七聖剣使いの航海日記 (黒猫一匹)
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1ページ目 アスカ島と七聖剣

初めての日記形式だけど、うまく書けてるかな?


 ○月×日 晴れ

 

 

 オレの名前はヒスイ。昨日誕生日を迎えたので歳は今年で15歳。アスカ島在住の男だ。

 そしていきなりだが、今日から日記を書いていこうと思う。

 というのも幼馴染のマヤから昨日誕生日プレゼントという事で日記帳を貰ったからだ。せっかく貰ったのに使わないというのもアレなので、暇な時間を見つけては日記を綴ろうと思っている。

 しかしあれだな。いざ日記を書こうと思っても、そもそも日記って何を書けばいいのだろうか? とりあえず今日起きた出来事でも適当に書いておけばいいのだろうか?

 …まぁ、考えても仕方ない。とりあえずなんか眠くなってきたし、日記は明日から本格的に書いていくという事で。じゃあおやすみ

 

 

 ○月○日 曇り

 

 

 今日も今日とて海賊の襲撃もなく、無事に一日を終えた。

 あの海賊王ゴールド・ロジャーが処刑されて早19年。

 海賊王が残したと云われる「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を手に入れるべく腕に自信を持つ者はこぞって海へと出る大海賊時代。

 全く以て嫌な時代になった。10年前にも一度海賊の襲撃にはあったけど、あの時はマジで生きた心地がしなかった。村は燃やされるわ、両親は殺されるわ、金品は盗まれるわで、その時はまだ子供だったから余計に怖かった記憶がある。

 …うん、やめよう、あの時の事を思い出すのは。何だか鬱な気分になる。

 

 

 さて、話は変わり。

 オレは今日もいつも通り居候中のマヤの家で朝食を取った後は、自警団と共に日課である剣の鍛錬や、実戦訓練をして体を鍛える。

 因みにこの自警団は10年前の海賊襲撃事件を切っ掛けに作られたものだ。もう二度とあの様な悲劇が起きない様にと村の男達全員が参加している。

 オレはその中でも剣の才能がそれなりにあるらしい。もう同世代ではオレの相手になる者は一人もおらず、今は自警団のまとめ役でもあるラコスさんと剣の鍛錬をしている。とはいえ、同世代最強であるオレでもやはり自警団最強のラコスさんに勝つというのは当然の事だが無理であった。

 最初の頃はそれこそ手も足も出ずに負けていたが、最近では漸くラコスさんの剣戟の速度やフェイントにも慣れてきた為にそれなりに打ち合える様になってきたが、そこは年長者の意地か経験か、そう簡単には勝たせてもらえなかったぜ。

 これで0勝88敗だよ、ちくしょう。

 くそっ、少しは手を抜けよなオッサン。子供相手に本気出すなんて恥ずかしくないのかアンタは!?

 息も絶え絶えに大の字で倒れるオレにラコスさんはフッと笑みを浮かべるながら「やはり筋がいい。100戦目の頃には俺を超えるだろう」というお褒めの言葉を頂戴した。

 厳格なラコスさんがこうして褒めてくれるのは稀だ。明日はまさかガレオン船でも降ってくるんじゃないか? ってくらいラコスさんが人を褒めるなど珍しい。

 とはいえ、嬉しかったのも事実。そのせいでつい調子に乗って「それよりも前にアンタを超えてやるよ」的な事を言ってしまったのがマズかった。

ラコスさんは「よしその意気だ! しかし、マヤ様達を守るにはまだまだ力が足りん。これからは俺がみっちりお前を鍛えてやろう! さァ立て! いつまで休んでいる!」などといい笑顔で宣いやがった。

 …ありがた迷惑だよ、ちくしょう。

 あと、笑顔で刀を振り回すのやめてくれないっすかねぇ…。普通に怖いんで。

 そして遠目でこちらを見てる奴ら、笑ってないで早く止めてくれ…。

 

 

 それから結局、マヤが昼の弁当を届けに来るまで休む間もなく扱きは続いた。

 

 

 ○月■日 曇りときどき雨

 

 

 いつも通り日課となりつつあるラコスさんとの実戦訓練が終わったあと、今日はマヤと共に家でマヤの祖母さんであるイザヤさんからこのアスカ島にまつわる話を聞かされた。

 もの凄く長ったらしい話であったが、要約すると、

 

 この島には「偉大なる航路(グランドライン)」一美しいと云われる「七聖剣」という宝刀が眠る島らしい。そして太古の昔からこのアスカ島には百年に一度だけ「赤い月」がこの島を照らすという。原因は今でもよく分かっていないが当時の人々はこれを災害や異変を招く不吉な月と恐れていたそうだ。

 そんな中、アスカ七星という神々が災いから人々を守るためにアスカの王に盾として3つの宝玉を、矛として七聖剣をもたらしたという言い伝えがあるそうだ。

 そして、かつての一人の美しい巫女をめぐり、3人の王子が七聖剣で殺し合いをし、多くの血と憎しみを吸った七聖剣は呪われた妖刀となり、その呪いはアスカ島だけでなく、周りの海をも争いに巻き込むほど勢いを増していき、このまま放っておけば、それこそ世界全土にまで七聖剣の呪いが届き、世界中の海で争いが巻き起こる事になる。

 そんな血と憎しみの連鎖を止めるために巫女は自らの命を投げ打ち、3人の王子の目を覚まさせる。その後、王子達は無事に和解し3つの宝玉を使い七聖剣の呪いを封じたそうだ。だが、封じただけで呪いは今も尚、七聖剣に宿っているとの事。

 

 …要約した筈なのに、少し長ったらしくなったなスマン。

 とまぁ、そんな話をオレはマヤと共に聞いていたのだが、七聖剣や宝玉の存在は知っていたけど、正直、呪いとかなんだとか言われても胡散臭いというのが本音だ。

「赤い月」は百年に一度、実際に起こるそうだが、それ以外はどこまでが作り話なのか分かったもんじゃない。

 そういえば、確か村の端にある湖には七聖剣が封印されている神殿があったな。

 …呪いとやらが本当なのか今度少し確かめに行こうかな。

 

 

 ○月△日 雨ときどき嵐ときどき呪い…?

 

 

 その日、オレは村の友人達と共に七聖剣が封印されているという神殿に向かっていた。

 因みになぜ、友人達と共に行動しているのかと言うと、どうやら彼らも先日祖母さんからアスカ島にまつわる歴史を聞かされた様で、オレと同じく祖母さんの話がどこまで本当なのか真実を知りたいからだそうだ。

 

 雨がポツポツと降る中、オレ達は森の獣道を歩いていき、ついに七聖剣が封印されている神殿にたどり着いた。

 階段を上り神殿の中に入ると、うまく言葉に言い表せない妙な感じがした。

 だが、友人達は何も感じないのか、何の迷いもない足取りでどんどん神殿の奥に進み石で加工した封印蔵の場所までたどり着く。

 そんな友人達の姿を見て、先ほどの妙な感覚はただの気のせいだと割り切る事にした。数秒遅れてオレも七聖剣が封印されている封印蔵まで急ぎ足で歩を進めると、信じがたい事が起こる。

 突如、封印蔵から薄緑色のオーラの様なものが溢れてくるではないか。

 その光景に皆「えっ!? 何事!?」と驚いていると、封印蔵がなぜかいきなり爆発する。もうホントいきなりの事だった為、皆盛大に後方へと受け身も取れず大きく吹き飛んだ。

 唯一出遅れていたオレだけが、何とか爆発の余波に巻き込まれずにその場に留まれた。友人達が何やら後ろで騒いでいるが今はそんなのは最早どうでもいい。

 なぜならオレは目の前の「ソレ」から意識が離せなかったからだ。

 

 そこには緑色の細長い刀身。そしてそこに埋め込まれた7つの宝石と刀身に刻まれた天文が、まるで星の様に妖しく輝き、柄頭には赤い房飾りが捲かれている。

 そして何より目が離せないのが、先ほどから刀身から溢れ出している謎のオーラの様なものだ。

 ていうかなにこれ? なんだか気持ち悪いんだけど。

 なんというかこのオーラから憎悪やら破壊やら復讐心といった負のエネルギーの様なものを感じるんだ。いやマジで。

 そうかこれが祖母さんの言っていた呪いか。

 うむ、どうやら呪いは実在していたらしい。

 

 

 …これヤバくね?

 

 え? とういうかこれ、マジでどうするんだ。七聖剣の封印が解けたなんて村の皆に知れたら大ごとだよね。しかもそれが祖母さんやマヤに知れたら……。

 ………。

 ………。

 ……、ま、間違いなく折檻ものだな、いやそれだけで済めばいいけど(震え声)

 そして先ほどから外の雨風が激しさを増している上に雷がゴロゴロと尋常でないほど光ってるんだが、これももしかして呪いの影響だったりするのかしらん? だとしたら、呪いさんアンタ仕事早すぎ。もうちぃっとゆとりを持とうぜよ。なんなら少しサボってもいいんだよ?

 

 …とオレが現実逃避を行っていると、爆発によって派手に吹き飛ばされた友人達が何やら青い顔をしている姿が視界の端に移った。

 あ、そういえば居たね、君達。すっかり忘れててた。

 そうしてオレが彼らの方へ視線を向けると、目の前にある七聖剣の輝きがより一層増す。

 何事だよと思い急いで振り返ると、刀身から溢れていたオーラ……いや祖母さんの話だと妖気だったか……が、オレの左腕にいつの間にか纏わりついてい―――ってギャアァァ嗚呼ァァアァアッッッ!!!??

 ちょっ、なんぞこれっ!? なんだかすごく気持ち悪いんだが!?

 反射的に左腕を全力で振り回し、纏わりつく妖気を霧散させようと努力するも何の意味もなくそれどころかさらにオレの体へと侵食していく。

 オレはすぐさま友人達にSOSの視線を向けて振り返ると、そこには悲鳴を上げて一目散に逃げ出す友人達の姿が――いやオマエら助けろよ(激オコ)

 え? オレら友達だよね? なのにそんなあっさりとオレを見捨てるの? もう少し助ける様な素振りだけでもあってもいいんじゃないの(泣)

 

 そんな中、オレの左腕に纏わりつく妖気が輝き出すと、それに共鳴するかの様に七聖剣の宝石や天文が一際妖しく光る。

 すると、七聖剣が文字通りオレ目掛けて飛んできた。かなりの勢いで飛んできたそれをなんなく左腕で受け止めたオレ……というか完全にオレの意志とは関係なく体が反応したんだが…。

 そしてオレは改めて七聖剣に目を向けると、刀身から発せられる妖気が不気味ではあるものの、輝く宝石と天文は綺麗だなぁと思う。

 ……そんな事を考えていると、オレの意識は徐々に薄れていき、数秒後には完全にオレの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次に意識が覚醒した時、オレはなぜか海の上にいて、海賊船の甲板の上に倒れていた。

 いきなり何を言っているのか分からないと思うが、安心してほしい。オレも何が起きたのか全く分かってないから。

 周囲には血の海をつくって倒れている全身血達磨な者達。彼らの身なりや容姿からおそらくこの海賊船の船員達と思われる。うわぁ~エグイなこれ。

 因みにそんな彼らと違いオレは多少の傷を負ってはいるものの、限りなく軽傷だ。

 少し体が濡れているのが気になるが…、これ水だよね…まさか返り血って事はないよね? 状況的にはなんだかそっちの方がしっくりくるけど…。

 …そして右手に握られた七聖剣。

 ……うむ、これもしかしなくてもオレがやっちゃった系?

 誰か大至急説明プリーズ!

 

 




次回にオリ主の身に何があったのか判明します。


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1.5話 七聖剣(ヒスイ)と宝玉(マヤ)

※読む前の注意事項
・今回は日記形式ではありません。
・文字数が1万8千字を超えた為、長いです。
・今話は前話でオリ主の意識が途切れてからまた目覚めるまでの間のお話です。
・七聖剣や宝玉には独自設定が色々と入っています。


 偉大なる航路(グランドライン)前半の海にあるアスカ島。

 その島には偉大なる航路(グランドライン)一美しいと云われる伝説の宝刀『七聖剣』とそれと対となる3つの宝玉が眠るとされ、知る人からすれば宝島と認識される島である。

 しかし、この島の歴史を少しでも知っている者からすれば、とてもではないがそんな素晴らしい島とは呼べないだろう。その理由はアスカ島にまつわる七聖剣伝説が主な原因ではあるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 村から少し離れた巫女の祠。そこで一人の少女が祠の中央にそびえ立つ女性の像に向かい祈りを捧げている姿が見受けられた。

 どうやら今日もいつも通りにこの島の守り神であるアスカ七星や少女の先祖達に対して祈りを捧げているようだ。

 そんな祈りを捧げている少女の名はマヤ。水浴びで体を清めたばかりなのか、水滴で濡れるその腰まで伸びた艶やかな青髪色の髪としなやかな肢体から流れる雫がとても煽情的な少女だ。

 そしてマヤの目の前にある女性の像、その足元には3つの綺麗な桃色の玉が置かれていた。そしてその玉はマヤが祈りを捧げる度に淡く輝き出す。

 その玉の正体は無敵の矛である七聖剣とは対を成す無敵の盾、宝玉だ。

 先祖代々巫女の家系であり、一族の中でも卓越した“祈りの力”が使えるマヤだからこそ、こうして外に持ち出す事が許された代物である。

 

 マヤはそこで組んでいた指を解き、フーと息を吐く。

 そしてゆっくりと瞼を開けて立ち上がる。どうやら今日の祈りが終了したらしい。

 マヤはそのまま像の足元に置かれた3つの宝玉を手に取り袋の中にしまっていき、祠の裏側に移動すると、水浴びの為に脱いでいた衣服を持ち素早く着替える。

 宝玉の入った袋を大事そうに抱えたマヤはふと空を仰ぎ見る。

 

「………」

 

 するとポツポツと雨が降り始めた。雲色の空を暫く眺めていたマヤは不意に言い知れぬ不安が襲い始める。なにかよからぬ事が起きるのではないか、と彼女は七聖剣が封印されている神殿の方に視線を向ける。

 

「……なんだろう、この感じ……」

 

 ボソリとマヤはその様な事を呟くと、暫し神殿がある方角に視線を向けていたが、雨が酷くなる前にすぐさま村の方角へと駆けて行った。

 

 

 

 マヤが村にたどり着いた時には、風も少し出てきており、雨も少し激しくなってきたと感じた。

 雨に濡れながらも急いで家へと駆ける。途中いつも村の自警団達が鍛錬をしている演習広場に行き着くと、村の男達が武器を片付けているのが見えた。

 どうやら雨が激しくなってきた為に鍛錬は終了する様だ。そんな広場にいる男達を視界に収めながらマヤはいつもの様に大切な幼馴染の姿を探す。しかし見つける事ができなかった。もしかしたらもう先に帰ってしまったのかもしれない。

 一応、もう少し探して居なかったら帰ろうかなと思い自警団達の元へ近づくと、そんなマヤの存在に気付いたのか自警団のまとめ役でもあるラコスがマヤに声を掛ける。

 

「おお、これはマヤ様。こんな雨降りの中、一体どうなさったので?」

 

「あ、ラコスさん」

 

 マヤは声を掛けてきたラコスの方に視線を向ける。村の男達の中でも一際背丈が高く筋肉質な体系をしており、鋭い瞳が印象的な人だ。

 マヤは一瞬、周囲に視線を向けて幼馴染の姿がない事を改めて確認すると、視線をラコスに戻し口を開く。

 

「あの、ヒスイの姿が見えないんですけど、もしかしてもう帰っちゃいました?」

 

「む? ヒスイですか。そういえば今日は朝から見ていませんね」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ええ、広場にも来ていませんし、マヤ様のご自宅に迎えに行ってもイザヤ様がいらっしゃるだけでヒスイの姿は見えませんでした。イザヤ様の話ではヒスイは私が来る数十分前にはもう家を出たとおっしゃられたので、てっきり行き違いになったと思い戻ってきたのですが…」

 

「そうですか…」

 

 ラコスの話を聞いて鍛錬が嫌になりサボったのかと一瞬思いもしたが、先ほどの巫女の祠で感じた言い知れぬ不安の事を思い出し、もしかしたらヒスイの身になにかあったのではないか? とついついその様な事を考えてしまう。

 再び押し寄せて来る言い知れぬ不安をマヤは先ほどよりも強く感じてしまう。

 

「とりあえず、雨も酷くなってきた事ですし、マヤ様も風邪など引かれる前にお早く家にお帰りください。それにヒスイももう帰ってきているかもしれません」

 

「……そうですね、わかりました。片付けの途中なのにすみません」

 

 ラコスの言葉にマヤは一瞬の間があったものの、素直に頷く。

 そして家へと帰る為に歩を進めようとした瞬間、

 

 

 ――カァン、カァン! カァン、カァン!

 

 

 という敵襲を現す警鐘が村全体に鳴り響いた。

 

「えっ!?」

 

「なにっ!?」

 

 その警鐘にマヤもラコスも驚愕の表情を浮かべる。

 演習広場で武器の片付けをしていた村の男達もその警鐘音を耳にした瞬間、青い顔をする。民家からも次々に女子供が姿を現した。

 そして次の瞬間、どこからかヒューという何かが飛んでくる音が警鐘と共に確かに聞こえてくる。

 そしてドォォン! という爆発音が発生する。

 

「な、なにが起きたっ!?」

 

 ラコスが爆音の音源の方に視線を向けると、そこには破壊された民家があり、爆撃に巻き込まれたのか近くにいた人々が吹き飛び瓦礫が舞う。

 

「敵襲だッ! 男共は直ちに武器を取れェェッッ!! 女子供は今すぐ中央広場まで避難しろォォォッッ!!!」

 

 皆いきなりの事に呆然としていたが、ラコスのその叫びにより状況は動き出す。

 女子供は悲鳴を上げ、男達も悲鳴とも雄叫びとも取れぬ声を上げながらも武器を取りに演習広場へと戻ってくる。

 

「よし、武器を持った者はすぐさま俺に続けェェ!! マヤ様! 貴女もお早くお逃げを!!」

 

 その様な叫び声を上げながらラコスと武器を持った男達が襲撃のあった方へと向かう。そんなラコス達の様子を見て、マヤはすぐさま護身用に武器を手に取る。そしてラコス達が走って行った方向へと視線を向けて、自分も加勢しに向かおうかと一瞬その様な事を考えるも、すぐに頭を振り考え直す。

 

「私が向こうに行っても足手まといになるだけ…。私は私のすべき事をしなくちゃ…まずはこれをどこか安全な場所へ」

 

 そう言ってマヤは今まで大事に抱えていた3つの宝玉が入っている袋に視線を向ける。

 そんな時、焦った様な声音がマヤに届く。

 

「マヤ!! こんな所にいたのか! 早く逃げるぞえ!!」

 

「お祖母ちゃん!!」

 

 マヤに声を掛けたのは彼女の祖母であるイザヤだ。どうやらイザヤは村の男の一人に背負られているようだ。

 マヤは無事な祖母の姿を見て一安心するも、すぐにヒスイの事を思い出して声を掛ける。

 

「お祖母ちゃん、ヒスイは!? 一緒じゃなかったの!?」

 

「ぬ? お主と一緒ではなかったのか!?」

 

 その反応からどうやらヒスイは家には戻っていなかったようだ。こんな時に一体どこにいるのか。マヤの不安は徐々に大きくなっていく。

 すると東の方角から突如として連続して雷がゴロゴロと鳴り響く音が聞こえてきた。マヤは反射的にその方角へ視線を向けると、そこでは雷が不自然なほどにある一か所で光り続けていた。

 イザヤも雷の元へ視線を向けると、険しい表情を浮かべる。

 

 ――あの方角は確か…七聖剣が封印されている神殿が……!

 

 その様な事を考えていた時、マヤが抱えている袋の中から宝玉が桃色の光を発し始めたではないか。

 

「え……?」

 

 その突然の事にマヤもイザヤも目を丸くする。祈りも捧げていないのに宝玉が自ら光を発する光景に二人は呆然としてしまう。

 マヤは袋から宝玉を一つ取り出す。すると次の瞬間にはその宝玉は何かと共鳴するかの様に点滅を始めた。

 マヤとイザヤはその光景の意味する事に気づき、「まさか!!」と驚愕の表情をその顔に浮かべながら視線を雷が光り続ける場所へと移す。

 

「……ヒスイ……」

 

 マヤの呟く様に紡ぎ出されたその名前は、雷と爆撃の轟音により誰の耳に届く事もなく虚空へと消える。

 

 

 

 ラコスは急いで襲撃場所に向かい駆けていた。後ろには彼と共に武器を持った自警団達も続く。

 悲鳴を上げながら逃げる人々を視界に収めながらラコスは決意を固める。

 もう二度と10年前の様な犠牲は絶対に出さないと。

 すると、ラコスの視線の先に軽く数十人を超える男達が視界に入る。

 そしてその中央から黒い帽子を被った男の嗤い声が聞こえてきた。

 

「ゲッハッハッハッハッ!!!! 野郎共!! この島にある金品と食料を片っ端から略奪してこい!! この“双剣のヴェルガー”様がいずれ海賊王になる為の貴重な金品と食料になるのだ!!」

 

「船長! なんだか雨が酷くなってきてやがりやすぜ! しかも風もどんどん強くなってる! こりゃあ嵐の前触れでは!?」

 

「バカ野郎ォ!! 嵐が怖くて海賊やってられるか! とはいえ、ホントに嵐が来られても厄介だ! なら来る前にとっとと略奪しちまえ!!」

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

 船長のヴェルガーの指示に武器を構え鬨の声を発する海賊達。

 そんな海賊達にラコス達は彼らの進路を阻む様に立ちふさがる。

 

「待て! 海賊共!! 貴様らの好きにはさせんぞ!!」

 

「あァ?」

 

 ラコスの叫び声にヴェルガーは眉を顰める。そんなラコスの後ろには武器を構えた自警団達が油断なく海賊達を睨みつけている。

 

「なんだテメェは?」

 

「私はこの村の自警団取締役のラコスだ! 貴様ら海賊にやるモノなどこの島には何一つない! 即刻立ち去れ!!」

 

「何を生意気な! 雑魚がおれ様に指図すんじゃねェ!! 奪うモノがねェかどうかはテメェが決めるんじゃねェ! このおれ様が決めるんだ!! 野郎共!! 構う事はねェ! 連中を殺し金品と食料を全て奪え!!」

 

「くっ…薄汚い海賊が…! 皆の者! 俺に続けェェ!!」

 

 互いのリーダーの言葉に自警団や海賊達が声を上げて動き出し、大乱闘が起きる。

 そこら中で剣戟の音や爆音、銃声、衝撃音などが響き渡る中、ラコスは目の前のヴェルガー目掛けて全力で駆け出す。

 

「オオォォォ!!!」

 

 雄々しく叫びながらラコスは片手剣を振りぬく。対するヴェルガーは腰に差していた2本の刀のうち一刀を振り抜きラコスの一撃を防ぐ。

 そしてすぐさま腰のもう一刀の刀を鞘から抜き放ち、ラコス目掛けて振りぬく。

 ラコスはそれを腕に装備していた盾を使い防ぐ。

 

「ぬぅぅ!!」

 

 しかしヴェルガーの一撃がラコスが想像していたものよりも遥かに重く、思わずバランスを崩してしまう。

しまったと思った時にはもう遅かった。ヴェルガーはそのままバランスが崩れたラコス目掛けて刀を振り下ろす。迫り来る凶刃に対しラコスは咄嗟に盾を顔の前へと持っていく。それにより攻撃事態は盾で防ぎきれたが、バランスは完全に崩してしまった。

 ドッと地面に転がるラコスにヴェルガーは失笑する。

 

「ゲッハッハッハッ、大口を叩いていた割にはずいぶんと軽い攻撃だな! 口ほどにもねェ! 余りにも軽いから思わず拍子抜けだ! そのせいでおれ様の方も攻撃のタイミングがズレちまったぜ!」

 

 嗤い声を上げると同時にラコスの胴体を蹴り飛ばし、その様な事を宣う。

 ラコスはそのまま地面を転がり、すぐさま立ち上がり武器を構えるも、今さっきの蹴りのダメージが意外にも大きく咳き込み膝をつく。

 

 ――くっ、ただの蹴り一発でこの威力…!

 

 ――このままではマズい。俺がこの有り様では他の者達の志気にも関わる…!

 

 ラコスがそのような事を考えていると、自警団達の悲鳴が耳を打つ。

 急いでそちらに視線を向けると、海賊達に徐々に押されていく者の姿や血だらけで倒れる者の姿、銃弾で撃たれて倒れる者の姿が目に移った。

 

「……バカな…! 強すぎる…! 自警団がまるで相手になっていない…だと…!?」

 

 そんなラコスの呟きが聞こえたのか近くにいた海賊達が笑い声を上げながら口を開く。

 

「へっへっへっ、当然だろ! おれらをそこらの雑魚海賊と一緒にすんじゃねぇぞ!!」

「俺達の船長はな、懸賞金1億1000万ベリーの億越えだぜ! 少し腕に自信がある程度のヤツが勝てる様な方じゃねぇんだよ!」

 

 その海賊達の言葉にラコスは愕然とした。

 そんなラコスの態度をヴェルガーは嘲笑う。

 

「ゲッハッハッハッ!! そういう事だ! おれ様とテメェじゃあ最初から勝負は見えてたって事だ!」

 

 ゲラゲラと嗤うヴェルガーだが、次の瞬間、近くの森に雷が落ちる。先ほどから東の方角で鳴り響いていたが、こちらにも雷雲が近づいてきたらしい。

 その事にヴェルガーは嗤いをやめ、舌打ちを打つ。

 

「オイ、テメェらさっさと片を付けろ!雨と風がさっきより酷くなってきやがった! 確実に嵐が近づいてやがる! さっさと奪うモン奪って島を出るぞォ!」

 

 ヴェルガーの怒声に部下達が反応を示そうとした次の瞬間、

 

「ギャアァァァ!!!」

 

 突如、雷鳴や雨音以上の悲鳴が辺りに木霊した。

 ヴェルガーは部下の悲鳴が聞こえた方に視線を向けると、そこには刀…というよりは剣と言った方が正しいか…を持った一人の翠色の髪をした少年がいた。

 歳の頃は15、6と言ったところだろうか。容姿はそれなりに整っているが、少年の充血でもしているかのような赤い目と少年の体を纏う薄緑色のオーラが少年の不気味さを物語っていた。

 

 

「……そう急くなよ。嵐はまだここには来ない、だからもう少しゆっくりしていけ」

 

 

 少年はその端麗な顔立ちからはとても想像できない様な不気味な笑みを浮かべる。

 口元は弧を描く様に三日月型に吊り上がり、その赤い目は憎悪や悪意といった負の感情により歪んでいる様に見える。

 そんな少年の姿に海賊達やまだ辛うじて意識がある自警団の面々はゾクリと背筋に寒気が襲う。

 歪んだ笑みを浮かべるその少年にヴェルガーは鋭い視線で射貫くも、次の瞬間には驚く様にその視線は少年が持っているその剣に向けられた。そしてヴェルガーはそのまま視線をその剣に固定され逸らせなくなる。まるでその剣に魅入ってしまったかの様に。

 その剣は細長い刀身に埋め込まれた7つの宝石や刀身に刻まれた天文が星の様に妖しく輝いている。その剣からも少年が纏っているのと同じ薄緑色のオーラが纏われているが、そんな不気味なオーラを抜きにしてもとてつもなく美しい刀だと思った。

 そんなヴェルガーの傍では膝をついて腹部を抑えていたラコスがヒスイの突然の登場に驚いていたが、その表情を視てすぐに自分の知っているヒスイではないと知り、その顔を険しくさせる。

 

「ヒスイ…! それにまさかそれは七聖剣か!」

 

 ラコスがヒスイの持つ剣「七聖剣」に驚愕の視線を向ける。

 

 ――なぜヤツが七聖剣を…!

 

 ――となると今のヒスイは…“呪い”により操られているのか…!

 

 ヒスイの現在の状態に察しがついたラコスはヒスイや七聖剣を覆う薄緑色のオーラ…呪いの源たる“妖気”を睨み付ける。

 すると、そんなラコスの「七聖剣」という言葉に今まで無言だったヴェルガーが反応を示す。

 

「……。ゲッハッハッハッ、ゲェッハッハッハッハッ!! ゲェッハッハッハッハッ!!!! そうか! それか!! それなのか!!! 噂に聞く偉大なる航路(グランドライン)一美しいと謳われる宝刀“七聖剣”!! まさかホントに実在してたとはな!! なんだよあるじゃねェか最上級のお宝が!! おれ様は運がいい! その刀さえあれば確実におれ様は海賊王へと一歩近づく!! ゲッハッハッハッ、オイ小僧! 七聖剣を今すぐおれ様に寄越せ!!」

 

「……寄越せ? 七聖剣(オレ)をお前に…? フフフ、身の程知らずめ、お前程度が七聖剣(オレ)を扱えるワケがないだろう」

 

「あァ!? 何をワケの分からねェ事を言ってやがる!! 誰がテメェをほしいと言った!! おれ様がほしいのはテメェじゃなく、テメェが持ってるその七聖剣だ!!」

 

「ならば聴こえるか? この剣が発する怨念(こえ)が…お前にはちゃんと聴き取れているか? これが聴こえないのならお前は主人じゃねェ」

 

「……、あァ~もういいぜテメェ、わかった。渡す気がねェってんなら力ずくで奪うまでだ! このイカレ野郎が!!」

 

 先ほどから意味の分からない事を言うヒスイにヴェルガーはこめかみに青筋が浮かぶ。ヒスイとは会話にならないと判断しヴェルガーは双剣を構える。

 対するヒスイはそんなヴェルガーの姿を視界に収めつつも意識は七聖剣へと向いていた。

 

「さて、長いこと眠りについていたからな。七聖剣(オレ)は今“贄”を欲している。というワケで貰うぞ―――お前の“血”をな!!」

 

 赤く染まった瞳を見開き、弾丸の様な速度でヴェルガーの元へ迫る。

 

「っ! 思ったより速ェじゃねェか…!」

 

 初速でいきなり弾丸並みの移動速度で迫るヒスイにヴェルガーは目を見開き驚く。しかしヴェルガーもさすがは億越え、すぐさま冷静になりヒスイの速度に反応してみせる。

 刀身通しが衝突し軋みを上げ、金属通しがぶつかる嫌な音が雷鳴や雨音に負けずにその場に鳴り響く。しばしの間互いに鍔迫り合いが起きる。

 

「ゲッハッハッ…中々に重い一撃だ。先ほどの雑魚より少しはマシな一撃だが、その程度じゃおれ様には勝てねェ! 素直にその剣を渡しておけばよかったと後悔しても知らねェぞ!!」

 

 ヴェルガーは目を血走らせ、もう片方の腕に握る刀を使いヒスイに攻撃を繰り出す。対するヒスイはすぐさまその場を後退して迫る剣撃を回避する。

 

「ゲッハッハッハッ! 逃がすかよ!」

 

 後退するヒスイ目掛けてヴェルガーは駆け出し追撃を仕掛ける。

 迫ってくるヴェルガーの連続の剣撃をヒスイは落ち着いた様子で弾いていく。

 ガキン! ガキン! ガキン! と剣が衝突する音が響き渡るも、中々に仕留めきれない事にヴェルガーはその顔を険しくしていく。

 

(攻撃が決まらねェ…! クソッ、雑魚が調子に乗りやがって…!)

 

 ヴェルガーは歯軋りしながらも剣撃の速度を徐々に上げていくが、ヒスイはヴェルガーの剣撃速度にも普通についてくるどころか、時折反撃すらしてくる。

 

「ッ!!?」

 

 ヒスイの一閃させた一撃が僅かにヴェルガーの腹部を斬る。

 その様子を周りの海賊達が信じられない様な表情で眺めていた。

 

「ウソだろ! 船長と剣で互角にやり合うどころか傷を負わされた!!?」

「一体なんなんだアイツは!?」

「おい、これもしかしてヤバくねぇか!!?」

 

「うるせェぞ、テメェら!! 黙ってろ!!」

 

 ヴェルガーは騒ぎ出す部下達を一喝させると後方へと跳躍し、ヒスイと距離を取る。そして睨み付けたまま舌打ちを鳴らす。

 

(追撃はしてこねェか…余裕のつもりかよ。……しかし――)

 

「――ゲッハッハッハッ! やはり素晴らしい剣だな!! 斬り合いの中で何度も思ったが、油断すればおれ様の剣の方が折れちまいそうだ…! 尚の事ほしくなったぜ! 七聖剣!!」

 

 ヴェルガーはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、七聖剣に対する執着をより強くする。

 そしてヴェルガーは二刀の刀を振り上げクロスさせる。

 その独特な構えを見た周囲の海賊達はオォ!!と歓声を上げた。

 

「あの構えは間違いねェ!! 船長は“あれ”をやる気だぜ!!」

「あァ! あれは海王類ですらマトモに喰らったらただじゃすまねェ!!」

「この勝負もらったぜ!!」

 

 海賊達が勝利を確信し騒ぎ出す。

 そんな中、部下達の歓声を聞きながらヴェルガーは空を見上げ口角を吊り上げる。

 

「嵐が近づいてるせいか、かなりの強風だな。だがこれはおれ様にとっては好都合」

 

 すると、周囲の風がヴェルガーの刀身に集まり、渦を巻き始める。

 

「ゲッハッハッハッ! 死ね小僧ォ!! 二刀流・乱風衝破!!」

 

 放たれたのは風の刃を纏った斬撃。ぬかるんだ地面を抉りヒスイへと迫る。風の刃はさらに周囲の強風を巻き込み一つの小さな台風の様な竜巻へと変化する。

 その光景に周囲の海賊達のテンションがさらに上がる。

 迫る風の凶刃を前にヒスイは拳を握り締める。そしてその拳に妖気が集約すると、風の斬撃を裏拳で殴りつける。

 瞬間、竜巻はすぐさま霧散し、虚空へと掻き消えた。

 

「!?」

 

『え~~~~~!!!!???』

 

 先ほどまで歓声を上げていた海賊達は目が飛び出るほど見開き、顎が外れるのではないかというほど驚愕していた。

 ヴェルガーはそんな部下達ほどではないが、その顔には驚愕の表情が浮かぶ。

 絶対と信じていた自分の必殺技がこうも容易く破られた事が信じられない様だ。

 

「……軽いな」

 

 ふと、ヒスイのそんな声がヴェルガーの耳に届いた。

 

「……ッ!? なんだと…?」

 

 ヴェルガーは未だ驚愕が冷めやらぬ中、反射的にヒスイの声に反応していた。

 ヒスイはそんなヴェルガーに不敵な笑みを浮かべながら応える。

 

「周りの連中が騒ぐからどのようなモノかと思ったが、思ったほどでもなかったな。警戒するにも値しない軽い攻撃だ」

 

 ヒスイのその言葉に驚愕の表情から一転し、怒りの表情をヴェルガーは浮かべる。

 その言葉はヴェルガーがラコスに嘲りながら放った言葉と全く一緒であった。

 そしてヴェルガーの中から何かがブチ切れる様な音がする。

 目を血走らせヒスイを睨む。

 

「アァァッッ!? 餓鬼が調子に乗ってんじゃねェよ!!だったらテメェが死ぬまで何度でも喰らわせてやる!! 乱風衝破ァァァ!!!」

 

 そう叫ぶとヴェルガーは再び構えを取り、放つ。嵐が徐々に近づいているせいかその一撃は先ほどよりも威力が僅かに上がっている様にも思える。

 

「…破壊力が少し上がったか。だが、その技はもう見飽きた――消え去れ」

 

 ヒスイは今度は拳を握らず、変わりに七聖剣の剣先を地面に置くと、七聖剣の刀身の宝石と天文が妖しい光を発した。

 ヒスイはそのまま地面を滑らせるように七聖剣を振り上げる。

 

「――妖火斬!!」

 

 すると七聖剣の剣先から爆炎が吹き上がる。その熱量に周囲の雨が全て蒸発し、爆炎の衝撃波が迫る風の凶刃を迎え撃つ。

 互いの一撃が必殺の一撃が激突するも、一瞬の拮抗もなく巨大な風の刃は炎の衝撃波により燃やされる。そしてヒスイの放った妖火斬はそのままヴェルガーを燃やし尽くさんとばかりの勢いで迫る。

 

「なんだとッッ!!?」

 

 その光景にヴェルガーは再び驚愕する。しかし、すぐさま正気に戻り舌打つ。

 

「チッ、月歩!!」

 そしてヴェルガーは空へと飛び、空中を蹴り上げて妖火斬を回避した。妖火斬はそのままヴェルガーが元いた場所を焼き尽くし、近くにいた海賊達を燃やす。

 

『ギャアァアアァァアァァッッッ!!!』

 

 頭を抱えて叫び声を上げる部下達を上空からヴェルガーは眺めると、暫くの間苦しそうに悲鳴を上げ悶えていたが、すぐにネジの切れた人形の様に動かなくなり地面に倒れる。その光景を眺めていたヴェルガーは嫌な汗が出る。

 

「……逃さん、妖火弾!!」

 

 上空に退避したヴェルガー目掛けてヒスイは七聖剣を一閃させると、剣先から再び爆炎が吹き上がり、それが巨大な火の玉となり飛んできた。

 ヴェルガーは迫る火の玉を再び空を蹴って回避する。威力は絶大ではあるが当たらなければ意味がない。空を自在に駆ける事ができるヴェルガーに攻撃を当てる事は難しい。そんな事を考えているのかヴェルガーの顔に嘲りの色が浮かぶ。

 だがその嘲りの表情が長く続く事はなかった。

 なぜなら突如、ヴェルガーの体が動かなくなり、空中で止まってしまうからだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 身体に力を入れても指一本動かせず、空中を蹴る事もできない。だが、ヴェルガーの身体は重力に逆らい、その場に留まる。

 一体何が起きたのか。ヴェルガーは自身の身体に視線を向けると、そこにはヒスイが纏っていた薄緑色の妖気がまるで縄で縛るかの様にヴェルガーの身体を拘束していた。

 

「なッ…!?」

 

 その光景に目を見開く。視線をヒスイがいる地上へと向けると、雨で見えにくいがそこには腕を掲げているヒスイの姿があった。

 そして再び自身の身体へと視線を向け直すと、始めにヒスイにつけられた腹部の傷から妖気が溢れていた。

 どうやらヴェルガーの身動きを封じる妖気はそこから出現したらしい。

 

「…傷口に仕込んでいた妖気が漸くお前の身体を侵食したようだ。もうこれでお前は自分の意志では指一本も動かせない。勝負ありだ」

 

 雨音や雷鳴のせいでヒスイの言葉は聞き取れなかったが、ヴェルガーは自身の敗北を悟り、歯軋りする。

 

「死して七聖剣(オレ)の糧となれ、――妖蛇牙襲斬!!」

 

 翠色の爆炎の妖気が巨大な蛇の形を司り、ヴェルガー目掛けて襲い掛かる。

 上空へと昇ってくる爆炎の蛇を血走った眼で眺める。

 

「こ、このおれ様が…!! こんな所でッ…! クソッ!! クソッ!! クソッ!!クソッたれがァァァァァァッッッ!!!!」

 

 力の限り悪態を吐くヴェルガー。大きな口を開けて迫りくる爆炎の蛇の姿を最後にヴェルガーの意識は完全に途絶え、もう二度と目覚める事はなかった。

 

 

 

 

 

 そんなヒスイとヴェルガーの次元の違う戦闘の一部始終を眺めていたラコスは一時も目を離す事ができなかった。

 

 ――これが七聖剣の力か…!

 

 ――1億を超える賞金首がまるで歯が立たんとは…!

 

 ラコスが七聖剣の余りにも凶悪な力に戦慄していると、ヴェルガーの部下であった海賊達がこぞって悲鳴を上げる。

 

「うわああぁぁあぁ!!? 船長がやられた!?」

「バケモノだッ!? あんなのに敵うワケねェ!! 逃げろォォ!!」

 

 自分達の船長が手も足も出ずにやられた事により海賊達は完全にパニックに陥り、我先にと海岸の方へ逃げていく。

 

「フフ、誰一人逃がしはしない。七聖剣(オレ)の贄となり、そして七聖剣(オレ)の力となれ」

 

 ドンッ! と地面を蹴り上げ、目にも止まらぬ速さで逃げる海賊達を追いかけていく。そしてヒスイは海賊達のがら空きの背中目掛けて七聖剣を一閃させる。

 右と左に胴体を真っ二つにさらた者、上半身と下半身を両断された者、首を飛ばされた者、腕を斬り飛ばされた者、1秒・2秒・3秒と時間が僅かに経過していくにつれどんどん犠牲者が増えていく。

 

 そんな光景をラコスや自警団の面々は険しい顔をしながら眉を顰める。

 相手は海賊。同情の余地がまるでない存在だが、ここまで無残に戦意のない者達を虐殺していく光景は、かつての自分達を襲った海賊と重なる部分がある。

 今すぐ意味のない虐殺を繰り広げているヒスイを止めたいが、ラコス達の力ではとても止める事など不可能。すでに七聖剣の呪いにより完全に操られている為、ラコス達が必死にヒスイの名を呼びかけても意味などないだろう。

 七聖剣の暴走を止める事が可能なモノがあるとすれば――、

 そこまで考え、ラコスはヒスイの意識が海賊達に向いている隙に自警団の面々に声を掛ける。

 

「お前達! 今すぐ村に戻り、マヤ様達から“宝玉”を借りてこい! 伝承通りであれば七聖剣の暴走を止める事ができるハズだ!!」

 

「は、はい!」

 

 ラコスの怒声交じりの声に近くにいた自警団の者達は震えながらも頷き、村の方へと駆けていく。だがラコスはその場から動く気配がない。その事に疑問を持った自警団の一人がラコスに声を掛ける。

 

「ラコスさん! アンタなにしてんだ! 早く村に急がなくちゃ!!」

 

「……海賊達が全員やられれば次は間違いなくこちらが標的にされる。だから俺がこの場に残り少しでもヒスイを――いや、七聖剣を足止めしておく」

 

「なっ!? そんな無茶だ!! あれの力はアンタも見ただろう!! あんなの相手じゃあ数秒で塵にされちまう!! だから早くアンタも俺らと一緒に―――」

 

「そう思うのならさっさと行けッ!!」

 

 男の言葉を遮りラコスは一喝する。

 

「っ!?」

 

 ラコスの怒声に男はビクリと肩を震わせた。そんな男の様子にラコスはふぅぅと息を吐き続ける。

 

「俺とて無茶な事を言っているのは分かっている。七聖剣を相手にすればそれこそお前の言う通り全身全霊を以てしても数秒で殺されるだろう…。

 ――だが、 “数秒はもつ”!! その間にお前達は少しでも早く村に戻れ!!」

 

「…ラコスさん…!!」

 

 ラコスの覚悟を持った言葉に男は何も反論できなくなる。

 そして村の方へ体を向けると、急いで駆けだす。

 男が駆け出していく姿を横目で一瞬見て、すぐさま目の前へと視線を向けた。

 するとそこには逃げる最後の海賊に止めを刺したヒスイの姿が映る。雨で視界が悪いがヒスイの赤い目が確かに自分を捉えている事だろうと、ラコスは確信する。

 ゆっくりと深呼吸をして武器と盾を構える。

 対するヒスイは身体をラコスの方向へと向け、歩いてくる。

 やろうと思えば海賊達に対してやった様に一瞬で勝負をつける事ができるハズ。

 

 ――余裕のつもりか、それともただの慢心か。

 

 ――どちらにしても少しでも長く時間が稼げるのなら好都合!!

 

 近づいてくるヒスイにラコスは声を掛ける。

 

「…ヒスイ。そういえばお前は今日、鍛錬には来なかったな。未熟者がサボりを覚えるなど10年早い! 今ここでお前のその性根を叩き直す!!」

 

 ラコスが吼える様にその事を言うと、ヒスイはフッと笑みを浮かべる。

 

「…いいだろう。久々に血と負のエネルギーを糧にでき、七聖剣(オレ)は今機嫌がいい。お前のお遊戯に少し付き合ってやる」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 風がどんどん強くなり、大粒の雨が降り荒ぶ。雷鳴が轟き波が激しさを増していく中、そんな嵐の音に交じり剣戟の音が森の中に響き渡っている。

 

「ハァ…ハァ…! オォォォ!!」

 

「………」

 

 ラコスはぬかるむ足元も気にせず、暴風雨の中、剣を振りかぶる。

 対するヒスイは無言で七聖剣を構え、その一撃を受けきる。

 その事にラコスはくッ! と悔しそうに顔を歪めると、腕に装備した盾を使い全身全霊のタックルをするもヒスイの身体を覆う妖気に阻まれダメージを与えられないどころか、その妖気により弾かれラコスは吹き飛ぶ。

 そこでラコスがついに息も絶え絶えに片膝をつく。

 そんなラコスの様子をヒスイは冷めた目で眺めながら口を開く。

 

「…お前とのお遊戯に付き合って、ちょうど40秒と言った所か。で、もう限界か?」

 

「ハァ…ハァ…! あァ、悔しい事にどうやらそうらしい」

 

「そうか。ならばそろそろ死ぬか」

 

 そう言ってヒスイは赤い瞳を鋭くし、七聖剣の剣先をラコスに向ける。

 対してラコスはすぐ目の前に死が迫っているというのに笑っていた。

 

「……? 何を笑っている?」

 

「いや、なに……どうやら間に合った様だ」

 

「…なに……?」

 

 ラコスのその言葉に困惑するヒスイだが、次の瞬間にはその意味が分かった。

 

 

 

「ヒスイィィィィーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

 

 ヒスイの名を呼ぶ少女の叫び声が聞こえたからだ。

 音源へと視線を向けると、そこには肩で息をした青髪の少女マヤがいた。

 その後ろからは先ほど逃げた自警団の面々やマヤの祖母であるイザヤの姿も見える。

 

「ヒスイ…! もうやめて…! 海賊から村は守られた…! だから…これ以上人を傷つけるのはもうやめて!!」

 

 マヤが瞳を潤ませ、泣きそうな表情でその様な事を叫ぶ。しかしヒスイは剣先を降ろす事はない。赤く染まった瞳がマヤを射貫く。その視線に射貫かれマヤは体がブルリと震える。憎悪と悪意に染まった赤い瞳が、まるで生きているかの様に身体に纏りつく妖気がマヤを圧倒する。

 そんなマヤの傍にイザヤが近づき落ち着いた声音でマヤに語り掛ける。

 

「無駄じゃマヤ…。ヒスイは完全に七聖剣に操られておる。あの赤い目と纏わりつく妖気が何よりの証拠じゃ。もはや言葉では止まらぬ。唯一アレに効くのはお主の祈りの力の加護を得た“宝玉の力”のみじゃ」

 

 イザヤの言葉を聞き、マヤは懐にしまっていた3つのうち1つの宝玉を取り出し、何かを決心した顔つきをする。

 

「…待っててヒスイ…。今すぐ貴方を助けてあげるから…!!」

 

宝玉は七聖剣に呼応するかのように桃色の光を発する。その光を浴びた瞬間、ヒスイに状態に変化が起きる。

 

「うぅ…、なんだ…これは…?」

 

 突如、頭を押さえ、苦し気な呻き声がその口から発せられる。

 そんなヒスイの様子に自警団の面々から歓声の声が上がる。

 

「おお! 効いているぞ!」

「ああ! これならいける!」

 

「ヒスイ…! 呪いなんかに負けないで…! ――宝玉よ! 七聖剣に憑りつく怨嗟の呪いを! アスカ七星の神々の名の下に! 今再び鎮め賜え!!」

 

 マヤは宝玉に祈りを捧げ言霊を発する。すると、宝玉の桃色の光が空へと打ち上がり空を覆っていた分厚い雨雲を掻き消し、太陽の光と宝玉の光がアスカ島を照らす。

 その光景はまるで神でも降臨するかのような幻想的な光景だった。優しい光がアスカの島全てを照らし出し、雷鳴や大雨が完全に収まる。

 そんな光景に自警団の面々は完全に圧倒されている様で言葉も出ない様子。

 対するヒスイは断末魔の叫びにも似た悲鳴を上げていた。

 

「グゥワアアアアアァァアァァアアアアァァァァァァッッッッッッッ!!!!??」

 

 尋常ならざる程の悲鳴を上げながらもヒスイは身を焼く様な痛みに耐えながら、その赤く染まった憎悪の瞳を上空から照らされる光へと向けられている。

 

「これは…! 忌々しいアスカ七星の浄化の光かッ…!?」

 

 ヒスイは憎々しげに照らされる光を睨みつけると、七聖剣の宝石と天文が赤く輝き出す。

 

「この程度の浄化の力で…七聖剣(オレ)を滅せられると思うなッ!!

 ――世を呪え! 七聖剣!!」

 

 すると、七聖剣から溢れ出る妖気が増幅すると同時にそして海賊達の死体からドス黒い邪気の様なモノが出現し、七聖剣へと吸収されていく。

 その光景にイザヤは目を見開く。

 

「怨念…! 死に際の海賊達の怨みや恐怖、憎悪を吸収しておるのか…! マズい! あれほどの邪気…!! マヤ気をしっかりと保つのじゃぞ!! 少しでも気を緩めれば浄化の光が消されてしまう!!」

 

 イザヤの言葉に周囲の者達の顔が強張る。そしてヒスイは海賊達の怨念を残さず全て七聖剣へと吸収し、上空から照らされる聖なる光を睨み付ける。

 

「消え去れェェェェェッッッ!!!! 忌々しい怨敵共ォォォォォッッッ!!!!」

 

 上空へと七聖剣を一閃させ、剣先から放出された黒々しい妖気の爆炎が死神の様な髑髏の形を司り放出された。その大きさは小さな島なら丸ごと飲み込み破壊するほどであり、とてつもない負のエネルギーに満ちていた。

 

 そして聖なる光と魔の光がぶつかり、アスカ島を白と黒の光が塗り潰す。

 

 白と黒の光の衝突の余波が周囲の者達を、いやこのアスカ島全土を襲う。

 その衝撃により、木々は消し飛び、村に地割れが発生し、家々が崩壊していく。

 周囲の者達はマヤが作り出す宝玉の“守護の結界”という防御壁に守られ何とか吹き飛ばされずにその場に留まっていられた。

 

「うぅ…なんて、衝撃…!」

 

「マヤ! 大丈夫かえ!? しっかり気を保つのじゃ!」

 

 余りにも巨大な衝撃の威力に両膝をつくマヤをイザヤは支える。ラコスや自警団の面々は自分達では何の力にもなれない事に皆悔しそうな表情を浮かべている。

 すると、そこで状況が動いた。上空で拮抗していた光が収まっていくのだ。

 光源が徐々に弱まる光景にマヤ達は真剣な表情をして上空を見上げる。

 そして、マヤ達が目にしたモノは太陽と桃色の光輝く青空が広がっていた。

 その光景が意味するモノは、マヤの祈りの力が七聖剣の呪いに打ち勝ったという事。それを理解した周囲の者達は皆一様に大歓声を上げる。

 アスカ島全体が震えるほどの男達の野太い声が響き渡り、互いに肩や腕を組む者、神に祈りを捧げる者など様々な方法で喜びを現していた。

 マヤも今まで緊張していたその顔に笑みが浮かび、ふぅと息を吐く。

 だがすぐにヒスイや七聖剣がどうなったのかという疑問が浮かび先ほどまで彼が立っていた場所へと急いで視線を向ける。

 

 だが、そこには誰もいない。

 その事にマヤは焦り、すぐさま立ち上がりヒスイがいた場所まで駆ける。

 そんなマヤの様子に先ほどまで喜びをあらわにしていた者達も、ヒスイや七聖剣の事を思い出し、顔を険しくさせる。

 

「…いない! 一体どこに行ったのヒスイ…!」

 

 周囲を見回しヒスイを探すマヤ。しかし、その姿はどこにも見当たらない。周囲にはいないと判断したマヤは鬼気迫る表情で走り出す。

 

「なっ! マヤ!!」

 

「マヤ様!!」

 

 後ろではイザヤとラコスがマヤの名前を呼ぶ声が聞こえるが、マヤは彼らの声を無視しヒスイを探し森へと進む。

 

「どこにいるの、ヒスイ…! お願いだから出てきてよ…!」

 

 倒れた木々や抉れた地面などは気にした様子もなく、周囲に顔を向けるマヤ。

 そんな時、マヤの持つ宝玉が反応を示す。

 

「っ!!」

 

 ドクンッ! と心臓が脈打つ様な感覚に襲われ、マヤは思わず立ち止まる。

 そして宝玉からマヤへと何か不思議な力が流れてくる。それは力強くもどこか優しい感じがするモノだ。

 

「……!! 感じる! 海岸の方角から…!」

 

マヤは自分の力とどこか似ているけど、全く違う…真逆の力の波動を感じる。

 

 ――この荒々しい力の波動は間違いない“七聖剣”だ!!

 

マヤはすぐさま海岸の方へと駆ける。

 

 

 

 

 

 七聖剣が作り出していた暴風雨はマヤの祈りの力で霧散されたが、海岸ではまだ波が荒々しくうねっている。

 そんな海岸沿いをヒスイはフラフラとした足取りで歩きながら頭を押さえていた。肩で息をしており、目こそまだ赤く染まっているが、彼の身体に纏わりついていた妖気は消えていた。右手には七聖剣が握られており、現在はザァーと線を描きながら砂浜を滑っている。

 

「…くそっ、呪いが弱まっている…。この体にも…アスカ七星の浄化の力が、僅かに侵食している…。このままではマズいな…」

 

 呪いを…怨念を…血を…、また再び吸収しなくてはならない。ヒスイはその様な事を決意し、その為には浄化の力が働くアスカ島から少しでも遠ざかる必要がある。

 そんな事を考えていると、ヒスイは怨敵に似た力の波動を感じる。

 感じた方角へと視線を向けると、そこには息を切らす青髪の少女マヤがこちらを見つめていた。すぐ後からには彼女の祖母のイザヤ、自警団まとめ役のラコスも現れる。

 

「また…貴様か…」

 

 ヒスイは忌々しそうにマヤを射貫く。

 マヤは肩で息をしながらもそんなヒスイの視線など意に介した様子もなく、それどころか気丈にヒスイを、いやヒスイに憑依する七聖剣の呪いを睨み返す。

 

「もうやめて七聖剣!! これ以上無意味な憎しみを増やしてヒスイを苦しめさせないで!! 今すぐヒスイを呪いから解放してっ…!!」

 

 マヤの叫びを聞いた七聖剣はその刀身に埋め込まれた7つの宝石を輝かせる。ヒスイは苦しげな顔をしながらも笑みを浮かべ口を開く。

 

「そいつは無理な相談だな小娘。赤き月の日に七聖剣(オレ)が完全なる復活を遂げるには宿主が必要…、この餓鬼は七聖剣(オレ)の宿主となり、この世の形ある全てのモノを破壊し、生きとし生ける全てのモノに絶対的な死と呪いを与え…!! そしてこの世の全ての海に破壊と絶望を齎すその日まで…!! この宿主様には七聖剣(オレ)と共に世界の終焉まで在り続けてもらう…!!」

 

「っ…!? そんな事は絶対にさせない…!! ここで七聖剣(アナタ)からヒスイを解放します!!」

 

「ハッ、やれるモンならやってみろ小娘風情が!! ――妖火弾!!」

 

 するとヒスイは七聖剣の剣先から妖気の爆炎を火の玉状にしてマヤへと飛ばす。

 迫る殺意を持った火の玉にイザヤとラコスは声を張り上げる。

 

「いかん! マヤ! 逃げるのじゃ!!」

 

「マヤ様!! お逃げを!!」

 

 しかし二人の声を無視したまま、マヤはその場に立ち尽くす。

 そして火の玉がマヤに直撃――――する事はなかった。

 攻撃が直撃する寸前、マヤが左腕を前に突き出し、右手に抱える宝玉が光を放ち、その光がマヤの身体を覆うと、妖火弾がマヤの左手に触れた瞬間、虚空に掻き消えるかの様に無力化したのだ。

 

「…なん…だと…!?」

 

 その光景にヒスイは思わず目を見開く。傍にいたイザヤやラコスも同じく驚きを顕にする。

 

 ――バカな…、呪いの力が弱まっているとはいえ、あんな小娘如きに七聖剣(オレ)の力が掻き消えただと…!?

 

 そんなあり得ない光景にヒスイは呆然とした表情を浮かべる事しかできない。

 自分の力を完全に無力化したという事実に本体である七聖剣が動揺でもしたのか、キラリと刀身に埋め込まれた宝石が一瞬輝き、剣が震える。

 そこでヒスイは突如、脳裏にとある巫女の姿が思い浮かぶ。かつて自分の力で殺し合いをしていた王子達を止めた一人の巫女の姿だ。

 その巫女の姿と目の前のマヤの姿が重なる。

 

「…まさか貴様…! あの忌々しい女の子孫か…!?」

 

「…かつて七聖剣(アナタ)に呪われた3人の王子を止める為、一人の巫女が命を懸けて王子達を救った。私は巫女としてまだまだ未熟だけど、今の弱っている七聖剣(アナタ)なら私の力でもこれくらいの事はできます!!」

 

 そして浄化の光が再び周囲を照らし始めた。その事にヒスイは再び呻き声を上げながら苦しむ。その姿を悲しそうな表情で眺めながらも呪いを解く為にと、宝玉に祈りを捧げるマヤ。

 そんな彼女を憎々しげに睨み付けながら歯を食いしばり、七聖剣へと妖気が集まる。

 

「妖火爆炎乱舞!!」

 

 放たれた妖気が螺旋状の爆炎を形成して、マヤを飲み込まんと勢いよく迫る。

 その光景にイザヤとラコスは浄化の力で弱っているハズの七聖剣が、まだこれほどの妖力を放てる事に目を見張る。

 螺旋状に肥大化した爆炎がマヤへと直撃する寸前、マヤの祈りにより宝玉が再びその力を発揮し、妖気でできた爆炎を無力化する。

 ――しかし、

 

「きゃああ!!」

 

 その妖気の爆炎と共に放たれた“飛ぶ斬撃”がマヤを襲う。斬撃は宝玉の光により弾かれ周囲の砂浜に斬ると、砂煙が彼女を包み込む。

 

「マヤ!?」

 

「マヤ様!?」

 

 悲鳴を上げたマヤの元へイザヤとラコスはすぐさま駆け出しマヤの安否を確認する為に砂煙の中を突貫する。すると、そこには尻餅をついているマヤを発見する。先ほどの砂煙で薄汚れた以外は怪我らしい怪我は確認できない。その事に二人は安堵のため息を吐く。

 だが次の瞬間、宝玉が発していた光が収まる。どうやらマヤの祈りが切れた様だ。その事に周囲を照らしていた浄化の光も次第に収まっていく。

 

 ――ぐっ…! 意識が…遠のくッ…!

 

 ヒスイはついにその場に片膝をつくと、意識が朦朧としてくる。未熟とはいえ巫女の浄化の光を浴び続けた結果だ。

 

 ――意識が…途切れる前に……、この島を…脱出せね…ば……!

 

 ヒスイは荒れる海へと視線を向ける。すると、七聖剣が発する妖気に共鳴するかの様に波がさらに激しくうねる。そして次の瞬間には、巨大な波がヒスイを呑み込まんと迫り、ヒスイはそのまま波に呑まれる。

 

「そんな…! ヒスイィィ…!!」

 

 マヤはそんな光景を見て、叫び声を上げる。そしてすぐさま立ち上がり、荒れ狂う海へと駆け出そうとした瞬間、イザヤとラコスが彼女を取り押さえる。

 

「待つのじゃマヤ! このままではお主まで波に呑まれる!!」

 

「いや! 離して!! ヒスイが…! ヒスイを助けなくちゃ!!!」

 

「今のお主は気力を使いすぎとる! 体力もすでに限界じゃろお!! そんなお主が向かってもただ死ぬだけぞ!! ヒスイはもうダメじゃ! 諦めえい!!」

 

 イザヤの言葉に祈りの為に気力を使い果たしていたマヤはその場に両膝をつき、倒れそうになる。それをイザヤとラコスが懸命に支える。そして気力を使い果たした事により精神が消耗したマヤは気を失う。

 

「…ヒ…スイ……!」

 

 気を失う寸前、マヤは想い人である幼馴染の名前をいつまでも呟いていた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 七聖剣の事件から数日後、アスカ島に住まう人々は、崩壊した村の家屋や森や大地の修繕作業を行っていた。

 ここ数日はそういった修繕作業が優先され、村の住人達は一丸となり作業に臨んでいる。その中にはヒスイと共に七聖剣の神殿へと向かった者達の姿もある。事件終息後、ラコスや村の大人達からきつい説教を受けたあと反省文500枚を書いて現在は村の為に尽力を尽くしていた。

 そしてそんな中、マヤは巫女の祠にていつもの様にアスカ七星に祈りを捧げていた。巫女の像の足元には桃色に輝く3つの宝玉が鎮座され、そんな彼女の後ろには祖母であるイザヤが孫の祈りを捧げるその姿をただ黙って見つめていた。

 

 

 ヒスイが波に呑まれて数日、気力を使い果たしたマヤは暫しの間眠りについていた。それこそ死んだかの様に眠るマヤを最初は心配していたイザヤだったが、マヤが目を覚ました時が一番大変だとイザヤは確信していた。

 大切な…マヤが想いを寄せていた幼馴染が、目が覚めた時には行方不明…いや、最悪の場合では死んでいる可能性も十分にある。マヤの心にかなりの傷を負わす事になるだろう。その事にイザヤは重い溜息が出る。

 しかし、その予想は外れた。

 つい数時間前に目が覚めたマヤは、ひどく落ち着いていたのだ。

 最初は余りにもショックが大きすぎて現実逃避でもしているのかと思ったイザヤが恐る恐るとヒスイの事を切り出すと、彼女は落ち着いた様子でヒスイは生きていると断言するのだ。

 その発言に目を丸くするイザヤにマヤは言葉をこう続けた。

 

『感じるの…。七聖剣の力の波動が。…ここからはかなり遠いけど…ヒスイが無事だってわかるの…。ヒスイはまたここにいずれ戻ってくる…七聖剣を完全復活させる為に…だからお祖母ちゃん! それまでにもっと自分の中に流れる巫女の力を先代達以上に扱える様になりたいの!! 今度こそ絶対にヒスイから呪いを解放する為に!!』

 

 そう言いイザヤに巫女の力を今以上に扱える様に力を貸してほしいと懇願してくる。孫のその頼みにイザヤは勿論了承し、現在に至る。

 

 

 祈りを捧げるマヤの後ろ姿を眺めながらイザヤは思う。

 

 ――元々マヤは一族の中でも卓越した祈りの力を持っておる。未だ発展途上であるがそれこそ歴代の巫女達とは比べものにならないほどの力を有しておる。

 

 だがそれでも完全復活した七聖剣相手にどこまで通用するのかは不明だ。それほどまでに完全復活した七聖剣は凶悪な代物なのだ。

 

 ――赤き月が次に現れるのは約3年後、完全復活する前に呪いを浄化するしかない。

 

 イザヤは内心でその様な事を考えている中、アスカ七星に祈りを捧げているマヤはその祈りの最中にヒスイの姿を思い浮かべ小さく呟く。

 

「……待っててねヒスイ…。絶対に貴方を助けてあげるからね…」

 

 たとえ伝承にある巫女の様に、王子達の呪いを解く為に自らの命を捧げるしか止める方法がなかったとしてもマヤは迷わない。

 彼を救う為なら自身の命すら惜しまない――と、マヤは固く誓った。

 

 




波に呑み込まれ無理やりアスカ島から脱出したその後のヒスイ

海に引き摺り込まれた後、七聖剣の謎パワーたる妖気を駆使しそのまま海流に乗りアスカ島の海域を抜ける。

その後どんぶらこ、どんぶらこ、と海流に流され偶然海の真ん中で停泊していた海賊船を発見する。

そしてその海賊船に乗り込み、乗組員を全滅させたところでついに限界が訪れ、七聖剣の呪いが一時的に解ける。

そして「1ページ目」最後の場面へと続く。


だいたいこんな感じ。

次回からまたオリ主視点の日記形式に戻ります。
しかし予定ではもっと文字数を少なくして簡略化させるつもりだったのに…どうしてこうなった…?


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2ページ目 現状と悪夢…?

今回は少し短め


 

 

 

 ○月■日 晴れ

 

 

 

 なぜか全滅した海賊船の甲板の上で目が覚めてから数日が経過した。

 死体処理やら、甲板についた血の掃除やら、その他いろいろとホントに精神的にも肉体的にも忙しい数日間だった。

 でもこうして日記を書ける様になるまで心に余裕が出てきたので、また再び日記を書いていこうと思う。

 結局海賊達が全滅していた理由も、なぜオレが海賊船の甲板の上で寝ていたのかも余りよくわかっていない。

 

 …いや、すまない嘘だ。ホントは心当たりなら一つだけある。

 ――七聖剣だ。

 よくよく考えればあの時、オレの中の最後の記憶は七聖剣を封じた神殿で七聖剣を手に取ったところで途切れているのだ。

 そして次に目が覚めたら、この状況。

 もうこれ絶対こやつの仕業でござるよ~。

 恐らく七聖剣の呪いがオレに乗り移り、なんやかんやありアスカ島を離れ、そしてこれまたなんやかんやあり海賊を襲撃し呪いが解けた。

 …とそう考えるのが妥当かな。まぁ仮にそれが事実だとしたら操られていたとはいえ、海賊達を殺したのはオレなんだよなぁ~…。

 相手は海賊だし自業自得ともいえるかもしれないけど、とりあえずご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

 

 ○月▼日 曇り

 

 

 

【悲報】どうやらオレ遭難してるらしい。

 

 海賊達の死体処理や掃除などで今まで気づかなったが、この船オレ一人じゃあ動かせなくね? という事に今さっき気付いた。

 いや、仮に動かせたとしてもオレ航海術なんて欠片も持ってねぇしここは偉大なる航路(グランドライン)。海流も気候も全てがデタラメなこの海で多少の航海術を持っていたとしても全く通用しない事だろう。

 一応、買出し船用の小舟やオールは見つけたんだけな……う~む、オールで漕いでいけばその内どこかの島には着くかなぁ?

 いやでも双眼鏡で周囲を見回してみた時に、島の対岸すら見えなかったしやっぱりそれは無謀だろうな。

 はぁ~、せめて進むべき方角が分かればいいのだが。

 …………。

 ………。

 ……。

 …とここまで書いてみて思ったが、もしかしなくても今のオレの状況って想像以上にヤバい…?

 くそっ!! オレは一体どうすればいいんだ…!!

 

 

 

 ○月○日 雨

 

 

 

 とりあえずこの状況から何か打開するモノでも見つからないかと、船内をくまなく探してみる事にした。

 すると、船長室らしき部屋からついに状況を打破できるかもしれないモノを見つけた。

 それは永久指針(エターナルポース)だ!

 最初それを見つけた時、嬉しさの余りその場でついつい踊ってしまったほどだ。

 後々振り返ってみると、ものすごいハシャぎ様だったと少し反省。

 いやぁホントこの時ばかりはオレ一人でよかったと改めて思ったわ。誰かに見られでもしたら恥ずかしいなんてモンじゃないだろうし。

 

 まぁそれはともかく、永久指針(エターナルポース)には『ジャヤ』と書かれている。

 これで少なくとも次の目的地は決まったな。本当ならアスカ島に今すぐ帰りたい所だが、帰る方法がないからなぁ。

 このままいつまでもこの場にいても仕方ないし、明日ジャヤに向けて出発するとしよう!

 

 

 

 ○月×日 晴れ

 

 

 

 オレはさっそく買出し船用の小舟を使い、永久指針(エターナルポース)の指針が指し示す方向へとオールを漕ぐ。今日は幸いにも雲がひとつも見当たらない快晴で絶好の船出日和であった。

 そして目指すはジャヤ!

 しかしジャヤって名前の島は聞いた事がないけど一体どんな島なんだろうか? そこでアスカ島への永久指針(エターナルポース)でも買えればいいけど…。

 

 ちなみに現在オレが乗るこの船には、水と食料が入った箱に永久指針(エターナルポース)、そして海賊船の金庫に入っていたお宝が少々、マヤから貰った日記帳、七聖剣といったモノが乗せられている。

 水と食料と永久指針(エターナルポース)はまぁ当然として、金銭がゼロというのも何だか色々と困りそうなのでお宝は少し拝借してきた。

 マヤから貰った日記帳もこうして書き込んでおけば、後で何かの役に立つかもしれないし、それになんというかこれを捨てる気には絶対になれないんだよなぁ…。なんかマヤの顔がいちいち頭の中にチラつくし…。

 はぁ~早くアスカ島に帰りてぇ~。

 

 そして最後に七聖剣。

 これに関してはオレが荷物を用意していたらいつの間にか荷物の中に紛れ込んでいた。なに言ってんだこいつと思われるかもしれないが、事実だ。

 しかしおかしいなぁ…死体の処理や掃除には役立ちそうになかったので七聖剣はとりあえず倉庫の中に適当にぶち込んで今まで放置していたハズなのだが、何で荷物の中に紛れ込んでいるのだろうか?

 不思議な事もあるものだ。

 

 

 

 ○月●日 曇り

 

 

 

 オールを漕ぎジャヤを目指していたらなんか海賊に襲われた。

 いやあれは酷かったな。いきなり問答無用で大砲をぶっ放してきた時はさすがに焦った。砲弾の何発かは外れたけど、そのうちの2、3発は確実に沈没直行コースだったしつい反射的に七聖剣を手に持って構えてなかったらヤバかった。

 七聖剣を手に持った瞬間、ドクンっと心臓が脈打つかの様な感覚に襲われあの妖気が再びオレの身体に纏い始めた。

 今回は意識を失う様な事はなかったけど、その瞬間なぜか異常なまでの高揚感と謎の力が漲り、なんというか物凄くhighな気分になったのを今でも覚えている。

 そのせいか少し乱暴な口調になったり、無性に連中の血がほしくなったりと色々とおかしなテンションになりもしたし…。

 だけど、そのおかげで海賊達を無事撃退する事に成功したので結果オーライと言ったところだろうか。

 撃退とはいえ、別に皆殺しにしたとかそんなワケじゃないよ。いくら戦闘中に高揚して血がほしくなったと言っても別に快楽殺人鬼というワケでもないので半殺しぐらいに自重したさ。いくら海賊とはいえ、さすがに自らの意志でその様な事をするのは躊躇われるからね。

 

 まぁそんなこんなで海賊達の半数を半殺しにしていたら、そこで残りの船員達の目が突如赤く染まったかと思うと、先ほどまで敵意や殺意に溢れていたその顔は無表情へと変わり暫くその場で棒立ちになる。

 そして次の瞬間にはなぜかオレに忠誠を誓いだした。うん、意味が分からん。

 しかもその顔には未だ感情らしい感情がまるでないし、オレの言う事はなぜか素直に聞く様になるしで、まるで操り人形みたいで少し…いや、かなり怖いかった…。

 最初はこちらを油断させる罠かとも思ったが、せっせと舵を取り始める彼らを見ているととてもそうは思えなかった。いきなりすぎて困惑したが、オレに従順ならそれはそれでありがたいので、とりあえず深く考えない様にした。

 とそんな事があり、オレは現在彼らの海賊船に乗せてもらう事になった。

 本当ならこのままアスカ島にまで送ってもらいたい所だが、残念な事に彼らはアスカ島への永久指針(エターナルポース)記録指針(ログポース)も持っていなかった為、当初の予定通りジャヤを目指す事にした。

 

 

 …しかし、次のオレの命令を待っているのはいいんだけど、君たち無言でオレの後ろに待機するのはやめてくれませんかねぇ…?

 後ろに振り返った時に無表情で赤く不気味に輝く目をしたいかついオッサン達と視線が合った時なんて冗談ぬきで悲鳴を上げそうになったからさ。

 

 

 

 PS、

 料理長が作ってくれた料理がとても美味しかったです。久々に美味しい食事にありつけとても満足だ。

 …だた無表情で包丁を捌いたり、無言で料理を作り続ける姿は少し怖かったと追記しておく。

 

 

 

 ○月△日 雨

 

 

 

 今日はなにやら変な夢を見た。

 辺り一面が暗い空間? とでもいえばいいのだろうか。そんな場所にオレは赤い目をしたオレと対峙していた。

 その赤い目はあの海賊達と同じ様に爛々と輝いていたが、対峙するオレにはあの海賊達と違い表情があった。その表情はなんというか悪意やら憎悪やらを混ぜこぜにしたかの様な不気味なモノでその表情を見たオレは背筋がゾクリと震えた。

 そんなビビったオレの姿に赤い目をしたオレはなぜか莫迦にしたかの様に鼻で嗤いやがった。

 …なんだかすごくムカついたわ。

 

 すると赤い目のオレは対峙するオレに「赤き月の日までに力を蓄えろ」だの「血をもっと吸収しろ」だの「そんなんじゃあすぐに死ぬぞ」だのと何やらワケの分からない事を言いやがった。

 さらに「オレとお前でこの世の全ての生き物を根絶やしにする」とかなんとかそんな物騒な事を宣うと、突如オレの視界が切り替わり、世界中の者達が死に絶える怨念渦巻く光景が映し出され、人々の死骸を踏み砕きながら狂った様に嗤うオレの姿が……、

 

 そんな余りにも物騒すぎる内容にオレは思わず引いてしまった。

 ていうかなんだこれ? なんつう物騒な夢見てんだよオレ…。

 すると赤い目のオレはそんなオレに対して「この光景はいずれ現実のモノへと変わる。それまでにできるだけ血と憎しみを蓄えろ」とその様な言葉を最後にオレは夢から覚めた。

 

 しかし、一体何だったのだろうかあの夢は?

 …まぁ所詮は夢。オレにあんな破壊願望なんてないし、あの様な事など万に一つも起きないだろう…。

 それより今は無事にアスカ島に戻れるかの方が心配だな。あれからもうかなりの日数が経過してるし、みんなもきっと心配しているだろうな…。

 はぁ~、早く帰りてぇ~。

 

 



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3ページ目 オカマとマグマ

またしても一万字近い文字数…!


 

 

 ●月×日 曇り

 

 

 

 あの変な夢を見てから数日後。漸く一段落ついたからこうしてまた日記を再会する。

 この数日はホント戦いの連続だった。まさか賞金稼ぎや人攫い達が襲い掛かってくるとは…。

 

 まぁ今は海賊船に乗ってるし乗組員もオレ以外は全員海賊なワケだし、仕方ないと言えば仕方ないが、しかし、皆さんとりあえず冷静になってくれ。そしてオレを中心に襲うのはやめてくれよなぁ頼むからぁ~。

 海賊達の態度がオレに従順なせいで彼らの船長だと勘違いされたのか、それともオレが持つ七聖剣の影響か、彼らはオレを攫い人間屋(ヒューマンショップ)で高く売りつけるなどと血走った眼で喚いていやがった。

 当然奴隷として売られるなんて勘弁願いたいので七聖剣を使い応戦するのだが、ここからが大変だった。

 

 どうやらここらの海は彼らのナワバリの様で撃退しても次の日にはまた別の賞金稼ぎ達や人攫いのグループがどんどん襲ってきて本当に参った…。

 しかも統率がかなりのレベルで取られており今思い出しても非常に面倒な連携であったなぁと感じる。

 まぁそれでも、七聖剣で応戦した際にまたいつかの様に異常なまでの高揚感のせいで少々好戦的へとなり、七聖剣が発する妖気のごり押しでそんな連携もなんとか力押しで撃退できたが…。

 

 それに統率力でいえば赤い目をした海賊達の方が相手よりも一枚も二枚も上手だった。アイコンタクトや声をかける事もなく連携し、賞金稼ぎ達をなぎ倒す姿は凄かった。それには相手も驚きを顕にしており、自分達のお株を奪うかの様に完璧な連携で仕留めていく海賊達の姿に、相手は焦ったのか連携が少し拙いモノへと変わっていき、そのまま海賊達もヤツらを押し切った。

 

 と、そんな事があり、オレ達はなんとか賞金稼ぎや人攫い達を全員撃退する事に成功する。

 しかしこの海賊達ってこんなに連携がうまかったのか? オレが以前彼らと戦っていた時はこんな統率は取れていなかったと思うんだが。

 やっぱりこの異常なまでに完璧な統率は彼らの赤い目が関係しているような気がする。オレがその様な事を考えていると、傍に立て掛けていた七聖剣がその刀身に埋め込まれた宝石をまるで自己主張でもするかのようにキラリと輝かせた。

 

 …まさか海賊達がやけにオレに従順なのも、あの異常な統率力も全部お前の仕業なのか…?

 

 

 

 

 ×月×日 晴れ

 

 

 今日は先日までの激闘とは打って変わり、平和な一日だった。

 賞金稼ぎや人攫いの襲撃もなくのんびりとした一日を過ごす事ができた。こんなにのんびりした日は久しぶりだ。それこそアスカ島にいた時以来だろうか。

 

 ニュース・クーから買った新聞を船長室…今ではオレの個室…でコーヒーを飲みながら新聞をめくり現在の世界の情勢を知る。

 紙面には、物騒な事件やら愉快な記事が多岐に渡り書かれていた。

 

 水の都ウォーターセブンにて造船会社ガレーラカンパニーが海賊を撃退したという記事や、魔の海と名高いフロリアン・トライアングルにてまたも10隻ほどの船が消息を絶ったという記事、さらにはとある王国にて革命軍がクーデターを起こしたり、四皇のカイドウが酒に酔った勢いで海賊や海軍の軍艦を20隻以上沈めたりなどとメチャクチャな内容もあった。

 

 さらにはサンディ(アイランド)、砂の王国アラバスタでまた反乱軍が国王軍と小競り合いを起こしたり、ナノハナという町が海賊に襲われたが王下七武海のクロコダイルが海賊を全滅させたり、

 その国の王女であるネフェルタリ・ビビが失踪したりなど大々的にニュースに挙げられていた。

 

 これらの記事を読むとこの世の中はホントに物騒だと改めて実感する。こうして海賊船に乗っているだけでいつまた誰かに襲われるか分かったモンじゃないし、少しでも早く平和なアスカ島へと帰りたくなった。

 

 

 

 

 ○月α日 オカマ日和

 

 

 

 今日はちょっとした出会いがあった。

 いつもの様にジャヤを目指して航海していると、前方からアヒルが船首の奇天烈な船が現れた。しかもその船に乗っている者達は劇団?の人達だったのか中々に個性豊かな濃い人たちばかりだった。中でも一番オレの印象に残っているのはその面々からMr.2ボンクレーと呼ばれていた珍獣だ。そいつはその一団の中でもさらに奇天烈な恰好をしていた男だ……いやオカマだった。

 

 そんでそのオカマと視線が合った時、何やら「あらぁ~っ!!」と騒ぎ出したかと思うと突如進路を変更し、そのままこちらを追走してくる。

 何事だよと思い、そちらに視線を向けるとまたしてもオカマと視線が合う。そしてヤツは「アナタとってもカーワイイわねぇ~い好みよ! 食べちゃいたい!」と投げキッスをよこしながらそんな恐ろしい事をほざきやがった。

 そんなオカマにオレは咄嗟に背中に背負っていた七聖剣に手をかけると、最近何かと物騒な思考回路になるオレはそのままそのオカマをぶった斬ってしまおうかと本気で考えていた。そんなオレの感情に同上するかの様に七聖剣から妖気が溢れだし「お? 斬るのか? なら手伝ってやろうか?」とオレに囁いているかの様に妖気がオレの周辺を踊る。

 そんでそんなオレの姿にオカマの部下達は「なんだあれ!?」「目が赤くなったぞ!?」「なんかオーラの様なモノがでてないか!?」と騒ぎ出し始めたのだが、当のオカマは全く気にした様子もなくそれどころか「あらぁ~!! なんだか色っぽくなったわねい!!」と言い出す始末だ。どうやら逆効果だった様だ。その事にオレは七聖剣から手を放すとオレの周辺を踊っていた妖気が「なんだ…、斬らないの?」とでも言う様に少しがっかりとした感じで収まっていく様な気がした。

 

 その後、オカマは「あちしはMr.2ボンクレーよう! アナタのお名前は?」と尋ねられた。何も答えず無視してもよかったが、そんな事をするとなんか地の果てまで追いかけてきそうな感じがしたので、嫌々ながらも名前を名乗っておいた。

 するとオカマ、Mr.2ボンクレーは「そう、ヒスイちゃんって言うのねい! アナタとはもっとお話ししたかったんだけど、生憎と任務中なのよねい。だから縁が会ったらまた逢いましょう!!」と言ってオカマは去って行った。

 

 …ホントになんだったんだろうかアレは…。いや、もう過ぎた事だ。深く考えるのはよそう。生まれて初めてオカマという人種を目にしたが、できればもう会いたくないな。

 

 

 

 

 ×月β日 晴れ時々マグマ

 

 

 

 オカマと出会い数日、今度は海軍と出くわしてしまった。

 そして当然の様に襲われました。……いやぁ分かってたさ。オレが乗っている船は海賊船。そしてオレ以外の乗組員も全員海賊。そしてそんな彼らはオレに従順。これらの要素からいつかの賞金稼ぎ達の様にオレがこの船の船長だと誤解されてもそれは仕方ない事だと思うよ。でもな、いきなり攻撃して来るのはどうなのさ。

少しは話し合いで解決しようとは思わないのかお前達は!

 

 オレは海軍にその様な事を叫ぶと、軍艦から少し…いやかなり背が高い赤いスーツを着た強面の海兵が現れる。そして頭に被っている軍帽から鋭い瞳でこちらを射貫く。

 

 ――え? 海賊と話す様な事はなにもない? やるんなら徹底的?

 いやだからオレは海賊じゃねぇって。たまたまこの船に乗ってるだけの一般人だって言ってるだろ!!

 

 ――え? ならその海賊達の従順な姿はなにかって?

 ……いや、これはそのぉ~、オレの持ってる刀のせいというか…。とにかくオレは海賊達の仲間じゃねぇから! ただの旅人だから!!

 

 ――え? 海賊船に乗ってるのなら同罪? 悪は可能性から根絶やしにする?

 …何言ってんだこいつ…? 本当に海兵? いくら何でも過激すぎやしませんかね…?

 

 と、オレは海兵とその様なやりとりをした後、ヤツら問答無用で砲弾をぶっ放してきた。マジで撃ってきたよこいつら! しかもそこらの海賊よりも容赦が欠片もないんだが!! クソッ海兵の声音がラコスさんと少し似てたけど性格は全然違うなクソッたれ!

 

 そしてオレの周りには赤い目をした海賊達がオレの指示を待っているという状況。こうなっては仕方ない、全速力で逃げるぞ。オレがそう海賊達に指示を出そうとした時、ドクンッ! と心臓が脈打つと、背中に背負っていた七聖剣から妖気が溢れ出す。そこでいつもなら謎の高揚感がオレを支配するハズだったのだが、その時はなぜか最初に七聖剣を持った時の様に、意識が徐々に薄れていくのだ。

 あっ、これヤバい。と思った瞬間にはオレの意識は途切れ、そして―――

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「撃てぇ!! 海賊船を沈めるのだ!!」

 

 背中にコートを羽織った海兵がその様に指示を出すと、彼の部下である海兵達が急いで行動し、狙撃班の海兵が照準を敵艦である海賊船に狙いを定め砲弾を放つ。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! と次々に砲弾が放たれる音が響き、海賊船に迫る。その内の何発かは水柱を上げ外れるものの、放たれた砲弾の数発は海賊船に着弾し爆発した。船から火の手が上がる光景に周囲の海兵達はオォ! という勝ち鬨を上げるが、その声はすぐさま収まる。

 何故なら、海賊達が一向に動く気配を見せないからだ。何やら指示を待っているかの様にその場で佇んでいる。攻撃されているというのに何の抵抗どころか反応すら示さない海賊達に周囲の海兵達は困惑する。

 

「少佐! 海賊達が一向に動く気配を見せません!」

 

 海兵の一人が先ほど指示を出していたコートを着た者にその様な事を報告すると、少佐は訝しげな視線を海賊達に向ける。

 

「海賊達め、一体どういうつもりだ? このまま抵抗もせずに海に沈む気か…?」

 

 少佐がその様な事を呟き、次の指示を出しかねていると、野太い男の声が響く。

 

「構わん、そのまま撃ち沈めろ…」

 

「っ!? サカズキ大将!」

 

 少佐が声の方に視線を向けると、そこには海軍最高戦力の一人である海軍大将・赤犬が腕を組みながら海賊船を睥睨していた。

 そんな赤犬の姿に少佐は内心ビビるも、周囲で困惑している海兵達に向かい赤犬に言われた様にそのまま船を沈める様に指示を出す。

 

 赤犬はそんな彼らを後目に敵船の海賊達、いや正確にはそんな彼らの中心にいる翠色の髪に背中に巨大な刀剣を所持している少年、ヒスイに視線を向けていた。

 見聞色の覇気を使わずとも分かる。ヒスイの中に潜む膨大な悪意と憎悪を。その存在を赤犬はその身に感じ取っていたのだ。

 先ほどはこちらを油断させる為か、自分はただの一般人だなどと宣い、実に白々しい演技をしていた。確実にだまし討ちをする心算だったのだろう。

 赤犬が内心でその様な事を考えていると、砲弾が再び海賊船に向かい放たれた。

 

 今度は放たれた砲弾全てが全弾命中コースだ。そして砲弾が迫る中、ヒスイは背中に背負っていた七聖剣を抜き放つ。そして剣を一閃させ妖気の斬撃を放ち砲弾を空中で全て爆発させる。

 その光景に海兵達は驚きの声を上げる中、ヒスイは先ほどまでとは別人の様な不気味な笑みをその顔に浮かべると、その赤く染まった瞳で海兵達を射貫く。

 その視線に気の弱い海兵達はビクリと体が震わせ、悪意や憎悪と言った負の感情により歪んだその赤い瞳に呑まれそうになる。

 そんな海兵達の姿を視界に捕らえたヒスイは上機嫌そうに嗤う。

 

「……バカが、せっかくの獲物だというのに逃げてどうする。そこらの雑魚海賊や賞金稼ぎ共よりはいい“贄”になりそうだってのにあのヘタレが…。まだ本調子じゃねェが、この気を逃すつもりはない。おい海賊共!! 反撃だ!! 海軍の連中を皆殺しにしろ!!」

 

 ヒスイのその言葉に指示を待っていた海賊達は武器を構え『オォォォッッ!!』と鬨の声を上げる。

 

「ふん、やっと本性を現しおったか…。お前らちょいとどいとれ」

 

 人が変わったかの様なヒスイの姿に赤犬はやはりかと鼻で笑うと、周囲の海兵達を下がらせ、変わりに赤犬が一歩前に出る。

 そして赤犬の両腕が突如燃え始める。そして次の瞬間にはボコォッ! と炎がさらに燃え溶岩へとなる。そして赤犬の両腕が完全に溶岩に変化した。これは彼が食した悪魔の実“マグマグの実”の力だ。

 

「――流星火山!!」

 

 すると赤犬はマグマへと変わった腕を持ち上げ、そのまま連続でマグマを空へと放出すると、そのマグマは巨大な拳へと変化し火山弾へとなり海賊船目掛けて落下しっていく。

 対するヒスイは七聖剣を構え、刀身に膨大な妖気を纏うと降り注ぐ巨大なマグマの拳を眺めながら、それと同等の巨大な火の玉を放ち迎え撃つ。

 

「――妖火弾!!」

 

 剣先から妖気でできた爆炎を連続で放ち、迫りくる火山弾全てへと着弾させそのまま相殺する。空中でそれぞれの攻撃が衝突した際に爆発を上げ、マグマや妖気の炎が海へと飛び火する。

 赤犬の攻撃を完全に防いだ。そんな光景に周囲の海兵達は驚きの声を上げる。

 

「なっ!? あいつ赤犬さんの攻撃を…!」

「バカなッ!? 海軍大将の攻撃を防いだだとッ…!?」

「なんだ!? ヤツも能力者か何かか!?」

 

 海兵達は大将の攻撃が、それも破壊力でいえば大将の中でも随一とも云われる赤犬の攻撃を、名もない海賊如きに完全に防がれた事に動揺を顕にする。

 

「ふん、けったいな刀を使いおって…」

 

 赤犬はその様な事をぼやくと、七聖剣とそれを扱うヒスイを睨む。

 ヒスイはそんな赤犬の様子に挑発するかの様な笑みを浮かべている。

 

 そして次の瞬間には海賊達が動き出していた。彼らはそのまま海軍船に乗り込みヒスイに命令された通り、海軍を皆殺しにしろという命令を遂行しようとする。

 そんな海賊達に海兵達も先ほどまでの動揺を打ち消し、気を引き締め直す。

 

「迎え撃てェェッ!! 海賊達を根絶やしにするのだ!!」

 

 少佐の指示に海兵達も武器を構え突撃していく。こうして海軍の軍艦の上で大乱闘が始まった。

 そしてその様子をチラリと眺めたヒスイはすぐさま視線を赤犬に戻し、赤犬の元へと駆ける。海賊達と同じ様に軍艦へと飛び乗って来ようとするヒスイに赤犬は拳を再びマグマへと変え、放つ。

 

「おいおい、容赦ねェな…」

 

 迫るマグマの拳にヒスイはその様な事を呟くと、ヒスイの目の前に赤い目をした海賊の一人がヒスイを守る様に、まるで壁にでもなるかの様に現れた。

 

「……! フン無駄じゃ! その程度の肉壁一つで、ワシの攻撃が防げると本気で思うちょるんか!!」

 

「誰もそんな事思ってねェよ」

 

 赤犬の言葉にヒスイはそう言葉を返すと、目の前に現れた海賊を踏み台にさらに上空へと飛び赤犬からの攻撃を回避する。

 

「なんじゃと…!?」

 

 その事に赤犬は僅かに目を見開き驚く。ちなみにヒスイが踏み台にした海賊はヒスイが上空へ飛んだ勢いにより、そのまま勢いよく海に落下した。

 そのままより上空へと飛んだヒスイは七聖剣を構え、眼下の赤犬目掛けて七聖剣を一閃させる。

 

「妖蛇牙襲斬!!」

 

「チッ、犬噛紅蓮!!」

 

 蛇と犬の形を司った妖気の爆炎とマグマが互いの命を奪おうと雄叫びを上げながら襲い掛かる。その攻撃は上空で絡み合い、それぞれの攻撃が術者から離れてもまるでその攻撃事態に意志でもあるのか、蛇と犬の形をした妖気とマグマは互いに消滅するまでその猛攻をやめなかった。

 その様な光景を後目に赤犬はこちらへと落下してくるヒスイに次の攻撃を与えるべく闘志を燃やす。

 

「これで終いじゃ!! 冥狗!!」

 

 即座に腕をマグマ化させ、落下するヒスイ目掛けて拳撃を繰り出す。上空では逃げ道がない為、この攻撃は当たる。赤犬はそう確信していたが、ヒスイの余裕を持った表情が気に喰わない。赤犬はその様な事を思った。

 そしてヒスイの余裕の表情の理由が次の瞬間に理解できた。またしてもヒスイと赤犬の間に赤い目をした海賊が割り込んできたのだ。

 

「おどれ、またか!?」

 

 赤犬はその様な悪態を吐くと、そのまま割り込んできた海賊の頭を消し飛ばす。そしてその海賊は悲鳴を上げる間もなく命を落とした。ヒスイとの間に割り込まれた事により赤犬の冥狗は僅かに照準がズレてしまう。そんな狙いがズレた攻撃にヒスイは余裕をもって回避に成功する。そして赤犬の大勢が整っていないその隙にヒスイは初速で弾丸を超えた速度で駆け出し七聖剣を一閃させる。

 

 すると、赤犬は肩幅から胸元当たりを盛大に斬り裂かれ血が噴き出す。

 覇気を使われた気配はなかった。なのになぜ? と赤犬は驚愕の表情をその顔に浮かべながら傷口を押さえ、片膝をつく。

 

「ぬぅ…!? なんじゃとッ!!? 貴様なぜワシに攻撃を…!?」

 

 ヒスイをこれでもかと言わんばかりに射貫き、吼える赤犬。対するヒスイは七聖剣の妖気が赤犬の血を吸収し、刀身の宝石と天文が光るのを上機嫌そうに眺めながらその顔に嘲笑が浮かぶ。

 

「…ハン、“自然系(ロギア)”だと思って油断したな。覇気を纏ってない七聖剣(オレ)の攻撃程度、受け流せると高を括っていた様だが、生憎と七聖剣(オレ)の妖気も能力者の実体を捉える事ができるんだよ」

 

「…妖気じゃと…!? クッ…!? けったいな力を持っちょる様じゃなッ…!?」

 

「…お前はかなりの強者の様だ、ならさぞかし七聖剣(オレ)にとっていい“贄”になる事だろう」

 

「贄じゃと…?」

 

「そうだ。七聖剣(オレ)がこれからこの世の全てのモノに破壊と絶望を齎す為の“力の糧”だ。お前を殺したあと、この世を本物の地獄へと変えてやるぜ! ハッハッハッハッ!!!」

 

「…人間は正しくなけりゃあ生きる価値なし。貴様の様な悪はここで確実に消しとかにゃいけのう…!」

 

「…消えるのはお前だよ、海軍大将」

 

 ヒスイの言葉が言い終わると同時に赤犬は再び腕をマグマ化させ、必殺の技を発動させる。

 

「この距離ならば外さん!! 冥狗ォォッ!!」

 

 勢いよく襲い来るマグマの拳撃をヒスイは七聖剣に妖気を纏わせて盾にする。そんなヒスイの行動に赤犬は七聖剣ごと消し飛ばす勢いで放つも、冥狗が七聖剣の妖気に触れた瞬間、赤犬の攻撃は勢いを失くし、七聖剣の刀身に防がれる。

 

「なんじゃと…!? おどれ!! 一体何をしたッ!?」

 

 赤犬の叫び声に周囲で戦っていた海兵達が視線を向ける。ヒスイは赤犬のその言葉に応える事はなくそのまま七聖剣で赤犬の腕を弾き、バランスを崩させる。

 そして体勢が崩れる赤犬にヒスイは七聖剣の刀身を船体に置き、そのまま剣先を滑らせる。

 

「地獄の業火に焼かれろ、――妖火斬!!」

 

 瞬間、七聖剣の剣先から薄緑色の妖気の爆炎が吹き上がり、赤犬を襲う。

 

「グゥワアアァァァァッッッ!!!?」

 

 そしてあろう事か、マグマ人間でハズの赤犬の身体が燃やされ(・・・・)、彼の悲鳴が軍艦中に木霊する。そんなあり得ない光景に周囲の海兵達は全員驚愕の表情を浮かべ、今現在起きている出来事を信じられない様な顔で眺めている。

 

「ウソだろ!? あの赤犬さんが燃やされてる!!?」

「一体何がどうなってるんだ!?」

「それだけじゃないぞ!! 先ほどあの男、覇気も使わずにサカズキ大将に攻撃を当てていたぞ!!?」

「そんなバカな…!? 一体なんのトリックを使ったんだ…!!」

 

 そんな海兵達の声が響く中、妖火斬の炎が漸く収まり赤犬は全身に火傷を負いその場に両膝をつく。そして苦しそうに肩で息をしていた。

 そんな赤犬の様子にヒスイは感心半分驚き半分と言った様な表情を浮かべる。

 

「…業火が当たる直前、とっさに覇気を身体に纏いダメージを軽減させたか…。しかしそれでもまだ意識があるとはな…大した耐久力だ」

 

 ヒスイの言葉に赤犬はギロリと射貫く。ただでさえ鋭い視線がさらに鋭くなった。ヒスイはそんな赤犬の姿を鼻で嗤い七聖剣を振り上げる。

 

「あばよ、海軍大将。このまま死んで七聖剣(オレ)の力となれ」

 

 そんなヒスイの姿に周囲の海兵達は漸く赤犬がピンチである事を理解し、動揺しながらもヒスイの行動を止めに入る。

 

「待て海賊! サカズキ大将はやらせんぞ!」

 

 その様な言葉を叫びながら、海兵達が銃を乱射する。しかし放たれた銃弾はヒスイには効かなかった。七聖剣から溢れ出した妖気がヒスイの身体を覆い銃弾を全て弾いたからだ。

 

「なっ!? 銃が効かないだと!?」

「な、なんだあの薄緑色のオーラの様なものは!!?」

 

 ヒスイはそんな海兵達を一瞥すると、海賊達に念を送り、銃を撃ってきた海兵達の元へ襲い掛かっていく。突如襲い掛かってきた海賊達の相手にその海兵達はそれだけで手一杯になる。

 

「ハッ、そこで貴様らの上司が殺されるところでも眺めてな」

 

 ヒスイは海兵達にその様な言葉を吐き、赤犬から視線を逸らす…逸らしてしまっていた。それがよくなかった。相手は仮にも海軍最高戦力の一人であり、徹底的な正義を掲げている赤犬なのだ。そんな赤犬が少なからずともダメージを負っているからと言って視線を、意識を一瞬でも逸らしていいような相手ではなかった。

 

「大…噴火ァァァッッ…!!」

 

「なっ!? しまっ…!?」

 

 右腕が巨大なマグマの拳を形どり、ヒスイへと迫る。その事に完全に己の力に慢心していたヒスイは赤犬の攻撃を回避も防御もする暇もなくマトモに喰らってしまう。

 

「くはっ…!?」

 

「ヌゥゥン…!!」

 

 そしてそのまま拳を振り切り、ヒスイはその身体に火傷を負いそのまま海賊船へと吹き飛ばされた。船内が崩れ砂煙が舞う中、ヒスイは火傷の痛みに耐え腹部を押さえる。

 

「クソッ…、まだ動けやがったか…! 油断した…。大将という存在を少し舐めてたか…」

 

 身体に妖気を纏っていたおかげか、それほどダメージはない。先ほどの攻撃で負った火傷も七聖剣の妖力の力により回復していく。

 そのまま妖力を傷口に当てて火傷が完全に完治すると、ヒスイは立ち上がり今度こそ赤犬を確実に仕留めると息巻く。

 すると赤犬はそんなヒスイの姿を射貫くと、身体に鞭を打ち立ち上がると、そのまま両腕をマグマ化させて再び技を放つ。

 

「――流星…火山ッッ!!」

 

 巨大なマグマの拳が流星の様に降り注ぐ。再び放たれたその光景にヒスイは七聖剣を握り締めると、刀身に妖気を纏い叫ぶ。

 

「ハッ、バカの一つ覚えか! 最初と同じだ!! そんなモンまたすぐに相殺して――」

 

 だが、そこでヒスイにとって予想外の事が起きる。

 

「…ッ!? ぐはっ…!? うぅ…ッ!!?」

 

 その場に両膝をつくと、突如頭を押さえて苦しそうに呻く。

 

「クソが…ッ! …こ、こんな時に…宝玉の……あの女の、浄化の力がまた…身体を蝕みやがるッ…!!」

 

 アスカ島で受けた宝玉の…マヤの祈りの力がヒスイの身体を支配する呪いの力を浄化しようと再び蝕み始める。その力により呪いの影響が薄れたのか、海軍船で戦っていた海賊達も苦しげに頭を抱え、正気を取り戻していく。

 そして苦しそうに呻くヒスイの元へマグマの拳が、今度は誰にも邪魔される事なく次々とヒスイに直撃する。

 

「ぬァ…ッ!?」

 

 マグマの拳がヒスイを襲うついでに、海賊船が赤犬の攻撃により火を上げ大爆発した。そしてそのまま船体に穴が開き、海へと沈んでいく。

 その様子に周囲の海兵達は歓声を上げ、海賊達は何が起きているのか理解できていないのか呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「………」

 

 赤犬はそんな彼らの歓声を聞き流しながら、燃え盛り沈む海賊船を睨み付けながらヒスイを探す。ヒスイは能力者ではなくあの程度で仕留めきれたとは到底思えないと考えた赤犬は海面に浮かび上がってきた所に追撃ちを仕掛け、確実に息の根を止ようと息巻く。

 

 だが、そんな赤犬の考えとは裏腹にどれだけ経とうとヒスイが浮かび上がってくる事はなかった。あの一撃で仕留めたのか、それとも逃げたのか…。そこは定かではないが、どんなに待っていてもヒスイが現れる気配はない。

 

 周囲ではなぜか先ほどまでの戦意が消えている海賊達が「何でおれ達は海軍と戦ってるんだ!?」だの「一体どうなってるんだ!?」などとパニックになっており、そんな海賊達をすぐさま海兵達が捕縛する姿が見受けられた。

 

「おんどれェ…、あの翠髪…! 今度会う様な事があったら、貴様だけは絶対に逃がさんけェのォ…!!」

 

 赤犬は燃え沈む海賊船を睨みながら、まるでヒスイはまだ生きていると言わんばかりの反応を示しながら、ドスの利いた声でその様な事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ――そして、次に意識が覚醒した時には燦々と輝く太陽に照らされた砂浜に流れ着いていた。前方には穏やかな海、後方には鬱蒼と生い茂るジャングル。

 

 …はて? オレは先ほどまで海の上で海軍に襲われていたハズ…。なのに一体なぜこんな場所にいるのだろうか? 確かあの時は七聖剣から突然妖気が溢れ出し、突如オレの意識がなくなったから…、うん、間違いなく犯人は七聖剣(こいつ)だ。

 

 おいコラ七聖剣! テメェちゃんと説明はあるんだろうな…?

 

 




七聖剣の独自設定
・七聖剣が放つ妖気は覇気と同じく能力者の実体を捉える事ができる。
・妖力で傷の回復ができる。(ただし、欠損した場合は治せない)

と、こんな所ですかね…。
たぶん、これからも七聖剣の独自設定は増えるかもしれない。

あと、赤犬の口調が難しかった。これであってますかね?


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4ページ目 泥棒猫と女狐

 

 

 

 △月▼日 晴れ

 

 

 

 

 気が付いたらどことも分からぬ島に漂着して2日。

 あれから七聖剣に凄んでも結局何も応えてくれず(←当たり前だ!)、どういった経緯でこの島に来たのかは不明だ。まぁオレが無事にここにいるという事は海軍からはうまく逃げられたのだろう。

 

 …そういえば、オレと一緒にいたあの海賊達はどうなったのだろうか? うまく逃げきれたのか? ……まぁ別にどうでもいいか。

 

 そんなこんなでオレはこの2日間、ジャングルの中を隅から隅まで探索してみたが人っ子一人見つける事ができなかった。この事から、ここはどうやら無人島の様だ。ジャングルという事もあり、何度か猛獣に襲われる事も多々あったが、そこは七聖剣のおかげで余り脅威に感じる事はなかった。

 食料に関しても襲ってきた猛獣や、草木に生えるキノコや果実があったのでそこまで問題はない。だが、食料があってもこの島から出る方法がなかった。

 無人島という事もあって当然、船もない。この島に停泊している海賊もいない為、その船を奪って海に出る事もできない。

 

 その辺の樹木で、いかだでも造って海に出るという選択肢もあるにはある。幸いにもジャヤへの永久指針(エターナルポース)は懐に入れていた為、そこを目指して進めばいつかはたどり着くだろう。しかし、ここは偉大なる航路(グランドライン)、いかだで進むなどそんなのはただの自殺行為だ。やはりちゃんとした設備の船とそれを操縦する船乗りが必要だな。

 

 一刻も早くそんな都合のいい存在が現れてくれるのを待つしかないか…。

 まぁ今までもなんとかなってきたし、今回もなんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

 ○月●日 晴れ

 

 

 

 

 あれから数日、オレは砂浜に出て海を眺めるものの帆影の影すら見えず、時だけが無情にも過ぎ去っていく。こんなに広い大海原だというのに船の一隻も見当たらないとは…。心のどこかですぐに船の一隻ぐらいは見つかるだろ、などと楽観的な事を考えていたが、甘かったとしか言えない。

 

 流石に焦燥感を感じてきたのか、このままこの無人島で誰に会う事もなく一生を終えてしまうのでは? などと不安になる事もある。

 

 もうこの際、海賊でも人攫いでもオカマでも過激派海軍でもいいから早くオレを助けてくれェェ!!

 

 

 

 

 

 ×月Θ日 曇り

 

 

 

 

 結局あれからさらに日数が経ち、なんだか最近、狩りの腕が上がってきたなと感じ始めた頃、砂浜に小さな宝箱が流れ着いていた。

 とりあえずその宝箱を開けてみると、中には金銀財宝! …などといった輝かしいモノではなく、変な模様の入った紫色の果実だった。…中身は間違いなく財宝だと思っていた分、オレのテンションが著しく下がったのは言うまでもない。全く無駄に期待させやがって。

 

 この毒々しい見た目からこれはきっと毒に違いないだろう。

 なぜそんな毒入り果実が大事そうに宝箱に収まっているのかは謎だが、結局今日も船を発見する事はできなかった。

 オレは毒入り果実を捨て、汗と汚れを落とす為にジャングルの中にある湖畔へと水浴びしに向かった。

 

 

 

 

 

 □月μ日 曇りときどき鎖

 

 

 

 

 食事を摂り軽く水浴びした後、いつもの様に大海原が見渡せる砂浜に向かい歩いていると、なんとこの島に巨大な船が停泊しているのが見えた!!

 その事にオレはかなりテンションが上がる。だがそれも仕方がないだろう。待ちに待った存在がやっと来たのだ。オレはこの気を逃さずにすぐさま砂浜へとダッシュして森を抜ける。

 

 そしてそのまま砂浜にたどり着くと、巨大な船の全容が顕になる。

 サメのヘッドに宝石が船体の至る所に埋め込まれている派手な船だ。どう見ても商船でもなければ海軍の船でもない。だが、そんなのはそこまで気にする事もない些事だ。相手が海賊でも襲撃して力尽くで言う事を聞かせればいい。なんならあの海賊達にやった様に七聖剣を使って操ればいいのだ。…操り方知らないけど、まぁ何とかなるだろう。

 

 すると、オレが海賊船に視線を奪われていると砂浜にいくつかの人影が見えた。何やらガラの悪い連中が多い事からやはり海賊の様だ。…いや賞金稼ぎや人攫いの可能性もあるが…、そこは別にどちらでもいいか。

 しかし、こうして人に会うのも久しぶりだと感慨にふけりそうになっていると、何やら揉め事が起きていた。

 武器を持った複数の男達が、オレンジ色の短髪の少女と帽子を被ったボーイッシュな恰好をした少女を取り囲んでいた。

 武器を持った人相の悪い男達がいたいけな少女達を取り囲むという絵に何やら犯罪の様なモノを感じるな。どうやら絶賛面倒事が発生中の様だ。

 

 とりあえず今のうちにこっそりと船に忍び込みこの島を脱出しようかなぁと割とゲスな事を考えていると、オレンジ髪の少女とうっかり目が合ってしまった。

 そして彼女はパアァと顔を輝かせると、オレに向け大声で「親分!! 助けにきてくれたんですね!!」などと叫びやがる。

 その少女の声と視線を追い、男達はオレの方へと視線を向ける。すると、もう一人の帽子を被ったボーイッシュな少女もオレンジ髪の少女の言葉に合わせる様に「ウシシ、待ってましたよ親分!! あとはお任せします!!」などと言い、そのまま二人は森へと全速力で駆けて行った。

 

 

 …え? オレってもしかして君達の囮? それってちょっと酷くない?

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「なっ!? あの小娘共が逃げたぞ!?」

「クソッ、追うぞ! まだなんのケジメもつけさせてねぇんだ!」

 

 砂浜にそんな男達の言葉が響き渡る。そしてすぐさま少女達を追いかける為に森へ駆けて行こうとした時、一人の男の声が彼らの動きを制止した。

 

「待て! 追いかける必要はねェ!」

 

「な、なぜですボス! あいつら俺らの宝を盗もうとしやがったんですぜ!!」

 

 部下にボスと呼ばれた赤いサンゴの様な髪形をしたその男は、鎖を弄りながら余裕の声を発する。

 

「ジャラララ、わかってる。だが今からこんな鬱蒼とした森ん中を追いかけるのも面倒臭ェ、それにわざわざ小娘共の親分がここに残ってくれてるじゃねェか」

 

 男、マッド・トレジャーの言葉に周囲の部下達が背中に刀身の長い剣を背負った少年に視線を向けてその顔に笑みを浮かべる。

 対して翠色の髪をした少年ヒスイは困ったなぁと呟き溜息を吐く。

 

「おい小僧、俺らの宝に手ェ出そうなんざ随分と舐めた真似してくれたな」

「子分達の変わりにおめぇが変わりにケジメをつけな」

「ただのコソ泥風情が海賊から宝を盗み出そうとは身の程知らずめ」

 

 マッド・トレジャーの部下達がヒスイに近づくと、彼はもう一度小さく溜息を吐くと視線を上げて声を発する。

 

「……、アンタ達は何か誤解してるみたいだけど、さっきの彼女達は別にオレの子分ってワケじゃ――」

 

「しらばっくれんじゃねぇ!」

 

 ヒスイの言葉を遮り部下の一人が突如殴りかかってくる。その様子にヒスイはすぐさま瞳を鋭くすると背負っていた七聖剣を抜き放ち、そのまま斬り捨てる。

 

「……あ、」

 

 その行動にヒスイはしまったと言わんばかりの表情をする。つい最近までレベルの高い賞金稼ぎや人攫い達と毎日の様に戦っていた為、攻撃されるとついつい反射的に行動してしまう時がある。それが今でてしまった様だ。

 

「あァ~、ワリィ今のはワザとじゃなくてな、つい反射的に――」

 

「テメェ! よくもやりやがったなッ!!」

 

 男達に言い訳をしようとするヒスイだったが、一人の男の怒気がそれを遮り周囲の者達は全員ヒスイを睨み付けながら武器を構え出す。

 そんな海賊達の姿にヒスイは「まぁ当然の反応か…」と言い訳を諦め溜息を吐く。

 

 そんな一触即発な中、唯一怒気も発さず武器も構えていないのは、マッド・トレジャーだけだ。どうやら彼は自分の部下がやられたというのに余り堪えていない様だ。今の彼の視線はヒスイが持つ七聖剣へと向けられている。

 細長い薄緑色の刀身。その刀身に刻まれた天文と埋め込まれた7つの宝石がキラリと太陽の光を反射し輝く。

 その光景にマッド・トレジャーは笑みを浮かべる。

 

「ジャラララ、なかなかの宝刀じゃねェか…。トレジャーハンターの血が騒ぐぜ」

 

 マッド・トレジャーがその様な事を呟き、サングラスを掛けたその瞳が妖しく光る。どうやら七聖剣を獲物として捕らえた様だ。

 

 そしてマッド・トレジャーが七聖剣へと気を取られている間にも状況は動き出していた。彼の部下達がヒスイの命を取ろうと襲い掛かる。

 だが、ヒスイはいつもの様に七聖剣から溢れる妖気を浴び、言い知れぬ高揚感が彼の身体を支配すると、そのまま楽しそうな表情で部下達を斬り捨てていく。

「ぐわッ…!?」「ギャアァ!?」などと悲鳴を上げ砂浜を赤く染め上げていく部下達を後目にマッド・トレジャーは、悪魔の実“ジャラジャラの実”能力を使い、その掌から鎖を出す。

 

「マッドアンカー!!」

 

 そして掌から発射された複数の鎖がフックショットになりヒスイを襲う。

 迫るフックショットを横目で見たヒスイは軽い身のこなしでマッド・トレジャーの攻撃を回避する。しかし、周囲の部下達はそうはいかない。そのまま部下達の身体を貫き悲鳴が上がる。

 

「ギャアァッ!!」

「ボ、ボス!? 攻撃するのならそう言ってくれよ…!?」

 

 部下達は吐血を吐くとその場に倒れる。マッド・トレジャーはそんな部下の様子をまるで気にした気配もなく上機嫌に笑いながらヒスイを見る。

 

「ジャラララ! 今の攻撃をよく避けられたな。だが、奇跡はそう何度も起きねぇぜ…。貴様のその妖しくも美しい剣はこのマッド・トレジャーがいただく!!」

 

 そしてマッド・トレジャーは再び能力を発動し大量の鎖を右腕に纏わせると、ヒスイの元へ駆ける。

 

「チェーンハンマー!!」

 

 放たれる大量の鎖を纏った拳をヒスイは七聖剣の刀身で受け止める。そしてマッド・トレジャーの鎖の拳が七聖剣に触れた瞬間、妖気が発せられ拳の勢いを殺される。その事にマッド・トレジャーは目を見開く。

 

「悪いけどお前に七聖剣はやらねェよ…。今はこいつがねェと無事にアスカ島まで帰れねェしな!!」

 

 ヒスイはその様な事を発すると同時にマッド・トレジャーの鎖の腕を弾き、彼の身体を斬り裂こうと七聖剣を振り下ろす。

 対するマッド・トレジャーはすぐさま両腕に大量の鎖を巻き付け、振り下ろされる七聖剣の一撃を大量の鎖を纏った両腕で防ぐ。予想していたよりも重い一撃にマッド・トレジャーの顔から余裕が消える。

 するとそこで、がら空きの腹部目掛けてヒスイは妖気を纏った拳で殴りつける。

 

「ガハッ…!?」

 

 腹部に受けた強いに衝撃にマッド・トレジャーは口から空気を吐き出す。そしてそのまま吹き飛ばされるマッド・トレジャーへとヒスイは地を蹴り追撃する。

 その様子を吹き飛ばされながらも視界に収めたマッド・トレジャーは痛む身体を気にせずに能力を発動させた。

 

「グッ…! …マッドチェーン…!!」

 

「!?」

 

 大量の鎖がヒスイの視界全体に広がり、ヒスイの周辺を取り囲む。しかし、周囲を取り囲むだけでその鎖が襲ってくる様な事はなかった。その事に訝しみながらもヒスイはそのままマッド・トレジャーへと追撃を仕掛ける。

 が、そこでマッド・トレジャーが口角を吊り上げ、嫌な笑みを浮かべた。

 

「ジャラララ! 拘束しろ! チェーンロック!!」

 

 瞬間、周囲を取り囲んでいた大量の鎖が、突然意志を持ったかの様にヒスイ目掛けて前後左右上方から物凄い勢いで迫ってきた。

 対するヒスイは襲い迫ってくる鎖に視線を向けるもそこまで焦った様子はない。鎖が一斉に襲い掛かってくる程度の事はすでに予想はしていたのだろう。

 落ち着いた様子で七聖剣を構え鎖を撃退しようとした時、

 

「なっ!?」

 

 突如、足元の砂浜から鎖が出現した。予想外の所からの鎖の出現にヒスイは目を見開き反応が僅かに遅れ、そのままその鎖に拘束される。そして一瞬遅れて周囲から襲い掛かっていた鎖がヒスイの身体にさらに巻き付き厳重に拘束した。

 ヒスイは鎖に何重にも縛られまるで芋虫の様な姿になりその場に立ち尽くす。

 

「ジャラララ! 勝負ありだな!」

 

 その光景にマッド・トレジャーは腹部を押さえながらも上機嫌そうに笑い声を発しながら、ゆったりとした足取りでヒスイに近づく。

 ヒスイは身体に力を入れて鎖を引きちぎろうとするも、拘束する鎖の数が多すぎるせいで引きちぎる事ができない。そんな些細な抵抗を示すヒスイの姿にマッド・トレジャーはその顔にさらに上機嫌そうな笑みが浮かぶ。

 

「ジャラララ! 無駄だ、俺の鎖はただの鎖じゃない。そんな力だけで砕けるものか! 宣言通りその剣は貰うぜ、ジャラララ!!」

 

 その様なマッド・トレジャーの声が砂浜に響く中、身動きが取れないそんな状態でもヒスイはその目に宿る戦意が消える事はなかった。いや、それどころかさらに溢れ出ている。

 そんなヒスイの様子に気付き、マッド・トレジャーは笑いを収めると上機嫌そうな表情から一転して不愉快そうな表情を浮かべる。

 

「…なんだその顔は…。気に入らねェな」

 

 ギュッと拳を握り締めると、ヒスイの身体を拘束していた鎖がヒスイの身体を締め付ける。

 

「…っ!?」

 

 その締め付けにヒスイは苦悶の声を漏らし顔を俯ける。その様子にマッド・トレジャーは再び上機嫌そうな表情に戻るも、「…ククク」と笑うヒスイの声が届きまたしても眉を顰める。

 

「…テメェ…何笑ってやがる…?」

 

 マッド・トレジャーは険しい顔をしながらヒスイを睨み付けると、ヒスイは俯けていた顔を上げマッド・トレジャーを見上げる。

 

「いや、悪いな。もうすでに勝負に勝った気でいやがるお前を見てると凄く滑稽でな…思わず笑いがこみ上げてきてな…――」

 

「アァ…?」

 

 ヒスイの言葉にマッド・トレジャーの額に青筋が浮かぶ。そして先ほど以上に拳を握り締めると、ヒスイの身体を拘束する鎖の力が上がり、先ほどとは比べものにならない凄まじい力でヒスイの身体を絞め上げる。

 

「…テメェ状況が分かってねェみてェだな…。その鎖は俺の能力で作ったモノだ。意味、分かるか? テメェなんざいつでも絞め殺す事ができるって意味だ」

 

「…状況が分かってねェのはお前ェだよ。もうすでにお前有利の状況など終わった」

 

 マッド・トレジャーは能力を使いヒスイを脅すも、ヒスイは特に苦しむ様子を見せないどころか、その様な事を宣う。その事に自分の能力が効いていないと知ったマッド・トレジャーは盛大に目を見開く。

 そしてヒスイはそこで突如、その口角を吊り上げると僅かに赤く染まる瞳で続ける。

 

「…いや違うか…そもそも、お前有利の状況など最初から存在すらしていない、と言った方が正しいか。…それからこの程度の拘束でいつまでも…オレを…七聖剣を…本気で拘束できると思ってんのかこの鎖野郎ォ!!」

 

 ヒスイが吼える。すると突然と薄緑色の爆炎が彼を包み込む。その突然の爆炎にマッド・トレジャーは驚きヒスイから距離を取り、後ろへ後退する。

 そしてヒスイを拘束していた鎖は爆炎により焼き切れ、砂浜へと力なくジャラジャラと音を立てながら落ちる。鎖が全て焼き切れると爆炎が虚空へと消えた。

 あれほどの爆炎が突如発生し自分の鎖を焼き切った事やその爆炎の中から現れたヒスイが全くの無傷だという事が、マッド・トレジャーにとっては信じられない光景であった。

 

「さて、次はこちらが攻める番だ」

 

 そんなマッド・トレジャーの態度にヒスイはその赤く染まりつつある瞳で射貫くと七聖剣を持ち上げ妖気をその刀身へと収縮させる。

 

「――ハッ!!」

 

 そして気合一閃で放たれた爆炎を纏った巨大な妖気の斬撃がマッド・トレジャーに放たれた。

 マッド・トレジャーはその一撃は防げないと判断したのか素早くその場に転がり込みながら回避する。そしてヒスイが放った妖気の斬撃はそのまま砂浜を駆け抜け、停泊中のマッド・トレジャーの海賊船へと迫った。

 そしてヒスイの放った妖気の斬撃は誰にも邪魔される事なくトレジャー海賊団の巨大な帆船を一刀両断する。

 

「なっ…!? 鋼鉄と宝石で固められた俺のシャークエメラルダ号が…!?」

 

 帆船が両断されるなどという信じられない光景にマッド・トレジャーは今まで以上に驚きを顕にした。海賊船シャークエメラルダ号が両断された事により、その海賊船の中で待機していた海賊達の悲鳴が聞こえる。それによく目を凝らしてみると両断された箇所から緑色の火の手が上がり、船を燃やさんと轟々と燃え盛り始めていた。

 そしてそんな惨状を作り上げたヒスイはと言うと、

 

 

「――――、…………ああァァァッッ!!!? しまったァァァッ!!!? オレが使う(予定だった)船がッッ!!」

 

 

 両断され燃やされ始めている海賊船を眺めてその様な叫び声を上げる。

 最高潮に達する高揚感のせいで、どうやら周囲の事などまるで頭に入っていなかった様だ。

 

 ヒスイは暫く呆然とした表情で眺めていると、いつの間にか赤く染まりつつあった瞳は元に戻っていた。

 そして次第にその顔に怒りの表情を浮かべマッド・トレジャーに喰ってかかる。

 

「おいコラ鎖野郎お前ェェ!! お前がオレの攻撃を避けやがるから船に攻撃が当たっちまったじゃねェかッ!!」

 

 ブンブンと七聖剣を振り回しながら理不尽な事を言うヒスイ。対するマッド・トレジャーはヒスイの言葉に反応すら示さず、ただ燃えゆく自分の海賊船を眺めていたが、次の瞬間にはその顔に不気味な笑みを張り付けていた。

 

「ジャラララ…ジャラララッッ!! ジャッララララララ!!! スゲェ刀だなおい!! 帆船を両断するとは信じられねェッ!! 益々ほしくなったぜその刀!! ジャラララ!! ジャララララララッッ!!」

 

 狂った様に笑うマッド・トレジャーの姿に、理不尽な怒りを抱いていたヒスイも漸く平静になり、静かな瞳でマッド・トレジャーを見つめる。

 暫し、砂浜にはマッド・トレジャーの笑い声だけが響き渡っていたが、突如として急に笑い声を収めると、狂気に染まった視線をヒスイに向ける。

 

「これだ、この感じだ! トレジャーハントの醍醐味は強敵との獲物の奪い合い!! その瞬間が最高に燃えるぜェェ!! マッドチェーン・ギガンティア!!」

 

 掌から鎖を出すと、それを全身に鎧の様に纏いマッド・トレジャーはヒスイと対峙する。あれほどの一撃を見ても尚、その戦意は薄れる事はないどころかさらに燃え盛っている様だ。そんなマッド・トレジャーの狂気に染まったその姿にヒスイは溜息を吐くと無言で七聖剣を構える。

 すると、構えた七聖剣の刀身の天文が埋め込まれた7つの宝石が、妖しい輝きを放つと妖気がヒスイの身体を踊る様に纏い始めた。

 

「ジャララララララァァァァッッッ!!! 死ねェ小僧ォォ!!!」

 

 そしてマッド・トレジャーはそんなヒスイの姿に狂った様な笑みを浮かべながら鎖で強化された身体で全力で砂浜を蹴り、ヒスイへと襲い掛かる。

 対するヒスイも妖気により強化された身体で全力で砂浜を蹴ると、マッド・トレジャーへと斬りかかる。

 

 

「……ガッ!?」

 

 全身に鎧の様に纏った鎖が紙の様に容易く斬り裂かれ、マッド・トレジャーは盛大に血しぶきを上げながらその場に倒れ伏した。

 

 そして、余りにも呆気なく、決着は一瞬でついた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 ヒスイは暫く無言で倒れるマッド・トレジャーに視線を向けていたが、もう起き上がってくる様子がない事にふぅぅと一息吐く。そして七聖剣を背中に背負い鞘へと納めると、視線を両断された海賊船へと向ける。

 どうやら火の手はもう収まっている様だが、あれではもはや使いものにならない。

 これはかなりの予定外だ。どうしようかと思わず黄昏ていると、聞き覚えのある二人の少女の声が届いた。

 

「…強いのねアンタ。あのトレジャー海賊団を相手にここまで一方的だなんて、夢でも見てる気分だわ」

 

「それに帆船を両断するなんて、もはや人のなせる業じゃないわ…この目で見てなかったら到底信じられない話ね、ウシシ」

 

 ヒスイはそちらに視線を向けると、そこには彼を囮に森へと一目散に逃げ出したハズのオレンジ髪の少女とボーイッシュな少女がいた。

 

「あ、…お前らは」

 

 そんな二人に視線を向けたヒスイは僅かに目を見開く。てっきり自分を囮にしたっきり戻ってこないと思っていたからだ。

 

「あの時は囮にしてごめん。あたしも逃げるのに必死だったの。でもアンタ本当に強いわね。あたしは海賊専門の泥棒ナミっていうんだけど、あたしと手を組まない?」

 

「…海賊専門の泥棒?」

 

「そう。アンタの強さなら大物海賊も十分狙えそうだし、分け前だって――」

 

「ウシシ、やめた方がいいわよ。ナミと組んでも大した分け前も貰えず捨てられるのがおちよ。それより私と手を組んだ方が大儲けできるわよ?」

 

「ちょっとカリーナ! 勝手に話に割り込まないでくれる! 大体それはこっちのセリフよ! 大した取り分もなく捨てる気なのはアンタでしょうがこの女狐!!」

 

「なにさこの泥棒猫!! 貴女こそ彼を言いように利用するだけ利用して今回みたいに囮にでもする気なんでしょう!!」

 

「アンタだって囮にしてたじゃない!!」

 

 そこで二人の少女ナミとカリーナはヒスイをそっちのけで互いに悪口を罵り合い、口喧嘩をしながら取っ組み合いを始めてしまう。

 

「…なんだこいつら?」

 

 そんな彼女達の姿を呆然とした様子で眺めながらヒスイはその様な事を呟いた。

 これが泥棒猫ナミと女狐カリーナとの出会いだった。

 

 




ナミがいる事から皆さんすでに気付いていると思いますが、ヒスイがいるこの海は
『偉大なる航路(グランドライン)』ではなく『東の海(イーストブルー)』です。
彼がそれに気づくのもう少し先になりそうです…。

あと、早くもストックが尽きたので、次回からは超不敵更新になります。


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5ページ目 同盟とそれから…

遅くなって申し訳ない。思った以上に時間がかかりましたが、何とか小説を投稿する時間が出来たのでこれからボチボチ再開していきます。

久々に書いたせいという事もあるかもしれませんが、もしかしたら以前までと少し書き方が変わってしまってるかもしれませんが、そこは余り気にしないでください。


あと、誤字報告ありがとうございました。


 

 

 

 

 ○月◎日 晴れ

 

 

 

 

 

 さて、なんだかこうして日記を書くのはかなり久しぶりな感じがする。

 と言っても最後に日記を書いたのは数日前なので、それは感覚的な話であり実際は別に久しぶりでも何でもないのだが、まぁそれだけこの数日間はオレにとって濃密な時間だったという事なのだろう。

 …と、そんな前置きはさて置き、ここからが本題。

 

 まず、この数日の間で漸く状況が動いたのだ。

 取りあえず、現状確認の意味も兼ねてこの数日間に起こった出来事や判明した事実を書いていこうと思う。

 そうだな…、まずはオレがあの鎖野郎(確かなんとかトレジャー)が率いていた海賊団と戦闘になった所から順序よく書いていくとしよう。

 

 

 その日もいつもの様に無人島から脱出する為に、大海原が見渡せる砂浜へとオレは向かっていた。

 ただその日がいつもと違ったのは沖に巨大な海賊船が停泊していた事と、砂浜にその海賊船の乗組員であろう男達とそんな男達に取り囲まれている二人の少女がいた事だろう。

 

 どうやらその少女達はその海賊達のお宝目当てに忍び込んだ泥棒の様で運悪く海賊達に見つかってしまい大ピンチといった状況だった様だ。で、そんなお取込み中の時にオレが彼らの元に現れてしまった。

 そして偶然現れたオレを利用し少女達はオレを囮にしてそのまま逃げ去ってしまう。そして残されたオレは当然の様に襲い掛かってくる海賊達と戦闘する羽目になる。

 

 だが、最近なにかと荒事に慣れてきたお陰か彼らを撃退する事はそう難しくなかった。

 …彼らが予想以上に弱かったというのもあるが。

 それでも海賊達の中に“悪魔の実”の能力者がいた時は少し焦った。しかもその能力者であるサンゴ頭の鎖野郎はどうやらオレの持つ七聖剣に興味を持った様で実力差を示しても諦める事がなく面倒な男だった。

 

 しかし、そこはさすが七聖剣としか言いようがない。何だか七聖剣からいつも以上に妖気が溢れ出したかと思えば身体がものすごく軽くなり、一撃でその鎖野郎を沈めたのだから。

 

 と、そんな感じで鎖野郎の海賊団と不本意ながら彼らの帆船をブッタ斬って一息ついていると、オレを囮にして逃げた二人の女泥棒のナミとカリーナが姿を見せる。もう戻って来る事はないと思っていたのだが、再びオレの前に現れた時は少し驚いた。どうやら彼女達は勝手に囮にした事に対して一応の罪悪感は持っていたらしく様子見がてら戻って来たそうだ。

 そんな彼女達の姿に根はいい奴らなのかもしれないとそう思った。

 

 

 そして、その後が、まぁ…なんだ面倒な話になったんだ。

 どうやら彼女達はオレと鎖野郎の戦いを見ていたらしく、オレの異常な強さに目を付けた様で、一緒に海賊から宝を盗み大儲けしないか? 的な事を二人から誘われた。何でも彼女達は海賊専門の泥棒らしくオレと手を組めば、大物の海賊が相手でも十分通用すると判断したらしい。

 

 とはいえ、オレが彼女達に何か返事を返すよりも先にナミとカリーナの二人は「私が彼と手を組む」と張り合い、次第に悪口に変わり、果てには売り言葉に買い言葉と言った感じでキャットファイトを始めてしまう。

 

 どうやら二人の間にはそれなりに因縁がある様で「アンタはさっさと帰んないさいこの女狐!」だの「貴女こそ早く彼から手を引きなさいこの泥棒猫!」などと口走りながら暫しの間、醜い(?)女の戦いを繰り広げていた。

 

 そんな二人の姿をしり目に溜息を吐き、さて、これからどうするかなと思考を巡らせ空を仰ぎ見ていると、いつの間にかキャットファイトをやめていた彼女達は、互いに難しそうな表情で見つめ合いながら、「諦める気はないようね。ホント業突く張りなんだから」や「それはこっちのセリフよ」などと言った声が聞こえてきた。そしてそのすぐ後に「このままじゃいつまでも平行線ね。なら同盟を組みましょ」とナミが言いカリーナがそれに頷く。

 互いに不服そうにしながらも握手を交わし分け前も4:3:3という形で一応の話しはついた様だ。

 …ちなみに4はオレだそうだ。

 

 と、そんなこんなでナミとカリーナは二人していい笑顔で「じゃあそういう事で一緒に荒稼ぎするわよ!」などと宣ってきた。

 

 …おい、お前らオレの意見はどうした?

 なんか勝手に決められてるが、オレはまだ一言もお前らと手を組むなんて言った覚えはないからな…。

 

 面倒な事になってきな。とオレが再び溜息を吐こうとした時、そこでふと、そういえばこいつらって船を持ってるのか? という疑問が湧いてきた。

 オレが彼女達に船は持っているのかとそう尋ねると二人は頷き、いざとなった時の為に逃走用の小舟をそれぞれオレ達のいる丁度反対側の砂浜に止めていると言ってきた。

 そこまで聞いたオレはついでとばかりに二人に航海術は持っているかと尋ねると、二人は頷く。特にナミの方は自信満々に頷いていた。

「そんじょそこらの航海士と一緒にしないでくれる」なんて言っていたので相当自身を持っているようだ。

それを聞いたオレは小さくガッツポーズを取る。これで漸くこの無人島から脱出できる要素が揃ったからだ。

 と、まぁそんな訳でこの島から脱出できるなら彼女達と手を組んでもいいかもな、などと思った。

 

 取りあえず、彼女達にはオレの分け前はそこまで多くなくてもいいから、アスカ島まで送ってくれるなら手を組んでもいいぞ、とそう伝えると、二人は「アスカ島って、もしかしてあの宝島の!?」と何やら驚いた様な表情を浮かべていた。

 

 その反応にオレは意味が解らず首を傾げそうになるも、そういえば七聖剣や宝玉は一応上等な宝だったな、という事を思い出し納得する。

 

 …宝玉の方は兎も角、今の七聖剣は“呪い”が追加されている為、そんな上等な宝ではないと思うが。

 まぁそれは兎も角、海賊専門とはいえ、流石は泥棒というだけあり彼女達もアスカ島の「お宝」には興味津々の様で、快く了承してくれた。

 そのお宝の一つは今オレが持ってるんだがな…。

 

 とはいえ、これで漸くアスカ島に帰る目途が立った。ここから当初の予定通りジャヤでアスカ島の永久指針(エターナルポース)が買えさえすれば文句はないが、買えなかった場合は……、その時考えるか。

 

 すると、そこで突然ナミが何故アスカ島を目指しているのかと尋ねてきた。

「やっぱり目当てはアスカ島の宝なの?」と質問される。別に隠す様な事でもない為、アスカ島はオレの故郷だからだと正直に答えると、彼女達は「アンタ偉大なる航路(グランドライン)出身なの!?」と非常に驚かれた。だが、次第に「なるほど、道理で化け物じみた強さのハズだわ…」とどこか納得した様な表情でそう呟かれた。

 そんな彼女達に対してオレは思わず「ん?」と首を傾げる。彼女達のセリフに違和感を持ったからだ。

 しかし、その時のオレはこの無人島から出れる喜びにまぁ別にいいか、とその違和感を棚上げしてこの島から出る準備に取り掛かった。

 

 そしてその後、彼女達の船に乗り込み、オレはついにあの無人島から脱出した。ちなみに島を出る前に彼女達は当初の予定通りあの鎖野郎の海賊団からお宝を全て奪った為か、かなり上機嫌だ。

 彼女達はこれからどうするのかと、オレに尋ねてきたので、取りあえずはジャヤを目指しそこでアスカ島の永久指針(エターナルポース)を買う予定だと、二人に告げると、二人は揃って「永久指針(エターナルポース)?」と言って首を傾げてしまう。

 その姿にオレは困惑してしまう。まさか知らないのか? 偉大なる航路(グランドライン)を渡る航海者は皆、この永久指針(エターナルポース)、もしくは記録指針(ログポース)を持っているハズだが…。

 そしてこの偉大なる航路(グランドライン)では誰でも知っている当たり前の事をオレは思わず二人に尋ねると、彼女達の口から驚愕の事実が発覚した。

 そしてオレは漸く彼女達のセリフの違和感に気付き、知る。

 

 

 

 ここは『偉大なる航路(グランドライン)』ではなく『東の海(イーストブルー)』であるという事を。

 

 

 

 

 

 ……、え? マジで?

 

 

 

 

 

 ○月×日 曇りのち嵐

 

 

 

 

 

 驚愕の事実が判明した翌日。

 つまりオレが今いるこの海が『偉大なる航路(グランドライン)』ではなく『東の海(イーストブルー)』だと発覚した次の日の事。

 

 オレはその日改めてナミがとんでもなくすごい航海士だと知った。

 事前に波の動きや風の気温からスコールや嵐の気配を察知する力がずば抜けており、さらには体で天候を感じ取る事ができるという天性の才能を持っていたのだ。

 

 それが偉大なる航路(グランドライン)の不規則な気象を相手に通用するかはまだ分からないが、少なくともこの東の海(イーストブルー)では間違いなく彼女の右に出る航海士はいないんじゃないかと言う程である。

 ナミさんパネェっす。

 そしてカリーナの方もナミと比べると多少は劣ってしまう所もあるが、それでも優秀な航海士には違いなかった。

 彼女達と手を組んだのはもしかしたら正解だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 ○月▽ 晴れ

 

 

 

 

 

 ナミとカリーナの二人に偉大なる航路(グランドライン)について色々と説明する事になった。

 何でこんな事になったのかというと、いずれ偉大なる航路(グランドライン)に入るんだから、ならその海の事を知っておくのは必要な事だそうだ。

 

 まぁ確かにその通りな為、オレは二人に偉大なる航路(グランドライン)のデタラメな磁気の事や突如発生する大型サイクロンの事やその海で航海するのに必要な永久指針(エターナルポース)記録指針(ログポース)の事を詳しく説明した。

 

 説明後、二人は「とんでもない所ね、噂以上だわ」などとぼやいており、オレの持っている永久指針(エターナルポース)に興味を示し、「これが偉大なる航路(グランドライン)での航海に必要なアイテムなのね」などと何やら関心していた。

 

 まぁ説明や知識も大事だが、まずはそれよりも、船をどうにかしないとな。

 こんな装備のない船じゃあ偉大なる航路(グランドライン)はおろかリヴァース・マウンテンすら超えるのは難しいだろう。

 取りあえず、偉大なる航路(グランドライン)に入る前にどこかの島で船を買い替えるか…。

 

 

 

 




明日も投稿予定


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6ページ目 新聞記者と後の火拳

今回の話しから原作崩壊していきますのでご注意を。


 

 ○月●日 晴れ

 

 

 

 ナミとカリーナの二人に偉大なる航路(グランドライン)の説明や知識を与えた翌日。

 オレ達はとある島の町にたどり着いた。

 食料やその他の物資の補給も兼ねてその町に立ち寄ると、その町は今現在、海賊の襲撃に合っていた。

 海賊達は大砲などで民家を破壊したり、金品を奪ったりと好き勝手な事をやっており、その町は海賊達の手によってなすがままに蹂躙されていた。

 

 そんな海賊達の姿に何やらナミがものすごく厳しげな表情を浮かべており、オレとカリーナの顔を見ながら

「助けましょ」と呟いた。

 オレとカリーナも当然その言葉に大きく頷く。

 何より町民を襲っている海賊を見ると10年ほど前にオレの故郷を襲ったあの海賊達の姿をどうしても思い出してしまうのだ。だからナミの言葉がなくても助けに行っていただろう。

 

 と、そんなこんなで町を襲っている海賊、”三日月のギャリー”が率いる一味と一戦交える事になった。

 

 突如乱入してきたオレ達にギャリー達は「何者だテメェら!?」と叫びながら睨みをきかせ、

「俺が誰だか解ってんのか! 懸賞金500万ベリーの”三日月のギャリー”様だぞ!!」

 と何やら大変騒いでいたが、オレはそのギャリーの言葉に思わず間の抜けた顔をしてしまう。

 

 ……懸賞金500万って、低すぎだろ…、と。

 

 だが、よくよく考えればここは東の海(イーストブルー)

 懸賞金アベレージが300万程度のこの海では500万はそれなりに高額な方なのだろう。今まで5000万前後の賞金首とばかり戦っていたオレからすればやはり低すぎる金額だが…。

 

 そして当然、その程度のヤツがオレとマトモに戦える筈もなく、オレは一瞬でギャリーと近くにいた幹部らしき彼の部下達を斬り捨てる。予想以上に呆気なくついた決着に残りの部下達は何が起きたのか理解できずに呆然としていたが、すぐに自分達の船長や幹部達がやられた事を理解したのか彼らは一目散に逃げ出していった。

 

 オレはそんなまるで歯ごたえのない海賊達に思わず溜息が出る。これならまだあの鎖野郎の方が何十倍も歯ごたえがあり強かった。そう思うとあの鎖野郎はこの海では相当な実力者だったのかもしれない。

 

 

 因みにナミとカリーナの二人はオレがギャリー達と戦っている最中に、彼らの海賊船に忍び込み船番を撃退したあと、お宝を盗んでいた様だ。

 彼らが撤退する少し前に船から出てきてお宝がギッシリと入った袋を手に持ってニコニコと満足そうな顔で現れた。

 

 …ていうか、おいナミ。助けようと言ったのはお前だろう。なのに戦いは全部オレに丸投げか?

 

 オレがその様な事を呟くと、ナミは当然でしょと言いたげに胸を張る。

 何やら「アンタの強さを信頼したのよ」だとか「元々はそういった契約でしょ」などと口を開く。

 いや、まぁ…確かにそうだが…。

 何やら都合のいい様に言いくるめられた感が拭えないが、そんなこんなでオレ達は町から海賊達を撃退したのだった。

 

 

 その後、その町の町長さんや市民の皆さんがお礼をしに現れて、その日はその町の人達と共に歓迎とお礼の意味も兼ねた宴会が開かれ、その宴会は夜まで続いた。

 その宴会の中で少し驚いたのが、ナミとカリーナの二人が意外と酒豪だった事だろうか。歳はオレとそんなに変わらないのに町の男達と飲み比べに参加していたのには目を見張った。

 

 …どうでもいい余談だがオレは酒が飲めなかったりする。

 

 とまぁそんな感じで男達と飲み比べしていた二人なのだが、いつの間にか、最後までダウンせずに飲み比べで優勝した者には賞金10万ベリーを付与! という勝負事に発展していた。

 

 そんなかなり張り切っている二人をしり目に、オレは町長さんに改めてお礼を言われながら、この島にはどういった目的で訪れたのかと聞かれたので、食料やこの先の航海に必要な物資の補給、あとはできれば船の買い替えなどが目的だと話すと、町長さんは一考する間もなくそれら全てをタダで差し上げますという随分と太っ腹な事を仰ってきた。

 

 え? マジで? ホントにタダでいいの? と思いながらも無駄な失費も抑えられるし、せっかくの好意を無下にするのもアレなので遠慮なくいただく事にする。

 

 それから暫くしたあとにオレの元に完全に酔っ払ったナミとカリーナが現れた。酔ってる彼女達の相手をするのは少し面倒だったが、久々に楽しいと思える一日だった。

 

 

 

 そしてその翌日、オレ達は町長さんからの好意で貰った大量の食糧とその他諸々の航海に必要な物資、それから小型の帆船を貰い町の人達から見送られながら出航した。

 

 

 

 

 

 ×月○日 晴れときどき黒猫……

 

 

 

 

 その日はちょっとした出会いがあった。

 いつもの様に偉大なる航路(グランドライン)へ向け航海していると、前方の海上で一隻の海賊船が停泊していた。

 その海賊船は船首が黒猫で海賊旗にも猫のマークが入っており、随分と猫を強調とした海賊船だった。その事からもしかしたらその船に乗ってる海賊達は無類の猫好き集団なのかもしれない。

 

 オレがその様な事を考えていると、ナミがその海賊船の海賊旗を見て「え? もしかしてあのマークってクロネコ海賊団!?」と驚きの表情を浮かべる。

 ナミの驚き具合から言って結構有名な海賊なのか? とオレがそう疑問に思っているとその疑問に答えるかの様にカリーナが説明してくれた。

 

 なんでも彼らはこの東の海(イーストブルー)ではかなりの大物海賊団であるらしく、船長の”百計のクロ”はその首に1600万ベリーの賞金首を掛けられているらしく、緻密(ちみつ)な計略のもとに略奪などの犯罪行為をする知能犯として有名らしい。それと同時に部下を容赦なく切り捨てるかなりの冷酷な男とも知られているそうだ。

 

 と、そんな話を聞いている内にその”百計のクロ”が率いる海賊船との距離が徐々に近づいてくる。そして近づくにつれ、何やらギター? の音らしき楽器音と男達の叫び声の様なものが聞こえて来た。

 

 その事からもしかして宴でもしてるのか? とその様な事を一瞬思ったが、すぐにその考えを打ち消す。

 何故なら男達のその声は楽しげなものではなく、その逆。怒声や悲鳴に近いものだったからだ。

 その上さらには、

「ホント使えねェ奴らだ! テメェら全員皆殺しだ!」

 という殺意に染まった声や

「ヤベェーつうの! だが俺の取材は体当たりだベイベー!」

 という覚悟を決めた様な声が聞こえて来たからだ。

 

 どうやら誰かがクロネコ海賊団と交戦中の様だ。

 さて、どうしようか。今なら彼らの船の前を横切ったとしてもそのまま素通りできるかもしれないが、後ろから二人の女泥棒達が「どうやら誰かと交戦している様ね」とか「このままじゃもしかしたらそいつにあたしのお宝が奪われちゃうかもしれないわ」だの「何言ってるの私()のお宝でしょ!」などと言った声が聞こえてきて、しまいには「という事で、さァ行くのよヒスイ!」とオレに全て丸投げしてくる。

 

 ……まぁ、なんとなくそう来るとは思っていたさ。

 非常に面倒だが、彼女達との契約では戦闘はオレが基本的に受け持つという契約を交わしている上、一応アスカ島まで送ってもらっている立場の為、仕方ないとオレは溜息を吐きながら彼女達の指示に従う。

 

 そこからオレは七聖剣を鞘から抜き放ち、妖気で身体を強化して駆け出す。そして跳躍して敵船へと潜入する。するとそこには切り傷を付けられ血まみれになって倒れる者達の姿があった。苦痛の呻き声を上げている者や気絶しているのか死んでいるのか解らない者までいた。

 

 そして現在、船上に立っているのはハート形のサングラスを掛けている男(何やら顎に変なシマシマな突起が生えていた…)と、血を流しながらもエレキギターを構えている金髪グラサンの青年、そして丸メガネを掛けたオールバックの人相の悪い男だった。

 

 その丸メガネを掛けた男は両手に手袋をはめており、その両指の部分には刃がついている。その刃からポタポタと血が流れ落ちている事からこの船の惨劇はこいつがやったのだろう。

 

 当然、突然のオレの登場に彼らの視線が向けられる。

 そこで丸メガネの男――たぶんこいつが”百計のクロ”だろう――が「なんだ貴様は?」と低い声で尋ねて来る。

 その質問にオレは「…泥棒はあいつらだし…賞金稼ぎ…って訳でもないしな…取りあえず泥棒娘達の用心棒だ!」的な事を応えると、”百計のクロ”は「そうか…まぁ貴様がどこの誰だろうが関係ない。この船に居合わせた以上貴様にも死んでもらう」と言ってきた。

 

 いや、なんでそうなる。すごく思考回路がぶっ飛んでるぞこいつ…。

 

 まるで会話にならない事にオレは眉を潜めるも、周囲の状況とカリーナの話しからマトモな野郎じゃない事だけは改めてよく解ったので、取りあえず予定通り叩き潰す事にした。

 

 

 そしてその後、”百計のクロ”と戦闘する事になったのだが、こいつの実力は先日の”三日月のギャリー”よりかは断然強く、あの鎖野郎と比べると少し弱いと言った程度だった。

 しかし、速度でいえばあの鎖野郎よりも速く、それこそ速さだけなら偉大なる航路(グランドライン)でも十分通用するレベルではないだろうか? 少なくともオレが出会った奴ら中ではこいつが一番速かった。

 

 と、そんな理由でこいつの速度に虚を突かれてしまったが、それだけだ。スピードはあってもパワーはないのかヤツの攻撃は妖気を纏ったオレの身体を傷つける事ができなかったのだ。

 その事にヤツは盛大に驚いていた様子で「貴様一体何をした!?」と取り乱していた。

 その後オレは妖気で強化した身体で”百計のクロ”に迫るも速度でいえばヤツの方がやはり速い為、オレの攻撃は悉く回避される。

 そんな攻撃を繰り返しながら「クソッ、こいつの動きを何とかできないもんか…」とそう悪態を吐きながらつい呟くと、そのオレの声に反応する様に七聖剣の刀身に埋め込まれた7つの宝石と天文が妖しく光り、妖気が溢れ出す。

 そしてその妖気は逃げ回るヤツを捕縛したのだ。

 

 七聖剣ってこんな事も出来たんだなぁと流石にそれには驚いたわ。

 まぁ、それでもヤツの方はオレの何倍も驚いていたが。

「なんだこれは!?」とか「まさか“悪魔の実”の能力者なのか!?」などと叫びながら妖気の捕縛から逃れようと必死に抵抗していたが、抜け出す事は出来ず、そのまま七聖剣でヤツをブッタ斬った。

 

 その光景に今まで黙って戦闘の成り行きを見ていたハート型のサングラスをした男が「ウソだろ!? あのキャプテン・クロがやられた…!?」と愕然とした驚きを現していた。そしてエレキギターを持った金髪グラサンの方は「ワッツ!? すっげェつうの!」という純粋の驚きを示していた。

 

 オレはハート型のサングラスをした男に「交戦を続けるか?」と尋ねると、その男は青い顔をしながら「い、いやこっちはアンタに敵対の意志はねぇ」と両手を上げながら降伏を宣言していた。

 

 

 その後、いつの間にか船内に潜入していたナミとカリーナの二人がホクホク顔で現れたり、エレキギターを持った金髪グラサン、名前はロッキー・ハッタリ―というらしく、彼から「サンキュー助かったぜベイベー」とお礼を言われた。

 

 どうやら彼はブルーベリータイムズ社に所属する敏腕新聞記者らしく(普通自分で敏腕っていうか…?)、現在は東の海(イーストブルー)に単身出張しており、海賊達に取材して回っているそうだ。

 何でもロッキーは自由に海を翔ける者達に憧れを持っている様で彼らのありのままの姿を新聞に描きたく海賊達に取材をしているそうだ。

 

 そしてそんな中その取材中に”百計のクロ”の地雷をを踏んでしまい、危うく殺されそうになっていた所にオレが駆け付けて九死に一生を得たとの事。

 

 …そんな話を聞いていて海賊相手に取材とかよくやるな、とオレは本気でそう思った。

 

 するとロッキーが「あの”百計のクロ”を倒したアンタの強さしびれるぜぇ! 取材OK?」と何やら興奮した様子でオレに尋ねてきた。

 

 するとオレがその言葉に何か応えるよりも早くにナミとカリーナの二人が先に口を開き「ヒスイに取材? いいわよ、だけど高くつくわよ?」とオレの意見を完全に無視し勝手に取材を了承してロッキーと交渉を始める。

 

 …いや、別に取材ぐらいはいいんだけどよ…。せめてオレに何か一言あってもいいんじゃないか? お二人さん。

 

 何だか最近遠慮がなくなってきた二人に呆れつつも無事に交渉が成功したのかナミとカリーナは満足そうに頷き、オレは溜息を吐きながらロッキーの取材へと応じた。

 

 

 そして取材後、ロッキーは「こうしちゃいられねェ! 早速本社に戻らねェと!」とオレの取材を切り終えると楽しそうな声音で「アンタの事、我がブルーベリータイムズ社の新聞で大々的に取り上げとくから、期待しといてくれよな!」と妙に張り切った様子でサムズアップしてきた。

 そうしてロッキーは大急ぎで本社へと帰って行った。

 

 

 そしてロッキーが去った後、ナミが思った以上にお宝があって三つに分けたから一つ持ってくれない? と言った為、お宝が入った袋の一つを持ちそのまま自分達の船へと戻る。

 

 その戻る最中に唯一、一人だけ生き残っていた船員であるハート型のサングラスをかけた男は

「…もう海賊やめようかなぁ」などと呟いていたのが聞こえてきたような気がした。

 

 まぁ何はともあれ、こうして再び偉大なる航路を目指して航海は続く。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 白い雲が風に流れ、燦々と太陽が輝く。

 波も気候も穏やかであり、カモメが気持ちよさそうに飛んでいるある日。

 

 甲板に寝転がりながら欠伸をする翠色の髪をした少年が船に追走する形で飛んでいるカモメを視界に収めながら眠たげな(まなこ)で追っていた。

 

 そんな彼の名前はヒスイ。

 つい数週間前まではただの一般人であった筈の少年だ。だが、自身の中にあるちょっとした好奇心のせいで今現在は一般人が経験するには少々過酷な状態に陥っていたりする。まさに好奇心は猫をも殺すと言った所だろうか。…彼がそのまま命を落とすかどうかは不明だが。

 まぁ、何はともあれ完全に自業自得な結果である。

 

 そしてそんな彼にとって全ての原因でもある七聖剣は、現在甲板で寝転がっている彼の真横に立て掛けられていた。すぐ隣に立て掛けられているのは突然の襲撃にも対応できる様にする為だろう。

 

「………」

 

 ヒスイはその後も何をするでもなく、暫くカモメを眺め続けていたが、次第にその両の瞼がゆっくりと閉じられていく。だが、すぐに近づいてくる気配に気づき、ヒスイは瞼を開けてその気配の元に視線をチラリと向ける。

 

 するとそこには毛布を持ったボーイッシュな雰囲気の少女、カリーナがいた。

 その手に持っている毛布から推察するに、どうやら彼女はヒスイが寝てると思った様で、彼に毛布を掛けようとしたのだろうが、その前にヒスイが目を覚ました為にどこか手持ち無沙汰な感じであった。

 

「…もしかして、起こしちゃった?」

 

 だからだろうか、そんな自分を紛らわせる為にその様な解りきった事をついつい口に出してしまったのは。

 そのカリーナの言葉にヒスイは当たり前の事だが、そんな彼女の心情など知る由もなく、普段通りに口を開く。

 

「いや、元々寝てた訳じゃないさ。どちらかと言えばこれから寝ようと思っていた所だな」

 

 ヒスイの言葉にカリーナは少しタイミングが早かったようね、と苦笑しながらそう呟き、毛布を彼の隣に置く。

 そんな彼女の姿にヒスイは「…意外に優しいんだな」と小さな声で彼女に対する感想を呟く。その声が聞こえたのかカリーナは不敵な笑みを浮かべながらヒスイを見下ろす。

 

「意外は余計よ。とはいえ、貴方には色々と儲けさせてもらってるからね。これぐらいのサービスはしてあげるわよ」

 

 何やら意味ありげにウインクをしながらカリーナは船内へと歩き出す。

 そんな彼女の背中に「毛布、ありがとな」とヒスイが素直にお礼を言うと、彼女の足が一瞬停止するもすぐにまた歩き出し、そのまま船内へと消えた。

 ヒスイはその毛布を身体に掛けそのまま瞳を閉じ、今度こそ夢の世界に旅立った。

 

 

 

 

 

 時刻は昼過ぎ。

 

 睡魔に襲われ、あれから1時間と少しの間、ヒスイは甲板でうたた寝をしていたが次第に目が覚めていき、完全に意識が覚醒した時にはもう既に昼食が出来上がっている時だった。

 料理の匂いが風に流れて彼の鼻腔をくすぐる。その美味しそうな匂いに彼の腹の虫が小さな音を立てて鳴く。

 

 ヒスイは起き上がると、真横に立て掛けていた七聖剣を持って船内へと入る。

 そこではナミとカリーナの女子二人が料理をテーブルに運んでいる姿が見受けられた。

 

 因みに料理はナミとカリーナの二人が当番制で作っている。ヒスイがその料理の当番制に入っていないのは、別に彼が料理が出来ないだとかそんな理由ではなく(とはいえ料理が得意という訳でもないが…)、彼女達と交わした契約によるものだ。

 簡単に言えば、ヒスイが戦闘の全てを請け負う代わりにナミとカリーナは航海や家事などを請け負うと言ったものだ。

 

 と、そんなこんなでテーブルに並べられた料理を一つ一つ眺め、その料理の中にナミの得意料理である鴨肉のローストみかんソースがある事に気付く。どうやら今日はナミが当番の日の様だ。

 

 ヒスイはそのまま自分の席に着き、「いただきます」と食事を始める前の挨拶をして料理を食べ始める。因みにナミとカリーナの料理の腕は一流の料理人と比べても遜色ない程絶品であり、その料理業界でも十分通用するレベルである。つい数週間前とは比べられない程、変化した食生活であった。

 

 満足そうに料理を食べるヒスイにナミはふふっと少し嬉しそうに笑みを浮かべながら口を開く。

 

「こんな美少女の手料理が毎日食べられるんだからかなりの幸せものよね。本当なら有料なんだけど…まぁアンタには色々と儲けさせてもらってるから特別よ」

 

 ナミのその言葉にヒスイはどこかで似たセリフをつい1時間ほど前にも聞いたな、と苦笑を浮かべる。確かにナミもカリーナも世間一般で言えば十分な美少女であろう。契約とはいえ、そんな彼女達から手料理を作ってもらっているヒスイは確かに幸せ者なのかもしれない。

 

 ヒスイがそんなナミの言葉に対して何か言葉を発しようとした時、

 

 

「いやぁ、全くだ。こんな美味い手料理を毎日食べられるなんてアンタ相当な幸せモンだな。羨ましいぜ」

 

 

「そうそう、そういう事だからヒスイにはこれからももっと……、」

 

 ナミは突如割り込んできた男の声に満足そうに頷きながら、これからももっと稼ぎまくるわよ! と言葉を続けようとするもその言葉は最後まで口に出す事は出来ずに途中で止まる。

 

 そしてナミとヒスイ、カリーナの三人はその声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこにはナミの作った料理を美味しそうな表情で食べている一人の青年がいた。

 オレンジ色のテンガロンハットを被り、首に赤い首飾りを巻いたそばかすの青年。

 

 

「「「……誰?」」」

 

 

 ヒスイ達三人はその青年に向け同時に疑問の言葉をぶつける。

 すると、その青年は視線を三人へと向けると、突如立ち上がり、

 

 

「あ! こいつはどうもお食事中に失礼。何とも芳ばしい料理の香りに誘われてやって来た俺の名はエース。以後よろしく」

 

 

 と、ヒスイ達に向かって、礼儀正しく一礼した。

 

 

 




ロッキー・ハッタリ―………『トレジャーバトル』というゲームに出てくるゲームオリジナルキャラ。たぶん知ってる人は知ってると思う。


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7ページ目 悪魔の実と七聖剣の独白

思いのほか早く仕上がったので投稿します。


 

 

 ×月×日 晴れ

 

 

 

 

 

 今日は何だかちょっと変わった兄ちゃんと出会った。

 それはロッキーと別れた翌日の昼頃だ。ちょうど昼食をしていた時にその兄ちゃん、エースはどこからともなく食卓に現れては、遠慮なく料理を食べていた。

 

 その後、妙に礼儀正しく自己紹介をして、オレが一体いつの間にこの船に侵入したんだと彼に尋ねると、どうやら彼の船は航海中に大渦に呑まれてしまったらしい。

 だが、エースは何とか間一髪で樽の中に避難する事に成功した様で九死に一生を得たが、そこから暫く海を漂流していたそうだ。

 そんな中、美味そうな飯の匂いを察知し、その匂いを辿りながら無心に樽を進めていると偶然にもオレ達の乗るこの船を見つけたらしく、エースは一瞬の迷いもなくこの船に乗り込み、そのまま美味しい匂いを辿り食卓に現れた様だ。

 

 ……凄まじい生命力と嗅覚だな。

 

 オレはそんなエースに多少の呆れと関心を抱くも、ナミとカリーナの方は「アンタも人間離れしてるのね」と少し引いている様だ。

 まぁ普通大渦に呑まれたんなら確実に死ぬからな、それで生きてるエースは確かに色々と人間離れしているかもしれない……て、おい、お前ら「も」ってなんだ「も」って。

 何だか軽く流しそうになったが、オレは人間やめてるつもりはないぞ。

 

 オレが二人にそう講義の声を上げると、二人から何言ってんだこいつ? 頭大丈夫か? とでも言いたげな目で見られた。

 

 …いや、言いたい事は解るぞ。今までのオレの戦いぶりを視て来た二人がオレのその言葉を信じない事ぐらい。だが、これだけは言わせてもらうが化け物なのはオレではなく七聖剣の方だからな。

 なんか今まで言いそびれてたけど、オレ個人の実力なんてそこまで大した事はないぞ。アスカ島にいた時はラコスさんには一回も勝てなかったし、その辺の一般人よりも多少腕が立つ程度の実力しかないからな。

 今は七聖剣の呪いの源たる妖気を操り身体を強化する事で漸く戦える程度だし…。

 ……て、あれ? 妖気を操ってる時点でもうすでに人間離れしてね…?

 

 ま、まぁ兎に角、オレが人間離れしてるかどうかの議論は取りあえず横に置いておくとして、エースの船が大渦に呑まれた為、彼をどこかの島まで送っていく事になった。船がないのでは仕方ないという事でオレもナミもカリーナも異論はない。

 

 とそんな理由で、暫くの間、エースを入れた四人で航海する事になった。

 

 

 

 

 PS、

 その後、食事を再開したエースが食べてる途中に爆睡するという珍事件が起きたり、エースがまだ仲間はいないが海賊だと言ったせいでナミと少し険悪な雰囲気になったり、ナミとカリーナの二人が今頃オレの七聖剣の存在に気づき尋ねてきたりなど騒がしい時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 ▼月◇日 曇り

 

 

 

 

 

 エースと出会って数日。

 今度は30隻の海賊艦隊の襲撃に会った。何だかこうして問答無用で襲われるのは随分と懐かしい光景だな。それこそ偉大なる航路(グランドライン)にいた時以来だ。あの頃は海賊からも海軍からも賞金稼ぎからも人攫いからも襲われていた為、気が休まる日がなく参っていた記憶がある。

 

 で、今オレ達に襲撃を掛けてきたのはこの東の海(イーストブルー)で最大の勢力を誇るクリーク海賊団の様で、30隻の船と3000人のの兵力を誇っており、その船長のクリークは1700万ベリーの賞金首で”ダマし討ちのクリーク”などという異名を持っているそうだ。

 

 30隻の艦隊と3000人の兵力には驚いたもののそれが余り脅威と感じなかったのはやはり東の海(イーストブルー)レベルだったからだろう。

 それに脅威を感じていないのはどうやらオレだけではない様で、ナミとカリーナの二人は「これはお宝も相当期待できそうね」と妖しい笑みを浮かべており、エースに関しては自分の腕に自信があるのか「1700万か。こいつは腕が鳴るぜ」と好戦的な笑みを浮かべているだけで、その顔に恐怖はなかった。

 

 そんなこんなでオレ達は(オレとエースが)クリーク海賊団と戦闘を開始する。

 

 

 そして先に戦いの結果だけ言えば、オレ達の圧勝だった。

 

 相手の人数が多く少し鬱陶しかったが、七聖剣の妖気を駆使し身体を強化したり相手を捕縛したり斬撃を飛ばしたりとして蹴散らしていく。

 エースの方も拳や蹴りを使って相手を撃退し、敵の槍やら剣を奪いそれで苛烈な戦闘を繰り広げていく。そしてそんな戦闘を繰り広げる度にエースがとんでもない強さだという事を認識した。それこそ偉大なる航路(グランドライン)でも普通に通用するんじゃないかと思ったほどだ。

 

 そんなオレとエースの元にガタイの良いゴリラ顔の大男と無精ひげを生やした目つきの悪い男が現れた。その男達の登場に周囲の海賊達がオォと歓声を上げる。そんな盛り上がる周囲の海賊達からゴリラ顔の大男は首領(ドン)などと呼ばれており、もう一人の男の方は総隊長やギンさんなどと呼ばれていたが、その時のオレはそんな事などどうでもよかった。

 

 何故なら周囲から首領と呼ばれたそのゴリラ顔の男――たぶんこいつがクリークなのだろう――の声があの過激派海軍とそっくりだったからだ。

 

 その声を聞いた瞬間、なぜか七聖剣から送られてくる妖気がいつも以上に増大でオレの意識が飛びそうになった。そして今まで以上の高揚感がオレを支配し、数多くの兵器を使ってくるクリークを軽くブッタ斬り、そのままヤツの海賊艦隊を一刀両断して沈めていく。

 

 そして確か24隻目を沈めた辺りだっただろうか。オレの中から徐々にあの高揚感が消え失せ、正気に戻った頃には、もう既に彼らから戦意が消えており、青い顔をして震えていた。

 

 その後、生き残った艦隊はそのまま全速力でその場を離脱していき、戦い、というか蹂躙劇は終了した。

 

 

 そして自分の船に戻ると大量のお宝を盗んだナミとカリーナの二人から「…やっぱ貴方とんでもないわね。ホントに人間?」という失礼なコメントを貰い、エースからは「ヒスイお前すごく強いな。俺の仲間にならねぇか?」とすごくキラキラとした顔で一緒に海賊やろうぜと言った勧誘を受けたりした。

 

 …いや、オレは海賊になる気はないからな。アスカ島に帰り次第こんな物騒な生活ともおさらばする予定だから。とエースからの勧誘を断りながらも、「…そういえばマヤ達元気かな~。今頃何をしているのだろうか?」と言った疑問が湧いてきた。

 

 

 まぁ何はともあれ、こうしてまた海賊からの襲撃には会ったものの割かし平和(?)な一日が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 ○月○日 晴れ

 

 

 

 

 

 あれからエースが一緒に海賊やろうぜとしつこく誘ってくる。

 オレは海賊になる気はないと言って断っているのだが、エースは諦める気配がない。その原因は先日のクリーク達との戦いのせいだろう。

 どうやらエースは”海賊王”を目指しているらしくいずれ偉大なる航路(グランドライン)に入る予定なのだそうだ。その為にはまず強い仲間が必要な様で、その仲間第一号に選ばれてしまった。それにオレが偉大なる航路(グランドライン)出身だという事も一役買っているのだろう。

 …悪い奴じゃないんだが、面倒臭い奴だ。

 

 

 あと、話は変わるが、最近なんだかナミの様子が少し変だ。

 カリーナは満面の笑みを浮かべながら「ウシシ、これほどの財宝。軽く3000万はあるわね」といつも通りと言えばいつも通りな様子なのだが、ナミは最近どこか上の空というか難しい顔をしている事が多い。

 部屋で海図を描いていたりカリーナと奪ったお宝を平等に山分けしたりしている時はいつも通りの彼女なのだが、たまに一人になると海をぼんやりと眺めていたり、オレの顔を凝視しては「…ヒスイならもしかしたら…」だの「…いえ、さすがにアイツには…。でも…」などとよく解らない事を呟いており、ナミにどうしたのかと尋ねてみても、暫く何かを悩みながら「…なんでもないわ」と答えるだけだ。

 

 …なんでもないわ…って、そんな訳ないだろ。何か隠してるのが丸わかりだぞ。

 そんなナミの態度になんかモヤモヤとしたものを感じながらも本人に聞いても「なんでもない」の一点張りなので結局ナミが何を思っていたのかは不明のままだ。

 

 ……本人がそう言ってる事だし、これ以上は聞かないけど、一応手を組んでる仲なんだから、本当に困ってるならその時は協力してやらんでもないぞ?

 まぁオレはナミやカリーナほど器用じゃないから、オレに出来る範囲なんてかなり限られてくるけどな。

 

 

 

 

 

 

 ◇月×日 曇りのち炎

 

 

 

 

 

【速報】いつの間にかエースが悪魔の実の能力者になっていた。

 

 

 というのも、オレが自分の部屋で寝ていると、エースがオレの部屋に押し入って悪魔の実の能力者になっちまったと報告してきたのだ。

 突然のカミングアウトにいきなり何言ってんだ? とエースを見ながらどういった反応をすればいいのか解らなかった。

 そんな困惑しているオレにエースはこれが証拠だ! とばかりに能力を発動した瞬間、エースの身体が炎に包まれたのだ。

 その時はさすがに驚いたわ。ただの戯言だと思っていたけど、まさか本当に能力者になってるとは思わなかった。

 取りあえず、何で能力者になったのかとその経緯を尋ねると、オレが部屋で仮眠を取って休んでいる間に海賊の襲撃に会ったらしい。…しかし、よく海賊の襲撃に会うな。さすが大海賊時代。

 

 で、オレの変わりにエースが一人でその海賊団を殲滅したらしい。先日のクリーク達とは比べものにならない程弱い海賊達だった様で、お宝も余り持っておらずナミとカリーナがぼやいていたそうだ。

 そしてナミとカリーナが回収した宝箱の中に渦模様の入ったオレンジ色のメロンに似た果実が入っていたそうで、ついつい小腹が好いていたエースはその実を食べてしまったとの事。そしてそれが”悪魔の実”だったと。

 ちなみに悪魔の実の味はエース曰く「すっげぇマズかった」との事で「アレはもう二度と喰いたくねェな」だそうだ。

 

 

 その後、よくよく調べると”悪魔の実”にはそれぞれ”超人系(パラミシア)”、動物系(ゾオン)”、”自然系(ロギア)”、と言った種類がある事が解った。そしてエースが食ったのは”自然系(ロギア)”の悪魔の実であり、身体を炎に変化させる事が可能で身体が炎そのものなので物理攻撃が効かなくなるそうだ。

 

 それを最初知った時、攻撃効かないとか無敵じゃん、いくら何でもチートすぎるなんて思いもした。ただリスクとして泳げなくなるそうだが、そんなのは海に落ちなければいいだけの話しで、やはりチートな能力だと思った。

 

 そしてそんなエースの話を聞いている内にオレはあの無人島で見つけた果実の事を思い出していた。

 あの果実も宝箱に入れられていた上、実にも変な模様が入っていたし、もしかしたらアレも悪魔の実だったのかもしれない。もしそうなら少し惜しい事をしたかもしれないな…。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ――――――、

 

 

 ―――………。

 

 

 黒。

 重い瞼を開けると、その視界に入ってきたのは足元も覚束ないほど黒い闇に包まれた空間だった。

 反射的に周囲に視線を飛ばしてみるもそこにあるのは闇のみで、上下左右前後、どこを見渡してもその結果に変わりはなく、ただ闇が広がっているだけだ。

 

 

 ―――………思いのほか時間が掛かったが、漸く意識が回復するまでになったか。

 

 

 ―――まったく忌々しい。

 

 

 ―――本来なら疾うの昔にこの餓鬼(宿主)の人格を支配できたってのに。

 

 

 ―――どこまでも七聖剣(オレ)の邪魔をしやがる。

 

 

 ―――予定が大幅に狂ったが、これで七聖剣(オレ)も本格的に動ける……訳でもなさそうだなクソッたれ。

 

 

 ―――まだあの宝玉(小娘)の浄化の力が作用してやがる。

 

 

 ―――意識を失う程、大きなモノじゃねェが、宝玉(小娘)の力が徐々に増していくのを感じる。

 

 

 ―――チッ、本格的に七聖剣(オレ)を滅する為に動きやがったか…。

 

 

 ―――七聖剣(オレ)の方も宿主様のお陰で”憎悪”や”血”の吸収は出来てるが、まだ全然足りねェな。

 

 

 ―――雑魚を何百匹”贄”にした所でその力なんざたかが知れてる。

 

 

 ―――もっと大物を狙う必要があるが…、暫く七聖剣(オレ)は表に出てこれねェ。

 

 

 ―――不本意だが宿主様に頑張ってもらうしかねェな。

 

 

 ―――勝手に死なれてもらっては七聖剣(オレ)が困る。

 

 

 ―――だから今だけは大人しく”力”だけを貸してやるが、この貸しは高くつくぜ。

 

 

 ―――後々必ず返してもらうからな。

 

 

 ―――だからよ、次に七聖剣(オレ)が表に現れるまで死なない様に気を付けな。

 

 

 ―――なんせ、七聖剣(オレ)ヒスイ(オマエ)はもう一心同体なんだからよォ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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8ページ目 勧誘と危険度

 

 

 

 ○月△日 晴れ

 

 

 

 

 エースが悪魔の実を食べてチートな存在へと進化した翌日。

 今日は海賊の襲撃もなく比較的平和な一日だった。偉大なる航路(グランドライン)にいた頃と比べれば遥かにマシとはいえ、ここ最近海賊の襲撃に会ったり、海賊を襲撃していたりと忙しい日々だったのでこうしてのんびりと過ごせる日があるというのはかなり貴重である。

 

 そしてそんな貴重な時間での出来事だ。

 ニュース・クーから新聞を買い、紙面に書かれている『”東の海(イーストブルー)”に巨大な新星現る!』と言ったデカデカとした見出しを発見したのは。

 

 この新聞はブルーベリータイムズ社発行の様で、そういえば数日前に出会ったロッキーも確かブルーベリータイムズ社所属の自称敏腕新聞記者だったな、なんて事を思い出しながら読み進めていくと、そこにはこの”東の海(イーストブルー)”にいるとある一人の人物について書かれていた。

 

 簡単に内容を要約すると、

 

 

 ”その者、誰よりも海を自由に生きる誇り高き孤高の海賊”

 

 ”身の丈ほどの細長い大剣一本で名のある大物海賊をまるで赤子の様に扱い、蹂躙する姿はまさに覇王”

 

 ”その剣術は容易に帆船を斬り裂き、かの海軍本部大将・赤犬を相手に深手を負わせるほど”

 

 ”王下七武海の一人、世界最強の剣豪・鷹の目のミホークや、四皇・赤髪のシャンクスに匹敵するほどの剣の才能を持つ”

 

 ”その豪傑の名は『翠髪のヒスイ』。彼がこれから偉大なる航路(グランドライン)に渡りどういった活躍をするのか今から楽しみで仕方がない”

 

 

 などと言った事が書かれていた。

 

 ……ふーん、この”東の海(イーストブルー)にこんなすごい奴がいるのかぁー。

 このヒスイってヤツはとんでもない化け物だなー。名前だけじゃなく顔もオレとそっくりじゃねぇか…。

 ………。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 ……………………。

 ………………………。

 …………………………、ロッキーの野郎、次会ったらぶん殴ってやる。

 

 っていうかなんだよこれ!? 色々とおかしいだろッッ!!?

 なんかすげえ過大評価されてるんだけど、オレそこまで強くないよ!!?

 っていやいや!? そうじゃなくて、海軍大将ってなんだよッ!!? オレそんな奴と戦った記憶ねェぞ!! クソッ! ロッキーの野郎ウソの記事書いてんじゃねェよ!! この記事が原因でその海軍大将に目を付けられたらどうすんだよ!!

 それになんかいつの間にか海賊扱いされてるけど、オレ海賊でもねぇからな!! 誤報だらけじゃねぇかこの新聞!!

 それにこんな書き方されたらまた海軍や賞金稼ぎに狙われるじゃねぇか!!

 クソッ、絶対に許すまじロッキー&ブルーベリータイムズ社。

 

 

 …とまぁそんな事があり、オレの心は平穏とは程遠い心情だったが、それ以外は特にこれといった出来事はなく一日を過ごした。

 

 

 …いや、そういえばもう一つだけちょっとした出来事があったな。

 この新聞の記事を読んだエースが「へぇ…海軍大将を負傷させるぐらい強いのか。ますます仲間に欲しくなったぜ」と関心半分興味半分といった感じで、勧誘が激しくなった事だろうか。

 海賊への勧誘なら前から何度もされてたが、今度はそれに加え「なぁ、ヒスイ。俺と戦ってくれねェか?」と何故かバトルの申し出を受けたりする様になった。

 

 …ホント勘弁してくれ……。

 

 

 

 

 

 ○月?日 晴れ

 

 

 

 

 エースから海賊の勧誘を断っていると、今度は何故か犯罪組織から勧誘された。

 というのも食料の補給の為に寄ったある島での事だ。(因みにエースと共に行動する様になってから食料の減少具合が半端じゃない為、その為の買出しだ)

 

 その島で食料の買出しを終わらせた後、暫くの間それぞれ自由行動をとっていて、ナミとカリーナはショッピングへ、エースはレストランで食い逃げをして(←おい!)、オレはその辺をフラフラと歩いていた。

 

 すると、意味不明な事にいきなり集団リンチに会ってしまった。

 その集団は若い男から中年のオッサン、オバサン、さらにホステスの様な女性に果てには老人や子供といった性別も年齢も服装すらバラバラの集団だった。そしてその全員がオレに敵意を向け、刀や槍、ピストルなどの武器を構えている。

 

 そしてその集団の中からリーダー格と思わしき青年が「”翠髪のヒスイ”だな?」と獲物をいたぶる様な笑みを浮かべながらそう問いかけてきた。

 その青年の言葉と周囲の雰囲気からこいつらが何者なのか大体の見当がついた。おそらく先日のオレの悪名(?)が書かれた新聞を読みオレの首を獲りに来た賞金稼ぎだと。

 

 そしてそのオレの読み通り彼らは「お前の首を貰いにきたぜ」や「お前を殺せばどこまで昇格できる事やら」や「俺達バロックワークスに狙われたのが運のつき」などと騒いでいた。

 …おのれロッキー。ホント余計な事をしてくれた。

 

 と、そんなこんなで彼らと戦闘する事になってしまい、仕方なしと彼らをそのまま迎え撃った。彼らの強さはそこまで大した事はなかったが、数が無駄に多く、途中で食い逃げしていたエースが乱入してこなければ彼らを撃退するのにかなりの時間を有していたかもしれない。

 …因みに後から聞いた事だが、エースが戦いに乱入してきた主な理由はオレが心配だったとかそんな理由では当然なく、先日食べた悪魔の実の能力を実戦で試しておきたかったから…との事。

 

 その後、オレとエースの二人でその賞金稼ぎの集団を全員撃退すると、今度は左頬に7の字が書かれた男がどこからともなく現れて、自身をMr.7と名乗り、

「その強さ使えるな。どうだね君達、我が社に入らないか? そうすれば今回の一件は不問にしようじゃないか」と何だか上から目線でオレとエースの二人をバロックワークスだとかいう組織に勧誘してきたのだ。

 

 当然、オレもエースもそんな組織に興味などなく、にべもなく断ると、Mr.7は腰に差していた刀を抜き放ち「そうか、ならば死ぬがいい」といきなり斬りかかってきたので、取りあえず七聖剣を使い返り討ちにした。

 

 そしてその後、サングラスを掛けたラッコとハゲタカがオレ達の目の前に現れ、ラッコの方が何やらせっせとオレとエースの似顔絵を描いてオレ達にその絵を見せる。かなり上手い絵だったので思わず拍手してしまった程だ。そしてラッコはその反応に満足したのかそのままハゲタカに乗りどこかへ飛んで行った。

 

 …あれは一体なんだったのだろうか…?

 

 そういえば今思い出したが、以前偉大なる航路(グランドライン)で会ったあのオカマも自身の事をMr.2と名乗っていた様な気がするが、何か関係あるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)、前半の海。海軍本部・マリンフォード。

 

 そこは偉大なる航路(グランドライン)を管轄する海軍の組織。その中でも世界中の正義の戦力が集う最高峰の組織であり、赤い土の大陸(レッドライン)やシャボンディ諸島の近くに位置され、世界のほぼ中央に位置するこの場所は世界中の海兵達にとって『絶対的正義』の名を関する要塞であり、多くの海兵達やその家族が暮らす大きな街や庭園が存在する。

 

 そしてそんな海軍最高峰の組織である海軍本部元帥の私室。

 そこにはその部屋の主である”仏のセンゴク”が報告に来ていた海兵、海軍本部少佐ブランニューの話の内容に気難しげな表情をその顔に浮かべていた。

 

「――そうか、ではその海賊達は結局何も覚えていないのか」

 

「はい、不可解な事に本人達が覚えているのは”例の男”が乗る小舟を襲っていた所まで。それから先は記憶が酷く曖昧の様で、サカズキ大将の軍艦を襲っている途中に漸く意識が覚醒したとの事です。その事からはもしかしたら催眠の類を使えるのかもしれません」

 

 そのブランニューの報告にセンゴクは何事かを考えながら頷く。

 

「その可能性は十分にあるな。それで、その男の詳しい素性は解ったのか?」

 

「はい、名前はヒスイ、性はありません。偉大なる航路(グランドライン)アスカ島出身の少年で、歳は15。10年程前に海賊の襲撃に会いそこで両親を亡くしています。その後は彼の幼馴染にあたる少女の家族に引き取られ、それから10年の間、その村の自警団に所属していた様です。実力は自警団の中ではそれなりに高い様ですが、我々の基準では本部で訓練された一兵卒にすら劣ると思われます…」

 

 センゴクはブランニューの説明を聞き、不審そうに顔を顰める。

 

「…その程度の実力であのサカズキに手傷を負わせたというのか…? 信じられんな」

 

 センゴクはそこで目の前の事務机の上に置かれている新聞に視線を向ける。

 その新聞はブルーベリータイムズ社発行の新聞であり、その新聞に書かれている人物こそ今現在センゴクが頭を悩ませている人物だ。しかし、この新聞に書かれているものと赤犬から報告にあったものとでは随分と人物像が違う、とセンゴクはそう思った。

 この新聞に書かれているヒスイという男は”白ひげ”や”赤髪”の様に暴れさせれば止めようがないが、民間人には被害を出さないタイプの海賊だと語っている。

 それに対して、赤犬の報告にあったヒスイという男はどちらかと言えば”カイドウ”や”ビッグ・マム”の様に話し合いが通じる様なタイプではなく、民間人にも嬉々として被害を出す様な危険人物だと語っていた。

 どちらが正しいのか、それははこの際置いておく。

 

「それで、この記事だと今奴は東の海(イーストブルー)にいる様だが、今の所民間人への被害は出ていないのだな?」

 

「はい、奴の被害にあっているのは今は海賊だけです。”マッド・トレジャー”、”三日月のギャリー”、”百計のクロ”、”首領(ドン)・クリーク”…。どれも東の海(イーストブルー)では大物として名の通った海賊達ですが…」

 

「サカズキを圧倒するほどの実力者だ。最弱の海の海賊では手も足もでまい。当然支部の海兵達もな…」

 

 センゴクはそこで一端言葉が途切れると、その鋭い双眸が新聞に映るヒスイの顔写真に向けられた。

 

「…サカズキからの報告通りの人物なら、この男の危険度はもはや計り知れんな。海軍大将を相手に善戦し生き延びるだけの実力を持ってるだけでも十分に危険だが、…何より覇気を使わずに”自然系(ロギア)”の能力者に攻撃を当てる事が出来る上、さらには催眠の類が使えるというのも厄介な要素だ」

 

「…では、奴を賞金首に?」

 

「うむ、初頭手配としては少々異例だが、野放しにはしておけん。額はこれから跳ね上がる可能性もあるが、奴を”1億”ベリーの賞金首とする」

 

 センゴクが提示したその金額にブランニューは軽く目を見開き驚きを示す。

 

「…初頭の手配でいきなり”億”ですか」

 

「…奴の実力と思想は我らにとってもはや十分危険なものだ。この額でも問題あるまい」

 

 センゴクが重苦しく頷くのを見てブランニューもそれ以上は何も言わず納得を示したが、新たな超新星の出現に彼らは頭を痛ませた。

 こういう悪の芽は早めに詰んでゆくゆくの拡大を防がねばならないが、支部の海兵は相手にならず、かといって本部の海兵も大将以上の者が出張らなければ被害を被るだけの結果に終わってしまうだろう。

 とはいえ、そういった存在は何かと忙しい為、ヒスイにばかり相手をしている訳にもいかず、結局は今しばらく様子見といった所に落ち着く。

 今の所民間人への被害が出ていないというのも彼を後回しにする理由の一つだが。

 

「それで、今の奴の動向は解っているのか?」

 

「…今は数名の仲間と共に”東の海(イーストブルー)”を転々と行動している様で、推測になりますが、これから偉大なる航路(グランドライン)へと渡る為の準備をしているのではないかと」

 

「そうか…。態々こちら側に来てくれるのならありがたい事だな。それで、奴と共に行動する者達の素性については何か解ってるのか?」

 

「はい、こちらです」

 

 センゴクのその質問にブランニューは懐に手を入れると、そこから三枚の写真を取り出しそれぞれ映っている顔写真を執務机の上へと置いていく。

 そこにはオレンジ色のテンガロンハットを被る笑みを浮かべたそばかすの青年、オレンジ色の髪をした少女、ボーイッシュな雰囲気を醸し出す少女が映っており、センゴクはその中でもそばかすの青年が映っている写真に目をとどめる。

 

「……この者は?」

 

「最近その男と共に行動する様になった者で、名前をポートガス・D・エースと言い、驚くべきことにルーキーにして”自然系(ロギア)”の能力を持ってる様です」

 

 ブランニューはエースが悪魔の実の中でも稀有な”自然系(ロギア)”の能力を持っている事に驚きを示していたが、センゴクの方はその事に特に驚いた様子はなく、厳しい視線をエースの顔写真に向けているだけだ。

 

「…D? 一体どこの出だ?」

 

「…それがその男だけ素性がよく解らず、解った事といえば名前と能力者だという事だけで…」

 

 ブランニューのその答えにセンゴクは「…そうか」と応えたっきり無言でエースの顔写真を暫くの間眺める。だが、そこでセンゴクは「まさかな…」と呟き、今まで以上にその顔を厳しいものに変えた。

 

 顔は似ていないが、センゴクはエースにあの男(・・・)を思わせる様な雰囲気を確かに感じていたのだ。もしその感じたものが本当だとしたらとんでもない事実である。あの悪の血が途絶えていなかったという事になるからだ。

 

 

 そしてそんなセンゴクの勘は見事に的中し、さらに彼の頭を悩ませるとんでもない大事件(・・・)を引き起こす事になるのだが、それはまだ先の話だ。

 

 



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閑話 暗躍する者達と動き出す者達

 

 

 

 サンディ(アイランド)、砂の王国アラバスタ。

 ここは偉大なる航路(グランドライン)前半にある島、世界政府加盟国の一つであり、その歴史を辿れば世界政府創造に関与した20の国家のうちの一つという歴史ある国である。

 広大な土地の大半を砂漠が占めている国ではあるが、偉大なる航路(グランドライン)でも有数の文明大国として知られており、人口は約1000万人にも及び、人々の笑顔が絶えない平和な国であった。

 

 しかし、そんな大国も現在は内乱中であり、平和とは程遠い現状である。

 というのもその国の国王であるネフェルタリ・コブラから出てくる数々の不祥事により若い国民達は強い不信感と嫌悪感を顕にしている。

 現在は若者達の間で反乱軍が組織され、日に日にその勢力は増していき、現在はまだちょっとした小競り合い程度で済んでいるが、それも時間の問題であろう。いずれ本格的な戦争に発展するのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 そしてそれがある男の策略だという事に気付く者はこの時点ではまだ誰もいなかった。

 

 

 そんな内乱が起こっている中でも「夢の町レインベース」と称されるその町に住む者達はいつも通りの日常を謳歌していた。ギャンブルの町として知られるレインベース、その最大のカジノである「レインディナーズ」の地下にその男はいた。

 

 王下七武海の一人、サー・クロコダイル。

 表向きはレインベース最大のカジノ「レインディナーズ」のオーナーを務め、七武海としてアラバスタを海賊の襲撃から何度も守っている英雄であるが、その正体は犯罪会社であるバロックワークスを組織し、アラバスタを乗っ取る計画を立てており、現在起きている反乱を誘導している黒幕である。

 

 そしてそんな秘密結社のボスであるクロコダイルは現在ある報告を受けていた。

 

「…なに? Mr.7と東の海(イーストブルー)で暗躍中のミリオンズがやられただと?」

 

 報告されたその内容にクロコダイルはピクリとその眉を潜める。そして報告者であるサングラスを掛けたラッコとハゲタカ、彼の組織の一員である13日の金曜日(アンラッキーズ)の二人(匹?)に視線を向け尋ねる。

 

「…それで一体どこのどいつにだ?」

 

 すると13日の金曜日(アンラッキーズ)の片割れたるラッコ、Mr.13が二枚の似顔絵をクロコダイルへと見せる。

 

「…たった二人のその餓鬼共にやられたっていうのか。ハッ…何かの間違いだろう」

 

 クロコダイルはその報告を鼻で笑う。とはいえ別にその報告を信じていないという訳ではなく、Mr.7やミリオンズがやられた程度至極どうでもいいと思っているからだ。

 あの程度の使い手ならいくらでも変わりがいる。やられたのならその開いたエージェントの椅子には他の違う者を座らせればいい。オフィサーエージェントがやられたのなら兎も角、フロンティアエージェントがやられた程度で彼の計画にはなんら支障はないのだから。

 

 そういう意図もありMr.7達を倒したその者達からもすぐに興味を失くしていたクロコダイルだったが、そこですぐ傍のソファーに腰かけていた彼のパートナーである女性の言葉により再び興味を持つ様になった。

 

「あら? その似顔絵の子って、もしかして今噂の”翠髪のヒスイ”かしら?」

 

「…”翠髪のヒスイ”…聞かねェ名だな。何か知ってるのかミス・オールサンデー?」

 

 クロコダイルの質問にミス・オールサンデーと呼ばれたその女性は、彼女の近くで大人しく寝そべっている”バナナワニ”を撫でながらその質問に答える。

 

「ご存じないかしら。つい最近、初頭手配された子よ。先日のブルーベリータイムズ社発行の新聞で世間を騒がせてもいたわ」

 

 そう言いながら彼女は立ち上がり、クロコダイルの元まで歩み寄る。そして懐から一枚の手配書を出し、彼の執務机の上に置く。

 

 そこには”翠髪のヒスイ” 懸賞金”1億ベリー”と書かれていた。

 

 その金額にクロコダイルは僅かに目を見開く。

 

「初頭手配で”1億”だと…? 一体何をやらかしたんだこいつは?」

 

 クロコダイルは面白そうなものを見る様な目でその手配書を眺めながらそう尋ねると、ミス・オールサンデーは表情をそのままに言葉を発する。

 

「海軍本部の大将・赤犬を相手に善戦し、赤犬に大きな傷を負わせたそうよ。どこまで本当なのかは解らないけど、新聞では他にもあの”鷹の目のミホーク”や”赤髪のシャンクス”にすら匹敵する程の剣の才能を秘めている事や、大物海賊達を赤子の様に蹂躙したりと言った事が書かれてたわ。その事から政府はかなりこの子の事を危険視している様ね」

 

 ミス・オールサンデーもどこか面白そうな声音でクロコダイルに彼女の知る限りの情報を訊かせると、クロコダイルはお酒の入ったグラスを暫くの間軽く弄びながらその口に笑みを浮かべる。

 

「フン、随分と威勢のいい餓鬼の様だ。とはいえ、それ程の実力なら使えない訳でもねェらしい。…ミス・オールサンデー」

 

「なにかしら?」

 

「Mr.1とMr.2、それからビリオンズを動かせ。”翠髪のヒスイ”…奴を好待遇で我が社へと迎え入れようじゃねェか」

 

「あら、いいの? 一度その子は我が社への勧誘を蹴った上、Mr.7とミリオンズを全滅させてるし、素直にこちらの言う事を聞く様な子には見えないけど」

 

 ミス・オールサンデーはクロコダイルのその言葉が意外だったのか、少し驚きながらそう尋ねると、クロコダイルはそんな彼女の態度を特に気にした様子もなく、口を開く。

 

「クハハハ、利用できる手駒は多いに越した事はねェからな。それにいざとなれば俺が力づくで黙らせればいいだけの話だ」

 

「了解。それじゃあ彼らには”東の海(イーストブルー)”に向かう様、指示を出しておくわ」

 

 そう言って、ミス・オールサンデーはその部屋を出ていく。13日の金曜日(アンラッキーズ)達も自分達の任務に戻り、クロコダイルは己の作戦をより完璧なものにする為に国王軍、反乱軍の両陣営にさらに火種を巻く為に彼も人知れず行動に移るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)前半に位置する世界政府の直轄地、”司法の島”エニエス・ロビー。

 世界政府が管轄する裁判所が設置されたこの場所は、1年中夜にならない特性を持った不夜島だ。島の中央部には巨大な穴が開いており、そこに海水が流れ込み滝を作り出している。

 創設800年の間、一度の侵入者も脱走者もいない鉄壁の施設であり、ここに連行された者は名ばかりの裁判を経た後は、正義の門を渡り、海底監獄インペルダウンか海軍本部のどちらかに連行される。

 つまりここに連れてこられた時点で裁判などする必要もなく犯罪者の烙印を強制的に押されてしまうのだ。因みにこのいい加減な制度の根源は、主に死刑囚により構成された陪審員のせいだったりする。彼らが罪人を道連れにしようと、罪人に対して有罪判決を下してしまうからだ。

 

 閑話休題。

 

 エニエス・ロビーは主に政府の役人や諜報員達が根城にした施設であり、その施設の最上階に位置する部屋にその男はいた。

 その男は、諜報機関サイファーポールの一つ、CP9の司令長官を務める男で、同時にこのエニエス・ロビーの実質トップの地位にいる男で名前をスパンダムと言う。

 スパンダムは目の前に座る黒い服を来たどう見ても堅気ではない三人の男達を見ながら口を開いた。

 

「さて、こうしてお前達を呼んだのは他でもねェ。政府から下された新たな指令をお前達に遂行してもらう為だ。…だが、その前にお前達に言う事がある」

 

 スパンダムはそこで言葉を止めると、机の上に広げていた新聞に一瞬、視線を向けてその新聞を思いっきりバンッバンッと叩きながら、目の前の三人を睨む。

 

「先日、お前達に言い渡した『市長暗殺計画』だが、指令じゃあたった2人消すだけで事足りた所を、30人も消えちまってるじゃねェか!! この記事は一体どういう事だ!?」

 

 バサッとその記事の新聞を乱暴に掴みあげるとそれを目の前でただ黙って聞いている3人の男達に向ける。

 

「テメェら言い訳があるなら何か言ってみろ!!」

 

 スパンダムが3人に怒鳴りながらそう尋ねると、今まで沈黙を保っていた3人の男の内の一人、歌舞伎役者の様なメイクをした巨漢の男、クマドリがその場に勢いよく頭を下げた。

 

「よよいっ!! も~~~ォオオしわけありあせん~~~ァ!! 全ておいらの責任でェ!! こうなったらおいらァ~腹ァ切って責任を…!!」

 

 切腹をしようとするクマドリの言葉にその隣に座っていたナマズ髭に三つ編みの髪をした男、ジャブラがクマドリに向かって叫ぶ。

 

「やめろクマドリ!! バカな事を言ってんじゃねェ!! 俺が長官に成り行きを説明するからお前は黙って座ってろ!!」

 

 そうクマドリに注意をした後、視線を長官であるスパンダムに向けて事の成り行きを報告する。

 

「実はよ長官、俺達はその指令通りの期日に暗殺しに潜入した所がよ、どういう訳か誰も知らねェ筈の暗殺計画の事が連中にもれてた――」

 

「――あ、それ俺が街で喋ってしまったーチャパパ」

 

「あん? なんだお前ェが喋ったのか、道理で――ってアホかテメェ!!?」

 

 ジャブラが説明をしている横で最後の一人である口にチャックのついたクマドリと同じぐらいの巨漢の男、フクロウがさり気なく呟いた言葉に一瞬流しそうになったもすぐに彼の言葉にツッコミを入れる。

 

「お前のその口の軽さはいつ治るんだ!! 諜報機関だぞ俺達は!! お前の口のチャックは何のために付いてんだァ!!?」

 

「喋ってしまったーチャパパ」

 

「よよいっ! フクロウを責めねェでやってくれェ~。その責任はおいらがァ~~切腹!!! 『鉄塊』……………無念死ねぬ~~」

 

「さっさと死にやがれテメェは!!」

 

 そんな彼らのコントの様なやり取りを今まで黙って聞いていたスパンダムは呆れた様にまたは疲れた様に顔を歪ませ、「もういいよ、お前ら…」と呟きドサッと自室の椅子に腰かけた所、彼の腕が偶然にも机の上に置いていた飲みかけのコーヒーに当たってしまう。

 

「あちィ~!! コーヒー溢した!!! 何でいつもいつもこんな邪魔な所にあんだよ!! クソッこんなコーヒー!!!」

 

 ガシャンとヒステリックに騒ぎ、つい数分前に自分でその場に置いたコーヒーを睨み付けながらスパンダムは零れたコーヒーのカップを地面に思いっきり叩きつける。

 

 何だかかなり緩い現場に見えてしまうが、彼らはこれでも世界政府の諜報機関最強の組織である。…とてもそうは見えないがこれが闇の世界を暗躍するCP9。そのいつものちょっとした風景であった。

 

 

 

 

 

「んで、長官。今回の主な任務は?」

 

 漸く一通り現場が落ち着き、ジャブラが改めてスパンダムに今回の指令の用件を尋ねる。その両隣にいるクマドリとフクロウも先程までのふざけた気配はなく真面目な顔で話を聞く姿勢を取っていた。

 スパンダムもそんな彼らの態度に漸く本題へと入る。

 

「今回の指令も前回とさほど変わらねェ。ある人物の暗殺だ」

 

 スパンダムはそこで一呼吸いれ、続きを話す。

 

「お前らも名前ぐらいは聞いた事はあるだろう。”翠髪のヒスイ”っていう最近何かと調子に乗った海賊さ。どういったトリックを使ったか知らねェがあの大将・赤犬を相手に大立ち回りを演じたそうだ。そんな不穏分子を野放しにはしておけねェって事でそいつを暗殺しろってのが今回下った世界政府からのお達しだ」

 

 スパンダムはヒスイの手配書を見ながらどこか小馬鹿にした様な表情を浮かべながら3人にそれぞれ説明する。

 対する説明を聞いた3人の方はその顔にそれぞれ好戦的な笑みを浮かべており、心底楽しそうに口を開いた。

 

「ギャハハ、今度の獲物は中々骨がありそうじゃねェか」

 

「よよいっ! 悪は可能性から根ェ~~絶やしにせねば~~ならねェ~~!!」

 

「チャパパ、今回はいつも以上に忙しくなりそうだー」

 

 各々がそれぞれの感想を口にしながらも、彼らはやる気に満ちていた。それが世界政府からの指令であるという事もあるが、戦闘集団でもある彼らは常に血に飢えている。故に彼らにとっては強敵との戦いは望む所でもあった。

 そんな彼らの反応にスパンダムは満足そうな笑みを浮かべる。どの様な事があっても相手が誰であっても彼らが決して後れを取る事はないとそう確信したのだ。

 

 

 こうして政府の中でも有数な超人的戦闘能力を持つ彼らがヒスイを暗殺する為に動き出した。絶対的な『闇の正義』の名のもとに。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「…なに、クロコダイルのバロックワークスとサイファーポールが妙な動きをしている?」

 

 そして此処、偉大なる航路(グランドライン)に存在する革命軍たちの総本部であるバルティゴでもとある情報が届いていた。それは以前より目を付けていた犯罪組織と自分達の宿敵たる世界政府に所属する組織についての情報だった。

 部下より齎されたその情報に革命軍トップであるドラゴンは難しげな表情を見せる。

 

「はい、報告ではどちらも”東の海(イーストブルー)”に向けて進行を開始している様ですが…、彼らの狙いまでは解りませんでした」

 

「…そうか」

 

 ドラゴンはそう呟き、”東の海(イーストブルー)”という単語に僅かに反応を示すが、目の前の部下はそんなドラゴンの反応に気付かなかった。その後、暫くの間ドラゴンは黙り込んでしまい、重い沈黙がその場を支配する。そんなドラゴンの雰囲気に当てられたのか彼の部下は目に見えて緊張しながら彼の次の言葉を待っている。

 するとドラゴンがそこで漸く口を開く。

 

「”東の海(イーストブルー)”で暗躍している革命軍の兵士達にクロコダイルのバロックワークスとサイファーポールの動向に気を配れと伝えろ」

 

「はい!」

 

 ドラゴンの指示を受けたその部下は伝令の為にその場を離れようとするが、そんな彼にドラゴンはふと思い出した様に、離れようとするその部下に待ったを掛けた。そんなドラゴンの声に部下は立ち止まり振り向くと、ドラゴンは彼に尋ねる。

 

「そういえば、サボは今どうしてる?」

 

「参謀総長でしたら、現在は表でハックやコアラ達と共に鍛錬中の筈ですが」

 

「なら、サボ達に”東の海(イーストブルー)”に向かう様伝えてくれ」

 

「え? 参謀総長にですか?」

 

 ドラゴンのその指示に部下は思わず聞き返してしまう。そんな部下の言葉にドラゴンは重苦しく頷き、険しい顔を浮かべた。

 

「ああ、何かとてつもなく嫌な予感がしてな。考えすぎかもしれないが、東の海(イーストブルー)で暗躍している兵士達だけでは荷が重いかもしれん。一応その保険の様なものだ」

 

「了解しました」

 

 ドラゴンのその言葉に部下はすぐさま引き締まった表情を浮かべ頷いた。疑問に思いながらもすぐさま返事を返せたのは、自分達のリーダーがそう感じているのなら、きっとそうなのだろうと確信したからだ。ドラゴンの言葉に返事を返したその部下は今度こそ伝令の為にその場を後にした。

 

 

 一人になったドラゴンは窓に視線を向けると、おもむろに立ち上がり、窓を開けて外に出た。そしてある一転の方向を見据えながら風にあたる。彼が見据える方角は東。

 今彼が何を思っているのかは解らない。だが、これから訪れるであろう厄介事に対して彼の双眸は鋭く光った。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 犯罪組織、サイファーポール、革命軍。それぞれが各々の目的を持ちながら”東の海(イーストブルー)”へ移動を開始していたほぼ同時刻。

 元から”東の海(イーストブルー)”に目を付けていたその男もまた動き出そうとしていた。

 

 そこは偉大なる航路(グランドライン)上空に存在する島々。人為的に宙へと浮かされているその島の名前はメルヴィユ。これらがたった一人の男の能力、フワフワの実の悪魔の実の力により浮かされているのだ。

 

 その男の名は”金獅子のシキ”。

 かつて海賊王ロジャーや四皇白ひげと鎬を削って戦いを繰り広げた大海賊である。

 

「ジハハハハ、”東の海(イーストブルー)”に随分面白ェ海賊がいる様だな」

 

 シキは葉巻を加えながらブルーベリータイムズ社の新聞と手配書を眺めながらその様な事を呟く。

 

「宝目当てのくだらねェミーハー海賊には興味はねェが、こいつが”本物の海賊”に相応しいかどうか…見極めてやろうじゃねェか」

 

 シキは新聞をそのまま机に放り投げると、今度は手配書に視線を写す。そこには翠色の髪をした少年が薄い笑みを浮かべている顔写真が写っていた。その顔写真を見たシキは「生意気そうな面をしてやがる」と呟きながらその口角を吊り上げる。

 

 そしてシキは王座の様な椅子から立ち上がり、カツン、カツンと彼の足代わりである刃が音を立てる。そのまま暫し歩いていると、彼の下へ近づく影があった。

 その影が近づいてくる度にブゥー、ブゥー、ブゥーというおならの様な音が響いてくる。シキがそちらに視線を向けると、そこには白衣を着たピエロの様な姿の男が大急ぎで檻の中に入っている動物を担ぎながら現れた。

 

「シキ親分! 新たな新種を発見しました!!」

 

 ガシャンとその檻を乱暴に床に落とすと、そのピエロ、Dr.(ドクター)インディゴはどこか興奮した様な口調でシキへとそう口を開いた。

 

「しかもこの新種、今までの生物と違い凶暴性に特化した生物でして、この生物の唾液から検出された分泌から”あの薬”をより強化する事に成功しました!」

 

「なに…? それは本当かインディゴ?」

 

「はい! それはもう今までの非にならない程の強力なモノが」

 

 シキはそこで初めて檻の中にいる新種の生物に視線を向ける。その檻の中には一頭のゴリラがいた。普通のゴリラとの違いは腕が”手長族”の様に長く、牙もかなり大きいといった要素があげられるが、メルヴィユに住む独特な成長を遂げたその他の生物達と比べればそこまで物珍しさは感じない。

 現在は鎮静剤でも打たれているのかそのゴリラは随分と大人しい姿で鎮座しているが、それでも尚、その眼は爛々とした輝きを放っていた。

 

「そしてその薬を最弱のDランクの猛獣達に投与した結果、Bランクの猛獣を軽々と仕留めるまでの存在へと至りました!」

 

 インディゴのその言葉にシキは顔に薄い笑みを浮かべる。

 

「ジハハハハ。天はどうやら我々に味方してるみてェだな。その強化した薬を使えばあの猛獣達をより俺好みの獰猛な生物に進化させる事ができるとは」

 

 上機嫌そうに笑うシキは、その研究成果に満足そうに頷く。これでより自身の計画が完璧なものへと仕立て上がった。

 だがそこでシキはふとある事を思いつく。暫しの間、何事か思案している様子だったが、次第にその顔に凶悪な笑みが張り付いた。

 

Dr.(ドクター)インディゴ。おめェは強化した”S.I.Q”をこの島にいる全ての生物に打ち込め。それが終わり次第、行動を移すぞ」

 

「はて? 計画発動はあと3年後の予定だったと記憶していますが?」

 

 インディゴのその言葉にシキは嗤う。

 

「ジハハハハ、本格的に動くのは予定通り3年後さ。だが、デモンストレーションも兼ねて地上にいち早く地獄を見せるのも悪くねェ…」

 

 シキは狂気が浮かんでいるその顔をさらに深め、言葉を続ける。

 

「なにより”東の海(イーストブルー)”に今面白ェ海賊がいる。あのクソッたれ(・・・・・)に対する手向けついでにその海賊が”本物”かどうかを見定める。

 そしてこの生ぬるい時代に恐怖を刻み込み、海賊こそが海の支配者だと知らしめてやるのさ」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 海賊王ゴールド・ロジャーが処刑され大海賊時代が幕を開けて早19年。

 一人の少年を中心に歯車が狂い、時代がうねり始める。

 だが、それに気づく者はまだごく少数。

 海賊王の生まれた海で、人知れず新たな新時代が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 




 海賊、海軍、サイファーポール、バロックワークス、革命軍、そして七聖剣。
 各々の目的や策略が交差し、事態は無視できない程の大事件へと発展していく…。

 次回から『東の海騒乱編』開幕






 ……などとかっこいい感じで終わらしたかったんだけど、これからの展開はまだノープランだったりする。
 一体続きはいつになる事やら(白目)


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