フランドールの日記 (Yuupon)
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四月編
四月編1『始まりのお茶会』


 

 

 

 ――何かがおかしい。

 紅魔館当主にしてカリスマなる吸血鬼、レミリア・スカーレットは腕を組みながら、そんなことを考えた。

 正面五メートル前には濃い黄色の髪にサイドテールで紅い洋服を纏う少女がテキパキと掃除を行っている。一見するとお手伝いか何かかと思うがその動きに迷いはなく、チリ一つ見逃さず素早く掃除を行う姿は非常に洗練されていた。

 二人が居るのは彼女らが住む紅魔館、その当主であるレミリアの自室である。紅魔館といえば幻想郷においても上位に名を連ねるほど大きな建物だが、その当主の部屋ともなると家具の一つ一つが豪華なものである。

 しかしその高級品一つの扱いに関しても手馴れた様子であった。吸血鬼の館ということで外からの残光は薄く、視界不良にも関わらずだ。

 本来、紅魔館の掃除などは全てメイド長、十六夜咲夜(いざよいさくや)が担当している。特にレミリアが過ごす部屋なら妖精メイドやホフゴブリン達を含めても他の者に掃除を任せるなどあり得ない。しかし目の前の現実は明らかに異なるものであった、が。

 ――いつからこうなったのかしら。

 そんなことを考えるようになるなんて、一年前は思ってもいなかった。いつものように退屈な日常を過ごし、時には博麗神社に遊びに行ったりして紅魔館当主としてのカリスマを見せつけ――本音ではほんの少しの享楽を味わおう――そんな思いで今年も過ごそうと思っていた――その過程で紅魔館に住む皆が崇拝する王でありたいと、精々そんなものである。

 しかし、そんな曖昧な未来予想図(うんめい)はいつしかレミリアの中から消え去っていた。

 レミリア・スカーレットは『運命を操る力』を持つ。普段から使う事はないが、大体一年前から日ごと日ごとに当初想定していた運命から何か歯車がズレていったのだ。

 その筆頭が目の前の少女。レミリアの妹であるフランドール・スカーレットである。いや、筆頭というよりは全ての元凶とも言えるかもしれない。

 495年という時間を紅魔館の地下室で過ごし、精々が大図書館で魔法を覚えたり本を読む程度だった彼女が今では幻想郷において『レミリアよりも知名度を上げ、レミリアよりも人気を誇り、レミリアよりも政務を得意とし、レミリアよりも卓越した魔法の使い手となり、レミリアよりも女として上にある。』

 単純な力関係を考えればそれでもまだ姉であるレミリアが上と思われるがそれすらも曖昧な状況である。巷ではレミリアよりもフランの方が当主として優れているのではないかという声が出るくらいだ。

 ――これ、よく考えなくても不味いわよね。

 一体妹に何があってこんなことになったのか――まだレミリアは把握をしていない。だがこれはどう考えても不味かった。最近では屋敷内での対応もレミリアよりフランの方が良くなってきた気もする。正直明日にでも当主の座を奪われてしまうかもしれない――顔には出さないがそれほどまでにレミリアはある種の焦りのようなものを感じ始めていた。

 下剋上という言葉がある。幻想郷のある日本でも、かつて「浦上」という大名が「宇喜多」という家臣に城を奪われた話があるらしい。

 幻想郷においてフランドールの方が知名度も人気もあり、また屋敷内の人望もレミリアより高い。また様々な面でレミリアは負けている。ここまで来れば本人が望まぬとも周りが持ち上げるレベルだ。

 そこまで考えてレミリアはふと視線をフランに向ける。彼女はふんふんと楽しげに鼻歌を歌いながら掃除を進めていた。埃が舞わぬように注意し、テキパキとこなす姿は元の素材が良いという点を含めると女神のようにも見える。里の男が見れば大天使フランちゃん――とかなんとか言い出すに違いない。そこには一種のカリスマ性と暖かな雰囲気が存在していた。

 

 実は昨日――四月二〇日の夕方に屋敷を歩く彼女を呼び止めてレミリアはフランに尋ねたことがある。

 ――ねぇ、フラン、これからも一緒に居てくれる?

 何か明確な答えを求めて発した言葉ではない。人望で負けているとはいえいざとなれば咲夜を筆頭とした従者達も自分に味方してくれると信じている。もしかしたら自分より優れた存在になってしまったフランがこれまでと同じように接してくれるのか分からなかったことがこれを彼女に言わせたのかもしれない。

 フランは、しばしレミリアの瞳を覗き込むようにしてから、微笑んで答えた。

 ――お姉様がそう思い続けてくれる限りは。

 レミリアの真意を図る言葉だったが、それでもレミリアは自分の心を塞ぐ重荷が取れたような気がした。まだフランは私を慕ってくれているのだと素直に嬉しかった。

 それなのに――。

 

「……ねぇ、言っちゃ悪いけどさ」

 

 レミリアの自室。そのレミリアの横に座る少女は少し迷いながら口を動かした。真っ赤な巫女服を纏う少女である。

 彼女の名前は博麗霊夢(はくれいれいむ)、幻想郷の結界の管理や異変解決のスペシャリストだ。彼女は幻想郷創造者である八雲紫(やくもゆかり)と共に幻想郷に必要不可欠な存在であり、各勢力とのやり取りを交わす人物なのだが、そんな彼女はレミリアの胸中を見抜いたように疑問を呈する。

 

「レミリア、アンタあの子がどうしてあそこまで成長したのか知らないの? お姉様なのに?」

「……うるさい、だって最近はフランも大人しかったから見てなかったの。それに最近は朝起きも珍しくないけど私は誇り高き吸血鬼よ、本来夜に起きる種族よ。毎日朝から起きるわけないでしょ?」

「でも、あの子――フランだって夜に起きてる日もあるらしいわよ。寿命が長いくせに一日一日を無駄にせず生きようとしているのはアンタより高評価だけど……まぁ普段から修行をサボってる私が言うことじゃないか」

 

 霊夢は呟いてフランの淹れた紅茶に口をつける。続いてレミリアも同じもの(ただし砂糖たっぷり)に口をつける。味は美味だ。たった一年余りで咲夜顔負けの技術を手に入れたフランは屋敷内において唯一咲夜の代わりに全てを任せられるほどのメイド能力を持つらしい。レミリアは基本的に紅魔館運営を全て咲夜任せにしている為、フランはナンバーツーという立ち位置となる。そういった意味で言えばもう紅魔館をフランに乗っ取られてるんじゃないか、とちょっと思う霊夢だが口には出さない。

 すると掃除を終えたらしいフランがレミリアの方に近付いてきた。

 

「よーしお掃除終わりました! じゃあお姉様と霊夢さん、私は失礼するね。何かあったらそこの呼び鈴鳴らしてくれたら私か咲夜が行くから」

 

 それだけ言うとビシッと敬礼ポーズを取ってフランは部屋を後にする。呼び鈴を鳴らすだけで来るという時点で屋敷の当主の妹のやることではないがもう見慣れたものである。

 丁寧な所作で扉の開け閉めを行い彼女の姿が扉の向こう側に消えた。

 バタン――と静かになった部屋でレミリアはティーカップをおいて溜息を吐く。

 

「……ねぇ霊夢」

「なに?」

「フランは私を追い出さないよね? 笑顔の裏で下剋上とかを企んでないよね?」

「落ち着きなさいよまったく。カリスマ性どこいった。戦国時代じゃないんだから下剋上なんてないわよ。そもそも姉妹でしょあんたら」

「……だってフランの運命読めないのよ! 地下の悟り妖怪も言っていたけど、普段から心を読めているといざ読めない相手が居る時何を考えているのか分からなくて怖いらしいわ。それと同じで私も運命が読めないから……」

「……他人ならともかく家族でしょ? 妹のことくらい信じてやりなさいよ」

 

 大体地下の悟り妖怪、さとりだって妹のことを信じてあげているってのに。霊夢は呆れたようにレミリアを見つめる。

 最近『カリスマ化』が進む妹に対しこの姉は『かりちゅま化』が進んでいるらしい。レミリアがおかしくなった理由は霊夢にも幾つか思いつくがやはり一番大きいのは「バシュッ、ゴオオオ」だろう。いつぞやに月の都を訪れた際、レミリアは月の守り人にボロ負けしたのだ。それは見事な負けっぷりだったがそれが尾を引いたのか、その後はホフゴブリンを雇い入れたり新技吸血鬼ごっこを編み出したりと奇行が目立ち始めている。あと最近ではチュパカブラを飼いだしたとか。金持ちの感覚は分からない霊夢だが色々な意味でレミリアに余裕がなくなっていることは想像がついた。

 と、その時だ。

 

「……って、ん?」

 

 どうしようか、とふと霊夢が部屋を見回すと一冊のノートが落ちていた。かなり分厚いノートである。

 なんだろう、と思った霊夢は近付いてノートを拾い上げる。

 

「これは……」

「どうしたのよ?」

「んっ」

 

 疑問の声を上げるレミリアに霊夢は黙ってそのノートを突き出した。レミリアが受け取り、タイトルを読み上げる。

 

「……フランドールの日記?」

 

 それはフランの日記だった。

 妹が日記を書いていたとは知らなかった――レミリアは少し驚いて目を丸くする。だがそれもしばらくのこと。

 ――もしかしてこの中にフランドールがあそこまで成長した理由が書かれているのでは?

 ムクムクと湧いてきたその考えがレミリアにノートを開かせる。知らず、口角が上がり鋭い吸血歯が顔を覗かせた。

 

「どうするの、ソレ?」

「逆に聞くわ霊夢。どうしたい?」

「…………、」

 

 霊夢はごくりと生唾を呑みこんだ。興味はある。かなり――いやメチャクチャ興味はある。フランの成長は家事スキルなどに留まらない。その体つきもこの一年で色々と成長していた。具体的に言うと元からレミリアより若干大きかった胸が成長している。

 とはいえ人間基準で言えば大した成長ではない。しかし妖怪基準で言えば成長期にしたっておかしな伸び方である。数百年数千年生きる妖怪が目に見えて分かる成長をするというのはそれほど異質なのだ。

 その秘密が載っている。それだけじゃない、この一年で紅魔館は幻想郷内で幾つかの事業を成功させたとも聞く。経営法も載っているかもしれない。祭りなどの経営にはよく携わるがそんなのは生活費に消えてしまうのだ。

 魅力的なものが幾つも詰まった日記。読みたかった。普通に興味もある。

 数秒、二人は黙り込んだがやがてお互いの顔を見合わせる。

 

「読みましょうか」

「待って。フランが落としたと気付くかもしれない」

「大丈夫。読み終わるまで戻って来ないと『巫女の勘』がいってるわ」

 

 巫女の勘。博麗の巫女の勘は当たる。どのくらいと言われるとほぼ百発百中である。俺の占いは三割当たる! と得意げな人間も別の世界線にいるわけだが話にならない。

 その巫女の勘がいうのだ。なら大丈夫だろうとレミリアも頷いた。

 そしてその一ページ目が開かれる。

 

 

 

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 四月一日 

 

 暗い地下室で495年が経った。

 私が地下で495年過ごした理由は『気が触れている』からなんだけど今さらながらこう思ったんだ。

 

 『495年も引きこもってたら余計狂気に呑まれないか?』と。

 

 なのでこれから日記をつけてみようと思う。理由は狂気の防止。老人のボケ防止みたいで余り気は進まないけれどこうやって少しでも頭を動かさないと最悪考えることをやめてしまう可能性も否定できない。

 何より狂気に呑まれた後に世界がどうなるかとか考えたくないし。

 

 『ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』なんて理不尽な力を持ってるせいで狂気に呑まれたら最後全てを壊してしまう可能性だってある。まぁ十中八九止められるけど1%でも可能性がある以上潰しておきたい。

 ――――私の大切な人を壊さないためにも。

 

 

 ……なんて。物書きになったような気で書いてみたけど日記の書き出しとしてこれはどうなんだろう? でも書き方なんてよく知らないしなぁ。

 それに暇って書いてるけど最近は紛らわす道具も沢山あるし……。まぁ暇つぶしでいっか。趣味とかないし、日記を書くことを趣味にしてもいいかもしれない。

 

 ……誰にも読んでもらえないけどね。

 

 あ、でも最近、お姉様が『ぱそこん』だっけ。八雲紫って人からそんなのもらったとか言ってたなぁ。

 確か科学の力で人とお話したり情報を見たり出来るって聞いたけど。それを使えないかな? ちょっと考えてみよっと。

 

 ……まぁまずは『壊さない』ようにしないといけないけど。

 とりあえず、明日は屋敷内に出てみようと思う。

 

 

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「……四月一日、アンタが言ってた一年前ね」

「えぇ、この頃からフランが段々成長していったわ」

 

 とりあえず一ページ目を読んでみた感想としてはこんなものだった。まだ始まりということで特に感想はない。

 はやる気持ちで二人は次のページをめくる。

 

 

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 四月二日

 

 今日は久々に大図書館に顔を出してみた。

 大図書館というのは私が住む紅魔館という館の地下にある魔女の住処だ。

 分かりやすく言えば、私の姉の友達の魔女の部屋ね。

 パチュリー・ノーレッジ。

 それが大図書館の主の名前。以前、私を訪ねてくれた霧雨魔理沙っていう人間の魔法使いが彼女のことを『あいつずっと図書館にこもってるから動かない大図書館だとか言われてるんだぜ?』とか言っていた。でも魔法の腕は確かで、私も多少魔法を嗜んでいるけど相手にならない。

 

 そのくせ実年齢が一〇〇歳を超えているくせに見た目は十代後半。しかも可愛い。あと隠れ巨乳。普段ローブみたいな服着てるから分かりにくいけど。

 私とお姉様は吸血鬼ということで五〇〇年を過ぎても見た目は子供なんだけどなんだかズルい。まぁ胸のサイズはお姉様に勝ってるから良いとして、でも雰囲気が若干大人っぽいのが少し羨ましい。

 まぁあと二〇〇〇年も経てば私も大きくなるか。

 

 ……話が脱線しちゃった。元に戻そう。

 私が大図書館に来た理由なんだけど、昨日書いた『ぱそこん』についての資料を探すためだったりする。パチュリーの大図書館は定期的に香霖堂(こうりんどう)と呼ばれる、幻想郷の外から流れてくる物を売る店から読めそうな本を買い取っているのだ。

 たまに鈴奈庵(すずなあん)って本を貸し出す店と香霖堂で買い取る本がかち合って揉めることがあるってうちのメイドさんの十六夜咲夜がボヤいてたっけ。

 

 そんなこんなで久々にパチュリーと顔を合わすと彼女はすごく驚いていた。パチュリーの使い魔こと小悪魔のこあさんもだ。

 まぁ狂気に呑まれてるとはよくお姉様から聞いてるだろうし身構えるのは当たり前だろうけど。むしろ身構えてくれないと怖い。万が一狂気に呑まれてた時困るし。最近は思考もクリアでそんなことほぼないけど。

 

 それでとりあえず話を聞いてみたら大図書館に『ぱそこん』は無いと言われた。

 まぁやっぱりぱそこんって外部でもそんなに年月経ってない技術だし仕方ないのかもしれない。確か二十年くらい? 探せば見つかるだろうけど残念なことに私の活動区域は紅魔館の中と、広く見てもその周辺。

 無いなら仕方ない、諦めよう。

 

 その後、パチュリーに最近あったことについて聞いてみた。

 私の中で一番ホットなニュースといえばお姉様が起こしたという『紅霧異変』だし。まぁそれもそれが起こってしばらくしてから私の部屋に転がり込んできた魔理沙という人間の魔法使いから聞いた話なんだけど。

 

 でもパチュリーも外に出ないせいか余り知らないらしい。

 レミィから聞いたんだけどね、とお姉様の名前を挙げてから彼女は幾つかの出来事を語ってくれた。

 曰く――お姉様が月に行っただとか。

 曰く――幾つかの異変が起こり解決されただとか。

 曰く――罪と書かれた袋をかぶった男達が現れるようになっただとか。

 

 最後のはともかく私が知らない間に結構色々なことがあったらしい。

 ちなみにぱそこんについてなんだけど、お姉様はよく分からなくて一回癇癪(かんしゃく)を起こしたとかって咲夜から愚痴を言われたらしい。そんなに欲しいならレミィに聞いてみようか、と言っていたので是非お願いした。

 

 沢山の人とお話できるなら例えば弾幕ごっことかのアイデアとかも皆で考えたりとか出来るかもしれない。それだけじゃなくて色んなことも出来るかも。

 そう考えると少し胸が躍った。

 

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「癇癪ってあんた……」

「私は悪くないわ、あのポンコツが悪いのよ」

「だからってモノに当たるのはやめなさいよ……」

「あんなもの所詮鉄クズよ。私に必要ないわ」

「……建前はともかく本音は?」

「起動ボタンが分からな……ハッ!」

「ポンコツはアンタじゃない!!」

 

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 四月三日

 

 495年間、地下室に幽閉。

 そんな年月を地下で無駄に過ごしたことについて改めて見直してみた。

 いやだって勿体無いじゃん。吸血鬼の人生は長いったって人生は一度きりだよ? 地下室にいたとしてももっと色々経験できたんじゃないかな。今更ながらにそう思ってしまった。

 

 日記を書き出して考えることが多くなったせいかもしれない。

 

 というわけでなにか始めてみようと思う。

 

 女の子の趣味と言えば料理とか?

 自分で美味しい料理が作れるようになれると思えば少し興味ある。

 咲夜の料理って凄く美味しいから教えてもらえないか聞いてみよう。

 

 ぱそこんが手に入ったらそれをやるでも良いけどね。

 ともかくこの怠惰にして無駄に過ごす日々を変えないと! 最近じゃニートなんて言葉もあるらしいけどそれは駄目だと思う。

 私の状況ってまんまそれだからまずは目指せ脱ニート☆だ!

 

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「ニートって……まぁ色々やってみるのは良いことだけどね」

「この頃までずっと地下暮らしだったから……良い傾向だと思ってたわ、あの時は」

「じゃあ今は?」

「だって、まさか私の地位が危うくなるまで成長するなんて……」

「ならアンタもなんか始めてみれば?」

「うー……うんそうね」

 

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 四月四日

 

 やった! 

 最初、料理を教えて欲しいとお願いしたら怪訝そうな顔されたけど咲夜は料理を教えてくれるらしい。

 でもありがとう! って抱きついたら一瞬ふらっと倒れちゃった。疲れてたのかな? すぐ起き上がって何事もないような態度をとっていたけどもしかしたらお姉様のお世話で疲れていたのかもしれない。

 申し訳ないことをしたかも。

 

 咲夜は人間だから無理しないでほしいと思ってるんだけど。

 でも承諾してくれた手前、断るのは無理そうだった。

 

 割り切って、早速簡単なものから作ることに。

 『ハンバーグ』だって。

 うちの食卓ってやっぱり吸血鬼だから人肉とか人の血とかもあるんだけど、今日のは咲夜も味見するから普通のお肉にしたらしい。アドバイスを聞きながらやってみたら普通に美味しくできた。

 

「妹様、とても上手に出来ましたね。美味しいです」

 

 咲夜が笑顔で言ってくれた。

 ……うん、嬉しい。

 

 思えば、モノを壊すのは得意だけど作るのは初めてだった。

 それに、人に喜んでもらえたことなんてもう何年ぶりだろう。

 

 嬉しかった。しばらく続けてみようと思う。

 あと、料理って楽しいね!

 

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「料理って楽しいね、だってお姉様?」

「きゅ、吸血鬼の王は料理出来なくたっていいの!」

「吸血鬼とかやる前に淑女名乗ってるならそれくらい出来ときなさいよ……」

 

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 四月五日

 

 

 今日は外。といっても紅魔館の敷地なんだけど、外に出てみた。

 太陽の光は体に毒なのでキチンと日傘をさしてだけど。

 敷地内といえ外に出るのも久しぶりだ。特に昼間に出るのは。しばらく散歩気分で紅魔館の庭にあるフラワーガーデンを歩いているとめーりんと出会った。

 

 本名は紅美鈴(ほんめいりん)。うちの門番さんで、紅魔館で花を育てたりもしている。

 今日出会った時もお花に水をあげていた。

 

「妹様。珍しいですね、外に出るなんて」

 

 彼女は私を見ると少し驚いた様子だった。

 私も自分自身にビックリしている。こんなに私ってアグレッシブだっけ? ってビックリだ。

 ちなみに今日外に出たのはめーりんとお話するのが目的だったりする。

 こう見えて彼女は中々長生きなのだ。見た目は二〇代前半の巨乳お姉さんって感じだけど、私とお姉様と同じくらい。もしかしたらもっと生きている妖怪。

 前に色んなお話を聞かせてもらったことがある。

 

 で、彼女には一つ聞きたいことがあったのだ。

 

 『どーやったらそのスタイルになれますか?』

 

 女として聞きたい。パチュリーは引きこもりで喘息持ちだからちゃんとしたアドバイスをくれないだろうが彼女は別だ。

 というか私はパチュリーに対し、実は引きこもっているせいで少し太っているからあんな全身を覆い隠すようなローブを普段から着ているんじゃないかと少し疑っていたりする。

 でもめーりんは違う。一目で分かる。

 

 彼女の容姿を私の精一杯の文章で書いてみよう。

 

 紅美鈴は燃えるような赤い髪の女性だ。背が高く、男性を惹きつけるような色気を放っている。彫りが深い顔に突き出たバスト。履いているのか履いていないのかが曖昧な緑色のチャイナドレスに離れて見ても分かる腰のくびれ。鍛えているのか少し足が太めだが、むっちりとした太ももが女らしさを感じさせる。

 話すと分かるが彼女は快活で、妖怪にしては誰と話しても基本低姿勢という好感を持てる態度を取っている。それでいて武術の達人である彼女の元には日々、挑戦者が絶えなかったりもする。

 

 ようは大人の女性。それでいて強さと色気を同時に持つ。

 地下室暮らしが続いていたせいで、私は沢山の本を読んだ。その本の種類は王子様とお姫様のお話だったり、ハッピーエンドの話が多かったけどどの本もお姫様は美しいらしい。

 可愛い、とか美しいの定義は分からないけど憧れる。特に、紅魔館の中から楽しそうに色んな人と話している彼女を見ると。

 

 何よりこんな幼児体型じゃなぁ……。

 まぁ個人的に気になるっていうのも一つの理由だけど。

 で、それを口にするとめーりんはしばらく考え込んだからこう言った。

 

「女らしく……うーん。あっ、そう言えば私、普段から拳法をやっているんですけどそれが良い運動になっているのかもしれません。あとはよく食べてしっかり寝ること。昔聞いたのですが、体には成長を促す時間帯というものがあるそうです。吸血鬼がどうかは分かりませんけど」

 

 拳法……女の子らしいはともかくとして弾幕ごっことかに組み合わせる意味でやってみたいなぁ。

 せっかくだしお願いしてみようか。これまで495年無駄にしてきたしもうちょっと色々行動してみても良いかもしれない。料理もやってみると楽しかったし。

 

 それに壊すのはいい加減飽きたしね。

 

 頼んでみたら彼女はめーりんはあっさり了承してくれた。

 明日から時間決めて早速やるらしい。朝の六時か……。

 

 なんか最近昼夜が逆転してるなぁ。吸血鬼って夜に生きる種族じゃなかったっけ? まあ地下にいれば変わらないけど。

 まぁどっちにしても地下で一日過ごすよりは面白そうだし頑張ってやってみようと思う。折角お願いしたしね!

 

 

 #####

 

 綴られた日記の最初の数ページはそのようになっていた。

 うん、と霊夢は頷いて言う。

 

「……なにこの子、ピュア過ぎない? こうも真面目に女の子女の子してる子なんてそうそう居ないわよ。495年閉じ込めてこの性格ってどんだけ良い子なのよこの子。天使よ、吸血鬼だけど天使よこれ?」

「………………、」

「あれ、ちょっとレミリアー? どうしたの」

「……胸のサイズは関係無いわ。そうよ私は誇り高き吸血鬼の王。大丈夫私は強い」

「カリスマブレイク早くない!? ちょっとアンタ本当に大丈夫?」

 

 肩を持って揺らしてみるがその顔は疲れていた。

 主に心労的な意味で。だが彼女はすぐに冷静さを取り戻すと微笑をたたえた。

 

「もう大丈夫よ。ちょっと、妹が実は悪魔ではなく天使ではないかって考えてしまってイエス・キリストの呪いを受けてしまっただけ……えぇそうなの! そうだから」

「大丈夫じゃないから! イエス・キリストは呪いとかかけないから! むしろ浄化する側よ」

「…………とにかく次を読むわよ」

 

 もうすでに言動が怪しいレミリアだが次のページをめくっていく――――。

 

 




 今回出てきたネタ

・罪袋(東方MMDなどで多く登場する。元ネタはたにたけし氏)
・咲夜さん倒れる(東方二次創作ネタ。忠誠心は鼻から出る、なども似たジャンル)
・カリスマブレイク(「かりちゅま」などとも言われる。二次創作ネタ)



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四月編2『めーりんの修行』

いよいよ日記が本格スタートじゃい!




 


 

 

 

 

 四月六日

 

 拳法。

 それは現代において打つ、突く、蹴るなどの当身技による『徒手武術』を意味する戦闘技術らしい。

 代表的なものを幾つか挙げると日本拳法や少林寺拳法、中国拳法などが存在するがめーりんが得意とするのはそれら全てを統合し、『気』という概念を導入したものだとか。

 気っていうのはめーりんが持っている『気を扱う程度の能力』により使用できるもので魔力とか妖力に似た力なんだって。

 

 気を扱えれば魔力や霊力を持たない人間でも空が飛べたり気弾を放ったり出来るらしい。

 また女性向けのものとなるとダイエット効果やカロリー消化を効率よくできたりとか、後は身体の成長促進と健康を推し進めるとか。

 昨日聞いた『女らしさ』とかの部分はここにあるんじゃないかってめーりんが言ってた。

 

 で、起きました。朝の六時。吸血鬼が起きる時間帯じゃないけどそこは暗い地下室で495年過ごした私。もう昼夜とか関係無い。朝起きでも夜起きでもどちらでも対応出来る。

 吸血鬼は日光に弱いので『日焼け止めクリーム』を塗ってその上から魔法で擬似的な影を掛けて準備万端!

 これで日傘をささなくても日光の下を歩けるのだ。お姉様はあまり魔法に精通してないから知らないみたいだけど、このあたり495年の地下暮らしが役に立った。暇つぶしに大図書館で本を借りていて良かったと思う。

 

 で、門の前に行くと大きく伸びをしているめーりんがいた。

 ただでさえ大きなバストが伸びをすることで更に突き出てとんでもないことになっている。羨ましい。将来はあれくらい大きくなりたいものだ。

 

「おはよーめーりん! 昨日言われた通りに来たよー」

「あ、おはようございます妹様。ちゃんと起きれたようでなによりです。では早速始めましょうか?」

 

 おはようと挨拶をするとめーりんもにこやかに対応してくれた。

 で、拳法を教わることにしたんだけど……。

 

「で、これなに?」

「昨日のうちにパチュリー様にお願いして用意してもらったものです。妖怪の力を一時的に封印するバッジですね。ただ封印する為には対象の妖怪、今回は妹様にも手伝ってもらわなければなりませんが」

 

 ではこれを身につけてください、と手渡されたのは星型のバッジだった。めーりんの帽子に刺さっている星によく似ているタイプで私の帽子に嵌めていた。

 とりあえずめーりんの説明をまとめると拳法とは本来人間が行う技術だそうで元々身体能力の高い――それも鬼の力と天狗の速さを持つと言われる吸血鬼にやらせればどんな動きだろうと出来てしまうらしい。

 そのためにまずは一旦その力を封印し、一度人間と同じ土俵に立ってもらうのだとか。またそうすることで種族的な力に頼らない真の力を得られるとのこと。成長促進なども一旦種族としての力を封印し鍛えるからこそなるものではないかというのが彼女の持論だ。

 で、嵌めてみたんだけど。

 

「……力が入らないんだけど。なんか身体が重いし、あと魔力と妖力が扱いづらい」

「それが封印状態です。この状態で授業を行ってもらいます。で、ここでなんですけど修行には『厳しい』のと『優しい』のと二種類がありますがどちらにしますか?」

「具体的にはどんな違いがあるの?」

 

 尋ねてみると言葉のままだと返された。

 優しい方は疲れたらすぐにやめ、飽きればやめ、と緩い内容。

 厳しい方は一度始めたら完遂するまで辞めることを許さない本気の内容。修行の効果としては厳しい方が圧倒的に高いらしい。

 正直やりきらないといけないのはどの程度厳しいのか分からなくて怖いけど、こちらから頼んだことだからやっぱりこっちをやるべきだろうと思う。

 それに力が封印されたと言っても私は吸血鬼だ。ちょっとやそっとじゃ疲れもしない。なので厳しい方をやることにした。

 

「妹様の覚悟、分かりました。ではこの紅美鈴! 本気で修行をさせていただきます……と言っても今日は軽めですけどね」

 

 苦笑いしてめーりんは紅魔館の外周を指差す。

 

「とりあえず今日はこの直線を走ってもらいます。距離は二〇〇mほどですので最初の目標は九秒ですね。大体外の世界では一〇〇mの世界新記録がその程度と聞きましたしそうしましょう。あ、妖力とか魔力の使用は禁止ですよ」

「えー、そんなの遅すぎない? 普段なら一秒もかからないよ?」

「あはは、とにかくやってみてください。やったら分かりますよ」

 

 困ったような声で言っためーりんに促されて私はスタートラインに着く。その時の私の顔はきっと余裕顔だったはずだ。

 だってたった二〇〇mだ。その程度刹那の間に駆け抜けることが出来る。お姉様だって同じことを言って似合わない妖艶な笑みを浮かべることだろう。

 でも実際走ってみるとそれは私の驕りだったらしい。

 

「ストップ……タイムは一三秒ですか。流石、人間離れした記録です」

「……ハァ、ハァ。なにごれぇ……やたら疲れてるんだけど」

「そりゃあ五〇〇年近く引きこもっていればそうなりますよ。むしろこのタイムが出せたことが驚きです」

 

 なんだろう。足が進まない。吸血鬼の速さに慣れた視界はスローモーションのように見えた。それくらい遅かったのだ。

 それに私には体力が無いらしい。これが引きこもっていた弊害か。ニートとは怖い。あともう五〇〇年篭っていたら太っていたかもしれないという考えが頭を過ぎり余計に恐怖を煽る。

 

「では、次は私が走りますね。これ、ストップウォッチです。外の世界から流れてきたものなので使い方を教えますね。こちらのボタンを押して――――」

 

 で、ストップウォッチを受け取りめーりんのタイムを計ることに。力を封印した状態で、と考えて九秒は厳しいんじゃないか、と思う私をよそに飛び出したタイムは恐るべきものだった。

 

「タイム……五秒」

「っはー……久々に本気でやりました。ま、こんなもんです。妹様は私より素養が高いと思いますので、修行すればまだまだ伸びると思いますよ」

 

 その結果を受けて私は真面目に修行しようと思った。

 理由は色々あるけど、何より私の為になるものだと確信できたからだ。

 今日はこの他にも素の力だけで巨大な大岩を動かしたりと修行の結果がどの程度のものか、ということと種族的な力を解放したらどの程度高まるかなどを教わった。

 まずは拳法の前に体力作りかららしい。引きこもり生活が仇になった形だが頑張っていこうと思う。

 ……目指せ、お姉様超え!

 

 

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 一方、

 

「私超えって、あの子本気で下剋上を……」

「んなわけないでしょ。単に分かりやすい目標定めただけよ。さっさと次めくりなさい」

 

 わなわな震えるレミリアに対し冷静なツッコミを入れる霊夢であった。

 ――いつも通りである。

 

 

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 四月七日

 

 今日も朝の六時起き。

 早速修行か! と思っていると門の前でめーりんの他に咲夜も居た。なんだろうと、と思い挨拶がてら近寄るとめーりんからこんな説明をされた。

 

「妹様おはようございます。今日の最初の修行ですが、これから咲夜さんと一緒に人里に行ってください。実は紅魔館の大図書館の蔵書の一部は鈴奈庵という貸本屋から借りているんですが、今日がその返却日ですのでそれを背負って行ってもらいます。あ、もちろん力は封印してくださいね?」

 

 初めの修行は本を返しに行くことらしい。これ、体のいいお遣いじゃないかとも思ったけど咲夜も付いてくるし違うのだろう。

 あと、一つ条件も付けられた。

 

「鈴奈庵まで走って行って下さい。返す期限が今日の午前七時ですから間に合わないと延長金を払わなければなりませんから」

「うー……」

 

 めーりんの意地悪。でも厳しい修行は私が望んだことだから仕方ない。うー、と唸る私を見て咲夜が微笑んでいた。咲夜も意地悪!

 仕方なく本の入った鞄を背負うけど、重い! 何冊入ってるの? え、五〇冊? 馬鹿なの? ……二人とも嫌いだー!

 内心半泣きで走って持って行くことに。咲夜は人里で買い物があるらしいのと監視役らしい。サボることが許されない私はひーこらひーこら走っていく。

 そして汗だくになって半分ベソかきながら鈴奈庵に着くと時刻は午前六時五八分。ギリギリセーフだった。

 鈴奈庵の店主さんである小鈴さんに「ありがとうございました」と笑顔で受け取ってもらった時には思わずやっと終わったー……と脱力してしまった。疲れていたからアレだけど、紅魔館以外の人と話すの久々なのに意外にいけるものね。

 けれど、私のお遣いはそこで終わらなかった。

 

「小鈴さん。こちら次にお借りしたい本のリストですが……」

「はーい。えっと、これとこれと」

 

 ??? 何が何だか分からない私をよそに小鈴さんは数十冊の本を集めると私が背負ってきたバッグに詰め始めた。

 その時点で嫌な予感はしていた。いやだって、そんな……いやいや。言葉に出来ない悪寒が喉元をせり上がる。

 しかし現実は非情だった。

 

「ではこちらをどうぞ」

「ありがとうございます。では妹様、頑張って下さい」

 

 手渡された本の詰まったバッグ。もうすでに肩が痛い。足も痛い。若干筋肉痛だった。顔とかの汗は咲夜が拭いてくれたけど正直泣きそうだった。

 でもそこで一つ天啓が浮かぶ。そう、咲夜の役目は私の監視だけではない点だ。彼女の元々の予定は買い物である。ならしばらく休むことだって……。

 

「では一分お待ちください、妹様」

 

 絶望した。宣言通り咲夜は一分で全ての買い物を終えた。

 彼女が持つ力『時を操る力』で店屋までの移動中の時を止めたのだろう。あとは買うものを選び買うのみ。あまりにも早い帰還に私は絶望した。

 

「では帰りましょうか。走って」

「うー! ううううわあああん!!」

 

 私は泣いた。でも頑張って走りきった。メンタルが負けそうだったけどやり抜いたあと猛烈な達成感があった。

 紅魔館へ帰ってきた私は借りてきた本の詰まったバッグを咲夜に渡し、数分の休憩を挟む。水分補給もしっかりと摂った。

 しかし修行は終わらない。次に案内されたのは紅魔館のまだ使われていない庭の部分だった。

 

「……はー、はー。ここで何するの?」

「妹様は私が家庭菜園とフラワーガーデンをやっていることをご存知ですか?」

「うん、けほっ、知ってるよ」

「そこで妹様にもガーデニングを体験していただこうと思いまして」

「へー……それで?」

「耕してください」

「え?」

「この土地を耕してください。範囲はここからここまで」

 

 そう言うとめーりんはそこらへんに落ちていた枝で一辺二〇mくらいの四角形を地面に描いた。

 正直かなりな広さだ。普段ならともかく力を封じられた私にとっては。

 

「あと、道具の使用は認めません。当然ながら妖力や魔力もです。素手で耕してください」

「what?」

 

 本当にwhatだ。意味不明だった。いや、百歩譲って畑を耕すのは良しとしよう。でも素手? 

 

「やり方はこんな感じです」

 

 疑問符を浮かべているとめーりんが拳を地面に叩きつけた。

 ズンッ! という音と同時に拳の落下点から数mの地面にヒビが入る。さらに何だろうか。地面の中で力が反発しあって中の土が軟らかく、石が破壊されるのを感じた。これを感じられたのは私が『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持つ故だが、あの一撃で地面がかなり開墾されたという事実は私の常識を破壊した。

 

「ガーデニングの前段階です。何を植えるのかは任せますが、ここを妹様のガーデニングスペースに生まれ変わらせてください」

 

 それだけ言ってめーりんは「じゃあ門番の仕事に戻りますので何かあったら言ってください」と行ってしまった。

 あとに取り残される私……。正直心の底でもう勘弁して欲しいところだったけど『こちらからお願いした』という一点が私の良心を揺さぶる。折角修行内容を用意してくれたのに放り捨てるのは悪魔としても仁義に欠けた行いだろう。何より情けない姿は見せたくない。

 泣きべそかいていたくせに何を言ってるんだという意見もあるかもしれないけど単純に悔しかった私は素手での開墾に取り掛かる。

 具体的には拳を握り、振り下ろした。

 

「やーっ!!」

 

 しかし上手くいかない。ドゴッ!! という良い音が響いて地面に穴が開くだけだ。めーりんのように力が全体に伝わらない。

 試しに手加減してみると、それでも力が伝わるのは周囲三〇センチが良いところで開墾されてもいない。

 なんだか悔しくて全身泥だらけになりながら少しずつ地面を掘り返し、また地面を殴ったりを繰り返した。

 結局その日の修行が終わったのは午後の六時過ぎ。でも一生懸命にやったお陰で大部分の開墾が終わった。

 やっている内に思い出したけど、ここ私のガーデニングスペースになるんだよね。一体何を植えようか今から考えておこう。

 そう思うと辛い労働にちょっと楽しさが見えてきた気がした。

 

 

 #####

 

「美鈴……フランにそんなことをやらせるなんて」

「ってか妖怪の力の封印ってなによ。博麗の巫女の専売特許じゃないの? ……それと前向きねこの子。私が紫あたりにそれ強要されたら自分から頼んだにせよ逃げるわよそんなの」

 

 

 #####

 

 

 四月八日

 

 

 修行は厳しい。今更ながらに昨日のはキツすぎると思う。

 全身筋肉痛だし素手で開墾したせいで指も痛いし、今日はどうなるんだろうかと戦々恐々しながらめーりんの下に行くと、

 

「今日は明日からの修行の準備をしますので咲夜さんに別のことをお願いしておきました。以前、料理を教わったという話ですしこれも女の子の修行の一環ですから」

 

 とのことだった。

 やったー! 割と本気でやったー! あの苦行は今日はない! それに料理を教えてくれた時もそうだったけど咲夜なら優しく教えてくれるだろう。一応めーりんの修行も咲夜の修行後に用意しているらしいがそれくらいなら大したことはない。

 最近毎日が充実しているけど昨日みたいなのは辛過ぎる。まぁお姉様なら誇り高き吸血鬼が物事を途中で投げ出すなんてあり得ないわ、とか言いそうだけど。

 ともかく咲夜の下に行くと今日は全体的な家事について教えてくれるそうだ。

 まずは部屋の掃除である。

 

「掃き掃除? 拭き掃除?」

「違いますよ妹様。掃除にもやり方と手順というものがあります」

 

 そう言って咲夜は例えば、とお姉様が尊敬している吸血鬼『ツェペシュの銅像』を指差して、

 

「例えばこの銅像の掃除ですが真鍮ブラシで汚れを取った後、薄い中性洗剤で洗浄……あとは水気を取ってワックスで仕上げるといったように細かな手順があります。いずれも高級品が多いので丁寧に扱わなければなりません」

「ふーん。単に拭くだけとか洗うだけじゃ駄目なんだね」

「はい。他にも扉の取っ手ですが、銀製なのは分かりますか?」

「うげ、吸血鬼に銀って毒じゃなかったっけ?」

「確かに銀製のナイフや銀製の十字架などはよく知られていますが取っ手なので問題はありませんよ。普段から扉の開け閉めはしますよね?」

「あーなるほど」

「で、話を戻しますがそちらの取っ手は銀製なのでシルバーダスターというものを使って磨きます。時間が無い時は拭くだけにしますが妹様には正式な手順を教えていきたいので」

 

 瀟洒に咲夜は告げる。その恭しい動作の一つ一つが私にとっては大人な雰囲気だった。出来る女ってやつだろう。

 それから私はカーペットの洗濯方法とかも教わった。ウール製のキリムはお湯を使わず冷水に頭髪用洗剤と塩を加えて色落ちしないように軽く……とかなんか暗号みたいだ。

 でも綺麗にした後の部屋を改めて見回すととてもスッキリした気分になる。なんというか、心が洗われるというか。

 意外に重労働だけど達成感は中々のものだった。やったぞ、って気分になる。

 

「では次にお待ちかねの料理といきましょうか。お昼を一緒に作りましょう」

「お昼ごはん!? 出来るかなぁ……」

「はい、妹様なら出来ますよ」

 

 ニッコリ笑顔で言われてやる気が出てきた。

 今日私が作るのはチャーハンだ。材料はご飯と溶き卵、ベーコンにネギ。

 ポイントとしては高温にしたフライパンに油と卵を入れて、油を含んだ半熟卵になったところにご飯を入れて手早くまぜることで、ご飯粒の表面に卵の膜をつけることができパラパラになるんだって。

 一般の家庭の火力ではパラパラにならないらしいけどそこは紅魔館! キチンとした設備があるらしい。

 そうして出来たチャーハンは大成功だった。咲夜のアドバイスを幾つももらったけど自分で食べた時美味しくて嬉しかった。

 紅魔館の皆のお昼ごはんにも出すとお姉様が「咲夜、腕を落とした?」と言っててちょっと悲しかったけど……。

 まぁ咲夜の技術を一朝一夕で身に付けるのは無理だし妥当な評価だけどね。

 

 ……それは妹様が作ったものですよって言ったあとのお姉様の慌てっぷりと下手なフォローの仕方がおかしくてちょっと笑いそうになった。はしたないから下を向いてたけど。ごめんねお姉様。でもフォローしなくて大丈夫だよ、全く傷ついてないから。

 

 ちなみにめーりんが用意していた修行は昨日終わりきって無かったフラワーガーデンの開墾だった。

 三〇分くらいで終わったのであまり覚えてない。とりあえず昨日の私、よく頑張ったとだけ言っておこう。

 

 

 #####

 

 

「え? 下を向いてプルプルしてたからてっきり泣かせたのかと思ってたのに……」

「はいはい勘違い勘違い。つか妹にまで下手くそなフォローって言われるのはどうなのよ……」

「お、王はフォローなんてしないの! 不遜でありカリスマであるべきだからそんな技術必要ないわ」

「そのカリスマが妹に負けつつあるんだっつの」

「うー……」

 

 自分の行動が子供っぽいとは分かりきっているレミリアだが言い返せず声にならない反応を見せる。

 実際吸血鬼の年齢としてはまだ子供なのだが。

 

「ともかく次読むわよ。レミリア、呻いてないで手を動かしなさいよ」

「わ、分かってるわよ」

 

 そうして二人は日記を読み進めていく。




 めーりんの修行終わらせるのにちょっと時間がかかりそうなので、マンネリしないように頑張る所存!


 今回出てきたネタ

・めーりんの修行(ドラゴンボール三巻の亀仙人の修行より)
・咲夜さんによる掃除説明(ハヤテのごとく一巻より)


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四月編3『猫耳メイド』

 

 

 

 

 ――そして地獄が始まる。

 

 

 

 

 #####

 

 

 四月九日

 

 

 今日はめーりんとの厳しい修行の本格開始!

 正直二日前を思い出すとかなり憂鬱だけど自分の為になるし頑張ろうと思う今日この頃。

 で、やるぞーって気持ちで門に行く準備をしていると何故かお姉様が部屋にやってきた。

 

「あの、フラン。ちょっといい?」

「!!?」

 

 いや、まぁ当然だけどいきなり部屋の中に入ってこられたら驚くよお姉様。というかそれくらい分かろう? ノックは世界最大の開発といっても過言じゃないのよお姉様。もし着替えてたらどうするの? まぁ姉妹だしどうもしないけどさ。

 で、話を聞いてみるとどうやらお姉様は昨日私が作ったチャーハンのことで謝りたいと言っていた。別にいらないのに。

 というか「咲夜、料理の腕落ちた?」って言葉をポジティブに取れば、レベルは低いけど咲夜の味に間違われる程度には美味しかったってことだしね。普通なら別の人が作ったとか察するものだけど。

 で、謝罪なんていらないよと言ってみた。

 

「そ、……んな。お願い、許してフラン」

「いや、許すも許さないもそれ以前の問題だよお姉様。別に私怒ってなんか……」

「なんでもするから! そ、そうだ! 何か欲しいものはない? 今ならお姉ちゃんなんでも手に入れるわよ?」

 

 必死過ぎじゃない? というかなによ。ここまで鬱陶しいと逆に腹が立ってくるよお姉様。そんな(すが)るような目で見られても対応困るよ私。

 でもここで私は考えた。どうせそれもいらないとか言ってたらそのうち「フランなんか嫌いだー!」とか「うー……ううううー!!」とか言ってお姉様が逆ギレするのが目に見えているからだ。もしくは呆然と座り込むか。いずれにしても邪魔だし面倒なので適当に欲しいものを言った。

 

「じゃあ「ぱそこん」ってやつ頂戴? 前にお姉様が妖怪の賢者様から貰ったって話を聞いて気になってたんだ」

「そんなので良いのね! 分かったわ持ってくる!」

 

 要望を聞いたお姉様はパァア、と満面の笑みを浮かべると走って行ってしまう。面倒なお姉ちゃんだ。でも可愛らしいので別にいっか。

 とりあえず時間が押してるし早くめーりんのもとに行こうと私は歩を進めた。

 

「おはようめーりん」

「おはようございます。今日から本格開始ですから気合入れてくださいね?」

 

 門の前にはめーりんがいつも通りの様子で立っていた。

 今の私の状態は封印状態である。いつでも修行出来る構えだ。

 そして準備運動を終えるとめーりんからこんな事を聞かれた。

 

「妹様、亀の甲羅と猫耳メイド服はどちらがお好きですか?」

 

 何その質問。意味分からないよ。とりあえず個人的に亀の甲羅より猫耳メイド服の方が女の子っぽかったのでそっちをチョイスする。

 するとめーりんが「しばらく待っていてください」と言って紅魔館に入っていった。

 なんだろう? 私が首を傾げていると戻ってきためーりんの手にはなんと『フリフリの猫耳メイド服』が。

 なんとなく予想ついたけど一応聞いてみる。

 

「……その服をどうするのかな」

「着てください」

「…………」

「サイズは咲夜さんが合わせましたから大丈夫です」

 

 いや別にサイズは気にしてないよ。単になんで着る必要があるのか分からなかっただけ。まぁ可愛いから良いけどさ。

 でもメイド服はともかく猫耳はどういうことなの? とりあえず服に触れた時に魔力を感じたから何らかの魔法がかかっているのは間違いなかった。

 普段なら解析出来るけど封印されているとそれもできない。普通に可愛い服を着れるしいいか、と何も考えず羽織る。

 ……で、後悔しました。

 

「〜〜〜〜っ!? お、重い! なにごれぇ!」

「咲夜さんとパチュリー様お手製の重力服です! 本人の身体能力を計算し、強くなればなるほど重くなるものとなります! 良くお似合いですよ〜」

「えへへ……そう? ……って言ってられないよ! 重いよ! 一旦脱ぐ――脱げない!? どうなってるのこれ!?」

「あ、その猫耳メイド服ですがよくある呪われた装備よろしく私か咲夜さんかパチュリー様にしか外せない仕様になってます。本当にヤバイと判断すれば自壊しますけど……」

「自壊ってことは服が破けるの!? それはそれで私下着姿になるよ!? 待って紅魔館の皆は私を辱めたいの!?」

「いえ、大丈夫です。自壊するのは魔法のみですから普通の服になるだけなので」

「あ、そうなんだ……」

 

 途中途中よく分からなかったけどとりあえずこの服は外せないらしい。で、私が本気で不味い時は魔法が自壊する。そして強くなっても今感じているのと同程度の負荷を掛け続けるように設定。

 ……今更だけど私が習おうとしてた拳法となんか違う気がする。何がどうなってこんな本気で格闘家目指してます、みたいなメニューになってるんだろう。

 ……こうなるなら『優しい』コースを選べばよかった。

 でも泣き言も言ってられない。いくら重くとも私は誇り高き吸血鬼、スカーレット家の次女。一昨日走っている時も泣き言言ったり実際に泣いたりしたのは咲夜以外いない場所でのこと。

 人前では優雅に瀟洒にエレガントに。そうしなければお姉様の顔に泥を塗ってしまうのだ。

 

「……だいじょぶ。慣れたしやれる」

「そうですか。では今日のメニューですがこれから私と一緒にランニングをします」

「ランニングかぁ。どこまで行くの?」

「今日は初めですしまずは人里を抜けて博麗神社の横を通り魔法の森を抜けるあたりまでにしましょう。行って帰ってくるまでランニングです」

「えっ?」

 

 え? え?

 確か紅魔館から人里まで行くのに大体三〇キロ弱。そこから博麗神社まで一キロ。魔法の森までは分からないけど魔理沙に聞いた感じだと飛んで人里まで一〇分くらいって聞いたし一五キロくらい? 合計四六キロ。

 

「四時間で終わらせましょう。ちょっと早めのペースで行けば大丈夫ですよ。これが終われば午前中は休憩です」

「……でもこんなに重いのに?」

「ダイエットになりますよ。六〇〇gは体重落ちます」

「やろうめーりん! やる気出てきたよ!」

 

 何でそれを先に言わないんだ。引きこもり生活で私の体はなまっているし目に見えるほどじゃないけど余分な脂肪もあるに違いないのだ。行き帰りの九〇キロで六〇〇g。片道で三〇〇g。なんて素晴らしいんだろう。大丈夫、全力で飛べば数分もかからない距離だ。その程度私なら走りきれる!

 キラキラした顔で元気を出した私を見てめーりんは苦笑いを浮かべていたけど知ったことじゃない。「でもダイエットのやり過ぎはよくないですからね」っていう忠告は聞くけど。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 そうして走り始めたんだけど……。

 正直舐めてた。後から考えると馬鹿かと思う。かなりのハイペースで走ってきた私は人里に着く頃にはかなり疲れてしまっていたのだ。

 

「ふぅ……ふぅ……」

「良いペースですよ妹様! 頑張りましょう」

 

 めーりんが声をかけてくれるけどもう私は返事出来ない。周りに人が多いので苦しんでいないように笑顔を浮かべるので精一杯だ。でも誤魔化し切れているのか正直微妙。

 だって何故だか分からないけど周りの人の視線がやたら多かったし。しかもその顔が驚いたような感じだったからもしかしたら気付いたのかもしれない。……うぅ、恥ずかしい。

 そうして人里を通り抜け博麗神社に向かう階段の横を通り魔法の森へ突入する。

 で、ここでもひとつ誤算があった。

 

「グルルガァァ!!」

「なにあれー!? きゃああっ!! めーりん、なんか追いかけて来てるんだけどおおおっ!! 狼の妖怪が……ケホケホ! いやあああっ!!」

「妖怪から逃げるのも体力作りの一環です! 足を動かしてファイトファイト!」

「そ、んなの……ハァッ、ハァッ。無茶言わないで……」

 

 魔法の森に入った途端何故か妖怪に追いかけ回されたのだ。なんか目のマークがハート型だった気がしたけどそれはともかく、やたら私を目標に追いかけて来た。

 めーりんも居るのに不条理だよぉ……。お陰で魔法の森を抜けて帰り道になる頃にはふらふらになってしまった。

 フランがふらふら……なんでもない。

 とにかくもうこの時点で絶望感凄かった。だってここで半分だもん。もっかい魔法の森に入って帰らなきゃならないことが重く私の心にのしかかった。

 でも、私は負けず嫌いなタイプである。自分でも嫌なくらい負けず嫌いなのだ。本心じゃ「もうやだよぉ……」とか言ってしまいたいのに何故かそれが口に出せず、ポロポロと涙を零しながら走った。

 そして出発から目標の四時間たった頃、ようやく紅魔館に辿り着く。

 

「……も、ぉ……。だ、め……」

 

 頑張ったよ。私頑張ったよ。

 午前中はもうこれで終わり。ランニングが終わった段階でめーりんが猫耳メイド服の魔法を解いてくれた。あと封印も。

 ……悲しいことに普段の状態だとどれだけ疲れてても一、二時間あれば完全に回復しちゃうのよね。筋肉痛はどうもならないけど。

 そんなわけでお昼を取ったあとにめーりんの元に行くと何故か移動用の黒板を横に配置している彼女の姿があった。

 

「……どしたの?」

「はい、妹様! 実は拳法を極めるにはただ体を動かしていれば良いわけではないのです。頭の中まで鍛えてこそ真の格闘家というものです。そこでお勉強をしようと思いまして!」

「いや、思いましてじゃないよね。そもそも私格闘家目指してないんだけど……」

「本当は寺子屋に入れるのが良いのですが、手続きに手間取ってまして五月からになりそうです。ですのでそれまでは不肖、紅美鈴が教師として妹様に様々なことを教えていきたいと思います」

「……私寺子屋に入るの? 来月から? え、ちょっと待ってよく分かんない」

 

 駄目だ。会話が通じない。

 まぁ勉強にも興味があるから良いけれど。それによく考えると私って魔法以外の勉強殆どしてないし。

 

「では最初は国語です。こちらの文章を読んでください」

「う、うん」

 

 言われるがままに音読する。

 それからミッチリ一時間勉強をした。本は沢山読んでいたので大概の漢字は読める。心情などもなんとなく分かる。

 それからは昼寝をしたり、またガーデニングスペースの開墾を行ったりと忙しい一日だった。

 ……後半が雑だけど疲れたんだよ。今日一日動いて。

 あぁ、そうだ。もう一個追加しておこう。部屋に帰ったらぱそこんが置いてあった。でも疲れてとても触る気になれなかったよ。

 とりあえず明日あたりにめーりんに話して修行を午前中だけにしてもらおうと思う。これじゃ修行以外何も体験出来ないし何より辛すぎるから……。

 

 

 

 #####

 

 

「……序盤の私の扱い雑じゃない、これ?」

「鬱陶しがられてるじゃない。アンタ。つかカリスマ本当にヤバイわよ。それにしてもこの修行内容……前に早苗から聞いたことあるような気がするんだけど。確か……どらごんぼーる?」

「何よそれ?」

「早苗が前に言ってたそんな感じの名前の漫画に出てくる修行内容に似てる気がしただけよ」

「ふーん……」

 

 そこで紅茶を口に含みレミリアが話を変える。

 

「そういえば、人里でフランの人気がで始めたのはこのあたりなのよね……」

「そりゃあんな可愛い女の子が精一杯笑顔浮かべながら猫耳メイド服で走っていたらねぇ……」

「ふふん、流石私の妹ね」

 

 自分のことじゃないのに嬉しそうに頷いてレミリアは次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 四月十日

 

 

 やりました。交渉の末にめーりんとの修行を午前中のみに減らすことが出来たよ! しかも五月から入る予定の寺子屋がある日は修行無しらしい。これで大分自由に動けるよ。

 

 で、今日なんだけど午前中の修行はまた新しいものだった。

 封印モードで猫耳メイド服。その上で木に縛り付けられたよ。縛られるのって初めてだけどなんだろう……大図書館にあった本に出てくるお姫様とかってこんな感じに縛られてるんだよね。

 そう思うとちょっと嬉しくなったような気も……いやないな。

 とりあえずその修行内容が木に縛られた状態で反射神経を鍛えるとか。縛られた私目掛けて小さな弾幕を放つから避けろとか言われた。

 無茶振りね。これ間違いなく無茶振りだよね。

 ちなみに今日の最初は咲夜も一緒だったんだけど、猫耳メイド服の私を見た途端倒れちゃった。一瞬紅い血が見えた気がしたけど目眩だろうか。

 咲夜は人間だしもし病気とかならちゃんと治してほしい。

 ……話が脱線しちゃった。

 とにかく、やってみたけど難しいね。めーりんが放つ弾幕は水で出来たものだった。当たってパチン、と弾けるたびに飛沫がかかる。

 

「この修行の元祖は弾幕の代わりに(はち)でやっていたんですよ」

 

 修行中、めーりんがそんなことを言っていた。ゾッとする話だ。

 結局全身びしょびしょになってしまった。猫耳も水でへにゃりと垂れる。

 でもやっていて気付いたけど最初より危機感知できるようになっていた気がした。ランニングで妖怪に追いかけられたからだろうか? 縛られているという一点がかなり回避をしにくくさせていたが普段の弾幕ごっこの甲斐もあり半分は避けれた。びしょびしょだけど。

 

 そして午後。

 めーりんの修行がないことがこんなに楽だったなんて引きこもっていた時は知らなかった。……知らなくても良かったけど。

 それはともかくだよ!

 さっそく昨日お姉様からもらった「ぱそこん」を弄ることにした。

 「でんぱ」ってやつと「電気」があれば使えるらしい。電気の通ったコンセントはあるので、説明書を読みながら悪戦苦闘しながら電源をつけると画面が表示された。

 ようこそ、と書かれた画面だ。ローマ字表を見比べながら設定されたパスワードを苦労しながら打ち込んでようやく準備万端!

 

 いんたーねっとってとこをクリッククリック! あとは調べたいものを検索すると出てきたりするらしい。

 念のため「でんぱ」確認をすると『YUKARIN17』という『Wi-Fi』が通っているらしかった。

 ゆかりん17……誰だろ。妖怪の賢者様の名前が八雲紫だからその人かな? でも17って……。

 

 ともかくしばらくやってみたけどよく分からなかった。

 先生が欲しい。切実に。

 そう思って咲夜に聞くと「河童」って種族がこういったものに詳しいらしい。妖怪の山に住んでいるらしいので今度会いに行こう。

 

 

 

 

 #####

 

「……紫ェ」

 

 霊夢は呟いた。

 レミリアの顔も微妙そうだ。ハァ、と溜息を吐いて彼女は述べる。

 

「フラン、騙されちゃだめよ。あの人実年齢(ピーーーー)」

「……あれ? 今規制音入らなかった?」

「む、八雲紫の実ね(以下の発言はスキマ送りにされました)」

 

 ……………………。

 思わず無言になって顔を見合わせる二人だった。

 

 #####

 

 

 四月十一日

 

 

 今日も修行である。

 紅魔館の近くにある霧の湖ってところで泳ぐ練習だ。水着は咲夜が一晩で用意してくれたらしい。

 紅いフリフリの水着だった。上下が分かれているタイプで可愛い♡

 咲夜ありがとう!

 で、ここで思い出したんだけどそういえば私、泳いだことないんだよね。ほら、そもそも流水って吸血鬼の弱点だしそれに近しい水の溜まった場所で泳ぐなんて危ないしやったことなかったの。

 

「初めてですか……あ、じゃあ水泳の楽しさを教えてあげましょう!」

 

 そんなめーりんの監督のもと一緒に泳いだ。最初に浸かった時は冷たかったけどだんだん慣れてくると気持ちよくなってくる。

 初めての水泳はとても楽しかった。修行は毎回辛いものが多かったので特に。

 

「じゃあ今日の修行は泳いで霧の湖を一周しましょう」

 

 その提案もいつもよりは楽なものだった。拍子抜けするくらいに。

 

「ちなみにこの修行ですが、元祖は人食いサメの居る湖を往復しています」

 

 その元祖は気になるけど一先ず置いておこう。

 今回の修行は楽なものだった。湖一周の半分あたりまで泳いでもまだ体力には余力があったし。

 ただひとつ。

 …………近くに住む氷の妖精が空から弾幕を放ちさえしなければ。

 

「アイシクルフォール!!」

「ちょ、チルノちゃーーーー」

 

 そんな掛け声と同時に降り注いだのは尖った氷の塊。普段ならいざ知らず今は修行中である。当然ながら封印状態だ。で、そんな状態で弾幕なんか受けたらどうなるかなんて予測つくだろう。

 

「ひゃああ! 冷たい!」

「妹様!? 大丈夫ですか?」

「……うー、なによこれ。なんでいきなり攻撃が……?」

 

 そりゃ湖だ。大量の氷が降ってくれば水温が下がる。それも近くに落ちればなおさら。

 折角楽しかった気分が台無しだった。両腕で体を抱きしめるようにして空を見上げると氷妖精がいる。「あたいったらサイキョーね!」とドヤ顔だ。その隣で大人しそうな緑妖精があわあわしていた。

 いきなり攻撃してきた理由は謎だ。めーりんが追い払っていたけど次会ったらこの借りを返してやろう。弾幕ごっこだ。

 

 午後はなんかやる気でなくてゴロゴロ過ごした。

 最近動き過ぎたせいで体が怠い。

 そういえばガーデニングスペースに植えるやつをそろそろ決めないとなぁ。明日にでも人里に行こうか……。

 

 

 

 #####

 

 

「……フラン、随分と充実してるわね。色々と」

「今更だけど、あの門番。よく勤務中に寝たりしてるから修行も甘々かと思ったらとんだスパルタね……」

 

 そこで霊夢は溜息を吐いてレミリアに問いかける。

 

「どうせだしアンタもやってみたら? 美鈴の修行」

「全力でお断りするわ」

 

 迷いなく答えたレミリアの顔はとてもいい笑顔だったという。

 

 

 

 







 今回出てきたネタ
・猫耳メイド服の自壊(最後にパチュリーが全裸になる動画より)
・ダイエット(女の子の宿命)
・妖怪から逃げる(ドラゴンボール三巻の恐竜から逃げるシーンより発想)
・フランがふらふら(……言うことはない)
・YUKARIN17(八雲紫さんじゅうななさい)


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四月編4『罪袋と太陽の畑』

 ランキング入りしてました。ありがとうございます。


 


 

 

 

 四月一二日。

 

 

 今日も今日とて修行なのだ!

 午前中はランニングである。修行の中で一番体力使うやつだ。といっても前回で大体のペースは掴んだのである程度はマシだったと思う。

 コースも紅魔館から魔法の森まで行き、何故か目をハートマークにした妖怪達に追いかけ回されながらデッドレース! そして帰り道も同じく駆け抜ける。……にしても今更ながらなんなんだ猫耳メイドって。そもそも亀の甲羅と猫耳メイドっていう選択肢がおかしいけど。

 仮に亀の甲羅を選んでいたらそれを背負うことになっていたのだろうか? そう思えば猫耳メイドの方がマシだけど。

 で、細かく書くと長くなる午前中が終わって午後。

 そう、自由な午後だ。なんでも出来る午後……。

 

 ――そうだ、人里に行こう。

 

 ふと思い立った私は人里に行くことにした。昨日の日記にも書いたけどガーデニングスペースに植えるための植物を見に行くためだ。まだ何を植えるかは決めていない。花も良いし家庭菜園にしてもいい。

 内心ワクワクしながら出発準備を進めていたんだけど、そこでひとつ障害に気付いた。

 

 ――お姉様から許可を取らないといけない。

 

 え? 前まで散々外に出てただろって? うん、出てたよ。

 『咲夜かめーりんの付き添い』アリでね!

 もう私自身半分忘れていたけど私には『気が触れている』って設定があるのだ。気が触れているというのは「アハハハハハ!!」みたいな発狂モードと思ってもらえればいい。

 簡単に言えば破壊衝動に駆られるのだが、正直その状態でもある程度理性的な会話は出来るらしい。

 けど危険は危険なのだ。どんな感じに危険かというと。

 分かりやすいところだと殺人(ミンチ)とか? 生きている人間の身体中の血を吸い尽くすとか? キュッとしてドカーンだとか?

 いずれにせよかなりの実力者じゃなければ私は止まらないし止められない。

 で、その死に設定のせいで私は自由な外出は許可されていないのだ。え? ガーデニングの時とかかなり放任だったから屋敷の警備がガバガバだって? いやいやそれはないのよ。めーりんのことだからパチュリーに頼んで、封印モードにする星に位置情報が分かる魔法でもかけていると思う。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 そんなわけで私は一人での外出を認められていないのだ。

 つまりお姉様から許可を取らなくてはならない。もしくはめーりんか咲夜を連れて行くかだけど二人とも忙しいので厳しいだろう。パチュリーはプロの引きこもりだから基本大図書館から出ないし、こあさんだと実力不足で認めてくれないだろうし……。

 まぁ駄目で元々。試しに普通にお願いしてみようと思いお姉様を探すことに。

 で、数分。見つけました……『厨房』で。

 

「ん♪ やっぱり美味し……あとこれと」

「お姉様、ここに居たのね。お願いがあるんだけど」

「ふきゃぁっ!? ふ、ふ、フラン!? どどどうしたの?」

 

 いや、それはこっちのセリフだよお姉様。キョドッてるよ。明らかに不審だよお姉様。もうちょっと演技力鍛えなよなんか悲しいから。

 ……最近私の中でのお姉様のカリスマが落ちている。

 さっきも書いたけど私がお姉様を見つけたのは厨房だった。何やらブツブツ呟きながら上機嫌にしているお姉様に声をかけたらこの反応である。いや、まぁ大体想像はつくよ。つまみ食いでもしてたんだろうって。でも口にしたら可哀想なので黙っておく。お願いをする前に機嫌を損ねるのは良くないだろう。

 

「いや、どうしたのよお姉様。むしろその反応にビックリよ」

「な、なんでもないわ! あ! か、勘違いしないでね? 決してつまみ食いなんかしてないから! 甘い匂いにつられてふらふら〜って来たわけじゃないから!」

 

 あ、自分で言いやがったよ。もう完全に自爆してるよ。きょうび子供でもその誤魔化し方はないよお姉様。もうカリスマが完全に瓦解してかりちゅまになってるよ。可愛らしいけど、姉なのよね。妹ならなぁ……。

 それはともかくこれ以上の突っ込みはやめておこう。それにアレだけ混乱している今なら外出認めてくれるかもしれないし。ちょっと打算的だけどこの程度なら大丈夫。ちょっぴり小悪魔なくらいなら女の子は許されるのだ!

 

「……ところでお姉様、私これから買い物したいんだけど人里に行ってもいい?」

「ひ、人里? 買い物ね! 別にいいわ――――」

「やったー! じゃあ行ってくるねー!」

 

 よし、許可は得た。

 すぐさま回れ右をして飛んで紅魔館から出て行く。すでに影魔法はかけてあるので太陽も問題無い。

 強いて言うなら、私が紅魔館から飛び出した瞬間に「――え? あ、やっぱり待ってフランーーーー!」という声が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。気がしただけだ。

 にしてもやっぱり飛ぶと速いよね。最近は封印して走ってばかりだから久々だよ飛ぶの。しばらく乗って無かった自転車に乗る気分。風も心地良いし。

 

 人里まではすぐ着いた。幻想郷の中で人間達が生活する里だ。商店も出ていて活気がある。時折妖怪も見かけながら里の中を歩いていく。

 

「えーと、植物屋さんは……」

 

 着物とかも気になるけど今日の目的はガーデニングスペースに植える花とか食べ物の種を売る店だ。

 何を育てようかなぁ。思えば花を育てるのも初めてなんだよね。500年以上も生きているのに。ゆっくりと買い物しに人里に来たのも初めてだし。初めてだらけで楽しいなぁ。未知ってこんなにワクワクするのか……。

 で、しばらく歩いていると急に声をかけられた。

 

「あのぉ! す、すみません!」

「は、はーい? なんです……、っ!?」

 

 振り返るとそこにいたのは変な人だった。

 いや、そう書くしか無い。頭に「罪」って書いた袋をかぶっていた。声からして多分男の人だと思うけど……。

 

「あの、キミって最近ここら辺で走ってる女の子……ですよね?」

「は、はい。そうですけど……」

 

 なんだろう。怒られるのかな? 思えば結構な速度で走っていたし。というか小鈴さんの時は疲れてた上にテンションがハイになってたから勢いで話せたけど、こうやって話すと少しどもる。

 引きこもり生活がたたって若干コミュ障入ってるのかもしれない。怖くは無いんだけど、どうにも話し辛い。

 一体何を言われるのだろうか、恐々する気持ちを抑えて言葉を待つと彼はこう言った。

 

「……俺は罪袋。あなたの名前を、教えてください」

「え? あ、はい。フランドール・スカーレットです」

「フランさん……良い名前だ」

 

 戸惑う私にうっとりした声を上げながら罪袋さんはジリジリと近づいて来た。なんか得体の知れない感覚が身体を襲う。なんだろう、戸惑いじゃない。嫌悪も……少し違う。困惑、理解不能? そんな感じの感覚――――。

 思わず後ずさりすると罪袋さんが顔の袋から何かを取り出すーー!

 

「フランさん、ファンです! サインしてください!!」

「えっ?」

 

 えっ? えっ? えーーーーっ!!?

 待って。訳分からない。ファンってどういうこと!? 私、別にアイドルじゃないよ!?

 混乱する私に対し罪袋さんは色紙とペンを突き出している。うん、意味不明だ。ついでに理解不能だった。でも、とりあえずサインする。名前だけのサインだ。サインなんて書いたことないから大分適当なものだけど彼は満足してくれたようだった。

 

「ありがとうございます!! ……俺、実はあの猫耳メイド服を着て笑顔を振り向く姿に思わず見惚れて。ほんと、ほんと嬉しいです! 家宝にします!」

「あ、う、うん? ありがと……」

「早速他のヤツらに自慢しなきゃ! ではフランちゃん! 俺、失礼します!」

 

 それだけ言い残して罪袋さんは走り去っていった。

 取り残された私は動けない。しばらく呆然と立ち尽くしていた。でも、やがて頬を押さえて下を向く。

 ――思わず見惚れて。

 そんな言葉を言われたのが初めてだったからだ。初めて女の子としての可愛い部分を人に褒められた。

 それが素直に嬉しくて、思わず頬が緩んでしまうのを抑えられなかった。

 ――初めて『壊して』以来のその言葉が嬉しくて仕方なかった。

 

 

 結局数分間はその場で立ち尽くしてしまった。

 緩んだ顔を戻し切ることは出来なかったけど、上機嫌で私は改めて植物屋さんを探し始める。

 そして探し始めて二十分くらいだろうか、目的の店は見つかった。

 今日のためにお金もバッチリ準備している。めーりんから予め受け取っておいたのだ。曰くーー貸本屋に本を返してきたりとか咲夜のお手伝いした分のお小遣いなんだって!

 お小遣いを貰ったのも初めてだから嬉しい。何を買おうかなぁ、と今からドキドキワクワクだ。

 そしてはやる気持ちで店内に入ろう――――としたところで人にぶつかってしまった。

 

「あう」

「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」

 

 ちょうど向かい側の人も出てくるところだったらしい。私は思わず尻餅をつく。するとぶつかってしまった女の人が手を差し出してくれた。その手を掴んで私は立ち上がる。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

「はい、大丈夫です。こちらこそごめんなさい」

 

 謝ると「ちゃんと謝れて偉いわね」と頭を撫でられた。

 ……流石に子供扱いし過ぎだよ。まぁ500年も生きてる身からすれば慣れた事だし素直に受け取る。そういえばお姉様は同じ事された時口では怒るけど嬉しそうな顔してるよなぁ、とか思いながら撫でられていると女の人が、

 

「花を買いに来たの?」

 

 と尋ねてきた。そこで改めて私は相手の人の顔を見たんだけどビックリしたよ。

 とても綺麗な人だった。緑色の髪の女性で赤のチェックの入った服を着ていて、突き出たバストから色香が感じられる。女性らしい女性で、おしゃれな傘を持っていた。

 

「いえ、ガーデニングスペースを貰ったんですけど……何を植えようかなって考えて。実際見たら分かりやすいかなぁって」

 

 本当に悩みどころだよね。何を育てるか考えるのが楽しくて仕方ない。幸せな悩みってやつだ。

 質問に答えるとその女性が「あ、じゃあこんなのはどう?」と不意に口にした。

 

「実は私も大きなガーデニングスペースを持っているのよ。実際見るなら植物店より生えているのを見た方が良いだろうし、良かったら見にこない?」

 

 ありがたい申し出だった。

 それにガーデニングといえばめーりんの作ったものしか見た事ないし是非! とお願いする。

 人が作ったガーデニングってどんなのだろう。どうせ作るならやっぱり綺麗に作りたい私はその女の人、風見幽香(かざみゆうか)さんが育てているという『太陽の畑』に行く事にした。

 で、行ったんだけど……。

 

「綺麗……」

 

 いやもうそれしか言葉が出なかった。見渡す限り向日葵が咲いた広大なガーデニングはもはやガーデニングの域を超えていた。

 森――そうだ。向日葵の森だった。黄金に輝く花々はとても美しくて――そして太陽の光を燦々と浴びて力強かった。

 あまりの衝撃に口を開けて感動していた私を見て幽香さんが嬉しそうな顔をする。

 いや……だってこれは凄いよ。何が凄いかってこれだけの花々を全て育てきっているもん。『ありとあらゆるものを破壊する力』の副次効果で私は破壊する対象の『目』と呼ばれるものを見る事が出来るんだけど、そこに咲く花々の目は皆元気いっぱいだった。

 そして。

 気が付いたら私はこんな事を口にしていた。

 

「幽香さん! あの、私にお花について教えてくれませんか? 私――こんな風に花を育ててみたいです!」

 

 その時の私の顔はきっとキラキラしていたに違いない。

 会ってそんなに経ってない人がするようなお願いじゃないけど、どうしてもやりたくなったのだ。目の前の広大で綺麗で――生きている世界を自分の手で創り出したくなった。

 ガーデニングってこんなに素晴らしいものなんだって知らされた気がした。

 

 不躾なお願いだったと思う。傲慢なお願いだったと思う。

 でも、幽香さんは小さく微笑んで「そう」と呟いて、

 

「――この種、向日葵の種なんだけど」

 

 数粒の種を手渡し――――、

 

「植えて芽が出たらまた来なさい――待っているから」

 

 ――――そう言ってくれた。

 

 初めて会ったのにすごく優しい人だと思う。

 私もあんな女性になりたいものだ。帰ってから向日葵の種は植えたし、頑張って育てようと思う。

 めーりんに聞いたら向日葵の発芽は一〇日から一五日らしいのでしばらくは朝晩にたっぶりと水やりをすると良いらしい。

 一日の習慣にして忘れないようにしないと!

 

 

 #####

 

 

 その時、レミリアは顔面蒼白であった。

 

「……か、風見幽香?」

「本当それよね。罪袋の出来事が吹っ飛んだわよ……」

「…………(汗)」

「どうしたのよレミリア。もしかして幽香にトラウマでもあるの? なんかされた?」

 

 レミリアの頬を一筋の冷や汗が流れていた。なんか震えている。何かあったのだろうか、霊夢が首をかしげると目の前に咲夜が現れる。

 

「うおっ、ビックリした」

「いらっしゃい霊夢。申し訳ないけどお嬢様は以前、太陽の畑の妖怪に勝負を挑んだ事があってトラウマになってるから」

「その言葉で納得したわ。つかアンタ、私達が日記覗いてるの見ても気にしないのね」

「……ふふ、なんのことでしょうか? このメイドには何も見えませんわ」

「……あぁ、成る程。そんな感じね」

 

 ニコリと笑う咲夜は手拭いを取り出すとレミリアの汗を拭き取っていく。何か思い出したくない過去を思い出しているのか、レミリアの顔色は悪い。

 どうせ月面戦争の時にみたいに散々にやられたんだろうなーとなんとなく想像ついた霊夢はそこに触れないことにする。

 

「レミリア、起きなさい。夢想封印撃つわよー」

「…………、はっ! ちょっと夢を見ていたわ、ごめんなさい」

 

 その声で我に返ったらしいレミリアに「さっさと次めくりなさい」と霊夢は催促する――――。




 【悲報】一日しか進んでない【5000文字で】
 ちょっとこの速度だと先にモチベが尽きるので次回から一日当たりをもうちょっとザックリやっていきます。

今回出てきたネタ
・罪袋(東方MMDより)


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四月編5『博麗神社へ』

 

 

 

 四月十三日

 

 もう完全に朝起きになれたフランドールです。

 いい加減修行はカットで良いかな? と思う今日のこの頃。

 とりあえず今日の朝は以前やった水泳をバージョンアップさせた、弾幕の雨を掻い潜りながら往復するというのをやった。そのあとに縛られるやつも。

 大分慣れてきた感じがする。疲れはするけどペースも分かってきたし……まぁ泳ぎながら弾幕をかわすのは初見だったけど。

 ぶっちゃけ半分くらい無茶が入ってると思う私はおかしくないだろう、絶対にめーりんの感覚が麻痺してると思う。

 身になってるから良いけど。あ、あと朝晩の向日葵の水やりもしっかりやってるよ! 幽香さんと約束したから。

 

 で、今日の午後。

 外出許可は前回もらったので何処にでも行ける……と思ったけどそんなことはなかったよ。

 

「待ちなさいフラン!」

 

 お姉様だ。昨日は混乱している時にサラリと許可を奪い取ることに成功したけど今日は違うらしい。ギャグで流そうかとも思ったけど顔がシリアスだったので断念する。

 

「どうしたの?」

「……また、何処かに出かけるの?」

「うん」

 

 神妙な顔つきで尋ねるお姉様とは対照的に無邪気に頷く私。

 だって許可はもらったし、昨日。

 

「ダメよ……昨日は済し崩し的だったけど今日こそは認めないわ」

 

 なんだろう。シリアス通り越してガチモードに片足突っ込んでいた。身体に妖力を纏っていて、これまで散々放り捨ててきたカリスマを顕現させている。

 その手にはスペルカード。弾幕ごっこをしてでも私を止める算段らしい。その勢いからしてどうやら逃げるのは無理そうである。

 ……仕方ない。

 

「ねぇ、お姉様。レミリア・スカーレットはカリスマが具現化した存在であるとか前に言ってたよね」

「……随分と古の話を持ち出すのね。良く理解してるじゃない。そう、私はかの吸血王ツェペシュの末裔たるスカーレット家の長女、カリスマの化身と言っても問題無いわ」

「へぇー」

「……最近はギャグ時空に流されていたけれど、フラン。貴女は私の大事な妹よ。狂気に染まっていたとしても私は貴女を愛している。だからこそ私は何の付き添いもなく不安定な貴女を外に出すわけにはいかないの。万が一にでも貴女が暴れてみなさいな。貴女も傷つき私のこの圧倒的カリスマも揺らぐ」

 

 大分口調が饒舌だ。気分が乗ってきたのだろうか。

 ……その発言、逆の意味で言えば誰かを連れて行けば問題無いの? ってなるけどそれは置いておくとして。

 確かに今のお姉様はカリスマを纏っていると言っても過言では無いと思う。けど、ゴメンね。その死に設定でこうやって外行くの邪魔されると色々と面倒だから――――その『言の葉(コトバ)』切らせてもらう!

 

()()()()()()()、ハッ。笑わせるねお姉様」

「…………何がかしら?」

「面倒だから端的にするけど、咲夜に言うよ? 昨日お姉様がツマミ食いしてたこと」

「――――へ?」

「あと、パソコンをもらった時によく分からなくて癇癪起こしたんだってね。子供みたい」

「え? あの、えっ?」

「それとカリスマ? 月でも『バシュッ! ゴオオオ』からの『カッ!』されてやられたらしいしもうカリスマなんて何処にもないじゃない」

「……や、やめてフラン。思い出させないで……擬音だけなのに心が痛いから!」

 

 ネチネチと最近聞いたお姉様の醜態をつらつら並べていくとやがてお姉様は涙目で頭を抱えだした。

 ……私が言うのもあれだけどメンタル弱いよお姉様。何その豆腐メンタル。こうもあっさりだと悲しくなってきたよ。むしろ開き直ってくれたらよかったのに。「それがどうした!」くらい開き直ってくれた方がカリスマあったよ。

 さっきまでの態度は何処へやら。今やお姉様は「バシュゴオオ……」と呟いては身を震わせていた。今更だけどお姉様をそこまで怯えさせる月人って何者なのよ。毎回こんな風に突っかかられると面倒だしその技術を教えて欲しい。

 いや、まぁ一番は普通に外出出来たらそれに越したことは無いけど。

 ともかく私の精神攻撃(スペルカード)は効果抜群だったのでした、まる。

 

「ううううううあああああ……! 最強の体術……」

「じゃあ行ってきます。咲夜、お姉様のことお願いねー」

 

 虚空に声をかけると次の瞬間、咲夜が姿を現す。

 その顔はあらあらと何とも言えない顔だったが、一礼すると「行ってらっしゃいませ妹様」と言ってくれた。

 

 さて、お姉様を退けて私は悠々と外に出たんだけど……。

 

「あ、また会ったな! くらえアイシクルフォール!」

「あ、チルノちゃん! 駄目だって……!」

 

 ふらふらと空中散歩を楽しんでいると聞き覚えのある声と同時に氷の弾幕が降り注いできた。眼下を見ると霧の湖がある。

 それから弾幕の飛んできた方を見ると一匹の氷妖精がいた。

 間違いない。あいつは以前、めーりんと湖を泳いでいた時に弾幕を撃ってきたやつだ。

 

「……そういえばやり返してやろうって思ってたっけ」

 

 氷妖精の隣にはあの時と同じく緑色の妖精が隣にいる。どうやら止めようとしているみたいだけど、もう遅い。売られた喧嘩は買う主義なのだ。じゃなきゃ幻想郷ではやっていけない。

 

「【禁忌】レーヴァテイン」

 

 スペルカードを一枚使用して出したのは燃え盛る炎の剣だ。いや、剣というのは語弊があるか。細かい説明は面倒なので省くけど、とにかくその炎剣で氷の弾幕を薙ぎはらう。

 で、次はなんだと構えていると、

 

「きゃーっ! チルノちゃんが溶けたあああ!!」

「ぐ……くそー! 覚えてろー!!」

 

 なんか溶けてた。いや、私何もしてないよ! 本当だよ! ただ氷の弾幕を炎剣で薙ぎ払っただけなのに……。

 もしかしてメチャクチャ弱い妖精だった、の? いやでも氷精だからって数十メートル離れてるのに剣振っただけで溶けるものなの? 意味分からなかったけどなんか勝った私は念の為、氷精の安否を確認する。

 

「何の用だこらぁ!」

「ち、チルノちゃん! ガン飛ばしちゃ駄目だよ! ほ、本当にごめんなさい! だから命だけは……!」

 

 近くまで行くと、かなり全身から汗が噴き出てたけど大丈夫だったらしい。隣の緑妖精の顔が凄いことになっている。真っ青な顔でペコペコ頭をさげる姿から苦労人オーラが滲み出ているように見えた。

 

「えっと、こちらこそゴメンね? やり過ぎたかも」

 

 それから若干罪悪感のあった私が謝ると緑妖精も安心したようで大分話しやすくなった。

 それでお互い自己紹介したんだけど……。

 

「あたいはチルノ! サイキョーの妖精よ!」

「あ、私は大妖精です。皆からは『大ちゃん』って呼ばれてます」

「私はフランドール。フランって呼んでね?」

 

 なんだろう。案外話しやすい。数分話してチルノちゃんが『馬鹿』というか『⑨』であることに気付いてからはもっと対応が簡単になった。

 大妖精こと大ちゃんは妖精にしてはかなり頭が良いし、ちょっと難しい話をしても問題無く受け答えしてくれるし。

 それで二人の話を聞くところによるとどうやら二人はよくこの霧の湖のあたりで遊んでいるらしく、特にチルノちゃんは所構わず弾幕ごっこをふっかける癖があるらしい。

 それで私達も攻撃されたとか。傍迷惑な話だ。

 でも話してみると悪い子じゃなかったし、今度遊ぶ約束もした。その時は他の友達も連れてくるんだって。楽しみだなぁ。

 

 

 #####

 

 

 バシュッ→ゴオオオ→カッ→レミリア敗北。

 

「……あ、あのトラウマは乗り越えたわ。もう大丈夫、最強の体術は健在なの、うん」

「……妹に精神抉られてあっさり駄目になる姉は姉として良いのかしら。しっかりしなさいよお姉ちゃん」

「ふ、ふん! 言われるまでもないわ! あの時はまだトラウマが残っていただけだもの!」

「どうだかね……」

 

 

 #####

 

 

 四月一四日

 

 

 修行中、めーりんにいつになったら拳法を教えてくれるのか尋ねてみた。

 今更だけど私が修行を始めたのって女性らしい体型とかダイエットだけじゃなくて拳法をやってみたいからでもあるのよね。

 で、今やっているのって地獄マラソンに地獄水泳に拘束、地獄弾幕回避じゃない? 拳法じゃないよね、これ。

 で、尋ねてみると叱られた。

 

「拳法を舐めないでください妹様。素の力が出来上がってない人が拳法をやろうものならたちまち身体中の気が暴発して『ボン!』ってなりますよ!」

 

 ボンッ! って何よ。もしかしてキュッとしてドカーン的な爆発が起こるの? 何それ気って怖い。っていうかめーりん普段からそんな危ない力使ってるの? 大丈夫?

 

 結局、なんかの身の危険を感じて真面目に修行に励んだ。私を笑うがいい。ただ一つ言い訳するなら、キュッとしてドカーンの怖さは誰よりも私が知ってるんだから仕方ないでしょ!

 で、なんだかんだ午後。今日は何をしようかな、と思ってたところそういえばお姉様は暇な時によく、『博麗神社』に行っているらしい事を思い出した。

 博麗霊夢さんって人が巫女をやってて幻想郷にとって必要不可欠な人なんだとか。お姉様も気に入ってるらしい、そう咲夜が言ってた。

 どうせだし行ってみようかな。暇だし、そんな人なら話してみたいし。

 ……と言っても手ぶらで行くのも礼儀がなっていないので、その前に咲夜にお願いをする。

 

「咲夜、クッキーの焼き方教えて?」

「クッキー、ですか?」

「うん、これから博麗神社に行こうと思うんだけど手ぶらで行くのは礼儀知らずみたいに思われそうだし」

「……そ、そうですか。ではお教えしましょう」

 

 一瞬どもったのが気になったけど何となく理解する。

 あっ、お姉様は手ぶらで行ってるのね、と。なんかここ最近お姉様の株が安くなりすぎてカリスマメーターが破産しそうだ。いっそのこと可愛い姉枠に押し込んでしまうのはどうだろう、とどうでも良いことを考えながら咲夜とともに厨房へ。

 

「では早速作りましょうか」

「うん!」

 

 材料は砂糖、ケーキ用マーガリン、卵にバニラエッセンス。それと小麦粉とベーキングパウダーだ。

 バターを練りながら砂糖を加え、また練る。そこに卵とバニラエッセンスを入れてよくかき混ぜる。それから粉が消えるまで混ぜてから半分を別の容器に移し、そちらにココアパウダーを加える。それから冷蔵庫で三〇分放置、がスタンダードだけど魔法で簡略化。

 お好みの型にくり抜いて、それからオーブンを使って熱するんだけど、それも魔法で簡略化。

 こんがり焼けて出来上がりだ。

 試しに出来たクッキーを試食するとかなり美味く出来ていた。これを私が作ったと思うととても嬉しい。流石咲夜だね! うちのメイド長は教え上手です!

 

「美味しいです妹様! 初めてで凄いですね!」

「咲夜のお陰だよ! 本当にありがとうね!」

 

 早速作ったクッキー☆、じゃなくてクッキーを箱に入れて持っていく。とはいっても全部じゃなくて八割くらいだけどね。

 で、それを手土産に博麗神社へと向かう。

 人里を抜け、長い階段をひとっ飛びで飛び上がり、着地!

 思えば博麗神社に来るのって初めてなんだよね。結局、お姉様が起こした紅霧異変の宴会も参加しなかったし。

 で、神社の鳥居をくぐって建物まで近付くと、魔理沙がいた。

 

「お、フランじゃないか! 珍しいな……ってあれ? お前確か紅魔館から出ないんじゃなかったか?」

 

 魔理沙っていうのは私の友達だ。白黒の魔法使いで異変の時に私の部屋に迷い込んできて弾幕ごっこをした仲である。まぁ負けちゃったけど、その後も何度か弾幕ごっこをやっていて戦績は五分五分ってとこかな? 紅魔館に来るのはパチュリーの図書館に本を借りに来るためらしいけど。

 そんな彼女は私の登場に驚いたらしく首をひねっていた。

 

「最近、外出許可をもらったんだ! 出てから思ったけど外って楽しいね」

「おー、そっか。そりゃ良かったな! あ、そうだ。外でれるなら今度私の家にも遊びに来いよ! 歓迎するぜ?」

「うん、是非行かせてもらうね! で、それはともかく。今日は霊夢さん? に会いに来たんだけど居る?」

「ん、あぁ居るぜ。霊夢〜、お客さんだぞー!」

 

 魔理沙が神社の方に声をかけると「はいはーい」という返事が返ってきた。

 

「今度は誰よー、って……貴女は?」

 

 出てきたのは黒髪の女の人だった。脇が丸見えの紅白の巫女服で髪には大きなリボンが乗っかっている。発育はそこそこ。魔理沙よりはあるね。私の中の胸……いや、『おもちメーター』がそう言っていた。

 

「初めまして。私、レミリア・スカーレットの妹のフランドールと言います! よくお姉様がここに来ると聞いて来ました!」

 

 ぺこりと頭を下げて「あとこれ、クッキー焼いたのでどうぞ」と渡す。結構丁寧に挨拶したせいか、霊夢さんも「あら」と優しげな声で対応してくれた。

 

「わざわざありがとう。アイツの妹にしては気が利くのね」

「ちょっと待って下さい。第一声で気が利くのねって姉は普段どんなことやってるんですか!?」

「……家族なら何となく想像出来ると思うわよ。咲夜がいる時のアイツの姿を想像してみなさい」

 

 あっ(察し)。想像ついたよ、残念なことに。殆どのことを咲夜に任せて好きに喋りまくりはしゃぎまくった上無駄に高いプライドとカリスマを保とうとする姿がね!

 そんなことを考えていると、

 

「縁側で座っときなさい、お茶淹れてくるから」

 

 と霊夢さんは台所へ歩いていく。

 咲夜とは違う方向だけど言葉の内容とは裏腹に態度は丁寧な人って印象だ。妖怪と接するのに手慣れているようで、普通な感じだった。

 この人が異変の時にお姉様を倒したのかぁ……まあ何となく納得かも。纏う雰囲気がのんびりしているけどやっぱり只者じゃないし、何より『目』に触れられない。人と違う輝きをした『目』だ。仮にこれを壊そうとするなら相当に苦戦するだろう。もしかしたら無理かもしれない。そんな生命の輝きを持っていた。

 

 それからお茶をとって戻ってきた霊夢さん達と三人で暫く駄弁った。

 普段話さないような話が多くて、魔理沙が仕入れてきた話とかとっても楽しかった! 未知を知るのってやっぱり楽しいなぁ。

 帰るときには「また来なさい」と霊夢さんに言われたし、その内また来ようと思う。

 

 

 #####

 

「……日記内での私の書き方に悪意が無いかしら」

「いや無いわよ。ありのままに書いてあるから」

 

 ボソッと呟いたレミリアにツッコミを入れて霊夢は語り始める。

 

「……あの時は驚いたわよ。前にもアンタから妹は危険だって散々聞かされてたから。思わず、『夢想天生』(常時攻撃無効)を使ったし。実際話したらまともな子だったし、妖怪にしては物腰も丁寧だし、警戒して損だったけどね」

「流石私の妹! と言いたいけど事前に忠告したのが私だから何とも言い難いわね。大分カリスマが身についてるじゃない……うん」

「まず妹より優れた姉なんていねぇ! って状態を何とかしなさいよアンタ……お前が言うなってやつよそれ」

「うー……」

 

 レミリアのカリスマが復活するのはいつのことか。

 本当に大丈夫かこの姉、と疑問に思いつつ霊夢は先のページを読み進めていく――――。




 

 進行日数:二日。
 ……次回からザックリ書くとは何だったのか。


今回出てきたネタ
・バシュッ!! ゴオオオ! カッ(東方儚月抄より)
・身体中の気が暴発してボン!!(Re:ゼロから始める異世界生活より魔法の説明)
・クッキー☆(ニコニコで淫夢ネタに用いられる動画)
・おもち(咲-saki-より。胸のこと)
・あっ(察し)


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四月編6『泥棒疑惑魔理沙!』

ランキング上がってました。
ありがとうございます。


 


 

 

 

 

 四月十五日

 

 

 今日も今日とて修行なり。

 やあ皆大好きフランちゃんだよ☆

 ……私は日記に何を書いているのだろうか。

 とりあえず今日の午前はマラソンだった。あの猫耳メイド服を装着し走る走る! ゼーゼーハーハー! いや疲れるよ、本当に。

 ってか今更だけど水泳も地味に体力削られるし。日付見なよ、今四月だよ? 寒いし冗談じゃなく体力が削られるのよ。終わったあとはレーヴァテインで温まるくらい寒い。ほんと修行中のお坊さんじゃないんだから……。

 まぁめーりんもやってるから文句も言い辛いけど。

 で、それはともかくだよ! 

 今日の午後さ、久々にパチュリーの大図書館に顔を出したら……。

 

「じゃあ借りてくぜ」

 

 十数冊の本を風呂敷に包んで逃げていく泥棒を見つけたの! 白黒の服で……なんていうか魔理沙みたいな服だった。口調も何処となく似てるけど、魔理沙がそんな事するはずないし別人だと思う。

 地面を見るとパチュリーが「むきゅう……」って気絶しててこあさんがあわあわしていた。

 取り返さなきゃ! って思って追いかけようとしたら泥棒がレーザー撃ってくるしパチュリー達を守らなきゃで結局逃げられてしまった。うぅ、悔しい。顔すら見れなかった。

 でも流石にキュッとしてドカーンはやり過ぎ扱いされてお姉様に地下行きを言い渡されるかもしれないしどうするのが正解だったんだろう?

 明日咲夜に聞いてみよう。

 

 

 #####

 

「魔理沙ね……パチェも毎度毎度可哀想に」

「見た感じでパリッ、分かるのにパリッ、魔理沙じゃないって断定するってパリッ、あの子将来変なやつに騙されないでしょうねゴクン」

 

 新しく淹れ直された紅茶を飲み、クッキーを食べと優雅な二人である。…………特に霊夢が。

 

 #####

 

 

 四月十六日

 

 寒い寒い寒い。

 今日は温度がいつもより低くて水が冷たかった。めーりんは「気を全身に浸透すれば大丈夫です」とか言ってたけど私、まだ気を使えないから! 何となく気の力っぽいのは感じれるようになってきたけど自由に動かせるほどじゃないのよ! ……多分、これからもっと頑張れば気を使えるようになれそうだけどね。

 私だってただ辛い修行を続けてたいわけじゃないし、実はめーりんの動きはよく見てたよ。気の流れもね。でもやっぱり難しいや、しばらくやってきて、ただ教わるだけじゃなくて自分から技を盗まなきゃならないことには気付いたけど、やっぱり厳しいよ。

 めーりんの修行。弟子の意欲が湧かない限り、永遠に気を身に付けることが出来ないって考えるとスパルタだなぁって思う。でも師匠としては凄いのかもしれない。弟子の自発的行動を待つって精神的にキツそうだし。

 午前はそんな感じだった。で、午後だよ。

 

「ねぇ、咲夜ー。大図書館に泥棒が現れたんだけど……」

「ふむ、妹様。その泥棒とは白黒の服を着た方ではありませんでしたか?」

「凄い! なんで分かったの?」

 

 本当になんで分かったんだろう。流石メイドだよね! 実は最近咲夜も大分異常だと思ってる私なのだ。

 だってそうでしょ? 名前呼んだだけで次の瞬間には「はい」って隣にいるんだもん。家事も本気出した時は掃除をしていると思ったら私達が丁度紅茶が飲みたくなるタイミングで飲みたい銘柄の紅茶を望まれる前に出してくるし、お姉様と博麗神社に行った時も名前呼んだら現れたし。一流のメイドって凄いよね。

 憧れの目で咲夜を見ていると彼女は小さく頷いて、

 

「……なるほど。妹様、もしかしてその泥棒とはこちらの方ではありませんでしたか?」

「うわっ!? ()ーー!!」

 

 直後、虚空から黒白の服を着た人が床に落ちた。

 ドンガラガッシャン! そんな音を立てて風呂敷から何冊かの本が零れ落ちる――寸前に咲夜がまとめてキャッチする。

 

「時間停止?」

「えぇ、してその不届き者はこの方で間違いありませんか?」

「う、痛ってぇ。何処だよここ……紅魔館? アレどうなって」

 

 コレ、と指差された人の荷物を見る限り間違いなく黒だろう。私が頷くと、泥棒さんが頭をさすりながら立ち上がり――辺りを見回してそう言った。

 その声を聞いてあれっ? って私は小首を傾げる。聞き覚えのある声だったのだ。

 思わず目をパチクリして改めて泥棒さん(仮)を見つめる。ブロンドのかかった金髪に、白黒の魔法使い風の服装の女の子――いやこれはもしかして。

 そう思うと同時、咲夜がナイフ片手に泥棒さん(仮)に声をかける。

 

「こんにちは、魔理沙。で、貴女昨日パチュリー様の大図書館に来なかった?」

「うおっ、咲夜か! なんで私をここに連れてきたんだ!」

 

 それは紛れもなく魔理沙だった。

 急に連れてこられたことに納得がいってないのか酷く立腹した様子で咲夜に問い質している。が、今回は咲夜は一味も二味も違うようだった。

 ヒュッ。

 そんな風切り音を立てて魔理沙の頬をナイフが通り過ぎる。僅かに掠った傷口から一筋の紅い液体が流れた。

 

「…………ッ!?」

「質問に答えなさい。貴女、昨日パチュリー様の大図書館に来たわね?」

「ど、どうしたんだよいきなり」

 

 真剣モードだった。いや、殺気すら混じっていたように思う。戸惑う魔理沙に対し咲夜は次のナイフを構える。

 だけどこれ以上は見てられない。慌てて魔理沙の前に飛び出して私は両手を広げる。

 

「駄目だよ咲夜! 魔理沙が犯人だって決まったわけじゃないのにこんなこと――――」

「失礼ですが、妹様。『その本』は彼女の家にあったものです」

 

 はぁ!? えっ? なんで!?

 ともかく訳が分からなかった私だけど、このまま咲夜に任せるわけにはいかない。

 ……咲夜と魔理沙の殺し合いなんかみたくないし。

 

「とにかく私がなんとかするから!」

 

 苦し紛れにそう言って魔理沙を引っ張って行く。

 行く場所は私の部屋だ。さっきの咲夜はいつもと違って怖かった。問い質すにしてもあんなやり方は駄目だと思う。

 そもそも魔理沙は犯人じゃないのに! ……多分。

 で、部屋に戻って魔理沙から証言を聞くとこんな感じだった。

 

「私、実はよく弾幕ごっこがてらパチュリーの大図書館に本を借りに来るんだよ。昨日もそれで来て……」

 

 それを聞いてビックリすると同時に申し訳ない気持ちになった。

 だって、泥棒が現れたって騒いだのは私だったからだ。

 勘違いだったのにありもしない泥棒を捏造してしまった。慌てて謝ったよ。「ごめんなさい」って。私のせいで咲夜が勘違いして魔理沙を連れて来たんだって。

 ……私のせいで危うく二人が殺しあうかもしれなかったこともちゃんと説明した。

 話しているうちに、本当に酷いことをしてしまったんだって思いが溢れてきて涙がボロボロ零れた。

 それからはよく覚えてない。ずっと泣きながら謝る私を魔理沙が辛そうな顔で宥めてくれていたのは僅かに覚えている。次に私が目を覚ます頃にはもう魔理沙は帰っていて、タオルケットが掛けてあった。

 きっと魔理沙が帰る前に掛けて行ってくれたんだろう。

 

 

 

 追記

 

 翌日、魔理沙がパチュリーに本を返しに来たらしい。

 パチュリーが凄くビックリしてた。よくは知らないけど結構な量だったのは分かった。こあさんが忙しそうに働いてたし。

 あとは魔理沙とパチュリーがすっごく長い時間話をしていた。内容は知らないけどこれからも二人の間で本の貸し借りは続ける事にしたらしい。……良かった。

 魔理沙から伝言もあった。

 

「フラン、お前の姿見て目が覚めた。ゴメンな……そしてありがとう。これからもよろしく頼むぜ」

 

 だって。ゴメンな、っていうのはよく分からないけど魔理沙が何か思い直してくれたのなら良かったと思う。

 

 

 #####

 

 

「そういえば……この日から魔理沙が本をちゃんと返すようになったってパチェが言ってたわね」

「真実は……まぁ知るだけ野暮か」

 

 まぁ咲夜の行動もちょっとやり過ぎだけどね。

 咲夜は私達に過保護なのよ。特にフランには。

 

 そんなことを言い合い二人のお茶会は続く。

 

「……フラン、良い子ね」

「そうね。お姉様と違って本当に素直で良い子よ」

 

 

 #####

 

 

 四月十七日。

 

 最近、午前の修行効果かようやく気の力が分かってきた。というかまだ感覚も掴みかけなんだけどやってみたら使えてみたってのが正しいのかな?

 簡単に言うと。両手を合わせて「はーっ!!」ってやってみたら何かが出た。赤い光線みたいな何かだ。妖力でも魔力でも無かったから多分これが『気』なんだと思う。

 ボガン! って放たれた光線は意外と威力が高かった。まさか出るなんて思ってなかったもんで、紅魔館を囲む煉瓦造りの垣根に向けて撃っちゃったんだけど普通に貫いたからね。

 お陰で今日の修行はその修復になっちゃったよ。封印に猫耳メイド服羽織っての修復作業はなかなかに疲れた。足腰と腕が痛い。

 

 で、その日の午後。

 昼ご飯を食べ終わる頃には全回復していた私は咲夜の元に行った。

 ちょっと気になってたんだ。魔理沙の件で彼女の過激な部分を見ちゃったし、無理やりその場を預かったことで嫌われてないかなって。

 で、私が行くと咲夜は少し驚いたような顔をしていたけどとても優しい顔をして迎えてくれた。良かった、怒ってないみたい。

 

「咲夜、あの時はゴメンなさい」

 

 あの時は魔理沙の味方をしたけど私は咲夜も大好きだよ! そう言ったら咲夜は赤いものを噴き出して倒れてしまった――ように見えたけど一瞬視界がブレて元通りになる。

 あれ? 錯覚かな、それとも時間停止? いや、錯覚だよね。

 

「妹様……いえ、こちらこそ出過ぎた真似をお許し下さい」

 

 うん。じゃあこれで仲直り! 

 嬉しくてギュッと抱き着く。なんか咲夜はプルプルしていた。顔は見えなかったけどなんだったんだろ? 咲夜は凄い忠誠心を持ってるからもしかして喜んでくれてたのかな?

 それなら嬉しいなぁ。

 でも、結局咲夜が魔理沙にナイフを向けた理由はよく分からないんだよね。泥棒だからって言えばそれまでだけど知らない人じゃないのに。

 それに全部勘違いで私が悪かったわけだから、危うく咲夜は何も悪くない人を傷付けるところだったって考えると……うん。これ以上考えるとまた泣きそうだしやめよう。魔理沙も許してくれたし。勿論、全部忘れてなんてことは許されないからこの罪はしっかり背負っていこう。

 次は二度とこんなことがないようにーー教訓としてね。

 

 

 #####

 

「血を噴き出すって咲夜……」

 

 呟いて、レミリアは首を横に振る。

 それよりも先に言うべきことがあったからだ。

 

「…………ねぇ、霊夢」

「大丈夫、言わなくても分かってるから」

 

 頭が痛そうに二人は顔を見合わせる。

 そして一言。

 

「「(フラン)それこそ全部勘違いよ」」

 

 それからクッキーを一枚取り、霊夢が言う。

 

「……素直過ぎるって損ね。前向きなのは良いことだけど感受性が高過ぎるわ。つかこの子天然入ってるわよ」

「……お互いを仲良くさせようとしているあたり良い子なんだろうけど……。ナチュラルに勘違いしているあたり天然というかポンコツというか……」

 

 レミリアもそれに同調した。我が妹ながら……とか何とかボヤいている。その様子を一目見て霊夢は呟いた。

 

「まぁ可愛いモンだけどね。どちらにせよレミリア、アンタほどじゃないわ」

「ハッ、この私がポンコツ? 何を言っているのよ霊夢」

「………………、」

「えっ? 何で黙るの? えっ?」

「……可哀想に」

「何が!? 私の何が可哀想なの!? ちょっと何か言いなさい霊夢ーーっ!!」

 

 霊夢の行動に不安を煽られたレミリアはガックンガックンと霊夢の肩を掴んで揺さぶり始める。

 

(……コイツ弄ると面白いわね)

 

 ちょっとボケるだけでツッコミを入れてくれるカリスマ吸血鬼を見て、ちょっぴり嗜虐心が湧く霊夢であった。

 

 






今回出てきたネタ
・本泥棒魔理沙(二次創作ネタ)
・むきゅ(二次創作ネタ、パチュリーの口癖)
・一流のメイド(人外です)
・気の光線(かめはめ波)
・血を噴き出す(十六夜咲夜 二次創作ネタ)


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四月編7『幼児退行した王』

 
 誤字教えてくれた方、ありがとうございます。
 あと感想や評価もとても励みになっています。


 


 

 

 

 四月一八日

 

 

 最悪だ、咲夜に日記を見られた。

 『最近、妹様が様々なことにやる気になられていたのはこういうことでしたか』ってペンで書かれていた。

 色々はっちゃけて書いてたこの日記を、見られたことがどうしようもなく恥ずかしい。

 いや、でもあのそのこのどの、ああああああ!!!!

 

 (以下読めない文字の羅列でページが埋まっている)

 

 

 

 #####

 

「……そう言えばフランが唐突に叫びだした日があったような」

「いや、発狂状態じゃないのこれ? 暴れてはいないの?」

「えぇ、それは大丈夫だったわ。いきなり叫んだからまさか狂気が再発したのかと……」

「再発って狂気は病気か何かか!」

 

 #####

 

 

 四月十九日

 

 ……落ち着きました。うん、部屋に帰ったら私の日記帳が開かれてて赤ペンで添削されてたらそうなるよ。昨日書いた『こういうことでしたか』ってところに『頑張れ!』って判子と花丸書かれてたし。

 うわああああああ!! って叫んだせいでお姉様がまた私の狂気が再発した! って叫びながらグングニルの槍を片手にすっ飛んで来たのにもビックリしたけど心配してくれてるんだなって嬉しくなった。

 ……でもさお姉様。本当に狂気に染まったか確かめもせずにいきなりグングニルぶん投げるのは私、どうかと思うの。お陰で私の部屋半壊したし。ついでにお姉様がぶん投げたグングニルの槍、そのまま紅魔館の外へ飛んでいったし。

 

 ……というか昨日今日とあまり日記書けてないな私。ちょっと飽きてきているというかだれてきている気がする。

 咲夜に日記を見られたのもあるんだけど、なんだか日記と向き合いたくない感じ――分からないかな?

 

 

 

 #####

 

「……ねぇ咲夜」

「はい、なんでしょうお嬢様」

「アンタもうナチュラルに現れるわね……」

 

 メイドってすごいわねー、呆れすら混じった霊夢の声色だった。

 それはともかくレミリアが質問を述べる。

 

「なんでフランの日記に添削なんか入れたの?」

「簡単です。妹様が日記というものの意味を履き違えていたからですよ」

 

 そう、端的に咲夜は答えた。

 

「……いやまぁ確かに今までの日記というより小説だけどね。一日当たりの文量多いし。一日当たり三〇〇〇文字は書いてるわよね。そりゃ飽きるわ、しかも毎日毎日」

「そうなの。そこで正しい日記の書き方を教えようと思ったのよ。あれじゃ長続きしないし……折角やる気なんだから」

 

 ちなみに3,000文字を現代時間に換算して約一時間弱である。

 ただでさえ修行やらで精神がゴリゴリ削れているのに一時間も机に拘束されるのは苦行以外での何物でもないだろう。元より誰にも読まれないはずの日記なのだから。

 

「メイドとしては主をより良い方向に導く。それはお嬢様も妹様も変わりませんわ」

 

 言って瀟洒かつ恭しく十六夜咲夜は(こうべ)を垂れる。

 しかし空気を読まない霊夢は言った。

 

「で、その妹様と接触するたびに血を噴き出す件について」

「おっと、用事を思い出しました」

「おいこら」

 

 #####

 

 

 四月二十日

 

 

 咲夜からアドバイスをもらった。日記というのはもっと簡単で良いらしい。一々長ったらしく書くと長続きしないそうだ。途中で投げ出してしまうのは何よりも駄目らしいので気を付けたい。

 

 午前の修行は順調だ。やっと安定して気弾を出せようになってきた。次の目標は身体に纏うことだけどすぐに出来ると思う。

 あと向日葵の種はまだ芽が出ない。もうしばらくかな。

 

 で、ここから本題なんだけど。

 今日。紅魔館に妖怪の賢者様が来た。

 八雲紫(やくもゆかり)って名前で金髪のナイスバディなお姉さんだった。お付きの人――式って言うらしいんだけどその式の九尾の狐こと八雲藍(やくもらん)(かつて見たことないおもち(巨乳)の人)と猫又の(ちぇん)ちゃんを連れて来ていた。

 どうやら昨日投げたグングニルが人里に墜落するところだったらしい。すんでのところで藍さんが気付いて慌てて紫さんのスキマを使って回収したらしいけど、危うく里の多くの人間が死ぬところだったんだって。

 物凄く怒られてて、最初は余裕そうにしていたお姉様が最後には大泣きしてた。妖怪の賢者様って凄いね。元々チョロいとはいえあの尊大にして無駄なくらいのプライドを持つお姉様を大泣きさせるなんて。

 しかも最後は泣き疲れて寝るっていう……、カリスマって何処にあるんだろう(遠い目)

 

 あ、そうそう。(ちぇん)ちゃんだけどどうやらチルノちゃんの友達らしい。今度遊ぼうって約束した。

 

 

 

 #####

 

「レミリア、アンタ……」

「……わ、私は悪くないわ」

「泣いて許されるって子供じゃない。いや、その薄紙みたいなカリスマが役立った貴重な出来事かも……」

「…………ふ、ふん! こ、紅魔の王は成長したの! 過去の話をほじくり出されても今の私に効くと思わないことね!」

「レミリアー、涙出てるわよー?」

「汗よ!」

「あー、うん。もうそれで良いわ」

 

(もっと言うと妹にサラッと『チョロい』だとか『無駄なプライド』とか言われてるけどそれは良いのかしら) 

 

 色々心配になる霊夢だった。

 

 #####

 

 

 四月二十一日

 

 

 昨日のお姉様は酷かった。お陰で今日の朝、若干幼児退行してた。豆腐メンタルを虐めてはいけないと学んだよ。でもいつもより口調が子供っぽくなってたお姉様のお世話をする咲夜が心なしか楽しそうに見えた。

 昼頃には元に戻っていたけど大丈夫かな? 幼児退行していた時のことを覚えていたら、正直自殺するんじゃないかってくらいな言動してたし。

 まあ多分大丈夫だろう。

 あ、あと気を纏えるようになった。それと二百メートルのタイムが一三秒から八秒まで上がってた。

 

 

 

 #####

 

「幼児退行も話したいけどちょっと待て最後! サラッと進化し過ぎじゃない!?」

「……………、」

「あぁ! なんかレミリアが魂抜けたような顔してる! ちょっとアンタしっかりしなさいよ!」

「……悲しきものだな、若さ故の過ちは」

「たった一年前でしょうが! 現実逃避すんな馬鹿! 吸血鬼の王を自称してたアンタは何処いった!?」

「いや、だってもう何も言えないわよ。こんなの、ズルすぎる。正直今でも時折思い出しては衝動的に死にたくなるし……」

 

(…………うん、これ以上突っつくのはやめておこう)

 

 ガチで現実逃避している顔を見て霊夢はそう決めた!

 

 #####

 

 

 

 四月二十二日

 

 

 やった。気で空が飛べるようになった。一度出来ると一気に色々出来るようになるね。封印状態の身体能力も急激に伸びてるし、順風満帆とはこのことか。

 次は気を増幅させ、怒りのパワーで目覚める変身を覚えるのが目標ってめーりんに言われた。それが出来たら戦闘力が数百倍になるんだって。それが出来たらお姉様超えは間違いなしだね。

 

 あと今日は午後に妖怪の山に行った。

 大分期間空いちゃったけど、パソコンの使い方を教えてもらうためだ。

 妖怪の山の川沿いに歩いていると途中、山に住む白狼天狗(はくろうてんぐ)に襲われたので気を当てて気絶させておいた。

 で、渓流付近で河城(かわしろ)にとりさん、っていう青髪で緑色の帽子をかぶった河童さんに出会った。最初は光学迷彩? ってのをかけてたみたいで姿が見えなかったけど私の能力、『ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』で何処に居るかはお見通しである。

 すっごい怯えられたけどパソコンを見せると途端に元気になった。あと彼女はとても説明が上手かったので私も使い方を理解した。

 彼女の工房も見たけど凄かったよ。機材だらけで。ジーって見てたら「気になるの?」って言われて、頷いたら「じゃあ今度教えてあげよっか?」って提案してくれた。

 是非お願いしよう。機械類も弄れるようになりたいし!

 最後には盟友って呼んでくれるくらい仲良くなれたし、充実した一日だったなぁ。

 

 

 

 

 #####

 

「……この段々魔改造されていく感じ」

「いや、ちょっと待ちなさいよ。戦闘力が数百倍って美鈴そんなに強かったの!? というかそんな技があるなら真っ先に主たる私に教えなさいよ!」

 

 各々感想は違うが特にレミリアはお怒りのようだった。ハァ、と溜息ついて霊夢は言葉を発する。

 

「だってさ、咲夜。そこんとこどうなの?」

「実は門番も一度提案したみたいだけど厳し過ぎて一日目でやめたって……」

「そんな技があるって言えばやめなかったわよ!」

「……ま、忍耐力ない奴には無理だったってことでしょうね」

「……もう霊夢追い返そうかしら」

 

 ポンポンと頭を叩かれるレミリアはボソリと呟いた。

 

 #####

 

 

 四月二十三日

 

 

 今日はチルノちゃん達と遊んだ。

 メンバーはチルノちゃん、大ちゃん、リグルちゃん、ルーミアちゃん、ミスティアちゃん、橙ちゃん、あと私だ。

 とりあえず新顔をサラリと書いておこう。

 

 リグルちゃんは蛍の妖怪だ。緑色の髪でボーイッシュな見た目をしている。ゴキブリという言葉が嫌いらしい。

 ルーミアちゃんは宵闇の妖怪だ。同じ濃い黄色の髪なのが私の中で好印象。黒っぽい服を着ていて口ぐせは「そーなのかー」。

 ミスティアちゃんは夜雀の妖怪だ。ピンク髪で、歌が得意らしい。屋台を開いていて彼女が焼くヤツメウナギは大層評判だとか。今度買いに行こう。

 あと前回書き忘れてた橙ちゃん。

 橙ちゃんは猫又の妖怪だ。多分私達の中で一番しっかりしてるのもこの子じゃないかな? 見た目も精神年齢も多分私より幼いけど、同じ式の八雲藍さんのような立派に式になれるよう日夜努力しているらしい。素直に凄いって思う。

 あとここにいる皆は寺子屋にも通ってるんだって。人里の寺子屋も二種類あって一つは人間が通うものともう一つは私達みたいな妖怪が通うものに分かれているらしい。多分同じクラスだよーってことだった。

 

 皆で弾幕鬼ごっこをした。鬼が弾幕を放って、当たったらその人が鬼になる。そんなルールだ。単純だけど思ったより楽しかった。皆かなり本気でやってたみたいで最初は『normal(ノーマル)』だったのに最後の方は『lunatic(ルナティック)』くらいの勢いになってた。

 ……まぁ、普通にやればまず被弾しないから封印と猫耳メイド服付けてやったけど意外に被弾するものだね。最近上手く行き過ぎてたけど修行頑張らないと!

 

 

 

 #####

 

「子供の仕事は遊ぶこととはよく言ったものね」

「……そうね。友達も出来たようで姉として嬉しいわ」

「アンタ、実はちょっと羨ましく思ってない?」

「ハッ、流石に子供扱いしすぎよ霊夢。例え幼児退行しようとも私は紅魔館の当主よ――そんなものとうの昔に置いてきたわ」

 

 そこで一呼吸おいてレミリアは言う。

 

「――だから気にすることじゃないわ。割り切った話だから」

「――――そう。で、本音は?」

「ちょっとだけ羨まし……ハッ!?」

「今度混ぜてもらうよう頼んどいてあげるわ。ちょっとくらい遊んだって今更アンタの地位は揺らがないわよ」

「う……うー!!」

「はいはいハメやがって、って顔しないの。それに変にシリアスやったりカリスマ発揮するくらいならやっぱアンタはそんな風にしてる方が良いわ」

 

(……つかアンタが真面目ぶると妙にやりにくいのよ)

 

 ポンポンと子供のようにあやしにかかる霊夢はそう思った。

 そして次のページをめくる――――。






今回出てきたネタ
・赤ペンチェック(赤ペン先生)
・グングニルが人里へ(レミリアのグングニルで幻想郷がヤバイ、より)
・藍様は巨乳(おもち、二次創作ネタ)
・怒りのパワーで目覚める変身(DBよりスーパーサイヤ人)
・normal(ノーマル).llunatic(ルナティック)(東方project本編の難易度設定)


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四月編8『香霖堂とパソコンと』

 


 


 

 

 

 四月二十四日

 

 

 向日葵の芽が出た。

 幽香さんから種をもらって十二日。大まか予想通りの発芽で安心したよ。

 早速、午後に太陽の畑の幽香さんのところに行くと色々とアドバイスをくれた。

「向日葵は根がとても弱いの。だからあまり触れないように。それとナメクジなんかにも注意しなさい」

 こんな感じの一通りの注意事項。うん、しっかり覚えたよ。

 枯らせるなんて以ての外だしね。

 ――――そして何より大切なのが、

 

「花の声を聞くの」

 

 花の声? 聞こえないよ? 疑問に思って尋ねると「目を閉じて耳を澄ませてご覧なさい」と言われた。

 言葉のままに目を閉じる。呼吸を静かに落ち着けて大きく深呼吸ーーそして耳を澄ませると確かにそれは聞こえてきた。

 風に揺れてザワザワと揺れる音、太陽に照らされて喜ぶように僅かに動く花輪の波長。それが全ての花から。

 これが花の声? なのかな。

 

「慣れてきたら本当に言葉として聞こえてくるの。あぁ今日も太陽が気持ちいいな、風に揺れて涼しいな、いつもお世話ありがとう、大好き! ――ってね」

 

 一輪一輪それぞれ違う言葉が聞こえる。

 それが楽しくて、嬉しくて仕方ない。普段から花の声を聞いているとまるで家族のようにも思えてくる。そう幽香さんは語った。

 家族みたいに……か。いつか私もそれくらい花を好きになれたら良いな。それはきっと素敵なことだと思うから。

 

 

 #####

 

「花か……。私も花は好きよ、可憐で華美で輝いている。そこらの有象無象の雑草達のなかに紛れて一際光を放つ姿が好き」

「博麗神社の周りにも咲いているのよね、花。時折、幽香が来てはちゃんと世話しなさいって説教くらうけど」

「……折角ガーデニングスペースがあるのだし、私も育てようかしら、花」

「良いんじゃない? でもちゃんと育てなさいよ。じゃなきゃ幽香にどんなことされるか分からないわよ?」

「ハン、当たり前じゃない。一度為そうとしたことを放り捨てるほどこのレミリア・スカーレットは恥知らずじゃないわよ」

 

 #####

 

 

 四月二十五日

 

 

 そういえばこの日記書き始めてからもうすぐ一ヶ月か。

 思ったよりも早いものね。毎日が充実してるからかな?

 午前中は修行で午後からも精力的に外へ出てるし。随分とアグレッシブになったよね私も。

 変化……なのかな。

 そういえば変化といえば、地味に毎日のように使ってる影魔法が進化してきて日光を完全にシャットアウト出来るようになってきたなぁ。もう無意識下で使ってる気がする。封印するようになってからは魔力とか妖力が練りにくいけど、ある意味そこも修行になったのかも。魔力妖力の効率も格段に良くなっている。それと精度と質もかな。正しい伸ばし方をするとこうも上がるものなんだね。今まで地下で一人でやってたのが馬鹿みたいだ。

 

 ……にしても今日は咲夜が妙な感じだったなぁ。

 咲夜にメイド技術を教わってたけどなんか鬼気迫るものを感じた。

 メイド修行をやってる途中にふと、「花嫁修行みたいだね!」って言った時からかな、表情筋がピシリと凍ってたの。

 なんでだろ?

 

 

 #####

 

「で、なんでなの咲夜?」

「はい、お嬢様」

「いや、アンタどこから入ってきた? あと地獄耳にしたって呼ぶだけで出てくるとかストーカー染みた雰囲気感じるわよ!」

「メイドたるもの瞬間移動くらい出来ずしてどうするの?」

「真顔で言わないでよ!? えっ? マジで瞬間移動してんの? えっ?」

「驚いている霊夢は置いておいて。なんでなの咲夜?」

「いえ……その頃の妹様の毎日の様子を見てきた身としまして、あの環境下であそこまで真っ直ぐ育ってくれた事が嬉しくて、溢れ出る感情を抑えようとしたのです」

「…………貴女は」

 

 ずっとフランを心配してくれていたの? と言いたかったのか。それともその心は既に、と問い掛けたかったのかそれは分からない。

 ただ、レミリアがそれ以上の言葉を紡ぐ前に咲夜が人差し指を突き付けた。

 

「仰らずとも結構です。全てはメイドの戯言。お聞き流し下さいませ」

「――――そう」

 

 

 

「いや、なによこの空気。レミサクなの? いらないから」

「良い加減ぶっ飛ばすぞ博麗の巫女」

「ああんやってみろ、おぜうさま」

 

 その後二十分程の乱闘の末、和解した。

 

 

 #####

 

 

 

 四月二十六日

 

 

 今日はパソコンをやってみた。

 にとりさんに聞いたお陰でローマ字も使えるようになったし、これで検索もバッチリだ。

 ネットの中は膨大な情報があった。その中から筋肉痛の対処法とか向日葵の育て方とか色々調べてみた。

 うん、凄いいっぱい載ってるね。あと動画サイトってのもあった。どうやら外の世界にある『カメラ』というものを使って映像を録画し、それをアップすることで見れるとのこと。

 可愛い猫ちゃんとかの動画を見た。癒される、可愛い!

 聞いたことない音楽とかも一杯あるし使いこなせたらとても楽しいね! あと外の世界だとパソコンを小型化したiPhoneってやつもあるらしいけど……香霖堂とかにあるかなぁ。あったら買おう。無ければにとりさんのところに行こうかな。

 便利だし移動用も欲しいなぁ。

 

 

 

 #####

 

 和解した二人はボロボロであった。

 

「痛……ぱそこんってそんな機能あったの?」

「そうよ、痛た……知り合いのお姫様とかが自慢してくるのよね」

「お姫様?」

「えぇ、迷いの竹林にある永遠亭。そこのお姫様よ」

「ふぅん。というかこうやって楽しんでいるのを聞くとまた挑戦したくなってくるわね。フランに頼んで貸してもらおうかしら」

「あとiPhone……流石に聞いたことないわね」

「大方外の世界の最新デバイスなんでしょ。幻想入りするのは十年か二十年後かしら」

「……早苗なら持ってるかもしれないし、今度聞いてみるか」

 

 幻想郷は暇である。故に見知らぬ単語に大きく反応してしまう少女達であった。

 

 #####

 

 

 四月二十七日

 

 

 昨日パソコンを弄ったせいかやたら昨日知った『iPhone』なるものが気になって香霖堂に行ってみた。

 そう言えば香霖堂に行くのは初めてなんだよね。

 詳しい場所は知らなかったからちょっと手間取った。魔法の森の中魔力で溢れてるから魔法で探しにくいしね。

 気の訓練しててよかったよ。気は発現してなくとも誰にでもあるものだから、それを頼りに香霖堂の店主と思われる気を辿ってみたら無事に着いた。

 香霖堂は『幻想郷では唯一、外の世界の道具も、妖怪の道具も、冥界の道具も、魔法の道具も扱う道具屋』らしい。

 早速入店してみると店主の森近霖之助さんが出迎えてくれた。

 

「……おや、新顔だね?」

 

 男の人だった。森近さんは白髪にゆったりとした着物を着た男性で眼鏡を掛けているのが特徴な人だ。正直言ってかなりイケメンな部類に入ると思う。世間一般からズレている私の感覚だから当てにならないかもだけど。

 自己紹介すると「あぁ、レミリアの妹かい」と返された。お姉様もよく店に来るらしい、そうなんだ意外。

 ともかく外の世界の道具が無いかと聞いてみるとあるらしい。早速見せてくれた。

 

「キミが求めているのは多分この辺りだと思うよ。コンピュータ、に似たものを集めたものだから」

 

 そこにあったのは見たことない器具ばかりだった。げーむってやつとか音楽再生ぷれいやーとか。香霖(こーりん)さん(そう呼べって言われた)曰く、彼の能力は物の名前と使い方が分かる力らしい。

 

「これは『ぴゅうた』というゲームだな。こっちは『ゲームボーイ』だ。これは『セガサターン』、あとこれは『ATARI2600』と『オデッセイ』。それから『セガ・マークⅢ』と……あといくつかソフトもあるけど見るかい?」

 

 うーん、なんとなく私が求めているのとは違う気がする。

 似た系列なのはなんとなく分かるけど。

 そう言うと香霖は手で頭を押さえて、

 

「ふむ、そうかい。悪いけど僕も名前と使い方しか分からないからね。なんとなくで並べてみたが……」

 

 いやでも近しいと思うよ? 多分だけど。

 その後も色々物色したけど私が求めているものは見つからなかった。

 で、帰ろうかなと思っていると魔理沙が香霖堂に現れた。

 

「よう香霖! 拾い物を売りに来たぜ! ってフランも居たのか」

「やあ魔理沙。そうか、それは助かる……ちゃんと売り物があればの話だが。で、何を持ってきたんだい?」

「ふっふーん、今回のは凄いぜ? なんか一杯あった」

 

 ガシャンと大風呂敷を置くと確かに沢山のものが詰まっていた。殆どが外のものだ。正直よく分からないものが多い。

 ゴチャゴチャと置かれた物を一つ一つ香霖がチェックしていく。大変そうだったので手伝うとお礼を言われた。

 それで大まかが終わって帰ろうとしたら呼び止められた。

 

「待ってくれ。手伝ってくれた分だ、何か一つ好きなものを持って行ってくれ」

 

 くれるというなら貰っておこう。

 何がいいかなー、と探しているとまだ仕分け終わってない魔理沙の持ってきたものの中に気になるものを見つけた。

 なんだろう。鞘に収まった剣だった。

 言うのもあれだけど私って女の子趣味ってやつだ。なのになんでかその剣が猛烈に気になって仕方なかった。

 惹かれたというべきか。まぁ別段決めたものは無かったのでその剣を貰って帰ることにした。

 品揃えも悪く無かったしまた来ようと思う。

 

 

 #####

 

「あの子、剣なんかもらってたの?」

「悪魔が魅入られる剣……か。何かしら。魔理沙、前にも草薙の剣を見つけて持っていってたらしいし伝説上のもの?」

「フラン、あの子レーヴァテインのスペルカード使ってるし案外本物のレーヴァテインだったりして――なんてあり得ないか」

「レミリア、流石にそれは無いでしょ。ここ日本よ? 馬鹿なの?」

「じょ、冗談よ!」

 

 そこそこマジで言ってたレミリアは動揺を隠すように声を荒げた。

 しかし二人は知らない。

 実はその剣がマジモンのレーヴァテインであることに――――!

 

 

 #####

 

 

 四月二十八日

 

 

 昨日貰った剣だけど、よく考えたらスペルカードルールのある幻想郷じゃ使わないし適当に空間魔法で空間作って放っておいた。

 まあかさ張るし邪魔だしね。触ったらやたら馴染むけど、あれ使ったら霊夢さんに退治されそうだからやめておこう。

 とりあえず今日はにとりさんのところに行った。

 パソコンの使い方をもっと詳しく教わりたかったのと、あと弄り方も知りたかったからだ。前に聞いた話は凄く面白かったし興味がある。

 で、行ったら運悪く丁度出掛けてたのか会えなかった。白狼天狗にも襲われたしチョー最悪だよ。というか白狼天狗は基本、帯刀してるんだよね。試しに空間魔法で放っといた剣を抜いたら物凄い火力が出た。

 私の中の炎魔法がブワッて燃え上がる感じ。ろくすっぽ力込めてないのに空の彼方に白狼天狗がぶっ飛んでいった。「もみじー!!」って周りの白狼天狗が叫んでた。流石にやり過ぎたので最近覚えた『瞬間移動』を使って空中でキャッチする。

 すると空で拍手された。

 

「へぇ、今の瞬間移動かい。やるねぇ」

 

 拍手してくれたのは洩矢諏訪子ちゃんっていう女の子だった。

 カエルみたいな神様で、和風っぽい感じだった。髪色は金髪だけどね。どうやら山の上の神様の一角らしい。楽しげに話す彼女の雰囲気はお祭りみたいなものを感じた。

 でも流石神様で、真面目な話になると冷静に答える。

 会話内容は多分私に対して「何をしに来たのか」を聞きたかったようだ。ちょっと友達に会いに来ただけだと説明すると、成る程と返される。

 

「へぇ、外の世界の技術に興味あるのかい」

「はい。パソコンを触ってみるととても楽しくて」

「ははぁ……。それなら今度私達の神社においでよ。実は私達比較的最近外から幻想郷に移り住んできててねぇ。こちらの文化にもまだ慣れてないしそれぞれ話をしないかい? 有意義な話になると思うけど」

 

 是非! 是非お願い! 外の世界の話聞きたい!

 そう言うと「りょーかい。じゃあまた今度ね。待ってるよ」とのこと。やったー! 色々聞くぞー!!

 

 

 #####

 

「早苗達のとこか……」

「あの奇跡を起こす巫女か。外から……私も少し気になるわ」

「まぁ確かにね。早苗達の家に行くとよくゲームするけど、やっぱ楽しいわよ。幻想郷に無い遊びだし」

「へぇ、私も行ってみようかしら」

 

 興味を示すレミリアに対し霊夢がひらひらと手を振る。

 

「ただ、反面異変とかの原因になったりもするけどね。地底とか」

 

 すると、

 

「また守矢か」

 

 とレミリアは特に深いことは考えず、ふと思い浮かんだ言葉を口にした。

 

 #####

 

 その頃。

 妖怪の山の頂上。その神社の縁側でうとうとしていた少女東風谷早苗(こちやさなえ)は、そこで眠たそうな(ひとみ)をクワァ!!!! と大きく見開いた。

 

「……私達が、問題児扱いされたような気がします!!」

 

 それは虫の知らせならぬ、奇跡の知らせであった。

 

 

 

 




折角ゲットされたのに空間魔法に放置されたレーヴァテインさんの明日はどっちだ。

今回出てきたネタ
・日光をシャットアウト(日焼け止めクリームもそうだけど最近あちこちの創作吸血鬼の弱点が防止出来るようになってるので)
・花嫁修行(一部の貴族は娘を教会などに預け修行させていた)
・レミサク(レミ×咲夜のカップリングを表した言葉)
・幻想入りしたゲーム機
オデッセイ(世界初のゲーム機)
ATARI2600(アメリカで大ヒットしたゲーム機、後にアタリショックを起こす)
ぴゅうた(タカラトミーより発売、ファミコンが出た頃のゲーム機)
ゲームボーイ(任天堂より発売、携帯ポケット型のゲーム機としての地位を確立。世界的シェアを誇った)
セガ・マークⅢ(ファミコンが出た二年後にセガより発売)
セガサターン(セガより発売、一時期はプレステと互角レベルで売れたハード)
・レーヴァテイン(神話の剣or炎、フランのスペルカードにもある。詳しくはググれ)
・また守矢か(守矢神社が原因の異変や問題が多く起きた為、幻想郷で何か起こるたびに使われるふれーず)
・クワァ!!! と大きく見開いた(新訳とある魔術の禁書目録二巻より)



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四月編END『親バカ二名』

 

 

 

 四月二十九日

 

 今日もパソコンで遊んだ。

 昨日からのパソコン意欲はまだ続いていた、というかやっててとても面白いんだよね。

 無料で出来る『オンラインゲーム』ってやつがあってアカウントを作ってやってみた。

 ゲーム名は『デーモンハンター』ってやつ。悪魔である私が悪魔を退治するってなんだこりゃって話だけどゲームだし良いよね。で、出来るだけ自分に似せたキャラクターを作り、ユーザーネームを『妹様』にしてゲームスタート。

 ……したんだけど最初はよく分からなかった。操作方法とか知らなかったし、何をすれば良いのかも分からないしで。

 でも、心優しいプレイヤーさんが助けてくれた。『いえっさ』さんって言うんだけど初心者な私に色々レクチャーしてくれた上にチームメンバーに誘ってくれた。

 それでそのチームに入ったよ。『ネトゲ聖人』、うん。凄い名前だね。というか私、聖人と対極にいるわけだけど。

 

 チームメンバーの人達も凄い優しくて色々教えてくれた。なんか皆やたら仏教とかキリスト教に詳しかったけど……うん、ネット知識って凄いね。

 最後には皆で珍しいキノコ集めをした。画面の向こう側とはいえワイワイ集まってプレイするって楽しいね。やり過ぎはいけないけど。

 というか仏教はともかくキリスト教……ま、別に敵視するわけじゃないけど過去に散々な目に遭わされたからあまり良い感情は無いなぁ。相手のことを知るって意味では聖典とか経典は読んだけど、あれ読むと頭が痛くなるんだよね。猛烈に。多分聖なるものは悪魔にダメージ与えるって考えで良いんだろうけど。

 

 まあともかく『ネトゲ聖人』の人達は皆良い人だしこれからも仲良くプレイ出来たら良いなぁ。

 

 

 

 #####

 

「オンラインゲーム……って確か沢山の人とプレイ出来るゲームって確か早苗が言ってたわね」

「へぇ、外の世界にはそんなものもあるのね。てっきり一人用しかないと思ってたわ」

「最近じゃ技術の進歩も凄いらしいわよ? 仮想現実っていう空中に映像を映す技術? もあるって早苗が言ってたわ」

「想像も付かないわ。いつかこの目で見てみたい……」

 

 呟いてレミリアは紅茶を口に含む。その言葉に霊夢も同調し、それからはたと話を変えた。

 

「ネトゲに話を戻すけどキリスト教に詳しいチームってそれ教会の人じゃない? 悪魔的にどう思うの?」

「教会の人間は嫌いよ。幻想郷に来る前は私達の屋敷に何度も吸血鬼ハンターや教会の人間が襲ってきたもの」

「ふぅん……にしても『いえっさ』って『イエス・キリスト』に似た名前よね。ま、似せた名前にしたんだろうけど」

 

 冗談めかして言った霊夢は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 四月三〇日

 

 

 紅魔館にお客さんが来た。

 前にも来た八雲藍(やくもらん)さん(私が見た中で最も大きなおもちの人)だ。横には(ちぇん)ちゃんも一緒だった。

 何をしに来たの、と尋ねるとどうやら橙ちゃんから私の事を聞いて、先日のお姉様の件も相まって私が橙ちゃんの友達として相応しいのか話に来たらしい。

 橙ちゃんに凄い謝られた。

「ゴメンねフランちゃん。藍しゃまがどうしてもって……」

 いや別に良いよ。むしろ先日のお姉様の件(放り投げたグングニルがあわや人里を壊滅させるところだった)を考えたら普通の対応だよ。

 で、じゃあ話しましょうかと部屋に案内しようとしたらなんかナイフ持った咲夜が現れた。

 

「あら妹様に何の用でしょうか賢者の式様」

「紅魔館のメイドか。なに、どうもそちらのフラン嬢とうちの橙が友達になったと聞いてな。先日の紅魔館の当主の件もあって人となりを確かめに来たまでだ」

「失礼かもしれませんが子供同士の関係に大人が介入するのは無粋では? ましてや人となりを調べに来たなど失礼千万でしょう」

「そちらこそただのメイドに過ぎない貴女が出しゃばるのは当主の妹君に失礼ではないのか? それに人となりを知ることに何の無礼がある? 円滑なコミュニケーションを図る為に必要なことだろう?」

「そうですか。では私もそちらの橙さんと話をさせてもらいましょう。なにせこのような育て親がいますから、妹様の友達として相応しいか見極めねばなりません」

 

 なんで喧嘩腰!? 咲夜どうしちゃったの!?

 と、思ってたら何となく理解する。互いのおもちの差を見て。

 ……あっ(察し)。

 いや勿論こんな私怨だけじゃないだろうけど。

 どうやら咲夜は内心怒っているらしい。口調は丁寧だけど内容が酷い。おおかた藍さんの物言いが琴線に触れたんだろうけど。

 

「……橙がフラン嬢の友達として相応しくないと?」

「お言葉を返すようですが妹様が橙さんの友達に相応しくないと?」

 

 バチバチ。なんか両者の間に電撃がはしっているようにみえた。

 なんか二人とも怖い。笑顔なのに物凄い威圧感。

 

「……どうやら橙さんから話を聞く前に貴女から話を聞かねばならないようですね」

「奇遇だな、丁度私もそう思っていたところだよ。是非有意義な話し合いにしようじゃないか」

 

 そう言って二人はどっかに行ってしまった。

 取り残されるのは橙ちゃんと私。二人して顔を見合わせて尋ねる。

 

「……どうする?」

「……どうしよう」

 

 本当にどうすればいいんだろうか。

 

 

 

 (次のページへ)

 

 

 

 結局、二人を止めるために私はお姉様。橙ちゃんは紫さんを連れてくる方向で話はまとまった。

 善は急げ、とお姉様の部屋に行くと鏡の前で変なポーズを取っているお姉様の姿を発見する。

 

「我が名はレミリア! 紅魔館随一のカリスマにして闇の眷属の王たる者! 刮目せよ――我が究極魔法の力を見せてやろう!

 光に覆われし漆黒よ、夜を纏いし爆炎よ、紅魔の名の(もと)に原初の崩壊を顕現せよ。エクスプロォージョン!! ってきゃあああっ!!? ふ、フラン!?」

「お姉様! その長々しいセリフと眼帯と魔法使い姿とか諸々は忘れてあげるからちょっと来て! いや拒否しても連れてく!!」

「ちょっと待って! 私、服着たまま……」

Shut your trap(静かにしろ)!」

「……ぅ、うー……そんな怖い声出さないでよ」

 

 若干の怒りを込めて言うとお姉様は小さく呟いてから黙り込んだ。

 僅かに怯えが見える。いくら恥ずかしいシーン見られたからって怯えないでよ、闇を統べし吸血鬼の王なんでしょ?

 それで簡単に訳を話しながら連れて行くと橙ちゃんも戻ってくる。どうやら彼女は紫さんの力であるスキマを僅かに扱えるらしい。その力で八雲紫を連れてきたとのこと。

 

「……はぁ、藍。もう、頭が痛いわ。色々な意味で」

 

 こういう時に言うのもあれだけど大人な美人さんが悩む姿は映える。ついついお姉様と比べてしまうけどやっぱり頼りになるなぁ。

 私のお姉様は鏡の前で変なコスプレっぽいのをして妙に長くて中二なセリフを吐いた上に妹に怯える始末だからなぁ……。

 

「八雲紫、貴女はもう話は聞いたんでしょ? さっさと互いの従者を止めるわよ」

「えぇ。そうするけれど、貴女その服装は……」

「い、イメチェンよ! ……それ以外に他意はないわ」

 

 あくまで冷静を装って(装いきれてないけど)お姉様は答えた。

 ふーん、と八雲さんは呟いてから小声で、

 

「エクスプロォージョン☆」

「………………………、(真っ赤)」

 

 あ、お姉様の顔が人間でいうところの「神は死んだ」って感じの顔になった。ついで頬がリンゴみたいに真っ赤に染まる。

 それから肩をプルプル震わせ始めた。口もパクパクして今にも泣きそうな感じになっている。

 っていうか見てたんだね。多分スキマからかな? 便利だけどそれはお姉様に対して致命傷だった。あと前に泣かされたのも尾を引いてたんだろう。

 

「我が名はレミリア! 闇を統べし吸血鬼の王たる者☆」

「…………ぅ、」

「可愛かったわよ、本当に」

 

 それが限界点だった。

 

「ぅ、うわあああああああ!! さくやーーっ!!」

「お嬢様! ……よくもやってくれましたね?」

 

 泣き声上げて咲夜を呼び、胸に飛び込んでくるお姉様を受け止めた彼女は八雲紫を見てそう言った。しかし八雲さんはそちらを見ることなく私を見て言う。

 

「妹ちゃん。良いことを教えてあげるわ、例え止めるという名目で集まっても協力するとは限らないのよ? そこらへん貴女ならお分かり頂けると思うけれど……」

「お姉様が咲夜を呼べば彼女はこちらに来る。その時点で藍さんとは離れることになり、物事が素早く解決した……成る程。お姉様が辱められた事に関しては幾つか言いたいこともあるけど呑み込んでおくよ? 紫さん」

「あら、敬語は崩すのね」

「精一杯の強がりと思ってよ、紅魔館としての。物事は片付いても当主が泣かされた事実は消えないからね」

 

 ふぅん、と八雲さ――――紫さんは満足そうに頷いた。

 

「貴女とは良い関係で居たいわ。藍はこちらで宥めておくわ、これからも橙をよろしくね?」

「うん、分かってるよ」

 

 それで紫さん達は帰って行った。

 美人さんだとかそのあたりの感情が今回の件で全て吹っ飛んだよ。あのやり口、私は好きじゃないな。私もよく似たような感じでお姉様を辱めたりするけど、あれは身内の遊びのようなものだ。でも紫のは違う。それを外交手段として使っている。

 当主が泣かされたというのは互いの勢力間でどちらの当主が上か下かを示す材料になりうる。

 昔ならいざ知らず現代でそんなことを気にすることはあまりないけれど――認識を改めなきゃいけないらしい。

 幻想郷は全てを受け入れる――それはそれは残酷な話ですわ。

 ――その意味が分かった気がした。

 

 

 #####

 

「……………………、」

「…………うん」

 

 黙り込んだレミリアとその肩をポンと叩く霊夢がいた。

 

「………………、ぅ」

「……こういうのもあれだけど。案外可愛いと思うわよ、エクスプロォージョンって。それに妙にシリアスやってるけど基本紫が言うことは胡散臭いから真に受けてたらキリが無いからね?」

 

 ポンポンと肩をたたきながら霊夢は言う。

 

「あと眼帯とか――よく分からないけどすごーくかっこいいと思うわよ? いっそ意外な一面って感じで皆に広めて……」

「う、うわああああああ!!!!」

「れ、レミリア!?」

「もうやだ! 死んでやるうううううッッ!!」

 

 その後発狂したレミリアを宥めるのに三十分かかった。

 

 

 

 




 「お知らせ」
 次から始まる五月編の前に閑話入れます。
 いつもより文量少なめですけどキリよく始めたいので。

今回出てきたネタ
・デーモンハンター、いえっさ。
(聖☆おにいさんより。イエス・キリストがプレイしているゲーム。いえっさは彼のユーザーネームでネトゲ聖人は聖書にも残るような聖人達が加入しているチーム)
・我が名はレミリア!(この素晴らしい世界に祝福を! よりめぐみんの詠唱)
・よく分からないけどすごーく(Re:ゼロから始める異世界生活より、エミリアの口癖)


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閑話

 

 

 

 三十分後。

 残酷な程の黒歴史を前に暴れだしたレミリアを宥め、ようやく落ち着いた霊夢は改めて咲夜に紅茶をもらい、口に含んでいた。

 ――とりあえず四月分の日記は読み終えた。少々、というか所々描かれていたレミリアの黒歴史はともかく内容はかなり充実していたのではないだろうかと彼女は思う。

 自発的に行動を起こし、一つ一つこなしていた事実を読んでいると不思議と気分も良い。主人公が強くなるストーリーを読んでいる感覚というべきか。

 ともあれ、一息吐いた霊夢はレミリアの顔色を伺い尋ねる。

 

「次のページから五月か……、レミリア大丈夫? 読めそう?」

「……大丈夫よ。ひじょーに、ひっじょーに不本意な内容が書かれていたけれどいつまでも過去を引きずる私じゃないわ」

 

 その姿は過去を乗り越えたというより開き直ったような気もしたが霊夢は突っ込まない。下手に突っ込めばまた宥めるコース逆戻りなのだから。

 

「……それに私も読んでいて楽しいのよ。ほら、私はフランの成長を知らなかったから。だからこそ一ページ一ページ、読んでいくたびにあの子のことを理解していけているような気がするの」

「……そう」

 

 そこで少し言葉を切り、霊夢は椅子に深く座りなおす。

「にしても中身、濃いわよね。一ヶ月間イベント目白押しじゃない」

「そうね……。――あの子が楽しそうで何よりだわ」

 

 レミリアが答えると霊夢が懐疑的な笑みを向ける。

 

「あら、さっきまで下剋上云々言ってた気持ちも変わってきたの? まぁそれに越したことはないけれど」

「あ……いやその、私はお姉様だもの。他の誰でもない妹だし信じてみようかなって思い直しただけよ」

「そこは普通に日記の内容読んで心変わりしたって認めときなさいよ」

「………………」

 

 冗談交じりに発した霊夢の言葉に対し考え込むようにレミリアは下を向いた。数秒間、静寂が二人を包む。やがて溜息を吐いて霊夢がひらひらと手を振って言った。

 

「なんにせよ、あの子を大事にしなさいよ」

 

 やれやれとそんな態度で述べた彼女の言にレミリアは「あぁ」と呟いてから新たに注がれた紅茶の香りを嗅ぐ。茶葉は『ファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコ』で心安らぐ香りが鼻腔をくすぐった。心を落ち着けながら熱い液体を一口啜り、レミリアはホッと息を吐く。

 ――やはり咲夜の紅茶は格別だ。

 あれ程波立っていた心が一口飲んだだけで自然と収まっていた。やはり彼女は有能だ――咲夜は自分が一番欲しいものを一番欲しい時にくれる。

 咲夜は――所々幼い面を見せてしまうレミリアをまるで母親のように気遣ってくれる。それは偏に彼女がレミリアとフランを心酔しているに他ならないが、反対的にレミリアも彼女が好きだ。

 ――でもそれ以上に。

 だって、他ならぬ妹だ。本当の、たった一人の家族だ。先程は簡単に頷いたがレミリアの心中は複雑であった。

 下剋上だなんだと騒いでいただけに、そして心の奥でまだ懐疑的な思いを抱えている自分自身の弱さに彼女は悩む。

 けれど彼女は暗愚ではない。どんな思いを抱えていようとも正しいことと正しくないことの区別はついた。

 

「……さっきは、ごめん」

「はあ? 何が?」

 

 と、返されるのは予想していたのですぐに続ける。

 

「……黒歴史を掘り起こされたからって、暴れたことよ」

「あ、……あぁ。つかあれは変にシリアス入ってる場面だとむしろありがたいんだけど」

 

 ゴクリと紅茶を飲み、あちっ! と顔をしかめてから霊夢は視線を投げかけてきた。

 

「……かなり。というかすごーく珍しい、わよね? アンタがそうやって謝るの」

「非があれば謝るのは当たり前のことよ、王だからといってそれは変わらないわ」

 

 そこでしばらく会話が途切れた。

 互いに話す材料がなくなった為だ。

 その為二人は暫しの間静かなお茶会を過ごし始める。

 ……とても静かなお茶会だ。空気を読まずにツッコミをする霊夢も今回は変な反応を見せない。対してレミリアも落ち着いたとはいえまだ黒歴史の余波が残っているのか口を開くことはなかった。

 

 このままお茶会が終わってしまうのだろうか。

 

 否、断じて否である。

 ――それは突然の出来事だった。

 

「ーーーーぁぁぁあああああっっ!!」

 

 ガシャン! と勢いよく音を立てて何かが紅魔館の窓を突き破り落ちてきたのだ!!

 

「うわっ!?」

「ひゃあっ!?」

 突然の訪問者(仮)に二人は体全体を震わせて驚いた。

 いや、だって当たり前だ。いきなり窓を突き破って何かが落ちてくるなんておかしい。

 落ちてきた何かは紅魔館の窓を突き破ると、ちょうどレミリアのベッドの上に着地した。超高級ベッドの柔らかさと耐久は尋常ではない。落ちてきた人物はボンッ! と勢いよくベッドの上で跳ね上がり、ふぎゅ!! と天井にぶつかって止まる。

 そしてベッドの上に着地した訪問者を見て二人は目を丸くした。

 

「……早苗?」

「確か、妖怪の山の風祝(かぜはふり)

「きゅうう……」

 

 ポケモンの戦闘不能状態の目、というか目をグルグルにした早苗がそこに倒れていた。

 頭の上に星がくるくる回っていた彼女は数秒後、ハッ! と目を覚ますと起き上がった。

 

「うわっ! 動いた」

()……えっとここは紅魔館ですか? うわー、妖怪の山からここまで飛ばされて来たのかぁ」

「え? ちょ、ちょっと早苗。何があったのよ?」

 

 物言いから何か訳ありと判断した霊夢が尋ねると早苗は「あ、はい。説明します」と頷く。

 

「なんていうか。さっき神風というか物凄い竜巻みたいな突風が起こりまして……恥ずかしながら巻き込まれて気付いたらここにいた次第です。多分私の奇跡の力が起こしたものなんですけど、自分が巻き込まれてちゃ世話ないって話ですよね。ま、妖怪の山からここまで飛ばされて無傷なのは『奇跡』でしたよ」

 

 …………よく分からない。

 とりあえず奇跡の力で来たのは納得した二人だが、その時風祝――守矢神社の巫女、東風谷早苗(こちやさなえ)が何かに気付いたようにフランの日記を手に取った。

 

「あら、これなんですか?」

「あぁそれはフランの日記よ。偶々落としたのを見つけて二人で読んでたの」

「……ははぁ、成る程。つまり……そうか。私がここに来た理由が分かりましたよ」

「……さっきから話に脈絡も理解も出来ないけど何かしら。その理由というのは?」

 

 頭が痛そうにレミリアが尋ねる。

 すると早苗がえっとですね、と前置きして。

 

「多分ですけど、私の奇跡の力が『この本を読むのに加わるべき』と判断して自動発動されたんだと思います。何故私なのかは恐らく紅魔館に突然現れても不自然じゃなかったからかと」

「??? さっぱり分からないけど」

「窓を割るという意味だと魔理沙さんも良かったと思うんですけど、今回私が選ばれたのは恐らくツッコミ役ですね。フランちゃんの日記でしたらよく一緒にゲームやったりしますし外の世界の技術のことも多く書いてあると思いますし。そこで外に詳しい私がツッコミに参戦出来るように奇跡が配慮したのかと……」

「いや、誰に配慮してんのよ?」

「………………」

 

 そこで黙り込んだ早苗に霊夢が突っ込む。

 

「おーい、早苗〜。黙らず答えなさい?」

「……幻想郷では常識に囚われてはいけないのです、よ?」

「いや、誤魔化しきれてないから!」

「あーもう! ともかくお二人だと変にシリアス入るし百パーセントのボケとツッコミそして場を盛り上げる奇跡を起こせる私が選ばれたのですよ! なんか奇跡がそう言ってます!」

「なんでも奇跡、奇跡言ってたら何とかなるわけじゃないわよ! ただのゴリ押しか! それしかアンタにアイデンティティー無いのか!? つか巫女とか私とキャラ被ってんのよ!」

「いや、キャラは私が巨乳で霊夢さんが普通って分かれて」

「黙れ二Pカラー! ルイージカラーの癖にマリオに勝てると思うな!」

「……あの、なんで私こんな怒られてるんですか?」

 

 度重なるツッコミにゼーゼーハーハーと霊夢が肩で息をする。

 早苗も微妙な顔つきだ。どうしたらいいんだろう、と腕を組むとぷにゅん、とその大きなおもちが強調された。

 

「…………、」

「…………、」

「…………、」

 

 色んな意味で三者は黙り込む。

 早苗はどうしたらいいんだろう、とあわあわし。

 霊夢はその巨大なおもちが強調された姿に闘志を剥き出しにし。

 レミリアはもはや蚊帳の外であった。

 三者三様。これほど酷い三者三様も中々無いが、暫く黙り込んでいた三名はやがて座り込む。

 

「……なんか、これやってても意味無い気がする」

「……奇遇ですね。私もそう思います」

「巫女二人、馬鹿騒ぎは終わったかしら? そろそろ続きを読もうかと思うんだけど……」

「もう面倒だからそうしましょ。はいはい奇跡奇跡」

「私の能力をそんなぞんざいに言うのやめてくださいよ……」

 

 何はともあれ。

 理不尽というか来た方法に意味も理解も出来ないが、早苗が加入し三名となった『覗き隊』はフランドールの日記、五月編に突入する――――。

 

 

 

 







雑だけどゲーム機やらのツッコミ欲しかったので加入。
役割は大体今回の内容みたいな立ち位置です。


今回出てきたネタ
・ファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコ
最高級品の茶葉、『ゲームセンター東方IN月』より。
・奇跡(早苗さんの奇跡は二次創作では基本ご都合主義)
 今後も無茶苦茶な奇跡が起きる模様。
・幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!(早苗さんの名言、詳しくはググれ)
・二Pカラー(風神録で早苗さんが追加された時によくネタにされた)
・マリオとルイージ(世界的有名な配管工。安倍マリオには驚いた)


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五月編
五月編1『転入生の挨拶は地獄』


 


 五月編スタートじゃい!


 


 

 

 

 東風谷早苗の加入というイベントを挟み、三人は改めてフランの日記を覗き込んだ。

 

「じゃあ小休止も挟んだしそろそろ次を読む?」

「いや、霊夢さん。そもそもいつから始まってるんですか? その日記」

「ん、あぁ。去年の四月からよ。ちょうど早苗が来たのがその四月を読み終わったとこ」

「成る程。了解しました!」

「……どうでもいいけど始めるわよ。まったく、そもそも霊夢にだって妹の日記を読ませたくないんだけどね」

 

 ぶつくさと。巫女二人の会話が途切れる瞬間を狙って呟いたレミリアは五月のページを開く――――。

 

 

 

 五月一日

 

 

 今日から五月だ。なんだかんだ日記も一月続いたお陰で習慣付いてきたような気がする。

 で、そんなことはともかくだ。今日、なんかめーりんから『教科書』を渡された。前に五月から寺子屋に入るとか言ってたけどどうやら本気だったようだ。

 寺子屋があるのは人里。そこの上白沢慧音(かみしらさわけいね)って人が教師をしているらしい。

 寺子屋は週に三回で、月水金の午前中だけあるとか。私は妖怪の子供達が通うクラスに入るらしいが、人間の子供も同じ寺子屋内にいるので力の出し方には気を付けなくてはならない。まぁ最悪封印すればいいけど。

 っていうか明日が月曜日だよね。挨拶とかどうしよう。うう……今から凄い緊張する……!

 

 

 

 #####

 

「寺子屋ですかぁ。慧音先生の所には私もたまに行きますよ。というか臨時教師もやってます」

「え? アンタ教師やってたの?」

「はい! これでも外の世界で高度教育を受けていますし教科書も持ってきていますから。それに私なら人間でも妖怪でも問題無く対応出来ますし」

「……人は見かけによらないわね」

 

 霊夢が呟くとレミリアが頭をもたげて言う。

 

「……本当にね。まさか窓ガラスを破って侵入する人間がフランの教師だなんて」

「竜巻に巻き込まれたんだから仕方ないじゃないですか! しかも若干罪悪感をもってる私的にその言葉は大ダメージですよ! というか教師は真面目にやってます!」

「そういえば、一時期子供達の間で幻想郷では常識に囚われてはいけないのですねって言葉が流行ったって……」

「………………」

「………………」

「………………」

「……続き、読んでいい?」

「いや、スルーしないで下さいよ! なんですかその可哀想な人を見る目! どうせなら『やっぱり駄目じゃないか!』ってツッコミ入れてくださいよ! じゃなきゃボケられないんですよ空気的にィッ!!」

「うん、そうね。その話は今度慧音と詳しくするから……」

「それ完全に私が教師解雇される感じですよね!? いや、本当にちょっとネタとして言ってみただけですから!! 真顔でそんなこと言ってませんから!」

「――――強く生きろよ?」

「何が!? あとその『可哀想だけどこれから捌かれる運命なのね』みたいな顔しないでください! ドナドナ歌いますよ!?」

「……あの、そろそろ良いかしら? 続きを読みたいのだけど」

 

 流石に長くなってきたのでレミリアが割って入ると、尚も早苗は心配そうな顔で言う。

 

「え、あ……あの? 本当に慧音先生に話したりとかしないですよね?」

「…………」

「……え、いやその沈黙怖いんですけど」

「……あーもうはいはい。分かったわよ、冗談だからサッサと次いきましょ。これ以上待たせるとレミリアがキレるから」

「いや、私をダシにしているけれどそこまで短気ではないわよ?」

 

 何はともあれ一行は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 五月二日

 

 

 うわあああ。やっちゃったーー!!

 妖怪クラスだけじゃなくて人間クラスにも挨拶したんだけど、完全に失敗した気がする。

 一人対一人なら対話できる私も、大人数の前で平静を装うことは出来なくて、顔も真っ赤になってた。

 恥ずかしくて下向いちゃったし、昨日考えた挨拶もカミカミだったし。幸い、妖怪クラスの子には友達が多いからなんとかなりそうだけど人間クラスの方は悲惨だよ……。

 なんかやたら見られたし、やっちゃったー……。

 始まって初日だけどなんかもう寺子屋に行きたくない……。

 

 

 #####

 

「挨拶ねえ……普通に出来そうなものだけど」

「いや、意外にこういうのってあるあるなんですよ。ほら、人間関係って最初が肝心ですからフランちゃんのような転校生、というか転入生にとってはとても緊張すると思います」

「対人関係……まあ日記からは想像し辛いけどフランは元々地下に引きこもっていたから……仕方ないのかもしれないけど」

「コミュ障っていうんだっけ? 人と話すの苦手って。なんにせよ私には分からない感覚ね」

「ま、まぁフランちゃんの容姿を考えれば挨拶が失敗しても大丈夫でしょう。友達も居るって書いてありましたし」

「そりゃあ私の妹だもの。今じゃ里でファンクラブが出来ているくらいよ……私にはないのに」

「あの子は種族関係なく接するから人気あるのよね……もし宗教でも起こしたら、下手すれば私のとこと早苗のとこより人気でるんじゃない?」

 

 #####

 

 

 五月三日

 

 

 未だ昨日のショックが抜けきれてないフランです。

 いや、うん。自分でもビックリなんだよ。あんなに上がり症だと思わなかった。それこそコミュニケーショントレーニングをするべきかもしれないと思う。

 なんでだろうね、人前で猫耳メイド服晒せるのにいざ喋ろうとしたら声が出ないって。

 今日、偶々紅魔館に遊びに来てた魔理沙に聞いてみると「それ治せそうなやつに何人か心当たりあるけど会うか?」との返答が返ってきた。

 うん、情けないけどお願いしたい。

 

「じゃあ今度一緒にソイツのとこ行くか。ソイツで駄目なら別のやつにもアテあるしこの魔理沙様に任せとけ!」

 

 ――本当に頼りにしてるからよろしくお願いします!

 ……にしても魔理沙と何処かに行くのも初めてだよね。治療目的とはいえ友達と遊びに行くの初めてだし、楽しみだなぁ。

 

 

 #####

 

 

「コミュ障を治す……か」

「そういえば魔理沙さんってコミュ力凄いですよね。前にご一緒した時は沢山の人が魔理沙さんに挨拶してました」

「……なら人を頼らなくとも魔理沙が治せばいいんじゃないかしら、と私は思うのだけれど」

「いやレミリアさん。それは難しいと思いますよ?」

「何故かしら?」

「だってフランちゃんは既に魔理沙さんと友達じゃないですか。コミュ障といったって友達相手には起こりませんよ。それよりなら初対面の人と話をさせた方が治りやすいと思います」

「……(汗)。ふむ、一理あるわね」

「いや、普通に早苗の方が正論だからね? 認めとけば良いのに誤魔化した分だけアンタのカリスマ落ちてるからね?」

「ふ、ふん! 愚民の意見など私は聞かないわ!」

「誰が愚民よ。博麗の巫女を愚民呼ばわりとは偉くなったわねぇ?」

「あー、あー!! 喧嘩腰にならない! ほらっ、次のページを読みますよ!」

 

 慌てたように言って早苗はページをめくった。

 

 #####

 

 

 五月四日

 

 

 そういえば最近『こいのぼり』をよく見る。明日が子供の日だからか。

 ってそれはともかくだよ! 今日は二回目の寺子屋だった。

 登校中もやけに人の注目を浴びた気がするけど無視無視! 今日頑張って失敗した分を取り戻すのだ!

 そんな気持ちで参加した、ついでに前回触れなかった授業なんだけど。

 

「――というわけだ。じゃあこの問題が分かる子はいるか?」

「はい!」

「はい、チルノ」

「分かんない!」

「よーし、手は答えが分かった時だけあげような?」

「はい!」

「zzZ」

「zzZ」

「zzZ」

 

 うん、酷いね。いや、色んな意味で。

 起きている子が少数だったよ。そして起きている子は問題児が目立ってたよ。

 問題内容は大して難しくはない。あらゆる魔法学を読み漁った私は当然ながら計算なども出来るわけでハッキリ言って算数とかは大したレベルではない。多少小難しい教え方をしていようと知っているので理解出来る。

 というか最近はめーりんが修行と称して勉強を教えてくれてたし、大体の範囲はカバーしきれていたわけだ。

 むしろ有り余るレベルで。勉強になったと思うのは歴史の授業だけだった。やけに堅苦しいものだけど少なからず私にとってはそれくらいの方が楽しかったよ。

 と、そうだ。先生について書くのを忘れてた。

 私の担任の先生――上白沢慧音(かみしらさわけいね)先生というんだけど、初対面の時はビックリしたね。身長は低いけどすばらなおもちをお持ちだった。

 得意授業は歴史。うん、すばら! 

 それに周りからも思ったより変な目で見られてないしなんとかなりそうだ。まぁ魔理沙レベルのコミュ力は身につけたいからどちらにせよそのアテの人物には会いに行くけどね?

 

 

 #####

 

「そうなんですよね。フランちゃん頭が良いので私が個人授業することもあるんですよ。内容も中学生超えて今高校の理系レベルやってます……私もある程度頭良い自負はあったのですが最近は厳しいですね。流石に大学の専門レベルまでは指導出来ませんし……」

「中学? 高校?」

「あぁ、中学と高校は外の世界の寺子屋のようなものです。外の世界の子供達は小学校、中学校、高校、大学と進学するんですよ。で、その中で高校レベルというと大体社会で使う一般常識レベルを理解した程度――理系だとその中でも頭が良い部類と言われます。まあ、文系でも頭が良い人はいますし例外もありますけど」

「……ちなみに聞きたいのだけれど、貴女の目から見てフランはどんな感じかしら?」

「いや、凄いと思いますよ? 今やってるのがネットから印刷した京都大学の入試問題なんですけど普通に解けるようになってますし。入試レベルでいったら東大より上とも言われてる学校ですし、正直教えてる私も手探りな感じです。これでもバイトで塾の講師はやっていたんですが……流石にここまで来るとキツイですね。幸い、『奇跡』の力で答えは頭に浮かぶのですが」

「いや、その京都大学ってとこの学力がどのくらいなのよ」

「日本全国でもトップレベルです。入試レベルを言えばナンバーワンかも……ってくらいかな?」

「……凄いわね。どう思うのお姉様としては」

「さ、流石私の妹ね」

「……声が震えてるわよ?」

「う、うるさい黙れ」

 

(……これは完全に妹さんの方が知識はある気がしますねー。なんか奇跡がそう言ってます)

 

 今度こっそりレミリアさんに勉強教えに来ようかな? とちょっと考えてしまう早苗だった。

 

 






今回出てきたネタ
・早苗さん頭良い説(幻想郷内で勉強って意味じゃありだと思う)
・強く生きろよ(Re:ゼロから始める異世界生活より)
・可哀想だけどこれから捌かれる運命なのね(養豚場の豚を見る目)
・ドナドナ(歌。詳しくはググれ)
・愚民(ダンガンロンパ、十神白夜より)
・すばら! おもち(咲-Saki-より)
・京大の入試(AAネタより)詳しくは↓

よく分かる入試

東大「一見簡単だろう?でも案外君達分かってないんだなー、これが」
一橋「マニアックだけどおまえ等なら出来るだろ」
早稲田「教科書の細かいところまでちゃんと読んでるかな?」
慶應「取るべきところだけしっかり得点しなさい」
筑波「基本が出来てるかな?」
京大「死ね」

ちなみに現実で本当にどうかというのは知らない模様。
 


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五月編2『福本とマイナスと』

 

 

 

 五月五日

 

 今日はこどもの日だ。

 紅魔館でもめーりんが気合い入れてこいのぼりを上げていた。

 どうやらこどもの日は元々『厄払い』の日らしく発祥は中国らしい。どういうことか詳しく聞いてみると、

 

「かつての中国の旧暦五月といえば病気が流行って亡くなる人が多かった月なんですよ。その時、人々は菖蒲(しょうぶ)を門に刺したりして厄払いしていたんです。最近では男の子のお祭りとも言われていますが、その由来は菖蒲の切っ先が剣に似ているから――と言われていますね」

 

 という説明が返ってきた。

 じゃあなんでこいのぼりを上げるの? って尋ねたら、

 

(こい)が滝登りをしたら龍に化ける――って話を聞いたことありませんか? 黄河の龍門という流れの速いところを登りきる話なのですが……、あれは立身出世という願いが込められているのですよ」

 

 それは聞いたことがあった。

 鯉が龍に化ける。一般層に例えるなら例え生まれが悪くとも将来立身出世し生きて欲しいと子を願う気持ちがそんな習慣を生んだのだろう――とめーりんは説明した。

 成る程……そんな背景があったんだね。勉強になったよ。

 

 で、こいのぼり上げの手伝いを終えてから屋敷に戻って、今度は咲夜と一緒に柏餅を作った。

 料理は何度かお手伝いしてるしそこそこ慣れてきたんじゃないかな? 餡子(あんこ)を丸めたりして楽しかったよ。

 生地を作るのにちょっと手間取ったけど、まあそこはご愛嬌。

 出来たのも美味しかったし成功だったと思う。

 

 #####

 

 

「端午の節句ですか、楽しそうですねぇ。コイは……私としてはGOやった時に飴が四〇〇個必要だったので今はいい気はしませんが」

「……Go? あ、まあ紅魔館は季節のイベントをキチンとやるように命じているから、お陰でイベントのある日は充実してて楽しいわよ?」

「いやレミリア。アンタ何もしてないじゃない」

 

 霊夢の正論にうぐっ、とレミリアが口の端を歪める。

 

「と、当主は命じて踏ん反り返ってればいいのよ」

「えー? どうせなら一緒にやったほうが面白いと思いますよ? 私もお料理作るの好きですし」

「……私の料理を振る舞うにしては題材のレベルが低すぎるのよ」

「いやアンタ料理出来ないでしょうが」

「………………」

 

 霊夢の正論のナイフその二である。

 反論出来ずレミリアは黙り込んだ。

 

「え、あー! えっと、レミリアさん。今度私がお教えしましょうか?」

「………………、」

「あ、あのそんなに気落ちしないでください。最近は『主夫』って言って男の人が家事をやっても不思議ではない世の中になってますから」

「別にそんな未来まで気にしてないわよ! 結婚なんてあと一五〇〇年は早いわ」

「で、でも出来たことに越したことはありませんよ?」

「いらないわ。紅魔の王に、そんなものは不必要――――!」

 

 と、そこで霊夢が最後の『言の葉(コトバ)』を言い放つ。

 

「自分でお菓子を作れたらツマミ食いせずともいつでも食べられるのに?」

「………………、ぁ」

 

 その時のレミリアの顔は何とも言い難いものだった。

 四月編でチラリと出てきた黒歴史を掘り返され顔が真っ赤になると同時に、怒りを感じているように肩を震わせる。

 だがしかし。

 

 その時、レミリアに電流はしる――――!!

 

(この言葉、私の運命が言ってるーーこれは天啓だと……っ!!)

 

 それは圧倒的革命……っ!

 神をも恐れぬ悪魔の所業……っ!

 それが出来れば咲夜が指定する量のおやつなど関係無い……っ!

 好きな時に好きなものを好きなだけ食べられる……っ!

 しかしこの選択はレミリアにとって究極の二択であった……!

 

(料理を教わりたいと懇願する……! それは私が料理を出来ないことを完全に認めてしまう最後の鍵……っ!)

 

 認めればレミリアのカリスマにヒビが入る……!

 小さなヒビでも一度壊れたものは元に戻らない……っ!

 甘味という欲望かカリスマという尊厳(プライド)を守るか……っ!

 究極の選択……! それはレミリアにとって究極の選択……っ!

 

 一方、

 

「あの、レミリアさんの鼻と顎が急に尖り始めたんですけど……」

「しょうもないことで悩んでるって巫女の勘が言ってるし、放置でいいんじゃない?」

「いや、でも仮にも女の子が福本作品に出てきそうな顔になってるのを止めないのは可哀想なんですけど……」

「黙っておくのが一番の優しさだから置いときなさい。ほら、次のページ読むわよ」

「そうですね、分かりました!」

 

 巫女二人、意外にもレミリアを放置。

 

 #####

 

 

 五月六日

 

 金曜日。今日寺子屋行ったら土日休みだ。

 寺子屋の授業は面白いし、最初失敗した割に大分周りにも馴染めた感じがする。

 あと人間クラスの方でも何人かと話すことが出来た。意外にも好意的に接してくれて助かる。ただ男の子達にやたら見られるんだよね。

 羽が気になるのかな? ほら、私の羽吸血鬼らしくなくて宝石みたいになってるから。

 私は結構お気に入りなんだけどなぁ。なんというかお姉様の羽、言っちゃ悪いけど見た目がデカい蝙蝠(こうもり)だし。

 それよりなら私の羽のほうが可愛いからさ。

 あ、そうそう。チルノちゃん達以外の友達も出来たよ。

 メディスンちゃんって子。幽香さんの住む場所の近くに住んでいて私のことを聞いてたんだって。人形みたいに可愛い子だった。

 話してみるととっても花に詳しくて談義が盛り上がった。

 メディスンちゃんも花畑を持っているらしい。今度見せてもらう約束をした。

 

 

 #####

 

 

「メディスンか。確かあいつが育ててるのって……」

「スーさん、鈴蘭ですよね。どう森で環境がサイコーになると生えてくる花です」

「どう森ってのはともかく……あいつが人里に? 確かあいつ人間を憎んでいたような」

「幽香さんと仲良いって話ですし彼女がなんとかしたんじゃないですか? ほら、あの人とても優しい人ですし」

「……えっ? いや早苗、幽香が優しい?」

「えっ? 凄く優しい人じゃないですか、私も花は育ててるので時折話すときはとても勉強になりますよ。それに丁寧に教えてくれますし」

「……アンタもあっち側(フランのタイプ)か」

「???」

 

 まるで分かってない様子の早苗を見て霊夢は、多分これも奇跡のチカラってやつよねー、とか思いつつこの話をやめることに決めた。

 一方、

 

(どうすれば……どうすればいい……っ! 選択は一度きり、失敗は許されない……っ! 好きなだけ食べるお菓子が欲しい……がプライドも捨てられない私は……っ!!)

 

 まだ、レミリアは悩んでいた。

 

 #####

 

 

 五月七日

 

 

 そういえば書いてないけどちゃんと修行はやっている。

 最近は太陽拳って技を覚えた。額から太陽のような眩い光を放つ目くらましの技だ。とはいえ吸血鬼にとってはこれ天敵といってもいい技なので使わないけど。

 あとはドラゴン波ってのも覚えた。気を貯めて一気にぶっ放す技だ。レーザービームみたいな感じだけど、使い勝手は良い。今度弾幕に混ぜてみよう。あとはちょっとした超能力を今勉強中だ。

 超能力。

 それは主にテレパシー、透視、予知、地獄耳、サイコキネシス、テレキネシス、サイコメトリー、瞬間移動、念写、パイロキネシス、記憶操作を指す言葉である。

 めーりんは過去に超能力使いと会ったことがあり、ある程度の修行方法を知っているらしい、とりあえず今出来るのは瞬間移動とパイロキネシスだけだが頑張って増やせればと思う。

 

 で、ここまでが前置きとして。

 今日は前に魔理沙が言ってた『コミュ障』を治すための心当たりがある人の元へ行くことになった。

 魔理沙の話だとどうやらその人は『地底』に居るらしい。

 地底というのはいわゆる旧地獄というところで、過去に罪を犯したり余りに強力だったことから封印された妖怪が数多く住むと呼ばれる場所だ。

 主に鬼などがそれに当たるらしいが、彼女はその中でも『殺す気』ならば世界を滅ぼすことすら可能である力を持つという。

 どんな人なのか正直怖い。

 とりあえず今日はまだ会えないらしく、魔理沙曰く「地底で一泊しようぜ」とのことだった。

 お姉様の許可を取るのが大変だったらしいけど私の知らないところで事前に弾幕ごっこで認めさせていたらしい。意外にも普通に見送られて私は地底に行くことになった。

 

 で、地底に行ったんだけど縦穴すごいね。

 行くルートとして私達は博麗神社にある地底に繋がる穴から降りてったんだけど、かなり下までいったんじゃないかな?

 で、ようやく地面に降り立ち、吊り橋を通りかかったところで声をかけられた。

 

『あら』『地底に何の用?』

「よぉパルスィ、ちょっと野暮用でな」

 

 声をかけてきたのは水橋パルスィさんという人で目に色がないーーけれど何処にでも居るように思えるような、そんな不思議な雰囲気の人だった。

 

『それにしたって』『お客さん連れとは珍しい』

 

 くるりくるりと私を見て彼女は言った。

 なんだか括弧付けてるような言い回しだった。

 

「まぁなんにしてもこっから先に用があるから通らせてくれよ。見てわかる通りコイツ――フランも妖怪だし問題無いだろ?」

『別に、私は通る許可なんて出してないわ』

『だから』『通りたければどーぞ』

『たださ』『そっちのフランさんだっけ?』『その眼、気になるから今度お話ししてくれると嬉しいわ』

 

 目って……もしかしてこの人私の能力に感づいてるのかな?

 それとも地底に封印されたくらいだし似たような能力とか?

 そう思ってたら魔理沙がこっそりと「こいつ、嫉妬心を操れるんだぜ」と教えてくれた。

 嫉妬。それは七つの大罪の一つ。

 あぁ、成る程それは封印されるわけだ。

 だって人々の前を彼女が通るたびに人々の嫉妬心は煽られ――伝播し――驚異的な速度で広がっていく。そしてその嫉妬の輪が大きくなればなるほどに彼女の力も増幅されていく。

 最期に待つのは世界を覆い尽くす嫉妬だ。そして人々は互いに殺し合い、憎み、嫉み、妬む。

 人間が絶滅するまで感情はなくならない。いわば拡大的に言えば彼女の能力はそれ即ちーー人類全滅能力とも言える。

 そしてそれだけ感情に詳しければ私の中に眠る狂気を彼女が初見で見抜く可能性も低くない、と。

 

 ともかくこの一件で私は気を引き締め直した。

 確かに地底はとてつもなく危険な場所らしい。

 水橋さんに別れを告げて旧都に行くとそこは火事と祭りは江戸の華、を体現したような和の世界が広がっていたがそこら中魑魅魍魎が蔓延っていた。

 ……最悪の事態に備えて魔理沙を守れるようにしとかないといけないかもしれない。

 冗談じゃなく。

 

 #####

 

 

「……なんですか、パルスィさんってこんなキャラなんですか?」

「というか能力の拡大解釈も甚だしいわね。そんな化け物なら地底に落とされるだけじゃなく深く封印されるっつの」

「あの、パルスィさんってフランちゃんが思うほど危険じゃないんですか?」

「当たり前でしょ。精々がパルパル〜って妬む程度よ」

「そうなんですか……でも地底って鬼も多いとか聞きますし、私が行くときは気をつけないといけないかもなぁ」

「んー……ま、早苗は気をつけないといけないかもね」

「えっ、なんかあるんですか?」

「いや……ほら、地底の異変の原因ってアンタのとこの神様が」

「神奈子様……ですか。確かに嫌われててもおかしくないですね」

「でしょ、まあアンタが行く時は私が着いてってあげるわよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「なんだかんだアンタには野菜もらったりして世話になってるしお互い様よ」

 

 そんな風に巫女二人による麗しき友情が描かれる一方。

 

(ぐうう……っ! 私は……私は……っ!!)

 

 レミリアはまだ悩んでいた。

 

(甘味に……甘味に私のカリスマが……っ!)

 

 そんな彼女が日記を進められていることに気付くまで。

 ――――後、一ページ。

 

 

 




今回出てきたネタ

・飴が四〇〇個(ポケモンGO、コイキングを進化させるのに必要な飴の数)
・その時レミリアに電流はしるーーーー!!(あれ以下の地の文は福本漫画、賭博黙示録カイジのオマージュ)
・鼻と顎(カイジキャラは基本鼻と顎が尖っている)
・太陽拳(ドラゴンボールより)
・超能力(斉木楠雄とかから発想)
・括弧付けたパルスィさん(めだかボックスより、球磨川禊)また(妬んで!パルスィさんより)
・ドラゴン波(ハイスクールD×Dより、元ネタはドラゴンボールのかめはめ波)
・どう森の鈴蘭(どうぶつの森より、村環境をサイコー! にすると生える花)


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五月編3『地下でのこと』

 

 

 

 五月八日

 

 

 昨日は泊まった旅館でしこたま呑まされた。

 やっぱ凄いね旧都って。その場で会ったばかりの鬼の人が酒を勧めてきたよ。幸い、私は酒豪を名乗れるくらいには酒に強いから大丈夫だったけど魔理沙が深刻だった。

 

「うわへへ……ふりゃん、呑んでるかぁー……」

 

 ちょっと魔理沙、呂律回ってないよ。で、そんなくらい飲まされたもんだから朝の魔理沙はグロッキー状態だった。

 

「ぅあ……頭痛ぇ、二日酔いってマジ辛いわ」

 

 それでも約束は約束なので魔理沙の知り合いに会いに行くべく、私達は旧都に繰り出したわけだ。

 で、しばらく歩いていると気になる女の子を見つけた。

 なんていうか――やたらキラキラと光っている子だ。個性の塊、というか存在感の塊のような女の子で、本人もやりにくそうに歩いていた。

 

「……うぅ、人の目が」

 

 見た目の年齢は同じくらいだったので試しに、と話しかけてみると普通に話せた。若干慣れてないのかオドオドしているが、コミュニケーションが取れない訳ではないらしい。

 

「あ、私。古明地こいし、よろしくね?」

 

 古明地……そういえば地底の主人の名字がそんなのだっけ?

 尋ねてみるとこいしちゃんは「妹だよ」と答えた。

 それからなんでそんな存在感の塊みたいになってるの? と尋ねると言いにくそうに彼女は言う。

 

「えっと……実は私って本来『無意識』を操ることが出来るんだけど、『人気キャラ投票』で世界一位を取った日から何故か能力が使えなくなって常時こんなキラキラ状態に……」

 

 人気キャラ投票ってなんだ。

 ともかく彼女が言うところには本来の自分は無意識を操り、人の目を一切浴びずに過ごせるとか。また人の意識と無意識をあやつることもできる……うん、チートだね。

 つまり無意識を弄れば目の前の相手を『無意識に自殺』させたり出来るわけだ。嫉妬もそうだけど地底って怖い……いや、冗談じゃなくよ。

 まぁそれを言ったら私の能力も地底レベルのものかもしれないけどさ。

 

「うう……悟り妖怪みたいに一般に嫌われる妖怪が存在感の塊って……うぅ……」

 

 ま、よく分からないけど大変そうだった。

 とりあえず時間が押してたのでそこでこいしちゃんとは別れて、本題の人の元へと向かう。

 そして件の彼女がいるらしい旧都の一角に着くと、こんな声が聞こえてきた。

 

『みんなー! 元気してるかぁーっ!!』

「「「「「イエーーーーーー!!!!」」」」」

『地底のアイドル! 黒谷ヤマメちゃんが今日もみんなの為に精一杯歌いまーす!!』

「「「「「Ураааааааа!!!」」」」」

 

 ……アイドル?

 大音量の音にまだ頭が痛いらしい魔理沙が顔を顰めるが、どうやら魔理沙が言っていた件の少女はこの『黒谷ヤマメ』さんらしい。

 彼女が立つステージには一本のマイクがあり、その上でくるりくるりとダンスしながら歌っている。

 観客の鬼達のテンションはマックスだ。「ばんざーーい!!」だとか「勲章ものだな」とか「Ураааа!」とかそこかしこから聞こえてくる。

 

「ほら、あんな感じに歌えたらコミュ障も治るだろ」

 

 歌の最中、ボソリと私に魔理沙が耳打ちした。

 うん、確かにね。でもちょっと待って、コミュ障治すためにアイドルやれと魔理沙は言いたいの?

 

「あぁ大丈夫、お前なら売れる。なんなら私がプロデュースしてやるぜ」

 

 いや、安心できないからね? 

 なんかスチャっとサングラスつけてるけどやらせないからね?

 確かに服は可愛いし、歌も好きだし、あぁいうのは女の子としてちょっと憧れるけど――――。

 

「まぁ仮にだけどさ、やるならちゃんとプロデュースするぜ。なにせお前の姿を見てティン! と来たからな」

 

 うーん……アイドルかぁ。

 ちょっとやってみたいかも――って元々コミュ障を治す話だったから! 危ない危ない、流されるところだった。

 とりあえず歌が終わってから軽くヤマメさんと話してから地上に戻ったけど、正直その前の魔理沙の言葉が頭を離れなくてよく覚えてないや。

 とりあえず疲れたから寝る、おやすみ。

 

 

 #####

 

 

「………………」

「あの、霊夢さん? どうしたんですか?」

「いや存在感の塊の下りで、世界一位を奪われた時のあの時を思い出して。その次で取り返してやったけど、あれは屈辱だったわ」

「……その話題私もよく分からないんですけど人気投票ってなんなんですか? よく、神奈子様が年々下がると言ってヤケ酒するんですけど」

「……そういえば神奈子の順位も不思議なのよね。公式である程度の露出もあるのに最初から下がる一方」

「???」

「その顔は本気で分かってないのね。ま、いっか」

「とりあえず話を変えますよ? ――そういえばフランちゃんがアイドル始めたキッカケってこれだったんですね。やっぱり魔理沙さんの交友関係って凄いなぁ」

「縁切ったといっても魔理沙も里で一番大きい霧雨商店の娘だからね。商才はあるでしょうし、その為の交友作りも得意なやつよ」

 

 と、そこまで話した霊夢は未だ悩んでいるレミリアをちらりと見た。

 

「……決めた。ハハ、簡単な事じゃないか。

 ――この解答は世界が選択せし定め。私はこのような(しるべ)を待ち望んでいた! 我が名はレミリア! ただのレミリアよ……じゃなかった。紅魔館一のカリスマを生業とし、未来――即ち運命を司りし者! そんな私が誘惑に惑わされると思ったか!」

 

「……ねぇ、早苗。なんかそろそろレミリアの様子がおかしくなってきたんだけど」

「中二病って後から痛みが来るんですよね。とりあえずそろそろ戻ってきてもらいましょうか。えっと……えい! 奇跡の力!」

 

 流石にこれ以上放置していると完全にどっか別の世界に行ってしまうそうなので二人はレミリアの目をさます事にする。

 具体的には早苗がえい! とお祓い棒を振った。

 同時、上からどこからともなく現れた金色のタライが落ちる。

 

「あ」

「あっ」

 

 一言言わせて欲しい。二人は悪くないと。

 そして二秒後。ドンガラガッシャーン! と派手な音が鳴り響くと同時、「――――あ゛ぁーっっ!!  痛ったい頭がーーッ!!」というレミリアの悲鳴が聞こえた事は言うまでもない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!! 何よ……ってタライ!? なんでタライが私の上に!?」

「…………」

「…………」

 

 叫び声をあげ、頭を押さえゴロゴロ転がるレミリアに対し巫女二人は顔を見合わせお互い頷く。

 

((見なかったことにしよう))

 

 お互い声を出さずとも共通認識出来た二人は黙っておくことにした。

 

「なにいつまで寝転がってんのよ? ほら、日記の続き読むわよ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい霊夢! う゛ぅ、頭があああ……」

 

 しかしそんな事はお構いなしに霊夢は新たなページをめくる――。

 

 #####

 

 

 五月九日

 

 

 午前は寺子屋、午後はパソコン。

 うん、今日は休暇の日だった。

 というか昨日、結構文字数書いたせいで疲れたのよ。イベントが沢山起こったおかげでもあるんだけどね。

 あ、そうそう。今日も『デーモンハンター』をやった。いえっささん強いね。敵モンスターがサクサク片付いていく。

 基本はキノコ狩りが多いうちのギルドだけど、攻略もしっかりやってるみたい。まぁ基本お手伝いされる側だったけど楽しかったよ。

 

 ――楽しい。本当に、最近は生きることが楽しい。

 ……夜寝る時ふと思うんだ。

 最近充実してるから感覚薄いんだけどさ、少し前までは私。ずっと地下にいたんだよね。

 今更だけど馬鹿みたいだ。

 世界ってのはこんなに美しくて――こんなに楽しいのにそれを知らずに生きてきた私が。

 勿論その分、今を精一杯生きているわけだけど。

 それでも書きたい。

 実はさ、少し前まで私は生きる事を楽しいと思ってなかった。

 四九五年。まあ今思えばあっという間だったけど、過ごしている間は長かったように思う。というか時間の感覚がなかったのかな。

 ずっと暗い部屋の中で一人きり。時折食べ物を持ってお姉様とかが来てくれるけどそれだけ。

 正直、よく気が狂わなかったなと自分でも思う。

 でね、話を戻すけどその日常って余りにも長い間同じ事を繰り返し続けるせいでさ完全に時間の感覚が無くなるの。

 ただずっと座ってたり、寝てたり。時折はたと気付いたように意識を覚醒させるけどそれもすぐにまた戻る。

 希望とか絶望とか――今の待遇とか考えることすらやめて――最後には何も考えないままただひたすらに怠惰な日々を過ごし、考える事を放棄する。

 

 あぁ、別にお姉様に恨みとかあるわけじゃないよ。

 ただ――ちょっと勿体無い事をしたなって思っただけ。

 不思議と寝る前って人生とか命とか変なこと考えちゃう癖があるんだよね。今書いててアレだけど、私何書いてるんだろ。

 ……とりあえず寝ようかな。寝る前に日記書くと妙に変な考えに頭が染まるんだよね。じゃあおやすみなさい。

 

 

 #####

 

「…………、」

「レミリアさん……」

「…………いえ、大丈夫よ」

 

 前ページと一転。思わぬ独白に一同は余り口を開こうとしなかった。故に何か意見を述べることもない。

 ただ、ポツリとレミリアが言うだけだ。

 

「……霊夢、次のページをお願い」

「えぇ」

 

 #####

 

 

 五月十日

 

 

 今日は午前中が修行、午後から霊夢さんのところに遊びに行った。

 偶々妖怪の山の神社の巫女さんである早苗さんって人も来てたみたいで挨拶した。確か守矢神社だよね。そういえば諏訪子ちゃんに「遊びにおいで」って言われてたなぁ。

 で、早苗さんなんだけど色んな意味でパワフルな人だった。なんか会って早々「可愛い!」って凄い撫で回されたよ。でもやたら撫でるスキルとか高かった。

 なんというか彼女が触るところ触るところが奇跡的に私が撫でられて嬉しいポイントばかりを触れていた。というかギュッと抱きしめられた時には早苗さんの大きなおもちで顔が包まれて……うん。ちょっぴり幸せだったのは秘密。もしかしたら私はおもち好きなのかもしれないと気付きショックを受けたこの頃。

 

 ……で、昨日の続きになるけど。こういったことも地下にいた時は出来なかったんだよね。

 人とスキンシップをとることもなければ話す機会も話す相手も限られていた。愛なんてとうに忘れたよ。狂っていることに関しては分からない、前に死に設定って書いたけど多分狂っているとは思う。

 

 実を言うと地下生活をしていた頃の私は諦めとかそんな感情はなかった。これでいいんだ、といったような自己防衛な考えも無ければ外に出ようなんて思うこともなかった。

 私にとっての世界は紅魔館の中を指し、その世界の中だけで私は充分に生きていくことが出来た。それが私の常識だった。

 狂うとかそんな感情も分からない。だって元からないんだから。私の中に地下での暮らしへの不満不遇不平が無いから狂う必要はなかった。だって私はただ暗い部屋の中で時の流れに身を任せて時間を過ごしていただけに過ぎないんだから。

 だからいくら狂気の種を育てようにも実るわけもない。

 いくら奮うことに甲斐はなく、狂うことに解はない。

 夢も希望も未来も――そんな言葉は存在せず、ただただ日々を怠惰に無知に傲慢に生きていた。

 今思い出すと――そんなちっぽけな世界しか知らなかった私に新しい世界を教えてくれたのは魔理沙で、その元を辿れば紅霧異変を起こしたお姉様なんだよね。

 昨日も書いたけど私はお姉様に恨みは無いよ。最近、人の心ってものを初めて知って理解したけど恨みだとかそんなものはない。

 私は昔からずっとお姉様が好きだし――多分これからもそうあり続けると思う。

 ……ってなんか昨日から続けて地下のこと書いてるけどどうしたんだろ私。もしかして中二病? それとも思春期ってやつかな。

 過去の私の行動は正しかったのか、あの時こんなことがあったな、そんな事を考えても意味は無いのについつい考えてしまう。

 寝る前の精神状態って不思議だね。

 

 

 #####

 

 

「だってさ」

「……フラン」

「本当に良い子ですよね、あの子」

「本当よね。私もあんな妹なら欲しかったなー」

「ご、ごほん! 次のページ読むわよ」

「顔赤いわよ、レミリア。良かったわね、お姉様大好きで」

「うぅ……だってこんなの予想してなかったしぃ……」

「あ、それがレミリアさんの素の口調ですか? その方が可愛いですよ?」

「ハッ! あ、いや違うの! これは違うから! う、うううう!! もう! とにかく次のページ読むわよ!」

 

 バン! と恥ずかしさを誤魔化すように勢いよくページをめくるレミリアだった。

 

 







 今回出てきたネタ
・こいしちゃん存在感の塊化(東方人気キャラランキング一位の弊害でなってしまった模様)
・Ураааааааа!!(ロシア語で万歳という意味。万歳エディションというジャンルで見かける)
・ばんざーーーい!! 勲章ものだな(万歳エディション。詳しくはググれ。もしくはニコニコで検索すれば分かる)
・ティン! ときた(アイドルマスターより)
・神奈子様の順位(あそこまで条件揃って落ちるとなるともはや容姿が大衆の需要と(ry
・この解答は〜(ry (この素晴らしい世界に祝福を! めぐみんより)
・ただのレミリアよ(Re:ゼロから始める異世界生活、エミリアより)
この解答は、とただのレミリアよに関しては元ネタの声優が同じなのでクロスさせてみた。
・黄金のタライ(吉本にありそう)
・痛ったい頭がーー!(めぐみんより、めぐみんネタ多いな)
・おもち好き(咲-Saki-より、クロチャー化も微レ存……?)
・お姉様大好き(ハッピーエンドです)

 


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五月編4『神降臨』

 

 

 

 五月十一日

 

 

 今日の寺子屋の休み時間にメディスンちゃんと喋って幽香さんのところでお茶会しよ、と話になった。

 学校で遊ぶ約束するのって初めてだよね? よね?

 えへへ、ちょっと嬉しい私なのだ。

 それで寺子屋が終わってから余ってた素材で柏餅を作って幽香さんのところにいった。

 メディスンちゃんから話は聞いてたみたいで広々と見える向日葵畑の一角にパラソルとテーブルが用意されていた。

 柏餅を渡すと「手作り? 凄いわね」と言われた。努力が認められたような気がして嬉しい。

 程なくしてメディスンちゃんがやって来たので三人で紅茶と柏餅を食べながら話をした。

 二人とも花の知識凄いね。私、全然ついていけなかったよ。育ててる向日葵もまだまだ成長途中だしね。

 あ、そうそう。帰る時に幽香さんから肥料をもらった。向日葵、元気に育つと良いなぁ。

 

 

 #####

 

 

「相手が花好きだと優しくするのかしら、幽香のヤツ」

「いやいや。普通にしていれば攻撃とかしないですって。私もよく肥料をもらったり花の世話についてご教授願いに行くんですけど、普通の人ですよ?」

「……そうなのかもね」

「……いや、何を言うの霊夢。アイツは花の妖怪の皮を被った悪魔よ? 申告されてる能力だって絶対花を操る能力なんかよりパンチで人を殺す程度の能力って言った方が分かりやすいやつよ?」

「そんな態度だからボコボコにされたんでしょうに。アンタも良い加減自制ってモンを覚えなさいよ。何百年も生きてるんだから」

「たかが転んで花を薙ぎ倒しただけで殺されかけた私が言うのよ? あやうく魔理沙の比じゃないマスタースパークを受けて太陽光の下に灰に変えられるところだったわ」

「……あの、レミリアさん。言ってることカリスマじゃないって気付いてます?」

「あ」

「……気付いてなかったんですね」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 三人は黙り込んだ。

 やがて誰ともなしに次のページを開く。

 

 #####

 

 

 五月十二日

 

 

 今日は修行だ。

 で、前に超能力の勉強をしていることは書いたよね?

 やっと一つ覚えました。テレパシーを。

 キッカケは咲夜だ。ほら、咲夜ってどこに居ても名前を呼んだら現れるのよ。それこそ数十キロ以上離れた場所にいても次の瞬間には現れる。

 それを思い出した私はどうやって名前を呼ぶ声を聞いてるの? と尋ねたわけだ。すると「メイドの嗜みですよ」とニコリと笑顔と一緒に返されたんだ。

 で、コツを聞いてみたら「いつでもどこでも、頭の中にその対象の人を思い浮かべていることです」と言われた。

 試しにお姉様を思い浮かべてやってみたけど勿論、最初は上手くいかなかったんだよね。

 ただ、何度も繰り返しているうちに何か幻聴のようなものが聞こえてきた。「闇の炎に抱かれて消えろ!」とか「それが世界の選択か……」とかお姉様のボイスで。

 あとは「くっ、私の中に封印されし邪竜が目覚めしまう!」とか「死にたくなければ私から離れることね」とか様々。

 もしかして出来た!? って思って今度はこっちから意思疎通を図ろうと思って試しに『ほう、我の存在に気付いたか――気付かれたなら仕方無し。三日後、貴様の体を頂くとしよう。貴様の命はそれまでだ』とお姉様が喜びそうなセリフを言ってみたら「うわあああ!!」っていうお姉様の悲鳴が聞こえた。

 失敗した? 何か悪いこと起きたの? そう思ってお姉様の部屋に行くと半泣きのお姉様に抱きつかれた。

「フラン、私の中の邪竜を壊して!」って泣きながら言われたけどお姉様どうしたのよ。「あと三日で私の中に巣食う邪竜が私の命を奪うと言ったの!」って……あ、成功してたのね、良かった。

 

 ……って、え? まさか信じたの? あんなセリフを? え? 信じた上でヘタレてんの? 以前はもっとカリスマ無かった? 精神年齢下がったの?

 …………えぇー。そりゃないよお姉様。というか誰だよこんなになるまでお姉様を虐めた上に放置してたの。

 あぁ先日の八雲紫ね、そういや泣かされてたからなぁ。

 ……とりあえず今度お姉様もめーりんの修行に混ぜさせるか。いくらなんでも豆腐メンタル過ぎるし。せめて虚勢でもカリスマ張って欲しいから。

 

 

 #####

 

 

「……なによ?」

「いや……だって、こんなもん何も言えないわよ」

「ですよね、いくらなんでもそりゃないですよレミリアさん。今時、子供でもそんなに取り乱しませんよ?」

「うぐ! そ、その時は精神的に参ってたの! ほら、私って特別な存在だから邪竜が居ても仕方ないと思っただけ――そう、そうなの!」

「……中二病かぁ。大変ですよね、そういえば私の高校の転校生も似た病気でしたよ? 最初の挨拶が、『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』ですからねー。神様はダメですかー? って聞いたら『神様なんているわけないでしょ』って言われちゃいましたけど」

「……ともかく次を読むわよ」

 

 ボソリと呟き霊夢は次のページをめくる。

 

 

 五月十三日

 

 

 今日も寺子屋ー。

 今日は特別講師の人が二人来た。仏教とキリスト教に詳しい人みたい。

「どうも、ブッダと申します」

「僕はイエスです。よろしく」

「彼らは今日、幻想郷を見に来たそうでな。話してみてかなり徳の積まれた方々だったので個人的にお願いして来ていただいた」

 

 ……あれ?

 そういえば授業を受けてた時は違和感無かったけど、改めて文字で書いたら「ブッダ」と「イエス」って……。

 あれれー、おかしいぞー?

 思い出そうとすると何故か顔が靄に掛かったみたいに思い出せない。

 え、いや本物――なわけがないよね。うん。微妙に思い出したけどなんか文字がプリントされたTシャツ着てたし。本物なわけがないか。

 

 で、午後から守矢神社に行った。

 前に諏訪子ちゃんから遊びにおいでって言われてたからだ。で、行ってみるとブッダさんとイエスさんがいた。

 こんにちは、と挨拶すると二人は私を見て、

 

「あ、ブッダ。さっき寺子屋で会った子じゃない?」

「そうだねイエス。こんにちは。さっき振りだね」

 

 と反応。

 それから早苗さんのとこで外の世界の話とかあと宗教の話とか聞いた。何故か分からないけどブッダさんとイエスさんの説法を聞いてると浄化されるような感じがするんだよね。特にイエスさん。

 キリスト教って普通に聞いたり読んだりすると頭が痛くなるものだけど不思議とそうはならなかった。寧ろ――悪魔であることを浄化されるような――……いや。やめておこう。

 あと早苗さん達のところもそうだけど二人共外の世界に住んでいるということで話をしてみると色々興味深い話が聞けた。

 

「いやー、炊飯器とかは凄いですよね。アレがあるとご飯を炊くのに便利で便利で」

「娯楽も多いですよね。インターネットとかはよくやってます。最近だとオンラインゲームもよくプレイしますよ」

「へぇ。あのイエス・■■■■がねぇ。にしてもビックリしたよ、いきなり来るものだからてっきり幻想入りしたかと思ってしまった。外の世界で何が起きてるのかとビックリしたよ」

「はは、それはすみません」

 

 途中、何度か雑音が響いて聞こえない部分もあったけどそんな話をしていた。

 というか八坂神奈子さんと会うのも初めてだったよね。守矢神社の三柱の一角の、御柱をたくさん持ってる人。

 

「オンラインゲームなら私もやってます! デーモンハンターってやつ」

「フランさんもですか? 奇遇ですね、僕もやってるんですよ。あ、そうだ。ここで会うのも何かの縁でしょうしフレンドになりませんか?」

「いいですよ! 始めたばかりなんでまだまだ弱いですけど……」

「大丈夫です、これでもギルドを運営したりしていますから。ちなみに僕は「いえっさ」という名前でやってるんですけど」

「えっ、もしかして聖人ギルドの? あの、私「妹様」です」

「えっ? 本当ですか!」

 

 まさかの「いえっさ」さんだった。

 凄い偶然! 意図せずオフ会みたいになったけど凄いいい人だったと思う。名前が「イエス」っていうのは若干引っかかるけど、まぁ人の数は多いしそんな人もいるのだろう。

 それから皆でゲームをやった。人生ゲームだ。楽しかったなぁ。

 イエスさん達とはまた今度ゲームで会いましょー、と約束して別れた。

 

 #####

 

「」

「れ、霊夢さん! なんかレミリアさんが真っ白になってるんですけど!?」

「巫女の勘が働かない――ってことは……いえ。レミリアは置いておきましょう。この話をあまり突っ込み過ぎるのは良くない気がする。勘じゃないけど、そんな気がするから」

「わ、分かりました! えっと次のページ!」

 

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 五月十四日

 

 

 今日はチルノちゃんと大ちゃん達と遊んだ。

 妖精仲間を連れてきててリリーちゃんと、サニーちゃん、スターちゃん、ルナちゃん、クラピちゃんと友達になった。

 とりあえずそれぞれのことを簡単に書いておこう。

 

 リリーちゃんは春を告げる妖精らしい。真っ白い服を着た子で、「春ですよー」が口癖のようだ。

 サニーちゃんはいたずらっ子な女の子だ。決断力があり、時折覗く八重歯が可愛らしい。

 スターちゃんは料理が得意な女の子だ。捕らえどころのない性格で悪く言えば天然な気がする。

 ルナちゃんは栗みたいな口をした女の子だ。あと鈍くさい。ただ性格はクールだった。

 クラピちゃんは妖精という概念が壊れそうなぐらい弾幕ごっこに長けた女の子だ。きゃははと笑う癖があって狂気的にも見える。なんか既視感。

 

 個性豊かなメンバーだった。

 皆でなにしよう、と話して悪戯をすることに。

 とはいっても誰かが損をする悪戯は駄目なので、人が喜ぶ悪戯をすることにした。

 で、人が喜ぶ悪戯なんだけど。色々考えた結果、霧の湖までの新たな道を作ってみることにした。

 どういうことかというと、実は人里から霧の湖まではかなり遠いから普通の人は来にくいんだよ。そこで最短を通る道を一日で作って驚かせよう、とのこと。

 勿論、土地関係とかは先に調べる必要があるけどね。

 まぁいわゆる草刈りだ。私がレーヴァテインで一気に雑草を焼き尽くし――チルノちゃんが消火。また、作業がバレるのを避けるためにサニーちゃんが日光を上手い具合に屈折し、スターちゃんが生き物を察知する力で索敵をし、ルナちゃんが音を消す力でステルス状態を作った。

 で、出来た道にリリーちゃんが春の力で道の横に花を咲かせて、最後にクラピちゃんが人を狂わせて道に誘導し、そこで能力を解く。

 そしてそこには「新しい道です、自由に使ってください」と、行き先の書かれた立て札が。

  我ながら完璧な作戦だ。やってみたら成功したし。

 人々の驚く姿に鼻高々だった。皆、一仕事やり切った感覚に心を震わせた。

 ……今思えば無断でやったのアウトかなぁ? 

 

 

 #####

 

 

「……何とも言い難いけど、これこいつらの仕業だったのか」

「あの、これって悪戯のレベル超えてますよね?」

「道を作る――良い方向に向かったのは良かったけど、確かにやり過ぎかもね。妖精どもは軽く注意入れとくとして、レミリア。あとでフランにも説教しときなさいよ」

「――――ハッ! え、えぇ! 分かったわ!」

「……話聞いてました? レミリアさん」

「あ、当たり前でしょ!」

 

(……本当かなー?)

 

 とりあえず日記読み終わってから色々世話焼いてあげよう。

 あんまりだし、と密かに決意する早苗であった。

 

 

 




 今回出てきたネタ
・パンチで人を殺す程度の能力(それでも違和感は無い、うん)
・レミリア、中二病(中二病な上にちょろくて信じ込みやすいです)
・ただの人間には興味ありません(涼宮ハルヒの憂鬱より)
・ブッダ、イエス(聖☆おにいさんより。ブッダとイエス幻想郷に行く、の動画見てたなぁ……)
・あれれーおかしいぞー?(名探偵コナンより)


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五月編5『無事チート化しました』

 五月十五日

 

 

 今日はパチュリーと一緒に魔法の特訓をした。

 やっぱり魔法に関しては私より彼女の方が詳しい。とりあえず今日の議題なんだけど『吸血鬼の弱点を無くす』魔法の考案で固まった。

 以前私が外に出る時に『影魔法』を掛けていることは書いたよね。吸血鬼=日光に弱いってくらい知られてるし、まぁその為の魔法なんだけど。今回は他の弱点を無くす為の魔法だ。

 とりあえず分かりやすくする為にザッと一般的に知られている吸血鬼の弱点を書いてみようか。

 

 ・日光

 ・聖なる炎

 ・にんにく

 ・十字架

 ・流水

 ・銀製の武器

 

 他にも鏡に映らないとか、招かれないと家に入れないとかデマも混じっているけど大まかにはこんな感じかな。大体このあたりは魔術に携わったことがある人なら誰でも知ってると思う。

 で、この中から既に克服する手段があったり、殆ど弱点にならないものを消すとこうなる↓

 

 ・流水

 ・銀製の武器

 

 その理由を説明しようか。

 まず日光は影魔法で防止出来るでしょ? 聖なる炎は、まあ私も炎操れるし焼かれはしないし浄化もされない。にんにくはデマ。餃子とかも好きよ、普通に。で、十字架は怯ませるくらいの効果しかないしといった具合だ。

 ただどうしても流水と銀製の武器はマズイ。特に銀製の武器ね。正直、銀ナイフで刺されただけで場所によっては致命傷になり得るし。

 で、今回の議題はその銀製の武器についてだった。

 とはいえそんな事が簡単に解決出来るならとっくの昔に吸血鬼は銀製の武器という弱点を克服しているわけで、話は難航した。

 

「……もういっそ、攻撃を全部反射したり無効化出来ればなぁ」

 

 平行線となって、ついポロリとそんな言葉が零れる。

 するとパチュリーが「それよ!」と声を上げた。

 

「霊夢の使う『夢想天生』あれが常に使えたらーーって流石に厳しいか」

 

 いや夢想天生ってアレだよね。博麗の秘術。言うほど魔法って万能じゃないし、無効化の術式は浮かばないよ。

 そもそも話が進まないから吐き捨てるように言ったわけだしね。それに反射だってそんな上手い話があるわけ…………、あっ!!

 

「何か浮かんだの? フラン」

 

 うん! すっごいこと思いついた! 反射なら再現出来るかもしれない。

 勿論、前提として行っておくけど純粋な反射なんて無理だよ。それこそそんなのチートだし、魔法はそんなに万能じゃない。

 私が思いついたのはもっと科学的な方向だ。

 

「反射するんじゃなくて、外部からの衝撃――そのベクトル(力の向き)を反転させられないかな?」

 

 つまるところ『ベクトル変換』ってやつだ。以前、魔法式の構築の為に外の世界から輸入したと言っていた科学の資料を読んだが、似たような理論があった気がする。

 なんて資料だっけ……確か『第一位の能力理論』って論文。

 一方通行(アクセラレーター)という能力について分析してて、読んだ当時は与太話だと思ってたけどこれ……もしかしたら再現出来る?

 もし出来たならそれこそ影魔法すら必要無くなるぞ。太陽光を反射、流水を反射、攻撃を反射、それだけで全てが事足りる。

 それを話すとパチュリーも乗り気のようだった。『力の向き』を操れれば他の魔法理論にも大きく活かせるとのこと。

 よーし、これから頑張るぞー!

 

 

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「……第一位?」

「どうしたの早苗。そんな頭を抱えて」

一方通行(アクセラレータ)。これは……偶然? いやまさか……いえ、そんなオカルトあり得ません! 流石に現実とライトノベルをごっちゃにするのは良くないですよね」

「……私、早苗の言ってることが時々分からないんだけど」

 

「それはともかく一方通行(アクセラレーター)のベクトル変換って良い響きね。気に入ったわ。紅魔の王が認めてあげる。いいセンスだ」

「そう? なんか中二病みたいな響きがするけど……」

「……まあ禁書では厨二キャラですからね。白髪赤目に小文字の『ァィゥェォ』がカタカナ表記で、あと『ン』もでしたか。いや、あれ本当に学園都市の資料じゃないですよね? まさか平行世界からも物が幻想入りしてくるんですか?」

「……本当に早苗の言ってることの意味が分からないんだけど」

 

 ともかく一同は次のページをめくる。

 

 

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 五月十六日

 

 

 朝起きたら何故か、咲夜の膝枕で寝ていた。

 おかしいな。私、布団で寝たはずなんだけど……。

 あ、もしかして夜トイレに起きた時に寝ぼけて咲夜に抱きついたりとかしちゃったのかな? 

 にしても咲夜の寝顔見たのは初めてだった。うん、思えば本当にそう。一回も見たことないや。

 とっても幸せそうに寝ていたので「疲れてるだろうし」と起こさずに今日の家事をやっておくことを思い付いた。

 めーりんにはそれを理由に修行を断って。

 早速、昨日のうちに咲夜と仕込みした朝食を用意し、それから食器の片付け、掃除と洗濯と頑張ってやった。

 ……すっごい疲れた。咲夜、これ毎日やってるんだよね。凄いや。

 で、あらかた片付いてそろそろ昼食を作ろうかという時間帯に咲夜が慌てた様子で起きてきた。

 

「あら、おはよ」

「い、妹様! お早うございます、もしかして家事をやって下さったのですか?」

「うん。すっごい幸せそうに寝てたから起こせなくて」

「申し訳……いえ。ありがとうございます、妹様」

 

 そう言うと咲夜が笑顔でお礼を言ってくれた。

 うん、良いことしたあとは超良い気分だよ。それに咲夜も「すみませんでした」って言う前に「ありがとう」って切り替えてくれたのは良かったよ。こういうのは謝られるよりありがとうって言われた方が嬉しいもんね!

 

 

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「良い子ですねー……」

「そうねー……」

「そりゃあ私の妹だもの、当然よ!」

「姉はこんなに高飛車なのにねー……」

「本当にそれですよねー……まあ可愛らしいですけど」

「おいそこぉッ! これ以上私の悪口はやめてもらおうか! 紅魔の王を馬鹿にしてると痛い目みるわよ!」

「……そういうとこを直せっつってんのに」

「……まあまあ霊夢さん。子供のうちですし大人になれば自然と淑女な振る舞いをしますよ、きっと」

「それ堂々と本人の前で言うことなのかしら? あとそれ以上言ったら風評被害と名誉毀損で叩き出すわよアンタら……」

 

 ジト目のレミリアはやがてハァ、と溜息を吐いて次のページをめくる。

 

 

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 五月十七日

 

 

 寺子屋だ。今日も臨時教師が来た。

 銀髪の天然パーマな男の先生だ。どうやら今日は慧音先生が休みのようで代わりに来たらしい。

 

「え゛ー、という訳でね。銀魂高校から臨時で来ましたぁー。一日担任の坂田銀八でぇーっす。全員ーー居るか、仮に居なくても居たってことにしてだ……とりあえず今日一日なんで適当によろしく頼む。あとお前ら、俺のことは気軽に銀八様って呼びなさい」

「いや、銀八先生、様付けは気軽に呼ぶ名前じゃないと思います!」

「あ? うっセーよお前。学校じゃなぁ、教師は生徒より偉いんだよ。ンな細かいことを一々突っ込んでたら社会に出てからあの、なんだ……上司にウザがられてリストラされるぞお前」

「いや今明らかに考えましたよね!? 『あの、なんだ』ってところで考えてましたよね!?」

「あぁうっセーな。えっと出席番号○○番は休みっと」

「それ僕の番号ですよね!? 何虚偽記載してんですか!? なんか勝手に休み扱いされてんですけど!!」

「あー、という訳で授業を始める。まータイタニック号に乗った気分で任せとけ」

「オイテメェ無視すんな! あとその船沈むからあああっ!! あぁもうどっからツッコミを入れたら良いんですかアンターーッ!!」

「あぁ、うるさいからお前廊下立っとけ。あぁうっぜえやつが居たせいで授業が五分も遅れちまった。とりあえずお前ら教科書の十ページを開けー」

「いやアンタが手に持ってんの教科書じゃなくて週刊誌!! 『少年ジャンプ』ってやる気あんのかーーーーッ!!」

「うるさい不良、全くこれだから最近の若者は。三回目は言わねぇから廊下立っとけ」

「不良はアンタだろうがこの不良教師ィ! つかさっきから思ってたけど横暴すぎでしょアンタぁッ!? むしろアンタが廊下に立っとけよ!? つかそんなのでよく教師が務まりますね!」

「うるっせえッ! 俺こそさっきから思ってたが一々細けーんだよお前ッ! なに、神経質なの? 心優しい俺だからこれまでの発言見逃してやったけどそろそろ怒るよ? 怒ったら怖い銀八先生の本気を見せてやろうかアアン!!?」

 

 なんかとっても面白い先生だった。

 授業はあまり進まなかったけど道徳だったし良いよね? にしてもツッコミ入れてた人が不憫でならない。授業態度×ってされてた。

 思えば慧音先生の授業と違って誰も寝て無かったなぁ。

 …………慧音先生に合掌。

 

 

 #####

 

「慧音先生ェ……」

 

「……そんなことより。今度は銀魂ですかそうですか。私、今ハッキリ分かりましたよ」

「……唐突に何が分かったのよ」

「この幻想郷に常識に囚われてはいけないということです! もう認めます! この世界には外の世界の漫画とかのキャラも現れるんですね!」

 

「……レミリアレミリア。なんか早苗が壊れたんだけど」

「霊夢霊夢、丁度私も思っていたところよ。多分触れない方が良いと思うけど」

「同感ね。じゃあ次のページ行きましょうか」

 

 なんか妙な事を口走り始めた早苗を放置し、霊夢とレミリアの二人は次のページをめくる。

 

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 五月十八日

 

 

 今日の修行は私の能力についてをやった。

 ほら私の能力って『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』なんだけど、今までは単純に物を壊したことしかなかったわけよ。

 力加減とかも殆どした事ないから改めて調べてみようという話になったのだ。

 で、やってみて幾つか分かった。例えば同じ物を壊すにしてもなんだけど、

 

 ・弱い力で握ると徐々にヒビが入り、砕ける。

 ・普通に握ると物が耐えることなくバキーン、と壊れる。

 ・強く握ると爆発四散。

 

 こんな具合に差があった。

 で、もう一つ実験をした。

 ほら、幻想郷においての能力って自己申告制なのよ。私の場合は単純に物を破壊する力を持ってたからそう書いたんだけど、もっと応用力が効くんじゃないかって思ったの。

 概念を破壊するとか事実を破壊するとかさ。

 この二つを簡単に説明しようか。

 

 例えば、普通の人間は空を飛べないよね。

 その概念を破壊したら普通の人間が空を飛べるのが当たり前になるのよ。

 つまるところもしこれが出来たらただ物を破壊するだけの私の力に『常識』を『非常識』に『非常識』を『常識』にひっくり返す力という新しい部分を見出せるって訳。

 

 それともう一個の事実を破壊の方なんだけど。

 例えば私が大怪我をしたとするよね。

 じゃあその大怪我した事実を破壊したら怪我は無くなる筈だよね。

 つまるところもしこれが出来たら私の力には『物事を無かったこと』にする力もあるってことになる。

 これら二つをめーりんと実験してみることになったんだ。

 まあ望み薄だけどね。

 だって普通に考えてそこまで出来たら危険過ぎるし。それこそ『概念を破壊し、事実を無かった事に出来る』なんて地底に封印されちゃうよ。

 って、アレ。出来た――――(以下、文をかき消すように黒鉛筆で塗り潰されている)

 

 

 #####

 

「……ねぇ、早苗。私疲れてるのかな? なんか幻想郷存亡に関わりそうな事実を見たような気がするんだけど」

「き、気のせい……と言いたいですけど事実を認めましょう。げ、現実逃避は駄目です霊夢さん! ……某、めだかボックスの安心院なじみばりにチートな気はしますけど!!」

「……フランが、妹が……? 私を超えて……えっ? なによ、それ。そんなのズルい! ズルいズルいズルい!!」

「あぁ! なんかレミリアさんが幼児退行してるし!」

「ねぇ、早苗。私、フランが異変起こした時解決する自信無いんだけど……」

「大丈夫ですって! あの子は異変なんか起こしませんし! それにルールは弾幕ごっこですから!」

「あは、あはは……あはははは!!」

「ちょっと!? レミリアさん、大丈夫ですか!? とりあえずその狂ったような笑い声やめてください!」

 

 カオス化した空間を早苗が鎮静するのにその後一〇分掛かったという。

 

 

 




 今回出てきたネタ
・一方通行(とある魔術の禁書目録より)
・坂田銀八(銀魂のスピンオフ小説、三年Z組銀八先生! より)
・タイタニック号(映画。豪華客船タイタニックが沈む話)
・少年ジャンプ(こち亀終わったなぁ……)
・そんなオカルトあり得ません!(略してSOA、咲-Saki-より原村和のセリフ)
・いいセンスだ(ネタルギアソリッドより)
・安心院なじみ(めだかボックスより。7932兆1354億4152万3222個の異常性と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持っている。チートキャラも真っ青なチートキャラ。チートキャラの話が出た時によく対比で出される)
・大嘘憑き(オールフィクションと読む。一言で言えばありとあらゆるものを『無かった』ことにする能力。ただし『無いものは消せない』上記と同じくめだかボックスの球磨川禊の持つ過負荷)

 とりあえず他作品ネタ多過ぎたし次回はもうちょっと落ち着く予定。
 なお、次回以降は(ry




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五月編6『運動会』

自重ってなんだろうね(哲学)


 


 

 

 

 五月十九日

 

 

 今日は保健体育の授業で特別講師の人が来た。

 永遠亭ってところの人らしい。鈴仙・優曇華院・イナバさん。

 明るい紫の長髪に赤い目、大きなウサ耳、そしてブレザー姿に中々どうしてすばらなおもち……と、最近『透視』を覚えた私の目にはそう見えたけど実際はブレザーの上から和装の行商人のような服装と菅笠を被って隠していた。もしかしたら妖怪であることを隠すようにと人里と契約でもしているのかもしれない。

 にしても中々凄い属性だね。折角綺麗なんだから普通に姿見せたら良いのに。絶対人気でるよ? 里の男の人に。

 

 で、今日の授業内容なんだけど。

 目の前で人が倒れた時の対処法とか、大怪我した人を見つけた時の対応を教えてくれた。

 倒れている人を見つけた時は、口元にティッシュを当てたり手をかざして呼吸を確認するらしい。呼吸をしていなければ強く心臓マッサージ、そしてあとは人工呼吸が必要だとか。

 私は、うん。昨日……いや何がとは言わないけど生き返らせることが出来るけどさ。多分。

 で、実際やってみたら「あ、とっても良い感じですよ」と褒められた。

 ……にしても永遠亭か。

 何か病気とか掛かったり……はしても何とか出来るけど、場所は覚えておこうかな。迷いの竹林ってところにあるって話だし今度行ってみよう。

 

 

 #####

 

 

「迷いの竹林……あぁ、迷子になりそうね」

「同感ね。永夜異変の時、咲夜を従えていたにも関わらず大分時間を食ってしまったし……」

「え? そんなに迷うものなんですか? 私、何回も永遠亭行ってますけど一度も迷ったことないんですけど……」

「…………」

「…………」

「…………」

「……本当、奇跡って万能よね」

「本当にね、嫌味に聞こえるわ。この無自覚奇跡ピーマン」

「ピーマン!? その例えは酷くないですかレミリアさん!」

 

 両手を大きく広げて早苗は反論する。わーわー言いながら体を動かすたび、その豊満な胸がむにゅりと形を変えた。

 

「………………」

「……ハッ、言葉だけじゃなくて。本当憎たらしい姿見してるわ。この駄肉」

「駄肉!? えっ、そんな太ってます? 最近ちょっとお腹まわり気になってたところなんですけど? えっ、見て分かるくらいヤバイですか?」

「……もっと上の話よ。アンタのデカい脂肪の塊」

「脂肪の塊……? あっ、成る程。胸の話でしたきゃあっ!!」

「この胸だ! この胸が悪いんだ! どうしたらそんだけ育つのか教えなさい!!」

「い、いや! ちょっと揉みしだかないで下さい! 別に特別なことなんてしてませんから! それに胸が大きいって無駄に肩こるしそんな良いわけじゃ……」

「それは私に喧嘩を売っているのね? 妹のフランに負けているこの私に……ククッ、良い度胸だ。その喧嘩買ってやる」

「喧嘩なんて売ってませんよ!? と、とにかく次読みましょう!? ほらほら、レミリアさんはまだ将来性ありますから!」

「早苗、その言い方だと私には無いって聞こえるんだけど」

「れ、霊夢さんも大丈夫ですよ! だって気にするほど小さくないじゃないですか! あぁもうこの話してたらキリがない! 次に行きますよ次っ!!」

 

 胸を揉んでくる二人を振り払い、早苗は次のページをめくる。

 

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 五月二十日

 

 

 今日は人里で人形劇をやっていた。

 時折、魔法の森に住む人形遣いがこうやって人里で人形劇を見せてくれるらしい。

 どうせだしと私も見てみた。

 今回の演目は『シンデレラ』である。アリス・マーガトロイドさんってお姉さんが可愛い人形を何体も操って演目をやっていた。

 多分魔法の一種だよね。そういえば前に魔理沙から聞いた覚えがあるなぁ。「魔法の森には私以外にもアリスって魔法使いがいるぜ」って。

 にしてもアリスさん、凄い綺麗な人だったなぁ。

 まるで西洋人形みたいに整った顔立ちをしていた。ウェーブのかかった金髪で、演目を行っているときはより一層その姿が輝いてみえた。

 それにシンデレラもすっごく面白かったよ!

 終わった後も里の子供達とかが、わぁってアリスさんの方に駆け寄ってたしその後ろから人里の男の人達が「アリスちゃーん!」とか「今日も演目凄かったぞー!」とか「可愛かったぞー!」とか「俺と結婚してくれー!」とか言ってた。

 容姿も良いし皆から好かれてるって感じなのかな。ちなみに「結婚してくれー!」って叫んでた人は他の里人にボコスカ殴られてた。

 折角だし、と私も話してみると「貴女、もしかしてフランさん?」と逆に尋ねられた。

 どうやら魔理沙から私のことを聞いていたらしい。あとパチュリーからも。

 ……パチュリーってお姉様以外にも友達いたんだね。

 それで色々話してたらなんか私のことを気に入ってくれたのか「今度、うちに遊びに来ない?」と誘われた。

 うん、是非! もっと人形見てみたいし!

 それにアリスさんは大人のお姉さんって感じで見ていて勉強になる。遊びに行く日が楽しみだ!

 

 

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「そういえばアリスってインドアに見えるけど凄いアウトドアよね」

「そうですよね。それに面倒見の良い方ですし。妖怪の山に引っ越したばかりの頃に一度神社に来て下さって、こちらの世界について幾つか教えてくれました」

「……そういえばパチェも、魔理沙に本を貸すようになる前からアリスにだけは貸借りをしてたわね」

「あちこちとの関係も良好ですし、人としても参考になる方ですし、これほどまでに人里でも受け入れられている。よくよく考えれば凄い人なんですよね」

「私もあいつは嫌いじゃないわ。嘘つかないから」

「今のフランちゃんが人里で受け入れられたりしているのももしかしたら彼女と出会ったのが理由だったりするかもしれませんね。そう思ったらちょっと私、ワクワクしてきました!」

 

 むふー、と早苗は目の中を星型にすると楽しげな声をあげながら次のページをめくる。

 

 

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 五月二十一日

 

 

 今日は寺子屋。

 最近は臨時教師が多かったけど今日は普通に慧音先生の授業だ。

 皆が寝る唯一の授業、うん。

 まぁその理由は慧音先生以外、個性豊かな先生しか居ないせいなんだろうけど。

 例えば英語の革ジャン先生は、

OH、YEAH(オウ、イェー)!」

 って言いながら教室に入ってきて。

BABY(ベイベ)、ベィベェエエ、BABY(ベイベ)!!」

 って叫びながら荒い文字を黒板に書くし。

 

 国語のドラゴン先生は、

「ホーワタァァーーアァァァアーーホワタァッ!! ……はい、ここテストに出まーす」

 ってやたら武闘家みたいに叫びながら意味不明言語を黒板に書くし。

 

 算数の激安先生は、

「イチキュッパのビデオデッキが二割引! ボーナス一括払いで五%オフ! 今ならポイント還元が一三%ついて、さて、いくら!!」

 ってやたら商品の値段にこだわるし。

 と、そんな具合にまともな先生が居ないのだ。

 最近、もう一人まともだった古典の昼メロ先生が寿退社しちゃったし。

 いや、あの時はビックリしたよ。

 

「ーー芭蕉の句には、」

 って読んでた時にいきなり扉がガタンと開き、机を蹴り飛ばして男の人が現れたんだから。

「さだこ!」

「今更何よ!!」

「……俺が悪かった!」

「馬鹿ッ、寂しかったぁ……!!」

 正直なにを見せられてるのかと思ったよ。

 こういう風に迎えに来てくれる人がいるってのはちょっぴり羨ましかった。将来はこんな人を見つけたいなぁ。まぁそれは置いといてこれがキッカケで寿退社。

 そんなわけでそのギャグ空間に慣れてしまった生徒達は真面目な慧音先生の授業では大半が寝てしまう有様。

 ……今更だけどこの寺子屋大丈夫かな。

 

 

 #####

 

「どう考えても駄目じゃない……」

「え、授業参観とかじゃ普通に授業してたって咲夜が言ってたのに?」

 

「…………」

「ちょ、ちょっと早苗? 黙ってないでこれ本当なの? アンタ臨時教師だし知ってるでしょ」

「……わ、私は何も知りません。はい、本当に!」

「凄く反応が怪しいけれど?」

「これは別の意味での汗です! ちょっと、外の世界で見覚えあったっていうか。まさかそんなのまで幻想入りしてると思ってなくて……頭の整理が追いついてないだけなんです!」

 

「……ということは今は居ないの?」

「はい、普通の先生方ですよ?」

「……にしたってこんな教師、フランの成長に悪影響があったら」

「あの、レミリアさん。後々の為に変なこと言わない方が良いですよ。色々と、まだ日記内に出てませんけど私、レミリアさんが寺子屋でやらかしたことを知ってるんですからね」

「はうっ!? い、言わないで! フランが書いてないかもしれないから!」

「……何やらかしたのよ?」

「それは後のお楽しみに取っておきましょう。さ、次のページです」

 

 呟いて、早苗はペラリと次のページを開く。

 

 #####

 

 

 五月二十二日

 

 今日は土曜日!

 寺子屋も休みの日! なんだけど『年に一度の運動会』で寺子屋に行くことになった。

 そういえば五月なんだね、運動会シーズン。

 勿論だけど人間と妖怪では部門が分かれていて、妖怪は二チームに分けられた。

 赤と白の二組ね。妖怪クラスは二つあって、チルノちゃん達と私が赤。白はサニーちゃん達のクラスだった。

 運動の内容は普通のもので、百メートル走とかそんな感じ。ただ私の場合一瞬で駆け抜けてしまうので、途中に落ちている紙をひろって中に書いているものを持ってくる『借り物競争』に出場することになった。

 で、スタートと同時にダッシュで紙を取ると内容は『ピンクの服を着た人』だった。チラリと見ると先生の一人がピンクの服を着ていたので本来はそっちを連れてくるのを想定していたのだと思う。

 ただ、都合の良いことに私の場合はピンク色の服を着たピンク大好きお姉様が居るのだ。

 すぐに紅魔館にあるお姉様の気を見つけて瞬間移動すると、何故か修行中に私が着ている猫耳メイド服(ピンク色バージョン)を着て、鏡の前でポージングするお姉様を発見した。

 

「こ、これ可愛いかな? にゃー! ってふきゃあっ!!? ふ、フラン!? 運動会はどうしたの!?」

「話は後! 一緒に来て!」

「ま、待って! 私、こんな服装じゃーーーー」

 

 なんか言ってたけど競争だから聞いちゃいられない。

 すぐに瞬間移動し直して一位でゴールした。

 いきなり人の目があるところに連れて来られてビックリしたのかなんかゴールした後にお姉様が泣いてた。

 すぐに咲夜が服装をいつものに改めてたけど……。

 なんかゴメンね、お姉様。

 ちなみに赤組は優勝しました。

 

 

 #####

 

「にゃー、ですか。可愛いですね」

「そうね可愛いわね、にゃー」

「二人して嬉々として私を弄るのはやめなさい!! は、恥ずかしいのよ? わ、私の汚点だわ!」

「良いじゃない。密かに見てて羨ましかったんでしょ? 猫耳のフリフリメイド服」

「そうですよ、可愛いですもんね猫ちゃん。だからフランちゃんの運動会で誰も居なくなるタイミングを見計らってこっそりと猫耳メイド服着たって不思議じゃないですよ」

「い、言い方に悪意があるわ! そんな分かったように言わないで!! う、うううう!! うーーーーっ!!」

 

 その後もしばらくの間、ニヤニヤと二人がレミリアを弄ったのは言うまでもない。

 




 


 今回出てきたネタ
・個性豊かな先生(ファンタCMより)

 自重してネタが少なくなっても内容が濃い模様。
 あと感想とか誤字報告とか有難うございます。


 


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五月編7『フランちゃんの手料理』

 

 

 

 五月二十三日

 

 

 日曜日だ。

 運動会の代休で月曜日も休みなので二日間は修行と自由になるね。

 で、今日は久々にパソコンを弄ってみた。

 デーモンハンターをやろうかな、とも思ったけど今日はパスして別のゲームをやった。

 PSO2ってゲーム。これもオンラインゲームなんだけど無料だったからダウンロード。

 まぁ最初はよく分からなかったけど、何とかチュートリアルを終えたところで『天使』さんって人と『ぐーや』さんって人に「その装備、始めたばかり? 良かったらレクチャーしようか」とパーティに誘ってもらえた。

 デーモンハンターの時もそうだったけどパソコンやってる人って皆親切なんだね。

 しばらくストーリーとかを進めて「良かったら」とチームに誘ってもらえた。

 『幻想兵団』って名前のチーム。チームマスターが『☆サナ☆』さんって人で、『天使』さんと『ぐーや』さんはマネージャーだった。

 うん、午後いっぱいやってたけど楽しかったよ。

 デーモンハンターもだけど、寝る前にちょっとずつ進めていこうと思う。

 

 #####

 

「………………☆サナ☆」

「いや、何を呟いてんのよ早苗」

「な、なんでもありませんよ、はい」

「?」

 

 ちょっと反応のおかしかった早苗を見て霊夢が尋ねるとちょっと狼狽したが何もないと彼女は否定する。

 よく分からなかった霊夢だが、ひとまず感想を述べることにした。

 

「ともかく、おんらいんげーむってやつは面白そうだし私もやってみたいわね」

「……あ、じゃあ今度やりますか? 家に機材ありますし」

「そうね。良かったらやらせて?」

「あ、ズルいっ……じゃなくて。フッ、今度私も遊びに行かせてもらうわ。オンラインゲームに私の興味もそそられたもの」

「勿論、大歓迎ですよ」

 

 そんなこんなで話をまとめて三人は次のページを開く――。

 

 

 #####

 

 

 五月二十四日

 

 

 やっと、めーりんから拳法を教えてもらえることになった。

 右手の拳を突き出して放つ渾身の右ストレート。左手の拳から放たれるジャブ。

 ……あれ、今書いてて思ったけどこれボクシングじゃない?

 いや、ボクシングじゃないか。

 やってる時は「さぁ、どっからでもかかってきてください」って言われてやる気満々で殴りかかってたけどこれ、喧嘩のやり方だよね。

 「ドララララッッ!!」とか「オラオラオラァッ!!」とか「無駄無駄ァッ!!」とか「URYYY(ウリイィィィ)!!」とか叫びながら殴り合うって完全に喧嘩だよね。というか素手の殺し合い?

 ……これスカーレット家の娘としてどうなの? というかそれ以前に女の子として、淑女としてどうなの?

 なんか修行が迷走してる気がする。特に最近の私のインフレ感も相まって。

 ……そういえば『無駄無駄ァッ!!』って叫ぶめーりんの背中から龍みたいなのが出てたんだけどアレってなんだったんだろ?

 

 

 #####

 

 

「美鈴さん、スタンド使いだったんですか!?」

「……スタンドが何か知らないけれど何の話よ」

「ジョジョですよ! ジョジョ! レミリアさん知らないんですかーーって知らないのが当たり前でした、すみません、ちょっとテンション上がっちゃって私ったら……」

 

 ハッ、と気付いた早苗は顔をほんのり赤らめると慌てて弁明する。

 すると霊夢がボソリとこんなことを呟いた。

 

「……そういえば咲夜の元ネタってそこなのよね」

「えっ? いや、元ネタって何の話ですか霊夢さん?」

「ちょっと一次元上の話よ、気にしないで」

「は、はぁ……にしてもこの幻想郷にはスタンドまであるんですね! 今度美鈴さんに教えてもらおうかなぁ」

「……いや、そこの風祝はともかく霊夢は待ちなさいよ。元ネタって何かしら? 咲夜は生きてそこに存在しているのよ? その物言いは私の従者に対して失礼じゃない?」

「アンタも把握してない感じね、まーー良いわ。本人に聞けば分かるし今度聞いてみたら?」

「???」

 

 よく分かっていないレミリアだがとりあえず矛は納めることにしたらしい、曖昧な顔で次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 

 五月二十五日

 

 寺子屋だ。今日は音楽の授業があった。

 音符の読み方とか、あと楽譜の読み方を習った。それからピアノのドレミファソラシドの場所も。

 そういえば私の家にもピアノはあるのよね。しかも五つも。

 グランドピアノが二台とアップライトピアノが三台だったかな。

 そのうち楽器を弾けるようにもなりたいし誰かに頼もうか……。

 咲夜なら弾けるかなぁ?

 今度聞いてみよう。

 

 

 #####

 

「ピアノ五台ですか、凄いですね!」

「フフ、ツェペシュの末裔たるスカーレット家だもの。この程度当然よ」

「いや、アンタ持ってるだけで弾けないでしょうに」

「あぅ! わ、私を(けな)すってことは貴女は弾けるの? 霊夢」

「いや、弾けないわよ。だって持ってないもの」

「く、ククッ! 同じ穴の(むじな)じゃない!」

 

「ちなみに早苗はどうなの?」

「私ですか? ちょっとなら弾けますよ? 実は高校の時に軽音部に所属してまして『放課後ティータイム』ってバンドなんですけどピアノパートではないとはいえある程度は弄ってたので」

「ふぅん、じゃあそんな早苗からして五台のピアノを腐らせておくってどう思う?」

「そうですねーー勿体ないので売ってみたらどうでしょうか? ほら、CMでよく『ピアノ売ってちょうだい♪』ってタケモトピアノがやってましたし」

「早苗早苗、楽器を放置されてるって聞いて軽く怒ってるのは理解したけど幻想郷にCMは無いわよ?」

 

 #####

 

 

 五月二十六日

 

 突然ですが皆さん。

 幻想郷の戦いのルールの名前を読み上げて下さい。

 ――そうだよ! 弾幕ごっこだよ!!

 一回よく見て欲しい。『弾幕』ごっこなんだよ。

 直訳すると弾幕を放って勝ち負けを決めるごっこ遊びだよ!

 それがなんで私はこんな拳で語るバトル漫画みたいに修行してるの?

 そもそもの拳法だって太極拳みたいにゆったり体を動かしたりーーと体操程度のものを想定していたのにどうしてこうなったの?

 というか戦闘ルールが『弾幕ごっこ』なんだから修行って言ったら弾幕の修行じゃない? もしくは私は『レーヴァテイン』って剣を使うからってことで剣術の修行じゃない?

 それをめーりんに尋ねてみたら「未熟ーー未熟未熟未熟! だから妹様は甘いのです!」と言われた。

 ……うー。無手の戦いについてだけはめーりんが怖いよぉ。

 まぁ確かに結果は出ているから文句つける方がおかしいのは分かってるんだけどさ……にしたって今思えば畑を耕すのを素手でやったとか頭おかしい気がするの。

 私がおかしいのかなぁ?

 

 #####

 

「レミリア。実際のところどうなのよ美鈴ってこんなキャラなの?」

「――実は美鈴は弾幕ごっこは大したこと無いけれどこと拳の戦いにおいては鬼とも張りあえるからその関連に関しては妥協しないしさせないのよね……困ったことに」

「そうなんですか、生粋の武闘家ってやつなんでしょうね。私的にはアリだと思いますけど」

「……数少ない困った点だわ」

「……というかこれ読んで今更ながら、あの子のこれまでの修行が幻想郷に似つかわしくないことに気づいたんだけど」

「霊夢さん、それは博麗の巫女として良いんですか……?」

 

 #####

 

 

 五月二十七日

 

 

 今日も寺子屋だ。

 今日は家庭科の授業が印象的だった。

 そう、料理――今や私の得意分野である。日記には書いてないけどアレから毎日のように咲夜と一緒に夕飯作りをしているのだ。

 周りの子に比べればある程度上手い方だと思う。

 クラス関係なくということだったのでサニーちゃん達を誘って一緒に作った。カレーライスを。

 寺子屋には一部の物が八雲紫によって外から取り寄せられているらしくて、カレー粉もその一つだった。

 かなり美味しく出来たよ。咲夜様様だね! 出来た料理を慧音先生にも持っていくととても喜んでくれて「美味しいぞ」と言ってくれた。

 あとちょっと作り過ぎたので人間クラスにもおすそ分けしに行くと、ブワッて男子が群がってきた。

「フランちゃんの手料理だ!」とか言ってたけどなんだろ? もしかして私って料理上手そうに見えたのかな? 咲夜のメイド修行の成果出た? だったら嬉しいな!

 

 #####

 

「家庭科……私もあったなぁ。あとフランちゃんの様子が若干勘違い入ってますけどこれはいいんですかね?」

「良いでしょ。妹が寺子屋で人気みたいで良かったじゃない、お姉様」

「ククッ、そうね。流石私の妹よ。私と同じカリスマ――人を魅入らせる力の片鱗が見えている」

 

「あの、霊夢さん。確かにレミリアさんにも人を魅入らせる力を持ってますけどそれってカリスマじゃなくて……」

「駄目よ早苗、言わないであげて」

「そ、そうですよね。分かりました」

 

(……ポロっと口から出かけましたけど実はカリスマブレイクが可愛いって点では魔性というか人を魅入らせる力がありますよねーーって言わなくてよかったです)

 

 ……まぁその事実を突きつけた時の反応を見たくないといえば嘘になりますが――とちょっぴり小悪魔な早苗はそう思った。

 

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・PSO2(日本で初めて売れたとされるオンラインゲームPSOの続編。読みはファンタシスターオンラインツー。最近だとビートまりおさんが作ったヨーコソ・アークスって曲を小林幸子さん(ラスボス)が歌ったのが話題になってた)
・ドララララ!! オラオラァッ!! 無駄無駄ァッ! URYYY!(ジョジョの奇妙な冒険より、叫び声。その中でもDIOという敵は咲夜さんの能力の元ネタとされる)
・スタンド使い(ジョジョより。ジョジョはスタンドと呼ばれる化身みたいなので戦う)
・放課後ティータイム(けいおん! より、主人公達のバンド名)
・タケモトピアノ(あのCM放送曲によってはまだやってる。なんか頭に残るメロディーだと個人的に思う)
・突然ですがーーからの文体(Re:ゼロから始める異世界生活の予告より一部引用)
・未熟ーー未熟未熟未熟!(機動武闘伝Gガンダムより、マスターアジア)


 多分、次回で五月編終了します。


 


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五月編END『サイコパス寺子屋』

 


五月編終了、おつおつ。


 


 

 

 

 五月二十八日

 

 

 今日はアリスさんの家に行った。

 いやぁ凄いね。人形が一杯あった。全部手作りらしい。

 一部の人形なんかは半分自立しているみたいで私を見て「コンニチハ」って挨拶してきてビックリしたよ。

 アリスさん曰く大切なパートナーなんだって!

 良いなぁ、私もこんな人形欲しいなぁ。

 

 それとさそれとさ! アリスさんの家の本も凄かったよ。

 目ぼしいのだとあの有名な『ネクロノミコン』の原本があった。あとこれは初めて見たんだけど『夜天の書』ってのもあった。

 あとは魔法効率とか弾幕理論の本が傾向として多かったかな。

 聞いてみると、

「弾幕は(パワー)より頭脳(ブレイン)だと私は考えているの」

 とのこと。だから魔法効率とかの本が多かったんだね!

 私も魔法は嗜むので色々と会話が弾んだ。

 あ、そうそう。帰るときにまたおいでって言われた。今度『人形の作り方を教えてあげる』ってさ。

 すっごく楽しみだ!

 

 #####

 

「……あの霊夢さん。なんか、アリスさんがフランちゃんを頭脳(ブレイン)タイプの魔法使いにさせようとしているって私の中の奇跡が囁きかけてくるんですけど」

「……巫女の勘的にもそんな感じはするけど別に良いんじゃない? 結局は本人の為になることだし」

「そういえばフランは魔法使いとしても優秀な子なのよね。だからパチェもよく魔法の考察なんかにフランを呼んだりしてたわ」

 

 うーんと首をひねってから何かを思い出したようにポンと手を叩いたレミリアがそう言った。

 と、そこで早苗がボソリと呟く。

 

「……というかサラッと流してましたけど夜天の書まで幻想入りしてたんですか」

「何よ夜天の書って」

「魔理沙さんみたいにドカーンって極大ビーム放つ女の子のアニメに出てくる魔道書です、ちなみにその主人公の女の子は魔王って呼ばれたりしてます」

「ほう、魔王……良い響きね。私の心が疼くわ」

「中二病ですね」

「中二病だわね」

「ステレオチックに言うのやめてくれない? 不愉快なのだけれど……」

 

 額を押さえて呟き、レミリアは次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 五月二十九日

 

 今日の午後はなんかお姉様に「出掛けるわよ!」と引っ張られた。

 どこに行くんだろうと思ってたら案内されたのは何故か『太陽の畑』。

 どういうことか分からなくてお姉様に何の為にここに来たのと尋ねると「リベンジよ!」としか言わなくて正直意味不明だった。

 で、そんなこんなしてるうちに幽香さんが出てきてさ、なんかお姉様が指先を突きつけてこんな口上を述べた。

 

「以前はよくもやってくれたな花畑の主よ。あの借り、今こそ返すときが来た! 見よ、横にいるのは我が血を分けた妹のフランドール! 二人で掛かれば貴様などに負ける道理など――――」

 

 正直どうでも良かったのでここまでしか聞いてなかった。

 とりあえず挨拶だよね。お世話になってるし。

 どうもこんにちは幽香さん。

 

「こんにちはフラン。ちょっと久々ね? 最近向日葵はどう?」

 

 上々です! この感じだと夏には綺麗な花を咲かせてくれます!

 

「フフッ、そう。私も花達の噂を聞いて知ったのだけどちゃんと育ててくれていて嬉しいわ。それにメディスンとも仲良くしてくれているみたいだし」

 

 いやいやこちらこそ! メディスンちゃんすっごく良い子だしお花にも詳しいから助けられてばっかりで。

 

「――――つまり、貴様に勝ち目はない。って、聞いてるのかしら二人とも?」

「ふふ。それでも、よ。メディスンは元々人間に捨てられた人形の付喪神でね……あまり人に良い感情を持ってないから。貴女と友達になってーー今では人間の友達も出来たって聞くし」

 

 そうですか。お役に立てたなら嬉しいです!

 

「えっ? ね、ねぇ、聞いてる?」

「あぁそうだ。また今度いらっしゃい? 三人でまたお茶会しましょ?」

 

 いいですね! じゃあまた今度お伺いさせてもらいます!

 

「えっと、あの……お願い! 私の話を――――」

「えぇ。楽しみに待ってるわ。ところで横で喚いてる子なんだけど……」

 

 あ、それうちの姉です。ちょっとうるさいですし帰しましょうか。

 

「う、ううう!! いい加減に――」

 

 ほい、お姉様を瞬間移動(テレポート)。紅魔館のお姉様の部屋に位置して送るとたちまち静かになって、木々のざわめきや花のそよぎが聞こえてきた。

 それからしばらく幽香さんと談笑してから帰ったんだけど、そういえばお姉様は何の用で太陽の畑に来たんだっけ?

 

 

 #####

 

 

「……お、おのれ風見幽香。私の妹を懐柔するなんて、卑劣な!」

 

「いやいや姉様? これ単にアンタが妹にも風見幽香にも相手にされてないだけよ?」

「霊夢さん、言わないであげてください! レミリアさん、この虚勢が壊れたら最後、泣きながら部屋から飛び出すくらいギリギリの状況だって奇跡が囁いてますから!」

「……いいや、駄目よ早苗。現実をちゃんと認識させないと歪んだまま大人になるわ。ここで優しさを見せるのはこいつにとって『逃げ道』を与えることになるもの」

「だ、駄目です! うわああああん咲夜あああっ!! って言いながら部屋を飛び出す姿が容易に想像出来ますから!」

「…………、いや。待ちなさいそこの風祝! 貴女私を愚弄してるのかしら? どんな目で私を見てるのよ! 私は誇り高きスカーレット家のレミリア・スカーレットよ! こんなことで折れたりしないわ!」

「……その誇り高きってのがまるきり無いっつってんのよ」

 

 #####

 

 

 五月三十日

 

 

 そういえば明日で日記を書き始めてから二ヶ月か。

 思ったより早いもんだね。毎日があっという間だよ。

 で今日は月曜日、寺子屋の日だ。

 今日は慧音先生の歴史の授業に特別ゲストとして『藤原妹紅』さんって人が来てくれた。

 どうやら妹紅さんは不死らしく、平安時代から今までを生きているのでその当時当時の真実の歴史を知っているらしい。あまり人に慣れていないのか戸惑った感じの声色だったけどそこも萌えポイント(最近ネットで知った言葉って使いたくなるよね)ってやつだね。

 で、そんな妹紅さんの見た目を軽く言及しておこうか。

 腰くらいまである純白のような白髪で、赤いモンペのような服を着ている。顔はまぁ美人だね。胸は普通サイズかな?

 ともかくその人慣れしていない態度が見ていて楽しかったよ。

 で、歴史について語ってくれたんだけど。かなり面白かった。

 特に竹取物語で有名な輝夜姫のくだりがさ。

 実際の輝夜姫ってどんな人だと思う? って妹紅さんの質問に皆は「絶世の美女!」「傾国の女!」「大和撫子!」「なんかエロそう」「黒髪黒目の美少女。性格は温厚で部下思いで、一見すると完璧に見えるがその実オンラインゲームやったり家に引きこもってたりとインドアーーというかオタク的な印象を併せ持つ。迷いの竹林で藤原妹紅とよく殺し合いをしているらしい。彼女の持つ能力『永遠と須臾を併せ持つ能力』は完璧な停止と極限の加速を操るもので、簡単に言えば時間停止能力。日がな一日家にいるのでかなり暇そうにしている。一言でまとめるとオタク趣味のある陽気で心根の優しい箱入り娘……と予想します」

 って答えてたりといつもは真面目過ぎて寝ている生徒達が今回は全員起きてた。

 私的には輝夜さんはどうだろ? お姫様って位だしやっぱりお淑やかな美人さんかな?

 そんな感じで歴史の授業が終わる頃には妹紅さんもすっかりクラスに馴染んでいた。むしろ帰ることに生徒達が不満を言うくらいだ。

「また来てよ!」「慧音先生つまんねーからさ!」「妹紅先生、厨歴史狩り講座頼んます!」「また今度も教えて!」「アタイもアタイも!」「その、妹紅先生の教え方分かりやすいですし」「あっ、私もです! 妹紅さんまたよろしくお願いします」「この空気なら言える――俺は慧音先生が好きだ!」「なんで妹紅先生帰ってしまうん?」「慧音先生ェ……」

 

「そ、そう言われてもだな。私はゲストとして来ただけだし……」

「いや、また来てくれよ妹紅。子供達がこんなに懐くとは、お前教師の才能あるぞ? …………私より」

「い、いや! 慧音は立派な先生だからな! ……ま、まぁ考えとくよ」

 

 わぁって群がられた妹紅先生はちょっびり困った顔だったけど、最後にはほんのり赤らめた頬をかきながらそう言った。

 私としてもすっごい分かりやすかったしまた来て欲しいな!

 

 #####

 

 

「あの、霊夢さん……」

「言わないで早苗。分かってるから、ツッコミ所が多いのは」

「……無理です。どうしても一つだけ言います」

「………………、」

「……輝夜さんってどんな人? ってところに出てくる一人の答えなんですかコレぇっ!!? ストーカー通り越してもはやサイコパス感じますよ!! なんか恐怖感感じますよッッ!!?」

「わ、分かってるわよ! なんか怖いもん! だから触れないようにしてたのに!」

「フフ、これが純愛というものか。興味深いわね」

「純愛でたまるか! こんな犯罪めいた――それこそいつでも貴女のことを見てますよ――みたいな話が純愛であってたまりますか!」

「……早苗、本当にこの寺子屋大丈夫なの? 博麗の巫女として色々精査した方が良いんじゃない?」

「わ、私の目の届く限りではこんな事ありませんよぅ! き、きっとアレです! フランちゃんが誇張して書いてるんです!」

「……? いや、さっき咲夜が言ってたけどフランは事実だけを書いてるってーーーーッ!!?」

「それ以上言ったら夢想封印撃つわよ。さぁ、事実が何かしら?」

「………私より貴女達の方が現実から目を背けてるじゃない」

 

 呆れたように言ってレミリアは次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 五月三十一日

 

 

 今日で日記も二ヶ月かー。

 我ながらよく続いてるもんだよ。アレかな、毎日が充実してて楽しいから自然と筆がのってるのかな?

 あ、ちなみに今日は橙ちゃんと遊んだ。

 橙ちゃんと私って案外話が合うのよね。お互い家事とかを覚えようとしてるからかな? 意外と掃除の話とかで盛り上がる。

 ……多分だけど幻想郷中探しても、どのあたりに塵が残りやすい? なんて話題で盛り上がれる子供は私達だけな気がする。

 橙ちゃんは将来、八雲紫の補佐をやることになるから掃除一つとっても真面目にやっているようだ。それだけじゃなく他のことも一生懸命に。

 見てて凄い子だなって思う。目標に向かってひたむきに頑張るって中々出来ることじゃないよ。普通ならすぐに中弛(なかだる)みするからね。

 私も見習わないとな!

 

 

 #####

 

 

「……あの、前ページの衝撃が強過ぎてあまり内容が入って来ないんですけど」

「奇遇ね、早苗――私もよ」

「……色んな意味で頭が痛いわ」

 

 ――――上から早苗、霊夢、レミリアの言であった。

 

 

 

 




 


 今回出てきたネタ
・夜天の書(魔法少女リリカルなのはより、魔道書)
・極大ビームを撃つ魔王と呼ばれてる女の子(魔法少女リリカルなのは主人公の高町なのは。詳しくはアニメ見てください)
・中二病ですね、中二病だわね(Re:ゼロから始める異世界生活よりレム、ラムのセリフを改稿)
・厨○○講座(ゲーム実況者もこうより)
・途中の「セリフ」連打。ニコニコ動画を意識
・掃除の話で盛り上がる(少年メイドより)

 あっ、次回は多分閑話無しか、六月編の一話目の中に閑話と本編ぶち込む感じになると思います。

 


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六月編
六月編1『レミリアの受難』


 


 予告通り閑話+一話です。
 六月編開始じゃい!!


 


 

 

 

「……ここで五月が終わりか」

 

 開きっぱなしの日記をテーブルに置き、霊夢は呟いた。

 ふと紅魔館の時計を見ると読み始めてからもう少しで一時間が経とうとしている。偶々フランが落とした日記を読んでいるのだが、そろそろ時間的にも彼女が日記を落としたことに気付いた頃だろう――そう巫女の勘が働いた霊夢は二人に対し声を上げた。

 

「ねぇ、そろそろフランが戻ってくる頃だと思うんだけどどうする?」

「んー……そうですね。じゃあ私の奇跡で何とかしましょうか?」

 

 すると机の上に胸を乗せて頬杖をついていた早苗が提案する。「何とかできるの?」と霊夢が尋ねると彼女は、「はい、多分ですけど出来ますよ」と答えた。

 

「それじゃあお願い。レミリアもそれで良い?」

「任せるわ」

「はい、じゃあ何とかやってみます。とりあえず今フランさんがいる場所はーー」

 

 むー! と首を傾げた早苗は奇跡の力を行使してフランの所在を調べていく。とは言っても特に不思議なことはない。

 頭の中に幻想郷中の場所を思い浮かべて、適当に一箇所を選ぶだけだ。本来、それはもはや奇跡の範疇にない。幸運などの項目に当てはまる行為だが――神に愛された奇跡の風祝はその『奇跡』を引き当てる。

 

「出ました! 多分、にとりさんの所です!」

 

「……あの霊夢、フランの能力も大概だけどこの緑カラーの能力も十分壊れ性能じゃない?」

「全てを奇跡で片付けられるからね――ま、巫女の勘でも似たことが出来るから余り特殊って感じはしないけれど」

 

 早苗が目の中に星を浮かべお祓い棒を振って『出ました!』という裏で二人はコソコソ話す。

 そんなことは知らない早苗はiPhoneを取り出し、何処かへと連絡していた。

 

『あ、もしもしにとりさんですか? 私、早苗です。今、そちらにフランさんって居ます?』

 

 フランの所在を尋ねると電話口から『居るけど何か用かい?』というにとりの声が返ってくる。

 ビンゴ! 早苗は内心ガッツポーズした。

 

『やっぱり! ちょっとフランさんに代わって頂いてもよろしいですか?』

『あぁ、分かったよ』

 

 承諾から数秒後、一瞬ザザッという雑音と共にフランの声が響いた。

 

『あ、今――代わりました! 何の用ですか早苗先生』

『今は仕事中じゃないからお姉ちゃんって呼んでも良いんですよ? フランちゃん! あ、そうだ要件なんですけど、今にとりさんのところに居るんですよね? ちょうど良かった! 私、今ちょっと紅魔館にお邪魔させてもらってるんですけど、ちょっと事故でレミリアさんのベッドにダメージを与えてしまったので修理をお願い出来ませんか?』

『お姉ちゃん呼びはしませんよ……あと、そんなことでよければすぐに向かいます。お姉様のベッドですよね?』

 

 うんお願い――早苗は返事をして電話を切ると、せいやー!! と思い切りレミリアのベッドを蹴り飛ばす。

 先程窓を突き破って入ってきた時に一番ダメージを受けていた足の部分を蹴り飛ばした瞬間、メキメキメキィ!! と明らかにしちゃいけない音がレミリアの天幕付き最高級ダブルベッドから鳴り、真ん中から真っ二つに割れた。

 

「あ゛ああ! 私のベッドがあああッ!!」

「よし、これで時間稼ぎ出来ますね。ほらほら日記を隠してください」

「……アンタ、意外にこういう時は悪魔なのね」

「現人神に対して悪魔とは失礼ですね! どうせ修理されるんですからちょっとくらい大丈夫です。寧ろ機転を利かせたことを褒めてください!」

 

 サラッとベッドを真っ二つに粉砕されたレミリアは「あ゛あ゛あ゛!!」とか何とか叫んでいたが、早苗が正面から抱きしめて顔を胸に埋まらせることで強制的に黙らせる。なんか「ムグッ!?」というレミリアの悲鳴のようなものが聞こえたが二人は気にしない。

 その隙に霊夢がフランの日記を服の内側に隠すと、直後にシュンッ!! という効果音と共にフランが現れた。

 

「こんにちは、って凄い壊れ方してますね! 真っ二つってなんですかこれ!? 何したんですか早苗さん!」

「ちょっと奇跡が起きちゃいまして……てへへ。すみません、お願いしても良いですか? 今度人里で甘味奢りますから」

「甘味!? 楽しみにしてます! 分かりました、早速にとりさんの工房に持って行って直してきます! 多分、一時間は掛かるかな……」

「ごめんね、お願いします! あとフランちゃん、私のことをお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんですよ?」

「……それはそこで抱きしめられてるお姉様に言って下さい」

 

 そう言って曖昧な笑顔でレミリアを見つめた後フランは真っ二つのベッドを抱えて再び瞬間移動で消えてしまう。

 フランちゃん私、貴女がお姉ちゃんって呼んでくれる日まで諦めませんからね! と早苗が言い返し――ギュッと抱きしめられていたレミリアを離した。その豊満な胸――もといおもちに顔を埋めさせられていたレミリアは「ぷはぁっ! ゲホゴホ! ……こ、殺す気!!?」と涙目で叫ぶ。

 

「……チッ」

「霊夢さん!?」

 

 それを見ていた霊夢が舌打ちしたのはともかく。

 しばらくフランを追いやることに成功した三名は改めて六月のページを開き直した。

 

「さて、読みましょうか。お二方!」

「その前にベッドを壊されたり乳圧で殺されかけた私に何か言うことはない!? いい加減腹も立ってるのよこの緑巫女!!」

「だって日記読みたいでしょう? 必要な犠牲です。それにスカーレット家なら大したことないですよね?」

「大したことあるわ! 当主が殺されかけたのよ!? しかも乳圧で殺されるって不名誉な殺され方をしかけたのよ!? せめて謝るのが常識ってものじゃない!?」

「レミリアさん知ってますかーーこの幻想郷では常識は投げ捨てるものなのですよ?」

「どうでもいいけどいい加減にしてくれない? レミリア、博麗の巫女を怒らせたいの?」

「何で私なのよ!? どう考えても悪いのはこの緑カラーじゃない! わ、私は謝らないわよ!?」

「うっさい。あーもう面倒だから読み始めるわよ!」

「なんでよ!? 不条理じゃない!」

「そっちこそどうでも良いことを延々と引っ張るんじゃないわよ! いい加減このやり取り書いてたら尺がなくなるわ!!」

「あの、尺ってなんですか霊夢さん?」

「もう二人とも黙れーー!! これ以上何か言ったら二人まとめて夢想封印撃つわよ! 知ってるーー幻想郷って博麗の巫女がルールだから! 私の意志でぶっ飛ばしても咎められないのよ!?」

「うわ、スペルカード向けないでください! 分かりました! 分かりましたから!!!!」

 

 物凄い剣幕でスペルカードを構えた霊夢にたちまち二人は黙り込んだ。

 なんか身も蓋もないことを叫んでいたような気もするが、ともかく場を収めた霊夢は六月の一ページ目を開く。

 

 

 #####

 

 

 六月一日

 

 

 今日は人里で遊ぶことにした。

 具体的には食べ歩きかな? 普段からお手伝いありがとう御座いますーーって咲夜からお小遣いを一杯貰ってたからそれを使ってみようと思ってさ。

 里のお団子屋さんに寄ってお茶とお団子を食べた。

 いやぁ、美味しかった。普段からこんな風に食べ歩きすることってないから新鮮だし。

 それにお金を使うのも慣れてないのよね。出す時ちょっと緊張しちゃったよ。

 で、そんな風に歩いていると稗田阿求さんって人に声をかけられた。

 どうやら幻想郷縁起ってものを編纂してるらしく、見慣れない私を見て思わず話しかけたとのことだ。

 良ければインタビューを受けてもらえませんか? とのことだったので色々質問に答えた。レミリアの妹だと告げると阿求さんはとても驚いていて「姉妹でこうも違うものなんですね」と言っていた。

 にしても一族で代々編纂か……完全記憶能力を持ってると話してたし大変なんだろうけど本気で頑張ってるんだろうなぁ。

 応援してるよ!

 

 

 #####

 

 

「阿求か……そういえばあいつ記憶を代々引き継げることを代償に寿命が短いらしいのよね」

「霊夢さん、いきなり湿っぽい方向に持ってくのやめません? いきなり寿命とか言われてシリアス出されたらコメントし辛いんですけど」

 

「……というか姉妹でこうも違うってどういうことよ。酷く不本意な事を思われてる気がするのだけど」

「そういえば私、幻想郷縁起のフランちゃんの項目読んだことあるんですけど凄いべた褒めでしたよ? 危険度が極低で説明文が『人間妖怪問わず、余程の事をしなければ危険度は皆無。能力こそ危険だが行使する気はあまり無い模様。また姉はあのレミリア・スカーレットだが物腰は柔らかく頼み事も聞いてくれる。様々な才能を持ち、本来敵である宗教への理解も深い。噂によるとあのイエス・キリストやゴータマ・シッダールタとも面会したという』ってなってました」

「なにその評価……妖怪にしては破格の好待遇な書かれ方ね。基本的に人間に手は出さないレミリアも危険度は極高だった覚えがあるのに」

「本当それよね。インタビューをカリスマ全開で答えたからかしら」

 

(……いや、レミリアさんの項目って確か『※ただし普通にしていればただの子供なので存分に甘やかしてあげよう。しかしやり過ぎるとお付きのメイド長がナイフ片手にやってくるので注意』って追記されてた気がするんですけど……)

 

 何だか噛み合わないが、ともかく三人は次のページを開く。

 

 

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 六月二日

 

 

 今更だけど寺子屋って特別講師多いよね?

 まぁそんなわけで今日も来ました。特別講師。

 

「皆、初めまして! 家庭科の特別講師として来ました――アリス・マーガトロイドです」

 

 そんなわけで今回の特別講師はアリスさんだった。

 教室に入ってきた時の皆の反応がすごかったよ。「アリス姉ちゃーん!」「アリスさんだー!」「この前の人形劇楽しかったよー!」「アリス・メガトロンさんだ!」「えっ? アリス・マーガリンでしょ?」「違うよ! アリス・マーガレットさんだよ!」「お前ら本当はアリスさん大好きだろ」「アリスーー! 俺だー! 結婚してくれー!」

 そんな感じにすごーくガヤガヤしてた。

 で、今回の家庭科なんだけど裁縫の授業らしい。今度教えてもらう約束だったけどまさか先に授業で教わることになるなんて思ってなかったよ。

 とりあえず幾つか縫い方を教わった。まつり縫いとかね。それから真っ直ぐ縫ったりする練習をしてから巾着を作ることに。

「そうそう、上手よ」

 アリスさんにご指導頂きながら、どうせだし、と魔力を込めて魔道具にしてやろうと集中してたらなんか出来た。

 なんだろう『袋の中に異空間が繋がってた』。

 ゲームの袋みたいに何でも入る巾着といえばいいのかな? そんなのが完成した。

 まぁ要らないけどね。私異空間幾つか持ってるし。

 ……そういえば森近さんのところで貰った剣とか入れっぱなしだなぁ。ちゃんと使わないと勿体無いしそのうち使うかーー。

 

 

 #####

 

「なんかもうサラッととんでもないことしてますよねこの子」

「……本当にね。多分こっから更にその方向に加速すると思うと今から頭が痛くなってくるわ」

「異空間……か。まぁその程度なら私にも出来るからまだ許容範囲内だけどね。確か人里の聖徳太子も持ってるって話だしまだマシよ」

 

 #####

 

 

 六月三日

 

 今日、人里に行くとバンド? をやってた。

 そこにいた人に聞くとプリズムリバー三姉妹が演奏をするらしい。

 三人の音楽はそれはそれは凄いそうだ。

 しばらく待ってると、件の三人が出てきた。

 ヴァイオリンのルナサさん。トランペットのメルランさん。キーボードのリリカさん。

 演奏は凄かったよ! 話だけ聞くと大丈夫かなって組み合わせだけどとてもフィットしていた。

 お祭りみたいな感じの盛り上がる曲調で心が躍ったよ!

 演奏が終わってから話をしに行くとどうやら彼女達はあちこちで演奏をしているらしい。

 「今度紅魔館でも演奏しない?」と尋ねてみると喜んで! という返事が返ってきた。やった、今度咲夜にお願いしよっと。

 あと楽器を見ていた時にさ、ルナサさんが「音楽に興味あるの?」と尋ねてきた。頷いたら「良かったら教えよっか?」と嬉しい提案をしてくれた。

 是非お願いします! うちにもピアノとか楽器はあるし、弾いてみたいと思ってたんだ!

 そうしたらメルランさんとリリカさんも話を聞いてたのか「楽しそうだし私達も教えるよー」とのこと。

 嬉しい! ありがとう三人とも!

 

 #####

 

 

「……コミュ障ってなんでしたっけ?」

「死に設定ってやつじゃない? それか大勢の前で発表することだけが苦手だとか」

「にしても音楽か、そういえばフランは弾けるものね……」

「あ、じゃあ今度教えますよ。前の料理とかも一緒に。私も最近暇してますから」

「…………いいの?」

「勿論ですよ! レミリアさん」

「あら、いつもなら人に教わるなんてーーってカリスマの心配をするのにどうしたのよ?」

「……別に。なんか変に意地張るのが馬鹿馬鹿しくなってきただけよ。何も出来ないままカリスマを建前に駄目だと切り捨ててばかりいる方が器量が無いと思われるしね」

 

(……この数時間でちょっと成長したのかしら? ま、良い傾向と考えておくか)

 

 レミリアの言葉を聞いて霊夢は小さく頷く。

 まぁ元々日記を見始めたのだって個人の興味もあったが、それ以前にレミリアが下剋上だと云々言ったことが原因だ。

 だからこそ彼女がこうして対応を変えるようになるというのは素直に喜ばしいことだろう。

 

(――ま、これだけで判断するのもアレだけど)

 

 単にツッコミに疲れてどうでも良くなっただけかもしれないし――そんなどうしようもなく悲しい可能性を捨てきれない霊夢は小さく微笑んでから次のページをめくった。

 

 

 

 




 


 今回出てきたネタ
・お姉ちゃんって呼んで!(ごちうさより)
・乳圧で死ぬ(死因としては結構幸せかもしれない)
・尺(察しろ)
・アリス・メガトロンさん(昔流行ったネタで、アリスの名前をやたら間違えることより)
・ふくろ(ドラクエのふくろ)

 おや、レミリアの様子が……!

 


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六月編2『EXルーミア』

 

ちょっと今回変にシリアス入ってますが次回から元のほのぼのギャグ路線に戻します。


 


 

 

 

 六月四日

 

 

 寺子屋!

 うん、もう特筆することはない。今日は普通の授業だった。

 歴史って面白いよね。

 特に日本の戦国時代って物語みたいだし。今川義元率いる大群を少数の奇襲で打ち破った織田信長。で、その信長の元で武将をやってた元農民の豊臣秀吉――最後に関ヶ原で石田三成率いる西軍を打ち破り天下をモノにした徳川家康。

 なんか、一人一人が面白いね。エピソードとかもさ。

 でも個人的にはやっぱり真田幸村が好きかなぁ。でもでも天才軍師で知られる竹中半兵衛とか黒田官兵衛も捨てがたい。……そういえば武将ってパソコンのゲームだとやたらかっこいい絵柄なんだよね。

 時代的には私も戦国時代が始まる前に生まれたし、その時から知ってればなぁ……ちょっかい出してやったのに。

 『忍者』だとか言ってれば飛んでも疑問に思われなさそうだし。

 

 #####

 

「アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「……何よ早苗、いきなり叫び出して」

「いや、忍者ってワードを聞くとついやっちゃうんですよ。特にこの場だと私しかネタ知らなそうですし」

「……なんの使命感でやってるのかしら? それは」

「察してあげなさい、レミリア」

「…………ううむ」

「まぁまぁそんなことはどうでも良いじゃないですか! ところでお二人は好きな武将っています?」

「好きな武将? そうね……私は――戦国時代だと武将じゃなくて商人だけど、納屋助左衛門かしら? あの時代に台湾、ルソンの壺のあの目の付け所が参考になるわ。結果的には秀吉の怒りを買って私財を奪われるけど、そのあとに海外でまた大金持ちになってるし」

「あぁー……なんか予想の斜め上の答えですね。で――レミリアさんは聞かなくてもいっか。次のページいきましょう」

「いや待ちなさいよ!? なんで聞かなくて良いの!? カリスマたる私の意見が聞けるチャンスなのよ?」

「だって、レミリアさんはどうせ伊達政宗が好きっていうんでしょ? かっこいいですもんね独眼竜。生まれさえ早ければ天下取りに関われたかもしれない片目の天才武将」

「な、……なにをいってるのかしら? 私が伊達政宗と答えるワケがな、ないじゃない?」

「レミリアレミリア、声が震えてるから変に意地はるのやめなさい。伊達政宗で良いじゃない。尊敬出来る人よ伊達政宗は」

「…………分かったわよ。伊達政宗が武将の中で一番好きよ!」

「いや、そこで流される素直さを見せるのもどうかと……」

 

 

 #####

 

 

 六月五日

 

 

 修行は上々だ。

 最近は封印状態でめーりんと肉弾戦をしている。とはいえ勝ち目はほばない。ボコボコにされては怪我を能力で破壊――つまり『無かったこと』にしてリザレクションしてはまた立ち向かう。

 気を纏い、弾幕をグミ打ちしたりビームにしたり。それから拳で殴る殴る殴る!

 この組手のルールは簡単だ。殴り飛ばされて立てなくなったら一敗判定となる。一度戦うたびに私は自分の怪我を無かったことにしてまた立ち向かってるわけだ。

 で、また負ける。やっぱり何百年もの修行差は大きい。師匠はそう簡単に超えられないね! やっとの事で掠るのが精一杯だ。

 今日の結果は0勝、二四敗。

 あぁーーーーーー『また、勝てなかった』

 

 そういえば話が変わるけど午後に魔法の森を歩いてたらルーミアちゃんの頭の『リボン』が落ちているのを見つけたよ。

 多分落としたんだろうね。明日は寺子屋だし返そっと。

 

 #####

 

 

「あの封印状態ってなんですか?」

「運動能力が人間レベルまで下がるらしいわ。妖怪としての種族の力を封印するものだとか」

「……その状態で素の美鈴さんに肉弾戦で攻撃を掠らせることが出来るってかなり凄いんじゃ?」

「……そうね、封印が無ければ肉弾戦で勝てるんじゃないかしら? まあ美鈴も本気は出してないから何とも言い難いけれど」

「そうですかーーって霊夢さんどうしたんですか? さっきから黙り込んでますけど」

「……ルーミアのリボンが落ちてた? 確か先代巫女――母さんが封印したと……まさか?」

「どうしたんですかいきなりシリアスな顔して」

「……気にしないで。次のページを読みましょう」

「? 分かりました」

 

 #####

 

 

 六月六日

 

 ちょっと今日の日記は日記らしくなくて、ついでに長くなることを先に書いておくよ。

 

 昨日のリボンを返してあげよう――と、そんな気持ちで寺子屋に行くとルーミアちゃんが休みだった。

 慧音先生に聞いても『何も連絡は来てない』とのこと。ミスティアちゃんが「風邪かな?」と言っていた。

 それで、心配になった私は落し物を届けがてら寺子屋が終わってからルーミアちゃんの家に行くことにしたんだ。

 ルーミアちゃんの家は魔法の森にあるらしい。

 大きな木の枝にあるツリーハウス。入り口は木の上だけど、ツリーハウスの中から木の中に繋がっていて、木の中まで生活空間になっているらしい。木が枯れないのかな? と思ったけど妖力でなんとかしているとか。流石妖怪。あ、私も妖怪か。

 ともかく行ってみると目的の家はすぐに見つかった。

 コンコン、とノックして中に入る。中は暗闇に染まっていた。外の光が部屋の中に射し込んでも暗闇のまま。

 ……さてはルーミアちゃん闇を操ってるな。とりあえず無事そうで一安心。あとは軽く一声掛けてから帰ろうかな、と思っていると暗闇の中から『ルーミアちゃん』の声がした。

 

「フラ、ンちゃン?」

「ルーミアちゃん大丈夫? 風邪? あとリボン落としてたから拾って持ってきておいたよ」

 

 そうやって声をかけると暗闇がふらりと揺れた。もしかしたらルーミアちゃんはベッドに寝ていて、今立ち上がったのかもしれない。そんなことを考えていると、闇の中から悲鳴のような声が上がった。

 

「リボンーー? 封印……アァ……!! フラン、ちゃ……逃げてッ!!」

「えっ?」

 

 瞬間だった。私の手の中のリボンがまるで意志を持ったかのように浮かび上がってーー暗闇に消えた。

 逃げて? どういうことだろう。言葉の意味を測りかねていた私は暗闇に手を伸ばして声を掛けようとした。でも――それは出来なかった。

 伸ばした手が斬られて落ちたからだ。

 ボトリ、と手首から先が落ちた。そして――ソイツは落ちた私の手を拾い上げ暗闇の中からヌゥッと姿を現したんだ。

 

「ク、……フフッ。何年ぶりかしらね、封印が解けたのは」

 

 現れたのは金髪のお姉さんだった。

 何処かルーミアちゃんの面影がある。しかしその内包された妖力の差が半端ではなかった。

 仮に、ルーミアさんと書いておこう。そのルーミアさんの頭の上には先程私が持っていたリボンが丸い輪っかのようになって浮いていた。その背には漆黒の翼が生えーー右手に聖者の十字架を変形させた大剣と左手には球状に集めた闇の魔力を手にしている。

 そして――口には先程落ちた私の手が咥えられていた。グチュグチュと彼女の口が咀嚼するように何度か動く。まるでガムを噛み潰したような音だった。時折骨のポキポキという音も聞こえる。どうやら彼女は私の手を食べているらしかった。

 やがて――ごくんと呑み込んだ彼女は、口の中に残った骨を唾のように横合に吐き捨てる。噛み砕かれ、唾液にまみれたぐちゃぐちゃの骨片が部屋の隅に落ちた。

 

「お腹が空いてたから食べてみたけど、人肉と違って妖怪の肉はそれほど美味いモンじゃないのね。聞いた話じゃ脂肪が少ないとか酸っぱい味とかするとかウワサだったけど、なまじ人間より耐久性あるせいか繊維の束を千切ってるみたい」

「……貴女、何者? ルーミアちゃんじゃないよね?」

「手を食われても案外動揺してないのね。私はルーミアよ? それも本来のね。先代の博麗の巫女に封印されてからはずっとーー貴女がいうルーミアちゃんだったけどね」

 

 口の端から垂れた血液をペロリと舐めとって、ルーミアさんは妖艶な笑みを浮かべる。

 それほど封印が解けたのが嬉しいらしい。斬られた私の手はもう修復完了していたので問題は無い。けれどこの状況は不味かった。

 別に負けるとかそんな話じゃなくて――話ぶりからしてどうやら目の前のルーミアさんが危険な妖怪だからという点だ。

 このまま彼女が放置していれば間違いなく八雲紫がルーミアさんを始末する。そうなればルーミアちゃんはもう――。

 それに問題はまだある。幻想郷は弾幕ごっこがルールであり、本気の殺し合いなど認められていない点だ。それを破れば幻想郷を守護する八雲紫は問答無用で動く。その自信が私にはあった。

 つまり――弾幕ごっこをせずに本気で止めることをすれば私が八雲紫に始末され――逆に何もしなければルーミアちゃんがルーミアさんごと始末されてしまう。

 目の前のルーミアさんは弾幕ごっこなんて絶対に守らないだろう。だからこそ今ここで――私が止めなくてはならないのにそれが出来ない。

 

(どうしよう)

 

 正直、止める方法はいくつもある。

 力づくでも良いし、能力で止めてもいいし。でもそれをやったら八雲紫さんが怒る。というか始末しにくる可能性が高い。

 せめて封印が出来れば良いんだけどそんな技術は持ってないし。

 と、そこで一つ名案が浮かんだ。そうだ、簡単な話じゃないか。

 

(封印が解けた事実を無かったことにすればいいじゃないか!)

 

 早速やってみようーーとしたけど上手くいかなかった。

 理由は簡単だ。私の力は概念とか、事実すら壊すことが出来る。

 けれどそれは一つ前提があったのだ。

 例えば怪我した事実を無くしたって前に書いたよね? あれは――その怪我はいつのものかとか、ちゃんとその事実というものを把握している上で私は能力行使して、壊してるんだよ。

 けれど今回はその情報がない。いつどこでどのようにしてルーミアちゃんの封印が解けたのか――それが分からない。ようは壊す対象を知らなければ壊せないのだ。

 ……だけど、一つだけ妙案が浮かんだ。

 

(テレパシーだ。目の前のルーミアさんの中にいるルーミアちゃんにテレパシーで聞けば――)

 

 先ほどの口ぶりからしてルーミアさんは私を知っているようだった。それ即ち、封印されていても意識は残るということに他ならない。つまりルーミアちゃんの意識も彼女の中にある筈なのだ。

 それを前提に何度も何度も私は心の中で呼びかける。すると雑音と共に小さなルーミアちゃんの声が聞こえてきた。

 そしてその声は話し始める。封印が解けた理由。そしてその出来事を。私はその言葉に耳を傾ける。同時に――私はルーミアさんにも語りかけていた。

 

「復活して――何をする気?」

「人里を襲う。そうそう寺子屋なんてものもあったわね。アレも潰すわ。そもそも間違ってるのは私じゃなくてーー貴女だもの」

「……私が間違ってる? なんで……って聞いていい?」

「妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を恐れ――退治しようとする。これが本来あるべき姿に関わらずこの子を含め最近の妖怪は人間の中に溶け込もうとしている。封印された後――ずっと私はこの子の目を通してこの世界を見てきたわ」

「だからって人里を襲うのは極論だと思うよ。それこそパワーバランスが崩れてしまう。それこそ幻想郷の終焉を推し進めることになるわ。そんなの私だけじゃなくて世間も許さない――それに八雲紫も」

「文句があれば掛かってくれば良いのよ。本来、弾幕ごっこなんてもので勝敗を決めて良いわけがない。そもそも最近の人間共も人間共で私達女妖怪をマスコットか何かと勘違いしているしね。一度大きく失えば二度とそうはならないわ」

「その喪失が全て壊すことになっても良いと?」

「えぇ。貴女が先程言った世間という言葉を使うなら、それが妖怪――世間の同一思想に他ならないわ」

「……それは違う。現に私は」

「世間というのは、君じゃないか。太宰メソッドよ。それは貴女の意見に過ぎない」

「それを言うなら貴女もでしょう?」

「そうよ。だからこそ話は平行線――何も変わらないし何も進まない。かくなる上は命を懸けて証明するしかないでしょう? 貴女か、私か。どっちが正しいのかを」

 

 それは駄目だ、と私は思った。

 ここまでルーミアさんとの会話をしてきて実はちょっとは淡い期待も抱いていたんだ。

 もしかしたらーー話せば分かるんじゃないか? 共存という道を選べるんじゃないか?

 でもそれは幻想だったらしい。幻想じゃないにしても私には無理だった。努力すれば届いたかもしれないけど――それをしない怠惰を私は選んだ。

 

「分かったよ」

 

 私が選んだのは全てを元に戻す道だ。

 ここまで話すまでにルーミアちゃんから全ては聞いていた。だからこそ――今度は『なかったことに出来る』。

 

「……ルーミアちゃんの封印が解けた事実を――」

 

 右手を突き出し、そっと拳を握り締める。

 

「――無かったことにした」

 

 ……これ以上は書きたくない。別に後に残す話じゃないしね。

 私がしたのは単にルーミアちゃんの封印が解けたことを無かったことにしただけ。また万が一にでも封印が解ければまたあのルーミアさんが出てくると思う。

 そしてその事実が無かったことになっていることはルーミアちゃんも覚えているはずだ。

 …………もう、今日は寝よう。

 

 #####

 

「……やっぱり、ルーミアの封印が」

「霊夢さん、これって――」

「……無かったことを話しても仕方ないわ。次のページをめくりましょう」

「でも……」

「良いの。次をめくって、お願い」

 

 #####

 

 六月七日

 

 驚いた。

 ルーミアちゃんが紅魔館に来た。

 どうやら見せたいものがあるらしい。

 昨日のこともあって、なんだろうとちょっと身構えてしまう。

 で、ルーミアちゃんがおもむろにリボンを取った。

 あの、リボンを取った。

 驚いたよ。本当に心の底から驚いた。昨日の話だとルーミアちゃんはリボンを外すことが出来ない筈なのにいきなり、そんなのは死に設定だオラァッ! って感じに鷲掴みにして投げ捨てたから。

 ともかく私は臨戦態勢になった。だってそりゃ当たり前だ。昨日のことを考える限り危険極まりないもん。

 でも、出てきたのはなんか違ってた。

 

「あー、なんかゴメンね? 実は昨日新月だったでしょ? 久々に復活したせいもあってついついハッスルし過ぎちゃって……ちょっと酒酔いじゃないんだけど闇酔いしててつい人里滅ぼすって言っちゃったのよ」

 

 誰だこの人は。あと闇酔いってなんだ。

 それから曖昧な顔でゴメンねー、と軽く言う目の前の美人さんは誰なんだ。

 私、こんな人知らないよ? いきなり腕切り落としてきたあの人はどこなの?

 

「本当にゴメンね? 痛かったよね?」

 

 あ、いや、はい。

 なんか一日経ってルーミアさんが滅茶苦茶優しいお姉さんになってた。どういうことよ? 意味不明だよ!?

 

「いやー、前に封印されちゃったのも新月にハッスルし過ぎたのが原因でさー。巫女にゃん――あっ、これ先代の博麗の巫女なんだけど一緒に酒飲み過ぎて酔っちゃってさ、ノリで巫女にゃんが私を封印しちゃったのよ。ゆかりんも笑ってるばかりで封印解いてくれないしさー、それで昨日までルーミアちゃんだったわけ。ちょっと良い加減怒りが溜まってたのを表に出しちゃってて。本当にゴメンね?」

 

 なんだこの軽い人!?

 本当に同一人物なのだろうか。

 ともかく話を聞くと、今後はルーミアちゃんが基本表だけど時折ルーミアさんが出る形で話はついているらしい。

 ということでじゃーね! とルーミアちゃんに戻り、言ってから帰ってったけどなんだったんだろ……。

 何にせよ和解出来たならハッピーエンド……なのか?

 

 #####

 

「さっきのシリアスを返して」

「……なんでしょう。このシリアスから無理やりギャグにしようとして微妙な空気になってる感じ」

「……もう、何も言えないわ。というかコメントしたくないわ」

「……とりあえず、次のページいきます?」

「「うん」」

 

 見なかったことにしよう。

 三人はそう結論付けて次のページをめくることにした。




 


 今回出てきたネタ
・戦国時代(大体安土桃山あたりの人を出した。多分一般的に認知されてないのは納屋助左衛門だけだと思う)
・アイエエエ!!(ニンジャスレイヤーより)
・グミ打ち(ドラゴンボール、ベジータより)
・また、勝てなかった(めだかボックスより球磨川禊の口癖。また、彼は無かったことにする力を持っていたりと若干フランの能力の拡大解釈の礎になってたり)
・EXルーミア(東方の二次創作ネタ。紅魔郷のテキストに実は髪の毛に巻いているリボンはお札でルーミアは触れられないーーと書いたあったことが元で生まれた)
・太宰メソッド(太宰治の人間失格より)

 
 次回はほのぼの(確約します)



 


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六月編3『フランちゃんの音楽教室』

 

 

 

 六月八日

 

 

 昨日、一昨日とルーミアちゃんの件で疲れた。

 なんか身体が怠い。おかしいなぁ、再生力落ちた?

 新しく把握したばかりの『無かったこと』にする力を何度も使ったせいか分からないけど、寺子屋もやる気が出ない。

 あと、雨も降ってるし。ほら吸血鬼って流水が弱点だから雨も浴びるだけで全身がジュージュー言いながら灰になっちゃうのよ。

 まぁ傘差せるから雨は雨で好きだけど、毎年この時期になると梅雨入りってこともあってうんざりちゃうよね。

 個人的にはやっぱり曇りが一番好きです、うん。

 まぁ今日は全体的に平和な日だったよ。偶にはこんな日も良いね。

 

 #####

 

 

「梅雨かー……毎年魔理沙が元気になるのよね」

「へ? なんでですか? 雨ってうざったくて……後透けるのに」

「その反応は透けたことあるのね……人前で。それはともかく魔理沙ーーアイツって魔法の材料に得体の知れないキノコを拾ったり生やしたりしてんのよ。それでこの季節はキノコの成長促進にピッタリだ、って」

「キノコねぇ……うちも咲夜が偶に仕入れるわね、松茸。個人的には炊き込み御飯が好きだけど」

「……チッ、サラッと高級食材の名前を出さないで欲しいわね。ブルジョワは黙ってなさい」

「当たり強くない? なんなら今度招待するわよ?」

 

 その瞬間時が止まった。

 霊夢の嫌味っぽいなこいつ、という顔が瞬時に満面の笑みに切り替わったのだ!

 

「……前言撤回、アンタ金持ちだけど良い子ね! いつにする? ねぇいつにする!?」

「ええい抱きつくな頭を撫でるな! 手のひらひっくり返り過ぎじゃない!? あと本当に感謝しているなら子供扱いはやめてレディーとして扱いなさい!!」

「……なんかそのセリフ暁みたいですね、ちょっとレミリアさん。『一人前のレディーとして扱ってよね!』って言ってみてくれませんか?」

「言わないわよ! なにその背伸びしたがる子供キャラ!? 一緒にするんじゃないわよ!」

 

 うがー! とレミリアのツッコミが冴え渡る。

 しかしなんだかんだ撫でられている彼女の口元は緩んでいるのでそれほど嫌がっていないらしかった。

 一方、

 

(……レミリアさん可愛いなぁ、……あとで私も撫でよっと)

 

 その様子(レミリアを撫でる霊夢)を見ていた早苗はあとで自分もやろうと決意していたーー!

 

 #####

 

 

 六月九日

 

 今日は紅魔館にお客様が来た。

 ルナサさん、メルランさん、リリカさん。プリズムリバー三姉妹だ。

 どうやら前の約束を守る為に来てくれたらしい。

 早速お姉様を呼んで、あとはめーりんとパチュリーと小悪魔さん――それから咲夜と妖精メイド達。おまけにホフゴブリン達とチュパカブラを連れて演奏を聴くことにした。

 演奏は凄かったよ。盛り上がる曲とか静かな曲とか色んな曲を演奏していた。一曲一曲終わるたびに皆拍手してたし。

 お姉様も「貴女達、紅魔館で働かない?」と勧誘してたしかなり楽しんでくれたんじゃないかな?

 まぁ断られてたけどね。

 ただしばらく私の音楽の先生をやってくれるらしく、滞在してくれるとのことだった。「その間に私達を住ませたいと思わせてみてくれよ」というのがルナサさんの言葉だ。お姉様もちょっとやる気になったらしい。

 あと、それに伴って暫くの間めーりんの修行は中止になった。滞在は一週間ほどなので「小休止としましょうか」とめーりんから提案してくれたのだ。ありがとうめーりん! 

 その分音楽を頑張ってみるよ!

 

 

 #####

 

「……どういう風の吹き回し? アンタが他人を紅魔館に誘うなんて珍しい」

「別に……あの三人がいれば暇を潰せると思っただけよ」

「ちなみに勧誘の結果はどうなったんですか?」

「…………」

「あのー、レミリアさん?」

「…………(汗)」

「どうしたんですか? 成功したか失敗したか答えるだけなのに」

「……早苗、アンタ偶に空気読まないわよね。察してあげなさいよ」

「いえ、違うんです霊夢さん。多分失敗したんだろうなーと予想はついてるんですけどほら、レミリアさんって反応が面白いからついつい虐めたくなってしまって……てへ♪」

「……虐めたく? ……オイ、風祝――貴様覚悟は出来ているか?」

「マジボイスやめて下さい! ちょ、ちょっとしたスキンシップですよ! レミリアさんが可愛くてつい!」

「……ハァ、もう金輪際そういうのはやめて欲しいわ。じゃないと私の恐ろしい真のパワーを見ることになるから」

「レミリアレミリア、ラスボスっぽいオーラ放ってるところ悪いけどちょっと涙出てるわよ? う、うぅぅー! って叫び出す手前だったのが丸わかりよ?」

 

 #####

 

 

 六月十日

 

 早速今日から音楽の勉強だ!

 ということで最初はリリカさんによるピアノ指導が始まった。

 まぁせっかくグランドピアノとかアップライトピアノがあるしね。有効活用しないと。

「じゃあまずは練習なんだけど、例えば弾きたい曲とかある?」

 ピアノの前に座ると、普段はキーボード担当のリリカさんが尋ねてきた。弾きたい曲か――まああるよ。実はずっと昔に弾けないけど、遊びのつもりで作曲した楽譜がある。

 存在すら忘れ掛けてたけどね。それに音楽のことを知らずに作ったからかなり本職からみたら拙いと思うけど……。

 

「これ? 『魔法少女達の百年祭』?」

 

 うん。二つ作ったうちの一つで一番最初に作ったやつ。弾けないけどピアノに触れたことはあるし、吸血鬼の鋭敏な感覚は絶対音感レベルまで聞き取れる。だからこそやってみたら出来ちゃった曲なんだけど……どうせなら弾きたい。

 そんな思いでお願いすると「でもこれ初心者には難しいよ?」という返事が返ってきた。

 でもやりたいのでもう一度お願いすると「分かったよ」と折れてくれた。

 ……そういえば今更だけど、リリカちゃんってソロでも活動してるんだよね。だから大抵の楽器が弾けるとか、あと人里でファンクラブがあるとか。そんな人に教わってるんだよなぁ。

 無理を聞いてもらったし頑張らないと!

 

 #####

 

 

「絶対音感って言ったって順番違いませんか、これ?」

「どういうこと?」

「いや……だってパソコンみたいな音楽ツールも無しに弾けない人が作曲って中々出来るもんじゃないですよ。それに魔法少女達の百年祭は聞いたことありますけど、あの完成度をとてもとても素人が作れるとは思えないですが……だから順番がおかしいと思ったんです」

「出来ちゃったんだから別に良いんじゃない?」

「そう、ですかね。部活とはいえ音楽に携わっていた身としてはツッコミ所があるんですけど」

「そもそもこれまでの話が基本ギャグじゃない。ツッコミどころなんて今更よ今更。そもそもこの世界自体シュールギャグだし」

 

「……ねぇ、風祝」

「何ですかレミリアさん、あと私のことはお姉ちゃんと呼んで下さい」

「お、……い、言わないから! それよりも霊夢って時々電波な発言しない?」

「それは同意します。まぁそれも霊夢さんの個性ですし」

「いや、個性じゃないから。変な勘違いしないで欲しいんだけど」

「いやいや。別に私達は構いませんよ?」

「まぁ、ちょっと気になるって程度だもの」

「……いや、その妙に生暖かい目をやめなさいよ」

 

 #####

 

 

 六月十一日

 

 

 意外にやれるもんだね。

 一日目で魔法少女達の百年祭は単に両手を使うだけでなら弾けるようになって、二日目はより多くの手を動かして弾けるかというところに集中した。というか数時間もやってたら手をバラバラに動かすことに慣れてきた覚えがある。ただ一つだけネックがあって、手が小さくて届かない箇所がある点だけど――それは吸血鬼のスピードで何とかなった。

 というわけで今日は二曲目の『UNオーエンは彼女なのか』を練習することに。こっちは比較的最近かな。アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を読んでから作ったし。

 こっちはもっと早く弾けるようになった。

 昨日ので手の動かし方に慣れたからか、三姉妹からも「才能あるよ」と言われた。

 明日はこれら二曲の練習をして――それからメルランさんが『トランペット』を教えてくれるらしい。

 よろしくお願いします!

 

 #####

 

「……案外早いのね」

「……意外と出来るものなんですよ、レミリアさん。私も初めてピアノに触ったとき、五時間くらい好きな曲を練習してたらそこそこ弾けるようになってましたなのでよく分かります。とは言っても本当に両手が使えてる程度で拙いことに変わりはありませんけどね」

「経験者が言うとなんかそれっぽいわね」

「『なんか』ってなんですか霊夢さん! これでも放課後ティータイムの皆とライブやったり、例の転校生と文化祭で歌ったりしたんですよ?」

「早苗早苗、なんか世界線ごっちゃになるからやめときなさい」

 

「……また電波入りましたよレミリアさん」

「そうね。また、ね。何なのかしらアレ」

「シッ、聞こえたら彼女、ブチ切れますよ?」

「――聞こえてるわよ。二人まとめて退治して欲しいの?」

「やめて下さい死んでしまいます!」

 

 なんか博麗の護符を構えた霊夢を見て危険を悟った早苗はそう叫んで、次のページをめくった。

 

 #####

 

 

 六月十二日

 

 プープー。

 トランペットってコツ掴まないと上手く音さえ出ないね。

 難しいや。ちなみに使ってるのは紅魔館にあったやつです。

 ピアノはともかく弾けば弾くほど上手くなるって話だから今後もやっておくとして――トランペットって中々教わる機会無いよね。

 やっぱり難しいなぁ。ようやくコツを掴んでどの音も出せるようになる頃には夕暮れになってたよ。

 あ、そうそう。とりあえずそこでトランペットは一旦切り上げた。

 それから歌の練習をすることに。

 音楽といえば歌らしい。なんか三人とも私の声はかなり『歌い手』というか『歌手』に向いてると思っていたようで凄い勢いでやってみてと言われた。

 とりあえず歌ったよ。歌い終わってから見ると三人とも口を開けて放心してた。

 えっ? もしかして酷かった? そんなことを思っていると「私達の音楽団に入らないか!?」とルナサさんが言ってきた。

 とても良かったらしい。是非歌手として入って欲しいと他の二人からもお願いされた。うーん、どうしよう。

 歌うってお仕事だよね? 歌手? アイドル? それは分からないけど。

 

 ――そういえばアイドルといえば前に地底のアイドルの黒谷ヤマメさんのところに魔理沙と二人で行ったなぁ。あの時は大勢の前に立ったときに話せなくなる――コミュ障を治すためだったかな。

 結局解決してなかったっけ? あと魔理沙がアイドルをやるなら『プロデュースするぜ』とか言ってたような気がする。

 アイドルにせよ歌手にせよ仕事って大切だからちゃんと考えて答えないとね。一旦返事は保留にして、明日魔理沙にアドバイスもらおっと。あと咲夜とめーりんにも。

 じゃあ今日は眠いし寝よっと。おやすみー!

 

 #####

 

「――これが後に幻想郷のアイドルと呼ばれるフランちゃん爆誕のキッカケであったことをまだ誰も知らない」

「……なにナレーションしてんのよ早苗」

「いや、何となくやりたくなりまして。にしてもこれがキッカケだったんですねーー初めて知りました」

 

「……そういえばアイドルには私も勧誘されたわね。まだ返事してないけど」

「レミリアさんもですかー。まぁ美少女姉妹っていかにも売れそうな設定ですからね。しかも片や運命を操り、片や破壊を司るとかーーどんだけキャラ濃いんですか二人とも」

「奇跡で何でも解決出来る上に髪が緑色のアンタには言われたくないわよ。あと風祝でありながら神なんでしょ? 充分濃いわ」

「言われてみると……そうかもしれません。となるとこの三人だと意外に霊夢さんが一番普通……なんですかね? それでも黒髪黒目の美少女っていう正統派ジャンルですけど」

「そうね。余り興味は無いけど」

「……なんか奇跡が私に囁いたんですけどそれ、嘘ですよね? よく分からないのでそのまま言いますが、『人気投票気にしてるあたり』滅茶苦茶気にしてますよね?」

「……古明地こいしは倒した。一位は私の指定席……そう、そうよ」

 

「れ、レミリアさん。なんか霊夢さんがブツブツ呟き出したんですけど!?」

「ほ、放っておきましょう。つ、次のページ」

「分かりましたレミリアちゃん!」

「今どさくさに紛れてちゃん付けしなかったかそこの風祝!?」

「気のせいです!」

 

 #####

 

 六月十三日

 

 私、アイドルになります。

 なんか今日は疲れたから明日に細かく書くよ。

 ……うん、一言言わせて。

 どうしてこうなった。

 

 #####

 

「短っ!? そして何が起きたんですかこれ!?」

「どうしてこうなったって私が聞きたいわよ! ともかく次のページをめくりなさい風祝!!」

「分かりました! お姉ちゃんに任せて下さい!」

「……いや、勝手にお姉ちゃん名乗るな! 私はお前の妹じゃない!」

 

 そしてワーワーと騒ぎながら早苗とレミリアは開いたばかりのページをすぐにめくる――――。

 

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・暁(艦隊これくしょんより。ちなみに話はズレるがこの素晴らしい世界に祝福を! の作者の暁なつめ先生の暁もこのキャラから取られたらしい)
・魔法少女達の百年祭(東方紅魔郷EX道中の曲名)
・UNオーエンは彼女なのか(東方紅魔郷EXボスの曲名。つまりフランの曲)
・早苗さんのネタ(お姉ちゃんと呼んで=ごちうさ。放課後ティータイム=けいおん! 転校生=涼宮ハルヒの憂鬱より。早苗さんの学校ってなんだろうね(白目))
・東方人気投票(東方キャラのナンバーワンを決める投票。こいしが一度一位を取ったがそれ以外の全ての投票で霊夢は一位を取っているため指定席と揶揄されることがある)

 そういえばレミリアって早苗さんのことなんて呼ぶんだろう……。今は風祝呼びだけど。

 



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六月編4『こころの仮面』

 

 

 

 六月十四日

 

 

 えっと……昨日の説明の続きだよね。

 私がアイドルになる話の。

 とりあえず初めから話そうか。昨日、私は魔理沙のところに行ったのよ。ほら、前に「アイドルになるならプロデュースしてやるぜ」って言われてたから。

 正直アイドルって言われてもピンとこないし、規模も外の世界でいうところのサークルみたいなものみたいだし。

 で、行ったら魔理沙が居た。何故かいつもの白黒魔法使いの服じゃなくて、スーツを着てた。

 

「……来たな、待ってたぜ。お前が私の元に来るこの時をな」

 

 いや、ノリノリだけどどうしたの魔理沙。いつもと違うよ? 全体的になんかおかしいよ? 具体的に言うと何もかも間違ってるよ?

 

「私がティンと来たアイドルだ……安心しろ。必ず成功する。あと既にプリズムリバーとの話も聞いた。それと紅魔館からもメイド長から(写真を送ること)で許可はもらった」

 

 いや根回し早いな。まさか私の気付かない時に紅魔館に来てたの?

 あと途中で魔理沙が「写真を送ることで咲夜から許可を得た」みたいなこと言ってた時、その瞬間だけ一瞬意識がふわっとなったけどなんだろ。もしかして幻聴だったのかな? ぼうっとしてたかもしれない。

 で、私を抜きで話がトントン拍子で進んでデビューが決まった。

 人里でのライブも決定し、七月七日に行われる『幻想ライブin人里』に霧雨プロダクションのアイドルとして参加するらしい。音楽は私の『魔法少女達の百年祭』と『UNオーエンは彼女なのか』をアレンジして歌詞をつけたものになるとか。間に合うの? と思ったけどなんかやたら魔理沙がパソコンを使い慣れていた。どうやら魔理沙の実家の霧雨商店は数年前から外の世界から幻想入りしたパソコンを導入していて、魔理沙もそれを何度も触っていたらしい。

 楽譜を渡すとほんの数十分ほどでPC上にデータとして保存していたのでかなり期待出来そう。楽曲アレンジはプリズムリバーも関わるみたいだし、なんか凄いね。

 ……なんか私が主役なのに一人だけ置いてけぼり状態だよ。

 正直まだ実感ないけど頑張らないとなぁ。

 

 #####

 

「へぇ、魔理沙がねぇ……」

「あれ、知らなかったんですか? 実際かなり凄いですよ。彼女、数学に強いですから経理も出来ますし簿記も出来ます。あと行動力も高いのでアイデアを実現することにかけてはかなりの実力があると思いますね。経営者向きですよ、魔理沙さん」

「……なんでアンタが分かった風に言ってるのかは置いておくとして。そうね、それに魔理沙は盗むことが得意だから人のアイデアも自分のものにしてしまいそうだしかなりやり手なのかもね、ああ見えて」

「まぁ外の世界だったら裁判ですけどね」

 

「……経営か、それこそ私の得意分野じゃない? 紅魔館を今日までもたせてきたのは他ならぬ私だし」

「いや、レミリア。経営とかも咲夜がやってたんじゃないの?」

「馬鹿にしないでよ。これでも紅魔館のデータは頭の中に入ってるわ。人員の数と給料、その捻出に至るまでの経路。収入ーー当主としてこの程度は出来なきゃ話にならないじゃない。それを放棄したらもう私、ただの我儘お嬢様になるわよ」

「あら、意外ですね。出来る方だったんですか、私てっきり全部咲夜さん任せかと……」

「そんな訳が無いでしょう。咲夜がするのは身の回りの世話だけよ」

「いわゆる子守ね」

「お母さんみたいですもんね、咲夜さん。フランちゃんもレミリアさんも。どっちも接し方がそんな感じがします」

 

「……んん゛。話を戻すわよ、にしてもフランがアイドルって何よ。咲夜から聞いてなかったんだけど」

「本人に聞いてみたらどうですか? 呼んだら出てくると思いますし?」

「……そうね、咲夜! ここへ」

「はっ。何用で御座いましょうかお嬢様」

「わっ、いきなり現れた……!」

「相変わらず心臓に悪いやつね」

 

「こほん、咲夜? フランの日記の中で、フランがアイドルになる時に貴女から許可を取ったという話が書いてあったのだけどどういうこと?」

「そのお話でしたか。以前ご報告しましたが?」

「聞いてないわよ。どういうこと?」

「では、その時のことを思い出して頂きましょう。こちらのフリップをご覧下さい」

 

 そう言って咲夜は数枚のフリップを取り出した。

 いつ用意したのかは定かではない。メイドにとって当たり前の技術である。

 どれどれ、レミリアが眺めると何枚かの絵が描いてあった。

 大体以下の感じの内容である。

 

 1、プリズムリバー三姉妹を紅魔館に引き込もうと、何か彼女達が欲しがるものはないかと探しているレミリアの図。

 2、しかし見つからず部屋でうー、とやるレミリアの図(注釈でカリスマポーズと赤ペンで書かれている)。

 3、その後、まずは三人のことを知ろうと壁から顔だけ出して覗き見るレミリアの図。

 4、そこに咲夜が颯爽と現れ「お嬢様、ご報告が御座います」という図。

 5、「話しなさい」と三姉妹から目をそらさずに言うレミリアと「かしこまりました」と説明を始める咲夜の図。

 6、聞き終わった後に「本当に聞き逃してないですか?」と尋ねるとレミリアが「分かったから下がりなさい。この紅魔の王が一度聞いたことを忘れるわけないでしょ」と突っぱね、仕方なく下がる咲夜の図。

 

「これで納得頂けましたでしょうか? それとも映像が必要ならお持ちしますが」

「……咲夜、下がって」

「御意」

 

 瞬間、咲夜が部屋から姿を消す。レミリアの頬が赤く染まっていた。

 ――――羞恥。彼女が感じていたのは羞恥である。そのまま黙り込むレミリアだがそこにツッコミを入れない霊夢ではない。

 

「……全部アンタの聞き逃しじゃない」

「はぅあ!!」

「しかも紅魔の王が一度聞いたことを忘れるはずないってーー忘れてんじゃねーか!」

「ゴフゥッ!!?」

「最低ね、咲夜が可哀想だわ。あいつちゃんと報告してたのに」

「うぐッ!?」

「で、これらを踏まえて早苗はどう思う?」

「えっ、私ですか? そうですねーー今度からは間違えないように頑張りましょう、ね?」

「う……」

 

 正論のナイフでメッタ刺しにされた上に子供扱いされた。霊夢はともかく早苗に至っては撫で撫でされた上に子供に向けるような声色で励まされている。

 ボコボコだった。色んな意味でボコボコだった。

 しかしここで泣いてしまってはそれこそカリスマ崩壊からの子供化に拍車をかけてしまうので我慢するレミリアである。

 ともかく――、

 

「……次のページ」

 

 全力で誤魔化そう。話題を移してしまえ。

 その思いでレミリアは次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 六月十五日

 

 

 今日も一日、頑張るぞい!

 ……うーん難しいなぁ。「ぞい!」のところを下げるか上げるか。個人的には上げるべきだと思うけど。

 と、そろそろ話に入ろうか。

 今日はダンスレッスンをやった。なんだろう、音楽練習はどこへ行ったのやら。

 コーチは魔理沙が秦こころさんって人を引っ張ってきてた。無表情だけどとても可愛い人だ。なんかお面で感情を表すらしい。

 無理やり連れて来られてたのに「……じゃあ始めよっか」と言ってくれたあたり、大人しいけど純粋で優しい人なんだろう。

 普段から舞をやっているとのことでアイドルの踊りは専門外だそうだが、大体で良いならと真面目に考えてくれてた。

 にしてもお面の数多いね。

 変なお面も一杯だったけど。魔理沙が森近さんも呼んでたので幾つか鑑定してもらうと『石仮面』とか『ムジュラの仮面』とか『ゲコたの仮面』とかがあった。かぶるとその性格になるらしい。

 試しに森近さんにかぶらせてみると、「僕は人妖をやめるぞーッ!! ジョジョーーッ!!」とか叫んでた。

 面白かったので色々かぶせて遊んだ。

「ハハッ!(妙に高い声で)」「僕は香霖じゃない――こーりんだッッ!!(何故か褌一丁になってた。凄い筋肉だった)」「元気百倍! こーりんマン!」「ボクはキミの中の希望を愛しているよ……」「フナッシィイイッッ!!」「その幻想をぶち殺す!」「ちくわ大明神」「誰だ今の」

 

 ーーうん、楽しかった。森近さんが凄い疲れてたけどゴメンね? 

 謝ると「やれやれ、今後は勘弁してくれよ」って許してくれた。

 あ、勿論ダンスレッスンもしっかりやったよ、ホントダヨ。

 

 

 #####

 

 

「――嘘だッッ!!」

「何急に叫んでんのよ早苗……」

「いや、誰かがやらないといけない気がして」

「……なんでもいいけどビックリするからやめてくれない?」

「すみません」

「にしてもこころか……あの子は良く祭りで舞を踊ってるわよね」

「ですねー、とってもお上手で綺麗なんですよねぇ」

「ふぅん。舞か……私も見に行こうかしら」

「イベントごとは顔だした方が良いわよ? 楽しいから」

「そうですよね! お祭りとか出店も多いしーーくじ引き屋とか一部の店は出禁にされてますけど楽しいですから!」

「必ず早苗が一番欲しい景品が当たるものね。大抵店の一等賞とかだし商売あがったりよ、アレ」

「奇跡も考えものですよね。まぁ私としては他でも楽しめますし、本当に欲しいものは大抵何かしらで手に入りますから」

「……貴女の能力、もうそれ奇跡じゃなくて幸運じゃないの?」

「そうですね、幸運でも良いですけどーーやっぱり神様ですから! 奇跡って書いた方が見栄え良くありません?」

「意外と俗物的な考え方なのね」

「だってそりゃ、ついこの前までピチピチのJK――おっと、女子高校生でしたからね☆」

「まぁ暇潰しにでも来なさい。後悔はしないから」

「そうね――考えてみる」

 

 #####

 

 

 六月十六日

 

 今日はスケジュールが合わないとかで自由な日になった。

 なので昨日、色々疲れるようなことをしてしまった森近さんに埋め合わせしようと香霖堂に行くことに。

 店に入ると森近さんが椅子に座って本を読んでいたので、挨拶して「何かお手伝いさせてください」と言うと「気にしてないけど、分かったよ。是非頼む」とのこと。

 で、一日店の中の商品の片付けと売り子をやった。

 商品のリストを作って、最近慣れたパソコン操作を活かしてビラを作製。で、それを森近さんの店にあったコピー機と紙で印刷。

 本日大特価! と銘打って人里で配って――とやってたらかなり繁盛した。

 森近さんが目を丸くしてた。こういうのって楽しいね。お店屋さんごっこみたいで。

 あと売り子してる時によく「偉いねー」って撫でられた。ふふん。

 それから、店を閉めてから森近さんの肩を揉んであげてる時に不意に森近さんにこう言われた。

「フラン――キミ、商売をする気はないかい」

 どういうことか聞くと私には商売の才能があるらしい。元々、趣味程度に店を開いていた森近さんだそうだが、今日の働きを見て商人としての食指が動いたとか。

 それで商売をしてみないか、という発言に繋がったみたいだ。

「勿論、キミがアイドルをやるという事は理解している。だから暇な時で構わない。バイト代も出すから香霖堂で働いてみないか?」

 うーん……面白いからやってみたいけど。やっぱり今は考えにくいかなぁ。

 とりあえずライブが終わってから考えても良いか、と言うとそれで構わないと言ってくれた。

 どうしようかなー。

 

 #####

 

「霖之助さんがそう言うって事は本当に繁盛したのね」

「……ところでなんですけど、森近さんの好みって何でしょうね」

「本当に唐突ね、どうしたのよ?」

「いや、フランさんって合法ロリですよね。でも中身は五〇〇年以上の熟女要素もある」

「別に霖之助さんはそんな気持ちで誘ってないでしょ。つかそんな気持ちで誘ってたら軽く引くわよ。魔理沙は八卦炉捨てるだろうし私は今持ってる巫女服全部捨てるわ。全部森近さん製だし」

「霊夢霊夢、それ軽く引くってレベルじゃないと思うわ」

「まぁこんな些細な話が名誉毀損とかになったりするし深く話すのはやめときましょう。ほらほら次のページ」

 

 霊夢はそう言って次のページをめくる――。

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・ティンときた(アイドルマスターより)
・魔理沙パソコンに強い説(正直有りそうな気もする)
・今日も一日頑張るぞい!(New Gameより。ハッカドールで先にネタにされてたけど個人的にはハッカの方が好きだったり)
・石仮面(ジョジョより)
・ムジュラの仮面(ゼルダの伝説、ムジュラの仮面より)
・ゲコたの仮面(とある科学の超電磁砲より)
・ハハッ!(夢の国の鼠、名前を書いてはいけない)
・変態こーりん(東方二次創作ネタ)
・元気百倍!(アンパンマンより)
・ボクはキミの中の希望を愛しているよ……(ダンガンロンパ2より狛枝凪斗のセリフ)
・フナッシィイイッッ!!(ふなっしー、あの奇声絶対喉メチャクチャ使うと思う)
・その幻想をぶち殺す!(とある魔術の禁書目録より上条当麻の決めゼリフ)
・ちくわ大明神(2ちゃんねるなどで使われる。ちくわ大明神、誰だ今の、というようにいきなり使われるのが特徴)
・嘘だッッ!!(ひぐらしのなく頃により)

 今回小ネタとはいえネタ多いな……。



 


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六月編5『決めゼリフを決めよう(提案)』

 

 七月七日が意外に遠い件。
 アイドル関連ばかりやるのも飽きがくるので、次回あたりから本格的にフランちゃんの睡眠時間を削るかと考える作者です。


 


 

 

 

 六月十七日

 

 

 ダンスダンス! 回れ回れ回れ回れ回れ回れ、マワレ!

 うん。疲れるね。ダンスしながら歌うって。なんだかんだ私って吸血鬼だから対応出来てるけど人間だったら絶対歌の方が掠れるよ。

 息が長く持たないともいう。激し過ぎるダンスもどうかと思うけど、出来ちゃうからついついプラスしてしまうとこころさんが嘆いてた。

 あとポーズ? あざと可愛いのお願いって言われた。

 あざと可愛いって何? 可愛いは分かるけどあざとい? リリカさんに上目遣いでお兄様! って言えば効果抜群だよって言われたけどよく分からない。

 まずは瞳を潤ませて、次に両手を胸の前で握り締めて、ちょっと上を見上げるように相手を見て、甘い声で「おねがぁい♡」……。

 よく分からないけどそれはやり過ぎじゃない? 見て分かる演技って逆に嫌悪感あると思うけど。

 ともかく試しにやってみてって言われたからやった。なんかスタッフさんが増えてて、大分前にファンですって言ってくれた罪袋さんが相手だ。彼はファンクラブとか言って私の知らないところで三〇人くらいスタッフとして集めてきてたらしい。

 で、結果だけど罪袋さんが倒れた。口からゴハァ! って血を吐いて。「……我が生涯に一片の悔いなし」とか言ってた。

 ……相手を吐血させて倒す――『あざと可愛い』って凄い危険な武器だね。やっぱりライブでやらないほうが良いと思う。

 

 

 #####

 

「……何そのあり得ない勘違い」

「ですよね霊夢さん。勘違い属性がプラスされたって感じですかね」

「……お兄様、ね」

 

「ん、何々? レミリアもお兄様とか言ってみたいの?」

「べ、別にそんなこと言ってないわよ!」

「む、なんか奇跡が降りてきました。普段は頼れるお姉様をし続けているけど、でも最近不安だから頼れるお兄さんに甘えてみたいなー……ってどっかの神様が私に語りかけています!」

「……違う! 違うから! そんな妄言私は認めないわよ!!」

「レミリアさん。いえ、レミリアちゃん。私のことをお姉ちゃん♪ って呼んで良いんですよ?」

「おねっ……呼ばないわよ! つか迂闊にそんな事言える状況じゃなくなったわ!」

「早苗早苗、今言いかけたわね」

「霊夢さん霊夢さん、言いかけましたね」

「アンタらそろそろグングニルの味を教えてやろうかしら……?」

 

 #####

 

 

 六月十八日

 

 最近忙しいせいで自由な時間が夜くらいしかないよ。ぶーぶー。

 あんまり夜更かしは良くないけど、アイドル業だけって訳にもいかないし色々やってみないとね!

 というわけで今日の夜は、かなり前に永遠亭に行くってこと書いたと思うけどそこに行くことにした。

 思えば幻想郷の夜って綺麗だよね。紅魔館はともかく一般家庭に電気なんて無いから夜は月明かりと満天の星空が広がる。流れ星も見えるくらい綺麗だし、偶に観察すると感動しちゃうな。

 で、迷いの竹林まで着きました。最近ちょっと暑くなってるけど夜はまだマシだね。風が心地良いよ。

 それで永遠亭なんだけど、この迷いの竹林の中にあるらしい。なんでそんな場所に居を構えているかといえば元々永遠亭の人達は月に住む人々で、月に無断で幻想郷に来てるらしいから――だとか。

 迷いの竹林は異様な成長スピードの竹林らしく、いわゆる天然の要塞と言われるくらい迷いやすいとか。

 まぁ私の場合は最悪、瞬間移動で帰れるし問題無いけど。

 

 で、夜の散歩なんて久々だからルンルン気分で歩いてたら良い匂いがしてきた。焼き鳥? そんな感じの匂い。

 気になって行ってみたら女将姿のミスティアちゃんがいた。〜♪〜♪って楽しそうに歌いながら屋台を引いてる。

 寄ってみたらどうやら彼女は夜な夜な八目鰻(やつめうなぎ)の屋台をやっていたらしい。折角なので食べて行った。うん、美味しい。

 前にやった家庭科でも料理上手だったし流石だね。

 で、適当なところで別れてまた竹林の森に入ったんだけどさ、なんかやたら罠が一杯あった。申し訳ないけどモノを破壊する力を持つ私にとって、モノの場所は目で分かっちゃうから作動する前に破壊するかスルーするかで殆ど意味無かったけど。

 それでZUNZUN進んでいくと、大きな音が聞こえた。ドガーン! とかズガーン! とか。

 行ってみたら妹紅先生が居た。それで誰かと戦ってた。黒髪黒目の超絶美人さんと。

「死に去らせえええっっ!! 輝夜あああッッ!!」「それはこっちの台詞よ! 闇の炎に抱かれて消えろ!」「うぐッ!? 私は何度でも蘇るさ!!」「まだまだぁッ! SSVD主席異端審問官――蓬莱山輝夜、これが最後の刃だ!!」「そんなもの効くか! 知ってるか、マンダの流星群は強い!」「なっ、炎の岩が降り注いでくる!? だが、無意味だ!」「無意味なんかじゃない! 弾けてーー混ざれえええっっ!!」

 

 なんか楽しそうだった。勿論殺し合いだったのは間違いないけど。

 とりあえず止めたことは書いておく。燃える流星群だとかあれこれは全部破壊して。なんだろう、自分のことでしかもサラッとやってるけどもうこれなんだか分からないね。

 とりあえず喧嘩の理由を聞いたら、どうやら黒髪黒目の超絶美人さんは本物の輝夜姫で妹紅さんが、輝夜さんに求婚して五つの難題の一つを与えられた藤原不比等って人の娘さんだったらしい。それで千年以上いがみ合っていると。

 もっと平和的に喧嘩すれば良いのに。ゲームとかで。

 まぁ良いけどね。

 あ、そうそう。輝夜さんは永遠亭に住んでいるらしいので案内してもらった。これで何かあっても安心だね!

 

 

 #####

 

 

「……どこから突っ込めば良いんでしょうか」

「そんなの放置よ早苗。構ってたらキリないわ。大丈夫、幻想郷は全てを受け入れるから。とりあえず永遠亭の話題にしときましょ」

「永遠亭といえば八意ダブルエックス、よね。年中……その、えっちぃことに関係する薬を作ってるっていう」

「何だその知識は!? レミリア、誰から聞いたのよ? あとアレはダブルエックスじゃねぇから! 単に本名が発音できないから『八意XX』ってなってるだけだから!」

「霊夢さん霊夢さん、なんか奇跡が舞い降りてきたんですけどーーメタい話はやめろ、いくら二次創作でも! って」

「黙れ! これを放置してられるか! レミリア、そのえっちぃの下りはどこで聞いたのよ!?」

「えっ……その、前に会った罪袋って袋をかぶった人に」

「……前言撤回よ、幻想郷は過度な変態を受け入れないわ。ついでに世界観をぶち壊す奴らも。まとめて今度退治しとかないと……」

「――その通りね、でも安心してちょうだい霊夢。既に私が仕留めておいたわ」

「咲夜!? いきなり出るな心臓に悪いわね!」

「失礼。でも私好みに育て上げ――もとい、お嬢様の健やかなる成長を妨げる輩は何人たりとも許さない。それがメイドとしての心得だもの」

「アンタ今、私好みに育て上げるとか言わなかった?」

「言ってない☆」

「言ったでしょうが! そんなの聞き逃すか! コイツこそ危険じゃないの!?」

「失礼、噛みました」

「完全に失言したって感じだったのに!?」

「失礼、噛みまみた」

「それはわざとでしょ!? つかはぐらかすな!」

 

「……ねぇおね……。守谷の風祝、え、えっちぃ薬ってどんなのがあるのかしら?」

「興味あるんですか? でも駄目です。教えません」

「でも、そういうことも知ってるのが大人の淑女ってものじゃないの?」

「無理に知らなくても良いんです。完全に無知なのも困りますけど、やるならエロスレか一八禁でやれと奇跡が舞い降りてますから」

「??? どういうことかしら」

「さぁ、私も分かりませんけど……」

 

(……なんにせよ、次のページに行きましょうか)

 

 これ以上尺を使うのは不味いって、奇跡が言ってますし――と早苗は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 六月十九日

 

 

 今日も雨だ。

 四月から毎日色んなことやってそろそろ私も弛んできた頃かもしれない。何かやるにしても怠いと思う日も増えてきたし。

 雨だれ石を穿つ(軒から垂れる雨だれも、長い間続けば石に穴を開けることもできるということ。根気良くコツコツ努力すれば最後には成功するという意味)ともいうし、頑張らないといけないんだけどね。

 さて、今日は歌とダンスとピアノの練習だ。

 喉も足も手もクタクタだよ。あと、最近は罪袋さんが持ってきたマイクとかで練習してる。何故か知らないけど罪袋の人達はこういうことに慣れてるみたいだった。やたら気合入ってて、「いずれは例大祭にサークル参加だ!」とか「いや、コミケ参戦だ! 壁サークルのコネ使って割り込めてやる!」とか「戦争だ! オタクの底力見せてやろうぜ!」とか叫んでた。

 皆暑くないのかな、罪袋って書かれた袋。

 ともかく会場の入りとか運営とかも出来るらしい罪袋さん達はとっても頼りになる。後でお礼がてらジュースでも配ってこよっと。

 

 #####

 

「レミリアさん、今更ですけどこれだけやってたのにフランちゃんがアイドルになることに気付かなかったんですか?」

「だってこの時期の私は夜に起きてたもの。騒霊たちはいつも誰かしら起きてたし。それに夜の方が昼より過ごしやすいしね」

「成る程。納得です!」

「それよりもお礼がてらジュースって、さぞ喜んだんでしょうね。だってファンって言うくらいだし」

「当たり前よ。私の妹が直々に渡すのだもの」

「嬉しいでしょうね。私も外の世界で好きだった歌手の人からもらえたら嬉しいですし」

「それにフランは天使だもの!」

「吸血鬼ーー悪魔が何言ってんのよ……」

 

 ガスッ、とレミリアにチョップ入れてから霊夢は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 六月二十日

 

 

 皆さん、にっこにっこにー!

 最近皆から決めゼリフみたいなのをやたら提案されるフランです。

 やっぱりそういうのあった方が良いのかな?

 Hey! てーとくぅ! 帰国子女のフランデース! んー、なんか違う。

 私の歌を聞けえぇぇぇぇッッ!! これも違うか。

 難しいね。決めゼリフって。

 あったらここぞという時にそれ使えば良いだけだから楽なんだけど。

 ちなみに上に書いてるやつは全部罪袋さん達の提案のセリフだ。

 何か良い案ないかなぁ?

 

 

 #####

 

 

「決めゼリフですか、私は間違いなく『この幻想郷に常識は(ry』ってやつですよね」

「そうね……で、私は『夢想封印!』かしら」

「そうなると私は『スピア・ザ・グングニル』ね」

「いや、レミリア。アンタは『ぎゃおー食べちゃうぞー!』の方をチョイスすべきだと思うわ」

「なんで今出した!? それおふざけで言った言葉だから! 断じて決めゼリフじゃないわよ!!?」

「いや、可愛いからそっちにしましょう」

「そうね、可愛いもんね」

「いや何勝手に決めてるのよ!? 認めないわよ!? こんなの絶ッ対認めないから!」

「となるとフランさんは……『レーヴァテイン』か『アンタはコンテニュー出来ないのさ!』ですかね」

「そうね、アイドルで使うなら後者になるけど」

「あれ、スルー? 私のカリスマなツッコミをスルー?」

「可愛くアレンジすると、『皆コンテニューさせないからっ!』になりますかね」

「いやいや、それよりも『お兄様達はコンテニューさせないよ♪』の方が良くないかしら?」

「おぉ! 名案ですね」

「…………もういいわ、ハァ」

 

 もういい加減叩き出してやろうかしら――と、ちょっと真剣に考えてしまうレミリアだった。

 

 

 

 




 


 今回出てきたネタ
・回れ回れ回れ回れ回れ、マワレ(雪月花という曲より)
・我が生涯に一片の悔いなし(北斗の拳、ラオウの台詞)
・闇の炎に抱かれて消えろ!(元ネタはテイルズだが馴染み深いのは中二病でも恋がしたい! だと思う。中二病が発する台詞)
・何度でも蘇るさ!(ラピュタより、ムスカの台詞)
・SSVD主席異端審問官(うみねこのなく頃に、のPCゲーム。黄金夢想曲より)
・マンダの流星群は強い(ポケモンの王と呼ばれし男の台詞、名前繋がりより)
・だが、無意味だ(仮面ライダーディケイドより)
・弾けて混ざれ!(ドラゴンボールより、ベジータの台詞)
・八意ダブルエックス(東方儚月抄より、えーりんの名前がXXと伏せられていた為)
・えっちぃ薬(コミケとか見てるとどこかしらで永遠亭の薬が使われているので)
・言ってない☆(この素晴らしい世界に祝福を! よりアクアの台詞)
・失礼噛みましたの下り(物語シリーズより)
・罪袋さん達(歴戦の戦士。コミケなどでも壁サークルを務める、要するにハイスペックなお前らのこと)
・にっこにっこにー!(ラブライブより矢澤にこの台詞)
・Hey! てーとくぅ!(艦隊これくしょんより金剛の台詞)
・私の歌を聞けえぇぇぇぇッッ!!(マクロスより)


 ……ネタ多い(確信)


 


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六月編6『魂魄○○』

 

 

 

  六月二十一日

 

  最近はアイドル業(の練習)で忙しいけどちゃんと寺子屋には通っている。で、今更知ったけど人里の中を妖怪の私が普通に歩くのってアウトだったんだね。

  サニーちゃん達三人組が「寺子屋以外あまり近づかない方が良いわよ」って言ってた。少し前に易者って人間から妖怪になった人が霊夢に退治されて改めて認識し直した人も多いらしいって話も一緒に聞いたけど前にルーミアさんが言ってたことと大体同じだったと思う。

  『人は妖怪を恐れ――妖怪は人を襲う。その関係性が崩壊すれば幻想郷は存在意義を失い消えてしまう。だから幻想郷の為に、互いの均衡を保つ為に、人里で妖怪が過度に人間に入れ込むのは御法度。あまつさえ最近は私達のような人間型の妖怪を怖がる人間が減る傾向にあるのでそれは控えなくてはならない――だからその二つを守ることはいわゆる幻想郷への税金のようなものだ』

  八雲紫の受け売りだとか。まぁそれには同意するよ。行動は真逆になってるけどね。アイドルで、しかも人里でやるって完全に真逆なんだけどね。

  ……まさか本番で八雲紫が邪魔しに来たり、する?

  いや、まさか……だよね?

  でも面倒だからって理由で藍さんと咲夜の喧嘩をお姉様を泣かせることで収めるような人だし、どうだろ。

  …………………………。

  うん、念の為本番は色々と備えておこうか。折角皆で協力してやってることをぶち壊されたくないし。

 

 

  #####

 

「本当に今更ね」

「そういえば聞きましたよ霊夢さん、人間から妖怪になった人を退治したんですよね?」

「えぇ、それこそ御法度だもの。彼は妖怪になったにも関わらず人間を襲わないから退治しないでくれと言ったわ、それはつまり人間としても妖怪としてもどちらの税金も払わないという意味よ。幻想郷は全てを受け入れるけど、私達は退治する。ただそれだけよ」

「……そうですか。で、霊夢さんの目から見てフランちゃんはどうなんです?」

「能力だけで問題無いわよ。あの子が例えどれだけ良い子だとしても全てを破壊する力を持つ以上恐れる人間は永久に存在する。あの子が気が触れていた過去もそれに拍車をかけるわ。同じ意味で言えばレミリアも問題無いわよ。吸血鬼、運命、そして紅霧異変。これだけ揃ってるもの」

「……霊夢さんも意外に真面目に博麗の巫女をやってらしたんですね」

「意外とは何よ。失礼ね」

「いや、本当に意外よ。足を運んでも境内の掃除をしているかお茶をすすっているか――それしか見たことがないから」

「やることがないもの。仕方ないじゃない、まぁ平和が一番よ。一番ダラダラ出来るし。日常のスパイスは偶に宴会を開くだけで十分よ」

 

「……あ、そうだ。霊夢さん。今思い出したんですけど、アリスさんは妖怪として問題が無いんですか?」

「えっ?」

「ほら、忘れがちですけどアリスさんって魔法使いであると同時に魔界出身の妖怪じゃないですか。あれだけ人里の人に慕われてる方ですし、妖怪として微妙だったりしてーーなんて」

「あー……あいつは、そうね。じゃあ一つ聞くけどアンタ達はあいつの本気って見たことある?」

「無いです」「同じく無いわ」

「それが答えよ。私もあいつの本気を見たことがないわ。弾幕ごっこでも程々に戦って負けてしまう。本気を見せて負けたら後が無くなるから――というのがあいつの談だけど、要するに妖怪として底知れないのよ。同時にあいつは人間側とも親しいけど妖怪サイドにも親しい。じゃあ聞くけど、その底知れない人間側とも妖怪側とも言い切れないあいつを妖怪と人間はどう判断すると思う?」

「そりゃ……まぁもしかしたらって心の底で思っちゃう人や妖怪も居るかもしれませんけど」

「それで良いのよ。ともかく幻想郷の調和さえ乱さなければ例え人間とも妖怪とも仲良くしても問題ない。少しでいい。心の底にほんの一ミリでも恐怖を持たせればそれで構わない。それが巫女としての考えかな」

「……ふむふむ。勉強になります」

「……ねぇ、語ってるところ申し訳無いけどそろそろ次のページに行っていいかしら?」

 

  そろそろ長引いてきたし、とレミリアが次のページをめくる。

 

  #####

 

  六月二十二日

 

  夜の散歩で行き倒れを見つけた。

  色の抜け落ちた白い髪を年齢に見合わず豊かに残した老紳士で、長々とした白ヒゲをたくわえていた。深い皺の奥、黒く澄み切った瞳の輝きは鋭く、精悍な面持ちの理想的な歳の取り方をした老人。体つきは鍛えられており、背筋もピンと伸びている――んだけど行き倒れだった。完全無欠の行き倒れだった。

  見つけたのは魔法の森にある小高い山の(ふもと)だ。近くには地底に繋がってる穴があって、最近覚えた千里眼を使って覗き込むと遥か深くに灼熱のマグマが煮え滾る大地が広がっていた。

  服が煤だらけだったし多分そこから這い上がってきたんだと思う。

  とりあえず行き倒れのお爺さんを揺すり起こすと開口一番に「腹が空いた」と言った。急いで紅魔館に瞬間移動して水と食べやすいお粥を作って食べさせると、「恩にきます。感謝を……」と言って寝てしまった。明日詳しい事情を聞こっと。

 

  #####

 

「……誰、そんな人連れ込んでたなんて知らないわよ私」

「どこかで聞いたことある特徴ね。白髪の老人でマグマの大地から這い上がれる人――誰だったかしら。昔、紫に聞いたような」

「あ、この人私知ってますよ」

「「知ってるのか早苗(風祝)!?」」

「はい、妖夢さんに聞いたことあります。前に従者の会で仲良くさせて頂いてその時の話なんですけど。妖夢さんってお爺さんが居るらしいんですよ。その人が先代庭師を務めていて、でも妖夢さんが幼い頃に頓悟(とんご)(悟りを開くこと)して行方を眩ましたそうです。その人が白髪で豊かな髭を加えた方と……」

「――あぁっ! 思い出したわ、そう。それよ! 確か幽々子のとこに居た妖夢の剣の師匠!  やっと思い出せたわ」

「……ふうん、でその人が居たってこと?  紅魔館に」

「それはまだ分からないけど……ともかく次のページ見ましょ!」

 

 そう言って霊夢が次のページを開く――――。

 

 #####

 

 

 六月二十三日

 

 良かった。

 昨日の行き倒れのお爺さんだけど朝にはかなり回復したらしい。お腹が空いてるそうなので適当に和食を作って上げたら喜んでくれた。

 

「いやぁ。仏陀(ブッダ)に習って断食をしておりましたら、先にマグマの熱さにやられてしまいましてな。にしてもやはり和食は美味い。ご飯と味噌汁は良いですね」

 

 どうやらマグマの熱さに耐えながら断食し座禅するという修行をやっていたらしい。初対面の人にこういうのもあれだけど馬鹿なのか。いや、馬鹿だよね?

 でも先に熱さにやられたと言うが火傷はあまり無く、むしろ食欲が凄かった。多分私が思ってたより断食してたんだと思う。にしたって昨日まで何も食べてなかったのによくこんなに食べれるね。。お腹壊すよ? と思う間もなくお爺さんは出したご飯を完食してた。

 

「ご馳走様でした。かたじけない、今回の御恩感謝致します。と、儂としたことがまだ名を名乗っておりませんでしたな。これは失礼を――私は魂魄妖忌(こんぱくようき)と申します」

 

 あぁこれはどうもご丁寧に。フランドールです。

 ……気まずい! というか本当に大丈夫かな。主に頭とか。そんなことを思っていると妖忌さんはいきなり立ち上がり、

 

「このご恩はいつか必ず返します。感謝を、心より感謝を」

 

 と言ってその場を去ろうとしたけどはい、ストップ。

 首元掴んで止めたけど「ムグッ!?」みたいな反応はなく「何でしょう?」と振り向くあたり本当に鍛えているらしい。

 腰に刺さってる剣からも見て取れるけどね。実は昨日、看病するときに一度抜いたけどよく鍛え上げられた一振りだった。妖怪ーーいや、神が鍛えた剣というべきか。マグマの熱にやられてないか心配での行為だったけど思わず見惚れたよ。

 妖忌さんの手も凄いしね。まだまだ初心者レベルの私が言うのもおこがましいけど剣に生きてきた人の手をしてた。

 まぁそれはともかく、今回止めた理由は一つだ。

 

「まだ身体は本調子じゃないですよね?」

「ハハハ、昨日に比べれば何ともありません。こうやって動き回れますからな」

「それでも、貴方は私が招いた客人です。完全に癒えるまでに帰したとあればそれは私の不徳でしょう。それにスカーレット家の恥です。当家の顔に泥を塗らない為にも完治まで滞在願えないでしょうか?」

「……そう言われては、断れませんな。分かりました――この魂魄妖忌(こんぱくようき)、完治までこの紅魔館に厄介となりましょう。しかしただ客人として振る舞うのは仏教徒である私にとっても不徳であります。故に、何か私に出来ることがあれば申し付け頂きたい。炊事洗濯でも構いません、何か貴女の為に出来ることはないでしょうか?」

「……じゃあ、剣を教えて下さい。妖忌さんは――剣士ですよね? 私は剣が知りたい、です」

「……承りました。可能な限り貴女に私の剣を教えましょう、フランドール殿」

 

 なに、アイドル活動で忙しいのに剣を教わるのかって?

 仕方ないでしょ! こうしないと相手の面子――というか心意気を立てられないもん!

 それに妖忌さんは剣の達人みたいな風格あるし、私はレーヴァテインを使うしでピッタリじゃん!

 踊りでも剣舞ってのもあるからもしかしたらアイドルの演出に活かせるかもしれないし!

 とりあえず剣は明日から教わることになった。

 得物はお持ちですか? と聞かれたけど大丈夫、紅魔館には練習用の竹刀も含めて一杯あるから。それに私も一本だけ、森近さんにもらった後放置してる業物がある。

 使わないと可哀想だし使ってあげないとね。

 

 #####

 

 

「やっぱり妖忌さんでしたね……」

「ねぇ、これ妖夢に教えたほうが良いんじゃないの? 行方不明で探してるって聞いたけど」

「……いや、多分大丈夫よ、運命がそう語りかけてきてるから」

 

 …………………………。

 

「お、とうとうレミリアさんも奇跡と勘の領域に足を踏み入れましたか?」

「何よ今の間は」

「いや、だってまさかレミリアからそんな言葉が出ると思ってなかったし」

「ですよね。普段なら私か、そうじゃなければ霊夢さんが『――って巫女の勘がそう言ってるわ』って展開ですもんね」

「貴女達このレミリア・スカーレットを舐めてない? つか運命って殆ど未来よ。そもそもこういう役割って本来私が言うべきで、二人が奇跡だ勘だとゴリ押してる方がおかしいのよ! というかゴリ押して『なんだ奇跡(勘)か』で済まされてる空気がおかしいのよ!?」

「だって……」

「……ねぇ?」

「そこ! 示し合わせたように頷き合わない! というかなんで私がツッコミをしているのよ!? 私はレミリア・スカーレットよ!? 高貴なる吸血鬼よ! 本来ならどう思う? って聞かれてコメントするのが私の立ち位置の筈なのよ!?」

「霊夢さん霊夢さん、レミリアさんが何か言ってます」

「早苗早苗、レミリアが何か喚いてるわね」

「こ、のーー! いい加減にしないと終いには叩き出すわよ巫女共っ!!」

「ハン、やれるもんならやってみなさいよかりちゅま吸血鬼っ!!」

 

「え? いや何二人喧嘩腰になってるんですか? ネタじゃなかったんですか? え、えっ? なんか空気がガチになってますぅ!? とりあえず奇跡!!」

 

 瞬間だった。奇跡が起こったのは。

 まずバラバラと数枚の金貨が霊夢の頭の上から落ちた。霊夢はお金が好きである。というか嫌いな人間は居ないだろう。その瞬間から彼女の視界からレミリアはアウトオブ眼中となる。

 さて、同時にレミリアの頭の上にもバサッと一冊の本が落ちた。

 タイトルは『十神白夜のカリスマ学』となっている。ぶつかった時はアダッ!! っと悲鳴を上げたレミリアだが、表紙絵のいかにも帝王学を身につけたっぽい眼鏡の青年とタイトルを読んで、小さく息を吐くと――こっそりそれを服の内側にしまい込んだ。

 

「うおおおおおあああっ!! 金貨!? 金貨ーーってあれ、これ金の紙で包まれたチョコ?」

「ふふ、ふふふふふ。これでカリスマが……ククッ」

 

(……あれ? なんか余計に酷いことになってない?)

 

 ――二人を見てそんなことを思う早苗だった。

 

 

 




 


 今回出てきたネタ
・易者(東方鈴奈庵より)
・ブッダ(かつてブッダは断食をしたことがあるらしい)
・知っているのか早苗(魅!! 男塾より)
・早苗早苗、霊夢霊夢の下り(Re:ゼロから始める異世界生活より)
・十神白夜(ダンガンロンパより、帝王学を学び完璧とまで称されるが黒幕に噛ませ眼鏡と呼ばれている。つまりどう足掻いてもレミリアにカリスマは(ry
・金紙チョコレート(偶にゲーセンで見かける。意外に美味い)



 


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六月編7『世界の真理』

 

 

 

 六月二十四日

 

 妖忌さんに剣の修行をお願いした翌日。

 やりました。早速やりましたよ。

 なんだろうね。妖忌さんは技を盗むものと考えているらしい。めーりんと同じ考え方なんだけど、安易に教わろうとすると叱ってきたから結構苛烈かも?

 でも私的にそのスタイルは嫌いじゃないよ。寧ろ恩があるからって普段のスタンス外した教え方されてもって話だしね。

 にしてもやっぱりというかなんというか、流石凄腕だった。

 妖忌さんが修めているのは『魂魄流剣術』らしい。彼曰く、『雨を斬るには三〇年、空気を斬るのに五〇年、時を斬るのに二百年。そうしてようやく見えるのが魂魄流の真髄(なり)』だそう。

 語ってるところ悪いけど流石にそこまで教わろうと思ってないよ。

 ちょっとでも剣に慣れたらなーって感じだから。本気で魂魄流の舎弟に入って修行しようと思ってないから。

 とりあえず修行内容をさらっと書いておこうかな。

 まぁ一言で言うと一度貴女の技量を知るべく、お手合わせ願いたいってのが最初だった。本気で来いって話だったので前に私のパワーがやたら増幅したあの名前不明の剣も持ってきた。

 で、やったらなんか驚いてた……ちょっとフォーオブアカインド(四人に分身)して、同時にレーヴァテイン(ラグナロクの炎剣)で薙ぎ払っただけなのに。

 まぁ防がれたけどね。「無刀風迅!!」とか叫んだ瞬間に私の剣が全て空ぶった。

 さっすがぁ♪ そうこなくちゃ面白くない。

 小手調べで倒しちゃったらツマラナイしね。にしてもこの剣。魔力の通りが良いなぁ。業物なのは分かるけどもしかしたら有名な剣だったりして。

 なんにせよ森近さんには感謝だね。

 

 

 #####

 

 

「あの、フォーオブアカインドとレーヴァテインって両方スペルカードですよね。普通に同時にスペルカード出したらいけないってルール破ってませんか?」

「修行だからセーフじゃない? 殺し合いじゃないし。それに修行に文句は付けられないわ」

「で、でもサラッと書いてあることがかなり恐ろしい事なんですけどーーねぇレミリアさんはどうですか?」

「落ち着きなさい守谷の風祝。今更よ」

「いや、一番認めちゃいけない人が今更って言っちゃ駄目でしょう!? 妹ちゃんですよ!?」

「……幻想郷は全てを受け入れるのよ、それはそれは残酷な事なの」

「返答に困ったらとりあえずそれ言ってませんか!? つか万能返事にしないで下さい!!」

「あぁもううっさいわね! 細かい事をグチグチグチグチ! ぶっ飛ばすわよ!?」

「何故ぇっ!? 何故そんなに不機嫌なんです!? この数分の間に何があったんですか!?」

「嫉妬してるんでしょ。自分よりリアルが充実してて尚且つ自分より明らかに成長している事実を一つずつ突き付けられて」

「残酷な事をサラッと言うのやめてくれないかしら? というか負けてないから! まだ負けてないから!」

「いや、どこに負けてない要素が残ってるんですか?」

「……むむむ」

「何がむむむですか!?」

 

 駄目だ……(レミリアは)考える事を放棄している! ……考える事が、怖いんだ! なんとなく、早苗はそう理解した。

 

 #####

 

 

 六月二十五日

 

 

 剣って難しい。とりあえず素振りとかやってみてる。

 普段ならともかく特訓用の封印モードだと真っ直ぐ振るのって意外に難しいのよね。いや、別に重いとかじゃなくてさ。

 吸血鬼ってありとあらゆる感覚が鋭敏なんだよ。戦闘面においてね。だからこそ初めてやる事でも戦闘関連なら一度で出来てしまうくらい要領が良いんだ。

 だからこそそれを封印されると辛いのよ。良くも悪くも感覚が人間レベルまで落ちるから。でもこうやって身に付けないと種族の力で出来ちゃうから仕方なく封印してるわけ。

 それと妖忌さんと封印状態でも戦ったけどダメダメだったよ。

 どう斬りつけても弾かれて首元とかの弱点に剣を突きつけられる。受け流しって言うのかな。本来、剣と剣のぶつかり合いって刃の損傷が大きいから殆ど無いけどわざわざ受け止めて上手く受け流してた。というかきょうび剣道以外で剣を振るうなんて中々無いけどね。

 とりあえず片っ端から見たものを吸収して真似していくか。あと、罪袋さん達からもらった剣技の案も試してみよう。

 面白そうなの色々あるし。

 えっと、『九頭龍閃(くずりゅうせん)』とか『天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』とか。

 あとは『火産霊神(カグヅチ)』? それからジャンル違いだと『アバンストラッシュ』とか『スターバーストストリーム』とか『煉獄鬼斬り』とか。

 かなり無茶の入った動きも多かったけどやってみよう。

 にしても罪袋さん達ってよくこんな案出てくるよね。発想力が天才だと思う。

 

 #####

 

「フランちゃーん、それ全部パクリですよー?」

「パクリ? 外の世界にあったの?」

「はい、全部漫画とラノベですね。アニメ化もしてますけど」

「……ねえ、私怖い事に気付いたんだけど」

 

 その時、レミリアが声を上げた。

 二人がそちらを向くと、彼女は言う。

 

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「「……………………、」」

 

 二人は黙り込んだ。

 いや、仕方ない話だ。そんなギャグのお約束のような部分に真面目に突っ込んでくるヤツが居るなんて想像もしていない。

 というか普通はご都合主義なフィルターかなんかで三人が気づくはずのない事実である。

 えっ? 何か地雷踏んだ? 一人知らないレミリアは目をパチクリとさせた。

 

「あーあ……知ってはならない事を知ったわね。アンタ」

「えっ? どうしたの霊夢?」

「本当ですね。知っちゃったなら仕方ないですよね」

「えっ? えっ、何よ?」

 

 訳の分からないレミリアを他所に巫女二人はゆらりと怪しく立ち上がった。心なしか瞳の虹彩ーー詰まる所ハイライトが消えている気がする。いきなり妙な行動を取り出した二人にレミリアは困惑を隠せないまま自衛をしようとするが、それは腕を押さえられて叶わなかった。

 

「知ってる? 世界の真理を知ったヤツは消されるのよ」

「ゲームオーバーですレミリアさん。また来世お会いしましょう」

「ゲームオーバーって何よ!? というか世界の真理って……罪袋が世界の真理なわけあるかぁ!! 単に矛盾を突きつけた事が世界の真理にしたって初耳だから! というか離しなさいよ! ってええい、なんだこの馬鹿力! 吸血鬼の私が動かせない……えっ、嘘、ちょっと待って!」

「待たない。夢想――」

「ま、待って! 私に出来ることはお願いなんでもするからーー!」

 

 封印! という前にレミリアのなんでもする発言に二人の動きが止まった。

 

「ん?」「今」「なんでもするって」「言いましたよね?」

「す、するわよ! ……なんでも。その謎のコンビネーションはともかく!」

「ですって霊夢さん」

「どうしてやろうかしらね早苗」

「何よその楽しそうな顔! と、ともかく離しなさいよ!」

「んー……そうですね。じゃあ日記が読み終わるまでは私達を叩き出さないと誓って下さい。それで離しますから」

「わ、分かったわよ! 私――レミリア・スカーレットはこの日記を読み終えるまで貴女達二人を叩き出さないわ――――」

 

「じゃあ茶番は終わりにしましょうか霊夢さん」

「そうね。そろそろ尺無いし」

「――って何サラッと語らせたまま日記に戻ろうとしてるのよ!? 幾ら何でも酷いんじゃない!? それと茶番!? さっきまでの消される云々は全部茶番なの!!?」

「当たり前でしょ、馬鹿なの?」

「そんな話があるわけないじゃないですか、馬鹿ですか?」

「くーーーこ、殺すッッ!! 私を脅した罪を今精算させてやるっ!! 好き勝手遊んだ挙句馬鹿? なんて言われてこのレミリア・スカーレットが黙っていると思ったら大間違いよ!!」

「はいはい、愚痴は読みながら聞きますから次のページ行きますよ」

「………………、グスン」

 

 結局スルーされた上に有耶無耶にされたレミリアは不貞腐れた。

 

 #####

 

 六月二十六日

 

 ダンスに歌に剣に寺子屋に。

 よく考えたら超ハードスケジュールだよね。めーりんの修行が一時的にとはいえ無くなって良かったよ。

 最近じゃ寝る前にちょこちょこやってたゲームも眠くて中々難しいし、咲夜のお手伝いもあまり出来てない。

 うーん……色々教われて楽しいけど拘束され過ぎても困るよね。

 贅沢な悩みなのかなぁ?

 とりあえず全部全力で取り組んで、って体力的に出来ても精神的にはキツイし。

 まぁ自分が望んだ結果だから仕方ないかー。とりあえずライブが終わればまた自由時間が出来るかな。

 それまでは頑張ろう。

 あ、そうそう。ここまでの流れも考えて、今日のところは報告を書こう。

 前に幽香さんにもらった向日葵は順調に育ってるよ。八月の半ばには花を咲かせると思う。めーりんからもお褒めの言葉はもらった。

 メイド技術はかなり身に付いてきた。前に一度、家事を全部やった日があったけど意外にアレで自信が付いたんだよね。

 まだまだ咲夜には及ばないけど及第点くらいの働きは出来ると思う。

 友達関係は良好だ。日記には書いてないけど一時間くらい遊んだりとかしてるし。

 

 そんなところかな。

 じゃ寝よっと。おやすみなさーい。

 

 #####

 

 

「時間の拘束か……確かに大変ですよね。バンドやってると」

「………………、」

「やったこと無いから分からないけど、大変なの?」

「そりゃそうですよ。音合わせとかしてるとどうしても気になる部分が出たりして、それを修正したりしてるといつの間にか夜になってたりもザラです。本番前なんて特に緊張してヤバイですし」

 

「………………、」

「……そうなの――で、レミリア? そんな黙りこくらないでよ、うん。ほら拗ねないでってば! さっきのは私達の悪ノリだったから」

「そ、そうですよ! 私達が悪かったんですからいつも通り話をして下さい。気まずい空気は嫌なんですよぅ!」

「……ハァ、本当に反省してるの?」

「そりゃもう!」「はい!」

「……本当かしら?」

「当たり前でしょ」「はい!」

「…………分かったわよ。ネタをネタと理解出来なかった私も悪かったし……おあいこにしとく」

「それでこそレミリア!」「よっ、日本一!」

 

「……やっぱ喧嘩売ってないアンタら?」

「そんなわけ」「ないじゃないですかー!」

 

「今確信したわ。この二人は私に喧嘩売ってるって!」

 

 決めた、日記を読み終わったらちょっと本気で叩き潰す。

 そう決意したレミリアだった。

 

 

 

 

 




 今回出てきたネタ
・むむむ(横山三国志より)
・駄目だ……考えることを(進撃の巨人よりアルミンの台詞)
・九頭龍閃、天翔龍閃、火産霊神(るろうに剣心より)
・アバンストラッシュ(ダイの大冒険より)
・スターバーストストリーム(ソードアート・オンラインより)
・煉獄鬼斬り(ワンピースより)
・今、何でもするって、言ったよね?(ニコニコの淫夢語録)


 多分次回で六月編終わります。


 


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六月編END『妖忌と妖夢』

 
 予告通り今回で六月編終了!


 

 

 

 六月二十七日

 

 

 最近罪袋さん達の種類が増えてきた。

 罪って書かれた袋をかぶってるのが通常の罪袋さん。最近増えたのは顔が黄色い文字で『P』ってなってる『プロデューサーさん』と顔が『T』ってなってる『提督さん』。正確には皆違うらしいけどオタクなのは同じらしいって罪袋さんが言ってた。

 あ、そうそう。Pさんによるアイドルレッスンの休憩時間の合間に妖忌さんに昔話をしてもらった。

 元々妖忌さんは白玉楼という場所で庭師兼剣術指南役をしていたらしい。孫娘とお嬢様。二人の面倒を見ながら日々を過ごしていたのだとか。

 ところがある時、悟りを開いたらしい。それを大きな機会と見た妖忌さんはまだまだ未熟だが半人前にはなっていた孫娘さんに後を託し、一人修行の旅をしていたんだって。

 それからもう幾年もの月日を経てまだ一度も帰っていないとか。

 ……こういうのもあれだけど偶には帰った方が良いと思うよ? お孫さん寂しがってるんじゃない? それにそのお嬢様に怒られるよ? 話を聞く限り無断で出てきたみたいだし、それも仏教的に言うなら『不徳』になるんじゃないかな。

 ――それとなくそんなことを話してみたけれど「全ては覚悟の上。例え天地神明が罰しようと、この果てしなき道の果てへ辿り着くまでは帰るつもりはありません』と答えられてしまった。

 少し目を伏せていたからちょっとは未練あるはずなのに……。

 

 

 #####

 

 

「あの、妖夢さんの話をして良いですか?」

 

 この日の日記を読み終わり、早苗が挙手した。特に意見の無かった二人が頷くと彼女は話し始める。

 

「去年の従者会議で、二人きりで話した時に――妖夢さんこう言ってました。『年月が過ぎて、師匠――お爺ちゃんの居ない生活には慣れました。でも、時折思い出すんです。幼い頃の日々を。剣を教わるたびにやり方を聞いては技を盗めって怒られた時のことを……あの時から私は成長しました――肉体的にも精神的にも。でも半人前のままです。だって私はまだお爺ちゃんに認められてませんから』って」

 

 今も時折探しているんですよ。この幻想郷のどこかできっと生きているって信じてますから。って言ってました、と早苗は語った。

 続けて、そしていつか見つけて、認めさせてやるんです。全身全霊をかけて――魂魄流の技を見せ付けて、私は一人前になれましたかって聞いてやるんです! と語った。

 

「……そういった意味では、まだ本人が半人前だと言っている状況でお互いが会わない選択をしているのはお互いにとって良い事なのかもしれません。でも、それって悲しいことだと思います」

「…………私も意見を言って良いかしら」

 

 次に手を挙げたのはレミリアだった。ふぅ、ふぅと小さく息を吐いた彼女は熱く注がれたティーカップの液体を一口含み、呑み込んで、話し始める。

 

「……二人は祖父と孫よね。そして同時に師匠と弟子でもある。二人が優先しているのは後者の関係よ。それ自体私は悪いことだと思わないし両者の考えが一致している以上他者が言葉を挟む余地は無いと思う。でも――それでも家族としての関係も重要だと思うの。師匠として、じゃなくて。祖父として孫の顔を見に行くことに何を忌避する必要があるの?」

「………………、」

「フランの日記の最後に目を伏せていたと書いてあったわ。アレは本当は――心の底では愛している孫娘に一目会いたいと思っているんじゃないの? ……まぁ、私が言える話でも無いけれどね」

「…………、レミリアさん」

 

 目を伏せたレミリアを見かねて早苗が声を上げたが、彼女はそれを手で制した。当の本人の行動とあれば何か話すわけにはいかない。途端に早苗は黙り込んで、視線を宙に向けた。

 最後に。小さく溜息を吐いて霊夢が手を挙げた。彼女は二人の返事も肯定の様子も確認することなく話し始める。

 

「一つ。一つだけ博麗の巫女として言うなら、私達は介入しない。二人は話し合ってた意見も結局はフラン視点の話でしかない――だから本人の気持ちがどうかなんて確かじゃないわ。それに、仮にそうだとしても私達には関係無いもの。結局は本人が動くかどうかなの。異変と妖怪退治以外で博麗の巫女は動かない。勿論この言葉が届かないことは理解してるけどね……。さ、変な考察はやめて次のページを読みましょうか。やりにくくて仕方ないから」

 

 一息に言い切った霊夢は次のページに手をかけた。

 そして面倒そうに一ページをめくる――――。

 

 

 #####

 

 

 六月二十八日

 

 

 フラグって言葉がある。

 意味は特定のイベントを起こすための条件が揃うことを指すんだけど、他にも『ゲームとかでこのキャラ死ぬな』みたいに伏線を感じた時にも『フラグが立った』と使うらしい。

 これが今回の話の事前知識ね。

 まぁ簡単に言ってしまえば推理モノで「この中に犯罪者がいるかもしれないのに一緒に寝れるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ!」と言って暫く経って部屋で死んでいる姿を発見されることと言えば分かりやすいかな。

 この場合、「この中に〜」ってセリフを言った瞬間『死亡フラグ』が立ったというんだけど。

 まぁ端的に言おうか。

 

 

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 詳しくは明日書く。

 

 

 #####

 

 

「シリアスを返して!」

「つか私達の発言も丸ごとフラグって言いたいのか!?」

「いや、それ以前に何ですかこれ!? 前日に『修行を完遂するまで帰らない』って言ったからですか!? にしたって酷過ぎませんかレミリアさん!」

「わ、私は関係無いわよ! 運命操ってないから!」

「と、ともかく次のページを読みましょう?」

「分かりました」「分かったわ!」

 

 

 #####

 

 

 六月二十九日

 

 

 いや、アレだね。まさかってやつだね。

 一瞬、お姉様が運命操ったのかと邪推するくらいのタイミングだった。

 とりあえず最初から書こう。

 昨日、アイドルレッスンと剣の訓練を終えて休憩時間に入っていた私達は足りない物を買うついでに軽く散歩しましょう、と妖忌さんと一緒に人里へ買い物に行ってたんだ。

 買い物自体は楽しかったし順調だった。

 団子屋ではお店の常連さんらしい元月の兎の鈴瑚(りんご)さんって人にオススメの団子を紹介してもらったり、花屋では久々に幽香さんと再会して花の談義に花咲かせたり。

 あとは妖忌さんが気になったらしい剣道の道場にちょこっとお邪魔したりとね。

 

 ……一昨日の言葉が運命を決定付けたのかは分からない。

 ただ、ふらりと寄った剣道場を後にしようとしたその時に私は丁度入ってくる人にぶつかったんだ。

「あぅ」「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 ぶつかった時はそんな感じだったと思う。ぶつかった相手の人は尻餅をついた私に手を差し伸べてくれたんだけど、その時妖忌さんが小さく呟いたんだ。

 

「……妖夢?」

「……お爺、ちゃん?」

 

 白髪に黒いリボンを付けた一〇代後半の女の子。

 手を差し伸べたポーズのまま魂魄妖夢さんは完全に固まっていた。

 妖忌さんも想定外の事態に狼狽えていたようだったけど、何事か思ったのか口を動かしていた。

 

「久しぶり、じゃな」

「――――ッ!!」

 

 感慨深い、いや。もっと色々な感情が詰め込まれた一言だったのだと思う。瞬間、妖夢さんが妖忌さんに抱き付いていた。

 ペタペタと本物なのかどうか確かめるように。抱き付いて――数秒間そのままだった。けど、やがて目の前に居るのが本物の妖忌さんだと理解した彼女は次第に嗚咽を上げて泣き始めた。

 多分言いたかったことは沢山あったと思う。でも彼女が真っ先に見せたのは無事で良かったという安堵の気持ちとその表れだったと私は思う。

 道場の中でも何人か驚いているようだった。何でも妖夢さんは人里の剣道場で剣を教えていたらしい。普段は凛々しく真面目で弱音など見せたことの無い師範であった彼女があんなにボロボロと泣き崩れている。その姿が信じ難い光景だったみたいだ。

 妖忌さんは戸惑いながら――その時ばかりは師匠ではなく祖父としての顔で対応をしていた。

 ひとしきり泣いてひとしきり聞きたいことを聞いている様子を私はただ見た。

 それらを終えて妖夢さんは初めて怒りを見せたところも、怒った孫に罪悪感から意外にタジタジだった妖忌さんの姿も。

 二人の後ろから――ギャラリーから隠すように立ってただ、見つめていた。

 

 ……その後の話だけど。妖忌さんは白玉楼に連れ帰るらしい。

 それは私も構わない。というかそうするべきだと思う。離れていた時間を少しでも取り戻すべきだ。

 だから私は、まだ返されてない分のお礼を返す方法として妖忌さんにこう提示した。

 

『白玉楼でキチンと話し合って、失った時間を取り戻して下さい。それが終わったらまた、紅魔館に来て剣を教えてください』と。

 

 何も言わずに飛び出した過去を清算して下さい、と。

 修行も結構ですけど、仏教徒ならそれ以上に人との繋がりで不徳を働き我儘で修行するのは良くないから――。

 だから、今度はちゃんと了承を得て下さい。

 

 血の繋がりのある家族と、大切なお嬢様なんでしょう?

 ――――と。

 

 #####

 

 

「……フラン、良い子に育って」

「レミリアさん、ハンカチです」

「ありがとう……ズビビビ!」

「あぁっ! 鼻をかまないで下さい!!」

「……あんたらときたら」

 

 ほろりと涙を零し早苗の渡したハンカチで鼻をかむレミリアとそれに悲鳴を上げる早苗を見て霊夢はやれやれと呟いた。感動的な話じゃないの。なのにこいつらと来たら。

 これじゃあ色んな意味で台無しじゃない、と彼女は思う。

 

「……うぅ、私のハンカチが」

「……今度紅魔館の物を見繕うから我慢して頂戴」

「本当、馬鹿馬鹿しいわね。ちょっとは感慨深さを味わさせなさいよ」

「……だって、姉として嬉しくて」

「だっても何もないでしょ。つかあの子は良い子だけどアンタは我儘娘って評価なのは変わらないからね?」

「まぁまぁ霊夢さん。日記の内容はともかく私達はこんな感じで良いじゃないですか」

「……どういうことよ?」

「だって、私たちが何しようと日記の中はハッピーエンドです。後は妖忌さんと妖夢さん、後は幽々子さんに任せるしかないんですから。私達に出来るのは出来るだけ感受性を持って読むことだけなのですよ!」

「その為に感慨に浸らせろっつってんのよ! 日本語理解してんのアンタ!? 私は感動を感じる為にそのハンカチの下りヤメろって言ってんの!!」

「……後、なんか奇跡が言うにはまだ六月編一ページあるのに下手にシリアスシリアスされるとギャグで流しにくいと――――」

「何処の事情よ!? そんな事情で水差すな! つかオチに困ったからってメタネタで曖昧にするのこれで何度目!? いい加減に――――!」

「……運命が囁いているわ。次のページをめくれと」

「――――って人が話してる時に勝手に話を――――」

 

 進めんな! と霊夢が言い切る前にレミリアは次のページをめくった。同時にワーワー騒ぐ霊夢を二人は不審な目で見る。

 ……現実は非情だった。

 

 #####

 

 

 六月三十日

 

 今日で日記も三ヶ月目。

 完全に習慣づいた、と思う。

 というかライブまで後一週間か。緊張してきたよ。

 曲も明日には完成するらしい。衣装もだ。

 よーし! 気合入れていっちょやるよ!

 やるからには一番盛り上げてやるぜーっ!

 プリズムリバー三姉妹も気合入ってるしね。

 ……そういえば『幻想郷ライブin人里』って名目だけど他のグループはどんな感じだろ。ちょっと気になるなー。

 

 #####

 

「……もう言うことないわ。さっきスルーされた事で」

「サッサと七月に移りましょうか」

「夏シーズンね! 月の帰りに造った擬似的な海で良く遊んだものだわ」

「私はよく妖怪の山の湖で諏訪子様と泳いだなぁ」

「私は……まぁ。うん、涼しく過ごす為に頑張ったわよ」

 

(具体的にはチルノを捕まえたり幽霊を捕まえたり、ね)

 

 二人に比べ自分のやってることが割と酷いことに気付いた霊夢は一人、ショックを受けていた――――!

 だがしかし。

 気を取り直して霊夢は次のページをめくる。

 

 

 季節は夏。幻想郷の暑い夏の日記が始まった――――。

 

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・頭がPのプロデューサーさん(アイドルマスター、二次創作ネタより)
・頭がTの提督さん(艦隊これくしょん、二次創作ネタより)
・フラグ(死亡フラグ、恋愛フラグ、生還フラグとか色々ある)
・いっちょやるよ!(逆転裁判より)
・幻想郷の暑い夏が始まるーー(二次創作アニメ、東方夢想夏郷のナレーションより)


 今回ネタは抑えめな感じでした。
 さて、夏だ。夏といえば水着……俺のターンが来たぜ。


 


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七月編
七月編1『濡れ透け衣装』


 

 

 六月編が読み終わり一旦小休止を取ろうと早苗はフランドールの日記をテーブルに置いた。

 

「……次は、七月ですね!」

 

 日記をテーブルに置き、クッキーを一欠片掴むと早苗は口に頬張る。その声はウキウキしたような晴れやかなものだった。

 半分、物語のように楽しんでいるのだろう。ゆったりと午後の紅茶タイム気分で過ごしている早苗だが――そこに待ったをかけた者が居た。

 というか霊夢だった。

 

「ねぇ早苗。この下りやめない? 一ヶ月ごとに一々こうやって枠取ってネタ考えるの面倒なんだけど」

「それは何の話ですか!? 誰の事情ですかそれぇっ!!」

「どうでも良いけどサッサとしてくれない? フランにバレる前に読みきらなきゃいけないんだから」

「レミリアさんもですか!? あー、もう! 分かりました、分かりましたよぉ……。私は好きだったんだけどなぁ、これ」

 

 酷く身もふたもない話で早苗はバッサリ論破された。ついでに空気とかそのあたりも全部ぶっ壊れた。

 修復不可能となった空気を察した早苗は泣き寝入りを決める。

 さて、そんなこんなでインターバル無しと決定した三人は七月編を読み始めた――――。

 

 

 #####

 

 

 七月一日

 

 

 七月だ! 最近はもう普通に暑い、うん。

 参っちゃうよね。汗かくし、まぁ暑さは魔法で何とか出来るけど。

 で、それよりもだよ!

 今日、衣装と曲が完成しました! 早速着てみるとぴったり!

 だけどなんか短いな。スカートなんて中見えちゃいそうだし上もなんか薄め? 本で見たアイドルが着てる感じの服ではあるけど。

 

 ……というかあれ? 私採寸した覚えないのにどうやって作ったんだろ……まぁいっか。

 それと下着まで作ってあったけど服係の人頑張り過ぎじゃない? というかなんでブラジャーのサイズまで合ってるのは本当に疑問なんだけど……。

 

 ともかく、簡易式のステージを用意してもらって本番のように歌ってみた。振り付けも決まってるし、後は覚えて本番に備えるだけだ。

 にしても実際にステージで歌うと色々と違うね。何故だか物凄く恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃう。

 ……上がり症ってやつかなぁ? コミュ障って程じゃないし。

 マイクを使うとやたら声も響くから余計に恥ずかしいし。

 本番大丈夫かなぁ。心配だなぁ。

 

 

 #####

 

「事案ね」

「事案ですね」

「……確かに不思議ね。採寸をしていないのにサイズが分かるなんて、何かの能力かしら」

 

 上から霊夢、早苗、レミリアの言葉である。

 そもそも採寸した覚えが無いとかそれ以前に下着まで作成している時点でグレーゾーンなのに、しかもサイズまでピッタリという事実は完全に事案だった。

 勿論、霊夢と早苗はその辺りの知識は持ち合わせているし明らかに嫌悪感を見せていた。しかし妙な所でピュア(メイド長の差し金で知らない)を発揮したレミリアは至極真面目に考察を始める。

 

「人の身体サイズが分かる能力……? だ、駄目よそんなの! 何か危ない気がする」

「ま、もしあったら怖いですけどね。見知らぬ人が自分のスリーサイズ知ってたとか完全に恐怖ですからね」

「特に幻想郷は女性の実力者が多いから、そんなのが居たら……博麗の巫女としては申し訳ないけどちょっとなーとは、うん……思う」

 

 それに季節も夏だ。

 短いとは書いてあったが本当に短かかったのだろうと三人は想像する――想像して、身震いした。

 

「……次、めくるわよ」

「はい」「えぇ」

 

 全体的に妙な雰囲気のまま、霊夢が次のページを開く。

 

 

 #####

 

 七月二日

 

 

 今日は雨だ。しかもかなり強い。

 本番近いけど今日は中で細々した作業するだけで終わりかな、とか思って居たら一部の罪袋の人達がやたらノリノリで『外でやりましょう』って声をかけてきた。

 ええー……だって雨だよ? 魔法で防げるけど気乗りしない。

 とりあえず話だけは聞いてみると、彼らの言い分はこうだった。

 『ライブ当日が雨だとしても中止になりませんから、この日はむしろ練習のチャンスなんです。万が一雨になった場合の時の』

 むぅ、一理ある。仕方ない、やろっか。

 昨日もらった衣装に下着も含めて着替え直して、マイクの準備して、ザアザア雨が降る外へ一歩踏み出す。

 幸いにして夏という季節だから冷たくはない。丁度良い涼しさだけど全身が濡れる感覚は妙な感じがする。

 勢いが強いからかな? 服も直ぐに濡れてしまった。

 とりあえずステージの上に立って歌い始める。

 ザー、ザー! という雨音の中に私の歌声が混ざり合った。声をかけてきた罪袋の人達も雨に濡れながら私を見ている。皆真剣――というかすごい真面目だ。そんなにも真っ直ぐ見られるとちょっと恥ずかしいかも。

 で、その途中に問題が起こった。声をかけてきた罪袋さん達が急に何やらワーワー騒ぎ出して歌を中止にしたのだ。

 『すみません! 中止! キミ、タオルを持って行ってーー』『はい! 任せて下さい!』『オイ撮るな! 今撮ったヤツPAD長……じゃなくてメイド長に殺されるぞ!』『衣装班は誰だ! 何でこんな仕様にしやがった!』『YESロリータ、NOタッチの精神を忘れるとは……ロリコンの風上にも置けん!!』

 凄い慌ただしかった。所々で怒気も上がってた。何でだろ。

 そう考えていると女性の罪袋さんがタオルを抱えて駆け寄ってくる。

『フランさん! 透け、透けてます! 服が透けて――下着もやばい感じになってます!』

 

 ……ふぇ? 私が下を向くとヒラヒラしていた筈の服が私の身体のラインに沿ってペッタリとくっついていた。

 後、透けてた。肌色が見えてた。下着も本気でヤバイ部位以外は半分透けかけてた。

 

「え、あ、……え?」

『タオルを巻いて! よ……いしょっと! 早く中に入りましょう、私が壁になって個室まで移動させます!』

 

 透けた? 見られた?

 駄目だ。考えがまとまらない。今、タオルとあったかい飲み物を貰って休憩しながら書いてるけど……。

 そういえば衣装班は誰だ、とか言ってたなぁ。もしかして雨で透ける仕様にしてたとか?

 ともかく、明日真相を書こうと思う。

 

 #####

 

「……………、」

「れ、レミリアさん?」

「……家族のことって尚更腹にくるものなのね」

 

 小さく呟いたレミリアの様子は普段とは一線を画したものだった。

 彼女の身体を覆うように正体不明の瘴気が薄く出力され、その雰囲気は彼女が心の底から溢れ出る怒りを冷静さで押し込めているような――そんな雰囲気を思わせた。

 

「幾年ぶりかしら。こんな気持ちになるの、あぁ。私は感情を一つ忘れていたかのようなそんな気さえしてくるわ」

「「………………」」

 

 妖艶な、それでいて凄絶なる凄みを持った顔で彼女は言う。

 二人は何も反応出来なかった。

 レミリアから溢れ出る力は意図せずして二人を圧倒しーー何かすることを躊躇わせていたのだ。

 そして、怒りに打ち震える吸血鬼は言う。

 

 

「……久しぶりにキレちまったよ。これが、怒りか。久方振りに思い出した感情ね。思い返せば――怒りとはこれ程熱いものだったのか。上辺だけの怒りは何度も感じたけれど、今の私はブチキレてる」

「……お、落ち着いて下さいレミリアさん」

「落ち着く? 私は落ち着いているわ。ただ、言葉で言い表せない感情を感じているだけよ」

「キレてるじゃないですか! うぅ……霊夢さんも何とか言ってやって下さいよ!」

「なんとか」

「そこでボケなくていいですからぁッ!! つかなんですか霊夢さん!? これ止めるの面倒だから関わらないでおこうとか考えてませんか!?」

「……流石奇跡ね。よく分かってるじゃない」

「認められても困るんですよ! 私だって下手に止めるの怖いんですから手伝って下さい! ほら!」

「……あーもう、ったく仕方ないわね」

 

 頭を掻きながら霊夢は気怠げに立ち上がる。

 それから部屋の隅に落ちたままの黄金のタライをヒョイと掴み上げた霊夢は――迷いなくレミリアの脳天目掛けて振り下ろした!!

 

「夢想封印(物理)!!」

「ッッ!? 痛ったい頭があ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!? 」

 

 ガァン、ってレベルじゃなかった。

 レミリアの頭がタライを突き破っていた。さっきまで怒りに打ち震えていたレミリアも堪らず聞いたことないような奇声に近い悲鳴を上げる。

 同時、早苗は叫び声を上げた。

 

「何やってんですか霊夢さん!?」

「いや、レミリアを落ち着かせる為によ」

「限度ってものがあるでしょう普通!? 何タライを突き破る勢いで振り下ろしてるんですか!? 吸血鬼じゃなくて人間なら頭がパーンってなってますよさっきの!! ってかレミリアさん……あ、気絶してる」

「きゅう……」

 

 ノックダウン。ボクシングならワンパンKOである。

 いや、タライを使ったという意味では完全にルール違反だが。

 心配性な早苗は倒れたレミリアを優しく抱き上げると軽く頭を撫でながら治癒の奇跡を使う。レミリアの周りからは既に謎の瘴気は消え失せており、頭からか苦しそうな顔で気絶していた。

 

「たんこぶ出来てるじゃないですか! 流石にさっきのレミリアさんへの対応を酷すぎますよ霊夢さん!」

「いや吸血鬼だし、それにアドレナリンとか出てるから気絶しないだろうって思ってたんだけど……」

「にしたってやり過ぎです! 年齢は高いとはいえこんな小さな子に……可哀想です。それにレミリアさん何も悪くないのに」

「そうだけどね、怒り過ぎなのよ。もっと冷静になりなさい。次のページに真実が書いてあるんだからそこまで読んでから怒れ」

「う……うぅ」

「あっ、大丈夫ですかレミリアさん? 頭痛くないですか?」

「う? うー…………だいじょぶ、よ……ほんと、色々言いたいこともあるけれど次のページを読んで頂戴」

「……良いんですか?」

「冷静じゃなかったから……お願い」

「分かりました」

 

 早苗はゆっくりと次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月三日

 

 

 結果からいうと全ては一つのミスだったらしい。

 どうやら衣装を担当した人が本来持ってくる衣装とは違う、同じ見た目で材質が違うものを持って来てしまったのがそもそもの原因らしい。

 衣装係の里のお兄さん(仕立て屋をしている)に滅茶苦茶謝られた。

 ……にしてもどうして水に透ける仕様なの? それを尋ねると、彼には小柄な(といっても私よりは大きい)彼女さんがいるらしい。

 元々仕立て屋をしていた彼はオーダーメイドの商品もよく頼まれるそうだけど、その際にもう一つ水に透けるものを作り、それを彼女さんに着せたりするのが好きなのだとか。

 ついでにぴっちりしたやつが好きで、とかなんか言いづらそうに言ってた。よく分からない。

 多分、女の人が短い服や水に透ける服を着るってのははれんちぃってやつかえっちぃってやつだと思うけど。

 その辺り咲夜に聞けば知ってるかな?

 ともかく衣装係のお兄さんは今回の商品は無料で良いと言ってくれた。

 にしても咲夜も罪袋さん達も凄い怒りようだったよ。

 お姉様が聞いたら怒るかなぁ? でも、許してあげて欲しいな。見られたのは恥ずかしいけど私は気にしてないし。

 そもそも見られてどうこうなる身体じゃないってのは……うん、悲しいけど何となく分かるし。

 ……書いてて悲しくなってきた。とりあえず寝る。おやすみ。

 

 

 #####

 

 

「……許してあげてだってさ、お姉様」

「……正直納得し難いわ。過ぎた話を蒸し返しているようだけど、妹のことだもの」

「まぁ確かに。透ける服とかとんだド変態じゃないですか。仕立て屋ってなんか行きたくなくなりましたけど……」

「そこは同感だけど。つか送る品物間違えるとか商売人としてどうかと思うけど」

「……にしても、スルーしてたけど咲夜は知ってたのね」

「そうみたいですね。多分、レミリアさんがこうなるからあえて報告しなかったのではないでしょうか?」

「……要らぬおせっかいよ。次はキチンと報告しなさい――咲夜」

 

 レミリアが告げると彼女の目の前に十六夜咲夜が現れた。

 恭しく頭を下げ、彼女は返事する。

 

「……はい、お嬢様」

「それだけよ、下がって」

「……失礼します」

 

 そうして姿を消した咲夜から視線を逸らし、レミリアは二人に向き直り告げた。

 

「今回だけはミスで済ませるわ。知らなかったとはいえ大分過去のことだもの。本来なら殺してやるところだけどね」

「殺したらアンタを退治しなきゃならないからそうしてくれると助かるわ。こちらからも仕立て屋にはちょっと注意しとくから」

「……そうですね。私も嫌ではありますが、時折見に行くことにします」

 

 そして。

 嫌なことを呑み込み、それから三人は誰ともなしに次のページをめくることにしたのだった。

 

 




 

 今回出てきたネタ
・PAD長(二次創作ネタ)
・YESロリータ、NOタッチ(COMIC LOのキャッチコピー。多分知名度だととあるプロデューサーが言った方が有名だと思う)
・久しぶりに……キレちまったよ(サラリーマン金太郎より、AAネタだとそれをパロディした珍入社員金太郎の方が有名かも)
・痛ったい頭があああ!(以前も登場した、この素晴らしい世界に祝福をよりめぐみんの台詞を改稿したもの)

 最近モチベが減ってきた、気合い入れ直さないと。

 



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七月編2『幻想郷ライブ!』

 

 

 

 七月四日

 

 今日は魔理沙に連れられて霊夢さんのところに行った。

 まだ、私の多くの人前での緊張する癖が治っていないかららしい。

 本番で極度に緊張して歌詞を忘れたりするのやだろ、って言われて私も納得だ。

 で、なんで霊夢さんかっていうと彼女はよく宴会や祭などで主催者の一人になることが多いとか。その為人と話すのも慣れているので、コツを教わりに行こうぜというのが魔理沙の話だった。

 確かに大切だよね。本番で失敗とかしたらお客様に失礼だし。何より私も恥ずかしいし。

 お姉様みたいに何処でも不遜な態度が取れればまた話は別なんだけど私はあそこまで非常識じゃないしなぁ……。

 で、霊夢さんに聞くと「緊張しない方法? はぁ、考えたこともないけど、そうね……」と何やら考え込んだ後に以下の答えをくれた。

 

「一番は当日にやりたいことをしっかりイメージすること。観客に何を伝えたいのか、それを一番に考えればそれだけは伝えられるはずよ」

 

 続けて注意点を幾つか。

 

「それと評価を求めない方がいいわ。流石あの紅霧の異変を起こした所の妹さんだねーーって思われるようにやらなくちゃなんて考えてたら余計に緊張するもの。折角のライブで、しかも出場者なんだから楽しみなさい。紅魔館のフランドールじゃなくて、ただのフランとして挑むのよ。そもそもお祭りみたいなものなんだから噛もうが呂律が回らなかろうが楽しんだら勝ちよ、私もそうだもの」

 

 忙しいのにわざわざアドバイスありがとう。

 ……楽しんだら、勝ちか。

 確かにそういう部分はあったかもしれない。お姉様が八雲紫に泣かされた日から、実は半分何かあった時は私が姉の代わりにカリスマとして紅魔館を支えなきゃいけないーーって思ってた部分もあるし、そのせいか最近は真面目な所では本当に真面目にしている。

 紅魔館の品位、も気にしているわ。外面を作るほどでは無いにしろ、優しくありたいなって思ってはいるから。

 ……楽しんだら勝ち、楽しんだら勝ちか。

 

 そうだね、折角のライブだもんね。

 ……精一杯楽しめるよう頑張ろう――そう思えた。

 

 #####

 

「……そうそう、来たのよね。この時」

「良いアドバイスじゃないですか! 霊夢さん」

「ふふん、それほどでもあるわね」

 

「……ねぇ、なんか私フランに半分カリスマじゃないって書かれてるんだけどどういうことよ」

「逆に今まで省みて一欠片でもカリスマがあると思ってたの?」

「…………、」

「え、あ、いや! 大丈夫ですよ、レミリアさんってすごーく可愛らしいですから!」

「そういう問題じゃないのよ……というかそれはそれで愛でられてるというか愛玩動物みたいで嫌なんだけど」

「レミリアは背伸び萌えなのよ。カリスマだカリスマだってワーワー騒いで、不遜に振舞ってるけど化けの皮が剥がれるとカリスマブレイクする。子供なのに頑張って大人を振る舞おうとしてる感が背伸びしててある種の萌えなのよね」

「急に何の考察よ!? あと萌えって何!? それからカリスマを纏うのはそんな子供っぽい理由じゃないわよ!」

「……その理由はともかくとして、可愛いのは事実ですよね。フランちゃんもそうですがすごーくお姉ちゃんって言われたいです! それでそれで、好きな時にギュッと抱き締めたいです! ほら、ぎゅー!」

「それもうただの願望じゃない! ってこ、こら! 撫でるな持ち上げるな抱きしめるなーっ!!」

 

 ニコニコと超笑顔の早苗に子供扱いされるレミリアだが、嫌そうではなかったことだけは追記しておく。

 ともかく数分間じゃれあった後、一行は次のページをめくった。

 

 #####

 

 

 七月五日

 

 今日は皆で最終確認をした。

 プリズムリバー三姉妹が演奏して、罪袋さん達が音響などの設備確認や本番の通りの動きをする。こころさんも常に居て、私の踊りのミスが無いか確認する構えだ。

 入って来てからの挨拶も考えてある。最前列の席は確保しているらしく、万が一のことがあればカンペを出すみたいだけどやっぱり自分で言いたいよね。

 それで本番と同じようにやったけど挨拶が難しかった。

 昨日考えた方を改めたけど、それでもまだ緊張が抜け切れてない。

 スゥッと深呼吸して精一杯話したけど正直所々噛んでいた気がする。緊張で楽しむどころじゃなかったのもマイナス点かな。

 幸い、曲は楽しく歌えたしダンスも出来たけれどそれも本番じゃ分かったもんじゃない。

 大体そんな具合だった。

 あと二日、皆頑張ってるんだ。私だってやってやる!

 

 

 #####

 

 

「うおおお、とうとう来ましたね。あと二日。読んでる私が緊張して来ました!」

「落ち着きなさいよ。子供じゃないんだから」

「霊夢霊夢、なんで子供といった時に私を見たのか理由を聞かせてもらおうじゃないか!」

 

「別にアンタを見たのはこの場においての子供がアンタしかいなかったからよ。別に居ればそっちを見たわ」

「しかも開き直った!? く、私は紅魔の王だぞ! 偉いんだぞ! 分かったら子供扱いせず淑女として扱いなさい!」

 

(……それが子供っぽいってのに)

 

 反論してくるレミリアを温かい目で見た霊夢は、ふぅと息を吐く。

 それからそっと次のページをめくった。

 

 

 #####

 

 

 七月六日

 

 

 明日の情報が届いた。

 今年は一三組が参加するらしい。私達は七番目の出番だそうだ。

 内訳は幻想郷内でのバンド参加が一二組で、最後の大トリに外の世界から参戦して来た人達が居るらしい。

 本番の前日に情報が届いたの原因もそれだ。

 どうやら主催者が外の世界にいる人で、幻想郷に深い関わりのある人らしい。で、その人がこちらに今日、八雲紫を通して幻想郷に来たらしく初めて情報が発布されたとか。

 ……外の世界の人かぁ。幻想郷に来れるツテがあるって凄いね。

 というか外界から隔絶されてるのが幻想郷なのにそんなにホイホイこれて良いのか?

 よく分からないけど罪袋さん達は当たり前って顔をしてたから私が知らないだけで案外普通のことかもしれない。

 カルチャーショックってやつか。

 いや、まぁ幻想郷に来たのは比較的最近の話だけれども。

 

 ともかく明日だ。キチンと寝れるように今日は早めに寝ておこう。

 おやすみなさーい。

 

 #####

 

 

「って書いてあるけど、移住以外で外の世界から来るのって普通なの、霊夢?」

「普通じゃないわよ。最近じゃ眼鏡のJKだとかが適当に入って来てるけど、あんなのは特別中の特別よ」

「……なんでしょう。私、その人のこと知らないんですけど相対した時に多分逆らえないような感覚がします。奇跡もどうにも出来ないと囁いてますし」

「……あー。まぁ、続きを読みましょうか」

 

 若干納得したような顔で頷くと、霊夢は次のページを開いた。

 

 #####

 

 

 七月七日

 

 

 今日はちょっと真面目に描写しようと思う。

 日記らしくないけど書きたいし良いよね。

 

 人里は朝からザワザワしていた。

 年に一度の音楽の祭典、幻想郷ライブが開催されるためだ。

 人々は広場に集まっていた。広場では、そこら一体を囲い込むように音楽施設が設置され、大量の椅子が配置されてある種のコンサート会場の様相を呈している。

 入場用の前売り券は既に完売しており、当日チケットも飛ぶように売れていた。私達、バンド組は人々が押し寄せている波のその横にある関係者専用入口から現地入りする。

 中に入って真っ先に見えたのは薄暗いコンサートホールの空間と、天井に数多く吊るされたスポットライトだ。そこから正面の台の奥にある関係者用の部屋に向かい、私達は順番を待った。

 緊張はしていたと思う。うん、していた。

 七番目ということで最初の一時間ほどは控え室で軽く準備と発声練習をしたのち、会場から聞こえて来る他のバンドの歌や反応を聞いて落ち着かせていた。

 音楽、こと演奏に掛けては私たちは負けていない。問題は私の歌だ。コンサートホールには魔物が棲むという。慣れない環境からくる緊張という恐ろしい魔物が。

 だからこそ私が頑張らなきゃ、と思った。しかしそう思えば思うほどに緊張は増していく。心臓のドキドキが外に聞こえてるんじゃないかってくらい震えていた。

 そう、震えていた。気付いたら私は震えていたのだ。

 手のひらにのの字を書いてみた。効果無し。

 深呼吸した、少しだけ呼吸が楽になった気がした。

 そうして――そうこうしているうちに私達の順番が回って来た。震える手を握りしめ、私は本番の会場へ向かう。

 通路は会場の熱気とは違いヒンヤリとしていた。何となく爪先立ちになる。多分緊張してるんだろう。かつてないほどに。

 そして会場手前での出来事だ。曲がり角を曲がろうとした時、丁度別の方向からやって来たらしい男性にぶつかった。

 

「痛っ……」

「おっと、ごめん。大丈夫かな? ……って、ん?」

 

 男の人はひょろりとした眼鏡を掛けた痩せ型の男性だった。

 手にはビールジョッキを持っていて、頭には緑色のハンチング帽を被っている。その男の人はぶつかった私を見て、あれっ? と妙な顔で首を傾げた。

 だがそれも数秒。少ししてから「キミも出るのかい?」と尋ねて来たので頷く。

 

「緊張してる?」

「…………はい」

 

 何だろうこの人。初めて会ったのに初めての気がしない。

 見た目も頼りにならなそうな感じなのに妙な雰囲気があった。まるでお父さんみたいな――そんな感覚が。

 ライブが迫ってるのに考え込んでしまう私だけど、その時男の人が後ろ手で何やらゴソゴソして小さめのジョッキを出してきた。

 あれ? さっきはそんなの持ってなかったのに……錬成したの?

 とか思ってると男の人は最初に持っていた方のジョッキをグビリと呷ると赤い頬を見せながら、小さい方のジョッキを私に渡して来た。

 なんとなく受け取ると、ジョッキにビールを注ぐ。

 

「これ、僕が作ったビールだけど良かったら」

「ど、どうも」

 

 今更ながらに思うと私って危機感が足りないのかもしれない。

 初めて会った人にビールをもらうなんて普通考えられないことだから。でもその時の私は不思議と拒む気持ちは無かった。

 なんだかはわからない。

 ともかく、もらったビールを呷ると身体全体を不思議な高揚感が包んだ気がした。

 

「緊張は解けた?」

「は……はい」

「そう、じゃあ僕はこれで」

 

 それだけで男の人は行ってしまう。

 けど、そのまま行かせるわけにはいかなかった。

 名前が知りたかったんだ。後ろから声をかけると彼は足を止めて、一言こう返した。

 

「神主って覚えてくれればいいよ」

 

 そうして。それじゃ楽しんでね、と言い残し男の人は曲がり角の先に消えてしまう。

 もっと話したいこともあったけど時間が足りなかった。

 

 

(次のページ)

 

 

 #####

 

 

 ライブ会場は凄い熱気に包まれていた。

 私が配置に着くと、罪袋さんが合図してカーテンが開く。

 同時に開幕の音楽が鳴り出した。最初に歌うのは私の曲じゃなくて、魔理沙さんが製作した完全オリジナルのものだ。登場と同時に最初の曲を歌うスタイルを取れば多少は私の緊張も取れるんじゃないか、とスタッフさんが考えてくれたらしい。

 

 ――手を振りながら会場へ飛び出し、マイクを握って踊りながら私は歌う。

 不思議と緊張は無かった。さっき呑んだビールの程よい苦さが私の心を落ち着かせてくれたのだ。

 会場全体を見渡しながら私は笑顔を振りまく。精一杯の歌と精一杯のダンスと精一杯の笑顔。それが魔理沙に求められたことだ。

 『やれることを出し切って――楽しんで来い!』

 そう言って背中を押してくれた彼女には感謝しかない。

 そして良い雰囲気のまま一曲目が終了し、挨拶に移る。

 

『皆さん初めまして! 『紅の幽霊楽団』のフランです!』

 

 紅の幽霊楽団とは私達のバンド名だ。

 私が挨拶をすると観客達はわああ!! と声を上げる。

 

『ありがとうございます! 今日が初めてのライブ本番ということでとても緊張してるので皆さん盛り上げてくれると助かります!』

 

 わあああああっっ!!

 

『では、時間も無いので二曲目行きます! 行くぜっ! 少女達の百年祭!』

 

 勢いそのままに二曲目に行く。

 私の作った曲ということで歌詞はバッチリだ。所々、観客が「あばばばば」って叫んでたけど何だろ。まぁいっか。盛り上がってるし。

 で、そのまま勢いを保持しつつ三曲目も歌い終わり、最後に『UNオーエンは彼女なのか』を熱唱する。

 楽団の中で一番盛り上がる曲だ。最後に持って来たけど大成功だった。

 前半は地上でのダンスと魅せる弾幕を撒き散らすのが多かったけどこの曲はスペルカードを使って行う。いわばボス戦状態だ。

 かつて魔理沙と戦った時を思い出すよ。飛び回りながら激しく弾幕を放ち、歌う。

 終わってみれば拍手喝采で終えることが出来た。

 大成功、うんそうだ。

 歌っている時、心の底から楽しかった。

 

 

 (次のページへ)

 

 

 #####

 

 

 私の出番が終わってから気付いたんだけど、緑色のハンチング帽をかぶったあの男の人は例の外の世界から来た主催者さんらしい。

 最前列に席が用意されていて、沢山のお酒が置いてあった。

 そしてもう一つ気になってた大トリだけどやっぱり凄かったよ。なんかもう、レベルが違ってた。

 

『( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!』

 

「「「「「「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!」」」」」」

 

『( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!』

 

「「「「「「( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!」」」」」」

 

 アロハシャツを着た男の人が腕を振り下ろしながら歌うたびに観客の殆どが同じように腕を振りながら叫んでた。

 妙な一体感を感じた。風、そう風だ。

 この場の全員が一つになるような妙な風。

 それはさながら台風のように――けれど優しく心を撫でてノリの極致とも呼べる世界へと(いざな)う力があった。

 ただ観客席にいた永遠亭の赤と青の服を着た女の人だけが頭を抱えて何とも言えない顔で突っ伏してたことは追記しておく。

 主催者の人もアロハの人も声をかける前に帰ってしまったけど凄かったなぁ。また来年、参加しよう。

 

 さて、と。長くなったし今日は寝るかな。

 また明日からはめーりんの修行だ。じゃあおやすみ!

 

 

 #####

 

 

「……フランがライブを楽しめたようで何よりだわ!

「そうですね!」

「突っ伏してた永琳ェ……」

「「…………、」」

 

 数秒間、三人は黙り込んだ。

 が、しかし。

 

「……もう、言いたい感想は無いわね。最後の連呼は突っ込み辛いし」

「じゃあ次のページに行きましょうか」

「「賛成!」」

 

 下手にツッコミ入れるのが怖かった三人はスルーを決め込む。

 そんなこんなで長かったアイドル編も一区切りつき、三人は次のページをめくった――――。

 

 

 




 


 今回出てきたネタ&人
・眼鏡のJK(東方深秘録より宇佐美菫子)
・緑色のハンチング帽をかぶり、ビールジョッキを手にした男(東方Project、博麗神主ことZUN)
・アロハシャツの男(ナイトオブナイツや最終鬼畜フランドールも彼の楽曲。ご結婚おめでとうございます、また最近ではラスボスこと小林幸子さんともコラボしたりしている。ビートまりおさん)
・( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん(Help,me,ERINNNNNN!!より、多分東方知ってる人の殆どが知ってるはず)

 アイドル終わったので明日からはまた好き勝手始めます。


 


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七月編3『集団パニック!』

 

 

 

 七月八日

 

 ライブも終わり心機一転!

 罪袋さん達も引き上げて、昨日のうちに細々した片付けも全部済んだことでまた今日からめーりんとの修行が再開した!

 まずは一〇〇Kmマラソン! 続いて感謝の右ストレートとジャブ一万回! それから倒れても即復活の地獄組手! それが終わってから剣で素振り一万回!

 ふぅ、久しぶりにやると疲れるね。多少勘が鈍っていた感じがした。

 特に組手、封印モードでの話だけど掠りもしなかったし。ただその代わりにめーりんの動きはよく見えたし、避けることが出来たとは思う。

 ダンスを覚えたお陰かそれとも妖忌さんとの僅かな修行の成果なのか。無理な動きをしても体は痛まないし何となく次に来る位置が予想出来た。

 でも、それでも避けれない技もあるわけで。その場合は受け止めるか防ぐかモロに受けるかになるけど、防いだところで直ぐに次の攻撃が飛んでくるし受け止めても同じことになる。モロに受ければ大ダメージと色々詰んでるよね。

 ……まだまだ勝てるまでが遠いなぁ。

 

 

 #####

 

 

「……(白目)」

「あぁっ! レミリアさんが真っ白に!?」

「きっとショックを受けたのね。つかそもそも一万回の時点で一日潰れる気がするし腕が使い物にならなくなるはずなんだけど……」

「立て! 立つんだレミリア!! 諦めんなよ! 何でそこで諦めたそこでぇッ!!」

「あしたのジョーからの松岡修造!?」

 

 霊夢が突っ込むとレミリアが僅かに顔を上げた。

 彼女はその小さな唇を動かす。

 

「フランが……フランが魔改造されていく」

「落ち着いて下さいレミリアさん! 大丈夫です、フランさんが魔改造出来るなら姉であるレミリアさんも出来るはずです!」

「早苗早苗、多分そんなこと心配してないと思うわ」

 

 ジト目で言った霊夢は二人の様子からこりゃ駄目ね、と呟いて次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月九日

 

 

 今日は寺子屋だ。

 とは言ってももう少しで夏休みに入るんだけどね。七月二十日から八月二十五日まで。

 で、今日の授業には久々に鈴仙先生がやって来た。

 

「皆さんお久しぶりです。鈴仙です、今日は保健体育の講師として来ました」

 

 そう言って丁寧に頭を下げる鈴仙先生だけど、その拍子にかぶっていた編笠が地面に落ちた。

 今更だけど大抵の妖怪は人里に入るときに変装するらしい。幻想郷は人間が妖怪を恐れ、妖怪は人間を襲うことで成り立っている世界なので、もし仮に人間が妖怪を恐れなくなったらたちまち幻想郷が無くなってしまうからだとか。

 で、そんなわけで変装をしている妖怪にとってその変装が取れるというのはかなりな一大事なわけで。

 編笠の下に隠れていたウサ耳がピョコンと露わになった瞬間、鈴仙先生が物凄い慌てた様子で編笠を拾おうとしてた。

 

「あっ……!」

 

 でもそれが問題だった。さっきも言ったけど編笠が取れた拍子にウサ耳が表に出ていたんだ。で、先生が立つ席の前には大抵教卓があるよね?

 もう言わなくても分かるだろう。

 鈴仙先生は自分から思い切り教卓にウサ耳を叩きつけて気絶した。

 教卓にウサ耳が当たった瞬間、ウサ耳からブチィ! って音が聞こえた気がするけど気のせいだろう、気のせいったら気のせいだ。だって……そんなあり得ないよ。

 いくらうちの寺子屋の教卓が慧音先生の頭突きに耐え切れるものだからって……まさか、そんなの予想出来るわけないでしょ!

 

「先生!?」

 

 私は倒れた鈴仙先生の元に駆け寄った。無事かどうか確かめる為だ。倒れている鈴仙先生の頭を確認して――無い! 一本ウサ耳が足りない!

 慌てて辺りを見回すと鈴仙先生の頭からウサ耳が一本千切れて教卓の下に落ちているのを見つけた。

 いや、教室が大パニックだったよ。他の生徒も。

 

「え、衛生兵!」「知ってるか、ウサギ肉って鶏のモモ肉みたいな味がするんだぜ」「おいどういうことだ説明しろモブ木ィ!」「何故!? 今そんな話を!?」「――頂きます」「食べんなw」「――ご馳走様でした」「食ったなコイツ!?」「なっ! 何をするダァーっ! 許さん!」「誰か一人くらい鈴仙先生のことを心配しろこの馬鹿ども!!」

 

 ……本当に取れてたもん。ウサ耳。

 根元から千切れてた。でもここまではまだ良かったんだ。

 良くないけどまだマシだった。

 ことは、私が慧音先生を呼ぼうと思って教室から出ようとしたときに起きたんだ。

 

「…………ぅ」

 

 急に鈴仙先生が起き上がった。良かった無事か、と私が足を止めたその瞬間悲劇は起こったんだ。

 具体的にいうと――鈴仙先生がその瞳を開いた瞬間。

 鈴仙先生の瞳が紅く染まっていた。目の中がグルグルと渦巻いていて――それを見た次の瞬間には私の精神が狂った。

 いや、思い出したというべきかもしれない。狂気を。私がかつて囚われていたことを。

 私は狂気に囚われていたから、精神が狂わされた瞬間にヤバイと理解した。理解して――その原因を破壊したから幸いにして私はすぐに正気に戻ることが出来た。

 でもクラスの皆は違っていた。

 

「……素晴らしいよ、鈴仙先生は希望の犠牲になったんだね!」

『僕、実は鈴仙先生が好きなんだよね』『でも顔で好きになったのかもしれないから』『彼女の顔面を剥がすことにするよ』

「カカロットォ……カカロットオオオッッ!!」

「諸君、私は戦争が大好きだ」

「ジュラル星人め! 許さないぞ!」

「ヒャッハー! 汚物は消毒だーッ!!」

 

 これだけじゃない。普段遊んでいるチルノちゃん達も大変なことになっていた……。

 

「アハッ、アハハ!! 分かる、分かるぞ! あたい……世界の全てを理解してる!」

「ねぇチルノちゃん……私達友達だから殺していい? それでもって永遠に一緒にいようよ」

「私、全ての人間を狂わせる歌を歌うよ! ミスティアちゃんのオールナイトライブだ!」

「……世界は僕をゴキブリ扱いする。僕は蛍なのに、誰が悪い? 誰が悪い誰が悪い誰が悪い……そっか、そうだ。人間なんて全て殺して仕舞えばいいじゃないか」

 

 上からチルノ、大ちゃん、ミスティア、リグルの言葉だ。皆目の中がグルグルと渦巻いていて、狂っていた。

 そんな時だった。横から辛そうな声が聞こえたのは。

 

「……グッ、これは狂気? ルーミアの意識が持っていかれて何事かと思えば」

「ルーミアさん!?」

 

 大人バージョンのルーミアさんだった。

 どうやらルーミアちゃんの意識は既に狂気に囚われてしまい、代わりに無理やり浮上してきたらしい。彼女は強引に妖力で洗脳を振り払うと、荒い息を吐いて私に説明を求めてきた。

 

「はぁ、はぁ、何があったの? ウサギの先生が倒れたところまでは見ていたけど」

「多分、鈴仙先生は何らかの理由で能力行使してるんだと思います。彼女の能力は波長を狂わせる力で、それを弄られたことで皆こんなことに……」

 

 どうしよう。

 慧音先生を呼んでもこれは……。仕方ない、やるしかないかな。

 私は決心してルーミアさんに声をかけた。

 

「ルーミアさん、私。今回の出来事を無かったことにします」

「相変わらず万能ね。ま、やりなさい。それが手っ取り早いから」

 

 了解ももらえたしやろう。

 とりあえず狂気さえ無くせば後で慧音先生に話して『歴史を変える力』を行使してもらえばそれで終わりだ。

 早速私は『この場に生まれた狂気』と『鈴仙先生の耳が取れた』事実を無かったことにした。

 ……それで一応解決して、慧音先生に話すと多少歴史を弄っておくという返事がもらったことも追記しておく。

 ついでに皆が狂気に染まった事実も消しておいたので多分大丈夫だろう。鈴仙先生も責任を取って人里立ち入り禁止みたいなことにはならない筈だ。

 ……寺子屋の描写って少ないけど書く時は出来事が濃いなぁ。

 

 

 #####

 

 

「集団パニックじゃないですか! え、そんなことあったんですか寺子屋に!? 知らないですよ私!」

「……つか紫は何してんのよ。人里内で複数の妖怪が狂気に染まるなんて大事件よ。異変じゃなくてまとめて退治になる事件よ。というかこれ、普通に考えたら鈴仙を退治するレベルの話なのに私知らなかったんだけど」

「……フランが丸く収まるよう努力したんでしょうね。八雲紫に関しても『無かったこと』に追求はしないししたくなかったと予想するわ。こんなこと幻想郷始まって以来の不祥事だもの」

「紫が意図的に見逃した、か。にしてもこれ、フランが止めてなかったらとんでもないことになってたわね。考えると事の大きさに震えてきたわ」

 

「……というか今更ですけど鈴仙さんの耳が取れた件には誰も突っ込まないんですね」

「いや、だって……ねぇ?」

「ウサギの耳が取れようが知ったこっちゃないもの」

「清々しいまでの他人事!? 顔見知りくらいではあるんですから心配してあげましょうよ! ……というか今思い出すと、去年のこの時期の従者会議に彼女無断で休んでた覚えがあるんですけど、もしかして彼女の師匠に折檻されてたんでしょうか?」

「永琳の薬の実験台ね、まぁいつものことでしょ」

「……どうでも良い話題はこれまでにして次のページ行くわよ」

 

 そう、レミリアが煩わしそうに言って次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 七月十日

 

 

 昨日は大変な日だったよ。

 というわけで今日はめーりんとの修行が終わってからは外に出ないで久々にパソコンを長時間弄ることにした。

 デーモンハンターとPSO2と、『いえっさ』さんも久しぶりだね。

 そういえばPSO2でマスターの「☆サナ☆」さんとも会えた。「ぐーや」さんと「天使」さんのとこのリーダーさんだ。

 アバターは緑色の髪の女の子キャラで、無駄に作り込まれてた。

 それから皆でクエストやったりして楽しかったよ、私も寝る前にちょこちょこレベ上げしてたから何とか戦力になれてるし。

 チャットしながらだったからパソコン初心者だというと色んなことも教えてくれた。

 

 ぐーや「2ちゃんねるとか面白いわよ」

 ☆サナ☆「初心者に2ちゃんねる勧めるのはどうなんですかw」

 天使「ニコニコはどう?」

 妹様「ニコ動は見たことあります。コメントが流れてて新鮮でした」

 ぐーや「スレ立てとか面白いわよ」

 ☆サナ☆「まだ引っ張るんですかそれ……」

 

 で、ゲームをログアウトしてからは早速2ちゃんねるとかも調べてみた。どうやら色んな人がチャットするサイトらしい。

 「www」←(笑)って意味らしいけど、こういうネット用語が一杯使われる場所だとか。

 つまり、そこの言葉をおぼえればネットをマスターしたことになるのかな?

 覗いてみたら「氏ねガイジ」とか「萌え豚乙」とかよく分からない言葉ばっかりで頭がクラクラしちゃうけど……ネットを使う以上慣れた方がいいのかな?

 今度またギルドメンバーに聞いてみよう。

 

 #####

 

「覚えないで下さいお願いします! 穢れます!」

「……よく分からないけど私の勘も覚えない方が良いと言ってるわね」

「……運命も囁いているわ。それは悪魔の罠だと」

 

(……そういえば去年の夏に妹様さんがそんなことを聞いて来ましたね。止めて良かったです、本当に)

 

 じゃなきゃ笑い話に出来ませんし、と早苗は心の中で呟く。

 そう。何を隠そう、マスターの『☆サナ☆』とは東風谷早苗のネットネームであった!

 とまぁどうでも良いカミングアウトはともかく、彼女は心の底から思う。

 

(……もし止めてなかったら、クソワロタwwwとか言ってたんでしょうか。素直な子なので……うん、良かったです。本当に、本当に!)

 

 圧倒的安堵を心に秘め、彼女は次なるページをめくる――――。

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・感謝の素振り一万回(ハンターハンターより、2ちゃんねるでも偶にネタで使われる)
・立て、立つんだレミリア!(明日のジョーより)
・諦めんなよ!(松岡修造の名言、彼は炎の妖精とも言われる)
・衛生兵!(万歳エディションより)
・おいどういうことだ説明しろ苗木ィ!(ダンガンロンパより十神白夜の台詞)
・なっ! 何をするダァーっ! 許さん!(ジョジョより)
・素晴らしいよ、鈴仙先生は希望の犠牲になったんだね(ダンガンロンパより狛枝凪斗の台詞)
・『彼女の顔面を剥がすことにするよ』(めだかボックスより球磨川禊の話より改稿)
・カカロットオオオッッ!!(ドラゴンボールよりブロリーの台詞)
・諸君、私は戦争が大好きだ(HELLSINGより少佐の台詞)
・ジュラル星人め! 許さないぞ!(チャージマン研!より)
・ヒャッハー! 汚物は消毒だーッッ!!(北斗の拳より)





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七月編4『聖徳太子現る』

 

 

 

 七月十一日

 

 

 今日も今日とて寺子屋なりー。

 いつもなら慧音先生の歴史の授業なんだけど、今日はゲストが来た。

 

「初めまして、私は豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)――聖徳太子です。今日はよろしくお願いします」

「というわけで今日は彼女の口から『直接!』聖徳太子の人生を語ってもらおうと思う。じゃあ後は任せましたよ」

「はい、お任せ下さい」

 

 そう、言わずと知れたあの聖徳太子だ!

 直接、と言いながら何故か両手を前に出してた慧音もきになるけどそれはともかく。

 

「では早速授業を始めます」

 

 うわぁ凄い、本物の聖徳太子だよ!

 でも、前に紅魔館にあった外の世界の教科書で見た人物像とは大分違っていた。そもそも女の人だったし。

 他の子も気になったのか質問してた。

 けど、

 

「授業の前にすみません! あの、聖徳太子って男じゃ……あっ、よく見たら胸無いし男の娘タイプでしたか。すみません、勘違いでした」

 

 勘違いなだけにこの精神攻撃はエグいと思う。

 

「む、胸が無い!? ……しょ、初対面相手にその物言いは随分と酷いですね。それと私は女です! 従来の教科書に男だと書かれているのは当時男尊女卑の世界だった為で、舐められない為ですから!」

 

 聖徳太子先生が両手で胸を隠すように身体を抱きしめながら叫んでいた。

 ……可哀想に。あの様子だと普段から「(おもちの)戦闘力たったの五か、ゴミめ」とか弄られてるんだろう。

 しかしうちのクラスのフリーダムさを舐めてはいけない。

 一人目を皮切りに次々と質問を投げかける。しかも殆どタイムラグなしなのでワーワーとうるさいだけだ。しかし聖徳太子を舐めてはいけない。同時に十人の声を聞けるという彼女はすべての質問に的確なツッコミを返す!

 

「太子太子! 小野妹子は居ないの?」

「既に亡くなっています。あの人は仙人にならなかったので」

「太子! 飛鳥文化アタックやって! ほらこんな感じに!」

「教室で暴れないでください! 転がると怪我しますよ!?」

「無限に広がる大宇宙」

「挨拶ですかそれ!? 開口一番に何なのですか!?」

「小野妹子の名前なんだっけ? 確か、小野……イナフ……?」

「最初に妹子と言ってるでしょう!? 煽ってるのですか私を!?」

「お土産をもってこーい! 良いお土産を持ってこーい!」

「何様ですかあなた!? 私観光帰りじゃないですよ!?」

「草ってお前……石ってお前……」

「何ですかそのお土産の謎の連携!? というか悲しいですね!」

「あ、お菓子あるぞ食べる? ちょっと変な匂いするけど」

「それ腐ってますから! 変な物食べさせようとしないでください!」

「ツナが大好き聖徳太子」

「別に大好きじゃないですよ!?」

「彼女いねえ…………」

「そのカミングアウト必要あります!?」

「今日のポピー」

「会話ぶった切ってなんか花を出してきたっ!?」

「まっぱだカーニバル」

「真顔で何口走ってるんですか!?」

「僕は変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態と言う名の紳士だよ」

「それは誰に対しての説明なんですか!?」

「ところでここまでのツッコミ回数は?」

「十三回でもう十回超えてるんですよボケえぇぇッッ!!」

 

 そこまで高速で言い切った先生はゼェゼェハァハァと荒い息を吐いていた。うん、凄いね。

 というか地味に聖徳太子の同時に話を聞ける人数の限界突破してるけど良いのかな? こんな酷い話で限界突破してるけどそれはいいのかな!?

 

 とりあえず、その後も生徒達のボケと太子先生のツッコミの応酬が繰り広げられていたことを追加しておく。

 授業は潰れた。

 

 #####

 

「まそっぷ!」

「いきなり何よ、早苗」

「いや何となくやりたくなりまして……というか授業潰れたんですね。それと太子さんですか。本物なんですよね、彼女」

「そうね。確か尸解仙だったかしら。仮死から蘇ることで至る仙人になる為に眠ってて去年に起きたのよね」

「流石に吸血鬼の私からしても歴史上の人物ね。聖徳太子は。まだ会ったことないしいつか話してみたいものだわ」

「あっ、レミリアさんに同意です。私も今度詳しくお話ししたいです。歴史上の人物と語り合えるなんて中々ある事じゃありませんし」

「そう? ハッキリ言って普段は大した事ないヤツに思えるけどね。勿論頭は回るしカリスマはあるけど、やたら命蓮寺を目の敵にしてるし。一度の恨みを引っ張り過ぎだっつの」

「昔の人だからじゃないですか? ほら、戦国時代でも親の仇みたいにずっと恨みを持ったり、子や孫、その先まで引き継いだりしてますし。多分私達と感覚が違うんですよ」

「そんなものかしら」

「きっとそうですよ!」

「……どうでもいいけど次のページいくわよ?」

 

 そろそろ長いと思い始めたのかレミリアがそう言って次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月十二日

 

 

 今日は久々に咲夜とメイドの技術を教わった。

 家事とかのお手伝いは勿論、ご飯もそうだね。後は主人への気遣いとかメイドの心得ってやつを教わった。

 確か、大体以下の感じ。

 

「妹様。例えばお嬢様がガムを所望の場合はどうします?」

「うーん、何を食べたいか聞くかなぁ。味が色々あるし」

「はい。それが普通ですよね? ですがメイドとしては×です」

「え? なんで?」

「良いですか。お嬢様がガムを所望の場合、銘柄は聞かず……まずはグリーン。押さえで梅とブルーベリー。万が一に備えてクールミントとバブリシャスをそっとポケットに忍ばせておくのがメイドの嗜みなのですよ」

 

 つまり咲夜は毎回そこまで気を回してるのか。一流のメイドって凄いね! まだまだ私も半人前だよ……。

 一流のメイドは遠いや。なんで一流のメイドを目指してるのかは分からないけどとりあえずノリで頑張ろう。楽しけりゃオッケーだ。

 

 #####

 

 

「……凄いですね。というか幻想郷にもあるんですね、クールミントとかバブリシャスとか」

「ある……というか外の世界から流れてきたのを里の菓子屋が分析して作ったらしいわ。河童から個人的に超ハイテクマシンを譲り受けた人で、工場みたいな大量生産が可能なんですって」

「……まさかのオーバーテクノロジーじゃないですか!」

「あの店は私も時折寄るわね。外の世界のお菓子って和菓子とかとは別の意味で美味しいし……ただ、咲夜はあまり買ってくれないけど」

「まぁお菓子って食べ過ぎると身体に毒ですからね。ポテチとかも肥満とかを誘発するだけじゃなく発ガン性物質があるって聞きますし、飴も歯に悪いってテレビでやってました」

「それにしたってちょっとくらい良いじゃない。美味しいんだから……ちょっと夕ご飯を残したくらいで怒られるし」

「お母さんしてるわね、アイツ」

「お夕飯は食べないとだめですよ? レミリアさんの体の事を考えて咲夜さんは頑張ってるんですから」

「…………うん」

 

 珍しくもレミリアが素直に反省したところで一行は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月十三日

 

 今日はプリズムリバー三姉妹がうちに来た。

 どうやらピアノとかの楽器を教えに来てくれたらしい。実はそんな約束して有耶無耶になってたっけ……と半分忘れかけてたのは内緒ね。

 で、ピアノレッスンだよ。

 手じゃなくて指を動かすって案外疲れるのよね。何というか手全体はよく動かすけど、指一本を意識して動かすって中々ないでしょ?

 で、今日はピアノの音の出し方を教えてもらった。

 どういうことかを簡単に説明すると、ピアノの音って触り方によって変わるじゃない?

 強く強引に叩けばダーンって感じの音が出るし、優しく触ればポーンって感じの音が出る。

 この適切な指圧の掛け方を教わった。やっぱり曲にも綺麗に聞こえる圧のかけ方とかがあるらしい。

 まだ素人を抜け出していない今のうちに覚えておけば後々楽だというのがルナサさんの言葉。

 音かぁ、意識してなかったよ。とにかく弾ければ良いって感じだったから。

 よし! 次に三人が来るまでにちゃんと出来るように頑張ろう!

 

 #####

 

「今更ですけど努力家ですね、この子。普通そろそろ怠くなって来る頃なのに」

「習慣付いたのかしらね。フラン」

「私には考えられないけどねー。修行だって真っ平ゴメンだし」

「そういえば霊夢さん、紫さんが以前嘆いてましたよ? 『霊夢は天才気質だけど修行しないからいざという時に足を掬われそうで怖いのよ』って。巫女同士、それとなく言ってやってくれないかってお願いされましたし」

「あー、紫のヤツ。早苗だろうが誰に言われようが修行なんてしないわよ……必要に駆られるまでは」

「でも必要な時って大抵手遅れだと思うわよ霊夢。一週間に一度でも良いから真面目にしてみたらどうかしら?」

「アンタも説教? レミリア、つか屋敷でふんぞり返ってるアンタには言われたくないんだけど……」

「うっ……それを言われると何も言えなくなるわね」

「弱っ!? レミリアさん!?」

「……だって事実だもん」

「だからって変なとこで素直にならずにふんぞり返って下さい! キャラ崩壊も甚だしいですよ!?」

「つか、次のページいくわよ。よいしょっと」

 

 早苗が二人に突っ込んだりしていると霊夢が次のページをめくった。

 そこでツッコミを切り上げ、早苗もそちらを見る――――。

 

 

 #####

 

 

 七月十三日

 

 今日は妖夢さんがやって来た。

 どうやら私に話があって来たらしい。

 

「改めてですけど。祖父の件、本当にありがとうございました」

 

 いやいや、別に行き倒れてたから助けただけだし。

 気にしなくて良いよ? 本当に。

 

「ところで祖父から剣を学ぶと約束されたと聞いて来たんですが本当ですか?」

 

 うん、習ってたよ。魂魄流剣術。

 そう答えると妖夢さんが伏せ目がちに尋ねて来た。

 

「……あの、不躾ですけどお願い事があるんですけど」

 

 はいはいなんでしょう。

 

「一度お手合わせ願えないでしょうか? 剣で」

 

 手合わせ? なんでだろうか。

 ……まぁ、良いよ。封印モードでやればいい?

 

「いえ、真剣でお願いします。祖父は一度本気で向かい合ったと聞かされましたので」

 

 あぁ、確かに。妖忌さんには吸血鬼の力有りでも防がれたし、その孫娘の妖夢さんならいけるかかもしれない。うん、下手に封印して戦うとか言ってごめんね?

 舐めてるわけじゃないんだけど普段の修行がそうだから。

 と、そんなわけで決闘しました。

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に切らぬモノなどあんまりない!」

「前口上? じゃあ私も――あなたが、コンテニュー出来ないのさ!」

 

 始める前にかっこよくそう言って妖夢さんは楼観剣と呼ばれる剣の切っ先を向けた。

 対する私は正体不明の剣。森近さんにもらった火力上がるヤツを装備して向かい合う。

 そして開始の合図が審判のめーりんから鳴らされると両者同時に動いた。

 本気という話だったので本気でやろう。そう思っていた私は開幕から気を纏い、フォーオブアカインドで分身。フォーオブアカインドは今までと違って魔力を籠めた私、妖力を籠めた私、気を籠めた私の三人が増えるように調整しているんだけど、更に小手調べで弾幕をばら撒きつつ、火力を籠めたレーヴァテインで四方八方から斬りかかる!

 

「えっ、あっ……ちょっ!?」

 

 なんか妖夢さんが頬を引きつらせてたけど本気の勝負だから。

 完全に意味不明って顔してたけど妖忌さんは防いでたし妖夢さんもいけると思う。

 

「みょ、みょおおおんっ!!?」

 

 とか思ってたらピチュッた。

 最初の数発は切り刻んだけど弾幕が集中するとアレだった。修行だったら本気で戦っても良い幻想郷の謎ルールに則っての弾幕ごっこなんて無視した避ける密度のない弾幕だったけど思いの外、厳しかったらしい。

 というか予想してなかったのか。

 爆発の煙が晴れると、そこには妖夢さんが倒れていた。

 

「……ヤムチャしやがって」

 

 めーりんが何やら呟いてたけどそんな場合じゃないよこれ!?

 大丈夫!? ねぇ大丈夫!?

 慌てて駆け寄ると倒れていた妖夢さんがゆっくりと起き上がった。

 

「うぐぐく……な、なんですかさっきの! あんなの弾幕ごっこのルール範囲外ですよ!?」

「え、前に妖忌さんが修行だったら本気で戦ってもオッケー、弾幕ごっこ? あぁアレは女子供の遊びじゃから大丈夫って言ってたし」

「そういえば弾幕ごっこって女子供の遊びでした――ってそうじゃない! 修行だったら本気で戦っても良いなんてルールあるわけないでしょう!? 幽々子様からも聞いたことないですよ!? というか本当に祖父はあんなの防いでたんですか!?」

「うん、完璧に防がれたよ」

「マジですか凄え……、ともかくこの勝負は私の負けにしておきます。防げなかったのは事実ですしまだまだ私が半人前だと分かりました」

 

 起き上がってポンポンと服の汚れを叩きながら妖夢さんがそう言った。

 真面目な人だなあ。

 

「と、本題に入りましょうか。本来は姉弟子として貴女の魂魄流の腕を確かめたかったのですが致し方ありません」

 

 ふぅ、と息を吐いて彼女は話をする。

 

「祖父が白玉楼に帰ってから、主人の幽々子様を交えて沢山話をしました。これからの事です。間を説明すると時間が掛かるので結論を言うと、祖父はしばらく白玉楼に留まるそうです。ですが、フランさんとも剣のお約束をしたのもまた事実――そうですよね?」

「うん」

「そこで、暇な時で構いませんので人里の道場に来てもらえませんか? 祖父もこれから師範としてしばらく活動するそうなので、貴女が訪れた際は優先的に鍛えるとのことです。それでご恩を返したいということで皆一致して」

 

 成る程。それが本題か。

 むしろ万々歳だよ、わざわざ伝えに来てくれてありがとね。

 

「いえ。むしろいきなり決闘などを申し込んですみませんでした」

 

 それから――それでは、と言って妖夢さんは帰っていった。

 道場に行けば剣を教われると。うん、覚えたよ。

 

 #####

 

「決闘か……」

「酷いですね、これ」

「半人半霊の娘には同情しておくわ」

 

「話が変わるんですけど、人里の道場に今度私も行こうかなと思うんですけどお二人はどう思います」

「剣ねぇ……覚える必要ある?」

「私の得物は槍だしね。まぁ槍も可能なら行くことは(やぶさ)かでは無いけれど」

「そうですかー。折角だし私は剣使いたいですけどね。かっこいいし」

 

 仲間はいないか……残念、と呟いて早苗は次のページをめくる――――。

 

 

 

 




 


 今回出て来たネタ
・直接!(ニンテンドーダイレクトより)
・戦闘力たったの五か、ゴミめ(ドラゴンボールよりラディッツの台詞)
・飛鳥文化アタック以下のボケ(ギャグ漫画日和より)
・銘柄は聞かず……以下(ハヤテのごとくより)
・ヤムチャしやがって(ドラゴンボールより、派生した言葉)


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七月編5『日記覗いてない?』

 

 

 

 七月十四日

 

 最近のめーりんの修行は比較的楽だ。身体が慣れたというのもあるけど、季節的に泳ぎながら弾幕を避ける修行とかはむしろ気持ち良いまである。

 暑いんだよね、最近。汗で身体がベトベトしちゃう。

 まぁそれも無かったことに出来るけど能力を日常で使い過ぎるとそれに頼り過ぎちゃうので使わない私なのだ。

 にしても暑い……昨日来た妖夢さんとかが羨ましいなぁ。半霊、触るととても冷たくて気持ち良かったし。

 幽霊とか怪談話って背筋が凍って体感温度が下がるとか言われてるけどその影響かな? ほら、妖怪とかって人間のイメージが重要だし。

 吸血鬼だって人間が恐れるあまり弱点が増えたでしょ? 十字架に弱いとか完全にキリスト教が私達に対抗するためにでっち上げた事なのに、殆どの人がそう思ったせいで実際効くようになってるし。最近は微々たるものだけど。

 そう考えると八雲紫が言ってる幻想郷の在り方ってものが分かりやすいかも。

 

 

 …………………………

 ………………………………、

 ……………………………………。

 ……あと今更だけどさ。日記覗くのやめてくれない?

 ……バレてないと思ったら大間違いよ?

 

 #####

 

「「「!!?」」」

 

 付け加えられた文章を見て三人は読み中にも関わらず日記を机の上にバサッと放り投げた。

 いや、だって仕方ないだろう。

 いきなり『覗くのやめてくれない?』と書いてあったらそりゃあ覗いてる側なら誰だってビビる。

 

「も、もしかしてフランちゃん、私たちが覗くのこの時点で予期してたっていうんですか!?」

「そそそそんなわけがないでしょ!? 私みたいに運命を操れるならともかく……!」

「ここ、声が震えてるわよレミリア」

「そ、そうねカリスマたる私がしっかりしなくてはね! まー、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まずは、こ、こ、こ、こ、こ、これでも飲んでおと、おと、おと、おと、お落ち着きなさい。心が静まるハーブティーよぉ!!」

「落ち着いて下さいレミリアさんっ!!? 手が震えてますから! 熱々のハーブティー持ってる手が震えーーヴェアアアアアアアッッ!!? 熱っ! 熱っつ!! 頭からハーブティーがモロにかかって熱いいいいいッッ!!!」

「二人ともも、もちつきなさい! まだ慌てる時間じゃないわ!」

 

 流石に見ていられなくなったのか阿鼻叫喚となった空間で霊夢が叫んだ。

 そう。三人の中で彼女は気付いていたのだ。たった一つの事実に。

 

「まだ私達は読み中よ! 最後まで読めばきっと――!」

 

 二人を背に、慌てて放り投げた日記のページをめくり直して元のページを見つけた霊夢は改めて読み直す。

 

 #####

 

 

 ……あと今更だけどさ。日記覗くのやめてくれない。

 ……バレてないと思ったら大間違いよ?

 

 

 

 ――ねぇ、妖怪の賢者さん?

 

 『あら、バレてたのね。てへりん♪』

 

 追記

 咲夜はともかく貴女が書き込むのやめて。あと流石にその書き方は年齢的にやめた方が良いと思(以下黒塗りで念入りに消されたあと)

 

 

 #####

 

「って紫かよおおおおッッ!? 紛らわしいわ! つかあいつ何やってんのよ!?」

 

 叫ぶようにツッコミを入れた霊夢は一人、心に決める。

 これからはちゃんと最後まで読んでから反応しよう、と。

 本来顔全体が火傷する出来事だった早苗は奇跡的に熱いだけで済み、レミリアが落ち着いたのを確認して三人は改めて次のページへと移っていく――――。

 

 

 #####

 

 

 七月十五日

 

 

 八雲紫が来た。

 うん、来るとは思ってたけど早かったね。でもわざわざ日記で忠告するくらいだ。ちゃんと事前に準備をしっかりしてある。

 人の日記を許可なく覗いた罪は重いよ?

 というか普通に犯罪よ、ストーカーとかで逮捕出来るよ。

 幻想郷には外の世界の警察みたいな犯罪者を取り締まる組織がないから無理だけどね。

 個人なら居るらしいけどツテないからどっちにしろ無理な話だ。

 ともかく紫とお話をしました。色々と。八雲紫からは私の動きが最近妙だったから監視していたと正直に言われた。また、能力のことでも話があると言われた。

 どうやら私の能力は幻想郷の存亡を揺るがせる程のものになっていたらしい。それで釘を刺された。妙な真似をしたら紅魔館がどうなるか、と。

 そんな気は無いけどムカつく。でも仕返しもちゃんとしたよ。

 具体的には紫が来る前に、橙ちゃんを通して藍さんを呼んでたんだ。

 

「紫様? 何をなさっているんです?」

「ら、藍!? 貴女なんでここに……。私の仕事を任せて来たのに」

「事前に聞いてたんですよ。橙の友達のフランさんから、最近貴女に監視されてるって。勿論貴女の幻想郷への思いも理解してますが、本当にその釘刺しは必要なんですか? 最近監視しながらニヤニヤする姿をよく見ますけどストーカーじゃないんですか紫様?」

「す、ストーカーとは失礼ね! 私がそのような低俗なことをすると思う?」

「思います。紅魔館のメイドに協力願いまして、一度時を止めて貴女がスキマを覗く姿を観察したことがありますがその時、確かにフランさんの姿が映っていました」

「い、いつの間に和解を……? それにその時は偶々そうだったってだけ――――」

「御託は入りません。帰って説教です」

「で、でもちょっと許してほしいかなーって」

「慈悲はありません」

「(´・ω・`)」

 

 そう言って藍さんは紫の首根っこ掴んで帰っていった。

 紫の姿が見えなくなる瞬間、「私を倒しても第二第三の私が必ず――」とかなんとか小芝居じみた言い方で叫んでいたので、多分あちらさんとしては戯れ感覚だったのだろう。

 勝ったのにこの悔しさはなんだろうか……。

 

 

 #####

 

「まぁ普通に考えれば危険ですけどね……フランちゃんの能力。ただ監視と言いながらニヤニヤしながら眺めてるのは完全に事案です。ギルティです」

 

 言いながら立てた親指を下に向ける早苗だが、それは色々とやっちゃいけないポーズなのはともかくとして。

 

「ふむ、その言葉の響き良いわね。有罪(ギルティ)、か」

 

 レミリアがうっとりとそう言った。どうやら本気で気に入ったらしい。ギルティ、ギルティと何度か呟く。

 

「またレミリアの変なスイッチが入ったわね……」

「中二病っぽい言葉が好きですもんね。リユニオンとかマテリアとかどう思います?」

「何それ良いわね! なんて意味なの?」

「再会の集いと書いて『再会の集い(リユニオン)』と呼びます。他にもFFだと再結合って意味もありますね。マテリアは物質と書いて『物質(マテリア)』ですが色々改変も出来ます。FFだと魔石とかクリスタルの意味もありますけど」

「成る程……使い方は理解したわ」

 

 呟いてレミリアは片目を覆い隠すようなポーズをとって叫ぶ。

 

「うぐっ……我が魔力の根源(マテリア)が疼くわ。これは(いにしえ)(つわもの)共との再会の集い(リユニオン)の前兆かしら」

 

「……痛たたたた」

「良くやるわね。あんな恥ずかしいの」

「私の格好良いポーズになんて言い草よ!? というかやらせておいて痛たたたたって言うのはどういう了見か説明してもらおうか!」

 

 レミリアのカリスマ(中二病)とツッコミは絶好調であった。

 

 #####

 

 

 七月十六日

 

 今日は道場に行った。

 最近、人里に行くとやたら声をかけられる。大分慣れてきたからかな。頭撫でられたりとかされてなんか可愛がられてるんだけど……これは妖怪として良いのだろうか。でもちょっと嬉しい私がいたり。

 ともかく道場に行くと妖夢さんと妖忌さん。それから門下生の皆さんが迎えてくれた。

 私が道場に来た理由は妖忌さんに手合わせして貰うためだ。

 これでも毎日一万回の素振りは欠かしてないし、そこそこ振り下ろすことに関しては慣れてきている。技も以前罪袋さん達からもらった案は大抵出来るようにしといたので自分の力が試したくなったとも言う。

 もちろん、剣だけの勝負だ。弾幕もスペカも無しの本気勝負。

 

九頭龍閃(くずりゅうせん)!」

「九手の剣か……急激に腕を上げましたな! しかし――九手斬るなら十手斬るまで!」

 

 技も使わずに防がれたよ。炎とかも纏ってるのになぁ。丸ごと斬られるとやっぱり実力差を感じるよ。まぁ今回は道場内なので木刀を使ってるってこともあるけど。

 最後には負けちゃったよ。流石だね。で、終わってから感想を聞いてみた。

 

「数年分のレベルアップを果たされたように思います」

「ありがとうございます!」

「しかし……どうやら木刀を使いこなせていないようですな」

「え? 木刀……真剣より威力出ないですし」

「ふむ。ではその認識を変えましょうか。かつて、私は若い頃一人の男と戦ったことがあります。白髪の天然パーマな男でしてな、彼は木刀が得物でした。木刀片手に砲弾を貫き大砲を破壊するどころか機械兵器すら破壊してしまうーーそんな無茶苦茶な男でしたが、その剣の腕は私と同列……いえ、一時期は私を超えておりました。今は一線を離れたと聞いていますが、木刀も使用者によって違いはあるのだと真に思わされました」

「……木刀が得物」

 

 凄いな。銀髪の天然パーマってところで以前寺子屋に一日担任をしてきた銀八先生を思い出したけど多分関係はないのだろう多分。

 なんかあの先生木刀背負っていた気がするけど関係は無い、うん。

 世の中には凄い人も居るんだなぁ……。

 

 #####

 

 

「……いや、それ多分銀八先生で殆ど間違いは無いと」

「早苗早苗。妙に突っ込むのはやめときなさい。大体皆察してくれるから」

「いや皆って誰ですか!? というかさっきから天井見上げながら話してますけど霊夢さんには何が見えてるんですか!?」

「早苗ーー幻想郷は、全てを受け入れるのよ……」

「いや何の話ですか!? 何を受け入れちゃったんですか霊夢さん!?」

「……霊夢も時々電波発言するわよね。奇跡とかも大概だけど」

 

 意味分からないわー、と呟いてレミリアは次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月十七日

 

 

 久々に香霖堂に行った。

 もう忘れかけてたけど前にバイトしてみないかと誘われたことを思い出したからだ。

 行くと森近さんが「久しぶりだね、待ってたよ」と暖かく迎えてくれた。

 それで早速バイトしたいと言う旨を話すと「といってもうちは商品を探しに行くか時折来るお客さんを相手にする以外は基本暇だから経理とかを教えようと思うけどいいかい?」という返事をもらった。

 いや、むしろありがたいね。バイトって働くことなのに逆に教えてもらえるなんてお得だよ!

 それに私、勉強好きだしさ。

 でも経理とか簿記とかとなると流石に難しかった。

 レベルが違うっていうのかな。算数とかその辺りだと厳しい。数学レベルの知識は必要そうな感じだった。

 バイト自体は片付けしたりとかしたけど数学はネックだなぁ。今度慧音先生に良さそうな先生が居ないか聞いてみよっと。

 

 

 #####

 

 

「へぇ、ここから繋がったんですか」

「……何がよ?」

「それは後の楽しみにしましょう。この話は私も初耳だったので、あぁ成る程と納得してしまっただけなので」

「???」

 

「ねぇ、守矢の風祝」

「なんですかレミリアさん。前から言ってますけど名前呼びとかお姉ちゃん呼びで構いませんよ?」

「んんっ、えっと……その。数学って難しいのよね?」

「そうですね。一般的に苦手な人の割合が大きいと思います」

「……じゃ、じゃあ経営とかに携わるなら必要?」

「必要ですね。寧ろ無いとほぼ終わります。事業失敗フラグが立ちます」

「……そうなの。えっと……あの」

「クスッ、分かりました。今度レミリアさんにもお教えしますよ。勿論フランちゃんには内緒で。負けてられないですもんね?」

 

 言い淀むレミリアを見て直ぐに察した早苗が優しく言うと、レミリアが顔を輝かせて頷いた。

 そうして一行は次のページをめくる――――。

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・まー、ま、ま、ま、ま、ま、(ごちうさが元ネタだが本家ではこんなに噛んでいない。ニコ動で出来たネタ)
・ヴァアアアアアアア!!(ごちうさのココアの悲鳴、一時期モンハンのフルフルに似ていると話題になった)
・もちつけ(2ちゃんねるのネタより)
・(´・ω・`)(ショボーン、顔文字より)
・リユニオン、マテリア(両方FF7のネタ)
・九頭龍閃(るろうに剣心より)
・白髪の天然パーマな男(銀魂より、坂田銀時)

 次回は飛ばしめに書きたい(願望)


 


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七月編6『夏休み!水着!海!』

 


 水着パーカーは好きですか?

 


 

 

 

 七月十八日

 

 

 昨日、香霖堂に行って知ったけど商売をする為には経理と簿記、それから外の世界では経済学が出来なければ基本話にならないらしい。

 今回はそのうちでも経理と簿記。それをする為の数学力を鍛えようと思い、寺子屋が終わってから慧音先生に尋ねてみた。

 

「数学の先生か……外で学ぶレベルとなると、一人しか心当たりがないな」

 

 心当たりがあるらしい。

 お願いして今度教えてもらえるように計ってもらえないかと言うと「分かった」と返事してくれた。ありがとう!

 うん。これで問題の一つがクリアかな。

 今度その先生が来てくれた時に改めて教えてもらえるようにお願いしよっと。

 

 

 #####

 

「数学の先生ねぇ……」

「ふふん。そうそうこの時期でした。にしても翌日からすぐ行動するあたりアグレッシブですよね」

「行動力があり過ぎとも言えるけどね」

 

 特にツッコミどころが無かったのかそれぞれ一言ずつ述べて次のページへいく。

 

 #####

 

 

 七月十九日

 

 

 今日は久々にパチュリーと魔法の研究をした。

 いや、正直私の能力の本質が割れてからは反射とか必要無いんじゃと思ってかなり消極的な感じだったし、そろそろ放置し過ぎてパチュリーが可哀想だったからなんだけど……。

 ともかくもう一度反射の構築を考えてみたけど難しいね。

 理由? 単純に数学が出来ないからだよ。

 そもそも向き――つまりベクトルなんだけど範囲的には外の世界では高校生が学ぶ範囲であって幻想郷の住民が学ぶレベルをとうに上回ってるからね。

 私が知ってるのは単に本で読んだだけだよ。暇な時間が四九五年もあったもんで大抵の本は読んだ覚えがある。

 

 にしたって無理だよこんなもん! 最初は出来るかなって思ってたけど論文読んでもほぼ解読作業だよ!

 意味不明ワケワカラン単語の羅列過ぎるから! 能力開発とか明らかにオーバースペックだから! 絶対河童でも難しいからこれ!

 そんなわけで半分頓挫してる反射研究だけど少しずつ進んではいるのもまた事実。

 パチュリーって喘息持ちだから反射を使えたらウイルス丸ごと外に反射してしまえるので大分楽になるんだとか。あと体力不足も全身のベクトル操作で何とかなるらしい。

 うーん……にしたって挑むのが早過ぎたかもしれない。もうちょっと頭が良くなってからならもうちょっと何とか出来るのに。

 うん、しばらく放置かな。応援してるから頑張ってねパチュリー。

 

 #####

 

「まだ諦めてなかったんですねこれ」

「香霖堂の件も相まって数学やらを教わる選択をしたのが想像つくわね……あ、そうそう。ちなみにその論文、二人は読んだことある?」

「いえ、無いです」

「私も無いわね。そんなのがあること自体日記を読んで初めて知ったわ」

「お姉様ェ……」「パチュリーの親友ェ……」

「ば、馬鹿にしてるのかしら? その喧嘩買うわよ?」

「淑女が喧嘩を買うとか言わないで下さい。レディなんでしょ?」

「一人前のレディだからこそ身の弁えない者に知らしめる必要があるのよ。上下の格差をね」

 

 優雅に呟くレミリアだが、そのとき霊夢は二人のある一点に着目して口を動かす。

 

「上下の格差……あっ」

「霊夢さん、私とレミリアさんの胸を見比べてどうしたんですか?」

「……大丈夫よレミリア。貴女には将来性があるわ」

 

 その顔は聖母のような優しい顔だった。

 が、しかし。

 

「何を勘違いしてるか理解したくないけれどそんなこと一言も気にしてないから! だから変に胸を見比べないでくれる!?」

「そうですよ霊夢さん! セクハラですよ!」

 

 当たり前な話だが二人は文句を垂れた。

 方やゆさゆさとその豊満な胸部装甲を揺らしながら、方や揺れることのない幼い体躯を振り回しながら。

 

「……哀れな」

「誰が哀れよ誰がーっっ!!」

 

 その光景に霊夢は人知れず涙を流し、次のページをめくった。

 

 #####

 

 

 七月二十日

 

 

 今日から夏休み!

 昨日の終業式の校長先生の話の時に「明日から夏休みーーノォ! 筈でしたがあっ!!」って幻聴が聞こえたけど気のせいだろう。気のせいったら気のせいだ。

 宿題もきちんと沢山出たけどそれは計画的にやるとして……。

 

 外の世界では今日は海開きの日らしい。

 幻想郷には海は無いんだけど、代わりに湖開きの日として『霧の湖』が夏の間だけビーチとして賑わうのだ。

 普段修行に使ってる場所がビーチ……というかお祭りでよく見る店々が立ち並ぶという光景は中々壮観だよ。

 それに私達が妖精達と一緒に人里からの道を作ったおかげか例年より人が多く、霧の湖は泳ぎを楽しむ人で溢れていた。

 

「さて……じゃあ今回はここで海の家を開く」

 

 で、私なんだけど今日からしばらく森近さんの店にバイトとして参戦することとなった。

 夏休みだし良い機会だと思う。森近さんも本格的に商売をする最初の事業だ、ということで気合が入っていた。

 今回森近さんがやるのは外の世界の水着や海用の遊び道具などを集めた海の家らしい。

 基本服も道具もレンタルで行うとか。また、料理も提供するのでわざわざ香霖堂から私の異空間に大量の荷物を入れてくる必要があった。

 で、私がやるのは料理と売り子だ。外の世界のものらしいフリフリのついた可愛いビキニを着て、上から前を開けたパーカーを羽織って可愛く売り子をする。森近さんからは可愛いよ、と太鼓判を押された。

 

「女の子はそういうところが有利で羨ましいよ。僕みたいな陰気臭い男は売り子しても人が寄ってこないからね」

 

 ビキニに着替えた私をみて森近さんが溜息をついてた。

 あ、でも「似合ってるよ」と褒めてくれたのは嬉しい♪

 で、早速今日から売り子と料理を始めたけどお客さんがいっぱい来て大変だったよ。

 売り子をする時はこんな感じですよーって具合に商品を見せたり、幻想郷じゃ珍しい外の世界の水着を見せたり。

 肌の露出が若干多かったかな。まぁそこは森近さんがかなり気を遣ってくれたけど。

 それと料理も大人気だった。なんかやたら男の人がたくさん来て買って行ってくれた。その中には罪袋さん達も居たよ。

 あとナンパ? ってやつもされた。

 

「可愛い売り子さんだね、にしても仕事疲れたろ? 今からビーチバレーするんだけど遊ばないか? ほら、あっちの岩場の人のいない方でやるんだけどさ」

 

 数人の男の人達に囲まれて正直困った。

 けど、一瞬目の前がブレて咲夜が見えた気がした直後に消えてた。

 気を遣ってくれたのかな? 咲夜ありがと。

 ちなみに遊びもちゃんとしてることは追記しておこう。一番忙しいお昼時は無理だけど午後二時くらいからは普通に遊ぶことを許可してくれたし、かなりバイト代を弾んでくれた。

 ようし、明日からも頑張ろう。

 

 

 #####

 

 

「湖かぁ。守矢神社の側にも山上の湖があるからあまり行かなかったんですよね。そこで諏訪子様と泳いだりしてました」

「ふふ、私は行ったわ。浮き輪に乗って有象無象共が泳ぐ姿を優雅に眺める……クク」

「それ、泳げないだけじゃ」

 

 ………………………………。

 

「クク、ゲホッゴホッ! なななにか言ったかしら?」

「レミリアさんレミリアさん。分かりやす過ぎです」

「だ、だって吸血鬼よ! 流水は苦手なのよ!? それなのに若干とはいえ波の出来る規模の湖で泳ぐなんて……」

「あぁそんな設定ありましたね。フランちゃんの話を読んでてすっかり忘れてました」

「いや設定じゃねぇから! 世間一般で言われる弱点であってそれを無視してるフランがおかしいから!」

「レミリアさんレミリアさん、言葉遣いが荒くなってます!」

「うるさい! その原因は貴様だろうがこの乳おばけ!」

 

「……流水が苦手って今更だけど難儀よねぇ。シャワーも駄目って」

 

 わーわー騒ぎ立てる二人を横目にずずっと紅茶をすすりながら霊夢は呟いた。

 

 

 #####

 

 七月二十一日

 

 

 今日は一日のスケジュールを書こう。

 

 朝六時・起床。咲夜と共に昨日仕込みをした朝食と店用の料理の準備をする。

 朝七時・朝食。片付けなども私の担当。それが終われば夏休みの宿題を開始。

 朝七時半・宿題を終えめーりんの修行開始。最近はマラソンと組手の組み合わせが多い。

 十時・訓練終了。軽く大浴場で汗を流してから水着とパーカーに着替えバイト先の霧の湖に向かう。それならバイト。

 二時・昼休憩。昼食もこの時にとる。大体三時頃からお客さんの数も減ってくるので自由時間も増える。

 五時・バイト終了。森近さんも私もホクホク顔。バイト代をもらって撤収。それ以後は自由時間だけど最近は咲夜のメイド修行か人里の道場に行って剣術を学ぶ。

 六時・夕飯準備開始。咲夜と共にメニューを決め、作る。最近は慣れてきたからか一品は自由に考えて良いと言われた。

 七時・夕食。お姉様の反応によって変わるけど毎回ドキドキする。他の皆は美味しい美味しいって言ってくれるけどね。

 八時・大浴場で風呂を沸かし入浴。汚らしいと思われるのは嫌なので丁寧に全身を洗う。

 九時・自由時間開始。外に遊びに行ったりもするけど最近はパソコンいじりが多い。あとは本を読んだり魔法の勉強をしたり、足りない自学をしたり。参考書は大図書館に溢れてるから勉強環境は良いと思う。

 一〇時・就寝。遅くても十一時には寝る。じゃないと成長ホルモンが身体に作用しないらしい。まぁ吸血鬼だからお姉様とかは深夜まで起きてるけど私は毎日忙しいし疲れてるからすぐ寝ちゃうんだよね。

 まぁあまりにも自由時間が無くて、なおかつどこかに行く予定がある日は別だけど。

 

 ちなみに今日もバイトだった。気の良いおじさん達が「おう! フランちゃんじゃねぇか。前のライブ良かったぞー!」とか声をかけてくれたり頭を撫でてくれたりする。「子供なのに頑張ってるなー」と皆私を見る目が優しくてちょっと嬉しい。

 多分まだ子供なんだろうね、私。

 お姉様もだけど、頭を撫でられるとか完全に子供扱いなのに頰が緩んじゃうもん。

 

 #####

 

「アイドルですね」

「人里のアイドルね」

「我が妹ながら私より目立つなんて……」

 

「にしても一部を除いて幻想郷の皆さんって気の良い方が多いですよね。私も人里で買い物をするときとかによく声をかけられますし」

「世話焼きが多いのよ。コミュニティのレベルが江戸時代と変わってないから。だから子供を見かけたら大体の大人が自分の子供のように接するし悪い事をすれば他人の子供でもきちんと説教する」

「良い習慣だと思うわ。私は不本意ながら子供側に入るけれどそういう形態は成長に良いしね」

「ですねー。外の世界はそれとは大分変わってますし。最近の人は他人の子供だと遠慮して怒らないんですよ。他の家の家庭方針もあるし人の子供を叱るのは失礼だって勝手に相手の事を想像しちゃうんです。まぁそうじゃなくても児童虐待だとか直ぐに裁判沙汰になったり因縁付けられる世の中なので極力踏み込みたがらないんですけど」

「外の世界は便利だとか聞くけどそういう面もあるのね。便利故に地域コミュニティが廃れている……人里の人が知れば驚くわ」

 

 驚いたように霊夢がいうと、言いづらそうな顔でレミリアが呟く。

 

「……ところで話が変わるけれど今更ながらにフランのスケジュールギッシリ過ぎないかしら?」

「子供にしてはギッシリですね。普段から家事をする身から言わせてもらうと似たくらいの日々を送っているつもりですが、確かに多いと思います」

「私だったらストレス溜まるわ。こんなの。やっぱり縁側で緑茶を飲みながらぼーっとしてるのが一番ね」

 

 そうして三人は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 七月二十二日

 

 

 バイトだー!

 と思って働いてたら幽香さんとメディスンちゃんが来た。

 

「久しぶり、フラン。さっき紅魔館に寄らせてもらったけど向日葵、かなり育っていたわね。もう少しで元気に花を咲かすわよ」

「フラン、おはよ! 湖で働いてるって聞いて遊びに来たわよ!」

 

 上から幽香さん、メディスンちゃんの台詞だ。

 どうやら向日葵の様子見がてら遊びに来てくれたらしい。

 

「おや、友達かい? なんなら遊んでくると良い。僕が店番をしているから」

 

 店の前で話をしていると森近さんがそう言ってくれたので久しぶりに遊んでから談笑することにした。

 早速似合いそうな水着を店から見繕って着せて――、メディスンちゃんの猛毒が漏れないように私が魔法でコーティングして準備オッケー。

 浮き輪とイルカを持って湖に突撃して遊ぶ。はしゃいでいると水を掛け合ったりするだけで楽しいもんだね。

 泳ぐのも得意だしかなり遊べた。遊び終わってからは店に戻ってジュースを作って談笑を開始する。

 久しぶりだから楽しかったよ。

 でも今日はあまりお仕事出来なかったなぁ……。あんまりお金は受け取れないや、と思ってたけどいつもと同じ額が入ってた。

 で、森近さんに、こんなに受け取れないよって言ったら、

 

「フランが楽しそうに遊んでるのを見て、あの水着は何処でレンタルしたのかって話題になったみたいでね。まぁ宣伝ってヤツだよ。キミは意識してなかったようだけど、これも立派な仕事さ」

 

 と言って「だからこれは正当な対価だ」と言って袋を改めて渡して来た。

 ……宣伝。そっか、そう言うのも商売に必要なのか。

 森近さんってやっぱり凄いなぁ。

 

 

 #####

 

 

「フランちゃんは可愛いですからね。宣伝効果も十分出たんでしょうね、本当に」

「というか私の中で香霖堂の店主の評価がうなぎ登りなのだけれど。偶に商品を買いに行くけど、今度からはついでに世間話でもしてみようかしら」

 

「確かに顔は悪くないし性格も良いわよね。なんとなく雰囲気的に恋人とかそんな感じになる気はしないし惚れもしないけど」

「それ分かります! すっごい良い人なのに惚れるとかそういうのは無いんですよね」

「ある意味可哀想じゃない? それ? 良い人止まりって」

「だってそうだから仕方ないじゃない」

「ですのだ」

「……まぁ分からなくもないけどね」

 

 結局のところ同意してしまう時点で同じ穴の狢なのだがそこにレミリアは気づかない。

 森近霖之助は良い人で人として好かれるけど惚れはしないというある意味酷い結論を投げつけて三人は次のページをめくる――――。




 

 今回出て来たネタ
・明日から夏休みーーノォ! 筈でしたが!(ファンタCMより)
・ですのだ(咲-Saki-より)

 ネタが少ないけど偶にはこういうのも良いと思う。


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七月編7『意識途絶』

 

 今回若干、ちょっと、ほんの少し真面目につき注意されたし。


 


 

 

 

 七月二十三日

 

 

 今日は海の家に紅魔館の皆がやって来た。

 お姉様にパチュリーに咲夜、それからめーりんにこあさん。

 ちゃんとバイトしてるのか見に来たとお姉様が言っていた。それぞれ合いそうな水着を選んであげると喜んでくれたのでよかったよ。

 にしてもお姉様……派手なのが好きなんだろうけど身の丈を考えた方がいいと思う。最初に選んだやつとか完全に大人のスタイルの良いお姉さんが着るようなやつだったから。最後は素直にスク水タイプの水着で納得してたけど。

 にしても咲夜がいてくれて助かったよ。手伝うって言い出すのは予想外だったけど、料理とかの出す速さが倍近くなった。味のクオリティも上がるから一石二鳥だ。とはいえ咲夜も遊びに来たのに良いのかな? そう思って聞いてみると、

「私にとって家事は遊びのようなものです。同時にお嬢様や妹様のお手伝いをすることがこの咲夜の最上の喜びなんです――ですから私の為にお手伝いをさせてくれませんか?」

 という返事がかえってきた。一切の曇りのない笑顔で言うもんだからその時は信じ込んだけどこれって多分私のことを思って私が気負わないように理由付けてくれたんだよね。

 今までもそうだったけどいつもありがとう咲夜。

 大好きだよ。

 

 #####

 

 

「いえいえ、私こそありがとうございます――妹様」

「「うわっ!?」」

「……しゃ、咲夜、流石に読んでるタイミングでいきなり現れると心臓に悪いのだけど」

「申し訳ありません。つい感謝の意を述べたくなりまして」

「そ、それは分かったけど今度からは気を付けてね?」

「はい、お嬢様。この十六夜――肝に命じました。では」

 

 そう言い残して次の瞬間咲夜の姿が搔き消える。

 そして――嵐のように過ぎ去った咲夜のいた空間を眺めていた三人は誰ともなしに呟く。

 

「……次のページにいくわよ」

「「……賛成」」

 

 

 #####

 

 

 七月二十四日

 

 

 変なお客さんがいた。

 その人はビーチから少し離れた目立たない岩場で、パラソルを刺して影を作りその影に潜り込んでいた。

 手には双眼鏡? それを覗き込んでこんな事を呟いていた。

 

「夏ビーチ 揺れるおもちと 双眼鏡」

 

 俳句? 内容が大分サイテーだけど。

 流石に挙動が怪しかったので声をかけるとおじさんは慌てふためいていた。

 

「ななな何の用かなお嬢ちゃん?」

「おじさん、女の人の胸を見てたでしょ」

「し、知らないなぁ。僕はバードウォッチャー。ここらのスポットからは空飛ぶカモメが見えるからそれを見ていたんだよぉ?」

「じゃあさっきの俳句紛いのセクハラ発言は?」

「言ってない☆」

「…………」

 

 なんだろう。人に向けてこう言うのもあれだけど気持ち悪かった。

 おじさんおじさん、その年で台詞に☆付くような態度はやめた方がいいよ。なんか背筋がゾワっときた。

 

「よ、良かったらお嬢ちゃんも見るかい? 空飛ぶカモメがよく見えるぞー!」

「ほんとに見えるの?」

「勿論だとも! さぁさ見てくれ!」

 

 それからこのおじさんをどうしてやろうかと考えていたところ、なんか双眼鏡を渡してきたのでちょっとだけ覗かせてもらうことにした。

 双眼鏡を傾けて空を見る。あぁ、確かにカモメが飛んでいた。

 湖なんだけどね。そこそこ大きいからかな?

 ともかく本当だったんだ、としばらく覗いてから謝った。

 

「あの……疑ってごめんなさい」

「いいよいいよ。見てくれで分かるけどおじさん怪しいからね。さぁさ、おっちゃんはまたバードウォッチングに戻ろうかな」

 

 女の人の揺れる胸を覗いてるんじゃなくてカモメを見てたんだね。

 じゃあ何もないし戻ろうか。

 そうーー思った矢先の事だった。

 

「フラン、どこにいるんだい?」

「あ、森近さん!」

「ここに居たのか。良かった、どうやら人里で性的暴行事件を起こした人が逃げたって聞いてね……心配になって――って、ん?」

「……………(汗)」

 

 森近さんが何かに気づいたように眼鏡をくいっと持ち上げて改めておじさんの方を見るとおじさんは汗びっしょりだった。

 熱中症かな? 大変!

 

「その顔、指名手配されてた性的暴行事件の……」

「ちくしょう! 後少しだったのに!」

「あっ、待ちたまえ!」

 

 と思ったらおじさんが全速力で逃げ出した。

 えっ? 性的暴行? 指名手配?

 反応からしたらおじさんが犯人だよね? そう私が疑問に思う間も無く、森近さんが走って追いついておじさんを地面に倒してた。

 ……あれ? おかしいな、見てるだけなのになんか身体の力が抜けていくような気がする。熱中症かな。フラフラしてきた。

 

「捕まえたぞ、観念しろ。それとフラン! 何かされなかったかい? ……聞こえてないのか? 返事を――――」

 

 森近さんが何か言ってる。でも酷く身体が怠くて私は返事をする気が起きなかった。

 しばらくフラフラ突っ立っていたら森近さんがおじさんの胸ぐらを掴み上げて怖い声色でこう言っていた。

 

「……キミ、フランに何をしたんだい?」

「じょ嬢ちゃんには何もしてねーよ! 痛ででで! ただ双眼鏡を見せただけだ!」

「嘘をつくなよ」

 

 ……頭があまり働かない。なんでだろ。

 ボーッとする。森近さんがおじさんを取り押さえて何か言ってたけど段々視界がぼやけてきた。

 

「痛ででで! 絞めんなって!」

「なら双眼鏡とやらを僕によこせ。それか真実を語れ」

「ぐっ……チッ、ほらよ双眼鏡だ」

「貸せ! これは……魔法器か! 効果は――覗いたものの欲望を、本性を表に出す?」

 

 そこまで聞いた時だった。

 私の体が地面に落ちた。ドサっと、人ごとみたいに音が聞こえた。

 あれ、身体に力が入らないや。起き上がることも出来ない。

 今更ながらに思えば妙な思考だと思う。でもその時の私はそんな感じだった。

 あとの意識はほぼない。

 次に目が覚めたら紅魔館のベッドだった。咲夜に話を聞くとどうやら私は熱中症で倒れたのだとか。

 森近さんが運んできてくれたらしいけど……嘘だよね。

 私の奥底に眠る本性と言われて思い浮かぶのは狂気だ。意識を失ったってことは私は術にかかってしまったのだろう。

 その内容は会話から察するに本性を表に出す術――私の場合は狂気だ。

 明日、森近さんに経緯を問いただそう。

 

 

 #####

 

 

「………………、」

 

 このページを読んだレミリアは黙り込んでいた。

 

「……レミリアさん?」「れ、レミリア?」

 

 顔色を伺うように二人が尋ねる。

 が、レミリアから返ってきたのは予想外の返事だった。

 

「……知らなかった」

「「え?」」

「初めて、知った」

 

 レミリアは顔を伏せていた、

 泣いているのかは分からない。決して怒りを表には出さず、極めて冷静にいった。

 ただ。

 本当なら知っていなきゃなない話を聞かされていない――その事実がレミリアの琴線に触れたのだ。

 

「…………レミリアさん、あの」

「何も言わないで次のページをめくって」

「でも……」

「……お願い」

「分かり、ました」

 

 言われるままに早苗が次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 七月二十五日

 

 

 森近さんに話を聞いた。

 全ては一つの魔法器が原因だったらしい。

 魔法器ってのはマジックアイテムのことを指すんだけど、私が話していたおじさんの家には蔵があってそこに件の魔法器が封印されていたのだとか。

 その封印をひょんな事から解いてしまったおじさんは双眼鏡の『人間の奥底に眠る本性を表に出す力』に惑わされ、欲望のままに行動していたのだとか。

 で、双眼鏡の力は本性を表に出すことなんだけどその為にはまず元々の人格が先に奥底にしまわれ、代わりに本性が表に出るらしい。その為術にかけられると一時的に気絶してしまうんだそうだ。

 で、おじさんはその力で何人もの女の人を気絶させて家に監禁してたとか。

「ちくしょうあと少しで」って言ってたのは後少しで私も捕まるところだったってことだね。

 

 ともかく私が倒れたあと、森近さんは魔法器を使って私を元に戻したらしい。

 時間を巻き戻す魔法器で、私の時間を巻き戻して洗脳される前まで戻したとか。おじさんも含め被害者全員に同じように対応し、その魔法器もすでに封印し直したらしい。

 

「道具は僕の専売特許だからね。管理しておくよ」

 

 と言っていた。にしても危ないところだよ。

 私も修行が足りないなぁ。あんなにアッサリやられちゃうなんて。

 ……お姉様には話さないように咲夜にお願いした。

 お姉様が聞けば間違いなくおじさんを殺そうとするだろう。いや、それだけじゃない。人里に報復する可能性もある。

 お姉様だし言えば分かってくれると思うけど、ごめん。

 これは私が乗り越えなきゃならないことだから。いつか笑い話に出来るように。

 …………。

 …………、おやすみ。

 

 

 #####

 

 

「……それでも話して欲しかった、というのはエゴよね。分かってる。分かってるけど感情が許さなかったのよ」

「レミリア……」

「だから私も触れないわ。私はお姉様だから話さなかったことも全部許してあげる。呑み込む」

 

 そこまで言って紅茶を飲んで無理に明るい顔を作ってレミリアは二人に告げた。

 

「二人とも、次のページに行きましょう」

 

 #####

 

 

 七月二十六日

 

 森近さんから休みをもらった。

 暫く休めとのことだ。正直ありがたい。

 なんか猛烈に心が疲れてるし、久しぶりにあちこち遊びに行こうかな。

 幻想郷内で行ってないところは多いし。あ、それと修行もしないと。

 今回の件で私が騙されやすくてなおかつ未熟なのは分かったから。痛いくらい理解したからこそやらなきゃいけない。

 前に進まないと。乗り越えないと。

 強くなれ、私!

 

 

 #####

 

 

「強い子ですね」

「本当にね」

「――そうね」

 

 それ以上何も言わずに三人は次のページをめくる――――。

 



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七月編END『最後はお姉様』

 

 ボケとツッコミ無しは今回まで。
 




 

 

 

 七月二十七日

 

 

 休みをもらったは良いけれどやることがない。

 めーりんとの修行と道場の剣術指南は午前中に終わるし、ちょっと前の事もあってあまり外に出る気もしなかった。

 咲夜が心配そうな面持ちで様子を見に来てくれたけど上手く誤魔化せただろうか。

 ……いや、無理だよね。

 多分バレてると思う。私の演技程度じゃ誤魔化せないよ。

 …………暇だなぁ。

 明日は、ちょっとだけ外に出てみよう。

 

 

 #####

 

「若干後遺症が出ている……んですかね?」

「そりゃ女の子が気絶させられて後少しで描写出来ないような状況に追い込まれてたって知らされたらねぇ……」

「…………、反応し辛いわ」

 

 上から早苗、霊夢、レミリアのセリフである。

 意見はそれぞれ違うが皆同じなのは声のトーンに元気が無い事だろう。ともかく三人は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 七月二十八日

 

 

 今日は咲夜がお客さんを連れて来た。

 慧音先生と……早苗さんだ。

 なんだろうと思ってたら前にお願いしていた数学の先生の件で来てくれたらしい。

 どうやら早苗さんが引き受けてくれるそうだ。でも、ちょっとタイミングが悪いなぁ。正直まだ勉強って気分じゃないんだけど。

 とか思ってたら慧音先生は先に帰っていった。後に残される私と早苗さん……うん、どうしよう。

 

「お久しぶりですねフランちゃん」

「……こんにちは、早苗さん」

 

 早苗さんは明るく話しかけてくれるけれどイマイチ反応を返せない私だ。愛想笑いくらいは浮かべているつもりだけど多分曖昧な笑顔になっているだろう。

 

「……? あまり元気無いんですね。何か、あったんですか?」

「…………」

 

 ありました。話したくないけど。

 顔を伏せると早苗さんはんー、と考え出す。それからポン! と手を叩いて成る程そんなことが……と呟いた。

 えっ、分かったの? 私何も言ってないのに?

 

「奇跡が私に囁いてきました。そんな事情があったんですね……てっきり嫌われたかと思って今にも泣きそうだったんですけど」

「…………、」

 

 奇跡で分かるんだ。どんな奇跡だろう。奇跡的に脳内に私の身に降りかかった不幸の正解が引き当てたとかそんな感じかな。

 というか泣きそうだったって……ってホントだ。そんなオーバーな、って言おうと思ったけど本当に目に涙が溜まってたわ。

 ちょっと申し訳ない。割と本気で。

 とか思ってると早苗さんが咳払いした。

 

「コホン、ではフランちゃん。今から数学をすると言って出来ますか?」

「……ごめんなさい、今は考えられないです」

「それはなぜですか?」

「……考えてしまうんです。先日の件、あっさりと騙されてしまったことを。その後すぐに動けば――対処出来れば意識を失うことなんて無かったのにって」

「つまり、一つの失敗をずっと悩んでいるんですね?」

「言い方が悪いですけど――そうです」

「では、そんなフランちゃんに私が幾つか言葉をかけましょう。まず失敗ですけど、失敗したからなんですか? 失敗から学びを得てまた次に挑めばいいじゃないですか」

「……そんなすぐに気持ちの切り替えなんて出来ませんよ。そんな簡単なものじゃあない」

「確かに失敗を嘆く事も人間、重要と思います。でも、後ろを何度も振り返る必要はありません。思い出してみてください、フランちゃんの前には沢山の道があるはずです。前を向きましょう」

「…………、」

 

 なんだろう。凄くイライラした。

 そういう事じゃないんだよ。私が前向きになれないのは。

 もっと――心の奥底がどん詰まりのように落ち込んでしまっている。直ぐに切り替えなんて出来ない。あの失敗は下手を打てばとんでもない方向に転がっていってしまうもので、今回は偶々無事だったけど次はそうとは言えない。

 勿論、ずっとこのままで居ちゃいけないのは分かってる。

 前を向かなきゃいけないことは分かってるけど、でも今は放っておいて欲しかった。

 

「今日は私も帰ります。ただ、最後に言わせてください。フランちゃん――じっくり考えて下さい。しかし行動するその時が来たならば、考えるのをやめて、進んで下さい」

 

 そう言い残して早苗さんは帰って行った。

 

 結局、今日も外へは出れなかった。

 

 

 #####

 

「最初は、フランちゃんの教師になれるってウキウキ気分でしたけど……まさかこうなるとは思ってませんでしたよ」

「というか無駄に良いことを言っているように見えるけど、むしろ反感買ってない?」

「……そもそも言い方が意地悪よ。貴女」

 

 霊夢とレミリアの二人にジト目で見つめられた早苗はしわしわと小さくなって呟く。

 

「……そ、それは反省します」

「ならばよろしい」

「いや、良いの? レミリア」

「……説得の内容がキチンとしていたから許すだけよ」

「ふふん、当然です。偉人の言葉をパクってますから。魯迅にウォルト・ディズニーにイチローにナポレオンだったかな。皆バラバラですけど良い言葉ですよね! ね!」

「……やっぱり許さないわ」

「何故ですか!?」

「人の言葉で説教とは偉くなったものね。でも借り物の言葉じゃ胸に響かないわ。そうでしょ、霊夢」

「いや、知らないわよ」

 

 パクリの台詞だろうが当人が何か感じ入ることが出来ればそれで良いじゃない、という思いは胸の内に引っ込めて、霊夢は溜息を吐きながら次のページを開く――――。

 

 

 #####

 

 

 七月二十九日

 

 

 とりあえず訓練をこなしていると妖忌さんにこんな言葉を掛けられた。

 

「とりあえず今日はここまでにしておきましょう」

 

 なんで? 用事でもあるのかな、と思っていたら次の言葉で私は固まった。

 

「これ以上やっても意味はありませんから」

 

 意味がない? どういうことかな。分からないんだけど。

 そう尋ねると妖忌さんの返事はこうだった。

 

「……剣に迷いが見えます。また今の貴女は強くなろうという気概がありません。強くなる心を持たぬ者に幾ら教えても無駄です」

 

 その迷いが消えるまでは修行はつけません。

 そう言って私は道場から退室を余儀なくされた。多分見抜いていたんだろう。私の心のうちを。

 でもサボるわけにはいかない。めーりんの方に行って何か追加の訓練は無いか聞きに行った。

 けど……、

 

「妹様。しばらく訓練はお休みにしましょう」

 

 そこからの説明は妖忌さんとほぼ同じだった。めーりんのには若干説教も混じっていたかな。

 

「妹様が今やられているのは訓練ではなくポーズです。私は頑張ってるんだー、こんなに努力してるんだーって。この前の件を取り戻す為かもしれませんが明らかにまだ心が回復していません。言い方は悪いですが、完全に無駄です」

 

 こうして私は完全に自由を言い渡されてしまった。

 明日からどうしよう。修行すらやれないとなると本当に暇になる。

 …………、辛い。

 

 #####

 

「紅魔館の美鈴はともかく妖忌さんも気づくのね。やっぱりあるのかしら。魂のこもった訓練と違いが」

「あるんでしょうね」

「……何にせよ早く立ち直って欲しいところです」

 

 #####

 

 

 七月三十日

 

 

 今日はいつもより時間をかけてガーデニングをした。

 向日葵は順調に育っている。後少しで花を開くだろう。

 こうやって後少しまでくると感慨深いね。

 そういえば花の声って前に幽香さんに聞いたなぁ。確か、静かにして耳を澄ます。自然に身を委ねると自ずと声は聞こえるって。

 

 暇だし一日中やってたらいつの間にか寝ていた。

 目を瞑って静かにしていたせいだろう。サーっという風の音とざわざわと揺れ動く紅魔館近くの雑木林の音。そよそよと花が風に吹かれる音を聞いていた時の出来事だった。

 にしても自然っていいね。

 心が洗われるようだよ。ちょっと落ち着いたかもしれない。

 うん、もうちょっとで前向きになれそう。

 

 #####

 

「おお」

「アロマセラピーってやつかしら。自然で心が落ち着くって」

「ちょっと違いますけど、でもこれはいい傾向ですよ」

 

 長めの停滞を迎えて反応しづらかった三人もようやく明るい声を上げだした。

 そして、期待を込めて次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 七月三十一日

 

 

 今日はお姉様と話をした。

 そういえばお姉様と一緒に一日を過ごすのは久々だなぁ。

 朝ごはんからずっと一緒に行動したよ。多分咲夜辺りが気を回してくれたんだろうけど、中々楽しかった。

 とりあえずお姉様、チョロい。

 褒めておけばえっへん! って薄い胸を張るし、とても機嫌が良くなる。

 昨日は○○があったのよ! だとか、この前は○○の家でね! とかとても楽しそうにお話するお姉様を見ていると悩んでいる自分がバカバカしく思えてきた。

 お姉様の場合、大抵どこでも自然体なんだよね。あの高飛車で打たれ弱くてカリスマブレイクしちゃうのも完全に素だし、隠し切れてない中二病を隠し切っていると思い込んでいる姿も全部自然体だ。

 対して私は最近、行動に利益を挟み込むようになってきた。こうすれば人に好かれるだとかちょこちょこ考えて行動している。

 キャラを作ってるってほどじゃない。言うなれば気を張って毎日を過ごしているんだ。

 ………長い地下生活から抜けて、友達が出来て――その度に世界が広がって行って。

 人を信じるようになって、人里には良い人も多くて、ライブだって最後は楽しく乗り越えられた。

 ――でも操られていたとはいえ騙されて分からなくなった。

 無条件に人を信じられなくなった。

 でもそれすらバカバカしくなった。一度騙されたからって何だって。お姉様を見ててそう思った。

 

 ……………………

 ………………、

 …………。

 ……そろそろ前に進む時が来た、かな。

 

 

 #####

 

 

「やっと前を向けた、かな」

「というかこんな時でさえチョロいって言われるんですね。レミリアさん」

「なんかボロクソに書かれてるのよね。私だけ」

「自然体も悪く捉えたら『チョロいプライド高いカリスマブレイクする』って前提条件付いてますからね」

「……泣きたいのは私の方だわ。くすん」

 

 涙を拭うようにわざとらしく手を動かすレミリアを見て霊夢が言う。

 

「白々しっ! 下手な演技はやめときなさい。やっと次からボケとツッコミ出来そうだしサッサと行くわよ!」

「えー、その前にちょっと休憩入れましょうよ。キリが良いし」

「そこの風祝に賛成ね。ちょっと疲れたわ。お菓子も付けるから休憩しましょ」

「…………、仕方ないわね」

 

 渋々、霊夢は頷く。

 かなりメタいことも含まれる会話劇であったが、ともかく三人は一度日記を置き、それぞれ紅茶とお菓子に手をつけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 




 


 次回、閑話予定。
 正直海の話を引っ張りすぎた感あるけど成長ストーリーって付けてるしやらないわけにはいかなかった。
 あ、八月からはまた本格的にあちこち行きます。


 


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八月編
閑話


 

 

 

 四月二十日、午後二時。

 紅魔館のレミリアの部屋で七月編を読み終えた三人は休憩を取っていた。

 思えばこの三人が集まるのは珍しいものだ、と霊夢は思う。『霊夢とレミリア』か『霊夢と早苗』ならともかく、三人で話すことは中々ない。今回の場合は霊夢とレミリアの間に早苗が割って入った形だが、しかし流石コミュニケーション能力が高い彼女はすぐにその場に順応しているあたり流石と言うしかない。

 そこは彼女の特技であり良い点であろう。

 またほぼ面識のない相手を前に出されたお菓子などを当たり前のようにバクバク食べるのも彼女の度胸がある――というか彼女の軽い性格が起因していた。

 

「うん、このクッキー美味しいですね。あっ、このケーキも! やっぱり咲夜さんお料理上手ですね。私こんなに美味く作れませんよ」

 

 感嘆の声を上げながら本当に美味しそうにお菓子を食べ紅茶を啜る早苗だが、一方二人の少女は色々と考えさせられざるを得なかった。

 その視線は早苗の顔より下へ。具体的に言えばそのたわわに実ったおもちへと向けられている。

 

「うーん♪ 最高です! この繊細な味と舌触りがなんとも」

 

 頰を手に押さえて、「んふー♪」と満足そうな声をあげるたびに彼女の胸が小さく揺れていた。胸――おもちは本来ブラジャーをしていればあまり揺れないものである。

 しかし揺れる、その理由は一つだ。

 日本の古き良き伝統、巫女服。それは神聖なもので本来下には何も身につけないと言われている。

 守谷の風祝である彼女も――恐らく身に付けていないのだろう。

 しかしおもちが垂れているわけではない。しっかりとハリがある。

 とはいえそれは一旦置いておくとして二人の少女にとって重要なのは『一般的に巨乳と呼ばれる早苗の食生活』だった。

 

(あんな風にお菓子を沢山食べれば私もあぁなるのかしら……?)

 

 レミリア、霊夢の両名は美味しそうにお菓子を頬張る早苗の姿を見てそんなことを邪推する。

 早苗に対し現在二人はあまりお菓子を食べてはいなかった。理由は簡単である。過度な糖分摂取は肥満の元――そして糖尿病の元となるからだ。しかしあぁもパクパクモグモグと食べる姿を見ているとどうも同じように食べた方が良いのではという邪な考えが二人の頭の中に浮かんでいた。

 

(いやいや、でも太るし……)

 

 とはいえレミリアに限っていえば彼女はつまみ食いをしたりとかなり食べる派に入るのだろうが、しかし。

 うんうん悩みながら二人は紅茶を啜る。

 

 七月編を読み終えた三人の休憩はそのような感じだった。

 

 

 #####

 

 一方。

 博麗霊夢、東風谷早苗、レミリア・スカーレットの三名が七月編を読み終えて休憩していたその時。

 一人の少女が紅魔館へと繋がる道を歩いていた。

 

「ふぅ……ふぅ、疲れますね。久々に外へ出ると」

 

 少し荒れた息を吐きながら少女は呟いた。

 風で揺れて目にかかったやや癖のある薄紫のボブの髪を鬱陶しそうに払い、苛立ちを隠せない様子だ。

 しかし彼女の頭の中に空を飛ぶという選択肢は無く、ひたすら地道に歩いていた。

 少女は小さな女の子である。身長はレミリアとほぼ同程度といった具合だ。フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートを履いている。

 頭には赤いヘアバンドと複数のコードが繋がっており、コードを辿った先には『大きな眼』が胸元に揺れていた。

 

「後少しで、紅魔館……ですか」

 

 引きこもり生活をしていた身としては辛いですね、と少女は呟く。

 ただそれは単に歩き方が悪いのだと彼女は気付かない。彼女の歩き方は縮こまるように――萎縮したような歩き方で明らかに遠出に適した動き方では無いにも関わらず彼女がその事に気付かないのは先程口にした『引きこもり生活』が祟っているのだろう。

 引きこもり、そう。引きこもりである。

 引きこもりと聞けば以前のフランを想起させるものがあるが、彼女の場合は圧倒的にレベルが違っていた。

 少女は極端にコミュニケーションが下手くそなのだ。とはいえ相手の考えが読み取れないとかそのようなことはない。

 その逆に――読み取り過ぎてしまうからこそ苦手なのだ。

 

「……世界の意思が読み取れたと思えば紅魔館に行けとは、中々無理難題を言ってきますね」

 

 疲れた息と共に吐き出すように彼女は言った。

 続けて、

 

「私の心を読める力が進化したと思ったのにそれ以来聞こえなくなりましたし、一体何なんでしょうか」

 

 少々立腹したように彼女は言ったが――それよりも一つ先に消化しておこう。

 彼女は『心を読む力』と言った。心が読めるということは相手の考えていることが分かるという事である。

 例えるならさとりと初対面の人が出会った時に、笑顔で挨拶する初対面の人の心を読むと『初めてだし愛想笑いしなきゃ』とか考えているのが分かるといった具合だ。

 先程――相手の考えが読み取り過ぎてコミュニケーションが下手くそであると書いたが全てはこの能力が原因である。

 また彼女自体コミュニケーションを取ろうと思っていないのもそれに拍車をかけている。

 

 コミュニケーションを取ろうとする意思があまり見られず、能力をフル活用して相手の思考を読み、思っている事を言い当ててくる。

 心が読まれるということは、要は言いたくもないのにこちらだけ喋り続けているようなものだ。

 しかも隠し事も全く出来ないので逆にコミュニケーションが成り立たないというわけである。

 事実、彼女が心を読めると知った人間は最初はテレパシーのようで便利だと思っても最後にはうんざりしていた。

 ようは人とコミュニケーションが取れずぼっちになり、更に人の悪意ある心を見続けた結果、現世を見捨てて引きこもるといった完全に近代における問題の一つである『ヒキニート』と思ってもらえれば良いのだが、ここで一つ問題がある。

 

 じゃあなんでヒキニートの彼女が外へ出て、しかもあまつさえ遠いと言っている紅魔館に向かっているのか。

 答えは簡単だ。

 

「神が言っている――紅魔館に行く定めだと」

 

 彼女が世界の意思を読み取ったからだ。

 この件についてこれ以上の詳しい説明をすればメタ的な意味でアウトであり、更にいえば彼女はメタキャラではないので説明のしようもない。

 じゃあ地の文で書けよまどろっこしいという意見もあるだろうがツッコミを入れてはならない。何故ならそのツッコミに対し誰からの反応も帰ってこない――つまりスルーされてしまうからだ。

 ……そうこうしているうちに少女は小高い道を登り、ふと足を止めた。

 

「……やっと見えてきました」

 

 その視線の先には紅い魔の館があった。

 霧の湖の霧に隠れて薄ぼんやりと見える館は不気味な様相を呈している。

 その館を見て少女は小さく息を吐いた。

 

「さて、休憩しま――――」

 

 そうして座ろうとしたその瞬間の出来事だった。

 

「紅魔館に何か御用でしょうかお客様?」

「しょーーってきゃああああ……、きゅう」

 

 少女――古明地さとりは突然現れた十六夜咲夜に驚いて気絶してしまった!

 

 

 

 

 #####

 

 

 一方、視点は戻って霊夢達の元へ戻る。

 楽しく談笑を交わしながら休憩という名のお茶会を楽しんでいた三人だが、扉をノックする音で一時中断された。

 

「失礼します」

「アンタ普通に部屋に入れたの!?」

 

 部屋に入札してきた咲夜を見てある意味失礼極まりないツッコミを投げかける霊夢だがそれを軽くスルーして咲夜はレミリアに小さく耳打ちをする。

 

「あの、お嬢様。お客様がいらっしゃっているのですが」

「え、誰かしら? 通してちょうだい」

「それが……その。気絶しておりまして」

「なんで!? 何があったのその人に!?」

「ちょっと瞬間移動したら悲鳴を上げて倒れてしまいまして……」

「だから前に言ったじゃない咲夜! いきなり現れるのは心臓に悪いからやめなさいって! きっと心臓が弱い人だったのよ!」

「も、申し訳ありません」

「ともかく手当をしてベッドに寝かせておきなさい。後で謝っておくのよ?」

「はい。畏まりました」

 

 酷い会話内容だがそれはともかく。

 驚いたり突っ込んだら忙しいレミリアだが適切に指示を出し、椅子に座り直す。

 その顔は困り顔だ。どうしようかしら、という感じで腕を組む。

 

「どうしたのよ?」

「いや、来客に応対するとしてフランの日記はどうしようかと」

「そもそも誰が来たんですか?」

「それは知らないけど……ともかく中断も視野に入れるべきかと考えてね」

 

 その時だった。

 

「は、…………、話は聞かせてもらいました」

 

 小さな声と共に唐突にガチャリと扉が開いた。

 扉の向こう側に立っていたのは古明地さとりである。ちょっと緊張したような感じで声が震えていた。

 

「さとり? あぁ、来客ってアンタか。つか気絶してたって聞いたけど大丈夫なの?」

 

 その姿に見覚えがあったらしい。霊夢がよっ、と手を挙げると「は、はい。大丈夫です」と控えめにさとりも手を挙げる。

 あまり人付き合いに慣れていないようだ、と判断したレミリアはで、と前置きして話しかける。

 

「確か貴女は……地底の主よね。地霊殿だったかしら、あそこに引きこもっていたと聞くけれど何の用かしら?」

「えっ……えっと、その。紅魔館に行けって世界の意思が私に囁いて、ですね」

「レミリアさん、威圧しちゃ可哀想ですよ。ゆったり話しましょう、怖いならほら深呼吸深呼吸」

 

 落ち着いて、と早苗が優しく声をかける。

 少し落ち着いたのはさとりは言う通りに息を吸い始めた。

 

「は、はい。すーはー、すーはー」

 

 そこに霊夢が手助けするように言う。

 

「吸ってー、吐いてー、吸ってー、吸ってー、吸ってー」

「すー、はー、すー、すー、すー……ケホケホ!」

 

 否。手助けではなかった。程度の低い引っ掛けのようなものだがその通りにしてしまうさとりは咳き込む。

 その様子を見て早苗がジト目で言った。

 

「霊夢さん? 意地悪しないで上げてください」

「いや、まさかやると思ってなかったんだけど……」

 

 しかし霊夢も霊夢でさとりの行動は思った反応じゃなかったらしい。ええ、と若干呆れの混じった顔だった。

 だがそれをすぐに引っ込めるとさとりに声をかける。

 

「つかさとり、話しにくいならいつもみたいに心を読みなさいよ」

「あ……はい。じゃあ読みます――とりあえずよく知らない方もいるので挨拶からですか。初めまして、私は古明地さとりです。えっと……レミリアさんが、『何の用でここに来た』ですか? それは単に世界がそうしろと私に言ったからなんですけど――成る程。フランさんの日記を読んでいたと。七月分まで……ふんふむ。大体把握しました。つまり私も読むのに加われということですね」

「えっ? いきなり何を言ってーーえっ?」

「レミリア、さとりは心が読めるのよ。ようは思考を読み取る能力を持ってるの」

「はい。その通りです……すみません気持ち悪いですよね?」

「いや、別に良いけど……入るの? 正直展開が急過ぎてまだ理解しきれてないんだけど」

「尺が無いんだから仕方ないでしょ。大丈夫、幻想郷はなんでも受け入れるわ」

「いや霊夢さんさっきから何言ってるんですか!? 意味分からないこと口走らないで下さい!? あと幻想郷は受け入れても読者は受け入れないと奇跡が囁いてますから!」

 

 早苗がツッコミを入れて霊夢がつまらなそうに髪を弄りながら説明をする。

 

「あーもう面倒な。とりあえずさとり加入しないと話進まないけど良いの? ゲームで言う所の強制パーティ加入ってやつよ。理解出来た?」

「全く理解出来ません!」「同じく」

 

 これでも駄目か、と霊夢は怠そうにさとりを見る。

 さとりもまた霊夢を見て、溜息を吐いて説明を始めた。

 

「……お二人に分かるように説明すると、奇跡と運命がそうしろと囁いているということです」

「あ、それなら納得です」

「そうね。じゃあ読みましょうか」

「勿論これじゃ納得なんて――って納得出来るんですか!? えっ? いや、えっ?」

 

 出来るわけがないでしょうし、と続けようとして思いの外あっさり納得した二人にさとりは狼狽した。

 おかしい、こんな事考えてなかったような、と思いつつ理由を聞くと、

 

「だって奇跡ですし」「だって運命だもの」

「意味不明です! とりあえず二人の心を読んで――ってなんだこの奇跡の頭!? なんで頭の中一杯に夢の国みたいな光景広がってるんですか早苗さんっ!? う……こんなの理解したら頭がおかしくなる。そ、そうだ、レミリアさんなら――って痛い! 何この中二病世界!? きょうびここまで酷いのは中々見たことありませんよ!? それと何ですかこの無数の運命!? なんか私の未来が大量に見えるんですけど!?」

 

 改めて二人の頭の中を覗くとそれはそれは酷い世界が広がっていた。

 方や某ナズーリンランドを彷彿とさせる夢の国ワールドと奇跡が広がる夢幻の世界と方や痛々しいまでの中二病と見渡す限り人や物の運命が広がる目が痛くなるような可能性世界。

 こんなのを読んでいたら頭が馬鹿になると判断したさとりは早急に能力を打ち切った。

 

「……あり得ない。化け物ですかこの二人」

「奇跡ですから」「運命だからよ」

「さとりさとり、この二人の頭の中はカオスだから覗いたら取り返しのつかないことになるわ」

「……霊夢さん、地上って地底より怖いんですね」

 

 カタカタと震えながらさとりは言う。

 何はともあれ無事に迎えられた(?)さとりはこれより三人と共にフランドールの日記を覗くことになった。

 やがて昼休憩を終えた三人――否、四人はフランドールの日記を取り出し八月編のページをめくる。

 が、その時唐突に霊夢が言った。

 

「つかなんでこんな面子になったのかしら」

「……知らない」

 

 …………………………。

 

 それを皮切りに会話が途切れる。

 黙りこくった空間に放り出されたさとりは一人、こう思った。

 

(……あの、これ大丈夫でしょうか?)

 

 ともかく。

 休憩とさとりの加入(?)を経て八月編がいざ、始まる!

 

 

 

 

 

 




 


 次回から八月編です。
 あと加入雑いので次回に軽くフォロー入れます。

 


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八月編1『幻想郷ぶらり旅』

 

 そういえば明日は紅楼夢ですね。
 例大祭も近いですし、行く方は体調管理に気を付けて下さい。
 土壇場で風邪で倒れたら元も子もないですから。


 


 

 

 

 ――古明地さとりを仲間に加え、フランドールの日記を覗き隊一行は八月編を開いて目線を落とした。

 彼女らはそれぞれ椅子に腰掛け、目の前のテーブルにはそれぞれ紅茶と菓子という万全の体制である。

 期間的にはまだ三分の一ということで先は長く、一旦休憩を取ったのは良い判断だったと東風谷早苗は切に思う。

 

「さて、準備はオッケーですか? 皆さん」

 

 先程の騒ぎや日記を読む最中の時のツッコミで疲れていないか全員の顔色を伺うように早苗はそう言った。顔色を見る限りは問題無さそうだがはてさて。

 そして返事を待つ早苗だったが、その時横合いでボソリと呟く声があった。

 

「……それにしても、不思議なものね」

 

 椅子に深く座るレミリアが慣れた所作で紅茶を呑み込んで、正面に座る顔ぶれに呟いたのを聞きつけて顔をそちらに向ける。

 向けられた視線の数は合計三つ――この場にいるのはレミリアも含めて四人なので、全員が彼女を向いた形だ。

 

「不思議って何がよ?」

「いや、大したことじゃないんだけどね、霊夢。ただまぁ、こうやって関連性の無い四人が紅魔館に集まって妹の日記を覗く事になるとはまさか思ってなかったから」

 

 霊夢の疑問に肩をすくめて、レミリアはそう応じる。

 この場のメンバー。つまりレミリア、霊夢、早苗、さとりの四人だが確かに関連性は無いに等しい。前述にあった通り『霊夢と早苗』や『霊夢とレミリア』ならまだ面識も付き合いもあるので分かるが、四人がこうして一堂に会して――あまつさえレミリアにとっては妹の日記を覗き見るという意味ではほぼ接点の無い人に見せるには少し抵抗があるというものだった。

 

「まぁそう感じるのも仕方ないかもしれませんけどね。実際のところ、私も珍しいメンバーが揃ったなって思ってましたし。レミリアさんが違和感持つのも当然の話です」

「……そうですね。それに早苗さんはフランさんの家庭教師のようですが私はまだレミリアさんから見たらフランさんと面識があるかすら疑わしいでしょうし、見せるのに抵抗があるのには納得出来ます」

 

 苦笑してレミリアに同調するように言ったのは早苗だ。続いてさとりが居心地悪そうに同じく納得の意を見せる。

 対応しづらいさとりの様子に眉間にしわ寄せるレミリアだが、そこでまぁまぁと早苗が声を上げた。

 

「それよりも私としては咲夜さんがあまり入って来ない方が不思議ですね。まぁよっぽど前からフランさんの日記を覗いていたからでしょうけど?」

「手厳しいわね、守矢の巫女。空気を変えたいからって雑に私を煽るのはやめて頂戴――それに私はメイドの身よ。妹様の日記に書き込んだりしているのは単に内容が読みたいのではなく、文章の添削と言葉の間違いを訂正して差し上げる為だもの」

「……すみません。この場に居なかったので、つい」

 

 てへっ☆と舌を出し(おど)ける早苗の姿に、時を止めて現れた十六夜咲夜は溜息を吐く。それから一礼して姿を掻き消す彼女の態度は瀟洒なものだった。

 当たり前といえば当たり前のこと。紅魔館が今日までやって来れているのも彼女のお陰という言葉が付く。

 この程度のこと、あしらえずして紅魔館に今日はない。

 と、

 

「……ともかく話を戻しましょうか」

 

 咲夜の登退場でまた静寂に染まる空間を振り払い、そこで声を上げたのは霊夢だった。

 彼女はとても面倒そうにレミリアを見つめて言う。

 

「見せるとか見せないとか話してる時間あるなら見ましょ。いい加減時間無駄にしてたらあの子――フランが帰ってくるわよ?」

 

 その言葉をぶつけられたレミリアは一、二秒停止した。

 だが、やがて。彼女は大きく溜息を吐き出して頷く。

 

「……はぁ、仕方ないわね。その代わりもしバレたら全員一緒にフランに謝ってよ? 私達は一蓮托生。怒られる時も一緒だから。それが見る条件」

 

 彼女に出来る最大限の譲歩である。内容も当たり前なものだ。

 レミリアの返事を聞いてメンバーは顔を見合わせ、頷いた。

 

「今更ですね。そんなの当たり前です。ねっ、さとりさん?」

「……はい、見せてもらうのですから当然です。霊夢さんもそうですよね?」

 

 早苗、さとりの両名は笑顔で答える。

 その言葉、態度共に問題は無い。その様子に安心したようにレミリアは頰を緩めた。

 続いて霊夢を見る。

 が、

 

「……あぁうん、そうね」

「待って! なんか霊夢だけ怪しい!」

 

 やはり博麗霊夢は格が違った。

 明らかにやる気のない返事だった。うがー! とレミリアが突っ込むが彼女は気にもせず曖昧な顔を見せる。

 

「いや。そんなことないわよ。ちゃんと謝るわよ、うん」

「なんでか分からないけど全く説得力がないんだけど!?」

「…………気のせいよ」

「目を逸らしてるわよ霊夢! ちゃんと目を合わせて! なんか明らかになんだコイツメンドクセー、とりあえず頷いとこって雰囲気漂ってるわよ霊夢!?」

「なんだコイツメンドクセー、とりあえず頷いとこ」

「本当に言いやがったな駄目巫女!」

「ああん? 誰が駄目巫女だコウモリ」

 

 一見すると売り言葉に買い言葉だがこれは彼女達のスキンシップである。端的に言えばいつもの、というやつだが巻き込まれる側からしたら大変困るものだった。

 

「ちょ、ちょっとお二人とも落ち着いて!」

「……そ、そうです! 二人とも本心から怒ってないんですからそんな漫才やめてください! それに霊夢さん、さっきから尺がヤバイとか変なこと考えてますけどそれは良いんですか!?」

「……分かったわよ。確かに尺が足りないから今回は矛を収めておく。ともかくサッサと見るわよレミリア」

 

 大きく息を吐いて霊夢が言う。

 興が削がれた、と呟く彼女だがどうやら落ち着いてくれたらしい。ホッと落ち着く二人だが、まだもう一人の少女は諦めていなかった。

 

「……ねぇ、一緒に謝るのは――ってきゃっ!?」

「次に戯言(たわごと)吐いたら夢想封印ね」

 

 レミリア・スカーレットである。

 だが彼女が声を上げた瞬間、霊夢から放たれた弾幕が彼女の真横を突き抜けていった。突然の所業にレミリアが悲鳴を上げる。

 ――霊夢の手には博麗印の護符が握られていた。

 ついでに言うと彼女の顔はこれ以上ないくらいの笑顔だった。

 満面の笑みから放たれるプレッシャーにあわわわ、とレミリアは屈する。

 

「……次のページ読みましょ」

「えぇ」

「「…………」」

 

 その姿に不憫な、と思わざるを得ない早苗とさとりだった。

 

 

 #####

 

 

 八月一日

 

 

 やる事がない。

 やっと落ち着いて来て前向きになろうと思えた私だけど、どうも目的が無いと行動する気も起きないね。

 とりあえず前向きになるって事がよく分からなかったのでインターネットで色々調べてみた。

 でも出てくるのって大抵前向きになる偉人の言葉とか歌なんだよね。

 言葉じゃなくて何か行動で前向きになれないかな?

 そう思ってオンラインゲームの友達にも聞いてみた。

 いえっささんは「難しい質問だね。でもそうやって前向きになろうとしている時点で既に『妹様』さんは前向きになっていると思うな。僕には知り合いにユダって子が居るんだけど、もっと酷いし。強いて助言をするなら、後は自分がしたいことは何かって考えてごらん」って返事で。

 ☆サナ☆さんは「あ、じゃあ新しい趣味を作りましょう! 旅とかどうですか? 見知らぬ土地を旅するって楽しいですよ!」って感じ。

 ぐーやさんは「思った通りの事をして日々好きな事に生きる。飽きることが一番不幸でネガティヴになるから気を付けなさい」って助言で。

 天使さんは「気まぐれに破天荒な事をしてみなさい。気持ちがスカッとするから」って具合だった。

 皆違う言葉をくれたけど、難しいな。

 私は既に前向きだから、好きな事をやってみろ。

 

 ……そうだなぁ。ちょっと、あちこち幻想郷を旅してみようかな。

 

 思い立ったが吉日って言うしね!

 

 

 #####

 

 

「……ねぇ、フランが旅したなんて聞いた事ないんだけど」

「……妹にはお互い困らされますね。心中お察しします、レミリアさん」

「というか全く教えない咲夜とかに問題があると思うんだけど……」

「私も霊夢さんと同じ意見です……。というか話を戻しますけど、幻想郷を旅って中々勇気がある事をしますね」

「でもちょっと楽しそうよ。あちこち行く当てもなくふらりと旅するって。まぁちょっと前の出来事のせいで妖忌さんが浮かんでしまうけど」

「行く当てもなく修行をした結果行き倒れたアレですね」

「瞬間移動があるし問題ないと思うけどさ」

「……でも旅って思い立ったが吉日ってレベルじゃないですけどね」

 

 最後にさとりが突っ込んで一同は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 八月二日

 

 

 早速昨日の夜に仕込みをして旅用のご飯とかの準備をした。

 とりあえず五日分。時間を止めた空間に放り込んでおいたので腐る心配とかもない。追加の食料は咲夜がその都度その空間に放り込んでくれるみたいだし、着替えとかお風呂は汚れと汗を能力で破壊して無かったことにすれば問題無い。

 まぁ何かあれば帰れば良いし気楽なものだ。お金もバイト代で沢山あるしね。念の為出発の前に咲夜とめーりんには事情を話したけど思いの外あっさりと許可をくれた。

 

 それで、早速外に出たけど何処に行こうか。

 行く当てのない旅だ。どうせなら気楽に行きたい。

 そう思って最初の行き先はそこら辺に落ちていた木の棒に任せることにした。具体的には上に放り投げて、切っ先が向いた方向に行こう。そんな感じだ。

 そして向いたのは、妖怪の山がある方向だった。

 よし、じゃあそっちに行こうか。

 

 なんだろう。凄いワクワクする。行く当ても目標も無くて、これからどんな事をこの旅はもたらしてくれるんだろうって考えると凄くワクワクする。

 移動は歩きだ。飛んだらすぐ終わるし味気ない。ゆっくり歩いて行こう。

 

 

 

 #####

 

 

「行き先が木の棒任せ……本当に当てのない旅なのね」

「はい、本当に行き当たりばったりですね。なんだかこっちまでハラハラしてきました☆」

「……こうしてみるとちょっと羨ましいわね。フラン」

「……うちの妹――こいしもこんな感じなので物凄く共感してしまうんですけど、同時に不安になってきます」

 

 

 #####

 

 

 八月三日

 

 

 昨日は野宿した。

 とは言っても魔法で簡易的なテントを作ってだからキャンプみたいな感じかな。

 ご飯も作り置きだし。まぁ材料もあるから調理も出来るけどね。

 あとパソコンも持ってきているので暇な時間は出来ない。パソコンが使えるのは幻想郷中に『Yukarin17』ってWi-Fiが行き届いている為だ。

 それと充電も問題なかったりする。

 その理由は、なんか私のパソコンが付喪神になってたからだ。

 経理を教わる時に森近さんが前に触って驚いてた。「これ……イエス・キリストの加護が付いてるんだけど」って。

 まぁそれでも充電した方が良いけど、最悪紅魔館と空間を通してコンセントに繋げば良いわけで問題は無いのだ。

 

 閑話休題。

 

 それはともかく今日は妖怪の山を目指して歩いた。

 歩きだと思ったより遠いね。でもその代わり景色が楽しめたよ。

 森とか草原とか。後は道々に咲く花とお話ししたり、風の声を聞いたり。

 花って物知りだね。風の噂で色んなことを知ってた。

 ……あれ、そういえば、いつの間にか本当に花と会話出来てるや。

 これってもしかして幽香さんの言ってた『花と会話』のスキルを習得出来たってことかな?

 なら嬉しいな。

 これで一人旅でも寂しくなくなったし。まぁ周りから見たら花と笑顔で話す変人になっちゃうけどさ。

 ともかく明日には妖怪の山に着くし、ついでだからにとりさんのところに顔を出そうかな。

 そういえば機械について教えてくれるって前に言ってたのにすっかり忘れてたなぁ。それも謝っとこう。

 

 #####

 

「……イエスキリストの加護」

「……花と会話」

「フランが手の届かない方向に向かってるのだけど!?」

「……落ち着いて下さいレミリアさん。心を読む限り今更です」

「はうっ!?」

「残酷なこと言わないであげて下さい、さとりさん……」

「……あれっ? あれっ!?」

 

 冷静なさとりのツッコミだが完全にトドメを刺していた。

 

 

 

 



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八月編2『幻想郷ぶらり旅2』

 


 紅楼夢行ってきました。
 今年で三年連続かな。楽しかったです。


 


 

 

 

 八月四日

 

 

 妖怪の山に着いた。

 朝の山って良いよね。まぁ夏ってことで蒸し暑さがあるけど、何となく涼しさを感じた。

 

 ともかく、昨日も言った通りにとりさんの工房に行こうとしたらなんか邪魔された。

 白狼天狗? 友人に会いに来たと言っても聞く耳持たないし、刀背負って襲いかかってくるし礼儀がなってないよ礼儀が。

 仕方なく気絶させたけど困るよ、本当に。

 本気で斬りかかってきてたし常識を考えてよ常識を。

 そんなこんなで全員力の差を見せつけた上で正座させてぐちぐちと説教してたら上級天狗っぽいのが来た。

 射命丸文(しゃめいまるあや)さんって人らしい。何故か私の名前を知ってたのでどうして知っているのか尋ねたら、「私、新聞記者ですから!」と名刺を突き付けられた。彼女は前々から私のことを取材しようと思ってたらしく、いつにしようかと考えているうちにこのような邂逅になってしまったと話して笑っていた。

 にしても射命丸さんは話のわかる人で良かったよ。

 にとりさんとか早苗さんとかあの辺りの名前を出したら「なら問題無いですね通ってどーぞ」って道を譲ってくれたし。

 でも、その代わりちゃっかりと取材許可を私から取っていった。抜け目ないね……むむむ。

 

 ともかくにとりさんのところに行ってみるとにとりさんは将棋をしていた。

 対戦相手は見覚えのない人だ。見る限りにとりさんは負けているようだった。

 

「やぁ、久しぶりだねフラン!」

「……にとりさん、大将棋で負けてる時に都合よく人が来たからって有耶無耶にするのは許しませんからね?」

「うっ、そんなことしないよ!」

 

 彼女は白狼天狗の(もみじ)さんと言うらしい。なんか見覚え……あるような無いような彼女だが向こうは私を見て頰を引きつらせていたので多分かなり前にレーヴァテインで薙ぎ払った時の白狼天狗の中に彼女もいたのだろう。

 改めて自己紹介と挨拶をすると平静を保とうと必死な顔でそう名乗っていた。

 それから、にとりさんと椛さんと私の三人で話をした。

 将棋を教わったり、機械を教わったり、夜は泊まっていかないかという話をもらったのでそれを受けたり――そして夜通し話をした。

 椛さんも今日は休暇らしく一緒だった。

 楽しかったなぁ。

 

 

 #####

 

 

「夜通し友達と遊びまくる……良いですねー」

「早苗もやってたの? 外の世界で」

「はい、よくやってましたよ。奉仕部って部活の人と小学生のサポートキャンプに行ったり、隣人部の人達と温泉旅行に行ったり。あとはけいおん部の皆とホテルに泊まって、それからSOS団もそうですね。あとは極東魔術昼寝結社の夏の皆と、囲碁サッカー部の皆と」

「待って! 殆ど意味不明の部活だらけだし、極東魔術昼寝結社の夏とか意味分かんないけどそれは呑み込むわ……でも、囲碁サッカー部って何?」

「囲碁サッカー部は囲碁サッカー部ですよ? 囲碁サッカー連盟が行う正式なスポーツで」

 

「……ねぇ、誰か早苗の言ってること理解出来る?」

「いや、全く」「……むしろ理解したら頭がおかしくなります」

「………………、」

 

 辛辣だがさとりの言う通りかもしれない、そう霊夢は思った。

 

 #####

 

 

 八月五日

 

 

 にとりさん達と別れ、また今日から新しい旅だ。

 次は何処に行こうか。また棒切れを拾って放り投げるとなんか奇跡的に立った。いや、突き刺さったというべきか。

 おかしいな……岩の上でやったのになんで突き刺さったんだろう。

 妙な奇跡が起きたけど、上って事は山の頂上だよね。

 つまり守矢神社か……まぁ近場で良いけど。

 そうと決まれば山登りだ。山の標高はそこそこ高いけど登り切るのに三時間も掛からないだろう。

 飛べば数分も掛からないけど味気ないし歩く。

 でもやり過ぎると足に筋肉ついて太く見えるからやり過ぎないよう見極めないとなぁ。

 で、お昼頃に着きました。守矢神社。

 

「来ると思ってましたよフランちゃん。前向きになれましたか?」

 

 着いたら早苗さんが待ってた。なんだろう、絶対さっきの棒切れが立ったのこの人の仕業だよね? 絶対奇跡起こしたよね?

 まぁ早苗さんのお陰で元気が出たことに間違いはないけどさ。

 ともかく今日は守矢神社に泊まることになった。

 早苗さんと神奈子さんと諏訪子さんと私。夜通し宴会をして気付いたら寝てた。朝起きた時に早苗さんに抱きしめられてて、乳圧で息出来なくて窒息死するかと思った。

 ……羨ましいはずなのに殺意すら湧いてくるよ。

 にしても少し呑みすぎたかな、何十リットル呑んだっけ?

 ちょっと頭が痛いや。というか日記書くの翌日の朝になってるし。

 ……とりあえず朝食だしここらで締めておこうか。

 bye-bye。

 

 追伸

 PSO2の☆サナ☆さんが早苗さんだった。

 

 #####

 

 

「……流石姉妹。乳圧で死にかけるってまんま同じ目に遭ってるわね」

「……う、反省してますよ!」

「ほんと腹立たしいわね、この乳」

「……凄いですもんね、羨ましい」

「ホントよね。ちょっとくらい分けて欲しいものだわ」

「いや、あの……皆さん? 私の胸を揉みながら言わないで下さいってきゃあっ!? ちょ、ちょっと!?」

「この感触、張り、艶。紛れもない一流の証」

「大きさ、柔らかさともに問題ないわね」

「……すばらです、しかしおもちマスターの道へはまだ足りません」

「いや喋るか揉むかどっちかにして下さい! 私はおもちゃじゃないんですよっ!?」

「「「…………」」」

「あっ、いや揉まないで下さい! やめて!」

「このまま次のページ行くわよ」

「「了解(です)」」

「わ、ちょ、ええっ!? んっ、やめて下さい! それと誰か追伸にも触れて下さいよ!」

 

 しかしそれで止まるような三人では無いし追伸にも触れる三人ではない。

 振り払おうと思っても三人相手では振り払いきれないので、早苗はそのうち考えることをやめた。

 

 

 

 #####

 

 八月六日

 

 

 今日は守矢神社のさらに上に行くことになった。

 天界。有頂天と呼ばれる場所が守矢神社の上空にあるらしい。飛んでいけば届くとの事なので飛ぶことに。

 そういえば飛び方も色々あるよね。私は二パターン出来る。

 一つはスタンダードな飛び方。ふわっと浮き上がって速度を上げたり下げたりしながら自在に飛ぶーーまぁ普段使っている飛び方だ。

 もう一つが気を使った飛び方。身体に気を纏ってブワッ! って気を撒き散らしながら飛ぶ迷惑極まりない飛び方だ。

 今回はあたりに人もいないので後者を選択。気を撒き散らしてバシュゴォ!! と飛ぶ。

 なんかお姉様が「うわあああッ!!」って脳内で悲鳴を上げた気がしたけど気のせいだよね☆

 ともかくしばらく飛ぶと目的地が見えた。

 巨大な岩の塊? うん……うん? 最近こんな感じのやつをネットで見た覚えがある。確かバルス……スタジオジブリ……。

 あっ。

 

「ら、ラピュタだ!!」

 

 そうだラピュタだ! そっかラピュタは幻想郷にあったのか。

 という冗談はさておいて。冗談ついでに本当に「バルス!」って叫んだこともさておいて、有頂天に着いた。

 要石ってやつかな。空に浮いてるって凄いね。

 というかおかしくない? 浮いている石は見たところ大理石で、島の直径は2.2キロくらい。

 重さにして推定2億4000t。

 あれ……これよく考えなくてもヤバくない? この岩の島が浮いてるのって積乱雲があるあたりだよ?

 もし落ちてきたら幻想郷終わらない? これ。

 高度約7キロから落ちてくる物体の速度はおよそ1300キロ。マッハ1.1。破壊力は爆薬に換算して390万t分。

 

 外の世界の東京大空襲で落とされた爆弾が1783tだったらしい。

 つまり万が一この有頂天が落ちてきたら地上はその2200倍の被害を被るわけで……あっ。

 

 ……何かの拍子に落ちてこないことを祈ろう。

 ともかくその危険極まりない空中大陸に降り立ってみたけど、何もない。いや、綺麗だよ。花とか咲いてて綺麗だけど何も無かった。

 とりあえず散策してみると鬼がいた。

 伊吹萃香(いぶきすいか)さん。天界の一部は彼女の領地だそうで、今は一人酒盛りをしていたらしい。

 

「お前も呑むかー?」

 

 と言われたので呑む。渡された酒を呑まないのは仮にも鬼と付く種族としては無礼にあたるし。

 ごくごくごくん。

 うん、アルコール何度よ。これ酒じゃねぇだろ。ただのアルコールに味付けした酒と言う名の別の何かだろ。

 ……と、思わずそうツッコミを入れてしまう味だった。

 うわへへー、と萃香さんは笑ってたけどこれじゃただの酔っ払いの相手だよ! 何が悲しくて浮遊大陸にまで来て酔いどれ鬼の相手しなきゃならないんだよ!

 とか思ってたら別の人がやって来た。比那名居天子(ひなないてんし)さんというらしい。バチバチと電気を放つ剣を持つ人で、天界の責任者のご令嬢だとか。

 紆余曲折あって、彼女の屋敷に泊めてもらうことになった。

 で、宴会。毎回宴会になるのはなんでだろうか。いや歓迎は嬉しいけれども! ともかく今日も書いてるの朝だよ! 気付いたら寝てたよ! またかよって思うけど私自身がビックリだよ!

 

 追記

 

 天子さんがPSO2の天使さんだった。

 

 

 #####

 

 

「な、なんだってーッ!」

「なに? 天子という名前は元から天使ではないのか!?」

「……あの、そのお二人とも……」

 

 全力でボケていく二人(霊夢とレミリア)だが、対照的にさとりは妙におどおどしていた。

 その視線の先には体操座りしてシクシクと泣く早苗が居る。

 

「ぐすん……結局読み終わるまでやめてくれませんでしたぁ」

「……えっと、その。ごめんなさい早苗さん」

 

 そう、この日の話を読む間、彼女はずっと胸を揉まれ続けていたのだ。

 シクシクと泣く彼女は「汚されちゃいました……」と呟く。

 が、いちいち対応してやるのが面倒な二人(霊夢とレミリア)は見向きもせずにこう言った。

 

「さて、次を読みましょうか」

「そうね、そうしましょう」

「……お二人の外道感が私の中で上がり続けてるんですけど」

 

 さとりはジト目でそう呟く。

 

 #####

 

 

 八月七日

 

 

 さて、天界ともサヨナラバイバイして今日からはまた新しい場所へ向かう。

 どこになるかなどこになるかな、全ては木の棒さんの言う通り♪

 そう言って放り投げると人里の方向を向いて棒が倒れた。

 人里かぁ、よく行くけど……まぁいっか。

 早速行こう。

 天界からホップステップジャンプで飛び出して落ちて行く。

 ああ風が気持ち良い。

 とりあえず山の麓に着地して、後は歩きだ。

 人里までは遠いけど夕方頃には着くかな。

 と、思ってたけど予想が外れて今日は野宿になった。

 うん、まぁ旅の醍醐味ってやつだけどね。

 で、今日は調理をすることにした。

 作っている間は鼻歌を歌いながら楽しく作れたよ。腕も向上して来たおかげで美味しいしね。

 ほんと、咲夜様々だよ。

 さて、今日はそろそろ寝ようかな。おやすみ!

 

 

 #####

 

 

「思う通りにいかないのを楽しめるかどうかで旅が好きになるか変わって来ますよね」

「……アクシデントは避けたいですけどね」

「私はそもそも面倒だから旅なんてしない派よ」

「ピクニックならするけど、紅魔館の当主として余り家を開ける真似はしないわ」

 

 四者四様の反応だが、レミリアの言葉に霊夢がツッコミを入れる。

 が、それが地獄の始まりだった。

 

「月に行ってたくせに何を言ってるんだか」

「つ、月!? ……う、うわあああっっ!!」

「あ、トラウマが再発した」

「いやサラッと言ってますけどなんでそんな冷静なんですか!? というかレミリアさん待って! 冷静になって! 私の胸なら貸しますよ! ほらほら!!」

「むぎゅ!? むぐぐぐごご……ごふっ」

「……早苗さん早苗さん! 抱きしめ過ぎてレミリアさんの意識が落ちてます!」

 

 なお、落ち着くのに十分の時間を要した模様。

 

 #####

 

 

 八月八日

 

 

 人里に着いた。

 さてどうしようか、と思ってたらふと書店が目についたので寄ってみる。

 新作の本がいっぱいあった。とりあえず気になるのをリストアップしてみよう。

 とりあえず一冊目、

 

 『妖怪になってはいけない。 著者.博麗霊夢』

 

 ・巫女が明らかにする幻想郷の真実がここに! 

 ・易者さん絶賛! 「もっと早く教えて欲しかった……」

 

 

 ………………………うん。

 霊夢さん何やってるの? あと易者さんって人間だったけど妖怪になって退治された人だよね。何勝手に絶賛させてるの?

 死人にくちなしってやつ?

 じゃあ次の気になったやついこうか。

 

 

 『全世界ナイトメア 著者.レミリア・スカーレット』

 

 ・あの紅魔館の王、レミリア・スカーレット出版!

 ・「こんなに月が紅いから……本気で殺すわよ」永遠に紅い幼き月が放つダークファンタジー巨編、第一章!

 

 

 ……いや、お姉様何やってんの?

 なんか隅に積んであったけど明らかに売れてないよねこれ。

 新刊なのに店の端の目立たないところにあったよこれ。

 というか執筆してたのお姉様!? 初めて知ったよ!

 

 ……この時点でだいぶ疲れてきたけど次の本いこうか。

 

 

 『よく分かる幻想郷史 著者.上白沢慧音』

 

 ・スィッと頭に入る読みやすい歴史書がここに!

 ・寺子屋の父兄が絶賛! 「夜更かししたがる子供を寝かしつけるのにこれ以上最適な本はない」

 

 

 それ適切な用途じゃないから!

 子供を寝かしつける為って分かりにくいって遠回しに言ってるから! 慧音先生が可哀想だから!

 ……うん、次行こう。次のは一冊だけポツンと置いてあったのでかなり人気な本だと思う。

 

 

 『東方酒材録 著者.ZUN』

 

 ・「東方」を生み出した足跡と肝臓の軌跡。

 ・酒呑童子、戦慄! 「恐ろしいものを見た。外の世界はいずれ深刻な酒不足に瀕するだろう」

 

 

 なんかやたら気になる内容だった。

 うん、これは普通に売れそう。

 次が最後に気になったやつだ。

 

 

 『帝王学 著者.レミリア・スカーレット』

 

 ・世界初公開! 紅魔館の主が語るカリスマの秘訣!

 ・フランドール・スカーレットが絶賛! 「お姉様また私のプリン食べたでしょ」

 

 

 いやそれ絶賛じゃねぇから! というかそんなコメントした覚え……は、あるか。ともかくお姉様、絶賛の意味絶対に履き違えてるから!

 ……なんか猛烈に恥ずかしいよ。

 とりあえず今日は人里に泊まるけどお姉様の本は見なかったことにしよう……うん、そうしよう。

 

 

 #####

 

 

「いや、霊夢さんもレミリアさんも本出してたんですか!?」

「そうね、私の場合は幻想郷のルールを改めて教える為だけど」

「私の描く物語と帝王学は完璧よ! ……売れないのは、本屋のせいよ」

「…………」

 

(……私、実は本書いてて結構売れてるんですけど言わないほうが良いですよね)

 

 三人を見て、さとりはその事実は心の中だけに留めておくことにした。

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・奉仕部(やはり俺の青春ラブコメは間違っている、より)
・隣人部(僕は友達が少ない、より)
・けいおん部(けいおん! より)
・SOS団(涼宮ハルヒの憂鬱、より)
・極東魔術昼寝結社の夏(中二病でも恋がしたい! より)
・囲碁サッカー部(日常、より)
・気の飛び方(ドラゴンボールの飛び方)
・ラピュタ(天空の城ラピュタより。また重さなどの考察はラピュタの空想科学より)
・本について(幻想郷の住民が出しそうな新書を考えてみる、スレより)


 


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八月編3『幻想郷ぶらり旅3』

 


 旅は八月二〇日までに終わります。



 


 

 

 

 八月九日

 

 

 人里に泊まった。思えば宿に泊まったのって初めてだね。

 それに紅魔館って洋風の建物だし、こういう和風の建物で一泊するのは中々珍しい体験かもしれない。

 料理も美味しかったよ、鍋。値段もお手軽だったし。

 で、朝。

 今日は何処に行こうか、と思いながら人里を歩いていたらばったりアリスさんに会った。

 

「あら、久しぶり」

「お久しぶりですアリスさん!」

 

 ……そういえば前に裁縫教えてくれるって約束したきりだっけ。

 今思い出した。でもアリスさんやっぱり優しい人だよね、そのことを謝ると普通に笑って許してくれた。

 ……ところで、人里に何しに来たんだろう? 気になって尋ねてみる。

 

「それでアリスさんは今日は人里に何の御用ですか?」

「糸を切らしちゃって、その買い足しよ」

 

 糸かぁ。そういえば沢山人形あったもんね。

 それで色々お話ししてからアリスさんとは別れた。

 

 ――アリスさんと別れてからは目的なくフラフラしてたんだけど、お腹を満たそうと寄った蕎麦屋さんで命蓮寺なるお寺があると聞いたので行ってみることにした。

 命蓮寺。妖怪と人間の共存を目指すお寺らしい。

 ……出来たら幻想郷崩壊するんだけどそれは、というツッコミはやめておこう。野暮というものだ。

 百聞は一見に如かずって言葉もあるしまずは行ってみよう、と向かうとお寺の入り口で掃除している人を見つけた。

 

「ぜーむーとーどーしゅー、のうぎょういっさいくー、しんじつふーこー、こせつはんにゃはらみつたしゅ、そくせつしゅーわつ、ぎゃーてーぎゃーてー♪」

 

 真言だっけ? 簡単に言えば仏教の中の真言宗の呪文。

 鼻歌を歌うように言えるってことは本当に歌い慣れてるんだろうな。流石お寺の人。

 とりあえず挨拶をする。

 

「こんにちは」

「こんにちは!」

 

 挨拶するとその人は元気な声で返してくれた。少々甲高い声で耳がキーン、とする。

 犬耳のついた緑髪の人ーーいや、妖怪だ。

 ともあれお寺を見せてもらうために交渉しないといけないので私は口を開く。

 

「このお寺を観光したいのですが、住職さんに許可をもらえませんか?」

「このお寺を観光したいのですが、住職さんに許可をもらえませんか!」

 

 オウム返しされた。あれ?

 

「あの、すみません?」

「あの、すみません!」

 

 ……………………。

 

「ミッキー◯ウス」

「ミッキーマ◯ス!」

 

 …………あっ、そっか。

 成る程。納得したよ。

 

「貴女、幽谷響(やまびこ)さんでしたか。てっきり馬鹿にされてるかと思いました」

 

 オウム返しを大義とする妖怪。逆にいえばオウム返ししかしない妖怪でもある。彼女がそうならこの反応にも納得というものだ。

 とりあえず住職さんを呼んできてとお願いすると彼女はその言葉を繰り返して神社の中に入って行った。

 それから数刻。中から豊満なおもちをお持ちな美人な住職さんが出て来た。

 

「あ、初めまして。この神社を見せて頂きたくて呼んだのですが」

「こちらこそお気づき出来ませんで申し訳ありません。私は命蓮寺の住職をしております聖白蓮(ひじりびゃくれん)と申します――それで、観光ですか? 勿論どうぞ、ご案内します」

 

 住職さんーー聖白蓮さんはとても物腰の丁寧な人だった。

 それでお寺を案内してもらったけど沢山の妖怪が暮らしていたよ。

 それから仏教についていくつか語り合ってからその場を後にしたけど流石詳しかった。私は仏教徒じゃないからそりゃ知識量は負けるけどそれでもかなりの本は読んできたつもりだったけどなぁ。

 

 さて、次はどこに行こうか。

 

 

 #####

 

 

「……命蓮寺ですか、最近こいしがよく居ると聞きますね」

「私達としてはライバルですねー、宗教合戦の」

「……いや宗教合戦、博麗神社も入ってるの?」

「そりゃ入ってますよ。博麗、守矢、命蓮、道教のこの辺りは皆ライバルです!」

「……宗教合戦は良いけど一旦自重しなさい。次のページにいくわよ」

 

 レミリアが告げて、次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 八月十日

 

 

 今日は魔法の森に行くことにした。

 魔理沙や森近さん、アリスさん達に会うためだ。

 特に森近さんはバイトを中止にしてもらってからは心配かけているしここらで顔を見せるべきだろう。

 そう思ってまずは魔理沙に顔を見せに行ったけど、色々酷かったよ。

 魔理沙の家に行くと物でかなりごちゃごちゃしてた。

 仕方なく片付けてあげると出てくるわ出てくるわゴミの山。あと虫が沢山。

 気持ち悪いので虫は箒で掃いて外に捨てる。破壊しないだけ温情だ。

 で、紅魔館のノウハウをふんだんに使った掃除を終えると見違えるほど綺麗になった。魔理沙が凄い感謝してたけど、これからはちゃんと掃除しなきゃダメだよ? 

 

 続いて森近さんのところに行くと森近さんは店の会計のところで寝てた。疲れてたのかな? とりあえず奥から掛け布団を持ってきて肩に掛けて、それから手紙を書いて置いておいた。

 私は元気です、って感じに。

 それで手紙を置いた時なんだけど妙なものを見つけた。

 『森近霖之助の日記』

 とても分厚い本だった。古びていたので数百年近く昔の本だろう。

 気になって、頭の中でごめんなさいしてから読んでみたら幻想郷の歴史が日々綴られていた。

 幻想郷の出来た日から今日までの日記。それには日々の生活や人里の様子。起きた出来事などが詳細に綴られていて、歴史書のようにも思える内容だった。

 その中にこういう文章があったよ。

 『幻想郷に歴史はない。何故なら幻想郷の歴史=妖怪の歴史だからだ。妖怪は長命で、歴史とは当事者が死なない限り、事件が歴史らしい歴史にならない。だから半妖である僕が描こう――幻想郷の歴史を――この幻想郷の歴史書を。長い時間を生きてこの目で見てきて思ったことをそのままに』

 

 いつか書籍として出版するとも書かれていた。

 内容も外の世界に関して以外はとても信用出来るもので、とても丁寧だったと思う。いつか出版される日が楽しみだ。

 

 で、最後にアリスさんの家に行った。

 とはいえアリスさんとは昨日再会してるし、内容はなんてことない世間話だ。あと裁縫も教えてもらった。

 人形とかをいきなり作るのは難しいからまずはポーチを作った。

 肩から掛けられるポーチ。

 最初にしては上出来よって褒められた。ちょっと嬉しい。

 あと今日はアリスさんの家に泊まることになった。

 お世話になりまーす。

 

 

 #####

 

 

「知り合いを多く巡ってるわね」

「まぁそこはフランちゃんの好きにすることですから」

「……それに知り合い以外を尋ねることって勇気が必要ですし」

「私にはよくわからない感情ね。まぁ旅なんて好きにしてなんぼじゃない?」

 

 

 #####

 

 

 八月十一日

 

 

 今日は無縁塚に行くことにした。

 場所は魔法の森を抜けた先にある再思の道を抜けたところにあるらしい。無縁仏による墓地だそうだ。

 博麗大結界の綻びがある交点があるみたいで、外の世界の物も沢山落ちているのだとか。

 以前諦めたiPhoneとかもあるかもしれないし探してみよう。

 そんな思いで着いた無縁塚だけど思いの外凄いよ。

 超デカイ枯れ木があった。これ、紫の桜で妖怪桜なんだって。

 近くの花がそう言ってた。なんでも六十年周期に起こる幽霊の増加では、大量の罪深い人間の幽霊が紫の桜の花を咲かせ、罪を認めることで花びらが散り、解放されて三途の川へと続く「中有の道」に進むことができるんだとか。

 そして何より外の世界のものが沢山落ちてた。

 宝の山だよ! 早速漁りまくってたら目的のiPhoneもあった! 画面が割れてたけどそれくらいなら何とか出来る。

 魔力で丁寧に直して、ついでに汚れも能力で落として、良し。

 後は充電かな。充電器落ちてないかなー、あった。じゃあこれをパソコンに挿して……うん。充電出来てる。

 

 で、数分待ってから押し込めるボタンを押すと画面が表示された。

 やった! これで私も携帯ゲット……と思ったけど、そうならなかった。

 『パスコードを入力して下さい』

 四桁の番号入力があった。うん……しかも間違え続けると数時間とかの間、開かなくなる制限ついてた。

 …………泣きたい。

 とりあえず不貞寝してやる。幻想入りしてた壊れたベッドを直してその中にくるまる。

 なんか冷たくて涼しい。なんだろう、水が入ってるのかな。ウォーターベッドってやつかもしれない。凄く快適だった。

 

 

 #####

 

 

「夏はウォーターベッド最高ですよね、分かります」

「そもそもウォーターベッドってなによ?」

「簡単に言えば水のマットレスです。ただアレってコンセント刺さないと温度調整出来ない気がするんですけど……」

「……多分、単に水が溜まってたから冷たく感じただけかと」

「ウォーターベッドねぇ……。そんなに良いなら今度導入しようかしら」

 

 顎に手を当ててレミリアはそう言った。

 

 

 

 



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八月編4『幻想郷ぶらり旅4』

 


 


 

 

 

 八月十二日

 

 

 無縁塚で一日を過ごして、朝起きると妙な事が起きた。

 彼岸花が薄く花を広げていたんだ。

 彼岸花は普通秋に咲く花だけど――少し早い開花をしていた。

 花といえば咲夜にお願いして来た向日葵の様子も気になるけどそれはともかくだ。

 彼岸花が咲き乱れたことは良い。まだ早咲きと思えば納得出来る。

 でも、近くから水の音が聞こえてきたとしたらどうだろう。

 

 言っておくけど無縁塚は木に囲まれた墓地だ。そんなとこで一泊した私も私だけど、ともかく周りは木に囲まれた場所であって決して湖や川といったものが近くにあるわけじゃない。

 暫く辺りを歩いていると寝転んでいる死神を見つけた。胸の大きな死神さん。名前は小野塚小町さん。

 その名前は聞いた事があった。いつぞやの聖徳太子さんの授業の時に、幻想郷にいる死神の小野塚小町さんは小野妹子の子孫だと。

 寝ていたので起こしてこの現象について話を聞いてみると、返事はこうだった。

 

「んあ? ああ、ここは博麗大結界の交点だからね。冥界や三途の川、外の世界なんかとも繋がっちまうのさ。そもそもここは危険度極高の地域だから来るのはアタイとしちゃあまりオオスメしないさね」

 

 眠そうに欠伸を噛み殺しながらの話だったけど、成る程。

 ここは幻想郷の結界の交点であり綻びの起きやすい地域で、運が悪いと知らず知らずのうちに冥界や三途の川や外の世界に放り出される可能性があると……危なっ! え? 昨日私ここに泊まったけど超危ないじゃん! うわっ……。

 

「そんな怯えなさんな。折角来たんだし酒でもどうだい? アンタ吸血鬼だろ? そこそこイケる口と見た」

 

 私が驚愕していると小町さんはそう言ってカラカラ笑いながら手持ちのとっくりを傾けて私に渡して来た。

 折角だからと呑む。うん、萃香さんのと違ってあっさりとした味わいで美味しい……いや、度は濃いけどさ。あのほぼアルコール百パーに近いやつに比べたらお酒だった。

 

「ははは、美味いだろう! 地獄の酒だ」

 

 まーー良い話の土産にしとくれ、と彼女は言う。

 どうやら小町さんはとても陽気な死神らしい。

 …………、少々サボりぐせはあるみたいだけど。まぁそこは私が突っ込んだり説教するところじゃない。

 それからしばらく談笑しているとふよふよと無縁塚の墓地から白い幽霊が現れた。妖夢さんとか妖忌さんの半霊みたいなやつだ。

 幽霊はふよふよ浮いた後に私を見て、抱きつくように飛び込んで来た。

 

「うわっ、とと。なに?」

「その幽霊は……外の世界から紛れ込んで来たヤツのようだね。最近よく見るやつだ。忘れ去られたはずの幻想郷の存在を何故か知っていて――幻想入りだなんだと楽観視しているうちに妖怪に殺されちまったやつ。おや、どうやらフラン。アンタに会いたくてこいつはこの世界に来たらしいぜ?」

「そ、そうなの?」

 

 受け止めた体勢――つまり抱きしめたまま幽霊さんに尋ねるとこくこくと頷くように頭の方を上下した。

 てれてれと照れているようで若干頰が赤く染まっている。

 幽霊さんを眺めていた小町さんが通訳した。

 

「死んだ時は神様を恨んだけど、死んだ後にまさか会えるなんて思ってなかった。悔いが無いかといえば嘘になるけど、それでもアンタに会えて嬉しかった、ってよ」

「……そっか。よく分からないけど力になれて良かったよ」

 

 面識はないけど私のことを外の世界の人が知ってて――私に会うために来て殺されてしまったと考えると感情としちゃとてつもなく罪悪感あるけど。

 生き返らせてあげようかしら。でも本人は満足そうだし……。

 とか思っていると手の中の幽霊さんがパッと私の腕から抜け出すと小町さんの方にふよふよ飛んで行った。

 

「なになに? これから三途の川を渡ってえーき様の判決を受けるんだろって? ……全く何処からそんな情報を得てくるんだか。そうだよ、これからアンタは私の船で川を渡って映姫様の元へ行く」

 

 私ですら知らないことを外の世界の人が知ってる。

 幻想郷大丈夫かな? 忘れ去られることで均衡を保ってきたんじゃなかったの? というか最近多いってことはそこそこ認知度あるんだよね。

 

「ん? あぁ、折角幻想入りしたと思えば直ぐに死んじまったせいでろくに幻想郷を見て回れなかったって? ……それは同情するけど規定は規定だからねぇ。冥界なら庭師辺りにくっ付いてあちこちいけるかもしれんが、ま、地獄なら観光させてやるさ。それに裁判の後に天国行きになれば希望して死神にもなれるし、案外悪いもんじゃないよ」

「……裁判、天国行きなら死神になれるの?」

「あぁ。死者は多いくせに死神の数が足りてなくてね、慢性的な人材不足で地獄はてんてこ舞いなのさ。そこで天国行きになった善行を積んでるやつに死神としての命を与える代わりに働いてもらう政策が最近出来たのよ」

 

 ふーん。世の中って地獄でも世知辛いんだね。

 そうこうしていると小町さんは船の準備をして幽霊さんがその船に乗った。

 

「アンタ、金はあるかい? 地獄の沙汰も金次第って言葉がある通りあったらそこそこ着くまでの時間が早まったり有利になったらするけど」

 

 そう、小町さんが幽霊さんに尋ねると彼はこくこくと頷いた。

 けどついでなので私が出してあげることにした。折角会いに来てくれたみたいだし、幻想郷(こっち)のお金は持ってないだろうし。

 そしてそこで二人とはお別れした。

 ……けど、この時私は知らなかったんだ。

 

 まさか、いきなり私の目の前の空間を切り裂いて、栗色の髪をした女の子死神が現れ「見つけたです幽霊狩り!」っていきなり手錠を掛けられるなんて。

 そのうえ、

 

「地獄に連行です! 神妙になりやがれです!」

 

 なんて無理やり地獄に連れて行かれる事になるなんて。

 ……………………。

 うん、そうだよ。今牢獄の中で日記を書いてるよ!

 私自身訳分かんないよ! 絶対冤罪だから! 幽霊狩りとか知らないから! 責任者出てこい! あと弁護士を呼べー!

 

 

 #####

 

 

「……え? 逮捕?」

「地獄って三途の川を渡った先よね? 死んでない? これ」

「……ねぇ、妹が捕まったなんて私知らないんだけど」

「……そもそも色々おかしい気がします」

「と、ともかく次のページをめくりましょ!」

 

 慌てたようにレミリアが言って次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 八月十三日

 

 

 こんにちは。私は今、地獄の裁判所にいます。

 なんかあれから紆余曲折あって私の無罪を晴らしてくれると言う青い服を着たツンツン頭の弁護士さんが出来ました。

 なんて名前だっけ。納得した時に言う名前だった気がする。

 サイバンチョ……じゃなくて裁判長は四季映姫さんだった。

 どうやら彼女は黒か白か分かる程度の能力で相手の有罪無罪を決めているらしい。

 無罪なら白、有罪なら黒だ。

 

「では聞きます。貴女は幽霊狩りと関係無いと仰いましたが、つい最近幽霊に関わりはありますね?」

「はい」

「白ですね……、真実のようです」

 

 裁判はこんな感じの質問形式だった。

 裁判長が質問して黒か白かを口にする。それを交えつつ、弁護士さんが尋問をしたりして有効な証言を引き出していた。

 途中、私が有罪にされかかったけど土壇場で弁護士さんが何か思い付いたように「異議有り!!」と叫んでからは一気に逆転していた。

 

「――証人の証言は明らかに矛盾しています!」

 

 ビシッと指を突き付けて言った姿は少しカッコよかった。

 あと、時々助手っぽいアホ毛の生えた男の子も「それは違うよ!」って叫んでた。何にせよ叫ぶんだね、うん。

 結果は無罪判決。

 良かった良かった。一時はどうなるかと思ったよ。

 それから元の世界に送り届ける時間まで地獄を観光してみたけどなんだろう。地底の街を現代風にした感じ?

 まぁ科学はこっちの方が上だったと思う。

 ともかく良かったよ、無罪なのに有罪とかなってたら最悪だもん。

 弁護士さんにはお礼を言って別れた。

 あと無縁塚まで戻ってきたのでまたウォーターベッドで眠る。

 危険だけど眠いし。まぁ大丈夫だろう、多分。

 頭が働いてなかったけどそんなことを考えて寝た。

 ……予想通り書いてるのは翌朝です、はい。

 まぁ今日のことは明日書くから、ね。

 

 

 #####

 

 

「無罪か……よかった」

「いや、これ逆裁にダンロンじゃないですか!」

「……早苗さん、そういうことはあまり突っ込まないようにした方が良いです」

「……いや、レミリアしかフランの無罪を気にしてないのは色々とどうなのよ」

「霊夢さんは失礼ですね! 心配してましたよ!」

「……そうですよ! 失礼しちゃいます」

 

 #####

 

 

 八月十四日

 

 

 ここ何処だろう。

 目が覚めたら幽霊のいっぱいいる場所に居た。

 何を言ってるのか私も分からないけど何が起きたのか分からないので説明のしようがない。

 寝ていたベッドも見当たらないし……何処よ?

 もしかして冥界かな。一昨日、小町さんから聞いたけど。

 冥界なら白玉楼があるはずだけど……霧が濃いなぁ。

 とりあえずしばらく歩いて探してみようか。

 と、思って探してたら案外普通に見つかった。

 大きな桜の木。西行妖ってやつだよね。春雪異変の時の。

 咲いたら綺麗だろうなぁ。異変の詳細は知らないけどこの大きな桜で花見がしたいし来年の春頃来ようか。

 と、私個人の予定はともかく白玉楼にお邪魔すると妖夢さんと妖忌さんが居た。

 

「おお、フラン殿。お久しゅうございますな」

「フランさんお久しぶりです」

「お二人ともお久しぶりです! お元気そうでなによりです」

 

 軽く挨拶してから事情を話すと妖忌さんが真剣な顔で私を見てきた。

 

「……知らぬが仏と言ったところでしょうか。フラン殿、二度とそのようなことはなさらないで頂きたい。今回は無事でしたが無縁塚は危険です。あれは単に冥界や三途の川や外の世界に繋ぐに留まる場所にはござらんのです。アレは、そう。自己の存在を揺るがす――もっと根源的に危険性のある場所」

 

 口調自体は落ち着いたものだったけど声色は真剣だった。

 どうやら本当に危険な場所だったらしい。

 うーん……迂闊な事しちゃったのかな。それから二人と話して今日は白玉楼でお世話になることになった。

 歓迎してくれるらしい。あと白玉楼の主らしい西行寺幽々子さんって人にも会った。

 おっとりとした印象で柔らかな雰囲気のある人だった。

 でもかなり危険な能力を持ってるよ。一瞬だけど私の命が握られかけたもん。

 私の目がひとりでに潰れそうになってるのを見てビックリした。

 多分だけど幽々子さんの能力って相手を殺す力だよね。普段から破壊に特化した私だから気付けたけど、自分の能力が通じるか確かめつつ話をするのはやめてほしい。

 怖いしこっちとしても気が抜けないし。

 

 それはそうと幽々子さんは大食いだった。

 大量の食べ物が胃袋の中に帰るのを見て唖然とした。

 途中、幽々子さんの近くにピンク色のボールみたいなやつが「ぺぽっ」って言いながら食べ物を吸い込む姿が幻視出来たけど妄想だよね? 現実じゃないよね?

 ……ともかく、今日寝れるかな。

 

 

 #####

 

 

「サラッと怖いこと書いてあるわね」

「それは命的な意味でですか? それとも食料的な意味でですか?」

「…………どっちもよ」

「……というか話の内容にも出てきましたけど、そんな危険な無縁塚に毎回のように物拾いに行く森近さんって実は凄い人なんでしょうか?」

「分からないけど、かなりやり手だとは思うわよ。手合わせしたことないから実際のところは分からないけれど」

 

 紅茶をすすりながらそう、霊夢が言った。

 ともかく一同は次のページをめくる。

 

 






 最近日記の進むペースが落ちている。


 


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八月編5『幻想郷ぶらり旅.終』

 





 

 

 

 八月十五日

 

 幽々子さんの白玉楼にお世話になって翌日のこと。

 

「今日はお盆ですから面白いものが見れますよ」

 

 あむあむと朝食を食べていた時に唐突に妖夢さんがそう言った。お盆ってアレだよね。死者の霊が里帰りしていくイベントだよね?

 で、ご飯を食べ終わってからその面白いモノが見れるところに行った。巨大な桜、西行妖の下だ。なにやら幽霊が沢山集まってふよふよ浮いていた。

 

「直ぐに始まりますからちゃんと目を開けてて下さいね?」

 

 ほら、と指差された方を見ると一匹の幽霊が青い光を帯びた。

 ふよふよと首を傾げながらあちこち見回したその幽霊は、やがて一気に更に飛び立って光とともに消滅する。

 なんだろう。花火みたい。とても綺麗な光景だった。

 

「お盆は幽霊の里帰りの日ですから。ここ、白玉楼からも殆どの幽霊達が故郷へと帰っていくんですよ。それがあの光景です」

 

 へぇ。見ると次々に幽霊が光を纏って閃光のように飛び上がり消えていく。無数の幽霊達が飛び上がっていく様はまさに壮観だった。

 ……綺麗だったなぁ。

 皆で空を見上げながら酒を呑んで、楽しかった。

 

 #####

 

「綺麗な光景にお酒は定番よね」

「幻想郷では、ですけどね。そもそも外じゃ私お酒呑めませんし」

「え? 外じゃダメなの?」

「駄目……というかルールがあるんですよ。肝臓が成長しきる二十歳まではお酒を呑んではならないってルールが。それを破ると補導されて将来がパーになりますから、呑むにしても他人の目のない家族間だけですね」

「……人間基準で考えると、二十歳を超えている私やレミリアさんでも見た目的に外で酒を呑むのも問題になるんですかね?」

「なると思いますよ。さとりさんもレミリアさんも見た目小学生ですから」

「面倒臭いわねぇ。子供だからってお酒を呑めないとか人生の半分は損してるわよ」

「霊夢さんの人生の得の半分はお酒なんですか!?」

「そうよ」

「そうなんだ!?」

 

 思わず最後は敬語が取れてしまう早苗だがそれくらい驚いたらしい。え? マジですか? と繰り返し呟いているが霊夢は無視して次のページをめくる――――。

 

 #####

 

 

 八月十六日

 

 白玉楼の皆さんとサヨナラした。

 次はどこに行こうか。

 と思ってたけどそろそろ帰るべきかもしれない。

 ……いや、寺子屋の始まりが二十日なのよ。で、旅が始まって十数日。その前はバイト漬け。

 

 ――――夏休みの宿題が終わっていない!

 

 やばい。これは全体的に不味い。

 二学期開始の合図が慧音先生の頭突きとか嫌だよ私!?

 というわけで帰る。誰が何と言おうと異論は認めない。

 久々に帰ると紅魔館の皆は暖かく迎えてくれた。

 あと向日葵の花も咲きかけてた、観察日記の宿題もあったので丁度良い。

 明日から宿題漬けじゃー! …………、憂鬱。

 

 

 #####

 

 

「あるあるですね。夏休み終了直前まで宿題が終わってないやつ」

「宿題ね……。そんなもん出さなくても成績が良ければ良いんじゃないの?」

「小学生の頃は許されないんですよね、それ。宿題はやるのが当たり前って風潮で先生にも怒られますから」

「……多分風潮とかじゃなくとも当たり前だと思うんですけど」

「面倒な話ね。良くやるわ」

 

 ズズッと紅茶をすすり霊夢は言った。

 

 #####

 

 

 八月十七日

 

 

 ドリルが終わった。

 全教科気合いで終わらせた。まぁ思いの外多くなかったというのもあるけど、全部解き方分かってたのが大きいだろう。

 真面目に授業聞いてて良かった。

 あと向日葵の花が咲いた。

 綺麗に大輪の花を咲かせてた。

 一輪だけ『人の笑顔』みたいな顔をしてて「キマッ! キマッ!」って声をあげるヒマワリがいた気がするけど気のせいだろう。

 これで観察日記も完璧だ。

 今度、幽香さんに咲いたって報告しに行こっと。

 あとめーりんにも褒められた。

 

「妹様! 綺麗なガーデニング空間になりましたね!」って。

 

 えへへ、嬉しい。

 

 #####

 

「楽しそうですね」

「……元はといえば美鈴さんがガーデニングを作れとフランさんに言ったんでしたっけ?」

「そうよ、さとり」

「ガーデニングかぁ……スペースあるし私も始めようかしら」

「いや、レミリア――アンタ陽射しを防ぐ手段あるの?」

「あっ」

「…………」

「…………」

 

(…………ないんですね)

 

 色々と察して益々今度何か教えてあげようと深く決意する早苗であった。

 

 

 #####

 

 

 八月十八日

 

 

 プリント終わった。

 二日頑張れば終わるもんだね、宿題。

 なんか清々しい気分だよ。色々悟った感じが体にある。

 気持ちも大分リフレッシュ出来たんじゃないかな?

 久々に体が動かしたいし明日からまためーりんや妖忌さんにお願いしよう。あと咲夜にもまたメイド技術教えてもらって、それからアリスさんには裁縫とにとりさんには機械と、森近さんには商売と。

 ……書いてみると思ったより多いな。

 ともかくやれることを頑張ろう!

 あ、ちなみに今日は宿題終わってから久々にチルノちゃん達と遊んだ。

 霧の湖近くでサッカーをした。超次元サッカーだ。

 ルールはそれぞれ必殺技として魔力を込めてシュートを撃てる。皆わちゃわちゃしながら楽しくプレイした。

 私は足に炎を纏って、蹴るとボールが燃え盛りながら四つに分身するシュートを必殺技にしたけど、ゴールした時に審判のチルノちゃんが変な判定出してたよ。

 

「ゴール! 満塁ゴール! フランちゃんチーム四点!」

「満塁ゴールって何なのチルノちゃん!?」

 

 大ちゃんがツッコミ入れてたけど本当なんだろう。

 カオスだったなぁ……。

 

 #####

 

 

「満塁ゴール……」

「野球なのかサッカーなのか」

「……酷いわね」

「でも私は満塁ゴールってフレーズ、聞いたことあります。TASって動画の中に――」

「……早苗さん、多分私達含めて多くの人が分からないネタを振らないで下さい」

「…………はい、さとりさん」

 

 ピシッと突っ込まれて早苗は黙り込んだ。

 

 #####

 

 

 八月十九日

 

 

 今日はめーりんと修行だ。

 午前一杯使って体を動かし、組手をする。ていていていてい!

 精一杯殴る蹴るを繰り返す。私だってただ傷心旅行に出ていた訳じゃないのだ。今日の為に考えていた技をこれでもかと繰り出す。

 パンチを放つと手から気弾が飛び出す技とかは不意をつけた。直撃した隙に初めて確かな一撃を与えれたし。

 あと瞬間移動と組み合わせたコンボだね。大分昔に覚えたドラゴン波を撃つ寸前に瞬間移動して、背後からぶっ放すって技。

 直撃はしなかったけど吹っ飛ばすことは出来たので、あとは瞬間移動してブン殴って吹っ飛ばし、先回りしながら殴り飛ばし続けるだけでいい。

 でも強い。

 すぐに態勢を立て直して反撃してくるのは流石としか言いようがない。

 結局今日も初勝利とはならなかった。

 惜しかったけどね……まぁ次回もチャレンジだよ!

 

 あと午後はパチュリーと魔法の研究をした。

 今回は反射の研究じゃなくて最強のレーザーを考えているらしい。

 曰く、魔理沙がよくマスタースパークってレーザー砲をぶっ放すスペルカードを使ってくるらしいけどそれに対抗する技が欲しいのだとか。

 レーザーねぇ……。いずれにしても強力な技になるなぁ。

 でもパチュリーは喘息だから力任せなんて出来ないし、それこそ制御に力を入れるだけみたいなレーザーでも無いと……。

 そういえば制御といえば組み合わせ技とか良いよね。相反する技の組み合わせみたいなやつ。

 前にチルノちゃんとやったよ。炎と氷で。

 ……? 炎と氷? 組み合わせ……。

 ………………うん。

 とりあえず面白そうだしやってみようかな。弾幕ごっこって美しさ重要だし。炎と氷が混ざる弾幕って綺麗そうじゃない?

 

 で、早速やってみた。

 

 右手で炎の弾幕を生み出し、左手で氷の弾幕を生み出す。

 氷の弾幕は苦手だけど使えないわけじゃない。ともかくその二つの弾幕を一つに重ね合わせて――爆発した。

 いきなり力の本流が乱れた。一瞬、黒い塊のようなエネルギーが出来た気がしたけどとんでもなく魔力制御が難しかった。

 ……新しい技出来るかもしれない。明日もやってみよう。

 

 #####

 

 

「……あの、みなさん。私この技知ってるんですけど」

「……早苗、悪いけど嫌な予感がするから聞かないでおくわ」

「私も同じく聞かないでおくわ」

「……心を読んだので分かりましたがそれで良いと思います。危険な技ですし」

 

 早苗の心を読んだらしいさとりが「……非常識な技ですね」と呟いてそう言った。

 

 #####

 

 

 八月二十日

 

 

 夏休み最終日だ。

 昨日やってみた技だけどもう一度やってみた。

 魔力制御が難しいので今回は最初から全力全開だ。

 右手で炎の弾幕を、左手で氷の弾幕を。

 それぞれ大きさの質が均等になるように作り出し、それらを一つに融合する。

 細心の注意を払って一つにすると黒い弾幕が生まれた。

 ダークマターと言うべきかもしれない。とんでもないエネルギーを秘めた弾幕だ。

 試しにそれを宙に向けてレーザーとしてぶっ放してみた。

 通った場所が空気ごと破壊されたよ。

 ……炎と氷を組み合わせると極大消滅魔法になるんだね。初めて知ったよ、私。

 でも危険じゃない? これ。大気ごと消し飛ばしたよ?

 多分私も直撃したら吸血鬼の再生とか関係無く死ぬよ?

 跡形もなく消滅すると思う。弾幕ごっこじゃ使えないな。

 とりあえず『極大消滅呪文(メドローア)』って名付けた。

 ……魔法って難しいね。

 

 #####

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………、えっと」

 

 四人の反応はそんな感じだった。

 どう反応すれば良いのか分からなかったのだ!

 静寂を切り裂いたのは早苗だった。

 

「……こわっ、極大消滅魔法ですって、皆さん」

「サラッと幻想郷を終わらせられる魔法を作らないで欲しいわね」

「……妹が遠いんだけど」

「……レミリアさんレミリアさん。私も同感です」

 

 内容も意味合いは大きく違うが、同じく妹に悩まされる姉二人はともに肩を叩きあったのだった。

 

 

 




 



 長かった旅がようやく終わりました。


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八月編6『テストの珍回答』

 

 

 

 八月二十一日

 

 

 今日からまた寺子屋が始まる。

 宿題は終わっているし久々の寺子屋で私のテンションも上々だ。

 で、寺子屋に行くと学期始めの挨拶が行われた。

 

「校長の話だオラァ!」

「あの、生徒を威圧しないでくださいね? さて皆さん。長い夏休み、楽しめましたか? ……ちなみに私は休みがありませんでした」

 

 髪の残りが少なくなって来た校長先生がそんなことを話していた。

 休みがなかったという下りで、笑いを誘われて多くの生徒が笑っていたけど、

 

「最近暑いですね。ところで熱中症というものがあります。熱中症は命の危険もある危険な症状なのですが――」

 

 ここからが長かった。

 八月二十一日といえばまだ夏だよ。

 暑い中長い時間校長先生のお話。

 ……熱中症の話をしている間に生徒が十人単位で倒れてた。

 バタバタと。多分顔が赤いので熱中症だと思う。

 校長先生が慧音先生に頭突きされて空を舞った。

 自業自得……というかそうも言ってられない。大丈夫かな、定年超えて働いてる先生なのに。

 

 ……授業は中止になった。

 

 

 #####

 

 

「開幕からアウトじゃないですか!」

「十人単位で熱中症って……熱中症の話をするくらいならさっさと話を切り上げなさいよ」

「……同感です。生徒が倒れては元も子もないですし」

「まぁ校長の話は長いってよく聞くし、今更どうとも思わないわ」

「あと今気付いたんですが六十歳以上の老人に慧音先生の頭突き!? 慧音さん頭突きしたんですか!?」

「……空を舞った。あっ……」

「オーケー死んでないから! 話はそこまでにしましょうか!」

 

 話を広げようとした早苗にストップをかけ霊夢が次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 八月二十二日

 

 

 国語の宿題を見せ合いっこすることになった。

 ルーミアちゃんの答えがなんかおかしかった。

 

 問.表現技法をまとめて下さい。それぞれ以下の解答欄に記入。

 題材は自由で構いません。

 

 まずは私の書いたやつからいくよ。

 

 ・表現技法(レミリア・スカーレット()の台詞)

 ・反復法(リフレイン)……うー。うー。

 ・倒置法……喰らうがいいわ、最強の体術を。

 ・比喩法……ぎゃおー。(私は)怪獣だぞー。

 ・反語法……楽しい夜になりそうね。(いやならないわけがない)

 ・省略法……バシュゴォ。

 

 で、これがルーミアちゃんのやつ。

 

 ・表現技法(天空の城のラピュタのムスカ大佐)

 ・反復法(リフレイン)……読める。読めるぞ。

 ・倒置法……見せてあげよう。ラピュタの雷を。

 ・比喩法……見ろ。人がゴミのようだ。

 ・反語法……最高のショーだと思わんかね。(いや思わないわけがない)

 ・省略法……目がぁ。目がぁ。

 

 提出したら二人揃って先生に怒られた。

 ルーミアちゃんはともかく私は何でだ。

 

 #####

 

 

「いや問題しかないじゃないですか!」

「それにルーミアとか言う奴のはともかくフランのは所々間違ってる気がするんだけど……」

「慧音が怒りそうな答えで笑うわ」

「……というか答えがふざけてますよね。二人とも」

「フランちゃんのはともかくルーミアちゃんのは絶対大人版のルーミアさんですよね、これ書いたの」

「だろうね」

「……使い方が間違ってないあたり腹立たしいでしょうね、先生としては」

 

 #####

 

 

 八月二十三日

 

 

 新学期明けは三日連続授業だ。

 つまり今日も寺子屋。今日はテストをやった。国語の小テストだ。

 

 問い①

 使い方が正しい方に丸をしなさい。

 

 ・「犬が(ワンワン)(ニャーニャー)吠えている。」

 

 これはワンワンだね。間違いない、ニャーニャーは猫だもん。

 橙ちゃんがニャーニャー鳴いてるの聞いたことないけど。

 ……うん、多分ワンワンの筈だ。多分。

 

 

 ・「カレーは(食べ物)(飲み物)である。」

 

 ……これどっちだ。普通に考えたら食べ物だけど、インドとかのあたりだとカレーは飲み物って言われてるって聞いた覚えがある。

 ……難しくない? これ。

 とりあえず飲み物に丸つけた。

 

 

 ・新幹線より速い(飛行機)(おじいさん)

 

 おじいさん凄ええええっ!

 なんで選択肢におじいさんいるの!? というか飛行機も新幹線も見たことないから速度分からない!

 多分普通の人よりは飛行機も新幹線も速いと思うけど。なんか無性におじいさんが選びたくて仕方ない。

 おじいさんに丸した。

 

 

 ・(中途半端な優しさ)(見せかけの友情)なんかいらない。

 

 いやどっちだよ! どっちも意味として通じるよ!

 両方に丸するしかないじゃんこんなの!

 だって合ってるもん! ねぇ?

 

 試験はそれで終わり。

 あと遅刻した人がいた。なんかアンケート書いてたよ。

 

 ・遅刻の理由

 

 (おばあちゃんを助けてた。)

 

 ・今後遅刻しない為にどうするか。

 

 (おばあちゃんを助けない。)

 

 

 …………うん。そこは助けよう、ねっ?

 遅刻していいから助けよう、うん。

 

 それとテストは一日中あったけど配ってもらった日程表がなんかおかしかった。

 

 本日の日程

 

 8時30分〜9時30分 国語(60分200点)

 9時40分〜10時40分 算数(60分200点)

 10時50分〜11時30分 歴史(40分100点)

 11時30分〜12時30分 昼食(60分200点)

 12時40分〜1時20分 理科(40分100点)

 

 ()()2()0()0()()

 

 昼食摂れば200点くれるらしい。なんて楽なんだろう。

 それとテスト終わってからミスティアちゃんが嘆いてた。

 なんでか聞いて見たら何も言わずにこんな用紙を見せられた。

 

 問い。

 ・六人全員を円形のテーブルに座らせる方法は何通りありますか?

 

 (テーブルより椅子に座らせた方がいいと思います。)

 

 ・一番多くの都道府県と面しているのは何処ですか?

 

 (海)

 

 ・次の文を過去の文にしなさい。

 I live in Tokyo.

 

 (I live in Edo.)

 

 ・次の文を日本語に直しなさい

 

 Cross (殺す)

 

 うん、次はちゃんと勉強しようね。

 涙の滝を流すミスティアちゃんの肩を叩いて私はそう言った。

 

 #####

 

 

「この寺子屋問題有りすぎじゃないですか?」

「…………、酷いわね」

「……ですね」

「……これは何とも言い難いわね」

「というかツッコミどころが多過ぎて逆にどこも突っ込めないのよ!」

 

 ……ツッコミ放棄。

 四人の取った手段はそれであった。

 

 #####

 

 

 八月二十四日

 

 

 今日は休みだ。

 めーりんと修行して、それから妖忌さんのところに改めて修行をお願いしに行った。

 ……なんか前の日の書き方が色々アレだったせいでこうやって普通に書くのに違和感を感じる私だよ。

 ともかく改めてお願いすると「迷いは晴れたようですな」と妖忌さんも何か私から悟ってくれたのか修行を許可してくれた。

 よーし! また明後日から剣の修行だ!

 気合い入れて頑張るよ!

 

 

 #####

 

 

「なんか前日と違って読みやすく感じます」

「というかこれが普通でしょ!」

「……反応しづらいボケの応酬はNGというやつですね」

「これはこれで突っ込みどころ少な過ぎてアレだけどね」

 

 

 #####

 

 

 八月二十五日

 

 今日は寺子屋。

 久々に聖徳太子先生が来た。

 

「今日は私と仏教の関連についてお話ししましょうか」

 

 前回はまともに授業すら出来なかったのでさすがに今回は真面目らしい。ヘッドフォンみたいなのを付けてる時点で真面目と言っていいのか分からないけどそれは置いておこう。

 

「仏教を日本――倭国に伝えたのは私こと聖徳太子です。当時、私は『法華義疏(ほっけぎしょ)』『勝鬘経義疏(しょうまんぎょうぎしょ)』『維摩経義疏(ゆいまきょうぎしょ)』の三つの仏教経典の注釈書を作りました」

 

 うん、真面目だね。というか初めて知ったよ。

 そこそこ知ってるつもりだったけど言い伝えたとかその辺りは抜けてるや。

 

「太子先生、宗派は何処なの? 真言宗?」

「宗派ですか? いえ、私は特にありません。その理由は宗派という概念が日本で生まれたのが、私が表舞台で生きていた飛鳥時代より後の奈良時代なんです。それ以前はお寺は特定の宗派に属していませんので、私もその中に入ります」

 

 ただ、と太子先生は続ける。

 

「聖徳太子――つまり私を開祖とする『聖徳宗』というものが1950年代に出来たそうです。もしかしたらその中に入るかな?」

 

 あとはもう一つ説明をしましょうか、と真面目系先生こと太子先生はスチャッと伊達メガネを装備する。

 

「浄土真宗は皆さん知ってますか? 親鸞が開祖なのですが、あそこにも私は関わりがあります」

 

 そう言って太子先生は黒板になにやら書き込む。

 内容はこんな感じだった。

 

 親鸞がある時、聖徳太子を祀る京の六角堂に100日篭りました。

 深夜、彼がウトウトしていると聖徳太子が夢に現れたそうです。

 彼は親鸞に対しこう言いました。

「貴方は女性を欲するか? もし欲するなら、私が美女となって相手をしよう」と。

 これは女犯の夢告と言われますが、多分真実は私が女性だったと知る人物が寝ている親鸞の耳元で悪戯で「聖徳太子が女」だと呟いたのでしょう。

 とはいえ親鸞はそれを信じ込んでしまい、煩悩の強い人でも救われると考えるようになってしまいました。

 

 ……歴史ってわからないね。割と本気で。

 浄土真宗の生まれた理由悪戯なの? あと多分って書いてあるけど教師として良いの!?

 あと他にも聖徳太子さんは復活するまでお金を持ったことないとか面白い話をいっぱいしてくれた。

 前回はまるで授業になってなかったからか、今回はとても太子先生は上機嫌で帰っていった。よかったね。

 

 #####

 

 

「……勉強ですね」

「勉強ね」

「つまらないわね」

「……私は真面目で良いと思いますけど」

 

 上から早苗、霊夢、レミリア、さとりの言葉である。

 概ねさとり以外不満な顔を浮かべているあたり、もっと別のことを期待していたのだろう。

 ちゃっちゃと次のページ行くわよー、と霊夢が声がけすると全員が頷いた。

 

 

 



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八月編END『面白い先生』

 


 八月編終わりです。






 

 

 

 八月二十六日

 

 

 今日は修行だ!

 と思ったけど運悪く台風がきた。大型の台風だ。

 風がビュウビュウ吹いて窓がガタガタと揺れた。今更だけど吹き付ける雨って吸血鬼にとったら超辛い日なんだよね。

 ほら、流水が弱点だからさ。まぁ私は防げるけど。

 それはともかく、何か大切な用でも無い限り外に出る気は起きない日だ。

 とりあえず向日葵を守るためにビニールかぶせたくらい。

 後は家に引きこもってるよ。

 お姉様も散歩出来なくて苛立たしかったのか曖昧な顔しながら「……うー」って呟いてた。

 

「……うう、横暴です。傘一本は酷いですよう!」

 

 ……めーりんは外で門番だ。

 傘一本だけ与えられてたけどすぐ壊れてた。

 もしかしたら紅魔館ってブラック企業なの?

 

 

 #####

 

 

「台風の中外で門番って……オイお姉様?」

「し、し、知らなかったわよ! 咲夜! どういうこと!?」

「はい、お嬢様。私はお嬢様に美鈴を中に入れるか尋ねましたよ? ただお嬢様が難しい顔でうーん、と首を振るものですから……」

「それ考えごとよ! 話聞いてなかった私のバカ!」

「美鈴さん可哀想ですね」

「……そうですね」

「そうね」

 

「やめて! 三人揃ってそんな目で見ないで! 咲夜も咲夜で私の態度を察しなさい! というか分かった上でやったでしょうそれ! ドSだったの咲夜!? ねぇそうな――ムグッ!?」

「お口チャックですお嬢様。ドSだのドMだのそんなことを仰ってはいけません。淑女たるもの振る舞いを忘れてはなりませんよ」

「むぐぐ! ップハ! その前に主君の口を手で覆う従者にも問題があると思うのだけど……?」

「…………」

「…………」

「……、可愛い子ほど虐めたくなりますよね☆」

「やっぱりドSじゃないか! というか主君を人前でその相手にするんじゃない! あとそこの緑ピーマン! レミ咲じゃないから! フリップを取り出していきなり何でそんなこと書いたとか分からないけど違うから!」

「うわっ、飛び火してきましたよ?」

「最低ね」

「…………。(←助けたいけど何も言えない困った顔)」

 

「……、うう味方が居なくたって関係無いから! ほら、ともかく次のページ行くわよ!」

 

 何となく悲しくなったレミリアはこの空気を打破するため次のページをめくるのだった!

 

 #####

 

 

 八月二十七日

 

 

 寺子屋だ。

 今日は普通の男の先生の授業を受けた。黒髪黒目で雰囲気も普通の人。どこにでもいそうな普通の二〇代前半の先生。

 でも今日、認識が変わったよ。

 

「じゃあ今日は算数だ。分数を少数に直すやり方を教えるぞ」

「先生! そんなこと覚えて将来何の役に立つんですか?」

 

 算数の授業。初っ端から一人の不真面目な生徒が手を挙げてそう言った。いやまぁ気持ちは分かる。躓くの早過ぎだけど。

 すると先生はこう答えたんだ。

 

「じゃあ逆に聞くけどこんなことも出来ないやつが将来何の役に立つんだ? あと俺は『こんなの』で飯を食べてるぞ」

 

 少々辛い質問だが投げかけられた子はうっ、と言葉に詰まってた。

 「なっ、そういうことだよ」って優しく声がけしてたけど、やっぱり先生なんだなぁ。

 でもやられた側は素直じゃなくて、なんか貶めてやろうと集中砲火することにしたらしい。ノリでクラス全員も参加しやることになった。

 で、次の時間。黒板に「面白いこと言うまで起きません」って書いた上で全員で机に突っ伏して寝ていると先生が入ってきた。

 

「よーす。じゃあ授業始まるぞ……って、面白いこと? お前らこのネタ振りは厳し過ぎるだろ……寝たふりだけに」

 

 思わずだったんだろう。子供って笑いの沸点低いよね。何人かの子が思わずブハッって噴き出して一発オーケー貰ってた。

 なんか冴えないと思ってた先生がやたら格好良く見えたのは気のせいだろう。

 

 続いて。

 次の時間の授業中、ポケットからピー♪って音が鳴った。

 

「なんだ今の音」

「……私のたまごっちが死んだ音です。昨日から様子がおかしくて心配で連れてきて……それでっ」

 

 その時先生がその生徒に近寄って行った。没収かな、と思ったのかその子も首をすくめて涙目を浮かべてたけど、違った。

 先生はそっと頭を撫でてこう言ったんだ。

 

「もういい、何も言うなよ」

 

 続いて先生はこう続けた。

 

「皆、亡くなった◯◯のたまごっちに……一分間黙祷!」

 

 皆で黙祷した。正直面白い先生だと思った。

 で、これで終わりだと思ったんだよ。流石にこれ以上何かイベントは起きないだろうと。

 ……起きました。

 

「待て、早まるな!」

 

 別の教室だろう。なんか慧音先生の悲鳴が聞こえた。

 何事かあった様子に私たちが身構える間も無く先生はこう言った。

 

「お前らここで待ってろ! 先生はちょっと様子見てくる!」

 

 言われたけど守るような生徒はここにはいない。

 飛び出した先生の後を追いかけるように私達も走ってついていった。

 慧音先生の悲鳴が聞こえたのは二階だった。

 普段は空き教室なんだけど。その教室に飛び込むとナイフを持った生徒が居た。

 自身の喉元にナイフを突き付けてた。どうやら自殺をしようとしているらしい。

 

「馬鹿な真似はやめろ!」

 

 慧音先生が手を出さていない様子を見て、先生がそう叫んで生徒に近づいて行った。

 

「……来るな! 俺は、俺は死ぬんだ!」

「黙れ! たかが一五も生きてないガキが死ぬとか言うなよ!」

「うるさい!」

 

 相手の生徒は半狂乱の様子で話を聞こうとはしていなかった。

 近付くとナイフを振り回し、更に自分の首をかっ切れる体勢を取り続けたので手が出せない。

 

「キュッとして、どかーん」

「――――っ?」

 

 だから私はナイフを『破壊』した。

 バリバリと音を立ててナイフが壊れて使い物にならなくなる。思えば力をこうやって使うのも初めてだよね。

 ナイフを壊された生徒はよくわからない顔でしばらくナイフを見つめた後、「ああああ!!」と悲鳴を上げた。

 

「フラン、ありがとう」

 

 いえいえどういたしまして。

 先生は一言言うと自殺しようとしていた生徒の胸ぐらを掴み上げる。

 

「さて、と。どうして自殺なんて考えた?」

「…………、」

 

 そこからは鮮やかな手際だった。黙り込む生徒を根気よく説得し、宥めすかして理由を話させる。

 うんうんと否定することなく生徒の話を聞いた先生は一度生徒の顔を殴った。馬鹿野郎! って叫んでた。

 それから丁寧に生徒の話で納得のいかない部分や前向きになれる部分を一つ一つ提示した上で説教を始める。

 

「し、死ねば楽になれるんだ!」

「……まぁ聞けよ。人生を仮に72年にして、一日にすると18歳で朝の6時って時間帯らしい。お前はもっと若いだろう? なんでまだ起きてすらいない時間なのに「死にたい」とか「もう俺は駄目な人間だ」とか決めつけてんだよ? まずは朝食を食べようぜ。それに悲しいことも辛いことも全部乗り越えられるさ。仮に乗り越えられなくても時間がそうしてくれる。それでも駄目なら俺に話せ、話くらいなら聞いてやる」

 

 優しい口調だった。

 最後には「ごめんなさい」って何回も言いながら泣き出した生徒を抱きしめてた。

 冴えない先生と思ってたけど、やっぱり先生って凄いね。

 

 #####

 

 

「……良い話、でしょうけど」

「……この寺子屋事件多すぎない?」

「ま、まぁ良い先生も居るんだよってアピールになるし良いじゃないですか! 私は好きですよこういうの!」

 

「……あれ? なんか続きがありますよ?」

 

 その時、さとりが声をあげる。

 三人がどこ? と問いかけるとさとりは下の方に書かれた分を指差した。

 

「ほら、ここです」

 

 そこには『追記』と書かれてあった。

 

 追記

 

 後日、最初に「こんなの将来に役立つんですか?」と言っていた男子生徒が先生に質問してた。

 

「先生、算数とか数学をやってて良かったことって何かありますか?」

「ん? ほらあそこ。慧音先生が居るだろ、数学やってるとあの巨乳美人のパンツが覗ける角度が分かる」

「おおお!」

「せんせーい! 積分分からないから教えて!」

「……なんでそんな先の範囲やってるんだよ。つかそれ幻想郷じゃ必修じゃねぇぞ。ま、良いか。積分は簡単だ。例えば脱衣所のカーテンから女の人の足が見えてるとするだろう。そしたらお前らそこから太ももやふくらはぎや尻まで想像してみろ。それが積分だ」

 

 ……先生、真面目な時は格好良いのになぁ。

 ふざけるとこれだから残念でならない。というか授業で何てこと口走ってるんだ。

 

 

「「「「………………、」」」」

 

 ……読み終わった面子は全員黙りこんで顔を見合わせた。

 暫しの間誰も喋らない静寂が続いたがやがて誰かがこう呟く。

 

「…………次、行きましょうか」

 

 全会一致だった。

 

 #####

 

 

 八月二十八日

 

 

 幽香さんのところにお邪魔した。

 向日葵が咲いたことを報告するためだ。

 太陽の畑に行くと満開の向日葵の海が見えた。

 幽香さんはメディスンちゃんとお茶会をしていたらしく、私を歓迎してくれた。

 

「聞いたわよ。咲いたって、今度見に行くわね」

「私も私も!」

 

 二人とも今度来るらしい。

 ちゃんと用意しとかなきゃね。台風も被害なく乗り越えれたし、多分大丈夫のはずだ。

 それから三人でお茶会した。まだまだ暑い日の下、巨大なパラソルを刺して日陰の出来た椅子に座ってのお茶会だ。

 楽しかったなぁ。

 

 #####

 

 

「お茶会かぁ、そういえば私達もお茶会ですよね」

「そうね。妹の日記を覗きながらって極めて異例な事柄が頭につくけれど」

「……良い紅茶です。それにお菓子も美味し……」

「あぁそうそうレミリア。一部持ち帰るから咲夜に包んでってお願いしてね?」

「……まぁ良いけど」

 

 不躾な霊夢のお願いに曖昧な顔でレミリアは頷いた。

 

 #####

 

 

 八月二十九日

 

 

 今日も寺子屋。

 そして今日もあの男の先生。副担任だったらしい、初めて知った。

 慧音先生が担任で忙しい時はこの男の先生になるんだとか。名前も知らないけど良いのかな? ま、いっか。

 慧音先生だと皆寝るけどこの先生だと皆はしゃぐんだよね。

 今日も、

 

「せんせーい、ピザって十回言って!」

 

 あぁ。あるあるだよね。ピザって十回言わせて(ひじ)を指差して「じゃあここは?」ってやつ。つい膝って答えちゃうんだよね。

 で、先生の場合はこうだった。

 

「ああ良いぞ。ピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァピッツァ」

 

 とても英語訛りだった。これ大丈夫かな? ピザって言ってって振った子も不安だったのか、それでもじゃあここは? と肘を指差すと「エルボゥ(ひじ)!」って元気に答えてた。

 ……面白い人だなぁ、本当に。

 あとさ。

 

「せんせーい! 先生ってさ、部活の顧問とかやってないの?」

「ん? いや、やってるぞー」

「何の顧問?」

「帰宅部だ。毎年全国大会に進出してるくらい強いぞ」

 

 ……いや、帰宅部の全国大会ってなに?

 

 #####

 

 

「帰宅部ですか。辛いですよね」

「辛いの? というか知ってるの早苗?」

「もちろんです。説明しましょう、帰宅部は精神的にも肉体的にも辛い競技なのです! うちの学校は横断幕で『祝、関東大会出場! 帰宅部』って出てましたけど、本当に厳しいんですよ。仮に女の子からのお誘いがあっても断って帰ることを優先しなければならないそうです」

 

 って知り合いが言ってました、と早苗ははにかむがそれはそれでどうなんだろう……と思う一行だった。

 ともかく次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 八月三十日

 

 ちょっと明日まで日記書けない。

 明日まとめて書く予定。

 

 

 #####

 

「あら、何かあったのかしら?」

「忙しかったんじゃない? 一年あるし偶にはこんな日もあるわよ」

「……ですかね?」

「ともかく次です! めくりますよぉ!」

 

 #####

 

 

 八月三十一日

 

 とりあえず昨日の分から書こうかな。

 日記を休んだ理由だけど、ちょっと土日ということでいつもより厳しい修行をすることになったんだよ。

 それだけなら書くのは不可能じゃないけど、場所が問題だった。

 妖忌さんとめーりんが指定したのはマグマの煮えたぎる岩場。

 足元不安定なそこで二日間修行するらしい。突然火の粉も絶えず飛んでいるので日記なんて持っていったらたちどころに燃えてしまうのだ。

 そんなわけで修行してました、はい。

 技も覚えたよ。大地を切り裂く技とマグマみたいな海を切り裂く技と空気を切り裂く技。

 あと気で体を守ることも出来るようになった。

 とりあえず疲れたなぁ。熱かったよぉ。

 うん、疲れたし寝る。おやすみなさい。

 

 #####

 

 

「修行ですか、どう思います? 霊夢さん」

「……耳が痛いわね。何も聞こえないわ」

「……サボりはよくないですよ?」

「我が妹ながらよくやるわよね、ホント」

 

 意見は違えど、全員の思いはレミリアの言葉に集約されていた。

 そして一行は九月へとページを進めていく――――。

 

 

 

 

 



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九月編
九月編1『姉妹と祭り』


 



 


 

 

 

 九月一日

 

 

 今日は里の夏祭りの日だ。

 朝から多くの人達が準備してた。里の大通りには所狭しと屋台が並んでいてそれが博麗神社まで続いているらしい。

 端的にいうと一キロ以上の距離にズラリと屋台が並ぶわけだ。

 ともかく今日は皆でお祭りに行くみたい。お姉様に私に、咲夜とパチュリーとこあくま、それにめーりん。うん、全員で出掛けるのは本当に珍しいや。

 お祭りでは多くの人で賑わっていた。知り合いも店を出してたよ。河童達がそれぞれ新作の道具を使って売ってたり、魔理沙が魔法道具を売ってたり。あとは小鈴さんも出張貸出って見出しを付けて本をいっぱい載せたリヤカーを引いてた。

 私も久々にお姉様と一緒に遊べて楽しかったなぁ。

 こころさんのお面屋さんでお姉様が狐のお面買ってさ、私はカエルのお面を買ったんだ。側頭部に付けるとファッションみたいで可愛いね! って話して。

 それから日記で書いてないけど前に命蓮寺に行った時に会った入道使いの一輪さんがやってたわたあめ屋さんでわたあめ買ってもらって二人で食べた。

 甘くてふわふわで口の中に入れると溶けてしまうけど美味しかったよ。二人で分け合って食べたからすぐ無くなっちゃったけど。

 それから射的をやって。お姉様が一個も落とせなくて「……きょ、今日は調子が悪いみたいね」って声を震わせてるのをみて楽しかった。

 咲夜もめーりんも笑顔で私たちを見てた。こあは外に出て疲れたらしいパチュリーを見ながら右往左往してたけどそれでも雰囲気を楽しんでたみたい。

 あとね。

 霊夢さんと早苗さんに会った、なんか知らない人と一緒だった。桃色の髪で頭の両サイドにシニョンを付けてる女の人。右手を包帯で巻いてたから多分怪我か前に早苗さんから聞いた重度の中二病患者ってやつだと思う。右腕全体を覆ってたから多分後者の中二病と思われる。

 でも挨拶して話をしてみると普通の人だった。名前は茨木華扇(いばらぎかせん)さんと言うらしい。仙人なんだってさ。珍しいよね、鬼の人が仙人やってるなんて。

 というか鬼だからシニョンを付けてたんだね。まぁ人里だし変に思われないように配慮してるのかなぁ? 私とかお姉様とかは何もしてないけどやっぱり普通はそうなんだろうなぁ。

 実は最初に見た時頭に三箇所破壊出来る部位があったからビックリしたよ。よく見たらツノだったけど。

 まぁその華扇さんはともかく、霊夢さんと早苗さんもお祭りに来たらしい。特に霊夢さんは協賛で祭りに参加しているとか。今はちょっと休憩がてら別の人に神社を任せて出て来てるらしい。

「せっかくのお祭りだから楽しまないと損です!」って早苗さんに引っ張られたんだって。霊夢さんは「ったく商売上がったりよね」って言って溜息吐いてたけど嫌そうじゃなかった。

 軽く話して二人とは別れたよ。

 あと、その時に咲夜達とも一旦別れた。姉妹水入らずで過ごさせようってめーりんが提案したらしい。なんかごめんね? 気を遣わせて。

 

 閑話休題(それはともかく)

 お姉様と一緒に行動することになった私だけど、まずは一緒に買ってもらったお好み焼きを分けっこして食べてから金魚すくいをすることにした。

 お姉様がさ、不器用な上にやたら大きなやつをすくいたがって一匹取るのに四回もやってた。私も三匹すくって、金魚袋に入れてもらう途中に金魚すくい屋さんのおじさんがこんな話をしてくれた。

 

「おう嬢ちゃん達。紅魔の吸血鬼だろ? 大層お金持ちって聞くじゃねぇか。もし出来るなら水槽の中に金を入れてうちの金魚を飼ってみな。金魚ってなぁ名前の通り、水に溶け出した金を体内に取り込むことでそれはそれは美しい金色の鱗を身に纏うらしい。おっちゃんは金が無くて普通に育てちまったから今、お嬢ちゃんらが持ってる金魚は赤いけど、しばらく日がたてば金色になると思うぜ」

 

 水槽の中に金を入れて飼うと金色の鱗を持つらしい。

 初めて知ったよ。帰ってからお姉様と一緒に水槽を用意して金も入れたけどどうなるか楽しみだ。

 で、それはそうとまだお祭りの話は終わらないよ。

 

「あら、あれは何かしら?」

 

 金魚屋さんを後にして次はどこに行こうとあたりをうろついていた私達は、途中で人だかりを見つけたんだ。

 子供達が沢山集まっててさ。ちょっと飛んで前の人達の頭の上から見てみるとアリスさんが居た。

 人形劇をやっていたらしい。

 今日の演目は桃太郎だ。とは言っても原作のじゃなくて所々改変されてた。そういえば初めて知ったけど桃太郎って八月の物語なんだってね。今九月だけどまぁそれは良いか。

 内容は以下の感じだった。

 

 

 昔々あるところに。

 

 妖忌「良い朝じゃなぁ」

 

 ――おじいさんと。

 

 幽々子「そうねぇ。朝日が綺麗」

 

 ――おばあさんが居ました。

 

 妖忌「さて……今日も芝刈りに行くとするかな」

 

 おじいさんは山へ芝刈りに。

 

 幽々子「あらー、じゃあ私は洗濯に行こうかしら」

 

 おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 すると――

 

 幽々子「?」

 

 川の上流から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。

 

 幽々子「桃おおおおッ!!」

 

 腹ペコだったおばあさんはその大きな桃へ飛びかかり――、

 

 幽々子「ハグハグムシャムシャ! バガベギボギィ!!」

 

 一心不乱に齧り付きました。

 桃の中から何やら「やめっ!? ぎゃぁあ!!」という悲鳴が聞こえた気もしますがおばあさんは気にもしません。

 すると――、

 

 妖夢「ごふ……おっふ……」

 

 なんと桃の中から可愛らしい女の子が出てきました。

 おばあさんに噛まれ、だくだくと頭から血を流しています。

 

 妖夢「……うっ……うう……」

 幽々子「あら大変! 早く桃を食べてから手当てしてあげないと」

 妖夢「う………げほっ……」

 

 おばあさんは急いで桃を食べ始めました。その間にも女の子は血を流して衰弱していきますがまずは桃を食べることを優先します。

 結果、女の子はおばあさんに喰い殺され掛けましたが辛うじて半命を取りとめました。

 そして数年後。妖夢=桃太郎と名付けられた女の子はおじいさんとおばあさんの元で立派な剣士に成長しました。

 

「〜〜〜〜っ!」

 

 お姉様も笑い過ぎて悶えてた。

 確か導入はこんな感じだったよ。

 このあと、おばあさんが桃太郎に渡すきびだんごを全部食べちゃってておじいさんがそっと隠し持ってたきびだんごを渡したり。

 仲間のくだりではサルが、

 魔理沙「きびだんごはいらないからキノコをくれ」

 ってきびだんごを突っぱねたり。

 キジが、

 霊夢「人にものを頼む時はもぐもぐ、この中に入れるパクパク、モンがあるでしょうが、ゴクン」

 ってきびだんごを完食した上で賽銭箱を持ってきてお金を要求したり。

 イヌが、

 咲夜「生地のコネ方がまだまだね。噛み心地も良くないわ」

 って出されたきびだんごにケチつけたりして思わず笑ってしまった。

 お姉様も笑ってて楽しそうだった。

 アリスさんの演目が終わってからは皆で拍手したよ。

 (なお、この物語はフィクションです。実在の人とは関係ありませんってテロップもちゃんと入ってた)

 

 それからまた祭り会場を歩いていたけど、ふとお姉様が「博麗神社に行くわよ」と言って博麗神社に行くことになった。

 神社に行くとそこそこ人が行き交っているようで、屋台もいくつか出ていた。

 いつの間にか霊夢さんも帰ってたのか忙しそうに働いている。

 と思ったら目ざとく私達を見つけて何やら手に持っている物を見せてきた。

 

「あっ、金ヅル……じゃなかった! レミリア、アンタ良かったらお守り買わない?」

「待って! 今、私のこと金ヅルって言わなかった霊夢!?」

「言ってない☆」

 

 凄い笑顔だった。その勢いに気圧されたのかお姉様もそれ以上追求をやめていた。

 

「で、これよこれ! 金運恋愛学業厄除けの御守り! アンタ買わない?」

「そんなに効果あるの?」

「勿論♪ これを持つだけで金の回りが良くなり、恋愛や学業も捗る御守りよ! それに博麗の巫女が入れた厄除けの力もあるわ! 世界に一つだけのスーパーな御守りなの! ……でもね、凄い物だけどその分値段が高くて誰も買わないのよ。あぁ、何処かに高貴で富とカリスマに溢れた人は居ないかなって思った時にアンタを見かけたから声をかけたの」

「そ、そう? ふ……ふふ、私レベルになると見るだけでカリスマが溢れているように見えるものね」

 

 お姉様の満更でもない姿に霊夢さんは揉み手しながら笑顔で御守りを見せる。

 

「それで買わない? このスーパーな御守り」

「いくらなの?」

「たったの十万ポッキリよ」

「十ッ……」

 

 ちなみに幻想郷の通貨を現代に換算すると約、百万円である。

 

「……少し――」

「私、前からレミリアって凄いって思ってたのよ!」

 

 ――高くないかしら、とお姉様が言う前に霊夢さんが遮って大きな声で言った。

 

「紅魔館っていう巨大な館の主にしてあのツェペシュの末裔という高貴な血筋! それに幼い姿形から溢れ出るカリスマ」

「ふふん! そうそう! 霊夢もよく分かってるじゃない!」

「いや。お姉様お姉様、これ詐欺よ?」

 

 私が声をかけるけどお姉様は聞いちゃくれない。

 

「そんなアンタならこんな御守り買うなんてはした金で済むわよね?」

「当たり前よ! この私を誰だと思ってるの?」

 

 ふふんと自慢げなお姉様。あ、これ騙されたな。

 と思ったらさっきの華扇さんがなんかこっちに来た。

 

「どう? レミリア、買う?」

「えぇ! たかが十万、安い買い物だもの!」

「きゃーかっこいい! カリスマが溢れてて惚れちゃいそう!」

 

 あ、なんかお姉様を囃し立てる霊夢さんの後ろに華扇さんがスタンバッた。

 そして、

 

「こんの……」

 

 小さな声で呟いたあと、

 

「ばかものーーーーっっ!!」

 

 華扇さんの怒号が神社に響き渡った。

 流石仙人。霊夢さんもビビってた。でもそれだけじゃ怒りは収まらなかったらしい。華扇さんがさらに声をあげる。

 

「なんですかあの詐欺のような商法! それに最近、貴方は俗気にまみれすぎているわ!」

「ひっ……か、華扇!?」

「そりゃ人間だから多少の欲は必要でしょうけど、仮にも貴方は神に仕える巫女よ!? 今回のは流石に目に余るわ!」

「べ、別に商売くらい良いじゃない」

「よくありません! 手口が汚過ぎます! そもそも貴方のそういった堕落した性格が参拝客を減らしているのですよ!」

「でも相手が納得してるなら問題は……」

「話をそらさない! また修行したいんですか!?」

「うっ……わ、悪かったわよ」

 

 完全勝利だった。

 良かった、うん。というかお姉様も酷いけど霊夢さんも酷いよ。

 そういえば華扇さんにお礼言いそびれちゃったなぁ。

 今度お礼言わないと。

 何にしても今日は楽しかったなぁ……。

 

 

 #####

 

 読み終わってまずやることは一つだった。

 

「……霊夢さん?」

「…………、」

 

 早苗が尋ねると霊夢は素知らぬ顔でそっぽを向く。

 

「え? あれ詐欺だったの?」

「……いや、気付いてなかったんですかレミリアさん」

「だ、だって霊夢の言うことだし」

 

 レミリアとさとりの問答を見て早苗は再度問いかけた。

 

「霊夢さん?」

「……その、悪かったわよ」

 

 もう無理と思ったのか霊夢がレミリアに頭を下げた。

 完全勝利だった。

 

(……いや、何に勝ったのかは分からないけど)

 

 でもこれで後腐れ無くなったし良いか、とちょっとお節介な早苗は納得する。

 そして一行は次のページをめくるのだった――――。

 

 

 

 




 


 久々に一日で一話使った。
 書き終わってからそういやお姉様、被害に遭う時以外はあんま出てないなぁと気付いたので多分、もう少し出番増えます。


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九月編2『始めての麻雀』

 

 

 

 九月二日

 

 

 咲夜が変なお茶を淹れた。

 思えば春からだよね。福寿草を混ぜたお茶みたいに季節ごとの薬草を混ぜて出してくるの。

 あれちょっとやめて欲しいな。

 「季節らしさをイメージしてみました」って言うけど安易なアイデア料理は危険よ? というか季節らしさも皆無だし苦いだけだから。

 お姉様と一緒にシュガーを沢山入れて飲んだけどあんまり美味しくない。

 うん……うええ。

 今思い出しても舌に残る苦さが……。

 

 

 #####

 

「……あぁ、あったわね。そんなこと。というかそれは今もだけれどそれはどうなの? 咲夜」

「あらあら、今年のはキチンと体に良いものを用意しておりますわ。良薬口に苦しという言葉もありますが、もしやお嬢様は苦いものを口に出来ないと仰られますか?」

「べ、別に苦いものだって飲めるし! 変に邪推しないの」

「ではこのお話はここまでです。妹様――フランお嬢様にも同じようにお伝えしておきますわ」

 

 そう言って咲夜は優雅に礼をしてその場から消える。

 それから数秒。何やら考え込んだレミリアはあっ、と小さく声を上げた。

 

「……もしかして上手くはぐらかされた?」

「気付くの遅っ! え、気付いてなかったんですかレミリアさん!? フリじゃなくて!? マジで気付いてなかったんですか!?」

「そ、そんなわけないじゃない!」

「……レミリアさんレミリアさん、この場には心が読める覚り妖怪(わたし)がいることを忘れてませんか? 心の声がダダ漏れですよ」

「なっ、なんな―――!?」

「素直に認めなさいレミリア。変なところで意地張るからそんなことになるのよ。つかアンタの知能レベルは妖精か。うちの御神木に住んでる三妖精と対して変わらな……いや、もしかしてそれ以下?」

「そ、そんな筈が無いわ! この夜の帝王レミリア・スカーレットがそんな雑魚妖精なんかと同列かそれ以下だなんて!」

「馬鹿なのはどっちも一緒よ」

「というか夜の帝王ってもっと別の意味ですよレミリアさん」

「……早苗さんの意見は受け取り側の受け止め方で変わると思いますが……まあそうですね」

「うっ……うぐぐ」

 

 コテンパンにされてレミリアは何も言えなくなる。

 が、無言になれば敗北を認めたも同然のためそれも出来ないレミリアは仕方なく溜め息をついた。

 ハァ、と吐息を漏らすと少しだけ心が落ち着く。

 それからやることは簡単だ。

 

「こ、こほん」

 

 ちょっと意識してあざとく溜め息を吐いてレミリアはこの場を誤魔化そうとするような顔を作る。

 それから紅茶の入ったティーカップに手を掛けそっと持ち上げて、

 

「とりあえずこの話はここまでにしておきましょう。そろそろ次のページに――」

「レミリアあああ! 零れてるから! カップの中身零れてるから! 分かった! この話はここまでにするからまずはその傾けたカップを水平にしなさい!!」

「ん……!?」

 

 平然とした感じに話をしめようとしたが手に持ったティーカップが傾いて中身がジョバジョバとテーブルに溢れていた。

 慌てて霊夢がツッコミを入れるが時既に遅し。ビチャビチャと零れた紅茶がテーブルを伝ってレミリアのスカートにかかる。

 

「熱っ! 熱っつ!!」

 

 熱い液体にレミリアが悲鳴を上げた。

 なお、メイド長がやってきてレミリアを着替えさせ部屋の掃除までをも一瞬で済ませたことは言うまでもない。

 

 

 

 #####

 

 

 九月三日

 

 

 今日は寺子屋だ。

 慧音先生の授業は静かで良いね。

 皆寝てるからかな。授業に集中出来る。

 

「偉人にも面白いエピソードがある。例えば隋の文帝は浮気が奥さんにバレて家出をしたことがあるんだ」

 

 歴史って面白いよね。

 歴史上の人物って言われると普通の人と違うようなイメージがあるけど意外と身近に感じられるエピソードがあったりするんだよ。

 皆寝ちゃってて勿体無いなぁ。

 

「他にも外の世界の一万円札に描かれている福沢諭吉だが、彼は禁酒中に「ビールは酒じゃない」と言ってよくビールを呑んでいたらしい」

 

 ビールはお酒じゃない、か。

 なんだろう。なんか頭の中で神主さん――以前ライブの時にあった緑のハンチング帽をかぶったあの人が笑顔でビールジョッキを持つ姿が幻視出来たよ。

 いやでも……気のせいかな? 気のせいだよね。

 

 #####

 

「偉人のエピソードですかぁ。私は理系なのであまり詳しくありませんが……」

「ビールは酒じゃない……ねぇ?」

「……むしろ最近じゃお酒の代名詞ですよね」

「というかフランの言う緑のハンチング帽の人って誰よ?」

「レミリア、それは禁則事項よ」

 

 霊夢が指を唇に押し当ててシー、と呟く。

 納得いかないレミリアだがなんとなく首を縦に振った。

 

 

 #####

 

 

 九月四日

 

 

 人里で魔理沙と会った。

 なんか麻雀をしに行くらしい。良かったら付いてくるか? と誘われたので付近の雀荘に行くことにした。

 でも私ルール分からないし役も知らないけど良いのかな。

 ともかく雀荘に行くと既にざわざわと里人達が雀卓を囲んで麻雀をしていた。どうやらレートがあるみたいでお金を掛けてやる卓が大半らしい。無料のところはあまりなかった。

 とりあえずルールが分からないから魔理沙のを見てたけど雰囲気だけで結構楽しめたよ。

 

「ロン、満貫だぜ。ほらサッサと払いな」

 

 魔理沙は結構強いみたいだった。

 何が起きてるか分からなかったけど見てて楽しかったよ。とりあえずルールブックを貸してもらってようやく分かったけど、でも難しいなぁ。

 と思ってたらなんか近くにいた白髪でやたら鼻とアゴの長い人に打たないかと誘われた。賭け麻雀じゃなくて普通に打たないかとのことなので、初めてだけどやってみることに。

 勿論ルールブック片手にだ。

 数分で四人集まったので、早速卓を囲む。

 

「狂気の沙汰ほど面白い……」

「さて、()つか」

「御無礼」

 

 なんでだろ。そこから先の記憶が薄らぼけだ。

 なんか叩き潰されまくって、残り点数がほぼゼロまで追い込まれたところで一回だけ上がれた気がする。

 すごーく点数の低い上がり方だったけど。気が付いたらさっき打った三人は帰ったのか姿を消していた。

 でもこれで終わらなかった。今度は女の子に誘われたんだ。また四人集まって打ち始める。

 

「麻雀って楽しいよね!」

「(……見た所この嬢ちゃんはトーシロ……っ! 勝てる……っ! まずは普通に打ってそのうちレート有りに誘い込めば……っ!)」

「不思議なマジックだよ。何あるか分からんよなぁ、素人は」

 

 なんか鼻とアゴの長い人が嶺上開花されまくってた。

 イカサマだ……っ! 皆もそう思うだろ……っ!? ほら、ノーカン! ノーカン! って叫んでた。多分その人の台詞じゃない気がしたけどまあそれは良いや。

 私もルールブックを見ながら一回上がれたよ。でも役がバレバレなのかすぐに看過されちゃってた。

 意外とやってみると面白かったけど、お姉様あたりが聞いたら怒りそうだなぁ……。麻雀ってイメージ的に。

 まぁ日記に書いてる時点で別にバレても良いけどさ。

 

 #####

 

 

「……麻雀。白黒魔法使いめ……」

「別に良いんじゃない? 将棋とかと大して変わらないでしょ」

「で、でもイメージ的に……咲夜もあまり教育に良くないとか言ってたし」

「最近じゃそんなことないですよ。むしろ漫画読んでネット麻雀やってる人も多いですし」

「……麻雀ですか。将棋もそうですけど私は出来ないんですよね。全部心を読んで分かってしまうので」

 

 勝ってもイカサマと言われますし、とさとりが言う。

 

「あー……うん。それは、何ともコメントしづらいわね」

「……ともかく次のページいきましょうか」

 

 そう言って反応しづらい話題に空気が重くなったのを感じた早苗は次のページを開いた。

 

 

 #####

 

 

 九月五日

 

 

 今日はにとりさんのところに行った。

 機械のことを教わるためだ。

 試しにと言うことでにとりさんの持ってた壊れた携帯電話二個を使ってニコイチをすることになった。

 ニコイチというのは、壊れた機器の壊れてない部品同士を使って直すことを言うらしい。

 まずは分解してそれぞれパーツを忘れないように置く。

 それから壊れた部品と壊れてない部品を組み替えて直していく。

 携帯ってやたら細かいね。あとパーツが多い。

 とりあえず指示を受けながらやったら上手くいった。ちゃんと画面もついたし。

 ただ旧式の携帯電話なせいか、電話とメールしかできないっぽい。

 ウェブもやろうと思えば繋げるけど最低限だし……。

 ……iPhoneのパスワードさえ分かればなぁ。

 無縁塚で拾った携帯を見つめながら私はそう思った。

 

「……あ」

 

 いや、待てよ。もしかしたら?

 

「キュッとして……」

 

 一つ思いついた私は憶測の域を出ないまま能力を行使してみることにした。

 まずは左手でiPhoneを起動してパスワード画面まで表示する。同時に右手で能力を発動だ。破壊対象は携帯のパスワード。

 正直どうなるか分からない。携帯ごとボンッ! ってなる可能性もあるけどその時はまた無縁塚に行くまでだ。

 そして私はパスワードを破壊する――――!

 

「どかーん!」

 

 瞬間、iPhoneの画面がブレた。

 ザザッと砂嵐のように画面が震えて暗転する。

 ……壊れちゃった? 嫌な予感がしたけどそっとiPhoneの画面を起動し直してみる。

 すると――、

 

「あっ……ついた」

 

 画面がついた。それもパスワード画面じゃなくて、普通に開いていた。パソコンで見た通りの画面だ! 四角いのが沢山あってタッチするとソフトが起動する。

 それから設定で色々弄ってみると前の人のものらしいパスワードとかメールアドレスとかが登録されていたので改変。

 ……まさか機械の中にまで能力が通用するとは私も思ってなかったよ。というかその発想に行き着けた自分にビックリだよ。

 ……にしても案外やってみれば出来るものなんだなぁ。

 

 #####

 

 

「もうこれ何でも有りですね」

「早苗、あんただけには言われたくない」

「霊夢霊夢、それ霊夢の言える事じゃないわ」

「……運命を見れて軽く弄れるのも大概だと思いますが」

「さとりにも言われたかないわよ」

「「「「………………、」」」」

 

 そして誰も話さなくなった。

 無言で次のページをめくる――――!

 



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九月編3『保健体育』

 


 


 

 

 

 九月六日

 

 

 今日は諏訪子ちゃんのところに行った。

 守矢神社で会って、色々お話ししたよ。

 諏訪子って洩矢様なんだよね。最初はてっきりカエルの神様かなって思ってたけど、呪いの神様。

 やっぱり見た目の割に話し方が達観してる。私は相手によって意識して言葉遣いを変えてるけど諏訪子ちゃんが相手の時は困るなぁ。

 友達だから敬語じゃないけど、それでも真面目な時は真面目にしたいよね。

 あ、そうそう。話を戻そうか。

 諏訪子ちゃんと遊んだり話をしたりしたけど、その中で弾幕ごっこもやった。

 やっぱり神様というだけあって強いね。私もかなり本気でやったけど負けちゃったよ。大分避ける訓練はしてたのになぁ……、私の能力は弾幕ごっこに向かなくて諏訪子ちゃんの能力は弾幕ごっこに有効活用出来るとはいえそれでも悔しい。

 でもかなり追い詰めることは出来たみたいだ。

 

「はぁ、はぁ……なにかなその力。フランは本当に吸血鬼だよね?」

 

 結構荒い息吐いてたし。運動不足かな? たかが二時間くらいフルで動いただけなのにね。

 にしてもやっぱり強いなぁ。次回は気とか使ったり、剣で真空波を放つことも取り入れてみようかな。

 まだ余力は残してそうだし今度遊ぶ時が楽しみだよ。

 と、そうだ。ともかく受け答えしないとね。

 

「うん、吸血鬼だよ。純度100パーセント間違いなく」

「……フラン、ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

 

 なんだろう、急に諏訪子ちゃんは真面目な顔で私を見る。

 私が次の言葉を待っていると彼女はこう言った。

 

「あんた……僅かだけど神格が宿りかけてるよ?」

「え?」

 

 神格? 神格ってアレだよね。

 神様の力とかそういうやつだよね?

 

「あぁ、そうだけど神様ってレベルじゃないけど僅かに神の力があるような……そんな感じがしたんだよ」

 

 え? なんで神格宿ったし? 割と真面目に分かんない。

 私、宗教と全く関係無いんだけど。いや待てよ。最近外の世界じゃありとあらゆることが簡略化されてるって聞くし、もしかして神様になる条件も仏教とかキリスト教について詳しくなるだけでなれるとかそんなことになってたりする?

 

「えっと、どんな神様の力を感じるの?」

「うーん……多分信じ難いけど、イエス・キリストのような……そういえばフランと彼は同じゲームをやってたとか――いや、やっぱり気のせいか。そんな筈がないもの、数百年前より吸血鬼とキリスト教は敵対してるしね。変なことを言った、忘れてほしい」

 

 私も耄碌してきてるのかなー、と諏訪子ちゃんが言う。でも目が据わっていたので多分何か思い当たることでもあったのかもしれない。

 いやでもまたイエス・キリスト? 森近さんが言うには私のパソコンが付喪神化したのもその人だよね。

 イエス・キリストと接点なんて無いのに。変な話だなぁ。

 

 

 #####

 

 

「本当よね! もしフランにイエス・キリストと接点なんてあったらそれこそ紅魔館で会議モノよ! 変な言いがかりつけないで欲しいわ!」

 

 大げさにレミリアが言う。声を荒げているので多少なりとも思い感じるところがあるらしい。

 その彼女から隠れるようにボソッと霊夢は早苗に尋ねた。

 

「……ってレミリアは言ってるけど、早苗。実情はどうなのよ?」

「……実は以前守矢神社にシッダールタとキリストが来まして、その時にフランさんも会ってます。あとフランさんは気付いてませんが、ゲームでイエスさんのギルドに加入しているとか。パソコンの付喪神化も恐らくそれが原因かと。神の力を纏ったのは『イエスさん→付喪神パソコン→フランさん』という構図で力が流れたのではないでしょうか?」

「……では洩矢様がそれをフランさんに告げなかったのは何故でしょうか、早苗さん?」

「……イエスさんとフランさんの両方に気を遣ったのでしょう。フランさんももう直接イエスさんと会うことはないでしょうし、それなら変なことを言って騒ぎ立てるより時の流れに任せてその身体に纏った神力が消えるまで待ってしまえと判断したのだと思います」

「……なるほどね。何にせよこれ、レミリアに言えないわね」

 

 三人は小声で呟きあってレミリアを見る。

 レミリアはプンプンした様子で怒っていた。

 

「まったくもう! 失礼しちゃうわ!」

 

 その様子を見て三人は呟く。

 

「…………、言えませんね」

「…………そうですね」

「……そうね」

 

 上から早苗、さとり、霊夢の言であった。

 

 #####

 

 

 

 九月七日

 

 

 お姉様がご乱心だ。

 変な生き物を沢山連れて来た。ホフゴブリンというらしい。

 なんか気持ち悪いし怖いんだけど。

 でも話してみると気の良い人達だった。最近、外の世界で座敷童が必要になったとかで人里の家から座敷童が消えてしまったらしくその代わりに連れてこられたそうだけど見た目が怖くて退治して欲しいという依頼が博麗の巫女の元にまでくるようになって、で当の座敷童も帰って来ちゃったことで居場所がなくなったらしい。

 それでお姉様がホフゴブリン達を紅魔館で住まわせると言った。

 かなり手先は器用みたいで掃除も丁寧にしている。

 けどメイドの先輩としてはまだ甘いと言わざるを得ないね! 丁寧にしているけど仕事に求められるのはいかに丁寧に、いかに早く、いかに正しく行うかだ。それぞれの掃除の仕方がまるでなっちゃいない!

 とりあえず目についたツッコミをしよう。

 

 なんで床拭いた後に天井とか照明のゴミを落とすの!?

 意味ないじゃん!? で、また床を拭くって二度手間じゃん!?

 それから汚れが取れないからってたわしで擦るな! 床が傷付くから! あと妖精メイド! 何水入れたバケツぶちまけてるんだよ!! あ、こら! 放置して逃げるな!

 それと大浴場組! カビキラーやったあとすぐに流すな! それ意味無いから! カビキラーとかは十分単位で放置しないと意味無いから!

 

 他にも多数。ツッコミで疲れたよ。

 というか咲夜と二人で回した方が早いよこれ。

 でもちゃんと指導すれば使えるようになるのもまた事実。特にホフゴブリン達は意外に文句言わずちゃんと仕事してくれるし。

 

 思ったより良い拾い物……なのかな?

 

 

 #####

 

「あー、あったあった。一日中フランの声が聞こえたのよ。全部これは違うそれは違うって感じだったけど、懐かしいわねぇ」

「へぇ。それはそれは……」

「というか内容は結構普通ですね、前は真鍮製のがどうたらこうたらって感じだったのに」

「……最初ですから本当に普通の掃除だったんでしょう」

 

 

 #####

 

 

 九月八日

 

 

 寺子屋だ。

 

「よし、じゃあ授業を始めるぞー」

 

 でも慧音先生はお休み。ちょっと迷いの竹林に行ってるらしい。

 なので今日はあの男の先生と……、

 

「皆さんこんにちは。前回は色々とすみませんでした」

 

 久々に鈴仙さんが来た。

 ……耳が取れて、クラス全員狂気……うっ、頭が。

 と、ちょっと嫌なことを思い出してしまうけど今回は真面目にやるらしいので多分大丈夫だろう。

 

「今回は鈴仙先生による保健の授業だ。じゃあ鈴仙さん、よろしくお願いします」

「はい。お任せください!」

 

 ピョンっと小さく跳ねて鈴仙さんが敬礼する。

 さてさて保健体育か。何やるんだろう?

 と、思っていると鈴仙さんが背負っていたバッグからプリントの束を取り出した。

 

「今日はですね。皆さんにちょっとした小テストを作ってきました!」

 

 テストか。それなら前回みたいにならないね。

 早速配られたテストを解いていく。

 で、全部解いてから皆の答えを見て回ることになった。でも、一人酷い答えの人が居たよ。

 例えば。

 

 問、幼児は2〜3才になると三語文を話すようになります。その例を示しなさい。

 

 解答、(ババァ、金、貸せ)

 

 なにその子供!? その子の将来を考えると悲しくて涙すら出てくるよ! 私には子供いないけど。

 ちなみに私の答えは(おねえちゃんと、つみきで、あそんだ)だ。シンプルだけどこれで良いと思う。というか三歳児で言葉遣い悪過ぎるよ!?

 じゃあ次に行こうか。

 

 問、出産時に母体のお腹を切って子供を取り出すことを何と言いますか?

 

 解答、(切腹)

 

 おいいいいいい!! それ死ぬから! 子供ごと死ぬから! というか病院で切腹って医者が「介錯つかまつりまする!」みたいに言うと思ってんのこの人!? ちなみに答えは(帝王切開)だけど切腹って書く理由が分からない!

 そして次だ。

 

 

 問、なぜ、皆さんは洋服を着るのですか?

 

 解答、(防御力を上げるため)

 

 ゲームか! というかこの人本気で防御力上がると思って洋服着てんの!? 普通に寒さを防ぐためだよ! 人間は進化の過程で全身の毛を大きく失ったから冬場とかは服着たり防寒しないと寒さで死ぬの! なんだよこのボケの応酬!? 解答ふざけてるのかなこの人!?

 ……次にいこうか。

 

 

 問、悪いことをしたときにアナタは何をしなければいけませんか?

 

 解答、(土下座する。靴を舐める)

 

 なんで子供のうちにそんな処世術を覚えてるの!? 今まで生きてきた中で何があったの!? というか靴舐めは普通に相手も不快感あるからっ! 普通にあやまろうよ! 子供のうちはただそれだけでいいんだよ!!

 ……いいかげんツッコミ疲れてきたけど次いくよ。

 

 

 問、腕から出血した場合は腋を、足から出血した場合は太ももを強くしめます。では頭から血が出た場合はどこをしめますか?

 

 解答、(首)

 

 死ぬから! 別の意味で死ぬから! 具体的には息出来なくて死ぬから! なにこの人!? この人、万が一頭から血を流してる人を見つけたとき迷いなく首しめにいくんだよね!? 怖いよ! 無自覚系殺人犯だよ!

 

 

 問、今この問は何問目?

 

 解答、(六問目)

 

 とうとう問題の方がボケだした!? いや問題がボケちゃ駄目でしょ! 私も解いてるとき思ったけども!

 

 

 問、あなたの目の前で人が倒れました。あなたがまずすべきことはなんですか?

 

 解答、(応援する)

 

 応援してる暇があって安否確認しなよ!? 息してるかとか思い浮かばなかったの!? というか応援するなよ! 倒れている人を応援する構図ってどう考えても犯罪的だよ!

 

 ……はぁ、はぁ。

 ともかく疲れた。授業でこれだけ疲れたのは久しぶりかもしれない。

 鈴仙さんも普通に授業出来て安心したのか最後は嬉しそうに帰って行った。

 

 #####

 

 

「……まぁ、楽しそうで良いんじゃない?」

「投げやり!? というか他に感想はないのかしら!?」

「だって……ねぇ?」

「そうですねー……」

「……話の中だけでツッコミが終わってますし、ねぇ」

 

 各々呟いて、一同は次のページをめくる。

 

 



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九月編4『弾幕鬼ごっこ』

今日はこれ以上書く時間が取れないので短めです。








 

 

 

 九月九日

 

 

 今日は妖忌さんと修行だ。

 今回は妖夢さんも一緒だった。それぞれ竹刀を渡されて、二人で打ち合いをしろとの事だったので本気で斬りかかる。

 スペカとか弾幕とか剣技以外は禁止というルール。となれば分身も無しだし先手必勝だよね。

 でも流石先輩。軽く避けて突きを入れてきた。でも私も避けることに関しては負けない。ひらりと回転して回避するとそのまま突きをお返しする。

 

「――チィッ!」

 

 でも、外された。

 突きを放った竹刀の横腹を蹴飛ばされて切っ先がブレる。

 だけど妖夢さんもまだ竹刀を突き出したままの状態だ。直ぐに斬りかかることは出来ない。と、思った瞬間に彼女は竹刀を地面に突き刺すと体ごと宙に跳び上がった。一瞬、彼女の姿を見失う。

 

「魂魄流――飛天!」

 

 直後だった。

 宙に跳び上がった妖夢さんは地面に突き刺した竹刀を抜くと上段に構え振り下ろす。ちょうど背後から私の頭から胴体までを切り裂く位置だ。しかもそれだけじゃない。刃から覇気のような力が漏れている。恐らく斬撃剣だろう。回避は不可能ーーならば。

 

「レーヴァテイン!!」

 

 受け止める! 私は振り向きざまに灼熱の炎剣で上段振り下ろしを正面から受け止めた。

 放たれる斬撃剣と灼熱の一撃がぶつかり合って火花を撒き散らす。

 でもどっちが有利かは明白だろう。方や地に足をつけていて方や体が宙に浮いている。暫しして妖夢さんが不利だと悟ったのか後方に飛び退った。

 そして互いにまた構え合う。

 

「…………、やるね」

「…………こちらのセリフです」

 

 私の苦手な近接とはいえ吸血鬼とタメを張れる動きってのも中々だと思うけどね。お姉様は近接が得意とか言ってたけど、お姉様相手でも良い勝負出来る気がするよ。

 と、間合いを見極めるのもこれくらいにしようか。

 

「じゃあ次いくよ」

 

 一度剣を振るって纏っていた炎を消散させた私は剣をぐるりと回転させる。妖忌さんには通じなかったけど妖夢さんはどうかな?

 

「――――九頭龍閃!!」

 

 神速の九連撃。

 目にも留まらぬ速さで繰り出されるーー罪袋さん考案の技。妖忌さんには九回斬ってくるなら十回斬り返せばいいじゃない、という無茶苦茶理論で防がれたけど、弟子の妖夢さんならどうだろうか。

 一閃、二閃。防がれる、流石にそれは容易いらしい。でも三、四閃するとその動きが徐々に鈍くなってくる。

 

「……ッッ!!」

 

 五、六閃。辛うじて防いだ。だが腕に痺れを感じらしい。顔が苦痛に歪んでいる。

 七閃、八閃。今度は体を捻って回避した。けど無理な体勢になってしまっている。剣を振れる体勢ではなく、また避けるのも不可能な状況だ。

 そこにーー最後の一撃を叩き込む!! 

 竹刀が的確に妖夢さんの鳩尾を貫いた。

 

「……え?」

 

 竹刀が妖夢さんの体を突き抜けた。

 その事実が私の思考を一瞬止めた。直後、目の前に居た妖夢さんがドロンと半霊に変わる。いつも妖夢さんの側にくっついている半霊だ。入れ替わったの? いつ――?

 

(……跳び上がった時、か!)

 

 そうだ。妖夢さんが宙に跳び上がった瞬間、私の視界から一瞬彼女の姿が消えたんだ。

 その時入れ替わったんだろう。でももう一つ疑問はある。

 

(本物の妖夢さんは何処に――――!?)

 

 そう、首をぐるりと回して妖夢さんの姿を探そうとした瞬間に。

 

「これで――勝負アリですね。少しは先輩としての分を見せれたのではないでしょうか?」

「っ!?」

 

 背後から声がした。横目で見ると、首筋に竹刀を押し当てられている。そして妖忌さんの声が飛んでくる。

 

「試合終了じゃ、互いに離れい」

 

 ――負けた。

 大体こんな感じだったと思う。最後の分身だけど魂魄流の奥義の一つらしい。半霊の私もほぼ剣技に関しては私と変わらない力を持っていますので、真正面から九頭龍閃を受けたら打ち負けていただろうって妖夢さんがフォローしてくれた。

 やっぱり先輩は強いなぁ。

 ……もっと精進あるのみ! 頑張らないとね!

 

 #####

 

 

「まだまだ精進って書いてあるけどなんで初めて数ヶ月そこらで何年もやってたやつと互角にやれるのよ……私はそこを言いたい」

「霊夢さん霊夢さん、この中で一番の天才肌である貴女だけはそれ突っ込んじゃダメです!」

「というかこのメンバー全員同じ速度で出来るでしょ。霊夢と私は才能で、風祝は奇跡で。それから、白黒魔法使いから聞いたけど地底のアンタも『想起』って言って他人のスペルを真似ることが出来るんだろう? なら白玉楼の半人前の技も出来るんじゃない?」

「……そうですね。可能とだけ言っておきます」

「じゃあ普通のことじゃない」

「……あの、それを言ったら妖夢さんが才能無いみたいに聞こえるんでやめません? この話。身近で見た時ありますけど剣技、本当に凄いですよ?」

「……仕方ないわね」

 

 妖夢と知己な早苗が抑えめに言うと三人もそれに従った――。

 

 #####

 

 

 九月十日

 

 今日は皆で遊んだ。

 メンバーはチルノちゃん、大ちゃん、リグルちゃん、ミスティアちゃん、ルーミアちゃんのいつものメンバーに加えてサニーちゃんルナちゃんスターちゃんとクラピちゃん。

 結構大所帯だね。

 で、弾幕鬼ごっこをやった。

 ルールは最初に一人が鬼になって、全員を追い掛けながら弾幕を撃つ。当たった人は鬼グループに加わっていって、最後の一人になるまで弾幕を撃つ。

 ただもう一個ルールがある。最初に鬼の人は一度誰かに当てたら逃げる側のグループに入れるのだ。そうしないと鬼の子が優勝出来ないからね。

 で、最後に残った子が優勝!

 

 というわけで早速開始だ!

 最初のジャンケンで負けたのはチルノちゃん。毎回グーしか出さないもんね、仕方ないね。

 それから一時間くらいする間に私とルーミアちゃんとクラピちゃん……あと大妖精ちゃん以外が鬼になった。

 大妖精ちゃん、意外だなぁ。弾幕ごっこ得意なのかな?

 他はまぁ妥当だよね。ルーミアちゃんは中にEXがいるし、クラピちゃんは地獄の妖精とかいうくらいだからかなりの実力者だと思う。私は私で種族的に皆と差が付いてるし。

 で、ここからがかなり酷かった。

 

「おりょ、フラン発見!」

 

 クラピちゃんが私を見つけて何をしたと思う?

 

「悪いけどあたいの優勝のための餌食になれ!」

 

 弾幕を撃ってきたよ。当たり前のように。ついで能力で幻惑まで掛けてきたよ。酷くないこれ?

 全部破壊したけどさ。

 

「いや文句言ってるけどフランちゃんも大概チートだよ!?」

 

 そのとき大妖精ちゃんのツッコミが聞こえたのは気のせいだろう。

 うん、気のせい気のせい。叫んだ直後にクラピちゃんに撃たれて悲鳴を上げながら落下する大ちゃんの姿なんて見てないから、うん。しかも鬼チームに追撃されるように弾幕ぶち込まれる姿なんて見てないから……。

 ともかくだよ!

 ただやられっぱなしってのは性に合わないからさ。クラピちゃんを追い掛けていくと視線の先にルーミアさんが見えた。

 ルーミアさんだった。ルーミアちゃんじゃなくて。

 

「見事な腕ね。でも残念♪ 幻覚、この子には効いても私には効かないの。ほら、自分の技を受ける気分を味わいなさい」

「なっ……!? わばばばば!」

 

 あっ……私がやる前にクラピちゃんが倒れた。

 というかえげつないことするねルーミアさん。クラピちゃんがルーミアさん見るの初めてで戸惑っているところで一気に技かけるとか……。

 私も初見だったらやられるよ? 多分。まぁ破壊するけど。

 

「おっ、クラウンピース発見! とりゃー!」

「ぬわーーーーッッ!!?」

 

 あっ、チルノちゃんにクラピちゃんが撃墜された。

 というか幻惑で動けないクラピちゃんをルーミアさんが盾に使った。なんて酷い……これが大人のやることなの!? 

 とか思ってたらいつの間にかルーミアさんの姿が無い。

 

「フラン、まだルーミアが動けないから私が相手するわ」

「――――!?」

 

 と思ったら後ろにいた。最近私、背後を取られすぎな気がする。

 今度人里にいるっていう狙撃手(スナイパー)に弟子入りしようかな? 「俺の後ろに立つな」って感じのこと言って背後を取らせない人とかいるって聞いたし。

 

 ともかく結果だけ言おうか。

 負けたよ! 普通に負けたよ!

 大人って卑怯だしエグいよ! なんか暗闇を使って自分だけ隠れて私対全員の形を作るし! 能力の副次効果で破壊対象が見えるからそれで判断して弾幕を避けてたら物理攻撃(ダイレクトアタック)仕掛けてきて集中を削ぐし!

 最後にはなんか自分の影に拘束されて動くことすら出来なくされたよ! もう大人なんか嫌いだー!

 

 #####

 

 

「……あらら」

「これは……」

「……酷いですね」

「エゲツないわね……」

 

 上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの言であった。

 




 


 二日しか進んでない……。
 次回あたりサラサラと日にち進めます。
 


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九月編5『レミリアさんのご乱心』

 

 

 

 九月十一日

 

 

 今日、咲夜と一緒に買い物に行った。

 紅魔館での仕事は大体済ませてあるし、最低限のことを覚えてくれたホフゴブリン達がいるのでゆったり色々見て回った。

 小鈴さんのところに行って挨拶ついでに新しい本を借りたり、街中でばったり会った阿求さんと世間話したり、それから美味しいって噂のお蕎麦屋さんでお昼ご飯にしてから陶器の店を見た。

 お茶碗とか皿とかが沢山ある。

 紅魔館のお皿って基本純白のお皿なんだけど。陶器職人が作り、絵師が絵を描いた和風なお皿も良いよね。

 でも今回気になったのは和風技術で作った洋風のお皿じゃなく、湯呑みだ。

 

 黒塗りの漆のされた湯呑み。アクセントに白い花が描かれていて、それはそれは職人技って感じのやつ。

「あの、すいません。これのお花ってなんの花なんですか?」

「ん? あぁそいつぁ月下美人ちゅーてなぁ。年に一晩しか花を咲かさないのよ。大輪ながら儚さを感じさせる花でな、女子(おなご)どもに人気っちゅう話じゃから絵師に書かせたんじゃ」

 

 ……理由はともかく良い陶器だよね。

 魂のこもった職人の湯呑みに繊細な絵を丁寧に描き上げた逸品。

 二組セットだったので買った。勿論私のポケットマネーで。

 で、片方を咲夜にあげた。すると「ふ、フランお嬢様……よろしいのですか?」と確かめてきたので「勿論。いつも咲夜にはお世話になってるから、今度これで一緒にお茶しましょ?」って答えたら涙ぐんで喜んでくれた。

 ……そんなに嬉しかったの? 何だかくすぐったいけど、まぁ喜んでくれたなら私も嬉しいな!

 

 

 #####

 

 

「咲夜、これはどういうことかしら。私はフランから湯呑みなんて貰ったことないわよ」

「……いえ、お嬢様と妹様はいつも紅茶をお飲みになられているので湯呑みは不必要だと判断したのではないでしょうか?」

「やっぱりカリスマ(笑)な姉よりいつも尽くしてくれる従者の方があの子も好きなんじゃない?」

「霊夢さん! 言っていいことと悪いことがありますよ! いくらレミリアさんがその通りのカリスマ(笑)でものすごーく痛い中二病患者でバシュゴォであったとしても! また鏡の前で魔法少女のコスプレをしてポーズを取っちゃうところを人に見られるポンコツだとしても! それでも人には口にしてはならないことがあります!!」

「……早苗さん、言っていいことと悪いことがありますよ? あの、レミリアさん泣いてますから」

「……な、泣かないわよ? こ、こんな程度で……? か、カリスマもあるから! 中二病も違うし! バシュゴォ……あ。あ、あ……」

「レミリアがトラウマを思い出した!?」

「……れ、レミリアさんしっかり! 気を確かに!!」

「……あれ?」

 

 ただ霊夢さんの言葉を諌めようとしただけなのに、あれ?

 何かおかしい気がする東風谷早苗は首を傾げた。

 

 #####

 

 

 九月十二日

 

 気がつくと九月半ば。もうすぐ寺子屋の球技大会だ。

 九月に球技大会。十月に文化祭って結構一気にイベントを消費するよね。

 他のクラスの子達との練習試合も増えてきた。

 ちなみに球技大会の種目はドッジボールだ。でも妖怪達だってあって皆投げる球が速いよね。スピードガンで測ったら百三十キロとかだった。

 試しに私も全力で投げ込む。とはいえコントロールした上での全力だ。記録は……一六五キロ。うん、私人のこと言えないや。

 あとルナちゃん、ちょいちょい転んでるけど大丈夫?

 顔面からいってるよ? あとクラスメイトに「口みたいな栗しやがって!」とか言われてるし。

 ともかく弾幕ごっこ経験者も多いし皆避けるのも取るのも上手いから本番は楽しめそうだね。

 

 

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「……タイムリーなネタですね。外の世界でも丁度野球の日本最高記録が――――」

「早苗早苗、そのタイムリーなネタってのはしばらく経てばタイムリーじゃなくなるからやめときなさい。あとから来た人の為に。ちゃんと考慮しないと減るわよ?」

「何の話ですか!? というか何が減るんですか!?」

「……えっと霊夢さんの頭を覗く限り『どくしゃ』が減るとありますが、その」

「霊夢って時折天然なのよね。だから放っときなさい」

 

 やれやれとレミリアが突っ込んで次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 九月十三日

 

 またお姉様がご乱心だ。

 今日は寺子屋の日だったんだけど、慧音先生が他クラスの授業ということで副担任の先生が教卓に立ってたんだ。

 それで先生が言うことには「今日は特別講師が来るぞー」ということらしい。今回はどんな先生が来るのかな、とワクワクして教室の扉を見つめていると入って来たのはお姉様だった。

 ()()()()()()

「初めまして、私は紅魔館当主のレミリア・スカーレットよ」

 お姉様は入って来るなり教卓の前に立って優雅に礼をする。いや、なんでいるのさ。そんなツッコミをさておいて副担任の先生が続けてこう言った。

「彼女はこう見えて異変を起こしたこともある人でな、それで異変といえば幻想郷の一大事だろう? そこで異変を起こした首謀者である彼女に異変を起こした理由と、万が一異変に巻き込まれた時の対処法を教えてもらう。ではレミリアさん、よろしくお願いします」

「ククク、任されたわ」

 お姉様は不敵な笑みを浮かべると、教卓の前から先生が立つ教卓の裏に戻って――、

「……あれ、教卓思ったより高――」

「あ、すみません。椅子使いますか?」

「あ、ありがとう。お、お礼はちゃんと言えるわ」

 思いのほか高かった移動教室の教卓で私達の姿が見えなくなったのか戸惑いの言葉を上げたところで副担任の先生が椅子を持って来る。

 お姉様は複雑な表情でそれに乗ると腕を組んで改めて話し始め――、

「――あの」

「なんです?」

「……横に立たないでもらえる?」

「何でですか?」

「えっと……その、椅子に乗った私より背が高い人が横にいると……その、悲しくなるのよ」

「???」

「と、ともかく! 図が高い!」

 あれれ、授業の壊れる音が聞こえたぞー?

 何だろう。お姉様は横に立ってサポートする形の副担任の先生が気に入らないらしい。先生、身長高いからなぁ。隣に立つと大人と子供というか……まぁ大人と子供だけど何かお姉様の琴線に触れるところがあったのだろう。

 先生は全く分かってないらしく首を傾げるばかりだ。そのうち恥ずかしくなって来たのかお姉様は叫んだ。

「とっ、ともかく授業よ!」

 うわ、声うわずってるよ。あとさっきのやり取りが恥ずかしかったのか頰真っ赤だよ。なんか他人なら微笑ましいんだけど姉だからかただただ残念としか思えない……。

 それからお姉様は異変を起こした理由と、お姉様が起こした異変の内容を話し始めたけど説明が下手!

 簡単にまるっとかけば幻想郷を紅い霧で覆えば太陽の光に当たらなくて済むってことなんだけど。

「この邂逅は世界が選択せし定め――我が名はレミリア! 吸血王ツェペシュの末裔にして、最強の体術と神槍グングニルを操りし者! そんな私が作った歴史の一ページを知ることを汝らは欲するか? ならば、我の話をとくと理解する覚悟をせよ!」

 ーー痛い! 開幕から痛い! しかも無駄に格好付ける為か話し始める前にパチュリーの魔法か何かで早着替えまでしてやがったよ! 魔法使いっぽい衣装に眼帯まで付けて完全装備だよ!

 副担任の先生もなんか困ってるから! 「あれ、なんかこいつ頭おかしくないか」って顔してるから!

 うぅ……妹として恥ずかしいよ。

「世界が紅霧に塞がると共に――幻想郷の命脈も尽き果てる!」

 超ノリノリにお姉様は言う。痛い――ただ痛い。

 でも、

「なんか面白いなこの人」

「ノリノリだな」

「可愛いから許せるな、うん」

 意外と高評価! ただ妹目線だと痛いし恥ずかしいだけだよお姉様! 意味不明言語喋ってればカリスマに見えるってわけじゃないんだよ!?

 あと椅子の上で暴れたら危ないから! もうグラグラしてるから! と思った側からドンガラガッシャンと音を立ててお姉様が椅子から落ちーー、

「おっと……危ない危ない。こんな事もあるかと横に立ってて良かった。お怪我はないですか?」

 る前に副担任の先生が空中でお姫様抱っこでキャッチ!

 凄いよ先生! なんか物語の主人公みたいだよ! タイミングといいキャッチの仕方がお姫様抱っこなのといい!

 お姉様も流石に恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてた。「離しなさい!」って叫んで立ち上がってから「ぁ……その、ありがとう」のコンボって中々凄いね。

 前に早苗さんが言ってた『可愛く見せる方法』だ。まさか実戦でやるとは……というかお姉様それ知ってたのね。

 結局その後は差し障りのない感じで授業が終わった。

 ちなみに寺子屋の中でお姉様の呼び名が『頭のおかしい紅魔の子』になった。

 

 

 #####

 

 

「ほうほう、お姫様抱っこねぇ?」

「やりますねー、ヒューヒュー」

「べ、別に変な意味は無いわよ! ただ……男の人にあんな事されたの初めてだったから……」

「……レミリアさんレミリアさん。その言い方だと完全に誤解を生むのでやめた方が良いですよ」

「あんなこと、ねぇ?」

「それはどんなことですかねー?」

「……ほら、早速語弊が」

「……あれ?」

 

 ポンコツ系少女、レミリア・スカーレットは首を傾げた。

 だがすぐさま空気を変えるべく彼女は叫ぶ。

 

「そ、それより頭がおかしいとは何よ! 失礼ね!」

「いや、レミリア。読んだ限り頭がおかしいと思う」

「同じくです」

「……以下同文です」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……………………。

 全員黙りこくった空間で、誰かが静かに次のページをめくった。

 

 

 #####

 

 

 九月十四日

 

 

 今日はバイトだった。

 香霖堂。魔法の森という超が付くほど立地が悪い、商売する気があるのかと言われてしまう辺鄙な土地にあるお店。

 ボロクソに言ってるけど真実なので仕方ない。

 ともかく森近さんに顔を見せると「久しぶり。手紙を読んだけどやっぱり直接顔を見た方が安心するね」との返事。

 手紙……? あぁ、そういえば前に行った時森近さんが寝てたから毛布をかぶせた後書き置きを残したっけ。

 ともかく今日のバイトは無縁塚で拾って来た商品の選別だった。

 売れる物と売れないもの。壊れてないかどうかのチェック。また森近さんが能力で物の名前を調べ、私がiPhoneで検索して取扱説明書の作成。

 バイトとはいえずっとiPhoneを触っているわけだからどうもバイト感が無かった。まぁ外の世界の道具の知識も入るし文句は無いけどね。

 

 

 #####

 

 

「iPhone使いこなしてますねー」

「……私も始めようかしら?」

「今度無縁塚で拾って来たらどうですか? その時は奇跡でパスコードを開けてみせますよ?」

「遠慮するわ。パスコードが開いた先の運命を見れば一発だし」

「……なんでしょうか、この会話」

「たった四桁でしょ? 何百桁とあるわけじゃないんだからそのくらい勘で当たるわよ」

「…………(本当にそう思ってる。地上って凄いわね)」

 

 周りの三人が一般からズレていることをど忘れしていたさとりは勘違いする。

 ともかく一同は次のページを開いた――――。

 



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九月編6『炙ら鈴仙と十五夜』

 

 

 

 九月十五日

 

 今日は中秋の名月、つまり十五夜だ。

 紅魔館内でもパーティを開いて皆でお月見をした。

 ベランダで冷やした葡萄ワインを口に含みながらお団子を食べる。

 月見団子は十五個食べると健康と幸せが得られるんだって。

 ちなみに団子は私と咲夜とで作った。お姉様が十五個以上食べてたけど大丈夫かな? 食べ過ぎは良くないよ?

 あと満月が綺麗だったなぁ。まんまるお月様。皆で月を眺めながら談笑してたけど、でもこれで終わらないのがお姉様クオリティーだった。

「そうだ! 咲夜、ウサギを連れて来なさい!」

「ウサギ……ですか?」

 お姉様がご乱心だ(三回目)。

 多分月にはウサギがいるってあれだよね? ウサギと帝釈天の逸話。

 

 昔、狐と猿、うさぎが一緒に暮らしているとお腹を空かせて死にそうになっているおじいさんがおり、食べ物を恵んでくれとせがみました。

 狐と猿は食料を捕まえて持ってきますが、うさぎは何も捕って持ってくることが出来ませんでした。

 もう一回うさぎは食料を捕りに行きますが、どうしても捕って来れません。

 うさぎはおじいさんのために、自らの命を捧げてそばで焚いていた火の中に飛び込みます。

 おじいさんは悲しみ、うさぎの清らかな魂を誰しも見ることができるようにと月の中に写しました。

 

 って話。確か仏教の話だよね。

 それが逸話となっていつしか満月はウサギが餅をついているように見えるっていうのが通説になってたはず。ちなみに餅をついているのは米の収穫を感謝するためだった。

 ともかくウサギ……ウサギねぇ?

 咲夜は「はぁ……」と曖昧な返事だったけど探しに行ってた。お姉様とパチュリーが何か話してたけど咲夜一人に行かせるのは可哀想だし私も行くことにしたよ。

 ウサギといえば真っ先に思い浮かぶのは鈴仙さんだ。

 つまり永遠亭。道は覚えている……というか瞬間移動(ルーラ)の行き先の一つにしているので次の瞬間には永遠亭に到着する。

 で、酷い絵面が見えた。

「熱! 熱っつ! し、師匠やめてください! いくら帝釈天の逸話があるからとはいっても火炙りにしないで下さい〜!! きゃあ! スカートに燃え移った! あっ、師匠ッ! これ、やばいです! 本気でヤバイパターンですぅッ!! あ、あ、アーーーーッッ!!」

 鈴仙さんが両手足を木の棒に括り付けられてぶら下げられてた。で、その下にはメラメラと燃え上がる焚き火が。

 何やってるの? 馬鹿なの? 不思議に思って声を掛けると鈴仙さんが半泣きで叫んできた。

 

「そ、そこに誰かいるんですか!? だ、誰でも良いから助けて下さい! 焼けちゃう! 私死んじゃうからッ!!」

「あら、久しぶりねフランさん。あ、別に助けなくて良いわよ? ちょっとしたオシオキだから」

 

 あぁ、どうも永琳さん。

 流石に見ていて可哀想なんだけど。というか何をしたの?

 

「何もしてないわ? ただ過去にやらかしたことが私に露見しただけよ。特に貴女も当事者だからよく分かると思うのだけれど」

 

 当事者……? あ、授業か。前に鈴仙さんがお辞儀した瞬間教卓にウサ耳を打ち付けて取れちゃった事件。ついでにクラス全員を狂気に染めやがったアレだね。

 ……あぁ、そりゃそうなるね。

 

「ならちょっと鈴仙さんを借りれませんか? ちょっとお願いがあって」

「んー……そうね。まぁ当事者にお詫びした方が早いか。どうぞ、何なりと使ってちょうだい。ただ使用法は注意してね?」

「了解です」

「待って師匠!? 使用法ってなんですかッ!?」

 

 突っ込んでるけど放置。

 このあと鈴仙さんを紅魔館に連れ帰ってお姉様達の前で月の兎のお餅つきをやってもらった。

 お姉様が大笑いしてたよ。本人は「うぅ……」って泣き目だったけどそれでも炙られるよりはマシだと思うの。

 あと何匹か普通のウサギも連れ帰ったから私はモフモフの子を抱きしめながら見たなぁ。

 なんか毛玉みたいなモフモフしたウサギ。

 種類はアンゴラウサギだっけ? お酒を呑み終わって今度は寝ないためにコーヒーを淹れてきて飲んでると『……良いまろみじゃな。お前さん相当な腕前じゃろ』とかダンディーな声で言ってたけど幻聴? 幻聴だよね?

 ともかく腕で抱きしめたり頭に乗っけたり温かかったなぁ。

 

 #####

 

 

「フランさん、多分それ永遠亭のウサギじゃないです」

 

 早苗が突っ込んだ。

 が、意外にも三人はこれをスルー。

 

「それより十五夜か……博麗神社だと特に何もやってないのよね。折角だしパーティに混ざってくれば良かったかしら?」

「確か魔理沙は来ていたわよ。あいつはよく来るのよね、紅魔館で何かあるたびに……」

「……まぁ幻想郷で一番アウトドアな人間ですからね、彼女」

 

 三人のこころを読んださとりは総評して言った。

 

 #####

 

 

 九月十六日

 

 

 人里に行くとお寺のあたりが騒がしかった。

 どうやら『狂言』をやっているらしい。演目は『附子(ぶす)』だとか。

 聞いてみたけど狂言って不思議だね。ほら、笑う時とか泣く時のパターンが固定されてて皆大きな声で特徴的なのよ。

 他にも物を投げる動作とか。普通、石を投げる動作といえば遠心力を使って腕を振り切るよね? でも狂言って、例えばえいえいえいって腕をぐるぐる回してから一度ピタって止まるの。それからえいやっ、と手を動かして投げ切らずにまた止める。

 その理由は投げたものが飛んで行く方向を見ている人に分かりやすくするためなんだとか。

 あっ、そうだ。附子って話の説明もしないとね。

 附子は狂言の中でも基本中の基本となる話だ。

 

 住職さん――主人が一つ山向こうまで出かけることになってお寺を留守にするんだけど、主人は壺の中に入った水飴を持ってて、それを従者である二人。太郎冠者と次郎冠者に食べられたくないのでこの壺の中に入っているのは風を浴びただけで死んでしまう猛毒『附子』だって説明して、蓋をして決して開けないように言ってから出て行く。

 で、残された太郎冠者と次郎冠者は壺の中を見て、水飴だと気付いた彼らはなんと全部食べてしまうの。

 で、カラになったツボを見て主人に怒られるどうしようと思った彼らは考えた。そしてなんと主人さんが大事にしている掛け軸を破り、次に大事なツボを叩き割っちゃうの。

 その上で帰って来た主人さんにこう言ったんだ、「御主人様の大切な掛け軸とツボを壊してしまい、もはや許されないと思い附子を食べて死んでしまおうと食べました」と。

 

 まぁこんな感じの話かな。初めて見たけど面白かったよ。

 というかマイクも無しに良くやるよね。凄いなぁ。

 

 #####

 

 

「狂言ですか。実は私、これにカルチャーショックを受けましたね」

「カルチャーショック? どういうこと、早苗」

「外の世界の狂言って大体ホールとかを事前に借りて、チケットを販売して行うんですけど。幻想郷の狂言って全く許可も取らずにお寺とかでいきなり始めたりするじゃないですか? 初めて知った時は驚きましたよ。昔は外でもそうだったみたいですが」

「へぇ、外では違うのね。初めて知ったわ」

 

 霊夢が呟く。

 そこでレミリアが横槍を入れた。

 

「ねぇ、狂言って私、見たことないけど面白いの?」

「……面白いですよ。一度ご覧になってはどうでしょう?」

「え、見たことないのアンタ?」

「外の世界でも学校行事で見たりするのに……?」

「だって古い言葉遣いでよく分からないって聞いたし」

「アンタ自分の年齢思い出しなさいよ。人間と妖怪の古いの尺度を一緒にすんな! つーかその古い言葉を使ってた時代にアンタ生きてたでしょうが!!」

「……あ、そういえばそうね」

 

 霊夢が突っ込んで初めて気がついたようにレミリアが目をパチクリさせる。

 

「「「…………、」」」

 

 三人は目の前のポンコツ吸血鬼に呆れた!!

 

 #####

 

 

 九月十七日

 

 

 寺子屋が終わって紅魔館に帰ると魔理沙が居た。

 なんか私に用があるらしい。

 話を聞くと「次のライブが決まったぜ!」とのこと。

 ライブ? あ、そういえば私アイドルやってたね。

 ともかく次は地底ライブを行うらしい。どうやら地底でもアイドルの大会みたいなのがあるみたいで、グランプリに輝くと賞金とトロフィーが貰えるとか。

 ちなみに去年はヤマメさんが優勝したそうだ。

「地底に霧雨プロダクションからの参戦だぜ。既に地底の主人とは話をつけててな、エントリーも済んでる。日程は十月十日な」

 プロダクション……。アイドル私だけだよね? ともかくライブかぁ。前回歌った時はすごく楽しかったから楽しみだなぁ。

「あと今回は私も歌うぜ! 暇な時間多かったから何曲も出来ちゃってさ」

 おぉ、魔理沙も歌うの? 魔理沙は星の弾幕を一杯使えるから演出も良いんだろうなー。

 ともかく十月十日だね! 覚えたよ。

 

 

 #####

 

 

「成る程、これで地底に話が繋がるわけですね」

「早苗さんのご察しの通りです。まぁネタバレはつまらないのでこれ以上は話しませんが」

「というか良く許可したわね。地底の連中はあまり表に関わらないんじゃなかったの?」

「……いえ、核融合の件があってからも八坂様とはまだ仲良くお付き合いさせて頂いてまして、副産物の温泉事業も上手くいっているためか地上からの観光客も増えているので最近では地上に興味を持つ方も多いんですよ」

「へぇ、利が元とはいえ両者が歩み寄れているのなら良い話じゃない」

 

 各々感想を言って四人は次のページをめくる――――。

 



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九月編7『金は命より重い』

 

 

 

 九月十八日

 

 

 今日は妙な日だった。

 今日私の身に起こったことを書いてみよう。

 

 一つ目、人里に行くと隣を歩いていた人が飲んでいたコーラが爆発した。多分振ってあったのかな。悲しい顔をしていたのでティッシュを差し上げた。

 二つ目、少し休もうと広場のベンチに座っていると突然地面が揺れだした。え、地震!? 驚いた私は思わず立ち上がると隣に座っていた人が物凄い貧乏揺すりをしているだけだった。メタルバンドのドラマーかよ。

 三つ目、道を歩いていると急に羽音がして頭上からガスッと衝撃が襲った。チクリとした感触は一瞬、慌てて首を動かしてあたりを見回すと空からカァ、とカラスの声がした。カラスさん、私の頭を踏まないで下さい。

 四つ目、お姉様が真面目だった。人里でふと姿を見かけたんだけどとても真剣な顔でいつものボケとかポンコツが無かった。余裕とカリスマ溢れる姿で優雅に歩いてた。誰だよあの人。

 五つ目、人里の和風食堂で佇む幽々子さんを見つけた。妖艶な仕草でおにぎりを食べた手を舐める彼女はボソッと呟く。

「何故……おにぎりは食べるとなくなってしまうのか」

 食べたからだよ!

 

 うん、まぁこんな日もあるの……かな?

 

 

 #####

 

「普通はないと思います」

「というか最後の幽々子で話の内容全部吹っ飛んだんだけど」

「……ある意味哲学、ですよね」

「食べたからだよ! で全部解決してるけどね」

 

 上から早苗、霊夢、さとり、レミリアの言葉だ。

 

 #####

 

 

 九月十九日

 

 せっかくiPhoneを手に入れたのにあまり触ってないな。

 と思ったので色々弄ってみた。それでツイッターってやつを見ることに。

 幻想郷内にも何人かやっている人が居るらしい。

 前に会った全身キラキラの存在感の塊少女ことこいしちゃんもやってた。覗いてみると……うーん、さとりさんっていうお姉さんのことをよくツイートしてるのかな。

 

 こいし@元世界一位

 「お姉ちゃんのコスプレ撮れた〜」

 さとり

 「え!? こ、こいしいつの間に!?」

 火焔猫燐

 「さとりさま、本棚にさとりんという名前の人が描いてるR18の同人誌があったんですが」

 さとり

 「お燐、そのツイートを今すぐ消しなさい!」

 おくぅおくぅ!

 「さとりさまの部屋で謎のノート発見しました!」

 さとり

 「や、やめて! お願いそれだけはやめて!」

 おくぅおくぅ!

 「うpしまーす!」

 さとり

 「お空、お願い! 何でもするから!!」

 

 酷いね。これ以上はなんか可哀想だったので別のをみることにした。

 次のは……なんだろ。布都って人のアカウント。

 

 文々。新聞

「【速報】命蓮寺また燃える」

 村紗水蜜

「派手にやるじゃねぇか!」

 布都

「ち、違う! 今回は我ではないぞ!」

 屠自古

「お前さぁ……もう庇えないよ」

 布都

「本当に違うもん! お願い信じて!」

 星@毘沙門天の化身

「私……お鍋の火消しましたっけ?」

 

 星くーん! 犯人居るじゃないか!

 というか意外と幻想郷にもユーザーいるんだね。

 外の世界と隔たりのある世界なのに不思議な話だなぁ。

 

 #####

 

「待ってください。え、幻想郷内でツイッターやってる人居るんですか?」

「……実は地底には外の世界の物が流れつくスポットがありまして。それと封印された河童もいるものですから」

「え、意外と地底って科学進んでるの?」

「……はい。核融合エネルギーを使い電力供給を済ませ、また河童の手助けもあり研究者達が凄い速さで発展を促しています」

「うーん、複雑ですね。地上での守矢神社の政策の殆どは失敗してるんですけど」

「というか科学の進歩って幻想郷的には良いのかしら……?」

 

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 九月二十日

 

 

 久々に人里の道場に行くと妖夢さんの泣き声が聞こえた。

 何かあったのかと思ってそっと覗くと涙目の妖夢さんがいた。

「良い加減にして下さい! 泣きますよ!」

 いや泣いてるから! 完全無欠にボタボタ涙零れてるからぁッ!! というツッコミはさておき。

 何かあったのかな?

 また妖忌さん関連? と思って中に入ると、

「あらー、フランさんこんにちは」

 幽々子さんがいた。その手には空のお茶碗と箸。

 話を聞いてみると、幽々子さんが朝食を食べ終わりしばらくしてお腹が空いたので妖夢さんと妖忌さんのいる道場まで来てご飯を作ってくれとお願いしにきたらしい。

 ……空のお茶碗と箸を持って。

 しかも最近は毎日。量を増やして置いていっても意味はなく修行と何度も中断させられるのでとうとう我慢の限界になっての行動らしい。

 うん、そりゃキレるわ。

 仕方がないので私がご飯を作ってあげた。

 ただし。普通に作ってはキリがないので少々魔法を掛けて。

 『満腹魔法』。食事を摂ったあと指定した時間の間お腹が減ったと感じなくなる魔法。使い所がほぼない上に即興で作ったものだけど幽々子さんには効果的だと思う。妖夢さんにも教えておいたので多分これでマシになるんじゃないかな?

 とはいえその時間を過ぎると普通に空腹を感じてしまうからちょっと大変かもだけど前よりはマシだろう。

 妖夢さん……ファイト!

 

 #####

 

「幽々子ェ……」

「空のお茶碗と箸を持って道場まで来るって中々太い神経ですよね」

「……まぁ普通は恥ずかしいですからね」

「でも従者として半人前ね。咲夜ならもっと上手くやるわ」

「……その、何でもこなせる超人と同じに扱うのは可哀想では?」

「いや、むしろ今後一流を目指すなら常に先を見据えるのが成長を促す為の一番の近道なのよ」

 

 #####

 

 

 九月二十一日

 

 

 博麗神社で公演をやるらしい。

 霊夢さんが人里の皆さんに向けて『お金の話』をするとか。

 折角なので行ってみた。

「……この博麗霊夢。こと金に限り、一切虚偽を言わないわ」

 行ってみると結構人が集まっていたよ。

 ザワ……ザワ……。と人々がざわめきながら話を聞いていた。

「……金はね、命より重いのよっ! 世間の大人どもが本当のことを言わないなら私が言ってやるっ!! 金は命より重い。そこの認識を誤魔化す者は一生地を這うのよ!!」

 なんだろう。何故かアゴと鼻と肩幅が尖ってみえる。でもなんだか霊夢さんの言葉には説得力があるような気がした。

「金は尊い……貴方達の認識より、はるかに重い。だからこそそのお金をどう使うべきなのかを考える必要があるの」

 説得力が、

「ただ、目先の利益に囚われてはならない。長い目で利益を上げ続けるのが最も効率の良いことよ……じゃあ聞くわ。この世界を護りしものはなに? 幻想郷を続けていくために何が必要か? それは結界であり、それを護る博麗の巫女よ!」

 説得力が…………あれ?

 なんか話がズレてきたよ。周りの人達も「投資募ってんのか?」とか「引っかかるわけないだろ」とか話している。

 それは次第に野次に変わって言った。

 「ち、違うのよ」としばらく霊夢さんは右往左往していたけど、最後の方で「駄目巫女!」だとか「やめちまえ!」とか言われたあたりでプッツンしたのか急に叫び声を上げた。

「良いから黙って、全部私に投資しろぉお!!」

 はい、もう見てらんない。なんか叫んだ霊夢さんだけど後ろから現れた華扇さんに頭を蹴飛ばされて回収されてってた。

 ……今更だけど霊夢さんってもしかして、意外と残念な人なのかな?

 

 

 #####

 

 

「あの……霊夢さん」

「……霊夢さん」

「…………、認めるわよ」

「……霊夢、本当にお金に困ってるなら紅魔館に来ても良いのよ?」

「レミリア。痛いからやめて、その無自覚な優しさは凶器よ」

 

 

 そして次のページを開く――――。

 

 



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九月編8『駄菓子屋』

 

 
 五十話目です。
 いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます。
 これからも拙作をよろしくお願い致します。


 


 

 

 

 九月二十二日

 

 身長が伸びた。

 今日、寺子屋で身体測定があって測ったんだけど身長が伸びてたんだよ! たった一年の間に三センチも!

 それから去年よりウエストが短くなってた。少しだけだけど運動して体が引き締まったのかもしれない。

 えへへ、嬉しいな。

 それとバストサイズも……その、ちょっぴり大きくなってた。

 今はともかく最初は女の子らしさっていう目的で早寝早起きとめーりんの修行を始めたから嬉しい。あんまり大声で言うと恥ずかしいけどね?

 でも効果が出るって凄いなぁ。吸血鬼って数千年以上生きるから、普通一センチも伸びないのに三センチも伸びるなんて。成長期かな?

 ともかくこれからも運動を続けようと思ったよ。

 

 #####

 

 

「美鈴の修行効果……かぁ」

「早寝早起きって凄いですねー、私は巫女として早起きしてはいましたが寝るのは少し遅くて……」

「……遅くてそのサイズなんですか」

「本当よね。嫌味かしら」

「え、いやいや! 嫌味じゃないですって! もー、なんでそんな目の敵にするんですかぁ!? 大きいのは大きいなりに悩みあるんですよ! 肩凝りとか目線とか!」

「持つものの余裕ってやつね」

「余裕じゃないです! なんで胸の話題になると親の仇を見るかのように接してくるんですかぁ!?」

「ん? ネタとして使いやすいから」

「はぁ? ネタ?」

「そう、ネタ」

 

 ……………………………。

 

「……え、霊夢さん今までネタで私のこと目の敵にしてたんですか?」

「そうよ?」

「え……えっ?」

 

 #####

 

 

 九月二十三日

 

 

 口癖って面白いよね。

 寺子屋の先生とかの話を改めてよく聞いてみるとそれぞれ口癖があったりするのよ。

 

「ここ注意な。これ教えないやつはモグリの教師だ」

「はいっ、えー、これはですね」「はいっ、えー……これは」

「実に面白い」

「アーーッ! なるほど!!」

「あいや、しばらく」

「あきらめたらそこで試合終了だよ」

「絶望した!」

「ヌルフフフ……そうですねぇ」

 

 ほら、面白いでしょ。変な口調が多くて授業中つい笑っちゃいそうになるのよね。

 逆に慧音先生みたいな先生が異端に見える不思議。

 うーん、本当はそっちの方が正しいんだろうけどなぁ。

 まぁ面白いしいいや。

 

 #####

 

 

「明らかに口調ってレベルじゃない!?」

「というか人外居ません? コレ」

「……早苗さんの頭の中のイメージ、なんですか? これ。黄色い触手の化け物?」

「ふぅん寺子屋って思ったより個性的な先生が多いのね」

「いやレミリア! これ個性的ってレベルじゃないから! 色んな意味でおかしいって気付きなさい!」

「いや、そんな変な口調かしら?」

「え?」

「えっ?」

 

(……レミリアさんは話し方が時折中二病になるから多分感覚が麻痺してるんだろうなぁ)

 

 霊夢とレミリアの問答を見て早苗はそう思った。

 

 

 #####

 

 

 九月二十四日

 

 人里には鶏を飼ってる飼育場があるんだけど、寺子屋で一つ実験をさせてもらうことにした。

 お店で買う卵ってあるよね。無精卵の卵。あれを鶏達の巣に置いたらどうなるのかって実験。早速分かりやすいように色ペンでマークした卵を鶏小屋に放置すると、一匹の鶏が近寄ってきて温め始めた。

 近くに何羽か生まれて数日もたってないヒナ鳥も居て、ピヨピヨ鳴きながら卵のそばに寄ってた。

 「実に面白い」の人の生物の授業だけどこういう実地に行っての授業も面白いよね。

 

 

 #####

 

 

「生物ですか。私はメダカの採血とかやりましたね。あとタンポポ。最近の日本って西洋のタンポポばっかりで日本のタンポポをあまり見かけないので、理科の授業で近くの草原に行ってクラスの皆で探しました」

「へぇ、そんな授業があるのね。というかメダカの採血ってあの大きさなのに大丈夫なの?」

「ちゃんと適量ですから大丈夫です。死なせることもないよう事前に注意は受けますから」

「……良いですね。私も受けてみたかったです」

「さとりさんなら寺子屋に入学してもおかしくない感じですけどね」

「まぁ見た目的にね」

「……いえ、でも私は地底の主人ですから遠慮しておきます」

 

 そう、曖昧な顔でさとりは笑った。

 

 #####

 

 

 九月二十五日

 

 

 人里でスナック菓子を売っている店があるらしいので行った。

 偶に咲夜が買ってきてくれるけど、案外美味しいよね。

 ポテチは塩味とパリパリ感がたまんないし、コンポタスナックとかはサクサク感がたまらない。グミも噛み応えあって美味しいし、チョコレートとかも甘くて良いよね。

 で、行ってみるとお店は本で読んだ駄菓子屋って感じの店だった。

 シカダ駄菓子。駄菓子を逆読みしたのに似た名前ってちょっと安直だけど分かりやすい。

 まぁそれはともかく。

 駄菓子って色んな味があるよね。例えばうまい棒だとハンバーガー味とかチーズ味とか。

 で、一つ疑問なんだけど。

「バーベキュー味ってなに?」

 謎だ。疑問だ。

 いや、例えばさ。焼肉味なら分かるの。でもバーベキューって言葉の意味的に考えたら食べ物じゃないよね?

 料理法……というかパーティ、というかそんな感じだよね?

「あ、確かに。考えたことなかったな……」

 駄菓子屋の店番をしてた男の子もそう言ってた。

 すると奥から店主のおじさんが出て来て、「バーベキュー味か」と話し始める。

「お嬢ちゃん、そりゃあ良い着眼点だな。バーベキュー味といえばまずサッポロポテトのバーベキュー味を思い浮かべるが、それは置いておいて。実はあの味って元は『カレー味』なんだよ」

「カレー味?」

「え、なんで? カレー味ならそう書けば良いじゃん」

 私と男の子が首をかしげると店主のおじさんが私達にクエスチョンを投げかけてくる。

「確かにそうだ。ただカレー味にすると一つ問題が起こるんだ。何か分かるか?」

「うーん……」

「カレー……あっ、もしかして味ですか? 家庭ごとに作り方違うし」

「流石女の子! 正解だ。そう、カレー味にしなかった理由は家庭ごとに味が違ってイメージし辛かったからなんだ。だから玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、肉といった同じような材料を使うバーベキューとネーミングした方が消費者がイメージしやすいって理由でそうなったらしい」

 へぇー、やっぱり会社も考えてるんだね。でもやっぱりバーベキューよりカレーの方がイメージしやすいと思うけど。

 ともかく一つ勉強になった日でした!

 

 

 #####

 

 

「へぇそんな由来があったんですか。知らなかったなぁ」

「……企業も大変なんですね」

「私はバーベキュー味に疑問を覚えたことなかったわ」

「……つか当たり前のように食べてる前提だけど私食べたことないんだけど」

「あっ、じゃあ今度博麗神社に遊びに行くときに持って行きますよ!」

「あぁ、うん」

 

 お土産にしては少しな、と曖昧な返事を返す霊夢であった。

 



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九月編END『探偵フランちゃん!』

 


 ギリギリ間に合ったぜ……。


 

 

 

 九月二十六日

 

 

 めーりんと修行した。

 書いてないけど寺子屋の日以外毎日やってるんだよね。

 それでさ、めーりんって意外とスパルタなのよ。修行中は結構怖い。うん、かなり怖い。

 全身に気を纏って目つきが悪くなったりするし。普段は凄い温厚なのにね。

 あとで聞いてみると「恥ずかしながら戦闘中は一種の興奮状態になるんですよ」って笑ってたけど興奮なの? 威圧じゃなくて?

 それと修行も大分慣れてきて動きも良くなってきた私だけど、やっぱり拳で殴り合うって女の子らしくないような気がする。

 私の勝手な決め付けなのかなぁ? 

 

 

 #####

 

 

「まぁ幻想郷においてあんまり体術は要らないわね。何が面白くて女の子が拳で殴り合うような殺し合いしなきゃなんないのよ」

「えー? 殴り合いとか気とかって結構憧れません? ほら、ロマン! って感じで!」

「意外と男みたいなこと言うのね、あんた」

「そうですか? そういえば向こうでも女の子がロボ好きって変わってるなって男子に言われましたね」

「……まぁ趣味は人それぞれですから」

「ですよね!」

「……だからといって姉としての意見を言わせてもらうと妹が超近接特化の殴り合い上等になるのは複雑だけどね」

 

 頭が痛そうにレミリアが言った。

 

 

 #####

 

 

 九月二十七日

 

 

 来年の為に向日葵の種を採取した。

 もうそろそろ向日葵って枯れるのよね。遅咲きのやつも含めて。

 まぁ実は三ヶ月おきに種を植えたりしてるからこれから花を咲かせるのもあるけど、最初に植えたやつはそろそろ寿命だ。

 ちょっと物悲しいけど仕方ない。また来年植えようと思う。

 枯れちゃう向日葵達も「来年また私達の子供達が花を咲かせますから」って慰めてくれたし。枯れちゃう本人に慰められるって情けないなぁ、私。

 もっと私の手入れが上手ければ咲いていれたのかなぁ?

 幽香さんのところはもっと寿命長いって聞くし。

 ……うん、来年はもっと頑張ろう!

 もっと向日葵達が長生き出来るようにね!

 

 

 #####

 

 

「あぁ……そんな季節ですか」

「向日葵かぁ。育てたことないから分からないのよね」

「……そうですね。私の場合は地底に向日葵が無いので見ることもありませんし」

 

「そういえば向日葵の種ってあるじゃないですか?」

「なによいきなり」

「まぁまぁ。この中に向日葵の種って食べたことある人居ます?」

「無いわ」

「同じく」

「……あるわ」

「えっ、レミリアさんあるんですか? 意外です。ちなみに何処で食べたんですか?」

「食べた場所……えっと、その」

「??」

 

 言いづらそうにしているレミリアに対し早苗は首をかしげる。

 理由が察せないらしい。

 

(絶対フランの向日葵畑の種よね。食べたの)

 

 言わないのが優しさかしら、霊夢はそう思った。

 

 #####

 

 

 九月二十八日

 

 

 人里で事件が起きた。

 事件が起きたのは私が阿求さんの家に行った時のことだ。前日に来てほしいと阿求さんに呼ばれていた私は、家に行って戸を叩いたんだ。

「阿求さん居ますか?」

 稗田家は大きい家で、お手伝いさんもいる。私がそう声をかけると中からお手伝いさんが出て来て「フランさんですよね。ようこそ稗田家に」と入れてくれた。

 そして私が阿求さんの部屋に行った時、その事件は発覚したんだ。

「失礼します……阿求様」

 お手伝いさんが部屋の前で何度声をかけても阿求さんの反応がない。どうしたんだろうと不思議に思ってお手伝いさんにお願いして鍵を開けてもらうと、中で阿求さんが地面に倒れていた。……口から血を流した状態で。

「きゃああああッッ!!」

 お手伝いさんが悲鳴をあげた。私はあまり出来事に一瞬、呆然とする。

 でもすぐに意識を取り戻した私は言った。

「お、お手伝いさん! ひ、人を呼んできてください!」

「は、はい! 分かりました!」

 なんとか現実に焦点を合わせてようやく言うとお手伝いさんがドタバタと部屋を出て行く。それから私は阿求さんの側に寄って生きているか確かめる為に口の前に手をかざした。

 ……息はある。微かだが風が手に当たった。

 良かった、生きている。その事に安心した私は改めてあたりを眺めてみる。

 部屋の中は密室だった。窓には鍵がかけられていて侵入された形跡は無く入り口も鍵が掛かっていた。扉を開けられたのはひとえに鍵を持つお手伝いさんが居たからだ。

 部屋の中心に阿求さんが倒れていて口から血が垂れている。

 今度は阿求さんの様子を見る。と、そこで変なものを見つけた。

「……あれ?」

 阿求さんの口元に血に隠れて白い粉が付いている。

 軽く拭って舐めてみると、それが何か分かった。

「ペロッ、これは粉ミルク……!?」

 なんで粉ミルク? 探してみると阿求さんの横に空のカップが転がっている。いや、空じゃない。よく見ると阿求さんの服にべったりとコーヒーが染みていた。

 カップを覗くとミルクの粉が付着している。恐らく彼女はこの中に粉ミルクを入れたんだろう。多く入れ過ぎたせいで溶けきらなかったようだ。

 そこまで考えて私は事件の真相に辿り着いた。

 

 数分後。

 阿求さんを別室に運び着替えさせ、医者に引き渡した上でお手伝いさんを含め人を呼び私は推理を披露する事に。

「フランさん……犯人が分かったとは本当ですか?」

「はい。トリックも全て解けていますーーじっちゃんの名にかけて」

 私を部屋に連れて行ったお手伝いさんが尋ねて来たので頷く。他のお手伝いさん達も私に注目した。

「さて」

 私は名探偵におきまりの言葉から始める。探偵は推理する時にこの言葉を言わなくてはならないらしい。いつか忘れたけどサングラスの人に言われた。

「まず確認しましょうか。事件の起こった部屋は密室だったのは間違いありませんね?」

「はい。確かに窓も閉まっていて扉も開いてなかったと……」

「聞きましたか。今回の犯行は密室事件です」

 

 密室事件。それは不可能事件だ。お手伝いさん達がざわめく。

「バーロー、んなわけないだろ」とか「美雪、それは違う」とか聞こえたけど幻聴だろう。うん、気のせい。

 

「それで一つお尋ねしたいのですが、阿求さんはコーヒーを飲もうとしていたそうですね。誰が淹れたのですか?」

「あ、それは阿求様ご自身です。なんでも阿求様が妖怪の賢者から良いコーヒー豆をもらったとかで……」

「成る程」

 

 頷いて私は確信する。間違いない。犯人はあの人だ……!

 

「ところでなんでコーヒーについて聞いたんですか?」

「それはコーヒーがこの事件において重要な意味を持つからです。具体的にはその中に入った粉が、ね」

「粉!? ま、まさか麻薬の類が!?」

「違います。ただのミルクの粉ですよ。どうやら不思議な事にこのミルクの粉が被害者の口元に付着していたのです」

「し、しかしそれが何の関係が!?」

「被害者の阿求さんは非常に身体が弱かったそうですね。喘息を持ち、更に稗田家の特性から寿命も短いとか。例えばそんな彼女が激しくむせるような事になればどうなりますか?」

「そ、それは血を吐いてお倒れに……あっ!」

「その通り。そしてコーヒーには解けきらないほどのミルクの粉が入っていたのです。つまりこの粉を入れた人物――それが犯人です」

「そ、それで犯人は誰なんですか!?」

「……コーヒーカップに大量の粉ミルクを入れ、彼女を咳き込ませ殺害しようとした犯人、それは――――」

 

 私は一人を真っ直ぐ見据え、指を指す!

 

「――貴女です! 稗田阿求!」

 

 寝ている阿求さんへとーーーー!!

 いや、まぁ分かるよね。そりゃ当たり前だよね。

 どう考えてもコーヒーに粉ミルク入れ過ぎて、むせて倒れたよね? というかそれはそれで発見が遅れたらヤバかったけど。

 探偵の真似事をしてみたけど難しいな。

 それに生きているかは正直見ただけで分かってたし、遊び半分だった。ちょっと不謹慎だけど。

 ちなみに阿求さんは無事快方に向かったそうです。

 

 

 #####

 

 

「無闇に粉なんか舐めたら駄目ですよ。麻薬や青酸カリだったらどうするんですか」

「大丈夫よ。某漫画だとペロッ、これは青酸カリ! で済んでたから」

「いや死にますからね!? 一ミリでも舐めたら死にますから! フィクションを現実に持ってこないでください!」

「ハッ、早苗こそここが現実だと思ってるなら大間違いよ! そんな設定この世界じゃ通用しないわ!」

「やめてくださいメタいです霊夢さん! って奇跡が囁いて来ました! つか意味不明なこと口走らないで下さい!」

 

「……ねぇ、地底の」

「……何ですか、レミリアさん」

「……話についていけないわね」

「……そうですね」

 

 

 #####

 

 

 九月二十九日

 

 

 このくらいになってくると段々夏も完全に終わって秋めいてくる。

 妖怪の山も徐々に紅葉が始まってるみたい。

 高くまで飛び上がって眺めてみるとうん、確かに赤と黄色に見える。

 そういえば妖怪の山には豊穣と紅葉の神様が居るんだよね。いつか会いに行きたいなぁ。

 と、それはともかくだよ。

 秋といえば食欲、読書、運動の秋と聞くけどもう一つ重要なことがある。

 そう、恋愛の秋だ。

 まぁ簡単に言えば香霖堂に行った時。よく魔理沙か霊夢さんが来てるのよ。

 魔理沙はわざわざ香霖堂に来て森近さんに料理を振舞ったりしてて、八卦炉とかも森近さんに作ってもらったみたい。森近さんも魔理沙には甘いらしい。で、もう一人、霊夢さんは霊夢さんで自分の巫女服を直してもらって居る間(霊夢さんの巫女服は森近さん製)森近さんのシャツをこっそり着たりしてる。それに香霖堂には霊夢さん専用のお茶もあるし相談にも来てるみたい。

 ……怪しいよね?

 面白そうだよね?

 と思って本人に直撃してみました。

 まずは森近さんからだけど……、

「森近さん、好きな人って居ますか?」

「恋愛の話かい? いや、生憎心に決めた人は居ないね。友人としてならいくつか当てもあるが」

 ガードが硬い。仮に居ても教えてくれなそう。

 というわけで次の人。次は魔理沙だ。

「魔理沙、魔理沙って森近さんのこと好きなの?」

「へ? え、えっーっ!? ななな何だいきなり!? というか何でそんな話になった?」

「いや、魔理沙ってよく森近さんの店に行って料理を振舞ったりするじゃん? 通い妻みたいだなって」

「通い妻じゃない! つか香霖はアレだよ! その……好きな人ってより信頼してる人って感じでな……料理は単に普段から世話になってるから……」

 ううむ……これはどうだろ。分かり辛い。

 後半語尾が小さくなってて恥ずかしさからか頰も少し赤かったけど惚れてる程でもない……のかな?

 じゃあ最後に霊夢さん。

「霊夢さん、霊夢さんって森近さんの事が好きなんですか?」

「へ? えぇ、好きよ」

 まさかの肯定!? え、えっーーッ!?

 と思ったけどよく聞いてみたら「友達として」ということらしい。

 信頼もしてる良い人ってカテゴリで友達として好きだとか。

 紛らわしいよ! 

 

 

 #####

 

 

「……いや、まさか恋愛話を振ってきてたと思わなくて」

「いやいや。男の人相手なら普通そうでしょ」」

「恋愛ごとには疎いけど、多分風祝の言う通りよ霊夢」

「……まぁ常識ですよね」

「そう? まぁ友達として好きなのは本当よ。良い人だし、大人として頼りになるもの」

「そりゃ霊夢さんと魔理沙さんに対応出来る人ですからね」

「……一度買い物に行ってみるのも良いかもしれませんね」

 

 

 #####

 

 

 九月三十日

 

 そろそろ衣替えの時期かな。

 というわけで半袖の服装をやめて長袖の服装にした。

 スカートももう少し丈の長いやつに変更!

 帽子は……このままでいっか。

 明日から十月! これから寒くなるし寒さ対策しとかないとね!

 まぁその前に秋が本格的に来るけどさ。

 

 

 

 #####

 

 

「衣替えか……」

「外の世界もありますよ衣替え。学生とかだったらカッターシャツからブレザーとかもしくはカーディガン羽織るとかそんな感じで」

「転換期ってやつね」

「……ともかく次から十月編ですか」

 

 上から霊夢、早苗、レミリア、さとりの言葉である。

 ともかく次回から十月編! 休みなしで読もう、と意見をまとめて四人は次のページを開く――――。

 

 

 

 



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十月編
十月編1『秋神様と霊夢式ビジネス』


 


 十月編のスタートじゃい!



 


 

 

 

 十月一日

 

 十月かぁ、秋だねー。

 まぁそれはともかく。なんか霊夢さんがまたビジネスを始めるらしい。人里で人を集めてたので行ってみることに。

 すると博麗神社に見知らぬ二人の女性が居た。

 

「ここに(おわ)すは、豊穣と紅葉の神様よ! 名前はそれぞれ秋穣子様と秋静葉様! 二人にはこれから博麗神社の神様の一角として入ってもらうことになったわ! なにせ豊穣と紅葉だもの。農家の人や文化人の皆さんに御利益間違いなし! 是非お賽銭していってね!」

「えっと……霊夢さん、私達そこまで大層な神様じゃないんだけど」

「シッ、ある程度効果出れば何も問題無いわよ! あんたらも信仰入ってウィンウィンでしょ?」

 

 うん、霊夢さん。普通の人はともかく私には聞こえてる。

 吸血鬼(デビル)イヤーを舐めちゃいけないよ?

 にしても秋の神様かぁ。この二人が秋神様なんだね。素朴な感じだけどお姉さんの方は紅葉を司るからかお洒落で、妹さんも豊穣を司るからか中々すばらなおもちをお持ちだ。やっばり美人だよね。神様。

 人里の人達もかなり熱心に祈りを捧げてたよ。

 そりゃあ豊穣に紅葉。秋神様だもんね。農家なら豊作祈願したいだろうし歌人達や文化人にとって紅葉はなくてはならないから。

 霊夢さんも考えたなぁ。

 でも、

「フランよく見とけよ? 霊夢って最初は成功するけど調子にのると失敗するから」

 感心していた私とは一転して魔理沙は失敗する、と言った。

 本当に? 普通に成功だと思うけど……。

 ともかくしばらく霊夢さんの動向には注意だね!

 

 

 #####

 

 

「……あったわね、こんなこと」

「秋神様って妖怪の山に住む野良神様ですよね。以前、霊夢さんが妖怪と間違えて退治しかけたとかいう」

「そ、それは私は悪くないわよ! 神様なのに力が薄かったあいつらが悪い!」

「いやいや。幾ら微力な力といっても神様の見分けが付かないのは巫女として不味いですよ? それくらい修行すれば分かります」

「サボるからそんなことになるのよ」

「……そうですね。『この怠け者!』って華扇さんが口癖のように言ってる気持ちが分かるような気がします」

「うっさいわね。本当に不味かったら覚えるわよ」

 

 #####

 

 

 十月二日

 

 

 今日はばったり華扇さんと出会った。

 物腰が丁寧で、案外仙人という割に俗っぽい人だね。仙人、なんて聞くと白髭のおじいさんとかみたいな感じのを思い浮かべるけどそういうこともなく、案外俗世にも詳しい。

 ただ所々神仏には詳しくない……というか余り興味が無いみたい。

 まぁそれを踏まえても良い人だと思うよ。

 妖怪なのに妙に人間らしいのが気になったけど、仙人だからかな。

 ともかく二人で話していると話題は自然と霊夢さんの話に移っていった。

 

「そういえば霊夢さんが秋神様を使ったビジネスを始めたみたいですね」

「えぇ、困ったものです。ここの所の霊夢は目に余る様子で、お金や参拝客のことばっか考えていて、つい説法してしまう」

「人間、ある程度の欲は有って当然だと思いますけど?」

「それでも目に余ります。あのままでは欲の塊になってしまいそうで……」

「そうかなぁ? 私が見る限り霊夢さんって邪念とかは無いと思いますけど」

「はぁ、そうですか?」

「はい。むしろ無邪気なんじゃないかなって。だって欲に忠実なのも言い方を変えれば自分に素直ってことでしょ?」

「……成る程。確かにそうかもしれませんね。霊夢は修行を付けても直ぐに効果が消えますし」

 

 そんな感じに話して結構仲良くなれたんじゃないかな?

 意外と気が合ったし。それからお互いの修行の話をしたり、意外と共通点も多かった。

 

「フランさんは吸血鬼ですがとても精進なされているんですね」

「いやいや、全部女の子らしくなりたいって欲が(もと)ですから精進とは言えません」

「いえ、フランさん。目標に向かって日々努力することを謙遜することも卑下することはありません。欲が素でも真面目に誠実に頑張っているならそれは精進ですから」

 

 本当どっかの巫女にも見習って欲しいわ、と彼女は呟く。

 うーん、なんとなく慧音先生と似た雰囲気を感じる。不真面目な生徒に対して怒るって意味で。

 良い人だとは思うしこれからも良い付き合いをしたいとは思うけどね?

 

 

 #####

 

 

「華扇か……最近、魔理沙はいつもだけど早苗とあいつがよく来るのよね。というか華扇はほぼ毎日来てない?」

「確かにそうですね。私は一週間に二度か三度ですが、華扇さんはいつも見かけます」

「……もしかして友達居ないんでしょうか」

「仙人だから友達とかそんな感情無いんじゃない? 単に幻想郷で大切な巫女である霊夢を矯正しようとしているだけで」

「だとしても余計なお世話よ……まぁ役立ってる部分もそりゃあ多いけど」

 

 

 #####

 

 

 

 十月三日

 

 

 台風だ。

 しかも超大型台風。雨が五月雨のように降り注いで、風が竜巻のように襲った。

「向日葵いいいいい!!」

 雨の中私は向日葵を守る為に魔法を使ったよ。全身ビチャビチャだ。

 というか紅魔館の外とか酷かったよ。突風で物が飛びまくってた。あとめーりんも悲鳴を上げてた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!! キャアアアアアッ!! い、痛っ! なまじ弾幕より飛び交うバケツとかワプッ!? ゲホゴホ! 雨で服透けてるし……うわーん咲夜さーん!!」

 

 いや、中に入れて上げなよ。流石に可哀想だよ。

 私は幾らでも魔法で対処出来るけどめーりんは出来ないんだよ?

 というか幾ら仕事でも哀れだよ。というか普通の人なら事故死とかあり得るよこの雨。

 仕方なく私が許可を出しました。というか今更ながら私って当主の妹だからね。そこそこ発言力や命令権もある。

 それから一緒にお風呂に入った。うちにある大浴場って結構大きくて、博麗神社の所の露天温泉なみなんだよね。

 それで洗いっことかしたけどやっぱり大きい。何処とは言わないけど張りもあるし艶も良い。というかめーりんの身体って妖艶というか艶かしいのよね。

 ちょっと羨ましいついでにムカついたのでおもちを揉んでやった。

 余計精神的ダメージを受けた。

 

 

 #####

 

 

「……フランちゃんも中々やりますね」

「というか美鈴の胸って地味に私も揉んでみたいんだけど」

「あぁ、女の子でもありますよね。案外胸の大きな子を見るとどんな感じなのか確かめたくなる感じ」

「……それを早苗さんが言うんですか」

「そうよね、というか揉んでいい?」

「駄目です。というか揉んだ分だけ私の胸が更に大きくなるわけですけどそれは良いのかな?」

「その発想はなかった」

「えぇ……」

 

 #####

 

 

 十月四日

 

 

 魔理沙の予言が当たった。

 昨日の台風で収穫前の食物に大打撃を与えた上、紅葉に関しても殆どの葉っぱが落ちたらしい。

 博麗神社にブーイングコールが起こってた。

 秋姉妹は既に失踪したらしく『探さないでください』という手紙を残していったとか。

 霊夢さんが悲鳴を上げてた。

 ……今年は秋の紅葉とか無しかぁ。

 流石に物足りないし、軽く手を加えておこうかな? 前に気を習った時に自然からパワーを受け取る方法を教わったから、その応用で逆にパワーを分けるとか。

 やってみたけど私一人じゃ厳しいなぁ。体力の方が先に尽きる。

 いっそ能力で元通りにしちゃう? でもそれはそれで自然の摂理が壊れるしなぁ。

 と、思いながら歩いていると人里で人だかりが出来てた。

「皆さん。今からこの東風谷早苗が自然を元どおりにしてみせます!」

 早苗さんだった。

 彼女は奇跡で最低限自然を元どおりにするという。

 

「さぁ、ご覧あれ! ――奇跡!!」

 

 瞬間、幻想郷が眩い光に包まれた。

 閃光のように激しい光に思わず目を瞑る。それから数秒だろうか。光が収まりゆっくりと目を開けると近くの街路樹に葉っぱが戻っていた。いや、戻ったというより新しく小さな葉っぱが生えていた。

「おおおお!」

 人々が歓声を上げる。その中心で早苗さんは疲れた顔をして、

「すみません、私ではこれ以上は無理そうです。ただ作物に関してもこの冬を越えられるほどは収穫出来ると思いますのでご安心下さい」

 と言って頭を下げた。どうやら霊夢さんの失敗を利用して自分達の信仰を広めようというよりは、本当に台風による影響を不味いと考えての行動だったらしい。

 力を使い果たしたのかそれだけ言ってフラフラしながら早苗さんが帰路につこうとしていたので声をかけて送って行くことにした。

「あぁ、フランちゃん。すみません、助かります」

 それはこっちの台詞だよ。わざわざありがとね?

「いえ、私は風祝ですけどその前に現人神でもありますから当然のことです。むしろ元通りに出来ない私が不甲斐なくて……」

 それに霊夢さんへのフォローも考えなきゃと彼女は呟く。

 そういえば霊夢さん、キリキリ舞いになってたなぁ。しかも今回早苗さんがなんとかしたって聞いたらそれはそれで拗ねるというか、信仰的な問題も起こるだろうし。

「……まぁ博麗神社ですから滅多な事にはならないとは思いますが」

 弱っていると人は心配性になるのか口では何とか言っているが早苗さんはどうも不安げだった。

 話を変えようと思った私は別の話題を振る。

「そういえば早苗さん。幻想郷中の自然に干渉するなんて実はかなり実力者だったんですね?」

「あはは……そうだったら良かったんですけど実はアレ、私だけの力じゃないんです。昨日秋神様達が守矢神社に来て、私に今年の秋の力を授けてくださったんです。『信仰されてこんなに力を得たのは初めてで嬉しかったけど、やっぱり私達は祭り上げられるのに向かないから』と仰っていました。今日のはその力を使っただけなんです」

 なので本当の実力となると大した事はないですよ、と彼女は笑う。成る程。通りでそれだけの自然に干渉出来たわけだ。

 それから私は早苗さんを送り届けた。

 ちなみに秋神様に失踪されて泣いてた霊夢さんは華扇さんが慰め&説教したらしい。

 

 

 #####

 

「こんなこともあったわね」

「ですねー……あの時は驚きましたよ。目立つのが嫌だからこの信仰された秋の力で幻想郷に秋を与えてちょうだい、なんてまさか言われると思ってなくて」

「そこが疑問なのよね。私に力を与えればそれで済んだのに」

「あぁ……それはですね、霊夢さんが修行不足だからだと思います」

「修行不足?」

「はい。野良だとしても神様の力ですから、それを受け取り正しい効果を発揮させる為にはそれなりの技術が必要となります。多分それが不足していると判断されたのではないでしょうか?」

「……修行不足が祟ってるじゃないですか」

「というか手遅れになってからじゃ駄目って典型的な例じゃない」

「う、うるさいわね! 別に良いのよ!」

 

 少し怒ったように霊夢が言うと、やがて次のページを開く――――。

 

 

 



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十月編2『フランと青娥娘々』

 

 

 

 十月五日

 

 

 ちょっと、今日の話は起こったことをそのまま書こうと思う。

 その時思ったことも含めてね。そうしないと後から読み返した時分かりづらいから。

 

 ――今日の朝、人里を歩いていると太子さんに会った。

 時々授業に来てくれる聖徳太子さん。横には従者……かな? 見知らぬ女性が二人。

 挨拶するとどうも二人の名前は物部布都さんと屠自古さんというらしい。

 うーん、なんか聞き覚えあるな。何処でだろう? 確か、そうだ。iPhoneのツイッターを調べている時に二人の名前が出て来たような……あっ。

 瞬間、私の頭の中にフラッシュバックする記憶があった。

 

 文々。新聞

「【速報】命蓮寺また燃える」

 村紗水蜜

「派手にやるじゃねぇか!」

 布都

「ち、違う! 今回は我ではないぞ!」

 屠自古

「お前さぁ……もう庇えないよ」

 布都

「本当に違うもん! お願い信じて!」

 星@毘沙門天の化身

「私……お鍋の火消しましたっけ?」

 

 うん、これだ。間違いない。

 多分この布都さんと屠自古さん……だよね?

 聞いてみると「おぉ、知っておったのか」と布都さんが頷いたので間違い無さそうだった。

 ともかくだよ。それからしばらく話していると太子さん……本名は豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)から神霊廟に来ないかとお誘いをいただいた。折角なのでお邪魔することに。こんなチャンス中々無いもんね!

 で、行ったんだけど広い。見たことない景色が広がっててついついあたりを見ながら歩いているとふと気付いた時には既に太子さん達とはぐれてしまっていた。

 困った。どうしようかと考えていると「んあー? 見たことない顔だぞー」とキョンシー……かな? 頭にお札を付けた子が話しかけて来た。

「……あなたは?」

「私は宮古芳香(みやこよしか)だぞー。お前は誰だー?」

「私はフラン、フランドール・スカーレットです」

「そっかー、もしかしてフランは青娥(せいが)に用があって来たのかー?」

「青娥?」

「おお、私の主人だぞー。セーガー! お客さん!」

 

 聞き慣れない名前に首をかしげると何を勘違いしたのか芳香さんは大声で青娥なる人を呼んだ。

 すると横の壁に円形の穴が開いたかと思うと中から蒼炎(サファイア)の髪の女性が出てくる。

 

「全くもう。芳香ちゃん? 私はセガじゃなくて青娥(せいが)よ? それと――あら、貴女は『初めて見る顔』ね」

 

 女の人はとても美人な人だった。私の精一杯の文章力で彼女の容姿について触れてみようか。

 「やあ初めまして」と片手を上げた彼女を見てまず飛び込んで来たのはその深い碧眼の瞳だ。何処までも透き通った目。まるで起こる事象全てを見透かしているかのような――透き通った狂気を内包して見えるが如く、しかして自然な瞳。

 次に視界に飛び込んで来たのは彼女の髪だ。燃えるような蒼炎(サファイア)色の彼女の髪は、まるで浦島太郎に出てくる乙姫様のように見える。

 自然な笑みを張り付けてにこやかに話しかけてくる様子は当然だが自然で、それでいて人の良さそうな美人さんに見えた。

 邪悪とかそういうものもない。仙人、そうだ。華扇さんとはまるでベクトルが違うけれど彼女は仙人のようだった。滲み出る妖美な笑みが見てる側の心をくすぐる。

 

「初めまして、フランドールです。実は太子さんにお招き頂いたのですが迷子になってしまって……」

「私は青娥娘々(せいがにゃんにゃん)よ。迷子、それは大変ねぇ。あ、なら案内してあげましょう。神子に呼ばれているなら貴女はお客様だし」

「あ、そうですか。すみません助かります」

 

 色々思うところはあったけどひとまず私は青娥さんと普通に接することにした。

 彼女を見た瞬間、一瞬だけれど狂気に似た何かを感じ取った気がしたけど気のせいだと判断したのだ。ほんの一瞬のことだし、後から見直しても纏う空気や言葉、顔に違和感はなかったし。

 疲れてるのかな? 私がそう思った時だった。

 

「それにしても貴女、面白いわね」

「!?」

 

 耳元で呟かれた言葉に私の意識が集中する。

 聞こえたのは魅力的な声。どうやら彼女はほんの数瞬の間に私のすぐ背後に迫っていたらしい。その細い指で頰から顎までのラインをサラリと撫でられた。

 思わずビクッとなって反射的に睨み付けると青娥さんはクスクス笑う。

 

「うん♪ そんなストレートに反応してくれると思わなかったわ。気まぐれのつもりだったけど思いの外、ううん。ともかくフランさん、今後ともよろしくね〜♡」

 

 名刺を渡された。ニコニコと笑顔で渡されるとどうも断れず受け取ると、「あ」と彼女は付け足すように言う。

 

「そうそう、私のことはお姉ちゃんって呼んでも良いからね?」

 

 …………なんだ、この人。

 早苗さんにも言われるセリフだけど意味が違う気がするのは気のせいかな。

 ともかくこの後無事に神子さん達と合流出来た。

 なんかやたら心配されたけどなんでかな?

 私は別に何にもされてないのに、不思議だね。

 

 

 #####

 

 

「青娥か……」

「あの人ですか……」

「……地獄から地上に出たとは大分前に聞きましたが、神霊廟に居たのですか」

「どうも胡散臭いわね。八雲とは別のベクトルで」

「というか青娥と会ってたのね。しかも目を付けられてるみたいだし、今後の内容が気になるわ」

 

 呟いて、霊夢は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十月六日

 

 

 今日は球技大会だ。

 寺子屋でクラス別にチームを組んでドッジボール。とは言っても妖怪クラスは実質二クラスだから一試合で終わりなんだよね。

 でも妖怪クラスって試合が長引くのよ。

 

「ボールは友達、怖くない!」

「一〇〇マイル……見ててくれ、おとさん」

「先生……バスケが、したいです……」

「避けられない方が悪いよね」

 

 色々突っ込み所のある会話はさておいて。

 ほら普通に考えると女子より男子の方がドッジボールって強いわけじゃん? 弾幕ごっこがあるから女子に分があるって考え方もあるけど、実際あれって名目は女の子の遊びだから。

 妖怪の男子はもっと苛烈な弾幕ごっこを仲間内でやったり、半ば殺し合いに近いこともしてるみたいなのでやっぱり球速とかは勝てないかなぁって思う。

 まぁ私の場合種族的な力でかなり有利だけど、それでもなぁ。

 

「悔いの無い一球を投げ込んで来い! 例えそれがラストボールになったとしても、俺達は今日のお前の球を一生忘れねぇ!」

 

 男子が叫んでるけど言い過ぎだからね? まぁその場のノリだろうけどさ。

 

「俺は勝つぞ。楽しくても負けちゃなんにもならないんだ!」

「ボールを受ける時取れないなら弾いて上に上げろ! 後は俺達がなんとかする!」

「中学のことなんか知らねぇ。俺は何処にだって飛ぶ。どんなボールだって打つ。だから――俺にトス、持ってこい!」

 

 いや、打ったら駄目だよ。上に挙げた人も打った人も両方アウトだよ。と、そんなこんなで男子主導で物凄い豪速球が飛び交った。

 チルノちゃんとかあの辺りは本気で真正面からやりあってたけど、サニーちゃん達は意外と賢かったよ。光を屈折することでボールの位置を分からなくさせて当てるとか結構有効手だと思う。

 物の目が見える私にとっては無意味だけど。

 ただ個人的には意外と羽が当たらないように気をつけるという意味じゃ気を遣った。

 最終的に私が三妖精に当てて勝った。いぇい!

 

 

 #####

 

 

「結構楽しんでるのね」

「というかクラスメイトが大概濃いわよね」

「ドッジボール。懐かしいですね、そういえば私。ドッジボールで当てられたこと一度もないんですよ!」

「……それ絶対奇跡起こってますよね?」

「まぁ……そうかもしれませんけど」

「能力のほぼ無い外でそれってただのズルじゃないの?」

「わ、私の預かり知らぬところで無意識に発生するんだから仕方ないじゃないですか!」

 

 プンスカと早苗は怒り、次のページをめくる――――。

 

 

 



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十月編3『地底ライブ!』

 


 歌詞とかはテキトーです。
 しかもワンフレーズです。


 


 

 

 

 十月七日

 

 

 久々にバンドメンバーが集まった。

 本番まであと三日、『紅の幽霊楽団』再始動だね!

 と言ってもやることは変わらない。魔理沙が考えたという曲や登場の順番、それから音合わせなどを行うだけだ。

 それにあれから私も何もせずいたわけじゃない。日記には書いてないけど音楽も真面目にやってるし、何なら本番でピアノを弾けるくらいにはなってるはずだ。

 ともかく私はボーカルだから声出しだね。叫ぶというよりはやっぱり音程重視で、なおかつ声が出れば重畳ってとこかな?

「レッツ、ミュージックスタートだぜ!」

 今回は魔理沙もボーカル参加するという。それで歌声を聴いてみたけど思いの外上手かった。何というか綺麗な歌声というよりは盛り上がる曲ってレベルが半端じゃなかった。

「星の果てまでぶっ放せ♪ マスター、スパァークッ!!」

 曲の中に所々観客が合いの手を返す部分も入っていたので上手く嵌れば盛り上がること間違い無しだろう。何より魔理沙ってスペルカードとかがド派手だからさ。

 あとは衣装かな。

「フランちゃんの衣装はこちらですね、どうぞ」

 衣装班の人曰く今月末にハロウィンがあるから、それをテーマにしたらしい。なんか魔理沙の服を全体的にオレンジ色にした感じの衣装をもらった。なんでも魔法少女スタイルだとか。私の羽根を収納出来るように構造されていたので、はたから見たら人間に思われそうだね。

 でも半袖だし、ちょっとスカート短いから少し冷えるや。

「お、衣装か! 衣装班に一任してたけど私のはなんだ?」

「魔理沙さんはこっちです」

「へぇーどれどれって、なんだこれ? 羽根?」

「YES。折角なんで魔理沙さんの衣装は吸血鬼をイメージしました。羽根はレミリアさん仕様ですけどね」

 吸血鬼かぁ。あっ、もしかしてあれかな? 私と魔理沙の役割をお互い交換してみた感じ?

「その通りです。こういう趣向も良いかなって」

 衣装班の青年はコクリと頷く。この人は珍しく罪袋じゃないんだよね。というかこの人、大分前に濡れたらスケる衣装を作って間違えて送りつけてきた人なんだけど今じゃ普通にメンバー入りしてて衣装を一任されている。確かに性癖だけを除けば技術は凄いしなぁ。測ってもいないのにピッタリのサイズの服を用意してくるし。本人に聞いてみると、

「これを言うと女性に嫌われるのですが、実は僕は見ただけでスリーサイズが分かる能力を持ってまして……」

 そんな能力あったんだ。確かに女性の実力者が多い幻想郷じゃ嫌われそうな力だね。

「ただ、これに関しては妖怪の賢者様にも釘を刺されていまして悪用するつもりはありませんから。精々嫁に同じ衣装を着せる程度です」

 それはそれでそんな家庭の話をしないでほしいけどね。私、そういう知識はお姉様とパチュリーが出来るだけ塞いでるのか疎いんだよね。そのせいで下手に話を広げられるとすぐ顔が真っ赤になっちゃうし。なんというか初心(ウブ)ってやつだと思う。五〇〇年弱生きてきてそれってかなり深刻な気がするけどまぁ気にしない方向でいこう。

 ともかく衣装を着てみたけど相変わらずピッタリ。着心地も良い。変態さんだけどやっぱり腕の良い人なんだよね。

 あとそうそう。

 こころさんも駆け付けてくれたよ。

「ふらん、今風のダンスを覚えてきたよ」

「今風のダンス?」

「うん、アイドルの踊りかた。やっぱりアイドルは可愛さ重視でナンボだから激しいダンスは要らない。それとオタ芸っていって観客が踊る事もあるみたい。勉強になった」

 満面の笑みのこころさんの似顔絵が書かれた面を付けてこころさんが言う。

 ふうん。そういえばネットでアイドルとか見てなかったなぁ。今度見とかないと。

「まずは可愛さアピール。笑顔の練習」

「あ、はーい」

「じゃああざといけどニコッ♡ってやって」

「ニコ?」

「笑顔。こんな感じに――ニコッ♡、はい」

「え、あ……ニコッ♪」

「違う。ニコッ♪じゃなくてニコッ♡」

「どこに違いがあるの!?」

 厳しいところまで相変わらずらしい。ともかく再始動も嬉しかったけどそれより何より皆の顔が久々に見れて嬉しかったなぁ。

 

 #####

 

 

「こういうのって皆でやってる感じがして良いですよね」

「そうね。ほのぼのしてて良いわ」

「霊夢達がこうやって皆で何かやる時は大抵異変解決だものね」

「アンタも起こした側でしょうが、レミリア」

「……この場合私も異変の首謀者側に入るのでしょうか?」

「さとりさんは入らないと思いますけど……いやでもどうだろう。霊夢さんに撃墜されたなら入る、かなぁ?」

「言っておくけど早苗、アンタもよ。博麗神社をぶっ壊そうとした事は忘れてないわ」

「いや、だってあれは霊夢さんが掃除をサボってたのが悪いんじゃないですか! ちゃんと掃除がしてあれば使われてる神社だって分かったんですし! てっきり荒れ果てていたのでとうの昔に滅んだと思って空き家を放置しておくと危ないと思ったから私は行動に起こそうとしただけで――」

「いかなる理由があろうと敗者に語る口はないわ。幻想郷は勝者至上のルールよ」

「酷いです! 横暴です! 誤解だって分かってから散々謝ったじゃないですか!」

「ハッ、そんなのでチャラになるわけないじゃない。謝る前に何か出すもんあるでしょうが」

「霊夢霊夢、そこまでにしときなさい。およそ博麗の巫女がして良い顔じゃなくなってるわよ?」

「……というか普通に悪どいです霊夢さん。あと親指と中指をくっつけて暗にお金を寄越せとジェスチャーしないで下さい、それでも巫女ですか貴女」

「ったく、仕方ないわね」

 

 不満げに霊夢は呟いて次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十月八日

 

 

 準備二日目。

 幽霊楽団の三人との音合わせ。

「見ない間に歌声が進化しているな」

「フラン、流石だねー」

「よっし、私達も気合入れるよ!」

 上からルナサさん、メルランさん、リリカさんの言葉だ。褒められると素直に嬉しいね。

 私からすれば三人とも相変わらず楽器演奏上手いなぁと思うけど。

 三人に負けないよう私も頑張らないとね!

 ちなみにだけど三人もそれぞれ衣装が用意されている。

 ハロウィン仕様という事でカボチャ柄のミニシルクハットを斜めかぶったり、猫耳を付けたり、包帯を巻き付けたり。三人とも楽しそうだ。

 ちなみにルナサさんが大人風ミニシルクハットスタイルで、メルランさんが包帯女? それでリリカさんが猫耳だった。

「ほら見てみて! 包帯巻いてみた!」

「メルラン、その巻き方ミイラ男じゃなくて中二病……」

 ルナサさんが突っ込んでたけどまぁ、巻き方は別に良いんじゃない? 全身に巻くより可愛いし。

 

 #####

 

「楽しそうね」

「そうですねー」

「ハロウィンかぁ……私、ハロウィンイベント参加した事ないわね」

「え、霊夢さん無いんですか?」

「えぇ、いつも通りに過ごしてるわ」

「あ、じゃあ最近は人里でも仮装やってますし参加してみてはどうでしょう? 私も去年やりましたよ」

「……ちなみに何の役を?」

「それは……その、サキュバス……ですけど」

「「「…………、」」」

 

 その後、三人の視線の先が二つの山に向けられた上で「……あぁ」と納得されたことは言うまでもない。

 

 #####

 

 

 十月九日

 

 

 準備万端!

 一足早く現地入りするとのことで地底に行くことになった。

 でも思ったより大所帯だね。

 特に罪袋さん達とかうちって人間のスタッフさんも多いから地底に降りるのは大変だった。

 早苗さん達にお願いして核融合施設につながるエレベーターを借りて地下に行って、それから神奈子さん経由で地底の主さんに迎えに来てもらえることに。ここまでで数時間掛かったよ。

「……初めまして、古明地さとりと申します」

 それで、来てくれた地底の主さんは思ったより可愛らしい人だった。私と同じくらいの見た目じゃないかな? こいしさんに似ていたので尋ねてみるとどうやら妹らしい。世間って狭いね。

 というかこのさとりさんも聞き覚えあるなぁ。

 と思ってたら思い出した。これも少し前のツイッターの時だ。

 

 こいし@元世界一位

 「お姉ちゃんのコスプレ撮れた〜」

 さとり

 「え!? こ、こいしいつの間に!?」

 火焔猫燐

 「さとりさま、本棚にさとりんという名前の人が描いてるR18の同人誌があったんですが」

 さとり

 「お燐、そのツイートを今すぐ消しなさい!」

 おくぅおくぅ!

 「さとりさまの部屋で謎のノート発見しました!」

 さとり

 「や、やめて! お願いそれだけはやめて!」

 おくぅおくぅ!

 「うpしまーす!」

 さとり

 「お空、お願い! 何でもするから!!」

 

 多分これだよね。思い浮かべているとさとりさんが顔を真っ赤にして手で隠していた。

「あの、どうしました?」

「その……私は覚なので考えていることが読めまして、その時に過去の恥ずかしい話がまさか出てくるとは思ってなくて」

 あぁ……かわいそうに。バッチシそのコスプレ画像まで見ちゃったからなあ。可愛かったけど、本人にとってはそりゃあ黒歴史だよね。

「と、ともかくこれから地霊殿に案内します。今日はごゆっくり当家でお休み下さい」

 とか思ってるとコ、コホンと誤魔化すように恥ずかしそうな顔でさとりさんが話題転換して地霊殿に連れて行ってくれた。

 うん、そうなんだよね。今日私達は地霊殿に泊まることになっていたんだ。単に人数が多くて収容出来るのがそこしかなかったんだけどさ。

 ともかくお世話になりまーす。

 

 

 #####

 

 

「ここでさとりさんに繋がってくるんですね」

「はい、初めて会ったのはこの時です」

「というかアンタ、前も話題にはしなかったけど好きなの? コスプレとか同人誌とか」

「……あ、えっと……その、はい」

「まぁ趣味なんて人それぞれよ、ねっ?」

「そうですよさとりさん」

「……いや、逆にそんなこと言われた方が傷付くんですけど」

 

 レミリアと早苗がフォローを入れるが、まるで効果無しであった。

 

 

 #####

 

 

 十月十日

 

 

 今日は待ちに待ったライブ当日!

 昨日は地味に地霊殿の人達と宴をして楽しんだんだけど、それはともかくだ。

 まずはルールを書いておこうか。

 今回私達が参加するライブ、地底ライブ大戦なんだけど、審査員が居て、一位のバンドを決定するらしい。

 つまり参加するからには目指せ優勝! というわけだ。

 今日のライブには地底のアイドルことヤマメさんも居るし気合入れないとね! まぁ一番は楽しむことだけどさ。

 観客は地底に住む妖怪達が多かったけど、それでも人間も見かけるあたり物好きっているんだね。

 それでその本題のライブだけど。

「行くぜ! まずは一発マスタースパーク!」

 最初は魔理沙からだ。演奏の流れは、まず盛り上げ特化の魔理沙が出て一曲目を歌い会場の雰囲気をハイにし、その後二曲目で私が登場して歌う。それが終われば軽くトークして、デュエット曲を一つ。その後私が二曲歌い、魔理沙が締める。こんな流れだ。

 で、やってみたけど上手くいった。

 魔理沙はキチンと盛り上げてたし、私も上手く出来たんじゃないかなと思う。

 トークは少し不安だけど概ね予定通りだったし、観客の皆もかなりテンション上がってた。

「皆さん、どうも! 紅の幽霊楽団です!」

「「「「イエエエエエエ!!」」」」

 うん。三姉妹の演奏も見事だったし、踊りもピシって嵌った。私の歌にもミスはなく、完璧だね。

 魔理沙が吸血鬼の格好で私が魔法少女っていうのも受けてたし。

 

 で、私たちの出番が終わってから全チーム見たけどヤマメさんも凄かったよ。

 歌いなれてたね。ファンも多かったみたいで殆どの人が彼女の曲を知ってるみたいだった。

 ともかく最終のチームが終わって審査員の協議が始まる。

 そしてーー、

 

「地底バンド大戦、優勝は紅の幽霊楽団です!」

 

 もらったよ。もらっちゃったよ!

 一位だ、やったー!!

 

 #####

 

 

「おおおお」

「一位って凄いじゃない」

「……ちなみに私も審査員でしたが、凄かったですよ。動きが素人のそれではなく周りとレベルが違いました。弾幕による演技も素晴らしかったですし」

「へぇ、ともかく次があったら見に行くわ。妹の晴れ姿、見たいし……」

「……はい! その時はレミリアさんもご招待しますね」

 

 頷いてさとりはレミリアに笑いかける。

 それから一同は次のページをめくったのだった。



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十月編4『ギャンブラー』

 


 日付が……進まん。
 やりたいネタは浮かんでるのに一日が長くなるせいで書けないのがもどかしいです。


 


 

 

 

 十月十一日

 

 

 ライブが終わった翌日。

 なんか魔理沙が来て「出かけるぞ」と私を人里のはずれに引っ張っていった。

 何処に行くのかな? と思っていると着いたのは……競馬場?

 どういうことかよく分からないまま魔理沙を見ると、

「フラン、賭けるぞ」

 と魔理沙は言った。

 いや待ってよ。言い換えてちょ待てよ。それはともかく競馬で賭け事? 駄目だよそういうの! 咲夜とお姉様に知られたら怒られちゃうし、そういう賭け事って良くないことじゃないの? というか競馬で稼ぎたいなら私じゃなくてお姉様とか早苗さんを連れて行きなよ。

「いや、それは私も考えたぜ。でもあいつら賭け事好かないからさ。まぁ早苗は無理やり連れてけばやれるっちゃやれるが、最近少しやらせ過ぎて出禁くらっちまった」

 もう既にやったんかい! というかお姉様はやっぱり無理だったんだね。まぁお姉様だしね。

 でもだからって私を連れてくるのもどうかと思うの。

 しかし、

「まぁまぁ。騙されたと思ってやってみろって」

「もう、仕方ないなぁ……」

 魔理沙に言われて渋々私は頷く。馬なんてよく分からないんだけどなぁ。とりあえず魔理沙から走る馬のリストと人気順が載ってる紙を見せてもらって、それからパドックのあたりまで行って見てみることに。

 今日のレースはGⅡってやつだった。

「本物のお馬さんだ!」

「ん? フランは馬を見るのが初めてなのか?」

「うーん、そうかも。仮に見たことあったとしても五百年くらい前になるし殆ど初めてだよ」

「ふーん、そうか。で、どいつに賭けるのは決めたか? 私は決めたぜ。何てったってGⅠ馬が参戦してるからな」

 GⅠ? 何の違いがあるのか分からないけど多分、上のランクの馬って事だよね。レートをみると……1.1倍? どうやらこの馬が勝つと掛け金の1.1倍が貰えるらしい。それだけ皆この馬に賭けてるんだね。

 

(うーん……)

 

 皆はともかく私はニワカで、馬なんて全く分からないからなぁ。1.1というのはほぼ勝てるという意味だけど、多分私の将来でも一回きり(予定)の競馬なんてただの遊びだし、賭け事で十中八九勝確の馬に賭けるなんて面白くない。

 本来はそもそも賭け事なんていけないことだけど、どうせやるならギャンブルしてみたいし……。

 とか思って考えていると少し見覚えのある白髪の人に会った。

「アンタは……あぁ、雀荘以来だな」

 顎と鼻と肩幅が妙に広い白髪の人。やっぱ賭け事なら雑食で色々やるんだね。

「……もうアンタは賭ける馬を決めたのかい?」

「普通に考えれば一位は決まってますが、それに賭けるのは面白くないと思って悩んでたんですよ」

「へぇ面白くない……か」

 よく分からない返事に私がオロオロしていると白髪の人は言う。

「……面白い……狂気の沙汰ほど面白い……! 不合理こそ博打……それが博打の本質、博打の快感……不合理に身を委ねることこそギャンブル……。良いね、嬢ちゃん。ますます気に入った」

 

 それから「じゃあな、幸運を」と言い残して男の人は帰っていってしまった。

 うーん……なんか勘違いされてない? 私ギャンブラーじゃないんだけど……。でもただ賭けるのは面白くないのは事実。

 そうだね、

 

「どうせ外すなら、強く賭けて外そう……!」

 

 そう決めた私は早速一番人気が無い馬に一万円を投入。レートは171倍だ。なんかバイトして稼いだお金をこんなことに使ってることに物悲しさを感じる私だけど、まぁやってしまおう。

 私の中のギャンブラーな部分が叫んでいるんだ。これは当たるってね。

 

「おう、フランも買ったか。ってそれ一番不人気のやつじゃねーか……あ、もしかして競馬表の見方が分からなかったとか?」

「いや違うよ魔理沙。どうせ遊びのつもりで来たからせめて本気でやろうと思っただけ。勝利というのはリスクと引き換えに手にするものなんだよ?」

 

 そうしてレーススタート。序盤から、私が選んだ馬は『逃げ』で飛ばし目に走り、集団のトップを走っていた。

 逆に魔理沙の選んだ馬は『追込』を選択したのか集団の後ろをついていく。

 そして四コーナーを曲がり先頭は私の選んだ馬! 後続馬が一気に襲いかかるがスピードは衰えない。

 が、残り二百メートルを切ったところで後方にいた人気一位の馬が一気にギアを上げて来た。三馬身ほどあったリードもみるみる迫り、あっという間に中間馬を追い越してしまうーーが、その途中位置取りを誤った。

 馬と馬の間に入り前に行きにくくなっている。が、それでも一位の馬は強引に突破していく。

 残り百メートル! 後続との差は二馬身。他の馬もさらにギアを上げ差が縮まる!

「さ、差せ!」

 気がつくと競馬場の人々が馬券を握りしめ叫んでいた。

「……差せ!」「……差せ!」

 残り五十メートル! ようやく一位の馬が間を抜け出し、二位まで躍り出る。リードは一馬身。が、ここで私の選んだ馬が最後の力を振り絞りラストスパートを掛ける!

「さ、差せ!」「……差せ!」「差せ!」「差せ!」

 馬券を握りしめた人々が必死の形相で叫んだ。前評判は一位間違いなしの馬だ。払い戻しが少ないからこそ皆大金を賭けていたのだろう。一部の人々の目には恐怖と汗が滲んでいた。

「さ、差してくれ! 頼む!」

 横を見ると魔理沙もたまらず叫んでいた。一位の馬はギアを上げる、が……途中で無駄に体力を使ったせいか思うように足が上がらない。

 しかしそれでもトップスピードの違いがあり、徐々に差は縮まる。一馬身からさらに僅かな距離へ。

 あと一メートル! あと八〇センチ! あと五〇センチ!

 あと三〇センチ!

 そして、そしてそしてそして!

 

 二頭の馬がほぼ同時にゴールへと飛び込んだ。ついで実況の声が会場に響き渡るーーーー!

 

 

「……い、今ゴールしました! 一着は○○! か、勝ったのは○○です! これには会場もどよめいています!」

 

 来たよ……ヌルリと。

 って、ハッ。私は何を? というかレースは……あれ?

 しょ……勝負に勝っちゃった。え、本当に?

 えーと、一万円賭けたから171倍で、171万円!? す、凄い……けどちょっと大金で怖いかも。

 

「ふ、フラン……その馬券」

 

 呆然としていると魔理沙が私に声をかけて来た。

「ビギナーズラックってやつか……? 凄ぇな、お前」

「私もまさか当たると思わなくて呆然としてたよ」

 ともかくビックリだ。

 馬券販売所で交換してもらうと171万円を貰えた。現金で。

 ……すぐに異空間にしまった。持ってるの怖いからね。

 あと勝ったからなんだけど、妙に倍プッシュしたくなったのは何故だろう。当たったせいで博打にハマりそうになってるのかな。危ない危ない、しばらくこういうことは控えないといけないね。

 ……ともかくこのお金どうしようか。

 ねぇ咲夜、どうしたら良いと思う?

 

 『稼ぎ方はともかく、妹様の稼いだお金が元ですから私は何も言いません。ただ今後は使い方に気を付けて運用為されますよう』

 

 

 #####

 

 

「咲夜のコメントまで入ってるわね」

「というか競馬……魔理沙さんによくやらされましたよ。でも私が賭けると魔理沙さん以外の全ての人も同じ馬に賭けるから賭け事にならないんですよね。実際勝っちゃいますし、馬」

「ここまでくると早苗の奇跡って何でもありね。『さすがおにいさま』になぞらえて『さすがさなえさん』、略して『さすさな』という言葉を作るわ」

「そんな二つ名いらないです」

「……それよりフランさんがギャンブラーなんですけど」

「それが問題よね! というかそれを問題提起するのが遅いわ! 姉として色々物申したいんだけど!!」

「賭博黙示録フランちゃん、かな?」

「フラン-Furan-も捨てがたいですね」

「……いや、重要なのはもっと別にあると思うんですけど。そもそも賭博に強い女の子って、フランさんが目指す可愛い女の子として有りなんですか?」

「「知らないわ」」

「知りませんね」

 

(……ダメだこの人達早く何とかしないと)

 

 割と真剣にそう思ったさとりであった。

 

 

 #####

 

 

 十月十二日

 

 

 昨日は競馬なんてやらされちゃったよ。

 で、なんだかんだ小金持ちになったわけだけど、どうしようかな。無駄に使うのは良くないしどうせなら社会勉強の一環として事業でも興してみる?

 森近さんと協賛で。

 とはいっても何か作るにしてもこの程度の資金じゃ足りないから実質私の体一つでの働きになるんだよね。

 となると建築系? とはいえ建築図なんて書けないし読めないし、耐震性に優れた設計なんて読み解けない。

 うーん、困った。

 まぁそんなすぐにお金を使わなくても良いよね。それに競馬場でのお金って何故か外の世界のお金だから使い道も難しいし。

 というわけで何もせずいつも通り、今日も今日とて森近さんのところでバイトだよ。

「麻雀に競馬……僕は魔理沙を何処でこんなおっさん趣味にしてしまったのか……やっぱり家出が原因? ううむ……先先先代の霧雨のおやっさんに面目が立たないよ」

 昨日の話をするとなんか森近さんがやたら落ち込んでた。

 それと今度魔理沙に軽く諭すとか呟いてたけど大変そうだね。

 

 

 #####

 

 

「確か霖之助さんはかつて霧雨商店で働いていたのよね」

「霧雨商店って魔理沙さんのご実家ですよね。そうなんですか?」

「えぇ。そこで商人としてのノウハウを得たらしいわ」

「……こう言葉に並べてみると色々将来が心配になるわね」

「……それに巻き込まれて才能を見せてるフランさんも心配ですけどね」

 

 呟いてさとりは思う。

 

(……というか、白髪の人出過ぎじゃないですか?)

 

 口には出さないけど。

 ともかく彼女は次のページをめくるのだった――――。

 

 

 

 



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十月編5『過去の夢』

 


 アカン、迷走してる。


 


 

 

 

 

 十月十三日

 

 

 久々に吸血鬼らしく夜に散歩してみた。

 真夜中の幻想郷。薄い月明かりに照らされて私は歩く。

 秋も半分を過ぎて徐々に肌寒くなってくる頃。吐く息が白くなるほどではないけど小さくくしゃみをした。

 どうでもいいけど月明かりの下を歩くのって風情があるよね。僅かに揺れる羽の影がお気に入りだ。

 ともかく夜って落ち着くんだよね。

 やっぱり私って吸血鬼なんだなぁ……。最近じゃ朝起きが当たり前になってるけど。

 なんていうかな。外に出て気分が良くなった。

 それから意味もなく空に飛び上がって満月を見つめる。

 黄色い丸いお月様。そういえばお姉様ってあそこに行ったんだよね。何かしらのトラウマを植え付けられたみたいだけど。

 咲夜に聞いてもあんまり詳細は教えてくれないんだよね。なんというか、

「知らない方が良いこともございますよ?」

 らしい。ううむ……どんなチートに出会ったんだろう。

 名前だけは聞けたけどね。確かよ、よ、よ……。

 よ、から始まる人だった。えっと……吉田さんだっけ?

 その人に幻想郷勢が全員敗北したとか。弾幕ごっこで私に勝った魔理沙も負けたってことはかなりの実力者だよね。というか霊夢さんが負けたのが普通に信じられないんだけど。

 あの人と弾幕ごっこした時、全て勘で何が来るか予測されて、その上私の動きまで全てを勘で先読みされたからなぁ。

 最終的にはこの先数十秒の未来を破壊するなんて無茶苦茶なことやってようやくまともな勝負になったし。

 その吉田さん? って人と出会ったら気を付けないとね。まぁ月に行く予定も無いし行くこともないんだろうけどさ。

 

 

 #####

 

「フラン、それちゃう。吉田さんちゃう。依姫や!」

「どうしたんですか霊夢さん、いきなりエセ関西弁なんか使い出して?」

「せやかて早苗」

「バーロー、ってそんなことはどうでも良いんです! 霊夢さん、レミリアさんを見てください!」

「はぁ?」

 

 早苗に指差され霊夢がレミリアを見ると彼女は脳裏に残る恐ろしい記憶が蘇ったのか目を見開いて、指先を震わせていた。

 

「いやまたか! つかアンタどんだけトラウマなのよ!?」

「……」

 

 霊夢が尋ねるがレミリアは返事を返さない。

 代わりにさとりがレミリアの思考を読み取る。

 

「……やっぱり最強の体術がお好みってわけね! ――バシュゴォ……ですか、酷い記憶ですね。二コマで倒されたことが相当堪えているみたいです」

「いや二コマってなんですかさとりさん!?」

 

 早苗が突っ込むがさとりは完全無視の体勢だ。

 するとさとりの言葉を聞いて霊夢がオロオロし始める。

 

「で、でもレミリアはまだマシなのよ? 魔理沙なんかマスパを撃とうとしたら手から餅が飛び出てたのに……」

「マスパ撃ったら餅が出てくるってどんな状況ですかそれ!? え、そんな妙な能力者にボコボコにされたんですか霊夢さん!?」

「強いて言うなら画力の問題よ」

「誰の事情ですかそれ!? というかアレですか、第二次月面大戦の話を統合すると弾幕を餅に変える妙な能力者、吉田さんにボコられて帰ってきたんですか!?」

「さとりさとり、早苗が全く話を理解出来てないんだけど……」

「……彼女は理系ですから仕方ないですよ」

「いや、理系とかそれ以前にその意味不明の会話が問題なんですってば! レミリアさんも何とか言ってやって下さい!」

「……バシュゴォ」

「せめてなんとかって返してぇっ!? あとその理解出来ない謎言語やめてくれません!?」

 

 そこまで言い切って、早苗はゼーハーゼーハーと息を整えながら次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 十月十四日

 

 

 今日は寺子屋だ。

 そして久々にあの先生がやって来た!

 

「というわけで今日は久々に臨時講師として妹紅が来てくれた! よろしく頼むぞ」

「あぁ……いや、どうも」

 慧音先生に紹介されてテンション低く挨拶をしたのは妹紅先生だ。寝不足なのか目の下にクマが出来ている。

 また輝夜さんと殺し合いでもしてたのかな?

「じゃあ後は頼むぞ妹紅」

「投げやりだな、まぁ任された」

 と、ここで慧音先生が退室する。残された妹紅先生は疲れた表情で教卓の前に立つと皆に改めて挨拶を始めた。

「というわけで久々だな皆。元気してたか?」

「「「「はい!」」」」

「ちなみに私はグロッキーだ。ちょっとクソ烏天狗に連れてかれて妖怪の山に監禁されてな。一日中ゲームして帰って来たとこだ……あいつ死ねば良いのに」

 

 え、意外。妹紅先生、ゲームなんてしてたんだね。

 何やってるのかな? ポケモンとか? というか烏天狗ってもしかして文さんかな?

 

「対戦ゲームなんだがやたらぐーやってやつに邪魔されてな。腹が立つわ。輝夜じゃねえけど殺したくなった」

 

 いや妹紅先生、それ輝夜さん! 

 というか授業で殺すとか言わないでよ!? やたら荒んでない!? 主に心がさぁ!

 

「つーわけで授業だ。今日の授業は……えっと安土桃山時代か。あの頃は確かノブの時代だな。ハゲネズミも懐かしいわ。最後はガリガリ狸が天下取ったけど」

「ノブ?」

「ん、あぁ。織田信長な。実は一時期、織田家に身を寄せてた事があって知り合いなんだ。ちなみにハゲネズミは豊臣秀吉な。ガリガリ狸は徳川家康だ。あいつ狸って言われてるくせにあまりメタボでも筋肉質でも無かったからさ、あだ名つけてそう呼んでた」

 

 まさかの史実の武将と知り合い!? というか全員安土桃山時代の主役級じゃないそれ!?

 

「他にも結構知り合いはいるな。私ってなんだかんだ名家の生まれだから、作法とか頼まれて京都の御所にノブと行ってさ、一緒に挨拶したら偶々通りがかった天皇に何故か見初められてな。最終的に本能寺の変でちょうど明智ちゃんがノブを殺しに来たからいっそ本能寺燃やして死んでしまえって逃げたけどいやー、懐かしい思い出だなぁ」

「先生、信長はどうなったの?」

「死んだよ。一緒に逃げるか聞いたけど断られて、その場で敦盛歌ってさ、最後は私に体を処理してくれって頼まれた」

 

 歴史が壊れる音がする。

 というか信長の骨が本能寺で見つからなかったのって妹紅先生が持ち帰って処理したからなの? なんだそれ……。

 というか普通に話がエグい! 反応しづらいよこの話!

 

「まぁ個人的な話はここまでにしておくか。えーっと、織田信長は桶狭間で今川軍を打ち破った……おい。歴史の教科書間違ってるぞ。桶狭間じゃなくて田楽狭間だったぞ、今川義元討ったの」

 

 で、教科書に戻ったけど普通に間違い判定された!?

 というかその時生きてる人が言うんだから間違いはないんだろうけど、なんというかどう反応すれば正解なのだろうか。

 ともかく終始こんな感じの授業だった。

 

 

 #####

 

 

「信長と知り合いって地味に凄いですね妹紅さん」

「というかあだ名呼びって……そんなに軽かったの戦国時代?」

「……それ以前に一日中ゲームって幾ら不死でも体に悪いですよ」

「なんというか……随分と凄い人生を歩んで来たのね」

 

 上から早苗、霊夢、さとり、レミリアの言である。

 

 

 #####

 

 

 十月十五日

 

 

 今日は懐かしい夢を見た。

 もう四九五年も前の夢だ。昨日とはテンションが打って変わってって感じだけど懐かしいので書こう。

 四九五年前……私が幽閉(自分の意思もあるけど)をされる前、私達はヨーロッパの古びた古城で家族と大勢の従者に囲まれて過ごしていた。

 そこには勿論私達のお父様やお母様も一緒だった。その頃は能力の心配も私の狂気も起こっていなくて、お姉様も私もまだまだ子供として遊んで毎日を過ごしてたっけ。

 お姉様も子供ながら頑張ってお姉ちゃんをやってくれてたなぁ。

 そんな夢の中でお姉様と遊ぶ夢を見たよ。

 お父様とお母様が私達を見て笑っててさ、私もお姉様も笑ってる。そんな――とても幸せな夢。

 もうその頃にはめーりんも居たっけ。確かその時はまだ客人だったんだよね。旅の途中でふらりと訪れて、私達に旅のお話を聞かせてくれてそれからずっと側に居てくれた。

 沢山の人に笑顔を向けられた頃の夢……小さい頃を思い出すとどうしてこんなにも戻りたくなるんだろうね。

 まぁ時は前にしか……いや、まぁ一部の例外を除いて時は前にしか進まないから今更戻るなんて出来ないけどさ。また何も考えてなかったあの頃に戻って、お父様やお母様に会いたくなった。

 で、ここからが驚きなんだけど。

 夢を見て少し懐かしさを覚えてさ、ご飯を食べながらお姉様にそのことを話してみると「フランもその夢を見たの?」と返事が返って来た。

 なんとお姉様も同じ夢を見たらしい。

 偶然かな? ……それとも。

 

 ううん。下手に考えることじゃないか。

 それからお姉様とあの頃はこうだったねという昔話に花が咲いた。

 

 #####

 

 

「あったわね、こんなこと。あの時は私も驚いたわ。まさか全く同じ夢を見てたなんて思いもしなかったもの」

「確かに二人が同じ夢を見るなんて中々無いですからね。ただ私個人としては夢と聞いて……ドレミーさんが浮かびましたけど」

「あいつは関係無いでしょ。接点無いんだから」

「……奇妙な話もあるものですね」

 

 呟いてさとりは思う。

 

(……というか絶対偶然じゃないですよね)

 

 明らかに何かフラグめいてます。さぁ鬼が出るか蛇が出るか……はたまた何も出てこないのか。

 少しウキウキしながらさとりは次のページをめくる。

 

 




 


 次回はほのぼのにしたい……(多分)


 


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十月編6『マヨヒガ』

 


 投稿が一日の終わる二分前。
 もっと……もっと早く書く技術を磨かねば。


 


 

 

 

 十月十六日

 

 

 お姉様がロボットが見たいと言い出した。

 外の世界ならともかく幻想郷でロボット? うーん、思い当たる節があるとすればやっぱり守谷神社か香霖堂、それか無縁塚だよね。

 命令されて咲夜が探しに行ってたけど見つかるかなぁ?

 まぁとりあえず私は副メイド長としてお仕事しないとね。最近やっと思考加速が出来るようになってさ、現実時間の中を二倍速で行動出来るようになったからお掃除もすぐに終わる。ホフゴブリン達もかなり有能になってきたしさ。

 それに妖精メイドも最近はそこそこ使えるんじゃないかな? 死んでも一回休みって良いよね。心行くまで躾が出来るから。大ちゃん達にも妖精の扱いを聞いたし多分それが効いたのかもしれない。

 ともかくそんなわけで屋敷のお仕事も終わってお姉様のご飯も作ったので私も外にロボットを探しに行くことにした。

 ふふん、今日の私はメイドだからね。ばっちしメイド服装備です!

 

「……それで僕のところに来たのかい」

 

 香霖堂に行くと森近さんが私を迎えてくれた。

 それで「まぁ探してみよう」と森近さんが奥に入って数分。奥からいくつかのボタンやおもちゃのロボットを抱えて森近さんが出て来た。

 

「とりあえずこれだけ見つかったよ」

「じゃあロボの名前とか教えて?」

「はいはい、えっと……じゃあ近いところからいこうか」

 

 呟いて森近さんは手前に置いたロボットを指差して言う。

 そのロボットは、まあ見た目からしてザ、ロボットって感じだった。

 

「これはファミリーコンピュータロボットだね。前にゲーム機を見せた時にファミコンってあっただろう? あれの周辺機器らしい」

 

 ふーん。じゃあこっちの犬みたいなロボットは?

 

「そっちはAIBO(アイボ)だね。ソニーが発売した犬ロボットだよ。AIBOは成長するロボットで、最初は本当に何も出来ないらしい。飼い主が語りかけたりすることで少しずつ学んでいき、成長する。さながら本物の犬、っていうものみたいだね」

 

 へぇ。それは良いなぁ。個人的に欲しいや。

 森近さんそれ売ってくれる?

 

「構わないよ。まぁそれは後にして次のロボの説明をするかい?」

「ううん、もう良いや。どうせお姉様のワガママだし、それにこのワンちゃんである程度満足すると思う」

 

 そもそもお姉様のワガママを毎回毎回完璧に叶え続けてたら増長するもん。ほどほどにするのが一番。

 それで帰ったんだけど。

 

「何これ可愛い! これがロボットなの?」

「うん。話しかけたりすると少しずつ学んで行くんだって」

「なるほどね。クク、AIBO……お前に名を授けるわ! お前の名は……『血塗れの(ブラッディ)捕食者(イーター)』よ!」

「趣味悪っ」

 

 ともかく買ったAIBOを連れ帰りお姉様に見せてみると思ったより良い反応をもらえた。

 ついでに命名。ブラッディイーター。

 うん、お姉様とお話しして最終的に略してディータって呼ぶことにした。いくらなんでもペットに血塗れとか付けるもんじゃないよ。

 

 #####

 

「レミリアさん。血塗れってブラッディじゃなくて真紅って意味のスカーレットじゃ駄目だったんですか?」

「駄目よ。所詮ペットに私達の名をそう簡単にはやらないわ」

「あとレミリアさん。捕食者ってイーターじゃなくてプレデターなんですけどそのあたりどういうことか説明して下さい」

「プレデターってなんか宇宙人みたいじゃない? それよりなら直接的に食べる意味があるイーターの方が犬って分かりやすいかと思ったのよ」

 

 サラリと説明するレミリアだが、そこで霊夢がチョンチョンとレミリアの肩を叩いて振り向かせてこう言い放った。

 

「レミリアレミリア」

「何かしら?」

 

 一泊。

 

「趣味悪ッ!」

「!!?」

 

 レミリア は 黙り込んだ!!

 

 

 #####

 

 

 十月十七日

 

 今日は橙ちゃんの家に遊びに行くことになった。

 寺子屋が終わってから橙ちゃんの家、マヨヒガへ。場所は妖怪の山近くの小山にひっそりとあるらしい。

 周囲には認識阻害の術が掛かっていて、迷い込んでくる人以外は基本訪れないらしい。

 屋敷には猫が一杯いるんだって。

 というわけで行ってみた。認識阻害の術を乗り越える為にパチュリーから魔道書を借りて向かう。

 

「エム×ゼロ!」

 

 今回借りた魔道書はなんでも自分の周りに丸い結界みたいなのを貼って、魔法を無効化する内容らしい。

 パチュリーが「まぁ簡単に言うと丸い幻想殺し(イマジンブレイカー)よ」って言ってたけどまず幻想殺しって何よ?

 で、結界を突破して着きました! マヨヒガ。

 

「フランちゃん待ってたよ!」

 

 見た感じ廃村って感じだった。森に囲まれていて、いくつかの古びた家々が連なっている。その中に一つだけ今もなお人が暮らしていそうなお屋敷がポツンとあった。

 外にも猫が沢山いて思い思いに暮らしていたよ。ごろにゃ〜って鳴きながら寝転がってたり、警戒心なく私に近づいて来て私の足に顔をこすり付けたり。可愛いなぁ。

 そしてしばらく戯れてから、改めて屋敷に足を向けると橙ちゃんが出迎えてくれた。

 

「お待たせ〜」

「ううん。今更だけどよく来れたね? 結界があるから最悪、紫様にスキマを借りようか考えてたのに」

「あはは、結界の存在を知ってたらちゃんと対策して来るよ」

 

 確かこんな感じの会話だったかな。

 それから屋敷内にも沢山の猫がいた。

 白に黒に茶色に灰色。一杯だ。種類も一杯。あっ、喧嘩してる猫もいる。別の方向ではハシゴを器用に登って屋根に上がってた。

 

「ここは猫の隠れ里なんだ。実は外の結界は猫を誘き寄せる効果もあってさ」

 

 だから猫はしょっちゅう迷い込んでくるの、と橙ちゃんは笑う。

 橙ちゃんは猫又だもんね。言ってしまえば猫の妖怪だから仲間が増える感覚なのかも。

 私的に言えば蝙蝠(こうもり)かな? 実は私も使役してるんだよね、蝙蝠。あと蝙蝠にも変身出来る。滅多にやらないけどね。

 とか思ってるとわらわらと何匹かの猫が近づいて来た。

 

「わっ」

「それ甘えてるんだよ。撫でてあげて?」

「う、うん」

 

 猫って警戒心高い動物じゃなかったっけ?

 こんなにグイグイ来るものなんだ……、ともかく近づいて来た一匹を抱き上げて撫でてみる。毛がモフモフしていた。

 ぎゅっと抱きしめるとあったかい。手の中の猫がにゃあ、と鳴いているのを見て思わず笑顔が溢れた。

 優しく頭と喉を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 あとこうしていて一つ気付いたんだけどさ。

 

「にゃ〜にゃ〜」「にゃ〜」「ぎにゃ〜」「にゃ〜ご」「お゛お゛ん゛!!」「ニ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ン゛!!」「ニャーンてニャ!」「にゃ? 多磨は猫じゃないニャ」「ハローキティ」「飲むか、超神水を!」

 

 猫の声ってよく聞いてみると違いがあるんだよね。

 というかニャーンてニャ! からは普通に声に聞こえたけど気のせいかな? もしかしたら疲れてるのかもしれない。

 今日は早めに寝よう。

 とにかく猫と戯れながら橙ちゃんと楽しく遊べました!

 

 #####

 

「友達との遊び、良きかな良きかな」

「達観してる風に言ってるけどレミリア、アンタも見た目子供も中身もじゃない」

「ちょっと待ちなさい霊夢!? 見た目はともかく私、中身はもう子供じゃないわよ! レディよ!」

「……えっと、レミリアさんの思考を読むと……『一人前のレディーとして扱ってよね! ぷんすか!』ってなってますね」

「いやさとりさん、どう考えても背伸びしたがる子供じゃないですかそれぇッ!」

「う、嘘よ! そんなこと考えてないもん!」

「レミリア、語尾にもん! とか言ってる時点で化けの皮が剥がれてるから」

「うーん、子供としてみるとレミリアさんって可愛いですよね。所々ポンコツで抜けてるし」

「……いや、早苗さんもかなり抜けてる方だと思いますけど」

 

 そう突っ込んでから、改めてさとりはレミリアの頭の中を覗いて思う。

 

(……子供な見た目を最大限利用するって意味で言えば彼女は完璧ですよね。言動も、表面上の思考も幼く留めている。風に噂によると彼女が起こした異変はスペルカードルールを広めるためのものという話も聞きましたし、その上で八雲紫などとも繋がりを持つはず。だからこそ妙ですよね。ここまで彼女が自然に幼い様子を見せているのが。これをもし計算でやっているとすれば……やはり彼女は相当なやり手かも――――)

 

「霊夢、私はポンコツじゃないわ!」

「本当にポンコツじゃないなら三回回ってワンって言ってみなさい」

「え? えっと三回回ってって誰が言うか! 誘導したわね!」

「いや……半分回りかけるまで気付かないんですか、それ?」

 

(いや、やっぱり気のせいですね)

 

 アレだ。咲夜さんが凄いんだ。

 余りにも自然過ぎるその姿からさとりはそう判断した。

 そして次のページをめくる――――!

 

 

 

 

 

 



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十月編7『流行病』

 

 

 

 十月十八日

 

 

 最近ますます秋めいてきた。

 で、思ったけど秋って食欲の秋とか読書の秋とか運動の秋とか言うじゃん。

 でも私って運動とか食欲の秋は満喫してても最近読書はあんまりしてないからやることにしました。

 折角なので買ってきたよ。

 お姉様の書いた「全世界ナイトメア」。『こんなに月が紅いから……本気で殺すわよ?』永遠に紅い幼き月が放つダークファンタジー巨編!

 ……帯からして地雷臭するけどまぁ読む。

 漆黒の闇。夜に生きる者を除き不可視の夜。

 新月なる真の暗闇の中、その運命を背負いし少女は迷いのない動きでその紅い館を歩いていた。

「……」

 館には彼女の靴音だけが響いていた。カツ……カツ……と革靴(ローファ)の音が館内を反響する。

 そして如何ばかりの時間が経過しただろうか。

 目的の部屋に辿り着いた彼女は初めてその深淵のように深く美しき声を発した。

「私を呼んだのは……貴方?」

 

 』

 

 あれ? 意外に読める?

 いや、所々痛いワード入ってるけどさ。ついでに話もよく分からないし面白みも今の所ないけど。

 ともかく読み進める。けど、

 

 『

 

「クッ……ハハッ。そうか、世界は私を求めていたのだな!」

「嗚呼。其ノ通リ哉。汝ハ吸血王ノ遣イ也」

 

 それは天上なる世界との邂逅。少女が其の一端に届きし一幕。

 嗚呼、私は運命に定められし者だったのだ。それを理解する。

 深淵の契約は今満たされた! 嗚呼、始まりの空也。そして原初が動き出す!

 

 』

 

 あっ、駄目だ。なんか覚醒シーンあたりでいきなり文章が理解不能になった。

 というかこの本途端に読む気失せたんだけど。とりあえずこれどうしてくれよう。

 ……うーん。これ以上この本を読んでも時間の無駄な気がしてならないし、とりあえずパチュリーの本棚にコソッと混ぜとこ。

 

 

 #####

 

 

「……………、」

「で、レミリア。妹にボロクソに言われた感想は?」

「霊夢さん、酷なこと言わないであげてください!?」

「……というかフランさんもフランさんで酷いですね、これ」

 

 

 #####

 

 

 十月十九日

 

 今日は朝から妙だ。

 なんというか変なことが起こる。

 まず朝起きて扉を開けて外に出たら、何もないのに躓いて誰かにぶつかった。

 

「うわっ」

「きゃあ!」

 

 勢いよく転けると顔に柔らかい感触。起き上がると咲夜が倒れていた。どうやらちょうど部屋の前を通りがかっていたらしい。で、ちょうど私は昨夜の胸に顔をうずめる態勢で倒れていた。

 何にせよ珍しいよね。普段の咲夜なら時間を止めて軽く受け止めてくれるのに。まぁともかく謝ってその場は別れたんだ。

 それから朝食。広間に行くとお姉様が居たのでおはよう、と声をかけると「うー……うん?」と寝ぼけていたのかお姉様はぽやーっとした顔で私を見てきた。

 で、その寝ぼけ顔を見て私はちょっとした悪戯心で飛びついてやろうって思ったんだ。

 で、やろうとしたらその瞬間足を釣ってまた転けた。勿論お姉様を巻き込んで。

「痛たた……ん?」

 で、起き上がろうとしたら白いパンツが見えた。後から気付いたけどどうやら私はお姉様のスカートの中に頭から突っ込む形で転けていたらしい。通常そんな転けかたあり得ないわけでそこら一体の物理法則がぶっ壊れてたわけだけど、ともかくその場も謝ってその場を後にした。

 それからだった。何故か分からないけどちょっとエッチなシーンばかり目撃してしまうのだ。

 風呂掃除をしようと扉を開けると素っ裸の妖精メイドがいたり、寺子屋に行けば偶々ぶつかったルーミアさんの服の内側に頭を突っ込んでいつのまにか谷間に顔を挟まれていた。

「やん♪」

「ルーミアさん、すみません」

 ……明らかにおかしいよね、これ。明らかに何かの力が私に働いてるよね?

 それで破壊しようにも破壊する対象が皆目見当も付かず永遠亭に行ったのよ。

 で、判明しました。

「うーん、これは突発性ハレンチ症候群ね」

 何その頭悪そうな病名。とりあえずどんな病気なのか聞いてみると、意図せずラッキースケベを起こせる病気らしい。

 

「別名、ToLOVEる病やリトさん病とも呼ばれているわ。リトさん……外に同じ病気に関わった男性がいてね、彼はそのせいで今はトラブルを起こした女性達と懇ろになって社会的に逃げられなくなってるそうよ」

 

 でも私の場合はまだ初期らしいので良かったと言っていた。このまま進行して酷くなると逆に私が異性の人にラッキースケベされる側になるんだとか。

 うん、即行治しました。すぐに気付いて良かったよ。

 でも一つ疑問があるよね。そう、なんでこんな病気に罹ったのかだよ。

 ちょっと調べてみると、どうやら昨日私が読んだお姉様の本があるよね。あれをパチュリーの部屋に置いたんだけど、その置いた場所が悪かったみたい。

 魔道書と魔道書の間に挟まれたところに置いてたみたいで、なんか奇跡的に二つの魔道書にパスを繋いで本を読んだ相手にそんな病気を掛けるようになってた。

 つまりお姉様の本の呪いだったんだよ。

 ……ちょっと腹が立ったのでレーヴァテインで燃やし尽くしておいた。

 

 

 #####

 

 

「いや、燃やすなああああっっ!!」

「いや、燃やすわよ」

「燃やさないにしろ捨てますね。それか売ります」

「……まぁ合わない本は即売却ですよね。それに今回の場合は危険な効果まで付いてますし」

「でも私の本は悪くないじゃない! 不条理よ!」

 

 うがー! と怒るレミリアだった。

 

 #####

 

 

 十月二十日

 

 

 やっぱり季節の変わり目って皆病気になりやすいのかな?

 人里で短期間に物凄い勢いで一つの病気が蔓延し始めたらしい。

 なんでもその病気に罹ると『M』←こんな感じに眉毛が繋がって、なんか駄目人間になるみたい。

 直ぐに永遠亭が対策のポスターを出してた。

 『病名:両津勘吉病

 ・体がギャグになる。例え妖怪に噛み殺されようと耐えきる強靭な肉体となり、理不尽な行動に出ることも多々ある。

 ・負けず嫌いだが努力はせず、ズルやイカサマをするが勝ちを譲らないとピストルを抜くので重役だと思って接しよう。

 ・傷口から感染する。ちなみにそのまま万が一死んだ場合、天国も地獄も受け入れてくれないので地上へ強制送還される。

 ※弱点は部長。病を解くためには『両津の馬鹿は何処だ!?』や『ばっかも〜ん!!』と説教しよう。ただし感染リスク有り』

 

 だってさ、怖っ。

 でも怖いもの見たさに人里に行ってみるととんでも無いことになってた。

「授業なんてかったりぃなぁ……。オイ、適当にやってくれ」

 寺子屋で慧音先生が寝転がって酒を呑みながらそんなことを言っている。あり得ない。

 他にも、

「……奇跡ってすげぇな。競馬に麻雀に大儲けだぜ。うはは、これでワシは大金持ちだ!」

 札束を抱えて早苗さんがゲスな顔をしていた。なんだこれ!?

 それからもしばらく付近を飛び回っていると、霊夢さんに出会った。

「……何これ。異変レベルじゃない」

「あ、霊夢さん! 霊夢さんは感染してないんですか!?」

「んー? あぁフランか、私は感染してないわよ。つかこれ……ダル。放置しようかしら」

「……やっぱ感染してません?」

「してないわよ。さっきちょっと噛み付かれたけど」

「やっぱり感染してる!?」

 

 傷口から感染するんだよね。

 アウトじゃん!? でも言葉遣いとかは普通なんだよね。

 どういうことか色々考えて一つの結論に辿り着いた。

 あ、そっか。最初から駄目人間なら通じな(以下、血の跡)

 

 

 異変ハ無事二解決サレタヨー。

 ヤッパリ霊夢サンッテ凄イ人ダヨネー。

 

 

 #####

 

「血の跡って何したんですか霊夢さん!?」

「私は何もしてないわよ?」

「うわすっごい笑顔で否定した!?」

 

 輝く笑顔で否定する霊夢だが明らかに日記の終わりがおかしいので早苗はさとりの方を向――――

 

「さとりさん、霊夢さんの心を読んでみてくださ――」

「……読んだらフランと同じ末路を辿るけどいいの?」

 

 ――――けなかった。

 流石にお札を突き付けられては何にも出来なかった。

 

「ぎゃーっ!? ちょ、ちょっとお札向けないでくださいよ!」

「……すみません、私にはちょっと心読めませんね」

「さとりさんも普通に引いた!?」

「ともかくこの話は解決したの。おっけー?」

 

 ものっそい笑顔で重圧を放つ博麗の巫女に三人はしぶしぶ頷いた!

 

 

 #####

 

 

 十月二十一日

 

 

 なんでだろう。昨日の途中から記憶がないや。

 とりあえず朝起きると昨日の病気は終息したらしい。霊夢さんが何とかしたんだって。

 れ……れいむさん? うっ、頭が。

 とりあえず今日はゆっくり過ごした。

 何故か昨日のことを思い出すたびに頭が痛むんだよね。

 本当になんでだろ?

 

 

 #####

 

「ふふっ……」

「「「………………」」」

 

(絶対霊夢さんが何かしたのに! 何かしたのに怖くて何も聞けない……っ!!)

 

 前ページに引き続き、ツッコミすら許されない早苗達はただ黙り込んだまま次のページをめくった――――!

 

 

 

 



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十月編END『外の世界との邂逅』

 


 いつもより長めに書けました。


 


 幻想は現実と表裏一体である。

 常識と非常識の結界は曖昧であり、構造は理解不能だ。

 ――だからこそ少女は意図せず迷い込んだ。

 

 

 #####

 

 その日記を読んだ時、ハッキリと空気が変わるのを早苗は感じた。

 

 

 十月二十二日

 

 助けて。

 

 

 #####

 

 三文字。血で描かれた文字にそれまでのほのぼのした空気が全て壊れ果てた。

 

「こ――、これっ……!?」

「なっ……?」

「なに、が……起きたの?」

 

 明らかに只事では無かった。

 だって血文字だ。しかもたった三文字しか書かれていない。

 間違いなく緊急事態だ。

 フランの身に何が起こったのか。四人は神妙な顔つきで頷きあい、次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十月二十三日

 

 正直頭が混乱してる。

 とりあえず分かることを書いてみようと思う。

 昨日、私は博麗神社に行って、何かのものの目が見えたんだ。亀裂……というのかな。見慣れないものをみてふと手を伸ばしたらその亀裂が大きく口を開けて私を呑み込んで……それから分からない。

 気が付いたら私は、ボロボロの博麗神社に倒れていたんだ。

 その場所が博麗神社なのは間違いないんだよ。でも霊夢さんは居ないし、何より人が暮らして居た形跡がはるか昔のようだった。

 妙だな、と思ってあたりを調べて居て……一つ気づいた。

 どうにもあまり力が入らないんだ。気とかも思うように使えないし魔法も低級がやっと。身体能力こそ鍛えているおかげでそこそこあるけどかなり力が弱くなってた。

 それに気付いた時、私もう混乱しちゃったんだ。訳が分からなくて、軽く指の先を切って日記に『助けて』って書いて……それで寝ちゃったんだ。

 今はもう大丈夫。

 なんとか落ち着いて、改めて博麗神社を調べてみるとタンスの中から古びた巫女装束が出てきた。

 ……霊夢さんの着てた巫女装束が。

 それから外に出て軽く飛んで景色を眺めてみたんだ。そうしてようやく気付いたんだ。ここが幻想郷じゃないことに。

 ……いや、今も幻想郷の可能性は残ってるか。

 とりあえず私が考察するに可能性は二つ。

 ・一つは現代入り、つまり何らかの事故で私が外の世界に出てしまった可能性。

 ・もう一つは未来に飛んだ。霊夢さん達が死んださらに未来にタイムリープしてここに存在している可能性。

 

 ……気配を調べてみた感じ近くには妖怪は居なくて、人間ばかりに感じたのでこれから暫く羽をしまって、人間と同じような見た目で暮らしておこう。明日は現地住民とコンタクトをとってみるつもりだ。

 あと一旦私の服がホコリで汚れてしまったので、能力で汚れを破壊してるけどどうもそっちの力も弱くなってるんだよね。

 それで他の服が無いかと思ってあの巫女装束を見たけど、どうにも思ってるより汚れていないようだったので軽くホコリをはたき落して着ることにした。

 ……おやすみ。

 

 #####

 

 

「……外の世界? そういえばオカルトボールの時、私達も出たわね。博麗神社に外の人間が迷い込んでくることは珍しいことじゃ無いしその逆パターンかしら?」

「……そんな事に巻き込まれたなんて聞いてないわよ、フラン」

「嘘、レミリアさん知らなかったんですか……。これ、大事(おおごと)なのに」

 

 口元を押さえて早苗が言うと、横からさとりが口を出す。

 

「……でも咲夜さんなら知っている筈です。彼女はフランさんの日記を添削していたんでしょう?」

「あっ、そうね! 咲夜、これはどういうこと!?」

 

 ハッ、と気づいてレミリアが声を上げると咲夜が現れ、答えた。

 

「勿論、存じ上げておりましたわ。ですが、申し訳ありませんお嬢様。この件に関してお話ししなかったのは妹様の御意思であり、私はその意を汲みました。また私個人としても話すべきでは無いと判断した次第です」

「……咲夜、言い訳は聞いてないわよ」

「お嬢様がもしお怒りであれば私はどのようにでも御処分を。ただ、その前に妹様の日記を読んで欲しいのです」

「……()()()()()()()()()()

「御意に」

 

 珍しく冷や汗をかきながら礼をする咲夜に、明確な覇気を持ったレミリアの会話であった。

 怒りを纏う彼女だが、それでも物に当たりちらす真似はせず、震える手の力を抑えながら次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 十月二十四日

 

 

 眼が覚めると目の前に二人の女の子がいた。

 ……驚いた。うん、まさか触られるまで私が誰かが近づいてきたことに気付かない程に力が弱くなってるとは思ってなかった。

 女の子達は私を見て「メリー! 起きたよ、ねぇあなた大丈夫!?」「……蓮子、気を付けて。この子普通じゃない」と口々に呟いていた。

 私はよく分からなくて目を丸くしてたと思う。

 でも、なんかあれよあれよと話が進んで気付けば私は今、二人が住んでいるという京都のマンションに居た。

 なんでこうなったんだろ。

 改めて自己紹介して名前が分かったんだけど、宇佐見蓮子さんって人がなんか強引に私を連れて行く宣言をしたらしい。で、メリーさんことマエリベリー・ハーンさんは逆になんか妙に私を怪しいと気にしているみたいで否定的な感じだった。

 でも蓮子さんの考えに従うあたり多分蓮子さんの方がアクティブなんだろうね。色々と。

 ともかく、話を聞いてみると二人はオカルト研究部(秘封倶楽部というらしい)のメンバーで、マエリベリーさんがどうやら境界が見える能力を持っているとかで博麗神社にオカルトを探しにきたらしい。

 で、神社内で丸まって寝ている私を見つけたんだとか。

 ちなみに蓮子さんは星を見るだけで時間が分かり、月を見るだけで今いる場所が分かる能力を持ってるらしい。

 

 なんにせよ三日ぶりにお風呂に入れると気持ちいいね。ご飯も三日ぶりだし。

 あと、私の力に関してだけど多分弱まってるのは私の心が不安定だからなんだと思う。なんというか妙に力が制御出来ないんだ。

 こんなことに巻き込まれたからかもしれないけど、ちょっと自分にガックシだよ。とりあえず二人の話を聞く限り外の世界に来た方向で確定っぽいし問題はどうやって幻想郷に帰るかだよね。

 それで帰ったらメンタルトレーニングしないと。

 

 #####

 

 

「幻想入りならぬ現代入りってやつですか……」

「珍しい話じゃないけど……、運が悪いわね」

「……ともかく保護してくれる人は見つかったようで一安心ですね」

「…………次、めくるわよ」

 

 上から早苗、霊夢、さとり、レミリアの言葉であった。

 

 #####

 

 

 十月二十五日

 

 

 外の世界に関しての情報を入手したので書く。

 どうやら私は近未来の日本に居るらしい。宇宙旅行なんかも一般化していて、車はもう古いと言われるような時代なんだとか。

 なんだろう、私の知っている外の世界と違ってた。早苗さんの話だと車とかは当たり前のように走ってて、宇宙旅行なんかまだまだ先の世界って聞いてたのに。

 もしかしてパラレルワールドってやつ? それとも立体世界平行理論ってやつ?

 ともかくこっちから幻想郷にコンタクトを取れないかと思ってテレパシーを送ったり、瞬間移動を試みたりしてるけど今の所成果はない。

 でも一つだけもしかしたらってアテを思い出したんだよね。

 ほら、かなり前の話だけどさ。外の世界から幻想郷に遊びに来た人と会ってるんだよ、私。

 イエスさんとブッダさん。私のやってるゲームでよく一緒に遊んでる人。確かあの人たちは外から来たんだよね。だからもしコンタクトを取れれば帰れるかなって思って、パソコンを借りてログインしてみたけど運悪く出会えなかった。

 でもとりあえず私のアカウントでログイン出来たのは良かったよ。他のゲームもログインは問題無かったし、ちょっとは希望が出てきた。

 あと蓮子さん達に連れられてちょっと外に買い物をしに行った。

 私の服を買うらしい。それでもう一個思い出したんだけど、この世界の通貨はどうなんだろうって思って聞いてみた。すると私の知ってる外の世界と同じらしい。

 ……じゃあこれ使えるよね? 少し前に競馬で稼いだ171万円。

 とりあえず服は自前で買った。

 白いワンピースに紅のカーディガン。蓮子さん達セレクトの外の世界のコーデってやつも教えてもらったよ。

 うーん、やっぱり外の世界って服とかは種類多いなぁ。ちょっと羨ましいなぁ。

 

 

 #####

 

 

「イエスさんにブッダさんですか。確かに彼らなら帰せますね」

「というか宇宙旅行ってあまり思い出したい話題じゃないわね」

「……というかまさか競馬のお金がこう繋がるとは予想外でした」

「……そこそこ、順調になってるのかしら、ね?」

 

 まだレミリアの顔色は固い。

 が、ともかく四人は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 十月二十六日

 

 

 蓮子さんとメリーさんの二人が通う大学に行った。

 で、中々濃い人に会ったよ。岡崎夢美さんって人。

「あら、貴女妖怪じゃない!?」

 というか一目で見抜いてきたよ。話を聞くと彼女は秘封倶楽部の顧問にしてかつて幻想郷を訪れたこともある超天才科学者らしい。あと北白河ちゆりって人もいた。「私は助手だぜ」って言ってたのが妙に魔理沙みたいな言い方で覚えている。

 で、岡崎さんはやたらフレンドリーな人で私の体をぺたぺた触っては、「へぇこれ吸血鬼?」とか「羽は完全にしまうことが出来るのね。興味深いわ!」とか楽しそうに話していた。

 ともかくこれは渡りに船ってやつだよね。

 折角幻想郷に渡る手段を持つ人に会えたんだもん! 早速私が帰ることが出来ないか聞いてみると、

「あ、ごめん無理」

 何故えええっ!?

 と思ったけど事情を聞くと面倒な事情があるらしい。

「幻想郷に渡る機械……可能性空間移動船なんだけど、あれ使うと並行世界間のエネルギーバランスに歪みを発生させるのよ。で、それって犯罪行為でね、すぐに平行警察に捕まっちゃうわ」

 よく分からなかったけど使えないらしい。

 その代わり、と色んな機械を見せてくれたけど……。

「これがお掃除ロボットこと、る〜ことよ!」とか「ICBMミミちゃんよ!」とか見せられてもよく分からないんだよね。

 活路が開けたと思ったけどまた振り出しかぁ。

 あ、ちなみに帰りに皆でタコ焼き食べた。美味しかったなぁ。

 

 #####

 

 

「普通に探しつつ満喫しだしてるわね」

「良い傾向ですね。気を張ってばかりだと疲れますし」

「……フランさんは精神的に不安定ですから、とても良い判断だと思います」

「……でも、咲夜が私に話さない理由にはならないわ」

 

 #####

 

 

 十月二十七日

 

 

 今日は三人で京都観光に行くことになった。

 京都のお寺とかを見て回ったよ。金閣寺とか清水寺とかを回って、あと京都料理を食べた。

 それから午後は観光に飽きたのでボーリングをやって、それからゲームセンターに行って遊んだ。

 かなり気晴らしになったよ。というか初めてのことばかりでとっても新鮮だった。

 ほら、四九五年も生きてると大抵のことはやったことあるし、最近四月からチャレンジしていることはやろうと思えばやれることだったから、こういうやれなかったはずのことがやれるのはとても新鮮で楽しい。

 でも、今日は途中でやたら人に声をかけられて写真を撮られたなぁ。なんでだろ?

「フランちゃんそっくりだ」とか言ってたけど私のこと知ってるの?

 なんか『東方』って書かれた袋を持ってたけど。

 気になったので聞いてみた。

 

「フラン?」

「あぁ、近くで東方Projectって作品のイベントをやってるんですよ。そのキャラに似ていたもので」

 

 キャラねぇ? まぁ偶々名前が同じなだけだよね。フランなんて外国じゃ結構あるだろうし。

 ともかく今日はそれで家に帰ったよ。

 あと、ようやくいえっささん……イエスさんに連絡がついた!

 なんでも立川に住んでいるらしい。もしすぐ帰りたいなら明日にでも予定を付けてくれるとか。

 良かった、これで帰れるね!

 

 

 #####

 

 

「お」

「これで帰れますね!」

「……そうですね!」

「……とりあえずフランは傷付いてないのね」

 

 レミリアは小さく呟いた。

 

 #####

 

 

 十月二十八日

 

 

 二人がお別れ会をやってくれた。

 この数日間ですっかり仲良くなったんだよね。

 日記には書いてないけど皆でオカルト探したり、買い物したり楽しかった。

 最初はどうなるかと思ってたけど今じゃ良い思い出かもしれない。

 パーティも本当に楽しかったよ。

 それに約束もした。またいつか修行して今度は自由に外に来れるようになったら遊びに来るって!

「元気でね!」「フラン、貴女のこと忘れないから!」

「こっちこそ二人のこと忘れない! 必ずまた会いに来るから!」

 そして最後に三人で写真を撮った。最高の思い出だ。

 

 ……で、今はもう二人と別れて東京行きの夜行バスの中。

 少し物悲しいけど、また会うって約束したもん。

 その日のためにまた頑張ろう。

 じゃあ、おやすみなさい。

 

 #####

 

「別れ、か」

「……私も辛かったですよ。幻想郷に来るとき」

「……でも、フランさんならいつか会える気がします」

「……私の妹だもの。当然よ」

 

 #####

 

 

 十月二十九日

 

 

 東京都立川市に着いた。

 で、駅前で集合して会えました。イエスさんとブッダさん。

「お二人ともお久しぶりです」

「こちらこそ久しぶりです」「どうもお久しぶりですね」

 やっぱりとても物腰の柔らかい人達だった。

 私の服を軽く褒めてくれたよ。えへへ、嬉しいな。

 で、早速帰してもらう件だけど。

 

「じゃあやりますか。良い、ブッダ?」

「うん。それよりもフランさんは大丈夫?」

「はい、大丈夫です。お願いします!」

「じゃぁ……えっと確かこのあたりだった……これかな?」

 

 むむむ、とイエスさんが念を結び始める。

 そして。

 そしてそしてそして。

 

「……あれ?」

 

 気がつくと、月にいた。

 

「イエスーっ!? 座標ズレてる! ちょっと座標ズレてる!?」

「あ、あれ? 計算間違えたかなブッダ」

「そんな言ってる場合じゃないよイエス! ただでさえ大勢の人の罪を背負っている僕らが穢れを嫌う月に居るのはアウトだから!」

「――――っ」

「あぁっ、フランさん呆然としてるし! ちょっと大丈夫?」

 

 いやー、地球って青かったんだね。

 というか宇宙には空気が無いとかそんな問題は多分二人の力でなんとかなってるんだろうけどそれは良いや。

 月ってあれだよね? バシュゴォだよね? 餅スパークだよね?

 最終兵器吉田さんがいるところだよね?

 ……oh。

 とか思っていると早速地平線の彼方から何かがマッハで飛んできた。

 

「月にこれほどまでの穢れを持ち込むとは不届き千万――――?」

 

 桃色の髪をポニーテールにして剣を担いだ女の人、だけどなんか様子がおかしい。しきりにイエスさんとブッダさんを見ては目を白黒させている。

 

「……おかしい、神が使役出来ない。それにこの大いなる穢れを一つ足りとも余すことのない清浄なる気配は何ーーーー!?」

「す、すいません! すぐに出て行きますから! い、イエス、まだ掛かるのかい?」

「も、もう大丈夫! 今度こそ飛ぶから! 本当にすみません月の守護者さん」

 

 とか思ってると気が付いたらまた瞬間移動していた。

 今度は無事に着いたらしい。

 森の中に私達は着地した。

 二人に話を聞くと、今度こそ幻想郷に着いたらしい。このまま道沿いに真っ直ぐ行くと博麗神社があるそうだ。

 

「本当にありがとうございます!」

「いえいえ……むしろ失敗してしまってすみません」

「いえ、こちらこそ助かりました!」

 

 そんな感じで二人とはお別れして、道沿いに進むと博麗神社があった。

 ……やっと帰ってきたんだね。

 なんだか不思議と嬉しくなった。

 それから、紅魔館に帰ってからお姉様に抱き着いて数日間のお話をしたよ。

 多分適当に聞き流してたけど、とても気分がスッキリした。

 

 

 #####

 

 

「…………」

「…………」

「…………いや、フランさん話してるじゃないですか」

「………………(汗)」

 

 レミリアは冷や汗をかいていた。

 だって、仕方ないだろう。話を統合すれば、実はフランがいなかった理由はフラン自身からレミリアは聞いているはずで、それを知らないということは彼女がその時いい加減に聞き流して綺麗さっぱり忘れてしまったことに他ならないのだから!

 

「……そんなのでよく咲夜を威圧出来たわね、アンタ」

「はうっ!?」

「……というか姉として最悪ですよね」

「うぐっ!?」

「えーとえーと、ポンコツな所も可愛い……です、ヨ?」

「う、ううううう!! うわあああああっっ!!」

 

 堪らずレミリアは悲鳴をあげて逃げ出した。

 が、

 

「お嬢様。みっともないですよ?」

 

 扉のところで突如現れた咲夜に抱きしめられ止められる。

 

(……あ、終わった)

 

 これ無かったことに出来ないわ。まぁフランが無事だったしこのポジションに収まってやろう。

 ーーレミリアは死んだ目で諦めた。

 

(……というかサラッと月に行ってるけど、うっ。依姫、頭が)

 

 ーー色んな意味で。

 

 #####

 

 

 十月三十日

 

 今日は疲れたので休んだ。

 ただ昨日までの思い出グッズの整理もしたよ。

 皆で撮った写真を額に飾って部屋に置く。思わず頰がほころんだ。

 あと力もしっかり戻ってたよ。

 

 #####

 

「最終的に良い思い出になったみたいで良かったですね」

「そうね。最初は血文字で助けて、から始まったから本当に良かったわ」

「……本当ですね」

「……まぁ、そうね。本当に、本当に良かったわ」

 

 色んな意味で正論のナイフで滅多刺しにされたレミリアだが、それでも姉としての思いをそっと口にした。

 

 #####

 

 

 十月三十一日

 

 

 今日はハロウィンだ。

 トリックオアトリート(お菓子くれなきゃイタズラするぞ)

 試しにお姉様にやってみたら何の用意もしてなかったようなので悪戯してあげた。

 ふふ、ハロウィンの日だからって喜んで中二病コスしようとしてるところ悪いけどお姉様にはそんなの似合わないからね。

 精一杯お洒落させて可愛くさせてやったよ。

 私も私で外で買ったコーデに、カボチャの仮面を頭の側面に付けて里に出た。

 可愛らしさを重視したせいか悪戯されたお姉様がやたら恥ずかしがってたけど人里じゃ人気が高かった。

 というかやたら里の男の人ってお菓子の用意してないよね。

 トリックオアトリートって言っても半分くらいの人は持ってないもん。思う存分悪戯したよ。爪にマニキュア塗ったりね。

 ともかく今月も楽しかった。

 また来月もこんな風に楽しくなると良いなぁ。

 

 #####

 

 

「ハロウィンですか。私もコスしましたよ」

「サキュバスを?」

「違います! 諏訪子様をイメージしてケロケロ〜ってやりました。何故か本人には胸を凝視されて睨まれましたけど……」

「……同じ衣装でも差が出ますからね、そりゃ妬みますよ。神様でも」

「気付いてないあたり奇跡みたいな頭してるわよね」

「む、なんか分からないけど馬鹿にされてる気がします! レミリアさんこそ悪戯されてるじゃないですか!」

「べ、別に良いじゃない! 私はどうでも」

「ずるいです! 私にも見せてください!」

「そっち!?」

 

 読み手側もそんなこんなで雰囲気は悪くない。

 皆疲れもないようなので、このまま次の月も行ってしまおう。

 そう話をまとめ、四人は次のページをめくるのだった――――!




 


 前からやりたかったネタが書けて楽しかったです。
 モチベも軽く回復出来ました。
 では、明日からちょうど十一月編です!

 


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十一月編
閑話


 


 ノンストップで十一月編になると言ったなーーあれは嘘だ。
 


 

 

 

「今更だけど、レミリアは何でフランが下克上を企んでると思ったの?」

 

 このまま読み進めよう。

 そう話を決めた四人だったが、ポツリと霊夢が零した言葉でページをめくる手が止まった。

 確かに、と同調するように他の二人も呟いてレミリアを見つめる。

 

「え、なんですかその話」

「あぁ、早苗は居なかったものね。説明すると、そもそもこの日記を読み始めた理由がソレなんだけど、どうもレミリアはフランが下克上を企んでいると思っているらしいのよ」

 

 霊夢が事の始まりを説明し始めると二人は怪訝そうな顔をする。が、いち早く状況を理解したさとりがつまり……、と説明した。

 

「……成る程。その相談に霊夢さんを呼んだところフランさんが日記を落として、読む流れになったと」

「流石『(さとり)』ね。その通りよ」

「そうだったんですか! ふむぅ、確かに謎ですね。どうしてそう思ったんですか? レミリアさん」

 

 その説明でようやくピンと来たのか早苗が手を叩いた。それからレミリアを見て問いかける。

 少し目をパチクリしてレミリアは答えた。

 

「いや、だって日記を見れば分かるじゃない。私、基本的にフランと会う時は中二病だなんだと馬鹿にされたり、ポンコツな部分を晒したり、その上それを人に吹聴されて余計恥ずかしい目に合うんだもの。逆にフランは良く出来た子って噂が広がって……今じゃ人間達の間でも私は『甘やかしたい萌えるポンコツ系中二病の頭のおかしい吸血鬼』なんて変な風に見られて、逆にフランは『可愛く気立てが良く将来性も良い天才系妹の優しい吸血鬼』って言われてるし……それに最近咲夜とフランの会話を聞いてても咲夜の話し方が明らかに私より高度な話し方だし……それにそれにっ、いつのまにか私よりフランの方が知り合いが多くて屋敷を訪ねる人だってフランの方が多くて、しかもどれもそれぞれの専門的分野で話してて……フランは私の知らない世界を沢山知ってるんだ、お前とフランとじゃこんなにも差があるんだって思い知らされているみたいでなんていうかちょっと嫌になったのよ!」

「……簡単にまとめると妹の方が凄いって思われてるのが気に入らないってこと?」

「それだけじゃなくて紅魔館内の立場もヤバイわ! 妖精メイドもホフゴブリンもフランの命令で動いてるし、覚えもないのに他の妖怪と会合した時に『流石紅魔グループですね。また事業に成功したみたいじゃないですか』って言われるし。なんていうか、人も資産もフランが握ってるの! 辛うじて経理だけはやってるけどこれを奪われた時が私の最後よ!」

 

 深刻そうに、というか最後の方は悲鳴染みた声でレミリアは叫んだ。

 それを聞いて霊夢は怠そうに頷く。

 

「ふぅん……まぁとりあえずアンタがフランが下克上を企んでいると考えた理由は理解したわ。で、そんなアンタに朗報よ。全てを解決出来る方法が一つだけあるわ」

「……そんな方法が?」

「えぇ」

 

 そんな都合な方法があるの? レミリアが尋ねると霊夢は頷いた。

 早苗達もそんな方法が? と首を傾げ霊夢の言葉を待つ。

 やがて――霊夢のその唇がゆっくりと動いた。

 

「いや努力しろよ」

 

 ………………。

 

「…………努力?」

「うん、努力。フランと同じように頑張れば良いじゃない」

「………………」

 

 サラッと言われた言葉を考え込むように暫しレミリアがフリーズした。腕を組み、何かを思案するように指で顎を触れて、それからうゅ? むぅ? むむむ? うーん? と唸り声を上げて、ようやくポンと手を叩くとこう言った。

 

「その手があったk」

「気付くの遅ぇ!!」

 

 コンマ0、5秒。早苗渾身のツッコミであった。

 いや、だってこんなもんそれしか言えないだろう。たったあれだけのことを考えるのに深く考え込んだ挙句、「その手があったか」だ。

 

(遅いです! なんですかこの子!? 本当にレミリアさんですか!? 実はチルノちゃんが化けていたって方が納得出来ますよ!? 仮にも異変の首謀者でしょう! え、もしかしてあれですか? 元々こんな鳥頭で、なんかの条件でカリスマになるんですか!?)

 

 全体的に遅過ぎるのだ。英語にするとスロウリィである。

 ついでに言えばこのレミリア、中二病属性にポンコツ属性、更には子供属性やかりちゅま属性を兼ね揃えるとんでもない濃いキャラだが今はそれはどうでも良い。

 え、これ本当にレミリアさんですよね? 真面目に不安になって来た早苗はチラチラさとりを見るが、彼女は優しく笑顔を向けると諦めたような目で頷いた。

 

(やっぱり本物だったーっ!?)

 

「でもそれは一旦置いておくわ。ともかく私が問題にしてるのはフランが下克上を企んでいるということよ」

「そもそもそれが勘違いじゃないの?」

「……薄々そんな気もし始めてるけどまだ疑いは持ってるわ」

「えっ、あれだけフランちゃんのことを持ち上げといてですか?」

「それでもよ。主君は孤独だもの。いついかなる時も周りは敵だらけ。その敵は別の陣営もしかり八雲もしかり、そして身内にすら存在する可能性があるじゃない。それがある以上とりあえず私は疑うわ」

 

 寂しげな顔でレミリアは呟く。

 その様子を見て早苗はあぁ、と一つストンと胸の内に引っ掛かりが落ちたような気がした。

 そうだ――これって。確信した早苗は言う。

 

「霊夢さん霊夢さん、この子それっぽいこと言ってますけどただ中二病気取りたいだけじゃないですか」

「え、今更? 最初からカリスマ兼中二病を気取ってたじゃない。日記を読んで普通に考えたらとっくにそんな疑い消えてるのにまだ疑ってる時点でそうじゃなかったの?」

「おいそこぉッ!? 私が真面目に話してる時に中二病だなんだと散々に言いやがって!! 私を馬鹿にしているなら真っ正面から言ってもらおうじゃないか!」

「いや……だってねぇ?」

「ですよねぇ……」

「……そもそも解決策も簡単ですし」

 

 霊夢、早苗、さとりは顔を見合わせる。

 三人とも呆れ顔だ。レミリアはちょっとムッとした様子で尋ねる。

 

「何よその解決策って」

「……妹さんと話し合うことです。そもそも真の意味で解決したいならそれが一番でしょう。愉快な誤解って可能性もありますから。話し合う――コミュニーケーションにそれ以上はないんです」

 

 まぁ心が読める私が言うのも変な話ですがね、さとりは自嘲するように小さく笑って告げた。

 それから彼女は続けて言う。

 

「……まぁその辺りは全てレミリアさんが決めることですから、私に出来るのは精々助言程度です。意見の一つとして聞いてもらえれば結構ですよ」

「…………そう」

 

 ニッコリと。笑顔で善意の言葉を言われてはレミリアも何も言い返せなかった。

 代わりに、彼女はコホンと誤魔化すように咳払いをしてこう言った。

 

「……確かに下手に決めつけすぎたかもしれないわ。だから……話し合うかは分からないけど方法を考えてみる。その……ありがと」

 

 最後の方は少し恥ずかしがって言って、それからんーっ! とわざとらしく伸びをしてレミリアは叫ぶ。

 

「と、ともかく続きを読みましょ! その話と読むか読まないかは別だもの! 続きが気になるし!」

「……ふふっ、そうしましょうか」

「そうですね!」

「えぇ、そうしましょ」

 

 ありがとうと言い慣れない彼女の顔は真っ赤だった。

 その様子を微笑ましそうに見つめて、三人は頷く。

 そして――改めて新たなページをめくり直すのだった。

 

 

 

 

 



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十一月編1『レミィたん』

 


 今度こそ十一月編の始まりじゃあ!


 


 

 

 

 十一月一日

 

 アリスさんの家に行った。

 裁縫を教えてもらって縫いぐるみを縫ったよ。

 不恰好で形も整ってないけど初めて作った縫いぐるみ。

 抱きしめると暖ったかいね。不格好でも抱きしめ心地は良い。

 アリスさんも「初めてにしては上出来よ」と褒めてくれた。

 にしても縫い物って奥が深いんだね。

 アリスさんって人形遣いでしょ? だからとってもたくさんの人形が家にあったんだけど、それぞれきちんと表情があるのよ。

 というより感情があるのかな? 嬉しい時は笑顔になるし、悲しい時は悲しそうにするから本当に生きているみたいだ。

 帰ってからどうやって編めばそうなるんだろう、って思ったんだけど。うーん……魔力を込めて編み物をすれば良いのかな? 魔法生物を人工的に作るってイメージで編み物に魔力を通していく感じ。

 ……ダメ元でやってみよう。

 まぁアリスさんもまだ完全自立は出来ないって話だし出来るわけがないんだけど。

 えっと魔力を込めて……、祈る。

 良い子に育ってねって心のうちで深く祈る。

 今回編むのはお姉様をイメージした人形だ。えっとお姉様……お姉様……あっ出来たーーーー。

 

 #####

 

 

「出来たってって何が出来たんですか!?」

「魔法生物でしょ言わせんな恥ずかしい」

「……恥ずかしいんですか? と、それはともかくアリスさん涙目でしょうこれ! なんで初心者がこんな簡単に他人の長年の夢のようなものを叶えちゃってるんですか!?」

「というか私をイメージした人形って嫌な予感しかしないんだけど……」

 

 #####

 

 

 十一月二日

 

 

 どうしよう。

 お姉様が出来た。いや、これじゃ分からないか。

 えっと……昨日作った人形になんの因果か分からないけど命が宿ったみたいで、一日放置してたらお姉様のクローンみたいなのが出来てた。ただ羽はなんだか不恰好だし、服も所々ほつれてるけど。

「貴女が製作者ね。とりあえず定石としては名無しの人形である私に名前でも付けて欲しいトコロだけど……あら、混乱してるの? まさか本当に出来るなんて思って無かったって顔をしているけれど」

 しかも妙に察しが良いし話し方も真面目だ。お姉様みたいに中二病が入っていない。

「とりあえず私は何をすれば良いのかしら? 自由に行動しても良いならこの屋敷を探検したいわ」

 ちょ、ちょっと待ってよ! お姉様と鉢合わせするかもしれないからダメ! それに名前って……?

「ハァ、貴女は私の製作者でしょう? 私は人形だけれどきちんと生きているわ。分かりやすく言えば付喪神か魔法生物とでも思えば良いかしら? とまぁ、そんな風に生きている私だけどそれでも本質は人形なのよ。人形は主人の為に尽くすものなの。だからこれから貴女を支える為にも呼び名が欲しい」

 至極真面目な顔でお姉様人形……ええい言いにくい! ともかく人形がそう言った。

 ともかく話をまとめると主人としてペットに名前を付けてくださいってことで良いんだよね?

「名前……名前……えーとえーと、あっ」

「何か浮かんだの?」

「レミィたん、貴女の名前はレミィたんね!」

「……とりあえず聞くわ。なんでその名前にしたのかしら?」

「貴女のモデルが私のお姉様のレミリア・スカーレットなの! で、お姉様って唯一の親友からレミィって呼ばれてるから、レミィたん」

「いやその「たん」って何処から来たの?」

「レヴィアタンから想像しました」

「嫉妬の悪魔!? えっ、何この子。この僅かなやり取りで私のことをそんな風に判断したの? ちょっとあんまりじゃないそれ!?」

「とりあえずレミィたん。貴女は何が出来るの?」

「こっちの質問は無視か! 全く横暴な主人ね。何が出来るかって言われても困るけれど、それなりに優秀なつもりよ。モデルが吸血鬼なお陰かかなり身体能力も高いし、家事関連も出来るわよ。というか貴女が出来ることは基本的に出来ると思って頂戴。あっ、ただ能力は無理よ? あれはあくまで固有のものだから」

「能力以外で私に出来ることかぁ……うん、分かった。じゃあ早速一つ目の命令をします」

「何かしら?」

「万が一の時にお姉様の影武者になって。姿形はほぼ同じだから、まぁ滅多なことは無いけどさ。あと普段はその姿形がバレないように周りに溶け込めるならお好きにどーぞ」

「御意。まぁ万が一の時に代わりに死ぬのは構わないわ。それよりも良いの? 溶け込めばあとはお好きに、だなんて」

「だって貴女も生きてるんでしょ? 私の創ったものといっても生きているならそんなに強制はしないわ。むしろ万が一があれば死んでもらう使命を与えてるんだからそんなの当たり前の話でしょ?」

「そう、優しいのね。貴女に裁縫を教えたあの人形遣いも人形の中に爆弾を詰めて投げたりしているけれどね」

 口元を三日月に歪めて彼女はクックッと笑う。人を惹きつけるような妖艶な笑みは真剣な時のお姉様と重なった。

「いや、何も考えてなかったのよ。まさか本当にこんな風に完全自立が出来るなんて予想してなくてさ」

「ハハハ、面白い洒落ね。あれほど神と関わりを持っているのにたかが命を作らないと思っているの?」

「……神?」

「おっと。なんだ主人は気付いていなかったの? まぁ無闇に知る必要は無い、か。ともかく影武者の儀、しかと承ったわ。しばらくは妖精メイドの中にでも溶け込むとする」

「うん、よろしくね」

 そんな感じに話したけど……本当に出来ちゃったんだよね。

 完全自立型の人形。しかも命を宿したタイプ。

 ……でもレミィたんには悪いけど見た目が同じって、本人――お姉様からしたら嫌だろうし成り替わりとかも考えちゃってしまいそうだから表に出すわけにはいかない。

 でもこのまま放置も可哀想だし何かあるたび遊んだりどっかに連れて行ってみよっかな。

 命を生み出しちゃった身としてはそれくらいやってあげないと。

 というかある意味私の子供みたいなもんだし、ね。

 

 #####

 

 

「レミィたんが完全にレミリアの完全上位互換じゃない!」

「いや、本当それですよね」

「私のクローン……しかも私より高性能……だと? 怖っ、何それ怖っ!? というかフラン、サラッと命を生み出してるけどいつから私の妹は神様の仲間入りをしたのよ!?」

「……今更じゃないですかね?」

「レミリアさんレミリアさん、昔ドラえもんで自分の陰に成り代わられてしまう話があってですね」

「なんで今その話をした!? 恐怖を煽らないで頂戴!?」

 

 ちょっとだけ――いや、そこそこ真剣に成り替わりの恐怖を感じていたレミリアのツッコミである。

 

 #####

 

 

 十一月三日

 

 

 正直昨日の出来事は色々考えるべきだけどとりあえず忘れることにした。まぁ上手くやるでしょ。私のスペックあるなら。何かあれば呼べば良いし。

 で、今日の話だけど。

「こんにちはフランちゃん! 早苗お姉ちゃんが来ましたよっ☆」

 早苗さんが来ました。

 というか前々から定期的に来てるんだけど、数学の授業で来てくれてるんだよね。ベクトルとかから今は微積分まで進んだ。数Aから数B。数Ⅰから数Ⅱまで進んだ感じかな。二、三ヶ月でかなり詰め込んでるけど、大概私の頭のチートだと思う。一回聞くだけで大概暗記出来ちゃうから公式もすぐに覚えられるし、使い方も一度覚えればもう忘れないし。

 あぁそうだ。数学の本つながりでさ、いくつか問題に対する疑問があるんだよね。どうせだし書いてみようか。

 数学、算数の不思議集。

 

 その1、同時に家を出ない兄弟。

 問題で偶にあるけど、先に弟が出て分速五キロメートルで歩き、兄は二十分後に分速七キロメートルで追いかけました。追いつくのは何分後ですか? みたいなのあるじゃん。

 目的地は同じなのに時間差で外出するよね。一緒に外出したくないほど不仲なのかな? そして毎回どっちかにトラブルが起きたりするのも付き物なのも不思議だ。

 

 その2、人数分用意されないお菓子

 子供会で1人に6個ずつあめを配る予定でいました。ところが、人数が予定より5人増えたので、一人に4個ずつ配ったところ、2個余ったそうです。子供会に来た人は何人でしたか? 

 こんな感じの問題あるじゃん。

 途中参加の子どもがいたのかな? なぜか人数分用意されない設定のお菓子。ホールのケーキや、ジュースなどなら分け方によって乗り切ることが出来るけど、個包装のものはどう考えても仁義なき戦いが勃発するのは避けられないよね? 最悪の場合、子どものカーストにより、あぶれる子どもが出ることも予想できるよね? うん。

 

 その3、栓をしないでお風呂を入れる

 お湯を入れている途中で排水口が開いていることに気がついて排水口を閉めました。このため、予定より10分長くかかってしまいました。排水口を閉めたのは、お湯を入れ始めてから何分何秒後ですか。

 この問題はハッキリ言うけど最悪だね。

 メイド目線で言うなら激怒間違いなしだよ。栓をしないでお湯を入れることに何か意味でもあるのと言いたいね。

 ……それで前にすっごい咲夜に怒られたし。

 

 その4、動き続ける点p

 長方形ABCDがある点Pは毎秒1センチの速さでこの長方形の周上をAからB.Cを通りDまで動く点PがAを出発してからx秒後の△PADの面積をy平方センチとして次の問いに答えなさい。

 生き物じゃないのに動き続ける、点P。なぜ動くのか、何が目的なのか、全てが謎だよ! 面積を求めなければいけないみたいだけど動く必要ある!? むしろなんで動くのかが気になって仕方ないよ!

 

 他にも時速300キロで走るたかしくんだとか色々ネタはあるけどともかく問題自体に謎があるのはやめてほしい!

 思わずそっちを考えちゃうから! 何で? と素直に疑問だから!

 ……まぁ微積はそういうのないんだけどね。

 

 #####

 

「ないんかい!」

「というかお風呂の栓……怒られたことあるんですねフランちゃん」

「フランはしっかりしているようで案外ドジっ子なのよ」

「……でもレミリアさん程ではないと思いますけど」

「黙りなさい地底の。と、とにかくそうなの!」

「レミリアレミリア、自分のことを棚に上げるのは感心しないわよ」

「それはこっちのセリフだから! ちょっと前に私に対して努力しろとかほざいた口はどの口だったかしらっ!? ちゃんと覚えてるのよ!」

「私の辞書に努力という言葉はないわ」

「ナポレオン!?」

 

 サラッと言ってのける霊夢に対し、突っ込んだり怒ったりと忙しいレミリアであった。

 ともかく四人は次のページをめくる。

 

 

 

 

 

 



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十一月編2『商品開発!』

 

 

 

 十一月四日

 

 

 思ったよりレミィたんは優秀らしい。

 家事が倍近い早さで消化されてくし、めーりんと組手が終わるとタオルと特性のスポーツドリンクを作ってきてくれる。

 それでいて魔法で姿形を妖精に変えていて、唯一見抜けるだろうパチュリーの視界に入らないようにしているし。

 また、組手の相手をしてみたけどやっぱり私が作ったからか私の動きを一〇〇%再現出来るらしい。とはいえ人形なので多少私よりは能力が低いらしいが、それでもかなりの精度だった。お陰で問題点が分かりやすく見えてきたよ。

 あと咲夜には本当のことを話しておいたので、これで屋敷の中で違和感を持つような人は居ないと思う。

 ともかく家事が最近楽になってきたよ、

 咲夜、私、レミィたん。全てが瀟洒で完璧な咲夜とそれには一段劣るもののかなり出来る方であろう私とレミィたん。思考加速で二倍速で動き回って家事をこなす。

 それに加えて丁寧な仕事を確実にするホフゴブリン達も居るし、調教もとい説教した妖精達もそこそこ働いてくれる。

 これだけの布陣で挑めば家事なんてもののニ時間も掛からない。本気でやれば一時間を切るだろう(なお、その一時間の大半は料理などの時止めが出来ないものに限る)。

 咲夜も暇そうにしているなぁ。前よりお姉様の元に行くことが増えたみたいだけど、自分の時間が増えて少し戸惑っている感じだった。

 でも最近じゃ、趣味で人里に行ってウィンドウショッピングしたり自分の意思で遊びに行くことも増えてきたみたい。

 良かった良かった。正直、「私の仕事取られた」みたいな感じになる可能性もあるかなって思ってたし。

 メイドとしてじゃなく楽しんでいる咲夜を見てフランさんは大満足なのです。思えばすっごい労力掛けさせてたしね。

 だから恩返し出来たみたいで嬉しいよ、本当に。

 

 #####

 

 

「ふふっ、ありがとうございます。最初は、自分の時間が増えた戸惑いもありましたけど。それでも毎日あちこちに行って楽しそうにしている妹様を見て私も学んだのです。好きに時間を使うことを」

「……うわっ!? び、ビックリした……」

「あら申し訳ありません。私としたことがお客様を驚かせてしまいましたか」

 

 パッと現れて感想を言い出した咲夜を見てさとりが目を見開いて驚いた。割と本気で驚いたらしくバクバクした心臓を抑えるように彼女はそっと胸に手を当てる。

 対して咲夜はあまり悪びれた様子もなく口元に手を当てて謝罪した。

 

「もう毎度よね」

「というか本当に驚くからやめてほしいんですけどね」

「……もう慣れたわ。でも咲夜、あまり客人を驚かせないように。もう何度も忠告しないわよ」

「えぇ、心得ました。ただお言葉ですがお嬢様? もし私がその度に扉をノックして入るとなれば霊夢の言う『尺』が厳しくなりますがよろしいのですか? また私の登場がワンパターンになりますが」

「だからその尺って誰の事情よ!? あとワンパターンって何!? えっ、そんなにも変化を求めてるの!? というか時を止めて来るのも十分ワンパターンじゃない!」

「その方が省けて楽なんですよ」

「だから誰が楽なのよ!?」

 

 レミリアの渾身の叫びであった。

 また、その会話を聞いていた霊夢は思う。

 

(……咲夜もこっち側(メタキャラ)か)

 

 まぁそれがどうしたってこともないけど。

 霊夢は紅茶を啜りながらぼんやりとそんなことを考えた。

 

 #####

 

 

 十一月五日

 

 

 森近さんが本格的に事業を始めるつもりらしい。

 ただまだ何をするかを決めていないんだって。

 だからそれを考えることになった。

「僕が思うに、僕が主に扱う外の世界の物は幻想郷のインフラが整わない限り……具体的に言えば電気が一般化しないと厳しいと思うんだ」

「まぁそうですよね。今電気が使えている家庭は物好きな人か、それか裕福な人だけですし」

 ちなみに物好き枠に森近さんは入っていて、私は裕福派だ。

「じゃあそのインフラを整えるのはどうですか? 河童と協力すれば出来なくないと思いますけど」

「いや、厳しいだろう。僕が普及させる前に八雲紫あたりが手を出すさ。まだ幻想郷の文明自体は江戸時代後期から幕末レベルだからね。里人も着物だし。ただ(まげ)を結ったりはしてないけどさ」

 電気が一般化すればそれこそ一気に科学が広まっちゃうか。

 となれば狙い目は生活必需品かな。それとも娯楽か。人が欲しがりそうなもの……うーん。

「うーんそうだな。試しに想起してみよう。例えば幻想郷で人気があるものを挙げてみてくれないかい?」

「えーと弾幕ごっこ、甘味屋さん、それから抑え目で本屋さん? 後は麻雀や競馬も暇な里人がよくやってますよね。後はアイドルと、それから宗教?」

 とりあえず思い付くことを口にする。とはいえ弾幕ごっこを商品化するなんて出来ないし、甘味屋さんは既に人気のお店があるし、本屋さんも知名度あるからなぁ。アイドルは魔理沙が既にやってるし、麻雀や競馬も既に一つの会社が担っている。宗教は論外だ。

 正直、商品なんてないよね? それこそ関連商品じゃないとさ。それに弾幕ごっこは人気高いけどあれは弾幕撃てるのが最低条件だから出来る人は限られて…………あっ!

「あああっっ!!」

「な、何か思いついたのかい!?」

 なんで気付かなかったんだろう。そうだ、そうだよ! 弾幕ごっこは誰にでも出来る遊びじゃなかったんだ!

 でも、でもだよ? 一つずつ整理してみようか。

「森近さん、弾幕ごっこってやる人が弾幕を撃てるのが最低条件ですよね?」

「あぁそうだね。当たり前だ」

 まずスペルカードルールが導入されてから幻想郷は平和になった。元々は博麗の巫女が命懸けで妖怪を退治していたのが異変として扱われ、今もなお人々への影響は大きいもののそれはある種の見世物や賭けの対象として人気が上がってきている。

 だからこそ華やかな弾幕を放つ女の子達は子供達にとって憧れになっているし、大人の中にも憧れる人は居ると聞く。

 でも、

「人里の人って霊力を操れない人が居ますよね? 空も飛べない人が多いですし」

「うん。まぁそんなの妖怪ハンターでも無い限り不必要だからね。それに覚えたくても中々覚えられるものじゃないし」

 多くの人々のそれは夢で終わってるんだ。

 その理由は森近さんの説明通り、覚えるのに必要な労力が大きいから。特に人間だと覚えられるまでの時間に差がある。その差を人を才能と呼んでいるけど、私の目から見れば多くの人は最低限の霊力は皆宿しているんだ。ただそれを使えるようになる前に諦めてしまうだけで。

 でも弾幕や空を飛ぶことに憧れる人は多い。

 じゃあ問題だ。

「じゃあ例えば……もし仮に、どんな人でも弾幕を撃ったり空を飛べるようになるようになれる魔道具があれば、どうなりますか?」

「……あっ」

 森近さんも分かったらしい。

 そんな都合の良いものが作れるのか? という疑問があるけど心配はご無用だ。だって森近さんは魔理沙の八卦炉を作るような魔道具のスペシャリストなんだから!

 それにまずそれを発売して霊力が動かせる商品を作った後、空を飛ぶ補助として箒を売ったりと次の事業も繋げられる。

 可能性は無限大だ!

「……フラン、今僕は商売人としてかつてない興奮を感じてるよ」

「奇遇ですね。私もちょっぴり胸がドキドキしてます」

 かつてない高揚感を覚えつつ、全会一致でその魔道具の開発をすることに決定した。

 もしこれが幻想郷に広まれば凄いことになるよ。

 一部の人しか力を持たない状況が一変する。ただそれを妖怪の私がやるのもなんだか変な話だけどね。

 初めての事業がどうなるか、楽しみだ!

 

 

 #####

 

 

「……これがあの商品発明のキッカケですか」

「幻想郷中に広まったキラー商品ですよね。しかも同時にフランさんが『正しい弾幕ごっこ』っていうルール本を書いて大ヒットしてましたし」

「その後魔理沙のとこと提携して作った香霖堂製の箒が爆発的ヒットして、あと私と早苗んとこの防護用の護符もそこそこ売れたのよね。落下した時とか弾幕が被弾した時の怪我を抑えるグッズとして。あの時は有り難かったわ。霖之助さん様様って思ったわね」

「ただ紫さんや藍さんが忙しそうでしたね。ルール本が出たとはいえ弾幕ごっこのルール違反者が多くて」

「……それが起きてからよね。弾幕ごっこのルールを守らないと罰金とかの外の世界の法律みたいなの導入したの」

「ここから私の知らないところで紅魔グループが発足したのよね。異変のおかげで紅魔館の当主が私と認識されてるから、やたら周りの陣営から「やりますねぇ」って威圧されるのよね。ほんと成功したのは良いけど嫌になっちゃうわ」

 

 #####

 

 

 十一月六日

 

 

 早速森近さんが試作品を作ったらしい。早速外に行って実験しようと言われて、商品を見せてもらうとどうやら杖型のアイテムのようだった。

 見た目はおもちゃの魔法の杖ってイメージね。ただ何か薄いもの……カードを差し込むような隙間がある。

「僕はこれをデバイスと名付けたよ。人工知能があればインテリジェンスデバイスに出来たけど、まぁただの霊力操作装置さ。ともかくこの杖を持ってこのカバーされた金属の部分を触ってくれないかい」

 言われた通り、カバーを外して金属部分に触ってみる。すると私の体内の霊力が杖の中に吸収された。体内で霊力が動く感覚がハッキリと感じられる。

「その金属部分が持ち手だ。この杖は持っている人の霊力を吸収してストックする魔法陣を内蔵していてね、と。このカードを刺してみてくれ」

 そこで森近さんが一枚のカードを渡してきた。

 言われるままにカードを刺すと、杖の先から霊力弾が射出された。それからバババババ!! と弾幕がばら撒かれる。

「このカードはスペルカードとしての役割を持つ。まぁようはカードにスペルカードを登録するとその通りの弾幕が撃てるって仕組みさ」

 まぁ今の所はこんなもんかな、と森近さんは言うけど結構私の想像よりすごいの作ってきたね。たった一日で。

「霊力を操るコツはまず霊力ってものがどんなものか理解することだからね。だからわかりやすく霊力を動かす物にしたけどどうだろう?」

「方向性は良いと思います。ただカードを読み取るのは補助としてどうなんですか?」

「……そこが問題なんだよ。弾幕はともかくスペルカードは霊力の消費が激しいから、自分の力量を把握してないと弾幕ごっこの最中に落下して大事故になりかねないだろう? だから事前に霊力を吸収して、それをスペルカードにすれば問題無いかと考えたんだ」

「でもそれじゃ登録したスペルしか使えないから、上手くなれませんよ?」

「ううむ……」

 カード方式だとそのカード自体を商品に出来て良いけど個人的には弾幕ごっこが上手くなりにくいと思う。

 没だ。まずは単に魔力が撃てるだけのものでも良いと思う。霊力が何かさえ分かれば動かすのも出来るし、あとはその人次第だ。

 スペルカードだって相手が動けばその都度弾幕の位置調整しないといけないしね。特に誘導弾とかは。

「とりあえず事故に関しては護符はどうですか? 霊夢さんや早苗さんのところの護符ならまず死ぬような事にはならないと思いますけど」

「それを買うとは限らないからね。それに何か僕ら側で対処はしておかないと企業として問題がある」

 うーん……難しいね。

 事故に対する備え……何かないかな? 外の世界に行った時にいくつか学んだけど、例えば車にはエアバッグみたいなのがあるけどああいうのは導入出来ないか。

 ともかくこれは時間をかけて考えないとね。

 

 

 #####

 

 

「あの商品がこうやって作られてたって知ると楽しいですね」

「開発者が悩みをそのまま書いてるし、やっぱりリアリティーがあるわ」

「……あの機能かって分かるあたり本当に普及してますよね、あれ」

「……苦労してるけどフランも楽しそうなのよ。少なからず私が屋敷で見かけた時はそうだったわ」

 

 四人はそれぞれそんなことを言う。

 ただ、これ以上特に言うことも無かったのか次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 



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十一月編3『バリアジャケットなんて(ry』

 

 

 

 十一月七日

 

 

 事故に対する備え。

 難問だよね。杖型のデバイスだからなぁ……。しかも量産型で尚且つ売って利益を出すことが前提だとすると中に内蔵出来る魔法陣にも限りがある。

 大体、自転車とかと同じくらいの値段を想定してるけど……難しいね。

 それに事故を防ぐにしてもどう防ぐかも問題だよね。

 飛行中の霊力切れで落下した場合。相手の弾幕をモロに受けた場合。

 それらの怪我を都合よく無くす……。バリアーとか?

 バリアーと聞くと前にパチュリーと考えてた反射とかを思い出すけどあんなもん実用化出来る気がしないし値段が張ること間違いなしだ。

 そして。

 ……うんうん唸りながら私は考えました。

 デバイスは魔道具だ。なら私より魔法に詳しい人に聞こう、と。

 で、

「これ、どうにか出来ないかな?」

「うーん……デバイスならバリアジャケットで良いんじゃないかしら?」

「え?」

「だってリリなのでしょ?」

 大図書館の本の虫ことパチュリーに相談してみたけど話が噛み合わなかった。

 リリなのって何? 詳しく話を聞こうと思ったけど「これからちょっと友達と新作同人作るからまた今度ね」と行ってしまった。

 パチュリー、お姉様以外の友達居たんだね。

 

 で、パチュリーが言ってたバリアジャケットについて小悪魔に聞くと「リリなの……あまり詳しくありませんが、魔法少女がレーザー放って全てを蹴散らす話と聞いた覚えがあります。で、バリアジャケットは戦闘の時に相手の魔法を受けても死なない程度にダメージを抑える、いわば防具だったかなぁ……」という返事がもらえた。

 防具かぁ。

 確かに杖って魔法少女って感じがするかも。でも商品的に男の人にも売るからなぁ……。

「あのー妹様」

 腕を組んで考えていると小悪魔が何やら声をかけて来た。

 何? と聞き返すと彼女は言う。

「えっと……杖にテレポートの魔法を入れておけば良いんじゃないでしょうか? 発動条件は強い衝撃を感知した時にすれば落下時でもレーザーに呑み込まれた場合でも対応出来ますし」

 それに一度テレポートが発動した杖に、人を雇って有料でテレポートの魔法をまた充填するサービスを行えば継続的に商売を続けられますし、と彼女は言う。

「目から(たい)だよこあ!」

「いや、(うろこ)ですよね? 目から鯛が出て来たら怖いですよ?」

 なんにせよナイスアイデアだよ!

 それなら魔法分のコスト回収は出来るし、魔法のスタッフもアテがある。魔理沙やアリスさん、それに描写してないけど香霖堂でよくよく本を読んでいる妖怪のお姉さんも教えればいけそうだね。特に妖怪のお姉さんは香霖堂でよく見かけるから、やってくれそう。

 あと事業にするならまたレミィたんみたいに人形を作っても良いかもしれない。コストはほぼゼロで有能な人材が作れるし。

「すばら、すばらだね。夢が膨らむよ」

 それに森近さんもかなりの実力者だからテレポートとかすぐに出来そうだよね? 

 早速明日香霖堂に行かないと!

 

 

 #####

 

 

「課金みたいね」

「むしろパンク修理みたいなものでしょう。車で事故を起こしたあとにエアバッグをまた収納するみたいなものです」

「……ただ結構格安でやってくれますから稼ぎ方が汚いというようにはあまり言われてませんよね。転移先は本人の指定した場所に登録出来ますし。情報管理もパソコンで行なっているので間違いもありませんし」

「というかパチェ、同人誌作ってるとか言ってるけどどういうことよ? 知らないわよ私」

「……え、ご存知無かったのですか? えっとあぁそうですか。パチェも私と同じく友達が少ないぼっちだと思ってた、と。あと同人に関してはR18は作ってないのでご安心下さい」

「理解が早いけど別にぼっちだと自覚してるわけじゃないからね! あとなんでアンタがパチェの同人を知ってるのよ!?」

「……だって、同じサークルメンバーですし。それにパッチェさんは絵も文章もお上手で、私がプロットを書いて彼女が絵を担当……なんて事もありますね」

「まさかのサークルメンバー!? え、しかもパッチェさんってあだ名まであるの?」

「……いえ、同人ネームです。ネットネームみたいなものですよ」

「説明ありがとう、でも申し訳ないんだけど私、そのネットがどういうものかもまだ理解してないから!」

「……超大雑把に言うと便宜的なネーミングです」

「……なるほど」

 

 超噛み砕いた説明でようやく納得したらしいレミリアは、つまりパッチェっていうのはパチェの同人ネームなのね? と考える。

 

「その通りです。ちなみに私はさとりんという名前で活動しています」

「……うん、分かったわ。分かったからもう良いわ」

 

 丁寧に説明してくるさとりに流石にどうでも良いと思い始めて来たレミリアはたじたじである。

 だが、その様子も心を読んで理解したのかさとりは一旦それ以上の会話をやめ、次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 十一月八日

 

 

 香霖堂に行った。

 けど森近さんは留守だった。タイミング悪いね。

 仕方なく予定を変更して、ちょっと前々からの疑問を解消する為にアリスさんの家に行くことにした。

 疑問っていうのは勿論、レミィたんのことだ。

 アリスさんに聞きたいのは一つ。

「で、人形に魂が宿ることってあるんですか?」

「もうそれ人形じゃなくて付喪神じゃないの?」

「おうっ、マジですか?」

 ストレートにバッサリ言われた。

 え、あ、そうなんだ。付喪神なんだ? 人形じゃなくて? へー、そう。ふーん?

「というか付喪神を生み出したことの方が私にとっては驚きよ。貴女、いつの間に神格を得たの?」

「神格なんて得てませんよ? そもそも私ただの吸血鬼だし」

「ただの吸血鬼は太陽の下を堂々と歩いたり、流水の中を悠々と泳いだりしないと思うのだけど?」

「いや、あれ魔法ですから。素で行ったら普通に瀕死になりますよ」

「でも、この前橙ちゃんの家に行ったって聞いたけどその時にエム×ゼロの魔法を使ったって聞いたわ。あの魔法は自分が発動している魔法すらも打ち消すから、その間太陽に照らされた筈なのに話を聞く限りノーダメージなのはどう説明付けるの?」

「……えっ?」

 えっ、あれ? あっ、確かにそうだ。

 あの魔法は自分の周りに円状の魔法無効化空間を作るもの。だからこそその間私が普段使っている影魔法は打ち消されている。

 ……なんで私無傷なんだろう?

 そういえば最近早苗さんもやたら私に触れて目が死ぬんだよなぁ。「また神格化が進んでる……」とか呟いてたし。

 えっ、私知らない間に種族を乗り越えちゃった?

「ど、どどどうしようアリスさん!」

「落ち着きなさい。というか気付いて無かったのねこの子。変なところで天然なのかしら?」

「で、でも神様だなんていきなり言われても……」

 オロオロしているとアリスさんが溜息を吐く。

「…………はぁ、仕方ないわね。暫く帰郷するつもりは無かったけど、もし神格化をどうにかしたいならアテがないわけじゃないわよ?」

「何とか出来るんですか!?」

「えぇ。私の故郷でなら、可能かもしれないって程度だけど。そうね……一週間後は空いてる?」

 一週間後といえば十一月十五日だよね。

「空いてます!」

「じゃあその日から五日くらい時間を作れるかしら?」

「多分大丈夫です」

「なら、その日の朝に私の家に来て頂戴。私の……故郷に連れてってあげるわ」

 なんか最初の予定とは違っているけど神様になるって吸血鬼としては問題だからこれは仕方ないと思う。

 というかいつの間に神格化したの私!? ……うぅ、なんか怖い。

 

 

 

 

 #####

 

 

「……数学の授業を建前にってわけじゃないですけど、なんか見ない間に益々フランちゃんの神格化が進んでたんですよね。レベルとしたら現人神レベルなんですけど与えられた力が半端じゃなくって……多分月に聖人二人と大量の不浄を抱えつつ行ったことが神話にでもなって跳ね上がったんだと思われますが、正直どうしようかと思ってた時期ですね、この頃は」

「そんなにヤバかったの?」

「はい。諏訪子様や神奈子様が本人達に会って話をつけるかという段階まで悩んでいましたね」

「……それは、まぁ相当ですね」

「というかその、アリスって人の故郷って何処なの?」

「確か……魔界だったかな?」

「魔界ねぇ……中々良い名前、じゃなくて危険そうな場所だけど」

「ともかく先を読みましょ、先」

 

 魔界というフレーズに少しそそられるレミリアだが、すぐにその雰囲気を消散させると代わりに不安そうな顔をする。

 が、霊夢が気にせず次のページをめくるのだった。

 

 

 

 




 



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十一月編4『リアラさん』

 


 また増えた……。



 


 

 

 

 十一月九日

 

 

 香霖堂に行き、森近さんと話してようやく商品の具体案が出来た。

 で、問題になる量産する為に雇わなければならない人なんだけど、予想外の方法で解決出来るらしい。

 森近さんは奥の部屋に入って何やら紙束のようなものを持ってくると私の前でそれらをバラまいて言う。

「出ておいで式神達」

 その瞬間、ボンっと音を立てて紙束が生き物に変化した。

 なんだろう……見た目は白い四角に角ばった足と手を付けたイメージ? お腹に大きな四角いマークがあってそれぞれピョンピョン飛び跳ねたりとかなり動き回る生き物達だった。

「これは式神といってね、まぁ呪符に術者の呪力を込める事で形をヒトや鳥等へと形を変化させ、術者の命で働く存在を生み出す術だ。今はクレイ人形みたいな感じだけど力をこめればそれこそ僕と同じ見た目にしたり出来るし、能力を使わせることも出来る。まぁ僕だって伊達に長く生きちゃいないさ」

 へぇ、そんな便利な技が。

 でも式神といえば橙ちゃんとか藍さんを思い浮かべるけどアレとは違うの?

「うーん……まぁ説明すると同じ名前の別の技だね。あっちは既存の妖怪に符を付けることで文字通りその人物の式にしてしまうことで、こっちは呪符を使うから。原理を説明すればまるっきり違うわけではないが……」

 その辺りを説明しても別に意味はないから、と森近さんは言う。

「ねぇ、森近さん。それって私も使える?」

「あぁ、キミなら使えると思うよ。僕もそのつもりでこれを話したんだ」

 そう言うと、ほらこれが呪符だ、と森近さんは紙束を渡してきた。

 どうやら最初から教えてくれるつもりだったらしい。そういう技って普通長年の研鑽の末に得るものなのにそう簡単に教えて良いのかな? 能力とか。

「まぁあれば便利なものだからね。ついでに修復術も教えておこう。言葉の通り壊れたものを修復する術だ。かつて……先代以前の博麗の巫女の代の頃の博麗神社も一度これで修復したことがあってね。覚えておいて損はない。それに廃れつつある術だから僕個人としてはむしろ覚えてくれると嬉しいよ」

 ふぅん、そうなんだ。

 じゃあ遠慮なく覚えさせて頂きます! えーっと、

「式、出てきて!」

 先ほど森近さんがやったように呪符をギュッと握り締めて力を込める。どのくらい込めれば良いのかな? 体内の魔力の半分くらい? とりあえず込められるだけ込めてみよう。

 と、その前にあれを外そうか。もう付けてることに慣れてしまって付けてることすら忘れてたけど、封印の道具付けてたんだよね。というか今思い出したよ。

 で、外すと身体中から抑えていた魔力や気やらが一気に溢れた。

「え?」

 自分のものとは思えない濃厚な魔力が溢れ出て――同時に式神に吸い込まれていく。

 そして、あれこれヤバイ? と思って慌てて溢れ出る力をコントロールし始めて……それが収まる頃には私の溢れた魔力の殆どが式神に吸い込まれた後だった。

 もう完全にアウトだった。

「……フラン、ちょっと、その。式神にはそんなに力を込めなくても良いんだよ?」

「もう遅いです森近さん」

 諦めたように私が言うが早いが一枚の呪符がハラリと落ちて、ボンっと音を立てて変化する。

 

 そして――煙が晴れて出てきたのは筆舌し難い美女だった。

 

「んっ……」

(えっ?)

 

 思わず見惚れてしまう。一目その姿を見た瞬間に心が大きく揺り動かされた。

 

「ここは……なるほど、そういうことね」

 

(……うわっ、うわっ)

 

 その女性は濃い黄色の髪を片側のサイドテールにまとめていた。髪を纏める素材として私のナイトキャップに付いているヒラヒラのリボンが使われており、それが髪の横でひらりはらりと揺れていた。

 顔は化粧がいらない程度には整っており、瞳の色は透き通るような真紅で、それでいて鋭くなく優しさを持っている。服装はゆったりとしたワンピースの上から紅いカーディガンを羽織り、季節感ある装いだ。またそのゆったりしたワンピースの上からでも分かるたわわな胸が見る人を惹きつけた。

 しかし私の心を大きく揺り動かしたのはそこではない。

 私の心が揺さぶられたのは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふぅ、呆けた顔してどうしたの? ――――私」

 

 私がぼんやりと見つめていると、彼女はクスリと笑って微笑みかけてくる。その様子で私の心臓が跳ねた。

 だって、仕方ないだろう。

 私の目の前に現れたのは未来のなりたい自分をそのまま体現した女性だったんだから――――。

 

 正直この後のことはあまり覚えていない。

 自分の憧れを体現したような人が出てきて私もビックリしてるんだよ。というか物凄い憧れの目で見ちゃったし。

 ただ彼女をこのまましておくことは出来ないので、色々考えたけど彼女は香霖堂でスタッフとして働いてもらうことになった。

 私の溢れ出る魔力の大半を注ぎ込んだお陰で数年以上活動出来るらしいし、それが良いよね?

 まぁ式だから消すことも出来るけど……それはどうも私には出来そうにないや。憧れの人を消すとか無理だよ、うん。

 あと、彼女の名前だけど。

「ここに住むのは構わないが……彼女をなんて呼べば良いんだい?」

「わ、私が考えるんですか?」

「ふふっ、自分で考えても良いですよ? でも名前っていうのは人から与えられるものだからやっぱり名付けてくれると嬉しいわ」

「うぅっ……じゃあ、リアラという名前はどうでしょう? レミリアのリアと、フランのラで」

 

 そう言うと彼女は少し考え込むように手の甲を頰に当てて、やがてにっこりと笑ってこう言ってくれた。

 

「リアラ……リアラ・スカーレット。良い名前ね、気に入ったわ。ありがとう、フラン」

 

 こう書くと幼稚であまり好かないけど。

 憧れの人にこう言ってもらえてすっごく、嬉しかったなぁ。

 

 #####

 

 

「……カリスマのレミリアさん人形ときて、今度は大人版フランちゃん式神ですか」

「もうポンポン使い魔みたいなのが増えてくわね。というか香霖堂で急に同居始めた金髪の美人さんってあれ式神だったの!? てっきり霖之助さんが良い人を捕まえたのかとばっかり思ってたわ」

「すっごい良い人ですよね。気遣いが程よくて」

「……というかここまで読んできてなんだけど衝撃な事実が発覚し過ぎてお腹いっぱいよ、私」

 

 上からさとり、霊夢、早苗、レミリアの言葉である。

 というかもうレミリアに至っては諦めムードだった。

 もう何が起きてももう驚かないわ、と言わんばかりの態度である。

 そして辟易したように彼女は次のページをめくった。

 

 

 #####

 

 

 十一月十日

 

 

 しばらくは森近さんとリアラさんとで商品開発を進めるらしい。

 その間、私はおろそかに……という程では無いけど少し時間を減らしていた勉強に力を入れることになった。

「じゃあフランちゃん。こっちの二次関数を解いてください」

 早苗さんに指定された問題を私はスラスラ解いていく。問題は基本、公式さえ覚えておけば後は当てはまるだけだ。

 とはいえそれは基本問題だけで、応用になるとまた別の技が必要になるけれど。

「紅茶、置いておくわね」

「あぁわざわざすみません。妖精……さん?」

 視界の端で妖精に扮したレミィたんが紅茶とお菓子を置いていく。早苗さんは笑顔でありがとう、と言ってふっと表情を怪訝そうなものに変えた。え、バレた?

「……………?」

 どうやら何かが頭に引っかかっているらしい。

 少し首を捻っていた早苗さんはやがて、まぁいいかと思ったようで思い出すのをやめていた。

 うーん、何かバレる要素があったのかな?

 

 

 #####

 

 

「で、どうなのよ?」

「えっと……確かあの時は紅茶を渡してくれた子からも神格を感じたので疑問に思ったんですよ。もしかしたらフランちゃん経由かな? と思ったのと、なんか妙に私のお姉ちゃんレーダー(奇跡タイプ)が反応して」

「……いやお姉ちゃんレーダーって何ですか。あぁいや口にしなくて良いです。えっと……私がお姉ちゃんと呼ばせたいと思える女の子レーダー……うわぁ胡散臭い」

「というか私もお姉ちゃんって呼ばせたい女の子に入ってるの!?」

「いやーまぁレミリアさんは保護欲が湧きますからね。色んな意味で」

「ちょっと待って風祝。その色んな意味でって部分を詳しく説明してみなさい!」

 

 レミリアは突っ込むが突っ込まれた早苗は曖昧な笑顔を見せた後、何も言わず次のページをめくるのだった。

 

 



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十一月編5『手料理対決!』

 




 

 

 

 十一月十一日

 

 

 人里でも人気の料亭で一日バイトをする事になった。

 女将さんが居るらしいけど産気づいてしまったらしく夫の人と二人が抜けてしまったようでしかも丁度贔屓にしてくれている方達の予約が入っていたんだとか。

 それで森近さんの方に人をお願いされたらしく、私とリアラさんとで行くことになった。勿論、羽根はしまって人間として振る舞うよう言い付けられた上で。しかも完全に任されるみたいで私とリアラさんだけで対応することになってしまったんだよね。

 森近さん曰く「偶に良くあるし僕も任されたことがあるよ」とのことなので信頼されているらしい。ちょっと期待に応えられるか不安なんだけど……。

 と、ともかく私は料理と給仕を担当した。でも、やっぱり料亭って作法があるんだよね。きっちり着物を着こなしたリアラさんがお客様担当をしているのを見てそう思ったよ。

 まず、約束の時間にお客様が来る時にはリアラさんはもう玄関で正座して待っていた。

「お待ちしておりました。○○様でお間違えありませんでしょうか?」

「あぁそうだよ。あら、仲居さん替わったのかい? いつも女将さんがやっていたけど。にしても美人さんじゃないか」

「お褒め頂きありがとうございます。とはいえ仲居を替わったわけではありません。当店の女将は産休を取っておりまして、臨時で対応させて頂いております。さて、ご案内致しますのでどうぞ」

 それから部屋に案内して、注文を聞くとどうやらお客様は懐石料理をお望みらしい。

 ……懐石料理? え、私そんなの作ったこと無いんだけど。

 

「あらそうですか? ではフラン私が指示します。まずは飯碗と汁椀と向付を用意して下さい。ご飯は少なめ、汁物も具が頭を出す程度、向付は一汁三菜の一菜目に当たりますからまずは刺身にしておきましょう。ご飯は一文字に盛ってください」

「う、うん。任せて!」

 

 リアラさんにお願いされて私はその三つを用意する。流石、理想の私。私の魔力から生み出された筈なのに私より有能だ!

 うー、頼りになるなぁ。まるでお姉ちゃんみたいだ……あっ、別にお姉様が頼りにならないとかは言ってないよ、ホントダヨ。

 ともかくそれらを用意するとリアラさんが折敷(おしき)に乗せて運び、お客様に手渡した。「本来は亭主が渡しますが今は緊急で私達しか居ませんから私がやりますね」と簡単に説明してくれるあたり本当に有能だよね、リアラさん。

 しかも作法もバッチリらしい。客側から見て、膳の手前左に飯椀、手前右に汁椀、奥に向付が置かれ、手前に利休箸(両端が細くなった杉箸)を添えて、箸置は用いず、箸は折敷の縁に乗せかけるのが普通らしいけど、まさにそれを当たり前のようにこなしていた。

 

 それからは私も必死だったなぁ。汁物を飲み終わった段階でお酒の用意をして、リアラさんがお酌して。

 一献目のお酒を出した後に一汁三菜の二菜目の漬物(すまし汁)を作って、それから飯次(人数分のご飯)を用意してその後汁物のお代わりの用意。

 そんな私が料理をこなしているとリアラさんとお客様の会話が聞こえてきた。

 

「そういえば女将さんが産休って聞いたけど出産、近いのかい?」

「はい。今朝産気づいたそうで、今は医師の元におります」

「あぁ〜そうかぁ。ちなみに亭主も女将さんの方に行ってるのかい?」

「えぇ、そう聞いております」

 

 流石だよね。飄々と対応している。

 でも、ここからちょっと雲行きが怪しくなった。

 

「やっぱりな。料理の味がいつもと違ったんで、そうだと思ったよ。あ、でもこっちも美味しくて満足しとるわ。誰ぞ料理人でも連れてきたのかい?」

「いえ。私の……その、妹が料理を担当しております」

 

 多分そういう設定だね。

 私とリアラさんってやっぱり似てるからなぁ。理想の私とはいえ私は私だから。でも妹かぁ。リアラさんの妹なら嬉しいかも……えへへ。

 

「へぇ、妹さんかぁ。嬢ちゃんがこれだけ美人さんなんだから妹さんもさぞ可愛らしいだろうなぁ。良かったら会わせてくれんか?」

「畏まりました、ではお呼びいたしましょう。フラン、おいでなさい」

 

 えへへ……え? 

 ちょっと待って。私を呼んだ? えっ、どどどどうしよう!?

 と、とりあえず行かないと、だよね? でも私着物ちゃんと出来てるかな? うー……不安だけど行くしかない雰囲気。

 

「失礼致します」

 

 障子の前で正座して声を掛けてそっと障子を開ける。

 するとお客様が私を見て目を丸くした。が、間髪入れずに私は挨拶する。

 

「リ……リアラの妹のフランと申します。きょ、今日の料理を担当しております」

「こ、こんな小さな子がこれを作っていたのかい?」

「えぇ、今日の料理はフランに一任しております」

「ほおそうか。にしても随分可愛らしい子だなあ。フランちゃん、ありがとうな。ご飯美味しく頂いとるよ」

「こっ、こちらこそありがとうございます!」

「ハハハ、愛嬌あって良いじゃねーか。わざわざ呼び出してすまんね。にしてもあの年でこれだけの腕を持つとは、将来有望だなぁ」

「私の自慢の妹ですから」

 

 ちょっとどもっちゃったけどリアラさんが上手くフォローしてくれた。

 それから和やかな雰囲気のまま接待を終えることが出来たけど、こういう料亭で料理を美味しいって言ってもらえて嬉しかったなぁ。

 

 

 #####

 

 和やかな内容とは一転して、読んでいたレミリア達の空気は重苦しくどんよりとしていた。

 

「…………」

「あの、レミリアさん?」

 

 読み終わって黙りこくるレミリアに早苗が声を掛けるが彼女は下を向く。

 が、やがてガバッと顔を上げて叫んだ!

 

「ポッと出の妙な輩に私の姉としての地位が揺るがされているのはどう考えても間違っている!」

「なんですかそのラノベみたいなタイトルのような叫び!?」

「うるさい! 何なのよこれ! リアラとかそんな意味分かんないポッと出の式神なんぞに私が負けているなんてあり得ないわ! フラン本人も満更でも無いみたいだけど、私の方が頼りになるから!」

「いやいやいやレミリアさん!? ちょっと落ち着いてください! 別にフランちゃんは『お姉様って頼りにならないよね』とは書いてませんよ!?」

「シャラップ! 何にせよこれは由々しき事態よ! 書いてなくてもそれくらい分かるわよ! アレだけ匂わせること書いてあったら! というかそうじゃなくてもお姉様は頼りにならないって思われてると思わされる文章がある時点で癪に障るわ!」

「理不尽!? というかそうならレミリアさんがしっかりすれば良いじゃないですか! それこそリアラさんより!」

 

 早苗もつられて叫ぶがその様子を見てさとりと霊夢は呟く。

 

「……口ではあぁ言ってますがレミリアさんも自分がポンコツなのは気付いてるんですよねぇ……」

「気付いた上でやってんの!? えっ、ちょっと待って。だとしたら何あの面倒臭い性格は!?」

「……まぁそれがレミリアさんですから。落ち着いている時は良いんですけど、いかんせん今は思考停止しているようですし仕方ないでしょう。長く生きていればそういうこともあります」

「いや、あんな様子を結構見るけど」

「………………」

「………………」

 

 二人は可哀想なものを見るような目でレミリアを見た後、場が鎮静するのを待って次のページをめくったのだった!

 

 

 #####

 

 

 十一月十二日

 

 

 夜に魔理沙がやってきて「今から人里に行くぞ!」と私を引っ張っていった。

 もう少しで寝る時間なのに何の用だろう、と思っているとどうやらアイドルとして参加してもらいたい仕事があるらしい。

 で、目的地らしい人里の一角に着くとそこには『少女達の聖戦ーー料理対決!』と書かれた横断幕といつか会った射命丸文さんが居た。

 

「あやや、これはフランさん! お待ちしておりました」

「いや、何ですかコレ」

「説明しましょう! 少女達の聖戦、料理対決とは幻想郷のアイドル達の料理対決となります! ルールは各チームにつき一つのブースと材料が与えられますので、それを使った手料理を販売し、最後にどのチームが一番稼いだかで勝敗を付けます! しかしそれだけではありません。金額のみですと、知名度により有利不利がありますのでそれぞれ五名の審査員が料理の美味しさを判定しポイントに追加します! 美味しさも大きなポイントというわけですね! そして幻想郷から選ばれた審査員を紹介しましょう!」

 

 いや、すっごい元気に説明してくれるのは良いんだけど何よそれ。

 でも怪訝そうな顔の私を無視して文さんは相変わらずのハイテンションで説明していく。

 

「幻想郷の異変解決はお手の物!? 審査員一人目、博麗霊夢!」

「タダ飯食えるって聞いたからきたけど何よこれ? 私聞いてないんだけど」

「ちょっ! 霊夢さん台本通りお願いしますって!」

「えー? はぁ、しょうがないわね。コホン、参加者の皆さん、存分に腕を振るって下さいね。あ、酒に合う料理期待してるわ」

「はい博麗霊夢さんありがとうございます!」

 

 勢いよく言って文さんは次の人を紹介し出す。

 

「次、ラリホー授業はステータス! 人里の守り人、上白沢慧音さん!」

「よろしく。皆フェアプレーを心掛けて挑んで欲しい」

 

「さぁさぁ続いて参ります! 大食いといえばこの方! 腹ペコ亡霊の西行寺幽々子さん!」

「あら〜大食いですって? まぁ良いわ。皆さん美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせて下さいね?」

 

「続いてはこの方! 誰の料理が最も美味か、白黒ハッキリ付けましょう! 閻魔大王、四季映姫ヤマザナドゥさん!」

「その料理、白黒ハッキリ付けさせて頂きます」

 

「そして最後に審査員長! 幻想郷に知らぬ者はいない!? 妖怪の賢者、八雲紫さん!」

「ふふ、美味しい料理を期待してるわ」

「以上の審査員でお送りいたします!」

 

 うん。

 それは良いんだけど料理を作れば良いんだよね? とりあえず。

 

「続いて参加する少女達の紹介です!」

 

 あ、まだやるの? 聞いてて疲れてきたんだけど。

 

「トップバッターは腹ペコ亡霊の従者にして、幻想郷で最も料理を作ってきた少女! 魂魄妖夢!」

「え、えっと気付いたら主に参加させられていましたが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします?」

 

「続いては地底より参戦しました! 地底のアイドル黒谷ヤマメ!」

「よーし、頑張っちゃうぞ。皆応援よろしくねー!」

 

「お次は、山の上の巫女さん! 奇跡の使い手、東風谷早苗!」

「私も妖夢さんと同じで気付いたら諏訪子様に登録されてて、ちょっと混乱してますが出る以上は優勝目指して頑張りますよ!」

 

 こんな感じで紹介されてった。

 中には誰一人彼女の料理を完食したことない!? 完食出来るならしてみろ! ゲロマズ料理の○○! とかひどい紹介の人もいたけど。

 ちなみに私の紹介は、

「悪魔が住む館、紅魔館に住む天使! 紅の幽霊楽団より参戦、フランドール・スカーレットさん!」だった。

 で、ブースごとに分かれて料理作りになったんだけど。

「……周りの人皆お酒呑んでるし、時間的にもう夜ご飯を食べた後だよね?」

 現在時刻深夜一〇時である。色んな人たちがブースで出してると考えるとガッツリした料理は駄目だよね。幽々子さんを除いて。

 周りの人を見る限りお酒のツマミを作るのがベストじゃない?

 

「……鳥もつ煮でいっか」

 

 作るからには手は抜かない。お手軽だし、回転率を上げると考えるとすぐ作れるものの方が良いしね。

 それにまだ作り始める前段階なのに既にブースの前に行列出来始めてるし。

 

「こちらは紅の幽霊楽団所属アイドル、フランのブースとなっております! あのフランちゃんの手料理が食べられるチャンスです! あっ、列は一列にお願いします!」

 

 魔理沙がやたらやる気で列整理をしている。

 多分、これで得た収益が懐に入るからだろうなぁ。とりあえずちゃっちゃと作りましょ。

 

「まずは鶏レバーからレバーとハツを切って、脂肪を捨てよっか」

 

 呟いて私はキッチンバサミでレバーとハツを切ると、白く見える脂肪部分を取り除く。

 

「次はハツを切って血を取って、と」

 

 ここがポイント。血抜きは一番重要と言っても過言じゃないので丁寧に取り除こう。脂肪は捨ててね。

 

「次は醤油と砂糖を混ぜて入れたフライパンをあっためる、と」

 

 その際に強火でぶくぶく泡立たせてから、下ごしらえをしたレバーを入れよう。

 

「あとはお箸で混ぜながらレバーにタレを絡めて、三分待つ♪」

 

 その間に色々手順の説明をしておこうか。

 まず脂肪と血を捨てた理由だけど、あの二つを抜くとクセが無く美味しく食べられるんだよね。

 続いてフライパンに入れた醤油と砂糖だけど、あれは少なめでオーケーかな。理由はレバーって焼くと水分が出るから。

 まぁモツ煮というよりレバー炒めだけどそこらは気にしない。

 

「最後にツヤツヤになるまで焼いたら、完成! 焦げのつくタイミングを見計らうのが難しいけどまぁノープログレム」

 

 ちなみにフライパンで作ると後処理が楽だから覚えてね!

 というわけで完成。

 紙皿に盛って、販売。一皿五〇〇円。ちょっと割高だけどこういうイベントは大抵そうなのでまぁ別に良いや。そこは私の関与するところじゃない。

 

「ここで朗報です! 五皿買うとフランちゃんと握手出来ますよー! あとビールも販売していますので、そちらを買うとフランちゃんの料理がナイスおつまみになります!」

 

「うおおお!! 五皿くれ!」

「俺も五皿!」

「五皿……いや、十皿くれ! 二回握手してもらうんだ!」

「俺は五皿と酒もだ!」

 

 うわっ、凄い。

 え? そ、そんなに私と握手したいの? えへへ、ちょっと恥ずかしいな……。

 

「お買い上げ、ありがとうございます♪」

「あ、ありがとうございます! 二度とこの手洗いません!」

 

 いや、大袈裟だなぁ。というか洗ってよ。

 ばっちぃよ? 数日たったら。

 で、食べたお客さんの感想なんだけど。

 

「キンキンに冷えてやがる…! モツ煮も美味ぇ…! あぁぁぁありがてぇ…! 涙が出る…! 犯罪的だぁっ…! 美味すぎる…!!」

 

 何その感想。なんか大袈裟だよ!?

 というか背中から『ざわ…ざわ…』って文字がリアルに飛び出てるけどどうやってんのそれ!?

 とまぁそんな感じだった。

 

 ちなみに終わった後、結果発表までの間にファンの前で一曲歌ったり、妖夢さんや早苗さんの作った料理を食べに行ったけどやっぱり上手だったなぁ。

 一口寿司と、ケバブ。妖夢さんは流石和食が上手いね。でも一つ疑問があるんだよ。海のない幻想郷でどうやって海の魚を取ってきたんだろうか? 気になって仕方ないんだけど。聞いても「禁則事項です」って言われたけど超気になるんだけど!?

 

「フランちゃんの料理はお酒によく合いますね」

「あ、ありがとうございます」

 

 対して早苗さんは私のモツ煮を食べてそんな感想をくれた。

 早苗さんのケバブも美味しかったですよ!

 ちなみに料理対決の優勝者なんだけど……、

 

「満場一致で決定! これが王者の貫禄というものか。三年連続優勝の十六夜咲夜! 個人参戦ながら今年もまたやってくれました! いやー、審査長の八雲紫さん。コメントをお願いします」

「私としては従者の藍が優勝出来なかったのが少し残念ですが、流石料理がお上手だと思いましたわ。私たちの顔色や仕草などから合う味付けを分析し、それぞれ微妙に味付けを変えて瞬時に料理を出すあのスタイルは彼女にしか出来ない芸当ですし」

「そうですか、ありがとうございます。では優勝者の咲夜さん、コメントをお願いします」

「今年で三度目の参戦になりますが、優勝出来て嬉しいです。個人としては妹様に注目していましたがメイドとしては料理ではまだ負けられませんから、勝てて良かったと思います」

「ありがとうございます、優勝者の十六夜咲夜さんでした!」

 

 いや、咲夜居たの!?

 というか三年連続優勝なの!?

 ……にしても料理で負けたかぁ。流石だなぁ。

 まだまだ精進しないとね! まだ私には顔色から判断して味付け変えるなんて出来ないし、そこらも鍛えないと!

 まさかの展開だったけどまぁ楽しかった手料理対決でした!

 

 

 #####

 

 

「あったわね、こんなこと」

「まさかの咲夜さんですからねー。まぁ流石ですけど」

「……こんな催しがあったんですね。ヤマメさんも行っているようですし、地底からも本格参戦させようかしら」

「良いんじゃないですか? 私も今年も参戦しますし、さとりさん達が来るなら歓迎しますよ」

「……というか咲夜がそんな催しに参加していること自体知らなかったんだけど」

「プライベートなんでしょ。察してあげなさいよ」

「いや、咲夜もこういうイベントを楽しんでいたのねって初めて知ったからよ」

 

 だから良かったわ、とレミリアは言う。

 そしてそこで話を切って、四人は次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十一月編6『第一発見者と裁判』

 


 書いてから思う。
 これ東方ほぼ関係無いな、と。
 ま、次回から魔界編なので偶にはこういう回もあるってことでここはひとつ。


 


 

 

 

 十一月十三日

 

 

 寺子屋には一人、少し計算や話すスピードが遅い知的障がい者の子がいる。

 単純な問題でもええと……ええと、と解くのに時間がかかるのだ。

 でもそんな子相手でも算数の先生が解けないと分かっていながら問題を解かせようとするのを私は春から見ていた。

「○○、この問題を解け」

 その時指示されたのは42×2という掛け算だ。簡単なもので、それこそ暗算でも答えが出せる程度の問題だけど、それでもその子はええととどもる。

 それでいて解くスピードも遅くて何度も間違えるのに、算数の先生はしつこく何度でも答えさせた。

 そのどもる様子を見て、周りの子供達は解くの遅いなあと笑う。

 ああまただ。

 私は唯一、この光景が寺子屋で嫌いだった。

 笑い声を隠そうとしないクラスメイトにも、先生にも腹がたつ。あんなに頑張って解いているのになんであんなに酷い事するんだろう。

 私はこの算数の先生が嫌いだった。

 

 だって不条理じゃないか。理不尽じゃないか。

 あの子にはあの子なりのペースがあるのに無理に問題を解かせようとして、それでクラスメイトの笑い者にさせるなんて最低だ。

 だから私は算数の先生が嫌いだった。

 

 でも今日、算数の先生は別の仕事に移ることになり教職をやめることになった。

 

 それから寺子屋でお別れの会を開こうという話になって、私達のクラスから『生徒代表』で言葉を送る人を選ぶことになった。

 でも考えてみて欲しい。体育館の壇上に上がって、算数の先生にお礼を言う役だ。そんなの算数の先生に限らず大体の先生が相手でも皆やりたがらないだろう。

 一番先生に迷惑掛けてた○○にやらせよーぜ。

 そう、知的障がい者の子に白羽の矢が立ったのは予想の範疇だった。

 

 それにそう言ったクラスメイトの子は期待していたんだ。壇上でどもる○○君をまた笑い者に出来るって。他にも面倒な役を押し付けるという魂胆もあったのかもしれない。

 でも、私はそれを見過ごしたくは無かった。

 だから、

「わ、私がやる」

 そう言ったんだ。でも、それを拒否したのは他ならないその障がい者の子だった。

「え、えっと、いや……ぼくにやらせて欲しい」

 たどたどしい言葉で、それでもいつもよりは早いペースでその子がそういうので私はもう引き下がるしかなかった。

 

 それから算数の先生のお別れ会が始まった。

 生徒が体育館に集められて、算数の先生からお話を聞いた。

「転職という形で教職をやめる事になりましたが、皆さん本当にありがとうございました。後任の先生とよく勉強に励んで下さい」

 そう言って算数の先生はマイクを持って深々と頭を下げていた。

 それからすぐに障がい者の子の出番がきた。

 生徒代表の言葉だ。名前を呼ばれてから少し時間をかけて知的障がい者の子が立ち上がり、花束と手紙を持って壇上に向かって歩いていく。

 私たちは体育座りをして見ていたけど、中にはこれからどんな醜態を晒すのかと既にほくそ笑んでいる子もいるようだった。

 不愉快になった私はそちらへの意識をシャットアウトする。

 そして知的障がい者の子は壇上に立つと算数の先生に対してこう語り始めた。

「先生……ぼくを、普通の子と一緒に勉強させてくれて、ありがとうございました」

 そう言って深々と頭を下げた彼の姿はよく記憶に残っている。

 それまでガヤガヤ話していた生徒達も黙り込んで彼の話を聞いていた。

 彼はゆっくりと……所々つっかえながらも話していく。

 

 一年生の頃、足し算や引き算が何度やっても出来なかった彼に、何度も何度も根気強く教えてくれたこと。

 図工の授業のあと。絵を馬鹿にされた時、通りがかってくれて水彩画を教えてくれたこと。

 二桁の計算が出来なくて、放課後つきっきりでそろばんを勉強させてくれたこと。

 

 彼の感謝の言葉は十分以上にも及んだ。

 彼が一つ一つ、算数の先生がしてくれたことを話すたびに私にも大きな衝撃が襲ってきた。

 無茶な質問ばかりをして生徒をいじめていたと思っていた。だから嫌いだった算数の先生は、そんな人じゃなかったんだ、とその時私は初めて知ったんだ。

 

 その間、私を含めおしゃべりをする子供達は誰一人居なかった。

 ただ、算数の先生がぶるぶる震えながら嗚咽をくいしばる音だけが、体育館に響いていただけだった。

 

 

 #####

 

 

「……良い話ですね」

「……そうね」

「……流石にこれにボケはかませないわ」

「……当たり前です。何を言ってるんですか」

 

 四人もこの話を広げるつもりはなく、さとりの言葉を最後に次のページへと手をかけるのだった。

 

 #####

 

 

 十一月十四日

 

 

 また外の世界との境界を見つけた。

 前に向こうの世界に送られたことがあったから感知してから他の人が危険な目に遭わないよう、現場を守っておこうと思って近寄ったんだ。

 すると結界の綻びの近くで一人のおじさんが首を切って倒れていた。

「……ひうっ!?」

 思わず驚いて喉元から変な音がした。でも一大事だから、慌てておじさんの生死を確認すると辛うじて息をしていた。

 手には血の付いたナイフが握られていたのでどうやら自殺しようとしたらしい。慌てて能力で治療して、それから人を呼ぼうとしたところでもう一人人が倒れていることに気が付いた。

「……へ?」

 それは老婆だった。首を手で強く締められた跡があって、既に息絶えていた。多分、さっきのおじさんに殺されたんだと思う。

 近くに車椅子が落ちていたので多分、身体の不自由な人だったんだろう。

「……、」

 となると無理心中か。

 ともかく人を呼ぶと首を切って倒れていたおじさんが永遠亭に運ばれていき、老婆の方は遺体安置所に保管されて、すぐに人里の医師達による実況見分が始まった。

 それから程なくして、老婆の死因が判明する。

「やはり、老婆は先程の男性に殺されたものと思われます。首に残っていた指紋が彼の手のものと一致しましたし、それに持っていた身分証明書から彼とこの老婆は母と子の関係だったようです」

 つまり殺人だ。多分二人とも幻想入りしてきたものと思われるけど殺人犯を野放しにするわけにはいかない。

 程なくして永遠亭の薬師の手で回復し、目を覚ましたらしいおじさんが両の手に手錠を掛けられて人里の裁判所まで連れてこられて裁判が始まった。

 それで第一発見者として私も出廷する事になったんだ。

 

 まずは検事側による冒頭陳述から始まった。

 

「この事件は京都市の一角にある河川敷で、無職のN氏が認知症の母親を殺し無理心中を図りその後幻想入りして発覚しました」

 

 そして事件内容は認知症の母親の介護で生活苦に陥り、母と相談した上で殺害したというもの。

 N被告は母を殺害後、自身も自殺しようとしたが私に発見され一命を取り留めた。

 元々N被告は三人家族で、十年前に父親が他界。その頃から母親に認知症が発症し始め一人で介護していたらしい。

 しかし日に日に認知症は悪化し、五年前には昼夜が逆転し夜中に徘徊して警察に保護されることも度々起こるようになった。

 仕方なくN被告は休職し、デイケアを利用したが負担は軽減せず同年に退職する事になる。

 また生活保護は失業給付金などを理由に認められなかった。

 そして介護と両立出来る仕事は見つからず、一年前に失業保険の給付金がストップする。

 その後は貯めていた貯金を切り崩し生活するがやがてそれも尽き、カードローンの借り出しも限度額に達し、デイケア代やアパート代が払えなくなり心中を決意したそうだ。

 そして今日、京都市内を観光したのち河川敷にて母親に、

「……もう生きられへん。ここまでや」

 などと言うと母親は、

「そうか、あかんか。N、一緒やで」

 と答えた。

 N被告が泣きながら、

「すまん……すまんなぁ……」

 と謝ると母親は、

「こっちに来い」

 とN被告を呼び、N被告が母親の側によると、

「Nは私の子や。私がやったる」

 と言った。

 この言葉を聞いてN被告は母親の殺害を決意。母の首を絞め、自身もナイフで首を切って心中を図った。

 

「…………っ」

 

 冒頭陳述の間、N被告は背筋を伸ばして上を向いていた。

 肩を震わせ、眼鏡を外して右手で涙を拭うのを私は見た。

 異例の裁判のことで、八雲紫が外から情報を得て検察官に伝えていた。検察官はN被告が献身的な介護の末に失職し追い詰められていく過程を陳述した。

 殺害時の二人のやりとりや、ここへ来るまでの間に尋問した「生まれ直せるならまた母の子に生まれたい」という言葉も紹介。

 先程も書いたが異例の裁判ということで閻魔である映姫さんや、外へ送り返す役目のある霊夢さんも参加していたが、霊夢さんは目を赤くして、言葉を詰まらせていて、映姫さんも涙をこらえるように何度も瞬きするなど法廷内は静まり返っていた。

 可哀想だ、と言葉にするとちんけな言葉かもしれないけど私も泣いた。

 やがて陳述が終わり、四季映姫さんは裁判官としてこう判決を付けていた。

 

「……尊い命を奪ったという結果は取り返しがつかず、重大ですが経緯や被害者の心情を思うと、社会で自立し更生するなかで冥福を祈らせる事が相当です。被告人を懲役二年六ヶ月に処します……」

 

 続いてこう言った。

 

「……そしてこの裁判確定の日から、三年間その刑の執行を猶予します……」

 

 そして被害者の心情に対し、

 

「……被害者は被告人に感謝こそすれ、決して恨みなど抱いておらず今後は幸せな人生を歩んでいけることを望んでいます。故に幻想郷での拘束はせず外に送り返すべきと判断します。また、今後絶対に自分を殺めることのないよう、お母さんのためにも幸せに生きて下さい」

 

 という言葉を残した。

 N被告は深々と頭を下げて一言。

「……ありがとう、ございました」と述べた。

 

 #####

 

 

「……外の世界からそんな人が幻想入りをしていたんですか」

「……証人にはお母さんの魂も呼ばれていたわ。だから話を聞くたびに涙が止まらなかった」

「……幾つか分からない単語もありましたが、読みながら霊夢さんの心を覗いていると妖怪の私にも思いが伝わってきましたよ」

「……フラン、こんなことにも巻き込まれていたのね」

 

 やはり人間と妖怪で多少感性は違うものの、それでも思うところはあるらしい。

 四人は数秒黙り込んだが、やがて次のページをめくった。

 

 

 

 

 



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十一月編7『魔界の街とブラギの竪琴』

 


 日記、一日分で五千文字。
 どうなってるんだこれ……。



 


 

 

 

 十一月十五日

 

 

 早朝。約束通りアリスさんの家に行くと彼女から服を着替えるように言われた。

「私のお古だけど着ときなさい。何があるか分からないし、あの人の事だから何かに触発されて魔界を造り替えているかもしれないから」

 青いリボンに青い服。青色の服を着るって中々無い私にとっては新鮮だ。アリスさんにちなんでいうなら、不思議の国のアリスになったみたい。

 それで着て、アリスさんに見せると少し驚いた顔をしていた。

「驚いたわ。髪の毛の色が似てるからかもしれないけど幼い頃の私そっくり……ううん、殆ど同じみたい。眼の色とか違いはあるけど……ビックリよ」

 へぇ。私、アリスさんに似てるんだ。えへへーちょっと嬉しい。

 アリスさんってすっごく美人さんだから特にね!

 ともかく装いも改めて早速行こうという話になったんだけど、何故か向かう先は博麗神社らしい。

 アリスさん曰く、

「別に魔法を使えば魔界への道は作れるけどそれは非常ルートだから今回は正規ルートで行くわ。実は博麗神社の裏山にある洞窟の中に魔界との門があるのよ」

 とのこと。

 そんなわけで博麗神社の裏の山にある洞窟まできました。

 少しひんやりとする洞窟内を反響する自分達の靴の音を楽しみながら歩いていると、やがてアリスさんが立ち止まる。

「ほら、ここよ」

 指さされた先にあったのは文字通りの門だった。

 大きな部屋にある鉄扉。大きな錠前が付いていて、とても開きそうにない。

 成る程ーーつまりこれはあれか。

「これを壊せばいいんですか?」

「何がどうなってその答えについたのかは知らないけどそんな魔理沙みたいな開き方はしないわ」

 イェイ、速攻即答大否定!

 てっきり『魔界』なんて禍々しい名前してるくらいだから破壊してこじ開けて来いって意味かと思ったんだけど。

「違うわよ。この扉の開け方はちょっと特殊でね、魔界の合言葉を言わないと開かないの」

「合言葉ですか? 任せて下さい! えっと……開けゴマ!」

 しかし扉は開かない。

「……え、えっとアロホモラ! あ、アブラカタブラ! ちんからほい!」

 ……しかし扉は開かない。諦めたように私は言う。

「ありすさん、ばとんたっち」

「はいはい。この扉を開ける合言葉はとある解錠呪文なのよ。じゃあ行くわね」

 そう言ってアリスさんは扉の前に立ち、そっと呟く。

『アバカム』

 瞬間、扉がギギギギィ……と重苦しい音を立てて外側に開き始めた。砂埃を立てて扉が開ききると向こう側から眩い光が降り注ぐ。

「さ、行きましょう」

「あっ、はい!」

 アリスさんに手を引っ張られて門を抜ける。

 抜けると同時に眩しい光は消滅し、ようやくまともに見えるようになったことで私は小さく息を吐いた。

 すると横から声をかけられる。

「あら、アリス久しぶりね」

「ルイズじゃない。久しぶり」

 見ると、いかにも旅行者といった出で立ちの女性がそこに居た。金髪で優しそうな笑みを向ける彼女は懐かしそうな目でアリスさんを見つめていた。

「前に会ってから何年振り?」

「確かもう十年近いわね。元気そうで何よりだわ」

 ルイズ、と呼ばれた女性はそう言って目を細める。アリスさんの容姿を確かめて懐かしさが込み上げてきたのかもしれない。

 でも私、一つだけ疑問があるんだよね。

 というより、私。このルイズって人を知ってるかもしれない。

 前にぐーやさん……輝夜さんに言われてネットにあるスレッドってところに誘われたんだけどそこにルイズって名前の子がネタにされてた覚えがあるんだよね。

 くぎゅうううううう! とか。

 ルイズぅぅうううわぁああああん!! とか。

 もしかしてこの人なのかな? よく分からないけど彼女は有名人なのかもしれない。

 するとしばらくアリスさんの談笑していた(くだん)のルイズさんがアリスさんの服の裾を握って立っている私を認識したみたいで、目を丸くした。

 何度も瞬きして、えっ、と明確な驚きを口にして彼女は言う。

「アリス……いつの間に子供をこさえたの? しかもこんな大きな子」

「いや、別に私の子供じゃーーーー」

「にしてもよく似てるわね! かなり前に見せてもらった小さい頃のアリスの写真そっくりじゃない! お嬢ちゃん、お名前は?」

「ふ、フランです。初めまして……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさん?」

「それは別人よ! 私はルイズ、ただのルイズよ。それにしてもフランちゃんかぁ……良い名前ね。アリスも隅に置けないわねぇ、このこのぉ! もう、結婚したなら教えてよ! 呼んでくれればいつだって結婚式に行ったのにー!」

「いや、違」

「ほんと全く知らなかったわ! フランちゃん、お母さんの言うことちゃんと聞くのよ?」

「ルイズさん話を聞い」

「あっ、とそろそろ次の観光先に行くからまたねー! あ、アリスお幸せに!!」

「ちょ、待って…………、あぁ」

 

 そんな具合にルイズさんは誤解したままどっかに飛び去ってしまった。

 あのアリスさんが一方的にまくしたてられた……? 初めての光景を前に私は驚きを隠せない。

 というか凄い勢いだったねルイズさん。

 

「あぁ……勘違いされた……私は別に良いんだけどルイズさん噂好きだから絶対あの人にも誤解したまま伝わるわよね? ……ちょっと憂鬱だわ」

 呟いてからあっ、と私に気付いたアリスさんは慌ててフォローするように言う。

「あっ、別にフランちゃんが娘だったら嫌ってわけじゃないのよ? ただ……娘が出来たとか伝わるとちょっと厄介な人がいてね」

「厄介な人、ですか?」

「私の育ての親……といえば良いのかしらね。悪い人じゃないんだけど、ともかく会えば分かると思うわ」

 

 少し溜息を吐きながらアリスさんが言う。

 うーん、苦手な人なのかなぁ? でも育ての親ってことはアリスさんのお父さんかお母さんだよね? 複雑なご家庭ってやつかな?

 とりあえず詮索はやめておいた。

 で、ここでちょっとルイズさんの印象が強過ぎて書いてなかったけど私達が今いる場所に付いて触れておこうか。

 今、私たちは沢山の旅行者達が居る飛行場のような場所に居る。

 うん、外の世界で見たような光景が目の前に広がってるんだよ。旅行者が沢山見えるし、ターミナルビルと言えば良いのかな。窓からまた外の景色がまんま『外の世界』だった。

 宙に吊り下げられた電光掲示板や、人々が持つスマートフォン。着ている服も外のそれに酷似しているが、若干西洋風のドレスを着る人もちらほら見える。

「……改めて見ると、外の世界ですね。ここが魔界なんですか?」

「そうよ。そして私の故郷」

 すまして言うアリスさんだけど、思ったより近代的で驚いたというのが私の正直な感想だった。

 外の世界に所狭しと並ぶビル群は外の世界の映画で見たヨーロッパを思わせる雰囲気だ。また家々もそれに準じたものである。

 なんていうか外国に遊びに来た感覚がするなぁ。

 異世界に来たというよりは余程そっちの方が感情として早く湧いてきた。

 そんな私がキョロキョロしていると、

「あっちで受付するから付いてきて頂戴」

 とアリスさんに呼ばれ付いて行くと航空会社の制服のようなコスチュームに身を包んだお姉さんが対応してくれた。

「初めまして、入国管理局のサラと申します。魔界へは初めての渡航でしょうか?」

「いえ違うわ。えっとカードカード……っと、これね」

「確かにお預かり致しました……、えっ!? こ、このカードは……! たっ、ただいま認証いたしますので少々お待ち下さい!」

 アリスさんがカードを差し出すと受付のお姉さんは慌てたように奥へと入っていく。

 それから数十秒待っていると奥からお姉さんが偉そうなお爺さんを連れて窓口まで出てきた。

「対応が遅れ失礼致しました。私は入国管理局窓口長のマドグチチョと申します。ええと、アリス・マーガトロイド様ですね?」

「えぇ」

「そうでしたか。確かに確認致しました。して後ろの(わらべ)はアリス様のお子様でしょうか?」

「いいえ。友達よ、彼女は初めての渡航になるわ」

「では入国カードを作りましょう。こちらにおいで下さい」

「あ、はい」

 呼ばれてお爺さんの後ろについていくと一枚の紙を書かされた。氏名年齢電話番号などの登録を終え、写真撮影を行いようやく一枚のカードが渡される。

「そちらがフラン様のカードになります、今後はそちらのカードをお持ちの上ご入国下さい。それとアリス様、一つよろしいでしょうか?」

「何かしら?」

 アリスさんが尋ね返すとお爺さんはアリスさんに何やら耳打ちした。初めはふんふん、と聞いていた彼女の顔が徐々に歪むのを見てあまり良い話じゃなかったんだな、と私は思った。

「あの人は……」

「全てはアリス様を心配しての事です……して、お顔をお見せになったりは」

「分かってる、そのつもりで来たから安心して頂戴。ついでに説教してやるわ」

「……左様でしたか。ではこれ以上は何も言いますまい」

 お爺さんはそこで真面目な顔を崩すと、しわくちゃな笑みを向けて、

「では、魔界へようこそ。楽しんで行って下さい」

 と私達を見送ってくれた。

 そうしてようやく入国管理局なる建物を抜けた私とアリスさんは街に出た。

「じゃあここからは飛行で行くわ」

「了解です」

 それからしばらく飛んで『Romantic』『Children』と書かれている2枚の看板がある街の宿に泊まることになった。

 飛行中は眼下を眺めていたけど完全に雰囲気はあれだね。魔法がある外の世界って感じだった。箒に乗って飛んでいる人も多くいたし、地面には車も走っているしで入り混じった感が凄い。

 というかハリーポッターみたいだよね。

 街並みもホグワーツ……というかやくそうやポーションってものが売ってても違和感ない見た目だし。

 それに降りた街でふと店に寄ったりしたけど普通に魔道具が一杯あったなぁ。

 魔理沙が来たら喜びそう。あ、森近さんも。

 なんか適当にお土産買っていこうかなぁ? 自分の分も。そう思って近くのクラシックなイメージのある小さな古魔法道具屋に寄ったら良さげなものを見つけたよ。

「わ、竪琴だ」

 多分元は黄金だったんだろう、錆びた竪琴。アンティークってやつかな? かなりの年代物みたいだった。思わず衝動的に買いたくなったので店主さんに値段を聞くと、

「あぁ、そんなのもう置物にしかなんねぇから……まぁ材質が黄金にしても二万ってとこだな。買うかい?」

「あ、はい。日本円は使えますよね?」

「あぁ。通貨としちゃ信用があるからね。二万円確かにいただきましたっと、毎度あり! ありがとな嬢ちゃん!」

 というわけで黄金の竪琴を購入!

 で、早速能力で黄金の竪琴を直す。具体的には錆びるまでの歴史を全て破壊してしまえばちょちょいのちょいだ。

 とりあえず一番良い音色の鳴る時期まで戻せば良いだろう。

 で、直したんだけどそこで握り手のところに名前が彫ってあることに私は気付いた。

「……ブラギ? 元の持ち主さんかな?」

 私的にブラギと聞くと北欧神話のオーディンの話に出てくる人を思い出すけどそんなわけないしね。

 ともかくブラギさん、竪琴大事に使わせて貰いますね!

「それでは早速弾いてみようかな……」

 これでも音楽は騒霊三姉妹に教わっているのだ。ハープが弾けるし多分竪琴も同じ要領でいけるはず……。

 とりあえずUNオーエンは彼女なのか? を弾いてみる。

 

「〜〜♪ 〜〜♪」

 

 竪琴はとても綺麗な音色を奏でた。

 透き通る音というか、心に届く音というか。弾いてる私もついつい目を閉じて音を楽しんでしまう。

 そして一曲奏で終わってふと目を開けると驚いた。

「ブラボー!」

「素晴らしい音色だ!」

「このような音楽に出会えるとは……!」

 いつのまにか私の周りを覆うように沢山の人が集まっていて、皆私を褒め称えていた。

 あと沢山のおひねりが飛んできた。

 ええっ!? ちょ、ちょっと待って! おひねりなんて困るよぉ!

 ブラギさんの竪琴が凄いだけで私なんて全然凄く無いんだから!

 そうやって戸惑う私だけど、

「他の曲は無いのかい?」

「感動した! 感動したよ……!」

「もっと聞きたいわ!」

 ……やるしかない雰囲気。

 わ、分かったよ! アイドルとして音楽も出来るってところを見せてあげる! 今の私はそう――音楽家フランちゃんだ!

「次、魔法少女達の百年祭を弾きます」

 

 余談だが、一曲弾くたびに割れんばかりの歓声とおひねりが飛んできたことは言うまでもない。

 結局、アリスさんが私を見つけるまでずっといろんな曲を弾いていた。

 うーん……もしかしたらこの竪琴、凄い力のある竪琴だったのかな? 私の演奏の手であそこまで人々が熱狂するなんてあり得ないし。

 個人的には普通に楽しんでもらえるなら嬉しいけど、あまり多用する物じゃないのかもしれない。

 とりあえずは異空間を開いて、前にゲットした炎剣と一緒にコレクションしておこう。

 

 

 #####

 

 

「……魔界かぁ、懐かしいわね」

「というか待ってください。ブラギってあれじゃないですか? 北欧神話のオーディンの息子さん……」

「知っているのか早苗!?」

「詳しくはありませんが……ブラギの竪琴という神話に出てくる魔法道具があるんです。北欧神話きっての詩人と呼ばれるブラギが持っていたとされる竪琴で、父であるオーディンが小人達に作らせた物だとか。その音色は全てを聞き惚れさせるそうです」

「……あの、皆さん一ついいですか。実は以前香霖堂とあるプロジェクトで提携した際に聞いたのですが、魔理沙さんが持ち込んだものの中に本物のレーヴァテインが紛れていて、それをフランさんが持って行ったという話を聞いたのですが……」

「待ちなさい。つまりあれ? フランは二つの神器を持っている……?」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「………………、」

「……その、次のページ行きましょうか?」

 

 暫し黙り込んだ四人だが、やがて痺れを切らした早苗の声に頷く形で次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 次は日数を進めたい(願望)


 


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十一月編8『実家到着と再会』

 


 ……やっぱり駄目だったよ(日数増やすのが)



 


 

 

 

 十一月十六日

 

 

 アリスさんに誘われてやって来た魔界世界。

 それは想像の斜め上をいく魔法と科学の世界だった。

 まるで創作の世界の中みたい。地面には車や電車、新幹線が走り空では箒に乗った人々が飛び回る。うん、御伽噺(おとぎばなし)のような世界だ。

 で、そんな世界で朝から起きた私達はアリスさんの実家だという家に向かっていたんだけど……、

「ばっ、ばばばばばばばばうはばっふ!!」

 超寒いです。なんですかこれ。意味分かんない。

「フラン、何か言いたい事があるなら人の言葉で喋ってくれない? いきなり新言語を生み出されても反応出来ないのだけど」

「さ、さむっ、寒いんです! なんですかこの氷河期みたいな氷雪地帯!? 街からまだそんなに離れてないですよねっ!? 魔界ってどんな気候してるんですか!!」

「どんな気候って言われても、元は一人の人が創り出した世界な上にほぼ妄想で創られてるのよ? ……まぁ、私の育ての母なんだけど」

「お母さん!? お母さんがこの世界創ったんですか!?」

 サラッと露わになる衝撃の事実だがいかんせん寒過ぎて思考が追いつかない。

 我慢ならなくなった私は、自分の肩を腕で抱きながら、

「そっ、それに私。吸血鬼だからちょっとやそっとじゃ暑さや寒さなんて感じないのに……!」

「子供の頃に聞いた話だと氷点下一〇〇度を下回る地域もあるって聞いたわね。氷雪の神が眠っているとか……」

「ひゃ、マイナスひゃくっっ!?」

 体感的に暑さならマグマレベル、寒さならマイナス五〇度程度を余裕で過ごせる私だけどどうやら桁が違ったらしい。

 幾ら何でもこれは寒い。アリスさんは何故無事なんだろう?

 私が考えるとアリスさんは答える。

「あぁ、私は温度を殆ど身体で感じれないのよ」

 なにそれずるい! 

 しかしそんな事を言っている場合ではない。一刻も早くこの寒さを防がないと凍死しかねないのだ。

「レーヴァテイン! 燃えて!」

 とりあえず私は約束された勝利の炎剣(レーヴァテイン)を出して寒さを凌ごうとする。飛び出した炎剣は勢いよく燃え盛り――吹雪に吹かれて一瞬で鎮火した。

「はうあ!?」

「あ、言って無かったけど魔界って気候が無茶苦茶だから適当に技を出した程度じゃ直ぐ消されるわよ。特に炎の技は」

「ううううう! じゃあこれならどうだ!」

 なんだその無茶苦茶な設定!? スペルカードが一瞬で掻き消されるってどんな気候よ!! ずっこい!

 だがしかし私には奥の手がある。そう、私はレーヴァテインの威力を高めてくれる素敵な剣があるのだ。早速異空間から取り寄せーー

「はぁ、落ち着きなさい。私が魔法かけたげるから」

「お、おおっ、おおお願いします!」

 ――る前にアリスさんが溜息を吐いて魔法をかけてくれる。

 やれやれという顔だがどこかお姉様に向けるような目を私に向けているのは何故だろうか。

『フバーハ』

 ともかく、アリスさんが呪文を唱えた瞬間寒さを感じなくなった。

 適温。うん、この時ほど普段暮らしている環境に感謝したことはないね。

「さ、気を取り直して行くわよ」

「は、はい!!」

 

 そんなこんなでアリスさんの家に向かう。

 

 

 (次のページへ)

 

 

 #####

 

 

 しばらく進んでいると巨大な建物が見えてきた。

 そのまま私達はその巨大な建物に入っていく。

「アリスさん、あのここは……?」

「パンデモニウム。魔界の果てに近い建物よ。あの中が私達の家なの」

「パンデモニウム……?」

 ともかくそんな場所らしい。

 家というより空間って感じだけどね。外の寒さもパンデモニウムに入った瞬間消え失せたみたいだし。

 だがここで見逃せないワードがアリスさんの口から飛び出してきた。

「ここまで来れば後少しよ。ここに長居するのは危険だしサッサと抜けましょう」

「……危険って?」

「瘴気よ。言っておくけど魔法の森なんか話にならない濃厚な瘴気があるわ。吹雪に紛れてたから分かりにくいけど、基本的に都市を除いて魔界では瘴気に溢れているの。それを別の世界の人が浴び続けると最悪死に至るわ。妖怪もしかりよ。魔界が地獄よりも怖いと言われるのがこれが所以ね」

 瘴気? 感じないけど……あるのか。

 魔界が地獄よりも怖いって初めて聞いた時は疑問だったけどようやくその疑問が氷解した。

(……そう言えば今更だけど咲夜も魔界に来たことあるみたいなんだよね。というか魔界は地獄よりも怖いって言ってたの咲夜だし)

 ともかくだ。パンデモニウム内にあるアリスさんの家に着けば問題無いのだしサッサと行くべきだろう。

 というわけで抜けて行くと急に世界が開けた。

 具体的にいうとルビンの壺をあしらった空間を飛んでいたのが、いきなり自然豊かな場所の高台にある豪邸がある空間に繋がったのだ。

「うぇっ!?」

 凄い、どーなってるんだろう? 素直に驚いた。

 そこまで来ると飛ぶ必要も無いと判断したのかアリスさんが大地に降り立ったので私も降り立つ。

「す、凄いですねアリスさん。あそこがアリスさんの家ですか?」

「えぇ。あれが実家よ」

「こ、紅魔館みたい」

 別に紅い館じゃないけど側から見た巨大なサイズの家に驚いた。

 絶対メイドさんも居るんだろうなぁ、と思う。となるとアリスさんって思ったより良い家の生まれだったのかな?

 お嬢様って立場とか。うん、すっごい似合う。それっぽいよ!

 私が褒めちぎっているとアリスさんが言う。

「フランだってリアルお嬢様でしょうに」

「それはそれ、これはこれです!」

 でもニコニコしながら押し切るとはぁ、と息を吐いて引き下がってくれるあたり優しいよねアリスさん。

 ともかく彼女は実家だという豪邸の扉に手を掛け、開けた。

 中には綺麗に掃除された豪邸内が見える。どうやらエントランスもあるらしい。

 そして、

「夢子ー、居る?」

 中に入りアリスさんが人の名前を呼ぶとメイドさんが飛んで来た。

 ロングの金髪で赤い半袖のメイド服を着ていて、胸元には黒い紐を蝶々結びにしている女性だ。

「あ、アリスお嬢様!? お、お帰りなさいませ!」

「ただいま夢子。久しぶりね〜」

 本当にお嬢様だったんだね。夢子と呼ばれたメイドさんは久しぶりに見たらしいアリスさんを見て顔をほころばせていた。

「音沙汰無くもう十年にもなりますか。お元気そうで何よりです」

「それはこっちのセリフよ〜。それでお母様やユキ姉やマイ姉も元気してる?」

「えぇそれはもう!」

 夢子というメイドさんは嬉しそうに言って、それから私を見て目を丸くした。

「……えっ?」

 口が半開きだ。驚いているらしい。あ、そう言えば私って幼い頃のアリスさんに似てるんだったよね。だからかな?

「えっ……ルイズさんの言ってたこと冗談じゃ無くて本当に……?」

 と思ったけどどうやら違うらしい。

 というかあの人私達と会った後にここに来たのか。

 ともかくメイドさんが驚いていると、そこに二人の女性がやって来た。

「ん? あー! アリスじゃない!!」

「えっほんとだ。アリス! 久しぶりね!」

「ユキ姉、マイ姉。二人とも元気そうで」

 やって来た二人にアリスさんが懐かしそうに声をかける。

 どうやら黒い服を着て黒い帽子を被って横から後ろまでが肩にかかる長さの金髪の方がユキさんで、白い服を着て背中に白い翼が生えている水色の髪の後ろが肩よりも長めな方がマイさんらしい。

 そんな具合にアリスさんの後ろからスカートの裾を掴んで会話する様子を見つめているとメイドさんが話しかけてきた。

「こんにちは?」

「こ、こんにちは」

「初めまして、メイドの夢子と申します。お名前を教えて頂いてもよろしいですか?」

「ふ、フランです」

「フラン――フランお嬢様ですか。良い名前ですね」

 そう言って夢子さんは私にニッコリ笑いかけてくる。

 名前を褒められると悪い気がしない私もにへら、と笑った。

「〜〜〜〜ッ!!」

 あれ、なんかメイドさんが悶えた。

 どうしたんだろう? 顔を押さえてプルプルしている。えっ、やだ。もしかして変なところがあった? 宿屋から出てくるときキチンと顔をチェックしたのに……。

 とかそんなことを思っているとアリスさんの方も話がひと段落ついたらしい。

 ユキさんとマイさんが夢子さんと話している私の方に歩いてきて、へぇーと声を上げて言う。

「この子がルイズの言ってたアリスの娘ちゃん? よく似てるわね」

「ほんとほんと! 超似てるじゃん。眼の色以外ソックリ。それにしてもアリス、いつのまに結婚してたの? 家族なんだから結婚式に呼んでよー!」

「そうね。お母様もちょっと怒ってたわよ?」

「ち、違うわよ! 私結婚なんてしてないから!」

 それ全部誤解だから! とアリスさんが説明しようとすると空気が凍った。

「え? アンタまさかヤリ捨て……?」

「なんでそうなるのよ!? 別にフランは私の娘じゃないの! 友達よ、友達! あぁもうルイズが勘違いしたせいで面倒なことにー!」

 そう言ってアリスさんが髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜて、やがて溜息をつこうとした時だった。

 

「ア・リ・スちゃーんっ!!」

 

 館の奥から赤い衣を纏い白銀色の髪の左上でサイドテールにしている女性がアリスさんを瞬間的に抱きしめたのを私は見た。

 その胸はたわわに実っていた。

「もー久しぶりじゃない! もっと顔見せてくれないと〜! ともかく元気そうで良かったわ本当に!」

「むごごっ!? むぐぐごぐっ!?」

 

 アリスさんが顔を胸に埋めて何か言っているがその女性は完全無視だ。すりすりと顔を擦り合わせたりやりたい放題にアリスさんにボディタッチする。

 それからやがて満足したのか、それとも初めて気づいたのか私の方を見た。

 

「……小ちゃいアリスちゃん?」

 

 一秒、嫌に長く感じる一秒間の空白が生じる。

 が、やがて女性は私にも飛びかかってきた。

 

「可愛いいいいいいいっっ!!」

「むぐぐごぐっ!?」

 

 後のことは覚えていない。

 胸に顔が埋められて意識が落ちたのは間違いない。

 でもなんだかあったかい匂いがした、そんな気がする。

 

 

 #####

 

 

「何があったんですかこれ!?」

「神綺ね。アリスの育ての母よ」

「……成る程、随分お子さんが好きな方のようですね」

「おいそこぉ! 私にも分かるよう説明しなさいよ」

「一言で言うとアリスが好き過ぎるママ」

「分かりやすい……!」

「いや、今の説明で分かるんですかっ!?」

「というか今更だけどこれ日記じゃないわよね。小説よね」

「そして霊夢さんは何言ってるんですか!? 確かに書き方がそうですけれども!!」

「咲夜、添削したの?」

「しましたけど書き方は自由ですから……」

「シレッと混ざりますね咲夜さん……」

 

 早苗がひとしきり突っ込んで、ともかく次のページをめくるのだった。

 

 

 

 



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十一月編9『四人の女神との邂逅』

 

 

 

 

 十一月編十七日

 

 

 昨日のあの後は大変だった。

 アリスさんのお母さん。神綺さんの柔らかい腋と胸と腕で完全に頭部を押さえ込まれた瞬間はまだ大丈夫だったんだ。

 でも、数秒で万力のような圧搾に達してさしもの私も息は出来ないやら頭部がヘッドロックを掛けられたように動かないやらで意識ごともっていかれてしまった。

 反射的に妖忌さんやめーりん直伝の技で腕から逃れようとしたけど全く通じなかったよ。なんだろうね、魔神って凄い。

 で、私達が目覚めてから真っ先にしたことなんだけど。

「初孫って本当に可愛いわぁ。目に入れても痛くないって本当ね! と、それはそうとアリスちゃん! 結婚式にお母さんを呼ばないってどういうことっ!? 私、おかんむりなんだけど!!」

「おかんむりってきょうび聞かないわね……」

 そう、お茶目な魔神(お母さん)の誤解を解くことだ。

「ねぇお母様、その事で説明したいんだけど……」

 

 そんなわけで私達はここに来た理由と事情説明、そして誤解を解くために話をした。

「――というわけで神格をなんとか出来ると聞いて来たんです」

「……ふんふん。つまりフランちゃんは私の初孫じゃなくてアリスちゃんの友達で、私に神格を解くお願いをしにきたのね?」

「そうよ。それを早合点して……それに魔神だからって入国管理局に無理言って私が来たら家に来るよう伝えておくとか権力行使して私ちょっと怒ってるんだからね!?」

 アリスさんは説教モードだ。それに言葉遣いもいつもと違って崩れているあたり自然体だった。どうやらお母さんが嫌いなわけじゃないらしい。

「だってー……アリスちゃんがアリスちゃんそっくりの女の子が連れて帰ってきたってルイズが言うんだもん。あと神格とかイエス・キリストの加護だって一目見て気付いたけど、私の初孫ならおかしくないし〜」

 ヒューヒューと吹けてない口笛を吹きながら神綺さんがぶーたれる。孫じゃないと知ってちょっと残念そうだ。

 だがやがて神綺さんの顔がちょっと困ったような色に染まる。

「んー……別に解くのは良いんだけどちょっと頼まれてくれない?」

 頼みごと? どういうことだろう、と私が話を聞く体勢を取ると神綺さんは話し始めた。

「さっき私が初孫が出来たって早合点したって言ったでしょ?」

「うん、それがどうしたのよ」

「えっとねー……ちょっと言いづらいんだけど、自慢しちゃったの」

「は?」

「友達の神様にね? 初孫が出来た! って、しかも会わせる約束までしちゃっててどうしよっかなって思ってたんだけど……」

「はぁ!? そんなの間違いでした、で良いじゃない!」

「やんアリスちゃん当たり強いーっ! お母さんなんだからもっと優しくしてよー!」

 アリスさんの鋭いツッコミに神綺さんが腕をブンブン振り回して反抗する。子供か。

 しかしそれも数秒のこと。神綺さんは私の顔をジッと見つめて内緒話をするように手を口に横に合わせて言う。

「でね、物は相談なんだけどフランちゃん。神格を解く代わりに、ちょっと私と一緒に神様(ともだち)に会ってくれない? 私の初孫ってことで、ね? お願いっ!」

「何言ってんのよ!? そんなの問題が解決しないでしょ!! ちゃんとスパッと言いなさいよ!」

「別にそれでも良いんだけどぉー、どうせなら連れて行って誤解させた方が面白いかなって?」

「馬鹿なの!? お母様は馬鹿なの!?」

「だって暇なんだもーん♪ 暇を持て余した神々の遊びって事でさっ! 絶対フランちゃんに悪くならないようにするから!」

 うーん……まぁ私としては別に良いよ? むしろ神格を解いてもらうのに何もしないってのも気持ち的にアレだし。

「決定ね! じゃあそっちは明日行くから、今日のところはフランちゃんの神格と加護チェックをしようかな?」

「チェック?」

 何だろうそれは。

「簡単に言えば神格はどの程度の神様と同等の力を持つか、加護はどんな神様に与えられているのかを調べるのよ。別に魔神の力で全部ぶっ壊しても良いんだけど、それをやるとフランちゃんがボンッ! ってなっちゃうから」

「ボンッ!?」

 擬音だけ聞くと大した事ないけど、多分あれだよね!? 私の存在そのものが消えるよねそれ!?

 というかキュッとしてドカーンよりタチ悪いよそれっ!! と私は戦々恐々とする。

「怖がらせんな!」

「はうっ!? アリスちゃんの槍人形による愛の鞭(ツッコミ)も久々ね」

 私がビクついていると途中、アリスさんが人形で神綺さんが攻撃したけど本人達にはこれが日常なようだ。

 バイオレンスだね、というかアリスさんツッコミキャラだったんだね。

「もー、アリスちゃんってば容赦しないんだから!」

 しばらく槍で攻撃されていたり、人形の糸で縛られたりしていたけどやがて満足したのか神綺さんが脱出してきた。

 それから私へさっき途切れた説明を続け始める。

「ともかくね、チェックするから動かないでね」

「はい!」

「えーと……上から140、69、52かな? 吸血鬼の五〇〇歳くらいと考えると魔神測定だと将来有望ね。ふんふん……よく訓練してあるけどこの頃はすべすべで柔らかくて良いわねぇ」

「いや何を測ってるんだごらぁっっ!!」

「はぅんっ!?」

 私の身体に触れながら神綺さんが言うと、アリスさんが叫んで飛び蹴りをかました。楽しそうに神綺さんが悲鳴を上げる。

 いや本当に何を測ってるのよ。えっ……スリーサイズ!? ちょっと待って! 

「じょ、ジョークよジョーク! イッツ魔神ジョーク!!」

「ジョークの割に数字が生々しいのよ!! ふざけてないで真面目にして、お母様!」

「もー、アリスちゃんったら。昔みたいにママって呼んで良いのに〜」

「うるさい! だからここには来たく無かったのにぃ……!」

 凄いね。こんなアリスさん初めてみたよ。幻想郷じゃ、知り合いも多くてアグレッシブで慎みある女性の代表として知られているのに。

 でもこんな感じの自然なアリスさんも好きだな。

「ともかく真面目にするとね。神格化はかなり進んでいるわ。それこそ今すぐ神様になれるわよ? 二つの神器の所持者で信仰者も居るし。下手すれば神話の神様と対等に渡り合える神様になれるかも。というか既に神話が生まれちゃってるし」

「え?」

「天狗の山に単独真っ正面から侵入し炎剣レーヴァテインで暴れ回った。吸血鬼ながらイエス・キリストやゴータマ・シッダールタに臆する事なく話し合い彼らと友人となった。先の二神と共に大量の不浄を抱えたまま月に押し入った。人々の前でブラギの竪琴を披露し魅了した。神話レベルだとこんなところかしら? とはいえ信仰者が多い理由はそのいずれでもなく……アイドル?」

 妙ねぇ、と神綺さんが言うけど正直殆ど身に覚えないんだけど。

 私、イエス・キリストに会ったこと無いしシッダールタさんにも会ってないよ? 同姓同名のイエスさんとブッダさんは友達だけどさ。

 それに天狗の山……妖怪の山に行った時、確かにレーヴァテインを振り回したけどアレは香霖堂でもらった武器だし……あれ?

 あれあれあれあれあれ?

 あれれー、おかしいぞー?

 その時だった。

 何だろう。思考に靄がかかったような、上手く頭が働かない。明らかな矛盾があるのにそれを矛盾と気付かないような変な感じが私を襲った。

「んー、あぁそういう感じなのね。じゃあ変に気付かせない方が良いかしら?」

 神綺さんは何か納得してるけど……。

「とりあえず疲れてるみたいだしゆっくり寝なさい。夢子、フランちゃんを寝室に運んであげて?」

「はい」

 何だろう。何だか眠いや。

 お言葉に甘えて寝ることにしようと思う。

 じゃあおやすみなさーい……。

 

 

 #####

 

 

「……思考に靄ですか」

「そういえば神様って無意識のフィルターを弄れるんですよね。例えば神様である事を隠して下界に降りる際に周りの人々に混乱をもたらさないために人々の思考が誘導され、目の前の存在が神だと気付かさせないとか。それでしょう」

「……こいしの力のようですね」

「あんなの比べ物にならないでしょ。だって目の前の人物がイエスとかブッダだと名乗って、目の前で奇跡を起こしてもあのフランが全く気付かないフィルターって考えると」

「ありとあらゆるものが破壊出来るフランが気付かない……確かにそう考えるとかなりの力よね」

 

 #####

 

 

 十一月十八日

 

 

 いやー日が経つのは早いね。

 昨日の今日でだけど早速神様のところに私を連れて行くらしい。

「そういえば誰と会うんですか?」

「んー、えっとエリスちゃんと、フレイヤちゃんとイザナミちゃんだね」

「どんな接点ですかそれ……」

 ギリシア神話に北欧神話に日本神話に魔神という豪華ユニットだ。

 というか神綺さんって魔神なんだよね?

「もしかして神綺さんって最上位の悪魔だったり?」

「違うわよー。私はお茶目な神様よ! あっ、でも魔神だからって何でも出来ると思わないでね? オティヌスみたいに世界を丸ごと壊して創ってとかは多分出来ないし、無限にある力を無限に等分しなければ顕現出来ないとかそんなインフレはしてないから」

「いやオティヌスって誰ですか……」

 カルチャーショックってやつかな。いまいち話が噛み合わない。

 ともかく私、これから凄い女神様達と会うんだよね。

 今日の私はアリスさんの子供の頃の服でしっかりおめかしして来たけどちゃんと演技しないとなぁ。神綺さんの孫として。

「というか神綺さんを何て呼べば良いんですか?」

「ばーばでもおばーちゃんでも良いわよ? それだけの年は経ってるし」

「いやいや……こんな若いお姉さんに向かってばーばは無いでしょう。むー……」

「まぁ勢いで何とかなるわ。別にバレちゃっても良いしね」

「それはそうですけどぉー……」

 なんとなく私のプロ意識が納得しない。

 主様(ぬしさま)とか? しっくりこないなぁ。

 そんな風に思案していると神綺さんがこっちを向いて言う。

「ともかく行くわよ。そうね、どうせだしワープしましょうか。世界の方を移動させる準備っと」

「ちょっと待って下さい!! 今不穏なワードが聞こえました! 世界を移動させるってなんですか!?」

「簡単よ? 私達が移動するのは面倒だから、私達以外の全て。この惑星を移動させて私達を目的地の前に着かせるの。ぐるりとね?」

「待って!? もうなんか私の中の常識が壊れた!」

 でも私の悲鳴もなんのその。直後に景色が丸ごと歪んでいった。

 

(次のページ)

 

 

 #####

 

 

 気が付いたら天界に居た。

 大切なことなのでもう一度書こう。

 ()()()()()()()()()()()

「はぁ!?」

「おー、良い反応♪ そうそうこういうのを求めてたの!」

「待って、意味分かんない。天界? what?」

「天界よー、神々が住まう世界ね。実は天界ですっごく美味しいケーキバイキング店があってね! そこで皆で食べる予定だったの」

 楽しそうに告げる神綺さんだけど私は反応出来ない。

 単純にスケールが違い過ぎた。ワープに世界の方を動かせるなんて時点で意味分からないのに、超お気軽に天界なんて場所に来ている。

 うん、頭が追いつかないや。

(しかもそれだけの事やってながらケーキバイキングって意外と庶民的なの神様って!?)

 ともかく会う心の準備だけはしないとね。

 意味分からな過ぎてちょうど子供返りしたいところだったんだ。今ならすごーく子供っぽく演じられる気がする。

「ダイジョウブ……ワタシハヤレル」

「ちょっとフランちゃん? 現実逃避してない?」

 思考停止したのか変なスイッチが入ったのか、私は意味不明な事を言いながら意外と現代的な街並みの天界を歩いて行く。

 

 で、それから十分後。

 ようやく着きました。目的地。

 ケーキバイキング店です!

 

「神綺さん、待ってましたよー」

「そっちの子がお孫さんですか、可愛いですね!」

「こんにちは神綺さん。お孫さんもこんにちは」

「遅れちゃってごめんねー? お待たせ!」

 

 入ると既に三人の女性が着席していた。

 どうやら先に来ていたらしい。多分、雰囲気からだけど上からフレイヤさん、エリスさん、イザナミさんだと思う。

 ともかく私達が席に着くと神綺さんが立ち上がり、私を紹介する。

 

「早速だけど紹介するね! この子が私の孫のフランちゃんよ! すっごくアリスちゃんに似てるでしょー?」

「本当ですね。よく見るとソックリ! 将来は美人さんですねー。あっ、私はエリスと申します」

「えぇ、そうね。初めましてフランちゃん。私はフレイヤよ」

「可愛らしいですね。私は伊邪那美(イザナミ)です」

「わ、私はフランです。よろしくお願いしますっ!」

 

 そんな具合に挨拶するとイザナミさんがへぇ、と頷く。

 

「神綺さん、お孫さん凄いですね。これだけの神格をお持ちとは……それに吸血鬼にも関わらずイエス・キリストやゴータマ・シッダールタとも交流を持つとは」

「でしょでしょー? 流石アリスちゃんの子よね!」

「いや、本当に凄いですよ? 将来が有望ですね」

「本当に、流石シンシンのお孫さんね」

 

 上からイザナミさん、エリスさん、フレイヤさんの言葉だ。

 というか随分とフランクだよね。

 それぞれ私の頭を撫でたりして楽しそうにしているけど。

 

「ともかく折角のバイキングだし食べましょうか。あ、私ショートケーキ!」

「じゃあ私はモンブランで」

「そうですねー私はチョコレートケーキかなぁ」

「私は抹茶ケーキとやらにしてみましょうか。フランちゃんはどうしますか?」

「あ、じゃあ私はチーズケーキにします」

 

 それから神綺さんの提案で早速それぞれケーキを取って食べ始める。天界のチーズケーキは美味しかった。

 口の中で感じる甘い味を噛みしめるたび、美味しい。流石神様の世界。まだ私には作れないお菓子のレベルだね。

 材料はなんとなく分かるけど。

 

「あ、そうだ。ここで会ったのもなんかの縁だし私達三人からも加護をあげません?」

「良い考えですね」

「フレちゃん良い考えね。分かったわ」

「あっ、ずるい! 私もあげる!」

 

 ともかくそんな事を考えているとどうやら何か知らないうちに私に加護をくれる方向で話が進んだらしい。というか神綺さん、張り合わないでよ……。

 で、そんなわけで貰いました。加護。

 それから、

 

「大事にしてね?」

「何かあったら呼んでくださいね?」

「もしまた機会があれば会いましょう」

 

 ケーキバイキングも無事に終了!

 なんとかバレずに終わりました! ッハー、疲れたぁ。

 と、私個人は思ってたんだけど。

 でも帰り道で神綺さんに聞いてみると、「絶対バレてたねー」と笑ってた。

 

「流石に私の加護が無いのは致命的だったなー。まぁ加護はあって困るもんじゃないし、神格を抑える方面で行くわね?」

 

 で、約束の神格の件だけど。

 どうやら神格を抑える方法があるらしい。

 

「はい、これ」

 

 それでなんか渡されました。

 これは護符かな? 見たことのない文様の描かれた護符。

 

「これは私の作ったものなんだけど、まぁ端的に言うと力を封じる護符ね。これだけ持っておけば神格は防げるわ。これはフランちゃんの身体の中に入れておくから。もし神様の力が使いたい時は、念じれば使えるからね?」

 

 なにその便利アイテム!?

 ともかくそれを身体の中に入れてもらった。

 同時に私の身体から神力が消失する。と、同時に言いようのない倦怠感が身体を襲った。

 神綺さん曰く、

 

「身体から一気に力が抜けてるから錯覚してるだけよ。まぁ大事をとって明日まで私の家に居なさい?」

 

 とのこと。

 お言葉に甘えさせてもらいます!

 というわけで今日はここまで、眠いし寝よう。

 おやすみなさーい。

 

 

 #####

 

 

「……女神の加護」

「なんというか意外に女子高生みたいですね、女神様」

「……ともかくこれで神格は何とかなったんですね」

「なのになんでかしら、全く弱くなった気がしないどころかただ封印ついただけで私より強いのに変わらないこの感じ……」

 

 吐き出すようにレミリアは言った。

 が、誰も返事を返さないのでやがてレミリアも黙り込んで次のページをめくる――――。

 

 

 

 

 

 

 



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十一月編10『フランちゃんは怠いそうです』



50件近い誤字報告をして下さった方が居ました。
(どんだけ誤字ってんだ俺……)
本当にありがとうございます。




 

 

 

 

 十一月一九日

 

 

 帰った、それだけ。

 

 

 

 #####

 

 

「短っ!?」

「昨日までのやる気はどこに行ったのよッ!? 一日あたり四〇〇〇文字近く書いてたのにッ!!?」

「……こ、これは……」

「なんと反応すれば……いいんですかね?」

「と、ともかく次のページをめくりましょ? 何かフランが書けなかった理由が書いてあるかもしれないし」

「そ、そうしましょうか!」

 

 頷いて早苗が次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 

 十一月二〇日

 

 う—……怠い。

 あぁそうそう事の顛末を書かないとね。

 神綺さんのお宅に泊まっての療養は本当にただのお休みだった。

 ご飯を作ってもらって、神綺さんに可愛がられて、アリスさんと裁縫したなぁ。

 あっそうそう、夢子さんに私のメイド技術を見せてみたら普通に真面目な笑顔で『うちに来ませんか?』という言葉をもらえたよ。

 まぁそれはともかく。

「じゃあ元気でね。またいつでも来てちょうだい!」

「はい、ありがとうございました!」

 一泊してまだその頃は元気もあって、お世話になりましたっ! ってアリスさんと一緒に元の世界まで送り届けてもらったんだけど、紅魔館に帰ってから妙に怠いんだよね。

 神様の力だっけ? あぁ神格だ。アレが抜けてからやたら疲れてる。なんでだろうか……何もしてないのに体力がゴリゴリ削れていくんだ。

 そのせいで修行も満足に出来ないんだよね。

 もしかして魔界の瘴気にやられたのかな? でも体は健康そのもので体力だけが妙に削れてるんだよね。

 となると呪いの(たぐい)? 恨みを買った覚えは無いけど……、念の為調べてみようかな。

 ちょっと明日、永遠亭に行ってくる。

 

 

 #####

 

 

「……魔界から帰って来たと思ったら今度は呪いですか」

「あぁ、これは覚えているわ。フランがベッドから起き上がらないまま『……ダル』って衝撃発言をしたものだから皆ビックリしちゃって……」

「普段から勤勉な人はちょっとサボるとすぐ周りに心配されるからねぇ。やれ体調が、やれ疲れがって。まぁ今回は本当に何か掛けられているみたいだけど……」

「いや……何となくその原因が想像ついたんですけど」

「え? 早苗、アンタ何か知ってるの?」

「知ってるというか……まぁ次のページをみましょうか。多分それでご理解頂けるかと」

「?」

 

 疑問符を浮かべる霊夢だが、言われた通り次のページをめくった。

 

 #####

 

 

 十一月二十一日

 

 

 永遠亭に行った。

 で、診断結果出ました。

「身体から大量の力を吸い取られている……ですか」

「それも自分で発動した術みたいよ? 心当たり無い?」

「……最近使った術でそんなのあったかなぁ?」

 永琳さん曰く、私の体から絶えずエネルギーが吸い取られているらしい。それもかなりの力を。

 勿論私には心当たりないよ。そんな術なんて使ってないし。

 それでとりあえずお薬はもらいました。

「じゃあこれが薬ね」

「何ですかこのきのみ?」

「ボッコの実よ。体内のエネルギーを回復出来るわ。齧ってみなさい」

 言われるままに齧ってみる。

 一口かじって呑み込むと……、

「!?」

「その顔は効いたみたいね」

 ジュウッと体全体に一瞬で薬が沁みた。

 熱い。一瞬にして体温が跳ね上がる。代わりに体内に魔力や霊力といったエネルギーが戻って来た気がした。

「ともかくしばらく安静にすることね。私もそうなった原因を探ってみるわ」

「おっ……お願いします」

 未だ体内で起こる爆発的現象に戸惑いながら頭を下げて私はワープで帰った。

 で、

「やっはろーです、フランちゃん」

 帰ってみると早苗さんがいた。

 どうやら数学の授業で来てくれたらしい。けどごめんなさい。ちょっとやる気が出ないの。ダル……。

 すると早苗さんは私をみて首を傾げる。

「神格が消えてますね……それと怠いって、なんで怠いなら式神を出してるんです?」

「えっ?」

 式神が、なんだって?

「だから式神ですよ式神。普通に出しても疲れるのに、見る感じ相当強い式神出してますよね? ……様子から考えると神格があってパワーバリバリの時期に本気で籠めた感じの超エネルギー食うやつ」

「まっ、待ってください。式神って常にエネルギーを使わないと維持出来ないんですか?」

「いやそういうわけじゃありませんよ? 最初にある程度の力を込めて、そのあとは最初のエネルギーでやりくりさせる事も出来ます。なのに相当力を送り続けていたみたいですし、どうしたんですか?」

「…………、」

 ここで判明した衝撃の事実っ!!

 つまりこの倦怠感は全て私が神様パワー持ってた頃、力が有り余ってた頃に殆どの力を注ぎ込んで生み出したリアラさんが原因だった!!

 つまるところ解決法は一つだった。

「あの、早苗さん。お願いがあります」

「なんですか?」

「式神が消えない程度に送る力を抑えるとか出来ます?」

「出来ますけど……」

「そのやり方を教えて下さいっ!」

「は、はぁ、構いませんよ?」

 で、覚えました。

 それでやったら滅茶苦茶体が楽になりました。リアラさんには念話で事情を説明したからこれで完璧だよね。

 ……歩き回ることさえ辛かったから本当に良かった、切実に!

 

 

 #####

 

 

「というわけです」

「把握」

「納得したわ」

「……というか式神、そんなフラグになってたんですね」

「フラグ!? いや元々そんな術ってだけですから!!」

「ともかく次行くわよ、次」

 

 レミリアの声で一同は次のページは移る。

 

 #####

 

 

 十一月二十二日

 

 

 復活!

 フランちゃん完全復活!

 体も完全回復だよ! ちょー元気! というわけで今日からまた香霖堂に行って商品開発だ! と思ったんだけど。

 

「駄目です」

「なんでよ咲夜!」

「もう七日も寺子屋に行ってませんから行って下さい」

「……ハイ」

 

 そんなわけで寺子屋だ。

 久々の慧音先生が鞭撻を握る。

「今日は外の世界の歴史について勉強しよう。関ヶ原の戦い以後徳川家康がその支配を強め、幕府を開いた話まではしたな。今回はそのさらに先。日本の鎖国と、キリスト教の禁教についてを話そう」

 禁教ねぇ。宗門改とかあの辺りかな。踏み絵をさせてキリシタンか判断するやつとかを思い出す。吸血鬼としてはお父様が「良いぞもっとやれ!」とか歓喜してたっけ。

 鎖国といえば皆は何が浮かぶかなぁ。

 

「天草四郎時貞を首領とした大きな反乱が起こり、隠れキリシタン達が集結した、それが――――」

 

「…………フッ」

 とか考えているとふと隣の席の男の子がガサゴソとキシリトールガムをこっそり取り出しているのが見えた。

「何やってるの?」

 小声で尋ねると隣の席の男子は無言でキシリトールガムを開けて食べ始めると一言。

「これが本当の隠れキリシタン……!」

 思わず笑いそうになって悶えたのは内緒。

 

 

 次に印象に残ったことが起きたのは一時間後かな?

 今度は副担任の先生の授業中の事だ。

 まず手始めに世界史の問題なんだけど「アメリカを発見したのは誰?」って問題を居眠りしていた子にあえて指名して起こしたのよ。

 その子が言った言葉。

「え……? お、俺じゃないって!」

 笑った。

 

 お次は同じ授業時間内のこと。

 外の世界で言う所の小学生から中学生の境目の頃の女の子ってよくメイクとかに興味持つ子がいるでしょ? 寺子屋に来てる子の中にもメイク好きな子が居て、で今日のメイクがあまりにも派手だったので流石に副担任の先生も気になったらしい。

 女の子の側によるとこう言った。

 

「……そのメイクはなんだ?」

「……何か問題が?」

 

 明らかに険悪な雰囲気。普段、副担任の先生のこんな姿を見ないからクラス内にも緊張がはしる。

 すると副担任の先生はおもむろにこんな話を始めた。

 

「そうだな、先生の過去の話をしようか。先生が寺子屋通いの頃な、三年間ずっとメイクしてた子が居たんだよ。その子どうなったと思う?」

 

「…………、」

 

 真剣な声色に女の子は思わず黙り込む。

 その様子を見て小さく笑うと先生は続けてこう言った。

 

「超メイク上手くなってた」

 

 いや怒らないんかい!! 当たり前過ぎて逆にクラスの皆笑ってたよ!! やっぱりいつも通りだった先生でした。

 

 

 あと最後に今日印象に残ったのは理科の先生かな。

 今日は星座の授業をしたんだけどその最中にこんな事を言ってた。

 

「実は痛みと星座は関わりがありまして、人は痛い時星座の名前を言うんですよ」

 

 例えば、と先生は魚座のA君を目の前に立たせる。

 それから軽く小突いた。

 

「うおっ!」

 

「はい、この通り痛みを感じた時反射的にうおって言いますよね。他にもありますよ?」

 

 立たされたA君は顔真っ赤だったけど先生は構わず次の生徒を呼ぶ。今度はいて座のB君だ。

 同じように目の前に立たせると理科の先生はB君の額目掛けて勢いよくデコピンした。

 

「痛てっ!」

 

「はいこの通り痛い時にいてっ、といて座を言うんですねー」

 

 じゃあ次で最後にしましょうか。と、先生は腕っ節の強いC君を呼ぶと自分を軽く殴るよう指示した。

 C君は先生を殴ることに躊躇いがあったみたいだけど、「はよ」という先生の言葉にしぶしぶ頷いて腕を振るう!

 

「みずがめっ!?」

 

 いや、それは無理があるよ先生。

 ただクラスで笑いは取れてた。というか大爆笑だった。

 

 #####

 

 

「小学校や中学校であるあるですよね。なんかフランちゃんのこういう子供っぽいところ久々な気がします」

「しばらく商品開発したり魔界行ったりだものね。そりゃあ周りの空気が違うわよ」

「……楽しそうで良いと思いますけどね」

「そうねぇ。私は小さい頃寺子屋通ってないしちょっと羨ましいわ」

 

 上から早苗、レミリア、さとり、霊夢の言葉だ。

 最後の霊夢の発言に少しだけ哀愁が漂っていたが、誰もそれを口にすることなくそっと次のページを開く――――。

 

 

 

 

 



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十一月編11『久! 商品開発!』

 

 

 

 十一月二十三日

 

 

 ようやく香霖堂でお仕事に復帰しました。

 どうもフランちゃんです。……と書いても咲夜しか読まないんだけどね。

 あ、そうそう。咲夜といえば最近私気になってることがあるんだよ。

 咲夜っていつも私の日記の添削してくれるでしょ?

 でも不思議なことに、魔界に行ってる時とか幻想郷を旅行してる時、果ては外の世界で過ごしていた時でさえ添削してあったのはなんでだろう?

 ちょっと怖いんだけど。何このホラー。

 怖くて今まで日記に書けてなかったけど、外の世界で日記を書いて寝た後咲夜の添削がしてあった時は思わず悲鳴上げたからね? 

 正直、最近はもしかしたら私に発信機でも付けられてるのかとちょっと怖くて……咲夜、良かったらどうやって私の日記に添削してるのか教えてくれない?

 

 咲夜

『メイドの秘密事項です☆』

 

 

 #####

 

 読んだ四人は黙り込んでいた。

 

「…………、」

「幻想郷や魔界はともかく外の世界でも……ですか?」

「……何それ怖っ」

「……さ、咲夜! これどういうこと!?」

 

 怖くなったのか思わずレミリアが咲夜の名を呼ぶが、

 

「…………、」

「…………、」

「…………、」

「…………、」

 

 ――――出てこない。今回に限って出てこない。

 四人は今度こそ完全に黙り込み、やがて霊夢がポツリと呟く。

 

「……レミリア、それは今度咲夜に聞いといて」

「そ、そうですよね! 私達みたいな部外者が聞く話じゃなさそうですし!」

「……すみませんがホラーは嫌いですから。レミリアさん、頑張って下さいね?」

「味方が居ない!? ちょっと待ちなさいよ!! わ、私も普通に怖いから! 実は私も前々から咲夜って私達への愛が大き過ぎて軽くサイコパス入ってるかもって考えた事もあったし! わ、私を一人にするなーっ!!」

 

 大きく身振り手振りしてレミリアが叫ぶがここで真顔の霊夢が差し込むように呟いた。

 

「その後レミリアを見たものは居ない」

「やめてくれない!? それこそ完全なホラーというかフラグだからッッ!!」

 

 その様子を見て早苗はこう思う。

 

(……うわぁ)

 

 目尻に涙が溜まっていたので割と本気で怖いんでしょうね、と。

 

 

 #####

 

 

 十一月二十四日

 

 

 駄菓子屋でこんな光景を見た。

 私はじゃんけんグミを買いに来たんだけど、その時一〇歳くらいの男の子がコソッとポケットの中にうまい棒を入れて店の外に出てたんだよね。

 万引きってやつ。いけないことだ。

 すると店内に居たお客さんの二十歳くらいのお兄さんも気付いたのか、わざわざ外に出てその男の子に声をかけた。

「さっき盗んだモン、俺が謝って返してやるからもうやるな」

 って。

 男の子はしばらくお兄さんを見て唇を噛み締めてたんだけど、段々涙を溢れ出しながら「ごめんなさい」って謝ってお兄さんにうまい棒を渡したのよ。

 お兄さんはその様子を見て少し口元を緩めてからこう言ってた。

 

「これは親切心から言うが、ちょっとした出来心でも男なら間違った事はしちゃいけねぇよ。今のだって本当は万引きっていう犯罪だ。人のものを奪うって事だからな。お前も友達に自分のおもちゃを取られて返してもらえなかったら嫌だろう?」

「……ひっく、うん……」

「だからもうこんな事するなよ。お前も男なら真面目に生きろ。その方が断然かっこいいからな」

 

 それから「じゃあな」、とお兄さんが去ろうとすると男の子がお兄さんの袖口を掴んで引き止め、真っ直ぐ見つめるとこう口にしたんだ。

 

「ぼく……もう絶対しない。男だから」

「そっか。絶対守れよ」

「……うんっ!」

 

 それだけ言い残して男の子は駆けていった。

 その様子を見て私、お兄さん良い人だなぁ、人ってあったかいなぁって思ったなぁ。

 お兄さんも男の子がそう言った事が嬉しかったのかうまい棒を齧りながら上機嫌で帰っていった。

 

 うまい棒を齧りながら帰っていった。

 

「…………、」

 

 前言撤回、やっぱり人間は無条件にあったかくないようです。

 

 

 #####

 

 

「最低だっ!?」

「というか最後で全部台無しよ!」

「男なら真面目に生きろと言った本人が食べてどうするんですかっ!!?」

「……息ピッタリですね、三人とも」

 

 上からレミリア、霊夢、早苗、さとりの発言である。

 

 

 #####

 

 

 十一月二十五日

 

 

 日本史教師「はいっ最近ちょっと進みが遅れてしまったからね! 今日は室町幕府45分で滅亡させますー!」

 

 日本史の先生に言われた衝撃的な言葉。

 

 ……ちょっと今日は眠いしこれだけにしとこう。

 

 #####

 

 

「もう、幕府ってレベルじゃねーぞ、オイ!!」

「……なんですか早苗さん、急に叫んで」

「こほん、失礼しました。私の中の衝動的なリビドーが発生しただけです。ともかく、もう完全に昼夜逆転してますね。吸血鬼が夜眠いって」

「それは同意ね。でも人間にもあるでしょ? 昼にふと眠くなること」

「あー、あんな感覚なの?」

「多分そうよ」

「多分なんですか!?」

 

 #####

 

 

 十一月二六日

 

 

 今日は久々の商品開発。

 折角なのでレミィたんも連れて香霖堂で行う事になった。

 面子としては私、森近さん、リアラさん、レミィたんの四人ね。

 

「始めまして、レミィたんよ」

「あらあら初めまして。フランの式神のリアラです。よろしくねレミィちゃん」

「僕は森近霖之助だよ。まぁよろしく頼む」

 

 そんな感じの自己紹介から今回の会議は始まった。

 

「さて、早速だけどこれを見てくれないかな?」

 

 開幕、そう言って腕輪のような魔法道具(マジックアイテム)とデスクトップ上のエクセルの試算を見せてきたのは森近さんだ。

 どうやら魔法道具は誰でも弾幕ごっこが出来るようになる道具の試作品らしく、エクセルの試算は開発費用のようだ。

 

「まずはこの魔法道具について説明しようか。最初は杖型デバイスの予定だったけどあのままだと外に出る時、手に持たなくてはならないからそれを解決する為に腕輪にしてみたんだ。早速嵌めて、軽く魔力を込めてくれないかな?」

 

 言われるままにレリーフの彫られた腕輪に手首を通して軽く魔力を通す。すると腕輪が小さく光ると、目の前に杖が出現した。

 

「腕輪に魔力や霊力を通す事で起動し、杖になる。腕輪状態の事を僕は『待機モード』と呼んでいるけど、つまりフォームチェンジ可能にする事を思い付いたんだ。これによりかさばらない魔道具が出来た。あぁ、コストも余り掛からないから安心してくれ」

 

 それに後からアクセサリー型を作って売ればまた売れそうだから色々売り方に幅が出来ると、森近さんは言った。

 

「ともかくこれを売る上で一番の問題は魔法回路の組み方の効率化とデザインだと僕は考えたんだ。安全性は解決の目処が付いたから、これから僕らが気にしなきゃならないのは使う人の使用感、つまりデザインとこの複雑な魔法回路を如何に魔力消費を抑えて内部に埋め込んでいくか、つまり大量生産に向けた対策だ」

 

 私の腕にはめた腕輪を外して彼は言う。

 

「ここまで良いかな? 何か意見があるなら言って欲しいけど」

「いや、良いと思いますよ? 待機モードは盲点でした。確かに杖だと出かけるときにかさばりますからね……」

「だろう?」

 

 流石経営者だよね。

 やっぱり商売となると森近さんも凄いんだなぁ、と思っていると待機モードの発想の出所はどうもリアラさんらしい。

「ふふ、力になれてたら嬉しいわぁ」

 ぽわぽわした笑顔でリアラさんがそう言ってた。

 

「……驚いた。思いの外、真面目に商品開発してたのね」

 

 レミィたんも舌を巻いたみたい。

 私も正直驚いた。

 ともかくこの方向性で完成目指して頑張ろう!

 

 

 #####

 

 

「だいぶ形になってきましたね」

「……完成まであとちょっとですかね?」

「幻想郷に弾幕ごっこブームを巻き起こす超兵器……か」

「まぁ言っても実力者とやりあえる人は限られるけどね」

 

 四人はそんな事を駄弁りながら次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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十一月編END『霧雨のしがらみ』

 

 

 

 十一月二十七日

 

 フラン()が香霖堂店主の森近霖之助さんに呼び出されたのは、今日の午後一時のことだった。

 外はちょうど数日前から急に冷え込みだし、冷たい雨がそぼ降る灰雲に覆われた薄暗い様相である。

 雨は苦手だ。吸血鬼にとって雨は弱点となりうる。また私にはアイドル活動で服が透けるという苦い思い出があった。

 でも。

「…………、」

 白いワンピースの上から黄色いレインコートに身を包み、下はチノショーパンにレインシューズを羽織った私はザアザアと降る雨の音を聞いてそっと息を呑んだ。

 手に持つ傘の上を跳ねる雨音。木に降り落ちる雨粒。道を歩きながら私は吸血鬼特有の優れた聴覚で聞き取り、この忌々しい雨でも唯一嫌いではない点を思う。

 ――――でも雨音は嫌いじゃない。

 雨音が跳ねる。それだけで心が揺れ動く。さながら自然が奏でる音楽と言っても良い。雨なんて意識して聞く者は居ないが、案外聞いてみると聞き入ったりするものだ。

 私はこの雨音は嫌いじゃなかった。雨の日に散歩することがあれば大抵雨音を聞く為と言ってもいい。

(――――♪)

 今回もそうだ。香霖堂に呼び出されたついでにこうして雨の中を歩いていく。急ぎなら空を飛ぶが今日はそこまで急ぎではあるまい。だからこそこの十五、二十分の散歩を楽しんでいるのだ。ひとしきり満足すればあとは転移(ワープ)でも良いのだから歩く速度は気の向くままである。

 そしてその通り満足した私は香霖堂への転移(ワープ)を試みた。

 頭の中で目的地を意識し、魔法を行使する。それからゆっくり目を開ければ目的地は目の前だ。

「……到着っ!」

 僅か前までは店の前や周りにまで森近さんが拾ってきたガラクタが溢れていた香霖堂だが、最近ではリアラさんがいる為か綺麗なものである。店の見た目も綺麗にペンキで塗り直され、僅かにあったヒビなども全て修繕しており、見た目新店のようだ。

 その扉を叩くと中から扉が開き、森近さんが私を迎えてくれる。

「やぁフラン、待ってたよ。つい先日で商品の方向性が決まったからね。ついてはこれからこの商品をどう売り込むかを話したいと思って君を呼んだんだ。僕としてもマーケティングは重要だと考えているからね」

「売り込みですか?」

 聞き返すと森近さんはうんと頷いた。

 誰でも弾幕ごっこが出来るアイテム。商品名『デバイス』。先日の話し合いで商品の大まかな形が完成し次は大量生産とデザインが問題だと言っていたのに。

 思いがけない話に私は顔を上げた。単に失念していたというのもあるが、これまで商売などしたことの無い私には売り込みはとんと縁の無い話だったからだ。

「まぁともかく入ってくれ。座って話そう」

 森近さんの言うままに雑多な商品の置かれる香霖堂内の会議室(和室)に入るとそこにはリアラさんが座って待っていた。次に視界に部屋の中央に置かれた急須とミカン、それから湯呑みが三つ映る。どうやら私待ちで話し合いの準備は出来ていたらしい。

 軽く挨拶を済ませると早速リアラさんが議題を挙げた。

「今回の議題はマーケティングです。これまで私達は誰でも弾幕ごっこが出来るというコンセプトでデバイスの開発を進めて来ましたが、まずそれを販売する上でどのように人々に周知するか、それを考えましょうか」

「人里の規模を考えれば草の根販売でも構わないとは思うが、ただ僕の店に置くだけでは売れないのは明白だからね。立地が悪過ぎる。出来れば人里内に新店舗を設けられれば良いんだけど、それは不可能。だからこそ商品は委託することになるけど、どこと提携を結ぶかも問題になってくる。生半可な店に置いても所詮僕らの商品は画期的であれど、眉唾物の商品に違いないからね。だから里人にこの商品は本当に誰でも弾幕ごっこが楽しめるようになると周知させなければならない」

 それに値段的にもそこそこするから、本物か疑いのある商品なんて誰も手に取らないからと彼は述べる。

 成る程、つまりあれか。私は思ったことをそのまま口にした。

「この商品への信憑性を与えるマーケティングが必要、と」

「その通りさ」

 森近さんは頷くと淡々と続ける。

「そのことで今回のプロジェクトに――いや、端的に言ってしまえば君の意見が聞きたくてね。何か建設的な提案はあるかい?」

「いきなり言われても。正直私には実際里人に使わせる――デモンストレーションするくらいしかアイデアはありませんけど」

「君もおおよそ同じ考えか……ふむ」

 どうやら森近さん達も同じ案を出していたらしい。まぁそれが一番手っ取り早く分かりやすいのは私も同じ考えだ。

 しかし腕を組んで森近さんは唸る。

「……デモンストレーション以外で何か無いかい?」

「実地説明以外で?」

 聞き捨てならぬ話である。

「条件を付けるのはなんでですか」

「今回の商品。デバイスだが、真っ先に委託先として考えたのは霧雨商店なんだ。人里で最も権威があり、あそこの家に若かりし頃僕は世話になった商店だからね。でもあの店は魔法商品を取り扱わないんだ。それに家出して魔法使いを名乗ってる魔理沙の件もあるからね。デモンストレーションするには霧雨の親父さんを含めた人里の有力者からの許可を得なければいけないんだけど、それが貰えるか微妙なラインで……それに僕自身あの家には恩があるから、恩を仇で返す真似はしたくないんだ」

 許可を得なければならない話は初耳だった。それ以外は商人としては致命的な優しさだと思うがそれも森近さんの美点だろう。

「それで私達も話が詰まってたのよ」

「そうですか。でも森近さん、霧雨商店に話をしてみるだけしてみたらどうですか? あちらも商売人なら今回発売するデバイスはかつてない利があると判断する筈です! それぐらい自信ありますよ?」

「利益の話じゃないんだ。魔理沙が家出した時はそれはそれは壮絶な喧嘩があってね。親父さんからすれば娘をあんなに捻じ曲げた魔法なんて反吐が出るわ、って思ってるハズさ……まぁ可能性は無いわけではないと思うけどね」

「どういうことですか」

「魔理沙の八卦炉があるだろう。実はアレを魔理沙に渡すよう依頼してきたのは魔理沙の親父さんなんだ。内容としては、親父さんが僕にお金を払って依頼した形だけどね……内緒で渡してくれと言われて驚いたものさ。でもその時完成した八卦炉を何とも言えない顔で見ていたから」

「言いづらい、ですか」

 多分あまり触れたくないのだろう。でもどっちにせよ売るならデモンストレーションしようがしまいがその考えは意味無いのでは、と私は思う。

 そして、それよりなら否定される覚悟で話を付けるべきとも。

(人の過去に足を踏み入れるのは好きじゃないけど)

 それでも今回の商品は売れる価値ある品だ。私情で埋もれさせるのは容認出来ない。

 それに――――人々に知ってもらいたいのだ。

 空を飛ぶ爽快感を、弾幕を撃ち合う白熱を、瞬間の駆け引きを。

 そして――――私達の夢を()せたい。

 その考えは妖怪としては問題あるものだろうけれど、別に妖怪と人間との力関係が逆転するような商品ではない。あくまで弾幕ごっこという娯楽を皆が楽しめるようにするものだ。

 だからこそ里で一番の商店である霧雨商店に販売委託すれば間違いなくデバイスへの信用が生まれる。デモンストレーションが出来れば人々にこの商品の素晴らしさが伝わる。

 ここは引けない場面だ。私はそう思ったのだ。

「……森近さん、やっぱり霧雨商店に話を付けて」

 それからそっくりそのまま先程考えた利点を述べる。

「霧雨商店がデバイスを販売すれば信用が生まれる! 霧雨商店の力を借りれば間違いなくこの商品は売れる! 森近さんも信じてるんでしょっ!? デバイスが売れるって!」

「しかし……」

「だいじょうぶ。だって霧雨の家は人里で一番の商店だもん。私達よりもよっぽど商売人してるんだから! だからこそ絶対に分かる筈なの、この商品の価値が!」

 渋る森近さんに私は最後の手札を切る。

「それに……それにね。もし魔理沙のお父さんが魔法の道具を売るようになれば――――魔理沙が親父さんと仲直り出来るチャンスが出来るよ。人の親なら誰だって自分の子供は心配な筈だよ。だって森近さん言ってたもん。魔理沙の八卦炉は魔理沙のお父さんがプレゼントするように言ってきたって。森近さんは霧雨の家に恩があるんでしょ!? だったら、最愛の娘さんと仲直り出来るチャンスを与えるのが一番の恩返しじゃないのっ!?」

「…………ッ」

 感情的になって言い切ると森近さんの表情が変わった。

 森近さんの目の中でどっちが良いか推し量るような天秤が動いている。

 そして私はその揺れ動く天秤を傾ける最後の分銅を載せた。

 

()()()()()

 

 森近さんを名前で呼ぶと彼は目を見開いて私を見る。

 それは答えを求める催促だった。もう一度名前を呼ぶと霖之助さんは腹積もりを決める為、一度目を閉じる。

「………………、」

 その間誰も口を動かさない。時間にして数秒の空白。

 その間しとしと降る雨の音だけが耳に付いた。

 暗渠(あんきょ)の心に何を考えているのか私には分からない。ここまで(けしか)けておいて尚、私の心には僅かな緊張があった。

 しかし。やがて彼は目を開いて私達を見つめるとゆっくり告げる。

 

「――――分かったよ、僕の持てる全力で話を付けよう」

 

 揺れ動いていた天秤が傾き、静止した。

 

 

 #####

 

 

「魔理沙さんとお父さんの関係……かぁ」

「……マーケティングは重要ですが人との関係もまた重要。相手を考える余り森近さんは悩んでいたんでしょうね」

「フランも良い説得をするじゃない。流石私の妹ね、紅魔の生まれついての帝王学がしっかりと身に付いている」

「いやアンタの書いた帝王学は書店でも不評浴びてるじゃない」

「所詮、有象無象の凡人どもに私の至高なる考えが理解出来るわけないってだけよ。人間の中でも智の英雄と呼ばれる人種が読めば孔子の教えなんて比較にならないと思うはずだわ」

 

 グッと拳を握り締め、張れる程ない薄い胸を張って力説するレミリアを見て早苗は思う。

 

(……どこから湧いてくるんだろう、この自信)

 

 

 #####

 

 

 十一月二十八日

 

 

 早速霖之助さんが話を付けたらしい。

 概要は知らないけど上手くいったそうだ。

 一度怒らせてしまったらしいけどそれでも食い下がって説明を続けて、ようやく森近さんの真剣な思いを理解してくれたらしい。

 最後には「ありがとう」とまで言われたそうだ。

 そして「やるからには必ず成功させるぞ!」とも。

 森近さんもより一層気合が入ったみたい!

 沢山の人の思いが掛かってるデバイスプロジェクト、絶対成功させないとね!!

 

 #####

 

 

「おー!」

「霖之助さんもやるわね」

「……良い話ですね」

「これだけの思いが掛かっていたからこそ成功したのね」

 

 それぞれ一言ずつ思いを語り四人は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十一月二十九日

 

 

 商品の販売開始日についてのお話をした。

 デバイスが腕輪型なのでその材料や大量生産の目処、その検討をしてようやくだ。

 とはいってもかなりのハイペースだけどね。

 会議も意見が飛び交うもので、かなり有意義なものになっている。

 中には私が想像もしなかった良いアイデアもあってアッと驚く為五郎した。あっ、アッと驚く為五郎っていうのは1960年代に流行った驚く時の言葉らしい。

 会議してる時に若者を真似ようとしてるおじさんがいて変な言葉使ってた。

「これはナウでヤングな言葉なんだ」って。

 絶対古い気がするけどまぁいいや。

 ともかく会議はとても実りのあるものだし皆一生懸命に商品開発をしている。

 きっとデバイスは良いものになる。そんな予感がした。

 

 

 #####

 

 

「随分古い言葉が出てきたわね」

「そこはツッコミ入れるところじゃないでしょ霊夢さん」

「……ともかく全員が一つの商品に全力で取り組むって良いですよね。私もコミケの時はサークル全員で必死に入稿まで済ませようと頑張るのでよく分かります」

「いや……その例えはどうなのかしら?」

 

 #####

 

 

 十一月三十日

 

 

 十一月最後の日だ。

 と、そんなことより商品の発売日が決定した。

 十二月十日。

 吸血鬼としては語りづらいけど人間にとって十二月後半のクリスマスからの時期は年末商戦といって財布の紐が緩みやすくなる時期だ。つまり少々高いものでも販売するには絶好のタイミングとも言える。

 そしてデモンストレーションが十二月五日に人里で行われることに決定した。商品発表には霖之助さんと霧雨商店当主、つまり魔理沙のお父さんが商品説明を行う。また私は司会進行と客引き目的のアイドルとしての参加をお願いされた。

 ……でもアイドルとして参加するからにはプロデューサーの魔理沙の許可が必要になる。

 近いうちに必ず魔理沙にお話しして許可をもらう必要が出てきた。

 でも霖之助さんだって頑張って霧雨商店との合意を手に入れてきたんだ!

 私だってやってやる! デモンストレーションまでに必ず魔理沙の許可を得るんだ!

 よーし、頑張るぞーっっ!!

 

 

 #####

 

 

「霧雨の親父さんの次は魔理沙の許可か……」

「フランちゃんならやれますよ! でも私、ちょっとハラハラしてきました!」

「……親父さんは八卦炉の件から分かるように家出しても魔理沙さんの事を心配していたようですが魔理沙さんはどうなんでしようか……?」

「……わからないわね。読み進めましょう」

 

 幾つか懸念もあるが読まなければ話は進まない。

 四人はそのまま次のページをめくるのだった。

 

 

 

 



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十二月編
十二月編1『さあ挑め、魔理沙のしがらみへ』


 


 日記一日分を書くのに一話。
 ……うん、問題無いな(白目)


 


 

 

 

 

 

 

 十二月一日

 

 

 幻想郷に初雪が降った。

 例年より少し遅いらしい。

 と、それよりもだよ! 新商品デバイスの発表会まであと四日しかない! その場に私はアイドルとして出るために魔理沙からの許可を得る必要があるわけだ。

 ついでに魔理沙と霧雨商店の仲直りのお手伝いも出来れば尚良し。

 でもそこに一つ問題があってさ。

 何が問題かっていうとほら、私って魔理沙と霧雨商店の事情を何も知らないのよ。なんで家を飛び出したのか、両者にどんな確執があるのか。

 だからこそまず交渉の席に着くためにそこらへんの理解が必要だと思うんだよ。というわけでその準備をすることにしました。

 で、それに当たってレミィたんに協力を要請したんだけど……。

 

「――ってわけなんだけど……」

「成る程、ジョーカー・ゲームね」

「ジョーカー・ゲームってなに!?」

 

 若干電波の入ってるらしいレミィたんは何を勘違いしたのか、何処にでも居そうな村娘のコスチュームに身を包み人混みに紛れるようにしてそう言った。全く目立たない、お姉さまの姿にも関わらず村人Aに見える程自然な様子である。

 でも、うん多分何か根本的に間違えてると思う。

 私が首をかしげると、

 

「じゃあ忍者? アイエエエエ!」

「ごめん、ちょっと意味分かんない」

 

 ちょっと引きつった顔で対応するとレミィたんはここらが引き際と考えたのか途端にニヤついた顔を元に戻して言う。

 

「……魔理沙と霧雨商店の間にあった事実関係を知りたいの?」

「うん。敵を知り己を知れば百戦危うべからずって言葉もあるし、知っておけば魔理沙を説得しやすいかなって。多分お姉様なら何も考えずに真正面から行くけど私はどっちかというと頭脳(ブレイン)派だからさ。キチンと事実関係を知って、その上で真正面から行くつもり」

「ふうん、生き物って面倒なのね。私はスペックも知識も貴女譲りだけど人形……付喪神として生まれて間もないから生き物の感情は興味深いわ。初めて感じるものですもの。でも不思議よね、ほら見てみなさいよ」

 

 一転して態度を変えたレミィたんはとある方向を指差す。

 そちらを見ると寺子屋の子供が喧嘩していた。とはいえ子供なので可愛いものだ。お互いに「ばか!」とか「あほー!」とか言い合う程度なのだから。

 しかし声を聞いたのか慧音先生が駆けつけてきて、二人の生徒に何やらいうと片方が「ごめんなさい」と頭を下げていた。するともう片方も気まずくなったのか「ごめんなさい」と頭を下げる。

 それからまた二人は仲直りの指切りをしてまた楽しそうに遊び始めた。

 

「ほら、あれを見てると私は不思議なのよ」

 

 まるで目の前でこれが起こることを予期していたように飄々した顔付きで一部始終を眺めたレミィたんはそう前置きした。

 

「魔理沙と霧雨商店との縁を戻すのにまどろっこしい事なんて必要ない。だってたった一言で仲直りできるのもの……『ごめんなさい』ってね。勿論大人は事情が複雑化しているとか色々あるんでしょうけど、それはあくまで当人のプライドの話じゃない。それとも感情が納得しないか。それがなんでか分かる?」

 

 分かる? と聞かれても私はすぐに答えられなかった。

 

「そ、れは――――」

「短い間の観察で理解したの。子供の間は心からの『ごめんなさい』が出来るのに大人になると表面だけの薄っぺらい『ごめんなさい』になる理由」

 

 それはねフラン、と彼女は言う。

 

「人間は成長するにつれて謝罪する時に素直になれなくなるからよ。いや、人間だけに限った話じゃないか。例えば幼い頃、小さな子供は悪いことをすると本当に謝るわ。心の底からこれは悪いことなんだって思って変えようと理解する。でも成長していくと謝罪は形式的なものになっていくの。一〇を超える頃にもなれば謝罪の時間が好ましくないからとりあえず泣いておこう。反省するフリをすれば少しは相手の心象も稼げるだろうなんてのは当たり前、最後には形式的に謝罪だけ済ませて自分に降りかかる面倒を払いのけようとする。それに大人になると責任が絡んでくるから結局のところ謝っても許されない。自分が間違っていても直ぐに間違いを心から認め、反省し、猛省し、改めようとする人間がほぼ居ないからよ」

 

 レミィたんの鋭い眼光が私を射抜くように貫いた。

 思わず何も言えなくなった私にレミィたんは続ける。

 

「それにねフラン。貴女は両者を取り持ちたいと言うけれど結局貴女はどうしたいの? 魔理沙を人里に戻したいのか、それとも霧雨商店側に魔理沙が魔法使いになることを公的に認めさせたいか。ただ皆仲良くなんて甘い考えを持ってるようじゃ上手くいかないわ。そんな優しさなんてクソくらえよ。そもそも情報を得たところで貴女は部外者に変わらない。森近霖之助は霧雨の家と懇意にしていたから身内と言えるけれど貴女は正真正銘この件に関しては部外者よ。もしかしたら余計なお世話だと払いのけられるかもしれない。それでも手を差し伸べるというの?」

「私――――?」

「誰にだって触れられたくないデリケートな部分。隠したい部分はあるわ。そもそも魔理沙だって今は楽しく生きているでしょ? それを無理にこじ開けて縁を取り持つ必要なんてあるの? アイドルとしての出演許可だって必要だと言えば貰えるでしょうに。フラン、貴女の言葉を借りれば魔理沙だって商売人よ。なら、この件に絡むことにより発生する利益は誰だって分かると言ったのは貴女じゃない」

「…………ッ!」

「ハッキリ言うわ。フラン、人の踏み入られたくない場所に踏み入るにはそれ相応の覚悟が必要なの。私は人形だけれど姿形は貴女の姉。だからこそこれだけは聞かないと私は貴女に協力するわけにはいかないわ。フラン、貴女に魔理沙のしがらみを破壊する覚悟はある?」

 

 真っ直ぐとレミィたんは言った。

 私は目を閉じて考える。破壊する覚悟なんて持っちゃいなかった。

 最初から私の頭の中にあったのは所詮皆仲良くなんていう子供にでも分かる理論しかない。

 確かにレミィたんの言葉にも一理ある。私が不用意に足を踏み入れることで今度こそ魔理沙と霧雨商店との関係が、いや。私と魔理沙の関係すら全て壊れてしまう可能性はある。

 でも、一つだけ私の頭の中をよぎる過去があった。

 

 

 あれは――そう、紅霧異変が終わってしばらくしての事だ。

 異変の時に私が魔理沙に負けて以来、なんどか彼女が遊びに来ることがあった。

 人と話すこと自体に飢えていた私は魔理沙と会うととっても饒舌に話をする。その日も私ばかり話をしていた。

「ねぇ、魔理沙。外ってどんな感じなの?」

「……外かぁ。口で言うより出た方が早いんじゃねぇか?」

「ううん、魔理沙の口から聞きたいわっ!」

 そうやって強請(ねだ)ると魔理沙は溜息を吐いて外の話をしてくれる。何処其処が絶景だとか、人里の団子屋が美味いとか、そんな他愛のない話が多いけれどその中でも特に香霖堂の話が多かった。

 だから私は後に香霖堂を訪れることになるんだけどそれは置いといて、その時の魔理沙はやれ香霖は不摂生とか、やれ香霖はもっとアクティブに活動すれば良いのにとか霖之助さんの話題が多かった。

 でも、その日私は何気無く一つの質問をしてしまったんだ。

「もしかしてその香霖さんって人が魔理沙のお父さんなの?」

「――ッ!!」

 一瞬顔をしかめたのを見て私は慌てて手を振りながら「教えたくないなら良いよ! 好奇心だから!」と言うと魔理沙はいつものように溜息を吐いて話してくれた。

「……いや、違うぜ。私の父は人里にいる霧雨商店の店主だ」

 今は絶縁してるけどな、と彼女は言う。

「そうだな、どうせだし聞いてくれるか」

 その時は深くは教えてくれなかったけど、一つ魔理沙はこう言っていた事を確かに私は覚えていた。

「……勘当されて、夢の魔法使いになれたけど今も時々思うんだ。これで良かったのかなって、もっと良いやりかたがあったんじゃないかって。もしもの話もたらればの話もあり得ないのは理解してるけどな」

 そう話す魔理沙は少し残念そうで、後悔しているように見えた。

 

「――――」

 

 ゆっくりと目を開く。

 もう私の答えは決まった。

 

「――それでもやりたい。魔理沙との全てを壊す覚悟で挑むよ」

 

 難しい事を考える必要なんてなかったのだ。

 記憶の中に後悔している友達がいた。

 全ては彼女の事情で私は何の関係もないかもしれないけど、私は今のままいるなんて選択をするよりも最高の結末(ハッピーエンド)を迎えたかった。

 だから、挑む。

 これは、たったそれだけの話だ。

 

「……それで」

 

 私はレミィたんを見据えた。彼女との約束に私は答えを示したからだ。

 

「言う必要は無いわ。貴女の方針は分かった。それでこそ私の妹よ、とオリジナルなら言うわね――さて、これから私の全身全霊をもって貴女のサポートをしよう、主様(あるじさま)

 

 三日月に歪んだ口元から鋭い牙を見せながらレミィたんは上品に笑う。ここに二人の思いは一致した。

 そして二人は目的の友がいる場所は歩き出す。

 さあ挑もう。

 最高の結末(ハッピーエンド)を掴み取るために、全てを賭けて。

 

 私達はその覚悟で魔理沙の家の戸に手を掛け開く。

 と、

 

「よおフラン」

「あぁどうも。初めましてフラン嬢。魔理沙の父です」

 

 …………………………………………。

 …………………………………、

 ……………………………(汗)

 

「…………ねぇ、どういうことかな」

「し、知らん……私は知らない……」

 

 小声でレミィたんに尋ねると彼女は首を横に振る。

 本当に知らないらしい。軽く睨んでやるとレミィたんは全身から気持ちの悪い汗を噴き出して全力で目を逸らし始めた。ありとあらゆるものを破壊すると称された少女は重く静かにゆらりと立ち上がる。

 

「あれだけ堂々と私に選択迫っておいてどういうことかな? 私も本気で全てを懸ける覚悟だったんだよ、それこそ魔理沙との関係が壊れる覚悟で挑むつもりだったんだよ?」

「待って、その……わ、私は悪くないの! 我ながらあの説教はなかなか良かったでしょ!? あ、姉としてキチンと大切な事を教えようと、そう! 大切な事を教えようとしただけなの!!」

「はぁ? あれだけ啖呵切らせておいて何を言うかと思えば私は悪くない? 私が魔理沙に挑むどころか既に話着いてるじゃん!! この羞恥心を!! どこに!! ぶつければ良いんだ!? ああん!?」

「待って待ってフラン馬乗りは待って!! 貴女普段の口調が壊れてるわよ!? 貴女自分のキャラが壊れてる自覚はないの!?」

「ブチ切れたら口調くらい壊れるわ! しかもいくら姉だからって肝心な所を似てんじゃねーっ!! 何だこの意気込んで来てみれば全て終わってて空回りしてただけって! 道化か!? 妹をピエロにしたいのかっ!?」

「私だって知らなかったのよ! 私も今すっごい顔赤くなってるんだから! ほら恥だって一緒なら恥ずかしくないわ! どうせなら一緒に恥として受け入れましょうって待って待ってグーパンはやめて!?」

「ぶん殴ってやる! お前もう本気でぶん殴ってやる!!」

 

 有能なお姉様枠だったのに今回の件で本質が対して変わらないと気付いて、こいつを信じた私が馬鹿だったというか、なまじお姉様と似たようなミスをしたからこそ腹がたつやらでもう思考が一杯だった。

 ぜえぜえはあはあと荒い息を吐く私だがそこでようやくストップが入る。

「ちょっ!? お前人んちでいきなり何しだしてんだ!? ちょっとレミリア倒れてるから! ノックダウンしてるから!」

「止めないで魔理沙! こいつ殴れない!」

「いや止めるからっ!? 自分の家でいきなり姉妹喧嘩始められたらそりゃ家主として止めるからっ!!」

 

 そうやって魔理沙の説得もありようやく私達は落ち着いて話をする態勢に移行する。

 

「……で、家に来るなりいきなりなんだ。レミリアもレミリアでフランに一方的にやられるっていつの間にそんな関係なってんだよ」

「う、うるさいわね。ちょっと私のミスで恥かいただけよ」

 

 どうやら魔理沙はレミィたんをお姉様だと勘違いしているらしい。

 まぁその方が下手に説明するより面倒は無いのでレミィたんもそのまま話を進めるようだ。

 

「そ、それよりもいつの間に魔理沙と魔理沙のお父さんは和解を……?」

「ん、あぁ昨日だぜ。香霖の言葉で目が覚めたって言って親父が瘴気のある魔法の森に命懸けで来てな。私に謝って来たんだ。それでお互い積もる話もあったからして……それで私も謝った。それだけだよ」

「霖之助さんには世話になったよ。彼は魔理沙が幼い頃や俺が店を空ける時に店番を頼むがね、まさかあんな風に正面から説得されるとは思わなんだ。実は俺も前々から魔理沙のことは気に掛けていたし、いつか縁を戻したいと考えていたからね……今回やってみようっていう勇気をもらったんだ」

 

 霖之助さんが全部解決してたんかい!

 何よこれ!? 私達本当にただの恥ずかしい子じゃない!!

 あと事情聞かれて話したら二人の反応は思った通りなんか生暖かい目を向けられたし!

 

「魔理沙の事をそんなに思ってくれていたとは親として嬉しいな。ありがとう、これからも仲良くしてやって欲しい」

「あの……そのなんだ。お前ら変なところで天然でポンコツだけどそういうところ私も嫌いじゃないぜ」

 

 お父さんはともかく魔理沙はもうなんかアホの子を見るような顔だった。

 それから説教された。喧嘩は駄目だと。昼間に外で遊んでいた子供達と同じように二人の前で『ごめんなさい』をさせられた私達の恥ずかしさはもう筆舌しがたい。

 もう顔から火が出るってこの事だね。

 レミィたんに折檻でもすれば気持ちも落ち着くけど仲直りしたせいでそれも叶わない。

 だから、

「あっ、フラン」

「お姉様、しばらく顔見せないで」

「なんで!?」

 ……本物のお姉様をからかって溜飲を下げたのは内緒。

 

 

 #####

 

 

「これは……恥ずかしいですね」

「……うわぁシリアスが一瞬でギャグになりました」

「というかフランに冷たくされた理由がそれなの!? 私何も悪くないじゃない!!」

「まぁ……そのレミリアはご愁傷様と言っておくわ」

「同じく」「はい」

 

 霊夢の言葉に頷いて三人は哀れなものを見る目でレミリアを見つめながら次のページを開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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十二月編2『イチゴの発芽は閲覧注意?』

 

 

 

 

 十二月二日

 

 

 昨日はレミィたんのせいで散々な目にあったよ。

 まったくもう! いくら優しい私でもヘソを曲げちゃうんだから!

 でも知らない間でも魔理沙がお父さんと和解してて良かったよ。

 あ、そうそう。ひとつ気になったことがあるんだけどさ。

 お姉様が何故か落ち込んでるんだけどなんでだろ?

 それから何か思い当たったように大図書館に行って『反抗期』の本を借りてきて真剣に読み始めるし……。

 まさかオヤツが少ないからって反抗期始める気? 勘弁してよ。

 咲夜だって忙しいんだから変に無駄な仕事増やさないであげて欲しい。

「ねぇディータ」

「ハイ、オ嬢様ニハ困ラサレマス」

 ディータ。まぁ前にもらったAIBOって犬のロボットに話しかける。

 最近は大分会話も流暢になってきた。片言だけど家事の手伝いもしてくれるし助かる。

 そういえばディータもなんか魔改造されてるんだよね。咲夜が弄ってるのかな? この前二足歩行でよたよたとピアノを移動させているのを運んでいるのを見てこれ本当にロボットか気になってるんだけど。

 まぁ外の世界の科学は進んでるって話だし見た目に似合わないパワーを持っているのかもしれないけどさ。

 でも会話しているだけで言葉の端々から教えた覚えのない言葉が出てくるしいつのまにか付喪神化してるとかないよね?

 私のパソコンという前例があるから疑いがあるんだけど。

 

 

 #####

 

 

「……反抗期を調べてたんですかレミリアさん?」

「だ、だって前日フランがいきなり『しばらく近寄らないで』っていって来たんだもん!」

「あぁ……」

「そういうとこ天然なのにあざといですよね。むむ、可愛らしくてちょっとズルいです」

「ちょっとちょっと風祝、頭を撫でないで!? 凄いと思うなら褒め称えてよ! 流石の私も頭を撫でられてることが子供扱いってことは分かってるんだから!」

 

 必死にそう言って早苗の手を避けようとするレミリアだが僅かに頰が緩んでいるのを彼女は気付いているのかそうでないのか。

 どちらにせよ自分の武器を活用するという意味じゃ素晴らしく才能のあるレミリアだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月三日

 

 

 人里を歩いていると熊を散歩させているお爺さんがいた。

 周りの人は見慣れた顔をしていたけど私は普通に驚いたよ。

 気になって話しかけてみるとお爺さんはとても優しい人だった。

「儂は人里から離れた小山の近くに家があってな。その頂上で尺八を吹くのが趣味でのぅ。それを毎日吹いておれば知らぬうちに獣どもに囲まれとってな、それでも日課のように吹いとると獣どもが儂の音楽を聴きに来ていると気付いてな。それ以来仲良くなったんじゃよ」

 この熊もその友の一匹じゃよ、とお爺さんが言ってた。

 熊さんもすっごく大人しくて私を背中に乗せてくれた。ゴワゴワした毛だけどあったかかったなぁ。

 で、それからお爺さんにさよならすると近くで見ていたらしい華扇さんが声をかけて来た。

「フランさん、今の御老人は?」

「小山の近くに住んでるんだって。山の頂上で尺八を吹くのが趣味で、動物達と仲良くなったとか」

「まるで仏陀のようですね……人間は年老いて仙人より仙人らしくなる……か」

「仙人より?」

「あ、いえ。別に……ちょっとあの老人の所作が私よりも仙人らしく見えたので」

 

 両手を左右に振って華扇さんが言う。ふぅん、そんなものなのかな?

 私も最近一人で山に行って坐禅してて、ふと修行を切り上げようとしたら私を囲むように沢山の動物がいたりすることがあるから特に特別とは思えないけど。

 

 #####

 

 

「……私、まだ坐禅しても動物に囲まれたりしないんですけど」

「まだ修行不足なんでしょ。早苗で無理なら私も無理ね」

「……というかもう仙人とか神様とかに片足突っ込んでますよね、フランさん」

「なんと言えば良いのか姉としては微妙な気持ちね……」

 

 

 #####

 

 

 十二月四日

 

 

 午前中、知り合いのイチゴ農家さんに会って遊びに行くことになった。

 で、その時発芽したばかりのイチゴを見たけど……うん。

 なんだろうこの気持ち。イチゴって種がいっぱいあるのよね。あれの一つ一つからびっしりと草が生えているのを見て最初に思ったのはこんな感想だった。

「……こう言っちゃ悪いですけど、気持ち悪いです」

「あっはっは。そりゃそうだろな。安心しろ、俺も気持ち悪いと思ってるから」

 あとからネットで『イチゴ 発芽』で画像を調べたけどなんと言うか生理的に受け付けない。なんか鳥肌が立つ。こう言うと農家さんとかを敵に回してる気がするけど本当にごめんなさい。ちょっとどうしても受け付けない。

「……後でお姉様に見せよう」

 ちなみにiPhoneで画像を保存して後でお姉様に見せると一瞬物凄い真顔になった後、すっごい嫌悪感をあらわにした。苦手だったらしい。でも世の中にはこれを可愛いと思う人もいるから不思議だ。

 

 で、午前はそんな感じで午後からは明日の打ち合わせを森近さんと霧雨商店、それから魔理沙も交えて行った。

 とはいえ森近さんと霧雨商店で用意したプログラムを受け取って、あと私がMCをするだけのことだ。一応流れも頭に入っているし多分問題無いと思う。

 実演に当たって霧雨商店に丁稚奉公してるお兄さんがデバイスを使用することになるけど森近さんがしっかりと確認したデバイスだ。きっと上手くいくと思う。

 

 よし、明日は気合入れていっちょやるよ!

 

 

 #####

 

 

「イチゴの発芽……あぁ。ネットでも閲覧注意とかかかれるくらいですからね。私は育てたことがあるので嫌悪感はないですね。あ、画像これですよ」

 

 早苗がiPhoneで三人に画像を見せる。その中でレミリアが真っ先にうえっとした顔を見せた。

 

「……苦手だわ、これ」

「私は……ま、興味無いからどうでも良いわ」

「……身も蓋も無いことを。あぁ私は何とも無いです。むしろ人の心の方が気持ち悪かったりすることがあるので」

「あぁ、やっぱりあるの?」

「えぇ。初対面の人が私を見た途端……その、変なこと考える人がいて……。えっと、私の裸を想像したら……そのっ」

「それだけ見てて下の話は苦手なのねアンタ。顔赤くするくらいなら話すな、ったく」

「……ともかく話を戻すけど、次の日はデバイスの発表か」

「やっぱり気になりますよね。次めくっちゃいますか」

「そうしましょ」

 

 早苗の言葉に霊夢が頷いて次のページをめくったのだった。

 

 

 

 

 

 




 


 ※試しにイチゴの発芽画像を調べて不快感を覚えても当方は一切責任を取りません。



 


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十二月編3『デバイス……紹介?』

 


 他作品ネタの発作が出た。
 あとギャグのキレが……キレが……無い。


 






 

 

 

 十二月五日

 

 

 人里。

 かつてアイドルコンサートを行った開けた広場後のステージに私が入ると、そこに待っていた男が立ち上がった。小ジワのある、いかにもやり手の商売人という雰囲気を醸し出す中年の男性である。

「おはようございます霧雨さん。どうですか、今日は?」

「なかなか良い気分だよ。魔理沙と和解出来たお陰かね、昔は娘を取られたとあれだけ憎かった魔法も今じゃ……悪くない」

 広場に設置されたスタッフルーム。そのソファにかけた男性は愛嬌のあるぎょろりとした目を向け笑いかけてくる。人里一の商店、霧雨商店当主の男だ。

「結構早めに出たつもりでしたが遅れちゃいました?」

 今回の発表の名目はあくまで香霖堂の新商品だが、商品への信用性を与える為、また霧雨商店にも委託販売をする為わざわざ呼んだのである。

「まさか、君が二番目だよ。にしても霖之助さんには困った。本来彼が一番に来るべきなんだがね……」

 霧雨父の言葉に、私は「霖之助さんも忙しいですから」と肩を竦める。どうやら霧雨父は霖之助さんが早く来ないことに少し呆れを覚えているようだ。

 しかしなんだかんだ一番頑張っていたのは霖之助さんなのだ。具体的に言うと商品は全て彼かその式神が作っているといえばその忙殺さも分かるだろうか。やはり魔道具ともなればそれなりに研鑽された技術が必要らしい。リアラさんも覚えようとしているがまだ販売段階には無いのだとか。

「まぁ本番までには来ますよ。リアラさんが連れて来ます」

 今頃仮眠を取っている頃だろう。初期生産用のデバイスを夜通し作っていたのだから少しくらい休んでもバチは当たらないと思う。特に霖之助さんは凝り性で確実に完成したもの以外は完成品と認めないから時間が足りないのだ。発売開始までのあと五日で初期ロット五〇〇を揃える為に頑張っているのを見ると何も言えない私がいる。

「……ともかくです。今日は絶対成功させましょうね!」

「あぁ、そうだな」

 手をグーにして言うと霧雨父は妙に優しく子供を見るような目で私を見てきた。

 ……解せぬ。

 

 (次のページへ)

 

 

 #####

 

 

 商品発表。

 すなわちプレゼンをする前に一つ大事な事がある。

 それは聴衆、聞く人を集めないといけないことだ。何を当たり前なと思うかもしれないけどこれはめちゃくちゃ重要だと言っても良い。

 で、私達は実はその為に商品発表の前日までに霧雨商店のツテを利用して外の世界の新聞配達のように各家庭にチラシを配っていた。

 でも対策がそれだけだと聴衆の数が少ないと困る。

 というわけで私は今、

 

「あっ、そこのお兄さん♪ ここでやるプレゼン見ていきませんかー?」

 

 出来うる中で一番の笑顔でチラシ配りをしていた。

 というか若干ぶりっ子すら入っている。あざといというやつだ。

 アイドルで鍛えた笑顔と可愛いポーズで主に男の人を中心に話しかけてチラシを配っていく。

 ……なんか自分が計算高い女みたいな変な気分だけど、でも魔法とかそういうのってやっぱり女の人より男の人の方が好きだよね? 罪袋さん達も協力してくれてるけど、やっぱり魔法とか大好きって言ってたし。

「我が名は以下省略、エクスプロージョン!」

「リア充にザキ!」

「くらえ、ブラがズレた感触になるブラズール!」

「魔法ダメージ受けて中破したら服脱げるってマジですか?」

 

 うん、よく分かんないことを話してた。

 

 ともかく客寄せをしてそれから時計の針が十二時を回ろうかという時間帯に霖之助さんがやってきた。

 

「おはよう……遅れてすまないね」

 

 それから事前打ち合わせを済ませ――いざ本番が近づいてきたその時だった。

 

「ちょっと通してね」

 

 見知らぬ男性の声がスタッフルームに響いた。

 思わず顔を上げると青い服を着た恰幅の良い男性がいた。物凄いダミ声で見た目から青狸ってイメージがピッタリ合う。

 その後ろには数人の部下らしい人達の姿もある。すると霧雨さんが驚いたような声を上げた。

「ドラ屋……!?」

「やぁ霧雨くん。なんでもまた事業を始めると聞いてきたんだよ。それも嫌っていた魔法に手を出すなんてね。もしかしてドラ屋の後追いかな?」

「ドラ屋……何の用だ?」

「いやいや、ただ魔法に手を出すと聞いて様子を見にきただけだよ。魔法業種の先輩として気になってね。まぁ霧雨さんのところなら多少は売れるだろうね、『多少は』」

 

 散々な物言いだった。

 ちょっとカチンときたよ!

 

「しかし……君は実に馬鹿だな。よりにもよって今日商品紹介を行うとは。霧雨くんは運が悪いね」

「何がだ!」

「何を隠そう、僕らも新商品を出すんだよ。それも今日」

 なっ!?

 私達は驚く。すると恰幅の良い男性はそれに満足したのかこう言い出した。

 

「特別に見せてあげるね、これだよ」

 

 そう言ってドラ屋の主人は腹に付けた半月型の白いポケットから何やらごそごそするとパッパカパッパーッパッパー♪という謎の効果音を奏でながら道具を出す。

 

「\たけこぷたぁ/」

 

 そして出てきたのは……なんだ。

 黄色い竹とんぼの軸に小さな半球を取り付けたような形の道具を出してきた。けど、待って。ちょっと待って!?

 

「あの、全体的にモザイクが掛かってるのはなんでですか?」

 

 モザイク。うん、どう見てもモザイク処理が掛かっていた。

 魔法? 魔法だよね? このありとあらゆるものを破壊出来る力を持つ私の目ですら完全無欠にモザイク掛かってるんですけどぉっ!?

 というかなんか完全アウトな見た目してるからぁ! ちょっとドラ屋で気になってたけど私これ見たことあるよ!? 外の世界で金曜の夜にやってるのを見たよ私!?

 

「……ちょっと、黙ってないで答えてください!?」

「僕ドラ○もン゛ン゛ッ!!?」

「噛んだっ!? あとなんかピーって音が聞こえた!! なんかピーって音が聞こえたぁ!」

「ぼ、僕ドラ……ドラ……焼き……!」

「僕ドラ焼き!?」

 

 どうしよう、なんかついていけない。

 青い恰幅の良いお腹にポケット付けたドラ焼きさん(仮名)に私ついていけない。

 ともかく混乱している間に復活したらしいドラ焼きさんが話し始める。

 

「こほん、たけこぷたぁは頭に付けて『飛びたい』と思ったら空が飛べる魔法道具なんだ。試しに僕たちが連れてきた人を襲って殺処分予定だった妖怪で試させようか」

 

 そう言ってドラ焼きさんが近くにいた狼の妖怪の頭にたけこぷたぁを付ける。すると狼の妖怪が一気に浮かび上がった。

 

「おおお!?」

「ギャ……ギャオンっ!?」

 

 私が思わず声を上げると上空から妖怪の悲鳴が聞こえる。きっといきなり飛び上がって驚いたのだろう。

 言葉はあれだけど効果は本物……これは強力なライバルかも! と、近くで観察しようと思った私が飛び上がると瞬間、ブチブチィ! という音を立てて妖怪の首と胴体が千切れて離れた。

 

「は?」

 

 同時に降り注いだ肉塊と血が私の頰を掠めて地面に落下していく。

 ヒュルルルル、グチャ。そんな間抜けな音を立てて妖怪の身体が地面に落下した。それからプルルルル、と竹とんぼの回転音を響かせながら遥か遠くへ飛んでいく首。

 それらを見送って、ドラ焼きさんが言う。

 

「……これを僕は人間向けに今日発売でね」

「………………」

 

 うん、これはあれだな。

 

 

 

 (次のページへ)

 

 

 #####

 

 

 変な茶番が入った気がする。

 うん、気のせいだ。狼妖怪の死体なんて落ちてないもん。空の果てに飛んでった首なんて見てないし。

 う、後ろで自警団によって両手に鉄の輪っか付けられて連行されてる人なんて知らないからぁ……。

 私達も犯人逮捕と通報のお礼なんかい、言われてないし……。

 

「これより香霖堂と霧雨商店による商品説明を始めます!」

 

 と、そんなこんなでプレゼンが始まった。

 なんだかんだビラ配りをしたからか人もかなり集まってた。

 私はMCなので司会進行をする。衣装も用意されているのを着用済みだ。今日のはちょっと早いけどサンタコスプレだね。ただちょっとスカート短くてスースーする。

 というか吸血鬼的にサンタコスってどうなの?

 

「今日の司会進行は私、フランが務めます♪ では早速香霖堂社長の森近霖之助さんから今回の商品のご説明をお願いします!」

「はい、ご紹介に預かりました。香霖堂社長の森近霖之助です。では早速ですが商品説明を始めましょう。今回皆様にご紹介する商品はこちら、『誰でも弾幕ごっこが出来る』をコンセプトに作りました、『デバイス』です!」

 

 森近さんが腕輪を掲げる。

 わああああっ! と歓声が上がった。

 

「デバイスは腕輪型の魔法道具で、最初に登録した持ち主の魔力や霊力を登録します。具合的には腕に嵌るとまず魔力検査が行われ、データとして保存されます。その後体内の霊力や魔力を動かすことで使用者に体内に眠る力を確認させ、またそれを使いやすくするサポートが主な使用目的です」

 

 そんな開幕からいくつかの説明を経て実演などもすると人里の人達はかなり盛り上がっている。

 

「三十歳、自称魔法使いの罪袋Dさんの魔法を使う夢が今、叶いました!」

 

 今回の実演をお願いした人里の人も嬉しそうにガッツポーズをしている。お願いして受けてくれたけど半信半疑だったのだろう。

 それから霧雨商店が正式に香霖堂とタッグを組んでこのプロジェクトに参入することなども含めて話してから、商品説明は幕を閉じた。

 

 ……正直かなり上手くいったと思う。

 

 十日の発売……売れればいいな。

 

 

 #####

 

 

「ドラ焼き……は触れなくて良いですね」

「人里の人を使って実演するのは良いアイデアよね」

「……というか途中のは一体」

「……レミリアさん、突っ込まないでください」

 

 さとりがレミリアの口を塞ぐ。

 しばらくもがもがと何か言いたげにしていたレミリアだがやがて諦めたのか、おとなしく次のページをめくった。

 

 

 

 

 

 

 



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十二月編4『メイドと門番の休日』

 

 

 

 十二月六日

 

 

 霖之助さんは今日も忙しそうだった。

 朝から晩までデバイスを作っている。霖之助さんの式神もやっているけど式神は魔力を使うから辛そうだ。それにデバイスには魔法陣を埋め込むから余計に魔力を使うし。

 何か私に出来ることないかな?

 例えば魔力を送るとか……、霖之助さんを元気にしてあげるとか。

 それか肩たたきをしてあげるってのはどうかな? 

 と、そんな具合に色々考えてみたけど思いつかなかったから霖之助さんに行って直接尋ねてみた。

「霖之助さん、何か出来ることはありませんか?」

「発売日までは何も頼むことはないね。うーん……そうだな、じゃあ僕を応援してほしい」

「応援?」

「男ってのは単純なモンでね。女の子から頑張ってって言われたらやる気が出たりするんだよ」

 デバイスを作る手を止めずに霖之助さんが言う。別に他意は無いのだろう。もしかしたら発言にあまりリソースを割いていないのかもしれない。

 でも、うーん応援かぁ。

「ねぇリアラさん」

「なんですか?」

「衣装って作れる?」

 応援といえばチアだよね? 手にポンポン持って踊るやつ。

 その衣装が作れないか聞いてみると「出来ますよ」との事だったので教えてもらうがてら作りました。

 最近進化した思考加速を使って四倍速で作ったよ。

 で、応援しました。リアラさんもノリノリで着てた。結構張り付く感じの素材だったせいか体つきが凄いことになってたよ。透けたりはしないから問題無いけど、もう端的に言うと扇情的だった。

「霖之助さーん、こっち見て!」

「なんだい……っ!?」

 で、呼びかけると森近さんがリアラさんと私を見て驚いた目をした後に一瞬リアラさんの方に目線が――いきそうになって虚空で止まる。

 それから何か可哀想なものを見る目で私を見つめ出した。

 けど、関係なく私は応援を始める!

「頑張れ、頑張れ霖之助さん!」

「フレー、フレー、きゃー頑張ってー」

「………ごめん僕の言葉が足りな――いややっぱり二人とも奥の部屋に入っててくれ。というかやっぱり君、レミリアの妹だね。なんか納得したよ」

 

 

 ……そう言われたきり追い出された。

 なんで?

 

 #####

 

 

「なんでも何もないでしょ……」

「というかこういう天然な発想がレミリアの血筋のソレよね」

「はぁ? なにおう、私のどこがこんなポンコツなのよ?」

「いやどの口が言ってるんですかソレ……」

「……それがレミリアさんなんでしょう」

「ほう。また馬鹿にしたわね? 流石の温厚なレミリア様といえど怒るわよ!」

 

 ぷんすか! とレミリアが怒るがその様子を見て早苗は思う。

 

(……怒ったところで本気で怒らないから結局変わらないんだよなぁ)

 

 というかそれが可愛さになるあたりやっぱり吸血鬼の魅力(チャーム)って凄い、そんな素直な感想を抱いた。

 

 

 #####

 

 

 十二月七日

 

 

 今日はなんか咲夜とめーりんがとっても構ってくれた。

 いつもはお姉様につきっきりなのに。

 紅茶とクッキーを出すと「美味しいです」って喜んでくれた。

 あとめーりんは今日はお仕事お休みだったから、いつもお疲れさまって肩もみをして上げたらとっても嬉しそうにしてくれた。

 あと二人ともお返しに頭を撫でてくれた。

 人によってやっぱり撫で方って違うね。

 咲夜はまるで壊れ物でも触るようにそっと触れたあと、絶妙な手触りで髪の毛が乱れないように撫でてくれる。咲夜の手は冷たいけど、でも撫でる位置が一々私の気持ち良いところだからついついウトウトしちゃうんだよね。

 めーりんは包み込むように撫でてくれる。体に関して精通しているめーりんは撫でるポイントも分かっているらしい。でもなんかめーりんはお母さんに撫でられてる感じがするんだよね。あとめーりんの手はすっごく暖かい。『気』を使うから体の血流が良いんだって。

「妹様もいつも頑張ってますよ」

「はい、本当によく頑張ってます」

 そんな風に二人から褒められて、咲夜に膝枕してもらって撫でてもらってたらいつの間にか寝ちゃった。

 こういう日も良いなぁ。

 

 

 咲夜@追記

 妹様へ、この日を私視点で書き綴りますわ。

 

 この日八雲紫に呼ばれて賢者達の集会に向かわれたお嬢様の「今日は休みでいいわよ」とのお言葉を頂き私と美鈴の二人は手持ち無沙汰でした。

 久々に昼間から美鈴と仕事中以外で他愛のない話をしていたのを覚えています。

「こういう休みは久々ですねー。私、年がら年中外で門番だからなぁ」

「あら、今年は毎日のように妹様も一緒に居たからいつもの年よりは楽しかったんじゃないの?」

「確かに、あの子は素直な良い子ですからね。春頃に『気』を教えてくれと言われた時は驚きましたが……私の言った修行を真面目にやってくれますし毎日が楽しかったかもしれません」

「春、そういえば四月からよね。妹様が急に活発になったのは」

「四九五年も地下に居たなんて今の姿を見たら信じられませんね」

「そうね。妹様の問題はお嬢様が長年抱えていたものだからそれが解消されて何よりよ。ふふ、来年が楽しみね」

「そうですねー」

 そんな具合に話しておりましたら次第に話は今日の休みに移っていきました。

「そういえば咲夜さんは今日は何をするんですか? レミリアお嬢様の居ない完全オフなんて中々ないでしょ?」

「妹様の元に行くわ。最近頑張って疲れているみたいだし、最近家事以外で何もしてあげられてないから……」

「あっ、じゃあ私もいきます! 修行も半年以上続けてますけど、褒めたりはしてませんから! ちょっと存分に甘やかせたいです」

「……美鈴、妹様が素直で可愛らしいからといってただ甘やかせたいとか考えてたら張っ倒すわよ」

「じょ、冗談ですよ!? だからナイフ見せないで下さいってば! というかナイフは張っ倒すというより突き刺すものですからっ!?」

 全く、美鈴は主人の妹君に対する礼儀がなってません。

 ともかくそんなわけで私達は妹様のお部屋の扉を二度ノックいたしました。

「どうぞー」

 その返事を聞いて中に入室いたしますと妹様はベッドに腰掛けて本を片手に座っておりました。

 しかし私達の姿を見るとパァっと満面の笑みを浮かべ、本を置いて立ち上がり駆け寄っていらっしゃいました。

「咲夜にめーりん! あれ、どうしたの? 今は仕事じゃ?」

「いいえ、お嬢様よりお休みを頂きましたので、妹様とお茶出来ないかと尋ねて来ました」

「本当!? 二人とのお茶会なんて久々だから嬉しいな!」

 無邪気に笑うと妹様は早速パタパタと紅茶の準備を始めましたが、その手を私は止めます。

「お待ち下さい。私が紅茶を……」

「良いの良いの! 二人はお客様なんだからほら座って座って!」

 そう言って妹様は私が教えた丁寧な所作で椅子を動かすと、流れるように紅茶を淹れ始めました。その動きは私から見てもかなり洗練されており、春からの成長率がしっかりと認識出来ます。

 それから美鈴と共に席に座ると妹様から出来た紅茶を頂きました。風味を楽しみそれから口を付けると絶妙な味わいがありました。

(……こんなにも伸びるものなのですね)

 春の紅茶はお世辞にも手慣れたものとは言えず、美味しさも人並みでまだまだといった具合だったのがここまで伸びると感慨深いものです。思わず目頭を熱いものがこみ上げてきましたがグッと我慢しました。

「わぁ、これ美味しいですね」

「えぇ、本当に美味しいです。成長なされましたね」

「そう? 良かった!」

 口元を緩めお褒め致しますと妹様は本当に嬉しそうにします。

 本当に素直で無邪気な方です。しかしそれが魅力なのでしょう。

 お嬢様とも甲乙つけ難い程に可愛らしく魅力があり、思わず庇護下に置かないと少し心配になってしまうくらいには私も思っておりますから。

 それから数分。

 少し時間が経ち、楽しく会話を繰り広げていた私達ですが妹様がポツリと「そういえばめーりんっていつも外で門番やってるよね」と発言なされました。

「いつもお疲れさま! 肩揉んであげる!」

「わわっ、ありがとうございます妹様!」

 向日葵のような笑顔でそう言って妹様は美鈴の肩に手を掛けてにぎにぎと揉み始めます。見たところかなりマッサージもお上手のようでした。ふむ……どこで習ったのやら。今度調べておきましょう。多分ツボなら美鈴かしらと私が思っておりましたが、楽しそうにする妹様を見ているとどうも詮索することもどうでも良くなってきてしまうのが不思議です。

 そしてマッサージが終わってから私は口を開きました。

「妹様、最近はいつも頑張っていらっしゃいますね」

「そう?」

「えぇ。頑張っている証にご褒美です」

 本来主人の妹様の頭を撫でるなど従者としては問題のある行為ですが、お嬢様も同じようにすると嫌そうに口では言うものの喜んでいるのは理解しております。

 ですので妹様にも頑張っているご褒美を、と優しく抱きしめながら頭をお撫でさせて頂きました。

「よく頑張りました」

 指先をそっと頭の上に乗せると妹様はピクリと反応しましたがそれからゆっくりと手先を動かし始めると途端に目を細め、気持ち良さそうにはにかまれました。

 しばらく撫でた後は美鈴に交代です。

「今度は私です妹様!」

 美鈴もまた丁寧に妹様を撫でます。私の冷たい手と違って彼女の手は暖かいですから妹様も安心するでしょう。

 心の優しい人の手は冷たいなどと聞きますが、少々悔しいです。

 そしてそれが終わると今度は妹様を甘やか……失礼。ご奉仕するために膝枕をさせて頂きました。

 私の膝の上に頭をこてんと載せて、その体勢のまま頭を撫でる。

 最初は私たちと会話していた妹様も段々とウトウトし始め、やがてお眠りになられました。

 すーすー、と私の膝の上で寝息を立てる妹様の可愛らしいこと。

「……寝ちゃいましたね」

「えぇ、そうね」

「普段は意識しませんけどこうしてみると可愛いですよね」

 美鈴がそう言って妹様の手に人差し指を近付けると寝息を立てる妹様は無意識にギュッと握りました。その姿がまた愛らしい。

 顔を見ると安心しきった様子で従者としては信頼されているのだな、と喜ばしい限りです。

 

 

 #####

 

 

「フランさんの日記より咲夜さんの追記の方が長いですね」

「咲夜……私が外に出てる日にこんなことを……」

 

 レミリアが呟くと霊夢が首を傾げる。

 

「そういえばレミリアはこの日何してたのよ?」

「妖怪の賢者に呼ばれて集会。年末近いし今年一年の振り返りをするとかで集まったの」

「……あぁ、神奈子様が毎年行ってるアレですか」

「何それ、私知らないんだけど。博麗の巫女が知らないとか不味くないの?」

「……多分問題ないかと。あくまでその土地の権力者達が集まって今年一年の振り返りと来年に向けての話を軽くするだけですから」

「そんなものなの?」

「そんなものよ。内容もさして特別なモノはあまり無いしね」

 

 ひらひらと手を振ってレミリアが答える。

 それから四人は次のページをめくるのだった。

 

 

 



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十二月編5『神々の加護』

 

 

 

 十二月八日

 

 

 『デバイス』発売まで残り二日。

 何か手伝えることがあれば良いんだけどここまでくるともう神頼みしかない! というわけで神社巡りをする事にした。

 まず今日は一番の近場の命蓮寺と神霊廟をまわる。

 なので人里へGO! と、思ったら草陰からいきなり何かが飛び出してきた!

「驚けーっ!!」

「? え、えっと……きゃあ!」

 出てきたのは大きな傘を持った女の子だ。なんか傘からおっきな舌が伸びているので多分唐傘お化けってやつかな?

 驚けー! と言われたので悲鳴を上げてみたが何だろう、この人。

 いきなり驚かしてきた青い髪のオッドアイの女の子は私を見て、首を捻って何やら考えたあとにお腹を抑えてこう呟いた。

「……驚いたのにお腹は満たされてない。つまり演技」

 本来なら聞こえないくらい小さな声だけど私の吸血鬼(でびる)イヤーはしっかりとその声を聞き取った。

 だがやがて女の子は何やらキリッとした表情を見せるとこう尋ねてくる。

「あなた……優しい人ですね?」

「はい?」

「そんな貴女を見込んでお願いがあります!」

 いまいちよく分かってない私だが、女の子はババッ! と無駄に格好良いポーズを取るとこんな口上を述べる!

「ふっふっふ……、この邂逅は世界が選択せし運命(さだめ)

 何やら聞き覚えのフレーズを叫びながら女の子は手に持った傘を抜刀するような構えを取る。

「我が名は多々良小傘(たたらこがさ)! ベビーシッターを生業とし、最強の鍛治で生計を立てる驚天動地の唐傘お化け!!」

「……えっと?」

 なんかデジャブ。

 なんだろうこの感じ、なんかお姉様を見た気分。

「フフ、あまりの強大さ故、人里の大人に疎まれし我が禁断の力を汝は欲するか?」

 とりあえずこれはあれだ。

 対処法は分かってる。

「……新手の詐欺ですか?」

「ち、ちがうわい!!」

 ジト目で言うと女の子……小傘さんは両手を振り下ろしてそう叫んだ。

 それから私はついでのように聞いてみる。

「あとそれ流行ってるの? お姉様もやってたけど」

「えっ? 何それ初耳。これは私だけのオリジナルな口上なのに……これはそのお姉様とやらを見つけたら上下関係教えてやらないといけないな」

 

 ぶつぶつ呟きながら小傘さんが言う。でも見たところこの人良いとこ中級妖怪だよね?

 ……下手な目に遭う前に真実を教えてあげよう。

 

「ちなみにお姉様は紅魔館の紅い吸血鬼、レミリア・スカーレットなんですけど」

「前言撤回! ごめんなさい私が下です! というか先に言って下さいっ!?」

 

 あっ、うん。手のひら返すの早いな。

 瞬時に半泣きになって謝るスタイル、私は嫌いじゃないけどさ。

 それから小傘さんは何やら考え込みだす。

 

「……この子、さっきレミリア・スカーレットをお姉様って呼んでた……つまりいま目の前に居るのはレミリア・スカーレットの妹?」

 

 うんうん唸りながら辿り着いたらしい答え。

 ちょっと申し訳ないけど物凄い勢いで顔が蒼白くなって冷や汗を流し始めるのを見せられると思わず笑ってしまう。

 

「……な、生意気言ってすいませんでしたーっ!! ど、どうか命だけは! 命だけはお助け下さいっ!!?」

 

 あーあ、半泣きが本泣きになったよ。

 こうなると少し困っちゃうな……。あ、そうだ。

 

「じゃあ許してあげる代わりに一つ条件を呑んで?」

「じょ、条件ですかっ!? わ、私食べても美味しくないです!」

「いや何がどうなってその結論に至ったのかな!?」

 

 なに? 私人食いみたいに思われるような見た目してるの?

 えっ、ちょっと傷付くよそれ……。

 と、とりあえず私は条件を話し始める!

 

「とっ、ともかく貴女に与える条件だけどそれはね、さっき言いかけた『お願い』ってやつを私に言ってちょうだい?」

「わ、分かりました! それは悠久なる昔のこと。長い断食を経て、私、は……」

 

 話し出したその時だった。

 小傘さんが突然ふらりとすると地面に倒れ伏したのだ!

 

「ど、どうしたの!?」

 

 慌てて駆け寄ると彼女は言う。

 

「もう……三日も何も食べてないのれす……何か、食べさせてもらえませんか?」

 

 同時に鳴るグーというお腹の音。

 ……彼女は、完全無欠の生き倒れだった!

 

 さて、そんなわけで私は家に帰って料理してあげました。

 美味しい美味しいって食べてくれたけど……なんか話を聞くとかなり不憫な人だったよ。

 最初にベビーシッターをしているって言ってたけどあれは本当のことで、よく人里の子供達や赤ちゃんを驚かして笑わせているらしい。

 他にも無償でお世話してあげたりと言動を除いてキチンとしてる人のようだ。

 しかし側から見たら変質者以外の何者でもなく、大人には鬱陶しがられて嫌われているらしい。

 特に最近は親御さんから向けられる目が酷くなっていて手配書まで作られる始末。

 

「最近は……お店に入っても変な目で見られて、元々住んでいた墓地も他の妖怪にとられて……それでもなんとか得意な鍛治で生計を立てていたけど、霊夢さんに頼まれて新調した針で退治されるって皮肉すぎる出来事にあって……ぐすん」

 

 なんか悲惨だった。

 やる事なす事全てが裏目になり、更に最近だと無意味に萃香さんに吹き飛ばされたりするらしい。

 それが積み重なり三日間何も食べれなくなり、唐傘お化けという性質から驚かせば腹は満たるので何とか人を脅かそうとするがそれも上手くいかずにいたところは私に会ったとか。

 あまりに可哀想なのでちょっと提案してみた。

 

「その、うちで働く?」

「良いんですか!? お願いします!」

 

 即決された。まだ雇用条件も話してないのに

 そんなに切羽詰まってるのか……。なんか妙に物悲しくなったよ。

 ただ口調がお姉様と同じだったり仲良くなれそうなので案外悪くない子だと思った。

 

 

 #####

 

 少し可哀想な内容に四人は何とも言えない曖昧な顔をした。

 が、やがてさとりがレミリアに尋ねる。

 

「……で、この小傘さんは今どんな感じなんですか?」

「……私の友達よ。咲夜にもなれないある意味特別な友達。この前は一緒に人間を驚かしに行ったりしたわ」

 

 口元を緩めてレミリアが言うと四人の間にあった緊張が弛緩する。

 それから霊夢があぁ、と手を叩いて、

 

「あ、それ知ってる。おどろけー! と、ぎゃおー食べちゃうぞー! でしょ?」

「いや何ですかその驚かす気のないセリフ!?」

「な、なにおう!? 私達が考えた驚かしの決まり文句なのよ!」

 

「…………」

「…………」

「それが本当に決まり文句なら咲夜さんがどこに居てもレミリアさんを心配する理由が何となく分かるんですけど……」

 

「…………」

「…………」

「……次のページ、行きましょうか」

「……うん」

 

 #####

 

 

 十二月九日

 

 

 とりあえず小傘さんとお姉様を会わせたら意気投合した。

 なんか二人して「「エクスプロージョン!」」とか言ってた。

 さて、そんなわけで私は昨日行けなかった神社巡りを改めてしようと思う。

 時間が無いから急ぎめだけどね。

 

「瞬間移動」

 

 まずは命蓮寺。

 お賽銭入れてお祈りした。白蓮さんとも少し近況をお話しした。

「デバイスですかー。妖力を操るのが苦手な子がうちにも居ますからあるとありがたいですね」

 その時にサラリと商品説明したけど中々好感触だったんじゃないかな?

 ただお祈りは欲があるからアレだけどね。

「(デバイスが売れますように)」

 とにかく手を合わせたらこんな声が聞こえてきた気がした。

 

「(へぇ、デバイスなんて作ったんだね。イエス、フランさんが面白いもの作ったみたいだよ?)」

「(本当、ブッダ? へぇデバイスかぁ。確かに便利な物作ったね。まだ幻想郷には無かった商品だから欲しがる人は多そうだね)」

 

 ……なんか知り合いの声だった気がするけど気のせいだろう、多分。

 

 で、お次は神霊廟。

 神子さんに挨拶するとものすっごい怪訝そうな顔で見られた。

「……フランよ、久しぶり。で、どうやって来た?」

「瞬間移動ですけど」

「え?」

「瞬間移動ですけど」

 いくら神霊廟が隔離された世界だからと言って甘く見られちゃ困るよ神子さん。

 一口に瞬間移動といっても場所や地点に移動するのと、気を読み取って移動するのと色々種類があるんだから。特に気の方は何処に居ようといけるし。

 で、お祈りしました。

「(デバイスで皆が弾幕ごっこを楽しんでくれますように……!)」

 するとまた声が聞こえてきました。

 

(この加護……フランちゃんですか。神に至れども信仰は変わらないその姿勢、勉強になります)

 

 この声……イザナミさん? 優しい声だった気がする。

 

 それから次は守矢神社だ。

「あ、フランちゃんこんにちは」

「こんにちは早苗さん」

 挨拶してから参拝とお祈り開始!

「(デバイスが売れますように……)」

 するとまたまた頭の中に声が響きました。

「(……この数多の加護、これが八坂の言っていた吸血神フランドールか。ふむ、力を封印するとは中々面白いことをするやつだな。この素戔嗚(スサノオ)、気に入ったぞ)」

 

 これで守谷神社も終わり!

 そして最後は博麗神社だ!

「こんにちは霊夢さん」

「あらフランこんにちは」

 軽く挨拶してから参拝だ。お金を入れると霊夢さんに「この子が神様か……っ!」とか言われた。

 ……神格を持ってただけに否定しづらい。

 と、それはともかくだよ!

「(デバイスが売れますように……!)」

 これで最後の祈願。

 両手を合わせて真剣に祈ると最後も声が聞こえてきた。

 

「(デバイス、へぇー! 勿論私も協力するわよぉ! フランちゃん可愛いもん! その代わりアリスちゃんとこれからも仲良くしてね!)」

「(おい神綺、程々にしておけよ。私だって魔理沙からこの子のことはよく聞かされてて加護を与えるつもりなんだから……)」

「(もー、魅魔ちゃんったらそれくらい良いでしょ? 私のお気に入りの子なのよ?)」

「(下手に加護をやりすぎると影響が出るんだよこの馬鹿!)」

 

 ……うん、気にしないでおこう。

 ともかく無事にお祈りは終わりました!

 あとは明日の発売を待つのみ!

 やれることはやった!

 

 

 #####

 

 

 四人が日記を読み終わったそのタイミング。

 空気を切り裂きスキマが出現し、中から一人の女性が現れた!

 

「……この時は困りましたわ。幻想郷に同時に神の加護が与えられたんですもの」

「げえっ!? 八雲紫!」

 

 妖怪の賢者にして幻想郷の創生者。

 ――――八雲紫である。

 しかし、シクシクと涙を流しての登場であった。

 

「もー……聞いてよ。仏陀にイエス・キリスト。伊弉冊(イザナミ)素戔嗚(スサノオ)、それから神綺(しんき)魅魔(みま)に……その他大勢からの加護が一斉に来たのよ!? 信じられるっ!? しかも対応したの私一人よ!」

「あー……えっと」

「それは……御愁傷様?」

「あの……その、妹がごめんなさい?」

 

「本当に大変だったわ……幻想郷始まって以来の出来事だった。ええ、今更ながらに思うとよく収めたものですわ……」

 

 そのままシクシク泣きながら八雲紫はまたスキマに消えていった。

 

「「「…………」」」

「……とりあえず次のページ、行きます?」

 

 静まり返った空間で、さとりの質問に一同は無言のイエスを示したのだった。

 

 

 



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十二月編6『物売るってレベルじゃねーぞ!』

 

 

 

 十二月一〇日

 

 

 西暦20××年、一二月一〇日、香霖堂が新型魔法器である『デバイス』の発売を前に、幻想郷人里の霧雨商店では多くの人が押し寄せていた。

 大勢の人が押し寄せる中、混乱が発生。怒号や悲鳴が飛び交った。

「オイこれ何とかしろよぉっ!!」

「押さないで! 押さないでください!」

「もう、モノ売るってレベルじゃねーぞ、オイ!」

 スタッフは懸命に人々を抑えようとするが人数が足りず失敗。

 最終兵器として発売までの三十分程、真横で突発的にアイドルのフランドールが「私の歌を聞けーっ!!」と叫び人々の注目を集め、ライブを行うことで人々の興奮をフランドールに向けることに成功。

 その後すぐに初期ロットが完売。それでもまだ買う客は大勢居たので生産ラインの見直しが必要と思われる。

 

 

 ……とまぁ、今日一日をまとめるとこんな感じだった。

 うん。今更だけど突発ライブはやり過ぎた感あるかもしれない。

 でもそれくらい人が集まってたんだ。

 というかお客さんを抑えるためにロープ張ったり、押さないでください! って言い回る役をしてたけど収まんなくてさ……。

 挙げ句の果てには人混みの中で誰かに胸とかお尻とか触られたし……ちょー最悪だよ!

 でも怒っちゃ駄目だから怒りを歌に変えて歌いました!

 集音魔法(マイク)の魔法を使って、ブラギの竪琴で弾き歌い。

 まぁかなり好評だったと思う。ライブ会場じゃないのにかなり皆楽しそうにしてたし。

 霧雨(父)からもお礼を言われた。

 いやー、でも売れて良かったよ。

 お客さんにも次の入荷は? って聞かれたし、張り切って作らないとね! 三十分程、覗きに来た霖之助さんもすっごい気合入れ直してたし!

 ともかくまずは私達も作れるようにならないと。

 よーし、頑張るぞーっ!!

 

 

 #####

 

 

「この時、私も買いに行きました。いや人多かったですよ。外の世界でのゲーム機の発売か何かかと思うくらい人が居ましたね」

「……そんなに人が多かったんですか。人混みだったからこそ痴漢に遭ったのかなぁ、フランさん」

「それよ! 本当に許せないわ、有罪(ギルティ)よ。いえ……それじゃ甘いか。これは……そう、戦争だろうが……っ! 思うだけならまだしも行動に移したなら戦争だろうが……っ!!」

 

 憤怒を表に出しながらレミリアが叫ぶ。

 心なしか鼻が尖り肩幅が広くなっているが、その言葉に早苗も頷いた。

 そして口元を吊り上げ目を狂気に染め、語り始める。

 

「その通りですよレミリアさん。

 

 私は『可愛い』が好きです。

 私は『可愛い』が大好きです。

 

 幼女が好きです。

 お姉さんが好きです。

 巨乳が好きです。

 貧乳が好きです。

 ツンデレが好きです。

 デレデレが好きです。

 ケモ耳が好きです。

 ロボ娘が好きです。

 妹が好きです。

 姉が好きです。

 

 この世のありとあらゆる可愛いが大好きです。

 

 さて、それを踏まえて質問します。

 あなた達は許せますか?

 金髪妹系ロリっ子純真賢い努力のアイドル吸血鬼フランちゃんの胸や尻に痴漢という邪悪な手を伸ばされる事が!

 

 そのような所業が許されて良いと思いますか!?」

 

「よく分かってるわね風祝! 勿論許されないわ! 戦争(クリーク)! 戦争(クリーク)! 戦争(クリーク)!」

 

 

『よろしい、ならば【戦争(クリーク)】です!』

 

 

 一方。

 

「……あの、霊夢さん」

「……なによ?」

 

 ワーワーと叫ぶ早苗とレミリアを他所にさとりは霊夢に話しかける。

 

「……次のページ、行きません?」

「……うん」

 

 本当に何とも言えない顔で霊夢は頷く。

 そんなの当たり前の話だった。

 

 #####

 

 

 十二月十一日

 

 

 デバイスが発売された翌日。

「あ、髪切ったんですか?」

 寺子屋に行くと副担任の先生が髪を切ってきたらしく割とさっぱりしていた。

「おぉ、昨日な」

 そんな感じで私の質問は終わる。

 で、数分後。

 後から来た女生徒のmさんも先生が髪を切ったことに気付いたらしく、自分の頭を指差して「頭、行ったの?」という言葉を尊敬語に変えてこう言ったんだ。

 

「あたまいかれたんですか?」

「あっ」

 

 …………………ニヤリ。

 

「あぁっ! 痛い! やめ、やめてください! グリグリしないでください!」

 

 凄い良い顔をした先生に頭を両拳でグリグリされてた。

 

 

 #####

 

 

「相変わらずノリ良いわねこの先生」

「……というか生徒の反応も良いからこそ出来るんでしょうね」

「あー、確かに。生徒も大げさに反応してくれたらギャグとして消化出来ますからね、教育委員会とかに問題になりませんし」

「楽しそうで良いわね」

 

 

 #####

 

 

 十二月十二日

 

 

 今日は久々にネットをやった。

 ぐーやさんにオススメされて2ちゃんねるってサイトだ。

 

 

1 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:45:21.25 ID:布都ちゃん!

さっきから5分毎に火災報知機が誤作動するんじゃ。

音めっちゃうるさくて堪らない。

うう、誰か助けて欲しい。

 

20 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:56:08.93 ID:布都ちゃん!

ごめんなさい。

火事でした

 

21 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:56:57.74 ID:ナズリンリン

なんだ火事か

 

22 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:56:57.74 ID:毘沙門天の遣い!

派手にやるじゃねぇか!

 

23 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:57:28.01 ID:地底の主

……火事ならしょうがないですね。

 

25 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:58:19.56 ID:マスタースパーク!

人騒がせだな

 

29 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 19:59:51.38 ID:おくぅおくぅ!

よかったね! (火災報知器が)壊れてなくて!

 

…………………………

……………………

……………

 

354 名前:以下、ゆかりんがお送りします[] 投稿日:20××/12/12(木) 23:56:50.51 ID:豊聡耳神子

あれ? やけに焦げ臭い……?

ああっ!? 神霊廟が! 神霊廟が燃えてるううううう!

 

 

 #####

 

 

「神子おおおおおっ!!」

「……あ、これ私もいたスレですね」

「居たとかそんなことより、というかこれガチの火事じゃないですか!」

「全焼だっけ? 確か」

「全焼はしてないわ。術で何とかしたとか聞いたけど……」

 

 何にせよ災難には変わらないわね、そう霊夢は呟いて次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十二月十三日

 

 

 なんか面白い人に会った。

 すっごい天邪鬼なの。お団子をすっごく美味しそうな顔で食べた後に「最悪に不味いわ、二度と来ねぇ」って言ってたから少し驚いたけどよく見るとツノ生えてたし多分妖怪の天邪鬼だよね? 天邪鬼といえば言ってることが逆転するから人との会話が難しそうなもんだけど、店のおじさんが「おうまた来い!」って言ってたしかなり打ち解けているらしい。

 試しに話しかけてみると面白かった。

「こんにちは、今日は雲ひとつない快晴ですね」

「誰だアンタ、あとそうだな、濃い雲覆う雨空だ」

 早速反転。うん、天邪鬼で間違いなさそうだね。

 

「私は吸血鬼のフランです。貴女は……天邪鬼ですか?」

「私は鬼人正邪だ。私は天邪鬼じゃあないさ」

「正邪さん。私のスタイルってどう思いますか?」

「ああん? いきなりなんだよ。えっと、金髪のナイスバディなお姉さんってとこか?」

「ほうほう……やっぱり天邪鬼さんですよね?」

「違うぞ」

 

 ほら、面白い人だよね。

 

 

 #####

 

 読み終わった四人の反応は芳しくなかった。

 

「ええー……私アイツ苦手なんだけど」

「……レジスタンス、鬼人正邪ですか。針妙丸さんをして『まさに外道』と言わしめた……」

「……端的にいえばテロリストですよね。あの人。幻想郷崩壊をもくろんで異変を起こしてますし、方法がえげつないですし」

「うわぁそんな相手と付き合いを持たないで欲しいんだけど……」

 

 いずれも微妙な顔つきである。

 しかしいつまでもそうしていられないので四人は次のページをめくった。

 

 

 

 

 

 



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十二月編7『射命丸文現る!』

 

 

 

 十二月十四日

 

 

 八雲紫が来た。

 物凄い恨みがましい目で見られたよ。

「あの、神々の目を幻想郷に向けないでお願いだから」

 とやたら真面目な顔と口調だけど滅茶苦茶疲れているらしい。

 神々って……身に覚え無いんだけど。

 えっ、まさか神社参拝が駄目なの?

 それとも知らない間に神様に目を付けられてた?

 うーん……どちらにせよ面倒な話だ。

 そもそも私って自分の立ち位置がよく分かって無いからなぁ。

 どうして神様に目を付けられてるのかも分からないし。

 ……うーん、やっぱり詳しい人に聞いてみようかな。

 今度イエスさんにメール送って聞いてみよっと。

 

 

 #####

 

 

「やめたげてよぉ!」

「一番やっちゃ駄目なやつ! それ一番やっちゃ駄目なやつですよ!」

「……本人視点だと気付いてないから至極普通のことなんだと思うんですけど、思うんですけどね……」

「……ねぇ、ものすごく今更だけど、何でうちの妹はあのイエス・キリストとメールしたりする仲になってるの? フラン、吸血鬼よね? 実は悪魔の皮をかぶった天使じゃないわよね? というかもうなんだこれっ!」

 

 レミリア、魂の疑問の叫びであった。

 

 

 #####

 

 

 

 十二月十五日

 

 

 射命丸さんが来た。

 どうやら私に取材がしたいらしい。

「ちなみに取材料はこんな感じで……」

 明細書を見せられたけど……うーん。

 ほら、私って霧雨プロダクションのアイドルなのよ。だからこういうのはプロデューサーの魔理沙を通してもらわないと困るんだよね。

 だからそういうと「そこをなんとか!」とお願いされた。

「なんでですか?」

「えっと……魔理沙さんは、その。値切りが酷くて……どんなに説得しても最後は弾幕ごっこで勝った方の言い値で買わせるので苦手なんですよ」

「なにやってんの魔理沙!?」

 魔理沙、それ値切りじゃない。値切りと言う名の意見の押し通しだ。

「同じ理由で霊夢さんも苦手ですね。まぁそっちはなんだかんだ取材させてくれるのでまだマシなんですが……」

 霊夢さんもかい!!

 ……あぁ、でも何となくイメージ出来てしまうことが悲しい。

 うーん、最初は頼りになる清楚なお姉さんだったのにガラガラと音を立ててイメージが壊れていくよぉ……。

「というわけでお願いします! どうか、この値段で!」

「……その場合、あとで魔理沙からの報復がくる可能性がありますけど良いんですか?」

「問題ナッシングです! 何故なら私は幻想郷最速のブン屋、射命丸文(しゃめいまるあや)! 逃げることに関して私の上をいく者は居ません!」

 ビシッ! と胸を張って敬礼する文さん。

 でも私、それ胸張って言うことじゃないと思うの。

 だけど約束した手前それを反故にするわけにはいかない。

「分かりました、取材を受けます。ただ変な質問には答えません」

「ありがとうございます! 流石人里で天使と名高いフランさんですね! 妙に輝いてみえます!」

 天使って……悪魔に言う言葉じゃないでしょうに。

「では早速質問をしましょう!」

 ともかく質問だ。しっかり答えるぞ、と構えると射命丸さんはこんな質問をぶつけてきた。

「スリーサイズを教えてください」

「スリーサイズーーーー、はぁ?」

「だからスリーサイズです! バスト、ウエスト、ヒップ! 教えてプリーズギブミー!」

「いや最初に変な質問は答えないって言いましたよねっ!?」

「その通り、別に質問に答える必要はありません」

 

 じゃあなんでそんな質問を?

 意味不明な問答に首を傾げた私だけど、直後その意味が分かった。

 具体的に言うと射命丸さんが発した次の言葉の後の動作で。

 

「じゃあいきますね? よっ、と」

 

 ――――ふにっ。

 よっ、という掛け声と同時に射命丸さんは一瞬にして私の後ろに回り、両胸をそっと掴んだのだ。

 

「――――へっ?」

 

 驚いたのは一瞬。

 だがその間に射命丸さんの両手がスライドし、胸から腰へ動く。さらにはお尻にまで。

 

「ふんふん、成る程。上から――――」

 

 私の慎ましい胸を触って射命丸さんは目測を付けてサイズを話し始める。

 その事態にようやく気付いた私は悲鳴を上げた。

 

「なっ、なんな――――!? い、いきなり何してくれてんですか!? 人の胸を触るなんて非常識です!」

「良いではないか良いではないかーっ!!」

「やっ、ひゃあ! ちょ、ちょっとやめてください!」

「ここか! ここがええんかーっ!」

「ひゃああっ!? ふ、服の内側に手を入れないで下さい! そ、それになんか手付きがえっちぃです! い、良い加減にっ……!?」

 

 ぶっ倒しますよ!? と言い切る前に射命丸さんはピタリとその手の動きを止めた。

 あれ? 私が首を傾げて射命丸さんを見るとどうも様子がおかしい。

 顔からはダラダラ冷や汗が垂れていて、少し青ざめている。

 どうしたんだろう。気になった私は、射命丸さんの視線を追って――気付いた。

 

「ふふふっ、どういうことか説明頂けますか?」

 

 そこにはナイフを構えたメイド服の女性が居た。

 銀髪のメイド、咲夜だ。彼女がナイフを構えて笑顔でこちらを見つめているのだ。

 その視線は真っ直ぐと射命丸さんに向けられていた。

 

「あ、あのええっと……私悪い烏天狗じゃありません、ヨ?」

「ふふふっ」

 

 顔面蒼白になった射命丸さんが何とか絞り出した声に対する返事は咲夜の笑顔だ。

 いや、それだけじゃない。

 笑顔の咲夜が持つナイフの切っ先が全て射命丸さんに向いていた。

 その答えを見た瞬間、射命丸さんが叫んだ。

 

「さ、三十六計逃げるに如かず!!」

「逃すと思う?」

 

 あばよ十六夜っつぁん! そう叫んで射命丸さんの姿が搔き消えるのと咲夜が動いたのは同時だった。

 

「ザ、ワールド! 時よ止まれ!」

 

 ほんの一瞬で残像を生み出し窓の外から数百メートル飛び去っていた射命丸さんの姿が凍り付く。

 それから咲夜は彼女の進行方向に念入りにナイフの弾幕を設置した。またパチュリーお手製の捕獲魔道具などをいくつも仕掛け、やがて咲夜は腰を痛めそうな体勢で叫んだ。

 

「――そして時は動き出す」

 

 瞬間、射命丸さんのつんざくような悲鳴が響いた!

 

 

 #####

 

 

「文あああああッッ!?」

「いくら早くても時間を止められたら回避出来ない……そう考えると咲夜さんってつくづくチートですよね」

「そうね、まぁ私の従者だもの。それくらい当然よ!」

「……エゲツない、というかフランさん時が止まった世界を……」

「さとり、それこそ今更でしょ」

 

 四人の感想はそんなもんだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月十六日

 

 

 魔理沙からお仕事の話が来た。

 クリスマスイブにライブをするらしい。

 今年最後のライブなんだとか。ミニスカサンタだぜっ! って言われた。

 

 あと紅の幽霊楽団に一人新メンバーも加わったとか。

 私の知り合いらしいけど誰だろうね?

 

 それとライブ後にプレゼント企画&握手会もやるらしい。

 具体的に言うとライブ前に私のグッズを売って、その中に握手券とプレゼント企画参加券が入ってるのだとか。

 なんか稼ぎ方が本当にそれっぽくなってきたね……。

 というかグッズ販売かぁ、そんなに有名になってたなんて気付かなかったよ。

 でもグッズ化されるってことはそれだけの期待も掛けられてるんだよね。なら全力で頑張らないと!

 でも不安だなぁ。握手会0人とか嫌だよ、私。

 ともかく十二月二四日のライブ、頑張らないとなぁ……。

 

 

 #####

 

 

「あぁ、ありましたねーライブ。クリスマス&年末ライブでしたよね」

「……この回ですか、思い出深いですね。特に私にとっては」

「私も協賛で行ったわね。あれは楽しかったわ」

「……私だけ知らないんだけど……」

「「「あぁ……」」」

「こらそこっ! 生暖かい顔で私を見るなーっ!!」

 

 なんか可哀想なものを見るような目で見つめられたレミリアは手をブンブン振って怒る。

 しかしその様子を見て早苗はこう思った。

 

(……今度のライブ、一緒に誘ってあげよう)

 

 同情ではなく、友達として。

 そう人知れず決意した早苗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十二月編8『レミリアちゃんがキレたの巻』

 

 

 

 十二月十七日

 

 

 久しぶりに暇が出来たので妖怪の山に行った。

 目的はにとりさんのところだ。理由としては結局まだ電子機械についての勉強も途中だったし、これを機に何か覚えれればと考えてのことだったりする。ついでに最近性能が壊れてきたAIBOも一緒だ。

 早速教えを請うとなんか交換条件を出された。

 ほら、ついこの間にデバイスを発売したじゃん。その様子を見て河童も何か作らないか考えていたみたいで、香霖堂と提携出来ないか伝えて欲しいんだって。

 いやこれはラッキーだよ。だって河童の技術力は幻想郷一だもん。

 私も思わずその場でガッツポーズしそうになる好条件だね。

 とはいえ私はバイトに過ぎないから霖之助さんに伝えるだけに留まるんだけど……。

 まぁ話を戻そうか。

 ともあれ伝達の件を了承した私は早速にとりさんから機械に関して教えてもらった。

 ……ついでににとりさんの憧れらしい、スティーブ・ジョブスさんの話をすっごい聞かされたよ。

 コンピュータを作った神様だとか、彼は生まれた時から養子に出されるという奇異な運命をしていたんだ、とか。他にも伝説をつらつらと。お陰でスティーブ・ジョブスを知らないのに略歴が言えるようになってしまった。耳にタコができるってこのことだね。

 また話が脱線した。

 と、ともかく今回私はまずAIBOを見てもらうことに。

 なんか最近AIBOのディータが妙なんだよね。性能がおかしいっていうか、どんどん知識とか技術とかを吸収していくの。

 掃除やってって命令したら私と同じくらいの手際で掃除するし、お姉様に紅茶を淹れてといったら紅魔館の茶葉倉庫からお姉様好みの銘柄を適量持っていって、正しい温度で一秒の狂いもなく紅茶を淹れるし。

 最近は二足歩行をし出したし……、昨日なんか宙を浮いてたし。

 いや、もうこれね。

 絶対おかしいよ!? 外の世界の機械ってこれが標準なの!? しかも霖之助さん曰くもう型落ち品とか言ってたよ! 一昔以上前の機械でそんなオーバースペックなの!?

 ……とまぁ気になったわけだ。で、にとりさんに見せるとこういう返事が返ってきました。

「ひゅい!?」

「どうしたにとり!」

「き、機械が物理的に成長してる……!? えっと、人工知能みたいに学習して成長するんじゃなくて部品そのものが自ら成長してるんだ!」

「何それ気持ち悪いっ!?」

 いや何よ機械そのものが物理的に成長してるって! 体のサイズは変わってないよ!? 何をしたのディータ! 何を思ってそんな変化してんのディータ!?

『多々成長シナケレバ生キ残レナイノデスヨ。紅魔館デハ』

「ひゅい!? 普通に会話しだしたぁっ!!?」

『……イヤ、ソレクライデ驚カレタラ困リマスガナ。ソモソモAIBOハ環境ニヨッテ異ナル成長ヲ遂ゲルロボットデッセ。ワイカテ、例外チャイマスヨ?』

「そして謎の関西弁だーっ!? というか紅魔館に関西弁使う人居ないよねっ!? 環境がとか言ってるけど明らかに環境関係無いよねっ!!?」

『ナンデヤ! 阪神関係無イヤロ!』

「誰も阪神の話してないよねっ!!?」

 叫んで私はゼーハーゼーハーと息を整える。にとりさんも戦慄の表情だった。

 駄目だ。どうやらディータは最早理解出来る領域を超えた成長をしているらしい。機械に持ち主が振り回されるってなによこれ!

「……ごめん、盟友。これ無理」

「…………こっちこそなんか、ごめん」

 なんか微妙な空気になった。

 そんな感じの一日だった。

 

 #####

 

 読み終えた霊夢は難しい顔で呟いた。

 

「絶対にAIBOという皮被った何かよね、ディータとかいうの」

「せやかて霊夢」

「……急に関西弁使い出してどうしたんですか早苗さん」

「ちょっと冗談です、てへっ♪」

 

 てへっ、と舌をチラリと出して可愛こぶる早苗だが、レミリアはそれを見て正直に言う。

 

「うわきっつってあばばばばっ!!?」

「そんな事を言うお口はこのお口ですかー?」

「や、やめ! あぅっ! ふふぇふぁふぉ!」

 

 瞬間、早苗の必殺技。お口広げがレミリアに炸裂した!

 

 #####

 

 

 十二月十八日

 

 

 お姉様は朝から元気だ。なんだか上機嫌で朝食を凄い食べてた。

 お菓子も沢山食べたらしい。

 上機嫌のワケを咲夜に聞いてみるとなんでも霊夢さんから宴会に誘われたんだとか。なるほど。

 でもその宴会、私もっと前から誘われてたんだよね。一月一日新年の宴会。すっごい笑顔で一週間前くらいに誘われた。

 問題行動をしないしお賽銭入れてくれるし遊びに来たらお土産を持ってくるからアンタは信頼してるわ! 是非来て頂戴! って。

 ……なんか欲に塗れてる気がするけど、大まか一般常識だと思うんだけどそこまでの事かなぁ?

 とりあえずお姉様にその話はしなかったけど、良かったのかな?

 まぁ本人が幸せそうだからいっか。

 わざわざカレンダーに印まで付けちゃって、お姉様可愛いなぁ。

 しかもこっそりやってるあたり萌えポイント抑えてるよね。前に罪袋さんが言ってたけど、なんでもお姉様のタイプは『大人を気取るれでぃ(れでぃはひらがな)』らしい。

 勿論真面目な時は違うけど普段はそうやってるとか言ってた。

 あと、それが幼女(みため)を最大限に発揮した吸血鬼魅力(デビルチャーム)らしく理に適ってるとか眼鏡をかけた褌の人が分析してた覚えがある。

 その人はやたら霖之助さんに似てたけど別人だ。気の性質が違かったし。

 まぁとうの本人はデバイスの開発で忙しくて今は自由時間なんか無いんだけどね。

 

 そういえば、宴会に何を持って行こうかな。

 お土産、悩みどころだ。皆お酒は持っていくだろうしツマミが良いかな?

 まぁ幾つか揃えていけば良いかな。思い当たるやつ。あまり多く持って行きすぎると相手方が困るから程々に抑えなきゃいけないけどね。

 

 

 #####

 

 

「………………ゃ」

 

 読み終えたレミリアの肩がプルプル震え始めた。

 下を向いてしばらく何も言わなかった彼女だが、やがて。

 クワッ!! と、目を見開き叫ぶ!

 

「やっぱりかコンチクショーッッ!!」

「れ、れみりあ?」

 

 あれ、泣いてるパターンじゃないの? 思ってたのとなんか違う反応に少し霊夢はキョドッた。

 

「もう慣れたわよ! 薄々気付いてたからァ! どうせこんな事だろうと思ってたわよ! 今まで散々似たパターンで半泣きにさせられてきたから流石に慣れたもん!」

「ちょっ、レミリアさん落ち着いて下さい!」

 

 子供のように。

 叫び始めたレミリアを見てこれいつもと違う、と理解した早苗が止めようとするが彼女は止まらなかった。

 

「うるさいうるさい! 毎回毎回フランが先なんだもん! もう読めてたから! こんなの、こんなの分かってたからっ!!」

「……レミリアさん、落ち着いて」

 

 急に叫び出したレミリアにさとりも落ち着くよう声をかけるが彼女はフルフルと首を横に振る。

 

「……落ち着ける、わけないでしょ」

 

 そう言う彼女は少し震えた声で。

 同時に複雑な思いが爆発したような、不平不満を垂らすような語気をしていた。

 そして彼女の体を妖力が包み込む。

 

「一年間ずっとそうだったから。ずっとずっとフランが優先されて、紅魔館の当主は私なのに。カリスマの権化なのに……それなのに――――っ!!?」

「落ち着けっつってんでしょうが!!」

 

 瞬間だった。

 パンッ、という乾いた音を響かせて霊夢がレミリアの頰を張った。

 かなり力で張られたレミリアは尻餅をつく。

 

「っ!!?」

「子供かアンタは。ワーワー騒いでんじゃないわよ。さっきから不平不満をぶちまけてたけど、言葉だけならともかく妖力使うってんなら私は博麗の巫女としてアンタに対応するわよ!?」

「叩いた……? っ、う……、この私を?」

「今更気取ってんじゃないわよ! もしその対応続けるってんなら次はグーで叩くから!」

 

 床に尻餅をついてレミリアが叩かれた頰を触って信じられないものを見るような目で霊夢を見た。

 霊夢は怒りの口調で対応する。宣言通り彼女の手の形は拳に握られていた。

 

「……レミリア、もしアンタに一欠片でもカリスマとかプライドってモンがあるなら逆ギレしないでよ。さっきアンタが言ったこと、フランが優先されるって言ってたけどそんなの当たり前でしょうが。あの子は努力してアンタはしなかった、その差なんだから! なら問題は全部アンタの怠惰でしょうが!」

「そ……んなもの全部頭じゃ理解してるわよ! でもそれで吞み込めるわけないじゃない!! そもそもあんた達もやり過ぎなのよ! 事あるごとに私ばかり『駄目な子』だって思わせるような態度を取って! 子供扱いばかりして! 良い加減私も腹が立ってるのよ!」

「それこそふざけないでよ。そう認識してる時点で今のアンタ、すっごく格好悪いわよ。カリスマ? はっ、誰が? 子供じゃないって言ってるけど今のアンタは子供そのものよ! 自分の言い分が通らなきゃ文句言えば良いと思ってる。何でそれが分からないの!?」

 

 話は平行線だ。お互いが譲らない。

 発言内容だけを省みれば霊夢の方に分があるが頭に血が上っているレミリアはその言葉を聞き入れようとしない。

 しかし頭の回転が止まったわけでは無いらしく霊夢の言葉は確実にレミリアに効いていた。

 

「わ、私は紅魔館の当主よ! 当主だからこそ紅魔館の中で私が一番じゃなきゃ駄目なの! それに私は誇り高き吸血鬼の……!」

「論点をズラすな! 当主だから何よ、当主だったら無条件に自分の支配圏で最強だなんてそれこそ子供(ガキ)の理論よ! 誇り高き吸血鬼だかなんだか知らないけど、何でそんな肩書きに拘るの!?」

 

 徐々に論破され、レミリアの返しが鈍くなっていく。

 

「れ、レミリア・スカーレットは……!」

 

 そして、完全に言葉に詰まりかけたレミリアに対し霊夢は尋ねた。

 

「レミリア、よく聞きなさい。アンタは誰なの?」

「…………っ!?」

「紅魔館当主? カリスマの権化? 誇り高き吸血鬼の王? 違うでしょう? アンタはっ、レミリア・スカーレットでしょうが!!? 肩書きなんか関係無いレミリア・スカーレットじゃないの!!? 別にレミリア・スカーレットは紅魔館で一番優遇されているやつの名前じゃない、ましてや紅魔館で一番強いやつの名前でも無い! それくらいアンタなら理解してるでしょうがっっ!!」

 

(……あっ)

 

 頭をガツンと殴られた気分だった。

 その叫びでレミリアの思考が戻ってくる。同時に、自分がしていた事の意味を彼女は正しく認識した。

 レミリアがやったことは単純だ。

 折角大好きな友達に呼ばれたパーティだったのに、実は自分より妹の方を先に誘っていた。

 それに気付き、今までの積もりに積もった感情も相まって抑えきれなくなり子供のように喚き散らし――他ならぬ霊夢に論破されて、説教された挙句涙目になっている。

 次に彼女を襲った感情は自身を殺したくなるほどの羞恥だった。

 

「くっ……殺せ! もういっそ殺せ! うわあああああッッ!!」

「なんでそうなったんですか!?」

 

 恥ずか死ぬとはこの事か。

 早苗のツッコミを完全無視でレミリアは悶える。

 何だこれは。本当にただの子供じゃないか! 普段から散々カリスマがどうのこうの言っておいてなんだこの逆ギレは!?

 真っ赤になって転げ回るレミリアを見て早苗がオロオロする。さとりは何か察したような顔つきで、霊夢は溜息をついていた。

 

「うわああああああああッッ!!?」

「……その、元気出してください」

「殺せぇ! 殺せ殺せ殺せぇっ!! もういっそ殺しなさい!」

「あーうん、論破してなんだけどキャラ崩壊も甚だしいわよアンタ!?」

「うるさいうるさいうるさい! ううううううううう!!」

 

 それから悶える事二十分。

 その間に早苗が「あっ、やばいそろそろフランさん戻ってくる。また適当に修復案件作って電話しなきゃ!」と今度は「エクスプロージョン!」と叫び、奇跡で紅魔館の門の真上から燃え盛る隕石を落として門を跡形もなく吹き飛ばし爆心地を作ったり、さとりが「……ワー隕石ッテ初メテミマシター」と死んだ目で呟いたり、霊夢が「ナイス爆裂!」と親指を立てたりというイベントを挟み込んでようやくレミリアは復活した。

 

「……うー……」

「あっ、正気に戻った」

「良かったです!」

「……いや明らかにサラッと流したらいけない光景が今流されましたよね!?」

 

 さとりが何か言っているがレミリアにはよく分からない。

 今の今まで悶えていたので他の人の声など耳に入っていなかったのだ。

 まだ頰から赤が引ききらないレミリアは、僅かに涙の溜まった目で三人を見て頭を下げた。

 

「……その、ごめんなさい」

 

 頭を下げて、また上がると早苗とさとりは優しい笑顔でレミリアを見る。

 そして霊夢は、

 

「――そ。こほん、分かったなら、ん〝ん〝ッ、良いわ」

 

 何とも煮え切らない反応でそう言った。

 レミリアがなんでだろう? と首をかしげると霊夢の横に来た早苗がコソッと呟く。

 

「霊夢さん? 霊夢さんも謝るんでしょ?」

「わ、分かってるわよ!」

 

 二人とも小声だったがレミリアの吸血鬼(デビル)イヤーはその声をしっかり聞き取っていた。

 そして、霊夢はレミリアの前までくるとバツが悪そうに頭を下げる。

 

「その……私も、悪かったわよ。アンタを弄り過ぎた、こと。嫌だったなら、もうしないから」

「―――――――」

 

 予想外の言葉だった。一瞬、呆気に取られたレミリアはパチパチと瞬きすると霊夢を見る。モジモジとして、落ち着きが無い様子だ。

 それから言葉の意味を理解したレミリアは、クスリと笑みを浮かべた。

 

「――うふふっ、あははっ、あははははっ!!」

「な、何がおかしいのよ!?」

「だって霊夢よ? あの傍若無人で知られる博麗霊夢が頭を下げたのよ? あははっ、まさかそんな心持ちがあったなんて、思わな、あはははっ! プークスクス、面白っ!」

「馬鹿にしてるの!? このっ、人が下手に出れば調子に乗りやがって! あーもうちょっとでも優しくしてやろうと思った私が馬鹿みたいだわ! もう決めたから! もうアンタには金輪際フランと同じ対応なんてしてやらないからっ!!」

「ちょっと待ちなさい! わ、笑っただけなのに!? ちょっ、それは卑怯でしょ!!」

「卑怯じゃないですー! 笑ったアンタが悪いのよ!」

「卑怯よ! だってこんなの私じゃなくたって笑うから!」

 

 そうやってワーワー騒ぐ二人の顔は、言葉とは裏腹に二人とも笑顔であった。

 その様子を見てさとりは言う。

 

「……なんだかんだ仲がよろしくて良いですね。ちょっと羨ましいです」

「二人に言ったら絶対認めようとしませんけどね。まぁ二人はこういう方が良いですよ」

 

 対して。

 LINE通知で送られて来た『めーりんがボロボロで倒れてるんだけど何があったの!? 紅魔館に爆弾でも落ちたの!?』というフランからのメッセージを見なかったことにして、早苗はそう返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話

 

 今回は閑話です。
(注文してたムーン届いたし、ログレスのバージョン来たしで文字数も少なめです)



 


 

 

 

「……はぁ」

 

 四月二十日。幻想郷では桜がポツポツと咲き始め、いよいよ春本番といった麗らかな日。フランドールはそんな日に似つかわしくない溜息を吐いていた。

 その原因は分かりきっている。彼女はつい先程入った電話を思い出した。

 ――お姉様のベッドを修理したと思えば今度は門かぁ。

 ……今日はお姉様(レミリア)と霊夢がお茶会すると聞いていたが、途中で早苗とさとりが加わったらしい。

 皆知り合いなので挨拶くらいおきたいフランだが、しかし。

 なんか電話の口調もやけにフランを遠ざけるようなものだった。それに要求もいつもよりイジワルな気がする。

 勿論彼女も主人の妹という立場だが、それでもメイドとしても働いている以上ベッドなどの修理に文句は言わない。むしろどんとこいである。

 しかし、しかしだ。

 

(……ベッドならともかく、門って規模が大きいよね?)

 

 むしろどうやって壊したのかが非常に気になる。

 弾幕ごっこでもしていたのだろうか。にしたってそれを丸投げしてくる根性が少し気に食わない。

 フランにとって修理自体は不可能なことではなかったが、先程から感じているこの妙な感じが彼女の仕事感情を阻害するのだった。

 

(……まぁ仕事はしないとね)

 

 気になるけど話さないってことは『()()()()()()』だろうし。フランはなんとなくそう判断した。

 それは彼女が美鈴から教わった『気を使う力』の副次効果とも呼べる『察する力』である。

 とはいえ、

 

「……ま、咲夜の真似して後で把握しておけば良いよね」

 

 なんだかんだ気になる気持ちを捨て去れないフランは、瀟洒な笑みを浮かべるとそう決意し、直後転移を試みたのだった。

 

 

 #####

 

 

 移動は一瞬だった。

 目を閉じて――開く。

 それだけで彼女の視界はそれまでのにとりの工房内部から、真っ赤な壁紙とカーペットの敷き詰められた豪華絢爛の紅魔館内部へと変わる。

 レミリアの部屋だ。

 

「さて、と。お待たせしました」

「あ、フランちゃんお帰りなさい」

「……お帰りなさい、フランさん」

「あ、待ってたわよ」

「うううううああああああッッ! 殺せっ、殺せえええ」

「何事っ!?」

 

 レミリアの部屋へと転移すると三人の出迎えの声が聞こえてきた。

 が、それよりも顔を真っ赤にしてのたうち回るレミリアを見てフランは目を丸くする。

 いや、本当に何事なのか。

 いつもカリスマだ吸血鬼王だ、とやたらプライドを気にする姉だ。それが今では顔を真っ赤にして頭を抱きしめるようにして地面にゴロゴロ転がりながら「殺せえええ!」と叫んでいる。

 これを異常と呼ばず何と言うか。

「ちょっとちょっとお姉様? 大丈夫?」

「WRYYYYYYYY!!」

「駄目だ話が通じない!」

 揺すって声を掛けてみるが奇声を上げるばかりである。

 もしかして壊れたのだろうか。心当たりは幾つかある。とりあえずいつものカリスマブレイク(かりちゅま化)ではないのは理解したがこのままにしておくと他の三人にとっても迷惑だろう。

 そう思って三人の方を見ると、三人はなんとも言えない顔でこちらを見ていた。

 

「あー、どうぞ。レミリアさんは気にせずベッドを置いてください」

「……はい、少し霊夢さんが苛めすぎてしまって」

「別に苛めてないわよ。ま、まぁ落ち着かせるくらいはやったげるから、フランは自分の仕事をして頂戴」

「んー、そうですか? じゃあお任せしますけど……」

 

 三人が言うなら無理に叩き起こす必要は無いだろう。

 じゃあ仕事の続きをしようか、フランは元の位置にベッドを置き直すとメイド服の裾を掴んで三人の前で丁寧に頭を下げる。

 

「では、ごゆるりと」

 

 そして扉を出て、閉めた彼女は今度は門の前に転移した。

 

(というか門が壊れたってめーりん大丈夫かな……)

 

 ……そんなことを思いながら。

 

 

 #####

 

 

「…………、(絶句)」

 

 茫然自失という言葉がある。

 意味はあっけにとられて我を忘れてしまうことだが、それは現在のフランドールにも適用された。

 理由は単純。

 紅魔館の門前。

 門があった筈の場所はまるでその場所に爆弾でも落とされたかのような爆心地と化しており、その端でめーりんが、チーンという言葉が似合いそうな倒れ方で伏していた。

 

「…………ぐふっ」

「うわあ、うわあーっっっ!! めーりぃぃぃんっ!!?」

 

 フランは慌てたように駆け寄ると美鈴の無事を確かめる。

 どうやら無事らしい。「ヤムチャしやがって」と本人が呟いて倒れ伏していたので多分無事だと思う、フランはそう判断した。

 

「門が壊れたって聞いたらこれだよ! 本当に何が起こってるの!? 爆心地で倒れてるとかシャレにならないからね!?」

「ちょ、け、結構キツかったんですよ本当に。いきなり燃え盛る隕石が降り注いできたんですから!! 門を守ろうと立ち塞がったは良いものの流星群のように降り注いでくるもので、防ぎきれずさっきまでは本当に気絶してましたから!」

「……門じゃなくてめーりんが怪我してるのを怒ってるの! 危ない事しないで! 門は壊れても治せるけどめーりんの命は一つしか無いでしょ!?」

「……い、妹様」

「ともかく無事で良かったよ! で、お姉様からのお達しだけど、さっさと門を修復しろ、だってさ。早速修復するよめーりん!」

「は、はい!」

 

 慌てたような返事を聞いてフランは微笑む。

 日記を読む四人の裏で、こんな一コマがあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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十二月編9『ヒーローショー』

 


これぐらい好き勝手やるとどこか楽しくなってきた作者です。


 


 

 

「……うー、良いから始めましょ」

 

 二十分の停滞とフランの帰宅を挟み、ようやくレミリアが復帰したのを確認して一同は読み始めることになった。

 

 

 

 十二月十九日

 

 

 魔理沙が紅の幽霊楽団のメンバーを連れて紅魔館に来た。

 なんでも次の「一二月二四日のライブ」に向けて新メンバーとの顔合わせを済ませたいらしい。

 ……そういえばそう言ってたね、前に。

 ちなみに新メンバーって事は現在、私と魔理沙しか所属していない霧雨プロダクションに所属する新メンバーになるんだけど、魔理沙曰くかなり期待出来るらしい。

 かつて世界一位になった事もあるとか。何の世界一位かは知らないけどきっと凄い人なんだろうね!

 で、色々な前置きを踏まえてようやく呼ばれた新メンバーは――

 

「貴女の後ろにいまーす!」

「残像ですけど……」

「はうあっ!?」

 

 何故か電話を抱えた古明地こいしちゃんだった。

 前に見た時のキラキラオーラはまだ健在で後ろに回られたのが簡単に分かってしまう。なんか無意識を操るらしいけどまだそんな素振りを見た覚えはないのが少し物悲しい。

 こいしちゃんとは会ったのかなり前だよね。日記を付け始めた頃以来じゃない?

 ともかく他のメンバー、プリズムリバーの三人とお互い挨拶して紅魔館で歓迎パーティーをした。

 その時に魔理沙となんかコント? をしてたよ。

「私は去年は何位ー?」

「一位だぜ」

「今年は何位ー?」

「一位だぜ」

「よしんば三位だったとしたら?」

「世界、一位だぜ」

 ……なんだろう、よく分からない。

 とりあえず二人が楽しそうで何よりだ。

 でも一つ疑問があるんだよね。前に会った時に無意識を操れなくなったってこいしちゃんはどっちかというと世界一位をあまり好んでなかったのにどんな心境の変化があったのかな?

 聞いてみるとこんな返事が返ってきた。

「……世の中には知らない方が良いこともあるんだよ?」

 その時のこいしちゃんの目の中からはハイライトが消えていた。

 きっと、何かあったんだろう。でも突っ込むべきじゃないよね?

 まぁ新メンバーとしてはかなり良い人選だとは思う。割と本気で。

 でもどうせなら姉のさとりさんも連れてこれないかな? あの人も見た目すっごく可愛らしいからさ。美少女姉妹で出せたら売れそう。

 ……まぁそれを言ったら私もお姉様を連れて来いって話だけど、絶対嫌がるからなぁ。

 目立つのは好きでも「目立ってナンボですわ!」ってキャラでも無いし。

 ともかく新メンバーを加えた新生、紅の幽霊楽団爆誕だ! 皆で頑張ろう!

 

 

 #####

 

「私は去年は何位だった?」

「一位です」

「今年は何位かい?」

「一位です」

「よしんば私が二位だったとしたら?」

「世界、一位です」

「……いや、何やってるんですか霊夢さんに早苗さん」

「だって世界一位のネタなら私の十八番(オハコ)でしょうが! 一回一位を取っただけのやつが使って良いネタじゃないわ!」

「いや、だからそのネタが分からないんだけど……」

 

 真面目な顔つきでまくし立てる霊夢に対し、訳が分からないわと呆れ顔のレミリアだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二〇日

 

 

 ルーミアさんと昼食を食べた。

 ルーミアちゃんじゃなくてルーミアさんだ。偶にルーミアちゃんがルーミアさんに体を貸して自由に使わせてくれるんだって。

 それで人里に最近出来たらしい、外国人の外来人が立てたらしいイタリア料理のお店に入った。

 表の看板に『お客様しだい』って書かれててさ、最初は意味が分からなかったけど後でよく分かったよ。

 どうもこのイタリア料理のお店、メニューが無いらしい。お客様を見て料理を決めるんだとか。前に咲夜がやってるのを見たけど、相手の顔色を見て最も良い料理を作るってやつだね。

 待つ間にルーミアさんも交えてお話しした。

 どうやら二人とも仲良く暮らしているらしい。前に起こった出来事を考えると二人とも仲良くしているようで何よりだ。それにルーミアさんとっても強いからもしルーミアちゃんの身に何か起こっても何とかなるしね。

 

 あ、そうそう。食べた料理だけどすっごく美味しかったよ。

 ルーミアさんが余りの美味しさからか「ンマアアアイ!!」とか叫んだ上に体のあちこちが治ったとか騒いでたけど。

 ……淑女としてあれはどうなの? 確かに物凄く美味しい料理だけどさ。

 

「It was very delicious. Where did you train?(とても美味しかったです。どこで修練を積まれたのですか?)」

「In Italy. In the outside world I was cooking a Itary specialty shop.(イタリアです。外の世界ではイタリア料理専門店のコックをしていました)」

「Really?(本当ですか?)」

「Yes(えぇ)。それと日本語でも話せますよ」

「あら、そうですか」

「えぇ。ご満足いただけたようで何よりです。それにしても貴女はとても素晴らしい食生活をされているようですね。私の目から見ても悪い部分が見当たりません。さぞ高名な料理人の料理を召し上がっておられるようだ。私も感服しましたよ。さて、またのご来店をお待ちしております。グラッツェ」

 

 やっぱり咲夜と同じく相手の姿から最も適切な料理を出すタイプの人だったんだね。そりゃ美味しいわけだ。

 でも外来人ってよく妖怪の餌になったりしてるけどよく無事だったね?

 それを聞いてみると「多少心得もありますから」と笑顔で返された。確かに凄い筋肉質な人だよね。

 でも妖怪に使える心得って……か。

 やっぱりこの人の『目』が二つあるのが関わってるのかな? 普通の人間は壊す為の目は一つしかないのに、ね。

 まぁそれ以上詮索すると人の切り札を暴く真似になるからやめておこうかな。

 ともかく美味しかったです、ご馳走様でした。

 

 

 #####

 

 

「あー、ありましたね。幻想郷じゃイタリア料理なんて食べれないから私も行きました。最近じゃ美容効果もあるって噂になってて凄い人気ですよね。トニオさんのお店」

「へぇ、そんな店があるの? 知らなかったわ」

「レミリアさんは生まれが外国でしょうし一度行ってみてはどうですか? 良ければ案内しますよ?」

「あぁ、ありがと。その時は頼むよ」

「……イタリア料理ですか。私も食べてみたいものです」

「私も行ったこと無いのよね。イタリア料理かぁ、ちょっと食べてみたいわ」

「あっ、じゃあ今度全員で行きませんか? 折角の日記を読んでる縁ですから!」

 

 

 #####

 

 

 十二月二十一日

 

 人里でヒーローショーをするらしい。

 暇潰しに観に行こうかな、と行ってみるとどうやらヒロイン役の人が病気欠席したらしく偶々目に付いた私がお願いされてしまった。

 女優体験と思えば楽しいかもしれないけどいきなり過ぎて正直ビビったよ。

 で、気になる話の内容だけど。

 

 まずは女の子、マホが病気になったお母さんの為に薬草を取りに妖怪の蔓延る人里の外に行く事になるんだよ。でも人里に出る為には人里の周りをグルリと囲む五〇mの壁を抜けなきゃならない。その為に外へ繋がる門を守る門番と話を付ける必要があるんだけど、子供であるマホを通すわけもなかったんだ。

 しかし諦められないマホはまず国の軍隊の駐屯所から許可をもらう事を考える。でもそれは失敗して門前払いされてしまって、その後マホは人を動かすにはお金だと考えて門番達に金を握らせて通してもらう事を思いついた。でも一般階級のマホの家にはとてもそんなお金は無い。だからマホは付近の雀荘で博打をする事に。カン、もう一個カン、ツモ。嶺上開花と暴れまわるマホは、最終的に利根川という男とマホの身体とお金を掛けてEカードと呼ばれる勝負を行う事になった。負けが続いて危うく奴隷にされそうになるマホだが何とか勝利して、ようやく意気揚々と門番の元に向かうけど門番はなんでも喉が渇いているから通さないとか言い出す。そこで水を手に入れて渡すが「こんなのいらん。ロマネコンティもってこい」と言われてしまう。仕方なくロマネコンティを探すマホだがロマネコンティは最高級のお酒。簡単に見つからず途方に暮れていると、魔女教とか言われる宗教に誘われる。もう母を助ける為には神にでも縋ろう、と思ったマホがついて行くとそこでロマネ・コンティという男と出会った。ロマネコンティである。マホは「この人を連れて来いって意味だったのか!」と理解し、母親の事情を話し協力すると申し出てくれたロマネ・コンティを連れて門番の前に行った。

「仕事をサボるとは、アナタ、怠惰デスね?」

 そんなロマネ・コンティの優しい説得によってようやく人里の外に出る事に成功する。

 そして目的の薬草を手に入れる為にマホの旅が始まった。

 山を越え谷を越え火山を潜り抜け氷の大地を生き抜いた。そうした果ての世界でようやくマホは薬草を見つける。

 しかしその薬草を手に入れるには守護者と呼ばれる敵を倒す必要があった。マホは果敢に挑むも所詮は人間の女の身。妖怪の如き強さを誇る守護者には勝てない。

 もう駄目なのか……敵の手に落ち諦めかけたマホの目の前に、救いのヒーローが現れる。

 

 ……うん、こんな感じだ。

 とりあえず一言言わせて欲しい。長い! 長過ぎる! でも原案ではここにさらに色々と物語が付け加えられていたらしい。

 ……まぁやったよ。精一杯やりましたよ!

 

「マホ、負けません!」

「ぬわーッ!?」

 

 全力で演じたよ。うん。

 そして本日のハイライトも書いておこう。ヒーローの登場シーンだ。

 

 

「その程度か、勇者マホよ」

「もう……マホは、駄目です。だって、こんなの……っ」

 

 諦めかけたマホの目から色が失われていく。

 ダラリと伸びた腕は交戦する気も起きない事を表していた。

 だが、その時。一つの声が響いたのだ!

 

『諦めるな!』

「誰だお前は!?」

 

 響いた声にマホを倒した守護者が反応する。

 同時、こんな音が聞こえてきた。

 

 デーデッデーデレッデ!

 

『地獄からの使者。スパイダーマッ!!』

 

 そして現れたのは、ヤマメさんだった。

 

 』

 

 終わってから言うのもアレだけどよく拍手もらえたよね。

 このヒーローショー。

 

 

 #####

 

 

「……ヒーローショーってなんだっけ?」

「……さぁ」

「いや、これヒーローショーじゃないから! 絶対違いますからこれ!」

「……というかいきなりやれと言われてこれを演じ切れたフランが凄いわ」

 

 読み終わった四人はそんな感想を述べた。

 

 

 



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十二月編10『龍神ちゃん』

 


 今回短いです。


 

 

 

 

 十二月二十二日

 

 

 香霖堂でのバイトの帰り道に、変な子と出会った。寺子屋の低学年くらいの子。迷子っぽくは無かったけどね。私を探してたって言ってたし。

 なんというか……妙に子供らしくなかった。

 あと全体的に白かったなぁ。髪も、服装も。羽衣みたいな服着てた。

 いきなり名前を呼ばれたからビックリしたよ。名前は『龍神』ちゃんらしい。でも明らかに偽名だよね。だから他に名前は無いかと聞いても無いって言われちゃった。

 でも龍神。どっかで聞いたことあるな、と思ってたら確か幻想郷の最高神が龍神じゃなかったっけ? 思い出したのは家に帰ってからだったけど。

 龍神を騙ってたのかな? だったら怒らなきゃいけないよね……。

 でも何で龍神ちゃんは私の名前を知ってたんだろう? アイドル活動が原因かな? それともどこかで会ってたり? と思って聞いてみると首を横に振っていた。

 なんでも天界で魔界神やイザナミ達と仲良くしていたところを見ていたらしい。なんだどっかの神様か……いや、それはそれで問題だけどもう慣れたよ。

 それからいくつかお話ししたけどやっぱり神様でも子供は子供だね。やけに難しい言葉ばかり使おうとしてた。

 ちなみに私のアイドル活動とかは知らないらしい。良ければ今度見てね、うん。

 

 でも、なんか少し話しただけで帰っていったよ。マイペースなのかな? 

 何しに来たんだろう。神綺さんもそうだけど神様ってよく分からないね。

 

 

 #####

 

 

 読み終わると同時に二人の巫女は白目をむいて椅子に深く座り込んでうずくまった。

 

「」

「……れ、霊夢さーんっ!!?」

「」

「……さ、早苗さんも!? ちょ、ちょっとしっかりしてください!」

「……龍神まで、龍神まで出てくるの……? 八雲紫に聞いた話だとあの女すら相手にならない文字通りの幻想郷の最高神と聞いたわよ……? その姿を最後に見せたのは博麗大結界以来だと言うのに……?」

「……りゅ、龍神ってまさか本物なんですか!?」

「……信じたくないけど霊夢と風祝が倒れたってことはそうでしょうよ」

「…………、」

「…………、」

 

 ちらりとレミリアが二人の巫女を見るが二人とも何やら小声でブツブツ呟くばかりで反応しない。

 その様子を見てレミリアは溜息を吐いて言う。

 

「駄目ね、次のページにいきましょう」

「……い、良いんですか?」

「仕方ないわよ。むしろ下手に龍神の記述があるページを開いたままにしておく方がマズイわ」

 

 呟いて彼女は次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二三日

 

 

 阿求さんの家に招かれた。

 なんでも私の話を聞きたいらしい。最初、何で私の話を聞きたいのか分からなくてちんぷんかんぷんだったけど、どうやら最近阿求さんが編纂を進めていると沢山の妖怪の口から私の名前が出てくるんだとか。

 人里でも私を信仰している人も居るんだってさ。

 かなり前に……それこそもう日記の初めにあったサインを書いてあげた罪袋さんを筆頭に『フラン教』なる宗教が生まれているらしい。

 しかももう入信者は数千人規模を超えているとか。ネットのみの登録を含めると万を超えるらしい。

 ……うん、初耳。超初耳だよ。寝耳に水とはこのことだね。

 ……道理で少し前に物凄い勢いで神格化が進んだわけだ。お陰で今じゃ魔界神、イザナミ、エリス、フレイヤ、といった錚々たるメンバーとお知り合いですよ。

 そんな話をすると阿求さんが食いついて来た。

「そういえばフランさんは神器もお持ちだとか」

「いやいや、持ってませんよ」

「いえ。しかし以前お話を伺った森近霖之助さんから二つの神器を所有していると聞きましたが」

 えっ、マジで? 私、神器持ってるの? うわぁ知らなかった! 多分一つはブラギの竪琴だよね? 前に弾いた時凄い効果を発揮してたし。じゃあもう一個はなんだろ?

 そんな感じでお話ししてその場はお開きになった。

 にしても阿求さんも大変だよね。人間の身で、それも普通の人より圧倒的に身体が弱いのにあちこちに赴いて話を聞くなんて。

 幻想郷縁起編纂頑張ってね! 応援してるよ!

 

 

 #####

 

 

「遅っ! 神器に気付くの遅っ!!」

「……あ、起きたんですね霊夢さん」

「私も起きましたよ……ちょっとSAN値を削られてしまいましてお見苦しい姿を見せてしまいました」

 

 少し疲れた顔で早苗が言う。

 すると日記を読んでいたレミリアが疑問の声を上げた。

 

「というか稗田の一族ってなんで身体が弱いの?」

「稗田の一族は完全記憶能力者で、死後も知識を引き継いで転生出来るように閻魔にお願いしたの。幻想郷縁起編纂の為にね。で、それを了承されたけど代わりに寿命が極端に短くなったって聞いてるわ」

「へぇ、珍しい一族もいるものね」

 

 霊夢の説明を聞いて納得したようにレミリアは呟いた。

 

 

 



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十二月編11『聖夜の空を駆ける』

 

 

 

 十二月二十四日

 

 

 今日はライブ当日だ。

 一応知り合いにも連絡して来ないか誘ってみると結構な人が来てくれるらしい。えっと、神綺さんとイザナミさんは来て、フレイヤさんが用事で、エリスさんは上司の女神に呼ばれてるとかなんとか。

 あとはブッダさんとイエスさんは来るって言ってた。それから守谷の三人と霖之助さんとリアラさん。

 レミィたんは今回私達の補佐で楽屋仕事をお願いしたから除外で、それから射命丸さんからライブの独占取材要請が来てて、命蓮寺と神霊廟の人達も来るんだっけ?

 あと永遠亭からぐーやさんも来てくれるらしい。妹紅さんと鈴仙さんを連れて来るとか言ってた。それと最近地味に将棋を一緒にしてる椛さんとにとりさんも来て、それから地底からもさとりさんと勇儀さんが来るとか。

 ……こう書くと知り合い増えたもんだなぁ。

 や、感慨深いよホント。去年まで四九五年間、家に引きこもってたニートとは思えないよね。

 それで本番始まったけど凄い盛り上がり様だったよ。

 最前列ではいつも来てくれるファンの人達が居て、ぴったりなタイミングで合いの手を入れてくれるし。

 サンタコスで登場したらあちこちから「可愛いー!」って聞こえて来て嬉しかったし。まぁ吸血鬼がサンタコスってなんだよって話だけどね(笑)

 そうそう、歓声といえば私は今回こいしちゃんと一緒に出たけどそっちの歓声も凄かったよ! 「世界一位だ!」とか「妹二人キター!」とか「世界一位と音楽一位だ!」とか。

 それにこいしちゃん存在感凄いからね。割と真面目に身体の周りをキラキラの膜が覆ってるから。誰かが、「照橋さんかな?」とか言ってたよ。誰だその人。

 で、全力で歌い踊ったライブも無事に終わりました。

 客席を見た限り神様達も楽しそうに聞いてたよ。というか今更だけどブッダさんとイエスさんコミュ力凄いね。イザナミさんとかの神様と仲良さそうに話していた。

『吸血鬼がサンタの格好をする時代ですか』

『あれは僕も驚きましたよイザナミさん。まぁこれも一つの時代の流れですよね』

 ……話を聞いていると一瞬目眩がした。なんだろう、なんかイエスさんとブッダさんの二人から神格が見えたような気がしたような……。

 気のせい……かな?

 

 あ、そうそう。

 龍神ちゃんも来てたよ。座席にちょこんと座って見てくれてた。

 にへらっ、て顔がほころんでたから多分楽しんでくれてたんじゃないかな?

 

 

 #####

 

 妖怪跋扈ならぬ神様跋扈であった。

 

「「……(白目)」」

「霊夢ーっ!? 風祝ーっ!?」

 

 ガターン!! と椅子から転げ落ちた二人を悲鳴のような声を上げてレミリアがゆすり起こそうとする。

 しかし事はそれだけに留まらない! 今まで平静を保っていたさとりもまた今回ばかりは駄目だった!

 

「……わ、私知らなかったんですけど! お、同じ会場にこんな沢山の神々がっ!? 何人か心読まないなーとは思ってたけどあれは防がれて……いやあれよく考えたら物凄い無礼な事じゃ!? わ、わあああああっ!!?」

「お、落ち着きなさい地底の主! アンタまで取り乱したらもうこの場を鎮められないわ!」

「じょ、浄化されます! 私浄化されます!」

「だから落ち着けっ!! アンタいっつも話す前に『……』って少しどもってたのに無くなってるから! いまこの瞬間アンタのアイデンティティぶっ壊れてるからぁっ!!」

「知るかそんなもん!!」

「口調が壊れた!?」

 

 非常にメタいレミリアの心配をさとりは一言で粉砕する。

 阿鼻叫喚とはこのことか。龍神登場の時も酷いものだが今回のは更に輪を掛けて酷かった。

 だがやがてむくりと体を起こした霊夢が言う。

 

「……ぐ、うう。そんじょそこらの神様ならともかくどれも最上位の神様じゃない! そんなのを一纏めに出すんじゃないわよ! そんなのっ、対処出来るかーっ!!」

 

 霊夢、魂の叫びだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二五日(深夜)

 

 こんばんわ。現在深夜の一二時です。

 昼間のライブを終えた私だけど、今もミニスカサンタの服装で外にいまーす。

 ……まぁその理由は帰り際にイエスさんに呼び止められたのが事の発端なんだけどさ。

「あ、フランさん。ライブ凄かったですね。とても楽しかったですよ」

「ありがとうございます! イエスさん達にはお世話になってますから来てくださって私も嬉しかったです。あ、それと今日お誕生日ですよね? おめでとうございます。プレゼントが無くて申し訳ないですが……」

「いやいや気にしないでください。誕生日は誰かに祝われるだけで嬉しいものですよ。それに僕もフランさんとお話しするのは楽しいですから」

 そんな感じに話しているとああそうだ、と思い出したようにそう言われた。

「あ、そうだ。これからサンタクロースと会うんですけど良かったら来ませんか?」

 サンタさんと? そういえばお姉様、キリストは嫌いって言ってるけどサンタは嫌いって言ってないのよね。朝起きたらプレゼントが置いてあるからかなぁ? かくいう私も嫌いじゃないし会えるなら会ってみたいと思う。

 本物のサンタさんかぁ……。

「ふらん、心躍ってる」

「あ、龍神ちゃん」

 赤い帽子に白いひげのお爺さんを頭の中に思い浮かべていると龍神ちゃんが横にいた。私の腕をぎゅっと掴んでイエスさんを見つめている。こうやってみると結構懐いてくれてるのかもしれない。

 ともかく彼女は言った。

「イエス。さんたは、独逸(ドイツ)で人を攫うと聞く。危険。サンタ駄目。ニコライなら許す」

「彼はフランさんを危険な目に遭わせるような人ではありませんよ。それにサンタはニコライさんと同質のものですから大丈夫です。だから安心して下さい龍神さん」

「……そうか。イエス。信じる」

 それだけ言って龍神ちゃんは黙り込んだ。口数の少ない子だよね。単語を多く使って会話しようとするし。

 それと龍神ちゃんの会話の中で出てきたニコライさん。確かサンタの元になった人だよね。確かこんな話だっけ?

 

 ある時ニコラウスは、貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知った。ニコラウスは真夜中にその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れた。このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったという。この金貨のおかげで家族は娘の身売りを避けられた。

 この逸話が由来になってサンタクロースが生まれたんだっけ?

 と、ボンヤリ考えながらついて行くと龍神ちゃんがイエスさんに尋ねた。

 

「我、キリスト詳しくない。クリスマス、何を祝うもの? イエス、知ってる?」

「もちろんですよ! サンタクロースが初めてトナカイでの飛行に成功した日です!」

「イエスさんイエスさん、多分それライト兄弟と混ざってます。というか仮にそうだとしてもそれが記念日になるかといえば微妙です」

 

 そんなツッコミを入れつつ歩くこと五分。イエスさんに案内されて行くと居ました。

「ほっほっほ」

 サンタクロース。ちょっとメタボだけど優しそうなお爺さん。髭もじゃで頭には赤い帽子を載せている。彼の後ろでは数十匹のトナカイがトコトコ歩いていた。

 で、挨拶しましたよ。そしたらプレゼントを貰いました!

 本物のサンタさんから直接だよ! 早速開けてみると、普段着として着れそうな洋服が入ってた!

 ちょー嬉しいよー! ありがとうサンタさん!

 それからサンタ体験もさせて貰いました!

 

「イエスー、サンタの服持ってきたよー」

「あっ、ブッダありがとう。折角サンタ体験するんだし格好から入らないとね」

「珍妙な服……。これがさんた?」

 

 龍神ちゃんもサンタ服着てたよ。

 可愛かったなぁ。

 

 それから更に時間が過ぎて真夜中になる頃サンタさんと私達はトナカイ達が引くソリに乗って空を駆けた。

 

「ほっほっほ、メリークリスマース!」

 

 サンタさんがそう言うたびに空からはらはらと粉雪が舞う。

 深夜の雪の降る空の下をシャンシャンと鈴の音を鳴らしながらソリに乗って駆ける。

 凄く、幻想的な体験だった。

 

 

 #####

 

 

「サンタのソリに乗る、か」

「ちょっと羨ましいですね……いやもうこの際、神様は気にしません……ハイ、早苗ハ大丈夫デスカラ」

 

 ページをめくった事で巫女二人も吹っ切れたのかようやく普通に感想を述べ始めた。

 同時にさとりも混乱から回復したようで気恥ずかしさからか少し赤い顔で言う。

 

「……私も羨ましいです。あっ、あと一つ意外だったのが、レミリアさんはサンタ嫌いじゃなかったんですね。てっきり吸血鬼だから嫌いなのかと」

「ち、違うから! 別にプレゼントくれるからキリストでも良いやなんて思ってないわよ!?」

 

 さとりの疑問にレミリアは慌てて弁明する、が。

 

「……語るに落ちてますよね、アレ」

「……言わないであげるのが優しさよ」

 

 嘘を吐くのが下手過ぎるレミリアの様子に二人は何とも言えない視線を向けて、次のページに手を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 



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十二月編12『プレゼント・ショック!』

 





 

 

 

 

 十二月二十五日(朝)

 

 

 昨日、サンタさん体験をした後どうやら私達は寝てしまったらしい。

 私達、というのは私と龍神ちゃんだ。いや起きた時は驚いたよ。朝起きたら私のベッドの中で龍神ちゃんが寝てたから。すっごい幸せそうな顔で思わず私も顔がほころんだけどさ。

 イエスさん達からの書置きが私の部屋のテーブルの上に置いてあって、読んだら『楽しかったです。また会いましょう』って内容と一緒にps.龍神さんも寝てしまったのでメイドの人の許可を得てフランさんのお部屋に泊まらせてもらうようにしてもらいました、と事の顛末が書いてあった。

 ともかく昨日の夜は夜のことなので今日は朝起きてからの分の日記も書こうと思う。

 

「……ふらん。ここ。何処(どこ)?」

 まず朝起きると時を同じくして龍神ちゃんも目覚めたらしい。暫くごしごし目を擦ってから空を見て今が朝だと気付いたのか、「もう、朝。仕事……帰る」と言って帰ってしまった。

 やっぱりマイペースな子なのかな? いやでも仕事って言ってるし割と真面目なのか。というかこんな神様といえど小さな女の子に仕事? ……よくわからないけど大変そうだなぁ。

「フラン! フランっ!」

 そんな事を思いながら朝食を摂っているとお姉様が起きてきた。両手に、何だろう。樫の杖? を抱えていた。

「見なさい! これは魔法の杖よ! 朝起きたら置いてあったの! きっとサンタさんが持ってきてくれたんだわ! これで私もパチェやフランに負けない魔法使いよ!」

「……あ、うん。ヨカッタネ」

 曖昧な返事だけど許して。だってそれ昨日私がお姉様の枕元に置いたやつなんだもん。喜んでくれたなら嬉しいけど多分そこまでの効果無いと思うよ。一応私の手作りでかなり本気で作ったものだけど……。あっ、でもご利益はあるかも。イザナミさんとか神綺さんとかにもお願いして力込めてもらったし、イエスさん達にも見せたら、

「これはかなり凄いですね。濃密な神力が篭っています。あ、でもフランさん。その杖を渡す相手はお姉さんなんですよね?」

「はい、そのつもりです」

「うむむ、吸血鬼が扱うとすると少し危険かもしれません……力の強い聖遺物になってますから。ちょっと貸してください。あとブッダ、君の力も貸してくれないかい」

「うん、じゃあやろうかイエス」

 と、そんな具合に吸血鬼が扱っても問題無いような加護も付けてくれた。

 最後に霖之助さんに鑑定させたら「……僕はもう何も言えないよ」と返されたしかなりの一品の筈だ! 

 ともかく喜んでくれたならそれでオッケーだよね!

 

 

 #####

 

 

 今度はレミリアが白目を剥く番であった。

 

「……(白目)」

「レミリアーっ!?」

 

 椅子ごと後方に一回転して頭から落ちたレミリアを見て霊夢が悲鳴を上げる! 慌てて倒れたレミリアを抱き起こすが彼女は「は、はは」と乾いた笑みを零すのみであった。

 しかし、やがてポツリポツリと彼女は語り始める。

 

「神器ってレベルじゃねぇ……、どんだけの神様が関わってんのよあの杖。確かに超使い勝手良かったし、魔法の威力も高いってパチェに褒められたし、よく見ないとパチェですら騙せるくらい普通の杖に見えるカモフラージュをされてるって気付いたパチェから言われたけど……なんだそれ」

「レミリア! しっかり! 意識をしっかりしなさい!」

「おかしいと思ったんだ。あの杖を握ってから急に太陽の光が効かなくなって、流水とかの弱点も消えて……パチェからそれらを無効化する魔法が掛かってるって言われて最初は私の才能が開花したとか思ってたけど、よくよく考えるとあれは妙だった」

「いや話を聞く限り妙な点しかありませんよね!? こんな呆然と語るシーンですらポンコツ挟まなきゃ気が済まないんですかレミリアさんっ!?」

 

 早苗が突っ込んでもレミリアが戻って来る様子はなかった。

 しばらくレミリアを起こそうとしていた霊夢が二人の顔を見て、頷く。

 

「……さとり、早苗。やるわよ」

「何をですか?」

「……心を読む限りでは凄いしょうもないですけど。でも良いんですか? そんなことして……」

「良いのよ、さとり。最近読者サービスして無かったし、ここいらで一発入れるべきだわ」

「……いやだから何を? それに読者ってだ――」

 

 淡々と述べる霊夢だがそこに早苗が待ったを入れ――

 

「水を、どりゃあ!!」

「――れですかって霊夢さん!? 何してんですか急にレミリアさんに水をかけて!」

 

 ――る前に霊夢が動いた。急に部屋を飛び出して行ったかと思うとものの数秒で水入りのバケツを担いで戻ってきたのだ! そして彼女は勢いそのままにレミリアにバケツをぶん投げた!

 ズバシャッ!! っと猛烈な勢いでレミリアに掛かる水飛沫と、それからガンッガランガラン! と音を立ててバケツが転がっていく。

 水が掛かった瞬間、レミリアが「ファッ!? 目がゴブゴボッ!?」と悲鳴をあげた気がしたが気のせいだろう。

 そして。

 数秒して、シーンと静まり返った空間で盛大に水を掛けられたレミリアの姿が露わになる。

 

「……ゲホッ! うぅ、なんなのよぉ……!」

 

 涙目で咳き込む美少女(断言)に、霊夢は至近距離で親指を立てて冷静に言った。

 

「ナイス、濡れスケ」

「けほっ、こほっ、……ふぇ?」

 

 濡れスケ。服が濡れて中が透ける現象のことを指す。

 言われるままにレミリアは自分の服装を改めて見直す。ピンクのドレスにピンクのスカート、いつもの装いだ。しかし、だがしかし。今回は少し様子が違っていた。

 

「……は?」

 

 霊夢が満杯まで組んできたバケツ×2。その水を全身に浴びた彼女は頭の先から足の先までずぶ濡れである。またレミリアが着ているドレスは高級品だがそれは見栄え重視の話であり、水に濡れることなど一切考慮されていないものだ。

 ピンとこない人の為に言うならば。

 ぴっちり張り付いたドレスとそれを透けるようにして見える肌色とブラジャー、下もよく見るとピンクのスカートの下から別の色が見えている、と言えば全て話がつくだろう。

 つまるところ、水で濡れて下着が透けていた。

 しかしここで悲報がある。

 もしここに男がいれば「きゃああああ!」や「み、見るなああっ!」というコースに移動出来るが残念なことにここには女しか居ないのだ。

 ようするに、

 

「「「「…………」」」」

 

 全身びしょ濡れにされたレミリアはぴちゃんぴちゃんと自身の髪の先から落ちる水音を聞きながら黙り込んだ三人目掛けて恨めしそうに言う。

 

「……何がしたいのアンタら」

 

 それに対する霊夢の反論。

 

「それを言う前にまずアンタは恥ずかしがりなさいよ。冷静に対処したら台無しでしょうが。じゃなきゃ何の為に濡らしたのか分からないじゃない」

 

 その後レミリアがキレたのは言うまでもない。

 結局、二十分くらい。

「いや何の為もあるかーッ!! まず私に謝りなさいよ! 何しれっと流そうとしてんのよ!? アンタそれでも人間か!?」

「うるっさいわね! 見せ場作ってやろうってのに潰しやがって!! だからカリスマ(笑)とか言われるのよ!」

「カリスマでしょうがよぉ!! これでもこれまで紅魔館がやってこれてるのはなんだかんだ当主の私の力も大きいからァ!」

 という言い争いが勃発したのだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二十六日

 

 

 クリスマスも終わっていよいよ年末だ。

 今日は『みんな(お姉様以外)』で大掃除をした。いつもやっている掃除に加えて館全体を修繕したり、色が落ちてきたところをペンキで塗り直したり、赤過ぎて目に悪いよねって理由からせめて濃い赤じゃなくて薄い赤に塗り直したり。

 大掃除はAIBOが大活躍だった。「ルンバ機能ヤデ」となんか二メートルくらいのサイズに巨大化した上で足に大量の箒を取り付けて一気に掃除していく姿は壮観だったね。

 あといくつか新しいモードも追加されてた。戦闘モードなんてのもあって、やってみるよう頼んでみると、お腹からモリッと筋肉ゴリマッチョな体が飛び出してきた。

 正直キモい。頭だけ犬の小さなロボットでお腹から太い首が生え、その下は筋肉ゴリマッチョ。うん、キモい。強そうだけどね。

 ともかくそんなAIBOの新たな一面を見た後にまたお掃除お掃除、レレレのレー。

 最近は妖精もかなり動けるようになってきたよ。躾が効いたのかな? 飴とムチを使い分けるのが重要だけど、重労働の後に美味しいお菓子を沢山用意すると真面目に動いてくれるから楽なものだ。

 最近じゃ働く喜びに目覚めた子達も出てきてて、その子達は働くことを楽しいと感じるようになってるからとても良い傾向だと思う。

 

 そうそう、明日は年賀状の準備終わらせないとね。

 じゃあ今日はそろそろ寝ようかな。おやすみなさい。

 

 

 #####

 

 

「うっ……大掃除」

 

 別の服に着替えたレミリアは読み終えて一言呟く。

 

「大掃除、そんな時期ですか。というかレミリアさん、やらなきゃダメですよ。大掃除は皆で協力するものですから」

「年末年始かぁ……私はお祈りで忙しいからなぁ。太陽が金星に負けると妖怪の年になっちゃうし」

「……そのあたりの話は日記でも出てきそうですね」

「そうね、ともかくレミリアも着替えたし改めて読み始めるわよ」

 

 そんな会話をして四人は次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十二月編END『閻魔と儀式と初日の出』

 


 十二月編終了でございます。


 

 

 

 十二月二十七日

 

 

 年賀状を書いた。

 年賀状なんて書くの何年ぶりだろうか。四九五年ぶりかな。というかもう書いた覚えすらない。幽閉されてたしね。

 でも今年は一杯だ。友達もたくさん出来たし! 皆にちゃんと書かないとなぁ。

 というわけで一日中書きました。

 途中お姉様が部屋に乱入してきて、私の書いた年賀状の束を見て、ショックを受けた顔で帰って行ったけどなんだろう。

 「ま、負けた」とか呟いてたけど。

 まいっか、お姉様のこと気にしてても仕方ないし。一人一人丁寧に描くほうが重要だしね。

 というわけでそんな一日でした。

 

 

 #####

 

「……ま、負けたって、プッ、クク……」

「わ、笑うなぁ!」

 

 そんな一悶着を経て改めて霊夢が感想を述べる。

 

「年賀状かぁ、毎年毎年怠いわよね。出さなければ出さないでレミリアとかが生存確認しにくるし」

「そ、そりゃそうでしょ! 何かあったって思うじゃない!」

 

 当たり前のように言うレミリアだが、その様子を見て早苗は頰を緩ませて呟く。

 

「愛されてますねー」

「……そうですね。ところで早苗さんは年賀状出したりするんですか?」

「出しますよ! そりゃあ年賀状って新年の挨拶ですから! 巫女としてはやらないなんてあり得ません!」

 

 そう早苗が言うと霊夢が睨むように言う。

 

「それを言ったら私にダメージが来るからやめなさい! つか巫女だからやるって決めつけんな! そんなこと言うから私が怠けてるとか言われるんじゃない!」

「ええっ!! いや、怠けてるのは事実――っ!?」

「ええい! 黙らっしゃい!」

「理不尽っ!?」

 

 お祓い棒を首筋に突きつける霊夢に思わずそう叫んだ早苗であった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二十八日

 

 

 冬空の下、女の子を拾いました。

 名前は物部布都ちゃん。神霊廟で働いていたらしいがどうやら太子さんを怒らせてしまったらしい。出て行け、と言われて今は絶賛路頭に迷ってるとか。お腹が空いているそうなので紅魔館に連れてきてご飯を食べさせてあげると凄い勢いで食べていた。

 それでひとしきり食べてからこんなことを言ってたよ。

「うぅ、なんで太子様は怒ってるんじゃろう。私は馬鹿とよく言われるけどとんと検討が付かないのじゃ。神霊廟の火事の件か、それとも命蓮寺全焼の件か、建て直した命蓮寺のボヤ騒ぎか、通販と知らず注文してしまったことか、それとも……」

 正直それだけ心当たりあるなら多分それのどれかじゃないかな。というか私なら怒るよ、それ。でも出て行け、か。話を聞く限り布都ちゃんは尸解仙になる前から太子さんに仕えていたらしいしいきなりそんなこと言うかな? つもりにつもった鬱憤が爆発したとか?

 それでも私の知ってる太子さんなら謝れば許してくれると思うけど……。

 でもやったことがやったことだしなぁ。

 とはいえ長い付き合いならこう言っちゃ悪いけど布都ちゃんがポンコツなのは知ってると思うけど……。

 もしかして出て行けのニュアンスが違うとか?

 本人は部屋から出て行けって言っただけで、布都ちゃんが神霊廟から出て行けと勘違いしたって可能性はないかな。

 とりあえず紅魔館に連れてきてるけど、なんかそんな気がしてきた私は神霊廟に行くことにした。

 で、行ったらもぬけの殻だったよ。屋敷に誰も居なくて、人里に行くと布都ちゃんを探してる人達が居た。

 

「布都ーっ! ……はぁ、居なくなれば居なくなるで太子様に心配をかけさせやがって……アイツ帰ってきたら覚悟しろよ」

 

 確か、屠自古さんだっけ?

 声をかけて事情を聞いてみるとやはり私が思った通り布都ちゃんが勘違いして出て行ったままもう三日も行方知れずらしい。

 というか三日も!? 道理で凄い食べっぷりだったわけだ。お腹グーグー言わせてたし、でもやっぱりただの勘違いで良かったよ。

 それで屠自古さんに事情を伝えて太子さんを連れてきてもらって、紅魔館で会わせる段取りをしたら仲直り出来たみたい。

「た゛い゛し゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ!!」って泣き付いてたし。

 

 何にせよ良かった良かった。

 

 

 #####

 

 

「甘いわねぇ。私なら叩き出すわよこんなやつ」

「ズバっと言いますね霊夢さん」

「だってそうでしょ。放火常習犯なんて庇えないもん」

 

 当たり前、と霊夢が言う。

 それに同調するように他二人も頷いた。

 

「……確かに私も主としてはこの部下は無理ね。矯正しない限り」

「……ですよね。地底では火事が多いといえ地霊殿を燃やされては困りますし」

「はー、意外に皆さんその辺りは現実的なんですね」

 

 #####

 

 

 十二月二十九日

 

 

 年末だよね。今年ももう終わりかぁ。

 四月からこうやって日記書いてたけどまさかここまで続くとは思ってなかったよ。どうせ途中でエターするかなぁと思ってたけどここまで毎日書けてるあたり私は意外と持続性があるらしい。

 で、今日はちょっと外の世界にいます。

 いや、別に……もうお気軽に外出れるくらい能力が進化した、というわけじゃないからとりあえず書かせて欲しい。

 朝、目が覚めると八雲紫が目の前に居たんだ。

「……ねぇ、フラン? 貴女私が何を言いたいか分かる?」

 そんなこと言われても分からない。なんか怒ってるようだった。それからいくつか話したけど貴女が引き寄せた神様がどうのこうのとか、龍神ちゃんがどうのこうのとかよく分からなかった。

 首を傾げていると「とにかく反省しなさい!」とスキマに落とそうとしてきたよ。避けたら弾幕まで撃ってきて、最後は泣かれた。

 それで良いのか妖怪の賢者。でも泣いたのを見て足が止まった私を迷わずスキマに落としたあたりちゃっかりしてる。

 そんなわけで今私は外の世界にいます。

 うん、どうしよう。お金は競馬の時に稼いだやつとデバイスで稼いだのがあるからしばらくは何とかなるけどここがどこか分からないしなぁ。瞬間移動で帰ろうにもなんか紫さんに封じられちゃったし。

 異空間は開くから飢え死にもしないし着替えも出来るけど……、なんであんなに怒ってたんだろうね。

 とりあえずまたイエスさん達にお願いするか、それとも帰る道を探さないとね。具体的には明日までに。

 年越しは幻想郷でしたいし、知り合いの神社に参拝したいし、それから霊夢さんに誘われた宴会もあるから。

 とりあえずこのドレスだと悪目立ちするから着替えてから、今日は『ふなや』って旅館に泊まった。なんでかといえばその旅館名に聞き覚えがあったからだ。

 『ふなや』って言うのは愛媛県にある江戸時代に作られた旅館でさ、道後温泉で有名な旅館なんだ。夏目漱石や正岡子規が訪れた旅館で、あの『坊ちゃん』の舞台でもある。パチュリーの書庫にあって読んでる時にこあさんからそのあたりの話を聞いたんだよね、懐かしい。

 そんなわけで『ふなや』に泊まったけどやっぱり温泉気持ち良かったよ。アルカリ性の温泉でなめらかだった。お風呂から出た後はお客さんも浴衣の人多かったから私も浴衣を借りて、それで過ごしたよ。

 ちょっとした旅行気分だ。

 紫さんありがとね、楽しんでまーす。

 

 咲夜

『妹様が楽しまれているようで何よりです』

 

 追記

 今更だけど咲夜。私、外の世界に居るのにどうやって添削してるの……?(震え声)

 

 

 #####

 

 

「紫ェ……」

「神様跋扈、というか騒動になってませんけどあの異変は最終的に紫さんが何とか話し合いで解決したんですよね。そりゃ心労も……溜まるかぁ」

 

 霊夢と早苗は呟いてどこか遠い目をする。心労を一手に浴びた八雲紫に同情しているのかもしれない。

 でも、とさとりは文章を読んで言う。

 

「……でも本人の様子を見る限り反省になってませんよね、これ」

「……というかなんでこんなに頻繁に妖怪が外に出るのよ。というか外の世界だと力が弱まるのに当たり前のように順応するわねこの子」

 

 さとりの言葉にレミリアが付け足したが、本当にそうだ。何故順応出来ているのか、と首を傾げる二人に対し早苗が解説する。

 

「神様的目線で言えばネットとはいえ信仰を数万人規模で貰えてたらかなり神力はあると思いますけどね。まぁ封印してますからそれは関係ありませんが、フランちゃんはかなり基礎が強くなってますし、修行で封印にも慣れてますから力が出せないことなんて気にしないんじゃないでしょうか」

「はー、なるほどね」

 

 早苗の説明にレミリアは頷いた。

 それから一同は嫌そうに最後の文に目を向ける。

 

「……添削、ですよね」

「フランも震え声を上げてるってことはリアルタイムで書かれてるってことよね、これ」

「レミリア、アンタのとこのメイド長どうなってんのよ……!?」

「し、知らない! 私は知らない!」

 

 それから数分。

 怖いから触れないと決めた一同は次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月三十日

 

 幻想郷よ、私は帰ってきた!

 はい、そんなわけで帰宅しました。

 いやーまさか外で映姫さんに会うとは思ってなかったよ。ちょうど今日から年始にかけてお休みを(強制的に)貰ったらしい。

 それで外の世界の温泉にでも入ろうと来たのが偶々私が泊まってた『ふなや』で朝、温泉に入ってばったりと会った。

 話を聞くと上司さん達と一緒に来てるみたいで、他の人は皆男湯の方に居るんだとか。

「こうやって本当に休むのは久しぶりです。いつもは休みでも何かしら仕事をするのですが……こう、何もないと不安になりますね」

 温泉に浸かって話ししたけどワーカーホリックだよねそれ。どれだけ仕事好きなのさ。

「今回は上司に無理やり引っ張られまして、せめて休み先でやろうと思ってた仕事の資料も全て奪われてしまいました。映姫ちゃんは真面目過ぎるよ、と言われましたが……」

「そこは映姫さんの美点ですけど度が過ぎれば悪癖になり得ると思いますよ。だって上司が休みも働いてたら部下の人も休めないじゃないですか。それに映姫さんは見た目が可愛らしいですから部下の人も上司さん達も心配になると思います」

「そうでしょうか……見た目はともかく私はそんなにヤワなつもりでは」

「本人がそう思ってなくてもです。そもそも映姫さん、仕事ばかりで趣味なんて無いでしょう? 寧ろ仕事が趣味なんじゃないですか? そんな様子見てたら周りは心配になりますって! 今回、無理やり休まされてるのだって部下の人とか上司さん達のご厚意なんですから素直に休むべきです。寧ろ偶には休んだ方が良いんですよ。仕事は逃げませんから。休みを終えて英気を養ってまた仕事すれば良いんです」

「映姫だけに、ですか?」

「…………うぅ」

「……すみません」

 

 折角の良い話になんてことを。

 少し恥ずかしくて頰が赤くなったよ。そんなつもりないのぃ……。

 あと他の閻魔様とお話もしたよ。いや、具体的には地獄の王様達かな。皆映姫さんの先輩らしい。

 秦公王さんに初江王さん、宋帝王さんに五官王、閻魔王さん。

 で、それからお昼まで一緒してから「そういえば何故外にいるんです?」という質問に「八雲紫にスキマで落とされた先がここだったんですよ」と答えると「なんと……今度説教しなくてはなりませんね。あの人は口が回るので腕がなります」って張り切ってた。

 それから使いを一人出して私を幻想郷に送り返してくれた、というのが事の次第だったりする。

 ありがとね映姫さん。あと温泉巡り楽しんでください!

 

 

 #####

 

 

 読み終えて開口一番に霊夢は叫んだ。

 

「サラッと出てくる名前がいちいち何で大物なのっ!?」

「いや、本当それですよね」

 

 早苗も同調する。冷や汗が浮かんでいることから割と真面目に思っているらしい。

 

「……閻魔大王の同格の上司さんばかり、ですか」

「前に会ったけど幻想郷の閻魔の見た目は幼めだしね。神様といっても男どもと考えると出来の良い可愛い孫みたいな感じなんでしょう。多分、仕事ばかりで心配されてるのね」

 

 さとりが語り、レミリアが淡々と考察する。

 特に思うところは無いらしい。じゃあ次のページに行くわよ、と彼女は告げて次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 十二月三十一日

 

 

 今年も終わりかぁ。

 咲夜の作った年越し蕎麦を食べて、お酒を呑んで、それから博麗神社に二年参りをしたよ。

 でも霊夢さんはなんか儀式の準備をしてた。

「今日は大切な儀式があるの。参拝はありがたいけど邪魔だけはしないでね」

 と言われて何だろう、と思って博麗神社に来ていた魔理沙に聞いてみると、どうやら明けの明星、天香背男命(あまのかがせおのみこと)を討伐し、今年も無事に天照大神(あまてらすおおみかみ)を迎える。つまり明星を太陽に負けさせる儀式をするらしい。

 なんでも明星が太陽に負けてくれないと今年は妖怪の年になってしまうのだとか。

 この頃にはもう十二時過ぎて新年に入ってたけどまぁそれは置いておいて。

「私は霊夢の儀式が失敗するのを見に来てるんだぜ」

 と魔理沙が笑ってた。

 とはいえ霊夢さんは一度も失敗した事のないその儀式に何故か去年は失敗したそうなので、今年は特に力を入れているのだとか。

 とはいえ魔理沙がボソッと、

「……今年は無理そうだな」

 とか言ってたので多分去年の失敗は魔理沙の差し金だと思う。

 そういえば去年の年越しの頃、お姉様が「ついに夜の時代が訪れるのね! 咲夜、勝利の美酒よ!」とか騒いでたなぁ。

 妖精大戦争もその頃だっけ? 私、その頃の情勢に疎いから曖昧なんだけど。

 ともかく夜明けまで儀式を終えた霊夢さんは緊張した面持ちで初日の出を待っていた。

 で、無事に太陽が勝ってた。お姉様が嘆いて霊夢さんに頭を叩かれてたけど、私は別に興味ないや。

 さてと、確かこれから宴会だよね。

 今日は寝ないで一月一日も書くことになりそうだ。

 とりあえずあの言葉は明日まで取っておく。

 

 

 #####

 

 

「……去年の失敗は覚えてるわ。あれ、確か魔理沙が光の三妖精に明星の代わりに光らせるように指示したのよね。後で知ったわ」

「えっ、そうなんですか。実は明星の儀式私もやってたんですけど失敗して散々なんでだろう……って考えてたのに」

「早苗も被害者だったの? あ、じゃあ今度魔理沙に仕返ししない? ほんの軽いイタズラだけど」

「うーん、なんか今更感が……」

「それよりも明星、負けたのよねぇ……」

「……私は地底暮らしなので関係ありませんね。あそこの人達は年中無休で騒いでいるので」

「……それはそれで大変そうね」

 

 そんな会話を繰り広げ、四人は次のページをめくった。

 

 

 




 


 次回からやっと一月編です!


 


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一月編
一月編1『始まりの宴会』


 

今回から一月編じゃい!


 


 

 

 

 一月一日

 

 

 あけましておめでとうございます。

 改めて新年の始まりだ。昨日から徹夜で博麗神社にいるから少し眠い私です。

 予定通り博麗神社で宴会があったよ。魔理沙とか早苗さんとか皆来てた。妖夢さんとか幽々子さん、紅魔館の皆と知り合いの妖怪は大半来てたね。

 チルノちゃんとか大ちゃん、光の三妖精にクラピちゃん、それからルーミアちゃん達も皆いたよ。みすちーもリグルも、それから鬼の人達、さとりさん達の地底組、こいしちゃん。

 咲夜と一緒に給仕を手伝いながら宴会に参加したけど楽しかったなぁ。霊夢さんが、「参加費用としてキッチリ賽銭入れてってよ!」と忙しそうにしていた。やっぱり俗物的な人だよね、彼女。

 私も忙しかったなぁ。宴の途中歌ってと言われて即席ライブをしたり、鬼の人達と大酒呑み勝負したり。

 とはいえ給仕として酔ったら仕事にならないから口内に異空間を繋いで別の空間にそのままポイーとやっていた。

 異空間には空の酒瓶とか大樽を沢山用意してあるので今度呑もう。あ、勿論唾液とかは混じってないよ? 本当だよ。

「あーあははうふふふふ! 楽しいれすねぇ! ふらんちゃん!」

「さ、早苗さん? 酔ってます?」

 あとこんな風に早苗さんに絡まれた。しばらく適当に相手をしてあげていると、「よぉーっし! 早苗、今から奇跡をみせまぁーす!」とか言って場を沸かせると無造作に奇跡を起こす。

「いでよ! 僕らのヒソウテンソク!」

 瞬間、超巨大ロボットが現れた。

 うん、本当に現れたんだよ。あり得ないでしょ。馬鹿なの?

「クリーンな戦士! クリーンな兵器! ヒソウテンソクーっ♪」

 しかもなんか歌ってたし。めちゃくちゃノリノリだよっ!? 奇跡を起こす酔っ払いはなんてタチが悪いんだ!

 それと諏訪子ちゃん! 早苗さんに乗じて「じゃあ私は呪いを見せてやろうかね、えへへへへ!」ってやめてくれない!? シャレにならないから! 本当にシャレにならないからぁ!

 と、そんなツッコミを入れていると今度はお姉様と小傘ちゃんが何やらボソボソと話し始める。

「クックック、大勢の人々が楽しんでいますね! レミリア、今こそチャンスですよ! 我らが吃驚魔法(ビックリまほう)の恐ろしさを思い知らせてやりましょう!」

「えぇそうね小傘! 酒を呑むと皆気が抜けるもの。私達の力を見せるチャンスよ!」

 そんな事を話して二人はそれぞれ傘と樫の杖を片手に詠唱を始める。

「「黒より黒く。闇より暗き漆黒に」」

 何やら長い詠唱らしい。そっと後ろから近づいていくと二人はまるで気付かない様子で続きを唱えていく。

「「わが真紅の混交(こんこう)に望み(たも)う。覚醒の時来たれリ、無謬(むびゅう)の境界に堕ちし(ことわり)、むぎょうの歪みと成りて現出せよ! 踊れ、踊れ、踊れ――――」」

 小傘さんはともかくお姉様はなまじスペックが高いせいか樫の杖から何やら危険なエネルギーが見えた。何やってんだこの姉は。とりあえず何かの詠唱なのは間違いないけど、念のため『M×ゼロ(異能無効化)』の準備をして後ろに待機しておく。

「「我が力の奔流に望むは崩壊なり、並ぶ者なき崩壊なり。これぞ究極の吃驚(ビックリ)魔法! エクスプロ――――」」

 あ、これ洒落にならないやつだ。足元に巨大な魔法陣が生まれたのを確認した私は確信する。

 だから私の取った行動は簡潔だった。

「わっ」

「「――ジョンッ! ってきゃああああっ!!?」」

 わっ、と後ろから声をかけて二人が驚いてる間に間に魔法を消去消去。ついでに能力で魔法陣の目を潰して、異空間からピコピコハンマーを取り出して二人の頭を叩く。

「小傘さんはともかくお姉様は馬鹿なのっ!? なんか洒落にならない魔法陣出来てたよ!?」

 そうやってお説教して二人を論破した後はまた給仕のお仕事だ。

 別の方に目を向けるとこんな人もいたよ。

 

「じゃあ私ピコ太郎やります! アイ、ハブアペーン? アイハブハアッポー? お゛ぉ゛ーん! アポーペーン?」

 

 皆楽しそうだね。というかハッチャケてるのか。

 他の方に目を向けると妖夢さんが悲鳴をあげていた。

「幽々子様やめてください! 食料が、食料そのものがーっ!!」

「まだ腹五分目よ、足りないわぁ!」

 叫んで同時に幽々子さんのお腹がグー、となる。あっ、妖夢さんの目が死んだ。妖忌さんがしょうがないなって顔で見てるや。

「……失礼ですが幽々子様。それ以上は肥満の原因にもなりますが」

「妖忌〜? 女の子に体重の話はNGよぉ☆」

「しかし……もう百キロ近く食べられているではありませんか! 動物園の象でもそんなに食べませんぞ!」

「何言ってるか分かんなーい☆」

 ……苦労してるね。

 あとは……さとりさんの方も見てみたよ。

 

「……お空! あっちの腹ペコ幽霊に張り合って食べちゃ駄目よ! あっ、お燐! こらっ! 酔い潰れた人を死体みたいに運んじゃ駄目っ! あ、こいし! こいし何やってるの!? 人の頭に飛び乗っちゃ駄目よ! えっ、世界一位だから大丈夫ってその人神様だから! お空に核融合の力を与えた人だからっ!!」

「いや、さとり。別にあたしは気にしないよ?」

「……駄目です神奈子さん! こういうのはしっかりしないと……!」

「はぁ、まだまだ宴会なんだからそう肩肘張る事ないだろう、無礼講さね。ほらさとりも一献呷りなさい」

「……あ、すみません。んくっ、んくっ……ふぅ、美味しいですね。なんていうんですかこのお酒?」

「酒虫で作った酒だよ。ほら、鬼の瓢箪からは酒が無限に湧いてくるというだろう。実はアレは、酒虫っていうナマズみたいな鬼のエキスを瓢箪に入れてるからなんだ。酒虫は少量の水を与えるだけで次から次へと美味なお酒を作るからねぇ。それが美味で美味で、あぁこれは私が昔、鬼子母神様から分けてもらった酒虫が作ったのさ」

「……へぇ、酒虫ですか。以前本で読んだことが……ってこらこいし! 人のお酒を盗っちゃ駄目よ! なに、世界一位だから良い? 駄目に決まってるでしょう!?」

 うん、大変そうだね。

 特にさとりさんの場合神奈子さんの相手もしながらツッコミを入れてるから大変そうだ。

 ツッコミとしては色々見習うべき点もあるけどね。

 

 で、次は端っこで神社に寄りかかってチビチビ呑んでいる霖之助さんの方に行く。

「やぁフランかい」

「お疲れさまです霖之助さん。年末シーズンで凄い売り上げましたね、デバイス」

「あぁ、お陰様でね。宴会が終わったらまた増産作業だよ。年始も稼ぎどきだからね。と、それよりもキミの書いた『フランちゃんが教える弾幕ごっこ〜入門編〜』もかなり売れてるみたいだね」

「はい。思ったよりも好評で今は、easy編とnormal編を執筆してます」

 最近じゃ人里の外れで空を飛ぶ練習をしている人達を多く見かけるんだよね。そこに話しかけて霊力の使い方を教えたりとかしてるけど、やっぱり嬉しいもんだよ。

 数十センチ浮いただけでも凄い喜んでくれるからさ。中には地上で弾幕ごっこしてる人もいたし。それに里の自警団の人は訓練でデバイスを導入したみたい。

 危険な妖怪に対して弾幕で対応出来れば危険度が大分下がるかもしれないとか言ってた。

 妖怪の私としてはうん、どう反応すれば良いんだろうね。とりあえず売上はすごい、本当に。

 そんなことを考えていると霖之助さんが私に向けて手を出してきた。

「ところでフラン。去年はありがとう、僕を手伝ってくれて。こうやって成功したのも、挑戦しようと思えたのも全て君のお陰だ」

「そ、そんな!」

「それでね、もし良かったら君の為に何かしてやれることがあれば、と思うんだけど何かないかい? 出来る限り力になるよ? ご褒美が欲しければ考えるし……」

「ご褒美!? あ、じゃあナデナデしてください!」

 パッと浮かんだのを言うと霖之助さんは苦笑いして私の頭を撫でてくれた。

 ……男の人の手って大きいね。撫で方もなんか違う。咲夜は凄い丁寧で優しい撫で方で、めーりんは少し大雑把だけど包み込むような柔らかさがあった。

 でも霖之助さんのは少し無骨な手だ。真面目に働いて出来た硬い手。そのゴツゴツした手で撫でられると、なんだろう。安心する。

「……安いね、君。とはいえこんなもので僕も返しきれたと思ってないから、また何かあったら言ってくれ」

 

 そんな感じで別れて、最後に私はまたお姉様達の方に戻った。

 私が戻ると、お姉様と小傘ちゃんは正座体勢で膝の上に100tと書かれた岩を載せていた。

 ちょっと涙目の二人に私は声をかける。

 

「……お姉様、小傘ちゃん?」

「「……ハイ」」

「反省した?」

「「……ハイ」」

「なら良し」

 

 瞬間二人は膝の上の岩をどこかに投げ捨てると咲夜に泣きつく。

 

「うわあぁぁん! 咲夜ーっ! フランがフランがーっ!!」

「重かったです……痛かったです……! 放置するなんて鬼畜です!」

 

 泣きつく二人を抱きしめながら咲夜は私に言う。

 

「妹様、今回の処置は少し酷いのでは?」

「大丈夫よ。どうせ二人ともフリだけで実際そんなに痛がってないだろうし。私より咲夜の方がそれは分かってるでしょ?」

「「ハッ!?」」

「……それは、まぁ」

「な、ナズェバレたっ!?」

「こいつ、まさかスタンド使いか!」

 

 いや、バレバレだよ。演技が下手なんだよ。

 やれやれと手を振りながらパチュリーに視線でなんとかして、と気持ちを込めて見ると『無理ね、あと面倒だからイヤ』とアイコンタクトが返ってくる。

 パチュリー……。

 

「とりあえず今日は無礼講だから許すけど、もう変なことしないでね? さっきのエクスなんとかってやつ発動したらそこら一体焼け野原だったんだよ?」

「それは割と真面目に反省してるわよ!」

 

 ジトっと見つめるとお姉様がそう騒ぎ立てる。

 むーそこまで言うならもう言わないでおこう。

 

 ともかくそんな感じに濃い一日でした!

 紅魔館に帰ってこれ書いてるけど……凄い眠いしそろそろ寝ようと思う。

 明日は初夢の話を書くかな……じゃあおやすみなさい。

 

 

 #####

 

 

 

 読み終えた早苗は感慨深そうに呟く。

 

「年末年始ですかぁ……恥ずかしながら酔っ払ってしまったんですよね、私」

「そうそう。それより早苗、あのロボットは何よ? ヒソウテンソクって」

「何故か守谷神社にあったロボットです。クリーンな兵器、クリーンな戦士! ヒソウテンソク〜♪ってフレーズの音楽もありますよ」

「いやだからそのヒソウテンソクに何の用途があるのか聞きたいんだけど……世界観ぶち壊しよアレ。ここはガンダムの世界じゃ無いのよ?」

「だから言葉の端々になんでその幻想郷に無い作品名が出てくるんですか! ガンダムって外の世界のアレでしょっ!?」

「……早苗さん早苗さん、そのツッコミはキリが無いのでやめた方が吉ですよ」

 

 と、そこでさとりが突っ込むと「……それもそうですね」と早苗は大人しく引き下がった。

 その様子を見てレミリアが口を開く。

 

「そういえばさとりだっけ? アンタはツッコミ役なのね」

「えっ、今まで何だと思ってたんですか!? これまで感想を言い合ってた時ボケてませんよ私!?」

「いや、主って基本部下を振り回すものじゃない。私もよく咲夜とかを振り回すけど」

「……控えめに見ても最低ですよそれ」

「レミリアって悪いヤツだなー」

「か、かっこわるいたる〜」

「ええい! なんなのよ急に鬱陶しい! 霊夢に風祝は茶々入れんな!」

 

 妙にネタ口調で割り込んでくる二人にレミリアは腕をブンブン振り回して怒る。

 が、そこで止まる二人ではない。まず霊夢がこう述べた。

 

「うわぁぁぁん咲夜ー」

「……っ」

 

 レミリアは耐える。その程度で怒るようでは煽り耐性が低いと言わざるを得ないからだ。

 が、続けて早苗が述べた言葉で彼女はぷっつんした。

 

「カリスマ(笑)」

「……死ねっ!!」

 

 レミリアは瞬時にグングニルを出現させると容赦なくぶん投げる! ぶん投げたグングニルは早苗のわずか数センチ横を通り過ぎ、窓を割って門付近の地面に着弾して爆発した。

 外から、「折角修復した門がーっ!!」という美鈴の悲鳴が聞こえてきたがレミリアは気にしない!

 

「ちょっ!? レミリアさん今のはシャレになってませんから!」

「殺す! もう怒った本気で殺す! こんなに腹が煮え繰り返るから――本気で殺すわよ」

「それセリフの無駄遣いですって! あっ、ちょっと待って! それはガチでヤバい! うわっ、待って! 待ってコポッ!?」

 

 瞬間、レミリアの弾幕が早苗に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一月編2『初夢』

 

一日分で一話なのは今回まででまた次回からは数日分書きたいと思います。


 


 

 

 

 一月二日

 

 

 宴会から一夜明け。

 ……正確にはまだ宴会は終わってなくて夜中の三時くらいまで給仕とか酔った人の介抱をしてから咲夜に後をお願いして寝た私だ。

 で、昨日言ってた初夢だけどちゃんと見たよ!

 見たには、ね。うん。

 とはいっても色んな夢を見たからこれは吉夢なのかなぁ?

 とりあえず覚えてるのをいくつか書いてみるよ。

 最初に見たのは、学校? 外の世界の学校で暮らしてる話だった。なんでもゾンピパニックとかが起こってて……学園生活部? そんな感じのメンバーだった気がする。

 ピンクの髪の女の子に「ふーちゃん」ってあだ名を付けられた。

 とはいえその夢はバリケードの外に出た時に終わってさ。

 

 次の夢は町の出口? だった。

 田舎の町らしい。まっさらなイメージのある町だった。で、ひとまず街の外に出ようと思って足を踏み出すと…….

「おぉーい! 待て待つんじゃあ!」

 そんな声をかけて白髪混じりのお爺さんが駆けてきた。

「危ないところだった! 草むらではポケ○ンがとびだす! こちらもポケ○ンを持っていれば戦えるのだが……ふむ、こっちに来なさい」

 途中何度か頭の中で規制音が聞こえてよく分からなかった。何を言ってたんだろう。ともかく案内されるままついて行くと研究所についた。

「おー爺さん! なんのようだよ」

「…………(コクリ)」

「お主は……ああワシが呼んだのじゃったな!」

 そこには赤い帽子の男の子と別に緑色の服は着てないけどグリーン、な印象の男の子が立っていた。

 それからモンスターボールなるものを選べと言われて適当に選んだところでまた夢が切り替わったんだ。

 

「……あれ?」

 気付いたら今度は密室の中に居た。周りを見ると私を含めて四人の人がいる。一人は全身真っ黒で、人型をした何かだ。

 残り二人は眼鏡を掛けた小さな男の子、と間抜けそうな顔をしたお兄さんだ。

「……そっか」

「……そういう、ことか!」

 地面に座り込んで何やら証拠品を採取する二人は同時に叫び、決め台詞を口にする。

「謎は全て解けた!」

「真実はいつも一つ!」

 それから物凄い推理が二人の口から展開された。

 

「殺人の武器はこの模擬刀だったんだ!」

「その証拠に犯人の手には今もびっしりと模擬刀の金箔が付いている筈なんだ……そうだろ。犯人の✳︎✳︎さん」

「ぐ、ぐっ!」

「アンタがやったのはこうだ。事件現場の密室、そこに飾ってあった模擬刀を抜いて被害者に襲い掛かった。死体の様子から多分喉を突き刺したんだろう。模擬刀といっても打ちつけるには十分な代物だからな、金箔が付いている上に首が折れている」

「そして、犯人はそのまま部屋の外に出ると立て続けに三二人もの人を襲って殺害した。これまで犯人とバレなかったのは見つけた人を全て殺していたから、だよね?」

「……だがそれもここまでだ。動機も分かってる……なぁ、自首しないか。三二人も殺したんじゃどうなるか分からないけど、どうせ捕まるよりかはその方が良いだろ!」

 

 そんな感じに推理したけどなんだろう。

 無双ゲームかな? でもその無双出来る人の前に二人しか居ないけど……あっ、二人とも斬られた。

 と、また夢が切り替わる。

 

「ようこそ! ラビットハウスへ!」

 次の夢はどうやら喫茶店らしい。

 三人の女の子が働いていて、どうやら私はそこに新しく来たバイトという設定みたいだ。

「フランちゃんって言うんだね! よし、私をお姉ちゃんって呼んでーって、あう!?」

「馬鹿なことやってないで、さっさと仕事しろ」

「うー、お仕事お仕事って確かにお仕事も大切だけど新しいアルバイトちゃんと仲良くなるのも重要でしょーっ!!」

「仕事が終わってから、だ! 全くそんなのだから……」

 楽しそうだね。喫茶店でのバイトも。

 というか今更ながら中々夢が覚めない上に、夢って気付けてるんだけど何これ。明晰夢ってやつかな?

 と、また夢が切り替わる。

 

 が、

「……これは」

 今度の夢は見覚えのあるものだった。思わず絶句して目を背けそうになったが、こらえて見る。

 見えたのは暗い地下室だ。ザリザリと錠の音が聞こえる。辺り一面は血のような赤に染まっていて、その中心に一人の女の子が座っていた。

 人形を抱きしめた女の子だ。金髪で、赤い服を着ている。

「……っ」

 コオォォ……と風が通り抜ける音が響いた。

 瞬間、女の子が小さく唾を呑む。それから手に抱いたぬいぐるみをギュッと抱きしめて……粉砕した。

「あっ……」

 やってしまった、そんな声を上げる女の子だがその時、外へ繋がる鉄扉の開く音が響いた。

「フラン」

 お姉様の声だ。そうだ、これは私の夢だった。

 久々に開いた鉄扉に夢の中の私は喜んだように立ち上がると鉄扉の方へ駆け寄る。

 けれど、私の手の中にある壊れた人形がお姉様の視界に入った途端お姉様は悲しそうな顔をした。

「プレゼント、……また壊したのね」

「お姉様! ……あっ、これは違っ!」

「……そう、なのね」

「待って、お姉様待って!」

 声を掛けるけれどお姉様は止まることなく、久々に開いた鉄扉はまた重い口を閉じた。ガシャーン、という扉の閉まる音が何度か反響して……やがて、消える。

「……ぁ」

 夢の中の私は悲しそうな顔をして、それで。

 それで……それでそれで気付いたら。

「……っぐ……ひっぐ……」

 いつも泣いていた。思い出した、これは閉じ込められたばかりの頃の私だ。慣れてくると部屋を自分用に改造したりする余裕が生まれてくるんだけど、この頃の私は感情が表に出やすかったんだ。

 一人ぼっちが耐えきれなくて、でもいつも物事が悪い方へ進んでいた。

 それが何年も続いて。

 そして、そしてそして。

 

「……キュッとして、ドカーン」

 

 夢の中の私がそう呟いて、右手を握り締めた瞬間私の視界は暗転した。

 ――目覚めたのだ。

 

「……ぅっ、うう」

 

 あの夢は吉夢? それとも悪夢? はたまた予知夢?

 分からない。分からないけど今年もまた波乱が待っている、そんな予感がした。

 

 ……なーんてね。

 最後のは作り話だよ。全体的にほのぼのだったからちょっと惨劇という名のスパイスを加えようと思っただけだ。

 そもそも幽閉時代に血溜まりの中に座ってた覚えなんかないしね。ぬいぐるみの件はあったけど。

 

 ……うん、今更ながらに私疲れてるのかな?

 こんなことを書いて。うーん……徹夜だったしなぁ。

 とりあえず今日はもう起きるけど明日はしっかり寝ようと思う。

 

 

 

 #####

 

 

 読み終えてまず言うことは一つだった。

 

「って作り話かい!」

「だからって日記を投げつけんな!」

 

 最後で騙されていたと気付いたレミリアが日記をぶん投げたのだ。

 真っ直ぐと投げられた日記は霊夢の顔にバサっと当たって膝の上に落ちる。

 ……霊夢が文句を言うのは当たり前の話だった。

 

「大丈夫ですか、霊夢さん?」

「うん……つかレミリア、アンタ妖怪なんだから気を付けなさいよ? 今の投球、地味に百キロ近いパワー篭ってたわよ。日記自体に魔法かけられてなかったら木っ端微塵よこれ」

「う……ご、ごめんなさい」

「……じゃあこの話はここまでにして」

 

 素直に謝ったレミリアを見てさとりが助け舟を出すと、パンパンと霊夢が手を叩く。

 

「次のページにいきましょうか」

 

 そして一同は次のページをめくったのだった。

 



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一月編3『宴会終了!』

 

 

 

 一月三日

 

 

 初夢を見て、翌日。昨日のうちに紅魔館に帰ってた私なんだけど、一月三日になってもまだお姉様とか咲夜が帰ってこないので博麗神社に行くと……、

「勇儀! デュエルだ!」

「飲みなよ、ぐいっと一気にさ。そうすりゃあ昨日と同じ泥沼の日がまた始まる」

「びゃぁああ美味いぃいいい!!」

「あんたらいい加減にしなさい! 飲み過ぎよ!」

 うん、とんでもない場面に出くわした。

 鬼の人とかあとなんか見慣れない人が混ざってまだお酒を呑んでたんだ。霊夢さんが激おこだったよ、うんその気持ちは分かる。

 宴会が三日も続いてるのはおかしい、真面目に。場所を提供してたらなおさらだと思う。

 とか思ってたら酔いどれ萃香さんが霊夢さんを見て言った。

「れいむぅ……酒飲むなってぇー?」

「そうよ! さっさと片付けなさい。いい加減宴会は終わり! 良い?」

 

 霊夢さんが尋ねると萃香さんは首を横にふるふると動かすと、

 

「駄目ぇー妖怪いつ死ぬかわからないんだよ、飲める時に飲んどかなきゃ……」

「家 で 飲 め ! 後、妖怪が今日明日で死んでたまるかぁっ!!」

 

 正論のナイフでメッタ刺しだったよ。

 でも呑んでいた人達は一向に帰ろうとしない。

 と、ちょっとこのやり取りも気になるけど今日はお姉様と咲夜を探しにきたので一旦スルーすることにして私はお姉様を探すことにした。

 それから数分、ほどなくして見つけたよ。

 

「私とやろうっての? 良い度胸じゃない」

「己の強さに酔う…! どんな美酒を飲んでも味わえない極上の気分だぞ………小娘には分からんだろうがな」

「ハンッ、己の強さに酔う……馬鹿みたい。日本ではこんな言葉があるわよ? 『井の中の蛙大海を知らず』ってね! この永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレット様が大海を教えてやるわ!」

 

 なんか酔っ払ったお姉様が魔王みたいな見た目の人と対峙してた。とりあえずフランちゃんスカウター(私の勘)だとお姉様が酷い目に遭う予感しかしなかったので、間に割って入って止める。

「二人とも、それ以上するなら私が相手になるよ?」

 すると相手の人がなんか引き下がってくれた。大人な人で良かったね。あとお姉様もせっかく真面目だったのにごめん、猛烈にバシュゴォ! ってなる予感しかしなくてさ……。

 で、お姉様は見つけた私だけどまだ咲夜が見つかってないんだよね。

 というわけでまた探しました。

 

「……どこだろう?」

 

 そして歩き回ること数分、やっと見つけたよ。

 

「酒! 飲まずにはいられないッ!」

「どうぞ、もう一献。お酌致しますわ」

 

 なんか見知らぬ男の人にお酒を注いでた。黄色い髪の人でかなり筋肉質な感じだ。前に私がルーミアさんと行ったイタリア料理のレストランの店主さんと似た雰囲気を感じる。

 笑顔でお酒を注ぐ咲夜の様子がどこかマッチしているような……ハッ!

 

(これはもしかして……いや、そうに違いない! お姉様! 咲夜が恋をしているッ!)

(なに! それは本当なのフランッ!!)

 

 なんか喋り方がうつったけど私はお姉様に説明する。

 

(あの顔を見てよ、男の人に対してあんな笑顔の咲夜をお姉様はいつ見た?)

(……見ていないッ! わ、私は知らない! ……ハッ!)

(そう! つまり咲夜は恋をしている!)

(な、なんだって――ッ!!?)

 

 そんな感じにテレパシーでの会話をしていると、

 

「まさか勘違いですよお嬢様、それに妹様。あの方は少し縁があっただけで何もありません」

「「きゃああっ!?」」

 

 うん、本気でビビった。気が付いたら目の前に咲夜が居るんだもん。流石なんだけど正直ビビるよね。

 で、あとの事をまとめると、何度注意しても帰らない人たちにブチ切れた霊夢さんが所構わず弾幕ごっこを仕掛けて叩き潰していくことでようやく宴会は幕を閉じたみたいです、まる。

 とりあえず霊夢さん、お疲れさまでした。

 

 #####

 

 読み終えて霊夢は言う。

 

「……本当にお疲れさまよね」

「というかそんなに残ってたんですか? 皆さん」

「図々しくもね! というか三日よ? 三日、さっさと帰りなさいよって話でしょ!? しかもまともに片付けしてくれたの、五、六人よ? フランと咲夜、早苗は来てて、あと妖夢と鈴仙だけ。ふざけんなって話じゃない!」

「……それは、御愁傷様です」

「でも私のとこからは二人手伝いに行ってるから文句を言われる筋合いはないわ! また来年もよろしく頼むわよ」

「……私、あんたのその性格が羨ましいわ」

 

 レミリアに向かって霊夢は呟くと次のページをめくるのだった。

 

 #####

 

 

 一月四日

 

 

 久しぶりの完全オフだ。宴会とかライブとか商品開発とか去年は年末大忙しだったからね。それに昨日も咲夜が居ない分いつもより掃除に手間取ったり、家事をやったりと疲れてるし、一昨日は徹夜だったしとバッタリ倒れて一日中寝てたよ。

 昼からはレミィたんとお茶してた。なんだかんだ沢山手伝ってもらってるしね。

 話してて思うけどやっぱり見た目がお姉様なのにお姉様らしからぬ言動をしてるから違和感あるなぁ。あ、駄目ってわけじゃないよ? お姉様みたいに抽象的な話し方しないから説明も分かりやすいし。

 いや、それこそお姉様の姿をした人を見て一瞬大人っぽさとカリスマを感じてしまうほど……うん。やっぱりお姉様も本質はこうなんだろうけど、おかしいな? なんか姉に対する残念感が湧いてきたぞ。

 まぁ残姉と呼ぶのは可哀想なのでやめておくけど……。そのうちカリスマのある人にお姉様にカリスマのなんたるかを教えてもらえるよう頼んでみようかな?

 お姉様の目指すカリスマってのは絶対的な君主ってイメージでしょ。それか誰にでもあの人凄いわねって言われる感じのやつ。

 良さそうな人……ううむ。居たかなぁ。一歩間違えると傲慢になっちゃうからその線引きの出来るカリスマの権化。

 とりあえず適当に何人かに聞いてみようかな。映姫さんとかならこういう悩みとかにも沢山向き合ってきただろうしあのあたりに。

 ともかく今日一日、そんな感じに過ごした。

 

 

 #####

 

 

「……カリスマの教育、ですか」

「そもそもカリスマって目指してなるものというよりいつのまにか周りにそう思われるものだと思うんですけど」

「そうよね、というか自分からなるカリスマってそれ、自称カリスマだし……」

 

 そこまで言って三人はチラリとレミリアを見る。

 

「失礼ね! 私はこんなにもカリスマに溢れてるのに!」

「失礼ですけどどこがですか……?」

 

 怒気を露わにするレミリアに対し、冷静に突っ込む早苗であった。

 

 

 #####

 

 

 一月五日

 

 お姉様が悩んでいた。

 どうしたのか聞いてみると人里に遊びに行った帰りに、近くにいた子供の運命が見えたらしい。で、その運命がなんとあと三時間後に井戸に落ちて死んでしまうという残酷なものだったのだとか。

 それで、気まぐれで助けたのは良いけどその後に懐かれてしまったみたいで今度遊ぶ約束をしたらしいんだけど、子供の遊びなんて知らないしどうしようかと悩んでいたんだとか。

 お姉様、意外と普通の悩みもあるのね。というかお姉様大丈夫なの? 確か阿求さんが書いてた幻想郷縁起でお姉様は危険度極高判定でしょ? それなのに人里の子供と遊んでセーフ……かな?

 それを言うと「あっ」とお姉様は声を上げてた。多分忘れてたよね、これ。もう、肝心なところでポンコツなんだから!

 でも私は手伝いません。これは自分でやる事だと思います。しっかり悩んで良い決断をしてください。

 ファイト、お姉様!

 

 

 #####

 

 

「良い子ですね」

「良い子だわね」

「……そうですね」

「急に優しい目して撫でるんじゃないわよ! あっ……も、もうちょっと後ろ! そう、そのあたり……」

「……なでなで拒否からのオチまでが早っ!? レミリアさんっ!?」

「はっ!? や、やめなさい! やめっ、やめろーっ!!」

 

 流れるような落ちっぷりに思わず突っ込む早苗だった。

 

 

 



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一月編4『お姉ちゃんの優しさ』

 

あと十話で百話……マジか。
ここまで来たら完結まで毎日投稿し続けたいなぁ……。







 

 

 

 一月六日

 

 

 ……疲れてたせいかな。寝坊した。お姉様に起こされた。

 最近じゃ朝ごはんも交代で作るようになってて、今日は私の当番だったけど咲夜が作っていた。

 やっぱり咲夜のご飯は美味しい。でも寝坊は駄目だよね……。美味しくて嬉しい気持ちと寝坊して少し危機感を抱く気持ちとが混ざりあってちょっと微妙な心中です。

 朝ごはん作れなくてごめんね、って咲夜に謝ると

「そんな申し訳無さそうな顔しないでください。最近お疲れだったようですし、ね?」

 って返してくれた。うぅ、励ましてくれるのはありがたいけど申し訳なさが倍増だよ。あと顔が凄い微笑ましそうな顔なのは何故?

 起きるのが遅かったせいで修行もあんまり出来なかった。めーりんもごめんね?

 ともかく明日は寝坊しない、そう決めた。

 

 

 #####

 

 寝坊、そのキーワードに早苗があぁ、と頷いた。

 

「寝坊ですか……偶にありますよね」

「へぇ、早苗もあるの? 寝坊」

 

 意外ね、と視線を横にずらし早苗を見た霊夢が問いかける。

 

「ありますよ。ただ寝坊する時は決まって何か厄介ごとが舞い込んでくる時とか、それか諏訪子様や神奈子様の元に友人の神様が内密に訪れる時とか、都合の良い時ばかりですけど……」

「……ほんと奇跡って言葉でなんでも片付きますね」

「すっごいお得ですよ。ただ、勝負事とか賭け事に大抵勝ってしまうのは難点ですね。面白味が無くて……それにゲームで乱数が絡んでくると……。この前、紫さんにお願いして『ムーン』を取り寄せてもらったんですけど出るポケ○ン出るポケ○ンがみんな色違いとか低確率出現ばかりで……」

「何の話よ何の」

 

 話が脱線し始めたところでレミリアがストップをかけた。

 それから視線を逡巡して、やがて曖昧な顔でこう言った。

 

「……じゃあ、次のページいきましょうか」

「やけに元気がないわね」

「べ、べべっ別に何も無いわよっ!? ほらほら元気元気! な、ななっなにも後ろめたい事なんて無いんだからねっ!?」

 

 霊夢のツッコミに慌てふためくレミリアだがそのあまりにもな姿に三人は呆れた顔を見合わせて呟く。

 

「(……もはやフリじゃないわよね? コイツ)」

「(……天然です、頭の中を覗きましたけど)」

「(あの、お二方。もはやレミリアさんが一周回ってウザくなってきたんですけどどうすれば……というか天然であれって生きていく上で大丈夫なんですかっ!?)」

「(大丈夫だ、問題無い)」

「(それ問題ある時のセリフですよねぇっ!! それくらい知ってますからっ!!)」

 

「? 何話してんのよ」

「なんでもない。ほらちゃっちゃと次のページいくわよ」

 

 そう言って日記に手をかける霊夢だがその時ボソッとレミリアが呟いた。

 

「……霊夢、吸血鬼は耳が良いんだからね」

「…………、」

 

 霊夢 は レミリア を 無視 した !!

 

 

 #####

 

 

 一月七日

 

 

 年末年始ってイベントだらけだよね。

 カレンダーにその日のイベントを書き付けていくとここ数週間の忙しさがよく分かる。というか自分の日記を読み返しても分かるね。

 でも……昨日の寝坊は少し疑問があるんだ。

 別に徹夜した翌日の就寝ってわけじゃなく、前日に普通に睡眠をとってるのに寝坊するなんて不自然だもん。

 あともう一つ私がそう思った理由がある。なんていうか、お姉様の様子がおかしいんだよ。

 私をチラチラ見ては、何か物欲しそうな目で見てくる。で、どうしたの? って声を掛けると離れてくし……なんだろうね。

 ちょっと調べてみる必要がありそうだ。

 この事件、アイドル探偵フランちゃんが解き明かします!

 

 ……いや、この決めゼリフはどうなんだろう。

 他に何かないかな。

 

 ジッチャンの名にかけて! 真実はいつもひとつ! 

 

 なんか違う。えっと……あ、そうだ。

 そのロジック、壊します! とかどうかな。

 むむぅ……難しいな。これは今度考えておこう。

 

 

 #####

 

 

「推理モノの決めゼリフですかぁー」

「QED、証明完了とか? あっ、私なら『この異変、博麗の巫女が解決するわ!』かな」

「……探偵ですか。私は、出たら駄目なキャラですね。犯人が心を読めば丸わかりです。立ち位置としては犯人が分かっても言えない立ち位置か、それか殺される役割ですね。決めゼリフは『……視えましたよ、この事件のすべて』とかですか」

「皆思ったより格好付けないのね、私ならこうよ! 『暗愚、実に暗愚よ。このレミリアの前に立ったのが運の尽きね。こんな事件、暇潰しにもならないわ』。どうどうっ!? 格好良いでしょ!」

「あー……まぁ、はい。格好良いですね。ちなみに私ならこうですかね。『私の奇跡の前には、いかなる犯罪も誤魔化せません!』か、それか『私に非常識(ハンザイ)は通じませんよ』とか」

 

 

 #####

 

 

 一月八日

 

 

 謎は全て解けた!

 私が寝坊したのはお姉様の仕業だったんだ!

 永遠亭で私の体を調べて貰って分かったんだけどね。

 二日前、私が寝る前にお姉様から紅茶を貰ってさ、あれが全ての原因だったみたい。

 なんか紅茶の中に睡眠薬が溶かされてたらしいんだ。

 それでグッスリ寝てしまったと。

 で、今はお姉様を弾丸で論破して逆転の裁判をしてます。

 

「で、でも私が入れた証拠は無いでしょう!? 咲夜なら時間を止めて入れられるし……」

「それは違うよ! ……つまりお姉様はあれなんだよね? 咲夜のこと疑ってるの? あれだけ尽くしてくれる子なのに? だとしたらお姉様、最低だよ?」(論破)

「はうあっ!? そ、そんなわけないじゃにゃい! 私が咲夜を疑うわけないでしょう!」(BREAK)

 

「ならば、先程の『咲夜なら睡眠薬を入れられる』という発言の取り消しを要求します! それが筋ってもんでしょお姉様!」

「……う、うう。分かったわよ。で、でも私は……」

「異議あり! 被告人の発言に信憑性はありません! よってこれ以上の発言権を剥奪します!」

「待って横暴過ぎないっ!?」

「よって判決は――――」

「ちょっ、待って待って! 全部話すからっ! だからその手に持ってるレーヴァテインをしまいなさい! 話し合いに武器は要らないわ!」

 

 それで有罪、という前に自白したので仕方なく話を聞くことに。

 さてどんな言い訳が口から飛び出すだろう、と思ってたらお姉様の話は予想外のものだった。

 

「……その、ね。最近フランすごーく忙しそうだったでしょ? でも毎朝早起きしてるからちょっと疲れが溜まってるように見えて、心配でね? それで……偶にはゆっくり寝てほしいと思って……前日に咲夜に家事の事も含めてお願いして薬を盛ったの」

 

 ……私は馬鹿だ。

 ごめん、本当にごめん。お姉様。まさかそんなに私のことを考えてくれてたなんて思ってなかったよ。

 ……ありがとう、心配してくれて。

 嬉しい。私はすっごく嬉しい。お姉様がそんなに心配してくれてたなんて。お姉様にも愛されてたんだなぁ、と気付いたよ。

 それに気付いた途端、心がぽわぁって暖かくなった。と、同時に涙が出てきた。じんわりと涙が溜まって、一筋流れ出す。

 

「あ、あれっ? ふ、フラン!? ご、ごめんね? 何か泣かせるようなことしちゃった!?」

「違うの……これは、違うの。お姉様」

「あ、あうあうあう……こういう時はさく、や……って、えっ?」

 

 急に泣き出した私に驚いたのかオロオロし出して咲夜を呼ぼうとするお姉様だけど、それを服を掴むことで止める。

 それから精一杯お礼の気持ちを込めて、そっと抱きついて言いました。

 

「……ありがと、大好き。それだけ」

 

 言い終わってからあれだけど実の姉に言う言葉かな、これ。

 ちょっと気恥ずかしいよ(*/∇\*)キャー

 

 

 #####

 

 

 読み終えてまず一言、霊夢が言った。

 

「キマシタワー」

「何言ってるんです、霊夢さん?」

 

 聞きなれない単語だったのか早苗が聞き返すと霊夢はあり得ない顔で尋ね返す。

 

「え、早苗アンタ、ネット使ってるくせに知らないの?」

「???」

「マジか……マジか」

 

 手を頰に当てて首を傾げてまるで分からない、とアピールする早苗を見て霊夢は愕然とした。

 ハッキリと差が出る巫女二人だがそれはさておき、さとりが突っ込む。

 

「……内容は知らない方が幸せだと思います。というかこの文章を読んだ感想がそれですか霊夢さんっ!?」

「……だって変に真面目に回答したら誰もボケるやつ居ないし」

「……別にボケは強要されてませんから!」

 

 ……日記読むたび誰か一人必ずボケなきゃいけないルールなんてありませんし! とツッコミを入れられて霊夢はう、うんと頷いた。

 すると早苗がレミリアを見て言う。

 

「というかレミリアさんがさっき慌てふためいてたのって、睡眠薬を入れた犯人だったからですか?」

「えっ? あ、そ、そうよ!」

 

 何か思い付いたように慌てて頷くレミリアだが、さとりが一言。

 

「……レミリアさん。嘘つくなら私が、その。居ない時に……」

「あっ……」

 

(……oh)

 

 絶対これ、何かやらかしましたよね。

 そう確信した早苗だった。

 

 

 

 

 

 

 



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一月編5『紅魔館は○○するもの』

 


 とうとうきたよ……紅魔館あるあるが。


 


 

 

 

 

 

 一月九日

 

 

 

 紅魔館が爆発した。

 

 

 

 

 

 #####

 

 

「「「…………は?」」」

 

 一行。

 ポツンと書かれた九文字に霊夢、早苗、さとりの三人は思わずそんな声を漏らした。

 

「……あう、うー……うー……」

 

 対外的にレミリアだけが部屋の隅で汗だくだくの真っ青な顔でガクガク震えている。

 その様子から思い起こされるのはつい先程の早苗の問いに対するレミリアの発言だ。

 

『というかレミリアさんがさっき慌てふためいてたのって、睡眠薬を入れた犯人だったからですか?』

『えっ? あ、そ、そうよ!』

 

 何かやらかしただろうな、とは思っていた。

 思っていたが流石にこれは予想外だった。

 

「「「…………(絶句)」」」

 

 何こいつあり得ねぇ、という目で三人はレミリアを見つめる。

 レミリアは縮こまった。

 やがて、早苗が発言する。

 

「……と、とりあえず次のページにいきましょうか。事情も分かりませんし、ね?」

 

 無言の賛成を受けて早苗は次のページを開くのだった。

 

 

 #####

 

 

 一月十日

 

 

 昨日のことはあまりにショッキングな出来事過ぎて日記が書けなかったよ……。だってまさか自分の住む家が跡形も無く吹き飛ぶなんて思ってなかったもん!

 ……幸い、紅魔館が保有する金品や財宝といった類はみんな咲夜が特殊な空間の中に保管してたから無事だったけど、まさかまさかだよぉ……。

 今回の件の原因はお姉様だ。お姉様が花火をやりたいって言い出してさ、それでパチュリーに「幻想郷のどこからでも見える巨大花火玉を作って夜空に大輪の花を咲かせるのよ!」とお願いしてたんだ。

 で、作ったんだよ。

 合計3000発。1発作った後に全てコピーの魔法を使って増やして五時間くらいだっけ。私も手伝ってさ。

 ようやく終わったと思って図書館に置ききれなくなった花火玉(一個当たり大きさ一メートル超)を一箇所に集めて適当な空間にでも放って置こうと思ってたら……、

 

「咲夜のバカー!」

 

 なんかお姉様の怒声が聞こえてきて、同時にドガンッ!! っていう衝撃が大図書館の壁を貫いたんだ。

 で、それが何かと思ったらメラメラ燃え盛るグングニルで……切っ先が真っ直ぐ花火玉に突き刺さってた。

 チリチリ、という音があれ程リアルに耳に届いたのは過去を見返してもないね。

 で、次の瞬間に一個が中の火薬を撒き散らしながら大図書館で爆発した。同時に周りの花火も次々と着火して紅魔館内を縦横無尽に飛び回り、壁にぶつかり爆発。パチパチ音を立てて光が飛び回る。

 一個当たりの威力もかなり高かったのでものの数秒で紅魔館の屋根が吹き飛んで、ついで壁と支柱と壊れていった。

 ……で、もう一個最悪の事態が起こった。

 実は、花火を作る&コピー錬成の為に用意していた火薬を保管していた部屋があるのね? その部屋のドアが『()()()』開いててさ。

 うん、もう分かるよね。

 とりあえず文章にするとこんな感じかな。

 

 

 ドガンバガン! パチパチンッ! と破裂する花火玉がようやく収まってきた頃だった。

 

「……?」

 

 チカッ、と。

 紅魔館内で、白く瞬く光が生じた。

 一瞬、私は認識が追いつかなかった。白く瞬く巨大な光。それのあった方向は火薬を保管しておく火薬室で、壁も特別厳重であり扉も閉められている筈だったからだ。『そんなわけがない』という思いが心の中を占める。

 だがたっぷり数秒もかけて、ようやく私の思考の焦点が正しく調節された。

「……まずい」

 思わずパチュリーと小悪魔の手を掴む。

 そのまま勢い良く壁をぶち抜いて紅魔館を飛び出す。

「まずい!!!!」

 直後の出来事だった。

 

 私の視界の端で『何か』が光った。

 爆発点を中心に紅魔館が物凄い閃光と爆発に呑み込まれ、破壊されていく。

 

 まるで惑星を呑み込むブラックホール。

 その正体が、単なる花火用の火薬だと、一体誰が気付けただろうか。

 強烈、という言葉さえ生温い速度と圧力、それが直線上にある爆発点を中心に圧倒的な大爆発を起こし、また火薬保管庫という空気の出入り口が少ない部屋の形質上、瞬時に爆発の影響で部屋が膨張し、音速の四倍から五倍の速度で紅魔館の全てを吹き飛ばしていく。それはもはや花火なんてものではなく、猛烈な熱波の壁であった。紅魔館外、即ち外の雪の降り積もった地面の層が一瞬にして融解させられ、剥き出しの大地がオレンジ色に赤熱していく。

 その時。

 フランドール・スカーレット(わたし)は、体の弱いパチュリーと小悪魔を庇う為に二人を瞬間移動させ、次に一番危険が及ぶ『人間の咲夜』を探す為紅魔館内を突っ走っていた。

 人間である彼女の命が危ういと思ったのだ。

 だが、

 

「っ!!? ぐっ……がっ、はぁっ……!!」

 

 結果を言えば私は爆発に巻き込まれ紅魔館の地下室に落とされた。吸血鬼の肉体をして一瞬にして全身火傷を負い、焼け爛れた体を動かすこともままならず、かつて幽閉されていた地下室に落ちたのだ。

 紅魔館を襲う大爆発は、たっぷり数十秒間も続いた。

 衝撃波は地表を舐めるように席巻した為、崩落した紅魔館の建物が私の上に積み重なっていく。

 魔法使い御用達の火薬だ。その火力は通常のものの比ではない。熱によって溶かされ、液状化した紅魔館の残骸が降り注いでくるとなれば流石の私もひとたまりもない。それがドロドロと私の体に降り注ぎ地獄の苦しみを与えた。

 同時に蒸気の熱も私を襲う。空気が瞬く間に乾燥し、両目に鋭い痛みが走る。痛みから「うぅ」と小さく喘いだ瞬間、灼熱の空気を吸い込んで喉が焼け爛れた。

 

(これ、は……やばい! 本気でやばいかも……)

 

 激痛に悶絶し、意識が薄れ、また激痛で目覚める。

 妖怪といえど意識を失うことも出来ずただただ激痛が体を支配していれば辛い。

 数分。

 もはや喋ることすらままならなくなってしまった私だが、ようやく爆発が収まってきた事で回復速度が上回り始め、自身の怪我の確認をするに至った。

 熱によって溶かされた紅魔館の残骸の溜まり場。マグマ溜りから自身の体を起こそうとするが動かない。神経がやられてしまったのだろうか。吸血鬼の回復速度を考えれば数分もこうしていれば直るだろう。

 それにマグマも少しすれば冷えてくる。炎剣を操る私なら問題無い温度に。焼け爛れた喉も幸い直ぐに回復した。元より熱波を吸い込んだ程度なので吸血鬼の属性を考えればそんなものなのだろう。

 

「……ぁー」

 

 それでも痛いものは痛い。恐る恐る声を出して、それから鼻から息を吸い込んでみると喉や肺が焼け爛れる事はなかった。今の季節は冬だ。流石の熱波も直ぐに冷やされたのだろう。

 その頃になってようやく体の感覚が戻ってきた。

 ゆっくりと起き上がって……気づく。

「……あ、服が」

 着ていた服が完全に溶けて裸になっていたのだ。

 起き上がった時には焼け爛れた痕は完全に消えていたので、ただの真っ裸である。

「……服、着よう」

 私は空間を開いて、下着と普段紅魔館で着ているドレスの予備を出した。

 それを魔法で一瞬にして羽織ると、瓦礫の山を壊しながら地上を目指す。

 そして地下から飛び出して、外を見た。

 景色は一変していた。

「何よ……これ……」

 そこにあるのはほんの数分前までそこに存在していた真っ赤な建物でも、私が大事に育てていた向日葵のある庭でもなかった。

 焦土。

 空襲と言えば分かりやすいだろうか。爆破され崩壊し瓦礫と化した紅魔館の痕がそこにはあった。

 

 』

 

 

 こんな感じだ。

 本当にこんな感じだったんだよ!

 私の花畑も耕した土ごと完全消滅してたし、紅魔館だって跡形もない! 能力で直そうにも、私の能力は一つ一つ指定する必要があるんだ。

 つまり、紅魔館内で爆発した花火玉Aの爆発した事実を壊す事は出来ても、紅魔館が爆発した事実を壊す、という事実と違う事象は壊せないんだ。

 流石の私も3000発ある花火のどれが偶々『扉の開いていた』火薬室に飛び込んだのかなんて分からないし。

 仮に扉を開けた事実を無くしても紅魔館内で花火の爆発した事実は変わらないし、それにお姉様がグングニルを投げた事実を壊そうにも、お姉様の周りには数多の運命の目があるから下手に能力使ったら周りの運命ごと壊す、なんて悲劇もあるし……。

 大切なものが無くなる時は一瞬だね。

 まだ実感湧かないよ……それに熱かったし痛かったしで散々だ。

 ともかく今は人里で宿を借りてる。幸いにも死者はゼロ人、重傷者も(治ったから)無しだ。妖精メイドは殆どが一回休みになったけど、偶々ホフゴブリン達が揃って外出してて良かったよ。

 AIBOは持ち前の筋肉ゴリマッチョを活かして崩れた紅魔館内に取り残された妖精メイド達を助けたりと大活躍したらしいし、レミィたんは私の言いつけを守ってお姉様を守った上で脱出したみたい。咲夜は咲夜で一旦自分の身を守った後にお姉様と私を探してくれたみたいだし。

 めーりんは……うん、シエスタしてたらしくて爆発に巻き込まれたけど無傷だって。「いやーギャグ補正が無きゃ死んでましたよ」とか言ってたけど超元気そうだった。

 なんか私だけ痛い目見てるなぁ……こういう時こそ冷静に対処しなきゃいけないのにどうも自分のことが後回しになってた。

 その結果アレだから自業自得かもしれない。

 ともかく明日からは紅魔館の建て直し作業か……。

 知り合いの人にも手伝ってもらおう。鬼の人達とか作業早そうだし、ホフゴブリン達と復活してきた妖精メイドにも手伝わせれば一ヶ月で元に直せると思う。

 ついでだし暮らしやすいようにしよう。そのあたり咲夜とも相談しないとね……。

 

 あーあ、新年早々『火薬室の扉を開けた人』と『花火を室内で爆発させた人』のせいで最悪だよ。大凶だよこんなの。

 

 

 ――――ネェ、オネエサマ?

 

 

 #####

 

 

「ひぎゃあああっ!!」

 

 最後に付け加えられた一文でレミリアが飛び上がった。

 それから地面に小さく座り込んで両手でスカートに頭を埋めるように押さえつける(「座符」カリスマポーズ)の体勢に移行する。

 

「……扉を開けたのも爆発させたのも犯人がアンタって……そりゃキレるでしょ。大切にしてた花畑も木っ端微塵だし……つーかなんで火薬室の扉なんか開けっ放しにしたのよ」

 

 呆れた、と霊夢が言うとレミリアは焦ったように答える。

 

「だ、だって花火って凄い綺麗じゃない! だから原材料の火薬もキラキラ光る宝石みたいなものかなって思って……!」

「そんなわけあるかーっ!! いやそれは流石にあり得ませんから! レミリアさんそれは真面目に不味いですよ! 大丈夫かこの子っ!?」

 

 とうとう早苗にまで突っ込まれるレミリアだが、ここでさとりがまぁまぁと三人に声をかけてから言う。

 

「……まぁまぁ。でも確かに無知にも程がありますよね。もしかしてフランさんの羽の宝石もアレ実はパチュリーさんの賢者の石の一種とか思ってたりしませんか?」

「……な、なんで分かったの!?」

エスパー(さとり)ですから。さて、次のページにいきますよ」

 

 ふふん、と笑って答えたさとりはそれ以上変な方向に話が進む前に次のページをめくったのだった。

 

 

 

 

 



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一月編6『紅魔館建て直し計画!』

 

 

 

 一月十一日

 

 

 家なき子生活が始まった三日目。

 今日から紅魔館の修復が始まるわけだけどその為に色々問題が起こりました。

 まず紅魔館ってさ元々何百年も使われてた古城を私達のお父様やお母様が私達の生まれる前に改築したものらしいの。だから、誰も屋敷の作り方はおろか、普通の家を作る知識すらないのね。

 耐震性だとか、支柱の位置だとか、木とかの組み方とか、土台がどうだとか、そんなのまったく分からないわけ。

 それに洋館の間取りとか、それにかかる費用と材料の調達。

 ……考えるだけで頭痛がしてきた。絶対一ヶ月以上掛かるよね。

「ねぇ咲夜、どうにかならない?」

「知識がありませんので何とも……調べようにも時間を止めては本をめくれませんし、それに基礎工事や支柱、壁や土台を作る作業は一人では……」

「咲夜でも駄目、か。でも家が無いと困るわね」

「お役に立てず申し訳ありません……」

 近くでお姉様が何やら咲夜に聞いてるけどなんだろうね。

 一発殴っていいかな? 今すぐあの不服そうな顔を涙に濡らしてやりたいんだけど。

「お姉様」

「なに、フラン?」

「黙ってくれない?」

「何故ェっ!?」

 笑顔でグーサインして、そのまま親指を下に向けるとお姉様が疑問の声を上げる。けど当たり前でしょ。紅魔館爆発の全部の原因、いや諸悪の根源だもん! 私だって大事にしてたもの全部壊されたり、それと私自身痛い目見ておかんむりなんだから!

 ……まぁ反面、今まで能力でお姉様がくれた人形壊したことで与えてしまった痛みを知れたけどさ。規模が違うんだよ! というか手を上げてない時点でかなり優しいと思うよ!? 普通の人なら縁切るまであるよこれ!

「……でもどうしましょうか。辛うじて建築を齧ったことがある程度の私だけじゃ館を立てるなんてとてもとても……建物の頑丈性も、保証できませんし……」

 めーりんも頭を抱える。咲夜も申し訳無さそうにしてて、こっちが申し訳なくなってくるよ。

 でも本当にどうしようか。妖精メイドは論外だし、ホフゴブリン達は座敷童と同じで家に繁栄をもたらす妖怪だから勿論建築なんて知らない。

 前に博麗神社が倒壊した時は鬼が直したって聞いたけど、鬼の人達とはそんなに親しくないからなぁ……。

 一応知り合いはいるけどさ、萃香さんとか勇儀さんとか。でもそんなの頼めるほど仲良くないし……何か無いかなぁ。

 そう考えるけど答えは出ず。

 一日を無駄に消費してしまった。

 

 

 #####

 

 

 読み終えてまず声を上げたのは早苗だった。

 

「うわぁ……今回は難しいですね。建築は専門知識ですし。というかレミリアさん、一気に好感度落ちましたね」

 

 苦笑いで言うとレミリアは怒ったように両手をグーに握りしめる。

 

「う、うるさい! だってグングニル投げたら花火に刺さるなんて……ましてや開けっ放しの火薬室の中に入るなんて想定出来るわけないじゃない!」

 

 そう反論するが、途中の言葉に引っかかったらしい霊夢が「ふっふっふ、とうとう尻尾を出したわね!」と叫んだ。

 

「だってアンタは運命が見えるでしょうが! 絶対知ってたわよ! 確信犯よこいつ!」

「う、運命? あっ、ち、違うもん!」

 

 運命? と言われて一瞬首をかしげたレミリアだったが、すぐに自分が運命を見れることに気付いたのか慌てたように反論する。

 

「本当に違うの! 全く知らなかったもん! そんな運命見てないから想定も出来なかったの! だ、だから私は悪くないわ!」

「……どうでも良いですけどレミリアさん、口調。段々子供っぽくなってます」

 

 あうあうあうあう、と混乱し目の中がぐるぐる渦巻いてくるレミリアにサラッと突っ込むさとりだがそれをスルーして霊夢は続けた。

 

「嘘だッッ!!」

「な……っ!?」

 

 無駄に響く声にレミリアはびくっと震える。

 対して声とは裏腹に霊夢はとても優しい顔で述べた。

 

「正直になりなさい、レミリア。そもそも紅魔館が爆発するなんて二次創作ではよくあることよ! それの何が悪いの!? 偶々この世界線は建て直す所が無駄にリアルなだけで他の二次創作じゃ普通に建て直せてるじゃない! 仮にアンタが引き金を引いたからってこれっぽっちも悪くないわ!」

「れ、れいむ……」

「だからね、正直に言いなさい。本当は、知ってたんでしょ?」

「……わ、わたしは……」

 霊夢の優しい言葉にレミリアはゆっくりと口を動かす。

 涙目で震えながらゆっくり、ゆっくりと……、

 

「本当は……私」

 

 上目遣い気味に顔を上げて彼女は自白――――、

 

「全部……知って……る、わけがあるかーッッ!!」

 

 ――――する前にギリギリ気付いた。

 

「知らないわよ! 私本当に知らなかったから! 危うく霊夢に騙されるところだったわ!!」

「ちっ」

「霊夢さんも舌打ちしない。というか何口走ってんですか霊夢さん! なんか私の奇跡が「メタ自重しろ!」って囁いてきて超うざいんですけど!」

 

(……いや、早苗さんもメタとか言ってる時点で大概ですよね)

 

 そんな具合で話しながら一同は次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 一月十二日

 

 

 良いことを思い付いた。

 幾つか案はあったけど、多分一番良い方法だ。

 まず先に言うとね、私、かなり前に八雲紫に貸しを作ってるのよ。

 それを返してもらおうと思う。

 まぁようするに、

「紅魔館直して下さいな?」

「……どうやって私の家のある位置を割り出したのか分からないけど、開口一番に何無茶を言ってくれるのよ」

 スキマ。そのとある空間にある紫さんのプライベート世界。

 封印してた神様の力を解き、フル活用して気付かれないようにスパッとスキマ解析して割り込んできた私だよ。勿論すぐに封印し直したけど、ともかくそんなわけで『突撃隣の八雲さん』をリアルに敢行したわけだ。

「貸しがあるでしょ。やってよ、あと前より内装を暮らしやすくしたいから咲夜と考えた間取りがこれね」

「何やる方面で話を進めてるのよー……ゆかりん怒るよっ☆」

「うわキッツ」

「ぶっ殺すわよ?」

 何を怒ってるのさ。こっちは本音をぶつけてるだけなのに。

 確かに最近の出来事でイライラしてるのは否定しないけどそっちも軽々しく殺すなんて言葉を使うもんじゃないよ? 特に妖怪の賢者なんて呼ばれてるんだからさぁ?

「ともかく直してよ? 家が無いと困るの」

「……別に出来ないわけじゃあ無いわよ。でもそんなお願い、貸しがあると言っても私の借りと釣り合わないわ」

「はぁ……じゃあ交渉は決裂かな」

「あら、あっさり引くのね」

 どうやら駄目らしい。良い手だと思ったんだけどなぁ……。

 まぁ別の手が無いわけじゃないし無理にお願いすることはないけどね。

 そんなことを考えていると八雲紫が尋ねてくる。

「ちなみに、他に案はあるの?」

「うん。神綺さんの屋敷とかの建築がうちと似てるからあそこにお願いして、あとは長持ちさせる為に神様にもお願いするかなぁ。確か神奈子さんは鬼の鬼子母神さんとのツテがあるって聞いたし紹介してもらって……それからエリスさんとかフレイヤさんあたりにも建築に詳しい人を聞いてみようかな。と、そんなとこ。ってどうしたの、そんなに青ざめた顔して?」

 

 思い浮かべてる案を述べてくと段々八雲紫の顔が青ざめてくる。胃が痛い、とかしきりに呟いていた。けど、最終的に真面目な顔でこう尋ねてくる。

 

「……脅してるの?」

「はぁ?」

 

 訳が分からない。

 真面目に首を傾げると紫は感情を表に出して言った。

 

「う、うううう! そんなまるで訳が分からないって振りなんかして! 絶対脅しでしょ!? 道化のつもり!? 分かった、分かりました! この八雲紫さんがちゃんと紅魔館を請け負うわよ! 代わりにこれで貸し借りゼロよ!」

「え、良いの? ありがとー。あ、でも手抜きしたり思ってたのと違ってたら怒るからね?」

「もう言われなくても分かってるわよー……っ!」

 

 最後はもうシクシク泣いてた。

 どうしたんだろうね、急に。

 まぁともかくこれで紅魔館の建て直しの目処が付いたってことで良いんだよね!

 良かった良かった。

 

 

 #####

 

 

「……神様跋扈」

「……鬼子母神」

「フラン……やめて! もう八雲紫の精神はゼロよ!」

「……こいしが居るからよく分かりますけど、無意識って怖いですよね」

 

 トラウマを思い出す巫女達と、八雲紫に同情するレミリア。

 そして、

 

(……今更ながら、酷いですね。これ)

 

 こいしを持ち出して納得しつつ、フランさんの影響力凄いなぁと素直に感服するさとりだった。

 

 

 

 

 



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一月編7『地下室の思い出』

 

 

 

 一月十三日

 

 

 八雲紫に頼んだ家が完成しました。

 中に入ってビックリ。何この目に悪い紅い色。馬鹿なの? もうちょっと色抑えてよ。前のでもこんなに目に悪くなかったよ。

 それに内装も思ってたとの違うし、どういうこと?

 あと外観もさ、なにこの形? なんかお城みたいになってるんだけど。石造りの。どこが紅魔館だよ。

 お姉様だけ満足してたけど他の誰も満足してなかったからね。使い勝手が悪いったらありゃしない。

 というか誰が見てもそうだよ。そもそも見た目が城みたいな家ってどうなの? 目立ちたがりなの? 感性がおかしいの。

 ……もー! やり直し! こんな家、紅魔館って認めないから!

 そう言ったら八雲紫が「そんなズバズバ言わないでよ!!」となんか逆ギレしてたけど怒りたいのはこっちだよ。

 だって自宅だよ?

 自宅が城ってどうなの? 内装は床も壁も果ては調度品から何まで赤色って馬鹿なの? 

 ……絶対認めないからぁ!

「……これ、ですか?」

 咲夜も嫌そうな顔してたし、私も嫌だよ!

 というわけで今度は藍さんと咲夜が一緒に建て直す八雲紫を監視する運びになりました。

 これで今度は大丈夫な、はず!

 

 

 #####

 

 

 ちょっと紫が可哀想だった。

 

「……紫ェ……」

 

 ネタ口調で霊夢が言うと早苗がうーん、と首を傾げて呟く。

 

「というか最近フランさん怖くなってません? 具体的には爆発に巻き込まれた頃から……」

「……まぁ確かに。ちょっと高圧的、かも」

 

 早苗に同調するレミリアだが、そこでさとりが「多分」と前置きして言った。

 

「……実際手は出してませんがかなり怒ってたんじゃないですか? イライラしてたというのも普通の話だと思いますけど……」

「「「成る程」」」

 

 納得した一同は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 一月十四日

 

 今度こそ紅魔館が完成しました。

 程良い紅のテイストの洋館。うん、良いね!

 内装も大分変わってた。見た目は前に住んでいた紅魔館とほぼ変わらないものの、ちゃんと私達が考えた内装通り作ってあったし、パチュリーの大図書館も同じ位置にあったよ。

「……はぁ、これで良いかしら? あと地下室だけは弄ってないけど」

「うん、ありがと。あとは私達で何とかやるよ」

 ちゃんとお礼も言って、改めてホフゴブリンや妖精メイド達を集める。それから妖精メイドにしれっと混ざるレミィたんにテレパシーで話しかける。

『……で、どう。八雲紫が何か屋敷に仕掛けたりとかは……?』

『……問題無いわよ。盗聴器や監視カメラの類はないわ。スキマからの監視だけは防げないけど……』

『それは良いよ。聞かれちゃまずい事なんて基本話さないし』

 あくまで気にしてたのは盗聴器とかそういった科学の代物だ。そう表立って行動するとは思ってなかったけど万が一はあるからね。

 でも最近『忍び』のように行動しつつあるレミィたんに聞いて大丈夫ならそうなんだろう。隠密や探知、探索は私より上になってるし。

 まぁこのことを日記に書いてる時点で隠すつもりも何も無いんだけどさ。

 とはいえ詳しいことを書き過ぎてるし魔法でも掛けた方が良いかもしれない。本を開いたら精神を混濁する魔法とか。

 ……いやでもうっかり見た場合とかはどうしようか。何も知らない人を気絶させるのもアレだし……。

 ま、いっか。その場で適切に『始末』すれば。

 

 #####

 

 最後の一文を呼んで一同は立ち上がった。

 

「し、始末!?」

「怖っ!!」

 

 真っ先に声を上げたのは霊夢とレミリアである。

 二人とも割とガチめに危ういと思ったのか両腕で自身の体を抱きしめるように日記を睨む。

 続いてさとりが言った。

 

「……もし精神混濁の魔法がかかってたらレミリアさんも霊夢さんも……?」

 

 が、早苗がそれを否定する。

 

「いやなんだかんだでお二人は避けそうです。特に霊夢さんは」

「……そうですね」

 

 レミリアはともかくどう考えても霊夢がそんな魔法に掛かるとは思えない二人だった。

 

 #####

 

 

 一月十五日

 

 

 ホフゴブリン達や妖精メイド達。あとはめーりん、私、レミィたん達の力で大体片付けは終わりました!

 お姉様も今日は真面目に皆に紅茶を淹れたりとかお仕事してたよ。

 あとは咲夜に言われてゴミ出しとか、お買い物とか。意外。

 頼られてるのが嬉しいって感じだった。子供か。

 そんな微笑ましいお姉様を見つつこっちは予備として空間に放っといたお陰で爆発を免れた家具の配置だ。

 タンスとかベッドとか、それから食器棚とか。

 あと一番苦労したのは大図書館の本だ。

 大図書館の本は一冊一冊全てに壊れないように不壊魔法が掛かってるから爆発しても全部無事だったわけなんだけど、倒壊で多くの本が瓦礫の下敷きになってたからそれの回収。で、それを種別順に置き直す。この作業は地獄だった。

 小悪魔の指示を受けながらやってたけど、もうやりたくない。フォーオブアカインドで分身しても全然終わらないんだもん……。

 途中で本を借りに魔理沙とかアリスさんが来て手伝ってくれたけどそれでも夜まで掛かった。アリスさんの人形もフルで動いてても夜中までかかるってどんだけ蔵書あるんだよって話だよね。

 しかも最終的には「あとは私が、その。頑張りますから!」と小悪魔さんにお願いする形での終わりで、実質まだまだ本が残ってたし。

 もう寺子屋も新学期なのに、片付けに追われて休みが続いてる。

 こう書くとまたお姉様に対して苛立ちが湧いてくるけど、そう言ってもいられない。頑張ってまずは住みやすい紅魔館を作ろう!

 

 #####

 

「……心が痛い」

「わかる」

 

 読み終えて呟いたレミリアの言葉に霊夢が頷く。

 というかそれ以外言える言葉は無かった。

 

 #####

 

 

 一月十六日

 

 ようやく片付けも余裕が出来てきて幽閉されてた地下室に行ってみた。

 瓦礫が残ってて少し紅魔館の香りがした。ただ、一方で鉄の錆びた香りと巨大な鋼鉄の扉が地下室への道を塞いであり、奥に行くと以前私の部屋だった場所があった。

 可愛らしい部屋の内装、ふと端を見るとぬいぐるみが地面に転がっている。ベッドの頭を乗せる部分には涙がシミになっていた。この部屋だけは以前のままだ。

 紅魔館が爆発しても私を閉じ込めるために特別頑丈に作っていたここだけは壊れなかったらしい。

 ぼすん、とベッドに倒れ臥すように寝転んでみると懐かしい香りがした。

 私の匂いだ。具体的には地下にこもっていた時の私の匂いだった。

「…………、」

 そのまま体勢を横にしているとどうやら私は寝てしまったらしい。

 しばらくして、

「起きた?」

 目が覚めるとお姉様がいた。

 私を上から見下ろすようにベッドの横に立っている。なんでこの部屋にいるか分かったかを問いかけると「なんとなくよ」と答えた。

 それから、

「……一番、紅魔館が壊れてショック受けてたし」

 と都合の悪いことから目をそらすように目線を動かして、しばらく黙り込んだ。

 それからややあって、ようやくお姉様は口を開く。

「……その、ごめんなさい。フラン」

「…………、」

 私は何も言えなかった。

 最近どうも涙もろい。そうやって改めて紅魔館が壊れてしまったことを言われると唐突に悲しくなってくる。

 焼け落ちる紅魔館、丹精込めて育てた畑は燃え尽き、爆発で原型を無くした。その事実がありありと浮かんできて、悲しい。

 壊す、壊される。その言葉は私にとって呪いのようなものだ。

 壊すことの多い私は壊されることに弱い。魔理沙に弾幕ごっこで負けて、新たな世界を知った日までは、モノを壊し過ぎたせいで「モノを壊してはならない」という忌避感を感じながらもそれを否定する。感覚の麻痺を起こしていた私だけど今じゃ壊すことにも大きな忌避感があるんだ。

 だからこそ悲しい。壊れたものは二度と戻ってこないからだ。

 今日、こうやってわざわざ幽閉されてた部屋に来たのも、ここだけが私の記憶のままだから……だから来た。

 ……お姉様は卑怯だ。

 私が一番辛いときに必ずいて、一番悲しんでいる時に、空気を読まず一番欲しかったことをしてくれる。

 代わりに駄目なこともいっぱいするしカリスマ(笑)なんてこともあるけど本質的にお姉様はそういう人なんだ。だからウザくなったり、嫌になったりはしても手を上げて離れようとは思えない。幽閉時代もそうだった。

 ……ズルい。

 お姉様に抱き付いて、頰を伝う熱いものを感じながら、そう思った。

 

 

 #####

 

 

 

「「「「…………、」」」」

 

 読み終えても誰も、何も、言えなかった。

 誰も口を開くことなく、そっと次のページをめくる。

 

 

 

 

 

 



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一月編8『やはりフランの青春ラブコメは(ry』

 

 

 

 一月十七日

 

 

 今日からまた寺子屋に復帰だ。

 案外紅魔館が爆発したことは知られていないらしい、なんで休んでたのー? と多く聞かれた。

 まぁ私も私でまさか紅魔館が爆発した、なんて馬鹿正直に伝える筈もなく適当に理由を言っといたけどさ……。

 ただ、そんなこんな久々の授業中、こそっと横の席の男の子が私に声をかけてきてね?

「なぁ、スカーレット」

「なに?」

「いや……その、俺、実はついこの間散歩しててさ。霧の湖で休憩した時にお前の家が……その、爆発したのが見えたんだけど」

 うん、知られちゃってたよ。

 思いっきり知られてましたよ!

「……そう、知ってたの。ねぇ放課後時間ある?」

「お、おぉ……」

 仕方ないからこの男の子にだけはちゃんと説明しておこう。変な誤解をされるのも困るしね。その為に放課後の予定を聞いたけどどうやら空いているらしい。

 というか今更だけど霧の湖から人里まで三〇キロ以上あるのに散歩で来たの? そう聞いてみると男の子は呆れたように言う。

「空飛んで、だよ。お前が作ったデバイス」

 おおう……購入者だったのか。お買い上げありがとうございます♪

 笑顔を向けると男の子は引きつった顔を見せる。

「なんだその営業スマイル……」

「嫌い?」

「いや、その女って怖ぇなって」

 それから男の子が一瞬見惚れたし、と小さく呟くけどもしもーし。聞こえてますよ?

 ……素直に言われると私もちょっと嬉しいのは内緒だけど。

 

「ともかく放課後。おっけー?」

「……分かったよ」

 

 約束して授業を真面目に受ける。

 で、そんなこんなで放課後。

「……で、なんだよ。放課後って」

「話しておこうと思って。私の家が爆発したことについて」

 校舎裏に彼を呼び出して私は事実を語りました。

 爆発したこと、昨日まで再建に追われていたこと。あくまで概要だけをサラリとね。

「……なるほどな、道理で」

 ちゃんと説明すると納得してくれたみたい。

 で、これまでが前座。

「それで、ね。お願いしたいことがあるんだけど……」

「今聞いたことを内緒にしろって?」

「うん」

 察しはいいらしい。話を切り出してすぐに理解してくれると楽で助かる。

 というわけで、

「内緒にしてくれる?」

「……こっちからも一つだけお願いするけど良いか? それを呑んでくれたら良い」

 

 私が尋ねると彼は「こっちのお願いも聞いてくれたら」という提案をしてきた。

 うーん、そうだね。

 

「変なお願いじゃないなら良いよ。えっちぃのはだめ」

「俺そんなに勇気ある人間に見えますぅ!?」

 

 失敬な。私怖くないよ?

 大丈夫吸血鬼こわくなーい。

 

「いや、怖いとかそんな問題じゃなくてな……女の子相手にそんなこと簡単に出来るかよ……」

 

 なんかボソボソ言ってたけどともかくだよ!

 

「じゃあそのお願いってなに? えっちぃのじゃないんでしょ?」

「当たり前だろ! えっとほら俺、デバイス買ったって言ったろ? だからその指導を頼みたいんだ! 製作者に見てもらえればきっと誰よりも強くなれるしさ! それに憧れてたんだ――弾幕ごっこ」

 

 聞いてみると予想外の答えが飛び出してきた。

 

「憧れてた?」

「あぁ、異変が起きるたびに、俺も弾幕ごっこが出来たら妖怪に挑めるのにってよく思ってたんだ。魔法とかもかっこいいしさ」

 

 それに魔法とかの異能の力に人一倍の憧れがあるんだ、と彼は続ける。

 

「一年前に、見たんだ。俺が里の外で妖怪に襲われた時に、白黒の魔法使いが極大のレーザーで妖怪を薙ぎ払うのを。それを見てからずっと憧れてた。憧れて、一人で練習もしたよ。でも上手くいかなくて……それでお前の作ったデバイスが発売されるって聞いて、今まで一度も使わなかった貯金とお年玉を全部出して買ったよ。そしたら驚くくらい簡単に魔力ってものが理解出来て、空も飛べるようになった。お前の家が爆発したのを見れたのも、嬉しくて普段行かないような遠いところまで飛んで、疲れて休んでたからなんだ」

 

 成る程。それで私もようやく話が理解出来てきたよ。

 語ってた男の子はそこまで話すと照れくさそうに頰をかく。

 

「なんか話してて吹っ切れてきた。言うつもり無かったけど言わせてくれ。実はさ。俺、お前にも憧れてたんだ。アイドルとして舞台に立った時、弾幕をばら撒くダンスをするだろ? あの姿を見てすっげぇ弾幕って綺麗なんだなって思った。弾幕ごっこのルールを初めに知った時は、なんで美しさも勝負に入るのか疑問だったけど、なんとなく分かったんだ」

「…………、」

「今日話しかけるのだってすっげぇ勇気振り絞ったんだぜ? 有名人が横に座ってるようなものだしな。それに俺を助けてくれた魔法使い……魔理沙さんにさ、会う機会があって聞けたんだ。紅霧異変でお前と戦ってすっごく強かったって。だから、俺。お前に教わりたい。弾幕の美しさを、強さを……勿論暇な時だけで良いぜ。今は家のことでゴタゴタもあるだろうからさ」

 

 どうかな? と笑みを浮かべて尋ねてくる。

 サァっと射した夕陽に照らされてキラキラ光る笑顔だった。

 

「――――――」

 

 私は一瞬返事を出来なかった。

 思ったよりも真面目だったことと、彼の思いが真っ直ぐ伝わってきたからだ。

 だから私の返事はこう返した。

 

「分かった。小指出して?」

「んっ?」

 

 呆気にとられた彼の指を取り、私の小指を絡ませる。

 指切りげんまん。簡易的なものでも悪魔にとっては一種の契約だ。

 契約は破ることを許されない。

 

「指切り、破ったら針千本呑ますからね?」

 

 そう言って笑って私が背中を向けると最後に見えた彼の顔が夕陽に照らされて赤くなっていた――そんな風に見えた。

 

 

 

 

 

 

 #####

 

 

 

 読み終えてまず言うことは一つだった。

 

「なんだこのラブコメはっ!!?」

「誰よこの男! お姉様は認めないわよ! 絶対に、絶っ対に!」

「「……えぇ……」」

 

 霊夢が叫んだのを皮切りにレミリアも叫ぶ。

 その様子にドン引きするさとりと早苗だが、二人の叫びは止まらない!

 

「これ作品間違えてない!? 何、恋愛の初イベントみたいなのこなしてるの!? つか落ちたわよね! 絶対この男(恋愛的な意味で)落ちたわよね!」

「吸血鬼の魅力が憎い! 私達の特性が憎いわ! というか後で咲夜に調べさせて潰す!」

「いや、そんな物騒な……」

「……人間の子供相手にムキにならないでください!」

 

 レミリアのボケに突っ込んでいく二人だが、結構、レミリアの様相がガチなことに気付いてまたしてもドン引きする。

 

「(さとりさん、さとりさん。なんかこの二人ヤバイです! 特にレミリアさん、サイコパス入ってます!)」

「(……早苗さん、早苗さん。私も怖いです! なんか、猛烈にレミリアさんの心が読みたくありません! なんか見えちゃいけない心の闇みたいなのが見えて……!)」

「(……さとりさん、これはアレですね)」

「(……えぇ、そうですね)」

 

「「(次のページに)流す!」」

 

 そして二人は次のページをめくった!!

 

 

 #####

 

 

 一月十八日

 

 

 さて、昨日約束したので早速今日から修行を付けてあげることになった。

 あ、ちなみに彼の名前はナナシだ。名無しの権兵衛という人に付けられたらしい。

 約束した翌日から修行が出来てさぞ嬉しいだろう、あんなに強くなりたいって言ってたし、とそう思ってたけど、なんか思ってた反応と違ってた。

 

「……なぁ」

 

 彼は震える声で言う。周りを見渡してしきりに冷や汗を流していた。

 そして、叫ぶ。

 

「なんで俺達は太陽の畑にいるんですかねぇっ!!?」

 

 太陽の畑。

 私の友達の幽香さんがそれはそれは見事な花畑を作る区域で、幻想郷縁起によると危険度はどれだけ低く見積もっても極高。下手すれば測定不能とも言われている。

 でも実際は幽香さんとっても優しい人だし、景色も綺麗だから良いと思ったけど何が駄目なんだろう?

 それに彼、ナナシ君が言ってるレーザーも幽香さんが元祖なのに。

 

「おまっ、景色が良いからとか元祖だからじゃねーよ! 花一輪散らしてみろ! 俺の命が散るわ! やっぱお前あれだろ!? 花畑の大妖怪に口封じで俺を殺させる気だろ!? くそっ、一瞬でもお前にときめいてフラフラやってきた俺が馬鹿だった!」

 

 何やらご不満な様子。ぷくーっと頰を膨らませて折角選んだのに、と私も不満であることをアピールするとうっ、とナナシ君は声を詰まらせた。

 

「……勘弁してくれよぉ。くそう、もうやるしかねーか!? 一歩間違えたら命が消える修行をするしかねーのか!? ちくしょう嫌過ぎる……でも、頼んだ手前、弱音も吐いてられねぇ! 俺も男だ! 大妖怪が相手だろうがなんだろうがやってやろうじゃねーかっ!!」

 

 そう改めて宣言するナナシ君だけど、ねぇ後ろ。

 

「へぇ、威勢の良い人間じゃない」

「はひぃっ!?」

「変な声上げないでよ……気持ち悪い」

 

 ちょんちょん、と肩を叩いて後ろ、と言ってナナシ君を振り向かせると変な奇声を上げた。

 そう、彼の後ろには笑顔の幽香さんが立っていたのだ!

 ……にしたって驚き過ぎだよ、幽香さんすっごく優しい人なのに失礼だよ?

 

「……優しいの?」

「うん」

 

 私の言葉を本当か聞いてくるので頷く。すると彼は少しホッとしたように、そっかーじゃあ人里での幽香さんのイメージは間違ってたんだなー、と棒読みで呟いてから「ってそんなわけあるかぁ!!」とノリツッコミする。

 案外余裕あるね、キミ。

 

「いや、余裕ねーから! 無いからこそこうやってツッコミしてるわけであってだな……ってあぁもう! こうやって怯えたりするのが馬鹿らしくなってきた! 初めまして、俺はナナシです! 修行の為にお邪魔しました! ……あ、これつまらないものですが、その、どうぞ」

「あらご丁寧にどうも。私は風見幽香、この花畑の管理人をしているわ。花を荒らされたら人間妖怪関係なくぶち殺すから注意してね?」

「い……イエスマム! 肝に、肝に命じておきます……っ!」

 

 粗品を渡して、ちょっと気を当てられたナナシ君は震え声で何度も頷いた。慌てて地面を見ては花どころか草木の一本すら踏まないように注意する。

 

「もー、幽香さん。恐がらせないでくださいよー」

「ふふっ、ごめんなさいね。博麗の巫女とどこぞの魔法使い以外の人間が来るのは久しぶりのことだから……」

 

 私が笑いかけると幽香さんも苦笑いを浮かべた。

 どうやら初対面的にそんな悪い印象は持たれなかったらしい。よかったね!

 未だ震え続けるナナシ君を励ましてあげると「……ぉぅ」と小さい返事が返ってきた。

 と、その時、私と彼の様子を見て幽香さんが尋ねてくる。

 

「へぇ……ねぇフラン、彼は貴女のボーイフレンドかしら?」

 

 ボーイフレンド? 男の子の友達って事だよね。

 なら、そうかなぁ?

 

「はい、そうですよ」

「「!?」」

 

 あれ、頷いたら幽香さんとナナシ君が固まった。

 どうしたんだろう。幽香さんはなんか「私もまだそんな相手出来たことないのに……」とか呟いてるし、ナナシ君は「……ない、ないない。絶対勘違いパターンだから、期待して損するあれだから……」と頭が痛そうに呟いている。

 ……どうしたのかな?

 私、変な事言った?

 

 とまぁそんな感じでした。ナナシ君が何やら幽香さんに説明してたし多分二人とも変な誤解とかもないと思う。

 その説明とかでナナシ君も幽香さんに少し慣れたみたいで、幽香さんも幽香さんで修行の手伝いをしてくれたからそこそこ気に入ってくれたみたいだ。

 元祖マスタースパークを見せてくれるとは……太っ腹、と言ったら怒られそうだから気前が良いねと言っておこう。

 ナナシ君も感動してたよ。

「すげぇ……これが、元祖」

 って。

 

 修行は大体、夕方頃に切り上げて帰りました!

 うん、私も久々に幽香さんとお話できて楽しかったよ。

 ついでに焼失した向日葵の種も貰えたしね。また畑を耕して植えようと思う。

 じゃあ今日はここまで、おやすみなさい。

 

 

 

 #####

 

 

 

 またもや発狂する二人であった。

 

「……ラブコメその②、だと?」

「く、くぅ……フランの性教育を後回しにしてたことが裏目になるとは……っ!」

 

 上から霊夢、レミリアの言葉である。特にレミリアに関しては「ボーイフレンド」の下りが気になっているご様子だった。

 一方、敬語二人は普通の感想を述べていく。

 

「これはこれで青春してて良いと思いますけどね……まぁいきなり幽香さんとはルナティックモードにも程がありますが」

「……ですよね。小説好きの私的には読んでて展開が気になってきます。幽香さんは、その……よく頑張りましたね、と褒めてあげたいです」

 

 上から早苗、さとりの言葉だ。

 概ね好評といった感じらしい。

 感想を言い合い、二人は次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 



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一月編9『お姉様の料理』

 

 

 

 一月十九日

 

 

 なんか妙な夢を見た。

 寺子屋が廃校になりかけている夢で、お姉様がアイドルグループを作って学校をアピールするって言ってさ。

 まず私とお姉様の二人がそれをする事になるんだけど中々新規でアイドルになりたい! って子が入って来なくてさ。仕方なく私が音楽作って、香霖堂のツテで撮影機材を手に入れて、文さんを通じて話を広めて、アリスさんに習った裁縫術で衣装も作って、それから知り合いに声をかける事で仲間を増やしたんだ。

 早苗さんに魔理沙、こいしちゃんに霊夢さん、橙ちゃんやチルノちゃんに大ちゃん、リグル、みすちー、三妖精、クラピちゃん、やたらノリノリだった神綺とあと神綺さんのストッパー役でアリスさん。

 咲夜は私達のメイドとして色々な準備をしてくれて、めーりんもそのお手伝いって感じだ。

 それで全員の衣装を私とアリスさんと咲夜とで作ってさ。

 アイドルグループ名も決めたよ。TOHO(トウホウ)って言うんだ。漢字だと『東方』かな。後ろにProjectって付けて若干オシャレなイメージにしてみました!

 

 で、ツテで会場を貸し切って、文さんにお願いして新聞にライブの情報書いてもらって、満員の会場でライブした。

 大歓声があがって、凄い楽しかったなぁ。

 というかアイドルなんてやらないだろうなーと思ってたような人達皆でやったからかな?

 で、それで舞台を降りて、マイク音声で「次は、μ'sによる……」と聞こえたところで目が覚めた。

 変な夢だったけど楽しかったよ。

 

 

 #####

 

 

 読み終えると霊夢は急に慌てたようにこんなことを口にした。

 

「あ、あー……これ不味いやつ。著作権とかその辺り良いかなー?」

 

 目をパシパシ瞬きしてううむ、と悩む霊夢だが違和感しかない。

 えぇ、と一瞬ドン引きしてから早苗は突っ込む。

 

「いやどうしたんですか!? 散々これまで他作品ネタをブッ込んできたくせにいきなり著作権とか言い出して!」

「いやー……ネタにしたら怒られるって作品もあると思うのよね。絶対触れちゃいけない聖域っていうかね、例えばディ○ニーとか」

「それこそ言っちゃいけないやつですよ!!?」

 

 ディ○ニー。触れたら消されるらしい。特にニコニコ動画だと。

 ともかく早苗が叫ぶと霊夢は続けた。

 

「で、ね? その聖域って知名度によって変わると思うのよ。あと根強いファンがいるかどうかね。最近だとさっきいったラブライブだとかー……少し前だけどおそ松さんとか? そういうネタを所構わず出しちゃうのはちょっと勇気いるんじゃないかなーって」

「……いや、霊夢さん霊夢さん。そう言ってる霊夢さんが一番名前出してますよー……! 思いっきりラブライブとかおそ松って言ってるじゃないですかー!! というかもう貴女あれでしょう! 著作権とか気にしてるフリしつつ本音では堂々名前出してやろうとか思ってるでしょう!?」

 

 今度はさとりが突っ込む。

 というか全体的に霊夢が酷かった。元々ディ○ニーを例に挙げた時点で嫌な予感がしていたのだ。

 いい加減に止めないと、今はまだ自主規制して『○』を付けているディ○ニーでさえも○を取っ払って言いかねない!

 そんな危惧がツッコミ二人の頭を過る。

 

「(さとりさん……)」

「(……分かってますよ早苗さん)」

 

 直接お互いの頭の中に言いたいことを送った二人は同時に叫ぶ!

 

「「(次のページに)流す!!」

 

((…………うん))

 

 切実に。有無も異議も言わせず、二人は次のページを開くのだった。

 

 

 #####

 

 

 

 一月二十日

 

 風邪引いた。死にそう。

 なんかすっごい体が熱い。汗が噴き出てくる。

 熱を測ったら四二度。うん、人間なら死んでる。

 咳も出て辛い。むせ過ぎてお腹が痛む。

 でもこんな日に限って咲夜は抜け出せない用事で居ないし、めーりんも駆り出されている。

 小悪魔はまだ本の片付けに追われてて、私の風邪なんて知らないし、必然的に……、

「ふ、フラン大丈夫? 今おかゆ作るからね!」

 ……お姉様が看病することになるんだけど誰か助けて。

 レミィたん、今こそ私を助けて。ほら、お姉様の看病を見て「任せたよ」って顔しないでさぁ! と思ったらお姉様がおかゆ作りに行っちゃうし……!

 とりあえず今のうちに日記を書こう。

 もしかしたら私の人生最後の日記かもしれない。それくらい私の命がマッハなのだ。

 ちなみに今更だけど風邪は能力で治せない。病原菌を破壊は出来るけど億単位でいるものだからとてもじゃないけど壊しきれないからだ。

 ともかく、私がこんなにもお姉様の看病に命の危機を抱いているのは一つの理由がある。

 

「フラン! 出来たわよ!」

 うん、帰ってきた。ちょっと嫌な汗が出てきたよ。とりあえずお姉様の手には案外見た目は悪くないおかゆがあった。

 ……見た目は。

「ほら食べて! 元気になってちょうだい!」

「…………ごくり」

 私は生唾を飲む。決して食欲が湧いているわけじゃない。これは覚悟だ。これから命を投げ捨てる覚悟……! お酒の時みたいに口内に空間を作って転移させれたらどれだけ良かっただろうか。

 でもお姉様の前でやったら確実にバレるからそれは出来ない。

 覚悟を決めて一口、パクリと食べる。

「……あーむ……っ!?」

 口の中全体に食器用洗剤(マーマ○レモン)の味が広がった。ついでに口の中が痛い! ヒリヒリする! 舌が溶けてるような、そんな感じ。

 あかん。これ駄目なやつだ。でも食べないとお姉様が悲しむから飲み込まなきゃならない。が、喉を通らない。

 ……体がこのおかゆモドキを毒だと判断しているのだ。というか何だろう、目がチカチカする。心なしかおかゆの色が紫色に見えてきた。

 ……まさか幻覚症状だろうか。

 

「ど、どお? 美味しい?」

 

 あぁ、心配そうに聞いてくるお姉様をぶん殴りたい。

 クソ不味いと正直に言えたらどれだけ楽だろうか。でも言ったら言ったで咲夜に泣きついて凄い面倒な事になるから言えない。

 ……強引に飲み込んで、喉が焼けた。喉元までせり上がってきた吐き気と同時に猛烈な痛みが私を襲うが堪える。ポロポロと涙がこぼれた。それから「にごぉ」とした笑顔で答える。

 

「ゲホッ……ぐううう……っ、はぁはぁ。お、いしぃ……よ?」

「ちょっと大丈夫!? 今背中叩いてあげるから!」

「い、いい……やめて」

 

 やめろ。やめてください。吐くから。妹が目の前でゲロ吐いても良いならやって良いけどお姉様のことだ。どうせゲロの処理方法なんて知らないだろう。その指導する余裕も無いんだ。というか意識がやばい。喉の激痛が辛すぎる。

 今、お姉様に見えないようにベッドの中に日記帳を入れて描いてるのだって、これが辞世の句と同じと思って気力で書いているに等しい。

 あぁ、頭がガンガンする。

 

「食べるの辛い? あ、じゃあ食べさせてあげるわ! あーん」

 

 あっ、馬鹿。やめて! あーんってされたら覚悟出来ないじゃん! くそう……お姉様は私を殺す気か……!

 口の中にどろどろと入ってくる猛毒(おかゆ)を必死で呑み込んで笑顔を維持する。私はアイドルだ。スマイルには自信が……自信が。

 

「ふらん? ちょっと!? しっかりして!?」

 

 うん、笑顔は維持できてるよ。

 あれ、私は何してたっけ? 日記を書いてるんだよね。何でだろう、妙に頭がガンガンする。あと耳の聞こえ方がおかしい。それと全身から異様なほど汗が噴き出るんだけどどうなってるんだろう?

 なんか意識も薄れて……、ぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……怖い夢を見た。

 お姉様が毒物を私に食わせる夢だ。

 おかゆを食べる。そんな悪夢。でも起きて安心したよ。だって私は昨日楽しい夢を見て、で、今日もまたいつものように楽しい一日が始まるんだからね!

 

「ふらん、あーん」

 

 だからこれもまだ夢なんだよね。

 お姉様がおかゆの載ったスプーン片手に私に突き付けてるなんてそんなわけあるはずないもん。

 

「フラン? あーん?」

「???」

 

 あれ。

 

「ふらん、食べて。あーん?」

 

 

 あれあれあれあれあれあれあれあれあれ?

 

「ほら、フラン。食べないと元気になれないわよ?」

 

 あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ?

 

 あ、れ。

 あ……………れ?

 

 

 

 

 

 #####

 

 

 読み終えた三人は絶句した様子でレミリアを見つめた。

 レミリアはえぇっ!? と驚いた顔をする。

 

「わ、私そんな毒物なんて作ってないわ! フランの為を思って健康に良いものを作ったわよ!? 油を入れると良いって聞いたからマーマ○レモンって油を全部入れて、桃の種が良いって聞いたから家にあるやつをあるだけ砕いて入れて、病気の時は塩分がいるって聞いたから上から醤油を一瓶ダバーって入れて、風邪とかの原因は病原菌って聞いたから菌を殺菌するための消毒液を入れて……全部フランのことを考えて作ったのに!!」

「思いっきり毒物じゃないですか!? それもどれも一つでもその要素入ってたら死にますよ!? 食品用洗剤一本丸呑みの時点でアレですし、桃の種は丸呑みならともかく中を砕いたら青酸カリ成分があるので大量に食べたら死にます! 醤油も沢山体内に入れたら塩分過多で死にますし、消毒液なんて論外です!! 人間なら何回死んでるか……っ!?」

 

 酷かった。シャレにならなかった。

 本気で早苗が怒る。いくらポンコツにしたってこれは酷すぎたのだ。

 

「……レミリアさん、明日から料理を教えます。まず食べれる物と食べれないものの判別からですかね……!」

「……ひぃっ!」

 

 尋常じゃないオーラに悲鳴をあげるレミリアだが誰も助けるものは居ない。流石に今回の件は酷すぎた。

 むしろこれを機に料理を覚えろ! つかもうご飯作るな! と非難轟々な目で見つめられてレミリアは何か、諦めたような顔をする。

 

「……確かにこれは私が悪いわ。上手に作ったつもりでもフランが苦しんでいたなら、直さなきゃ駄目よね」

「良いこと言ってますけど論外ですからね。料理への冒涜どころか殺人未遂です。もし幻想郷にちゃんとした警察機構があれば即逮捕です、それくらいの事をしてるって自覚してください!」

「ううっ……分かってる、分かってるから」

「それとですね! 料理する時は味見してください! 一口食べれば貴女もそれが毒物だって分かるでしょ!?」

「……はい、ごめんなさい」

「謝ってすみませんからね?」

「……」

 

 普段から料理を振る舞う巫女さんは、食べ物に関してはとことん厳しかったのだった。

 

 

 

 



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一月編10『消えたわたし』

 


今回は霊夢達、少なめです。


 


 

 

 

 

 一月二十一日

 

 

 初めまして。私はフランドール・スカーレットという名前らしい。

 目が覚めたら見知らぬお屋敷に居てさ、紅魔館って言うんだけど始めなんでそんなところにいるのか分からなかった。

 ゆっくりと自分の身に何が起きたのか思い出そうとしたけど名前すら浮かばない。

 そうこうしてたら見たことない綺麗な銀髪のメイドさんが来てさ、「妹様! お目覚めになられましたか!」って駆け寄ってくるの。

 正直意味が分からなかったよ。私自身が誰なのかも分からないし、勿論相手のメイドさんも誰っ? って状態だったから。

 だから「……あの、貴女は誰ですか?」って聞いてみたらメイドさんはギョッとした後に「い、妹様? 私が分かりませんか? 咲夜です」と声を掛けてきたんだよね。

 うん、知らない。貴女誰? というかそもそも私は誰? ここはどこ?

 ……何も思い出せない。

 

 正直にそう話すとメイドさんは卒倒してしまった。が、すぐに起き上がると私を病院に連れて行って、検査したんだ。

 永遠亭ってとこ。私を抱えたメイドさん、咲夜さんって人がいきなり空を飛んだからビックリしたよ。だって人間が空を飛ぶなんて……ねぇ。それで行き途中に私のことについて聞いてみたら、色々信じられないことを教わったよ。

 ……簡潔にまとめるとね。

 

 ・私は紅魔館の主の妹らしい。

 ・名前はフランドール・スカーレット

 ・種族は吸血鬼

 

 うん。色々おかしい。吸血鬼って何さ。一瞬咲夜さんの頭がおかしいのかな、と思ったけど証拠として私の体に生えてる羽がその疑念を否定していった。

 でね永琳さんって女医さんに検査してもらった結果、私は記憶喪失なんだって。

 なんでも体に猛毒が回った事で一時的に精神崩壊して記憶を失ってしまっているらしい。

 私の胃の中から青酸カリ、消毒液、致死量の糖分、その他諸々が出て来たと懇切丁寧に説明してくれた。

 よく死ななかったね、私。流石吸血鬼というだけはあるのか。というか永遠亭にあった鏡で初めて私の姿形が分かったけどかなり美少女だったよ。うん、なんていうかフランス人形みたい? 咲夜さんにフランドールちゃんはアイドルとかもやってて、デバイス事業というやつも成功させてて、メイドとしての能力も一流だったという話を聞いたし、元々この体の持ち主だったフランドールちゃんは文字通り言う完璧超人というやつなのだろう。

 私が今書いている日記も、そのフランドールちゃんが元々は書いていたものらしいしね。なんか書いてると落ち着くからなんとなく記憶……というか感覚が覚えているのかもしれない。

 でも良いのかなぁ……正直、フランちゃんの話を聞かされても私にとっては偉人の特徴とか話を教えられてる気分だよ。

 ともかく女医さんの話だとしばらくしたら記憶は戻るらしいし、しばらくは大人しくしておいて、直すことに専念しよう。

 変に記憶喪失だって広めてフランちゃんの元々の人脈を掻き乱すのは良くないしね……そうなった時、今の私がどうなるのか気になるけど……まぁその時はその時だ。考えるの怖いしやめとこう。

 ともかく今を楽しんで生きよう。

 そう思いました。

 

 

 #####

 

 

「「「「………………」」」」

 

 読み終えた一同は絶句していた。

 レミリアの猛毒料理。それは確かにまずいと説教はした、したが実際に症状として『記憶喪失』という結果が出た以上さらなる糾弾が必要だと三人は確信する。

 最初に動いたのは早苗だった。

 

「ちょ、どうすんですかこれぇっ!! レミリアさん!? 記憶喪失ってマジですかッッ!!?」

「げふっ、ゆらゆら揺らすな! がくんがくん首が揺れて舌を噛む……ううっ!」

 

 レミリアの服の首元を掴みガックンガックン揺さぶる。

 揺さぶられる側のレミリアは少し苦しそうに顔を顰めた。それからようやっと離してもらった後に彼女は叫ぶ。

 

「マジって聞かれても……私も初耳よ! 本当なのこれ!?」

「いやなんでだッッ!!」

「うわっ、だから揺ら――って持ち上げたぁ!? って回すな回すな! 傘回しの玉か私はーっ!!」

 

 今度は霊夢の番だった。レミリアを持ち上げグルングルン回しながら彼女は尋ねる。

 というかレミリアが記憶喪失を初耳だ、というのは幾ら何でもおかしいのだ。例え隠そうとしたって、もしフランが目を覚ましたと聞けば彼女は真っ先にフランの元に行くだろう。そこで一言二言でも会話すれば気付かないわけがない。

 

「うっぷ……うぇぇ、三半規管が……、うぅ。だ、だって本当に知らなかったのよ! ちゃんとフランとも会ったしお話もしたけどいつも通りの対応だったし……」

「……マジですか」

 

 心を読んでさとりが言葉通り「本当かよ……」という顔で何こいつあり得ねぇと暗に示す。

 どうやら真実らしい。

 

「……うっそでしょ。と、ともかく次読むわよ。レミリアに聞いてもラチが明かないわ」

「「賛成です」」

「なにおう!? けど……私も気になるから次のページに行きなさい」

 

 そんなこんなで全会一致で一同は次のページをめくった。

 

 

 #####

 

 

 一月二十二日

 

 

 私のお姉様なる人と会った。

 こんな立派な館の主で、しかも私のお姉さんって話だからさぞ美人な出来るタイプの人なんだろうなぁと思ってたら予想外にちっこい子が来た。

 青い髪の女の子。レミリアという名前らしい。

「ふ、フラン? お加減は大丈夫?」

「大丈夫です、じゃなかった。大丈夫だよ」

「そう、良かった……!」

 頷くとお姉様はパァっと太陽のような笑顔を浮かべた。可愛い。

 それからいくつかお話ししたけど中二病なのかな? 話してる最中に眼帯と魔法の杖を取り出して部屋の中で魔法を発動させてた。

 エクスプロージョンというらしい。英語で爆発ってまんまだね。私的にはイオナズンとかイオグランデの方がしっくりくるけど。

 まぁ魔法陣だけで爆発してなかったから見かけ倒しというか、お姉様は本気でぶっ放すつもりだったみたいで愕然としてたよ。

 ……詠唱が長くて途中で飽きた私はなんかそこら中に見える目みたいなのを見てたけど。

 あぁそうそう、目といえば今更だけど視界が変なんだ。

 モノとかに『目』が見えて、その目を握りしめるとモノが壊れちゃうの。咲夜さんに話を聞いたらどうやら私には『ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』ってチート極まりない能力があるらしくて、それだろうって話だったけどさ。

 ……うーん、視界が見えづらくてしょうがない。あとお姉様とか咲夜さんにも『目』が見えるけど握り潰したら駄目だよね。死んじゃう……よね?

 

 

 #####

 

 

 読み終えて、レミリアが騒ぎ出した。

 

「ちょっ、サラッと私死にかけてる!? きゃー! きゃー!!」

「うるさい」

 

 が、一瞬にして霊夢の鉄拳を喰らい地面にめり込むレミリアを一同は放置してそれぞれ思い思いに話し始める。

 

「あの、咲夜さん。良いですか?」

「……質問するなら地面のお嬢様を何とかして頂戴。主人の許可なく紅魔館の内情はペラペラ話せないのよ」

 

 最初に手を挙げたのは早苗だ。彼女はより詳しい情報を知るべく咲夜の名前を呼んだが、出てきたのは「お嬢様をちゃんと話に参加させろ」という意思表示であった。

 

「……もう、ほらレミリアさん。起きて下さい」

「むきゅー……うー……」

 

 地面にばったり倒れたままのレミリアをグイッと引っ張って早苗は自分の膝の上にレミリアを座らせる。

 一人で椅子に座らせるとまたばったり地面に倒れてしまうからだ。その態勢のまま早苗は「さぁ情報プリーズギブミー、咲夜さん」とグーサイン☆を決める。

 ……しばらく膝の上にちょこんと座るレミリアを見てジト目を浮かべた咲夜だが、やがて溜息を吐いて話し始めた。

 

「……はぁ、簡単に話すわ。妹様は記憶喪失になってからもそのご様子はあまり変わられておられなかったわ。強いて言えば初めて見るモノや事柄が珍しいのか、楽しそうにしていたことくらいね。後は、妹様はふとした時に説法のような、良い言葉を言う時があるのだけどその時に頭の後ろから後光が射していた……くらい?」

「くらい、というか大問題じゃないですか!?」

 

 特に後光のくだり! 神格漏れてる! 漏れてます! と早苗が声を張り上げる。

 

「……漏れている、というかそうなると無意識のうちに周りが救済されたり救われたりするのよね。ありがたい、というか。なんと言葉にすれば良いかしら。悪い影響は無いから放置していたのだけれど」

「いやそれ問題なんですよ! それ思いっきり神様ですから! それこそブッダとかイエスの領域ですからそれぇっ!!」

「……本当よね。でも万単位の信者でそれが出来るものなのかしら。ちょっと引っかかるわね」

 

 早苗のツッコミに霊夢が疑問を付け足す。

 本職だけあって二人の理解は早かった。さとりも心を読むことで大体の話を理解する。

 ……レミリアを除いて。

 

「ちょ、ちょっと待って! そもそも神格って悪いものなのかしら? 吸血鬼視点で見ればそりゃあ気に食わない点はあるけど人間から見れば基本は善でしょ?」

「それは神様にもよりますね。悪神も居ますし。ただ問題点はそこでなくて、封印してた神格が解けている点と先程霊夢さんが言った所詮万単位の信者で、ブッダやイエスといった神々と同じことが出来るのかどうかなんです」

 

 説明して早苗はうーん、と悩むが答えは出ない。

 霊夢も同上であった。仕方なく彼女は言う。

 

「……ともかく次のページに行きましょ。なんか私の勘が考えるだけ無駄って言ってるし」

「……霊夢さんの勘が言うならそうなんでしょうね。分かりました」

 

 そして一同は次のページをめくった。

 

 

 #####

 

 

 一月二十三日

 

 

 私はフラン。だけど私って誰だろう。

 そんな哲学的なことを考えてしまう。

 魔法とかは新鮮に感じるけど、人から話を聞いても感慨が湧かないんだよね。

 今の私はフランドールとして生きてて、紅魔館って館でメイドさんにお世話されながら裕福に暮らしている。咲夜さんは良い人だと思うけど私からしたらまだ二日前に知り合ったばかりなのに、なんでそうまで甲斐甲斐しくお世話してくれるのかが理解出来なくて怖い。

 お姉様、家族にも会ったけど誰だろう? ってことしか思えない。

 一人になるとナーバスな事ばかり考えてしまう。

 気付いたら涙が零れる。

 自分は誰だろうって考えて怖くなる。

 ……だから気晴らしに屋敷の中を散歩することにした。途中でお姉様が居たので声をかけると「何言ってるの?」と返された。

 少しお話しして、どうやら彼女は私が創り出した存在であることは分かったけど、なんだろう。お姉様にしか見えない。

 ともかくそれだけ私と繋がりある人なら、と思って正直に記憶喪失だと話すと「えっ……?」と驚いていた。

 それから記憶を取り戻す為に屋敷を案内してくれたけどごめん、分からないや。

 しかも途中ではぐれて迷子になったし……広過ぎるよ。

「……ここどこだろう?」

 エントランス? かな、入り口近くではない。大図書館と書かれた部屋が近くにあって、その横に地下室に続くらしい階段がある。

「……?」

 階段? 一瞬見覚えのある光景だった気がして首を傾げると記憶がフラッシュバックした。

 

 人形を抱きしめて……壊した?

 閉まる扉を見て、私泣いてる?

 そこに白黒の魔法使いがやってきて……。

 

「ハッ!」

 

 そこで私は我に返った。

 そして改めて地下室に繋がる階段を見る。

 

(……そうだ、私はこの地下室に居た)

 

 記憶のフラッシュバック。それは間違いなく私の記憶だった。

 ジッと暗がりの地下室への階段を見る。何処か記憶に引っかかる、けれど思い出せない。それが喉元までせり上がってきた痰のように私を襲いくる。

 

「…………」

 

 誘われるように私は地下室に降りた。

 そして、そして、そして。

 

「……ッッ!!」

 

 扉を開いた先からふわりと香る香りと、見えてきた光景に頭が割れんばかりに痛んだ。

 思わず頭を押さえるけれど痛みは消えない。

 ……ふらふらと部屋の中に入って、倒れる。

 ……今、書いてて何となく理解した。

 多分、もうわたしは消える。

 記憶が物凄い勢いで、波のように脳裏をよぎって……。

 終わりは突然に、というけどまさにその通りだ。

 とりあえず私は『わたし』として最後にフランに書き留めておきたい。

 

 体を貸してくれてありがとう。

 わたしは消えるけど、その分生きてください。

 願わくば……貴女と、お話ししたかった……。

 

 あ……り、……が、……と…。

 

 

 #####

 

 

 

 一月二十四日

 

 

 目が覚めたら妙に清々しい気がした。

 んーっ、と伸びをして起き上がると地下室。

 ……あれ? 私いつのまに地下室に来たっけ? しかも何で地面で寝てたの? と思って横に落ちてた日記を読み返してビックリした。

 私、記憶喪失だったみたい。

 力を振り絞って書かれたらしい文字を見て、何も言えなかった。

 ……私も、貴女とお話ししたかったよ、わたし。

 ともかく約束するよ。

 日記に書かれた思い、ちゃんと受け継ぐから。後悔の無いように生きるから。

 だからいつか会いましょう、わたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一月編11『チャイナドレス』

 

 

 

 一月二十五日

 

 

 記憶喪失だった三日間の記憶のすり合わせを咲夜と行った。

 その時のわたしの行動を細かく知って改めて昨日の約束が頭をよぎる。

 『私の分も生きてください』、その約束だ。

 とりあえずその為にはもうお姉様の料理は食べないと心に誓ったよ。

 さて、それはともかく三日ぶりに寺子屋に行くと皆から心配の声を貰ってしまった。

 

「フランちゃん体調崩したんだっけ? 大丈夫?」

「馬鹿は風邪引かないってアタイ聞いたけど……」

「それはフランちゃんが馬鹿だと言いたいのかなチルノちゃん!? 言葉間違えただけだよねっ!?」

「みすちー、私お腹が空いたのだー!」

「ちょっ、ルーミアちゃん腕を齧らないで!? 私は食用の鳥じゃないよ!?」

「フラン、これ。幽香と私から。睡蓮(スイレン)の花」

「あっ、お花といえば私も持ってきたよ。ほら、彼岸花(ヒガンバナ)

「ありがとうメディスンちゃん、リグル!」

 

 上から大ちゃん、チルノちゃん、大ちゃん、ルーミアちゃん、みすちー、メディスンちゃん、リグル、私の言葉だ。

 あと隣の席のナナシ君からも「風邪引かせたのもしかして俺の修行に付き合ったからか? わりぃ……」と心配の言葉を貰ったなぁ。

 それと慧音先生も「体調は気を付けないとな! 妖怪といえどズボラではいかんぞ」という言葉と、副担任の先生からは「三者面談した時に薄着のエロい門番の人に聞いたが修行の一環で寒中水泳をしてるらしいな。水から上がったら風呂入れよ?」とちょっと引っかかる言葉を貰った。

 うーん、心配かけさせちゃ駄目だよね! 自分の体調は大切だし、もっと普段から気を付けていこうと思いました!

 

 

 #####

 

 読み終えて真っ先に反応するところは副担任の先生の発言であった。

 

「……薄着のエロい門番の人って美鈴……よね? えっ、エロい?」

「そりゃ年中横から見たら下着が見えそうな格好してたらそりゃエロいでしょ。もう慣れたせいかそうと思えないけど」

 

 エロい。改めて言われてレミリアは「えっ?」と首をかしげる。

 それからよくよく美鈴の普段の装いを思い出してみた。

 華人服とチャイナドレスを足して二で割った服装。スリットの下は何も履いておらずその色気ある脚線美が露出しているが、いやしかし。確かに動けばドレスの下がめくり上がり中が見えることは必須なような、気がした。

 年がら年中ドレスの中が見えそうで見えない。が、その脚線美だけは常に見ることが出来、色気を感じさせる。レミリアにとってはよく分からないが、男性にとってはその『見えそうで見えない』という点はとてもエロいポイントではないのか? ついでに美鈴は胸も大きいし、人間相手でも基本敬語で話す、妖怪でも珍しく温和な性格だ。よく人間の武闘家が彼女に挑むこともあるし……あれ?

 

(……いや、でも別に紅魔館の門番の制服として渡した服でも無いし、本人が勝手に着てるだけなら私に責任は無いわよね?)

 

 でも、あれ? エロい? 

 

(う……うー……分からないわ。男の人ってそのあたりどう考えているのかしら?)

 

 基本女ばかりの紅魔館だ。住んでいる人も、妖精メイドも、強いていえばホフゴブリン達はオスかもしれないが彼らは彼らで性的趣向が人間とは異なるだろうし、そんな素振りを見た覚えもレミリアには無かった。

 と、そこで早苗が手を挙げて発言する。

 

「……んー、少なからず胸には目線がいきそうですよね。次に生脚? 学校に居た時は私もよくチラチラ見られましたし」

「へぇ、そうなの?」

「はい。水泳の授業とかで盗撮しようとする人も居ましたし……私より身体つきの良い美鈴さんと考えるともっとそういう視線を向けられてもおかしくはないかと……」

「ふんふむ……」

 

 確かに生徒に勉強を教える先生が「エロい」と断言するほどだ。早苗の意見も聞いてよくよくかんがえるとかなり美鈴はきわどい衣装をしているのではないか、レミリアは考える。

 すぐには答えは出ず目を閉じて、うんうん唸った。

 が、そこで彼女の優れた耳が妙な音を聞き取る。

 

 ……ペラッ、と。本をめくる音が――――、

 

「って何、私を放置して次のページめくってるのよ!?」

「尺が無いからよ!」

「……だから尺って、いや。良いです。やっぱり話さないで下さい」

 

 無茶苦茶理論の霊夢の言葉に突っ込もうとしてさとりはやめた。

 ともかく、怒るレミリアを後ろ手に一同は次のページをめくる!

 

 

 #####

 

 

 一月二十六日

 

 

 香霖堂に行くと微笑ましい光景が見れた。

 デバイスの量産中に疲れて寝てしまったのか、机の前で寝てしまっている霖之助さん(毛布が掛けてある)と、その霖之助さんに寄りかかって横で寝ているリアラさん。

 霖之助さんはなんだかんだイケメンだし、リアラさんは超美人だしで絵になりますなー。

 霖之助さんの肩にリアラさんが頭を傾けて寝ているあたりすっごい恋人同士みたい!

 私もいつかそういう相手が出来るのかな?

 うーん、どうだろ。まだ恋愛とかよく分かんないや。

 ともかく二人とも仲睦まじいようで何よりだよ! リアラさんが香霖堂に住むようになったのも突然だったからなぁ。

 ちょっぴり幸せな気分になれました。

 

 

 #####

 

 

「えっ、霖之助さん……やっぱりあの人と恋仲だったの?」

「いや、確定じゃありませんよ。少なからず密着出来るくらいの仲なのでは?」

「ふーん……、でもリアラとやらは将来こうなったらっていう理想のフランでしょ?」

「……理想だからこそ、でしょう。女の子ですからそういう話は興味あるでしょうし、理想の女性が幸せそうなら見ている本人も幸せに思えますから」

 

 そんな事を呟いて一同は次のページをめくる。

 

 

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 一月二十七日

 

 

 やっと紅魔館のあれこれが終わった。

 瓦礫も全部片付いたし家具も配置したし。

 これで完璧じゃないかな!

 よーし、これでまた思う存分色んな事に挑戦出来そうだ。

 そうだなぁ、例えば裁縫しようかな? 普段お世話になってる人達に向けて手袋を編むとか良いよね!

 ほら、霖之助さんとリアラさんにペアルックの手袋作ったりさ。

 いやでもあの二人って恋仲なの? うーん、分からない。

 もし違ったら迷惑だろうし色違いにしておこうかな?

 あとあと、咲夜とかにも作ってあげたいな。それとめーりんにも!

 めーりんはこの冬の中でも寒そうな格好で門番してくれてるから、手袋とマフラーも作ろう!

 私も吸血鬼だから季節ごとの温度差なんてどうって事ないけどオシャレとしてマフラーとかつけてみたいし、季節ごとのファッションってやつも女性にとって大切ってiPhoneで載ってた!

 というわけで可愛い冬用ファッションを作ろうと思います!

 よーし、頑張るよ!

 

 

 #####

 

 

 

「冬服ですかぁ。良いですねー。私は年がら年中巫女服だからなぁ……」

「それを言ったら私もよ。このクソ寒い冬に掖出しの巫女服とか作ったやつの気がしれるわ。しかも紫も強要してくるのよ? 基本その格好で居なさいって」

「……え、そんな制限あったんですか?」

「うん。お陰で毎年毎年凍傷になりそうになるわ。昔の博麗の巫女には死者が多かったって聞くけど絶対凍死とかもあると思う」

「それは……あまり聞きたくないわね」

 

 霊夢の巫女服の意外な縛りに一同はえぇ……と顔をしかめるのだった。

 それから「ともかく次に行くわよ」と霊夢が気を取り直して次のページをめくる――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一月編END『素戔嗚現る!』

 

 

 

 一月二十八日

 

 

 博麗神社に行くと見知らぬ若い男の人がいた。

 何やら地図を見てウロウロしているので迷い人かな、と思って声を掛けるとその通りだったらしい。

「守矢神社はこの神社であっているか?」

「いえ、そこは博麗神社ですよ。守矢神社はあの山の頂上です」

 どうやら守矢神社に行きたいようだ。

 折角だし案内すると申し出ると男の人は「おぉありがたい!」と頭を下げた。

 それから私は自己紹介する。

「と、名乗っていませんでしたね。私はフランドール・スカーレットです」

「む、フランドール……? もしかしてお主が吸血神か? 神の子や悟りを得た者の加護を授かった」

「いや、吸血神って何ですか? 吸血鬼ですよ、ただの」

 いきなり何を言ってるのやら。訳が分からないよ。

 そのまま男の人は私をしばらく見つめて何やらブツブツ呟いてたけど、やがて名前を名乗った。

「と、名乗るのを忘れていたな。ワシは……そうだな。スサちゃんと呼んでくれ。陽気なスサちゃんだ」

 スサちゃん。随分可愛らしい呼び名だ。というか今更だけどこの人神様だよね? なんか神格が見えるような……分かりづらいようにカモフラージュされてるけど。いや、やっぱり気のせいかな。

 ちょっと首を傾げつつ飛んでいると守矢神社に着いた。

 

「あの、スサちゃん。ここが守矢神社です」

 

 指差すと「おうここか! 助かったぞフラン嬢」と声高に言ってスサちゃんは守矢神社の境内に飛び降りると家の奥に向かって叫ぶ。

 

「八坂神奈子は居るかーっ!!」

「っ!!? こっ、ここに!」

 

 瞬間だった。

 目にも留まらぬ速さで神奈子さんがスサちゃんの目の前に姿を現したのだ。なんか焦った様子だった。

 

「お、お久しぶりです。してどのようなご用件でしょうか?」

「おう久しぶり! 要件はない、暇だから来たぞ。東風谷の嬢ちゃんとも久方ぶりだからな!」

「暇だから!? す、素戔嗚(スサノオ)さん? えっ、そんな理由で?」

「おお! なんだ、暇な時に来ちゃいけんのか?」

「そっ、そんなことは……」

 

 うわぁ珍しい、神奈子さんが物凄い下手だ。

 ……って、ん? 素戔嗚(スサノオ)? 

 スサちゃん=スサノオ=素戔嗚……?

 ……え?

 

「神様だとは思ってましたけど、まさか素戔嗚さんですか?」

「そうだよフラン嬢。だがワシの事はスサちゃんと呼びんさい。その方がアダ名みたいで嬉しいからな」

「……はぁ」

 

 よく分からない。素戔嗚ってあれだよね? 日本神話で有名なあれだよね? 確かイザナミさんの息子さんだっけ? 

 聞いてみるとスサちゃん……素戔嗚さんは頷いた。

 

「フラン嬢の事は母から話を聞いてるぜ。とても素直な良い子で天使みたい……とかなんとか。部下の顔を見ようと守矢神社に寄るついでに話そうと思っとったからな。丁度出会えて良かった」

 

 それからの様子もしばらく見てたけどかなり自由な人みたいだね。

 神話だと泣き虫だったとか、激情家だったとか、英雄だったとか色々言われてたけど気の良いお兄さんにしか見えない。

 このあと、諏訪子ちゃんと会った時も大体こんなテンションだったしね。

 

「おろっ、来たのかい? いらっしゃいスサノー」

「おぉすわわっ! 相変わらずめんこい顔しとるのー! クシナダのやつがお前さんを娘として迎え入れないかってよく聞いてくるんだがどうだ?」

「あははっ! 悪いけどお断り! 見た目こそ子供だけどさー、中身は呪いの神だぜ?」

「それを踏まえて可愛いと言っとるのに。まぁ断られた以上はどうもせんがな!」

 

 そうやってガハハと笑う。

 諏訪子ちゃんとも仲は良いらしい。私も「フラン嬢もワシのとこの養女(ムスメ)にならんか? 歓迎じゃぞ」と勧誘されたけどごめんなさいパスで。流石に会った事ない人の養女はちょっと。

 断るとまたそりゃそうだわな、と笑ってた。

 その次には早苗さんとも会ってたなぁ。

 

「……えっ、素戔嗚……様?」

「よく分かったな。東風谷の嬢ちゃん、久しぶりだのう! にしても随分綺麗になったじゃないか!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ポンポンと頭を撫でられて早苗さんは頭を下げた。

 思いもしない来客に驚いているらしい。が、おもてなしをしないといけないと判断した彼女は「居間で寛いでいて下さい。お茶とお菓子を持っていきますから」とパタパタ歩いて行ってしまった。

 

「ふむ……中々のサイズ。良いな」

 

 その後ろ姿を見て素戔嗚さんがなんか呟いてたけどともかく。

 居間で寛ぐことになったので諏訪子ちゃんがゲームを持ってきた。

 

「よっし、スサノーが来たしゲームしないかい? WIIUのスマブラ」

「おぉ、ゲームか。ワシもよくやるぞ」

「わ、私もオンラインゲームはよくやりますから負けません!」

 

 そんなわけで三人プレイ。

 とはいっても殆どキャラが分からなかったので、見た目の可愛かったぴ、ぴかちゅー? ってキャラを使った。電気が出せるらしい。

 素戔嗚さんはソニック、諏訪子ちゃんはクラウド? ってのを使ってた。青いハリネズミとFFがどうとか。

 で、バトルしたけど二人とも強い。具体的に言うとボタン押す入力速度が秒速何十回のレベルでコントローラーが壊れそうだ。

 

「暇だったから人力TASしてんだよね。負けるわけにゃいかないよ?」

「ぬっ! やるのすわわっ! だがワシもいくつかのゲームRTAで世界一位を取っておる! ましてやスマブラなどかつては全一として名を馳せていた……! 負けるわけにはいかん!」

「……私はこのゲームは初めてですけど楽しくプレイしたいです」

 

 とりあえず何のボタンを押したらどう動くか、ってのを理解するところからだね。で、何試合かやったけど最初のうちは私ボコボコにされてたけどちょっと理解してきたら何度か落とせたよ。

 一度嵌めたらコンピューターの認識速度の仕様上抜けが不可能だから楽だね。でも空中で強引に技出して復帰してくることもあるし、アイテムでぶっ飛びまくるから難しい。二人とも巻き込めれば一番だけどそう簡単に決められる相手じゃないし。

 と、そんな感じに遊んだ。途中から早苗さんも混ざって四人でゲームしたよ。

 スマブラやって、マリカーやって。

 で、途中で夕飯を頂いて、それからもゲームしてたけど気が付いたら寝ちゃってた。

 とりあえず適当な式神を作って咲夜に連絡したので多分問題無いと思う。

 

 

 #####

 

 

「す、素戔嗚……?」

「はい。素戔嗚様は神奈子様の上司らしくて、それでおいでなさったとか」

 

 戸惑ったように尋ねる霊夢に丁寧に早苗は説明する。

 するとレミリアがふぅんと頷いて一つ尋ねる。

 

「ねぇ、ところでゲームで全一って何?」

「……レミリアさん、えっとそれは全国一位の略で、ようはそのゲームで一番強いプレーヤーって事ですね」

「……神様って暇なの?」

「……ノーコメントで」

 

 

 #####

 

 

 一月二十九日

 

 

 あのあと結局、守矢神社に泊まった。

 早苗さんの部屋に一緒に泊めてもらって、一つの布団の中で二人で寝たんだけど、でも目が覚めた時ビックリしたよ。何故かと言うと、私の横に龍神ちゃんが潜り込んでてさ。

 気持ち良さそうに寝てたから起こすわけにもいかないし。にしてもちょっと久しぶりだね。相変わらず整った顔立ちに綺麗な純白の髪だこと。

 手触りの最高だし、撫でてあげると寝ている顔が和らげになるし。でもいつまでもそうしているわけにはいかないので起こして朝食を食べながら話を聞くと「暇だったから」らしい。

 ……もしかしなくても神様って暇なのかな。諏訪子ちゃんも素戔嗚さんもそうだし。

 

 とっ、ともかく今日の話だよね。

 今日は皆でテーブルゲームをした。

 トランプ、将棋、人生ゲーム、麻雀。

 龍神ちゃんと私でペアを組んでやった。

 

「速攻魔法発動! バーサーカーソウル!」

「うぐ、サンダーボルト! 場のカードを全て破壊! そして奪った歩兵を王の前に配置し王手!」

「なんの、こっちも歩兵を王の前に配置! また手札より魔法カード発動!」

 

 ……将棋、だよね? なんかカードを使ってたけど。

 あと麻雀とかも酷かったよ。

 

「あ、天和です」

「「なにぃっ!?」」

「わぁ早苗さんすっごい」

「奇跡ですねー、あはは」

 

 牌を引いた時に既に役が出来ていることを天和という。

 確率としてはかなり低い役だけど一発で引いてくるあたり奇跡って凄いよね。

 でもそれだと奇跡の独壇場なので申し訳ないけど次の回からは奇跡を破壊して対戦しました。というかしないと勝てないから!

 ちなみに私もそうした上でやっと暴れることが出来ました。

 諏訪子ちゃんが牌を捨てた時、龍神ちゃんが声をあげたんだよね。

 

「ふらん、これ鳴く」

「そうなの? じゃあポンっ」

 

 鳴いて牌を受け取った私は、不要牌を出す。

 次は早苗さんの手番だ。

 

「これ、ですね」

「あ、それもポンっ」

 

 出した牌はまたも私が欲しい牌だった。ポン、と鳴いてその牌を受け取り代わりに不必要な牌を捨てる。

 そして次は素戔嗚さん。

 

「む、これだな」

「あ、それもポンです」

「「裸単騎!?」」

 

 手持ち牌が残り一個、ポツンと私の前にある。

 そして、

 

「あ、ツモ。裸単騎大四喜(サウザンドウインド)でしたっけ?」

 

 普通にきた。結構珍しい役じゃない?

 でも言ってから素戔嗚さんだけやたら変な顔をしてた。

 

「……? どうしたんですかスサちゃん」

「いや、服は脱がんのか? と思って」

「ふぇっ? せ、セクハラですよ?」

「セクハラじゃなくて、元ネタ的に」

「えっ、この役を上がったら脱がないといけないルールが?」

「いや、そうじゃなくてだな」

「「??」」

 

 意味が分からなくて早苗さんと顔を見合わせて首をかしげる。

 横では龍神ちゃんが諏訪子ちゃんに尋ねてた。

 

「すわこ、あの男、変態?」

「じゃない? 服脱がないのかって脱衣麻雀じゃないのにね」

「いや違うわ! 風評被害だ!」

 

 ともかくそんな感じだった。

 ちなみに素戔嗚さんは今日で帰るらしい。お嫁さんのクシナダさんに二日以上家を空けたら殺すと脅されているんだそうだ。

 

「楽しかった、また来よう」

 

 そんな感じにあっさりとしたお別れだった。

 うん、また一緒に遊ぼう、スサちゃん!

 

 

 #####

 

 

「あれは楽しかったですねー、普段はトランプもほぼ必ずジョーカーが手持ちに来ますし、人生ゲームは良いマスにしか止まりませんからフランちゃんがいると普通に勝負が楽しめます」

「あー……アンタの奇跡って常時発動型だっけ?」

「はい、普段から幸運なせいか勝負事で気後れしちゃって」

「……そりゃあ難儀な話ね」

「……奇跡って言いつつある種呪いみたいです」

「あー、そういう一面もあるかも。でもまぁ奇跡を起こせることに不都合はありませんから受け入れて生きてますよ」

 

 そう言って早苗は笑った。

 

 #####

 

 

 一月三十日

 

 今日、本屋で『フランが教える弾幕ごっこ』の二冊目が発売した。

 今回販売開始したのは『Easy編』だ。

 限られた弾幕数の中で綺麗に見せる方法、私なりの他の人のスペルカード分析、グレイズの時の注意点。

 また私が直接指導するDVDも殆どタダ同然でついてくる。

 DVDは電気とテレビ普及の為にわざわざ撮影したよ。霧雨商店でも電気のサービスやテレビなどの家電販売は元々視野に入れてたみたいでさ、良い機会だし私の弾幕ごっこ教授本を買ってくれたお客さんの電気購買意欲を煽ろうと思って作ったわけだ。

 まぁこれは正直上手くいくと思ってないから、手回し充電式の携帯型のDVD再生機も開発中だけどね。

 売れ行きは上々、デイリーでは一位らしい。

 そうそう、弾幕ごっこといえば最近人里を歩いているとデバイスを買ってくれた人達からよく弾幕ごっこの相手をして欲しいとお願いされるようになった。

 一通り簡単に相手して、注意点とか改善点を口頭で伝える。

 ただそれだけなんだけどね、意外と好評らしい。

 私も私で弾幕ごっこに付き合った後に相手をした人たちが甘味屋さんでお団子をくれたりするから嬉しい。

 でもなんでだろう、あむあむと柏餅を頬張ってる時によく頭を撫でられたりするんだけど、妙に餌付けされてる気分になるんだよね。

 甘やかされてるっていうか……可愛がられてるっていうか。

 嬉しいけどね、まぁまだ私が慣れてないだけかもしれない。

 最近じゃ信じられないけど一年前の私はほんとただのニートだからね。

 それがいきなり色んな人に褒められたり、甘やかされたりしたら戸惑いますわって話よ。

 

 

 #####

 

 

「デバイス事業から多方面に繋げていきますねー……」

「というか餌付けって、いやあながち間違ってなさそうだけど」

「……里の人の気持ちは分かりますけどね」

「見た目のせいでどうしたって子供が頑張っているようにしか見えないんでしょうね……私も、フランも」

 

 #####

 

 

 一月三十一日

 

 

 今日で一月最後かー。

 一ヶ月が早いなー。

 あ、そういえばちょっと前に裁縫の話したでしょ。マフラーとか手袋作るって話。一応毛糸を買ってきて編み始めてるけど中々難しいね。

 裁縫……というか、編み物って大分糸と針を使うより勝手が違う。

 大体こんな感じ、で作ってるけれどちょっと形が不恰好だったりするのでアリスさんに教わった方が早いかもしれない。

 まぁ使えないわけじゃないんだけどね。

 暖かいしマフラーとかとしては良いと思う。

 でも人にあげるものだし見た目もこだわって頑張ろう!

 よし、ファイトだよ私。

 

 

 #####

 

 

「編み物ですか」

「初めてでちゃんと形が出来るあたり凄いと思いますけどね」

「……ほんとそれですよ。手袋とかどうするんですかね、あれ」

「……だいぶ完璧超人になってるわよね、サラッと」

 

(……もう当たり前みたいになってるあたり毒されて来てるのかしら、私も)

 

 最後にレミリアが突っ込んで一同は次のページをめくる。

 

 

 

 

 

 

 



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二月編
二月編1『パルスィと雛と呪い』


 


 雛ファン、並びにパルスィファンの方。
 先に言っておきます、ごめんなさい。


 


 

 

 

 二月一日

 

 ……なんか知らないけどパルスィさんが来た。あと横に見知らぬ緑髪の美人さんも。

 いや、本当なんでだろう。一回会ったきりで接点無かったのに。というか緑髪の美人さんに至っては会った事も無いのに。

 ちなみにパルスィさんは以前の括弧付けた話し方はやめたみたいで普通の口調だった。

 でさ、私を見て開口一番にこう言ってきたの。

「大きな妬みを感じてきたわ。貴女、呪われてるわよ?」

「呪われ、えっ?」

「とても……大きな呪いです」

 なんか呪われてるらしい。しかもとてつもない呪いで、後少ししたら災厄を齎すものだったとか。

 ……どうでも良いけど美人さん、そんなシリアスな事を話すときはグルグル回転するのやめてくれない?

「……私のアイデンティティですから」

「あっ、そう……」

 そういうことらしい。とりあえずこのまま話を進めると意味不明なことが多いのでとりあえず自己紹介した。

 名前は鍵山雛さんというらしい。とりあえず彼女のことを真面目に描写すると……、まず真っ先に視界に飛び込んでくる緑色(エメラルドグリーン)の髪が印象的な人だ。後ろからサイドにかけてすべてを胸元で一本にまとめている。

 頭部にはフリル付きの暗い赤色のリボンを結んだヘッドドレスを着けており、リボンには何やら文字が書かれていた。

 服はいわゆるワンピース状で、襟は白、それ以外は赤を基調としている。袖はパフスリーブの半袖、襟は三角形で腹部にまで垂れていて、スカート部分は真ん中よりやや下あたりで色がわかれており、上部分はほぼ黒に近い赤、下部分は純色の赤だった(この部分は繋がっている)。裾には白いフリルが付いている。

 またスカートの左側には「厄」の字を崩したような、エメラルドグリーン色の渦巻きのマークがクロスした赤紐で留められていた(アップリケ?)。足には、赤紐をクロスして留めた黒いブーツを履いている。左腕には、頭に付けているのと同じフリル付きの赤いリボンを巻いて片端を手首で垂らしている、とそんな感じだ。

 

「……呪いに話を戻すんですけど、実は私は厄を集める能力があるんです。今はちょっと……事情で厄を纏ってはいませんが、いつもは厄払いで祓われた厄を溜め込む役をしております。厄神、と言いますか。私自身はまだ妖怪の一部なんですが……そんな感じで。それで貴女からとても強い厄を感じまして」

 

 くるりくるりと回りながら鍵山さんは言う。

 ほうほう、つまり私の厄(呪い)をもっていってくれるってことかな? ただ……回るのやめて、鬱陶しい。

 

「……分かりましたよぉ……」

 

 もう一度言うと彼女は仕方なく止まる。

 それからこう言ってきた。

 

「それでですね、貴女の厄を払いたいんですけどよろしいですか?」

「うん、喜んで。むしろこっちからお願いします」

「……その間私は周りに厄が飛ばないように見ておくわ。嫉妬とか、悪意のエネルギーには詳しいから……」

 

 そんなこんなでパルスィさんが見張る中、鍵山さんが私の呪いを解いてくれる運びとなった。

 それで厄払いだけど……ね。

 

「じゃあ、いきますよ?」

 

 そんな軽い声を鍵山さんが上げた。

 直後だった。彼女が振るった手が()()()()()()()()()()

 

「ッ!?」

「……すごぉぃ」

 

 私が目を見開いて鍵山さんを見ると彼女は恍惚とした表情でその艶かしい唇を動かす。

 が、次の瞬間。勢いよく彼女の手が私の体が引き抜かれると同時に巨大な闇の塊が私の身体からゴボリと落ちた。

 一瞬、身体に力が入らなくなって私が倒れこむとその闇が鍵山さんに集まる。

 その中心で鍵山さんは妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「……すごぉい、こんなに……いっぱぁい……」

 

 闇に包まれた鍵山さんはトロン、と惚けたような顔をする。

 顔全体が紅潮していて発情しているみたいだった。にゅるにゅると絡みつく厄に呑み込まれて、それを喜びのように感じているのだ。

 あはァ……と彼女はひりついた喋り方で厄を身体の中に取り込んでいく。

 

「いっぱい…、いっぱい……入ってくるぅ…凄いよぉ……!」

 

 低く叫んでブルリと彼女は体を震わせた。それから両手を地面に着いてへたり込む。その動きに合わせて闇は鍵山さんの体に纏わりついた。

 私は動けない。体に力が入らなかった。厄が一度に抜けたことで何かしらの影響があったのかもしれない。

 ただ、今思えば鍵山さんの様子を印象的に覚えている。

 でもそれは最初のうちだけだった。

 

 楽しそうに厄を取り込んでいた鍵山さんは段々と辛い顔を浮かべるようになったのだ。

 

「……うぅ、こんなに…こんなに……、無理ぃ……」

 

 三十分が過ぎて一時間が過ぎた頃、鍵山さんは未だ消えることなく存在する闇の中心で、まるでマラソンの後に吐く荒い息のような喘ぎ声をあげるようになった。

 

「駄目なのに……駄目なのにぃ……! 厄を私が溜め込まないと他の人が不幸になるのにぃ…! わたし……わたしっ!」

「……ちょ、ちょっと。雛? 大丈夫?」

「無理っ、無理ぃ……私、これ以上はァ……」

 

 様子がおかしいと思ったのかパルスィさんが声を掛けると雛さんはポロポロ涙を零し、ぜえぜえ息を吐いて首を必死に横に振った。

 慌ててパルスィさんが鍵山さんを引っ張ろうとするけど、闇の瘴気が邪魔をする。パルスィさんごと取り込まん、という構えだ。

 その瘴気にパルスィさんは「チッ」と舌打ちをしてそれでも強引に引き抜く対応をみせた。

 引き出された鍵山さんは地面に寝転がったまま、はぁはぁと扇情的な息を吐く。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 全身汗びっしょりで、服が透けていた。顔も疲れ果てたように涙でぐしゃぐしゃになっている。息をするたびにその立派な双山が上下する。

 見ていてなんだか見ちゃいけないものを見てる気分になった。

 

「……すごいのぉ……すごく濃厚な厄が、私の中に入ってくるの……こんなのっ、こんなの知ったら……私、もう……」

「……ハァ、人間の為に厄を取り込むことを生業とするのは良いけどその喘ぎはどうにかならないの? 下手すりゃその人間に襲われるわよアンタ」

「……ひぐぅ…、無理っ、なの。頑張って声抑えようとしても……出てきちゃうっ、の……」

 

 呆れたように対応するパルスィさんとは対照的に鍵山さんはまだ荒い息を吐いてばかりだ。観察すると目から少し色が失われていて、まだ厄を取り込む感覚から抜けていないらしい。

 頰が紅潮し、目が死んでいると書くと相反しているが、まさにその通りなのだから仕方ない。

 と、その時だった。

 

「あっ、ひゃあ!? 待って…わ、私まだ疲れ果てたばかりで……!」

 

 まだ空中に漂っていた厄の塊。それが突如として鍵山さんを覆ったのだ。

 突然の出来事に鍵山さんが悲鳴を上げる。が、それはすぐに嬌声に変わった。

 

「あっ、やっ……そんな強引な……んっ、だめ……っ、入らないから! そんなにしたって入らないからぁ……!」

 

「……落ち着きなさいよ。はぁ、もう良い加減終わらせるからね?」

 

 が、厄の足掻きもここまでだった。

 パルスィさんが巨大な釘を取り出した瞬間、場の雰囲気が一変したのだ。

 具体的には彼女の死んだ瞳が碧眼に鈍く光を讃え、同時になんともいえない圧迫感を発し始めた。

 近くにいた私は何とも言えない「気持ち悪さ」を感じた。何か触れてはならないものに自分が近寄っているような、そんなイメージ。

 両の手にそれぞれ一本ずつ、切っ先を厄に向けて釘を構えるパルスィさんはそのまま口元を三日月型に歪め――嗤う。

 

『――厄の塊(キミ)が悪いんだぜ?』『彼女の痴態に目を瞑ってもね』『厄の塊(キミ)の存在自体に問題があるの』『悲しいわよね』『厄ってマイナスだもの』『つまり』『懇切丁寧に説明すると』『不幸を(もたら)厄の塊(キミ)が悪い』『だから』『私は悪くない』

 

 括弧付けた台詞だった。瞬間、彼女は手に持つ釘を乱暴にぶん投げる。その釘が厄の塊を根こそぎ、まるで実体があったかのように巻き込むとそれは紅魔館の壁を貫いた。

 そのままパルスィさんは壁に拘束され、動けない厄の塊の側までツカツカと寄って行くとそっと触れる。

 同時、厄の塊はすうっと彼女の中に吸い込まれていった。

 

「……好きな男を完璧な女の子に取られた、ねぇ。そんなことで妬めて……妬ましい」

 

 最後にパルスィさんは呟く。

 それからはあっという間だった。彼女は「邪魔したわね」と素っ気なく言って鍵山さんを連れて帰っていった。

 今更だけど、うん。

 結局呪いを掛けたのは誰とか全く分かってないけど良いのかな?

 

 

 ######

 

 読み終えての感想は。

 

「……鍵山さんのこれは、良いんですかね?」

「……そうね。これセーフなの?」

「……流石に、これは……って感じですよね」

 

 という感じだった。

 上から早苗、霊夢、さとりの発言である。三人とも曖昧な顔で「これ大丈夫か」としきりに呟く。

 が、一人だけよく分かっていないレミリアは首を傾げた。

 

「えっ? 何か問題があったかしら? 厄を吸うのに荒い息を吐く癖があるだけでしょ?」

「……いや、これR18引っかかるんじゃないかってね……?」

「R18……?」

 

 ちょっと間接的に伝えてみるもののレミリアはまるで分かっていないようだった。グロ……じゃないわよねと呟いてはコテンと頭を横にする。

 その様子を見て早苗が呟いた。

 

「あの、霊夢さんさとりさん。レミリアさんを見ているとそういう発想に至ったことが猛烈に汚れている感じがしてきました……」

「……同感」

「……ちょっと恥ずかしいです」

「???」

 

 かくしてはてなマークを浮かべまくるレミリアと、恥ずかしがる三人という謎の構図が出来たのだった。

 

 

 

 




 



 ……今更だけど九九話でこの話ってどうなんだ?


 


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二月編2『節分とカリスマと文』

 


 祝百話。ついでに百話毎日更新。
 随分遠いところまで来たけど完結までは毎日更新出来たら良いね。
 あと今日は頑張っていつもの五倍くらい書きました。

 


 

 

 

 二月二日

 

 

 お姉様がおかしい。

 朝、お姉様が階段で転けて頭を強く打ってから妙なんだ。

 なんていうか……全体的に大人びたんだよね。

 カリスマがあって、ちょっとした所作からその幼い見た目からは想像出来ない妖艶さを感じさせる。

 口元に手を当てて笑みを浮かべてさ。

 声色もいつもよりシリアスモードで、なんていうか違和感があり過ぎる。

 そして決め手は、お姉様がレミィたんの隠形(ハイディング)を見抜いたことだ。

「……鼠が紛れ込んでいるわね」

 小さく呟いた瞬間お姉様が無造作にグングニルを天井目掛けて放った。同時、天井が崩落して瓦礫と一緒にレミィたんが落ちたんだ。

 驚きはそこで留まらなかった。

「その見た目、私? 目的は成り代わりかしら? 何処の勢力?」

「ぐっ……あっ……」

 レミィたんはめーりんとの修行を経てパワーアップを果たした私が全力で創った人形だ。私自身想定してなかったけど、多分付喪神の一種だと思うってアリスさんには言われてる。と、それはともかく彼女の戦闘力は私と同程度まで高い筈なんだよ。以前、私とお姉様が喧嘩してほぼ互角だったことを考えると間違いなく実力で上回っている筈なのに、でも何も出来ずにレミィたんが叩き潰されて拘束(バインド)された。

 

「――貴様の目的を吐きなさい」

 

 地面に転がり伏せたレミィたんを見下ろすお姉様の冷たい目が酷く印象に残っている。

 そのあと慌てて私がお姉様にレミィたんのことと「いざという時のお姉様の影武者」として配置していたことを話したけどお姉様は納得はしたけれど不快な様子だった。

 

「影武者? そんなもの必要ないわ。フラン、覚えておきなさい。私達スカーレット家はツェペシュの末裔にして高貴なる吸血鬼の一族――故に、闇討ちなどに殺されるような者はスカーレットの名を名乗る資格など無いわ。スカーレットの名を名乗ると言う事はいかなる戦いにおいて絶対勝利者である事と同義よ」

「で、でも」

「でも、も何も無いわ、結論として私に影武者は不必要よ……彼女は改めて私が従者の一人として雇い直すわ。咲夜と貴女でメイドも仕事もかなり回るようになっていたけれどまだ人員は足りていないでしょう。その末端に加えなさい――またレミィたんという名前は似つかわしくないから今ここで貴女に名前をあげる。今日から貴女は『リメリア』よ。リメリアと名乗りなさい」

 

 私は反論しようとしたけどあれよあれよという間にレミィたんがリメリアに改名させられてしまった。

 ……いや、まぁ私の付けたレミィたんって名前がテキトーだったことは否定しないしこっちの方が良いとは分かるけど……。

 でもお姉様どうしちゃったんだろう?

 頭を打っておかしくなっちゃったのかな?

 

 

 ######

 

 

 文章を読み終えて真っ先に反応したのは他ならぬレミリアだった。

 

「……え?」

 

 What? こんな記憶無いわよ? と彼女は自身の記憶を探る――が、やはり覚えがないらしい。あれっ、あれー? と彼女は首を傾げていた。

 

「え、レミリアさん知らないんですか?」

「うん、覚えがないけど……それにレミィたんとかリメリアも知らない……あ、でもメイドの中に私に似た子がいるなーってのは覚えがあるわ!」

 

 早苗が尋ねるとレミリアは大きく頷いて答える。

 その様子を見て霊夢が多分、とこう結論付けた。

 

「……多分あれでしょ。もっかい頭を打ったらカリスマ崩壊したパターンでしょ。で、一緒にその間の記憶が飛んだとか」

「……ありそうですね」

 

 頷くさとりだが、レミリアはムッとする。

 

(……こいつら、本人を前にして失礼だとか思わないのかしら)

 

 ぷんすか! ちょっとおかんむりなレミリアだった。

 

 

 ######

 

 

 二月三日

 

 

 今日は節分だ。

 人間の間だと『鬼は外ー、福は内ー!』ってフレーズが有名だけど私達は『吸血"鬼"』なので豆を撒くときはこうなる。

 

「鬼は内ー! 福も内ー!」

 

 福は鬼でも欲しいからね。となると両方迎い入れるスタンスが紅魔館でのスタンダードとなる。

 とはいえ問題が一つあるんだよね。そう、お姉様だ。

 何故かお姉様がドアを開けて登場するたびに『バアァァン!』とか文字が出るようになるカリスマモードに突入してるんだけどまだそのままでさ。

 全身から妖気を滲ませながら吸血鬼(デビル)フェイスを張り付けてフっ――と口元を歪めると私たちの前でこんな発表をした。

 

「今日の節分だけれど。本来私達は豆をぶつけられる立場なのは重々承知しているわね?」

「うん、私もこれから人里で節分ライブして、それから皆で節分の豆まきするよ?」

「……それは初耳ね。フラン」

「昨日急に決まってさ、魔理沙がLINEしてきたから」

 

 ほら、とiPhoneを開いて見せるとお姉様はふむ、と頷いた。

 

「……なら仕方ないわね。楽しんできなさい。ただし家でも節分はやるから早めに帰ってくること」

「えっ?」

 

 いや、本当にえっ? だよ。何かやりたいことがあるお姉様はいつもなら絶対自分の用事を優先するのに。

 キャンセル入れることも考えてたけど……あれ?

 

「不思議そうな顔ね、フラン」

「……!」

 

 内心を言い当てられて私はビクリとした。

 そんな私を見てお姉様はクスっと笑うと優しい声で言う。

 

「紅魔館の当主として以前に私は貴女の姉だもの。貴女がやりたいことがあるなら優先させるわ。私だってそれくらいの器量はあるのよ?」

 

 続けてお姉様は私の肩をとんっ、と押してこう言った。

 

「さ、行ってらっしゃい。寒いから風邪を引かないように厚着して……頑張って来なさい!」

 

 ……なんだろう。

 私もう、このままのお姉様の方がいい気がしてきた。

 

 

 (次のページへ)

 

 

 ######

 

 

「確かに私もこの方がいい気がして来ました」

「……でもこのレミリアだとまた異変を起こした時とか面倒よ? 絶対エグい弾幕を平然と張ってくるわよ」

「……でも普段のことを思うとこれくらいキチンと主をやってる方がいいかもしれません」

「はぁ!? えっ、なんで!? わ、私だってカリスマじゃない! 主やってるでしょー! み、味方は……?」

「居るわけないでしょポンコツ」

 

「……ぽ、ポンコツじゃないからぁッッ!」

 

 断言されて少し涙目なレミリアであった。

 

 

 ######

 

 

 二ページ目

 

 

 さて、ライブの方に話を移そうか。

 節分ライブ。衣装は節分ということで二種類ある。

 一つは鬼のスタイルだね。黄色と黒の鬼のスカートと胸回りを覆うだけの……うん、露出が多い。ちょっと肌寒いね。

 おへそとかも出てるし。今、二月だよね?

 ともかく鬼の衣装の時はお客さんがステージに豆を投げるように喚起するらしい。

 

 で、もう一つが福の神の衣装。まぁ平たく言えば着物かな。儀式で使われそうな法衣を纏って踊る。で、福を撒くから私が銭に見立てた黄色の弾幕(害はない)を会場全体に放つんだ。

 でもなんか服が大きいんだよね。普通に歩いてるとズルズル引きずっちゃう。ちょっと重いし……。

 

 ま、まぁともかく人里ライブをしました。

 やる前には、鬼の衣装で踊る時にお客さんの中に直接私にぶつけてくる人も居るかなーと危惧してたけどそんな事はなくて良かったよ。

 寧ろ絶対に当てないようにしてくれてた気もする。あと私が豆を踏んで転けたりしないように私の周りを避けるようにしてた。

 で、衣装チェンジは空中で一瞬で行う。めーりんから教わった『太陽拳(私自身をピカッと光らせて視界を奪う技)』で、私を光らせてその間に私は服を全部脱ぎ捨てて直ぐに法衣を羽織る。

 ……うん、この演出考えた人出てこいよ。セクハラだよ。見えなくすると言っても何が楽しくて大勢の前で下着姿にならなきゃいけないんだよ。鬼の衣装自体ほぼ素っ裸の上に布巻いてるようなものなのに。

 まぁこの衣装チェンジは全力でやりました。光らせた一瞬の間に思考加速を最大の四倍まで上げて、吸血鬼の運動スペックを活かして最速で着替えたよ。

 一瞬、完全に下着姿になるんだけど……なんだろう。その瞬間妙な開放感が……いやないないっ! 無いから!

 恥ずかしくて酷く胸がドキドキしたなぁ。とりあえずこの演出考えた人は後でブン殴る。

 

「皆さーん、私が『鬼は外ー!』と言ったら『福は内ー!』って返してください!」

 

 ともかくライブに集中しよう。

 福を撒くと言ったけれど、あれは実際は空を飛びながら無害な黄色の弾幕を放ちまくる以外にもう一つ福がある。

 それは、福を入れた小袋(私のグッズ入り)も一緒にばらまいていくことだ。つまり私のアイテムが無料でゲット出来る……って自分で言っちゃうのもなんだけどさ。

 

「鬼は外ー!」

「「「「福は内ーっ!!」」」」

 

 ともかくイベントは上手くいったみたいで良かった。一部争奪戦は起こっていたものの怪我人は出なかったし。

 というわけで節分イベントは無事に終了しましたとさ。

 

 

 (次のページ)

 

 

 ######

 

 

「……衆人環視の前で着替え、かぁ」

「……ちょっとその演出の発案者潰してきて良い?」

「やめなさい、血の雨が降るから」

「だって腹が立つのよ! 私の妹になんてことを……!」

「……でもフランさん、少し開放感がどうとか」

「そんな事実は無いから! フランはノーマルだから! あんなのノーカンよ! ノーカン! ノーカン! ノーカン!!」

「うるさい!」

「あう……」

 

 霊夢がレミリアを叩くとようやく場は沈静したのだった。

 

 

 ######

 

 

 三ページ目

 

 

 帰り道だった。

 人里のはずれで変な屋台を見かけた。

 なんか「ラーメン」って掛け軸が掛かっててさ、鬼の人達が一列に並んでたよ。

 

「押すな押すなー。ノラ鬼同士譲り合えよなー」

 

 で、店の中では店主さん? 妙に禍々しい気を感じる、黒髪で目が隠れてしまっている人がそんなことを言っていた。

 服装は凄く寒そうでさ、羽を思わせるふわふわのカーディガン一枚で割れた腹筋が露出してた。鍛えられてるのかっこいいよね。

 でね、店主さんはカップラーメンを鬼達に配ってるみたいだった。

 

「あの、僕シーフード味の方が」

「味は選べねぇよ。鬼らしくなんでも食え!」

 

 少し語気を荒くして店主さんがカップラーメン(醤油味)を渡す。

 それでね、近くで見ていると鬼達の会話が聞こえてきた。

 

「本当に鬼ですわ……人間。僕ら以上の鬼ですわ」

「節分にかこつけて俺らをこんな寒空の下に放り出すとか……開催日時に殺意が滲み出てるわ……!!」

「良心ってものがひとかけらでもあれば……」

「……せめて春だろうが……っ! クソッ……唇だけ青鬼になるぜ……っ!」

 

(いや、寒いなら服着なよ!? パンツ一枚だからでしょ!? 黄色と黒のパンツ一丁じゃそりゃ寒いよっ!?)

 

 と私は脳内で突っ込む。

 

「……にしても人と妖怪が昔みたいな関係を続けてる幻想郷だからって来てみたのに、何も変わんないな」

「さっき節分ライブとかやってたぜ……しかも魔族の女の子が」

「見た見た、あの子可愛かったな。観客も流石にあの子には豆をぶつけて無かったし、『節分ライブ』なのは気に入らんが少しほっこりしたよ……にしても寒いちくしょう」

「文句言うな。寒いのは俺も同じだ……。でもな、『魔族のオシャレは我慢』だろ?」

 

(店主さんも寒かったんかい! というか痩せ我慢してないで服着なよ! あと褒めてくれてありがとうございます!! 嬉しいです!)

 

「ホラ、いいからこれで体暖めろ」

「マジありがとうございます! ルシファーさん!」

 

 そう言って、店主さん……えっとルシファーさんはカップラーメンを鬼の人達に手渡していく。

 うーん……ちょっと可哀想だよね。この寒空の下パンツ一枚でカップラーメンだけって。

 あ、そうだ。

 

「あの、すみません」

「うおっと! ん、嬢ちゃん……アンタ、ライブの?」

「はい、ちょっと皆さんをお誘いしたくて声を掛けさせて頂きました。皆さんもこの寒さの中ではお辛いでしょうから、えっと私の住む館に来ませんか? 紅魔館――吸血鬼の館ですから鬼や悪魔は大歓迎ですよ? どうですかルシファーさん?」

 

 うちは鬼も内、福も内だからね。

 パーティするし折角なら大人数のほうがいいだろう。それに三十人ちょっとなら一人でもお世話出来るし。

 

「……天使や、この子天使や」

「ううう……長く生きてきたが嬉しいぞ……うう」

 

 もうなんかボロボロ泣き出して私の頭を猛烈に撫で出しそうな勢いの鬼達はともかく。

 そう思ってお誘いしてみるとルシファーさんは私を見て「お前が……」と呟いた。

 それから口角を吊り上げると叫ぶ。

 

「……助かる。オイ鬼ども! 今から嬢ちゃんの家に行くぞ。屋台片付けろー」

「「「「おぉ!!」」」」

 

 そんなこんなで鬼の皆さんを連れて帰ると紅魔館の屋敷の前にお姉様が立っていた。

 門の正面にお姉様が立ち、門の横側にそれぞれ咲夜とめーりんが立って礼をしている。

 

「……ようこそ当館へ――ルシファー殿。歓迎しよう、盛大にな」

 

 あ、そういやカリスマモードだっけ。

 多分、運命を見てこうなることが分かってたのかな?

 また『バアァァン!』という文字が飛び出てるし。

 

「……ほぉ、辺境の悪魔かと思えば中々出来るじゃねーか。流石はあの二神からの加護を受けた吸血神フランドールの姉だけはある」

「ふふ、褒めても出るのは豪華な料理くらいだ。さて、いつまでも門前に立たせるわけにはいかない。パーティ会場を案内しよう、ついて来てくれ」

「あぁ。オイ野郎ども、付いて来い」

「「「「うーっす!」」」」

 

 それでパーティ会場まで案内した。

 パーティ会場は沢山のテーブルと料理が並べられていてさ、立食式にしていた。

 それで、暫くは私達も鬼達も楽しく料理を味わっていたんだけど。

 途中でルシファーさんが私に話しかけて来たんだ。

 

「……おい、フラン嬢」

「? なんですか?」

 

 キョトンとした顔で聞き返すとルシファーさんは尋ねてくる。

 

「お前の姉貴、本当にただの吸血鬼か? 年相応にゃ思えねえんだが」

「……一応そうだと思いますよ? ただつい先日頭を打ってから妙にカリスマが満ち溢れてるな、とは思いますけど」

 

 具体的に言うと『凛!』という文字とか『バアァァン!』って文字とか『ゴゴゴゴ……!』って文字とかが表面に出る。

 あと全身から薄い妖気を発しており、王者の雰囲気があった。

 溢れ出るカリスマ、というかどう足掻いても勝てる気がしない、というか。見る者を戦意喪失させるんだよね。

 

「……それ以前はどうなんだ?」

「すごーく子供らしくて、うー! とか言ったり一緒に鬼ごっこしたりしましたけど……」

「……間違いねぇな。病気だそれ。記憶系のな、しかもマズイぞ』

「何か知ってるんですか?」

「……レミリア嬢は多分記憶障害の病に掛かったんだよ。二つほど知ってる病があってな、一つは反転思想(ソウルリターン)、強く頭を打った拍子に性格が真逆に反転する病だ。でもう一つは理想変化(ファントムリジェクター)、理想の存在のように行動してしまう病だな。例えば馬鹿が天才になったりする病と言えば分かりやすいか? この場合は多分後者の理想変化(ファントムリジェクター)だと思うが……」

「が?」

理想変化(ファントムリジェクター)は体に負荷が掛かるんだよ、元々の能力を無視して無理をしてその理想の存在として顕現している訳だからな。その無理が限界に来た時、精神の糸が切れてあとは植物状態だ」

「はぁっ!? 大変じゃないですか! 治す方法は?」

「直接頭にダイレクトアタックするか、カリスマの化身となったタイプならそのカリスマを崩壊……カリスマブレイクさせりゃ一発だろうよ。ちなみにダイレクトアタックはオススメしない。下手すりゃ記憶が混ざり合って全部飛びかねねぇからな」

「……嘘、どうしよう。今のお姉様相手にカリスマブレイクなんて……!」

「カリスマを見せつけろ。神格あんだろ? なぁ吸血神」

 

 ……えぇ、なんで知ってるの? あと吸血神って何よ。

 もしかしてこの人も神様? ルシファーといえば堕天した悪魔を思い出すけど……あれ?

 この前の素戔嗚さんと同じようにまさか本物?

 幻想郷はどうなってるんだ……? 八雲紫さん仕事してください!

 

「……神格は封印してるんですけど」

「姉貴を助けるためだろ。やれ」

「……分かりました、分かりましたよぉ!」

 

 仕方なく胸元にしまっているお札を取り出して神格を解く。

 瞬間、溜まっていた信仰パワー。神力が私の体から溢れ出し、背中から生えた二対の羽が輝き巨大化した。

 すると私の様子に気付いたお姉様が近付いてくる。

 

「……フラン、何を?」

 

 その声は少し怒気を孕んでいた。

 体全体から濃厚な魔力が……それこそ異変の時に出していたものなんて比にならない巨大な力がその身を包む。

 私を射抜くその眼からは紅い光が溢れていた。

 

「ごめんなさいお姉様。私、やっぱりお姉様はいつもの方が良い」

 

 呟いて私はスペルカードを取り出す。

 同時に炎剣レーヴァテインもだ。香霖堂でいつかもらったあの剣に炎を宿して切っ先を向ける。

 

「……本気? と聞くまでもないみたいね」

「えぇ、お姉さま」

 

 対してお姉様も槍を取り出した。

 グングニル。お姉様の一番の武器だ。だがそれはいつもとは形状が違い禍々しい光を放っていた。

 お姉様はしばらく私を見据えていたけれど、やがて闇に色を変えた空の真ん中で爛々と輝く月を見て呟く。

 

「――こんなに月が紅いから」

 

 それが、かつて異変の時に霊夢さんに向けて放たれた言葉だと気付いたのは偏に私が霊夢さんとの交流関係を持っていたからだろう。

 だから私はあの夜、魔理沙に向けて放った言葉を口にした。

 

「――本気で殺すわよ」

「――アンタが、コンテニュー出来ないのさ!」

 

 

 なお、勝ちました。

 

 戦闘中に「バシュゴォ」とか「新技吸血鬼ごっこ」とか「かりちゅま(笑)」とか「うー♪」とか耳元で呟いてやったらその度に苦しんでさ、「ぅ……ち、違う! わ、私は!」とか叫んでた。

 トドメの一言はこれだ。魔理沙とか霊夢さんから聞いた話を元に出来るだけ真似をして言ってやった。

 

「地上で最速にして最強のレミリア(わたし)様だ。ちっぼけな天体(つき)だったから一周して来ちゃったよ」

 

 続けてお姉様のスペルカード『クイーン・オブ・ミッドナイト』を真似した弾幕を放って避けられた上で、

 

「やっぱり最強の体術を喰らうほうが、お望みってわけね!!」

 

 バシュッ! ゴオォォォォ! と飛んだ上に培った演技力で地面に倒れる演出をして、沢山の鬼達の前で『レミリア・スカーレットの月侵略、完!』と叫んでやったらお姉様がカリスマブレイクした。

 というか身体中に纏わりついていたカリスマが全部破綻した。

 

「うわあぁぁん!! 咲夜ーっっ!!」

 

 ガチ泣きで咲夜に泣きつくお姉様を見て、

 

「……えっぐ」

 

 ルシファーさんが絶句してたけど私だってやる時はやるんです! 真っ正面からバトルするよりこの方が確実だと思ったんだから良いでしょ!?

 ちなみにそのあと無事にお姉様は正気に戻ったけどその間の記憶が無かった。

 あと小悪魔がルシファーさんを見て卒倒してた。

 やっばり本物なんだね、彼、うん。

 ともかくそんな一日でした。

 

 

 ######

 

 読み終えて思うことは一つだった。

 

「……なんて酷いことを……」

 

 呟いたのは霊夢だ。続いて早苗がよしよし、と未だ膝の上に座らせたままのレミリアの頭を撫でながら言う。

 

「辛かったですね……でも植物状態とかにならなくて良かったです」

「……本当ですよね。植物状態になってたからギャグで消化出来ませんし」

「……大泣きした覚えはあるけど……なんでほんと黒歴史ばっかり書かれてるのよぉ……」

 

 泣いたレミリアは早苗の胸に顔を埋めてしゃくりあげる。

 だがやがて泣き止んだ頃を見計らって一同は次のページをめくったのだった。

 

 

 ######

 

 

 二月四日

 

 

 昨日は大変だったよ。

 お姉様の件もそうだけどいくつもイベントが重なっててさ。

 と、今日の話だね。今日は大図書館でルシファーさんとお話ししてたよ。

 小悪魔が凄い敬ってた。話しかけられるたびにあたふたして、胸が揺れる。ルシファーさんの目が髪に隠れていたから分からないけど多分視線はそこにロックされてたと思う。

 だけどこあ、凄い嬉しそうだったなぁ。憧れの存在だったのかもしれない。

 でもルシファーさん、こあがエロ可愛いからって引き抜きはやめてね?

 

「お前気に入った。魔界来ねえか?」

「ひゃああっ!? まっ、ままっ、魔界ですかぁ!?」

「こあは私と契約してるからやめて欲しいんだけど……」

「違う違う、引き離すつもりはない。何ならパチュリーノーレッジ、お前も来い。二人まとめて世話見てやる」

「悪いけどお断りするわ。私はレミィの親友だから……」

「ふむ、なら紅魔館ごとどうだ?」

「あっ……なら有りよ」

「無しに決まってるでしょパチェッ!?」

 

 カリスマブレイクしたお姉様はツッコミ役に転向したみたいで大袈裟に反応する。

 

「わ、私は誇り高き吸血鬼よ! 誰かの下につくことはあり得ないわ!」

「別に下に付けるわけじゃねぇが」

「それでも! 私は私がしたいようにする! これでも幻想郷に愛着が湧いているの。だからお断り」

「……そうかい、そりゃ残念だ。気が変わったらまた教えてくれ」

 

 ちぇっ、とルシファーさんは呟いて立ち上がる。

 それから椅子に掛けてたベストを羽織るとガシガシと髪の毛をかいて言った。

 

「……さて、じゃあそろそろ帰るわ。鬼どもも返したし」

「あら、もう良いの?」

「目的は全部達したからな。お招き感謝するぜ。今度は菓子折りでも持って来るわ」

 

 呟いてルシファーさんは空間に穴を開けてその姿を消した。

 ……したんだけど、同時に別の穴が開いて今度は八雲紫が怒り顔で紅魔館に突入してきたんだ。

 

「……もう許さない」

「なんですか紫さん、いきなり現れるとかマナー違反ですよ?」

「うるさい! というか貴女ねぇ! 何度! 何度私の胃に穴を開けようとするつもりよぉっ!! ねぇなんでなのっ!? なんで大物ばかり連れて来るのっ!?」

「いや、知らないですからっ!! 理不尽に当たり散らさないでください!」

「うるさいうるさい! あぁもう例年なら冬眠してるのにぃぃ……! もう嫌だ! 妖怪の賢者とかやってられるか!」

「ちょっ、なんてこと口走ったんですかっ!?」

「もう嫌なのよー! 幻想郷にも労働基準法を導入しろーっ!」

 

 半泣きで叫ぶ紫さんだけど暫くすると八雲藍さんが来て回収して行った。

 

「迷惑をかけてすまない、ちょっと紫様が情緒不安定でな」

 

 ……管理職って大変なんだね。

 とりあえず今度来た時の為に永遠亭から胃薬を取り寄せておこうとそう思いました。

 

 

 ######

 

 

「紫ェ……」

「限界が、限界が……」

「……これは酷い(白目)」

「確かに、うん。ちょっと可哀想ね」

 

 上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの言葉であった。

 

 

 ######

 

 

 

 二月五日

 

 

 今日は妖夢さんと人里の道場で剣術指南を行なった。

 理由は妖夢さん曰く単純な剣術だけを見てもかなり上手くなっているらしいからで、あと妖忌さんは今日は所用で出れないらしいので代役としてお願いされたからだ。

 それで二人で剣を教えたけどなんか門下生の人達が凄いやる気出してた。

 

「妖夢ちゃーん? この振り方で良いのか?」

「あ、はい。でも少しブレてて……ちょっと失礼しますね?」

 

 そう言って妖夢さんは門下生の人の後ろから密着するように体を擦り合わせて、門下生の人の手を持って剣を振る。

 

「こうです!」

 

 その剣は真っ直ぐと空気を切り裂いた。

 

「な、成る程。また分からない時は頼むよ」

「はい!」

 

 そんな感じで教えていく。妖夢さんが密着した時すっごい嬉しそうな顔してたなぁ。

 

「なぁフランちゃん。面から胴の移行ってどうすれば良いかい?」

「あ、そこはえっと……直接やってみましょうか。まずこうやって……よいしょ」

 

 私も妖夢さんと同じように後ろから手を握って教える。思ったより体が大きくて精一杯手を伸ばさないと剣まで届かない。

 ギュウウ、と密着してしまうので苦しくないか聞いてみると「大丈夫」って言われた。で、握り方から振り方。移行までを丁寧に教えた。

 私より体が大きいから振り方が安定するのがちょっと羨ましい。

 それから門下生の人達の前で妖夢さんと練習試合を見せた。

 と言っても視認出来ない早さでやっても意味無いのでちゃんと見える程度まで速度を落として、ね。

 

「一閃!」

「魂魄流……陽炎!」

「なんの、暗転(ブラックアウト)!」

紅墜(くれないおと)し!」

 

 技の応酬。門下生の人達が「凄ぇ……」と漏らしてた。

 剣が炎を纏い、闇を纏い、それを剣圧で掻き消す。見た目が派手な技が多いから分かりやすいと思う。

 そして最後に打ち合った瞬間、両者の剣が折れてクルクル回転しながら飛び、地面に突き刺さる。

 シン、と静まり返った道場で妖夢さんは言った。

 

「……引き分け、ですね」

「……そうですね」

 

 それから握手すると惜しみない拍手が場を包んだ。

 最後に私が「頑張って、ファイト!」と言って指南は終わったけど楽しかったよ。

 

 

 ######

 

 

「剣術が出てくるのは久々ですね」

「最近ご無沙汰だったものね」

「……とはいえ妖夢さんもフランちゃんも無防備過ぎます。男の人に密着して教えるなんて……」

「……それはそれで別の意味で門下生が増えそうよね」

「邪な気持ちでいっぱいそうで、すごく……嫌です」

 

 早苗は呟いて次のページをめくった。

 

 

 ######

 

 

 二月六日

 

 フランです!

 突然だけど喫茶店を任されちゃいました。

 いや、うん説明しよう。

 私が普段行く甘味屋さんがあるんだけどね。その親戚が経営しているらしい喫茶店の店主さんが倒れちゃったみたいで、それでその間料理とかお願い出来ないかと頼まれたわけだよ。

 香霖堂に。

 で、それを受けた霖之助さんが私に。

 あ、でも今回は霖之助さんの補佐役らしい。リアラさんがお留守番するんだってさ。

 というわけで喫茶店の一日店員になるわけだけど……偶々香霖堂に来ていた魔理沙がこの話を聞いちゃってさ、「私もやるぜ!」と来たんだよ。あと一緒にいたアリスさんも巻き込まれる形で。

 

「僕は奥で料理の仕込みをしておくから三人とも接客は任せたよ。あとコーヒーとかはフラン、君に任せたから」

「了解です!」

「任せろ!」

「……魔理沙は見張っておくわ」

 

 らじゃー! とビシッと敬礼すると霖之助さんが笑みを向けてから厨房へと入って行く。

 で、接客することになったんだけどね。

 

「今更だけど接客ってどうするんだ?」

「それが店を経営してる人の言うことですか……!?」

 

 確か魔理沙って何でも屋みたいな店してたよね!? えっ、えっ?

 私が驚いているとアリスさんが言う。

 

「……魔法の森にある店が繁盛してるわけないじゃない」

「あっ、確かに!」

「随分な言い草だな。まぁその通りだが」

 

 フリフリの接客服を身に纏った魔理沙は帽子を触ろうとして、被っていない事に気付いたらしい。手を引っ込めてやれやれと水平にする。

 するとアリスさんがハァ、と溜息を吐いて「見本を見せるわ」と自然な笑顔を浮かべて、

 

「いらっしゃいませっ♪」

「「……おぉ」」

 

 完璧だった。完璧な営業スマイル!

 流石どこの勢力とも仲良く出来る人だ! やはりアリスさんは格が違った!

 

「ポイントは笑顔ね。快活な笑顔って言うのかしら。それが自然に出来れば早いけど……」

「こうですか? いらっしゃいませ♪」

「殆ど出来ているわ、ただ語尾を『いらっしゃいませっ♪』って上げる方が好印象よ」

「成る程……」

 

 メモメモ。勉強になる。

 すると魔理沙が手を挙げた。

 

「私も見てくれ! いらっしゃいませぇ!!」

「ラーメン屋か!」

「グハッ!!?」

 

 アリスさんの鋭いツッコミに魔理沙がもんどりうって倒れる。

 結構ショックみたいだ。かなり頑張ったのだろう。

 

「……うー、マジか。難しいぜ」

「うーん、魔理沙は普通に元気に挨拶した方が良いかも」

「こうか? らっしゃい! よく来たな!」

「馴れ馴れし過ぎるわっ!? 後ラーメン屋の店主感が増してるっ!?」

 

 アリスさんのツッコミが冴え渡る。

 と、その時だった。カラカラーンと入り口に取り付けられた鈴が鳴る。お客様が来たのだ。

 入って来たのはピンク髪の高校生くらいの少年だった。

 変なアンテナみたいなのを頭を付けている。あと緑色の眼鏡が印象的だった。

 

「「「いらっしゃいませっ♪」」」

 

 スマイルでお客様を迎え入れるとまずアリスさんがお冷を運んだ。

 

「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。こちら、当店のメニューです」

『コーヒーゼリーを一つ』

「コーヒーゼリーですね、畏まりました」

 

 慣れた所作でアリスさんが対応するけど、その時私は一つ不審な事に気づく。

 

(……あれ、『目』が見えない。何かの能力者?)

 

 するとお客様が一瞬ブルリと身を震わせてから、何やら考え込み出した。

 私はおかしいな、と思ってよく見てみるけど確かに『目』が無い。

 そんな人も居るのかな? いやでも不老不死の妹紅さんでも目はあるのに……壊せないけど。

 

「香霖、オーダー入ったぞ。コーヒーゼリーを一つ」

「了解、魔理沙」

 

 と、そんな事をしているうちに霖之助さんがコーヒーゼリーを作ったらしい。

 私が運びます、と手を挙げてそのお客様の元にコーヒーゼリーを持っていく。

 

「お待たせ致しました。コーヒーゼリーです」

『どうも』

 

 渡すと一瞬、素っ気ない返事が返ってくる。

 けど顔を見るとちょっと緩んでいた。とてもコーヒーゼリーが好きな人らしい。

 事実、食べ出すとすっごい幸せそうに食べてたし。

 と、その時だった。なんか私の頭の中に声が響いてきたのだ。

 

『(この舌触り、ほんのり苦い風味、そこにミルクが交わる事で一種のハーモニーを生み出す……! これはわざわざ幻想郷まで来た甲斐があったな。いや、しかしこの店は静かで良いな。少し妙な店員も居るようだが……燃堂や照橋さんに比べたら問題無い。寧ろここを僕の避暑地にするのもありかもしれない)』

「……あのー、お客様」

「ッ!!? げほっ、ごほっ」

「だ、大丈夫ですか!?」

『(なんだ!? いきなり話しかけられるから思わず噎せてしまったぞ! しかもさっき僕が気になった店員じゃないか! 彼女の思考を読んだことで彼女にはありとあらゆるモノを破壊する程度の能力があり、そしてそれを行う為に『目を破壊する』事が必須条件だと分かったが、僕は死んでも生き返る事が出来るため、恐らくその目とやらが無いと思われる。が、これは困った。だだでさえ怪しまれている以上変なところを見せるわけにはいかない。あらぬ疑いをかけることになってしまうからな)』

「あの、お客様?」

『なんですか?』

「……その、全部聞こえてたんですけど」

『は?』

「……思考を読んだとか、避暑地にするとか……」

『…………、』

「…………、』

 

 しばらくお互いに黙り込んでいたがやがて男性が脳内で呟く。

 

『(……相手もテレパス持ちかよ)』

「あっ、でも私は今日一日限りのバイトなので大丈夫ですよ!」

『そういう問題じゃない。というか油断していた僕が情けない』

「……その、だからまた来てください」

『(ごめん、多分二度と来ない)』

 

 支払いが終わってから、何とも言えずその人は帰ってしまった。

 とりあえず喫茶店自体はキチンと回ったけど、顧客になりそうな人を一人逃してしまったかもしれない点がちょっと私の心をチクチク痛めたのでした。

 

 ######

 

 

「……まさか悟り、ですか?」

「似たような能力者って多いんですねー。というかフランちゃんの場合は後天的なもので、技術に近いですけど」

「にしても喫茶店か……ちょっとやってみたいわね」

「あら、霊夢が?」

「だって私ずーっと博麗の巫女しかしてないもん。ちょっとくらい普通の仕事を体験してみたいわ」

「あー、分かります。私も高校時代にしてたバイト、楽しかったなぁ」

 

 

 ######

 

 

 二月七日

 

 

 どうにも寝付けなかったので夜の散歩と洒落込んだ。

 妖怪の山の中腹でブラギの竪琴を取り出して弾くと、沢山の動物に囲まれちゃったよ。

 熊や鹿、狸や狐、兎。後は知能を持たない野生的な妖怪や暇な烏天狗や白狼天狗まで。

「〜♪ 〜〜♪」

 奏でる竪琴のメロディーに合わせて歌うと動物達が体を揺らして踊り始める。

 岩の上に座って弾いていたので岩の上には兎とかの小動物が一杯座って聞いてくれていた。そのうちの一匹は私の膝の上にも乗ってきたっけ。

 楽しかったなぁ。

 

 

 ######

 

 

「仙人みたいね」

「本当ですね。というかあの音色ってフランちゃんだったんですか。凄く綺麗な音で感動したのを覚えています」

「……ちょっと羨ましいですね。今度聞かせてもらおうかな」

「神器の音色だものね、私も聞きたいわ」

 

 上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの言葉だ。

 

 

 ######

 

 

 二月八日

 

 翌日の『文々。新聞』に山女神現る! という記事と私を薄らぼけに撮った写真が掲載されていた。

 文さんの記事には「寝静まる真夜中、彼女は現れた。彼女が一度(ひとたび)その竪琴を奏でるたび、動物達は体を揺らし聴き惚れていたという」という文が書かれていた。

 それだけなら良いけど写真を拡大して『フランドール・スカーレット氏?』と書くのはやめて欲しかった。

 今度クレームを送ろうと思う。

 

 

 ######

 

 

「………文……」

「クレーム案件ですね、間違いない」

「……確かに本人に了承を得ず記事にしているのは問題がありますよね」

「本当それよね! 全く、これだからブン屋は」

 

 ちょっぴり『おこ』なレミリアはプンプンしながら次のページをめくる。

 

 ######

 

 

 二月九日

 

 文々。新聞に謝罪記事が載せられた。

 『通りすがりのめーどさん』という読者さんに真っ正面から淡々と論破された上に怒られたのだとか。

 謝罪記事には「ほんと、すみません。許してください、なんでもしますから。だから、殺さないでください、咲夜さん」

 と書かれていた。

 いや咲夜なにやってんの!?

 物騒だよ!?

 

 

 ######

 

 

「文ああああっっ!!?」

「咲夜ああああっっ!!?」

「お二人ともうるさいです……」

「……まぁまぁ早苗さん。目を瞑ってあげましょう……」

 

 上から霊夢、レミリア、早苗、さとりの台詞である。

 いや、殺すというのが物騒過ぎたのだ。レミリアが咲夜ー! 咲夜ー! とメイド長を呼び出す。

 

「いや、本当何やってるの咲夜!?」

「何も。強いて言えば言葉で論破した上で逃げ出そうとしたのでナイフで固定した上で殺すと言っただけですが……」

「本当に何やってるの咲夜っ!?」

 

 しばらくワーワーと騒ぎ合う二人だが、やがて落ち着いた頃を見計らってさとりが次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
一言。
こんな感じの作品ですがこれからも宜しくお願いします。

 

 


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二月編3『ネズミーランド』

 

 

 

 二月十日

 

 

 ナズーリンさんから遊園地のチケットを貰った。どうやらネズミーランドという遊園地が幻想郷に出来るらしく、遊園地の存在を認知させるためにまずは一度行ってみてくれ、と知り合いに配っているらしい。

 私の場合は白蓮さんと知り合いだったからね。そのツテでもらった。

 で、家に帰ってチケットを見せたら、お姉様が急に遊園地に行くわよ! と言い出したんだよね。

 というわけで皆で行きました。咲夜、めーりん、私、お姉様、パチュリー、こあで。レミィたん……リメリアはお留守番だ。

 で、行ったら凄い行列だったよ。入り口の時点で一時間待ちとかだった。

 で、まず入場券を買うんだけど、その時こんな表示が目に飛び込んできた。

 

『八十歳以上の方は半額です』

 

 んー。

 

「……ねぇお姉様。私達シニアで良いの?」

「いや、えっ? よ、妖怪は駄目だと思うわよ、多分」

 

 駄目らしい。というわけで大人しく子供二人として買ったけどそれはそれでお姉様が納得してなかった。

 けど咲夜が「主人は器量を見せるものですよ」と言うとすぐに「そうね!」と意見を反転させるあたりいつものお姉様だね。

 

「じゃあ、まずは皆で入り口のアーチのとこで写真撮ろ写真!」

 

 そんなわけでまず来た記念に一枚パシャリ。

 それぞれピースサインと笑顔の写真が出来ました!

 お次は乗り物なんだけど……、

 

「……うえぇ、待ち時間一四〇分か。長いなぁ」←私

「まぁまぁ妹様。これも修行ですよ。忍耐力を鍛えましょう」←めーりん

「でもちょっと寒いわね。仕方ないわ、列に並ぶ間お茶会をしましょう。咲夜?」←お姉様

「お嬢様、淑女はマナーを守るものです。紅茶でしたら魔法瓶に入れてきましたからそちらで我慢してください」←咲夜

「うっ、分かったわよ」←お姉様

「(お母さんね)」←パチュリー

「(お母さんですねー……)」←こあ

 

 うん、こんな感じだった。

 で、そんなこんなで順番が回ってきてさ。

 

「そういえばこのジェットコースターってどんな乗り物なの? さっきからやたらと悲鳴が聞こえるけど」←お姉様

「パンフレットによると絶叫アトラクション、だそうです。〜闇夜を高速で翔けるスリルがあなたを包み込む〜というのがコンセプトで……」←咲夜

「高いところで回転したり急降下したりする乗り物ですよお嬢様!」←めーりん

「……私、そんなの乗りたくないんだけど」←パチュリー

「大丈夫ですよパチュリー様! 慣れれば手放しでも出来るそうですし!」←こあ

「そうそう。弾幕ごっこの時散々飛んでるでしょ?」←私

 

 まぁかく言う私も初めて乗るから分からないけどさ。

 ちょっと興奮してる。ドキドキと心臓が鳴って、新鮮な感覚に心が躍る。

 私の隣はお姉様だった。それで楽しみだね、と笑いあいながら一緒に装着ベルトを付けてさ、上からレバーで体を押さえつけた時だった。

 

『なお、身長一四〇cm以下の方や八〇歳以上のご高齢のお客様は命の危険がありますのでお乗りになれません』

 

「」←私(身長138cm・495歳↑)

「」←お姉様(身長139cm・500歳↑)

 

 あ、あ……あぁっ……!

 

「? お嬢様、妹様? どうなされました?」

「お、お姉様!!」「ふ、フラン!」

 

 咲夜がなんか言ってくるけどそれどころじゃない!

 い、命の危険っ!? 身長も年齢も両方当てはまってるんだけどっ!?

 一瞬白目を剥いた私達は二人して半泣きで手を繋いだ。

 

「ちょっ!? どうしたんですか妹様!? お嬢様!?」

「ごめん、ごめんねめーりん。私、先に逝くみたい……!」

「咲夜、咲夜ぁっ!! わ、私も……私も死っ……」

 

 そんな事を呟いている間にジェットコースターが動き出す。ガタンガタンと音を立てて上へ上へと昇っていく。

 

「「ひゃああ!!」」

「ちょっとお二方!? まだ悲鳴上げるには早いですよ!?」

 

 私とお姉様は悲鳴を上げた。めーりんがなんか言ってくるけど返す余裕がない。

 カタン、カタン、と上がっていく音がカウントダウンのように聞こえた。

 規則性のあるその音が、まるで私達の残りの人生の秒数を数えているようで酷く不安感を煽る。

 一体これからどうなってしまうのだろう。それが分からなくて酷く怖かった。ボロボロ泣きだしてしまうくらいには……。

 するとお姉様が酷い泣き顔でこっちに話しかけてきた。

 

「……フラン、ごめんねっ! ごめんねっ! 今更かもしれない……でも最後だから言わせて! ……長い間幽閉してごめんなさい! お姉ちゃん、もっと勇気が出せれば……っ! フランに話しかけてあげていれば……ぁ、もっと早く地下から出してあげれたのに……っ!」

「お姉様……お姉様は悪くないよ……っ! 私、すっごく幸せだった。この一年間、いっぱい……いっぱい色んな事体験出来たんだ……! みんな、みんな初めての事ばかりですっごく楽しかった……だから……っ!」

「フラン……」

「お姉様……」

 

 そして頂上へ着いた。

 ゆっくりと、ゆっくりとコースターが傾き出す。

 

(……ぁ)

 

 多分もう日記を書くことも無いだろう。

 だからこれが最後の記述だ。

 

 みんな、ありがとう。

 わた……し、……すっ、ごく……。

 し……あ、わ……せだ……っ…た…。

 

 

 

 ジェットコースターが終わった。

 ……死にたい。具体的に言うと数分前の私達を殺して!

 お姉様と二人して顔真っ赤だ。咲夜には慰められて、めーりんには「まぁ知らなかったらそうなりますから……」とフォローされて、こあには「妹様が、なんて珍しい……」と言われた。

 関係無い周りのお客さんにはすっごい微笑ましい目で見られて……恥ずかしい!

 ……お姉様ともすっごい気まずい。

 二回目だけど言わせて、死にたい。

 

 

 ######

 

 

 読み終えた反応はこうだった。

 

「あはははっ! フランちゃんもこんなことあるんですね! あははははっ!」

「爆笑してるわね早苗……」

「いやだって面白過ぎるでしょ! ジェットコースターで死を覚悟して泣くって! あははっ!」

「ば、馬鹿にするなぁっ!! すごく怖かったのよ!? これが人生最後って思って!」

「あははっ! すみません! あーもうレミリアさん可愛いっ! お持ち帰りしたいー! 可愛すぎますー!」

「こら撫でるな! 笑うな! 子供扱いするなーっ!」

「……ッフ……不覚にも笑いました」

 

 さとりもプルプルしている。ツボに入ったのだろう。

 

「まぁまぁ……知らないなら仕方ないでしょ。だから、その元気出しなさい?」

「な、泣いてなんかないんだからね! これは汗だから!」

「はいはい、分かってます」

 

 もはや日記内での暴露という辱めにあいすぎたせいで涙腺が限りなく弱くなってしまったレミリアは恥ずかしさからボロボロ泣きながら反論するのだった。

 

 ######

 

 

 二月十一日

 

 

 昨日はネズミーランドのホテルに泊まった。

 ネズミーキャラのイラストが壁にプリントされていてファンシーなお部屋だったよ。

 ホテル内でもちょっとしたイベントをやってて、ネズミッキーとか、ネズミニィとかクマダッフィーも居た!

 あとさ、あとさ、アヒル声のドナルドトランプとかも!

 泊まるのに結構値段したけどうちはブルジョワだから大丈夫! まぁ節約は重要だけどこういうところに来たんだからちょっとは奮発しないとね。

 と、その時ふと思い出す。

 

「……そういえば結局ナイトパレード見れなかったなぁ」

 

 ナイトパレード。ネズミーランドの醍醐味なのに。昨日の恥ずか死ぬ出来事のせいだ。正直思い出したくないからこの事を考えるのはやめよう、うん。

 ともかく今日は普通に楽しんだよ。

 

「殺された気持ちが分かる?」

「「きゃあああッッ!!?(泣)」」

 

 普通に……

 

「知ってる? 閉館後のネズミーランドにいる悪〜い子はね?」

「「ひゃあああッッ!!?(泣)」」

 

 ふ、普通に……

 

「蟲蔵に落とされたら二度と自分の意思では戻らない」

「「ぎゃああああッッ!!?(泣)」」

 

 駄目だ。ネズミーランド怖過ぎる!

 なんか全体的に私の能力が通じない! 着ぐるみに細工がしてあるのか分からないけど全く目が見えないんだ!

 だから相手の場所が把握出来ないし、一々おどろおどろしいし、最後に至っては無数の蟲に襲われる映像を見せられた……。

 スプラッタだよ! 怖いよ! 泣くよ、こんなの!

 お姉様と一緒に大泣きしたよ!

 

 ひっぐ……もう、もう二度くるかぁー!!

 

 ######

 

 

「……トラウマになりましたね」

「……そうね」

「……これは酷い……」

 

 三人はそれぞれ呟いてチラリとレミリアを見る。

 

「……もう行かないから。本当に、うん」

 

 早苗の膝の上で三角座りして呟く彼女の目には光が無かった。

 うわぁガチのやつだこれ……三人は察して次のページをめくる。

 

 

 

 

 

 

 



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二月編4『バレンタインデー』

 

 

 

 二月十二日

 

 

 そういえば二月十四日ってバレンタインデーっていう女の子が男の人にチョコを渡すイベントがあるらしいね。

 チョコかぁ……お世話になった男の人といえば霖之助さんと妖忌さんかな。あと友達ならナナシ君? あとは……罪袋さん達といったところ。

 でもどんなチョコ作れば良いんだろう?

 iPhoneでバレンタインチョコで調べてみたけど、ハート形のチョコにホワイトチョコのペイントで『Love.You〜』とか『愛してます!』とかそんなのが真っ先に検索一覧に出て来たけど別に恋愛の意味で好きなわけじゃないしなぁ。

 それに愛は私にはまだ分からない感情だ。

 でもチョコは作らなきゃ駄目だよね。あれ、でも私チョコの作り方知らないや。

 ……困った時の咲夜、ということで聞いてみました。

 

「チョコの作り方ですか? えっとですね……」

 

 流石咲夜、バッチリ知ってたよ。

 で、工程ごとに全部教えてもらいました。

 

 工程その1【焙炒/ロースト】

 カカオ豆を120℃で約30分加熱します。

 うん、簡単だね。でも咲夜。出来上がったものがこちらとなります、って出さないでくれる? 

 

 工程その2【分離/セパレーティング】

 カカオ豆の殻と胚芽を取り除く!

 皮を剥くと思ってたより中は黒光りしていて結構不定形だったよ。

 胚芽も出来るだけピンセットを使って綺麗に取り除く、意外に根気がいるねこの作業。思考加速四倍でやって四十五分掛かったから普通にやってたら三時間かかってたよ。

 

 工程その3【磨砕/グラインド】

 フードプロセッサーや、バーミックスなどを使いカカオ豆を細かく砕き「カカオマス」という状態にする。

 でもここで注意! カカオ豆は非常に油分が多いみたいでさ、フープロを使っていると負荷がかかりすぎてあっという間にモーターが焼き切れちゃうんだよね。一回壊れて、その度に能力で壊れたことを無かった事にしたけど……本来は機械で少量づつ砕いてはふるい、すり鉢で擦って、貼り付いて固まったものを取り除きつつまた潰す……と面倒な作業が必要そうだ。

 この時に、

「妹様、ここでいかにキメの細かいカカオマスを作るかがチョコの味を決める重要なポイントですよ♪」

 と、咲夜が笑顔でそんなアドバイスをくれたので頑張ったよ。フォーオブアカインドで思考加速を使用して一時間ほど(一六時間分)やってきめ細やかなカカオマスを作った。

 で、それが終わったらカカオマスに混ぜる他の材料を用意。

 ココアバターは包丁で細かく刻み、その他の材料もふるってようやく次の工程だ。

 

 工程その4【混合/ミキシング】

 カカオマスに粉糖、スキムミルクを少量づつ加えながら綺麗に混ぜ合わせる!

 すり鉢を湯煎に掛け(45℃をキープし!)ココアバターを少しづつ加えながら更に綺麗に混ぜ合わせていく。

 この時、すり鉢の中が綺麗に混ざるまでかなり大変だったよ。団子のような餡子のような状態がしばらく続いてさ。凄い根気が必要だったけど四人で分担し、思考加速の体制のお陰でなんとかした。

 

 工程その5【微粒化/レファイニング】

 舌で何度も滑らかさを確認しつつ、目の細かいざるで漉してはすり潰すを繰り返す。とはいえここは咲夜がいるから味に関しての批評はお手の物だ。

 この頃になるともう色もチョコレートが溶けたみたいな色になってくる。もうちょっとだ!

 

 

 工程その6【精錬/コンチング】

 微粒化したカカオマスにさらに滑らかさを出す為にじっくり時間を掛けて練り上げる!(湯煎で45℃キープ)

 悪戦苦闘しながら頑張っていると「妹様」、と咲夜がこんな事を言い出した。

 

「コンチングはお嬢様や妹様にお出しするチョコは五日ほど行いますが、バレンタインデーも近いですし……明日までにしておきましょう。それで、続きは明日の朝に致しませんか? もう時刻も遅いですし」

「あ、そう? じゃあそうするね! おやすみ咲夜!」

 

 続きは明日の朝か……!

 ようし、そうと決まれば寝よっか。

 でもまさかチョコ作りに二日間掛かるとは思ってなかったよ。

 ……世の中の女の子達って凄いなぁ。来年以降もやれるかちょっと不安だ。

 ま、まぁともかく寝よう。おやすみなさい!

 

 

 ######

 

「いや、カカオ豆からチョコ作る女子なんてほぼ居ねぇからっ!」

 

 読み終えて真っ先に突っ込んだのは霊夢だった。

 

「まぁ市販のチョコを溶かして作りますよね……普通は」

「そもそも作ったこともないわ!」

「……なんでちょっとドヤ顔してるんですかレミリアさん……?」

 

 ふふん、としたり顔のレミリアに突っ込むさとりである。

 ともかく一同は次のページをめくるのだった。

 

 

 ######

 

 

 二月十三日

 

 

 おはようございます!

 というわけで早速昨日の続きをやっていこう。

 夜中に式を使って永遠コンチングさせていたチョコはとてもきめ細やかで滑らかなものになっていた。

 咲夜も「おぉ、素晴らしいです妹様♪」と褒めてくれた。

 で、次の工程なんだけどね?

 

 工程その7【調温/テンパリング】

 ここまで来ればおなじみの工程だった。

 50℃⇒25℃⇒45℃と温度を変えつつ、チョコの状態を整えていく。咲夜が見てくれているので失敗する気がしないね。

 で、良いと言われたタイミングで止めて。

 

 工程その8【型取り/モールディイング】

 最後に好みの型に流し込み成型し冷蔵庫で冷やし固める!

 型から外せばいよいよチョコレートの完成だ!

 やっとだよー……! 疲れたぁ……。

 ちなみにチョコはハート形のやつと食べやすい四角形のものと二種類作ってさ、そのうちの四角形の方を咲夜にプレゼントした。

 直接、あーんって。

 

「教えてくれてありがとっ! 食べて! あーん♪」

「っ!? あむ……」

 

 一瞬驚いた咲夜だけど口の中に入れてあげると食べだした。

 それから満面の笑みで答えてくれる。

 

「美味しいです! 妹様!」

「そう? 良かったぁ……!」

 

 咲夜のお墨付きがあれば安心だ。

 じゃあ後はこのハート形の方を包み紙に入れて、と。

 残りの四角チョコは身内で食べよっかな。

 そう思って四角チョコに手を伸ばすとそこには虚空しかなかった。

 

「……あれ?」

「ふらん、美味しい」

「!!?」

 

 首を傾げた瞬間、下から聞こえてきた声に私がビックリしてそちらを見ると龍神ちゃんが美味しそうにチョコレートを食べていた。

 あむあむ、とハムスターのようにカケラのチョコを食べている姿を見るととても可愛らしいけど……、

 

「ちょっ!? 龍神ちゃん!?」

「八雲が奪おうとしたのを横取りした。だからこれは正当なる報酬」

「八雲が奪おうとした?」

 

 慌ててなんで食べたのか問い質そうとすると急に八雲紫の名前が出てきた。

 えっ、待って? 奪おうとした?

 慌ててあたりを探知すると何かしらの能力が発動した跡を発見した。すぐに消えてしまったけれど……あれ?

 

「……新手のスタンド使いですね」

 

 咲夜が妙なポーズで『ドドドドド!』という文字を出しながらそう言った。なんか顔の彫りがやたら濃くなっている気がする。あと妙に筋肉質になったような……気のせいだよね。

 

「……彼女に関してはこちらでなんとかしましょう。妹様はお気になさらず」

「う、うん……?」

 

 曖昧に返事して龍神ちゃんに向き直る。

 台所近くにある椅子に座ってモグモグはぐはぐと一心不乱にチョコを食べる姿は可愛らしい。可愛らしいけど食べ過ぎは駄目だ。

 ニキビとかの元だし、程々にしないとね。

 

 その後は紅茶を淹れてティータイムにした。

 お菓子はチョコだ。我ながら上手くできた、と食べながら思った。

 ようし、明日ちゃんと渡すぞー!

 

 

 ######

 

 

「バレンタインの準備万端ですね!」

「私は誰にも作らなかったけどアンタらは誰かに作ったの?」

「んー、私は神奈子様と諏訪子様、あとは人里でお世話になった殿方何人かに……」

「……私は地底の鬼に」

「無いわ!」

「……そう堂々と言いきる姿が清々しいわね」

 

 

 ######

 

 

 二月十四日

 

 バレンタインデー当日だ。

 まずは一番近い香霖堂に行くと、ちょうど店内の様子が見えてさ。

「……霖之助」

「なんだいリアラ」

「これ、私の気持ちです。受け取ってください」

「これは――?」

「バレンタインチョコです♪」

「そうか――ありがとう。初めて貰ったよ。大事に食べさせてもらう」

 ……そう言って微笑む霖之助さんに無邪気な笑顔を浮かべるリアラさんを見て香霖堂は後回しにすることを決意しました。

 で、そうなるとどこに行くかだけど……、

 

「妖忌さんのところかな。今日は道場だよね……」

 

 確か人里に居たはずだ。というわけで道場に行くと中から妖夢さんの声が響いてきた。

 

「今日の修練は終わりです! お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でしたー!」」」」

「さ、さて……コホン。み、皆さんいつも剣道を頑張ってくださってますよね? そ、そこで私からバレンタインのプレゼントです!」

「「「「おおおおおおお!!!」」」」

 

 物凄い歓喜の声だった。

 アイドルのライブみたいにワアアア!! と盛り上がった門下生にビックリして妖夢さんがはうっ、と震える。

 でもなんとか気を取り直したようでバッグの中からチョコレートを取り出し渡していた。

 それから門下生の人達がチョコに夢中になっている間に、端で座禅している妖忌さんの元に歩いて行くと「お爺ちゃん」と彼女は声をかける。

 

「これ、バレンタインデーのチョコレート」

「……うむ、ありがとう妖夢。戴くぞ」

 

 家族に渡す気恥ずかしさからちょっと素っ気なく渡してしまう妖夢さんだけど、妖忌さんは顔をほころばせるとしわがれた、けれど優しい声でそう言った。

 ……どうしようか。私が出せる雰囲気じゃないよね、これ。

 ……妖忌さんも後回しにしよう。

 

 というわけで最後の予定だったナナシ君を最初に回すことに。

 確か家が……うん、人里の奥の方だよね。

 

「ごめんくださーい」

「はいはーい?」

 

 思い出して向かい、戸を叩くとお母さんだろうか。優しそうな若い美人な人が出てきた。「ナナシ君居ますか?」と聞いてみると部屋にいるらしいので案内してくれた。

 

「ここよー。ところで貴女、ナナシの恋人ちゃんかしら〜?」

「ち、違います!」

「うふふ〜、若いって良いわねぇ……」

 

 ナナシ君のお母さんは聞く耳をもっちゃくれない。勘違いしたまま行ってしまった。

 ……はぁ、とりあえずチョコ渡して帰ろう。

 そう思ってナナシ君の部屋の扉を叩くと「あぁん?」と乱雑な返事が返ってくる。

 

「フランだよー。入って良い?」

「す、スカーレット!?」

 

 返事すると中からガタン! という大きな音がして、慌てて扉が開かれた。

 

「な、何の用だ?」

「んー、はいこれ」

「……これは?」

「バレンタインチョコだよ」

「……マジで?」

 

 自然な流れでチョコを手渡すとナナシ君がフリーズする。

 が、やがてようやく現実が正しく認識出来たのか、それとも彼の頭がイカれてしまったのか急に「ひゃっほい!!」と叫ぶと喜色満面で彼は言う。

 

「バレンタインチョコなんて初めて貰ったぞ、俺! ありがとうスカーレット! スッゲー嬉しい!」

「う、うん。そこまで喜んでくれるなら作って良かったかな。でも勘違いしないでね? 普通の友チョコだから」

「分かってる! でも友チョコとか関係無いんだ! 男としちゃ女の子からチョコ貰えた事が嬉しいんだ! うわはははっ!!」

 

(すっごい喜んでる……)

 

 私が渡したチョコレートを持って全身で喜んでくれる姿を見ていると自然と私からも笑みが零れた。

 これくらい喜んでくれるなら作った甲斐があるというものだ。

 でも、いくらなんでも喜びすぎじゃ……?

 

「そ、そんなに嬉しいの?」

「おう! 女の子には分からないかもしれないけどバレンタインデーって男としちゃあすっごく期待するんだよ! もうね、貰えるかどうか考えて前日からワクワクするレベル。でも大抵貰えるのは家族からってパターンが多くて一縷の夢に終わるんだけど、まさか貰えるとは思ってなかった! ありがとなスカーレット!」

「スカーレットじゃ長いしフランでも良いよ?」

「お、そっか? じゃあありがとうフラン! ホワイトデーは俺もなんかお返しするよ!」

 

 そんな約束をしてナナシ君と別れた。

 で、その後だけど霖之助さんも妖忌さんもちゃんと渡せたよ。

 ありがとう、と言いながらだからお礼的な意味合いが強いけどね。

 あと魔理沙経由で罪袋さん達も呼び出してチョコをあげた。

 皆すっごい喜んでくれたよ。

 うん、こんなに喜んでくれるならまた来年も頑張って作れそう。

 ともかく一杯お礼を言って、一杯お礼を言われた。そんな素敵な日なのでした!

 

 

 ######

 

 

 読み終えてブチ切れた少女がいた。

 

ナナシ(ヤツ)は敵だぁ……!」

「いや、そんな名前呼びくらいで?」

「関係ねぇナナシ(ヤツ)は敵だぁあああ……っ!!」

 

 レミリア・スカーレットである。いつもの口調もキャラもぶっ壊して拳を握り締める彼女の顔は割とマジだった。

 

「レミリアさん……器量が狭いですよ」

「知るかぁ! だって、だってまだフランが男を知るには早いもん! モブだと思ってたら徐々に近寄って行ってバレンタインデーイベントと名前呼びイベントまでこなしやがったのよ!? これだけで殺す動機になるわ!」

「……なんて物騒な」

「というかキャラ迷走してるわよ! メタいキャラじゃないでしょあんた!?」

 

 あまりに短気なレミリアのセリフに一同総ツッコミなのだった。

 ともかくなんとかレミリアの怒りを抑え、一同は次のページをめくる。

 

 



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二月編5『そして彼女は壊れた』

 

 シリアスになった。
 うん、ごめん。今回の話は次回で終わります。


 

 

 

 二月十五日

 

 

 ここはどこだろう。

 いやほんと意味分からない。何がどうなってこうなったのか本当意味分かんない。

 ……状況を整理しよう。私は今日、龍神ちゃんに「昨日のチョコのお礼」と言われて彼女が住まう空間に招待されたんだ。

 で、案内されたのが暗闇だった。いや、その場所を、暗闇と呼んでしまうのは間違いなのかもしれない。そもそも『場所』というのも正しくはない。龍神ちゃん曰く静寂と孤独の世界と言っていたけど。

 とはいえ私にはただただ暗く何もない世界にしか思えない。

 

「……ここ、が龍神ちゃんの住む場所?」

 

 何も無く、黒一色で足場すらないのに何故かそこに存在していられる。音も命も何もかもが凍り付き、欠片ほどの生を感じることも不可能。

 まさかそんな世界が彼女の住むところなんて間違いだろう。

 そう思いたかった……けれど、

 

「そう、……ここ、我の『位相(セカイ)』」

 

 ポツンと呟いた妙に寂しそうな声が耳に届いた瞬間、私の心が大きく揺さぶられた。

 瞬間だった、私の視界がぐらりと揺れたんだ。意識が途絶したとかそんなわけじゃない。何か得体の知れない力が空間を揺さぶったんだ。

 

『やぁ諸君。やっと見つけたぞ』

 

 その証拠は二つだ。一つは男のような女のような聖人のような罪人のような、中性的な声が響いたこと。

 もう一つはベギベギベギベギベギベギ!! という音がして空間が裂けたことだ――外部からの力によって――真っ直ぐ縦に。

 

『グレムリ……ん? おっと申し訳ない。私としたことがどうやら開く位相を間違えたようだ。修復はしておくので失敬』

 

 暗闇が、裂ける。

 縦に裂けていく。私の足元まで、ベギベギベキと。

 ……飛んで逃げようとした。けれど逃げれなかった。

 そして――『失敬』、とまるで間違えて隣の家の人のインターフォンを鳴らした時のように軽い謝罪が頭の中に響く中、私は次元の狭間に落ちたんだ。

 

 ……それから今に至る。

 ここはどこだろう。もう何時間も歩いているのに何もない。

 自然物らしい自然物もなければ人工物らしい人工物も無い。地平線なんてものもなければ陸地も空も全てが黒で統一されている為に目印すらない。また瞬間移動などのアクションも発動しないという有様だ。能力は使えるけど概念にまで力が及ばない。この空間に影響するモノに力は通用しないらしい。

 例えば私がここに来た過去を壊しても、今私はこの空間にいるわけだから空間によってその力が破棄されてしまうのだ。

 目印になるものが何もないので、一度訪れた場所にもう一度戻るなんて芸当ができる気もしない。

 龍神ちゃんを探そうにも自分がどこにいて、彼女が何処にいるのか。それが分からなければ見つけようもない。

 詰んでいた。何も出来ない、それが怖い。

 ……神格を解いても何の力も発動出来なかった。緊急時とはいえこうやって力を使うのは好きじゃないけど、これも予想外だ。

 ……もう私の頼りになるのはいつも日記に添削をしてくれる咲夜だけだ。

 彼女は私が何処にいようと、それこそ外の世界だろうが魔界だろうが天界だろうが私の日記に添削をしてくれる。だからこそもう彼女に頼るほかない。

 

 ……咲夜、助けて。

 願うなら目が覚めた時に全て片付いていますよう……。

 

 

 

 ######

 

 

「……は?」

 

 読み終えて真っ先に反応したのはレミリアだった。

 彼女は訳がわからない、といった顔で日記を見る。

 

「……龍神の住まう空間にいって、何らかの事故で迷子になったって事よね?」

「そうね。概ねそうだと思うわ」

「……考えたくありませんね。全てが暗闇に閉ざされた世界なんて」

「そうですね……ともかく次のページを読みましょう」

「えぇ、わかったわ」

 

 早苗の発言に賛成して一同は次のページをめくる。

 

 

 ######

 

 

 二月十六日

 

 

 咲夜からの添削がなかった。

 初めてのことで、それがようやく大変な事になったと私が正しく理解するツールとなってしまったのは皮肉だろうか。

 とりあえず今日は二月十六日であっているのか。それも分からないけれど書いていこう。

 ともかく分かったことを書き連ねていく。

 

 まず、この空間には空気はない。音を伝達することは不可能なのに私が話せば当たり前のように声は伝播する。また、空気がないのに息が出来る。けれど何も入ってこないのだ。息を吐き出そうとしても口から息は漏れない。声が伝播することにも掛かってくるが恐ろしい矛盾点だ。

 あと、この世界には足場も温度も水も何もかも。およそ生命が生き残る為に必要なものも存在しない。なのにこの空間では淡々と生き続けられる。

 なんといえばいいのか。生き続けられる牢獄というのが正しいのか。

 歩いてエネルギーを使っているはずなのにお腹が空くこともなく、水を必要ともしない。ちょっと怖い。

 心細い。もしやこの世界には私一人しか居なくて、これからずっとここに囚われてしまうのかもしれない、と鬱な事を考えてしまう。

 ……こんな時なら日記なんかじゃなくて誰か居てくれれば良いのに。誰でも……誰でも良いから隣に居てくれれば、私は……。

 

 

 ######

 

 

「……暗闇の世界を一人きり」

「咲夜さんでも無理、となるともう誰にも無理ですね」

 

 レミリアと早苗がポツンと呟く。

 

(……ボケれない、この空気)

 

 霊夢だけはまだ平常運転だが無言のままさとりは次のページをめくるのだった。

 

 

 ######

 

 

 二月十七日

 

 

 今日も咲夜の添削はなかった。

 ここはどこだろう。そもそも私って誰なんだろう。

 私はフランドール・スカーレット。だけど今、私の周りには誰も居ない。お姉様も咲夜もめーりんも、パチュリーも小悪魔も。誰もいない。

 誰か教えて、この世界はどこまで続いてるの?

 怒りも哀しみでもない感情が私の体を支配してる。認識が壊れそうだ。あまりにも当たり前で、いちいち工程も気にしたことも無かったけれど、数日前までの『日常』はもう無い。

 自分の心の動きも理解できない。こんなの地下の幽閉なんてレベルじゃない。文字通りスケールが狂ってる。

 でも、一つだけ引っかかることがある。

 もしや、龍神ちゃんはこんな世界で生きていたのだろうか。

 たった一人で、誰も居ないこの暗闇の世界を。

 

「ア、ハッ……」

 

 気づけば私は笑っていた。思わず笑っていた。とても悲しい事を考えていたはずなのに涙が溢れないのだ。

 もう歩き始めて何日になるだろう。私の感覚はまだ今日を二月十七日だと言っているけれど認識だけならもう一ヶ月以上経ったような気さえしてくる。

 いやそもそも私は紅魔館に住んで毎日を楽しく暮らしていたのだろうか? 私は元々この暗闇に囚われていたんじゃないか?

 違う。それは違う。日記を読み返してもそれは分かる。

 ……心が不安定だ。なんか訳が分からない。理不尽ってこういうものを指すんだろうな、と始めて思う。

 

「お姉様……」

 

 呟く。

 辺り一面にはただただ平坦な暗闇、いや。その平坦という概念すらないのかもしれない。闇だけが視界にある。

 

「咲夜」

 

 空気はない。太陽も月もない。音もなければ温度もない。

 ただただただただ、いつまで歩いてもどこまでも歩いても何もない。同じ景色しかない。思わず私は見知った名前をいくつも叫んでいた。

 

「めーりんっ! パチュリー! こあ!」

 

 レミィたん、霖之助さん、リアラさん、龍神ちゃん。

 見知った名前を叫ぶ。

 けれど。

 いない。

 どこにもいない。

 いや、分かっているのだ。そんなこと。何よりもそんなことは分かっていた。でも頭がそれだけは認めてはならないと全力で拒んでいる。

 『きっとどこかに何かがある』。

 そんな甘い希望を、幻想を抱いているからこそ私は歩みを止めることなく歩いているのだ。だって、そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ私は……わたしは……っ!

 ……帰る為の指針を見つけないと。私自身が壊れる前に。

 

 ######

 

 

「「「「………………」」」」

 

 ペラリと、一同はページをめくる。

 

 ######

 

 

 二月十八日

 

 

 もう何日が経ったのだろう。何時間経過したのだろう。

 分からない。歩けるだけ歩いて、倒れるように寝て。起きたらまた新しい一日、暗闇の中でそう私は決めたけどそれがあっているのか分からない。

 指標となるようなものはない。太陽も月も星もない、ただ真っ黒な天蓋が覆い被さっているだけ。

 とにかく歩いた。

 歩いて、歩いて、歩いても。

 何もない。人もいない。でもまだ私の脳はその事実を事実として認めない。『きっとどこかにあの日常はある』、そんな可能性0に等しい妄想に縋り付いてしまっていると私自身が分かっていても歩みが止まらない。

 

「……あ、ああ…………」

 

 そもそも自分が生きているのかさえあやふやだ。だからこうやって声を出すことで自分の生を確かめる。温度が無いから自身の体の温かさを確かめるなんて真似も出来ない。

 いや、もしかしたら私が今聞いている私の声という音すら妄想なのかもしれない。だってこの世界に音はないのだから。

 不条理だ、理不尽だ、そんな段階は既に超えた。今はただあるかも分からない盲信に近い幻想(キボウ)しかない。

 

「あああああああ」

 

 こうやって日記を書いていると落ち着く。前のページを読み返していると娯楽になる。でももう何度読み返したか分からないくらい読み返した。

 ここはどこだろう。日記によるとここは龍神ちゃんの住む世界で、私は世界の狭間に落ちたらしい。そんな大事な事すら忘却してしまう。

 今日も咲夜の添削はなかった。

 

 

 ######

 

 

 二月十九日

 

 

 見つけた。

 やっと、やっと見つけた!!

 私は帰ってきたんだ。紅魔館に! 暗闇を信じて歩み続けた甲斐があった! 私は間違ってなかった! 

 いつもの紅魔館で私は目がさめる! 起きると温かい布団から出るのが少し億劫で、でも皆の朝ごはんを作るために起きるんだ!

 それで朝ごはんを作って、めーりんと修行して、寺子屋に行く。

 その時にレミィたん……リメリアともお話ししたりしてさ。あと寺子屋でも沢山の友達がいる! 寺子屋に行くと慧音先生が「おはよう」って挨拶してくれるんだ!

 そしてね! 寺子屋が終わったらまた紅魔館でお夕飯の準備して、パソコンをやって寝るんだ!

 そしてまた起きて朝を迎えるの!

 

「おはよう××」

「おはようございます××」

 

 皆、私の名前を呼んでおはようって言ってくれる。

 私の名前……私の……?

 ……あ、……れ?

 わ、……わたし、わたしわたしわたし……?

 わ、私の名前は……? わたしは紅魔館に住むレミリア・スカーレットお姉様の妹で、それで!

 

「……ぁ」

 

 目が覚めた。思い出した。

 全部思い出した。そうだ、私は……。私?

 私は……だれ?

 

「……あ、ああ……」

 

 気がつくと見えていた世界も変貌していた。

 見慣れた紅魔館が黒一色の世界に。

 ようやく思考が認識した。この瞬間、私の頭の中で何かが『区切り』を迎えてしまった。現実逃避が解けて、緊張の細い糸も、希望も何もかもが壊れてしまった。

 ここは暗闇の世界で私はこの世界に囚われている。

 脱出口なんてなく、人もいない。どこにもいない。

 

「……あ、ああああああっ!!!!」

 

 呻き声しか漏れない。今こうやって言葉をつらつら書けている事自体が異常なのかもしれない。

 私のココロは壊れてしまった。客観的に判断してそう思う。いや、客観的に判断出来るということは壊れていないのかもしれないけど。

 ……そもそもここは一体どこなのだ。

 龍神ちゃんが過ごしていた世界なのか? 狭間ということはまったく違う場所なのか?

 ともかく初めて正しく疑問としてそれを認識した。

 もう心が限界だったんだ。もう何の反論も言えない。希望なんてものはない。助けもこない。この暗い世界で自分は永遠に生き続ける、そのことが私の壊れた心を全方位から圧迫し、崩壊させていく。

 

「ああああああっ! あああああああああああ!!」

 

 当初どうしてこうなってしまうんだろう、と考えることはあった。

 でもそんな話じゃない。

 私は一人だ。

 この広過ぎて、手のつけようのない世界でたった一人だ。

 もう立つことも出来ない。崩れ落ちた私は、絶叫する。恥も外聞もなかった。

 かつての狂っていた私なんて問題にならない。あんなもの狂気としたら演技も良いところだ。いや、演技にしたっておこがましい。

 

「助けてっ! 助けてよぉ!! 誰か……誰かぁ!! ……返事してよ、返事してよおおおおっっ!!」

 

 子供のように叫ぶ。

 返事はない。涙が溢れた。絶望に死んでいた涙腺が熱を帯びる。泣きじゃくっても意味はないのは理解してる。でもそうするしかなかった。

 例え助けなんてなくても縋るしかない。祈るしかない、叫ぶしかない。

 もう駄目だ……もう耐えきれない! たった一人の孤独に、何もない世界に! 心がどうにかなる! でも、心が折れたら、もう何も出来ないまま私は壊れた人形のように転がったままになる!

 

「……嫌だ! 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっっ!!」

 

 涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭う事もせずに泣いた。

 ゴロゴロ転がって暴れた。能力も暴発していたかもしれない。

 私は諦めてしまっていたんだ。スケールが違ってて、自分の手にはどうにもならなかったと。だからこそ外部に助けを抱いて、そしてそれがあり得ないと自分自身で判断して絶望に堕ちた。

 いや、堕ちようとしている。

 こんなことになるなら死んでしまいたい。

 

 ……死?

 

「あ、ああ……!」

 

 そうだ。その手があった。そうすれば私は救われるじゃないか!

 簡単な作業だ。

 自分自身の『目』を破壊する、たったそれだけで良い。

 

「ア、ハッ……アハハッ……!」

 

 なんで気付かなかったんだろう。

 私ってほんと馬鹿だ。

 じゃあ最後に死ぬ前に遺書を書こう。

 

 見る事も無いだろうけど、紅魔館の皆へ。

 ありがとう。皆のこと大好きでした。

 でもごめんなさい。私にはもう耐えられないの。

 だから先立つ不孝をお許しください。

 

 これで良いよね。

 じゃあ、

 

「キュッとして、ドカーン」

 

 ……ば、いばい。

 さ、よう、なら……。

 

 

 

 

 

 

 血で汚れたページに、そう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 



 元は龍神ちゃんの家にお宅訪問する話だったのになぁ……(白目)


 


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二月編6『夢か現か』

 

 昨日筆が乗ったからといって今日乗るとは限らない。
 ……難産過ぎて、死産感ありますがどうぞ。


 


 

 

 

 

 

 思えば、私が私自身を壊そうとした瞬間、こんな声が聞こえてきた気がするのだ。

『さて、介入するならここあたりだろう』、と。

 

 

 

 二月二十日

 

 どうやら私は死ななかったらしい。

 目が覚めたら眩い光を放つ神秘的な池に浸かっていてとても驚いた。

 あと私の体を覆うように丸い泡が包んでいたのにも。

 だが何より驚くべき点は私の体が半分ほど無かった点だろう。そう、目が覚めた時、私の身体はお腹から下が丸ごと無かったのだ。

 でもそこで思い出した。そういえば、私はあの何もない世界で発狂して自分自身を……破壊してしまったんだ、と。

 ……が、思い出しても何も出来ないことに変わりはない。

 動くことも出来ず、目線だけ動かして断面を見るとどうもチリチリと音を立てて体が再構成されているらしかった。

 そうすると当然だけど次の疑問が浮かぶ。あの暗闇の世界で間違いなく私は死んだはずだ。でもこんな緑光の神秘的な池にいて、なおかつ体が再構成されているってことは誰かに助けられたことになる。

 それに私の精神はもう壊れてしまってて、今だってまともな思考なんか出来るわけが無い。なのにこうやって考えることが出来てしまっている。これが先程誰かに助けられた、という答えを裏付けていた。

 でも……一体誰が?

 

 そんな事を考えている間にも私の身体は元どおりになっていった。

 ……死ぬ直前の姿に。衣服もそのまま。

 そして再構成が終わった瞬間、パチンと泡が弾けた。立ち上がると何処にも違和感はない。

 何より思考がクリアだった。何もない世界に迷い込んで精神崩壊を起こしたとは思えないほどに穏やかで、落ち着いていた。

 そして。

 ここはどこだろう。キョロキョロしながら私が立ち上がった時だった。

 

『目覚めたか、吸血鬼の子よ』

 

 包み込まれるような声。その声が聞こえた瞬間、私は目の前に巨大な龍がいた事に初めて気が付いた。

 龍神ちゃんとは違ってちゃんとした龍だ。髭が生え、虹色に輝く鱗を身に纏う胴体から二本の手が伸びている。

 これほどの存在感のある龍を見逃していた自分に驚いた。

 それでその龍の方とお話ししたけどどうやら彼は龍神ちゃんの父にあたる人らしい。

 

「龍神ちゃんのお父さん……ですか?」

『父といえば少し語弊がある。アレは我の一部だ。数多の世界の管理者を務めるには身体一つでは足りなくてな。幻想郷を任せるためつい先日……おっと、人妖にとって数百年は先日ではないか。ともかく我が生み出したモノには間違いあるまい』

 

 数多の世界の管理者? 詳しく聞いてみるとどうやら彼はこの世界が出来る前から存在していたんだとか。

 他にも同じような存在がいて、彼らと分担して世界の管理をしているらしい。一京近いスキルを持つ人外とかな、と言ってた。

 存在していた、というのはそれこそビッグバンが起こり宇宙が出来る前から、惑星の管理なんてそんなスケールの話ではなく、宇宙を含めた世界を一つの単位として幾多も管理する。そんな役目を務めており、龍神ちゃんはその中で幻想郷を管理させる為に生み出した存在なのだとか。

 そして私が迷い込んだ何もない世界はいわばバックヤード的なものらしく、本来龍神以外入る事の出来ない世界らしいけど、何らかの事故によって迷い込んでしまったとか。

 

「……なんで私を助けてくれたんですか?」

『その質問に答えるなら知的好奇心という他はないな。キミの言葉を借りるなら娘が懐いている妖怪など例はない。それに……あの子があんなにも悲しむものでね」

 

 ほら、とエコーの掛かったような声で龍神ちゃんのお父さんが指差すとそこには映像が空中に映っていた。

 真っ暗な世界の中にポツンとある血溜まり。その中心で倒れ、事切れた私を血に濡れることも厭わずに龍神ちゃんが私を抱きしめ泣いている。

 

「……これ、は?」

『見た通りだ。それ以上もそれ以下もない』

 

 何も言えなかった。だって、こんなの何も言えるわけが無い。

 私は一体どうすれば良かったんだろう。何が正解だったのだろう。

 少なからず分かるのは私は間違えてしまった、その一点で――、

 

『さぁ、休憩は終わりだ。元の時間軸にお帰り』

 

 瞬間、私の視界がグラリと揺れた。

 

 

 ######

 

「……何これ。訳が分からないんだけど」

「……そうですね」

「……ともかく続きを読みましょう」

「それに賛成よ」

 

 上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの順にそう言った。

 

 ######

 

 

 二月二十一日

 

 

 ……夢だけど夢じゃなかった。

 日記を読み返してあの出来事が夢じゃなかったことを認識した私だけど、まず現状を改めて書こう。

 とりあえず言うなら、目が覚めたら暗い世界に居た。

 多分私が死んだと思っていた場所だと思う。

 血溜まりの上に私は寝ていて、服が血で染まってた。

 つまり、私は一度死んで、龍神ちゃんのお父さんの手によって生き返り、で、また暗い世界に戻ったという認識で正しいのか?

 それとも夢を見ていたのか?

 ……訳が分からない。この世界自体もよく分からないけど別の意味で頭がおかしくなりそうだ。

 ともかく死ぬ気はサラサラ無くなった。

 それこそ血溜まりの中に沈む私を抱きしめていた龍神ちゃんの姿を思い返すとそんなこと二度と出来る気もしない。

 ……ともかくやれることをやってみよう。

 脱出の為に考えられる方法を考えてみよう。思い返せばまだ私はこの世界に挑戦すらしてないんだ。

 戦う前に諦めて自殺してたんだから笑い話にもならない。

 まずは世界の解析。私の力を全て試して、それで駄目なら世界の物理的破壊でも試みよう。なに、私が落ちた時だって何者かが空間を引き裂いて現れたんだ。あの人に出来て私に出来ないことは無いはずだろう。

 挑戦、挑戦だ。

 諦めずに戦え、帰る為に拳を握れ。

 もう一度、笑顔でいられるように。

 

 ######

 

「前向きになった……」

「そうですね!」

「……でも話が分かりづらいですね。龍神の父が関わってきたあたりから」

「……そこもだけど妙よね。前向きになったのは良いけれどなんで、そんな世界の管理者なんて途方も無い存在が出てきているの? 知的好奇心と言っても……いえ、栓なきことかしら?」

 

 ######

 

 

 二月二十二日

 

 

 出来る限り試してみた。

 成果は無い。分かったのはどれも意味を成さなかった事くらいか。でも諦めてちゃいられない。あの映像が本当なら龍神ちゃんが私を探してくれているはずなんだ。

 だから私は諦めない。

 指標は見つかった。助かる希望も生まれた。

 でも、だからこそ何もしないのは違うと思う。やれることをやって、足掻いて、助けられるのと最初から他力本願なのじゃ全く意味が違うと思う。

 何より、私はもう諦めたくない。

 あんな顔、もう誰にもさせたくない。

 だから諦めない。ただそれだけだ。

 

 そう改めて宣言して、

 

「……みつけた」

「!!?」

 

 いきなり声をかけられたからビックリした。

 でも耳に届いた瞬間誰か分かってさ、すっごく、すっごく嬉しかった。

 

「ふらん、良かった」

 

 龍神ちゃんだ。

 間違いなかった。

 

 

 ######

 

「助かった!!」

「良かった……本当に良かった……!!」

「……本当ですよ!」

「やっと、やっと!」

 

 喜ぶ一同はそのままの勢いで次のページをめくった。

 

 ######

 

 

 二月二十三日

 

 ……思い返せば不幸だよね。発端が事故だから笑えない。

 ともかく龍神ちゃんに助けられて元の世界に戻ってきたときは本当に感極まっちゃって何も言えなかった。

 紅魔館に帰ったら咲夜に何処に行ってたのか聞かれて、すっごい怒られて、すっごい心配された。

 でも何より龍神ちゃんのお父さんにはお礼言わなきゃね。

 で、今度伝えておいてくれる? と龍神ちゃんに聞くと「父様、場所分からない」と言われてしまった。

 ……うーん、命を助けてもらってお礼も言えないのは個人的に嫌なんだけど……。

 でも今でも信じられない。

 私、生きてるんだよね? 紅魔館に居て良いんだよね?

 私はフランドール・スカーレットなんだよね?

 ……これは全て夢だった、なんてことは無いよね?

 

 空気が吸えて、温度があって色がある。

 沢山の人が居て、地面を踏みしめて、生きている。

 そんな当たり前のことが夢みたいだ。

 

 ともかくこの数日間で色んな事があった。

 キャパシティオーバーも甚だしい。しばらくはゆったりしたい。

 

 

 

 




 

今回で説明まで終える気だったんだけどなぁ……(溜息)


 


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二月編END『空白への挑戦』

 

 とりあえず次回からまた元の路線です。
 やっぱこの作品には度が過ぎたシリアスは合いませんね、はい。


 


 

 

 

 二月二十四日

 

 

 まだ夢の中にいるようだ。

 朝、目が覚めて色のある世界である事にどれだけ安堵することか。

 お姉様がいて、咲夜がいて、めーりんがいて、パチュリーがいて、小悪魔がいて、レミィたん(リメリア)もいて、AIBOもいて。

 で、そんな紅魔館に私もいる。

 その事がどれだけ幸せな事だったのか。

 一日を過ごすうちに改めて噛み締めた。ふとした所作を行うたびに涙が零れてしまう。乗り越えたつもりが、意外とあの世界で摩耗していた私の精神は脆いらしかった。

 ……いつも通りの日常。

 朝起きたら咲夜と一緒に朝ご飯を作って、皆で食べる。

 めーりんとお昼まで修行する。

 友達と遊んで午後からは知り合いに会ったり行ったことのない場所に行ったり、散歩したり。

 寝る前には少しパソコンと携帯を弄って、友達とLINEしたりして寝る。

 楽しかったよ。当たり前だと思っていたそれらの一つ一つがまるで天上の世界のように輝いてみえた。その中にいれる事にとても幸せと安心を感じた。

 ……もう二度とあんな目には遭いたくない。

 一度心が壊れてしまって、自分を殺した感覚は今でも体の内にある。握り締めた瞬間に自分の中の大切な物が全て壊れてしまう、私という存在何もかもが壊れていく。

 自分に向けたからこそ自分の力の恐ろしさが身に染みた。こんなもの他人を脅かす為に使って良い力じゃない。

 

 ……あと、寝るときに悪夢を見てしまう。

 レミィたんにお願いして一緒に寝てもらったけど、いつまでもこうしてもいられない。

 ……乗り越えないと、いけないよね。

 

 

 ######

 

 

「まだちょっと後遺症があるんでしょうか?」

「……あれほどの体験だもの。仕方ないわよ。寧ろ今ちゃんと精神を保っている事を褒めるくらいだわ」

「……どれほどの恐怖なんでしょうね、怖いです」

「……フラン」

 

 

 ######

 

 

 二月二十五日

 

 

 神綺さんが紅魔館に来た。

 夢子さんが「やめてください!」とか叫んで縋っていたけど引き摺って来てたよ。

 話を聞くとどうやら数日前から加護を私に送れなくなってどうしたのかと心配してくれたらしい。

 ……加護ってGPS機能でもあるのか。それとも通信制限みたいに電波の届く距離に限りがあるのか。

 いずれにせよ心配してくれてありがとうございますという話だ。

 で、心配を掛けてくれた相手にはキチンと説明をしなくてはならない。

 だからこそ数日前の出来事を話したら神綺さんがブチ切れた。

「はぁ!? 次元の狭間に……ねぇフランちゃん。その人――どこの魔神か分かる?」

「さぁ……?」

 具体的には龍神ちゃんの住む位相に行ったとき、急に何者かが侵入して来て私を次元の狭間に落とす事故を起こした挙句そのままどっかに消えてしまった事を話したら、だ。

 物凄い笑顔で「そいつ見つけ次第誅殺(ちゅうさつ)……じゃなくて注意しておくわ」と言ってくれた。

 本気で怒ってくれている様子を見て私のこと心配してくれてたんだなぁ、って思ってさ。直前に何もない世界の話をしたせいかその時の出来事も頭の中をよぎってしまって思わず(うずく)って泣いてしまった。

 すると怒ってた神綺さんが慌てて私を心配する顔になって、抱き起こした後に抱き締めてくれた。

 泣いていた私が何もない世界の出来事を思い出して怯えてしまったせいかもしれない。「大丈夫、大丈夫よ」と抱き締めたまま優しく言ってくれた。

 怖かったね、って声をかけてくれた。

 余計に泣いてしまった。ちょっと恥ずかしい。でも神綺さんってアリスさんのお母さんだけあって……ふわりと感じた優しい包容力から本当のお母様みたいだなって思ってしまった。

 

 ######

 

 読み終えて、おや……? と早苗が首を捻った。

 

「……おっと見逃せないワードが出て来ましたよ? 次元の狭間に落ちた話をしたら『どこの魔神の仕業?』と聞き返して……」

 

 確かにおかしな話だった。

 具体的に言うなら、何故神綺が乱入して来た存在を魔神と断定できたのか、それが問題点である。

 すると「あぁそれなら」とさとりが手を挙げた。

 

「……あ、その話は私知っていますよ。『何もない世界』の話を聞いたことがあります」

「なに、どういうこと!? 説明してさとり!」

 

 食い気味に尋ねる霊夢を無視してさとりは説明を始める。

 

「……そもそも何もない世界って言うのは一説には『全てが壊れた空間』とも言われているんですよ。宇宙をひっくるめた世界全てが丸ごと消えてしまった空間――というべきでしょうか。そしてその世界は人為的に作ることが出来るそうです。ようは世界を作り変える、『魔神』と呼ばれる存在によってですね。他にも作れる神や人外も存在するそうですがそれは少数の希少例なので省きますが……」

「だから魔神と断定した、と?」

「……もしくは神綺さん自身が魔神なので、彼女にも同じことが出来るからという予想も立たれます。世界を作り変えるなんてスケールの狂った力を彼女が操れる、という前提ですが」

 

 それに伝え聞いた話ですから信憑性も何もありませんけどね、と彼女は苦笑いした。

 話を聞いたレミリアは顎に手を当てて、曖昧な顔で呟く。

 

「……魔神のことは分かったわ。でもそれよりも、本来、こうやって妹を抱き締めてあげるのは私の役割だと思うの。なんか納得いかない」

「子供か」

「うっさいわね」

 

 突っ込んだ霊夢を軽くあしらってレミリアは大真面目な顔でそう言い切った。

 普段なら「こ、子供じゃないもん!」と反応する彼女も今回ばかりは露骨なポンコツ路線は自重しているらしい。いや、本人が自覚してそれを行なっているかはともかく。

 

「……とりあえず次のページにいきましょ」

 

 顔を上げて続きを読み進めるレミリアなのだった。

 

 

 ######

 

 

 二月二十六日

 

 暗闇の世界から帰って来てから初めて寺子屋に行った。

 今更ながら私の顔を鏡で見て少し驚いたよ。暗闇の世界にいた時のことを考えている時の私の顔ってさ……目から色が無くなってるんだ。

 精神が死んでしまったかのように壊れた目をしていた。

 ……勿論、その時のことを考えてない時はそんなこと無いけどさ。

 ともかく久々の寺子屋だ。

 また数日間休んでしまったせいで皆から心配されたよ。

 チルノちゃん、大ちゃん、ルーミア、みすちー、リグル、メディスン。隣のクラスも入れるとサニーちゃん、スターちゃん、ルナちゃんや橙ちゃんも心配してくれた。

 隣の席のナナシ君も「風邪か? 寒いから気を付けろよ?」と的外れな心配をくれた。

 副担任の先生も「何か悩み事でもあるなら話せよ」と言葉を掛けてくれたっけ。

 皆、優しいなぁ。でもこの話は極力しないつもりなんだ。

 神綺さんに話したのは魔神だからこそ分かってくれる、と思ったのが理由だけど……それ以外だと咲夜にしか話してないしね。

 ただ、神綺さんが怒ったように咲夜も咲夜で「……よくも妹様を。必ず地獄を見せて差し上げましょう」と毎晩ナイフを研いでてちょっと怖い。

 ……うーん、私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど暴力的なのは駄目だよ? まぁそれくらいのことはされたのかもしれないけどさ。

 

 

 ######

 

 

「……それくらいのことなんですよね」

「私は寧ろ咲夜とか神綺って人の言い分に同意ね。私の妹をこんな目に遭わせた相手なんか生かしておけるわけがないわ」

「フランちゃんは思考が博愛な人間に近いですからね……。妖怪としてや家族を守る意味ではレミリアさんの方が私も正しいと思いますけど……安易に殺すのは同意しかねます」

「私なら退治するけどね。そんな傍迷惑な奴が居たらぶっ飛ばすわ」

 

 ######

 

 

 二月二十七日

 

 ……今更だけど、あの暗闇の空間はいわば今私がいる世界を管理するためのバックヤードなんだよね。

 龍神ちゃんに案内されたのは幻想郷を管理するためのバックヤードで、私が迷い込んだのは世界を管理するためのバックヤード。

 出入り口が条件で存在する世界で何もない世界。

 ……何もない。

 ……いや、本当に何もなかったのかな?

 

 今思えばあの世界には色々矛盾点があるんだよ。

 例えば龍神ちゃんに案内された幻想郷側の暗闇の空間だけどさ、あそこには龍神ちゃんが生活していた筈なんだ。

 なら生活する上で何もないなんてそれこそあり得ないよね。

 まぁ排泄が必要ないにせよ、龍神ちゃんは外に出たりをよくしている。なら彼女が帰った時に一緒にあるものを必ず持ち帰る筈なんだよ。

 そう、微生物だ。

 私の能力は例えどんなものでもそのモノの目が視認出来て、破壊出来る。

 それこそ微生物なんてサイズでも無数の目が存在するように普段から見えてるんだよ。

 なのに文字通り何もないんだ。それに私自身の体に付着している微生物も居なかったんだ。

 つまりあの世界に入る上で何かしらのフィルターが存在すると仮定出来る。

 

 でね、ここで話を戻すけど。

 『あの世界はバックヤードであり出る為の方法が存在する』というのは真実の情報だ。

 じゃあその脱出口を開く為の方法ってなんだろうって考えた時に一つ可能性に思い立ったんだよね。

 具体的に言うと私の死体が血溜まりに沈んでいた映像を見て思ったんだけどさ。

 あの映像を見て私は疑問点を見つけたんだよ。

 それは血溜まりに沈む私の死体に破壊出来る点が無かった点だ。

 さっき微生物の話をしたけど、体に付着した微生物は全てフィルターで除去された。でも私の体内はどうなの? ましてや血液の中にたった一匹もそれが存在しないのはおかしいよね?

 だってもしそうなら私が生きているわけないんだから。だって微生物がいなければ体のメカニズムが崩壊して死んでしまうもの。

 ……長々と話してきてキリがないから結論を言おうか。

 あの空間には『修正力』ってものが存在する。

 具体的にはパスワードのようなものかな。ほら、例えば指紋認証なんかでの本人確認ってあるでしょ。分かりやすく言うならそれで正式なパスを持って中に入ったものは問題無い存在として対処するけど、そうでなければ空間に出た瞬間に抹殺する防衛機構がある。

 例えば、私が息をしようと口を動かすたびに口内から漂う微生物が消去(デリート)されていくのだ。私は異物として認められてなかったけどそれ以外は総じて異物のはずだからね。

 ただこれには一つだけ例外がある。

 それが、『血液』だ。

 私の死後も血液だけは空間に存在し続けていた。それすなわち血液は『私のパス』という範囲内にあったか、脱出口の例外であったかのどちらかだろう。

 

 もう今更な話だけどね。

 関わりたくもない。

 それでも万が一には備えておきたいんだ。

 もう一度巻き込まれてしまった時のために、ね。

 

『私の血を捧げよう。空間を開け』

 

 それに龍神ちゃんの顔をあれ以来見てないし、気になるんだ。

 ……あと、私は大丈夫だと伝えてあげたい。

 まぁこんな考察なんてまだまだ荒削りだから実際に上手いこと龍神ちゃんの住む空間に繋ぐなんて真似が出来るわけが――あっ。

 

 

 ######

 

「あっ。って何っ!? 開いちゃった!? 開いちゃったのっ!!?」

「数日で魔神に昇華したわよこの子っ!? なに、怖っ!? アレだけの目にあって自分からまた飛び込むどころかレベル合わせていったっ!?」

「……もう訳分かんないです」

「それは私のセリフよ! 何これっ!? いや、おかしいでしょぉっ!!」

 

 全ツッコミであった。

 

 ######

 

 

 二月二十八日

 

 

 龍神ちゃんを慰めました。

 開き方と帰り方はマスターしました。今度からはちゃんと対処できるね。

 ……これで私もちょっとは成長出来たのかな。

 あの世界にいた時には結局何も解決策どころか解決法も出なかったから、あの時の私と比べたらちょっとは成長出来ていたら嬉しい。

 さて、明日から三月だしまた気を新たに日記を書いていこう。

 

 

 ######

 

 

「……良い話、なんですよね?」

「……多分」

 

 さとりが呟いた言葉に霊夢は曖昧に頷いた。

 すると話を聞いていたレミリアが叫ぶ。

 

「というかツッコミどころが多いのよ!! もう魔神のところまで昇華した時点で私の理解のキャパシティーはとうにオーバーしてるんだからっ!?」

「それに賛成です! 理解不能です! というかこんなの理解出来たらおかしいと思います!」

 

 同意する形で早苗も頷いた。

 と、その時ここまでの話をふまえて何やら決意した霊夢が叫ぶ!

 

「はい、じゃあここでアンケート! この話について深く考えるか何も考えず次のページをまた読み始めるか! さぁ、どっち!?」

「「「次のページ(です!)」」」

 

 結果は満場一致であった。

 

 

 

 



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三月編
三月編1『ひな祭りの宴』


 


 三月編……いよいよこの小説も終盤ですね。
 四月二十日までのラストスパート、頑張っていきます!


 


 

 

 

 三月一日

 

 

 お姉様が遊ばないか、と声をかけてきた。

 何かに影響されたのか口調が変だったよ。

「ふん、雑種。この我が相手をしてやると言っておるのだ。いいから来るが良い!」

 やたら格好付けてたけど似合わないなぁ……。格好良さは無い。

 むしろ子供が精一杯頑張ってるアピールをしているみたいでどうも微笑ましく思ってしまう。

 いや、私も子供だけれども。

 で、何をするのか聞いてみたら弾幕ごっこをしようということだった。やたら沢山の宝具……武器を担いでたから一瞬ビビったよ。

王の財宝(ゲートオブバビロン)』とか言ってたけど、全部手で取り出してるのはなんとも格好悪かった。

 お姉様に聞いてみると『fate』とかいう作品を見たんだって。私も見たけど、なんだろう。お姉様のやりたかった王の財宝(ゲートオブバビロン)って適当に空間作って中に武器を入れて射出すれば出来そうだよね? ……今度魔法教えてあげよう。

 

 ちなみに弾幕ごっこは勝った。

 真似事だけどね。レーヴァテインを振り下ろす瞬間に思いっきりマスタースパーク並みのビームをぶっ放して『約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!』って叫ぶだけなんだけど。

 フォーオブアカインドで作った三人がお姉様を押さえつけた上でブッパしたら流石に避けれなかったらしい。「ウボァー!!」って叫んでた。

 あとお姉様、武器を全部背中に担いでたんだけどさ。その武器が空中でバラけて、お姉様が地面に落下したあと体の上にドサドサザクザクと突き刺さってたけど大丈夫かな?

 ピューって血が出てたけど。いや、むしろぐちゃあ!! ってなってたけど!!

 

 ######

 

 

「レミリアーっ!!?」

「……地面に落下した後に体に武器が……ヒェッ」

「いや大丈夫だったんですかそれっ!? レミリアさん?」

「だ、大丈夫よ! (一瞬、死を覚悟したけど)吸血鬼の回復力舐めんな!」

「……レミリアさん! 心の声聞こえてますから! 死を覚悟したならアウトでしょう!?」

 

 ######

 

 

 三月二日

 

 

 めーりんの人生を聞いてみた。今更ながらめーりんって凄い戦いに詳しいからどんな人生を送ってたのか凄い気になってたんだよね。

 私なんて大層な生き方してませんよ、とめーりんは謙遜してたけどしつこくせがんだら聞かせてくれた。

 

「そうですね……じゃあこんな話を。西遊記はご存知ですか? 三蔵法師が天竺を目指す話ですが」

「知ってるよ。本で読んだ」

「実は私、あの旅路の途中に孫悟空……斉天大聖と手合わせしたことがあるんですよ。とはいえ当時の私は負け無しで慢心をしていたものですから叩きのめされましたが……」

「ええっ!? あの斉天大聖と?」

「はい。術も教えてもらったんですよ? 髪の毛を使った分身の術とか。あと私が身につけている帽子についてる星は孫悟空の禁錮呪(きんこじゅ)と同じ効果があります。具体的に言うと術を唱えると帽子がギュッと締まりますね」

「本当? すごーい!」

 

 いや、凄いよ! まさかあの斉天大聖と繋がりがあるとは思ってなかった。

 というかめーりんの人生濃いじゃん! 普通に!

 

「そうですか……? ここ一年の妹様に比べたら私なんてとてもとても……それについ先日の事を考えると」

「つい先日って何も無い世界の話? あれ、めーりんにその話したっけ?」

「していませんよ? ですが妹様、私は格闘家ですから。格闘家は相手の拳から全てを読み取れるんですよ。例え見知らぬ相手でも、拳を受ければ相手の名前が何で年齢が幾つか。果ては相手の人生まで全てが分かるものです。マスターアジアの言葉の受け売りですが」

「いや、マスターアジアって誰?」

 

 また知らない人の名前が出てきたよ。

 でもめーりんは説明してくれなかった。

 

 ######

 

 

「見よ、東方は赤く燃えている!」

「……ノリノリですね霊夢さん」

「というか美鈴さん、そんな過去があったんですか。意外ですね」

「本当よ! 私知らなかったわよ!」

 

 ######

 

 

 三月三日

 

 

 ひな祭りだ。

 折角なので皆で雛人形を飾った。それから桃の花を飾って、白酒と私が無縁塚ルートで外に行って買ってきた新鮮な海魚を使ったお寿司を作った。

 あとは雛あられと菱餅もだね。

 それから案の定お姉様がもっと大きな雛人形が見たいとかいいだしたから鍵山雛さんを誘った。本人は厄があるから自分に近寄るなとか言ってたけど面倒なので全部の厄を自動で消去(デリート)してくれる、私が一度自殺まで追い込まれたあの『何もない空間』に放り投げて誘ったよ。

 あの何もない空間ってゴミ処理場として優秀だよね。あれだけ苦しめられたからか意趣返しのようにやってしまっているけど、最近なんだかゴミ捨て場として重宝するようになってきた。

 ともかくだよ。

 

「じゃあ特別ゲストもお呼びしましたし、博麗神社に行きますか」

 

 お祝い事があれば博麗神社に行く。

 それが暗黙のルールなのです! 手土産に新鮮なお寿司と白酒、雛あられに菱餅と揃えているし霊夢さんも文句は言わないだろう。

 いざ、博麗神社へ。宴会の始まりだ!

 

 

 (次のページへ)

 

 ######

 

 

 博麗神社は沢山の妖怪が訪れていた。

 一部、もう酔っ払ってたよ。霊夢さんが魔理沙とかと一緒に中心で呑んでてさ、早苗さんとか鈴仙さんとか妖夢さんが大忙しだった。

 ふと隅の方を見ると妖忌さんと沢山の妖精達と小さな子供妖怪達が一緒に呑んでてさ、「お爺ちゃん」とか「じーじ」とか呼ばれて懐かれてた。

 で、ちょっと可哀想なのが……、

 

「っ! ふ、フラン! フランドール! おま、ちょっと助けてくれぇ! お前に呼び出されて来たらなんか鬼の人に絡まれて! ええい酒くさい!」

「あー? 女に向かって酒くさいとは何だ〜!? ナナシの権兵衛!」

「ナナシの権兵衛じゃないですから! ナナシですから! つかこの酔っ払いめ! っていでででで!! 肩掴まないでください!? 折れる! 折れるーっ!!」

 

 宴会あるからおいで、とナナシ君を誘ってみたらなんか鬼の人に囲まれてた。萃香さんとか勇儀さんが楽しそうにバンバンと背中を叩くたびに悲鳴を上げている。

 

「ってなんですかこの酒っ!? 俺未成年だから! えっ、度数百パー? ただのアルコールだろそれぇっ!! 死ぬわ! ちょっ、待って! 一気飲みとか嘘だろ!? やめっ……アーッッ!!」

 

 急性アルコール中毒とかやめてよ?

 にしても一気飲みとか危ないよね。顔真っ赤でフラフラしてるし。と、無意識にか知り合いの幽香さんの方に倒れた。幽香さんは幽香さんで膝枕してあげてるし。あの人優しいよね……。

 

「じゃあ霧雨魔理沙一発芸やります! 賽銭箱に何も入ってない時の博麗霊夢の真似! (真顔)」

「あはははっ!!」

「ゲラゲラゲラ!」

「魔理沙ぁっ!? 怒るわよー?」

「ナァッハッハー!」

 

 こっちはこっちでいい感じに酔っ払ってるし。

 

「お化けだぞー!」

「ウボロゲボっ!!!!」

「ぎゃああチルノちゃんが小傘ちゃんに向かって吐いたあああ!!」

「大ちゃんにも……ゲロロロ」

「ちょっ!? やめてチルノちゃん! こっち向かないで!」

「……もー全員にかけてやるー!! オボボボボ……」

「「「「ぎゃああああ!!」」」」

 

 うん。関わらないようにしよう。

 

「映姫ちゃーん? 最近どーよ?」

「さ、最近ですか? 以前旅行に行ったあとは仕事ばかりですね。今は休憩で来ていますがもう少ししたら帰りますし」

「働き過ぎだよー? もっと肩の荷を降ろしなよ。年中肩凝ってるじゃん。どーよ俺のコリほぐし、効くだろ?」

「あっ……たしかに。凄い気持ち良いです」

「そうだろそうだろ! じゃあ次は背中、腰、尻をやるよー? そのあと前なー」

「あ、はい。お願いしま……? って先輩!? 胸とお尻はセクハラです!」

「はっはっは(笑)」

「もー! 閻魔たるものセクハラなど以ての外です!」

 

 映姫さんは前に旅行の時にみた閻魔様にセクハラされてる。

 まぁ冗談の範疇だから問題無いかな。

 そして……、

 

「咲夜! 最高の酒をもて!」

「はい、こちらに」

「妹様もどうですかー? 一献」

「むきゅ、むきゅ……。あっ、このお酒美味し……」

「パチュリー様! ちょびちょび呑まずに一気飲みしましょうよ!」

「ちょっ、こあやめて! やめ、ゴボボボ!!」

「リメリアハン、ワイニモ酒クレ」

「……ロボが酒を呑むってどういうことよ……」

 

 お姉様達もいつも通りだ。

 さて、私もめーりんに呼ばれてるし宴会を楽しもう――――。

 

 

 ######

 

 

「ひな祭りの宴会ですか……楽しかったけど大変でしたねー」

「全くよ。飲み食いするやつばかりでやんなっちゃう」

「……でもかなり多い頻度で行いますよね」

「だって何かあるたび人が集まるんだもん」

「博麗神社は妖怪を寄せ付けるもの。いや、博麗神社というより霊夢が、というべきかしら」

「えー……マジで?」

「このレミリア様が言うのよ。間違いないわ」

「……レミリアが言うなら多分ハズレ、と思いたいけど私の勘もそうだって言ってるあたりタチが悪いわよね」

 

 呟いてため息を吐くけれど、でもそんなに嫌そうな顔はしていない霊夢なのだった。

 

 

 

 



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三月編2『宴の終焉』

 


 今日は短めです。


 


 

 

 

 三月四日

 

 

 昨日はあのまま博麗神社で寝てしまった。

 境内に多分咲夜が持ってきたんだろう布団が敷いてあってお姉様と一緒に寝てたよ。目が覚めたら目の前でお姉様が「むにゃ……私は吸血鬼の王……」と寝言を言ってた。

 起きて外に出てみれば何人かの鬼が重なり合うようにして幸せそうに酒瓶を抱いて寝てた。ナナシ君、勇儀さんに抱きしめられるように首をヘッドロックされて泡吹いてたけど大丈夫かな。

 あとは霊夢さんと早苗さんと咲夜が片付けと朝食用の軽食の準備をしてた。私も手伝おうか聞いてみると「こちらは人手が足りていますから」と言われたので外を見て回ることに。

 妖精達は皆寝てた。木の幹とかを枕にしたり、クラピちゃんは博麗神社の床下で寝てたり、三妖精は博麗神社にある家で寝たみたい。

 幽香さんはもう起きてたみたいでテーブルに持参のパラソルを立てて紅茶を飲んでいた。膝の上でメディスンちゃんが寝てて、頭を撫でながら小さく幸せそうな笑みを浮かべてたね。

 やっぱり優しい人なんだなぁ……。

 あとは木に体をもたれて寝てる妖夢さんと、同じように木にもたれて腕を組んで寝ている神奈子さんとその神奈子さんにもたれかかって寝てる諏訪子ちゃん。

 それから寒空麻雀をやっていたのか卓が出しっ放しで置いたまま椅子に座って寝てる魔理沙、てゐちゃん、星さん、こころさんの四人。

 

 あとは早朝から酒を酌み交わす妖忌さんとルーミア"さん"と、紫さんと幽々子さん。

 この四人が気になるね。ちょっと耳を澄ませてみようか。

 

「……思えば随分と時が経ったものね」

「私は封印されてたからあまり経ったとは思えないけどね」

「……ふふ、自分から望んでおいて何を言うのよルーミア。周囲には『酒の席で酔って封印された』なんて吹聴してるみたいだけどね〜」

「昔のことよ幽々子。今更あんな話を蒸し返す必要もない。ましてや宴よ。悲しい話よりも楽しい話にしてしまった方が良いわ。それに私の中でとうに決着はついてるもの」

「……ルーミア殿は変わらんな。いや、儂以外皆変わらんのか。だが友人として、君がそれで良いならば儂はそれを肯定しよう」

 

 紫さんが話を切り出して、ルーミアさん、幽々子さん、妖忌さんとポツポツ話していく。旧知の友という印象で、独特な雰囲気がそこにあった。

 

「妖忌は歳を取ったわね。初めて会った頃はあんな子供だったのに」

「私はその頃の記憶がないわぁ。亡霊になって……壮年の妖忌からしか知らないのがちょっと残念」

「仕えるべき主人に幼子の頃の自分を知られるのは従者としては恥ずかしいものですから。弄りたいなら妖夢が大人になった頃にうんとするが良いでしょう。儂も先代によく弄られました」

「懐かしいよね……まぁ私とか紫からしたら封印関係無くそんなに昔って訳でも無いけどさ」

「……いつまでこうやって語らい合う事が出来るのでしょうなぁ。儂もほど遠いわけではありますまい」

「妖忌、それは言わないで」

「そうよ、悲しいじゃない」

「ふふ、これは失礼致しました。宴にしんみりは不必要ですな」

「そうそう、ともかく呑みましょ。月夜を見ながら呑むのも良いけど、朝日を見ながら呷るのも乙でしょう?」

 

 そんなことを話していた。

 話を聞いててさ、ちょっと曖昧な心境だった。私もいつかこんな風に友達と語り合うような日がくるんだなぁって思うと眩しいような、悲しいような。

 複雑だよね。まぁまだまだ先の話なんだけどさ。

 そんな朝でした。

 ちなみに宴は終わらず明日まで持ち越しそうです、うん。

 

 

 ######

 

「……なんで宴って翌日まで続くのかしらね」

「……酒呑みのせいですね」

「それよりも紫さんとかの話をしましょうよ。あの四人が旧知の仲だったって初めて知りましたよ私」

「そうよね。でも内容的にツッコミ辛いわ。話を広げにくい、というか。フランも書いてたけど複雑よね」

 

 ######

 

 

 三月五日

 

 

 今日も宴だ。

 ナナシ君がグロッキーだったけど咲夜達が作った朝食を食べてたら復活してたよ。流石だ。あとナナシ君よく生きてたね。勇儀さんのヘッドロックを夜通し食らってたのに。

 で、そんなナナシ君は今日は青娥さんや正邪さん、諏訪子ちゃんやてゐちゃんと話してた。

 青娥さんにお酒を注がれてちょっと嬉しそうにしてたけど、諏訪子ちゃんが横から奪って呑まなかったらヤバかったね。神でも酔っ払う酒とか人間が呑んだら死ぬよ、うん。しかもその次からは諏訪子ちゃんが先に呑んでからこれなら大丈夫だよ、ってそのまま貰ってたし。

 青娥さんは青娥さんで悪びれずに何度も悪戯したり、あざとく演技したりしてた。てゐちゃんも一緒になって賭け事の提案をしたり、正邪さんには物凄い褒められてたけど彼女が『なんでもひっくり返す妖怪』だと知った瞬間に「つまり全部悪口だったってことじゃねーかチクショウ!!」って喚いてた。

 なんか見てて面白いよね、彼。

 でも意外と沢山の人に気に入られているみたいだった。大抵散々な目に合ってるけど。

 ちなみに宴だけどこれ以上続けたようとした鬼の人達を見てブチ切れた霊夢さんが手当たり次第に弾幕ごっこをしかけて追い払ってたよ。

 これで宴も終わりかな。ともかくお疲れさまです。

 私も楽しかったよ!

 

 

 ######

 

 

「……フランが、フランが一日中男を見てた……?」

「……無意識に見てるって実は好き……? いや、まさか」

「……いや、単に見てて面白かっただけじゃないかと」

「さとりに同意。うん、仮にあの子がナナシとかいうのを好きなら話しかけて輪に入ろうとするでしょ。性格的に」

「……でも、不安よ? だって人間だもん。百年も生きれない相手と結ばれても不幸にしか……絶対に妹はやらん!」

「何処まで先を考えてるのよ!?」

 

 あまりにもな発言に思わずツッコミを入れる霊夢であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三月編3『パラリラ波羅密多』

 


 実はもう次作を書き始めてたり……(東方じゃないけど)


 


 

 

 

 三月六日

 

 

 聖白蓮さんが来た。いや、本当なんでだろう。

 とりあえずお茶を淹れて話を聞いてみると私に相談すると物事が解決するという話を聞いたらしい。誰だそんなデマ流したの。

 ともかくお話を聞いてみると人里に困った集団が居るんだとか。「夜露四苦」とか「喧嘩上等」とか言っててさ、頭をリーゼントとかにしてるらしい。聖さんも頼まれて説得を試みたらしいけどどうも言っている言葉が分からなくてほとほと困ってるんだそうだ。

 

「でも彼らも仏教徒なんです。真夜中に波羅密多(ハラミタ)波羅密多(ハラミタ)と祈祷しながら里を練り歩くほどに信仰深い彼らをどうして止めれましょうか。渋々近所迷惑と言うとまた意味の分からない言葉を使い出しますし……」

「聖さん、多分それ波羅密多(ハラミタ)じゃない、パラリラだよ」

 

 ともかくその後もお話ししているとなんか聖さんは急に立ち上がってこう言った。

 

「……うーん、まずは頭ごなしに否定するより彼らを理解すべきかもしれません。まずは私も体験してみようと思います! 波羅理羅(パラリラ)の祈祷を!」

 

 いやだからそれ祈祷じゃない。あっ、行ってしまった。

 ……うん、このまま放置するのもあれだし。私も何か対策を考えようかな。でも暴走族とかヤンキーの対処法なんて知らないんだけど……。

 そうだなぁ、やっぱり人生経験豊富そうな人に聞いてみよう。

 というわけで電話してみた。ブッダさんに。

 

「こんにちはお久しぶりですブッダさん。フランです」

「お久しぶりですね。どうかしましたか?」

「実は……」

 

 問題を話してみたらブッダさんはそうですね、と言ってからこんなアドバイスをくれた。

 

『私の知り合いに極道の方が居るんですが、その方に聞いてみたところヤンキーになるような子は基本心が満たされていない事が多いそうです。原因は一概には言えませんが、ともかく解決策としてはまず彼らのことを知ることですね。説法はともかく説教はこちら側の主観だけでして良いものではありません。ましてフランさんのお話を聞く限りでは強制的にヤンキーであることをやめさせようとはしないんですよね? ならば話すことです。人間、言葉が一番のコミュニケーションですから』と。

 

 途中からちょっと電話が光り輝いて頭の中にスゥッと話が入ってきたけど……流石大人の人は違うなぁ。

 私なんかより説明が上手だよ。憧れるなぁ。

 話す、話すかぁ。よし、やってみよう。

 

 

 ######

 

 

「ヤンキーの説得ですか……」

「妙に嫌そうな顔してるわね、早苗」

「……実は、外の世界に居た頃。まだ未熟な時にそんな見た目の方々に路地裏に連れ込まれた事がありまして……それ以来ちょっと」

「……災難ですね。大丈夫だったんですか?」

「はい……、同級生の男の子が助けてくれて」

「ほうほう。それはそれで気になる話ね?」

「いぇっ!? べ、別に何もありませんでしたよ? ナンパされた時に助けてもらったり、あとは一緒に買い物をしたくらいで……」

「青春ってやつね! 私聞いたことあるわ!」

「そ、そんな相手では……その、ありませんから。とっ、ともかく次のページに行きますよ!?」

「「「ニヤニヤ」」」

「声に出して言わないでください!」

 

 突っ込まれて恥ずかしかったのかプシュ〜と顔を真っ赤にする早苗はちょっと怒った様子で次のページをめくったのだった。

 

 

 ######

 

 

 三月七日

 

 

 とりあえず今日起こったことを書いていこうか。

 今日はヤンキーの人達に会った。

 リーゼントだったよ。皆タバコとか吸ってた。話しかけてみたら「あんだよ?」って荒っぽく言われたけど、どうしてヤンキーをやってるのか聞いてみたら舌打ちされた。あとガキは帰れって言われた。

 根本的に心が荒んでいるらしい。初対面相手にそんな口調で話しかける時点で色々アレだと思う。せめて子供扱いなら別に良いんだけどさ……で、暫くすると私を見て何かピンときた人がいてさ。

 

「ってかこの子アイドルのフランちゃんか?」

「おいおいアイドル様が路地裏に来ていいのかYO」

「ヤっちゃいなよ! Youヤっちゃいなよぉ!」

 

 うん、テンションの上がり方がちょっと気持ち悪い。

 とりあえずやるって何を? パラリラパラリラってやつ?

 とか思ってたら腕を掴まれた。それから万歳の形で固定されて服に手が掛けられる。

 セクハラかな? そして首を傾げていたその時だ。

 

「おい、お前らソイツから離れろ!」

 

 叫び声と同時に弾幕が降ってきた。誰よ、危ないなぁ。

 防いだけどさ。それから犯人を見たらなんか犯人が弾幕を止めた私を見て唖然としてた。

 というかナナシ君だった。何してんの?

 

「……いや、フラン。お前なんで防いでんの? 今の俺が格好良くヤンキー叩きのめしてお前を助けるイベントじゃないの?」

「何言ってんの? 私は最近人里で迷惑してるヤンキーの人達が居るって聞いてお説教しにきただけで何もされてないけど……」

「……マジで?」

「うん」

 

 寧ろヤンキーなんかにやられると思う?

 仮にも吸血鬼よ、私。それに簡単には死なないよ?

 助けも不要だし。あ、でもナナシ君弾幕上手くなってたね。とか思ってたらヤンキーの人達が叫んだ。

 

「テメェどこのシマのモンじゃい!」

「ブォンブォンブォンブォン!! ブロロロ!」

「パラリラパラリラ! パラリラパラリラ!」

「シマって極道か! つか口でバイク音とかの真似すんじゃねぇよ! セルフ音とか悲し過ぎるだろ! いや身体を張ったボケかっ!? だとしてもお笑いにもならねぇからっ!! むしろ本気でそれで相手を威圧出来ると思ってねーよなぁっ!?」

「「「あんコラァ!」」」

「うるっせぇなコラァ!」

 

 なんか気付いたらナナシ君がヤンキー相手に口喧嘩始めてる。

 駄目だよ喧嘩は。というかやるなら説教してよ。ヤンキーの説教。

 

「いや説教ってなんで!? 俺関係無いよねっ!? 確かに弾幕撃ったけどアレはカウントされないだろ!? だってぱっと見明らか事案だったし!」

「「「説教しろコラァ!!」」」

「いやヤンキーのお前らがそれ望むのかよっ!? お前ら本当はヤンキーじゃないだろ! つか刺青ハゲとリーゼントと金髪が説教しろって迫ってくるのなんか怖えよ!」

 

 ズズい! と近付いてくるノリの良いヤンキーにナナシ君が引く。

 でもハァ、と溜息を吐いて説教を始めてくれた。

 

「……あの、一つ聞いていいですか? なんでヤンキー始めたのとか、そのあたり教えてください」

「俺らよぉ! 仕事が疲れたのよ! 全く楽しくもねーこと押し付けやがって! 今時畑仕事なんて……食料自給率四〇〇%の幻想郷で畑仕事なんてやっても儲からねーと言っても親父は話を聞きやしねぇ! 商人になろうとしても邪魔されるしよぉ! クソが、思い出すだけでも腹が立つぜ!」

「……それで、ヤンキーに?」

「おうとも!」

「…………こう言っちゃなんだけど、バカ?」

「あんコラァ! テメェ下手に出てりゃあ舐めたこと言いやがってこのクソガキ!」

「落ち着けよ兄ちゃん。ガキ相手にキレんなみっともねー」

 

 ふぅん、意外に度胸あるのね。全然恐怖をおくびにも出さずナナシ君が口を開いた。

 瞬間。

 

「とりあえず言わせてもらうとだぁ! 親に自分の進路を認められなかったからヤンキーになった? そんなこと話してアンタ恥ずかしくねーのかよ!」

「ッ!?」

 

 空気が変わった。

 腹の底から叫んだであろう声がビリビリと空間に響く。それからナナシ君は静かに問いかける。

 

「……アンタ商人になるのが夢なのか?」

「……まぁ、な。自分の店をもてりゃ嬉しいとは思うぜ」

「ならなんでそうしない?」

「ハァ? ンなの親父が認めねぇからに……!」

「違ぇよ。本当になりたい夢だってんならなんでそれを目指さないかって聞いてんだ! 認める認められるの話じゃねえ! 本当にやりたい事ってのは誰かに認められることじゃない! 自分から挑んで、進んでいくものじゃねーのか?」

「テメェ何都合の良いこと言ってやがる?」

「都合の良いことじゃねぇ! その気になれば出来る筈なんだよ! お前がもし本気なら、自分から丁稚奉公するなり手段はあった筈だ! 店持ち商人の前で地面に頭を擦り付けて頼む筈だ! それが出来てないってことはアンタの夢は口だけだったってことじゃねーのか!」

 

 そんな感じに説教してた。どうやら熱くなると周りが見えなくなるタイプらしい。でもストレートにザクザク話していくと段々険悪になっていくもので、なんか最終的に殴り合いになりそうになってさ。

 最後にはそのふざけた幻想を、とか言いながらナナシ君も殴りかかってたから「暴力はダメ!」って言って私が止めた。それから二人とも軽く殴ってやると「暴力はダメって言った本人が殴ったよ今!?」とナナシ君に突っ込まれてイラっときたのでもう一度小突いておいた。

 というかナナシ君もナナシ君で失礼だよ。あんなんでも年上なんだから敬ってあげなよ。

 

「もう怒ったんだから! 二人とも正座ね」

「は?」

「正座しなよ。ゴッ倒すよ?」

 

 私がお願いするとブルブル震えながら二人とも正座してくれた。それから私の説教が終わったあとに急に仲良くなってたけどどうしてだろうね?

 ちなみにそれらが終わってから三人とも迷惑行為はやめてくれると誓ってくれた。白蓮さんからも感謝されたよ。

 なんにせよこれで一件落着だね。

 ブッダさんありがとう、アドバイスが役に立ちました!

 

 

 ######

 

 

「こんなの説教じゃない……」

「フランちゃんもやりますねー……でも純真さが消えてきたような」

「……子供は成長するものですから。それに彼女は特に精神的に成長する要素が多過ぎて……」

「というか絶対ブッダのアドバイス無視してるわよね!? 明らかに違う雰囲気よこれ!」

 

 ドン引き、呆れ、ツッコミ。

 いずれにせよ言葉にしづらい感情を抱いた四人だった。

 

 

 

 

 



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三月編4『誘拐、追跡、お姉様』

 

 

 

 三月八日

 

 

 ……なんかお姉様に追跡された。

 人里で気付いたけど尾行ごっこかな。でも私が振り向くたびに木とか店の後ろに隠れたりしてるけど全部見えてるからね? 『目』が丸見えだからね?

 何が楽しくて尾行してるのかは分からないけど変なことをやり出したなぁ……。

 しかも犯罪だし……外の世界なら警察案件よ? 

 まぁ見た目的になぁなぁで済まされるけどさ。お姉さま小ちゃいし。精神年齢がアレだし。

 どうしようかな。

 それとなく咲夜に言って追い払うか、それとも適当に撒くか。

 ……撒くか。

 ついでにちょっとした罰も与えておこう。雀荘に入って瞬間移動で離脱で良いよね。あとは鳩に化けさせた式を作って困ってるお姉様の観察と洒落込もう。

 で、やってみました。

 

 

「フラン……えっ? ここ、雀荘? 確か、麻雀って賭け事のお店よね?」

 

 迷いなく雀荘に入った私をみてお姉様は最初慌ててたよ。

 いつの間にフランが悪い子に……と呟いて、でもともかく連れ出さないと! と雀荘に入ったの。

 

「フラン! 雀荘なんかに――――ってあれ? フラン?」

 

 で、雀荘に怒鳴り込んで私を呼ぶお姉様だけどそこにはもう私は居ないわけで、雀荘で麻雀を打ってたおじさん達に睨まれてオロオロしてた。

 それから「し、失礼したわ。勘違いしたみたい」と取り繕って出て行こうとしたけど……、

 

「待ちなよ。折角来たなら一局どうだい、嬢ちゃん」

「……私、麻雀のルールを存じ上げませんの。ゴメンあそばせ、オジさま?」

 

 意外とスルリと抜けるもんだね。ニッコリ笑顔で切り抜けてた。

 落ち着いたらそんなに緊張することでもないと気付いたのかもしれない。

 それから店を出たお姉様は「……はぁ、見失った」としょんぼり溜息を吐いてた。

 

「……フランの一日が知れると思ったのになぁ」

 

 最近暇だったし、と呟いてからお姉様は切り替えたのか、ん……と伸びをして傘を差す。

 

「……ま、良いわ。暇潰しなら他で出来そうだし」

 

 それからお姉様が向かったのは里外……香霖堂だった。

 そういえば前に聞いた覚えあるなぁ。霖之助さんの店にお姉様がちょくちょく来るって。

 

「いらっしゃい。おや、久しぶりの顔だね?」

「どうも。商売繁盛してるようね」

「妹さんのお陰さまでね。君も変わらないようで何より――さて、今日は何が御入用かい?」

「暇を潰せるものを」

「……暇潰しかい? ならそうだな。テレビゲームなんかどうだい? Wiiってやつを何台か入荷してね」

「どんなものなの?」

「Wiiリモコンっていうコントローラーを使用して遊ぶんだよ。体感型ゲームだから初心者にも分かりやすいと思う。本体と幾つかオススメのソフトを付けて二万五千円でどうだい?」

「買ったわ。はい、お金。釣りは要らないわ」

「毎度あり。まったく、以前からの客だと君くらいのものだよ。まともにお金を払ってくれるのは。霊夢も魔理沙もツケばかりでね」

「ふふっ、私は誇り高い吸血鬼だもの。商品を盗むような真似はしないわ。惚れたかしら?」

「ハハハ、冗談を。君のような高貴な方と僕は釣り合わないよ。とても可愛らしいとは思うけどね」

「……サラッと口説くのね。嫌いじゃないわよそういうの」

「口説いているつもりはないんだけどね。お世辞の範疇さ。気に障ったならすまないね。あいにく性分なもので」

「別に気にしたりしないわ。そういうところも含めて私は結構好きよ、貴方のこと――ねぇ、私自ら買い物に来るのは貴方の店だけって言ったらどう思う?」

「光栄な話だね。だがそれと同時に変な人だと思うよ。僕の店に来る人は皆変な人が多いからね」

「あらツレないのね。ふふ、ともかく今日はこれで失礼するわ。また来るから」

「あぁ、また。歓迎するよ」

 

 

 うん。誰だこいつ。

 こんなのお姉様じゃない! すぐに分かったよ。あれ、これ私化かされた? いやでも違うよね……。

 もしかしてお姉様普段は演技してたりする? 普段はポンコツを演じてるけどその実こんな感じの性格だったの?

 ……うーん分からない。あと、今更だけど霖之助さん色んな人に好かれてるよね。

 

 ともかくお姉様の意外な一面が見れました。

 

 

 ######

 

 

「偽物ですね、間違いない」

「そうね」

「……そうですね」

「黙って聞いてりゃ何よあんたら。私のことなんだと思ってんの?」

「ポンコツ」

「カリスマ(笑)」

「……バシュゴォ」

「よし分かった表でろや!」

 

 直後、爆発と紅魔館の門の被害拡大。

 

 

 ######

 

 

 三月九日

 

 

 三月九日ってタイトルの歌あるよね。

 あーふれーだすーひーかりーのつーぶがー。

 ……まぁそれはともかく、今日は初めての体験をしました。

 どんな体験かというと、それを話す前に私の現状について書いてみようか。

 今私がいるのは鉄格子の中です。両手を後ろ手に縛られて口にはガムテープが貼られています。あ、でも今は日記書いてるから拘束を外してるけどさ。

 いやーまさか誘拐されるとは思ってなかったよ。

 この前何もない空間に捕らわれたことに比べたらなんだかほっこりするよ。というか今もちょっとワクワクしてる。

 後ろからクロロホルムを染み込ませたハンカチを押し当てられた時とかはビックリしたよ。人間なら即死レベルの濃さだったけど二、三分くらい掛かったかな。意識失うまで。

 無抵抗だったのは単に初めての誘拐体験だからつい攫われてみたくなっちゃって……てへ。

 で、気が付いたら暗い地下室っぽい部屋で後ろ手に縛られて、両足も関節を拘束されてました。まぁ拘束は小手先の技で抜かれるくらいの代物だったけどさ。

 あと一応檻には能力を封じる力もあるらしい。まぁ魔法が使えるから何にも意味無いけどさ……そのお陰で日記も取り出せたわけだし。

 さてこれから一体何をされるのかな。

 別に虐められたいとかそういう思いはないけど初めての体験にドキドキワクワクだよ。

 そこらの拷問じゃ痛みも感じないし一体何をしてくれるのか。そもそも何が目的で誘拐したのか。

 とても楽しみだ!

 

 

 ######

 

「誘拐……よね。誘拐って楽しいの?」

「……なんかフランちゃんの感覚がおかしくなってません? スケールの大きな出来事に遭いすぎて」

「……慢心してますね。油断というか、足元をすくわれなければ良いですが」

「私どこでフランの教育を間違えたのかしら……?」

 

 ######

 

 

 三月十日

 

 

 何もされなかった。つまんないの。

 拘束したままご飯だけ出してくれて食べるように命じられた程度。

 軽く怒鳴られたけど怖くないし……うん。

 もしかしてあれかな。紅魔館に交渉とかしてたり?

 フランドール・スカーレットを誘拐した。返して欲しくば〇〇万円を用意しろ、みたいな。

 というか一日中檻の中にいるの怠いし脱出しようと思う。

 素手で曲げられるしね。で、脱出して紅魔館に帰ってきました。

 帰るときに紙を用意して『暇なので帰ります』って書置きしたけど犯人の人達は読んでくれたかなぁ?

 

 

 ######

 

 

「帰っちゃった!?」

「自由気ままですね……というか犯人グループ野放しなんですけど良いんですかそこは……?」

「……なんて発言すれば良いんでしょうか」

「……うーん、この」

 

 何とも言えない微妙な空気になる一同なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三月編5『月の都VSフラン』

 

 

 

 三月十日

 

 

 なんか異世界転移した。

 ここどこだろう。空を見上げると地球が見えるってことは月かな? そういえば前にブッダさんとイエスさんに連れてきてもらったことあるけど……というかなんか戦争の真っ只中なんだけどどうしたんだろう。

 銃器の音がうるさい。バンバンドンドンと打ち合いになってるし、というか私の体も打たれまくってるんだけど。

 吸血鬼に鉛玉は効かないとはいえ痛いからやめてほしい。あとそこ、バケモノめ! とか言わないで。

 とりあえず、なんか原住民がウサ耳だし多分月で間違いないと思う。

 ここに来た原因は多分八雲紫説が濃厚かな。寝ている時に妖力を感じて目を開けたら一瞬、沢山の目玉が見えた気がするし。

 ……でもなんのためだろう。

 とりあえず今は全力で隠形(ハイディング)してるから上手く隠れてるけど……ともかく私がすべきことはそうだね。一匹くらい月のウサギを捕まえて私の空間に捕らえようか。それからその姿に化けて潜入でもしよう。まずは情報を集めないとね。あと帰るために捕まるわけにはいかないし。

 ()()()()()()()()使()()()()せいで面倒なことだよ。

 で、とりあえずウサギは捕まえた。

 けど、

 

「くっ、殺せ! どうせ私の事を犯すつもりだろう! エロ同人みたいに!」

「……犯すって何?」

「……知らない、だと!? 貴様それでも異界の野蛮な民か! 聞く話によれば下界の民は月の民を欲望のままに陵辱するのだろう!? さぁやれ! くっ、なんて非道で鬼畜な奴らなんだ! あぁ、豊姫様、依姫様! 下界の民に乱暴されて欲望のままに貫かれてしまう私をお許しください!」

「いや、乱暴なんてしないよ? なんなら(レーヴァテインで)貫かないと誓うけど」

「嘘を吐くな! お前は異界の野蛮な民なのだろう!? 焦らすな、じゃない! あぁもう私の覚悟は出来た! 触手でも蟲でも持ってこい!」

「そんな生き物持ってないよ!?」

「焦らしプレイならやめてくれ! もう我慢出来ない! あぁ……早く、早くうううう!!」

「ひぃっ!!」

 

 いきなり服を脱いで近寄って来たので丁重に閉じ込めておいた。

 待遇はそうだね、三食お昼寝&デザート付き、労働不要、空間内のみ遊び自由って感じかな。でも外には出さない。怖いよあの人。

 私の方が強いんだけど……なんていうか身の危険を感じる。最後のニタァってした笑みで近づいてきた時、身の毛がよだつ思いだった。

 うぅ……月って怖いところだなぁ。

 

 

 

 ######

 

 

「……月? えっ?」

「あのスキマババァ! フランを月なんかに……! あんな危険な場所に……!?」

「まずいですよ! というか月って霊夢さん達が負けた場所ですよね!? ……でもフランちゃんなら」

「……というか月の人に穢れは無いとか言ってましたけど明らかにこのウサギさん汚れてませんか……?」

 

 

 ######

 

 

 三月十一日

 

 とりあえず化けて侵入しようとしたらバレた。

 なんか穢れとか言われた。どうしようか、これ。そんなに汚いのかな私の体? 空間作ってちゃんとお風呂入ってるのに。

 とりあえず神様モードになれば穢れは無くなるかな?

 で、やってみたら総攻撃を食らいました。なんでや。

 怪我は基本的に直前の出来事を破壊すれば無かったことになるから良いんだけどそろそろお姉様がバシュゴォした依姫さんって人がくるんじゃない?

 物凄い剣の達人とか聞くけど……ついでにありとあらゆる神様を降ろせるって聞いたけど。

 本気でやっても勝てるか分からないんだよね。周りに被害は出したくないから式をばら撒いて殲滅戦とかも出来ないし。

 一対一でも月人って不死だから能力が効くと思えないし。

 いざとなれば何もない世界に逃げ込むけどさ。

 いや、いっそ向こうが来る前にこっちから出向いてみようかな。

 そもそもの話、私と月人が対立する必要は無いしさ。正直に全部八雲紫のせいですって言って帰してもらおうか。

 うん、それが良いね。

 駄目なら弾幕ごっこでも殺し合いでもして認めてもらう他はないか。

 ……それか素戔嗚(スサノオ)さんから働きかけてもらう?

 確か月の神のツクヨミさんって素戔嗚さんのお兄さんだよね。

 そうしてみようか? と思って携帯を出すと、

 

『プルルルル、現在電波の届かないところに』

 

 あ、圏外だ。

 しまったなぁ。テレパシー……も距離があり過ぎて届かないか。そもそも幻想郷内程度ならともかく地球上から位置もわからない相手を見つけ出すのは厳しそう。

 ……じゃあ気付いてもらうとか? 派手に技を出すとか神格全開にするとかすれば気付いてくれるかな?

 でもそれやったら月との全面戦争が起こりかねないよね。

 それこそ大惨事だよ。大惨事大戦だよ。(第三次だけに)

 うーん、ひとまず明日、月の都に行ってみようかな。

 ちなみに捕らえたウサギさんだけど、

 

「あぁ、ん! じ、焦らしプレイだなんて……こんな、こんなぁっ! 汚なき民の癖にぃ……!」

 

 とかやけに色っぽく言いながらクネクネしてた。

 何してるんだろう。もしかして頭の病気? 治療してあげたいけど流石にそんな技術ないしなぁ……。

 

 ######

 

「何が始まるんですか?」

「大惨事大戦だ」

「……何をボケてるんですか、霊夢さん早苗さん」

「全面戦争……? 月と……?」

「……あぁもうレミリアさんはレミリアさんでトラウマ蘇ってるし!」

 

 ツッコミは疲れます、と少し辟易したさとりだった。

 

 ######

 

 

 三月十二日

 

 

 なんやかんや戦ってしまった……。

 依姫さんと豊姫さん。何よあのチート! フェムトファイバーの組紐とかいう限りなく連続した縄とやらで縛ろうとしてくるし。不浄なものを縛るとか、酷くない?

 私そこまで不潔じゃないんだからね! あとなんでも神様降ろすのもずるい! ゲームで例えるなら100ダメージくらいずつ与えていくゲームにいきなり別のゲームキャラが来て10000ダメージ与えるみたいなイメージ?

 こっちも怒ったよ。さすがに。

 二体一とかそれ以前に私何もしてないのに目の敵にしてくるし!

 まぁ私も応戦したけどさ。神格全開にして、月ごと持っていけるレベルの本気のレーヴァテインを極限まで針のように細くして貫いたり、異空間にウサギ達を叩き落として閉じ込めたり。

 まぁ全員ちゃんと無傷で帰したけど……。あんなに怒る事ないじゃん! 話も聞いてくれないなんてあり得ないよ!

 というか今更だけど途中から意識が無いんだよね……。

 丸く収まってることを考えると変なことはしてないと思うけど……。

 ……大丈夫だよね!

 最後は仲良くなってお姉ちゃんみたいに接してくれたし、やたら焦った顔のツクヨミさんも仲裁に入ってくれたから後腐れもないし。

 ウサギたちも解放したし。私も幻想郷に帰してもらえたし。

 ……うん、何も問題無いね!

 

 

 ######

 

 

「そんなわけないでしょ!」

 

 読み終えた瞬間、スキマが開いてひょっこり顔を覗かせた八雲紫が叫んだ。なんというか物凄い胃の痛そうな顔で、シクシク涙を流していた。

 

「……去年は彼女、フランのせいで冬眠出来なくてふとウトウトしてしまった隙に月に落としちゃって、それで気付いたら第三次大戦が始まったとか藍に聞かされて、挙句の果てには全ての黒幕にされたのよ!? 酷くない!? ねぇ酷くない!? しかも笑顔で迫ってきた依姫と豊姫の二人に話を聞いたらいきなりフランが狂気的になって死のイメージを感じたとか言ってたし! 和平に応じた時も『次は殺すよ?』と言ってきてリアリティがあったとか二人とも笑顔で詰め寄ってきたし……あの二人が月から私の元に来る時の私の心労がどれほどなのか分かる!? 軽く精神壊れそうよ!」

「いや、元はと言えば月に落としたアンタのせいじゃない……」

「夢だと思ったのよ! 夢ならあの子に恨みを晴らしてやれるとついやっちゃったの! 出来心だったの!」

「……うわぁ」

「それ言ってる時点で私は貴女の味方したくないんだけど……。妹のことだし」

 

 シクシク泣く紫は味方が居ないと悟ったか暫く愚痴を吐くと消えていった。

 後に残されるなんとも言えない空気の中、とりあえず霊夢が口を開く。

 

「……次のページに行きましょうか。うん」

「「「…………(コクリ)」」」

 

 無言の賛成で一同は次のページをめくったのだった。

 

 



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三月編6『名前の無い彼の受難』

 





 

 

 三月十三日

 

 

 月から帰った翌日。なんか家に永琳さんが来ました。

 どうやら昨日の話を聞きつけてやって来てくれたらしい。ツクヨミさん直々の降臨があったのだとか。

 とはいっても私は私でちょっと疲れててさ、咲夜に休むように言われちゃっててパジャマ姿でベッドの中だったんだけどね。

 あと軽く診察してくれた。

 体内の魔力(マナ)が少し消耗していたらしい。滋養強壮に良い薬を処方してもらって、それからツクヨミさんとの接点について聞かれた。

 ……と言われてもスサノオさん繋がりで、スサノオさんとの接点も偶々会ったからだしなぁ。

 というか体から地上が殲滅可能な猛毒が検出されたり、何千万回単位で相手を殺す呪いがかかってた痕跡が見つかったとか言われたけど、そんな事されてたんかい! 月人怖っ。攻撃が当たるたびに怪我とかを破壊してて良かった、本当に。

 あとこっちからは私が捕まえたウサギさんの話をした。犯すとか言ってたウサギさん。よく分からないからお医者さんに聞こうと思ったのだ。ほら、お医者さんって頭良いって聞くし。

 ……でも教えてくれなかった。むー、子供じゃないのに。

 食い下がろうとしたら珍しくも間が悪いことに笑顔の咲夜が入室してきたし。

 うーん……まだ早いって言われたけどどういう意味なんだろう。

 パチュリーの図書館にも無かったしなぁ。あ、でも小悪魔曰くパチュリーが自分だけで管理する本がある空間もあるって聞いたしそこにあるのかもしれない。

 ……でも禁術の本とかも多そうだなぁ。前までは魔理沙が本を盗りに来てたから危険な本にあたらないようにする為にわざわざ別空間を使ったとも思えるし。

 ……うーん、難しいね。

 

 

 ######

 

 

「知らなくて良いから、えぇ。切実に」

「情操教育も必要ですけど流石にあのウサギさんは問題ですよね……」

「おのれ月人め……やはり彼奴(きゃつ)らは害悪だわ」

「……(というか「エロ同人みたいに!」って言葉が前に出てきましたけど月にもあるんですかね、エロ同人。だとしたら地上とそんなに変わらな……)」

 

 ######

 

 

 三月十四日

 

 

 なんかボロボロのナナシ君が家に来た。

 うん、何があったの? 所々血が出てる、というかピューピュー出てるし、泥まみれなんだけど。

 うちのお風呂入る? 大浴場あるけど。

 そんな具合にお風呂に入れてからお話を聞くことにしました。怪我は回復魔法で完治させたからお風呂に入っても大丈夫なはず。でもちょっと心配なので入れてあげることに。

 

「……いや、すまん。本当に助かる……でも良いのか?」

「大丈夫よ。というかどうしたの? あんなに怪我して」

 

 水着を着た私が、腰にタオル(外れない魔法を掛けた)を付けたナナシ君の体を後ろから洗って上げながら話を聞くとこんな感じだった。

 まず、ナナシ君はとある用事で私のところに行こうとしていたらしい。

 けれど途中で面倒なことに巻き込まれてしまったんだとか。

 

「あっ、お前クラスメイトの……えと、権兵衛!」

「ナナシだよ!! 相変わらず鶏みたいな思考回路してんなチルノ」

 

 まず紅魔館に来る途中チルノちゃんに絡まれたらしい。

 

「何してんの?」

「フランのとこ行くんだよ。お前は?」

「んー、私はねー! 今日は男からお菓子を貰える日って聞いたから奪うとこ!」

「は?」

「ほわいとでー? ってやつ! さぁ弾幕ごっこで負けたらお菓子を全部よこせー!!」

「誰だお前にそんな嘘吹き込んだのは!?」

 

 そんな具合に弾幕ごっこが勃発したらしい。とはいえ初めての経験で氷の弾幕が体を掠めたり、急降下して避ける際にミスをして半身を地面で擦ってしまったり、でもなんとか勝利したんだとか。

 

「……けほっ、勝ったぞ」

「う……うああああ! 負けたあああ! ちくしょう覚えてろー! 次は必ずあたいが勝つんだから!」

 

 そう言い残してチルノちゃんが去ると、ナナシ君はまた紅魔館に向かい始めたらしい。

 で、その途中だったそうだ。

 

「……あらー、お菓子の匂いがするわー?」

「……っ!?」

 

 ゾクリとした、とのちに語る。

 柔らかく響いた声に振り返るとピンクの悪魔が居たらしい。

 で、その西行寺幽々子と名乗る彼女が急に襲い掛かってきたとか。いや、幽々子さん何やってんの?

 で、行動とは裏腹にやたら強い彼女に追い込まれていくナナシ君だけど、負ける寸前にかつて夢見た『極大のレーザー』が頭をよぎり、幽々子さん目掛けてぶっ放すことに成功したらしい。

 

運命殺し(ディスティニックブレイカー)!」

 

 で、黒い魔砲で幽々子さんを貫くことに成功したらしいけど全く倒す事は出来なかったとか。でもその光が元で保護者を名乗る妖忌さんが現れて事なきを得たとか。

 でもってこの時点で魔力はすっからかん。飛ぶだけの力もなく地面を駆けて紅魔館を目指したらしい。

 でもまだもう一人最後の刺客が居たんだとか。

 

「なんだか美味しそうな匂いがするのかー」

「……げっ」

 

 一応人喰い妖怪のルーミアちゃんだ。タイミング悪くルーミアさんは寝ていたらしく、この時のルーミアちゃんはナナシ君が持つお菓子を狙っていたらしい。

 それで弾幕ごっこを挑まれたけど魔力はすっからかん。もう煙も出ないナナシ君は地面を駆けずり回り、弾幕を避けてたらしいけど次第に限界が来て被弾してしまった。

 昨日の雨で地面がぬかるんでいたおかげで湿気が着弾時の爆発を抑えてくれたみたいだけど、それでも並々ならぬダメージを受けてしまう。

 でも立ち上がり最後に搾りカスのような魔力を行使して弾幕を打ち、操って背中から着弾させて地面に落として、鬼の人から聞いた体術で気絶させるに至ったらしい。いや普通に凄いなナナシ君。

 それで、その後なんとか紅魔館に辿り着いたんだって。

 

「……ふぃー。疲れが取れるようだ……」

「それは良かった」

 

 チャポン、と一緒のお湯に浸かると気持ち良さそうに声を上げる。

 ただなんかこっちに視線は向けまいと壁に固定してたけど。

 あと小声で「無自覚なだけ、こいつは無自覚なだけ。勘違いするな、あり得ないから」とか言ってたけどなんのことだろう?

 ま、いっか。

 

 ともかくお風呂から上がって一つ聞きたかったことを聞いてみた。

 

「そういえばなんで私に会いに来たの?」

「いや、なんでってお前な。今日は三月十四日だぞ? ホワイトデーだよ。ほら、前に貰ったからお返し」

「その為にわざわざこんな怪我してまで……?」

「……あぁそうだよ。ほら、受け取ってくれ」

 

 そう言って差し出された包装された小箱を見ると多少皺が出来ていたものの泥は付いてなかった。

 私は受け取ると精一杯の笑顔を向ける。

 

「ありがとっ!」

「……っ!」

 

 一瞬頰を染めたナナシ君はぽりぽりと頰をかいてから言った。

 

「その笑顔が見れたなら、怪我した甲斐もあったかな……」

 

 と。

 

 

 ######

 

 

「きゃー、良いですねー! ナナシ君も順調に強くなってますし、無自覚でお風呂イベント! ラブコメってますねー」

 

 ちょっとハイテンションな早苗とは対外的にレミリアは大真面目な顔でこんなことをのたまった。

 

「……ねぇ、五寸釘と藁人形って魔法の森の人形遣いに聞けば貰えるかしら?」

「やめて差し上げなさい」

「……アリスさんも困ると思いますよ、多分」

 

 

 

 

 



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三月編7『名前のない少年の受難②』

 





 

 

 

 三月十五日

 

 

 昨日は結局ナナシ君を泊めてあげることにした。

 魔力切れのまま帰すのは危ないしね。それにわざわざホワイトデーのお返しの為に来てくれたんだし、おもてなししてあげたかったし。

 ちゃんと咲夜にも許可取ってご飯を作ってさ、それから弾幕ごっこのコツとか、ちょっとした魔法を教えてあげて。

 そのまま二人とも寝ちゃったんだよね。

 で、朝なんだけど……、

 

「(`0言0́)<ヴェアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 早朝。そんなお姉様の悲鳴で目を覚ました。うん、うるさい。

 近所迷惑……にはご近所さんが居ないからならないけど朝から何そんな声出してんの? 睡眠妨害だよ……。

 その時は眠気でウトウトしてたからさ、「うるしゃい……」って言ったきりまた横にあるあったかいものに抱き付いたらお姉様は「ヴェアアアアア!! フランが取られるウウウウ!!」って叫んでビターン! と後ろに倒れてしまった。

 いや、うるさいよ。というかなんで妹の部屋に居るのよお姉様。

 私だってネグリジェ姿だし、起きたてだからちょっとは服装乱れてるんだからね? とはいえまだ眠い私はぼんやり顔で首を傾げる。

 それからお姉様がアワアワ言いながら見つめている先がふと私じゃないことに気付いて横を見ると……、

 

「ご、誤解だ! 違っ、俺は何もしてない! 確かに昨日、俺は床で寝ちまったこいつをベッドの上に運ぶ為に動いた! でも、俺がベッドで寝てたのは俺のせいじゃない! せめて床で寝るかそれとも寝る場所をメイドさんに聞こうか考えてたら突然抱きつかれて、意識がもってかれたんだ! 気絶してたんだから手は出してない! 信じてくださいお姉さん!」

「き、貴様に義姉(おねえ)さんと呼ばれる筋合いはないわこの下郎! 離れなさい! 殺すから!」

「ちょっ、待! やめて! 何取り出してるんですか!? 明らかに危険そうな槍を持ち出さないでください! 待って! 刃先を向けないで!? とりあえずフラン! いい加減起きろ! 抱きつかれたままだと逃げられないから!」

「問答無用! 死ねえっ!!」

「ぎゃあ! 危なっ! あぁもう不幸だーっ!! ちくしょうやるしかねぇ!」

「……ぅ?」

 

 なんかお姉様がグングニルを取り出した瞬間、私はナナシ君に急にお姫様抱っこをされた。

 なんでされたのか分かんなくて一瞬思考が途切れ、頭が覚醒し始める。

 

「……殺す。ク、クク、殺す殺す殺す!! お前は百回殺す!」

「ちくしょう泣きたい! くそ、なんでこうなった!? お姫様抱っこという嬉しいシチュの筈なのに命懸けだと楽しむ余裕も無ぇ!!」

 

 ここでようやく私は目が覚めた。

 抱かれた腕の中で首を傾げてどうしてこうなったのか考えて、理解する。

 私とナナシ君が同じベッドで就寝→朝お姉様がそれを発見→ナナシ君に対してブチ切れ→ナナシ君は逃亡しようとするも私が抱き枕代わりにしていた為にお姫様抱っこに踏み切る→そのまま脱出するとお姉様が追いかけてきた←今ここ。

 

 ……とりあえず状況は理解した。

 あれ、でもなんでベッドのくだりでお姉様は怒ったんだろう。

 ナナシ君は友達なのに。知らない相手じゃないんだから問題無いと思うけど。

 

「……あったかくない」

 

 というかお姫様抱っこで空飛ばれるのちょっと怖いね。冬で寒いというのもあるけど背筋が冷える。なんていうか、体格的にちょっと不安定というかさ。怖くなって落ちないようにギュッとナナシ君の首の後ろに手を回すとお姉様の弾幕が倍増した。

 というかなんかブチィ、という音が聞こえた。

 

「ア、ハハッ! 殺すと言ったけれど人間だから多少は手心を加えていたのに……ねぇ、死ぬ覚悟は出来た? 天罰『スターオブダビデ』!」

「おいいいいい!! 誇り高い吸血鬼が人間相手にマジになんのかよ!?」

「黙れ! 妹が拐われるというのに誇りも矜持もあるか! 絶対にあげないから! というか駆け落ちなんて認めないわ!」

「まだ求婚どころか付き合ってすらないわ! つか確かに逃避行ではあるけどどんな思考回路してたら駆け落ちっつう結論になるんだよ!?」

「フランをお姫様抱っこして逃げている、これだけでそうと取れるわこの屑が!!」

「案外納得出来る理由だった事に愕然だよ! つか本当に何やってんだ俺!」

 

 そんな具合に逃げていた私達なんだけど。

 段々と苛烈になって弾幕ごっこも激しくなってきたのでキリのいいところで二人とも説教しました。

 というか人間必死になるとなんでも出来るもんだね。私を抱えた上でお姉様の弾幕をほぼ避け切るって相当じゃない? まぁレベルとしちゃ精々normalなんだけどさ。昨日のチルノちゃん戦はeasyだって聞いたし男の子は成長が早いね……。

 男子三日会わざれば刮目して見よ、って言葉もあるけどまさにそんな感じだ。

 あとお姉様はお姉様ですぐに怒って弾幕撃つのは大人気ないよ。私のために思ってくれてやったみたいだけどどうしてその結論に至ったのかが分からないし。

 それにまず相手を傷付ける前に話をしなきゃ。私だってこの前月人相手でもまずは話し合いを持ちかけようとしたんだから。

 ……失敗して戦う事になったけど。

 あとナナシ君はナナシ君で突拍子のない行動はしない。女の子をいきなりお姫様抱っこするなんて非常識なんだから! 私は良いけど中には嫌がる子も居るしもう絶対に相手の許可なくやっちゃ駄目だからね!? それに私だって流石にネグリジェ姿で外に出るのは……恥ずかしい……から。

 も、もう! ともかく二人ともこんな事はもうやっちゃ駄目! 次は本気で怒るからね?

 

 

 ######

 

 

「朝チュンに、お姫様抱っこだと?」

「……別に朝チュンはしてませんけどね?」

「シーンは愛の駆け落ちですね〜、きゃー!」

「……別に駆け落ちもしてませんけどね?」

「あいつは絶対に殺してやるわ!」

「……もはや感想ですらないんですけどね!?」

 

 ツッコミ役、さとり。

 彼女はひとしきり突っ込んでから疲れたように息を吐くと次のページをめくるのだった。

 

 ######

 

 

 三月十六日

 

 寺子屋にお弁当を持って行き忘れた。

 なので家庭科室を貸してもらって作りました。お金はあるから昼休みに買い物してさ、それから料理工程を壊して完成した料理。

 ……味は悪くはない。でも手間暇かけたいつもの味にはほど遠い。五分もかからずレシピ知ってればどんな料理でも作れるというのは時短になるけどまだまだメイドとしては未熟だなぁ、と思う。

 そもそも私、体調管理も出来てないからなぁ。今年の間にも何回か体調崩しちゃったし。一流のメイドは全部を完璧にすると聞くから私も早くその領域に立ちたいものだ。

 とりあえず今日はお昼を作ったついでに皆にもちょっとしたカップケーキを作ってみたけどどうだったかな? メイドモードで接すると少し戸惑いつつも概ね喜んでくれてるみたいだったけど……。

 味という意味じゃ最近臨時講師で寺子屋に来てくれてる早苗さんに意見を仰ぎたいな。

 あの人料理上手だもん……それに家庭的な人ですごーく女の子らしいから陰ながら憧れている相手だ。

 私もあれくらい大きくなれればな……。

 

 

 ######

 

 

「あの時のカップケーキ、美味しかったですよ? 強いてアドバイスをすることがあるなら焼く時間と水分の計算ですね。硬さと歯応えって重要で、外はカリッと中はふんわりなのが一番なんですが、フランちゃんのは少し水分が多めだったかなぁ、と。普通に柔らかくて美味しいんですけどね? 微妙な差が重要なんです」

「……大きくなればな、については触れないの?」

「大丈夫です、フランちゃんならきっと大きくなります!」

「……あの、早苗さん。ちなみに私は……?」

「ふ、フランに負けてられないわ! 私はどうなの、風祝?」

「安心してください。レミリアさんもさとりさんもきっと大きくなりますよー。駄目でも奇跡で何とかなります!」

「じゃあ私はどうなの?」

「霊夢さんは私との区別化の意味でそのままの方が良いと思います♪」

「ぶっ飛ばすわよ? あとメタい役割取んな!」

 

 

 

 

 

 

 



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三月編8『幼児化ふらん』

 

 すいません、今日はほぼ執筆時間取れませんでした。
 30分クオリティですがどうぞ。


 


 

 

 

 

 三月十七日

 

 わたしふらんどーる!

 きょうはね! きょうはね! すっごくたのしかったの!

 さくや、ってメイドさんがあそんでくれたの!

 

 

 -追記-

 

 十六夜咲夜です。

 妹様の起床がいつもより遅かったのでモーニングコールを行おうと部屋に行きましたところ、妹様が小さくなられておられました。

 具体的に申し上げますと身長が平均的な五、六歳程度に。知識もかなり失われておられるご様子で、私を拝見なされた妹様が「おねえちゃん、だぁれ?」とお尋ねになられたのでとても驚きました。

 けれど以前にも記憶喪失になられた事もあり、対応に当たらせていただきましたが、恐らく月の件が原因であろうとお嬢様と結論を出し、永遠亭に殴り込……失礼。向かいまして容態を診せましたところ、原因は不明だとのことです。

 周りのウサギを取っ捕ま……失礼。同じように診せ、話を聞いてみたところ同じ答えが返ってきました。

 ともかく一日子供に対する接し方でお遊び兼、観察を行ったところいくつか判明した事を後々の妹様への為、記述しておきます。

 ・言語は見た目通り(人間の五、六歳程度)

 ・狂気は無く、ただ力は健在(お姉ちゃんをされていたお嬢様がアームロックを掛けられ腕が折れました)

 なお、その時のご様子はこのような感じです↓

 

ふらん「わーい! おねえさま! えいっ!」アームロック

 

レミリア「〜〜〜〜っ!!? やめて折れる! カリスマなる吸血鬼の私の腕が折れるから!? それ以上いけな……あ」ゴキッ

 

ふらん「いまの音いい! もっかい!」

 

レミリア「痛……あっ、やめ……ふらんやめっ!!」ゴキッ

 

ふらん「えい! えい!」

 

レミリア「うっ……フラ、ン、うくっ……お願いだから、ひゃう! やめ、……やめなさい!!(フランを叩く)」ボコッ

 

ふらん「っ!!? うわあああああん!! おねえちゃんがなぐったぁ!! う〝わ〝あ〝あ〝あ〝あ〝!!」

 

レミリア「……あ。ご、ごめんね?でもフラン、人の骨を外すのはいけないことなのげふっ!?(泣きながらブンブン振り回すフランの拳がクリーンヒット)。う……ひっぐ、うわあああああん咲夜ああああ!! フランがぶったああああああ!!」

 

 まったく、吸血鬼は最高だz(以下掻き消されている)

 ……失礼、書き間違えました。

 キチンとお二人ともお世話しました後、まだ妹様は元に戻っておられません。知識面を見るとかなり危ういようなのでちゃんと教え込まねば……!

 十六夜咲夜、全身全霊で頑張ります!

 

 

 ######

 

 

「幼女化ってもうなんでもアリじゃない!」

「というか日記乗っ取られてませんかこれ!?」

「……まったく、吸血鬼は最高だz? 何を書くつもりだったのかしら、咲夜は?」

「…………、知らない方が良いと思います」

「というか二人とも泣いてるってもしかして同レベルなの……?」

「ち、違うわよ! 泣いてないわ! 痛み、そう痛みよ! 痛みでうわーっ!! って言っただけなんだから!」

 

「「「(生暖かい笑顔)」」」

「何よその顔は!? さては信じてないわね!?」

 

 

 ######

 

 

 三月十八日

 

 わたしふらん!

 きょうはメイドさんのおしごととおりょうりをしてさくやにほめられた!

 あと、さくやとひとざとにいったの!

 ナナにいさまやさしくてかっこよかった! 

 あとねあとね! おだんごおいしかった!

 

 

 十六夜咲夜です。

 小さくなった妹様ですがどうやら経験は失われず、また頭は良いご様子でした。

 メイドのお仕事をさせてみたところ全てキチンとこなしておりましたし、とても楽しそうになさるのです。また料理なども手際良く作っておられました。

 それと頭が良いと言った点ですが、試しにパチュリー様の蔵書から理論系の魔法書を取り出しお話ししたところ、すぐさまその理論を実証する魔法を生み出し、またその応用を行うなどの面が見られました。

 聞き分けもよく、構ってさしあげるととても楽しそうに笑顔を向けられます。

 お手を握りまして人里に赴いた時にはそれはそれは華やいだ笑顔をお見せくださいました。

 また人里で妹様の御学友で私個人としても多少付き合いのあるナナシさんと出会いましたが、妹様は特に元に戻られた様子はありませんでした。昨今には珍しく芯の通った方で、妹様も気に入られていた方なのでもしやとは思いましたが残念です。

「ナナにいさま!」

 ただ、小さいフランさんも彼をお気に召したようで舌足らずの声で楽しそうにお話になりましたり、スキンシップを取られていました。

 その後甘味屋や、書店なども回りましたが元には戻りませんでした。

 ……なんとかして解決策を見つけねばなりません。

 メイドとしてはこの小さな妹様の頃から色々と仕込みたい思いもありますがやはり元に戻さねば……。

 とはいえ無邪気に笑う小さい妹様の姿を見ていると少し……いえ、なんでもありません。

 

 

 ######

 

「小さくなっても才能は同じ!」

「ポンコツ無しの吸血鬼!」

「「その名は、吸血鬼フランドール!」」

「……何ボケてんですか、霊夢さん早苗さん」

「いや、つい」

「やっぱりコナンですもん。幼児化といえば」

「……言い訳無用です。で……えっとレミリアさん?」

「……またしても。またしても出てくるというの? あの男……! しかも咲夜とも付き合いっていつの間に!? くそ、周りから切り崩していくタイプだというの!? ……許しがたいわ!」

「……いつも通りですね、はい」

 

((あ、諦めた))

 

 呟いたさとりを見てそう思った霊夢と早苗であった。

 

 




 


実は五〇万文字超えてました(ボソッ
(単行本にして約四冊分)


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三月編9『神様跋扈のパーティー』

 

 メリークリスマス。
 今年はクリスマスプレゼントに、5000円持って古本屋に行って30冊くらい本を買ってきました。
 読むのが楽しすぎる……ただ止まらなくなるのが難点ですが。


 


 

 

 

 三月十九日

 

 

 あめちゃんをもらった!

 ひとざとであるいてたら、おじさんがおかしもくれるって!

 それでついていったけどここどこ……?

 くらいよ……こわいよ……。

 

 

 でも、さくやがたすけてくれた!

 ありがとう!

 

 

 十六夜咲夜です。

 申し訳ございません。妹様から数分目を離してしまった間に行方不明になり、妹様を誘拐されてしまいました。

 すぐに犯人グループを発見し、しかるべき制裁を与えた上で妹様を抱え脱出致しましたが、妹様を怖い目に遭わせてしまったことは申し開きようも御座いません。

 二度とこのようなことの起こらないよう常日頃から目を離さないように致します。(こびり付いた血の跡)

 

 

 ######

 

 

「誘拐……ですか。というか血の跡って穏やかじゃないですね!」

「お菓子につられて誘拐……かぁ。その年頃なら目を離しちゃ駄目よね」

「自業自得よ。私の妹に手を出したんだもの」

「……まぁ私もこいしが誘拐されたと聞けば殺しはせずとも精神的に壊しにかかりますし分かりますよ」

「そのあたりはやっぱり人間とは感性が違いますよね。いや、私が外の世界出身だからでしょうか? 警察に逮捕してもらって裁判……が先に頭をよぎります」

 

 

 ######

 

 

 

 三月二十日

 

 

 ……目が覚めたよ。

 ……うん。恥ずかしい、言葉に出来ないくらい恥ずかしい!

 何なのこれ!? お姉様に対してはともかく、気に入った人には抱きついてお姉ちゃん! とか言ってるし……それにナナシ君に対してはナナにいさま! って……しかも頰にキスしたり……。

 きゃあああああ!! 黒歴史だよ! 

 恥ずかしい! 顔真っ赤だよ! うう、明日からどんな顔して会えば良いのぉ……?

 それに誘拐されたり、すっごい迷惑かけてるし!

 全部記憶があるのが恥ずかしくて堪らない!

 外に出れば里の人達から「おや、戻ったのかい?」とか「昨日みたいに抱きついてきても良いんだよ?」とか弄られるし!

 う、うー……! も、もう引きこもりになってやるー!!

 

 

 十六夜咲夜です。

 今日も妹様のお世話をさせていただいておりましたが、ふと気になったことがあり、試してみると妹様が元に戻られました。

 それは何か、と申し上げますと小さくなった妹様には一本、分かりやすい『アホ毛』が生えておられました。それが妙に気になりまして、頭をお撫で致します時に軽くつまみ上げてみましたところ、ボンッ! と音を立てて元の姿に戻られました。

 元に戻った妹様は一瞬、目をパチクリとなされた後に頰を林檎のようにお染めになり、逃げるように紅魔館を出て行かれましたが、やがて半泣きで帰って来られるとそれっきり部屋に引きこもられました。

 以前のように元に戻る際に記憶が無くなるのでは、と危惧して書いておりましたがどうやら記憶は残っておられるご様子ですので私が日記に書き込むのもここまでと致しましょう。

 ……もうすぐ日記も一年、これからも頑張って下さいませ。

 

 

 ######

 

 

「あ、戻った」

「頰にキスなんて書いてなかったわよ! あの男、グングニルを受けるだけじゃ足りなかったようね!」

「……レミリアさんのその対応がもう一種のネタに見えてきました」

「はぁ? ネタなわけあるかーっ! 私達は誇り高き血筋なのよ? その妹を一般の、しかも人間なんぞの木っ端男にくれてやるものか!」

「……前に博麗神社にきた時聞いたけど、確かあいつ神社の血筋とか言ってたわよ? 日枝神社(ひえだじんじゃ)っていう。確か名無しの権兵衛の由来もそこって説あったわよね? あと人里に稗田(ひえだ)って名家があるけど、これってただの偶然――」

「シャラップよ霊夢! それ以上何か言えば私のカリスマパンチが火を噴くわ!」

「理不尽過ぎやしませんかそれ……」

 

 ######

 

 

 三月二十一日

 

 

 ……私、引きこもります。恥ずかしくて外なんか出れないもん。

 断固として引きこもるから。

 絶対だから!

 

「フラーン! 遊びに来たよー!」

「チルノちゃん、叫ぶのは失礼だよ! あ、これつまらないものですがどうぞ、レミリアさん」

「つまらない? ふっ、つまらないものなど受け取らないわ!」

「はうわっ!? え、いらないんですか? 人里のお菓子職人が作った新作のパフェなのに?」

「前言撤回。貰うわ、寄越しなさい」

「私も来たのかー!」

「お邪魔しまーす」

「邪魔するなら帰りなさい! パフェ以外要らないわ!」

「横暴すぎるよお姉様!? 皆どうぞ上がって! あとお姉様は下がって!」

 

 うん、無理だよ。

 こんなの、黙って聞いてられないよ。

 引きこもりライフ、一日で終了。

 ……意志薄弱、うぅ。お姉様が悪い!

 このあと頑張って接待しつつ遊びました。

 

 

 ######

 

 

「放置出来ませんよね……なんか。ある意味レミリアさんの功績ですが」

「引きこもり脱却させるって意味じゃレミリアも役に立つじゃない」

「ふふん、もっと褒め称えるが良いわ!」

「……レミリアさんレミリアさん。褒められてませんよ?」

 

 

 ######

 

 

 三月二十二日

 

 

 隕石が降ってきた。

 いや、ビックリしたよ。

 ふと窓の外を見たら巨大な火球が幻想郷に落ちてきてるんだもん。衝撃波も凄かったよ。紫さんがスキマで受け止めてこれだから普通に落ちてたらどれだけの災害になってたことか。

 あと幻想郷って外の世界と隔絶されてるのに隕石なんて降るんだね。

 いやでも前にお姉様達が月に行ったって話だし私も行ってるから宇宙はあるんだろうけどさ。

 ……でも宇宙かぁ。魔法使いとしては宇宙って夢だよね。

 月に行った時に地球を見たけど幻想的だったなぁ。それに星々がキラキラ輝いていてさ、月にいた時に荒んでいた私の心を潤す唯一の清涼剤だったよ。

 ちなみに隕石は妖怪の山のはずれに落ちたみたい。危険性がないか霊夢さんが確認してた。

 私も大図書館に持ち帰って分析をしてみたけど……多分石鉄隕石かな。放射線を放ってるみたいでガードしないと危険かも。

 それを伝えると霊夢さんが隕石に掛けてた結界を強固にしてた。

 パチュリーが欲しがったから一部、キチンと保管することを約束して譲り受けたけど……隕石かぁ。

 私の一部貰ったしちょっと調べてみよっと。

 

 

 ######

 

 

「あー、ありましたね隕石。神奈子様と諏訪子様も落ちる衝撃を和らげるために動かれていました」

「まったく、いい迷惑よね。まともに落ちてたらどんな大災害になっていたか……」

「……地帯が揺れたので驚いたのは覚えてますけど、地震じゃなくて隕石だったのですか」

「あのあとパチュリーが大図書館に篭ってずっと魔法の開発してたわ。途中から白黒魔法使いと人形遣いも混じってね」

「魔理沙とアリスとパチュリー、か。やっぱり魔法使いってのは珍しい素材を見つけたら気になるものなのかしら?」

 

 

 ######

 

 

 三月二十三日

 

 

 隕石を調べてみました。

 で、試しにサイコメトリー(物質の記憶を読み取る)をしてみたらどの位置からきた隕石か、またいつ出来た隕石か判明したよ。

 この隕石が出来たのは四五億年前、太陽系が出来た初期のものだ。それで位置としては珍しいことに太陽系のほぼ全ての惑星を掠めるようにしてぐるりと回って、地球に落ちてきたみたい。

 だからか知らないけど私の知らない魔力でも霊力でも妖力でもない力がある気がする。知らない力が感知出来るんだ。

 仮に『メテオパワー』と名付けよう。これは大発見かもしれない!

 まぁどんな効果があってどうすればその力が行使できるかはとんと分からないけどね。

 その辺りは専門家のパチュリーに任せよう。いや、まぁ私も専門家ではあるけど魔法はあくまで趣味だからさ。

 

 

 ######

 

「大発見じゃないか!」

「新たなパワーですか。またインフレの予感しかしませんね」

「一時期、異様にパチェが興奮してたのはこういうわけか……」

「……というかサラッと出てくる内容がとんでもないですよね、フランさん」

 

 

 ######

 

 

 三月二十四日

 

 

 今日は皆でパーティをした。

 ドレスを着てお客様を招いて、むむむ……慣れないなぁ。

 知り合いも多いけどさ。

「ようこそお越し下さいました。当主の妹のフランドールですわ」

 何が慣れないかって口調が慣れないよね。

 あと普段からメイドしたり、ごく普通にしてたりとこういうお嬢様口調になれない。

 ですの、とか? くださいまし、とか? よく分からないんだよね。お姉様は初対面に対する外面だけは基本良いから問題無いんだろうけどさ。

「ようこそお越し下さった。なに、そう怯えることはない。おっと自己紹介が遅れましたわ。私はこの屋敷の当主にしてツェペシュの末裔の吸血鬼、レミリア・スカーレット。本日は宴の席ゆえ、ごゆるりとお楽しみ下さいますよう」

 うん、誰だ。お姉様じゃないだろ。だって私の知ってるお姉様はそんなにマトモじゃないもん。

 あ、ちなみにお客さんは幻想郷の有識人を呼んだみたい。あと個人的に私のお客様も多かったなぁ。

 

「あ、お久しぶりですフランさん」

「こんばんわ。今日はご招待ありがとうございます」

「お久しぶりです、ブッダさんイエスさん! こちらこそご足労頂きありがとうございます! ……で、そちらの顔を隠そうとしているイケメンな方は?」

「あ、アナンダと申します!」

「彼は僕の弟子で、偶々暇が出来ていたようなので連れて来たんですよ」

「ブッダさんのお弟子ですか……ようこそ♪ 歓迎致します!」

 

「フランちゃーん! 来たわよー!」

「あ、神綺さん! こんばんわ、わざわざありがとうございます!」

「私達も来ましたよ!」

「ご招待ありがとね?」

「どんな料理か楽しみだわー」

「それにエリスさん、イザナミさん、フレイヤさんも! 腕をふるって作ったので是非楽しんでいって下さいね!」

 

「来たぞ嬢ちゃん! 料理はどこだ!」

「あ、素戔嗚さん! お久しぶりです、料理はあちらですよ?」

「全く、落ち着きを持ちなさい素戔嗚」

「兄者!? どうして?」

「私も招待されたんですよ。全く、小さい頃は泣き虫スサノオと呼ばれていたのに……」

「おいおい昔の話はなしだぜ兄者」

「そちらは……月夜見(ツクヨミ)さんですか? あの、月の一件は本当にご迷惑をお掛けしました」

「えぇ、その節ではどうも。なんて、ははは。気にしないでください。もしお気に触るのでしたら今日の料理をよろしくお願いしますね?」

「はい、気合い入れて作りましたので是非召し上がって下さい!」

 

 

「……節分以来だな。にしても随分神が多い……、俺が居づらい空間にわざわざ呼び出すとは流石悪魔だなお前」

「それは褒め言葉ですかルシファーさん……? 本当に居づらいなら別室をご用意しますけど……」

「あぁ気にすんな……余計気疲れするから」

「と、ともかく楽しんでいって下さいね?」

 

 結構皆来てくれた。

 ただどうにも、来たのはそれだけじゃないみたいだったんだ。

 裏路地の方とかに見知らぬ四人組が居るし。

 ……全力で感知してようやく薄っすら気付けるって相当凄腕だよね。

 ……さて、危険な人だといけないので話しかけに行ったんだけど。

 

「イエス様が悪魔の根城に来るとは……、我々が気合を入れなければなりませんね」

「あの並べられた料理の数々。どれに毒が入っているか……」

「もぐ……味は美味い。だが……もぐ、油断は……もぐ」

「ウリエルぅっ!? いつの間に食べ始めてるの!? というか話してる内容とは裏腹に見たことない満足顔だよ君ィ!」

「どの料理も繊細な味で、もぐ……、祝福されている」

「ミカエルも!? いや二人とも四大天使としての自覚はあるんですか!? っつか祝福されてるっておかしいでしょ!! 悪魔の作った料理ですよ!?」

「あの……」

「「「「!?」」」」

「イエスさんのお知り合いですか? でしたらこんな端ではなくお近くに行かれるのをオススメしますけどっ!?」

「出たな悪魔」

「ウリエルううううっ!? 君何いきなり剣で切り掛かってるのさ! 悪魔とはいえ普通に話しかけて来たのに!?」

「甘言だ。惑わされるな」

「いや目の前で血塗れになってるんだけど!? 回復してるみたいだけど思いっきり切れてるけどっ!?」

「……けほっ……あの、気に障ることをしたならごめんなさい。切り掛かってくるってことは何か不手際があったんですよね?」

「「「喋ったああああッ!!? しかも明らかにこっちが悪いのに相手が謝ってきてるううう!?」」」

「チッ、死なないか」

「いやウリエル! ちょっとストップ! それ以上やったらこっちが悪者になるから!」

 

 話してみたけどなんだろ。悪い人ではない……のかな?

 いやでも切り掛かって来たしなぁ……。一応、お客様の可能性があったから甘んじて受けたけど、超痛い。なんか浄化されてる感ある。うう……涙が溢れるくらい痛い。

 

「ああ泣いてるし! 待ってください! これじゃあ私達、いたいけな女の子に切り掛かって謝罪を要求したクズじゃないですか!」

「堕天する! 冗談じゃなく堕天しますよこんなの!」

「なに、悪魔退治だ。気にすることじゃない」

「「「偶には空気を読めウリエルううう!!」」」

 

 ともかく四人組の皆さんはイエスさんの元に案内しました。

 なんだろう、痛みが取れない。涙が出てくる。

 ちなみに四人ともイエスさんに怒られてた。気にしないでくださいって言ったら凄い感激された。

 ……とりあえず丸く収まったから良かった、のかな?

 他の人達も皆楽しんでくれたみたいだし。

 うん、終わり良ければ全て良しだよね!

 

 

 ……ちなみにお姉様が何故か途中からカタカタ震えながら対応してたのは内緒。

 

 

 ######

 

 

「こ、怖かったんですよね? 悪魔ですもんね?」

「うう、何よ……この、有識者パーティー! どんな連中が来てんのよ! だって明らかに多くが私より上位の存在だったのよ!? そ、そんなの頑張っても怖いに決まってるじゃない!」

「が、頑張ったのよね? レミリア」

「……そ、そうですよ! レミリアさんは頑張りました!」

「う……うー……」

 

 全員に慰められるレミリアだった。

 

 

 ######

 

 

 三月二十五日

 

 

 パーティーの翌日。

 まだ斬られた傷がズキズキ痛む。治ってるのになぁ……。

 聖なる攻撃だったのだろうか。自然回復を待つかぁ。

 と、そっちはともかくだよ。今日、外を歩いてたらナナシ君を見かけたんだ。

 

「ハァッ……ハァッ……!」

「もっと早く走りなさい。後ろからリグルの蟲が迫ってくるわよぉ?」

「ごめん、ごめんねナナシ! 私も逆らえなふぎゃ!」

「さぁ蟲達! 行きなさい」

「うっぎゃーっ!! 幽香さんそりゃ無いですって! 死ぬ! 死ぬううう!!」

「強くなりたいんでしょ? ならやりなさいな」

「限度があるわっ!! ゲホッ……足を止めたらdead end(デッドエンド)とか修行じゃねーから! もっと、こう! 優しくしてくれえええっっ!!」

 

 どうやら修行してるみたい。急に強くなったと思ってたらこういうわけか。でも私も師匠なんだからもっと頼って欲しい!

 ちょっとムッとした私はもうちょっと修行を辛くする為に式神を作って追尾するよう命令しました。

 

「ってうわっ! なんかきた!? なんかきたーっ!? ってこれ、フランの……? ってフランさん、なんでお怒りなんですのん? ちょっ、やめて! 無表情で式神放たないで! 俺何かしたーっ!!?」

「ばか!」

「分かんねえええ! 舌出して可愛らしく罵られても不機嫌な理由が何一つ分っかんねえええ!! あぁもう嫌だ! 暖かい家に帰りてぇなぁ!!」

 

 なんか逆ギレしながら全力疾走のナナシ君は消えていった。

 幽香さんが挨拶代わりに私にウィンクしてきたので会釈する。

 まったくもう、戦いが知りたいって言ってきたのはナナシ君の方なんだから私に聞いてよね!

 ちょっとお怒りなのです! ぷんぷん( ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

 

 ######

 

「良いぞもっと(蟲を)やれ!」

「命懸けの修行……平和な時代に、時代錯誤も良いとこですね」

「案外そうでもないわよ、早苗。博麗の巫女も先代までは弾幕ごっこじゃなくて妖怪退治だったし私も時には妖怪を殺すこともあるわ」

「……易者ですね?」

「易者だわね」

「易者ですね」

「あぁもうなんでこうノリが良いのよあんたら……」

 

 ######

 

 

 三月二十六日

 

 

 最近、寺子屋に行くたびにお菓子作ってる気がする(書いてないけど)。

 ちなみに今日はプリンアラモードを作りました。クラスメイトに振る舞うと反応も上々だ。

 ちなみに今日の授業は忍びについてだった。

 例えば手裏剣。手裏剣にも種類があって、そのうち棒手裏剣ってのがあるんだけど、高い技術を要求される代わりにそれをよく忍びは使っていた、だとか()(びし)はよく鉄製のものが頭に浮かぶけど実際は高いので多用できず、菱の実を乾燥させて作るものが多かった、だとか習った。

 あと忍び刀とか烏の子(煙幕玉)とか鉤縄(かぎなわ)とか苦無(くない)とかも実物を使って見せてくれた。

 そのあとで誰か着てみないか? と言われたのでやってみたよ!

 忍び装束に着替えて忍び刀を帯刀し服の内側に諸々のアイテムを入れる。

 そのあと用意された的目掛けて苦無を投げたり忍び刀で切りつけたり、手裏剣を放ったり。

 本物の忍びみたいって皆に言われた。ちょっと嬉しい。

 あと慧音先生が、

「他にも、忍びは対象に見つかりそうになった時にネズミや猫の鳴き真似をして搔い潜ったという文献もある」

 とか言ってたのでそれもやってみた。折角だし魔法で猫耳と尻尾、口を開いた時にチラリと見える犬歯を生やして。

 

「にゃあ! にゃあにゃあ! どおどお?」

「お、おう……可愛いと思うけど?」

「にゃ、にゃー!」

「引っ掻くな引っ掻くな! 恥ずかしいのは俺も同じだ馬鹿!」

 

 まったく、ナナシ君はデリカシーが足りないよね。

 それに勘違いしないでほしい。私が聞いてるのは猫の真似出来てるか聞いてるだけで可愛いかは聞いてないんだから!

 もう、ナナシ君のせいで恥ずかしい目に遭ったよ……。

 

 

 ######

 

 

「きゃー良いですねー! ラブコメってます! 紅茶が甘い!」

「……ギリギリギリギリ」

「……レミリアさん、歯軋(はぎし)りしてたら歯が傷みますよ」

「猫の物真似……にゃ、にゃあ! なんちゃって」

「うわきっつ」

「早苗、表に出なさい今すぐに!!」

 

 

 




 






 完結も近いですね。
 次作をどうしようか……。

 


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三月編10『妖怪の山の宴会』

 


 


 

 

 

 三月二十七日

 

 

 妖怪の山に赴いた。

 宴会をするからって、諏訪子ちゃんに誘われたんだ。

 で、山に行くと妖怪の山に住む妖怪達が沢山集まってた。

 中でも天魔って人の周りに一杯。気の良いお爺ちゃん天狗で見知らぬ妖怪の私にも良くしてくれた。

「おうおう、めんこいのぅ! これお主ら気をきかんか。こちらのお嬢さんにもお酒をお持ちせい! 儂の醸造庫にある良い酒をな!」

 他の子供天狗達と一緒に膝の上に座らせてくれてさ。サラッと一緒に座ってる諏訪子ちゃんと一緒にお酒を酌み交わしたよ。

 やっぱり二人とも長生きしてるだけあってとても経験豊富なようだった。

 それで二人から昔話を聞いたよ。諏訪大戦とか、天狗の早駆けとか。

「ガハハ気分がええわい! おいそこの大天狗、酒樽を持ってこい! 儂が真の一気飲みっちゅうもんをみせちゃる!」

 途中、天魔さんが酒樽のお酒を丸々一気飲みしたりしてた。凄かったなぁ……。お酒が美味しかったからかテンションが上がってたからか、私もやります! と言ったら凄い周りに止められたけどね。

 

「あー? わりゃしに出来ないってかぁ……? うー、やってやりゅ!」

 

 ジト目で睨みつけてから呑んでやりましたよ。ゴク、ゴク……ゴク、ゴク……おえぇ……。

 でも途中から限界がきて、仕方なく異空間に繋げて残りを飲み干した。拍手もらえたけどお腹の中がタプタプだし、意識が朦朧としてたと思う。

「ほりゃ! 飲めたもん! 馬鹿にしたら怒りゅんだかりゃ……」

「アハハ、フランも大分酔ってんねー……っとと、私もそうとぉ……酔ってるみたい……。視界がクラクラする……」

「あやややや!? お二人とも飲みすぎないで下さいね!? 片付けとか私に任されるんですから!」

「あー? 文さーん、が七人?」

「もう既に幻覚症状見えてらっしゃる!?」

 

 やたら突っ込まれた覚えがある。でも正直うるさかった。頭に響くからやめてほしい。

 

「おい諏訪子、アンタも飲み過ぎたら早苗にどやされるよ?」

「えへへー、神奈子ぉ! はれ? 神奈子がおばさんに見える?」

「誰がおばさんだコラァ!! 酒の席でも許さないわよ!」

「きゃー♪ おばさんこわーい! きゃはは! フランちゃん、あのおばさんこわーい!」

「んー? 諏訪子ちゃんを怖がりゃせるなりゃわらしが相手らぁ!」

「……呂律が回ってないなこりゃあ」

 

 諏訪子ちゃんを抱き締めて、親の仇でも見るような目で宣言すると神奈子さんは呆れた顔をしていたような気がする。曖昧だけど。

 天魔さんも孫を見るような目で私達を見ててお酒で真っ赤に染まった顔でニコニコしてた。

 で、そんな宴の席も終わって帰り道。

 

「じゃー、また今度ー♪」

「おいおい大丈夫かい? 何なら泊まっていったらどうだい?」

「明日朝ごはん作るかりゃー! 大丈夫!」

 

 神奈子さんが泊まっていかないか、って聞いてくれたけど私は帰ることにしたんだよね、確か。

 酔っ払ってたけど帰るくらいなら大丈夫そうだったし。周りの天狗の人達が「幼女が酔っ払ってる姿ってどうしてこう犯罪的なんだろう」って話をしていたのが気になるけどそれはともかく、半分既に夢うつつの私はじゃあこうしよう、と考えを変える事が出来なかったみたいだ。

 で、人里までふらふらしながら帰ってきてその頃には夜の寒さでちょっと酔いが冷めてきたんだよ。でも体はあったかくてぽわぽわーってしてた。半分寝たのは継続でね。

 で、そうして歩いてたら見知った背中を見つけたんだ。

 最後にその人に後ろから抱きついたところで、

 

「っ!? 誰だ……ってフラン? おま、酒臭っ! っておい、しっかり――――」

「えへへー、……zz」

 

 酔いでクラっときたのかそれ以降の記憶が無い。

 紅魔館にいるってことは多分自分の足で帰ってきたんだと思うけど……うん。

 ともかくそんな一日でした。

 

 #####

 

 

「これってやっぱり……?」

「……それ以上何も言うことはないわ。ヤツには、送り届けてくれたことには感謝してあげる。でもそれ以上はなにもないわ」

「ほぉほぉ、酔ったフランちゃんが安心して抱き付いて寝ちゃうくらいには好感度が上がってると」

「……まぁ、そういう見方もできますよね」

「」

「レミリア、何も言うなと言ったそばから破られたのがショックなのは分かるけど戻ってきなさい?」

 

 #####

 

 

 三月二十八日

 

 

 朝起きるとお姉様が不機嫌だった。

 こういう時のお姉様は下手に触れるべからず。放置するに限る。お昼の後にちょっと気合い入れてお菓子を出してあげれば大抵機嫌良くなるし、その辺りはメイド達の暗黙の了解だ。

 だから例えお姉様が何かを期待した目でこっちをチラチラと見てきても反応しちゃいけない。放置、徹底的に放置だ。

 咲夜にも対応させちゃ駄目。前に癇癪起こして咲夜をクビにしようとしたことあるみたいだし。

 と、そんなお姉様はともかくだよ。

 ようやく崩壊した紅魔館のガーデニングスペースが完全復活しました!

 いやぁ、長かったね。土を開墾することから始めて、片っ端から埋まってる紅魔館の残骸を取り除いて、そしてまた耕す。

 良質な土まで戻すのが大変な作業だったよ。

 で、そのあとは花屋で集めた種や、幽香さんからもらった種を蒔いて、霧の湖から水を汲んできて栄養満点の水を撒く。

 その作業の間に湖に住んでる、わかさぎ姫って人とも仲良くなった。というか一時期湖の表面が凍ってさ、その時に凍り付いて動けなくなったわかさぎ姫さんを助けたのがキッカケなんだけど。

 

「前日に…….紅白の巫女に釣られてご飯にされかけて……特大寿司よ! って叫ばれて私怖くって……それで潜ったまま一日を過ごしたらこんなことに……」

 

 なんか不幸体質なのかもしれない。

 まぁそんなわかさぎ姫さんとのお話も含めて、ようやく。

 ようやくだよ! 完成した時にはめーりんと喜びを分かち合った。

 やりましたね! やったね! ってそれぞれ言い合ってさ。

 ともかくこれで春にはまた花々が咲き乱れてくれるはずだ。

 

 

 #####

 

 

「花火の件からようやくかぁ、感慨深いですね」

「というかなんでレミリアは不機嫌だったのよ?」

「……多分、昨日フランさんを家まで送った方が原因かと」

「あっ(察し)」

「あぁもうレミリア・スカーレットが命じる、その話はやめなさい!」

 

 ちょっと琴線に触れたのか不機嫌なレミリアなのだった。

 

 

 

 

 



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三月編END『ありふれた日常』

 

 

 

 三月二十九日

 

 

 この日記を書き始めてからあと少しで一年だ。

 我ながらよく毎日書けてるもんだと思うよ。途中で飽きて放置なんて可能性も書き始めの頃は想定してたしね。まぁ一ヶ月くらい書いた頃には段々習慣付いて毎日書く事が苦じゃ無くなったし、むしろ毎日書くのが楽しくなったんだけどさ。

 で、それはともかく。

 もう少しで日記を書き始めてから一年じゃない? だから私のこの日記を読み返してみたんだけど意外に読むのに時間かかるね、これ。

 ……いや、まぁ何もない世界で読んだけどさ。思考加速で速読して。何度も何度も。でもなんかあの世界での記憶は私の中でも嫌なカテゴリーに配置されるみたいで、ちょっとずつ忘れてるから自分で書いた文字だけど意外と楽しめたよ。

 所々表現下手だなぁ、とか思ったりするところもあるけどね。

 と、今日の事だった。

 今日は一日何もなかった。起きて咲夜と朝ご飯を作って、それからめーりんと修行。組手も大分勝てるようになってきたよ。メイド技術もかなり身に付いてきたと思う。

 メイド服も着慣れてきたしね……あとめーりんとの修行の過程で猫耳メイド服も。描写してないけど毎回付けてるんだよ、あれ。お陰で体が重いし力も出ない。その上神格も封じてるからどんだけ封印してるんだよって話だよ。

 でもそれでもたったの一年でめーりんと単純な組手なら互角レベルまで成長出来たと思えばどれだけ効果あるんだよっ! って感想しか出ないね。

 体力も付いたし、今ならお姉様相手でも勝てると思う。

 お姉様が勝てなかった月の人とも互角にやりあえたしね! 今度はお互いフィールドを気にしなくて良い場所で戦いたいものだ……あ、そうだ、今度龍神ちゃんに頼んで何もない世界に連れてきてもらおっと。

 と、そんな予定も立てつつな日だったよ。

 午後からは久しぶりにパソコンを弄ったかな。皆でボス戦をやったよ。ぐーやさん、☆サナ☆さん、天使さん、もこうさん。皆リア友でもある。輝夜さんに早苗さん天子さんに妹紅さんだ。輝夜さんと妹紅さんはネット内でもお互い喧嘩腰で好きあらばお互いをPK(プレイヤーキル)(プレイヤーを殺す事)しようとするけど。

 そんなくらいかな。あとはLINEしたり。ツイッターとかも始めたけどまだ良くわかんないんだよね。あんまり呟いてないのにフォローばかり増えててなんか申し訳ない。ツイートしても書店で販売してる弾幕ごっこの本の宣伝とかだしね……。あ、でも偶に弾幕の実演動画を撮って載せたりもする。勿論姿は映さないけどね。

 『フラン先生の弾幕ごっこLesson1-弾幕を撃ってみよう-』。

 うん、意外に反響ある。「声可愛い」とか書かれてるのが地味に嬉しい。まぁそんな感じだ。

 

 あとは日向ぼっこしたくらいかな。今日やったのは。

 吸血鬼の弱点である太陽だけど、ちゃんと魔法でガードしておけば日向ぼっこも可能なのだ。ハンドクリームも塗ってるし。気温もまだ少し肌寒いけどそれでも大分マシになったしね。

 紅魔館の屋根で大の字に寝転がって目を瞑るとサーっ、という風が当たって気持ち良いんだ。

 そんな感じの一日でした!

 

 

 #####

 

 

「今更ですけど何もない日が珍しいって凄いですよね、フランちゃん。普通ならもっと何もない日が多いのに。むしろ何もないのが日常なのに」

「いや風祝、思い出なんて案外思い返してみると何かあるものよ。何をしたとか、何を食べたとか」

「えーと、私は昨日朝起きて白湯を飲んで、それから掃除して、魔理沙が来てお話しして、お昼にご飯とお味噌汁を飲んで、午後はお茶して針妙丸に米粒(エサ)をやって、お茶して、終わりね。大体一年の半分はこんな感じかしら」

「……霊夢さん、朝食と夕ご飯は?」

「…………」

「「「…………」」」

「……あの、今度守矢神社に来ませんか? ある程度なら融通しますから」

「……本気でヤバイ時は頼むわ。博麗の巫女が飢え死にとか笑い話にもならないし」

「れ、霊夢! 紅魔館でも良いわよ?」

「……勿論、地霊殿も歓迎します」

「ありがと。もしそんな時があったらよろしくね?」

 

 

 #####

 

 

 三月三十日

 

 

 今日は久々に香霖堂に顔を出してみた。

 デバイス販売も一息ついて、霖之助さんが店番してたよ。

「やぁフラン。久しぶりだね」

「久しぶりですね、フラン?」

「お久しぶりです霖之助さん、リアラさん」

 二人に挨拶してから私が居ない間の近況について聞いてみた。

 とりあえずデバイス事業はこれ以上ないほど順調らしい。売上も上々で、付属品として販売した機器も売れてるんだとか。

 そこから発展して『初めて魔道書-霧雨魔理沙著』とかそれのアリスさんバージョンとかパチュリーバージョンも販売して利益が上がってるみたい。

 それと香霖堂セレクション、と銘打った『魔法の箒シリーズ』と私達をモチーフにしたキャラクター魔法グッズの入ったお菓子と。

 いくつか失敗もあるけどトータルで見れば超黒字らしい。

 最近だと忙しかった仕事もある程度片付いてきてかなり悠々自適な生活を送れているみたいだ。霖之助さん、意外と一人だと私生活がざっくばらんでテキトーなんだけどリアラさんがキッチリ財布の紐を縛って家事をして三食規則正しい生活を送らせているらしい。

「居候させて貰ってますから、これくらいは」と本人が言ってたけど普通に奥さんみたいだよ。仲も悪くないし、きゃー!

 良いなぁ、大人な恋愛憧れちゃうなぁ。

 私もいつかこういう人が出来れば良いなぁ。

 

 ……今はまだパッと浮かぶ相手は居ないけどね。

 ほんのちょっぴり気になる相手はいるけど、その気持ちが本物か分からないから内緒なのです!

 間違ってたら恥ずかしいもん!

 

 

 #####

 

 

「ほう、気になる相手……誰でしょうねー? さっぱり分からないですねー?」

「ほんとーねー。誰かしら、さっぱり分からないわー」

「……棒読みにも程がありますよ霊夢さん早苗さん」

「……チッ、何となく予想は付いてるけど答えを確かめる術が無い以上半殺しには出来ないわね」

「……で、こっちはこっちで物騒ですね!? 半殺しとか簡単に言わないで下さい!」

 

 #####

 

 

 三月三十一日

 

 

 今日はめーりんが身体測定をしてくれた。

 一年でどれだけ成長したのか見てくれるのだ。

 結果だけどさ。

 身長は伸びてた。しかも去年と比べて二センチも!

 バストサイズも……一個上がった。やった! まぁ元がAAA……いや、やめよう。これも立派な成長だ。これから私は数百、数千年かけてナイスバディになるんだから!

 ……で、一つ問題があります。体重が増えてました。ほんの少し。

 

「なんで!? ダイエットの為にあれだけ運動したのに!?」

「多分ですけど脂肪が燃焼して筋肉になったのでは? もしくはバストが増えた分か、身長の分か。大丈夫です妹様、十分痩せてる数字ですから!」

「でも体重減ってないじゃん! うう、ううう!」

 

 悲しい。ちょっとくらい減ってたって良いじゃん!

 なんで増えるのよ……不条理だよこんなの!

 まぁまぁって慰められたけど……悲しい。

 怒りのあまり全力疾走して人里に行ってやけ食いした。

 ……お団子を五本食べたところで咲夜に止められたけど。

 それで咲夜曰くさ、

 

「妹様は成長期なんです。まだ子供のうちは体重が減るほうがおかしいのですよ? それにこの数字は平均的な吸血鬼よりも低い数です。妹様はそのままの妹様で良いのですよ。健やかに成長してくれること、それだけが願いですから」

 

 と言われてしまった。

 むぅ、ずるい! そんなこと言われたらもう何も言えないじゃん!

 でも……。

 ……分かったよ。私、まずは大人のレディーになる!

 当初の目標の、本に出てくるお姫様とかヒロインみたいな綺麗な女の子になる。

 ちなみにお姉様は去年と変わらなかったらしい。やった! と思わず喜んでしまったのは内緒。

 

 

 #####

 

 

「お姉様ェ……」

「ぐ、黙りなさい! 今はフランの成長についてコメントするところでしょ!」

 

 真っ先に呆れた顔でレミリアを見つめた霊夢に対し、レミリアは引きつった顔で反論する。

 

「そうですよ霊夢さん。でもレミリアさんも夜起きて朝寝るっていう生活してるのも悪いんですよ? 成長したいなら早寝早起き、基本です!」

「いや私吸血鬼なのよ!? 私から言わせて貰えば夜寝朝起きは昼夜逆転なのよそれ!?」

 

 続いて早苗の発言に突っ込んだところで、レミリアはふと何も言わないまま何故か腕組みをしているさとりを見る。

 

「……んー……」

「どうしたのよ?」

「いえ、その今更なんですけど――」

 

 ちょっと躊躇ったように、逡巡して彼女は尋ねた。

 

「――フランさんの日記を読み始めたキッカケって、心を読む限りレミリアさんが『フランさんによる下克上を恐れた』ことがキッカケなんですよね? 正直ここまでの内容にレミリアさんが危惧する内容なんてこれっぽっちも入ってないんですけど……なんでレミリアさんはフランさんに下克上をされるなんて思ったんですか?」

「……それは、いや、話しておくべきかしらね」

 

 尋ねられたレミリアは少し悩んで、やがて頷いた。

 

「分かったわ、その理由を話す。私がフランを疑うようになった決定的な日。四月一日の事について――――」

 

 そして彼女の口から全ての切っ掛けが語られ始めた――――。

 

 

 

 

 




次回は閑話です。





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現代四月編
四月一日に見たもの


 

 

 

「……語ろうか、存分にな!」

 

 全ての始まり四月一日。

 それを、思い出すように頭をもたげてレミリア・スカーレットは語り始めた。

 

「春ウ・ラーラーカな陽射し射すディエスであった。四月一日、“教会”の教えには正直者への謝肉祭とも表現される、すなわち我と同等の実力を持つこの日(イヴァリース歴による)。この非他にして無二なる存在は今年こそ向こう側にも騙される所と為る───そして此の世界に終焉が訪れる──真理(ファティマ)なく一日(第七ステファヌス暦による)を過ごそう、と心に誓っていた事象を覚えている」

「はいストップ」

「……何よ?」

 

 饒舌に語り始めたレミリアを止めたのは霊夢だった。

 せっかく良い気分で語っていたのに、レミリアは怪訝そうな顔で霊夢を見ると、彼女は物凄い良い笑顔でグーサインをし、そのまま親指を下に向ける。

 困惑したレミリアは叫んだ!

 

「本当になんでよ!」

「なんでも何もあるか! まるで意味が分からねぇのよ! アンタ説明する気あるの!? これなら前に書いてた全世界ナイトメアとやらの方がまだ分かり易かったわよ!?」

「なっ、なー!? この私の説明が分かりづらい!? これ以上なく分かり易かったでしょうっ!!」

「じゃあ多数決取りましょ! 早苗、さとり! 今の説明理解出来た!?」

「いや……」

「……まったくもって」

「ほら! 誰一人に対してまともに伝わってない!」

「なん……だと?」

 

 ふるふる、と首を横に振る二人の姿を見てレミリアは愕然とする。

 困った。言葉が通じなければ説明も何もないのだ。

 愕然とした。これ以上なく分かりやすく説明したはずなのに、レミリアは周りの三人の理解力の低さに愕然とした。

 

(……くっ、この馬鹿共にどうやれば言葉が伝わるというの……?」

「レミリアさーん、声に出てますよ?」

「……心も筒抜けですよ?」

「良い度胸ね、そんなにぶん殴られたいの?」

「ふきゅ!? れ、霊夢やめて! グーはやめて頂戴!? シャレにならないからー!!」

 

 ゴキゴキと骨を鳴らす霊夢に対し半泣きになってレミリアは縋る。

 巫女の拳は痛いのだ。確か先代巫女は拳による戦闘を得意としていたらしいが、もしかしたら一部技を受け継いでいるのかもしれない。

 そんなのゴメンだ。レミリアは話を変えようと必死になった。

 

「と、ともかく続きを話すわよ! と囁くのも私、レミリア、全ての終わりを告げる神々のスカレティウスはグリザリアの大罪ながら赦し従者となりし十六夜咲夜のジョークに騙されたり、メビウスの友に騙されたりと誤魔化しの効かないイェインプ・リスルシフールシで騙されたことのないたる黄金球の誘いの方が珍しいほど塗り固められた邪悪な言霊を信じ込んでしまうのだ。今日一日は誰も…そして、失われた時が再び戻ってくるのを信じ…そして亡びたぞ、と思ってもつい真実味のある――ってきゃあ!!」

「黙りなさいレミリア。それ以上未知の言語を話すな。次は殴るわよ?」

「もうすでに殴ろうとしたわよね!? 私の頭のすぐ横を打ち抜いたわよ!? 紅魔館の壁に思いっきり穴が空いてるわよ!?」

「殴るわよ?」

「ピィッ!! た、助け……盾になりなさい風祝!」

「ギリギリで言い換えましたねレミリアさん……」

 

 飛び付いてきたレミリアをよしよし、と撫でつつ呆れたような顔で早苗は受け止める。

 

「……にしても困りましたねー。レミリアさんの説明だと全く理解不能なんですけど」

 

 困った。本当に困った。

 曖昧な顔でどうしようか、と早苗が二人に問題を投げかけると、

 

「……うーん、正直やりたくはありませんけど私が代わりに語りましょうか? レミリアさんの心を覗いて語るという感じになりますけど」

 

 渋々といった様子で手を挙げたのはさとりだった。

 具体的には彼女が持つ『心を読む程度の能力』でレミリアの記憶を読み取り語ろう、というのである。

 多分これが一番現実的な案なのだろう。横を見ると霊夢も頷いていた。

 

「そうしましょ。さとり、お願い。その方が話が早いわ」

「そうですね……レミリアさんもよろしいですか?」

「もう勝手にしなさい!」

「……分かりました、じゃあレミリアさんの一人称で話していきますね……?」

 

 そして、満場一致で古明地さとりは語り始める――――。

 

 

 #####

 

 

 『()()()』は春うららかな陽射し射す日だった。

 四月一日、一般的にはエイプリルフールとも呼ばれるこの日。私は今年こそ誰にも騙されることなく一日を過ごそう、と心に決めていたことを覚えている。

 というのも私、レミリア・スカーレットは不本意ながら毎年従者のジョークに騙されたり、周りの友に騙されたりとエイプリルフールで騙されたことのない年の方が珍しいほど嘘を信じ込んでしまうのだ。今日一日は誰も信じないぞ、と思ってもつい真実味のある言葉を投げかけられて信じ込んでしまう。

 去年なんかは咲夜に「去年はこの日に嘘を吐いてしまいましたから、今日はプリンを一つだけのところを二つにしますね」という言葉を間に受けてしまったし……。

 けれど吐かれる嘘は大抵大したことのないもので、全て王の器で許しているのだが。

 ともかく今年こそは。その思いで朝、私は紅魔館を歩いていた。

 

「……とはいえ、誰も居ないと存外静かなものね」

 

 一人ごちる。紅魔館のエントランスに繋がる長い廊下には私一人しか居なかった。普段なら妖精メイドが仕事をする姿が良く見受けられるが今日は別の場所を掃除しているのだろうか。

 コツ……コツ……と、響くのは私の足跡ばかりで他の音は聞こえない。歩いているとふと横合いが眩しくなり、顔をしかめそちらを見ると窓際に設置された吸血鬼の弱点である直射日光を完全ガードする窓ガラスから燦々(さんさん)と害のない程度の薄光が室内を照らしていた。

 静かなものね、私は二度ごちる。

 それからシンと静まり返った空間で小さく息を吐き、また歩き始め――、

 

「…………っ!!」

 

 ふと立ち止まったのは風の知らせか運命か。その時、私の中の琴線に微かに触れる妙な感覚が体を支配したのだ。

 これは運命……その中でも未来予知の予兆である。私の持つ『運命を操る程度の能力』にほ実は読める運命には種類があり、自ら意図して運命を読もうとする場合と突発的に運命が未来予知のように視える二パターンがあった。

 今回は後者のパターンである。

 ドクン、と体に吸い込まれるように視えた運命は一冊のノートだ。

 具体的には『フランの部屋に置かれた無地のノート』。

 一見するとどうでもないただのノートだが私が視る運命とは得てして数奇なものである。

 何故なら突発的に運命が視えた時、それは視えたものに関わると私が得になる事象が起こるのだから。

 

「――っ……ふぅん。フランの部屋の無地のノート、か。それがラッキーアイテムなのね?」

 

 確かめるように呟いたけれど私は自身の能力に何一つ疑問なんて抱いちゃいなかった。だからこそこの時はまだこの後起こる悲劇なんて欠片も想定しちゃいなかったのだ。

 ただ――今回はどんな良い事が起こるのだろうか。

 それだけを楽しみにしていた。視える者にしか分からない愉悦というやつだろう。

 そして私はフランの部屋へと足を向けた。

 向けて、しまった。

 

 

 1

 

 

「……冷えるわね」

 

 地下室は冷える。それが私の感想だった。

 暗い階段を降りた先にその部屋は存在している。今はその部屋へ向かうべく地下室へ続く階段を降りているのだが、通気口として開けているいくつかの小さな壁穴からのヒュウ、という風が私の体を冷やした。

 小さくぶるりと身震いし両手で肩を抱き締めるようにして私は降りていく。

 地下室へ続く階段ともなれば掃除もされず埃っぽいイメージがあるが、随分綺麗なものだ。従者が優秀であるからこそだが紅魔館の品位という点から見ても合格を出せる。それに暗い地下室へ向かう階段に一定距離ごとに掛けられたランプも雰囲気があった。

 それが僅かに心を満たし寒いながら私は少し満足げに口元を緩める。

 

「ふふん、流石咲夜。完璧ね」

 

 呟いて私は地下室へ降り立った。

 いつかの事故で一度爆発してしまった紅魔館、その以前の部屋がそのまま残っているのは地下室だけだ。

 妹を四九五年幽閉したフロアだけが残るというのは皮肉も効いている。忘れるな、というメッセージだと私は受け取っているけれど。

 ともかく運命のお告げによるとこのフロアに例のフランのノートがあるはずなのだ。

 地上にもフランの部屋はあるが視えたのは地下の方だった――はやる気持ちで、しかし優雅に――私は歩いていく。

 目当ての部屋はすぐにあった。地下室にある檻扉を開け、奥にある鉄扉に鍵を刺し込みこじ開ける。

 そしてその部屋はあった。

 

「……ここに来るのも久しぶりね」

 

 呟いた私の視界に映るのは地面に散らばったままのクマ人形の残骸、所々血に染まって掃除しても落ちなくなったドス黒い痕だ。

 天井から吊り下げられたシャンデリアは鎖の一部が落ちて僅かな風だけでもキィキィ鳴り、僅かな光をたたえている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それが私の感想だった。

 

「……咲夜の掃除もここまでは行き届いて無いのかしら。いや、咲夜をこの部屋に入れなかったのは私か。紅霧異変までは咲夜もフランと会った事なかったものね。となると当時のまま……?」

 

 それこそ運命の悪戯だろう。

 紅魔館全てが吹き飛んだあの地獄(ハナビ)を超えてなお、過去の禍根とも呼べるこの部屋だけが残り続けているのだから。

 曖昧な顔で私は歯噛みする。が、数秒で思考を元に戻した。

 元々この部屋に来た理由はそこにないのだ。運命が視えたからこそ訪れたのである。

 ならば運命の通りあのノートを探そう。決意して私は部屋の中をうろつきながらノートを探すことにした。

 そして数秒。あっさりと(くだん)のノートを発見する。

 フランの部屋のテーブルの下に落ちていた無地のノートを。

 

「これ、ね」

 

 タイトルは無い。これに間違いないだろう、確信した私が手に取って見ると裏側を触った時の感触に違和感があった。

 

「?」

 

 首を傾げてひっくり返すと背表紙が塗り潰されたかのようにドス黒い血に染まっていた。

 戦慄して私は目を見開く。が、怯えてもいられない。私は吸血鬼の王、レミリア・スカーレットなのだ。

 引かぬ、媚びぬ、省みぬ、怯えるなど以ての外。それがレミリア・スカーレットの矜持。だからこそ私は迷うことなくノートを開いて――――

 

「っ―――!?」

 

 ――――戦慄した。

 ノートの一ページ目。そこから最後のページに至るまで、全て同じ単語の羅列が永遠と描かれていたのだから。

『お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様』

 

 しかもその文字は全て血文字であった。

 押し付けて、力強く書かれた文字は私を呪うものに他ならない。

 

「……それほど、まで」

 

 ノートを持つ手が震えていた。

 これは怯えではない。知らなかったからだ。私自身これほどまでとはまるっきり思いもしてなかったからだ。

 

「それほどまでに……」

 

 思い出す。確か一年前の今日からだった。地下に閉じこもっていたフランが急に外への興味を持ち出し、実際に行動に動かし始めたのは。

 それからは毎日をとても楽しそうに暮らしていて、笑顔を見せて生活していた――けれど、

 

「……私を恨んでいた、の?」

 

 分からなかった。

 あの笑顔はそれだけの心の犠牲の上にあったものなのか。もしかしたら自分の妹は完全に壊れてしまっていて、正常に見えているだけなのか。

 いや……。

 もしかして。

 一つ私の中にある考えが浮かんだ。

 

「……今までの一年全てが演技で、私を同じ目かそれ以上な目に遭わせる為の準備……?」

 

 すなわち、私への下克上。

 恨みを果たす。その為に妹は一年もの間あれ程の血の滲む努力をしていたのか?

 分からない。答えが出ない。手の中の一冊のノートに私の思考が停止してしまっていた。

 その時だった。

 コツ……コツ……と小さな足音と、小さな声が聞こえてきたのは。

 そして――――、

 

『……あはァ、楽しみだなぁ……絶望に歪む顔が目に浮かぶよ……』

 

 ――その声は紛れもないフランの声だった。

 ただし、その声色はくぐもって歪んでいた。聞いたことのないほど恐ろしい妹の声だった。

 

(……嘘、でしょう?)

 

 その言葉が私の心中全てを表していた。

 懐疑、不穏、恐怖。そんな尺度じゃない。何かが。私の中の何かが音を立てて瓦解していた。

 絶望、そうかもしれない。信じられなかったんだ。一年間のフランの様子を見て、それが全て演技だったなんて。全ては私を殺し恨みを晴らす為のブラフだったなんて。

 あの子は毎日あんなにも幸せそうにしていたのに……全てが嘘だったなんて。

 思いもしなかった。これっぽっちも考えてなかった。

 足音は次第に近付いてくる。このままここにいるのは不味い。弾かれたように私はフランのノートを隠すと蝙蝠(こうもり)に化けて通気口を通り天井裏へと身を潜めた。

 『フランが持つありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』の副産物には対象の『目』なる破壊点が存在するらしい。だからこそそれを逃れる為に壁の裏へと身を潜めたのだ。

 私もフランの能力について深くは知らない。逃げ場が無かった以上一種の賭けのようなものだった。

 けれど――私はその賭けに勝ったらしい。

 

「……あれ、ノートこんな位置に置いてたっけ? うーん……」

 

 少しヒヤヒヤしたが、最近覚えた透視で天井裏から覗いていた限りフランは私の存在に気付いていないようだった。

 

「ま、いっか。まずはさっさと『ノート(これ)』を処分しておこうか。お姉様に見られたら事だしね」

 

 私が地面に置いたノートを拾い上げてフランはシュボッと指先から炎を出すとノートを燃やす。その後燃えかすなどの残骸を、右手で炎、左手で氷を出し合体させた見たことのないエネルギーの中に放り込んで消去した。

 そして小さく呟く。

 

「……この魔法も完成に苦労したよね。消滅魔法、懐かしいな」

 

(消滅魔法……!?)

 

 文字通り全てを消しとばす魔法とでも言うのだろうか。

 吸血鬼の回復力だろうが消滅すれば関係無い。その理屈は私でも分かる。彼女はその力を手にしているというのか。

 と、その時だった。フランが小さく口元を三日月型に歪めたのだ。

 

「さて、と……思えば長かったよね。一年、一年だよ……一年も待ったんだ! もう準備は万端、後は決行に移すのみ。あァ……楽しくて仕方が無いよ……! 今からお姉様のどんな顔が見れるか楽しみで仕方ない……クククッ、アハハハッ!!」

 

(……本当、に――本当に貴女は……私を殺す為だけに……!)

 

 高く響き渡った笑い声。それは狂気的な声だった。

 もう否定のしようがなかった。

 確信してしまった。理解してしまった。

 だから私はこの日、フランが部屋を去った後に逃げた。紅魔館を飛び出して羽をしまい、身分を偽って人里の宿で一夜を過ごした。

 それ以降はフランと離れるように生活した。紅魔館へは戻ったけれどいつも側には咲夜を付けている。

 フランも人目があるところでは私を殺す気は無いらしい。周りとの信頼関係を築いてきたことがストッパーになっていたらしかった。

 その後私は直接的な行動にも出たが、まだその答えを信用したわけではない。

 だから私はまだフランが下克上を考えていると思う、と言った。

 

 

 ######

 

 

 説明を終えてさとりは締めくくる。

 

「……ということです」

 

 それに対する反応はいずれも重苦しいものだった。

 

「これは……」

「想像以上にエグいですね」

「……本人と直接エイプリルフールの時に話してないあたり答えが出ません」

「だから言ったでしょ! 正直日記を読んでフランの強化ぶりが分かって余計恐怖が増してるわ……」

 

 話すのも躊躇ってたし……とレミリアは言う。

 が、続けて彼女はこう述べた。

 

「……でも、日記には真実が載ってるのよね」

 

 ゴクリと息を呑む。が、決して臆さない。

 レミリアは静かに周りの三人の顔を見比べて話し続ける。

 

「……私、このままフランに怯え続けるなんて嫌。絶対に嫌。だから決着を付けるわ。この先に載っている答え――それがどんなものだとしても私は受け止めたい。だから、終わりにしよう」

 

 そして。

 宣言して彼女は次のページに、手を掛けた――――。

 

 

 

 

 

 

 



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現代四月編1『全ての真相』

 

 ギリギリ今日中に間に合った……。


 


 フランに尋ねたことがある。

 

 

 ――『ねぇ、フラン、これからも一緒に居てくれる?』

 

 

 何か明確な答えを求めて発した言葉ではない。

 フランは、レミリアの瞳をしばし覗き込むようにしてから、微笑んで答えた。

 

 

 ――『お姉様がそう思い続けてくれる限りは。』

 

 と。

 

 

 

 

 

 ######

 

 

 四月一日

 

 今日で日記をつけ始めてから一年だ。

 去年は楽しかったよ本当に。

 さて、本題に入ろうか。

 ……私はこの日を待っていたんだ。そう、一年前からずっとずっとこの日を待っていた。

 たかが一年、されど一年。この一年はとても充実してとても長く感じた。長く感じたのは去年からずっとこの日を待ち焦がれていたからかな?

 あぁ、去年まではお姉様への恨みを晴らせる事がこれ程愉悦だなんて思っちゃいなかった。

 いざ実行に移すとなると余計に愉しい。口角が吊り上がりそうになるのを堪えるのが大変だ。

 思えばお姉様への恨みも多いよね。どれもこれも赦しがたい恨みがさ。

 去年から日記を始めたのもこれが理由の一つだったりもするんだよ? 全てはこの四月一日が『嘘を吐いても良い日(エイプリルフール)』だと知ったあの日が私の転機だった。

 エイプリルフールなら例え恨みだとしても嘘だった、と言えば済むからね。私としても紅魔館自体を揺るがすのは本意じゃないし、やるならこの日が一番手っ取り早い。

 さて、今から実行に移すわけだけどその前に咲夜。お願いがあるんだけど……私が恨みを晴らすまでは私のことを見逃して欲しいんだ。

 きっと咲夜ならもうこの日記を読んでるでしょ? 私を止められる時間帯に。

 ……だからお願い。私、貴女と敵対したくはない。

 じゃ……それだけ。

 

 

 

 ######

 

 一ページに書かれていたのはそれだけだった。

 

「……やっぱり」

 

 読んでレミリアは呟いた。

 その顔色は見えない。下を向いているせいで彼女の前髪が顔を隠しているのだ。しかしそれも仕方のない話だろう。

 ――やはり、そうだったんじゃないか。

 暗い顔でレミリアは小さく自嘲するように笑い、言った。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは彼女が出した結論だった。

 静かに部屋にこだまする言葉が消えないうちに彼女は続ける。

 

「……やっぱりフランは私に恨みを返そうとしていたのよ。それが真実だったの。全ては私を亡き者にするための布石だった。だからこれで決着だわ」

 

 そしてレミリアは顔を上げた。

 露わになる彼女の顔は己を自嘲し、糾弾する引きつったもの。

 それでいて全てを諦めたような、受け入れた顔だった。その表情(カオ)のまま小さく笑うレミリアは静かに日記を閉じる。

 そして机に日記を置くと三人に向けて告げた。

 

「……フランの日記を読むのはここまでよ」

 

 その声は拒絶だった。それでいて静かな声だった。

 そして――決定的な言葉だった。

 

「……帰って頂戴、用事が出来たわ」

「ふざけないでください!」 

 

 静かに拒絶したレミリアに真っ先に食い下がったのは早苗だった。

 彼女は怒りを露わにし、レミリアを怒鳴りつける。

 

「まだ四月一日を最後まで読んでもいないのに何が『終わり』なんですか!? 諦めるにはまだ早いでしょう!? なんで途中で駄目だって諦めてるんですか!! そんなの――そんなのレミリア・スカーレットじゃない!!」

「……一つ聞きたいけど風祝、貴女にレミリア・スカーレットの何が分かるの? 私を分かるのは私だけだわ、ましてや貴女との間に交流なんて無かったのに」

「っ!!」

 

 サラリとした反論に早苗は息を呑んだ。分からなかったからだ。

 いや、分からないというのは語弊になる。正しくは今の反論したレミリア・スカーレットがいつもの彼女の様子と大きく異なるものだった――だからこそ分からなくなってしまったのだ。

 

「簡単な事でムキになって、ちょっとした考えであれこれ実践するのがレミリア・スカーレット? それとも大人を振舞おうとするけど所々ポンコツが見え隠れするのが貴女の知るレミリア・スカーレットかしら? ねぇ、貴女が言うレミリア・スカーレットって誰なの?」

「…………レ、ミリアさん?」

 

 信じられないものを見たように早苗は呟いた。

 レミリアの豹変ぶりについていけないのだ。代わりにさとりが語気を荒くして述べた。

 

「……レミリアさん、そうやって誤魔化しても意味はありませんよ。少なからず今の貴女は逃げています! これ以上やったって意味が無いと決め付けて! それに……貴女この後死ぬ気でしょう。そんな姿を見てはいそうですか、と帰るわけにはいきません!」

「悟り……心を読まれるのは厄介ね。それに分からない論理ね。何をどうしようが私の勝手じゃない。それに私、さっき言ったわよね? 『どんな真実だったとしても受け止めたい』って」

「……それは受け止めじゃありません。諦め、惰性、そして逃げ。とても傲慢な感情です! 貴女は『フランに殺される事が最も良い』と考えているけれど、それは――――」

 

 珍しく感情的に、さとりが真実をぶつけようとした瞬間だった。

 ッッッズン!!!!!! と、凄まじい妖力が部屋一帯へと均等に襲いかかったのだ。

 

「……、」

 

 三人は、身構えて爆心地の方へ目をやる。

 ――レミリア・スカーレットが、そこにはいた。

 背中から生えた二対の蝙蝠翼。途方も無い妖力を秘めた小さな少女。その顔は全てを受け入れた顔をしていた。

 

「……静かね、最初からこうすれば良かったんだわ」

「……レミリアさんっ!!」

 

 叫んだのはさとりだ。しかしもはやレミリアはピクリとも反応しない。自分の世界に入った彼女は顔と不釣り合いな笑みを浮かべる。

 

「フフッ、さて……宣言通り『終わり』にしましょうか」

 

 両手を胸の前で組むいつものポーズで彼女はそっと呟いた。

 早苗とさとりは動かない。レミリアの妖力に当てられて、動けないのだ。

 そして残された一人、博麗霊夢はぼんやりと思考を動かしていた。

 レミリアは死ぬ気だ。それは分かった。

 それが最も良い選択で、真実を受け入れる事だ。そう考えているのも分かった。

 だから死ぬ、自らを罰するために。

 彼女が溢れ出る妖力を部屋の中に留めたのは、そんな事を知ればどう行動するか分からないフランドールに知られない為だ。レミリアが死ねば紅魔館の当主は彼女になる。そんな彼女がレミリアを殺したとなれば従者達もそう簡単に従わないだろう。それを防ぐ為に。

 彼女は、無言のままにこう語っているのだ。

 やっばり。

 こんな私に生きている資格なんてなかった、と。

 

「…………、」

 

 霊夢はレミリアの真意を悟った。

 レミリアが『諦めた』事を知った。

 そして、ギチギチギチ!! と凄まじい力で『日記』を握り締めた。

 その上で彼女は一つ尋ねた。

 

「レミリア、アンタはその選択に後悔はないの?」

 

 霊夢の問い掛けにレミリアは頷く。とても自然な動作で、彼女は笑みまでたたえて。

 

「当たり前よ。自分の行動は自分で責任を取るわ。私は今こうすべきだと心の底から思ってる。だから後悔なんてしない。レミリア・スカーレットは嘘は吐かないわ」

 

 そこまで聞いた霊夢は、薄く笑った。

 握り締めていた拳を解いて、彼女は言う。

 

「……何だ、分かってんじゃん」

「……?」

「ちゃんと役割が分かってるってこと。ただ諦めただけならぶん殴ってやろうかと思ったけど、それなら安心だわ」

「それはどういう――?」

 

 首を傾げたレミリアに対して、霊夢は破顔した。

 そして。

 だって、と彼女は告げる。

 真っ直ぐに、レミリアの目を見て。

 

「だって、日記に書いてるんだもん。『さぁ、お姉様への恨みを返す時だ。私のプリンを食べられた恨みをね!!』ってね」

 

 言って。

 笑って。

 日記の一ページを開いた霊夢がそのページを見せ付けて。

 

 ――空気が凍った。

 

 そこに書いてあった内容はこうである。

 

 

 

 

 とりあえずあった事を書こう。

 お姉様に恨みを返す前に、まず私は地下室の部屋に行くことにしたんだ。あそこはなんだかんだ私の一番使ってた部屋だからね。

 それにこの前血を使う魔法に失敗して部屋にばら撒いちゃったり、縫う練習をしようと引き裂いた縫いぐるみを放置したりしてたし。

 ……お姉様の杖を使ったのもあの部屋だしね。いやぁ大変だったよ。あの杖を作るための媒体に『想い』を具体的な力に具現化する為にわざわざ血文字でしかも想いを込めてノート一冊に対象を指す言葉を書かなきゃならなかったんだから。

 まぁ部屋が汚れてるのは地下で、牢屋みたいに頑丈な作りだから色々実験しやすいのが理由なんだけどさ。

 ともかくそれらを処分しておこうと思ったのだ! 危ないしね! まぁノートも想いを込めて書いたものだけど他人からしたらただの恐怖ノートだし。特にお姉様にとっては。『お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様』って自分を指す言葉が血文字で書かれてるなんてまるきりホラーだもん。

 少なからず私だったら怖い。サイコパス感じちゃう。

 あ、そうそうサイコパスといえば。

 

『……あはァ、楽しみだなぁ……絶望に歪む顔が目に浮かぶよ……』

 

 地下って結構声が反響するのね。この後のお姉様の顔を想像してたら楽しみ過ぎてついつい口にした言葉だけど、ゴーーって地下の風音と混じってすごーく怖く聞こえたよ。

 それで面白くなってついついあれこれ言ってるうちに地下について、キチンとノートとかは処分しました!

 燃やした後にメドローアで消滅させたけど何もない空間に放り投げても良かったかも。今更ながらだけど。

 

 さて、一年だよ。長かったなぁ。

 ずっとこの日を待ちわびてたよ! エイプリルフール、この日をね!

 ……いやー実は去年エイプリルフールの存在を知った時には四月一日の午後でさ、嘘をついちゃダメな時間帯だったのよ。

 ほら、エイプリルフールは午前中のみ嘘をついて良い日だからさ。

 で、さっきの恨みにも関わってくるけど色々お姉様に対して恨みがあるのよ。

 まずワガママ過ぎ! あと思い立ったらすぐ行動する割にすぐに飽きて後片づけを放棄するし!

 あとご飯だって好き嫌い言うし、私のおやつのプリン食べるし! 食べ物の恨みは怖いんだから!

 私だっておかんむりなんだからね! だからエイプリルフール、今日は特大の嘘を吐いてお姉様を困らせちゃうだから!

 そう、『もう二度とオヤツ作らないよ!』って嘘をね!

 お姉様からごめんなさい! って言ってくるように仕向けてやる!

 

 

 と、思ったけどなんか紅魔館にお姉様の姿が見えない。

 ……逃げられた? うう……運命読むって卑怯だよ!

 くぅ……来年こそお姉様を騙して灸にすえてやるんだから!

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 読み終えてもなお空気が凍ったままだった。

 いや、それは少し違うか。ピシッ、と音が鳴るのを三人は確かに聞いた。同時にレミリアの体から溢れていた激しい妖力は消散し、顔を伏せたレミリアは顔を下に向ける。

 そして、

 

「「…………っく」」

 

 堪えきれず早苗とさとりが小さく呻いた瞬間、一際大きな笑い声で静寂をぶっ壊したのは霊夢だった!

 

「ぷっ……あははははっ!! こんなの可笑しいわよ! あはははは!!」

 

 大笑いして霊夢は無言のまま顔を上げないレミリアによく聞こえるように言う。

 

「だってあれでしょ! うふふふ、あれだけ騒いでおいてその原因の恨みってのが『プリン』でしょ! あっはははは!!」

 

 少しレミリアの眉が動いた。

 だが霊夢は止まらない。お腹を押さえてヒーヒー言いながら彼女は述べる。

 

「それなのに勝手に勘違いしてっ! キメ台詞は『宣言通り終わりにしましょうか』(笑)って! あはっ、あはははは!!」

「ぅ…………」

 

 レミリアが小さく呻いた。

 霊夢はといえばもうバンバン! と机を叩きながらの一人大爆笑状態である。

 と、その時笑いを堪えていた早苗は必死に真面目な声を維持して言う。

 

「……つまりあれですか。ぷふっ……血文字のノートはレミリアさんのクリスマスプレゼントの杖を作る為に頑張って作ったもので、部屋の惨状は別の魔法の実験の跡で、フランちゃんの聞いた事ないほど邪悪な声ってのは地下室で反響してそう聞こえてしまっていただけって、そういうことですか?」

「っふふふ、そう! そうなの! それなのに勘違いして自殺まで考えるとか(笑)」

 

 ぷくくく、と笑って霊夢はちょんちょんとレミリアの肩を触る。

 そして耳元に口をやると呟いた。

 

「……プリン自殺未遂異変」

 

 ボソッと。呟いた瞬間もう限界だったのだろう。

 さっきからの衝撃の事実で既に顔真っ赤なレミリアはガバァ! と顔を上げて腹の底から叫んだ!

 

「う、うううううううううう!! うーっ!! うーっっ!!」

 

 カリスマブレイク。

 顔真っ赤にして涙まで浮かべてのブレイクであった。

 

「今のは嘘だからぁ! 忘れて! 忘れてえええええ!!」

 

 頭を押さえて叫ぶレミリアだが、そこで霊夢があれっ? と反論する。

 

「さっき言ったでしょ? 『後悔なんてしない、レミリア・スカーレットは嘘を吐かない』って」

「う、うううう!! うううううう!! うるさい! 黙れっ! 黙れええええ!!」

「はいはい殴ってきてもそんな単調攻撃じゃ当たらないから」

「……ま、まぁまぁ。レミリアさんも落ち着いて、良かったじゃないですか。下克上なんて企まれて無いって分かって!」

「良い筈なのに納得出来るか! うわあああああああ!!」

「そもそもアンタがシリアスやってるのがおかしいのよ。どうせこんなこったろうと思ってたわ」

「そうですね。レミリアさんの特性を理解してませんでした。思えば月に入った時も何してもギャグ要因でしたもんね、レミリアさん」

「……まぁ、そうですね」

 

 ボコボコだった。ザクザクと言葉のナイフに滅多刺しにされたレミリアはとうとう咲夜に抱き付いて泣きじゃくる。

 

「……ひっぐ……うわああああん!! 咲夜あああ! こいつらが! こいつらが虐めるうううう!!」

「そうなんですか、お嬢様」

「うえぇ……ひっぐ、うん……」

 

 もはや子供のようになってしまったレミリアには先程まであったカリスマは欠片たりとも存在しなかった。

 多分カリスマを使い切ったのだろう、なんとなく霊夢は思う。

 

(……まったく人騒がせな姉妹よね、本当に)

 

 ともかく今日のところはこの程度にしておいてやろう。

 レミリアが落ち着いたら次のページね、と呟いて泣きじゃくるレミリアをよそに霊夢は紅茶を啜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 




 ……この為の残酷な描写タグ(ボソッ



 


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閑話

次回からまた日記です。




 



 

 

 

 

 

 ようやく場が沈静したのは一時間が経った頃だった。

 その間に一同はフランの帰りを遅らせるべく、霊夢は拳で。早苗は奇跡でそれぞれ紅魔館の備品を壊したり、紅魔館そのものに隕石を落としたり、さとりが想起でかつての異変を再現しそれをフランに解決させたり――。

 そんなこんなしていると幻想郷の賢者である八雲紫が「もうやめて!」と泣き付いてきたり、挙げ句の果てには全員の頭の中に龍神ちゃんではない通常の龍神のものと思われる渋く深いボイスで、

 

 

 

 

 

 

 

 ――『やめて下され、やめて下され』

 

 

 

 

 

 

 

 という直々のお告げまで響いたりしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリですね分かります」

 

 

 

 

 

 

 ――『断じて違う!』

 そんな一言でお告げをぶん投げたあと奇跡やらそんなレベルじゃねぇ災厄を降らせまくった挙句全てをフランに丸投げしていく屑の極みのような。いやむしろ「美しく残酷にこの大地から()ね!!」されてもおかしくない行動に出る、ちょっとしたお茶目を見せた三人だがそんなどうでもいい話はともかく。

 一時間もの時間を要してようやくレミリアは立ち直った。

 泣き跡はまだあるし顔も赤いものの、ついでにいえば羞恥からか一言も喋らずに下を向いているものの、それでもその小さな唇を動かして呟く。

 

「……取り乱してごめんなさい」

 

 立ち直ったレミリアは少しだけ顔を上げて言った。

 

「……それと、ありがと。真実が真実だけに受け入れがたいし、屈辱だけど。でも不思議ね」

 

 指で髪を()くように頭のラインに合わせてなぞって、これ以上ない爽やかな笑顔で。その様子は彼女が完璧に立ち直ったことを表して――、

 

「凄く、別の意味で死にたいわ」

 

 立ち直――、

 

「……あぁ死にてぇ」

「レミリアさん!?」

 

 立ち直って無かった! 早苗が思わず突っ込むとレミリアは爽やかな笑顔で、死にてぇ死にてぇと普段の言葉遣いをぶん投げて呪詛のように呟く。

 

「あぁ、空が青いわね。眩しいわ。あの下に行けば死ねるかしら」

「青っ、夕方ですよ!? オレーンジ! (だいだい)ですよ!!」

 

(……うわぁ)

 

 妹に恨まれ、彼女の為に自らを罰しようとしたレミリアが全てを勘違いだと理解した上でそれを受け入れることを強要された結果がこれだった。

 必死に正気に戻そうとする片手間に適当に流星群を降らせている早苗もそうだが、キラキラした笑顔でそうのたまうレミリアを見てさとりは絶句する。

 

「はー、綺麗ね。流星群。あ、流れ星が落ちる前に三回願いを言えば叶うんだっけ? お金持ちになりたい! お金持ちになりたい! お金持ちになりたい!」

 

(……あぁ! なんかもう外が最終神話戦争(ラグナロク)みたいになってるし!! 降り注ぐ隕石やら流星群やら、よくもまぁ捌けるものですねフランさん。あ、異変に挑んでた魔理沙さんが落ちた!! と思ったら見たことない男の子が横から助け……いや、あの子がナナシ君ですか。いや私も一枚噛んでますけどカオス過ぎませんかこれ!! もうどう収拾付ければ良いのか……うぅ、後で粛清されたら恨みますよ……っ!! そもそもやり過ぎだし!)

 

 流石にこれ以上は黙ってはいられない。レミリアの妖力を丸ごと借りて出していた『想起』を打ち切るとさとりは一同に自粛を求めようと……思ったが途中でやめる。

 外の光景を見て目眩がしたのだ。と同時に理解したのかもしれない。

 あ、これもうそんなレベル超えてるわ、と。

 すると、クラクラするさとりを他所に霊夢がパンパンと手を鳴らした。

 

「さてと。で、どうするのレミリア?」

 

 真面目な顔つきだった。

 真剣味に気圧されたのかレミリアも顔を上げて顔を引き締め、尋ねる。

 

「……何、を?」

「日記よ日記。続き読むの?」

「…………、」

 

 返ってきた問いは確かめであった。

 四月一日まで読んだフランドールの日記。その次のページからを読めるまでに回復したか、と霊夢は問いかけているのだ。

 一転した問いにレミリアはちょっと考え込む。

 自身の状態。心はどうだろうか。大丈夫だ。正直忘れてしまいたい、それこそ一生涯の恥を晒してしまったせいで色々と辛いが、泣き続けたせいか心は不思議と落ち着いていた。

 それからちょっと考え直してみる。

 レミリアが考えていた、フランの下克上なんてものは妄想に過ぎなかった。

 フランはレミリアへの恨みなんて抱いておらず、とても家族想いのいい子だった。そのことは嬉しい。とても、嬉しい。

 だからこの恥は他ならぬ血を分けた妹を少しでも疑ってしまったレミリアへの罰なのだろう。ならばそれを受け止めて自分は前に向かなくてはならない。成長しなくてはならない。

 じゃあどうしよう。

 全てを元に戻すために。フランとの関係をより良くしていく為に。

 思案して、首を傾げて、ふと窓の外を眺めて。

 そして決めた。

 

「……外の光景見る限りそんなことしてるレベルじゃないと思……」

 

 最終神話戦争(ラグナロク)。見えた光景から正直にレミリアが答えた瞬間、霊夢の拳がダンッ!! と真横を飛来した。

 ボゴッ! という音を立てて穴が空いた柱を見てレミリアがビクッ、とする。

 そして笑顔の霊夢は言った。

 

「言い忘れてたけど返事は『はい』か『yes』ね」

「……はい」

 

 レミリア は あきらめた !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、そんな事情も経て、一同は次のページをめくることになる。

 後にこの異変の名は(レミリアの自殺未遂も含めて)『最終プリン戦争異変』と名付けされ、レミリアが悲鳴を上げるのだがそれはさておき。

 改めて一同はラストスパートを切っていく――――。

 

 

 




 


多分今回ほど好き勝手書いたのは過去の回見直してもない(確信)




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現代四月編2『お酒は怖い』

 


 今年最後の投稿です。
 年末って忙しい……明日からもゲームのイベントやらで忙しくなりそうです。
 ともかく皆様良いお年を!


 


 

 

 

 四月二日

 

 

 お姉様が朝帰りしたらしい。

 ……そんなにもエイプリルフールに騙されるのが嫌だったのだろうか。にしたって珍しい話だ。

 咲夜とかめーりんにもお姉様のことを聞いてみたけど、咲夜は「そっとしておいてあげてください」と言ってめーりんは「お嬢様ですか、うーん強いて言えば様子が妙でしたね」という何とも微妙な返事が返ってきた。

 めーりんに様子が変? と聞き返すと「なんというか、怯えていたんです」ということらしいけど……。

 お姉様が怯えていた……? どういうことだろう。パッと頭に浮かぶのは八雲紫とかだけど……。

 お姉様が怖がる相手かぁ……誰だろう。直接聞こうと思って部屋に行ったけど「ひ、ひひ一人にして!」という返事が返ってきたし一旦時間を置こうと思う。

 

 

 #####

 

 

 読み終えて、レミリアはあぁ……と懐かしむような声を上げた。

 

「……あの時は怖かったわ。コンコン、ってノックがした瞬間命の覚悟をしたわね」

「おや、随分と吹っ切れたコメントですね」

 

 プライドの高いレミリアが恥も外聞もなく怖かった、と口にしたのを見て早苗が茶化すと「なんか不思議な気分なの」と彼女は答える。

 

「今ならどれだけ恥を晒したところでさっきの事を上回ることはないだろうからって理解したせいかもうなんでも良いや、って。うん、今ならなんでも出来る気がする」

「……それ絶対普通の状態じゃないと思うんですけど……」

「なんでも良いじゃない。ともかく次のページいくわよ」

 

 ハハ、と乾いた笑みを浮かべて言う無表情のレミリアに対して真面目にさとりが突っ込んだ。

 が、どうでも良いやりとりだと感じたらしい霊夢に流されて、一同は次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 四月三日

 

 

 お姉様はまだ様子がおかしい。

 それでお酒でも呑んだら気が楽になるかなって思って鬼の人達に名酒を貰ってきて咲夜に渡してさ、夕食の時に出させたけどお姉様はお酒を呑んだ瞬間に「ゲホゴホガホ!」って吐き出して倒れてしまった。

 ……ビックリしたよ。

 慌ててお酒を呑んで確かめたら何この度数!! アルコール百パーですらないよ! それを更に高くしたような酒だった。味は美味いけどこんなものを一気に呑んだら吸血『鬼』でもコロっと倒れるだろう。ごくって呑んだ私もしばらく頭がクラクラしてそのあと記憶が無いし。

 咲夜とかに物凄く甘えたような……あれでもそのあと視界が真っ赤になってるし夢だよね、多分。

 ……あれ、夢? うん、夢か。

 

 

 #####

 

 

「……咲夜ェ」

「というか鬼の人もどんな酒渡したんですかね……」

「確か……スピリタスを改良したものとか言ってたわね。フランが」

「世界一度数の高い酒じゃない、それ」

「……ただでさえそのまま呑んだら死の危険がある酒なのにそれを改良して度数を上げるって……地底に住む私が言うのもなんですが鬼って凄いですね」

 

 

 #####

 

 

 四月四日

 

 

 ……頭が痛い。

 こうして筆を取るだけでもズキズキ痛む。

 お姉様も倒れてるみたい。喉が渇いてたのか知らないけど昨日、一気飲みしてたからなぁ……。

 朝少しだけ起きた後にバタって倒れたらしい。

 その後意識不明の無傷だとか……というか私ももうだめ(以下紙が汚れ、少しよれている)

 

 

 #####

 

 

「……死ぬかと思ったわ。うん、切実に」

「フランちゃんも倒れたみたいですね、これ」

「というかどんな酒よ! 吸血鬼が揃って倒れるって危険な代物じゃないそれ!」

「……本当鬼ってなんなんでしょうね……?」

 

 

 #####

 

 

 四月五日

 

 

 ようやく復活。お姉様も起きたみたい。

 ……うん、酒に身を任せるのは危ないと学びました。というかお姉様急性アルコール中毒だったんだね。そう咲夜に言われた時は衝撃の告白過ぎて思わず泣いてしまった。

 ……うぅ、危うく姉を殺してしまうところだったなんて。

 ……どんな顔で会えば良いんだろ。

 急いで謝りに言ったけどお姉様に門前払いされた。嫌われたのかもしれない。

 ……悲しい。どうすれば良いんだろ。そんな気じゃなかったのに。ただお姉様が怯えてたって聞いて、お姉様に笑顔でいて欲しかっただけなのに。

 ともかくこのままじゃいられない。私、お姉様にちゃんと謝りたい! 何とかしなきゃ……なんとか、なんとか……。

 

 

 #####

 

 

「……この時私は暗殺されかけたと思っていたけど……フランの思いやりだったのね。フランはフランでこんな事を考えていたのか……」

「いや急性アルコール中毒ってよく生きてましたね……」

「うん、それは本当に自分でも思うわ。ちょっと起きれた時に『あっ、これ駄目なやつだ』って思ったし。朝起きた時にあれ程『生きてる』って感覚がしたのは久しぶりだったわ」

「……咲夜さんはそれ止めなかったんですかね……」

「最悪の場合は私の体内を切り開いて臓物ぶちまけて、中のアルコールを吸い出すつもりだったみたいよ。それはそれでスプラッタだし死にかねないけど……」

「なにそれこわい」

 

 臓物のくだりでサッと顔色を悪くした早苗は反射的に呟いた。

 

 

 




 



 ……年明けまでお酒を呑む人も居ると思いますが注意してくださいね(ボソッ





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現代四月編3『裏切りの騎士』

 


 明けましておめでとうございます。


 

 

 

 四月六日

 

 

 お姉様の件を何とかしたいけどひとまずその事は置いておく。

 ……何度行っても取り合ってくれないんだよね。話すら出来ないとなると時間を置いた方が良いという事なんだろう。それに私自身最近、心が疲れてる気がしてさ。

 まだ若干寒いし、暇だしでとりあえず霊夢さんのところで駄弁ろうと思って博麗神社に行った。

 手土産には柏餅を作ってね。で、神社に行くと何人か来ててコタツで話をしてた。

 

「はぁー、肌寒い日はコタツにミカンがピッタリだぜ」

「魔理沙。あまり食べ過ぎちゃ駄目よ?」

「あ、皆さんお茶の用意が出来ましたよー」

「早苗さんありがとうございます。あ、お盆載せて貰えます? 私が運びますから」

 

 霊夢さん、魔理沙、早苗さん、妖夢さん。

 四人でコタツに入って駄弁っていたらしい。柏餅を入れた袋を持って近づいていくと魔理沙が私に気づいて声をかけてくれた。

 

「おぉ、フランも来たか。遠慮せず入ってくれ」

「何、家主の言葉取ってんのよ。アンタの家じゃないでしょうが! と、それはともかくいらっしゃいフラン。素敵な賽銭箱はあっちよ?」

「え? あ、じゃあそっちも……」

「うわっ! こいつ巫女のくせに賽銭要求しやがった!? フランも入れること無いぜこんなとこに」

 

 魔理沙も気にしなくて良いよ。普段お世話になってるしほんの気持ちだ。

 財布から何枚か紙幣を出して賽銭箱に投入。うん、おっけー。

 で、そんなこんなで柏餅を振る舞いつつお話ししました。

 偶にはこうやって皆とコタツでダラけるのも良いよね。

 ……ぽやぽやうとうと、ってしてたら寝落ちしちゃったけど。

 

 

 #####

 

 

「フランは寝顔が可愛いのよね。ちっちゃな手をグーにして、何というか庇護欲を誘われるっていうか」

「そうですよね。途中から寝ちゃったフランちゃんを皆で撫でたりしましたし。あと髪質? レミリアさんは若干癖っ毛がありますけどフランちゃんは髪質がサラサラなので触ってて心地いいんですよね」

「……へぇ、そうなんですか。私も触ってみたいものです」

「髪質……何でなのかしらね? フランは地下にこもってて私は地上に居たけどどうして姉妹で髪質にここまで違いがあるのかしら。私もどうせならサラサラの方が良かったわ」

「んー……お風呂じゃないですか? 多分ですけど洗い方に問題があるとか。まぁなるべくしてなった可能性もあるので一概には言えませんが」

「……お風呂ねぇ。今は咲夜にやらせているから間違いはないと思うけど……」

 

 

 #####

 

 

 

 四月七日

 

 

 人里に行くと妙に騒がしかった。

 何事かあったのか聞いてみると鈴奈庵で何かあったらしい。急いで行ってみると変な本が浮かんでた。魔本というやつらしい。周りには数十人の人達がバタバタ倒れていた。

 辛うじて意識の残る小鈴さんに尋ねると、なんでもこの本は呪いの本で、自我を持つらしい。

 あと人から霊力を吸い取る事でパワーを増幅するとか。そんでもって破壊するには本自体にかけられた七つの弱点の封印を解いてそこに同時に攻撃を当て、その上トドメの一撃には……と長ったらしい説明が貰えたので面倒になった私はとりあえず能力で破壊してみた。

 

「キュッとしてドカーン」

 

 壊れた、けど一瞬にして元に戻る。

 もっかいキュッとしてドカーン。

 壊れる、再生……ほう。

 面白い魔本(おもちゃ)だ。私の能力に耐えた道具は初めてみたよ。折角なので小鈴さんにお願いして本を買い取れないか聞いてみるとオッケーらしい。むしろ何とかして下さい、とお願いされた。

 で、本を受け取って。里人に全体回復魔法(ベホマズン)を掛けて助けて、帰ろうと思ったらなんか霊夢さんが来た。

 

「フラン? ねぇ里人から人が倒れてるって聞いてきたんだけど何か知らない?」

「あ、それ解決しました。この魔本が原因みたいですよ? とりあえず私が持ち帰って管理する方向で里人とお話したんですけど」

「魔本? ……呪いか。それもかなり悪質、近くに寄ると霊力を吸うのね。持つなんてもってのほか……とそんな感じに見えるけど」

「ついでに言うと壊すのも条件がいるみたいで私の能力にも耐えました」

「余計にヤバい本じゃない。持ち主誰よ」

 

 と言いつつ霊夢さんの目が小鈴さんにロックされてた。

 本人は半泣きで首を横に振ってたけどバレバレだよ……。

 とりあえず顛末を語ろうか。

 霊夢さんは私が持ち帰ることにオッケーしてくれた。ただし万が一のための護符を一枚くれた。呪いの力を封じる護符なんだって。

 危険な時は使おうと思う。にしても壊れないおもちゃなんて初めてだ。

 大事なものだから私の血を垂らして厳重に『私のモノ』として登録したよ。人相手なら奴隷契約とかにも使う魔法陣で、その中でも私に出来る最高のやつだ。

 で、早速家に帰ってから遊んだ。水で濡らしまくったり、火で燃やしたり、キュッとしてドカーンしたり。

 ……楽しい♪

 あとスペルカードの練習台にも使えるね。なんか攻撃するたびに本の中から「やめろ!」とか「鬼か貴様!」とか聞こえる気がするのは気のせいだろう。

 

 

 #####

 

 

「絶対なんか居ますってそれぇっ!!」

「酷いわね……扱い方」

「でも壊れないおもちゃか……パチェでも作れない代物じゃない。相当な物だと思うけど……」

「……フランさんの能力に耐える、ですもんね」

 

 

 #####

 

 

 

 四月八日

 

 

 あの魔本が本当に壊れないのか試してみた。

 何もない世界への道を開き、放り投げる。すると魔本は一瞬にして消え――すぐに復活し――また消える。

 うん、破壊と再生の繰り返しだ。なんか本の中から「うぎゃああああ!!」という悲鳴が聞こえる気がする。今度耳鼻科に行こう。耳がおかしいのかもしれない。

 そう決意してキュッとしてドカーンしたり、神格発動してレーヴァテイン構えて全力の一撃で貫くと「死ぬっ! シャレにならん!」という男の人の声がした。

 と、同時だった。

 ボンっと本が壊れてなんか出たのは。

「クソ、この鬼め! 悪魔め! 貴様には優しさというものが無いのかっ!? いや、ねぇなんでなの! なんでいじめるの!? 水かけたり火をつけたり、果てはこんな全てが消滅する無の空間なんかに連れてくるのっ!? 頭がイカレてるんじゃないのか!?」

 出てきたのは全身甲冑の男だ。黒騎士で、やたら怖い雰囲気あるのに出てきたのは妙にリアクション芸人じみた人だった。今更だけど幻聴じゃなかったらしい。安心した。お姉様に相手されなくて精神病になった可能性も捨てきれてなかったからさ。

 弾幕を撃ちながら頷くと。

「いや、耳鼻科って絶対聞こえてただろう!? 俺の悲鳴を聞いて何も思わなかったのか貴様! あといい加減弾幕を止めろ!」

「咲夜に黒光りしたのは退治しろって言われてるの」

「それは台所に出るやつだろう!? 俺はGじゃないっ!! あと咲夜って誰だ! と、ともかく話をしようではないか! 具体的にはこの空間から出せ! 殺されては再生し続けるって地獄だからな!? 可愛い面の割りにどんなエゲツなさだ!」

 うるさいなぁ。仕方なく出してあげると黒騎士さんはゼエゼエハァハァと荒い息を吐いた後に大きく伸びをして「……地球最高」と呟いた。

 私はその間に懐から一枚の護符を取り出し、黒騎士さんの顔面をビンタするように振りかぶる。

 

「ぐおおおおっ!? お、おまっ、何をする!? ってなんだこりゃ顔が痛いいいいいっ!? うがあああああっ!! 死ぬっ、死ぬううう!!」

 

 霊夢さんにもらった護符だもん。そりゃ強力だ。

 すうっと消えるように黒騎士さんの体内に護符が溶けたのを見てから私は問いかける。

 

「で、お名前は? 私はフランドール・スカーレット。これでも吸血鬼なの。あと一つ言っておくけど呪いの本に掛けてやる情なんて無いから。永遠に復活するのは面白いけど」

「俺は呪いの本では無い! 封印されていたのだ! ついでに言えば永遠に復活するのは今の俺の特性であって魔本の仕様じゃない! ……と、ともかくだ! 過程はどうあれ復活出来たことには感謝しよう、吸血鬼フランドールよ。我が名は『ランスロット』だ」

 

 彼の名前はランスロットというらしい。ランスロットってあれだよね、アーサー王の伝説の。あれ? 実在してたの? というか生きてるの?

 

「一気に質問するな! ……とりあえず質問に答えるなら実在している。あと俺は生きてはいない、と答えるのが適切だろう。今の俺はアンデッドなのでな。不死属性が付いたのはともかく、裏切りの騎士とはいえ、仮にも騎士がアンデッドとは……」

 

 なんか複雑そうだね。でも呪いの本として人里にもたらした事は消えないよ?

 

「それは……申し訳ないと思っている。何度でも謝ろう。だが一つ理解して欲しい。俺自身本の中に封印されて身動きが取れなかったのだ……あと、今更だがさっきの護符はなんだ?」

「呪いを封印する護符。詳しくは知らない」

「よく分からないものを人に向けるな! やっぱり鬼か貴様は!?」

 

 いちいちリアクションが激しくて楽しい人だ。

 ……ただおもちゃとしては本のままでも良かったんだけど。あと貴様って言うな。

 何気なく言うと、

 

「きさっ……ぐぐぐっ!? な、なんだこれは……隷属契約? 『貴方はフランドールのモノです。逆らえません』ってなんじゃこりゃあ!!」

「あ、そういえば面白い本だから血の盟約をしたっけ」

 

 ランスロットさんが苦しそうにする。うん、これはあれだね。

 

「つまるところ……使い魔ゲットだぜ?」

「騎士は二君に仕えなっ……おごごご!!」

「サーヴァントでも良いよ?」

「それはそれでアウトだこの悪魔め!」

 

 ランスロットをゲットしました。

 いやまぁ……本気で嫌なら逃すけど行き場無さそうだし、幻想郷で変なことされても困るし私が面倒みようと思う。それだけだ。

 

 

 #####

 

 

「円卓の騎士っ!? 本物ですかそれ!?」

「しかもランスロットって。え、そんな大物捕まえてんのあの子?」

「私も知らないんだけど! ……いやでもそういえば最近あの子の周りに黒い(モヤ)が見えるような気がしてたけどもしかしてあれ!?」

「……もうめちゃくちゃですよ……」

 

 上から早苗、霊夢、レミリア、さとりの発言であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 こんな終盤間際に新キャラが出るとは誰も予想してなかっただろう(俺も含めて)


 


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現代四月編4『女神は精神疾患なのか』

 

 感想で多かったけど別にfateのランスロットを意識したわけではないんですよね。
 むしろこのすばのベルディアがモデルだったり……(ランスロットじゃないけど


 

 

 

 四月九日

 

 

 ……ランスロットをゲットした翌日。

 彼が使い魔になったわけなんだけど最悪だよ……使い魔って基本常に私の近くにいるからさ。

 ……お風呂覗かれた。着替えも、日記も全部だよ!? 信じられる!? いくら形式的な使い魔って言っても私ご主人様だよ! それなのにお風呂覗くとか最低だから! 何が騎士なのっ!?

「い、いやフラン嬢。別にやりたくてやったわけじゃ……あと俺を椅子にするのやめてくれない!? ロリっ子の尻に敷かれるって一部の人々にとっては寧ろバッチコイな人も居るかもしれんが俺にはそんな趣味はない!」

 今も私の下でブー垂れてるけどこれは正当な罰なんですぅ!

 いっそ投げ捨てて放置しないだけありがたいと思いなさい! しかも私の体を見てその感想が「あっ、すまんな」だよ!? ついでに裸見られて気持ち悪いものを見る目でランスロットを見て震えてる私に対してなんて言ったと思う?

 

「あぁフラン嬢。俺は別に幼女趣味じゃないから安心しろ。お前の裸を見たところで何も思うところはない。それともし体型気にしてるなら安心しろ。あと数百、数千年経てば美人になるだろう。俺が保証してげぶふぉっ!? ごふっ! げふううううっ!?」

「最低っ! 死ねっ! 死ねええええええっ!!」

 

 殴ったよ。迷いのない右ストレートだ。めーりん直伝の本気のラッシュだった。というか女の子に対して体型の話をすんな! ついでにマジマジと裸を見ないでよ! もう本当最低!

 こいつに対してだけは暴力系で居ても許されると思う。どうせ死なないし! 何が「俺には既に命より大事な女性がいるから」だよ! だからって私の裸を覗いて良い理由になるかっつーの!

 まったく腹が立つ。本当に奴隷にしてやろうかしら。

 

 

 #####

 

 

 読み終えたレミリアは静かに中指を立ててこう述べた。

 

「ファッキュー、ランスロット」

 

 瞬間だった。

 ゴンッ、とレミリアの頭上に軽く拳が振り下ろされたのは。

 

「お嬢様、そのような所作はしてはなりませんよ?」

「あう……っ!!? 〜〜〜〜っ!?」

 

 相当痛かったのだろう。笑顔で説教されたレミリアは顔を歪めて歯を食いしばり、目尻が濡れていた。ついでに痛みに堪えるようにブルブルと震える様を見た三人は、

 

「……お母さんですね、本当」

「いや、でも一応従者よねアイツ? 仮にも主ブン殴って良いの?」

「れ、霊夢の言う通りよ咲夜! 暴力にうったえるなんて私許さないから!」

「畏まりましたお嬢様。では言葉でご説明致しましょう。まずあのポージングについてですがお嬢様はどうお考えなのですか? あのような行為は本来どことも知らぬ低俗な輩が相手に対し『殺すぞ』と言う為のものです。状況がシリアスならある程度見過ごす事はありますがそうでないのであれば私は苦言致します。ついでに先程の拳は暴力ではありません。お嬢様自身が仰られたではないですか。『咲夜、私が間違えたらその命をかけても止めなさい!』と。私はそれを忠実に遂行したに過ぎません。また私の感情から致しましてもこれは躾です。私はお嬢様のメイドでありますがそれと同時にスカーレット家のメイドでもあります。その立場から私はお嬢様はスカーレット家の人間、しかもその当主にまでお育て致します使命があるのです。しかし私だって貴女に暴力なんてふるいたくはありません。これはいわば愛のムチなのです。聡明なお嬢様ならここまで言えばその意味を分からないとは言わせませんよ? もしくはこれ以上言われても何か反論すると? 私の行った行為がただの暴力行為だと本当にお思われですか?」

「ぐっ……ぬ! で、でもそれなら言葉や態度で言えば良いじゃない!」

「承りました。では本日のお嬢様のデザートは抜きに致します……折角いちごパフェを作ってみたのですが仕方ありません」

「す、ストップ! 分かったから! ごめんなさい! ……幾ら不快だったからってあんなポーズ二度としないから! だからデザート抜きはやめて!」

 

 

(……うわぁ)

 

 咲夜の一言で態度が反転したレミリアを見て早苗は絶句する。

 

「……どう思います、あれ?」

「……いや、どうって言われても」

「お母さんですね、間違いない」

 

 断言して一同は次のページをめくるのだった。

 

 

 #####

 

 

 

 四月十日

 

 

 昨日の思いは懲り懲りだから、今日一日かけてランスロットの活用法を考えてみた。

 で、修行に活かせないかと思って剣術で挑んでみたけど超強かった。流石そこはランスロットだけの事はあるらしい。

 ただ一々剣を弾いた後に首元に剣先を当てて上からドヤ顔で見下ろすのはやめて欲しい。いや、甲冑だから顔は分からないんだけどさ。あと「勝負アリだな。良い線だが俺には通じん」とか言うのもうざい。ハッキリ言おう、うざい。

 レヴァ剣で燃やしてやろうかと思ったけどヤバイと思えばすぐに態度変えるし。

 

「ちょっ!? それは反則だろう! 神の力とか本物のレーヴァテインとか! それに水魔法で聖水を出すな! 俺はアンデッドだぞ! 殺す気か!?」

 

 本気の声色で叫ぶランスロット、うん情けない。

 で、ここからが問題なんだけどさ……。

 

「世界の歪みの正体は貴女達ね。『貴女達は私に迷惑を掛けた』。ただそれだけの理由で私は貴女達を試す」

 

 そんな具合に相手してたら急に世界が裂けて、現れた見たことない女の人になんか攫われちゃいました。

 なんかヘカーティアとか言ってたけど……。

 確かクラウンピースちゃんに聞いたことあるなぁ。クラピちゃんのご主人様だっけ? 周りに地球儀とか月とか変な紫っぽい玉が鎖で連結して、全部一つの首輪に繋がってたよ。

 いずれの玉もとても大きな『目』が有ったよ。途方もなく大きな『目』が。

 

「私はヘカーティア。私の世界にようこそ。ランスロットとフランドール」

 

 そうやって出会ったヘカーティアさんは……うん。なんていうか独創的なファッションセンスの人だった。

 

「……ダサっ」

「ランスロット。思ってても言っちゃ駄目だよ」

「ださっ!? ふん、所詮ちっぽけな存在の貴女達にこのファッションセンスが分かるわけないもの……えぇ」

「自分に言い聞かせてません? なんか……ごめんなさいね?」

 

 思わずそう言っちゃうくらいだった。だって文字入りTシャツだよ。どこのおみやげ屋さんで買ったんだろう。超レアだ。

 なんにせよ外に出る時に着ようとは思えない服だった。寧ろあれを着て大真面目にすること自体が恥ずかしいレベルだった。

 凄い精神力だ、切にそう思う。

 で、私達を連れてきたヘカーティアさんに何の用か聞いてみると、

 

「交わらないはずの世界が交わっているの。『それを元に戻したい』。けれど私がただで働いてやるのはごめんなの。だから私を楽しませなさい、つまるところ余興をして欲しいの」

 

 よく分からない。もしかしてお姉様と同じ中二病患者ってやつだろう。服装からして頭がおかしいしもしかしたらそうなのかもしれない。

 ランスロットとヒソヒソそんな事を話して「……多分精神疾患だろう」と結論付けた私達は可哀想なものを見る目でヘカーティアさんを見た。

 それから、

 

「……あの、私、良い医者知ってるんですけど」

「待ちなさい。なんで医者を勧めたの貴女?」

「いや、それはその……言動が明らかに病人のそれでしたから」

「病人っ!? ……喧嘩なら買うわよ?」

「いや、大真面目に心配してるんですよ」

 

 うん。良い歳なんだからいい加減目を覚まさないとヤバイよ?

 就職とか……それに社会的常識とか。いきなり人を連れてきて「世界に狂いが生じている」とか妄言を吐いた挙句、「余興を見せろ」って相当頭がアレな人だからね?

 そんな具合に話していると、また空間が裂けた。そこから現れたのは龍神ちゃんだ。

 

「……ヘカーティア・ラピスラズリ。貴女、ふらんに何の用?」

「龍神の一部か。別に、こいつらが世界の歪みの原因だから正そうと連れてきただけよ。隣の甲冑男を見りゃ分かるでしょう。あいつはこの世界に存在するものじゃないわ。地球でも月でも異界でもない。もっと別次元の存在よ。だからそれを元に戻そうって話よ」

「……嘘。ふらんに何かする気だった」

「……だったとしたら?」

「ゆるさない」

「は、貴女ごときが? 傲慢もいい加減にする事ね。私を相手にしたいなら龍神本体を連れて来なさい」

「お父様の手を借りるまでもない。私でじゅうぶん」

「いや、何喧嘩しようとしてんのさ」

 

 二人とも険悪ムードは駄目だよ。

 ほらほら笑顔笑顔。仲良くしようよ。話をするにも興奮状態じゃ話にならないよ?

 そう語りかけると「……ふらんが言うなら」と龍神ちゃんが引いてくれた。

 で、それから詳しい話を聞くとどうもランスロットの存在が不味いらしい。本来存在しないものが存在する事によって生じる誤差から考えられる世界の運命のズレが……とかヘカーティアさんが言ってた。

 そこで「どうすればいいの?」と聞いてみたところランスロットを元の世界に返せば良いらしい。ただ、無償ではやらないらしい。余興をして楽しませろ、というのがヘカーティアさんの言だった。

 余興ねぇ……、今年の東方M-1でやろうと思ってたネタでもやってみる? いやでも相方いないや……。

 となると、

 

「じゃあ、弾幕ごっこでもします?」

「安直ね」

 

 速攻即答だった。

 でもやってくれるあたり少しでも余興になれば、と思っているのだろうか。でも弾幕ごっこって喧嘩の武器なのよね。異変でも分かる通り意見を押し通す手段なのよ。

 だからちょっとでもお楽しみ頂けるようルールを工夫してみました。

 

「これから私が放つ弾幕を全て食べて下さい」

「……はぁ?」

 

 疑問符を浮かべるヘカーティアさんに対しまず放つのは二月のライブイベントで余った豆だ。

 

「……なにこれ」

「豆です。鬼は外ー、福はうちーってやつ。余ったんで食べて下さい」

「いや、それは知ってるけれど……というかそれていの良い在庫処分なんじゃない!?」

「次は唐辛子スープいきますよー」

「はぁっ!? ちょっとやめなさい!」

「地面に落としたら怒りますよー? それと美味しさは保証します」

 

 咲夜が作ったものだもん。まかり間違っても不味いわけがない。

 と、そんな感じで次は酒、その次はコーラ、メントス、おはぎ、チョコレート、カレーライス、パスタとどんどん撃ち出すと意外と真面目な性格なのか全部落とさずに食べてくれた。

 

「美味しいですか?」

「味はね! ただ次々撃ち出すから味を楽しめない!?」

「……いや、なんだこれ。本当なんだこれ」

 

 ランスロットが絶句してたけど私としてはノリの良い人はありがたい。途中から龍神ちゃんも食べるのに参加してヘカーティアさんと争奪戦になってたし。

 で、そんなこんなでヘカーティアさんも満足してくれたみたい。

 なんかメントスコーラが体内で爆発する感覚が楽しいとか言ってた。絶対頭がイカれてると思う。

 あと何の感慨もなくランスロットは帰った。

 最後の一言の時に、

 

「なんだかんだ……その、助かっ」

 

 で、消えた。うん。最後までなんかアレな人だったねランスロット。

 

 

 #####

 

 

「なんだこれ、本当なんだこれ……」

「さっぱり意味が分からないわ!」

「……ま、まぁ幻想郷ならこんなことも……」

「無いと思います(断言)

 

 ただただカオスだと感じた。

 それが一同の感想だった。

 

 

 

 



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現代四月編5『妖怪フランドール』

 

 

 

 

 四月十一日

 

 

 ヘカーティアさんとランスロットの件が終わったと思えば今度は仙界に拉致されました。訴訟したいけど映姫さんも拒否しそう。

 ちなみに私を拉致したのは金髪でウェーブのかかった長髪美人さんだ。名前は純狐さん。

 拉致した理由は私の存在が面白いから、だって。

 ……別に私、芸人でも無いんだけどなぁ。そんなに濃い人生を歩んでるわけでもないし……。私より面白いと思える人なんていっぱい居ると思うけど。

 で、他に理由を聞いてみると嫦娥って人の名前(凄い憎しげに言ってた)が挙がった。どうやら私は会ったこともない嫦娥さんとやらに気に入られているらしい。それで嫦娥に嫌がらせする為に我が物にしてやろうと、ということだ。

 うん、なにそれ怖い。というか個人の事情に巻き込まないでよ。それと急に「嫦娥よ、見ているか!」と叫ぶのやめて欲しい。ビックリするから。

 というかヘカーティアさんもそうだけどこの純狐さんも絶対精神がどっかイカれてるよ!

 見ているか嫦娥よ! って明らかに何もない方向に向かって叫んでるんだよ!? サイコパスだよ! 見てる私の気分を想像してみてよ!

 ちょー最悪だよ! 純狐さんも見た目だけならすごくしっかりしてる大人の人ってイメージがあるのに……。

 というかいつになったら私は帰して貰えるのだろうか。

 帰りたいって言っても帰してくれないし。寧ろなんか私を気に入ったみたいで凄い抱き枕みたいに抱き着かれて暑いくらいなんだけど。

 むふー、って満足げな顔してるけどきっと私は不満そうな顔してると思う。寧ろ気付いて下さいお願いします。

 なんかヘカーティアさんもそうなんだけど純狐さんの近くに居たくないんだよね。なんていうか物凄い力の差を感じるっていうか、その気になったら一瞬で殺されそうな予感というか。

 ……端的に言えば命の危機と体が認識してる。

 抱き締められてる力は物凄いし。私の体がミシミシ鳴るレベルって相当だと思う。

 ……今は純狐さんも寝てて、その間に日記を付けてるけどなんとか逃げられないかなぁ。瞬間移動も何も出来ないって結構詰んでるよね。

 いっそ寝てる純狐さんを襲う? いやでも勝てる気がしない。何の力も感じないのに何故かそんな気がしてならない。

 ………………。

 諦めるわけじゃないけど今日は寝よう。

 おやすみ。

 

 

 #####

 

 

「アイツ……月の侵攻を止めるとか言っておきながら結局その嫦娥とやらへの恨みは全然晴れてないじゃない」

「確か鈴仙さんが相手したんですよね。真面目にやりあったらまず勝てないとんでもない相手だと聞きましたけど」

「……だって地球と月と異界全てを統べるヘカーティアと同格なのよアイツ。一言で言えば依姫がフリーザだとすればあいつは魔人ブウみたいなモンよ」

「……妙に分かりやすい説明ですね」

「実際の差はもっとあると思うけど。ともかくインフレしてんのよ」

 

 そもそも依姫が私達に何千万回単位で連戦して勝てる計算とかその時点でインフレしてるけどね、と霊夢は続け、多分これからも更にインフレするわよー、と妙な予言で話を締めくくった。

 

 

 #####

 

 

 四月十二日

 

 

 作戦を考えました。

 まず一つ大事な事なんだけど。一旦純孤さんから逃げれたとしても結局直ぐに捕まるのは予想付くよね。

 というわけで私に取れる作戦は一つです。幻想郷にある喧嘩の解決法。意見押し倒しが可能な唯一の遊び。

 そう、弾幕ごっこだ。もし私が勝てたら純狐さんは私に手を出さない。代わりに私が負けたら好きにして、という内容で提案すると「面白い」と言って受けてくれた。

 ……私の生殺与奪の掛かった勝負、負けたら奴隷。けれど勝てば自由が得られる。まさか、圧倒的格上に妖怪に人間が挑む手段として考えられた弾幕ごっこの弱者側を体験することになろうとは思ってもみなかったよ。

 そして運命の弾幕ごっこ。

 本当に紙一重だった。もし修行していなかったらたちまち被弾して私の命は彼女に握られることになっていただろう。かなり無理をしたけど勝ちを拾えた。

 固有時結界の思考加速を四倍から五倍にして。演算で脳がぶっ壊れそうになったけどギリギリのラインで当てられたよ。

 ……勝った後にぶっ倒れたけど勝てば良かろうなのです。

 あの人強いよ……フォーオブアカインドもレーヴァテインも通じなくて、他のスペルも試したけど簡単に打ち破られたし。最後はもうめーりんに教わった小手先の技術の組み合わせと応用だった。

 というわけで帰ってこれたよ紅魔館。入る時にお姉様とすれ違ったので笑いかけたら目を見開いてた。

 ……命懸けの戦いに打ち勝って、濃い一日だったなぁ。

 

 

 

 #####

 

 

 読み終えて最も「えっ」という顔をしたのはレミリアだった。

 

「……私の主観だと、この日帰ってきたフランの目が血走ってて身体中がボロボロで、私を獲物のように見る目でニヤリと笑いかけた瞬間に見えた口の中で血が見えたの。とても怖く見えて、下克上の勘違いになったワンシーンだったんだけど」

「はいはい勘違い勘違い」

「……いやでも意外と怖いですねそれ」

「確かに。でも絶対レミリアさんの中で恐怖補正入ってると思います」

 

 

 #####

 

 

 四月十三日

 

 

 いつも通りの寺子屋のはずだった。

 勉学は重要。しっかり勉強しないと将来の為にならない。

 寧ろ自分のステータス……ゲーム風に言えば賢さ(インテ)を上げる為の行為だし、世の中は賢さ至上主義だ。自分のレベルアップになるからもっと積極的にやるべき、と勉強する私はそんな思いだった。

 私は勉強が好きだ。未知を知るって面白い。だからこそ寺子屋は大好きな場所だった。

 ……大好きな場所だったのに。

 もう私はあそこに行けない。

 キッカケは突如、勉強中に凶暴な妖怪が寺子屋を強襲してきたことだ。

 寺子屋はそれで全壊。私に出来たのはクラスの皆を守り切って、妖怪は殺すことだけだった。

 人里を襲うのは幻想郷でもルール違反。だからこそ私も躊躇いなく殺したよ。剣の一振りで血飛沫が飛び散って私の体に掛かった。

 クラスメイトは引いてたかもしれない。でも幻想郷で妖怪が人里を襲うのは『()()()()()()』なんだ。

 でも博麗の巫女や妖怪の賢者にこの役は任せなかったのは私自身の怒りだと思う。殺した後も何度も突き刺してグチャグチャの肉塊にしてやったし。最後には能力で破壊したから。

 

 ……嫌われちゃったかな。

 血を浴びた私を見て殆どの子が息を呑んでたもん。顔に恐怖が貼りついてたっていうのかな。

 駆けつけて来た人里の自警団の人達も私を化け物みたいに見てたし。中には「アイドルでも……妖怪は妖怪だ」とかそんな陰口も聞こえてきた。吸血鬼は耳が良いからヒソヒソと聞こえる言葉が全部聞こえてしまう。

「……やだ、血塗れよ……」「何度も突き刺してたぞ……」「怖い……」「今の見たかよ、おい……」

 他にも色々あったけど全部私に対する畏怖だった気がする。

 怒りでカーッときてた私が我に返ったのもこの頃だったかな。我に返って怖くなったよ。

 周りの目が、声が。全部私に向けられているのに気付いた瞬間。

 気が付いたら逃げてた。「ごめんなさい」って謝って。

「待て、フラン!」

 呼び止めるナナシ君の声が聞こえたけど無視して逃げた。

 紅魔館に着くと、血塗れで帰ったから咲夜もお姉様も驚いてたよ。でも怪我じゃないと気付いた後は咲夜が直ぐにお風呂に入れてくれて洗ってくれた。

 ……けど、まだ体にこびりついた血の感覚が消えない。

 人達の声も、恐怖も。

 

 ……私、もう人里に行かない。その方が良いと思う。

 ……私は人間にとって怖い存在だから。私のせいで他の妖怪の子達が忌避されるなんて駄目だもん。

 

 #####

 

 涙に濡れた跡が残ったページだった。

 思わず黙り込んだ一同は思わず顔を見合わせる。

 まず口火を切ったのはレミリアだった。

 

「……ちょっと待ちなさい。どういうこと、これ? 妖怪の件は聞いたけど他の話は聞いてないわよ」

 

 それに翌日に当たり前のように人里に行ったわよ、とレミリアは呟く。特に変な様子はなく寧ろ優しくされた、というのが彼女の談だった。

 

「これは……一応知ってるけど」

 

 続いて口を開いたのは霊夢である。が、どうも釈然としない態度だった。他の三人が首を傾げると霊夢は髪をサラサラと弄りながら答える。

 

「……なんて説明すれば良いのかしらね、これ」

「……ハァ。私が説明しますよ」

 

 出てきた言葉は疑問だった。唸る霊夢を見かねてさとりが能力を発動する――――。

 

 

 

 

 

 



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霊夢の見た光景①

 ギリギリの投稿。


 

 

 

 

 ――――人里を妖怪が襲った。

 その報せを聞いて人里に急行した博麗霊夢(わたし)の視界に真っ先に飛び込んできたのは人混みと、血溜まりの跡だった。

 何が起こったの? 私が首を傾げて地面に降り立つと近くの人々が騒ぎ始める。博麗の巫女が来た、と口々に言い合っているのだ。

 それと同時に大勢の人達が一斉に事件を説明しようと話しかけてきたので私は舌打ちして、一発空に弾幕を放って静かにさせると近くの見知った顔に尋ねた。

 

「慧音。妖怪は? 何があったか教えてもらえる?」

「あ……あぁ、霊夢。妖怪が……寺子屋を襲って来たんだ。子供達は全員無事だったんだが、フランがこれ以上危害は加えさせまいと妖怪を退治したらしい。だがそれ以上は私も知らん。なにぶん今来たばかりで」

 

(……フランが妖怪を倒した? となると、この血溜まりはその跡って事かしら。肉塊も残ってないって事はあの子の能力よね。いやでもその割には血が多い……最初から破壊したなら血ごと消し去ってしまうのに)

 

 フランが妖怪を倒した。

 一部引っかかる点もあるが手持ちの情報は少なく推理するには不十分である。仕方なく溜息を吐いて改めて周りを見回して、違和感を感じた。

 

(……あれ?)

 

 瞬間的に頭の中に疑問符が浮かぶ。

 私が見た光景が妙だったのだ。

 

(なんで―――)

 

 妖怪が退治されて危険は無くなった筈なのに。

 

(――誰も心から安堵してないの?)

 

 それは表情の違和感だった。

 三百六十度、ぐるりと見渡して。誰も彼も顔が引き()っている。まるで信じたくないものを見たかのように。

 

「あの――――」

 

 そして、疑問に思って私が尋ねようと思ったその時だった。

 振り絞ったような怒号が響いたのは。

 

「ふざけるなッッ!!」

 

(妖怪の次は喧嘩か何か? あぁもう!)

 

 こちとら全員無事で安堵したところだというのに。少し面倒に思い、振り返って声のする方を見ると数人の大人に突っかかる少年の姿が見えた。

 

「ちょっと退いてちょうだい」

 

 人の山に声を掛けて道を開けさせると私はその間を抜けて前に出た。慧音の不満足な説明に付け加えて何かを言いたそうな空気があちこちから発せられたが、一旦無視して声のする方まで躍り出る。

 すると私の耳に叫び声のような説教が聞こえてきた。

 

「お前らはどんな気持ちでフランが妖怪を殺したと思ってんだよ! 言うに事欠いてあいつが狂った妖怪だと!? ふざけんな! 確かにさっきのあいつは少し様子が変だったさ。狂ったように何度も妖怪を突き刺して、最後はドカーン、だ。でもそれはあいつの全部じゃない! あいつは、狂った妖怪なんかじゃない! 楽しい時は笑って、悲しい時は泣くような普通の女の子だ。それを知ったように断定しやがって!」

「くっ……離せこのガキッ!」

「はいはーい。そこまで、それ以上何かするなら私が黙ってないわよ」

 

 襟首を掴み上げている少年の肩を叩いて止める。

 少年は首を動かして私を見て、目を見開いた。

 

「博麗の、巫女っ……?」

「えぇ」

 

 頷いて、それから私は少年に問い掛ける。

 

「早速で悪いんだけど、私ここに来たばかりでまだ状況が分かってないのよ。アンタは状況分かってるみたいだし説明してくれない?」

 

 

 1

 

 

 少年は名前を『ナナシ』と名乗った。

 中肉中背の黒髪で、何処にでも居そうなありふれた少年だ。

 さて、彼の話を要約し、慧音の話と組み合わせるとこういうことらしい。

 事のキッカケは授業中に寺子屋が妖怪が強襲された事だ。ぬうっ、と教室のガラスから伸びた影が見えた瞬間、無造作に振るわれた一撃で寺子屋が全壊したらしい。

 幸いにも怪我人はなく全員をフランが魔法で助けたそうだが、その後その(くだん)の彼女が飛び出して行ってからが妙だったとか。

 

「……ブチ切れたっていうのかな。目が、いつもと違ってた」

 

 寺子屋のすぐ外で、まずフランは虚空から剣を生み出すと妖怪の体を貫いたらしい。最初の一撃でほぼほぼ致命傷だったが、彼女の攻撃はそれに留まらず、一本、二本、三本と、数秒毎に剣を突き刺し、その度に血飛沫が飛び散ったらしい。

 その赤い血を全身に浴びながら彼女は何度も貫いた。何度も、何度も何度も何度も何度も。

 そして体ごと剣で地面に突き刺さり身動き一つ取れない妖怪に対し、無造作にフランはこう呟いたらしい。『キュッとして……ドカーン』と。

 瞬間だった。妖怪が圧縮され、破裂した。

 その後、剣を握り、血溜まりの中に佇んでいた彼女にナナシも声を掛けることが出来ず、やがて人々は余りにも様子のおかしく、残虐的な殺戮に対し「恐ろしい」と呟き始めたのだそうだ。

 そしてふと、した瞬間だった。フランの目に元の色が戻った、とナナシは語る。

 

「……正気に戻ったっていうか。我に返ったっていうか。そんな感じだった。それからあいつ、急に震え出して……逃げたんだ。ごめんなさいって繰り返し呟いて……」

 

 話し終えて彼は自嘲するように顔を怒りに染めた。

 

「……、くそ。俺は何やってたんだ。誰よりも早くあいつの味方になってやらなきゃならなかったってのに……拳を握らなきゃならなかったのに……!」

 

 それから彼は俯いた。前髪で顔が見えなくなる。私の目には、食いしばっているようにも見えた。

 そこに込められた感情は、紛れも無い後悔だ。何も出来なかった自分に対する中傷だ。

 が、急に顔を上げると彼は両手で自身の頰を張った。

 

「いや、違う。だとしたら俺は今こんなことしてる場合じゃない。どうするべきか……考えないと。動かねぇと。後悔するだけで終わらせちゃ駄目なんだ。進化しねぇと。次はどうするか考えないと……!」

 

 張ったあと、閉じた目を開けた彼は呟く。

 それから彼は地面を蹴った。ふわりと体が浮かぶ。慣れた動作だった。彼は空を飛んだのだ。

 

「ちょっ、アンタ何処に行くのよ?」

「決まってんだろ」

 

 吐き捨てるように呟いて彼は言った。

 

「紅魔館だ。フランに会う」

 

 が、その発言は直ぐに認められるようなものではなかった。

 私は彼を引き止めるべく声をあげる。

 

「駄目よ、行くなら私が行くわ。あの子の知り合いだかなんだか知らないけどこれは博麗の巫女の役目よ」

「でも……」

「でもも何もない――任せてちょうだい。悪いようにはしないから」

 

 渋る彼を諭す。けれどあまり納得していないような顔だった。

 だから私は一言付け加える。

 

「……それに、フランを助けたいって思いが貴方一人だなんて思わないで。私だってフランの友達なんだから」

「…………」

 

 彼はその言葉に少し考えているみたいだった。

 けれど、やがて。決意した顔を滲ませて、笑みを浮かべる。

 

「……、分かった」

 

 彼、ナナシは真っ直ぐと博麗霊夢(わたし)の顔を見た。

 それから右の拳を握りしめ、甲を見せる。

 

「それで全部上手くいくなら。だから霊夢さん、フランを頼む。俺は人里で俺に出来ることをするよ」

「えぇ、任せなさい。あとあんまり無茶はしないでよ?」

 

 面倒になるから、と。冗談交じりに私も笑みを浮かべ、彼の手の甲に私の手の甲をコンッ、と当てた。

 

 

 2

 

 

 

 紅魔館に着いた頃には夕暮れだった。

 門の前に降り立つと「こんにちは」という声が耳に届く。そちらをみると紅美鈴が手を振っていた。

 

「こんにちは、美鈴。通してもらうけど良いかしら?」

「えぇ、人里の件ですよね。通すのは良いんですが……その、実は妹様はお疲れになられたのかお風呂に入ったあとすぐに倒れるようにご就寝なされまして。出来れば妹様が考えるだけの時間を頂ければ個人的に嬉しいかなーって思ってるんですけど」

「私もそうしてあげたいところだけどゴメン無理。人里に妖怪が攻めて来たとなると実際矛を交えた本人の話を聞かないといけないのよ……」

「ですよね……なら、仕方ありません。正直したくはありませんが弾幕ごっこといきましょう。こちらは妹様の為に本人が考える為の時間が欲しい、霊夢さんは妹様に話が聞きたい。お互いの利害の提示はこれでよろしいですよね」

「……はぁ、結局こうなるのか」

 

 溜息を吐く。何となく嫌な勘はしていた。

 

(……だけど)

 

 『フランを頼む』と、そう約束した。だからこそこんな所で立ち止まってなどいられないのだ。

 

「アンタはそれがフランの為になると思ってるだろうけど。ただ、お生憎様。元より私はメンタルケアも兼ねてここに来たの。だから引く気はこれっぽっちも無い!」

 

 叫び、呪符を握り締め飛び上がる。

 対し美鈴は拳を構え、態勢を整えた。

 直後、弾幕ごっこが始まる。

 

 

 

 

 3

 

 

 

 勝負は数十分を掛けたものとなった。

 空はすでに夕陽は暮れ、淡く青みがかった闇を覗かせていた。

 

「……私の負け、ですね」

 

 霊力の檻に囚われ、弾幕を打ち込まれ地面に倒れた美鈴は呟く。

 やっぱり弾幕ごっこは苦手です、笑い交じりに(うそぶ)く彼女に私は疲れたような息を吐き出しながら答えた。

 

「良く言うわ。前より大分キレが上がってたわよ。紅霧異変の時とは比べものにならないくらい」

「そうですか? 妹様との修行の成果が私にも出たかなぁ……はは」

「まったく、勘弁して欲しいわ。私が疲れるから」

 

 少なからず三面なんてレベルではなかったように感じる。

 それくらい彼女も本気だったということだろう。

 ともかく初っ端からかなり消耗させられた。微かな疲労感に浸りながら私は紅魔館内部に入っていく。

 紅魔館内部は相変わらずの趣味の悪い赤の内装だった。

 その薄くランプに照らされた暗がりの廊下を歩いていく。目的地はフランの部屋だ。確か大図書館から地下に繋がる階段があり、その先に彼女の部屋があったと記憶していた。

 

(疲れて寝てるって話だから別の部屋で看病されてる可能性もあるけどその時はその時で適当に妖精メイドでも捕まえれば良いかな)

 

 万が一の事も考えているが、少なからず巫女の勘は地下室に行くべきだといっている。

 仮にいなくともまさかハズレなんて事は無いだろう。何かしら私が有利になる何かがあるはずだ。

 果たして地下室に向かうとそこには誰かいた。

 水色の混じった蒼髪に真紅の瞳。その背中から二枚の蝙蝠羽根を生やしており、幼いながら妖艶さを身に纏う少女だ。

 ベッドの上に座る彼女は私の姿を見て口角を吊り上げた。

 

「やぁ」

「レミリ、ア? ……いや、違うわね。アンタは誰?」

「流石博麗の巫女ってだけはあるか。違うと気付くのね……私はリメリア。レミィたんでも良いわよ。それで、見たところフランに用があるみたいだけど何の御用かしら?」

「……その前にアンタは何者? レミリアそっくりの奴が居るってこと自体見過ごせる事じゃないわよ」

「私は人形よ。フランに作られた人形。有事の際にはレミリア・スカーレットに成り替わり、代わりに死ぬという役目を持っている。影武者というのかしら……まぁ私の話はどうでも良いのよ。貴女はフランに何の用?」

「……話を聞きに来たの。あの子自身から今日起こった出来事を聞きたい」

「今日はやめといた方がいいわよ。あの子、不安定だもの」

「不安定?」

「心が、よ。一時的に心を閉じ込めているというのかしら? 人間に恐れられた事がかなりキタみたいね。あれだけアイドルだとか、そうじゃなくとも人との関係を持ってきたのに、たった一つで手のひらを返された。あの子は何も言ってないけど、急に沸いた感情に戸惑っているのよ。勿論、怒りとかも感じてる。ただ一番は怯えてるわね」

「怯えてる?」

「あの子、感情をあまり知らないのよ。フランに作られた私だから分かる事だけどあの子は四九五年も無感情に過ごしてきた。だからこそこの一年で多くのことを知ったわ。笑い、泣き、怒り。でもそれでもだあの子は感情に慣れてない。つまるところ、あの子は感情を勘違いしてるのよ」

 

 具体的には、とリメリアは告げる。

 

「他にもトラウマがあるのかもしれないけど。あの子は『辛い』気持ちを狂気だと勘違いしている節がある」

 

 

 

 #####

 

 

 

 知る由も無い話だ。

 フランドールはただ一人何も無い世界に囚われたことがある。

 行けども行けども何もなく、歩けども歩けども変化のない。

 三百六十度どこを見ても全ては黒一色で、人工物らしい人工物も自然物らしい自然物もない。

 息は出来ないが酸素不足に陥る事なく、食べる事は出来るのに食べずとも生き続けられる世界。

 そんな世界に囚われた彼女がどうなったのか。

 しばらくは耐え切れたが、ただ一人という孤独が彼女を蝕んだ。また変わりのない景色が彼女の精神を摩耗させていった。

 辛い。辛い、辛い、辛い。

 けれど救いなんてない。それでも彼女は考える。この状況から脱することが出来るのだろう、と。

 そして辿り着いた答えは自分自身を壊す狂気だった。

 

 

 

 #####

 

 

 

「……感情を勘違い?」

「えぇ、間違いないわ。それも今のあの子は一種の狂気状態に近い」

 

 霊夢の質問にリメリアは頷く。

 それから彼女は一つ、問いかけた。

 

 

「さて、それでも貴女はあの子の元に向かう?」

 

 

 それに対する返事は一つだった。

 

 

 

 

 

 










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霊夢の見た光景②

 









 

 

 

 

 空は青く染まっていた。現在時刻は午後六時。門番を倒し、リメリアを名乗るレミリアそっくりの少女との邂逅を果たした博麗霊夢(わたし)は彼女と行動を共にしていた。

 オレンジから紫へと色彩を変えつつある空には、ぼんやりと満月が瞬く。その月は消えかかる夕陽に照らされて赤く染まって見えた。

 思えばあの日もこんな夜だった。紅霧異変を思い出す。

 幻想郷を覆い尽くした紅い霧から顔を覗かせた紅月(くれないづき)は悔しくも綺麗なものだったと覚えている。

 

「……あの子が近いわよ」

「妙に静かね。咲夜とレミリアはどうしたの?」

 

 と、その時リメリアが声を掛けてきた。

 ここまで門番以外、何の障害もなく来れたことに内心私は驚き尋ねると「留守よ、咲夜は医者に薬を貰いにいってるけど。レミリアは知らないわ」との返事が返ってくる。

 ふぅんと曖昧な返事をする私だが内心あまり芳しく無かった。

 

(……いくらなんでも静か過ぎない? それにフランが倒れている時に都合良く二人とも留守だなんて。嫌な予感がする、何か決定的な……)

 

 気のせいなら良いのだけど。拭い去れぬ不安を抱く。

 言うなれば巫女の勘だ。マイナス方面に働くのは久方振りの事だが一応の用心はすべきだろう。

 

「……ここよ」

 

 そんな事を考えているといつのまにか目的地に着いたらしい。リメリアが示した一室の扉に目をやると、紅魔館らしい高級な装飾のされた扉が目に入る。

 一瞬の逡巡。が、やがて覚悟を決めて私は扉に手をかけ――開いた。

 そして、ギィ、と小さな音を立てて開いた扉の先に。

 

「……れ、いむさん?」

 

 その少女は居た。ベッドに腰掛けてぼんやりと月を眺めていたらしい。扉が開いた事で初めて私の存在に気付いたようで、驚いた様子だった。口から漏れた声も儚げで、ふとした瞬間に死んでしまいそうな薄命感を漂わせている。

 が、そんな状態でも彼女は立ち上がると笑顔を向けて挨拶をしてきた。

 

「……こんにちは霊夢さん。お構い出来ずごめんなさい。今からお茶を淹れますから」

「待ちなさいフラン。別にお茶は要らないわ。私は話をしに来たの」

「……っ!! 今日の、こと……ですか?」

 

 本題を口にすると一瞬、彼女の顔が悲壮に歪んだ。

 が、次の瞬間には顔色が元に戻る。思わず感情が出たのだろう。だが、彼女はやがて小さく息を吐くとこのような提案を投げかけてきた。

 

「……あの、霊夢さん。伝言をお願いしても良いですか」

「……内容によるわ」

 

 伝言。メッセージを伝えて欲しいと彼女は言う。が、即断出来ない私は条件付けた。

 すると彼女はこう語る。

 

「……その、怖がらせてしまってごめんなさい、と。それと、もう私は人里には行かないので他の妖怪を忌避しないで欲しい、と」

 

 そう、笑って。

 まるでそれが当たり前のような顔をしていて。

 その全てを諦め受け入れた顔を見てしまった瞬間に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ズゴンッ!! という物凄い音と「〜〜〜〜っ!?!?!?」という悲鳴染みたフランの涙声が響く。ついで私は言葉を投げかけた。

 

「…………………………アンタ馬鹿?」

 

 頭を押さえて地面にしゃがみ込んで呻くその姿は姉そっくりであったがそれはともかく。

 あまりにも雑過ぎるファーストアタック(ついでに死ぬほど痛い)に思わず思考が停止し半泣きで呻くフランに、私はどんよりした目を向ける。

 

「……いや、何悲劇のヒロイン気取ってんのよ。つか何であの一件で自分が危険な妖怪だと思われてるって断じてんの? ……前から思ってたけどアンタ本当に自己評価が低いわねー」

「にゃ、にゃにを……っ!?」

「そもそもの話。アンタ散々アイドルだの何だのでフランちゃんフランちゃんって持て囃されてたじゃない。それだけじゃなく買い物に行けば商店街の爺婆にまるで孫みたいに扱われてるし。他にも思い出してみなさいよ。甘味屋でも可愛い可愛いって言われてるでしょ。それだけされて何でたったの一回妖怪退治っていう凶暴な面見せただけで人里全員が『失望しました。フランちゃんのファンやめます』みたいな対応になると思ってんのよ」

「で、でも! 皆、私の事怖がって……!」

「当たり前でしょ! 目の前で妖怪相手とはいえ何度も突き刺して苦しみを与えた挙句、最後に能力でぶっ壊すってどんなスプラッタよ! 私でも引くわ、うん」

「あ、そこは認めるんですね……」

「当たり前でしょ。何なら普段から優しい私が目の前で愉悦の表情浮かべながら妖怪を嬲り殺しにしてる様子想像してみなさい。引くでしょ?」

「……いや、でも案外似合ってる気が」

「ああん?」

「嘘ですごめんなさい! 引きます、物凄い引きます!」

 

 ちょっと正直に答えたフランに対し私がデコピン構えて威圧すると彼女は必死に否定した。

 本当かしら、とジト目になる私だがしばらくしてどうでもいいと判断し、あー、と呟いて言う。

 

「あーでも何だろ。このほんわか感。だー……さっきまで辛さを狂気と勘違いしてるとか不安煽られまくりで、巫女の勘もヤバイヤバイって警告してたから……なんていうか、和むわぁ」

「いや何ですか和むって!? わ、私はこれでも真面目に人里に行かないって話してるんですよ!!」

「そういうとこよ。何でも出来る割に肝心なとこでポンコツなとこ。フランはあれよね、レミリアが常時ポンコツ型だとしたら重要なところでポカする、そういう感じの子よね」

「いやいきなり来たと思ったらなんなんですか!? 私の決意とかをまるっきりギャグに消化しにかかるのやめてもらえませんっ!?」

 

 思いっきり叫んでフランはゼーハーゼーハーと息を吐く。

 それから彼女は一枚の紙を見せた。スペルカードである。あれっ、と私が思う間も無く彼女は宣言した。

 

「禁忌『クランベリートラップ』!」

 

 瞬間、場に数体の使い魔(クリーチャー)が現れ縦横に動きながら私狙いの弾幕をばら撒き始める。

 強襲にも近い一撃を素早く回避して私は叫んだ。

 

「危なっ! なに、痛いところ突かれたからキレたの?」

「キレましたよ! ええそれはもう! 霊夢さんのそういう態度にぃっ!!」

 

 窓から飛び出し、月夜を背にフランドールは構えた。続いて霊夢が外に出ると、フランは最短距離で飛びかかっていく。

 

「大体っ! 霊夢さん! 私は真剣な話をしてるんです! それをふざけて……誰が怒らないってんですかっ!! それにそう決めた理由だってあるんです!」

「ちょっ!? うわっ! 吸血鬼の運動能力に任せた攻撃は卑怯でしょう!? 普通に拳で向かってくんなアホ! 弾幕ごっこをしなさいよ!」

 

 フランの拳を私は何とか首を振って避け、素早さで撹乱しようと動きを早める彼女目掛けて追尾弾を放つ。

 彼女は避けるどころか、『ハァッ!』という叫び声と妖力噴射だけで追尾弾を搔き消しながら、

 

「まずは茶化さずに話を聞いて下さい!」

「分かった! 分かったからまずは拳を下ろしなさい!」

「弾幕ごっこ中ですよ!?」

「弾幕ごっこだから物理やめろつってんでしょーがああああ!!」

 

 ぷっつんした私は強引に空を飛ぶフランの服を掴むとそのまま背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 ズガァン! という音を立てて地面にめり込んだフランは、そのまま語り始めた。

 

「げふっ……ともかく説明します! 私は、あの妖怪を殺す時になにを思っていたと思いますか!?」

「知るか! そもそも良く頭から地面にめり込んでいる状況で話そうと思えるわね!?」

「……あの時、あの時の私は殺すことしか考えてなかったんです!!」

 

 しつこくツッコミを入れてこようとする私に対し、フランは地面から顔を引っこ抜くと私を蹴り飛ばし、マウントポジションを取って話し始める。

 お互い土まみれの中で、ぽつりと質問したのは霊夢の方だった。

 

「……それ、どういう意味よ?」

「寺子屋を強襲された後の意識が無いんです。多分、あの時の私は感情に体を支配されていたんだと思うけど……ただ、あいつをどれだけ惨たらしく殺してやろうかとしか考えていなかった! 本来を皆を助ける為だとか、寺子屋を壊した憎き相手、とか色々理由はあったはずなのに……それなのに私は殺すことしか考えれなかった。それはつまり、私っていう存在は元々そういう妖怪だったって事なんです! アイドルだとか、普段の私は偶像的なものに過ぎなくて、本来の私ってやつは怒れば直ぐに殺してやろうと考えてしまう残虐的で、狂気的な妖怪だったんです。だから、私は万が一にもそれが皆に向かないように……それに皆の私を見る目は完全に……そういう妖怪を見る目で、それで確信できたんです!」

 

 震える声でフランは叫んだ。

 相手に伝わるとは思っていない。自分に対する責め苦にも近い悲鳴だった。

 

「……それに、霊夢さんがそうじゃないと否定したとしても。私自身狂っていることは分かっているんです。例えば、その、信じられますか? 辛いことから逃れる為に自分を破壊したことがある、とか。それ以外でも時折記憶が飛ぶことがあります。その度に周りはこう言うんです。その時の私はいつもより怖かった、と。私はいわば爆弾なんです。今は不発弾でもいつ爆発するか分からない、そんな爆弾」

 

 言われても私に出来るのは怪訝そうな顔をするくらいだった。

 が、その時だった。ふるふるとフランが震えたと思うと彼女の様子がおかしくなる。ガクン、と力が抜けたように地面に足をつくと、彼女は両手で顔を押さえてあ、あ……とうめき始めた。

 

「ちょ、ちょっと。大丈夫?」

「……私は、殺して……何度も、刺して、笑って」

 

 妙だ。嫌な予感がする。

 とてつもなく嫌な予感が。だが、私は動けなかった。フランにマウントポジションを取られているせいだ。

 

「私が居なくなった方が……だって私は危険だから。いつ、狂気に囚われるか分からなくて……最近はその数も増えてて。それなのに」

 

 彼女が小さく呟く。

 こんな私が、皆の元に居て良いのか? と繰り返し問いかける。

 フランの瞳から急速に色が失われ、まるで別人のように精神を変えていく。

 そしてその変化が完成しようとしたその時だった。

 

「……、るな」

 

 遥か遠くから響く声を聞いた。

 微かに届いた声。しかしフランはその動きを止め、そちらを向く。

 しかしそれは私も同じだった。

 その人物が何故そこにいるのか分からなかったからだ。

 だって、その人とは一つの約束をしたはずで、決してこんな場所に来るはずが、

 

「逃げるなぁ!! フラン!!!!!!」

 

 腹の底からあらん限りの力で叫んだ声に私の思考が弾け飛んだ。

 それはフランも同じだろう。現に彼女は大きく目を見開いて声には出さず口をこう動かしていたからだ。

 『なん、で?』と。なんで彼が居るのか、と。

 しかしそんな疑問は直ぐに吹き飛んだ。ハッ、と我に返ったフランが彼に弾幕を向けようとしたからだ。

 いや、実際数発は放っていた。だがそれのいずれも彼に当たることなく真横をすり抜けていく。

 真っ直ぐ、ただ真っ直ぐと最短距離で近付いてくる彼は叫んだ。

 

「ふざっけんな!! 俺を何度も助けてくれて。寺子屋の皆を守って、きちんと救ってくれたお前が! 今だって俺を攻撃することさえ躊躇して狙いすらつけられなかった優しいお前が! そんな間違った自己犠牲が本当の正解だなんて思っている訳ないだろうが!!」

「っ!!」

 

 彼の言葉には不思議と強さがあった。

 迫る彼から逃げるようにフランは飛び上がる。ようやく動けるようになった私は思考を動かしていた。

 

(どうして、彼が? いや、そんなこと考えて場合じゃない。どう考えてもさっきのフランの様子がおかしかった。なら、一般人をあの子の元に向かわせるわけにはいかない!)

 

「霊符『夢想封印!』」

 

 強引に立ち上がり、スペルカードを発動させる。私の十八番とも呼べる弾幕はいつも通り発動し、彼目掛けて降り注ぐ。

 が、それは途中で崩壊した。爆発四散というのか。慌てて上空を振り向くとそこではフランが右手を握り締めていた。

 能力を使用したのだ。彼女自身信じられないような目で自分の拳を見つめ、動きが止まる。

 

「っ!?」

 

 驚愕したのは私も同じだった。一瞬思考が停止して。

 されど、彼にとってはその一瞬だけで十分だったらしい。地面を蹴り飛びあがると、一瞬で加速する。

 停止した体は直ぐには動かせない。慌ててフランが避けようとするが、避けきれず彼は眼前へと迫った。

 

「捕まえたぁっ!!」

 

 そのまま懐に飛び込んだ彼は両腕を使って華奢な体を抱き寄せた。

 そして叫ぶ。

 

「一回は逃げられたけど、今度は手が届いたぞフラン! さぁ言ってみろよ。俺の目をハッキリ見て! お前が自分を危険な妖怪だと言うなら俺は何度でもそれを否定してやる! 誰もがお前の事を怖い妖怪だと思ってるならその思い込みをぶち壊してやる! だって、今お前の目の前にいる俺が――――俺自身がお前の事を危険な妖怪だなんて一度だって思った事無いんだからッ!!」

「――――っ」

 

 抱き締められて。真正面から言われた瞬間にフランは息を呑んだ。

 同時、涙がはらりと零れる。

 少年は続けた。

 

「だから」

 

 その言葉でフランの瞳に色が戻っていく。

 それは他ならぬ人間である彼に肯定されたからか。

 戻っていく。あの、いつもの紅い瞳に。

 そして彼は最後に告げた。

 

「だから、もう人里に行かないとか言うなよ。お前は笑う事もあれば泣く事もある。普通の女の子なんだ。狂ってなんか無いに決まってる。少なくとも俺はそう信じてるからさ」

 

 と。

 

 

 

 

 




 


 次回で霊夢視点終わりです。
 説明してないところの説明が残ってるので……。


 


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霊夢の見た光景③

 


 次回からまた普通に日記です。


 


 

 

 

 フランが落ち着いた。

 巫女の嫌な勘も外れたらしい。全力でシリアスを避けてギャグにしようとした甲斐があったというものだ。

 異変ほどの事にもならず無事に解決した事に私は少なからず満足していた。

 が、

 

「――――で」

 

 一転して笑顔を浮かべた私は少年に対してジト目を浮かべる。

 そのまま拳を構えて近寄り、胸ぐらを掴み上げると彼は戸惑ったように首を傾げた。

 ……腹が立ったので軽くぶん殴る。

 

「ごふっ!! なっ、なんで殴ったんですか!?」

「自分の胸に聞きなさい! 寧ろ怒りたいのはこっちよ! なんで『フランのことは任せる、俺は人里で出来る事をする』とか言っておきながら紅魔館に来てるんだっつーのッ!!」

「あぁ……うん。それは本当に申し訳ないっつーか……でも俺にも止むに止まれぬ理由がありまして! だから怒る前に俺の話を聞いてくれませんヘイYou!」

「うざっ、今度は鳩尾(みぞおち)殴るわよ?」

「ごめんなさい俺が全面的に悪かったですだから話を聞いて下さいっっ!!」

 

 なんか疲れたようなナナシは精一杯虚勢を張るようにボケるが私にそんなボケは通用しない。誤魔化しが見え見えのボケなんて聞き入れるものですか。

 ともあれ、話だけは聞いてあげる事に。すると彼はラジコンのコントローラーのような小型機械を取り出して言う。

 

「えーっと……じゃあ俺が人里で何してたかって事ですよね。まずこちらの機械を見てもらえません?」

 

 そう言って彼がボタンを押すと、ヒュンと音を立てて彼の周りにふよふよと浮く……なんだろうか。タコ焼き型の機械が姿を現した。

 うわっ、と二人して驚くと彼は機械の説明を始める。

 

「……実は人里で皆を説得しようとしたんですけど、上手くいかなかったんです。どうもフランの妖怪を殺す姿が余りにも凄惨過ぎて記憶にこびり付いたみたいで……だから俺、フランがそんな妖怪じゃないと皆の前で証明できれば、と考えたんです。そこで新聞記者の文さんに依頼しまして」

「ちょっと待ちなさい」

 

 ストップだ。

 霊夢が突っ込むと彼は「ハイなんでしょう?」となんで止められたのか分からない、と言う顔をする。

 

「……いや、アンタ文と知り合いなの?」

「はい。以前妖怪の山に行く事がありまして……ちょっとした事故で妖怪の山が吹き飛びそうになったんですけどその時に共闘して」

「妖怪の山が吹き飛びそうにっ!? いや何があったのよ!? 私知らないわよ! 私の知らないところで異変起こってないそれ!?」

「えーと……ではまぁ概略だけ話すと天狗内で内紛がありまして、下克上ってやつですかね。大天狗が天狗を率いて天魔を殺そうとしたとか。ただ力関係は天魔さんの方が上だったとかで、大天狗側は天魔さんの娘さんを人質にとりまして……ついでにハイキングに来てた俺の友達も攫われてしまったのでそれを救出する作戦で文さんと協力して、最後は妖怪の山を消し飛ばす術式が発動されそうだったんですけどそれも何とか断ち切って、無事に事を済ませて、今は仲良くさせてもらってます」

「いやこれ異変じゃねぇ! そんな生易しいもんじゃなかった!! 明らかに生き死にレベルの話よねそれっ!? 全く聞いてないわよ! つかスペルカードルールどこいった!?」

「……そう言われてもですね。弾幕ごっこって女子供の遊びでしょ? 天魔も大天狗も大の男だしルールに則らなかっただけじゃ……それに俺は関係者とはいえ部外者ですし、あまり内紛の実情は詳しくないんですよ。友達助ける為だけに動いてただけだし」

 

 というかその話は一旦置いておいて、と彼は話を戻した。

 

「ともかく文さんに協力してもらいまして。俺がフランの様子を撮影して皆に真実を伝える事が出来ないかって考えたんです。ただ……」

「ただ?」

「……俺はあまり機械に詳しくないんですけど、撮影だと編集が出来て、嘘の事実を報道することも出来るそうなんです。だからただ映像を見せる嘘だと騒ぐ人がいるでしょう、と言われて」

「……そうなの? フラン」

「……はい、最近だとiPhoneでも編集ソフトがありますし簡単に出来ますけど」

「そこで俺、考えました。どうすればフランのそのままの姿を見せる事が出来るだろうか、と。そして思い付いたんです! それがこの機械、香霖堂提供の『ステルスカメラくん』!」

「カメラなの? そのタコ焼きみたいで、ふよふよ浮いてるやつ」

「はい。なんでも文さんに聞くとこの世には生放送なる報道方法があるそうです。撮っている映像をリアルタイムに画面に映し出すそうで、ただ文さん自身生放送の装備は持っていなかったので一番可能性があるだろう香霖堂を訪ねて霖之助さんに頼むとこれを貸してくれたんです」

 

 笑顔で語るナナシだがそれはつまり、あれか。

 

「今も撮ってんの? それ」

「はい。文さんが人里で映してると思いますよ。皆見てると思います」

「……へぇー、そう」

 

 大きく頷いたナナシに対して私は静かに呟くと無造作に()()()()()()()()()()()()()()

 

「うわあああっ!! な、なにぶっ壊してるんですか!? 高いんですよこれ!」

「知るかそんなもん! ようはアレじゃない! 放送の中で私がフランの下敷きにされてた瞬間も撮られたって事でしょ!? ふざけんな! あれで参拝客減ったらどうすんのよ!」

「問題そこなんですか!?」

「そうに決まってるでしょ!! こちとら死活問題なのよ!? 毎日生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから! それどころか日常的に雑草食べてて最近だと雑草がおかずなのよゴラァ!」

「意外と瀬戸際っ!? というか世知辛い! え、博麗の巫女ってそんなに低収入なんですか? アレだけ異変のたびに命懸けて? 明らかにブラックの匂いしかしませんよそれぇ!!」

「給料なんて無いわよ! つかこんな仕事辞められるものなら辞めたいわ! 住居はあれども不便極まりない立地だし! 参拝客も少なく暇な日には小うるさい仙人が説教してきたり胡散臭い妖怪賢者が修行しろと言ってきて! 衣服も腋出し巫女服っていうどのジャンル狙ってんだか分かんねぇ服だし、夏はクソ暑いわ冬はクソ寒いわ! 正直一日に一回は辞めたいと思うわよ! ついでに言えば私、今は博麗の巫女だけど元は外の世界の人間なのよっ!? 幼い頃に拉致されて幻想郷に来てるのよ!? 確かに紫には優しくされたり先代もお母さんみたいに接してくれたけどそもそもの時点でやってられるかっつーの! 弾幕ごっこだってこの仕事に命懸けるのが嫌だったから考えたみたいなもんだし……」

「想像以上にブラックだったぁ!? というか何それ怖い! 闇の陰謀しか感じねぇ! よくそれで巫女やってますね霊夢さんっ!?」

「そんなの私が知りたいわよ! ともかく、この仕事は給料なんて無いの! 金が欲しけりゃ何をしてでも稼ぐしかない。お金をくれる参拝客も人里でも数人しか居ないし、頑張ってもようやく私が食べるだけしか稼げないし、毎日毎日が飢えとの戦いなのよっ!?」

「わかっ、分かりました! 本当にごめんなさい霊夢さん! 俺が悪かった! だから泣きながら揺さぶらないでください! なんつーか心が痛い!」

 

 うぅ、う……心が痛いのはこっちよ!

 博麗神社のお賽銭なんてそれこそ異変や有事の時に私が動くからであって、その妖怪にやられてる姿なんて撮られたらそれこそ終わりなのに!

 ……けれど助けられたのもまた事実。

 馬乗りになったフランの様子はおかしかったし、妙な豹変をしようとしていた。もしあれがあのまま進んでいたら、と考えると彼は命の恩人なのかもしれない、と私は考えて泣く泣く……渋々! 揺さぶるのをやめてあげることにした。

 

「げほっ……はぁ。いや、本当にごめんなさい」

 

 息を整える為か咳をして彼は頭を下げる。

 割と申し訳ないと思っているらしい。その表情は真剣だった。

 そして、その顔のまま彼はこうのたまった。

 

「……分かりました、俺も男です。もし俺のせいで霊夢さんが食べていけなくなったとしたら責任を取りましょう」

「何それプロポーズ? さいってー」

「違いますよ!?」

 

 違うらしい。まぁ私としてもそんなプロポーズ受け取るつもりもない。むしろ全力でぶっ壊す所存だったのでそれは安心した。

 手を左右に振ってないない、と言った彼は言葉足らずなのを謝罪して説明する。

 

「そうじゃなくて、霊夢さんが食べていけるだけの環境作りをするって事です! 具体的には賽銭の額が増えます」

「……別にアンタがポケットマネー出すとかなら遠慮するわよ。それこそ惨めじゃない。扶養は私が超えちゃいけない最後のラインって決めてるし、善意だとしても辞めてちょうだい」

「違います、俺がするのはただ一つです」

 

 否定して、彼は先程のコントローラーを取り出してボタンを押す。

 すると別の方向からもう一機の『ステルスカメラくん』が現れた。撮り手の方から覗き込むと『REC』と赤文字が彩っている。どうやら録画中らしい。そのカメラを素手で掴むと彼は小さく笑った。

 

「実はもう一機あったんですよね。ステルスカメラ。霊夢さんの言葉、人並みな感想ですけど凄く胸に響きました。人里の皆も同じだと思います。それに今回だってこれだけ悪待遇の中でも人里を助ける為に動いてくれた。普段から殆ど霊夢さんを助けもしない俺達を文句を言わずに助けてくれた、それは絶対に誰にも出来る事じゃないと思います」

「は、ぁ、えっ……?」

 

 戸惑う私に対してナナシは頭を下げた。

 それから、だから、と彼は言う。

 

「ありがとう霊夢さん、それしか言えません」

「え、いやっ……」

 

 分からない。えっ? もう一機あって、全部撮られてたの? つまり聞かれた? 全部? 不満とかも全部聞かれた? 人里全体に? 自分から愚痴みたいに告白してそれでお礼言われて……。

 思わず顔が赤く染まる。だって、こんなのずるい。卑怯だ。

 言うならばこれは羞恥の感情である。内心ずっと溜め込んできて、でも言ったら何か負けたような気がして恥ずかしくて。それがこの少年曰く、誰にも口にしてなかった本音をぶちまけさせられた挙句人里全体に広めやがったらしい。

 私に出れた行動は一つだった。

 

「死ねっ!!」

「何故ぇっ!?」

 

 振りかぶった拳を間一髪で避けやがった。続いて私は追撃を掛けるがひらりと躱された。

 

「チッ、黙って殴られなさいこの最低野郎が!」

「ちょっ、なんですか!? 問題解決でしょこれで!」

「同情されて貰える金ほど恥ずかしい金があるかっ!!」

「それは違いますよ! 仮に明日からの賽銭が増えたとしてもそれは俺達の感謝の印です! 霊夢さんが助けてくれたから、そのお礼をしたいだけなんですよ!?」

「理屈なんてどうでも良いのよ! ともかく一発殴らせなさい! さっき責任取るって言ったでしょ? だったら私のこのモヤモヤした気持ちを晴らさせろッッ!!」

 

 そんな具合に追い掛け回すこと数分。

 ようやくブン殴って地面にノックダウンした忌々しい野郎の気絶顔と粉々になったステルスカメラくんを見て私は溜息を吐いた。

 そして途中から話に入ることなく曖昧な顔でこちらを見続けていたフランに声をかける。

 

「さ、行きましょう。人里に」

「ナナシ君をこのままでですかっ!?」

 

 案外元気なツッコミだった。

 

 

 #####

 

 

 

 その後の事を話すならハッピーエンドと言えば事足りるだろう。

 人里に行くともう深夜にも関わらず多くの里人が出迎えてくれた。腹がたつことにナナシの言う通り、フランのそのままの姿をありありと見せられた人々は反省したらしい。

 ついでに私に対しても物凄く感謝をされた。物凄く気恥ずかしくなってあの男を殺してやりたくなった私は悪くない。

 寺子屋の人達もフランと仲直りしている様子だった。次に妖怪が来たら私が倒すからな、と慧音が言ってたのを覚えている。

 フランも幸せそうだった。ポロポロ泣いてたっけ。

 

 その裏ではあの最低野郎はしばらく香霖堂でバイトすることになったらしい。ステルスカメラくんを弁償させるのだとか。ざまぁみろ。

 ……ただ。

 ……本当に翌日から賽銭が増えていたのは、その。ほんのちょっとくらいは感謝してやらなくもない。

 

 

 

 

 

 #####

 

 

 

「……と、こんな感じですね」

 

 語り合えたさとりは疲れたように息を吐いた。

 語る際に実は装着していた伊達眼鏡を外して彼女は伸びをする。

 真っ先に感想を述べたのは早苗だった。

 

「惚れましたね?」

 

 瞬間、ダガン! と拳がめり込む音が早苗のすぐ横の壁から響く。

 笑顔の霊夢は問い掛けた。

 

「何言ってるか聞こえなかったわ。もう一回言ってくれない?」

「な、なんでもないです! サーイエスマム!」

 

 慌てて敬礼する早苗をよそに二人が感想を言い合う。

 

「で、実際のところは?」

「……正直惚れるより単純に辱めを受けたイメージの方が強いですね。ただ一目は置いてるみたいです。いけすかねー野郎だけど頼りになる、って感じですかね」

「……霊夢もか。フランもあんな男のどこが良いのかしらねまったく」

「……それはフラグですかレミリアさん?」

 

 何だろうこの空気。

 霊夢はぼんやり思う。すると話はいつの間にか別方向に変化していった。

 

「……というか途中で出て来た内紛とか妖怪の山に住んでる私すら知らなかったんですけど」

「あの最低野郎、節操無いタイプよね。今回の件でフランを抱き締めてるしぶち殺してやりたいわほんと」

「……物騒ですよレミリアさん」

 

 さとりにたしなめられてレミリアは憂うように溜息を吐いた。

 一方で、

 

(……というか皆気を遣ってるのかしら。私の境遇についての話がない……)

 

  ちょっと考えて今まで黙り込んでいた霊夢が口を開く。

 

「ともかくフランの日記を見ましょ。それで私の話はおしまい。外を見る限り最終神話戦争(ラグナロク)終わったみたいだし、いつフランが帰ってくるか分からないんだから」

「え、マジですか?」

「……うわ本当だ」

「……我が妹ながら化け物なのかしらあの子……」

 

 やべぇ、統一した思考の中とりあえず一同は先のページを読むことにした。

 

 

 #####

 

 

 

 四月十四日

 

 

 昨日の日記を付け終えた後、霊夢さんとナナシ君が来た。

 もう人里に行かないって言ったら言い方は違えど二人ともに説教されてしまったよ。

 ……それにナナシ君の言葉は、その。何というか凄く響いた。

 素直に嬉しかったよ。

 人里の人達も私を受け入れてくれてさ。

 改めて思い返すと馬鹿なこと言いだしたなぁって思って少し恥ずかしかったのは内緒。

 あと霊夢さんの話を聞いたけど思った以上に厳しい生活してるみたいだね。今度から定期的にお裾分けしようと思う。あと遊びに行った時は必ず食べ物を持っていこう。出来るだけ日持ちがするのを……。

 あれ、というかそれだけ生活に苦しいのに霊夢さんってお客さんが来たら必ずただでさえほぼないお茶やお菓子を出してくれていた……?

 ……うん、今度お賽銭しよう。暇だから、と行ってた博麗神社だけどその裏でどれだけ苦労してるのか想像すると私の悩みがちっぽけに思えてくる。というか安易に行ってた私の馬鹿! ごめんなさい霊夢さん……その、ナナシ君とは別の意味で物凄く言葉が響きました。

 

 

 

 #####

 

 

(……っていうか今思えば辱められた事を考えると巫女の嫌な勘って外れてないわよね)

 

 ふとそんな事に気付いた霊夢はさっさと忘れてしまおう! と改めて次のページを読み進めていく――――。

 

 




 


 


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現代四月編6『レミリアが怖がる謎』

 

 

 

 

 四月十五日

 

 

 最近になって思うことがある。

 ……私、すっごく幸せだなぁって。

 一年前のように一人ぼっちでずっと地下に篭っていた頃と比べて、私の世界はこの一年で大きく広がった。単に外に出るだけでも大きな変化だったけど、人里に出向くようになったり、寺子屋に通うようになったり、色々な繋がりが増えていった事でそれは益々大きな変化になっていった。

 今は私は幸せだ。

 初めての事に挑戦して、凄く楽しい。友達と話すのも楽しい。色んな人との繋がりは私にとってすごく大事なモノだ。絶対に壊したくないモノだ。

 

 ……私、外に出てみて良かった。

 あの日に、四月一日に人生を振り返って良かった。

 今私が享受してる当たり前で幸せな日常っていうのは全部あの日から始まったものだと思う。

 もしもあの日、努力してみようと思わなかったらきっと私は今も一人、部屋に篭っていただろう。

 

 もっかい書こう。

 私は今、とっても幸せです。

 

 

 #####

 

 

 

「……なにこの最終回みたいな文面」

「いや、偶にあるじゃないですか。寝る前にふと過去を思い出すこと。それで、じゃないですか?」

「……早苗さんに同意ですね」

「私はフランが幸せならそれで良いわ」

 

 あの子が幸せならなんでも、とレミリアは呟き次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 四月十六日

 

 

 お姉様の様子がおかしい。

 そう言えば前々から気になってるんだけどなんか避けられてる気がする。

 なんでだろうね。私、別に何かした覚えはないんだけどなぁ。

 なんでか気になったので咲夜に聞いてみると『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』(塗り潰された跡)って言ってた。

 

 

 

 

 

 

 日記を机に叩きつけ叫ばざるを得なかった。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 読み進めていた途中で声を上げたのはレミリアだった。

 彼女は「咲夜、咲夜ーっ!!」と名前を呼ぶと同時、「はい、こちらに」と現れた本人に対して「咲夜に聞いたら……」という文面を指差して問いかける。

 

「この文章が塗り潰されてるんだけどどういうこと?」

「大人の事情です」

「何の事情よそれっ!!」

 

 癇癪を起こしたレミリアに対し咲夜は落ち着いてください、と述べ説明した。

 

「この黒ずみは……実はこの日妹様は習字をなされてまして、その墨を零されたのです。内容もあの時の私は「少し行き違いがあるかもしれませんが問題無いでしょう」とお答えしましたし別に変な回答が書かれていたとかそういうわけではありません」

「……な、なるほど」

 

 習字の墨ね。それなら仕方ないか、レミリアは頷いて咲夜を下がらせる。

 それから改めて文章を読もうとして、気づいた。

 

「あれ、これ墨じゃなくてボールペンで消されて……咲夜! ちょっと咲夜! 騙したわね!!」

「あら、バレてしまいましたか。少しお戯れ致しました。お気に障ったなら申し訳ありませんお嬢様。ですがそこに書かれていた言葉は先程の私の言葉で間違いありませんよ?」

 

 バレてしまいましたか、というところでチラリと舌を出した咲夜はクスクス笑いながらレミリアに真実を告げる。

 ……なんか釈然としないレミリアだが、ひとまずそのまま読んでみることにした。

 

 

 

 

 

 

 四月十六日

 

 お姉様の様子がおかしい。

 そう言えば前々から気になってるんだけどなんか避けられてる気がする。

 なんでだろうね。私、別に何かした覚えはないんだけどなぁ。

 なんでか気になったので咲夜に聞いてみると『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』(塗り潰された跡)って言ってた。

 めーりんにも聞いてみたら『わ、私は何も知らないアルよ?』って言ってた。アルよ、って何のキャラ付けだろう。

 ……お姉様どうしたんだろう。何か悩みがあるなら話してほしいな。私だって役に立てるってところ見せたいし、何より悩みってものは一人で抱え込むよりも人に話した方が楽になるものだしね。

 うん、もうちょっと積極的にお姉様に話しかけてみようかな。

 一応前にそう考えてからある程度時間も経ってるしね。

 

 

 #####

 

 

「……アルよ」

「アルよって絶対に知ってて誤魔化そうとしましたよね美鈴さん」

「……フランちゃんが純真じゃなきゃバレてましたね」

「いや、それポンコツってやつじゃ……」

 

 上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの言葉であった。

 

 

 #####

 

 

 

 四月十七日

 

 

 魔理沙と人里で会った。

 ばったりと会ったついでに近くの甘味屋で近況を話し合ったよ。

 一緒にお団子食べつつ、ね。

 でも今更ながらにだけど魔理沙って交友関係広いよね。人里でもいろんな人に話しかけられてたよ。霧雨商店とのわだかまりが無くなった事も大きく作用してるみたい。

 結構人里の男の人達にも人気みたいだ。友達感覚であちこちに誘われてた。魔理沙も「おー、じゃあ今度なー」とそれっぽい返事をしてたりして凄いなと思ったよ。

 で、しばらく談笑してたらアリスさんを見かけた。

 声を掛けると「あら、久しぶり」と笑顔で反応してくれて一緒に行動することに。

 折角だし人里のあちこちにある甘いもののお店を回ってみた。パフェとかジェラートとかクレープとか。それぞれ話しながらあれやこれやと話したよ。

 最近は異変も無くて静かだな、とか今度遊びに行くわ、とか。

 のんびりした会話だったと思う。

 で、その中で私はちょっとお姉様のことを二人に相談してみることにした。

 何か私の事を避けてるみたいで、と聞いてみると魔理沙が「はぁ? レミリアがねぇ? この一年でフランが急に才能発揮し出したから下克上されるとか考えてんじゃねーの?」とか言ってた。直ぐにアリスさんが「魔理沙、適当な事を言わないの」と突っ込んでたけどね……。

 ちなみにアリスさんの意見としては「深い事情は分からないけど何か貴女を見て感じ入ることでもあるんじゃない? 例えば……その、神器とか神格とか」というものをだしてくれた。

 神格に怯えてる……かぁ。もしそうなら封印した後にちょくちょく使ってるからかな? 

 うん、これからは自重しよう。ヤバい時以外は使わないように。

 

 

 #####

 

 

「魔理沙がニアピンね」

「……というより正解でも良いんじゃないですか。下克上から、過去の話を結び付けられたら満点ですけどこれでも答えとしちゃ上等だと思います」

「ですよね。予想とはいえやっぱり魔理沙さんもなんだかんだ凄い人なんでしょうか……?」

「魔理沙が凄いかは知らないけど。それはともかく、こう書いてるって事はフランも私が考えていたことに気付いて無かったのよね……」

 

 もし気付いてたら私の勘違いを解くためにわざと日記を読ませた線もあるかなって思ってたし……レミリアはふと滲ませた冷や汗を拭き取ると次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 



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現代四月編END『フランの日常』

 

 

 

 四月十八日

 

 

 香霖堂に顔を出した。

 久々のバイトだ。デバイスの発売以降霖之助さんはポツポツと新商品を出してはそこそこ売り捌いているらしい。

 リアラさんの力を借りて人里までの道の整備も行ったみたいだし、そのためか店内に入ると何人かのお客様が商品を見て回っていた。

 というわけで今日の私は売り子なのです。

 迷ってる人に声をかけてオススメを教えたり、似合いそうなものを選んでいくと結構な割合で買ってくれた。

 あとは臨時でデバイスの講師もやったよ。まだ四ヶ月程しか経ってないのに結構空を飛んだり弾幕に慣れた人も多いみたいだった。

 ……いや、それを言ったらナナシ君とかもうデバイス無しで自由に飛び回って弾幕を放ったり、専用の魔法器まで持って魔理沙みたいにレーザービーム放ったりもしてるけど……うん、あれは例外。

 実際の指導に加えて霖之助さんとデモンストレーションしたりと結構盛り上がったんじゃないかな。

 ……というか霖之助さん普通に強かった。いや、真面目に。戦闘は得意じゃないとか言ってたけどかなり強かった。美しさって観点で言えばそりゃあ微妙と言わざるを得ないけど、なんていうか陰湿な弾幕が多いのよね。撃たれると嫌な場所狙って的確に撃ち込んでくる。勝つための弾幕っていうのかな。うまいこと集中力を切らそうと立ち回られたよ。

 そのせいで物凄い動いた……疲れたぁ。でも逆に霖之助さんは全然動かず避けてたなぁ。指導だから見せる弾幕にした私のせいでもあるんだけどもうちょっと優しくしてほしい。

 ……お陰で恥かいたよ。

 ……そりゃあ途中からヒートアップして限界まで動いた私も悪いけどさ。教える側が体力切れで地面に倒れこんでハァハァいってたら駄目でしょ? 汗びっしょりだし。

 終わってからリアラさんがタオルとポカリくれた。優しさが心に染みる。で、霖之助さんはリアラさんに「ねぇ霖之助、大人気ないと思わないの? 今回の弾幕ごっこは見せるものなんですから勝つ戦略じゃなくて美しさに注力してくださいっ!」って怒られてた。本人は「いや、すまない。正直そんなギリギリな素振りに見えなくてね」と言ってたけど本当リアラさんの言う通りだよ。

 でも最後の方は私も本気だったのになぁ……。魔理沙に聞いた話だと草薙の剣とか扱ってるって聞いたしもしかして凄い実力者だったり? 少なからず荒事が苦手っていうのは大嘘だけど。

 

 

 #####

 

 

「霖之助さんの実力かぁ……私もいまいち分からないわね。危険度が高い無縁塚に定期的に訪れるって聞くし実力者ではあると思うけど……」

「どうなんでしょうね。一応、紫さんとも昔から親交があるとは聞きましたけど」

「……霊夢さんの巫女服も代々香霖堂が仕立てているって話ですよね。それと……ふむ。霖之助さんは博麗神社に祀られる神をご存知らしい? それは本当ですか霊夢さん」

「ナチュラルに心を読むわね……、まぁ本当よ。私自身どんな神様が祀られてるかは知らないから霖之助さんが知ってるのが気になるのよね」

「少なからず幻想郷の重要なところに関わっているのは間違いないわね。私個人とすれば男の売る商品は面白いから好きよ? あぁいうヤツは稀だしね」

 

 

 #####

 

 

 四月十九日

 

 

 この前の件もあってお礼を言うために博麗神社に行くと何故か沢山の人が集まってた。

 偶々皆が来る日が重なったらしい。人数にして四十人くらい。

 自然と宴会が始まってた。私も空間からお酒を出して振る舞ったよ。

 それからふと宴会を眺めると色んな方面でお酒を酌み交わす人々の姿が見えた。

 

「っかぁー! いやぁ酒は美味い」

「魔理沙さん、それおじさんっぽいですよ?」

「そうそう。仮にも女の子が呑んだ後にかぁーっはないでしょうに」

 

 お酒を呑み談笑する魔理沙、早苗さん、アリスさん。

 

「お化けだぞー!」

「ぎゃあああっ!!? お化けっ!? ゆ、幽々子様後ろに下がってください私がいますぐ駆逐っううううっ!?」

「あらあら、妖夢〜落ち着きなさい。剣を振り回すと危ないわよ」

「……妖夢のお化け嫌いは直っておらなんだか。子供にこうも驚くのは問題かのう……?」

 

 小傘ちゃんに脅かされてビビりまくる妖夢さんとそれを宥める幽々子さん。その後ろから呆れた顔の妖忌さん。

 

「よぉナナシの坊主! この前は地底で世話になった。よく暴走した核装置を吹っ飛ばしてくれたねぇ! うし、今日は私の奢りだ、存分に呑め呑めっ!!」

「一気ですか!? おぐぼぼぼっ!! 死ぬっ! 死にますって勇儀さん!」

「おうおうナナシじゃないか。こっちの酒もどうだい。酒虫ってやつを使った鬼の酒なんだけどねぇ」

「ごぶふうっ!? 口ん中に突っ込まないでください萃香さん! 息が……ゲホッゲホッ! 何これ度が強っ!」

「あーナナシだー! おーいナナシーっ!」

「わっ、お空!? おい抱き着くな! お前加減を知らないんだから! ってやめろやめろ! 体がミシミシいってる! これヤバイ音! 明らかにヤバイ音だからーッ!!」

「……まったく、お空は」

「まぁまぁさとり様。核暴走を止めた時にお空はあいつを気に入ったみたいですし良いじゃないですか」

 

 勇儀さんと萃香さんに絡まれるナナシ君。

 で、お酒を呑まされまくってるナナシ君に抱き着くお空さんとそれを後ろから眺めるさとりさんとお燐さん。

 

「あたい必殺技考えた! 敵の手足を凍らせて動けなくして氷の弾丸を撃ち込むの! 名前は『フリーズ&デス』! 早速くらえー!」

「ちょっ!? チルノちゃんそれ危ない! 絶対駄目だよそんなの! 人間なら死んじゃうよそれ」

「そーなのかー」

「うふふふ……それなら私も一つ考えたよ。散々皆が私のことをGって言うからさ、いっそ『ゴキの狂獄』って名前のスペルで沢山のホタルをぶつける技なんだけど」

「リグルもどうしたの!? なんか顔が死んでるよ!? あとそのスペルは生み出しちゃいけない!」

「あー、ごめんあたいの狂気に当てられたかもしれなーい♪」

 

 皆の前で新作のスペルカードを見せるチルノちゃんとそれを止める大ちゃん。あとはルーミアちゃんとなんか黒い面を見せてるリグルとそれに突っ込むみすちー。それからてへっ♪と可愛く小首を傾げるクラピちゃん。

 他にも端の方で参拝客らしい里人が何人か縮こまるようにお酒を呑んでた。でも案外酔ってくると妖怪人間関係なく楽しそうに話していて、見ていて嬉しくなったよ。

 私自身もあちこちで話してきたけど、皆でこうやってワイワイ騒ぐのってすごーく楽しいよね!

 

 

 #####

 

 

「あったわねー。人数集まるとすぐこれなのが悩ましいわ」

「まぁまぁ。楽しいし良いんじゃないですか霊夢さん」

「……というかあの忌々しい野郎が地底で暴走した核装置を何とかしてる……とか書いてあるけど」

「……私から説明すると、友達の妹で迷子になった女の子を探しに行くと地底に連れ去られる姿を見て、来たと言っていましたね。で、その子を誘拐したグループは地底の妖怪に恨みがあったようで適合者らしいその女の子を鍵にして核暴走を起こそうとしていたみたいです。少し前から地底の妖怪が襲撃されたりもしててその方面で私達は調べていたんですけど……どうやら同じグループで。それで私達より先に犯人の位置に気付いた彼が爆発する直前に敵を打ち倒し、女の子を助ける為にその体に刻まれた魔法陣を読み解き、核暴走を止めました」

「……なるほど」

「何だろう、あいつこの短期間でどれだけの事件に巻き込まれてんのよ。私より多いわよこれ」

 

 呆れたように霊夢がそう言った。

 

 

 #####

 

 

 

 四月二十日

 

 

 今日は暇な一日だった。

 いつもより早く起きちゃったから体を起こす名目で朝風呂に入ったけど気持ち良かったなぁ。

 で、それから朝食作り。お掃除、洗濯と。もうメイドも大分板についてきたね。咲夜からも一流を認めてくれたし。とはいえ咲夜を見る限り真の一流のメイドまではまだ遠いと思うけどさ。

 ……あとは、そうだなぁ。

 あ、そうそう。お屋敷でお姉様に呼び止められて変なことを聞かれた。

 

「――ねぇ、フラン、これからも一緒に居てくれる?」

 

 お姉様との久しぶりの会話だ。ちょっと嬉しくなった。

 で、質問に対する答えだけど色々考えたのよ。「結婚するまで」とか「自立する時が来たら」とか「就職したら」とか。

 でも声色的に求められてる答えがそんな感じじゃなかったんだよね。

 なのでこう答えました。

 

「――お姉様がそう思い続けてくれる限りは」

 

 うん、こんなもんじゃないかな。少なからずお姉様が癇癪起こして「フランなんか出て行けーッ!!」ってならない限りは一緒だと思うよ。

 あーでもちょっとなりそうで怖いかも。前に癇癪起こした時は咲夜を追い出そうとしてたし。

 でもまぁ正直今のところ紅魔館を離れようなんて思ってはないよ。

 

 

 #####

 

 

 

 ページを読み終えて、霊夢が「あっ」と声を上げた。

 

「……これ、昨日の日付ね」

「……癇癪って、本当に私が一人空回りしてるわね。なんかもう恥ずかしさが振り切れちゃって恥ずかしいとすら感じないのは何故かしら……」

「でも良かったじゃないですか。紅魔館を離れようとか思ってないみたいで」

「……そうですよレミリアさん。ウチなんて妹が、こいしが年がら年中どこに居るか分からない状況がザラですし」

「……同情するわ」

 

 溜息を吐いてさとりが言うとレミリアが反応する。

 それから。

 話が一段落したところで一同は日記をテーブルに置いた。

 

 

 

 




 


 次回、最終回。




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最終話『フランドールの日記』

 


 四ヶ月半にも渡りお付き合いありがとうございました。


 


 

 

 

 

 分厚い日記をテーブルに置くとズシリとした重みが手から離れた。

 読み始めた頃は昼だったのに今はもう夜だった。座りっぱなしだった四人は大きく伸びをして面を向かい合わせ口々に感想を語り始める。

 口火を切ったのは霊夢だった。

 

「結局全部読んだけど……改めてあの子が濃い日常を送ってたってことが分かったわね」

 

 言って大きく息を吐く。少し疲れたらしい。その顔には若干の満足感と疲労感が滲んでいた。

 すると次は早苗が日記に突っ込む。

 

「というか途中から色々進化し過ぎますよ! 月の依姫と対等の戦闘力に数多の神との繋がり! それに加えてメイドとか雑多な事もこなすってどんだけですかっ!!」

「確かに、どれだけ進化していくのよってツッコミはあるわね。という姉としては自分との普段の生活の違いに泣きそうなんだけど……本当どれだけ進化したら満足するのかしら?」

「……これからも進化し続けるに一票です」

「やめなさいよさとり。誰も進化しないに賭けないから」

 

 そんなの賭けにならないわ――霊夢の言葉に三人は頷いた。

 それから霊夢はふと、日記を見つめて呟く。

 

「にしても凄いわよね。最初は美鈴との修行と咲夜との家事手伝いから始まって……それが今や戦闘は物理も弾幕もこなせるオールラウンダーにして咲夜をして一流と言わしめるメイド。他にもイエスや仏陀を初めとした神々の邂逅と親交……デバイス事業の成功、言ってて本当何なのかしら。およそ一年でやる事じゃ無いわよね」

「確かに。でも私としては四九五年も引きこもっていたのに旅をしたり、外の世界に行ったり、月に行ったり、魔界に行ったりと随分アグレッシブになったところの方が驚きですかね。普通、それだけ引きこもってたら中々外なんて出れるものじゃないのに……」

 

 現代でもニート脱却出来ない人多いですし……早苗のボヤキにレミリアが反応した。

 

「まぁあの子は引きこもっていたという感覚がないからね。あの子にとっての世界はあの部屋だったってだけで。ほら、私達だって基本的に遠出しなきゃある程度の活動領域ってあるでしょう。自宅で過ごして人里で買い物と仕事をする生活だけで死んでいく人間も居るし。ただ、認識としてはあの子にとっての活動領域があの部屋だけだったのよ」

「……部屋の中だけで全てが事足りるから、ですか。言うなれば急に旅行に興味を見出してあちこちに行ってみたらそれが当たり前になってた……みたいなものでしょうか?」

「何にせよその方が健康的で良いでしょ。子供は日に当たる方が良いわ」

「それ、吸血鬼に対して言うと死ねと同義なんだけど……」

 

 小さくレミリアが突っ込む。少々呆れた様子だった。

 だが直ぐにクスリと笑うと彼女はテーブルに置かれた日記に手を掛ける。

 

「にしても分厚いわね……何ページあるのよ。というかよくこんな本を落としてって気付かなかったわねあの子は」

 

 私と同じポンコツの血が発動したのかしら。というかこのポンコツってスカーレット家の遺伝か何か……? そんな事を考えながらレミリアが呟くと咲夜が現れ、否定した。

 

「いえ、お嬢様。妹様は日記を落とされてなどおりませんよ?」

「は?」

 

 咲夜が妙な事を言い出した。

 呆気にとられたレミリアが小首を傾げると彼女は重ねて言う。

 

「ですからお嬢様。妹様は日記を落とされていませんよ?」

「え、いや咲夜。どういうことよ?」

 

 訳が分からない。意味不明だ。

 思わず尋ねると咲夜はクスクス笑って答えた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――瞬間だった。

 レミリアの部屋に繋がる紅魔館の扉が大きく開かれ、割と真面目に満身創痍な少女が現れたのは。

 その少女は濃い黄色の髪をサイドテールにまとめ、その上からナイトキャップと呼ばれるドアノブカバーに似た帽子を被っている。瞳の色は真紅。服装も真紅を基調とし、半袖とミニスカートを着用している。またスカートには一枚の布を二つのクリップで留めたラップ・アラウンド・スカートとなっていた。

 そして、彼女の背中からは一本の枝から七色の結晶がぶら下がった珍しい翼を生やしている。

 そんな十歳にも満たないような女の子。

 彼女の登場に四人は大きく目を見開いて驚いた。

 彼女はその四人の顔を見て満足げにしたが、それもつかの間。

 色々言いたいこともあったのだろう。ラグナロクを乗り越え疲れたような表情の中に僅かな笑みを称えていた彼女は和らげなその表情をくしゃりと歪めて第一声を発した。

 

「……あの、色々言いたいことがあるんだけどさ。本当はお姉様との和解だとかそんなシーンを考えてたんだけど、その前に一個言わせて? 最初のベッド壊すのは見逃すにしても私の足止めの為に幻想郷を滅ぼしにかかるのはどう考えてもおかしいよね?」

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 霊夢と早苗とさとりとレミリアの四人はそこで停止した。

 完璧に完全で瀟洒なるメイドで有名な咲夜でさえ、なんかぶっちぎった発言をしたフランを見てオロオロし始めた。

 そしてフランドールが次に出た行動とはッ!!

 

「というかどんだけだよ! 絶対頭おかしいよっ! 誰だよ流星群なんて降らせやがったのはッ!!」

「「「早苗(こいつ)です」」」

「早苗さんか異変の元凶ッ!!」

「えっ!? いや何ですかその一糸乱れぬ動き! 迷いなく私を売りましたね皆さんっ!? ちょっとフランちゃんやめてください! 腕はそれ以上曲がらなっ、ちょ折れます! 私の腕が折れます! やめてそれ以上はいけないッ!!」

 

 アームロック。

 腕を捻り肘や肩などを極める、格闘技における関節技の一つである。腕を捻る方向によってV1アームロックやチキンウィングアームロックなどと名称が変わるがそれはともかく。

 迷いなくアームロックを実行したフランは主犯(早苗)の片手で相手の手首を掴み、もう片方の手を相手の肘の下を通す形で自分の前腕を掴みひねりあげる。

 吸血鬼の腕力も合わさりミシミシ音を立てる腕に早苗が悲鳴を上げた。

 

「やめてくださいっ! 冗談じゃなく折れます! それにあの異変は私だけが起こしたものじゃありませんッ!! 例えばそこのさとりさんは想起でかつての異変を再現したりレミリアさんは所構わずグングニルをぶん投げたりしまくったり霊夢さんは拳で紅魔館を破壊してましたぁッ!!!!」

「本当ですかそれ?」

「早苗の嘘よ。口から出まかせ」

「なぁっ!? 霊夢さんしれっと嘘つかないでください!」

「だって私は博麗の巫女よ? 異変を解決する側が異変を起こすわけないじゃない」

「だ、そうですけど」

「本当の事なんです信じてくださいぃっ!!」

 

 もう半泣きだった。するとフランはようやくさば折りする形を解くとふぅと息を吐く。

 

「……さて、冗談はこれまでにして」

「冗談だったんですかッ!!?」

 

 その割には痛かったですけどっ!? 早苗の叫び声を無視してフランは椅子を引き、座ると改めて話を再開する。

 

「で、何の話でしたっけ? 太田さんが幻想郷に来た話でしたっけ?」

「誰の名前だ!? というか全体的にボケ過ぎじゃない……?」

 

 レミリアが突っ込むとフランはむー……と声をあげた。

 なんか気乗りしないらしい。頭が痛そうに話し始める。

 

「……いや、本当はもっとアレだったのよお姉様。ドッキリ大成功ーっ! って訳でもないけどそんな感じに登場して『実はわざと日記を置いてお姉様の誤解を解こうとしたのでしたー!』ってネタバラシするつもりだったのよ」

「サラッと根本的な事言っちゃってるけど……」

「私も疲れたのよもーっ!! 何が悲しくて隕石を一つ一つ破壊しなきゃならないのっ!? しかも横から歴代の異変が襲いかかってきて邪魔ったらありゃしないっ!! 本物じゃないと気付いた後は対月用に使ってた『星砕きの炎の剣(プラネット・レーヴァテイン)』で大気ごと薙ぎ払って能力で大気が消し飛んだ事実だけを壊しって面倒な事をして……それでやっと終わったと思ったらお姉様達は優雅に私の日記読んでるのよッ!? ばか!」

 

 どうやらフランはお怒りのご様子らしい。ぷんすか、とツーンとした態度でフランは不満を露わにする。

 が、一通り不満をぶつけたせいか溜飲は下がったようだ。

 直ぐに表情を戻すと急に真面目な顔になって彼女は言う。

 

「……でも、誤解が解けて良かったよ。お姉様の様子がおかしいって咲夜に聞いて正解だった」

「咲夜に?」

 

 霊夢が尋ねるとフランは頷いた。

 

「うん。日記にも書いてあったでしょ? 二日前くらいに」

「……日記、あっ」

 

 もしかしてあれか、何者かによって意図的に塗り潰されていた文面。もしやあそこに書いてあったのだろうか。思い当たった一同はその事をフランに伝えると、「えっ?」と彼女は驚いた顔を見せた。

 

「嘘、そんなわけが……。確かに『日記をお嬢様にお見せすれば解決しますよ』って事を書いてあったのに……?」

 

 そしてパラパラと日記をめくって、あれ? あれれ?? とフランが声をあげると咲夜が寄ってきてこう述べた。

 

「ネタバレはいけないと思いまして私の判断で消しておきました♪」

「……うわぁ」

「あら、似合ってなかったかしら?」

 

(……てへ♪ も色々突っ込みたいけど、さっき言ってた事が丸っきり出まかせって分かってどう反応すれば良いのかしら。というかネタバレ防止に嘘まで吐くメイドってどうなの?)

 

 てへっ♪ と普段の瀟洒感を投げ捨てて無駄に可愛らしくする咲夜に色々考える霊夢がドン引きする。

 無駄に似合っていたからこそドン引きしたのだが咲夜はそうとは受け取らなかったらしい。ここを改良した方が良いかしら……とポージングの反省をし出したが、いい加減真面目な話をしたい五人が止めて、一同は改めて席に座り直した。

 慣れた所作で咲夜が紅茶を注ぐと皆軽く口を付ける。

 

「美味し……」

「良い香りね、ダージリンかしら」

「いえ、これは福寿草ティーです」

「えっ?」

「お姉様ぁ……」

 

 駄目だ。

 幾ら真剣になろうとしてもレミリアの一言で全て瓦解した。もはや彼女の言葉は全てポンコツかギャグだと思った方が良いのかもしれない。

 ウッソだろお前……そんな目でレミリアを見ると「ち、違うから! ちょっと間違えただけだから!」と彼女は必死に否定する。

 

「と、ところでっ!! 真剣に話をするって何するのフラン?」

「……この空気でそれ言わせるのお姉様? もはやシリアスなんて欠片も無いんだけど」

「し、シリアルなら……」

「いやどっから持って来たのお姉様ッ!? というかもう確信犯でしょ! ワザとボケてんだろああん!?」

「ひぃっ!」

 

 シリアルを持って来たレミリアに対し若干辛辣なフランは「持ってこんで良い!」と突っ込んでキレる。

 結構な剣幕にひぃっ! とレミリアは悲鳴を上げた。

 が、それもしばらくのこと。

 

「……さて、真面目に話しましょうか」

「お姉様が一番ボケてたよね。何しれっと自分は真面目でしたって感じの声色なのよ……」

 

 無駄に真面目顔で席に深く座り直したレミリアが呟き、一同に呆れた目をされてようやく真面目な話が始まる。

 

「……えっとね。そもそもの話なんだけど、数日前からお姉様の様子がおかしかったじゃない? 私を見て怯えてたっていうか」

「……そうね。そうだったわ」

 

 フランの問いかけに頷いた。

 

「だから咲夜に質問した話はしたよね。それでアドバイスを貰ったんだけど、初めどうして日記を見せることが解決に繋がるのかが分からなかったのよ」

「となるとフランは私が貴女に怯える理由に全く見当がついてなかったの?」

「うん。それで咲夜に聞いてみたんだけど……驚いたよ。まさかお姉様が私に下克上されるかもしれないって怯えてるなんて思わなかったからさ」

 

 びっくりしたんだから、とフランは話す。

 それでどうしようかと考え迷った結果、咲夜に貰ったアドバイスがこういうものだったらしい。

 

『妹様、ここは一つお嬢様にもっと妹様の事を知って頂きましょう。お互い普段の生活なんて存じ上げないでしょうし、元より数百年に渡るこじれもあるでしょう? ですからそれらを解決する為にお互いを知るのです。その一手としてまずは妹様の日記を見せるのは如何でしょうか』

 

 そしてその提案を受け入れ、それを実行した、ということだとか。

 それを説明し踏まえてフランはレミリアに向けてこう言った。

 

「……ねぇ、お姉様。私はお姉様のこと知りたい。拒絶されて怯えられるなんて嫌だから……」

「……フラン」

 

 真っ直ぐと目を見て、真摯に思いを伝えられたレミリアは妹の名前を小さく呟いた。

 

「だからお姉様、私にお姉様のことを教えて欲しいな。仲直りして……もっと仲良くいたいから」

「…………、」

 

 何度か瞬きして、返答を考えるようにレミリアは暫しおし黙った。

 思い返せば日記を読む前は酷い勘違いをしていたものだ。

 自分でも思う。勘違いする要素はあったが結局はレミリア自身がフランの事を信用しきれていなかったのだろう。

 もし心の底からフランを信用していたなら初めから二心を疑うなんて事は無かったのだから。

 本来ならレミリアは糾弾されても仕方ない立ち位置にいる。勝手に勘違いして怯えたのだ。相手からすればそりゃあ嫌な話だろうし、自分がそういう敵と見られていたと思うと不安にもなる。

 でも、それでも。

 それでも妹は自分の元に歩み寄って来てくれた。

 ……でも自分はどうなんだろう。行動も何も全て妹が動いている。自分は何もせずただ勘違いして仲の改善も図ろうとしてなかった。

 そんな自分にこの提案を受け入れる資格はあるのか?

 ……今更姉気取りでそんな事をして、良いのか?

 

(……思えばお姉ちゃんとしては最悪よね、私)

 

 危険だから、それだけで四九五年も地下に幽閉したのだ。

 他ならぬ最愛の妹を四九五年も、一人きりにした。

 いくらフランの世界がその中だけで本人は何一つ傷付いて無くともそれはレミリアの罪だろう。

 自覚している。背負っていこうとも思っている。

 

(……でも)

 

 どんな顔してお姉様としての態度を貫ける。

 今日だって当たり前のように何度も「私の妹だもの」と言ってきたがそんなのは何も考えていない言葉だ。

 考える。レミリアは選択を考える。

 それは時間にして数秒の事だが本人にとっては数時間にも感じられた。

 ……だが、やがて。

 そして、そしてそして。

 ようやく答えを出した彼女は唇を動かす。

 

「……フラン、私は最悪のお姉ちゃんだと思うわ。貴女を四九五年も閉じ込めて……今回だって貴女の事を信じる事が出来なくて恐れてた」

 

 その理由の一つに彼女がフランの事を知らなかった事が挙げられるだろう。日記は、レミリアにとってそれは自分が知らなかった妹の姿そのものだった。読んで、初めて知った事が多過ぎた。

 思えば何度も突っ込まれたものだ「なんで知らないの?」と。霊夢に至っては「アンタの妹の事でしょうに……」と呆れた声で言われる始末だ。

 

「……それなのにフランは、私に恨みも抱かずに仲良くしようって言ってくれた。本当は私から言い出さなきゃいけなかった事なのにね」

 

 結局のところレミリアは何もしていない。

 お膳立ても何もかもフランが整えてくれた事だ。それも、はいと頷くだけで今までのわだかまりも全て解決してしまうレベルまで。

 ズルい。素直に思った。だってこんなのズルすぎる。かつてこんなにも甘美な提案があっただろうか。いや、無い。

 だけど、

 

「……本当最低のお姉ちゃんよ。もし私が妹の立場なら切り捨てるかもしれないくらい。私自身反吐が出るわ……正直何度も自分を殺してやりたいとまで思ってる」

「……っ!?」

 

 レミリアは思った事をそのまま吐露する。

 自分を殺す、と呟いた瞬間僅かにフランが身動ぎした。彼女自身記憶にこびり付く最悪のフレーズだからだろうか。

 それでもレミリアは語りをやめない。

 

「……フランが私と仲良くしたいと望んでるのは分かったわ。だけど……だけど私は自分を許せないの」

「お姉様っ」

「――それなのにッ!」

 

 フランの声を遮るようにレミリアは叫んだ。

 

「……心の片隅で、こう思う自分がいるの。フランの姉で居たいって。これだけ最低な事を繰り返しておいて、私はまだ貴女のお姉ちゃんで居たいって……そう思う自分がいるッ!!」

「…………」

 

 それはどれだけ自分に甘い言葉なのだろうか。

 正直言葉にするのも(はばか)られる。

 でも、フランが望んでいるのは上っ面を被せた偽物の言葉じゃ無くてレミリア・スカーレットの真意だと知っていたから。

 嘘一つ交じりっけない本物の言葉が聞きたいと気付いていたから。

 だから、だから彼女は、

 

 

「だからお願い、私を……私をフランの姉で居させてッッ!!!!」

 

 

 偽りなく、己の胸中の思いを吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 #####

 

 

 

 四月二十一日

 

 お姉様と仲直りをする為に咲夜にアイデアを貰って私の日記を読ませる作戦を実行してみた。

 その最中、壊されたベッドを直したり紅魔館の門を直したり幻想郷滅亡クラスの異変を相手にすることになった。

 でも、そのお陰かお姉様とは無事に仲直り出来たよ。

 お姉様らしくない言葉も多かったけどそれだけに想いが伝わってきた。

 私をフランの姉で居させてって言われた時にはもう泣いてたかもしれない。涙腺弱いなぁ私。

 でもお姉様。姉で居させて、なんて言わなくて良いんだよ。

 

 中二病でポンコツで酷いところも一杯あるお姉様だけど。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからどんな事があってもお姉様をやめろだなんて言わないし、お姉様の妹をやめる気もない。

 そう答えたらお姉様も泣き出しちゃって二人して抱き合ったっけ。

 で、一通り泣いてそれからはうちに来てた霊夢さん、早苗さん、さとりさんも交えて宴会みたいになった。

 その最中あれこれ話したけど、お姉様と本当に心から色んなことが話せるようになった気がする。

 すごく楽しかった。

 すごく嬉しかった。

 これからもずっと、こんな楽しい日が続くと良いな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 フランドールの日記、これにて完結です。
 毎日投稿し続けられたのもひとえに読者の方々の暖かい評価やコメントのお陰です。
 御読了、本当にありがとうございました。
 後書きは単体で後ほど投稿致しますので気になる方は読んでみて下さい。



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後書き

 


 ※この話は後書きとなります。本編や小ネタなどは一切御座いません。
 それでもよろしい方のみ閲覧下さい。





 

 

 

 

 前ページの通りフランドールの日記完結致しました。

 ここまでの応援本当にありがとうございます。

 僕自身書き始めた当初は内容が趣味全開で、受けないだろうなぁと思いつつ書いた作品がこれほど沢山の方々にお気に入りを付けて頂けた事、本当に嬉しく思います。

 ……さて、後書きということで色々話そうと思いますが、まず最初に。実は最初期は完結まで漕ぎ付けるか不安だったんですよね。

 蓋を開けてみれば完結まで毎日投稿というスタンスを維持出来たのですが、これまで連載してきた作品の多くをエターさせてきた身としては今回の作品はどれだけモチベーションを保てるかが鍵だったと思います。

 そのため書く時には細心の注意を払いました。例えば下手に途中から新連載やり出すとどっちもエターする、とか考えて我慢したり。

 まぁそんな私事はともかく作品について語りましょうか。

 

 今回描いた作品、フランドールの日記ですが書く時にはまず作品のコンセプトを決めました。

 それは、まず基本的に話はギャグ中心にすること。時折シリアスもある拙作ですが大体の回がギャグで読みやすさを意識したものだったと思います。

 出来る限り(シリアスを除いて)難しい表現を避けたり、自分が楽に書ける書き方をしていました。

 取り扱いに注意したのは他作品ネタですね。あまり露骨になりすぎない(一部露骨なのもありましたが)ことと、大量の他作品が出る作品。多重クロスオーバーの作品は地雷が多い印象があるのでそうならないよう注意しました。また東方ネタをキチンと入れることも念頭に置いていました。

 最終的にはギャグも原作ネタも他作品ネタもシリアスも狂気も萌えもやれる書きやすい作品に出来ていたので満足ですね。

 

 さて、ここからは話の内容についての話なんですがまずはこの話をしましょうか。

 フランドールの日記には何人かのオリキャラも登場します。大抵が名前の無いモブが大半で、丁度良いツッコミを求める際に出していたのですがその中で唯一ただのモブから準レギュラー。主人公格まで浮上してきた彼についてのお話です。

 

 名前・ナナシ

 キャラ設定・主人公属性、巻き込まれ体質、ギャグ体質、ツッコミ

 名前の由来は名無しの権兵衛より。その場で本当にテキトーに付けたんですけどね。

 ……が、調べてみると名無しの権兵衛の元ネタが日枝神社(ひえだじんじゃ)というものらしく、幻想郷の稗田家と繋がりがありそうなネームドになりました。

 ある程度の血筋を、と求めたレミリアの要求を粉砕しフランを嫁に出来る素質まで持つようになったのは……何だろう、彼は神に愛されているのかな。

 オリキャラでも一番使い勝手が良いのが彼ですね。フランの可愛いシーンを書こうと思った時に彼を出すと筆がスムーズに動きます。

 

 で、そんな彼なんですがよくこういう感想を頂きました。

 

「フランと結婚する話はよ」「これは堕ちたな(確信)」

 

 個人的にはオリキャラ無しで始めた話なのにオリキャラ×東方キャラってありなのか? と思いましたがどうなんですかね。

 それだけ人気キャラなのか、うーむ。最初からオリ主×フランなら迷いなく書くところですがなんか僕の中で安易に書いていいのかなぁと迷ってたり。

 あとナナシ君が上条さんに似ているのは仕様です。

 

 さて、129話に渡って描きましたこの作品ですが完結かぁ。まだ実感が湧きませんが終わるからこそちゃんと作品として完成するという持論を持つ(の、割にエターが多い)僕としてはここまで書き切れた事、本当に嬉しく思います。

 

 また普段から感想、誤字報告、評価、お気に入りを下さった皆様には感謝を。こうやって毎日投稿を最後まで続けられたのは支え応援下さった皆様のお陰です。偶にランキングに載っているのを見るとよっしゃ! と何度もガッツポーズした覚えがあります。どうもありがとうございました。

 そして読者の皆様にも感謝を。初めから趣味全開の作品ではありましたがよく御読了下さいました。楽しんでいただけたなら幸いです。

 

 それでは、この辺りでページを閉じていただいて。

 次の新連載を開いて頂ける事を祈りつつ。

 今シリーズの筆を置かせて頂きます。

 

 本当に御読了ありがとうございました。

 

          @ゆうポン

 

 



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番外編
ナナシの日記1


 

 四日くらい休憩したんで投稿。
 ナナシくん視点です。
 あとなろうで新連載始めました。タイトルは「召喚世界の使い魔」です。
 つってもまだプロローグなんですが……、、、
 



 

 

 

 ナナシの少年は何を思うのか。

 これはモブから主人公格へ成長する彼視点の日記である。

 

 

 

 五月ニ日

 

 

 寺子屋に転校生が来た。

 どうやら俺のクラスらしい。それでけーね先生に紹介されて、寺子屋に入ってきたのは女の子だった。

 妖怪の女の子だ。凄く珍しい羽根をしてた。枝から綺麗な石が生えててさ。

 ただそいつ挨拶とかに慣れてないみたいで凄いカミカミだった。

 

「は、ははは初めまちゅっ……! あぅ……」

 

(噛んだ……)

(噛んだな……)

 

 顔真っ赤にして下向いてて、うん。あれは破壊力抜群だわ。

 それに凄く可愛い子だった。そんな子がこんなポカやらかすあたり天然の男キラーなのでは無いだろうか。

 皆ウキウキしてたし。

 とはいえ自己紹介失敗した相手側から考えると結構悲惨だけどさ。

 うーん……フォローしてやるか? 席隣だし。

 あっ、ちなみにそいつの名前はフランドール・スカーレットというらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 五月四日

 

 

 スカーレットは意外とメンタルが強いらしい。

 自己紹介であれだけ失敗してよく来たと思うよ、正直。

 授業も普通に受けてた。俺は慧音先生の授業中に寝て頭突きされたけど……凄い痛い。頭が割れそう。

 でもそれを母さんに話すと「そういえばお父さんもよく頭突きされてたわぁ」って言ってた。

 父さんも居眠りしては頭突きされてたらしい。だけど「でも女の子の話題なんてお父さんにそっくりね」って続けてたけどそんなところを親父と一緒にしないで欲しい。

 俺は普通だ。というか転入生の話題しただけでなんだその反応。

 確かに……親父はラッキースケベで、ふと後ろを振り返った時にナイスバディなお姉さんにぶつかって二人して倒れた時とか母さんの周りに黒い気みたいなのが滲み出てたりもしたけどさ。俺はそんな事まるで無いし。

 つか親父もなぁ。母さんも見た目二十代なのに……。

 ついでに母さん曰く全盛期の父さんは無自覚にハーレムを築いてたとか聞かされる息子の身にもなれ。

 前に駆け引きって大変よね、と笑う母さんを見たけど本気で怖かったんだからな!

 

 

 

 

 五月六日

 

 

 クラスの友達(男妖怪)の弾幕ごっこに巻き込まれた。

 死ぬかと思った。割と真面目に。

 鍛えてなかったら死んでたと思う。地面を走り回りながら弾幕避けるとか無理ゲーだからな。

 でも相手がバカで良かった。

 

『お前ってシューティングゲームで言ったら二面のモブみたいな顔してるよな(笑)』

 

 こんな感じに挑発したらなんかハンマー構えて地面に降りてきたからフルボッコにしてやったよ。

 にしても馬鹿だよな。いくら妖怪って言っても体の構造はまんま人間なんだから、ハンマーなんて重いもん振り下ろそうとした瞬間肘抑えられたらヤバいとか思わないもんかね。

 確か振り上げた状態から腕を前に出すために使える筋肉が大円筋のみで、成人男性でも一〇キロしか出せないんだよな。なら妖怪補正あっても精々三〇キロだろ。俺でもパワーで勝てるわ。

 とはいえ……勝たなきゃ死ぬからこっちは割と真面目に馬鹿なままでいてほしいけど。

 

 

 

 

 五月八日

 

 

 今日はスカーレットが休みらしい。

 地底に行くんだと。羨ましい話だ。人間の俺的には本格的に妖怪と事を構えるだけの力が無いからなぁ。

 俺も幻想郷のあちこちに行ってみたいんだよな。力が無いと基本人里の外なんて出れないし不便だぜ。

 そうそう。力といえば、前からずっと霊力の扱い方の練習してるけど上手くいかない。

 というかよく霊力を扱えるよな。俺なんて一回霊力を使おうとしたら身を引き裂かれそうな痛みに襲われるんだぞ?

 それでも毎日やってるけどさ、吐血するし、三回以上やれば命の危険があるし……それに未だ弾幕すら出せたことがない。

 でも、才能が無いのは分かってるんだが、それでも諦められないんだよな。

 幻想郷の全てを見て回るのは俺の夢だし。

 それに一度で良いから異変を解決する側に回りたい。

 弾幕ごっこは女子供の遊びだからさ、なんとか俺が子供のうちに。

 

 

 

 

 

 五月九日

 

 

 寺子屋に遅刻した。

 でもけーね先生、理由は人助けなので許してほしい。未だに頭がジンジンする……。

 ちなみに人助けだけど何のことはない。

 重そうな荷物を持ったお婆さんの代わりに荷物を持って家まで運んだだけだ。そのあとお礼がしたい、というお婆さんに寺子屋があるからと断って急いで行ったけど間に合わなかった。

 ……いや、でもやっぱ自分のせいか。間に合わなかったと言ってもほんのちょっとだからな。もっと全力で走ってりゃ間に合ってたんだし俺が悪いか。

 あと放課後は反省文書いた。

 

 

 

 

 

 五月十日

 

 

 人里に美味しいイタリアンの店があるらしい。

 母さんと行ったらトニオという店主が迎えてくれた。

 ちなみにこの店、メニューが無い。でも絶品で顧客満足度一〇〇%らしい。

 で、食べたけど凄いことになった。

 

「はぅう……美味しいわこれ」

「いや母さんッ!? なんか若返ってるから! なんだこの料理ッ!?」

 

 一口食べた瞬間に二十代くらいだった母さんが十代後半まで若返った。肌艶も髪もその年のそれになってた。

 どんな効能だよ! ちなみに俺も食ったら朝、霊力の訓練で傷付いた体が全快したわ!

 どんな理屈か分からんが凄いなこれ。もしかしてそういう能力者なのか? すっげぇ気になる。今度機会があったら聞いてみよう。

 

 

 

 

 五月十三日

 

 

 特別ゲストが来た。

 名前はブッダとイエスらしい。凄い名前だな、仏教とキリスト教徒に怒られそうな名前だ。

 でも話は聞き入ってしまうくらい上手かったな。

 説法って言葉がしっくりくる。

 まるで本物のブッダとイエスがそこに居るみたいだったな。

 ちなみにブッダさんには個人的に凄い福耳が気になったので触らせてもらった。凄いひんやりしてたわ。

 ……あとイエスさん本当ごめんなさい。教卓の段差でつまづいて転びそうになった時イエスさんの頭に乗ってた葉っぱみたいなの引っ張っちゃってトゲトゲが頭に突き刺さって血が出てた。

 バシャって違い出てビビった。まだ髪が鉄臭いけど俺の事はともかく、血がでたにも関わらずなんか「ヤバい、セコムがくる!?」とか騒いでたのはなんだったんだろう。ともかく直ぐにハンカチで拭わせていただいて止血を施したよ。

 そのあとなんか現れた金髪の人に殺されそうな場面になったけどイエスさんが「驚いて聖痕が開いただけ」とか誤魔化してくれた。

 本当すみません、このご恩は忘れません。

 

 

 

 

 五月十四日

 

 

 昼寝して起きたら布団に違和感があった。

 なんか俺の布団で金髪の妖精の女の子が寝てた。クラウンピースというらしい。

 能力使いまくって疲れてせいか偶々開いてる窓から見えた俺の布団にふらふら〜と入ってきたんだとか。

 まぁそれはともかくだ。

 なんでそんなに疲れてるのか聞いてみたら人里の外の方に案内された。で、行って驚いたよ。

 昨日まで林だった場所に綺麗な道が出来てたんだ。クラウンピースの話によると妖精達とスカーレットがドッキリでやったらしい。

 いや、本当に驚いた。

 すげぇな、って言ったらクラウンピースもえっへんって胸を張ってたよ。

 ……とはいえそれとは別に説教もしたけどな。

 仮にも女の子が男の布団に入り込むんじゃありません。幻想郷の男の中には変態も多いんだからな? それこそ幻想郷の実在の人物を描いたエロ同人が大量にある(女性達には秘密裏に)くらいだからな。

 仮に罪袋の家に紛れ込んだりしたら格好の餌食だ。二度とこんな事するなよと言ったら「あたいがそんなことされるわけないじゃん! べー!」ってあっかんべーをされた。

 ……なんか発言がフラグじみてて心配だ。切実に。

 

 

 

 

 

 

 




 

 こっちは息抜き感覚で書きたいなぁ(願望)


 


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ナナシの日記2

 

 小説家になろうの方で『召喚世界の使い魔』という新作書いてます(隠れてないステマ)
 あと番外編のスタンスですがあくまで息抜きに書いてますのでそこのとこよろしく。
 (毎日投稿は確約出来んぞ)


 

 

 

 五月十九日

 

 

 骨折した。

 鈴仙さんが臨時で来て保健体育の勉強だったんだが妖怪のクラスメイトに試しに包帯巻かせてみたら腕がボキッていった。

 痛ぇ、泣きたい。

 でも鈴仙さんに「あわわっ、大丈夫ですか?」って優しく治療してもらえたから役得かもしれない。痛みは対価、プライスレスだ。

 ……いやまぁしょっちゅうやってもらってるあたりは嘆くべきかもしれんが。

 ……でも、柔らかかったし良い匂いだったな。

 

 

 

 #####

 

 

 五月二十二日

 

 

 運動会だけど正直どうなんだろうな。

 俺骨折してんのにリレーの選手で出されたんだが。というか弾幕撃つな馬鹿どもめ! 妨害リレーじゃないんだから当たり前な顔して攻撃するんじゃねぇ!

 腕庇いながらだから避けるだけでも一苦労だ。

 

 あと運動会で気になったのはスカーレットの姉だな。

 すげぇ不憫だった。借り物競争で連れて来られてたけど多分こっそりと家でコスプレ中だったんだろうな。いきなり白昼に晒されて泣いてた。

 姉なんだからもうちょい優しくしてやれよ……。

 

 

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 五月二十七日

 

 

 日記書くのまちまちだな……まぁいいか。

 今日は家庭科で料理を作った。こういう時料理が上手いやつはお裾分けしたり凄いよな。スカーレットの料理食べたけど美味かったわ。

 俺は……あんまりだからなぁ。一応一回飯を食いに行ってからトニオさんの店でバイトしたりもしてるけど技術なんざ一朝一夕で培えるものじゃないし。

 とりあえず食えるものは作ったけど。

 

 

 

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 五月三十日

 

 

 ようやく体が全快だ。

 自由に体が動くのは気持ち良いな!

 ビバ健康! ちなみに今日は妹紅さんが臨時講師として来た。

 妹紅さんとは個人的にも付き合いあるし凄い楽だったな。それにけーね先生とはタイプの違う美人だし気合が入る。

 というか俺の徒手空拳もあの人仕込みだしある意味師匠だな。

 妹紅さんが作ってくれる修行のあとの焼き鳥が美味いんだこれが。

 ちなみに今日もお相手していただいた。手も足も出んがな。空飛ばれると厳しい。

 一応竹を足場にして跳ね上がる事は出来ても直線的な動きじゃなぁ……やっぱ空飛べねーと話にならないみたいだ。

 ……にしても思い出すなぁ。迷いの竹林で迷子になったとこを助けてもらったんだっけ。それ以来師匠と弟子って関係で……今思えばよく弟子入り志願なんかしたな俺。

 

 

 

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 六月二日

 

 

 今日の寺子屋はアリスさんが臨時講師だった。

 あの人、人気あるよなー。まぁ俺も好きだけどさ。

 ちなみに授業は裁縫だった。家事関連はあんまり得意じゃないんだよな。一応頑張ってはみたものの見た目が不恰好だった。

 ……要練習、だな。

 

 

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 六月一〇日

 

 

 痛い、割と真面目に痛い。

 今日、霊力が無理なら、と思い魔法をやってみたんだよ。

 鈴奈庵って本屋で魔本貸し出してるからそれを借りて。

 ……うん、死に掛けたわ。

 本の中に悪魔が入ってるとか想定外だから。偶々低級悪魔だったから物理で倒せたけど中級以上なら殺されてたかもしれない。

 ……というかまさか殺し合いになるとは。

 人里の外でやってて良かった。けど、俺は重症で今は永遠亭で寝ている状況だったり。

 足貫かれたからなぁ、肉塊がでろでろと溢れて気分も最悪だ。

 母さんには「ナナシもお父さんみたいに怪我し始めた……」って泣かれたし。父さんには叱られた。でも父さんが怒ってるのは俺が殺し合いしたことじゃなくて怪我をした方らしい。「挑戦は自由だが母さんに心配を掛けさせるな」って言われた。

 というか父さんは淡白だな。息子が妖怪殺しをしたってのに。

 

 

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 六月二一日

 

 

 復活! ナナシ復活!

 というわけでリハビリ兼ねて人里まで歩いたらスカーレット達を見かけて、ふと付いて行ったらこんな話が聞こえてきた。

 

「フラン、人里内をあまり好きに歩き回んない方が良いわよ?」

「なんで?」

「八雲紫の受け売りだけど『人は妖怪を恐れ――妖怪は人を襲う。その関係性が崩壊すれば幻想郷は存在意義を失い消えてしまう。だから幻想郷の為に、互いの均衡を保つ為に、人里で妖怪が過度に人間に入れ込むのは御法度。あまつさえ最近は私達のような人間型の妖怪を怖がる人間が減る傾向にあるのでそれは控えなくてはならない――だからその二つを守ることはいわゆる幻想郷への税金のようなものだ』。つまるところ人が妖怪に慣れたら駄目なんだって」

「それに幻想郷には私達みたいな見た目が子供の妖怪も多いから……」

「親近感とか湧かれて恐怖を感じられなくなると幻想郷が滅びるとか」

 

 妖怪への恐れ……うん。

 今の俺はメチャクチャあるわ。そりゃ殺されかけたばっかりだし。

 でも相手によりけりな気もするなぁ。

 

 

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 六月二十二日

 

 

 昨日の件で色々考えてみた。

 人は妖怪を怖がるのが当たり前、それは分かる。

 でもなぁ、俺はスカーレットとかを怖がりたいなんて思えないしけーね先生含めて知り合いを怖いなんて思えねーや。

 勿論実際力を見れば怖いんだろうけどさ。

 でもそれ以上にアレだ。悪魔に殺されかけたのも含めてやっぱ俺、強くなりてぇ。

 クラスの妖怪の奴らと喧嘩してるにせよあんなの遊びだからな。

 もっと真っ正面からぶつかってやれるくらい強くなりてぇ。

 

 

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 六月二十三日

 

 

 また怪我した。

 病気のクラスメイトの女の子の付き添いで妹紅さんとの修行で慣れてる竹林の森を抜ける案内をするだけだったんだけどな……。

 まさか地面にトラップがあるとは。

 咄嗟にクラスメイトは穴に落ちないようつき飛ばせたけど俺は普通に落ちたわ。

 で、穴の深さは五メートルくらい。地面には竹槍が無数に突き刺さってるとそういうわけですよ。

 串刺しだったね。

 命が助かったのは偏にせめて、と飛べないか霊力を全開でやったことに尽きるな。

 一瞬、少しだけフワって浮かんだのが生死を分けた。

 ……とはいえ竹槍も刺さったし無理に霊力出したせいで血管切れてたしで絶対安静だ。

 辛うじて利き手は大丈夫だったが、なんつーか不幸だよな。

 それとクラスメイトちゃん、「ごめん、私のせいで」なんて謝ることねーよ。悪いのは俺……いや、てゐだな間違いない。仮に俺が悪くても一割くらいだ。残りの九割はてゐだな。

「……ごめんなさい、ウサ」

 ……でもなぁ。てゐでも目の前で謝られると弱いんだよな。凄いしょんぼりして、泣いてたし。

 とりあえず鈴仙用の罠だとしても危険極まりない、もし俺じゃなくてクラスメイトの方が落ちてたら間違いなく絶命してたしって事だけは言ったけど……そう言ったら「なんで私を責めないの?」って返すのはどうすりゃ良いんだ?

 普段の「ウサ」って口調すら抜けてるし……らしくねぇ。

 

「……仮にお前が罠を仕掛けたとしても、俺が罠に掛かったのは俺の選択したルートが普段、妹紅さんとか鈴仙さんしか使わねーようなルートだったから、とも言えるからな。なら俺も悪い。それに俺はお前が思うほど性格は良くなくてな。お前を責めるのは簡単だけど、糾弾されたがってるやつを責めたところで間違った救いにしかならねぇ。だから少しで良いから苦しめ。キチンと考えてくれ。それだけで良い。そのあとどうするかは任せるさ」

 

 ま、俺に言えるのはこんなとこだ。

 安易な逃げは許さねぇし、どうせなら真面目に考えて、悩んで、答えを出してくれ。それがお互いにとっても一番良いだろ。

 それに俺は不本意ながら怪我して永遠亭に運ばれるのは慣れてるからな。今更入院が延びようが関係ない……あ、いやでも病院費用は……その、大いに関係あるけどな。それに関しても今回は永琳さんが無償で良いって言ってくれたし。

 うん、俺もちゃっちゃと体を治さねーとな。

 

 

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 六月二十四日

 

 

 てゐはちゃんと答えを出してくれたみたいだ。

「悪戯を止める気はないウサ」って言った時はビビったぞ真面目に。

 でも、ちゃんとやり方を変えて大怪我とかそういう方面は無くすようなので一安心といったところか。

 なんだかんだあいつの考えてる事読めねーよな。何考えてるか分からん。すげぇあっけらかんとした顔だったのが妙に腹立つ。

 それと驚かすと言いつつ抱き付いてくるのやめろ。

 死ぬほどの激痛がはしるから。俺串刺しなったんだぞ? 分かってんのか……正直傷口開くかと気が気じゃなかったわ。

 ……あとてゐが口先で鈴仙さんを騙したのか「こ、これは患者のため……患者のためなんだから……」って言いながら手厚い介護をしてくれた。膝枕とかサービスまで付いてたぜ。

 ……ぽよぽよであったかくて柔らかくて最高だった。

 てゐ、全部許すわ。

 

 

 

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 七月七日

 

 完治した。

 いやぁ、久々のシャバの空気は美味いな。

 それで帰るついでに人里に行ったらライブをやってた。そういやそんな時期だったか。

 ふらりとチケット買って入ってみるとスカーレット達がライブに出てた。

 ……正直見惚れたよ。すっげぇ可愛かった。俺の語彙力が少ないせいで表現しにくいけど物凄い可愛かった。

 でも一番盛り上がったのはトリの人達の曲だな。アロハシャツの人で、なんかもう、レベルが違ってた。

 

『( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!』

 

「「「「「「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!」」」」」」

 

 盛り上がったなー。

 会場全体が歌ってて楽しかった。

 ……永琳さんは頭を抱えてたけどな。

 

 

 

 

 



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ナナシの日記3

 

 濃い黄色の髪のサイドテールの幼女とレーヴァテインの出てくる新作はこちら(巧妙なステマ)
 → http://ncode.syosetu.com/n1580dt/

 土日はともかく月〜金に新作の話含めて二本書くのは辛いんでそろそろ休むかも……(やれるだけ頑張るけど)

 


 

 

 

 

 七月九日

 

 ……恐ろしい体験をした。

 今日は鈴仙さんが臨時教師で寺子屋に来たんだが、なんかいきなり鈴仙さんのウサ耳が千切れてな。

 その瞬間、精神が犯された。

 仮にも神社の家系だからな、精神を狂わされたのは理解出来たよ。とはいえ防げなかったから最後は自分から意識を断ち切ったけどな。

 ……問題はその後だ。どうやら俺に掛けられたのは精神汚濁だけでは無かったみたいで気付いたら見たことない世界にいた。

 ……多分精神世界なんだろうけど、本当酷い目にあったぞ。

 

 まず最初は階段を登ってたんだ。窓の外を見ると雨でさ、俺の手には傘を持ってた。それで階段から落ちて、持ってた傘が喉に突き刺さって出血多量で死んだ。

 次に気がつくとエレベーターの中だった。老朽化してたのかな、さっきの死亡で俺が呆然としてたら急に落ちた。浮遊感が凄かったな。で、そのままたっぷり、数十秒。地面に叩きつけられた挙句天井に潰された。

 他にも死に方は様々だった。「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」とか言ったあと敵を倒すも自爆されたり、化け物に首から上を喰い千切られてマミったり、意識はあるのに体は動かず、周りが葬式をして俺を棺に入れて火葬するなんてのもあったか。

 

 ……頭がどうにかなりそうだった。

 でもその後目覚められたので良かった、真面目に。どうやらスカーレットが助けてくれたらしい。お礼を言ったら気まずそうな顔してた、どうしたんだろうな。

 

 

 

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 七月十日

 

 

 体がダルい。つーか痛い、死にそう。

 昨日の件を父さんに話したら「万華鏡写輪眼、月読か」って何か一人納得顔した後に修行と称して無茶苦茶なことやらされた。

 走って木の上までいけ、とか言うんだぜ?

 どうしろと。垂直に走るとか無理だから、人体はそんな感じに出来てねぇし。

 霊力を使えとか言われたけど……使ったら吐血した。

 口が鉄臭い。誰かもっと優しくしてくれない?

 

 

 

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 七月十一日

 

 

 特別ゲストに豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)、聖徳太子がきた。

 歴史の教科書にも載ってる偉人、とても美人だった。おもちはないけど。

 でも生徒達にボケまくられてロクに授業出来なかったな。

 ただ、帰り道に色々お話しさせていただくことが出来たけどなんというか凄いわ。俺の考えてること結構当ててくるし。欲が聞き取れるんだっけ? 

 それでしばらく昔話を聞いたりしてたら青い仙人のナイスバディのおもちお姉さんが来た。

 青娥娘々というらしい。なんというかエロかった。というかおもちがすばらだった。大人のお姉さんって憧れるよなぁ。

 あ、そうそう。なんかお札もらった。額に付けてって言ってたな。

 ……でも付けたらなんか爆発した。体内の霊力が弾け飛んでビビったよ。お札がビックリ箱的アイテムとか予想出来ないから今度からはやめてほしいもんだ……。

 それに爆発のせいで少し額を火傷したし。頭に包帯をぐるぐる巻きとか昭和の熱血くんじゃねぇんだぞ……。

 

 

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 七月十三日

 

 

 にとりって河童に会った。

 機械が好きらしい。かなり仲良くなっていくつかアイテムをくれたよ。

 例えば超電磁砲(レールガン)とか。コインを嵌めたらぶっ放せるらしい。ただ耐久力に難があって使い捨てみたいだけど。

 あとどこでもケータイ。充電不要の電波不要。どこでも繋がりホーダイらしい。そんなの良いのか? と聞くと「私と盟友の仲じゃないか!」と返された。

 ありがとな、大事に使うよ。

 

 

 

 

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 七月十五日

 

 人里で騒ぎがあった。

 どうやら子供達が一斉に行方不明になったらしい。皆で探すことになって俺もあちこち探してたら、ふと鈴奈庵の方で妙な男を見かけた。妖怪みたいな男で、やたらニタついててさ。

 こっそり後を付けてみるとそいつ、人里から離れたところにある岩山に向かってさ、なんか壁をガコッと押したかと思ったら地下に繋がる道が開いたんだ。同じようにして付いてったら……居た。

 檻があってさ何人もの子供とか、妖精が閉じ込められてた。

 どうやら力を吸い取られてるみたいで皆弱ってる様子だったな。

 ……それで皆を助けようと檻の鍵を探してたらさっきのニタついた男がパソコン機材の多い部屋に入っていくのが見えたからこっそり聞き耳をたてると、衝撃の事実が発覚した。

 どうやら男はかつて易者と呼ばれた男の息子らしい。それでなんでも博麗霊夢に退治された父の仇を討つべく、人里を一気に破壊する策を練っていたとか。

 で、その策というのが子供達を攫い、人里全体を混乱させたのちに、人里の地下に仕掛けられた爆弾を爆発させて人里全体を陥没させるとか……。

 どんな財力と科学力してんだよと突っ込んでしまいそうなものだったが実際それをやってたのでそう言うしかない。

 で、今まさにスイッチを押そうとしていたので背後からそっと近寄って、立てかけてあった警棒で殴り倒してやった。

 一発KO。ビューティフォー。

 ちなみにちゃんと自警団に引き渡したので一件落着だろう。

 

 

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 七月十六日

 

 甘かった。

 易者二世は起きてすぐ見張りの自警団を数人倒して脱走したらしい。それから俺の家に乗り込んで来やがった。

 よくも背後から殴りやがったな! とか恨みがましそうに言われたよ。

 ……ただうちに乗り込んで来たのが運の尽きだったな。

「ぬわっ!?」

 背後から強襲、フライパンとお鍋。「きゃー不審者!?」という母の声。悲鳴を上げながら母さんが易者二世を殴り倒したのだ。(グワッシャーン! というエグい音がした)。

 

「ぐ、……ぐぅこの女!」

「きゃあ! いやぁ! ひゃああ!」

「ぐおっ!? ぐわっ! やめっ、ヤメロォ!」

 

 母さんの連続攻撃。

 もう既に手のフライパンがひしゃげてた。お鍋も底が穴空いてたな。最終的に易者二世は顔中ボコボコになって倒れてたよ。

 流石、昔は先代巫女と肩を並べたって聞くだけあって母さんも強いよな。

 ちなみにしょっ引かれていく易者二世が「お、俺が倒れても第二第三の俺が……」とか喚いてたけど多分無い。だって易者の家系図、お前で止まってるし。童貞拗らせて魔法使いになっても独り身の息子……と考えると猛烈に悲しいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ナナシの日記4

 

 昨日は寝落ちしました。
 いつもより二時間多く寝れて朝が楽だったなぁ……。

 「お知らせ」(隠れてないけどステマです)
 小説家になろうの方で新連載始めてます。
 『召喚世界の使い魔』→ http://ncode.syosetu.com/n1580dt/

 



 

 

 

 

 七月二十日

 

 

 今日から夏休みだ。

 精一杯楽しみたい……けど、無理そうなのが悲しい。

 今、永遠亭のベッドの上にいるんだよな。

 まさか人里の長老を殺そうとするやつが居ると思わなかった……しかも今時ナイフで突き刺してくるとか……。

 でもかなりの手練れだったな。

 普通に刺されたし。内臓切り開くとかどんな趣味だよ。

 俺も一発反撃してやるのが精一杯で、逃がしちまった。でも長老は守れたし、犯人も捕まったって聞いたから多分大丈夫だろう。

 で、俺は直ぐ気絶して運ばれて、目が覚めたら額に手をやって永琳さんが「またか……」って言う姿が見えた。

 一応手術は成功したらしいけど出血多量で死ぬとこだったとか言われたな。あまりにも搬送され過ぎるせいかいつも血のストックがある良かったと思うべきかそれを使わなきゃならないことに説教をするべきか、って呆れ顔で言われた。

 

 ……いつもお世話になってすんません。でも俺も怪我したくてしてないです。寺子屋の出席日数ヤバくなるし。

 

 

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 八月三日

 

 

 完治した。もう夏休みは怪我しねぇ。

 ちなみに今日は家でゆっくりした。

 宿題も片付けたのでこれからは遊び放題だ!

 

 

 

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 八月四日

 

 

 ……最悪だ。

 家族でナズーリンランドに遊びに行ってさ……ジェットコースターに乗った時に殺人事件に出くわした。

 その事件は妙に頭が冴えてたのか、それとも神ってたのか俺が解決させることが出来たんだけど問題はその後だ。

 ジェットコースターに乗った時に見かけた黒尽くめの男達。そいつらが妙に気になって追いかけて行ったら取引現場を目撃したんだ。

 一億はあったかな。遊園地のオーナーが脅されているように見えたよ。

 だが……。

 取引に夢中になってた俺は背後から近寄るもう一人の男に気付かなかった。

 背後からバットで殴り倒された俺は意識が薄れる中妙な薬を飲まされ、目が覚めたら……。

 

 体が縮んでしまっていた!

 

 ……永琳さん曰く解毒薬が出来るまでに夏一杯掛かるらしい。その間体に何が起こるか分からないから外出禁止令まで出された。

 ……夏休みが、パーだ。

 クソァ! 許さねぇ! 黒尽くめの男達の正体、必ず暴いて白日の元に晒してやるからな!!

 

 

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 八月十日

 

 永遠亭からの脱出、困難を極めたよ。

 永琳さんとの知恵比べだ。どのルートで逃げるか、敵の妨害をどう掻い潜るか。色々考えたが俺の取った方法はきっと思いもしなかった事だろう。

 ……俺がしたのは鈴仙さんを利用する事だ。具体的には鈴仙さんが里に薬を売りに行く時……かなりの重量の荷物を持っていくのだけどその中に紛れたんだ!

 とはいえ背負う籠だからいつ逃げ出すかが問題なわけだがそれも簡単。本人は人里では気を遣って笠をかぶったり物凄く露出を避ける鈴仙さんだけどアレで里じゃ人気者だからね。立ち止まって荷物を足元に置いた時にこそっと逃げちまえばいい。

 周りの視線も関係無い。一度逃げちまえば後は俺の勝ちだ。人里は俺の庭みたいなもんだからな。捕まるわけがない。

 そんなわけで脱出して……一度家に帰って今は外にいる。

 情けねー……子供の頃の服がピッタリだ。いや、俺もまだ寺子屋に通うガキなわけだけども。

 ……あれ、俺子供? よく考えれば俺の発言とか行動とかガキがするレベルじゃ……うっ、頭が。

 

 

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 八月十一日

 

 ……黒尽くめの男達を見つけたと思ったらまた背後からやられた。

 なんか倒れる時に永琳さんの匂いがしたのは気のせいだろうか。

 ちなみに今は永遠亭で両手両足を縛られた上で監禁されてる。

 監視の元で書くことは許されてるけど動けないのは辛い。

 誰か助けて。

 

 

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 八月二十日

 

 

 解毒薬が出来たらしい。

 で、一気に呑んで倒れた。どうやら解毒薬は濃度の高い酒だったらしい。急性アルコール中毒で死にかけた。

 ……頭が痛い。

 

 

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 八月二十一日

 

 復活! ナナシ復活!

 ……そして寺子屋再開。

 全く遊べなかった。この世界は絶対俺の敵だと思う。

 で、寺子屋に行けばクソ暑い中で校長先生がエンドレス朝礼。

 生徒の過半数が熱中症で倒れても尚、話を続けようとする校長先生に対してけーね先生が頭突きしてた。

 授業は中止になったけど……ともかく休みが欲しい。

 

 

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 八月二十五日

 

 

 寺子屋にまた聖徳太子さんが来た。

 今回は真面目な授業だった。で、授業後に帰ろうと思ってたらいきなり空間が裂けて青娥さんが現れた。

 どうやら空間を壁に見立てて抜けてきたらしい。能力の拡大解釈の甚だしいな。

 ともかくどうしたのか聞いてみると俺の為の特別授業をしてくれるらしい。

 言われるままついて行くと部屋に連れ込まれた。

 その後ベッドに寝かされて、お札を貼られた。

 ……それから爆発した。

 

「!?」

 

 うん、本当に「!?」だよ。でも青娥さんも驚いてたな。「な、なんで私の術式が……」とか言ってた。

 それから「う、ふふふ。気に入ったわぁ!」とも。

 気に入ったらしい。ありがたい話だ。美人さんに好かれるのは素直に嬉しい。お札貼ってくる悪戯はしてくるけど普段から俺のこと気に掛けてくれるし。

 でも「俺も青娥さんの事は好きですよ」って言ったら驚いたように瞬きしてた。ちょっとキザっぽかったかな?

 正直な気持ちなんだけどなー。あの人のことは人間的に尊敬してるし。

 

 

 

 

 



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ナナシの日記5

 

書く時間が足りない(確信)

もう何度リンク貼ったか覚えてない新作↓
http://ncode.syosetu.com/n1580dt/







 

 

 

 八月二十六日

 

 

 今日は日記を書く最後の日になるかもしれない。

 雨が吹きすさぶとんでも豪雨だ。

 ……あぁ、痛い。俺が居るのは多分魔法の森だと思う。その中にある崖の底にある小さな洞穴だ。

 血が止まらん。目が霞む。さっきまで痛みを感じてたのに今はあまり感じないからこれは本気でヤバいと思う。

 ……家の繋がりで稗田の子の為の薬の原料を取りに来ただけなのにな。風邪引いたって聞いたから。

 今までは悪運強く生き残ったけど今回は不味い。日記も血に染まってきたな。

 まさか妖怪に襲われるとは……しかも触手型とか俺を襲っても需要ねーだろが。あと崖下に落とした上に何度も地面に叩きつけるとか畜生にも程がある。

 ……まぁもう動くことはねーけどさ。

 ともかく失血が不味い。精一杯足掻くけどどれくらい持つかな。

 死んだ時の事を考えて遺書でも書いとくか?

 ……とりあえず本気で死ぬ寸前までいったら書こう。

 

 

 

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 八月二十七日

 

 

 

 あ……さ?

 目が、霞む。

 体が、動かし、づらい。

 いちお……遺書、書いとく。

 

 父さん、母さん。今まで…ありが

 

 

 

 

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 八月二十八日

 

 

 ……悪運強いってレベルじゃねーな。

 生き残ったよ。リアルに知らない天井だ、と言うことになるとは思ってなかった。

 俺を助けてくれたのはアリス・マーガトロイドさんだ。前に寺子屋の授業にも来てくれた事を記憶している。

 彼女曰く蘇生魔法(ザオリク)回復魔法(ベホマ)を使った上に何針も縫って辛うじて一命を取り留めたとか。

 「どうしてそんな怪我したの?」って聞かれたから触手のことを話したらなんか「うぇっ!?」って変な声上げた後に顔真っ赤にしてた。「早く退治しておけば……」とか言ってたから少し怒ってたのかもしれない。

 何か因縁があるのか聞いてみたら「……ぁ、そ、その」とかモジモジし出したので触れないことにした。

 なんかごにょごにょと小さく「恥辱の限りを尽くされた」とか言ってた気もするけど気のせいだろう。まだ昨日のダメージが残ってるらしい。

 とりあえず助けてくれてありがとうございました。

 アリスさんは命の恩人です。

 

 

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 八月二十九日

 

 

 あの後アリスさんが永遠亭まで連れて行ってくれた。

 包帯まみれの俺を見て永琳さんが「またか」って言ってた。

 仮にも医者が患者に向かってまたか、は無いだろ……俺だって傷付くぞ。

 で、診断結果貰った。

 全治一週間、案外早めに出れそうだ。アリスさんの治療のお陰だな。

 

 

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 九月一日

 

 今日は年に一度の人里の例大祭の日。

 最近の俺はあまりにも入院するもんだから、もう一部屋俺専用で開けてもらってる状況になって久しい。

 ……この日の為に俺は入院中の数ヶ月かけて暇な時間に脱出口を作っておいたんだ。

 実はこの部屋の壁の一部にてゐが作った隠し扉があってな。その先は中庭に繋がってるんだが、その一角にてゐが過去に作った落とし穴があってさ。

 それを再利用する形でトンネルを掘り抜いたんだ。外に繋がるトンネルを。勿論普段は誰も落ちないように上に蓋を被せて、入院を終えてから外で縄ばしごを買って取り付けたり、知り合いの鬼に手伝ってもらって補強工事もした。

 というわけで脱出して祭りに行ったぜ。

 服の内側は包帯ぐるぐる巻きだがバレずに済んだようだ。

 りんご飴買ったり、射的やったり楽しかった。

 けど、人混みって事件が起こるもんなんだよな。引ったくりが現れたから叩きのめしたんだが、ボキッと俺の骨をやってしまった。いや、触手に岩肌目掛けて全身叩きつけられたせいで全身の骨にヒビが入ってたらしい。走って飛び掛かって組み伏せる、という一連の動きで複雑骨折に至り、永琳さんにドヤされた。鈴仙さんなんか「なんで毎度無茶するんですかぁ〜」って自分で言うのもアレだが痛々し過ぎるレントゲン写真を見て泣きが入ってた。

 

 うんゴメン、でも人助けは性分なんだ。

 あと全治三週間になった。

 

 

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 九月十四日

 

 

 最近は入院時の暇な時間に医学を教わってる。

 もう何人か鈴仙さんの助手で怪我や病気を診た。

  基本的に能力の無いちっぽけな人間の身としては人体構造とかを理解して有効な攻撃をする事を意識しないと妖怪相手の殺し合いは何も出来ずに死にかねないからな。

 神経叢(しんけいそう)圧迫による心拍停止の技術とかは今後使うかも知れん。

 妖怪だろうが心臓を止められたら基本死ぬしな。偶に心臓が幾つもある妖怪とか居るけど。

 

 強くならなきゃな……。

 

 

 

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 九月二十一日

 

 

 やっと完治した。

 今回の怪我は治るまで時間が掛かったな……。

 まぁ死に掛けたししゃーない。

 次は怪我しないように頑張ろう。

 ……一番は次が無いことを願いたいけどな。

 

 

 

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 九月二十二日

 

 

 寺子屋で身体測定があった。

 身長はちょっと伸びたな。体重も増えた。筋肉が増えたからかな。

 スカーレットのやつが嬉しそうにしてたな。

 あいつの周りがぽわぽわ〜って幸せオーラで満開だった。

 ダイエットでも成功したのかねぇ? よく人里を走ってるの見かけるし。

 運動、俺も負けてられないな。

 もっと頑張ろう。

 

 

 

 



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ナナシの日記6

 

 投稿間隔開いてきてるのにスローペース。
 ……大丈夫かなこれ(エター的な意味で)
 なお、今回は後半シリアスです。
 
 あと濃い黄色の髪のサイドテールの女の子にご主人様呼びされる新作はこちら↓(ノルマ達成)
 http://ncode.syosetu.com/n1580dt/

 


 

 

 

 九月二十六日

 

 

 スカーレットが忘れ物したらしく届けに行く事になった。

 ……紅魔館スッゲェ遠かったわ。何キロだよ。走って行ったのに片道二時間掛かるとか。

 ……正直届ける必要無いだろ、と何度思ったかは覚えてない。

 ともかく到着して……衝撃を受けた。

 門の前に女の人が居たんだ。超美人だった。ナイスおっぱい。

 ……ごほん。

 まぁ有り体に言えば物凄く綺麗な中国服の門番さんが居て、で門の前に寄り掛かって寝てたんだ。疲れが吹き飛んだね。

 ともかく起こして事情説明して門番さんにスカーレットの忘れ物を渡したら「わざわざすいません」からの「お疲れでしょうし少し上がって下さい。私の客にしますから」のコンボを受けた。

 休ませてくれるのは願ってもない。そんなわけで少しお邪魔させて頂いて紅茶を貰った。あと話もしたな。

 会話内容はスカーレットは寺子屋でどんな感じ? っていうありきたりなものだった。

 うーん、どうだろなぁ。少なからず俺は可愛いと思うし、最初はコミュ障かとも思ったけど案外話せるやつだと思うけど。あとは各方面への才能が凄い。大抵のことは出来る。そこで普通なら嫉妬を買うところだけどそういうのも無いあたり人柄も良いよな。

 こんな感じに返したっけ。門番さん、美鈴さんは「うんうん」と朗らかな笑みで話を聞いてくれた。

 

 で、話を終えた後に色々あって美鈴さんのやってるガーデニングを少し見せてもらう事になって行ったけど凄かったな。季節ごとに違う花を植えてるらしい。素人目にも凄いと分かる出来だった。

 奥にはスカーレットのガーデニングスペースもあるらしい。

 ……でさ、門番さんに断って少し見せてもらいに行ったら見掛けない女の子がいた。青みがかった髪の女の子だ。羽根があったから吸血鬼だと思う。紅魔館の主人のレミリア・スカーレットさん……だっけ?

 なんかあたりを気にしてるようにキョロキョロしててさ、様子がおかしかったから物陰で全力で気配を遮断しつつ観察してたら、なんかその女の子はスカーレットのガーデニングスペースの向日葵から種を一粒とって、ジーッと眺めてから、コソッと齧ってた。

 ……齧ってからまたあたりを気にするようにキョロキョロ。

 ……アレ、なんだったんだろうな?

 ……紅魔館の主人がそんな事するとも思えないしレミリアさんじゃない別の吸血鬼なんだろうとは思うけど。

 紅魔館で下働きしてる子だったのかもしれない。お給金が少なくて飢えを凌ぐために食べてた、とかそんな理由があったりして、と邪推してみるけど真相は本人のみぞ知る事だ。

 ちなみに家に帰るまでに妖怪に三回襲われた。今は第二の我が家(永遠亭)なう。

 

 

 

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 九月二十八日

 

 

 人里で不可解な事件が起こった。

 とある民家の一室の屋根裏で小さな子供の死体が発見されたんだ。

 死因は絞殺。鈍器のようなもので殴られた跡もあって、強打されてた。口にはガムテープがされていて、死体の横には『殺人鬼参上』と荒っぽく被害者の血で書かれた文字があった。

 

 ……死んだ子供は寺子屋に居たやつだった。俺とは別のクラスだったけど。双子だった妹の方は同じクラスでさ。その子が泣いてるのを見て犯人に対してすっげえ腹が立った。

 直ぐに人里は大騒ぎになったよ。

 人里内に殺人鬼がいるかもしれないんだ。そりゃそうなるよな。

 それで詳しく調べられたんだけどさ、亡くなった男の子は長い間虐待を受けていた形跡があったんだ。

 それが分かって自警団の人達が「両親が犯人で事件の隠蔽を行うために血文字やガムテープを用意したんじゃないか?」って考えてた。

 

 妹ちゃんは兄を殺した犯人が両親かもしれないって聞いて、泣いてたよ。二歳上の兄らしいやつが慰めてた。

 ……俺も永遠亭で医術を学んでたからさ、人里の医者と一緒に死体を見たんだ。殆ど話したこと無いやつだったけど……死に顔は酷いもんだった。

 頭からは血を流し、首には縄のようなもので締められたような跡がハッキリ残っていた。

 体には擦り傷があって、殺した犯人と格闘したんだろうと予想された。

 人里の自警団の人達が両親を厳しく問い詰めてたよ。彼が発見されたのが自宅だったからさ。殺人鬼が存在する可能性もあるけどまずは両親に疑いを掛けたみたいだった。虐待の件も含めて問い詰めてたな。

 でも二人とも何も答えなかった。妹ちゃんは泣きじゃくるばかりで兄は黙りこくったまま問い詰められる両親を見てた。

 俺はどうも見てられなくてさ。兄の方の肩を叩いて話しかけたんだ。そしたら何故か兄のやつは一瞬痛そうに表情を歪めた。

 

「っ、何かな?」

「……いや、これから頑張れよってさ。妹ちゃん、俺のクラスメイトだから気にかけるようにするけど……でも」

「……あぁ」

 

 返事は簡素なものだった。続いて任せろ、と彼は言った。

 でも……どうも一瞬見せた痛そうな顔が俺の記憶をこびり付いて離れなくて、事件のことを考えたんだ。

 そしたら一つ妙なことに気付いた。

 

 殺された死体に残っていた擦り傷だ。真新しく、犯人と格闘した時に出来たものだって判断されてた。でも殺されたのは寺子屋の初等部に通うような子供なんだ。それに殺されたやつは小柄だった。それこそ大人なら一撃で殺してしまえるような。そんな子供に格闘した跡が残っていたってことはそれ即ち『犯人は体格がそう変わらない子供』の筈なんだよ。

 それに気づいたあと他にもおかしな点があることに気づいた。

 

 例えば死因は絞殺なのに鈍器で殴られた跡もあったことだ。

 仮に大人が犯人なら鈍器で子供の頭を殴れば一撃で死ぬ。鑑定結果では殴られたあとに絞殺されているって出たのに、それなのに撲殺が死因じゃなく、絞殺なのは明らかにおかしいんだ。これも犯人が子供であると指している。

 

 例えば長期の虐待の跡。

 基本的に殴る蹴るの怪我だが、その傷がどれも妙に小さいんだ。

 他にも髪を引っ張ったり、引っ掻いたりの跡もあったけどそれらもサイズが小さかったんだ。

 

 例えば現場に残された血文字、捜査に非協力的な家族。

 例えばさっき軽く触っただけで痛がった兄。

 

 これだけのキーワードが揃って、俺の頭の中に一つの真実が見えたんだ。

 

 まず事件が起こる前から長い期間ずっと兄が弟に虐待をしていた。それは殴る蹴るの暴行から始まり引っ掻いたり引っ張ったり多岐に及ぶ。

 そして昨夜、いつもの通り弟への虐待を行なっていた兄は勢い余って弟を殺してしまった。さっき軽く触っただけで兄が痛がったのは弟から反撃を受けた傷が痛んだからだ。

 ともかく、殺害を知った両親は兄を庇うためわざわざ殺人鬼なんてでっち上げをして、外部犯に見せかけようとし、事件のことを黙秘した。

 勿論こんなのは全部俺の妄想に過ぎない。証拠なんて無かった。

 

 だから改めて現場の民家を調べてみたよ。

 兄の部屋を物色した時に、まず殺されたやつの身体中に付いてた傷跡が兄の持ってたおもちゃの形と良く似てることに気付いたんだ。あと、首を絞める時に使った縄状のものなんだけど、兄の部屋に束ねられた縄跳びがあった。

 他にも殺人鬼の紙、あの筆跡がさ……両親のどっちが書いたものか分からないけど年賀状のものと見比べて節々がよく似ている気がしたんだ。

 ……でもそれでもそれは状況証拠に過ぎなかったからさ、いくつかある証拠のうちおもちゃと縄跳びを持って永遠亭に行って検査してもらったんだ。おもちゃは兄の皮膚を割り出すため。縄は犯人を探るため。持ち手のグリップじゃなくて縄の部分に不自然にふたつの皮膚が付いてないかって。

 勿論、俺が言った二つの皮膚のうち一つは被害者の皮膚。もう一つは犯人のもの。

 そしたら……付いてたんだ。被害者の首の皮膚が。縄跳びに。そしてもう一つの見知らぬ皮膚がびっしりと握りこむような形で不自然に。

 そして……その皮膚が兄のおもちゃについていたものと一致したんだ。

 

 それが分かった瞬間頭が真っ白になった。

 でも分かった以上は言わなきゃならなかった。妹ちゃんのことを思うとそれがどれだけ残酷なことか知っていても、言わなきゃならなかった。

 犯した罪は裁かれなきゃならないから、だから俺は真実を明らかにした。

 

 兄を呼び出して推理を披露したんだ。証拠も突きつけた。

 兄の顔が歪んで、睨んできたよ。逆上して襲い掛かってもきた。でも敵わないと知って、最後には観念して項垂れた。

 

「……俺は、殺してない! 殺してなんか……殺して……う、あああああああああああ!!!!」

 

 悲鳴じみた叫びが脳裏を離れない。胸糞悪くてたまらない。

 兄は最終的に自首したよ。両親が庇おうとしたけど真実を語ったらもう否定材料が無かった。

 ……最後にソイツ、俺に対してこう言ってきたよ。

 

「……こんなこと言えた義理じゃないって分かってる。分かってるけど、妹を頼む……弟は妹を虐待してたんだ。それに腹が立って殴って、いつしか俺が弟を虐待するようになった。だから、頼む。あいつが自殺なんかしないように見ててほしい」

 

 そんな約束をした。

 ……なんでこんなことになっちまったのかな。

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。そして、帰る時にスカーレットに会ったよ。

 稗田の家から出てきていた。俺の様子を見て首を傾げてたから多分事件のことは何も知らないだろうなぁって思った。

 

「……よぉ、どうしたんだこんなとこで?」

 

 無理して明るく振舞って尋ねるとスカーレットは小さく笑ってさ、

 

「ちょっと事件を解決してたの」

 

 ってそう言ったんだ。嬉しそうだったから残酷じゃない、幸せで愉快な事件だったんだろうな。

 

「……そっか、奇遇だな。俺も、同じだよ」

 

 それだけ言って帰った。

 ……タイミングが悪いよな。でもスカーレットは悪くない。

 ともかく妹ちゃんのこと、暫く気にしておこう。

 

 




 


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ナナシの日記7

 

 今回はパロディ多めです。



 

 

 

 

 十月三日

 

 

 台風だ。しかもとんでもない台風だ。

 人里でもボロい家の屋根が吹き飛んだ。

 ……で、だ。そんな台風の日に限ってお世話になってる隣の家のじっちゃんが倒れて、俺は永遠亭に行くことになった。

 うん、でも台風なんだ。今までみたいに妖怪とかじゃないから余裕だと思ってた。

 

 ……舐めてたよ。

 

 家の外に数歩出た瞬間物凄い突風で体が浮き上がった。

 うん、空を飛んだんだ。それから付近の家の屋根と一緒に数十メートル上空に吹き飛ばされて破片やらで身体中ズタズタにされた挙句地面に叩きつけられた。

 ……なんか台風の中で『ほう、この天津彦根神(アマツヒコネノカミ)に挑むか雑種』とかそんな事を言われた気がする……気のせいかな。

 ともかく起き上がると血がべったり……何だろう。普通に生きてるあたり最近俺が人間なのか疑わしくなってるな。いや、死ぬほど痛いし意識も朦朧としてるけど。

 

 とりあえず永遠亭に着くと俺は入院で、じっちゃんの薬は鈴仙が持って行ってくれることになった。永琳さんに「貴方……どんな体してるの?」と真面目に言われたよ。

 俺も分からん。まぁ生きてたのは受け身取れたお陰じゃないかな。妖怪に襲われる頻度が高いことでパルクールを始めたから、その甲斐があったと思っておこう。

 

 

 #####

 

 

 十月四日

 

 

 病室になんか来た。

 風を纏った人だ。やたら神々しい。

 その人が来た瞬間にざあざあ雨が降り出して驚いたよ。

 少し話をしたら帰って行ったけど何だったんだろうな。

 霊力も持たず我に挑むか、とかいったあと大笑いしてた。あとちょっと怒られた。貴様のせいで風水害を防ぐ邪魔をされた、とか何とか。俺は何もしてないのに。

 なんつーか変な客だったな。

 あとその人が帰ってから永琳さんに「天津彦根神(アマツヒコネノカミ)に何をしたのよ!」ってキレられたんだけど理不尽と思う。

 

 

 #####

 

 

 十月六日

 

 

 今日は球技大会だ。

 寺子屋でドッジボールをするらしい。

 でも一つ言わせろ。妖怪連中本気出し過ぎだろ。

 なんで豪速球が飛び交ってんだよ。死ぬぞ! しかもチルノとかボールを凍らせたりしてるし、三妖精はボールを見えなくしたりとか超次元サッカーじゃねぇんだぞ!!

 スカーレットもスカーレットで物凄い豪速球に加えてボール燃やすのやめろ! キャッチ出来るかぁ! 燃えるわ!

 それに加えてルーミアは暗闇で視界を奪ってくるし、リグルは大量の蟲をボールに付けてきやがる!

 必然的に避けまくる羽目になった。というか最後は足元を蟲に拘束されて四肢をチルノが凍らせて、動けない俺の視界を奪った挙句ど真ん中にスカーレットが投げ込んでくる鬼畜仕様。

 

 ……残機が無ければ死んでいた。いや、残機無いけど。常に残り0だけど。

 

 でも天国は見えた。

 目の前に四季映姫さんが居て「また貴方ですか」って呆れた声で言われてさ。「どうしたらそんな不幸に巡り合うんです!?」ってキレられた。理不尽だ。俺は悪くない。悪いのはその不幸とやらを持ってくる連中だろう。

 と、そんなわけでしばし会話したら現実の体が覚醒したのか映姫さんと「じゃあまた」「次来るのは死んだ時にお願いします」と簡素に別れを告げて目覚めるとグラウンドの端に倒れてた。

 ……慧音先生、生徒が倒れたらせめて保健室に運んでくれませんかねぇ?

 

 

 #####

 

 

 十月十九日

 

 

 ……今日はスカーレットの様子が変だった。

 なんか周りを気にしてるみたいでさ、チラチラ見回して慎重に歩いてるみたいだった。

 何かあったのかと思って見てたら、通りがかったルーミア(大人バージョン)にぶつかって服の内側に……胸のあたりに顔を突っ込んだりしてた。

 純粋に羨ましさを感じた、うん。ま、まあそれはともかく。

 どうしたのかと思って声を掛けようとしたらあいつ急に階段を踏み外して落ちてきてさ。受け止めようとしたけど階段の幅的に踏ん張れなくて、巻き込まれる形で俺も一緒に階段から落ちたんだ。

 ……さて、ここからその時起こったことをそのまま描写するぞ。

 

 

 

 

 勢いよく倒れ込んだせいでパチン、と火花が散ったように視界がはじけた。激しく背中が痛む。かなりの衝撃が掛かったのだろう。チカチカして定まらない焦点を合わせつつ、ともかく状況把握しようと手を動かすと小ぶりの柔らかいものに触れた。

 

「……?」

 

 思考に空白が生じる。頭も打ったらしい。何がどうなって自分は倒れてるのだろう? と考えて、とりあえずチカチカしていた目を閉じて、ゆっくり開く。

 

「……え?」

 

 目の前に肌色が見えた。視線を動かすと上の方に可愛らしいピンクのブラジャーも見える。そして己の手は迷いなくその胸を鷲掴みしていた。

 …………黙り込む。いや、何も言えなかった。

 と、その時だった。ふと上に乗っかっている人物が「ひゃ……」と小さく悲鳴っぽい声を聞こえた。

 叫ばれでもしたら俺は社会的に死ぬ。慌てて俺は小声でやめるように言ったんだ。

 

「ま、待てスカーレット! これは事故だ!」

「ひぇっ!? 待って、喋らない、っで! くすぐった……」

「悲鳴上げないでぇ!?」

「んっ……そんなっ、こと! 言われ、ても!」

 

 上ずった声だが高いから余計に辺りに響く。

 ……これはヤバい。冗談じゃなく。そう判断して俺は服の内側に入り込んだ頭を強引に抜いたわけだ。

 そしたら……ビリッと音がした。

 破れた服の隙間からチラリと見えるピンクの……。

 

 』

 

 これ以降の記憶はない。ぶん殴られたらしい。後で話をして忘れるという方向で話は収まった。

 でも忘れられないよなぁ、あれ。

 手に残った感触が……うん。とりあえず貧乳もアリだと思った。

 ……ちなみにスカーレットは突発性ハレンチ症候群なる病気に罹っててあんな変な事になってたらしい。

 

 

 #####

 

 

 十月二十日

 

 

 幻想郷にとんでもない細菌がばら撒かれた。

 その名も両Ⅱ(りょうつ)菌。感染すればどんな真面目人間でもたちどころにギャンブル好きのグータラした性格になるという恐ろしい病気だ。

 人里もパンデミックみたいになってた。

 実力者も多数感染してて逃げるのが命懸けだったよ。

 というかどいつもこいつもいくら攻撃しても「痛ぇなこの野郎!」で無傷だし、すぐに銃を抜いてバキュンバキュン反撃してくるからどうかしてる! 

 これじゃゾンビの方が幾分マシだ! とか思ってたら逃げてる最中に青娥さんに拉致された。どうやら助けてくれるらしい。

 それで神霊廟で話をしてたらこの細菌をばら撒いた犯人に話が移っていった。人里がパンデミックになるほどの細菌だ。理由もなくやるとは思えない。きっと犯人は何か両Ⅱ菌でやりたいことがあったんだ。

 そんな具合にな。そしたら青娥さんが神妙な顔でこんな事を言ってた。

 

「……うちの芳香ちゃんも感染してるの。どう料理してやろうかしら」

 

 言われて部屋の端を見ると両腕を縛られ猿轡をされてむーむー唸るM字の眉毛の芳香が倒れている。

 ……ゾンビも感染するのか、両Ⅱ菌。危険度パネェな。

 と、そんなわけで犯人探ししてたら見つかったよ。

 病原菌の元。人里の広場に見た事ない小さな泉が出きてて、近くにあるプレートに『こち亀連載お疲れ様でした』という文字が書かれている。

 

「……これは」

「待ちなさい!」

 

 思わず近寄ろうとすると上空から声が響いた。青娥さんと二人、そちらを見ると博麗の巫女が浮いている。

 お札を持った彼女は言った。

 

「……これが元凶ね。滅するから退いてなさい」

 

 そんなわけで霊夢さんが何やら術式で消滅させてた。

 消える瞬間に1663兆2928億5903万8850円という金額が見えたが……あれは一体何だったんだろう。

 ……負債? 誰かの借金かな。

 もしかしてその負債を押し付ける呪いとか? まさかな。

 

 

 

 

 

 





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ナナシの日記8

 


書き終えてから、次回は東方キャラをもっと書こうと思った(小並感)


 

 

 

 

 十一月七日

 

 

 人里でメイドさんに会った。

 うん、メイドさんだ。名前は十六夜咲夜さん。

 美鈴さんに聞いたことある名前だったから分かったんだけど紅魔館のメイド長らしい。

 きっかけは昨日のことだ。いつものように森の中で妖怪相手に愉快な殺し(ジャレ)合いをしてたんだが、その時に会ったんだよ。

 ……血塗れの咲夜さんがな!

 なお、その手には血の入った袋が。

 妖怪に襲われて死んだ外来人のものらしい。スカーレット姉妹が飲む為の血を確保する為に作業してたのだとか。

 ……ま、まぁ本人が殺して解体したわけじゃないし、セーフ?

 でもそんなショッキングな出会いをしたせいか、それを絶対に人に話すな、という口止めがてら人里に誘われたのだ。

 

 何されるか分かんなかったけど案外大丈夫なもんだな。

 普通に食事して、甘味屋さんまわってのデート。だけど口止めはしっかりされた。

 あと流石と思うところもあったな。あの紅霧異変を起こした側だけあってかなりのナイフ技術があるようだ。ふとした時に突き付けるナイフが決まって急所だし、時間も止めれるらしい。

 ザ・ワールド! とか言ってた。その直後はそりゃあもうビビった。思わず、あ、ありのまま起こった事を話すぜ! 『俺はメイドさんにナイフを向けられたかと思ったらそのナイフがいきなり増えた』な……なにを言ってるかわからねーと思うが俺もなにをされたのか分からなかったって言うくらいにはビビった。

 多分スタンド能力だろう。人里のトニオさんもそんなこと言ってたし。

 あとスカーレットの事も聞かれたな。寺子屋ではどうですか、とか。知ってる限りは答えたけど、あんまり親しくしてるわけじゃないからよく分からん。今度声掛けるか。

 

 

 #####

 

 

 十一月十二日

 

 

 人里で料理対決が行われた。

 咲夜さんに聞いたけどどうやらスカーレットも出るらしい。あと映姫様が審査員で参加するとか言ってた。

 せっかくの料理対決。しかも女の子の手料理ともなれば俺が行かない理由はない。ヒャッハー女の子の料理ダァーッ! といざ参戦すると、なんか映姫様に呼ばれた。

 何かと思ったら叱られた。

 やれ、煩悩が多いだの。やれ、怪我をし過ぎだの。やれ、死に体とはいえ簡単に三途の川を渡ってくるな、そして一回渡ったなら現世に戻るな、だの。

 それらを一通り謝って、ついでに審査員ということで次々運ばれてくる参加者の料理を食べたりしてたら、うん。

 幻想郷って酒好きが多いからか酒も多くてさ、なんか映姫様が酔った。

 

「だいたいれす! あにゃたはいつもいつも!」

「誰だ酔わせたの!? 映姫様しっかり! 顔真っ赤なってますから! それに呂律も……! あと酔ってまで説教魔なんですかっ!?」

「……ひっく、何度言っても効果にゃい……うえぇ……」

「しかも泣き魔ぁっ!? あ、いや違うんです周りの人! 俺は泣かしてない! 俺は無実だから!」

 

 終始そんな感じでロクに自由行動出来なかった。

 とにかく周りの目が痛かったです、まる。

 

 ちなみに優勝者は咲夜さんだった。おめでとうございます。

 

 

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 十一月十五日

 

 

 ヤバい、これはヤバい。

 危険な魔獣がうじゃうじゃいる危険な世界に俺はいる。

 どうやら魔界というらしい。

 ……事の発端はスカーレットの姿を見たことだ。普段と違って青い服にリボンという、不思議の国のアリスみたいな服装だった。

 ともかく姿を見てさ、ふとこの前、声掛けるかーなんて書いたこと思い出して後を追いかけたら……アリスさんだっけ? あの人と一緒に博麗神社の近くにある洞穴から変なゲートに飛び込んで行ったんだよ。

 気になってついて行こうと思って、スカーレット達と同じように合言葉らしい言葉を口にしてみたんだ。

 それが間違いだった。あぁ、真面目にそう思う。だって想像出来るかよ。『アバカム』って言ったらいきなり扉が開いて、そこから変な腕が複数出てきて引き摺り込んでくるなんて。

 ……で、それで目を覚ましたら見知らぬ人の家だった。

 魅魔さんだったかな。本人曰く悪霊らしい。俺を助けてくれるような人が悪霊なわけないでしょうって言ったら笑われた。

 

 で、なにがあったか尋ねてみるとどうやら俺は魔界の化け物に魅入られて引き摺り込まれたのだとか。そういえば気を失う寸前に「あなた……怠惰デスね?」とか言われた気がしないでもなかった俺はそれを信じて。

 で、お世話になりましたと挨拶をして帰ろうとしたんだ。

 それからは苦難の連続だった。なぜかというと魅魔さんの家が森の中にあったんだ。で、森は人の生存の難しい毒気のある魔力が充満し、危険極まりない魔獣がゴロゴロ存在する場所であった、と。

 普通に死にかけたわ。妖怪より余程危険だっつーの! 何あれ。二撃食らったらオワタ式ってどんな攻撃力だよ! こっちの攻撃は効かないし!

 お陰で片腕もってかれた。左手の肩の付け根からバッサリ。自分で止血はしたけどやっぱかなり不味いらしい。別に永遠亭に行けば腕がなくなろうが足が無くなろうが治してもらえるけど、死んだら本当に終わりだからな……。

 これが最後の日記とかにならないようにしないと……。

 というか腕無くなった割に冷静すぎるな、俺。精神力以前に俺、本当に人間かよ。怖くなってきた。

 

 

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 十一月十六日

 

 

 ……俺、人間やめたかもしれん。

 片腕が無くなって、魔獣を避けて洞窟に逃げ込んで。

 で、朝起きたら無くなったはずの腕が生えてた。

 ……………………………。

 

 いや、怖いわ! なんだよ生えてたって! おかしいだろ!

 なに、俺知らない間に永琳さんに不死手術されてたの!? 蓬莱の薬を打ち込まれてたの!?

 ……ともあれ生きてることは喜ぶべきか。とりあえず腹が減ったので何か食べ物を探そうと思う。そこらに美味しそうな木の実生えてるし。帰るのも重要だがまずは生き残る為に頑張らなきゃな。

 

 

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 十一月十七日

 

 

 か、んがえてみりゃ当たり前の話だった。

 ここは森だ。それこそ魔法の森なんて目じゃないくらい濃密な魔力のこもる、人間が生き残れない環境だ。

 そんなところで育つ木の実なんて……食えるわけがない!

 体が、動かん。

 かろうじて指先は動いても、起き上がれない。

 体から力が無くなったみたいに……、ちくしょう。

 俺、死ぬのか? このまま一人で動けないまま朽ち果てるのか……?

 い、やだ。そんなの、そんなのいやだ!

 生きる、俺は生きるぞ……!

 

 

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 十一月十八日

 

 

 の、みもの。めが、かすむ。

 

 

 

 

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 十一月十九日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 十一月二十日

 

 

 

 

 

 

 

 

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 十一月二十一日

 

 

 目が覚めたら見知らぬお屋敷にいた。

 どうやら助けられたらしい。神綺という人の家だった。

「大丈夫?」って聞かれたけど正直、まだ混乱してる。

 今回ばかりは明確に死んだって思ったのに……なんで生きてるんだ、俺?

 

 

 #####

 

 

 十一月二十二日

 

 

 ようやく体が動かせるほどに回復した。

 四日、五日絶食。ほぼ飲まず食わずでよく生きてたものだ。

 帰りは神綺さんがなんとかしてくれると言っていた。

 生きて幻想郷に戻れる。

 嬉しいけど、腑に落ちない。俺はなんで生きてるんだろう?

 

 

 #####

 

 

 十一月二十三日

 

 

 永遠亭に行って事と次第を話すと、永琳さんのお陰で生き残れたことが分かった。

 具体的に言うと俺の霊力を回復やエネルギーに変換するように体を弄ってくれていたらしい。元々の不幸体質を考慮して、だいぶん前にやってくれたそうだ。

 というかそのお陰で今まで生き残れてたのか! 逆に合点がいったわ! ともあれ不死になったとかじゃないのは安心したぜ。

 長生きし過ぎてもいい事無いしなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

「一言」
ハーメルンでもなんか新作書こうか思案中。(ノルマ未達成)


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ナナシの日記9

 

 そういえばハーメルンでも昨日から新連載始めました。
 幼女戦記のなんで東方は関係無いですが、、、


 


 

 

 

 十二月五日

 

 

 不幸だ。

 森の中で鍛錬してたら妖怪の首が降ってきやがった!

 後で話を聞くと人里で商品紹介をしていて、そのうち『たけこぷたぁ』なる商品を説明している時に、妖怪を使って空を飛ぶところを見せようとしていたらしいがどうやら失敗して胴体と首が千切れたらしい。

 それで首だけになって飛んでたのが木に引っかかって首が落下し、俺の頭上に落ちたと。

 気分は最悪だくそったれ。お陰で血生臭いし鉄臭い!

 ついでにホラーだ! 新たな妖怪かと思ったわ! ……あとそれからそうだな。

 その商品説明だけど、スカーレットも商品紹介をしていたらしい。

 どうやら『デバイス』なる、弾幕ごっこが出来るようになる機械らしい。俺自身何度も魔力や霊力を操ろうとして、失敗してるから酷く気になった。

 十日に発売らしい。少し高いが、今まで貯めたお年玉を使えば買える値段だ。ちょっと調べて買う事も検討してみるか……。

 

 

 #####

 

 

 十二月六日

 

 

 咲夜さんに会った。

 買い物途中で、荷物を持ってたので代わりに持って買い物した。

 やっぱり美人だよなぁ。いかにも有能そうだし。

 家事も炊事も戦闘も出来るメイド、か。

 俺も全部ある程度はこなせているつもりだけどやっぱ本職には全然勝てねー。

 というか有能過ぎるんだよ!

 人里での所作を。知り合いに挨拶して、軽く世間話して好感度を荒稼ぎする姿を見て思ったよ。

 メイドって凄い(うん、真面目に)。

 でも今度教えてもらえないか聞いてみたらオッケー貰えた。

 よーしせっかく教えてもらうんだし気合い入れて頑張るぜ!

 

 

 #####

 

 

 十二月七日

 

 

 ……助けてくれ。

 現在、俺の周りに大妖怪が一杯いる。

 八雲紫を筆頭とした各幻想郷勢力の長達が会議をしているんだ!

 で……何故か俺もその会議に座らせられている。怖い。マジ怖い。

 

 きっかけは朝、青娥さんにお呼ばれしたことだ。

 今日付き合ってもらえる? 曲がりなりにも美人さんから誘われて俺も嬉しくてさ、それを受けたんだ。

 そしたら……これだ。

 

「皆様御機嫌よう、八雲紫ですわ。今日はお日柄もよく」

「長ったらしい御託は要らんからさっさと本題に入りな。うちは早苗のご飯が待ってるからね」

 

 幻想郷の賢者である八雲紫の挨拶を妖怪の山にある守谷神社の八坂神奈子が遮る。そのあと紅魔館の……ヒマワリの種を食べてたレミリアさんがちょっと発言して、人里の慧音さんとか聖白蓮さん、聖徳太子さんらが答弁。

 どうやら年末の会議らしい。言わずもがな幻想郷のお偉いさん達の会話である。

 で、なんで俺は……何故か青娥さんを膝の上に乗せて座ってるんだろう。

 俺の上に座ってる本人はニコニコ顔だけどアバンで既に空気が重い。というか何を企んでるんだこの人。

 いやまぁ、膝に感じるむっちりとした柔らかな感触は幸せであるけれども!

 ……だが、助けてくれ、俺の胃が死にそうだ。

 

 

 #####

 

 

 十二月八日

 

 

 昨日は酷い目に遭った。

 で、今日は気持ちを落ち着かせるつもりもあって魔力とか霊力を扱うことに時間を掛けてみたよ。

 ……まずは魔力回路を作って、それを外に出して……。

 暴発。うん、知ってた。痛い。体の中でなんかが爆発した感覚がする。例えるならコーラとメントス一緒に食べた時みたいな。

 それを繰り返すこと三回。

 現在永遠亭で寝てる。馬鹿なの? って永琳さんに言われて俺自身そう思った。

 何をやっているんだか……。

 

 

 #####

 

 

 十二月十二日

 

 退院した。

 だけど鈴仙さんに一日付き纏われた。やれ「あなたは普段から体を大事にしていません!」だの「もっと自分を大切にしてください!」だの。

 いや、正論なんだけどね。俺の場合そう思ってもどうにも怪我するからなぁ。

 昔から不幸だし、やることなすこと失敗して辛うじて生を拾って生き延びてきたもんだから半分諦めてる節がある。

 まぁその辺り俺の弱いところなんだろうけどな。

 てゐにも「もっとさー、周りをちゃんと見なよ」って怒られたし……ともかくしっかりしないとな。

 

 

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 十二月十七日

 

 

 紅魔館に行った。

 咲夜さんに家事のコツとか聞いてきたよ。

 さすが本職だよな。正直勉強になった。なんでも出来るし、あの人、完璧超人ってやつなのかもしれない。

 料理も負けたしなぁ……。

 ……そもそも舌が肥えてないせいで完全に味わいきれないのも悔しい。味の見分けとかがちょっと曖昧でなぁ……。

 そう話したら咲夜さんからアドバイスを貰った。

 

「次に食事をされた時に料理を言葉で表現しながら食べてみてはどうでしょう。孤独のグルメごっこです」

 

 孤独のグルメ……? ま、まぁともかくやってみよう。

 

 

 #####

 

 

 十二月十八日

 

 昨日言われたとおりやってみよう。

 

 腹が減った。

 昼食、俺は人里を歩き丁度よく入れる店がないか探していた。

「……気分は肉、だな」

 肉は血となり筋肉になる。普段から怪我をする身としては是非食したいところだ。特に最近は精神的に辛いことも多い。そういう時は美味しいものを食べて忘れるのが一番だろう。

「……お、ここは」

 そうやってふと視界に留まったのは人里の路地に店を構える奥まった定食であった。店構えも綺麗過ぎず汚過ぎず、昔からこの場所にあって地元に愛されてきたような、そんな建物だった。

「日替わりがあるのか。店前にメニューがあるのは有難い」

 呟いてメニューをチラリと眺めてみる。今日の日替わりは生姜焼き定食。それにご飯と味噌汁が付いてくるらしい。中々食欲をそそるラインナップである。

「……よし、ここにするか」

 ともかく一先ずは入店しよう。

 暖簾を潜り店に入ると「いらっしゃいませー!」という女将さんの元気な声が聞こえてきた。店内は明るく、冬の寒さを和らげるように店の端にある店用暖炉に火をつけてじんわりと温かさを与えてくる。

 席に着くとすぐに水とおしぼりを持った店員がやって来た。

「ご注文がお決まりの頃、伺いますねー」

「あぁ、はい」

 急かすことなくメニュー表を渡してくるのも悪くない。昼時という事で客足も少なくなく、俺一人ににかまけていられないのもあるだろうが――ともかく曖昧に返事をして俺は早速メニュー表を開いた。

「……さて、どれにしようか」

 メニュー表を眺めてほう、と感心する。定食や丼が豊富で、麺類も有りそれでいてサイドメニューの品数も悪くない。

 ふむ、と俺はメニュー表の金額を眺めた。なにしろ子供の身だ。お小遣いを使うからには出来るだけ安く、それでいて美味く量の多いものが食べたい。

「うーん、やっぱお得なのは定食だよな」

 呟いて俺はふと店内に貼られるメニューを眺める。今日の小鉢は山菜と芋煮、か。

「悩ましい……うん?」

 そうこうしているうちに他の客が頼んだらしい食事が運ばれてくる。それはラーメンだった。肉厚で脂の乗ったチャーシュー、黄金に輝くスープとその中で存在感を放つ麺。そこにネギとナルトがトッピングされている。かなりのサイズだった。

「うん、これだ」

 ピーンときた。値段を見ると安い。お手頃価格だった。これなら自分も満足出来るに違いない。

 ただ、欲を言うならいま少し肉が欲しいところだが。

「……餃子にしよう」

 とあるラーメンチェーン店のせいか。ラーメンといえば餃子が食べたくなってきた。ラーメンの分定食より値段も抑えられたのでサイドメニューを頼んでも問題なかろう。

 決まりだ。店員に声をかけて注文を行い、十数分。

 待望の食事が運ばれてきた。

「こちら、チャーシューラーメンと餃子になります。熱いのでお気を付け下さい」

 そんな店員の声を聞いて俺は箸を割った。綺麗に二等分する。よく、箸を折ると失敗して片方が不恰好になったりするので気分が良い。

「……いただきます」

 日本人らしく手を合わせ、俺は手元を見やる。

 まずはスープだ。ラーメン用のレンゲを引っ掴み、俺はそのラーメンのスープをひと匙すくう。キラキラと輝く黄金のスープと、湧き上がる湯気はいかにも食欲をそそる。

 スープを先に飲むのはラーメンを食べる時の俺なりの流儀でもあった。美味いラーメンはスープが違うという持論である。

(……さて、一口)

 レンゲを口元にやり、口内に流し込むと濃厚なスープの味が口全体に広がっていった。寒い外を歩き、冷えた体を丸ごと温めていくような錯覚。いや、錯覚ではない。スープを飲み込むと、確かに暖かな液体が体全体を温めていくのを感じた。

 はふぅ、と息を吐いて思わず声を漏らす。

「……美味い」

 お次は麺だ。チャーシューと絡めて麺を啜る。

 そして一度、二度。口の中で咀嚼すると表現し得ない、『食べている』感覚が俺を支配した。口の中に広がる肉汁。それに絶妙に絡み合う麺。ラーメンにしては少し太麺なのが特徴だが、それが肉厚なチャーシューとまたよく合う。

 それから餃子も食べる。少し油っこい。が、美味い。何個も食べていれば飽きる味だが、そこは工夫の仕方で変わる。麺とともに食べる、はたまたチャーシューと、ナルトと。バリエーションを変えればいいのだ。

 ズズー、とラーメンを啜り、チャーシューを貪り食い、スープを飲み、餃子を頬張る。

 そして全てを食べ終えたら最後にスープを飲み干すのだ。

 大概ラーメン店のスープは塩分が濃く、飲み干すのは良くないだとか世の中では言われている。実際確かに塩分が濃い場合も多い。食品添加物と呼ばれるものも使われている。だが実際それを飲んだところで健康被害が起こるか聞けば、それは無いとも言われている。

(……少なからず俺は全部飲み干す派だ)

 さて、目の前のスープを見る。まだ暖かく、これからまた冬の外に出るとなればかなり体を温めてくれることだろう。

 両手で器を持ち、俺は口をつける。そしてスープを飲んだ。じんわりと全身が温かく、額に汗すら浮かぶ。

 チャーシューの肉汁を吸ったスープは最初の時とはまた違う味わいがあった。あぁ、これだよ。美味いラーメンを食べた時はこの感覚がするんだ。

 そして、器を空にした俺は手を合わせて、言う。

 

「……ご馳走様でした」

 

 ラーメンと餃子を完食。ともに空になった器を置き、代金を払った俺はまた冬の人里へ繰り出していく。

 美味かった、そんな言葉を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 


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ナナシの日記10

 


 少し間が空いたけどもう少し続くんじゃ。


 


 

 

 

 

 一月一日

 

 

 日記を久々に書くか。

 いや、なんつーかサボってたわけじゃないんだけどさ。

 霊力とか魔力を練り上げる練習してたらまた暴発したり、なんか人里で盗人が現れてるとか言われて夜警に出たら、徒党を組んだ妖怪犬に襲われたり、腕貪られたり、鈴仙さんに間違えた薬を投与されて死にかけたり……あぁうん、色々あって書く暇無かったんだ。

 まぁともかく、今日は一月一日。

 新年明けましておめでとう。と、そんな挨拶を親戚郎等に交わし、おせちを食べ、お年玉をもらい、という毎年の流れをこなして、お年玉を入れた財布をスられそうになる不幸な俺だ。

 まぁ防いだけどさ。最近不幸度合いが増し過ぎて、そろそろ本格的に死ぬんじゃないかと不安になってくる。

 と、そんな前置きはともかくだ。

 

 一二月にスカーレットが作ったらしいデバイスなる商品が出た。

 で、買った人に色々反応を聞いてみたら驚くほど簡単に霊力や魔力のなんたるかが理解できるとか。練習のたびに毎度毎度爆発している身からすれば信じられない話だが、ほぉそうなのかと思うのも事実。

 というわけで今まで貯めてきたお年玉を使い買うことにした。

 

 うん……まぁ楽すると考えると微妙なところもあるけどな。

 ともかく魔法の森に足を踏み入れ、香霖堂へと向かう。

 それから数歩、クマ型の妖怪と目の前でエンカウント。「死ねクマー!」とかいう罵声を浴びせかけられつつ襲われ、辛くも撃退。

 ……不幸だ。なんかもう一連の流れに慣れてしまった自分が悲しい。

 というかこれ、明らかに日常の一コマじゃないよな!

 

「……クマぁ……」

 

 とりあえず鳩尾当てて、伸びてしまったクマ型妖怪は放置して、また歩みを進める。

 とまぁ些細なハプニングはあったが、無事香霖堂へと着いたわけだ。

 いらっしゃいという金髪美人のお姉さんの声がとても癒しになる。なんかスカーレットに似てるけどお姉さんか何かだろうか。聞いてみると、『あぁフランの同級生の方かしら? 初めまして、姉のリアラです』と丁寧な挨拶をくれた。

 物凄く絵になるなぁ。というか発育すげぇ。いや、初対面相手にその判断基準はどうかと思うけど。

 で、デバイス購入しましたよ。そして、杖持ったら、『問おう。あなたが私のマスターか?』という声が脳に直接聞こえてきたような気がしたが幻聴だろう。インテリジェンスデバイスじゃないって聞いたし。

 

 で、家に帰って早速使用してみた。

 杖を持って使用法通り、起動する。すると、確かに体の中をぐるぐると何かの力が回っているのを全身で感じた。

 うん、知らん力だった。今まで操ったり練り上げてた力じゃない。これが魔力か! って気付いて愕然とした上に、今までの俺の努力はなんだったんだと死にたくなったわ。

 その上で試しにその力を動かしてふんっ! と力を込めると驚くほど簡単に出てくる魔力弾。

 飛び上がるように使用すると、勢いよく飛び上がり、バビューン!! と天井に頭をぶつけて、落下。

 頭からグチャッという音が聞こえた気がしたけど気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。タンコブのできた頭をさすりながら呆然とする。

 

「……」

 

 絶句。

 嘘だろおい。信じられない思いを胸に次にいつものやり方でやってみる。

 すると爆発。うん、爆発。吐血して酷いことになった。

 いや、さっきのが霊力&魔力ならこれはなんの力なのか。魔力でも霊力でも無いとかなにそれ怖い。疑問に思い、杖を握って再度トライしてみる。

 するといつもより遥かに強く爆発四散して、杖が消えた。

 ……バラバラと、鉄屑どころか灰みたいになった。

 

「……は……?」

 

 悲報、俺のお年玉。ゴミになる。

 とりあえず飛び方と魔力と、諸々は分かったけど。

 ……なんなんだろう。意味が分からない。

 とりあえず壊れた時の保証サポートか何かはあれば良いなぁ、と思いつつしめやかに気絶した。(と、聞いている)

 

 

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 一月二日

 

 いやぁ、昨日は酷いことになった。

 せっかく買ったデバイスが原型すら残さずぶっ壊れるとは。

 まさに想定外! うん、というか今まで俺、めちゃくちゃ危険な力を扱おうとしていたことに気付いて、ちょっと怖い。

 というかあれは何の力なのか。はて、魔法を使うたびに爆発とは? ちょっと分かりかねますね。

 原因不明の、正体不明の力、かぁ。

 

 ちなみにぶっ壊れたデバイスは俺の今まで貯めてきたお年玉やらほぼ全額である。正直泣きたい、割と真面目に泣きたい!

 原型すら残ってないとなると壊れた時の安心サポートやらも適用されないだろうしな。というか開発側もデバイスそのものを消し飛ばすとか想定外だろう。

 とりあえず飛び方と弾幕の出し方は覚えたから良いけど。

 

 ……と、そうだ。今日の俺は昨日までの俺とは一味違う!

 空を飛び、弾幕を打ち出せるのだ。

 前向きに行こう。前向きに。

 とりあえず『かめ◯め波ぁああああッ!!』って叫びながらレーザー撃ち出せたし結構満足もしている。

 まぁ新しいことが出来るようになっても修行内容はいつもと変わらないけどな。

 毎日、腕立て腹筋背筋を100回! 10キロマラソン!

 冷房や暖房なんて使わない。毎日やっている様子を見て、母さんから「禿()げますよ?」って言われたけど、嘘っぱちも良いところだ。

 

 んで、それらが一通り終わってから空を飛ぶ練習。

 霊力を体に纏い、望んだ動きが出来るよう何度も微調整を繰り返し、体を慣らしていく。

 しばらくはそんな感じかねぇ。

 時折、野良妖怪に絡まれるけど良い練習台だ。全力で空をかっ飛ばし、敵に肉薄し、拳をお見舞いする。

 

 俺自身が弾幕となるのだ!

 

 これを、『弾幕拳』と名付けた。

 うん、弾幕撃つより早いんだよな。決着が。弾幕ごっこってルールあっても結局そこらの野良妖怪相手なんてそれこそ殺し合いだし、ご丁寧に弾幕で相手してもなぁ。

 まぁ練習がてら弾幕縛りも良いけど。

 

 とはいえまだまだ動きは鈍いし、まずは慣れるよう頑張ろう。

 

 

 

 #####

 

 

 一月六日

 

 大分空飛ぶのも慣れてきた。

 思い通りに動けるようになってきたし、ある程度までは速さも出せるようになってきた気がする。

 ……まぁまだ慣れてなくて、全力で迷いの竹林飛んでたら竹に体ごと突き刺さって臓物零れるハプニング……というか軽くスプラッタを演出した挙句、永琳さんに説教されたけど。

 ま、まぁ慣れてきたはずだ!

 というわけで一つ気になってたことを実行することに。

 それが、何なのかというとこの世界ってどこまで高く飛べるんだろう? という疑問へ終止符を打つことだ。

 調べた限りだと宇宙があると聞いたが、それも見てみたい。紅魔館の主、スカーレットの姉も月に行ったと聞いたことあるしな。

 

 というわけで早速飛んでみた。高度をぐんぐん上げ、加速する。

 高く飛べば飛ぶほどに息が苦しくなるのは酸素の関係か。あとは寒い。どうしようもなく寒い。

 だが我慢だ。更に飛び上がる。

 もはや人里も遥か眼下に塵のようにちっこく見える。妖怪の山も下方だ。ふと周りを見渡すと空に岩の塊が浮いている。あれは、確か天界だったか?

 凄い気になる。が、今回の趣旨は高度限界まで飛ぶことなので我慢。

 そして更に飛ぶ。

 しばらくはまだ順調に。だが、ある境から急に意識が薄くなってきた。

 高度10,000メートルだったか。外の世界から流れてきた本で読んだことがある。

 

 『民間航空機は高度10,000メートルぐらいを飛行する。

 12,000メートルを超えると、肺が酸素を供給できなくなって意識を失い、18,900メートルを超えると血液が体温で沸騰して気化してしまう。気圧が低くなるためである。

 もし飛行機の窓が割れたら、吸い込まれるように外へ投げ出され、シートベルトをしていても酸素マスクをすぐに着用しないと、30秒で意識を失う。

 高度12,000メートルを飛ぶ戦闘機パイロットは、加圧スーツを着用しないと、脱出時、肺が破裂する危険性がある。』

 

 だったか。

 となると約10000メートルくらいだろ。

 更に飛び上がると急に息が出来なくなった。がくん、と意識が途絶しそうになる。

 これくらいが限界か? いや、まだだ! 

 今まで受けたダメージはこの程度ではない! まだいける!

 そんな思いで更に飛び上がって、うん。

 

 ふっと体に力が入らなくなって落ちたよ。

 というか馬鹿か俺! これ、自殺志願者かな? ってレベルの行為だからな! 

 

 ……あ、一応生きてます。

 とりあえず人類最高度で紐なしバンジーやって生還しました。

 もう俺自身自分の体は人間じゃない気がしてならないけど、永琳さんから『貴方はギャグ世界の人間だから死なないわ』と匙を投げられてしまったので、まぁ体が頑丈でよかったと思うべきか。

 あと、『少し前の両津菌に掛かってるんじゃない?』とか言われたけど失敬な。こちとら健康です!

 

 

 #####

 

 

 一月七日

 

 ……結構強くなってきた気はしてるけどまだまだだなぁと痛感させられた。

 やっぱ中級妖怪以上はキツイわ。輝夜さんと妹紅さんの喧嘩に参戦したら両者からフルボッコにされたよ。

 燃やされ、蹴散らされ、散々な目にあった。

 

 弾幕の扱いはやはりまだまだど素人らしい。

 殴り合いならまだ分が……無いな。あの人ら何千年も生きてるだけあって古武道大体修めてるし。

 当たりさえすれば一回残機飛ばせるけど。最終的には正体不明の力を練り上げてからの自爆コンボで挑むことになるんだよなぁ。

 回避もまだまだだし。

 そもそも弾幕密度が高えわ。空飛ぶ時の動きの微調整もまだまだだし、もっと頑張らなきゃな。

 

 

 

 

 

 




 


 次回から、やっとフランと本格的に修行できそうです。
 これまで出してなかった東方キャラも出していければ良いなぁ。

 


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ナナシの日記11

 


 最近、日が経って何月に何のイベントがあったかすら定かではなくなって来ました。


 


 

 

 

 一月九日

 

 

 今日はまた一段と不幸な日だった。

 いや……なんつーか人里に見慣れない女の子がいてさ。

 白い髪の小さな女の子。やけに無表情で、ぼんやりしてた。

 で、人里なんて狭いコミュニティに見慣れない幼女がいるとなると妙に気になってしまって、つい話しかけたんだよ。

 それで一言か二言か話して、どうやら彼女の名前が龍神ちゃんというのが分かったけど明らかに偽名で笑うしかない。

 というかこの時点であっ……って少し察してたんだから手を引けば良かったんだよな。

 うん、暫くの間。その女の子と交流して茶屋で団子食べたりしてたら、なんかいきなり空間が裂けて、変な腕に捕まって異空間に放り込まれた。

 意味わかんねぇ。いや、真面目に。

 どこもかしこも真っ暗な世界なんですが……。

 ともあれ意気消沈しても仕方なし。あちこち歩き回り、飛び回り出口を探した。

 それから体感で数時間。どこに脱出口があるか分かんないし、魔力消費も激しいしで一旦落ち着くことにしたんだ。

 ……んで、休憩中についでにションベンしたかったから適当にそこらでやろうと俺の息子を露出させて、出した瞬間にいきなり目の前の異空間が開いてでかい竜の顔が見えた。

 ……俺のションベンが飛ぶルート上に。思いっきりビチャビチャと。竜の顔にションベンが掛かる。

 

「…………」

「…………」

 

 下半身露出してションベンする俺と、それを顔に浴びた巨大竜。

 いや、無言だったね。正直死んだかと思ったわ。

 というかよく殺されなかったもんだよ! とんでもなくデカかったぞ! つか今思えば龍神ちゃんはともかく、あの巨大竜って幻想郷の最高神たる龍神様だったり……しないよな?

 とんでもない不敬をやらかしたぞ! いや、まぁションベン終わって、ズボンのチャックを閉めたあたりで思いっきりぶん殴られた覚えあるけどさぁ! ついでに頭からグシャッ!! ってトマトが潰れた時みたいな音と赤い温かい何かを全身から感じたけど!

 ともかくだ。

 そんで、目が覚めたら外でした、と。

 意味分からないだろ? 正直夢かと思ったわ。

 でも、不幸だったのはここからだった。起き上がった俺はまず、今自分がいる場所を確認したんだ。ゆっくりと頭をもたげて、左右上下と首を動かして。で、見えたのは悪趣味なくらい真っ赤な館。

 ……前にも来たことあるけど、スカーレットの家。

 紅魔館だった。

 

「……なんでここに居るんだよ」

 

 ポツリと呟いて。とりあえず状況確認しようと立ち上がったその時だった。急にバチバチバチ! という炸裂音が聞こえたんだ。

 突然のことだ。

 何が起こったのか分からなくて、立ち止まったのが悪かったらしい。

 結論から言おう。

 

 紅魔館が爆発した。

 

 うん、なんでさ。

 で、とんでもない大爆発から退避しようと反射的に空に飛び上がったところ、爆風で遥か上空へ吹き飛ばされ、ついでに退避しきれず爆発内に巻き込まれる始末。

 空中できりもみ回転しながら全身を(いぶ)される貴重な体験をしたよ。死ぬかと思った。

 落下も首からゴキって感じだったし。

 ……竜の顔にションベン掛けたせいかなぁ。でも、でもだ。俺は悪くないだろ! むしろションベンしようとした時に空間開く方が悪いだろ! 

 永琳さんに全治一週間って言われた。

 全身の骨と首の骨が完全にイッてるのに、全身燻されて美味しく食べれそうなほど変色して焼けただれてるのに。

 ……実はあの人ヤブ医者じゃねーだろうな? これだけの大怪我が一週間で治るわけないだろ!

 

 

 #####

 

 

 

 一月一五日

 

 

 ごめんなさい、永琳さん。

 俺が間違ってました。一週間経たずにほぼ完治しました。

 

 えっ、貴方は人間だけど人間じゃない?

 哲学ですか。すいません自分無学なもんでよく分からないっすね。ちょっと人より回復速度が早いだけなんじゃないかなぁなんて。

 

 えっ、なんですか。貴方が人間なら医学がぶっ壊れる? 頼むから例外枠にさせて、考えたくない?

 いやいや俺は人間ですから! 誰か何と言おうと人間ですから! ほら、人体の奇跡とも言いますし、例え全身を爆砕されても一週間で治る人間が居ても良いと思うんですよ! 

 

 えっ、普通の人間はまず、生還出来ない?

 いやいや誰だって気合があればなんとかなりますって。中級妖怪レベルまでと何とか戦えるだけの一般人枠ですって。何でそんなにも俺を人外扱いしたいんですか。

 

 ……こんな感じに永琳さんと一日中押し問答を繰り広げた。

 輝夜さんにも笑われるし、踏んだり蹴ったりだ。

 つか病院はやっぱ暇だな。輝夜さんとゲームしたりしてもあの人めっちゃ上手くて勝てん。

 鈴仙は最近、なんか俺のこと避けてるっぽいし、てゐはてゐで俺に罠の試しをさせてくれと命を張らせようとしやがる。

 というか鈴仙は何で俺のこと避けてるんだ?

 何もした覚えはないんだがなぁ……前にやたら顔真っ赤にしてて、もじもじしてたけど。

 

 と、思ってたらなんか部屋に輝夜さん来たわ。

 話を要約するとなんつーか、鈴仙は今、発情期らしい。

 それで男を見ると発情するもんだから離れるようにしてる、と。

 ウサギの習性か何かか? 難儀なこった。

 まぁあの人美人だから、迫られたら断れる気がしないし、離れてもらった方がありがたいかもしれん。

 

 ……自分で書いててアレだけど、俺ってまだ寺子屋通う年齢だよな。すぐにエロというか下の発想が出てくるあたり穢れてるのだろうか、とふと思う冬の夜。

 

 

 #####

 

 

 一月十六日

 

 

 ……大人になるって、まだ早いな。

 しみじみと思う。というかフラグって存在したんだな。

 とりあえず端的に昨日、俺の身に起こったことを語ろう。

 

 鈴仙に、夜這いされた。

 

 うん、夜這いされた。

 夜中に布団で寝てたら、ふとずっしり重さを感じて、目を開けたらハァハァ言って顔真っ赤にしてる鈴仙が俺の上に跨ってた。

 一月の夜でも興奮で暑かったのか、薄着で。谷間がもろに見えた。

 ……うん、童貞卒業を覚悟したよ。

 まぁギリギリで踏みとどまって、もしこれでやった場合、鈴仙さんが後悔すると考えて、耐えて、理性を押さえつけて、ようやく耐えて……泣きながら当て身して気絶させたけど。

 

 据え膳食わぬは男の恥とは言うが、あれは酒に酔ってるみたいなもんだし……正しいことをしたんだ。したはずなんだ。

 というか明らか、寺子屋通いで童貞卒業は不味い! 慧音先生に殺されるわ! 貴方の家の性教育はどうなってるんですか、的な意味で。

 そしたら親父が母さんに殺されるわ!

 俺の知識なんて大体親父の秘蔵コレクションだし! うふふふふと笑顔の母さんがヤンデレじみた笑み浮かべながら親父ににじみよる姿が思い浮かんでゾッとしたわ!

 ……と、ともかくこの件は忘れよう。

 きっと、夢だと思った方が幸せだから!

 

 

 #####

 

 

 

 一月十七日

 

 

 やっと寺子屋に復帰だ。

 最近はなんか濃い日々ばかりで疲れるぜ。

 とか思いつつ登校。んで、あれだ。元々俺が怪我した理由ってスカーレットの家の大爆発に巻き込まれたからなんだよな。

 ……なのでその件について尋ねてみた。

 

「お前んち、爆発してたけど大丈夫か?」

 

 そしたらなんか放課後に校舎裏に来てとのご要望。

 あ、一応相手に変に気を遣わせるのもアレだし見た理由とかは適当に誤魔化したけどさ。

 で、放課後に所定の場所に行くと内緒にしてほしいとお願いされました。

 まぁ良いけどさ……と、思って、止まる。

 というかスカーレットってほら。デバイスの開発者じゃん。俺ももっと強くならないと本格的に死にかねないし、良い機会だからこっちからもお願いしてみようと思って、修行つけてくれね? と言ってみるとまさかのオーケーを頂けたよ。

 

 というわけで早速明日から修行付けてくれるらしい。

 楽しみだ。精一杯頑張ろう。

 

 

 

 #####

 

 

 一月十八日

 

 

 やばい。なんつーかやばい。

 死ぬ。冗談じゃなく死ぬ!

 昨日、スカーレットに修行の依頼をしたのは良かった。でも、まさかその初めての修行場所が太陽の畑ってどういうことだよ!?

 流石に大妖怪相手で勝ち筋ねーから! つか花一輪散らしたら俺の命が散るから!

 

「あら、見慣れない顔ね」

 

 と、色々突っ込んでいたら風見幽香さんことゆうかりん参上でござる。

 でもなんか思ってたよりは良い人だったな。マスタースパークとか見せてくれたし。

 ……まぁ、組手は死ぬかと思ったけど。

 阿求がまとめてる資料には鈍足とか聞いてたけど普通に速いし。

 腕力勝負なんて話にならない上、ありとあらゆる要素で上回られている。

 強いてこちらに分があるといえば体術くらいなものだ。

 でもそれすら素の戦闘能力で覆される始末。拳一発で死にかねない。

 

 多分、花を操る程度の能力なんて嘘だと思う。

 というかむしろパンチで人を殺す程度の能力と言われた方がよほど納得がいく。

 ……本人の前では言わないけど。

 

 それとだ。

 前々から思ってたけど、どうもスカーレットのやつ無防備なのか天然なのか、期待をさせるような発言するのが気になったな。

 ……いやまぁ、そういう性格なんだろうけど。

 

 

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 一月二十二日

 

 

 スカーレットのやつが風邪を引いたらしい。

 もしかして俺の修行に付き合ったからだろうか。そう思ってお見舞いの品を持って紅魔館に行ったら、美鈴さんから咲夜さんに取り次いでもらえてスカーレットに会わせてくれることに。

 うん、なったんだけどなんか様子がおかしかった。なんつーか妙に他人行儀で、初めて会ったような顔してたな。

 まぁ病気で滅入ってただけなのかもしれないけど。

 お見舞いも早々に帰ったけど、なんだったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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