死ねない女の奉仕(笑)物語 (エステバリス)
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いっこめ 出逢えよ運命



特に語ることがないです! 語るとするならこの物語が性悪女がロリショタをたぶらかした結果大変なことになるってことですかね!




 

 

貴方方は信じるだろうか。世の中に人なら誰しも一度は憧れてみたりするものを持っている人がいたとすると。その人がよしんば、それを疎ましく思っている事を。

 

多分、実際に見れば解る。お金持ちはお金持ちなりに悩みがあるのだから。

 

……能書きはいい。なにを言いたいのか言ってやろうじゃないか。

 

「それにしても奇跡の領域を越えてますね、ミルフィーユさん。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あっはっはー……身体の頑丈さには自信がありますからね。それに駅に入る直前だったので速度も言うほど出ていませんでしたし、原型とどめないくらいめっちゃくちゃにならなかっただけ御の字ですよ。カメラは砕け散りましたけど」

 

「はぁ……いずれにせよ運よく拾い直せた命なんですから、暫くは絶対安静ですよ。それになにアホなことやってたんですか。新幹線のレールに一番近い電柱に登って新幹線撮影してたら足を滑らせてレールに乗って轢かれるって。本当になにやってたんですか」

 

「マジですみません……あの、絶対安静って具体的には何ヵ月くらい……」

 

「四年はくだりませんね」

 

「Oh……」

 

そう、ワタシは端的に言うと死ねないのだ。これまで戦車や馬に轢かれたこともある。火炙りになったこともある。ついでに言うと身体を真っ二つにされたこともある。

 

だが死なない。普通死ぬとか、死なないと生命体じゃないとか、そういうレベルの仕打ちを何度も受けてきたが、ワタシことミルフィーユが死んだことは一度としてないのだ。

 

まぁ身体が治るのに実際は四年も必要ないだろう。というか数週間で全然十分だ。しかしまぁ諸事情につき定住のない(家自体はある)ワタシは暫く病院の御厚意に甘えさせていただくのでした、まる。

 

◆◇◆

 

そもそも、ワタシがどういう人間なのかを綴っていなかったことを思い出した。ワタシの名前はミルフィーユ、姓はない。あのおいしいおいしいスイーツと同じ名前だ。ワタシスイーツ大好き。とても嬉しい。

 

しかし、語ろうと言ったものの、困った。ワタシは忌々しいアンチクショウのせいで━の事を語れないのだ。語ろうとするとアンチクショウの術の影響で脳味噌が震え、言葉にノイズが走るせいでワタシは━━━━だった頃の事を語れない。語れるとするのなら、ワタシが━━━━だったと知った上で━の名前を呼ばれた時だ。

 

ああ、五月晴れが憎々しい。

 

とりあえずあれから何日かして、暇になったので病院の方々は皆様ちょちょっとあれこれしてワタシに関する記憶はグッバイさせたので、ワタシは治りはじめの身体を動かしてそこら辺の公園で家でも広げようかなぁと、思っていた矢先━━━

 

「ほらイッセー、こっちだよ!」

 

「待ってって! イリナ~!」

 

「━━━!」

 

眼と眼が合う瞬間なんとやら……というわけではないが、二人の幼子がワタシを通り過ぎて行った瞬間、とても懐かしい匂いがした。

 

この匂い、間違いない……! アイツの匂いだ! どっちだ、先を行ってる子か? それとも追い掛けてる子か?

 

そこまで認識した瞬間、━の感情はここ最近の内で最高潮にまで昂ったのを感じた。

 

「━━━ちょっと待って! そこの幼子二人!」

 

その時、ワタシはらしくもなく━━━━だった頃のような獰猛な目付きをしていただろう。思わずワタシは今駆け抜けていった彼らに声を描けてしまった。

 

自分達の事であると理解した二人の子供はクルッと振り向いた。

 

「おねえちゃん、なに?」

 

「いっしょにあそびたいの?」

 

あ、ちょ、ムリ眩しい! 幼児達の眩しい笑顔が確実にアカン事をしようとしてるワタシの心の奥底にぶっ刺さる!

 

しかし━のこの感情は抑えられなかった。未だ無垢な子供達の中に眠る獣の力を解き放ち、その行く末を俯瞰する……それは━━━━だった頃からもそうだし、ワタシも度々抑えられなかったのだ。

 

だがこれは、ああ、抑えることすら億劫だ。抑えてしまったらワタシは死ぬ。それくらいの昂りだ。

 

「うん、お姉さんキミ達と一緒に遊びたいなぁ。お姉さん、キミ達みたいなちっちゃい子と()()()するの……大好きなんだよね」

 

こういう小さな子は頼めば折れる。純粋であるが故に純粋な悪意も純粋な善意も、どれもただ『本気で頼んでいる』という風にしかとれないのだ。

 

「んー、どうするイリナ?」

 

「んとね、それじゃおねえちゃん、イリナとイッセーのぶかね!」

 

「はいはい、了解ですイリナちゃん」

 

「ダ~メ~! へんじはさーいぇっさー!」

 

「さ、Sir Yes sir」

 

「よろしい!」

 

さぁ、幼子解体ショーの始まりや。

 

◆◇◆

 

さて、それから一ヶ月くらいは二人の部下をやってるふりしてあれやこれやと猿知恵を働かせて二人に特訓を課していた。小さな子は純粋なので乗せやすいぜ。

 

飴ちゃんやスイーツ、超カッコいいロボットの模型(塗装済み)といったものをネタにすればアッサリ釣れる。ちなみに自作です。

 

やれレオ◯ルドンが欲しくば激流に身を任せどうかしようとか、子供がいかにも好きそうなス◯ライクフリ◯ダムだとかを求めるならば探せ、そこに全てを置いてきただの、様々な方法を使って二人、イッセーくんとイリナくんを教育してきた。

 

そしてそう、一ヶ月だ。一ヶ月してようやくその時が来た。

 

「え、ええ~!? ね、ねぇおねえちゃん、このてなに!?」

 

『ほぉう……今代の赤龍帝は結構な速さで目覚めたな……しかし、この歳で赤龍帝になるのは、苦労しそう……ん?』

 

「すごいすごい、イッセーすごい! カッコいい!」

 

そう、イッセーくんにはある力が眠っていたのだ。それは今の時代、神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれるもので、その名は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。ある偉大なものの魂の宿る、それはそれは大層立派な籠手なのだ。

 

「ようドライグ、久しいね。ワタシの事覚えてるかい?」

 

『……なるほど。()()()()()()。今代の赤龍帝がこんな頃に目覚めたのはお前の仕業か』

 

「ま、そんなところさ。ちなみにワタシがキミを目覚めさせた理由は━━━」

 

『特にない、だろう? この愉快犯め』

 

「あっはっはー。正解正解。ああ、でもこの子達と会ったのは正真正銘偶然だぜ? 眠ったままのキミが愉快で奇怪で仕方なく、ね? それにしてもワタシが関わっていたことはわからなかったのかい?」

 

『目覚めるまでは相棒の内部以外の情報は全てシャットアウトされるからな。相棒も幼いせいで難しい外部情報は中に入れる前にカットされているのだろうな』

 

ワタシと籠手、ドライグが楽しそうに喋っているのを流石にイッセーくんとイリナちゃんが横槍を入れてきた。

 

「ね、ねえおねえちゃん……イッセーのてにあるのなに!? イリナにもでてくる!?」

 

「そうだよおねえちゃん! これとれないよ!?」

 

ああ、近所迷惑だからあんまり泣かないで二人とも……まるでワタシが幼児誘拐の実行犯みたいじゃないか。

 

『そうだな、相棒。俺についてのこととコイツについてのことを教えねばならないな。なにせお前は図らずして赤龍帝の器となってしまったんだ。こればかりは運が悪かったと諦めろ』

 

「ドライグ、イッセーくんらは幼いんだから、もう少し解りやすく言ったほうがいいと思うけど」

 

『それを要約するのがお前の仕事だ。こんなことをやったのなら責任はとれ』

 

はいはいわかりましたよぉ、とやる気三十パーセントくらいで返す。ワタシの態度を見たドライグは露骨に舌打ちをしてからイッセーくんとイリナくんに可能な限り優しく、語りかけるような口調で話し始めた。

 

『いいか相棒、そしてそこの子供。俺は赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)ア・ドライグ・ゴッホ。そしてそこにいるそいつはミルフィーユ、かつて甘毒の龍妃(トリーズン・ドラゴン)セアダスと呼ばれた元・ドラゴンの人間だ』

 

ああ、ようやく、ようやくです。「私」の名前、呼んでくれたね? 赤龍帝……

 

 






そんなわけでいっこめでした。この性悪女、こう見えて不憫系なんだぜ……?



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にこめ やれよ解説



完全なる解説回ですゆえ、にんにん。




 

 

「━━━夢、か」

 

目を覚ました俺は思わずそう呟いた。今から数年前、ドライグと出会って、彼女にこの道に引きずり込まれる理由になったあの日の夢を見た。

 

『起きたか相棒、ミルフィーユに言い渡された特訓の為の起床時間はもう過ぎているぞ』

 

「マジか……やっべぇ。ミルねぇに知られたらどうなるか解ったもんじゃないな」

 

『まぁその時はその時だ。ヤツは気分屋だからな』

 

ドライグの声を聞きながら寝間着からジャージに着替える。ミルねぇに改造された自室に備え付けてある洗面台で歯磨き、顔洗いと一通り済ませて下に降り、パンが三枚入った袋を持って一枚咥えながら家を出る。

 

「ドライグ、今日何曜日だっけ」

 

『金曜日だな。発展能力強化指南だ』

 

「うげ、よりにもよってそれかよ……」

 

準備運動を済ませ、溜め息混じりに走り始める。他に考える事もないので、俺は適当にミルねぇに色々教えられた日を思い出す事にした。

 

◆◇◆

 

『ヤツの名は甘毒の龍妃(トリーズン・ドラゴン)セアダス。記録に存在する事のできない、智謀の龍』

 

「その通りですドライグ! ワタシ、いえ私こそがアナタの天敵にして抑止力、三大勢力の不倶戴天の敵! お菓子好きの綺麗な鉄ヲタお姉さんミルフィーユとは仮の姿、私の真の名はアナタの言う通り、甘毒の」

 

『長い』

 

「いけずぅ」

 

まぁ実際ワタシも長すぎると思いましたけどね。私の本能がアナタと出会えた事が嬉しすぎたのです。許してください。

 

「とはいえドライグ、私の素性をこの子達に語ったとしてもワタシはドラゴンはおろか、三大勢力についてすら語った事はありませんよ? いきなりその話をするのは早計ではないのでしょうか」

 

『む、そうなのか……』

 

完全にイッセーくんとイリナくんをおいてけぼりにしてドライグとお喋り。私をよく知る人達の中でもドライグは私が天敵という事もあり比較的対等に扱ってくれるから大好きです。

 

「お姉ちゃん……意味がわかんないよ」

 

「いや、あっはっは。ごめんごめん二人とも、今からしっかり説明するからね。……事実だから笑ってもいいけど、しっかり受け入れるよーに」

 

「「はーい」」

 

よろしい。幼子は正直だからおねーさん大好きです。

 

「では……こほん、まず二人とも。天使、悪魔、堕天使って知ってます?」

 

「知ってるよ、パパがきょーかい? のせんしさんなんだよ!」

 

おおう、マジですかイリナくん、ワタシ初耳ですよそれ。一方イッセーくんはいい人とわるい人! というような印象しかないようで、説明のし甲斐があるというもの。

 

「なるほどなるほど。では説明しましょう。イリナくんも復習がてら聞いてくださいね、いいですかイッセーくん」

 

二人のはーい、という返事を聞いておねーさん悶え死にそうです。ピュア最高、できれば二人ともずっとこのままでいてもらいたいものです。

 

「ではまずイッセーくん。天使とか悪魔とかはゲームの中の存在だと思っているでしょうけど……マジでいますよ、悪魔とか」

 

「え? そうなの?」

 

「ええいます。私やドライグはその天使や悪魔の大敵、ドラゴンです! あのカッコいい龍ですよー」

 

「お姉ちゃんが? ぜんぜん見えないけど……」

 

「いいんですぅー、ワタシは諸事情で今はニンゲンだからしょーがないんですぅー」

 

まぁ確かに、籠手に成り下がったドライグとニンゲンに成り下がったワタシではドラゴンらしさなど粉微塵もないのは事実です。うん、説得力ない。

 

「そうですね……じゃあ、ドラゴンとまではいかなくともワタシが普通の美人おねーさんじゃない証拠を見せちゃいましょう。そこの不思議なポッケで解決してくれそうな土管を御照覧あれ」

 

ワタシが指指した方向に二人は注目する。ワタシ自身もその土管に目を向けて左指を弾く。すると━━━

 

「え?」

 

どちらが声を挙げたかはワタシにはわからない。イッセーくんかもしれないし、イリナくんかもしれない。あるいは両方?

 

これを使うとアンチクショウの呪いのせいで耳がおかしくなる。声の混濁━━━声が意思を伝える信号から単語の羅列に変化する、と難しく言えるだろう。

 

ともかく、これで二人はワタシを少なくとも普通のニンゲンではないと理解しただろう。先程まで注目の的であった土管は見る影もなく粉々になっていた。

 

「ワタシのいくつかあるうちの一つ。圧壊……これが一番直接的だから使ってみたけど、どうです?」

 

「すごいすごい!」

 

「俺もやってみたいな! お姉ちゃんみたいになれればできる!?」

 

「いやはは、それは素質次第ですよ。ワタシだって好きでこんなことできるわけじゃないんですからね」

 

いやー参ったなー! 小さい子に慕われるってすごくいい気分だなー! 楽しいわーもっとイロイロ教えてあげたいなー!

 

「ま、それはそれとして。イッセーくんのその籠手に眠った龍、ドライグの力は冗談抜きで凄い。ワタシのなんかよりも何十倍もの力が秘められているんだ」

 

しかしワタシは一転して真剣な風貌になる。お父さんが教会関係者とあればイリナくんにも選択の猶予は回ってくるだろうが、イッセーくんはドライグを宿した以上否が応でもこっちの世界に来てしまう事になる。

 

ワタシはドライグが大好きだし、ワタシを慕ってくれているこの子達も大好きだ。だからいつになく真剣な表情で二人に話し掛ける。

 

「それにドラゴンは不思議な事に『力』を集める傾向がある。それは本人の意思に関わらないけど、私もかつてその力を使ってイロイロやったからね、あるのは確実だ。つまりイッセーくん、キミはこの先必ず力を持たないといけない」

 

だからワタシはキミが死なないようにキミを育てようと思う、とも付け足す。

 

「イッセーくん、どうだい? キミはいつか強くならなきゃいけない。それが今日とも明日とも、何年後とも限らない。だったらその日がいつ来ても笑い飛ばせるように━━━強くなってみないかい?」

 

煽るような口調。小さな子供には自主性を重んじさせる事が大事だ。それが好きなこととか、やらねばならない事であってもそうやって自分から取り組まないと飽きてしまう。あとそんな鬼みたいな事を出会って一ヶ月の女性に強要されたという事実について数年後詰め寄られると強く出れないし。

 

イッセーくんは小さく、でも確かに力強く頷いた。うんうん、若い子はこうじゃないとね!

 

「イリナくんはどうするんだい? キミが望むのならおねーさん、特別に特訓してあげるよー?」

 

「やる! イッセーよりずっと強くなる!」

 

「いい返事。それじゃあまずは夕日に向かって、ゴーwestゴー!」

 

『……コイツ、明らかにドラゴンだった頃より人生楽しんでるよな……』

 

 






やりましたよ解説(サブタイにセルフツッコミ)


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