東方永絆録 (朎〜Rea〜)
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なくなっていたアレ

この小説を手に取っていただきありがとうございます。

さて、今回は東方の二次創作をやらせていただく、❮勝手に東方二次小説化企画❯です!
作品紹介のところでも書いてあるとおり、なるべくキャラ崩壊はしないようにするつもりです。原作を知っている人はさらに楽しめたらなぁ……なんて思っています。

ちなみに、この【永絆】の読み方ですが❮とき❯と読みます。
話の内容は絆の物語です。
相変わらず、戦闘シーンはとっても苦手な私ですが、違うところで楽しんでいただけるとありがたいです!!

この話は主人公&視点が魔理沙となっています。別に魔理沙が好きいう訳では無いのですが、思考回路が簡単そうだから書きやすいかな……なんて(やばい、魔理沙ファンに殺される……)

と、とりあえず、ぜひ楽しんでください!!


「うーん。天気もいいし、することがない。紅魔館にでも行ってみるか」

 

 箒に跨り、いつもどおりの空中散歩なのだけれど、お茶が飲みたくなるというのは散歩の性さがなのだろう。紅魔館なら紅茶にありつけるだろう。

 霊夢の所に行ってお茶を飲むのも考えたけど、最近毎日行ってるからうるさいんだよな、あいつ。博麗の巫女なら巫女らしくしろってんだ。あんなだから、いつまで経っても賽銭が――

 

「あでっ!?」

 

 ふと、頭を殴られた気がした。周りを見てみるが、誰もいない。

 

「気のせいか……もしかしたら、あいつの怨念だったりしてな」

 

 誰もいない空中で一人笑い飛ばし、紅魔館に向かう。

 

 

 

「あ! 魔理沙!! 私と勝負しなさい!」

 

 

 

 甲高い声が空に響いた。

 

「寒いと思ったらやっぱりいたのか、おまえ」

 

 紅魔館前の大きな湖の上。ヒンヤリとした空気の中にそいつは現れた。そいつは青を貴重とした服を着て、頭にリボンをつけている氷の妖精、チルノだ。けれど、なんか違和感がある。しかしそれが何なのかというのはよくわからない。

 

「悪かったわね! いいから、私と勝負しなさいよ!」

 

 こりゃ、勝負しないと開放してくれそうにないな……

 ま、暇潰しにはもってこいだからいいんだけどな。

 

 さて、この勝負というのは弾幕ごっこのことである。博麗神社の巫女である博麗霊夢が考案したスペルカードルールに則ったゲームのような、スポーツのようなものである。

 少し詳しく話すと、弾幕ごっこは妖怪と人間の間で行われるが、相手を殺す為に行われている戦いではない。本来の命を掛けた妖怪退治を擬似的に再現した決闘である。まあ、死人が出ることもあるのだけれど……

 

「わかったわかった。ほら来いよ」

 

 指先でクイクイと、チルノを挑発する。

 

「いっくぞー! アイシクルフォー……」

 

 腕を振り上げたまま、チルノはぴたりと止まった。

 

「……? いつもの勢いはどうしたんだ?」

「いやだって、アイシクルフォールって目の前ががら空きになっちゃうじゃんって思ってさぁ……」

「っ!?」

 

 あのチルノが頭を働かせててやがるぜ……一体何があったんだ?

 

「なによ、その素っ頓狂な顔は!?」

「いや、悪い。お前ほんとにチルノなのか?」

 

 どっからどうみてもチルノなんだよなぁ……だけど、こいつがそういう考えを巡らせるわけあるまいし……

 

「あ、いた! チルノちゃん! 大変なんだよ! 早く来てっ!」

「え、大ちゃん!? どうしたの!?」

 

 急に現れた緑色の妖精がチルノの手をつかんだ。えっと、あれは大妖精だったな。

 

「いいから早くっ!!」

「魔理沙! 覚えてろーー!!」

 

 チルノは如何にも悪役のようなセリフを吐いて、大妖精に連れ去られた。

 

「なんだったんだ……? まあ、いいか。とりあえず、お茶だ」

 

 

 

 さて、紅魔館の門の上を通過して。

 

「お邪魔しますよっと」

 

 しかし、美鈴はほんとに仕事してないな。また、居眠りでもしてるのか? まったく、ダメな門番だ。こんなんじゃ、泥棒に入られてもしかないというもんだ。

 

「図書館はこのへんだったが? それじゃいっちょ、マスタースパーク!」

 

 凄まじい爆発音とともに、城壁が崩れた。崩したと言った方が正解かもしれない。

 

「ちょと、魔理沙。あなたは入口というものを知らないの?」

 

 屋敷の中から私を見上げながら溜息をついているのは、図書館の管理人のパチュリーだ。今日はいつもより体調が良さそうにみえる。

 

「入口から入ったら私が招待されたみたいじゃないか」

「あら、そう。客じゃないならお茶は出さなくていいわね。小悪魔、散らばった本を片付けてくれる?」

 

 そういって、パチュリーは踵を返した。存外冷たいんだよな……

 

「ちょっ! 冗談だぜ!! 私が悪かったからさあっ!」

「なんだ、わかってるんじゃない。それで、今日はなんの用なの? 見た感じ、なんの用もなさそうだけど」

 

 そういって、パチュリーは再びため息をついた。

 

「まあな。暇だから紅茶でも飲みに来たんだ」

「魔理沙……あなたも魔法使いならやることあるんじゃないの? 魔理沙は私達と違って人間のままだから、時間は有限でしょ? それとも、生粋の魔法使いになるの?」

 

 生粋の魔法使いというのは、いわば種族だ。それは、捨虫の法によって、成長を止めてしまいさえすれば完遂するのだけど……

 

「うーん。魔法使いって便利そうだよな。まあ、私は魔法使いになるつもりはないよ。人間で十分だぜ」

「そう。ここで話すのもなんだし、座りましょうか」

 

 私達は図書館の椅子に座った。

 

 少ししてから、咲夜が紅茶を運んできてくれる。

 

「今日はやけに静かだな。フランはどうしたんだ?」

「フランお嬢様なら、まだ部屋でお休みになられてます。それにしてもいい加減、正面から入ったらどうですか?」

 

 そういいながら、咲夜は私の前に紅茶を置く。

 

「あはは、今度からはそうさせてもらうぜ」

 

 お茶が出ないのは勘弁だしな。

 

「ほんとに、美鈴は何してるのかしら……ちょっと見てくるわ」

 

 咲夜は席を立ち、部屋を出た。数分後に美鈴の悲鳴が聞こえたということは言わないでもわかるだろう。

 

「さて、せっかく図書館に来たんだから本でも読むか」

 

 私は席を立つ。

 

「盗まないでよ」

 

 パチュリーはジト目で私を見る。

 

「なっ……盗んでなんてないぜ。ちょっと黙って借りていっているだけだぜ」

「それを、俗に盗んだっていうんですよ」

 

 気がつくと、咲夜が戻ってきていた。

 

「お、咲夜。美鈴はどうだった?」

「相変わらず昼寝をしていたわ。二度としないようにきつく言い付けたから問題ないでしょう」

 

 きつく言い付けた、ね……相変わらず怒らせると怖いな。

 

「ちょっと、咲夜!? ここにいるの!?」

 

 勢いよく図書館の扉が空いた。

 

「お嬢様? いかがなされました?」

 

 扉をあけたのは、この紅魔館の主のレミリアだった。口からは赤い液体が垂れている。

 

「あら、魔理沙。来ていたのね。って、それどころじゃないわ。咲夜、ブラッドスープに何を入れたの?」

 

 なんか不味いものでも入っていたのか? 頭首様は相当ご立腹のようだが。

 

「いえ、いつもどおりのレシピの筈ですが」

 

 咲夜は驚いた様子で対応する。

 

「そんなわけないわ。あのスープいつもよりドロドロだし、鉄臭いし……とにかく、いろいろとひどいのよっ!」

 

 血のスープだからそりゃそうだろ……吸血鬼の考えてることはよくわからんな。

 それにしても、さっきからなにか違和感が……なんか、チルノの時と似てるんだよな……

 

 

 

 

「あーーーーっ!!」

 

 

 

 

 気づいてしまった。とても重要なことに……

 

「なによ、大きな声を出して」

 

 レミリアは耳をふさいで、私に問う。

 

「なあ、レミリア……羽はどうしたんだ? まさか、取り外し可能だったなんてオチじゃないよな……?」

 

 一瞬、紅魔館に静寂が訪れた。

 

「そんなことあるわけ無いでしょ? ほら……」

 

 レミリアは自分の後ろに手を回すが、その手は空を切った。

 

 

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 直後、さっきの私の何倍もの声が紅魔館に響いた。




書いてて思ったのだけれど、図書館って地下なのよね……
マスパでドカーンって地面掘り起こしてるのか……?
深く考えたら終わらないから深く考えないでおく。

 さて、感想などお待ちしております!


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日向ぼっこの吸血鬼

書置きがあるっていい!
まあ、途中までしかないのだけれどねっ!

さて、ドゾー


「と、とりあえず落ち着いたわ……」

 

 言葉とは裏腹に、図書館の椅子に座ってプルプルと震えているレミリア。

 

 なんか難儀だな……

 

「それにしても、なにがあったんだ?」

「私が聞きたいわよっ!!」

 

 聞いただけなのに怒られました……

 

「落ち着きなさい、レミィ。とりあえず、フランのことも確認したらどう?」

 

 パチュリーはレミリアを宥める。

 

「ええ、もう咲夜に頼んであるわ。それにしても、私の羽……どこに行ったのかしら……」

 

 さっき、湖でチルノにあったときの違和感。そういえば、あいつも氷の羽のようかものがなかったような気がする。

 

「ほら、いつも飲んでるブラッドジュースよ。これでも飲んで落ち着きなさい」

 

 パチュリーはレミリアに缶を渡した。ブラッドジュースって……

 さすが吸血鬼といったところか。

 

「ありがとう、パチェ――ん、まず……」

 

 それが、ジュースを一口のんだレミリアの感想だった。

 

「どうしたの、レミィ。いつもは勢い良く飲んでるじゃない」

 

「そうなんだけど、なんていうのかしら。血が飲めなくなってるのかもしれないわ……」

 

 血が飲めない? 吸血鬼なのにか?

 

「羽もないし、血も飲めないんなら、ただの人間だな、お前」

 

 空気が凍った。冗談で言ったつもりなんだが、今のはまずかったか……?

 

「ねえ、パチェ……吸血鬼が人間になった事例ってあるの?」

「聞いたことないわね」

「そう……」

 

 パチュリーの回答を聞き、レミリアは席を立った。

 

「どこに行くんだ?」

「外よ。もしもという場合もあるでしょう?」

 

 そういって、レミリアは図書館から出ていった。

 

「あいつ、外になんか行って何するつもりなんだ?」

 

 紅茶を飲んでいるパチュリーに問う。

 

「日でも浴びてくるんじゃないの? あなたが変なこというから」

 

 パチュリーは私が悪い、みたいな目でこちらを見てくる。

 

「なんだ!? 私のせいなのか!?」

「知らないわよ。あら、フランが来たわね」

 

 扉がゆっくりと開いたと思ったら、フランが目を擦りながら入ってきた。咲夜はその後ろから危なっかしそうに見守っている。

 

「ないな」

「ないわね」

 

 フランの羽も綺麗に消えてしまっていた。一体、この幻想郷に何があったんだ……?

 

「ふぇ……? 魔理沙、パチュリー、どうしたの?」

 

 私とパチュリーで、事の次第をフランに話した。

 

「ほんとだ! 羽がないっ!! ……ま、いっか。そんなとより遊ぼうよ、魔理沙!!」

 

 妹の方はやけにあっさりしてるな……

 

「まてまて、原因が分からんのに弾幕ごっこは危険だ。少しだけおとなしくしてろって」

「……はーい」

 

 フランはしゅんとする。

 

「それでは私はお嬢様の朝食を作ってまいります」

 

 そう言って咲夜は踵を返した。

 

「ああ、咲夜。フランのついでに私にもなにか食べるもの作ってもらえる?」

「食べるもの、ですか? かしこまりました」

 

 咲夜は少し戸惑い、頷き、図書館から出ていった。一般的に、魔女や魔法使いは食事をしない。それは、捨食の法という魔法で、自らの魔力をエネルギーに還元できるからなのだが……

 

「どうしたんだ、おまえ。食事なんて珍しいじゃないか」

「そうね。わたし自身も驚いているわ。何故かはわからないけど、お腹がすいてしょうがないのよ。こんな感覚、いつ以来かしら」

 

 パチュリーはどこかしみじみとしている。珍しいこともあるんだな。

 

「戻ったわよ。あらフラン、起きたのね」

 

 そうこうしていると、レミリアが戻ってきた。

 

「どうだったの?」

「どうだったもなにも、全然平気だったわ。ついでだから、日光浴をしてきたわ日向ぼっこってああも気持ちがいいものなのね」

 

 日の光に感動する吸血鬼っていうのも希少だな……

 

「平気だった……? ねえ、レミィ。根拠は全くないのだけれど、私達は魔理沙の言う通り、人間になったんじゃないかしら……?」

「何言ってるんだよ。さっきのは冗談だぜ?」

 

 二人は黙り込んでしまった。なんで、本気にしているんだ……? そもそも、吸血鬼が人間になれるのか?

 

 もしそうだとしたら、これは――

 

 

 

 

「異変よ、魔理沙」

 

 

 

 

 私が入ってきた所から入ってきたのは霊夢だった。

 

「どうしたんだ、霊夢。こんなところに来るなんて珍しいじゃないか」

「ええ、神社が依頼人でごった返しているから手伝って」

「博麗神社が人でごった返してるだと……? 確かに異変だ……」

 

 一体何があったんだ……? コイツがなにかしでかしたのか……?

 

「お前、いくら信仰を集めるためっていっても、やりすぎじゃ――」

「殺すわよ?」

 

 ニッコリと笑顔で言われました。目が笑ってないぜ……

 

「じ、冗談だぜ。そっちも大変かもしれないけど、こっちもいろいろと大変なんだよ」

「それ、どういうことよ」

 

 私はこれまでの経緯を霊夢に話した。




私の書くのってどうしても一話が短くなってしまうのですよねぇ……
それはともあれ、感想とかよろしくお願いします!


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何故かやる気な巫女様

二時設定にはあまり手を出したくないっていうのが私の心情ではあるのですが、あれですね
どうしても霊夢さんは守銭奴成分が多めになってしまいます(*゚-゚)
仕方の無いことです

というわけで、3話目です


「レミリアたちが人間になった?」

 

 少し特殊な紅白の巫女服を着た、博麗の巫女である霊夢は完璧に疑っているようだ。まあ、普通は信じないわな。

 

 私と霊夢、レミリアとパチュリーは図書館の椅子に座って談議をしている。無邪気なフランがいると話が進まなくなるから、フランのことは別室で咲夜に頼んである。

 

「まあ、端的に言うとそうなるわね。ほら、羽がなくなっているでしょ?」

 

 レミリアは深いため息をつく。

 

「そういえばあったわね、そんなの。フランの方にもついてなかったし……でも、それだけじゃあ人間になったっていうのは早とちりすぎるんじゃないの? ただ単に羽がなくなったってだけかもしれないわよ」

「私もそう思ったんだけど、おかしいのはレミィだけじゃないのよ。現に私にも異変が起こってるし」

 

 次にパチュリーがため息をついた。

 

「それってどういうこと?」

「それがどうやら、捨虫の法が解けているようなのよ。それだけじゃなくて、捨食の法もね。それに、かけ直そうとしてもかからない」

 

 一度人間に戻ったところで捨虫の法をかけ直せば、その人は再び魔法使いになることができるだろう。が、それすらもできないのか? ということは、他の種族が人間になるというこの魔法のようなものは継続的なものとみてもいいだろう。

 

「なるほどねぇ……もしかしたら、この異変、紅魔館だけじゃなくて幻想郷全土で起きてるかもしれないわね。自分でいうのもなんだけど、それなら神社に人が集まるのも頷けるわ……で、程度の能力の方はどうなの?」

「それなら問題ないわ。空も飛べたし、グングニルも出せた。ただ単に人間になったってだけらしいのよ」

 

 それを聞いた霊夢は黙り込んでしまった。そういえば、チルノも能力を使えていたのを思い出す。

 

「へぇ、羽がなくても飛べるんだな、お前」

「もちろんよ。魔理沙だって箒がなくても空を飛べるでしょう? それと同じよ」

 

 レミリアはさも当たり前、というふうに答える。

 

「なるほどな……」

 

 あの羽は能力とは全く関係がないんだな。ということは、あの羽はただ、吸血鬼としての象徴というわけか。そういう意味では私の箒と全く変わらないのかもしれない。

 

「お前はどうしたんだよ、霊夢」

 

 私はさっきから唸っている霊夢のほうを見る。

 

「これ、相当なヤツが絡んでるわよ……種族だけを変えるなんてことできる筈がない。それも、継続的にね。もしいたとするならば、それは神……いえ、それ以上の存在ね……」

 

 霊夢は深刻な顔をして、静かに言った。

 

 この幻想郷には神様やら何様やらは結構いるが、霊夢が言っているのはそんな奴らとはまるで桁が違うようなヤツのことだろう。

 

 こりゃ、本格的にやばそうだ……

 

「で、霊夢。心当たりはあるのか?」

「あるわけないじゃない。まずは情報収集よ」

 

 霊夢はティーカップをソーサーの上において立ち上がる。

 

「どうしたの霊夢? やけにやる気じゃない」

 

 いつもなら、めんどくさいとかいって嫌々ながらやる霊夢なのに、今回はめずらしくノリノリだ。その疑問は私だけじゃなくて、レミリアにも浮かんだようだった。

 

「そりゃあね。今、この異変を解決したら報酬ががっぽりでしょ?」

 

 やっぱり、そういうことなんだな……こいつがただで働くわけないよな……

 

「ほんとお前って貧乏巫女だよな。そんなんだから普段参拝客が来ないんだよ」

「あんた、死にたいの?」

 

 霊夢の冷たい眼差しが私を貫く。

 

「ま、まだ生きていたいぜ……そんなことより情報収集だろ? 一応、神社に戻って一人ずつ事情を聞いたらどうだ?」

 

 本当に殺されそうな勢いだったから、慌てて話題をすり替える。

 

「そうね。とりあえず、神社に戻るわよ」

「了解だぜ。それじゃ、なんかわかったら報告するから二人はここにいてくれ――って、あれ……?」

 

 私は壁に立てかけてあった箒を手に掴む。が、箒は予想以上に重く、動かなかった。

 

「べつに神社に戻ることはないわよ」

 

 ん? なんか、どこかで聞いたことある声だな。

 私は振り返って箒を見ると、声の持ち主が私の箒を掴んでいた。

 

「なんで、お前がこんなところにいるんだよ……紫」

「あら、悪い? せっかく今回の異変のことを教えにきてあげたのに」

 

 相変わらずだな、こいつは……

 

 しかし、本当にどこにでも出てくるんだな、このスキマ妖怪は……

 

 八雲紫。この幻想郷においても重要な人物と言っても過言ではないのではあるが、どうもこいつは胡散臭く、こいつのいうことは素直に信用出来ない。

 

「へえ。ということは今回の異変のことをなにか知っているのね?」

 

 霊夢も紫に気付いたらしく、こちらに近づいてくる。

 

「ええ。立ち話もなんだし、座りましょうか。そこの二人も聞きたいでしょう?」

 

 紫がレミリアとパチュリーに目を向けると、二人は頷いた。




 どこにでも出るBB……おっと、誰か来たようだ


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二度目の異変

今日はここまで!
ここからは1日1回更新で行きたいと思います!


私達は再び図書館の椅子に座り、談議を始める。

 

「で、紫。あんた、何を知っているの?」

 

 霊夢は鋭い目を紫に向ける。

 

「そうね。なにもかも、とでも言っておこうかしら」

 

 紫はお茶を飲みながらそう答えた。 

 

「なにもかも? それってお前が犯人ってことじゃないだろうな?」

「魔理沙……あなたがそこまで馬鹿だとは思わなかったわ……私が犯人ならこんなところに顔を出すわけないじゃない。こっちだって迷惑してるのよ。私だけじゃなくて、藍と橙も人間になっちゃうし、藍は藍で人間になった橙にベタぼれだし……」

 

 珍しく紫は大きなため息をついた。なんとなく想像がつくから怖い。

 

「魔理沙の馬鹿は今に始まったことじゃないわ。それで、私たちがが人間になってるっていう仮定はあってるの?」

 

 レミリアは横目に私を見る。私ってそこまで馬鹿か……? なんか心外だぜ。

 

「ええ。間違いないわ。厳密には健康な人間に、だけれど」

 

 紫はそう言い切った。

 

「なるほど。どおりで、今日は身体が軽いと思ったわ。それで、ほかに副作用とかは?」

 

 今度はパチュリーが紫に問う。

 

「そんなものはないわ。貴方達のいうようにただ単に人間になっただけよ」

 

 私はそれを聞いて少しだけ疑問に思ったことがある。

 

「それってほんとかよ? ここに来る前にチルノと弾幕ごっこをしたんだけど、あいついつもより頭が良くなってたぞ?」

 

 そう。チルノは目の前ががら空きになるアイシクルフォールを使わなかった。普段のチルノからしたらそれはありえないことだ。

 

「それ、あの氷の妖精が人間になったからよ。人の子のように考えるということをすることになった結果じゃないの?」

 

 紫の回答は的を射ている。

 

「そういうことか……それで、どうしてお前はこの異変にそれだけ詳しいんだよ?」

「その答えは簡単。この異変は過去に一度起きているから。たぶん、守矢、白玉楼、永遠亭は既に動いているわよ」

 

 紫の答えはあまりにも予想外過ぎた。

 

「過去に一度起きている……だって? それ、どういう意味だよ?」

「他意はないわ。そのままの意味よ」

 

 紫はあきれ顔で私を見る。

 

「で、今回の犯人は誰なのかしら?」

 

 レミリアは単刀直入に問う。

 

「あらあら、吸血鬼さん……今はただの人間さんだったわね。ちょっと早急ね。まあいいけど。今回の異変の犯人は私の親友だった人よ」

「紫の親友だった人? それって誰なんだよ?」

「さあ、それは秘密よ。全部教えたらつまらないじゃない」

 

 こいつ……やっぱり相当性格悪いな……

 

「それじゃあ、犯人はどうしてこの異変を起こしたの?」

「そうね。あなたはこの異変にどんなメリットがあると思う?」

 

 紫は霊夢に聞き返す。

 

「ううん……みんなが人間になった世界のメリット……? 妖怪たちが人間に……妖怪がいない世界……そういうことね……人間しかいなくなれば、人間と妖怪のあいだでの争いはなくなる」

 

「ご名答」

 

 紫は霊夢に向かって拍手をした。

 

「それじゃあ、少しだけ昔話をしましょうか。遥か昔、私の親友は人間と妖怪の隔たりをどうにかしたいと、争いが無くなればいいと口にしていたわ。私はそれを幾度となく聞いた。そしてある日、私の親友はついにことを起こしたの。今回と同じように」

 

 紫は昔を懐かしむように語り始めた。

 

「結果はそれなりだったわ。人間と元妖怪の間では争いがなくなり、元妖怪は人里に住むようになった。だけど、人間と人間の戦争が始まったわ。人間と元妖怪のね。元妖怪は能力を使える者が多かったから、元妖怪の方が圧倒的に優勢だった。私の親友は人間から恨みを買ったわ。結局、世界は変わらなかったのよ」

 

 紫はさらに続ける。

 

「あるとき、人間が集まって私の親友を封印すことになった。妖怪との共存を望み加担した、という名目でね。人間が里から元妖怪を追放するためには、元妖怪を妖怪に戻すしかなかったのよ」

 

 紫は悲しい表情をする。

 

「なるほどねぇ……魔理沙、行くわよ」

 

 霊夢は席を立つ。犯人が誰だかわかったということなのだろう?

 

「行くってどこにだよ?」

 

「決まっているじゃない。命蓮寺よ」

 

 そういって、霊夢は私が作った入口から飛びさっていった。

 

「命蓮寺……? なあ、紫……」

 

 振り返って、テーブルの方を見るが既に紫は消えてしまっていた。

 

「なんなんだよあいつは……仕方がない、私も命蓮寺に行ってみる」

「わかったわ。私達も準備が出来次第向かうわ」

 

 流石はレミリア。わかってくれて助かるぜ。正直この規模の異変を起こすような相手を私達だけで叩けるとは到底思えない。持つべきものは友だな。

 

「よろしく頼むぜ!」

 

 私は壁に立てかけてあった箒を手に取り、勢いよく飛び立った。




チルノが⑨じゃなくて、ある程度考える脳みそを持っていたらどうなるのか少し気になるところです(笑)

 よく勘違いされるのは、チルノたち妖精はバカなのではなく、ただ単に考えすぎる傾向にあるだけなんですよね。まあ、結局回り回って⑨になるのですが……

 一話前の話では、チルノが人の子のように考えるようになった。という、すこし無理な設定を決め込みました。チルノの能力自体、どこかのちびっこ死神さんと同じ能力に近いので、普通に使えば相当なものなはずなのですけどね(笑)

感想・指摘はいつでもお願いします!
ていうか、感想欲しい!!!
まじで……


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ツケの回収に上がりました

今日はこれ1話です
どうぞー



「やっと追いついたぜ。で、なんで命蓮寺なんだよ?」

 

 どうにか命蓮寺前に到着。霊夢は寺門の前に立っていた。

 

「やっと来たのね。考えて見なさいよ、妖怪と人間の平等を望み、それ相応の魔力を持つ者。そして、最近封印が解かれた人物。それに当てはまるのは、一人しかいないわ」

「聖……白蓮……」

 

 私は呟くように言った。

 

「待て待て、ちょっと待て。いくらなんでもあいつがそんなこと……」

 

 しないとは言い切れないが……

 

「そんなの関係ないわ。今日こそ今まで奪われ続けた信仰つけを返してもらおうじゃない」

 

 あー……それが本音なのな……

 

「それ、ただの八つ当たりだろ!? 白蓮が犯人じゃなかったら最悪だぞ、お前」

 

 ていうか、奪われる信仰なんてもの最初から存在しないだろ……

 

「知らないわよ、そんなの。ほら、手厚いお出迎えが来たわよ」

 

 命蓮寺の門が開いたと思うと、そこにはナズーリンが立っていた。だが、いつもと違って耳はないようだ。こいつにも術がかかっているということらしい。

 

「この命蓮寺に何かようか?」

 

 ナズーリンは平静を装っているが、既に戦闘態勢に入っている。

 

「なんの用も何も、今こっちは迷惑してるのよ。とりあえず、あんたんとこの僧侶をだしなさい」

 

 霊夢はナズーリンに大幣おおぬさを向ける。

 

「それは不可能だ。早々にお取引願おうか」

 

 ナズーリンは何処からともなく、2本のロッドを取り出した。

 

「手荒な歓迎ね。お寺ってそういう所だったかしら? 少なくとも、私の神社ならおもてなしはするわよ?」

 

 相変わらず根に持ってるのか……私は霊夢に気づかれないように呆れた目を霊夢に向けた。

 

「こちらは、招かれざる客をもてなすほど暇じゃないんだ」

「ということはやっぱり当たり、ということよね。ここはまかり通らせてもらうわよ!」

 

 霊夢は懐から陰陽玉を取り出した。おいおい、最初から本気モードかよ……

 

 それを宙に浮かせたと思ったら、右手の平をそれの後ろにつける。

 

「おーい、そこのネズミー。逃げた方がいいぞー」

 

 一応忠告はしといたからな。しかし、ナズーリン本人は何がなんだかわからないという表情をしている。

 

「それじゃあ、さようなら」

 

 陰陽玉は凄まじい勢いで回転をはじめ、次第に巨大化していく。

 

 霊夢は無慈悲な表情でそれを放った。それは、弾丸より速く、そこらの ミサイルよりも威力が高い球。そんなものをよけられるはずもなく、ナズーリンは寺の門と一緒に吹き飛んでしまった。

 

 陰陽玉をモロにくらったナズーリンは地面で伸びている。 宝具:『陰陽鬼神玉』の一本だ。

 

「あーあ。派手にやったな、お前。弁償させられても知らんからな」

「ふん。退かないあいつが悪いのよ。私に責任はないわ」

 

 博麗の巫女は悪びれる様子もない。巫女としてあるべき姿じゃないよな……

 

 私はそう思いながら、伸びているナズーリンを横目に、霊夢の後ろをついて行った。

 

「で、仮に白蓮が犯人だったとして、お前はどうするつもりなんだよ?」

「仮にも何も、あいつが犯人としか考えられないでしょ? それとも、他に犯人候補がいるの?」

 

 壊れた門を通り抜け、私達は境内を歩きながら、そんな会話を繰り広げていた。

 

「いや、いないけどさ。なんか引っかかるんだよな。あの紫がこんな簡単なヒントを出すと思うか?」

「それは、私も考えたわ。あいつのことだから絶対に裏があるのはまず間違いないわ。だけど、万が一ということもあるでしょ? 現に、この寺は私達に入ってきて欲しくなかったみたいだしね」

 

 それもそうか。あのネズミは私達を排除しようとした。ということは、なんらかの情報がここにはあるということだ。

 

「とりあえず、白蓮本人に聞くしかないってことだな——って、どうしたんだ?」

 

 私は前を歩く霊夢の背中に顔をぶつけた。

 

「毘沙門天か。あんたの方は偉く静かじゃない。ちょうど、あんたの部下に迷惑をかけられたところよ」

 

 霊夢の陰から前を覗き見る。そこに立っていたのは、寅丸星。この命蓮寺の毘沙門天代理だ。

 

「それに関しては非礼を詫びます。こちらとしても、これ以上寺を破壊されては困りますので、現在はお二人には手を出さないように皆に言ってあります。どうぞこちらへ」

 

 そういって、星は私達に背を向けた。

 

「罠……か?」

「さあね。まあいいわ。ついていきましょう。罠だったらその時よ」

 

 私達は警戒を怠らず、星の後ろをついていった。




霊夢さんが下衆に……

まあ、たまにはいいでしょ(笑)


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白蓮の理想郷

今日はあともう1話予定してます


「来ましたね、霊夢、魔理沙」

 

 星に連れられた法堂では白蓮が一人、座っていた。白蓮はこちらを全く警戒していないようだ。

 

「では、私は失礼します」

 

 扉を閉め、星は法堂から出ていく。とりあえず、罠じゃなかったことに一安心だぜ。

 

「単刀直入に問うわ。あんたは何がしたいのよ?」

 

 相変わらず、巫女様は威嚇的だな。霊夢は鋭い目を白蓮に向ける。

 

「私が妖怪と人間の平等を望んでるということは、もうご存知の筈ですよね?」

 

 白蓮の眼差しは霊夢とは対照的に優しく、どこか神秘的だった。

 

「それじゃあ、やっぱり私達の考えは正しかったってことね。あんた、幻想郷の種族を人間だけにしたところで本当に平等を実現できるとでも思ってるの?」

「ええ。そのための一歩だと私は考えています」

 

 その眼は一点の濁りもない。だけど、なにかおかしくないか……? 白蓮は過去にこの異変を起こして封印されたんだよな? それなら、人間と妖怪がどんな末路を辿ったかなんて分かりきっていることだ。それなのに何故……?

 

「あんた、私の考案したスペルカードルールに賛成していたじゃない。それはどうなったのよ?」

「ええ。初めは良い物だと思いました。ですが、封印が解けてから今までを通し考えたところ、それは平等には程遠いもということが理解できました」

 

「それ、どういうことだよ?」

 

 全く意味が理解できない。僧侶の考えることって難しすぎるんだよな。

 

「スペルカードルールというルールができたところで、人間は弱い妖怪にすら勝てない。弱い妖怪は強い人間に勝つことなできない。結局のところ、平等になっているのは強い人間と強い妖怪だけです。そうは思いませんか? 魔理沙」

 

「それは……」

 

 白蓮の考えを否定できない私がいた。確かに考えてみれば、そうだ。人間で弾幕ごっこをしているのなんて私や霊夢くらいで、他の人間が弾幕ごっこをしているところなんて見たことがない。

 

 今のスペルカードルールだけでは、古来からある『妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に怯える』という根本的な解決にはならないのかもしれない。

 

「それでも、昔よりは……」

 

「確かに、私が封印される前よりはマシにはなりました。ですが、それではダメなのです。私はこの幻想郷の根本から変えたいのです」

 

 それが白蓮の理想。だがそれは、一人の魔法使いにしては、大き過ぎる幻想。

 

「あんた、神にでもなったつもりなの?」

「それができるのならば、私は神にでも、仏にでもなります」

 

 白蓮にはそれほどの覚悟があるということなのか。

 

「そう。やっぱあんたとは仲良くできそうにないわね」

 

 霊夢は戦闘態勢に入った。結局こうなるのかよ。

 

「お前は誠に愚かで、自分勝手であるッ!」

 

 白蓮はそれを見て、立ち上がり、戦闘態勢を取る。

 

「それはどっちよ!」

 

 

 

「「いざ、南無三——!」」

 

 

 

 それが、霊夢と白蓮の弾幕ごっこ開始の合図だった。




1156字……

短いな(笑)


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魔理沙の推理

更新遅くなりすみません!


「凄い音だな……」

 

 私は法堂から脱出し、再び命蓮寺境内を歩いている。あんな殺戮空間キリングゾーンにいたら私の命ライフがいくつあっても足りないぜ……

 

 戦闘が始まってから、法堂からは凄まじい音が境内中に響きわたっている。

 

「とりあえず、白蓮のことは霊夢に任せておいて大丈夫だろ。あいつには悪いが私は私で動かさせてもらうぜ」

 

 私があの場から離れた理由はただ一つ。やっぱり、どうしても今回の異変が命蓮寺だけで起こしているとは思えないからだ。多分関係はしているんだろうけど、今回の犯人は白蓮じゃないような気がするんだよな。

 

「おや。ここになにか用ですか、人間」

「いや、お前も今は人間だろ。そんなことはいいか。特に要はないんだけどな。そこ、入らせてもらってもいいか?」

 

 私が向かった場所は仏殿。扉の前には星が立っていた。

 

「それは不可能です。といったら?」

「無理矢理でも通らせてもらうさ」

 

 私は戦闘態勢に入る。

 

「随分と感がよろしいんですね。そういうのは紅白の巫女の方が得意だと思っていたのですが、思い違いのようでした」

 

「まあ、霊夢はな……」

 

 こういう推理じみたものは、いつもあいつの仕事なんだけど、今回に限っては逆になってしまった。今、あいつの頭の中は命蓮寺ライバルを潰すことしか頭になかったからな……あいつ……

 

 そんなことを星に言えるはずもないけどな。

 

「それにしても、よくここだとわかりましたね。参考に理由を聞いてもいいでしょうか?」

 

 私は警戒はしながら、一時戦闘態勢を解く。

 

「そりゃ簡単だぜ。初めは攻撃的だったのが一転、霊夢が門を壊したと思うと静かになったのがひとつ。どこか壊されたらまずい場所があるということはすぐにわかったぜ」

 

 ま、普通に考えりゃ、建物を壊されたい人なんていないだろうけどな。

 

「ですが、それではここだという目星はつかない筈です」

 

 星の敵意が少しずつ強くなってきているのがわかる。

 

「ああ。もうひとつは、さっき法堂に案内するときにお前が遠回りをしたことだ。最初はなんかの時間稼ぎかと思ったんだけど、白蓮の様子を見るにそんなんじゃなかった。ということは、私達を近付けたくない場所を避けて通ったということになるだろ?」

「なるほど。ということは、私の失態ですね。すみません、聖。責任は毘沙門天としてきっちり取らせていただきます」

 

 星は戦闘態勢に入った。こっちも穏やかじゃないな。

 

「ま、分かりわすくていいけどな! 私も最初から本気モード——って、マジかよ!?」

 

 星に容赦という文字はないらしく、私が戦闘態勢を取りなおす前にレーザーを発射してきた。

 

「ちっ! セリフくらい言わせてくれてもいいじゃないか!」

 

 私は箒に跨り、空に飛び上がる。

 

「あなたの都合なんて知りません。あなたにはここでやられてもらいます」

 

 星は私に続き、空中にやってくる。

 

「それはこっちのセリフだぜ。さっさとやられてくれると助かるんだけどな——うわっ!?」

 

 さらに無数のレーザーが私をめがけて飛んでくる。

 

「無駄口を叩いている暇があったら反撃をしてきてはいかがですか?」

「くそぉ。後悔しても知らないからな!」

 

 星の放ったレーザーは複雑な動きをしながら私に飛んでくる。

 

 相殺するしかないか……

 

「このぉっ!!」

 

 私は足に装着していたマジックアイテム茸缶を投げ出す。

 

魔符『スターダストレヴァリエ』

 

 無数の光線をレーザーに直撃させる。相殺した瞬間、爆発音と共に煙があたりを包み込む。

 

「これで終わりだぁァアッ!!」

 

 彗星『ブレイジングスター 』

 

 私は箒に跨り、最高速度で毘沙門天に向かって突っこんだ。




うーん。しかし、自分ってこんなに文章力なかったのかと泣きそうになる今日このごろ。

とりあえず、一章はぱっと終わらせましょ


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封印されし巫女

遅くなりました

こっちの更新忘れてしまう(泣)


「魔理沙、なんでこんなところにいるのよ?」

 

 霊夢は嫌味のように言う。

 

「遅いぞ、霊夢。こっちは最終局面だぜ。そっちは決着がついたのか?」

 

 仏殿の前で一休みしていると、霊夢がやってきた。白蓮とやりあっただけあって、無事だとは言えそうにないな。

 

「ええ。全部話してもらったわ。でも、珍しいじゃない。あんたがここを働かせるなんて」

 

 霊夢は自分の頭をツンツンと人差し指で指さす。

 

「ひっどい言い方だな」

「あら、そうかしら? じゃあ、なんで白蓮が犯人じゃないってわかったのよ?」

 

 皮肉っぽい言い方だな。

 

「まあ、いろいろと条件はあるだけどな。一番の疑問だったのは、紫のセリフだぜ。守矢とか白玉楼とか永遠亭が動いているのに、早苗とか妖夢とか鈴仙がここに来ていないだろ? 一度目の異変のことを知っていて、犯人が白蓮ならここで鉢合わせるはずだ。だけど、あいつらとは会わなかった。ということは真犯人が別にいるということだぜ」

 

「本当に頭を働かせてたんだ……」

 

 霊夢は意外そうな顔をする。

 

「悪かったな。で、今回の犯人は誰なんだよ? 白蓮から聞いたんだろ?」

「ここにいるっていうのは聞いたんだけどね。後は自分で確かめろ、としか言わないのよ」

 

 霊夢はため息をついた。

 

「なるほどな。まあ、こんな異変を起こせる犯人だ。相当やばいのは確実だな。でも、おかしくないか? 目星をつけておいてなんだけど、ここからは何にも感じないんだよな……」

「そりゃ、位置は探られないようにしているでしょ。膨大な魔力量があれば、建物内に魔力を閉じ込めておくことは簡単なことでしょうよ」

 

 よく考えてみりゃそれもそうか。

 

「ほら、さっさと異変を解決するわよ」

「あ、おい。なんにも対策しなくていいのかよ?」

「あんた、相手が誰かわからないのにどうやって対策するのよ」

 

 霊夢の冷たい視線が私に突き刺さる。

 

「い、言ってみただけだぜ。ほら、行こうぜ」

 

 仏殿の扉に手を掛ける。

 

 ——ゾクッ————

 

「っ!?」

 

 私は思わず手を離してしまった。触れた時に感じた魔力は凄まじいものだった。

 

 なんつー魔力量だよ……こんな化物は幻想郷にもそうはいないぜ……

 

「これは凄いわね……正直、私達だけでどうこうできる相手じゃないわね……」

 

 扉に触れた霊夢は冷や汗をかいている。

 

「まあ、やるしかないんだけどねっ!」

 

 霊夢は勢いよく扉をあけた。その瞬間、建物に立ち込めていた膨大な魔力が濁流のごとく外に流れ出す。

 

「あら、お客様?」

 

 仏殿の中で正座をしていたのは、私達くらいの歳の少女だった。

 

「……巫女?」

 

 霊夢はつぶやいた。

 その少女の服装は、外の神社でよく見かけるような紅白の巫女服。霊夢のとは違って正規のものだ。頭には白いリボンが巻かれている。

 

「へえ、そういうあなたも巫女なのですね。少し服装は特殊だけれど。それと、そっちの白黒の方は人間の魔法使いかしら?」

 

 少女の目線は私に向く。少女の目に敵意はない。話し合いの席についてくれるのか?

 

「ああ、私は普通の魔法使い。霧雨魔理沙だ!」

「それはご丁寧に。私は見ての通り普通の巫女です。で、そちらは?」

 

 今度は霊夢に目を向ける。

 

「私は博麗霊夢。察しの通り、巫女をやっているわ」

「博麗の……なるほど」

 

 少女は博麗という単語を聞くと、不思議な笑みを浮かべた。

 

「それで、その博麗の巫女が私に何か用でしょうか?」

「巫女なら巫女が何しにここに来たかわかるわよね、犯人さん。あんたのせいで私の神社が破綻しそうなのよ。あんたも妖怪退治を生業とする巫女ならわかるでしょ?」

 

 霊夢は少女に鋭い目を向ける。結局は八つ当たりなんですね。

 

「今の巫女は随分と気性が荒いのですね。まあいいでしょう、相手をしてあげます」

 

 その瞬間、爆風が起こった。おそらく魔力によるものだが、私達はその場に立っていることができず、仏殿の外に放り出された。



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巫女VS紅白&黒白

放置してた分、今日の更新は2かいでござる!


「おいおい、あいつ無茶苦茶だぜ……」

 

 私はどうにか空中で体勢を立て直し、箒に跨り宙に浮く。

 

「継続的に幻想郷全体を人間になる魔法をかけていて、まだこの魔力量か……相当厄介ね……」

 

 隣で体勢を立て直した霊夢が呟いた。

 今回の犯人はあの少女で間違いなさそうだ。だけど、巫女ってどういうことだ? 紫の親友っていうのも少し気になる。

 

「本当はこういうことは嫌いなのですが、そちらがその気なら本気でいかせてもらいます」

 

 少女も私達に次いで空にやってくる。本気の本気の戦闘態勢。少女の目から放たれているのは狂気そのものだった。

 

「ちょっと待って。これを読みなさい」

 

 霊夢は懐から本のようなものを取り出し、少女に向かって投げ飛ばした。

 

「……これは?」

「いいから読む。それが、今の幻想郷のルールよ」

 

 霊夢が少女に渡したものは、弾幕ごっこのルールブックだった。

 

 少女はパラパラとそれを読み進めていく。

 

「へえ、なかなか面白いのですね。これが今の幻想郷のルールなのならば、これに従いましょう」

 

 少女の口元に笑みが浮かんだ気がしたのは、私の気のせいだろうか?

 

「随分と潔いさぎよいのね。こんな異変を起こすくらいだから拒否される思ったわ」

 

 霊夢は少女に訝しむような目線を送る。

 

「そうですか? このルールは人と妖怪が平等を目指した結果ではないのですか? そういうものを否定する理由はありません」

 

 私と霊夢は唖然とした。

 

「……あんた、それがわかったなら——」

「いえ、このルールには賛成も反対も致しません。このルールでは『妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に怯える』という根本的な解決にはなっていませんから。これは、白蓮さんにも言われたのではないですか?」

 

 確かに言われていたな。少女はさらに続ける。

 

「結局、人間と妖怪の中で争いは起きるのです。だから、私は根本的にこの世界を変えたのです」

 

 この少女はこの世界を本気で変えようとしている。なんて、覚悟なんだろう。

 

「お前、この異変は過去に起こしているんだろ? なら、その結果だって!」

「ええ、存じています。本当に酷いものでした」

 

 少女の顔は一転、とても悲しそうな顔をする。

 

「それがわかっているならこの魔法、さっさとといてくれないかしら?」

「それはできない相談です。今回、私は白蓮さんに頼まれてこの異変を起こしました。異変を解決するためには……巫女ならおわかりですよね?」

 

 少女は霊夢に大幣を向けた。

 

「結局はこうなるのね。やってやろうじゃない」

 

 それに対抗すべく、霊夢は少女に大幣を向けた。これがラストバトルだ。

 

「いくわよ、魔理沙!」

「わかってるぜ!」

 

 こっちも最初から本気の本気モードだぜ!




こうやってみてみると、存外稚拙な文章に涙目…

一年前のやつだしね、いいよね(泣)


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巫女の力

「いざ、参ります!」

 

 少女の後ろに無数の光の玉が浮かんだかと思うと、私達めがけて飛んできた。

 

「こっのぉおお!」

 

 私は 5本の瓶を放り投げ、それぞれの瓶から斜め上へ向かってのレーザーを一斉に発射させる。

 

 光符『アースライトレイ』

 

 私は少女から放たれたレ光弾にレーザーをぶつけ相殺する。が——

 

「まじかよっ!?」

 

 やられたのは私のレーザーの方。まだ光弾は健在だ。

 

「どんだけ威力が高いんだよ!」

 

 相殺ができないとなれば、避けるしかない。それは、霊夢の方も同じようで、あいつも避けに徹底している。

 

「弾幕ごっこのルールは攻守交代制ではないでしょう? 私が初心者だからといって手加減はしなくても良いのですよ?」

 

 む……なんか腹が立つな、あの巫女。巫女って全員あんななのか?

 

 私はちらりと霊夢の方を見る。

 

「うるさいわね。これも戦略のうちよ!」

 

 本当かどうかはさておき、防戦一方になっているのはたしかだ。どうにかして、隙を見つけないと……

 

「いでっ!?」「きゃあっ!?」

 

 しかし、威力の高い弾幕に太刀打ちなどできるわけもなく、逃げ回った結果、霊夢と空中で衝突してしまった。

 

「あんた、なにしてんのよ!」

「そっちこそ!」

 

 なんでコイツがここにいるんだよ? 霊夢の位置は常に確認していていたはずだ。まさか誘い込まれたのか……?

 

「喧嘩をしている余裕があるのですか?」

 

 少女は両手を振りあげた。その上には大きな光の塊が。逃げようにも、私達の周りには停滞する光弾が壁のように邪魔をしている。

 

 こらはどう考えてもやばいぜ……

 

「これで終いです!」

 

 少女が腕を振り下ろすと、光の玉はレーザーとなり私達に向かって飛んできた。

 

 私はミニ八卦炉を取り出し、前に突き出した。

 

「霊夢、下がってろ! マスタースパーク!」

 

 恋符『マスタースパーク』

 

「なにぃっ!?」

 

 しかし、威力が違いすぎる。私は少女の力に圧倒されてしまう。

 

「魔理沙! たまにはいいとこ見せなさいよっ!」

「——んなこと言われたって……」

 

 力を込めるが、どんどん押されていく。私では力およばず、とうとう押し切られてしまった。

 

「ち、間に合え!」

 

 レーザーに直撃する瞬間、霊夢が私達の御札で盾を作った。それでも、レーザーを完璧に防ぐことはできず、私達は吹き飛ばされてしまった。

 

 くそ、制御が出来ない……

 

 このままじゃ、地面に激突してしまう……

 

 動け……私の体……

 

 だけど、私の体は一切反応しない。ダメージがデカすぎる。たった一撃でこのザマかよ……

 

「くそ……ここまでなのか……」

 

 あいつは強過ぎる……

 

 落ちていく……真っ暗な闇に……



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不屈の心

「まったく、脆弱ね。あなたってそんなだったかしら、魔理沙」

 

 暗闇にふと、声が聞こえた。気付くと、落下も止まっている。

 

「レミ……リア……?」

 

 目を開けると、レミリアの顔がすぐそばにあった。私はレミリアに受け止められていた。

 

「しかし、化物とんだ化物が出てきたわね。見たところ巫女のようだけど」

「ああ……」

 

 私は力なく返事をした。あんな化物に勝てる術なんてあるわけが無い。もう、詰みだ。

 

「ほら、シャキッとしなさい。あんたがそんな調子でどうするの。いつもの威勢はどうしたの?」

 

 圧倒的な力を見せつけられたら嫌でもこうなる。私は何も言い返せず、下を向いた。

 

「そう。魔理沙……失望したわ。いつも私達を振り回しているくせに、こういう時はすぐに諦めるのね。ひとこと言わせてもらうわよ——」

 

 レミリアは大きく息を吸い込んだ。

 

「甘ったれるんじゃないわよ! 適わなければそれで終わりなのか!?」

 

 耳が痛くなるほどの大きな声が空に響いた。

 

「違うでしょう? 霊夢ほどじゃないけど、私も魔理沙の努力を知っているわ。適わなくても何度も挑戦する。諦めないど根性を持っているのが霧雨魔理沙という人間じゃないの?」

 

 そうだよな……こんなの私らしくないよな……なんだか、むずがゆい。

 

「悪かったよ……レミリア……」

 

 私は呟くように言った。そうだ、私には仲間がいるじゃないか。まだ諦めるわけにはいかない。

 

「ほら、自分で飛びなさい。箒は咲夜に探してもらっているわ。飛べるでしょう?」

 

 ぽそ、とレミリアが私の頭に帽子を被せる。

 

「もちろんだぜ」

 

 私は帽子を深くかぶっりなおしてから、レミリアから離れる。

 

「げっ……」

 

 私が体勢を立て直したのに気がついたのか、ただの流れ弾なのか知らないが、ひとつの光弾が私達めがけて飛んできた。

 

「心配は無用よ。ねえ、半人半霊さん?」

「もちろんだ。私に切れないものなどあんまりない!」

 

 突然現れたそいつは、その光弾を一刀両断した。

 

「妖夢……」

 

 紫は白玉楼、永遠亭、守矢は既に動いていると言っていた。さっき仏殿からあの少女の魔力が流れ出したときに察知したのだろう。

 

「珍しいな。お前がそんなにボロボロなんて。手を貸そうか?」

「ああ、頼む」

 

 そう返事をすると、妖夢は意外そうな顔をした。

 

「今回ばかりは相当にやばいからな……こんなことより、霊夢は……?」

 

 霊夢も私と同じようにどこかに飛ばされたはずだ。私だけ助けられたということは——

 

「霊夢のなら守矢の巫女と永遠亭の兎が助けに行ったわよ。それより、そろそろフランが危ないわ」

 

 安堵も束の間、少女のほうを見ると、少女はフランの遊びに付き合っていた。が、どう考えても遊んでいるのは少女の方。フランは苦戦を強いられていた。

 

「そんじゃ、いっちょリベンジといきますかっ!」

 

 私はボロボロになった右袖を引きちぎった。



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第二ラウンド

「うぁぁぁあああっ」

 

 吹き飛ばされてたフランが私達めがけて飛んできた。

 

「ちょっ!? フラン!!? 大丈夫なの!?」

 

 レミリアはそれを受け止める。

 

「あ、お姉様! あいつすごいよっ!」

 

 フランの目はキラキラと光っている。なんていうか、無邪気だな……

 

「そっちもどうにか無事だったみたいね、魔理沙」

「ああ、どうにかな。そっちも随分とヤバそうだな、霊夢」

 

 私達のそばにやって来たのは霊夢達だった。あいつの方もすでにボロボロだ。

 

 少女は攻撃を一時中断し、こちらを見下ろしている。

 

「なるほど、援軍ですか。それもいいでしょう。作戦会議は大丈夫ですか?」

 

 いちいちこちらを舐めてくれるぜ。ほんと、どこかの巫女に似てるよな。

 

「なんか、あの巫女さん霊夢さんに似てませんか? いえ、外見とかじゃなくて、中身が」

 

 早苗は私が思っていることを口にした。

 

「あんた、私に喧嘩売ってるの?」

 

 霊夢の鋭い眼差しが早苗を襲う。

 

「じ、冗談ですよっ! 今回は巫女退治ですね! 頑張らないと!」

 

 どうにか話をそらそうとするが、全くそらせてない。ほんと、空気読めないよな……

 

「いつまでコントみたいなことやってんだよ。ところで、お前誰だよ……?」

 

「鈴仙よっ! 耳がないとわからないの!?」

 

 鈴仙はすこし泣きそうな表情になる。

 

「いやまあ、いつも耳を目印にしていたもので。って、そんなことはどうでもいいんだよ。あいつの波長はどうなってるんだ?」

「そんなことって……ちょっとまって——あの人の波長は長いままね。ずっと冷静でいられる人だわ。掻き乱すのは難しいかも」

 

 なるほどね。さて、どうしたものか……

 

「これは一斉に行くしかないわね……いくわよ、フラン!」

「わかったわ、お姉様!」

 

 私たちが考えていると、何も考えていないレミリアはグングニルを、フランはレーヴァテインを手に握った。少女に向かって飛んでいくレミリアにフランは続く。

 

「まったく、勝手な……私も行く!」

 

 妖夢は刀を勢いよく引き抜き二人に続いた。勝手なのはお前も同じだろ……

 

「しょうがないわね……守矢の巫女さん、あの三人が引き付けている間に私達は隙を付くわよ。霊夢と魔理沙はここで力を溜めておいて。ほら、行くわよ!」

 

「わかりました! ——って、待ってくださいよー!」

 

 早苗は鈴仙の後を追っていく。

 

 とりあえず、私達は回復と力を貯めることに集中しなければ……

 

 レミリア達は近接戦に持っていったようだが、少女の方はひと振りの剣を持って三人を圧倒していた。

 

「その剣に斬れないものはなかったのではないですか?」

 

 少女は嘲笑うように言う。

 

「あんまり、と言ったはずだ!」

 

 妖夢は少女と鍔迫り合う。

 

「そう。あなたは半人半霊ですね。ということは、白玉楼に住んでいるのかしら。幽々子は元気ですか?」

 

 少女は現在人間になっている妖夢の本来の姿を見破った。あいつがこの異変の犯人だから分かるのか?

 

「元気といえば元気だな」

「それは良かったです」

 

 少女は後ろから這いよるフランとレミリアに襲われる前に、妖夢を切り飛ばした。

 

「妖夢!?」

「ぐ……大丈夫だ……」

 

 強がっているが、どう見ても大丈夫じゃない。一撃で致命傷って…… 

 

「そちらは吸血鬼ですね。どうですか? 今の幻想郷は」

 

 レミリアとフランの猛攻を受け流しながら、少女は問う。

 

「ええ。最高だと思ってるわ。だからはっきり言って貴女は迷惑ね。私は吸血鬼ということに誇りを持っているの。だから、早くやられてくれない?」

「お姉様、すぐに壊れちゃったら面白くないよ!?」

「あー、もうあんたは!! いい? 今はこの異変解決することが先決よ。吸血鬼に戻ったら遊んでもらえばいいでしょう?」

「それもそうだね! それじゃあ、いっくよー!」

 

 フランから狂気が溢れ出した。結構離れているここまで伝わってくるって怖すぎだぜ……

 

 フランはレーヴァテインを投げ捨てた。

 

「あははっ、壊れちゃえっ!」

 

 フランは右手の拳を少女にぶち込んだ。

 

 ものすごい打撃音が空に響いた。

 

「今のは危なかったですね」

 

 砕けたのは剣だけ。フランの拳は後一歩届かなかった。

 

「これはお返しです」

 

 瞬間、少女は手から放った光線で二人を凪いだ。

 

「レミリア! フラン!」

 

 レミリア達はどうにか私達の近くで体勢を取り直した。

 

「大丈夫……多分ね……」

 

 こっちも負傷か……

 

 残るは早苗と鈴仙だけだが——

 

「きゃああっ」

 

 なるほど、全滅ですか……



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絶望と光

「ていうか、何なのよあいつ。いくらなんでも強すぎでしょ……」

 

 レミリアは息を切らせている。全員が全員瀕死状態だ。

 

「ほんとにそうだよな。正直勝てる気がしないぜ」

「せめて師匠が来るまで持ちこたえれば……」

「神奈子さまぁ、諏訪子さまぁ……早く来てくださぁい……」

「幽々子様ももう時期……」

 

 そういえば、こいつらの親玉はこのあの少女のことを知っているんだったな。援護が来てくれれば、この状況はいくらでもひっくり返せる。それまで持ちこたえられればの話だが……

 

「もう終わりですか? それならば、これで終わらせましょう」

 

 少女は再び腕を振り上げた。また、あのレーザーがくるのか……

 

「皆下がってろ。ここは私がなんとかする」

 

 とっておきの八卦炉を取り出す。これでなんともならなかったらゲームオーバーた。

 

「ファイナルスパークだっ!!」

 

 魔砲『ファイナルスパーク』

 

 八卦炉から放たれた巨大なレーザーと巫女が放ったレーザーがぶつかり合う。今度は手応えありだ。

 

「いっけぇええ!」

 

 私も少女も一歩も譲らず、衝突したところを中心に大きな爆発が起きた。

 

「今だ、霊夢!」

「わかってるわ!」

 

 霊夢は少女に向かって勢いよく飛び出した。

 

 既に霊夢は夢想天生を発動しているようだった。霊夢に向かって飛んでくる光弾は霊夢をすり抜けていく。

 

 これで王手だ!

 

「へえ、あなたの夢想天生は全てのありとあらゆるものから宙に浮くものなのですね。ですが——」

 

 急に霊夢の動きはだんだんと遅くなり、ついには止まってしまった。

 

「おい、どうしたんだよ!? ——っ!?」

 

 ——ゾクッ……

 

 瞬間、体がすくんだ。

 

「恐怖そのものからは浮くことは不可な筈です」

 

 少女から感じたものは狂気そのもの。それは、フランを軽く凌駕していた。

 

 人は圧倒的な力を前に、ひれ伏すことしかできない。その少女はまるで神であるかのごとく、私達の前に立ちはだかった。少女はまるで、私達のことを蚊でも見るかのように見下ろしている。

 

 私達は全く動くことができなかった。正直、飛んでいられている自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

「なんなんですか……あの人……」

「人間がここまでの魔力を持っているなんてありえないわ……」

「……」

 

 早苗やレミリア、ついにはフランまでもが震えだす。

 

「これが、全てを無に帰す私の力。貴方達はこれまでです」

 

 少女の周りを黒い光が包み始めた。それは、今までとは違いなんとも禍々しいもの。

 

 そこにあるのはただ一つ。絶望だった。

 

 恐怖で体が動かない。逃げなきゃいけないのはわかっている。だけど、竦んでで動けない。

 

 私達は無を受け入れるしかないのか……?

 

「これが私の——痛っ!?」

 

 全てを諦めたとき、少女は素っ頓狂な声をあげた。それと同時に黒い光が分散する。

 

「秘符『デコピン』。これで被弾。あなたの負けよ、小夜さよ」

 

 気づくと、スキマ妖怪が少女の顔の前にできていた。

 

「紫か……?」

 

「はぁい、紫ちゃんです。私が来なかったら死んでたわよ、貴方達」

 

 気付くと私達の後ろに紫がいた。私達は何も言い返せなかった。

 

「それにしても、いくらなんでもやりすぎよ。あのままじゃ、ホントにこの子達を殺してたわよ?」

「はい……流石にやり過ぎました……」

 

 気付くと少女から狂気は感じられなくなっていた。今となっては紫に叱られ、逆にシュンとしている。

 

「ま、待てよ! 本当にデコピンなんかで……」

 

 普通ならそんなことで負けを認めるわけがない。しかも、こんな異変を起こした犯人だから尚更だ。

 

「被弾は被弾。負けは負けです。そんな事でうじうじしては仕方ありません」

 

 やけにさっぱりしてるんだな……

 

「さて、異変解決の後はあれね」

 

 紫は盃を傾けるジェスチャーをする。

 

「まだその風習は続いていたのですね。それで、どこでやるんですか?」

「もちろん、博麗神社よ」

 

 そんな会話をしているなか、霊夢はさっきいた位置から動かず、少女を見たまま固まっていた。

 

「おーい、霊夢。そんなとこで何やってんだ?」

 

 私は霊夢に近づく。

 

「さよ……小夜……」

 

 霊夢は意味深な顔で、小さく呟いた。

 

「ん? どうした?」

 

 

 

「小夜様っ!? それって、御先祖様の名前じゃない!?」

 

 

 

 いきなり大声を出す。耳が痛いぜ……

 

「ご先祖様だ? 言われてみれば、夢想天生のことを知っていたよな」

 

「いやいや、なんでそんなに呑気なのよ!? 御先祖様よ!? いくら封印されてたからってなんで見た目が私達と同い年くらいなのよっ!?」

 

「それは封印のせいではないでしょうか。おそらく、副作用か何かでしょう」

 

 小夜と呼ばれた少女が私たちの前まで飛んできた。

 

「きゃっ!? 小夜様っ!?」

「どうしたんですか? そんなに驚いて」

「い、いえ。なんでもないです」

 

 御先祖様だと分かるやいなや、戦闘前の威勢はどこかに消えていったらしい。それどころか、あずけられた子猫のようになっている。

 

「そんなことより早く神社に向かいましょう」

 

 小夜は笑顔で霊夢の手を握った。霊夢のこんな緊張した顔を見るのって初めてかもな。



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14話

「お、やっと来たね」

 

 異変解決。人間になっていた妖怪も、元の姿に戻り一件落着。陽も落ちた頃、博麗神社に戻ると、既に宴会の準備が終わっていた。

 

「神奈子様!? なんでこんな所にいるんですか!?」

「なにって、決まってるじゃないか。宴会だよ。小夜の封印が解けたらしかったからね」

 

 宴会の準備をしていたのは神奈子だけではなく、永琳えいりんや幽々子ゆゆこも然りだった。幽々子に至っては既に食事を始めている。鈴仙と妖夢はというと、各自で文句を言っている。

 

 そんな中、私はふと疑問に思ったことがある。

 

「なあ、紫。異変が起こったとき、白玉楼とか永遠亭とか守矢とかが動いてるって言ってたよな? もしかして、あれって宴会の準備って意味か?」

「あら、よくわかってるじゃない。宴会の準備が終わったのになかなか帰ってこないから様子を見に行ったらあんなことになってるじゃない?」

 

 紫はさらりと答えた。

 

「じゃあなにか? 私達はただの時間稼ぎ役だったってわけか?」

「そういうことになるわね。まあ、あんなことになっているのは予想外だったけれど」

 

 それに関しては本当に助かったぜ…… 

 

「ねえ、ちょっと!? 私の依頼人は!?」

「あー。あいつらなら煩かったから追い返したぞ」 

 

 萃香が酒を飲みながら社から出てくる。そういえば、対処に困ったから紅魔館にまで助けを求めにしたんだったっけ。

 

「あんたねぇ……どうしてくれるのよっ!? ああ……報酬が……」

 

 霊夢はわかり易く落胆している。まあ、今回は規模が規模だったからな。

 しばらくすると、よく見知った妖怪どもが集まり、宴会は始まった。

 

「すみません、白蓮さん。役目を果たせずに……」

 

 小夜は白蓮に頭を下げる。

 

「いえ、お気にならさずに。まだ、人と妖怪が平等になる世界は遠いようです」

 

 白蓮は苦笑する。

 

「ええ。ですが、少しずつ、でも着実にその世界は近づいてきているようですね」

 

 小夜は優しい目で霊夢のほうを見る。

 

「スペルカードルール……ですか?」

「ええ。まだあれには欠陥もありますが、この世界の理想形なのかもしれません。人が妖怪に怯えなくなってしまえば、それは幻想郷の終わり。妖怪はこの世界から消滅してしまいますから」

 

 小夜は気になることを口にした。

 

「そういやそうだよ。そもそも妖怪が人間になって消えてしまえば幻想郷は滅びるんじゃないのか?」

「そうですね……魔理沙さんは妖怪とはなんだと思いますか?」

「そりゃ、あそこにいる吸血鬼だったり兎だったりだろ?」

 

 私は吸血鬼姉妹やてゐと鈴仙に目をやる。

 

「ええ、確かに彼女たちは妖怪ですね。ですが、私が言っているのは物質的なものではありません」

 

 この人は何を言っているんだろう……?

 

「例えば、普通の人間の中に一人だけ魔法や妖術を使える者がいたとします。もしあなたが普通の人間だったとして、その人をどう思いますか?」

「そりゃ、羨むんじゃないか?」

「恐らくそれは少数派の意見でしょう。人は自分と違うものを忌み嫌う生き物です。もし、そのような人が居たなら人はその人を蔑み、最後には妖怪や魔女と呼ぶでしょう」

 

「つまり、どういうことなんだ?」

 

 さっぱり意味がわからない。

 

「詰まるところ、この幻想郷が人間だけになろうとも、程度の能力というものがある限り妖怪は消えないのです。人は能力を使えるものを妖怪と蔑みますから。それを確かめるために私は過去にあの異変を起こしたのです。結局は自業自得で封印されてしまいましたが」

 

 小夜は苦笑いをする。

 

「まあ、半分八つ当たりのところもあったんですけどね。私自身、巫女として仕事をしていると、人からも妖怪からも恐れられましたから」

 

 少女は笑いながら話しているが、心のうちはきっと……

 

「だから、自分と同じ人間をつくるために妖怪を人間にした……」

 

 私の隣に座っている霊夢が初めて口を開いた。

 

「そういうことです。でも、霊夢。あなたを見ていると安心しました」

 

 小夜は宴会場をぐるりと見渡す。呼ばれてない妖怪もどんどんやってきて賑わっている宴会。霊夢はこの妖怪たちと戦い、仲良くなった。それは、小夜にとっても難しかったことなのかもしれない。

 

 霊夢は気恥ずかしそうな顔をする。

 

「そういや、白蓮。よく小夜さんの封印のことを知っていたよな」

「いえ、私も知りませんでした。昨日の話ですが、門の前に巻物が落ちていたのです。過去の異変のことはそれで知りました」

 

 ということは誰かが命蓮寺の前に置いたっていうことか?

 

「それで小夜様の封印を解いた、と。どこに封印されているか良くわかったわね」

「それなんですが、巻物と一緒に小夜さんが封印された勾玉が落ちていて……」

 

 こりゃ完璧に仕組まれてるな。

 

 さて、思い当たる犯人は一人しか思いつかなくなってしまった。それは霊夢も同じようで、私達は一斉にある人物に目を向ける。

 

「紫! あんたが黒幕だったのね!」

「何を言っているのかしら? 紫ちゃん分かんなぁい」

 

 なんかムカつく言い方だな……

 

「親友に会いたかったのよ。そこの尼さんにはちょっと手助けをしてもらっただけ。あの封印は魔法使いではないと解けなかったから——って、私は何を話しているのかしら。ほら、小夜。乾杯しましょう」

 

「お、久しぶりに盃を交わすか」

「本当に久しぶりですね」

「ちょっと、食べてるから待ってね」

 

 神奈子、永琳、幽々子。そして、ここに集まった全員が寄ってくる。

 

 友とは永遠なもの。人と人は絆でつながれている。たとえ、それが妖怪と人。狩るものと狩られるもの立場であっても古来より変わらないもの。現に、ほら。今も……

 

 

 

「カンパーイッ!!」

 

 

 

 幻想郷の夜に私達の声が響きわたった。




一応一部完です
次回から二部スタート!!


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魔理沙の箒

「そういや、私の箒は……?」

 

 宴会が終わって、翌日。博麗神社で目が覚めた私はふと思い出した。

 

 昨日、レミリアは咲夜が探していると言っていたけど、宴会に来たときあいつの手に私の箒を持ってはいなかった。

 

「見つかんなかったか……」

 

 まあ、しゃあないか……割り切るしかない。別に作ればいいさ。あの箒にこだわる必要性は皆無のはずだ。

 

「……」

 

 だけど、何故か納得できなかった。あの箒、そんなに大切なものだったか……?

 

「どうしたんですか? なんだか、暗いですよ?」

 

 私が立ち尽くしていると、ふと小夜が私の顔を覗いてきた。

 

「うわっ!? 小夜さん!? ——いや、なんでもないぜ……」

「そうですか? それならいいのですが……」

 

 小夜は心配そうな顔で私を見る。

 

「小夜さんはこれからどうするんだ?」

 

 私は話題をすり替える。あんまり心配はされたくないしな。

 

「私はしばらく博麗神社にお邪魔することになりそうです。紫のところに行ってもいいのですが、やはり子孫と一緒に過ごしたいので」

 

 小夜は机に突っ伏してねている霊夢に目をやる。

 

「それもそうだよな。せっかく血のつながった家族なんだから仲良くしないとだよな」

 

「はい。それじゃあ、ご飯の準備をしてきますね」

 

 小夜は笑顔で頷いてから台所のほうに向かっていった。

 

 あの人、料理もできるのか……

 

「んん……魔理沙、まだいたの?」

 

 小夜が去ってすぐ、霊夢は目を覚ました。

 

「悪かったな。いつも通り朝食はいただいていくぜ」

「はいはい。それじゃあ作ってくるからちょっと待ってなさい」

 

 霊夢は面倒臭そうに腰を上げる。

 

「あ、それなら小夜さんが——」

「はっ!? 小夜様が!?」

 

 小夜という言葉を聞いた霊夢は台所に走って行った。

 

 

 

 それからしばらくして、霊夢と小夜が朝食を運んできた。

 

 朝食はいつもより豪華だった。小夜がいたから霊夢が張り切ったのだろうか? 味はいつもよりも美味かった。これは、小夜の実力だろう。

 

 食事中、小夜と霊夢は楽しそうに話をしていた。その間、霊夢は緊張しっぱなしだったのが分かったのは私だけだろう。

 

「それじゃ、お邪魔したぜ。ごっそうさん!」

 

 私は社から出て、空に飛んだ。

 

 血の繋がった家族は仲良くしなくちゃ、か……あの時は顔に出ないように考えないようにしたけど、よく言えたものだ。

 というのも、現在私は父親と絶縁関係にある。まあ、いろいろとあったんだ。家族と仲良くしていない私が言えた義理じゃないだろう。 

 

「このへんか……?」

 

 気がつくと私は家ではなく、命蓮寺の近くまで来ていた。

 

 私は多分箒が落ちているであろう、命蓮寺付近の森に降りた。

 

「咲夜が見つけられなかったのに、私が見つけられんのか……ほんと、センサーでも付けとくべきだったよな、ははは……」

 

 笑えない……

 

「クソッ……」

 

 私はそばにあった木を殴った。

 

「っ……」

 

 鈍い痛みが拳にはしる。拳からは血が流れる。

 

「魅魔様……」

 

 私が呟いたのだろうか……? そんな言葉が勝手に口から溢れていた。

 

「魅魔……? 誰だそれ?」

 

 私の知っている人物の中に魅魔という名前の人物はいない。それなのに、なぜ私の口からそんな言葉が出るんだ? そもそも、なんで私はこんなに感傷的になっているんだよ?

 

 私は不思議でならなかった。

 

「とりあえず、箒を探すっきゃない。見つかったら何かわかるかもだしな」

 

 私は一人、手探りで箒を探し始めた。



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見つからないモノ

「もう夜か……」

 

 気がつくと、日は沈んでしまっていた。辺りは既に真っ暗だ。

 

「流石に今日探すのは無理か……また明日来るか……」

 

 私はやむなく家に戻ることにした。

 

「ただいまっと」

 

 もちろん、誰もいない暗い家からは返事は帰ってこない。

 

「いつもと同じじゃないか……何しんみりしてんだよ、私は!」

 

 私は壁を叩く。

 

「っ……何イライラしてんだよ……」

 

 やっぱりこんなの私らしくない。

 

「くそ……」

 

 感傷に浸っても仕方が無い。私はとりあえず寝ることにした。

 

 

 

 次の日、私は朝起きてからすぐに森に向かった。その次の日も。そして、その次の日も。私は箒を探し続けた。

 

 けれど、箒がみつかることはなかった。

 

「なんでムキになってるんだろうな、私……」

 

 分からない。何故あの箒にここまで固執しているのか……だけど、何故かあの箒がとても大切なものに思えてしまう。

 

「あれっ……」

 

 箒を探して家に帰る途中。魔法の森の上空を飛んでいると、景色が歪んだ。

 次第に目の前が真っ暗になっていった。

 

 

 

「ここは……?」

 

 目を覚ますと、知らない天井が視界に入ってきた。私はベッドの上に横たわっていた。私は起き上がって、辺りを見渡す。どこだろう、ここは。いや、何度か来たことがあるな。

 

「目が覚めたのね、魔理沙」

 

 部屋のドアが開いて、家の住民が入ってきた。

 

「アリス……私は……?」

「魔理沙、あなた落ちてきたのよ。私の家にね。驚いたわ。何があったのよ?」

 

 アリスはベッドのとなりに設置されている椅子に座った。

 

「それが——」

 

 私はここ数日のことをアリスに話した。

 

 

「じゃあ、何も食べてなかったわけ? 馬鹿なの!? そんな生活してたら普通の人間は倒れるわよ」

 

 グウの音もでねえぜ……

 

「仕方ないわね。適当に作ってくるわ」

「悪いな……」

 

 アリスは立ち上がり、部屋から出ていき、しばらくしてから戻ってきた。

 

「あの箒、それだけ大切なものだったの?」

「それがよくわかんないんだよな。なーんかあった気がするんだけど思い出せないんだよな」

 

 記憶が曖昧で思い出せない。

 

「ふーん。まあ、無理に思い出してもしょうがないわよ」

 

 アリスの言う通りかもな。でも、これは思い出さなくちゃいけない問題な気がするんだよな……

 

「そうかもな。そういや最近、神綺とはどうなんだ?」

 

 ふと、そんな言葉が口から出た。

 

「お母さんと? そういえば、来週こっちに来るって手紙が来たわね。それがどうしたの?」

 

 神綺は魔界を作った魔界の神で、アリスの母親である。

 

「いや、なんとなく聞いてみただけだぜ。そんじゃお邪魔したな。飯、美味かったぜ!」

 

 私はアリスの家から出て、自分の家に戻った。

 

「なんであんなこと聞いたんだろうな……」

 

 最近、家族って言葉に取り憑かれているような気がする。きっかけは、やっぱ小夜さんなんだろうな。

 

 なんかもやもやする。

 

「家族、か……」

 

 明日、行ってみるか……



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喧嘩の理由と巫女の助言

「それでうちに来たと。いい加減、親父さんと仲直りしたらどうなんだ?」

 

 霖之助は呆れたようにいう。私は実家ではなく、香霖堂に足を運んだ。

 

「そうは思うんだけどさ、なんか気まずいんだよ」

 

 あんな大ゲンカして見栄張って出ていったもんだから余計にだ。

 

「いつかは蟠が解けることを期待しているよ。そういえば、いつもの箒はどうしたんだい?」

 

 霖之助は私の手に箒がないのに気づいたらしい。

 

「いやぁ、それがなくしちゃってさ。今探してるんだわ。こっちに流れてきてないか確認も兼ねてきたんだけど、なさそうだな」

 

 店内を確認するがそれらしいものはない。

 

「そんなになってまで探すってことは、何か大事な箒だったのかい? 他の箒でいいなら換えはあるよ?」

「うーん。大丈夫。よくわかんないんだけど、大切なもののような気がするんだよなぁ……」

 

 やっぱり思い出せない。思い出すのをなんかに邪魔されている気がしてならない。

 

「そうかい。もしここに流れてきたら連絡するよ」

 

 ほんと地味に頼れるよな、こいつは。

 

「そりゃ助かるぜ。そういえば最近、店の方はどうなんだ?」

 

「そうだね……最近はマジックアイテムの仕入れが多いかな。そういえば、親父さんと喧嘩をした理由ってマジックアイテムだったよね。あの頃魔理沙はまだ魔法を使ってなかった筈なのにどうしてそんなことで喧嘩になったんだい?」

 

 痛いところをついてくる。なんか墓穴をほった気分だ。

 

「なんでって、そりゃ…………」

 

 あれ……? なんでだっけ……?

 

「魔理沙……? まさかと思うけど、忘れた、とかいうんじゃ……」

「あはは、んなわけ無いだろ……」

 

 完璧に忘れました。どうしても思いだせない。

 

「はあ……君らしいといえばそうなるのかもしれないけど、それじゃあ仲直りもできないよ」

 

 霖之助はため息をつく。

 

「ま、いつか思い出すだろ。なあ香霖。魅魔って人、知ってるか?」

 

 私は箒を探している時に口から出た言葉について聞いてみる。

 

「魅魔? 聞いたことないね。その人がどうかしたのかい?」

「いや、なんでもないぜ。それじゃ、私は箒を探しに行くとしますか」

 

 どうやら霖之助は知らないようだ。収穫なし、か……

 

「箒探しもいいけど、たまには神社に顔を出しときなよ。昨日、霊夢が心配して探してたから」

「それもそうだな。そんじゃ、邪魔したぜ」

 

 私は香霖堂をでて、神社に顔を出すことにした。朝飯まだ食べてなかったしな。

 

 ということで、久しぶりに博麗神社に到着。外では、霊夢が箒を持って掃除をしていた。あの箒私のじゃないよな……?

 

「よう、霊夢! 元気だったか?」

 

 私はいつもどおりの私を演じる。箒を持っていないことは悟られないようにしないとな。

 

「魔理沙? 久しぶりね。最近どうしたのよ?」

 

 何日かぶりに霊夢と顔を合わせる。コイツが人の心配をするなんてな。雹ひょうでも降るんじゃないか?

 

「ほら、今お前んとこ小夜さんがいるだろ? 家族団欒を邪魔しちゃ悪いと思って」

 

 私は適当に理由を付ける。箒のことを話せば手伝ってくれるだろうが、それは私のプライドが許さない。いや、言ったところでこいつが手伝ってくれるかは定かではない。報酬を払えば確実に手伝ってくれるだろうけど……

 

「ふぅん。なんかあんたらしくないわね。誰がいようとずかずか入ってくるくせに」

 

 霊夢は私を訝しむような目で見てくる。

 

「気のせいだ。こう見えて私は良識的なんだぜ?」

 

 私は誤魔化し笑いをする。

 

「冗談。で、何しにきたのよ?」

 

 霊夢はそれを笑い飛ばす。

 

「ああ、朝食を食べにきた!」

「それ、良識的な人間が言うセリフじゃないわよ」

 

 霊夢はため息をつく。

 

「しょうがないわね。残りものでいいならあるわよ」

「いやぁ、悪いな」

「悪いと思っているならそういう顔をしなさいよね。ほら、上がんなさい。取ってくるから」

 

 私は社に上がる。

 

「あら、魔理沙さん。おはようございます」

 

 そこにはもちろん、小夜さんがいた。小夜さんは読書に勤しんでいたようだ。なにか分厚い本を読んでいる。

 

「おはようございます、小夜さん。何を読んでるんだ?」

「幻想郷の歴史書のようなものです。ここ数百年、私は封印されていたものですから」

 

 小夜さんは本の表紙を私に見せてくれる。題名は幻想郷の歴史。作者は八雲紫。絶対に信用したら駄目なヤツだよな……

 

「なるほどなぁ。小夜さんは勤勉なんだな。どっかの巫女にも見習って欲しいものだぜ」

「悪かったわね、勤勉じゃなくて」

 

 霊夢がお盆に朝食をのせて、部屋に入ってきた。

 

「誰もお前のこととはいってないぜ? いただきまーす」

 

 私は霊夢からお盆を半ば奪い取る。

 

「ほんとゲンキンなヤツね……」

「いやぁ、照れるぜ」

「褒めてないからね?」

 

 そんないつものやり取り。なんだか、暖かい感じがする。

 

「なあ、霊夢。魅魔っていう人物をしってるか」

 

 朝食を食べ終えて一休み、私は箒の手掛かりになりそうな人物のことを聞いてみる。

 

「魅魔……? 聞いたことないわ。それがどうしたのよ?」

 

 アリスや香霖と同じ回答が返ってくる。

 

「いや、この前勝手に口から出たんだけどさ、全く身に覚えがないんだよな……」

 

 魅魔という人物は私が空想上で作った人物なのだろうか……?

 

「そういうことですか……」

 

 小夜さんはぱたん、と分厚い本を閉じた。

 

「どうしたんですか、小夜様?」

「いえ、少し気になったことがあるので確認して来ます。少々歴史に綻びを見つけてしまったので」

 

 そういって、小夜さんは社から出ていった。歴史に綻びねぇ……

 

「そういや霊夢、私が魔法を使うようになったきっかけってなんだったっけ?」

 

 私は霖之助と話していて疑問に思ったことを霊夢にぶつけてみる。こいつなら何か知っているかもしれないしな。

 

「急に変なことを聞いてくるわね。あんたが魔法を使うようになったのは4、5年前に霖之助さんとあんたと私で流星祈願会をやったのがきっかけじゃないの?」

 

 流星祈願会とは流星雨の観望会のことだ。

 

「やっぱそうだよなぁ。でもほら、私が親父と喧嘩したのはもっと前の話だし、色々とつじつまが合わないんだよ」

「へえ、魔理沙が考え事ねぇ。雹でも降るんじゃないかしら?」

 

 霊夢は心配そうに外のほうを見る。

 

「失礼な。これでも困ってるんだぜ?」

「ま、思い出せないんなら仕方ないわよ。もしそれが、思い出せないように細工されているなら別だけど」

 

 霊夢は気になることを言った。

 

「細工……?」

 

「ええ。この幻想郷には幻想郷の歴史をいいように操れるような妖怪がわんさかいるわ。その中でも頂点にいるのは誰かしら?」

 

 霊夢は小夜さんがおいていった歴史書に目をやる。

 

 

「紫……か?」

 

 

「ご名答。とはいっても、あいつが記憶を操作できるかどうかは定かではないわ。それに、もしできたとして、何故私たちからその魅魔って人の記憶を奪ったのかしら?」

「さぁ。あいつの考えることはよくわからないからな。でも、私は真実を知りたいんだ」

 

 たとえ、その先にどんな結末が待っていようとも……



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紫の居場所

「そんじゃ、ごっそーさん」

 

 私は博麗神社から飛び出した。

 

「とりあえず紫を探さないとだな。っても、あいつってかける専用の携帯電話みたいなもんだからなぁ」

 

 困ったな……

 あいつがどこに住んでるかなんて私は知らないぞ……

 

「ううん……マヨイガにでも行ってみるか……何かわかるかもしれないしな」

 

 最悪、橙を人質……猫質に取ればなんとかなるか?

 

「で、あの廃村って何処にあったっけ……」

 

 前にあそこにたどり着いたときも偶然だったからなぁ……

 適当に飛んでれば、適当につくだろ。

 

 

 

 数分後、霧の深い山奥で私は迷子になりました。

 

「どこだよここ……」

 

 また迷子です。正直洒落になんないよな……

 

「ま、そう言ってると見つかる場所なんだけど、あこそは」

 

 霧の中に村を発見。マヨイガだ。私はマヨイガに降りた。

 

「やっぱり、廃れてるよなぁ。おーい、ねこー。いるかー?」

 

 響くのは私の声だけ。返事も何もない。

 

「ううん。なんか虚しいぜ……」

 

 私は以前橙と出会った家に向った。卓袱台の上には昼飯と思われるものが置いてある。

 

「猫まんまか。まあ、いるって事は分かってたけど。でも、いないようだし仕方ないよな。食べ物を粗末にはできないぜ。いっただっきまー——」

「だめぇぇえええっ!!」

 

 ほら、釣れた。猫の一本釣り成功だ。

 

「うん。ちと味が薄いかな。60点」

 

 ちなみに、及第点は70点だぜ。

 

「なんで食べてるの!? 普通は食べないんじゃない!?」

 

 橙は涙目でこちらを見てくる。

 

「そりゃ、私も腹が減ったからに決まってるじゃないか。昼飯にありつけてラッキーだったぜ」

 

 そう言っている間にも食べ続ける。

 

「ああぁぁっ!! 食べた……全部食べたぁ!! このぉっ!」

 

 橙は涙目ながらも戦闘態勢に入った。こんな狭いところで弾幕ごっこなんてしたくない。それに、食後の激しい運動は避けないとな。

 

「まてまて、ちょっと待ってろ。代わりに昼飯を作ってやるから。台所借りるぜ」

「そういうことなら……」

 

 橙は渋々首を縦に振った。

 

「どうせいつもご飯に鰹節をふりかけたようなのしか食べてないんだろ?」

 

 台所には様々な食材があった。もちろんその中には沢山のキノコも。

 

「しかたない、私がキノコ料理を振舞ってやるぜ」

 

 

 

 数分後、キノコ料理が完成。

 

「ほら、できたぞー」

 

「すご……黒白が料理ができるなんて……」

 

 橙は意外そうな目で私を見る。

 

「侵害だな。私だって自炊してるんだからこれくらいはできるさ。ほら、食ってみな」

 

 私は料理の乗ったお盆を橙に渡した。

 

「ごちそうさま。迂闊にも美味しかった……」

 

「お粗末様。一言余計だが、そりゃ良かった。というわけで、紫の居場所を教えてもらおうか」

 

「なっ! 卑怯だぞ! 最初はあんたが私のご飯食べたんだからおあいこでしょ!?」

 

 橙はばん、とテーブルを叩く。

 

「やっぱりそうだよな。そんじゃ、弾幕ごっこといきますか。私が勝ったら紫の居場所を吐いてもらうぜ」

 

 私は帽子を深くかぶりなおす。

 

「私が勝ったらさっさと帰ってもらうからね」

 

 橙は戦闘態勢に入った。私はそれを傍観者のように見る。

 

「なに? 前に一度勝ってるからって舐めないでよ!」

「いや、そろそろ効いてくるかな、と思ってさ」

 

 橙の頭の上にはてなマークが浮かぶ。

 

「……っ!?」 

 

 そして、橙は倒れた。

 

「お、ナイスタイミング」

「ひ、卑怯だぞ……私に何をした……?」

 

 橙は倒れたまま苦しそうに問う。

 

「さっきの料理だけどな、ちっとだけ麻痺茸を入れたんだ。どうせこんなことになると思ってたからな」

 

 私は倒れた橙に歩み寄る。橙は必死に動こうとしているが、それはできない。

 

「麻痺茸って結構強力だから、無理に動かない方がいいぜ」

 

 橙の前にしゃがみ込み、デコピンをする。

 

「いたっ……」

「これで被弾、と。さて、紫の居場所を吐いて貰おうか」

 

 といっても、この猫は強情なところがあるからな。素直に吐いてくれるとは到底思わない。

 

 現に、橙は口を閉じている。

 

「そんじゃ、交換条件だ。もし話してくれるならこれをやろう」

 

 私は懐から小瓶を取り出した。

 

「なんだ、それ?」

 

「所謂解毒剤ってやつだ。これを飲んだらすぐに麻痺は解けるだろうさ。ちなみに、そのまましてたら丸一日は麻痺が解けないぜ」

 

 私は小瓶をちらつかせる。

 

「……分かった。話すから……」

 

 橙は呟くように言った。実際、喋るのも辛いだろうな。

 

「そんじゃ、交渉成立だ。ほら、飲めるか?」

 

 橙を起こして、瓶に入った液体を口に流し込む。

 

「とりあえずこれでちょっとは楽になっただろ。一、二時間もしたら麻痺は完全に取れるだろうよ。で、紫はどこにいる?」

「誰が教えるもんか……」

 

 はい。予想はしてました。

 

「そうか。ここに注射器がある。中にはさっきの麻痺茸の数倍強力な毒が入ってる。まあ死にはしないけど、一週間は麻痺したままだろうな」

「紫様は藍様と一緒に白玉楼に行きました」

 

 橙は随分とあっさり答えてくれた。

 

「ご苦労。仕方ないから布団くらいは引いていってやるよ」

 

 私は倒れた橙を布団に寝かせてマヨイガを出た。

 

 注射器の中身はただの水だったんだけどな。やっぱり、持っておいて正解だったぜ。



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意外と演技派なんです

というわけで、冥界に到着。途中になんか三人組がいた気がしたけど気のせいだろう。

 

「おや、生きた人間が冥界になんのようかな? いつぞやみたいに、また霊たちが騒いでいるようだ」

 

 そこで、私を出迎えてくれたのは八雲藍だった。本当は妖夢が出張ってくると思ってたんだけど、これは予想外だ。妖夢なら簡単に説き伏せることができたんだけどなぁ……

 

「お前がここにいるってことは、紫が白玉楼にいるっていう情報は本当らしいな。それと、それをいうならお前だって生きた妖怪だろ?」

「まあ、そうなんだけど。でも、生きているってどういうことなんだろうね」

「突然だな。そりゃ、息をしてて、心臓が動いてるってことだろ?」

 

 妖怪の生については良く分からないけど、人間の生っていうのはこんな感じだろう。多分妖怪も同じなんじゃないか?

 

「どうだろうか? この世には生きながらも死んでいるようなモノは沢山いる。逆に、死にながらも生きているようなモノもね」

 

 コイツの言いたいことはなんとなくわかる。そういや、幽々子って幽霊だったな。あいつは生きているようなものか。この世界の生の定義って難しいのな。

 

「そりゃ、悪霊かなんかだろ」

 

 私は冗談半分に笑い飛ばす。

 

「そうね」

 

 藍は笑った。だけど、それは私の冗談が面白かったからでも、苦笑でもないように感じる。一体なぜ?

 

「ところで、お前から鰹節の匂いがするのだけど、どうしてかな?」

 

 藍の笑いが怖いものに変わった。ヤバイな……

 

「そりゃ、鰹節ご飯を食べてきたからだ。何かおかしいか?」

「ああ。その鰹節は橙の為に特製に作ったものだ。どうしてその鰹節の匂いがお前からするのかな?」

 

 どこまで橙のことを可愛がってんだよこの狐は……

 

 戦闘不可避か……

 

 私は勘づかれないように戦闘態勢に入る。

 

「なるほど。こんなひょんな場所に何の用かと思ったけど、紫様に用があったということね。普通なら案内するところだけど、橙になにかしたようだし、主人としてこのまま行かすわけにはいかないな」

「お前、この前それして紫に叱られたんじゃなかったか?」

「それはそれ、これはこれ。式神のことを大切に思わない主人なんていない」

 

 藍は戦闘態勢に入る。

 

「あ、そういえばだな。あの猫なら布団の上で寝てるぞ」 

 

 

 

 

「なに……?」

 

 

 

 面倒な戦闘を避けたい一言だったが、結構効き目があったようだ。

 

「私は看病をしてやっただけだぜ。あいつ、ずっとお前の名前を呼んでたぞ。可哀想に……一人でお前の帰りを待っているというのにお前はこんなところで私なんかと雑談か……」

 

 私って地味に演技派かもな。自分の知らない意外な一面に驚いてしまう。でも、嘘はついていないぜ。

 

「……私は失礼する。疑って悪かったな」

 

 そう言って藍は私の横を素通りしていった。二度と合わないようにしないとな……



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おっちょこちょいな庭師

「こんなみょんなところに何の用だ、人間。霊達が騒ぎ出したから予想はしていたけど、やっぱりお前か……」

 

 白玉楼の前では魂魄妖夢が待ち構えていた。

 

「お前こそなんでこんな妙なところに突っ立ってるんだよ。お前、門番じゃなくて庭師だろ?」

「う……それはそうなんだけど……今、幽々子様は接客中だ。私がいてもしょうがないでしょ。今はお前みたいな邪魔が入らないように見張りをしていたんだ」

 

 妖夢は刀を引き抜いた。箒がない分こちらの不利。真っ向から戦うのは正直避けたい。かと言って、あのスキマ妖怪が律儀に門から出てくるはずもない。この機を逃せば、また振り出しに戻ってしまう。今までの苦労が水の泡だ。

 

「まあ待て。話し合おうじゃないか半人半霊」

「話……? お前と話し合うことなんてない!」

 

 酷い言われ様だぜ……

 

「まてまて、考えてみろ。幽々子って結構いい体してるだろ? お客様に襲われてんじゃないのか?」

「なっ!? そそそ、そんなことがあるわけっ!!」

 

 妖夢は顔を真っ赤にする。

 

「だ、だいたいお客様は女性だ」

「そうか。でも、女同士という可能性もなきにしもあらずだぜ?」

 

 自分で言っててなんだが、それは確実にない。というか、あって欲しくない。それが、幽々子と紫ならなおさらだ。

 

「そんなことっ! 幽々子様ぁああっ! ってそんなことあるわけないでしょっ!!?」

「ち、作戦失敗か……じゃあ、これを見ろ」

 

 私は懐からお茶碗を取り出す。

 

「それがどうした……?」

「ほら、よく見てみろよ。どっかで見たことないか?」

 

 私はいろんな角度からそのお茶碗を妖夢に見せる。

 

「――ああっ!! それは、幽々子様のお茶碗! 前になくしたと思っていたらお前が持っていっていたのか! この泥棒!」

 

 妖夢は茶碗のことに気づいたらしく大きな声を上げる。

 

「泥棒じゃない、ちょっと黙って借りていっただけだ」

「それを泥棒っていうんだよ! 返せぇえええっ!」

 

 妖夢は剣を構え直し、突っ込んできた。

 

「――っ!?」

 

 だが、妖夢は剣を振りきることはなかった。刀は私の前でぴたりと止まる。

 

「どうしたんだ? 斬れないものはなかったんじゃなかったのか?」

「殆どないといったはずだ」

 

 私はお茶碗を盾にした。まさかここまで効果があるとは思ってもいなかった。主人思いのいいやつだな。

 

「そうか、そんじゃ返してやるよっ!」

「ああっ!! 幽々子様のお茶碗!」

 

 私は後方にお茶碗を思いっきり放り投げた。一応、割れないように魔法はかけてあるから大丈夫だろ。

 

 妖夢は必死にそれを追いかけていく。

 

「健闘を祈るぜ」

 

 私は見えなくなった妖夢にそう言い残して、屋敷に入った。

 

 ちなみに、あのお茶碗は幽々子のものじゃない。幽々子のお茶碗に似て非なるものだ。マヨイガで見つけて拝借してきたもの。以前、白玉楼にきたときに幽々子の茶碗を見ていたからな。もしかしたら、と思って持ち出していて正解だったぜ。

 

「でも、なくしたのはお前の責任だぜ。私は白玉楼から持ち出してなんかいないんだからな」

 

 あいつって結構おっちょこちょいなんだな……



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なくしたモノ

「あら、魔理沙。こんなひょんなところにどうしたのかしら?」

 

 散々白玉楼の中を探した挙句、見つけたそいつは縁側に座っていた。隣には誰もいない。

 

「なんだ、一人か?」

 

 床に置いてある湯呑は二つ。誰かいた形跡がある。多分片方は幽々子のものだろう。

 

「ええ。幽々子は少し席を外しているわ。それで、どうしたの?」

 

 紫はお茶を啜る。

 

「分かってるんじゃないのか? 私はなくしたモノを取り返しに来たんだ」

「なくしたもの? そういえば貴方、箒を持っていないわね」

 

 紫は私を舐めるように見たあとにそう言った。

 

「そうじゃない。いや、それもなくしたんだけど、今は箒じゃないものを取り返しに来た」

「へえ、なにかしらそれは?」

「私の記憶。魅魔っていう人物についての記憶だ。お前が持ってるんじゃないのか?」

 

 それを聞いた途端、紫の表情が少しだけ変わった。こいつが犯人じゃないにしろ、何かを知っている証だ。

 

「面白いことをいうわね。私が貴方の記憶を持っていると? その根拠は?」

「んなもんあるか。強いて言うなら、お前だからだ」

「貴方、結構無茶苦茶言っているってわかってる?」

 

 そんなもの自分だって分かってる。だけど、これといった証拠がない。

 

「知るか! とりあえず、私の記憶を返しやがれ!」

「全く厄介ね。もし私が貴方の記憶を持っていたとして、はいそうですかって返すと思っているの?」

 

 紫はため息をついた。

 

「いいや、全く思っていない。人からものを奪う。それが私の専売特許だぜ」

 

 私は懐からミニ八卦炉を取り出し、紫に向ける。

 

「今は貴方と遊ぶ気分じゃないわ。去りなさい」

「なっ!? なら無理矢理にでも取り返すのみだ――っ!?」

 

 隙間を使って、紫は私の首を絞めてきた。

 

「去れと言ったのよ。聞こえなかったの?」

 

 紫の目はどこか狂気に満ちていた

 

「ぐ……嫌だ……私は……絶対に諦めない」

 

 どうにか言葉にする。紫は本気だ。

 

 くそ……意識が遠のいていく……

 

「返してあげなさい。紫」

 

 そんなとき、私の後ろから声がした。その瞬間、紫の手が私の首から離れた。

 

「げほっげほっ……小夜……さん……?」

 

 咳き込みながら振り向くと、そこには小夜さんが立っていた。

 

「小夜……どうしてここに?」

 

「歴史に綻びを感じたのでここに来ました。最初は貴方の家に行ってみたのですが留守でした。ですから、貴方が行きそうな場所を探した挙句、ようやくここにたどり着いたというわけです」

「歴史に綻び? そんなモノあるわけないじゃない」

 

 紫は笑い飛ばす。

 

「そうですか? 貴方が魔理沙さんの記憶を置き換えたのもそうといいきれますか?」

 

 小夜がそういった瞬間、紫の顔が曇った。

 

「……小夜。こればかりはどうしても戻すわけにはいかないの。何も言わずに帰ってちょうだい」

 

 それは紫の本音だったのだろう。いつもより声のトーンが低い。

 

「そういうわけにもいきません。歴史とは人が様々な事象を受け入れてこその歴史なのです。それをねじ曲げるだなんて神にも許されざる行為です。これは過去にも貴方に言った筈ですが?」

「それは……そうだけど……」

 

 紫がおされている。小夜さんって一体……

 

「では、返してもらえますね」

「……分かったわ……でも……」

 

 紫は私の方を向いた。なんなんだろうか?

 

「なんとなくですが、理由はわかります。大丈夫。今の魔理沙さんならきっと受け止めることができるでしょう」

「……どうなってもしらないわよ。魔理沙、こっちに来て背を向けなさい」

 

 私は紫に言われたとおりにする。

 

「今から貴方は夢を見るわ。それは貴方の魅魔に関する記憶。それがどんなに辛くても途中で終わらせることはできない。それでもいい?」

「もちろんだ」

 

 とはいっても、過去に何があったのか分からない今、相当怖いモノがある。

 

 腹をくくる前にふと、紫の手が頭に触れた。

 

 急に抑えられない眠気が私を襲う。私は抗うことができるはずもなく、闇を受け入れた




次回から過去編です
ザ・私のモウソウワールド!!


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【過去編】出会い

 まだ私が幼かった頃、父親と喧嘩もなく、普通の少女として普通の服を着ていた頃、私は霖之助に連れられてよく博麗神社に遊びに行っていた。なんで、神社に通いだしたかはよく覚えていない。

 

「ねえ、霊夢。今日は何して遊ぶ?」

 

 雨が降っていないとき、私たちは外でよく遊んでいた。その間、霖之助と先代の博麗の巫女は社でお茶を飲みながら私たちを眺めているのがいつもの風景だった。この時から博麗神社は参拝客が少なかったような気がする。

 

「今日はコレ!」

 

 霊夢はドヤ顔で空き缶を見せつけてきた。

 

「それで何をするの?」

「ふっふっふ、缶蹴りよ!」

 

 霊夢は胸を張って説明する。

 

「缶蹴りは二人じゃできないよ……?」

「そんなのカンケーないよ! 魔理沙が鬼ね! そりゃぁぁぁあああっ!!」

 

 私の意見など聞きもせず、霊夢はこれでもかというほど思いっきり缶を蹴飛ばした。

 

「ちょっ!? ええっ!?」

 

 飛んでいった缶を見送って振り返ってみると、そこに霊夢の姿はなかった。

 

「本当にやるんだ……」

 

 私は疑問に思いながら、缶を探すハメになった。缶が飛んでいったのは魔法の森の入り口付近だ。普段は危険だから近づくな、とは言われていたが缶を持って帰らないと霊夢がうるさいだろうから、仕方なく足を踏み入れることにした。

 

「……あんた誰?」

 

 森の中にそいつは座っていた。木を背もたれに一人孤独にシャボン玉を吹いていた。

 

「ただの悪霊よ。ほら、あなたの探し物はそれじゃないの?」

 

 そいつは近くにあった缶を指さした。

 

「悪霊っ!?」

 

 私はとっさに身構えた。悪霊なんて何をされるかわからなかったからだ。

 

「うわぁ、傷つくわね。子供にまでそんな反応をされるなんて……」

 

 そいつは明らかにしょぼくれていた。

 

「あ、あの……」

 

 私は恐る恐るそいつに話しかけた。

 

「まだ居たのね。どうしたの? 早くいかないと食べちゃうわよ?」

「えっ!?」

 

 私は急に震えが起こった。正直失禁までしそうになった。

 

「冗談よ、冗談。私は人は食べないわ。魂までは保障しないけどね」

 

 そいつは苦笑した。それが冗談なのは幼い私にもなんとなくわかった。

 

「魔理沙ちゃん、そいつから離れなさい」

 

 急に後ろから声がかかった。声の主は先代の博麗の巫女だった。

 

「あらあら、巫女様じゃない。久しぶりね。こんなところに何の用かしら?」

「ええ、私の娘の友人にちょっかいをかけているようだから退治しにきてあげたのよ。ほら、霊夢と一緒に先に帰ってなさい」

 

 先代の巫女は後方にいる霊夢のほうに目をやる。私は無言でうなずいて後ろに下がった。

 

「私は戦うつもりゼロなんだけど?」

「まあいいじゃない。最近訛ってんのよ。久しぶりにちょっとくらい付き合いなさいよ」

 

 そんな会話を聞きながら私たちは魔法の森を出ていった。あの二人は実は仲が良かったんじゃないかと今になって思う。

 

「かーちゃん、大丈夫かな……」

 

 神社に帰って一時間ほどたって、霊夢が先代巫女のことを心配し始めた。

 

「うーん、その悪霊っていうのには心当たりがある。きっと大丈夫だよ」

 

 霖之助は霊夢をなだめる。

 

「そ、なんたってかーちゃんなんだから」

 

 そんなときバンッ、と部屋の扉があいた。

 

「かーちゃん、おかえりっ!!」

 

 霊夢は先代巫女を見るなり、先代巫女に飛び込んでいった。

 

「ただいま。心配させちゃって悪かったわね」

 

 先代巫女は霊夢の頭をなでる。

 

「君はもうちょっと静かに登場できないのかい?」

「いいじゃない。それより悪かったわね、霊夢たち押し付けちゃって」

「それは問題ないよ。で、どうだったんだい?」

「ボロ負けよ。まったく、あいつは手加減というものを知らないんだから」

 

 先代巫女はそうはいっているが、外見の変化は何らない。埃の一つすらついていなかった。いったい何の勝負をしてきたのだろう……?

 

「それじゃあ、魔理沙。僕たちはそろそろ帰ろうか」

 

「はーい」

 

 私たちは遅くならないうちに人里にある霧雨店に帰った。帰り道に例の悪霊について霖之助に聞いてみたら、悪霊のくせに悪霊っぽくない奴とだけ返ってきた。結局どんな奴なんだよ……とは思ったけど、あえて突っ込まないことにした。



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【過去編】やりたいこと

 次の日、気づくと私の足は魔法の森に向かっていた。私は霖之助に行先だけを告げて、家を出た。

 

 

 

 そいつは昨日と同じ場所にはいなかった。探しても見つからなかったから諦めて帰ろうとしたとき、大きな破裂音が聞こえた。

 

 

 

 私は音のしたほうに向かって全力で走った。

 

 

 

「なに? また来たの?」

 

 

 

 そいつは昨日と同様に、木にもたれかかって座っていた。

 

 

 

「さっきの音なぁに?」

 

「聞いていたのね。私の魔法の音よ」

 

「魔法!?」

 

 

 

 私は素直に驚いた。魔法という言葉は知っていたけれど、実際に使う人を見たことがなかったからだ。

 

 

 

「そんなに驚くことじゃないでしょう? 魔法や妖術はそこらへんの妖怪でも使えるわよ」

 

 

 

「だって私人間だし……妖怪は危ないから近づくなってお父さんに言われてるし……」

 

「ふぅん、やっぱり怖いんだ。そういう考えはやっぱり残っているのね……」

 

 

 

 そいつはどこか寂しそうな顔をした。

 

 

 

「どうしたの?」

 

「旧友のことを思い出したのよ。気にしなくていいわ」

 

 

 

 そいつは笑った。だけど、それが作り笑いをしていたのは幼い私にもわかった。

 

 

 

「お父さん妖怪に近づくなって言われているのに私には近づいていいの?」

 

「だって、お姉さんは悪霊でしょ?」

 

「あ、そうですか……」

 

 

 

 そいつは脱力した。

 

 

 

「ねぇねぇ、それより魔法見せてよ!」

 

 

 

 私は魔法というものがどういうものなのかが気になった。このときの私は魔法といえば空を飛ぶくらいしか頭の中になかった。

 

 

 

「いやよ。見せ物じゃないんだから」

 

「……うぅ」

 

「ちょっ!? こんなところで泣かないでよ!? わかったから」

 

 

 

 泣き真似成功。私はニシシと笑った。

 

 

 

「……あなたって相当たちが悪いのね。まぁいいわ、少しだけよ」

 

 

 

 そういうと、そいつは右手の平を上にして自分の前に出した。

 

 

 

「なにするの?」

 

「まぁ、見てなさいって」

 

 

 

 そういうと、そいつの手の平から大きな星が空めがけて放たれた。大きく上昇したそれは、破裂音とともに無数の小さな星を空一面にばら撒いた。それは、花火を連想させる。

 

 

 

「わぁ……」

 

 

 

私は声が出なかった。魔法ってすごい。私は感動した。

 

 

 

「ざっとこんなものかしら。満足していただけた?」

 

 

 

 私はコクコクと頷く。

 

 

 

「魔法教えてっ!!」

 

 

 

 それが次に出た言葉だった。

 

 

 

「嫌よ。そんな面倒なことしたくないわ。第一、魔法を覚えたところであなたの場合は役に立たないと思うわよ?」

 

「そんなことないもん!」

 

 

 

 私はただ、あんなきれいな花火を自分で撃ってみたかった。それは、派手で綺麗なものが魔法であると私の中で勝手に定義づけられた瞬間だった。

 

 

 

「はぁ……あなた人里に住んでいるんでしょう? ここに来ること自体が異例なのに、そこにいる悪霊に魔法を教わるなんて以ての外なんじゃないの?」

 

「それは……そうだけど……」

 

「ほぅら、そうこうしてるうちにお迎えが来たわよ」

 

 

 

 そいつは私の後方を見た。

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 そこにひっそりと立っていたのは霖之助だった。

 

 

 

「魔理沙、昼ご飯の時間だよ。霊夢も待ってるよ」

 

「……はぁい」

 

 

 

 私はやむなく博麗神社に向かった。

 

 

 

「魔理沙、どうしたの? 元気がないようだけど」

 

 

 

 霊夢は私が落ち込んでいるのが分かったらしい。

 

 

 

「何でもないよ」

 

 

 

 私は作り笑顔を作る。

 

 

 

「そう?」

 

 

 

 霊夢は私を訝しむような目で見る。

 

 

 

「ねぇ、霊夢のお母さんって魔法って使えるの?」

 

 

 

 私は悟られる前に話題を変えた。

 

 

 

「魔法? かーちゃんのは魔法じゃなくて術だよ。魔法とは違うって言ってた」

 

「へぇ。霊夢は使えるの?」

 

「ちょっとだけだけどね。今修行中なんだー!」

 

 

 

 霊夢はエッヘン、と胸を張る。

 

 

 

「修行中って、よくサボってるやつが言うセリフかっ!」

 

 

 

 先代巫女の突っ込み。この頃から霊夢は修行が嫌いだったらしい。

 

 

 

「そうなんだ。すごいね、霊夢は……」

 

「……どうしたの? なんか今日の魔理沙へんだよ?」

 

 

 

 今度は私を心配そうに見てくる。

 

 

 

「そう? 私はいつも通りだぜ?」

 

「しゃべり方も変だよ? 熱でもあるんじゃない?」

 

「ないよっ!」

 

 

 

 それから霊夢と遊んだ。気が付くと日は沈みかけている。

 

 

 

「ばいばーい」

 

 

 

 博麗神社を後にする。聞いた話では霊夢はこれから修行らしい。霊夢だけが術を習うのは何だかズルい。幼い私はそう感じた。

 

 

 

「魔理沙ちゃん。あなたがどう思っているかはわからないけど、好きなようにしたらいいと思うわよ」

 

 

 

 霊夢たちとの別れ際、先代巫女がそう言った。私は少しだけうずうずしていた。もう一回森に行こう。あの人に魔法を教えてもらおう。そう意気込んだ。

 

 

 

「魔理沙。僕は先に帰るよ。君は行くところがあるんだろう? あんまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ。親父さんには適当に理由つけておくから」

 

 

 

 霖之助は私の気持ちを察したらしい。

 

 

 

「ありがと……」

 

 

 

 私は魔法の森に向かって走った。



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過去編【私とあの人】

私は魔法の森に足を踏み入れた。

 

 

 

「どこにいるんだろ……」

 

 

 

 とりあえず、昼前に会ったところまで行ってみる。

 

 

 

「いない……」

 

 

 

 さすがにずっとここにいるというのはあり得ない話である。私はきょろきょろとあたりを見渡したが、周りには誰もいないし、何もない。

 

 

 

 そんなとき、後方の草村からガサガサと何かが動く音がした。

 

 

 

「お姉さん? ――っ!?」

 

 

 

 それは、あの人とは違うものだった。暗くてよく分からなかったが、それが人間でないことだけはわかった。それは、人の形をしていなかった。ドロドロしていて、私の身長の二倍くらいの高さがあった。

 

 

 

 私は後ずさりをしたが、石につまずいて転んでしまった。

 

 

 

「逃げないと……」

 

 

 

 頭では分かっていた。だけど、体がいうことを聞かなかった。恐怖が私を支配した。

 

 その物体は私に向かってゆっくり近づいてくる。それはだんだんと広がっていき、私を包み込もうとした。

 

 

 

「来るな……来るなぁああああっ!!」

 

 

 

 私は真っ暗な闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅん……ここは……」

 

 

 

 気が付くと私はベッドの上に寝かされていた。見知らない天井。ここはどこだろう……

 

 

 

「目が覚めたみたいね。ここは私の家よ。ほら、これでも飲みなさい」

 

 

 

 そいつは部屋に入ってきた。右手にはホットミルクが入ったマグカップ。

 

 

 

「ありがと……」

 

 

 

 私はそれを受け取って口に含む。

 

 

 

「お姉さんが助けてくれたの?」

 

「んー……まぁ、そうなるのかしら」

 

 

 

 そいつの答えは曖昧だった。何か隠しているのだろうか?

 

 

 

「それより無事でよかったわ。こんな時間にこんなところで何してたのよ?」

 

「お姉さんに会いに来たの……でも、あれはなんだったの……?」

 

 

 

 私はあのドロドロとした何かわからないものを思い出す。

 

 

 

「まずは落ち着きなさい。もう大丈夫だから」

 

 

 

 そいつは震える私の手を握ってくれた。

 

 

 

「……あれは、いわば闇ね」

 

「闇……?」

 

 

 

 闇とは教えてもらうが全く想像もつかない。

 

 

 

「ええ。あいつらは人間が作った闇。あいつらは基本的に人は襲わないんだけどね」

 

「私は人間だよ?」

 

「わかってるわよ。たぶんあなたの何かに魅かれたんでしょうね」

 

「何か?」

 

「そう。まったく見当はつかないけどね」

 

 

 

 そいつは笑ってごまかした。

 

 

 

「そういえば私に用があって来たって言ってたわね。どうしたの?」

 

「あ、そうだった。私に魔法教えてよ!」

 

「やっぱりか……」

 

 

 

 そいつは大きくため息をついた。

 

 

 

「嫌よ。といいたいところなんだけど、今日みたいなことになってもしょうがないし……」

 

 

 

 そいつは腕を組んで悩み始めた。

 

 

 

「そもそも、あなたがこんなところに来なかったらこんなことにはならなかったんだけど……まぁ、仕方ないか」

 

「ホントに!?」

 

 

 

「嘘は言わないわ。今日はもう遅いから帰りなさい。出口まで送っていくわ」

 

「その必要はないよ」

 

 

 

 ドアが開いた。

 

 

 

「ん? 香霖じゃない。どうしたのよ、こんなところに」

 

 

 

 どこには霖之助が立っていた。

 

 

 

「魔理沙は博麗神社に泊まってることになってるから帰る必要はない。と言いに来たんだよ。むしろ帰られたら僕が怒られるハメになる……」

 

 

 

 香霖の声が少しだけ震えたのがわかった。

 

 

 

「へぇ、じゃあ神社に行かないとね」

 

「そういうわけにもいかないんだよ。向うさんには何も言ってないし、都合もあるだろうからね」

 

「まさか、ここに泊めろってわけじゃないわよね?」

 

「そのまさかだよ」

 

 

 

 霖之助はふふふ、と笑う。

 

 

 

「貴方って相当適当よね……私の都合なんか気にしないんだから。見返りはあるのかしら?」

 

「これでどうかな?」

 

 

 

 霖之助は懐から八角形の何かを取り出し、そいつに渡した。

 

 

 

「これって八卦炉じゃない。どうしたのよ、これ」

 

「魔理沙の親父さんから貰ったんだよ。もう研究は終わったからね」

 

「研究ねぇ。複製でもしようとしてるの?」

 

 

 

 そいつは霖之助をジト目で見る。

 

 

 

「そういうこと。それで引き受けてくれるかい?」

 

「しょうがないわね。今日だけよ」

 

 

 

 そいつはため息交じりに首を縦に振った。

 

 私はこの日、その人のうちに泊まることになった。

 

 



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