繰り返される特異点F 【一発ネタ】 (楯樰)
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繰り返しの終り

「………ねぇ、レフ。あの遅れてきた子いったい何なの? 怖かったのだけれど」

 

「嗚呼、彼は48番目の一般から選出されたマスターだね。名前は確か真倉田(まぐらだ)理瀬(りせ)君だったかな。シミュレーション酔いしていたからだろう。許してあげようじゃないか」

 

「む、私の話を聞いてなかったのはともかく。いえ、それも問題ではあるけど。私が言いたいのは、―――なんであんな目になっていたの………?」

 

「疲れているんだろうさ。きっと。多分。………さ、無駄話は此処までにしてファーストオーダーに向かう彼らに激励の言葉を贈ってあげてきたらどうだい、オルガ」

 

「………そうね。そうする。シバの調整で忙しいところ、ごめんなさいねレフ」

 

「構わないさ。君のメンタルケアも………っと、これはロマニの仕事だったな。彼の仕事を奪ってはいけないね」

 

「そうね。あのサボり魔の取り柄がなくなっちゃうわね」

 

 

 

 管制室を出て行くオルガマリーの背中を見送って、レフ・ライノールは顔をしかめる。

 

 

 

「48番………何故あの子は私に敵意を向けた―――?」

 

 

 

 若干のしこりを残して、レフ・ライノールはかねてよりの計画を最終段階に進めた。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

 レフ・ライノールの計画通り、事件は起こった。想定外だったのはオルガマリーが死んだ後、彼女が霊体となって特異点Fへレイシフトしたことだろう。皮肉なことだ、とレフは愉悦を表情に浮かべた。

 

 その後もレフは自らの持つ聖杯によって、48番目のマスターとデミ・サーヴァントになったマシュ・キリエライトの両名と、お荷物になっているオルガマリーを観察していたが、どうにも彼らが不可解だと感じた。

 

 正確には一般枠で選ばれたあのマスターが不可解だった。

 

 彼にとっては初めての経験だろう。争い事とは無縁の世界に生きていたはずだ。だというのに戦闘には無感情に的確な指示を出し、何事もなく進んでいく。

 

 そして倒した骸骨兵から骨をもぎ取ると、即席の背負い籠を作ってせっせと集めていく。さながら歴戦の傭兵のような貫禄さえ感じた。

 

 ………さらに不可解なのはサーヴァントを召喚したとき。オルガマリーに40の聖晶石で都度10回の英霊召喚を試みて、9個の礼装とカーミラを呼び出したとき、非常に残念そうな表情を浮かべた。しばらく二人への受け答えもままならなかったが、戦闘の指示だけは的確であった。

 

 そして次に彼が呼び出したのは源頼光。己も目を疑ったが、史実では男である頼光が女性(・・)であったことには驚いたものだ。例え自国の英霊とは言えその業績を知る者は少ない筈で、ただの学生であった彼からしてみれば、カーミラの方が良く知っているだろう。しかも吸血鬼の側面を持っての顕現だ。残念がることは無いはずなのだ。しかし、源頼光。バーサーカーの彼女があらわれて彼に、困惑するよりも先に感情が戻ったように感じたのは気のせいではないだろう。

 

 その後は実際に嬉々として敵性体に向かっていた。オルガマリーとマシュ・キリエライトとの交流も深めていたようで、オルガマリーが心を許し始めた事には些かレフも焦った。

 

 承認欲求で出来ているようなオルガマリーが、あのように簡単に心を解くとは考えられない。何か魔術の類が使われたわけでもない。ただ単純に、オルガマリーの求めていることをしただけ。これも不可解だが、悪感情を抱かせるような態度しかとっていなかったオルガマリーの事を二日に満たない時間でどうやったら理解できるというのか。それも禄に話も聞かない印象しか無い彼が此処まで豹変する訳が分からない。

 

 疑問を募らせるレフの視界にはアーサー王の座す大空洞へと足を踏み入れた一行が映っていた。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

 オルガマリー・アニムスフィアにとって、真倉田理瀬という男は失礼千万な奴である。

 

 施設を総括する上司のスピーチの際に居眠りするわ、かといって対面して話をすればまるで聞いてないような返事をするわ、まともに返事をしたかと思えば小馬鹿にしてくるわ………と、それはもう散々であった。挙句にはデミ・サーヴァントになったマシュ・キリエライトと契約を交わしていたという。どれだけ堪忍袋の緒に切れ目を入れれば気が済むのか、オルガマリーには理解できない。

 

 様子が変わったのは初めて影のサーヴァントと戦闘があった前だろうか。いや、より正確には彼が特異点で集めた聖晶石を使って呼び出したサーヴァントが来てからだろう。

 

 彼が呼び出したサーヴァントは源頼光。詳細を聞けば日本における神秘殺し。魔王を斬り、悪鬼を斬り。果てにはその逸話から、キャスター以外のクラスで召喚できるのでは、とロマニの憶測が飛ぶ。唯一の疑問はバーサーカーとして召喚されたこと。狂化値は規格外のEX。幾らどの英雄にもそのクラスが当てはまるとしても、オルガマリーには規格外評価が付いていることに違和感があった。召喚された本人も始め、セイバーで呼ばれたと勘違いしたぐらいである。

 

 だが、彼女のマスターになった彼にはその訳が分かっているらしい。それを踏まえたうえで、彼も彼女と契約を交わした。それも嬉々として。涙して。ようやく出会えた、というような達成感や幸福感をその表情に露わにしていた。というよりも感情が戻ったと言うべきだ。その喜びようを見て、今まで彼の感情という感情が死んでいたのではと思わされる。初めて人間らしい様子を見た。

 

 あと、頼光に女として圧倒的な敗北感を味わったとはオルガマリーとマシュとの共通認識である。

 

 サーヴァントにおける問題はさておき。

 

 真倉田理瀬というこの男の自身に対する対応が変わったのは事実。いや、この特異点で合流してからずっと、彼は自身が危ない目に遭う前には注意を呼び掛けてきたり、さりげなく身体を引っ張ったりして助けてくれていた。だから正確にはその気づかいに思いやりを感じた。オルガマリーからすれば、気味が悪い純粋な好意を。

 

 そんな彼だが、何気ない時に自身が行った、それこそ上に立つ者として当然のことをしたとき、何を思ったのかマスター適性の無い自身のことを労ってくれた。

 

 一瞬巡視し、一般人でしかない彼に何が分かるのかと一度は憤慨した。

 

 だが、―――父親が失踪し、人類の未来という重責を背負わなければならなかった身になったこと。それに伴って起きた様々な苦悩は想像するに容易いが、それでも所詮それは他人の想像。だから本質を知ることはできないかもしれない。それでも、誰かが貴女のことを労ってあげるべきだと。「所長は凄いです」と。

 

 ふざけた態度からうって変わって、そのような事を言われては返す言葉がない。何故かはわからないがちゃんと事情もわかっての発言だった。

 

 褒められ慣れていないから困惑した。『一般人のくせに』だとか『所長に対して』だとかを言っても僻みにしか聞こえず、実際彼の言葉の通りオルガマリーは重圧に潰されそうな状況に居た。自身を取り巻く体裁を気にして、当たり前だと言い訳のように強がった。

 

 しかし、次に出てきた言葉は「それでも、同年代の女の子が頑張っているのを黙って見てはいられない」………そう言われてしまったら本当に何も言えない。ただオルガマリーは黙るしかなく、喉まで出かかった彼に対する罵倒も引っ込んでしまった。

さらに「だからレフさんだけでなく俺やマシュ、他の人のことも頼ってください」と懇願までされてしまう。ずるいと思った。

 

 オルガマリーの心労は減るどころか、この男によって増える一方。………だが、それでも。少しだけ肩の荷が下りた。心のしこりも取れた気がする。一番に信頼するレフの次に頼りにしてもいいのではと思った。

 

 冬木の聖杯戦争。その大本である大聖杯がある大空洞。デミ・サーヴァントであるマシュに、仮契約したキャスターのクー・フーリン。そしてカーミラと源頼光。彼らを率いて―――彼はあのアーサー王を打倒した。

 

 これで人理は継続される。見る事しかできなかったオルガマリーも安堵した。

 

 

 

 ―――所長、行ってはダメです。

 

 

 

 残された聖杯。そこへ現れた、死んだと思われたレフ・ライノール。一番の信頼を置く彼が生きていた事に喜び、駆け寄るオルガマリーを真倉田は引き止める。

 

 レフが生きていた。今すぐにでも駆け寄って、彼の存在を確かめたい。生身で特異点に放り出されて怖かった。少ないとはいえ怪我もした。私は頑張った。

 

 

 

 ―――だから私はレフに褒めてもらいたいだけなのに。

 

 

 

 何故引き止めるのか。何故レフが危険だと言うのか。何故、周りのサーヴァントたちも敵意をレフに向けているのか。彼は仲間のはずだ。どこもおかしなところはないはずだ。今にもこの手を引きはがして、レフの元へ駆け寄りたい。

 

 しかし、何がそれを阻むのか。己を制して懇願する彼の手を、オルガマリーは引きはがすことが出来なかった。

 

 

 




五話完結を予定。続け(願望)


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戦いの末に

前半と後半の落差が激しいのでご注意。



 ―――『やり直し』

 

 マスター適性と中の上程度の魔力を生み出せる魔術回路しかもたない自分の唯一無二の能力。この能力が発覚したのはカルデアに来てからで、誰も自分のこの能力を知る者はいない。

 

 しかし、この『やり直し』も限定的で、ある一定の時間にしか戻れない。丁度カルデアに来た時行った、霊子ダイブを行う直前にしか戻ることが出来ない。

 

 戻ろうと思えばその時間に戻れる。だが戻ったら最後『某ふっかつの呪文』ではないが、戻る直前に頭に浮かぶ無意味な文字の羅列を一文字も間違えずに思い出す必要がある。だから実際には戻れないと思って良い。それ以外にデメリットらしきものはない。

 

 ………強いて言うならマシュや呼び出した英霊たちとの経験や記憶が、彼らから失われるということぐらいだろう。初めて感じたあの孤独感に慣れることはない。

 

 何回やり直したかはわからないが、もう数えるのが馬鹿らしくなってきている。その度に関係を再構築しようと思い、試みてきたがそれも既に事務的だった。何が起因でやり直しが出来るようになったのかはわからない。けれど、やり直せるというのなら目的が果たされるまでやり直す。

 

 “いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!”

 

 今も目を閉じれば思い出せる。悪人ではあるけど、どこか憎めないあの人を。

 

 “だってまだ褒められてない……! 誰も私を認めてくれていないじゃない……!”

 

 誰かに認めてもらいたかった。そんな誰もが持つ欲求が人一倍強いあの人を。

 

 “誰も私を評価してくれなかった! みんな私を嫌っていた!”

 

 死の間際、秘めた想い(欲求)を吐露したあの人を。

 

 “やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!”

 

 “生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!”

 

 カルデアスに飲み込まれたオルガマリー所長を助けてあげたいと思った。傲慢にも願ってしまった。だからやり直しなんて出来るようになったのだろう。真相はどうあれ、自分はそう思っている。

 

 彼女は自分を良く知らない。だけど、何度も何度も何度もやり直して、彼女の人となりは本人も知らないくらい知っている。可愛い人なのだ。愛されたい人なのだ。だから、彼女が欲したように頭を撫でつつ認めてあげたい。よくやっているし、頑張ってる。だから所長を救いたい。もっと直接的に言うなら甘やかしてあげたい。嫌と言うほど愛してあげたい。

 

 そのエゴのために彼女を救う。そしてそれには強力なサーヴァントを呼ぶ必要がある。でなければあの裏切り者レフ・ライノールから所長を守れない。一度だけカルデアスの中に飲み込まれかけた所長を救えたのは源頼光という日本の神秘殺しを呼べた時だ。彼女の宝具で、ようやっと醜く変わったレフを屠れた。しかし倒したという油断が災いして所長を連れて帰ることができなかった。

 

 霊基の強化方法は三回目のやり直しの時に聞いたがサーヴァントを強化している時間はない。バーサーカーの彼女でなければ、火力が足りない。

 

 今までやり直して分かったことは、所長が肉体的に死んでしまうのはどうやっても避けられないこと。肉体が無いのにどうすればカルデアまで連れて帰れるのかを考えなければならなかったが、しかし、これについては解決している。聖杯を使う。聖晶石を霊体の所長に使って霊基を安定させ、疑似的なパスをつなぐ。考えれば方法はまだまだあるだろうが、実際に試して成功したのはこの二つ。次は両方の手段を使う。今度は失敗しないために。

 

 

 

 ―――こうして今一度源頼光を呼ぶことができた。今度こそ救うために、聖晶石はしっかり用意して所長には、先ほどの召喚10回の聖晶石のお返し、と言って渡してある。後はレフから聖杯を奪って願いを叶えるだけだ。

 

 令呪をもって宝具の使用を頼光に命じる事三回。端的に頼光の宝具によってつつがなくレフは倒された。しかし生きしぶとく、あの肉柱となる前に逃がしてしまったのが悔やまれる。後は聖杯を使って『オルガマリー・アニムスフィアをデミ・サーヴァントにする』という願いを叶えれば永く辛かった戦いが終わる。もう奴を追う気力は残っていない。

 

 そう、コフィン無しで行うレイシフトの意味消失に耐えて、後はカルデアに帰るだけ。

 

 ………本当に、永かった。

 

 

 

 ―――レイシフトで意識が飛び、目が覚めると見慣れた一室。部屋には自分以外に目元に隈を作った所長とマシュが座って居た。

 

 ようやく終わったのだと、怒鳴る所長とそれを諫めるマシュに実感し、天を仰いだ。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

「精神、霊基共に異常なしだ! にしてもこの天才ダ・ヴィンチちゃんをもってして、この発想は無かったと言おう。理瀬くん、私は感服した!」

 

 くぅうーと、悔しがるのかそれともテンションが上がっているのか分からない。正確には両方なのだろう。己が愛するモナリザの姿で顕界したレオナルド・ダ・ヴィンチは、レイシフトから帰って来て再び眠りについた、特異点修復の立役者を称賛し、今まで体を調べていたオルガマリー・アニムスフィアを解放した。

 

「………私の今の状況、説明して貰えるかしら」

 

「簡単に言うとマシュと同じ、と言えばわかりやすいかな? ただし所長の場合、英霊と融合したというわけではない。聖杯の後押しを受けて、サーヴァントになった。だから、その体のスペックは生前の時と変わりない」

 

 ただ、と言い淀みオルガマリーの様子をうかがった。

 

「続けて」

 

「じゃあ覚悟して聞くといい。聖晶石を核に君の霊基は出来ている。他のサーヴァントと同じようにね。これはおさらいだけど、サーヴァントは英霊をクラスに当てはめた使い魔だ。そのスペックは人間の存在と比べたら天と地の差がある。だからこそ、貴重な聖晶石を4つも使うのだし、4つでようやっと顕界を維持できる。まあ、これにはサーヴァントの再召喚の触媒となるカードを作るという用途もあるから、一概に全部使っているとはいえないが………それでも90%近くのリソースは英霊の霊基の安定と固定に使っている」

 

「………」

 

 言外にそんなことは知っている、とオルガマリーは催促した。だがダ・ヴィンチはその刺すような視線を無視して続ける。

 

「対して所長、君はただの精神体だ。―――俗にいう幽霊のような状態だった君は他の英霊と比べても雑魚だ! 貧弱だ! 見た目は子どもで頭脳は大人の作家的に言えば、クソの役にも立たない!」

 

「ちょっと、ダ・ヴィンチちゃん! 所長が!」

 

 ここの技術部顧問ということもあり、その愉快かつ、それでいて嘘はつかない性格は知っている。ダ・ヴィンチに事実を突きつけられてオルガマリーは目に見えて落ち込んだ。付き添いで来ていたマシュは「しっかりしてください」とふらつく所長を支える。

 

「だから、使われた5個弱の聖晶石のリソースは弱っちい霊基の作成及び触媒になるカードの作成にしか使われていない。つまり君には膨大な空き容量があるということだ。………うん、実際にやってみた方が早いだろう。カーミラ、入って来てくれたまえ」

 

 ダ・ヴィンチの工房の入り口から入ってきたのはカーミラだ。

 

「まったく、私を待たせるなんて。―――万能の天才さん、幾ら美処女の身体を調べるとはいえ、時間をかけ過ぎではなくて?」

 

「うーん? 今何かおかしな言葉が聞こえた気がするんだけど、気のせいかな」

 

「ええ、気にしないで」

 

 カーミラに顎を撫でられたオルガマリーは小さく悲鳴を上げ、肩をすくませる。色々と身の危険を感じた。

 

「それで、例の物は持ってきているかい?」

 

「………あまり乱暴に扱わないでちょうだいね。ただでさえマスターから拝借してきたモノだから」

 

 カーミラからダ・ヴィンチに手渡されたそれは、裏面にアサシンの絵柄の書かれたカード。表面にはカーミラが描かれている。それは再召喚の触媒となるカードだった。

 

「わかっているさ。さ、所長。これを持って」

 

「え?」

 

「ささ、いいから持って」

 

「なんで………わかったわよ。持てばいいんでしょう」

 

 先ほどのやり取りから、何故急にそんな大事な物を渡されるということがわからない。理解できない。加えて、よくわからない迫力を感じてオルガマリーは逆らうことが出来なかった。

 

「さ、私に続いて言葉に出してみよう! 夢幻召喚(インストール)!」

 

「………インストール?」

 

 訳もわからず、オルガマリーは呟くと自称『ダ・ヴィンチちゃんの素敵な工房』は彼女から発せられた光に包まれて、咄嗟に眼鏡をかけたダ・ヴィンチ以外が一瞬視界を失う。

 

「………まあ。これはまた凄いのね」

 

「持って帰った聖杯ともパスが繋がってると思って、調べてみたら元人間にはあるまじき、サーヴァントとしての能力の魔力量は規格外。いやはや、凄まじい。比べてみたらよくわかるが、本物とも遜色ない。これならサーヴァントとしてもやっていけるだろうね」

 

「所長、ですよね………?」

 

「霊基の安定だけなら聖晶石を使うだけでよかった。でもそこへ聖杯を使って、デミ・サーヴァントにしたらこうなったんだろう。本当、奇跡というのはこのことだろう」

 

「え、なに、どうなってるの?」

 

 オルガマリーをのぞいたこの場にいる全員は何が起こったのかを理解したが、変化した本人はわかっていない。理解させるためにと、ダ・ヴィンチはどこからともなく姿見を出してオルガマリーの前に置いた。

 

「………。―――ひゃああああああああああああ!」

 

 そこに映ったのは自分の着ていた服は消えて目の前のアサシン―――カーミラと同じ衣装に身を包んだ己の姿。思わず、着ている本人の前で、体を隠して悲鳴を上げたオルガマリーを責められる者はいないだろう。俗にいうSM女王的なハイレグを付けた自分の姿なんて想像もしてなかった。

 

「ちょっと! どうなってるのよ、これ! なんで私がこんな格好―――」

 

「こんな格好?」

 

「ひっ―――なんでもないです! ………ぅぅぅぅ!」

 

 相手は格上の存在。びびりでヘタレのオルガマリーはそれ以上の文句を言えなかった。うずくまり口からは羞恥が漏れ出る。

 

 

 

「―――悲鳴が聞こえた、んだ、けど………」

 

 南無三! 何と間の悪い事であろうか! 読者の皆さんしか知り得ないことだが、やってきた男は所長大好き理瀬である!

 

 そんな彼が今のオルガマリーを見ればどうなるかは想像するに容易い!

 

「サイコーです!」

 

「い、いやああああああああああああ!」

 

 オルガマリーは背後にあったカーミラの宝具である『幻想の鉄処女』を投げつける。サムズアップした理瀬は鼻血を噴き出して工房から飛び出ていく。

 

 奇しくも、ぐったりとした理瀬を見て、己がデミ・サーヴァントとなっていたことが判る瞬間だった。

 

 

 

「宝具の使用も出来ているのか。素晴らしい!」

「………本来の用途ではないのだけど」

 




いやぁ、レフ・ライノールは強敵でしたね………。
オルガマリーちゃんデミ・サーヴァント化計画始動。


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令呪を以て命ずる―――

イリヤちゃん出てくれました! 出ないでないといいながら美遊礼装も来てくれて、もう………!



「おはよう、よく眠れた?」

 

 目が覚めた理瀬の視界には微笑むオルガマリーが居た。

 

「そのままでいいから。………すこし、お話しをしましょう」

 

 ………目覚めて早々、微笑みは本来威嚇から来ているという話を思い出した理瀬だった。

 

 

 

 SM女王姿から元の恰好に戻ったオルガマリーは、ベッドに寝かされた理瀬を責めていた。

 

 カーミラ姿のオルガマリーを見て「眼福だぁ」と思ったら『幻想の鉄処女』で意識もろとも吹き飛ばされて、そして目が覚めた矢先にこれだ。普通なら滅入るようなことではあるが、しかし、メンタル削って助けた甲斐があったと悦に浸っている今の理瀬にとってはご褒美ですらあった。元気なオルガマリーの姿を見れることは喜ばしい事である。

 

 だが、あまり力の強くないアサシンのサーヴァントの力を身体に宿して―――『夢幻召喚(インストール)(ダ・ヴィンチちゃん命名)』していたとはいえ、人間の理瀬には重い一撃だった。

 

「それじゃ、貴方からも説明してもらいましょうか」

 

「いや、俺に言われても………所長助けようと必死だっただけだし」

 

「~~~!! だからって、なんでこの私が―――前線に出て戦う事になってるのよ! 貴方の所為でこんな身体になっちゃったんだから!」

 

「………もう一回今の台詞、顔赤らめて言ってくれます?」

 

「え。―――はっ! 忘れなさい!」

 

「そう、ですか………」

 

「ちょっと、………なにも、そこまで落ち込む事ないじゃない」

 

 落ち込んだフリをすると、オルガマリーはばつの悪そうな顔をする。可愛いなぁと一瞬思うが、そんな顔が見たかったわけじゃないのでおどけて見せると、安心したようにオルガマリーは胸を下ろした。と思ったら頬を赤らめて理瀬を睨んだ。表情が転々と変わるのがおかしくて、理瀬は少し笑った。

 

「………でも、自分が意図してやったことじゃない、っていうのはわかってください。それとも、もしかして所長は、―――あのまま死んだほうが良かったですか?」

 

「それは嫌よ。だから………はぁ。こうなるってわかってたら許さなかったってだけで………その、感謝はしてる」

 

 髪の毛をくるくると弄ってオルガマリーはそっぽを向く。少し気恥ずかしかった。

 

「………ありがとうございます。そういって頂けるだけで、助けた甲斐があったってものです。………ただ、もしマシュみたいに戦うのが嫌だったら、俺も無理矢理にはお願いしませんし、他の皆にも言って特異点の調査・修復は所長抜きでやりますけど」

 

「それはやるわよ。―――………私だけ除け者みたいで嫌じゃない」

 

「やるってのは聞こえたんですけど、そのあと何か言いました?」

 

「ん、何も言ってない!」

 

 ちなみに大嘘である。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

 一通り感情をぶちまけたオルガマリーは一つ胸をなでおろした。

 

 サーヴァントと同じく宝具もまた実体を持つ。重さはその外見相応にあり、咄嗟の事だったとはいえ、そんなものをぶつけてしまって後悔したのだ。死んでしまったのではないか、と本気で心配した。ダ・ヴィンチに「すぐに起きるだろう」と言われたが、それでも彼が起きるまでずっと離れられなかった。

 

 なんだかおかしなことをしていると自分でも感じていたが、それよりも今、動く彼を見て心の底から安堵している自分がいて驚いていた。

 

「………ところで所長、大丈夫ですか?」

 

「何が?」

 

「特異点から帰って来てから、ちゃんと所長の顔を見てなかったから分からなかったですけど、………すこし目が赤いなと。………化粧で隠されているようですけど、隈が出来ているみたいですし」

 

「っなんでもないわ」

 

 そう指摘されて、オルガマリーは顔をしかめて見られないようにそらす。

 

「………もしかして泣いてたんですか」

 

「―――っ!」

 

 オルガマリーは泣いていたことを知られたくなかった。

 

 カルデアに帰ってきて思考の整理がようやっとできたため、考えたくなかった事実を認識したことだ。

 

 レフ・ライノールが裏切ったという事実。いや、裏切っていたという真実。今まで見たこともないような形相を浮かべた彼に告げられた言葉を。己の死を。

 

 堰を切ったように絶望が、涙があふれた。嗚咽し、嘔吐するが唾液を模した魔力しか出ない。その格は違えどサーヴァントと同じ存在になったオルガマリーには排泄という行為は存在しない。涙もいつの間にか空気に解けて消えていた。もう人間ではないのだと自覚したら、さらに何かは流出した。

 

 信頼し、重きを置いていたレフはもう存在しない。仮に諸々の黒幕、特異点を引き起こしたあの男が、レフの偽物だったとしても本物が生きていると、あの偽物からすると到底思えない。彼は死んだのだと思えればどれだけ楽だったことか。その一時。感情の整理は泣くという行為でしかできなかった。

 

「所長? オルガマリー所長?」

 

「っなんでもないったら。………きにしないで」

 

 ………口に出しては言えないが、理瀬のお蔭で随分救われている。今、一番に信頼を置いていると言って良い。色々と腹が立つこともあるが、自分のことを案じてくれる。気にかけてくれる。だから、泣いていたことを知られたくなかった。何故かはわからない。だが、心配をかけたくないと思っている。

 

「魔術の魔の字もしらなかった一般人のことは頼れない?」

 

「………そう、ね」

 

 嘘つきだと自分でも思う。しかし、そうでないと甘えてしまう。………皮肉にも、「目障りだ」と言ったレフによって分からされてしまった。

 

「そっか。―――じゃ、ちょっと強硬手段取らせてもらおうかな」

 

「そう………え?」

 

 ふと頭によぎったが、それはないだろうと否定する。確かに己のマスターは理瀬だ。今はサーヴァントだと言っても、やるわけがない。やるとは思えない。

 

 

 

「令呪を持って命ずる。―――頭をなでさせろ、オルガマリー」

 

「んん!? え、嘘でしょ!? ちょっと………?!」

 

 ―――が、現実は非情である。三画ある令呪の一画は光った後、効力を発揮して薄れて消えた。

 

 

 

「マスター、マスター。起きられましたか? ロマニさんとダ・ヴィンチさんが………あらあら、まあまあ」

 

 部屋に入ってきた源頼光が目にしたのはベッドの上で抱き寄せられ、赤い顔をしつつも抵抗することなく頭を撫でられているオルガマリー。対して理瀬はニコニコと心底楽しそうにして、その手を動かしている。

 

「あまり、見たくはない光景ではありますが………。………私としてはマスターの頭を撫でてあげたいですかね」

 

 その時は膝枕もしてあげて。―――頼光は、今湧きおこったその嫉妬をぐっと堪えてマシュ、カーミラとダ・ヴィンチ、ロマニの居る元へと帰っていった。

 

 

 

 令呪の効力がとっくに切れていることを指摘する無粋をすることなく、また撫でたい本人も黙ったまま。それは意外と心地よく、自身を抱き寄せている腕を中々外せない。

 

 ―――だから、もう少しだけ。

 

 令呪で命令されたから、と自己弁護して30分ほどオルガマリーはされるがままになっていた。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

「やあ、遅かったね。一体ナニをしていたのかなー?」

 

「所長に良い子良い子してました!」

 

「ちょっと!? は、ははは! 何を貴方は言ってるのかしら………!」

 

 来て早々、あっさりと暴露して口角を上げつつ、ダ・ヴィンチにサムズアップをする。それに顔を赤くしたオルガマリーが抗議するが、墓穴を掘る行為だと気付いて声を荒げるのを抑える。しかし、周りからの温かい目に耐え切れず涙目になるのを手で隠して蹲った。

 

「ははは! ま、それはおいといてだ。―――なんだかんだですれ違いになっていたみたいだから改めて。初めまして、私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。ダ・ヴィンチちゃんと親しみを込めて呼んでくれたまえ」

 

「はい、ダ・ヴィンチちゃん。どうして男だと伝わっているアナタがモナ・リザ似の美女なのか、察しがついたうえで俺は、アナタの事をダ・ヴィンチちゃんと呼びましょう」

 

「うんうん。順応が早くて大変好ましいね、君は。その洞察力含めてダ・ヴィンチちゃん的にポイント高いぞ」

 

 ダ・ヴィンチは満足げに頷く。それをDr.ロマンは納得がいかないと二人を見た。

 

「特異点でも思ったけれど、君の洞察力はずば抜けて高いな。………うむむ。色々とツッコみたいのは山々なんだけど本題に入ろうか。………。オルガマリー所長、恥ずかしいのはわかりますが、そろそろ」

 

「………別に恥ずかしがってません。貴方に言われずともわかってます」

 

 立ち上がって涙を拭って。オルガマリーは佇まいを正し、一度深呼吸する。幾分、落ち着いた。

 

 

 

「さて、この度の特異点の修復の功績は、貴方が一般人でしかなかったとはいえ、賞賛せねばなりません。ですが、赤く染まったカルデアスは、人理が焼却される運命を回避することは出来ていない。未だ窮地には変わりなく、カルデアの外は人類諸共世界が滅んでいる。2016年までにこの状況を打開せねば我々に未来はない。しかし、それについては………皮肉な事ですが、元職員のレフ・ライノールによってその解決策は示されました。―――冬木と同じく、発生した特異点を調査し修復する。………真倉田理瀬。こうなってしまった以上、人理は貴方の手に委ねられました。やっていただけますね?」

 

 

 

 断ったら許さない、というか選択肢はないと威厳を見せつけつつ言外に訴える。それに対してニコニコと見つめて「頑張って覚えたんだろうなぁ」と叱られそうな、しかし、あながち間違いでもない想像をしていた。が、流石に締めるところは締めなければならないと知っている。理瀬は表情筋の緩みを引き締め、目を見据える。

 

「所長とイチャイチャできる未来があるなら」キリッ

 

「ぶふぅぅ!!」

 

 理瀬の発言にダ・ヴィンチが吹き出すのをよそに、オルガマリーは顔を赤くして弁慶も泣くという人体の急所にローキックをお見舞いした。

 

 

 




時事だけど、所長をカレイドルビー凛ver.にさせたい………。

???「このカードを夢幻召喚して変身するフォウ!」
所長「!?!?」


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魔法の一端

謎の抑止力A「人類滅びそうだからちょっとだけ後押し」


 Dr.ロマンとダ・ヴィンチ。二人はつい先ほど、ダ・ヴィンチの手によって完成させられたカルデアの『あるシステム』の前で唸る。

 

「………。これ、まずいんじゃないかなぁ」

 

「んーううーん………。まぁ、あのツンデレな所長が主に迷惑被るだけだろうから。―――なんにせよだ。意図しない形でのこととはいえ、完成したことは報告した方が良い気がするね、私は」

 

 出来た物はこれから先、特異点での調査に役立つであろう『システム』である。必ず必要ということは無いかもしれないが、しかし必ず役に立つのは確かだと断言できる。ある万能の天才曰く、「偶然に偶然が重なり、さらに奇跡が起きて出来上がった」とのこと。

 

「僕も怒られそうで嫌だなぁ………」

 

「君は逃げていればいい。―――彼女の癇癪をぶつけられるのは私一人で良いさ」

 

「レオナルド、君って奴は………!」

 

 うわお、漢らしい。Dr.ロマンはダ・ヴィンチの背中が広く見えた。………体は女だけども。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

「やあやあ、よく来てくれた。ま、立ち話もなんだから。ささ、ずずいっと奥まで」

 

 マシュとオルガマリー。そして二人のマスターである理瀬はダ・ヴィンチに呼ばれて工房まで来た。三人は疑問符を浮かべつつ、促されるままマシュ、オルガマリー、理瀬の順に一人掛けの椅子に座っていく。

 

「ダ・ヴィンチちゃん。どうして私たちを呼んだのでしょうか」

 

「どうでも良い事だったら帰らしてもらうだけよ。さっさと用件を言って。………ちょっと、近い!」

 

「いいじゃないですかー。アレからしばらく顔合わせてくれなかったんですからー」

 

「はぁ!? だからって、ちょっとそんなに身体を寄せてこなくても―――んぐぅんん!?!?」

 

 戦いも知らないような白い指がオルガマリーの口に伸びた。

 

「所長のことは放っておいて話の続きを」

 

「んーん!?(マシュ!?)」

 

 マシュがオルガマリーの口を手で塞いで沈黙させる。マシュに対するかつての恐怖を思い出す。このあときっと惨く殺されるのだ。トイレとかで。

 

「んーちょっと、三人とも落ち着いてもらっていいかな?」

 

「失礼しました。ダ・ヴィンチちゃん」

 

「………ははは」

 

「もう、なんで、私は悪くな―――ひぃっ」

 

 人体の黄金律をもって設計された美人に睨まれたらたまらない。ダ・ヴィンチに睨まれたオルガマリーは怯んだ。

 

「こほん。よろしい。それでは、まず所長。これを持っていてくれるかい?」

 

「い、忌々しいあのカードね。肖像は―――描かれていない。………前みたいなことにならないでしょうね?」

 

「………。………さ、理瀬くんはこれを」

 

「―――? ………! はい!」

 

「ちょっと!?」

 

 ダ・ヴィンチと視線を合わせた理瀬は全てを理解した。自分にとって面白い事が起こると。渡されたのはダ・ヴィンチのセンスが伺える装丁施されたタブレットのような機械。そこに映っていたのはクラスごとに分けられたと思われる、見たことないサーヴァントたちらしきアイコン。セイバー、アーチャー、ランサー。ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七つのクラス以外にも、無差別にサーヴァントのアイコンが並んでいる項目があった。白色、黒色をしたジャンヌ・ダルクというアイコンが比較的多いように思う。理瀬も名前だけなら聞いたことがあった。

 

 よくよく見れば、バーサーカーの欄に自分も良く知る源頼光も居た。

 

「これは………?」

 

「ま、どれでもいいからアイコンをタップしてみてくれるかい?」

 

「………じゃあ、これで」

 

 選んだのは黒を基調としたジャンヌ・ダルク。白色のとは違い「オルタ」と肖像には描かれている。

 

 カードを持った所長が光った。

 

 

 

「―――前みたいなことにならないって言ったじゃない!」

 

「言ってないけど?」

 

「ダ・ヴィンチちゃんは一言もそんなこと言ってないですよ、所長」

 

「わ、私が言ったの!」

 

 黒いジャンヌ・ダルク―――『ジャンヌ・ダルク・オルタ』の姿をして、その宝具とステータスを持った所長の姿があった。若干、髪の毛が伸びている。

 

「所長可愛い! いや、カッコいい!」

 

「ほら、理瀬君喜んでるし、いいじゃないか。―――説明したいからそろそろ所長、黙ってくれる」

 

「くっ………!」

 

 憤りを隠せずにいたオルガマリーは大きな音を立てて椅子に座る。話を聞かなければ、未だ呼んでいない筈のサーヴァントが『夢幻召喚』できたのか分からない。色々と頭にきていることはあるが、黙って聞くことにした。

 

「さて、それじゃあカードとそのデバイスについて語ろう。………今の人たちが言う『第二魔法』は知っているかな? いや、理瀬君のために敢えて説明しようか。魔法とは魔術とは別の概念。言うならば結果だけを導き出す方法だ。既知外の法則で成り立っている。科学と魔法は相反して―――というのはまた別の機会にしよう。ともかく、魔法の内の一つ『第二魔法』の『平行世界の運営』というのはキシュア・ゼルレッチによってなされた。そして世界に孔を穿ち、隣にある平行世界から魔力を抽出するというのが、キシュア・ゼルレッチの作った宝石剣なわけだが………。この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんによって一部だが再現出来ちゃったわけだ。諸々説明するのは難しい話というか、私自身の至らなさに虫唾が走るんだが、何故できたのかわからない。完成したのは偶然に偶然が重なって、さらに奇跡が起きたような感じすらある。もう一回やれって言われても正直、無理! ………それにその完成と言っても抽出するのは魔力ではなく平行世界でマスターと契約しているサーヴァント―――その力だけ、だけど」

 

「ちょっと待って。………確かその計画は、もしかしたらあり得たかもしれない、『IFの英霊』のサーヴァントを呼び出すことでしょう? ―――なのに力だけ? 成功してないじゃないの!!」

 

「ああ、所長は知ってたか。なら話は早い。成功したけどオルガマリー所長を通してでないと使えない。夢幻召喚するのに、大事なカードを一枚一枚持っていくのはまずい。だから運用価値はあるのだよ。成功してないというのは訂正させてほしい」

 

「………確かにそうではあるけど」

 

 あっけらかんとしてダ・ヴィンチは言った。そしてその結果がジャンヌ・オルガマリー・オルタである。なんだそれ。

 

 しかし、事実、再召喚の触媒となるカードは貴重品だ。持って歩くべきものではない。だから自身の変化に驚いて、興奮して立ち上がっていたオルガマリーも一定の理解はした。

 

 話を理解した理瀬はその横で、デバイスにどんな英霊がいるのかを見てまわっている。どうやらアイコンの長押しで詳細が見られるらしい。バーサーカーの欄にあった『アステリオス』というサーヴァントの詳細を見ようとタップしたら、間違えて選択をしてしまった。隣にいた所長が光る。

 

「あ」

 

「え、ちょっと―――」

 

「先輩、戻して!」

 

「ん、ごめん。間違えた」

 

 オルガマリーには幸いして、間違えたと思ってすぐに理瀬が『ジャンヌ・ダルク・オルタ』に戻した。弄るのに集中していた理瀬は、見ていたら歓喜するだろう光景を見逃した。惜しいことをしたものよ。

 

「い、いやー! ロマンが最後、私の邪魔をしなければこんなことにはならなかったんだがなぁ!」

 

「ローマーンんんんん! 絶対許さない! クビよ、クビ! 人理修復したらクビにしてやる!」

 

「………危なかったです。見ていたら殺されてましたよ、先輩」

 

「ん? マシュ、何かあった?」

 

 

 

「さぁ、思い知らせてあげましょうか!!!!」

 

「わーん!! ダ・ヴィンチちゃんの裏切者ー!!」

 

 その日、ジャンヌ・ダルク・オルタの格好をした所長に追いかけられ、燃やされそうになるDr.ロマンが居たとか居ないとか。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

 特異点へのレイシフト前日。マシュは悩んでいた。自分の悩みを相談しようと、自分が先輩と慕う彼に会いに来ていた。

 

「あれ、マシュ。どうしたの?」

 

「先輩………私は、デミ・サーヴァントとして失格じゃないでしょうか」

 

「えええええ! どうしたのさ、急に!?」

 

 入って来て早々にそう訴えたマシュに、理瀬は困惑する。その思いつめた様子から、立ち話するような内容ではないと早々に(さと)った。

 

 

 

 真倉田理瀬にとって、マシュ・キリエライトは大切な存在だ。それに違いはない。オルガマリーと並ぶ大切な存在だ。もし、どちらかしか助けられないという事になれば、何方も助ける努力を何度でも(・・・・)するだろう。一年以上にわたる同一時間軸内での奮戦に、マシュ・キリエライトの存在は唯一の癒しであった。無くてはならない人だった。20回目ぐらいの時に、どうすれば助けられるのかを探るため、オルガマリーを見殺しにした。先の未来に進むことを選び、唐突に彼女の前で泣き出したことがある。30回目ぐらいの時には特異点Fで、オルガマリーをどうしても助けられないことに苛立ち、初対面に近い彼女へ辛く当たったこともある。

 

 マシュは夜に当たる時間帯に自分が調べ物をしていた時、差し入れしてくれて、泣きだした自分を慰めてくれた。辛く当たっても、優しく受け止めてくれ、初対面に近い自分をよくわからないなりにも労ってくれた。

 

 ―――先輩にしかわからないことだと思います。だから失礼かもしれません。でも、頑張ってください先輩。きっと、先輩が頑張っていることは報われないと、駄目だと思います。

 

 そう言ってくれた。だから此処まで頑張れた。

 

 お世話になったマシュが悩んでいるというなら、解決してあげなければ。人並みに彼女へ愛情を持つ理瀬の中で義理はおろか、人情もたたない。その愛情は歪だと気付きながらも、理瀬はマシュを愛していた。

 

 部屋まで訪ねて来たマシュを、椅子に腰かけさせ話を聞く姿勢になる。

 

「なんだか思うんです。エクストラクラスのシールダーとはいえ、私はちゃんと先輩のお力になれているのかと。守る事しかできない私に、何が出来るのかと。所長はお強いです。余程の事が無い限り、所長さえいれば何とかなるじゃないですか………」

 

「マシュ………」

 

「それに、―――先輩と所長が仲良しでモヤモヤして。まるで………そう、心臓が締め付けられるようで。私も、先輩とあんな風に仲が良ければなと思う事が多くて。………だから、もっと私に力があれば。もっとお役に立てればいつか所長みたいに先輩と………。っごめんなさい。変な事言っちゃって………」

 

「別に構わないよ。サーヴァントのことを知るのもマスターのつとめ、というか。まぁ、マシュは人で、今はデミ・サーヴァントだけどさ。………所長と俺の関係は、ほら。一方的に構っちゃう小学生男子と高飛車な同級生女子みたいな関係、かな。わかる?」

 

「知識には一応。………そうですか、あれがそういう関係なのですね。それにしては少しおかしい様な気もしましたが………先輩がそういうなら、そうなのでしょう」

 

 納得してくれたようで、理瀬は胸の内でそっと安堵する。マシュの感情というのは若い恋愛感情のようなものだ。だからと言って本人の前で恋愛だと気付かせるのは酷というもの。直感でしかないが、気づかせるのはまだマシュには早い気がした。

 

 普通に受け入れそうな気もする。でも、もし違ったとき口をきいてくれなくなったら困る。自分本位で、どうしようもないと自身を(さいな)む。そういうエゴがあるのは否定できない。

 

「男としてこれを言うのはちょっと恥ずかしいんだけど………マスターの俺のこと、守ってほしい。特異点でも思ったけど、此処にいる誰よりも守ることに関してマシュは得意だと思う。自分を守るのはともかく、誰かを守るって事は悪人の所長には難しそうだ。………正直に言うとピンチの時、頼りにならなさそう」

 

「ふふふ………はい。なら、先輩は私が守ります。所長も私が守ります………! これでいいんでしょうか?」

 

「その意気その意気。マシュならやってくれると信じてるよ。………ん、ごめんのど乾いた。何か飲んでくるよ。マシュはどうする?」

 

「いえ、私は良いです。………私も部屋に帰りますね。お話聞いてくれて、ありがとうございます。私もそこまで一緒に行きます」

 

 

 

 ―――途中で別れた理瀬の背中を見て、頬を赤らめる。

 

「つまりそういうこと(・・・・・・)なんですよね、先輩」

 

 そう呟いた少女は誤魔化した理由がわかっている。そして、それが恋愛というものに基づく感情であることも。穏やかなこの多幸感の正体を知ってしまった。

 

「アイコンタクトだけで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる関係になりたい、というのは私の我侭でしょうか………」

 

 マシュは賢い子だった。

 

 




神風魔法少女オルガ☆マリー
ワンチャンあるな。

さて、残すところあと一話。
一応次回で最終話の予定です。


おうふ。間違えた。アゾットは違うやろ。宝石剣やろ。
嗚呼、恥ずかしい。………修正しました。


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