IS~インフィニット・ストラトス 失われし青い翼の騎士と平和の歌姫 (ダークエイジ)
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プロローグ『全ての始まり』
C・E73、コーディネーターとナチュラルの戦いはメサイア攻防戦を持って終決した。その一ヶ月後、エネルギー専門の企業『エネルフィールド社』が新しいエネルギー物質『アルファ』を開発した。このアルファの力はエネルギーに留まらずに軍事、IT、医療、宇宙開発に革命を起こした。しかし、これは新たなる戦争の狼煙となった。C・E74、アルファを開発したエネルフィールド社は大きく力を増した事で他の企業を次々と取り込み、『企業統合連盟』通称、企業連を創り出す。その軍事力はZAFTと地球連合軍を大きく上回る程であった。そして、C・E74、3月に企業軍は遂にプラントと地球軍に宣戦布告、全面侵攻を開始した。ZAFTと地球軍もこれに応戦したが、その強大な軍事力同士のぶつかり合いで戦局は膠着状態に陥ってしまった。
そして四月に事件は起きた。プラント最高評議会議長ラクス・クラインのシャトルが地球からプラントに戻る途中に企業連の部隊に奇襲を受けたのだ。一応、護衛としてヤマト隊の隊長キラ・ヤマトと副隊長のユウイチ・S・レイヴンが護衛に出ているが、苦戦を強いられている。
「くそっ!!」
「隊長!!このままだとまずいぞ!!」
二人が相手をしているのは、たった一機のモビルスーツ。ガンダムタイプで白い四肢に、腕と脚部に付けられている防具の様な追加装甲。そして、前フリーダムと似たような青い翼。データによるとアルファ・アレスと言うらしい。
「貴方の目的は一体なんですの?」
シャトルが撃墜される前に一緒にストライク・フリーダムに乗り込んだラクスがアレスに通信で呼びかける。すると、キラ達よりも年上の声が返ってきた。
「目的?目的なんてないさ。これも仕事なんでな。」
「くっ!」
いきなり、両手に持っているビームライフルを乱射してくる。それを、ユウイチの機体のアイズ・フリーダムがビームシールドで受け止めた。アイズ・フリーダムはストライク・フリーダムとシン・アスカのデスティニーの中間的な機体である。ユウイチは対艦刀『エクスカリバー』を抜き放ち、接近戦を仕掛ける。
「ふん、なるほど。」
すると、アレスは両手の手の平をこちらに向ける。次の瞬間、手のひらの真ん中のカバーらしきモノが外れて中の砲口から何十発と言うビームが放たれる。しかも、ホーミング式なのか回避行動をとったユウイチを追尾し始めた。
「なにっ!!」
「あれはパルマ・フィオキーナの発展型!?」
追尾式のビーム。あれもアルファ技術らしい。エネルフィールド社が作った技術はいつもキラ達を驚かせる。
「ふん、その程度か?」
腰部の大型ビームブレードを抜き放ち、ユウイチに接近戦を仕掛けてくる。キラもビームを放ちながら援護射撃をするが、アレスは脚部の追加装甲に取り付けられた追加ブースターで巧みに避けながらユウイチに近づいた。
「なんだと!?」
ビームシールドを張るが、それごと斬ってしまった。どれだけ出力が高いのか想像出来ない。アレスはアイズ・フリーダムを踏んづけると、助走をつけてキラに向かってくる。そして、翼に装備された特殊兵装『アルファ・ドラグーン』を放ってくる。
「やっぱり、あの翼はドラグーン!!」
「っ!!」
素早く動くドラグーンを回避していくと、本体のアレスが飛来してくる。すると、アレスの手のひらの砲口から五本の指にそって、ビーム刃が形成された。そのまま、フリーダムの左腕を掴むともぎ取ってしまった
「うわぁぁっ!!」
「きゃぁぁっ!!」
「キラっ!!ラクス!!!」
二機から離れたアレスの右手に光が集まっていく。そして最後には何やらバズーカの様な兵器が握られていた。これもアルファ技術の一種で物体を量子化して格納できると言うものである。三人が唖然として見ていると、アレスのパイロットが楽しそうに告げた。
「俺の名前を教えてやる。ヴァイスだ。」
「ヴァイス・・・。」
「覚えておけよ。」
そして、ヴァイスはバズーカのトリガーを引く。しかし、発射されたのは砲弾ではなく光の塊だった。その光は二機の近くまで来ると更に大きくなり、二機を飲み込んでいく。
「これはっ!!!」
「キラっ!!」
「のわぁぁぁぁぁ!!!」
光が消える頃には、ストライク・フリーダムとアイズ・フリーダムは消え失せていた。
「こちら、アルファ・アレス。対象を転送完了。これより、帰投する。」
一機だけ残ったアルファ・アレスのコクピットの中でヴァイスの口元は人知れず歪んでいたのだった。
消えてしまったので、しょうがなく新しく書き直します。すいません(´・ω・`)
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詳細設定
『アルファ』
エネルフィールド社が開発した蒼く光るキューブ状の物体。これが持つパワーは核エネルギーに匹敵すると言われている、しかも、無尽蔵にエネルギーを取り出す事ができるのでC・Eは半永久的なエネルギーを手に入れたことになる。因みに今では殆どのMSの動力源がバッテリーからこのアルファに変更されている。更にはその副産物としてアルファから放出される粒子『アルファ粒子』が推進剤の代わりになるという報告がある。最後にアルファは時空に干渉する力もあるらしくワープ技術や医療にも使われているらしい。
『エネルフィールド社』
C・E45年設立の比較的に歴史の浅いエネルギー会社である。しかし、エネルギーだけではなく兵器関係にも手を広げた為、その力は絶大。企業連のリーダー的な存在まで上り詰めた。
『企業統合連盟』
通称、企業連エネルフィールド社を筆頭に5社の大軍事企業が名を連ねる現行最大の企業複合体。その力はZAFTと地球連合と張り合えるほどに強大である。噂ではあるが、最近になってアルファの力を利用して別の世界に移動できる技術を開発したらしい。
『アルファ・アレス』
型式番号ARES-001。全高19.25m。企業軍が開発したガンダムタイプの新型機。設計のベースとなったのフリーダムだが、武装のベースとなったのはエネルフィールド社のメインコンピュータの中にある『エクストリームガンダムtypeレオス』と言う謎の機体データである。動力は核とアルファのハイブリットエンジン。その性能の高さと武装の多さで扱えるのはパイロットのヴァイスのみ
『ハザード』
型式番号ZERS‐1102。全高19.45m。企業連の主力可変量産型MSで鋭角的な頭部とバイザーカメラが特徴。追従機として全高19.25mの『ハワード』が存在する。因みにハザードの頭部は地球連合のダガーシリーズと共通点が多く確認されている。
『スターク・ゲルルグ』
型式番号ZGMF-4000。全高20.41m。ZAFTとオーブ共同開発のニューミレニアム最新機。ザクと同様に様々なオプション装備が可能。ZAFTの次期主力MSである。
『アウス・ギャン』
型式番号ZGMF-3000。全高19.85m。こちらもZAFTのニューミレニアムの最新型。しかし、ゲルルグと違って格闘専用機な為にオプション装備も格闘戦用の物しかない。
『ムラサメ弍型』
型式番号ORB-M12C。全高19.24m。オーブの最新型機。ムラサメよりも大型にはなってしまったがその性能は前フリーダムより上になった。可変高速起動で敵機を翻弄した後に一気に間合いを詰めて敵を倒す強襲型の機体。
『アイズ・フリーダム』
型式番号ZGMF-X14S、全高19.14m。試験機でデスティニーとストライク・フリーダムと∞ジャスティスのハイブリット機。武装的にはデスティニーだが、姿と性能はフリーダム。この機体のおかげでもしかしたら、フリーダムとデスティニーとジャスティスの量産型機が生まれるかもしれないと期待の声が上がっている。
『ヴァイス』
性別男。年齢三十代前半。身長1m85Cm。所属は企業。生まれた土地は不詳でいつも左目に特徴的な眼帯を付けている。正確はとても好戦的で戦場が大好き。キラ・ヤマトといつかは戦いたいと思っている様子。
『ユウイチ・S・レイヴン』
性別男。年齢20。身長1m79Cm。所属はZAFT軍ヤマト隊。生まれは日本。ヤマト隊の副隊長。部隊設立時からキラを支えている。実力はキラを除けば部隊最強。好きな食べ物は日本そばとさっぱりした面もある。
束さんのおっぱいを揉んでみたいな・・・・。
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第一話『異世界』
C・Eではない世界のどこかの山の中腹に彼女の家はあった。彼女の名前は篠ノ之束。この世界に存在するマルチフォーム・スーツ『インフィニット・ストラトス』通称ISの設計者だ。しかし、ISは女性にしか扱えず、そのせいで社会は女尊男卑となってしまった。
「ふ、ふふ〜ん♪」
鼻歌を歌いながら新型のISのデータを見ている。ディスプレイには白式とある。まだ、完成しているわけではない。
「束さま・・・」
「やぁ、くうちゃん。」
後ろからやってきたのは両目を閉じた銀髪の子。名をクロエ・クロニクルと言う。
「どうしたの?」
「お部屋のお掃除が終わりました。」
束は彼女を引き取った時から娘として可愛がっている。妹は一人と決めているからだ。
「いつもありがとね。」
そう言って彼女の頭を撫でた瞬間、何やら庭で爆発が起きた。家の警報がけたたましく鳴り続ける。二人は急いで庭に出た。
「うにゃー!何事っ!?」
「・・・・」
出てみると、そこには三人の男女が横たわっていた。しかも、三人の服装はどこか可笑しい。二人の男達はパイロットスーツみたいな服装で、女の方は何やら黒い和服っぽいものを着込んでいた。
「う〜ん、何奴〜?」
そう言いながら、束は女をマジマジと見る。かなりの美人だ。それに胸も結構ある。
「束さまっ!!」
「どうしたの?そんな大声出してぇ。」
いつも冷静なクロエが大声を出したので、そっちを向くとクロエは男達が身につけていたアクセサリーを差し出してきた。しかも、ただのアクセサリーではない。待機状態のISである。
「う〜ん、IS?こんなの作った覚えはないけどなぁ。」
世界にISは467機しかないのだが、この二機は束が作った機体ではない。そんなことはありえない筈であった。ISは束しか作れないのだから。
「う〜ん、これは面白そうだぞ!!」
興味を惹かれた束は早速、そのISを調べる事にしたのだった。
「うーん・・・」
キラが目覚めるとそこは見知らぬ民家であった。あたりを見回すと、ユウイチとラクスもいる。
「ラクス、ユウイチ!!!」
二人を揺さぶると、直ぐに起きてキラと同じ反応を見せた。
「ここはどこだ?」
「ううぅ。」
三人の最後の記憶だと、あのヴァイスと交戦した後に光に飲みこれたところであった。三人が必死に考えていると、部屋のドアが開いて住人らしき女性が入って来た。
「やぁやぁ!お目覚めかな?」
その女性は結構奇抜な格好をしていて、童話に出てきそうなドレスで機械的なウサミミまで付けているのだ。
「しかし、君達が持ってたISは凄いねぇ。束さんびっくりしちゃったよ。」
話の意図が読めずにポカンとしていると、束がずずいッと顔近づけて来た。
「いやぁ、あれが無かったら直ぐに出て行ってもらおうと思ったけどねぇ。」
「あれってなんです?」
すると、束は怪訝な顔をしてこっちを向いてきた。
「ん〜?君達のISでしょ?ストライク・フリーダムにアイズ・フリーダム。」
「IS?MSじゃなくてですか?」
「MS?」
食い違う認識に、ユウイチがある質問をぶつけてみた。
「今って、C・E何年すか?」
「C・E?今は西暦だけど?」
それを聞いた瞬間、ユウイチは深く溜息を吐いた。何か心当たりがあるらしい。
「ユウイチ、どういう事なの?」
「ある噂が流れてたんだ。企業連がアルファの力を使って他の世界に移動できる装置を作ったってな。」
「そんな馬鹿なっ!!」
「ええ〜い!!どういうことか説明してよっ!!!」
ユウイチは仕方なく今ある仮説を束に話した。自分達が他の世界からやってきたと言う事を。それを聞いた束は真剣な眼差しで考え込んだ。
「なるほど。それなら、あの二機を君達が持ってた事も説明がつくね。」
「信じてくれるのか?」
「うん。」
そう言って彼女はこの世界の事を説明しだした。そして、説明を聞いた三人はガックシと項垂れた。
「女性しか使えないIS・・・」
「女尊男卑の世界・・・」
「大変ですわねぇ・・・」
しかし、三人は実際にこうして、他の世界に送られてしまったのだからしょうがない。
「じゃあ、君たちの世界の話をしてよ。」
「分かりました。」
そう言って、キラの知る限りのC・Eの事を話した。
「う〜ん、君達も苦労したんだねぇ。」
束は演技か本気か知らないが、涙ぐんで見せる。しかし、次の瞬間には笑顔に変わっていた。
「そろそろ、夕飯の支度するから降りてきなよ。」
「「「はぁ・・・」」」
束に連れられていくと、そこには見事な和室と日本庭園が広がっていた。その光景に三人は感嘆の溜息を吐いた。しかも、キラはディスプレイに映し出された機体も気になった。
「新型のISですか?」
「そうだよ、紅椿って言うんだ。そういえば自己紹介がまだだったよね。篠ノ之束さんだよ〜ハロ〜!」
「キラ・ヤマトです。」
「ユウイチ・S・レイヴンだ。」
「ラクス・クラインですわ。」
四人が自己紹介をしていると、部屋の奥からクロエがやってきた。束は直様、クロエに抱きつく。
「束さま・・・」
「この子はくーちゃん。束さんの娘だよ。」
もうなにがなんだがわからない三人はとりあえず苦笑しておいた。
「くーちゃん、ラクスちゃんと一緒に夕飯作ってきて。」
「わ、分かりました。」
そう言って二人は台所に消えた。残されたキラは未だに先ほどのディスプレイを眺めていた。
「むむ、そんなに紅椿が気になる?」
「ええ。」
キラはそう言うと、物凄い速さでキーボードを打ち始める。その速さに束が関心した様に声を上げた。
「むっ!凄く速いねっ。束さんと同じくらい?」
そんな言葉も気にせずにキラは紅椿のデータを確認していく。
「この機体、ワンオフ機ですね。でも、エネルギー効率が悪い。」
「ほほぉ、お主なかなかやるのぉ。」
それから三人は紅椿の開発作業に夢中になってしまった。因みにIS化した二機に男である二人が乗れるか調べたが、大丈夫な様であった。
そして、夜。夕飯を平らげてからの事。
「いやぁ、今日は久しぶりに楽しかったよ。」
ご満悦の束は三人を眺めるとふふふっと笑った。
「三人とも気に入ったよ。行く宛が無いんなら泊めてあげる〜。」
「ホントですかっ!?」
確かに今、放り出されたら完璧に野宿する事になってしまう。泊めてくれるのなら、それはありがたい申し出だ。しかし、こういうのには必ず裏がある。
「その代わりなんですか?」
「やっぱり分かってた?実はね、あともう少しでIS学園っていう高校が入学式を迎えるの。その学園に親友の弟の『いっくん』が入学するんだけどぉ。」
そのいっくんっていうのは、ニュースでやってた世界で唯一ISを扱える男子『織斑一夏』のことであろう。
「なるほどな。男で唯一ISを使える親友の弟の織斑一夏を様々な危険から守ってくれと言う話だな。しかも、IS学園に入学して。」
世界で唯一ISを使える男子となれば、様々な者が彼を欲しがるだろう。それは容易に想像できる。
「あと、私の妹である『箒ちゃん』も入学するんだけど・・・。」
はぁとキラは溜息を吐く。
「別にいいですよ。」
他にやることはないのだ。それぐらい容易い。
「やっぁたぁ!!そうなれば、ラクスちゃんの専用機を作ってあげるからね!!!」
「きゃっ!!篠ノ之さん!?」
ラクスの胸を揉みながら喜ぶ束は子供の様に無邪気であった。
「束さんでいいよぅ!!」
「まったく。」
「そうだ!!君達の事は『ちーちゃん』にも知らせなきゃね。」
その人がキラ達の話を信じるかは知らないが、こうしてキラ達の新たなる世界での戦いが幕を上げたのであった。
次回はどうしよう。
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第二話『IS学園』
遂にやって来た入学式当日。束の新たなる発表により、世界でISが扱える男性の二人目と三人目になったキラとユウイチは女子達の注目の的になっていた。
「それにしても、良かったですわね。同じクラスで。」
「そうだね。」
三人とも、同じ一組。裏で束が操作したのだろう。
「う〜ん、眠い。」
昨日からユウイチは夜更かししていたのか、金髪と一緒にへにゃっとしている。キラは苦笑しながら、1組に入って行った。
「あれが、織斑一夏・・・。」
見ると、教卓の前の席で縮こまっているのが織斑一夏らしい。確かに自分以外全員女子の学校に放り出されたらそうもなる。
「しかし、どんな天のいたづらだ?彼だけがISをつかえるなんて」
「そうですわね。」
厳密にはキラとユウイチの機体はISと言うよりISに限りなく近づけたMSと言った所だ。だから、他の男が乗っても使えるが、キラとユウイチがロックしてあるために、許可した人間以外使えない。
「そうだね。なんでだろうねぇ。」
その点に関しては束も分かっていない。何故、一夏がISに乗れるかは謎のまま。
しばらくしてから、副担任の山田真耶が教室に入って来た。彼女の身長はやや低めで生徒達と殆ど変わらない。しかも、服も大きめのを着ているのかダボっとしていて子供っぽくなっている。
「全員、揃ってますね〜。それじゃあ、SHR始めますよ〜!」
そう言って彼女はIS学園の話をしだした。しかし、このIS学園の設備は本当に凄い。かつてのヘリオポリスのハイスクールと変わらない設備だ。正直、キラは関心していた。
「と言う訳で、皆さん一年間よろしくお願いします。」
「・・・・」
誰からの反応もない。クラスの殆どの視線はある三人組に注がれていたからだ。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で。」
そういえば、このクラスの担任は束の親友は織斑千冬らしいがその姿はない。ユウイチが調べたところによると、彼女は第一回大会『モンド・グロッソ』の総合優勝者で、世界最強の称号である『ブリュンヒルデ』を授けられている。
「ええと・・・」
気づくと、既に一夏のところまで自己紹介が来ていた。
「え〜・・えっと織斑一夏です。よろしくお願いします。」
そう言って彼は座ろうとするが、後ろの席の女子達がそれを許さないでいた。その視線は正しく『もっと何か喋って』である。キラ達三人が見守っていると、一夏は決意した様に言葉を発した。
「以上ですっ!!!」
ズダンっとリアルにクラスの女子がリアルにコケた。確かに、あれだけの決意をしたかと思ったら以上ですと言われれば誰だって転がる。しかし、それを許さない者がいた。
バァンッッ!!!
「イッテっっ!!!」
いきなり背後からの出席簿アタック。その攻撃を仕掛けたのは、あの織斑千冬だった。
「げっ!!関羽?」
さらにもう一発。あまりの痛そうな音にクラスの女子の一部が若干引いている。
「誰が三国志の英雄か?馬鹿者。」
「さ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスの挨拶を押しつけて済まなかったな。」
「いえ、副担ですから、これくらいはしないと・・・。」
そう言う彼女は、どこか熱っぽい。
「諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜く事だ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな?」
その鈴とした言葉は確固たる教師としての何かがあった。しかしその瞬間クラス中か黄色い歓声が上がる。やはり、ブリュンヒルデは憧れの的という事だ。
「それでっ?貴様はまともに挨拶もできんのか?」
「千冬姉ぇ、俺は・・・」
バシィッ!!!
「織斑先生と呼べ・・・」
どうやら、今の会話で数人の女子がヒソヒソ話をしている。そんなこんなでキラの順番がやってきた。
「キラ・ヤマトです。ラクスとユウイチを含め年は皆さんより上ですが、全然ため口で構わないので一年間よろしくお願いします。」
パチパチと拍手が上がりながら、クラスの半分の女子が熱っぽい視線を向けていた。まぁ、仕方のないことといえば仕方ない。そして、数人の自己紹介が終わり、ユウイチの番。
「ユウイチ・S・レイヴンっす。俺も、皆より年上っすけど、じゃんじゃん話しかけてくださいっす。」
普段はそんなことはないのだが、彼は緊張するとこういう口調になってしまう。けっして、そう言う人間ではない。けっして。さらにまた数人が進んでラクスの番。
「ラクス・クラインですわ。わたくしも皆さんよりも年上ですけど敬語など使わずに話しかけてきてくださいね。」
クラスの話を聞いてる感じだと、年上三人が高校の一年生にいうのは不思議と言う生徒も何人かいるようだ。
そうキラが思っているとチャイムがなった。そして、一時間目の休み時間にキラ達三人が話していると例の織斑一夏が話し掛けてきた。
「なぁ、今話しかけて大丈夫か?」
「大丈夫だ。」
「いやぁ、やっぱり女子だけだと落ち着かなくてさ。」
確かにそれはわかる気がする。彼の様な人物は男友達と遊び、男友達と育ってきた。女子だらけだと落ち着かないのだろう。そんな彼にとってキラとユウイチはオアシスだ。
「それにしても・・・」
そういって、一夏は微笑み合うキラとラクスに視線を泳がす。本人達は意識してないのだが、周りからはまんまカップルである。
「もしかして、二人は付き合ってるのか?」
「ご明察。」
「へぇ〜。」
はぁ〜とユウイチは溜息を吐く。部隊にいた時からこの二人は人目もはばからずイチャイチャしだすものだから苦労が絶えないのだ。
「とにかく、一年間よろしくな。」
「よろしく。」
「よろしくですわ。」
そういって四人は固く握手を交わした。すると、ある女子がやってきた。束の妹の篠ノ之箒だ。
「すまないが、一夏を貸してもらえないだろうか?」
「うん、いいよ。」
そう言って、一夏を強引に引っ張って行く箒。二人は休み時間ギリギリまで帰ってこなかった。そして、蒼い波乱は次の時間の休み時間にやってきた。
次回はセシリアたん登場。ハァハァ(*゚∀゚*)
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第三話『最初の騒乱』
キラ達がIS学園に入学して初日、早速騒ぎが起きた。それは二時間目の休み時間での事。
「ちょっとよろしくて?」
「んっ?」
「ああ・・・?」
「まぁ、なんですの?その気の抜けたお返事は?」
現れたのはブロンドの少女。喋り方と一部をロールにした髪型は明らかにお嬢様と言った感じ。それに彼女の態度はいかにもこの世界の今時の女子というあれもある。そう、女性優遇社会で男子を奴隷か何かと思っているあの態度。しかし、それを一夏は気に入ってない様子だった。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし。」
確か、自己紹介で色々言ってたらしいが、一夏はそれどころでは無かったらしい。そもそも自分の姉が担任だったことの方がショッキングだったろう。しかし、その返答が悪かったのか彼女は目を細めて男を見下した態度で続ける。
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
「あ!質問いいか?」
「なんですの?」
「代表候補生ってなんだ?」
聞き耳を立てていたクラスメイトが何人か冗談抜きでコケた。
「あ・あ・あ」
「あ?」
「あなた、本気で言っていますの?」
代表候補生。それはISの操縦において国家の代表の候補生に選ばれた者達の事を指す。まぁ、簡単に言えばエリートだ。
「信じられない。信じられませんわ!極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・」
「それは流石に言い過ぎなんじゃない?」
今までずっと黙っていたキラが突然に口を開いたので、セシリアは気分を害したのかターゲットをキラに変更した。
「あら?貴方みたいなモヤシみたいな男がわたくしに意見するんですの?」
その瞬間、ラクスがムッとした表情になる。やはり、恋人がバカにされて気分が良い人間なんて誰もいない。
「まぁ、貴方達男子三人が束になってわたくしに挑んでも勝てっこありませんものねぇ〜!」
まだ戦ってもいない相手を馬鹿にするなど彼女もよくやる。
「しょうがありませんものねぇ。なにせ、私は生徒の中で唯一、教官を倒したエリート中のエリートなのですからっ!!!」
それを聞いた瞬間、キラ達四人が不思議そうな顔つきになった。
「んっ?教官だったら倒したぞ?」
「おれも!」
「わたくしも。」
それを聞いた瞬間、セシリアが鬼の形相でユウイチに迫った。
「そっ、そっ、それは本当ですの!?」
「おっおちつけっ!!!」
キーンコーカーコン。
「「「あっ」」」
休み時間終了の金が鳴り、千冬と真耶が入ってくる。セシリアは渋々自分の席に戻った。
「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する。」
一、二時間目と違って千冬が教壇に立っていた。それと、各種装備なのだから大事な為に真耶もノートをとっていた。
「ああ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないとな。」
クラス代表という事はクラス委員長ということだろう。
「クラス代表者とはそのまま意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・クラス長だな。因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラス実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争心は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからな。」
ざわざわとクラス中がどよめき立つ。恐らく、挙げられる名前は既に決まっているだろう。
「はい!織斑君を推薦します。」
「ヤマト君がいいと思いますぅ」
「レイヴン君に一票!」
案の定だ。クラスの女子達は次々と三人に票を入れていく。因みにラクスはキラに一票入れた。そして、キラとユウイチと一夏の選択で全てが決まろうとしていた。
「「一夏でっ!!」」
「ちょっ!!!」
ユウイチとキラの言葉でクラス代表は一夏に決定された。一夏は慌てて反論しようとした時、声を張り上げた者がいた。セシリアだ。
「待ってください!納得いきませんわ!!」
バンっと机を叩いて勢いよく立ち上がる。それほどまでに憤慨しているのだろう。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
確かに、プライドが高い彼女からしてはあり得ないほどの屈辱なのだろう。女尊男卑の世の中で生まれた彼女にとっては。しかし、これは流石に言い過ぎである。ところが、セシリアは構わず続ける。
「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!!わたくしはこの様な島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございません。」
とうとう、人間まで否定された一夏。セシリアは熱が更に入ったのか、怒涛の勢いで叫んで行く。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては堪え難い苦痛でー。」
その瞬間、一夏の頭の中で何かの音が鳴った。
「イギリスだって大してお国自慢じゃないだろ?世界一マズイ料理で何年覇者だよ?」
「なっ!?」
それを聞いたセシリアは怒髪天をつくと言わんばかりのセシリアが顔真っ赤にして怒りを示していた。
「あっ、貴方ねぇ。わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「・・・ああ。」
「決闘ですわ!!」
彼女がそう叫んだ時、間に入った人間がいた。その人物は意外や意外、キラだった。
「ちょっと待って。その決闘、僕が相手をするよ。」
「「キラ!!?」」
「あらあら?」
クラスがいきなりの発言にどよめきたつ。キラ自身何か理由があるのだろうが、この発言は驚きであった。
「キラ、悪いけど申し込まれたのは俺だ。」
「一夏、悪いけど今回は譲って。」
キラの目を見ると、どうやら本気の様だ。ユウイチはキラをなだめようと近くによって、小さな声で話し掛ける。
「キラ、相手を見ろ。まだ、子供じゃないか?そんな彼女がお前と戦ったら、瞬殺されるのがオチだ。だから、落ち着け。」
そのヒソヒソ話が聞こえてしまったらしく、彼女は更に逆上しながら突っかかって来た。
「わたくしが子供?瞬殺?良いでしょ!!!キラ・ヤマト!!貴方と戦ってあげますわ!ところで、貴方は専用機をお持ち?」
「うん!」
そう言って、胸で輝く剣と翼が一体化した青いペンダントを見せる。それを見たセシリアはフンと鼻で笑う。
「良かったですわ!男でモヤシみたいな貴方が訓練機で専用機持ちである、このわたくしと戦おうなどとは流石に酷と言うものですわ。」
高らかに勝利宣言の如く告げるセシリア。溜息を吐いた千冬が口を開く。
「話は纏まったな?それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。ヤマトとオルコットはそれぞれ用意しておくように。それでは授業を再開する。」
その後の授業はなんの騒ぎも無く終了した。そして、その日の夜。学生寮では真耶によって部屋割りがされた。一夏が1025室、キラとユウイチが1026室、ラクスは1027室であった。
「それにしても貴様等がな。」
件の1026室では千冬、キラ、ラクス、ユウイチの四人で秘密会議が行われていた。
「最初、束から聞いた時はあいつの正気を疑ったぞ。しかし、実際会ってみて納得がいった。」
気配でなと、千冬は続ける。やはり、彼女ぐらい迄になると相手の眼差しと気配で分かる様になるらしい。歴戦の人間だという事が。
「今日はお騒がせしてすいませんでした。」
「まぁ、いいさ。そうだ。わたしの事はプライベートの時は名前でいいぞ。」
「じゃあ、僕達も名前で良いです。」
「それで、何故お前達はここにいる?」
そう聞かれてキラはこれまでの経緯を話した。
「なるほど、ヴァイスと言う男が。」
「はい。」
千冬は少しの沈黙の後にこう切り出して来た。
「分かった。その男の事を調べてみよう。もしかしたら、この世界にいるかもしれない。」
「いいんですか?」
すると、千冬は再び溜息を吐きながら続けた。
「ああ、束に言われてあれを護りに来たんだろう?その報酬だよ。」
礼とは決して言わない彼女であった。
「それと、もう少しであいつの専用機が来る。その世話もしてやってくれないか?」
一夏の専用機と言う事は束が自慢してたあの機体であろう。
「とにかく、これからよろしく頼む。」
そう言って、千冬は三人と握手した後部屋を出て行った。入れ違いで一夏が入って来た。
「あれ千冬姉ぇ?まぁ、いいや。それにしても今日は悪かったな。」
「??」
どうやら、セシリアとの一件を言ってるらしい。
「大丈夫だよ。友達の一夏をああまで言われて、僕自身もムカッて来たから。」
「キラ・・・」
それから一夏とたわいない話をして一夏とユウイチが自販機で飲み物を買う為に部屋から出て行き、キラとラクスは二人っきりになった。
「ユウイチと一夏が帰ってくるまで二人っきりだね。」
「そうですわね。」
キラは彼女の右手の薬指に存在する銀を基調としたピンクの指輪を眺めた。それは束が新しく作ったラクスの専用機、『エターナル・ウィンド』である。殆どエターナルを参考にしているが、装甲は新しい技術である『展開装甲』を使ってるらしい。
「本当は君を戦わせるなんてしたくないんだ。」
「大丈夫ですわ。わたくしは貴方が護ってくたさるもの。」
「そうだね。絶対、君は僕が護る。」
ユウイチと一夏が帰ってくるまで、二人の世界は続いたのだった。
次回はセシリアVSキラ
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第四話『蒼穹のアルテミス』
セシリアとキラが決闘をする事になってから一週間後の月曜。第三アリーナに一夏は箒を連れて向かっていた。
「それで、あのヤマトは勝てるのか?」
「さぁ、何か色々調べてたけど。」
それは恐らく、セシリアのISを調べていたのだろう。間違いない。
「織斑君!織斑君!」
第三アリーナのピットに入ると真耶が豊満な胸を揺らしながらこちらに走ってくる。
「山田先生。」
「はぁ、はぁ!!」
全力で来たからか、酷く呼吸が荒い。一夏はある事を思い付き、実践してみる。
「山田先生、まずは深呼吸!」
「すーはー、すーはー、すーっ」
「はい!そこで止めて!!」
「んっ!!」
息を止めた真耶は直ぐに真っ赤になって息をブハッと吐き出す。その瞬間、一夏は千冬に頭を叩かれる。
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者。」
「千冬姉・・・」
パァン!!更にもう一発。
「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね。」
一夏が絶句していると、奥からユウイチがやって来た。
「なんだ、凄い音がしたけど?まぁいいや。それよりお前の専用機が来たぞ。」
「おれの専用機?」
なんで俺の?みたいな顔をしているが、よく考えれば当然の事だ。一夏は唯一のISが使える男子なのだ。だから、そのデータ取りとして専用機を渡されても不思議ではない。とにかく、奥に進んで見るとそこには白がいた。
「これが、お前の専用機。『白式』だ。」
「白式・・・」
全身が白く塗装されたIS、一夏だけの専用機、それがそこに存在していた。一夏と箒が見惚れているとキラがやってくる。
「さぁ、乗って。フォーマットとフィッティングをしなきゃいけないから。」
「あ、ああ。」
一夏が白式に乗り込むと同時にキラもストライクフリーダムを全身に身に纏う。
「これが、キラの専用機。カッケぇ!!」
「ヤマト!お前は勝てるのか?」
「うん、確実にね。」
「そうか。私の事も箒で良い。」
キラは真っ直ぐ箒を見つめると束とやっぱり似ている所があるなと感じた。
「やっぱり束さんの妹だね。」
「なにっ!?姉さん?」
驚愕の表情をしている箒を尻目にキラはフリーダムのVPS装甲をオンにした後、カタパルトへ脚を進めた。
「キラ。」
管制室にいるラクスからの通信。やはり、彼女の瞳は綺麗だ。
「気を付けてくださいね。」
「うん、大丈夫だよ。」
そう言って、キラはカタパルトに脚部を接続してゆっくりと重心を傾ける。すると、ストライクフリーダムは勢いよく吐き出された。
「キラ・ヤマト、ストライクフリーダム行きますっ!!」
一方、セシリアはアリーナの中央で自らの専用機。『ブルー・ティアーズ』を身に纏い、浮いていた。
「ふふ、このわたくしが負ける事などありえませんわ。」
自らの勝利を信じて疑わないセシリア。不意にキラの意思の強いパープルの瞳が思い浮かべられた。
(わたくしに挑んだ事、後悔させて差し上げますわ。)
そう考えていると、ピット内にISの反応が出る。数は2つ。一つは白式と出たが、もう一つはアンノウンだった。セシリアは直ぐ様、特殊レーザーライフル『スターライトMK-Ⅲ』のセイフティを外した。
「アンノウン。どういう事ですの?」
そして、ピットから現れたのはアンノウンのISだった。今まで見たことの無いISにセシリアと観客の生徒達が驚く。
「なっ、なんですの?その機体は?」
「これが僕のIS、ストライクフリーダムだよ。」
全身装甲で、輝くまでの白い四肢。背後に広がる蒼い翼。黄金に輝く関節と胸部の砲口。セシリアが唖然としていると、その機体から通信が送られてくる。
「とにかく、始めようか。」
「っ!良いですわぁっ!」
試合開始の合図は既に鳴っていた。セシリアは直ぐ様にストライクフリーダムにスターライトMK-Ⅲの銃口を向けようとする。しかし、セシリアの瞳に映ったのはフリーダムの高エネルギービームライフルの銃口だった。
「なっ!?」
放たれたビームは真っ直ぐにブルー・ティアーズに直撃する。しかも、その出力は小型ながらスターライトMK-Ⅲより遥かに高い。
「やりますわね。今度はこちらから行きますわっ!!」
直ぐ様、姿勢を制御してレーザーライフルを放つ。しかし、フリーダムはいとも簡単に避けて行く。そもそも、早過ぎて捉えられない。セシリアがイライラしながら狙っていると、レールガンがブルー・ティアーズの肩の装甲を弾き飛ばす。
「きゃあ!!速過ぎますわっ!行きなさい!ブルー・ティアーズ!」
すると、背面の非固定浮遊部位からフィン状のパーツが四機分離し、一つ一つ意思を持っているかのように動き始める。ブルー・ティアーズ最大の特徴であるBTビット『ブルー・ティアーズ』である。まぁ、大まかにはフリーダムのドラグーンと同じ原理である。
「さぁ、踊りなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲でっ!」
「あれが、ブルー・ティアーズ・・・。」
因みにキラは既にブルー・ティアーズの事はイギリスのメインコンピュータをハッキングして調べてあった。確かにブルー・ティアーズの原理はドラグーンと同じ遠隔無線操作攻撃だが、明らかに致命的な違いがある。ブルー・ティアーズを操作している時はセシリア本体がビット操作の為に動けずに無防備になってしまうと言う事だ。しかも、ビットの動きもセンスはいいが、今までのドラグーンを使っていた者達より遥かに技術が低い。
「なるほど・・・。」
キラは静かにビームライフルの銃口を向ける。彼女は対象の反応が一番遠い所を狙ってくる様で、それでは予測射撃の良い的だ。
「ふぅ・・・。」
「なっ!!」
キラの放ったビームは全基正確に撃ち抜く。唖然としているセシリアにキラは苦笑混じりで右の方翼から四機のドラグーンを放った。ブルー・ティアーズと似た形のビットがブルー・ティアーズより速く、複雑に動きながら急襲する。
「なっ!!その翼はビットですの?そんな馬鹿な事がっ!?」
ビット攻撃を頑張って回避しているセシリアを見てキラは溜息を吐くと腰部のビームサーベルを抜いた。
「そろそろかな?」
ブルー・ティアーズに急速接近してくるフリーダムを確認したセシリアが不適な笑みを浮かべた。
「かかりましたわ。おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」
すると、腰部から広がるスカート状のアーマーの突起が外れて動いた。しかも、それはレーザー射撃タイプではなくミサイルタイプだ。しかし、セシリアはとんでものないものを見た。なんと、フリーダムが向かってくるミサイルの間をすり抜けたのだ。このミサイルは誘導型、という事はミサイルが反応するより速くミサイルの間をすり抜けなきゃならない。それも凄まじいスピードで。間をすり抜けたフリーダムを追尾しようと向きを変えるミサイルは互いにぶつかって爆発する。セシリアが唖然として止まっているとフリーダムが目の前に舞い降りた。
「残念。さぁ、もう終わりにしよう。」
「っ!?」
両手に持っているビームサーベルが踊り出す。その刃は簡単にブルー・ティアーズのシールドエネルギーを0にした。
『ブルー・ティアーズ、シールドエネルギー0。勝者キラ・ヤマト。』
地面に落下したセシリアは呆然として空に漂う蒼い翼の大天使を見る。その姿は圧倒的で美しい。
「キラ・ヤマト、貴方は一体何者ですの?」
「僕は僕だよ。君もこれからは僕や一夏を見下さないようにね。」
そう言いながら、地上に降りるとストライクフリーダムを解除して手を差し伸べた。
「君はこれから頑張り次第でもっと強くなるよ。それを僕に見せて。」
強い意思を持った瞳の中にセシリアは何かを見た。そして、無意識に彼の手を取る。
「はい・・・」
「大丈夫?顔が赤いけど?」
「大丈夫ですわ!?」
一方、管制室の中ではキラの戦闘を見て一夏達が驚きの声をあげていた。
「すげぇっ!!」
「あれがキラ・ヤマト君。」
「凄まじいな。」
しかし、一人だけ騒いでない人物がいた、ラクスだ。彼女は不安な瞳でモニターに映るセシリアと握手を交わすキラを見つめる。
「キラ・・・?」
いつもはクリアな筈なその瞳は今は不安と言う雲に覆われていたのだった。
うーん、前の作品と同じパターン
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第五話『クラス代表 織斑一夏』
キラとセシリアが対決した翌日、SHRにて一夏にとってあり得ない事が起きていた。
「では、一年一組のクラス代表は織斑一夏君に決定しました!!」
嬉しいそうに発表する真耶と一斉に拍手をするクラスメイト。しかし、一夏は絶句した後、反論する。
「先生!?なんで俺がクラス代表なんですか?」
「だって、最初から決まってたじゃないですか。」
そう言えば、セシリアが反論する前はキラとユウイチの一票で一夏に決まっていた。そして、セシリアとキラの決闘はクラス代表とは全然関係ないものだと思い出せる。
「し、しまった!?セシリアとキラの決闘で忘れてた・・・。」
ガクンとうな垂れる一夏を見ながら、ユウイチがコーラを差し出して来た。
「ドンマイ、飲むか?」
「サンキュ、ゴクッ。」
渡されたコーラを一気に飲み干そうとする。しかし、それを当然許さない千冬が一夏を出席簿でぶっ叩く。だが、タイミングが悪かったのか一夏はコーラを盛大に吹き出してしまった。吹き出されたコーラは綺麗に真耶と千冬に直撃した。
「きゃぁぁぁぁっ!!!」
「織斑!貴様っ!!」
「す、すいませーんっ!!!」
差し出したユウイチと飲んだ一夏はこの後に地獄を見たのは言うまでもない。
そして、四月も下旬、遅咲きの桜の花びらがちょうど全部なくなった頃、いつもの様に一年一組の面子が千冬に実践授業を受けていた時の事。
「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、レイヴン、ヤマト、クライン。前に出ろ。」
「「はい」」
「「はいですわ。」」
「うい。」
次々と自らの機体を呼び出して行く。しかし、一夏だけはモタついていた。
「早くしろ!!熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ。」
急かされた一夏は意識を集中する。しかし、まだ時間が掛かっている。
「集中しろ。」
二回言われた一夏は更に集中する。そして、やっとこさっと白式を呼び出した。
「よし、飛べ!」
千冬の号令と共に、キラとユウイチはVPS装甲をオンにする。フリーダムはいつも通りの色。アイズフリーダムはストライクフリーダムと同様に青、白、黒に彩られて行く。しかし、アイズのデスティニーの同型の翼の色は白である。
「わぁ!色が変わった?」
「綺麗。」
ラクスのエターナルウィンドはやっぱりピンク。鮮やかなピンクだ。とにかく、専用機四機は一気に飛び上がって行く。そして、また一夏が出遅れる。
「何をやっている。フリーダムとアイズ、エターナルは仕方ないとは言え、ブルーティアーズに比べたらスペック上の出力では白式の方が上だぞ。」
とは言え、またISの知識があまり無い一夏は飛ぶ事さえ苦労していた。
「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ。」
「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体があやふやなんだよ。何で浮いてるんだ。これ?」
「説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話しになりますもの。」
「わかった。説明してくれなくていい。」
「そう、残念ですわ。ふふっ。」
一夏は溜息を吐くと、遥か前を飛行している三人組を見つめた。三人はそれぞれの機体から光の翼を煌めかせながらアクロバティック飛行をしている。
「しかし、あの三人は凄いなぁ。」
キラはドラグーンまでパージして物凄いスピードで飛行して追随を許さない。ユウイチは下にいる生徒達に見せ付ける様に危険で尚且つカッコ良く、ラクスはピンクの光の翼を煌めかせてまるで、蝶の様に綺麗に飛んでいた。
「全員、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。」
「お先っ!!」
いきなりアクロバティック飛行を楽しんでいたユウイチがバレルロールをしながら地面に向かっていった。そして、完全停止に成功する。
「もう、ユウイチは危ないな。」
「キラ、待ってください。」
「あっ!キラさん!?」
続いて、キラ、ラクス、セシリアと次々に降りて行って完全停止に成功して行った。
「みんな、すげぇな。」
一夏も負けじと地表に向かって行く。どんどんと地表が大きくなって行き、そして。
ちゅどーーーーんっ!!!!
案の定、地表に激突。大きなクレーターが作られた。でも、一夏の身体は白式に護られているので無傷だ。しかし、クラスメイト達のクスクスと言う笑い声で心に大ダメージ。
「おいおい、大丈夫か?」
「一夏っ!?」
「一夏、大丈夫?」
「あ、ああ。」
姿勢制御をして、上昇。穴から離れる。その後、武装の展開や色々な事をして授業は終了した。
そして、その日の夜。なにやら、食堂でイベントがあるのでセシリアとユウイチは食堂に向かっていた。
「ところで、ユウイチさん。キラさんとラクスさんは付き合ってますの?」
「ああ、そうだよ。」
すると、なにやら落ち込んだ感じになったセシリアはハハーンと言う顔になる。
「まさか、キラの事好きなん?」
「そっ、そんな訳ありませんわっ!!」
しかし、ユウイチに見つめられて諦めるセシリア。
「はいですわ。しかし、キラさんにはラクスさんが・・・。」
勝ち目が無いみたいな顔をするセシリアにユウイチは溜息を吐く。
「諦める気かよ?別にイイじゃねぇか。好きな奴に恋人がいたってよ!!一夫多妻でもいいじゃん!?俺にはな、恋人は一人とか相手を変えたらビッチとかセフレがいたら駄目とかの考えがわかんないだよな〜?」
「せっ、セフレ・・・。」
大人な単語にセシリアは顔を真っ赤にする。
「俺が言いたいのは一人に限定しなくてもいいじゃないかって事。逆に羨ましいよ!それにそんな事を日本は気にするから少子化とか高齢化とかで悩むんだぜ?」
妙な迫力で迫るユウイチ。そのせいでセシリアは折れた。
「そうですわね。頑張ってみますわ!」
張り切って足を速めるセシリアを眺めながらユウイチはニヤける。
「頑張れよ。」
食堂に到着するとパーティーみたいな感じな場所になって行た。壁を見ると『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書いた紙がかけてある。
「と言うわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!!」
「おめでとう!!」
パンパン!とクラッカーが鳴らされる。そのパーティーの中心人物の一夏は暗い顔をしているが。
「やれやれ・・・。」
気付くとユウイチの近くにいたセシリアはいつの間にか、先に来ていたキラの横に座っていた。ラクスとセシリアに挟まれているキラの額には嫌な汗が滲み出ていた。
「ふっ、羨ましいよ。」
適当に飲み物を飲んでいると新聞部の部長らしき人物がやってくる。
「はいはーい!新聞部でーす!話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました〜!」
オーと一同盛り上がる。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長をやってまーす。はいこれ名刺。」
そう言って彼女は一夏に名刺を渡す。
「では、ズバリ織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「え〜と。まぁ、なんとか頑張ります。」
「えー、もっといいコメント頂戴よ〜。俺に触ると火傷するぜ!とか。」
「自分、不器用ですから。」
「うわっ!前時代的!じゃあまあ、適当にねつ造してくから。」
その後も、他の専用機持ち達にもインタビューを貰いに行くが大したコメントは貰えなかった様だ。
「まぁ、いいわ。専用機持ち達はここに来て!写真を撮るから。」
すると、急に何故かセシリアはイソイソとし出す。
「あの、撮った写真はいただけますわよね、
」
「勿論!さぁ、並んで並んで!」
そう言って薫子は専用機持ち達五人を一箇所に固めた後、カメラを向ける。
「それじゃあ、撮るよ。35×51÷24は〜?」
「え?2?」
「ぶー!74・375でした〜!」
バシャっとデジカメのシャッターが切られる。すると、その瞬間に一組の全メンバーが五人の周りに集結していた。
「なんで全員入ってるんだ?」
「あ、貴女達ねぇっ!?」
「まーまーまーっ!?」
怒るセシリアにそれをなだめるクラスメイト達。キラ達は久しぶりに賑やかな夜を過ごしたのだった。
今、思うと今の時点で専用機五機って多いな。
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第六話「セカンド幼馴染」
キラとセシリアの戦いから数日後の事。クラスではお隣のクラスに新しく転入生が入ってくるという事の話題でもちきりであった。
「おはよー織斑君!転入生の話を聞いた?」
「いや?」
後ろにいるキラ達は既に知っていた。これほど噂になっているのだ、知らないわけがない。話によるとどうやら中国の代表候補生と言う話らしい。それに結構腕が良いらしい。
「こんな時期に転入生とは珍しいな。」
「しかも、代表候補生でクラス代表なんだよね?ということは織斑君と激突するってこと?」
これも噂だが、どうやらその代表候補生はお隣の二組のクラス代表を説得してクラス代表になったらしいとの事だ。
「あんま激突はしたくはないかな・・・」
一夏がぼやいていると、ボサボサ頭のユウイチがクラスに入って来た。
「ふああ、うい〜っす。」
「おはようユウイチ。また夜遅くまで起きてたの?」
「へへ、まぁな。」
すると、クラスの騒がしさを疑問に思ったのか彼は首を傾げる。
「なんの騒ぎだ?」
「それがですね、代表候補生の方がお隣のクラス代表になられたとの事で・・・。」
「ふぅ〜ん、興味な〜し。」
そう言って彼は自分の席に向かおうとした時、いきなり何者かがユウイチの脇腹に強烈なケリを入れた。
「うぎゃっ!!!」
「ユウイチ!?」
「ユウイチさん?」
「大丈夫か?」
変な声を上げて崩れ落ちるユウイチを尻目にみんなは入口に目を向ける。そこに居たのはアジア系の女の子だった。しかし、日本人ではない。恐らく、中国であろう。
「いろいろ噂になっているだろうけど、私がその代表候補生よ!!」
件の代表候補生の登場にクラスの注目が注がれる。
「私がクラス代表になったからにはクラス対抗戦は簡単には優勝出来ないから!!」
その自信たっぷりな表情にクラス全員が唖然とした表情で彼女を見つめる。しかし、一夏だけがべつの表情で彼女を見つめていた。
「鈴?お前、鈴か?」
どうやら彼女と一夏は知り合いらしい。
「そうよ!中国代表候補生、凰鈴音!今日は宣戦布告に来たってわけ。」
「なにカッコつけてるんだ?似合わないぞ?」
「んなっ?なんてこと言うのよっ!」
二人がそんなやりとりをしていると彼女の背後にある人物が現れた。その人物を見た瞬間、生徒達が固まった。
「おい。」
「何よっ!」
バシンっ!!!
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ。」
現れたのは千冬だった。彼女を見た瞬間、鈴は後ずさりする。どうやら、彼女は千冬の事が苦手らしい。
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。邪魔だ。」
「す、すみません。」
そう言って彼女は素早く二組の教室に戻っていった。その瞬間、箒がと他の生徒が一夏に詰め寄った。
「一夏っ!今のは誰だっ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」
バシン、バシバシバシン。彼女たちの頭に出席簿アタックが炸裂する。
「席に着け馬鹿者。ほら、レイヴンもだ。」
千冬は容赦なく倒れているユウイチにケリを入れた。
「ぎゃあああああっ!!!!」
哀れ。朝からユウイチは災難であったのであった。
そして、昼休み。鈴と一夏は食堂でお昼ご飯を食べていた。そんな二人を多くの女子生徒達が心配そうにまたは、興味津々に見守っている。
「あのさ・・・一夏。ISの操縦・・見てあげるけど?」
「いや、いいよ。」
あまりの速さのお断りの返事に鈴は憤慨しながら一夏に詰め寄る。
「だって、俺。あの二人に見てもらってるんだ。」
そう言って一夏は何やらジャンケンをしているユウイチとキラを見つめた。
「ああ、篠ノ之博士が発表した一夏以外の男性操縦者ね。」
「そうだ。あの二人めっちゃ強いんだぜ。千冬姉ぇも勝てるかどうかわからないって言ってた。」
「あの千冬さんが・・・」
恐怖の対象である千冬でさえ勝てるかわからないと言った相手。鈴はつばをゴクんと飲む。
「わかったわ。」
そう言って彼女は二人のところへ向かった。
「ねぇ、ちょっといい?」
「はい?」
「んん?」
当然と言えば当然だが、此方に向き直った二人にほんの少しビビる。しかし、そんな事では鈴は止まらない。
「一夏から聞いたんだけど、あんた達は千冬さんよりも強いらしいじゃない。クラス対抗戦が終わったらあんた達二人共相手にしてあげるから、楽しみにして待ってなさいよね。」
そう言うと彼女は勢い良く食堂を出て行ってしまった。残された一夏に箒が詰め寄る。
「一夏!これはどういう事だ!?あの女は何者なんだ!!?」
「鈴は幼馴染で・・・。」
「なんだとぉぉぉ!!?」
一夏の首を思いっきり絞める箒を止めに掛かるキラとラクスとセシリア。それらをユウイチは眺めながら呟いた。
「やれやれ、また面倒な事になったな。」
因みにその日の夜も当然のごとく、問題が起きていた。鈴が箒に向かって部屋を代われと言ってひどくモメタらしい。それを聞いたキラは部屋で一人溜息を吐きながら一夏に同情する。そして、彼のパソコンの画面にはアリーナのピットに取り付けられた監視カメラの映像が映し出されていた。そこでは鈴と一夏と箒がいる。音声は聞こえないが、何やら話しているようだ。鈴のちょっと紅潮した顔を見る限り、キラはなるほどと呟く。しかし、一夏が余計な事を言ったのか分からないが鈴がいきなり腕に部分展開したISで壁を殴りつける。鋼鉄の壁は不自然な形で変形した。急ぎ足でピットを出て行く鈴とそれを後ろから眺める一夏と箒。それらを画面越しに見つめながらキラはゆっくりと呟いた。
「一夏、大変だね。」
キラや一夏達がそんな事をやっている時、日本海ではあることが起きていた。ストライク・フリーダムとアイズ・フリーダムと同じタイプのISが浮かんでいた。いや、IS化したMSが浮かんでいた。アルファ・アレスである。その手にはボロボロにISが握らていた。
「こちら、ヴァイス。アダム聞こえるか?」
『こちら、アダム。どうした?」
アルファ・アレスを身に纏うヴァイスは苦笑しながら、ボロボロのISを見つめた。
「いやぁ、日本海でな。奇襲してきたISがいてな。倒したんだけど・・・。このIS、ゴーレムだった・・・。」
『ゴーレム?まさか、篠ノ之束が新しく作ってIS学園のクラス対抗戦に乱入させる筈だったあのゴーレムか!??』
「ああ・・・」
通信画面越しの金髪の男は深〜く、深〜く溜息を吐いた。
『何やってんだよ。まだ、今の段階では他の世界の歴史には介入してはいけなのは知ってるだろう!?』
「そんな事は分かってる!!しかし、この世界にキラ・ヤマト達を送り込んだ時点でこの世界の歴史を狂わせてる!」
『とにかく、代わりをIS学園に送り込まなければな。手配するよ。』
「ああ、頼む。」
アダムが通信を切るとヴァイスはホッとした感じでアレスのブースターに吹かす。
「キラ・ヤマト・・・どう出るかな?」
ゴーレムを掴んでる右手に力を入れる。すると、ゴーレムはミシミシと嫌な音を出したかと思えば粉々になって爆発してしまった。しかし、ヴァイスは気にも止めずに愛機と共に日本を目指した。
次回は企業連の敵VS一夏&鈴
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第七話『侵入者』
クラス対抗戦当日。一夏と鈴はアリーナの中央で向かいあっていた。注目の二人が戦うという事でアリーナの席は超満員だった。
「一夏!今、ここで許してくれって言うなら手加減してもいいわよ。
「雀の涙くらいだろ?言わねぇよ。」
「ふ〜ん、後悔しても知らないんだから。」
鈴のISは『甲龍』。セシリアのブルー・ティアーズと同じ特殊装備搭載型近接戦闘IS。しかし、その実力は未知数である。
「行くわよっ!」
「来いっ!」
その瞬間、甲龍の両肩の非固定浮遊部位のスパイクが着いた丸いアーマーが縦に割れる。それを見ていた一夏は何かを感じて急いで緊急回避行動を取る。すると、何かが一夏を掠めて地面を抉った。
「なっ、何ですの!?あれは?」
ピット内のオペレーター室では謎の攻撃にセシリアが驚きの声を挙げていた。そのセシリアに真耶が淡々と説明する。
「衝撃砲ですね。空間自体に圧力を掛けてそれ自体を砲弾として撃ち出す。」
「セシリアと同じ第3世代の兵器だよ。」
「特に厄介なのは砲弾も砲身も見えないと言う事だ。回避するには感じるしかないな。」
「一夏・・・。」
心配そうに見つめる箒をラクスが優しい眼差しで見つめていた。
「初撃を回避するなんてやるじゃない。龍砲は砲身も砲弾も見えないの特徴なのに。」
「おかげさんで。」
確かに最初の攻撃は危なかった。だが、一夏にはキラとユウイチの特訓がある。あの二人に比べれば全然大丈夫だ。
「今度はこっちから行くぞ!!」
一夏はそ
その手に白式唯一の武装である雪片弍型を呼び出し、レーザー刃を放出しながら突っ込んで行った。すると、鈴もその両手に青龍刀の様な近接兵器を召喚して向かってきた。
「はぁぁぁっ!!!」
「うおおおっっ!!」
実刃とレーザー刃がぶつかり合い、火花を散らす。しかし、鈴は二つの青龍刀を巧みに使い、一夏を確実に追い詰めて行く。
「どう!?こいつの斬れ味は?」
「クソっ!!」
一夏は一旦離れて、間合いを探し始める。しかし、その間にも龍砲の連射によってその時間も潰されていった。龍砲は本当に厄介でどうやら射角がほぼ無制限で撃てるらしく、様々な方向から一夏を苦しめて行った。しかし、その時には既に一夏にはある秘策があった。それを見抜いてか、キラとユウイチが笑みを浮かべる。
「あいつ、あれを狙ってるな。」
「そうだね。」
「あれ?」
「俺とキラと織斑先生で覚えさせた切り札。『瞬時加速』だ。」
モニターを見てみると、今まで追い詰められていた一夏がもの凄いスピードで鈴に迫って行く所が映し出された。どうやら、あれが瞬時加速らしい。
「そして、もう一つ。白式の特徴的とも言える攻撃。『バリアー無効化攻撃』。」
「??? ?」
「この二つはとてもハイリスクですが、成功すれば一夏さんでも代表候補生と渡り合う事ができます。」
その時、鈴は正直焦っていた。今まで押されっぱなしだった一夏がいきなり凄いスピードで此方に接近してきたのだ。今、回避しなければやられる。
「何なのよ!?」
鈴は両手に持つ青龍刀を構えて迎撃に出た。そして、二機がぶつかろうと言う瞬間にそれは起きた。
ドゴォォォォォォンッ
「きゃああっ!!」
「なっ!!何だ?」
どうやら、何者かがアリーナのシールドを突き破ってきたらしい。そして、それはそのままアリーナの地面に大穴を開ける。
「おい、マジかよ!?」
「キラ、あれは・・・。」
「うん、あの機体は・・・。」
侵入して来た機体はコズミック・イラにいて、尚且つ企業連と戦った三人はよく知っている機体であった。
「なっ、なんだったの?」
「さぁ?」
けたたましくなるサイレンを聞きながらハイパーセンサーが捉えた情報を確認する二人。どうやら、こちらをロックしているらしい。
「所属不明のIS?」
「何者だお前?」
黒煙から出てきたのはISからかけ離れた姿のISであった。全身装甲で女性の様なシルエットと特徴的なバイザーカメラ、黒と薄い紫のカラーリングと背中にある六角形のパーツを合わせて出来たシールドの様なパーツ。右手に握られた大型ライフルと腰部に装備された本体と同じカラーリングの大型の刀。余りにも異形な敵機に身震いをしてしまう。そんな二人にキラから通信が入った。
『二人とも大丈夫?侵入して来た敵の情報を送るよ。一夏、鈴。しばらくしたら僕達が行くからそれまで頑張って。』
「ちょっと!あんた、あいつの事知ってんの!?ねぇ?」
しかし、通信は切られてしまった。どうやら敵機による通信妨害らしい。
「鈴!俺はこれから奴と戦う。お前は逃げろ。」
「逃げろですって!?誰に言ってんのよ?」
「じゃあ、やるか・・・。」
「上等!!」
二機は敵機に突っ込んで行く。キラが二人に送った情報によると敵は、型式番号ZERUSー356『ライジング』特徴的なのは肩に装備された反応爆発装甲と言われる装甲で作られた二つのシールドである。これに攻撃を加えると装甲に塗られたアルファ粒子が激しく反応し、爆発するという厄介な代物だである。ということは、あの機体は企業連の機体なのである。
「貴様ら、織斑一夏と凰鈴音だな?」
ライジングから発せられた声は一夏達よりも年上の女性の声。一夏は堪らず反論する。
「お前は誰だ!?なぜ、俺達の事を知っている?」
「私のコードネームはスカーレット。君達には死んでもらう。」
「上等じゃない!!」
逆上した鈴がライジングに龍砲を連射しながら突撃して行く。しかし、スカーレットは綺麗に身を捩りながら衝撃砲を回避して行く。しかし、鈴とてそんなことは分かっている。龍砲で隙を作り出し、そこを狙う算段なのだ。そして、それは順調に進んだ。
「そこぉぉっ!!」
限界まで接近して一気に青龍刀で決める気なのだ。しかし、ライジングの両肩のシールドを全面に展開。鈴の斬撃をシールドで受け止める。するとその瞬間、シールドの表面が爆発して炎と衝撃波が鈴と甲龍を包み込んでしまった。
「きゃああっ!!」
「鈴っ!!」
落下する鈴を受け止めて敵機との距離を伸ばす。その間にもスカーレットはビームライフルを連射して相手に隙を与えないでいた。
「ほらほら!逃げないと死んじゃうよ?」
「クソっ!!」
鈴を抱えながらジグザクに移動しながら攻撃を回避して行く。その逃げてる間にも二人はどう反撃するか考えていた。
「どうするの?」
「どうするって、射撃も回避されて接近戦もあのシールドで防がれる。どうしようもないな。」
「じゃあ、逃げる?」
「逃げねぇよ。」
二人は二手に別れて、左右から斬り込む。当然スカーレットは左右のシールドを展開して二人の攻撃を防いだ。
「クソ!やっぱりダメか!」
離れる一夏に急速接近して刀型にブレードで斬りつける。眩い火花が辺りを照らす。
「あのISは一体何なんですか!?」
真耶が必死にISのデータ覧と照合したが、一致はなかった。それは当然である。あの機体はこの世界には存在しないのだから。
「落ち着け。まずはコーヒーでも飲め。」
そう言って千冬は砂糖ではなく塩をコーヒーに入れてしまった。
「あの・・・それ、塩じゃ・・?」
「・・・・」
顔を赤らめる千冬、明らかに心配しているのがわかる。そんな光景を唖然として見ていたセシリアがある事に気付いた。
「あら?キラさん達は?」
キラ、箒、ユウイチ、ラクスの四人がいつの間にか消えていたのだ。
「ちょっ!どうすんのよ一夏!!」
「わからねぇっ!」
スカーレットが侵入して来てから長期戦になってしまった一夏と鈴。そろそろ二機のエネルギーも危険域だ。
「そうだ。なぁ、鈴。俺が合図したらあいつに向けて衝撃砲を全力で撃ってくれ。」
「良いけど、当たるか分からないわよ。」
「大丈夫だ。」
「じゃあ・。」
合図を行おうとした瞬間、一夏の耳にとんでもないものが聞こえてきた。
「一夏ぁっ!!!」
ハウリングを起こす程の大声。見ると中継室に箒がいた。ハイパーセンサーで箒を見るとハァハァと肩で息をし、表情も怒っているような焦っているような不思議な様相をしていた。
「男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
「うるさいわねぇ。子供は寝てなさい。」
箒の介入に気分を害したらしいスカーレットは目標を箒に変えて、ビームライフルを向ける。その銃口に光が集まっていくのが見えた。
「鈴っ!!やれ!」
「わ、分かったわよ!!」
両腕を下げて、肩を押し出すような格好で衝撃砲を構える鈴。最大出力砲撃を行うため、補佐用の力場展開翼が後部に広がった。そして、なんと一夏はその射線上に躍り出たのだ。
「ちょっ!ちょっと馬鹿!何してんのよ!?どきなさいよ!」
「いいから撃てっ!」
「ああもうっ!どうなっても知らないわよ!」
鈴は叫びながら衝撃砲を放つ。その弾丸は真っ直ぐ一夏の背中に当たる。そしてその瞬間、一夏は瞬時加速を発動させた。瞬時加速は後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる。慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する。考え方を変えれば、それは外部のエネルギーは外部のモノでもいいと言うことだ。
「オオッ!」
ワンオフアビリティー、『零落白夜』が発動して白式が黄金に輝いてライジングに物凄いスピードで突っ込んで行く。
「なに?あのスピードは!?」
「俺はっ、千冬姉を、箒を、鈴をっ!関わる人全てを守るっ!!」
振り下ろされた一撃はライジングに直撃する。しかし、スカーレットの驚異的な反射神経で一撃はビームライフルを斬り落としただけだった。
「なにっ!?」
「私のビームライフルを斬るとは褒めてあげるわ。」
ライジングは微笑みながら回し蹴りを一夏に当てる。吹っ飛ばされた一夏はビームの爆発によって出来たクレーターに直撃して止まった。
「最後のは驚いたわ。凄いじゃない。」
そう言って、彼女は両腰からブレードを抜いて一夏の首に刃を押し当てた。
「さぁ、死になさい。」
「そんな事はさせないよ。」
ドゴォォォォォン
いきなりアリーナの壁が爆発し、爆炎の中から現れた者がいた。キラ達のストライク・フリーダム、アイズ・フリーダム、エターナル・ウィンドである。
「貴方はキラ・ヤマトっ!?」
「キラっ!」
直ぐにエターナル・ウィンドを身に纏ったラクスが一夏に駆け寄り、エターナルと似た白い翼から光の膜を放出。一夏を包み込む。包み込まれた一夏の体は急速に傷の回復が行われて、白式も凄い速さで修理されていった。
「さて、スカーレットだな。開戦の時は世話になったな。」
「ええそうね。」
「退く事はできないのか?」
「無理よ。」
そう言って彼女はブレードを持ちながら二人に突撃して行く。ユウイチがビームライフルで弾幕を張り、キラが驚異的なスピードで接近する。
「くっ!!」
ユウイチが放ったビームをビームシールドで防ぐがキラの接近を許してしまった。
「これで終わりだよ。」
「くっ!」
瞬く間にブレード、爆発反応装甲シールドの接続部分をビームサーベルで斬ってしまった。
「そんなっ!?」
「さぁっ!次はどうする。」
「っ!!」
すると、スカーレットはライジングから緊急脱出。ライジングから出てきたのはちょっと背の高い黒髪ショートヘアの女性。パイロットを失ったライジングは自爆。跡形もなく爆発した。
「なるほど、ヴァイスが言ってた通りだわ。貴方達、強いわね。」
「ヴァイスだとっ!?」
「そうよ。私をここに送りこんだのも彼。」
「なら、あんたを捕まえねぇとな。」
「嫌よ。じゃあね。」
彼女がそう言うと彼女の背後に光の塊が現れて、彼女はその中に姿を消す。
「くっ!逃げられたか。」
「そうみたいですわね。」
後に残ったのは不安に支配された顔をしたキラ達と破壊されたアリーナだった。因みに、当然クラス対抗戦は中止。生徒達は嘆いたのだった。そして、その日の夜。学園をビルの屋上から眺めている人物がいた。ヴァイスである。
「ふぅ〜。スカーレットが機体を失うとはな。」
当然かと思いながらヴァイスのお気に入りの煙草。銘柄は『MEBIUS』に火を付ける。濃厚な煙を肺一杯に入れて、吐き出す。
「ふっ、キラ・ヤマト、ラクス・クライン。貴様達が必要なんだ。俺達の居場所を創るには。」
白い煙の向こう側の瞳は真っ直ぐIS学園を見つめていた。
次回はまだ未定です。
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第八話「疾風と氷」
クラス対抗戦から数日後、一組ではまたある事が起きていた。なんと、また転校生がやって来たのである。しかも二人も。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」
なんと、やって来たのは男。これには流石にクラスは騒がしくなる。
「男?」
「はい、この学園には僕と同じ境遇の方々がいらっしゃると聞いているのですが。」
「きゃあああああっ!!」
「フランスで、金髪で、美少年!!!」
「私、生まれてきて良かったぁぁっ!!」
うるさい、正直に言うとうるさい。クラス中が声を張り上げているのだ。流石にうるさい。
「あ〜、騒ぐな!静かにしろっ!!!」
めんどくさそうにぼやく千冬。まぁ、致し方あるまい。
「皆さん、静かにっ!まだ、自己紹介は終わってませんから!」
確かに、あともう一人。異様な人物がいる。輝く長髪に、医療用ではない眼帯。そして、その独特な気配でキラ達は悟った。軍人だと。
「挨拶をしろ、ラウラ。」
「はい、教官。」
氷を思わせる様な、冷たい声。その声に千冬は面倒くさそうに答える。
「ここではそう呼ぶな。織斑先生と呼べ。」
「了解しました。」
このやり取りから、恐らくドイツだと思われる。千冬は前にドイツで教官をしていたから。
「ラウラ・ヴォーデヴィッヒだ。」
沈黙。余りの短さにクラス一同が沈黙に徹してしまった。
「あ、あの以上ですか?」
「以上だ。」
冷たい表情のまま、ラウラは静かに一夏の方へ歩いて行く。そして、目の前まで来ると静かに口を開いた。
「貴様が・・・・。」
「 なに?」
パァン!
いきなりの事でまたクラス一同絶句してしまった。何と、ラウラが一夏を叩いたのだ。一夏も突然の事でなにがなんだか分からないという感じになっている。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか。」
「いきなり、何しやがる!!」
「ふん!!」
理由を言わず、ラウラはきた時と同じ様に自分の席に向かった。余りの出来事に反応し切れていないクラスに千冬の声が響き渡る。
「あー、ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。」
パンパンと手を叩いてクラスに行動を促す。女子達はラウラの行動に驚きながらも着替えを始めようとした。キラとユウイチと一夏は急いでクラスを出て行こうとした時、千冬に呼び止められた。
「ヤマト、織斑、レイヴン。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ?」
「君達三人が?初めまして、僕は・・・」
「自己紹介はいいから、早く行くぞ。」
「えっ?」
キョトンとなっているシャルルを強引に引っ張って更衣室を目指す。途中、女子達の妨害があったが何とか目的地に到着した。
「ふぅ〜、何とか着いたな。」
「そうだね。」
「はぁ、はぁ。」
「ゼェ、ゼェ。お、お前ら・・・何でそんなに足が速いんだ・・?」
二人の足の速さについてこれず息が上がっている二人。しかし、二人は分からずに?と言う顔をしてい。
「二人とも、早く着替えないとマズイよ。」
「そうだな。」
そう言って、三人は着替えを始める。すると、シャルルが何故か素っ頓狂な声を上げた。
「わぁっ!!!」
「っ!?」
「何だ!?」
「荷物でも忘れたのか?って、何で着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかも知れないが、ウチの担任はそりゃあ時間にうるさい人で」
「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて・・・ねっ?」
何か腑に落ちないが、ともかく四人は着替えを終了させてグラウンドに向かった。因みに着替えの途中で分かったのだがシャルルはどうやらフランスで一番大きいIS企業のデュノア社の息子らしい。
「では、本日から格闘及び射撃の実戦訓練を開始する。」
「はい!!」
一組と二組の合同授業なので人数はいつもの倍。正直うるさいというか姦しいというか。
「今日は戦闘を実戦してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。 凰!
オルコット!!」
何で私?と言う顔をする二人に千冬は容赦なく命令を下す。
「専用機持ちは直ぐに始められるからだ。いいから前に出ろ。」
二人は仕方なく前に出た。すると千冬はあることを二人に言った。
「お前ら、少しはやる気を出せ。あいつ等にいい所を見せられるぞ。」
その瞬間、セシリアと鈴の目つきが変わる。
「やはりここはイギリス代表候補生。私、セシリア・オルコットの出番ですわね。」
「まぁ、実力の違いを見せるいい機会よね。専用機持ちの。」
さっきとはえらく違うやる気である。恋はいつもハリケーンなのである。
「それで、相手はどちらに?私は鈴さんとの勝負でも構いませんが。
「ふふん、こっちのセリフ。返り討ちにしてあげるわ。」
「あわてるなバカども。対戦相手は。」
キィィィィン。何処からか耳をつんざく音が聞こえてくる。
「あああああ〜っ!どいて下さい!!」
上を見上げると、ISを装備した真耶がこちらに落下してくるのが見える。 助けなければグラウンドに真っ逆さまだ。
「ユウイチ!!」
「いいよキラ。俺が行く。」
ユウイチは直様、アイズ・フリーダムを展開するとバーニアを噴射して空中で受け止めた。受け止めた際の反動を制御して衝撃を軽くする。
「大丈夫っすか?先生?」
「は、はいっ!」
何故か分からないが真耶の顔が何処と無く赤い。気のせいだろうか。
「山田先生は元代表候補生だからな。小娘相手なら造作もない。」
「え?あの2対1で?」
「流石にそれはちょっと・・・」
「大丈夫だ。お前らならすぐ負ける。」
言われた事にムッとしたのか二人はすぐさま闘志に目を光らせ。上空に上がる。
「手加減はしませんわ!」
「直ぐに倒してあげる!!」
「い、行きますっ」
三人はあっという間に上空に上がり、戦闘を開始した。それを尻目に千冬は生徒達に新たなる説明をした。
「さて、今の間に・・・そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ。」
「あっ、はい!」
空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明を始めた。
「山田先生の使用されているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能をと高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISも中では最後発のでありながら世界第三位のシェアを持ち、七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています。特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立させています。装備によって格闘・射撃・防御と言った全タイプに切り替えが可能で、サードパーティーが多いことでも知られています。」
「ああ、いったんそこまででいい。終わるぞ。」
シャルルの見事な説明を止めた千冬は空を仰ぐ。すると、派手な爆発が起きて爆煙の中から赤と青の機体が絡まったまま地面に落下して行った。
「くっ!うう・・・。まさか、このわたくしが・・・。」
「あ、あんたねぇ・・・・なに、面白いように回避先読まれてんのよ。」
「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ。」
「ぐぐぐぐぐっ!」
「ぎぎぎぎぎっ!」
本人達にとっては本気なのだろうが、見ているこっちは実に可愛く見える。とにかく、その後は何ともなく授業を終了するのであった。
そして、放課後のこと。学校から寮までの道、ラクスとユウイチと言う珍しい組み合わせの二人がいた。いつもはキラがいるからである。因みに話題はシャルルの事。
「ユウイチ、シャルルさんのことで何か気づきませんでしたか?」
「ん?そうだなぁ・・・妙に女っぽいって感じかな?」
すると、ラクスがふふっと微笑む。
「な、なんだよ?」
「それは当然ですわ。シャルルさんは女の子ですもの。」
「な、なに!?それは本当か!!?」
「ええ、身体つきを見れば分かりますわ。」
流石はラクス。観察眼が尋常じゃない。しかし、男と偽って入学させるなどデュノア社も何を考えているのか。
「キラは知ってんのか?」
「ええ、恐らくですけどね。」
寮に付き、キラの部屋に入る。すると、中にセシリアとキラがいた。
「やぁ、二人とも。お帰り。」
「遅かったですわね。」
「ああ、ちょっとな。」
とにかく、二人にはことの次第を伝えた。
「ええ!?シャルルさんは女の方!?」
「ああ、そのことなら知ってるよ。」
やはり、キラは知っていたようだ。
「デュノア社のサーバーにアクセスしたんだけど、彼女の本名はシャルロット・デュノア。社長の愛人の娘らしいね。機体は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。何故、男と偽って入学したのかは分からなかったけど。」
「また、ハッキングか?それ、犯罪だって。」
「シャルルさんが女性・・・・」
「理由はご本人にお聞きした方がよろしそうですわね。」
話によると、一夏と同室になったらしい。ユウイチが一夏の部屋に行き、シャルロットを連れてくる。
「デュノア、いるか?」
「なに?」
ちょうどいたので彼女を借りる。
「借りてくぞ〜っ!!」
「あ、ああ、」
「ちょっ、ちょっと!!?」
半分、強引に連れてこられたシャルロットはキラの部屋に入った瞬間、重ぐるしい空気に身を縮こませる。
「そ、それで何の用かな?」
「実はですね、本当は女性である貴方がどうして、男の人としてこの学園に来たのかお聞きしたくて。ねぇ、シャルロット・デュノアさん。」
「っ!!!」
図星を突かれたシャルロットは身構えながら後ずさる。
「大丈夫だ。危害は加えない。」
「こっちも色々と問題があってね。理由ぐらいは知っとかないと。」
「しかし、返答しだいでは容赦はしませんわ!!」
「ちょっと、セシリア・・・。」
シャルロットは溜息を吐くと、その重い口を開いた。
「はぁ、まさか一日で見破られちゃうとはなぁ。」
「?」
「知ってると思うけど、僕は社長の愛人の子。父にあったのは二回くらい。会話は数回かな。普段は別邸で生活してるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。」
愛想笑いをするが、声は乾いていて笑ってはいない。そんなシャルロットに四人は何とも言えない表情になった。そんな表情見守られながらシャルロットは言葉を続ける。
「それから少し経ってデュノア社は経済危機に陥ったの。」
理由なら分かる。リヴァイヴは所詮第二世代型。ISの開発は金が掛かる。殆どの企業は国からの支援があってやっと成り立っている。しかも、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているから第3世代型の開発は急務を要する。国防の為もあるが資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるのだ。
「デュノア社は第3世代型を開発していたんだけど元々、遅れに遅れをとって第二世代型の最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなかの形にならなかったんだよ。それで、政府から予算を大幅にカットされたの。そして、トライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの。」
その苦しい状況下の中で現れたのが、男性でありながらISを動かせる人間。つまり、一夏達だ。それなら、シャルロットが男装して来たのもうなづける。注目を集める為の広告と男として接近し、可能ならデータを奪う。
「僕はね。君達のデータを盗んで来いって言われたの。あの人に。」
うっすらと涙を浮かべる彼女にキラ達は苦虫を噛み潰した様な表情になった。彼女は父親に利用されているのだ。愛人の子だからか分からぬが怒りすら覚える。自らが生み出した命であるのに。
「それで、シャルロットさんはどうするんですの?」
「僕は本国に連れ戻されるだろうね。デュノア社は、まぁ、潰れるか他企業の傘下に入るか、どの道今までにようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな。」
「「「「・・・・」」」」
「ああ、何だか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついててゴメン。」
深々と頭を下げるシャルロット。だが、キラ達は何か腑に落ちない点があった。
「だが・・・・」
「君はそれでいいの!?」
「えっ!?」
シャルロットの腕を掴んで鬼気迫る勢いで彼女に詰め寄るキラ。それにビックリするセシリアとシャルロット。
「キラさん・・・・?」
「確かに、親が居なければ子供は生まれない。でも生き方まで決める権利はないと思うよっ!!」
もしかしたらキラはこの時、自分とシャルロットを重ねてしまったのかも知れない。スーパーコーディネーターとして、生みの親であるユーレン・ヒビキに創り出された自分と。彼が生きていたらもしかしたらシャルロットと同じ道を歩んでいたかもしれない自分と。
「事の次第を知ったらフランス政府はお前の事を奪いに来るだろう。」
「そんなことになったらシャルロットさんは牢屋行きですわ。」
「本当にそれでいいの。」
「僕には選ぶ権利は無い・・・」
そう言うシャルロットにキラは優しい微笑みを返す。夕陽に包まれながら。
「なら、ここにいて。」
「えっ!」
「ここに入れば、フランスは君に何も出来ない。」
「キラさん!特記事項第二十一ですわ!」
特記事項第二十一。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとす。
「それでも、君に何かしようとしてきたら・・・・僕が護る。」
「キラ・・・。」
瞬間、シャルロットの顔が真っ赤になった。それでも、シャルロットは今度は本物の笑顔で言葉を紡ぎ出した。
「キラ、優しいね。ありがとう・・・・。護るって言ってくれて。」
キラの胸に顔を埋めるシャルロットを見ながらセシリアとラクスは複雑な表情をしていた。
(ふっ、荒れるな。この四人。)
ユウイチが鼻で笑ってはいると、シャルロットがいきなりキラの胸から顔を離してあることを言い出した。
「そうだ!一つ言い忘れてた。実はキラ達に近づいたのはもう一つ理由があるんだっ!」
「????」
「実は日本に来る前に、家に男の人が訪ねて来たの。」
「男の人?」
「うん、その人が僕にあることを言ってきたんだ。」
『もし君がキラ・ヤマト、ラクス・クライン、ユウイチ・S・レイヴンの情報を逐一、送ってくれるんなら我々はデュノア社に莫大な資金援助と設備提供を約束する。もちろん、君個人にも。どうする?シャルロット・デュノア君。』
「・・・・」
その男の正体も気になるが、問題は情報提供に一夏が含まれてはいないと言う事。キラ達三人のみというのは引っかかる。
「そいつ、名前言ってたか?」
「いや、ある企業に所属しているとだけ。あと、眼帯をしていたよ。ボーデヴィッヒさんみたいな。」
それを聞いた瞬間、キラ達に動揺が走る。キラ達のこんな動揺の仕方を見たことがないセシリアが疑問の声を上げた。
「キラさん、ラクスさん!?」
「間違いない・・・奴だ。」
「そうだね・・・。」
「キラ・・・彼が。」
話について来れていないセシリアが声を張り上げる。
「その方が何ですの!?」
「その男のコードネームはヴァイス。企業に所属している傭兵で、とても危険な男だよ。」
「奴め、何のために?」
キラは静かに窓の向こう側を見る。その向こう側では既に夜の帳が降り始めていた。
丁度その頃、デュノア社の社長室ではデュノア社長がある男と会談していた。
「うん、いいワインですな。デュノア社長。」
「まさか、君が来るとはね。」
社長が会談しているのはヴァイス。キラ達の敵。
「今入った情報だと。シャルロットさんは失敗したようですな。」
「っ!やはりか使えない奴め。」
「おやおや、酷い人ですな。貴方が創られた命でしょう?ともかく、彼女は失敗した。その意味がお分かりですな?」
それはつまり、デュノア社には未来がないという事。
「分かっておる。」
「それは話が早い。未来の無いデュノア社には我々企業連の傘下に入って貰います。勿論、今までと変わらずにやって行って貰って構いません。資金援助もします。ただし。」
「ただし?」
するとヴァイスは社長にあるデータを渡した。
「デュノア社はもうISを作ることをやめてもらいます。代わりにISを超える人型兵器MSを開発して貰う。」
「ISを超える兵器だと!?そんなものが?しかし、それだけのモノを世界は受け入れるか?」
「受け入れるさ。クソな条約であれだけの力を持て余してるんだ。たとえ、受け入れなくても水面下では欲しがる筈だ。」
それから、暫くして会社からヴァイスが出て来た。そして、電話を掛ける。
「アダム、デュノア社は企業連に参加する。これでまた一つ計画に近づいたな。」
電話を切ったヴァイスは静かに煙草に火を付けながら空を仰ぐ。空は曇っていた。
次回はどうしよう?
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