女好きボーダー隊員 (ベリアル)
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1話

「はぁっはぁっはぁっ」

 

一人の少年は曇天に包まれた地上で息を切らしながら、前だけを見て駆けていた。

 

成長段階にある両足を全力で動かす。体力はとっくに尽きている。普段であれば、その時点で足を止めているところだ。だが、今はそうもいかない。

 

後方から追いかけてくる絶望から逃げきらなくてはならなかった。

 

四足歩行の巨大な生き物。刃を備えた4本足で素早く動きまわる虫に似た何かは10本に足が増えた。2つの輪を翼にしているのか、空を飛ぶ紫の飛行物体。

 

共通しているのは、大きな目が1つあるということ。少年はまだ知らないが、これらは生き物ではなくトリオン兵と呼ばれる兵器だ。

 

それらが人間に襲い掛かり、建物を破壊していく。

 

少年の服装は白いラインの入った黒のジャージ。ポケットには財布が入っている。コンビニに寄っているときに、この地獄は始まった。なにもない空間から黒い穴が開いたと思えば、湧き出る怪物は人々を連れ去るか、殺すかのどちらかであった。

 

必死だったのか気付けば、袋に入った買った商品はなくなっていた。そんなのはどうでもいい。なりふり構ってはいられない状況の中で、足を止めるのは死を意味する。

 

途中、警官が拳銃で応戦していた。何発も銃声はなり、銃弾は怪物に被弾する。怪物は痛くも痒くないのか、ゆっくりと近づく。そこから先は恐ろしくて、目を逸らし駆けていた。名も知らぬ警官の断末魔が少年に届くのには時間はかからなかった。

 

銃弾が効かない相手に警察も消防救助は期待できない。自衛隊でもどうにか出来るとは思えない。

 

涙を流しながら口からは涎がこぼれる。べとべとの顎を拭う余裕はない。情けないのかもしれないが、死んだら元も子もない。

 

少年の他にも走る老若男女はいたが、ほとんどが少年の後ろを走り、足音が消えていくだけだった。代わりに聞こえてきたのは途中で途絶える救いと恨みの声のどちらか。彼には振り向く勇気はなかった。見てしまったら、きっと深い後悔が残ると直感で感じたからだ。

 

少年の前を走っていった人達は先に進んで行ってしまった。一人で疾走しているのだ。

 

少年はどこまで逃げればいいのか分からないで走りながら困惑していた。普段、暮らしている地域が一変した。正確にはそう錯覚しているだけで、実際の変化はない。しかし、少年の精神状態はこの事態で通常には働いていなかった。

 

彼は走りながらも、本当にこの道で合っているのかと、地元という迷路に迷っていた。

 

「だれか……」

 

そんな迷路の中で声が耳に届いてしまった。アスファルトの上で足を止める。少し滑り、不快な音を立てる。

 

T字路の曲がった先に壁を支えに立つ少女がいた。トリオン兵から逃れるならば、少女のいる道を曲がることなく、真っ直ぐ行けば距離を置くことが出来る。

 

足を挫いてるのだろう。彼女の後方には折れたヒールが落ちている。裸足でも逃げ切ろう行動は見てとれる。それも少しが限界で、壁を支えに進もうとしたのか、いかんせん遅い。このままでは怪物に殺されてしまう。

 

もし仮に彼女を助けようものなら、移動速度が低下しトリオン兵に追いつかれ2人とも死ぬのがオチだ。

 

「助けて……!」

 

しかし、面と向かって言われてしまった。

 

今まで助けを求める声を無視して、見捨ててきた少年の心は限界を迎えた。蝕んできた罪悪感に堪え切れなくったのだ。勇気から出た行動ではない。

 

彼女の腕を肩に回す。

 

「ありがとう……!」

 

彼女は少年の借りて、すぐに駆け出すが、人ひとり分は重く、年齢も身長も彼女の方が僅かに上だ。それでも成人の域は出ていない。

 

速度は言うまでもなく遅く、トリオン兵はもうすぐそこまで迫っていた。かといって、今さら彼女を置いていくわけにもいかない。

 

前を向いて歩を進めても、人ではない複数の足音が確実に近づいているのは、耳に届いている。距離はどんどん縮まる。

 

「だめだこりゃ」

 

ようやく出てきた言葉が諦めの一言。

 

「諦めるのはまだ早いよ」

 

しかし、低い声と共に何かが崩れる音が響く。

 

「お前たちはまだ助かる」

 

右手に刀身が光る刀を持ったサングラスをかけた少年が壊れたトリオン兵の上に乗って2人に笑顔を見せた。

 

「俺のサイドエフェクトがそう言っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

「ようやくB級昇格だな」

 

「もう、だろ」

 

1000点スタートから始まり2000点スタートした他のC級隊員をごぼう抜きで4000点に至って昨日からB級隊員になった少年に同じ年の高校生2人が笑みを浮かべている。2人とも隊は違えど、仲のいい友人でボーダーに入る切っ掛けになった張本人達であった。

 

「鋼さんといい迅さんといいお前といい、サイドエフェクトってのは卑怯くせえよな」

 

「あの2人ほどじゃない」

 

2人に祝われてる少年は一言返す。

 

界境防衛機関。通称、ボーダー。

 

4年前にこの三門市に開いた”門(ゲート)”からやってきた、別世界からの侵略者”近界民(ネイバー)”に対抗する為に結成された組織、ボーダー。

 

自衛隊でも倒せなかったネイバーを倒す技術力を持つボーダーは、今や名実共に三門市の守護者となっていた。トリガーと呼ばれる武器を用いて三門市に襲来するネイバーを撃退する、それがボーダー。

 

年齢は幅広く子供から成人の隊員達、隊員を支えるオペレーター、トリガーを制作する技術班。多くの人間が在籍する。

 

スコーピオンでB級に上がった九条 辰馬(クジョウ タツマ)は隊員という道を選んだ。

 

現在、ボーダーのラウンジで談笑する3人は少しばかり注目を集めている。原因はB級上がりたてである九条。彼は一部のC級隊員からはあまりいい目では見られていないからだ。

 

C級隊員は最初、ネイバーの兵器バムスターと戦いタイムを計られ、そこでは22秒と非常に好成績は取っていたが、過去には10秒以内の隊員もいた。しかし、個人ランク戦のポイントの奪い合いで真っ先に狙ったのは4000間近の3900点代の隊員。

 

ボーダー隊員同士の模擬戦。その勝敗でポイントを得たり、失ったりする。B級昇格には、4000ポイント以上の獲得が条件となっている。相手も格下から得られるポイントなどたかだか知れているが、確実に得るにはちょうどいいと思いランク戦を受けてしまったのだ。

 

ところが、九条は簡単に相手を打倒し、大量のポイントを奪い取った。相手はなにが起こったのがわからず、気付けば胸を刺され、ブースのクッションで呆然としていた。

 

九条と戦ったC級隊員は視界に入れた刹那で、ボーダーの厳しさを教えてやらんとばかりに、アステロイドをセットした機関銃で撃ち続けた。。驚愕したのはその時だ。

 

トリオンを元にした弾丸を避けたのだ、1発2発ではなく、撃ち込まれる弾丸の雨を回避し続けた。徐々に距離を詰められ、動揺のあまり後ろに下がることを頭から零れ落ちていた。

 

それを見ていた米屋と出水はにやにやと観戦していた。こうなることを予想していたようだ。

 

「お前どっかの隊に入るのか?それとも作るのか?」

 

「うちはいつでもウェルカムだぜ」

 

両手の親指を上に向ける出水の脳裏にはチームのお荷物を描いていた。既にボーダー一位の太刀川隊に九条が入れば手が付けられなくなるだろう。

 

「しばらくはソロで活動する……」

 

「元気ねえな、なんかあったのか?」

 

「いや、大体わかるだろ」

 

紙パックのオレンジジュースをストローで飲む米屋は九条が元気ないことを察し、出水の予測は的中する。

 

「今日の朝、可愛い娘を見かけたんだ」

 

「……ああ」

 

この時点で米屋は出水と同じ答えに行きついた。

 

「地球には70億近くの人間がいる。すれ違うだけでも奇跡。だが、今日会えたからと言って次の日も会えるとは限らない。出会いは大事にしなければならない。そうだろ?」

 

「……ああ」

 

「男女が出会いやることは一つだけ、必然的にな」

 

「……で?」

 

「告白した」

 

「「……それで?」」

 

黙っていた出水も返し、九条は肩を落とす。

 

「振られた……」

 

それこそ必然的だろう。むしろ見知らぬ他人に告白されて普通に振られただけで済んだだけ運がいい。

 

「んじゃ昇格祝いにバトろう」

 

席を立ち、サムズアップする米屋は戦闘を申し込む。単に自分が戦いたいだけであるのは2人とも分かっている。

 

「断る。俺はこれからイケてる女性とイチャイチャしにいく」

 

「出来た試しないだろ。ナンパと告白俺の知る限りじゃ全部失敗だろ。学校でもボーダーでも。ほらとっとバトんぞ」

 

「今日はイケる、イケる気がする……」

 

目が隠れる程長い前髪と、両目の下にあるくっきりとしたクマが特徴的な九条。これでナンパが成功するとは考えにくい。彼がボーダーに入ると最終的に決意したのは女性にモテると思ったからだ。ボーダー内部にも女性は多数いるので、歓喜するも彼女は一向に作れない。

 

「さぁ、バトルバトル」

 

「ぁぁ、イケる気がするのに………」

 

腕を引っ張られ半ば強制的に戦う羽目になった。出水も九条の戦いに興味があったのか、黙ってついていく。彼がB級のトリガー初の戦闘。セットはしたと言っていたので、ある程度戦法は考えてるとみていい。

 

2人は各々のブースに入る。A級と新人B級の実力を見るべく、多くの隊員から注目が寄せられている。出水は椅子に座り2人の戦闘を見るべく、ソファーに腰掛ける。出水も含めて正隊員もちらほらいる中で、出水に近づく隊員がいた。

 

「奴が新しく正隊員になった奴か」

 

「風間さん。ども」

 

「お前と米屋が誘ったらしいな」

 

A級3位風間隊の隊長が隣に座る。正隊員もこの勝負を見るべく増えてくる。

 

人数に余裕があれば隊に引き入れ、引き入れられなくとも敵としての情報が得られる。九条本人の知らないところで品定めが行われ、チーム間に火花が散り始める。

 

「九条を風間隊に入れんですか?俺としても欲しいんですけど」

 

「使い物になるか見極めてからだ」

 

準備が整ったのか、九条と米屋の模擬線がモニターに映し出される。九条は両手で軽量のスコーピオンをクロスさせて、米屋は槍を構える。ギャラリーは唾を呑み込み、沈黙を生み出し緊張が走る。

 

瞬間、2人の位置が一瞬で入れ替わる。

 

正面から正々堂々とスコーピオンを交差させて米屋を十字に切り割こうとした九条は舌を打つ。上がりたてにしては俊敏な動きだが、百戦錬磨の米屋は反応できた。構えていた槍を防御に転じて、左の二の腕から少量のトリオンが漏れている。

 

「思ってたより速えな。でも、これなら余裕だわ」

 

友人だろうが容赦せず、挑発を投げかける。腕のダメージなど気にする素振りを見せず、鋭い突きを見舞う。フェイントも小細工もない突きを回避。無駄のない動きで反撃に回ろうとした九条の首からはトリオンが漏れている。反射的に首を手を当てた。首を狙った槍を回避したはずの九条は一瞬なにが起こったのか理解できなかった。

 

しかし、すぐに過去に見た米屋の戦闘を思い出す。

 

「オプショントリガーか……」

 

10本勝負の先制は米屋。弧月のブレードの部分を自由に変形できる幻踊弧月。

 

8000点越えの実力を持つ米屋に勝つにはやはり厳しかったのか、最初の1本以外で一撃も与えることもなく、5本目を終えた。

 

「時間の無駄だったな。序盤はやる奴だと思ったが期待以下だ」

 

風間は九条を上がりたてにしては強い程度の認識をした。いきなりA級に1本取れと言うのも無理な話だが、それでも弱い奴を隊に引き入れたいとも思わないし、警戒するほどでもないと判断した風間の言葉に反応した出水。

 

「いやいやこっからですよ。あいつの本領」

 

「本領?」

 

改めてモニターを見ると目を見張る光景が映し出されていた。他の隊員もざわつきだす。それは異様な光景だった。バックワームを装着した九条はイーグレットを携え、高いマンションから動き回る米屋を狙っている。

 

どうやって逃げ切ったかは見逃していたから分からないが重要なのはそこではない。

 

「ふざけているのか?」

 

誰が見てもそう感じるだろう。イーグレットは本来スナイパーが持つべき武器。それを上がりたてのB級に扱える道理がない。動かない遠い的に当てる。そこから練習を積み重ねてようやく一人前になってスナイパーになる。それをいきなり動き回る的に当てれるわけがないし、外して位置がバレるだけだ。

 

九条のやっていることは無駄だと決めつける中で出水だけを違った。

 

「多分、当てますよ」

 

「根拠はあるのか」

 

「ありますよ。あいつのサイドエフェクトの恩恵でね」

 

「なに?」

 

出水に目を向けた瞬間、米屋の胸部に穴が空き、6本目の白星は九条のものとなった。

 

一方で戦っている米屋は笑っている。

 

「にゃろ、本気で来やがったか」

 

「勘違いするなよ。最初から本気だ」

 

今度は左手のスコーピオンの代わりにショットガンを米屋に向けて構えていた。

 

幼い頃から”それ”には敏感だった。

 

どこにあるか、どこを向いてるか、どんな軌道を描くか、彼には手にとるようにわかっていた。

 

自身も”それ”の扱いに長け、”それ”で自分を倒すことは不可能と自負していた。

 

「あいつのサイドエフェクトは”銃探知機”。銃がどこにあるのか、銃口がどこを向いてるか気配でわかるらしいですよ」

 

「それはつまり……」

 

「あいつはスコーピオンで上り詰めましたけど、サイドエフェクトで銃の扱いが上手いことは分かってました。だからあいつ自身銃の扱いに長けて、あいつを銃では倒せない。約1㎞圏内が有効範囲らしいですよ」

 

ショットガンで放たれたのは軌道を自分で描くバイパー。通常は幾つかのパターンを思い描いておき、それを使うのだが、ボーダーにおいて出水ともう一人の例外は違う。その瞬間、その場で状況にあった理想の弾道を描く。

 

ショットガンを片手で扱う九条は足を狙うバイパーを躱した米屋の先に回ってスコーピオンで首を飛ばそうとしたが、失敗に終わり胸の中心を貫かれトリオン体からトリオンが漏れ出しベイルアウトしてしまう。

 

一方、米屋は先ほどまでの動きに慣れてしまい、突如の異なる動きに対応出来ずに、動作が硬くなってしまう。

 

「何故、最初から銃型トリガーを使わない。使えば、もっと早くB級に上がれただろ」

 

風間の疑問はもっともで、もし仮に九条が銃型トリガーを使用していたならば、もっと早くB級に昇れていただろう。

 

「あー、なんか接近戦の方がモテるとかいろんなこと出来る男はモテるとか言ってましたね」

 

邪な気持ちで昇級のチャンスを遅らした九条。本人が自覚しているか定かではない。しかし、この戦いを見て九条を含めた隊員は九条を隊に引き入れようと目の色を変えた。

 

本職のスナイパーにも負けない射撃能力。

 

全ての銃を扱えるガンナー。

 

銃感知による恩恵でバックワーム関係なしにスナイパーを発見することが可能。

 

未熟ではあるが成長が期待出来る接近戦。

 

ショットガンとスコーピオンを合わせた戦闘技術も初とは思えない動き。

 

生まれながらの射撃の天才は、遅かれ早かれ完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)になるであろう。

 

結局のところ1対9で負けてしまった。それでも前半戦に比べて後半戦の戦いは1本先取。残り4本もいい勝負であった。初の正隊員のトリガーでここまでやれば上出来だろう。

 

「ぁぁあ、ギャラリーには素敵な女性も見ていたというのだろうに情けない姿をさらしてしまった……」

 

落ち込むポイントを間違えてる九条がブースから出て開口一番に発した言葉に、出水は呆れていた。

 

「楽しかったぜ。って落ち込み過ぎじゃね?」

 

打ちひしがれている九条に勝負に負けたことに落ち込んでいると思っている米屋は肩を叩くことしか出来ない。それも九条の口から女性と単語が出る3秒の間だけだが。

 

「この傷を癒すには素敵な女性と結婚の約束を取り付けねば………」

 

「自分で塩を塗るのが趣味なのか」

 

出水に冷静に返され余計に気分が沈む。

 

「凄いじゃないか、米屋相手にあれだけ戦えるなんて!」

 

「「「嵐山さん」」」

 

3人同時に気付き3人の声が重なる。一度見たら忘れないであろう赤いジャージの好青年。ボーダーの顔、嵐山准は気さくに話しかけてきた。無論、九条と違いモテる。モテるからといって天狗になる素振りがなく、非の打ち所がない彼に九条は若干の苦手意識が芽生えている。

 

露骨に嫌そうな顔を浮かべるが、嵐山は気づいているのかいないのか、九条の肩に手を置く。

 

「見てたんすか……?」

 

「ああ。綾辻も見てたけど、用事があるとかで行ってしまったけどな」

 

「ノオォ!女神になんて醜態をぉ………」

 

今日1日で何度も四つん這いになって落ち込む九条に気にする素振りを見せない同級生2人。

 

「ところでショットガンにしたのに意図はあるのかい?」

 

尚、嵐山を含めた嵐山隊の全員は九条のサイドエフェクトを知っている。九条自身隠しているわけではないが、あまり有名ではない。

 

「いえ……、とりあえず銃型トリガー全部使って有用そうなのを決めます……」

 

ここで自分に合うでなく有用といったのは自分に扱えない銃はない、絶対的自信の表れだ。

 

「そうか。君ならいろんなチームから引く手数多だろう。困ったことがあれば相談してくれ」

 

「うす……」

 

その場から去る嵐山。苦手でこそあるもの嫌いでもなければC級時代世話になった身。嵐山も九条には溺愛している弟妹を助けてもった恩がある。

 

「次は俺とな」

 

「いやだ!俺はもう戦わんぞ!レディの前でこれ以上醜態は晒せん!」

 

「その発言が醜態だろ」

 

2人の戦いを観て火が点いたのか、出水も勝負を持ちかける。九条は文句を言いながらも頭の中で先ほどの戦闘を反芻。

 

ショットガンの扱い自体は問題なく、バイパーで描いた弾道も即席で設定した通りの道筋を辿った。だが、戦闘は平凡で、二刀流スコーピオンに切り替えようと考えてしまう。

 

選択肢が多いのが逆に欠点となって浮き彫りになるも、まだ銃を選んでる段階だとあまり焦ってはいない。

 

「ポイントの心配をしろよ」

 

「女の子の好感度の心配はしてる」

 

「んなだから相手されねえんだよ。つか風間さんもさっきまでお前の試合見てたぞ」

 

「風間さん?あのちっこい先輩が?どうして?」

 

「お前それ本人の前では言うなよ」

 

ちっこい発言に出水は注意を促す。

 

九条と風間は面識はないが、ランク戦で顔だけは知っている。

 

「やっぱりチームに入れるかどうかだろ」

 

「風間さんもそう言ってた」

 

「風間隊って女っ気ないじゃん。どうせなら隊員にも女の子いた方がいい」

 

「風間隊のオペレーター」

 

米屋はスマホで写真を風間隊のオペレーターを九条に見せた。

 

「この子の名前は!?」

 

「三上歌歩。風間隊の2代目オペレーター。俺たちと同い年」

 

「三上ちゃんな!三上ちゃんな!三上ちゃんな!」

 

「なんで3回言った?」

 

「惚れた!今日ならイケる気がする!」

 

「その台詞聞き飽きたわ!」

 

「告白してくる!」

 

「撃沈する有り様が見えねえのか、告白バカ!」

 

「モテるテメエには俺の気持ちがわかんねえだろうよ、出水ぃ!」

 

「いったん落ち着こ。落ち着こ、な?」

 

風間隊に行こうとする九条は出水と米屋に抑えられる。ところが、振りほどこうとする動きをピタリとやめた。

 

「俺風間隊の場所知らねえや」

 

「「お前ただのバカだろ」」

 

出水と米屋に言われ、膝をついてうなだれる。

 

「鬱だ……」

 

 



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3話

「結婚してください」

 

「第一声がそれか!」

 

那須と熊谷に頭を下げた九条は熊谷に殴られて、地面を転がっていた。

 

「ふぐぅ、俺の求婚にそんなに照れなくても」

 

「120%の嫌悪だよ!」

 

「こんな世界……!」

 

床に伏せたまま九条の目から涙が滲む。

 

「くまちゃん、九条くんのは病気みたいなものだから」

 

那須隊にとって九条の告白は会う度にされるので慣れたものなのだ。

 

「恋の病ってやつだね、那須ちゃん。俺も君のことを毎日考えてるよ」

 

「1年365日失恋してるネクラは黙ってなさい」

 

「厄日だ……!」

 

熊谷からの罵声に、無駄のない動きで四つん這いになる。

 

「九条くんも懲りないね」

 

「那須ちゃん、今度デートに行こう」

 

「そうなったら、体調が悪くなる予定入れとくわね」

 

「ここが地獄か……!」

 

那須が笑顔で追い打ちをかけた姿を見て、チームメイトの熊谷は、玲がイキイキしている、と喜んでいた。

 

「君たちが魅力的だからさ。かわいいよ、熊谷ちゃん」

 

「はいありがと嬉しい」

 

熊谷は今でこそあしらっているが、初めて告白された時は顔を赤くして動揺していた。3秒後に横を通り過ぎた女子に告白して、ビンタをくらわせた。次の日も告白されて、懲りない馬鹿だと察した。

 

『ゲート発生ゲート発生 座標誘導誤差0.35』

 

九条のアピールタイムはトリオン兵の妨害によって、終わりを告げる。

 

「九条くんは初めての防衛に「ガールズチームとのトークタイムを邪魔すんじゃねえええ!」ん……むだから……」

 

異空間から現れたモールモッドを長距離からのイーグレットで早撃ちを繰り出し、一射必中を成功させた。

 

その際にスコープは覗く行為はせず、トリオン兵の特徴である目の部分を命中させている。

 

「今のどう!?惚れた!?かっこよかったでしょ!」

 

那須の指示を出そうとした言葉を遮り、九条は私怨10割の先手必勝を撃った。攻撃手の彼がイーグレットを使用したのには、驚かされる那須隊であった。その驚きも九条の発言で冷めてしまう。

 

「馬鹿言ってんじゃないよ。玲、指示」

 

「うん。九条くんはシフトを考えるとこれから組むことも多くなるだろうから、今日は様子見でお願い。ないとは思うけど、危なくなったら援護お願いね」

 

バンダー及びにモールモッドの出現に那須隊が動き出す。4年前に襲来したトリオン兵に慣れた様子で、各々武器を構える。

 

今日は那須隊にもう一人スナイパーを務める日浦茜がいるのだが、家の事情とやらで姿は見えない。

 

「オーケー。温かく見守ってるよ」

 

「あんたが言うとやましさ全開ね」

 

「そんなことはないさ。ね、志岐ちゃん?」

 

『………』

 

「今日も返事なしか。俺は諦めないよ。俺はジェントルマンだからね。無理矢理はポリシーに反する!」

 

彼女は極度に異性が苦手なので、九条の呼び掛けにも応じない。九条自身、無視されるのは辛いところはあるもの、彼はそんなこと気にするような人種ではないのは周知の事実。

 

那須隊のオペレーター志岐小夜子も男性が苦手といってもモニター越しなどならば大丈夫だが、九条にだけはどういうわけか返事を出すことはない。

 

この日の防衛任務は、異変が起こることなく無事終わりを告げた。

 

 

 

「国近さん、付き合ってください」

 

「いやだ~」

 

「そんな……!」

 

「そんなじゃねえよ」

 

4人の高校生は顔を合わせずに、ゲームが映し出された大画面に集中していた。カセットはやや昔の作品だが、今でもかなりの人気を誇る名作中の名作。

 

手足のある球体がマシンに乗って縦横無尽する。

 

太刀川隊の出水と国近に誘われて、九条と米屋はゲームをしにきた。

 

「九条、昨日槍バカとやりあったけど、他にもトリガーの組み合わせあんのか?」

 

「ハイドラ」

 

「ハイドラのトリガーあんの?」

 

「柚宇さん、お静かに。ってあ゛あ!ハイドラ集めやがったな!」

 

「そう言ってるだろ。あ、俺のトリガーはだな」

 

「今言うなよテメエ!」

 

「弾バカ、槍バカとやりあったってシャレのつもり?」

 

「だあってろや!くんなああああああああ!」

 

「きもつぃいい」

 

太刀川隊の部屋から3つの断末魔が聞こえてくるが、外から聞いた人物はいない。当の九条は口の端から涎を垂らし、恍惚そうにアナログスティックを動かしていた。

 

「で、俺のトリガーだっけ?」

 

「あ、ああ。大丈夫か?」

 

九条はハイドラを手にした後、出水と国近のマシンを破壊。それによって新たなマシンを探すはめになる。ここまではハイドラの醍醐味だからよかった。

 

そして、九条は米屋と出水と国近が新たなマシンを見つけて乗ろうとするいいタイミングで、破壊する非道な行いをした。

 

吹き飛んだマシンを眺めるだけに終わってしまう。希望が絶望に代わり、そのセットが終わると半泣きの国近に首を絞められる。自業自得だが、親友の2人は流石に見て見ぬふりはできなかった。

 

「怒った国近さんも可愛いから平気」

 

重傷なのは首を絞められたからだ。そう自分に言い聞かせる出水。

 

今は国近から逃げて、3人でラウンジでジュースを飲んでいた。

 

「んまぁ、はっきり言って特にないんだわ。ぶっちゃけると近接武器も孤月でもいいとかなって感じ。スコーピオンは長さとか調整できていいんだけど、もろいし、変化させるのあんま得意じゃない」

 

出水は銃型トリガーのことを聞いたつもりであったが、スコーピオンでなくてもいい発言には、少し興味が出て耳を傾けた。同時に意外と考えているんだな、と失礼な感想もあった。

 

思い返してみれば、九条がスコーピオンを変形させるのはあまりない。弧月は長さが一定で重量がある。九条はそれを理由に弧月を使用しなかったのだろう。

 

「んじゃ、銃型トリガーの考えあんのか?」

 

米屋はストローから口を離す。昨日一戦交えた彼が1番気になっているのかもしれない。

 

銃型トリガーと一言に言っても、突撃銃型・拳銃型・散弾銃型の3つで構成されている。付け加えるなら弾丸も基本は4種類ある。一つの銃に2つまでセットが可能。

 

当然、悩みに悩むのが普通で、他の隊員も考え込む。自分に合うか、他の隊員と何度も戦って決めていくのが定石。

 

「アステロイドとバイパー。銃はまだ決まってないけど」

 

即答。

 

「結論早くね?質問しといてあれだけど、決まってないと思ってたぞ」

 

「ん?そうでもねえよ。しばらくはソロで動くし。アステロイドは鉄板。では、もう一つの弾丸は? メテオラは威力は高いが、牽制か建築物の破壊が基本。要は仲間との連携が重要だな」

 

人差し指を立てて、出水に丁寧に話す。今度は中指を立てる。

 

「ハウンドはバイパーより手間がかからないけど、俺には必要ない。いちいち頭を無駄に使わなくてもいい利点があるけど」

 

最後に薬指を立てた。これで3本の指が立つ。

 

「んで、消去的にバイパーが残る。お前と那須ちゃんもあんまハウンド使わないだろ? レッドバレットは俺にはまだ早い」

 

出水は基本的な部分は九条に教えたが、ここまでは教えていない。ほとんど独学だろう。

 

「とかなんとか言ったけど、何回もバトんなきゃわかんねえやな。固定したわけでもねえからな。そもそも射撃は仲間との連携が大きいからな」

 

「お前やっぱりうちの隊来いよ」

 

天才出水公平は九条の腕を買っていた。普段は奇抜な行動をしているが、頭は決して悪くはない。パーフェクトオールラウンダーの卵をみすみす逃す手はない。

 

出水も射撃系トリガーを扱う隊員で、連携が図れる仲間がいるのは頼もしい。クロスファイアなどには憧れている。太刀川隊にはもう一人隊員はいるもの、出水は彼を欠片もあてにはしてない。

 

なにより、彼とは気が合う。友人と一緒にいて楽しい。高校生らしい思考で行きついた結論。もっとも他のチームメイトが納得するかは別の話だ。

 

「A級1位ねえ、あんま順位が高いと気ぃ引けるな」

 

「なこといったら一生うちに隊員増えねえよ」

 

「唯我いるじゃん」

 

「あれは戦力に入らねえ」

 

米屋の茶化しに即答。後輩の唯我が耳にしていたら泣いていた。

 

「チームはあんま考えねえようにしてんだよ。今はフリーでいたい」

 

「いつになったら太刀川隊入ってくれんだよ」

 

「太刀川隊入るの前提かよ……。さあ、いつだろうな。女の子に誘惑されても入る気はないさ」

 

「どこいくんだ?」

 

「ナ・ン・パ」

 

席を立つ九条はラウンジから去る。出水は項垂れている。もっとも彼がいくら勧誘したところで、隊長の許可が降りなければ意味がない。

 

鼻歌を歌いながら、ランク戦のブースに足を運んでいた。ここなら女性も見れて、面白いランク戦があれば観戦できるからという浅はかな考えで行こうとした矢先に、先日写真で見た風間隊のオペレーターが書類を抱えるようにして、廊下歩いているのを発見した。

 

(なるほど、恋のキューピットのお告げだな)

 

目の色を変えた九条は駆け寄る。

 

「初めまして、九条辰馬と申します。結婚してください」

 

自己紹介から流れるように告白。

 

「えと、ごめんなさい。相手にするなって言われてるの」

 

困ったように言った三上の言葉は既に対策が取られていたような口ぶりであることに、九条へのダメージが重くなる。

 

「What?」

 

「最近B級に上がった九条くんに告白されたらそう言えって」

 

「Who?」

 

「月見さんから」

 

「No!」

 

床に手を着く。

 

「心が痛い……。一体なにが駄目だと言うんだ……」

 

「ほ、ほら!私九条くんと初対面で、すぐに好きになれるわけじゃないから」

 

彼女が悪いわけでもないのに、罪悪感が三上にのしかかり、九条にフォローを入れる。九条には悪手である。伝える人がいないのだから仕方ない。

 

「本当に!?まだ希望はある!?」

 

「う、う~ん。どうかな?」

 

「頑張ります!」

 

「がんばれ……?」

 

三上は困惑していた。聞いていた話と印象があてはまっているのと、想像出来ないからだ。

 

九条の女好きはボーダー女子の中ではC級時代から有名で、熊谷や月見からよく聞かされていた。しかし、米屋や同じチームの歌川からは、出水と並ぶ天才と断片的に聞かされていた。肝心なところは見てからのお楽しみと言われた。

 

「じゃあ、また今度。三上ちゃん」

 

「うん、またね」

 

よくよく考えれば、セクハラエリートに比べれば彼の行為は軽い方なのかもしれない。そう認識してしまった、三上であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






先の展開は全く考えていません!ヒロインもです!

でも、悪魔の占い師が進まないので、投稿させてもらってます!





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4話

九条がB級に上がってから早3週間が経過していた。順調にポイントを増やしながら、ナンパ・告白に励んでいる。

 

銃型トリガーも上っ面の知識としてだけではなく、実際に使用して理解する。すぐに理解できたのは、サイドエフェクトの恩恵が顕著に表れた日々であった。彼に教えていた若村や奈良坂もこれには驚いていた。

 

銃型トリガーを一通り試した後はトリガーの組み合わせで模擬戦を時々やるようにしている。

 

ある日はショットガンとマシンガンの2丁、ハンドガン2丁とスコーピオン。誰かのを参考にしていることが多い反面、やはり自分の基本スタイルが定まらないのが悩みである。聞いた話では、出水や米屋はほぼ直感で決まった。

 

相談に乗ってくれた三輪も九条同様悩んだらしく、部隊に合わせたりで今のトリガーに基本が決まった。しかし、九条の場合は部隊を持たないフリー。考える要素がないのは厳しい。スコーピオンとイーグレットを入れるのは確定なのが、不幸中の幸いだ。

 

現在は8つの内、7つトリガーを使っている。

 

普通ならば8つの内、7つも埋まっているならば十分だ。ただ、銃型トリガーがないので、九条の持ち味が活かされない。相談に乗ってくれた隊員は勿体ないと口を揃えて言う。

 

課題は解決しないままだった。

 

「ぴ~ひゃらら~ ぴ~ひゃらり~」

 

あまり重く受け止めていない本人は今日も女子で頭がいっぱいだった。

 

九条は3週間でソロランク戦をしてわかったことは、今スコーピオンと銃型トリガーを両立させるのは厳しいと判断した。故に肩の荷が下りた。今は銃型トリガーは無視して、アタッカーに専念しようとしている。

 

「あっちぃこっちぃ探しゃ嫁探し~ 恋の病は恋で治す~ 誰か救済を~」

 

訳の分からない下手くそな歌を口ずさみながら、ランク戦をするべくロビーへの廊下を歩いている。

 

「三上ちゃん? エンジェル三上? ミカエル?」

 

ふと目にした先に大天使三上が段ボールを抱えているのを、目に映すと迷わず駆け出そうとしたとき、横から何者かにぶつかる。生身なら肺の空気がごっそり抜けていた。

 

「んだあ!?」

 

「九条先輩」

 

「……げ」

 

上記のぶつかったには語弊があった。正しくは抱き付かれた。

 

「こんにちは」

 

「離せ。俺のエンジェルが去ってしまう」

 

九条に抱き付いてきたのは、A級6位加古隊の黒江双葉だ。

 

彼女も中学生ながらでかわいいに十分分類されてもおかしくないのに、九条の態度が冷たい。

 

「あなたのエンジェルはここにいます」

 

「いねえよ。あそこにいんだよ。ちょマジ離せ! 行っちゃうから! 三上ちゃん行っちゃうから! あぁぁぁ!」

 

「もういませんよ」

 

「~~ックソォ! 邪魔すんなよ!」

 

「私も立派なレディです」

 

「3年早えんだよ!」

 

九条辰馬は子供が大の嫌いだ。

 

那須隊の日浦茜も嫌いだし、A級の緑川駿も嫌いだ。一個下の後輩がギリギリである。もう少し歳を取れば守備範囲に変化があるのかもしれない。ただ、その兆しは見られない。

 

皮肉なことに九条は年下に好かれてしまう。九条にとってそんなものは呪いでしかない。

 

いつかの防衛任務も日浦茜がいれば、彼は代理を務めていなかった。彼女もまた九条を慕っていて、黒江も彼が大好きである。傍から見れば、甘えたい盛りの妹に意地悪する兄にも見えなくない。

 

当の本人は本気で嫌がってる。

 

「なんのようだ! クソガキ!」

 

「加古隊に入りましょう」

 

「いやでーす!でーすでーす!どぅえったいにいやでーす!」

 

九条のテンションはおかしく、ガールズチームの勧誘を蹴り飛ばした。

 

「加古さんが待ち遠しいそうですよ」

 

「入りたくないチームランキングぶっちぎりの1位は加古隊なんだよ!」

 

「入りましょう」

 

「めげねえな!」

 

腰に抱き付いた黒江の頭を引きはがそうと腕に力を込める。子供と言えどトリオン体でしがみつかれたら、やはり厳しい。

 

「九条せんぱーい! 合同訓練行きましょー!」

 

「ウゼえの一匹増えた!」

 

日浦の登場に九条は額に青筋を立てる。

 

「えーそんなこと言わないで、行きましょうよ!」

 

「こちとらぁお子様の相手する暇はねえんだよ」

 

「茜、邪魔しないで」

 

「先輩独り占めにしないでよ、双葉ちゃん」

 

日浦と言い合いを始めた黒江は、九条に抱き付く腕を緩めてしまう。2人の意識が互いに向かいっている隙に、足音に細心の注意を払って、その場から抜け出し、ランク戦のロビーに到着した。

 

ちびっ子から逃げられて、一息吐く。ソファーに座り、B級アタッカーのランク戦があったので、観戦することにした。対戦者は村上と辻。両者共にボーダー屈指の実力者。

 

特に村上はNo.4アタッカーと名高い。辻はB級1位の8000点越えのマスタークラスでかなり強い部類に入るも、村上相手には分が悪いだろう。現に8対1で負けが確定している状態だ。

 

(やっぱ強えな、村上さん)

 

会話したことはないが、何度かランク戦で観戦していたので、村上の実力が遥か高い位置にいるのは十分承知済み。それだけに部隊の順位が低いことは惜しいと思っている。口には出さないでも、九条以外に同じ感想を抱いている隊員は多くいるだろう。

 

(まっ、強い弱いよりは好きか嫌いかか)

 

何事も継続には好みが重要で、それによって成長速度は変化するのは言うまでもないだろう。

 

「俺も入るなら面白そうな部隊がいいな」

 

九条はかなりの女好きだが、特別ガールズチームがいいという考えはない。彼も高校生で友達と馬鹿をやりたい時もある。男同士が気楽な時だってある。

 

「九条先輩じゃん!」

 

「チッ!」

 

ただし、子供がいないことが限定だ。

 

「舌打ちって酷いよ」

 

「酷くねえよ、わんぱく小僧」

 

厄日だ、と心中で呟き、緑川が正面に現れたところでモニターが背景になってしまう。緑川の顔を横に押すように邪魔だと言ってどかす。

 

「ランク戦しようよ!」

 

「しませーん、米屋に遊んでもらいな」

 

「負けるのが怖いの?」

 

「あー怖い怖い怖すぎてポイント取られちゃうわー」

 

「ブーブー!」

 

「るせえ、豚。迅さんに遊んでもらえよ」

 

「簡単に会えたら苦労しないよ。そもそも俺は本部で、迅さんは玉狛支部なんだし」

 

「玉狛って本部と仲悪いんだっけ?」

 

ボーダーには大きく分けて3つ派閥がある。上層部の城戸のネイバー許さない派、同じく上層部の忍田の街を守ろう派、玉狛支部のネイバーと仲良くやっていけるよ派。出水に聞いた話を思い出しながら、顔を向けないで緑川に問う。

 

もっとも玉狛支部に関しては、何度か訪れている。

 

「うん。俺は迅さんに憧れてるから玉狛に入りたいんだけどね」

 

「ふーん。宇井ちゃんに告白してくるわ」

 

先輩の視界の端に映った柿崎隊のオペレーターに疾走していく姿に呆れた緑川だが、女子に本気でぶつかって打ちのめさる姿が若干迅に似ているので、彼の行動が少し好きだった。

 

柿崎隊のオペレーターに告白した九条は通りがかった熊谷と来馬隊のオペレーターからサンドイッチラリアットを受けていた。

 

「どぅえっふ」

 

遠くから見ていた嵐山はマヌケな顔よりケツが高い体勢で床に伏している姿に笑みを浮かべていた。

 

嵐山は弟妹を溺愛しているので、2人の危機を救ってくれた九条を気にかけている。

 

 

 

九条がボーダーに入る以前のある日の夕暮れ時である。

 

九条は学校から帰宅する途中、安売りしている8個入り卵パック108円を購入していた。

 

「きゃわゆい女の子~女の子は~世界を救う~」

 

センスのない歌を口ずさみながら、自宅までの人通りが少ない道を歩く。C級で順調にポイントを稼ぐ彼は機嫌がいい。今夜の晩ご飯はカニ玉にしよう、そう気分よく商店街から少し離れた通りを歩いていると不快な声が届く。

 

「いいから来いよ」

 

視線の先には三門市立第三中学校の制服を着た男女2人が髪を染めた5人組に絡まれていた。通りがかりの人々は見て見ぬフリをしている。九条も例外ではなく、子供が嫌いな彼にとっては2人を助ける理由はない。どちらかが女子が高校生以上なら迷いなく、助けにいったであろう。

 

いつの間にか止めていた足を進めようとしたら、中学生2人と目が合ってしまった。よく見ると2人の顔立ちは似ている。姉と弟、あるいは兄と妹のどちらかなのだろう。

 

ここで見捨てられるが、彼にも多少の良心がある。

 

深く重いため息を吐く。

 

「俺の後輩になんか用か?」

 

無論、彼等とは初対面だ。しかし、知らない人間より関係のある人間の方がいいだろう。

 

「あぁ。誰だテメエ?」

 

「こいつらの先輩だよ。で、年下に5人絡んでなんのようだよ?」

 

「電車代に困ってんだよ。こいつらから借りようと思ってよ。なんだったらお前が払ってくれんのか?」

 

「一人1万円でーす!」

 

その言葉に男たちは下品な笑いを上げる。

 

九条は正面に立つ男、それから後ろにいる4人。最後に怯えてる中学生2人を観察して、行動を起こした。

 

「うっ!」

 

鳩尾を思いっきり殴ると、抑えるように前のめりの体勢になった男の後頭部に肘を落とす。脳が揺れ、意識を失わないでも地面にうめき声を上げて転がる。なにが起きたのかようやく理解したところで、動き出そうとした4人。

 

卵の入った袋を男の傍にいた不良の顔に投げつけ、視界を一瞬だけ奪う。その一瞬で股間を蹴り上げる。蹴られた箇所を抑えて2人目はうずくまる。

 

3人目が殴りかかってきたところで、顎を引き一直線に飛んできた拳を回避し、逆に顔面を殴りつけ、足を払い転ばせる。

 

「これ以上続けても意味ねえから、帰らせてもらうぞ」

 

残ったチンピラの2人は完全に弱腰になっている。卵の入った袋を拾う九条に攻撃することなく、ただ黙ってみていた。

 

「行くぞ」

 

中学生の男女を連れて九条は人通りの多い商店街に戻っていく。

 

「あの、ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

少女から礼が来ると、少年の方からも大きな声で礼が飛んでくる。

 

「……るせえ」

 

袋に入った中身が飛び出た玉子を眺め、肩を落とす。全滅しているので、かに玉はおろか、玉子かけご飯もままならない。

 

内心、見捨てればよかったと後悔している。大嫌いな子供からの礼などで腹は膨れない。彼自身、いい人みたいにはなりたくはないのだ。だから、礼など言われたくはない。

 

「副ー!佐補ー!」

 

落ち込んでいると、遠くからの声が近づいてくる。それに反応した少年少女。

 

声のする方角を見れば、ボーダーで先輩にあたる嵐山が手を振って走ってくる。

 

「「兄ちゃん…!」」

 

(こいつら嵐山准の弟妹だったのかよ)

 

「会いたかったぞー!偶然会えると思っていなかった!」

 

「やめろー!」

「ひっつくなー!」

 

長男は勢いを止めずに2人に抱き付いて頬擦りをする。必死の抵抗も虚しく、逃れられる様子はない。

 

そんな兄弟の触れ合いに思うところがあるのか、目頭が熱くなるのを堪える。

 

副と佐補の2人を見ながら、羨ましいと感じてしまう。

 

そう考えていた矢先に、嵐山の長男が九条に気付く。

 

「彼は?」

 

「あ、そうだ。兄ちゃん、この人に助けてもらったんだよ!」

 

妹の方は声を上げて、嵐山准に事の経緯を説明する。弟妹揃って興奮して説明するので、九条は去らない方が賢明だと、話が終わるまで口を開かずに終わるのを待っていた。

 

「そうなのか!君は2人を助けてくれたんだな。兄として礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

真っ直ぐな瞳を向けられ、戸惑ってしまう。彼の瞳はまるで穢れなどないような力強い正義感が感じられるからだ。

 

九条は嵐山准が苦手だ。

 

彼の真っ直ぐな性格。そして、今はもういない兄を思い出してしまいそうになるから。

 

 

 

 




ひっさしぶりの投稿!

黒トリ争奪戦、大規模侵攻編やりたいのに最近アホみたいに忙しい。

次回はいつになるやら。



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5話

夜9時を少し過ぎた時間帯、ホワイトマジックというダーツバーに高校生の九条が隅の席でグラスに入った氷入りコーラを半分ほど飲んだところで眺めていた。ズボンの左ポケットにはスマートフォンがある。暇は潰せる道具を使わずにただただ、水滴のまとわりついたグラスを眺めているだけ。

 

バーに窓はなく、耳を澄ませばマスターの趣味なのか、ジャズが流れているのが分かる。マスターは白髪交じりの老齢である。カウンター側の巨大な水槽の中には、色とりどりの魚が泳いでいるが、九条は見慣れているのか興味ないのか目もくれない。

 

カウンターの向かいには机と椅子がひっそりと置かれている。客も九条しかいないからか置物のようだ。その先には4つのダーツボードが置かれている。九条にとって飽きる程やっているので、暇つぶしの選択肢にすら入っていない。

 

酒を取り扱っている店で九条一人で入店できたのは、マスターとは少しばかり付き合いの長い知り合いだからだ。

 

九条は待ち合わせ場所をここに呼び出され、先に到着した次第である。呼び出した本人はまだ到着していない。

 

店の出入り口から微かに話し声が聞こえてくる。次第に近づいて、九条は舌打ちをしてグラスの水滴など気に止めずコーラを一口。

 

ドアベルが鳴ると、男女が入店した。入り口の方に目を向けると、服装や時間帯を考えれば一目で大学生だと分かる。バカ騒ぎこそしないもの、静かな時間を邪魔されて理不尽にも苛立つ。

 

「いい雰囲気じゃん~」

「俺ダーツ得意なんだよ」

 

中身のない会話が耳に入り、運が悪いと悪態を吐く。

 

カップルなのだろうか、男が矢(ダーツ)を投げ始める。男が矢を中心からずれたシングルブルに当てると、女がわめく。彼らを気にしても仕方ないので、再びコーラを一口含み、口内で弾ける炭酸の刺激を2秒3秒味わって喉を鳴らす。

 

そうして腕時計の長針が真上を横指した時、新たな客がやってきて大学生らの話し声は止まる。

 

ハイヒールの足音が近づいてくる。

 

今度は目線を向けずに向かいの席に座ったところで、先制を放つ。

 

「遅い」

 

「遅れてごめんなさいも言わせてくれないわけ?」

 

A級部隊加古隊の隊長加古望は悪びれるわけでもなく、若干不機嫌な九条に笑顔で対応した。待ち合わせ時間は本来9時だったが、腕時計で確認してみれば15分の遅れ。九条は明日予定があるわけでもないし、15分くらいどうとでもないが、待たされた身としては遅刻に対して不満を漏らしたくなった。

 

「双葉も来たがってたんだけど、この時間に中学生はね」

 

「そのまま二度と俺の前に現れなきゃいいんだけどな」

 

頬杖をついて敬語を使わずにため息交じりに愚痴を溢す。

 

「ふふ、気に入られちゃったわね。」

 

「用件をどーぞ。世間話をしに呼び出したんじゃないんだろ?聞き飽きた内容なんだろうけどな」

 

無駄な会話を省き、手短に済ませようとする気を隠さずに本題へ促す。九条は高校2年生の17歳。加古は20歳で3つも離れているのに、九条は敬語を使うことはない。

 

加古はそれに対して、気にするわけでもなく鼻歌で歌いそうなほど上機嫌である。

 

「もちろん。お察しの通り」

 

「加古ちゃん、偶然じゃん」

 

本題に差し掛かったところで第三者の声がかかった。加古が後ろを振り向けば、先ほどのカップルの男が馴れ馴れしく声をかけていた。髪を染め、アクセサリーを身に着けた今どきの大学生という言葉が当てはまる。

 

「あら、いつ以来かしらね。森下くん」

 

森下と呼ばれた男とその後ろにいる女の姿を確認すると一瞬険しい表情を浮かべて、すぐに愛想笑いを浮かべる。店に入ったときは彼女は彼らに気付かなかったのは単純に付き合いの浅さから、ただダーツを楽しんでる客にしか思わなかったからだ。

 

加古は森下に言い寄られていた時期がある。直接好きだの言われこそしなかったもの、遠回しに脈がないと伝えてもしつこく、少々自信家な彼を加古は敬遠している。悪いことに髪を染め、加古を睨んでいる森下を好いている女もいる。

 

加古が気に入らないのか嫌味をネチネチ言ってくる。

 

そう言った人間関係が煩わしく別の人間と関わるようになったが、偶然ここで会うとは思ってもいなかった。

 

心の中でため息を吐き、頬に手を当てる。

 

「俺たちダーツしにきたんだけど、加古ちゃんは?」

 

森下は僅かに九条に目線をずらした。九条と加古の関係が気になったのだろう。視線の動きから加古は名案が浮かぶ。

 

「彼とデート中なの」

 

「え?」

 

「は?」

 

森下はもちろん、九条も声を出して驚いた。すぐに否定しようと前のめりになって否定しようとした時、予測していた加古は人差し指を九条の唇に当て黙らせる。

 

黙っていろ。そう目で訴えかけられ、口を紡ぐ。

 

加古は考えた。このまま別れても再び森下が言い寄ってくる可能性が高い。ならばここで、嘘でも彼氏がいることにしてしまおうと。そうすれば森下もこれ以上言い寄ってくることはない。

 

「へ、へえ。そうなんだ。彼氏いたんだ、初耳だよ」

 

「彼照れ屋だからあんまり言わないようにしてるの」

 

九条はいまいち状況を把握しきれていない。このまま口を挟むのも面倒なので腕を組んで背たれに体重を預ける。

 

「そうだ!よかったらダーツしないか?親睦を深める為にもさ」

 

深めるような関係でもないが、森下の心情としては狙っていた女が高校生くらいの子供に奪われたのが我慢ならない。ここで自分のいいとこを見せて、九条の負けを晒してやりたい気持ちでいっぱいだった。

 

「え~、どうしよう。彼女さんに悪いんじゃないかしら」

 

「いやいやいや、俺とあいつそんなんじゃないから」

 

彼の声が聞こえたのか女の顔は益々険しくなっていく。森下はそれに気づきもせず、加古から視線を外さない。

 

「そうねぇ、どうせだから、やってみましょうかしら。あなたもやるでしょ?」

 

「好きにしろよ」

 

疲れたように返事をして九条と加古はダーツボードの前に立つ。

 

「丁度男女2人ずつだから、俺とこいつ。加古ちゃんと彼氏くんのタッグでいいよね?」

 

森下と女。加古と九条は向かい合ってそれぞれのダーツボードの前に立つ。森下に惚れこんでいる女は加古に敵意むき出しでいる。

 

「モテる女は辛いな。デッ!」

 

九条は小声で軽口を叩くとわき腹を肘でドツかれる。

 

「それはいいけど、ダーツのタッグなんて聞いたことないわよ」

 

「難しく考える必要はないよ。カウントアップを前後で分ければいいだけだからね」

 

カウントアップ。

 

ダーツゲームの中でオーソドックスなタイプのゲーム。最も初心者向けのゲーム。プレイヤーが交代で1ラウンド3投していき、8ラウンド24投での合計得点を競う。シンプル故にプレイヤーの腕が重要である。

 

今回の場合、一人4ラウンド12投となる。

 

「あんた腹黒いよな」

 

「お付き合いいただけるんでしょう」

 

九条は加古の意図が読めたのか、呆れたように言葉を送る。

 

先手は森下チーム。後手は加古チーム。まず女性陣が先に4ラウンド済ませ、男性陣が後半の4ラウンドを済ませる。森下は女に軽くアドバイスをして投げさせる。対照的には加古は既に撃ち始める。

 

ボーダーA級6位の隊長にして、シューターである彼女の腕はいかほどのものか。

 

結果、前半の総得点。

森下チーム 177

加古チーム 134

 

「こんなものかしら」

 

「ここ来るたびに撃ってんだろ、ど下手か!?」

 

以前から加古はここに来るたびにダーツをやっているもの、上達する気配はない。本人は楽しそうだが、その度に九条は対戦させられるのでたまったものではない。ましてや、今回は巻き込まれた形での対戦。張本人がこの様である。

 

一方、森下チームはハイタッチをして盛り上がっている。女は加古の方をニヤニヤと歪んだ顔で見ている。

 

「43点差か。どうにかなんだろ」

 

「どうにかなるのかな?」

 

九条の独り言に森下が答えて、そのまま投擲する。矢は50点・25点・25点で100点を獲得。

 

ダーツはブルを狙うのが定石で、最高得点の20のトリプル60点は現実的ではない。面積の問題で20のトリプルよりもブルを狙った方が当てやすいのだ。この時点で森下はそれなりの腕をしているのが分かる。

 

これにより森下チームは第5ラウンドにして277点となる。

 

「いやー悪いね。俺負けず嫌いだからさ、特にダーツなんかは手は抜けないかな」

 

九条の肩に手を置いて、僅かに高い身長から九条を見下す。腹の中ではお前では加古は釣り合わないんだよ、とあざ笑っている。本人はそれを加古がいる手前では出さないようにしているも、気付かない加古ではない。

 

森下は高校からダーツを始め、最高得点が1000点越えなのが自慢である。故にこの勝負には勝利の確信があった。女性陣には自分のいいところを見せられて、九条には無様に負けてもらう。

 

「あんた可哀想だな」

 

九条は言うなり、3本投擲。店に置かれた矢は九条の思った通りの場所に飛んでいく。

 

「あ?」

 

20点のトリプル60点に3本の矢が刺さっていた。よって134点は180点加算され、314点となり逆転を果たす。

 

「はあああああ!??」

 

ダーツ経験者ならば分かるだろう。ダーツにおいて180点を獲ることなどほとんど不可能である。マイダーツでもない店に置かれたダーツならば尚更。

 

森下はあまりの事態に硬直していた。

 

加古は最初からこうなることを最初から分かっていたのだ。大学でも森下はダーツ自慢を謳っていた。九条を彼氏だと知れば、恥をかかせにくる。ここはダーツバー。どういう動きをしてくるか最初から最後まで予期していた。

 

九条の腕前は誰よりも知っているし、絶対に負けない確信があった。

 

「嘘だ、ありえない」

 

ぶつぶつ呟きながら震えた手で矢を投擲する。それを見て口元に人差し指を当てて一言。

 

「哀れね」

 

 

 

 

 

夜9時32分。森下達は逃げるように去っていって、心地よい音楽が店内に届く。

 

「加古隊に入らない?」

 

「いい加減にしてくんない?その話何回目よ。入らないってんだろ」

 

森下達のことなど、話題にもあげず本題に入ると九条からは断りの返事。少なくともスコーピオンがマスタークラスになるまでは、どこのチームにも所属する気はない。

 

今のところA級、B級からのアプローチを掛けられている。

 

目的は九条というよりも”銃探知機”のサイドエフェクトだろう。サイドエフェクト一つでチームの戦力が上がるのは風間隊しかり、前例がある。欲しがらない部隊はないだろう。

 

「俺が集団行動好まないの知ってんだろ」

 

友人達とつるむのは楽しいとは思えても、こういった部隊といった統率を必要とするものは苦手だった。慣れれば問題ないし、慣れるまでが問題なのだ。そういう意味では他の部隊と比べれば自由性のあるB級2位の影浦隊は九条の性格にぴったりなのだろうが、九条は全ての部隊を把握しているわけではない。

 

とはいえ、ボーダーに入ったのには目的があったからで、部隊に所属しないわけにもいかない。そんなわけで、スコーピオンのマスタークラスを自分に課して、どこの部隊でも所属できるように自身を育成してる。

 

ただ、マスタークラスになるのもそう遠くはないだろう。元々学んでいた武術を駆使して、ボーダーの武器と九条の技術がかみ合ってスコーピオンのポイントは7000に差し掛かっている。

 

アタッカーの上位陣は流石に厳しい。それでも中堅クラスなら7:3で白星を得られる。

 

「あなたの目的には実力のある部隊、A級に入った方がいい」

 

加古は九条がボーダーに入隊した目的を知っている。ボーダー内では米屋達に誘われたからとなっているが。

 

事実は少々異なり、九条自身めんどくさいので話すつもりもない。

 

「その通りではあるが、必ずしもA級がいいとは限らない。理由として、まず一つ」

 

九条は人差し指を立てる。

 

「部隊に所属するには相性が重要だ。俺が加古隊と合うとは思えない」

 

「相性は時間が解決してくれるわよ。慣れの問題」

 

キランと目を光らせた加古に対して、口を一文字に閉ざし顎を引く。負けじと中指を立てる。

 

「俺はガキが嫌いだ。黒江がいる」

 

「好き嫌いしちゃ駄目よ」

 

「そういうことを言ってんじゃねえよ。ガキはめんどくせえから嫌いだし、感情のコントロールがまともにできやしねえから嫌いだ」

 

この男、基本的に女へのだらしない姿ばかりに目が行くのであまり知られていないが、学校側からは優秀な生徒として認められている。祖父の教えで武術や礼儀や勉強を教わっているからだ。第一次侵攻までは年上に囲まれて生活していたが故に、少々大人びた性格をしているのもまた事実である。

 

同時に年下との交流も少なく、舐められることも多かった。

 

「双葉はそんな子じゃないわよ。あなたもいい子だって分かってるじゃない」

 

「三つ目に」

 

言い負かされそうになって声を大にした。薬指を立てて、加古隊を拒む最後の理由を述べる。

 

「隊服が無理。紫色とか目に優しくない。視覚的攻撃も狙ってんのアレ? というか隊服自体男の俺にはキツイわ」

 

前半はイラッとしたが、後半は一理ある。色はともかく、デザインはガールズチームの為に作られた隊服。男性用に作れなくもないだろう。しかし、言ったところで九条はまた適当な理由で加古隊へ入ることを拒むだろう。

 

加古としては、戦力的にも個人的にも九条には来てほしい。更に言えば、九条に自ら来てほしい。九条は遠征を狙っているので、それを餌に部隊に九条を入れればいいのだが、その方法は加古としても望むべく手段ではないので、最後の手段としても使うか決めあぐねていた。

 

九条自身、分かってはいるもの乗り気がしない。

 

「いずれにしても部隊に入らなきゃいけないんだから」

 

遠征を狙っている以上、部隊に所属しなくてはならないのは必然だ。

 

「話がそれだけなら、もう帰らせてもらうぞ」

 

席を立ち、帰ろうとしたところで腕を掴まれる。

 

「明日、時間空いてるわよね?」

 

「いや全然全くこれぽっちも」

 

嘘である。明日は誰にも邪魔されず、ナンパかゆっくり読書を楽しもうと思っているが、重要な用事ではない。

 

「よかった。やっぱり暇なのね」

 

しかし、平然と嘘を見破ったのか、最初から知っていたのか九条に明日の用件を伝える。

 

「明日の朝10時にボーダー本部に来て」

 

「理由を言えよ、望」

 

「それは来てからのお楽しみ。じゃあね、辰馬くん」

 

もったいぶった様に謎だけを残す。店に残ったのは九条とマスターだけとなる。

 

「女には気ぃつけろよ。お前の場合は特にな」

 

マスターが透明なグラスを眺めて、九条に助言を促す。

 

 







九条 辰馬

ボジション:アタッカー
年齢:17歳
誕生日:10月7日
身長:177cm
星座:時計座
職業:高校生
好きなもの:女・読書・的に当てる系(ダーツや射撃など)・和食
家族構成:父・母・兄

パラメーター:

トリオン 14
攻撃 7
防御・援護 2
機動 7
技術 7
射程 2
指揮 1
特殊戦術 5

TOTAL 45

TRIGGER SET
○MAIN TRIGGER
 スコーピオン
 シールド
 バックワーム


○SUB TRIGGER
 スコーピオン
 シールド
 グラスホッパー


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6話

「ハロー、三上ちゃん。結婚を前提に付き合わない?」

 

「付き合いません」

 

朝9時40分、加古に言われた通りボーダー本部に訪れ、最初に見かけた那須に愛の告白を挨拶するようにする。三上は九条のこのお決まりの挨拶に慣れたのかプイとそっぽを向き、申し出を当然のように断る。

 

「え、えぇ、そんな」

 

「ダメージ受けすぎでしょ」

 

毎度のことながらフラれる度に、ショックを受けましたと言わんばかりに落ち込む。三上は穏やかな性格をしているので普段ならフォローもするのだが、生憎彼女もこの後予定が入っているのだ。

 

「あら、三上ちゃんもいたのね」

 

ハイヒールの足音と共に加古が来ると、三上は九条には見せない明るい笑顔を見せる。

 

「加古さん。今から行くところです」

 

「私もよ。あなたも来なさい」

 

「なにするか聞いてないんだけど」

 

三上に振られて猫背になるほど落ち込む。ぼさぼさの髪の所為で目は見えないが、生気は感じられないだろう。

 

ポケットに手を突っ込んで加古についていくと、そこには見知った顔がある。

 

「出水。これなんの集まり?」

 

同級生の出水、米屋。鈴鳴第一の村上、東隊の東、加古隊の加古と黒江、荒船隊の荒船。二宮隊の二宮。風間隊の風間。嵐山隊の佐鳥。柿崎隊の柿崎。諏訪隊の諏訪。合計12人の隊員がいる。会話したこともない隊員もいるが、顔と名前は一致している。

 

三上は何人かに挨拶をして、どこかへ去っていく。

 

「聞いてねえのか?混成部隊でチーム戦やんだよ。加古さんがお前に話しとくって言ってたんだけどな。てか知り合いだったのな」

 

「来いとは聞いても、なにをするかまでは聞いてねえな。混成部隊ってあれだろ、普段の部隊と違って色んな奴が部隊として集まってバトルんだろ?チームは決まってんの?」

 

「それはこれから決める」

 

スーツのポケットに手を突っ込んだ男が出水と九条に近づく。

 

「初めまして、B級フリーの九条辰馬です」

 

B級1位の隊長を勤めながらも、ソロ総合2位に位置する男を九条が知らないはずがなく、軽く頭を下げながら自己紹介をする。

 

「二宮隊の二宮だ」

 

お互い挨拶をして、九条は二宮のにこりともしない目線に違和感に気付く。

 

(品定めか)

 

二宮だけでなく、隊長を務める者たちは皆、二宮同様の視線を九条に向けている。

 

13人中8人が隊長であることはそういうことなのだろう。

 

(望じゃねえな。誰が企画したかはわからんけども、部隊で戦った場合の俺の戦力はどの程度のものなのか測る気か。確かに俺、部隊で戦った事ねえもんな)

 

九条は証拠はなく、推測でこの状況を読み取った。ここでそれを問いただしてもよかったが、

 

(でも、これで違ったら俺相当痛い人になっちゃうから黙っとこっと)

 

自身の保険の為に、口を閉じることにした。

 

「太刀川さんは?こういうの来てそうなんだけど」

 

「参加したがってても、隊長はレポートの危機で不参加」

 

「あそ。ま、丁度トリガーいじったところなんだ。いい機会だから試させてもらうぜ」

 

「っし、全員揃ったところだ。クジ始めんぞ」

 

諏訪は割り箸を持ち、各々割り箸を引いていく。

 

東隊(仮)東、黒江、出水、村上。

 

風間隊(仮)風間、二宮、諏訪、荒船。

 

柿崎隊(仮)柿崎、米屋、九条、佐鳥。

 

「A級がいい感じにばらけたって言いたいけど、風間隊(仮)やべえな。総合順位上位が2人いんぞ」

 

九条は頬を引きつらせて、チーム分けされた部隊を見て頬を引きつらせていた。

 

「と思うじゃん。東隊(仮)も全員曲者だらけだぜ」

 

「俺、東隊(仮)の面子に1対1でかち合っても勝てる気しねえぞ。女子にいいとこ見せらんねえ」

 

「そうならないためにも作戦を考えるんだ」

 

九条のテンションの低さをどうにかしようと、柿崎は手を叩きながら気持ちを切り替えさせる。初めてのチーム戦に九条はこういった動揺をする一方で、参加する他のメンバーは何度も経験していることなので今更なにかを感じることはない。

 

加古の名前がないのは参加しないからで、彼女は今回観戦に回ることにしたらしい。

 

「こっちには九条がいるんだ。相手チームの東さんと荒船の遠距離射撃を封じることが出来る。逆にこっちは佐鳥がいる。遠距離戦ではこっちが有利だ」

 

「俺が主役ですか!?」

 

A級嵐山隊スナイパーの佐鳥は柿崎の言葉に目を輝かせて立ち上がる。柿崎は元チームメイトとして佐鳥の性格をよく分かっている。待っていましたと言わんばかりに、佐鳥の肩に手を置く。

 

「ああ、この勝負お前の力が必要だ。だから、佐鳥を除いて開始直後すぐに集合だ」

 

自分の部隊でも行っている戦法をここでも活用する。

 

「逃げられなかった場合はどうするんですか?村上さんと黒江。特に出水やら二宮さんからは逃げられる気がしないんですけど」

 

ボーダーのチーム戦は開始直後は全員が集まっている状態からは始まらない。ランダムでばらけている状態で開始する。当然、集合する際に相手チームに接触する可能性は高い。

 

相手チームで九条が勝てそうな相手は諏訪くらいしかいない。周知の事実として、九条の”銃探知機”は銃と銃から放たれた弾丸を感知するものであって、銃を介さずに放つことのできるシューターの弾丸は感知できなものである。

 

実際、出水と那須と戦った際に幾度となく蜂の巣にされた。

 

「頑張れ」

 

「ですよね」

 

柿崎の一言に、九条は納得する他ない。

 

バックワームは装備はしているから、敵に見つかる心配はない。更に言えば、加古との待ち合わせ前に一つ装備を付け加えているので、格上でも一泡吹かせることができるかもしれないのである。

 

「この佐鳥めを頼っちゃっていいですよ」

 

「ういー、頼りにしてるぜ。ツインスナイプよろしく」

 

はしゃいでいる佐鳥の横を通り過ぎ、今回サポートをしてくれるオペレーターの綾辻にひざまづく。

 

「綾辻ちゃん、今日はよろしく。そして、好きです。結婚してください」

 

「しっかりサポートさせてもうらうね。頼りにしてるよ」

 

「君の声を聴ける俺は幸せ者だ。まるで天使のようだ。いや、違うな。君こそが天使だったんだ。そうだ、この試合で勝ったらプロポーズしよう。イケる。イケる気がする。勝利の女神は俺に微笑んでいる」

 

恍惚な表情で綾辻に見惚れる変態を柿崎が引き戻し、各々トリガーの中身を確認し合う。

 

「あれ、そんなもんいれてたっけ?」

 

米屋の疑問は九条を除く全員が同意見であった。米屋を含めた九条の知人が知る限りでは九条のトリガーには6つしか埋まっていないはず。今のトリガーには7つ目が存在するのだ。

 

「なにごとも変化が大事なのだよ。ほんとは太刀川さんにとっておく手なんだけど、チーム戦で使わない手はないからな。練習なしのぶっつけ本番になるけど、成功したら最っ高だな」

 

得意げに笑うが、全員が九条の意図を理解できずにいた。この場に東か二宮がいれば九条の考えを察していたかもしれない。

 

「客観的に見てもこの試合、良くも悪くも俺で決まる。他のチームは俺を優先的に狙うね」

 

九条の意見は正しい。九条はいるだけでも、スナイパーからすれば腹立たしい存在なのだ。全チームにスナイパーがいる中で、スナイパーという駒を有効活用できるのは、柿崎隊(仮)のみである。

 

サイドエフェクト一つで敵部隊の戦力を減少させる。柿崎は改めて、サイドエフェクトの脅威を知る。同時に味方になれば、これだけ頼もしく思えることに喜びを感じた。

 

柿崎は九条の言葉に頷く。

 

「だな。今回は九条を中心に集まろう。九条がいる限り、遠距離戦はこっちが有利。この勝負、勝つぞ」

 

制限時間を過ぎると、全てのチームが仮想ステージへに転送される。

 

『それでは戦闘開始です』

 

(この可愛らしい声は国近先輩かな)

 

戦闘開始の合図が届くも、全員ランダムで転送されているのだ。すぐに戦闘が始まるわけではない。

 

「愛しい愛しい綾辻ちゃ~ん。聞こえる~?」

 

『はい、愛しい綾辻ですよ』

 

まさか、自分のノリに乗ってくれるとは思わず、嬉しい気持ちを大声で表したいところである。しかしながら、戦闘中で、そんな余裕はない。

 

「全員バッグワームしてるでしょ。あってる?」

 

『はい、その通り。なんでわかったの?バッグワーム持ってるからって使うとは限らないのに?』

 

「馬鹿じゃなきゃそうするでしょ。布石うったし、綾辻ちゃんはあの場にいなかったから知らないのも無理はないよ」

 

『布石?』

 

九条はチーム決めが始まる前に出水と話してる際に《丁度トリガーいじったところなんだ。いい機会だから試させてもらうぜ》と喋った。これを聞いていた周囲の人間は当然九条の”銃探知機”を知っている。

 

今回の状況で最も警戒しなければならないのは狙撃である。故に作戦タイムでは狙撃用トリガーを追加したのではないか、と。九条は今まで狙撃用トリガーを封印してきた。実際には銃手用トリガーなのかもしれないが、警戒しておく価値はある。

 

ましてや、柿崎隊(仮)には佐鳥がいる。何時狙撃されるか分かったものではない。

 

であれば、必然的にバックワームで姿を消しつつ、全チーム合流するだろう。

 

この試合の序盤は全チーム合流は決まっている。

 

九条はそう考えながら、綾辻に指示された場所へ移動していく。距離的に最初に合流しそうなのは米屋である。

 

味方では。

 

「ごめん、綾辻ちゃん。目が合っちゃった」

 

『え、相手は?』

 

「くそったれめ」

 

綾辻の質問に答えることもなく、悪態を吐く。質問に答えなかったのは、相手がバックワームを取り去り、孤月を構えたからである。

 

九条も両手にスコーピオンを片刃のスタンダードタイプで展開させる。体勢を低くして、何時でも迎え撃てる体勢に入る。

 

「会いたかったぜ。その首ぶった斬ってやるよ」

 

「荒船さん、お手柔らかにお願いします」

 

相手は完璧万能手を目指すアクション派スナイパー荒船哲次。イーグレットと共に孤月のポイントは8000越えの猛者。接近戦においては九条の格上であることは間違いなく、ソロのランク戦では勝ち越せたのは片手で数える程度しかない。

 

柿崎隊(仮)は他の部隊に比べ、いくらか見劣りする。お世辞にも柿崎はA級の実力はないし、九条もサイドエフェクトを抜けば、B級中位程度の実力でしかない。相手が相手なだけに一人でも落ちれば、巻き返すのは厳しい。

 

ここは近くにいる米屋を待つのがベストなのであるが、

 

『米屋君、村上さんと交戦開始』

 

希望は断たれる。

 

九条は苦笑いを顔から消して、気持ちを切り替えながら荒船を見据える。

 

九条と荒船が共通していることはただ一つ。

 

自分の勝利を疑わないことだ。

 

 

 




お気づきの方もいるかもしれませんが、九条のモデルはエンバンメイズの烏丸徨です。

本当は前話で烏丸徨の決め台詞や特有の擬音を使いたかったのですが、流石にどうかなと思いやめときました。というか、モデルどころか烏丸徨そのものを主人公にしようと思ったものの扱いきれる自信がありませんでした。

主人公のモデルは烏丸徨だけでなく、他にも候補となるモデルがいました。

絹守 一馬
空山 蒼治
華原 清六
志道 都
瀬戸 真悟

特に空山と真悟の信念がいい具合だったので、迷いました。

空山だったらレーダーに引っかからないサイドエフェクトだったり、真悟だったら才能もサイドエフェクトもない凡人として。志道 都であれば、勝利への貪欲さを。

オリキャラとして出そうにも烏丸徨同様扱い切れる自信がなく、読み手もごちゃごちゃして分かりづらいだろうと判断しました。




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7話

天候は晴れ、時間帯は昼間、市街地Bで設定されたステージで金属音に似たぶつかり合いが聴こえる。

 

17合目の斬り合いでも、九条と荒船の均衡は崩れない。お互い集中しているのだろう。戦い始めてから、口を開かずに、民家の屋根で切り結んでいる。2人とも大きなダメージはなく、かすり傷しか負っていないが、僅かに荒船の方が多い。

 

スコーピオンと孤月のスペックの性能が出たのだろう。スコーピオンの方が軽く、孤月は重い。そして、スコーピオンは孤月に比べてかなり脆いのである。

 

九条は舌打ちをする。その原因は左手のスコーピオンに亀裂が入ったからだ。17合まで持ったのは、九条のトリオン量の関係によるものだ。スコーピオンの耐久性としてはかなりもった方だが、荒船相手に亀裂の入ったスコーピオンを1度しまって、新しいスコーピオンにする余裕はない。

 

荒船の実力はA級でも遜色ない。荒船も最初からスコーピオンの破壊を狙っていたのだろう。

 

九条にも切り札はある。それを上手く使えば荒船を倒せるだろうが、荒船以上の実力者がいる中で得策とは言えない。二宮、風間、村上の3人は一人として戦闘開始から落ちていない。

 

(よし、米屋のところに逃げるか)

 

荒船から逃げる方法を思いつき、村上と戦っている米屋の元へ逃げ、2対1または2対1対1の乱戦に持ち込む。

 

左手のスコーピオンが砕けた瞬間に、荒船が笑うのと同時に一気に後ろへ下がる。

 

「逃がすかよ!」

 

そう言いながら荒船は追ってくる。その時、九条は左側にあるマンションに視線だけを送る。荒船はそれを見逃さずにすぐさまシールドを張りながら、民家の屋根から下りる。九条はバックワームを着て、米屋の元へ駆けていく。

 

『風間さんが出水くんと黒江ちゃんと戦闘開始』

 

「了解。俺は米屋んとこ行く」

 

『助かるぜ。何回か死にかけた。よく荒船さんから逃げられたな』

 

「まあな」

 

後方を確認すると荒船の姿は見えないが、微かに足音が聞こえる。しっかりついてきている。

 

九条が行ったのは視線のフェイント。サッカーやバスケの経験者ならば分かるだろうが、自分から見て視線を右に注目させて、左に行くという寸法である。普段の荒船であれば通用するか微妙なところではあるが、九条のサイドエフェクトにより柿崎隊(仮)しかスナイパーの役割を果たせない。

 

荒船は経験上、警戒せざるをえなかった。

 

米屋と村上の姿が見えると、両手のスコーピオンを村上に投擲すると、村上は武器として携えている孤月でスコーピオンを防ぎながらも米屋からの攻撃はレイガストで防御する。

 

「乱戦か」

 

村上が呟くと、米屋、九条、荒船という順に目を移していく。九条の狙い通り、2対1対1になった。が、荒船こそがしてやったりと思っている。

 

「アステロイド」

 

近くからの声に荒船を除く、アタッカーが驚愕した。視線だけを声の方向に向ければ、バックワームを纏うスーツ姿の男が民家の屋根に立っていた。総合2位の二宮だ。

 

二宮と彼らの中間には強力なアステロイドが飛んでいた。村上はレイガストで防ぎ、米屋と九条は2つのシールドでヒビを生みながらもなんとか防ぎきる。二宮のアステロイドの影響で、周囲の建物は崩れ、砂塵が舞う。通常の使い手ならばここまではならないのだが、ボーダーでもトリオン量トップクラスの威力は桁違いである。

 

質が悪いのがこの攻撃は囮でしかない。

 

「九条!」

 

米屋の声が聞こえてくる前に、砂塵の中から荒船の姿が見えた。

 

「終わりだ、ルーキー!」

 

瞬時に右手のスコーピオンを展開させ、防ぎにいく。旋空による攻撃で数メートル離れてからの攻撃だった。それでもものともせず、孤月の刃を防ぎ、攻撃の重さに耐えるべく地に足をつけて踏ん張る。

 

「荒船さんよぉ、やってくると思ったぜ」

 

「なら、これはどうだ?」

 

背後から村上が孤月を振りかぶっている。

 

九条のおかげで風間隊(仮)と東隊(仮)はスナイパーの行動が制限されているので、正直に言えば苛立たしい存在。実力的に言えば米屋の方も潰しておきたいが、やはり九条は邪魔でしかないのだ。

 

ようやく遠距離攻撃が出来る、荒船と村上がそう思った直後、九条は目じりを下げ、白い歯を見せて笑っていた。

 

砂塵の中から光が走り、2人に腹部へ衝撃が襲い掛かる。荒船と村上は砂塵の中からの正体に2人は気づいた。

 

「アステロイドだと?」

 

「クソ、そういうことかよ!」

 

両者の胴体は、幾つもの光線によって蜂の巣になる。光線の正体は銃を介さずに放ったアステロイド。

 

まともにアステロイドを受けた2人はベイルアウトを余儀なくされた。これにより、柿崎隊(仮)は2p獲得する。

 

何故、荒船と村上程の実力者にアステロイドが通じたのか?

 

これは米屋など他の隊員にはできないだろう。結論から言ってしまえば、先入観の問題である。

 

九条にサイドエフェクト”銃探知機”は銃にしか意味がなく、シューターには通用しない。これは出水や那須で実証済みで、他の隊員も知っている。故に、シューターに九条は通用しない。加えて、九条はシューターとしての適正は低かったのだ。

 

銃あってこそのサイドエフェクト。そんな結論が出ていた。

 

それを九条はあえて利用した。九条はシューターとして弾丸のみは使わないだろう、という先入観を。実際に二宮の起こした砂塵を利用して、左手からのアステロイドに成功した。

 

もし仮に、直前でシールドを張られても、九条は二宮レベルのトリオンを有しているので、レイガストを装備している村上はともかく、荒船では防ぎようがない。

 

九条のブラフも功を成した。

 

ただし、成功したのは2人が比較的近くにいて、初見だったからであり、牽制には十分でも2度目はそうは通用しない。

 

現状も喜んでいられる余裕はなく、二宮からのフルのアステロイドが迫ってきていた。

 

村上の攻撃が成功するか否かに関わらず、二宮は荒船ごと3人のアタッカーを攻撃するつもりだったのだろう。

 

再びフルガードした矢先、敵の援軍が来ていた。銃の気配を感じ取りながら、その方向に目を向ける。

 

「吹っ飛べぇ!」

 

「いやっべ」

 

シールドを張りながら倒れるように横からの銃弾の回避に成功。

 

「メテオラ」

 

「っそだろ?」

 

二宮から聞こえた単語が耳に届くと、倒れた体勢から転がり、民家と民家の間に逃げ込む。

 

九条がいた場所は爆発し、九条の逃げ込んだ場所にまで及ぶ。爆破に直撃こそしないもの不安定な体勢だったため、爆風で奥へと吹き飛ばされる。

 

そんなパニックの中でも銃の気配は確かに感じていた。

 

標的は米屋。

 

『米屋ぁ!7時の方向から諏訪さんが狙ってるぞ!』

 

爆発の影響により、砂塵は先程よりも酷いが、一瞬米屋の姿が見えたため、すぐに警告を出せた。が、九条の努力も虚しく終わり、柿崎隊(仮)の最初の脱落者は米屋になる。

 

九条は米屋の返事も待たず、全壊されていない民家の屋根に跳ぶと、待ち構えていたかのように、二宮が九条へ体を向けていた。

 

青い空には流星が流れるが、見向きもしなかった。

 

アステロイドは既に展開され、一瞬でも目を離せば撃たれる。

 

「ふっ」

 

暫しの沈黙の後、九条は先に動く。

 

諏訪に地面から銃口を向けられているのも、分かっていながら、諏訪への警戒を解いていた。

 

クロスファイア。

 

二つの方向から弾丸を放ち、十字の線が出来るから、日本語では十字砲火と呼ばれる。諏訪も二宮もそれを狙っていた。

 

如何に九条と言えど、2方向からの攻撃を回避するのは厳しい上に、二宮のアステロイドに諏訪のショットガンの高火力を防御するのは、シールドで防ぎようにも破壊されてしまう。

 

民家から民家へ移る瞬間が、勝負の鍵。

 

九条が視界に映る瞬間まで、諏訪は引き金に指をかけ、期を伺う。

 

ここが天王山の分け目。

 

九条も承知の上で、疾走している。

 

民家から民家へ移ろうとしたその時、二宮と諏訪は九条にフルアタックを仕掛けた。

 

『狙撃注意!』

 

オペレーターからの一言が二宮と諏訪に届く。時は既に遅く、諏訪の胸部に風穴が開く。

 

結果、引き金を引くことは敵わず、そのままリタイアとなる。

 

『んナイス、佐鳥』

 

『ツインスナイプ失敗したああああ!』

 

ツインスナイプとは、2丁の狙撃銃を使用したボーダーでも佐鳥しかできない狙撃である。

 

今回の的は、諏訪と二宮。

 

諏訪はリタイア。

 

二宮は直前でシールドを張り、無傷であるが、九条への対応が一手遅れる、かのように見えた。

 

右斜め下から複数の弾丸が九条に飛来する。一発一発の威力は高くないモノの、蜂の巣にするには十分な弾数だった。

 

「ハ…ウンドォ……だと!」

 

「終わりだ」

 

二宮は指を銃の形にして、皮肉を込めたアステロイドが九条を貫く。

 

 

 

 

 

チーム戦が終わり、ブースに移動していた柿崎隊(仮)。

 

「初めてにしちゃ上々だろ。荒船さんと村上さんからポイント獲れてるんだから大金星だぞ」

 

「ぬぉ~!」

 

ひざまづいている九条にいつもの如く米屋がフォローを入れる。

 

九条を倒した二宮は、佐鳥を見つけ出しベイルアウトさせる。

 

風間と戦っていた黒江と出水は黒江が風間と相打ちになった直後、出水は東との連携で二宮をスナイプでベイルアウト。

 

この後は柿崎が東と出水前に姿を現さなかったのでタイムアップ。

 

東隊(仮):2P 風間隊(仮):3P 柿崎隊(仮):2P

 

以上の結果により風間隊(仮)の勝利となった。終わってみれば、全滅したチームが、勝利したというのも不思議な話だ。

 

「綾辻ちゃんにオペレートしてもらいながらなんちゅう無様な……。なんかこう、死にたくなってきた」

 

「いや、隊長として指示も戦ってもいなかった俺が悪い。悪かったな」

 

柿崎は言いながら頭を下げる。今回の戦いでダメージが一番大きいのは、戦いもしなかった柿崎だろう。

 

最初に配置された場所も一番遠く、近くても風間たちが戦っていた場所で割り込みづらかった。結果的に柿崎が生き残って、無駄にポイントは獲られなかった。

 

言い方を変えれば何もしていない。その事実が柿崎に無力であるという意識を与える。

 

「そういうときもあるでしょ。普段のチームならともかく、混成部隊ですよ。気にしなくていいんじゃないすか。次に活かせりゃいいでしょ。それに俺も1Pも獲れてませんし」

 

米屋も柿崎ほどではないにせよ、長くチームで戦った経験があるから出来るフォローを送る。柿崎も後輩からの言葉を素直に受け止めておく。

 

「そうだな。負けたけど、九条が予想以上の結果残してくれたもんな」

 

「俺的には村上さんだけじゃなくて、二宮さんと風間さんの総合上位のどちらかを倒したかったんですよね」

 

「九条先輩、欲張り過ぎでしょ。村上さんと荒船さんを同時にやれたんだから十分じゃないですか。二人ともA級でも申し分ないんですよ」

 

「初めてのチーム戦だから勝ちたかったんだよ」

 

「あーそういう」

 

これには全員が同意した。確かに自分たちもデビュー戦の勝ちたいという気持ちは普段の戦いにはない気持ちであった。それだけに柿崎は余計に勝てなかったことを悔やむ。

 

「でも、かっこよかったよ九条くん」

 

「んっでしょう!」

 

ひざまづいていた状態から流れるように立ち上がり、左手を腰に、右手は額に置く。さっきまで悔しさはどこへやら、一気に元気百倍。男たちのけなげのフォローなど彼の前では塵に等しいのだろう。

 

「でも、お前が諏訪さんの銃の気配に気づかなかったのかよ?何のためにお前がいたんだよ?」

 

「人をサイドエフェクトだけの人間だと思うなよ!?」

 

米屋からの辛口に九条は半泣きになってしまう。九条が気付けなかったのも無理はない。

 

諏訪は直前までショットガンを出さずに、チャンスになるまで勝負の行方を伺っていた。

 

それも二宮の指示で、ほとんどが二宮の思惑通りとなったが、二宮としては、九条が米屋と合流せずに、荒船が九条を倒してくれれば、米屋と村上の2人分のポイントも得られたし、荒船のポイントも奪われずに済んでいた。

 

これは米屋と合流する事や九条の銃なしアステロイドが二宮の予想を上回る結果になった九条の功績。ではなく、二宮が九条の実力を見誤ったミスが招いた結果である。

 

「マスタークラスとはいえ、ブランクのある荒船さんに真正面から勝てなかったのはショックだけどな」

 

「自惚れんじゃねえ!」

 

「うぉッ!」

 

後ろからヘッドロックを掛けられる。その正体は九条に負かされた荒船である。

 

「九条ォ。意外と頭使ってくれるじゃねえか」

 

「デデデデデ!タップタップ荒船さん!あと意外は余計ですよ!」

 

荒船だけでなく、戦った隊員も集まりつつある。

 

「よっしゃ!九条、うちの部隊来い!可愛いオペレーターがお前を待っている!」

 

「や、諏訪さん。どこの部隊のオペレーターもかわいいんで、プラスにはなりませんよ。それにまだスコーピオン、マスタークラスじゃないんで」

 

「前も聞いたぞそれ。スコーピオンがマスタークラスになったらつってたけど、今ポイントどんぐらいなんだよ?あと、パーフェクトオールラウンダーにしてやっからよ、荒船隊来い。」

 

「行きませんて。6987でしたね。てか、荒船さんは孤月じゃないですか。俺のスコーピンじゃ、アタッカーとして畑違いっしょ?」

 

「こまけーこたぁいいんだよ。スコーピオンのデータも欲しいしよ」

 

パーフェクトオールラウンダーという、遠中近の3つ戦闘用トリガーを、マスタークラスにすることを目指す荒船にとって、九条はいい実験体だ。

 

口にこそ出さないもの、九条は自分の目指すスタイルが見えつつある。というよりは、密かに練習している。

 

今回、それを使わなかったのは未だスコーピオンがマスタークラスでないことを差し引いても、実戦に投入出来るものではないからだ。

 

ヒントは海外の映画で、マネと修正を繰り返していたら予想以上にかみ合っていた。

 

「んじゃ、俺はこれで失礼させて貰いますわ」

 

「用事あんのか?」

 

「未来の伴侶を探しに」

 

ナンパか、と誰かが全員の心の声を代弁した。

 

 

 

 

 

 

 

 





ども、ベリアルです。

以前の投稿から約1年。忙しくて、書く暇がなく、内容が吹っ飛んでいました。

しかし、エタりたくない一心で投稿できました。内容は多分めちゃくちゃですが。

さて、1年ぶりに投稿出来た”女好きボーダー隊員 ”についてですが、これヒロインどうしようか迷っています。というよりも、ラブコメ事態得意ではないので、ヒロインとどう繫げるかわかりません。もう、ヒロインいなくてもいいんじゃね、と思うのですがそうはいきません。他小説の練習にもなるので。

ヒロインに関する意見、感想がありましたらお願いします。



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8話

ボーダー本部にて、九条はコロンビアポーズを取っていた。アホである。

 

「キタコレ」

 

喜びを体で表現する中で、友人たる米屋と出水は生憎不在であった。なので、一人でこのポーズをしてるのは、周囲の目線が悲しいものであるのは、十分把握できる。

 

それでも、せずにはいられなかった。

 

「マスタークラスおめでとう」

 

「ありがとうって言っていいのか分からんけど、ありがとう。辻」

 

素直に感謝の言葉を伝えるのに戸惑いながらも、ここは言った方がいいと判断した。

 

スコーピオンのポイントが8000に突入した。マスタークラスに仲間入りしたことを意味する。

 

最後に得られたポイントはスーツ姿の辻からだったので、やや気まずさを感じて、辻の表情を観察すると、本人はなんてことないようだ。

 

スーツ姿という珍しい隊服だが、九条は辻の所属する部隊を知っているので、今更気にすることはなかった。

 

ポーカーフェイスを気取っているわけでもなく、単に九条よりも長くボーダーにいるので、ままあると知っているからだ。今回は自分の番だった、というのが辻の感想だ。

 

それを察してか知らず、辻の肩を組み、こう言った。

 

「お祝いにナンパ行こうぜ」

 

「やだ」

 

「えー、辻モテるっしょ?俺はお前のおこぼれにあやかりたいんだよ」

 

「プライドはないの?」

 

「プライドなくして彼女が出来るのなら捨ててやるさ」

 

尚、スコーピオンがマスタークラスになったことで、銃型トリガーが解禁になったが、本人は辻をナンパに誘うことで頭がいっぱいだ。

 

そもそもとして、辻は九条とは根本的な部分が真逆だ。

 

「ふっふふ。マスタークラスおめでとう」

 

「!?」

 

「あっやつじちゅわあん!」

 

やってきた綾辻がお祝いの言葉を送り、辻は硬直し、九条は綾辻の前に膝を着く。

 

「あなたの左薬指を予約してもよろしいでしょうか?」

 

「ごめんなさい」

 

「ぅあ、あが、ああ、ああああり得ないぃ」

 

涙を溢しそうになる九条を尻目に辻は顔を赤くしてロビーから逃げるように去っていく。いや、逃げるようにではなく、実際に逃げだした。

 

「行っちゃった」

 

「シャイボーイめ」

 

九条と違い、辻は女性が苦手で、綾辻を前にしたように赤面にしてしまう。ある意味、九条とは相容れない隊員となる。

 

「よーし、綾辻ちゃん。俺と一緒にランチしようぜい」

 

「マスタークラスおめでとうございます。九条先輩」

 

綾辻を昼食に誘おうとしたところで、別の声がかかる。

 

それに対して、九条は綾辻に見せた笑顔とは一変して、青筋を建てて、眉間に皺を寄らせる。

 

「あ゛?」

 

家族には家族への、友人には友人へと使う顔がある。

 

人は様々な仮面を持っていると言えよう。表情は喜怒哀楽を伝えるツールで、人が社会に出る上で重要なコミュニケーションと言っても過言ではない。

 

上司、教師、部下、後輩。立場一つで新たな仮面が生まれ、時として仮面は形を変える。

 

どんな無表情な人間でもほんの僅にでも所持している。

 

そういう意味では九条は非常に分かりやすい人間と言えよう。

 

友人、異性。この2つへの表情は常に明るく、暗くもなりやすい。その波はそれだけ九条にとって、重要なものであることを示している。

 

「チッ。木虎かよ」

 

その瞬間、九条の雰囲気は冷たいものとなる。被った仮面は普段からは想像も出来ないほど、不機嫌なものだった。

 

ご存知のように年下というのは九条が、嫌悪する存在であった。

 

ただ、前述したように仮面というのは、変化する。

 

事実、日浦や緑川など出会った頃に比べ、柔和なものへとなっていく。その変化していく様を周囲はニヤニヤしていた。

 

しかし、悲しいかな。

 

人によっていい方向に行くこともあれば、その逆も十分に想定できる。

 

「相変わらず、不健康そうですね。髪もボサボサで、身だしなみを整えたらいかがです?」

 

「デコピカお嬢様がなにかおっしゃいましたか?眩しいので、太陽拳やめてもらえます?」

 

両者、額に青筋を浮かび上がらせる。

 

「ふふ、どうして額の話が出てくるんですか?ボーダー隊員としての立場を離しているんですが?私に負け越しているB級さん」

 

「あっはっは。いやあ、お強いっすね。前にやったときは叩きのめされっちゃのは苦い記憶だわ。B級に上がったばかりだったからな。なあ、初心者狩りぃ」

 

木虎は口元を手で押さえて笑い、九条は大きく口を開けて笑う。無論、見た目ほど友好的ではない。

 

「地道に上がり立ての新人潰しとか、努力を怠らない姿勢に尊敬しますわぁ」

 

「なにを根拠に言ってるんですか。言いがかりはよしてくれます?あぁ、男の嫉妬ほど醜いものはありませんね」

 

「お前のどこに嫉妬する要素があるの?黒江からウザがられてる木虎ちゃん」

 

「……白黒つけてあげますよ」

 

「頼むから泣くなyゴォっ!」

 

「あ、きゃっ!」

 

突如、九条の後頭部を重たい衝撃が襲う。

 

「こんなとこで喧嘩しないでください」

 

時枝(トッキ―)、俺先輩」

 

「こんなところで騒いでたら、先輩も後輩もありませんよ。木虎も立場を指摘する前に自分を見直さなきゃだよ」

 

「すみません。時枝先輩」

 

眠そうな目をしたのキノコ頭をした時枝と呼ばれた男は、綾辻、木虎、同様の嵐山隊の一人だ。手には分厚い本が抱えられており、これで2人の頭を叩いた。どうやら、木虎に説教したところを聞けば、最初から見ていたようだ。

 

「綾辻ちゃんは?」

 

「いないですよ。仕事残ってますから」

 

「ヌォー!」

 

お決まりのひざまづきポーズ。

 

「プフッ!」

 

「笑ってんじゃねえぞコラ。京介に会えてねえから、イラついてんだろクソガキ」

 

「なななんで烏丸先輩が出てくるんですか!?」

 

「丸分かりなんゴォ!」

 

「やめなさいて」

 

九条の頭に時枝の抱えていた本が振り下ろされる。トリオン体だから平気だ。

 

それから、木虎が如何に嫌いかを再認識した九条は、食堂でうどんを(すす)る。

 

何時もつるんでいる出水と米屋は生憎、自部隊の都合によって不在である。今の九条にとってはありがたいものであった。

 

銃型トリガーが解禁になったことで、新しいトリガー構成と自分が入る部隊を考え込んでいた。

 

(マージでどうっすかな。スコーピオン8000になったらチームに入るみたいなこと公言しちまってるからな。まだ、考え中なんだよな)

 

優柔不断な性格ではないにせよ、こればかりは時間がかかるようだ。候補はあるにせよ、いまいちピンと来ないのが、本音である。

 

(整理しよう。A級はない。入りたいとは思うが、A級の箔が邪魔だ。

 

B級の候補はある。影浦隊。来馬隊。那須隊。この3チームだな。他にも諏訪隊とかあるけど、置いとくとしてだ。

 

戦術の遠中近の3つの要素が揃い、3人編成だからだ。それもそれなりに高いレベルで。これなら、単独でも、連携でもイケる。諏訪隊のように、スナイパーがいないと、俺の負担がかかるし、オペの負担がデカくなる。最悪俺はオペレーターなしでも動ける。

 

連携もこの3チームなら、俺は遠中近の連携が出来る。これはチームにとって大きいと言える。

 

今まで混成で戦ったけど、連携は重要だし、トリガーの組み合わせは重要だな。となれば早く試したいな。色々と)

 

空になった器を片すと、スマホを開き、何人かに連絡を入れて、開発部に足を運ぶ。

 

(ただ、影さんのとこはやや自由なきらいがあるから、連携らしい連携はムズいかもな。A級に上がる気がないないのは痛手だ。というか、B級降格とかありえんだろ。

 

来馬隊は、言っちゃ悪いが、村上さんへの戦力に偏りがありすぎる。もうちっと、他の2人が動けるようになりゃな。俺が入って、指摘するのもどうかと思うしな。

 

那須ちゃんとこは那須ちゃんと熊谷ちゃんでそこそこバランス取れているが、肝心の志岐ちゃんは男が苦手だからな。それこそ、オペなしで動く手もあるが、長期的となると駄目だ)

 

息を深く吐き、愚痴を一つこぼす。

 

「勧誘は結構されんのに、希望したところに、入れるかどうか怪しいのはキツいな」

 

肩を落とし、開発部に足を入れる。

 

「トリガーチップ、交換お願いしまーす」

 

 





原作まで進まねえ。他の作品も進まねえ。なのに、新しい作品をやり始めたい。




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9話

 

全ての始まりは些細なことからである。

 

これは真実の一部を語る日常にして、ボーダーを脅かす元凶を産んだ話だ。

 

 

 

ある日常、大規模侵攻から時間が立った日のことである。

 

九条 辰馬は道場の真ん中に立っていた。

 

九条の家は元々武芸に秀でた家系である。剣術や槍術、様々な武器はもちろん、実践的な格闘術を受け継がれてきた。

 

しかし、時代と共に廃れていくのは目に見えており、辰馬の父は時代遅れだと言って、途中でやめだしてしまう。

 

一方で、辰馬と辰馬の兄は、「暇だからやるか」程度で祖父に付き合っていた。時代錯誤も良いところで、かなりスパルタだったのは、辰馬にとって忘れられない。

 

それでもめげずに続けられたのは、やっていれば小遣いを祖父から頂けるからだ。現金この上ないクソガキであった。

 

結局、大規模侵攻によって、祖父はおろか、九条一家は辰馬1人を残してこの世を去っていった。

 

「ふっ!」

 

道場内に床を踏む音が響き、ボクシングでいうシャドーを行っている。

 

家族を失い、残ったのは道場と耐震性の高い一軒家。それと祖父母、両親の財産だった。いや、祖父に与えられた武芸も残っている。

 

家族に数少ない財産を忘れないために、研鑽を怠ったことは一日もなかった。

 

忘れないためにも、傷つかれないためにも、二度と失わないために。

 

大規模侵攻後は、治安が一気に悪くなっているので、不良に絡まれる頻度が増えた。全て返り討ちにしているが。

 

右手には短い木の棒がナイフに見立ててられている。身に付けている服は、ジャージのズボンだけ。上のジャージとシャツは道場の隅に、乱雑に置かれていた。

 

シャツは辰馬の汗で重くなっている。長時間の運動をした証拠他ならない。意外にも九条の体は細く引き締まっており、筋肉の陰影がはっきりとわかるほどだ。

 

日課が終わると、来ていた服を家の洗濯機に入れて、シャワーを浴びる。それが終われば、冷凍庫から取っておいた米をレンジで長めに温める。

 

米を温めている間に、ネギを刻み、卵をとく。

 

米が温まるまで時間は余っており、辰馬はシンキングタイムに入っていた。

 

「今日は~どうする~」

 

オリジナルソングを口ずさみつつ、幾つかの真空パックを並べる。

 

「昨日はキャベツだったからな。今日はこいつかな」

 

辰馬が手に取ったのは、桜エビ。更に野菜室から一つの食材を取り出す。アボカドだ。

 

辰馬は炒飯を作ろうとしている。桜エビアボカド炒飯。これは酷い。

 

辰馬は基本的に食事を作る割合はあまりなく、基本的にコンビニ飯だ。よくて、米を炊いてお惣菜を買うくらいだ。辰馬自身も、祖母と母が作るような家庭的な食事が食べたいに決まっている。

 

放課後や特訓の後に料理は疲れるし、面倒なのであまり作らない。食器も増えるので、気力も奪われる。よくラノベの主人公が料理UMEEEEEEEEEEEEとかあるけど、料理の上手さよりも、毎日作れて食器の後片付け出来る方が凄いと、辰馬は思っている。

 

そこで折衷案として生まれたのが、炒飯だ。具材も自分好みで、洗い物も抑えられるので、辰馬にはぴったりだった。

 

そうして、夜10時に回った頃に二人分の炒飯が完成し、玄関から声が聞こえてきた。

 

「ただいま」

 

リビングにやって来たのは、進学校の制服に身を包んだ加古望であった。

 

「おかえり。炒飯出来たとこだから、先に飯にする?風呂も沸いてるけど」

 

「ご飯にしましょ。防衛任務の後だから、お腹ペコペコなの」

 

「はいよ」

 

平皿に炒飯を盛り付け、レンゲで食事を始めた。

 

「また炒飯なのね」

 

「炒飯バカにすんなよ。奥が深いんだぞ。様々な食材に合うのはもちろん、調味料の量で味を一変させる錬金術だ」

 

「そこまでかしら?」

 

「疑うんなら、今度一緒に炒飯作ろうぜ。食材から何やら買い揃えよう」

 

「ふふっ、楽しみね」

 

炒飯を一口、食べると二口も進んでいき、あっという間に平皿から、炒飯は消えていた。

 

「中々だったわね」

 

「お粗末さん」

 

加古の食器を下げて、汚れた調理器具と皿をさっと洗い終えると、再びリビングに戻る。リビングには、既に加古の姿はなく、風呂に入っているのだろうと確信した。

 

そうして、九条 辰馬の一日が終わる。

 

後日、炒飯作りに熱中する加古がいた。

 

彼女の炒飯に対する創作意欲、熱意は本物である。ボーダーでも話題だ。

 

加古チャーハン。

 

犯人はこいつ。

 

 





加古との関係よりも加古との日常を書きたかった。

その内、加古隊とか他の女子との日常も書きたい。


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10話

ランキング上位に女好きが入っていて、ビックリしました。

正直、書きやすいなぐらいにしか思ってなかったのに。他の作品もある中で複雑な気持ちでした。嬉しいような、悲しいような。

みんな、こんな長所のない主人公が好きなのだろうか?




『さあ、やって参りました!混成チーム戦!本日の実況は海老名隊オペレーターの武富桜子がお送りします!解説は米屋さんと出水さんと東さん。本日はよろしくお願いします』

 

『『どうぞよろしく』』

 

『よろしくお願いします』

 

『というか、今回は参加しないんですか、米屋さん?米屋さんだったら、ノリノリで参加しそうなんですけど』

 

『参加したかったんだけど、今回俺たち、アイツのトリガー知っちゃってるからな。辞退して、解説にまわることにした』

 

米屋は残念そうにしている。

 

『まともな解説出来るか分からんけど』

 

『アイツというのはB級の九条隊員ですね。九条隊員からお聞きしましたが、銃型トリガー解禁だから、よろしく、と言っていました』

 

『ちょっと待った。他の部隊に聞こえてるけど大丈夫?』

 

東はマイクをちょいちょいと指を差して確認を取る。

 

『問題ありません。九条隊員本人から言ってほしいとのことでしたので』

 

『アイツアホか』

 

出水は呆れをこぼす。

 

とは、言うもの過去にブラフではめたことの経験を知っている隊員は、素直に信じるわけにはいかなかった。

 

『九条隊員の銃型トリガー解禁はちょっとしたニュースです。しかし、トリガーの組み合わせ次第では逆に戦力ダウンでは?』

 

『その通りだけど、それが分からないほど九条もバカでもないでしょう。それに、銃型トリガーの経験がないわけじゃない。制約をつける前は、普通に使ってたからな』

 

出水が喋っている間に、米屋は持ち込んだ紙パックのジュースをストローで喉を潤し、出水の後に続ける。

 

『昨日もアイツの練習に付き合ってたから、みんなが

思っている以上にうまく使えんだろ』

 

『それで九条隊員の手の内を知っているわけですね。さて、今回の混成部隊、及びにステージはこのようになっております』

 

 

 

MAP 工業地区

 

嵐山隊(仮) 嵐山 若村 九条 奈良坂

風間隊(仮) 風間 木虎 那須 隠岐

太刀川隊(仮) 太刀川 生駒 緑川 当真

 

 

 

『『これはヤバイ』』

 

二人の声は重なり、冷や汗をだらだらと流し始める。

 

『今回は3隊とも4人編成として、オペレーターに経験を詰ませるとのことです。九条隊員に注目がいきますが、オペレーターの腕が試されそうです。更にアタッカートップクラスが3名も参加しています。東さんは今回の勝負の決め手は何処だと思われますか?』

 

『なんとも言えませんね。普段のチームだったら、コメントのしようがありますが、混成部隊はそうはいきません』

 

『と、言いますと?』

 

『混成部隊はやっぱり細かい連携が厳しいんです。普段のチームでだって、練習や話し合いを重ねて強くなっていきます。けれど、混成部隊は要所要所での連携が噛み合わなかったりします。だからこそ、集よりも、個々の実力が重要になります』

 

『東さんの話だけを聞けば、太刀川隊(仮)が有利になりますね』

 

『もちろん、中距離では連携しやすいからその限りではありません。マニュアル通りのパターンとして、やりようはいくつもある上に、ステージによって、使用トリガーの相性で変化します。混成部隊も今まで何度も行われているので、多少は連携がとれています。

 

ただ、今回そこら辺一切気にしなさそうな面子が太刀川隊(仮)に片寄ってますね。出水の隊長なんかがいい例だな』

 

『太刀川隊(仮)やべえな。太刀川さんに生駒さん。アタッカートップクラス2人かよ。工業地区だから、緑川有利だし、当真さんいるし。並みのアタッカー数人がかりでも太刀川さん倒すの厳しいぞ』

 

東の言葉に続けて、米屋は解説というよりも思うままに話す。

 

『各隊長及びにスナイパーはあらかじめ、ばらけるようにしていたそうですが、チームだけ見れば太刀川隊(仮)が有利ですね』

 

『勝敗がどうなるかまではわからんけどな。九条に目が行きがちだけど、嵐山さんもいるんだ。それに九条の新戦術が通じるか、勝負の分け目かもな』

 

 

場面は変わり、嵐山隊(仮)に移る。

 

九条は膝をついて、涙ぐんでいた。鼻水も垂らしている。汚ったね。

 

「落ち込みすぎだろ」

 

「だっでよ、だっでよぉ。マリオちゃんに告白回数50越えたのに、また振られたんだぜ」

 

「うっさいわ!毎度毎度告白してきおって、キモいわ!」

 

「マリオちゃんの可愛さが俺をそうさせるんだよ。もはや。その可愛さ罪だろ」

 

「キモ!キッッッモ!」

 

生駒隊オペレーター細井は耳まで顔を赤くして、必死に罵倒する。かわいいと、言われなれていない細井にとって、九条はある種の天敵だ。

 

「今回は九条が久し振りに全力を発揮できるチーム戦だ。太刀川隊(仮)はもちろん、風間隊(仮)も十分脅威だ。しかし、連携のしやすさで言えば、うちが一番と言える」

 

嵐山は現状の整理から始める。

 

「だからこそ、俺と若村は開始直後、集合する他ない。」

 

「ですよね。他の2チームがもう少し弱い奴らだったら、よかったんですけどね」

 

今回のチーム戦、太刀川、生駒、風間、那須。高確率で九条を落とせる面子が揃っている。サシでやりあえばマスタークラスといえど、上がりたての九条には不利だ。

 

それに木虎、緑川などいう、猛者もいる。二人にはまだ勝てるが、五分五分というほぼ賭けになる。

 

そんなチーム戦で敵に接触したら、アウトな状況で九条の立ち回りは難しい。

 

加えて、

 

「今回の俺結構集団戦よりですからね。一対一で緑川とか木虎とか地形的にきついっすね。」

 

そう。九条は連携を重視したトリガー設定にしている。なので、緑川と木虎への対策は難しい。

 

「だが、スナイパーという視点で見ればかなり有利だ」

 

スナイパーNo.2の奈良坂が断言した。

 

「本来、工業地区はスナイパーにとっては嫌な地形だ。しかし、九条。お前にとっては願ったりかなったりだろ」

 

「ベストが太刀川さん、次点で生駒さんに風間さんか。生駒さんは厳しそうだな。だからこそ、嵐山さんと若村の合流が重要なんだけど」

 

今回のチーム戦て明らかに弱いのは若村である。九条に誘われ参加して、蓋を開けてみるとボーダーでも屈指の実力者が集結していた。

 

若村自身、自分が弱いことは自覚している。故に腹を括れる。

 

若村の表情を見る限り、友人である九条は気負っていないかと心配していたものの杞憂に終わった。

 

『転送開始』

 

光に包まれるのも束の間、そこはさっきまでの室内とうって変わって、コンテナや建物が並ぶ、屋外に立っていた。

 

『全部隊転送完了』

 

既にバックワームを装着している九条は、走り出すわけでもなく、ゆったりと歩いている。

 

『バックワーム着ないでいるんは、太刀川隊(仮)の当真さん以外やわ。風間隊(仮)は全員着とる』

 

太刀川(仮)は各々が強いので、かかってこいと言わんばかりの姿勢だ。更に言えば、マイペースな気質もあるので、一番動きが読めない部隊と言える。

 

太刀川隊(仮)の位置情報が送られ、細井の情報提供に返事をしようとする直前、頭上すれすれに風が吹いた。

 

九条がいる場所は建物がいりくんでいる。その側にあった建物が音を立てて、崩れていく。

 

「生駒旋空」

 

思わず出た呟きも崩壊の音ともにかき消される。

 

九条にもっとも近い敵は、生駒隊隊長生駒だった。

 

ボーダー随一の旋空弧月使いと謳われるその実力は伊達ではない。

 

通常ではあり得ない距離と攻撃力を可能にした居合いの技能は、生駒をアタッカートップクラスにまで上げさせた。

 

今回は周囲にある建物が邪魔だったので、取り払おうと数十mの斬撃を振り回しているにすぎない。バックワームを着ている九条を狙っているわけでもなければ、気づいてもいない。

 

九条はそれには気づている。

 

「やべ。奥の手使えないかもな」

 

咄嗟に仰向けに倒れ、残った建物だった壁に隠れる。

 

手には突撃銃が産み出され、戦闘に入れる準備をしていた。

 

「でも、手札は一つじゃない。ここで生駒さんリタイアだ」

 

『引くんだ。九条』

 

「生駒さん、俺に気づいてませんよ。適当にぶった切っただけですって」

 

嵐山からの通信に、九条はすぐ否定に入った。

 

『駄目だ。生駒のところに緑川が近づいている』

 

「あ、ほんとだ」

 

レーダーを確認すると、生駒のところへ緑川が凄まじい速さで向かってきている。移動に適したグラスホッパーを使用しているのは、明白だ。あと数秒で到着するといったところだろう。

 

九条は仰向けのまま嵐山との通信を再開する。

 

『今回の混成チームは一人でも欠けたら勝ちは厳しくなる。逆に他の2チームは1人落ちてもほぼ問題なく機能する。九条が生駒を不意打ちで倒しても、緑川が来る。リスクが高すぎる』

 

「一人一人がエース張れるくらい強いっすからね。アイビスで二人抜きも出来なくはないですけど?」

 

『いや、二人なら片方が気付いたら、両方無事になる可能性が大きい。ここは手筈通りフォーメーションを整える。九条はそこから、離れてくれ。ちょうど若村と合流した』

 

「了解。マリオちゃん、今どこも戦闘ないの?」

 

『ないな。どこも合流優先っぽいわ』

 

「了解了解」

 

地面を這いながら、生駒とちょうど到着した緑川に気づかれぬよう離れていく。が、二人の姿が建物の陰で見えなくなった位置についたと思うと、風間隊(仮)と鉢合わせる。

 

両者即座に戦闘に入った。

 

敵は木虎藍。九条が嫌いな人物である。また、九条が先程述べていたように、木虎と戦うのは分が悪い。

 

しかし、この勝負僅かながら、九条が有利だ。

 

「くっ」

 

「格の違いを知れ」

 

まず、風間隊(仮)木虎の思惑はこうだった。

 

まずは嵐山隊(仮)同様に合流すること。

 

もし、合流する前に敵と鉢合わせてしまったら、スコーピオン及びに、改造が施されたハンドガンをしようし、ロープを張って翻弄し、倒すか逃げるの二択だった。

 

当然のことながら、九条のサイドエフェクト銃探知機を警戒しなくてはならないから、ハンドガンは必要なときまで出さないでいた。

 

代わりにスコーピオンを右手に持ち、戦闘に入れる準備をしていたが、まさか曲がり角から突撃銃を持った九条が出てくるとは思わなかった。

 

距離も悪く、一気に詰めよって攻撃するには遠すぎる。下手をすれば、九条が銃撃で対応してくるだろう。

 

木虎はそこまで考えて、バックワームを解除しつつ、シールドを張った。これから飛んでくるであろう銃弾に備えて、ダメージを抑える為だ。

 

結論を言えば、木虎の考えは間違ってはいない。ただし、相手が悪かった。

 

九条が突撃銃の引き金を引いた瞬間、凄まじい勢いで弾丸が飛び出してくる。

 

木虎はシールドを張り終えており、移動しながら建物の陰に隠れようとする。ところが、木虎のシールドは呆気なく割られてしまい、その身に弾丸の雨を浴びてしまい、ベイルアウトをしてしまった。

 

(嘘でしょ!?いくらこの人でもでもあり得ない!)

 

九条のトリオンはシューター1位二宮と同レベル。つまるところ、ボーダー1のトリオンを保有している。

 

その九条が撃ち込んだのは、高い威力を誇るアステロイドだと木虎は思っているが、それは違う。

 

確かにアステロイドならば、木虎のシールドももう少し保っていた。

 

九条が撃ち込んだのは、アステロイドではなく、アステロイドとアステロイドを組み合わせたギムレット。

 

九条の友人にして、天才出水が産み出した合成弾を突撃銃にセットしていた。

 

「ざまあねえぜ」

 

結果、この混成チームで最初に落ちたのは木虎だった。ここまで見れば、突撃銃を出すことになった生駒が近くにいたのは、幸運だったのかもしれない。

 

九条自身、木虎に負けを勘定に入れるのは不服だった。思わぬ収穫に笑みがこぼれる。嫌いな相手に見せ場なく、瞬殺させたことに胸をスカッとさせる。

 

とはいえ、喜んでもいられない。

 

木虎を戦闘不能にしたことにより、両チームに九条の居場所が割れてしまった。

 

「さーて、どうすっかね」

 

考えている余裕はない。

 

頭上から光の玉が幾つも落ちてくるのに対して、シールドを張ってなんなく防ぐ。そこから、通信からの情報によって、背中からスコーピオンを飛び出させる。

 

建物の屋上に那須がトリオンの弾丸を浮かばせている。九条の後方には、肩からトリオンを漏らす風間が立っている。

 

「やるな」

 

「マリオちゃんのおかげですよ」

 

姿を消すトリガー、カメレオンによる奇襲は細井の情報を得た直後に、背中から針鼠のごとくスコーピオンを飛び出させた。

 

風間自身、上手くいくとも思っていおらず、踏み込みは浅いものだった。あと少し深ければ、風間隊(仮)から二人目がいなくなるところであった。

 

「お前のサイドエフェクトがなければ、決まっていんだがな」

 

スナイパーである隠岐は既に射線の通る位置についている。

 

那須、風間、隠岐の奇襲から奇襲へと続ける連携は九条のサイドエフェクトがなければ、終わっていた。サイドエフェクトがある限り真っ先に狙われるのは、今更言うまでもない。

 

「揃ってんなあ」

 

風間の背後から声がする。咄嗟に九条はバックステップで後方へ下がり、風間は左斜め前にに転がる。

 

A級1位にして総合1位のアタッカー、太刀川が両方の弧月を抜いていた。

 

二人がいた位置は斬撃が通りすぎ、一太刀受ければそこでリタイアだった。那須も黙って見ているわけではなく、バイパーで太刀川を攻撃にかかる。

 

九条は突撃銃で那須を、足裏からスコーピオンで地面を堀って、風間に仕掛ける。

 

風間は地面から飛び出したスコーピオンを回避。那須への弾丸をフルガードで防ぐ。

 

木虎からの情報でギムレットと推測した風間は、自身が無防備になることを覚悟の上で那須へのフォローに至る。シールドにヒビが入るもの、動き回る那須は太刀川から目を離さない。

 

太刀川は狭い路地からのバイパーにフルガードで防ぐ。本人は笑みを浮かべたまま、動くことはない。

 

「一人目だな」

 

那須の背後に緑川がグラスホッパーを利用して現れる。

 

緑川のスコーピオンで那須の背中を刺そうととする行動に、隠岐が見過ごせるわけもなく、イーグレットで緑川を撃ち抜こうにも紙一重でかわされてしまう。

 

「なにぃ!?一人目だなって言ったのに!俺恥ずかしいぞ!」

 

太刀川は言いながら、風間に攻撃を仕掛け、風間は迎撃にあたる。

 

そこで二人目のベイルアウトが宣言される。

 

太刀川と九条の間にいる風間は驚愕する余裕もなく、那須へ九条を相手取るよう指示する。

 

『九条と緑川、生駒を止めろ。太刀川は俺が止める!』

 

『了解!』

 

『すんません。風間さん』

 

風間隊(仮)二人目の脱落者は隠岐孝二。

 

『いや、九条がいる限り、最初から最後まで一発も撃てないことがざらだ。よくやった』

 

那須を助けた結果、撃った直後に、アイビスの壁抜きがシールドごと撃ち抜いた。隠岐がアイビスを出した瞬間に、九条は銃探知機で察知し、右手から出したアイビスを片手で構えていた。

 

那須からの攻撃を警戒すべく、シールドを張る心構えは出来ていた。

 

隠岐を撃つと、アイビスを消し去り、頭上からの攻撃は弾丸ではなく、スコーピオンによる剣撃だった。

 

「クソガキャア!」

 

九条は2人も倒したのに、焦りが溢れでる。

 

グラスホッパーからの奇襲。そこから更にグラスホッパーで、九条から距離を取る。九条の攻撃から逃げるためではない。

 

頭上からのアステロイドが降り注ぐ。誰かまでは言うまでもない。

 

更に那須が立っている場所が崩れていく。他の建物も崩れ去っていき、あるのは瓦礫へとなっていく。

 

「よしよし。太刀川さん自分どっち手伝います?」

 

瓦礫の山に立つのは、生駒達人。

 

「緑川と一緒に九条と那須を倒してくれ。当真も待ちくたびれてる。それと嵐山と若村ももう来る。急げよ」

 

「いや、もう来てます」

 

生駒と緑川へ弾丸が飛んでくる。その場から別々の方へ跳んでいく。

 

結果、

 

太刀川vs風間。

 

嵐山&若村vs生駒vs那須。

 

緑川vs九条。

 

という配置になる。距離もそう遠くはないが、連携を取れるかどうかと問われれば微妙な範囲になる。

 

『よし、奈良坂。俺達でこのガキ潰すぞ』

 

大人げない先輩は年下には容赦ない。

 

『構わないが、今は射線が通らない場所にいる。少し待ってくれ』

 

『動かなくていい。むしろそこがいい』

 

『は?』

 

『俺思い付いた。新しい戦術。ここで』

 

『どういうことだ。説明しろ』

 

『なんで思いつかなったかなあ』

 

スコーピオン同士の打ち合いが始まった。

 

『風間隊の真似しようかね』

 

決着まで、3分18秒。

 

 




今回は二つに分けます。

次回、決着が着いて、東さんと出水が解説してくれます。米谷はジュースを飲みます。


今回は複雑かもしれないので、簡易的な結果を出しときます。

嵐山隊、2p 九条→木虎、隠岐
風間隊、0p
太刀川隊、0p

実を言えば、この混成チームは1話で終わらせる程度で、九条は那須にやられているはずでした。

しかし、配置や状況やキャラの思考、会話をあれこれしている間にどんどん別の方向へシフトしていき、九条が更なる成長を遂げてしまいました。

作者自身、思いつかずキャラが成長したことってあるんですね。その辺りは次話にて。

あと、書いている内に迅のサイドエフェクトはチートだなと思いました。

そろそろメインキャラを出したい。








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11話

『ってな感じでよろしく。奈良坂』

 

『了解。だが、上手くいくのか?』

 

『四の五言っても始まんねえよ。若村んとこも生駒さんと那須ちゃん相手に余裕あるわけじゃねえ。生駒さんほどじゃないにせよ、俺にも技ってもんがあんだ。ちゃちゃっと、決めんぞ』

 

九条から出された案は、なるほどと思いながら、中々に強力な戦術だった。同じことが出来るのは、ボーダー全体を見てもいないだろう。

 

(ここまで攻撃的にサイドエフェクトを使うとはな)

 

ボーダーには、九条のようなサイドエフェクトをもった隊員がおり、いずれも個人、部隊に大きな恩恵を与えている。連携、成長、防御力。各々の能力を駆使して、高い実力に位置する。

 

今回の戦いは、九条を成長させるには十分だった。

 

A級に匹敵するような戦術をだ。

 

一方で、相対する緑川は緑川で九条を攻めあぐねていた。

 

(ほんっとに硬いなあ)

 

緑川は持ち前の速さと背の小ささを活かして、九条を攻めているが、かすりはしても決定打にはならない。

 

グラスホッパーを利用し、跳び跳ねて多角的な攻撃をしてもシールドかスコーピオンで防がれてしまう。

 

現在、九条のスコーピオンの形状はシラットナイフと呼ばれるナイフを模している。実物よりは多少長めだが、一般的に使われるスコーピオンのスタンダードタイプよりも遥かに短い。

 

(九条先輩のスコーピオンにはいくつかパターンがある。攻撃よりかは防御に重きを置いている九条先輩のスタイルの一つだ)

 

スコーピオンはどこからでも好きな形状を出せる利点がある。

 

緑川は九条と対戦した記憶から、このパターンの厄介ぶりを身に染みている。

 

緑川のような小さく素早い敵に作られた戦法だ。

 

獲物を短くすることによって受けやすくし、攻撃を通らせない。イラついてより近づけば、シラットナイフの餌食になる。あくまで防御よりなだけで、攻撃が出来ないわけではない。

 

攻撃してはカウンターを受ける。このパターンで10本勝負、10本負けた苦い過去がある。

 

「どうしたよ、軽いぜ?」

 

緑川を煽る九条。これも攻めさせるパターンに込められているので、下手に攻めるわけにはいかない。

 

ゆったりと歩いて、面積のある瓦礫の上に立つ。

 

このパターンの対策として、緑川に出来るのはヒット&アウェイ。ダメージは軽いが、やらないよりかはマシだ。

 

我慢比べという、この方法を用いても、九条と緑川の戦績は似たり寄ったりだ。

 

「そんな安い挑発には乗らないよ。攻撃を当ててるのはこっちなんだ」

 

緑川は足を止めて、九条に返す。

 

緑川の言うとおり、九条に攻撃を当ててるのは緑川だ。反対に九条の攻撃は緑川に当たっていない。

 

地形の差だ。二人の足場は生駒の旋空弧月の影響で、建物だった瓦礫の上で戦っている。まともな足場でない以上、グラスホッパーのように縦横無尽に移動出来るのは緑川の方が有利だ。

 

「そろそろ、生駒さんの助けに行かなくっちゃね」

 

ニヤリと、笑う緑川は再び動き出そうとしたとき、九条もまた笑ったのだ。

 

緑川が攻めた瞬間、九条のシラットナイフの状態からスタンダードタイプに変化したスコーピオンを目にすると、自身のスコーピオンを交差させて、顔面への攻撃を防ぐ。

 

スコーピオンを持つ左手と左足を同時に出した突きは、緑川を反対側へ吹き飛ばす。

 

緑川は飛びこそはしたものの、スコーピオンに亀裂が入ったわけでもなく、ダメージが通ったわけでもない。

 

が、どういうわけか九条は2つのスコーピオンを消し去り、突撃銃を太刀川と風間が戦っている方角へ向けていた。

 

どういう意図かは分からないが、攻撃しなくてはならない状況なのは、頭がそんなによくない緑川でもわかることだ。

 

頭が良くても、結果は変わりないが。

 

「え?」

 

吹き飛んでいる最中に、グラスホッパーを出現させた瞬間、視界の端の壁が突如壊れ、一筋の光が緑川を貫く。

 

緑川が最後に見たのは、九条が突撃銃の引き金を引いた所だった。

 

嵐山隊(仮)嵐山、若村、九条、奈良坂

風間隊員(仮)風間、那須

太刀川達(仮)太刀川、生駒、当真

 

残りのメンバーは上記のようになる。

 

勝負はクライマックスにかかっている。

 

嵐山はテレポーターを使い、太刀川と風間の頭上に出現した。

 

瞬間移動のトリガーでトップアタッカーの戦いに介入する。嵐山、九条の2方向からの銃撃が飛ぶ。

 

2名は素早く回避して、太刀川は嵐山を、風間は九条を。

 

「チッ、こっちか」

 

風間の後方から若村のアステロイドが飛んでくる。が、若村の攻撃は那須のシールドによって防がれ、近くにいた生駒に首をはねられてしまう。

 

そこから更に、生駒の後方から壁を突き破って、光が生駒を貫く。

 

これによって、太刀川隊は実質太刀川1人。

 

「お前の仕業か」

 

「さあて、なんのことやら」

 

九条と風間がぶつかり合うも、風間の方が遥かに強い。

 

そこから嵐山のベイルアウトが宣言される。

 

「腹立たしいが、お前達の勝ちだ」

 

「どうも」

 

九条のベイルアウトが決まった。

 

 

太刀川隊(仮) 3p 若村 嵐山 那須

風間隊(仮) 2p 九条 太刀川

嵐山隊(仮) 4p 木虎 隠岐 緑川 生駒

 

九条を討った後、風間は那須と連携して太刀川を倒したものの、その過程で那須を当真に500m先から狙撃されてしまう。

 

結果、生き残った各部隊1人ずつ戦うことなく、タイムアップという決着になった。

 

『試合終了!時間切れにより、生存得点はありません。』

 

『マジか!?九条んとこ勝ちやがった!』

 

『ありえねえ!』

 

『正直勝つとは思いませんでした』

 

『3人とも酷いですよ。さて、混成チーム戦はどうだっでしょうか?』

 

『今度から九条のことは銃バカと呼びます』

 

『槍バカ、無理して喋らなくていいんだぞ。これはともかく、最初に戦闘不能になった木虎。これは運が悪かったとしか言えないな』

 

『突撃銃にギムレットをセットしたのは、予測出来るものじゃありません。トリオン量に余裕があること、二つ目の弾をセット出来ないデメリットがあるので、誰でもやれるわけではありませんからね。これは出水の案か?』

 

『弾トリガーの練習に付き合っている内に、九条がこれやってみたいって言い出したってだけです。最近硬くなったシールドを簡単に撃ち破れるのは大きいですね』

 

『シールドの破壊。もし、防ぐとしたらエスクードか固定したシールド、レイガストしかありませんね。しかし、エスクードやレイガストを使う人は少ないですし、固定シールドは動けなくなるリスクがある』

 

東が分かりやすく、解説してるところに米屋は口を挟む。

 

『だったら、銃バカが出る試合はエスクード装備すれば良くないですか?』

 

『あいつが毎度毎度同じトリガーセットすることが前提ならな。裏をかいてバイパーだったら、どうするよ』

 

『あー』

 

出水は米屋の質問をあっさりと否定する。

 

トリガーのセットは慣れると基本的には、代えたりしないので米屋の思い込みは、無理はなかったりする。

 

『フルガードしたとしても、仲間がいれば多角的な攻撃がしやすくなる。連携を考えた戦い方だな。今後のことを考えるなら、嫌な印象をすり付けた点もある』

 

『確かに合成弾には驚かされました。しかし、奈良坂隊員の2連続壁抜きはどういうことでしょうか?やはりスナイパートップクラスがなせる技術なんですか?』

 

緑川。生駒。両名を戦闘不能に陥れたのは、奈良坂 透。

 

『アイビスを使用したスナイパーの技。通称、壁抜き。複数の隊員とオペレーターの技術。マップ選択をしたチーム。あらゆる条件が成立しなくてはならないはずですが』

 

『いや、無理ですね。特に緑川や生駒のように動き回るアタッカーには』

 

『え、東さん?』

 

武富は戸惑い、東の様子を見る。何故、壁抜きを実行出来たのかを、聞いたつもりだった武富をおいて、東は察しているかのように、解説を続ける。

 

『ここまでにしておきます』

 

『『『ええ~!!』』』

 

米屋、出水、武富は声を揃える。

 

東がこれ以上言わないのは、フェアではないと思ったからだ。解説者だが、一から十までするわけにはいかない。

 

各々で探し出すことこそが重要だ。それよりなにより、これを見ていたスナイパーは奈良坂のタネが分かったのだ。

 

『スナイパーなら誰でも気付きますから。結果を見れば、九条が終始、試合を動かしていた印象が残ります。遠中近、3つの射程を持つ九条を倒すのは至難でしょう。はっきり言いますが、総合力はボーダーでもトップクラスですね』

 

元A級1位であり、現在でも上層部、隊員から信頼の厚い東の言葉は称賛だった。

 

それを聞いた九条はといえば、

 

「あーうん。あざす」

 

口に手を当て、普通に照れていた。

 

「実際、仮とはいえ太刀川さんと風間さんに勝ったんだよな。すげえよ、九条」

 

「やめろお!」

 

顔を赤くして、若村の肩を掴んで揺さぶる。誉められる行為に慣れていないからか、必要以上に迫る。

 

「奈良坂も凄かったぞ」

 

「九条のおかげですが」

 

奈良坂の壁抜きのタネは、難しいものではない。

 

武富の言ったように、通常の壁抜きであれば難易度は遥かに高いものだ。

 

しかし、九条のサイドエフェクトを使えば、難易度は下がる。

 

九条が奈良坂に指示したのは、狙撃銃の向きと撃つタイミング。それだけだ。

 

奈良坂は九条の言葉に従い、引き金を引いた。ただし、緑川の時は何度も修正しては撃つタイミングを逃していた。

 

最終的には、軽い挑発で足を止めさせる。

 

生駒の時は、若村を犠牲にした。九条の指示はもちろん、オペレーターとの連携が含められていた。難易度が下がっても、簡単とはいかない。

 

それを差し引いても、アタッカー上位を2名落とせたのは大きい。障害物をものともしない戦術は、九条自身だけでなく、スナイパーにも恩恵が与えられる。

 

「太刀川さん達に勝って、東さんに褒められてすっげえ嬉しいわ。弱点にも気付けたで最高だわ」

 

試合が終わっても細井に告白しない辺り、本当に高揚しているのだろう。

 

「弱点って、なんかあったか?」

 

若村は九条の引っかかる一言に眉をひそめた。

 

「ああ、隠岐の攻撃だよ」

 

隠岐孝二は緑川の攻撃から那須を守るため、狙撃したが失敗に終わった。九条は九条で隙を見逃さず、障害物をものともしないで、壁抜きで隠岐をベイルアウトさせた。

 

「今回はなんとかなったけど、リスクリターンを天秤にかけて、撃つという選択も可能なわけだ」

 

「もち、美味しくいただくけどな」

 

若村の疑問には奈良坂が答える。スナイパーとして、今回の経験は奈良坂の成長も促す。

 

若村は若村で、九条を香取隊に引き入れたいと願うのだが、口にするだけ無駄だと知っていた。

 

九条と香取の仲が険悪なのは、香取隊全員承知している。それこそ、いつもいがみ合っている若村以上にだ。

 

九条が活躍すればするほど、香取の機嫌を損ねるので、人間的相性の悪さに諦めざるをえなかった。

 

ただし、香取以外の面子とは仲がいいので悪しからず。

 

流れ解散した後は、鼻息を荒くした荒船から逃げまわっていた。それが終わると、嵐山家にいつぞやのお礼にお呼ばれして、晩御飯をいただいて、その日は終わる。

 

なお、弟妹には滅茶苦茶なつかれた。

 

(女の子にはモテないのに)

 

九条は涙をこらえた。でも、犬がいたので癒されてから帰った。

 

 





あけましておめでとうございます。







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12話

「ぷっ。ぷふふ。うふふふふふ」

 

「うるせえよ!」

 

「あっははははは。あはははははははは!」

 

「そこまで!?」

 

腹を抱えて笑う加古に、苛立ちを隠すことはなかった。

 

「せっかく希望した部隊に、拒否されるなんて、ぷふ、残念だったわね」

 

「人の不幸は蜜の味ってか」

 

昨日の混成チーム戦直後、受付で影浦隊、那須隊へ希望を出すもの、翌日の今日にはお断りの返事が伝えられる。

 

「那須隊はともかく、影さんにまで拒否られるとか。ショックなんだけど。嫌われてんのか?」

 

「影浦くんの場合は、肩を並べるよりも、敵として戦った方が面白そうだと考えてそうだから、あんまり気にすることはないわよ」

 

「あーくそ。荒船隊から勧誘の連絡がヤバいんだよな。半崎はダルいダルい言ってダルいし」

 

「昨日の戦いぶりを見せられたらね」

 

「加古隊に入るしかありませんね」

 

「ねえよ」

 

九条は来馬隊も希望しようとしたが、思うところがあったので出さずにいた。

 

九条宅の居間でソファーに座っているのは、加古と九条。黒江は九条の隣に座って蜜柑を食べている。当初は、九条の足の上に座ろうとしたところを、邪魔だの一言で転がされた。

 

それでも、隣に座ることを許されたあたり、九条なり黒江へ心を開いている証拠なのだろう。木虎が見たら発狂する。

 

九条は自覚していないが、黒江への好感度はかなり高い。言っても、本人は絶対に認めない。

 

加古と黒江は特に用事があるわけではない。ボーダー本部から近い九条宅に訪れることがあるだけだ。寝泊まりすることもある。

 

だからなのか、加古隊が九条宅に訪れる際は、「お邪魔します」から「ただいま」になっていた。九条も違和感がなかったので、別にいいかで終わらせた。

 

3人は本を読んでいた。九条の家にはたくさんの本が並んでいる。彼女達はその影響なのか、自然と手に取るようになっていく。

 

加古はミュージック好きが死神の本を読んでいた。短編の連続なので、合間合間に読めるところが、加古は気に入っていた。今は殺人事件の館の章を読んでいた。

 

黒江は本というよりかは、図鑑を見ていた。黒江は本を読むよりも体を動かす方が好きなタイプであるが、九条から「本なんて敷居の高いもんじゃねえんだから、図鑑眺めてるだけでもいいんだよ」と言われ、中身を開けば綺麗に写った背景を眺めていた。

 

そのあとは、注釈を読んでいた。言葉も難しくないので、図鑑に没頭していた。因みに中身は世界遺産に関する図鑑だった。

 

九条は今日買ってきたばかりの、日本語訳されたドイツの本を読んでいた。映画化されるほどの作品で、世界的に有名な独裁者が現代にやってきた話だ。

 

本屋で立ち読みした時点で、気に入ったのでそのまま購入に至る。上下巻あったが下巻も買って、上巻は今日中に読み終える予定だ。

 

3人の時間は、このように過ぎ去っていくこともある。

 

翌日、目が覚めると、玄関に加古と黒江の靴がなくなっているので、出ていったことがわかる。

 

テーブルには、ラップに包まれた焼き魚と卵焼きがある。鍋にはまだ、温かい味噌汁が。

 

加古が作ったのだろう。朝食を済ませると、私服に着替えて、ボーダー本部へ歩き出す。

 

目的はランク戦ではなく、後輩たちからの頼みごとだった。

 

食堂には、既にメンバーが揃っている。食事時ではないので、食堂はガランとしている。

 

「揃ってんな」

 

「九条先輩、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「お願いしますもつけろやクソガキ」

 

「一個しか違わないじゃないですか」

 

食事の4人席に座っているのは、風間隊の歌川と菊地原だ。

 

「んじゃ、パパっとやっちまうぞ。はいこれ」

 

歌川と菊地原はシャーペンで書き込まれた2枚のA2プリントを九条に渡して、九条は2人に新たなA3プリントを1枚手渡す。

 

「採点してる間に、やっとけ」

 

九条は赤ペンを出して、2人から受け取ったプリントに丸とチェックをつけていく。歌川と菊地原は、返事をすることなく渡されたプリントに英語を書き込んでいく。

 

九条は時々こうして、歌川達に限らず、勉強を教えている。この男、普段のアホ言動に似合わず、普通校組の癖して進学校組よりも勉強が出来る。得意科目は英語。

 

切っ掛けは、風間に頼まれて歌川と菊地原の勉強を教えていたのだが、どこから聞き付けたのか他の隊員もやって来ることになった。

 

「年下嫌いの癖に、面倒見いいから好かれるんですよ」と歌川に言われたが、「そんなことはない。面倒見良くない」と否定していた。

 

A級1位の隊長にレポートを手伝うように頼まれたときは、本気で頭を痛めた。手伝ったが。

 

「うい。歌川、菊地原。よく勉強したな」

 

「比較的易しい問題でしたから」

 

「もっと難しい問題でいいですよ」

 

「予習、復習ちゃんとやってりゃあそんなもんさ。あ、これ、次の宿題。あと間違ってるところ、解説入れといたから」

 

歌川と菊地原に宿題と採点した宿題を渡す。早速、採点された問題を見る二人は、各々反応は違うものの、いい反応ではなかった。

 

共通してる感情は悔しさ。九条がその様に問題を製作したので、当たり前なのだ。程よい悔しさと程よい喜びを与える。

 

どちらかが片寄っても駄目だ。

 

「まだ勉強するなら、ここにいるぞ。分かんないことあったら聞け。昼飯も奢ってやる」

 

「ありがとうございます」

 

「ゴチになります」

 

「ご馳走になりますだろがクソガキ」

 

「一個しか違わないじゃないですか」

 

「飽きませんね二人共」

 

その後、二人の勉強は英語だけでなく、数学と国語まで教えることなった。

 

九条自身、大学に行くかは決めあぐねているので、勉強はそこそこしている。意外と、ほんっとうに意外と将来を見据えて勉強している。

 

午後になりボーダー本部を出ると、家ではなく玉狛支部へ向かっていく。

 

S級隊員迅 悠一に呼び出されているからだ。

 

「用事っていう用事じゃないんだろうけどよ」

 

時おり迅に呼び出されて、玉狛に招待されることがある。招待といっても、お留守番や買い出しをさせられるだけだ。

 

玉狛支部は川の上に立てられている。その川沿いを歩いていると、見知った背中に気付く。

 

「京介じゃん。うぃーす」

 

「九条先輩。玉狛来るんですか?」

 

「ああ、迅さんに呼び出されてな。さっきまで、歌川と菊地原に勉強教えてた」

 

「そうなんですか?俺も行けばよかったな」

 

「分かんないとこあったら、教えてやるよ」

 

玉狛支部所属の烏丸 京介。もさもさしたイケメンだ。イケメンだけど、九条とは仲がいい。九条と違ってモテる。まさに月とスッポンだ。

 

「京介が玉狛行くってことはお留守番じゃねえか。他の雑用か」

 

烏丸が玉狛に行く途中であることから、別の用件であると結論づける。

 

「この間はありがとうございました。家族も喜んでました」

 

「あ?ああ、あれね。うん、気にしなくていいよ」

 

二人が話しているのは、以前三門市内の商店街での福引きが関わっている。

 

なんてことはない。ただ、福引きで3等の家族用もつ鍋セットが当たり、居合わせた後輩の烏丸に譲ったのだ。

 

最初は遠慮していた烏丸も、九条の出した家族というキーワードの連発により、ありがたく受け取ってしまう。親切心というよりは、前日にもつ鍋を食べたので別にいいかと考えていた九条だった。

 

しかし、全くの他人ならば九条もこんなことはしない。

 

家族を失った九条は、家族を大切にする烏丸に好感を持っているのだ。

 

「お邪魔しまーす」

 

玉狛支部に到着すると、眼鏡をかけた少女が出迎えた。

 

「いらっしゃーい、九条くん」

 

玉狛支部オペレーター宇佐美 栞。元風間隊オペレーターから異動した経緯を持っている。誰にも優しく、眼鏡をかけている人間にはより優しい。

 

尚、三輪隊スナイパー古寺は宇佐美に好意を抱いている。

 

「君を連れ出してしまいたい。付き合ってください」

 

「諦めないねえ。眼鏡派になったら、考えるよ」

 

「じゃあ今度眼鏡かけてくるから、付き合ってくれる?」

 

「わたしのお眼鏡にかなうかな」

 

「っしゃい!」

 

「考えるだけですよ、きっと」

 

モチベーションが上がった所で、烏丸の不意打ちが突き刺さり露骨に肩を落とす。

 

「そもそも、わたしもう好きな人いるし」

 

「「え?」」

 

これには九条はおろか、常にポーカーフェイスを保っている烏丸も口を開けて、驚いていた。同じ部隊に所属しながら、宇佐美からはそんな浮わついた話を聞いたことがなかったからだ。

 

「マジすか?」

 

口を開いたのは、烏丸だった。九条は放心している。

 

「マジだよ」

 

「初耳なんすけど」

 

「初めて言ったもん。好きになったのも昨日一目惚れしたからね」

 

「「一目惚れ!?」」

 

九条と烏丸は再び声を重ねる。

 

「Whom!?When!?Where!?What!?Why!?How!?」

 

「だれに。いつ。どこで。なにを。なぜ。どのように。」

 

九条は何故か早口で英単語を並べ、烏丸はなんとか平静さを保ち、九条の言葉を訳した。九条は混乱している。

 

「聞かれても分からないんだよね~」

 

「っていうと?」

 

「本屋で見かけてさ、立ち読みしてるところに心を奪われちゃったんだよね」

 

宇佐美は顔を赤くしている。我ながらちょろいね、と頬に手を当てていた。

 

宇佐美は容姿もさることながら、人当たりもいいので十分モテる部類に入る。九条は宇佐美のそういった部分が好きだった。

 

「で、その人は?声かけなかったんですか?」

 

「見とれちゃってて、声をかけるタイミング逃しちゃったんだよ。読んでた本ともう一冊買って行っちゃった。あ~勿体ないことしちゃった~」

 

肩を落として嘆く姿は、九条に似ていた。まさに今、失恋に嘆いている九条の様にだ。

 

「当たり前のこと聞くようで、悪いんだけどさ」

 

涙を流している九条は、震える足で立ちつつ、宇佐美に問いかける。

 

「眼鏡、かけてた?」

 

宇佐美は親指を立てた。

 

「もち!」

 

「「ですよね」」

 

九条と烏丸の言葉が重なったのは、これで3度目になる。

 

後日、三輪隊の古寺に教えてやると、古寺も同様に涙を流していた。

 

風間隊は少しだけ殺伐とした空気を漂わせていた。

 

「で、あれ?俺がお呼ばれした理由は?迅さんは?」

 

「迅さんはいないけど、用件は預かってるよ。晩御飯当番頼んだ、だって」

 

「えっ!?玉狛の人間じゃないのに!?」

 

「九条先輩、よく迅さんに用事頼まれますよね」

 

九条は過去に迅に命を救われた。ボーダーに入ると、恩を返したいとのことで、迅から出された雑用をよくこなしている。

 

迅が個人をここまで使うのは珍しく、烏丸を含め、迅をよく知る人物は首をかしげていた。だからこそ、なにか考えがあるのだろうと、いい意味でも悪い意味でも、触れないでいた。

 

「昔助けられたからな、安いもんだろ。っし、冷蔵庫覗かせてもらうぜ。つうか、晩飯の用意なら、メッセージ送ってくれりゃあいいのに。海鮮トマトパスタにするかな」

 

「九条くんなら、そういうだろうと思って迅さんが材料用意しといてくれてよ」

 

「はは、未来視のサイドエフェクトは侮れないね」

 

「飯まで時間ありますから、勝負しません?」

 

「オッケイ。なんなら、トリガーチップ指定してくれてもいいぜ」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

「トリガーの編成なら、わたしも手伝わなきゃだね」

 

九条はこのように、ポイントがかからない勝負なら相手に選ばせることがある。九条が状況に適応するためでもあるし、相手の苦手分野克服や練習台として協力を頼まれることもある。

 

トリガーの編成を終えた2人は、玉狛支部の訓練ルームに入って、退治していた。建物も何もない空間は、単純な腕比べを目的としている。

 

「後悔するがいい。お前が編成したトリガーは俺に適したトリガーであると。そして、俺の失恋パワーをお前にぶつけさせてもらう」

 

「八つ当たりっすね」

 

「その通り!」

 

両手にハンドガン、両手にスコーピオン。香取隊の香取と同じスタイルだ。手首の甲からはスコーピオンが出されているのは、手に持つハンドガンの邪魔にならないためだ。

 

どうでもいいことだが、このスタイルでアタッカーNo.4と十本勝負2セットして、2セット白星を上げたのは、アタッカー界隈で話題になった。

 

烏丸に勝てるかどうかは別の話だが。

 

「ガイストON」

 

「へ?」

 

「全力で行きます」

 

「ズルいやつじゃんそれ」

 

玉狛支部のトリガーは、本部のトリガーとは大いに異なる。それはボーダーのように継戦を重要視したものではなく、短期戦に重きを置いたトリガー構成である。

 

その技術はボーダーでなく、ネイバーの技術が使われていること他ならない。

 

短期戦と言うだけあって、短い時間が限界だが、試合形式ならば俄然烏丸が有利だ。

 

結果、十本勝負は烏丸が全勝する。

 

「お前さ、ほんとお前さ」

 

「すいません。時たま使っとかないとなんで」

 

「そうなんだろうけどさ、何もできずに斬られただけじゃん」

 

「っすね。レイジさんの全武装(フルアームズ)に勝った九条先輩ならイケるかなって」

 

「相性差考えろよ!?」

 

烏丸は一つ息を吐いて、床に尻餅をついている九条を見下ろす。

 

「ガイストなしでやればいいんですね。ガイストなしで」

 

「なんでやれやれみたいな顔してんの?なんで俺が悪いみたいになっちゃってんの?」

 

九条と烏丸のバトルは夕方まで続き、最後は烏丸がガイストで締めくくった。九条は半泣きだった。

 

 




九条 辰馬
 
現在

パラメーター
トリオン 14
攻撃 9
防御・援護 4
機動 7
技術 11
射程 12
指揮 2
特殊戦術 8

TOTAL 67

ただし、部隊やトリガーチップをコロコロ変えるので、頼りにならない数字。


九条辰馬

女好き。初対面の女性には、告白して振られる。子供も嫌いで非モテに拍車がかかる。言うまでもなく、交際経験ゼロ。子供などには好かれやすい。本人には不本意この上ない。眼鏡とコンタクトを気分で使い分ける中立派。格闘技、読書家、ダーツ、勉強、モテ要素がそろっているので、容姿と性格と年下嫌いを修正すればモテる。もはや別人だ。



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13話

絶句。

 

玉狛に所属する全員が目の前の結果に目と口を開かせていた。

 

しかし、言葉を発せなかった。モニターに映る勝者は、両手の拳銃をクルクルと指で回していた。

 

支部長の林藤は煙草に火をつけようとしたところで止まっている。ポーカーフェイスが売りの木崎と烏丸の師弟も、信じられないような様子だった。

 

あり得ないことだった。

 

起きてはいけないことだった。

 

玉狛支部のエンジニア、ミカエル・クローニンは、手を口に置いていた。

 

「嘘でしょ」

 

小南桐絵が一言目を発して、全員が我に帰った。

 

「サイドエフェクトとトリガーの相性がかみ合えばこれほど強力なんすね」

 

「強力、では済ませられないな。戦う相性もあったと言えど、結果が結果だ」

 

木崎と烏丸は、冷静を装うが内心動揺しっぱなしだった。

 

「彼の要望通り作ったとはいえ、ここまで使いこなすとは」

 

「嘘でしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」

 

小南はソファーから立ち上がって絶叫する。

 

「嘘よ嘘よ嘘よ絶ぇっ対嘘ぉおおお!」

 

「ちょっと小南落ち着いて。信じられないかもだけど」

 

「落ち着けるわけないでしょ!あたしだって勝てなかったのに、あんな奴があんな奴があああああ!」

 

「小南先輩よく気づきましたね」

 

「え?」

 

「実はこれ演技なんです」

 

「え、そうなの!?」

 

「すいません。嘘です。正真正銘あの人負けました」

 

「騙されたあああああああ!」

 

トリガーには技術者が作ったノーマルトリガーとは別に、ブラックトリガーと呼ばれる代物がある。

 

ブラックトリガーは極めて強力で特殊なトリガーだ。

 

人間の命と引き換えに産み出されたブラックトリガーは、兵器と言っても過言ではない。現在のボーダーでも、数は少なく、内一本は玉狛支部の迅が所有者となっている。

 

S級隊員迅 悠一。未来視のサイドエフェクト。

 

ブラックトリガー“風刃”

 

迅以上に迅の持つブラックトリガー風刃を使いこなせる隊員は後にも先にもいない。

 

事実、ブラックトリガーはA級隊員数人分の戦力を秘めている。そこに迅のサイドエフェクトが加われば、鬼に金棒。

 

予知によって相手の数手先も読める能力は個人、組織においても重宝すべきサイドエフェクトだ。

 

迅自身の経歴も凄まじいものだ。旧ボーダー時代からの隊員で太刀川としのぎを削る実力者。風刃を巡るバトルロワイアルで、20人以上いた隊員を打ちのめす。

 

その上で、玉狛支部の人間は驚愕せざるをえなかったのだ。

 

 

遡ること1時間前。

 

「よっ、辰馬。晩飯作ってもらっちゃって悪いな」

 

「いや、いいですよ。」

 

玉狛支部と晩ごはんを共にすることになって、後片付けを終えると、居間で迅にソファーに座るよう促される。迅の隣には、ミカエル・クローニンが九条の前にトリガーを置く。

 

ミカエルは名前の通り日本人ではなく、ましてや国外の人間というのにも首を傾げてしまう。

 

ネイバーであり、玉狛支部のエンジニア。

 

ボーダーでもかなり特殊な立ち位置にいる。

 

「出来たよ。細かい調整は必要かもしれないけど、それはおいおいやっていこう」

 

ミカエルに主語はなくとも、ミカエルが九条の前にトリガーホルダーを置いたのでなんであるかを察した。

 

「おお!そういうことか!」

 

以前より、玉狛特有の専用トリガーを九条ように造られていた。制作までに九条の要望、戦闘スタイル、トリオン能力を話し合い続けた結果、玉狛支部に新たな専用トリガーが生まれた。

 

そもそもこの話を持ち出した迅の意図は誰にもわからなかったが、九条は自分の新たな可能性を知りたく、疑問に気づかないフリをして、承諾する。

 

玉狛の面々もなにか考えがあるのだろうとしつこくは追求しなかった。

 

最も新しく与えられたトリガーは迅の許可なしには使えず、玉狛支部の仮想空間及び緊急事態以外では使用を禁じられている。

 

このことはボーダー本部でも城戸司令、忍田本部長しか知らない。この2名の許可なくしては、トリガーは使用できない仕組みになっている。

 

九条はすっと立ち上がり、壁際にいた烏丸に目を向ける。新トリガーを器用に回して、烏丸に向けて宣言した。

 

「ルウゥゥゥイベンッッッヅィ!」

 

「なんて?」

 

「リベンジって言ってます」

 

小南は九条の言葉が聞き取れず、烏丸が翻訳した。

 

リベンジを申し込みながら、その手には新トリガーが握られていた。

 

烏丸もその申し出に応えようとすると、迅が手で制す。

 

「いや、俺とやろう」

 

「へ?」

 

迅は言いつつ、黒いトリガー、風刃をひらひらと横に振る。

 

「もちろん本気で行く」

 

九条の返事は、笑顔だった。

 

「オーケィ。迅さん」

 

九条と迅の問答にここにいるメンバーは驚きを隠せずにいる。実際、玉狛のメンバーは迅へ疑問を投げ掛けている。主に小南が騒ぎ立てている。

 

そんな彼らを尻目に二人は準備に入る。

 

仮想空間の用意もしなくてはならないので、宇佐美は動揺しながら、プログラムを起動させる。

 

「黒トリがどんなもんなのか、見てみたかったんですよ」

 

「なーに、見るどころか体験させてやるよ」

 

九条と迅が立つのは、仮想空間によって構成された市街地。

 

迅の右手には鍔のない光る刀。そして、8本の淡く光るなにか。風に煽られているビニール紐のように見えなくもない。

 

一方で、九条の両手には拳銃が握られていた。

 

ロングスライドの拳銃は深い青色をしている。九条は両手に拳銃が握られた時に、自分の要望通りに制作されているのに、喜びを感じていた。

 

宇佐美によって、ゴングがなった瞬間、二人は同時に動いた。

 

 

 

 

「大勝利」

 

結果は、ピースを掲げるアホ。いや、ボーダー最強の銃使いだった。

 

 

 




とりあえず、九条の玉狛トリガーはまだ出さないでおきます。

次回は、日常的な話を書きたい。

どうでもいいですが、九条に新トリガーを渡した迅にも意図があります。





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14話

日常回です。

今回『オーデュボンの祈り』『ミスト』が少しだけ出てきますが、あしからず。

もっとほのぼのしたの書きたかった。


~お好み焼き~

 

「今日はなーに食おっかなー」

 

防衛任務の帰り道、町中をプラついて、少々早めの晩御飯にしようとしていた。空は紫色で、飲食店も賑わいを見せ始めていた。

 

祖父母と両親の財産。そこからボーダーの給金も入っているので、財布にはかなり余裕を持てている。九条が主に金を使うのは、食事に向いている。

 

時たま、ボーダーの人間と食事をすることもある。

 

「お」

 

ふと、目に止まったのはお好み焼かげうら。

 

「ほほう」

 

店の換気扇から漂うお好み焼きの香りは、九条の行き先を決めるのには十分な火力だった。

 

「らっしゃい。って、オメェかよ」

 

「客にそれはないでしょ。あ、一人です」

 

「おお。沢山金落としてけよ」

 

店内で出迎えたのは、影浦隊隊長、影浦だった。名前の通り、ここは彼の実家で今は店の手伝いをしているところだ。

 

「んじゃ、タコ玉。あとビール」

 

「未成年だろうが!」

 

結局、ビールは出されずにコーラを出される。タコ玉をパクついて新たに注文した食事と、別のお好み焼きの具材が運ばれてきた。

 

九条は豚玉と焼きそばを頼んだのだが、それとは別にミックス玉が運ばれてくる。

 

「相席させてもらうぜ」

 

影浦は九条の前に座る。それに気にすることもなく、お好み焼きと焼きそばを鉄板の上に乗せる。ソースたっぷりの焼きそばの上に、お好み焼きを乗せて食べるのが、九条は大好きだった。

 

栄養なんて知ったことではない。

 

お好み焼きと焼きそばのソースが絡み合って、濃い味を食べたいが為にこの店にやって来たのだ。

 

影浦も九条がそうして食べるのを知っているので、自分の分も焼き始める。

 

「そういえば、カゲさん。明日、暇ですか?」

 

「あ?んでだよ」

 

「一緒にナンパしません?」

 

「しねえよ」

 

九条の言葉に呆れを隠せない。

 

影浦は見た目も言葉使いもチンピラに見られるし、本人にも自覚はある。実際、ボーダーで暴力事件を起こした前科がある。にも関わらず、こういったことに本気で誘ってくる九条に若干の苦手意識を持っていた。

 

「えー、行ーきーまーしょーうーよー」

 

「ウゼェ」

 

「対人関係の訓練だと思って。ね」

 

「ね、じゃねえよ。オレのクソサイドエフェクトわかってんだろ」

 

「でも、このままじゃ影さん社会不適合者ですよ。言葉遣い悪いし勉強も得意じゃないし喧嘩もそこまで強くないし」

 

「喧嘩売ってんだろ!?」

 

「でも、実際ボーダー以外で影さんを受け入れてくれる所あると思います?」

 

「ぐっ」

 

ボーダーの隊員は基本的にいい人、である。一例を挙げるのであれば、来馬隊の隊長が善人の代表といったところだ。彼について語ることもあるが、今ではない。

 

彼ほどではないにせよ、穏やかな隊員が多いのは事実だ。影浦の“感情受信体質”は、自身に向けられた他人の感情がチクチクと刺さる。正の感情はともかく、負の感情は本人にひどいストレスを与えることとなる。

 

そんな彼がボーダーに居座るのは、居心地が良いからだろう。

 

尚、九条と影浦は殴り合いの喧嘩をしたことがある。

 

「まず第一印象を良くしないと。ナンパも第一印象が大事ですからね」

 

「行くとは言ってねえだろ」

 

「そんでトーク。面白い話は女性に興味を持たせる。つまーり、自分に興味を持ってもらえるということですよ。影さんの面白トーク爆発です」

 

「こいつ話聞いてねえな」

 

「そっからはちょちょいのちょいで、女の子をゲットだぜ」

 

「ていうかよぉ」

 

「なんすか!?この期に及んで、まだ行かないというんですか!?」

 

「そうじゃなくて」

 

九条の中では、影浦がナンパに行くことは決定事項であって、影浦も渋々納得していた。影浦も将来を考えるのならば、サイドエフェクトとの付き合い方も向き合わなければならなかった。

 

元々、不安がないわけではないので、これを機会に経験しておくべきだった。

 

影浦が口を挟んだのは、ナンパに行くこと自体ではない。

 

「お前、今ナンパの方法言ったけどよ、成功した試しあんのかよ?」

 

「いたらナンパなんてしませんよ」

 

「さも必勝法みたいにいってんじゃねえよ!!?」

 

「ソースはネット」

 

「この現代っ子が!」

 

二人のやり取りを見ていた影浦の母は、息子が楽しそうにしているのを穏やかな眼差しで見守っていた。

 

影浦はそれに気づいて、恥ずかしそうにした。

 

次の日、二人でナンパに行って惨敗なのは言うまでもない。珍しく影浦が九条の背中をさすって慰めることになった。

 

影浦のコミュ力が1上がった。

 

 

 

~香取隊~

 

「九条来んの!?」

 

香取隊に与えられた隊室で、一人の少女が驚きの声を上げる。人を駄目にするソファーで、スマホをいじっていた香取は、同部隊にして従兄弟の若村に顔を向ける。

 

「来るっても、本借りるだけだけどな」

 

若村の言い分として、ある本で話題になって、九条が一度帰宅して隊室によるというものであった。

 

「なんであいつが来んのよ。最悪なんだけど」

 

「お前な、仲が悪いのは百歩譲っていいとして、先輩ぐらいつけろよ!九条がほぼ同年代で女を嫌ってんの葉子だけだぞ!」

 

「っさいわね!マスタークラスでもないくせに!」

 

「お前だって九条に瞬殺だったろうが!それをまだ根に持ってやがって!それにあいつもすぐ出ていくから、わがままいってんじゃねえ!」

 

若村の説教じみた発言に香取は反発する。

 

香取葉子の家族は、血の繋がりを感じさせないほどに穏やかな性格をしている。だからこそなのか、なまじ器用な香取葉子は、努力もせずに結果を出すので叱られる経験に乏しい。

 

なので、若村のようにしっかりしつつも自分以下の人間に口を出されるのは非常に不愉快だったのだ。

 

この二人の喧嘩は今に始まったことでもない。二人の喧嘩を香取隊の三浦は弱腰ながらも止めようとするも、ヒートアップする従兄弟同士の喧嘩に強く出られずにいる。

 

そこでオペレーターの三浦の従妹にして、香取の親友である染井華に助けを求めようとすると、手鏡で自分の髪をいじっていた。

 

「なにしてるの?」

 

「身だしなみチェック」

 

三浦が問いかければ、染井は表情を変えることなく一言で済ませる。

 

「髪よりもヨーコちゃんとろっくんの喧嘩を止めてよ」

 

「今に始まったことじゃないでしょ」

 

それだけ言って、染井は髪だけでなく眼鏡の曇り具合もチェックしていく。爪のチェックまで怠らない徹底ぶり。

 

そこでようやく、香取隊の隊室が開かれる。

 

全員が口を閉ざして、扉の方を見ると紙袋を下げた九条が立っていた。

 

「若村、これ」

 

「お、おう。ありがと」

 

「じゃ」

 

用件だけをささっと終わらせて出ていく。

 

もう少し話をすると思っていただけに、九条が淡々と済ませたのには戸惑った。

 

「なんなのよ、あいつ」

 

九条がすぐに出ていったのは、扉が開いた瞬間香取と目が合ったから他ならない。それに気付いた香取は、余計に苛立ちを隠せずにはいられなかった。

 

九条がここまで女子に嫌悪感を抱けるのは中々ない。

 

(そういえば)

 

三浦はふとしたことに気がつく。

 

(華とヨーコちゃんって、九条くんとどうやって知り合ったんだろ?)

 

三浦はそこに原因があると考え、二人の仲を良くできればと考えていた。あわよくば、九条が香取隊に入ってくれればとも期待していた。

 

 

 

~サイドエフェクト~

 

「迅さんのサイドエフェクトって優午の未来予知とは真逆ですよね。優午が実在すれば、未来は完璧に見えるのに」

 

九条は唐突に切り出した。玉狛支部で男二人で映画を観ていた。ソファーには九条と迅が座っている。二人の間には、ポップコーンが置かれている。

 

九条が那須にオススメの映画『ミスト』を教えてもらったところ、迅と共に鑑賞することになった。観賞後には語り尽くすところだった。しかし、想像を上回るほどのラストに語り合う気分でもなかった。

 

そこで九条は前々から思っていたことを口にしていた。

 

「すぐ先のことは、確実にわかります。ただし、数週間、一年、数年、と先のことになると外すことも多くなります」

 

九条は印象に残った一文を口ずさむ。

 

「ってね。優午も迅さんの言うようにいくつかのルートがあるんだってさ。優午が実際にいてくれたら、迅さんも楽になるんじゃないですかね」

 

『オーデュボンの祈り』という小説に登場する優午は、迅同様に未来を予知することができる。ただし、優午の未来予知はすぐ先の未来は確実でも、遠い未来はズレが生じる。迅はその逆で近い未来は外すこともあれば、遠い未来であれば的中する確率は上がる。

 

「でも、人生はエスカレーターとも言うだろ?俺のサイドエフェクトも見えているっていうよりも、エスカレーターの景色を眺めてるだけで、本当は行き着く未来は決まってるかもなんだぜ」

 

九条はえー、とため息を混ぜて、エンディングの流れている画面を指さす。九条の表情はお世辞にも明るいとは言えない。つまらないわけではない。むしろ、傑作ともいえるが、ラストあってこその傑作なのだ。それが九条の気持ちを落ち込ませる。

 

「んじゃ、未来が見えてもこの結末なわけですか?」

 

「世界滅亡よりかはマシだろ」

 

迅はポップコーンを口に放り込む。

 

「どこかで別の選択肢を選んだとしてもいい結果になるとは限らないだろ。子供を心配する母親に着いていったとしても、化け物に見つかる可能性も大きくなるわけだ」

 

そう言い残して、用事があるからと玉狛支部から出ていく。

 

『ミスト』にはどこかしらで選択が分岐する場面がある。この作品を見たものならばわかるだろうが、出てくる化け物よりも大事なのは選択だ。選択一つで天国にも地獄にも変えることを押してくれる作品だ。

 

九条の脳裏に引っ掛かりがあった。

 

では、旧ボーダー時代から選択し続けた迅はどうなのだろう。

 

特に大規模侵攻の時は大勢亡くなったのだ。そこには迅の能力もあった。

 

未来予知があるからこそ、選択できる。ではなく、できてしまう。誰を助け、誰を見捨てるかを当時の迅が選べてしまう。選ばないことすらも、選択肢に入ってしまうのだから、当時の迅の心境は計り知れないものだろう。

 

「世界滅亡よりかはマシか」

 

この時、九条はほんの少し、不透明でこそあるもの、迅の目的が見えてきていた。

 

「世界滅亡よりかはマシか」

 

もう一度復唱して、納得して頷く。

 

「命の恩人だし、仕方ないか」

 

九条はなにかを受け入れた。なにかは分からずとも、迅に助けが必要ならば全力で応える。

 

救われたあの日、そう誓っていた。

 

 

 



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15話

九条は現在、ボーダーのラウンジでで困り果てていた。東隊所属小荒井が九条の左足にしがみついて、必死に同じ単語を繰り返しているからだ。

 

「東隊に入ってくださいよ~」

 

「入らねえって」

 

ボーダーのソファーに座って、腰を落ち着かせるものの。鬱陶しいことこの上ない。すぐそばにいる、同隊の奥寺にどうにかしろと目線を送るも「これで東さんが入隊してくれたんです。東さんには許可もらってます」と返され、あの噂本当だったんだと心の中で呟く。

 

「丁度いいといえば、丁度いいか」

 

九条は腕時計の確認すると、小荒井と奥寺に向かいのソファーに座るように促す。

 

そもそも九条がラウンジにいるのは、先約があったからだ。小荒井と奥寺は、なにかを待っている様子の九条に質問をしようとする直前で、来馬と柿崎が一緒にやってきた。来馬は九条から見て、左側に。右側には、柿崎が一人掛けのソファーに座る。

 

来馬と柿崎は緊張した面持ちをしており、小荒井と奥寺はこれからなにをするのかわかっていないので、戸惑うのみだ。

 

「んじゃ、始めますか。これから、自分の部隊の魅力を語ってください」

 

「九条先輩なんですかこれ」

 

「柿崎さん。説明お願いします」

 

奥寺の質問に九条は説明をめんどくさがり、流れるように柿崎へと押し付ける。

 

「聞いてないのか?でも、ここにいるってことは九条を自分のチームに入れたいんだろ?」

 

柿崎の言葉に小荒井と奥寺は頷く。

 

「俺たちも同じだ。九条を自分のチームに引き入れたい。だから、これから自分の部隊の魅力を隊長が伝えるってことだ」

 

「なるほど。でも、隊長だったら……ああ、そいういうことか」

 

奥寺は言いかけて、気づいた。

 

今回のプレゼンとも面接ともいえる状況で、東を呼んだ方はいいのではと思うも、九条が自分たちを座らせたのは、東隊が他の部隊とは少々事情が異なることを考えてこそのものだと気づいたからだ。

 

東隊は隊長こそ東であるものの、小荒井に懇願され、尚且つ指導者的立場にあるのは有名な話だ。となれば、このような状況では東ではなく、弟子である小荒井と奥寺であるべきだと席に着かせた。

 

「なんの準備もしてないんですけど」

 

重要性に気づいた小荒井は焦りを見せる。

 

「自分のチームの長所くらい簡単に言えないようじゃ話にならねえよ。それと俺はA級目指す前提だから。順番は最後にしてやるから、来馬さんと柿崎さんを見てろよ。では、来馬さんから始めます」

 

小荒井と奥寺は真似できる部分は真似ようと、試験10分前の顔つきで来馬を観察する。柿崎も同じ様子で、それが来馬の緊張を高まらせる。

 

小荒井と奥寺は気づいていないが、来馬隊と柿崎隊の隊員たちは隠れて、この様子を見守っていた。他にも野次馬がちらほらと見えるが、九条は気にしない方向で進めていく。

 

「では、来馬さん。あなたのチームの魅力は何でしょうか?」

 

「はい。私が隊長を務めさせて頂いている来馬隊は現在B級で中位にいます。しかし、私の部隊にはアタッカー4位の村上が所属しています。彼の実力は何度も戦ったことのある九条さん自身ご理解しているはずです」

 

「はは、そんなに緊張しなくてもいいですよ。肩の力抜いてください。普段も敬語じゃないじゃないですか」

 

「すみません。つい緊張しちゃって。このまま続けさせていただきます」

 

来馬が緊張するのはわかる。今日の九条は、髪の隙間からみえる目付きが違うし、隊長二人を呼び出して、プレゼンさせるのは九条の本気度が伺える。この状況はまさに逆面接だ。そんな状況で、敬語を使わなくてもいいと言われ、素直に使わないのはまさに面接で『私服OK』と言われ、本気で私服でくる人種だ。

 

しかし、来馬は馬鹿でもなければ、いいとこの出の坊ちゃんである。礼儀などはもちろん学んでいるので、そんなヘマは犯さない。

 

「今は中位に留まっていますが、九条さんが来ていただければ、B級上位は当然として、A級に行くことだって夢ではありません。すぐ入っていただければ、今日にでもチームの練習も始められます。以上になります」

 

(うまいッ!)

 

これを聞いていた三輪秀次は驚愕した。

 

九条がどこの部隊に入るのか知るため、盗み聞きしていたが、来馬の最後の一言に感想を抱く。九条のように本気で上を目指す人間にとって、すぐに練習を始められるというのは僅かであるが効果的。その僅かをチームの紹介で行うのは、来馬を見直すほどだった。

 

(ただ優しい人ではなかったか)

 

それもそうだ。来馬もまた必死なのだ。アタッカー4位を抱えているにも関わらず、上位にすらいないのは隊長である自分に問題があると感じているからだ。それならば、自分にできることを全力で取り組むしかなかったのだ。

 

「なるほど。確かに来馬隊の目玉は村上先輩です。しかし、アタッカー4位がいるにも関わらず、B級中位にいるのはなぜでしょうか?同じような編成で、影浦隊は元A級で現在は不動の2位にいます。影浦隊と来馬隊の違いはなんでしょうか?」

 

少しだけ雲行きが怪しくなってきた。九条の言葉を聞いている隊員たち全員が感じた。

 

「それは私の力不足によるところが大きいでしょう」

 

「具体的には?」

 

「え?」

 

「具体的には、どのあたりがでしょうか?」

 

「えっと」

 

ここで来馬が発言に戸惑えば戸惑うほど、自分のチームに入れやすくなる。のだが、柿崎の胃が痛くなってきた。

 

「鋼、いや、村上が落ちてしまえば、それで終わりという部分です。私自身の力不足もあります。しかし、オールラウンダーをやるにも、そこまでトリオンがあるわけでもありません。村上の負担を補うためにも、九条さんの力が必要なんです」

 

焦りはあったものの、なんとか凌げた達成感に来馬は内心ガッツポーズをとる。

 

それでも面接はまだ終わってない。

 

「それでは私を来馬隊に入れたあと、どのようなイメージを持っていますか?」

 

「イメージですか?それはやはり臨機応変な対応力を持っているので、それを活かしていただければと」

 

「具体性に欠けますね。では、二宮隊とぶつかると想定してください。障害物はなく、更地で戦闘を行う場合、来馬さんであれば、どのような対応をしますか?」

 

九条の声は普段の明るいものとは考えられないほどに、冷たく淡々としている。その温度差が徐々に聴いている者の動悸を激しくさせる。

 

「それはやはり村上と九条さんを前面に出して……」

 

「出して、どうするんですか?」

 

「いえ、あの。そうですね。2人を二宮さんにぶつけて、犬飼くん、辻くんを僕と太一で倒して、その後、二宮さんを倒し、ます」

 

「できると思います?」

 

「……できません」

 

「そうですよね」

 

来馬は頭の中でイメージして、結論に辿り着く。これでも勝つのは厳しいかもしれないと。

 

まず前提として、二宮にサシで勝てるほど、九条も村上も強くはない。No.1シューターは伊達ではない。彼の放つ弾は高い攻撃力を誇る。村上のレイガスト。九条のシールド。更にエスクードを加えれば、かなり有利に運べる。それだけだ。

 

では、来馬の想定を考えてみよう。来馬の考えている通り、九条と村上が二宮にぶつかるとする。では、二宮ならば、どうするか?単純に時間稼ぎをするはずだ。むしろ、中距離から犬飼、辻の援護を行うことだってあり得る。

 

来馬は犬飼と辻を倒すというが、二宮隊が不動の1位にいるのは、二宮単独の力だけでなく、犬飼、辻の力によるところが大きい。それこそ、来馬がよくわかっているはずだ。来馬の言うように、2対2でぶつかったとしても、返り討ちにあうのが、目に見える。

 

これはあくまで更地をイメージしたもので、事実ではない。市街地などを想定すれば、話は変わってくるも、頭の回る二宮相手には、余計に不利になるだけだろう。

 

「確かに俺は万能ですけど、無敵ってわけでもないんですよ。来馬さん自身、俺が入ったあとのイメージが漠然としすぎてるんです。まあ、それはいいんですよ。話し合いの繰り返しで解決する部分でもあるんですから」

 

「はい」

 

「でもね、A級目指す上で、二宮隊への対処が曖昧なのもどうですかね。今話した状況は、もしもですから、実際はもっとすんなりかもしれません。ただね、俺もそれなりに警戒されてるわけですから、頭の回る二宮さんが対策しないわけがないんですよ」

 

「……はい」

 

「例えば、対二宮隊ではどんな銃と弾を使うなどの言って頂かないと。向こうだって、俺を警戒するでしょうから、エスクード張られるとこっちも厳しいんですよ。シューターは苦手なんですから」

 

「……はい」

 

九条は机を指でトントンと叩きながら、ふーっと長いため息を吐く。

 

「来馬さん。チームに入れる権利を持っているあなたにこう聞くのはどうかと思うのですが、本当に俺を入れたい思ってます?」

 

「それはもちろんです!」

 

「ならですよ。なら、ね。俺を入れて、ね。4人編成となった来馬隊をどんなチームにしたいか考えて貰わないと。明確にじゃなくても、あなたが隊長なんだから、しっかりしないと」

 

「はい。すいませんでした」

 

この時点で来馬の顔は白くなっており、泣き出しそうになっている。九条は来馬から目を離さず、終わらせにする。

 

「では、前向きに検討させてもらいます。次は、柿崎さんなんですが、少しお手洗いに行かせていただきます」

 

「は、はい」

 

九条はソファーから立ち上がって、トイレへと向かう。その背中が消えたところで、一同は心を一つにしていた。

 

(怖えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!)

 

小荒井、奥寺、柿崎はズボンの裾を握って、目の当たりにした光景に恐怖した。なにか話そうにも、落ち込んでいる来馬を前に、話す勇気などない。

 

顔を伏せ、ただただ沈黙していた。

 

「俺もっと軽いもんだと思ってたわ」

 

「俺も」

 

見ていた米屋と出水が、想像していたのは、アホらしい九条が質問責めにするといった感覚だった。

 

(やべぇ、他人事じゃねえぞ!来馬うめえなとか思ってたのに、蓋を開けてみればボロクソじゃねえか!もう俺が泣きてえ!なんだよ、この圧迫面接!?九条が九条さんじゃねえか!)

 

柿崎はカウントダウンが迫る中、必死に脳内シミュレーションをして、対策を練っていく。柿崎的には、来馬が終わったあと、すぐに始めてもらいたかった。

 

「お待たせしました。それでは、柿崎さんお願いします」

 

「ははははいっ!!!」

 

(柿崎さん、頑張って!)

 

柿崎の視線の先には、柿崎隊の面々が揃っており、口パクで応援しているのがわかった。

 

(そうだ。俺の部隊がこんな順位にいるのは、俺の責任だ。あいつらの力はあんなもんじゃねえ)

 

柿崎の瞳に確かな覚悟が宿る。

 

(小太郎は小学生でボーダーに。文香は新人王候補にまでなってたんだ。だったら、俺はなにがなんでも上に行かせなきゃいけねえんだ!)

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

(ぜってえ九条をうちに引き入れてやっからな!)

 

 

 






次回、柿崎死す


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16話





「うちの柿崎隊の長所は、バランスです。撃ってよし、斬ってよし。全員銃トリガー。弧月を装備しています。そこに九条さんの対応力の中にある狙撃があれば、より高い順位にいけるはずです。更に私の場合、元A級嵐山隊に所属していたので、似た編成なれば、すぐに戦略が建てられます」

 

遠くから柿崎隊の仲間たちが腕を振って、口パクで応援を送ってくれている。それだけで、柿崎から勇気が湧き上がってくる。今まで戦ってきた、その自信が柿崎の背中を押してくれる。

 

「バランスが取れてるたって、あなた。低いレベルで安定しているだけでしょ。その結果がこの順位ですよ。あなたは山本稔選手ですか?まさに踏んだり蹴ったりじゃないですか」

 

「………」

 

早くも心が折れそうになる。

 

「大体A級にいた、はなんの魅力にもなりませんからね。二宮隊・影浦隊・東隊。元A級が上位をしめてるんですよ。そんな中で、B級中位下位をうろついている方に言われても説得力が欠けるんですよ。不良が正論吐いたところで、だから何?としか思えないでしょ?それと同じですよ。実績がともってないんですよ、柿崎さん」

 

「はい。すいませんでした」

 

蚊の鳴くような声で、謝罪を述べる。嵐山隊は逃げるように辞めて、A級になるどころかうだつの上がらないB級部隊になっている。柿崎が気にしていることを綺麗に抉りにくる。この時点で最初の勢いはどこかへ行き、柿崎の頭の中は真っ白になっていた。

 

「あとこれ、……いえ、失礼。なんでもありません。まあ、嵐山隊の戦略は少々魅力的です」

 

「ありがとうございます!」

 

九条が言いかけたのは「あとこれ。来馬隊にも言えるんですけど、エースがいなくても強いチームは強いんですよ。俺が入っても少し戦力上がるだけにしかならないんじゃないですか?」というセリフだった。最も、これを言ってしまえば、話が飛んでしまうので、口を閉じることにした。ただ、課題でもあるのは、間違いなかった。

 

「それで隊長であるあなたは、隊員たちを上手く活かせていると感じでいますか?」

 

「いえ、情けない話、この順位にいるのは俺の所為です」

 

「でしょうね。まあ、それは来馬さんも一緒でしょうが。厳しいこと言うようですけど、傍から見て、隊長が悪い。隊長はその部隊の色といっても過言じゃない。ただ戦う駒の一つじゃない。決断する立場にある隊長が戸惑えば、チーム全体に影響する」

 

九条は間を一つ置いて、最低な言葉を来馬と柿崎にぶつける。

 

「来馬隊、柿崎隊の順位はクソどうしようもねえ隊長がいかに落ちぶれているかの証明他ならない」

 

九条の言葉は来馬と柿崎にガツンと打ち付けられる。

 

確認するが、この会話は野次馬はおろか席についている部隊の隊員たちも聞いている。

 

当然、何度も訓練し、防衛任務について絆がある仲間たちは激怒する。村上をはじめとする照屋、巴たちは九条へと近づいていく。九条も分かっていて、彼らの逆鱗に触れたのだ。

 

村上が九条の襟を後ろから掴みかかろうとした瞬間、九条は再び口を開いた。

 

「そして、それは各隊長が誰よりも自覚している」

 

村上は九条の襟をつかむ直前で止めた。すでに各部隊の隊員達が九条の背後に立っていた。全員憤っているが、九条の言葉に耳を傾けていた。

 

「アタッカー4位村上鋼。小学生でB級入りした巴小太郎。奈良坂、歌川に並んで新人王候補にまでなった照屋文香。こんな面子が揃っていて、この順位にいて気にしない隊長がいるわけがない。もっとやれる、そう思ってるはずだ。だから、俺を引き入れたくてしょうがない。逆になにも感じない隊長なら、こっちから願い下げだ。この落ち込みようなら、そうではないようですがね」

 

見事に己の心情を言い当てられた来馬と柿崎は、返す言葉もなく黙っているしかなかった。

 

九条があえて歯に衣着せない言い方をしたのは、単に指摘だけでなく、その後の心情を測るためにあった。

 

「隊長を侮辱した言葉に怒りもせず、敬意を払えないクソともごめんですがね」

 

村上は掴みかかろうとした手を下げて、九条の背中をじっと見つめる。

 

「俺はA級になにがなんでも行く。これだけは譲れない。協力も惜しまない。練習が必要ならいくらでもついていく。A級に行ける可能性がないなら、この席に呼び出したりしない。なら、A級に入ればいいって言われるかもしれない。確かにそうだ。でも、A級じゃだめだ。箔もあるけど、それだけじゃない。一緒にやっていけるかだ」

 

九条の声に、席についている4人だけでなく、村上達はおろか野次馬たちも静かに耳を澄まさせていた。不思議と九条の言葉は、聞き耳を立てている隊員たちの意識を引き寄せた。

 

ゆったりと落ち着いた口調に先ほどまでの威圧感はない。九条は背筋を伸ばして、前腕を広げて、来馬と柿崎の意識をより強く引き込んでいく。言葉に合わせて、腕を揺らす。

 

「効率だけみれば、B級にもいいチームはある。弓場隊とか王子隊とか。チームに所属したこともなければ、年下のガキに好き勝手言われてムカつくだろう。その通りだ。それでも俺の居場所になるチームは、ちゃんと考えたい。あとで思ってたのと違うとか言って辞めるって言わないためにも妥協は許されない」

 

九条は白い歯を見せて笑う。

 

「だから同じチームに所属することになったら、あなたたちのことを、仲間だと胸を張って呼ばれるよう全力を尽くすことを誓わせていただきます」

 

「きみを、入れてA級になれるのかい?」

 

来馬は、九条に質問した。

 

「なります。対影浦隊。対二宮隊については俺自身考えがあります。でも、俺一人じゃ無理だし、チームに入ったら、今みたいにガンガン口を出す。チームに亀裂も生まれる。それでも、俺をチームに入れたいんですか?」

 

「「当然」」

 

来馬と柿崎は口を揃える。折れた心は、再び構築されて、より強固な心を宿す。

 

「隊員たちをまとめるのも隊長の役目だ」

 

「ククク。んじゃ、面接はここまでしときますか。後ろの皆さんも納得したか?」

 

来馬隊、柿崎隊の面々は不安が残っている。

 

九条は女にだらしなく、すぐ落ち込む。有能なサイドエフェクトとマスタークラスのスコーピオン。その程度しか知らなかった。

 

今回のように、腹の中を垣間見たのは、初めてのことだった。

 

「なにも言わないっていうのは、OKって受け取らせてもらうぜ」

 

それでも、隊員たちは隊長を信じた。自分たちが隊長についていっているように、九条も隊長についていけると。

 

「あのー」

 

解散となったところで、小荒井が挙手する。

 

「俺たちはどうなるんですか?」

 

途中から空気になっていた東隊。

 

「自信あるなら、今やってもいいぞ。この後、他のチームの面接もあんだよ」

 

「あんだけのこと言っといて!!?」

「信じらんねえコイツ!!!」

 

湧き出た出水と米屋が九条を批判しだす。他の面々も呆れた視線を九条に送る。

 

「そりゃねえだろ!ボロクソ言っときながら、まだ選り好みかよ!」

 

出水の痛烈な指摘に、九条は反論する。

 

「うるせえ!世の中は売り手市場なんだよ!選り好みしてなにが悪いんだよ!?」

 

「俺も九条の立場なら同じことするがな」

 

「マジで!!?」

 

三輪の発言に驚く者と同意する者で二分している。就職を意識しているかいないかの差だろうか、同意している者は、風間や二宮など大学生に多かった。

 

「2人で相談して、どんな風に自分のチーム紹介するか決めとけ。その間に俺は次の人と、話し合っとく。終わったら、連絡入れる」

 

時間が惜しいからか、小荒井と奥寺は小走りで、隊室にいる東に相談することにした。

 

「次の犠牲者だれ?」

 

「犠牲者言うな。ああ、もう来たわ。こっちです」

 

九条の視線の先に、全員が目を向ける。

 

 

!?

 

 

「待たせたな、九条ォ」

 

 

 

 

 

 

 




いったい誰だ?

この「!?」が似合いそうな人は!?



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17話







「ずばりギャップよ」

 

「は?」

 

 

面接を終えて一週間が経過した頃、九条はボーダー本部の食堂でデミグラスソースとホワイトソースのかかったオムライスを食べていた。

 

ついさきほどまで、相席していた古寺が座っていた席に、どかりと向かいの席に座ると来馬隊の(コン)が堂々と宣言する。

 

「女なんてギャップに弱いのよ」

 

「急にどうしたの?(コン)ちゃん。あと付き合わない?」

 

「ほら、ワンパなのよ。会うなり、告白宣言で飽きがくるの。最初は頭のおかしい男だなって思ってたけど、今じゃ可哀想な男に思えてくるの。目も当てられない」

 

「たった数秒間でボロクソに傷つけられたんですけども」

 

「パターンを増やしなさいよ。アピールポイントを見せたりとか。その上でギャップをつけるの」

 

「ギャップたって、(コン)ちゃん。あれっしょ?道端の段ボールに不良が捨てられてて、子犬が傘を差してあげるみたいな。で、子犬がお前も一人ぼっちなんだなって」

 

「逆!捨てられてんの子犬の方!子犬人語話してるし!?」

 

裁判沙汰になりうるファンタジー的な想像に(コン)が修正をかけた。九条はそうだっけとうろ覚えの記憶を探る。しかし、食後ということもあってか、眠気に妨げられる。前髪で目が隠れているので、今は知らないでいる。

 

(コン)は呆れながら、本来の用件を伝える。

 

「ようするにただでさえ女子からの評価が底辺なんだから、少しかっこいいところ見せれば口説きやすくなるんじゃないの?」

 

「今ちゃん……。俺のために?実は俺のこと好きなの?付き合う?」

 

「なわけないでしょ。そのパターン飽きたって」

 

「じゃあどうしろと?」

 

「例えば、逆のことやってみるとか」

 

「逆のことねぇ。オッケ、やってるわ」

 

「?」

 

九条が言うやいなや歩きだした先には、A級1位オペレーター国近が歩いていた。その歩調は少しばかり早く、肩に力が入っている。

 

(コン)は助言を一つ告げただけで、即実行する九条のお手並みを拝見することにした。

 

「国近さんのことなんて別に好きじゃないんですから。勘違いしないでくださいね!」

 

「なんでツンデレ風なのよ!?」

 

国近が九条に首をかしげたところで今の飛び蹴りによって、一瞬で視界から消え去った。

 

 

 

 

「なるほどなるほど~そういうわけですか。それなら恋愛ゲームをこなしてきたわたしにむぅあかせなさ~い」

 

「二次元と三次元を一緒にしていいの?」

 

今のツッコミを聞き流して国近がどんと胸を張る。

 

その胸と(コン)の胸を比較して、(コン)に九条は困り笑いをする他なかった。九条の顔面にオラオラをするだけに留まると、国近から提案が生まれた。

 

「これは九条くんにこそ相応しい秘策なのだよ」

 

「本当ですか、先生!わたくしめにご教示ください!」

 

「ふぉっふぉっ。焦りなさるな若人よ」

 

九条の下手っぷりに国近は気分を良くする。

 

「九条くんは控え目に言って、見た目も言動もスペランカー並みに酷いから、そこを修正だよね」

 

「先生!控え目という峰打ちのつもりかもしれませんが、鉄の棒でガンガン叩いてるようなものです!」

 

「せめてたけのこよね」

 

「たけみつ!」

 

「九条くんは何度も打ちのめされてきたから平気だよ。で、九条くんがやることはイメチェンだよ。特に髪型」

 

「このボサ頭だものね。不潔感あるし。でもこれ、くせっ毛でしょ。難しいんじゃないの?」

 

九条の髪は目が隠れるほど長い。それでいて、くせっ毛なのだから、引っ張ったら唇まで届いてしまう。本人はそれを気にしないし、髪を切るのを時間の無駄だと感じている。

 

加古も国近のイメチェン案同様、九条のくせっ毛に思うところがあり、櫛で梳かそうしていた。しかし、くせが強すぎて櫛が髪に絡みつき、強く引っ張っれば髪が抜けてしまう。

 

その後も工夫を凝らしながら髪型を整え、服選び含めて上手くはいったが、加古はある理由でこれをやめてしまった。

 

当時の九条はその事を告げられず、遊び始めたな程度にしか考えていないので、国近のイメチェン案を初めてだと思い込んでいる。

 

「そこは今ちゃん、ネット見ながらやっていこうよ~。じゃ、早速やっていこっか~」

 

「お願っシャァッス!これで彼女とか出来たら焼き肉奢りやぁす!」

 

「気合いの入りかたが野球部みたい……。いい加減、彼女でも作って落ち着いて貰わないとね」

 

そうして、国近と(コン)の九条のイメチェンを始めた。

 

髪を濡らしてドライヤーをかけたり、試行錯誤の末に国近と(コン)は九条の姿に納得がいくまで頑張った。というか、翌日までかかった。

 

「いやー、苦労しましたな~」

 

「くせっ毛の呪いでかかってんのかしら」

 

ソファーにもたれ掛かり、ぐったりした。もっとも天上を見上げているのは、九条から目線を逸らすためだ。

 

「はは、ありがとね」

 

「「どういたしまして」」

 

九条はカジュアルスーツを来ており、白シャツからは鎖骨が見えかくれしている。天パはくせっ毛を僅かに残したセンター分けの髪をしている。その結果、隠れていた目が露になって、優しげな瞳が国近と今を捉えている。

 

((隠れイケメンかよ……))

 

この状態の九条を直視しないよう、天上を見つめるしかなかった。

 

「んじゃあ、九条くんにはやって貰いたいことがありまーす」

 

「押忍師匠ッ!」

 

「うむ、この試練は厳し、ぃぞ」

 

師匠呼びに舞い上がって、一瞬だけ九条と視線を合わせてしまったが、すぐに体勢を戻す。自分でも顔が赤くなっているのが、分かっているからだ。

 

九条は国近師匠からの試練内容を聞いて、早速諏訪隊の小佐野の元へ用事も兼ねて歩き出す。

 

その試練内容は、告白せずに異性と会話するというものだった。他にも幾つかの条件はあるが、メインはこれである。

 

また、その様子を胸ポケットにあるボーダー産のペン型カメラで九条の試練を国近と(コン)が窺う。2人は完全に自分達が作り上げた男にボーダー女子がどういう反応するか面白がる気でいた。

 

九条が諏訪隊の部屋に行こうとしてると、ちょうど目当てのオペレーターが反対側から歩いてきた。向こうも九条を目にすると、目を見開き、足を止めてしまう。

 

「く、じょう?」

 

「九条だよ?」

 

「だよね……」

 

「どうしたの、小佐野ちゃん?」

 

「あ、いや、国近先輩からイメチェンしたって聞いてたけどさ、印象変わるなって」

 

「そう?でも、小佐野ちゃんにかっこいいって思われたなら大成功だね」

 

「………うん」

 

「お世辞でも嬉しいよ。これありがと」

 

九条から小佐野に借りていた本を渡す。九条は諏訪隊の隊員と本の貸し借りをする仲で、今回は九条が借りていた側だ。

 

「じゃまた今度ね」

 

「えっ!?」

 

去ろうとした九条に小佐野は思わず、声を上げてしまう。どうしたのかと、九条は足を止めて小佐野の元へ戻る。

 

「小佐野ちゃん?」

 

「な、なに?」

 

「なにはこっちの台詞だよ。なんか今日変だよ。困ってるなら話聞かせて?俺が力になるからさ」

 

(こ、こいつッ!)

 

用件だけ済ませて去ろうとしたところ、急に親身になってくる。その普段髪で隠れていた瞳は本気で彼女を心配していた。それを感じ取った小佐野のペースはどんどん狂わされていく。

 

小佐野は認めたくはなかったが、顔がよろしくなっている上に普段の奇行もないので、今の九条にどう対応していいかわからないでいた。

 

ぶっちゃけ心配されて嬉しい気持ちで一杯だった。

 

「なんでもない。ただ今日はいつもみたいに告ってこないんだなってだけ」

 

言ってて恥ずかしくなったのか、耐えきれず目線を九条から外してそっぽを向いてしまう。が、九条はわざわざ小佐野の目線を合わさるために一歩近づく。

 

「もしかして好きって言われたかった?」

 

少し悪戯めいた顔で、冗談を言う。

 

「ッ!??」

 

小佐野は九条を蹴り飛ばし、隊室に駆け足で飛び込む。

 

「ええー……」

 

九条は嫌われたのではないかと、ショックを受けた。小佐野にもこれまで、告白ラッシュをかましてきたが、暴力をうけたことはなかった。涙が零れそうになるのをグッと堪える。

 

「さーて、次はと」

 

 

 

 

 

「乙女の顔してたわね」

 

「ね~」

 

スナック菓子を食べながら、小佐野の様子を見ていた2人。

 

「次、誰にする?」

 

「次はね~」

 

 

 

 





約2年半ぶりの投稿

ハンターハンターの作者はこれより間があるから平気かな。





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18話

「うおッと! マジでイメチェンしてんじゃん」

 

通りかかった出水が九条の豹変っぷりに対して、素直に驚いた。普段の陰鬱な雰囲気ではなく、どこか明るい空気を醸し出している。日頃からつるんでいる出水だからこそ、余計に。

 

「ういうい。なによ、国近ちゃんから聞いた?」

 

「ああ。髪のセットが大変だったってな」

 

「くせっ毛でな。どう、似合う?」

 

「まあまあじゃん? セットのおかげでな」

 

「素直に褒めてくれよ」

 

素直に褒めると悔しく、かといって似合わないと言えば器が小さく感じてしまうので、少し褒めるだけに留める。

 

出水は用事があったようで、その場から離れていく。

 

入れ替わるように、元A級部隊の仁礼光が九条へ手を振りながら近付いてくる。

 

「おー九条似合うじゃん」

 

「仁礼ちゃん。え、なに俺の情報拡散されちゃってるの?」

 

「おう! 見に来た」

 

「客寄せパンダかよ」

 

「私服見んのも初めてだしな」

 

仁礼の言う通り、九条はボーダー本部へは基本的にジャージか制服でしかこない。私服もたまにあるが、仁礼はタイミングが悪く見ることはなかった。

 

仁礼は九条の姿におーと言いながら、まじまじと観察する。それに照れたのか、膝を擦ったり、目線を反らしたりなど、落ちかない様子を示していた。

 

「その髪って、自分でやったんじゃないんだろ?」

 

「え、うん」

 

「なんでアタシを呼ばないんだよぉおおおおおおお!」

 

「逆になんで?」

 

仁礼 光には優秀で手のかからない弟がいる。世話好きな彼女としては欲求不満で、九条は仁礼の的でもあった。

 

「アタシがいないとなにも出来なくさせたいんだよぉ……」

 

「ごめん、怖い」

 

仁礼の理想としては、今の九条を自分が作り上げて、九条に感謝された後に、自分がいないとなにも出来ないんだとアピールをしたかったのだが、九条はそんなこと知るよしもない。

 

九条も仁礼のへこみ具合に、罪悪感を抱く。別に九条は悪いわけではないが。

 

「んじゃあ、今度一緒に服選んでくれよ」

 

「え?」

 

「俺、あんま私服持ってないからさ。仁礼ちゃん、選んで」

 

「いいのか?」

 

「うん。そんで俺をかっこよくさせてよ」

 

九条のお願いに仁礼は震えながら立ち上がる。

 

「しょうがねえな~。そんなに言うなら、付き合ってやるよぉ。ったくよぉ、ヒカリさんがコーディネートしてやるよ」

 

すっかり気を180度に変えて、頼られる喜びを甘受しながら、脳内では九条に似合いそうな服をリストアップしていく。

 

「今度の土曜日、楽しみにしてろよ。タツ」

 

「はいよー。……タツ?」

 

駆け足で去っていく仁礼に手を振りながら、自分が呼ばれたのか疑問に思う九条 辰馬。

 

「まぁいいか」

 

仁礼の無邪気で距離感が近いところが九条は可愛くて好きなのだから。

 

様子を伺っていたオペレーター2人は「デートじゃん!」とツッコミを入れていたが、九条の耳にはいることはなかった。

 

こうして、また新たな隊員が入れ替わるようにやってきた。

 

「九条」

 

「ちす、熊谷ちゃん」

 

「……え、いつものは?」

 

「休業中」

 

いつものとは、告白のことだ。

 

熊谷は九条から日常的に告白を受けるのだが、今日に限っては飛んでこなかった。身構えていただけに、拍子抜けしてしまう。

 

「それはそれで変な感じね」

 

「ルーティーンみたいなもんだからね」

 

「するな、そんなもん」

 

毎日告白されてから会話を始めるので、それがないと熊谷としては違和感を覚えてしまう。本来ならば、喜ばしい筈であるもの急激な変化に慣れるには少し時間がかかる。

 

「座ろうか」

 

「うん」

 

九条に促されて、二人掛けのソファーに座る。

 

「なんかあったの?」

 

「なんでわかったの?」

 

熊谷は質問を質問で返してしまう。

 

「今日の俺を見て、色んな人が反応するんだけど、熊谷ちゃんだけリアクションないし、俺がソファーに座ろうって言ったら素直に聞いてくれたから、なんかあったのかなって」

 

「あんた、時々鋭いわよね」

 

「熊谷ちゃんのことはよく見てるからね」

 

「そ。……ねえ、家族のこと聞いていい?」

 

九条の家族はネイバーの大規模進行によって、彼を除けば、全員が悲惨な結果になっていることを九条の知り合いはほとんどが知っている。ただ、熊谷の場合は、ほとんどに当てはまらない。

 

「死んでるから、話すことなんもないよ」

 

あっけらかんと言いのけた九条に熊谷は胸が痛んだ。九条は熊谷の悲痛そうな表情にいまいち状況が飲み込めないでいた。

 

「……ごめんなさい。あたし酷いこと言った」

 

熊谷はぽつぽつとゆっくり話し始めた。

 

「覚えてる? この前、あたしがあんたに親の顔が見てみたいって言ったの」

 

いつものように九条が熊谷に好きだと、告白した返事に九条の親の顔を見てみたいとツッコミを入れた出来事だった。

 

「ごめん、あんたの家族が亡くなってたの知らなかった」

 

「そんだけ!?」

 

「そんだけってなによ! 結構なことじゃないのよ! あたし罪悪感すごかったんだから!」

 

「数日前のことじゃん! 今更感あるよ!」

 

「知らなかったとはいえ、あんたに亡くなった家族を思い出させること言っちゃったのよ!? 傷付いたんじゃないかって、罪悪感酷かったんだから!」

 

「まあ、思い出しけど。帰ったら一人だなあって」

 

「想像以上よ!」

 

「でも、熊谷ちゃん知らなかったし、しょうがなくね?」

 

「そうだけど、だからって有耶無耶にしたくないの」

 

「真面目だねぇ」

 

「うるさいわね」

 

「気にすんなっても気にするだろうから、謝罪はきちんと受け取っとくよ」

 

「うん、ありがと」

 

「家族はいなくなったけど、友達はいたし、望がしょっちゅう来るから、熊谷ちゃんに考えてるほど可愛そうな奴じゃないよ」

 

「ならいいけど」

 

「だからさ、いつもみたいな熊谷ちゃんに戻ってくれよ」

 

「いつもって?」

 

九条は左右の人差し指で、頬を持ち上げる。

 

「今の熊谷ちゃん、根暗だよ。笑ってくれ、そしたら許すよ」

 

「なにそれ、そんなのでいいの?」

 

九条のアホっぽさに熊谷は自然と笑ってしまう。

 

「明るくて元気な熊谷ちゃんを好きになったんだよ」

 

不意に好きと言われて、鼓動が跳ね上がってしまう。今までは来ると知っていて、心の準備が出来ていたから平静を保てていた。が、不意を突いて言われてしまうと、喜んでしまう。

 

そんな単純な自分を恥じてしまう。

 

「今日は付き合ってください、はないのね」

 

「あー、実はさ」

 

九条は服装などを含めての事情を話すと熊谷は納得したように頷く。

 

「そんな面白そうことになってたのね」

 

「面白くないよ。俺のアイデンティティが消えちゃったよ」

 

「ふふふ、快適快適。どっかの馬鹿がうるさくないから静かだわ」

 

「告白禁止令早く解けねえかな」

 

「どうせなら一月は頑張ってもらわないとね」

 

「辛すぎる」

 

 

 

 

 






目指せ休載新記録



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19話


生存アピールです。
なので、今回はかなり短いです。

九条をどこの部隊に所属させるか滅茶苦茶悩んでて、こんなに時間がかかってしまいました。

トリガー、人間関係。この両方を上手く扱える部隊が難しいです。
特にキャラとの絡みがイメージしづらく、Aの話題に対してどう意見を言ってくるかが難易度高めです。

ついでに新作の内容作ってたりで時間食ってます。


今回の更新内容についてになりますが、
人見さん好きの方はすいません。
バックした方がいいかもしれません。









 

「お、噂通りかっこいいじゃん」

 

「人見さん、ありがとうございます。」

 

「ッッ!」

 

何度目かとなる初見からの褒め言葉に九条は慣れてきたのか、笑顔で応える。

 

九条の微笑みが優しさで包み込まれるように感じ、男性特有の鎖骨に人見の視線が目が行ってしまう。加えて、石鹸系のほんのりとした香水の香りが鼻腔を刺激する。

 

(人は、……たった数日で人はここまで変われるのか……!)

 

出会って5秒で後輩男子の色気にやられて、堕ちそうになるところをグッと堪える。

 

「フッ、中々やるじゃない」

 

「なにがですか?」

 

涎が出そうになり、口許を袖で拭う人見は拳で語り合った漢のような顔をしているが、当然ながら九条はなにがなんだかわかっていない様子だった。

 

「あ、そういえば、どこの隊に入るか決まったんですよ」

 

「さらりと言ったわね。どこ?」

 

「秘密です。楽しみにしててください」

 

九条がどこの部隊に入るのか、少しでも対策を練っておきたい下心を隠すことなく、九条に問う。

 

はぐらかす九条の雰囲気は人見が所属している東隊の隊長によく似ていた。騒がしい九条から落ち着きある大人びた九条のギャップに人見も他の女性隊員同様、女の顔が表に出てこようとする。

 

(案外、こっちが本当の九条だったりして)

 

人見の考えている通りではあるが、それに答えてくれるものはいない。

 

「今度さ、一緒に映画行かない?」

 

「え?」

 

「気になる映画があってさ、一緒に見に行ってくれる人がいたらなぁって思っただけ。行かないならいいけど」

 

「行く! 行きます!」

 

人見の方からのお誘いを予期しておらず、食い気味に九条は迫る。

 

人見はずいっと顔が近けられて、顔が赤くなったのを九条にバレないよう視線を反らして誤魔化す。

 

「日程はこっちで決めとくから。じゃ」

 

人見はそう言って去っていき、九条はガッツポーズを取る。

 

「嘘だ……」

 

そして、後ろからこっそり話を聞いていた人見と同じ部隊にして幼馴染みの奥寺は、人見が自分には今まで見せたことのない表情をしていたことに立ちくらみを起こして、膝を床につける。

 

「俺が……先に……ずっと……」

 

九条は奥寺の存在に気付かず、その場から去っていく。

 

尚、九条は人見に誘われて行った映画では、ホラー映画でかつ、急に笑い出す人見に恐怖を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 

 

 

「ヒッ。え、映画館ではお静かに……」

 

「ぷふ、ごめんごめん」

 

「人が呪い殺されたシーンに笑う要素ありました?」

 

 

 

 

 

 

 

 







次回も来年になるかもしれませんね。

読者のみんな、作者に主人公を
・どこの部隊に入れてッッ
・どのキャラとッッ
・どんな絡みをするかッッ

アイデアを分けてくれー!





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