薪の王は機械の世界で何を見る (氷那)
しおりを挟む

王は、新たな命の息吹を知る。

ネタです(迫真

薪の王が強くてニューゲーム的な感じのアレです。
すいません思いつきだったんです!ダクソ3やってたら思いついちゃったんです!

おらは悪くねぇ!おらは悪くねぇ!!

そういう系が苦手な方はBB推奨です。


私は、数多の先代薪の王たちを屠り、自らも同じように『始まりの火』を継いだ。

心は疲れ果て、肉体も傷つきながらも自分という魂と骸を捧げて、火の時代の延命に命をついやした。

 

そう『延命』なのだ。

 

数多の王の火継ぎによって、この世界はからくも暗黒の時代から逃れてきた。

強者たちが殺し殺され、その中でも、一際強く火の輝くものが王たちの試練を突破し、継いできたのだ。

だがそれも、もう限界に近いだろう。

旅しているあちこちで、驚異の変化を遂げた亡者を見てきた。

体そのものが変化し、元がなんだったかのかさえ予想がつかぬものなど五万と。

 

もう、何が望みだったのか、何を思って再びこの火の無き灰として立ち上がったのか分からぬ。

 

これは恐らく呪いなのだろう。きっと、火継ぎというなの呪いなのだ。

ダークリングという枷をつけ、不死の使命という指標を掲げ、火の時代が途絶える事がないように。

死にすぎたものはやがて理性を失い、ただ殺し合うだけの獣と化した。

私を覚えているものなど、もう片手の指で事足りる。

ざっと考えるだけで、不死の鍛冶師と火守女あたりだろうか?

他は、最後を見ることが出来なったり途中で別れてしまったからな。

 

火が体を伝い、全身を包んだ。

 

_____そうか、終わりか。

 

風にあおられ、火の粉が舞う。

それを目で追いながら、ただ、それだけが心に残った。

王の火継ぎの祭壇は、空が良く見える。

太陽に覆いかぶさるように佇む月は、その輪郭から太陽の輝きを漏らし、まるでダイヤモンドリング《ダークリング》のようだ。

なんという皮肉だろうか。

 

理不尽に課せられた使命を解くために、甚大な犠牲を出して迎えたこの結果が、また新たな不死人を..........火の無い灰を作ることになるとは。

いや、だからこそこれは呪いなのだ。

誰かがこの祭壇に絶望を、暗黒の時代をくべれば何かが変わるのだろうが、そこはもう私の知る世界ではないだろう。

アノール・ロンドでもない、ドラングレイグでもない、ロスリックですらないのだろう。

 

_____時間だな。

 

やがて、燻っていた『始まりの火』は、≪私≫という薪を得たことで煉獄のように燃え盛り、世界を、光りの中にへと引きずり込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし......もし、次もまた、≪私≫として世に生きることが出来るならば............_____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

_________『幸せ』という感情を、知りたい。

 

 

 

 

 

 

 

         ▲▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▲

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、世界が光に飲まれていくところを、地に腰を落ち着けながらみていた。

少し経てば光はすべてを飲み込み、ここからでも見えていた暗き穴を消していった。

このまま火の光に照らされるのかと思いきや、突如襲ってきたのは全身を覆いかぶせたような硬い感触。

視界の一片さえもが閉じられた空間では、やれることなどだいたい決まってくる。

手で触れ、耳で聞き、神経を針のように研ぎ澄ます。

感触は石。どうやらけっこう昔に作られていたもののようだ。所々苔のようなものがある。

とても狭い。横にも動かせぬし背後にも向けぬ。防具の重りの向きから、私は仰向けに寝ている状態のようだ。

 

ふと懐かしい思い出と、この現状が妙に重なっているような気がした。

まるで、

 

_____私が、蘇った時と同じではないか。

 

腕を前に押せば、ふたが開くような気配と眩い光。

完全に除けてみれば、そこは綺麗に刈りそろえられた丘の頂点。

周りを見渡せば、視界いっぱいに広がる十字の石柱の数々。

 

_____ふむ......そうかそうか、ここは墓場か。

 

前後左右、私のと思われる墓を中心頂点に墓の山が出来ている。

 

_____少なくとも、敵の気配は感じない......か。

 

_____アイテムもほとんど持っているようだ。木箱に入っている一部の物は無かったが、まあ仕方があるまい。どれ、あてのない旅とやらをしてみようか。

 

どちらがどちらか分からぬまま、歩を進める。

 

こうしてかつて極致の王と呼ばれた哀れな人物の旅が始まった。

 

 

時に、石でもない鉄でもない何かで作られた町に不法侵入?とやらで、腕・脚・頭部しか守っていない、空飛ぶ女子と逃亡騎士として戦闘したり。

 

時に、渓谷で私の荷物を持ち去ろうとした盗人を雷の槍で返り討ちにしたり。

 

時に、世紀末を名乗る荒くれ者らしき者たちに囲まれたがゆえに、火炎噴流で焼いたり。

 

 

戦ってしかいないとはいってはいけない。

それは、どこにいても戦闘になるほど世界の治安がしっかりしていないことが窺えるし、それにこの世界ではどうやら、女が上位者らしい。

空飛ぶ女子がそういっていた。やけに好戦的であまつさえ私の友人たちすら嘲けたがゆえに、天使の光柱で叩き落としてやった後、黒騎士の剣を首に突き付けて脅したら勝手に話し始めた。

脅すと言ってもただ血みどろの刀身を目の前で見せつけただけである。

 

何となくこの場所と現状が分かったので少し整理してみようと思う。

 

1.この場所は『いぎりす』というらしい。少なくとも私の知っている土地ではない。

 

2.全身鎧甲冑にマントの不審者が、国境?を無断で越えようとしたために捕まえようとしたところ、私に抵抗されて返り討ちにされたのだとか。私がとやかく言われるのはいいが、友を馬鹿にされるのは実に不愉快だ。暗き森の庭を守る石兵の軍隊をけしかけてやろうかと思ってしまった。

 

3.この世界では、火継ぎも、薪の王も、それどころか亡者すらいないという。銀・黒騎士達はもちろん、しゃべる猫、賢き巨狼、白竜や女神らもいないそうだ。どれも原本不明の神話に登場するものであり現実ではないとも。これにはさすがに私も驚いてしまったが、これまでの戦闘で会わなかったことで納得した。

因みに、『廃人』という極めて亡者に近い存在はいるようである。

 

 

先の女子から別れて以来ずっと、何者かの視線を感じている。

周りには何もないし何かありそうという点では、空か地下位なものだが、そんなものエルドリッチや無名の王でもあるまいし...........

 

 

   

    そう思っていた頃が私にもあった。

 

 

ひとたび歩けば細長く伸びた強化型黒・火炎壺が投下され、ひとたび眠れば次の瞬間は石化の毒霧で囲まれているか、蝕む毒の沼が出来ているか。

そんなことが何日もたて続けに起こった。

そのせいだろうか、頭の判断が鈍っていた私は、はるか遠方の空が奇妙に歪んでいるのに気が付き、ソウルの奔流で空飛ぶ何かに風穴を開けた後、墜落したところに苗床の残滓をいくつも投げつけた。

 

「えっ、ちょっ、まっ............」

 

なんて言葉は聞こえなかった。

 

幾分か気持ちが爽やかになった。疲労は盛大に発散させるといいと言っていた、カタリナ騎士の彼は正しかったのだと今思う。

だがしかし、厄介ごとはどうも私から離れようともしてくれないらしい。

 

地下から巨大な機械仕掛けが襲ってきて速攻で煙の大剣で叩き潰したり、どこか『黒鉄の騎士』を思わせる人型が景色を覆い尽くすほど現れ、混沌の嵐で周囲を焼き払ってからの、双王子の大剣で焼いて刺して全滅を繰り返していたら、急に襲撃が止まった。

 

一日今までのことが嘘のように静かで実に有意義な日であった。

 

日も落ちて簡易の寝床で横になって眼を瞑っていたら、巨大な塊が風をきってこちらに向かってくるのを感じた。

すわ何事!?と思いきや、目の前で動きが止まり一人の女が険しそうな顔を浮かべて出てくる。

 

裾の長い白い布に、なぜか頭にウサギの耳をはやした女は、こちらを毅然とにらみながら言った。

 

 

「あんた.........一体何者?」

 

 

どうやら私が望むものは、いまだ遥か遠くにあるようだ。




誤字脱字などがあれば教えてくれるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、正体を明かしその中の真意を見出す。

お気に入りや、感想、ご指摘ありがとうございます!
モチベーションが上がって、書き上げました。

今回は、短いですがそこは許していただけるとありがたいです。



「あんた.........一体何者?」

 

肌に刺さるような殺気を放ちながら、ウサギ耳の女は口を開いた。

この現状は、本当のことを話した方がいいのだろうが、私の正体である『薪の王』は、神話の中の架空の人物である。

本当のことを言ったところで、頭が蝕みにやられた奴としか思わないだろう。

ではこの状況をどう覆すか。簡単だ、実に簡単だ。

 

 

_________戦略的撤退あるのみである。

 

 

ハベルの指輪2、寵愛の指輪2、狼の指輪2、カーサスの乳環を装備して、ウサギ女に背を向けて全力で走り出した。

たとえここで舌論に移ろうとも、相手は恐らくそういったことの達人あたりなのだろう。どういうわけか、そんな感じの気配が体から漏れ出している。

 

こちらには、それを打破しえるほどの技術も手札もない。敗北は必然である。

この行動には驚いたのか、目を見開きながら立ち尽くしている。

が、すぐに立て直したのかいつの間にか手にした装置を握ると、いつか見た人型の群れの数倍という数が目の前に現れる。

 

今度は私が驚く番だった。

一体どこにいたのかとか、何故前の時より増えているのかとかいろいろ聞きたかったが、ようやく分かった。以前返り討ちにした女が言っていた、この女尊男卑の世界を作り上げた張本人。確か篠ノ之束といったか?のが多すぎて舌を咬みそうな名前だ。

 

咄嗟に装備したファランの大剣の剣技で、目の前で剣を振り降ろしていた人型の背後にすべり込む。突然私の姿を見失った人型は、もう一度私の姿を見ることなく体と足が死に別れ、土埃を巻き上げて倒れた。

 

今回は相手の挙動がたまたま見えたからよかったものの、今は星の輝く夜。

今のところは何とか避けて反撃しているが、それがいつまで続くか分からない。

 

「あーんもう!なんで玉ねぎみたいな鎧つけてるくせにそんなちょこまかと.......!いい加減に捕まれ!!!」

 

玉ねぎとは失礼な!誇り高きカタリナ騎士の鎧を侮辱するとは!!

ジークバルトとジークマイヤーが聞いたら、一瞬にして人型を殲滅してしまうだろう。

しかし、いま怒りに身を任せれば思いもよらぬことになる、静めろ、静めろ......。

 

というよりか、ドラゴンの下半身付の奴が溶岩の海でおいでおいでしてるのに突っ込むアホはいない。まだ若かったころはがむしゃらに突っ込んで即死キックを喰らって篝火に戻ったのはいい思い出だ。

つまり、自ら捕まりになど行くわけがない。

 

七色石をそこらじゅうにばら撒きつつ、その中を走り抜ける。七色石の輝きが見えなくなれば、その瞬間に奴らが近くを通った証拠になる。

前後左右から襲い掛かる敵を、墓王の剣で薙ぎ払いながら一心に走る。

やがてそこらじゅうにあった気配が引いていき、ちょうど前方、私の進路方向に一つだけ気配が残っていた。

 

警戒しながら進むと、腕を組み、仁王立ちしているウサギ耳の女が。なぜかしてっやったとでもいうような顔が腹が立つ。

というより走ってた私より先にたどり着いたのだろう。私が焦っていたのもあるが、感じ取れなかったということは、かなりの隠密能力があるとみてもいい。それに、ジグザグに走っていた私の進路を特定するなど、至難の業だ。

 

内心で跳ね上がる危険度よそに、ウサギ耳の女が口を開いた。

 

「ホントに何者なの?出来そこないとはいえ、代表候補生くらいなら一機で潰せるんだけど......それを一人で....あの数を殲滅なんてたかが鎧を着たくらいじゃ出来ないよ」

 

気付けば、周りを人型に囲まれていた。

今までとは一風変わった、カーサスの剣士のような軽装装備の敵だ。

 

「お前はイレギュラーなんだよ、やりすぎたんだ。世界最強はちーちゃんなのさ。お前じゃない。お前ほどの技量の持ち主ならばこんな腐りきった世界なんかでも上の方の人間になれるはずだ。たまたま見た地上で、ISと人間が戦っていたからね、この束さんも興味が惹かれたよ」

 

みていたのか、ならばなぜ......いや、だからこそここまで私を殺そうとしているのか。見たことのない戦闘方法、見たことのない武器、情報はたくさんあったな。私がそれに気付かなかっただけで。

 

「お前は倒した。たかが公式の警備兵とはいえ生身で勝利した。お前の動きは戦う人間の物じゃなかった。ただ相手を殺すことだけを考えた、実に合理的で、実に滑らかな動きだったよ。あきらかにあのような『対人・対物戦』を前提に立てられたものだった」

 

それに______

 

「それにあの光の柱。光が地球上の物体に物理的な干渉が出来るなんてありえない。なんど解析しても、お前のような現象は起きなかった。手に金属すら溶かし尽くすほどの炎を球体に保ったまま『投げつける』など、炎を一つの固定化概念としての前提でしか考えられないんだよ。その手には火傷も損失も何も起きてないのに」

 

「それだけじゃない、地面から噴き出した焔海も地面に活火山のような地脈が走っているわけでも無かった。お前は無から有を生み出したんだ。この世界では何かの前提代償がなければ何も起きない。この束さんの最高施設の技術をフル活動させても全く分からなかったんだ。この『天災』をもってしてだよ?」

 

「もう一度聞かせてもらおうか。お前は__________何者だ」

 

視線だけで私を殺そうとするかのように、鋭い目つきで睨んでくる。

私はこの視線を一度だけ見たことがある。かつて私が斃した『罪の都』の薪の王、巨人ヨームだ。

 

彼は、かつて罪の都に大侵攻があった時、背で震える民を見て、目の前の侵略者たちを力の限り睨みつけていた。思わず神もたたらを踏むような咆哮を上げ、大鉈と大盾をてに真正面から突撃した。彼はたった一人で侵略者を蹂躙し尽くしたが、手には大盾がなかった。

 

己を助けに来た友を守れなかったのだと、彼はそういった。

それ以来彼は盾を捨て、大鉈に両手で持てるように改造し、防御を捨てた。

その時の彼の眼と、女の目がどこか似ていて........。

 

気が付けば私は名乗っていた。

火継ぎの装備に切り替わり、火の粉が舞いあがり、そしてそれは、文字となって表れた。

 

_____彼の者に負けずとも劣らない覚悟を持つ者よ。許せ、いまだ名を名乗っていなかった。

 

女がより深く警戒をあらわにする。

宣言し言葉を伝えるには無粋の者を、始まりの剣___螺旋剣___で焼き尽くす。

 

自らの身を媒介にして火の粉を散らすその姿は、まさしく薪そのもの。

 

 

_____名も無き都が主、二つ名を『極致』.........孤独で哀れな薪の王だ。

 

 

不死の呪いを受けたものとして、終わりなき使命を背負ったものとして、不死隊の儀礼にて、私は静かに名乗りを上げた。




光り云々、ヨーム云々はオリ設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、未来の強者に懐かしき面影を見る。

人間性捧げた直後に死んだときって、何とも言えぬ感情が湧きあがるんですよね。
残り火使った直後に侵入されたときって大体瞬殺されるんですよね。

感想を頂いたときって、なんだか無性にはしゃぎたくなるんですよね。

というわけでまたやりました。




「ま、薪の......王...?それは神話の中の存在じゃ........」

 

ウサギ耳の女の目が大きく見開かれる。

 

女が動かなくなったその背後から、突然何かが物凄い速度で迫ってきているのを感じた。どう考えても友好的な気配ではない何かが。

その何かはウサギ耳の女に近づくと、手に持った得物で切りかかった。

細長く、突き刺すことに特化したエストックのような物。

 

さすがに目の前で人が殺されるのを黙って見ているのは気持ちが悪いために、未だ動かない女の手をつかんでこちら側に引き寄せ、もう片方の手で相手の得物を受け取る。

確かに一撃が重いが、四騎士の処刑人と比べればまだ軽い。グッと押し返して引き離すと、腕の中にいる女に話しかける。

 

_____後ろで見ているといい。王の名が嘘偽りでないこと......証明して見せよう。

 

返事を待たずに敵に向き合い、真っ向から勝負を仕掛ける。

相手は、私をウサギ耳の女の護衛か何かと勘違いしたのだろうか、同じように真正面から突っ込んでくる。

 

月光に照らされた敵の姿はさしずめアラクネ、こいつも女のようだ。

この姿を見たとき、一瞬蜘蛛姫が脳裏をよぎったが、あの娘たちは衣服を着ていなかったから、明らかに違うとわかった。

 

余談ではあるが、蜘蛛姫の姉妹と話しているときに、なるべく体を見ないようにして話していたのだが、それに気が付いたクラーグが微笑ましいものを見たように笑いかけてきて、とても恥ずかしい気持ちになったのは、今もなお鮮明に覚えている。

 

この状況、何も知らぬ者なら絶望するだろうが、しかし、そのような強敵、混沌の苗床と私は以前戦うことがあった。

 

もし同じ蜘蛛なら弱点を知り得ている。混沌の炎が飛んでこないだけで随分楽になるだろう。

心の臓を狙った鋭く突き刺すような一撃を受け流し、続く一撃を前転することで回避する。起き上がりざまに僅かに硬直している脚に一閃。

二本同時とはいかなかったが、一本を斬り落とすことが出来た。

 

なんて脆いのだろうか、蜘蛛姫はそこらの剣では傷一つつかぬ強固な皮膚を持っていたのだが。

なかなか当たらない攻撃に痺れを切らしたのか、攻撃がだんだんと単調になってきた。攻撃も初撃の方がまだ重かっただろう、もう最初の強者としての余裕が消え去ってしまっていた。

 

_____愚かな......恐らく自らよりも弱き者たちを狩ってきたのだろう?強者とは、何時なんどきも強者たらんとしてなければならない。

 

途端、相手の動きが鈍くなった。

 

_____なぜなら、それが、強者が強者たる由縁だからだ。より強きものに挑み、そして下して見せろ。それが出来ぬのならお前はもう強者でもない。ただの臆病者だ。挑み続ける意思を失ったお前は、すでに強者ではない。

 

語りながらも、何度も刃を交えた。

切り刻み続けた体はもう会った時の原型などほとんど残していなかったが、目は、目だけは諦めたような色を微塵も見せない。

 

_____その身に刻め、これが、強者としてあるべき姿だ。

 

私の体に残り火の火が灯り、火の粉がとめどなく溢れ空へと立ち上っていく。

螺旋剣はより一層炎の揺らめきがまし、炎の剣といっても過言ではない。

敵の体に刻みつけるように十字になるように叩ききり、反対に、下から持ち上げるようにしてクロスに切りつける。

 

豪炎が周りを焼きつくし、余波によって空間が歪む。

 

倒れた体に剣を突き立て、溢れんばかりの炎を開放する。

竜の火炎のように爆発する炎は、私たちを中心に円を描いて広がっていく。

少しばかりあった緑は、先ほどの炎で焼け落ちてしまった。

 

敵はもう動かない、だが死んでいるというわけでもない。

脚は一本を残して他は切り落とされ、深い紫と赤色のボディーは、刻まれた傷によってその輝きを失っていた。

 

しかし、私を睨むその眼は俄然勢いを弱めない。

 

_____いい目をしている......強くなれ、蜘蛛姫の面影を残す者よ。強くなって私を殺しにこい。

 

奥の方から、もう一機が近づいてくる。

その機体は私には目もくれず、目の前で横たわっている女に必死に話しかけていた。

遅れて返事が返ってくるとよほど安堵したのか、ため息が漏れていた。

 

耳に手を当て何事か呟くと、ようやくこちらを向く。

静かに向けられる視線には、その裏に猛々しい思いを秘めていた。

蜘蛛の女を抱きかかえ、背を向ける。

その女はこちらを見ることもなく、一言つぶやく。

 

「.........次こそ必ず」

 

そう言い残して遥か彼方へと去って行った。

 

後ろで呆然としていたウサギ耳の女は、どこか死んだ目で小さくつぶやいていた。

 

「あの戦闘能力......ちーちゃんを遥かに凌いでるほどの技術。それ以上に鉄の剣のはずなのに、剣が炎を纏ってるんじゃなくて剣そのものから炎があふれ出してる?そんな物質聞いたこともないし見たこともない......。それ以前にあんな凄腕相手に汗一つかいてないのがおかしいんだ。素人から見ても激戦なのに受けてるダメージがほとんどない。こんなの普通の人間じゃあり得ない............」

 

目の死んでる女が私を見ながら何事かを呟くという、ある意味の恐怖に襲われた私は、この女をしばらく放置して、篝火を制作することにした。

 

 

 

 

篝火を作り終えて早五分、エストを飲みながらくつろいでいると、後ろから躊躇いがちに声が掛かった。

 

「ねぇ、さっき使ってたあんたの剣.........少し見せてもらっていい?」

 

私はもう一度螺旋剣を取り出すと、ウサギ耳の女に手渡す。

そんなんで大丈夫なのかなどと言われそうだが、螺旋剣はもともとはソウルでできている。この女が、不死の呪いに罹っているわけでも無ければ盗まれなどしない。

 

上下逆さにしたり裏返したりと、熱心に見ている。

そんなに面白いものなんだろうか......私にはさっぱりわからない。

しばらく螺旋剣を見ていた女は、剣を脇に置くと両手を私の兜に添えてきた。

何がしたいのか分からないが、何か意味がある事なのであろう、そう判断してそのままでいると、私の行動をどう解釈したのか、こともあろうに兜を取ってしまった。

 

篝火を作ったとはいえ、ここが完全に安全地帯かと言われれば、否と答える。

篝火で休憩しても敵が付近にいることは何一つ変わりはない。

戦士とは、何が起きても冷静に対処できるもののことをさす。力も必要だがそれ以上に心落ち着ける場所を自ら作れるということも必要なのだ。

 

そう思って取り返そうとすると、ウサギ耳の女が私を見ながら固まっている。心なしか顔が赤く染まっているようにも見える。兜を返せと言わんばかりに近づくとその分だけ女が下がる。

 

あとはもう予想通りだ。

さがって追って下がって追って下がって追って下がって追って下がって追ってをひたすらに繰り返す。なかなか捕まらないから、思わず鞭で足を絡め捕って拘束してしまった。

 

 

あのあと一悶着あったものの、なんとか事態は沈静化した。

 

 

.........のだが、あれから一向にこちらの顔を見ようとしない。

目どころか、顔自体をあさっての方向に向ける始末。

一体どうしたというのか、顔を近づけるとまた顔を赤くしてのけぞる。

しばらくそんなことを続けていると、遂に両手で顔を隠してうずくまってしまった。

 

本当に訳が分からない。

 

ウサギ耳が生えてる人間は、キノコ人のような独特の感性でもあるのだろうか。

 

これは大発見ではないか。もしかしたらこの女、珍しい火種などを持っているかもしれん。

それ以上に、私の故郷でも類稀な輝かしいソウルの持ち主でもあるのだ。

世界が違えば、この女が火を継いだ可能性も無きにしも非ずであろう。

 

ふと思ったのだが、私の元いたあの世界はどうなっているのだろうか。

彼の世界の薪たる私が、違う場所にて命を紡いでいるということは、なにかしらの原因でもあったのだろうか。今の私に出来るのは、せめて暗黒の世界が広がっていないことを祈るばかりである。

 

ところで..............。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

だの

 

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛」

 

だのと唸っているこのウサギ耳の女は、一体どうすればいいのだろうか。




蜘蛛姫様に大量の人間性を捧げたひと、先生褒めてあげるから出てきなさい。

老魔女の指輪が手に入らなくてお話しできなかった人、慰めてあげるから出てきなさい。

蜘蛛姫様の胸部装甲を眺め続けた変態紳士の皆さん、ちょっとお話しましょう?


因みに私は、声を聴いて無意識に立ち上がってガッツポーズしてました。
ほんとうにびっくりしました。


でもヨルシカ様もいいと思うんだ(小声


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、衝撃の真実を知り覚悟を決める。

あばばばばっばっばばっばばばばっばばばばばb

遅れてすいませんでした。
言い訳はしません、すべては私の落ち度なので。

すいませんでした。


あれから頑なに顔を上げようとしないウサギ女を無理やり担ぎ上げ、元の野宿用のキャンプに帰ってきた。

食事を必要としない私は特に気にしなかったのだが、ウサギ女から小さなかわいらしい音が響く。

顔を深紅に染めてうつむく姿は、先ほど『天災』と自らを呼んだ時の姿とはかけ離れていた。

 

もともと食事をしない私にはあてはなかったが、試しにエストを飲ませてみることにした。

私達不死人にとってエストとは、生命力を高める心の安寧であり、加えてライバルや強敵と戦う時の必需品である。

ウサギ女の輝くソウルは、眩いほどの輝きを放ちながらもどこか儚げに揺れ動いている。

昔からの経験で、こういう時は何かしらが心に影響をあたえているものだ。

大小さまざまな悩みが、そのソウルの輝きに陰を作るのである。

 

結局、ウサギ女はエストをのんだ。

因みに、ウサギ女にエストを飲ませたときの様子の変わりようはとてもすごいものだった。

 

最初は怪しいものでも見ているかのような目つきだったが、覚悟を決めたようで一気に煽った。

すると、みるみるうちに目の隈はきえて、肌のつやはより滑らかにハリを増したようにも見えた。

ソウルは薪を得た火のように燃え盛り、白と黒のヒトガタはどこか嬉しそうに見える。

 

「なになになんなのこれ!?お肌はつるつるすべすべ、肉体疲労どころか、頭痛も肩こりも綺麗にきえた?なにこれなにこれ!?」

 

なにこれといわれても、ソウルそのものとしかいえんだろう。

お前に足りなかったソウルの器に、エストでソウルを注いで満たしたのだ。

疲労が消し飛んでしまったせいなのか、ウサギ女は不躾にも私が休むはずだったベットで寝てしまった。

起こそうにも、安らかな寝顔を見せられてどうにもその眠りを妨げることが躊躇われた。

 

 

 

私が、周辺警戒のために休むことが出来なかったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

次の日、寝起きに私の姿を確認したウサギ女は、普通の人間とは思えない速度の平手を、私の顔めがけて繰り出してきた。

しかしあっさりと見きってかわすと、不機嫌そうに顔をゆがめて抗議してきた。

 

「なんで避けるのさ!ぐっすり寝ていた幼気な少女に乱暴したくせに!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!」

 

エロ......同...人?はて、エロ同人とはなんなのだろうか。

声の様子から鑑みると、恐らく書物なのだろう。新しい...いや、この世界特有の魔術・呪術書、聖典なのだろうか。

気になる、とても気になる。もしそうなら、あらたな呪文が使えるようになるかもしれないからだ。

じつに素晴らしいことではないか!恐らく私に言えるということは内容を理解してるのであろう。

ならば、話は早い。もしかして、このウサギ女......聖女でもあるのだろうか?

キノコ人の同類(と思われる)このウサギ女は、実はものすごい万能なのだろう。

 

貴公、そのなんとか同人とやらについて教えてほしい。

どうかわたしに、その書物について詳しく教えてくれないだろうか?

 

「へ?内容について教えろってこと?」

 

その通りだが?私にはさっぱり分からないが、しかし、お前にはわかるのだろう?

 

「わ、わかるけど...はっ...まさか、この束さんに言えっての!?」

 

ふむ、やはりただでは教えてはくれぬか。何かしらの対価が必要だな....ソウル......ではわからぬか.....言ってくれ。もともと手持ちは少ないが、今手元にあるものなら可能な限り渡そう。

 

「どんだけこの束さんに言わせたいのよ!言うわけないでしょ!?この変態!鬼畜!鬼!悪魔!」

 

そ、そうか......残念だ......。

 

「ちょっ、そんなに落ち込まないでよ....こっちが悪いことしたみたいじゃん!」

 

すまない......今の話は無かったことにしてくれると助かる。

 

ここまで拒否されてはさすがに強く出ることはできない。

私の推論だが、とても高価なものなのであろう。高価なものを容易く他人に渡すものなどそうそうない。

 

「ふふ...ふふふふふふ........こんな変態なんかにぃ......変態なんかにぃ...!」

 

一人で納得していれば、若干空気が冷えてきたような気がする。

ふと、背後から一種の呪詛のようなものが聞こえてきた。

恐る恐る振り帰ってみれば、うさぎ女の様子が何だかおかしくなっていた。

顔を伏せて、拳を強く握り、力んだ体を断続的に幽かに震わせて、何事かを呟いている。

 

「この束さんが出し抜かれたなんてぇぇぇ........」

 

全身にほとばしる『 下 注意 』の警告。

気付けば大地は大きく揺れ、私を中心に罅が広がっている。

これはマズイと足に力を入れるも、どうやら一足遅かったらしい。

 

「絶ぇぇぇっ対!認めないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあ!!!」

 

いとも簡単に崩れ去った大地は、私の体をその底のない闇の中へと引きずり込んでいった。

上へと流れていく景色の中で、私は、しっかりと熟されたリンゴのような顔を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠方から見ても年代物とわかる城へと続く、大きな橋の上で目が覚めた。

どうやら私は落下の途中で気を失っていたらしい。情けないことだ。

周りを見渡せば、いとなつかしき亡者の群れ。

 

やはりこの世界にも存在していたか......。

多少姿が違うが、やはり世界の違いが変化をもたらしているのだろうか?

とはいえ、この数は相当なものだと理解できる。数百、数千にも届こうかという数。

私の人生で倒した数に比べればどうということはないが、さすがに一度でこの数と交戦したことはない。

 

城を背に無意識に武器を構えれば、私から流れ出す闘気に気付いた亡者が雪崩のように襲ってくる。

武術の型式もなく、ただひたすらに数で押し寄せる亡者達。

紙一重で武器を躱し、薙ぎ払い、断ち切り、へし折り、燃やし、ソウルへとその身を変えながらも、一向に数の減らない敵。

 

幾ら私といえども、疲労はする。

徐々に動きの鈍っていく私の体に、遂に剣が届いた。

着々と削れていく私の体力とは裏腹に、亡者は一向に衰えを見せない。

それどころか、後ろに月の魔物だのデーモンだのガーゴイルだのによく似たナニカがみえているんだが........。

どうやら、この進撃はいまだ終わりを見せないらしい。

残り少ないエストを眺め、全力疾走してくる敵を尻目に、とても長いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、もうどれくらいの時が経ったのだろうか。

私の持つ主要な武器は皆、耐久力が危険域に入りこれ以上駆使すると壊れてしまいそうなほどになってしまった。

他の武器と言ったら、もはや存在がネタとしかいいようがない物しか残っていない。

あと数撃入れれば壊れてしまいそうな黒竜の大剣を握りしめる。

突っ込んできた亡者を上段から叩ききり、その勢いのまま囲むように切りかかってきた数人を強攻撃で薙ぎ払う。

どうやら、遂に黒竜の大剣が危険域に到達したらしい。

私の手から、これ以上はマズイと何者かからの意思が伝わってくる。

 

咄嗟に持ち替えた月光蝶の角で目の前の敵を貫くと、途端に敵の進行が止まった。

背後にあれ何かしらが潜んでいるのかと警戒するが、亡者の群れは足も動かさずに撤退していく。

同時に、私自身の視界も歪んでいくことに気が付いた。

視界の中心に吸い込まれるようにして、私の意識も飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

とじた目に光を感じ、跳ねるようにして体を起こす。

が、そこは先ほど見た景色とは違っていた。

白い壁に、よくわからない器具、光る白い筒が天井に着いている。

また新たな罠かと考え、もしここに敵がなだれ込んで来たらどう対処しようかと考える。

すると、自分しかいないこの空間にどこぞで聞いた女の声がする。

 

「お?ようやく起きたんだねこの寝坊助さん。この束さんを無視して自分は熟睡とか許さないぞぉー!」

 

はて、この女は何を言ってるのだろうか。

私が寝ていた?さきほどまで、地獄のような戦闘を繰り広げていた私が、熟睡していた?

一体どういいうことだろうか。

 

_____ウサギ耳、私はこの状態だったときに、何回ほど日が沈んだ?

 

「何日たったってこと?まためんどくさい言い方を......七日だよ七日。どんだけ寝てんのよ」

 

そんなにこの横になっていた状態でいたのか。

通りでこんなに体の動きが悪いと.........。

 

「そんなことより束さんの質問に答えてもらうよ」

 

_____..........なんだろうか。

 

「さっきの景色のこと、ひとつ残らず吐いてもらうんだから」

 

_____さっきの景色?あの荒れ果てた城のことだろうか。

 

「そうだよ、束さんも人間だからね。寝はするさ...でもね、あんたが寝たきりの間ずっとさっきの城での戦闘を夢で見てた。城の一番上で、あんたともう一人が城に攻め込む軍に対して闘ってるのを見てたんだよ」

 

_____もう一人?私は一人だったはずだが?

 

「あんたとは反対方向で変な人が戦ってたんだよ。もっとも、その人は敵を倒しきったら『太陽万歳ッ!!』ってへんなポーズをしたあとにいなくなっちゃったけど」

 

太陽万歳?その言葉は紛れもなく我が友、ソラールの物のはずだ。

そうか、ソラールが.........。

できるならば、もう一度会いたかった。

 

「変な人もあんたのと似たような技使ってたけど、あんたはそれ以上だった。いろんな武器を一瞬で持ち替えて戦ってるし、ビームみたいのだしてるし、敵がばっさばっさ倒れていくし。この際、あんたが神話上の『薪の王』だと仮定して、なに?さっきの景色と敵はあんたの世界のものなの?」

 

_____景色については何とも言えないが、敵ならば確かに私の元いたところに生息していた。

 

「そう.........。あいつらが私にっていうよりは城に近づくほどに、なんか魂っぽいのが抜き取られるような感覚になった。城がだんだん崩れて行って、最後に潰れそうになってた時に、あんたともう一人が火を纏って出てきて、気付いたらそのまま戦闘してた。そのうちになんか変な白黒の人っぽい何かが見えてきたんだ。あんたと変な人は、攻めて来てるどんな存在より、はっきりと見えたし大きかった。特にあんたのは巨人かと思うくらい大きかった」

 

城はウサギ耳のソウルの具現で、亡者どもがそれを狙って押し寄せたということか?

吸い取られるという過程で、何かしらの変化が起きて、私とソラールを召喚した。

しかし、白黒のヒトガタということはソウルが見えたというのか?生身の人間に?

 

可能性としては、これほどのおおきなソウルをもつウサギ耳に真実が見えた、ということか、そもそもウサギ耳自身が、私たちと同じような不死人と化したか。

このどちらかだろう。

 

できることなら二つ目は信じたくないが、確かめるほかないだろう。

私は、この目で見たことを真実として信じたい。

憶測など、所詮は予想でしかないのだ。

 

私は、この世界もあの場所のような惨劇を繰り返すのかと、考えたくもない未来を想像して、それをかき消した。

 

_____ウサギ耳、今すぐこちらにこい。確かめたいことがある。

 

「え?え、あ、うん、わかった.......」

 

体から見られている感覚が消え去った。

恐らく、ウサギ耳が移動を開始したのだろう。

知らず知らずのうちに強く握っていた手を緩め、目を閉じる。

 

今度は、私が守るのだと......そう誓いながら。




まさかの超展開。
こうしないと今後のもろもろでめんどくさいことになるので、こういうことになりました。
違う展開を考えていた人はすいません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、過ごす日々にかつての友を見る。



最近は、何度寝ても目を抉られる夢しか見ません。
抉ったその子は言うのです、私の眼は返してもらったって。
何故か、あふれ出した血が新たな眼球を作り出し、また抉られる。
何度抉られたか分かりませんが、ひとつ、こう思ったのです。


―――――無限ループって怖くね?と......。


(実話です)


結論だけを簡潔に述べよう。

ウサギ女は、不死人として目覚めてしまっていた。

正確には少し違うが、不死人モドキになっていたのだ。

人間なのだが、不死人の持つ特徴的な雰囲気とソウルの輝きを察知できるようになっていたのである。

 

特に珍しいのは、目に映したもののソウルを形としてみることが出来るということ。

我々不死人は、相手のソウルは漠然としてしか捉えることしかできない。

私や、歴代の薪の王たちですら体から溢れるように流れるソウルを感じることしかできなかったというのに。

 

やはり、ソウルを直接喰われる.........命そのものを奪われかけるという体験が体に何かしらの対策を施したのだろう。

しかし、ウサギ耳はソウルがどういうものか先ほどまでわかっていなかったのにもかかわらず、なんとなくのようだが理解していた。

恐るべき対応能力とでもいうのだろうか、ウサギ耳の状況判断の正確さと冷静さには驚かされた。

 

 

今更なのだろうが、今現在私がいるのは移動要塞キッチンである。

かつて私は食事は必要ないと言ったが、気分転換に何かを口にすることはあるのだ。

そこまでこだわりがないとはいえ、食材をそのまま口に運ぶことはない。

きゅうりと思わしきものを軽く洗って、かぶりついたウサギ耳は、これがご飯であると主張したのだ。

 

その姿が何故かどこぞの鍛冶師にそっくりで、何か作ろうかと言ってしまった。

そんな私に怪しげな目線を向けてきたが、私の手つきを見てすっかり目の色を変えた。

女としては最高峰である火守女達に仕込まれた私の手腕を見るがいい........。

―――――――――――といっても簡単なものだが。

 

サラダに焼き魚、白米と味噌の吸い物を用意した。

単純だが、短絡的な味ではなく、素材の味が奥深くにじみ出て来るような仕上がりなはず。

極東の島国の......そう、たしか和食というのだったか。

これは、緑衣の巡礼が教えてくれたのだ。

当時の私は思わず緑衣の巡礼の両手をとってしまったのだったな。

毎日作ってほしいと頼んだ時に、真っ赤になっていた理由はついぞ教えてくれなかった。

 

どうやら食べ終わったようだ。

米粒や、吸い物、魚肉にいたるまで綺麗に無くなっているではないか。

途轍もなく不機嫌ですとでもいうような形相だが、

 

「ご馳走様...........おいしいじゃないのよちくしょう」

 

というその言葉で、何かを察した。

こういう時はそれについて言及すると痛い目を見ると、銀騎士の一人が言っていた。

なぜかこやつだけは攻撃してこなかったのをよく憶えている。

それどころか、他にも様々なことを私に教えてくれた。

銀騎士曰く、『かぼたんはあんたの嫁も同然』だとか、『昨日はお楽しみでしたねと言うと、面白い反応が見れる』などetc......。

 

火防女に伝えたら、顔を手で覆って動かなくなるし、鍛冶屋の方からハンマーが超高速で飛来してくるなどの、ある意味凄いことになった。

いや、そんなことは今のところは関係ない。

 

重要なのは、ウサギ耳の不死人化についてだ。

人間が不死人になるのを実際に見たことがない私は、どうすればいいのか分からなかった。

故に、不死人なら必ず経験することをウサギ耳にもやってもらおうと思う。

私や友たちはこれを行って死の無限連鎖から逃げ延びたのだ。

 

 

1に修練、2に訓練、3・4同じく、5に鍛練。

 

 

ウサギ耳が青ざめて、その名の通り脱兎のごとく逃げ出したが、盗人の装備をつけていた私に隙はなかった。

細く折れてしまいそうなそっ首を右手で力強く握りこみ、体を浮かせて動きを封じる。

一体何に気が付いたのだろうか、体をがむしゃらに動かし、抵抗してきた。

 

「こんの離しなさいよこの野郎!私はまだ死ぬわけにはいかないのよ!!」

 

_____死ぬ?たかだか修練するだけで大げさな.........。ただ、蝕みと毒霧の中で私と組み手をするだけではないか。

 

「それが死ぬっていうんだよこのスカンタン!ウルトラスーパーデラックスボディの束さんでも体内は改造してないよ!てか、そんなの修練というわけないだろぉが!!」

 

_____安心するがいい、ウサギ耳は私の持つ全武器と防具を使用し、私と対峙してもらう。流石に丸腰で突撃させるほど腐ってはいない。

 

「話を聞けよおい、そもそも束さん、やるなんて一言も言ってないんですけど?」

 

_____確かにそうだな。だが、こういう現状に巻き込んだのは私のせいだ。深く謝罪しよう。しかし、そなたの持つ潜在能力とソウルの輝きは、簡単に捨てるのはあまりにも愚かというものだ。

 

ゆっくりとウサギ耳の体をおろし、手を放して向き合う。

 

_____死にたくないのならば、死ぬ気で抗って見せよ。やり残したものがあるのなら、成し遂げてから地に臥せよ。半端ではあるが不死人として目覚めたそなたは、おいそれと容易く死ぬことは許されぬ。亡者どもに魂を抜かれようと、死にきれぬぞ。ましてや、今のそなたでは最弱の亡者の群れさえ突破できぬだろう。彼奴らとて、かつては強者だったのだ。そのままでは碌な死に方をせぬぞ。せいぜい五臓六腑を引き裂かれて、野に捨てられるのがおちであろう。

 

「.....................」

 

ウサギ耳は、私の声に真剣に耳を傾けている。

そう、これは私が招いた厄災であり、本来ウサギ耳は関係ない。

ただ巻き込まれただけの一人の人間にすぎぬのだ。

 

_____重ねて詫びよう、本当にすまない。これは私個人で為すべきだったものだ。だがしかし、既に私一人の両手では受け止めきれぬほどに事は肥大化している。どうか助けてほしい。そなたと顔を合わせて時はそうたっておらぬが、恥を忍んでお願いしたい。私を、助けてくれ。頼む。

 

頭を下げて願う。

自分勝手なのは私が一番理解している。

ウサギ耳が、理不尽に巻き込まれただけの人間ということも。

しかし、なぜこの世界にも亡者達の群れが存在し、なおかつ、彼奴らの目的も分からない以上、なりふり構うことはしない。

あの地獄のような世界に変貌させないようにする為なら、喜んでこの身を犠牲としよう。

 

「ふんっ......なんかいろいろとムカつくけど、いいよ。正直腑に落ちないことばっかだけど、あんたの言うその亡者共ってのがちーちゃんや箒ちゃんやいっくんに害をなすのなら話は別。」

 

_____すまない。協力感謝する。

 

「これは協力じゃないよ。この束さんがその敵とやらを見つけて、あんたがそれを殲滅する。これはただの共同戦線だ、決して協力なんかじゃないんだから。で?私はどうすりゃいいの?」

 

_____先も言った通り、今のウサギ耳は弱すぎる。あまりの弱さに哀愁すら漂ってくるほどだ。

 

「へ、へぇ.......言ってくれるじゃないの......」

 

手を握りしめ、誠に遺憾ですと震えているウサギ耳。

比べている者が多少おかしいが、彼らも同じただの人間である。

逆に考えれば、鍛えればあそこまで強くなることが可能ということだ。

 

_____そういえばここには何もない広い空間があったな。そこでやるとしよう。

 

「既にやな予感がぷんぷんしてるけど、ちーちゃん達のためだもの」

 

あの、何もなかった白い空間に向けて、私たちは歩き始めた。

 

 

 

 

その後、数時間にわたって若い女の悲鳴が響くが、ある時を境にぴたりと止んだ。

 

 

 

 

今、私の目の前には真っ白に燃え尽きたように椅子に座るウサギ耳がいる。

あまりにも白すぎて、背景と時々同化して見えるようだ。

かろうじて蛍光色である椅子が、ウサギ耳がここにいるという証拠を物語っている。

人間には、カメレオンのような能力でもあるのだろうか。

非常に興味深い存在である。

途端ウサギ耳の体が跳ねるようにして動きだし、握りこまれた両の手が、私の顔めがけて飛んで来る。

 

「てめぇ殺す。ぜってえ殺す。慈悲なく無理なく容赦なく確実に殺す」

 

一体何を言っているのだろうか。

簡単な訓練一つ終えただけでこれでは、遠征騎士達に瞬殺されてしまう。

まったくもってやれやれである。

 

「その、やれやれだぜ......みたいな雰囲気出すのやめてくんない?.........ポーズもするんじゃねぇ!!」

 

思わず呆れたジェスチャーをすれば、先の姿はどこにか声を荒げる。

ある程度ごまかすと簡単に見破られて怒りをあらわにし、正直に伝えると怒りの形相露わに叱られる。

一体どうしろというのか。

四騎士たちの使命にも勝るとも劣らない無理難題である。

 

「そのまったくもって意味が分からないって姿勢解かないと、ホントに殴るぞ」

 

_____私を殴る気力があるのか。ならばこい!今の御主は殺る気に満ち満ちている。私も全力で相手しようではないか。

 

「あっ......やっぱいいわ。これ以上は体が持たないから、いやほんとに」

 

そう言ってまた椅子に座りこむウサギ耳。

本当になにがしたかったのだろうか。

 

少なくとも今回の訓練で、しっかりした受け身と受け流し、あらゆる種類の武器防具を駆使した戦闘、加えて、今自分がどういう状況に置かれているのか判断する思考回路、最後に、それらすべてを一瞬で最良へと導く並列思考と行動力は身についたはず。

これなら多少は戦えるだろうが、それでも体力・筋力・持久力、生命力は最低に近い。

代わりに、集中力・技量・理力・運は群を抜いて高い。

何をどうこじらせたらこうなるのか。

 

今回はこれで終了とすることにした。

後々難易度を上げて行って、それをこなしていけばいいだけのこと。

そうゆっくりとやることはできないが、それでもウサギ耳の能力なら私の考察など軽く超えてゆけるだろう。

 

これからのことを考えて、どうしてか心が沸き立つような感覚が芽生えているのに気が付く。

理由は簡単だ、かつての地を駆けぬけた我が友たちを、ウサギ耳と重ねているのだ。

そう考えれば、途絶えることなど無い。

会いたい、ただひたすらに会いたい......そう思ってしまう。

言葉を交せなくとも、近くに入るだけで心は安心するものだ。

この現状を止めることに加えて、祭祀場を見つけることにしよう、そうしよう。

 

 

たった一人、静かに燃える王をどう理解したのか蒼褪める女が一人いるのだが、王は全く持って気づいていない。




話が全然進んでない?そうだね、プロテインだね。(錯乱

チャーハン食べたいって兄に言ったら、あぁん?なんでぇ?と返されました。
怖い、れすりんぐこわい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、かつての悔恨と相対する。

ダクソなのにギャルゲみたいになってしまってる希ガス。

ただ、彼女たちだけは、強引にでも救ってあげたかった。


それなりの月日が過ぎた。

見つけるまで訓練を続け、亡者の沸き立つ根源を見つければ、私が突っ込み殲滅する。

何度もあいつにとっては無茶n...いや、簡単な訓練を続けてきた為か、着実に強くなってきていた。

しかし、囲まれたからとはいえ、亡者の攻撃を喰らうのはいただけない。

これは、もっと激しい訓練内容にしなくてはならなそうだ。

 

私たちが見つけた根源は、今のところは二つのみ。

そのすべては、龍脈と呼ばれる世界の元たる力で形成されているところが中心だった。

龍脈と呼ばれるソウルの波が一つの世界を作り出し、亡者を呼び出していたのだ。

哀しいかな、この龍脈の世界はあちこち存在し、たかが二つほど破壊されようとも勢い衰えずに存在していた。

 

ウサギ耳曰く、龍脈とはこの世界には無くてはならないものらしく、破壊は禁物だとのこと。

根源の殲滅が出来ないのは悔しいことだが、可能な限りこの根源は破壊しなくてはならない。

 

この龍脈の暴走が『この世界』にも出ているらしく、自然災害の多発や、奇妙な『病』が蔓延し始めたなどと現象が起きているらしい。

何の影響か、この病とやらがウサギ耳と同じで夢に現れたナニカに自分を吸い取られるというものらしい。

放っておくほど悪化し、現在の状態では寝たきりの者もいるらしい。

 

私は予想以上の進行に焦り始めたが、攻略はそう簡単ではなかった。

敵はそこまで強くないものの、火防女もいなければ篝火もない状態で戦うには限度があった。

篝火を作ろうとすれば決まって敵が発生し、エスト回復に戻って再びきてみれば、地形が変化して地図などあてにならない。

とんだ気狂いである。

 

なにを思ったか景色はいつか見たものばかり。

二つ目の根源はどこからどう見ても『病み村』だった。

狭い空間でのデーモンはやはり厄介である。

何故あんなに狭い場所で、大斧を振り回すのか見当がつかぬ。

それ以前に、どうして壁などに引っ掛から無いのかが気になる。

 

落下・猛毒・タコ殴りの被害にあうウサギ耳を救助しつつ進めば、まさかの『闇霊人食いミルドレット』に侵入されてしまった。

人間性は使ってないのに侵入されたということは、やはり変化があるということなのだろうか。

どこから現れるか分からないため、警戒強く周囲を見渡す。

 

今のウサギ耳に、闇霊は...まずい......ッ!そう思ったが、まさかの戦闘はなかった。

というのも、最初は戦闘が始まりそうだったのだが、恐れ知らずにもウサギ耳が話しかけ、相性が良かったのかそのまま仲良くなってしまうということが起きたのだ。

やはり『天災』といわれる者は、『天災』なのだなと納得してしまった。

いや、納得してはいけないのだが。

 

そのまま彼女に人間性を渡すと、大事そうに仕舞い込み、ウサギ耳と握手したのちに元の世界へと帰って行った。

 

「なんだー。こんな所にも面白い人いるじゃん!」

 

満面の笑みでそういうウサギ耳に、思わず頭を抱えて呆れかえってしまった私は悪くないだろう。

 

 

 

少し寄り道して沼地に行けば、狩猟団長のシバと会うことが出来た。

ミルドレットに出会えるのならば、もしやと思ったが正解だったようだ。

 

武器マニアを自称する彼はそろえる武器も渋いものが多く、現物を見るのが初めてなのか、目をキラキラ輝かせるウサギ女がまたやらかした。

ウサギ耳も古い武器が好きなのか、意気投合して長い間語り合っていた。

そういう私も、こういう年代物の武具には心躍るものがあるため、おいそれと口をはさむことはできなかった。

 

 

長い話し合いの結果ウサギ耳の要望により、物干し竿を購入した。

これ、束さん専用ねっ!と嬉しそうに腰に帯刀するのを、シバは嬉しそうに見ている。

 

「あんたら二人そろって、好き者だな」

 

といわれ、ウサギ耳がシバと固く握手を交わしていたのを私は呆れた目で見ていた。

そうしていながらも、私の左手が帯刀している混沌の刃に触れているのは内緒だ。

沼地を離れるときに、シバが私に話しかけてきた。

 

「いかなる理由があれ、裏切りだけは許されない......分かっているだろう?」

 

そう警告したシバに、ジェスチャー:静かなる意思を行うことで返答とした。

 

 

 

 

あれからスロープの位置に移動したのだが、ジークマイヤーにあうことは出来なかった。

なんだか、攻略よりもかつての仲間たちに会いに行ってるような気がしなくもない。

少しさびしく思えたが、またどこかで会えるだろうと、先に進むことを決めた。

存外、自分の心が弱いことに気がつき始めながら.........。

 

 

 

 

余談ではあるが、毒沼にいた大ヒルは皆ウサギ耳が燃やし尽くした。

大ヒルを見た瞬間、どこに隠し持っていたのか金属の塊を取り出し、火炎噴流を大きく上回るほどの火をまき散らしたのだ。

 

「いやぁぁあああぁぁあああ!!!!!汚物は消毒だァァァァァァァァ―――ッ!」

 

毒沼を風のように颯爽と駆けぬけ、そう叫んで強烈な炎をまき散らすウサギの瞳には、光がなかった。

ついでに言うのなら、なにか線のようなものがぐるぐる回っていたというのも付け足しておこう。

 

 

 

 

 

本来ならば沼地の篝火があるところから右に進めば、白い丘が......クラーグの住処が見えてきた。

丘の前には、岩でできた巨漢亡者が三体待ち構えており、それらに気付かれぬよう水車の端の方から慎重に上り、中央にある入り口からクラーグの住処の中に入った。

 

強者が存在しているときに存在する白い霧を、嫌な予感がすると喚くウサギ耳を引きづりながら通れば、下半身は蜘蛛、上半身は裸の女性、イザリスの炎によって異形となってしまった娘達の一人『魔女クラーグ』と対面した。

 

口をひらけば、冷静な意識の中にあふれるような色気を混ぜたような声が飛び出した。

 

「この禁断の地から引き返せ、ここは混沌に生きる者達の領域だ。彼らは追放という運命を受け入れたのだ。引き返さぬというなら、炎がすべてを飲み込み混沌の子供たちが黒焦げた灰を喰らうだろう」

 

クラーグは、異形と化した下半身を駆使しゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「契約に抗う者達、クラーグの住処に侵入する者達よ。我らの深き怒りを感じることだろう。ああ、貴重な生贄よ。ここは混沌に生きる者達の禁断の領域だ」

 

圧倒的強者としての威圧が、私とウサギ耳を包む。

ウサギ耳は、その圧力に気圧されてしまっているのか微動だにしない。

 

「来なさい、さぁ...来るがいい。歓迎しよう!贄を運びし者達よ。混沌の子供たちは腹を空かせている」

 

ウサギ耳の本能は死を確信してしまったのか、目に涙が浮かんでいる。

幽かにだが、一歩ずつ後ずさるような音がする。

 

「―――――さぁ、クラーグの火に己を捧げよ」

 

そう言い切った途端とてつもない速度で間合いを詰めて、私ではなくウサギ耳を攻撃した。

幸いすぐ近くにいたがゆえに、ウサギ耳を後ろに押し飛ばすことが出来たが、代わりに私がクラーグに捕まってしまった。

必死に抵抗するも、腕ごと包まれるように足につかまってるせいで抗いようがない。

 

くっ........流石に力が強い!それなりに筋力はあるはずだが、まさか敵いもしないとは...ッ!

覆われるように俺をすべての足で固定してるおかげでウサギ耳にはなにも起きてないが、このままだと私が死んでむこうに行くのも時間の問題か!

まさか、初手で詰むとは......!

 

 

「えっ.....あ........あんた........」

 

_____棒立ちしてないでさっさと策を組み立てろ!

 

「で、でも!それじゃあ......あんたはどうすんだよ!」

 

_____今にも死にそうなやつより、生き残れる道を模索しろ!足手まといになるような奴を助ければ、お前ごと死ぬぞ!

 

そう言っている間に私は兜をぬがされ、鎧の中身を晒してしまった。

ひっ......とウサギ耳が絶句しているのが見える。

せめて......せめて螺旋剣の破片をウサギ耳に渡せれば。

 

螺旋剣の破片があれば、代償なしで最後に休憩した篝火にまで飛ぶことが出来る。

この世界にある篝火は、あの森林にあるのと飛行要塞の内部にあるものだけ。

どちらにせよ飛ばすことが出来れば、ウサギ耳は生き残ることができる。

 

体を動かして作った隙間から、どうにか動かせる手首を使って破片を投げる。

運よくウサギ耳の前に落ちたそれは、簡単にウサギ耳の手に渡った。

 

_____ウサギ耳!それを使って篝火まで飛べ!

 

「と、飛べったって、使い方が分かんないよ!」

 

私の声を聴いたウサギ耳は、なんだか唸ったりなんだりしていたものの、観念したかのように私に叫ぶ。

すっかり失念していた。

私は、使い方を教えていなかったのだ。

ここを攻略したら、非常用手段として教えるつもりだったのだ。

 

結局、ウサギ耳へと使い方を教えることは叶わなかった。

 

_____いいかウサギ耳!それは――――っ!?

 

 

「え?.....え.......?」

 

私の口は塞がれていた。

他でもないクラーグの唇によって.......。

 

「え......えっ!?ちょっ、なにしてんのさ!!」

 

何が原因か恐怖が吹き飛んだ様子のウサギ耳が何か叫んでいるが、今の私には何も届いていなかった。

長く、ひたすら長く口づけは続く。

私の口の中にクラーグの下が侵入してきて、さらに驚く。

 

_____んん.......んむっ.....むむっ.....ン!?..ンン―――ッ!!

 

私の体が後ろへと行かぬように両腕で包んできたせいで、本格的に逃げ場を失う。

果てしなく続くと思われた口づけは、クラーグが私を離すことで終わりを告げた。

地に降ろされた私は、ためらいなくクラーグから距離を取り、ウサギ耳をかばうように立ちふさがる。

黒竜の大剣を構えながら、さっき伝えられなかったことを伝える。

 

_____いいかウサギ耳。ただ祈るのではなく、ソウルをそこに捧げるのだ。破片とはいえ、もともとは不死人の居場所たる篝火の一つだ。ソウルがなければ、何も始まらぬ。

 

「あんた......いま確実に........き、キス.........されてたよね?」

 

_____そんなにいい物じゃないぞ。口づけをしながら、人間性を持って行かれた。

 

「......え?」

 

口づけ中に、何かを持っていかれる感覚がした。

それが人間性だと気が付くのには多少時間がかかったが、それでも間違いないはずだ。

あいつは......確実にッ!―――――――。

 

そう内心で警戒心を膨らませると、クラーグはその柔らかな唇を歪ませてこういった。

 

「やはりか......久しぶりだな、かつての不死人」

 

_____.........はっ?

 

予想外の出来事に驚いてしまった。

久しぶりだな?クラーグは、ソウルだけで個人を特定できるというのか?

だが、確実に私は......あの時に......クラーグを...。

 

「殺したはず.....とでも?私を誰だと思ってるんだ、その程度造作もない。それより、初めて会った時よりも随分と人間性の...ソウルの質が良くなったようだな。どれ、もう一度私に吸わせてくれ」

 

彼女が私を捕まえるよりはやく、ウサギ女が立ちはだかった。

 

「出会うたびにさっきみたいなことをやるようなキス魔に、そう何度もやらせないんだから!」

 

「別に出会った奴らすべてにやっているわけではないぞ?私は、こいつだからやるのだ。勘違いしてもらっては困る」

 

「え?あ、いや、そうじゃなくね.....?」

 

_____どういうことなんだ?

 

「あんたは黙ってろ!」

 

問答無用で叩かれた。

 

_____......解せぬ。

 

「まったく......この先に行くといい」

 

うっとうしい物を見るようにクラーグは私達を見て、先に行くよう促した。

 

「.......?この先なんてないじゃん」

 

「お前ならばわかるだろう?.........なぁ、極致よ」

 

_____...ッ!?ああ、わかる。

 

いたたまれない。

一度殺害したものと、こうして会話するなど......。

 

「極致よ、別に私は何とも思っておらぬよ。あの時の御主の行動は正しかったし、おかげで、妹は助かったんだ。感謝はすれども恨みなどせぬ。それでも私に償いたいというのなら...............」

 

クラーグの言葉が大事なところで途切れる。

次の言葉はなんなのだろうか。

命か?奴隷か?いずれにせよ碌なことになりそうにない。

 

「ふむ.........そうだな。私の妹を悲しませたら、今度は容赦なく殺しに行くからな?そこは肝に銘じてもらおうじゃないか」

 

_____.....?......??わかった。肝に銘じておこう。

 

「ふふっ.........その言葉、忘れるなよ?」

 

微笑む顔はとても美しいが、なんだかその後ろに暗い何かが潜んでいるような気がする。

それを見惚れたと勘違いしたウサギ耳が私の足を踏んできたのだが、甲冑を纏う私には何の痛みもこず、逆にウサギ耳が足を押さえる結果となった。

 

なんだか微笑ましい気持ちになっていたら、いつの間にか真後ろに来ていたクラーグに、また唇を奪われてしまった。

前のような長いものではなく、今回は触れるような口づけだった。

またも人間性を持っていかれたが、わざわざキスをする必要性はあるんだろうか。

 

それをみたウサギ耳が私の胴を殴るが、鎧を着ている私にh(ry

なんだか、私もクラーグも可哀そうな子を見つめるような気持ちになってしまった。

 

 

隠れ通路を抜けると、そこにいたのは.........。

洞窟の壁中についた卵に囲まれる、もう一人の娘。

この世界で初めて会う火防女。

 

「.......姉さん?どうしたの?」

 

――――――通称、混沌の娘。

 

「...姉さん?どうしたの?」

 

_____娘よ......私だ.....。憶えているだろうか。

 

「.....兄さん?......兄さんなの...?」

 

やはり、混沌の娘も憶えていたか。

かの世界で知り合った者は、記憶の保持があるのは何故なのだろうか。

敵味方関係なく覚えているとは。

 

「ずっと、卵が痛いの......動かないの...」

 

痛みを耐えながら必死に私に言の葉を紡ぐ。

ウサギ耳がその姿に驚愕しながらも、私に問う。

 

「ねぇ.......この姿って......一体.......」

 

_____混沌の娘やクラーグは、母であるイザリスの作りだした最初の火を模した炎を浴びたのだ。その結果、二人は下半身が異形の者となってしまった。

 

ウサギ耳は、眉を顰めて聞きに徹している。

 

_____その場から逃げた二人は、この村でかくまってもらうも、流行り出した病を止めるために、混沌の娘が吸い出して卵とすることによって蔓延を防いだ。

 

ウサギ耳は、眉を顰めながらも聞いている。

 

_____しかし、それにはとてつもない痛みが伴う。姉であるクラーグは、侵入してきた契約に反するものの人間性を狩って、その痛みを和らげていたのだ。

 

どうやら、この状態になった理由を悟ったらしい。

まさか......と、声を漏らしている。

 

_____結果、これだけの卵を抱えてその痛みを耐える混沌の娘、痛みを和らげるために人間性を狩るクラーグという現状が出来たのだ。

 

私は、混沌の娘に人間性を捧げながらウサギ耳に説明する。

 

「ありがとう...兄さん......」

 

_____ああ.....今、楽にしてやるからな......。

 

「ん?一体何しようっての?」

 

ウサギ耳が娘を背にして立ちはだかる。

まるで、見損なったとでもいうような視線。

これは確実に勘違いしているな。

 

_____いいか、よく聞け。さっきも説明した通り、村人から吸い出した病の膿が卵となって痛みを与えてる。そしてその痛みは、人間性を捧げることによって和らぐ。ならば、それらすべてを浄化できるほどの人間性を捧げればよい。未だ吸い切れていない病ごと浄化する。そうすればこの負の連鎖は切れるはずだ。

 

「この脳筋が。............確証は?」

 

_____分からん。だが、どうしてもこの姉妹は救わねばならん。過去の清算も込めて、この命を懸けてでも救って見せる。

 

「...はぁ、わかったよ好きにすれば?で、どうせ私にクラーグさんを呼んで来いってんでしょ?」

 

ウサギ耳の問いに、うなずくことで答える。

私の中にあるありったけの人間性を集めていく。

やがて、ウサギ耳がクラーグを連れて現れた。

 

「本当にやるというの?成功する保障はないのだろう?」

 

クラーグは訝しげに呟いた。

 

_____なくてもやるのだ、クラーグよ。私のこの行動が、助けになるのなら....何だって....。

 

「............はぁ、全く」

 

そう言って、クラーグは下がった。

 

_____やるぞ。

 

私は、体の中にあった人間性を混沌の娘に捧げる。

数百という数の人間性は、あっという間に娘の体を覆い尽くした。

溢れた人間性は一斉に壁にある卵に向かっていく。

 

そして、遂に変化が起きた。

壁に多く張り付いていた卵が、孵化し始めたのだ。

やがて殻を割って出てきたのは人間性で、そしてそれは空中に溶けるように消えて行った。

空を舞う蝶のように自由に飛び回り、空を舞う花弁のように散っていった。

 

「......何をしたの....卵の痛みがなくなっちゃった」

 

卵は消え、それによって生まれていた痛みもなくなったらしい。

呆然とした様子で、娘が呟いた。

 

_____娘よ...気分はどうだ?どこか違和感はあるか?

 

「大丈夫よ、兄さん。今は痛くないわ」

 

_____そうか......それはよかった。

 

「イイハナシダナー」

 

取り除けた......のだろうか。

現状は何も変化していないが、それは後々わかるだろう。

しばらく二人にさせてくれと頼まれて、暇になったためここを散歩することにした。

まぁ、行先など決まっているのだが。

彼女は......そこにいた。

イザリスのクラーナことクラーナ師匠が。

 

しかもクラーナ師匠は、私のことを憶えていてくれたのだ。

 

「.........馬鹿弟子.......なのか......?」

 

そういった師匠の声は少し震えていたような気がする。

 

_____久方ぶりです、泣いてるのですか師匠........というよりか、また馬鹿弟子ですか?

 

そう返せば、潤んだ目でこちらを気丈ににらみ返し、

 

「ふんっ、私の元から去った馬鹿弟子など、馬鹿弟子で十分だ」

 

と、どこか嬉しげにいった。

 

「帰ってきてくれて嬉しかったのか.........ツンデレ...あ、いやクーデレ...?」

 

私ですら幽かにしか聞けなったウサギ耳の言葉に反応した師匠が、一瞬のうちにウサギ耳の後ろに移動して頭を叩いた。

私がどういう意味なのか聞くと、問答無用で叩かれた。

まったくもって分からない。

 

なんだかにやにやしていたウサギ女が頭に来たので、叩いておいた。

 

「いったぁ!あにすんのよこの野郎!」

 

憤慨しているウサギ耳を見ていると、師匠がよくやったと言わんばかりに肩を叩いてきた。

そんなことで嬉しくなった私は、果たしてどうなのだろうか。

 

 

師匠との会話は、自分でも驚くほどに弾んだ。

師匠と別れ、そのあとに出会った仲間たちとの出会いと別れ、苦悩や楽しさを説明した。

数多くの友と強敵を相手に戦ったり、それぞれの願いを叶えるために分かれたり、意見を違えて喧嘩したり、でも、最期はグウィンと戦い、打倒して二代目の薪の王となったこと。

 

師匠は、真剣に聞いてくれていた。

時に相づちを打って、笑って、怒って。

ただの説教だというのに、どうしてかひどく懐かしくてうれしい。

本当に弱くなってしまったものだ。

一人で戦場に孤独に立っていた私は、何時しか友ができ、背を預け、轡を並べて戦うようになっていた。

 

他と共にいることの楽しさを知ったものは、そうやすやすと孤独には戻れない。

なるほど......こういうことなのか...........確かに、もう戻るのは難しそうだ。

 

私の目の前でとても嬉しそうに微笑む師匠の笑顔をみて、ただ漠然とそう思った。

 

 

 

目的の途中であったことを思い出した私は、呪術の火を+5に強化してもらい、いくつかの呪術を購入して歩を進めることにした。

事が終われば必ずここに帰ってくることを条件に、私たちはここを離れた。

 

「馬鹿弟子が......亡者になるんじゃないぞ」

 

師匠のその言葉がひどく懐かしくて、思わず視界が揺らいだ。

 




予想以上に文字数が増えてる!?
ありのまま今起こったことをh(ry

これが彼女たちの乙女パゥワァーだというのか!

あ、次回は混沌の娘が(恋愛的な意味で)壊れます。(唐突
ここからが、ほんとうの救済ってやつゾイ☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、予想だにしない出来事に目を見開く。

インフルフルフル。
インフルエンザに感染しました。

今回のは物凄い感染速度らしいので気を付けてください。


なんだかイケナイ部分がありますが、(うわっ。 っと思いましたらすっ飛ばして下さいです。


私一人であればこのまま先に進むのだが、今回はウサギ耳がいる。

さらに、ひたすらにタコ殴りされていたウサギ耳の疲労はかなりのものだろう。

一度天空要塞に戻って体調を万全まで戻してから次へと進むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎回こんなのとか、束さんちょっと心がぽっきんアイス並に歪に折れちゃいそうなんだけど」

 

_____まともな戦闘をしていないのにそれでは今後碌なことにならんぞ。しっかりした戦闘経験のないウサギ耳は亡者にすら劣る。どうやらもっと厳しい訓練内容にしなくてはいけないようだな。今すぐ訓練場に行くぞ。

 

「ちょちょちょ、まっ、まって!?もう限界!限界だから!これ以上は束さん壊れちゃうからぁ!」

 

だらしのないものだ。実際に今回の根源内でウサギ耳がしたのは、亡者数人の撃破と狂化犬の撃破くらい、及第点は大ヒルの弱点を理解した上での攻撃と、速やかに殲滅する行動力。

あれは本当に素晴らしいものだった。

大ヒルの酸をくらって服が溶けるという怪現象が起きていたが......まぁ気にしない様にしようか。

 

「じゃあ束さんは汗を流してくるよー...........覗かないでね?」

 

_____お前は私に何を期待しているのだ?

 

「ふっふっふ.....なんでもないよ~」

 

ウサギ耳は何かを含んだ意味深な顔のまま、部屋の外に消えて行った。

私も今日はなんだか疲れてしまった。肉体的な疲労はエストによって消えて行ったが、精神的な疲労は簡単には消えない。

ウサギ耳によって割り当てられた部屋で少し休むとしよう。

 

迷路のようになっている廊下を通り、ようやく自分の部屋を見つけた。

普段は軽く、しかし今回に限ってやけに重い扉を開き、ベットへと気絶したように倒れこむ。

この部屋に入った時点で甲冑は脱ぎ、ウサギ耳の支給してくれた服を着ているせいか、ベットの肌触りが直に感じられる。

 

絹のように滑らかな感触は、私が手を放すことを許してはくれない。

指から伝わる温度は温かく、まるでこの体を包んでくれているように錯覚してしまう。

耳に伝わる鼓動は、まるで生きているかのような.........鼓動....?

 

謎の寒気を感じ勢いよく体を跳ね起こした私は、今起きた現状を確認する。眠気なんぞは掻き消えてしまった。

 

「兄さん......私の........その.......どうでした.......?」

 

_____娘?......ひょっとしなくても混沌の娘.....だよな........?

 

「私...です....兄さん......」

 

_____蜘蛛の体は一体どこにやった......いや、それ以前にどうしてここに....。

 

「私にもわかりません......姉さんと話していたらいつの間にか.....ここに...」

 

_____クラーグはどこにいるか見当はつくか?

 

「姉さんなら...ちょっと周りを見てくるってどこかへ....」

 

あの姉は一体何を考えているのだろうか。

こんなにもか弱い娘を置いてどこかに行くなど......自分が来なかったらどうなったことやら。

そもそもあの大きさでここの扉をどう通ったのだ........。ええい、後で考えよう。

まぁ、どちらにせよこの場所でその『なにかしら』が起きることはないだろうが。

 

「むっ?なんだここは.......。やけに狭いし湿気がひどい.....湯気のせいで碌に前が見えん」

 

「きゃぁぁぁぁぁああぁぁああ!!お、女の人の声!?おばっ、おおおおおばっ....け......って、クラーグさん!?」

 

「んん?あのときのウサギではないか。それにしても服の上からではよくわからなかったが、なかなかにいい体つきではないか」

 

「ちょっ、見るな触るな近づくな!はやく出てってください!!」

 

「よいではないか、よいではないか」

 

「昔の時代劇じゃないんだから早く!」

 

.............何かしらがとても非常にまずいタイミングで起きたようだな.....。

思わず頭を抱えた私を、きっと誰も咎めないだろう。

 

「なんでこんなに狭い空間なのに当たんないの!?」

 

「それは貴様の修行不足だ。ほれほれ」

 

「ひっ...こんのぉ....どこ触ってんのよ変態!」

 

「ならば私の攻撃を避ければいいではないか」

 

「後ろから組み付くのは反則でしょ!?.....や、やめ....やめっ...」

 

「まさしくウサギよな....。この羞恥と恐怖に震える姿は紛れもなくウサギそのもの」

 

もしかして、これは私が止めに行かなくてはならないのだろうか。

厄介だ....そしてとてつもなく面倒だ。

確か浴室は数室隣のはずだが、何故ここまで聞こえる。

幾らなんでも会話がはっきりと聞こえすぎている......クラーグめ、またなにかやらかしたのか。

 

「実はちょっとした魔法を使っていてな?音送りというのだが、これは一瞬しか音が飛ばせない。だが間髪入れずに使用すれば滑らかに聞こえるのだよ」

 

「なんでその話を今しt..........はっ、まさか!」

 

「そのまさかだ。この会話はすべてあの不死者のところに飛んでいる。さっきまでの全ての会話は奴に聞こえているはずだ」

 

「~~~~~ッッッ!!忘れろこの変態!少しでも覚えてたらただじゃ済まさないんだから!!」

 

_____いったい私にどうしろというのか。音送りを防ぐ方法なんぞ知らぬし、そもそも記憶の改鋳なぞ出来るわけがない。

 

 

 

頭部に強烈な衝撃を入れれば話は別だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

あのまま向こうにいっていた場合、聞こえていたと判断されそうなためここで待機した。

その間に蜘蛛姫の現状を確認することとしよう。

 

1.下半身の蜘蛛の体が消えているということについて。私が浄化したのは病の膿と病そのものだったはずだが、なぜにイザリスの炎によって変化した体も治っているのだろうか。可能性にすぎないが、竜頭石と竜体石のようなものだと仮定すれば何となく説明はつくのではないだろうか。あれは一度死ぬことによってソウルが再構築されて元の肉体へと戻るが、蜘蛛姫も同じように溢れるほどの人間性を手に入れたため、『人』としてのソウルが蜘蛛の体を侵蝕していたのではないかと考える。死んだわけではないが、大量のソウルが侵蝕していた蜘蛛の体を『人体として』再構築したのではないだろうか。

 

2.なぜここにいるのか。これについては正直よくわからない。蜘蛛姫も理由が分からなかったため、この問題についてはあの二人が帰ってきてからにしようと思う。

 

 

二人で首をひねって考えていると、部屋の扉が乱暴に開かれる。

 

「 く た ば れ 」

 

_____不意打ちがしたいなら扉は静かに開けるのだな。

 

問答無用で飛び蹴りをかましてきたウサギ耳を躱して首を掴み、近くにあったハンガーで宙に吊るす。

ナニカ喚いているが、あの狭い空間で攻撃を与えられなかったウサギ耳はしばらくこのままでいてもらおう。

 

「不死者よ、さっきぶりよな」

 

_____ああ、そうだな......しかし、何故ここにいるのかクラーグは見当つかぬのか。

 

「あ、いやそのだな......いや、なんでもない。しいて言うならば、妹と話していたら謎の光に包まれてここにいたということだけだ」

 

_____前半の言葉の濁しようが怪しいが、本人の言うことだからなそういうことにしておこう。

 

「こら!束さんをここから降ろしなさいよ!てかここは私の家だっての!!」

 

クラーグも蜘蛛の体が無くなっている。

どういうことだ?混沌の娘は確かに人間性に囲まれていたが、クラーグは違った。なぜだ?これでは混沌の娘で立った仮説が立たないではないか。

今更だが、二人ともちゃんとズボンを履いているから安心したまえ。

上を着ないのはなにかしらのプライドか何かなのだろうか。

 

「ふっ......ほれ、そこは愛の力ってものだよ」

 

_____私の心中を覗き見たことは不問にするが........いやはやどうして家族愛とは素晴らしいものだな。イザリスの炎を跳ねのけるとは。

 

勝ち誇ったクラーグの顔が何故か曇ってしまった。

なんだろう.....そうなんだが、違うそうじゃないといった感じの雰囲気が伝わってくる。

どことなくカナシそうな顔しているのだが.......私はなにかしてしまったのだろうか。

 

「気にするな.......いや、そういう奴だとは分かってはいたが、こう、なんというか.....クルものがあるな...うん」

 

「姉さん.......泣かないで......」

 

「大丈夫だ妹よ、心配させたな」

 

「あんたらホントに大丈夫?束さんがなんか作ってあげるけど......」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「.........そういうなら........まぁいいか」

 

一瞬物凄く不安になったのだが、まあいいだろう。

聞かなかったことにしておくとするか。

 

 

こうして、現状の理解と今後についての話し合いは続いた。

やがて会話は終わり、ウサギ耳は二人を彼女ら用にと与えた部屋に連れて帰って行ったが、私には一つだけ.....心に引っ掛かっていることがある。

混沌の娘とクラーグは、謎の光に包まれてこの空中移動要塞に飛ばされた。

なら、彼女は......。

 

師匠は、クラーナ師匠はどこにいるのだろうか。

クラーグ曰く、光に包まれるその直前に、黒金糸のローブ姿の何者かがこちらを見ていたと言っていた。

そして、何かを呟いていた、とも。

 

黒金糸のローブとは、彼女の来ていたあのローブのことのはずだ。

では彼女が二人をここに飛ばしたのだろうか。

そんな至近距離にいたのなら、彼女もここに......もしくは付近にいるのではないか。

考えれば考えるほど不安になって、それ以上に心配になってくる。

師匠は自らの妹たちに対して顔向けできないと、私は卑怯者なんだと言っていた。

そんな師匠が........大丈夫なんだろうか.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その前に、ドアの隙間からこっちをうかがってる蜘蛛姫をどうにかするとしようか。

 

 

 

む?真っ暗な廊下をクラーグなしでどうやってきた。

というよりクラーグはどうした。

 

む?鼓動とソウルで来た?さっき触った責任?

すまない、本当にすまない。だから私のベットに当然のように潜り込まないでほしいのだが。

 

ウサギ耳を襲撃しにいった?南無三、哀れウサギは蜘蛛に食べられてしまった。

明日顔を合わせたら、馬鹿!ウカツ!かショッギョムッジョとでも言ってやろう。

つくづく、あの銀騎士の教えてくれる言葉は利便性に長けているものだ。

 

 

.......本当に蜘蛛姫は盲目なのか?梟より暗闇が見えてるような気がするんだが......。

因みに瞼は開いていないから、本当に見えていないのだろうけど。

 

どこかで、女の悲鳴と物が倒れるような音がする。

時々艶やかな声がはっきりと聞こえてくるが、私は何も聞いていない。

そう聞いていないのだ、そうしないといけない気がするのだ。

音送りなんて知らない。知らないッたら知らない。

 

.........何故、耳を押さえた手を超えて脳に直接聞こえてくるのか。

直接脳内に!?という電波も拾った。ん?電波とはなんだ?

 

先に寝てしまった蜘蛛姫の髪を優しく撫で、私はソファーというのに寝転び目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありのまま今起こっていることを話そう。

 

ソファーで寝たはずなんだが、朝起きたらベットの上で蜘蛛姫を腕の中に抱いて寝ていた。

何を言っているか分からないと思うが、私自身何を言っているのか分からない。

固有時結界だとか洗脳支配だとかそんな軟なものでは断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わってしまった気がする。

顔を熟れたリンゴのように赤く染めながら恥じらう蜘蛛姫は、とても愛らしかったというのをここに追記しておこう。

 

 

ついでと言ってはなんだが、顔を真っ赤にしたどこぞのウサギが、朝から無実な灰をその日一日中追いかけまわすという出来事があった。




スランプ?スランプ、スランプ。
スランプだぁ.....。
真面目な文章がかけない。前からそうだろとか言ってはいけない。

突然ですが、インフル感染中に見舞いに来てくれた友人たちがいたんです。
俺らに移せばお前も元気になるだろ、なぁにインフルなんぞにゃ負けんよ!って。
不覚にもかっこいいとか思ってしまった。

夕方まで一緒にいてくれて、最後の会話が、

「ここらへんに、うまいラーメン屋の屋台が来てるらしんだよ」
「ほう!じゃあ後で一緒に行こうぜ!」

って感じなんですが、そのことを兄に言ったらなぜか無言でDVD持ってきて、見せてきたんです。
見たら (うわっ。 ってなったんで逃げようとしたら、一瞬で亀甲縛りにされて全部見させられました。無修正でした。顔背けたらスマホ六台並べて全方向から流してきました。眼を瞑れば耳元で恥ずかしかった記憶を言われ続けました。

.........すまぬ友よ、私はそこには行けそうにない。
なんかやられそうだから。私はまだ人として死にたくないんだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、初めての休暇?を満喫する。

遅くなってしまってすいません。

別に理由なんて(bf1に嵌ってなかなか時間が取れなかったとかじゃ)ないです。
......(久しぶりにやり直したACが面白くて時間が取れなかったとかじゃ)ないです。

愛してるんだぁぁ君たちをををを!ぎゃははははははははははは!!!!!


すいません、まじすいません。

今回は、王様が無慈悲な回です。

少しでも(うわ。 やめてね。 と思った方はBB推奨です。


ウサギ耳が、『IS』とやらを龍脈攻略に使い始めた。

攻撃ではなくあくまで宇宙での使用を想定した防御力を求めてのことだった。

そのおかげなのかウサギ耳の被弾率が格段と減り、むしろその動体視力を生かしてパリィを決め始めるなどの成長も見えた。

 

 

 

―――――――まぁ、ウサギ耳の肉体の性能が上がったわけではないのだが。

 

 

 

とにもかくにも以前より攻略した龍脈の数は増え、今では二桁にまで到達している。

このままいけばいつかは終わりが見えるだろうと確信した時、ウサギ耳も想定していないイレギュラーが発生した。

『IS』......それは女性にしか扱えず、そしてこの女尊男卑の世界を作り上げた『ウサギ耳の』作品。

そんなISに男性の搭乗者が発見された。

 

名はオリムライチカ。数奇なことにウサギ耳の親友の弟君なのだという。

試験会場を間違えた挙句にISに触れ起動させてしまうという何とも言えない顛末だったが。

これにはさすがに驚いたのだろう。普段はしないであろう気の抜けた呆け顔をのぞかせている。

静かにしていれば誰もが振り返る美人さんだというのにこのウサギ耳は.........。

 

「んんっ?だれが美人さんだって?もう一回いって?ねぇねぇ!」

 

_____誰も言ってなどいない。恐らくそれは自分の生みだした哀れな幻聴だろう。

 

「ひっど!?誰も言ってなどいない(キリッ)までは予想できたけどそのあとが酷いよ!幻聴はまだいいとして哀れはないじゃん!束さんは訂正を要求するよ!」

 

_____ええい!回想中に現実の会話を捻じ込むなっ!

 

「はぁーい」 

 

まったく.........そんなこともあって世界はいま大いに荒れている。

そのせいか龍脈にも多少ばかりの影響があったのか中にうまく侵入できなくなったのだ。

いろいろとあったがオリムラはIS学園に入学という名の保護をされ、騒ぎが収まったかのように見えた。

やはりと言うべきなのか水面下で女性組織の団体が企んでいるらしく、面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。

だから私たちは.........。

 

 

 

 

 

 

_____遅い!引き際を見極めろ!!そんなのでは囲まれたらすぐ殺されるぞ!

 

「酷い!範囲一杯の光柱攻撃はひどい!上を意識しながらあんたの攻撃を躱せとか頭おかしいんじゃないの!?それ以前にもう囲まれてるっつうの!」

 

_____いいか、磨き続け鍛え続けた護りの剣は、その身に降り注ぐ災いさえ切り返すことが出来る。それは私の友たちが証明してくれた。故にお前にも出来るはずだ。

 

「なにQEDみたいな証明使ってんだよしばくぞこら!てかテラ理不尽!人じゃないあんたの友達も人間じゃないでしょうが!」

 

_____何を言っているんだ、(不死)人に決まっているだろう?

 

「普通の人間かって聞いてんだよスカンタン!!」

 

_____文句が言えるならまだ余裕だな。もう少し弾幕の濃度を濃くしてみよう。

 

「ㇸアッ!?ちょっ、雷とかどう避けろと.........あばばばばばばばばばばば!!」

 

_____む?一瞬だけ骨が見えたんだが.......まぁ、気のせいか。

 

 

 

 

 

 

戦闘能力の向上に勤しんでいた。

 

全身真っ黒になりながら黒い煙を上げて倒れているウサギ耳を見ながら、復活するまで少々考え込む。

最初期に比べれば俄然動きが良くなっていると思う。

こちらの攻撃に目ではなく体が反応しているようだし、違和感を感じたらすぐに確認しているようだ。

現時点でISを使ってこれのようだから、もっと訓練すれば今以上の動きが出来るようになるだろう。

 

「ISの防御能力貫通してくるとかどうなってんのよ......それより」

 

_____ふむ、どうかしたのかね?

 

「今あんたは、ISの絶対防御を貫通する雷を空に浮いてる束さんに全方位隙間なく展開した......間違ってないよね?」

 

_____そうだな。よく把握しているようで素晴らしい。視界のみに頼らなくなったということは、成長したということだな。

 

「ありがと。でもね?束さんは一つだけ言いたいことがあるんだ」

 

_____言ってみてまえ。

 

「.........ふぅ.......あんた私を殺す気かぁ!!!」

 

_____何を言うか、絶対防御とやらに自信があるというから手加減せずに打ち込んだというのに.......。

 

「くっ!なまじ自分で言っていた記憶があるせいで反論できない!」

 

たかが雷など食らい続ければそれを察知した体が無意識のうちに反応するもの。

本能的恐怖など、数え切れぬほど死に続けた私たちにはそれほど関係のないのだ。

どこぞの誰かも言っていたではないか。

『冒険者と呼ばれる者達は、本能的恐怖を自らへの警告と考える』と。

 

_____だから躊躇などしてはいけないのだ。

 

「なにが『だから』なんですかねぇ......」

 

_____ん?もう立ち直ったようだな。どれ、再開しようか。

 

「立ち直るの基準がおかしいことに突っ込みたい束さん。でも今はこの状況から何とかして逃げ出さないと......!」

 

反抗的だが、それでも非常に優秀な弟子のような存在に指導を開始しようとし、しかし後ろから投げかけられた声に動きを止めた。

 

「兄さん.....うさぎさん.....休憩の時間です...よ.......?」

 

「そういうわけだ、さっさと汗を流してこい。さもなくば料理はすべて私の胃袋の中に消えるぞ?」

 

_____娘にクラーグか。わかった、すぐにそちらに行こう。

 

「うわああああああん!助かったよ二人ともぉー!!」

 

部屋の入口に並んで立っていた二人に、うさぎ耳が飛びついた。

意外なことにクラーグが不意打ちをせずにうさぎ耳の体を優しく受け止め、ゆっくりと床に下した。

あれか、人格の改造でもやられたのだろうか。クラーグほどの存在を好き勝手できるほどの強者には遭遇していないが......。

 

「不死者よ......いくらなんでもうら若き乙女の肌に雷はどうかと思うぞ?傷でもできたらどうするつもりかね。責任を取れるのであろうな?ん?」

 

_____む......そういう言われるとこちらの配慮が足りなかったようだな。すまない、だが、私の知る訓練とはこれしか知らなんだよ。

 

「ふふふ.....なに、心配するでない。するでないよ。我に秘策ありぞ......。ふふっ...ふふふふふっ.........」

 

なぜだかとても不安になってきた。

だが、それを気のせいと思考の隅に押し流してしまったことを後々後悔することとなる。

その日は何事もなく終了したのだが、次の日から事件は起こった。

 

 

 

 

それは、私は訓練の時間が抜けた穴を何かで埋めようと考えているときだった。

りびんぐでそふぁーに座り、本(聖書や呪術書とは違った物語が綴られているらしい)を読んでいると遥か後方から超高速で動き回る音が聞こえてきた。

まるで銃と呼ばれる弓の進化したものが飛び回るような、それほどの速度だと考える。

朝食が終わって少ししたらクラーグはウサギ耳を連れて訓練場に向かっていった。

ウサギ耳はクラーグのことを苦手としているようだが、その実力は折紙つきなのを知っているためおとなしくついて行った。

 

この時間帯で訓練をしているのはあの二人しかいないがゆえに、この超高速で動いているのもあの二人ということになる。

流石クラーグだ。私にはこれほどの速度をたたき出すのには骨が折れるし、速度を出した分だけ注意力は散漫になり視界が狭まる。

私にはできない芸当だ。確かにこれはクラーグにしかできない秘策と呼んでいい訓練だろう。

ウサギ耳にもいい薬になる......と思っていれば、だんだんとその音が近づいてきた。

 

確実にこちらに来ていると確信した直後、音が何一つ聞こえなくなる。

あれほどの音がしていたにもかかわらず今は娘が体をほぐして零れてきた幽かな声しか聞こえない。

 

なにか不測の事態でも起きたのかと体を起こせば、訓練場へと続く扉が音もなく開く。

開けたのはウサギ耳のようだ。超高速で動いていた弊害か、服が乱れてしまっている。

だがそれも気にしていないかのように後方を警戒しながら私のそばに寄ってきたウサギ耳は、一瞬にして私の背後に回り抱きしめてきた。

 

ウサギ耳の思いもよらぬ行動と成長に驚愕しながらも、様子がおかしいことに気が付く。

息は熱を含むようにして乱雑に呼吸し、顔も紅潮させている。

何があったのか問おうとしたところで、それを中断するかのようにまたもや扉を開く。

 

クラーグが獲物を狩るような綺麗な笑顔を見せながら顔をのぞかせれば、私の背からヒッと息が漏れた。

 

_____貴公............。

 

「なんだその顔は。まるで私がナニカしたかのようではないか」

 

_____私の目がおかしくなければ、背にいる小動物はそなたに怯えているようだが......何をしたのだ?

 

「特に特徴のある事はしておらんよ。ナニもしてはいないさ」

 

_____本当に何もしていないのか?

 

「ああ、本当にナニもしていない」

 

何故だろうか、話がかみ合っているようでかみ合ってない気がするのだが.......。

 

「なにが何もしてないだよ!おもいっきりしてたじゃんか!」

 

私の方から目だけを出してクラーグの主張に反論したウサギ耳。

 

「む?私には記憶がないな......憶えているのならば教えてもらっても?ついでにそこな不死者に説明するといい」

 

「そ、それは......ちょっと.....」

 

「私がナニカしたのではないのかね?ほれ、黙っていては話が進まんぞ」

 

最初の威勢はどこへ行ったか、今は顔を深紅に染めてこちらを盗み見るように見つめてくる。

それを見たクラーグは端正な顔を愉悦に歪める。

 

―――――――こやつ確実に何かやったな―――――――

 

ようやく気付いたのかと言わんばかりのオーラを体から出しながら、私にもその愉悦の笑みを浮かべる。

 

「ようやく気付いたか....少し時間がかかったようだな。それとも何か?私に悪戯する光景でも浮かべていたのかね?ん?私は構わんよ、それが出来る度胸があるのなら」

 

_____いいだろう、ついてこい。はて.....防音を施した部屋はどこだったか....。

 

「え?ちょっ.....ホントにやるというのか!?まっ.....」

 

少しお灸を据えなければとクラーグの手を引けば、まさかの出来事に動揺するような声。

 

「危ないこと......しちゃ...めっ!......ですよ....?」

 

_____大丈夫だ、危ないことはしないさ。

 

 

この個性にあふれている面々の中で、混沌の娘が唯一の癒しのような気がしてきた。

 

あれから数時間たった頃。

私の足元には、両手足を固定されて口からは涎が流れ、目が虚ろで時々体をわずかに跳ねるように痙攣しているクラーグがいた。

その唇からは声と呼べるものは無く、羅列がおかしくなったかのように曖昧だ。

白磁の肌には汗が浮かび、甘い香りが脳を揺らす。

 

............私は何もしていない。

しいて言うならば、ただくすぐっただけなのだ。

流石に直接手で触れるわけにはいかず、ウサギ耳特製の羽で撫でていただけ。

しかし、予想を遥かに上回るほど敏感だったのか、背骨をなぞるように上下に動かしただけで艶やかな声が飛び出した。

クラーグ自身も驚きだったのか、顔は驚愕に染まっている。

いたずら.....というなのお仕置きに悩んでいた私はすかさずこれに決定し、徹底的にやることにした。

 

脇から胸へと蛇行するように動かせば声を漏らさないように必死に耐え、太ももの内側をなぞれば閉じた口から熱い吐息がもれていく。

足の裏を羽の先でつつくようになぞれば、動かない足を動かして逃げようとし、へその周りをクルクルと動かせば、遂に口を開けて情欲に濡れた声があふれ出す。

 

「もっもう....ぁっ....いい...だろう..んっ....ゆる...ぅぁっ...し...ぁんっ!....」

 

_____そういったウサギ耳に、そなたはやめたのか?

 

「...........ぁひ.......ゃん........」

 

_____つまりそういうことだ。

 

その後も続いたクラーグの必死の停止の言葉を無視して続けた結果、この状態が出来上がってしまった。

この光景を見られたら確実に違う何かに誤解されると確信した私は、過去最高速をたたき出して毛布を取りに行った。

未だに流れている汗を全て拭き取り、体を毛布で包んで自室である隣の部屋のベットに運んだ。

そのまま寝てしまったクラーグに、『目が覚めたらシャワーを浴びるといい』と置手紙を残して、先にシャワーを浴びた。

 

服も着替えてリビングに戻れば、どう言い表せばいいか分からないほど顔を紅潮させている混沌の娘と凍えるような目で見てくるウサギ耳。

どうしたのかと問えば、

 

「声がこっちまで響いてた」

 

としか答えない。

まったくもって分からない私はしばらくそこで考え込んでいた。

 

 

―――――――余談だが、この後もちゃんと訓練したから安心してほしい。ただ、クラーグの熱のこもった視線が増したとも付け加えておこう。




無慈悲(意味深)

王様は無慈悲(意味深)、はっきりわかんだね。
初めてののんびりした空気を王様に知ってもらうために、クラーグには犠牲になってもらいました。
別に私がこうしたかったとかではない。断じてない。大切なことなので二かry)

次はだれに犠牲になってもらおうか....そうか!3のかぼたんn(氷那はアンドレイのハンマーで潰された後、シーリスにとどめを刺されました)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、強者の卵を見守り蜘蛛の意思に心荒れる。

うぇい!(挨拶

日々過ごすたびに広がっていく投稿感覚。
同じく広がっていくフレンズ。

うわーい!すごーい!たーのしー!
七話に感動したでござるよ、うっ......。

君は言葉を遺すのが得意なフレンズなんだね!

すいません(純粋


クラーグ放心事件から時は立ち、うさぎ耳情報でIS学園で問題が起きたらしい。

どういうわけかオリハラ(弟)が問題の中心人物のようだ。うさぎ耳には穏やかで爽やかな性格の人物だと伝えられていたこともあって柄にもなく驚いてしまった。

 

詳しく聞くと、クラスの代表を決める話し合い中に一人の女がとある言葉を放ったようで、ニッポンを馬鹿にされたオリハラ(弟)が言葉を放った女に反論し、結果醜い口喧嘩のようになってしまい、見かねたオリハラ(姉)が互いに決闘を行って、ついでにクラス代表にするということでその場を収めたらしい。

さっさとその場で殺し合えばすぐに終わるだろうに......。どちらが上かが目に見えて理解でき、刃を交えたことでお互いの思考を大まかに把握できる。同時に頭の回転のよさもわかるのだから一石二鳥ではないか。

 

うさぎ耳にそう提案したらあきれた目で見られてしまった。

 

どうやらうさぎ耳は、そのクラス代表戦で自作のゴーレムを出張らせ、向こう側の簡単な戦力と対応力を図りに行く計画を立てていた。

私にはそれを自分の目で見てくるように言われた。

この学園の人間は、才能と実力を兼ね備えた者たちが集ういわゆる訓練場のようなもので、ここの奴らを基準にデータを作り、自分の戦闘スタイルをカスタマイズすることが第一優先だという。

 

第二には箒という妹が心配だから、様子を見てきてほしいというのだ。

うさぎ耳曰く、自分は妹に嫌われているから顔を合わせられない。

              ↓

ならば、自分と面識があってなおかつ初対面の人間が好ましい。

              ↓

ちょうどいいところに面識があって初対面の人間(?)がいるではないか。

              ↓

ゴー、王様ゴー!マイエンジェル箒たんの様子を探ってくるのだ!

 

へとつながった。

 

あまりにも杜撰で穴だらけなこの作戦が頭に来たため、ちょうど部屋に来たクラーグに連れて行ってもらった。

ナニがおきたのかは、あの二人だけが知るところである。

 

数時間後、気絶しているウサギ耳を蜘蛛姫が膝枕していた。

目が見えないないのにどうやって器用にも頭をひざに乗せているのかとか、私にもやってもらえるだろうかとか、うさぎ耳が起きたら即訓練再開してやるとかどす黒い感情が心に満ちるのを無視して、ゴーレムの背に乗る。

 

うさぎ耳が「あの訓練だけはマジで勘弁してくださいお願いしますなんでもしまs(ry」と涙目で懇願してきたので、蜘蛛姫の膝枕を対価に要件を呑んだ。

蜘蛛姫の許可を得たうさぎ耳は、嬉々とした顔で私に言う。

 

「さぁそらの旅へと逝ってらっしゃい!大丈夫死にゃしないさ!!!」

 

私がすぐさま膝枕から添い寝へと条件を変更するのは自明の理である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また蜘蛛姫から許可を取ってくるまでに数日かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際に私が空を飛ぶ羽目になったのはクラス対抗戦の時であったが、空からの景色は格別なものであった。

はるか高みにある雲を超えるなど、アノール・ロンドや古龍の頂、最初の火の炉くらいのものだ。

IS学園にたどり着くまで、風圧に押されている体をもち直して景色を眺め続けた。

 

やっと着いたかと思えば一瞬で感づかれ集中放火の鉛玉のプレゼント。

不死者に『死』を贈ろうなど片腹痛いことである。

全裸の変態のような軌道を描いて動くゴーレムは、上にいるはずの私への考慮を完全に忘れて避けていく。

蛇のようにうねりを加えながら飛んでバレルロールなどすれば私がその場に留まれるはずもなく、ちょうどオリハラ(弟)と赤い機体を操り駆ける女のところへと落ちてしまった。

 

 

 

 

 

――――――この高さはアウトだと、悟ったように考えながら。

 

 

 

 

 

 

ステージにはってあった障壁らしき何かをたたっきりながら侵入すれば、目にも止まらない速度で地面に衝突した。

盛大に崩れた地面の白い粉をまきたてつつ、0コンマ数ミリほどだった体力をエストで回復させる。

とっさに装備した銀猫の指輪を無効化するとはいったいどんな高さから落ちたというのだろうか。

いつもならば次元のはざまに飲まれて篝火に戻されるのだが......。

 

 

ふむ、考えたくもないな。

 

 

「なっ、なんだってんだ!?」

「まったく、一々喚くのやめなさいよ一夏...。そんなんだから.......んん....」

「ちょっと待てよ鈴。そのあとに何が続くってんだよ。よくも酷く気になるところで切りやがって」

「あら、知りたいなら力ずくで聞き出せばいいじゃない?」

 

未だ空舞う砂埃をさっき装備したロングソードで薙ぎ払えば、なにやら警戒した様子のオリハラ(弟)と赤い機体の女子。

二人はゴーレムなど目に入らないのか、私から一向に目を離さない。

そもそもゴーレムが二人の相手をして私が遠くから見ているという作戦だったはずだが、いつの間にか立場が逆転しているではないか。

空から帰ってくる様子のないゴーレム。

あ奴はあれか、へたれなのか。空に舞いあがったっきり帰ってこない空の王者(笑)なのか。

 

まぁいい。とりあえずは様子を見ようか。

私が居眠りでもするかのようにゆっくりとその場に座れば、遠目でも分かるほどに憤慨している女子とそれを必死に宥める青年の姿。

 

「あいつ....イレギュラーだか正体不明だか知らないけど、この私の前でそんな格好するなんていい度胸じゃないの?ええ?今すぐぶん殴ってやるわ!」

「ちょっ!落ち着けって鈴!何か策があるかもしれないだろ!?」

「しったこっちゃないわ!そんなもの立てさせる前に潰せればいいんだもの!」

「お前はこの数年でなんでそこまで脳筋になっちまったんだよ.....」

 

女子は青筋を立ててこちらを指さしながら青年にどなっているが、何故その怒りを俺にぶつけるのかとでも言いたげな青年が、またもや怒鳴る。

素人かと思い、直撃コースで投げナイフを投げれば、女子が青年を押し飛ばして防いだ。

どうやら女子のほうは、投げナイフの風を切る音に反応して行動できるほどには、訓練されているらしい。

青年はまだまだ。まだ目を白黒させているし、完全には防げなかったのだろう女子から出る赤い命の水を見て、幽かに怯えが混じっているように見える。

 

女子はそんな青年を無視して私に正面から突っ込んできた。

 

「はぁぁあああああああ!!」

 

飛矢以上の速度で迫ったかと思いきや、手にもつカトラスのような刃の付いた槍を振り回してきた。

その槍は、中心が体幹からはずれないギリギリの位置を人間の動かせる限界の速度で振られている。

私の退路を防ぐかのように振るわれたそれは、私から発せられた衝撃波によって防がれた。

 

神秘・神の怒り

 

ぶつかった標的に僅かなダメージを与え、遠くへとノックバックさせる効果を持つ。

狭い場所や崖が近いときは、闇霊白霊関係なく使っていたえげつないものでもある。

 

「くっ!...きゃっ!!」

 

比較的小柄なその女子は予想以上に吹き飛ばされ、壁にぶつかる。

 

「鈴!」

 

ここまで狂っている衝撃波は無かったはずだがと、喰らったことがある経験者として純粋に驚愕していると、またもや新しい驚愕が私にもたなされる。

 

嵌め技を喰らう時のような嫌な気配が私を包み、とっさに飛びのいた途端に、見えない何かが地面を抉った。

 

「嘘っ!?初見で私の衝撃砲を避けた!?」

 

寒気がするたびに飛んでくるそれは、球形でまっすぐ飛んでくる。

空気を抉るように飛来するためか、独特の音と共にやってくるようだ。

次第に慣れてきた私は月光の大剣を装備し、初めて陥った状況に戸惑っているのか硬直した隙に斬撃を飛ばす。

慌てて意識を戻して上にはじいた女子は、しかしその勢いを完全に受け流すことはできず。

背中から盛大に体勢を崩して地面にドサリと倒れこむ。

 

「くぅぅぅっ....なんて重みのある一撃!しかも剣そのものからじゃなくて剣圧をただ飛ばしただけでこの威力!!一体何者なのよ!?」

 

無防備にさらされる腹に容赦なく上段切りを叩き込めば、なにかバリアのようなものに阻まれてしまった。

 

恐らくこれが、ウサギ耳の言っていた絶対防御とやらなのだろう。

確かにある程度の攻撃は防げそうだが、一撃必殺的な攻撃(狼騎士の大剣・煙の特大剣)には突破されてしまうだろう。

 

実に面白い仕組みだ.......全部ばらばらにして調べてみたい.......。

 

何を悟ったか自分の体を抱きしめるように下がる女子を見て、何か勘違いされたことは間違いないと確信した。

とにもかくにも声を交さねばと近寄れば、青年が前に立ちはだかり得物を構える始末。

 

再起動までが遅いぞオリハラ(弟)よ.....。お主が再起動するまでに百八式ほど倒す方法が思いついたわ。

ウサギ耳が言うより強くない.....というよりは、実戦向けな戦闘が出来ていないこやつらは、本当に強者の卵という奴なのだろう。

動きがぎこちないことや、目が私だけに釘付けになってしまっていること。

     

それに、『たかが剣圧が飛んできただけ』でここまで怯えてしまってはどうしようもない。

私ではない本物の究極を手に持つ者達は、剣圧どころか炎や光の柱まで飛ばしてくるものもいる。

 

どこぞの兄王は、『エクスカリバーァァァァァァ―――ッッ!!!』などとサイン蝋石で書いて極光の波をお見舞いしてくれた。

範囲が大きすぎて避けられなかったのと、(あまりにも体の線が細いのと、声が女性よりだっため彼女と呼んでしまったことに)激怒した弟の方が、『その心臓(ソウル)貰い受ける!ゲイ・ボルクッッ!!』などと叫びながら魔術で作った槍を投擲。

空気の壁を貫く勢いで飛んできたそれは、一瞬にして私の心臓(があったところ)を貫き、あっという間に体力を削り切って次の瞬間にはゆらりと燃える篝火。

 

内心で貴公ら一体何者なのだ.......と考え込んだのは記憶に新しい。

 

考え込んで動きが止まった私を警戒したのか、二人が後方に跳躍して距離を取る。

そういえば先ほどから扉の隙間を使って覗いている女子がいるのだが、もしやそ奴が箒たん(?)なのだろうか。

ソウルの揺らぎもなし、心拍数にも乱れはなく、呼吸も落ち着いていて目もよく見えているようだ。

これで、ウサギ耳から頼まれていたまいえんじぇる箒たんとやらの健康調査(すでに違う)も終わった。

 

長居は無用。とてもよくない剣士のような、重心が全くぶれていないのにもかかわらず高速で迫ってくるナニカから逃げるように螺旋剣のかけらにソウルを捧げて帰還する。

篝火の前に待ち構えていたウサギ耳に恐怖を感じつつ、結果を報告。

二人としか交戦できなかったが、どちらもまだ未熟であり血を見ただけで腕がすくむようでは強くなれそうにはないというのと、逆にそれを克服できた場合の利益は計り知れないということ。

まいえんじぇる箒たんとやらはソウルを見る限り健全な生活を送っていると思われること。

 

 

こんなもので納得してしまったウサギ耳だが、最近様子がおかしい。

朝早く目が覚めたかと思いきや、訓練室にて愛刀の物干し竿で素振りを開始。

挙句のはてには、最近導入したシュミレーションシステムとやらを使って仮想対戦までし始めたのだ。

 

こやつが自ら鍛え始めるときは嵐の境目、近いうちに面倒なことになりそうだ。

主になぜかてろりすと扱いされ、れーだーとやらで追われたり、どこぞの世界の狂信者に襲われたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、あまりにも素晴らしい快晴のために散歩をしてみようと考えた。

人気のないところで地上に降り、しばし観光でもしようと。

そんな私の朗らかに迎える筈の一日は.........。

 

「あん?....なっなっ、て、てめぇ!あんときの!!」

「」

 

いつか対峙した蜘蛛の心を持つ者に妨害された。

雲一つなく青く澄み渡っていた心の空は、この瞬間を持ってあの大きな鐘を鳴らした時のように曇り吹き荒れすさみ始めていた。

 

 

 

 




やっとこさクラス代表戦。しかもゴーレム乱入の。
遅すぎる?そうだね、プロテインだね(白目

私めはアニメを少々と他の著者様の二次小説にてISの知識を保管しているです。
矛盾があればいってくだせぇ。

俺の嫁はこんなのじゃねぇ! ざっけんなてめぇムッコロスゾという方は、ご意見よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王は、言いようのない悪寒に苛まれる。

投稿遅れてすみません。
没に没を重ねたら、なんかよくわかんないのができました。
現状はこれが精いっぱいでござる......。

注意!深刻なキャラ崩壊らしき何かが含まれています。
性格の一端が私によって改変されて、原作とは違ったキャラになっております。
苦手な方は、BBを連打して、ダクソをしてから熟睡しましょう。


まずいことになった。想定外にもほどがあるだろう。

まさかこのような晴天に蜘蛛の女に会うとは。

 

彼女も私も何も言わない無言の空間が出来上がった。

今思えば、なぜ彼女は『鎧の男』が私だと気が付いたのだろうか。今の私は、鎧を脱いで顔を見せている状態だ。

ああ、安心してほしい。以前は亡者顔どころか全裸大剣で疾走する輩が蔓延っていたが、この世界に来てからは人間性を捧げるか、とある指輪で生者の外見を模している。

だから、深夜に亡者顔の私に遭遇してその場で奇声を上げて失神したウサギ耳のようなことにはならないはずだ。たぶん。

生者としての顔はウサギ耳や蜘蛛姫たちからお墨付きをもらったため、影響はないと思われる。

 

 

本題に戻ろう。私の正体についてだが、最初は私の聞き違いだと思った、が、確かに彼女はあの時の!と口にした。

ならば私が『あの時の鎧の男』だということは看破されていると考えてもいいだろう。

鎌をかけているという可能性も否定できないが、彼女のソウルの揺らぎの無さから、そういった類の―――心理戦や頭脳戦など―――ことは苦手なのだろう。

彼女は目元をわずかにヒクつかさせながら口を開いた。

 

「お前...何しに来た」

 

――何とは...このような快晴で散歩をする以外の選択肢があるのか?

 

「余生を過ごす爺かてめぇは!あぁ、クソッ!てめぇと話してると頭がおかしくなりそうだ」

 

――どうした、エーエムエスから光でも逆流してきたのか?

 

「なんだそりゃ......ついてこい、町を案内してやる」

 

――......いいのか?

 

「私が用事あんのは町だからな。そのついでにお前も連れて行ってやるだけだ。勘違いするなよ」

 

――どう勘違いするのかは分からんが助かる。この町は初めてでな、道筋がよくわからなんだ。

 

「......ついでに服も買っておけ。そんな愚にもつかん姿じゃ私の格が疑われる」

 

――ふむ.......では服屋まで私は透明化しているとしよう。なに心配はいらん、姿は見えんがそばにはいる。

 

どうやら、彼女が用のついでに私を町に案内してくれるようだ。しかもその町の案内まで。

もしや根は普通に常識人なのかと考えれば、見えないはずの私をその眼でしっかりと捉えて睨んでくる。

それを華麗に流せば、彼女は盛大にため息をついて歩き出す。

私は、この場においていかれないように背に寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今現在、何かしらの呪術によって時を止められている。

 

もしや、私の姿は何かしらの禁忌に触れているのだろうか。

私に服を持ってきて、姿を確認してから動かない蜘蛛の彼女も、一人で男性用の服を選ぶ彼女を怪しげな顔で見ていた店員も、野次馬根性でそれらを見守っていた他の客たちも。

誰もがその動きを止めていた。正確には私を見たまま止まっていた。

 

謎の空気に飲まれないよう蜘蛛の彼女に声をかけるも、目を見開いた状態のまま微動だにしない。

 

――蜘蛛の......蜘蛛の...どうしたのだ。

 

「....お...おまっ........」

 

――む?私がどうしたのだ?

 

「お前...どこかの王族とかじゃぁ....ねぇよな?」

 

――生まれも育ちも普通なはずだが?

 

『王族』か、と聞かれたら否だが、王ではある。

しかし、単一の存在である薪の王は直系の子孫など存在しない。

そもそも不死人や火の無い灰たちに生殖機能があるかどうかはまったくもって未知である。

 

それが一体どうした、もしや今の姿が絶望的に似合わないということだろうか。

そういえば持ってきてくれた服たちはどれも薄くて防具としては役に立たない。

はて、服屋とは、この世界での防具屋では無かったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あの服装のまま服屋をでた。

あの騒動の後、蜘蛛の彼女が絵の描かれた紙を店員に渡そうとするが、店員はそれを受け取らない。

聞いた限りだと、一生ものを見せてくれたお礼だと言っていた。

それなら...と言って蜘蛛の彼女は引くが、代わりに写真とやらを撮らせてほしいと、店員は条件を示す。

 

何のことか分からなかった私は蜘蛛の彼女に選択を委ねれば速攻で許可を出してしまう。

新手の呪術かと警戒するが、蜘蛛の曰くその姿を紙に写し取るものだという。

ならばと妥協したのが運のつきだったのかもしれない。

 

撮られた、それはもう数えきれないほどに。

何度も服装を変えて、立ち方を変えて、場所を変えて。

写真を撮られるたびに、カメラマンと呼ばれる女性の息が荒くなる。

そんなことがいつまでも続くかと思われたが、太陽が地平線に隠れたことに気が付いた店員が解放してくれた。

 

 

 

 

 

ところで、半裸で写真を撮るのは何か意味があるのだろうか。

 

 

 

 

 

町から出たときには、もうくたくただった。ここまで体力を消費したのはグウィンと戦った時以来だろう。

蜘蛛の彼女も、心なしか申し訳なさそうな顔をしている。

具体的には何らかの仕返しはしたかったがこれは愉悦を通り越えて可哀そうだと。だが思いのほか自分が楽しんでしまってかける言葉が見つからないと。

 

「あー....ゴホン、なんか......すまなかったな」

 

――いや、構わん。あの魔の手を完全に捌ききれなかった私の落ち度だ。貴公があやまる必要はない。

 

「でも、さすがに今回はこっちが....!」

 

――謝罪はいつか私を殺すということでどうか。あの時地に臥せていた貴公は私をいつか必ず殺すと声にした。貴公も戦士ならば二言はあるまいな?

 

「........ふん、あんたがそういうならそれでいいよ。アタシに殺されたって文句は言わないでよね」

 

――少なくとも今は、確実に無理そうよな。

 

 

私はそういって高速で近づき、彼女の頭に手をのせる。

 

「ふにゃ!?な、な、なっ何を......!?」

 

そのまま優しく撫でていれば、やっと頭が回り出したのか今の状況を把握した彼女は、顔どころか首や耳まで真っ赤になって私の手を払う。

 

「なにすんだてめぇ!男風情がアタシの髪に触れんじゃねぇ!!」

 

声に含まれる覇気は本物だが、若干目が潤んでいるせいかなんとも迫力に欠けている。

 

――私に頭を触られているということは既に貴公は三回ほど殺されている。油断は禁物だ。

 

「アタシの全てはスコールのものだ、テメェにとられる命なんざねぇよ」

 

――ほぉ、あの時の救援者はスコールというのか。

 

「あっ、やべっ!.........んんっ、こっからだ。こっからが本番だ。だからさっきのはノーカンだ、いいな?」

 

人差し指を口の前で交差させて口止めを迫る蜘蛛の彼女。

 

――失敗は隠ぺいして事実を知るものに閉口を強要する、まるで大きい子供よな。なんともかわいいものだ。

 

「か、かわっ.....クソがッ!....もう帰る!」

 

楽しい、実に愉しい。なるほど、これが『愉悦』......他人を弄るとはこんなにも楽しいのか。

私は不死者だ。数えきれぬほど生きながらえた今までの渇きを癒すために、もう少しだけ楽しんでも文句はあるまいよな?

 

――まて、蜘蛛の。

 

「......なんだよ、もう帰らせろよ」

 

眉を歪めてこちらにふり返った。

 

――ひとつ言い忘れてな。貴公のその精神の強さはまさに頑強。我らに勝るとも劣らない輝きを秘めたものよ。

 

「......は?つまり何が言いたいわけ?」

 

――自分の痴態を衆目に晒しているのにもかかわらず、平然としている貴公は、かのミルドレッドにも劣らぬ心の強さよな。

 

彼女の顔が紅くなる。先ほどとは比にならないほどの紅だ。顔どころか全身が紅くなり、幻覚かもしれないが頭から湯気がでているような気がする。

弾かれたボールように自分の姿を確認する彼女は、実に弄りがいがある人物だ。ところが先ほどまであわただしく自分を確認していた彼女の動きが止まる。

どうやら自分がおちょくられていることに、遅まきながら気が付いたようだ。

 

「~~~~~~~ッッ!!!~~~~~~ッ!!」

 

――愉悦、実に愉悦。いいものだな、これは。

 

顔を伏せて体を震わせている彼女。握りしめた拳は、紅蓮の炎が幻視出来るほど。

そんな彼女が、ゆっくりと顔を上げてつぶやいた。

 

「.........コロス....ころす....殺す....ぶっ殺す!!!」

 

言うのがはやいか、ほれぼれするほどの右ストレートを放つ彼女。

空気を貫くかのような鋭い突きは、しかし、わずかに私の体を擦るほどで決定打を与えられない。

原因は一目瞭然。威力は申し分ないだろうが、比較して圧倒的に速度が足らない。

 

――威勢がいいのは素晴らしい、それに威力・衝撃共に及第点。だが当たらなければどうということはない。

 

「死ね!死ね!!死ねぇ!!!このオータム様をなめんじゃねぇ!だからっ、さっさと、当たれっての!!」

 

――技量不足だ。加えて右腕の挙動が左腕に比べてわずかに遅い。原因など知らぬが肉体は大事にしないと殺され尽くされるだけだ。

 

「余計なお世話だね!どっかの誰かさんが問答無用で長物叩きつけたせいだけどなぁ!」

 

――戦場にて男も女も等しく戦士。たかが性別で優劣を語ればすぐさま首を刎ねられよう。ここでは女尊男卑なのだったか。確かにISとやらを持つ者は選ばれし者なのだろうが、ISとはつまり私で言える鎧のようなもの。瞬間的に装着できるようだが、それを上回る速度で心の臓を貫けばいいだけのこと。いくら鎧の性能が高かろうと中身がナメクジにすら劣る弱者では話にならん。町でいくらか絡まれたが口だけ達者な者ばかり。実に詰まらん。

 

「そいつは、確かにっ、思う、けどなぁ!」

 

――他者より上に立ちたければ殺せばいい。単純明快にして直截簡明。そういえば、戦場を分かりやすく表現した言葉があったな。確か.......『弱肉殲滅』.....だったか。

 

「『弱肉強食』だ!んな殺伐としたバイオレンスな言葉じゃねぇよ!?」

 

――まぁいい.....敢闘賞だ。受け取れ。

 

私と会話しながらもひたすらに両の拳を振り続けた蜘蛛の彼女......いや、オータムに贈り物をしようと思う。私の世界では溢れていたものだ。ここで渡してしまっても構わんのだろう?

何時になるかは不明だが、私を殺してもらう以上万全の状態で殺し愛をしたい。もう蘇れないとしても、後悔なきよう命の灯が消える瞬間まで剣を持って立ち向かうために。

 

「なんだこりゃ?金の指輪と.....金の瓶か?てかこれさっきどっから出した?」

 

――寵愛の指輪と言ってな。一度つければ外した次の瞬間には崩れ去る極端なものだが、性能は優秀だ。瓶の方は女神の祝福というものだ。口にすればたちまちあらゆる傷や弱体を回復する優れもの。

 

「おいこらスルーかよ.....。なんでアタシにそんな高価な物を送るの?あの時に会って殺し合いしただけでしょ。施しなら断固拒否するわよ」

 

――誰がそのようなことをするものか。貴公は一度死んだとして蘇れるか分からぬからな。貴公が死ねるのは私を殺した後のみだ。それまでにどこぞでくたばってもらっては困る。

 

「いや普通一回しか死ねないから。何度も蘇ったらそれただのホラーだから......まったく、随分と厄介なストーカーに目をつけられたものね」

 

――何を言うか、仕掛けてきたのはもとより貴公らであろうに。さらばだオータム。次会う時はもう少し練度をあげるのだな。

 

「ちょっ、アタシ受け取るとはいってn......って、燃えてる!?あああああしょ、消火器!いや、それよりもどこでアタシの名前を....へっ!?か、体がどんどん薄くなって.....はっ、まさか逃げる気か!!待てこら!勝ち逃げなんざ卑怯だぞー!」

 

 

おそらく私は今、不気味な笑みを浮かべていることだろう。

もう何も聞こえないが、私を指さしてなにかを捲し立てているオータムを見て、次あった時にはそれなりの強さになっていることを願ってこの場を去った。

 

 

 

 

 

 

「んー?王様随分と機嫌がいいじゃん。どしたの?なにかいいことあった?」

 

――なに、強者の原石に会ってな。あれは基礎が失しっかりと定着している故、上達も早いだろう。単純な武力ではウサギ耳以上になるぞ、あれは。

 

「なにそれ!?この束さんに内緒で王様と会うなんて!もし今後あったら男女関係なくただじゃおかないかんね.......」

 

顔に出るほど昂ぶっていたのだろうか。出会いがしらにウサギ耳に指摘されてしまった。

爛々と目を輝かせるウサギ耳に今日のことを聞かせてやると、自分より強くなるというところより、自分の知らぬ間に私が誰かに会っていたことに憤慨した。

まったくもって不可解だが、ウサギ耳にも何かしら思うことがあるのだろう。

死んだ目のまま時々人に聞かせてはならない物騒な単語を呟きつつ、自分の研究室にはいっていった。

 

 

リビングに戻れば、蜘蛛姫は料理を、クラーグはソファーでゆったりとくつろいでいた。

二人とも私を純粋に心配してくれていたようで、蜘蛛姫など料理途中だというのに放り出して飛び込んできたほどだ。

大げさな......と思わなくもなかったが、心配をしてもらえるということはそれなりに好意を持ってもらえているということに他ならない。

多少擽ったい気分になりながらも、なんとか落ち着かせた。

 

 

 

夕食も、風呂も、一日に終えるべき全てを終了させた私は、シミ一つない柔らかなベッドにもぐりこんだ。

オータムと戦闘中に、大いなる大地のソウルが、歪に動き出すのを感じた。

どうやら、私の元いた世界が巨大な癌となって出現したのだろう。

恐らく、ここにいる全員がそれを感じたはずだ。明日は面倒な日になりそうよな。

 

それもただ面倒なだけではなく、今まで以上に私の知る固定概念が崩れ去るような、言葉で言い表せない不思議な感覚。

背を這い上がってくる謎の悪寒を無視して、強引に瞼を閉じた。




かなりの時間がかかったのにこんなのしかできなくてごめんなさい。
だんだんとリアルが忙しくなって、手をつけられない日々が増えてきました。

おそらく、これからも投稿頻度は遅いままだと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。