則が一気に取り払われ自由になったが、どのように行動すればいいのか分からない。

逆に自由というのに恐怖を感じ始めていた。

 

「もう決めたぜ。」

 

五反田は自信を持って答える。

 

「親父の店を継ぐ。まだどうすればいいか分からないがとにかく勉強をして、調理師免許を取る。それで定食屋を継ぐさ。」

 

「そうか。お前は継ぐものがあっていいな。」

 

「でもお前だって良くも悪くもIS操縦者だろ。」

 

「そうだが?」

 

五反田の言葉に反応する。

 

「世界でたった二人しかいない男性操縦者、これだけで他の者には無い能力を持っているんだぞ。」

 

「ああ、だがもう人を殺すのは...」

 

「五十嵐、俺が言いたいのはそうじゃない。元々ISは何の為に開発された?」

 

五十嵐は頭を抱え、目を閉じて思い出す。

 

「たしか...『宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。』だったか?」

 

「そうだ。本来は平和利用が目的だった、宇宙と言う未知の領域を冒険するのが。」

 

「...お前の言っている事がよく分からない。」

 

「とにかく、宇宙開発に協力するのはどうだ?歴史に残る偉業を達成するとか夢がある話だろ?」

 

五反田の言葉は五十嵐の興味を引く話だった。

けれど現実味がなく、納得できるような話ではなかった。

それを感じ取ったのか五反田がアドバイスを与える。

 

「まああと二年と六ヶ月もあるんだ、それまでじっくりと考えればいい。他人によらずに自分で考えるんだ納得するまで。お前だって帰りを待つ親がいるはずだ、親に相談するのもいいかもしれない。」

 

「...そうだな。」

 

あの戦争を指導した母親と打ち解けあうのは五十嵐には考えられなかった。

だが様々な情報を五十嵐は調べ上げて、あの戦争への自分の考えを持ち始めた。

心の中では心開いてもいいと思い始めていた。

すると迫撃砲の発射音と同じような音が聞こえ五十嵐は驚く。

 

「なに驚いてるんだ?ただの花火だ。」

 

「花火?」

 

夜空を見上げると一筋の光が真っ直ぐと空に上がり消えたと思うと破裂して煌びやかに光る。

次々と花火が打ち上げられ、空に幾つもの花が開く。

それは自分達の新たな門出を祝っているように感じられた。




第四十九話です。

⑥前置き

出来れば原作キャラを死亡ENDにしたくはありませんでしたが、ストーリー上二~三人必要な感じです(ただし主要キャラ六人は絶対に生存ENDです)。それで原作キャラを死亡ENDにするので注意&ご了承下さい。
最後に誤字脱字、改善点がありましたら教えて下さい。

ではまた今度。


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第五十話 クーデター

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


夏祭りの三日後、五十嵐は公用車の後部座席に乗り込んだ。

 

「...なんで...なんで今日に限って呼び出されるのよ...」

 

乗り込むと凰鈴音が隣席で落胆した表情で嘆いていた。

話を聞くと織斑の家に遊びに行こうとしたが、突然本国から呼び出しを受けて一時帰国することになったらしい。

五十嵐は護衛兼見送り要員として付き添わなければならなかった。

残念な事に今日は織斑を含めた五人は遊びに行っているらしい。

 

「運が悪かったとしかいえないな...」

 

凰が普段見せないほどに意気消沈しているのを見て五十嵐はかける言葉も出なかった。

助手席には中国候補生管理官の楊麗々が乗り込み、警備車輌二両に挟まれて車列は学園を出発する。

 

「見送りにも来ないなんて...絶対に後悔させるわ...」

 

空港に向かう車内で凰の怒りや悔しさが混じったような泣き言を永遠と聞かされる。

織斑といえども突然の呼び出しに対応が出来るわけが無いのだが、凰が帰国した際には痛い目を見るのだろうと思う。

 

「しょうがないだろう、代表候補生は国の命令に従わなければならない。特に専用機に関する事は。」

 

「分かってるよ!...でも一夏と一緒に...」

 

何時ものように彼女は恥らって後に続く言葉を小声で言う。

五十嵐はその態度に苛立っていた。

彼は数ヶ月、織斑と取り囲む女子達の行動を見て彼女達が織斑に対して特別な感情を持っていることに気付いた。

どういう感情か五十嵐自身は分からない。

徴用兵教育団時代や国防軍では学ぶことの無かった感情。

それは尊敬や敬いとは違うまた別な感情だと言うことは気付いた。

だが彼女達の曖昧な態度と織斑の鈍感さで双方ともに結ばれず、結果的には自分達を巻き込む。

二週間前にオルコットと凰が起こした“事故”のようにいつも巻き込まれる。

それに五十嵐はうんざりしていた。

 

「その態度が気に入らない、言いたい事があったら織斑に直接大きな声で伝えろ!」

 

「ふぇ!」

 

凰は突然五十嵐が強い口調で言ったのに驚いて変な声を出してしまう。

 

「そんな態度だから織斑との関係が発展しないんじゃないか?」

 

「と、突然何言ってるのよ五十嵐!」

 

酷く狼狽しているが、そのまま続ける。

 

「帰国した日には俺が織斑を連れて行ってやる、他の奴らはなしで。帰国したら直接言え、自分の想いを。」

 

「そ、そんな事...突然言われても...」

 

「覚悟を決めろ、ウォーターワールドの件みたいに俺達を巻き込まないで欲しい。」

 

公用車は学園島の近くにある羽田国際空港のプライベートジェット用施設に入り、中国政府が用意したビジネスジェットの横に乗り付ける。

五十嵐は降りると凰の座る方に回りドアを開く。

彼女は公用車を降りるとそのままタラップを登りビジネスジェットに乗ろうとする。

タラップを登り終えると凰は振り返って五十嵐に大声で叫んだ。

 

「分かったわよ!帰国したら一夏に“好きだ”って伝えてやる!」

 

そう言って凰はビジネスジェットに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

―六時間後/IS学園食堂―

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、五十嵐。隣いいか?」

 

「ああ。」

 

織斑は隣に座ると五十嵐は凰の見送りについて話した。

 

「お前がいないせいで車内で凰に文句を聞かされたよ。」

 

「すまん、でも突然すぎるだろう。昨夜に突然帰還命令なんて。」

 

「まあな。そうだ凰の帰国する日に一緒に迎えに行くぞ。」

 

「ああ、いいけど。」

 

織斑からあっさりと約束を取り付ける。

すると食堂にある空中投影ディスプレイに映っていたバラエティ番組が突然中断して、臨時ニュースに切り替わった。

 

「ここでニュースをお伝えします。」

 

男性アナウンサーの緊迫した声が食堂に流れ、その場にいた生徒達が食い入るように見つめる。

 

「政府の発表によりますと中国で軍事クーデターが発生したとの情報が入りました。情報によりますと汪総書記は処刑され、北京にある在中華人民国大使館が襲撃されたとの情報がありました。繰り返しお伝えします。」

 

生徒達は突然の事ですぐに理解する事が出来ず、アナウンサーの繰り返される言葉を数回聞いてやっと何が起きたか理解できた。

 

「今、中華人民共和国政府の会見の模様が海外メディアを通して生中継されています。」

 

映像が切り替わり、そこには一人の初老の男性が演説をしていた。

 

『我々第十九期中央政治局常務委員会は第十八期中央政治局常務委員会の漢奸共を一掃することに成功した。現在国内に小日本に繋がっている漢奸を摘発している。我々の目的は中華人民共和国を卑怯な小日本から守り、アジアの人民解放と小日本の軍国主義を徹底的に打倒する。』

 

「今映像に映ったのは処刑された汪総書記に変わり中国共産党中央委員会総書記に就任した朱炳煥と情報が入っています。」

 

織斑は臨時ニュースを見ながら呟いた。

 

「何が起こるんだ?」

 

「わからない、ただひとつ言える事はまた戦争が始まるかもしれない。」

 

五十嵐は織斑にそう言い返した。




第五十話です。

やっとゴールデンウィークですね。
うちの大学は29日も授業をしてやっと今日からゴールデンウィークです。
出来ればもう一話ぐらい投稿したいな~でもドイツ語の勉強しなければ。
あとバイトも探さないと。

ここから先はとにかくきな臭くなっていきますね。
自分は日常を描くのが苦手なことを小説を書いていて分かりましたよ。

ではまた今度。


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第五十一話 決断

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


―8月20日午後零時/官邸危機管理センター―

 

 

 

 

 

 

 

首相官邸の地下にある官邸危機管理センターは首相をはじめ閣僚達や国防軍首脳など安全保障に関わる面々が集まっていた。

そこに集まった者は一時間前に入った一報を受けて皆一様に絶望を飲み込むような表情をしていた。

約二時間前、隣国の大国である中華人民共和国において人民解放軍による軍事クーデターが発生。

親日派である汪総書記を始めとする中央政治局常務委員は全員北京軍区の陸軍部隊に捕らえられ処刑された。

汪総書記は白騎士事件後に総書記に就任、経済崩壊後の中華人民共和国を立て直そうと尽力。

その中で日本との関係改善を行い経済協力等で日本と協力しようとしたが国民からの支持は時が経つにつれ段々と失った。

だが前代の政権まで続いた反日教育は国民に深く浸透、さらに何時までも改善されない経済状態の不満も高まり国民は汪総書記を日本に媚びる売国奴と見るようになった。

そんな中で現われた朱炳煥(シュ・ヘイカン)は人民解放陸軍上将であり、汪総書記政権の中国共産党中央軍事委員会の委員であり反日思想を持つタカ派の将官。

朱炳煥は軍国主義日本の打倒と中華人民共和国のアジア平定を掲げて国民の反日思想と中華思想を刺激した。

国民は熱狂的に支持し、国内にある日系企業の施設と日本人を襲撃を繰り返した。

朱は国民の暴動を止めるどころか奨励し、とうとう国民は在中国大使館を襲撃。

施設を放火したうえに大使館員を惨殺した。

この行為はもはや日本に対する宣戦布告に等しかった。

 

「現在様々な情報から推測するに五万人の邦人が現地人並びに地元政府によって殺害されたという報告が入りました。」

 

漆原首相はただただその報告を聞くしかなかった。

国防軍には邦人救出の任務はあるが不可能だ。

中国本土に兵力を送り込み邦人救出を行う、それは中国本土に国防軍に上陸させるという事。

それはすなわち中国と戦争するという事だが、日本にそんな兵力は無い。

 

「残念だが邦人を救出することは不可能だ。問題はこれから朱の中国はどう動くか?外務大臣、まず各国の対応を教えて。」

 

「はい。欧米諸国は中国に滞在する自国民に対して退避勧告を出しました。東南アジア各国など中国と隣接する国家は軍に動員をかけました。」

 

「統合参謀長、中国軍について分かっていることは?」

 

「まだ完全には分かりませんが現在分かっているのは衛星による偵察で中越国境に広州軍区の一個軍団と成都軍区の一部部隊が移動している事がわかりました。」

 

「ベトナムに侵攻するのか?」

 

首相は事態が急速に拡大しているのに驚いた。

まだクーデターが成功してから数時間しか経っていないはずが、軍を編成して隣国に攻め込もうとしている。

 

「クーデターはもとより一連のシナリオは前々から作られたのでしょう。」

 

納得して頷く。

 

「彼は中華帝国を作り上げる気ね。ならまずは裏切り者が立て篭もる台湾に攻め込むはず、問題はその先の琉球と駐留するフランス軍の動きだ。」

 

「まだ我々の得られている情報では」

 

すると会議室に首相と外務大臣の秘書官と国防軍情報局の士官が入出してそれぞれの上司に報告する。

 

「先程フランスと中国が軍事同盟を結びました。」

 

三人の耳に同じ報告が持たされた。

秘書官が退室すると首相はその意味を含めて切り出した。

 

「先程フランスが中国と軍事同盟を結んだようです。我々はシーレーンを抑えられました。」

 

日本の生命線であるシーレーンは中国とフランスの勢力下にある。

日本に向かうタンカーやコンテナ船は勢力下を通らなければならず、開戦すればすぐさま封じるだろう事は容易に考えられる。

そうなれば日本は一切のエネルギーや材料が輸入できなくなる。

また琉球諸島を通って中国とフランスの潜水艦が太平洋側で通商破壊が可能となる。

 

「船会社にはパナマ経由で通ってもらわないといけなくなるね。その分輸入が滞るか。そこは海軍参謀長に輸送船の護衛を任せとるとして、統合参謀長。日本は中国と戦えるか?」

 

その問いに統合参謀長は頭を横に振って答えた。

 

「国防軍は日本防衛するのが限界、いやそれも難しいでしょう。我々の総兵力は七十万人に対して中国・在琉フランスの総兵力は二六十万人。またBMDシステム、弾道誘導弾防衛システムは完全ではありません。仮に中国とフランスがすべての弾道誘導弾並びに各種誘導弾で攻撃された場合五割しか撃墜できないと推測しています。」

 

「そんなに低いの?」

 

「はい...現在の技術ではこれが限界です。」

 

首相と閣僚達は絶望の淵に立たされた気分にされた。

 

「提案があります!」

 

すると空軍参謀長が立ち上がって提案した。

 

「何かいい方法でも?」

 

やつれた声で聞き返す。

 

「ISをBMDシステムに組み込む事です。」

 

その発案に閣僚達は驚きの声を上げる。

 

「そうか...白騎士事件を再現すれば」

 

「そういうことか」

 

統合参謀長は付け加えて言った。

 

「実を言うと国防軍内部で計画されていた案で、完成目前の第三世代IS“紫電”には対弾道誘導弾迎撃用の装備を開発させてました。」

 

それに対して外務大臣が怒声を発する。

 

「どういうことだ!君たちはアラスカ条約を無視する気だったのか!」

 

「違います。もしもの際に」

 

「ああそうだろうな!だが君達は考えられないのか!もし我々がアラスカ条約を破棄して使い始めれば世界の国々、中国やフランスだってISを戦争に投入するぞ!そうなれば世界は破滅的な損害を被ることになるんだぞ!」

 

「もうよい!」

 

首相は外務大臣の言葉を遮ると自分の考えを言った。

 

「私はこの国を存続させる為にはどんな手段も取る。それが国際法違法と言えども、第一相手が国際法どころか法というものを失っている。対するのは我々も相応なる手段を使わなければならん!」

 

首相の言葉に閣僚達は息を呑む。

彼女は一切の迷いを捨て決断を下す。

 

「統合参謀長、すぐに万全な防衛体制を構築させろ。特に海軍参謀長、戦時には輸送船団を絶対に守るんだ。財務大臣、外貨をすべてを使ってでもいいから石油を大量に買え。外務大臣はフランスと中国に敵対する国々と協力を取り付けろ。特にアメリカは我々の国土が焦土化しても戦い続ける為にはあの国の工業力が必要だ。国交大臣、すぐに地下壕の建設を急げ、足りない場合は地下鉄を避難施設にしろ!」

 

首相の指示に従い動き始める。

そんな中で文部科学大臣は手を上げる。

 

「首相、どんな手段でも使うと言いましたが徴用兵の招集もお考えですか?」

 

彼女の問いに首相は否定した。

 

「絶対に使わない。この国の将来を担うのは若者だ、これ以上死なすことは出来ない。あと文部科学省管轄のISを国防軍に提供しなさい。」

 

そう言って閣僚達に指示する事に戻る。

 

「そうですか。」

 

文部科学大臣は同意しつつも首相のそばを離れると不愉快な表情をして舌打ちした。

 




第五十一話目です。

様々な事に追われながら空いた時間で急いで書いています。
大学にはいってからの勉強、特に語学はきついですね。
今日も語学の勉強して夜中に一気に書き上げる生活です。
なかなか国際情勢とか陰謀とか考える時間が無くお粗末な結果になってるかもしれません。
すみません。
もしご意見がありましたら感想欄でお教え下さい。

ではまた今度。


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第五十二話 将来

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


―8月20日―

 

中華人民共和国はフランス共和国・琉球共和国と軍事同盟を締結。

イギリス連合王国・ドイツ連邦・日本国は三国の軍事同盟に対して強く非難、対抗する同盟構築を目指す。

日本大使館襲撃により事実上中国と日本の国交は断絶。

 

―8月21日-

 

中華人民共和国は国名を中華連邦に変更。

中華連邦は東南アジア各国に対して連邦への編入を要求。

ミャンマー連邦共和国・ラオス人民民主共和国は中華連邦への編入を承認。

ベトナム社会主義共和国・フィリピン共和国は中華連邦への編入を拒否。

 

―8月22日-

 

中華連邦は編入を拒否した二ヶ国と中華民国に対して最後通牒を送る、期限は8月25日午前零時まで。

ベトナム社会主義共和国・フィリピン共和国・中華民国は日本国とアメリカ合衆国に軍事的支援を求める。

アメリカ合衆国は三ヶ国の要求を拒否、中立を宣言。

フランス共和国はアメリカ合衆国から購入した二隻のニミッツ級航空母艦を中心とする機動艦隊が実戦レベルに達したと発表。

 

-8月23日―

 

琉球共和国は中華民国に向かう商船の領海内の通過を禁止、海上封鎖を行う。

フランス共和国を中心にポルトガル共和国・ポーランド共和国・スペイン・イタリア共和国などを加えたヨーロッパ連盟を設立。

ヨーロッパ連盟に対してイギリス連合王国・ドイツ連邦を中心にオーストラリア共和国・ハンガリー共和国・チェコ共和国・スロバキア共和国などで構成する対仏同盟が結成される。

 

-8月24日-

 

中華民国に向かう中華民国船籍タンカーが琉球共和国海上自衛隊の停戦を無視、海自の駆逐艦により撃沈させられる。

中華民国、琉球共和国に宣戦布告。

中華民国の琉球共和国に対する宣戦布告に対してフランス共和国・中華連邦は自動参戦。

イギリス連合王国・ドイツ連邦・日本国は中華連邦・フランス共和国・琉球共和国の軍事行動に対して非難する。

 

-8月25日午前零時-

 

中華連邦はベトナム社会主義共和国・フィリピン共和国に対して宣戦布告。

 

 

 

 

 

 

 

-8月25日午前七時/IS学園一年生寮食-

 

 

 

 

 

 

 

中国で軍事クーデターが発生して五日目の朝。

中国国内の映像が報道機関やネット上の動画サイトを介して流れるようになった。

食堂に集まった生徒達は食堂にある空中投影ディスプレイに映し出される映像に釘付けになる。

日の丸が掲げられた日本大使館は炎に包まれ、街灯には大使館員らしき男性が首に縄をかけられ吊り下げられていた。

映像を見る限り目玉をくりぬかれ上半身は蜂の巣のように突き刺され、酷い殺され方をされているのが分かった。

さらに映像は切り替わるとネット上に投稿された動画が流れる。

そこには女性の裸体で陰部を露出したまま射殺された死体が積み上げられた山が映し出された。

それを見ていた一部の生徒が気分を害して退席し、多くの生徒は人間の所業とは思えない行為に何も言えなかった。

さらに映像が続き鼻に針金を通された子供や片腕を切られた老婆、腹部を銃剣で刺された妊婦等の死体が続く。

 

「なんて酷いことを...」

 

篠ノ之は一言言うのが精一杯だった。

同じ席に座る織斑・オルコット・シャルロット・ボーデヴィッヒは目の前にある朝食を食べることが出来なかった。

篠ノ之も同様だった、このような残虐なシーンを見せられれば食欲を失せるのは当然であった。

だが隣に座る五十嵐は残虐のシーンが映し出されるニュースを見ながら次々と目の前にあるパンを頬張る。

 

「五十嵐...こんなのを見てよく食えるな...」

 

篠ノ之は五十嵐にそう言うと彼は自虐的な言葉で返した。

 

「こんなことは戦場では普通さ...村人を焼き払った後、飯を食べるのが俺達の日常だったから。」

 

五十嵐自身は冗談で言ったが篠ノ之は真に受けてしまう。

 

「す、すまない! 嫌味で言った訳では」

 

「...すまん、気にしなくていい。」

 

篠ノ之に謝ると視線を前に座る織斑に向ける。

彼の心配に堪えないような顔をしていた。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫といえるか...幼馴染があの画面の向こうにいるんだぞ!」

 

織斑は五十嵐の言葉に触発されて不安が爆発する。

立ち上がって画面に指差しながら叫ぶ。

 

「凰なら大丈夫だ。」

 

「なぜ大丈夫って言えるんだ?」

 

織斑は座りながら怒りを含んだ声色で聞く。

 

「凰は国家代表候補生であり中国の第三世代IS“甲龍”を扱える数少ないパイロットだ。そんな人間を簡単には殺せない。」

 

「そうだったらいいけど...」

 

「今は信じるしかない。俺達に出来るのはそれしかない。」

 

一方、五十嵐はある懸念を抱いていた。

中華連邦と戦争になれば日本は対抗する為に我々徴用兵を招集するだろう。

そうなった時、もし戦場で凰と出会ったら“殺せる”のか?

昔の自分だったら殺せただろう、しかし凰は半年間の間毎日のように顔を見合わせた友人である。

考え込んでいると五十嵐の携帯が振るえ、ポケットから取り出す。

 

「はい、五十嵐です。」

 

《五十嵐くん、伝えたいことあるから生徒会室まで来て。》

 

相手は更識会長だった。

 

「了解しました...用事が出来たから俺は先に行く。」

 

五人にそう言うと食器を片付けて生徒会室に向かった。

ノックをして生徒会室内に入室すると更識会長が一人立っていた。

 

「失礼します。会長、お話とは?」

 

「おはよう、五十嵐くん。そこにどうぞ。」

 

更識会長に勧められ椅子に座る。

 

「一応、報告なんだけど。ここ最近国内で不穏な動きがいくつかあるの。」

 

「...テロですか?」

 

会長はゆっくりと頷く。

 

「その可能性は高い。けれど様々な所から不穏な動きがあって情報も錯綜しているわ。」

 

「どのようにですか?」

 

「目標が省庁・軍施設・インフラ施設・IS学園など色々上がっている、また国内で活動しているどのテロ組織も活発に行動しているわ。まあ君の母親からの要請でフランス・中国とつながりがある組織を私が持つ部隊で片っ端から叩いているのが現状なのよ。」

 

「それで私にはどうしろと?」

 

警備部隊を離れ、IS学園の一生徒の身分である俺に出来ることは少ない。

出来ることならやりたいが、場合には断らなければならない。

この判断も徴用兵時代には無かった自由なのだろう。

 

「出来るだけ織斑君に付き添って。」

 

「それだけですか?」

 

意外にも普通の頼みを聞いて拍子抜けをする。

 

「え、そうだけど。もしかしたらテロの標的は織斑君の可能性もあるから護衛を頼みたい。私もそろそろ織斑くんに接触しようと思っていたけれどこの状況じゃあ充分手を回せるかわからない。だからお願いできるかしら?」

 

「...はい。」

 

五十嵐はなぜわざわざ普通の事を携帯ではなく直接口頭で伝えたのだろか疑問に思えた。

更識会長は引き出しからヒップホルスターに収められた一丁の9mm拳銃を取り出して五十嵐に渡す。

 

「会長、他になにか話したい事があるのですか?」

 

そう聞くと会長は扇子を広げて口元を隠しながら微笑んで答えた。

 

「やっぱりわかる?君の将来について相談に乗ろうかと?」

 

扇子には“将来"と書かれていた。

 

「あなたもその話ですか?」

 

「“国民的英雄"の将来は皆気になる事よ。」

 

会長はからかうような言葉をかける。

ここ最近、織斑や織斑千冬先生からも聞かれる話題であった。

なぜそこまで自分に聞いてくるのかわからない。

聞かれる事に対して五十嵐は“まだわからない"と言って逃れていた。

実際に聞かれた時はまだわからなかった。

けれど今日までにはもう決めていた。

 

「俺は決めました。IS学園卒業後は国防軍に再入隊します。」

 

五十嵐は会長にキッパリと言う。

 

「なぜ?」

 

会長は予想していたのかわからないが表情を変えずに聞いてくる。

 

「俺はこのIS学園で一般人と同じような生活を送りました。けれど戦場を経験した私には場違いなような場所でした。俺の居場所はやはり国防軍にしかありません。」

 

毎日平和で友人と楽しく過ごしたり、恋愛に本気になるような生活には五十嵐は馴染まなかった。

常に命をかけた戦場で戦友たちと共に過ごす方が居心地が良いように感じた。

 

「でもお母さんは許さないと思うよ?」

 

「そうかもしれない、いえそうでしょう。母親の仕事が落ち着いたら話をしようと思います。」

 

「説得出来るの?」

 

「はい、昔とは違う。俺は"日本国"ではなく"日本国民"のために働くと言います。」

 

「そう。」

 

会長はなぜか残念そうな声色で言った。

 

「では失礼します。」

 

五十嵐は立ち上がり、踵を返すと生徒会室を出た。




第五十二話です。

なんとか一週間一話のペースに維持してきたなと思ったらこれから投稿間隔が開くかも。
バイトを始めたら週3は必ず仕事しなければならないし(面接零勝二敗)英語購読の翻訳は時間かかるし再来週はドイツ語のテストが二連続。
やっとストーリーの道筋が見えてきたのに。

では、また今度。


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第五十三話 激務

-8月25日午後12時/首相官邸-

 

 

 

 

 

 

 

漆原首相は執務室に入ると椅子に勢いよく倒れる。

フランスの琉球進駐から連日に及ぶ厳しい政務をこなして体は限界であった。

やっと衆議院において『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』の撤廃法案が可決され、三日後の今日に否決された。

残念ながら参議院は国民党が多く議席を持ち、ねじれ国会の状態であった。

また緊迫する情勢の中、国防軍の大部分を占める徴用兵の解散は連立する他党の中には国民党に賛同を示すような素振りを見せた。

中国・フランスの脅威に対処しながら他党との連携を図るために連日駆けずり回り可決を勝ち取った。

 

「すぐにお茶を用意します。」

 

その様子を見て秘書はお茶を入れに部屋を出ようとすると入れ替わりに統合参謀長が入室する。

ゆっくりと起き上がると椅子に座るように指示をする。

 

「失礼します。ベトナムの戦況は芳しくありません。」

 

椅子に座りながらそう切り出した。

 

「中華連邦空軍は深夜の内にベトナム空軍を壊滅させ、ベトナム海軍も同様に各個撃破され壊滅しました。反日で中華連邦軍は首都ハノイを陥落させ陸海軍共同でフエに上陸。ベトナムは南北を分断されました。」

 

「何日間が限界?」

 

「...せいぜい三日、よくて一週間が限界だと思います。」

 

「そうか。」

 

首相は毎日のように入る悪い知らせに顔を手で覆い溜息をつく。

朝には台湾が危ない、委員会出席しているとフィリピンが危ないという具合だ。

徴用兵の兵力を使わない以上、七十万人の志願兵で中華連邦の侵略に対抗しなければならない。

けれどこの兵力では東南アジアへの派兵は当然ながら行えない。

日本を守る事で精一杯であり、ベトナムとフィリピんの要請は無視するしかなかった。

今思えば要請を断らず、海軍の航空艦隊だけでも送ればよかったと後悔する。

ベトナムとフィリピンの要請を断った事で『日本は中華連邦の侵略に立ち上がろうとしない』『東南アジアを見捨てた』と東南アジア各国から批判された。

日本の軍事力を頼りにしていた多くの国は中華連邦への編入を認めるしかないという考えが大きくなっていた。

こうなれば日本は東南アジアの道を失い、インド洋から来る輸送船は日本に来ることが出来なくなった。

通ろうとしても中華連邦・フランスそして東南アジア各国の海軍により封鎖され、撃沈されるだろう。

なんとかアメリカとオーストラリアの協力を得る事が出来、海外からのエネルギー輸入はひとまず安心出来る。

それも海軍が守り切れればの話だが。

 

「わかったわ。そっちには朝鮮にいる部隊の撤兵計画をすぐに立案して。」

 

「わかりました。」

 

統合参謀長は激務で疲れているのを知っているのですぐに執務室を出る。

秘書がお茶を持ってくると一気に飲み干し、次の委員会まで執務室に緊急の報告以外で入らせないように命じた。

ソファに寝転がると今度は机に置いた携帯電話が鳴る。

 

「今度はなによ...」

 

鬱陶しく思いながら携帯を取り上げると画面に表示される電話番号を見る。

電話番号を見ると携帯を耳に当てる。

 

《お疲れ様です、首相。》

 

「そちらこそ、更識さん。」

 

電話の相手は更識楯無だった。

 

「それで今月の掃討作戦はどうだった?」

 

《はい、五つの拠点を制圧。七十丁以上の小銃及び拳銃と手榴弾三十個、大量のプラスチック爆弾を押収しました。》

 

毎月、日本へ攻撃しようとするテロリストなどを秘密裏に抹消している報告であった。

 

「御苦労、それで二人の方は?」

 

《今のところ五十嵐くんが織斑くんをなだめているお陰で馬鹿な行動を起こしてはいません。》

 

「そう。それで彼とは話したの?」

 

《はい...五十嵐くんは卒業後は国防軍に再入隊すると。》

 

更識は少し間を置いて答える。

それを聞いて首相は残念そうな顔をしたが、内心ではそうなると覚悟していた。

自分と過ごした時間より軍隊での生活が長い分、社会で生活するよりも安心するのだろう。

それに息子が決めた事なら邪魔せず、応援する事が母親の勤めだと思っていた。

 

「そう、彼が決めた事ならしょうがない。」

 

首相は力強く考えを言う。

続けてボソッと言葉が漏れ聞こえた。

 

「...出来れば普通に暮らして貴方のような子をお嫁さんに」

 

《はい!?》

 

それを聞いた更識の声はとても上擦り、電話を間に挟んでも酷く狼狽しているのが分かった。

しかし首相は気付かずにそのまま続ける。

 

「同い年で美人で頭もよく仕事に対しても真面目に働いてくれる子なら...って私は何を話しているんだ。すまない、更識。」

 

《ですが私は防諜機関の長であり...彼とは対等な立場に...》

 

「何を言っているんだ、更識?」

 

《い、いえ何でもありません!以上で報告終わります。》

 

「ありがとう、この先も我々を妨害するものが現われる。国家・国民の為に勤めてくれ。」

 

電話を切るとポケットに携帯を仕舞い込み、立ち上がる。

 

「さて息子達の為にもあの法案を廃止しなければ。」

 

そう意気込んで、漆原首相は執務室を出た。




第五十三話です。

第四章も予定ではあと二話になりました。
今日、いつものように満員電車に押し込められ大学へ通学中、大の大人二人が喧嘩し始めて驚きました。
最近大学の英語やドイツ語の授業で小テストが行われるようになり勉強が少し忙しくなりました。
バイトの件は四件受けて四件落ちる四戦四敗の状況です。
先方の話だと『夏休みに一週間抜けられるのは...』らしいです、あと四日以上は行って欲しいとか。体育会の部活なので難しいです。

ここからストーリについて。
ちょっと更識さんが五十嵐に行為があるように書いていますが、前のようにイチャイチャすることはありません。ネタバレですがこれから書こうとしているテーマは『昨日まで友人・恋人が次の日になると敵同士になっていた』というのを書きたいんですね。そのために凰と更識には犠牲になってもらいます。

ではまた今度。


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第五十四話 制式

-8月28日午前9時/岐阜基地-

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう完成したか...」

 

IS教導隊隊長佐々木琴音大佐は目の前に佇む二機のISを見上げていた。

一機はオリジナル・コアを搭載した機体、もう一方は量産型コアを搭載した機体だ。

その機体は隣に立つ五十嵐大尉が持っている第三世代IS“紫電”であった。

しかし目の前にあるのは五十嵐の試作機に改良を加えられ、レーダー波を特定方向に反射するために角度が付けられ、試作機の“紫電”とは一味違った。

 

「この二機種が実戦配備されればこの国の守りは万全となる。」

 

佐々木大佐は振り返り倉庫内にいる教導隊のパイロットと整備士そして開発元の国防軍技術本部と企業の研究員に向かって言った。

オリジナル・コアを搭載した機体の前に立つと佐々木大佐は説明する。

 

「オリジナル・コアを搭載した機体は領空内に侵入したISを主に要撃又は敵地への侵攻を目的とした機体だ!」

 

“対IS戦闘型紫電”

装備:・10式50口径12.7mm小銃(銃剣付き)

   ・12式55口径120mmライフル狙撃銃

   ・12式25mm汎用機関銃

   ・10式多連装小型誘導弾発射機(浮遊式発射器×4)

   ・10式チャフ&フレア発射機

   ・10式発煙弾発射装置

   ・J/APG-4レーダー

・MIDS-FDL

   ・戦術妨害装置

   ・光学迷彩

装甲: 強化微細粒子複合装甲(レーダー波吸収素材使用)

 

変わった部分は12式55口径120mmライフル狙撃銃の銃身を短くして射程を犠牲にして取り回しを軽くした点。次にステルス性能の向上と電子攻撃能力の付与だ。

 

「次に量産型コアを搭載した機体は敵国から発射された弾道誘導弾や巡航誘導弾を迎撃することを目的とした機体だ。」

 

“戦域高高度防空型紫電”

装備:・12式25mm汎用機関銃

   ・20mm多銃身機関砲

   ・浮遊式M902発射機×2(合計32発)

   ・小型AN/MPQ-53

   ・10式チャフ&フレア発射機

   ・10式発煙弾発射装置

   ・MIDS-FDL

装甲: 強化微細粒子複合装甲

 

この機体は成層圏のあたりで弾道誘導弾の迎撃を行う機体で、PAC-3“パトリオットシステム”をそのまま乗せたような機体だ。量産型コアの為、装備や電子機器に制限が掛かるが国防軍のC4Ⅰシステムに組み込む事で“戦域高高度防空型紫電”の射撃管制は横田の国防軍宇宙空間防衛司令部が担い迎撃を指示する。このため必要最低限の電子機器だけを載せることに成功した。だが光学迷彩及びレーダー波吸収素材を使用していない為に“対IS戦闘型紫電”の護衛が必要。

 

“拠点防空型紫電”

装備:・GAU-8機関砲×4

   ・03式中距離地対空誘導弾改

   ・11式短距離地対空誘導弾

   ・捜索兼射撃レーダー

装甲: 強化微細粒子複合装甲

 

こちらは“烈風改”の拠点防空型パッケージを発展させたパッケージ。基地や原発などの発電所、都市に撃ち込まれる巡航誘導弾などの各種誘導弾・航空機の迎撃を目的としている。

これらの機体の大きな特徴は光学迷彩が搭載されたことだ。

光の迂回型を利用した光学迷彩は試験運用で確かにIS自体の姿を消すことに成功した。

だがこの機能は大量のエネルギーを消費する為に量産型コアの期待には搭載できず、また静止している状況でしかつかえないのが問題であった。

だが他国ではまだ実験段階の装備を持つアドバンテージはとても大きい。

 

「この状況において試験をする時間は残念ながらもう無い。国防軍は本日を持って“紫電”を制式採用する。すぐに“対IS戦闘型紫電”の十五機の換装を行え。」

 

すぐさま整備士・研究員が協力して倉庫内に鎮座する“烈風改”から“紫電”への換装を行う。

整備工場に一度持っていく時間は無いので倉庫内に整備工場同等の設備を持ってきて行う。

佐々木大佐は五十嵐大尉を呼ぶ。

 

「五十嵐大尉、すぐにインストールを行いIS学園に戻れ。いつ戦争が起こるか分からない上に学園が攻撃目標になる可能性は高い。」

 

「了解しました。」

 

五十嵐大尉は数人の整備士と共に五時間ほどインストールを行うとIS学園に飛んで帰った。




第五十四話です。

今回の話は紫電が出来ましたよという話です。
故に短くてすみません、次話は少し長いと思います。
第四章終了まで後一話。

ではまた今度


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第五十五話 採決

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-8月31日午前6時/五十嵐裕也の自室―

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましの音が部屋に鳴り響く。

五十嵐は起きると、身支度を整え部屋を出る。

今日は象徴的な出来事がおこなわれる日であり、徴用兵にとって記念すべき日になろうとしていた。

『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』廃案を巡る決議が衆議院でおこなわれる。

歩みを食堂へ進め、朝早く部活動がある生徒と共に朝食をとる。

空中投影ディスプレイに流れる朝のニュースは『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』について長い時間を割いて流されていた。

本会議が始まるのは午後一時。

朝食を食べ終わると午後一時までの間、トレーニングと換装された“紫電”の訓練をおこなった。

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後12時40分/国会議事堂-

 

 

 

 

 

 

国会議事堂に漆原首相は入ると記者の団体を掻き分けながら進む。

記者団が衛視に止められ一息つくとポケットに入れていた携帯が鳴る。

取り出して耳に当てるとその声は更識楯無であった。

 

《首相、緊急の要件です》

 

彼女は緊迫した声で首相に伝える。

 

「何があった?」

 

《IS学園に対する攻撃が予想されます。また関連施設も。》

 

「それはIS?」

 

《いえ、私達が得ている情報では銃火器を主武装とするテロ集団です。》

 

こんな大事な時にと思いながら溜息をつきながら指示する。

 

「分かったわ、すぐに学園警備隊に警戒を敷かせるわ。あと国家親衛隊にも出動を要請する。轡木十蔵さんは?」

 

《今日の午後、アラスカから帰国します。護衛はこちらでつけていますが応援を要請する場合もあります。》

 

「わかったわ。」

 

《では頑張って下さい。》

 

電話を切ると次に国家親衛隊長官に連絡して部隊の派遣を命じる。

衆議院議場に入ると国防大臣に更識の情報を伝え、警備隊に警戒するように命じた。

国防大臣が一旦議場を出ると国務大臣席の議長席に一番近い席に座る。

この日は内閣として重大な決議として首相は全国務大臣に出席するように命じていた。

だが五分前になっても文部科学大臣だけが姿を見せなかった。

国防大臣が戻ると首相の傍に来て警備隊へ指示を出したことともう一つ伝えた。

 

「首相、先程文部科学大臣の秘書から突然調子が悪くなり寝込んでいるため議場に行けないと。」

 

「そう。」

 

本会議まであと三分。

自らが確認する時間も無いし、文部科学大臣が一人抜けたからといって決議には問題ならない。

午後一時になり480名の議員が席に座る。

衆議院議長が議長席に座り本会議が始まる。

 

 

「それではこれより会議を開きます。まず日程第一位『知的・身体障害者並びに棄児と低所得者の男児徴用法』廃止法案を議題といたします。」

 

安全保障委員長の議員が立ち上がり演壇にあがる。

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後3時/IS学園一年生寮食堂-

 

 

 

 

 

 

 

食堂には五十嵐をはじめ織斑などの一年生が集まっていた。

白騎士事件以後の女性至上主義の社会が変わる瞬間を見ようと多くの生徒が集まっていた。

野党議員のとても長い反対演説で数人の生徒は机に伏してしまう。

だが討論は時間が経つに連れて次々と終わり最後の議員の演説が終わろうとしている。

国民党の議員はフランス・中華連邦の脅威に対して兵員の確保を必要であると訴える。

一方社会国民党の議員は人権の尊重を訴え、非人道的で残虐な制度だとして廃止を求める。

形だけの討論は時間稼ぎでしかなく、可決の時がこようとしていた。

可決されるのは当然だが、可決されたとしても五十嵐には何の意味を成さない。

どんなに弁護しようとも人を殺した事には変わりない。

この先、どのように生きて罪を償うのか。

五十嵐には分からない。

 

「もうそろそろだね。」

 

シャルロット・デュノアは横でそう言った。

彼女はフランス人だが祖国を捨て、日本人となった彼女も興味があるのだろう。

最後の議員の演説が終わり採決に入る。

 

《以上を持って討論を終局といたします。採決をいたします。》

 

空中投影ディスプレイに生徒達は見入る。

 

《本案を委員長の報告の通り決するに賛成の賛成の諸君の起立を求めます!》

 

この瞬間、社会国民党の議員は立ち上がり国民党の議員は足早に議場を後にする。

議席の過半数の議員が立ち上がり可決した。

 

《賛成多数。よって本案は委員長の報告の通り可》

 

法案が可決しようとした時だった。

画面が一瞬にして暗くなり、様々なものが落ちる音が聞こえた。

突然の事に皆驚き、五十嵐も唖然とする。

それからテレビは画面がテストパターンに切り替わった。

 

「あれを見て!」

 

窓際にいた生徒が外を見ながら大声で言った。

皆が窓から永田町方面を見ると黒煙が空高く上がっていた。

 

「...織斑...駐屯地に行ってくる。」

 

五十嵐は食堂を出て駐屯地に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後4時/IS学園警備総隊駐屯地-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は駐屯地の待合室で顔を手で覆い泣いていた。

事の次第は警備総隊司令の小室准将によって教えられた。

可決の瞬間国会議事堂の衆議院議場において大規模な爆発が発生。

衆議院議場は崩落、可決の際に退場した国民党の議員と欠席した文部科学大臣以外全員死亡。

当然ながら母親である漆原首相の死亡も確認されたらしい。

五十嵐はとても後悔していた。

こんな事になる前に心を許して母親と一緒に生活すればよかったと。

入学式の日に母親と始めて会って以来直接喋ることはなかった。

最後に話したかった、色々なことを。

そしてあの爆発はどう見ても爆弾による爆破テロだ。

母親を殺した奴を絶対に殺してやると五十嵐は心の中で感じていた。

待合室で泣いていると外が騒がしくなっているのが聞こえた。

顔を上げて外を見ると司令室に隊員が次々と集まっていた。

何事かと思って五十嵐は袖で涙を拭うと待合室を出て司令室に向かった。

 

「貴様等何をする!」

 

司令室に行くと小室准将が憲兵に捕らえられていた。

二人の憲兵に押さえ込まれ床に押さえつけられていた。

傍には一人の女性将校が立っていた。

 

「小室浩司准将、外患罪により逮捕する!」

 

小室准将は憲兵に連れて行かれる。

女性将校は小室准将を軽蔑した目で眺めていた。

 

「こんな茶番に付き合えるか!お前らすぐにこいつらを取り押さえろ!」

 

准将は必死に部下達に訴えるが突然の事でどうすればいいのかわからなかった。

そんな中、女性将校が声を上げた。

 

「私は国防陸軍葛西真紀(かさい まき)准将だ!逮捕された小室准将に代わって警備隊の指揮を取る。すぐに全隊は戦闘配備をおこなえ!」

 

隊員達はすぐに駆け出して行く。

 

「ここに五十嵐大尉はいるか!?」

 

次に葛西准将は彼の名を呼んだ。

出て行く隊員達を避けて准将の前に出た。

 

「五十嵐大尉です!」

 

「部屋に入って。」

 

そう言われ司令室に入ると扉を閉めて准将は執務机にある電話であるところにかける。

いくつか電話で言葉を交わすと准将は五十嵐に受話器を渡した。

 

「はい。」

 

《五十嵐くん。私は漆原首相の死亡を受けて権限を受けた文部科学大臣の村瀬由美子だ、お母様の事は残念に思うよ。》

 

「...ありがとうございます。」

 

《これから重要な事を話す。》

 

「はい。」

 

文部科学大臣を除いた閣僚全員が死んだ為“日本国首相の継承順位”により村瀬大臣が首相の権限を委譲した。

五十嵐は彼女がなぜ自分と首相の事を知っているか気に留めなかった。

重要な事という言葉を聞いて目を閉じ集中して聞く。

 

《今回の事件の首謀者は更識家第十七代当主更識楯無だ。》

 

「え...」

 

五十嵐はとても驚いた。

日本の為に忠実に任務をこなしているあの人が首謀者だと。

だが五十嵐はそれだけでは信じられなかった。

 

「どうして?」

 

《彼女は実を言うと熱狂的な女性至上主義者だ。自らの地位を使って首相に近づき、自分達が考える理想の世界を実現させる為にフランス又は中華連邦と共謀し漆原首相と社会国民党の議員を虐殺したと我々は考えている。それに確実な証拠はいくつも見つかっている。》

 

「...そうですか。」

 

五十嵐は自分の母親を殺した“敵”を見つけて復讐心がじわじわと燃え上がる。

 

《我々は亡き漆原首相の思い描いた男女平等の世界を作り上げなければならない。そこで君に聞きたい事がある。》

 

「なんでしょう?」

 

《君は我々に協力するか?》

 

国防軍兵士である彼は日本国のために戦う事は覚悟できていた。

相手が“過去”の友人であろうと上司でも。

そして自分の母親を殺した裏切り者、更識楯無に復讐することを決めていた。

 

「はい、日本国防海軍軍人としてすべての命令に従います。」

 

《ありがとう、五十嵐。後のことはそこの葛西准将に指示を仰げ。》

 

「了解しました。」

 

五十嵐は受話器を戻すと姿勢を正す。

 

「葛西准将、指示をお願いします。」

 

准将は頷くと命令を与えた。

 

「五十嵐大尉、第一強襲隊並びに第二強襲隊と同行し第一警備隊・第一国家保安連隊と共にIS学園に突入。更識楯無並びに生徒会役員布仏本音・布仏虚の逮捕を命じる。抵抗があった場合その場で“射殺”せよ。」

 

「IS学園はアラスカ条約により軍が敷地内に入ることは出来ません。」

 

「大丈夫...ここだけの話、村瀬首相はフランス・中国との戦争に備えてアラスカ条約を破棄する。そのため学園は我が国の管理下に置かれ学園所有のISはすべて接収する予定だ。」

 

「わかりました、すぐに第一強襲隊並びに第二強襲隊と同行し更識楯無並びに生徒会役員布仏本音・布仏虚の逮捕します。」

 

五十嵐は踵を返して司令室を出ると部下から戦闘服と装備を受け取り着替える。

武器庫に向かうと89式小銃と弾倉を受け取る。

そして第一強襲隊と第二強襲隊の隊員が並び待っている兵舎の前に来た。

この二隊を指揮する指揮官に報告する。

 

「五十嵐大尉です。」

 

「よしこれで揃ったな。全隊、乗車せよ!」

 

隊員達と共に高機動車改型に乗り込む。

二台の車列は隊員を乗せるとゆっくりと走り出した。

 

「絶対に母親の敵を取る...更識、絶対に殺してやる。」

 

車内で五十嵐は小声でそう言った。




第五十五話です。

これで第四章は終わりです。
次回から第五章に入りますが、いつかけるだろうか?
なんとなく駆け足で話が進んでいます、すみません。

ではまた今度。


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第五章 大戦
第五十六話 制圧


※誤字脱字があった際、報告お願いします。


8月31日に起きた“国会議事堂爆破事件”により漆原首相は死亡した。

“日本国首相の継承順位”により生き残った村瀬文部科学大臣に首相の権限が移行した。

村瀬首相代行は憲法の一時停止を宣言、首都圏に戒厳令を敷き国家親衛隊に出動を命じた。

さらに事件発生から二時間後、国会議事堂の爆破は領海内に侵入した潜水艦から発射された巡航誘導弾だと発表。

さらに国防軍のいくつかのレーダーサイトが武装集団に襲撃され破壊されたことも合わせて発表した。

これらの首謀者として更識楯無の名を上げ、そして彼女の実戦部隊“楯”の存在を明らかにし、レーダーサイトを襲撃したと発表した。

彼女達と“盾”と呼ばれる部隊、さらに手引きをした軍人として数人の将官に逮捕状が出された。

逮捕状を出された人々の共通点は漆原政権に対して協力をした者達だった。

また攻撃を防げなかった責任を漆原政権に協力的だった軍首脳部に突きつけ解任。

軍首脳を入れ替え、若い女性の将官で固められた。

村瀬首相代行はこの攻撃を中華連邦の攻撃だと言い放ち、日本国は戦時体制に移行することを宣言。

国防軍に解放した徴用兵の招集を命じ、さらには十五歳から三十歳までの男子の徴兵準備を命じた。

そして外務省に対しアラスカ条約の破棄と国際IS委員会からの離脱を指示した。

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後6時45分/羽田国際空港上空-

 

 

 

 

 

 

 

一機のビジネスジェットが羽田空港の滑走路に着陸した。

その機体はIS学園が所有するビジネスジェットであり、機内にはアラスカから帰国した轡木十蔵が乗り込んでいた。

滑走路に着陸して駐機場に進んでいる間、轡木は窓から外を見た。

テロを受け民間機の飛行は禁止され、空港の業務は殆ど停止して空港は静かであった。

駐機場に入る頃、携帯が鳴る。

 

「ああ、更識くんか。」

 

《“ああ”じゃないですよ、十蔵さん!なんで空港に着陸したんですか!》

 

電話をかけた更識楯無は十蔵に大声で怒鳴った。

彼女は村瀬首相が首謀者である事はわかっていた。

爆破の直前に飛び込んできた情報、“村瀬文部科学大臣は裏切り者だ”という情報。

漆原首相代行に協力していた者が次々と逮捕される中、次は自分と轡木十蔵だとわかっていた。

事件直後、更識は轡木に事態を説明してアメリカに戻るように進言した。

 

「大丈夫ですよ、私は裏ではありますが理事長です。簡単には手が出せません。」

 

当然ながらアラスカ条約ではIS学園関係者の身元は保証されていた。

 

《もう村瀬はアラスカ条約を破棄しようと》

 

必死に喋る更識の言葉を遮って轡木は言った。

 

「それに生徒達の為にも私は帰らなければならない。」

 

そう言って轡木は携帯を切った。

ビジネスジェットは駐機場に停止すると二台の黒いバンが赤色灯を点滅させながら横に止まる。

ドアが開放されラッタルが下がると彼はビジネスジェットから降りる。

目の前には完全武装した国家親衛隊の隊員達が待ち構えていた。

 

「あなたが轡木十蔵か?」

 

ひとりの隊員が轡木の前に来る。

彼の顔はまだ幼かった、十五~十六歳あたりだろうと思った。

 

「そうだ、私が轡木十蔵。」

 

「あなたを外患罪で逮捕します。」

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後6時50分/IS学園生徒会室-

 

 

 

 

 

 

 

更識は無言で携帯をポケットを仕舞った。

轡木十蔵は逮捕されたのは確実だ、次は私たちの番だと感じていた。

 

「熱いよ~もう終わりでいい?」

 

「駄目、まだ処分しなけれならない書類が一杯あるんだから。」

 

布仏虚とその妹である本音は一斗缶に次々と更識家に関する機密書類を燃やしていく。

二人の顔は炎の熱で赤くなっていた。

更識はこれからどうするか考える。

“盾”の部隊は立川駐屯地の地下に基地を構えるが、そこは国防軍の特殊部隊と国家親衛隊隊に襲撃されおそらく全滅。

唯一テロ組織のアジトを制圧しに出動していた杉崎大尉と第一小隊は難を逃れたが連絡が取れない。

それにIS学園は国家親衛隊と国防軍IS学園警備隊に包囲されている。

逃げ出す方法と言えば自らのIS“ミステリアス・レイディ”を使っての強行突破。

けれど二人を抱えて戦闘しながら突破するのはいくら相手が通常兵器しか所持していないと言っても不可能。

二人を置いて逃げることも出来なかった。

その時、正門の方向から鉄が軋む音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

-8月31日午後7時/IS学園正門-

 

 

 

 

 

 

 

正門は二重の門で守られ、外側の門は警備隊・内側はIS学園の管轄だった。

外側の門は開かれ、内側の門に向けて05式装甲戦闘車が突進する。

職員はその光景に驚くもどうすることも出来ないので退避する。

05式装甲戦闘車は門に衝突してそのまま馬力で門を押し倒し、続いて高機動車改型と73式大型トラックが続々と侵入する。

学園の各所に車列は停止して、第一警備隊と第一国家保安連隊の隊員達が降車して施設を次々と制圧していく。

寮も制圧され、学生達に兵士達は部屋に留まるように命じられた。

第一警備隊の指揮官は職員室に入ると理事長と校長・教頭とその場にいた教員達の前で宣言した。

 

「現時刻をもってIS操縦者育成特殊国立高等学校は日本国の管理下に置かれる。職員はこれより我々の指示に従って行動するように!」

 

山田先生から報告を受けた織斑千冬は寮の宿直室から飛び出した。

 

「お前ら、ここでなにしている!」

 

一年生寮から飛び出すと近くにいた兵士に詰め寄る。

 

「止まれ!」

 

第一国家保安隊の隊員は89式小銃を向けるがその前に織斑は小銃を蹴り飛ばした。

一瞬の事に驚いた隊員は殴りかかろうとしたが逆に首根っこを掴まれ、空中に持ち上げられた。

 

「ここはアラスカ条約によって学園の敷地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないということは知っているよな?」

 

その状況に数人の隊員が銃口を織斑に向ける。

緊迫した状況で双方引き下がらず、隊員達の人差し指に力が入る。

 

「銃を降ろせ!」

 

すると聞き覚えの声が聞こえた。

隊員が道を開けると一人の国防軍兵士がいた。

88式鉄帽を脱いだ兵士を見て織斑は驚く。

 

「五十嵐!何をやっているんだ!」

 

いつも生徒を叱るような口調で五十嵐に食って掛かる。

彼は表情を変えずに淡々と話す。

 

「国防軍兵士として任務を遂行しています。」

 

彼の目は気の立った目つきをして、なにかとてつもない覚悟を持った目であった。

ここに入学したばかりの時とは違って自ら感情を押し殺しているように感じた。

織斑はいつものような毅然とした態度で臨む。

 

「何をする気だ、ここで?」

 

「私の任務は更識楯無並びに生徒会役員布仏本音・布仏虚の逮捕。抵抗があった場合その場で“射殺”せよと命じられています。」

 

「お前はあれを信じているのか?更識はあんなことをする奴じゃないとわからないのか。」

 

彼女は更識を知る人間で、どう考えてもこのような行為をするわけが無くする必要も無い事はわかっていた。

だが更識を完全に敵だと見なす彼は聞き入れなかった。

 

「ただ軍人として任務を遂行するだけです。その他のことはIS学園警備総隊司令葛西准将にお聞き下さい。」

 

彼はそう言ったが、心の内では復讐心に燃え上がっているのはわかっていた。

しかし彼女に彼の復讐を止める術は無い。

五十嵐は踵を返すと十名ほどの兵士を率いて生徒会室のある建物に向かった。

 

「よし、職員室に行け。」

 

国家親衛隊の隊員の一人がそう命じた。

織斑は二人の隊員に付き添われて職員室に向けて歩き始めた。

そして職員室のある校舎に入ろうとした時、生徒会室が入る建物の方向から爆発音が聞こえた。

続いて銃声が学園に響いた。




第五十六話です。

やはり連続投稿はいけなかったな。
誤字脱字を確認する暇がないし、細かく書くことが出来ない。
また来週も書きたいがドイツ語と英語のテスト、さらに二週間後には長野県の山で二泊三日。
...頑張ろう。

ではまた今度。


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第五十七話 銃撃戦

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-8月31日午後7時5分/生徒会室前-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は第一強襲隊を率いて建物に入り、三階にある生徒会室を目指す。

暗闇の中、89式小銃の銃身に付属するライトの光を頼りに静かに階を上がる。

三階に着くと後ろに付く隊員に止まるように指示して、廊下を見渡す。

暗く長い廊下の先に唯一光が灯った部屋がある、生徒会室だ。

傍にいた一人の隊員と共に廊下に出て、互いにカバーしながら進む。

そして後数歩で生徒会室に辿り着くところで突然生徒会室が爆発した。

爆風で煽られ床に叩き付けられ、窓ガラスが粉々に砕け散る。

 

「大尉!怪我は?」

 

「...それより周辺を捜索しろ!まだ学園から出ていないはずだ。」

 

五十嵐は駆け寄った隊員に指示し、立ち上がると急いで階段を下りる。

更識は自らの牙城を爆破させた、そこにある組織の情報をひとつ残らず隠滅したのだろう。

これで彼女は何か関わっているのは確実だ、悪い方に。

だが本当に関わっているかは疑わしい、それなら直接聞くしかない。

そのためにも見つけ出さなければならない。

五十嵐はそう思いながら駆け下りた。

 

 

 

 

 

 

 

更識楯無は林の中で爆発を見届けた。

 

「よし、行くよ。」

 

兵士達が爆発に気を取られている間に林を出て静かに素早く近くの物陰に移る。

布仏虚と本音も後ろからついて来る。

更識がいる場所から200m先に学園の地下深くにある施設へ逃げ込もうと考えた。

学園の地下には日本政府にも報告していない施設から繋がる複数の脱出路が作られている。

そこを伝って学園の外に出ようと考えた。

そして外にいるはずの五十嵐と合流し、事情を説明し状況を打開させるしか無いと考えていた。

彼女達はテレビを見ていないために現状を理解出来ていないのでこう考えた。

理事長以下織斑千冬も含めた教師は全員拘束され、轡木十蔵は逮捕された。

唯一信頼できるのは五十嵐裕也しかいなかった。

右往左往する兵士達を尻目に三人は次々と物陰を伝って行きながら地下施設への入口近くに辿り着いた。

 

「これで外にいける。」

 

更識は確信して物陰を出た時だった。

頭に銃口を押し付けられ、瞬時に状況を理解した彼女の体は固まる。

 

「更識楯無、何処へ行く気だ?」

 

顔を銃口を当てている兵士に向ける。

そこにいたのは完全武装した五十嵐裕也だった。

更識は信頼出来、そして好意を寄せる人物に会える事がで来て感激した。

背後にいる二人もホッとする。

 

「丁度よかった!私たちは濡れ衣を」

 

更識は五十嵐に抱きつくような勢いで飛び上がる。

しかし五十嵐は彼女の目の前に89式小銃の銃口を突きつける。

 

「お前が母を殺したのか。」

 

恐ろしいほどに声の抑揚が無く、敵を見るような目で睨んでいた。

唐突に五十嵐が突きつけた質問に更識は言葉が出せなかった。

少し間をおいて言葉を出す。

 

「...どういう事」

 

「お前が俺の母親を殺したの聞いているんだ!」

 

答えを欲する五十嵐は苛立ち、恫喝するような口調で言い放つ。

更識は状況を理解して説得しようとする。

 

「私を信じて聞いて欲しいの、五十嵐くん!これは」

 

説得しようと口が開いた時、銃声が轟いた。

目の前にいた五十嵐の89式小銃の機関部に銃弾が撃ち込まれる。

さらに右肩と右足に一発ずつ銃弾が撃ち込まれ、彼はその場に崩れ落ちた。

 

「五十嵐くん!」

 

更識は五十嵐に近づこうとした時、一人の男が更識の体を捕まえる。

 

「当主様!一刻も早くここを離れましょう!」

 

その男は杉崎大尉であった。

慌てて背後を見ると地下施設の入口には第一小隊の面々が展開していた。

 

「早く!」

 

押されるようにして連れて行かれるが、抵抗する。

愛する彼を置いて逃げるのは嫌だった。

 

「待って!五十嵐くんを置いては」

 

必死に叫ぶが杉崎大尉は聞き入れずに、抵抗する彼女を力任せに引張り連れて行く。

銃声を聞きつけた学園警備隊の隊員や国家親衛隊の隊員が続々と集まり、第一小隊と銃撃戦を繰り広げる。

常に戦闘を潜り抜けていた第一小隊との経験は大きく差があり、次々と兵士達が射殺される。

近づこうとする者は正確無比な銃撃で頭や心臓を撃ち抜かれ、息絶える。

その中には年端の行かぬ少年もいる。

レンガが敷かれた道には幾人の血が血溜まりとなり、校舎の壁に飛び散った血で塗りたくられる。

それでも兵士達は負けじと必死に銃撃を浴びせ第一小隊の隊員に負傷を負わせる。

もう収拾はつかない、双方は今までの関係を絶ち敵同士となった。

 

「あなたは更識家の当主として組織を再建し、正常な日本を回復させなければなりません!」

 

「けれど五十嵐くんを」

 

「もう彼は敵なんです!諦めてください!」

 

彼女は諦めきれずに彼の名を叫んだが返って来たのは一発の拳銃弾だった。

五十嵐は伏せながら左手で拳銃を操作して更識に向かって一発の銃弾を放ち、彼女の顔を掠めた。

掠り傷から血が滲み出る。

 

「いつか必ず!地の果てを追いかけてでも絶対に母の敵を取ってやる!」

 

最後に五十嵐はそう言い放つと力尽き地面に顔を伏せた。

そして更識は杉崎大尉に担がれ、その場を去った。

この事件の翌日、日本は世界にアラスカ条約の破棄と国際IS委員会から脱退。

それをキッカケにドミノのように中華連邦、フランス、イギリス、ドイツ、と続々と離脱した。

最後にアメリカが離脱すると条約と国際機関は自然消滅し、ISの無条約時代に突入した。

各国は裏で計画していた軍事計画をもとにISの戦力化をおこなった。

そして村瀬首相代行は気に食わない者の粛清を始めた。




第五十七話です。

前回忙しくて投稿できないと言いながら投稿してしまいました。
もうストーリーは組み上がっているので、書きたい衝動に駆られてしまう(その分誤字脱字が増えるけど)。

ではまた今度。


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第五十八話 粛清の夜

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-8月31日午後7時半/都内某所の住宅街-

 

 

 

 

 

 

 

更識簪は実家にいた。

本当なら午後にIS学園に行くはずだったが、戒厳令が敷かれ外出は制限された為に学園には戻れなかった。

国会議事堂が爆破されてからテレビは緊急報道に変わり、延々とキャスターは国民を落ち着かせようと言葉をかけるだけで断片的な情報しか来ない。

さらについ先程、爆破事件の首謀者として自分の姉が上げられ、とても驚いた。

なぜ国家に尽くす更識家を犯人に仕立て上げられたのか、わからなかった。

それより彼女はこれからどう行動すればいいか考えていた。

まずは姉に電話をしたが携帯は繋がらず、次に学園に連絡するが繋がらなかった。

最後に姉が緊急時の連絡先としてくれた部隊の連絡先にも連絡したが結果は同じだった。

 

「私...どうすれば。」

 

彼女はそう嘆いていると突然ドアが蹴破られた。

ドアが床に倒れ、小銃を構えた二人の男がこちらに銃を向けて突入する。

驚いて立ち上がると壁際に追い詰められた。

 

「やめて、殺さないで...」

 

手を伸ばして必死に抵抗の意思を示すが無駄だった。

二人の男から各一発の銃弾が放たれ彼女の頭を貫いた。

白い壁に飛び散った血が点々と付着し、体は床に倒れた。

銃を向けながら一人の男が近づき、軍靴で体を蹴って転がす。

息絶えているのを確認すると携帯無線機で連絡した。

 

「こちら第一隊、目標の排除を確認。次の目標の排除に移る。」

 

四人の男はすぐに部屋から撤収して家の前にある黒塗りのバンに乗り込むと去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

-9月1日午前零時/首相官邸-

 

 

 

 

 

 

 

村瀬首相代行は官邸危機管理センター内で満足げな顔をしていた。

首相の座る席に踏ん反り返りながら陽気な気分だった。

“特別行動部隊”による反逆者又は反逆者になるであろう人物の処刑は順調に次々と執行されていた。

“特別行動部隊”は漆原政権時に村瀬文部科学大臣と国家親衛隊内のシンパによって作られた部隊だ。

自分の思い描く国家を作り上げる為には反対・妨害するであろう敵性分子などを対象に処刑を行う部隊であり、隊員は国家に忠誠を尽くす徴用兵の中で国家親衛隊の隊員となった者から選抜した者達だった。

徴用兵教育団とはまた違う特別な訓練により効率的に多くの人々を殺せるように訓練された殺人者だ。

彼らは現在、敵性分子になりうる社会国民党の党員と協力的政治団体の会員と思想に反すると判断された高級官僚、将校、知識人などを処刑をしていた。

その数は千人以上にのぼり、社会に影響力を持つ者はその場で殺しその他は親衛隊駐屯地のグラウンドで並ばされた上で次々と射殺されあらかじめ掘られた穴に埋められた。

 

「ここまで使えるとは流石だ、国家親衛隊。まあ男にはこういう仕事しか出来ないが。」

 

首相代行は国家親衛隊長官にそう言うと長官は謙遜しながら答える。

 

「いえいえ村瀬首相。これも首相が研究を進めてきたナノマシンのお陰です。」

 

長官が口にしたのは“(仮称)感情統制装置”の事であった。

これは村瀬首相代行が文部科学大臣に就任する以前から国防省技術本部と共同で進められていた研究で、徴用兵の感情を統制することで、効率的な戦闘とPTSDによる落伍者を出さないのを目的としたナノマシンだ。

漆原政権時に非人道的として中止させられていたが、村瀬首相代行は文部科学省内で秘匿して研究した。

 

「確かにあの効果もあるだろう。それは研究者の調査を聞いてからだ。問題もあるからな。」

 

この装置の問題点は生産費がとても高い上に生産数が少ないのが問題だった。

高い技術力を要するため大量の装置を短期間に作り上げるのはまだ難しい。

それにこれはあくまで試作品で実戦投入はまだ先の話だった。

 

「出来れば親衛隊、次に国防軍の徴用兵、そして最後は男性達に投与して完全に統制したいわね。」

 

首相代行は装置の理想を語る。

すると何かを思い出したかのように口走った。

 

「そう言えば親衛隊長官、処刑リストの中に五十嵐裕也が入っていないが?」

 

「それについては私が。」

 

そう答えたのは国防大臣だった。

 

「彼は漆原の息子だぞ。もしこれがばれたら反乱分子が担ぎ上げるのは必死だ。」

 

「その点に関してはいささか早急すぎると思います。ある程度利用してから殺せばいいと思います。」

 

「利用する?」

 

「そうです。彼は国民から英雄視されている兵士です、彼が活躍することで我々の支持も上がるでしょう。適当な頃合で名誉の戦死をしてもらい盛大な国葬を行います。これによって国民は一致団結するでしょう。」

 

「確かにその考えはいいな、そうしてくれ。それとだ。」

 

立ち上がると国防大臣に指示した。

 

「すぐに弾道誘導弾迎撃態勢を構築とIS学園のコアの徴用を迅速に行え。一機でも自国のISが欲しい。」

 

「了解しました。」

 

「あとは計画通りに進めてくれ。少し私は寝る。」

 

そう言って首相代行は官邸危機管理センターを出て行った。

だが翌日の朝、突然彼女は叩き起こされると、「IS学園が国籍不明のIS部隊に襲撃された。」という報告が彼女の耳に入れられた。




第五十八話目です。

やっとコンビニのバイトが決まりました。
とにかく頑張ります(小説投稿も)。

最近感想を受けて読み直しましたが何か要らない部分がいくつも見つけたので修正した方がいいかな?

ではまた今度。


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第五十九話 襲撃

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-9月1日午前9時/IS学園島-

 

 

 

 

 

 

国会議事堂爆破事件の翌日、行事予定に沿ってIS学園は始業式を執り行う予定だった。

日本国政府の統制下に入ったIS学園は実習を除く通常授業を行うように命じられていた。

IS学園は所有するISをすべて日本政府に接収され、実習を行うのは不可能だった。

今日は朝の始業式があり、終わった後に面倒な授業が続くはずだった。

だがこの日の朝、島外に十五機のISが出現しIS学園の海上警備隊の艦艇が撃沈された。

学園の要所に配置された数基の対空機関砲VADSが近づいてくるISに銃弾を浴びせるが、エネルギーシールドに守られたISには一切の攻撃が効かず、敵機はミサイルポッドを展開させると斉射する。

対空機関砲VADSは誘導弾を必死に迎撃するが、数機の敵機から放たれた誘導弾をすべて撃墜することは出来なかった。

さらに二箇所の橋を攻撃して陸上からの援軍到着を阻止し、学園警備総隊指揮所を含む駐屯地を徹底的に空爆した。

生き残った学園警備隊の兵士は生徒の避難誘導に当たり、親衛隊の隊員は地下施設の防衛に回された。

地下施設には接収されたISが保管され、解体作業中だ。

日本政府は絶対にこれを防衛したいのだろうと織斑一夏は思った。

この時IS学園から接収したISを絶対に守りきるよう村瀬首相代行は警備隊と親衛隊に“死守命令”を出していた。

織斑は警備隊の兵士に守られながら一年一組の生徒と共に避難施設へ走っていた。

本来なら学園島上空での対IS迎撃はIS学園に一任されているが、接収され教師達は戦えない。

また国防軍のIS教導隊は五十嵐も含めて岐阜基地に集結し、間に合わなかった。

織斑達は織斑先生に戦わないように命じられていた、彼らが戦えるほどの技術を持ち合わせていないと判断したからだ。

そのせいで上空は国籍不明のISが跋扈する。

 

「伏せろ!」

 

兵士の一人が大声で叫ぶと一斉に生徒達はその場に伏せた。

轟音と共に一機のISが上空を過ぎ去ると共に無差別に機銃掃射を浴びせた。

20mm機関砲弾の銃弾が地面を削り、破片と土砂が降り注ぐ。

織斑は起き上がると絶句した。

目の前を走っていた生徒や兵士達が地面に倒れ、体は四肢を切断され飛び散っていた。

周囲は血の海が広がり、近くには吹き飛ばされた人間の贓物が転がっていた。

織斑はその光景を見て吐きそうになるがそれを堪えて直視する。

 

「一夏!大丈夫か!」

 

立ち尽くしている織斑を見つけた篠ノ之箒が駆け寄ってくる。

織斑は振り返る、彼の手は握り締め震えていた。

 

「箒、このままだと全員死ぬ。俺が戦わないと。」

 

そう言うと自らのIS“白式”を展開すると即座に飛びあがった。

雪片弐型を装備すると機銃掃射した敵機に背後から近づくと刃に零落白夜を纏わせた。

そして一気に斬りつけると機体は真っ二つに切り裂かれ、爆発した。

その瞬間、敵機の操縦者が自らの剣で切り裂かれるのを見てしまった。

初めて人を殺したという事実が怒りを収め、一瞬思考が停止する。

だがその間に一機のISが織斑に高速で近づいた。

 

「うお!」

 

瞬時加速で避けようとしたが尾のような物体が伸び、捕らえられた。

その機体は金色の塗装がされた派手な機体であった。

織斑は必死にもがきながら敵に大声で叫ぶ。

 

「お前らは何者だ!」

 

だが彼らは何も答えなかった。

 

 

 

 

 

-同時刻/IS学園地下特別区画入口-

 

 

 

 

 

 

 

二台の機動戦闘車が一機の不気味な蜘蛛型ISに105mmライフル砲を撃ち込む。

 

「邪魔なんだよ!」

 

オータムは“アラクネ”の装甲脚二本を延ばして砲撃する。

撃ち出された砲弾は一撃で機動戦闘車を破壊し、燃料に引火して燃え上がる。

悲鳴と共に焼け出される兵士達をオータムは笑いながら殺していく。

そして奥にあるシャッターを吹き飛ばして内部に侵入する。

 

「撃て!」

 

狭い通路には様々な家具を並べた簡易な障害物が築かれ、第一国家保安連隊の隊員達が必死に撃ち返す。

89式小銃、5.56mm機関銃MINIMI、84mm無反動砲などかき集められるだけの火器で抵抗する。

“アラクネ”の周囲に何十発もの銃弾が撃ち込まれ、砲弾が爆発する。

 

「小賢しい真似しやがって、餓鬼共が!」

 

砲撃で障害物ごと吹き飛ばすと突進する。

負傷して動けなくなった隊員を踏めつけて滅茶苦茶にして、抵抗する隊員を見つけると頭を掴み壁に叩き付けて頭をかち割る。

数メートルおきに障害物が置かれ、親衛隊員は戦友がどんなに酷い殺され方をしても気にせず戦い続けた。

 

「鬱陶しい!」

 

さらにスピードを上げ親衛隊員を轢殺しながら進んでいく。

それでも抵抗を諦めず中には爆弾を抱えて自爆攻撃を仕掛ける隊員もいた。

 

「くそ、これ以上は少し危険だ。」

 

自爆攻撃と砲弾はじわじわと機体にダメージを与えていた。

オータムは無理な突進を辞め、一区画毎を部下と共に掃討していく。

次々と親衛隊員を射殺して行き、最深部に到着できた。

オータムがその扉をこじ開けるとそこには何機ものISが並んでいた。

 

「よし、コアだけ取って」

 

だが部屋に入った時、一本の装甲脚が吹き飛ばされた。

オータムは部屋の奥を見ると一機のラファール・リヴァイヴが起動しているのに気付いた。

さらにハイパーセンサーで操縦者の顔を見ると織斑千冬だった。

彼女の目は瞳が怒りに燃えているように見えた。

 

「参る。」

 

ただそう言うとオータムに突撃した。




第五十九話目です。

どのあたりで話を区切ればいいか最近悩んでおります。

ではまた今度。


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第六十話 防衛

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-9月1日午前10時/IS学園-

 

 

 

 

 

 

 

襲撃から一時間が経過し、多くの生徒の避難が完了する。

しかし多くの生徒、教員そして兵士が犠牲となっていた。

校舎やアリーナは殆ど攻撃で燃え上がる惨状だ。

この状況に専用機を持つ生徒達は立ち上がり、襲撃者に攻撃を仕掛ける。

上空では織斑が篠ノ之と共にスコールの操る“ゴールデン・ドーン”に攻撃を仕掛けていた。

しかしどんな攻撃も命中せず、逆にダメージが増えていく。

ボーデヴィッヒやデュノア、オルコットはその他の敵を迎撃するがこちらも上手く行かない。

相手は第二世代ISではあるが、多くの場数を踏んだ歴戦の操縦者だった。

しかし彼らは彼女達の攻撃をあしらうだけで、矛先は地上にいる国防軍に向けられていた。

あくまでも彼らの目的はISの奪取だったので無駄なIS戦闘を避け、地下特別区画に侵入しようとする地上部隊の殲滅が上空を飛行するISの任務だった。

デュノアの攻撃を回避すると一機の“テンペスタⅡ”が急降下して地上部隊に襲い掛かる。

装甲車は燃え上がり、兵士達の死体が量産され道路に積み上がる。

さらには湾岸地域に展開する高射部隊や湾内に展開する艦艇に攻撃を移し次々と撃破される。

 

「くそ!俺達は結局役立たずなのか!?」

 

この光景を見た織斑はそう嘆いた。

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻/地下特別区画某所-

 

 

 

 

 

 

 

三機のISはオータムが空けた入口から侵入してオータムが進んだ通路とは違う通路を進む。

国防軍IS学園警備隊は接収したISを一箇所に集めずに分散して配置していた。

彼女達の編隊はもう一箇所の保管場所に進み、オータムと同じように親衛隊を蹂躙して進む。

そして親衛隊を排除し終え、最後の角を曲がると保管場所のある部屋の区画まで辿り着いた。

一機のISが角を曲がると機械の駆動音と共に大量の銃弾が浴びせられISの機体は蜂の巣にされた。

もう一機が角から鏡を使い先を見るとそこにはガトリングガン四基を装備したラファール・リヴァイヴが鎮座していた。

 

「この先は通しません!」

 

山田真耶先生はこの先にある生徒が避難している施設を防衛する為にここにいた。

彼女と織斑千冬先生以外の教師は避難誘導で負傷又は死亡していた。

この二人しか戦える者は存在せず、あとは親衛隊の少年たちだった。

山田先生は彼らも守ろうと必死になった。

さっそく二機の敵機が様々な武器で撃ち返して来る。

持ち前の装甲で弾き、誘導弾は弾幕で迎撃すると仕返しに大量の銃弾を浴びせる。

一発の威力が高い銃弾は隠れている角の壁を削っていく。

だが弾幕を張り続けると銃弾の残弾は残り少なくなっていく。

山田先生は頃合を見ると装備を解除して床に捨てると車載用榴弾砲で牽制しながら突撃する。

角に飛び込むとグレネードシュウターを撃ち込んでさらには近距離でショットガンを撃ち込む。

一機に飛び乗るアサルトライフルの銃口を当てて弾倉が一本無くなるまで撃ち続ける。

無くなるとアサルトライフルを捨て格闘戦に持ち込み、もう一方の攻撃を物理シールドで抑える。

もう一方の敵は必死に物理シールドを撃ち破ると仲間が山田先生に盾にされていた。

彼女はその状況に攻撃を躊躇うと二発の誘導弾が発射される。

二発の誘導弾は近距離から放たれ迎撃する暇はなかった。

敵機は防御態勢を取る。

二発の誘導弾は爆発した、しかし彼女には爆風と多少の破片が機体を傷つけたに過ぎなかった。

すると倒れる音が聞こえ顔を覆った腕を取ると山田先生の顔面が撃ち抜かれていた。

何が起きたのか困惑すると背後から一機のサイレント・ゼフィルスが現われた。

 

「次は無いぞ。」

 

操縦者であるエムは偏向射撃の連続射撃で誘導弾は迎撃され、顔面を撃ち抜かれたのであった。

エムはそのまま角を曲がると親衛隊の隊員を次々と殺していった。

何重もの銃声が重なり合い、その間に悲鳴が通路を響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻/地下特別区画某所-

 

 

 

 

 

 

 

もう一方の保管場所ではオータムと織斑千冬が死闘を演じていた。

部下の二機はすでに撃墜され、オータム一人となりダメージを負っていた。

だが織斑千冬も二機を撃墜するまでに機体は相当なダメージを負っていた。

さらに最初の空爆で負傷していた。

 

「...さすがブリュンヒルデ...簡単には死なねえな...」

 

双方とも肩で息をする。

普通ならなにかしらの言葉を返す織斑先生だったがその余裕も無かった。

至る所から血が流れ、唯一の武器となった刀を血で染まった手で握り締める。

“アラクネ”も八つの装甲脚をすべて破壊され残るはカタールの二刀のみだ。

 

「どうだブリュンヒルデ、最後の決闘と行こうか?」

 

「...いいだろう。」

 

双方は合意すると刀を構える。

そして二人の間には緊迫した空気が流れる。

そして動いた。

織斑はオータムに突っ込み間合いを詰めると斬りつけようとした。

しかし刃をオータムが隠し持っていたエネルギー・ワイヤーで止められ、カタールが首目掛けて迫る。

止められた瞬間、左腕を振り上げ左腕の骨で受け止めた。

左腕が切り落とされたがカタール刃は逸れ、止められた刀を捨て隠していた脇差を抜く。

脇差の刃はオータムの首を切り裂き、首から多くの血が噴出す。

オータムは絶命する寸前まで織斑を睨みつけ倒れた。

 

「これで終わり」

 

織斑はオータムが倒れて見えた入り口を見ると二機のISがアサルトライフルを構えていた。

もう戦えないと考え覚悟を決めると足を踏ん張って立っていると二機のISから銃撃を受ける。

エネルギーシールドが破られ次に絶対防御が破られ彼女の体を撃ち抜いた。




第六十話です。

この結果に多くの読者から反感を買うかもな。
ちなみに今週からバイトが始まりますので週毎の投稿話数が減ると思います、ご了承を。

ではまた今度。


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第六十一話 入隊

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-9月1日午後4時/IS学園一年生寮食堂-

 

 

 

 

 

 

五十嵐は食堂の席に織斑と共に座っていた。

食堂には生き残った一年生が集められ、ある者は悲しみある者は恐怖で怯えていた。

その中で篠ノ之が二人を見つけて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か、一夏?」

 

織斑はテーブルに伏し、制服の袖を涙でぬらしていた。

少し前、五十嵐と共に織斑は姉の織斑千冬の身元確認をおこなった。

彼女は地下特別区で銃撃を受け、大量出血によるショック死であったらしい。

五十嵐はIS学園襲撃の一報を受けて佐々木隊長の命令で岐阜基地を飛び立った。

三機のIS“紫電”と共にIS学園に急行したが、到着した頃にはすべてが終わっていた。

敵は目的だった学園所有のISのオリジナル・コアを約七割を奪取し、我々の接近に気付くと即座に撤退したらしい。

残ったのは瓦礫と化した校舎と幾多の死体だけだった。

織斑は虚ろな目を篠ノ之に向けて言った。

 

「千冬姉が死んだ...」

 

その言葉に篠ノ之は驚き、五十嵐に視線を移す。

 

「事実だ。学園施設内で銃撃を受けて死んでいた。」

 

五十嵐は淡々と遺体を見つけた際の事を端的に話した。

織斑は頭を抱え今起きてい悪夢を振り払おうとするが不可能だった。

顔を上げると形相は鬼面を思わせるように殺気立っていた。

鋭い眼光を五十嵐に向けると五十嵐に襲撃者について聞いて来た。

 

「五十嵐...千冬姉を殺した奴等は何者なんだ?」

 

五十嵐は正直に答える。

 

「わからない。今調べているが彼らは撃墜されたISに自壊機能を持たせて証拠を残さなかった。特定できるのはまださ」

 

すると食堂にある空中投影ディスプレイに流れていた報道特別番組が切り替わる。

首相官邸の記者会見室に映り変わり、村瀬首相代行の姿が現われた。

そして演説を始めた。

 

『国民の皆様。今日の朝、我が国は凶悪な独裁国家中華連邦の奇襲攻撃により国際平和の象徴とされるIS学園が攻撃されました。無害な教員・生徒達が殺され、勇敢なるIS学園警備隊・第一国家保安隊の隊員の多くが殉職した。しかし彼らの攻撃は止まらないだろう。中華連邦、いや野蛮な中華民族は我々日本民族の最後の一人を殺すまで殺し続けるだろう。多くの方がテレビ・インターネットで残虐な中華民族の姿を見ただろう。奴等は野蛮で残虐な民族だ、この世界から消し去らなければならない!この奇襲攻撃に英国・ドイツは中華民族の野蛮さに気付き我々と行動を共にすることを決めた!我々は野蛮な中華民族の弾圧に屈しない!我々日本民族は団結し、野蛮な中華民族の攻撃から国家・民族・家族・友人・愛する人を守ろう!そして中華民族を滅ぼそう!まずは君達の周りにいる奴らを排除しろ!そして男達は銃を取り、女性達は銃後の守りを固めろ!日本国の独立、日本民族の将来の為に!』

 

演説が終わると画面が切り替わった。

首相代行は中華連邦の仕業だと断定をしたが、軍の調査ではわかっていない。

彼女はこの事件を利用し、国民の対中感情を煽り戦争に向かわせるのだと考えた。

そしてそれはすぐ傍の男を動かした。

 

「中国人が千冬姉を殺したのか?」

 

織斑はそう言うと立ち上がる。

五十嵐は織斑の肩を掴み引き止める。

 

「何処へ行く?」

 

「職員室だ。」

 

職員室には佐々木隊長を含めた国防軍・親衛隊の指揮官が集まっている。

 

「職員室に行ってどうする気だ?」

 

「お前の上官に直談判して軍に志願する。千冬姉の敵を取ってやる。」

 

「お前に軍人は務まらん。足手纏いになるまえにやめろ。」

 

五十嵐がそう言うと馬鹿にされたと感じて織斑は怒声を上げた

 

「軍人になれないだと!俺は第四世代IS“白式”の操縦者だ、各国が喉から手が出るほど欲しがっている人材なんだろ!なら軍で使い物になるはずだ、いくらでも中国人を殺してやる!」

 

「本当に困った奴だ。いいか?俺が断言する、戦場に行ったらお前は壊れる。」

 

「は?人を殺して精神おかしくなるようなお前とは違う。お前が助け来ない間俺は二人殺した!」

 

この言葉に五十嵐は戦ってきた戦歴を馬鹿にされたと想い怒りを露にする。

 

「何人殺したかは関係ない!お前が好きな正義なんて無い世界だ、お前のような頭がお花畑の奴があの場所でまともに生きていけるはずが無い!」

 

この言い合いに気付いて生徒達が集まり、二人を中心に円を作っていた。

 

「二人ともやめろ!」

 

篠ノ之が止めようとするが二人の言い合いは止まらない。

 

「知るか!俺は職員室に行く!」

 

「待て!」

 

五十嵐が再度肩をつかむと織斑は振り返って殴りつけ、拳は五十嵐の右頬を殴りつける。

反射的に五十嵐は腕を伸ばし織斑の顔を殴ると、織斑はよろめいて背後にあったテーブルに突っ込む。

 

「何をしている!静かにしろ!」

 

食堂に現われた佐々木隊長は騒ぎに気付いて怒声を響かせる。

だが二人は喧嘩をやめない。

 

「二人を押さえろ。」

 

「はっ!」

 

引き連れてきた四人の兵士に命じて二人を捕らえさせる。

二人の顔にはあざが出来ていた。

 

「あと篠ノ之箒!お前も来い!」

 

「は、はい。」

 

取り押さえられた二人と篠ノ之は佐々木隊長と共に誰もいない会議室に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

-9月1日午後5時/IS学園本部第一小会議室-

 

 

 

 

 

 

 

三人は小会議室に入ると佐々木隊長は手を払い四人の兵士を小会議室から出した。

 

「なぜ喧嘩を始めた、五十嵐大尉?」

 

佐々木隊長は恐ろしく低い声で質問する。

 

「はっ!織斑一夏が軍に入りたいと言い始め、反対すると口論となり殴り合いに発展しました。」

 

「織斑君、本当か?」

 

織斑は床に顔を向けただ頷いた。

怒られると思っていた五十嵐は鉄拳制裁に備え歯を食いしばった。

 

「そうか、じゃあ丁度よかったな。」

 

しかし佐々木隊長は呆れたものの、ポケットから一枚の紙を取り出すと読み上げた。

 

「国家特別指令第125号。織斑一夏・篠ノ之箒、以下二名を本日付で国防軍へ入隊を命じる。君達にはIS教導隊...いやIS戦略航空隊に配属後、防空任務についてもらう。」

 

「ありがとうございます!」

 

織斑は頭を大袈裟に下げ、篠ノ之は戸惑っていた。

 

「隊長!」

 

五十嵐は異を唱えようとしたが止められる。

 

「すぐに必要最低限の物を纏めて18時までに職員室に集合しろ。」

 

「わかりました!」

 

「はい...」

 

二人は小会議室を退室すると五十嵐大尉は佐々木大佐に異を唱えた。

 

「素人を戦場に行かせるのは反対です!足手纏いになるだけです!」

 

「ああ、わかってる。だがこれは村瀬首相“代行”の命令だ、従わなければならない。大丈夫、彼と彼女“達”には重要度の低い都市の防空を任せる。」

 

「彼女“達”というとボーデヴィッヒ・デュノア・オルコットのことでしょうか。」

 

「そうだ。彼女達の本国は未完成のISをこの国で完成させる気だ、まあ開戦までには間に合わないだろう。」

 

ヨーロッパの国々は隣接した国家と戦うことになり、初期のミサイル攻撃により工業地帯などは破壊される。

防空システムの展開も間に合わない速さで始まるだろう。

それに未完成のISを呼び戻したところで戦力にならないと思い日本に託したのだろう。

それほど日本の防空システムが信頼されているという事なのだろう。

 

「とにかく彼らには出来るだけ後方任務に集中してもらう。それでいいな?」

 

「はい。」

 

「よし、すぐに岐阜に戻るぞ。」

 

午後18時、佐々木隊長と五十嵐達三名は輸送ヘリで岐阜基地に向かった。

その後アジアでは中国・日本が睨み合い、ヨーロッパではイギリスとドイツ対フランスと一触即発の状態に陥った。

そして9月5日の深夜零時、ヨーロッパ大陸で第三次世界大戦の戦端が開かれた。




第六十一話です。

この前投稿してから約22日経ってしまいました、すみません。
三週間ほどバイト・テスト・レポートに追われ、極めつけは二泊三日の八ヶ岳行で遅れました。
高山病・低い気温・暴風・霰の3コンボに見舞われ雪があれば完全に八甲田状態の中で赤岳に登頂しました。おかげで疲れて二日間寝込んで授業をサボってしまった(笑)
まあ途中天候が晴れてとても綺麗な風景を楽しめ、自分の限界を知った合宿でした。
結果としては第六十一話は急ごしらえのクオリティになってしまいました、話のスピードを優先しました。
なんか昔もこんな感じで失敗した記憶がありますが...頑張ります。
そんなこんなでとうとう戦争です、ここから先悲惨な場面が続く予定(仮)です。
...読者減るな、評価はもっと減るな...まあ私は気にせず独自路線を進むだけなので。

ではまた今度、感想楽しみにしています。

追記

つい最近疎かにしていた艦これを久しぶりに再開しました。
次のイベントに向けて飛龍をレベルアップしている毎日ですが改二が増えて回すのが大変。
それに無課金プレイなので港があと八隻で満杯、・・・課金しようかな?
あとついでにWOTも再開しました。


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第六十二話 本土防空戦

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-9月6日午前零時/宇久島城ヶ岳-

 

 

 

 

 

 

 

IS学園襲撃事件後、日本国民の対中感情は最悪となった。

街々では自警団が編成され中国人狩りをおこなっていた。

口々に「虐殺された人々の仇」だと叫びリンチを加え、政府はその行動を奨励し国家親衛隊も動員した。

さらにマスコミは前々から村瀬首相代行に従い以前から中華連邦との対立を煽っていた。

持ち上げられた国民は中国のクーデターにおける日本人への虐殺事件から志願兵が急増して18歳から25歳の者達の殆どが国防軍に志願。

志願兵は訓練後に部隊編成され本土防衛の為に徴用兵の部隊と代わりに配置された。

徴用兵は五個軍に分けられ各々、中華派遣軍・フィリピン派遣軍・東南アジア派遣軍・琉球攻略軍・台湾攻略軍と名付けられた。

彼らは航空艦隊に護衛されながら洋上へ退避していた。

そして中華連邦軍の弾道誘導弾の発射態勢が確認され上空にはIS、陸上にPAC-3、海上には防空駆逐艦が配備され発射に備えた。

五十嵐は北九州・特に佐世保の防空任務に就き、宇久島の城ヶ岳に待機していた。

12式55口径120mmライフル狙撃銃を構え、光学迷彩により森の中に溶け込む。

敵ISによる直接攻撃に備え自分を含めオリジナルコア搭載の“対IS戦闘型紫電”が四機と量産型コア搭載の“拠点防空型紫電”六機が北九州に配備された。

織斑と篠ノ之は東北方面、オルコットやボーデヴィッヒなどの同盟国海外留学生は欧州IS派遣部隊と名乗って中国地方の防空任務に就くことになった。

五十嵐はただ彼らの無事を祈る。

そして凰が目の前に来ないことを祈った。

 

《中国本土からの弾道誘導弾の発射を確認!》

 

欧州大陸で戦争が始まってから一日遅れて戦争は始まった。

バイザーの画面にC4Ⅰシステムで共有される情報を見ると日本に向かう弾道誘導弾の数は三百を越える。

海上では防空駆逐艦が捕捉した弾道誘導弾に対して迎撃誘導弾SM―3を発射。

同時に高高度では二十機を越える“戦域高高度防空型紫電”が搭載する小型AN/MPQ-53が弾道誘導弾を補足すると横田の国防軍宇宙空間防衛司令部が情報を統合して目標を振り分け、振り分けられた目標に対して浮遊式M902発射機を展開して迎撃する。

これらの機体から発射されたPAC-3弾は高い命中率を誇り、次々と迎撃する。

それでも通り抜けた数発は地上のPAC-3により迎撃され第一波を凌ぐことができた。

だが間髪入れずに第二派の発射が確認され、琉球と台湾からも巡航誘導弾が放たれる。

第一波よりも多くの誘導弾が放たれ先と同じように迎撃するが残弾切れも起きすべてを迎撃することには失敗した。

さらに駆逐艦・戦闘機をも投入して超低空を飛行する巡航誘導弾を迎撃する。

重要目標に近づいた巡航誘導弾は“拠点防空型紫電”により迎撃されたが本土への着弾は防げなかった。

次々と誘導弾が町に落ちて火災を引き起こし、瓦礫に変えていくが致命的ではなかった。

撃墜される自国の弾道誘導弾の結果を見て中華連邦軍はISを投入。

本土防空に就く“戦域高高度防空型紫電”への攻撃を開始し、護衛にあたっている“対IS戦闘型紫電”と激しい空戦に突入した。

護衛の“対IS戦闘型紫電”は高空から中華連邦軍のISを見下ろす位置で攻撃を加えた。

ゲリラ豪雨のような様々な火器の弾幕に中華連邦軍主力第二世代IS“黒龍”が突撃をする。

名前にあるとおり黒い機体は次々と真っ赤に燃えるが生き残った機体が“紫電”に襲い掛かった。

近接戦闘に入ると戦争に備えて量産型コアを数多く生産して配備された“黒龍”は性能差を数で補って“対IS戦闘型紫電”の動きを抑えて、一部が“戦域高高度防空型紫電”狩りを始めた。

宇久島城ヶ岳に配置された五十嵐からは上空で煌びやかに輝く星のように見えた。

しかしそれらは敵味方のIS・戦闘機・誘導弾が爆発した光で壮絶な戦闘がおこなわれているのがわかった。

 

《こちらアスター3からディーヴァ各機へ。敵ISと思われる機影を探知、低空で斉州島方面から真っ直ぐ佐世保方面に向かっている。》

 

《こちらディーヴァ1、了解。各機戦闘準備!》

 

編隊長の号令で五十嵐を含めた四機の“対IS戦闘型紫電”は12式55口径120mmライフル狙撃銃を構えて敵を待つ。

ちなみにディーヴァ隊とは五十嵐が所属する編隊のコールサインだ。

なぜ歌姫かと言うと編隊長が歌が上手だかららしい、昔は歌手を目指していたとか。

 

《二時の方向に敵機。各機は手動射撃で先頭の四機を確実に仕留める、以後は任意で攻撃せよ。健闘を祈る。》

 

「了解。」

 

五十嵐は12式55口径120mmライフル狙撃銃の照準器を覗く。

V字隊形で接近する機体はすべて凰の専用機である“甲龍”だった。

それが数えて12機、自分達の三倍の数で迫る。

しかもこの中には凰がいる可能性が高い、“甲龍”を実戦で扱える人間の数を考えれば当然だ。

 

《シュウター、右端を狙え。》

 

「...了解。」

 

銃口を少し右に向け、“甲龍”の胴体と脚部の間に狙いをつける。

心の中で凰がいない事を祈りながら、友人と戦場で会わされた事に神を呪った。

 

《撃ち方用意。》

 

編隊長の号令で引き金に人差し指を掛ける。

 

《撃て!》

 

そして引き金を引いた。




第六十二話です。

ちょうど第六十一話を投稿してから一ヶ月になってしまいました。
そういえばこの物語をにじファンで初投稿してから二年が経ってしまいました。
いつになったら終わるのかと思っている読者もいるでしょう。
自分は今年一年で終わらせたいと思っています。
ですがレポートに次ぐレポートで書く暇が無く、さらに定期試験に追われている始末で中々各暇が無い。物語はもう頭の中では完成しているのだけど。
夏休みにある程度進めるかな~でもバイトで稼いで免許取りたいし旅行にも行きたいしな~
とにかく頑張ります。

ではまた今度。

追記

そう言えばiponeのアプリでWOTが配信しているのを知っているでしょうか?
手軽に出来て通学途中にプレイするにはいいと思いますよ。


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第六十三話 空中戦

※誤字脱字があった際、報告お願いします。
※この回では非常にショッキングな内容になっております。特にセカン党の方は読まないほうがいいです。



-9月6日午前零時/宇久島沖-

 

 

 

 

 

 

 

凰鈴音は編隊の後方を飛行していた。

低空で飛行する“甲龍”の編隊は日本海軍の軍港である佐世保と呉、さらに北九州工業地帯への空襲を目的に飛行をしていた。

凰の“甲龍”は国へ戻ってすぐに軍用へ改装され、電子機器や誘導弾などの武装が搭載され実戦への投入には問題は無い状態であった。

しかし彼女は第二の故郷であり愛する人や友人がいる国を攻撃することを躊躇っていた。

当然彼女はISパイロットとなる上で軍人にならなければならず、ある程度は覚悟していた。

しかしクーデターで突然隣国と戦争することに戸惑っていた。

だが戦いが迫り、それはそれ、これはこれと割り切って考えて飛行し続ける。

 

《もう少しで佐世保だ。気を引き締めろ!》

 

編隊長の激がとぶ。

そして目の前に島が見えてくる。

計画ではこの島を飛び越え一気に上昇して佐世保の軍港設備を10分以内破壊する。

その後、福岡を空襲した後に二手に分かれ大分と山口を空襲、そして呉で合流して攻撃後に帰還する作戦。

そう凰は計画を思い出し、周辺警戒に頭を振る。

すると爆発音が聞こえた。

 

「なに!?」

 

前を振り返ると先行していた四機が爆発して炎に包まれて海に墜落した。

 

《凰!よけろ!》

 

一瞬にして先輩達が殺されたのを目にして唖然としていると同期が凰の機体を蹴っ飛ばした。

その瞬間同期の機体に砲弾が当たり黒煙に包まれる。

 

「大丈夫!?」

 

《大丈夫だ!どうやら胸部の重装甲に当たって助かったらしい。》

 

そこに編隊長の怒声が入る。

 

《そこの二人!死にたくなければ回避行動を取れ!)

 

「了解!」

 

凰は即座に横移動すると先までいたところに砲弾が通り抜ける。

砲弾の方向から島から砲撃を受けているのは確実。

しかしハイパーセンサーで島の山肌を眺めるが敵影はない。

 

《敵の姿があり》

 

混乱した味方の声が撃墜して途切れる。

だがお陰でマズルフラッシュと木々の揺れを感知できた。

 

「二時の方向にマズルフラッシュ!」

 

《わかった!一気に衝撃砲で片付けるぞ!》

 

編隊長は二時の方向へ“龍砲”を向けると砲撃を加える。

さらに凰も“崩山”の四門の熱殻拡散衝撃砲を放ち、生き残った各機も砲撃に参加する。

 

 

 

 

 

 

 

 

-9月6日午前零時/宇久島城ヶ岳-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐は12式55口径120mmライフル狙撃銃の照準器を覗き集中する。

なぜかわからないが集中すると目標の動きがゆっくりとなる。

回避行動を取る“甲龍”の一機に狙いを付け特殊貫通炸裂弾を撃ち込む。

五十嵐が放った特殊貫通炸裂弾は見事に装甲が施されていない胴体と脚部の間に刺さって爆発する。

脚と胴体が引き千切られ爆発で粉々になるのを見せ付けられる。

五十嵐は次の目標に狙いをつけようとすると敵機がこちらに狙いをつけているのが分かった。

 

「敵がこちらの存在に気付きました!」

 

《わかった、擬態解除!すぐに退避しろ!》

 

光学迷彩を解除すると直上に飛び上がる。

その瞬間に敵の砲弾が山肌に命中して、山を削る。

 

《全機、突撃せよ!》

 

12式25mm汎用機関銃に持ち替えると敵編隊に突撃を仕掛ける。

接近すると10式多連装小型誘導弾発射機を呼び出して小型誘導弾の斉射を喰らわせる。

敵が小型誘導弾に逃げ待っているところに12式25mm汎用機関銃を乱射しながら近接戦に持ち込む。

“甲龍”は重装甲であるが各部との接合部に弱点がある。

まずは一機に接近し、左手に持ち替えた10式50口径12.7mm小銃で二門の“龍砲”を破壊すると右手に持つ近接戦闘用刀で切りつける。

だが腕の装甲で塞がられると一旦離れ、回し蹴りを食らわして首筋を見せたところに斬りつける。

首と胴体が離れたパイロットは絶命して、操縦者を失った“甲龍”は真っ直ぐ海に墜落した。

五十嵐が殺したのは凰の同期で、彼女は同期の死を見ていた。

 

「あいつ!」

 

友人を殺され今までの葛藤を忘れ去った凰は“崩山”を連射しながら五十嵐に突進した。

五十嵐はそれに気がついて回避するが左腕と腹部に炎弾が命中する。

持っていた10式50口径12.7mm小銃が破壊され、左腕の装甲に亀裂が走りそこから入った炎が左腕を焼いた。

焼かれた腕の痛みを堪えながら五十嵐は再装填を終えた10式多連装小型誘導弾発射機を斉射する。

24発の小型誘導弾は凰を襲い、的確に四門の“崩山”や電子機器を破壊する。

だが凰は突進をやめずに“双天牙月”を振り回しながら近接戦に持ち込む。

二機は両編隊からある程度離れたところで戦っており、実質一騎打ちだった。

五十嵐は12式25mm汎用機関銃の弾幕射撃をやめると10式発煙弾発射装置を使って煙幕を張る。

凰は敵影を見失ってハイパーセンサーを使おうとしたが、その前に五十嵐の“紫電”に搭載されている戦術妨害装置で使い物にならなくなっていた。

煙の中、凰は気配を感じて“双天牙月”を気配を感じた方向に振り回す。

そこに近接戦闘用刀の刃を受け止めた。

跳ね返すと“双天牙月”を敵に向け振り回す。

五十嵐は距離を置いて再度12式25mm汎用機関銃で銃撃する。

銃弾は凰の“甲龍”に命中して火花を散らすが、装甲で跳ね返される。

 

「ウォリャ!」

 

凰は“双天牙月”を投擲する。

“双天牙月”は一旦下に落ちるがそこから放物線を描いて下から上へ切りつけようとした。

五十嵐はそれを見越して12式55口径120mmライフル狙撃銃を取り出し、徹甲弾を装填した。

そして二発の徹甲弾を撃って“双天牙月”を撃ち落した。

 

「もらった!」

 

敵が12式55口径120mmライフル狙撃銃を取り出した瞬間、凰は突進した。

長銃身の12式55口径120mmライフル狙撃銃は簡単に振り回せない。

その間に接近して格闘戦に持ち込んで叩き潰そうと考えた。

 

「オリャアアア!」

 

叫びながら凰は拳を振り上げた。

だがその時、敵は12式55口径120mmライフル狙撃銃の銃身を掴み、銃底で殴りつけた。

凰の頭部に当たるり、バイザーが粉々に破壊された。

 

「凰!」

 

五十嵐は敵を銃底で殴りつけると止めを刺すために12式55口径120mmライフル狙撃銃を向けた。

しかし敵のパイロットが装着しているバイザーが壊れて顔を見る事ができた。

だがそのせいで引き金を引くことをためらってしまった。

 

《凰!》

 

直上から凰の味方が四門の“崩山”で一斉砲撃した。

上から降ってきた炎弾に回避できずに五十嵐の紫電は四発の炎弾を喰らってしまった。

機体の半分が破壊され、機体制御を失って島に墜落した。

 

《大丈夫か、ファ》

 

助けに来た味方は今度は五十嵐を救援しに来た紫電によって撃墜された。

さらに凰の機体にも容赦無く銃弾を撃ち込み、推進装置をすべて破壊され機体維持警告域に達しそうになっていたが、瀕死の甲龍に紫電は構っている余裕は無く離れていった。

 

「こちら凰少尉、機体制御不能...不時着します。」

 

凰は慣性で飛行して九州の地に墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

-9月6日午前五時/長崎県平戸市-

 

 

 

 

 

 

 

凰の“甲龍”は平戸にある山中に落ちた。

機体は完全に駄目になり、機体を破壊すると山中を彷徨っていた。

太陽が昇り、周りが見えるようになると道が見え、一生懸命草むらを掻き分けて道に出た。

すると一台の高機動車が道を走って来た。

もう本国に帰ることは出来ない、このまま日本軍の捕虜になり生きて帰るしか無いと思っていた。

高機動車が停車すると小銃を手にした男達が降り、凰は手を上げる。

 

「お前は?」

 

一人の兵士が凰を見ながら日本語で問いかけた。

 

「中華連邦空軍凰鈴音少尉よ。」

 

問い掛けに答えると兵士は軽蔑するような目で言った。

 

「中国人の癖に日本語喋れるのか。」

 

この声に周りを取り囲む兵士がケラケラと笑う。

周りの兵士の目は獲物を待つ獣ような目つきをしていた。

すると兵士が凰の顔を殴り、道路に倒される。

 

「なにをするのよ!」

 

「中国人の癖に口答えすんじゃねえ!」

 

さらに兵士は腹を蹴ると馬乗りになってISスーツを破り始めた。

凰は最悪な事が起きているとわかり、必死で抵抗する。

 

「私は軍人よ!ジュネーブ条約で」

 

「知るかよ!日本人を殺しまくったゴミ屑め、体で償え!」

 

「名古屋に核兵器を落しやがって!」

 

山中に悲鳴が響き渡り、数十分後に銃声が響いた。

残念な事に本土にいるのは中国人に対して怒りと憎しみを持った志願兵で徴用兵ではなかった。

この四人以外の多数の兵士達も士官の目の付かない所で中国人捕虜を虐待・虐殺した。




第六十三話です。

今日みたいに一日暇な日があればこうやってかけるのに...
そんなことより皆さんの中には私に怒りを覚えている方もいるかもしれません。
もしかしたら感想欄が非難一色になるかもしれませんね。
この内容は戦争を扱う上で外せないと自分は前々から思っています。
戦争はとても憎しみのはらんだものです、ですので条約関係なく虐殺がおこなわれた歴史は多くあります。
ですが様々な戦争を取り扱った小説では取り上げず、時には勧善懲悪で日本側が善人だと書かれているものがあります。
これは歴史問題やなんやらでややこしいですが、人間が人間である以上こういう事はあるものだと思っています。
なので戦争を取り扱う上で景気がいいことは書きたくありません、特に勧善懲悪もので。
ですので申し訳ありませんがこれからもこんな風に書き進めていきます。
ただし凰鈴音というキャラが嫌いだというわけでありません、ただ物語上必要だっただけです。
ではまた今度、定期試験が終わったら。


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第六十四話 核攻撃

※誤字脱字があった際、報告お願いします。



-9月6日午前二時/フィリピン海-

 

 

 

 

 

 

 

日中間のミサイルの撃ち合いが激しさがました頃、フィリピン海の深海に一隻の潜水艦が潜んでいた。

オハイオ級原子力潜水艦“ルイジアナ”が静かに潜んでいた。

 

「艦長!新たな緊急行動命令を受信しました!」

 

通信士は艦長に通信文を見せた。

 

「『核攻撃を実行せよ。』か...本当にこんなことになるとはな。」

 

士官が通信で送られたコードに従い金庫から作戦計画を取り出して艦長に渡す。

艦長の手元に作戦計画が渡されると隣にいる副長に向かって言った。

 

「これで生意気な中共を吹っ飛ばせるな。」

 

そう言って作戦計画を見ると艦長は驚いたように目を見開いた。

 

「ミサイル長、これは間違いでは?」

 

「いえ、通信文のコードと同じです。」

 

「艦長、どうされましたか?」

 

副長が聞くと艦長はハンドマイクを手にとって艦内放送で乗組員に周知した。

 

「...これより本艦は日本の主要工業地域に対して核攻撃をおこなう!」

 

この命令に艦内の乗組員は驚いた。

 

「艦長!それは本当ですか!?」

 

副長は驚いた声で聞くと通信文と作戦計画を渡した。

通信文にあるコードと作戦計画のコードの符号は一致していた。

 

「...了解。日本の主要工業地域に対する核攻撃をおこないます。」

 

艦長と副長は首に下げる鍵を専用の差込口に刺して回すと核ミサイルの安全装置が解除される。

船体は発射深度まで浮上し、ミサイル士官によってミサイル発射管を覆う整流用外扉と発射管の耐圧扉が開放される。

内部にはW88核弾頭を八発搭載したトライデントⅡが発射を待っていた。

 

「一番発射!」

 

そして艦長によってミサイル発射ボタンが押される。

発射管下部のガス発生装置が高圧ガスを発生させ、発射管に送れると発射管内部のミサイルは下からの高圧ガスによって発射管から防水皮膜を突き破って打ち出され海中を上昇して海面上に飛び出した。

海面上数メートルまで達すると第一段のエンジンが点火しミサイルが日本に向かって上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

-6月6日同時刻/島根沖・日本海上空―

 

 

 

 

 

 

 

シャルロット・デュノアの“ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ”は急速に上昇していた。

中華連邦軍によるさらなる弾道ミサイルを日本に向けて発射している。

本来迎撃に当たる部隊は長時間にわたる迎撃と中華連邦軍のIS部隊との戦闘により弾薬と機体が消耗していた為に、とうとう予備部隊である欧州IS派遣部隊とIS学園の機体を投入した。

デュノアは島根沖に展開する部隊に割り当てられ、必死に配置に就こうとしていた。

もう殆どの部隊の配置を終え、迎撃に当たっていたからだ。

だが突然弾道ミサイルの迎撃を指揮する“国防軍宇宙空間防衛司令部”の通信が割り込んできた。

 

『こちらキャッスル!現在南からMIRV(マーブ)とおもわれる飛翔体が接近中!』

 

すぐにデュノアはハイパーセンサーに司令部から送られた予想落下地点と飛翔ルートを見る。

MIRVはすでに弾頭から八つの再突入体が切り離されていた。

予想落下地点は愛知県、岐阜県、三重県、大阪府、兵庫県、山口県、広島県の六府県に集まっていた。

目標はどうみても各県にある工業地帯の軍需工場だ。

 

『わたくしが山口、広島と兵庫に飛翔する再突入体を迎撃しますわ!』

 

北九州に配置されていたセシリア・オルコットは独断で近くの再突入体の迎撃に向かった。

現在、六府県のうち太平洋側の県には迎撃できるISは配備されていない。

さらに愛知県と岐阜県、三重県のPAC-3は先の弾道ミサイルの攻撃に織り交ぜた長距離巡航ミサイルより破壊されていた。

もし仮に中国がMIRVをこの状況で発射したとなれば、状況打開の為に核弾頭を搭載している可能性があるとオルコットは考えた。

それに動かされデュノアも行動を起こす。

 

「わかった!僕は他を迎撃する!」

 

デュノアはエネルギーをすべて推進力に回して目一杯動かし上昇を続ける。

一分後に大阪へ落下中の再突入体を捕捉することに成功する。

デュノアは予想コースに機体を置き五九口径重機関銃“デザート・フォックス”を取り出して再突入体に向ける。

そして重機関銃の弾幕を張ると再突入体は傷付き爆発した。

 

「次!」

 

すぐに三重県に向かう再突入体に向けて高速で飛行するが着弾まで数分を切っていた。

オルコットは山口、広島に向かう再突入体の迎撃に成功、残りの兵庫県に落下する再突入体の迎撃に取り掛かっていた。

三重県へ着弾予定の再突入体はもう三重県上空に差し掛かろうとしていた。

高速で再突入体に接近すると近接ブレード“ブレッド・スライサー”を取り出した。

 

「ウォリャァァア!」

 

叫び声を上げながら速度を利用して力任せに再突入体を叩き割る。

近接ブレードは折れたが再突入体は粉砕される。

その瞬間にバイザーに警告表示が現われた。

 

『警告!機外の放射線濃度が急上昇しています。』

 

核弾頭が破壊され、内部のプルトニウムが流出したとわかった。

 

「やっぱり核弾頭...」

 

デュノアは核弾頭だと分かると急いで名古屋に落下する再突入体に追いすがる為に急降下する。

しかし名古屋の市街地と工業地帯へ落下する再突入体二発はもう高度1000mを切ろうとしていた。

だがデュノアは諦めない、第二の故郷である日本に核兵器が落ちることは許せなかった。

さらに岐阜へも一発が落下中だったが、暗闇に光が点滅した。

 

『岐阜に落下している奴を迎撃した!』

 

岐阜へ向かう一発は織斑が迎撃に成功した。

そして工業地帯へ落下しようとしていた再突入体を五九口径重機関銃“デザート・フォックス”で破壊する。

 

「あと一発!」

 

さらにデュノアは低空飛行で名古屋の市街地へと入る。

すると織斑が心配してオープン・チャンネルで叫ぶ。

 

『シャル!無茶をするな!』

 

「大丈夫、必ず迎撃するから!」

 

そう言ってデュノアはオープン・チャンネルを切る。

そして落下予想地点に近づき、再突入体を射程に収めると五九口径重機関銃“デザート・フォックス”を空に向ける。

そして引き金を引こうとしたが。

 

「え?」

 

目の前が一瞬で光で包まれた。

核弾頭が名古屋市上空で炸裂し、環状道路一帯が火の玉に包まれた。

爆心地にあった建物はすべて破壊され、無論デュノアも巻き込まれ戦死した。

零コンマ数秒後にきのこ雲が立ち昇ると同時に爆風と熱風が建物を破壊する。

熱放射により木造建築物が燃えるなどしたが、核攻撃に備えた避難計画のお陰で人的被害は警察と消防、公務員に集中したが市民の被害はなかった。

しかし核シェルターに逃げ込めた市民は少数で、強い放射線を浴びた多くの市民は時間と共に苦しんで死んでいった。

 

「シャル...」

 

核爆発の光景を見た織斑はコア・ネットワークでデュノアの機体の反応を探す。

だがいくら探してもコア・ネットワークにはデュノアの反応は見つからなかった。

互いの位置を恒星間距離においても正確に把握することができる能力を遣っても見つからない。

それは相手が死亡又は機体が完全に破壊された状態であるということである。

デュノアが死んだことを織斑は理解した。

 

「絶対に...絶対に復讐してやる...中国人共め!」

 

織斑は涙を流すが怒りと憎しみに歪んだ顔をしていた。

そして手を握り締め、復讐を堅く心に誓った。




第六十四話です。

やっと今日で大学のテストがすべて終わり夏休みに突入しました。
さあて何しようか?
まずはこの小説を進めないといけないかな?
いやレポートが
いやバイト

やる事が多くて小説をこの夏にどこまで進められるかな?

ではまた今度。


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第六十五話 見舞い

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-9月9日午後一時/国防軍佐世保病院-

 

 

 

 

 

 

 

迎撃戦から三日後、五十嵐裕也は病床の上で意識を取り戻した。

起き上がると自分がいるのは個室の部屋だとわかったが、さらに視界が普段より狭い事に気付いた。

 

「...起きたか、五十嵐。」

 

声がする方向に顔を向けるとラウラ・ボーデヴィッヒの姿があった。

彼女はIS 学園の制服ではなくドイツ連邦空軍の制服を着ていた。

 

「ボーデヴィッヒ、すまないが鏡を貸してくれないか?」

 

手鏡を貸してくれた。

それで自分の顔を見ると左目に眼帯がしてあり、鏡を持った左手も中指と薬指の第一関節がなく小指は無い。

さらに左腕や左足、左脇腹に痛みを感じた。

 

「お前は撃墜された時に機体の左側面に攻撃を受けた時に飛び散った機体の破片で左目は潰れ、左手の指は一部切断、さらに腕や脇腹、足に火傷と筋肉の一部が抉られている。...少し待っててくれ。」

 

ボーデヴィッヒは病室の外に出ると、少しして戻ってきた。

 

「五十嵐さん!」

 

ボーデヴィッヒはセシリア・オルコットを呼びに行ってたらしい。

彼女もまた学園の制服ではなくイギリス空軍の制服であった。

五十嵐は彼女達から現在の状況を聞いた。

中華連邦から発射された誘導弾の七割五分を撃墜したが都市や工業地帯に甚大な被害が出たこと。

同時期に朝鮮半島に中華連邦の陸軍が侵攻、朝鮮駐留軍と中華派遣軍と現在戦闘中であること。

現在も東シナ海では大陸から飛来する爆撃機の編隊を迎撃していること。

欧州IS派遣部隊は即応の為に北九州に駐留、IS学園の機体は首都防衛のために東京に移ったこと。

フィリピン海から潜水艦発射弾道誘導弾が発射され、名古屋に一発が落ちて甚大な被害を出したこと。

 

「その時に迎撃しようとしたシャルロットさんが巻き込まれましたわ。」

 

「名古屋には日本のミサイルや航空機、ISの工場が密集していた。それらすべてが失った。」

 

オルコットは涙を浮かばせ、ボーデヴィッヒは淡々と被害を話す。

 

「そうか、デュノアは死んだか...そう言えば凰鈴音のことは知らないか?」

 

そう二人に聞くと彼女達は顔を見合わせ、一時の間をおいてオルコットが口を開いた。

 

「わたくしは戦闘後に平戸という場所に鈴さんの機体が墜落した聞き、国防軍士官に付き添われて行きましたわ。そしたらそこには流れ着いたり、撃墜された中国兵の死体が電柱や街灯に吊り下げられ...その中に...その中に裸で吊り下げられた鈴さんがいたんです!」

 

五十嵐はそのことを聞くと残念に思いながらも、悲しむこともなかった。

友人を傷つけ殺した、また凌辱されたとは残念なことだ。

しかし戦場では何時もの事でありふれた場面だと五十嵐は思っていたので表情を変えることはなかった。

オルコットは続けた。

 

「遺体は軍によって回収されましたわ。ですがそのことを幼馴染であった一夏さんに伝えましたら『だからなんだ、中国人のことなど知らない。俺の友人に中国人はいない。皆敵だ!俺の千冬姉と友人のシャルロットを殺したな!』と言いました。...一夏さんは変わってしまいましたわ、初めて会ったときのような一夏さんはもういません。」

 

オルコットの表情には悲しい影が走っていた。

織斑も戦争の風に当てられていい感じに慈悲の無い兵士になっているのだろうと五十嵐は思えた。

しかし自分のようになっては欲しくなかった、あいつには自分と違い戻るべき場所と人が入るのだから。

 

「あいつも今は復讐心に駆られた人間だ。しかし戦争が終わる時に復讐心という支えを失い虚無感に襲われるだろう。そのとき君達が必要になるだろう、見捨てないで欲しい。」

 

「...はい。」

 

「セシリア、もう時間だ。行くぞ。」

 

二人は病室を出る。

その時、ボーデヴィッヒが振り返る。

 

「五十嵐、お前は私の戦友だ。これをやる。」

 

そう言って投げ渡されたのはボーデヴィッヒが身に着けている眼帯と同じだった。

 

「それは私の眼帯だ。」

 

そう言って彼女は病室を出た。




第六十五話です。

そう言えば今期皆さんはどんなアニメに目を見ているでしょうか。
今期のアニメではないですが「サイコパス」というのを見ていますが、第四話が飛ばされましたね。
佐世保で起きた殺人事件と似ていた為に放送を自粛したらしいですね、残念ながら。
自分的には放送されるはずだった回の話は結構面白かったのですが。
これはもうしょうがないでしょうね。
時々のこの空間でアニメについて話しましょうかね。
連投してたらネタが尽きてしまいますし。

ではまた今度。


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第六十六話 大統領

-11月9日午後一時/アメリカ合衆国・ホワイトハウス-

 

 

 

 

 

 

 

「まったく面白く馬鹿しい戦争になりそうだな。」

 

ホワイトハウスのオーバルオフィスでターナー大統領は集まった閣僚を前に言った。

アメリカは白騎士事件以後の経済不況から立ち直っておらず前々任も前任も数多くの経済対策を行った。

だがどれも状況を打開できるほどの効果は持たなかった。

大統領に就任したばかりの時にフランスなど一部のヨーロッパ諸国の首脳に大企業の経営者などの権力者の誇大妄想を知った時は大笑いしたのを思い出した。

父親は白騎士事件の時の大統領で白騎士に敗北した責任を問われ弾劾された。

その悔しさからこの組織をつくり、死後息子である自分を後継者とした。

初めてこのことを聞いた時は馬鹿げた妄想話だと思ったが、その組織をアメリカの経済対策に大きく役立つと考えた。

戦争によって各国の経済基盤が壊滅すればアメリカの工業力とエネルギーを必要とし、戦後も復興の為に我々が生産する製品が必要とされるはず。

そうならば国内は大きく潤うだろう。

 

「そうなれば我々が世界の頂点に再び立つ事が可能だろう、戦わずに世界の頂点に。」

 

そう大統領は考えていた。

 

「しかし日本に核兵器を落すのはやりすぎだったのではないでしょうか?」

 

司法長官は核攻撃について否定的だった。

 

「想定では日本の工業地帯の五割から七割が壊滅するはずだったが、あの国が開発した優秀なミサイル防衛システムのせいで全然壊されなかったからしょうがない。そうじゃないと製品が売れない。」

 

「おかげで両陣営の各国からは各種兵器から生活用品に至るまでのすべての製品の注文があり、企業は増産態勢にあります。」

 

商務長官はそう言った。

欧州やアジアでの戦争は大量のミサイルによる攻撃から始まり、重要施設を破壊しつくした。

特に工場は軍需工場のみならず食品工場なども破壊され、早くも継戦能力が大きく低下していた。

そのために両陣営の各国は中立であるアメリカの工業力を頼りにして戦争をしている。

そして両陣営から次々と入る注文で国内産業は大きく潤っていた。

 

「とにかく今の内に稼いで大戦後に備えよう。解散。」

 

閣僚達がオーバルオフィスから退出すると、代わりに数人が入室した。

国防長官と四軍の長官・国家情報長官とCIA長官・国務長官の八人が集まった。

彼らとは戦後について話し合う予定だ、アメリカを中心とした世界について。

 

「そうだ、始める前にCIA長官。君の作戦は順調に進んでいるか?」

 

「はい、“世界再建委員会”の会員の八割を様々な方法で抹殺。残りは指導者ですがこれは戦争の趨勢によってです。」

 

「“亡国機業”の処分は?」

 

「今現在、遂行中です。」

 

 

 

 

 

 

 

-同日/大西洋某所-

 

 

 

 

 

 

 

ロサンゼルス級原子力潜水艦が白波を立てて海上を航行する。

だがこの潜水艦には名前は無い、この潜水艦は退役した潜水艦を改造した亡国機業の拠点だった。

一機のSH―60F“オーシャンホーク”が艦の上で滞空するとホイストを降ろす。

 

「じゃあ留守番よろしくね。」

 

スコール・ミューゼルは艦長に別れを告げると救命浮輪を装着してホイストに吊り上げられて“オーシャンホーク”に乗り込む。

彼女の手にはプラスチック製のケースを持ち、その中には“亡国企業”が保有するすべてのISが待機形態で収められていた。

パイロット達には前回の襲撃で傷付いた機体の修復をアメリカ本土でおこなう為だと説明していた。

“オーシャンホーク”が艦の上空を離れると乗組員は艦内に入り、他国の衛星の目から出来るだけ存在を隠匿する為に潜行する。

海上から姿を消してから数分後、突如海面に水柱が立ち上がる。

ある程度の深度に達すると爆弾が起爆するように設定され、さらに船体を完全に壊さず急速に沈み込ませた。

艦内は阿鼻叫喚としているだろう、しかしなす術も無く深海に引きずり込まれ水圧で圧壊するだろう。

 

「...目標の圧壊を確認。」

 

センサーマンはスコールにそう報告した。

これでエムを含む“亡国機業”の実働部隊は壊滅した。

 

「ありがとう。」

 

彼女はそれだけを言った。

“オーシャンホーク”は母艦の“ジェラルド・R・フォード”に帰還した。

 




第六十六話です。

ちょっと内容が薄い&短絡的なような気がする...
そう言えば皆さんISの九巻のCHOCOさんのあとがきを見ましたか?
ヒロイン五人の軍服のコスプレを描いているのですが...見事にバラバラですね(笑)
自分が見た限りではラウラと箒を除いて全員ドイツ国防軍の制服“ぽい”という。
(ちなみにラウラは日本海軍、箒は日本陸軍?)
確かにドイツ国防軍の制服はかっこいいのは認めるがどうせなら各国軍の制服にして欲しかったと思う。
自分ならば
・シャルロット:サン・シール陸軍士官学校の正装
・セシリア:No.2 dress 又はキルト(スコットランド人だったら)
・ラウラ:ドイツ国防陸軍将官の礼服
・箒:大日本帝国海軍第三種軍装
・鈴:中国人民解放陸軍87式夏常服
にすればいいかなと思って見たり...
まあ後書きですから、ここまで求めなくてもいいですね(笑)
描いてくれたら自分的には嬉しい限りです。

ではまた今度。


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第六十七話 琉球爆撃

※誤字脱字があった際、報告お願いします。
※核攻撃について捕捉
・核攻撃後、日本政府は中華連邦が発射したものだと決め付け非難。中華連邦は沈黙する。英国は中華連邦への核攻撃を検討するがフランスが同盟国への核攻撃に対して核で報復すると宣言。フランスからの核攻撃を恐れた英国は核攻撃を中止する。日本はさらなる核攻撃に備え、朝鮮半島に配備された中華派遣軍を分散して戦術核による被害を減らす対策をし、核開発に入る。核攻撃により破壊された工場の代わりの工場を完成までの間、兵器はアメリカからの輸入に頼っている。それはヨーロッパでも同じだった。


-11月12日午前二時/第五航空艦隊・空母“赤城”艦上-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐裕也はF/A―3A“流星”戦闘攻撃機に乗り込んでいた。

本土防空戦の後、入院していた彼に新編された第五航空団への異動命令が下った。

搭乗機であったIS“紫電”が完全破壊され、五十嵐に割ける機体がないが優秀なパイロットを遊ばせておく余裕は日本にないので戦闘機で戦えと異動命令を伝えに来た士官に説明された。

これに対しIS戦略航空隊の佐々木大佐は反対を唱え、国防大臣にまで直談判したらしい。

五十嵐は“赤城”に乗艦した際に大佐が反対した理由が分かったような気がした。

この艦には航海要員と指揮官を除いて殆どが徴用兵と祖国防衛に使命感をおびた若者しかいなかった。

それにこの空母、赤城型航空母艦一番艦“赤城”は1970年代に就役した旧式の空母。

そして随伴艦が最低限の駆逐艦しかいない、しかも旧式のである。

どう見ても囮部隊にしか思えない。

それを証明するかのように“赤城”を中心とする第五航空艦隊は単独に近い状態で琉球諸島に接近していた。

 

「しかし、またお前と組めるとはな。」

 

だがこの部隊に配属されても希望はあった。

 

「俺こそ、お前の操縦なら命を預けられる。俺は絶対に家に帰りたいからな。」

 

後席には日韓戦争からの相棒であった五反田弾が座っていた。

彼と五十嵐は幾度の先頭を潜り抜けた、双方とも相手に厚い信頼を寄せていた。

 

「そう言えば、五十嵐。その眼帯、似合っているぞ。」

 

「そうか?ボーデヴィッヒから貰ったものだ。」

 

「ボーデヴィッヒって確かドイツの美人将校だったか?いいな~」

 

『美人かどうかは知らないけどな』と心の中で呟いた。

 

射出員の合図と共に蒸気カタパルトによって射出され、空に舞い上がる。

今回の任務は琉球本島への上陸に備えての準備爆撃と中華連邦海軍の練習空母艦隊を引き寄せることだった。

案の定、我々の艦隊は敵空母を引き寄せる囮であった。

艦隊上空で編隊を組むと全四十機の戦闘機が琉球本島へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

-11月12日午前六時/琉球本島上空-

 

 

 

 

 

 

 

琉球本島に近づくと各隊に振り分けられた目標に向けて散開した。

五十嵐の二機小隊は先行して超低空で近武湾から本島上空に入り、琉球霊園を飛び越えた。

そしてその先に目標である嘉手納飛行場を片目の右目で捉えた。

 

「五反田!左を頼む!」

 

「わかった!」

 

その瞬間、対空砲火が上がる。

レーダーと連動した対空砲火が襲うが、超低空で接近する戦闘機に誘導弾は間に合わない。

ただ自走式対空砲だけが脅威だが、朝鮮半島で幾度も浴びせられ二人は慣れていた。

機体の傍で砲弾がいくつも炸裂して機体を揺らす。

だが五十嵐は機首を滑走路から逸らさない、絶対に。

そして機体が滑走路に真っ直ぐ入ると“デュランダル”を連続投下する。

投下された“デュランダル”はパラシュートを開き、滑走路に対して垂直になるとロケットモーターを点火。

900Km/hにまで加速させ滑走路下の地中に突き刺り、爆発を起こす。

大きく滑走路が盛り上がり、コンクリートと土砂が吹き飛ばされクレーターを作り出した。

これにより大きく修復困難なクレーターを滑走路に造り、固定翼機の離着陸を不可能にすることで航空基地の機能を麻痺させ、同基地に配備されていた航空部隊を無力化させるのが五十嵐に与えられた任務だった。

お陰で嘉手納に配備された航空隊は戦う前に無力化された。

 

「やったぞ!僚機も成功したぞ!」

 

大爆発が滑走路に何発も起き、二本の大きな滑走路は完全に破壊された。

僚機が傍に来てグットサインを五十嵐に見せた。

 

「よし、帰還するぞ。」

 

僚機にそう伝えた時、僚機は爆発した。

同時にミサイル接近警報がコックピット内に響き渡る。

 

「くそ!」

 

即座にフレアとチャフを撒く。

飛行場に配備された地対空誘導弾の攻撃だと悟った。

 

「八時の方向に誘導弾!」

 

五反田の言葉を聞いた瞬間に右にロールをうって背面急降下をしようとした。

だが遅く至近距離で強力な地対空誘導弾が爆発、大量の破片が機体を襲った。

主翼に大きな穴が開き、電装系が破壊され機器が電子音の悲鳴を上げる。

機体を必死に操縦して空母へ機首を向ける。

だが飛行場からの攻撃は止まらず、さらに地対空誘導弾を二発発射する。

 

「すまない、五反田。俺のミスだ。」

 

五十嵐は敵地への脱出を決め、五反田に伝える。

 

「気にするな、前も敵地に降りた事があるだろう。今回も大丈夫さ!」

 

言い終わると五十嵐は射出フックを思いっきり引張る。

キャノピーが爆薬で吹き飛ばされ、二人は空へ投げ出される。

パラシュートが開いた時、機体に二発の誘導弾が命中して爆発する。

その爆発で破片が降り注ぐ。

 

「あっ...」

 

爆発で吹き飛ばされた主翼の一部が回転しながら五反田のパラシュートを切り裂いた。

 

「五反田!」

 

五反田は悲鳴を上げながら地面に落下していった。

森の中へ落下して消えて行った。

ゆらゆらとパラシュートは落下し、森の木々に引っ掛かり着地する。

五十嵐は急いでパラシュートを外すと森の中を走った。

そして五反田が押した場所に辿り着いた、彼は地面に叩き付けられ死んでいた。

腕と頭が衝撃で胴体から切れて地面に転がっていた。

五十嵐は死体ただ呆然と眺めていると背後から銃床で後頭部を殴られ、気絶した。

 

「うわ!ひでえ死に方だな。」

 

「ああ...」

 

二人の琉球陸上自衛隊の隊員は五十嵐の顔を見た。

彼らは同時に驚き、困惑した。

 

「おい...こいつって日本海軍の撃墜王じゃねえか!」

 

「そ、そうだな...」

 

「ど、どうする...」

 

「とにかくだな...上官に報告だ!それとこいつを運ぶぞ!」

 

二人は五十嵐に手錠を掛けると抱えて運んだ。

その後、大量の犠牲を払いながらも琉球本島の飛行場や防衛施設の大部分の破壊は成功した。

だが第五航空艦隊は中華連邦海軍の練習空母艦隊と刺違え、最後は潜んでいた潜水艦の魚雷攻撃で撃沈した。

約五千人の戦死者を出したが、村瀬首相代行は五十嵐が死んだことを聞いて微笑んだだけであった。

彼女には若者がいくら死のうとどうでもいいことだった。

自分の権力と占領地を増やしてくれるなら安い代金だと考えていた。




第六十七話です。

八月八日から始まった艦これ夏イベントで忙しく投稿が遅れました。
十日から始めて四日間かけてE4までクリアしました...本当にきつかった。
けれど大鯨・時津風・大淀・春雨・早霜を艦隊に迎え入れることに成功して満足しています。
ただそろそろ課金しないとこれ以上艦娘を受け入れられない状況です。
なんとかしないとな...(と言っても課金するしか手は無いけど)
あと、イベント攻略で自分なりのお祈りというか願掛けは“軍歌”を流すことですね。
支援艦隊が来て欲しいときには『砲兵の歌』を流したりと。
案外、軍歌を流すと自分を奮い立たせることが出来るので頑張れます。
特にソ連・ロシアの軍歌は勇気をもらえますね。(行進曲はドイツだけどね)

ではまた今度。


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第六十八話 編入

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-11月??日/?―

 

 

 

 

 

 

 

医療機器に囲まれたベットの中で五十嵐は目覚めた。

 

「お目覚めね」

 

横から女性の声、アメリカ英語で問いかけられた。

五十嵐はここが捕虜収容所ではないと周囲を見て気付いた。

 

「ここはどこだ?いまは何月何日のいつだ?そしてお前は誰だ?」

 

横にいる椅子に足を組んで座っている背の高い金髪の白人女性に聞いた。

 

「一度に質問しないで、質問されるのは嫌いだから」

 

不機嫌そうに答えるも五十嵐の問いに白人女性は答える。

 

「ここはアメリカ合衆国フロリダ州のハールバールフィールドで11月15日の...えっと午後14時を回ったところね。それで私の名はスコール・ミューゼル。アメリカ合衆国空軍第1特殊作戦航空団第2特殊作戦飛行隊の隊長、階級は少佐。」

 

ミューゼルという女性指揮官は前置きなしに本題に入った。

 

「君には私の部隊に入ってもらうわ。当然アメリカ空軍兵士として。」

 

突然の宣告を聞かされ反発する。

 

「何を突然言うんだ!勝手に連れてこられアメリカ兵になれと!」

 

大声で叫ぶと外にいた屈強の兵士が入って来たがミューゼルは手を振って部屋から出す。

 

「うるさいわね。けれど当然よね、他国の為に命捨てろというのはおかしいよね。けれどこれは君と日本国のためになるわ。」

 

“君と日本国のためになる”という言葉聞いて五十嵐は黙る。

 

「アメリカ合衆国はこの大戦を終結と世界の平和を実現するために行動を起こす。今はまだ大きく動かないけど大統領は日本と英独の陣営に加わることを決めた。けど邪魔者がいるわ、欧州のヨーロッパ連盟とISの開発者の篠ノ之束、また貴国と君の邪魔者は母を殺した村瀬首相を始めとする女性主義者。それらを排除し、すべての原因のひとつである全世界のISの排除をすることによって大戦の終結と世界の平和を実現することができると大統領は思っている。君にはそれに協力して欲しい。君のISの能力を使って両国の邪魔者を排除することを。」

 

話を聞き五十嵐は彼女とアメリカが自分の事を知っていることを知り、さらにアメリカは戦争終結に向けて動いていることを知った。

ただ五十嵐はただひとつ知りたいことを聞いた。

 

「更識楯無は俺にとっての邪魔者なのか?」

 

ミューゼルは更識楯無の名前を聞くと少し動揺するも間をおいて話した。

 

「更識家は確かに君の母親である漆原首相を殺した。けれど彼女と村瀬首相の関係がわからない。真相を知るには彼女を生け捕りにして聞かないといけない。それに彼女は日本で影響力を持つ人間。戦後の日本に必要な人間だから殺すと新たな日本国としては面倒よ。」

 

「殺したという証拠は?」

 

五十嵐は証拠を求めるとミューゼルは少し考え込み、携帯を取り出す。

そしてあるところに電話をするため病室を出る。

 

「...すぐには用意できないけど数日まってくれればここに届けられる。」

 

数分後、病室に戻ってきたミューゼルから“証拠はある”と言われた。

五十嵐は少し悲しそうな顔をして言った。

 

「あるのか...その言葉だけでいい。」

 

そして五十嵐は決断した。

 

「わかった、俺はミューゼル少佐の指揮下に入る。」

 

「ありがとう、協力に感謝するわ。明日から早速よろしく。」

 

ミューゼルはそう言うと病室を離れた。

そして翌日、アメリカ空軍のパイロットスーツが届けられさっそく訓練に入った。

与えられたISはオリジナルコアを使用した第三世代IS“紫電”だった。

なぜアメリカに紫電が?と思ったが、これはアラスカ条約が効力のあった時に試作機の“紫電”の設計図を参考に取り寄せていたアメリカ国防省の国防高等研究計画局が五十嵐の為に作ったのだった。

しかし機体は“紫電”だが武装と兵器システムなどはすべてアメリカ軍の物で、慣れるために訓練は必要だった。

また新たに所属する第2特殊作戦飛行隊のメンバーと呼吸を合わせる為の訓練がおこなわれた。

その間にも大戦の様相は刻々と変わってきた。

フランスを始めとするヨーロッパ連盟はドイツやポーランドなどを占領し、欧州の覇権を握ろうとしていた。

唯一イギリスのみがアメリカの支援でかろうじて生き残っていたがいつ上陸されてもおかしくは無い状況であり、イギリスはロシアの参戦を望んだ。

一方、アジアでは日本が琉球を占領し、東南アジア全域に上陸を開始した。

中国大陸ではジリジリと朝鮮半島北部から中国の北京に中国連邦軍を押し上げていた。

そして五十嵐は二ヶ月の訓練を終え、新たな任務に就いた。




解説
米合衆国空軍第1特殊作戦航空団第2特殊作戦飛行隊
米空軍唯一のIS実戦部隊。

米空軍仕様“紫電”
装備:・M242アサルトライフル(元:25mm機関砲)
   ・44口径120mmM258ライフル狙撃銃
   ・AIM-120D四連装発射器×2
   ・チャフ&フレア発射機
   ・煙幕弾発射筒(六個一組)
   ・AN/APG-81レーダー
   ・射撃用射撃管制装置
   ・MIDS-J

第六十八話です。
やっつけですみません。
本当に時間が無くこんな結果になってますが頑張ります。

ではまた今度。


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第六十九話 奪取

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-2013年2月13日午前1時/ルーマニア・黒海沿岸-

 

 

 

 

 

 

 

月明かりもない真っ暗な海から二艘のゾディアックボートが現われ、海岸に乗り上げる。

数名の武装した兵士がAK-74Mを構え、周囲を警戒する。

兵士の一人がハンドサインで敵がいないことを伝えると兵士に比べ小柄な身体の人が降り立つ。

 

「杉崎大尉、隊員を急がせて。コンスタンツァ港に早く向かおう。」

 

小柄な身体の人、それは更識楯無と“盾”の部隊・第一小隊の面々だった。

なぜ彼らがルーマニアに乗り込んだのか、それは四日前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年2月9日/ロシア連邦モスクワ軍管区ジューコフスキー空軍基地―

 

 

 

 

 

 

 

モスクワ郊外にあるこの空軍基地は大規模な航空ショーをおこなう飛行場と知られていた。

飛行場の一角にある倉庫に基地の兵士の案内でGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の第一局局長が倉庫に入る。

 

「おはようございます。突然呼び出してすみませんね、更識さん。」

 

「いえ、私達は亡国機業に関する情報を欲しています。そのためなら時間を割きます。」

 

倉庫には更識楯無と杉崎大尉を始とする“盾”の部隊の生き残りが本部にしていた。

IS学園から脱出した後、更識楯無は関係のあるロシア政府の助けでロシア本国に居候させてもらっていた。

彼女が持つ情報網をロシアの為に使うことと亡国機業の行動を阻止する為に彼女の経験が必要だとロシア政府は考えていた。

局長・更識・杉崎大尉の三人はパイプ椅子と簡素な机に向き合って座った。

 

「早速本題に入りますが去年、我が国のIS基地が襲撃されたのは覚えていますね。」

 

「はい、確かロシア連邦空軍の保有するISの半数が完全に破壊されたと聞きました。」

 

「そうです、それも国籍不明のISにです。ですが我々が保有する衛星と軍事レーダーの情報をつき合わせた結果、襲撃したISは黒海で消息を立ちました。その後、ルーマニアの協力者からの情報でコンスタンツァ港に一隻の不審なコンテナ船が入港したと情報がありました。」

 

「不審な?」

 

更識は首を傾げる。

 

「はい。停泊したコンテナ船からは殆ど人が降りず、船上には常に見張りの船員が張っていたとのことです。そして亡国機業だと判明したのはつい先程入手した写真に幹部のスコール・ミューゼルの姿が認められました。」

 

局長は机の上に数十枚の写真をおいた。

彼の話を聞きながら写真を手に取ると次々と流し見ていった。

 

「そのコンテナ船の航路を調べた結果、国籍不明のISが消息を絶った同時刻に周辺海域を通っていた事が分かりました。このことからこのコンテナ船に偽装した母艦を拠点にし、破壊活動をおこなったものと我々は考えています。」

 

更識は写真を次々と見る。

スコールが部下達と会話する写真を手に取ると目を見開いた。

そこには初めて恋愛感情を抱かせた男、五十嵐裕也の姿があった。

彼はスコールの傍で指示を聞いているようだった。

 

「なぜ...あなたがあいつのもとにいるの?」

 

五十嵐は琉球で作戦行動中に撃墜されて戦死したと聞いていた。

生きていることを喜んだが、なぜスコールのもとにいるのか疑問に思った。

今まで共に自分と戦ってきた戦友が敵側にいるのか。

それを知りたい。

 

「局長、我々はすぐにルーマニアに向かいます。移動手段を用意してくれますか?」

 

「はい、大統領から『彼女の要請に出来る限り応えろ』と言われております。三日以内に用意させます。」

 

「お願いします。」

 

局長が立ち上がって倉庫を出ると、杉崎に命じた。

 

「大尉、すぐに部下達に出動準備を。我々はルーマニアに行く。」

 

亡国機業を倒す為に。

彼を取り戻す為に。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年2月13日午前一時/ルーマニア・黒海沿岸-

 

 

 

 

 

 

 

田園地帯に一機のIS“紫電”が偽装をして佇んでいた。

 

『こちらブラウニー1-2、目標を捕捉。』

 

『フュリーズ了解、各員目標がキルゾーンに入るまで待機。』

 

「こちらフェニックス、了解」

 

五十嵐は静かに44口径120mmM258ライフル狙撃銃を構える。

存在を隠す為に電子装備を一切停止したため、周りは暗闇しかなかった。

これから彼女を撃ち抜くことを思うと今までの戦闘で味わった緊張と違う緊張を味わう。

今は敵とはいえ昔、祖国のために共に戦った者だ。

簡単には決心がつかなかった、しかしこれが祖国の為であるならやらなければならない。

 

『こちらフュリーズ、目標がキルゾーンに入った。攻撃開始。』

 

ミューゼルの命令と同時に我々同様にこの作戦に派遣された第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊が攻撃を仕掛ける。

銃声が暗闇に響き渡り、悲鳴が聞こえる。

 

 

更識はある田んぼに伏せる。

銃声と共に先頭に兵士二名が銃撃され、周囲から銃弾が撃ち込まれる。

完全に包囲されている、すぐにわかった。

 

「大尉!後退しよう!」

 

泥で汚れた顔を上げて杉崎大尉に指示した。

だが大尉は撃ち返しながら答えた。

 

「後方からも銃撃されています。我々はまんまと誘い込まれたようです。」

 

そしてまた一人、会話している間に撃ち殺される。

マズルフラッシュを見るかぎり、敵の方が圧倒的に多い。

ここは一方に突破口を開き、脱出するしかない。

 

「大尉、私が突破口を開く。そこから撤退する。」

 

「了解。しかし敵はISも待機しているかもしれません。」

 

「そうでしょうね。」

 

更識はIS“ミステリアス・レイディ”を展開させると敵に突撃した。

 

 

『こちらブラウニー1-5!目標のISが出現!』

 

『フュリーズ了解、フェニックス出番よ。目標を無力化しなさい!』

 

一方的に命令すると返答を聞く前にミューゼルは通信を切る。

呆れながらも命令通りに行動をおこす。

 

「兵装システム起動。」

 

システムが起動して目の前に様々な情報が浮かび上がる。

ハイパーセンサーが周囲の光景を明瞭にし、レーダーが目標を捕捉する。

 

「目標αを捕捉。」

 

44口径120mmM258ライフル狙撃銃の照準器を覗き込む。

ゆっくりと息を吐き、集中するといつものように周囲の光景がゆっくりと流れる。

レーダー波が目標IS“ミステリアス・レイディ”に届いたのか更識がこちらをゆっくりと振り返るのが見えた。

その瞬間、引き金を引いた。

爆音と共に発射された徹甲弾は高速で飛翔して更識の脚部を破壊する。

さらに二発目を発射するがこれは液状防御フィールドで食い止められた。

二基のAIM-120D四連装発射器を展開、そして八発の対空誘導弾を発射する。

更識は“蒼流旋”に内蔵しているガトリング・ガンで迎撃しつつ、液状防御フィールドで食い止める。

彼女は接近戦に持ち込むため無理に突っ込む。

次々と命中する誘導弾の破片でアクアクリスタルが破損する。

そこに再度五十嵐が44口径120mmM258ライフル狙撃銃で砲撃する。

今度は近接信管入りの砲弾が撃ち出され、周囲で炸裂する。

破片が少しずつISのエネルギーを削っていく。

そして充分に接近すると更識は五十嵐にランスを突き出す。

それに五十嵐は突きを避けると片手に持ったM242アサルトライフルを至近距離で撃ち込む。

怯んだ瞬間に銃弾を撃ちきったM242アサルトライフルを捨て、一気に飛び込んだ。

更識はすぐに蛇腹剣“ラスティー・ネイル”を振り上げようとしたが間に合わなかった。

五十嵐はクリノリンフレームを剥ぎ取った。

すると更識の“ミステリアス・レイディ”の液状防御フィールドが制御不能になり、纏っていた水は地面に落ちた。

 

「え!?」

 

まさかクリノリンフレームを破壊されると思わなかった更識は思考停止に陥った。

そして五十嵐が近接ブレードで背後から斬りかかる。

ランスを持つ右腕がすっぱりと斬られ、腕が地面に落ち回し蹴りを喰らった。

ISは救命領域対応と判断して機体は消失し、更識は意識を失って地面に倒れた。

 

「こちらフェニックス。目標を無力化、すぐに隊員を寄越してください。」

 

『よくやったわフェニックス。彼女は隊員に任せて撤収しなさい。』

 

「了解。」

 

そこに別の無線が入る。

 

『こちらブラウニー1-1、目標を制圧。』

 

『フュリーズ了解、彼らは全員処分しなさい。』

 

『ブラウニー1-1了解。』

 

そして田園地帯に数発の銃声が響いて再び静寂に包まれた。




第六十九話です。

久しぶりに『IS(インフィニット・ストラトス)二次創作スレのまとめ @ ウィキ』を見たのですが何時の間にかハーメルンの項目にこの作品の項目が出来ていましたね。
でもどんな評価されているのかと考えると怖くて開けませんね(この文章の下手さとストーリーの稚拙さ、それにキャラクターを殺しているし)。

ではまた今度。


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第七十話 確認

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


ルーマニアでの戦闘で更識家は当主である更識楯無を除いて死亡、組織は壊滅した。

彼女はアメリカ本国に連れて行かれ、アメリカの思い描く新世界の建設へ協力するように説得された。

どんな返事をしたかは五十嵐は教えられなかった、いや聞くことはなかった。

それから三ヶ月、世界大戦の状況は大きく変わった。

ヨーロッパではヨーロッパ連盟軍が幾度も空爆を受け弱ったイギリスへの上陸作戦を決行した直後、ロシア連邦が自国領内へヨーロッパ連盟軍の爆撃機が空爆したことを理由にヨーロッパ連盟へ宣戦布告、対仏同盟に加わりロシア連邦軍は雪崩のように東欧に侵攻した。

これに対してフランスを中心とするヨーロッパ連盟軍は予備軍を派遣し、防衛するがロシア連邦軍の進撃を食い止める事が出来ず、ロシア連邦軍がドイツのエルベ川に到達した時に戦術核を使用。

前線に配置されたロシア連邦軍各部隊は壊滅し、一時ポーランド国境線まで押し返されたがロシア連邦軍はこれに対して戦術核を使用して攻勢に出た。

このため中央ヨーロッパは核兵器の爆発により荒廃、人々が住めない土地となった。

しかしこの戦術核の撃ち合いはフランスとロシア双方とも本土に対して使用しなかったため、戦略核による全面核戦争には至らなかった。

一方、アジアでは日本国国防軍が琉球共和国並びに台湾の解放に成功した。

しかし東南アジア諸国へ派遣された東南アジア派遣軍とフィリピン派遣軍は苦戦を強いられていた。

東アジア最強の海軍と評された国防海軍もアジア全域の海を守りきることは不可能であり、多くの輸送船が中華連邦海軍の潜水艦に撃沈され輸送は滞っていた。

またジャングルでの戦闘が数ヶ月も続き、感染症が兵士達に蔓延していた。

中国大陸では朝鮮半島から進撃する国防陸軍は中国大陸北部を破竹の勢いで進んでいた。

さらに国防空軍と国防海軍による共同の空爆作戦で沿岸部は壊滅状態になり、爆弾の中には名古屋への核攻撃への報復として原発から出された放射性廃棄物をもとにしたダーティー・ボムも実戦投入された。

これがどのくらいの被害をもたらしたか不明だが、結果沿岸部の経済都市は灰燼に帰した。

この事が中華連邦国内で広まり、朱炳煥総書記の政権は求心力を失い人々は政権へ反旗を翻し始めた。

新疆ウイグル自治区やチベット自治区・青海省では大規模反乱が発生し、各軍区ではクーデターの噂が流れるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年5月23日午前10時/南大西洋のある無人島-

 

 

 

 

 

 

 

波の音しか聞こえない白浜に轟音を響かせ数機のISが着陸する。

スコール・ミューゼル率いるアメリカ合衆国空軍第1特殊作戦航空団第2特殊作戦飛行隊はこの世界を作った元凶である篠ノ之束のアジトがあるという報告をもとに無人島へ上陸した。

飛行隊が保有するIS八機全機を投入しての作戦だったが、五十嵐はこの作戦に疑問を持っていた。

今まで篠ノ之束の身柄確保又は殺害にアメリカを始めとする国々が総力を挙げておこなってきたがことごとくすべて失敗、酷い時は逆に罠に誘い込まれて部隊が全滅したことだってある。

中央情報局(CIA)は今度こそ本当の居場所を突き止めたと言っていたが怪しい。

 

『フェニックス、入口の爆破をお願い。』

 

さっそくミューゼルから命令され、五十嵐は“紫電”の44口径120mmM258ライフル狙撃銃を構える。

そして他の隊員が見つけたアジトへの入口に向け、榴弾を撃ち込む。

重厚な扉に榴弾が炸裂すると扉はくの字に曲がり内部へ吹き飛ばされた。

 

『総員、突入』

 

隊員達はミューゼルを先頭にアジトへ突入する。

入口は小さい為にISを展開したままでは入れない為、展開を解除する。

そしてFN―P90を構え、部隊の最後尾からついて行く。

狭い通路を一列になって進む、暗く明かりがなければ一寸先も分からない。

下り、曲がり、また下り、また曲がりと迷路のように通路は続く。

ここで襲われたらひとたまりもないだろうと考えるが、特に何も起こらなかった。

すると通路の先に光が見え、それに向かって進む。

 

「案外、空間は広く出来てるな。これならISを展開させても戦闘機動がおこなえる。」

 

光の先に出るとそこは金属の壁で囲まれた天井の高い広い部屋だった。

全隊員が散開して前進し続けると、突然五十嵐は上下左右もわからない世界が広がった。

その瞬間、周囲から銃声と悲鳴が木霊する。

そして無音の状態になる。

 

「隊長!」

 

五十嵐は白い世界でミューゼルや他の隊員の名を叫ぶが返答はなかった。

右往左往していると白い世界から天井の高い部屋に戻され、見たものは飛行隊の隊員の死体だった。

金属の床に四肢が切断されたり、上半身と下半身が切り離されたり、つぶれた死体が転がっていた。

ミューゼルも同様に頭部が半分陥没した姿で見つけた。

 

「銃を捨てて。」

 

背後から少女の声がした。

この惨状を作り上げたのは彼女なのだろうと思い、おとなしくFN-P90の弾倉を抜いて床に捨てる。

 

「ISの待機形態も、こちらに投げて。」

 

首に下げた認識票、待機形態の“紫電”を外して後ろに投げた。

 

「こっちを向いて。」

 

指示通り振り返ると銀髪の少女が拳銃を構えて立っていた。

一瞬五十嵐はボーデヴィッヒと勘違いしたほど雰囲気が似て、さらに黒の眼球に金の瞳の目をしているのに驚いた。

 

「そこの部屋に入りなさい。」

 

天井の高い部屋の壁の一部が開き、ゆっくり歩いて部屋に入る。

そこはいくつものディスプレイが並んだ部屋で、他に工作機械らしきものも見受けられた。

しかしそれらは死んだように動きを止めていた。

 

「君が探していた束さまは奥にいます。」

 

言われたとおり奥に行くと、そこには寝台に横になった篠ノ之束の姿があった。

それを見て五十嵐は悟った。

 

「世界がこんな状態になっているのに、こいつが静かにいる事が不自然に思ったが...死んだのか。」

 

銀髪の少女はコクリと頷く。

 

「束さまは大戦がはじまる前、学園が襲撃され親友である織斑千冬が死んだことにショックを覚え、自殺しました。織斑千冬のいない世界は彼女にとってどうでもいいのでしょう。」

 

「科学者の癖に織斑先生のあとを追ったと?」

 

信じられなかった、この狂った人間が死んだ人を追って自殺するような人間だとは。

 

「最後に束さまはいつか男性IS操縦者のうちどちらかが来た時までここを守り、その方に事実を伝えるように言われました。」

 

彼女は認識票を五十嵐に投げ返すと自らのこめかみに拳銃の銃口を突き付けた。

 

「私は最後の言い付けを終えました。私、クロエ・クロニクルはあの世で束さまに仕えるため死にます。この施設は私の生体反応が消えると五分後に爆破します。急いでこの島を離れてください。」

 

そう言うと彼女は躊躇いもなく引き金を引いて自らの頭を吹き飛ばした。

五十嵐は言われた通り走って施設を出ると急いでIS“紫電”を展開して島を離れた。

五分後、無人島は閃光に包まれ爆音と共にきのこ雲に包まれた。

そして晴れた時には無人島は跡形もなく消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年5月23日正午/アメリカ合衆国ワシントンDC・ホワイトハウス-

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、御苦労。」

 

昼食をとろうとした時、ターナー大統領はオーバルオフィスで電話を受けた。

電話をしたのは国防総省長官で、『篠ノ之束は死んだ』と彼は伝えられた。

 

「IS部隊は壊滅したが、それ以上の成果をもたらした...よしすべては整った。戦争を終わらそう。」

 

そう言って大統領は昼食をとりにオーバルオフィスを出た。




第七十話です。

大学の講義が休みになって書く暇が出来たので投稿しました。
もうこの小説も終わりに近づいていますね。

ではまた今度。


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第六章 内戦
第七十一話 帰還


※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月6日午前1時/中華連邦遼寧省日本国防軍占領地域-

 

 

 

 

 

 

 

都市から離れた草原地帯にある廃村、暗闇の中に小銃を構えた民兵が周囲を見張っていた。

すると突然背後から暗視装置を装着した完全武装の兵士に背後から口を押さえられ首筋を掻き切られた。

それに続いて数名の同じ姿をした兵士が姿勢を低くして廃村の中心部にある家屋に集結する。

先頭の兵士が窓から点検鏡で内部を確認する。

鏡には二人の民兵が談笑している姿が映り、次に眠っている民兵の姿を確認する。

そして奥には目標である拘束され頭に麻袋を被せられた男の姿を見つけた。

兵士は点検鏡を畳むとハンドサインで突入を指示する。

最初に窓ガラスを割ると閃光発音筒を投げ入れ爆発すると瞬時に日本国防陸軍特殊作戦群の隊員が内部に突入し、暗視装置で民兵を探し当て片っ端から射殺する。

 

「クリア!」

 

制圧を完了すると隊長は床に倒れた麻袋を被せられた男を引き上げて麻袋を外す。

そして目標の顔写真と見比べ確認を取ると質問した。

 

「お前は国防海軍第五航空団の五十嵐裕也大尉だな。」

 

「そうだ。」

 

五十嵐は頷いて答えた。

そして隊員に抱えられ飛来したUH-60JA“ブラックホーク”に乗せられた。

なぜ彼が日本に戻ってきたのか?

それは十四日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

-5月24日午後2時/南太平洋上・強襲揚陸艦“アメリカ”―

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束のアジトへ強襲を終えて一人帰還した五十嵐はハワイへ帰還の途につく強襲揚陸艦の会議室で作戦について数時間に及ぶ報告をさせられた。

この作戦においてアメリカ合衆国空軍の誇るIS部隊が壊滅、さらには篠ノ之束の死亡という事実に作戦を指揮した将官達は信じられなかった。

五十嵐は怒ったことをありのままに報告をおこなったが、最初は信じられず何度も繰り返し説明して将官達は納得した。

 

「報告は以上です。」

 

「わかった。これで終わりにしよう、ただ君には客人が一人来ている。」

 

将官達は会議室から退出すると代わりにスーツを着た白人男性が入室した。

 

「やあ、久しぶり。」

 

その男はミューゼルの次に彼に出合ったアメリカ人、中央情報局(CIA)のフォッグという男だった。

度々五十嵐のもとを訪れては国防軍について、特に徴用兵についての情報を聞き出していた。

また共同作戦では第2特殊作戦飛行隊とのパイプ役として動いていた男だった。

 

「このような結果になったのは謝る。」

 

入って早々彼は謝った。

 

「俺は部隊が壊滅しようがしまいがどうでもいい。謝るなら国防総省に謝った方がいい。」

 

「そうだね。」

 

彼は常に笑顔で喋る。

その分、彼が何を考えているか分からない。

 

「ただ謝りに来たわけじゃないだろ。」

 

「当然。君にお願いがあるんだ。」

 

「なんだ。」

 

「村瀬政権の転覆に一役買ってくれ。」

 

五十嵐は驚く。

 

「俺がですか?」

 

「ああ、君は日本国民の英雄だ。特に徴用兵や貧困層からね。」

 

「村瀬を倒すことに協力はしますが成功するのか?」

 

「大丈夫だ。君には国防軍内部でクーデターを計画している中華派遣軍指揮官大森大将のもとへ行ってもらいたい。」

 

そう言われ彼は日本に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年6月6日午後2時/日本統治領朝鮮・平壌-

 

 

 

 

 

 

 

平壌にある中華派遣軍総司令部に連れてこられた五十嵐はシャワーを浴びせてもらい用意されたジャージに着替えると客室に通された。

そこには口髭を蓄えたいかにも歴史の教科書に載っている様な男が座っていた。

 

「君が五十嵐くんかね。どうぞ、座って。」

 

ソファに座ると早速聞いた。

 

「大森大将ですね。」

 

「いかにも大森和幸陸軍大将だ。」

 

「私は貴方の計画に合流する為にここに来ました。早速ですが計画を教えてください。」

 

すると大森大将は顔を手で覆い俯きながら言った。

 

「実を言うとな...計画は大きく変更...というより今すぐ行動を起こさなければならなくなった。」

 

そう言って大将は五十嵐がアメリカへ連れて行かれた後の話をした。

開戦から二ヶ月が経った頃からシーレーンを絶たれた日本はアメリカとオーストラリアからの輸入に頼っていたが、中華連邦海軍の通商破壊により輸入が滞りはじめ、さらにはもともと国内の食糧自給率の低い上にそのすべてが戦地への兵士に送られ、富裕層以外の国民には配給制で少ない食料しか食べれず餓死する国民も出始めた一方で富裕層は村瀬政権を支援する代わりに政権から特権を保証され、優雅に暮らし息子達を戦場に出さなかった。

さらに村瀬首相は日本国の象徴である皇帝を『時代遅れの男尊女卑の象徴』として廃位し、自ら女帝になろうと計画している事が国民に知れ渡り、今までの女尊男卑思想の政権がおこなってきた圧政と好転しない戦況も重なって不満が大きくなった。

そんな状態が終わりなく続くように思えた国民は首相官邸に向け数万人規模のデモ行進をおこなった。

デモの目的は戦争の村瀬政権の退陣と即時停戦、食料事情の改善、女尊男卑政策の撤廃、徴用兵にされた子供達の返還などを掲げた。

それに対して村瀬首相は国家親衛隊を動員し、首相官邸に近づくデモ隊に発砲。

数千人が犠牲になり、様々な過激派が報復に武装蜂起をおこない国内は騒然となっていた。

 

「というわけで我々はすぐさま行動を起こさなければいけない状況に追い込まれた。誰かが村瀬政権と対する勢力を作らなければならない。それは国民の軍隊である国防軍こそが中心になって起こさなければならない。」

 

「しかし今は戦時中です。本土には国防軍の陸上兵力は殆どありません、派遣軍を引き揚げた場合中華連邦軍が攻勢に出るかもしれません。」

 

そう指摘すると大将はキョトンとした顔をした。

 

「君は知らないのか?中華連邦が分裂したのを。」

 

「いいえ、残念ながら数日間捕虜を演じていたので。」

 

「そうか、三日前のことだ。北京軍区の部隊がクーデターを起こし朱炳煥総書記が処刑された。その影響で新疆ウイグル自治区やチベット自治区が独立を宣言。さらに北京軍区を中心とする臨時政府は内陸の軍区と中華統一のため内戦を開始した。向こうも背後から襲われないよう臨時政府は我々に停戦を持ちかけてきた。ちなみに彼らは最初村瀬首相の方に行ったが相手にされず、我々に攻勢をおこなうよう命令が来た。」

 

「ならば、もう準備は出来ているのですか?」

 

「そうだ、我々も旧自由党の議員と共に臨時政府を建て、村瀬政権を打倒する。」

 

「わかりました。私も大森大将のもとで働きます。」

 

そうして二人は握手を交わした。

数日後、彼らは村瀬政権に対して戦いを挑んだ。




第七十一話です。

最近寒くなりましたね、今日は暖かい方ですが。
でも結構冬って季節は好きなんですよね、雰囲気が。

艦これも秋イベが近づいています。
提督の方は資源は大丈夫ですか?
自分はとうとう港が一杯になったので1万円かけて港の拡張と入渠ドックを開放しました。
そして遠征を回しまくる...けど弾薬が中々貯まらないんですよね...

ではまた今度


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第七十二話 解体

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月8日午後23時/埼玉県狭山市・入間基地-

 

 

 

 

 

 

 

基地内は混乱に陥っていた、それは先日起きた国防軍の蜂起だった。

旧自由党の党員を中心とした臨時政府が建てられ、国防陸軍大森和幸陸軍大将を総司令官とする国防軍蜂起部隊が村瀬政権の打倒を掲げて大阪に集結した国防軍蜂起部隊に東進を命じた。

この状況にIS戦略航空隊の隊員は混乱し、佐々木隊長の指示を仰いでいた。

村瀬政権側につくか、臨時政府側につくか。

織斑一夏は待機室でIS戦略航空隊の隊員と共にラジオに耳を傾ける。

テレビは政権側の放送以外止められ、ネットも回線が全面的に切られていた。

ラジオからは妨害電波を押し退けて雑音交じりの臨時政府側の放送が流れていた。

 

『全国民に告ぐ!今すぐに我々と合流し、圧政を敷く村瀬政権を打倒しよう!この圧政者から祖国を解放する為に我々は立ち上がった!この正義の行動を成功させる為には国民全員の協力が不可欠だ!皆我々と共に武器を取れ!共に戦線に並ぼう!圧政者に裁きの鉄槌を!』

 

すると通信兵の一人が飛び込んできた。

 

「報告します!国家武装親衛隊第一親衛歩兵師団が静岡の天竜川で蜂起部隊と戦闘が発生!」

 

「そうか、御苦労。」

 

「隊長、我々はどうされます?」

 

副隊長が佐々木隊長の前に出て聞く。

 

「まだ動かない。まだだ。」

 

そして臨時政府の放送の声が変わる。

 

『私は日本国防海軍の五十嵐裕也大尉です。』

 

その声に隊員達は驚き、特に織斑と篠ノ之は驚いた。

 

『皆様、私が生きていることに驚きでしょう。なにせ私は半年前に琉球の空で散った撃墜王として盛大な国葬によって皆様の前で葬られましたからね。私はある事により村瀬首相に目をつけられ、戦死するように仕向けられました。しかし私は数ヶ月間の捕虜生活を脱して、あの村瀬首相を倒す為に戻ってきました。』

 

ラジオから流れる五十嵐の声に織斑は涙を流してラジオに迫る。

 

「生きていたのか!五十嵐の奴め、悲しませやがって!」

 

そして演説が続く。

 

『私はこれを聞いている徴用兵に告ぐ。村瀬政権は君たちが忠誠を誓うべき指導者ではない!そして君達は戦いに参加すべき人間ではない!本来なら家族と共に幸せに生きる人生があるはずだ!指導者の為に死ぬ為ではない!人を殺すためではない!君たちの人生は何かの為に捨てられるものではない!徴用兵に告ぐ!自由な人生を得る為に君たちは今すぐ武器を捨て投降せよ!』

 

五十嵐大尉による演説が待機室に響き渡る中、再び通信兵が来る。

 

「隊長、総司令部から出撃命令が届いております。」

 

待機室で全隊員と共に佐々木隊長は黙って聞く。

 

「『IS戦略航空隊は反乱部隊の鎮圧の為、出撃を命じる。』とあります。」

 

通信兵は命令を読み上げる。

この命令に一人の隊員が立ち上がった。

 

「誰が国民を殺す側につくか!」

 

それに続いて他の隊員も立ち上がって口々に言った。

「我々は国民を殺す為にいるのではない!」と。

 

「隊長!すぐにここを脱出して臨時政府側の部隊に合流しましょう!」

 

「いや、我々だけで村瀬とその取り巻きどもを探し出して処刑しよう!」

 

「我々のISがあればどんな敵も皆殺しに出来ます、隊長!」

 

隊員達は皆が興奮気味になり、過激な言動が飛び交った。

これに織斑と篠ノ之はたじたじになる。

 

「待て!」

 

そんな中で佐々木隊長は一喝して隊員達を静める。

そして咳払いをすると隊員達に向けて言った。

 

「君達は人を殺し足りないのか?」

 

その言葉に隊員達は動揺する。

 

「い、いえ。ただ圧政に苦しんでいる国民を思ってのことです。」

 

一人の隊員がそう言うと頷いて続ける。

 

「そうだろうな。だが君達はこの戦争でISの本気を知っただろう。たった数機でひとつの都市を滅ぼし、万単位の人間を短時間で殺すことが出来る能力を!それをこの国で使いたいか?想像してみろ、ISの力で同じ兵士である国家親衛隊の少年達を一気に殺戮し、いくつかの都市を廃墟に変えることを!この国はもう充分な被害と損害を被った。これ以上、人を殺しても町を破壊してもなんにもならない。...なに、我々の力がなくても少数の陸上戦力しか持たない国家親衛隊に臨時政府の軍に負けることはない。我々がいない分、短い間で少ない戦死者で終わるさ。」

 

佐々木隊長はISの力を使った政権の打倒は反対だった。

この言葉に一人の隊員が意見する。

 

「では隊長。我々は何をすればいいのでしょうか?」

 

「簡単な事だ。ここに配備されている我が国のISをすべて破壊しろ。」

 

この命令に隊員達は驚く。

国防の根幹であるISを破壊することは強国としての地位を捨て、丸腰で戦場で戦うことと同じだった。

隊員達から反対する声が上がると隊長は反論した。

 

「我々が命令に従わないと知ればすぐに国家親衛隊の部隊を送ってくるに違いない。そして代わりの者にISで戦わせるだろう。IS学園の生徒とかにな。逆に臨時政府に合流しても先に言ったことと同じ事になる。このISは両陣営から喉から手が出るほど欲しい戦力だ。そうなれば結局膨大な人間が死ぬ。それにもうこの国にISを維持できるほどの国力は残っていない。それはこの大戦に参加した国々すべて言えるだろう。戦争どころか、国民の生活必需品も生産できない状態で。あと数十年はどの国も戦争が出来ず、ISの部品さえ生産できないならどの国も捨てるだろう。少なくても中華連邦のISはすべて潰した。ならば今ここで、破壊しようと私は思う。皆はどう考える?ここで殺戮と破壊しかもたらさないISを破壊するか、それとも残して思想や私利私欲のためにこの兵器を使うか?」

 

隊長の問い掛けに隊員達は顔を見合わせる。

そして少しの間をおいて、一人の隊員が手を上げる。

 

「私は隊長の案に賛成です。私はもともとISの大会に活躍する為にここに入りました、国民を殺す為ではありません。」

 

この隊員に続いて他の隊員も手を上げて賛成する。

そして織斑と篠ノ之を含めた全員が賛成した。

 

「よし、すぐに取り掛かろう。副隊長!すぐに整備隊に連絡して!」

 

「了解!」

 

「全隊員、全ISの破壊に取り掛かれ!」

 

隊長の命令で隊員達は一斉に待機室を飛び出して、格納庫に向かった。

織斑と篠ノ之もついて行こうとしたとき、佐々木隊長に呼び止められた。

 

「君達はISを破壊せずにここから逃げろ。」

 

この命令に織斑は異を唱えた。

 

「なぜですか!俺も一緒に手伝います。」

 

「駄目だ。君達二人にはまだ未来がある、君たちは生き続けなければならない。」

 

「しかし...」

 

「二人ともこの内戦が終わるまで隠れていなさい。君たちの持つISがあれば亡命する時にいい交渉材料になるだろう。」

 

すると完全武装の兵士が二名入って来た。

 

「寺内曹長と東条一等兵。二人を連れて内戦が終わるまで隠れていなさい、絶対にだ。」

 

「了解しました。」

 

佐々木隊長は二人を紹介した。

 

「二人はレンジャー訓練を潜り抜けた隊員だ。この二人について行けば必ず生き残れるだろう。」

 

すると机に置かれた電話が鳴り、受話器を取った。

相手は入間基地正門の歩哨からだった。

 

『国家親衛隊の部隊が来ました!数は』

 

爆発音と共に電話が切れ、窓を見ると正門の方から煙が上がっていた。

 

「すぐに二人を連れて脱出しろ!」

 

そう命令すると二人の兵士は織斑と篠ノ之を連れて出て行った。

そして佐々木隊長はホルスターから拳銃を抜くと数人の隊員に命じた。

 

「解体までの時間を稼ぐ。武器庫からすべての武器を持ってこい、戦うぞ。」

 

そしてここ入間基地は佐々木隊長とIS戦略航空隊の隊員達の死に場所となった。

彼女たちは基地にいる国防軍兵士と共に国家親衛隊の部隊に抵抗。

最後の一機を破壊した後、一人残らず殺された。




第七十二話です。

最近コンビニのバイトで夜勤に入っているのですが、客が殆ど来ないので楽ですが一方で暇すぎて辛いと思いました。暇なのも辛いですね。

ではまた今度。


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第七十三話  暗殺

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月15日午前11時/神奈川県平塚市-

 

 

 

 

 

 

 

内戦勃発から一週間後、臨時政府軍は有利に戦いを進めていた。

北から東北方面軍が国家武装親衛隊を圧迫し、空軍による地上攻撃がよく効いていた。

数少ない地上戦力しかもたない国家武装親衛隊に負ける要素は臨時政府軍にはない。

だが市街戦に突入すると戦いの様相は変わっていた。

 

「徴用兵と国家武装親衛隊に告ぐ!直ちに武器を捨て降伏せよ!我々は君達に本来持つべき権利を与えることができる!」

 

瓦礫に埋もれた街路で拡声器を持った五十嵐少佐(臨時政府軍内で昇進)は瓦礫と建物の残骸に隠れている人々に投降を呼びかける。

拡声器を地面に置き、恐るおそる顔を瓦礫の山から出すと攻撃の準備をしているのが分かった。

小銃に弾を込め、砂利を踏む音が聞こえる。

 

「撃ち方用意」

 

静かに号令を下し、兵士が小銃を構え機関銃を据える。

街路は静粛に包まれ、風だけが音を起こす。

双方共に緊張が高まる。

そして国家親衛隊の兵士が叫ぶ。

 

「突撃!」

 

号令と共に隠れていた百名以上の徴用兵達が我武者羅に突撃してくる。

徴用兵は各々「万歳!」と叫ぶ。

 

「撃て!」

 

五十嵐が命じるといくつもの小火器が一斉に火を吹く。

先頭を走る徴用兵達は街路に次々倒れると後続の徴用兵が死んだ奴から小銃を拾い突撃を続ける。

それを繰り返し臨時政府軍の防衛線の傍まで近づくが近づいた者は全員射殺された。

 

「死にたくねぇ!」

 

銃弾を浴びせられ戦意喪失した一人の兵士がこちらに背を向けて走るとそれに倣って次々と徴用兵が戻っていく。

五十嵐は射撃を停止させるが、意味はなかった。

 

「逃亡兵は銃殺する!繰り返す武器を取って突撃しろ!...撃て」

 

徴用兵達が突撃と同時に後方で据えられた国家武装親衛隊の機関銃が逃げ戻ってきた徴用兵を撃ち殺した。

街路の間には徴用兵の死体だけが転がっていた。

国家武装親衛隊の隊員が撤退すると兵士達に遺体の収容を命じた。

六月、初夏が訪れ気温が上昇し遺体が腐りやすくなり酷い腐臭を放ち感染症の原因になるからだ。

五十嵐は数人の死体を確認するとどれも自分より幼く、おそらく教育団段階の子供達を突撃させていると分かった。

我々に子供達を撃たせて村瀬政権の者達は時間稼ぎをしようとしているのだろうと考えた。

それに彼らはどうしても投降出来ないでいる、一昨日起きた『小田原の虐殺』だ。

捕らえれた2000人の国家武装親衛隊及び徴用兵、さらに国民党関係者と支持者が捕虜の移送を命じられていた歩兵師団の兵士に全員殺された事件だった。

兵士には国民党や女性至上主義者に家族や愛する人を殺され、人生を壊されたものが多かった。

多くの者は復讐を望んでいる。

 

「五十嵐少佐!」

 

背後からの呼びかけに反応して振り返ると一人の兵士がいた。

 

「報告です!」

 

息を切らした兵士は呼吸を落ち着かせていった。

 

「つい先ほど村瀬首相及び大臣たちが死亡したとの報告がありました。」

 

その言葉に五十嵐は驚く、何が起きたのかと。

 

 

 

 

 

 

 

-一時間前/首相官邸-

 

 

 

 

 

 

 

首相官邸には村瀬首相を始めとする政権の人間が集まっていた。

そこに元国防省東部徴用兵教育団司令の若葉少将が訪れた。

彼は内戦勃発と同時に編成され徴用兵で構成された国防軍首都防衛師団の師団長に任じられた。

 

「村瀬首相、手筈が整いました。」

 

「わかった。」

 

若葉少将が出迎えると村瀬首相と大臣達が立ち上がり、首相官邸を出る。

彼らは喰うことのできなくなった国を捨て、今まで溜め込んだ財産を持って他国に逃げ出そうとしていた。

首相官邸の玄関に止めてある公用車に大臣たちは乗り込む。

 

「若葉少将、我々が出国する間に反乱軍共にやられないか?」

 

「大丈夫です、空港とその間の道は我々の高射隊が完全に防空を果たします。また旅客機は第三国の政府専用機に偽装させています。第三国もそれを容認しています。」

 

「やはり君に任せてよかった。それで君も一緒に来ないか?この国に居ても意味がないだろう。亡命先の国の軍事顧問とかにならないか?」

 

次々と大臣たちを乗せた公用車が首相官邸を出る。

そして村瀬首相を乗せる最後の公用車が来る。

 

「いえ、私はここに残ります。」

 

若葉少将がそう言うと村瀬首相が笑顔になる。

 

「そうか、君のような忠誠心ある軍人に会えてよかった。」

 

そう言って村瀬首相が言うと公用車に乗り込もうとした。

その時、若葉少将は隠していた9mm拳銃を出して村瀬首相の後頭部に押し付けた。

 

「お前に忠誠心などない、地下から出るのを私は待っていただけだ。」

 

そして躊躇いなく引き金を引く。

頭を吹き飛ばされた村瀬首相の死体はそのまま公用車の後部座席に倒れ込む。

 

「俺の育てた子供達へせめてもの手向けだ。」

 

銃撃するのを目撃した国家親衛隊の隊員達が一斉に銃口を向ける。

囲まれた若葉少将は村瀬首相を撃った拳銃で自らの頭を撃ち抜いた。

そして公用車の車列は情報を得た臨時政府軍の戦闘機に爆撃され、全員死んだ。

 




第七十三話です。

まず始めに投稿が遅くなってすみませんでした。

結局、今年は自衛隊の基地際に行けませんでした。
横須賀の海自と在日米軍の基地際は定期テストで潰れ、空自の入間基地は学祭が重なり何処もいけなかった。
来年こそは行きたいな~

代わりに友人と東京を観光したのは楽しかった。
あと皇居の一般公開に行きました、紅葉と石垣が綺麗でしたよ。

ではまた今度。


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第七十四話 異動

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月15日午後1時/神奈川県大磯町-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐少佐は高機動車の中で揺らされながら前線司令部の置かれている大磯運動公園に赴いた。

戦闘停止命令が全軍に行き渡ってから二時間、司令部に向かう道には降伏した大量の徴用兵が臨時政府軍の監視下で列を作ってゾロゾロと歩く。

どの徴用兵も生気のない顔で俯く、彼らはまだ何が起きたか理解していない様子だった。

それもそうだ、彼らは絶対的忠誠を誓った政府と軍が敗れ捕虜になるということは一度も考えたことはない。

いや考える余地もない、彼らはそう教えられてないからだ。

幸い彼らの指揮官は勇気ある降伏を選んだおかけで彼らは助かったのだろう。

そう思いながら彼の乗る高機動車は列の横を進む。

すると運転している一等兵が前を見て言った。

 

「少佐!あれは?」

 

そう言われ前を向くと列の脇で倒れた徴用兵に二人の兵士が銃底で殴りつけていた。

 

「すぐに停めろ!」

 

一等兵に命じて高機動車を停めさせると助手席から降りて二人の兵士に向かって歩く。

近づくと殴りつけられていた徴用兵の顔は原形を留めず、脳漿が割れた頭蓋骨の間から飛び出していた。

 

「お前達!何やっている!」

 

二人の兵士の中の一人に詰め寄ると怒声を浴びせた。

すると兵士は悪びれる様子もなく返り血を浴びた笑顔で敬礼して答えた。

 

「はっ、少佐!突然座り込んだ徴用兵に歩くよう命じたのですが何も答えなかったので命令を聞かせるために殴りつけましたら死にました。」

 

彼の表情は悪を倒して正義をおこなったと語っていた。

 

「君の与えられていた任務はなんだ?」

 

「はっ、降伏した徴用兵の移送を監視することです!」

 

「その任務に徴用兵を殺すという命令はないな?」

 

兵士は答えに窮する。

 

「...自分はただ命令の聞かない徴用兵に命令を聞かせるためにやっただけです。」

 

「こいつを見ろ、脳漿をぶちまけるほど殴るのはやりすぎだと思わないか?」

 

すると兵士は開き直って叫んだ。

 

「徴用兵を殺して何が悪いんですか!こいつらは俺の家族や親友を殺した、そして俺から平穏な人生を取り上げた!そして国をこんなにした女性主義者の犬共を殺して何が悪いんですか!本当は全員殺したい!女性至上主義者とそれに協力した金持ち、IS乗り、そして徴用兵を殺して何が悪い!これでも我慢しているんだ!たった一人くらい!」

 

五十嵐は黙ってホルスターから9mm拳銃を引き抜いて兵士の頭に向ける。

拳銃を向けられ兵士は黙る。

 

「君は命令不服従をおこなっている。ここで特設軍法会議を開く、誰かこの隊の士官を呼べ!」

 

士官を呼ぶように周囲に命じた時、運転手の一等兵を除く周りの兵士が八九式小銃を彼に向けた。

 

「誰が徴用兵少佐の命令を聞くか!」

 

「お前も女性主義者のシンパだったくせに鞍替えして上官面か?」

 

「こいつを殺すならお前を殺してやる、人非人め。」

 

周囲を囲んで彼らは五十嵐に罵声を浴びせる。

この状況を見て彼は自分は彼らにとって人以下の存在だということを。

昔IS学園で日本代表候補生などから言われた言葉と似ていた。

 

「お前達!すぐに銃を降ろせ!」

 

騒ぎを聞きつけた指揮官が駆けつけ、この騒動はなかったことにされた。

「彼らの多くは政権に親しい人を殺されたり、拷問された兵士もいる。大目に見てやってくれ」と指揮官に言われ五十嵐は引き下がった。

その場を高機動車で去り、大磯運動公園の前線司令部に到着する。

そこには天幕がいくつもたてられ前線司令部、後方支援部隊の拠点、そして臨時政府の国民裁判所だ。

国民裁判所では捕らえられた女性至上主義者の政治家や官僚から一般人まで分け隔てなく臨時政府の議員と選出された国民の裁判官によって裁かれていた。

弁護人なしで上訴も抗告もできず判決は一度きり、有罪となれば死刑だ。

証拠がなくても裁判官に女性主義者と見なされた者は全員有罪にさせられ銃殺刑にされていた。

今も天幕の前に多くの人が兵士の監視下で裁判を待ち、裁判が終わった者はトラックに乗せられた。

トラックに乗せられた者は人気の無いところに連れて行かれ処刑される。

その光景を横目に五十嵐は前線司令部のある天幕に入る。

 

「五十嵐少佐、入ります。」

 

天幕の中に入ると大きな地図などが置かれた長机の先に大森大将の姿があった。

 

「久しぶりだ、五十嵐くん。おい、すぐにこの子に椅子を持ってきてくれ。」

 

一人の兵士が持ってきたパイプ椅子に座ると単刀直入に異動命令を言い渡された。

 

「君には一個小隊と共にIS学園に向かい学園警備総隊の指揮官となってもらう。」

 

突然の指揮官を任じられ驚く。

 

「私にですか!階級は少佐ですよ!」

 

「大丈夫だ、向こうには指揮官不在の国家親衛隊の二個連隊と国防陸軍の一個連隊が駐屯している。向こうにいるのは君より階級の低い者達だけだ。それに徴用兵主体だ、君は彼らとって英雄だ。命令に従うだろうし、未だに抵抗している部隊を制圧して本隊が到着するまで部隊を纏めるだけでいい。」

 

話を聞くと学園警備総隊に村瀬首相が死亡したと伝わると指揮官達が一斉に姿を消して指揮官不在となり、下士官たちが纏めてはいるが三千人規模の部隊が暴挙に出る危険があるため徴用兵で一番階級の高い五十嵐に指揮官となることが決まったというのだ。

 

「わかりました。」

 

渋々彼は承諾した。

そして五十嵐少佐は迎えに来たV-22J“オスプレイ”に一個小隊と共に乗り込み、東京湾に浮かぶIS学園に戻った。




第七十四話です。

この次から最終章に入ります。
内戦パートが短かったですね。

そういえば艦これの秋イベは全ステージクリアしました。
ドイツ海軍好きなのでプリンツ・オイゲンを入手した時歓喜しました。
でも入手ばかりで育成が追いつかない、特に駆逐艦。

ではまた今度。


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最終章 戦いの先に
第七十五話 不穏


明けましておめでとうございます!
この小説をハーメルンで書いて一年以上が経ちましたが、とうとう最終章に入ります。
今まで読んでくれた方、応援してくれた方に感謝します。
これからこの冬休みの間にある程度書き溜めた分の物語を投稿します。
どうぞお読み下さい。

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月15日午後3時/IS学園-

 

 

 

 

 

 

 

九ヶ月ぶりに五十嵐はIS学園に戻ってきた。

V-22J“オスプレイ”から降りたった彼が目にしたIS学園は様変わりしていた。

IS学園は日本国政府の管理下に置かれた後、ここはIS整備工場兼操縦者・整備士養成校として使われた。

名古屋が核攻撃を受けISの整備工場が破壊されると国内で整備できる設備を持つのはIS学園のみとなり整備工場という役割と大量のISを整備できる人員と操縦者の交代要員が不足した為、短時間で養成できる訓練校としての役割を与えられた。

そのためここは重要な軍事施設と敵味方で認識され、学園島には多数の地対空誘導弾と機関砲が据えらている。

さらに島外からの侵入を防ぐ為に監視施設と鉄条網・地雷原が設置され、地下施設も緊急時には要塞化できるように改装されていた。

 

「五十嵐少佐ですか?」

 

送ってくれたV-22J“オスプレイ”を見送ると駆け寄ってきた中尉に声を掛けられた。

 

「そうだ、私が五十嵐裕也少佐だ。」

 

頷いて答えると中尉は敬礼して自己紹介する。

見た目からするとふたつほど年の離れた少年だった。

 

「IS学園警備総隊所属内田健治陸軍中尉です。この警備総隊を臨時に指揮していました。」

 

この少年、内田中尉が今までこのIS学園警備総隊二千人の指揮官であった。

彼らはまだ専門課程の学生だったが大戦勃発による兵力不足から後方の警備任務を現役兵に代わって就く為に高射隊を除いて専門課程を切り上げて配属された徴用兵達だった。

 

「ご苦労、さっそく指揮所に案内してくれ。」

 

内田中尉の案内で様変わりしたIS学園を歩く。

要所には機関銃座が備えられ、完全武装した兵士が歩哨に立つ。

彼らは緊張した表情で立ち、ここには緊迫した空気が満ちていた。

五十嵐はこの状況に違和感を覚え、内田中尉に質問する。

 

「中尉、なぜ兵士に完全武装させている?戦闘は終わっている、何を恐れている?」

 

「それについては指揮所ですべて説明します。」

 

そして地下に設置された指揮所の奥にある会議室に入るとそこには各大隊指揮官が待っていた。

 

「早速説明を。」

 

五十嵐は会議室に入るなり説明を求めた。

 

「ではまず現状について説明します。」

 

中尉は用意されたクシャクシャなメモ用紙を片手に殴り書きされた文字を読み上げる。

 

「現在、学園島には武装解除した国家親衛隊二個連隊四千人を駐屯地に収容。また避難民はここにいた関係者を含めて三千人がここに避難しています。今のところはここの地下施設最下層に収容しています。」

 

読み上げられる数に五十嵐は驚く。

 

「では我々を含めて九千人以上いるというのか。なぜそんなにいるんだ?」

 

「少佐は都内がどうなっているのか本当に知らないんですか?」

 

中尉が疑うような目をしてこちらを見る。

五十嵐は少し黙って答える。

 

「...すまない、ここに移動するまでの間の何も情報に触れていなくて何が起きているのか分からない。」

 

「そうですか、ではこちらを。」

 

すると会議室の照明が落とされ、プロジェクタのスクリーンが下ろされる。

そしてプロジェクタが起動し、スクリーンに投影されたのは惨たらしい映像だった。

一番最初に映し出されたのは数人の女性が建物から引きずり出されリンチされる映像を見せられる。

続いて国家親衛隊の少年の死体が次々と電柱に吊り下げられる映像、次には女性至上主義団体の施設や村瀬政権に肯定的だった新聞社などが市民に焼き討ちされる映像などを見せられた。

それらの映像が終わると中尉は照明をつける。

 

「これらは警備総隊の隊員から選抜した者に都内を偵察させた時の映像です。都内各所では村瀬首相の死を聞いた市民の多くが暴徒化、女性主義者とされた者を次々と襲っています。避難民はこれらから逃げてきたのです。」

 

「さらに」と付け加える。

 

「現在、様々なSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)においてIS学園への襲撃を呼びかける多数のメッセージが投稿されています。」

 

「だから警戒に当たっているのか。」

 

五十嵐は納得した。

ここIS学園は市民から見れば女性至上主義の象徴たる場所だ。

ここを襲うことは必然なのかもしれない。

 

「現在も避難民が次々とやってきます。どうされますか?」

 

「避難民は受け入れよう。この混乱も臨時政府軍が来れば収まる、それまでの辛抱だ。」

 

すると兵士が会議室に飛び込む。

 

「中尉!“第一学園連絡橋”に武装した集団が渡っています!」

 

五十嵐と内田中尉は立ち上がり、急ぎ指揮所に行く。

多数の監視カメラの映像が写る画面から“第一学園連絡橋”を写す画面を見る。

そこには多数の市民が鉄パイプや角材などを持って学園に向かっていた。

五十嵐は即断する。

 

「中尉、確か暴徒鎮圧用の装備があるはずだ。すぐに一個小隊に装備させて向かわせろ。」

 

「了解しました。」

 

命令を出そうと傍を離れた中尉に五十嵐は付け加える。

 

「いいか、絶対に発砲しないように小隊には伝えろ。」

 

「...わかりました。」

 

そうして中尉は命令を発した。

すぐに橋の中央にバリケードが置かれ、暴徒鎮圧用の装備をした兵士が盾を持って暴徒と対峙する。

“第二学園連絡橋”も同様だった。

最初は数十人だった規模が時間が経つと増え数百人になり、怒声と物が兵士に投げられる。

そうして橋の中央は熱を帯びていった。



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第七十六話 発砲

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月15日午後6時/IS学園-

 

 

 

 

 

 

 

「裕也!」

 

兵士達と学園の警備状況を視察していると背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

振り返ると織斑、篠ノ之、ボーデヴィッヒ、オルコットの四人が駆け寄ってくる。

五十嵐は兵士達を先に行かせると彼らと再会した。

 

「久しぶりだな、織斑。」

 

「お前が死んだと思って悲しんだ涙を返せ!裕也!」

 

久々に彼にあってみたが昔の頃と変わらず元気なようで五十嵐は安心する。

あの戦争の傷を織斑の後ろにいる彼女達が癒してくれたのだろうと考えた。

 

「しかしなんでまたここにいる?」

 

そう聞くと織斑は目を背けて行った。

 

「俺と篠ノ之は佐々木大佐のお陰でここまで逃げれたんだ。けれど佐々木大佐とIS戦略航空隊の皆はISを奪われない為に戦って皆死んだ。」

 

それを聞いて自分を一流のISパイロットに育てた佐々木大佐と共に戦った隊員達の最後を聞き悲しくなる。

次にボーデヴィッヒが欧州IS派遣部隊について話した。

 

「私達は内戦が起きた時にどのように行動するか皆で話し合ってここに来たんだ。」

 

「全部で何人?」

 

「十人だ。」

 

「ということはここには十二機のISが?」

 

「いや半数は交代要員で、機体は五機。」

 

「そうか...」

 

すると突然パンッ!と乾いた音が響いた。

この音を聞いた五人はすぐに何の音かわかった、銃声だ。

銃声は次々と聞こえてきた、最悪な事態に発展した事が分かった。

そして兵士が走って来て言った。

 

「“第一学園連絡橋”で銃撃戦が起きました!」

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻/第一学園連絡橋-

 

 

 

 

 

 

 

“第一学園連絡橋”の中央に設置された向こう側には多くの民衆が集まっていた。

その規模は数百人に膨れ上がり、熱気に満ちていた。

 

「圧政者に死を!」

 

「罪なき者を殺した罪を償え!」

 

「逃げれると思うな!いくら時間が経とうが殺してやる!」

 

人々は口々に恨み辛みを言いつける。

民衆の先頭ではバリケードを挟んで鉄パイプを持った市民と盾を持った隊員が押し問答をしていた。

市民達はバリケードを越えようと登り、隊員に盾で追い返させられる。

数時間これを繰り返していたある隊員は再度盾であるライオットシールドを立て備えた時、透明なポリカーボネート越しに人々の間から銃口が覗いているのが見えた。

それを見つけた時既に遅く、一発の銃弾が発射されライオットシールドを貫いて隊員の身体を撃ち抜く。

盾の壁を成していた隊員の一人が倒れ、市民と隊員の双方が動きを止めた。

そして次の瞬間、隊員達は八九式小銃を構え小隊長が号令を掛けた。

 

「撃て!」

 

四車線の道に広がった民衆の列が銃撃と共に将棋倒しのように倒れていった。

道には銃撃で飛び散った肉片と流れ出て鮮血で染められる。

一本道の連絡橋では出口まで走って逃げるしかなく真っ直ぐに飛んでくる銃弾で次々と市民が撃たれていく。

そして隊員達は連絡橋から動くものがいなくなるまで銃撃をやめなかった。

この光景は“第二学園連絡橋”でも同じように繰り返された。

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻/IS学園地下指揮所-

 

 

 

 

 

 

 

「なにをやってるんだ!」

 

五十嵐は指揮所で怒り叫んだ。

 

「復讐に燃え上がっている市民を撃ち殺してどうする!油に火を注ぐだけだ!これで我々は完全に村瀬政権の軍隊だと見られたぞ!」

 

「しかし市民の発砲で隊員が一名死にました、これに対して反撃するのは正当な」

 

内田中尉は反論しようとしたが五十嵐に遮られる。

 

「なにが正当な手段だ、その結果どうなった!我々は完全に国民の敵だ!」

 

五十嵐は叫び疲れ、用意されたコップに入った水を一気に飲み干す。

すると五十嵐と共に来た副官の大尉に呼ばれた。

 

「少佐、前線司令部から無線連絡が入っています。」

 

「わかった。」

 

一人で会議室に入ると置かれた無線機のハンドマイクを手に取る。

 

「こちらIS学園警備総隊指揮官五十嵐少佐です。」

 

向こうの声はもちろん大森大将だった。

 

《なにをやってくれているんだ君達は、ただでさえ怒っている市民を銃撃するなんて。君に任せたのが間違いだったかね。》

 

「申し訳ございません。民衆から銃撃され隊員の一人が死んだことに反撃してしまったそうです。」

 

この言葉に大森大将は唸った。

 

《ん、私のところに来た報告では君たちが先に発砲したと聞いているが?》

 

「それはありません、我々からは先に発砲しておりません。」

 

《そうか、とにかく我々がすぐにそちらに行かないといけないな。》

 

「はい。早く本隊の庇護がなければ暴徒化している民衆が避難している三千名以上の避難民と無抵抗の国家親衛隊四千名、そして我々二千名は虐殺され『小田原虐殺』以上の事態に発展するでしょう。」

 

《そうだな、先に先遣隊を送る。そこで彼らに武装解除しなさい。》

 

「了解しました。」

 

通信を終わると会議室を出て大森大将の命令を伝えた。

 

「明日、先遣隊が到着する。それをもって我々は武装解除し、彼らの指揮に入ることになる。私と内田中尉が先遣隊のところに出向く、以上。」

 

そう言って五十嵐は指揮所を出ようとした時、内田中尉に呼び止められる。

 

「少佐、先ほどの件についてお話があります。」

 

「なんだ?」

 

二人は人気の無い通路に入って話をする。

 

「少佐、先遣隊に出向くのはやめていただけませんか?」

 

「なぜだ?」

 

「我々徴用兵は臨時政府軍のこと、指導者達は信頼しますが、一般の兵士が信頼できません。『小田原虐殺』のような事態に陥るかもしれません。もしかしたら貴方が殺されるかもしれません。」

 

彼が投降しているのに怯えているのだろうと考え、落ち着かせる為に言った。

 

「大丈夫だ、我々は」

 

だが言葉を言おうとした時、派遣される前に見た兵士の行動と言動を思い出して言葉を止めた。

そして少しの沈黙の後、中尉に言った。

 

「留意しよう。」

 

そして中尉と別れた。



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第七十七話 反故

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-2013年6月16日午前10時/第一学園連絡橋学園側入口-

 

 

 

 

 

 

 

「大尉、頼むぞ。」

 

「了解しました。」

 

高機動車に乗り込んだ副官の大尉と一個小隊は白旗を立って連絡橋に向けて走り出す。

昨日、内田中尉の勧めで先遣隊に出向くのを辞め副官にすべてを任せることにした。

大尉達を乗せた高機動車を見送ると学園に戻り、校舎の上から双眼鏡を覗いて見守った。

 

 

 

 

 

 

 

-20分後/お台場・テレコムセンター前-

 

 

 

 

 

 

 

先遣隊は連絡橋の出口の先にあるテレコムセンターの前に陣取っていた。

そこに大尉の乗る高機動車が到着し、先遣隊の大佐が出迎える。

 

「五十嵐少佐はいないのかね?」

 

「はい、少佐は体調が優れないので私が代わりに来ました。」

 

「そうか、ご苦労。」

 

大佐は大尉にそう言うと9mm拳銃を引き抜いて大尉に向けた。

 

「大佐、何を」

 

「女性至上主義者に死を」

 

そう言って大佐は引き金を引いて大尉の頭を撃ち抜いた。

そして部下たちは護衛の一個小隊の隊員を銃殺した。

 

 

 

 

 

 

 

-同時刻/IS学園校舎屋上-

 

 

 

 

 

 

 

「私が言った通りです。やはり彼らは信用できません。」

 

内田少尉がそう言うと五十嵐少佐は頷く。

 

「そうだな。私が間違っていた、もう我々には居場所がないことを今日知る事が出来た。」

 

五十嵐少佐は踵を返すと屋内に戻りながら内田中尉に命る。

 

「すぐに各大隊長を指揮所に召集、ならびに収容している国家親衛隊の中で階級が高い者を連れて来い。」

 

「了解しました。」

 

指揮所の会議室で五十嵐少佐は全大隊長に陣地構築・武器弾薬並びに糧秣の確認を命じた。

さらに国家親衛隊で階級の高い足立大尉を呼びつける。

今までの顛末を説明した上で彼に聞く。

 

「足立大尉、今から国家親衛隊二個連隊は我々がおこなおうとしている戦闘に参加できるか?」

 

足立大尉は鋭い目つきで五十嵐少佐の目を見て答える。

 

「我々は国家の為に死ぬことを決意した。けれどその国家は失い我々が戦う意味はなくなった。」

 

「参加しないという事か?」

 

「最後まで言わせろ...我々は戦いで死ぬことを臨んでいる。座して死ぬよりは戦って死ぬことを望んでいる。」

 

五十嵐少佐は少し考えて言う。

 

「足立大尉、我々は今から避難している無実の市民達を守るために戦う。君達の死生観はどうでもいい、市民を守れればいい。それでも私の指揮下で戦ってくれるか?」

 

「ああ、これで我々は死ぬ場所を得られる。」

 

五十嵐少佐はすぐに武装解除時に回収した武器弾薬を国家親衛隊に再配布する事を命じた。

すぐさま二個連隊四千名に武器弾薬が配られ、戦闘配置可能となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-2013年6月16日午後1時/指揮所会議室-

 

 

 

 

 

 

 

大森大将から連絡が入る。

 

「こちらIS学園警備総隊指揮官五十嵐少佐。」

 

《大森だ。このような状況になってしまったことを謝る。》

 

そして大森大将は臨時政府の事情を話した。

臨時政府内には様々な思想を持った人間が村瀬政権打倒をスローガンに団結して戦っていた。

しかし、村瀬政権がいなくなると臨時政府では新たな政治体制を巡って様々な勢力が覇権を争っている。

その中の一勢力がこの事件を起こし、徴用兵への国民からの憎悪を自らの勢力の支持にしようとしているものがいる。

 

《残念ながらこの動きは大きく拡大して我々軍部ではもう抑えることは出来ない。なにせ国民の大部分が君達への弾圧を支持している。国民だけではない、末端の将兵もだ。もしこの動くを無理矢理抑えようとすれば新たな内戦が起きる、軍部と国民というな。》

 

「そうですか。ならば大森大将、お願いがあります。」

 

《なんだ。》

 

「我々と戦ってください。容赦無く、存分に叩いてください。」

 

大森大将は黙って聞く。

 

「この国が再びふたつに割れて内戦をおこなえば多大な損失になるのは誰だって分かることです。ならば我々が国民の憎悪と共に死にます。それによって国がひとつになるならば九千人の犠牲は安いものです。」

 

無線越しに嗚咽が聞こえる。

 

《すまない...君達若者にこのような仕打ちを...与えることになってしまうことに...》

 

「大将、もうひとつお願いがあります。」

 

《なんだ?》

 

「避難民三千人の逃げ場を作ってください。我々兵士は無実な市民を守るために戦うのです、避難民諸共死んでしまっては元も子もありません。彼らだけは助けてください。」

 

《善処する。》

 

「では通信を終わります。」

 

無線機を切ると指揮所に戻り、内田中尉から報告を聞く。

 

「少佐、現状では武器弾薬並びに糧秣は数日以内...いや二日三日が限界だと報告します。特に糧秣は深刻であり、元々三千人以上の避難民を受け入れることは想定外ですのですぐに底をつきます。さらに我々は地対空誘導弾・対空機関砲を除けば機関銃と小銃・手榴弾しかありません。榴弾砲や迫撃砲はありません。一方、兵員の方は足立大尉の呼びかけで各地で抵抗している国家親衛隊の部隊が駆けつけますが...兵員だけ多くてもどうにもなりません。」

 

五十嵐少佐は頭を抱える。

 

「避難民の逃げ場もなく、戦う術もなく何の為に戦うのか分からなくなるじゃないか...」

 

そして考えながらトボトボと歩く。



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第七十八話 援助

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-2013年6月17日午前1時/指揮所会議室―

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐少佐は作戦計画と武器弾薬・糧秣をどのように賄うかを内田中尉と足立大尉と共に考えていた。

糧秣に関しては近くのスーパーなどの店舗から“徴発”する事にして二個大隊をトラックと共に向かわせた。

だが武器弾薬に関してはどうすることも出来ないように思い、三人共に匙を投げていた。

 

「すみません、少佐。」

 

そんな時、一人の兵士が会議室に入って来た。

 

「なんだ?」

 

「先ほど連絡橋の防衛にあたっている小隊から不審者を捕らえたと報告があったのですが...」

 

兵士の要領のえない話に五十嵐はイライラする。

 

「で、なにがあったんだ。」

 

「それが、不審者が“国防陸軍近衛師団の者”だと名乗って指揮官に会わせろと言っているのですが...]

 

それを聞いて五十嵐は立ち上がる。

 

「すぐにここに呼んで来い!」

 

「了解!」

 

兵士はすぐに会議室を飛び出して行った。

内田中尉は五十嵐少佐に注意する。

 

「少佐、相手が誰か分からない状態で会うのは危険です!」

 

だが五十嵐少佐は内田中尉の言葉にこう返した。

 

「こんな状況じゃあ何かすがれるものにすがるしかない。これはチャンスかもしれないんだ。」

 

するとすぐに兵士が戻って来た。

そして会議室に私服姿の男性を連れてきた。

見た目はチャラチャラした若者に見えるが、体はよく鍛えられた身体であり五十嵐達に見事な敬礼を見せた。

 

「国防陸軍近衛師団の牧瀬少尉です。」

 

「指揮官の五十嵐少佐です。単刀直入に聞きます、今日は何の為に?」

 

「君達に武器の援助を申し出たい。」

 

三人は顔を見合す、ここまでうまい話はない。

 

「なぜ近衛師団が武器を我々に援助する?」

 

五十嵐がそう聞くと牧瀬少尉は答える。

 

「これは皇帝陛下の頼みで、皇帝陛下は無実の市民がこれ以上殺されることを望んでおりません。そのため皇帝陛下は我々近衛師団に武器を援助するように願われ、師団長は願いを聞き入れ援助することを伝えに来たのです。」

 

それを聞いて内田中尉が質問する。

 

「牧瀬少尉、我々は国民から敵と見られています。その敵に皇帝陛下が武器を援助したとなれば国民は黙っていないでしょう。最悪、皇帝陛下の身に危険が及ぶかもしれません。そのことは分かっているんですか?」

 

牧瀬少尉は頷いて答えた。

 

「皇帝陛下は覚悟の上でお決めになられました。また援助する為にひとつ演技をします。」

 

「演技?」

 

「はい、貴方がたの部隊で皇居を包囲し我々を武装解除してください。それならば我々は被害者です、皇帝陛下に非難は及ばないでしょう。」

 

「そうか、わかった。我々は援助を受けよう。」

 

五十嵐は即断した。

牧瀬少尉が退室すると内田中尉は猛反対した。

 

「少佐!これが罠かもしれないと考えないのですか?」

 

「ああ、その可能性もあるが我々は提案に乗るしかない。すぐに二個大隊用意しろ、私が直接出向く。」

 

「少佐!」

 

「もしもの場合は内田中尉、後を任せる。」

 

そして足立大尉に五十嵐少佐は命じた。

 

「君達国家親衛隊は今ある武器弾薬を持って臨時政府軍を食い止めろ。時間を稼ぐだけでいい。」

 

「わかった。」

 

そして“第一学園連絡橋”を通って五十嵐少佐率いる二個大隊は皇居へ、足立大尉の率いる残存国家親衛隊二個連隊は南下し多摩川へ向かった。

五十嵐少佐と牧瀬少尉は二個大隊と共にトラックで皇居に向かう。

そして北の丸公園にある近衛師団司令部庁舎に到着し、二個大隊千名の兵士を展開すると形だけの投降勧告を行う。

 

「我々はIS学園警備総隊である、皇居は完全に包囲した。すぐに投降せよ!」

 

拡声器を使って勧告するとすぐに窓から白旗が立てられ、一人の将官が出て来た。

 

「近衛師団長林田中将だ。我々は降伏する。」

 

「我々は目的が済めばすぐに帰る。それまで大人しくして欲しい。」

 

「わかった。」

 

すぐに牧瀬少尉の案内で近衛師団の弾薬庫から武器弾薬を次々とトラックに乗せ、さらに155mm榴弾砲FH70を牽引させた。

全部で三十門の榴弾砲と多数の迫撃砲、対戦車誘導弾などを確保することに成功した。

 

「ありがとうございます、牧瀬少尉。」

 

「お礼は私ではなく師団長、いえ皇帝陛下にしてください。」

 

牧瀬少尉に別れを告げるとすぐに車列を組んで学園島に戻る。

途中、民衆の襲撃も容赦無く銃撃を浴びせ車輌で轢殺し無停止で進んで帰還することに成功した。

三十門の155mm榴弾砲FH70は地下施設に運び込まれ、砲座に据えられた。

砲兵はIS学園警備総隊の隊員から砲兵の課程に進んでいた者を集め、彼等を砲兵として配置することにした。

そして周辺地域からの食料の“徴発”も無事に済み一週間分の糧秣が確保できた。

一方、夜が明けると同時に足立大尉率いる残存国家親衛隊は多摩川沿いで臨時政府軍と戦闘を始めた。

これを境に戦いの幕は上がったのであった。



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第七十九話 戦闘第一日目

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-2013年6月17日午前8時/指揮所-

 

 

 

 

 

 

 

《防空レーダーに反応あり!高度八千、数二十!》

 

指揮所のレーダーに大きな光点が二十、IS学園上空に接近する。

即座に空襲警報が鳴り響き、外にいる兵士達は防空壕へと非難する。

空に二十の飛行雲が晴れ渡る青空にクッキリと引かれ、B-52“ストラトフォートレス”の編隊が迫る。

すぐさま高射部隊が地対空誘導弾で迎撃するが、二機を撃墜するのが精々だった。

上空に達すると大きく開かれた爆弾倉から数十発の無誘導爆弾がパラパラと落ちていく。

無誘導爆弾は着弾すると周囲の建物を粉々に破壊し、巨大なクレーターを残す。

大量の無誘導爆弾による絨毯爆撃は地上にあったものをすべて破壊した。

校舎・学生寮・地対空誘導弾発射器・対空機関砲・レーダーなどをすべてが破壊される。

爆発するたびに地下施設は大きく揺れ、埃が舞い落ちる。

空爆が一段落すると次は浮島あたりに展開した砲兵部隊による砲撃が始まる。

そして空爆と同じように島を揺らし地面を耕す。

 

「二〇九高地に比べればここは天国だ。」

 

五十嵐少佐は不安がっている部下達に向けて言った。

この地下施設は元々IS学園の生徒・教員の避難所として作られ、様々な災害や戦争などを想定されて作られ例え核攻撃を受けたとしても大丈夫なように作られている。

ただし急遽増築した要塞区画や指揮所はまた別の問題であった。

それでもあの二〇九高地よりは快適であり頑丈である。

 

「それで国家親衛隊からは?」

 

そう聞くと一人の兵士が答えた。

 

「先程報告があり多摩川において臨時政府軍の渡河を防ぐことに失敗、羽田空港などの人工島のあたりに後退し防衛に徹すると。」

 

続けて兵士は足立大尉からの伝言を伝えた。

 

「最後に足立大尉から五十嵐少佐に伝言で『我々は背水の陣で挑む。退路を絶て』と。」

 

「そうか。」

 

五十嵐少佐は彼らが撤退することを考え、第一学園連絡橋のみ残していた。

第二学園連絡橋は戦闘がはじまる前に爆破させて落としていた。

 

「すぐに第一学園連絡橋も爆破しろ。」

 

「了解。」

 

すぐに五十嵐少佐の命令は実行され、第一学園連絡橋は爆破され、轟音と破片が落下した衝撃で起きた水柱の中で崩れ落ちた。

 

《こちら南監視台!駆逐艦二隻接近を確認!》

 

「直接、こちらの砲台を壊しに来たか。」

 

二隻の駆逐艦は島の両側に展開すると適当に島目掛けて主砲による艦砲射撃を始める。

この挑発に乗った一門の砲台で砲兵達が砲弾を装填し、駆逐艦目掛けて砲撃した。

砲弾は駆逐艦の手前に着弾して水柱を上げ、砲台を発見した駆逐艦は5インチ速射砲で正確に砲撃した。

たった一発の砲弾で砲台は破壊され、砲兵は跡形もなく吹き飛ばされ155mm榴弾砲FH70は破壊される。

後に砲台を修復しに来た兵士達は壁にベッタリとついた血と肉片、そして焼け焦げた人体の一部を見て絶句した。

 

「全砲台に挑発に乗らないように厳命しろ。この砲台は敵が上陸した時に必要なんだ。」

 

五十嵐少佐はそう命じた。

すぐに砲台に反撃しないように徹底されるが、駆逐艦が鬱陶しいのは間違いなかった。

この時、島への砲撃は射線上に駆逐艦がいるので停止していた。

駆逐艦の艦砲射撃が続く中、一人の兵士が地上を飛び出して走る。

兵士は〇一式軽対戦車誘導弾を抱え、駆逐艦に出来るだけ接近する。

砲撃で出来たクレーターに飛び込むと肩に担いで誘導弾を発射した。

誘導弾は駆逐艦を捉え、迎撃する時間を与えず艦橋に命中させた。

駆逐艦は操艦不能となり近くの人工島に乗り上げた。

そして夜になり砲撃や空襲は止み、駆逐艦は島を離れる。

今日の戦闘は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年6月17日午後8時/地上:IS学園―

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐少佐は指揮所を出て、IS学園“跡地”を歩いていた。

砲撃と空爆はIS学園の施設はすべて吹き飛しクレーターを残していった。

短いながらもここで過ごした思い出は破壊された。

 

「裕也!」

 

織斑が自分の名前を呼ぶ声がして振り返る。

彼は走ってくると息が絶え絶えになっていた。

 

「まだ戦闘は続いている。地下に避難した方がいい。」

 

「裕也!そんなことよりも!」

 

織斑は五十嵐の言葉を叫び倒す。

 

「なぜ俺達を使わない!俺達にはISがある!ここにいる皆を救うにはISが必要だろう?なんで使わないんだ?」

 

織斑の質問に五十嵐は質問で返す。

 

「なあ織斑。俺達はなんで戦っていると思う?」

 

「突然なにを言い出す?」

 

「俺達はもう体も心も戦争に毒された人間だ、けれど守りたいものがあって戦っている。その守りたいものとは戦争に毒されていない無垢な人々を守ることだ。」

 

「ああ、それなら俺達を使うべきだ。」

 

五十嵐は織斑の言葉を否定する。

 

「いや、君達は我々にとって守るべきものなんだ。守るべきものに前に立たれたら邪魔なんだ。」

 

「裕也、俺は戦争を知っている。お前と一緒に戦った、だから戦えると言っているんだ。」

 

五十嵐は笑う。

その笑いに織斑は怪訝な顔になる。

 

「戦争を知っている?笑わせるな、ISに頼って戦ったことしかない人間に言われたくない。」

 

「はあ?」

 

「銃を持ち、温かい血や腐った肉片が飛び散る戦場を走ったこともない。理不尽な命令で無抵抗な人々を殺したことのない人間に戦争を知っているといわれたくないよ。それに君には未来がある、戦争を知らないからこそ未来が待っている。だから前には立って欲しくないんだ。」

 

「未来?」

 

すると兵士が駆け寄ってきた。

 

「少佐、すぐに指揮所に戻ってきてください!」

 

五十嵐は兵士と共に指揮所の戻り、織斑も地下の避難施設に戻った。



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第八十話 戦闘第二日目

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-2013年6月17日午後8時/会議室-

 

 

 

 

 

 

 

「来るのが遅かったんじゃないか?」

 

会議室に入るなり五十嵐少佐は椅子に座る白人男性に文句を言った。

白人男性は笑いながら大袈裟に身振りを加えて言い返した。

 

「フェニックス、ここまで来るのに苦労したんだぜ。臨時政府軍の監視下にある大使館を抜け出して砲撃の中を渡河して次は君の部下に捕まって牢獄に八時間も入れやがって。」

 

フォッグは五十嵐少佐のところまで来ると指で彼の胸を小突いた。

後から入って来た内田中尉は二人の親密さに驚き、どのように割って入るか悩む。

五十嵐少佐はすぐにフォッグを紹介する。

 

「彼はアメリカ合衆国の中央情報局、所謂CIAの人間だ。フェニックスは俺のコードネームだ。」

 

「...副官の内田中尉です。」

 

内田中尉がフォッグに挨拶すると本題に入る。

 

「それでフォッグ、何か案があって来たんだろう?」

 

フォッグは頷いて答える。

 

「そうだ、君たちが抱える避難民を我々が引き受ける。」

 

「アメリカが?」

 

「イエス!我が国はIS学園に在籍した外国籍の学生と難民保護の為、IS学園に学生を派遣していた各国と共にここへ向かっている。主体は我が国の合衆国海軍と海兵隊だ。昨日、艦隊はパールハーバーを出航し北太平洋上を航行中だ。」

 

「当然ながら何か見返りを求めているんだな?」

 

「まあな、IS学園の生徒を我が国へ受け入れるのとここにあるIS設備の回収のついでに難民保護だ。」

 

確かにここにいるIS学園教師・学生並びに研究者達と引き換えに三千人の避難民の保護は安い。

これらを受け入れることによってアメリカ合衆国の技術発展に役立つのは確かであり、こんなチャンスはない。

これに提案に乗るしか避難民を救う道はないと五十嵐は考えた。

 

「ついででも救われるならば幸いだ。で、その艦隊はいつここに到着する。」

 

「早くても五日から一週間は掛かる。」

 

五日、たった五日だが現状では五日も持つか怪しいところであった。

明日には空軍の近接航空支援と共に上陸作戦を臨時政府軍は始めるだろう。

 

「わかった最低でも五日間はここを陥落させない。」

 

五十嵐少佐はフォッグに約束した。

 

「それでどうする?すぐにここを脱出するのか。」

 

そう聞くとフォッグは首を振った。

 

「いや、ここに残るよ。俺がここに残れば助けに来る確率は少しは上がる。」

 

五十嵐少佐は頷くと安全な避難所にフォッグを案内するように内田中尉に命じた。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年6月18日午前七時/指揮所―

 

 

 

 

 

 

 

今日は戦闘機による空爆が始まる。

五十嵐少佐は対岸に上陸用舟艇の群れを発見した報を聞き、直接視認する為に指揮所を出て歩き始めた。

通路を歩く中、空爆で足元は揺れ埃が舞い落ちる。

だが一際大きな爆発が地下施設で発生し、天井が崩れ壁などが剥がれ落ちる。

五十嵐少佐は頭を地面に打ち付けて血を流し、意識が朦朧とする。

 

「少佐!五十嵐少佐!」

 

内田中尉に叩き起こされ周囲を見渡す。

自分の歩いていた後ろの天井が崩れ、数人が生き埋めになったらしい。

 

「指揮所が爆発したようです。」

 

「チッ!バンカーバスターを用意したか、あいつらめ。」

 

ここを増築した時の設計図は臨時政府軍にも渡っているのだろう。

ピンポイントに重要施設を破壊しようと躍起になっているのだろう。

 

「内田中尉!肩を貸してくれ!」

 

「はい。」

 

内田中尉に肩を貸してもらい東監視台に到着した。

監視台で双眼鏡を覗くと数十隻の上陸用舟艇が終結しているのが見える。

空爆が終わり、次に砲撃が一時間以上続けられる。

 

「いいか、攻撃は俺の合図で始めるように徹底しろ!」

 

五十嵐少佐の命令は守られ、臨時政府軍からは島が沈黙しているように見えた。

そして砲撃が収まると上陸用舟艇の群れが一斉に島へ接近する。

近くの人工島から散発的に残存国家親衛隊の迫撃砲による砲撃が始まる。

だが迫撃砲は数隻の上陸用舟艇を転覆させるだけで臨時政府軍の対砲兵射撃で次々と沈黙させられた。

そして上陸用舟艇の第一列目が海岸線に上陸し、歩兵を吐き出した時に号令を発した。

 

「攻撃開始!」

 

島を囲むように設置させられた砲台、全部で三十門の155mm榴弾砲FH70による砲撃といくつもの機関銃座からの銃撃が始まる。

上陸した歩兵は次々と機関銃座と後方に設置させられた迫撃砲陣地からの砲撃で次々と撃ち殺され吹き飛ばされ、155mm榴弾砲FH70の砲撃で上陸用舟艇が次々と撃破されるか転覆する。

だがこの状況に臨時政府軍が黙っているはずもなく砲撃と近接航空支援をおこなう。

さらに奇跡的に上陸した勇敢な兵士が火炎放射器と手榴弾を持ってトーチカに肉薄する。

そしてトーチカに火炎放射器で徴用兵を炙り出し、焼けて悶え苦しむ彼等を銃殺する。

または手榴弾を投げ込み、爆破させ中にいた徴用兵をバラバラにする。

次々と砲撃するがいくつかの上陸用舟艇が上陸することに成功する。

けれど被害が甚大になり、第二波の上陸はなかった。

それ以後は夜まで砲撃と空爆を繰り返しおこなわれ、生き残った臨時政府軍兵士による夜襲を撃退して終わった。



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第八十一話 戦闘第三日目

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-2013年6月19日午後1時/東京国際空港新管制塔―

 

 

 

 

 

 

 

 

大森大将は管制塔から学園島を眺める。

砲爆撃で島全体が黒煙に包まれ、その煙が風向きによってこちらの視界を遮るほどであった。

そして砲撃が終わるとすぐに上陸用舟艇が一斉に飛び出し上陸を試みる。

だがいつものとおり学園島に篭城する学園警備隊の砲撃で上陸用舟艇が転覆され、上陸しても機関銃が設置されたトーチカの猛烈な銃弾の掃射で次々と死んでいく。

こうなることは彼はわかっている、いやこうなることを望んでいた。

臨時政府内での権力を掴むことに失敗し、協力してくれた五十嵐少佐と罪のない徴用兵と民間人を殺さなくてはならないことに彼は罪の意識を感じていた。

だが今日の朝、臨時政府にアメリカ大使が訪れ彼らの保護の為に我々に停戦を求めたことを知って希望を見出した。

今、アメリカ海軍の艦隊が彼等を救う為にこちらに向かっている。

この艦隊を大戦で損耗した臨時政府海軍は止めることは出来ず、さらに臨時政府はアメリカとの衝突は望まない。

ならばこの戦闘の指揮を取る大森大将の匙加減で彼らが脱出出来るチャンスを与えることができる。

今朝の大使との会談で臨時政府の要人は大森大将に攻略を急ぐように急かしている。

そのため大森大将は血気盛んな徴兵された国民の部隊で無駄な戦闘をさせて攻略しているように見せていた。

 

「お願いだ、五十嵐少佐。少しでも時間を稼いでくれ。」

 

大森大将は小声で言った。

 

「ここにおりましたか、大森大将。」

 

背後から突然名前を呼ばれ振り返るとそこには一人の男性がいた。

高級なアクセサリーを見せびらかすようにつけた若い男は大森大将の傍に立つ。

 

「これは治安委員長、ここへよくいらっしゃいました。」

 

臨時政府内で実質的に首班の次の地位である治安委員長の彼は元々政治家の二世であったが不祥事が発覚し、時の首相漆原美由紀に政界を追い出された政治家だが大戦の混乱の中で村瀬政権女性至上主義者に激しい批判を浴びせ国民の支持を獲得し、臨時政府内で治安委員長の地位を獲得した。

治安委員長として国民裁判所を運営し、協力的な自警団である国民警察を動かしかつての政敵を消し去ったり意に沿わない人間・集団を国民の前で糾弾し国民を煽り彼らの暴力で潰した。

そして国民の支持をさらに集める為にこの学園警備隊の反乱を演出したと言われている。

もし彼に目をつけられたら次の日には失脚し国民裁判所か国民のリンチにかけられるだろう。

大森大将は緊張を抑えつつ対応する。

 

「今日はなぜここへ?」

 

「君達がちっぽけな人工島に何時までも時間が掛かってるから視察に来たんだよ。」

 

治安委員長は双眼鏡を手に取って学園島を望むと質問する。

 

「あと何日で陥落する?」

 

大森大将は言葉を濁しながら答える。

 

「何日掛かるかと言われても難しいですね...様々な手を使っているのですが敵は効果的な陣地を構築しておりまして...一日二日では陥落はしないと思います...ですが必ず」

 

「いやあと二日で陥落させろ。」

 

大森大将の言葉を遮って治安委員長は断言する。

その理由は大森大将もわかっていた。

 

「あと二日でアメリカ艦隊が浦賀水道を通るだろう。そうなっては遅い!我々は国民に答えなければならない、必ずや五十嵐を中央国民裁判所で裁き反逆者達の首を街灯に並べることを!国民が望んでいる。」

 

治安委員長は大森大将を睨んで言った。

 

「もし攻略が間に合わずにアメリカ艦隊が反逆者を匿った時、君がどのように責任をとるか?私のやり方を見ていれば分かるよな。」

 

治安委員長の今までの残虐な行いを考えて体は震え汗が流れる。

 

「...はい、必ずや結果を。」

 

「ああ、期待しているよ。私も臨時政府の皆も、そして国民が君に期待しているよ。」

 

治安委員長は笑顔で大森大将の肩を叩くとそのまま管制塔を降りて行った。

大森大将は一気に緊張が解け、疲れが一気に襲い近くの椅子に座り込む。

顔を上げると黒煙と銃声に包まれる学園島を見て言った。

 

「俺も頑張るよ、命を懸けて。」




この冬に書き溜めた物語はここまでです。
この後はレポートやら定期試験やらあるので二月までは投稿する予定はありません。
ですが最終話が近いので頑張って書きたいと思います。

では、また今度。


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第八十二話 戦闘第四日目

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-2013年6月20日午前10時/太平洋上-

 

 

 

 

 

 

 

IS学園島攻略の現状を打開する為に戦艦『信濃』が投入された。

相模湾沖に停泊した戦艦『信濃』は世界最大の主砲45口径46cm三連装砲全九門が火を吹く。

轟音と共に放たれた九発の砲弾は神奈川県東部を越え、IS学園島に着弾する。

海面に着弾した砲弾はビルの高さを超える巨大な水柱を起こし、島に着弾した砲弾は爆発して島全体を震わす。

そして上空を飛ぶSH―60k哨戒ヘリが弾着観測を行い、修正後第二斉射が行われる。

九発の砲弾は学園島に着弾、衝撃で地下施設の一部が破損や崩落を起こし学園警備隊の隊員を殺傷する。

この艦砲射撃が行われていた相模湾よりさらに南下した太平洋上では臨時政府海軍の駆逐艦隊が任務を帯びて航行していた。

四隻の駆逐艦を指揮する少将に戦闘指揮所(CIC)から報告が上がる。

 

《米海軍太平洋艦隊所属の駆逐艦四隻が視認距離に入ります!》

 

報告と同時に見張員が叫ぶ。

 

「駆逐艦四隻を視認!」

 

少将は双眼鏡を覗き込む。

双眼鏡から見えた艦影はマストに巨大な星条旗を掲げた米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦だった。

この四隻は前路警戒を担い、その後ろにはジェラルド・R・フォード級航空母艦と揚陸艦を中心とする大艦隊が控えていた。

 

「臨時政府軍総司令部へ通信、『米海軍駆逐艦四隻と接触、指示を求む』」

 

「了解。」

 

少将は東京湾に向かう米艦隊と接触することを命じられていたがそれ以上のことは命令されていなかった。

米海軍駆逐艦がこちらを視認したのか、発光信号が発せられる。

 

「米海軍駆逐艦から信号!『我、米海軍太平洋艦隊所属『ダニエル・イノウエ』。難民救出の為、東京湾へ急行中である。進路を開けることを求む。』」

 

「返信、『我、日本臨時政府海軍所属『霜月』。『ダニエル・イノウエ』他三隻に告ぐ、君たちは日本国の主権を侵害しようとしている。ただちに針路を変更し排他的経済水域から離脱せよ。』」

 

時間を稼ぐ為に少将は適当な言葉を並べて返答する。

とにかく我々は米海軍艦艇を通さないという意志が伝わればいい。

 

「米海軍駆逐艦四隻が速力を上げます!」

 

返答を受け取った四隻の駆逐艦は速力を上げて突破しようとする。

 

「艦長!米海軍艦艇の一番艦と並走しろ!」

 

『冬月』は『ダニエル・イノウエ』と並走する。

後続艦も同じように米海軍駆逐艦に付いて並走する。

 

「司令官!総司令部から返信です!」

 

通信士が電文を持ってくるとその電文を呼んだ。

少将は舌打ちして艦長に言った。

 

「総司令部から命令だ。『武力を用いず、米艦隊の針路を妨害せよ』だ。」

 

「どうします?」

 

艦長が質問すると少将は答えた。

 

「相手は9,648t、この『霜月』は9,000t...いい勝負だ。」

 

艦長は察しが付いて言った。

 

「体当たりしろと?」

 

「そうだ。」

 

艦長は頷くと操舵員に命じる。

 

「ゆっくりと体当たりしろ、向こうもこちらも出来るだけ航行不能にならない程度にだ。」

 

「了解。」

 

「総員衝撃に備え!」

 

艦長と少将は椅子にしがみつき、他の艦橋要員も近場の物につかまる。

そして徐々に船体を『ダニエル・イノウエ』に近づけ、ぶつける。

その瞬間、船内は強力な衝撃に襲われ固定されていないものが吹き飛ばされる。

『ダニエル・イノウエ』の見張員と顔が直接見えるくらいまで接近し、英語で罵られる。

 

「米海軍の本隊が来るまで針路を妨害するんだ!」

 

『ダニエル・イノウエ』も負けじと押し返す。

そして一日、洋上では衝突が続いた。

 




一時間後に次話を投稿します


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第八十三話 戦闘第五日目

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-2013年6月21日午後16時/IS学園島地下施設-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐裕也は9mm拳銃の整備を終え、弾倉を挿入してスライドを引いて銃弾を装填する。

戦艦『信濃』や駆逐艦の艦砲射撃とミサイル攻撃、それに砲兵隊の砲撃と航空攻撃でトーチカや砲台がすべて破壊され、海岸には臨時政府軍の橋頭堡が築かれた。

学園警備隊にはもう橋頭堡を破壊する力は残ってなく臨時政府軍がいつ地下施設内部に侵入して来るか分からない状況だった。

五十嵐少佐も無事な片手で使える9mm拳銃を構え、迷彩服姿で立つ。

学園警備隊は着任直後は二千人いたが連日の戦闘で千人が戦死し、残りの千人の内動けるのは八百人ぐらい。

生き残った者は侵入に備えて各所に罠を仕掛け、残った弾薬を出来るだけ装備する。

避難民の為に最後まで戦うと覚悟を決め、自分の配置を死守するつもりだ。

ホルスターに拳銃を入れると傍に来た内田中尉が報告する。

 

「砲台並びに橋頭堡近くの進入路の電力供給を停止、防御扉の展開、対人地雷の設置が完了しました。」

 

「御苦労、国家親衛隊の状況は?」

 

「激しい戦闘で四千名から五百名まで兵員を損耗し、大井埠頭の一角で抵抗を続けています。」

 

「そうか。」

 

内田中尉を下がらせると背後で椅子を逆に座るフォッグに言った。

 

「君達の艦隊はいつ到着するんだ?」

 

フォッグは困った顔で言った。

 

「五日から一週間は掛かると言っただろ。まだあと二日は掛かるかもしれない?」

 

五十嵐少佐は苛立っていた。

 

「もうそこまで臨時政府軍が迫っている。あと一日持つかも分からない、残った隊員でこれから夜襲を仕掛けるがたった数時間稼ぐだけだ。」

 

「そう言われても俺には艦隊を急かす手段はないぜ。」

 

「そうだったな。だが明日にはここは虐殺の場に変わっているかもしれない、その時は覚悟しろ。」

 

五十嵐はそう言い放つと内田中尉と共に前線に向かう。

陽が沈み、夜襲を担当する部隊が坑道内で待機する。

 

「攻撃開始。」

 

五十嵐少佐が号令を掛けると隊員達が雄叫びを上げて坑道から飛び出す。

暗闇の中で照らす月明かりが彼らが構える小銃の先に装着した銃剣を白く光らせる。

夜襲に気づいた臨時政府軍は照明弾を空中に打ち上げ、照らし出された隊員達を機関銃の弾幕を浴びせる。

次々と倒れていく戦友を気にかけず隊員達は橋頭堡に向け走り込み、流れ込む。

急造の塹壕に飛び込み近くにいた臨時政府軍兵士に銃剣を突き刺す。

さらに撃たれた隊員が最後の力を振り絞り、物資集積所にピンを抜いた手榴弾を抱えて突撃。

そして自爆し、誘爆した弾薬が大爆発して夜を照らした。

だが態勢を立て直した臨時政府軍は反撃に移り、次々と隊員達は死んでいった。

一時間に及ぶ戦闘は夜襲部隊の全滅という結果を出したが、一方で臨時政府軍の総攻撃の時間を遅らせることに成功した。




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第八十四話 戦闘第六日目

※誤字脱字があった際、報告お願いします。


-2013年6月22日午前8時/学園島地下施設ー

 

 

 

 

 

 

 

臨時政府軍による総攻撃が始まった。

まず破壊された砲台に手榴弾が投げ込まれ、炸裂すると火炎放射器を持った兵士が内部に火炎放射する。

そして火炎放射が終わるとそこから次々と兵士達が流れ込む。

その様子を坑道内に設置されたカメラで確認した隊員はある程度流れ込ませると起爆装置を作動させた。

坑道内に設置された大量の爆弾が爆発、中に入った兵士達は狭い坑道で爆風に吹き飛ばされ体がバラバラになり一部の砲台は爆発の影響で崩れ多くの兵士が生き埋めになって死んだ。

けれども臨時政府軍は攻勢を緩めずに、兵士達も復讐に燃え士気が高く怯むことなく坑道に突入する。

各所で設置された対人地雷が次々と炸裂し、兵士達を切り裂くがそれにも怯まず進み続ける。

そして防御扉を爆破しながら進み、とうとう学園警備隊の守る各所の防衛拠点に到達した。

 

「来たぞ!」

 

隊員の一人が叫ぶ。

そして積まれた土嚢から銃口を出して銃撃する。

五十嵐少佐も拳銃を取り出し、銃撃する。

 

「ここを突破されたらすぐに避難施設だ!全員ここを死守するんだ!」

 

「了解!」

 

五十嵐少佐の言葉にそこにいた隊員達は力強く返答した。

臨時政府軍の兵士達は血に飢えたゾンビのように無我夢中でこちら突撃を仕掛ける。

銃弾が飛び交い、通路には次々と死体が折り重なる。

そんな中で一人の兵士が爆弾を背負って走ってくる。

隊員達は銃撃するがいくら銃弾に体を貫かれても倒れず走り込んできた。

 

「革命万歳!女性至上主義者に死を!」

 

兵士は叫んで土嚢を飛び越えたとき爆弾が炸裂した。

何重にも土嚢を積んだ陣地の一番前にいた隊員が巻き添えになり、爆風で五十嵐少佐も地面に叩きつけられた。

すぐそばに自爆した兵士か隊員の手足が転がってくるのが見えた。

立ち上がろうとした時、雄叫びと共に煙の中から兵士達が飛び出してくる。

五十嵐少佐は急いでサバイバルナイフを取り出すが小銃の先端にある銃剣が五十嵐の脇腹を突いた。

痛みを無視してサバイバルナイフで刺した兵士の首を切り、蹴って離す。

左手にサバイバルナイフ、右手に拳銃を持って隊員達の前で立ち上がと叫んだ。

 

「怯むな!俺に続いて突撃しろ!」

 

五十嵐少佐が走り出すと隊員達が続く。

臨時政府軍兵士はまさか反撃に出るとは思わずに驚いて突撃をやめる。

先頭を走る五十嵐少佐は9mm拳銃を乱射して前にいた兵士二人を射殺する。

拳銃の弾を撃ち切ると臨時政府軍兵士の集団に飛び込んで近くにいた兵士の首筋をサバイバルナイフで切った。

血飛沫が派手に飛び、血がシャワーとなって降る中を隊員達も臨時政府軍兵士の集団に突入した。

各所で白兵戦が始まり、双方の悲鳴が通路に響き渡りと血飛沫が飛び白い床を真っ赤に染める。

そんな中で臨時政府軍兵士の一人が叫んだ。

 

「撤退しろ!」

 

後ろに続いていた兵士達は一斉に逃げ帰った。

何が起きたか分からない隊員達はそれを眺めることしか出来なかった。

すると少しの間をおいて隊員の一人が叫んだ。

 

「勝ったんだ!我々は勝ったんだ!」

 

その声と共にその場にいた生き残った隊員達が万歳三唱し喜びあった。

五十嵐少佐は何で臨時政府軍兵士が逃げたかわからずにいると内田中尉から通信がはいった。

イヤホンを耳につけると内田中尉は喜んだ声で伝えた。

 

《上空に米軍の戦闘機が飛んでいます!米軍が来ました!》

 

「そうか、これで我々の勝利だな。」

 

午後一時、五十嵐少佐は白兵戦の手当てを受けるとフォッグと共に内田中尉のいる地上に出る。

すると学園島の上空には青枠を付け赤線入り白細帯の上に青に白い星がある国籍マークをつけたF-35C“ライトニングⅡ”の編隊が周回する。

 

「俺の言った通りだろ?フェニックス。」

 

「そうだったな、お前の国を信じてよかったと思う。」

 

フォッグの言葉に頷いて言った。

そして東京方面から飛翔してきた三機のV―22“オスプレイ”が荒野となったIS学園に着陸する。

三機の“オスプレイ”から次々と海兵隊員が飛び降り安全を確認すると背広姿と制服姿の老いた白人が降りてきた。

駐日アメリカ大使と太平洋艦隊司令官だった。

この二人から臨時政府とアメリカの交渉が纏まり、残り十一時間の停戦期間が五十嵐少佐の判断によって設けられることが決まった。

駐日アメリカ大使から臨時政府側の要求を読んだ五十嵐少佐は予想していた通りの条件だと思った。

五十嵐少佐はすぐに要求を呑み、停戦となった。




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第八十五話 別れと玉砕と降伏

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-2013年6月22日午後14時/学園島地上-

 

 

 

 

 

 

 

臨時政府軍と学園警備隊との間で停戦が発効されてすぐ避難民の収容が始まった。

まず織斑一夏達を始めとするIS学園生徒・教員・研究者が優先的に収容された。

V-22“オスプレイ”が往復して次々と東京湾外に停泊する強襲揚陸艦に避難民を運ぶ。

 

「裕也、お前は乗らないのか?」

 

順番が回ってきた織斑一夏は傍で収容作業を見守っている五十嵐裕也に言った。

共にいたセシリア・オルコット、篠ノ之箒に囲まれる。

 

「俺は最後に乗る。指揮官としてここにいる全避難民と全隊員が収容されたら必ず行く。」

 

「本当か?お前はいつも誰かを庇おうとするからここに残ろうと思っているのと思ったのだが。」

 

篠ノ之箒も同じように思っていたらしく問い詰める。

五十嵐は微笑んで言った。

 

「ここに残ったところで何も出来ないさ。心配するな、後で行く。」

 

「か、必ずですわよ!もう友人を失うのは嫌ですわ!」

 

「おう、約束だからな。」

 

オルコットは涙目になって言った。

そして織斑は五十嵐の肩を軽く叩くと三人は待機している“オスプレイ”に向かう。

だがラウラ・ボーデヴィッヒは共に行かず黙って五十嵐の傍に来た。

 

「お前も早く行け。」

 

五十嵐少佐はボーデヴィッヒに急かすと彼女は言った。

 

「お前はここに残る気なんだろ。」

 

ボーデヴィッヒに嘘を見抜かれた五十嵐はおとなしく認めた。

 

「そうだ、我々がここに残るのが停戦条件だからな。」

 

臨時政府軍と学園警備隊の停戦において提示された条件には『IS学園警備隊並びに徴用兵の島外への脱出禁止』の条件があった。

 

「アメリカとの衝突を避け、復讐に燃えた国民を抑えなければならない臨時政府が停戦を認める条件を考えれば当然の停戦条件だ。」

 

ボーデヴィッヒは悲しく思いながら自分の考えを言った。

 

「それに、ここの指揮官である以上ここで起きたことは指揮官である俺が責任を取らないといけない。部下を守るためにだ、さすがに軍人のお前には分かるか。」

 

「ああ、私も部隊を任された指揮官だ。指揮官が責任をとならなければならないという事も分かるが、それが“戦友”の一人というのは悲しいことだ。」

 

そして一夏達が“オスプレイ”の機内に入ると五十嵐はボーデヴィッヒに行くように言った。

するとボーデヴィッヒは五十嵐に手を差し出した。

 

「別れに何かくれ。責任を取るという事はお前は...」

 

言葉をそこで止めたがその先は五十嵐も分かっている。

“死刑”

臨時政府はどんなことをしてでもこの結果を国民に示さなければならない。

ボーデヴィッヒはそれを分かっているのだろう、その上で“戦友”の形見が欲しいのだろう。

 

「俺はもう何も持っていないのだが...わかった。」

 

五十嵐は唯一自分だけのものである二枚の認識票の内一枚を彼女に与えた。

 

「デュノアを救出する時も、お前は認識票を渡したな。今度はそっちの意味か。」

 

ボーデヴィッヒは笑みを浮かべて認識票をポケットに仕舞うと五十嵐と向き合う。

五十嵐は敬礼するのだろうと思い向くと突然ボーデヴィッヒは背伸びして五十嵐にキスした。

 

「これで別れだ...最愛なる“戦友”。」

 

ボーデヴィッヒは涙を見せぬよう振り返り、織斑たちの乗る“オスプレイ”に乗り込む。

そして彼等を乗せた“オスプレイ”は飛び上がり、強襲揚陸艦へ飛んで行った。

 

「フェニックス、お前一人ぐらいなら俺達CIAで今すぐにでも誤魔化せるぞ。」

 

一部始終を見ていたフォッグが五十嵐に耳打ちする。

 

「そんな汚い真似は俺には出来ない。」

 

「いいのか?彼女が悲しむぜ。」

 

「いいんだ、俺には一人の人間である前にIS学園警備隊指揮官だ。最期まで部下と共にいる覚悟は出来ている。さあ、お前も行け。」

 

その後、東京湾に入った数隻の強襲揚陸艦が損傷の少ない学園島の港湾施設に接岸して残りの避難民、そしてIS学園に残っていたIS、ISの製造・研究設備と研究データを持ち出した。

それらの作業が終わり最後の強襲揚陸艦が出航し、無事に東京湾を出たのは陽が落ちたころだった。

 

 

 

 

 

 

 

-2013年6月22日午後23時30分/IS学園島地下施設―

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐少佐は無線機の前に立ち、大井埠頭の一角に追い詰められていた国家親衛隊指揮官足立大尉に聞いた。

 

「これから三十分後に停戦期間は終わる。足立大尉、君達国家親衛隊はどうする。」

 

《五十嵐少佐、我々はもう守るべき国家を失った。それは我々の死を意味している、新たな日本と共に生きて行けると思う隊員は誰もいない。》

 

「ということは玉砕するという事か?」

 

《そうだ、五十嵐少佐》

 

足立大尉は躊躇わず、言葉を濁さずに言った。

 

《我々は最後の国家親衛隊の部隊として栄光ある最期を迎える覚悟だ。》

 

「そうか...それが国家親衛隊隊員の総意ならば私は反対しない。」

 

《ありがとうございます、五十嵐少佐。我々は貴方と共に最後まで戦えたことを誇りに思います。》

 

「こちらこそ君のような“軍人”と戦えたことを誇りに思う。」

 

《では、あの世があるならばそこでまた会いましょう。通信終わり。》

 

五十嵐少佐は無線機を切ると内田中尉に命じた。

 

「この地下施設全体に残った爆弾をすべて仕掛け、破壊しろ。この施設はもうこの国には必要ない。設置終了後は全員埠頭に集合しろ。」

 

「了解しました。」

 

五十嵐少佐は指示を出すと地上に出る。

そして三十分後、足立大尉の国家親衛隊が最後の戦いを仕掛けた。

足立大尉は連隊旗を掲げ、部隊の先頭に立って突撃した。

包囲されていた彼らは機関銃と小銃の銃撃に次々と倒れ、三十分後には全員が戦死した。

学園島からは打ち上げられる照明弾と曳光弾の光、そして幾多の銃声と響き渡る悲鳴が聞こえた。

国家親衛隊の最後を見届けると内田中尉が呼びに来た。

 

「五十嵐少佐、すべて完了しました。」

 

「わかった。」

 

五十嵐少佐と内田中尉は地下施設を通って、学園のあった丘から港湾施設へ向かった。

地下施設には戦いの傷跡と腐り始めた双方の兵士の遺体が転がっていた。

そして地下施設を出て、港湾施設に行くと生き残った学園警備隊の隊員が整列していた。

 

「...爆破用意。」

 

五十嵐少佐は起爆装置を持つ兵士に命じた。

 

「準備よし!」

 

「点火三秒前...3...2...1...点火!」

 

起爆装置が作動し、地下施設に仕掛けられた爆弾が爆発して地下施設は破壊された。

破壊された地下施設は土の重みに耐えられずに崩れ、埋もれた。

丘の学園跡に地割れが起き、一部が陥没する。

 

「これで我々の戦いはすべて終わった...そして新たな戦いがはじまるか。」

 

五十嵐少佐は独り言を呟くと整列した隊員達の前に立って言った。

 

「我々学園警備隊はこれから臨時政府軍に降伏する!だがこれで戦いが終わったわけではない、君たちは新たな日本の為の戦いが始まる。だが新たな戦いは武力を用いない、国家作りという戦いだ。最初は禍根が残っているだろうがそれを乗り越え、様々な人々と協力してこの日本という国を立て直さなければならない!そのために我々は降伏する!皆、私に続け!皆で新たな日本の為に生きよう!」

 

そして夜が明けて2013年6月23日午前五時、IS学園警備隊は臨時政府軍に降伏した。




一時間後に次話(最終話)を投稿します


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最終話 最期

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-2014年2月11日午前9時/東京拘置所-

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐裕也は東京拘置所の独房に一人入れられていた。

降伏の後、五十嵐裕也は中央“革命裁判所”において裁判が執り行われた。

この間に皇帝陛下が近衛師団にIS学園警備隊へ武器を援助するように指示した事が発覚し、国民は皇帝陛下に対して怒りが爆発して立ち上がり暴動まで発展する事態になった。

臨時政府は国民を静めるために革命を宣言、立憲君主制を廃止し共和制への移行を宣言した為に政府機関の名称を国民の好む臨時“革命”政府や中央“革命”裁判所と名称を変えた。

そして皇帝陛下と皇后、そしてその家族は捕らえられ同じ中央革命裁判所で裁判となり、五十嵐の裁判は一時中断され、皇帝陛下の裁判に証人として出廷することとなる。

そこで五十嵐は皇帝陛下の無実であること述べ、すべては自分が脅迫したせいであると証言した。

この証言の結果、または国民の多くが死刑を望まなかった結果皇帝陛下とその家族は死刑を免れ、国外追放処分となった。

その後、二ヶ月の裁判の結果中央革命裁判所の判決は反革命罪による死刑と決まり東京拘置所に収容された。

けれど臨時革命政府内での激しい政争で死刑執行が即座に行われずに数ヶ月放置された。

その間に日本と世界は大きく動いた。

日本における政争が八月に終結すると同時に日本共和国の建国が宣言され、日本は共和制の国家に生まれ変わり国防軍は共和国軍に生まれ変わった。

そして日本共和国は全世界の国家から承認され第三次世界大戦と名付けられた大戦の講和会議となったニューヨーク講和会議に出席、ニューヨーク講和条約に署名した。

同時にアメリカはニューヨーク講和会議で既存の『国際連合』の解隊が決められ、新たに『国際平和機構』が設けられた。

この『国際平和機構』はアメリカ合衆国一国が巨大な権限を持つ常任議長国となり、その下に加盟国が従う体制が作られ、加盟国の持ち寄った戦力で構成される『国際平和維持軍』が結成された。

さらにISはニューヨーク講和会議のあとに決められた『ISの平和運用条約』により、国家の量産型コアの製造とIS保有を禁止し、すべてのISは『国際平和機構』の専門機関『国際航空宇宙開発機関』に管理され研究用途での使用しか認められなくなった。

これにより、ISは『国際平和機構』の議長国アメリカが独占することになったがISは戦争に使用されることはなくなった。

そして織斑一夏達は『国際航空宇宙開発機関』のテストパイロットとなったことを知り、五十嵐は彼らがうまくやっていることを喜んだ。

ヨーロッパでは大戦によってすべての国家の国土が荒廃し、今までの国家の枠組みでは復興できないことが分かった為に既存の国家の枠組みを捨て大戦前に存在した『欧州連合』よりも強力な『欧州連邦』が完成した。

これにより欧州という地域は国家としてひとつの統合体が完成したが、これは大戦中にイスラエルを消滅させた中東のアラブ国家が一人のイスラム指導者によって革命により解体され宗派を超えたイスラム国家『イスラーム帝国』建国に対抗しての事であった。

アジアでは中華人民共和国によって占領されていた国々が中国の内戦によって解放され、独自の道を歩みはじめ、中国に併合されていた地域も分離・独立を宣言。

だが中国の解体と共に各地の軍閥と軍閥に結びついた政治勢力による長い中国統一の内戦が始まった。

これが死刑執行までの数ヶ月に起きた出来事だった。

五十嵐は思い返していると刑務官がやって来て独房を空けると一人が言った。

 

「五十嵐裕也死刑囚、本日刑を執行します。」

 

五十嵐は立ち上がると「今までお世話になりました」と刑務官に感謝を伝えた。

そして両脇を刑務官に抱えられ、刑場の前にある前室に連れて行かれた。

前室に入るとそこには香がたかれ、複数の刑務官と所長が立ち、机には教誨師の牧師が座っていた。

教誨師の前に座らされる拘置所の所長から刑執行が正式に伝えられ説教が行われる。

次に遺書の紙が用意されるがすでに書いていたので彼は断った。

そして目隠しをされ、手錠を掛けられると刑場に連れて行かれ首にロープを巻かれ両足もロープで縛られる。

この光景は特別に用意された国営放送のカメラで全世界に映像が流れた。

 

「これより反革命を指導した五十嵐裕也死刑囚の刑を執行する。」

 

検事がカメラに向けて宣言する。

そしてボタンが押され、床が開き重力によって五十嵐の身体は2~3メートルほど落下するとロープが伸び切り首を締めつけた。

その瞬間、刑執行を目の当たりにした日本国民は反逆者の死と捉え歓声を上げた。

三十分後、医師と検事により死亡が確認すると遺体は火葬されたが国民に対する反逆者である五十嵐裕也の遺灰を引き取る寺院はなく、また彼の墓を作ることは国民の反感を買うとして遺灰は東京拘置所近くの荒川に流された。

この死刑により日本共和国の歴史において革命の終わりを象徴する出来事だと後の教科書に記された。

日本のために戦い、英雄となった彼の最期は友人達を守るために反逆者となり国民の憎悪と共に死んだ。

その後三通の遺書が回収され、ひとつは共に戦ったIS学園警備隊員に宛てた遺書であり公開された。

『私は君達と共に戦えたことを誇りに思う。私は先にあの世へ行った戦友のところへ行く。この先、厳しい社会の風当たりに晒されると思われるが常に自分を信じて進んでくれ。そして新たな日本、日本共和国の為に生きろ。』と指揮官として部下に送った言葉が書かれてあった。

二通目は織斑一夏など四名のIS学園の同級生に宛てた遺書、三通目はラウラ・ボーデヴィッヒ個人に宛てられた遺書であった。

これらは公開されることはなかった。

五十嵐裕也の死刑執行後、今までの日本の伝統を捨てた新たな日本共和国の国歌が制定され、歌詞には圧政からの解放までの物語が書かれ、その中に五十嵐裕也の名前は反逆者の一人として語り継がれた。

その後、徴用兵達は解放されたが大戦後の不況・混乱と社会からの偏見から職にありつくことが出来ず、予算に余裕のない政府は彼等をどうすることも出来なかった。

だが彼らにせめて死に場所を与えようという提案が政府内なされた。

そして元徴用兵に『国際平和維持軍日本共和国軍団』への参加が呼びかけられた。

多くの行くあてのない元徴用兵が志願し、二十万人という規模になった『国際平和維持軍日本共和国軍団』は内戦の続く中国大陸でアメリカが支援している『中華民主共和国』への援軍として参加した。

そして三十年に及ぶ激しい内戦の中で彼らは前線に立ち続け次々と戦死し、本国からは補充の元徴用兵が次々と送られた。

三十年に及ぶ内戦が終結し中国大陸が民主的な『中華民主共和国』のもとで統一した時には『国際平和維持軍日本共和国軍団』は消滅していた。

こうして多くの元徴用兵は本来の“用途”であった戦場で死を迎えられた。

彼らは死ぬ時は笑顔で、そして遺書には派遣した日本共和国政府に死に場所を用意してくれた感謝が述べられていたと言われている。

これが五十嵐裕也をはじめとする徴用兵となった少年達の最後であった。




『学園の守護者』を最後まで読んでいただきありがとうございます。
このハーメルンでの初投稿は2013年の12月6日でした。
その前は違うところで投稿していましたから大体最終話を迎えるまで三年ほど掛かってしまったこと、ここでの投稿の間に二回の大きな変更をして読者の皆様を皆様を振り回してしまったことを申し訳なく思っています。
この三年の間に私の中でいろいろと価値観が変わり、特に社会と戦争について考えさせられることがありまして物語を大きく変更しました。
最初は一番最初に書いた小説の主人公がISの世界に転生して、戦いながらも前の世界では出来なかった青春を送るというものでしたが、この『戦いながらも前の世界では出来なかった青春を送る』というのに矛盾を感じて一回目の大きな変更を行いました。
次に受験前に急いで書いた小説の内容を自分が読み返してみたら納得がいかないので変更しました。
これが私が変更に至った理由です。
ですが自分的には満足出来る内容が書けたと思いますが、皆様はどう思いますか?
それを含めて感想をお持ちしています。

最後に下手な文章と構成のこの作品を読んでいただきありがとうございます。
もし新作を書くことになったらその時はよろしくお願いします、今のところは未定ですが(今度は海かな?)。
ではさようなら、また今度。



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