炎を纏った少女と水を留めた少年 (神無月 秋桜)
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第0章 はじまり
プロローグ *蒼い月の夜に*


――蒼のクリスマス。

 

 

 

今から4年ほど前、クリスマスの夜に何者かによって666人の一般人が惨殺された事件。

犯行を行った者は2人だと言われているが、実際は不明。

 

《世界評議会》はこの事件を“爆発事故”として真実を隠蔽(いんぺい)している。

 

 

《聖なる扉~ディバインゲート~》が開いた事による《常界》《天界》《魔界》の3つの世界の融合、それによる混沌が遠因とされている。

 

 

 

 

 

――その蒼のクリスマスの時のように、その夜の月は蒼かった。

 

 

 

その蒼い月が照らす街を、紅く長い紅蓮(ぐれん)のような燃える髪をなびかせた少女がいた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

 

少女は走っていた、逃げるように。

いや、逃げていた。何者かが少女を追っていて、少女はその影から逃げているのだ。

少女の紅蓮色の瞳は、恐怖で染まっている。

 

 

――何で、こんな事になったんだろう。

 

 

少女は、影から逃げながら必死に考える。

だがいつまで経っても、答えは出てこない。

 

 

少女を追いかけている影は、男だった。

しかも少女とは年齢は変わらない、少年だ。

少年は黒いフードを被っていて、表情はほとんど(うかが)う事が出来ない。

 

両手には水の刃を持っている。その刃には赤い血が付いていた。

少年は少女を視界に捉えると、薄ら笑いを浮かべ先程よりも速い足で追いかける。

 

 

少年がフードの下から見せた薄ら笑いを見た少女は、戦慄した。

このままだと追いつかれる。

 

 

――殺される。

 

 

そう、直感した。

少女は足を速めて、一心不乱に走った。

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

しかし走り抜けた先には壁。他の道は見回しても無かった。

行き止まりだった。

 

 

冷や汗が頬を伝った。まずい。

そう思った時、足音が近付くのを少女は感じた。

そして振り返った時……

 

 

 

 

「……追いついた。逃げるなんて酷いなぁ」

 

 

 

 

氷のような、冷たい声音(こわね)

 

 

 

「っ……来ないで……!」

 

「……」

 

 

 

少女は怯えた声で言いながら、後ずさる。

少年は、少女の言葉を無視して無言で少女に1歩ずつ近付いてくる。

 

 

それに従って、少女はまた1歩後ずさる。

しかし背中がフェンスに当たり、逃げ道が無くなってしまった。

 

 

(――私はここで、殺されるんだ……)

 

 

目の前に水の刃が突きつけられ、少女は自分の死を覚悟した。

先程の惨劇を思い出し、背中に悪寒(おかん)が走った。

 

 

 

「キミも、さっきの子みたいにしてあげるよ」

 

 

 

そう言って少女を見る少年の瞳は……

 

 

氷のように冷たく、無機物でも見るような無慈悲(むじひ)な瞳で……

 

 

 

フードの下から見えた少年は……金髪の前髪を覗かせた、蒼い瞳で三日月のような笑みを浮かべていた――。



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