インフィニット・ストラトス 天才の息子は (双盾)
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1 来たる天才の息子

リメイク作品です。ヒロインも簪の予定ですが、
話の内容や流れは大きく変わっていく可能性があります。
それでもいいという寛大な心の持ち主な読者様はどうぞ読んでください。


俺は今、来るはずの無い場所をこの足で踏みしめていた。

周囲を海に囲まれたこの場所は、大地ではない。人の手によって海を埋め立て、最新の科学によって絶対的な安全が約束された人口島。その広さは小島と呼ぶには聊か大きいが、島と言うには少し小さい。そこは人の感覚によって差があるので詳しくは言及しないでおこう。

 

島の上には最新科学が結晶化したような建造物が立ち並ぶが、自然の緑が皆無というのではなく、調和している部分も見られている。

プールにグラウンド、奥に見える都市の一部を切り離したかのような仰々しい校舎、ドラゴンボ〇ルのベジ〇タの装備の肩部分に似ているアリーナ。

 

窓越しに部屋の中の生徒が見えるが、そこに男子生徒の姿は一つとして見えな―――――いや、一つだけ見えた。しかしそれ以外に見えないのは間違いなさそうだ。

 

いや、俺も窓越しに見えたアイツもだが。

この場に男子学生がいること自体がおかしいのだ。

 

そう、このIS学園にいること自体――――――

 

 

 

 

 

 

この世界は極めて歪に構成されている。正しくは天才によって歪められてしまった世界だ。

一つ一つが直線に、平凡に、変化に乏しくあった。少しの変化では何一つ変わることの無い、鉄柱のようなこの世界は。

 

まるで絵本の中の登場人物のような天才が振るった鋼の鎧によって、ぐにゃりと、いとも容易く、それこそ道端に捨てたガムが形を変えるほどに。

 

あっけなく世界の有り様は変わってしまった。

 

 

 

 

天才が振るった鋼の鎧。その名を『インフィニット・ストラトス』。無限の成層圏の名を冠したこの鎧は、通称『IS』と呼ばれ、この世界で最強の武装として君臨した。

パワードスーツでありながらその機動力は現行する最新の戦闘機を上回り、ミサイルが直撃しようとも搭乗者が死ぬことはない程の防御力を誇る。史上最強の鎧だ。

その存在も凄まじいものだが、その存在をこの世に轟かせた状況もまた忘れられぬほどの物であった。

 

 

世界中のシステムを同時にハッキングし、全世界から一斉にミサイルを発射させた。各国は何者かによる攻撃と判断し陸海空の全戦力を投入し、標的の撃破にあたった。その標的と言うのがISだ。

そこは海上。敵は一体。

しかし、その一体は全方位から雨のように迫るミサイル全てを破壊し、攻撃してきた戦闘機、戦艦を行動不能にした。それも、死傷者零という、現行の軍事技術をナメるような結果を残して。

 

 

 

その後に製作者である篠ノ之束は、ISの核であるISコアを各国に贈呈し、その数は467。しかしそれは贈呈された後に量産した簡易コアを含めた数であって正確な数値ではない。

 

そんな最強の鎧にも、代償はある。

アキレウスのアキレス腱然り、弁慶の脛然り、ジークフリートの背中然り。

 

代償は搭乗者の限定。搭乗が許されるのは、女性だけであるという大きな欠点。それが、世界を歪めた正しき原因。歴史上の特異点。時の流れの異物。

しかしそれを改良するだけの科学力を持った学者、技術者はおらず、量産機でさえも男性の搭乗は不可となった。製作者である篠ノ之束が製作方法を公開していないからである。

 

 

それが三年前の大事件。『白騎士事件』として、世界中にその名を轟かせた。

 

そこから世界中で徐々に性差別が行われるようになり、人類平等を謳っていた国はくるりと掌を返し女尊男卑を叫ぶようになった。日本は未だに男女平等を謳うが、国内事情は世界の波に呑まれていた。

 

 

 

ISに関する知識が乏しかった当時、世界各国はISに関する知識を深めようと、不可侵の学園を作ることになった。

その学園の名を、IS学園。場所は製作者、篠ノ之束の生まれた国の領海内に決められ、急ピッチで建造が行われた。

 

 

 

そんな時に起きたのが我が父上が起こした大事件。

『ソードアート・オンライン』と呼ばれるVRMMORPGゲームを発売し、その当日にして3ケタの死者を出し、二年と言う歳月を経て最終的に四千にまで膨れ上がった。

そしてその後に非人道的な実験が同じくVRMMORPGゲームで行われていたことが発覚し、世界中の注目を集めた。

 

 

それが一年前のことだ。

 

 

 

俺は親父の遺書に書かれていた暗号を解き、記されていた場所で運命の出会いと、勇者としての責務を与えられた。

暗い空間に跪くようにして鎮座する紅白の鎧。

それが俺と俺専用のIS【ヒースクリフ】との出会いだった。

 

 

そして今年、【織斑一夏】という全世界で初の男性IS操縦可能者の存在が明らかになった。

俺はその波に乗り、自らの存在を発表。世界で二人目の男性操縦者として世界に報道された。

 

 

 

政府はその存在の貴重性から、学歴、性別を問わずに、本人の意志すらも無視してIS学園への強制入学を行わせた。

その転校する日というのが今日なのだが、護衛車の予定通路で事故が起きて到着時刻が大幅に遅れてしまい、漸く到着した所であった。

 

 

 

 

 

 

 

「現在時刻ヒトヒトサンマル」

 

今の時刻を口に出す。

 

到着時刻は午前7時30分。大幅も大幅だ。

まあ理由があるので仕方ない。

 

事故だけではなく、道中で反男性IS集団の過激派に襲撃されたり、飲み物に毒が盛られていたので全ての飲食物の検査などと色々あってのことだ。

何故か慣れたことのようになってしまっているが、それは俺が茅場明彦の息子だからであろう。

 

「貴様が転校生か?」

 

不意に威圧するかのような問いかけが下方から聞こえた。それは俺が空を見上げていたからだ。

顔を下に向けて声の主と対面する。

 

紺より濃いが黒よりも青いスーツに身を包み、その手にあるのは出席簿。その顔は凛とした佇まいで、万物を切り裂こうかというほどに鋭い。髪は瞳の色と同じ闇夜色で、光を反射し煌めく毛先は夜空を具現化したかのような美しさがあった。

 

「……………」

 

だがその刀剣の刃のような美しさは、その存在感だけで人の威勢を切り裂き、威圧し、押し黙らせる。

それは容姿だけが理由ではない。

 

目の前に立つ女性は織斑千冬。世界初の男性IS操縦者である織斑一夏の姉であり、ISの腕を競う大会〈モンド・グロッソ〉にて優勝したこともある生粋の武人でもあるからだ。それは普段の呼吸、足運びにも影響は出ていて、俺には彼女の立ち姿が難攻不落の城塞のようにも見えた。

それを感じ取った俺は押し黙り、威圧に叛逆しようと虚勢を張って威圧を相殺し身構える。

しかし、彼女の表情は一転する。

 

「フフッ、すまなかったな。聞き方を変えよう」

 

柔らかく暖かい笑みを浮かべて、再び俺に問いかける彼女は、先程の者と同一人物であるとは思えない様な笑みを浮かべた。

 

「君が、明彦さんの息子なんだね?」

 

「!!」

 

親父の名を口に出してくる者は過去にも多くいた。

しかし、その全てが憎悪に染め上げられたものばかりだったが、彼女の言葉は違った。

 

敬意と親愛。

 

彼女の言葉からは、その二つを感じられた。

その事実に俺は驚いたが、親父と親しかったということに、少しほっとした。

 

俺も硬く強張った表情を解いて、右手を差し出す。

 

「はじめまして、織斑千冬さん。IS学園1-1に所属となります、茅場守流と言います」

 

「こちらもはじめまして。そして、これからよろしく頼む。1-1担任、織斑千冬だ」

 

差し出した右手に彼女も右手を重ね、握り合う。

ここから、俺の新しい学園生活が始まる。



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2 早々に模擬戦

話も始まったばかりなので、文字数少な目です。
今後は7000文字以上を目指したいです。

それでは、今話もどうぞご愛読お願いします。


「父と知り合いだったとは………しかもそれなりに親密………」

 

「なに、明彦さんにはこちらもお世話になった。関連した繋がりだけの関係だったがね」

 

それでも、だ。

 

「父と関わりを持つ、それも名前呼びを許されているんですから」

 

謙遜する彼女に俺は言う。

俺の父、茅場明彦は孤独の人だと言われていた。

それは、息子の俺ですら、感情の有無を疑ったり、ロボットではないのかと思ってしまう程だ。

父は仕事・職業関連で多くの人間と関連を持っていた。

しかしそんな父は名前で呼ばれることと、博士と呼ばれることを嫌っていた。

 

『自分はそんな大層な者ではない。未だに愛が何であるかも理解できていないのだから』

 

『ただそれを知るために必死になっているだけ』

 

自ら口にしたその言葉に、人々は父を悲しみの目で見た。

愛を知らない哀しき男。人間に近いロボットなどと呼ばれたが、本人は気にする様子を見せなかった。もしかすれば、その視線の意味さえ理解できていなかったかもしれない。

 

「そうだといいのだがな…………さて、到着した」

 

そこは来た時に見たアリーナだ。特徴的な形だったのを覚えている。

織斑先生は首から下がる職員カードをかざす。するとアリーナの扉が開き、中には複数の教員らしき人物と、緑色の機体が鎮座しているのが見えた。

 

(あれは量産機【ラファール・リヴァイヴ】………)

 

フランス製の量産機ラファールは、機動する武器庫と呼ばれることもあり、その持ち味は豊富に武器を装備できることと、機動力の高さであり、第二世代機でありながら第三世代並みの戦闘力を発揮できる機体だ。

世界3位のシェアを誇り、汎用性の高さからIS学園の警護にも使われている。

 

「ここが最終試験会場だ。とはいっても、失敗したところで入学は絶対なんだがな」

 

たははと笑う織斑先生は右手で壁にある扉と、その次に教員の群れを指差す。

 

「まずお前には更衣室で着替えてきてもらう。ISスーツ机の上に包装されているはずだ。着替えたらあそこで待機している教員と協力して最適化をして、その後模擬戦をしてもらう」

 

「この初心者に教師と戦えと?」

 

「一応準備運動のような時間は与えられる。機体の故障の有無も兼ねてな。まあ勝てなくて当然だ。初心者がいきなり戦うなど馬鹿げているが、規則だからな」

 

諦めてくれと言うジェスチャーをする織斑先生に、これ以上反論する気力も失せてしまい、俺はおとなしく更衣室と指差された部屋に足を向けた。

その時、織斑先生に呼び止められる。

 

「応援しているぞ」

 

「……あざっす」

 

少し照れ臭くなり、更衣室に向かって小走りで入った。

ったく、俺は年上趣味はあるかもしれないが、相手が高嶺の花すぎんぞオイ。

不覚にもときめいてしまった自分を叱咤して部屋の中央にある机を見る。

そこにはダンボールが一箱あり、ビリりと乱雑にガムテープを破って中を見ると、ビニール袋に包まれた制服があり、その下に同じくビニール袋に包まれたISスーツ(?)があった。

 

「………これはボディスーツというやつか?最早水着でいいんじゃないの?」

 

まあ文句を言っても仕方がないのでさっさと着替える。元々来ていた服は、未開封の制服と一緒にダンボールの中に畳んで入れておく。

そしてガチャリとノブを捻って外に出ると、アリーナ中央の教員達の元へと駆けていく。

俺が到着すると、その代表者らしい女性がこちらへと歩み寄り、一礼した。

 

「こんにちは。ルカ・フロイライト、今回貴方と模擬戦をすることになった者よ」

 

ちなみに担当は2-3よっと付け足してきたがどうでもよかったのだがちゃんと聞いておく。

 

「それじゃ、まずは貴方のISを展開してちょうだい。こちらでフィッティングを行うわ」

 

「了解です」

 

俺は左手の中指の指輪に手を触れ、意識を集中させる。

 

<――――覚醒せよ――――>

 

刹那、光が瞬く間に全身を覆い、徐々に形を作っていく。

そして光が収束すると、俺は紅白の鎧を纏っていた。

空中に浮遊する5枚の盾は、十字の形をしており、表面には紅で十字の装飾が施されており、裏側には剣が収納されているのが見て取れる。

全身を覆う鎧は、紅色が多く、肩と胸部のは盾と同じく、紅の十字が描かれていた。

 

「これが俺の機体【ヒースクリフ】です」

 

「ふぅん、西洋の騎士ってところかしら。円卓の騎士に居そうね」

 

円卓の騎士ってほどでもないだろう。恐らくこれは、SAO内での親父の装備と同じ形なのだろうから。アスナさんもキリトさんも、ジンさんも円卓の騎士って感じじゃないからなぁ。一番近いのはアスナさんだけど。

けれど強いて円卓の騎士に準えるのであれば、この機体はガラハット(ギャラハット等とも呼ばれている)になるのだろう。盾が特徴的だし。

 

「とりあえずフィッティングしておくわ」

 

カモンとフロイライト教官が手招きすると、機材を抱えて待機していた職員たちが配線を専用の機器に繋げ、調整を施していく。

が。

その手が慌しく動き出すことは無かった。

 

「ルカさん。この機体、既に調整終了しています」

 

「なんですって!?……まさか貴方一人で?」

 

「そりゃ自分の機体ですし、調整や整備くらい自分でできないと」

 

「…………流石『電脳の大天才』茅場明彦の息子ね」

 

呆れたように溜息を吐く職員とフロイライト教官。

確かにIS、しかも専用機ともなればそのプログラムや回線は複雑だ。しかし幼いころから父を見て。成長した頃にはプログラミングの手伝いやサーバーの修理などをやったことのある俺にとっては、少し複雑だが手応えがあって面白い玩具くらいの感覚で、自分好みにアレンジするのにそう時間はかからなかった。

職員たちは機材を回収して撤収していくが、専用の機材はどれも大きく重く、それでいて繊細だ。

撤収に時間がかかると判断した俺は、その間に左手を縦に振る。

すると手元にこの機体の状態や装備、エネルギー残量が表示された。SAOやALOと同じ仕様だ。

 

『 状態 

・エネルギー 900/900

・損傷    無し

 

 装備 

・重力操作式十字盾×5

・対超硬質装甲用片手直剣×2

・紅牙―聖十字―×1

・対バリア用片手剣×2

・腰部小型ワイヤーブレード投射装置×2』

 

遠距離手段少なっ。遠距離高機動が主流のご時世なのに近距離系統の機体とか、ふざけてんのかと言いたいが。これが作られたのはかなり昔のこと。最新の機体ではない。そしてSAOでの親父の化身のようなものだ。遠距離攻撃手段が全くない親父らしい機体だ。

とりあえず装備を手に取って感覚を確かめる。

 

「ふぅむ、若干硬質剣の方が重たいな」

 

まあキリトさんの剣よりかは軽いが。

ジャンプしたり後方に飛び退いたり、サイドステップを刻んだりして動きを確かめる。ALOと違ってこっちの方がリアルな感覚があるし、装甲の所為で若干重いな。重力操作のおかげで重量は軽減されているとはいえ。

一通りの動作を終えると、俺はここまででいいですと準備運動の時間を打ち切る。

 

「あらそう。じゃ、5、カウウントしたら勝負開始。時間は10分。いいわね?」

 

「了解です」

 

両者距離を取ってカウントが始まる。

 

5、俺は気持ちを切り替える。

 

4、ここはSAOと同義であると。

 

3、一寸先は死の世界だと。

 

2、目の前に立つは敵だと。

 

1、敵に殺されまいと。

 

 

 

 

0。盾を構えて加速した。

 

 

 

 

瞬間降り注ぐ鉛玉の雨霰。けれど威力は無い。恐らく敵の両手にあるのは連射銃。

前方への加速をやめることなく銃弾の中を掻い潜っていく。

しかし相手とぶつかる時には相手は別の場所に移動してしまい、状況は一方的だ。

 

「なんて使いにくい機体だ」

 

「機体に文句言う前に、自分の腕を恨むのね!」

 

俺の発言が気に食わなかったのか、攻撃は更に激化。時折ショットガンの銃撃までもが混じり、俺の近接は困難を極めた。

けれど俺だってただでやられてやるつもりはない。

盾を敵方面へと放ち、俺の姿を映させないように次々と教官との視界の間に向けて5枚の盾を放つ。

そして最後の一つを回避しきれずに鈍い打撃音が響く。

 

「うあっ、やってくれたわね!!――――――っ!?」

 

盾を蹴り飛ばして銃口をこちらに向ける。しかしその時には、俺の剣先が機体の装甲を切り飛ばし、銃を持つ腕の向く先がずれてしまった。

すぐさま後退して距離を取って銃口を再び俺に向けようとするのだが、背後から迫っていた盾が後頭部を打ち付ける。その衝撃で地面へと撃墜される教官。

完全に体勢が崩れた所で教官に向かって加速し、無防備な背中を切り裂こうと剣を振りかぶる。

 

「くっ!!」

 

けれど教官もただではやられない。立て直せまいと踏んでいた体勢を、見事な平衡感覚で持ち直して、くるりと180度回転し、銃口を俺に向けた。

油断したと俺は思ったが、まだ手が無い訳では無い。むしろ対策は練ってあった。

弧を描くようにして銃口から逃れつつ前進を続け、振りかぶった切先でその銃、手甲諸共切飛ばす。

しかし飛ばしたのは左手だけ。残る右手の銃口が追撃するかのように俺を捉えた。

だが両手に武器があるのはこちらも同じ。

残っていた左手の剣で銃を貫こうとしたのだが、バックステップで距離を取った教官の銃には後一歩届かず、銃弾が剣を弾き飛ばし、続けざまに俺のシールドエネルギーを削った。

 

『 茅場守流  VS ルカ・フロイライト

  711       723     』

 

電光掲示板に表記された残りエネルギーは俺の方が少ない。残る時間は約3分。チキ〇ラーメ〇ができるななどと考えられただけ、俺には余裕があったのだろう。

すぐさま最も近い場所を浮遊していた盾で教官を打撃し、構えを許さない殴打を繰り返し続ける。

打撃だけでもシールドエネルギーは徐々に減っており、けれど効果は薄い。

 

「小キックハメ殺しみたいな終わりはゴメンよ!!」

 

迫りくる盾に体当たりをして強引に俺に近接する教官の手には、グレネードとショットガンが握られており、それを把握する時にはグレネードが投擲されていた。

 

(っち、盾が間に合わん!!)

 

これを狙っていたのだろう。俺に向かって飛来するグレネードに対して、ショットガンの銃口を向ける教官。

『逃がしはしない』とでも言いたげな二段構え。さらにグレネードを投げ、空となった左手には、新たにマシンガンが握られている。これが世界を制した三段討ちってやつか?

けれどもここで終われないのは俺だって同じだ。

何故なら、親父が名前呼びを許した相手が見守っているのだから。恥を見せる訳にはいかない。

 

「こんな所で見せることになるとは………」

 

自分の未熟さを悔いる。

だが、敗北を見せるよりかはマシな物だ。

隠し技の一つ、とくとご照覧あれ!!

 

「『我が力に刮目せよ!』」

 

<音声認識、完了。システムロック、解除>

 

「羅刹王すら屈した不滅の刃、その身で受けてみよ! 食らえ、『 羅刹を穿つ不滅 』!」

 

<音声認識、最終ロックの解除を確認。奥義【羅刹を穿つ不滅】発動>

 

装備欄で最も異彩を放っていたこの剣【紅牙―聖十字―】。5振りある剣の中で最も大きな刃を持つこの剣。柄と刃を繋げる鍔はこの機体を象徴する白で縁取られた紅の十字。その片方に接合された刃は燃え盛る焔の色。

この装備でのみ発動可能な奥義の一つ。

白雷を放ち、高速で回転し、円刃と化した紅牙―聖十字―を、炎撃を秘めた爆弾の奥、銃口向けた、相対する標的に向けて、撃ち放った。

 

「っく、回避――――――」

 

瞬時加速で、緊急離脱しようとする教官の移動先には、出せる限りの最高速で接近する十字の盾。

激しく殴打、むしろ激打とでも言うべきか。砲弾と化した盾に弾かれた教官は、その先に迫る白雷と円刃の存在に気付いていた。

けれども弾かれた勢いを殺すだけの術は無く、しかし最後の抵抗だとばかりにショットガンを構え、大きな爆裂を放った。

だがその抵抗も、白雷に砕かれ、円刃に断たれ、それでもなお加速をやめない我が奥義に、あっけなくその防御は毟り取られた。

 

『 茅場守流  VS ルカ・フロイライト

  572         0     』

 

ブザーが鳴り響き、勝敗は決した。

専用機相手に訓練機でここまで攻めたてた教官は凄いと思った。

しかし最後のはやりすぎたかと少しの反省を孕みつつ、大破した訓練機から教官を引っ張り出して訓練機を持ち上げて、修理用の台車に乗せた。

 

「やっぱり茅場明彦の息子なだけあって、容赦がないわね」

 

「変なとこ受け継いですいませんね」

 

親父は容赦のない人でもあった。それは過去に出版された雑誌にも掲載されている。

中学生の科学コンテストで情け容赦なく短所を突き続け、優勝したはずの少年を泣かせてしまったがそれでも口を閉じなかったほどだ。

まあ今回のは血筋ではなく、偶々だろうけど。

もう少し技量を鍛えておくべきだったなと感じた瞬間でもあった。




お気に入り増加感謝!!
誤字脱字報告、指摘コメント、応援コメント←コレ特に
じゃんじゃん送ってください!!
でないと寂しくて死んじゃいますぅ……


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3 心身共に疲れた日中

ワシもう疲れた………
小説書くのやめてもいい?
いいと思う方はコメントを。やめちゃやだぁ!!って人もコメントを。

それでは、どうぞお楽しみください。


戦闘の後に、俺はISスーツの上からYシャツに腕を通して、新品の制服を着る。小学生の頃にプールのある日に下着代わりに海水パンツをはいて行ったことを思い出す。

新品独特な匂いだが、そこまで強いという訳でも無いので、特に気にすることなくズボンを履き終えて更衣室を後にする。

外には、先程まで観客席にいた織斑先生が戻ってきていた。その手には紙袋が握られている。

 

「お疲れ様だ。よくやった」

 

あの世界最強から慰労と称賛の言葉を貰い、少し心が躍った。

 

「ありがとうございます」

 

それでも、もう少しまともな、というか。正々堂々とした男らしい戦い方はできないものだろうか。騎士のようと言われたところで俺の戦い方は守りに徹し、狡猾な搦め手で追い詰めていくようなもので、とても騎士と言えるようなものではない。ALOでだって、耐久重視のノームにエクストラ武具である手甲で防御に重きを置いているクセして、武器には麻痺や毒の状態異常を付与された物を使用しているのだから。

 

「さて、これは今日必要な教科書とノートだ。筆記用具は持参したものを使いたまえ」

 

紙袋を手渡され、疑っているわけでは無く、本能的に、好奇心にちかい感情で袋の中身を確認すると、やはり中身にはその言葉の通りの物があった。

が、それの何とまぁ分厚いこと。これは新手の装備ではないのか?銃弾位なら防げそうだし、包丁程度なら防御できそうだ。それにこの重量と硬度。最早鈍器だ。

 

「では行こうか。君の、そして私の担当する教室へ」

 

「はい」

 

先行する先生の後ろを、数歩離れた場所からついて行く。

ここには窓が幾つかあるが、壁の色や装飾などはほぼ同じものが延々と続いており、しばらくは迷子になってしまいそうなものだなと一抹の不安を抱えるが、今は大丈夫だとその思考を掻き消す。

 

「…………っと、そういえば」

 

ふと、先生が立ち止る。

こちらに振り返りながら言葉を零したので、どうしましたかと問う。

 

「今学園は昼休み、昼食の時間だが、食事となると移動時間を考えて少し厳しいな」

 

「お気になさらず。一食抜いた所で死にはしませんから」

 

「む………それはそうなのだが………」

 

ううむと思案顔の先生。もう一押し必要か?

こちらが先に口を開こうとしたが、それよりも早く、先生が決断した。

 

「しかし到着が遅れた理由が理由だ。特別に時間外の食堂の使用を許可する」

 

確かに理由が理由なだけに、今のご時世に染められた者でもなければ俺を責めはしないだろう。逃げ出す直前くらいには銃弾が飛び交い、下手をすれば入学前に死んでいたかもしれないのだから。

いやしかしと反論しようとするが、先生はそれを手で遮る。

 

「いや、こちらの落ち度でもある。護衛にISを付けろと申請したのだが、通らなかったのだ。せめてこれぐらいのことはさせてくれ」

 

そういう先生の目には、鋭さを失い、後悔に伏していた。

俺は反論するのをやめて、先生の言うことに従うことにした。これ以上話していても、平行線を辿るだけなのだろうと思ったからだ。

 

「わかりました」

 

「食堂の者には、私が許可を出したと言ってくれればいい」

 

「はい」

 

「私は職員室に立ち寄った後に教室に向かう。君も後からきたまえ」

 

そう告げると足早に立ち去る先生に一礼し、俺は紙袋の中を漁る。

見間違いでなければ教科書やプリント数枚があったはず。学園の地図くらいあってくれよ。こんだけデカいんだから。

ガサゴソと紙袋の中のプリントを捲っていく。するとその中に一枚、色のついた迷路のような紙を見つけた。中から出すと、それはこの学園の地図だった。

 

「さっき通ったのがこの通りなら…………食堂はここを……………」

 

俺は大体の現在地を探し、この後通ればいいルートを探る。

少しして俺は地図を4つ折りにしてポケットに突っ込んで再び足を動かし始める。

確か次を左で……と、通ればいいと思われる道を歩いていく。

やがて少し大きな空間に、多数の机と椅子が並ぶ場所に来た。入ったすぐ横に食券販売機を見たので、ここが食堂で間違いは無いだろう。

昼休みも残り1分も無く、生徒達は教室へと帰ったのか誰もおらず、俺だけが無人の空間に立ち入った。空間を支配しているみたいだな。なんて中二なんてことを考えながら。

とりあえず適当にラーメンを注文し食堂の職員に渡すと、俺を怪しげな眼で見てきたので、事情を説明した。

 

「ああ、なるほどね!あいよ!ラーメン一丁!!」

 

すると今度は一転、豪快に笑って厨房の方へと歩きながら食券の表記を復唱する。

すこしして、盆の上にラーメン(味噌)と箸が乗せられ、盆ごと俺に手渡される。大きさは標準的。箸は割り箸ではない。少し量が多めなのは職員のおばちゃんの気遣いだろうか。本来、女学校であるこの学園の料理はどれも量が少ない。それは壁に欠けられたメニュー表から見て取れる。こういう増量はとてもありがたい。

 

「いただきます」

 

両手を合わせて箸を取って麺を啜った。うむ、万人受けしそうな標準そのものな味だ。

俺の好みをいうならばもう少し辛めで麺はもう少し太く硬い方が好きなんだがなぁ。これは味噌ラーメンに限った話である。ちなみに一番好きなラーメンは豚骨で、麺は細めの固め。豚骨とは言っても、油でギトギトしたやつではなく、クリーミーでマイルドなやつであるが。

最後の麺を飲み込み、スープを啜って空になった器を返却口に置く。

 

「ごちそうさまでした」

 

「じゃ、速く行ってきな!」

 

豪快なおばちゃんは器を片づけながら歯を見せて笑う。

俺は小さく一礼すると、速足で食堂を後にする。

再び地図を確認して教室の場所を確認し、歩きながら地図を仕舞う。

クラスの表記が見えたが、その前に1-4~1ー2までの別のクラスがあり、廊下と教室を隔てる壁には窓があり、廊下を歩く俺の姿が見られることだろう。

変に騒ぎになりませんようにと小さく唱えて俺は廊下を歩いた。

 

「ねぇ、あれって………」

 

「もしかして噂の………」

 

「えっ!?二人目の?」

 

「そこの三人!!」

 

「「「うがっ!?」」」

 

残念なことに、廊下をただ一人。それも男性が悠々と歩いていると注目されてしまう。

俺の姿を見つけた女子が、その周囲の女子に俺の情報を伝達していく。ヒソヒソと小さな声なのだが、人数が多くなればそれだけ声量もおおきくなる。

教師に感付かれ、どこに隠していたのか輪ゴムによって額を射撃されてしまった。

可哀そうにと思うが自業自得である。

そんなことは1-3、1-2でも起きたが、額を射撃されたのは1-4だけだった。

そんなこんなで漸く、1-1教室の前へと辿り着く。

とりあえずノックを2回。はいれ、と中から先生の声がして。俺は教室の扉を開いた。

ざわめく生徒。それを静かにの一声で押さえてしまった先生…………ん?織斑先生以外にも先生っぽい人がいるな。担任補助か?副担任か?似たような物か。

 

「早かったな。それでは、自己紹介をしろ」

 

そう俺に言うのは先程までの優しい織斑千冬さんではなく、教師として凛と鋭く指導する織斑先生の姿だった。

その姿は実に凛々しくカッコいい。先生マジかっけぇ!!!

とりあえず俺は生徒に向かうと、自己紹介を始めた。

 

「登校が遅れましたが、今日よりこのクラスに所属します。茅場守流です。知っての通り、茅場明彦の息子です。嫌って、恨んでくれて構いません」

 

「……………」

 

俺の自己紹介に、皆は口を噤む。

このクラスに入った時に気付いたが、この中には俺に対して良い印象を持っていない者がいて、その中でもランク的にかなり重い、憎しみの目でみていた者もいた。恐らくSAO事件で肉親を亡くしたか、近しい人が無くなったのだろう。

この発言に、織斑先生は悲しげに目を閉じた。

 

「で、ではあの空いている席に移動してくださいね」

 

「山田先生、自己紹介を忘れているぞ」

 

「そ、そうでしたっ!?副担任の山田真耶です」

 

「どもっす」

 

席について、小さく会釈する。しかし山田先生ホントに教師か?かなり若く見えるが………

その間に黒板と周囲の生徒の状況を見て、やっている授業の科目と必要な教科書を紙袋から引っ張り出す。

それを見た織斑先生は、うむ。流石だなと言って授業を再開した。

今回の授業では、合計で6回もの織斑先生の喝が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

さて授業が終わり、放課後。入学初日には誰一人として部活に入っておらず、部活でこの教室から出ていくものはいない。

チャイムが鳴った刹那で、俺ともう一人の男子学生、織斑一夏は女子の包囲網にかかってしまう。むしろ雪崩に巻き込まれた感じだ。そのくせして他のクラスから女子が押しかけるから大人数のおしくらまんじゅうやってる気分だ。

さりげなくボディタッチをしてるつもりなんだろうけど、これだけ人数多いとさりげなくも露骨も関係ない。全身をくまなく撫でられるような気分になり、満員電車で痴漢にあった人の気持ちが分かるぜ。

 

「ええい!!さっさと部活の体験入学なり明日の支度なり!!この教室から散らんか!!!」

 

織斑先生の喝が入る。

途端、肉に群がるハイエナみたいな女子共は蜘蛛の子を散らすように教室の外へと逃げ出していく。ここは女学校じゃなくて、軍事学校だったのかな?

そして最後に残ったのは3人。

二人は俺と織斑で、残る一人は長く綺麗な金髪をくるりと巻いた上品な美少女。青のカチューシャにドレス(ワンピースって感じじゃないしな)タイプの制服をたなびかせると、俺達を一瞥したのちにフンと鼻を鳴らして教室を後にした。

やっぱ俺嫌われてんなぁ。織斑も嫌われてるところを見ると、世間に染まった女性って感じだが。

 

「大変だったな」

 

「お互い様だろう」

 

だな、と笑う残っていた少年。

男子学生は、手を差し出しながら、言った。

 

「俺は織斑一夏だ。二人しかいない男子学生だ。仲良くしようぜ」

 

「茅場守流だ。お前、変わってんな」

 

「どこがっ!?」

 

「俺の親父の事は知っているだろう。大抵人は俺に、恐怖か、警戒か、憎しみを向けてくるが。

 お前はそういうのが無かった」

 

俺の親父のしたことはテロリストもびっくりな大量虐殺だ。それに直接関係は無いが、利用される形で非人道的な人体実験まである。

その元凶の息子であるだけあって、親父と同じように人を殺すのではないかと恐怖する者、殺人者の息子だと警戒する者、家族を殺され憎しみを向ける者。基本的にその三種類だった。

こんな純度100%の善意の塊みたいな人間と関わったことが無かった俺は、こいつを異質だと思わざるを得なかった。

そんな彼は言った。

 

「別に家族が何かしたからといって、お前もそうとは限らないだろ」

 

その言葉は、酷く実感が籠められていて。

その表情は、自嘲するような笑みを浮かべていた。

俺は感じた。

ああ、こいつはそういう思いをしたことのある人間なんだなと。

そう言えば、こいつの姉は織斑先生だったか。

天賦の才を体現したような武に精通した人間。それは武そのもののようで、あれが何かを極めたその終形なんだなと本能的に理解させられるほどの美と能。美しく、それでいて勝利という概念が約束されているかのような身の熟し、武具の捌き。人域を超えた存在。

そんな存在を姉に持てば、同じような才を期待されることを、俺は知っている。

 

「こいつホントに茅場の息子か?」

 

「お前の親ならもっと―――――!!!!」

 

「どうしてお前にはできないんだ!!??」

 

(黙れ。お前らに何が分かる)

 

過去。俺を貶し、罵った人々の顔を思い出し、ギリィッと歯を食いしばる。

だからこそ、織斑のその言葉は俺にとって、親しさを感じさせた。

 

「そうか。まあいいさ、そんなことは」

 

「いいのかよ!?」

 

どうせそんなものは人の価値観の食い違いだと切り捨ててきた俺にとっては、ただ胃痛の元でしかない。その程度の事だ。

 

「さっさと部屋に戻ろうぜ」

 

「え?お前と俺って同じ部屋なのか?」

 

まぁ、ここまでバカだと姉と比べられても仕方ないか。

 

「ここは9割9分9厘が女子。通学制ではない俺達の部屋割りは必然的に同じになる」

 

「なんでさ?」

 

「ここは基本的に2人部屋。俺以外と一緒の部屋だと職員でもない限り女子と同衾することになるんだぞ?そうなれば風呂だのトイレだので騒動問答になるだろうが」

 

「そういえば男って俺達くらいなもんだったな」

 

大事なとこ忘れんなよ。数学で足し算引き算を忘れるくらいの大ボケだぞおい。

まったく。しかしまあどうせ行き先は同じなんだ。さっさと行けと織斑の背を押して催促する。

 

「そうだな。なんかもう疲れた……」

 

「俺もだよ………」

 

歩き出した織斑の後ろについて行く俺。イスを奥に押し込んで俺は先に出る織斑に速足で追いつくと、彼は誰かと話していた。

それは彼の姉でクラスの担任、織斑先生だった。

俺はどうしたんですかと簡潔に問う。

 

「ああ、お前に部屋の鍵を渡すのを忘れていたと思ってな。これが鍵だ。そこに書いているのがお前の部屋番号だ」

 

「あ、どもっす」

 

「…………ん?」

 

織斑が疑問の声を上げて自分のポケットの中をゴソゴソと探り、俺が今渡された鍵と同じ形の鍵を取り出した。どこにも変形や傷は無く、疑問に思う所は無いように見える。あるいはこいつの目がおかしいのか。

 

「なぁ千冬姉?」

 

「学校では織斑先生だ馬鹿者」

 

織斑先生は出席簿を振り上げ、織斑の脳天に向け振り下ろした。その動きに無駄は無く、しかしそれでいて動き自体が早く、出席簿の動きを目で追うことができなかった。

そんな高速で出席簿(出席簿に限らないが、この学園の教科書であればなお一層恐ろしい)が振り下ろされればその威力は察していただけるだそう。

 

メキゴシャァッ!!!

 

織斑の頭はトマトのように潰れてしまった。おおーぅ、死んでしまうとは情けなーい。

なんてことにはならなかったが、ゴスッという鈍い音が聞こえる程度には威力があった。

その痛みに悶絶しつつも、生き残った織斑は質問を続けた。

 

「お、俺と茅場の番号が違うんだが………いつつ」

 

抜けきらぬ痛みに頭部を摩る織斑の発言を聞いて、俺は鍵番号を確認する。

俺の部屋番号は1134番、対して織斑の番号は1025番。明らかに数字が違う。渡し間違えたのではと尋ねたが、先生は首を横に振って否定の意を示す。

 

「部屋の手配が間に合わなくてな、一時的に一人部屋の者の部屋に寝泊まりしてもらうことになる」

 

「学園側は男女の過ちがあるとは考えなかったんですか?」

 

「部屋には監視カメラがある。何かしでかしたが最後、解剖、実験材料になるぞ」

 

そーゆーことですか。

同棲した部屋の相手に手を出せば、その相手の国の研究者たちの餌食となるのか。世界的に、重要なのは織斑で、俺はスペアのような扱いなのだ。何故男性がISを操作できるのかを研究するための生贄になるのはゴメンだ。

ハニートラップやToL〇VEるみたいな展開に気を付けないといかんのか。頑張ってくれよ理性。

 

「じゃ、俺達の部屋はどれくらいで用意されるんですか?」

 

「早くて1週間、遅くとも半年以内だそうだが。私の読みでは一か月以内には用意されるだろう」

 

結構長いな。まあここは全国不可侵の条約で守られているだけに学園側も慎重にならざるを得ないのは分かるが、最長の半年とかにならないことを祈ろうか。

ここで話していたって何も変わらない。仕方ないと鍵を紙袋に仕舞って分かりましたと返事をする。

 

「とりあえず、部屋の手配を早くと言っておきます。俺も死にたくないんで」

 

「お前が手を出さなければいいだけの話だが………お前が彼女を変えてくれることを願っているぞ」

 

「手を出せって言われてるようにも聞こえるんで、言い方を考えてくださいよ」

 

「おっと、これはすまなかったな。そういった意図は無い」

 

「知ってますよ。それでは、また明日」

 

会釈してその場を離れる。

しかしやはりこの学園はデカい。食堂行く時も思ったが、まるで迷宮。ラビリンスとでも名付けてやろうか。ミノタウロスは出ないし、アリアドネの糸も無いけど。

兎も角。指定された番号の部屋がある場所へと歩く。別に時間制限がある訳でも無いので、焦らずマイペースに歩いて――――――行くわけにはいきそうにないな。

 

「あ、茅場くーん!!ちょっと私と話して――――」

 

「何アンタ抜け駆けしようとしてるの!?一番は私よ!!」

 

「二人とも!!私が一番だったでしょ!?」

 

曲がった先で女子十数名が待ち伏せしていた。おそらく教室から散っていった女子の一部なんだろう。不味いっ!!と思ったが、どうやら仲間割れをしているようなので俺はその隙にその場から離れる。関わったら面倒事にしかならなそうだ。

歩いて移動して十数秒後、仲間割れに集中していた女子の一人が俺がいないことに気付いた。

もうばれたかと俺は走り出そうとしたが、今度は誰の所為だの私じゃないだのと責任のなすりつけあいときた。面倒なうえに怖いイキモンだなと零しつつ、俺は先を急いだ。

やがて番号札の取り付けられた扉が立ち並ぶ通りに出た。そこが恐らく目的の通りで、この中から目的の番号が書かれた扉を探さねばならないと言うのが面倒だったが、番号が並んでいるだけありがたいと思うことにして、俺は奥へと歩く。

 

「なげぇよ」

 

部屋の数の多さの所為なのだが、目的地までが長い。

と、思ったがどうも俺は態々遠回りをしていたようで、各学年、各クラス別に通路があったことを広げた地図を見て気付き、無駄な時間を過ごしてしまったなと後悔したが、こんなところに突っ立っていたって猛獣女子共(失礼)にみつかりかねん。あいつらは飢えたハイエナか何かが先祖にいるんじゃないのか?

しばらく通路を巡り続け、やっと1134番号の部屋に辿り着いた。ちょっとしたウォーキングをしたような気分で、足が少し疲れた。

扉のノブに手をかけて捻ろうとした時。

 

『一時的に一人部屋の者の部屋に寝泊まりしてもらうことになる』

 

「っと」

 

そうだった。この中には女子がいるんだった。変な奴じゃないといいなぁ。容姿の問題じゃなくて生活リズムとか性格的な問題で。

俺だって狂ってると自覚できるような性癖がある訳だから人の事をとやかく言うだけの資格は無いので、俺は思考を放棄してノックの音を部屋に響かせる。

しかし返事はない。早めの夕食として食堂にでも行っているのだろうか。

まあノックしたしいいよなとノブを捻り、中に入る。

 

「お邪魔しますっと」

 

誰もいないようなので声を出す必要は無いが、言った方がいいと思い、小さ目に言って入る。

だがその奥には一心不乱にキーボードを連打乱打し画面に食い入る少女がいた。そのキーボードへの打音は扉を開いただけの俺の耳に聞こえてくるまでに大きく、叩きつける指の強さが分かる。

 

「おっと、これは失礼」

 

俺は謝罪の言葉をかけたが、少女は何も反応を返さない。イヤフォンやヘッドフォンをした様子は無い。

えっ、無視?俺、嫌われてる?

そう思ったのだが、少女の表情を少し見ると、そうではないことが分かった。

 

「―――――――」

 

無言、無表情。だがそこには真剣さがあり、画面の向こうの何かに対する熱意が感じられた。

俺は静かに荷物を置いてキッチンへと向かった。

手を濡らして備え付けの洗剤で手を洗う。泡を流してハンカチで手を拭く。視線をずらすと、そこには食器があり、ポットなどもあった。

レンジも、冷蔵庫もあり、金かかってんなぁと思ったが、俺はそこであることを思いついた。

 

 

 

 

 

 

少ししてキッチンから戻り少女の後ろから、少女が食い入るように見つめる画面を見て、俺は驚いた。

そこにあったのはISの設計、およびAICの設定だった。

ドラムでも叩くかのようにキーボードを叩き続ける少女は、学生とは思えないほどの精密さと速度で設計図を完成へと近付けていた。

もし一人でISを完成させようとしているのなら、それは自傷行為のようなものだ。

ISの構成情報量は、それこそSAO全体の情報量に匹敵する。大手の会社のバックアップがあって漸くできるようなものを、この少女は一人で完成させようとしているのだ。

その熱意と努力は、画面上を見るだけで理解できる。

俺はそっと手に持っていたホットミルク(蜂蜜適量入)を邪魔にならない場所において、画面を指差して指摘した。

 

「ここはもう少し軽くいけるんじゃないか?」

 

「ん、ホントだ―――――――えっ?」

 

「ん?」

 

「――――――――」

 

突然驚いたように振り返り、俺を見る少女。そこで俺は少女の顔を初めて見た。先ほどは盗み見ただけだったが、今は違う。

日本人離れした色白の肌に、家へと跳ねる蒼天の髪。そして紅玉の瞳は、見る者を魅了する。まるで魔石のような美しさがあった。

少女は振り返ると硬直(フリーズ)して動かない。

 

「ひゃっ!?」

 

「はいっ!?」

 

硬直していたと思ったら小さな悲鳴を上げた彼女につられるようにして俺も驚きの声を上げた。

少女は俺から離れようと後ろへ後ずさろうとするが、その先にはPCの乗った机があり、それ以上は下がれない。けども少女は驚きのあまりにそれすらも忘れているようだった。

 

「あ、貴方は……だ、誰!?」

 

「ん?荷物は置いてあるし、俺の存在は知っていると思ったが、改めて。茅場守流だ」

 

少女は体を横にずらしたりしてベッドの横に置かれた俺の荷物が入っているであろう箱を見た後で、俺の説明を聞いて納得したのか、強張らせていた体から力を抜いて椅子にもたれかかるように座った。

 

「そう。ゴメンなさい。気付かなくて。私は、更識簪。簪でいい」

 

「わかった。じゃ、簪。これから短い間だろうけど、よろしく」

 

「ん。よろしく」

 

一先ず事情は理解してもらえたようだった。




ふひっw
8500文字超え達成だぜ!!
この調子で頑張っていくでおじゃるwwwww

なんかすいません………
とにかく、今後も精進してまいりますので、応援よろしくお願いします。


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4 顔の赤い二人

くっ、殺(以下自主規制
文字数めぇっ!!よくも私に8000文字以下の話を書かせたなっ!!!
すいません、私の努力不足です。

そんな話ですが、どうか楽しそうに読んでください。
コメント待ってマース!!


「ねぇ」

 

「うん?」

 

荷解きをしながら俺は、簪の質問を聞く。

 

「貴方はISのプログラミングができるの?」

 

「まぁ、できる」

 

「何で?」

 

何で?と来たか。そんなこと聞かれたってなぁ。親父を手伝ってたからプログラミングはある程度できるし、ISの方も専門用語多くて辛いが、知識の応用がある程度効くし。自由研究で物質の強度とかやったから製作の方もある程度はできる。

どういうことか尋ねると、簪は少しの間を置いて言った。

 

「貴方は男性だし、ISとは、関わりが無かった、はず。なのに、何でできるのか。少し、気になった」

 

「ああ、そう言われるとそうだなぁ」

 

確かに男はISに乗れない。だからISの動かし方などを学ぶ必要は無い。

こう簪はいいたいのだろう。

けれど、そうとは限らない。俺以外にも、ISに関わっている男子はいた。

 

「俺は親父の手伝いとか自由研究で、機械方面に強くなったってだけだが。別に男だからってISに関わってない訳じゃないんだぞ?」

 

「えっ?」

 

「IS乗りにはなれなくても、整備や開発は男でもできる」

 

「あっ!」

 

まあ男でISに乗れるからといっても、いいことはあまりない。

周囲に敵を増やし、安全のために自由を制限されるだけ。未来の選択肢が広がるとか言っても、スポーツ選手になるつもりは無いし、だからといって軍人になるつもりもない。

 

しかしまあ、IS学園という肩書はかなり有用だと聞く。男でも同じかどうかは知らんが、企業への面接とかでは有効に働いてくれるだろう。

利点なんて、そんくらいなものだ。

 

「さて、俺は食堂にでも行くかな。簪も目を休めた方がいい」

 

「それは………」

 

何でそこを言い澱む?

そこまで急がなければならない理由があるのか?研究発表とか、企業からの設計要請とか?

まさかな。企業が個人一人、しかも女子学生に頼むわけがない。あったらそこは、ブラックもブラック、ダークネスだ。

 

「いや、無理にやめさせるつもりは無いよ!?ただ、簪の身体は、特に目は疲れてるはずだ。あの様子じゃぁ、休憩無しのぶっ続けだっただろうしね」

 

「………………」

 

「急ぎの理由でもあるのかい?」

 

そこまできくと、簪は完全に沈黙し、顔を俯けてしまった。

俺は様々な弁解をしたが、どれも言い訳のように感じられて、これが浮気を問い詰められる夫の気持ちかと痛感した。いや多分違うと思うけど。

すると簪は、小さく口を開く。

 

「…………ったから」

 

「え?」

 

「早く…完成…させて…あげたかった……から」

 

途切れ途切れに言葉を紡ぎ、その声は俺の耳に届いた。

 

「―――――あっ!!!」

 

その瞬間、俺の脳裏に走馬灯のように、ある光景が映し流れた。

とある日にコンビニに立ち寄った時、ふと新聞に書いてあった記事。

 

『日本IS委員会、代表候補を決定!!』

 

そこには顔写真と、その少女の名前『更識簪』と書いてあって―――――――

 

「簪………君は日本代表候補の………いやでも……………まさか………その機体は!?」

 

「そう……これは…私の専用機。打鉄弐式……」

 

「何でだよ!?専用機の製作なら、企業が付いてるはずだろ!?なのに……なんで!?」

 

この学園には、現在のところでいうと、イギリス代表候補のセシリア・オルコットがいたはず。彼女にだって、国が正式に決定した企業の協力及びバックアップがあった。専用機だって、完成していた。

 

では何故、簪の機体は完成していない?

いや、見た所は機体は完成していた。彼女が組み立てていたのは別のものだった。

機体ではない…………武装か!!!確かに最優先で機体、武装は後に回されるが………それだと企業が武装の開発を放棄したみたいじゃないか!!どうして!?

 

「織斑一夏…その専用機…白式」

 

「!!同じ企業に織斑の専用機を依頼したってのか!?」

 

もしも代表候補と、世界に二人だけの者の機体が依頼されたとしたら………確実に後者を優先するだろう。

つまり。簪の機体開発中に織斑の依頼が来た。その所為で人員が奪われ、満足な開発ができない状況になっているということか。

国は何をやってやがる!!片方に人員が奪われることは想定できただろうに!!

 

「倉持は…国内最大手…だから……」

 

「………そういうことかよ」

 

ふざけた話だ。最大手以外の企業に依頼すれば万事解決だったところを、無理を通したってことか。国としては代表候補生一人の犠牲で織斑を手に入れられればいいとでも考えてるんだろう。

人の努力を踏みにじってくスタイルね……嫌いじゃないが、腹が立つ。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

簪が不思議そうに俺に問いかけてきた。

 

「どう…して……そんなに……真剣、に……怒ってくれる、の?」

 

「どうしてって……君の努力は凄いものだ。才能も有ったんだろうけど。

 いや、無かったとしたらそれこそ『努力する才能』があったんだろう。

 君の腕は俺が少し見ただけで分かる程に凄い。一流、プロを名乗っていいレベルだ。

 そうして代表候補生まで上り詰めた。

 それが国の、たかだか少年一人を引き入れる為に無視される。

 それは決してやってはいけないことだ」

 

国がしっかり簪の機体開発を別の企業に委託すればよかったものを、横着したがために一人の少女の努力が掻き消されてしまう。そんな理不尽があってたまるか。

 

親父だってそんなことはしなかった。正体を見抜いたキリトさんに対して、チャンスを与えた。

 

織斑も、俺も、IS乗りになりたくて、そのために努力したことは無い。

そんな者のために努力した者が潰されてしまうくらいなら、俺は声を高らかに上げて訴えよう。『貴様は間違っている』と。

 

「まあそれだけじゃないけど」

 

「え?」

 

「言わせんなよ。恥ずかしい……」

 

そう簪に言う。

だが俺は、あえて自分から恥ずかしさに突っ込んでいくスタイルの人間である。それで何度黒歴史を見たことか。いや、作ってきたことか。

 

「理由?そんなもん、美少女が悲しそうにしてたからだ!!」

 

「っ!!!!!!!!!!」

 

どやぁっ!!!(キメ顔。

で胸を張り、声高らかにして言い放った俺の顔は、もちろん赤い。だがそれ以上に簪の顔は赤くなっていた。それこそボン!!という爆発音が聞こえたような気がするほどに、まるで熱したやかんみたいに真っ赤になった簪。

 

「まあさ、きっと簪が美少女でなかったとしても、ルームメイトが困ってたら何かしてあげたくもなる。そんな人間だからさ」

 

俺じゃ解決できそうもない問題だったとしても、きっと俺は怒るくらいはするのだろう。

同情や憐れみの目で見るくらいなら、きっと、助けになりたいと叫ぶんだろう。

 

「うんまあそういう訳で俺は先に夕食くってくるから!」

 

「え…あ――――」

 

簪が何か言う前に、俺は赤い顔のまま部屋を飛び出した。

ズカズカと廊下を歩き去っていく。

新たに作られた黒歴史を、床に擦り付けようとするかのごとく、強く踏みしめながら。

 

(なんて恥ずかしいことヲォ俺は言ってしまったんだァァァァァ!!!!)

 

小指を角にぶつけ、痛みに悶絶するかのように全身を壁に打ち付け、終いにはゴスッゴスッと額を壁に打ち付けるまでであった。

一連の行為によって、熱は薄れ、羞恥心は吹き飛んだ。

マモルはれいせいさをとりもどした。

ふぅと一息ついて、俺は再び食堂へと歩き出そうとしたその時だった。

 

―――――――っ!!!

 

特に気に留めていなかった曲がり角。そこを通り過ぎた俺に、身を潜めていた何者かが腕を振りかざす。そこから鋭い手刀がくりだされようとしているのは明白。

その気配の消し方、身のこなし方、手刀の鋭さは中々の精度で、暗殺慣れしたような生々しい殺気を纏っており、ゾワリと背筋が凍てつく。

 

「んな!?」

 

それを間一髪で躱し切ると、敵は焦ったような声を漏らす。けれど即座に空いている腕をひゅぅっと鳴らして次なる一閃を入れようとして来る。これは間違いない。その手の企業、あるいは団体に属した、所謂『暗部』の人間だ。それもかなりの手練れだ。

 

危険だ。

 

脳内で警笛が鳴り響く。

体勢を立て直させない。俺が視界に捉えようとしても入るのは風を切る腕の残像だけ。顔を見せない。布のような何かを振るって身と顔を隠し、技の出と顔を隠す。相当な手練れ。プロフェッショナル。

 

「っち」

 

そんなものを相手に生き残る自信は無いので、俺は撤退しながら人通りの多い通りに向かうように退いていく。

俺は防御しつつ、撤退する。敵は攻勢ではあるが、後一歩詰め切れないことに驚愕と苛立ちを感じていると思う。

やがて攻撃を諦めて角を曲がって姿を眩ました。

 

「こんなとこにそんなもんがいる。しかも俺が狙われるとなるといい迷惑どころではないな」

 

何とか対策を練らねばと、織斑先生に相談することを決め、速く夕食を済ませようと歩く速度を速めた。

 

 

 

 

 

 

「何?暗殺者?」

 

夕食を済ませて俺は細心の注意を払いながら職員室へと到着した。

そこでここまでの経緯を説明したが、やはり信じてもらえそうにない。いや当たり前だな。俺だって信じたくないし、聞かされたって信じないだろうし。

 

「いや、疑っている訳では無い。ただアイツがなぜそのような――――――」

 

と、そこまで言った時、織斑先生は言葉を切って、しまったという表情を浮かべた。

その口ぶりからして、先生はその存在を知っているようだ。

 

「どういうことです?」

 

「…………場所を変えるぞ」

 

そういう目の前の存在の表情は、教師でもなければ千冬さんでもなく、戦士の面持ちであった。

そこから一般には秘密にしておきたかった何かがあることは火を見るより明らかであった。

俺は生徒指導室に移動させられ、椅子に座ると先生の言葉を待った。

 

「この学園は、安全のために、護衛として対暗部用暗部の一族を雇っている。その長が今ここに通っているのだ。学生として」

 

それは驚きだった。対暗部用暗部なんてものがあることも、その長が生徒として通っていることも。

しかし何故俺が狙われることになったのか。それが疑問として残った。

すると先生は、戦士の面持ちではなく、家族を思うような柔らかい表情を浮かべてふっと笑う。

 

「狙われた理由は簡単だ。幼い嫉妬心。動機はそれだけだろう」

 

どういうことだ?ますます分からなくなってきた。というか、そんな幼稚な理由で殺されかけたの俺!?何この学園、常識通用しねぇなぁ……悪い意味で。

混乱する俺を見た先生は、説明を続けた。

 

「何、簡単なことだ。ここにその長の妹がいるだけさ。自分を避ける妹が自分以外の人に興味を示した。その事実に嫉妬してるだけさ」

 

「つまり重度のシスコンであると。ええ……面倒すぎる……誰か分からないから対策取れない……」

 

「対策の方はしなくていい。私が厳重に注意しておこう」

 

「おお、それはありがたい」

 

織斑先生直々のお怒りをくらってなおも反抗しようなんて奴はいないだろう。いたとしたらそいつは相当なSAN値、あるいは精神力の持ち主であると俺が褒め称えよう。

 

「さて、時間も遅い。帰りなさい」

 

「今回はどうもありがとうございます。それではおやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

先生と……ああ、さっきのは千冬さんか。それだけ交わして俺は部屋へと戻った。今回は遠回りすることなく最短ルートで行ったが。

 

 

 

 

 

さて問題だ。

目の前には黒い霧(俺の黒歴史が具現化したもの<俺の幻覚>)が扉の隙間から漏れ出しているわけだが、俺はここに寝泊まりするように言われている。さて、このいいつけに叛逆すべきか、そうでないか。叛逆ならアッセイの人がいると頼もしいが今はいない(というか現在は既に死んでいる)。

 

簡単に言ってしまえば、簪と会うのが恥ずかしいんだが、どうすればいい?という実に恋愛脳な乙女が知恵袋に投稿してそうな内容だ。いや実際クラインから「乙女かっ!?」とツッコまれたこともあるが。いや『初めてのキスは恋人とがいい』なんて普通だろうに。……普通だよな?

 

「さて、行かざるを得ないんだよな」

 

覚悟を決めよう。………よし、決めた!!

さあ逝くぞっ!!

ノブを回して扉を開ける。そーっと。

軟弱者だの臆病者だのヘタレだのと罵るがいい!!!実際そうだからな!!!俺は誰に向かって行っているんだ………?

 

「た、ただいまー……」

 

「お、おかえり……なさい」

 

「お、おう」

 

簪がベッドの上で体育座りをしていたが、俺が入ると焦って布団から降り、おかえりと

(少々どもっているが、そこがまた可愛らしい)言ってくれた。

先程まで健康的だったはずの俺の肌の色は、簪と同じように赤く染まり、何か気まずい雰囲気を作り出してしまっていた。

 

「え、えーっと…………」

 

会話を探さねば……間がもたん!!コミュ障こんな所で発揮してんじゃねぇよ!!お前物欲センサーみたいに肝心な所で仕事しすぎだから!!

部屋をぐるりと見回し、そして簪を見た。

彼女の髪は、少し湿り気を帯びていて、どこかしっとりとした印象を受けた。恐らく風呂にでも入ったのだろう。

 

「あ、風呂入ったんだな!」

 

「え、あ…はい」

 

「そうか!じゃ、俺も風呂に入ってくるから!」

 

気まず過ぎる空気に、俺はたまらず風呂という逃げ場所へと逃走しようとした。実に姑息だ。風呂から出ればこの空気に逆戻りだっていうのに。

足早に風呂場へと続く扉を開けようとした。

 

「あ、あのっ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

「えと…その……」

 

「え、あ。ご、ごめんな?簪が入った後の風呂に男が入るとかキモいよな!?ごめんな!?」

 

すぐさま扉を閉めて自分の荷物があるベッドの横へと移動して入っていた着替えを手に握ろうとした時、声のちいさな簪の、大きな声が俺の動きを止めた。

 

「茅場守流さん!!」

 

「は、はいっ!!」

 

俺は簪の方を向いて、直立不動の状態になった。

簪の顔は、先程以上に赤くなり、その瞳は若干潤い、泣き出しそうにも見える。

けど、今彼女は覚悟を決めて何かを言おうとしている。なら俺は、それを邪魔せず聞こう。

 

「さ、さっきの……言葉………」

 

さっき、とは。恐らくそれは、夕食前の会話の事だろう。

そのことを思い出したのか、簪は顔を赤くし、それにつられて俺も赤くなる。

簪は言葉を続けた。

 

「そ、そのっ……!!と、とても………う、嬉しかったですっ!!!」

 

叫ぶように言った彼女の言葉は確かに、俺の耳に聞こえていた。

その言葉を聞いて、羞恥が無かった訳では無いが、しかしそれ以上に―――――

 

「それは……とても……嬉しい…です」

 

「ふふっ………何で……敬語?」

 

「くっ」

 

謎に緊張して意味不明な敬語になってしまい、それを楽しそうに笑う簪の表情に、不覚にもとてもかわいいと思い、顔が赤くなる前に顔を逸らした。

 

「茅場さんは…面白い人…ですね」

 

「悪い印象が無くてよかったぜ」

 

そう言って、俺もククッと笑った。

そこらを境に、気まずさは無くなり、いつの間にか俺達は笑い合いながら会話し合っていた。

話が一段落すると、俺は着替えを手に持って、風呂場に歩き出した。

 

「そんじゃ、風呂に入ってくる」

 

「あ、はい。……いってらっしゃい、です」

 

「いってらっしゃいって……ただ風呂はいるだけだぞ?」

 

「そうでした」

 

また笑顔の華を咲かせた簪を見て、俺は風呂場と部屋を繋ぐ扉を閉めた。

 

………………………

 

……………………………………よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

あのまま気まずい状態のまま明日を迎えるなんてことになってたらもう毎日が黒歴史だったよ!?

何とかなってよかった………ああいや、良い方向に向かってくれてよかった、だな。

脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入った。

シャワーを頭に浴びながらふと思い返した。

 

(簪の笑顔……可愛かったよなぁ)

 

振り返って、思い出しても、何度でも同じ感想を抱くのだろう。

表情の変化が人より小さい彼女だからこそ、笑った時の華やかさが大きい。

 

人はよく『向日葵のような笑顔』と称すが、簪の笑顔は向日葵のような明るさは無い。いや、悪く言っているわけでは無い。花に例えるなら………そうだな。白百合、みたいな………清楚。それでいて美しさのある、そんな笑顔だ。

 

(この湯船に簪が浸かったんだよな………)

 

シャンプーの泡を流し、ボディソープで身体を泡立てながら湯船を見てそんな邪な考えを思い浮かべ、ブンブンを頭を振るって邪念を吹き飛ばそうとするが、油汚れのようにこびり付いて離れない。

 

(そういえば、さっきの簪は制服じゃなくて、パジャマだったよな………)

 

白を基調に、水色で縁取られた清楚な物で上下を揃えていた簪の姿を思い出す。

人一倍白い簪の肌が風呂上りの所為か少し紅色に染まって、白い生地に水色の縁とのコントラスト………あれは良かったよな………もう見せる凶器だよな………

 

ぼーっとそんなことを考えていると、ポタリポタリと生暖かい水滴が太腿に当たる感覚で、俺の意識は肉体に戻る。

ふと見てみると、水滴が当たった場所は赤く染まり、ふと鼻の下に触れると自分の指が赤く染まった。………鼻血だ。

 

「何っ!?」

 

急いで体の泡を流し、脱衣所に飛び出し、ティッシュを探す。

幸いなことに、備え付けのティッシュがあったので、それを両の鼻に押し詰めて再び風呂場に戻った。

 

「ふぅ、一先ずこれで安心だ」

 

そう言いながら湯船に浸かった。

じんわりと身体に暖かさが染み渡る。あ゛あ゛あ゛あ゛~~~極楽なんじゃあ゛~~~~

 

―――――刹那

 

(この湯船に簪が浸かったんだよな………)

 

その事を思い出す。

簪が浸かった湯……これは簪の体温………簪が包み込んでくれているような…………

 

「ブッ!!!」

 

鼻栓の役割を果たしていたティッシュが銃弾のように勢いよく吹き飛び、鼻から血が流れ出る。それだけでなく、鼻に入りきらなかったのであろう血液が喉から口へと入り込んできて、口に手を当てせき込むと、その手には真っ赤な血が………

 

「ぎゃぁぁぁ!?」

 

すぐさま風呂の栓を抜いて俺の血で少し赤みを帯びている湯船の湯を流した。そしてシャワーで身体に付いた血を流し、再び脱衣所でティッシュを鼻に詰めた。

 

「よく考えてみりゃ、出血してんのに風呂入って血行良くしたらダメだよな」

 

身体に付着する水滴をタオルでそれを拭い取って持ち込んだ寝間着に着替える。

とはいっても、ユ〇クロで買った上下セット(黒)なので、そんな見た目の良さも、上品さも何もないのだが。

 

「今出たぞ」

 

「あ、おかえ………どうしたんですか!?」

 

「ん?ああ。鼻血が出ただけだから。大丈夫。落ち着いたら掃除依頼しておくから」

 

この学園は依頼をすれば学園の経費で清掃業者を呼べるのだ。ホントに金かかってるよなぁ。

 

「そ、そうですか。無視は……しないでください」

 

「おうよ」

 

その後、俺と簪はベッドの上で雑談や世間話に花を咲かせて、そんなこんなで眠りについた。

今日は……色んなことが有り過ぎて疲れた………ただ……後半は……今までで最高にリア充してたなあ………

そんなことを思って、俺は瞳を閉じた。

 

「おやすみ…簪……」

 

「おやすみなさい…茅場さん……」



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5 織斑、オルコットを煽る(無自覚

うぉっほーい!!!
初&祝!!!8700文字超え!!!!
しかしこれ以上オラに頑張れと言われたって無理でっせ。
徹夜して漸く1話しか作れない……この文才の無さ……笑え……笑えよ………
とにかく!!お気に入りが増加してました感謝!!!
今後ともご愛読おなしゃす!!


朝。先に目を覚ましたのは俺だった。

眩しい日差しはカーテンで遮られ、隣のベッドではルームメイト………?いや、友達なのか?俺はそう思ってるけど。まあ同室の更識簪が夢の中。朝起きて美少女の寝顔を見られただけで今日一日を乗り切れそうな気になった。眼福眼福。

 

「お、ね……ちゃ………」

 

ボソリ、と簪が小さく寝言を零す。そっとベッドから抜け出し、その顔を見ると、簪は苦しそうに、あるいは悔しそうに顔を歪め、涙を零していた。

 

(お姉ちゃん………)

 

俺は、簪が零した寝言を聞き逃さなかった。

そういえば、兄弟関係とかは話題に出なかったな。今日、少し聞いてみるか………いや、それは俺が関わっていい問題なのか?簪から口に出さない以上、言いたくない理由があるのではないか?それとも単に、俺が聞かなかったからなのか?

少し、少しだけ、聞いてみよう。地雷でないことを祈ろう。

 

「大丈夫……大丈夫だ………」

 

そっと、手を髪に触れさせる。そのまま優しく髪をなでおろす。手を離して、また手を置いて、髪を撫でる。

幼い頃、まだ父が人間らしさが残っていた頃。母親が死んでから、俺は寂しさに夜な夜な泣くことがあった。そんな時に父がよく頭を撫でてくれた。

 

その大きく暖かな手は、不思議と心を落ち着かせ、涙で顔を濡らした俺はゆっくりと夢の中へと微睡んでいった。

そんな懐かしい記憶を頼りに、俺は父の真似をして、簪の頭を撫でていた。

俺の髪より明らかに柔らかく、細く、美しい簪の髪を撫でる。

 

「あ……ぅ…………ん…………すぅ………すぅ………」

 

しばらくすると、苦しそうに布団を握る手は緩み、苦悶を浮かべていた表情も穏やかになった。

俺ができるのはこれくらいだ。だが、こうして簪の苦しみを僅かでも和らげる術を教えてくれた親父に、俺はありがとうと心の中で唱えた。

 

時計を見る。まだ起こすには少し早い。そんな時間。

俺は歯を磨き、寝間着から制服に着替える。寝癖も無く、男であるが故に準備に時間はかからない。

 

「しっかし、ここにはティーバッグはあるが、茶葉は無いな………あの店通販やってたかな……」

 

ついでに愚痴るならティーポットあるなら急須くらい置いとけやと言いたかったが、一人愚痴ったところで誰も相手にしてくれない、寂しいだけだ。なら、無駄なことはしないに限る。

 

とりあえずポケットからスマホを取り出し、ア〇ゾンで急須と茶葉をポチッておいた。いやー化学は進歩したなー。

 

「っと、もうそろそろ起こした方がいいか?」

 

艦〇れで遠征を出した後で時間を確認すると起きるには丁度いい時間になっていた。演習で単縦陣形を選択して、俺は簪を起こしにかかった。

 

起きろーと言いながら肩を掴んで簪を揺する。

けれども簪はうぅんと声を漏らしただけで身体を反対側へと向け寝転がる。どうやら朝には強くないらしい。これも萌ポイントの1つではあるが、いや実際可愛いのだが。だ・が!

 

「かーんーざーしー」

 

「んぅぅ………もう少し…寝かせてよ…本音…………」

 

「いや俺は守流やで~?本音さんちゃうで~?」

 

簪は本音という人と俺を勘違いしているらしい。すっかり気を許しちゃってるあたりそうとう仲のいい人物。しかもこの様子だと毎朝起こされてるようだ。

しかし起きてもらわんと。遅刻して恥をかくのはいやだろう。

 

「簪、かんざしー?起きてくださいよーっと」

 

がばっと布団を剥ぐ。昨晩の清楚な寝間着が布団の上で簪の肌を覆っている。

布団を剥いだ時に肌を撫でた温かい風。それは布団の中に籠っていた簪の体温だと思うと、まるで簪の素肌に触れているような感覚に陥り、顔が赤くなる。

 

「んん~……かーえーしーてーぇ………」

 

「はーいはい、少し失礼ますねー」

 

簪の背中と布団との間に右手を差し入れて、簪の肩を掴んで、よいせっと言って彼女の上体を起こす。

 

「んぅ………は、ぇ?…………本音……じゃ、ない?」

 

「ようやく目を覚ましたかい?お姫様」

 

「……!?かっ、茅場…さん……?!」

 

ボンッと音がして、湯気の爆炎の奥で簪は、一瞬にしてその白い肌を赤く染める。

 

「そう、俺は茅場だ。さぁさぁ、起きて顔洗ってきな。準備が整うまで待っててやるで」

 

「っ~~~~!!!!!」

 

ばっと布団から飛び出すと寝起きとは思えないほどの速さで脱衣所へと駆けて行った。

いやまあ俺を勘違いした程度でそこまで恥ずかしがらんでもいいのに。俺だっておこってる訳じゃないし。美少女の目覚まし時計やれてるだけでもありがたいと思わないと。

とりあえず簪が準備終わるまではゆっくりゲームして待ってるか。

 

艦これは後は遠征帰還待ちだし、刀剣乱〇の日課やったあとは………Fete/G〇のAPが回復するな。艦こ〇も刀剣〇舞も大体のキャラは揃えたし、資材も十分すぎるんだよなぁ。それに比べてFGOは………うぇひひひ。リセマラァ……ガチャァ………課金………ひひっ………まわしゅのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

……………はっ!?俺は一体何を……思い出せない……確か……うっ、頭がっ!!

なんてことをしていると、寝間着から制服に着替えた簪が俺に声をかけてきた。

 

「あ、あの……」

 

「ん?おう、準備できたみたいだな。じゃ、食堂行くか」

 

「あっ、えぁ……はい」

 

簪の手を引いて食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、俺はとろろ蕎麦単品の大盛りだな。簪は何にするんだ?」

 

「わ、私は……これ……」

 

簪が選んだのは二種類のサンドイッチだけだった。やはり女子らしく小食だな。俺も朝食は小食だが。なんつって。しかしそれでもこれは少なすぎじゃないか?とは口には出さずに、食券をおばちゃんに渡して適当に空いている席に着いた。

 

料理が出来て呼び出されるまでの間、俺は簪と雑談に花を咲かせる。

すきな食べ物だったり、すきなテレビ番組だったり、好きなマンガだったり………

朝の食堂はかなり人が多く、呼び出しがされるまでが長い。そんな時間も、簪と話をしているだけで、何だか楽しく思えた。

 

(これが青春ってやつなんだろうな……)

 

過去に青春らしい青春を過ごせなかった俺は、この強制入学に、初めて感謝をした。

ってか青春らしい青春ってなんだ?海に向かって友達と叫ぶ?ラッキースケベする?セーシュンのばっかやろー!!とか叫ぶ?どれも偏見に満ちてるな。1番目は友達いないからアウト。2番目は痴漢で現行犯逮捕でアウト。3番は不審者通報でアウト。全部ダメじゃん。

 

「おっ。茅場か?よう!」

 

「ん。織斑か。おはよう」

 

そんな風に考えていると、通路を通りがかった織斑が声をかけてきた。

その後ろには、長い黒髪を後ろで一つに結った少女が、同じくこちらを見ている。

彼女は篠ノ之箒。かの大天災こと篠ノ之束の妹で、全国剣道大会で優勝経験もある人物だ。ちなみにその大会でリーファさんは3位だったらしい。いやそれでも十分凄いのだが。

 

「っ」

 

きゅと、織斑たちからは見えないように、小さく俺の制服の端を掴まれた感覚があった。それは簪によるもので、簪は怒りを少々混えた視線を織斑に送っているが織斑はそれに気付いていないようだった。

そういえば、簪の専用機は織斑の所為で……

織斑は、俺の隣に座る簪に気付き、声をかける。

 

「茅場の隣の子は?」

 

「こちら更識簪。俺のルームメイトだ。で、そちらさんは篠ノ之箒さんですな」

 

「なんだ知ってるのかよ」

 

そこで織斑は、あそうだ。と何かを思い出したように言ってきた。

 

「隣に俺達座っていいか?座る場所少なくてさ」

 

「っ!!」

 

織斑のその言葉に、簪の表情は強張る。服の裾を握る力も強くなった。

たしかに、織斑はこの学園でたった一人の男子学生という共通点で、良い関係を築いていけたらと思う。そうすれば間接的にだが、織斑先生に媚を売ることもできる。

だが………

 

「すまんが、他を当たってくれないか?」

 

「なんでだよー」

 

そこは空気読んで理由を聞かずに引き下がってくれればよかったのに。

簪、すまんと目配せして簪の肩を抱き寄せる。

 

「俺ら今いちゃらぶしてんのさ。これ以上は言わんでも分かるな?」

 

「「「っ!?!?!?」」」

 

簪と織斑と篠ノ之は、それぞれ考えていることや感じたことは違うのだろうけど、皆同じような反応をした。それは周囲の生徒にも聞こえていたらしく、ざわざわとその空間自体がざわめく。

直後、顔を赤くした織斑が慌てたように言った。

 

「すすすすすすまん!!!ほ、箒。別を探そう!」

 

「そ、そうだな!」

 

そう言って二人は足早にその場を駆け離れていった。それを見て、俺は簪の肩から手を離した。

簪の顔は、しゅぅぅ…と湯気を上げており、よほど恥ずかしかったであろうことを感じられた。もちろんそれは俺も例外ではなく、俺の顔もかなり赤くなっているのだが。

 

「何かすまんな簪」

 

「あ、いえ、その………」

 

「しばらくは噂になるだろう。ホントにすまなかったな」

 

その時、タイミングよくと簪の料理が完成したらしく呼び出しの番号の張られた機械が振動する。

俺は簪にここで待っててくれと言って料理を取りに行った。

料理を取りに行った時、おばちゃんが「何か騒がしいねぇ」と言っていたので、俺は

「何なんでしょうね、朝っぱらから」と答えを知っているにも関わらず、それを曖昧に

返して二人分の料理を持って元居た場所へと戻っていった。

 

「取ってきたぜ。早速食べようぜ」

 

「あ、はい」

 

いただきますと言って、俺は蕎麦に、簪はうどんに箸をつけた。

 

 

 

 

 

 

食後、俺達はそれぞれの教室へと別れる。その瞬間が少し寂しくて、俺は少し表情に出してしまったかもしれなかったが、俺から見た簪の表情も、少し寂しそうに見えたが、すぐに教室に入って行ってしまい、果たしてその表情が見間違いではなかったのだろうかと思った。ただ俺がそう勘違いしただけなんじゃないだろうか?と。

 

しかしそんなことをぼうっと考えていると、はっと我に返り、教室の、自分の机へと着席した。

その後すぐに織斑先生が入ってきて、授業が始まった。

 

「さて、それでは授業に………と言いたいところだが。昨日のクラス代表の話は茅場のいないときにしてしまったからな、改めて投票等をしてもらいたい」

 

その言葉にクラスがざわつき、刹那先生の喝が入りクラスは静まり返る。昨日の内に見慣れたこの光景に、俺は溜息を吐いて話の続きを聞く。

 

「昨日も話したが、クラス代表は文字通り。クラスの代表として対抗戦や雑務を行ってもらう役割だ」

 

ええー。これは絶対誰も手を上げないパターンの物じゃないですかやだー。残念ながら、このクラスには何でも知っていそうだが知っていることだけしか知らない猫の怪異に憑かれた女子も、殴り書きの手帳を持ってる仮面優等生もいない。誰もやりたがらないのは明白であった。

 

「よって、昨日と同じように推薦したい者がいる場合はしてくれて構わない。自薦他薦は問わない。また、推薦された者には拒否権は無いものとする。いいな?」

 

はぁ!?ふっざけんなよおい!!千冬さん!!織斑先生!!拒否権下さい!!絶対俺指名されちゃうじゃないですかやだー!!運よく織斑に票が集まってくれればいいんだが、奇跡はそう簡単には起きないんだよー!!俺の兄貴も言ってた、奇跡ってのは、自分で起こすもんだって!!でも無理なモンは無理!!

 

そしてクラスの女子が、一斉に喚きだす。

しかし一言一言の長さや発音は違えど、皆が発しているのは2つの言葉だけ。俺と織斑の名前だ。

 

そんな騒ぎの中で織斑を見ると、織斑は厳しい表情をしていた。

そういう表情もしたくなるだろうけど、織斑の表情はもっと違う者に向けられているような―――

 

「納得いきませんわ!男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと!?」

 

バァン!!!と机を叩く大きな音を立てて一人の女子生徒がいた。

それは、昨日の夕方、最後までクラスに残っていた外国人であることが明白な少女だ。

 

「分かってはいたことだが…………何だオルコット」

 

「昨日も言った通りですが、ただ物珍しいというだけで男子を選ばれてもらっては困ります!いいですか私はこの国にサーカスを見に来ているわけではないのです!」

 

おお!態度や言動は腹立つが、この面倒な役割をやろうって女子がいるなら俺は全力で応援するぜ!!

 

「私はISの技術をまなぶために来たのですっ!大体っ!文化・技術が後進的な発展途上国で暮らすことすら、私には耐えがたい苦痛であって!!!!」

 

随分とヒステリックな嬢ちゃんだな。簪を少しは見習ってほしいもんだ。

しかし日本って発展途上国だったのか。初知りだ。

俺は先進国の1つだと思ってたんだがなぁ………アニメという文化とか、和の心とか、宮〇駿を筆頭に、細〇守とか新〇誠のアニメーション映画とか、その他電化製品とか………

ちなみにアニメーション映画で好きなのはそれぞれで『風立〇ぬ』『サマーウォー〇』『言の〇の庭』だったりする。

 

そんなことはいい。とにかくこのまま誰も何も言わず、オルコットが代表になれば、あるいは織斑が。結局俺以外がなってくれれば誰でもいいんだ!!!

 

神よぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!

おっと、後者は違ったか。ありゃピックアップ中で爆死した時の俺の叫びだったわ。

 

「イギリスだって島国だろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「貴方!私の祖国を非難するのですか!!」

 

ぉぉぉぉぉぉおおおおおりぃぃぃぃぃむぅぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁくぅぅぅぅぅん?君は何でそう俺の邪魔をしたがるのかなァ?

そんなこというからオルコット嬢噛みついちゃったじゃないですか~

 

「先に非難したのはそっちだろ?」

 

だからなんでそう煽るようなこと言うの!?何?馬鹿?馬鹿なの?死ぬの?

 

「黙りなさい!男のくせして」

 

「いやそれはおかしい」

 

「なんですって!?」

 

しまった。声に出てたか。

いやだってそうだろ。言いたくなる気持ちも分かってくれ。男女差別…………性差別とかよくないと思いまーす。日本だって無差別を謳ってる国な訳ですし?まあここはどこの国にも属していない場所だから日本の常識が通じるとは限らないんだけど、イギリスもまだそこまで性差別は酷くなかったと思ったのになぁ………

 

「決闘ですわ!!」

 

どうしてそうなった。

 

「いいぜ。四の五の言うより分かりやすくていい」

 

何でアンタも受けてんの?ここはさらっと流そうよ?ね?この流れだと確実に俺受けなきゃいけないじゃん。それ以前に織斑先生が強制的に決定するんだろうけどさ。

はぁ、と大きなため息を一つ吐いて。俺は机に突っ伏した。

負けたよ。完敗だ。それを祝って乾杯しようぜ。ホントはやけ酒したいだけですどうもすいません。それに祝えるようなことでもなかった件について。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして茅場はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

これでまとまったように見えるなら貴方の目、あるいは耳か脳は異常です。病院へ行くことをおすすめします。具体的には眼科と耳鼻科と脳外科あたりに――――――あだっ!?

 

「何を馬鹿なことを考えている。これはその分だ」

 

何で俺の脳内まで見透かしてくるんですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

「簪。ボクもう疲れたよ…………」

 

「………死んじゃうの?」

 

もうそんくらい疲れたってことだよ。

そう言って俺は布団に倒れこむ。どっと疲れた。具体的には胃と腸と頭が。過敏性腸症候群と胃痛持ち舐めんなよ?絶賛薬漬けの生活おくってっからな?それだけ聞くと覚醒剤やってるみたいだが全く違います。まあカプセル剤だから中身が覚醒剤だったとしても分からんわけだが。

 

「なんかISで決闘することになった。一週間後」

 

「……何だか……大変…だね」

 

簪はそう言うと、そっと俺のベッドに腰掛け、俺の頭を撫でる。

白く細く。しかし女子特有の柔らかさと滑らかさのある手が俺のさして手入れもされていない髪の上を滑っていく。髪越しに感じる掌が、とても暖かくて、何故か気が緩んで、俺は知らず知らずに涙と嗚咽を零していた。

少しして、泣き止むと俺は簪に謝罪する。

 

「すまんなぁ。突然泣き出したりして。気持ち悪かっただろう?どうぞ罵ってくれて構わない」

 

「あ、いえ…そんなこと…無い…です」

 

「思えば今日の朝だって…………ほんとにすまない………」

 

何度今日だけで謝ったことだろうか?これじゃジーク君をすまないさんとか言ってらんないじゃないか。俺がすまないさん2代目を受け継いじゃう勢いだ。

 

「その…えと……」

 

何だろう?簪が何か言いたげに必死に言葉を紡ごうとしている。

そして、漸く何を言いたいのかをまとめたのか、ゆっくり息を吸って言葉を吐き出した。

 

「すまん…とか…より……ありがとう…とかの…方が……嬉しい、です」

 

「――――――――――」

 

その瞬間、俺は、何も言うことができなくなった。

そして俺は。

 

「ふっ。カッコいいこと言ってくれるじゃねぇか」

 

これがイケメンだったら「イケメン!抱いて!!」とか言ってたんだろうけど。いや言わないな。それは俺が女で簪が男だった場合だ。

まあ最も、その逆。俺が男で簪が女であったとしても、俺は惚れていたんだろうけど。

 

「まあ、何だ。元気出た。ありがとよ」

 

「!!は、はい!」

 

くっ、まただ。

この、彼女の白百合のような笑顔を向けられると、胸が締め付けられるような感覚が俺を襲う。その締め付けを彼女へと向けて、俺と言う存在に締め付けようと、俺だけ見ろと縛り付けてしまいそうな――――――

 

「と、ところで」

 

おい俺。話題の変え方下手過ぎんだろ。昨晩のことを思い出せよ。

そう自分の事を叱咤しつつも俺は言葉を続けた。

 

「何で頭を撫でてくれたんだ?」

 

「え、あの……嫌……でしたか?」

 

「いやいや違う。違うからね!?ただこう……触るのが嫌とかさ、そういうのが無かったのかなーって」

 

女子特有の、自分の好きな人以外に触れることを生理的に嫌うとかいう特性?本能?よく分からんがそういうやつがいるらしい。

もしかしたら簪は無理をして俺を慰めてくれたのかもしれない。そう思うと俺は悔しくなった。

しかし簪はそれを否定した。

 

「いえ…嫌とかは……無くて。その……今日、懐かしい……夢を…見たんです。

 お姉ちゃんとの……大切な……」

 

それはそうなんだろう。けども、あのうなされ方は、トラウマレベルでの何かがある。そんな夢だったはずだ。いい夢ではない、悪夢の類だったはずだ。

そう思っていると、簪が言葉の続きを紡ぎ始めた。

 

「最初の方は……あまりよくなかった……けど、最後の方……は、優しく抱きしめられて……

 その………頭を撫でられたんです。

 それで…その暖かさが……起きても……まだ…残ってるような……そんな気がして

 それを思い出して……だから………」

 

「そう、か」

 

短く、俺はそう答えた。それを聞いた簪は、俺の機嫌を損ねたと感じたのか、謝罪の言葉を並べながら頭を下げた。

俺は簪の謝罪の理由を否定した。

 

「いや、いい夢……だったんだよな?」

 

「……はい」

 

「うん、なら良かった」

 

自分の右手を眺めながら、手の皺を指でなぞって、掌を閉じた。

うん。俺の行いは間違いではなかった。親父から学んだ術が、今ここで役に立った。根本的な原因は解決できていないが、それでも、簪に安らぎを与えることができた。

それだけで、俺は、良かったと思えた。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ」

 

「はい?」

 

俺はベッドの上をごろんと180度回転し、仰向けになり簪を見る。両手を大きく広げ、大の字になって全身の力を抜いて、だらしない姿で簪に質問した。

 

「簪は、お姉さんがいるんだね」

 

「えっ!?どうしてそれを!?」

 

おお、めずらしい。簪が声を出して驚くなんて。そんなに知られたくなかったことなんだろうか?とりあえず俺は簪の質問に答える。

 

「何でって、さっき言ってたじゃないか」

 

「あっ」

 

えっ、気付いてなかったの?と、俺は驚き質問すると、赤面したまま無言で肯定を示すように頭を縦に振る。ううーん、家族に対してコンプレックスというか引け目と言うか、家族の事を隠したい、知られたくないとか思ったこと無かったから良く分かんないけど、そんな簡単に零しちゃうもんなのかなぁ。

 

「ま、言いたくないなら別に聞かないけどね」

 

「……………………………………」

 

簪は長い沈黙。その表情は暗く、俺では分からない重荷をその小さく華奢な背に抱えて生きてきたのだろう。

俺は様々な負の感情を浴びてきた。けども、どれもが一瞬、一時的なもので、自分が消えてなくなる寸前まで精神をすり減らしたことなど1度しかない。

だから俺は、黙って脱衣所へと向かった。

簪は、小さく言った。

 

「貴方なら、分かってくれる……かもしれない」

 

「え―――――――っ!?」

 

俺は首だけを後ろに向けて聞き返そうとした。

その時ふっと、暖かさのある重みが俺の背中を押した。

その視界の端が捉えたのは、俺の背に体を預けるように押し付ける簪の姿だった。

 

「聞いて……くれますか?」

 

その声音は、今まで聞いてきたどの声よりも重く、しかし脆く、少しの動きでもあれば壊れてしまいそうな儚さがあった。

簪の最深。簪が抱える、隠し通したかった自らの弱み。

それを、俺に託して良いのか。俺なんかに、託して良いのか?

しかし簪は言ったのだ。

 

『貴方なら、分かってくれる……かもしれない』

 

俺になら、分かるかもしれない何か。それは俺にも分からないかもしれない。

しかし、簪が俺をそれだけ信頼してくれているという証でもある。

ならば俺はそれに応えよう。

簪の弱さの核を、護ってあげられるだけの存在になれるという証明をしよう。

かつて親父がアインクラッドで、機械を超えた愛という思いの力を照明した時のように。

 

「聞かせてくれ。君が、何を思っているのか」



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6 簪のこれまで

なん……だと………!?7000文字すら届かなかった!?
コレに関しては本当にすいません!!!!
文字数何て気にすんなよーって優しい方はコメントにて励ましてください。

今回の話も、どうかご愛読お願いします。


私の生まれた家は、その地では名の知れた、俗に言う名家というような家だった。

人脈は広く、しかしそれに頼らずとも輝ける実績。これが私の家を名家たらしめる要因だ。

 

けれど、私の家の本当の生業は、対闇部用闇部という物騒で、暗くて、常に危険と隣り合わせなもので、それを表だって言うにはあまりにも受け入れ難い生業だ。そんな闇家業を行っている賊や団は多くいる中で、私の家はその中でもトップレベル。国などから指名されて依頼されることもあるほどの裏の実績を誇っていた。

 

そんなにも裏で有名であれば、それは僅かばかりでも表でも名が知れてしまう。

だからそれに感付かれない為に、私の家は人脈と表向きな実績を伸ばし、その地の名家という肩書を使ってその存在が表に知られないように、覆い隠した。

 

対闇部用闇部だなんて物騒な物が本職だ。故にその血筋の物には、暗殺に対する知識と、それに対する戦闘術と、それを実践できるだけの肉体練度が求められる。

しかし、名家として有名になっている以上、それだけが必要とされる訳では無い。

名家として疑われないように、武だけではなく、学力、知力、品性なども求められる。

 

私には姉が一人いる。

姉は、私よりも遥かに、その全てが優れていた。

学力では通う学校でトップから落ちたことは無く、世界中の様々な武術を習得し、スポーツではどの種目でもエース扱い。人柄も良く、また美貌も兼ね備えていて、人を惹きつけては離さず、誰からも嫌われる様子は無く、そしてそれを率いるだけのカリスマ性もあった。

 

正に完全無欠。

 

そんな家族が一人でもいれば、行く先々で比較されるのは火を見るよりも明らかで。

そんな状況でも、私に話しかけてくる人はいた。けれど、その誰もが姉と関わりを持ちたいがために近付いてきた者ばかりで、正しい意味で親しい友人と呼べるような者はいなかった。

そして私と接しても姉に近付けないことを知ると、人々は掌を返して私を罵倒する。

 

「貴女のお姉ちゃんならもっとうまくできてたわよ!!」

 

「どうしてお姉ちゃんと同じことができないの!!」

 

「同じ家族とは思えないわね」

 

やめて。やめて。違う。私は違う。お姉ちゃんじゃない。

なんていえるだけの勇気も無く、私はただ臆病にその罵声の濁流に耐え続けていた。

 

死にたくなる。

それでも私は、お姉ちゃんのように人よりも多くの努力をした。

誰からも話しかけられない休み時間は全て勉強の復習にあてて、苦手な運動にも積極的に参加し、薙刀を習ったりもした。

けれど、それでも。

姉には遠く及ばず、止むことの無い罵声が私の心を傷付け続けた。

 

私には憧れがあった。

それはまだ私が幼い時。画面の向こうで、正義の味方を具現化したような英雄が、華麗に悪の体現者を倒していった、そんな男性向けなアニメーション作品。

 

そのシーンは今でも忘れない。

 

その光景は、まるで私の家のやっていることと重なって見えたからだ。戦い方は違えど、正義が悪を倒す。明確な共通点があった。

だから私は、その憧れに何度も支えられて、他留まることをしなかった。

努力を続ければ、遥か遠い未来でも、必ず。あんな風に、ヒーローみたいになれると信じて。

 

優秀過ぎた姉は、まるで英雄のように見られるようになっていて。私には『比較することすら烏滸がましい出来損ないの妹』という負の烙印を押されていた。

それを心配した人達が心配そうに声をかけてくることもあった。

でもそれさえも私へ向けられた言葉ではないように聞こえて、かけられる声全てを無視するようになった。

 

渡される成績表には全て好成績が記されてはいるものの、どれだけの賞を貰えど、その度に姉と比較される。

 

「少しお姉ちゃんに近付いてきましたが、まだまだですね」

 

「才能に恵まれてないのに、よくここまでがんばったね」

 

「さあ、ここからもっともっと頑張ってお姉ちゃんに少しでも近づこうね」

 

しかしその時私はもう走れない程に心身共に疲弊しきって、もう傷付く場所が無いほどに傷付いて。

それでも少しでも近づいたという彼らの言葉は、動けない私の身体を突き動かした。

 

そこから私は死にもの狂いで、その言葉を体現したように努力を重ね続けた。

睡眠時間を削って教科書に噛り付いては、一心不乱に紙の上に鉛の筆を走らせ、食事の時間さえも惜しいと切捨てて武術の鍛錬に励んだ。

 

狂ったように学びに沈み行く私の心身は、更に多くの傷を受けたが、それ以上に私の行動が、自傷ともいえるほどに自らの身を削っていった。

身体は痩せ細り、廃人の様になっていたらしい。

 

そこら辺から家族や学校の先生は本格的に心配し、学校の早退や休養を進めてくるようになったけれど、その時の私に対してその対応は、もう手遅れで、その程度で私はもう、私自身でも自分を止められなくなっていた。

 

段々体調不良になることが多くなって来て、怪我や病気も多くなった。

それでも私は止まらなかった。

 

私はまだ止まらない。まだ進める。周囲の評価が全てのこの世界で、少しでも、目に見えた進歩があったのなら、私はそれだけで進み続けることができた。

きっとこれが病んでいるということなんだろうなと、思い返して分かった。

 

しかし、しばらくして成績の伸びが悪くなってきた。

それを見た周囲の人々は、それでも努力を続ける私に言う。

 

「無駄な努力は止めなさい。自分が苦しいだけだ」

 

「貴女はよく頑張ったわ。けどお姉さんほどじゃなかったのよ」

 

「才能が無かったのよ。無理なことを知る。これも一つの進歩よ」

 

うるさい。五月蝿い五月蝿い!!!

私はそれでも止まらない。

 

そんな時だった。

世間にISが広まっていったのは、そんな時だった。

 

それから数年の内に、姉は世界最年少で国家代表に選出された。

 

また一つ、姉が遠くなった。

 

この程度の努力では足りない。もっと、もっと多くの努力が必要だったんだ。

私は従来の努力に加えて、ISに関しての勉強も付け足した。

もう本当に走れなくなりそうだった。走れなくなる寸前だった。

 

そんな時、私は、姉の手によって遂に走れなくなった。最後の支えが折れたのだ。

 

 

『簪。あなたは何にもしなくていいの。私が全部してあげるから。

 だからあなたは、無能なままで、いなさいな』

 

それから私は、自分の部屋に籠って、自分の殻に籠って、今までの努力が夢だったかのように、一切の努力をやめて、ただ時間を浪費し続けた。

ただ、それが一概に悪いことであったとは言えない。

食事を取るようになって、やせ細っていた体は人並みな肉付きに戻り、悪かった顔色も元通りに、病気がちだった体調も健康へと快復していった。

けれど、姉がつけた心の傷は、心を真っ二つに切り裂かんばかりの傷をつけた。

 

努力は報われない。

もう全てが何でも、どうでも良くなっていた。

このまま家の負担になるくらいなら死んでしまえば――――――

 

その時、私に差し込んだ最後の光があった。

 

日本IS委員会の目に私が止まり、過去の実績やISへの適正から、私はIS日本代表候補生に選出された。

これさえ逃さなければきっとお姉ちゃんにも届く――――!!!

折れた最後の支えと、傷だらけで走れなくなった心。そこに舞い込んだこの希望を、逃してなるものかと私は、消えかけた努力の灯に希望と言うガソリンをぶちまけた。

燃え上がった炎は私を囲んで、逃げ場を塞ぎ、これを逃せば最後に焼け死ぬのは私だと言うように私を未来へと駆り立てた。

 

そうして、私はIS学園入学と代表候補生としての学生生活に向けて着々と準備を進めていった。

入学が近くなったと感じる頃に、私の専用機は完成した。

機体が完成し、次の武装の作成に入った時だった。

 

『――――の受験会場で、世界で初めての男性IS操縦者が発見されました!!』

 

ニュース番組の速報で入った一報。その報道は、全世界を驚愕に騒がせる。

織斑一夏。その動かしたという少年の名前だ。それに続く形で、二人目も発見された。

二人は、保護という形でIS学園に入学が決定し、織斑一夏の方には護身の為という形で専用機の緊急作成が決まった。

そして、その依頼を受けたのは、私の専用機を開発していた企業、倉持だった。

 

ほぼ全ての人員はその希少性、重要度から織斑一夏の専用機開発に回され、実質的に私の専用機の開発は打ち止めということになってしまった。

 

ああ………またこうなるのか…………

でも、私は――――――、一人でもこのISを、打鉄弐式を完成させてみせる。

 

姉は一人でISを組み立てたと聞いた。それも、大企業などのサポート無しで。

なら、企業にサポートがあり機体は完成していて、尚且つ専門的知識がある私なら完成まで持っていけるのではないか?姉にできた。姉だって人間だ。人間にできたのなら私にできない道理はない。

 

入学直前になって、政府から通達があった。

部屋の用意が間に合わない。少しの期間、同棲という形を取ってもらうことになるが、いいか?大雑把に言ってしまえば、そんな内容の書類だった。

私は、条件として織斑一夏ではない方と付け足して、政府へと送り返す。その後は了解の趣旨が書かれた書類が返ってきただけで、他には何の連絡も無く、私はIS学園に入学した。

そうして私は、学園に入学した今も開発を一人で進めていた。

 

最初は、驚いたが。その時は自分にとって邪魔でなければいいと、そう思っただけだった。

 

けれど彼は、今までのどの人間とも違った。

そこそこ有名だと思っていた私の家の事を知らなかったし、姉の事も知らなかった。

ただ純粋に、私に興味を持って近付いてきた人間は、初めてだった。

だから私は、彼に興味を持った。

彼は私と同じように、優秀過ぎる家族を持った、同じような境遇の持ち主だった。

彼は私に優しかった。

私は、そんな彼により一層魅かれた。

 

彼なら、私を理解してくれる。正しく私を見てくれる。そう信じている。

だから私は、こうして私の過去を話した。

 

 

 

 

 

 

Side 茅場 守流

 

 

 

「そうか………」

 

俺は、ベッドに腰掛けて。簪の過去について聞いていた。

そして、それを聞き終えての第一声が、それだった。

 

「よく、耐えてこられたな」

 

壮絶すぎる。予想を大きく上回る程の苦痛の嵐。自殺だって考えられるほどの苦しさの中、彼女は耐え抜き、ここまで生き抜いてきたんだ。俺に似た境遇はあるものの、その実は、彼女の方がずっとずっと強かであったことに、俺は自分の幸福さと彼女を見てきた数日間の自分を浅ましく思い、ただ後悔した。

 

俺なんかでは、彼女を癒せやしない。

想像を絶するとはまさにこのこと。自分の知らない痛みを、理解することはできない。それは想像上の痛みであって、実際に味わう苦痛とは比べられない程に軽いものでしかないのだから。

 

「辛かっただろう」

 

「可哀そう……とか、思ったでしょ」

 

「そんなことはない」

 

可哀そう、は俺の好きではない言葉だ。

その言葉は、相手を憐れむ物だ。自分を裕福であったと認め、相手が哀れな存在であると口に出して認める言葉だ。俺はどんな人間であれ、長所短所はあれど、哀れむ生き方をする人を見る目だけはちゃんとしてきたつもりだ。

 

「嘘だ……」

 

「嘘じゃない」

 

彼女の過去に、哀れむ要素は何一つとして無かった。

例え苦しみの嵐の中で生きてきたんだとしても、それは取り巻く環境が、彼女を正しく理解しようとしなかったものだ。

 

「俺は君を尊敬してるつもりだ。簪は俺よりずっと強い」

 

「嘘だ」

 

「嘘なんかじゃない」

 

「嘘だっ!!!!」

 

叫ぶようにして俺の胸ぐらを掴み、ベッドに押し倒して馬乗りになった。

普段の簪からは想像もできないような、感情的で暴力的なその行動に、俺は驚いて言葉を作ることができず、そのまま簪を眺めていた。

 

「茅場さん、だって…本当は…思ってる、んでしょう?私……か、可哀そう……だって」

 

「そんなことはない」

 

そう言いながら状態を起こそうとベッドに手を付いて起き上がろうとしたが、簪が制服の胸元を握ったまま押し付け、起き上がりかけた上半身がまたベッドに沈む。

 

「こんな…暴力的な私に…驚いてます、よね?……私の、本質…は、こんなもの……なんです」

 

だから何だと反論しながら押さえつけようとする簪の腕を払うことなく、起き上がる力を強めて上体を布団から離す。

 

「貴方も!!そうやって私に優しくして!!

 私が心を許すような素振りを見せたら便利な道具扱いして棄てるんでしょう!!!

 どうせ私なんて!!誰からも好かれない!!

 便利な道具程度にしか思われてない!!!!」

 

「いや、違う」

 

「違わない!!嘘なら誰だって吐ける!!!

 きっと私なんて!!死んだって誰も気にしない!!!その程度でしかな――――」

 

簪のその発しようとする言葉を遮るように。俺は胸元を掴む腕を振り払い、左腕で簪の制服の胸元を掴んで、今度は簪をベッドに押し倒した。

突然の衝撃に苦悶の声を上げて呻く。俺はそのままの状態で簪に問う。

 

「本当にそう思っているのか!!!」

 

簪が息を飲むのが分かる。

俺は深呼吸して、もう一度尋ねた。

 

「本当に………そう、思ってるのか?」

 

「そ、そうです!さっきのも、全部本心で―――――」

 

「なら、何で泣いてるんだ?」

 

「えっ―――――」

 

そっと指先を自分の頬に当てて、自分が泣いていることに気付いた簪は、流れ出る涙を拭おうとする。その涙を拭おうとするのだが、瞳から流れ続ける雫は止まることを知らず、拭えど拭えど、その涙を塗り広げるだけ。

 

「こ、これはっ…………ちがっ…………」

 

「本当は違うんだろ?見て欲しかったんだろ?正しい自分を。

 その姉ちゃんと比べられ続けて悔しかったんだろ?

 努力したのに、報われなかったのが悲しかったんだろ?」

 

ボロボロと、溢れる涙が勢いを増し、拭いきれなくなった雫がベッドのシーツを濡らしていく。

簪を押さえつける俺の左腕をどかそうと、簪は抵抗していたのだが、段々とその力も弱まっていく。

やがて、簪は俺の腕から自分の腕を離して、俺の背中へと両腕を回し、俺の胸にしがみつくようにして、堪えていた涙と嗚咽を大きくしていった。

 

「ほんっ…とう、は………見て………欲しかった………」

 

少しずつ、嗚咽混じりにくぐもった声が聞こえてきた。声がくぐもっているのは、俺の制服に顔を、体を押し付けているからだ。

胸ぐらを掴んでいた手はとうの昔に手放しており、俺はその手を簪の背に回して抱き寄せる。

 

「み、んな………が………お姉ちゃん……ばっかり………見て………

 正しく……見て欲し…かった…………比べないで…………私を………見て欲しかった…………」

 

「大丈夫……分かってる。悔しかったよな………悲しかったよな………辛かったよな………」

 

か細い簪の身体を抱きしめる力を少し強める。それだけで簪の身体が軋みを上げて折れてしまいそうなほどに華奢なその身体に、どれだけの苦しさを背負ったんだろうか。

 

それを考えただけで、俺の瞳もまた潤みを帯び、抱きしめる力が強くなってしまい、簪が苦しそうな声を上げて、俺はそこで無意識に力を込めてしまったことに気付き、腕の力を緩めようとするのだが、それを簪が制止した。

 

「やめないで……もっと……強く………逃がさないように………逃げられないように…………」

 

そう言って簪も抱きしめる力を強めた。俺は力を更に強めることを望まれた。だがこれ以上力を込めれば、本当に簪の身体が折れてしまいそうで、今でさえ少し苦しそうなのに………と躊躇ってしまう。

だが、簪からの願いを断るのも気が引けて、これを断れば、簪はまた心を閉ざしてしまうのではないかとも考え、俺は少し、ほんの少しだけ、抱きしめる力を強くした。

 

「ぅ………っ………んっ…………ありがと……」

 

苦しそうに呻くけれど、簪は幸せそうな笑みを浮かべて、そんな言葉を口にした。

その言葉を聞いて、俺は……簪の苦しさを少しでも軽減できただろうかと考えて、抱きしめる腕の力を少し緩めた。

それから長針が2の時を刻むまでの間、抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

抱きしめあっている内に、今日の日の疲れが滲み、微睡みに視界がぼやける。肌の感覚も鈍くなっていき、まるで簪と溶け合ってしまったかのような、温もりの一体感が、眠りの沼に半分沈みかかっている俺の意識をさらに鈍化させる。

 

けれどもそれは簪にも言えたことで、彼女の瞳も少し瞼が重たげに垂れており、呼吸も浅くなっていく。

 

このままでは、簪を抱きしめたまま、制服から着替えもしないままに眠ってしまう。そう思うのだが、俺はこの温もりを手放したくなかった。

それは簪も同じなようで、背に回された細腕を更に伸ばし離そうとしない。

 

(ああ……もう………このまま………でもいい、か……………)

 

段々と視界が暗くぼやけていく。

そんな微睡みの中、先に夢の沼へと沈んだのは簪だった。

意識が肉体を離れる寸前、簪は寝言のように言った。

 

「茅場……さん…………すき………です………………」

 

そんなことを言って簪は、幸せそうに眠りについた。

だが、一方で俺も意識の限界で、簪に意識が残っているかも確認することなく、腕の中で幸せそうな眠り姫に、俺も一言。

 

「簪………おれ、も……………すき……だ…………」

 

それだけを言い残し、俺も意識を微睡みの濁流の流れに委ねた。



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