ポケットモンスター-黒衣の先導者- (ウォセ)
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※注意書き

皆さんおはこんばんにちは。

三点リーダと申します。

 

今回アニメ版ポケットモンスターの小説をオリ主込みで再構成して投稿したいと思っています。

 

再構成と言っても基本的にはアニメ遵守ですし、オリ主以外のキャラクターの活躍も描いていきたいと思っています。

 

私はサトシもピカチュウもカスミもタケシもムサシ、コジロウ、ニャースもハルカもマサトもヒカリも…皆大好きですから!

 

しかしアニメの物語を大筋は変えずに展開を変えていったり、オリジナルの話も考えていこうと思っています。

 

最近ポケモンに再びハマっていて(今更)ポケモンを一挙再視聴しています!

 

そして思った事が幾つかありました…

 

ラグラージさんとかボスゴドラさんとか私の好きなポケモンを悪者扱いするなよぉ!(涙)

 

ラグラージやボスゴドラといった私の好きなポケモンが不遇な扱いだったり悪者だったりしてちょっと納得できなかったので自分で小説を書いてみることにしました。

 

そしてオリ主の事ですが、それなりの実力者として描いていきたいと思います。

 

具体的な強さは四天王クラスでしょうか(笑)

 

アニメの四天王はかなり強力ですが、それに負けず劣らずという実力でいきたいと思いますが、決して最強や無敵ではありません。

 

なのでオリ主最強が好きな方はご注意下さい。

 

そして大事な事ですがアドバンスジェネレーション、ホウエン地方の旅から始まりますが、オメガルビーアルファサファイアの要素を含みますのでメガシンカ等もしていきますのでメガシンカが苦手という方もご注意下さい。

 

また大事な事なのですが…「タケシの出番が少ない」です。これはオリ主のポジションがタケシと同じような、ポケモンや技の解説を行い、また旅の兄貴分というポジションになるからです。

 

決してタケシが嫌いな訳ではありません! 寧ろ私はタケシ大好きです!w

 

 

 

-纏めると-

 

・アニメの話の改変があります。またオリジナル話もあります。

 

・アニメ不遇のポケモンにスポットライトを当てていきたいと思っています。

 

・オメガルビーアルファサファイアの流れを汲み、メガシンカしていきます。

 

・オリ主は四天王並みの実力を持っています。

 

・タケシの出番が少ないです。

 

 

 

頑張って執筆しますので皆さん暖かく見守って下さい。

 

読者の皆さんのご意見も可能な限り反映していきたいと思います。なのでこんなオリジナル話が見て見たいと思ったり、このポケモンを活躍させて欲しいという意見がありましたら是非感想欄にお書き下さい。

 

それでは長々と失礼しました。本編をお楽しみ下さい!



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主人公経歴・手持ちポケモン ※ネタバレあり

多少のネタバレがあるので本編を読んでから見る事をオススメします。
またポケモンの各種技や特性等も記載しておくので確認したかったら見て下さい。
随時更新していきます。


名前:ソラト

年齢:15

出身:トウカシティ

 

5年前にホウエン地方のトウカシティから旅立った。

黒いフード付きのコートを愛用しており、黒髪黒目の端正な顔立ちの青年。

 

妙なセンスでポケモンのきぐるみを見て羨ましがったりロケット団の気球やメカを見て「イカす」と思うような所もある。

 

父親であるアラシを探しに旅立った。

その目的はアラシが消息不明になり行方知れずになっていた間に母親であるソヨカが、最期に『あの人に会いたい』と言ったため墓の前に連れてきて最期にいなかった事を謝らせるためにアラシを探している。

 

ポケモンバトルの実力は高く、その実力はチャンピオンには及ばないがそれに近いほど。

ポケモンを出す時の掛け声は「○○、バトルの時間だ!」。○○にはポケモンの名前が入る。

 

 

 

また、波動使いとしての素質も持っている。

しかし本人曰く波動使いとしての実力は素人に毛が生えた程度らしく、できる事は

・近くの波動を感じること。

・波動の流れを感じて感情を把握すること。

・波動の受け渡し。

のみらしい。

 

・カイナシティにおいて相手の波動に波長を合わせて深層心理を覗き見る事ができるようになった。

 

 

 

経歴

ホウエンリーグサイユウ大会 ベスト4(5年前)

ポケモンコンテストハジツゲ大会 優勝(5年前)

ポケモンコンテストシダケ大会 優勝(5年前)

ポケモンコンテストミナモ大会 優勝(5年前)

ポケモンコンテストクロスゲート大会 優勝(5年前)

ポケモンコンテストヒワマキ大会 優勝(5年前)

ポケモンコンテストグランドフェスティバル ベスト4(5年前)

 

???

 

 

 

所持ポケモン

 

ラグラージ

NN:スイゲツ ♂

タイプ:みず/じめん

特性:げきりゅう

性格:ゆうかん

覚えている技

マッドショット/たきのぼり/まもる/グロウパンチ

 

ニックネームは「水月」。

ソラトが旅立つ際にオダマキ博士から譲り受けたホウエン地方の初心者用ポケモンであるミズゴロウから進化した相棒。

ゆうかんな性格で相性が悪い相手や自分より巨大な体を持つポケモンにも怯まない。

ソラトとは硬い絆で結ばれている。

ソラトを背に乗せて海などの水辺を移動できる。

またメガシンカが可能であり、メガラグラージとしてもバトルできる。

 

 

 

ラティアス

NN:ムゲン ♀

タイプ:ドラゴン/エスパー

特性:ふゆう

性格:おくびょう

覚えている技

???/???/???/???

 

ニックネームは「夢幻」。

ソラトがむげん島で出会った幻のポケモン。

兄であるラティオスがソラトの父、アラシについていったため、ラティオスを追いかけるためにソラトと共に旅立った。

臆病で引っ込み思案だが、必要な時には勇気を持って相手に立ち向かう。

 

 

 

キノガッサ

NN:キノコ ♂

タイプ:くさ/かくとう

特性:ほうし

性格:せっかち

覚えている技

マッハパンチ/かみなりパンチ/エナジーボール/しびれごな

 

ニックネームは「茸」。

ソラトがカナズミシティの近くの森でゲットしたキノココが進化した仲間。

せっかちな性格で何事にもスピードを求め、いつでもバトルをしたがっている。

そのバトル好きな性格にはソラトも時々悩まされている。

 

 

 

ミロカロス

NN:シズク ♀

タイプ:みず

特性:メロメロボディ

性格:おだやか

覚えている技

みずのはどう/れいとうビーム/あまごい/ドラゴンテール

 

ニックネームは「雫」。

ソラトがホウエン地方のある川辺でゲットしたヒンバスが進化した仲間。

おだやかな性格で皆を見守るお姉さん的なポケモン。だがソラトとの出会いがきっかけでサジンと同じくソラトが大好き。

スイゲツと同じくソラトを乗せて水辺や海を渡る事ができる。

大型なので数人乗せて海を渡る事も可能。

 

 

 

サーナイト

NN:レイ ♀

タイプ:エスパー/フェアリー

特性:トレース

性格:ひかえめ

覚えている技

サイコキネシス/めいそう/ドレインキッス/ハイパーボイス

 

ニックネームは「霊」。

ソラトがトウカシティの近くの森でゲットしたラルトスが進化した仲間。

フウジンと同じく最初期の仲間のためソラトの信頼は厚い。

またレイもソラトの事をとても信頼しており、シズクとサジンと同じようにソラトの事が大好きである。

 

 

 

ハッサム

NN:ザンゲツ ♂

タイプ:むし/はがね

特性:テクニシャン

性格:まじめ

覚えている技

バレットパンチ/れんぞくぎり/ダブルアタック/つるぎのまい

 

ニックネームは「斬月」。

元々はジョウト地方にいたトレーナーのポケモンだったが金銭目的で進化させられて売買された。

ブローカーの元から逃げ出しホウエンにやって来ると憎しみから人を襲うようになる。

ソラトが憎しみをその身で受け止めたため怒りを納め、ソラトにゲットされた。

真面目で冗談の通じない性格のため、からかったりするのは厳禁である。

 

 

 

その他のポケモン

 

 

 

フライゴン

NN:サジン ♀

タイプ:ドラゴン/じめん

特性:ふゆう

性格:むじゃき

覚えている技

ドラゴンクロー/りゅうのいぶき/すなあらし/あなをほる

 

ニックネームは「砂塵」。

ソラトがホウエン地方の砂漠でゲットしたナックラーが進化した仲間。

むじゃきな性格で甘えん坊。ボールから出るとソラトに飛びついて甘えてしまう。だがバトルになるとスピードとパワーで強力な攻めを繰り出す。

ソラトを背に乗せて飛行して移動する事もできる。

 

 

 

ダーテング

NN:フウジン ♂

タイプ:くさ/あく

特性:ようりょくそ

性格:やんちゃ

覚えている技

リーフブレード/じんつうりき/かげぶんしん/???

 

ニックネームは「風神」。

ソラトが始めてバトルしてゲットしたタネボーが進化した仲間。

やんちゃな性格でバトル好き。技の構成にも隙が無く各能力が高くソラトの中でも戦闘能力が高い。

また初期メンバーという事もあり、ソラトからの信頼も厚い。

 

 

 

プラスル

NN:ライ ♂

タイプ:でんき

特性:プラス

性格:すなお

覚えている技

10万ボルト/まねっこ/てだすけ/アンコール

 

ニックネームは「雷」。マイナンのデンと合わせて「雷電」。

ソラトがホウエン地方のある森でマイナンのデンと一緒にゲットした仲間。

タッグバトルが得意で援護専門。

すなおな性格で自分の身より仲間の身を大切にしている。

時折ソラトの肩に乗って旅する事もある。

 

 

 

マイナン

NN:デン ♂

タイプ:でんき

特性:マイナス

性格:がんばりや

覚えている技

でんげきは/じゅうでん/てだすけ/でんこうせっか

 

ニックネームは「電」。プラスルのライと合わせて「雷電」。

ソラトがホウエン地方のある森でプラスルのライと一緒にゲットした仲間。

タッグバトルが得意で攻撃専門。

がんばりやな性格で仲間の期待に必死に応えようとする。

時折ソラトの肩に乗って旅する事もある。

 

 

 

ラプラス

NN:ヒョウカ ♂

タイプ:みず/こおり

特性:ちょすい

性格:のうてんき

覚えている技

こおりのつぶて/なみのり/れいとうビーム/ぜったいれいど

 

ニックネームは「氷菓」。

ソラトがある地方の氷海でゲットした仲間。

海が大好きで無邪気に泳ぎ回るのが大好きでソラトが海で旅をする際にはよくソラトを背に乗せて旅をする。

能天気な性格で、人やポケモンの話しを真に受けて時折ドジをしてしまう事も…。

 

 

 

ボスゴドラ

NN:クロガネ ♂

タイプ:はがね/いわ

特性:がんじょう

性格:なまいき

覚えている技

アイアンテール/メタルバースト/がんせきふうじ/てっぺき

 

ニックネームは「鉄」。

ソラトが石の洞窟でゲットしたココドラが進化した仲間。

ソラトの持つポケモンの中で最重量級のポケモンで、大型ポケモンとの戦闘では大活躍をする。

またソラトは個人的にボスゴドラが好きでありお気に入りのポケモン。

 

 

 

ウォーグル

NN:モウキン ♂

タイプ:ノーマル/ひこう

特性:するどいめ

性格:いじっぱり

覚えている技

ブレイブバード/ばかぢから/とんぼがえり/おいかぜ

 

ニックネームは「猛禽」。

ソラトがイッシュ地方で捕まえたワシボンが進化した仲間。

パワーが自慢で1度に人を2人掴んで遠くに運ぶ事もできるため、サジンと同じく空の旅も可能。

パッと見は見えないが体中に細かい傷があり、あえて直したがらない。

その体には今までの戦いの歴史が刻まれている…とかなんとか。

 

 

 

to be continued...



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新しい冒険 新しい仲間

此処はホウエン地方がトウカシティ。

今日ここで新たなるポケモントレーナーが生まれた…のだが…

 

「うわーん! ヤダヤダ~! ハルカもお兄ちゃんと一緒に行くかも~!!」

 

「だからダメだって…ハルカはまだ5歳だろ?」

 

「うわ~ん!」

 

黒いコートを着た少年にしがみ付きながら泣き喚く小さな少女が1人。

困り顔でどうしようかと考える黒衣の少年は助けを求めるような視線を近くにいる大人の男性に向けた。

男性は仕方がないとばかりに苦笑しながら少女の頭を撫でる。

 

「仕方ないさ。ハルカはまだ5歳だから旅に出るにはまだ早い。もう少し大人になるまで我慢しような」

 

「ヤダヤダ~! お兄ちゃんと離れたくないかも~!!」

 

「あと5年だよ。たった5年でハルカもすぐ大人になれるから、我慢しような」

 

男性が少女を抱きかかえて少年から引き離すと頭を撫でて落ち着かせる。

漸く少女が離れて解放された黒衣の少年は少女の泣き顔を覗き込む。

 

「じゃあ約束だ。5年経ってハルカが10歳になったら迎えに来るから、そしたら一緒に旅に行こうぜ」

 

「ぐす…わかったかも…」

 

「よし、約束だ」

 

黒衣の少年と少女は指きりをして、約束を硬く交わした。

 

「よし、行くかミズゴロウ!」

 

「ゴリョ!」

 

黒衣の少年は近くにいたぬまうおポケモンのミズゴロウに声をかけると、そのミズゴロウは力強く返事をした。

その返事に満足した黒衣の少年は目を閉じて深呼吸すると、目の前に伸びる街道と広大な森に向けて決意に満ちた瞳を向ける。

 

「絶対に見つけてやるからな…それじゃセンリさん、ハルカ、行ってきます!」

 

「ああ、気をつけてな!」

 

「5年後だよー! 待ってるかもー!」

 

こうして黒衣の少年は旅立った。

大切な人との約束を果たすため、大切な人を探しに――

 

 

 

~5年後~

 

 

 

時は経ち、ホウエン地方はミシロタウン。

ミシロタウンの港には各地方を行き来する多くの船が存在する。

だがその中で船を使わず、あるポケモンの背に乗ってこの町に近づいている黒いコートを着た青年が居た。コートに付いているフードを目深に被っているせいで青年の顔つきは分からないが、口角が上がり喜んでいるようだ。

 

「ラグァ!」

 

青年が乗っていたポケモン、ラグラージは水面から勢い良く飛び出すと水と共に宙を舞ってから港の桟橋に着地した。

 

「うーっしスイゲツ、帰ってきたな! ホウエンに!」

 

「ラグラグ!」

 

スイゲツと呼ばれたラグラージと黒衣の青年は軽くハイタッチをする。

 

「よし、それじゃまずオダマキ博士の所に行くか。山道だから海の旅はここまでだな。戻れスイゲツ!」

 

モンスターボールを取り出しラグラージに向けてビームを当て、ボールの中へ戻した青年は意気揚々とミシロタウンの町並みを進んで行った。

そして同時刻、ミシロタウンに到着したある船では…

 

「頑張れピカチュウ! すぐにポケモンセンターに連れて行ってやるからな!」

 

「ピ、ピカ…」

 

熱を出したようにうなされているピカチュウを抱えた赤い帽子を被った少年が、慌てた様子で船を降りてきた。

彼はポケモンマスターを目指す少年、サトシ。

新しい冒険と新しいポケモンとの出会いを求めて此処、ホウエン地方へやって来たのだが…旅の途中で相棒であるピカチュウの体調が悪化したのだった。

 

「すいません! ポケモンセンターはどこですか!?」

 

「え? この町にはポケモンセンターは無いんだよ」

 

「そんな!」

 

道行く人にポケモンセンターの場所を尋ねるも、残念な返答が帰ってきて焦るサトシ。

だがその間にもピカチュウの体調は悪化していく。

 

「ど、どうしたらいいんだ…」

 

「おい、そこのガキンチョ」

 

焦りのせいで思考が上手く回らないサトシだが、そんな彼の背中に声が掛けられる。

サトシが振り返ると、そこにはアロハシャツの前を全開にして肉体を晒し、短パンを履き、足はサンダルといったまるで南の島から帰ってきたような格好をした中年男性が居た。

少々癖毛の黒髪は所々跳ねており、口と顎にうっすらとした髭が生えている、一見してワイルドに見える男性だ。

 

「えっと、オレですか…?」

 

「そうそう、間抜けヅラのお前だ」

 

「ま、間抜けって…」

 

唐突に間抜けと言われて戸惑いと苛立を同時に感じるサトシだが、今はそれどころでは無いことを思い出す。

 

「すいません、オレ急いでるんです!」

 

「そのピカチュウ、帯電状態になってやがるな」

 

そう言ってピカチュウを何とかしようとその場を離れようとするサトシだが先ほどの男性からそう言われて走り出そうとした足を止める。

 

「わ、分かるんですか!?」

 

「おうよ、俺様は何でも知ってんだ」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる男性はサトシとピカチュウに近寄ると、右手を苦しむピカチュウに向けてかざす。

10秒ほどそうしていると、男はかざしていた手を下ろした。そして改めてサトシがピカチュウを見ると既に体調が回復したようで先ほどまで苦しそうにしていた息が落ち着いていた。

体調が良くなったからか、ピカチュウはすぐに目を覚ましてサトシを見ると笑顔になる。

 

「あぁ…ピカチュウ! 良かった!」

 

「ちゃぁ~」

 

「あ、あの! ありがとうございます!」

 

サトシはピカチュウを回復させてくれた男性にお礼を言うと、男性は再び不敵な笑みを浮かべて踵を返して歩き出した。

 

「あ、あの…」

 

「今のは貸しにしといてやるよ。またどっかで返しやがれ」

 

「…はい! ありがとうございます!」

 

「ピッカチュー!」

 

やがて男性は見えなくなり、サトシはピカチュウを肩に乗せ直す。

 

「不思議な人だったな、ピカチュウ」

 

「ピカピ」

 

「でも、あの人お前に何をしたんだろうな? 手をかざしてた様にしか見えなかったけど…」

 

「ピッカ! ピカピカチュ!」

 

不思議そうにするサトシだが、ピカチュウはとにかく元気になったことを腕に力を込めてアピールすると、サトシも笑ってとにかく良かったとピカチュウの頭を撫でる。

元来考えるのは得意ではないタイプのサトシは、分からないことはとりあえずスルーするのだ。

 

「そうだな、とにかくお前が元気になって良かった! それじゃまずはオダマキ博士の所に出発だ!」

 

「ピッピカチュ!」

 

こうしてサトシとピカチュウの、ホウエンリーグに向けての旅が始まったのだった。

 

 

 

所変わり、ここはミシロタウンの近くにあるとある山道。赤い自転車を漕いで街道を走る少女が1人いた。

 

「フンフフーン、初めてのポケモン♪ 初めての冒険♪」

 

機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら自転車を走らせている少女の名はハルカ。

今年で10歳になり晴れてポケモンが持てるようになり、今は初心者用のポケモンを受け取りに行く道中なのだ。

 

「なにより、久しぶりにお兄ちゃんに会えるかも! テンション上がってきたかも!」

 

ハルカは言葉に出しているお兄ちゃんと呼ぶ人物との再会を楽しみにしている様子である。

しかし注意散漫になっている彼女の後ろから迫る黒い影が…

 

「でもお兄ちゃんももっと帰ってきてくれてもいいかも。結局パパとのジム戦と、他の地方に行く時のお別れの時くらいしか帰ってこなかったもんなー」

 

「ヨマー…」

 

「へ?」

 

おどろおどろしい声に振り返ってみればそこにはガイコツのような顔に小さい黒い体。

おむかえポケモンのヨマワルだ。

普通に見ればある意味愛らしい姿をしたヨマワルだが、突然目の前に出てこられれば驚くのは必然。

つまり…

 

「ひゃあああああああっ!?」

 

「イヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

驚きのあまりハルカは自転車の運転が滅茶苦茶になり、急な坂を勢い良く下っていってしまう。

 

「きゃああああああ! あぶっ!」

 

「イシシシシ! ヨマー!」

 

ハルカは木に激突することでやっと止まる事ができたが、顔を強打してしまいその場に崩れ落ちた。

彼女が復活したのはそれからしばらく後だった…。

 

 

 

そしてミシロタウンの外れにはある研究所が存在している。

ホウエン地方のポケモン研究の第一人者であるオダマキ博士の研究所である。

 

「いやぁ、それにしても久しぶりだね。5年ぶりか」

 

「お久しぶりです、オダマキ博士」

 

研究所では先ほどラグラージに乗ってミシロタウンに着いた黒衣の青年がオダマキ博士と挨拶をしていた。

青年の傍らには先ほどのラグラージも居る。

 

「いやしかし、あの時のミズゴロウがこんなに立派なラグラージになるなんてな。やっぱりポケモンの進化素晴らしいな」

 

「そうですね。そして…それ以上の進化も…」

 

黒衣の青年は腕に付けているバングルに装着されている石を見つめると、オダマキ博士が目を輝かせる。

 

「それはまさか、キーストーンかい!?」

 

「はい、カロス地方へ行った時に手に入れたんです」

 

「うぉおお! ちょっとよく見せてくれないか!」

 

「うわったた、ちょっとオダマキ博士! 落ち着いて下さいよ!」

 

余程興奮しているのかオダマキ博士は青年のバングルを着けている腕を取ると強引に引っ張りバングルに装着してある石をまじまじと見つめる。

 

「おっと、すまないね。つい興奮してしまった…」

 

うっかりといった様子でオダマキ博士は謝罪するが、青年はフードの下で苦笑いを返す。

 

「そうだ、5年も旅してたんだ。そろそろアイツは見つかったのかい?」

 

「…まだ会えてはいません。でも、ホウエンに帰ってきてるって情報を掴みました。だからまたホウエンで旅しようと思ってます」

 

「そうか! そういえばもうすぐハルカちゃんが来る予定なんだよ。最初のポケモンを選びにね」

 

「ハルカか…大きくなってるんでしょうね。約束もありますし、少し待っててもいいですか?」

 

「ああ勿論さ」

 

そうして話をしていると研究所の外から「ごめんください」と声が聞こえる。

 

「おや、噂をすればかな? 悪いけどポケモンを準備してくるから玄関まで出て貰っていいかな?」

 

「お安い御用です」

 

その頃外ではピカチュウを連れたサトシが研究所の前まで来ていた。

ジョウトリーグで戦ったトレーナー、ハヅキの紹介により、サトシはまずオダマキ博士の研究所を訪れたのだ。

 

「ごめんくださーい!」

 

「ピカチュー!」

 

「はいはい、お待たせ…ってハルカじゃないな」

 

黒衣の青年がドアを開けるとそこには予想していた少女ではなくピカチュウを連れた見知らぬ少年、サトシが立っていた。

そしてサトシから見れば黒いコートを着てフードで顔を隠した怪しい男が出てきたのだ。

 

「あ、怪しい…!」

 

「ピカピ…!」

 

「えっと、何か用かな?」

 

「あっ、えっと、オダマキ博士ですか?」

 

「いや、俺はオダマキ博士の知り合いだよ。博士は中にいるけど会っていくか?」

 

「はい! 是非お願いします!」

 

黒衣の青年に案内されてサトシは研究所の中へ入って行った。

そしてその後姿を見送る3つの視線が…

 

「ジャリボーイ、あの建物に入っていったわね」

 

「あそこはオダマキ博士の研究所だな…ホウエン地方のポケモン研究の第一人者だな」

 

「という事は、ピカチュウの他にも珍しいポケモンがいるハズだニャ!」

 

カントー地方からサトシとピカチュウをずっと付け狙っているロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人組だ。

 

「じゃあそのポケモン達をゲットしてボスに送れば!」

 

「私たちの大手柄ってワケね!」

 

「「「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジー!」」」

 

「ソーナンス!!」

 

相変わらずの様子でピカチュウや他のポケモンを狙うズッコケ悪の組織である…。

そして中に入ったサトシは黒衣の青年の案内で研究所の奥にあるオダマキ博士の部屋へ連れられた。

 

「おや、君は…」

 

「こんにちはオダマキ博士。マサラタウンのサトシです。ハヅキさんに紹介されてお会いしに来ました」

 

「おお、そうだったのか。ホウエン地方は初めてかい?」

 

「はい。ホウエンリーグの出場のために、1から再スタートするんです」

 

「なるほど、ならばコレを持っていくといい」

 

そう言ってオダマキ博士はサトシに向けてある物を差し出した。

 

「これは…!」

 

「新モデルのポケモン図鑑さ。旅で役に立つだろうから持って行くといい」

 

「ありがとうございます!」

 

「そうだ、ソラト君にもポケモン図鑑を…」

 

「いえ、俺は大丈夫です。全国版ポケモン図鑑がありますから」

 

ソラトと呼ばれた黒衣の青年はサトシが貰ったポケモン図鑑とは別の形をしたポケモン図鑑を持っていた。

中々使い込まれている様で所々汚れが目立つが、大切に使われているのが分かる。

 

「ぜんこくばん…?」

 

「ピィカ?」

 

「この全国版ポケモン図鑑はアップデートを重ねてあるんだ。ホウエン地方だけじゃなくて他の様々な地方特有のポケモンでも検索できるんだ」

 

「へー、よく分かんないけどスゲー」

 

よく分かんないと言われて思わず苦笑いをするソラトだが、何となくサトシという少年の性格を察するのだった。

その様子を見ていたオダマキ博士は鞄の中から3つのモンスターボールを取り出した。

 

「そうだサトシ君。もし良かったらホウエン地方の初心者用のポケモン達を見ていくかい?」

 

「いいんですか!? お願いします!」

 

「よーしそれじゃ…」

 

オダマキ博士がモンスターボールに手をかけようとした瞬間、研究所の壁が爆発して壁が崩れる。

 

「な、何だ!?」

 

「な、何だ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

お決まりの口上を述べたロケット団の3人組は研究所内に侵入した。

 

「ロケット団! またお前らか!」

 

「ハーイ、ジャリボーイ」

 

「新地方にて俺達も新生ロケット団として活動するのさ」

 

ロケット団と顔見知りのサトシは至って普通に会話しているが、ロケット団は主にカントー地方、ジョウト地方で活動する組織だ。

ホウエン地方ではメジャーではない彼らの事を知らないソラトとオダマキ博士はポカンとした表情でロケット団の口上とやり取りを見ていた。

 

「誰だアレ?」

 

「ロケット団っていう、人のポケモンを奪う悪いヤツらです!」

 

「ロケット団? 博士ご存知ですか?」

 

「イヤ、聞いた事ないな」

 

「とにかく悪い奴らなんです!」

 

不思議そうにロケット団を見るソラトとオダマキ博士を見かねたサトシが大声で主張している間にロケット団の背後に巨大な影が現れる。

それは電池に手足が生えたかのような巨大なメカだった。

メカが現れると、ロケット団の3人は素早く飛び上がりメカに乗り込んだ。

 

「な、何だこれは!?」

 

「ニャーッハッハ! これぞロケット団対電気ポケモン捕獲メカ・デンデン電池くん2号だニャ! そらいくニャ!」

 

メカの腕が伸びるとあっという間にピカチュウを捕まえてしまう。

 

「ピカー!」

 

「あっ! ピカチュウ!」

 

「そっちも頂いていくニャー!」

 

もう片方の腕を伸ばすとオダマキ博士が用意したモンスターボールを纏めて掴んで掻っ攫っていっていまう。

 

「しまった! 初心者用のポケモン達が!」

 

「ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカーチュゥウウウ!!」

 

ピカチュウから10万ボルトが放たれメカに直撃するが、電撃はすぐに弾かれてしまう。

 

「そんな!?」

 

「いつも通り電撃対策はバッチリなのだ! このメカは電撃を吸収するのだ! それも今までより大容量だぜ!」

 

「さっさとズラかるわよ!」

 

「あっ! 待てロケット団!」

 

ロケット団のメカはピカチュウとモンスターボールを奪うとその足でヒョコヒョコと走り去っていく。

無論相棒のピカチュウを放っておくサトシではない。すぐにロケット団の後を追いかけていく。

 

「サトシ君! 他のポケモンは持っているのかい!?」

 

「今はピカチュウ以外には持ってません! でも、何とかやってみます!」

 

そう叫ぶとサトシはロケット団の去っていった方へ走って追いかけて行く。

あたふたしているオダマキ博士を尻目にソラトも壊れた壁から外へ飛び出してサトシとロケット団を追いかけて行く。

 

「ソ、ソラト君!」

 

「ポケモン達を取り返してきます! オダマキ博士はジュンサーさんに連絡を!」

 

「わ、分かった!」

 

そうしてサトシとソラトはロケット団を追いかけてミシロタウンの外れの森の中へと入って行った。

そして同じ頃、ようやく復活したハルカは自転車を漕ぎながら森の中を再び進んでいた。

 

「いたたた…もう、最悪かも」

 

先ほどぶつけた顔を押さえながら森を進むハルカだが、その正面から研究所から逃げてきたロケット団のメカが走って来ていた。

 

「えぇ!? 何アレ!?」

 

「どきなさーい!」

 

「どかないならぶっ飛ばしていくニャ!」

 

「きゃぁあああああああ!?」

 

「ニャハハハハ! ってどニャー!?」

 

ハルカを視認して尚スピードを緩めないメカにハルカはビックリ仰天してパニック状態になっている。

突然ロケット団のメカを避けれる筈もなくハルカはメカの足に激突してしまう。

ハルカは吹き飛ばされて街道の横に弾き出されてしまう。

だがハルカが乗っていた自転車はぶつかった衝撃でメカの足に引っかかり、そのせいでメカは転んでしまう。

そして片方の手に持っていたモンスターボール3つを落としてしまい、ハルカの近くへ転がった。

 

「いたたた…もう、ホント最悪かも~!」

 

「最悪かも~、じゃないわよ!」

 

「よくも邪魔してくれたな!」

 

「ニャ!? モンスターボールを落としちゃったニャ!」

 

体制を立て直したロケット団のメカがハルカの前に立ちはだかる。

目の前の怪しいメカと先ほどの衝突により何となくロケット団が悪い奴だと察したハルカは近くにあったモンスターボールを急いで拾って腕の中へ隠した。

 

「こら! そのモンスターボールは俺達のだぞ!」

 

「返すニャ!」

 

「どう見てもそんな風には見えないかも! そっちのポケモンも離してあげなさい!」

 

「ピカ…」

 

「ええいやかましい! こうなったらあのジャリガールごと持っていくわよ!」

 

未だにメカの腕に捕まっているピカチュウを指差してハルカは離すように叫ぶが、それがムサシの怒りに触れたのかハルカ目掛けてメカの腕を伸ばした。

 

「きゃああああああ!」

 

だがハルカはモンスターボールを抱えたまま森の中へ逃げ込んで行く。

 

「逃がすんじゃないわよニャース!」

 

「待て~! ロケット団!」

 

「いやサトシ君も待てって!」

 

「まずい、ジャリボーイだ」

 

「研究所にいた黒いヤツもいるニャ」

 

「とにかくあのジャリガールを追いかけるのよ!」

 

ロケット団を追いかけてきていたサトシとソラトも追いついて来ていた。

そしてロケット団はハルカを追いかけて森の茂みをかき分けて追いかけていく。

 

「あ~ん、どうしてこうなるの~!」

 

「待ちなさいそこのジャリガール!」

 

「モンスターボールを渡すニャ!」

 

「このままじゃ追いつかれちゃうかも…! きゃあっ!」

 

森の中を走って進んでいくハルカだが、崖に突き当たって立ち止まってしまう。

そして当然背後からはロケット団のメカが追いついてきてしまう。

 

「追い詰めたぜ!」

 

「さぁ、観念なさい!」

 

「ホウエン地方の初心者ポケモン、ゲットだニャ!」

 

(もうダメかも…!)

 

ロケット団のメカの腕が構えられ、すぐにでもハルカへと襲い掛かろうとしている。

ハルカは恐怖から目を瞑り、その場に座り込んでしまう。

そしてハルカの脳裏に浮かぶ幼い頃の約束。

ハルカが10歳になりトレーナーになる事ができたら、共に旅をするという兄のような人物と交わしたあの約束を。

 

「…助けて! お兄ちゃん!」

 

「ああ、任せな!」

 

メカの腕がハルカを掴む直前、黒い影がハルカを抱えて腕を避けた。

黒い影―ソラトはハルカを救うと、駆けつけた風でフードが外れてその素顔が露わになった。

 

目にかかるほどの短めの黒髪は癖毛なのか所々はねており、割と端整な顔立ちをした青年だった。

 

「ちょっと邪魔しないでよ!」

 

「お前、何者だ!?」

 

「別に何者でもねぇよ。バトルの時間だ、スイゲツ!」

 

「ラグラ!」

 

ロケット団の問いを軽くスルーすると、ソラトはモンスターボールを投げ、ラグラージのスイゲツが現れる。

 

「スイゲツ、マッドショットでピカチュウを助けるんだ!」

 

「ラグァアアア!」

 

スイゲツは口からマッドショットを放つとメカの腕に直撃すると、その場所から腕がちぎれてピカチュウを解放した。

 

「ピッカ!」

 

「ピカチュウ! よかった!」

 

そこへ丁度サトシが追いつきピカチュウはサトシへと飛びついた。

 

「ゲーッ! ピカチュウが逃げちゃったニャ!」

 

「大丈夫だって、このメカに攻撃は効かないんだろ」

 

「電撃以外の対策はしてないのニャ!」

 

「「えーっ!?」」

 

ピカチュウを逃がしてしまいメカの中でロケット団はパニック状態に陥ってしまう。更にラグラージへの対策ができてないと知り驚愕の嵐。

その間にピカチュウは体制を立て直し、ソラトは抱えていたハルカを地面に降ろしていた。

 

「大丈夫かハルカ?」

 

「えっと、お兄…ちゃん?」

 

「おう、5年ぶりだなハルカ。積もる話はあるが今は取り込み中だし、先にこっち片付けるぜ」

 

「あ、うん! そうかも!」

 

「ハルカ、その中のモンスターボールを1つ投げてみろ」

 

「分かったわ! それっ!」

 

ハルカが抱えていたモンスターボールを1つ選んで投げると、中から出てきたのはオレンジ色の体をした小さなひよこのようなポケモンだった。

ホウエン地方の初心者用ポケモンの1匹であり、ほのおタイプのアチャモである。

 

「わぁ、可愛いかも!」

 

「お、アチャモか!」

 

「あれがアチャモ…!」

 

サトシは早速先ほど貰ったポケモン図鑑を取り出してアチャモをサーチするとデータが検索される。

 

『アチャモ ひよこポケモン

トレーナーにくっついてチョコチョコ歩く。口から飛ばす炎は摂氏千℃。相手を黒コゲにする灼熱の弾だ。』

 

「へぇ、ほのおタイプなのか!」

 

「ハルカ、同時攻撃するぞ!」

 

「え、えっと…どうすればいいの?」

 

「技を指示するんだ! ひのこって言ってみろ」

 

「アチャモ、ひのこ!」

 

「よしスイゲツ、マッドショットだ!」

 

「チャモー!!」

 

「ラーグラァ!!」

 

スイゲツとアチャモのマッドショットとひのこが同時に放たれ、ロケット団のメカに直撃すると電撃以外の対策もされていない為、ボカン!と爆発してコックピットがむき出しになる。

これで電撃対策も意味を成さない。

 

「よし、トドメだピカチュウ! かみなりだ!」

 

「ピカ~ヂュゥウウウウウウウ!!」

 

「「「あばばばばばばばばばばばば!?」」」

 

かみなりによりメカが爆発してロケット団は吹き飛んでいく。

 

「せっかく上手くいくとこだったのにー!」

 

「絶対にピカチュウは諦めないわよ!」

 

「結局ホウエンでもこうなるのかニャ…」

 

「ソーナンス!」

 

「「「ヤなカンジ~!!!」」」

 

「ソーナンス!」

 

キラン☆

ホウエンの空に輝く星となり吹き飛んでいったロケット団はいつも通りヤなカンジとなって消えていった。

 

「無事でよかったぜ、ピカチュウ!」

 

「ピカチュウも初心者用のポケモンも無事で何よりだ。モンスターボールを守ってくれてありがとな、ハルカ」

 

「え、あ、うん…」

 

「ピカチュウを助けてくれてありがとうございます! えーっと…」

 

「そういや自己紹介がまだだったな。俺はソラト、こっちはラグラージのスイゲツだ。よろしくな」

 

「これがラグラージか!」

 

『ラグラージ ぬまうおポケモン

ミスゴロウの最終進化系。

重さ1トン以上ある岩の塊を軽々引っ張るパワーを持つポケモン。濁った水中も見通す視力を持つ。』

 

図鑑でラグラージを検索するとサトシは目を輝かせてスイゲツを見つめる。

 

「うわぁ~、さっきのワザもだけどすげぇパワーがあるんだな!」

 

「ああ、コイツのパワーはピカイチだぜ」

 

「スッゲェや!」

 

「褒めてくれてありがとな。さて…」

 

ソラトはハルカに向き直ると、ハルカは理由もなく気まずくなってしまい顔を逸らしてしまう。

持ち前の明るさで何かを言おうと思うも、何故かちゃんとした言葉にならずに口ごもる。

だがソラトはその様子を嬉しそうに見ていた。

 

「えっと、あの、その…」

 

「ハルカ」

 

「はっ、はい!」

 

挙動不審のハルカはソラトに声を掛けられるとドキッと心臓が跳ねて体が強張ってしまい動けなくなってしまった。

そんなハルカにソラトはスッと手を差し伸べた。

 

「約束通り、迎えに来たぜ」

 

「…! うん! 久しぶりお兄ちゃん!」

 

ハルカはソラトの言葉を聞くと満面の笑みを浮かべて手を取ってソラトに近づき、抱きついた。

 

「うおっと! ハハハ、大きくなったなハルカ!」

 

「ふふふ! ホント、久しぶりかも!」

 

 

 

ロケット団を吹き飛ばしてからしばらく後、サトシ達はオダマキ研究所へ戻ってきていた。

オダマキ博士が呼んだジュンサーさんもやって来ており、オダマキ博士の助手に事情聴取を行っていた。

そしてサトシ、ハルカ、ソラトの3人は研究所の部屋で初心者用ポケモン達のモンスターボールを返していた。

 

「いやぁ、ピカチュウもポケモン達も…とにかく皆が無事で良かったよ。ハルカちゃん、紹介するよ。今日カントー地方からやってきたサトシ君だ。サトシ君、こっちはトウカシティのハルカちゃんだ」

 

「俺サトシ、こっちは相棒のピカチュウだ。よろしくな」

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

「私はハルカ、よろしくね」

 

サトシとハルカは握手をしてお互いの自己紹介をする。

その横でオダマキ博士が渡されたモンスターボールを確認していると、思い出したという風にソラトが声を掛ける。

 

「そういやオダマキ博士、ハルカのポケモンの件は?」

 

「ああ! そうだったね。それじゃハルカちゃん、最初のポケモンを選んでくれ」

 

「はい、実はさっきのドタバタで決めたんです! 私、アチャモにします!」

 

「そうか、じゃあこれがアチャモのモンスターボールだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

先ほどのロケット団との戦いでアチャモを使った事によりアチャモの事が気に入ったハルカは、最初のポケモンをアチャモにしてモンスターボールを受け取った。

 

「これでハルカもトレーナーデビューだな! 俺達も負けてられないなピカチュウ!」

 

「ピカピカ!」

 

新トレーナーの誕生に決意を新たにするサトシとピカチュウも何故か燃えていた。

 

「それじゃ約束通り俺と一緒にこのホウエン地方の旅をするか、ハルカ」

 

「うん! よろしくねお兄ちゃん!」

 

(ウフフ、誰にも邪魔されずにお兄ちゃんと2人旅…! いいかも…!)

 

ハルカの脳裏にはソラトと2人でホウエン地方を旅している様子が浮かんでいる。

カナズミシティでの観光、ムロタウンでのバカンス、カイナシティでのショッピング、キンセツシティでも観光、フエンタウンでの温泉等々。

それはハルカの脳内で美化され、まるでデートのように…

 

「ウフ、ウフフフ、ウフ」

 

「ちょ、どうしたハルカ?」

 

妄想によりニヤけた顔になり、乙女にあるまじき表情になっていたためソラトを初め、サトシとオダマキ博士も若干引いていた。

 

「あっ、えっと…アハハ、何でもないかも」

 

「お、おう…」

 

と、そこへ先ほどのソラトとハルカの会話を思い出したサトシが会話に割り込むように2人に声を掛ける。

 

「2人はホウエン地方を旅するのか!? なら、俺と一緒に旅をしないか? 俺、ホウエンリーグの出場を目指してるんだ!」

 

「ふむ、俺は構わないけど」

 

「えーっ!?」

 

「ん? どうしたハルカ?」

 

サトシの誘いにすぐに了承の意を示したソラトと違い、ハルカは突然大声を出す。

突然の大声にソラトとサトシは不思議そうにハルカを見つめる。

 

「え、いやその…」

 

(ここで断ったらお兄ちゃんに変な風に思われちゃう! そしたら私の気持ちバレちゃうかも…!)

 

「い、いいわよ! 旅は大勢の方が楽しいかも!」

 

「それじゃ決まりだな」

 

「よーし、新しい仲間だぜピカチュウ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

こうして新たなる仲間を得たサトシとピカチュウ。

ホウエンリーグ出場を目指す彼らの冒険が、今始まったのだった。

 

 

to be continued...



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古代から来たポケモン! VSマグマ団

ホウエン地方で新しい冒険を始めたサトシは、ハルカとソラトという旅の仲間を得てホウエンリーグ出場を目指していた。

まず目指すのはコトキタウンだ。

だがその道中、ハルカは初めての野生のポケモンであるルリリを発見し、バトルを行おうとしていた。

 

「よーし、可愛いルリリ、必ずゲットかも!」

 

「頑張れよハルカ」

 

「ルリ?」

 

サトシとハルカはルリリと対面するハルカの後ろで待機しており、ハルカの初バトルを見守っていた。

 

「しっかしどっちかって言うとポケモンが苦手だったハルカがこんな風にバトルするとはな」

 

「えーっと確かゲットする前にバトルして弱らせるのよね。お願い、アチャモ!」

 

「ちゃんと勉強もしてたみたいだな。いきなりモンスターボール投げるんじゃないかと思ったぞ」

 

「ちょっとお兄ちゃん馬鹿にし過ぎかも! えーっとアチャモの使える技は…」

 

ハルカは腰のバッグからサトシと同じポケモン図鑑を取り出すとアチャモの技を確認する。

だが相手は野生のポケモンであり、待ったなどしてはくれない。ルリリは尻尾で弾みながらその場を去っていってしまう。

 

「おいハルカ! 逃げちゃうぞ!」

 

「あっ、ちょっと待ってルリリー!」

 

「チャモー」

 

「俺達も行こうぜソラト!」

 

「ああ」

 

森の奥へ弾み去ってしまうルリリを追いかけてハルカとアチャモも森の奥へと走って追いかけていく。

サトシとソラトもハルカ達を追いかけて走り出す。

そうして森を進んでいくと森を流れる小さな川に突き当たった。

 

「これで追い込んだわ。アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモー!」

 

炎の弾丸を放つルリリにクリーンヒットするが、それはルリリの背後に突然現れた2つの影にも当たってしまう。

 

「ルリー!」

 

「マリリ!」

 

「マリルリ!」

 

「ってアレ? なんだが増えてたかも…」

 

3つに増えた影は、ルリリの他にマリル、マリルリの物だった。

ルリリの進化系のマリルとマリルリは恐らくハルカが追いかけていたルリリの仲間だろう。アチャモのひのこを突然受けたマリル達は額に青筋マークを浮かべている。

 

「マリ!」

 

「マリルリ!」

 

「あはは、えーっと…ごめんね?」

 

「チャ、チャーモ?」

 

首を傾げて可愛らしく謝るハルカとアチャモだが、マリルリ達の青筋は消えなかった。

そしてマリルリ達3匹は大きく息を吸い込んだ。

 

「「「ルーリー!!」」」

 

「きゃああああああああっ!」

 

「チャモチャモー!」

 

「ハルカー、大丈夫か…ってどわぁあああああ!?」

 

「ピィカ!?」

 

「何だ? ってホントに何だ!?」

 

「「うぁああああああああああ!?」」

 

マリルリ達の合体みずでっぽうによりハルカはアチャモと共に吹き飛ばされてしまう。

そしてハルカ達を追いかけてきたサトシとソラトも撒き沿いを受けてしまい纏めて吹き飛ばされてしまった。

3人とピカチュウ、アチャモはみずでっぽうにより森の奥から街道近くまで押し戻されてしまう。

 

「あででで、何があったんだよハルカ~」

 

「水の技、強力かも~」

 

「あー…こりゃしばらく動けねぇな…」

 

吹き飛ばされた3人は目をグルグルに回しながら地面に倒れこんでしまい、そのまましばらく動けなかったのだった。

 

 

 

みずでっぽうからどうにか復活した3人はルリリのゲットは諦め、改めてコトキタウンを目指して街道を進んでいた。

だがハルカは先ほどルリリをゲットできなかったのが効いているのか俯きながらフラフラと歩いている。

しかもどんどんサトシとソラトから離れてしまっている。

 

「おい遅いぞハルカ」

 

「そんな疲れるほど歩いてねぇぞ」

 

サトシは早く次の町へ行きたいのかハルカを急かし、ソラトはやれやれと呆れた様子で後ろを振り返る。

だが体力が尽きてきたのか、とうとうハルカはその場に座り込んでしまう。

 

「だって~…自転車さえあればなぁ…」

 

「無い物ねだってもしょうがないだろ」

 

「はぁ~…」

 

ハルカの自転車は先日のロケット団とのゴタゴタで自転車を吹き飛ばされてしまった際に壊れてしまったのだ。

 

「もうダメ~、動けないかも…」

 

「まったく、これじゃ何時まで経っても次の町に着かないぞ」

 

「ハルカはグズると長いんだなこれが…。仕方が無い、ほらハルカ」

 

ソラトは背中に背負っていた肩掛けリュックを体の前に持ってくるとハルカの前にしゃがみ背中を差し出す。

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん。子供扱いしないでよ…」

 

「何言ってるんだ。昔はよくやってただろ?」

 

「だからそれ5年も前の話でしょ」

 

「じゃあ自分で歩くか?」

 

そう言われて脚の疲れを思い出したハルカは、少し頬を赤く染めながらソラトの背におぶられた。

 

「この感じも久しぶりだな」

 

「…そうね。昔は遊びつかれた私をお兄ちゃんがおぶって私を連れて帰ってくれたっけ」

 

「2人はホントに仲がいい兄妹なんだな」

 

ソラトとハルカの仲を見てそう漏らしたサトシだが、その言葉にソラトとハルカはきょとんとした表情でサトシを見返す。

 

「え、俺何か変なこと言ったか?」

 

そう問い返されて、2人はやっと納得がいったといった顔をする。

 

「私たち、ホントの兄妹じゃないのよ」

 

「え、そうなのか?」

 

「ああ、所謂幼馴染で兄妹分ってヤツだな。昔はよく野山を駆け回って遊んだモンだぜ」

 

「へー、そうだったんだ。幼馴染か…俺達もシゲルがいるからな、ピカチュウ」

 

「ピッカピカチュウ」

 

サトシは自分の幼馴染であり最大のライバルでもあるマサラタウンのシゲルを思い出す。

今頃何をしているのだろうか…。自分と同じ空を見上げているのだろうか…。

そう考えると色々な思い出が蘇ってくる…からかわれた事やケンカした事、そして熱いポケモンバトル…。

 

「おい、サトシ」

 

「へ?」

 

「ピカ?」

 

思い出に耽っているとソラトに声をかけられ思わず足を止める。

何やら足元に違和感を感じる…。

 

「そこから急な坂だぞ」

 

「へ? どわぁあああああああああああ!」

 

「ピィイイイカァアアアアア!?」

 

突然の急な下り坂に油断していたサトシは坂を駆け下りてってしまう。

恐らく止まれないのだろう。叫びながらどんどん下のほうまで駆け下りていく。

 

「…俺らはゆっくり行くか」

 

「うん」

 

そんなサトシとピカチュウを遠目に見ながらソラトはハルカを背負いながらゆっくりと坂を下っていった。

 

 

 

「酷いじゃないか! もっと早く言ってくれよ!」

 

「悪い悪い、気づいてると思ってな」

 

やっとの思いでコトキタウンに到着したサトシ達。ポケモンセンターで一休みしようとロビーに入りながらサトシは先ほどの急な坂の件についてソラトに食って掛かっていた。

ハルカは疲れた足を休めるためにソファーに座りながら初めてのポケモンセンターを見渡している。

 

「そうだハルカ、さっきのルリリ達とのバトルでアチャモもダメージ受けてるだろ。今の内に回復してやれよ」

 

「そっか、ポケモンセンターでポケモンの回復ができるのよね。じゃあ行ってくるね」

 

ソラトに言われてハルカはジョーイさんの所にアチャモのモンスターボールを預けに行った。

 

「んじゃ、俺は少し用事を済ませてくるよ」

 

そう言うとソラトはフードを被りポケモンセンターから出て行こうとする。

 

「え、どこに行くんだ?」

 

「…コトキ遺跡」

 

「コトキ遺跡?」

 

それだけ言うとソラトは普段とは違うピリッとした雰囲気でポケモンセンターを出て行った。

妙な雰囲気を纏うソラトの背中を見送ったソラトとピカチュウは顔を見合わせる。

 

「どうしたんだろうな?」

 

「ピィカ?」

 

「あれ、お兄ちゃんは?」

 

モンスターボールを預け終わったのかサトシ達の元へハルカが戻ってきた。

だがソラトが見当たらない事に気がついたのか周りを見渡している。

 

「なんかコトキ遺跡に行くって言ってたぞ」

 

「コトキ遺跡?」

 

「それなら、町の外れにある遺跡の事だよ」

 

「「え?」」

 

突然横から声を掛けられ、そちらを向くと短い茶髪に作業服を着た男性が1人立っていた。

 

「えっと、貴方は?」

 

「僕の名はウメズ。コトキ遺跡を研究している考古学者さ」

 

「俺はサトシです。コイツは相棒のピカチュウ」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「私ハルカです」

 

「知り合いがコトキ遺跡に行ったみたいだね。もし良かったら君達も行くかい? 僕が案内してあげるよ」

 

「どうする?」

 

「アチャモの回復にも時間がかかるし…折角だし行ってみたいかも」

 

「それじゃ着いてきてくれ」

 

こうしてサトシとハルカは考古学者のウメズに案内をされてコトキ遺跡へ向かうことになった。

一方で先に出発したソラトはコトキ遺跡へ続く道を歩きながらボロボロになっている1枚の写真を見ていた。

写真には黒髪の幼い少年が顔つきの似た黒髪黒髭の男性に肩車されており、男性の横には長い黒髪を靡かせている美しい女性が写っていた。

ソラトの写真を見つめる視線は真剣かつ力強かった。何か決意を新たにしているかのような顔つきだった。

 

「…あれがコトキ遺跡か」

 

ソラトの視界に崩れた岩の柱のようなものと古ぼけてはいるがまだ立派に残っている建物が見えてきた。恐らくあの建物がコトキ遺跡だろう。

 

「さて…」

 

コトキ遺跡に到着したソラトは遺跡の入り口となる扉を見つけると扉に手をかざして目を閉じ何やら集中を始めた。

 

「…この遺跡は違うか」

 

「おーい! そこの君!」

 

何かを調べ終わったソラトはかざしていた手を下ろすと、丁度追いついてきたサトシとハルカを連れたウメズがやって来た。

 

「サトシ、ハルカ。来たのか」

 

「ちょっと君! この扉は無理に開けようとすると崩れるんだ! 下手に触らないでくれ!」

 

「別に触ってませんよ。扉の模様を見てただけです」

 

ウズメはソラトが扉に触っていたように見えたのだろう。ソラトに警告するとすぐに扉の様子を確認する。

 

「ソラト、何をしてたんだ?」

 

「別に、この遺跡をちょっと調べてただけだよ」

 

「お兄ちゃんってこういう遺跡に興味あったの?」

 

「そういう訳じゃないよ。単なる人探しだ」

 

「え? …あぁそういう事ね」

 

何故かハルカは納得したような表情になるが、サトシは頭の上に?マークを浮かべている。

そしてソラトは扉を調べていたウメズに向けて声を掛ける。

 

「貴方はここを調査しているんですか?」

 

「ああ、考古学者のウメズだよ」

 

「俺はソラトです。誓ってこの遺跡には何もしてませんので安心して下さい」

 

「…うん、確かに何もないね。こっちこそちょっとキツい言い方してゴメンよ」

 

ソラトは先ほど見ていたボロボロの写真を取り出してウメズに差し出した。

 

「突然申し訳ないですが、この写真の男に見覚えはありませんか?」

 

「うーん……特に見覚えは無いかな」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

写真を仕舞おうとすると、不思議そうにサトシが写真を覗きこむ。

 

「なぁ、それ何の写真なんだ?」

 

「俺のガキの頃の家族写真さ。オフクロとオヤジも写ってる」

 

サトシに写真を見せると何やら妙な既視感を感じて写真を見つめ続ける。

つい最近見た覚えがあるような、無いようなといった感じだった。

 

「ん~…?」

 

「知ってるのか!? いつ、どこで見た!? 何か話したか!?」

 

「うわっ! ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 

突然焦ったような、必死な様子でソラトはサトシに詰め寄るが逆にそれでサトシが焦ってしまい思い出そうとしていた事が抜けていってしまう。

 

「何でそんなに必死なんだよ!?」

 

「ほらお兄ちゃん、落ち着いて」

 

「あっ…悪い。オヤジの事になるとついな…」

 

バツが悪かったのかソラトは被っていたフードを引っ張り更に目深に被り顔を隠す。

そしてサトシはやっと思い出すことができた。

 

「あぁ! このオジさん、ミシロタウンでピカチュウを回復させてくれた人だ! ってどわぁああああああ!」

 

「ピィカ、ピカチュ。ピィカ~!?」

 

「何!? ミシロタウンで!? って事はつい先日だな!?」

 

「だからお兄ちゃん落ち着いてってば!」

 

ソラトはサトシが思い出した事を口にすると、またも血相を変えてサトシの両肩を掴んで前後に揺する。

グラグラと揺すられて目を回すサトシとピカチュウ。ハルカもソラトを止めようとするが、聞こえていないのかサトシを揺すり続ける。

 

「そ、そうだよ~! ソラト達と会った日だからついこの間だよ~!」

 

「よし! 出て来いサジン!」

 

すぐさまソラトはモンスターボールを投げると、中から出てきたのは緑色の体と赤い目が印象的なドラゴンタイプのポケモン、フライゴンだった。

 

「フラ! フラゴ~!」

 

だがボールから出てきたサジンと呼ばれたフライゴンは翼を羽ばたかせてUターンするとソラトへ飛びつくとスリスリと頭をソラトの頬に擦り付けて甘えている。

 

「フラ~」

 

「だぁ! それはいいんだってサジン! 飛ぶぞ!」

 

「フラッ!」

 

サジンはソラトから離れると背中にソラトを乗せて再び力強く翼を羽ばたかせた。

高く青い空へと飛び上がったサジンはそのままミシロタウンの方へと飛んでいく。

 

「ちょっとお兄ちゃんどこ行くのー!?」

 

「ミシロタウンだ、夜には戻る! 行くぞサジン!」

 

「フライッ!」

 

そのままソラトを乗せたまま空を飛んだサジンは、しばらくすると見えなくなっていった。

振り回されて目が回ったサトシとピカチュウだが、ソラトが見えなくなった頃には回復して起き上がる事ができた。

 

「いったいどうしたんだ、ソラトは…?」

 

「ごめんねサトシ。お兄ちゃんアラシさんの事になると必死になっちゃうのかも」

 

「アラシさん?」

 

「さっきの写真に写ってた男の人よ。サトシも会ったんでしょ?」

 

「ああ、港でピカチュウの帯電状態を治してくれたんだ」

 

サトシはミシロタウンの港で出会ったソラトの父親であろうアラシを思い出す。

妙に口の悪いオジさんだと思っていたが、まさかソラトの父親だったとは。

手をかざしただけでピカチュウの帯電状態を治したのだが、あれはいったいどうやったのか…今更気になってきたサトシはその時の事を考える。

 

「んー、でもあの時何をしたのかなぁ」

 

「2人とも、遺跡を見なくていいのかい?」

 

考え事をしているとウメズから声を掛けられ、遺跡を案内して貰えるという事を思い出したサトシとハルカ。

 

「うーん、お兄ちゃんも行っちゃったし折角だし遺跡を見て回りましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

「じゃあこっちにおいで」

 

ウメズを先頭に移動すると、先ほどソラトが調べていた遺跡の入り口の扉の前へとやって来た。

不思議な模様が扉全体に刻まれており、何かをはめ込むような4つの窪みがある扉だ。

 

「これはさっきソラトが調べてた扉ですね」

 

「ああ。実はこの遺跡は古代のポケモン世界と、我々の世界を結ぶ扉があるんじゃないかって言われてるんだ」

 

「古代のポケモン世界?」

 

「ああ、かせきポケモンじゃなくて大昔から姿を変えずにずっと生き続けているポケモン達の事だよ」

 

「へぇー、会ってみたいな!」

 

「それなら、もうすぐ会えるかもしれないよ。この石版にこの扉を開ける方法が書いてあるんだ。まだ鍵がないから開ける事はできないけどね」

 

ウメズはポケットから小さい石版を取り出すとサトシ達に見せた。

何が書いてあるのかサトシとハルカには全く分からないが、ウメズには何がどう書いてあるかが分かるらしい。

 

「へぇー。頑張って下さいねウメズさん!」

 

「ああ、ありがとう! それじゃもう少し案内するよ」

 

「「お願いします!」」

 

そしてサトシとハルカはウメズの案内により日が暮れる頃までゆっくりと遺跡を巡った。

流石に日が暮れる頃になるとサトシの腹の虫が鳴き始めた。

 

「うっ、あはは…お腹減っちゃった…」

 

「も~、サトシったら…あっ…」

 

サトシに呆れるハルカだったが、丁度ハルカのお腹も鳴ってしまった。

 

「あはは、ごめんよ。遺跡の事になるとすぐ熱くなっちゃってね。そろそろポケモンセンターに行くとしようか」

 

恥ずかしそうにするハルカを見てウメズはニコリと笑いながらそう提案した。

ポケモンセンターはトレーナーなら誰でも無料で泊まれて食事も自由という至れり尽くせりである。

3人はポケモンセンターに戻るとすぐに夕飯を食べることにした。

 

「美味しーい! ホントポケモンセンターって最高かも!」

 

「だろ? 他にもロビーでポケモンの情報交換したり、転送装置で手持ちのポケモンを入れ替えたり、他のトレーナーとポケモンを交換したり、とにかく色んな事ができるんだぜ!」

 

「うんうん、最高かも! ふぅー、ごちそうさま!」

 

「さて、じゃあ僕はこのポケモンセンターにある研究室に戻って研究成果を纏めるよ」

 

ウメズは食事が終わると研究の続きをするために研究室に戻ろうとする。

だがそれを聞くとサトシもハルカも興味あり気に瞳を輝かせる。

 

「おぉ、何だか凄そうだぜ」

 

「私たちも研究室見てもいいですか!?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「「やったー!」」

 

そうしてサトシとハルカがウメズの研究室へ向かう頃、それをポケモンセンターの外にある草むらの陰から中の様子を伺う怪しい集団がいた。

全員正体を隠すように大きなサングラスをし、赤いフード付きの服を着ている男女混合の5人の人物達だ。

 

「ウメズ博士を確認」

 

「よし、作戦を実行するぞ」

 

「「「はっ!」」」

 

サトシとハルカは研究室に案内された。

様々な写真や資料や模型が置いてあり考古学者の研究室という雰囲気のある研究室だった。

 

「へぇー、これ全部遺跡の資料なんですか?」

 

「そうだよ。コトキ遺跡を始め、様々な場所と時代の古代資料さ。僕は古代の人間とポケモンの関係を調べて、奥深いポケモンの謎を解明したいと思っているんだ」

 

「ウメズさんってとっても凄いかも!」

 

「ははは、ありがとう。…おや?」

 

サトシ達が話をしていると突然ポケモンセンター全体の電気が消えてしまう。

 

「停電かしら?」

 

「それならすぐに非常電源に切り替わる筈なんだけど…」

 

突然乱暴に研究室の扉が開けられると赤いフードを被った5人組が部屋に入り込んできた。

5人組はかみつきポケモンのグラエナとダークポケモンのヘルガー数匹を連れており、サトシ達はあっという間に包囲されてしまった。

 

「な、何者だ君たちは!?」

 

「ウメズ博士、私達と一緒に来て頂きます」

 

「突然現れて何だ! 断る!」

 

「「「グルルルルル…!」」」

 

赤服の5人組の要求をウメズが断ると、グラエナとヘルガーが低い声で唸り鋭い牙を見せる。

 

「我々は力ずくでも構いませんがね。それにポケモンセンターにいる人々やポケモンにも手出しをしないとは限りませんよ?」

 

「お前たち卑怯だぞ!」

 

「ピカピ!」

 

ピカチュウも頬から電気を発生させて威嚇するがグラエナとヘルガーは全く怯まずにピカチュウを睨みつけて牽制する。

数の上では赤服達が有利なのは火を見るより明らかだった。

 

「さぁ、どうしますか?」

 

「くっ……仕方ないか…」

 

ポケモンセンターの人々とポケモンを人質に取られてしまったウメズは仕方なしといった風に赤服達の要求を呑んだ。

 

「だが、もう1人人質を連れていくとしましょうか。グラエナ!」

 

「グラッ!!」

 

「きゃあっ! ちょっと何!?」

 

グラエナの1匹がハルカの後ろに回りこみ牙を剥き出しにして脅かす。

怯えたハルカは思わずその場から動いて赤服達の近くに移動してしまい、赤服達に捕まってしまう。

 

「ハルカ!」

 

「ではウメズ博士、来て頂きましょう」

 

「ぐっ……分かった…」

 

赤服達はサトシを倉庫に閉じ込め、ウメズとハルカを連れてコトキ遺跡へと向かった。

サトシはこのポケモンセンターのジョーイさんと一緒の倉庫に閉じ込められてしまい、何とか脱出しようとしていた。

 

「クソッ! ここを開けろ!」

 

「どうしましょう、まだ回復中のポケモンがいるのに…非常電源に切り替えないと」

 

「でもここから出られないんじゃ…」

 

「ピカ!」

 

「どうしたピカチュウ?」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが見つけたのは通風孔だった。

大人は通れる大きさではないが、サトシやピカチュウなら十分通ることができる大きさだ。

 

「よし、ここなら通れる! ジョーイさん、俺達がここを抜けて非常電源をつけて扉を開けます!」

 

「分かったわ! 気をつけてね」

 

こうしてサトシとピカチュウは脱出のために行動を始めた。

そして赤服の5人組にコトキ遺跡に連れてこられたウメズとハルカ。

ハルカは逃げられないように手を後ろで縛られており身動きが取れないようにされていた。

 

「ちょっと、離しなさいよ~!」

 

「フッ、ではウメズ博士。この遺跡の扉を開けて頂きたい」

 

「それは無理だ! 無理に開けようとすれば遺跡全体が壊れてしまう! それに鍵となる4つの宝玉が無ければ…!」

 

「その宝玉とはこれですね?」

 

赤服の1人がケースを持ってきてそれを開けると、中には赤青黄緑の4色の宝玉があった。

 

「こ、これをどこで!?」

 

「我々の情報網は完璧なのですよ。後はどの宝玉をどの穴にはめ込めばいいか…それは貴方がご存知ですね?」

 

「だが…お前らのような者たちに協力する真似など…!」

 

「人質がどうなってもよろしいと?」

 

赤服の男がそう言うとグラエナとヘルガーが唸りながらハルカを取り囲む。

 

「な、何!? やめてー!」

 

「やっ、やめろ! 分かった、扉を開けるから彼女には手を出すな!」

 

「では宝玉を」

 

ウメズは宝玉を扉のくぼみにはめ込んでいき、4つ全てはめ込むと扉の模様が輝き始め扉が開いた。

 

「これで開いたぞ、彼女を放せ!」

 

「いいでしょう」

 

「きゃあっ」

 

赤服の男は他の赤服に指示を出すとハルカをウメズの方へ突き飛ばした。

ハルカは転びながらウメズの方へ倒れる。

そしてヘルガーとグラエナはハルカとウメズを囲い込むように位置取り威嚇する。

 

「なっ、どういう事だ! 扉は開けたんだぞ!?」

 

「残念ですが我々の情報を漏らされるのは困りますのでね。後始末というヤツですよ」

 

「そんなの卑怯かも!」

 

「何とでも言うがいい…ヘルガー、かえんほうしゃ! グラエナ、はかいこうせん!」

 

ヘルガーの口からは灼熱の火炎が放たれ、グラエナの口からは全てを砕く光線が放たれ、ハルカとウメズに迫る。

 

「きゃあああああああっ!」

 

「うわあああああああっ!」

 

だがかえんほうしゃとはかいこうせんが2人当たる直前、2人を庇うように2つの影が割り込んだ。

 

「サジン、りゅうのいぶき!」

 

「フ~ラッ!!」

 

緑色の息吹が放たれると、かえんほうしゃとはかいこうせんとぶつかり合い爆発して相殺された。

煙が晴れるとそこにいたのはソラトとフライゴンのサジンだった。

 

「貴様、何者だ?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「君は昼間の…」

 

「お前らは、最近ホウエンの各地で活動してる赤の集団…マグマ団だな」

 

ソラトのその言葉を聞くと、赤服の5人組は驚いたような反応をして警戒姿勢に入る。

そしてグラエナとヘルガーも赤服達の前に出てバトルの姿勢に入った。

この隙にウメズはハルカを縛っている縄を解いてハルカを自由にした。

 

「我々の事を知っているとは…どこでそれを知った?」

 

「裏の事情には詳しいんでな」

 

「ならば尚更貴様らは放っておけんな。ヘルガー、かえんほうしゃ!」

 

「サジン、りゅうのいぶき!」

 

「ヘルァ!!」

 

「フラアッ!!」

 

放たれたかえんほうしゃとりゅうのいぶきはぶつかり合うと、りゅうのいぶきがかえんほうしゃを突き破りヘルガーに直撃する。

そのカバーに入るようにはかいこうせんの反動から回復したグラエナがサジンに向かって跳びかかる。

 

「グラエナ、アイアンテール!」

 

「ドラゴンクローで弾き飛ばせ!」

 

「グラッ!」

 

「フーラーッ!」

 

尻尾を輝かせて上から振り下ろして攻撃するグラエナに、サジンは両手から緑色の大きな爪で迎撃する。

ドラゴンクローでアイアンテールを防御して弾き飛ばすとそのまま反撃してグラエナをドラゴンクローで吹き飛ばした。

 

「ギャウン!」

 

「くっ、なんて力だ…! ヘルガー、かみつく攻撃!」

 

「グルァ!」

 

「すなあらし!」

 

サジンの周囲を砂が竜巻のように舞い上がると、砂の竜巻はヘルガーを吹き飛ばした。

 

「ヘル…!」

 

「くそっ、役立たずどもめ! こうなったら全ポケモンで攻撃だ!」

 

「「「ヘルガー、かえんほうしゃ!」」」

 

「「グラエナ、はかいこうせん!」」

 

「チュウウウウウウウウ!!」

 

「「「ヘルァアアアア!?」」」

 

「「グラアアアアアッ!?」」

 

3つのかえんほうしゃと2つのはかいこうせんが放たれようとした時、ヘルガーとグラエナに向かって閃光が奔った。

電撃がヘルガーとグラエナに当たり、ヘルガーとグラエナは攻撃を中断してしまう。

その閃光の正体は10万ボルトだ。サトシがピカチュウを連れて遺跡にやってきたのだ。

 

「サトシ!」

 

「サトシ君!」

 

「ハルカ、ウメズさん大丈夫ですか!? ってソラト、戻ってきてたのか!」

 

「サトシ! ダブル攻撃で一気に決めるぞ!」

 

「OK! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「サジン、りゅうのいぶきだ!」

 

「ピーカー…チュウウウウウウウウ!」

 

「フラァアアアアアアアアアアア!」

 

「「「「「ぐあぁあああああああああああああ!?」」」」」

 

重なり合った10万ボルトとりゅうのいぶきはヘルガーとグラエナ、そしてマグマ団の5人組に見事直撃した。

煙が晴れると戦闘不能になったヘルガーとグラエナ達と、ボロボロになったマグマ団達が倒れていた。

 

「くっ、仕方が無い…引き上げるぞ!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

ヘルガーとグラエナをボールに戻してマグマ団は撤収していった。

 

「待て!」

 

「サトシ、深追いするな。奴等にはまだ仲間がいる筈だ」

 

「で、でも…」

 

ソラトがサトシを引き止めているとマグマ団が撤退していった方向から大型のヘリコプターが飛び立っていった。

ヘリにはマグマ団達のマークがあり、恐らく先ほどのマグマ団が逃げていったのだろう。

 

「あれは…!」

 

「さっきの人達のヘリコプターかも!」

 

「逃げたか…」

 

同時に夜が明けて朝の日差しが大地に降り注ぐ。

そしてマグマ団のヘリコプターは朝日の光の中へと消えていった。

 

「お兄ちゃんは、さっきの人達の事知ってるの?」

 

「少しだけな。ホウエン地方で活動してる悪の組織らしい。詳しい目的は分からないが、色々な遺跡や研究所を襲ったって話も聞いてる」

 

「とにかく、皆が無事で良かった。サトシ君、ソラト君、助けてくれてありがとう」

 

「さっすがお兄ちゃん! まるでヒーローかも!」

 

「おわっと、無事で良かったよハルカ」

 

ハルカは嬉しそうにソラトの腕に抱きつくとソラトも安心させるためにハルカの頭を撫でてやる。

 

「やっぱホントの兄妹みたいに仲がいいよな、2人って」

 

「ピィカ…」

 

「ん? どうしたんだピカチュウ?」

 

サトシの発言に、ハルカの態度から気持ちを察したピカチュウはやれやれといった風に首を振る。

そうしていると開いた遺跡の扉の奥から何かの光が漏れていた。

 

「ピ? ピカピカ!」

 

「あれ? あの光は…?」

 

「遺跡の奥からだ!」

 

「俺達も行ってみようぜ!

 

ウメズは光を見ると大急ぎで遺跡の中へ駆け込んでいく。

サトシ達も後を追って遺跡の中へ入っていくと、中には1つのオブジェのような物と壁いっぱいに描かれた壁画があった。

壁画には古代のポケモンや人々と、古代の文字で何かが書いてあった。

 

「これは…!」

 

「凄い! これは古代のポケモン達との関係を描いた物なんだ!」

 

「このオブジェみたいなのが光ってるのね。あっ、何か動いたかも!?」

 

ハルカの言うとおり、部屋の中央にあるオブジェに朝日が当たりオブジェの模様が光り輝いていた。

そして模様が全て輝いた時、オブジェが後ろに動いて更に下に続く階段が現れた。

 

「おお! 更に地下に繋がる階段だ!」

 

「行ってみましょう」

 

地下への階段を下りると、そこには大きな地下水脈があった。

 

「こんな所に地下水脈があったなんて!」

 

「潮の香り…ここはきっと海に繋がっているのね」

 

「あっ、あれを見ろ!」

 

サトシの声に反応して全員水面に写った黒い影を発見すると、影は水から勢いよく飛び出して宙を舞った。

それは全体的に茶色い色合いをした魚のようなポケモンだった。

 

「あれは! 古代ポケモン、ジーランス!」

 

「ジーランス!?」

 

「やっぱり、コトキ遺跡は古代と現代を繋ぐ扉だったんだ!」

 

 

 

「はい、お預かりしたポケモンはすっかり元気になりましたよ」

 

ポケモンセンターに戻ったサトシ達は、まずは預けていたハルカのアチャモを受け取っていた。

 

「ありがとうございます。出てきて、アチャモ!」

 

「チャモー!」

 

「元気になったみたいで良かったかも!」

 

「良かったな、ハルカ」

 

「うん! あ、ウメズさん」

 

ポケモンを受け取っていたサトシ達の元へウメズがやってきた。

 

「やぁ。もう行くのかい?」

 

「はい、お世話になりました」

 

「あぁ、そうだ。あの遺跡は昔の人々が古代のポケモン達と交流するためにあったようなんだ」

 

「すっごーい、もうそこまで分かっちゃったんですね!」

 

「あぁ、でも分からない事がまだ沢山あるんだ。やっぱりポケモンの世界は奥が深いよ。では皆、道中気をつけて」

 

「「「はい!」」」

 

こうしてサトシ達3人はコトキタウンのポケモンセンターを出発し、最初のジムがあるトウカシティに向けて歩き出した。

しかし、街を出てすぐの所でハルカがアチャモを見ながら立ち止まってしまう。

 

「…」

 

「どうした、ハルカ?」

 

「昨日のマグマ団って人達のポケモン達、私達を襲うのに何の戸惑いも無かったように見えたから…やっぱりポケモンって怖いのかなって思っちゃって」

 

「それは…」

 

ハルカの言葉を聞いて口ごもってしまうサトシ。

だがソラトはそんな2人を見て軽く笑うとハルカの肩に手を置いた。

 

「確かに、ポケモンの技は強力だ。悪用されれば怖いかもな。でもそれはポケモンを扱うトレーナー次第なんだ」

 

「トレーナー次第?」

 

「ああ、ポケモンってのは何色にも染まるんだ。悪いトレーナーが使えばポケモンだって悪事に躊躇はしなくなるんだ。でも良いトレーナーと一緒にいればとてもいいポケモンになるんだ。何色にも染まる…まるでキャンバスだな」

 

「キャンバス…」

 

「ソラトの言うとおりだぜ! だから俺達はいいトレーナーを目指さないとな!」

 

「うん、そうかも! アチャモ、私トレーナーとしてまだまだだと思うけど、アナタと一緒に成長したいって思ってる! だからこれからもよろしくね!」

 

「チャモチャモ!」

 

かくしてポケモンの奥深さ、そしてポケモンとトレーナーの絆の関係を知ったサトシとハルカ。

さぁ、最初のジムがあるトウカシティはもう目の前だ!

 

 

 

to be continued...



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サトシ&ハルカVSソラト タッグバトルでてだすけバトル!

説明忘れていたのですが、今作のハルカはソラトと旅をするのを目指していたので多少はポケモンの勉強しているという設定です。

今回は初のオリ話になるのですが、何か大した事できませんでした…反省します(・ω・')


ホウエンリーグ出場を目指し、最初のジムがあるトウカシティを目指すサトシ達。

そして野宿をした草原で、今日も気持ちの良い朝を迎えたのだった。

 

「今日もいい天気だな、ピカチュウ」

 

「ピッカー!」

 

朝日を浴びて元気に背伸びをするサトシとピカチュウだが、お腹がグ~と腹の虫が鳴っている。

 

「いや~、お腹減ったな。メシにしようぜピカチュウ」

 

「ピッカ!」

 

「サトシ、朝メシの準備はできてるぜ」

 

「え?」

 

サトシを呼んだのはソラトだ。

草原の上にシートを敷いてあり、その上には薄く焼いた卵とサラダとハムが挟まれたサンドイッチと、ポケモン達が大好きなポケモンフーズが置いてあった。

 

「おぉ! ソラトって料理もできるのか!?」

 

「5年も1人旅してりゃそれなりにな。他には誰もやっちゃくれないからな。そら皆! メシの時間だ!」

 

ソラトは6つのモンスターボールを投げると次々とポケモン達が登場してくる。

ラグラージのスイゲツ、フライゴンのサジンを始め、プラスルとマイナン、ミロカロスとダーテングだ。

 

「おぉ! それがソラトのポケモン達か!」

 

「ああ、紹介するよ。プラスルのライ、マイナンのデン。ミロカロスのシズクにダーテングのフウジンだ」

 

「プラプラ!」

 

「マイマイ!」

 

「ミロッ」

 

「ダッテン」

 

「おぉ、よろしくな皆!」

 

挨拶を済ませると、サジンとミロカロスのシズクは甘えるようにソラトへ顔を擦りつける。

 

「あー、はいはい。分かったからメシ食おうな」

 

「フラッ、フライ!」

 

「ミロミロ!」

 

やれやれと言った様子でソラトはサジンとシズクにポケモンフーズを差し出すと嬉しそうに食べ始めた。

他のポケモン達もポケモンフーズを食べてお腹を満たしている。

 

「サジンとえっと…シズクはソラトの事が大好きなんだな」

 

「ボールから出す度にアレだから、ちょっと困りものだけどな」

 

困ったように笑いながらサンドイッチを食べるソラトの隣にサトシも座り、サンドイッチを食べる。

蕩けるように甘い卵焼きに瑞々しいサラダ、味のあるハムが組み合わさり口の中に広がる。

絶妙な美味しさにサトシは思わず目尻が下がる。

ピカチュウも美味しそうにポケモンフーズを食べていく。

 

「モグモグ…美味ぇ~! ソラト、このサンドイッチ最高だぜ!」

 

「ピカ! ピカチュー!」

 

「そりゃどうも」

 

「ハルカも食べてみろよ。ってアレ? そういやハルカは?」

 

サトシが周りを見渡すが、ハルカの姿はどこにも無かった。

 

「それが、朝起きたと思ったら慌ててあっちの林の方に駆け込んでっちまったんだ。早くしないとメシが冷めるってのに」

 

「ふーん、どうしたんだろうな? モグモグ」

 

 

 

「あーん! こんなんじゃお兄ちゃんの前に出れないかもー!」

 

「チャモー…」

 

林に駆け込んでいったハルカは乙女として好意を抱く相手の前に出るのが躊躇われる格好になっていた。

髪の毛はボサボサ、服はしわくちゃ。ハルカとしてはソラトの前に出ることができない姿だった。

 

「やっぱり野宿は乙女の大敵かも…。えーとえーと…!」

 

髪の毛を櫛を梳かしてなんとか何時もの髪型にし、服も手で調節してどうにかいつものキューティクルを取り戻した。

 

「髪良し、服良し…うん、OK! それじゃお兄ちゃん達の所に戻りましょう、アチャモ」

 

「チャモチャモ! チャモ?」

 

ハルカとアチャモがサトシ達の所へ戻ろうとした時、傍にあった茂みがガサガサと揺れる。

そして茂みから野生のポケモンが飛び出してきた!

 

「きゃぁああああああああ!!」

 

 

 

「今のは!?」

 

「ハルカの悲鳴だ! 向こうだ!」

 

林の方からハルカの悲鳴を聞いてサトシとソラトはポケモン達と共に悲鳴も方へと走り出す。

一方で林でのハルカは飛び出してきた野生のポケモンとのバトルを行っていた。

 

「アチャモ、つつく攻撃!」

 

「チャモー!」

 

「サイホー!」

 

「危ないアチャモ、避けて!」

 

アチャモの放ったつつく攻撃だが、相手のサイホーンの固い皮膚により弾かれてしまう。

そして反撃のつのでつく攻撃を間一髪でアチャモは回避した。

 

「今度はひのこよ!」

 

「チャーモー!!」

 

ひのこの攻撃を受けてサイホーンは怯んでその場に立ち止まってしまう。

 

「よーし、これでトドメかも! もう1度ひのこ!」

 

「チャモチャモー!」

 

「サイホー!」

 

ひのこの攻撃を受けて野性のサイホーンはその場に倒れこんだ。

今ならゲットのチャンスだが…

 

「う、うーん…サイホーンは凄くゴツゴツしててちょっとゲットする気しないかも…」

 

「ハルカー!」

 

「大丈夫か!?」

 

「あ、サトシ! お兄ちゃん! 大丈夫よ。野生のサイホーンとバトルになっちゃったの」

 

倒れているサイホーンを見てサトシとソラトも感心する。

 

「へぇ、サイホーンはいわ/じめんタイプだからアチャモは不利な筈だが勝っちまうとはな」

 

「やるじゃんハルカ!」

 

「えへへ、それほどでもあるかも!」

 

自慢げに胸を張るハルカとそれを褒めるサトシだが、ソラトは何かが近づいている気配を感じる。

ソラトはあえて目を閉じる。

 

「サトシ、ハルカ! 危ない!」

 

「「え?」」

 

「サイドーン!!」

 

再び茂みが動くと、先ほどのサイホーンの仲間だろうか、サイドンが現れた。

 

「フウジン、じんつうりき!」

 

「ダーテンッ!」

 

ダーテングのフウジンの目が妖しく光るとサイドンの体が宙に浮かんで吹き飛ばされる。

サイドンはサイホーンのぶつかり地面に倒れた。

だがサイドンはすぐさま立ち上がり、サイホーンも今の衝撃で目が覚めたのか立ち上がった。

 

「サトシ、ハルカ、下がってろ! フウジン、シズクでダブルバトルだ!」

 

「ダーテン!」

 

「ミロッ!」

 

「ダブルバトル?」

 

「サトシ、お兄ちゃんの邪魔になるかも! 早く向こうに行くのよ!」

 

サイドンはフウジンへ突っ込んでくる。

とっしんで全力での体当たりを行うのだろう。

 

「来るぞ! シズク、みずのはどう!」

 

「ミ~ロカッ!」

 

口から水の球体を作り出し突進してくるサイドウに向けてみずのはどうを放つ。

いわ/じめんタイプのサイドンに対してみずタイプの技は効果絶大。とっしんの勢いが弱まりスピードがダウンする。

 

「今だフウジン! リーフブレード!」

 

「ダーテッ!」

 

両腕の草の扇が緑に輝き強力な刃と化すと、スピードの落ちたサイドンを斬りつけた。

くさタイプの技であるリーフブレードはみずタイプの技と同じくサイドンには効果絶大。

リーフブレードを受けたサイドンは戦闘不能となり倒れこんでしまった。

 

「サイホー!」

 

続いてサイホーンが岩を生み出して飛ばす技、ストーンエッジを放つ。

 

「ストーンエッジだ、止めろフウジン! じんつうりきだ!」

 

じんつうりきでストーンエッジが全て念力の力により止められる。

 

「今だシズク、れいとうビーム!」

 

れいとうビームによりストーンエッジがカチコチに凍る。

そしてそのままじんつうりきによって凍ったストーンエッジが撃ち返される。

 

「凄い! いわタイプのストーンエッジをこおりタイプの技の変化させるなんて!」

 

その連携を見たサトシはバトル魂に火がついたのかかなり興奮している。

そして撥ね返されたこおりのストーンエッジがサイホーンに直撃する。

こおりタイプになった攻撃はサイホーンにはこうかはばつぐんだ。

 

「サーイ!!」

 

こうかばつぐんの技によりサイホーンも戦闘不能となった。

 

「よくやったぞフウジン、シズク」

 

「ダテン」

 

「ミロ~」

 

シズクはバトルが終わって褒めて欲しいのかソラトにまた顔を擦りつけている。

 

「すげぇ…2体のポケモンのコンビネーション…! ホントスゲェ!」

 

「ふふーん、サトシもお兄ちゃんの凄さが分かったかも!」

 

「って、何でハルカが偉そうなんだよ…」

 

「さ、バトルしていい腹ごなしになっただろ。改めてメシにしようぜ」

 

「「おー!」」

 

そして野宿をしていた場所に戻り皆で朝食の続きにする事にした3人。

サトシはガツガツとサンドイッチを凄い勢いで食べている。すぐさまサトシのお皿にあるサンドイッチは無くなってしまった。

 

「もーサトシ、もっとゆっくり味わって食べたらいいかも」

 

「そうも言ってられないぜ! ソラト、さっきのダブルバトルっての教えてくれよ!」

 

「モグモグ…ダブルバトルってのはポケモン2体を使って行う2対2のバトルだ。ホウエン地方では正式なバトルルールとしても採用されてるんだ」

 

「じゃあジム戦なんかでもやるかもしれないんだな。よし、特訓だ! ソラト相手してくれよ!」

 

「でもサトシ今はピカチュウしかポケモンいないんだろ? じゃあダブルバトルはできないぞ」

 

「あ、そっか…」

 

「ピィカ…」

 

あからさまに落ち込むサトシとピカチュウを見て仕方ないと苦笑いするソラトは美味しそうにサンドイッチを頬張るハルカを見る。

 

「んじゃ、サトシとハルカで組んでタッグバトルでどうだ?」

 

「タッグバトル? なにそれ?」

 

「トレーナーが2人で組んでそれぞれポケモンを使うバトルの事さ。俺が1人で2体のポケモンを使うから、サトシとハルカ2人で組んでバトルしないか?」

 

「おっ、そりゃいいな! やろうぜハルカ!」

 

「えぇー、2人でやってもお兄ちゃんには勝てないわよ」

 

「バトルはやってみなきゃ分からないんだぜ! やろうぜハルカ!」

 

「うーん…そうね、物は試しかも」

 

そうしてサトシ&ハルカVSソラトの変則ダブルバトルが行われる事になった。

広い草原のど真ん中で3人はそれぞれモンスターボールを持って準備をする。

 

「よし! ピカチュウ、君に決めた!」

 

「ピッカ!」

 

「お願いアチャモ!」

 

「チャモチャモ!」

 

サトシとハルカは手持ちのポケモンは1体なので勿論ピカチュウとアチャモだった。

そしてソラトが出すポケモンは―

 

「ライ! デン! バトルの時間だ!」

 

「プラプラ!」

 

「マイマイ!」

 

「プラスルとマイナンか」

 

「えーっと、図鑑図鑑…」

 

ソラトが繰り出したのはプラスルのライとマイナンのデンだ。ダブルバトル向きのポケモン達を繰り出してソラトは不敵に笑う。

サトシとハルカはオダマキ博士から貰ったポケモン図鑑を取り出すとライとデンに向けて検索をかけた。

 

『プラスル おうえんポケモン

いつも仲間を応援している。仲間が頑張ると体をショートさせてパチパチと火花の音を立てて喜ぶ。』

 

『マイナン おうえんポケモン

仲間の応援が大好きなポケモン。仲間が負けそうになると体から出る火花の数がどんどん増えていく。』

 

「プラスルとマイナンか、相手にとって不足無しだぜ!」

 

「お兄ちゃん、全力でいくかも!」

 

「ああ、こっちも手は抜かないぜ」

 

バトルの相手を確認してサトシは更なる闘志を燃やし、ハルカも兄貴分であるソラトへの初のチャレンジのために気を引き締める。

ソラトは不敵な笑みを続けているが油断はこれっぽちもしていない。

これから熱いバトルが始まる…そんな予感がする中、サトシ達を見つめる3つの視線が…

 

「ジャリボーイとピカチュウ発見だぜ」

 

「あっちのはこの間のジャリガールと黒服だニャ」

 

「ふーん、これからバトルするみたいね」

 

毎度お馴染みRの英文字がトレードマークのロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースは双眼鏡を使って遠くからサトシ達の様子を伺っていた。

そうしてまたピカチュウゲットのチャンスを伺っているのだが、3人のお腹が一斉にグゥ~と鳴る。

 

「はニャ~、もう2日も何も食べてないのニャ…」

 

「このままじゃお腹と背中の皮がくっついちゃうぜ。ピカチュウゲットの前に何か食べ物探さないか?」

 

「そうニャ! 腹が減っては戦はできないのニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「あ~! あそこ! あそこ見て!」

 

食事についての話をしていると思ったら突然ムサシが大声を出す。

ムサシの見る双眼鏡の先にはソラトが作ったサンドイッチの残りがあった。

 

「お~! あれは美味そうなサンドイッチだ!」

 

「よし、それじゃあのサンドイッチを頂いてついでにピカチュウ達も頂いちゃうのニャ!」

 

「それじゃ早速、作戦開始よ!」

 

「ソ~ナンス!」

 

こうしてロケット団がまたしても作戦を実行しようとしている頃、サトシ達のバトルも始まろうとしていた。

 

「それじゃ、先攻はそっちからでいいぜ」

 

「よーし、いくぜピカチュウ! 先手必勝のでんこうせっか!」

 

「ピッカ!」

 

サトシが素早く指示を出すとピカチュウは閃光となったかのような速度で駆け出しマイナンのデンに向かっていく。

だがプラスルのライも素早く動き出していた。

 

「ライ、てだすけだ!」

 

「プラ~!」

 

ライの体から青い電気のような光が放たれるとデンの体を包み込み、デンの体に力が溢れていく。

 

「マイマイ!」

 

「デン、でんこうせっか!」

 

「マイー!!」

 

「ピィッカ! …ピカー!?」

 

デンもピカチュウに対してでんこうせっかで向かっていき正面勝負でぶつかり合う。

通常のパワーならば体格で優れているピカチュウが有利だろうが、それを上回るパワーを発揮したデンによりピカチュウは弾き飛ばされてしまった。

 

「何!?」

 

「流石お兄ちゃん…アチャモ、ひのこよ!」

 

「ライ、まねっこだ!」

 

「チャモチャモー!」

 

「プーラッ!」

 

でんこうせっかで前に出てきたデンを狙いアチャモの口から灼熱のひのこが放たれるが、何故かライの手先が光るとそこからひのこが放たれた。

放たれたひのこはお互いをかき消して消滅した。

 

「えぇ!? プラスルってひのこが使えたの!?」

 

「デン、でんげきは!」

 

「マーイー!!」

 

デンの体から青白い電撃が放たれて球体になると、そこから凄まじい速度で電撃が放たれた。

アチャモは避ける事もできるまともに電撃を受けてしまう。

 

「チャモー!」

 

「ああっ、アチャモ!?」

 

「電撃なら負けないぜ! ピカチュウ10万ボルト!」

 

「ピカー…チュウウウウウウウウ!」

 

「ライ、10万ボルト!」

 

「プーラー!!」

 

アチャモが攻撃を受けている間にピカチュウが強烈な10万ボルトを放つが、同じくライも10万ボルトを放ち空中でぶつかり合った10万ボルトは爆発して掻き消えた。

その隙になんとかアチャモは立ち上がって体制を立て直し、ライとデンも仕切り直しのつもりなのか1度ソラトの傍へと撤退した。

 

「やるなソラト!」

 

「そっちも個々の能力はそれなりだな。だがもっと連携しないと勝ち目は無いぞ。デン、じゅうでんだ!」

 

「マイ! マイマイ…!」

 

デンはパワーを溜める体制に入り体中がバチバチと帯電し始めた。

 

「何だ、動かなくなったぞ?」

 

「サトシ、もしかしたら今がチャンスかも!」

 

「ああ! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「アチャモはつつく攻撃!」

 

「チュゥウウウウウ!!」

 

「チャモ!」

 

「ライ、デンを守れ!」

 

ピカチュウから電撃が放たれ、アチャモはパワーを集中した嘴が輝きデンへ接近してくる。

だがライは10万ボルトをスルーしてアチャモの前に立ち塞がった。

ピカチュウの放った10万ボルトは見事にデンに直撃し、アチャモのつつくもライに当たり確実にダメージを与えた。

 

「プラ…!」

 

「マイ…!」

 

「耐えろ2人とも! もう少しだ!」

 

「マ…イ…! マイマイ!!」

 

「よし、じゅうでん完了だな! ライ、下がってデンにてだすけだ!」

 

「プーラー!」

 

10万ボルトとつつくに耐えたデンとライ。

ライがバックステップで後ろに跳び下がると再びてだすけでデンをパワーアップさせる。

何かが来ると感じ取ったサトシはピカチュウに素早く指示を出す。

 

「ピカチュウ! かみなりだ!」

 

「ピィカ…ヂュウウウウウウウウウ!!」

 

「デン、でんげきは!」

 

「マイマイ、マァアアイィイイイイ!!」

 

放たれたかみなりは、やはり普通ならばでんげきはを掻き消してデンを襲っただろうがかみなりより巨大で強力になったでんげきははかみなりを突き破りピカチュウとアチャモを襲った。

 

「ピィカアアアアッ!?」

 

「チャモチャモー!!」

 

でんげきはを受けたピカチュウとアチャモは目をグルグル回しながら地面に倒れてしまう。

完全に戦闘不能状態だった。

 

「ああっ、ピカチュウ!」

 

「アチャモ! 大丈夫!?」

 

「ピィカ~」

 

「チャモ~」

 

サトシとハルカがピカチュウとアチャモをそれぞれ抱き起こすとどうにか目を覚ましたピカチュウとアチャモだがまだ少し疲れが見える。

それを見てソラトは肩掛けリュックの中から青い木の実を取り出してピカチュウ達に差し出した。

 

「ほら、オレンの実だ。体力が回復するぞ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。さぁアチャモ、食べて元気回復かも!」

 

「チャモチャ~」

 

「ピカチュウも食べろよ」

 

「ピッカチュ」

 

「ライとデンも、ほら」

 

「プラ!」

 

「マイ!」

 

青い実はオレンの実といい、ポケモンの体力を回復させる効果がある木の実だ。

ソラトは更にオレンの実を取り出すとライとデンに渡すと、2匹とも美味しそうにオレンの実を食べて回復をした。

 

「途中の同時攻撃は良かったな。だがそれ以外は呼吸がバラバラだったぞ」

 

「ん~、タッグバトルって難しいんだな」

 

「全然敵わなかったかも~」

 

「サトシはタッグバトル初めてだったみたいだし、ハルカはバトルほぼ初心者だからな。無理せず特訓していけばいいさ」

 

「ああ、頑張ろうなピカチュウ」

 

「ピィカ。ピィカー!?」

 

今のバトルを糧に決意を新たにしたサトシだったが、突然現れたマジックアームによりピカチュウを奪われてしまう。

マジックアームは先ほどサトシ達がサンドイッチを食べていた方から伸びており、引き寄せられたピカチュウはカプセルのような機械に放り込まれて閉じ込められてしまった。

 

「な、何だ!?」

 

「な、何だ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「待てロケット団!」

 

「またアナタ達ね!」

 

何時の間に準備していたのかロケット団の後ろにはいつものニャース型の気球が用意してあった。

そして勿論食料のサンドイッチの残りも纏めて袋に詰め込んでありロケット団の足元に置いてあった。

 

「お、ちょっとイイかもその気球」

 

「ってソラト! 言ってる場合じゃないだろ!」

 

「しかも食べ物まで盗んでるかも!」

 

「これは後で美味しく頂くのよ。ピカチュウと食料ゲットでイイカンジー!」

 

「勝手な事言うな! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ! チュウウウウウウ!」

 

初めて見たニャース気球を見てズレた感想を漏らすソラトにサトシが文句を言うと、ピカチュウはカプセルボールの中で10万ボルトを放つ。

だがピカチュウが放った電撃はカプセルボールの外には一切出ずに中で消滅してしまった。

 

「何!?」

 

「はっはーん! 今回も電撃対策は完璧なのだ!」

 

「ほらおミャーらも来るニャ!」

 

「プラァ!」

 

「マイマーイ!」

 

伸びるマジックアームをニャースが巧みに操作するとあっという間にライとデンを攫っていってしまった。

 

「しまった! ライ! デン!」

 

ピカチュウと同じく捕まったライとデンは纏めてカプセルボールに入れられてしまった。

 

「ハーイ、プラスルとマイナンもついでに頂きよー!」

 

「纏めてゲットでイイカンジだぜ!」

 

「こら! ピカチュウ達を放しなさい! アチャモ、つつく攻撃!」

 

「チャモー!」

 

電撃が効かないと分かり、ハルカはアチャモに攻撃させるが黙ってやられるロケット団ではなかった。

ロケット団はモンスターボールを用意するとそれを勢いよく投げた。

 

「行くのよアーボック!」

 

「マタドガス、お前もだ!」

 

「シャーボック!」

 

「マータドガース」

 

カントー地方からのロケット団の相棒達、アーボックとマタドガスだ。

 

「アーボック、ずつきよ!」

 

「シャボック!」

 

「チャー!」

 

アーボックの強力なずつきによりアチャモのつつく攻撃は弾き飛ばされてしまう。

体格によるパワーの違いだろう。カントーからサトシ達とバトルを行っているアーボック達はそれなりに鍛え上げられているのだ。

ゲットしたてのアチャモでは歯が立たないのだろう。

 

「負けないでアチャモ! ひのこよ!」

 

「チャ…チャモ…!」

 

「させるか! マタドガス、ヘドロ攻撃だ!」

 

「ドガー」

 

「チャモー!!」

 

「ああっ、アチャモ!?」

 

マタドガスの吐き出したヘドロをまともに受けてしまいアチャモはかなりのダメージを受けてしまう。

だがアチャモはどうにか立ち上がろうとするがダメージのせいか上手く動けない。

 

「ニャーッハッハ! ピカチュウとプラスルとマイナンは動けないし、アチャモも戦闘不能寸前だニャ!」

 

「今回は俺達の完全勝利のようだな!」

 

「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジよ!」

 

「ソイツはどうかな。デン、じゅうでんだ!」

 

「マイ!」

 

カプセルボールに入れられたデンは体に電気を溜め、パワーを蓄える。

 

「ムダな努力だぜ」

 

「そうだニャ。このカプセルはどんな強力な電撃も撥ね返してしまうのニャ!」

 

「ライ、てだすけだ!」

 

「プラ!」

 

電気のチャージが終わりデンの体からパチパチと火花が発生しのを見計らい再びライのてだすけでデンをパワーアップさせる。

 

「よし、デン! でんげきは!」

 

「マイ! マーイー!!」

 

「ライも10万ボルトだ!」

 

「プラ! プーラー!!」

 

デンはカプセルボールの中で強力なでんげきはを放つ。それに合わせてライも10万ボルトを放ち電撃が合わさりカプセルボールがとてつもなく輝く。

その輝きに怯んでカプセルを持っていたムサシは思わず手放してしまう。

 

「うわっ! ちょっとこのカプセル持ってられないわよ!」

 

「なんて電撃だニャー!?」

 

とてつもない電撃を放ち続けたことにより電気の吸収量を超えたカプセルボールにヒビが入り、それがどんどん広がりカプセルは砕け散ってしまった。

 

「ニャニー!?」

 

「有り金全部はたいて作ったカプセルがー!?」

 

「よし! デン、でんこうせっか! ライはまねっこ!」

 

「マイ!」

 

「プラ!」

 

「シャボー!!」

 

「ドガー」

 

「「「うぎゃー!!」」」

 

閃光のように駆け出したライとデンはアーボックとマタドガスにでんこうせっかを決める。

まともにでんこうせっかを受けたアーボックとマタドガスは吹き飛ばされてロケット団にぶつかって倒れた。

そしてロケット団が倒れた事により、コジロウの持っていたピカチュウの入っていたカプセルが落ちてしまいサトシの下へ転がる。

 

「ピカチュウ! 良かったぜ!」

 

「ピッカ!」

 

「よし、いけるかピカチュウ?」

 

「ピィッカチュ!!」

 

「チャ…チャモ!」

 

「アチャモ! まだいけるのね!」

 

カプセルボールを開けてピカチュウを助け出したサトシはすぐに戦闘態勢を取る。

ハルカのアチャモもようやく立ち上がりその目にリベンジの炎を燃やしていた。

 

「サトシ、ハルカ! 援護するから決めちまえ!! ライ、デン、ピカチュウとアチャモにてだすけだ!」

 

「おう! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「分かったわ! アチャモ、ひのこ!」

 

「「「うわぁあああああああああ!?」」」

 

てだすけを受けてパワーアップしたピカチュウとアチャモの攻撃は真っ直ぐにロケット団に向かうと合体し、直撃した。

ボカン! と爆発するとロケット団は吹き飛んでいった。

 

「あーん! せっかく全財産使ってカプセル作ったのに!」

 

「あーあ…こんなんなら飯食うのに使うんだったな…」

 

「でもサンドイッチはゲットしたニャ!」

 

「「おぉー! イイカンジ! だけど…」」

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

キラーン☆と、今日も今日とてロケット団は綺麗な星となって空の彼方へと消えていった。

が、一応サンドイッチの入った袋はニャースが持っていったようで微妙にイイカンジでもあったようだ。

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ピカチュ!」

 

「頑張ったわね、アチャモ!」

 

「チャモチャモチャー!」

 

「お疲れさん、ライデンコンビ」

 

「プラプラ!」

 

「マイマイ!」

 

と、バトルが終わり緊張が解けたせいかグゥ~とサトシの腹の虫が鳴り空腹を訴える。

 

「ア、アハハハ…バトルで熱くなったらお腹減っちゃったぜ」

 

「もー、食いしん坊なんだから。でもさっきロケット団がサンドイッチ持って行っちゃったかも」

 

「えぇ!? そ、そんな…」

 

「ピィカ…」

 

「ははは、もうすぐトウカシティだ。それまで頑張れサトシ。腹はこれで繋いでおけ」

 

「お! もうすぐトウカシティか! よしピカチュウ、必ず1つ目のバッジをゲットするぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ソラトはサトシにオレンの実を手渡すと、もうすぐトウカシティと聞いてサトシはオレンの実を齧り気合を入れなおす。

 

こうしてタッグバトルを通じて新たな戦いを知ったサトシ。

さぁ、1つ目のジムがあるトウカシティはもう目の前だ!

 

 

 

to be continued...



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トウカシティ! ポケモンゲットだぜ!

タイトルコールはサトシの声をイメージしてるので、皆さん個々で脳内再生してみて下さい。
今回凄く長くなりましたが、どうぞお楽しみ下さい。


ホウエンリーグ出場を目指し旅を続けるサトシ達。

お腹を空かせながら、とうとう1つ目のジムがあるトウカシティに到着したのだった。

 

「やっと着いたぜトウカシティ。5年ぶりか、懐かしいな」

 

トウカシティは森を開拓して作られた街で、大きなビル等もそこそこ建っているホウエン地方ではどちらかと言えば都会と言える街である。

そんなトウカシティのメインストリートを張り切って進むソラト。

そしてソラトの5メートルほど後ろで項垂れながらトボトボと歩くサトシとハルカがいた…。

 

「あぁ、疲れて足が棒みたいかも…」

 

「お腹減った~、もうこれ以上動けないよ…」

 

「ピィカチュ…」

 

「何言ってるんだ。サトシはこれからジム戦だろ? ハルカだって折角トウカシティに戻ったんだしアチャモ見せに家行くんだろ?」

 

ロケット団に食料を奪われてしまった日の翌日にはトウカシティに到着できたが、食べていたのは木の実だけだったのでお腹が満たされたかというと微妙であった。

サトシもハルカも空腹と疲れでヨタヨタと歩くことしかできないのだ。

 

「んじゃ、とりあえずトウカジムに行くか」

 

「ちょ、ちょっとその前にメシにしようぜ…腹が減っては戦はできないし…」

 

「チャ~」

 

「大丈夫よサトシ、ピカチュウ。トウカジムでとーっても美味しいご飯が食べれるかも」

 

「え? トウカジムで?」

 

「さ、行こうぜ」

 

トウカシティをしばらく進んでいくと、少し古そうな道場といった雰囲気の建物が見えてくる。

その建物こそがトウカシティのトウカジムである。

 

「ここがトウカジムだ。久しぶりだ…やっぱ前よりボロくなってるな」

 

「もー! お兄ちゃん人の家に対してその言い方はないでしょ!」

 

「久しぶりって…それに人の家ってどういう事だよソラト、ハルカ」

 

「ピィカ? ピカチュ?」

 

「それは―」

 

話の内容がよく分からず、頭の上に?を浮かべながらピカチュウと一緒に首を傾げるサトシ。

話について来れず置いてきぼりになっているサトシに説明しようとソラトが口を開こうとすると、突然ジムの入り口の戸が開き、サトシ達より年下だろう眼鏡をかけた少年が出てきた。

 

「あれ? お姉ちゃん! もう帰ってきたんだね!」

 

「ただいま、マサト」

 

「お姉ちゃん!? それにただいまって、まさか!?」

 

少年とハルカのやりとりで大体の事情を察したサトシは驚愕に顔を染める。

 

「このトウカジムはハルカの実家なんだ。つまり、ハルカのお父さんはジムリーダーって事だ」

 

「えぇー!? ハルカがジムリーダーの子供!?」

 

「ピィカー!?」

 

サトシとピカチュウは驚きのあまり両手を挙げて片足立ちでビックリしたと全身で表現する。

コテコテのビックリポーズだが、思わず条件反射でやってしまったのだろう。

そんなサトシとピカチュウを見た眼鏡の少年は何かを思い出して驚いたのか、目を見開く。

 

「あー! アンタは!」

 

「え!? 俺の事知ってるのか!」

 

「シロガネ大会2回戦で負けた人!」

 

「だー!?」

 

自分が知られているのかと思って期待したサトシだったが、予想外の覚えられ方にズッこけてしまう。

因みにシロガネ大会とはジョウト地方で開催されたポケモンリーグの事である。

サトシはその大会の決勝トーナメントの2回戦でバシャーモ使いのハヅキに敗北してしまったのだ。

そんな不名誉な覚えられ方にサトシはちょっとムッっとしてしまう。

 

「ま、負けたって言っても決勝トーナメントなんだよ!」

 

「へぇ、サトシはシロガネ大会に出てたのか」

 

「そう、その人、サトルは2回戦で負けたんだよ」

 

「だーからー! 決勝トーナメントだったんだってば! それに俺の名前はサトルじゃなくてサトシ!」

 

ソラトが感心していると眼鏡の少年が横槍を入れてサトシがプライドを傷つけられて大騒ぎしてしまう。

ハルカとソラトがそれを見て苦笑いして眼鏡の少年が何故か得意げに胸を張っている。

そうしてジムの玄関先で騒いでいると、玄関から大人の男性と女性が現れる。

 

「マサト、玄関で何をしてるんだ?」

 

「誰かお客さん?」

 

「パパ! ママ! ただいま!」

 

「おぉ、帰ってきたのかハルカ」

 

「あらまぁ、おかえりハルカ」

 

ジムから出てきた男性と女性はどうやらハルカと少年の父親と母親のようだ。

つまり…

 

「あっちの人がセンリさん、トウカジムのジムリーダーでハルカのお父さんだ。そっちの人がミツコさん、ハルカのお母さんだ」

 

「おや…君はもしかしてソラト君!? ソラト君じゃないか!」

 

ソラトを見たハルカの父にしてジムリーダーのセンリは珍しく声を大きくしてその名を呼んだ。

ソラトもセンリを見ると懐かしさから自然と笑顔になりセンリに深いお辞儀をする。

 

「お久しぶりですセンリさん、ミツコさん。5年ぶりにホウエンに戻ってきました」

 

「あらソラト君! ホント久しぶりね~」

 

「顔を上げなさい。元気にしてたかね」

 

「はい、ポケモン達と一緒にずっと旅してました」

 

「そっか、そういえばソラトとハルカは幼馴染で家族ぐるみの付き合いなんだっけか」

 

「それだけじゃないのよ。パパはお兄ちゃんのポケモンバトルの先生なのよ!」

 

手をポンと叩いてソラトとセンリが仲良くしているのを思い出すサトシ。

しかし家族ぐるみの付き合いと言うにはソラトの態度がいやにピシっとしていると思ったサトシを察したのかハルカが捕捉をする。

 

「なるほど、ソラトのバトルの師匠なのか」

 

「ピィカ」

 

そうして納得した所でサトシとハルカのお腹がグゥ~と鳴る。

 

「あぁ、そういえば私達お腹ペコペコだったかも…」

 

「なら、今からウチでお昼にしましょう」

 

「わーい! ママのご飯!」

 

「ご馳走になります!」

 

こうして家の中へ案内されたサトシ達はリビングのテーブルに着いてご飯を待つ事になった。

ミツコは料理をするためにキッチンで作業をし、サトシ、ハルカ、ソラト、センリと眼鏡の少年はテーブルに座っている。

 

「では改めて。私がトウカジムのジムリーダー、センリだ」

 

「私はミツコ、よろしくね」

 

「僕はマサト! お姉ちゃんの弟だよ!」

 

「しっかし大きくなったなマサト」

 

「お兄さん…誰?」

 

ソラトはマサトの事を知っているようだが、マサトはソラトの事を知らないようである。

正確には覚えていないということなのだが。

 

「まぁ、俺が旅立った頃マサトはまだまだガキんちょだったからな。記憶にないのも当たり前だな」

 

「ほらマサト! 私がいっつもビデオ見てたでしょ! 写真も見せたし!」

 

「あぁ、お姉ちゃんがいっつも大好きって言っ――」

 

「あぁあああああ! ちょっとマサト黙ってて!!」

 

マサトが何かを言いかけるも、ハルカが大慌てでマサトの口を塞ぐ。

当のソラトや話が見えないサトシは首を傾げている。

だがサトシはやる事があるのを思い出し、早速センリにジム戦を申し込む事にした。

 

「俺はマサラタウンのサトシです。センリさん、ジム戦をお願いします!」

 

ハルカの家族の自己紹介が終わり、サトシはようやくジム戦を申し込む。

ジム戦はジムリーダーの都合が悪い時やチャレンジャーがルールに合わせられない場合は行う事ができないので、本人に直接申し込むのが礼儀となっている。

 

「勿論いいとも。ジムバッジは今幾つ持っているんだい?」

 

「ここが始めてです! トウカジムのルールはどうなんですか?」

 

「3対3の勝ち抜き戦だよ、サトル」

 

「サトルじゃなくてサトシだって! …あれ? そういやマサトは何で俺の事知ってたんだ?」

 

「そりゃあ僕はシロガネ大会のビデオ持ってるからね!」

 

最初から自分の事を知っていたマサトの事を思い出し、その事を聞いてみるとそう返事が帰ってきた。

ポケモンリーグはテレビで全国に中継されるため、録画しておけばビデオやDVDを作る事もできるのだ。

 

「私も5年前のお兄ちゃんのビデオまだ持ってるのよ!」

 

「あぁ、5年前のホウエンリーグの…まだ持ってたのか」

 

「ホウエンリーグ!? ソラトはホウエンリーグの出場経験があるのか!」

 

「ああ、ベスト4まではいけたんだがな。まぁ5年も前の話だ」

 

「その時のビデオがあるのか! 俺も見て見たいぜ!」

 

「まっかせて! お兄ちゃんが旅立った5年前に挑戦したホウエンリーグのビデオ! ちょっと最近見てなかったかもだから、今から見ちゃおうっと!」

 

「や、やめろって恥ずかしい! ハルカ!」

 

ウキウキと嬉しそうにハルカは部屋から出て行くと、目的のビデオを取りに行ったのだろう。

逆に、自分の昔のビデオとなって恥ずかしそうにソラトは止めようとするも、その前にハルカはビデオを持ってきてしまった。正にでんこうせっかである。

持ってきたビデオをさっさとビデオデッキに入れるハルカを止めようとするソラトだが、それを逆にセンリに止められてしまう。

 

「まぁいいじゃないか、ソラト君。料理ができるまで見ていよう」

 

「セ、センリさん…はぁ、分かりました」

 

ビデオが始まるとポケモンバトルのフィールドと黒いコートを着た少年、そして対戦相手の男性が映し出された。

 

「お、あれが5年前のソラトか」

 

「あぁ、何だか恥ずかしい…」

 

『さあホウエンリーグサイユウ大会、決勝トーナメント1回戦も大詰めです! ホウエンはトウカシティ出身のソラト選手のポケモンは残り1体! 対するユウマ選手も残り1体で互角の勝負! さぁこのバトルの決着はどうなるのでしょうか!?』

 

『レイ、バトルの時間だ!』

 

ビデオの中のソラトはボールを投げると出てきたのはレイと呼ばれたサーナイトだった。

 

『さぁサーナイト対マッスグマのバトルが始まります!』

 

『マッスグマ、とっしんだ!』

 

ソラトの対戦相手のポケモンのマッスグマは勢いをつけて走り出し、レイに向かってとっしんする。

 

『レイ、チャームボイスだ!』

 

とっしんしてきたマッスグマに向かってレイは可愛らしい声で波動を生み出して攻撃する。

素早い波動はマッスグマがとっしんを繰り出す前に当たり吹き飛ばした。

 

『おーっと、これはチャームボイスが決まった‼︎』

 

『くそ! マッスグマ、きりさく攻撃だ!』

 

今度はマッスグマがきりさくで反撃し、レイは避けれずに攻撃をまともに受けて後ずさる。

だがレイはすぐさま反撃の準備に入る。

 

『負けるなレイ! もう1度チャームボイスだ!』

 

『かわせ!』

 

テレビの中で激しい攻防を繰り広げるレイとマッスグマ。

そしてその攻防戦にもついに終止符が打たれる。

 

『マッスグマ、とっしん!』

 

『おーっと! マッスグマのとっしんがクリーンヒットした! これは勝負を決める一撃か!?』

 

マッスグマのとっしんがレイに命中するが、レイの目にはまだ闘志が宿っていた。

 

『レイ! ムーンフォースだ!』

 

『サーナー!!』

 

とっしんをして反動のダメージを受けているマッスグマに、レイは月の力を集めた球体を生み出して撃ちこんだ。

まともにムーンフォースを受けたマッスグマは吹き飛ばされて地面に転がり、戦闘不能となった。

 

『マッスグマ戦闘不能! サーナイトの勝ち! よって勝者、トウカシティのソラト選手!』

 

『決まったー! とっしんを受けてからのムーンフォース! ソラト選手逆転勝利です!』

 

「あーん! お兄ちゃんカッコイイかもー!!」

 

そんなビデオを見ていたハルカは目をハートにして大声で歓声をあげる。

 

「もう、お姉ちゃんこのビデオ何回も見てるくせにいっつもこうなんだから」

 

「別にいいでしょ! だってお兄ちゃんホントにカッコイイんだもの!」

 

「あー、やっぱ昔の自分のバトルって恥ずかしいな…」

 

「何だよ、いいバトルだったじゃないか」

 

マサトの突っ込みにハルカは目をハートにしたままテレビをずっと見続け、ソラトは顔を手で覆って隠して顔を赤くするが、サトシがフォローを入れていた。

そうこうしている内に料理が出来上がったようでミツコが料理を机に並べていく。

 

「はーい、おまちどおさま」

 

「「「うわぁ! いただきまーす!」」」

 

「「いただきます」」

 

沢山の料理を次から次へと口に放り込んでいくサトシ、ハルカ、マサトに対してソラトとセンリは落ち着いた様子で料理を食べ進めていく。

と、食事が一段落するとサトシはジム戦の件を思い出した。

 

「あっ、そうだ。結局ジム戦は3対3なんですよね」

 

「そうだよ。シロガネ大会に出るほどなんだ、ポケモンは沢山持っているんだろう?」

 

「はい…でも皆マサラタウンに置いてきたんです。今回の旅は新たな気持ちで始めようと思ったので、ホウエン地方でゲットしたポケモンでバトルしようと思ってるんです」

 

「中々良い心がけだね。ではまた新しいポケモンをゲットしたら来るといい。その時は喜んで相手をさせてもらうよ」

 

「はい! その時はまた挑戦しに来ます!」

 

サトシとセンリはバトルを次の機会にする約束を交わすと、男同士の堅い握手を交わした。

そうして食事を終えた頃、玄関から誰かの声が聞こえてくる。

 

「あれ、またお客さんかも?」

 

「多分、彼だな」

 

センリが玄関に向かうと、サトシ達もセンリに着いて行く。

そしてセンリが玄関の戸を開けると、そこにいたのは緑色の髪をした気弱そうな少年だった。

 

「やはりミツル君、君だったか」

 

「こ、こんにちはセンリさん…あの、その…」

 

「あ、ミツル君。こんにちは!」

 

「こんにちは」

 

「ハ、ハルカさん、マサト君。 ここ、こんにちは…」

 

ミツルと呼ばれた少年はセンリ達にとても小さな声で挨拶をするが、センリの厳しい視線から逃げるように顔を逸らす。

ハルカとマサトへの挨拶もどんどん声が小さくなっていき、何故か涙目になっていく。

 

「誰だ?」

 

「ご近所のミツル君よ。昔からあんな風に気弱な子なの」

 

初対面のサトシは見知らぬミツルを見て疑問を浮かべるが、どうやらハルカ達の友達のようだ。

 

「そ、その…センリさん。今日は、僕のポケモンを捕まえるお手伝いを…」

 

「確かに今日は君の初めてのポケモンを捕まえる約束をしたね。だがミツル君、君は隠し事をしていたね」

 

「そ、それは…!」

 

「君は病弱な体だというのに、私にその事を隠していたね。君の体を思えばこそ、そして隠し事をしていた君との約束を、私は果たす事はできない」

 

厳しい言葉により、ミツルの初めてのポケモンゲットに付き合う約束を断るセンリ。

だがそれはミツルの事を思えばこその言葉だった。

センリの拒絶の言葉を聞き、気弱なミツルは俯いて何も言えなくなってしまう。

 

「センリさん、そんな…」

 

センリに抗議しようとするサトシだが、ソラトに肩を掴まれて止められてしまう。

 

「ミツル、久しぶりだな」

 

「ア、アナタはソラトさん…! お、お久しぶりですっ…!」

 

先ほどまでの暗い顔から一転、ミツルはソラトの顔を見ると顔を真っ赤にして勢いよく頭を下げてソラトへ挨拶をした。

 

「うぇ? なんかソラトにだけ全然態度が違うぞ」

 

「ミツル君、昔からお兄ちゃんにすっごく憧れてるのよ」

 

「へぇー、流石ソラト。俺はサトシ、ホウエンリーグ目指してるんだ! よろしくなミツル!」

 

「は、はぃ…」

 

サトシが挨拶をすると先ほどと同じように気弱な対応になってしまう。

どうやらミツルにとってソラトは本当に特別に憧れの存在のようだ。

ソラトはミツルの前に来ると、ミツルは顔を更に赤くし、汗もダラダラと流れている。

 

「デカくなったな。体は大丈夫なのか?」

 

「あ…はは、ハイ! 何とか―ゲホッゲホッ!」

 

「大丈夫か? ゆっくり呼吸するんだ」

 

大声で答えようとしたせいなのか、ミツルは苦しそうに咳き込み膝を着いてしまう。

ソラトはミツルの傍によると背中をゆっくりと撫でて落ち着かせる。

 

「すいません、ありがとうございます」

 

「センリさんが行かないなら、俺がポケモンのゲットに付き合ってやるよ」

 

「ええっ!? いいんですか!?」

 

ミツルを見かねたソラトがセンリの変わりに一緒に行くことを提案するが、ミツルの体を心配するセンリは止めようとする。

 

「ソラト君、ミツル君の体は…」

 

「大丈夫です。ミツル、体を楽にしろ」

 

「は、はい………あ、あれ? 体が…!?」

 

ソラトがミツルの背に手をかざし、少し時間が経つとミツルは体の調子が今までに無いほど良くなっていた。

普段なら少し運動したり興奮するだけで咳が出てしまうが、今は体が軽く喉もとてもすっきりしていた。

 

「今のは…!」

 

その様子を見ていたサトシはミシロタウンでソラトの父親であるアラシがピカチュウにしていた事を思い出した。

あの時も帯電状態に陥っていたピカチュウを手をかざしただけで治療したのだ。

今ソラトが行ったのは、あの時のアラシと同じ事に見えたのだ。

 

「ソラト君、その力の多用はあまり良くないぞ」

 

「分かっています。ご心配ありがとうございますセンリさん。さぁ行けるなミツル?」

 

「は、はい! よよよ、よろしくお願いします!」

 

センリは今の事を何か知っているようでソラトに忠告をする。

ソラトは申し訳無さそうにセンリにお礼を言うとミツルに手を貸して立ち上がらせる。

立ち上がったミツルはまた顔を赤くしながら勢いよく頭を下げた。

 

「そうだ、ハルカとマサトも一緒に行くといい。ポケモンのゲットをソラト君から教わるといい」

 

「行く行く! 絶対行くよ! 僕ポケモンをゲットするとこまだ見たことないもん!」

 

「ミツル君の初めてのポケモンも気になるかも!」

 

「よーし、それなら俺も一緒に行くぜ!」

 

「ソラト君、サトシ君、ハルカとマサトとミツル君をよろしく頼むよ」

 

「「はい!」」

 

センリの勧めもありハルカとマサトの同行も決まり、サトシも勢いに任せて一緒に来ることが決まった。

こうしてサトシ達はトウカシティの近くにある野生のポケモンが出るポイントへと向かう事になった…そしてそんなサトシ達を見つめる3つの視線…。

 

「ジャリボーイ達発見ニャ」

 

「でも何だかジャリボーイ増えてるわね」

 

「さしずめ小ジャリボーイと弱ジャリボーイだな」

 

安心と信頼のムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団の3人組であった。

ビルの屋上から双眼鏡と事前に仕掛けておいた集音機によりサトシ達の様子を伺っていた。

そしてロケット団の言う小ジャリボーイはマサトを指し、弱ジャリボーイはミツルの事を指しているのだろう。

 

「察するに、ポケモンをゲットしに行くみたいだな」

 

「じゃあ、ジャリボーイ達がポケモンをゲットしたところを…」

 

「横取りしてボスに届ければ…」

 

「「「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジー!」」」

 

「早速後をつけるニャ!」

 

こうしてソラト達の背後をロケット団も着いていくのだった。

 

 

 

サトシ達はミツルを連れてトウカシティの外れにある森の中へやって来ていた。

この辺りは野生のポケモンの生息地であり、よく野生のポケモンが飛び出してくるのだ。

 

「さて、この辺りだな。ミツル、このポケモンを貸しておくよ」

 

ソラトはミツルにスイゲツの入ったモンスターボールを渡した。

 

「ポケモンをゲットするには、まずポケモンバトルで相手を弱らせてからボールを投げるんだよね!」

 

「その通りだマサト。もっと言うと麻痺や眠り、毒なんかの状態異常にしてやるともっと捕まえやすくなるな」

 

「流石ソラトさん。勉強になります」

 

マサトとミツルはソラトに教えて貰った事を漏れなくメモに書き込んでいく。

努力家でマメな2人の性格が出ていた。

 

「俺も強そうなポケモンがいたらゲットだぜ!」

 

「ピッカチュ!」

 

「私も何か可愛いポケモンがいたらゲットかも! お願いアチャモ!」

 

「アチャ、チャモモー!」

 

「あ、お姉ちゃんは最初のポケモンはアチャモにしたんだね」

 

「そうよ、可愛いでしょ!」

 

「でもキモリとかのが強そうだよ」

 

「チャモー!!」

 

「うわー! これがアチャモのつつくか…痛いけど感激だー!」

 

サトシとハルカも何かポケモンゲットを狙い、ピカチュウとアチャモをスタンバイさせておく。

だがアチャモのこととなりハルカとマサトの間でマサトがアチャモにつつかれドタバタしているが、サトシ達はあえてスルーする事にした。

そしてしばらく周囲を探っていると、草むらがガサガザと揺れてポケモンが飛び出してきた!

茶色と白い毛がギザギザに生えているのが特徴的なポケモン、ジグザグマだ。

 

「あー! ジグザグマだよ!」

 

「あれがジグザグマなのね」

 

『ジグザグマ まめだぬきポケモン

いつもあっちこっちへジグザグ歩くのは好奇心がとても強くて目に映るもの色んなものに興味を持つからである。』

 

ハルカが図鑑を開いてジグザグマを検索していると、ジグザグマはすぐにどこかへ行ってしまいそうになる。

 

「ミツル、逃げられるぞ」

 

「あっ、ど、どうしたらいいんですか!?」

 

「さっき貸したモンスターボールを投げるんだ」

 

「は、はい! えいっ!」

 

「ラグァ!」

 

ミツルはモンスターボールを投げるとボールからスイゲツが飛び出してくる。

スイゲツはすぐに戦闘態勢に入りジグザグマと向かい合う。

 

「凄い…! これがソラトさんのポケモンなんだ…!」

 

「ラグラージ、名前はスイゲツだ。ほら、これがスイゲツの使える技だ」

 

「頑張れよ! ミツル!」

 

「ジグザグマはノーマルタイプだよ!」

 

「頑張ってゲットかも!」

 

ソラトがミツルにポケモン図鑑を渡すと、そこにはスイゲツのデータや使える技が表示されていた。

サトシ達の声援を受け、ミツルは気合を入れなおす。

 

「ラグ!」

 

「ほら、スイゲツが指示を待っているぞ」

 

「え、えーっと…じゃあスイゲツ、まもる!」

 

「ラグラ!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「ザグ? ザグザグ!」

 

スイゲツはミツルの指示通りに緑色のバリアが張られ、守りの姿勢に入る。

が、守るだけのスイゲツをジグザグマは少し見ただけで逃げていってしまった。

 

「あーあ、逃げられちゃった」

 

「あう…すいませんソラトさん…」

 

ゲットに失敗して何故かマサトも残念そうだ。恐らくポケモンゲットの瞬間を見たかったのだろう。

ジグザグマに逃げられてしまいミツルは申し訳無さそうに謝るが、誰もが最初から上手くできる訳ではないと知っているソラトは微笑んでミツルの頭を撫でてやる。

 

「そんなガッカリするな。次は攻撃技を使ってダメージを与えるんだぞ」

 

「は、はい…! 戻って、スイゲツ」

 

「よーし、私も負けてられないわ! えーっと、可愛いポケモンいないかな」

 

ミツルに影響されたのかハルカもアチャモと共に森を進んでいくと、木の上から小さなポケモンの影が飛び出した!

 

「キャモー!」

 

「あっ、お姉ちゃんあそこにキャモメがいるよ!」

 

「あれがキャモメ!?」

 

『キャモメ うみねこポケモン

エサや大事な物を嘴に挟んで色んな場所に隠す習性を持つ。風に乗って滑るように空を飛ぶ。』

 

図鑑に表示されたまん丸で白いキャモメの姿を見てハルカは中々キャモメの事を気に入ったらしい。

 

「へぇー、可愛いかも! よし、行くのよアチャモ!」

 

「チャモチャモ!」

 

「あー! 待ってよお姉ちゃん!」

 

「俺達もキャモメを追いかけるぞ!」

 

飛んでいくキャモメを追いかけていくハルカとアチャモ。

森の奥へ走っていくハルカとアチャモを追いかけてサトシ達も走り出す。

しばらく走り続けていると体が弱く、普段から運動をしないミツルはすぐに息があがってしまい、フラフラになってしまう。

 

「はっ、はっ…!」

 

「頑張れミツル!」

 

「も、もうダメです…」

 

「仕方ないか…! あんまり動くなよミツル!」

 

「うわっ!? ソ、ソラトさん!?」

 

どんどんと走るスピードが落ちていくミツルの所まで戻ったソラトは、ミツルを肩に担ぎ上げると再び走り出した。

 

「ソ、ソラトさん僕はいいから降ろして下さい!」

 

「そんな事言ってたらポケモンは追いかけられないぞ! ハルカ、このままじゃ逃げられる! ひのこでキャモメを地上に引き摺り下ろすんだ!」

 

「分かったわ! アチャモ、ひのこ!」

 

「チャーモー!!」

 

「キャモ!?」

 

流石にミツルを担いでいるせいかソラトの走る速度は皆より遅く、どんどん遅れてしまう。

大声でハルカにアドバイスを出すとハルカはその通りにアチャモにひのこでキャモメに攻撃させる。

ひのこを受けて体制を崩してしまったキャモメは滑空の姿勢が崩れて高度を下げて地上に降りてきた。

 

「いいわよアチャモ! そのままつつく攻撃!」

 

「チャモー!」

 

「キャモモー!?」

 

つつくが届く距離まで近づいたアチャモは素早く近づいて嘴で攻撃を繰り出すと、キャモメは避けることもできずにまともにつつくを受けてしまう。

少し離れた場所に倒れたキャモメはそれなりのダメージを受けているようだ。

 

「今だハルカ! モンスターボールを!」

 

「そうね! お願い、モンスタボール!」

 

サトシの合図で、ハルカは腰の鞄から空のモンスターボールを取り出してキャモメ目掛けて投げた。

だがボールはキャモメの頭上を通り越し、木に当たって地面に落ちた。

 

「あれ…?」

 

「何してるのさお姉ちゃん!」

 

「もっとよく狙うんだ!」

 

「わ、分かってるわよ! もう1度、モンスターボール!」

 

再度ボールを投げると今度はキャモメに吸い込まれるように飛んでいき命中した。

キャモメがボールに入るとカタカタとボールが動いてキャモメの抵抗を示している。これが収まれば見事ゲットとなるが、ボールはパカンッと開いて中からキャモメが出てきてしまった。

 

「ああっ! ゲット失敗かも!」

 

「ダメージが足りなかったんだ。ハルカ、もっと攻撃するんだ!」

 

「えっと、えっと…アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモ! チャーモー!」

 

「キャーモー!」

 

アチャモがひのこを放つが、今度はキャモメもみずでっぽうで反撃をする。

ぶつかり合ったひのことみずでっぽうは、みずでっぽうがひのこを蒸発させて掻き消してしまった。

そのままみずでっぽうはアチャモに命中してしまう。

 

「チャモモー!」

 

「ああっ、アチャモ!?」

 

「まずいよ、みずタイプの技はアチャモに効果抜群なんだ!」

 

「キャモモッ!」

 

みずでっぽうを受けて動けなくなってしまったアチャモの隙を狙ってキャモメは翼を使って軽く飛び上がると、低空飛行のままアチャモに突進する。

そしてキャモメの翼が輝き、翼がアチャモに命中した。

 

「アチャー!」

 

「あれはキャモメのつばさでうつだよ!」

 

「アチャモ、大丈夫!?」

 

「チャモ~…」

 

ハルカはアチャモを抱き起こすが、アチャモの目はグルグル回っておりどう見ても戦闘不能だった。

その隙にキャモメは軽く羽ばたいて空へ飛び立つと滑空して逃げていってしまった。

 

「はぁ、はぁ…ダメだったか。はぁー、ちょっと休憩」

 

「す、すいませんソラトさん…」

 

「はぁ、はぁ…気にするなって。俺が勝手にやった事だからな…ふぅ」

 

そこへようやくミツルを担いだソラトが追いついてきた。

流石のソラトも人を1人担いで走っていたせいか息を切らしており、担いでいたミツルを地面に降ろすと地面に座り込んでしまう。

 

「あーあ、ゲット失敗かも」

 

「お姉ちゃんゲットへたっぴだね。僕ならゲットできてたよ!」

 

「うるさいわね! マサトだって実際やってみたらできっこないわよ!」

 

マサトの言葉にハルカはムキになって反論するが、マサトはゲット経験のあるサトシにゲットのお願いをすることにした。

 

「ねぇサトシ! サトシはゲットの経験沢山あるんでしょ? 僕にゲットする所見せてよ!」

 

「ぼ、僕にも是非お手本をお願いします…」

 

「よし、任せとけ。やってやろうぜピカチュウ」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ピカチュウを連れて今度はサトシが野生のポケモンを探していくと、先ほどのキャモメより小さいが、とてつもなく素早い影が空を飛んだ。

 

「あれは何だ!?」

 

「ありゃスバメだな。この辺のポケモンの中じゃバトル向けでオススメだぞ」

 

「そりゃいいや! よし、俺はあのスバメをゲットするぞ! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ! ピカチュゥウウウウウウ!」

 

ピカチュウの電撃が空を切り裂き、飛行していたスバメに向かって一直線に向かっていく。

だが直前で電撃を察知したスバメは素早く電撃を避けてサトシ達に向かってくる。

 

「スバー!」

 

「あのスバメすっごく速いかも!」

 

「あれはでんこうせっかだよ!」

 

「来るぞピカチュウ! もう1度10万ボルトだ!」

 

「ピカ~チュゥウウウウウウウウ!」

 

「スバ~!!」

 

真っ直ぐに物凄いスピードででんこうせっかを放つスバメだが、ピカチュウが放った10万ボルトを今度は避けることができず、まともに受けてしまう。

だがスバメは大声を出すと、なんと10万ボルトを振り払ってしまった。

 

「何!?」

 

「そんな! ひこうタイプのスバメに電気技はこうかはばつぐんなのに!?」

 

 

スバメが突っ込んでくるのに対し、サトシとピカチュウは、改めてスバメと向かい合った。

 

「来るぞピカチュウ! かわしてでんこうせっかだ!」

 

「ピカ! ピィッカ!」

 

「スバ!? スバババッ!?」

 

スバメのでんこうせっかを紙一重でかわしたピカチュウは、逆にでんこうせっかを放ちスバメを吹き飛ばした。

だがスバメは地面に落ちる前に翼を羽ばたかせて体勢を立て直して空へ舞い上がる。

 

「逃がすか! ピカチュウ、かみなり!」

 

「ピィカ~、ヂュウウウウウウウウウウ!!」

 

「スババッ! スバ~!?」

 

ピカチュウから巨大な雷が放たれてスバメに直撃すると、流石に弱ったのかスバメは空から落ちてくる。

だが再びこんじょうで体勢を立て直したスバメはスピードを上げて落下し、ピカチュウに肉薄してつつく攻撃を繰り出した。

 

「スバッ!」

 

「ピィカ~!」

 

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

 

「ピィ…ピカ!」

 

「特性がこんじょうとは言え、あのスバメ本当にスゲェ根性だな。かみなりを受けても戦闘ができるとは」

 

「何だかサトシに似てるかも!」

 

電気技の中でもトップクラスの威力を誇るかみなりを受けても戦闘を続けるスバメを見て、ソラトは素直に賞賛する。

ハルカはスバメの根性にどこかサトシと同じような気配を感じたようだ。

 

「負けるなピカチュウ! もう1度かみなりだ!」

 

「ヂュウウウウウウウウウウ!!」

 

「スババ~!」

 

再度かみなりが命中し、スバメは今度こそ地面に落ちた。

流石にもう体力はほとんど残ってはいないだろう。

 

「よーし、行け! モンスターボール!」

 

地面に倒れたスバメに向けてサトシはモンスターボールを投げつける。

ハルカとは違い、1発でスバメに命中するとスバメがボールの中へ入っていき、モンスターボールが揺れ始める。

 

「どうだ!?」

 

「ピィカ!?」

 

そのまま5回ほど揺れたボールはそれを最後に動かなくなり、ポン。とゲット完了の音が当たりに響き渡った。

 

「おっしゃぁ! スバメ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「やったわねサトシ!」

 

「わぁ! 僕ポケモンのゲットするところ初めて見たよ!」

 

「これがゲット…凄い…凄い…!」

 

スバメをゲットしたことでサトシはビシっとキメるとハルカとマサトが初ゲットを見て興奮し、ミツルも感銘を受けていた。

そんなミツルを見たソラトは、そういえばと思い気になった事をミツルに尋ねてみる。

 

「さ、今度はミツルの番だな。そういやミツルは何か狙ってるポケモンはいるのか?」

 

「あ…はい。実は僕、ラルトスが欲しいんです。5年前のソラトさんのホウエンリーグなバトルを見て、サーナイトに憧れて…」

 

「そっか。そういやソラト、さっきのビデオでサーナイト使ってたな」

 

「なるほどな。俺のサーナイトのレイも、昔ラルトスの頃にこの辺りでゲットしたんだ。探せばすぐに見つかるさ」

 

「はい…って、アレ? あのポケモンって」

 

「「「「え?」」」」

 

木の陰からサトシ達のことをこっそりと見ていた小さな白い体、緑の頭に赤いツノを持つポケモンは、間違いなくかんじょうポケモンのラルトスだった。

 

「あれがラルトスか!?」

 

『ラルトス かんじょうポケモン

人やポケモンの感情を頭のツノでキャッチする。敵意を感じると隠れてしまう。』

 

「よ、よし、今度こそ! お願いします、スイゲツ!」

 

「ラグ!」

 

「ラル…ラルル」

 

再びスイゲツを呼び出すと、スイゲツはラルトスの隠れている木に向かって構えを取る。

構えを見て少し怯えるように反応をしたラルトスだったが、すぐに木陰から出てくるとスイゲツと向かい合った。

 

「あれ、何でラルトスの方から出てきたの?」

 

「ラルトスはあのツノで人の感情を感じれるんだ。前向きな感情を察知すると出てくるって言われてるから、きっとミツルの気持ちに反応したんだろう」

 

「そっかー! 頑張ってー、ミツル君!」

 

「は、はい! 今度こそ攻撃技を…スイゲツ、たきのぼり!」

 

「ラグ! ラッガァアアアアアアア!」

 

「ラルー! ラ…ラルル!」

 

水を纏い、まるで滝を昇るかのような勢いでスイゲツはラルトスへ突っ込んでいく。

たきのぼりを避ける事もできず、ラルトスはまともに攻撃を受けてしまう。

だが攻撃を受けても何とか立ち上がったラルトスは反撃のためにサイコパワーを発生させてねんりきを使う。

ねんりきにより周囲にあった大きめの石がスイゲツに向かって放たれる。

 

「ミツル、こういう時こそ防御技だ!」

 

「はい! スイゲツ、まもる!」

 

スイゲツが再び緑のバリアを展開して守りの姿勢に入ると、飛んできた石はバリアに阻まれてスイゲツまで届くことは無かった。

 

「よ、よし! スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラグラ!」

 

「ラールー!?」

 

ラルトスの攻撃を防御し、闘気を纏ったパンチを繰り出して反撃をする。

グロウパンチは見事にラルトスに当たると、ラルトスは地面に倒れてしまう。

戦闘不能ではないが、かなりのダメージになっているようだ。

 

「今だ!」

 

「は、はい! お願いします、モンスターボール!」

 

ラルトス目掛けて投げられたモンスターボールは見事命中し、ボールの中にラルトスが入っていく。

そしてボールが揺れる。ゲットの為の最後の関門だ。

 

「お願い…お願い…!」

 

ミツルは手を前で組んで祈るように言葉を呟いている。

5年前から憧れたソラトに追いつくための第一歩として、ここで失敗する訳にはいかないという想いがミツルの中を渦巻いていた。

そして、十秒ほどボールが揺れると…

 

ポン。という音と共にゲットが完了した。

 

「あ…わぁ! やったぁ!」

 

「ゲット成功かも!」

 

「やったなミツル!」

 

「は、はい! ソラトさん、ありがとうございます! サトシさんもありがとうございます!」

 

「え? 俺は別に何もしてないぞ?」

 

「いえ、さっきのスバメのゲットがとても参考になりました! ありがとうございます!」

 

どうやらミツルは先ほどのサトシのゲットを見てそこから色々とヒントを得ていたようだ。

それがラルトスのゲットに繋がったのだろう。

 

「よし、出てきてラルトス」

 

「ラルラル」

 

「僕はミツル。これからよろしくねラルトス」

 

「ラール」

 

ミツルはゲットしたラルトスを早速ボールから出すとラルトスを抱きかかえてお互いに挨拶を交わした。

ラルトスも嬉しそうにミツルに抱きついている。

 

「なんだかラルトスも嬉しそうだよ? さっきまでバトルしてたのに」

 

「ラルトスもミツルにゲットされたかったんじゃないか? 俺も今までの旅でポケモンの方から仲間になってくれた事もあったぜ」

 

「へぇー、そうなんだ。バトルしてゲットするだけじゃないんだね!」

 

サトシのポケモン達の中にはバトルではなくそれまでの出来事を乗り越えて絆を結び、ポケモン達の方からゲットを望んだ事もあった。

その体験談を聞いたマサトは驚いたような、それでいて嬉しそうにしていた。

 

だがそこへ突然長く伸びてきたアームがピカチュウとラルトス、アチャモとスイゲツを捕まえるとそのまま空へ連れ去っていってしまった。

 

「ああっ、ラルトス!?」

 

「スイゲツ!」

 

「ああっ、私のアチャモ!?」

 

「ピカチュウ! いったい何なんだ!?」

 

ポケモン達が連れ去られた方を見れば、そこには空に浮かぶニャースの気球。

勿論それに乗っているのは―

 

「いったい何なんだ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

―ズッコケ悪の組織、ロケット団の3人組だった。

アームに掴まれたピカチュウ達は気球の下に吊るされている頑丈そうな檻に放り込まれてしまう。

 

「ロケット団! ピカチュウ達を返せ!」

 

「お姉ちゃん、あの人達なんなの?」

 

「ロケット団っていう、悪の漫才トリオよ!」

 

「「「ちがーう!!!」」」

 

あながち間違いでもないのだが…ハルカにとってロケット団はそういった認識だったらしい。

 

「ニャー達は人のポケモンを奪い世界征服を企む悪の組織ニャ!」

 

「手始めにお前達のゲットしたポケモンを奪ってやったのだ!」

 

「そして作戦成功したからには長居は無用よ!」

 

「「「帰る!」」」

 

ロケット団を乗せたニャースの気球はすぐにUターンして去っていってしまう。

それを逃がすまいと、サトシ達も走って気球を追いかける。

 

「待てー! ロケット団!」

 

「ラルトスを返して下さい! 僕の初めてのポケモンなんです!」

 

「アチャモを返しなさーい!」

 

「返せと言われて返す悪党はいないのよ!」

 

「スイゲツ、檻を壊すんだ!」

 

「ラグ!」

 

ソラトの指示により、檻に入れられたスイゲツはグロウパンチで檻を殴って脱出を試みる。

スイゲツだけではなくピカチュウとアチャモも檻に向かってでんこうせっかとつつく攻撃で檻を破壊しようとする。

 

「無駄だ無駄だ! この檻はそう簡単には壊れないんだ!」

 

「だったら…頼むぞスバメ! あの気球につつく攻撃!」

 

「スバッ! スバーッ!」

 

サトシは先ほどゲットしたばかりのスバメを出すと、スバメは一直線に気球に向かいつつくで気球を割った。

 

「「「げげげっ!? ギャーッ!!」」」

 

気球は浮力を失い森の中へ墜落してしまう。

だが墜落のショックでも檻は壊れず、ピカチュウ達は中に閉じ込められたままだった。

 

「もう逃がさないぞ、ロケット団!」

 

「ぐぬぬ~、こうなったらポケモンバトルよ! 行くのよアーボック!」

 

「マタドガス、お前もだ!」

 

「シャーボック!」

 

「マータドガース」

 

墜落したロケット団に追いついたサトシ達だが、ロケット団も腹をくくったのかポケモンを繰り出してきた。

対するサトシはスバメで迎え撃ち、ソラトもフウジンのボールを投げる。

 

「頼むぜスバメ! でんこうせっかだ!」

 

「スバ!」

 

「フウジン、リーフブレードだ!」

 

「ダーテン!」

 

先手を取ったスバメとフウジンはアーボックとマタドガスを吹き飛ばす。

 

「負けんじゃないわよアーボック、どくばり!」

 

「マタドガス、ヘドロ攻撃だ!」

 

「スバメ、かわすんだ!」

 

「フウジン、かげぶんしん!」

 

スバメは飛び上がってヘドロ攻撃を避け、フウジンはかげぶんしんでどくばりを避けた。

 

「アーボック、ずつきよ!」

 

「マタドガス、たいあたり!」

 

「かわしてつつく攻撃!」

 

「フウジン、じんつうりきだ!」

 

アーボックのずつきを避けてスバメはその頭に嘴でつつく攻撃を繰り出す。

フウジンはマタドガスのたいあたりが決まる前にじんつりきでマタドガスを宙に浮かべ、地面に叩きつけた。

 

「やったわ! スバメのつつく、効いてるかも!」

 

「じんつうりきはエスパータイプの技だし、どくタイプのマタドガスにこうかはばつぐんだよ!」

 

「ソラトさん、サトシさん…2人とも凄い…」

 

つつくとじんつうりきによって吹き飛ばされたアーボックとマタドガスはその場に倒れこんで戦闘不能になってしまう。

その隙はソラトは見逃さなかった。

 

「今だフウジン! あの檻にリーフブレード!」

 

「ダーッテン!」

 

「ピカッ!」

 

「チャチャモー!」

 

「ラグラ!」

 

フウジンの草の刃は檻の格子を真っ二つにして破壊し、その格子の間からピカチュウ、アチャモ、スイゲツが脱出した。

ラルトスも逃げ出そうとするが、その前にニャースに捕まってしまう。

 

「ラルトス!」

 

「逃がさないわよ!」

 

「こうなったらラルトスだけでもゲットしてやるぜ!」

 

「ラル! ラルル…!」

 

「ぼ、僕のラルトス…ゲホッ、ゲホッ!」

 

ラルトスを捕まえたロケット団はすぐにその場から走って逃げ出そうとする。

ミツルも追いかけようとするが、体の調子が悪くなってきたのか咳き込んでその場に蹲ってしまう。

 

「ミツル君、大丈夫!?」

 

「くそ! ラルトスが一緒じゃ攻撃できないし…!」

 

「ラルトス…僕の、初めての…!」

 

ミツルは諦めきれないのか、苦しい体を引きずるようにフラフラと走り出した。

だが心臓の辺りを押さえながらすぐに倒れこんでしまった。

 

「ミツル! 無茶するな!」

 

「僕の、始めての…とも、だち…!」

 

倒れたミツルをソラトが肩を貸して立ち上がらせると、ミツルはラルトスに向かって手を伸ばした。

だがロケット団はどんどん遠ざかっていってしまう。

 

「ラルトス…ラルトスー!」

 

苦しい心臓を押さえながら、ミツルはありったけの想いを込めて叫んだ。

 

「ラル…ラールー!」

 

そのミツルの想いに応えたのか、突然ニャースの手の中からラルトスの姿が消え、すぐにミツルの傍へと現れた。

 

「ニャニャ!? ラルトスが消えたニャ!?」

 

「「えー!?」」

 

「ラルトス!」

 

「ラル!」

 

ミツルの傍へ瞬間移動したラルトスは手を広げて迎えるミツルの腕の中へ飛び込んだ。

 

「今の技はなに!?」

 

「テレポートだよ! ラルトスはテレポートを覚えたんだ!」

 

「よし、今だピカチュウ! かみなりだ!」

 

「ピィカー…ヂュウウウウウウウウ!!」

 

「「「ぎゃぁああああああああ!?」」」

 

ラルトスが居なくなった事によりロケット団へ攻撃できるようになったため、すぐにサトシとピカチュウはかみなりを放つ。

かみなりを受けたロケット団はドカン!と爆発して吹き飛んだ。

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

「ソーナンス!」

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ラルトス、無事で良かった!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「ラルル」

 

キラン☆と空の星となったロケット団達を見送り、無事ポケモン達を取り返したサトシ達はトウカシティに戻ることになった。

 

 

 

日が暮れてきた頃、サトシ達は次のジムがある街を目指して旅立つ事にした。

トウカジムの前でサトシとハルカ、それに向かい合うようにセンリとミツコ、マサトとミツルが赤い夕日に照らされていた。

 

「サトシ君、ハルカの事をよろしく頼むよ」

 

「色々迷惑かけると思うけど、サトシ君とソラト君が一緒なら安心だわ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

「もう、パパもママも心配性かも」

 

ハルカの事を心配してサトシにハルカの事を頼むセンリとミツコにサトシは力強く頷いた。

そしてリュックを背負ったマサトがサトシ達の方へとやって来る。

 

「ふふん、お姉ちゃんだけじゃ心配だから僕も一緒に旅に着いていくよ!」

 

「えぇ~!?」

 

「それはいい。ポケモンの事を色々知っているマサトがついていけば何かと役に立つだろう」

 

「うぅ…最初はお兄ちゃんと2人旅の筈だったのに…」

 

なにやらマサトが着いてくると決まり更にガックリしているハルカは置いておき、ミツルが前に出てくる。

 

「サトシさん、僕…もう少ししたらラルトスと一緒に旅に出ます! そして、今期のホウエンリーグに出場してみせます!」

 

「そっか、じゃあ俺達はライバルだな! 頑張れよ、ミツル!」

 

「はい! サトシさんにも、ソラトさんにも負けないように頑張ります!」

 

どうやらサトシにはホウエン地方で新しいライバルが出来たようだ。

サトシは新しいライバルとの未来のバトルに思いを馳せ改めてジムバッジゲットとホウエンリーグへの出場を誓った。

 

「あれ? そう言えばソラトさんは?」

 

「え? そういえば居ないな」

 

「恐らくソラト君はあそこだろう。着いて来なさい」

 

センリはソラトの行き先に心当たりがあるのか、街の外れに方へ向かって歩き出し、ハルカも迷いなくセンリについていく。

サトシやミツル、マサトは首を傾げながらもセンリについて行く事にした。

 

そしてソラトは、トウカシティの外れにある大きな丘の上に居た。

何かを懐かしむような、悲しいような、何かを決意したような、様々な感情が混ぜこぜになったような瞳をしたソラトは、墓の前に屈んだ。

 

「5年も1人にしてごめんな、オフクロ…」

 

丘の上でソラトが向かい合っているのは1つのお墓。

墓にはソヨカ、ここに眠る。と書かれており、無くなった日付が刻まれていた。

 

「オヤジはまだ見つからないけど…絶対にここに連れてくるから。約束はきっと果たすよ」

 

「おーい! ソラトー!」

 

「ピカピカー!」

 

「サトシ…皆」

 

センリを先頭にしてやって来た皆を見て、ソラトは立ち上がって振り返った。

 

「ソラト、こんな所で何やってるんだ?」

 

「あれ? それってお墓?」

 

「ああ…俺のオフクロのな」

 

「ソラトのお母さん!?」

 

ソラトは自分で思い出すかのように夕日で赤く染まった空を見上げながら語りだした。

 

「……俺のオヤジはポケモン冒険家でな。世界中の遺跡やら大自然やらを巡っているんだ。だがある時から行方が分からなくなってな」

 

「そっか、それでソラトはアラシさんを探してるんだな」

 

「そういう事じゃないんだ。5年前、オフクロが不治の病で倒れちまった。オフクロはすぐに衰弱して動けなくなった…そして最後に言ったんだ…『あの人に会いたい』ってな」

 

「あの人って言うのは…」

 

「アラシさんの事よ。お兄ちゃんは、お母さんのソヨカさんが亡くなってからすぐに旅に出たの。アラシさんをここに連れてくるって墓前に約束をしてね」

 

「…だから俺は必ずあのクソオヤジをとっ捕まえてここでオフクロに謝らせるんだ。絶対にな」

 

「そうだったのか……旅の途中で俺も手伝うよ、アラシさん探すの!」

 

「私もお兄ちゃんの為に手伝うかも! その為の旅なんだし!」

 

「僕もー!」

 

「サトシ、ハルカ、マサト…ありがとな」

 

ソラトはサトシ達の言葉が嬉しかったのか顔を赤くし、そしてそれを隠すようにフードを目深に被った。

センリとミツコはそれを微笑ましそうに眺めていた。

 

「ソラトさん…」

 

「ミツル、どうかしたか?」

 

「ぼ、僕ももう少ししたら旅に出て、ホウエンリーグの出場を目指そうと思うんです! 僕も旅先で、アラシさんの事探してみます!」

 

「そっか…ありがとな。それなら俺も今期のホウエンリーグの出場を目指してみるかな」

 

「「え…?」」

 

ソラトの思いがけない言葉に、ミツルだけではなくサトシも思わず声を出す。

 

「3人でホウエンリーグを目指して、誰が優勝できるか勝負だ」

 

「は、はい! 僕、お二人に負けないように頑張ります!」

 

「よーしピカチュウ! 俺達も優勝目指して頑張るぞ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ソラトの冒険の理由を知り、そして2人の新たなライバルを得たサトシ。

ホウエンリーグ出場のための彼らの旅は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




新ライバルとしてミツル君登場です。
サトシとソラトとミツルの3人のホウエンリーグでの決戦を楽しみにしていてください。まぁ当分先ですが…。
え? マサムネ君?

…次回もお楽しみに。


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喧嘩!? 分裂!? バトルスタイルを見つけ出せ!

前回の話、所々修正しました。
ムーンフォースがアームハンマーになってて焦った。最初はスイゲツ戦わせてたけど直し損ねてました。

カナズミシティまで1話完結が続きます。

皆さんのお暇を潰せていれば幸いです。


ホウエンリーグ出場を目指すサトシ達は、1つ目のジムがあるカナズミシティを目指し旅を続けていた。

現在はトウカシティから少し離れた森の中を進んでいた。

 

「なぁソラト、カナズミシティにはどれくらいで着くんだ?」

 

「んー、どうだったかな。俺がホウエンを旅してたのは5年も前だからあんまり詳しい所は覚えてないんだ。それに色々道も変わっただろうからな」

 

「それなら僕に任せてよ! パパから貰ったポケナビがあるんだ!」

 

マサトが取り出したポゲギアは黄色い色をした丸っこい小さな機械だが、上部分が稼動するとモニターが現れて地図が映し出される。

 

「おぉ、何だそれ!?」

 

「ポケモンナビゲーター、略してポケナビだよ。今自分がどの位置にいるか詳しく分かるんだ。えーっと今僕達はここだから…カナズミシティには2週間くらいかかるかもね」

 

「そうか! ならそれまでにどんどんポケモンをゲットして特訓しなきゃな! 頑張ろうぜピカチュウ」

 

「ピカピカ」

 

ジム戦のためにポケモンのゲットを目指すサトシは周りをキョロキョロ見渡しながらどんどん先へ進んでいってしまう。

だが先ほどからバテバテのハルカはソラトとマサトの少し離れた後方でトボトボと歩いている。

 

「サトシー! あんまり速く行かないでよー!」

 

「ハルカも遅いぞ。旅の間はそう何度も背負ってやれないからな」

 

「サ、サトシ速すぎるかも~…」

 

未だに徒歩での旅に慣れないハルカはサトシとソラトはおろか、マサトにも体力負けしていた。

 

「マサトは結構体力あるんだな」

 

「うん、ポケモンと旅するには体が基本だってパパが言ってたもん」

 

「流石センリさん、マサトも将来いいトレーナーになれるぜ」

 

「えへへ、そうかなぁ」

 

小さな体だが体力は十分なのを見てソラトはマサトが将来いいトレーナーになるだろうと確信した。

マサトなら見た目に反さずポケモンの知識も豊富だろう。

ソラトに褒められたのが嬉しいのか、マサトは顔を赤くして頭を掻く。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん! 私はどう!?」

 

「うわ速っ…!」

 

先ほどまで結構後ろに居た筈なのだが、瞬時にソラトの横に移動したハルカは自分がいいトレーナーになれるかソラトに尋ねる。

あまりの速さにマサトが呆れながらも驚いていた。

 

「ああ、まだまだこれからだけどセンスは所々で見られるな」

 

「うふふ、お兄ちゃんのお墨付き貰っちゃったかも!」

 

「もー、お姉ちゃんはすぐに調子に乗るんだから」

 

「ははは……あれ、サトシ見えなくなっちまったぞ」

 

ソラト達が話し合い、ふと前を見るとサトシとピカチュウの姿が見えなくなっていた。

 

「あれ? どこに行っちゃったんだろう?」

 

「もー、サトシったら落ち着き無さ過ぎかも」

 

ハルカとマサトが周囲を見渡すようにサトシを探すが、サトシの姿はどこにも見えない。

だがふと森の奥を見ると黄色い閃光が奔る。

 

「あれはピカチュウの10万ボルトだよ!」

 

「となるとサトシはあっちだな。行ってみるか」

 

ソラト達は10万ボルトが見えた方向へ向かってみると、やはりその先でサトシとピカチュウが偶然出会ったトレーナーとバトルを行っていた。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ゴニョニョ、はたく攻撃で迎え撃て!」

 

「ピィッカ!」

 

「ゴニョ」

 

サトシの対戦相手のポケモンはピンクの体と独特な目が特徴的なゴニョニョだった。

ピカチュウはゴニョニョのはたくが繰り出される前に懐に飛び込んででんこうせっかを決めるとジャンプして後ろに下がった。

 

「くっ、ゴニョニョ、いやなおとだ!」

 

でんこうせっかを受けたゴニョニョだが、どうにか体勢を立て直していやなおとを発して反撃を試みる。

 

「きゃあああああっ! 何この音~!?」

 

「ゴニョニョのいやなおとだよ~! かなり嫌な音だけど、感動だ~!」

 

「今だゴニョニョ、はたく攻撃!」

 

「ゴニョ!」

 

「ピィカ!」

 

いやなおとで動きが止まっているピカチュウを狙い、ゴニョニョは頭から生えている耳ではたく攻撃を繰り出してピカチュウを吹き飛ばした。

ピカチュウは吹き飛ばされるが、空中で回転して体勢を立て直して着地した。

 

「よし! トドメの10万ボルトだ!」

 

「ピィカ! チュゥウウウウウウウウウ!」

 

はたく攻撃で隙ができた所を狙ったピカチュウの10万ボルトが決まる。

渾身の10万ボルトが決まり、ゴニョニョに大ダメージが入りそのまま戦闘不能となった。

 

「よっしゃ、やったぜピカチュウ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「戻れゴニョニョ。お疲れ様。やるな君のピカチュウ!」

 

「君のゴニョニョも強かったぜ」

 

「ありがとう。次またどこかで会ったら、俺達もっと強くなってるから、その時はまたバトルしてくれないか?」

 

「おう、勿論だぜ!」

 

サトシは対戦相手の少年と固い握手をすると再戦を近い別れたのだった。

 

「サトシ、探したぜ」

 

「もう、勝手にバトル始めてるなんて勝手かも」

 

「ごめんごめん! 走ってたら目が会っちゃってさ。目が会ったらポケモンバトルさ!」

 

目と目が会ったらポケモンバトルはポケモントレーナーの基本である。

そして勝っても負けても恨みっこなし、いつでもどこでもできるのが旅をすう上でのバトルの醍醐味だ。

 

「でもさっきのバトル、サトシ隙が大きかったね。僕ならはたく攻撃を受ける前にでんこうせっかで防いでたよ」

 

「えぇ? あそこはダメージを受けても一気に攻める場面だろ!」

 

「いかにダメージを受けないか、サトシにはテクニックが足りないよ」

 

「テクニックはスピードでカバーできるって! そうだろソラト!?」

 

「ポケモンバトルはテクニックが大事だよねソラト!」

 

「えーっと…」

 

先ほどのバトルについて眼鏡を掛けなおしながらマサトが語るが、サトシはベストなバトルをしたと思っているようで反論する。

マサトはテクニック、サトシはスピードが大切だと思っているようで、この中で1番のバトル経験があるソラトに詰め寄って問いただす。

 

「ちょっと2人とも! お兄ちゃんが困ってるでしょ!」

 

「あー…まぁ人にはそれぞれバトルスタイルがあるからな。それぞれ得意なバトルスタイルを大事にすればいいさ」

 

「「答えになってない!!」」

 

「う…」

 

ソラトの当たり障りのなく、また正論だろう答えだがサトシとマサトは納得がいかなかったようで大声で異論を唱える。

 

「もう2人ともやめなさい! お兄ちゃんの言ってる事は初心者の私が聞いても正しいって分かるわよ!」

 

「ま、まぁトレーナーやポケモンの得意なバトルを見つけるのが大事だからな。ハルカもバトルを通じて得意なスタイルを探さないとな」

 

サトシとマサトからの問いを避けるためにソラトはハルカのバトルに話をシフトさせる。

 

「そうね。私って前もお兄ちゃんとのタッグバトルに負けちゃったし、キャモメにも負けちゃったかし…」

 

「アチャモが使える技はつつく/ひのこだよね。ならひのこで牽制してからつつくで攻撃すれば隙が少なく…」

 

「いや、つつくで突っ込んでからひのこで一気に行けば…!」

 

「隙を少なくしてテクニックで行った方が絶対いいよ!」

 

「いや、スピードで一気に押すんだ!」

 

お互いの意見を認めずにケンカ腰で言い合うサトシとマサト。

ハルカの事だというのに熱くなっている2人に、ソラトとハルカとピカチュウはため息を吐いて肩を竦めるのだった。

 

 

 

昼食時、サトシ達は森の中で休憩をしていた。

折りたたみ式の鍋を吊り下げてそこでシチューを煮込んでいた。

 

「わぁ~、シチュー美味しそうかも!」

 

「よし、そろそろいいな。昼飯できたぞー」

 

「ほらサトシとマサトも…」

 

「「うん! あ…ふんっ!」」

 

昼食が完成し皆の分のシチューを皿に盛るが、サトシとマサトは同時に皿を差し出す。

先ほどの口論が後を引いているのだろう、気に入らなかったのか2人は顔を背けてしまう。

 

「もうマサト! いい加減にしなさい! 人には人のバトルスタイルがあるってさっきお兄ちゃんも言ってたでしょ!」

 

「サトシもそう意地になるなよ。お前のバトルスタイルを大事にするのはいい事だがマサトの言うことにも一理あるんだぜ」

 

「「………」」

 

「ったく、どうにも面倒な事になってきたな」

 

「もういいわ。とりあえずご飯にしましょ」

 

サトシとマサトの仲を直すのはまだ後になるだろうと判断したソラトとハルカはとりあえず昼食を摂ることにした。

4人はソラトの作ったシチューを食べてお腹を満たしていく。

 

「う~ん、やっぱりお兄ちゃんのお料理サイコーかも!」

 

「「おいしー! あ…ふんっ!」」

 

「息が合ってるんだか合ってないんだか…まあシチューは沢山作ったからどんどんおかわりしろよ」

 

そうしてシチューを食べていき残りのシチューが半分になった頃、サトシ達の後ろの草むらがガサリと揺れる。

草むらを揺らした小さな影は突然飛び出してサトシ達の前に現れた!

 

「ゴロ」

 

「うわっ、何だ!?」

 

「こいつは…懐かしい、ミズゴロウだな」

 

「これがミズゴロウなのね」

 

『ミズゴロウ ぬまうおポケモン

頭のヒレはとても敏感なレーダー。水や空気の動きから、目を使わずに周りの様子をキャッチすることができる。』

 

サトシ達の前に飛び出してきたのはホウエン地方の初心者用ポケモンの1体であるミズゴロウだった。

ミズゴロウはシチューが煮込まれているのを見つけて匂いを嗅ぎ始めた。

 

「ミズゴロウはお兄ちゃんの初めてのポケモンなのよね」

 

「ああ、進化して今じゃラグラージになったしな」

 

「ゴロ? ゴロゴロ」

 

「おーい、ミズゴロウ!」

 

ミズゴロウの後を追いかけて同じ方向の草むらから飛び出してきたのは、なんとも巨大なジグザグマだった。

通常のジグザグマは高さ40cm程度の筈だが、巨大ジグザグマは確実に1mを超えている。

しかも何と人の言葉を喋っていた。

 

「ジグザグマが人の言葉を喋ってる!?」

 

「違うよサトシ! あれは人間だよ!」

 

マサトの言うとおり、巨大ジグザグマの正体は人間だった。

どうやらジグザグマのきぐるみを着ているようだった。

 

「お、そのきぐるみちょっと良いかも」

 

「ってそうじゃないだろ…」

 

度々ちょっとズレた発言をするソラトにずっこけるサトシ。

きぐるみを脱いで現れたのは赤いスカーフを身につけ、見事な短パンを履いた少年だった。

 

「おぉ! これは美味そうなシチューだ! いただきまーす!」

 

「ってちょっと! それ私達のシチューよ!」

 

「お? 何だお前たちは?」

 

「ゴロゴロ?」

 

今の今まで気がついてもいなかったという態度でサトシ達に尋ねる短パン小僧。

その様子に呆れるサトシとソラトとマサト。ハルカは相手の失礼な態度を見てプリプリ怒っていた。

 

「俺はマサラタウンのサトシ。こいつは相棒のピカチュウ」

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

「俺はソラトだ、よろしくな」

 

「僕はマサト」

 

「…ハルカよ」

 

「おう! 俺は短パン小僧のキヨだ! よろしくな!」

 

突然飛び出してきたジグザグマのきぐるみを着ていた短パン小僧はキヨと名乗った。

ソラトはキヨが脱いだジグザグマのきぐるみを見ると興味深そうにきぐるみを広げて眺めている。

 

「ほー、よく出来てるな。他のきぐるみもあるのか?」

 

「おう! 色んなポケモンになりきってポケモンの気持ちを理解するためだからな! たっくさん持ってるぜ!」

 

「おぉ! 良かったら見せてくれないか!」

 

「はいはい、話進まないからそこまでね~」

 

「いでででででで!」

 

きぐるみに何故か興奮したソラトは色々見せてもらえるか頼むが、話が横道にそれて進まないためかマサトがソラトの耳を引っ張って引っ込めた。

 

「そうじゃなくて! それは私達のシチューなの! 勝手に食べないでほしいかも!」

 

「むむむ、お前たちさてはポケモントレーナーだな? なら俺とポケモン勝負だ! 俺が勝ったらこのシチューを頂くぞ!」

 

「いいわ、受けてたつかも!」

 

「「えぇー!?」」

 

唐突なキヨのバトルの申し入れを、ハルカはそのまま勢いで受けてしまう。

サトシとマサトは自分たちの昼食の残りを賭けたバトルをハルカが勝手に受けてしまった事に驚きの声をあげる。

因みにソラトは、端の方で引っ張られた耳を押さえて痛みを堪えていた。

 

「バトルは1対1! 先にポケモンが戦闘不能になったら負けだ!」

 

「いいわよ! お願い、アチャモ!」

 

「行け、ミズゴロウ! そしてポケモンチェーンジ! ミズゴロウ!」

 

ハルカはモンスターボールを投げてアチャモを出し、キヨは隣にいたミズゴロウを繰り出してきた。

そしてキヨは瞬時にジグザグマのきぐるみを着替えてミズゴロウのきぐるみを着た。

 

「タイプ的にはお姉ちゃんが圧倒的に不利…ここはひのこでけん制しながら戦った方が確実だよ!」

 

「いや、つつくのスピードでガンガン押すんだ! 頑張れハルカ!」

 

「ちょ、ちょっとうるさいかも…アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモー!」

 

「ミズゴロウ、みずでっぽうだ!」

 

「ゴロー!」

 

アチャモはひのこを、ミズゴロウはみずでっぽうを放つとお互いの技がぶつかり合う。

だがほのおタイプの技のひのこはみずでっぽうに掻き消されてしまい、アチャモにみずでっぽうが直撃する。

 

「あー、耳痛ぇ…こうかはばつぐんだな。頑張れハルカ!」

 

「ほら、つつくで攻めないからだ!」

 

「今のはたまたまだよ! お姉ちゃん、慎重にね!」

 

「しゅ、集中できない…とにかく、アチャモ! つつく攻撃!」

 

「チャモー!」

 

「ミズゴロウ、たいあたりだ!」

 

「ゴロロ!」

 

「チャモ! チャ…チャモー!?」

 

アチャモのつつく攻撃とミズゴロウのたいあたりが激突する。

だがパワーはミズゴロウの方が強かったらしく、アチャモは吹き飛ばされて地面に倒れてしまう。

 

「アチャモは戦闘不能だな。ミズゴロウの勝ちだ」

 

「アチャモ! 大丈夫!?」

 

「チャモ…」

 

「おっしゃあ! これで昼飯頂きだー!」

 

タダ飯を手に入れたからかキヨはとても嬉しそうにシチューを食べていく。

ハルカがしょんぼりと落ち込みながらアチャモを抱き起こしている間に、サトシとマサトがまたも睨み合いを始めた。

 

「マサトが余計な事言うからだぞ」

 

「なんだよ! それはサトシの方だろ!」

 

「なんだと!?」

 

「2人ともうるさーい! そんなんじゃバトルに集中できないでしょ!」

 

サトシとマサトの2人のケンカに苛立ったのか、ハルカまでも爆発してしまい大声をあげる。

しかしサトシもマサトもハルカも興奮のボルテージが収まる事は無かった。

 

「おいおい、お前らちょっと落ち着けって」

 

「ふん! こんな事なら1人で旅するんだったぜ!」

 

「それはこっちの台詞かも!」

 

「勝手な事ばっかり言って! 僕は正しい事を言ってるんだぞ!」

 

「「「ふん!!」」」

 

「あー、えーっと…はぁ、何でこうなるんだ…」

 

「ピカピ…ピカチュ!」

 

どうにか3人をなだめようとするソラトだが、ソラトの声がまるで耳に入っていない3人は、顔も見たくないのかそれぞれ別の方向へ歩き出してしまった。

ピカチュウは呆れながらもとりあえずサトシについて行く事にした。

ソラトは誰を追うか悩んで3人の背中を見送ることしかできなかったが、どうにもならないと思ったのか顔を手で隠してその場に座り込んでしまった。

 

「うーん、このシチューうめぇ!」

 

「ゴロゴロ!」

 

「そりゃどうも…気楽でいいなお前ら…」

 

ソラトには、美味しそうにシチューを食べるキヨとミズゴロウに呆れながらそう言う事しかできなかった…。

 

そしてそんなサトシ達を見つめていた3つの視線…

 

「どうやら、ジャリボーイ達はケンカしたみたいだな」

 

「やーね子供っぽい。まともなのはあの黒服だけじゃない」

 

「あの黒服のバトルの腕は半端じゃニャいニャ。それにあそこまで冷静だと相手にするのは厄介ニャ」

 

ご存知ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人組である。

今日も今日とてサトシ達を追いかけてニャースの気球の上から双眼鏡を使って様子を伺っていたようである。

 

「でもこれはチャンスだニャ! 奴らがバラバラになってるニャら1人ずつ捕まえていけばいいニャ!」

 

「幸い黒服はあそこでジッとしてるみたいだし、やるなら今のうちだな」

 

「よし、作戦開始よ!」

 

「ソーナンス!」

 

 

 

 

 

ハルカはサトシ達と別れ、文句をブツブツ言いながらアテも無く進んでいる。

 

「もう! サトシもマサトも色々言って集中できないじゃない! 私は私のバトルを探してるのに!」

 

ずんずんと大股で森を進んでいくハルカの後を、アチャモもちょこちょこと不安そうについて行く。

 

「チャモー…」

 

「あっ…ごめんねアチャモ。アナタが悪い訳じゃないのよ。悪いのは私なんだから」

 

「チャモ…」

 

今のところアチャモは勝率があまり良くない。

その事を気にしているのかアチャモは落ち込んでしまうが、ハルカはアチャモを抱えて慰める。

 

「でも、どうしたら勝てるようになるのかしら…」

 

「チャモー…チャモ!? チャモモー!」

 

「ああっ、アチャモ! 誰!? 何するのよ!」

 

ハルカが考え事をした一瞬の隙を突いてどこからか伸びてきたアームがアチャモを掻っ攫い空へと連れ去ってしまう。

 

「誰!? 何するのよ! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

アチャモを連れ去ったアームは、空に浮かぶニャースの気球から伸びており、当然その気球に乗っているのはロケット団の3人組だ。

 

「ロケット団! 私のアチャモを返しなさい!」

 

「やーなこった!」

 

「フン、どうしても返して欲しいならジャリボーイとピカチュウと一緒にこの森の先に来ることね!」

 

「ではこれにて失礼ニャ!」

 

「チャモチャモー!」

 

そのままロケット団は気球をコントロールして森の先へと去っていってしまった。

 

「アチャモ! 待ってて、必ず助けてみせるから!」

 

ロケット団はサトシとピカチュウを連れて来いと言っていた。

ハルカはサトシが向かっていった方向へと走りサトシを探しに行く。

 

「サトシー! どこに居るのー!?」

 

5分も走りながらサトシを探していると、それほど離れていなかったのかサトシを見つける事ができた。

 

「サトシ!」

 

「ん? 何だよハルカ…何か文句でもあるのかよ」

 

まだ先ほどの口論の事を根に持っているのか、サトシは低い声で喧嘩腰で返事をする。

だがハルカはそんなことは気にしていられない。緊急事態なのだ。

 

「サトシ、大変かも! ロケット団にアチャモが連れていかれちゃったの!」

 

「何だって!?」

 

「この先で待ってるって言ってたわ。サトシとピカチュウをつれて来いって…」

 

「任せろハルカ、絶対にアチャモを取り戻す!」

 

サトシとハルカはロケット団が飛び去っていった方向へと走り、アチャモ救出へと向かう。

そして近くの木の陰に隠れていたマサトは今の話を聞いていた。

 

「お姉ちゃんのアチャモが…これは大変だ…!」

 

マサトはサトシ達を追いかけ…る事はなく別の方向へと駆け出した。

 

 

 

そして森の先にある岩場の広場にて、ロケット団は気球を降ろしてサトシ達を待っていた。

大急ぎで走ってきたサトシとハルカは広場に辿り着くと、ロケット団と小さな檻に閉じ込められたアチャモを発見した。

 

「見つけたぞロケット団!」

 

「私のアチャモを返して!」

 

「来たわねジャリボーイ」

 

「ノコノコやって来るとはカモネギが鍋しょってやって来たぜ!」

 

「ピカチュウ、アチャモを助けるんだ。10万ボルト!」

 

「ピカ~チュゥウウウウ!」

 

「おっと、そうはさせないのニャ!」

 

ピカチュウが10万ボルトを放つと、電撃は真っ直ぐにロケット団へ向かっていたが、突然カクンと曲がってしまう。

曲がった10万ボルトはロケット団の傍に置いてあったパラボラアンテナのような装置に吸収されてしまう。

 

「な、何だ!?」

 

「へへーん、このマシンは電気を吸収するんだよ」

 

「ほーら、ピカチュウもこっちに来るニャ!」

 

ニャースがリモコンを操作すると、気球の中からアームが伸びてきてピカチュウを掴んで連れ去っていってしまう。

 

「ピィカー!」

 

「しまった! ピカチュウ!」

 

「「「ピカチュウゲットでイイカンジー!」」」

 

「くそ! ならスバメ、君に決めた!」

 

「スバー!!」

 

「悪いけど目的を達成した今、アンタ達に用は無いのよ!」

 

ピカチュウを連れ去られたサトシは、スバメを繰り出しピカチュウを取り戻そうとする。

だがニャースが再びリモコンのボタンを押すと地面が大きく揺れて広場の土が盛り上がる。

 

「きゃああああ! いったい何なのー!?」

 

「なーっはっは! これぞロケット団の英知を結集したメカ、電気技も効かないけど他にも色々効かない鈍感メカ君1号だ!」

 

「無駄に長いしそのまんまかも!」

 

「無駄とか長いとか言うニャー!」

 

盛り上がった地面の中から出てきたのは高さ10mはあろう巨大なヤドラン型のメカだった。

ロケット団はピカチュウをアチャモと同じ檻に入れると、檻を抱えて素早くメカに乗り込んだ。

 

「さぁ、このまま逃げるわよ!」

 

「逃がすなスバメ! でんこうせっか!」

 

「スバッ!」

 

メカに乗って逃げようとするロケット団だが、サトシはスバメのでんこうせっかで攻撃を仕掛ける。

だがスバメの攻撃はメカの装甲に対して傷一つつける事もできなかった。

 

「そんな!?」

 

「ニャハハ! このメカの装甲は名前の通り色々効かない特殊金属で出来ているのニャ!」

 

「またこのメカ作るのに借金かさんじゃったけどな…」

 

「まぁピカチュウとアチャモゲットできたからチャラよチャラ。それじゃ…」

 

「「「帰る!」」」

 

メカはサトシ達に背を向けて去ろうとしてしまう。

 

「くそ、逃げられる!」

 

「そんな、アチャモー!」

 

だがロケット団が逃げようとした先へ黒と青の影が飛び出した。

 

「スイゲツ、たきのぼりだ!」

 

「ラグ! ラグァアア!」

 

水を纏ったスイゲツがたきのぼりを放ち、メカに突撃する。

メカは全く動じなかったが、足を止める事には成功した。

 

「ソラト!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「サトシ、お姉ちゃん大丈夫!?」

 

「マサトが俺を呼びに来たんだ。無事で良かった」

 

「俺も来たぜ!」

 

ロケット団の行く手を遮ったのはソラトとキヨ、そして2人を連れて来たマサトだった。

たきのぼりを放ったスイゲツはそのままソラト達の方へと戻ってくる。

やはりメカには傷一つついてはいなかった。

 

「フン、この特殊金属でできた電気技も効かないけど他にも色々効かない鈍感メカ君1号には流石の黒服も敵わないみたいだな」

 

「な、長い名前…しかしあのメカは中々イカすな。頑丈なのを鈍感とかけてヤドラン型にするとは…」

 

「お兄ちゃん言ってる場合じゃないかも! アチャモとピカチュウが捕まってるの!」

 

「よし、ここは俺に任せろ! ミズゴロウ、みずでっぽうだ!」

 

「ゴロー!」

 

キヨが先頭に飛び出し、ミズゴロウがメカに向かってみずでっぽうを放つがやはり効果は見られない。

 

「えーい邪魔臭い! ニャース、反撃するのよ!」

 

「了解ニャ!」

 

「「「「わぁあああああああああああ!?」」」」

 

今度はメカが腕を振り下ろして反撃をしてくる。

間一髪で腕を避けたサトシ達だったが、ソラトとスイゲツは怯まずに更なる反撃に出た。

 

「スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラグ! ラーグラッ!!」

 

闘気を纏ったパンチがメカに決まるが、メカは何とも無く効果は無かった。

 

「ソラト、スイゲツ! スピードでかく乱して攻めるんだ!」

 

「違うよ! まずはまもるで相手の体勢を崩して攻撃するんだ!」

 

「ちょ、ちょっと2人とも…!」

 

先ほどと同じようにバトルに対する考え方の違いから別々の戦い方をアドバイスするサトシとマサト。

それを見たハルカはソラトが集中できなくなるのではないかと心配するが、ソラトは不敵な笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だ、ハルカ」

 

「え?」

 

「サトシ、マサト! 2人とも見てろよ! スイゲツ、連続でグロウパンチ!」

 

「ラグ! ラグラグラグラグラグラグラグ!!」

 

闘気を纏ったパンチを何度も何度も繰り出してメカを殴りつけるが、未だにメカが傷つく様子は無かった。

 

「ソラトは何をする気なんだ!?」

 

「凄いラッシュだ。ミスゴロウ、しっかり見ておくんだぞ」

 

「ゴロゴロ」

 

「無駄だ無駄だ」

 

「このメカにはどんな攻撃も通じないのよ!」

 

「ソイツはどうかな!? スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラグゥウウウラッ!」

 

最後のグロウパンチを最大の力を込めて放つと、ベキィ!と何か堅い物にヒビが入るような音が響き渡る。

スイゲツがパンチを放った手を退けるとそこにはハッキリとした拳の痕があり、メカにダメージを与えていた。

 

「「「えぇえええええええ!? 何でー!?」」」

 

「あの堅い装甲にヒビを!?」

 

「でも、最初は全然効いてなかったのに何で!?」

 

あまりの出来事に、ロケット団だけではなくサトシやマサトも目を見開いて驚いている。

 

「グロウパンチは使えば使うほど攻撃力が上がる技なんだ。何発も撃ち込んで攻撃力を上げたって訳だ。スイゲツ、そのままたきのぼり!」

 

「ラグラ!」

 

再び水を纏ってたきのぼりを繰り出しメカの胴体目掛けて突進する。

先ほどは傷一つつけることはできなかったが、今度は胴体を貫通してメカの背中側まで貫いた。

スイゲツはピカチュウとアチャモの入った檻を抱えており胴体を貫通した時に救出したようだ。

 

「ラグ!」

 

「ピカピカピ!」

 

「チャモモー!」

 

「ピカチュウ! 無事で良かったぜ!」

 

「アチャモ! ありがとうスイゲツ!」

 

「よし、よくやったぞスイゲツ!」

 

そして胴体に巨大な大穴が開いたロケット団のメカはしばらくビリビリとショートした後、ドカン! とお約束のように爆発して吹き飛んだ。

 

「あーあ、またダメだったニャ」

 

「なぁ、今度からあの黒服のことヒーローボーイって呼ばないか?」

 

「そりゃピッタリニャ! ジャリん子達がピンチの時は颯爽と現れて解決してくニャ!」

 

「って、そんな事言ってる場合じゃないでしょーが!」

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

キラーン☆といつものように空の彼方へと吹っ飛んでいる間にソラトの呼び方をロケット団の間で決められたようである。

そして今日も今日とて見えなくなるまで吹き飛んでしまった。

 

「すっげぇ! 俺のミズゴロウも進化したらあんな風に戦えるんだな!」

 

「ゴロゴロ!」

 

キヨとミズゴロウも進化系のラグラージであるスイゲツの戦いぶりを見て興奮していた。

そしてソラトはサトシとマサトを見据えて不敵に笑った。

 

「どうだサトシ、マサト。これがスイゲツのバトルスタイルだ」

 

「「え?」」

 

「ラグラージは元々スピードがイマイチなポケモンだから、スピード戦法は向いてない。まもるにしてもあの巨大なメカ相手じゃ守りきるのは難しい。だから攻撃を受ける前に自分の攻撃力を上げて一気に突き破ったんだ」

 

「そうか、そうだったのか」

 

「ソラト、色々口出ししてゴメンね」

 

ソラトとスイゲツのバトルスタイルを説明され、納得したサトシとマサトは口出しをしてしまった事を謝る。

だがソラトは首を横に振るとハルカを指差した。

 

「謝る相手は俺じゃないだろ。何度も言うが、人には人の、ポケモンにはポケモンの得意な事がある。それぞれに合うスタイルを時間をかけて見つけ出すのがトレーナーとしての最初の課題なんだ。人に無理やり押し付けるなよ」

 

「うん…ごめんなハルカ」

 

「ゴメンねお姉ちゃん」

 

自分には自分の戦い方が、そして人には人の戦い方があると教えられたサトシとマサトは素直に謝る。

ハルカもすっかり苛立ちは収まっていた。

 

「ううん、分かってくれたならいいかも! そうだキヨ、また私とバトルして!」

 

「え、俺が?」

 

「そうよ。自分のスタイルを見つけるにはやっぱり経験が大事かも! だからバトルして!」

 

「おう! 俺も早くミズゴロウを進化させたいからな! 負けないぞ!」

 

「頑張って、アチャモ!」

 

「チャモチャモー!」

 

「行くぞミズゴロウ!」

 

「ゴロッ!」

 

アチャモとミズゴロウが向かい合い、それぞれバトルの準備に入る。

先ほどのバトルの時にあった苛立ちやピリピリとした雰囲気はまるで無く、皆が楽しそうにバトルを行っていた。

 

ケンカを通じて、自分と人の違いを認め合う事を知ったサトシ達。

ホウエンリーグ出場を目指す彼らの冒険は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




今回登場したきぐるみチェーンジ! のキヨ君ってどれくらいの人が覚えてるんでしょうね。
それとソラト君には妙なセンスが追加されました。マサト君に耳引っ張ってもらいましょうねー。

次回はキモリが出ます。

きゃももー。


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キモリの森 アンコールとはたくで吹っ飛ばせ!

今回は話の内容をあまり変えずにいきました。
と言うのもキモリ回好きなんですよね。
ジュプトルやジュカインになってもかっこよくて当時大好きでした。

でも僕はオリーブオイル。
…じゃなかった、ラグラージ。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

最初のジムがあるカナズミシティを目指し、トウカシティよりかなり離れた森の中を進んでいた。

その途中でサトシは昼休憩を取りながら、ソラトとのポケモンバトルで特訓を行っていた!

 

「スバメ、つばさでうつ!」

 

「避けろシズク!」

 

素早く繰り出されたスバメのつばさでうつ攻撃を、大きく長い体を捻るようにしてシズクは回避した。

 

「みずのはどう!」

 

「ミ~ロッ!」

 

「空へ飛び上がってかわせ!」

 

「スバッ!」

 

シズクが放ったみずのはどうを急上昇して回避したスバメだったが、その回避ルートはソラトに読まれていた。

 

「シズク、れいとうビーム!」

 

「ミロカッ!」

 

「スバーッ!?」

 

放たれたれいとうビームはスバメの翼に当たり、翼が凍り飛ぶことができなくなったスバメは上空から落下してくる。

 

「ああっ! スバメ! ってうわわっ!」

 

「ミロ」

 

サトシが落ちてくるスバメを助けようと落下地点まで走り出すが、その前にシズクが先回りして尻尾を使って優しくスバメを受け止めた。

勢い余ってかサトシは止まりきれずにシズクにぶつかってしまうが、シズクは器用に体をくねらせてサトシが転ばないように受け止めた。

 

「サンキューシズク、助かったよ」

 

「スバ~」

 

「ミロロ」

 

スバメを助け、更に自分まで助けてもらったサトシは律儀にシズクへお礼を言う。

だがソラトが近づいてくると一転。シズクはスバメをサトシに渡してスルリとソラトの方へ向かってしまった。

 

「良くやったぞシズク、お疲れ様」

 

「ミロッ! ミロミロ~」

 

褒めて褒めてと言わんばかりにソラトに向けて体をスリスリとこすり付けるシズク。

そんなシズクを見て、近くで座りながら観戦していたハルカは目を輝かせた。

因みに横にはマサトとピカチュウも一緒に座っている。

 

「あ~、やっぱりお兄ちゃんのシズク綺麗かも~!」

 

「そりゃミロカロスはポケモンの中でもトップクラスの美しさを誇るポケモンだからね。でも詳しい生態とかってほとんど分かってないんだよね」

 

「え、そうなの?」

 

「ポケモン図鑑で調べてみてよ」

 

「えーっと…」

 

『ミロカロス いつくしみポケモン

最も美しいポケモンとも言われている。怒りや憎しみの心を癒し、争いを鎮める力を持っている。』

 

そのデータを参考にして進化に関する情報や生息地を調べていくハルカだが、図鑑には進化不明、生息地不明と表示されており詳しい事は何も分からなかった。

 

「ホント、あんまり分かってないのね」

 

「僕の持ってる本にも、詳しい事は載ってなかったんだよ」

 

「すっげぇなー、俺もミロカロスをゲットしたいぜ!」

 

「ミロカロスのゲットを目指すのもいいが、まずはそれぞれのポケモンをしっかり育てないとな」

 

「おう! それじゃメシも特訓も終わったしそろそろ先に行こうぜ」

 

サトシ達は荷物を纏めるとカナズミシティを目指すために再び森を進む事にした。

森を進んでいると、森の中から天を突くような巨大な木が生えているのが遠目からでも発見できた。

しかし木は枯れているのか、全く葉が無かった。

 

「お、何だあの木?」

 

「大きな木ね…でもなんだか枯れちゃってるかも」

 

「もしかしたら珍しいポケモンがいるかもしれない! ピカチュウ、行ってみようぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「あぁ! そっちはカナズミシティの方角じゃないよサトシ~!」

 

マサトの静止を無視してサトシは大樹の方へと向かって走っていってしまう。

 

「もうサトシったら、このまま迷子になっちゃったらどうするつもりなのかしら」

 

「ま、迷子って言っても旅にはつき物だからな。ピカチュウもスバメも一緒だし大丈夫だろ」

 

「お兄ちゃんがそういうならそうなんだろうけど…とにかく私たちもサトシを追いかけましょう!」

 

珍しいポケモンを求めて大木へ走り出したサトシを追い、ソラト達も大木の方へと走り出した。

しばらく大木を目指して走り続けていたサトシとピカチュウは木々の間を飛び回る小さな影を見つける。

木々を飛び回る深緑のような色の小さい体に太い尻尾。

 

「おぉ! あれはキモリだ!」

 

「ピカピカ!」

 

木々の間を飛び回っていたのはキモリの群れだった。

ピョンピョン飛び回っており、どうやら大木の方へと向かっているようだ。

 

「キャモキャモ」

 

「キャモ!」

 

「確かホウエン地方での初心者用ポケモンの1体なんだよな! よーし、ゲットしてやるぜ! 頼むぞピカチュウ」

 

「ピカピカ!」

 

「キャモ? キャモモ!」

 

サトシはキモリゲットの為にピカチュウでバトルを挑もうとするが、キモリ達はそれを見て慌てた様子で逃げ出していく。

多くのキモリ達は木々を飛び移りながら大木の方へと逃げていく。

 

「あっちの方へ行くぞ! 俺達も―うわぁああああああ!?」

 

「ピィカアアアアアアア!?」

 

大木の方へキモリを追おうとしたサトシであったが、大木は大きな穴ぼこに生えておりその穴ぼこの坂に気づかずにゴロゴロと転がって下りていってしまう。

穴の下に着いてもサトシは転がり続け、大木の巨大な根っこにぶつかってようやく止まった。

 

「いてて…酷い目に遭ったぜ」

 

「ピカ…ピィカ!?」

 

「何だ!?」

 

痛む箇所をさすりながら立ち上がるサトシとピカチュウの足元に1本の木の枝が突き刺さった。

木の枝が飛んできた方を見ると、そこには枯れた大木の枝に腰掛ける1匹のキモリが居た。

 

「今のはアイツが…よーし、ゲットしてやるぜ! キモリ、俺達とバトルしろ!」

 

「ピカピカチュウ!」

 

「キャモ…キャモキャモ!」

 

キモリは受けて立つ!と言っているようで、大木から飛び降りてくると先ほど地面に突き刺した枝を引き抜き口に咥えた。

 

「サトシー!」

 

そしてようやく追いついてきたソラト達は、サトシとキモリの様子を見るとバトルの様子に気がついた。

 

「ん? あれはキモリだな。どうやらバトルするみたいだ」

 

「あれがキモリね」

 

『キモリ もりトカゲポケモン

森の大木に巣を作り暮らす。縄張りに近づく敵を激しく威嚇する。森の木を守るポケモンと言われている。』

 

ハルカが図鑑でキモリの事を調べている間に、サトシはピカチュウを繰り出してバトルが始まった。

 

「行くぜ! ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピッカァ!」

 

「キャモッ! キャモォ!」

 

「ピカッ」

 

ピカチュウのでんこうせっかを、キモリは軽くジャンプして回避すると、大きな太い尻尾で振るってはたく攻撃で反撃をする。

はたく攻撃をまともに受けてしまったピカチュウは吹き飛ばされるが空中で体勢を立て直して着地する。

 

「やるなキモリ!」

 

「ピカ!」

 

「あのキモリ凄い素早いし攻撃も中々だよ」

 

「ピカチュウ結構苦戦するかも」

 

「キモリはくさタイプ、ピカチュウの電気技はこうかはいまひとつ…さてサトシはどう戦うかな」

 

「よし、ピカチュウ! 10万ボルトだ!」

 

「ピカ~チュゥウウウウウウウ!」

 

キモリの素早い動きを見て、サトシは距離を取って遠距離から牽制をする。

ピカチュウの10万ボルトはキモリに向かって真っ直ぐに放たれるが、キモリは再びジャンプして横に避けると素早くダッシュしてピカチュウにぶつかる。

 

「キャモ! キャモモ!」

 

「ピッカ!?」

 

「でんこうせっかも使えるのか!」

 

「キャモ…キャモモ?」

 

バトルの流れは完全にキモリにあった。

キモリはこの程度か?と挑発するようにサトシとピカチュウに向けて指をチョイチョイと動かした。

 

「くそ! 負けるなピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピ~カ~…!」

 

「キャーモー!」

 

ピカチュウが10万ボルトで反撃をしようとした瞬間、驚くべき瞬発力を発揮したキモリのでんこうせっかがピカチュウを襲った。

 

「ピカー!」

 

「ああっ、ピカチュウ!」

 

「チャ~…」

 

「ピカチュウは戦闘不能だな。行くぜ」

 

でんこうせっかが決まり、ピカチュウは倒れて戦闘不能に陥ってしまった。

バトルを見届けたソラト達は穴を滑り降りてサトシの元へと駆け寄っていった。

 

「大丈夫か?」

 

「残念だったわね」

 

「ピカチュウは大丈夫さ。な?」

 

「ピカチュ」

 

ピカチュウは多少のダメージは残っているものの、しばらく休めば元気になるだろう様子だった。

そして負けたというのにサトシは先ほどのキモリの強さに感激して武者震いしていた。

 

「あのキモリすっげぇ強いぜ! これは何としてもゲットしたいぜ!」

 

「って、そのキモリはどこ?」

 

「あれ? どこいった?」

 

「ピカ、ピカピ!」

 

「って…何かいっぱい出てきたな」

 

キモリの姿が見当たらずに皆で周囲を見渡して探していると、辺りいっぱいにキモリが現れた。

若いキモリが多いが、その中に1匹だけ年老いたキモリが混ざっていた。

しかし先ほどの木の枝を咥えたキモリは居なかった。

 

「でもさっきのキモリが居ない! どこに…」

 

「そこだ、大木のすぐ下」

 

大木のすぐ根元に先ほどの木の枝を咥えたキモリが寂しげな背中をして佇んでいた。

そのキモリを見つけると年老いたキモリは近寄ってそのキモリに声をかけた。

 

「キモ…キモキモ…」

 

「キャモ! キャモモ!」

 

「キモ…」

 

「キャモモー!」

 

年老いたキモリが木の枝を咥えたキモリと話しているが、どうも険悪の雰囲気での会話をしている。

そして木の枝を咥えたキモリが年老いたキモリを突き飛ばしてしまう。

 

「何だかモメてるみたいだね」

 

「……………」

 

「お兄ちゃん? 何してるの?」

 

ソラトはキモリ達の様子を見てすぐに目を閉じて何か集中するような様子を見せていた。

まるで何かを感じ取っているかのように…。

 

「…あの若いキモリから、不安や焦燥、怒りが感じられるな。年老いたキモリからは不安と哀れみが感じられる」

 

「え!? 何か分かるのかソラト!?」

 

「何となく、な…多分この枯れた大木の住処を捨てるか捨てないかで揉めてるのかもな」

 

「ポケモンの気持ちも分かるなんて、やっぱお兄ちゃんって凄いかも」

 

年老いたキモリと周囲のキモリ達は説得を諦めたのか渋々と去っていってしまう。

だが木の枝を咥えたキモリはそんな仲間たちを気にすることなく、大木を昇って枝からジャンプして穴から出て行ってしまった。

 

「ああっ! キモリが!」

 

「大丈夫だよ。あのキモリはこの大木を住処にしてるんでしょ。ならきっと戻ってくるよ」

 

「そっか、それもそうだな。絶対キモリゲットだぜ」

 

そうしてサトシ達はあの木の枝を咥えたキモリをゲットするためにこの大木の近くで待ち伏せをする事にした。

そんなサトシ達を見つめる3つの視線…

 

「キモリが沢山いるわね。これはキモリ大量ゲットのチャンスよ」

 

「うううう…!」

 

「そうだな。ついでにピカチュウも頂きだぜ」

 

「うぅうう、うニャ~…」

 

ご存知ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースである。

双眼鏡でサトシ一行とキモリ達の様子を伺っているムサシとコジロウに対してニャースは何故か男泣きしている。

 

「ちょっとニャース、何泣いてるのよ!」

 

「どうかしたのか?」

 

「ニャーはあの若いキモリに感動したのニャ。今まで自分が生まれて、住んで、守られてきた大木…その大木が枯れかけているのに、あの若いキモリは今度は自分が木を守ると言っていたのニャ。これが泣かずにいられるかニャー!」

 

「そうだったのか…くぅー! なんていいヤツなんだあのキモリはー!」

 

ニャースの通訳の内容に感動したのか、今度はコジロウまで男泣きを始めてしまう。

だがそんな2人をムサシは冷たい目で見ていた。

 

「アホくさ。男と家は新しいモノに限る! これは最早世界を飛び越えて、宇宙の常識よ!」

 

「「えぇー!?」」

 

「ともかく、キモリの大量ゲット作戦の準備をするわよ!」

 

「「おー!」」

 

かくしてロケット団も作戦の準備に入るが、そんな事も知らぬサトシ達は大木の下でキモリを待ち続けた。

そして日も暮れた頃、大木が燃えないように少し離れた場所で焚き火を焚いて夕食を食べていた。

 

「モグモグ…あのキモリ帰ってこないね」

 

「もう戻って来ないんじゃない? この大木もう枯れちゃってるし…」

 

「いや、アイツは絶対に帰ってくる! 俺には分かる!」

 

「あぁ、多分戻ってくるだろうな。あのキモリは諦めて木を捨てるようなヤツじゃないだろ」

 

「ああ、俺には分かるぜ。アイツの大木を守ろうとしてる心意気が!」

 

キモリの心に何か共感できるところがあったのか、サトシの瞳も燃え上がっていた。

 

「あはは、ちょっと暑苦しいかも…」

 

夕食も食べ終わり、日も完全に暮れた頃にキモリは帰ってきた。

キモリは大きな葉っぱをお皿代わりにしてそこに水を入れて水を運んでいた。

食事の後片付けをしているサトシ達に目もくれずに、キモリは運んでいた水を大木の根元に流し、すぐに乾かないように沢山の葉っぱを水を流した場所に被せた。

 

「アイツ、ああやってこの大木を守ってるのか…よし! 俺達も手伝ってやろうぜ!」

 

「いいぜ。俺、あのキモリみたいなヤツ嫌いじゃないしな」

 

「僕もやるー!」

 

「それじゃあ私も!」

 

サトシ達はそれぞれ葉っぱや鍋を持って穴を昇り近くの水場まで行き水を汲む。

そしてキモリと同じように大木へ水を流して葉っぱを被せる。

 

「キャモ?」

 

「へへへ、俺達も手伝うぜ」

 

「ピカピカチュ」

 

「……キャモ」

 

サトシとピカチュウが手伝うと、キモリは好きにしろといった態度でそっぽを向いて葉っぱを地面に慣らし続けた。

寝る間も惜しみ、しばらく水を運び葉っぱを慣らす作業を続けていると、サトシは何か違和感を感じる。

 

「ん? …うわっ!? 何だ!?」

 

突然地面を揺るがす振動が伝わり驚くサトシ。

そして少し離れた場所から沢山のキモリ達の声が聞こえてくる。

 

「キャモー!!」

 

木の枝を咥えたキモリは先ほどと同じように、大木の枝を使って穴の外へと出て行く。

 

「俺達も追いかけよう!」

 

サトシ達も穴をよじ登りキモリ達の声がする方へ向かうと、そこには巨大なブルドーザーのようなメカが木々をなぎ倒し、側面から出ている虫取り網でキモリ達を捕まえていた。

 

「キモリ達が!」

 

「あの変なの何なの~!?」

 

ハルカの言葉を合図にブルドーザーの上部のハッチが開き、中から3つの影が現れる。

 

「あの変なの何なの~!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

現れたのはあいも変わらずムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団3人組である。

 

「ロケット団! キモリ達を放せ!」

 

「じょーだんっぽい! 折角ゲットしたキモリを放すワケないでしょ!」

 

「ヘッ、ジャリボーイ達に攻撃だ! 行け、サボネア!」

 

「サーボサボサボ!」

 

「いででででで! こっちじゃなくてあっちだあっち!」

 

コジロウがモンスターボールを投げると、出てきたのはいつものマタドガスではなく新しいポケモンのサボネアだった。

しかしサボネアはサトシ達には向かってこず、コジロウに抱きつき腕のトゲをコジロウに突きたてた。

 

「ロケット団、新しいポケモンをゲットしたのか!」

 

『サボネア サボテンポケモン

砂漠などの乾燥した地域に生息している。強い花の香りで獲物をおびき寄せ、鋭いトゲを飛ばして仕留める。』

 

「あのサボネア、自分のトレーナーに攻撃してるのかしら?」

 

「いや、あれは多分甘えてるんだと思うよ…」

 

「ああ、俺のサジンやシズクと同じ感じだな…まぁトゲ刺さってるけど」

 

ハルカが見当違い…とも言い切れないが、とにかくちょっと違う発言をするが、マサトが苦笑いしながら否定する。

 

「サ、サボネア! ミサイルばりだ!」

 

「サーボネッ!」

 

「「「わぁあああああっ!」」」

 

サボネアはコジロウに抱きつきながらもサトシ達に向けてミサイルばりを放ってくる。

間一髪でそれをかわしたサトシ達も、キモリ達を助ける為に反撃に出る。

 

「行くのよアチャモ!」

 

「チャモ!」

 

「ライ、バトルの時間だ!」

 

「プラー!」

 

「やるぞピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ハルカはアチャモ、ソラトはライ、サトシはピカチュウを繰り出してロケット団に対抗する。

 

「ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ライ、10万ボルト!」

 

「ピカ~ヂュウウウウウウウウウ!!」

 

「プ~ラ~!!」

 

ピカチュウとライの電撃が同時に放たれ、合体して強大な電撃となってロケット団に襲い掛かる。

 

「そうかいかないのニャ! とニャ!」

 

だがニャースがリモコンを操作すると、前回のメカに付いていたようなアンテナがブルドーザーから現れ、電撃を吸収してしまう。

 

「何だ!?」

 

「アレって前のヤドラン型のメカに付いてたのと一緒だな。イカすぜ…」

 

「そんな事言ってる場合じゃないだろー!」

 

「あだだだだだだ! 耳引っ張るなマサト!」

 

またも場違いな発言をしているソラトの耳を、マサトは思いっきり引っ張った。

耳を思いっきり引っ張られたソラトは思わず大声を上げて抵抗するが、逆に更に痛みを感じてしまい、あっちこっちに走り出す。

 

「こらマサトやめなさい!」

 

「分かった! 分かったから! マジメに戦うから放してくれマサト!」

 

ソラトとハルカ2人がかりでマサトを引き離しにかかっているのを、サトシとピカチュウとライ、ロケット団は呆れながら見ていた。

 

「あニャ…とりあえず今の内にピカチュウもゲットだニャ!」

 

「ピカー!?」

 

「しまった! ピカチュウ!」

 

ソラト達がドタバタしている隙にブルドーザーの網でピカチュウが連れ去られてしまう。

そしてブルドーザーの上部ハッチが大きく開くといつものニャース気球が現れ、ピカチュウを入れた網とキモリ達を閉じ込めた檻を吊り下げて空へと逃げ去っていく。

 

「クソ! 電撃は効かないし…!」

 

「ライの電撃もダメか…ならここはサジンで…!」

 

「キャモ!」

 

ソラトがサジンのボールを投げようとすると、木々を飛び移るあの木の枝を咥えたキモリが飛び出し、背の高い木の天辺に登るとロケット団の気球に飛び移った。

 

「あれ、まだキモリが残ってたのか」

 

「アイツもゲットしてやるニャ」

 

「キャモ!」

 

「うぎゃ!」

 

気球に飛び移ったキモリをロケット団は捕まえようとするが、コジロウとニャースの腕をかわすとはたく攻撃をムサシに繰り出した。

よろめいたムサシはお尻で檻のコントロールパネルのスイッチを押してしまい、檻が開いてキモリ達が脱出する。

 

「「「あーっ! キモリ達が!」」」

 

「やった! いいぞキモリ!」

 

「キャモ! キャモモ!」

 

「「「こなくそ! 邪魔するな! このこの!」」」

 

その後も枝を咥えたキモリは気球の上を跳び回り、ロケット団を翻弄する。

そしてその隙に檻から逃げたキモリ達は網の柄に向けてはたく攻撃をして柄を破壊した。

 

「キャモ」

 

「ピッカ! ピカピカ!」

 

「ピカチュウ! 良かったぜピカチュウ!」

 

キモリに助けられて空から落ちてくるピカチュウを受け止め、サトシは無事ピカチュウを取り返した。

そして気球の上でロケット団を翻弄していた枝を咥えたキモリはサボネアに向かって舌を出して挑発をする。

 

「キャモモ~」

 

「サボッ! サーボネッ!」

 

まんまと挑発に乗ってしまったサボネアは気球にしがみついているキモリに向けてミサイルばりを放つ。

 

「ああっ、やめろサボネア! ギャーッ!?」

 

「あギャーッ!?」

 

コジロウの静止も虚しく、ミサイルばりは気球に突き刺さり気球はパンッと割れてしまい気球が墜落してしまった。

 

「いでで…こうなったらバトルでポケモンを奪ってやるのよ! 行きなさいコジロウ!」

 

「って俺かよ!?」

 

「あったり前でしょ! 今の私にはソーナンスしかいないんだから!」

 

「わ、分かったよ…サボネア! ニードルアーム!」

 

「サーボサボサボ!」

 

ムサシの命令によりコジロウはサボネアに指示を出す。

サボネアは腕を振り回して力を溜め、渾身の力でニードルアームを繰り出した!

 

「キャモ!?」

 

「危ない! キモリ避けるんだ!」

 

「キャ!? キャモ!」

 

サボネアに狙われたキモリだったが、咄嗟のサトシの指示でサボネアのニードルアームを回避する事ができた。

 

「いいぞキモリ! でんこうせっかだ!」

 

「キャモ!」

 

「させないわ! ソーナンス、カウンターよ!」

 

「ソーナンス!」

 

「キャモ!? キャモッ!?」

 

キモリはでんこうせっかを繰り出すが、珍しく前に出てきたソーナンスのカウンターによって弾き返されてしまう。

 

「アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモー!」

 

「はいはいソーナンス、ミラーコートよ」

 

「きゃああああああ!?」

 

「チャチャチャ! チャモー!?」

 

アチャモがひのこで援護するが、同じくソーナンスのミラーコートでひのこを倍返しされ、ハルカとアチャモに返されてしまう。

ひのこを浴びて逃げ惑うハルカとアチャモだが、攻撃が収まる頃には服のあちこちがブスブスと黒い煙を出していた。

 

「うぅ…熱かったかも…」

 

「サトシ、お姉ちゃん! カウンターは物理攻撃を、ミラーコートは特殊攻撃を倍返しするんだ! 気をつけて!」

 

ポケモンの知識が豊富なマサトがサトシとハルカにアドバイスを出すが、ムサシとソーナンスも簡単には破らせまいと笑みを浮かべる。

 

「くそっ、キモリ! もう1度でんこうせっかだ!」

 

「何度やっても同じよ! ソーナンス、カウン―」

 

「ライ、ソーナンスにアンコールだ!!」

 

「プラ、プラプラ! プラプラ!」

 

「ソ、ソーナンス? ソーナンス!」

 

ライは突然拍手をしながら踊り、まるでソーナンスをおだてるように技を繰り出す。

ソーナンスは突然おだてられ、顔を赤くして照れた様子でミラーコートを発動してしまう。

それによりでんこうせっかを撥ね返す事ができず、ソーナンスは吹き飛ばされてしまった。

 

「ちょっとソーナンス、何してんのよ!」

 

「何やってるニャ! ミラーコートじゃでんこうせっかは撥ね返せないニャ!」

 

「無駄だ。アンコールを受けたポケモンはしばらく同じ技しか出せなくなるんだ」

 

「な、何ですって!?」

 

「よーし、なら今のうちね! アチャモ、つつく攻撃!」

 

「チャモチャモー!」

 

カウンターを使えないと知ったハルカはチャンスと見てアチャモでつつく攻撃を繰り出す。

ソーナンスは逃げようとするがアチャモの攻撃から逃げられず、お尻につつく攻撃を受けてしまう。

 

「ソーナンス! ソソ、ソーナンス!?」

 

「何やってんのソーナンス! カウンターよ!」

 

「ソソソ、ソーナンス!?」

 

慌ててムサシはカウンターを指示するが、ソーナンスが発動できるのはミラーコートだけだった。

ソーナンスはアチャモの攻撃を受けて体力が削られ続けてしまう。

 

「まずい! サボネア、ミサイルばりでソーナンスを援護するんだ!」

 

「サボサボー」

 

「ライ、サボネアにもアンコール!」

 

「プラプラ~!」

 

「サボ? サボサボネー!」

 

サボネアにもアンコールをすると、サボネアは先ほど繰り出したニードルアームを繰り出してしまう。

 

「アチャモ、避けるのよ!」

 

「チャモ!」

 

「サボ!?」

 

「ソーナンス!?」

 

「ああっ!? ソーナンス! あべしっ!?」

 

アチャモを狙ったニードルアームだが、アチャモがその場から飛び退くとニードルアームはソーナンスに命中してしまう。

今の一撃により、ソーナンスは吹き飛ばされてムサシにぶつかり倒れてしまう。

 

「今だキモリ! はたく攻撃!」

 

「キャモー!」

 

「サボネー!?」

 

「サボネアー! いでっ! いででで、しがみつくなサボネアー!!」

 

キモリのはたく攻撃が決まり、今度はサボネアが吹き飛ばされてしまいコジロウに命中する。

またもコジロウにしがみついているのかコジロウが悲鳴をあげていた。

 

「よーし、トドメの一撃いくぜ! ピカチュウ、でんこうせっか! キモリははたく攻撃!」

 

「ライ、まねっこだ!」

 

「ピッカ! ピカチュ!」

 

「キャーモッ!」

 

「プラプラ~プラッ!」

 

「「「あわわわわわわ!? ギャーッ!?」」」

 

ピカチュウのでんこうせっか、キモリのはたく攻撃、そしてライのまねっこによるはたく攻撃が放たれ、それぞれロケット団に見事クリーンヒットした。

 

「「「ヤなカンジーッ!!」」」

 

キラーン☆と夜空のお星様の1つとなって空の彼方へ消えていくロケット団を見送り、サトシ達はキモリ達の救出に成功した。

 

「やったぜピカチュウ、キモリ!」

 

「ピッカ!」

 

「キャモ」

 

「サトシやるじゃん!」

 

「ああ、野生のキモリに指示を出してあそこまでのコンビネーションが取れるとはな」

 

「キモリが頑張ったからさ。でも…なぁキモリ、もし良かったら俺達と―」

 

キモリに向かってサトシが何かを言おうとした瞬間、大木の方からバキバキと何か折れるような、割れるような音が辺りに響き渡る。

 

「今の音は何!?」

 

「まさか、キモリの大木が…!」

 

「キャモー!」

 

サトシ達は急いで大木の方へ戻ると、大木は縦に亀裂が入り今にも割れてしまいそうになっていた。

 

「大変だ! 木が!」

 

「キャモ!」

 

「キャモキャモ、キャモ!」

 

割れそうになっている大木を見て、木の枝を咥えたキモリを筆頭にキモリ達は大木を左右から支えてどうにか割れるのを防ごうとする。

だが大木はどんどん左右に傾いていってしまう。

 

「俺達も手伝うぞ! サトシ、ロープを巻いて木を固定するんだ!」

 

「分かった! 頑張ってくれよキモリ!」

 

「キャモ…! キャモー!!」

 

キモリの叫びと共に地平線から太陽が昇り光が差す。

大木の割れ目から日の光が差し込み、サトシ達はこんな時だと言うのにあまりの美しさに動きが止まってしまう。

いや、サトシ達だけではなくキモリ達も体が動かなくなってしまった。

そして光の中にそれを見た―

 

 

 

小さな豆が穴の中へ転がり、小さな芽を出して少しずつ少しずつ大きくなっていく。

周りには荒野が広がっていたが、穴の中で大きくなっていく木が始まりとなり徐々に木々が増え、緑豊かになっていく。

そして大木の緑は光の中へ消え、元の枯れた大木へと戻る。

それを最後に大木は真っ二つに割れ、大きな音を立てて倒れてしまった。

 

「今の、何…?」

 

「もしかして、この木が大きくなっていく所じゃないかしら…」

 

「……この森の始まり、なのか」

 

今の光景は過去に大木の生まれた瞬間から、今の大木まで成長していく大木の記憶だったのだろうか。

真相は分からないが、サトシはゆっくりと枝を咥えているキモリに近づき横に座る。

 

「キャモ…?」

 

「なぁキモリ、あの木はお前にありがとうって言いたかったんじゃないかな?」

 

「ピィカ」

 

「…キャモ!」

 

「どわぁあああああ!?」

 

優しげに語り掛けていたサトシだったが、キモリは突然尻尾を振るってサトシを吹き飛ばした。

 

「な、何するんだよ!」

 

「キャーモ、キャモ」

 

尻尾ではたかれたサトシだが、キモリはそんなサトシに掛かって来いとジェスチャーをする。

どうやらバトルを自分をゲットしてみろと言っているようだ。

 

「え…もう1度俺達とバトルしてくれるのか!?」

 

「キャモ」

 

「よーし、行けピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

昨日は負けてしまったが、サトシはピカチュウと共に今度こそキモリゲットのためのリベンジマッチをする事にする。

 

「サトシ大丈夫かな? 昨日はあのキモリのスピードにやられちゃったけど…」

 

「キモリの技も把握したし、同じようにはいかないだろ。ただ問題なのは…」

 

「問題なのは何? お兄ちゃん?」

 

「……」

 

ハルカに聞かれるが、ソラトはあえて答えなかった。

そうしている間にバトルが始まりピカチュウとキモリが同時に駆け出した。

 

「行くぞピカチュウ! でんこうせっか!」

 

「ピッカ!」

 

「キャモッ!」

 

ピカチュウとキモリが同時にでんこうせっかを繰り出し、空中で激突すると両者とも弾かれて着地した。

 

「なら今度は10万ボルトだ!」

 

「ピーッカチュゥウウウウウ!」

 

「キャモ!」

 

放たれた10万ボルトを、キモリは避けることもせずに真正面から受けてたった。

くさタイプであるキモリにでんき技はこうかはいまひとつ。キモリはまだまだ余裕の表情で体を捻ってはたく攻撃を繰り出す。

 

「かわせピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「スピードと直接攻撃のパワーは互角だし、電気技はこうかはいまひとつ…どうすればいいんだ…」

 

バトルの戦略を考えるサトシだが、手ごわいキモリ相手にどうすればいいのか思い悩んでしまう。

 

「やっぱり相性でピカチュウじゃキモリには不利なんだよ」

 

「サトシ、大丈夫かしら…」

 

心配そうに見守るハルカとマサトだがサトシは焦りの表情を見せたまま動けずにいる。

行き詰ったサトシを見て、ソラトは一歩前に出ると大きな声でサトシに向かって叫ぶ。

 

「サトシ! 木に電気が流れないのは、受けた電気を地面に受け流しているからだ!」

 

「え!? どういう事だ!?」

 

「キモリはくさタイプ! 木もくさタイプって事だ!」

 

「キモリはくさタイプ…木に電気が効かないのは地面に流してる…そうか! そういう事か!」

 

ソラトのアドバイスでサトシは何かに気がついたらしく、突然大声を出す。

その様子にソラトもニヤリと不敵かつ満足そうな笑みを浮かべた。

 

「ピカチュウ! でんこうせっか!」

 

「ピッカ!」

 

「キャモッ!」

 

ピカチュウは再びでんこうせっかを放つと、キモリは今度はジャンプをして上にかわした。

だがそれこそがサトシの狙いだった。

 

「今だピカチュウ! かみなりだ!」

 

「ピカ~ヂュウウウウウウウウウ!」

 

「キャモ!? キャモォオオオオオ!?」

 

ジャンプしてできた隙を突いてピカチュウが強力なかみなりを放つとキモリに直撃する。

今度は先ほどの10万ボルトより効果が見られる。

どうも10万ボルトとかみなりの威力の違いだけでは無さそうだ。

 

「えー!? キモリにかみなりが効いた!?」

 

「くさタイプは電気技を受けた時、その電気を地面に逃がしてるからこうかはいまひとつなんだ。だが空中ならそれはできない…そういう事だ」

 

「へー。普通の相性だけじゃ分からない事もあるのね」

 

まともに強力なかみなりを受けたキモリは地面に倒れ、何とか動こうとするが膝を着いてしまう。

 

「よし! 行け、モンスターボール!」

 

今がゲットのチャンスと見たサトシは即座にモンスターボールを投げる。

投げられたモンスターボールは見事にキモリに命中すると、キモリを吸い込んで地面に落ちた。

キモリの最後の抵抗に、モンスターボールが激しく揺れる。

だがモンスターボールから出る力は残されておらず、モンスターボールの揺れが収まりゲット成功した。

 

「やったぁ! キモリ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「出て来いキモリ!」

 

「キャモ。キャモモ、キャモモ」

 

「キャモ…キャモモ」

 

ゲットされたキモリはすぐにボールから出されると、周りで見守っていた仲間のキモリ達と別れの挨拶をする。

そして年老いたキモリが何かを取り出す。

それは先ほど光の中で見た、大木が生まれた小さな豆だった。

 

「あぁ! もしかしてあの木と同じ豆なのか!」

 

「キャモ!」

 

サトシがゲットしたキモリは豆を受け取ると、地面に穴を掘って豆を入れると葉っぱを被せた。

 

「この豆がいつかあんな大きな木になるんだね!」

 

「それって何か感動かも!」

 

「何十年も先になるだろうけど、きっとキモリ達が守ってくれるだろうな」

 

サトシ達は豆を植え終わると、カナズミシティを目指してキモリの森を後にする事にした。

森から出るまでキモリ達が見送ってくれ、最後の別れに皆で手を振り合う。

 

「じゃあなー! また会おうぜー!」

 

「キャモモー!」

 

大木を守り、そして新たな大木を育てる事になったキモリ達。

そしてサトシは新たな仲間、キモリをゲットした。

カナズミシティのカナズミジムを目指すサトシ達の旅は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




BWのアニメ見ながらAGの小説書いてると微妙に混乱しますね(やめれ)

次回はキモリVSハブネークです。
キモリ君魔改造しちゃおうねー(ゲス顔)


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キモリVSハブネーク 放てエナジーボール!

すいません、時間かかりました…。
本来ははたく攻撃を強化する話でしたがタイトル通りです。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

最初のジムのあるカナズミシティを目指し旅をしていたサトシ達だったが、今は一休みをしている所だった。

 

「うーん、やっぱり旅って楽しいね! こんなに空気のおいしい森でランチだなんて。僕旅に出て良かったよ!」

 

「だろ? 色んな所に行って色んなポケモンに出会って、そして腹いっぱい食う! 旅ってのはそういう所が良いからやめられないんだよな」

 

「チャ~」

 

マサトとサトシとピカチュウはソラトが作った昼食のカレーを食べながら森の空気を満喫していた。

ソラトは少し離れた場所でポケモン達にポケモンフーズを食べさせており、ハルカは既に食べ終わりアチャモを抱いてブラッシングで毛並みを整えていた。

 

「お前らしっかり食えよ。飯は体の資本だからな」

 

「ほーらアチャモ、気持ち良い?」

 

「チャモチャモ!」

 

それぞれがそれぞれやりたい事をしてのんびりとしている和やかな時間が過ぎていく。

だがそんな和やかなサトシ達を茂みの中から見つめる鋭い眼があった。

鋭い目は茂みの中をスルリと移動すると、狙いをハルカとアチャモに絞り音も無く近づいていく。

 

「はーい、綺麗になったわよ!」

 

「チャモー! チャモ!?」

 

「え?」

 

ブラッシングを終えたハルカとアチャモの近くの茂みが大きく揺れると、次の瞬間大きく長い影が飛び出してきた!

飛び出した影は鋭い牙をむき出しにしてハルカとアチャモへと襲い掛かる。

 

「ハッブー!」

 

「きゃあああああああっ!?」

 

「キャモ!? キャーモッ!」

 

「ハプッ!?」

 

ハルカの悲鳴をいち早く聞きつけ、近くの木の上でのんびりしていたキモリは木から飛び降りると同時に尻尾を振るって影を横からはたいた。

キモリがはたき飛ばした大きな影は、長い体に黒い体に傷のような紫の模様があり、鋭い刃のような尻尾が印象的なポケモン、ハブネークだった。

 

「何だ!?」

 

「お姉ちゃん大丈夫!?」

 

「えぇ、キモリが助けてくれたの」

 

ハブネークに襲われ、驚いて倒れてしまったハルカをソラトが抱き起こし、マサトもハルカが心配なのか傍に寄る。

その間にキモリとハブネークは向かい合ってにらみ合う。

キモリのトレーナーであるサトシはキモリの後ろにつくとポケモン図鑑を取り出してハブネークを検索した。

 

「あのポケモンは…」

 

『ハブネーク キバへびポケモン

先祖代々ザングースと戦ってきた。刀のような尻尾で敵を切り裂き猛毒を浴びせる。』

 

「ハブネークか…キモリ、気をつけろ!」

 

「キャモ!」

 

ハブネークは体を縮めてキモリの隙を伺っている。

その構えは隙が無く、また瞬時に攻撃に移れる姿だった。

 

「睨み合っていても仕方ない! キモリ、はたく攻撃!」

 

「キャモ! キャモー!」

 

「ハブッ! ハッブネーク!」

 

「キャモー!?」

 

「ああっ、キモリ!」

 

キモリがはたく攻撃を繰り出そうと体を捻りると、体を捻る一瞬の隙を突いてハブネークは折りたたんでいた体を一気に伸ばした。

長い体はバネのような瞬発力を発揮し、鋭い尻尾でポイズンテールを繰り出した。

ポイズンテールをまともに受けてしまったキモリは大きく吹き飛ばされて木に叩き付けられてしまう。

 

「今のはポイズンテールだ! こうかはばつぐんだぞ!」

 

「キモリ、大丈夫か!?」

 

「キャ…モ…」

 

「まずい、急所にも当たったんだ! サジン、ドラゴンクロー!」

 

「フーラッ!」

 

キモリは今のポイズンテールがきゅうしょにも当たり、こうかばつぐんで既に動けないほどのダメージを負っていた。

そんなキモリを見たソラトはすぐさま選手交代のためサジンをボールから出すと同時にドラゴンクローを放つ。

 

「ハプッ!? ハブブブッ!」

 

サジンのドラゴンクローを受けたハブネークはたまらずその場から逃げ出した。

 

「キモリ! しっかりするんだ! 大丈夫か!?」

 

「ピィカ…!」

 

ダメージを受けたキモリを見て、マサトはすぐにポケナビを使って近くにポケモンセンターが無いかを確認する。

 

「サトシ、この近くに森のポケモンセンターがあるよ! そこまで連れて行こうよ!」

 

「ああ、頑張れキモリ!」

 

「ピカ、ピカピカチュ!」

 

「キャモ…!」

 

こうしてキモリの治療をするため、サトシ達は近くのポケモンセンターへ急行する事になった。

そしてそんなサトシ達を見つめていた3つの影…

 

「ちょっとちょっと、あのハブネーク見た?」

 

「見た見た! ジャリボーイのキモリを一撃ノックアウトだったな!」

 

「しかも狡猾そうな顔をしていたニャ。ロケット団にピッタリのポケモンニャ」

 

またしてもロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人だった。

だが今日に限ってはサトシのピカチュウではなく先ほどのハブネークに目が行っているようだった。

 

「よーし、あのハブネークをゲットして私のポケモンにするのよ!」

 

「「おー!」」

 

ロケット団の3人組はハブネークを追いかけて捕獲作戦を開始する。

まずはお家芸の落とし穴作戦である。

落とし穴を仕掛け、餌として今日の晩御飯になる予定だった木の実の盛り合わせを用意した。

 

「これでOKニャ!」

 

「でもこれ俺達の晩御飯だぜ? もったいなくないか?」

 

「ゴチャゴチャ言わない! ほら、来たわよ」

 

ロケット団はハブネークが木の実の匂いに釣られてやってくるのを確認すると草むらに隠れて様子を伺う。

ハブネークは木の実の釣られ、どんどん落とし穴の近づいていく。

だが直前で何かに気がついたのか動きが止まってしまう。

 

「ハブ~? ハブッ」

 

「もしかして気づかれたのか?」

 

「そんなバカニャ」

 

だがハブネークは落とし穴に気がついたようで、尻尾を器用に動かして木の実が入ったバスケットを落とし穴越しに手に入れた。

 

「ハッププッププ~」

 

「「「あーっ!」」」

 

「こら! ニャー達の晩御飯を返すニャー!」

 

「それが無いと今夜からの食べる物が無くなっちゃうだろーが!」

 

「あれ、この場所ってもしかして―」

 

木の実が持っていかれたロケット団は慌てて草むらから飛び出してハブネークに向かって文句を言う。

だが飛び出した場所は落とし穴の上…

 

「「「どわーっ!?」」」

 

 

 

「えーい、あのハブネーク! 今度は直接捕獲作戦に変更よ!」

 

「おう、力ずくでゲットしてやろうぜ!」

 

まどろっこしい作戦は止めにしたのか、ロケット団は今度はハブネークが向かった方へ先回りして捕獲用ネットを容易してハブネークを待ち伏せる事になったようだ。

しばらく待ち続けていると、ハブネークがロケット団の所へとやって来る。

 

「今よ!」

 

「どりゃ!」

 

「とニャ!」

 

「ハプッ!?」

 

ムサシの合図でコジロウとニャースが同時に手に持っていた捕獲用ネットを投げてハブネークを捕まえる。

 

「フフ、ハブネーク。アンタは今日からロケット団の一員になるのよ。さぁ引っ張りなさい」

 

「フンッ! ぬぐぐ、動かないニャ~!」

 

「ハブッ!」

 

コジロウ、ニャースの2人がかりでネットを引っ張るが、ハブネークも抵抗しておりその場から動かない。

そもそも50kg以上の体重を誇るハブネークを引きずるのも難しいという話は置いておこう。

 

「何やってんの、気合が足りないのよ気合が!」

 

「ハッブネーク!」

 

そう言ってムサシも一緒に引っ張るが、やはり抵抗するハブネークの力は強く、全く動かなかった。

そうしている間にハブネークは鋭い牙をギラリと光らせてネットを食い破った。

ネットが破れた事でネットを引っ張っていた勢いにより、ロケット団は後ろに吹き飛んでしまい、後ろにあった木にぶつかってしまった。

 

「「「うぎゃー!?」」」

 

「ハッププ~」

 

ロケット団は木にぶつかりダウンしてしまい、その間にハブネークは森の方へと逃げていってしまった。

またしてもゲット失敗である。

 

「ニャニャ~、強いニャ~」

 

「こりゃ簡単にはゲットできないぞ…」

 

「でも益々気に入ったわ…絶対ゲットしてみせるわ!」

 

目をグルグル回してダウンしながらも、ムサシはハブネークゲットを改めて誓うのだった…。

 

一方キモリを森のポケモンセンターに運んだサトシ達は、キモリをジョーイさんに預けて治療をお願いしていた。

キモリは体に包帯を巻かれ、傷ついた様子で寝かされていた。

サトシは先ほどからガラス越しに治療室を見ながら項垂れている。

 

「キモリ…ごめんな俺のせいで…」

 

サトシはキモリが怪我を負ったのは自分のせいだと思っているようで、帽子で暗い表情を隠しながら呟いた。

そんなサトシの後姿を見て、ハルカとマサトは何と声をかけるべきか悩み、戸惑いながらも何も声をかけられずにいた。

だがソラトは、フゥーと息を吐くとサトシの隣までやってきて帽子の上からサトシの頭をポンポンと叩いた。

 

「そんな気落ちするなよ。今回ダメだったなら強くなってリベンジしてやろうぜ」

 

「ソラト…」

 

「キモリの傷が治ったら、俺が修行の相手してやるよ」

 

「…ありがとう、ソラト」

 

まるで兄と弟のようなやりとりを見て、マサトは羨ましそうな、ハルカは嫉妬しているようで少し嬉しそうな視線を2人に向けていた。

 

 

 

ハブネークのゲットに失敗したロケット団3人組はお昼ご飯のおにぎりを食べて作戦会議をする事にした。

しかし先ほど晩御飯の木の実を盗られたばかりだというのに惜しみも無くおにぎりを食べまくっている辺り、彼らの計画性の無さというか思い切りの良さが見て取れる。

 

「モグモグ…しかしあのハブネークをどうやってゲットする?」

 

「あのハブネークのとんでもないパワーと勘のよさを封じニャいとゲットは難しいニャモグモグ」

 

「だったらそれを封じ込めればいいんでしょ! モグモグ」

 

「それが簡単にできれば苦労はないニャ」

 

作戦会議をしながらおにぎりを食べ進めていると、最後の1個に3人が同時に手をかけた。

和やかなお昼ご飯兼作戦会議は一瞬にして戦場のようなピリピリとした張り詰めた空気に変化してしまった。

3人は鋭い目で睨み合いをしており、それぞれ一歩も譲る素振りは見せなかった。

 

「ちょっと、アタシが最初に掴んだのよ!」

 

「ムサシもニャースも俺より沢山食べてるだろ!」

 

「ニャーは昨日の晩御飯お代わりしてないのニャ!」

 

三者それぞれの主張をしながらおにぎりを奪い合うが、そんな事をしていればいずれ手の中から零れ落ちておむすびころりんとなるのは当然な訳で。

すぽーんと3人の手の中から飛び出していったおにぎりは近くの池の中へと消えていった。

 

「「あー! 最後の1個がー!」」

 

「どうして…どうして俺がこんな目に…」

 

「ニャーが一体何をしたというのニャ…」

 

池に落ちてしまったおにぎりを見てコジロウとニャースが涙を流しながら嘆いている。

だがムサシは2人ほど落ち込んでおらず、むしろ余裕の表情だった。

 

「ったく情けないわね。たがかおにぎり1個でガタガタ言うなんてさ」

 

と言いつつムサシが取り出したのはもう1個のおにぎり。

どうやら隠し持っていたようだ。

 

「そ、そのおにぎり…!?」

 

「どうしたのニャ!?」

 

「決まってんじゃない。あらかじめ取っておいたのよ」

 

「それってズルいぞ!」

 

「そうだニャ! 反則ニャ!」

 

自身達が普段からズルやら反則やらしている事は棚に上げておいて言う台詞には清清しさすらあるが、仲間内ではノーカウントなのだろう。

 

「何と言われようが、このおにぎりはアタシの物よ。いっただきまーす!」

 

ムサシが隠していたおにぎりにかぶりつこうとすると、スルリと横から伸びてきた黒い尻尾におにぎりを盗まれてしまい歯と歯がガチンとぶつかってしまう。

 

「あれ?」

 

「ハッププー」

 

黒い尻尾の持ち主は先ほどのハブネークである。

ハブネークは盗んだおにぎりを美味しそうに頬張ると、ムサシ達を馬鹿にしたように喉を鳴らす。

 

「ちょっとアンタ何すんのよ! そういうのをズルとか反則って言うのよ!」

 

「おいムサシ、チャンスだぞ!」

 

「ハブネークゲットだニャ」

 

「あ、そっか。行くのよソーナンス!」

 

「ソーナンス!」

 

ようやく訪れたハブネークゲットのチャンスにムサシは唯一の手持ちポケモンであるソーナンスを繰り出す。

ハブネークとソーナンスは睨み合い、どちらが先に仕掛けるかを伺って…

 

「なぁ、ソーナンスは相手が先に攻撃してこないと攻撃できないんじゃ…」

 

「あぁーもう! 肝心な時に役に立たないんだから! こうなったらアンタが行きなさい!」

 

「え、ニャーが!?」

 

ソーナンスはカウンターとミラーコートしか使えないため先に攻撃を仕掛けることができない。

そのためムサシは仕方なくソーナンスをボールに戻し、後ろにいたニャースを抱きかかえ、すぐさまハブネークに向けてブン投げた。

 

「ほらほらすてみタックル!」

 

「ニャーはそんな技使えニャいニャー!」

 

「ハッブネーク!」

 

「ニャー!?」

 

ハブネークは体を捻り、その尻尾で飛んできたニャースを見事に打ち返した。

打ち返したニャースはムサシとコジロウに見事ヒットし、ロケット団は3人とも揉みくちゃになって倒れてしまう。

そのドタバタにより、ムサシが隠し持っていたもう1個のおにぎりがポロリとこぼれてハブネークの方へ転がってしまう。

 

「ああっ! 最後のおにぎりが!」

 

「ま、まだ隠し持ってたのか…」

 

「アタシのおにぎりー!」

 

転がっていくおにぎりを追い、ムサシはおにぎりに跳びつくが、その先には口を開けておにぎりを待つハブネークの牙があった。

 

「ひっ!? 危ないっ!?」

 

咄嗟に身を逸らして頭からハブネークの口に飛び込むことは無かったが、ムサシの長い髪がハブネークの牙によってスッパリと切られてしまった。

 

「か、髪がぁあああああああああ!? 女優の命がぁあああああああああああああ!?」

 

自称女優のムサシにとって髪は言葉通り命に等しい…そうである。

ムサシは怒りの炎をその目に宿し、本来ポケモンの技であるこわいかおを発動してハブネークを睨み付ける。

 

「ゆ、許さない! こうなったら何としてでもアンタをゲットしてやるわ!」

 

「ハ、ハプッ!?」

 

「あ、あの顔は…!」

 

「ムサシのこわいかおだニャ…!」

 

こわいかおによってハブネークの素早さがぐーんと下がり、あまりの恐怖にその場から動けなくなってしまう。

コジロウとニャースもムサシの気迫に恐怖し、お互い抱き合って縮こまってしまった。

その隙にムサシは鋭い爪を光らせてハブネークの顔を引っかきまくる。

 

「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!」

 

「ハブブブブブブーッ!?」

 

「あ、あれはみだれひっかきだニャ…」

 

「凄まじい威力だぜ…」

 

そしてトドメとばかりにハブネークのド頭にムサシ必殺のメガトンキックが炸裂した。

怒涛の連続攻撃を受けて戦闘不能になったハブネークは地面に倒れてピクリとも動かなくなってしまった。

 

「ハップ……」

 

「ひ、必殺のメガトンキック…!?」

 

「こうかはばつぐんだニャ…!」

 

「オラオラ! まだまだ勝負はこれからよ!」

 

倒れてどう見ても戦闘不能になったハブネークに対してムサシは胸倉を掴むように持ち上げて戦いを続けようとする。

無論ハブネークは完全敗北しており最早動けない。

 

「ム、ムサシ! ハブネークはもうゲットできるニャ!」

 

「え、ゲット? あ、そっか」

 

「やっぱり忘れてたか…」

 

髪の恨みによりゲットの事など頭から消えていたムサシにニャースとコジロウが声をかけるとようやく思い出したようだ。

ムサシは懐から空のモンスターボールを取り出して投げつける。

 

「行くのよモンスターボール!」

 

モンスターボールはハブネークに当たり、ハブネークを吸い込むと最早全く抵抗することも無くゲットは成功した。

 

「ヤッホー! ハブネーク、ゲットよ!」

 

「「やったーやったー!」」

 

こうしてムサシの大活躍?によってハブネークのゲットに成功したロケット団は新たな戦力を手に入れた。

できるなら初めからしておけばとも思われるが…髪の恨みは恐ろしいものである……

 

 

 

「はい、キモリの治療は終わりましたよ」

 

「ありがとうございます、ジョーイさん。良かったなキモリ」

 

「キャモ…」

 

キモリの治療が終わり、サトシの元へキモリが帰ってくるが、キモリは先ほどのサトシと同じように元気が無かった。

 

「やっぱりキモリも元気ないかも」

 

「きっとキモリもハブネークにやられたのが悔しいんだよ」

 

「キャモ…!」

 

ハルカとマサトがキモリの暗い様子に心配するが、サトシはキモリの傍にしゃがみ込みその肩に手を置いた。

 

「キモリ、特訓して強くなろうぜ! 強くなってあのハブネークにリベンジだ!」

 

「キャモ…キャモキャモ!」

 

サトシの言葉に元気付けられたキモリはやる気を出した様子を見せる。

そして用事があり少し離れていたソラトが、サトシ達の後ろ側から帰ってくる。

 

「待たせた、こっちの準備はOKだ」

 

「よしキモリ、ソラトと一緒に特訓だ!」

 

「キャモモ!」

 

サトシとソラトはポケモンセンターの外にあるバトルフィールドに移動して特訓の準備に入る。

ピカチュウとハルカとマサトもバトルフィールドの横にあるベンチに座って特訓の様子を見ていた。

そして勿論サトシが使うポケモンはキモリだが、ソラトは今まで手持ちには無かったモンスターボールを持っていた。

 

「それじゃ行くぜ! キノコ、バトルの時間だ!」

 

ソラトが投げたボールから出てきたのは茸のような傘を頭に付け、特徴的な尻尾が記憶に残りやすいポケモン、キノガッサだった。

 

「ガッサ!」

 

「あのポケモンは…!」

 

『キノガッサ きのこポケモン

軽やかなフットワークで敵に近づき、伸び縮みする腕でパンチを繰り出す。ボクサー顔負けのテクニックの持ち主。』

 

先ほどの用事とは、手持ちのポケモンを転送装置を使って入れ替える事だったのだ。

ソラトはフウジンとキノガッサのキノコを入れ替えたようだった。

 

「凄いや、ソラトはキノガッサも持ってたんだ!」

 

「流石お兄ちゃん、色んなポケモンを持っているのね」

 

「ピカー! ピカピカチュウ!」

 

「キノガッサのキノコだ。よろしくな」

 

「ガッサガッサ!」

 

キノコは挨拶をすっ飛ばし、既にバトルをしたそうに腕を構えていた。

どうやら相当なバトル好きらしい。

だがソラトはキノコを手で制して堪えさせる。

 

「サトシ、さっきキモリは何でハブネークにやられたと思う?」

 

「え…? うーん、やっぱり気合が足りなかったのかな」

 

「「ありゃりゃ…」」

 

ソラトの質問に対してあまりにも予想外な返事に、横で見ていたハルカとマサトはズルッとずっこけてしまい、ソラトも目を点にして呆れ驚いている。

 

「…えっとだな、今キモリが覚えている技ははたく/でんこうせっかだろ? どっちもノーマルタイプの技で、接近して使う物理攻撃だ」

 

「うーん、確かにそうだな」

 

「キャモ」

 

「単純な接近戦は、リーチとパワー、タイプで勝るハブネークが有利だ。だがハブネークは遠くから攻撃できる技をほとんど持っていない。中距離以上の間合いから牽制してカウンターを狙うんだ」

 

どくタイプであるハブネークはくさタイプであるキモリに対して相性が良い。ポイズンテールのパワーもあり接近してしまえばハブネークが有利になるだろう。

だが中距離以上のバトルなら勝機はあった。

 

「なるほど! あ…でもキモリは遠距離じゃ戦えないし…」

 

「大丈夫だ、これからある技を教える。キノコ、エナジーボール!」

 

「ガッサ! ガーサッ!」

 

キノコが両腕に力を集中させると緑色のボールが生成され、それをフィールドの中央に放った。

くさタイプの特殊技、エナジーボールである。

 

「おお、スッゲェ!」

 

「キャモ…」

 

「エナジーボールを覚えれば遠くから攻撃できる。くさタイプの技だからキモリともマッチしてる筈だ」

 

「おう! キモリ、絶対にエナジーボールを覚えようぜ!」

 

「キャモ!」

 

「まずは両腕にエネルギーを集中させるんだ。次はボールの形を保ち、最後に発射するんだ」

 

「よーし、行くぞキモリ! エナジーボール!」

 

「キャモ…キャモモッ!?」

 

エナジーボールを発動しようと両腕にエネルギーを集中させるが、多少のエネルギーが集まった段階でエネルギーが四散してしまった。

まだ覚えていない技を繰り出そうとするのだから最初は上手くいかないものである。

だが…

 

「今のは…」

 

「頑張れキモリ! 諦めるな!」

 

「キャモ! キャーモー…キャモッ!」

 

再びエネルギーを集中させるキモリ。

今度は先ほどよりエネルギーが効率よく集まり、小さいがボールの形を形成し、それを発射した。

小さなエナジーボールは空中で消えてしまったが、僅かにだが既に形になっていた

 

「いいぞキモリ!」

 

「凄い! 少しだけどもう形になってきてるよ!」

 

「サトシのキモリってもしかして天才かも!?」

 

マサトとハルカの言う通り、キモリは2回目にして既にボールの形を形成し発射する所まで成功していた。

その様子を見たソラトは驚きに目を見開いていた。

 

(そんなバカな…たった2回目で既に形にした…!? このキモリ、とんでもないヤツかもしれない…いや、サトシとのコンビネーションや絆の賜物か)

 

キモリの才能と、この短期間でだが形成されたサトシとの絆を垣間見たソラトは不敵な笑みを浮かべると、未来のライバルの才能に内心のワクワクが止まらなかった。

 

「よしキモリ、もう1度エナジーボールだ!」

 

「キャモ…キャーモーッ!」

 

(戦いたい…このキモリが強くなったら、最高の舞台で。俺が導いてやるか…サトシとキモリを、その舞台まで!)

 

サトシとキモリを見てソラトは内心そう決意した。

ソラトにはイメージが見えていた…最高のポケモンリーグで、最高のポケモンバトルを行うイメージが。

 

「一度ぶつけ合うぞサトシ! キノコ、エナジーボールだ!」

 

「おう! キモリ、エナジーボール!」

 

そうして、キモリのエナジーボール習得のための訓練は何時間も続いた。

そして日も傾いてきた頃には、キモリは既に実戦で使用できるほどではないが、かなりのところまでエナジーボールを身に着けていた。

 

「キャモ…キャモ…」

 

「キモリ、お疲れ様。すっげーな、もうほとんど覚えちゃったんじゃないか?」

 

「キャモキャモ!」

 

「明日にはもう覚えられるだろうな。流石だ」

 

「キモリってばやっぱり凄いかも」

 

「お姉ちゃん、キモリだけじゃないよ。サトシとのコンビネーションがあったから、きっとここまで早く覚えられたんだよ」

 

「へぇ~、やっぱりこういう特訓ってトレーナーも大切なのね」

 

「ピッピカチュウ! ピカッ!?」

 

それぞれがキモリの頑張りと才能、そしてサトシとのコンビネーションを見て感心していると、サトシ達の傍の草むらがガサガサと揺れる。

そして突然長~い虫取り網のようなネットによってピカチュウが連れ去られてしまう。

 

「ピカチュウ!?」

 

「何だありゃ!?」

 

「何だありゃ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

伸び縮み自在の虫取り網を使ってピカチュウを連れ去ったのは、ご存知悪の3人組のムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団だった。

 

「ピカピ! ピーカチュゥウウウウウ!」

 

ピカチュウは抵抗として10万ボルトを放つが、電撃は網から漏れる事はなく弾かれてしまった。

 

「何時も通り電撃対策はバッチリなのニャ」

 

「あの伸び縮みする虫取り網…中々いいな…いでででで!?」

 

「はいはい、そんな事は後にしようねー」

 

何となく恒例になりつつあるソラトの妙な方向への感心を見せるが、此方も恒例になりつつあるマサトがソラトの耳を引っ張って収めさせる。

 

「ロケット団! ピカチュウを離せ!」

 

「やなこった!」

 

「取り返せるものなら取り返してみなさい! 行くのよロケット団のニューフェイス!」

 

「ハッププー!」

 

ムサシが新しいモンスターボールを投げると、そこから出てきたのは昼間にキモリを倒したハブネークだった。

 

「あのハブネーク、昼間のヤツじゃない!?」

 

「何!?」

 

「キャモ…!」

 

ハブネークを見たキモリは闘志を宿しながら前へ出た。

どうやらここでリベンジをする気のようである。

 

「キモリ、やるのか?」

 

「キャモ!」

 

「俺も手伝うぜ、準備はいいかキノコ!」

 

「ガッサ!」

 

「ならヒーローボーイは俺が引き受けるぜ! サボネア!」

 

「サボサボ! サボネー!」

 

「いでででで、こっちじゃない! 向こうだサボネアー!」

 

サトシをキモリを、ソラトはキノコと共に戦闘態勢に入り、コジロウもサボネアを繰り出して前と同じように抱きつかれてトゲが刺さってしまい悶えていた。

 

「サトシ、リベンジするならハブネークは任せるぜ」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

「よし、キノコ! サボネアにマッハパンチ!」

 

「ガッサ!」

 

「サーボネー!?」

 

キモリはハブネークと、キノコはサボネアと戦うことになり、ソラトはキノコの指示を出す。

でんこうせっか等と同じように先制攻撃を仕掛けれるマッハパンチを繰り出したキノコは、一瞬の内にサボネアに接近して腕を伸ばしてサボネアを殴り飛ばした。

 

「サボネア! ミサイルばりだ!」

 

「エナジーボール!」

 

「サボサボネー!」

 

「ガーッサ!」

 

サボネアは空中で体勢を立て直してミサイルばりを放つが、キノコもエナジーボールで迎撃をする。

ぶつかり合ったエナジーボールとミサイルばりは爆発して相殺された。

 

「ハブネーク、かみつく攻撃よ!」

 

「かわすんだ!」

 

そしてサトシ達の方は、噛み付いてきたハブネークの牙を軽やかに回避して距離を取る。

 

「ほらほら、逃げてばっかしじゃ勝てないわよ! ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「キモリ、避けて距離を取るんだ!」

 

「ハッブネーク!」

 

「キャモ!」

 

ハブネークの鋭い尻尾の攻撃を、キモリはピョンピョンとジャンプしてかわすと更に距離を取った。

そして尻尾を大振りして隙ができたハブネークを、サトシ達は見逃さなかった。

 

「今だキモリ! エナジーボール!」

 

「キャーモッ!」

 

両手にエネルギーを集中させてボールの形に保ち、それをハブネークに向けて放った!

キノコが放っているエナジーボールより一回り小さなエナジーボールだが、見事ハブネークに直撃して爆発を起こした。

 

「やった!」

 

「キャモ!」

 

だが爆発の煙を切り裂き、ピンピンしているハブネークがキモリに向かって飛び掛ってきた!

 

「何!?」

 

「ハブネーク、しめつける攻撃!」

 

「ハッブネーク!」

 

「キャモ!? キャ…モ…!」

 

「キモリ!」

 

不意を突かれたキモリはハブネークの長い体に巻かれてしめつける攻撃を受けてしまう。

強い力で締め付けられ、じわじわと体力を奪われてしまう。

 

「エナジーボールが効いてないのか!?」

 

「こうかはいまひとつだけど…全く効かないって事はないと思うよ!」

 

「やっぱりまだ実戦で使えるほど使いこなせてないのかも…! 行くのよアチャモ! キモリを助けるのよ!」

 

「チャモチャモー! アチャチャチャチャ!」

 

「ハブ? ハッブネーク!!」

 

「チャモ!?」

 

ハブネークに捕まったキモリを助ける為にハルカはアチャモを繰り出す。

アチャモはキモリを助けようとつつく攻撃を繰り出しながらハブネークに接近していくが、ハブネークはギロリと鋭い目で睨みつけると、臆病なアチャモは動きが止まってしまう。

 

「今よハブネーク! かみつく攻撃!」

 

「ハブッ!」

 

「チャモー!」

 

「ああっ! アチャモ!」

 

動きが止まってしまったアチャモの隙を突いてハブネークのかみつくが決まり、アチャモはハブネークの口の中に納まってしまう。

 

「向こうがピンチか…! キノコ、マッハパンチ!」

 

「サボネア、ニードルアームだ!」

 

「ガーッサッ!」

 

「サーボネッ!」

 

キノコのマッハパンチとサボネアのニードルアームがぶつかり合い、お互いに弾かれて向かい合う。

 

「みだれひっかきニャー!」

 

「かわせキノコ!」

 

「ガッサ!」

 

ソラトはキモリ達を助けに行きたいが、サボネアが予想以上にしぶとく、更にはニャースの相手もしているため手間取っていた。

その間にもキモリとアチャモはどんどんダメージを受けていく。

 

「オーッホッホッホ! 今回はアタシの完全勝利ね!」

 

「負けるなキモリ! お前ならやれる!」

 

「キャモ…!」

 

「ムダよ! キモリ程度の力じゃ、ハブネークからは抜け出せないわ!」

 

キモリは必死に抵抗してハブネークから逃げ出そうとするがうまくいかなかった。

 

「キモリ!」

 

「フン、まずはアチャモからやっちゃいなさい! そのまま更にかみつく攻撃!」

 

「チャモー! チャモチャモー!」

 

「アチャモー!」

 

「キャモ!?」

 

ムサシとハブネークは体で締め付けているキモリより先に、噛み付いているアチャモを標的にしたようだ。

ハブネークの鋭い牙が、アチャモに突き刺さろうとしている。

 

「キモリ! お前ならやれる! エナジーボールだ!」

 

「キャモ…! キャーモーッ!」

 

キモリは再び両手にエネルギーを集中させる。

今までよりも大きく形成されたエナジーボールを、キモリは締め付けているハブネークの体へとぶつける。

ぶつかったエナジーボールは今までに無い爆発を巻き起こした。

 

「ハププッ!?」

 

「キャモ!」

 

「チャモチャモー!」

 

エナジーボールによってハブネークを吹き飛ばしたキモリはしめつけるから抜け出し、同時にハブネークの口から放り出されたアチャモをキャッチして着地した。

 

「よくやったぞキモリ!」

 

「キャモ」

 

「アチャモ! ありがとうキモリ!」

 

「チャモチャモ!」

 

「えーい、忌々しい! コジロウ、同時攻撃でいくわよ!」

 

「おう!」

 

無事にキモリとアチャモはピンチを脱すると、ムサシはコジロウの横まで移動して同時攻撃を指示する。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「キモリ!」

 

「キノコ!」

 

「「ダブルエナジーボール!!」」

 

「「「ええっ!? うぎゃーっ!?」」」

 

ハブネークとサボネアが向かってくるが、キモリとキノコが並び、今度は2体で同時にエナジーボールを放った。

2つのエナジーボールは、放たれると合体してより巨大なエナジーボールになり、ハブネークとサボネアを飲み込んで吹き飛ばした。

吹き飛んだハブネークとサボネアはムサシとコジロウ、ニャースを巻き込んで倒れ、ロケット団は揉みくちゃになってダウンした。

その衝撃でピカチュウを捕獲していた虫取り網が吹き飛んで網が破れ、ピカチュウが脱出する。

 

「ああっ、ピカチュウが逃げちゃったニャ!」

 

「「げげっ!?」」

 

「よーしピカチュウ! トドメの10万ボルトだ!」

 

「ピィカ…チュゥウウウウウウウ!」

 

ピカチュウの渾身の10万ボルトが放たれ、ロケット団に直撃する。

 

「「「あばばばばばばばば」」」

 

電撃を受けたロケット団はドカン!と吹き飛んで空の上まで吹き飛んでいった。

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

キラーン☆とまたも空の彼方のお星様の仲間入りを果たしたロケット団は、いつものように消えていった。

 

「やったなキモリ! 今度こそエナジーボールを覚えたぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

「キャモ、キャモキャモ」

 

キモリとピカチュウは喜びの合図なのか、尻尾と尻尾をポンと合わせて喜んでいる。

 

「チャモチャモ」

 

「キモリ、アチャモを助けてくれてありがとう!」

 

「キャモキャモ」

 

「キモリも新しい技、エナジーボールを覚えたし! これでカナズミジムでも大活躍間違いなしだね!」

 

「ああ、この勢いで1つ目のバッヂもゲットだぜ!」

 

 

 

敗北を通じ、新たな力を身につけて見事リベンジを果たしたキモリ。

カナズミジムを目指すサトシ達の冒険は、まだまだ続く!




最後ちょっと雑になっちゃってスイマセン。
もしかしたらその内修正入れるかもしれません。


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進化せよ ポチエナとグラエナ

大分遅れてすいません…ちょっとゲームに夢中になってしまったのとリアルが忙しくなってしまって…。

これも全部バトルフィールド1って奴とシャドウバースって奴が悪いんや!

のんびり更新になると思いますが末永くお付き合い頂ければ幸いです。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

最初のジムのあるカナズミシティを目指し旅をしていたサトシ達は、森の中の道を進んでいた。

 

「はぁ~、歩いても歩いても森ばっかり。もう飽きちゃった」

 

そうぼやくハルカだったが無理も無いだろう。

トウカシティを出てからはひたすら森を歩いているだけなのだ。

それだけホウエン地方のこの辺りが緑豊かであるという証拠でもあるのだが、こうもずっと見続けていると逆に気が滅入りそうにもなるだろう。

 

「何言ってるんだよハルカ。こういう森でもポケモンを探しながら歩いてると楽しいぜ!」

 

「そうだねよお姉ちゃん! まだ見たことのないポケモンと出会えるかもしれないしワクワクするよし!」

 

「ピカピカピカチュウ!」

 

ハルカに対してサトシとマサトとピカチュウは男の子らしく冒険していることにワクワクしている様子で旅をバッチリ楽しんでいた。

それを見たハルカは余計にげんなりしてしまう。

気が滅入っている所で隣の人物が元気はつらつしていると更に疲れるものである。

 

「お兄ちゃ~ん…」

 

「色々と前向きに捉えてみろよ。ほら、あそこにポケモンがいるぞ」

 

「え?」

 

ソラトが指差した先の木の上には紫色の体にひょろりと長い尻尾が生えているポケモン、エイパムだった。

 

「オッオッオッ?」

 

「おお! エイパムだ!」

 

『エイパム おながポケモン

器用に動く尻尾の先を手のひらの使っていたら、反対に両手が不器用になってしまった。』

 

「あれがエイパム…初めて見たけど…ちょっと可愛いかも! よーし、ゲットしちゃお!」

 

エイパムを見つけたハルカはバトルを仕掛けようと空のモンスターボールを手に取るが、エイパムのいる木の下の茂みから茶色い体のタヌキのようなポケモン、オタチが現れた。

 

「あっ、見て見て! あそこにはオタチもいるよ!」

 

「オタチか、久しぶりに見たな」

 

『オタチ みはりポケモン

眠る時は交代で見張りをする。危険を察知すると仲間を起こす。群れから逸れると怖くて眠れなくなる。』

 

「オタチ! こっちも可愛いかも~!」

 

「目移りしてるな。ゲットするならどっちかに絞った方がいいぞ……ん? 何か看板倒れてるな」

 

ソラトはエイパムにオタチにと目移りしているハルカを苦笑しながら見守っていると、草むらの中で倒れている看板を見つける。

 

「えーと何々…この先ポケモン保護区。関係者以外立ち入り禁止。尚ポケモンのゲットは厳禁…ってマズイ! 待てハルカ!」

 

「行くのよモンスターボール!」

 

「デン! ボールにでんこうせっかだ!」

 

「マイ! マイーッ!」

 

「ええっ!? きゃあああっ!」

 

ソラトの制止が間に合わず、ハルカはエイパムに向かってモンスターボールを投げる。

仕方ないとソラトはデンを繰り出すと、でんこうせっかを放ってハルカの投げたモンスターボールを弾き飛ばす。

が、勢い余ってライはボールと一緒にハルカに突っ込んでしまい、でんこうせっかを決めてしまう。

 

「ハ、ハルカ! 悪い、大丈夫だったか?」

 

「いたたた…もう! お兄ちゃんいきなり過ぎるかも!」

 

「突然でんこうせっかだんて、どうしたのソラト?」

 

「ほら、この看板だよ」

 

ソラトはハルカに謝りつつ先ほど見つけた看板を3人に見せる。

 

「ポケモン保護区…って何だ?」

 

「んー、多分だけど文字通り―離れろッ!」

 

「どわっ!?」

 

「わあっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

話の途中で突然ソラトは言葉を切ると、サトシを突き飛ばし、ハルカとマサトを両脇に抱えて飛び退いた。

すると先ほどまでソラト達がいた場所に黒い小さな影が飛び込んで鋭い牙を光らせた。

 

「チエーッ!」

 

「いでで…何なんだよいきなり!」

 

「チャァ~」

 

サトシは突き飛ばされたことで背中から転んでしまい、痛む背中を摩りながらポケモン図鑑を開いて小さな影の正体を確認する。

 

『ポチエナ かみつきポケモン

動くものを見つけるとすぐに噛み付く。獲物がヘトヘトになるまで追い掛け回すが反撃されると尻込みすることもある。』

 

「いきなり何するんだよ!」

 

「ピカピカッ!」

 

「エナッ! チエナッ!」

 

サトシとピカチュウは喧嘩腰で立ち上がると、ポチエナも威嚇をするように姿勢を低くしながら唸る。

どうやらバトルは避けられないようだ。

 

「やる気みたいだよ。サトシ! ポチエナはあくタイプだからね!」

 

「任せろ! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウ!」

 

マサトのアドバイスを皮切りにピカチュウが10万ボルトを放つが、ポチエナは素早い動きで10万ボルトを回避するとピカチュウにたいあたりを仕掛けた。

 

「ピィカー!?」

 

「ピカチュウ! 大丈夫か!?」

 

「ピィカ!」

 

「チエ~」

 

たいあたりで吹き飛ばされてしまったものの、ピカチュウはすぐさま立ち上がって体勢を立て直す。

ポチエナも油断なくピカチュウに向かい合っていると、近くにあった岩場の上からポチエナよりも大きな影が飛び出し、サトシ達を取り囲むように陣形を敷いた。

 

「グラウッ!」

 

「エナッ!」

 

「今度はグラエナか…次から次へと面倒だな」

 

「きゃあっ! 私グラエナちょっと苦手かも!」

 

「わぁ~、ポチエナの進化系だよ! 仲間なのかな!?」

 

サトシ達を取り囲んできた大きな影はポチエナの進化系であるグラエナだった。

グラエナを見たハルカは怯えてソラトの体に強くしがみつく。

恐らく以前のマグマ団との騒動で苦手意識がついてしまったのだろう。

 

「ってか囲まれたな…強行突破するか。行くぞデン」

 

「マイマイ!」

 

「待ちなさい!」

 

ソラトとデンも、グラエナ達の包囲網を突破するために戦闘態勢に入ろうとするが、先ほどグラエナが飛び降りてきた岩場の方から聞こえた制止の声に動きを止めた。

岩場には1人の女性が立っており、厳しい目つきでソラト達を見つめていた。

 

「貴女は?」

 

「私はカクリ、ここのポケモン保護区の保護官よ。あなた達は密猟者ね!」

 

「「「えぇー!?」」」

 

年長者としてソラトが女性に問いかけると、カクリと名乗った保護官の女性はソラト達を密猟者と見て対応しているようだった。

思わぬ事態にソラト以外の3人は大声を出してしまう。

 

「違います! 俺達、ここが保護区だとは知らなくて!」

 

「もう! お姉ちゃんのせいだぞ! ポケモンをゲットしようとするから!」

 

「知らなかったんだから仕方ないでしょー!?」

 

サトシが否定し、ハルカとマサトが姉弟喧嘩を始めてしまいドタバタする様子に、カクリは呆気に取られてしまう。

バタバタしているその様子は、どう見繕っても密猟者には見えない。

 

「申し訳ない。看板が倒れてて気づかなかったんです。結果的にゲットもしなかったし、大目に見てもらえませんか?」

 

「…そうみたいね。ポチエナ、グラエナ!」

 

ソラトの弁明もあり、どうにか誤解は解けたようだった。

カクリが命令するとグラエナ達は警戒を解いてカクリの元へと戻る…が、ポチエナだけはまだサトシに対して唸っており、顔面目掛けてたいあたりを繰り出した!

 

「チエーッ!!」

 

「うわーっ!?」

 

ガツン☆

 

 

 

所変わってここはカクリの拠点であるログハウス。

サトシ達はカクリに招かれ、このログハウスで休憩する事にしたのだ。

 

「いててて…」

 

「はいはい動くなよ…これで良しと」

 

顔にたいあたりを受けてしまったサトシは額が赤く腫れているため、ソラトが湿布を張って軽く治療を済ませた。

 

「ごめんなさいね、密猟者と間違えてしまって。ポチエナ、あなたも謝りなさい」

 

「クゥーン…」

 

「大丈夫ですよ! な、ピカチュウ!」

 

「ピーカチュ」

 

ポチエナもションボリといった様子でサトシに謝るが、サトシはそんな事は気にしていないとばかりに元気をアピールした。

そしてハルカはログハウスの中にいる、所々に怪我をしたポケモン達に目を向けた。

 

「カクリさん、ここにいるポケモンって怪我をしてるんですか?」

 

「えぇ、野生のポケモンで怪我をした子を保護するのも私の仕事なの」

 

「なるほど、ポケモンドクターとしての技術も持ってるんですね。そういえばカクリさん、先ほど密猟者と言ってましたが、出るんですか? ポケモンハンターが」

 

「ポケモンハンター? ソラト、それって何?」

 

聞き慣れない言葉にマサトがソラトに尋ねると、ソラトは苦虫を噛み潰したような表情をした。

その反応を見たマサトは、何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと思い、思わず体の動きがピタリと止まる。

 

「ポケモンハンターっていうのは、野生や人のポケモンを無理矢理奪ってお金で取引する悪い人達の事よ」

 

「そんな悪い人がいるんだ…て事はロケット団もポケモンハンターなの?」

 

「いや、アイツ等はポケモンハンターって言えるほどポケモン捕まえれてないと思うぞ…」

 

ポケモンハンターの事を聞いたマサトはロケット団の事を思い出すが、サトシが即座に否定した。

確かに今までもサトシに邪魔をされてしまい、作戦が成功した試しはほとんど無いため、ロケット団をポケモンハンターと言っていいのかは悩みどころである。

 

「ポケモンハンターかは分からないけど、近頃この辺りでポケモンを捕まえる罠を見かけるの。だからポチエナ達とパトロールしてたのよ」

 

「そうだったんだ。でも、何でこいつだけポチエナなんだろう? 他の仲間は3匹ともグラエナに進化してるのに」

 

「無闇やたらとたいあたりしちゃう癖のせいでバトルの相手が中々見つからないせいかもね。でもこの子にも進化の時期があるだろうし、それにこの子がポチエナのままでいいと思っているなら無理に進化させなくてもいいと思ってるの」

 

「駄目だよ!」

 

カクリのポチエナの進化を無理にさせないという話を聞き、マサトは突然大声を上げた。

その声に皆驚きと共に疑問を浮かべた。

 

「何で駄目なんだ、マサト?」

 

「だって! 進化した方がパワーが上がってバトルも強くなるし良いことばっかりじゃないか! お前もそう思うだろポチエナ!?」

 

「チエ?」

 

マサトはポチエナを抱きかかえながらそう言うが、当のポチエナは首を傾げてよく分からないといった反応をしていた。

 

「マサトは進化が見たいだけでしょ。私もパパに教えてもらったけど、進化っていうのは沢山経験を積んでいかないといけないのよ?」

 

「だったらバトルで経験を積ませればいいじゃないか! それに進化の方法は他にもきっとあるよ!」

 

「そんなのあるの?」

 

「無いことも無いけどな」

 

「「え?」」

 

進化について話をしているハルカとマサトだが、進化の方法についての話になる。

その話になり、ソラトは背負ってる鞄からある物を取り出した。

 

「それはリーフのいしね」

 

ソラトが鞄から取り出したのはポケモンの為の進化の石の1つである緑色の石、リーフのいしだった。

 

「他には…これとこれとこれと…」

 

鞄からは次々と進化の石が出てくる。

やみのいし、ほのおのいし、つきのいし、みずのいし、合計で5個の進化の石がソラトの鞄から出てきて机の上に並んだ。

 

「進化の石がこんなにも…すっげぇな」

 

「ピィカ」

 

サトシも今までに進化の石を見たことはあるが、ここまで多くの進化の石を見た事はあまり無かった。

 

「これで全部だな。この進化の石を使えば、特定のポケモンはレベルを上げなくても進化する事はできるぜ」

 

「へぇー、そうなんだ。ポチエナにはどの石が使えるの?」

 

「いや、ポチエナは進化の石は使えないよ。ただ石を使った進化もあるって事を覚えておいた方がいいぞ。色々分岐進化もするからな」

 

「ふーん…でも何でお兄ちゃんはこんなに進化の石を持ってるの?」

 

「これは俺の飯の種だよ」

 

ソラトがハルカとマサトに石を使った進化を説明していると、素朴な疑問をハルカが聞く。

確かにこれだけの進化の石を持っているのも珍しく、何か目的でもあるように思えるが、ソラトの答えは全く違う物だった。

 

「飯の種? どういう事だ?」

 

「ピカピ?」

 

「俺の家オフクロはもう居ないし、ロクデナシのオヤジは行方不明だから旅をするためのお金を旅しながら自分で稼いでるんだよ。この進化の石でな」

 

どうやらソラトは旅をしながら進化の石を集め、それを売って旅の資金にしているらしい。

サトシやハルカは両親からお小遣いの仕送りをもらっているのだが、ソラトの旅の厳しさを感じて乾いた笑みを浮かべた。

 

「あはは…ねぇ、このポチエナが進化するまでここにいちゃダメかな?」

 

「え? でも進化なんて何時になるか分からないぞ?」

 

「でも仲間は全員グラエナになってるし、コイツももうすぐ進化できると思うよ! ねぇカクリさん、お願い!」

 

「マサト、俺は早くカナズミシティに行ってジム戦がしたいんだけど…」

 

少しでも早くジムバトルをしたいサトシはここに留まることに対して渋っているが、そんなサトシの肩にソラトは手を置いて制した。

 

「ま、多少はのんびりしてもいいだろ。その間に特訓で色々仕込んでやるよ」

 

「んー…それならいっか」

 

「部屋に空きはあるから、ゆっくりしていってね」

 

こうしてサトシ達はカクリの所でしばしの休息を取る事になった。

マサトは四六時中ポチエナにつきっきりで世話をしており、サトシとソラトはログハウスの近くの広場でポケモンバトルの特訓に励んでいた。

 

「ポチエナ、お前もバトルをしてグラエナに進化しようよ~」

 

「チエ?」

 

マサトの要望に反してポチエナは良くわからない様子で首を傾げていた。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「キノコ、マッハパンチ!」

 

「ピカピカピカピカピッカ!」

 

「ガーッサ!」

 

バトルの特訓をしていたピカチュウのでんこうせっかと、キノコのマッハパンチがぶつかり合い周囲の空気を振るわせる。

互いに弾き合い、ピカチュウとキノコは再び向き合った。

 

「いいぞピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「うーん……」

 

サトシとピカチュウは絶好調の様だが、逆にソラトは2人の様子を見てなにやら考え事をしている。

 

「ん? どうしたんだソラト?」

 

「いや、実は5年前に俺がカナズミジムに挑んだ時はいわタイプのジムだったんだ。基本的にジムの専門タイプは変わらないからいわタイプと戦う事になると思うんだ」

 

「へぇ、カナズミジムはいわタイプのジムなのか」

 

「ピカチュウにも、何かいわタイプに有効な技を覚えた方がいいんじゃないかと思ったんだが…ピカチュウが覚えられる技は何だったかな。ちょっと調べてくるから待っててくれ」

 

「分かった! それじゃそれまで休憩しよう」

 

「ピカチュ」

 

「ねぇサトシ、お願いがあるんだけど」

 

ソラトはピカチュウに覚えさせられる新しい技を調べにログハウスへ戻り、その間にサトシとピカチュウは休憩する事になった。

そこへマサトがやって来る。

どうやら何かサトシに頼みがあるようだ。

 

「どうしたマサト?」

 

「ポチエナとサトシのポケモンをバトルさせるんだよ。進化するためにね」

 

「そっか、ピカチュウはさっきの特訓で疲れてるから…出てこいキモリ!」

 

「キャモ」

 

サトシはキモリを出し、マサトとポチエナと練習バトルを行う事になった。

ハンデとしてキモリはトレーナーの指示は無しである。

 

「よーし、いくぞポチエナ!」

 

「グァウ!」

 

「キャモ」

 

「ポチエナ、かみつくだ!」

 

「チエー!」

 

マサトの指示を受けたポチエナは鋭い牙をむき出しに…はせず、キモリに飛びつくようにたいあたりを繰り出した。

だが真正面からの攻撃をキモリは軽く回避する。

 

「ポチエナ! たいあたりじゃなくてかみつくだよ! その方が威力が高いんだ!」

 

「チエ?」

 

「キャーモーッ!」

 

指示をうまく実行せず混乱しているところにキモリは両手にエネルギーを溜めてエナジーボールを放つ準備をする。

 

「あーっ! 駄目だよ!!」

 

「キャモ?」

 

突然マサトに大声で言われキモリはエナジーボールの発射を中止してしまう。

 

「え? 何が駄目なんだマサト?」

 

「だって勝たなきゃ経験値にならないじゃないか! キモリはエナジーボール禁止だよ! あと、素早く動かれると攻撃が当たらないからでんこうせっかも禁止ね。後は―」

 

「キャモ…キャーモッ!」

 

「チエーッ!?」

 

あれこれとバトルに注文をつけてくるマサトにイライラしたキモリはそんな事等お構いなしとばかりにエナジーボールを放ってポチエナを吹き飛ばした。

その余波を受けてマサトもボロボロになってしまう。

 

「エ、エナジーボールは禁止って言ったのに…」

 

「キャモ!」

 

付き合っていられないとでも言うようにキモリは木に登って枝の上に座ってバトルを放棄してしまった。

 

「マサト…相手がわざと負けるようなバトルじゃ本当の経験にはならないよ」

 

「でも、やっぱりバトルには勝たないと…」

 

「それはそうだけど…相手がわざと負けるような方法で進化しても、ポチエナは喜ばないんじゃないかな」

 

「…ズルして勝たなきゃいいんでしょ! 分かったよ! 来いポチエナ!」

 

マサトは自分のやり方を否定され、拗ねてしまったのかポチエナを連れて森の中へと走っていってしまった。

 

「まいったな…」

 

「あれサトシ、お兄ちゃんとマサトは?」

 

森の見回りに出ていたカクリと、その手伝いに一緒に行っていたハルカが戻ってきた。

ハルカが周囲を見渡してもマサトもソラトも見当たらなかった。

 

「ソラトは家の中だよ。マサトはちょっと森の中へ…」

 

「森へ!? 大変だわ!」

 

「何が大変なんですか?」

 

「森でポケモン用の罠を見つけたの。ポケモンハンターがここに来てるかもしれないわ。もし鉢合わせたりしたら…!」

 

サトシの言葉に、カクリが突然大声を上げる。

カクリが持っていたのはポケモンを捕まえるためと思われるネットの一部だった。

万が一これを仕掛けた悪人がマサトとポチエナと出くわしてしまったら…

ハルカの脳裏に悪人に連れ去られてしまうマサトとポチエナの姿が浮かび上がる…。

 

「た、大変! マサトー! 戻ってきなさーい!」

 

姉として弟を守るという意識のためか、ハルカは急いでマサトを追いかけて森の中へ走っていってしまう。

 

「あ、ハルカ!」

 

「私達も行きましょう!」

 

「はい!」

 

ハルカの後を追い、サトシとカクリも森の中へ向かって走っていった。

 

「待たせたなサト…あれ、誰も居ない…?」

 

「ガッサ?」

 

ソラト達がログハウスから出てきた時には誰もおらず、しばらく立ち往生していたのは割と余談だろう。

 

 

 

森へ入ったマサトはポチエナと一緒にバトルで勝てそうな野生のポケモンを探していた。

 

「いいかポチエナ、お前のたいあたりが生かせるようなポケモンとバトルするんだぞ」

 

「チエー」

 

森を進みながらパラスやヤミカラスといったポケモンを見つけるが、ポチエナでは厳しいと判断したマサトはそれらのポケモンをスルーして勝てそうなポケモンを探す。

 

「うーん、いいポケモンが見つからないな。これじゃいつまで経ってもポチエナをグラエナに進化させれないや」

 

「そこの坊ちゃん、今進化って言ったかな?」

 

「え?」

 

悩むマサトとポチエナの前に現れたのは、スーツを着こなした男性と同じくスーツを着た女性と、ニャースの3人組だった。

 

「貴方達は?」

 

「フ、私達こそ進化の達人、進化の石マスターのコジンロウと」

 

「ムサンシンよ」

 

「ニャー」

 

なんだか怪しい名前の3人組だが、進化と聞いてマサトは思わず興味を持ってしまう。

何かポチエナの進化のヒントになればと思ったのだ。

 

「進化の石マスター? それって何!?」

 

「フフフ、教えて欲しいかね? 仕方が無い、君にだけ特別だよ」

 

「今世間で流行っている進化の石はもう古い! 私たちが発明したこのスーパー進化の石があればポケモンなんてすぐに進化させれるのよ!」

 

「スーパー進化の石? なにそれ?」

 

「このスーパー進化の石の1つ、ニャースのいしを使えば…それ!」

 

ムサンシンが取り出した、普通の石にしか見えない石をニャースの体に当てるとニャースから眩い後光が差し込みマサトとポチエナの目を照らす。

 

「うわっ、眩しい!」

 

「チエー!」

 

後光に怯んで思わず目を背けてしまうマサトとポチエナだが、後光が収まるとそこに居たのは…

 

「ペルニャーン」

 

「え? 凄い、ペルシアンに進化した!」

 

ニャースの進化系であるペルシアンだった。

額に赤い宝玉があり、先ほどよりどことなく体が大きくなっている…多少の違和感はあったが初めて進化を見たマサトは興奮してそれどころではないようだ。

 

「ねぇねぇ! ポチエナのいしもある!?」

 

「勿論あるとも! これがポチエナのいしだよ」

 

コジンロウが取り出したのはやはり先ほどとそう大して変わらないただの石に見えるが、マサトは目を輝かせていた。

 

「お願い! ポチエナを進化させてよ!」

 

「うーん、どうしようかな。スーパー進化の石はとても貴重なんだよ」

 

「お願い! 僕どうしてもポチエナの進化を見たいんだ!」

 

「仕方ないわね。それじゃポチエナ、こっちにおいで」

 

「チエ」

 

ポチエナはムサンシンの所へ行くとポチエナのいしを体に当てられる。

すると先ほどのニャースの時のように眩い後光が放たれ、マサトの目に差し込む。

再び強い後光によって目を閉じてしまうマサトだが、今度は最初から最後まで進化の瞬間を見ようとどうにか頑張って目を開ける。

 

「うぅ…絶対に進化の瞬間を見るんだ! ポチエナー!」

 

「チエ?」

 

「しぶといわね…ソーナンス、もっと光強くすんのよ」

 

「ソーナンス」

 

「うわっ! 光が強く…やっぱり駄目だ!」

 

ムサンシンが小さな声でポチエナの後ろの茂みに声をかけると更に後光が強くなり、マサトは目を覆ってしまった。

そのまま10秒、20秒と待ち続けるが、一向に後光が収まる気配は無かった。

 

「ポチエナの進化って凄く時間がかかるんだね! まだ終わらないの!?」

 

あまりの時間の長さにマサトはまだ終わらないのか聞くが、返事はなくただ時間だけが過ぎていく。

 

「あれ? ねぇ、まだなの?」

 

そうしてポチエナの進化を待ち続けるマサトの所へと後を追ってきたサトシ達がやって来る。

サトシ達の位置からは後光が差さないためマサトのいる所の様子が見えていた。

 

「あ、居たわ! マサトー!」

 

「あれ、あそこの茂みから光が出てるわ」

 

「何なんだアレ? とりあえずピカチュウ、あの茂みに10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウウ!」

 

サトシ達から見るとマサトの前にある茂みから光がマサトに向けられており、その周りには誰も居なかった。

一先ずピカチュウの10万ボルトが茂みの奥へ奔ると、茂みの奥に置いてあった設置型ライトに直撃してショート、爆発した。

 

「マサト、一体何してるの?」

 

「あれ、光が…あれポチエナがいない!?」

 

「ポチエナがどうしたの!?」

 

「さっきここで進化の石マスターって人がいてポチエナを進化させてくれるって…」

 

「進化の石マスター? なにそれ胡散臭いかも」

 

「でも、さっきニャースがペルシアンに進化したんだよ!」

 

「「「なーっはっはっはっは!」」」

 

「何だ!?」

 

追いついたサトシ達とマサトが何があったのか話し合っていると、そこへ突然響き渡る笑い声。

声の方を見ると、そこには見慣れたニャース型の気球が飛んでいた。

 

「何だ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

何時も通りの3人組、ロケット団だった。

ニャース型気球には下から網がぶら下げられており、網の中にはオタチやオオタチ、エイパムにウソッキーといったこの保護区内に住んでいる野生のポケモンが入れられていた。

そしてそのポケモン達の中にはポチエナも混ざっていた。

 

「ロケット団!」

 

「チエー!」

 

「ああっ、ポチエナ!?」

 

「「「なーっはっはっはっは!」」」

 

今頃ポチエナに気がついたマサトをロケット団は嘲笑うような笑みを浮かべると声高らかに笑った。

 

「まんまと引っかかったわね小ジャリボーイ」

 

「さっきのペルシアンはニャーの変装なのニャ」

 

「進化の光に見せかけたライトで目を塞いでその間にポチエナをゲットする作戦だったのさ!」

 

「今日はヒーローボーイも居ないっぽいし…」

 

「今の内に」

 

「「「帰る!」」」

 

ご丁寧に作戦の解説をするロケット団は気球を操作して既に逃走の体制に入っていた。

だがむざむざそれを許すサトシではなかった。

 

「逃がすか! ピカチュウ、10万ボルトで気球を落とすんだ!」

 

「ピッカ! ピーカー…!」

 

「駄目だよ! 待ってサトシ!」

 

「ピカ!?」

 

電撃を放つ体勢に入ったピカチュウだったが、突然目の前に出てきたマサトに気づき電撃のチャージを中止してしまう。

 

「マサト!? 急がないと逃げられちゃうぞ!」

 

「でもこのまま10万ボルトを撃ったら捕まってるポケモンもダメージを受けちゃうよ!」

 

「そ、そっか…でもこのままじゃ逃げられる…!」

 

既にロケット団は空を飛んでかなり距離を離されてしまった。

まだ遠距離攻撃なら届くだろうが急がなければサトシの言うとおり逃げられてしまうのは間違いなかった。

 

「それなら私に任せて! 行くのよアチャモ!」

 

「チャモチャモー!」

 

「ひのこ!」

 

「チャモー!」

 

何か思いついたのかハルカはアチャモボールから出すとすぐさまひのこを指示した。

アチャモの口から放たれたひのこは網の上部に当たると熱で網を焼き切った。

網は落下し、地面に着地したポケモン達は無事に脱出に成功した。

 

「やったわ!」

 

「お姉ちゃん凄いや!」

 

「ありがとうハルカちゃん! 皆こっちに来るのよ!」

 

カクリの声に応えてポケモン達はすぐさまサトシ達の方へと逃げてくる。

 

「ああっ、苦労して捕まえたポケモン達が!」

 

「こらー! 返すニャー!」

 

「こうなったら力ずくで捕まえるのよ! 行くのよハブネーク!」

 

「サボネア、お前もだ!」

 

ポケモン達を取り返された事に気がついたロケット団はすぐさまUターンして気球を降り、ポケモンを繰り出してきた!

 

 

「ハッブネーク!」

 

「サーボ…ネッ!」

 

「いだだだだだだだ! だからこっちじゃなくてあっちだって!」

 

相変わらずサボネアはコジロウに抱きついて棘を突き刺していた…最早突っ込むのも野暮と言う物だろう。

 

「ピカチュウ、君に決めた!」

 

「行くわよアチャモ!」

 

「ピッカ!」

 

「チャモチャモ!」

 

対するサトシ達はピカチュウとアチャモで迎え撃つ。

そうしている内にマサトの元へポチエナが帰ってきた。

 

「ポチエナ! 良かった、無事だったんだね!」

 

「チエチエー」

 

「ポチエナを逃がすんじゃないわよ! ハブネーク、かみつく攻撃!」

 

「サボネア、ミサイルばり!」

 

ポチエナを逃がすまいとハブネークとサボネアの攻撃がマサトとポチエナを狙って放たれる。

サトシ達も自分たちに攻撃が来ると思っていたようで不意を突かれる形となり防御反応が遅れてしまった。

 

「しまった! マサト!」

 

「マサト、危ないわ!」

 

「え? うわーっ!?」

 

「キノコ、ばくれつパンチ!」

 

後一歩でマサトとポチエナにかみつくとミサイルばりが当たるという所でキノコが間に割り込み強烈なパンチを放ち、ハブネークとミサイルばりを吹き飛ばした。

当然キノコと共に姿を現したのはソラトである。

 

「「「げげっ、ヒーローボーイ!?」」」

 

「ソラト、ありがとう!」

 

「気にすんなよマサト。さて、人数も逆転したがまだやるか?」

 

不敵な笑みを浮かべてロケット団を威嚇するソラトにロケット団は一瞬怯むが、顔を振って気合を入れなおした。

 

「えーい、怯むんじゃないわよ! ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハッブネー!」

 

「サーボサボサボ!」

 

気合を入れなおしたロケット団は再びポチエナを狙おうとソラトとキノコに向かって攻撃を仕掛けるが、今度は見逃すサトシとハルカでなかった。

素早く指示を出して反撃に出る!

 

「させるか! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「アチャモ、ひのこよ!」

 

「ピカチュー!」

 

「チャモモー!」

 

ピカチュウの電撃がハブネークに、アチャモの炎がサボネアに当たりそれぞれ吹き飛ばすが、持ち前のしぶとさでハブネークとサボネアは立ち上がった。

そうしてバトルするサトシとハルカの姿を見たポチエナは、何かに感化されたのか戦闘態勢に入り前に出た。

 

「チエッ!」

 

「え? ポチエナ、お前バトルするの!?」

 

「チエエー!」

 

「よーし! ポチエナ、たいあたり!」

 

マサトが指示を出すと、ポチエナはハブネーク目掛けて駆け出した。

だがそんな攻撃を易々と受けるハブネークではない。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「ハッブブ!」

 

「チエ!? チエー!」

 

「ああっ、ポチエナー!」

 

ハブネークのポイズンテールの反撃を受けてしまったポチエナは大きく吹き飛ばされてしまい、マサトの近くに倒れてしまった。

やはりハブネークとはパワーが違いすぎるようだ。

 

「やっぱりポチエナじゃ無理なのかな…」

 

「そう決め付けるのはまだ早いぜマサト」

 

諦めかけているマサトにソラトが肩に手を置いて諭す。

何も心配はいらないといったような表情で不敵に笑っており、何故かマサトに勇気をくれた。

 

「何があっても俺達がフォローする! もう1度、思いっきり行って来い!」

 

「う、うん! ポチエナ、もう1度たいあたりだ!」

 

「チエー!」

 

「フン、また返り討ちにしてやるわ! ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「ハッブネーク!」

 

再びポチエナのたいあたりVSハブネークのポズンテールの対決になるが、パワーとリーチの差からハブネークが有利なのは誰から見ても明らかだった。

だがポチエナに気をとられたハブネークの上をキノコが取った。

 

「キノコ、しびれごな!」

 

「ガッサ!」

 

キノコの頭の大きな茸帽子が震えると、そこからオレンジ色の輝く粉がハブネークに向かって散布される。

吸い込むと体が痺れてまひ状態になってしまう粉をばら撒く技だ。

ポチエナに気をとられていたハブネークはしびれごなを吸い込んでまひ状態になり、体が痺れて動けなくなってしまう。

その隙を突いてたいあたりが決まった!

 

「ハッププ!?」

 

「やった! たいあたりがクリーンヒットだ!」

 

「チエー!」

 

たいあたりが決まった事が切っ掛けなのか、ポチエナの全身が眩く、それでいて優しく輝いた。

先ほどのライトとはまるで違う、神秘的な光だった。

 

「こ、これは…!?」

 

「進化が始まったんだわ!」

 

「これが進化…!」

 

輝く体を大きく、そして少しずつ変化させていき、光が収まった時そこにいたのは―

 

「エナ!」

 

―立派な黒い毛並みに灰色の体、鋭い牙にポチエナより遥かに大きな体格をしたポケモン、グラエナが居た。

 

「す、凄い…これが進化…」

 

「進化がなんニャ! 一斉攻撃で仕留めるニャー!」

 

「よっしゃ! サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハブネーク、かみつくよ!」

 

ロケット団は進化の勢いに押されまいと一斉攻撃で勝負をつけようとしてくる。

だがサトシ、ハルカ、マサト、ソラトはそれぞれにアイコンタクトを送って深く頷いた。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「アチャモ、つつく!」

 

「キノコ、ばくれつパンチ!」

 

「グラエナ、たいあたり!」

 

一斉攻撃がぶつかり合うが、人数的にも実力的にもサトシ達の圧勝である。

技のぶつかり合いに負けたハブネークとサボネアはムサシ、コジロウ、ニャースの3人にぶつかっていつも通り空高く吹き飛んでいく。

 

「あニャー…今回もやっぱしこんな感じニャ…」

 

「キィー! 今回こそポケモン保護区で大量ゲットの筈だったのに!」

 

「まぁとりあえずいつも通り…」

 

「「「ヤなカンジー!!」」」

 

キラーン☆と空の向こうまで吹き飛んだロケット団を見送った後、サトシ達は進化したグラエナに注目した。

 

「進化できて良かったねポチエナ…じゃなかった、グラエナ!」

 

「私も進化初めて見れて感激かも!」

 

「しっかしすげぇパワーだったなグラエナ!」

 

「グラゥ!」

 

マサトを筆頭にハルカとサトシもテンションが上がっていた。

それを一歩退いたところからソラトとカクリが見守っており、しばらくの間グラエナの進化を祝って話し合っていた。

 

進化を間近で見て、ポケモンの神秘に触れたマサト。

一歩ずつ成長していく彼らの冒険は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




そういえばペリッパーの回とかは飛ばしてしまいました。
全部再構成したりすると流石に大変なので…ボチボチ飛ばしたりしようと思います。

えー!? あの話好きなのに! って人は感想覧でご意見頂ければ一考しますので感想覧までお願い致します。


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バトルとコンテスト 見果てぬそれぞれの道!

申し訳ありません、ご感想を頂いたと言うのに返信が遅れてしまいご感想が消えてしまっていました。
都合によりすぐには返信できない場合もありますが、基本的にご感想にはご返事をさせて頂きますので遅れてても少々お待ち頂ければ幸いです。

そのご感想についてはあとがきで触れていきますので、一先ずは本編をどうぞ。
今回は初のコンテスト回で、原作にできるだけ忠実に書きました。お楽しみ下さい。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

最初のジムのあるカナズミシティを目指し旅をしていたサトシ達は、カナズミシティへの近くへやって来ていた。

 

「マサト、あとどれくらいでカナズミシティに着くんだ?」

 

「えーっと地図から逆算すると…あと森を1つ抜けたらもうカナズミシティだよ!」

 

「おぉ、やっとジム戦ができるんだな! 燃えてきたぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

念願のジム戦が近づいてきていると知ったサトシとピカチュウは燃え上がり、やる気が全身からあふれ出ていた。

 

「もう、カナズミシティに着いた訳でもないのに熱いんだからサトシは」

 

「今からそんな燃えてたらカナズミシティに着く頃には燃え尽きちまうぞ」

 

やる気を出すのが早すぎるサトシ達にハルカとソラトが苦笑いを浮かべ、呆れていた。

そうして燃えがってりながら進んでいくサトシ達の前に、大きなホール型の建物が現れた。

 

「あれは…」

 

「あれがカナズミホールだね。色々イベントとかやる時に使われるみたいだよ」

 

「カナズミホール! って事はここはもうカナズミシティなんだな!」

 

「ジムのあるカナズミシティはもっと先だよ。ここはあくまでイベント会場だよ」

 

「なんだ、そうなのか…」

 

目の前の建物がカナズミホールだと知ってカナズミシティに着いたのかと思ったサトシだが、ここは唯の街の郊外に立てられたイベント会場だと知って意気消沈してしまった。

余程ジム戦が楽しみだったのだろう。

 

「でも何かイベントやってるのかしら。人とポケモンがいっぱいよ」

 

会場の近くでは多くのトレーナーがポケモンと共に技を使って何かをしていた。

しかし技はどれもバトルで使うほどの威力は無くどちらかと言えば見栄えが良い技の使い方や出し方をしていた。

 

「多分ポケモンコンテストの調整をしているんだろ」

 

「ポケモンコンテスト?」

 

聞いた事のない言葉に反応するハルカだったが、そんなハルカへ向かって何かが飛んでくる。

 

「ハァ~ン」

 

「え? きゃあああっ!?」

 

飛んできたむしタイプのようなポケモンはハルカの顔にぶつかるとしがみついてしまう。

それに驚いたハルカは足を滑らせて転んでしまった。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「ハルカ、大丈夫か?」

 

「も~! 何なのよ~!」

 

ハルカは顔に張り付いたポケモンを振りはがそうと顔を振るうと、顔に張り付いていたポケモンは羽を使い宙へ羽ばたいた。

 

「ハァーン」

 

「このポケモンは…」

 

『アゲハント ちょうちょポケモン

甘い花粉が大好物のポケモン。花をつけた鉢植えを窓辺に置けば花粉を集めに必ずやって来る。』

 

ハルカに張り付いたポケモンの正体はカラフルな羽が印象的なむしポケモンのアゲハントだった。

アゲハントは飛び立ったかと思ったがすぐにハルカの頭の上に止まってしまった。

 

「うぅ~、重~い!」

 

「懐かれちまったな、ハルカ」

 

「も~! 皆見てないで何とかしてよ~!」

 

アゲハントは見た目に反して体重は30キロ近くあるため頭に乗られればそれは重いだろう。

今度は体全体を振るってアゲハントを振りほどこうとするハルカだが、アゲハントは中々離れなかった。

バタバタと騒がしいサトシ達の元へ、男性と女性が1人ずつ駆けつけてくる。

 

「ごめんなさーい!」

 

「君たち大丈夫かい?」

 

「もう、駄目でしょアゲハント!」

 

「ハァン」

 

女性がアゲハントを嗜めると、アゲハントは今度こそハルカの頭を離れて宙へ羽ばたいた。

 

「もしかして貴女、このアゲハントでコンテストに出るんですか?」

 

「ええ、そうなの。ごめんなさいね、コンテストバトルの練習をしていたの」

 

「僕たちのせいなんだ。モルフォンのふきとばしが決まり過ぎちゃって…完全に失敗だったよ」

 

ソラトが声を掛けると、サトシ達には聞きなれない言葉が返ってきた。

コンテストバトルや、技が決まりすぎて失敗というフレーズにサトシは頭に疑問符を浮かべて首を捻った。

 

「私、メグミっていうの」

 

「僕はエイジ。よろしくね」

 

「俺はサトシです」

 

「私はハルカ」

 

「僕マサト!」

 

「俺はソラトです」

 

「でも、バトルの練習をしてたんでしょ? 技が決まりすぎて失敗ってどういう事なんだ?」

 

自己紹介を終えると、サトシは今しがた感じた疑問を聞いてみる。

バトルで全力をぶつける事を信条とするサトシからすればおかしな話である。

だがそんなサトシの疑問に答えたのはマサトとソラトだった。

 

「もー、サトシってコンテストの事何も知らないんだね。コンテストバトルは普通のバトルとは全然違うんだよ」

 

「技の出し方や魅せ方で、かっこよさやうつくしさを競い合うんだ」

 

「魅せ方…?」

 

「そう、そこが私達、コーディネーターの腕の見せ所なの!」

 

コンテストに出場し、ポケモンの魅力を最大限に引き出すトレーナーを俗にポケモンコーディネーターと呼ぶのだ。

そしてそこまで聞いて、やはりサトシはよく分からないといった表情をしていた。

逆にハルカは何かを思い出したようである。

 

「そっか、ポケモンコンテストって優勝するとリボンが貰えるんですよね!」

 

「ええ、そうよ。ほら、こんな感じのね」

 

メグミは荷物の中からケースを取り出すと、そこには手のひらサイズのコンテストリボンが2つ収められていた。

このリボンこそコンテストで優勝した証なのである。

 

「凄い! 2つも持ってるんだ!」

 

「僕はまだ1つだけだけどね」

 

エイジもケースを取り出すとそこには1つのリボン。

メグミとエイジのリボンを見るハルカの目は輝いており、明らかな憧れがあった。

 

「あーんいいなー。私も欲しいかも!」

 

「そのためにはまず出場しなくちゃね」

 

「出場ってコンテストに?」

 

「俺も出てみたいな」

 

ハルカは勿論、サトシもコンテストを体験してみたくなったのか2人はコンテストに出場してみる意欲が出てきたようである。

 

「確かコンテストのエントリーはまだ締め切ってなかったわよね」

 

「ああ、急げば間に合うかも」

 

「じゃあ急がないとな」

 

こうしてサトシ達はコンテストに出場するために急いで受付に向かった。

受付に来ると係員の女性にすぐにエントリーしたい旨を伝えるが、返ってきた返答は残念なものだった。

 

「えーっ!? もうエントリー締め切りなんですか!?」

 

「はい…先ほどエントリーされた方で定員になってしまったんです」

 

「ショックかも…」

 

折角の機会だと言うのに希望通りいかず、ハルカはガックリと項垂れてしまう。

それを見かねたメグミはせめてもと思って係員の女性にお願いをする。

 

「じゃあ、コンテストパスだけでも発行して貰えます?」

 

「はい、畏まりました」

 

「じゃあ、ついでに俺の分もお願いします!」

 

便乗してサトシもコンテストパスを発行して貰う事にしたようだ。

普段はバトル一筋でも、何か機会があれば出てみたいのだろう。

 

「マサト君はまだトレーナーじゃないからパスを発行できないけど…ソラト君はどうするの? 発行して貰う?」

 

「いえ、俺はもうコンテストパスは持っているので大丈夫です」

 

「え? お兄ちゃんコンテストに出たことあるの?」

 

「ああ、まぁ少しだけな」

 

「へぇ、お兄ちゃんはリボン幾つ持ってるの!?」

 

「い、いやまぁ…昔少しだけしか出てないから大した事ないさ」

 

ソラトがコンテストへの出場経験があると知り、ハルカは目を輝かせて質問するが、当のソラトは何かを誤魔化すように返答をした。

そんなソラトを見てメグミとエイジが何かを思い出そうとする仕草をする。

 

「うーん、そういえば昔コンテストで君のような黒服を着ていたコーディネーターが居たような…」

 

「ええ、何て名前だったかしら…」

 

「い、いやー黒い服着た人なんて幾らでもいますから! 気のせいですよ! あはははは…」

 

「うーん、そうかな…? まぁそうだね」

 

あからさまに誤魔化そうとするソラトだが、皆変だと思いながらもそれ以上の追求はせずにその話はそこまでとなった。

こうしてサトシとハルカはコンテストパスを発行して貰った。

 

「これがあればコンテストに出られるんですね」

 

「ええ、無くさないでね」

 

「あーあ、やっぱり残念かも…」

 

余程出たかったのかまだがっかりしているハルカを見かねたメグミは、ある事を思いつきハルカに提案した。

 

「そうだハルカちゃん、もし良かったら私のアシスタントとしてコンテストに出てみない?」

 

「え!? いいんですか!?」

 

「いいんじゃないかな。アゲハントもハルカちゃんの事気に入っているみたいだし」

 

「それじゃあ、お願いします!」

 

エイジの勧めもあってハルカはアシスタントとしてだがコンテストの舞台に立つことを決めたようだ。

そんなエイジは先ほどからパートナーのモルフォンに何か食べさせていた。

 

「エイジさん、それは何ですか?」

 

「これはポロックだよ。ポケモンの体調を整えるおやつみたいな物さ」

 

小さな四角いおやつは、ポロックと呼ばれる物だ。

コーディネーターの必需品である。

 

「ポロックは木の実を混ぜ合わせて作る物だ。日ごろから食べさせておけば毛並みや色艶が良くなったりするぜ」

 

エイジの解説にソラトが補足を入れる。

重ねて食べさせる事によってポケモンの体調やコンディションを変化させる事ができるポロックの話をハルカは熱心に聞き入っていた。

 

「それからポロックはポケモンの好みに合わせてトレーナーがそれぞれで調整する物なんだ。世界で自分だけのポロックが作れたりもするんだぜ」

 

「へぇー、やっぱりお兄ちゃん詳しいかも。ほんとに昔はコンテストにちょっと出ただけなの?」

 

「えっ!? あー、いやその…これくらいは基本だからさ」

 

ハルカの突っ込みにギクリと体を硬くしたソラトは誤魔化すようにフードを目深に被って誤魔化した。

首を傾げるハルカだが、ソラトが聞かれたくない事は聞かないでおこうとそれ以上言うのは諦めた。

 

「なるほど、だからメグミさんのアゲハントは羽がいっそう綺麗なんだね!」

 

「エイジさんのモルフォンも何かカッコいい気がするぜ!」

 

「ありがとう。そう言われると日ごろから調整をしてる甲斐があるよ」

 

「私からもお礼を言わせてもらうわ」

 

「えっ? 何でお礼を…?」

 

マサトとサトシがアゲハントとモルフォンの姿を褒めると、メグミとエイジは嬉しそうにしながらお礼を言った。

それがマサトとハルカには意外だったようで不思議そうな顔をしている。

 

「自分の育てたポケモンが褒められるのは嬉しいものよ」

 

「あっ、それ分かります!」

 

「自分の日ごろの努力が実ったような気がしますからね」

 

「うん、そんな時は自分が褒められた時より嬉しいもんな」

 

メグミの言葉にサトシとソラトも思うものがあったらしく頷いて同調していた。

そんな皆を見てハルカとマサトはそういうものなのかと納得した。

 

「そういえば君たちはカナズミシティにはジム戦に来たのかい?」

 

「はい! 俺とソラトが挑戦するんです! 頑張ろうぜピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「っとそうだった。サトシ、ピカチュウにいわタイプに有効な技仕込んでやるから後で特訓しようぜ」

 

「お、そうだったな! 頼むぜソラト!」

 

以前ピカチュウでいわタイプのジムに挑むためにピカチュウが覚えられる技を調べていたソラトだが、ロケット団とのゴタゴタですっかり忘れられていたようである。

 

「それじゃ準備して会場の裏に回っててくれ。俺も必要なポケモンを連れて行くからな」

 

「分かった!」

 

「それじゃあ私達はそろそろ会場に入りましょう。もうすぐコンテストの時間よ」

 

「「はーい! よろしくお願いします!」」

 

こうしてサトシとソラトはバトルの特訓へ。

ハルカとマサトはメグミに連れられてコンテストの舞台へと向かうのだった。

そしてホールの裏でサトシとピカチュウ、そしてモンスターボールを持ったソラトが向かい合っていた。

 

「それじゃやるぜサトシ。出て来い、クロガネ!」

 

「ゴォオオオオオッ!」

 

ソラトが持っていたボールから出てきたのは、黒い体に鋼鉄の鎧を身にまとった刺々しい大型のポケモン、ボスゴドラだった。

 

「初めて見るポケモンだ」

 

『ボスゴドラ てつよろいポケモン

ココドラの最終進化系。山ひとつを自分の縄張りにしており、荒らした者は容赦なく叩きのめす。いつも山の中を見回りしている。』

 

図鑑を開いてボスゴドラのデータを確認したサトシは、この刺々しく大きな体を持つボスゴドラにかっこ良さを感じて興奮していた。

 

「ボスゴドラのクロガネだ。よろしくな」

 

「ゴォド」

 

「ボスゴドラ…かっこいいなー! よろしくな!」

 

「ピッカ!」

 

「それじゃまずはお手本を見せるぞ。クロガネ、あの岩に向かってアイアンテール!」

 

「ゴォドラッ!!」

 

ソラトは近くにあった適当な大岩を指差してクロガネに指示を出すと、クロガネはスピードは遅いが勢いよく岩に向かって突進していき、射程範囲に入ると身を捻って輝く尻尾を大岩に叩き付けた。

バガン! と大きな音が辺りに響き渡るとクロガネがアイアンテールを叩き付けた大岩は粉々に砕け散った。

 

「おぉ! すっげぇ!」

 

「ピィカー!」

 

「アイアンテールははがねタイプの技だから、いわタイプにこうかはばつぐんだ。ピカチュウでも覚えられるが、尻尾を鍛えるとこがミソだな」

 

「なるほど…よーし、やってやるぜピカチュウ!」

 

「ピィッカ!」

 

まずはピカチュウの尻尾の筋力を鍛えるため、石を括りつけたロープをピカチュウの尻尾に繋げて上げ下げして筋トレを行う事にした。

それに合わせて、何故かサトシも一緒に腕立て伏せをしていた…。

 

「頑張るぞピカチュウ! 絶対アイアンテールを習得するんだ!」

 

「ピィ…カ! ピィ…カ!」

 

「いや、何でサトシまで一緒に鍛えてるんだよ…」

 

サトシとピカチュウの2人の同時特訓が始まり、ソラトは微妙に呆れながらも2人を見守った。

一方でコンテストも開催時間となった。

会場全体に響き渡る歓声を合図にコンテストが始まった。

 

「さぁ始まりましたポケモンコンテストカナズミ大会! 今回も審査員は大会事務局長のコンテス太さん、ポケモン大好きクラブ会長のスキ蔵さん、カナズミシティのジョーイさんが厳しく審査してくれます!」

 

司会の男性が審査員の3人を紹介すると、ポケットから可愛らしくも綺麗なピンク色のコンテストリボンを取り出した。

 

「そしてこの大会で優勝されたコーディネーターにはこのカナズミリボンが授与されます。そして晴れて5つのリボンを集めた強者にはトップコーディネーターの祭典、ポケモングランドフェスティバルへの参加が認められます! それでは一時審査スタート!」

 

「よーし、行けルージュラ!」

 

「ジュラー!」

 

「おーっとルージュラ、登場と同時にトリプルアクセルを決めたー!」

 

早速始まった一時審査に、エントリーナンバー1番のコーディネーターが登場し、モンスターボールを投げてパートナーを呼び出した。

ボールから出てきたルージュラは空中でトリプルアクセルを決めると優雅に着地した。

それを控え室のモニターで見ていたハルカはまたもや目を輝かせていた。

 

「わぁー! すごーい!」

 

「登場はね、1番気を遣う所なのよ。この一瞬で評価が変わると言っても過言ではないわ。技の美しさや決まり具合、ポケモンの成長度やコーディネーターとのコンビネーションが総合的に判断されるのよ。それを各審査員が審査してポイント制で争うの」

 

「凄い凄い!」

 

メグミによるコンテストのポイントの説明を、目の前で実際に様々な演技を見ながら聞いていたハルカはもう興奮状態だった。

先ほどから凄いとしか言っていない。

ハルカのボキャブラリは微妙な様である。

 

「お姉ちゃんさっきから凄いばっかりじゃん」

 

「だって凄いんだもの! ほんと、ポケモンって凄い!」

 

一方で盛り上がっているコンテスト会場の外ではサトシとピカチュウがアイアンテールの習得のための特訓を続けていた。

サトシの投げるボールを尻尾で弾き、スバメの落とす木の実を尻尾で受け止め、キモリの咥えている木の枝を尻尾で弾き返していた。

そして特訓の最中、ピカチュウの尻尾が僅かに光った。

 

「ピカ?」

 

「おっ! 皆、今の見たか!? 確かに尻尾か少し光ったよな!」

 

「キャモキャモ」

 

「スバー!」

 

「キモリの時のエナジーボールといい、サトシのポケモン達は中々センスがあるよな。そう思わないかクロガネ?」

 

「ゴゥ」

 

皆で特訓をして盛り上がっているサトシ達の傍でそれを見守るソラトとクロガネ。

だがそんなサトシ達の目に、コンテスト会場の外に設置された大型モニターが入る。

モニターにはエイジと相棒のモルフォンの演技が映し出されていた。

 

「おーっとこれは凄い! モルフォン、ねんりきで道具を自在にコントロールしています!」

 

「おおーっ! ってもうエイジさんの番だったのか!?」

 

「どうするサトシ、特訓も区切りつけてコンテスト見に行くか?」

 

「ああ! 急がないと! 行くぞ皆!」

 

「戻れクロガネ!」

 

サトシとソラトは手持ちのポケモンをボールに戻すと急いでコンテスト会場に入り、メインホールの扉を開けて観客席に滑り込む。

だが既にエイジの演技は終わっており、得点が表示されていた。

 

「出ました! 今までの最高得点です!」

 

「あちゃー、エイジさんの演技終わっちまったみたいだな」

 

「失敗した…特訓に集中しすぎたぜ…」

 

「ピィカ」

 

知り合った人の演技を見れずがっかりするサトシとピカチュウだったが、次の出番の人影が見えると表情を明るくした。

 

「おっ、あれは!」

 

「では続いてはエントリーナンバー17番、メグミさんの登場です!」

 

「メグミさんとハルカ達だな。さぁて、お手並み拝見といこうか」

 

出てきたのはメグミさんと、アシスタントとして小皿のような物を沢山持っているハルカとマサトだった。

 

「行くわよアゲハント! えいっ!」

 

「ハァ~ン!」

 

ボールから飛び出したアゲハントは美しい羽を大きく広げ、その美しさをアピールしていた。

輝く羽から毀れるように光る鱗粉が宙を舞っていた。

 

「アゲハント、フラッシュよ!」

 

「ハーン!」

 

フラッシュの技により羽が金色に輝き辺りをとてつもない明かりが包み込む。

さながら光の羽を背負ったアゲハントだった。

 

「キレーイ…」

 

「お姉ちゃん、見とれてる場合じゃないよ!」

 

「え? あっ、いけない!」

 

ハルカとマサトも思わず見とれていたらしく少し慌ててアゲハントの左右に移動すると、手に持っていた小皿を宙に向けて放り投げた。

それをアゲハントはいとをはくで吐き出した糸を鞭のように扱い、次々に小皿を砕いていった。

 

「フィニッシュ行くわよ! アゲハント、めざめるパワー!」

 

「ハァーン!」

 

パワーを纏った球体を体の周囲に出現させると、それを取り込んで周囲に撃ち放った。

輝くパワーは周囲を照らし、光の粒が会場全体に降り注いだ。

評価は文句なしの満点である!

 

「出ました30点満点!」

 

「やったわ! ありがとうアゲハント!」

 

「ハァーン」

 

「「わぁ~!!」」

 

メグミの見事な演技に手伝いをしたハルカとマサトは勿論、会場全体が一丸となってメグミ、そしてアゲハントに拍手を送っていた。

会場の興奮が最高潮に達する中、メグミ達は控え室に戻っていき、サトシとソラトも急いで控え室に駆けつけた。

サトシは控え室のドアを勢いよく開けた。サトシもまた先ほどの演技に魅せられたのだろう。

 

「やりましたねメグミさん!」

 

「お見事でした」

 

「えへへ~、ありがとー!」

 

「やったのはメグミさんとアゲハントでしょ…」

 

何故か賞賛の言葉に返事をしたハルカだが、マサトの突っ込みにお茶目な笑みを浮かべて誤魔化した。

 

「2人が手伝ってくれたからよ。本当にありがとう」

 

「いえいえ!」

 

「どういたしまして」

 

貴重な体験をしたハルカとマサトが嬉しそうにメグミに返事をしていると、とうとう一時審査最後のコーディネーターがモニターに映し出された。

 

「さぁいよいよ最後のエントリーとなりました。エントリーナンバー30番、マドマゼル・ムサッシーさんです」

 

映し出されたのは赤紫の長い髪をキメている女性とアシスタントらしき青紫髪の男性とニャースだった。

…どこかで見たことのあるような気がするのは気のせいである。

 

「さぁ、いけムサシ!」

 

「スターは君だニャ」

 

「任せときなさいって。行けハブネーク!」

 

「ハブネーック!」

 

マドマゼル・ムサッシーと名乗る女性が繰り出したのはハブネークだった。

勢い良く登場し、着地したハブネークにムサッシーは指示を出した!

 

「魅せるわよハブネーク! まずはせいなるほのお!」

 

「…ハネ?」

 

「はニャ?」

 

「ハブネークってそんな技使えたっけ…」

 

ハブネークが何もせず白ける会場。

同じく控え室でも微妙な雰囲気が流れていた。

 

「せいなるほのお? どんな技なの?」

 

「伝説のポケモン、ホウオウやエンテイが使うとされる強力なほのおタイプの技だが…ハブネークが使えるって話は聞いた事無いな…」

 

モニターを見ていた全員が首を傾げ、この中でポケモンに最も詳しいソラトにハルカが質問するとそう答えが返ってきた。

勿論ソラトの言うとおりハブネークはせいなるほのおは使えない。

 

「ハブネーク、せいなるほのおよ! ほら早く!」

 

「ハププッ!」

 

「え、ダメなの? じゃあみずのはどう!」

 

「プルルルル!」

 

使えない技は使えないので首を横に振って無理だとアピールすると、何故か今度はみずタイプの技を指示される。

当然だがこちらも使える訳が無い。

 

「ならばブレイズキック!」

 

「プルルルルルルルッ!」

 

そもそも足の無いハブネークがどうやってキック系の技をすると思ったのだろうか。

ハブネークは激しく首を横に振って無理無理アピール全開である。

 

「あの…ハブネークはそういう技は使えないんじゃ…」

 

「ソーナンス!」

 

「そーなの!? えーとじゃあえーとえーとじゃあえーっと…ドラゴンクローは? サイコウェーブは? ラスターパージは?」

 

次々と使えない技を言われてハブネークは滝のような…というかまんま滝の汗を流してあせっていた。

そもそも自分のポケモンの技を確認できていない時点で何というか…。

 

「だーっ! もう、アンタはいったい何の技が使えるのよ!」

 

「こらー! 何やってるんだ!」

 

「いい加減にしてよー!」

 

モタモタグダグダし過ぎて会場からはブーイングの嵐である。

審査員の3人も厳しい目や呆れた目、困った目をしている。

 

「あらららら…」

 

「皆怒ってるニャ! ここはとりあえずポイズンテールでキメるニャ」

 

「あぁ…しょうがないか…ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「ハブッ!? ハッブネーク!」

 

ようやく自分の使える技を指示され、気合を入れて全力でポイズンテールを放ったハブネーク。

だが勢い余ってムサッシーに尻尾をぶつけてしまい、ムサッシーは会場の天井に向かって吹っ飛んでしまう。

 

「キャー!? こうかはばつぐんよーっ!?」

 

ムサッシーはそのまま天井を突き破り、空の彼方へとキラン☆と消えていってしまった。

 

「「ああっ!?」」

 

慌ててアシスタントの2人が吹っ飛んでいった方へ向かって駆け出していき、得点が出た。

誰がどう見ても0点である。

控え室のサトシ達も呆れて声も出ず、ただただモニターに映し出された0点を眺めていた。

 

「えー、お見苦しい場面があった事、謝罪致します。それでは一時審査を突破した4名を発表致します! 此方の方々です!」

 

モニターに映し出された4人の中には一時審査で得点1位2位だったメグミとエイジも勿論含まれていた。

それぞれトーナメントでは別ブロックであり、ぶつかり合うとしたら決勝である。

 

「やった! メグミさんもエイジさんも一時審査突破だ!」

 

「エイジ、絶対負けないわよ」

 

「それはこっちの台詞さ」

 

「「それじゃあ、決勝戦で!」」

 

メグミとエイジはお互いに腕をガッとぶつけ合い、それぞれの健闘を祈った。

 

 

 

一方、吹き飛ばされてしまったマドマゼル・ムサッシーことロケット団のムサシは泣きながらハブネークに抱きついていた。

 

「うわぁああん! ハブネーク、アンタのポイズンテールは最高よ~!」

 

「ハプルルルル!」

 

どうやら使えない技を指示した事は反省し、ありのままのハブネークの実力をムサシも認めたようである。

コジロウとニャースも面倒くさそうにそれを眺めていた。

 

「なぁ、それはもう分かったから何時も通りやろうよ」

 

「単純に優勝したポケモンを奪えばいいニャ」

 

「それもそうね! それじゃ作戦開始よ!」

 

「ソーナンス!」

 

なんとなくだが纏まったようで、改めてロケット団は作戦行動に入るのだった…。

 

 

 

場面は戻りコンテスト会場。

準決勝はメグミとエイジが難なく勝ち進み、いよいよ2人の決勝戦が行われようとしていた。

 

「ついに2人が戦うのか」

 

「アゲハント対モルフォンね」

 

「どんなバトルになるんだろう!」

 

「楽しみだな」

 

サトシ達も見やすい位置にある席に座り、メグミ達のコンテストバトルを見守る。

会場のメインモニターにメグミとエイジが映し出され、その下にコンテストバトルのポイントバーが表示される。

 

「あれ、何だあのバー?」

 

「あれがコンテストバトルのポイントだ。お互いに技を出してアピールしながら攻撃を繰り出してあのポイントを奪い合う。制限時間の5分が経った時に多くポイントが残ってた方の勝ちになるんだ」

 

「へー、聞いてた通り普通とはちょっと違うバトルなんだな」

 

「それでは、決勝戦スタート!」

 

向かい合ったメグミとエイジはモンスターボールを構えると、審判でもある司会の合図によりモンスターボールからポケモンを繰り出した!

 

「行け、モルフォン!」

 

「頼むわよアゲハント!」

 

「モルフォン、しびれごな!」

 

「アゲハント、かぜおこし!」

 

モルフォンは羽からしびれごなを振り撒きアゲハントの動きを止めようとするが、アゲハントは羽を羽ばたかせて強烈な風を巻き起こした。

かぜおこしの風に流され、吹き飛ばされてしまったしびれごなは不発に終わり、2人のコンテストポイントが減ってしまう。

だがその減り方はエイジの方が僅かに多かった。

 

「あれ、お互いにポイントが減ったけどエイジさんの方が減りが大きいぞ」

 

「しびれごなは決まったけど、かぜおこしに吹き飛ばされちゃったからね。アゲハントのかぜおこしの方がポイントが高かったって事さ」

 

「攻撃だけじゃなく、反撃や防御の仕方1つで相手のポイントを削る事ができるのもコンテストバトルならではだな」

 

「「へぇ~」」

 

サトシの疑問にマサトとソラトが答え、ハルカも一緒に納得していた。

これは確かに普通のバトルでは見られない展開である。

 

「アゲハント、めざめるパワー!」

 

「上昇してかわすんだ!」

 

「ハァーン!」

 

アゲハントが放っためざめるパワーをモルフォンは高く飛んで回避したかに思えたが、空中で軌道を変えためざめるパワーは吸い込まれるかのようにモルフォンに命中した。

今の一撃はかなりの好評価だったらしく、エイジのポイントが大きく削られた。

 

「へぇ、メグミさんのアゲハントのめざめるパワーは軌道をコントロールできるみたいだな」

 

「良くやったわ、アゲハント」

 

「くそ、このままじゃ終わらないぞ! モルフォン、サイケこうせん!」

 

「モルフォ!」

 

モルフォンも負けじと反撃をし、目からサイケこうせんを放つ。

攻撃を当てて油断していたのかメグミとアゲハントの反応が遅れてしまい、サイケこうせんはクリーンヒット、きゅうしょにあたった!

 

「アゲハント!」

 

「エイジさんの反撃でポイントはまたほぼ互角だ! 勝負はまだまだ分からないぜ!」

 

「頑張れアゲハントー!」

 

どうやら先ほどのメグミの演技に感銘を受けたらしいハルカはエイジそっちのけでメグミの応援をしていた。

ポイントを大幅に削られたメグミだが、その表情に焦りは無かった。

 

「アゲハント、あさのひざし!」

 

「ハァーン…ハァアアーン!!」

 

アゲハントの全身が輝き、会場全体が光に包まれた。

天候によって効果が左右されるが、自身の体力を回復させる技によりアゲハントは元気を取り戻した。

更に今のあさのひざしの美しさによりエイジのポイントが更に削られる。

 

「綺麗…」

 

ハルカはすっかりアゲハントの虜になっており、目を輝かせながら釘付けになっていた。

 

「回復技か! 何時の間に…」

 

「メグミさんのアゲハント凄いな。エイジさん、こりゃかなり追い込まれたな」

 

「いいな…私もメグミさんとアゲハントみたいに、コンテストバトルできたらな」

 

「……そっか」

 

ハルカの口から思わず毀れた憧れ…夢を聞いて、ソラトは嬉しそうに口角を上げてフッと笑った。

残りの試合時間が1分を切り、バトルも終盤に入る。

 

「サイケこうせん!」

 

「めざめるパワー!」

 

ぶつかり合ったそれぞれの技は相殺され、再びお互いのポイントが減っていく。

 

「アゲハント、フラッシュよ!」

 

「モルフォン、ねんりきだ!」

 

アゲハントとモルフォンが最後の一撃を放とうとするが、その前に残り時間が0秒になってしまい試合は終了した。

モニターに映し出されたポイント量から優勝が決まる。

 

「バトル終了です! さぁ果たしてその結果は…!」

 

モニターに映し出された勝者は………メグミだった。

 

「優勝は、メグミさんとアゲハントです!」

 

「やったぁー!」

 

激戦を制したのはメグミだったが、負けたエイジも晴れやかな顔をしていた。

全力を出して敗れた以上、悔いは無いのだろう。

ハルカもメグミの勝利を自分の事のように喜んでいた。

 

「はいはーい、この度はおめでとございまーす!」

 

と、そこへ会場全体に通るような声が響き渡る。

声の正体は突然現れたタキシードを着てシルクハットを被った謎の男女2人組みであった。

 

「我々は今回特別に呼ばれたお祝い係です」

 

「そんなの予定には―」

 

「はいはーい! 此方のアゲハント最高最強ビューティブル!」

 

「お祝いの花束をどうぞ!」

 

「あ、ありがとう…」

 

司会者の言葉を遮って勝手に言葉を続け、祝いの花束をメグミに渡す自称お祝い係の2人組み。

だがメグミに渡された花束からは突然煙幕のような煙が吹き出し、瞬く間に会場の視界を潰してしまった。

 

「きゃあっ!? 何なの!?」

 

「きゃあっ!? 何なの!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「お待たせしましたショータイム」

 

「豪華絢爛ショーアップ」

 

「愛と真実の技を鍛える!」

 

「元祖ポケモンアーティスト!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

と、いつものキメ台詞を決めたロケット団の手には虫取り網が握られており、アゲハントとモルフォンが網に捕まっていた。

どうやら今の煙幕の隙に捕まえたらしい。

 

「ロケット団!」

 

「またあなた達なの!?」

 

「やれやれ、こういう舞台にも野暮な水差すかアイツら…そーいう所はイカしてねぇな」

 

「強いポケモンあるところ、必ずロケット団は現れるのよ!」

 

「大体育てるとか技を魅せるとか面倒くさいぜ!」

 

「それより人が育てたポケモンをゲットした方が楽で賢いのニャ」

 

その言葉を聞き、この会場にいる全てのポケモントレーナーやコーディネーターがムッとした表情をする。

育てる事に意義を見出す者だってもちろんいるし、何より育てたポケモンを奪うという言葉を不快に感じたのだ。

そしてそれはメグミやエイジも同じだった。

 

「おいお前たち、その言葉は全てのポケモンとトレーナー、コーディネーターに対する侮辱だぞ!」

 

「そうよ、取り消しなさい!」

 

「うるさいわね! ハブネークやっちゃいな!」

 

先ほどコンテストで0点を貰った腹いせもあるのか今日は嫌に好戦的なムサシはハブネークを繰り出すと狙いをメグミに定めた。

 

「ハブネーク、あの女にポイズンテールよ!」

 

「ハッブネーク!」

 

「えっ!? きゃああああああっ!?」

 

「メグミさん、危ない!」

 

ハルカがメグミに駆けつけようとするが、それよりも早く隣に座っていたソラトが黒い影となって飛び出し、メグミとハブネークの間に割り込んだ。

 

「クロガネ、バトルの時間だ!」

 

「ゴォオオド!」

 

「受け止めろ!」

 

そしてボールを投げて繰り出したのは先ほどと同じくボスゴドラのクロガネである。

ソラトは防御の指示を出すとクロガネはその体でハブネークのポイズンテールを受け止めた。

普通ならば多少なりともダメージがあると思われるが、クロガネの鋼の鎧には傷一つ付いていなかった。

 

「メグミさん、大丈夫ですか?」

 

「え、えぇ………」

 

メグミの身が大丈夫だった事を確認し、ロケット団からメグミを庇うように立つソラト。

そしてそんなソラトを見て、メグミは顔を赤く染めていた。

 

「な、何ですって!?」

 

「ハブッ!?」

 

「クロガネ…ボスゴドラははがねタイプを持っているからどくタイプの攻撃は効果が無いんだよ!」

 

「だったら…ハブネーク、かみつく攻撃!」

 

「させるか! ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「チュゥウ…!」

 

どくタイプの技が効かないと知ったムサシは今度はかみつく攻撃を繰り出そうとするが、その前にピカチュウが割り込んで尻尾を輝かせる。

既に習得したならば凄まじい習得速度だが…ピカチュウの尻尾の輝きはすぐに失われてしまった。

失敗である。

 

「ピィカ…」

 

「あちゃ…まだ無理だったか…」

 

「アチャモ、頼むわよ!」

 

「アチャー!」

 

と、今度はハルカもバトルに乱入し、アチャモを繰り出すとソラトの横に立った。

だが少し不機嫌そうな表情でハルカはソラトの腕を引っ張った。

 

「ん、どうしたハルカ?」

 

「お兄ちゃん、メグミさんに近すぎるかも! もう、離れてよ!」

 

「え? ああ分かったよ」

 

よく分からないという表情をするソラトだが、ハルカの不機嫌は収まらなかった。

ハルカはこのイライラした気持ちをロケット団にぶつける事に決めた。

恋する乙女はフクザツなのである。

 

「えーい、邪魔すんじゃないわよ! ハブネーク、かみつく攻撃!」

 

「お前も行けサボネア、ニードルアーム!」

 

「ハブネーク!」

 

「サーボサボネッ!」

 

ムサシは改めてハブネークを攻撃させ、コジロウもサボネアを繰り出して同時攻撃をしてくる。

だがその前に立ち塞がるのは巨大な鋼の鎧だった。

 

「クロガネ、てっぺき!」

 

「ゴォオオド!」

 

「ハプッ!?」

 

「サボネッ!?」

 

クロガネは白銀の鎧を輝かせて防御力をぐーんと高めると、真正面からハブネークとサボネアの攻撃を受け止めて弾き返した。

相変わらずその鉄の鎧には傷一つ付いていなかった。

 

「今よアチャモ、ひのこで網を焼き切るのよ!」

 

「アチャー!」

 

その隙を突いてアチャモがひのこを放ち、アゲハントとモルフォンを捕まえていた虫取り網の網を焼き切った。

それによって自由になったアゲハントとモルフォンはメグミとエイジの元へと帰ってきた。

 

「「「あー! 折角捕まえたアゲハントとモルフォンが!」」」

 

「ありがとう、ハルカちゃん! いくわよエイジ!」

 

「おう!」

 

「俺達もやるぞ! 茶番はもうここまでだ!」

 

「やってやるぜ!」

 

「ええ!」

 

それぞれパートナーのポケモンと息を合わせると、ロケット団に対して一斉攻撃を指示した。

 

「アゲハント、めざめるパワー!」

 

「モルフォン、サイケこうせん!」

 

「クロガネ、がんせきふうじ!」

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「アチャモ、ひのこ!」

 

白いパワーが放出され、七色の光線が放たれ、巨大な岩が数多く打ち出され、電撃が奔り、炎の弾丸が宙を舞う。

それぞれの渾身の技は一直線にロケット団に向かい見事命中して爆発した。

 

「「「うわああああああっ! ヤなカンジー!!」」」

 

ドカーン! キラーン☆とまたしても天井を破り、今度こそロケット団は空の彼方へと消え去っていった。

こうしてポケモンコンテストカナズミ大会は無事に幕を閉じ…る前にリボンの授与式が行われた。

 

「では、コンテス太氏から優勝者のメグミさんにカナズミリボンの贈呈です!」

 

コンテス太から桃色のコンテストリボンを受け取ったメグミは、嬉しそうにそのリボンを眺めていた。

 

「メグミさん、見せて見せて!」

 

「ええ、どうぞ」

 

「うわ~、素敵! メグミさん、私ポケモンコンテストに必ず出ます! そしてリボンをゲットしてみせます!」

 

「ハルカにも自分の旅の目的ができたな。いい事だ」

 

そんなコンテスト出場への意欲を見せるハルカに、ソラトも嬉しそうにしていた。

妹分のハルカに目指す物が出来、成長しようとしてるのを見ているのが嬉しいのだろう。

と、そんなソラトにメグミが頬を赤く染めながら近づいていく。

 

「あ、あの…ソラト君、ポケギア持ってるかしら? もし持ってたら電話番号交換しない?」

 

「え? あー、すいません…俺ポケギアは持ってないんです」

 

「ならこれ、私の番号だから! いつでも掛けてきて!」

 

メグミは自分のポケギアの電話番号が書かれたメモをソラトに手渡していた。

何やら甘いオーラを出すメグミに対し、ソラトは頬を掻きながらメモを受け取り、それを傍から見ていたハルカはムッとして頬を膨らませた。

 

「俺達もジム戦頑張ろうぜソラト!」

 

「ああ、だがその前にサトシとピカチュウはアイアンテールの習得、頑張れよ」

 

「ああ、やってやろうぜピカチュウ!」

 

「ピカピカ!」

 

コンテストに触れて、ポケモンの更なる奥深さと魅力に気がつき、新たなる自分の目標を見つけたハルカ。

そしてピカチュウの特訓を開始したサトシ。果たしてカナズミシティでのジム戦はどうなるのだろうか。

1つ目のジムのあるカナズミシティは、もうすぐである!

 

 

to be continued...




では消えてしまっていたご感想について触れていきたいと思います。

Q,タケシは出ないの?

A,出ない事はないですが出番はまだ先になると思います。そしてタケシポジションとしてソラトがいるので、レギュラーメンバーとしては難しいと思います。タケシ好きの方、申し訳ありません。

Q,サトシって原作以外のポケモンゲットする? ボーマンダ、ミロカロス、クチート辺りなんてどう?

A,ゲットは予定しています。しかし残念ながらボーマンダは別トレーナーの手持ちになる予定で、ミロカロスもソラトの手持ちに居るため難しいと思います。しかしクチートは他のトレーナーが持つという事はあまり考えていなかったので今のところ第一候補になりますね。

皆さんもサトシやハルカ、ソラトにゲットして欲しいポケモンがいたらご意見を頂ければできれば反映していきたいと思います。
流石に全部は無理ですが…2、3体くらいなら追加はできると思いますので!

これからもこの小説をよろしくお願いします。


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フライゴンVSボーマンダ ソラトのライバル登場!

遅くなりました申し訳ありません。
何だか結構な高評価がついて嬉しい限りです。
これも全てサトシ達とポケモン、そして読者様達のお陰です。

これからもこの小説をよろしくお願いします。

あ、あと今回は自分の欲望とかそういうのが見え隠れしている感じになっちゃいましたw
許してつかぁさい…。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

最初のジムのあるカナズミシティを目指し旅をしていたサトシ達は、カナズミシティの目の前にある森の中を進んでいた。

最初のジムであるカナズミジムはもう目前である。

 

「もうすぐカナズミシティだな。久しぶりだし、楽しみだな」

 

「よーし、ジム戦頑張るぞ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ジム戦を行う予定のサトシは燃え上がっており、ソラトも久々のカナズミシティとジム戦を楽しみにしているようである。

 

「サトシもお兄ちゃんもジム戦頑張ってね」

 

「でもその前にサトシはまずアイアンテールを完成させないとね」

 

「私もジム戦はしないけど何かポケモンゲットしたいかも。アゲハントとか!」

 

どうやらハルカは先日のポケモンコンテストで目にしたメグミのアゲハントに感化されてしまったようでアゲハントに強い憧れを抱いている様だ。

そしてその憧れから、アゲハントのゲットを目指しているようである。

 

「アゲハントか。なら丁度良いんじゃないか? この森にはアゲハントの進化前のケムッソが住んでいる筈だからな。俺も旅に出た頃にゲットしようとしてたぜ」

 

「そうなんだ。じゃあソラトはアゲハント持ってるの?」

 

「いや、その時のゲットは失敗してな…まぁ代わりに当時キノココだったキノコをゲットできたんだけどな」

 

「へぇ、お兄ちゃんでも失敗した事あるのね」

 

「そりゃそうだろ。俺だって旅に出たての頃は失敗ばかりだったし、今でも失敗はするモンだ」

 

ハルカ的には頼れる兄貴分であり、バトルも家事も何でもできるソラトが失敗をするというイメージが浮かばないらしい。

だがそんな完璧なイメージを苦笑しながら否定するソラト。

そこからソラトの失敗話へと話が移行していった…バトルで負けた事、ゲットに失敗した事、料理に失敗して黒い炭を食べた事、ポケモンフーズの調合に失敗してポケモンを怒らせてしまった事等の様々な失敗談をソラトは思い出の様に語った。

 

「やっぱりソラトは5年も旅してただけあって凄く沢山の経験があるんだね」

 

「俺も旅をして色々経験したなぁ…昔は俺もライバルのシゲルに失敗した事馬鹿にされてたっけ…」

 

「ピィカ」

 

サトシは同郷のライバル、シゲルの事を思い出す。

シゲルとは旅に出る前から様々な事で勝負をしたライバルだったのだ。

まぁ勝負についてはサトシは負け越してしまっているのだが、シロガネ大会でリベンジをしたと言ってもいいだろう。

 

「へぇ、サトシのライバルか。どんなヤツなんだ?」

 

「スッゲー強いんだぜ! それにオーキド博士の孫だから小さい頃からポケモンに触れてるし、本人もポケモン研究家を目指して勉強してるんだぜ」

 

「へぇー、オーキド博士の孫なんだ! 僕も会いたくなっちゃったな!」

 

マサトはオーキド博士の事を尊敬しているので、その孫であるシゲルにも会いたくなってしまったようだ。

 

「そうだ、ソラトは旅の中でライバルはできなかったのか? ソラトのライバルならすっげー強そうなヤツがいそうだぜ!」

 

「ああ、いるぞ。色んな地方を巡ってきたから、それなりにな」

 

「くぅ~、やっぱそうなんだ! 俺もいつかその人達とバトルしてみたいぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

まだ見ぬ強者を妄想して勝手にやる気を湧き上がらせるサトシを見てソラト達は苦笑しつつ若干引いていた。

そんな燃え上がっているサトシを他所に、突然ハルカの目の前にスルリと上から降りてくるようにして野生のポケモンが現れた!

 

「ケム?」

 

「え? ひゃあああああああっ!?」

 

驚いたハルカは体を飛び跳ねさせて後ずさる。

ハルカの目の前に現れたの赤いトゲトゲした体が特徴的なむしポケモン、ケムッソだった。

噂をすればなんとやらである。

 

「お姉ちゃん! それがケムッソだよ!」

 

「び、びっくりした…これがケムッソなのね」

 

『ケムッソ いもむしポケモン

木の枝にくっついて葉っぱを食べる。口から出す糸は空気に触れるとネバネバになり、敵の動きを鈍らせる。』

 

いもむしポケモンというだけあってウネウネ動き、苦手な人が見れば一発アウトのような見た目をしているが、顔をよく見ればまん丸な黒い大きな瞳と口には愛嬌がある。

この愛嬌は、ハルカは決して嫌いではなかった。

 

「この子、よく見たら凄い可愛いかも!」

 

「ああ、いい顔してるぜコイツ。俺も始めてゲットしたポケモンはむしタイプのキャタピーだったからな」

 

「むしタイプは初心者にオススメだぜ。進化前はあまり強くないけど、進化するスピードが早いからな」

 

「よーし、ゲットしちゃうわよ!」

 

ケムッソを見つけたハルカは意気揚々とゲットしに行くが、ケムッソはそんなハルカの事などお構いなしに草むらへと入っていく。

 

「あーっ、ケムッソ待ってー!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「あ、おいハルカ!」

 

1人で勝手にケムッソを追いかけるハルカの背中を追い、サトシ達も草むらを掻き分けて走り出した。

どんどん森の奥へ進んでいくハルカだが、草木が邪魔になってケムッソが視界から居なくなってしまった。

立ち止まって一度周囲を見渡して見るが、やはりケムッソの姿は無かった。

 

「あーあ、見失っちゃったかも」

 

「ハルカー!」

 

「待ってよお姉ちゃん!」

 

「ピッカッチュウ」

 

「ケムッソ見失っちゃった…」

 

余程ケムッソをゲットしたかったハルカは、コンテストに参加できなかった時と同じようにガックリと項垂れてしまった。

その様子を見て慰めるようにソラトはハルカの頭を撫でた。

 

「よっぽどメグミさんのアゲハントを見て気に入ったんだな。なら諦めないで探してくるといい。さっきの奴以外にもケムッソはいるからな」

 

「うん! そうよね、1回で諦めちゃダメだよね! じゃあ私、この近くをぐるっと回って探して見るわ!」

 

「分かった、じゃあ俺達も一緒に―」

 

「待てサトシ。ここはハルカだけで行かせてやろう」

 

「え? 何でだよソラト」

 

皆で一緒に探した方が見つかる可能性は高い筈なのにソラトはその案を否定してハルカだけを行かせると言った。

真意を測りかねてサトシは首を捻る。

 

「1人でポケモンをゲットするのはトレーナーとしていい経験になる。その為にも今回はハルカだけで行ってみるものいいんじゃないかと思ってな」

 

「そっか…そうだな! ハルカ、頑張れよ!」

 

「うん! 絶対ケムッソをゲットするかも!」

 

「お姉ちゃん、僕らはこの辺りで休憩してるからねー! 気をつけてねー!」

 

こうしてハルカはケムッソゲットを目指して森の奥へと進んでいった。

サトシ達は近くにあった開けた場所を休憩場所として休むことにした。

ハルカは草むらを掻き分け、枝を折り先へ先へと進んでいく。

森の中では比較的目立つ赤色の体毛のケムッソは注意していれば必ず見つかる筈だと信じて。

 

そんなハルカ達を見つめている3つの視線が…。

と言うのも何時もの通りロケット団の3人組、ムサシ、コジロウ、ニャースである。

 

「なるほど、この森にはケムッソがいるのか」

 

「いいんじゃない? ケムッソをゲットしてアゲハントに進化させればポケモンコンテストで優勝しまくり! リボン独り占めよ!」

 

「でもってコンテストで優勝したアゲハントを献上すれば心も和んでこれまでのミスも帳消しだニャ!」

 

「よーし、早速ケムッソをゲットするのよ!」

 

「「おー!」」

 

「ソーナンス!」

 

どうやらロケット団にしては珍しく他人のポケモンを奪ったりするのではなく野生のポケモンを狙ってゲットする作戦のようである。

こうして保護区外の野生のポケモンをゲットするのであれば大して文句も出ない…事も無いのだろう。

ゲットされても悪用されるのではサトシ達やジュンサーさんに邪魔されるだろう…。

 

 

 

そんなこんなでロケット団も行動を開始した頃、ハルカは森の中を歩き回りケムッソを探すが、今のところ見つかってはいなかった。

 

「ケムッソー! ケムッソどこなのー!? 全然見つからないかも…ああ! わぁ~!」

 

「「「「バナバナバ~ナ。バナバナバ~ナ」」」」

 

ケムッソを探していた筈のハルカだったが、森の中で見つけた小さな花畑で輪を作って踊っているキレイハナ達を発見した。

可愛らしいポケモンの可愛らしいダンスに目を輝かせるハルカだが、本来の目的を完全に忘れていた。

 

 

 

「ケムッソー! ケムッソー! ケムッソちゃーん! 出ておいでー!」

 

一方此方はロケット団。

闇雲に叫びながらあちこち探すムサシに対し、コジロウは冷静に周囲を観察していた。

そして良さ気な木を見つけた。

 

「おっ、よっと。ほっと」

 

「何やってるニャコジロウ?」

 

「ああ、こんな木ならポケモンがいるんじゃないかと思ってさ」

 

コジロウはその良さ気な木を片手で抑えて軽く力を入れながら揺らして見る。

慎重なコジロウらしい動きだが、ムサシはそんなチンタラしていられる性格では勿論ない。

 

「ダメダメ、そういう事はもっと派手にやんないと意味が無いのよ。ほらほら出て来いケムッソォオオオオ!」

 

ムサシ必殺のメガトンキックが木に炸裂すると木どころか地面が大きく揺れて周囲に振動を与えた。

ボトンと落ちてきたのはケムッソではなく、何となくは似ているが全然違うポケモンだった。

 

「お、何か落ちてきたぞ」

 

「こりゃビードルだニャ」

 

「やっぱりそうよ! この木にはポケモンがいるんだわ! オルァアアアアア!」

 

ポケモンが出てきた事に調子を良くしたムサシは連続で木に蹴りを叩き込んでいく。

今度落ちてきたのはさなぎポケモンのコクーンだった。

 

「今度はコクーンだニャ」

 

「このこの! この、この! もっと出てきなさい!」

 

ゲシゲシと木を蹴り続けるムサシに対して、何か頭の中で引っかかるコジロウはうーんと唸りながら考え事をしていた。

 

「なぁ、ビードルの進化系ってコクーンだったよな」

 

「そうだニャ」

 

「で、コクーンの進化系は…」

 

「「あっ」」

 

「「「スピッ!!」」」

 

「「「スピアー!?」」」

 

コクーンの進化系はスピアーであると気がついたときには時すでに遅し。

進化前の仲間を攻撃されたと思ったスピアー達に囲まれてしまったロケット団は、脱兎のごとく逃げ出した。

そしてその向かう先にはキレイハナを見つめるハルカが居た。

 

「見事なダンスね~。なんだか見とれちゃうかも」

 

「「「ギャー!!」」」」

 

「ん? あれはロケット団!?」

 

「ちょっと邪魔邪魔ー!」

 

「どいたどいたー!」

 

「怪我しても知らないニャー!」

 

「え!? なになに!? きゃぁああああっ!」

 

スピアーの大群に追いかけられるロケット団と鉢合わせてしまったハルカは状況が把握しきれないが、とりあえずスピアーの大群から逃げるためにロケット団と一緒になって走り出した。

4人は全速力で走って逃げるがスピアー達の速度は速く、このままでは追いつかれる!と思ったその瞬間4人は1メートルほどの段差に気づかずガクッと落ちてしまう。

 

「「「「わぁああああっ!?」」」」

 

「スピッ、スピスピッ!」

 

段差から落ちた4人はスピアー達から見れば突然消えたように見えたせいで見失ってしまう。

スピアー達は何グループかに分かれると森の中へ飛び去っていった。

 

「「「あぁ~、助かった~」」」

 

「もう、何なのよ!」

 

「もう、何なのよ! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「あっ、見つけた! 待ってケムッソ!」

 

何時もの口上を言おうとしたロケット団であったが、ハルカは目の前をモゾモゾ移動しているケムッソを発見すると、口上そっちのけでケムッソを追いかけていった。

因みにハルカは状況に対して何なのよ!と声を出したがロケット団には何も聞いていない。

閑話休題。

 

「こらー! 最後まで聞きなさいよー!」

 

「そうだそうだ! 俺達の口上は心が篭ってるんだぞ!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃニャいニャ。ニャーたちも追うのニャ!」

 

「「そういやそうだ!」」」

 

森の中の獣道を進むケムッソだが、それほどスピードは速くは無い。

ハルカはすぐにケムッソに追いつきモンスターボールを構えた。

 

「ケムッソ、あなたを絶対ゲットするわ! 頼むわよ、アチャモ!」

 

「チャモチャモ!」

 

アチャモを繰り出しバトルの体勢に入るハルカだったが、そこへロケット団が追いついてしまった。

 

「させないわよ! 行けハブネーク!」

 

「ハッププー!」

 

「チャー!?」

 

ハブネークを見た臆病なアチャモは驚いてしまい、大声を上げて身を硬くする。

というかそもそもバトルへの乱入は厳禁であるが…ロケット団には今更だろう。

 

「ちょっと待ってよ! あのケムッソは私が先に見つけたのよ!」

 

「フン、それがどうしたのかな?」

 

「どうしたのかなって…ゲットする権利は私にあるでしょ!」

 

「アンタの権利はアタシの権利。アタシの権利はアタシの権利なの。だからこのケムッソをゲットするのはこのアタシなの!」

 

酷いジャイアニズムを見た。

だがそれで納得する人間などどこにも居るはずがない。

 

「なんですって!」

 

「ハブネーク、ケムッソにポイズンテール!」

 

「そうはいくもんですか! アチャモ、ハブネークの動きを封じるのよ!」

 

「チャモ! チャモチャモチャモチャモチャモ!」

 

攻撃に入ろうとしたハブネークの周囲をウロチョロと動き回ってハブネークの妨害をするアチャモ。

狙い通りハブネークは微妙に動けず技を出し損ねてしまう。

 

「こら邪魔だニャ!」

 

「こうなったらアチャモを先に片付けるのよ!」

 

「おう! 行けサボネア、ミサイルばりだ!」

 

「ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「チャモー!?」

 

「アチャモ!」

 

ハルカのアチャモが邪魔になると見るや否やハブネークとサボネアの2体がかりで攻撃を仕掛けるロケット団。

アチャモはその場から動けずにおり、このままでは攻撃はクリーンヒットしてしまう。

 

だがそこへ巨大な影がハルカの横を凄まじい速度で通過し、ハブネークとサボネアを吹き飛ばした。

 

「ハブッ!?」

 

「サボネッ!?」

 

「えっ!? このポケモンは…?」

 

ハルカを守るようにロケット団の前に立ち塞がったポケモンは、水色の大きな体に赤い翼が特徴的なドラゴンポケモン、ボーマンダだった。

 

「な、なによこのポケモンは…!?」

 

「こ、こいつはボーマンダだ…かなり強いポケモンだぞ」

 

「んー、初心者っぽい女の子に2対1で勝負するなんて、お姉さんちょっと卑怯だと思うんだ~」

 

そこへ妙に余裕たっぷりの聞きなれない声が響く。

声の正体はハルカの後ろに現れた、灰色の古めかしいフード付きの外套を纏った短い黒髪の女性だった。

その女性に足には、渦のように足に巻きついた不思議なアンクレットが装着されていた。

どうやら彼女がボーマンダのトレーナーの様である。

 

「何よ! 卑怯は私らのトレードマークなのよ! ハブネーク、あいつをやっつけなさい!」

 

「サボネア、お前もだ!」

 

「ハッブ!」

 

「サーボネ!」

 

「ふっふ~ん、そいじゃドラゴンクローいってみようか!」

 

「グルァ」

 

「ハプッ!?」

 

「サボボッ!?」

 

ボーマンダはドラゴンクローを発動させて軽く腕を払うと、ハブネークとサボネアは軽々と弾き返されてしまい、ロケット団を巻き込んで吹き飛んだ。

 

「「「ギャーッ!? ヤなカンジー!?」」」

 

キラーン☆と今日はいつもより早く星になって消えていったロケット団を見送ると、ハルカは本来の目的を思い出した。

 

「あっ、そうだケムッソは!?」

 

「大丈夫だよ可愛いお嬢ちゃん。ほらこれ」

 

謎のボーマンダ使いのトレーナーが背中を見せると、彼女の背中の外套にケムッソが引っ付いていた。

 

「あっ、さっきのケムッソ!」

 

「さっき逃げようとしてたから一応確保して背負っておいたんだー。この子ゲットするの?」

 

「はい! あ、それと助けてくれてありがとうございます!」

 

「いいよいいよー。新人さんには優しくしてあげないとねー。ほら、ゲットするためにはバトルしなきゃね」

 

謎の女性トレーナーは背中からケムッソを降ろすとボーマンダの傍に行きハルカの様子を見守る事にした。

ハルカも再びアチャモと共にバトルの体勢に入る。

 

「アチャモ、ケムッソをゲットするのよ! つつく攻撃!」

 

「チャモチャモー!」

 

「ケム? ケーム!?」

 

「よーし、行けモンスターボール!」

 

ひこうタイプのつつく攻撃を受けたケムッソは大きく吹き飛んで地面に倒れた。

それをゲットのチャンスと捉え、ハルカはモンスターボールを投げつけた!

ボールは見事にケムッソに命中し、ケムッソをボールの中へと納めるが最後の抵抗とばかりにケムッソはボールを大きく揺らす。

するとダメージが足りなかったのかモンスターボールの中からケムッソが出てきてしまい、ゲットが失敗してしまう。

 

「ええっ!? そんな!?」

 

「うーん、ダメージが足りなかったみたいだね。まだまだ頑張れお譲ちゃん!」

 

お気楽そうな声で、一応応援してくれる謎の女性トレーナーの言葉を受けて追撃に入るために指示を出そうするるハルカだが、その前にケムッソが動き出した。

 

「ケームー!」

 

「チャモー!」

 

ケムッソのたいあたりが決まり、アチャモは吹き飛ばされて地面を転がってしまう。

 

「負けないでアチャモ! 今度はひのこよ!」

 

「チャモ! チャーモー!」

 

「ケムムムッ!?」

 

負けじと立ち上がったアチャモは今度は口から炎の弾丸を放ちケムッソに浴びせる。

ひのこを受けてまたもこうかはばつぐんで大ダメージを受けたケムッソはその場に倒れて動けなくなってしまった。

 

「よーし今度こそ! お願い、モンスターボール!」

 

もう1度モンスターボールを投げてケムッソに当てると、モンスターボールに吸い込まれたケムッソはまたしても最後の抵抗をする。

だが先ほどより揺れが小さく、数秒でポンと音を立ててゲットが完了した。

 

「ちゃんと入ったかな? もう出てこないかしら?」

 

「大丈夫、ゲット成功だよん」

 

「やったー! ケムッソ、ゲットかも!」

 

モンスターボールを掲げて初ゲットの喜びに浸るハルカ。

目標のアゲハントへの第一歩が余程嬉しいのか、モンスターボールを大事そうに抱えて飛び跳ねていた。

 

「あの、ありがとうございます。助けて貰った上にケムッソも逃げないようにしてくれるなんて…」

 

「いやいや~、そんな大した事はしてないよん」

 

「私、ハルカっていいます」

 

「私はヒガナっていうんだー。ハルカちゃんはケムッソをゲットしにこの森へ?」

 

「はい。それと、仲間と一緒にこの先のカナズミシティを目指してるんです。ヒガナさんは何でこの森に?」

 

「にゃはは。私は友達を探してるんだ。ずーっと旅に出てたんだけど最近ようやくホウエンに帰ってきたみたいだからちょっと顔を見に行こうと思っててね」

 

ヒガナと名乗ったボーマンダ使いのトレーナーは掴みどころのなさそうな態度だが、ハルカには友達想いの良い人に見えていた。

 

「そうだ、さっきのやつ等みたいなのがまた出るかもだし、ハルカちゃんの友達の所まで送っていってあげようか」

 

「いいんですか? じゃあお願いします!」

 

「じゃ、ボーマンダの背中に乗って、しっかり捕まっててね!」

 

こうしてハルカは無事にケムッソをゲットし、ヒガナのボーマンダの背に乗せてソラト達の元へと戻る事になった。

一方のソラト達は昼食のシチューを食べていた。

 

「もぐもぐ…お姉ちゃんちゃんとケムッソをゲットできたかな?」

 

「なーに、ハルカだってここまで結構バトルしてきてるしちゃんとゲットできてるさ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「だな。ハルカが心配なのは分かるけど、ここは信じてやろうぜ」

 

「べ、別に心配なんかしてないよ! ただお姉ちゃんってちょーっと抜けてるからさ」

 

「それを心配って言うんじゃねーかな…ん?」

 

談笑しながら食事を進めていくサトシ達に、突如大きな影が差す。

空を見上げれば大きな体のポケモンであるボーマンダが空を羽ばたいており、サトシ達の上で停止している。

 

「な、何だあのポケモンは!?」

 

「あれはボーマンダだよ!」

 

「ボーマンダ!?」

 

『ボーマンダ ドラゴンポケモン

タツベイの最終進化系。翼が欲しいと強く思い続けてきた結果、細胞が突然変異を起こし見事な翼が生えたという。』

 

ボーマンダの背中には誰かが乗っているように見えるが、3人の位置から顔は確認できないため3人は立ち上がってボーマンダを警戒しつつ見つめていた。

そしてボーマンダは翼を羽ばたかせて高度を落とすと着地した。

ボーマンダの背中からひょこっと顔を出したのは見慣れたハルカと、見知らぬ女性だった。

 

「ハルカ!」

 

「お姉ちゃん! これってどういう事!?」

 

「サトシ、マサト、お兄ちゃん! 実はケムッソを探してたらロケット団と鉢合わせてケムッソを横取りされそうになったんだけど…この人に助けてもらったの!」

 

ハルカはヒガナを紹介するが、当のヒガナは驚いたような表情をしており、またソラトも気まずそうな顔をして向かい合っていた。

 

「お兄ちゃん、ヒガナさん? 2人ともどうしたの?」

 

「あー…久しぶりだな、ヒガナ」

 

「………ィヤッホォオオウ! ひっさしぶりだねソラトー!」

 

「うわーっととと!? バカ! 離れろヒガナ!」

 

硬直していたヒガナは、表情を驚きから輝くような笑顔にするとソラトに向かってジャンプして抱きついた。

ソラトはしがみ付くヒガナを振りほどこうとするが、ヒガナはよほどの力で抱きついているためか引き剥がせずにいた。

突然のヒガナの奇行に唖然として何も言えなかったサトシとハルカとマサトだったが、ハルカがいち早く復活してヒガナを引き剥がしに掛かった。

 

「ちょ、ちょっとヒガナさん! お兄ちゃんから離れて下さい!」

 

「お兄ちゃん? あれ、ソラトって妹いたんだっけ?」

 

「いいからまず離れろって! 色々当たってんだよ!」

 

「ンフフフフ、当ててんのよ?」

 

「黙ってろバカ!」

 

「もー! とにかく一旦離れて欲しいかもー!」

 

ゴチャゴチャドタバタしているソラト達が大人しくなるまで、サトシとマサトは口をあけてそれを見続けるしかなかった…。

 

 

 

5分ほどしてようやく落ち着いたソラトとヒガナとハルカだったが、場には妙なピリッとした雰囲気が流れていた。

 

「いや~、申し訳ない、ひっさしぶりにソラトに会ったから抑えが効かなくってね。私はヒガナ、ソラトのライバルだよん。よろしくね」

 

「俺はサトシです」

 

「僕はマサト!」

 

「で、ハルカちゃんだね。いや~、ソラトにこんな可愛い妹がいたなんて知らなかったな~」

 

「別に本当の兄妹ってワケじゃないさ。妹分って事だよ」

 

話を整理すると、どうやらソラトとヒガナは5年前からの知り合いであり、お互いに認め合うライバルであるようだ。

ただ、先ほどヒガナがソラトに抱きついたのは唯の友人やライバル等とは違うようにも思えるが…。

 

「ヒガナさんがさっき言ってた友達って、お兄ちゃんの事だったんですね」

 

「まぁね。ソラトがホウエンを離れた5年前からそれっきりでさ~。もうソラト冷たいと思うよ? もうちょっと連絡くれてもバチは当たらないと思うんだけど」

 

「それについては悪かったよ。でも態々会いに来るって俺に何か用でもあったのか?」

 

ソラトが態々自分に会いに来た理由を聞くと、ヒガナは立ち上がってボーマンダの頭を撫でて不敵な笑みを浮かべた。

 

「ソラト、ポケモンバトルしよ!」

 

「はぁ? 何だよ急に」

 

「ほら、5年前は私が負けちゃったけど今じゃ負けないって事を証明しに来たの! さぁさぁ、勝負勝負!」

 

「なんだ、まだあの勝負の事根に持ってたのか?」

 

「そりゃね! さぁ始めよう!」

 

どうやら2人の間には5年前にできた因縁があるらしく、2人の間でのみトントンと話が進んでいく。

当然サトシ達は頭に疑問符を浮かべる。

そしてハルカだけはどこか面白く無さそうな表情で2人を見ていた。

 

「ねぇねぇ、5年前に何かあったの?」

 

「あぁ、ヒガナとは5年前に流星の滝って場所で出会って親しくなってな。んでオヤジの事を聞いたら知ってるって言うから教えてもらおうと思ったんだが…」

 

「タダで教えても面白くないからね~。交換条件出してみたんだ」

 

「交換条件って、どんな条件なんですか?」

 

「ンフフ、1対1でポケモンバトルしてソラトが勝ったらアラシさんの事を教えてあげるって言ったの。んで私が勝ったら……」

 

ヒガナは不敵な笑みと言うか、少しだけ挑発するような笑みでハルカを見ると言葉を続けた。

 

「私のお婿さんになって貰うって言ったの」

 

「「「ええぇえええええええっ!?」」」

 

まさかの爆弾発言である。

5年前というとソラトはポケモンを手に入れて旅に出たばかりなので10歳である。

ヒガナも年の頃はソラトと同じくらいに見えるがまさかこんな約束をしていたとは思わず、サトシもハルカもマサトも大声で驚いた。

 

「まぁ俺が勝ったからオヤジの事教えてもらって終わったけどな。後は5年前のホウエンリーグでもバトルしたな。その時も俺の勝ちだったな」

 

「そうなんだよねー。だからリベンジマッチって事で! 私も修行してたんだから昔のままだと思わないでよ?」

 

「いいけど、今回は交換条件はナシな」

 

「オッケー!」

 

ソラトとヒガナは広場で向かい合いソラトはモンスターボールを構え、ヒガナはボーマンダを前に出した。

その様子をサトシはワクワクしているような様子で、そしてハルカは不安かつ不満そうな表情でバトルを見守っていた。

 

「行くぜヒガナ! サジン、バトルの時間だ!」

 

「フーラッ! フラフラ~」

 

ボールから放たれたサジンは甘えるようにしてソラトへと頬ずりをする。

 

「分かった分かった…ほら、久しぶりにヒガナとバトルするぞ」

 

「フラ? フラッ!」

 

「それじゃよろしくねボーマンダ!」

 

「グァウ!」

 

「サトシ、悪いが合図を頼む」

 

「ああ、使用ポケモンは1体! それじゃバトル開始!」

 

サトシの合図でバトルが始まると、サジンとボーマンダ両者は翼を羽ばたかせて空へと飛びあがった。

両者ともドラゴンタイプのポケモンのため、空中を羽ばたき立体的な移動をする。

 

「ボーマンダ、かえんほうしゃ!」

 

「サジン、りゅうのいぶき!」

 

「グゥウウアッ!」

 

「フーラッ!」

 

灼熱の炎と竜のエネルギー波がぶつかり合い空中で激しい爆発を起こして相殺された。

 

「「ドラゴンクロー!!」」

 

今度は両者ともドラゴンクローを使い接近戦へと持ち込んだ。

緑の巨大な爪がぶつかり合い、ガキィンと音を立てて空気を振るわせる。

ここまでは両者互角のいい戦いが続いているが、ヒガナはニッと笑ってボーマンダに指示を出した。

 

「ボーマンダ、はかいこうせん!」

 

「グルァッ!」

 

「かわせ!」

 

ボーマンダは急速上昇をしてサジンの上を取ると、強力な特殊技であるはかいこうせんを放った。

だがサジンはソラトの指示通り素早く羽ばたきはかいこうせんを回避した。

そしてボーマンダは空中で静止している。はかいこうせんを放った後は反動で動けなくなってしまったのだ。

 

「焦ったなヒガナ! サジン、ドラゴンクロー!」

 

「フラァッ!」

 

動けないのをチャンスと見てソラトはドラゴンクローで一気に攻め立てた。

反動により動けないボーマンダは当然ドラゴンクローを避ける事も防ぐ事もできずまともに受けてしまい大きなダメージを受けてしまう。

 

「やった! ドラゴンタイプにドラゴンタイプの技はこうかはばつぐんだよ!」

 

「おー! いいぞサジン! 頑張れ!」

 

「ピカピーカ!」

 

「お兄ちゃん、サジン! 頑張ってー!」

 

ドラゴンクローをまともに受けたボーマンダだったが、ギロリと鋭い目でサジンを睨むと反動が解けたのか大きく翼を広げて反撃の体勢に入る。

 

「何っ!?」

 

「そっちこそ勝負を急いだんじゃないかな? パワーならボーマンダの方が上だよ! そのまますてみタックル!」

 

ドラゴンクローを放ち、ボーマンダに接近していたサジンはそれを回避することはできず、すてみタックルの直撃を受けてしまう。

すてみタックルを放ったボーマンダはサジンを巻き込みながら地面に叩き落すつもりらしい。

地面にたたき付ければ更なるダメージを狙うことができるのだ。

 

「いっけぇっ!」

 

テンションが上がってきたヒガナの言葉と共にボーマンダのすてみタックルはサジンごと地面に叩き落してしまった。

あまりの衝撃にもうもうと立ちこむ土煙に周囲がまるで見えなくなってしまった。

 

「今のすてみタックル、凄いパワーだぜ…」

 

「お兄ちゃん…!」

 

近くで見ていたサトシ達にも凄まじい衝撃が伝わってきた。

ハルカは心配そうにソラトを見つめ、祈るようにして両手を前で組んだ。

 

「どう? 私のボーマンダ、凄く強くなってるでしょ?」

 

「ああ、パワーもスピードも技のキレも5年前とはまるで比べ物にならないな…だが…」

 

立ち込める土煙が晴れてくると共に、ソラトは不利だと思われる状況にも関わらずいつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「ソイツは俺も同じだぜ、ヒガナ!」

 

「っ!?」

 

土煙が晴れると地面に叩きつけられていたのはボーマンダだけであり、サジンの姿はどこにも無かった。

代わりにあるのはフライゴンであるサジンが入ることができそうなほどの大きさの地面の穴だった。

 

「しまった! あなをほる!?」

 

「叩きつけられる直前にな。行けサジン!」

 

「空中に逃げてボーマンダ!」

 

「もう遅い!」

 

すてみタックルは自分自身にもダメージが返ってくる諸刃の技であり、反動のダメージを受けていたボーマンダは痛みですぐには動くことができなかった。

その隙を突いて地面からボーマンダを突き上げるようにサジンが姿を現し、ボーマンダを吹き飛ばした。

 

「ボーマンダ!」

 

「トドメだサジン! りゅうのいぶき!」

 

「フーラァアアアアッ!」

 

空中に打ち上げられたボーマンダを狙い、りゅうのいぶきが放たれると見事に直撃した。

そのまま地面に落ちてしまったボーマンダは戦闘不能になり、バトルは決着を見せた。

 

「俺の勝ちだな」

 

「そうみたいだね。ボーマンダありがとう、ゆっくり休んでね」

 

「やっぱりソラトは強ェな! あの状態から逆転するなんてさ!」

 

「そりゃお兄ちゃんだもの、当然よ!」

 

「よく言うよ、お姉ちゃんが1番心配してた癖に」

 

「あはははは! まぁ私もまだまだ修行が足りないって事だね!」

 

バトルが終われば皆仲良し。

これがポケモンバトルの極意であり真意なのかもしれない。

 

 

 

「それじゃ、私はもう行くね」

 

「ああ、久しぶりに会えて良かった」

 

日も傾き夕焼けが差す頃、ヒガナは回復させたボーマンダの背中に乗り再び羽ばたこうとしていた。

 

「ソラト、私、これから多分このホウエンに…ううん、世界に風を起こすと思う。その時、ソラトは私をどう思うかな?」

 

「…さァな。その時にならないと分からないが…まぁ事が起きるまでは止めはしないさ。頑張れよ」

 

「うん、ありがと!」

 

そのまま飛び立ち分かれるかと思ったが、直前にヒガナは何かを思い出したようでニヤニヤと笑いながらハルカに耳打ちをする。

 

「フフ、ハルカちゃん、私達ってそっち方面のライバルなのかな? ソラトは渡さないよん?」

 

「えっ、あ、えっと……私も負けないかも!」

 

「んじゃ、また会うときまでハンデあげるよん。そいじゃ頑張ってね!」

 

そう言い放つと同時にボーマンダが翼を羽ばたかせ、ヒガナは夕暮れの空へと飛んでいってしまった。

 

「ハルカ、ヒガナに最後何を言われたんだ?」

 

「…お兄ちゃんには秘密かも! それじゃ、カナズミシティ目指してしゅっぱーつ!」

 

「あ、おいハルカ!」

 

「待ってよお姉ちゃーん!」

 

「おいおい! まずは俺のジム戦だからな!」

 

「ピカピーカ!」

 

昔のライバルと再会したソラト、そして新たな恋のライバルを得たハルカ。

これから2人の関係はどうなっていくのだろうか。

さぁ、最初のジムのあるカナズミシティは、もう目の前だ!

 

 

 

to be continued...




というワケでゲームの方からヒガナ参戦です。
この小説としてはヒガナはソラトと同じ15歳設定なのであしからずご了承下さい。
ハルカもケムッソゲットでイイカンジー。

次回はカナズミジム編になりますのでよろしくお願いします。


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ジムリーダーは優等生 岩の洗礼カナズミジム

遅くなりましたぁああああ!

いや、ちょっと執筆の時間が取れなくて…あと疲れててちょっと筆が進まなくて…申し訳ない!

というわけでカナズミジムです。やっとこさ1つ目のバッジですよ。

先は長いですなぁ…


ホウエンリーグ出場を目指すサトシ達は、とうとう1番目のジムがあるカナズミシティへ辿り着いた。

現在は街のポケモンセンターでポケモンリーグへの登録手続きと、ジム戦前の休息を取っていた。

サトシはマサトと一緒にカナズミシティの地図を見ており、ハルカはケムッソにポケモンフーズを与えている。

そしてソラトは、クロガネの鋼鉄の鎧を磨いてやっていた。

 

「しっかし大きな街だな。ポケモンセンターも大きいし」

 

「カナズミシティはキンセツシティやミナモシティと並んでホウエンが誇る大都市の1つだからね。施設も色々あるんだよ。僕のイチオシはポケモントレーナーズスクールだよ!」

 

「ポケモントレーナーズスクール? 何だそれ?」

 

「ピィカ?」

 

「ポケモンの事を色々学べる専門の学校だな。他には大企業のデボンコーポレーションやポケモン協会のホウエン支部があるぞ」

 

ソラトはクロガネの鎧を磨きながらサトシの質問に答えた。

それはそうと大きな体のボスゴドラであるクロガネの鎧を磨くのは、流石にソラトも大変なようで汗をかきながらキュッキュッと磨いていた。

 

「ポケモン協会?」

 

「サトシってばそんな事も知らないの? ポケモン協会って言うのは……何だっけ?」

 

「「「だぁー!?」」」

 

ポケモン協会という聞き慣れない単語に再び頭に疑問符を浮かべるサトシだが、ハルカが得意気な顔で解説をしようとする。

しかしド忘れをしてしまったようで可愛らしく舌をペロリと出して誤魔化した。

思わずサトシとマサトとソラトはずっこけてしまう。

 

「ポ、ポケモン協会は世界各地にあるポケモン関連の施設の運営や維持をしてる組織の事だよ。このポケモンセンターもポケモン協会が運営してるんだ」

 

「あー、そうだったわね」

 

「それより、まずジム戦だぜ! 休憩もしたし、カナズミジムに行こうぜ!」

 

「ピカチュウ!」

 

バトルが楽しみで楽しみで仕方ないのか、今にもジムに向かって飛び出していきそうなサトシだが、マサトは少し不満そうな表情をする。

 

「えー、僕トレーナーズスクールを見学したいのに…」

 

「でもカナズミシティにはジム戦に来たんだぜ。早くジム戦をしたいんだよ」

 

確かにこの旅はサトシとソラトのホウエンリーグ出場の旅である。

その為にジム戦をするのは当然の流れであるが、マサトはマサトでやってみたい事があるのだ。

 

「サトシ、ソラトお願い! 先にちょっとだけトレーナーズスクールを見学させてよ!」

 

「えぇ…でも…」

 

渋るサトシの肩にソラトがポンと手を置いた。

 

「大丈夫だよサトシ。5年前もジムとトレーナーズスクールは隣にあったから、見学が終わればすぐにジム戦ができる筈だ」

 

「んー…まぁそれならいっか。それじゃジムとトレーナーズスクールに行くぜ!」

 

「「おー!」」

 

こうしてポケモンセンターから、まずはトレーナーズスクールへと向かったサトシ達。

大きな道を進み、地図を辿りながらカナズミジムとトレーナーズスクールがある筈の道へとやって来た。

しかし…

 

「あれ? 大きいけど、建物が1つしかないぞ?」

 

サトシの言うとおり学校のような大きな建物はあるが、ジムのような建物は見当たらなかった。

 

「あれ、おかしいな…5年前は2つの施設が隣接してたのに…」

 

「でもジムが無くなったって話は聞いた事ないし……まぁとりあえずトレーナーズスクールを見学させて貰おうよ!」

 

「えぇ、でも…」

 

「まぁまぁサトシ、トレーナーズスクールの人に話を聞けばジムがどこにあるのかも分かるだろうし、ここは一旦行ってみようぜ」

 

「そうそう、闇雲に探しても意味無いかも!」

 

「うーん…まぁそうだな」

 

どうやらソラトが以前来た時と少し様子が違う様である。

しかしここでこのまま立ち止まっていても仕方が無いので、サトシ達はトレーナーズスクールの建物へと入って行った。

建物に入ると受付の女性職員がすぐに声を掻けてきた。

 

「ようこそ、ポケモントレーナーズスクールへ。何か御用ですか?」

 

「僕、トレーナーズスクールの見学をしたいんです!」

 

「畏まりました、お手続きをしますのでしばらくお待ち下さい」

 

女性職員はパソコンを操作して見学の手続きを行っている。

その間にソラトはジムの事を聞いてみる事にした。

 

「あの、昔はここの隣にカナズミジムがあったと思うんですが、今はどこにあるんですか?」

 

「ジムですか? それならここですよ」

 

「え?」

 

「3年ほど前に、ジムとトレーナーズスクールの建物を合併させたんです。ここの生徒達にジム戦を見せた方がより様々な事を学べるだろうと」

 

「そうだったんですか」

 

どうやらジムとトレーナーズスクールは同じ建物内にあるらしい。

 

「そうだったんだ! よーし、だったらジム戦もやってやるぜ!」

 

「ジム戦もご希望ですか?」

 

「はい、俺とこっちのサトシがジム戦をやりに来たんです」

 

「畏まりました。そちらも手続きをしておきますね」

 

こうしてサトシとソラトのジム戦の手続きも行われる事になった。

5分も待っていると、トレーナーズスクールの見学のための首から提げるパスポートを受け取り、それぞれ身につけた。

 

「そのパスポートが見学のための身分証になります。それからお二人にはこちらを」

 

女性職員から、サトシとソラトだけもう1枚パスポートのような物を受け取った。

サトシの物には15、ソラトの物には16と書かれていた。

 

「これは?」

 

「それは受験票です。正午に必要になりますので無くさないようにして下さいね」

 

「受験票?」

 

「それではご案内させて頂きますね」

 

疑問は残ったが、これがあればジム戦ができると思ったサトシはそれ以上聞く事はなく、女性職員の案内に従って着いていく事にした。

 

「トレーナーズスクールには様々な分野のポケモンに関する勉強ができます。まずこちらがポケモンドクター志望の方々専門のクラスです」

 

最初に案内された教室では、ジョーイさん監修の元ポケモンの身体的特徴を学び、怪我の仕方や薬の種類についての授業が行われていた。

どのポケモンは体のどの部分に負担がかかり、どう対処すればいいか等が説明されていた。

 

「う、うわぁ…私こんなの覚え切れないかも…」

 

「流石はポケモンドクター専門クラス、難しいな」

 

5年間の旅で様々な知識を得たソラトをもってしても難しいと言わしめるポケモンドクター専門クラスの授業。

無論サトシやハルカに理解できる筈も無く、2人は頭がついていかずに目をぐるぐると回していた。

 

「それでは次のクラスにご案内しますね」

 

次に案内された教室には机や椅子はなく、大きく運動できそうなスペースと壁には全身が写る大きな鏡が設置されていた。

 

「此方はポケモンコンテスト専門のクラスになります」

 

「ポケモンコンテスト専門クラス!」

 

ポケモンコンテストの専門クラスと聞いてポケモンコンテストに興味を持っているハルカは目を輝かせて授業を見た。

コーディネーター志望のトレーナーや訓練用のポケモンが空中錐揉み回転をしてポーズを取ったり、技を美しくアピールして各自自主トレーニングをしていた。

 

「ステキ…!」

 

「お姉ちゃんもここでしっかりコーディネーターとしての基本を学んでいった方がいいんじゃない?」

 

「うーん、ホントに入学したくなってきたかも!」

 

「そう言って頂けると嬉しいです。では次のクラスですね。此方はポケモントレーナー入門クラスです。未来のポケモントレーナーがここでポケモンの基礎を学んでいるんです」

 

「ポケモントレーナー入門クラス! すっごいや!」

 

今度のクラスはマサトと同じ年の頃の少年少女の為のクラスらしい。

まだポケモンを持つことはできないが、将来の為にここで勉強しているのだろう。

マサトは期待に満ち溢れたキラキラした瞳をしながら教室の扉を開けた。

 

「と言う事じゃ。分かったかな?」

 

「「「はーい!!」」」

 

「えっ!?」

 

教室の扉を開けると、サトシ達の目に飛び込んできたのは大きなモニター。

そしてそのモニターに映し出されるオーキド博士であった。

カントー地方はマサラタウンに研究所を構える、世界でも知らぬ者はいないほどのポケモン研究の第一人者であるオーキド博士は、サトシも昔からお世話になっている人物である。

 

「オーキド博士!」

 

「ん? おぉ、サトシではないか!」

 

「オーキド博士! 何をしてるんですか?」

 

「ワシは各地のトレーナーズスクールにテレビ電話で特別講師をしておるんじゃよ」

 

流石はポケモン研究の第一人者である。

世界各地、様々な場所で研究だけではなく講師もしているとは。

 

「カナズミシティに来ているということはジム戦をしにきたんじゃな?」

 

「はい! トレーナーズスクールを見学したらジム戦をするつもりなんです」

 

「うむ、カナズミジムのジムリーダーは手強いから頑張るんじゃぞ。ところで、君がハルカ君とマサト君、そしてソラト君じゃね? サトシから話は聞いておるよ」

 

先ほども言ったがサトシは昔からオーキド博士にお世話になっているが、ハルカ、マサト、ソラトはオーキド博士とは初対面である。

しかし以前からサトシが連絡を取っておりその際にホウエン地方での旅の仲間として紹介していたようである。

 

「初めまして! 私ハルカです」

 

「どうも、ソラトです。オーキド博士とお話できるなんて光栄です」

 

「えと、あのその…!」

 

「ほらマサト、こういう時はまず挨拶からでしょ。すいませんオーキド博士」

 

どうやらこんな場所で憧れのオーキド博士と話す事ができるとは思わなかったマサトは混乱してしまい、何を言えばいいか分からないようである。

そんなマサトを見かねたハルカは注意をしつつアドバイスをした。

この辺りは姉としての責任感なのだろう。

 

「いやいや、いいんじゃよ。それはそうと、これからサトシはジム戦じゃな?」

 

「はい! 俺とソラトが挑戦します!」

 

「そうかそうか。それでは皆、サトシとソラト君のバトルをしっかり見て勉強するんじゃぞ。サトシはカントーとジョウトのポケモンリーグで良い成績を残しておるし、サトシの話だとソラト君もかなりの腕らしいからの!」

 

「「「はーい!!」」」

 

「それでは皆も何れはポケモンゲットじゃぞ!」

 

どうやらもうオーキド博士の授業は終わったらしく、オーキド博士はテレビ電話を消そうとすると、マサトは慌ててはいたが意を決した様子で博士に声を掛ける。

 

「オ、オーキド博士!」

 

「ん? 何じゃねマサト君」

 

「僕、博士の本全部持ってます! ラジオのポケモン講座も聞いてます! それで…それで…僕、オーキド博士を尊敬してます!」

 

不器用ながらも自分の気持ちを偽り無くマサトはオーキド博士に精一杯の言葉で伝えた。

そんな不器用さと純粋に自分を尊敬してくれるという気持ちを受け取ったオーキド博士は老いているその顔に喜びの表情を浮かべた。

 

「それは光栄じゃ! ありがとうマサト君! それ以外に言葉が見つからんよ。さて、すまんがワシはこれから別の用事がるので失礼するぞ」

 

「「「はーい!」」」

 

マサトとの会話を最後にオーキド博士はテレビ電話を切り、モニターが暗転した。

マサトは夢が1つ叶ったような気がして、しばらくモニターをボーっと見続けていた。

 

「ほらマサト、そろそろ次に行くわよ」

 

ハルカに声を掛けられてからようやくマサトは慌てた様子で反応した。

 

「オーキド博士と話せたのがそんなに嬉しかったんだな」

 

「そりゃそうだよ! 僕、将来はオーキド博士みたいなポケモン博士になりたいんだ!」

 

「マサトみたいな頭でっかちには無理かも」

 

挑発をするようなハルカの言葉にマサトは頬を膨らませてムッとする。

これは姉弟の間での軽いやり取りであり、ハルカも本気で言っている訳ではない。

しかし言われて嫌な事は変わり無い。

だがソラトはマサトの頭を撫でると何時もの不敵な笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫さ。マサトは勉強家で努力家だから、時間をかけて勉強すればいつかオーキド博士のような…いや、オーキド博士を超えるようなポケモン研究者になれるかもしれないぜ」

 

「ソラト…えへへ、ありがとう!」

 

ソラトの言葉が嬉しかったのか、嬉しそうな、そして照れたような笑みを浮かべた。

逆にハルカはマサトに嫉妬したのか、今度はハルカがムッと頬を膨らませてしまった。

そうこうしている内に入門クラスの見学が終わり、最後にバトルの専門クラスの授業が行われている教室へと移動した。

 

「此方がポケモンバトル専門のクラスになります」

 

「おぉ! すっげぇ!」

 

バトル専門クラスの教室はバトルフィールドがあり、今丁度バトルが行われていた。

方やいわ/じめんタイプのポケモンであるサイドンを操る女性と、もう方やみずタイプのポケモンであるオーダイルを操る男性がバトルを行っていた。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ!」

 

「オーダッ!」

 

オーダイルは指示に従い、凄まじい勢いで口から水を発射する。

 

「サイドン、あなをほるでお避けなさい!」

 

「グァウ!」

 

サイドンは頭の角をドリルのように回転させて地面を掘り進めてハイドロポンプを回避した。

更にサイドンはオーダイルの足元へと素早く移動して下から突き上げた。

 

「ダーイル!?」

 

「オーダイル!」

 

「トドメです、ドリルライナー!」

 

「グァアアアウ!」

 

そしてトドメに体ごと角を中心に回転して強力な突きをお見舞いしたサイドンのドリルライナーにより、オーダイルは倒れてしまい戦闘不能となった。

 

「すっげぇ! あのサイドン使いのトレーナー、かなりの腕だぜ」

 

「タイプ的にはオーダイルが圧倒的に有利だけど、相性を覆して勝っちゃったね」

 

「彼女がこのトレーナーズスクールの成績ナンバー1、そしてカナズミジムのジムリーダーでもあるツツジさんですよ」

 

「あの人がジムリーダー!?」

 

今しがたバトルに勝った女性が、カナズミジムのジムリーダーだったようである。

そんな事を聞いてしまっては、もうサトシは止められない。

 

「俺、今すぐジム戦がしたいんですけど!」

 

「そうですね…そろそろ時間ですし、移動しましょうか」

 

女性職員の案内に従ってある教室に案内されたサトシ達だったが、そこにはバトルフィールドも無く、机と椅子が並べられただけの部屋だった。

部屋には既に14人のトレーナーが席に着いており、何か本や辞書のような物を読んでいた。

 

「あ、あの…俺はジム戦がしたいんですけど…」

 

「はい、ではご説明させて頂きますね。カナズミジムではチャレンジャーを1日2人までにしておりますので、ここでポケモンに関するテストを受けて頂きます。そしてその成績が上位の2人にジムリーダーへの挑戦権が与えられるのです」

 

「えぇーっ!?」

 

これからバトル!と思っていたサトシにとっては出鼻を挫かれてしまった気分である。

しかもテストとは…正直サトシにはできる気がしなかった。

 

「あー…確かにジムではチャレンジャーの数を絞るための方法はそれぞれ自由だからな。こういう方法もあるっちゃあるか」

 

「そんなー…」

 

「ピィッカ…」

 

「まぁ文句言っても仕方が無い。とりあえず受けてみようぜ。折角だしハルカとマサトもテストだけ受けてみたらどうだ?」

 

「できるなら僕やってみたい!」

 

「うーん…皆がやるなら、私もやろうかな」

 

「畏まりました。では皆さん席に着いてください」

 

こうしてサトシ達は4人全員でテストを受けてみることになった。

少し待っていると、教室に1人の人物が入室してきた。

先ほどバトルフィールドでバトルしていたジムリーダーであるツツジである。

ツツジは教壇の上に上がると席に着いている顔ぶれを見渡した。

 

「皆さん、こんにちは。私がポケモントレーナーズスクール成績ナンバー1、そしてカナズミジムのジムリーダーでもあるツツジですわ。本日はジムへの挑戦ありがとうございます」

 

ツツジは自己紹介をすると同時に深くお辞儀をした。

しかし顔を上げると、そこには油断の無い表情をした1人のジムリーダーの表情をしていた。

 

「しかしながら、カナズミジムではこのテストにおいて点数上位の2名のみとバトルさせて頂きますわ。皆さんが学んだことや経験してきた事を存分にぶつけて下さいませ。それでは答案用紙を!」

 

ツツジの言葉に従いトレーナーズスクールの職員達が現れて問題が記載された用紙を参加者へ配り筆記用具を用意した。

 

「それでは、テスト開始!」

 

合図と共に教室の全員が用紙の問題を読んで問題を解いていく。

ソラトとマサトは特に問題無さそうに次々に問題を進めていき用紙にカリカリと記入をしていく。

だが、サトシは最初の1問で止まってしまい、ハルカも頭を悩ませながら苦しそうに回答を記入していく。

 

(ふむ、そんなに難しい問題は無いな。これならサトシ達もそれなりに解けるだろ)

 

(これはあの本で読んだ問題だ。それとこっちはパパが教えてくれたぞ)

 

(うぐぐ…わ、分からない…!!)

 

(えーっとえーっと、これ何だっけ…こうだっけ? あーん、分かんないかもー!)

 

テストの問題をスラスラと進めていくソラトとマサトに対し、サトシとハルカは全くと言っていいほど筆が進んでいなかった。

そして50分のテスト時間が終了し、答案用紙が回収されて採点へと入った。

 

「ふー、終わったな。まあそんなに難しい問題は無かったから大丈夫だろ」

 

「うん、僕でも分かる問題ばっかりだったし、サトシとお姉ちゃんも結構解けたんじゃない?」

 

ソラトとマサトは余裕の表情だったが、ハルカは苦笑いを浮かべており、サトシはガックリと項垂れて暗いオーラを発していた。

 

「あはは…全然分からなかったかも…」

 

「ああ…ダメだ…もう俺はジム戦できないんだ…」

 

「ピィカ…」

 

余程テストができなかったのか、サトシはこの世の終わりのような雰囲気を醸し出していた。

それを見たソラトは苦笑いをし、マサトはやれやれといった表情をしていた。

そして30分もすると採点が終わったのかツツジと職員の人が採点された答案用紙を持って出てきた。

 

「皆さん、採点が終わりましたわ。そしてなんと! 今回このテストにおいて初めて100点満点のチャレンジャーが現れましたわ! それもなんと2人も!」

 

周囲から驚きの声が出て辺りがどよめく。

だがあまりピンと来ていないハルカとマサトとソラトは顔を見合わせていた。

尚未だにサトシは暗いオーラを放っておりピカチュウに慰められていた。

 

「今回はそのお方達とバトルをさせて頂きますわ。そのトレーナーの名は…マサトさんとソラトさんです!」

 

「え、僕?」

 

「やるじゃんマサト、100点だってよ」

 

「えへへ、ソラトも流石だね!」

 

どうやら100点を取ったのはマサトとソラトだったようでお互いにサムズアップして称えたっていた。

 

「因みに、他の方の点数は此方に張り出しておきますわ」

 

大きくプリントされた張り紙が黒板に張られると、上から順に点数の高い順番でそれぞれの点数が表示されていた。

ハルカは32点で下から2番目、そしてサトシは18点でぶっちぎりのビリだった…。

普段から色々ぶっちぎりタイプだがこんな所までぶっちぎるとは、流石サトシである。

 

「ガーン! 下から2番目…ショックかも…」

 

「アハハ…俺はもうジム戦できないんだ…」

 

ハルカはハルカでショックを受けており、サトシは最早吹けば飛んでいってしまいそうなほど弱弱しく燃え尽きていた。

 

「ではマサトさん、ソラトさん、ジム戦のためにバトルフィールドへ移動致しましょう」

 

ツツジがソラト達の所へ来るとそう告げる。

だが1つ問題点があった。

 

「あ、でも僕トレーナーじゃないし…100点取ってもジム戦できないよ」

 

「ああ、マサトはお試しでテスト受けただけだからな」

 

「そうなのですか…では誰かに挑戦権を譲る事もできますわよ」

 

「うーん…それなら、サトシに挑戦権あげるよ!」

 

「えっ!? いいのか、マサト!?」

 

マサトの言葉に反応して、サトシがガバッと立ち上がってその顔に生気を取り戻す。

先ほどまで灰となりそうだったのにえらい変わりようである。

 

「うん。だってここで僕が挑戦権あげなかったら、サトシ一生ジム戦できないかもしれないしね」

 

「だぁー!」

 

「ピカー!」

 

続く言葉でピカチュウと共にずっこけた。

まぁ確かにサトシではこのままテストを受け続けてもいつ受けれるか分からないだろう。

兎にも角にもこれでサトシも挑戦権を手に入れた。

話し合った結果、まず最初にサトシが挑戦する事になり、バトルフィールドではサトシとツツジが対峙した。

 

「頑張ってー、サトシー!」

 

「さて、お互いにお手並み拝見といこうか」

 

「ツツジさんはいわタイプ使いだよね。サトシはピカチュウがアイアンテールを習得できたかどうかだけど…」

 

ソラトから教えられてからほぼ毎日サトシはピカチュウとアイアンテールの特訓を行ってきていた。

既に習得は終わったのか、それともぶっつけ本番か…これからのバトルで分かるだろう。

 

「それではこれよりジムリーダーツツジとチャレンジャーサトシのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了とします」

 

「それではサトシさん、行きますわよ! イシツブテ、お行きなさい!」

 

「はい! よろしくお願いします! キモリ、君に決めた!」

 

「イッシ!」

 

「キャモー!」

 

ツツジの1番手はいわ/じめんタイプのイシツブテ。

そしてサトシの1番手はいわタイプに有効なくさタイプのキモリだった。

両者は岩が突き出ているバトルフィールドの中央で睨み合い、バトル開始の合図を待っている。

 

「それでは、バトル開始!」

 

「キモリ! でんこうせっかだ!」

 

「キャモ!」

 

審判のバトル開始の合図に合わせてスピードで勝るキモリが動いた。

こうかはいまひとつだが先手を取ってガンガン攻める気なのだろう、サトシらしい戦法だが、ツツジは落ち着いて対応した。

 

「イシツブテ、まるくなるですわ」

 

「イッシャイ!」

 

「キャモー!?」

 

イシツブテは丸くなって防御力を上げるとでんこうせっかを軽々と受け止めてキモリを弾き返してしまった。

キモリを弾き返したイシツブテはすぐさま反撃の体勢に入る。

 

「更にころがる攻撃ですわ!」

 

「イイッシ!」

 

「キャモッ!?」

 

「キモリ! 大丈夫か!?」

 

丸くなった体勢から転がり隙無くキモリに反撃を決める。

弾き返されたキモリは地面に倒れるが、サトシの言葉に反応してすぐさま起き上がってイシツブテを警戒する。

だがイシツブテとツツジは更に攻撃を仕掛けようとはしていなかった。

どうやら今の攻防でキモリの攻撃力を計算し、今のようなカウンター戦法をとる気のようだ。

 

「さぁ、どうしましたかサトシさん。アナタとキモリの力はこんな物なのですか?」

 

「まだまだ! キモリ、エナジーボール!」

 

「キャーモーッ!」

 

「イシツブテ、まるくなるですわ!」

 

手の平にエネルギーを集中してそれをイシツブテに放つと、吸い込まれるようにエナジーボールはイシツブテに直撃した。

まるくなるで更に防御力を高めたようだが、いわ/じめんタイプのイシツブテにくさタイプの技であるエナジーボールは効果絶大である。

ボロボロになったイシツブテだが、まだ戦う意思があるようである。

 

「イシツブテ、いわなだれ!」

 

「イッシャーイ!」

 

イシツブテは虚空から岩を召喚し、それを雨のようにキモリに襲い掛からせる。

だがこの程度のスピードの技はキモリからすれば遅すぎる。

 

「キモリのスピードならこんな攻撃! キモリ、岩を使ってジャンプするんだ!」

 

「キャモッ! キャモモッ!」

 

キモリはジャンプしてフィールドの岩の上に乗ると、そこから更にジャンプをしていわなだれの岩を跳び越えた。

攻撃を外した隙だらけのイシツブテの真上を取った状態になる。

 

「キモリ、もう1度エナジーボールだ!」

 

「キャモッ!」

 

「メガトンパンチで受け止めなさい!」

 

「イッシー!」

 

真上からキモリは再びエナジーボールを放つが、イシツブテも強力なパンチを繰り出してエナジーボールを受け止める。

ジリリ、とイシツブテがエナジーボールに押されるが、渾身の力を込めたメガトンパンチによりエナジーボールを弾き飛ばした。

 

「イッシャイ!」

 

「よくやりましたわイシツブテ」

 

「キャモー!」

 

「イシッ!?」

 

「なっ!?」

 

だがエナジーボールを弾き飛ばして油断してしまったイシツブテの隙を突くかのように、キモリが真上から落下してくる。

 

「いっけぇっ! はたく攻撃!」

 

「キャモォッ!」

 

キモリは落下の勢いを利用して体を捻りながらはたく攻撃を繰り出した。

はたき飛ばされたイシツブテはゴロゴロとフィールドを転がり、場外に出ると同時に止まった。

 

「イシツブテ、戦闘不能! キモリの勝ち!」

 

「いいぞキモリ!」

 

「キャモキャーモ」

 

キモリがイシツブテを下し、見学していた生徒達がどよめきだす。

成績ナンバー1と言う事はツツジはこのトレーナーズスクールで1番強いトレーナーである。

そのツツジのイシツブテを倒したのだから皆驚いているのだ。

 

「よくやりましたわイシツブテ、ゆっくりお休みなさい。お見事ですわサトシさん。しかし勝負はこれからですわ! 行きなさい、ノズパス!」

 

続けてツツジが繰り出したのはやはりいわタイプのポケモンであるノズパスだった。

この局面で出してきたと言う事はノズパスがツツジのエースポケモンなのだろう。

 

「ノズパス…変わったポケモンね」

 

『ノズパス じしゃくポケモン

体から発する強力な磁力で獲物を引き寄せ食料にする。寒い季節の方が磁力が強い。』

 

「ノズパスか…でも相手はいわタイプならこのままキモリで行くぜ!」

 

「キャモ!」

 

「では行きますわ! ノズパス、がんせきふうじ!」

 

「キモリ、でんこうせっか!」

 

ノズパスは岩を生み出してキモリに向けて射出し、キモリはそれをでんこうせっかのスピードで回避した。

動きの鈍いノズパスに対し、素早い動きでそれを翻弄するキモリ。

タイプ相性も相まってキモリが優勢に見えるが…。

 

「行けキモリ! エナジーボール!」

 

「キャーモッ!」

 

がんせきふうじを回避した所でキモリはジャンプしてエナジーボールを放った。

これが命中すればこうかはばつぐんだ。

 

「ノズパス、でんじほう!」

 

「ノーパー!」

 

「でんじほう!? いわタイプなのにでんきタイプの技を!?」

 

「キャモッ!? キャモー!?」

 

ノズパスの赤い鼻に強力な磁力と電力が集まり、キモリに向けて一気に発射された。

強力な電撃はエナジーボールをかき消し、キモリまでも飲み込んだ。

 

「キモリ!」

 

でんじほうが晴れると、キモリはまだ立ってはいたがかなりのダメージを受けているようだ。

それだけではなく、体に弱いが電気が流れていた。

 

「キモリ! 大丈夫か!?」

 

「キャ…モ…」

 

キモリの様子を見ていた観客席のソラトは顔をしかめた。

 

「まずいな…キモリは今のでかなりダメージを受けたみたいだな。しかもでんじほうを受けると100%まひ状態になる…」

 

「キモリ、大ピンチかも」

 

ダメージだけではなくまひ状態になってしまったキモリは普段の素早いスピードを生かす事ができないでいた。

 

「ノズパス、トドメのがんせきふうじ!」

 

「ノーパーッ!」

 

「キモリ、かわすんだ!」

 

再びがんせきふうじが放たれ、サトシはキモリに回避の指示を出すが体が痺れて動けないキモリは回避行動を取ることができなかった。

がんせきふうじの岩をまともに受けてしまい、キモリは大きく吹き飛ばされた。

 

「キャモー!」

 

「キモリ!」

 

キモリはサトシの前まで吹き飛ばされて倒れてしまい、立ち上がる事はできなかった。

 

「キモリ、戦闘不能! ノズパスの勝ち!」

 

「戻れキモリ。よくやってくれたな、後は任せてくれ。ピカチュウ、行けるか?」

 

「ピッカ!」

 

「よーし、ピカチュウ、君に決めた!」

 

「ピッカ!」

 

サトシはキモリをボールに戻し、2番手としてピカチュウを繰り出した。

これでお互いに残りポケモンは1体ずつであり、残り体力もほぼ互角だろう。

 

「一気に行くぜピカチュウ! アイアンテール!」

 

「ピィイイイッカ! ピッカ!」

 

先ほどと同じく素早さで勝るピカチュウが先手を取り、大きくジャンプして尻尾を振りかぶる。

そしてそのままアイアンテールをノズパスに叩き込んだ!

どうやらアイアンテールの習得は無事に成功したようだ。

 

「ノパー!」

 

「なるほど、その手で来ましたか…ノズパス、ピカチュウの動きを封じるのです! ふみつけ攻撃!」

 

「ノパッ、ノーパー!」

 

ノズパスは強固な防御力でアイアンテールを耐え切り、そそのまま一気に反撃に出た。

その重い体を生かしたふみつけ攻撃は、当たればかなりのダメージとなるだろう。

しかし、ピカチュウにとってノズパスの動きは遅すぎた。

 

「かわせピカチュウ!」

 

「ピッカァ!」

 

素早い動きでふみつけ攻撃を回避したピカチュウは1度距離を取り直す。

だがそれより先にノズパスが動いた。

 

「ノズパス、がんせきふうじ!」

 

「ノーズパー!」

 

「ピカ!? ピカー!?」

 

「ピカチュウ! そんな、完全にかわした筈なのに!」

 

がんせきふうじを避けきれず、ピカチュウは岩に弾き飛ばされてしまった。

何とか立ち上がり身構えるピカチュウだが、サトシの頭には疑問が残っていた。

今のがんせきふうじはまるで動きを先読みされたかのような狙いだった…完全に回避をした筈なのに攻撃を受けたのはそこにタネがあった。

 

「ノズパスはコンパスポケモン。その鼻は強力な磁石…ノズパスはその磁石でピカチュウの電気信号をキャッチして動きを読んだのですわ」

 

「そうだったのか…だったらこれは捉えられますか? ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピッカ!」

 

「ノズパス、すなあらし!」

 

ピカチュウは更なるスピードで攻め立てようとするが、ノズパスの巻き起こしたすなあらしにより視界が塞がれ動きを封じられてしまう。

対するノズパスは強力なすなあらしの中でも電気信号をキャッチしてピカチュウの位置を割り出していた。

 

「更にがんせきふうじ!」

 

「ノパー!」

 

「ピッカー!?」

 

「ピカチュウ! くそ、どうすれば…」

 

ノズパスのすなあらしはすぐに解除され、倒れるピカチュウとそれを見下ろすノズパスがすなあらしの中から現れた。

 

「でんきタイプのポケモンでよくここまで戦われました。しかし、これで終わりですわ! でんじほう!」

 

「ノーパー!!」

 

ノズパスがでんじほうを放つためのエネルギーをチャージし始める。

この間にもサトシはこの状況を打開するための作戦を考え続けていた。

ピカチュウはかなりのダメージを受けており、ピカチュウの動きはノズパスに先読みされてしまう…。

先読みされている内はピカチュウの攻撃は有効に決まらない。

 

「なら、ノズパスの動きを封じればいいんだ! でもどうやって…」

 

考え続けるサトシの視界に、でんじほうを放とうとするノズパスが目に入る。

 

「…そうだ! ピカチュウ、でんじほうを受け止めるんだ!」

 

「ピカ! ピッカチュウ!」

 

ピカチュウは立ち上がるとノズパスに向かって飛び掛り、放たれたでんじほうをその体で受け止めた。

でんきタイプのピカチュウにはこうかはいまひとつであり、戦闘不能にはならなかった。

 

「そのままノズパスに突っ込むんだ!」

 

「ピィッカ!」

 

「なっ!?」

 

ピカチュウはでんじほうの電気を身にまとったままノズパスへと体をぶつけた。

でんじほうの電撃がノズパスへと感電し、更にはピカチュウの特性であるせいでんきが発動されてノズパスの体を痺れさせる。

 

「ノパー!?」

 

「ノズパス!」

 

「サトシの奴中々やるな。相手のでんじほうの特徴とピカチュウの特性を利用してノズパスの動きを封じるとはな」

 

「「頑張れサトシー! ピカチュウー!」」

 

麻痺してしまったノズパスは動きが止まり、動けなくなってしまう。

 

「ノズパス、がんせきふうじですわ!」

 

「ノ…パ…」

 

ツツジはノズパスに指示を出すが、ノズパスは体が痺れて技が出せない。

その隙を突いてピカチュウは空中に飛び上がる。

 

「ピカチュウ、渾身の力を込めてアイアンテールだッ!」

 

「ピィイイイッカ…!」

 

「いっけぇえええええええええっ!」

 

「ピカピッカ!」

 

空中からアイアンテールをノズパスの頭に叩き落したピカチュウはスタッと地面に着地する。

それと同時に大きな音を立ててノズパスが崩れ落ちた。

 

「…ノズパス戦闘不能! よって勝者、チャレンジャーサトシ!」

 

「…ぃやったぁああ! やったぜピカチュウ!」

 

「ピィッカ!」

 

サトシのホウエン地方最初のジム戦は見事勝利となった。

真っ向からぶつかり合うバトルにツツジも満足したのか、満たされたような笑みを浮かべていた。

 

「おめでとうございますサトシさん。バッヂはソラトさんとのバトルが終わり次第渡させて頂きますわ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「では続いてソラトさん、フィールドへ」

 

ツツジに呼ばれたソラトは観客席からバトルフィールドへ降りていく。

その途中で観客席へと向かうサトシとすれ違う。

 

「頑張れよソラト!」

 

「ああ、ホウエンリーグでお前たちと戦う約束だからな。ここで躓く訳にはいかないさ」

 

そしてソラトはバトルフィールドのチャレンジャー側に立つと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ツツジさん、ポケモンはどうするんですか? さっきサトシとのバトルで戦闘不能の筈ですが」

 

「ジムリーダーには相手の強さに合わせて扱うポケモンを変更する事が義務付けられています。ソラトさんの経歴によるとホウエンリーグへの挑戦は2度目ですね?」

 

「はい、その通りです」

 

ポケモンリーグへの挑戦のための登録手続きの際にトレーナーの過去の挑戦経歴等が協会側で確認される。

その経歴によりジムリーダーはレベルの調整をしたポケモンを扱う事が義務付けられているのだ。

 

「ソラトさんの経歴を考慮して…私の持つポケモン達の中で最も強い2体を使わせて頂きます!」

 

ツツジはサトシとのバトルの時とは明らかに違う、気を張り詰めているような表情でボールを構えた。

先ほどのサトシとのバトルは1人のトレーナーとしてバトルを楽しんでいたようにも見えたが、今はそんな余裕など無さそうである。

 

「光栄ですね、ジムリーダーの貴女からそんなに高く評価して頂けるとは」

 

不敵な笑みを崩さず、ソラトもツツジに応えるようにモンスターボールを構えた。

 

「それでは、ジムリーダーツツジとチャレンジャーソラトのジム戦を開始します! 使用ポケモンは2体、どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトル終了です!」

 

「お行きなさい、ゴローニャ!」

 

「ゴロッ!」

 

「クロガネ、バトルの時間だ!」

 

「ゴォド!」

 

ツツジの1番手はイシツブテの最終進化系であるゴローニャで、ソラトの1番手はボスゴドラのクロガネだった。

両者とも大型のポケモンのため、ボールから出て着地すると岩のフィールドに大きな音と振動を発生させた。

 

「マサト、タイプ的にはどっちが有利なの?」

 

「もー、お姉ちゃんそんな事も分からないの? いわタイプを持つゴローニャははがねタイプを持つクロガネに不利なんだよ。でもじめんタイプの技を使われたらクロガネも不利だけどね」

 

「…つまりどっちが有利なの?」

 

「え? …あれ、どっちなんだろ?」

 

「まぁそれはバトルが始まれば分かるって!」

 

ハルカとマサトがタイプの上での有利不利を話し合っていたがどちらもどちらであり話に結論が出なかった。

そういった部分はサトシの言うとおり始まって見れば分かる事である。

 

「では、バトル開始!」

 

「ゴローニャ、ステルスロックですわ!」

 

「ゴローニャ!」

 

ゴローニャは試合開始早々に体から石を周囲に放出してフィールドに棘々しい岩を設置した。

 

「ステルスロックって何だ?」

 

「相手がポケモンを交代する時にダメージを与える技だよ! まずはフィールドを支配してきたね!」

 

バトルの今後の展開を考えてフィールドに地雷を設置したのだ。

だがソラトは不敵な笑みを崩さずにクロガネに指示を出した。

 

「クロガネ、がんせきふうじ!」

 

「ころがるで回避しなさい!」

 

クロガネはがんせきふうじをゴローニャに向けて放つが、ゴローニャは丸くなりゴロゴロと転がる事でそれを回避した。

イシツブテやゴローニャは通常のすばやさは低いが転がって移動する速度は意外にも速いのだ。

攻撃を外したソラトだったが、更なる攻撃を指示する。

 

「クロガネ、アイアンテール!」

 

「ゴォッド!」

 

ソラトが指示するとクロガネは尻尾にエネルギーを集めながらゴローニャへ向けて突進する。

 

「もう1度ころがるでお避けなさい!」

 

「ゴロッ!」

 

「クロガネ、そのまま岩にアイアンテール!」

 

タダではゴローニャも当たらないとばかりに再び転がって回避した。

だがクロガネは勢いを止めずに走り続け、先ほどクロガネが放ったがんせきふうじの岩に向かってアイアンテールを放った。

アイアンテールを受けた岩は弾き飛ばされてゴローニャに命中した。

 

「ゴロ!」

 

「ゴローニャ、しっかりなさい!」

 

「ゴロゴロ!」

 

避けたと思って攻撃を受けたため少しゴローニャは動揺したが、ツツジの声を聞いてすぐに立て直した。

 

「ゴローニャ、もう様子見は無しにしましょう。じしん攻撃ですわ!」

 

「ゴロー…ゴロ!」

 

ゴローニャは高くジャンプしたと思ったら地面に力強く着地して強力なじしんの波動を発生させる。

その振動は観客席で見ていた人々にも伝わり、このじしんの威力がどれほどのものかを物語っていた。

じしんは岩のフィールドを砕き、一直線にクロガネ目掛けて奔った。

 

「まずいよ! じしんはじめんタイプの中でもかなり強力な技だし、クロガネには効果絶大だ!」

 

「お兄ちゃん逃げてー!」

 

ハルカはじしんを避けてほしくソラトに向かってそう叫んだが、ソラトは再びその顔に不敵な笑みを浮かべる。

 

「クロガネ、てっぺきを使って突っ込め!」

 

「ゴド! グォオオオオド!」

 

てっぺきを使い自身の防御力をぐーんと上げたクロガネはじしんの波動に向かって真正面から突っ込んだ。

いくら防御力を高めたと言ってもこの威力のじしんをまともに受ければタダでは済まないのは火を見るより明らかだが、ソラトは迷わなかった。

そしてじしんがクロガネに命中すると建物を震わすほどの大きな振動を発生させて粉塵が巻き上がる。

 

「ど、どうなったんだ…?」

 

「ピカ…」

 

粉塵が巻き上がったせいでクロガネの姿は確認できないが、果たして…。

 

「流石にこの威力のじしんを受けては立ち上がれないでしょう」

 

「ゴロ!」

 

ツツジとゴローニャも勝ちを確信したような笑みを浮かべるが、その油断が致命的な隙を作り出してしまった。

突如、粉塵の中で大きな影が現れて揺らめいた。

 

「…クロガネ、捕まえろ!」

 

「ゴドォオオオッ!」

 

「なっ!?」

 

「ゴロ!?」

 

粉塵を振り払ってクロガネが姿を現すと、ゴローニャに一気に接近して体を掴んで捕まえた。

ボスゴドラであるクロガネの体重は360キロ。

流石のゴローニャもこの重さの相手に捕まれてはそう簡単には引き剥がせない。

 

「クロガネ、メタルバーストだァ!」

 

「グゥゥゥ…ゴドラァアアアア!!」

 

「ゴロー!?」

 

ゴローニャを掴んだまま全身から鋼のエネルギーを射出する。

メタルバーストは受けたダメージを割り増しして相手に撥ね返す技である。

先ほどのじしんで受けたダメージを増大させてゴローニャへとぶつけると、ゴローニャはその体重を無視したような勢いで吹き飛び、壁にめり込んだ。

 

「ゴローニャ!?」

 

「ゴロ…ニャ…」

 

「ゴローニャ戦闘不能! ボスゴドラの勝ち!」

 

強力な攻撃を受けた後にそのダメージを受けてしまったダメージを割り増しで相手に返したのだ。

ピンチの後にチャンス有りとは正にこの事である。

 

「ゴローニャ、お戻りなさい。よくやってくれました。お見事ですソラトさん、まさかあのじしんを受けきられるとは…」

 

「クロガネの特性は、がんじょうなんですよ。まぁ保険でてっぺきも使いましたがね」

 

「ですが、今度は確実に仕留めさせて頂きます! お行きなさい、ダイノーズ!」

 

「ダダッ」

 

「ダイノーズか…戻れクロガネ」

 

ツツジが次に繰り出してきたポケモンは先ほどのノズパスの進化系であるダイノーズだった。

先ほど大きなダメージを受けたクロガネを引き戻してポケモンを交代しようとするソラトだったが、ボールのビームの照射が途切れてしまい、クロガネを戻す事ができなかった。

 

「ゴドッ!?」

 

「…なるほど、そのダイノーズの特性はじりょくですね」

 

「その通り。これではがねタイプのボスゴドラはもう戻す事はできませんわ! 最後までお付き合いをお願いしますわ!」

 

「それなら仕方ないか…いくぜクロガネ」

 

「ゴド」

 

ダイノーズの特性であるじりょくにより、はがねタイプのポケモンの交代が封じられたソラトはこのままクロガネでのバトルを続行する事になった。

 

「ダイノーズ、でんじほう!」

 

「ダダダッ」

 

「クロガネ、がんせきふうじで壁を作れ!」

 

「ゴォッド!」

 

ダイノーズからでんじほうを放つが、クロガネはがんせきふうじを使って岩を積み上げて壁を作り出しでんじほうを受け止めた。

でんじほうによりがんせきふうじで積み上げられた壁が弾けて崩れ落ちる。

 

「距離をつめろ! アイアンテールだ!」

 

「接近されてはなりません! ロックブラスト!」

 

「ダダダダッ!」

 

「ゴォド! ゴドゴド!」

 

ダイノーズは鼻先から大きな岩を生み出しクロガネに向けて4発発射するが、クロガネはアイアンテールで全て弾き飛ばして接近した。

 

「そのまま尻尾を叩きつけろ!」

 

「足元がお留守です。ダイノーズ、だいちのちからですわ!」

 

「何っ!?」

 

アイアンテールを打ち込もうとした瞬間、クロガネの足元が砕けて大地の力が吹き出る。

そしてだいちのちからがクロガネを覆い尽くした。

再びじめんタイプの技を受けてしまったクロガネは絶大なダメージを受けてしまう。

だいちのちからの放出が止まりクロガネの姿が現れるが、体が揺らめきそのまま倒れてしまった。

 

「ゴド…」

 

「ボスゴドラ、戦闘不能! ダイノーズの勝ち!」

 

「よくやったなクロガネ、戻って休め」

 

戦闘不能になったクロガネを戻すと、ソラトは次のボールを構えた。

 

「お兄ちゃんのクロガネがやられちゃった…」

 

「なぁに、まだまだこれからさ。でもソラト、次のポケモンは何にするんだろう」

 

「やっぱりスイゲツじゃない? いわタイプに有効なみずタイプの技を使えるし、かくとう技のグロウパンチもじめん技のマッドショットも使えるからね」

 

「ライ、バトルの時間だ!」

 

「プラプーラ!」

 

てっきりラグラージのスイゲツが出てくるかと思われたが、ソラトが繰り出したのはでんきタイプのプラスル、ライだった。

じめん技のだいちのちからを使えるダイノーズには不利なのは明らかだが…。

 

「えっ!? 何でライを!?」

 

「う~ん、ソラトの事だからサトシと違って何か作戦があるんだろうけど…」

 

「俺と違ってってなんだよマサト…」

 

マサトのさりげない発言に心を抉られるサトシだが、そんな事をしている間にバトルが再開された。

そしてライの足に鋭い岩が突き刺さりダメージを与える。

先ほどのゴローニャのステルスロックの効果が発揮されたのだ。

 

「プラ…!」

 

「ライ、大丈夫か? 動きに問題は?」

 

「プラプラ!」

 

任せて!といったようなガッツポーズと返事によりライの動きに問題が無いと判断したソラトは攻撃の指示を出す!

 

「ライ、10万ボルトだ!」

 

「ダイノーズ、ロックブラスト!」

 

「プ~ラ~!!」

 

「ダダッ」

 

ライは10万ボルトの電撃を放ち、ダイノーズは今度は2発のロックブラストを放った。

だがライの強力な電撃によりロックブラストの岩を砕き、ダイノーズに直撃する。

 

「ダダッ!?」

 

「なっ!? なんて威力…ダイノーズ、だいちのちからですわ!」

 

「来るぞライ! 岩に飛び乗って避けろ!」

 

「プラッ!」

 

フィールドの地面が砕かれてだいちのちからが溢れ出るが、ライはフィールドから突き出ていた岩に飛び乗ってそれを回避した。

 

「そのままアンコールだ!」

 

「アンコール!? 何でこの状況で!?」

 

「今使うとじめんタイプの技が沢山使われちゃうかも!」

 

突然のアンコールに観客席のサトシ達も驚きが隠せずに目を見開くが、当のソラトはいつもの不敵な笑みを浮かべるだけである。

 

「プラ! プラプーラ! プラプーラ!」

 

ライは岩に乗ったまま拍手をしてダイノーズを煽てると、ダイノーズはアンコールを受けて同じ技しかだせなくなってしまう。

しかし出せる技はライに有効なだいちのちからである。

 

「何故今アンコールを…? ダイノーズ、だいちのちから!」

 

「ダダダダダッ」

 

「ライ、だいちのちからに捕まるなよ! 駆け抜けろ!」

 

「プラッ!」

 

地面が砕かれて幾つものだいちのちからが溢れ出る。

プラスルは駆け出すと素早い動きでだいちのちからを回避しながらダイノーズに接近していく。

砕かれる大地を横っ飛びで避け、回避できないものはフィールドの岩に飛び乗って凌ぎながら近づき、ダイノーズに肉薄する。

 

「そのままダイノーズの周囲を走れ!」

 

「プラプラプラプラプラ!」

 

「ダーダダッ」

 

「はっ! いけませんわダイノーズ! プラスルを追ってはいけません!」

 

ライはダイノーズの周囲をグルグルと回るようにして駆け巡ると、ダイノーズはそれを追おうとして体の向きを変える。

それを見たツツジはソラトの狙いに気がつくが時すでに遅し。

ダイノーズはライを追って後ろを向こうとするが、何かに引っ張られるようにグルンッと回転して正面を向いてしまい、それを何度も繰り返す。

 

「ダダダッ、ダダ…ダダ…ダ…」

 

グルグルと回転してしまい、ダイノーズは目を回してしまい動きが止まってしまう。

 

「そっか! ダイノーズの鼻は強力な磁石になってるから北をむいちゃんだ! それを利用して相手の目を回したんだ!」

 

「なるほど、流石はソラト!」

 

「お兄ちゃん…! いっけぇー!」

 

マサトもソラトの狙いに気がついてそう叫ぶと、サトシとハルカも応援に身が入る。

 

「ダイノーズ、しっかりなさい!」

 

「ライ、まねっこ!」

 

「プラ! プーラッ!」

 

ライが勢い良く地面を叩くと、ダイノーズの足元の地面が砕かれてだいちのちからが溢れ出る。

ダイノーズはノズパスから進化していわ/はがねタイプとなっているため、じめんタイプの技は効果絶大である。

つまり、だいちのちからをまねっこで真似るためにアンコールで技を絞ったのだだ。

 

「一気に決めろ! 10万ボルト!」

 

「プラプラ…プ~ラ~!」

 

そして強力な10万ボルトが放たれ、ダイノーズを包み込む。

だいちのちからと10万ボルトを同時に受けてしまったダイノーズはその巨体を揺るがせ、大きな音を立てながら倒れたのだった。

 

「ダイノーズ!」

 

「…ダイノーズ、戦闘不能! プラスルの勝ち! よって勝者はチャレンジャーソラト!」

 

「やったな、ライ!」

 

「プラー!」

 

ライは嬉しさのあまりソラトに飛びつき、頭の上に乗ってソラトに甘えると、ソラトもそれに応えるようにライの頭を撫でてやった。

これで無事、サトシとソラトは両者ともカナズミジムの攻略に成功した。

 

「やったなソラト!」

 

「お兄ちゃんかっこいいかもー!」

 

「流石ソラト! 完璧にデザインされた作戦だったね!」

 

観客席からサトシ達も降りてきて、共に勝利の喜びを分かち合う。

 

「お見事でした、ソラトさん、サトシさん」

 

そしてツツジはサトシとソラトを称えると、予め用意しておいたポケモンリーグ公認のジムバッヂをソラトとサトシに向けて差し出した。

 

「カナズミジムを戦い抜いた証、ストーンバッヂですわ」

 

サトシはバッヂを受け取ると、それを天高く掲げて声高らかに叫んだ。

 

「よーし! ストーンバッヂ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「キャモ!」

 

そしてソラトはバッヂを器用に指で弾いて宙に打ち上げ、落ちてきた所を再び掴んで前に突き出した。

 

「ストーンバッヂ、イカしたバトルでゲットだぜ!」

 

「プラー!」

 

「ゴドッ!」

 

カナズミジムのジムリーダー、ツツジを打ち破り、見事1つ目のバッヂを手に入れたサトシとソラト。

次なるジムに向け、また新たなる挑戦の旅が始まる!

 

 

 

to be continued...




あ、次の投稿は今回ほど期間は空かないと思いますが…ちょっとまた遅れるかもです。

…こんなんばっかですね私。

反省します。


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接近! アクア団の影!

更新を待っていた方も、こんな小説には見向きもしていないという方も。
本当に申し訳ありません。
情けなくも戻って参りました。
執筆が進まなくなってしまったのをきっかけに執筆活動を中止していました。
これからの執筆活動については活動報告の方に書いておきたいと思います。

あと前話のジムリーダーのポケモンに関しては協会からの支給ポケモンにしていましたが、自分も思う所あり自身の手持ちポケモンに変更しております。


ホウエン地方のカナズミジムで見事バッヂをゲットしたサトシとソラトは、ポケモンセンターで1日休息を取ったのだった。

 

「へへへ、ストーンバッヂゲットだぜ! この調子で次のバッヂも頂きだ!」

 

「ピカピカ!」

 

バッヂケースに収められたストーンバッヂを見てニヤニヤしているサトシは、次なるジム戦に向けて闘志を燃やしていた。

すぐにでも次のジム目指して飛び出していってしまいそうなサトシだが…。

 

「あれ、次のバッヂって…次のジムはどこにあるんだ?」

 

「カナズミからなら、ムロジムかキンセツジムが近いな。海を渡るなら船に乗ってムロタウン、陸路で行くならカナシダトンネルってトンネルが最近できたらしいからそこからキンセツシティに行けるぞ」

 

流石と言ったところか、すかさずソラトが近くのジムの情報をサトシと共有する。

直接的な距離ならキンセツの方が近いだろうが歩きになり着くにはそれなりに時間がかかるだろう。

大してムロは海を渡らなければならないが定期船が出ているため進行は思いのほか速いだろう。

 

「うーん、どっちに行こうかな…」

 

「ま、それも考えておいてくれ。俺はちょっと街に出てるからさ」

 

「街に出るって、どこに行くのか?」

 

サトシがどちらのジムに向かうかを考えている間にソラトはポケモンセンターから出て行こうとする。

何か用事でもあるのかと思ったサトシが尋ねると、ソラトは苦笑いして答えた。

 

「いや、オヤジの情報を集めようと思ってな。聞き込みや情報屋から情報を買い取ったりな。他にも旅の消耗品の購入や進化の石を売ってお金にしたり」

 

旅の仲間の最年長でもあり、父親のアラシを探すソラトはやる事が沢山あるのである。

だがソラトの父親探しの旅という目的をサトシはすっかり忘れていたようで、今思い出したかのような仕草をする。

 

「お兄ちゃん、私も手伝うかも!」

 

「そうだよ、そういう約束だったし!」

 

以前にアラシを探す手伝いをするという約束もあり、元々ハルカはソラトのアラシを探す旅を手伝う筈だった。

思い出したサトシと、ハルカも手伝いを申し出るがソラトは笑いながら首を横に振った。

 

「いや、いいさ。オヤジ探すのは俺の目的であってサトシやハルカの目的じゃないしな。気が向いたら手伝ってくれればいいさ。じゃ、行ってくるな」

 

そう言い残し、ソラトはカナズミシティの街へと繰り出していった。

 

「結局僕たちはどうするの?」

 

「俺はピカチュウと一緒にアラシさんの事を聞きこみしてくるよ。ついでにどっちのジムに行くか考えておく」

 

「じゃあ私はちょっとショッピングに行こうかな。そこでアラシさんの事を聞いてくるわ」

 

「僕はサトシと一緒に行って、そっちの方でアラシさんの事聞いてみるよ!」

 

「それじゃ、一時自由行動って事で! また後で会おうぜ!」

 

「「おー!」」

 

こうしてサトシとマサトは街へアラシの情報探しに、ハルカはショッピングとアラシの情報集めへと向かう事になった。

街に繰り出したソラトは人通りが多そうな大きな噴水のある広場でアラシの情報が無いか聞き込みを行っていた。

道行く人に声をかけてアラシの写真を見せて覚えが無いか聞いてみるが、今のところ成果は上がっていなかった。

 

「ふぅ、もう50人くらいには聞いたが成果無しか。もしかしたらカナズミシティには来てないのか…?」

 

カナズミシティはホウエン地方でも有数の大都会なので誰かがアラシを見ていないかと期待していたソラトだったが、もしかしたらという考えに至る。

だがまだまだカナズミシティには多くの人がいるため諦めてはならないと考え直し、休憩がてら噴水の縁に腰掛ける。

 

「…ん、何だ?」

 

噴水の縁に腰掛けて目を閉じてソラトが何やら集中していると、何か気配を感じ取ったのか目を開けて訝しげに噴水の水面を見続ける。

噴水は見た目よりも深く底の方はよく見えず黒い陰しか見えないが。ソラトにはハッキリと何かが感じ取れていた。

ソラトの感じた何かは、水底を移動してソラトではなくソラトから少し離れた場所の噴水の縁に座っている白髪の初老の男性の方へ移動する。

そして水底の黒い影は一気に水面から飛び上がり初老の男性に向けて襲い掛かった!

 

「キバッ!」

 

「なっ!? うわぁっ!」

 

「行けデン! でんこうせっか!」

 

「マイ! マーイッ!」

 

「キバーッ!?」

 

水底から飛び出したのは赤と青の体色をした鋭い牙やヒレを持つポケモン、キバニアだった。

だがソラトは素早くボールを投げてデンを繰り出すと、でんこうせっかでキバニアを吹き飛ばした。

噴水の水に着水したキバニアは態勢を整え、口を開いてそこからいやなおとを放つ。

 

「キィイイイイイ!」

 

「きゃあああっ!」

 

「な、なんなんだこれはーっ!?」

 

いやなおとは噴水広場の周囲にいた多くの人々の耳に届き被害を与えていた。

ソラトは一瞬周囲の人々に気をとられるが、すぐさまキバニアに意識を向けるとデンに指示を出した。

 

「デン、でんげきは!」

 

「マイマイ、マーイッ!」

 

「キババー!?」

 

みず/あくタイプのキバニアにでんきタイプの攻撃はこうかはばつぐんだ。

ダメージを受けたキバニアは噴水の水底へと逃げていき、しばらくすると黒い影は見えなくなり、事態は収束したのだった。

一先ずソラトは先ほどキバニアに襲われた初老の男性に声をかけることにした。

 

「よし…大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。助けてくれてありがとう。私はツワブキだ」

 

「ソラトです。それにしてもこの噴水にはキバニアが住み着いているんですか? 人を襲うキバニアの出る噴水なんて…」

 

「いや、私はこの噴水広場にはよく来るけどこんな事は初めてだよ。いったいどうなっているのやら…」

 

どうやら今のは日常茶飯事という訳ではないようである。

ソラトは何故キバニアのような気性の荒いポケモンがこんな街中の噴水に迷い込んだのかを考えていると、ソラトの肩にライが乗る。

 

「マイ、マイ!」

 

「ん、どうしたライ?」

 

「マイ」

 

ライが指差した先には噴水の排水溝があったが、そこは普段ならば頑丈な鉄製の格子で閉じられている筈が、今は格子が破壊されていた。

 

「なるほど、排水溝の格子が壊れていて下水道から野生のキバニアが迷い込んできたのか。危ないし後で業者に修理を依頼しておかなくてはな」

 

ツワブキがそう結論付けるが、ソラトは破壊された格子の跡をよく観察して見ていた。

そしてある事に気がついた。

 

「いえ、あの格子は何かで切られたような跡です。キバニアが壊したならもっとひしゃげている筈…恐らく人の手で壊されています」

 

「何だって? 誰が何のために…」

 

「今のキバニアがツワブキさんに襲い掛かったのも偶然じゃないかもしれませんね。何か襲われるような心当たりはありますか?」

 

「…ここでは話せないな。こっちに来てくれ」

 

ツワブキは周囲を警戒するような仕草を見せるとソラトに着いてくるように促して歩き出した。

ソラトはツワブキの後に続いて歩き出した。

アラシを探していた筈なのに何故ツワブキのゴタゴタに態々首を突っ込むのかとも思えるが、これは単にソラトの面倒見の良さが発揮されているだけである。

要は困った人を放っておけないのだ。

 

こうして噴水広場を離れていくソラトとツワブキを人目につかない建物の角から覗き見している集団がいた。

それはいつものズッコケロケット団ではなく、青い服に黒く長い髪をたなびかせた美しい女性とそれに付き従う青いバンダナをして白黒の水夫のような服を着た人物達だった。

 

「イズミ様、ターゲットが離れてゆきます」

 

「見りゃ分かるよ! ったく、何なんだいあの小僧はアタシのキバニアをこうもあっさり退けちまうし…あの小僧がターゲットに着くなら少々厄介だね」

 

イズミと呼ばれた長い黒髪の女性は忌々しそうにソラトの後姿を睨みつける。

 

「ではいかが致しますか?」

 

「…こうなったらターゲットを追跡するよ。そしてブツを手放した瞬間に掻っ攫うんだ。BチームとCチームにも連絡しておきな」

 

「「はっ!」」

 

こうして青い装束の集団はその場を離れてソラト達が向かった方角へと足を進めたのだった。

そしてソラトがツワブキに案内されてやってきたのは巨大なビルの1つであり、ホウエン地方に住む者ならば誰もが知ってる大企業、デボンコーポレーションだった。

 

「ここは…」

 

「さぁ、中へ入りたまえ」

 

何やら家に帰ってきたかのような気軽な雰囲気でデボンコーポレーションに入るツワブキを見て、デボンの役員なのかと思うソラトだったが、ツワブキを見た周囲の社員がツワブキに向かって礼をして挨拶をする。

 

「おかえりなさい、社長!」

 

「社長、後でお話がありますので時間の調整をお願い致します」

 

「社長…もしかしてツワブキさん、デボンコーポレーションの…!」

 

「ああ、改めて自己紹介しよう。私はツワブキ ムクゲ。デボンコーポレーションの社長をやっているんだ」

 

流石のソラトも大企業の社長を助けたとは知らずに驚きに目を見開いている。

大企業の社長が昼間っから噴水広場でのんびりしていていいのかというツッコミは置いておこう。

しかしデボンの社長というだけでは誰かにポケモンを使って襲われるという理由としてはあまり納得ができない。

 

「…まだここでは話せないんだ。社長室へ行こう、そこで話すよ」

 

「はい」

 

そんな風に考えるソラトの思考を察したのかツワブキはエレベーターに乗り社長室のあるビルの最上階までソラトを案内した。

 

「さて、改めてお礼を言わせてくれ。先ほどは助けてくれてありがとう」

 

「いえ、お礼ならコイツに」

 

「マイマイ!」

 

「そうか、ありがとうマイナン」

 

「マイ!」

 

ソラトの肩に乗っていたデンに礼を言うツワブキに、デンも嬉しそうに応えた。

そしてそこからソラトは気持ちと表情を切り替えて本題に入る。

 

「それで、貴方が襲われる理由…心当たりがあるんですね?」

 

「うむ…実はコレなんだ」

 

そう呟いてツワブキはスーツの内ポケットから何か小さな物を取り出して机の上に置いた。

何かの機械の部品のようにも見えるそれは、傍から見ればそれほどの価値があるとは思えなかった。

 

「これは何ですか?」

 

「これは今カイナの造船所で作られている潜水艦の不可欠なパーツなんだ。このパーツを組み込むことで今まで行くことができなかった更なる深海を探査する事ができる革新的なパーツなのさ」

 

「なるほど…それを狙う奴らに心当たりは?」

 

「残念ながらそこまでは…だがこれは奪われたりする訳にはいかないんだ。すぐにでもカイナの造船所に送らなくてはならないからね、今日にでも発送すれば大丈夫だろう」

 

「そうですか、気をつけて下さいね。そうだ、ツワブキさんにお聞きしたい事があるんですが…」

 

ツワブキ社長の事情を把握したソラトはついでに聞いておこうと荷物の中からアラシの写真を取り出してツワブキ社長に見せる。

アラシの事を知らないか尋ねようとしたがソラトが何かを言う前に、今度はツワブキ社長が目を見開いて驚いていた。

 

「アラシ…!」

 

「オヤジを、オヤジを知っているんですか!?」

 

アラシの事を何か知っているような態度に、ソラトは相手が社長だという事も忘れて両肩を掴んで前後に揺する。

 

「わたた! ソ、ソラト君落ち着いてくれ!」

 

「あっ、すいません…」

 

自分が今会社の社長に対してもの凄く失礼な事をしてしまっていると気がついたソラトはハッとなってすぐにツワブキ社長の両肩を離す。

少しスーツがシワになってしまったかもしれないがツワブキ社長は気にした様子は無かった。

 

「い、いや構わないさ。もしかしてソラト君がアラシの息子なのかい?」

 

「はい、5年前から行方不明になったオヤジを探す旅をしているんです」

 

「そうか…実はアラシと私は古い友人でね。つい1週間前ほどにも私の元へ訪ねて来たんだ。そしてこれを置いていったんだ」

 

そう言ってツワブキ社長が取り出したのは古めかしく、妙な形をしたペンダントだった。

ペンダントは白く丸い小さな石を中心に×印のように黄土色の装飾があり、×印の左右が丸く縁取りされているかのような形状をしていた。

一見するとただの古いペンダントだが、ソラトはこのペンダントに見覚えがあった。

 

「これは…!」

 

「これが何か知っているのかい?」

 

「これは、オフクロが昔から持っていた物と同じです…最後にオヤジが旅に出るときにお守りとして渡していた筈なんですが…」

 

ソラトの母親であるソヨカから、アラシが5年前に旅に出るその日にアラシの身を守りますようにと渡されていた筈なのだ。

だがアラシはそんな大切なペンダントを古い友人であるツワブキ社長に託していた。

 

「そうか、あの言葉はそういう意味だったのかアラシ」

 

「え?」

 

「実はアイツがこれを置いていった時にこう言っていたんだ。『あるクソガキが来たらこいつを渡しとけ。もう1週間もすれば来るだろうから任せた』だそうだ。恐らくソラト君が来るのを予測して私に渡しておけと言ったんだろう」

 

「あのクソオヤジ…大企業の社長であるツワブキさんを顎で使いやがって…」

 

ソラトは手で顔を覆って呆れと諦めのような雰囲気を漂わせながらアラシに対しての感情を露にする。

そんなソラトの様子を見て何か思う所があるのかツワブキ社長も苦笑いをしていた。

 

「まぁ古い友人からの頼まれごとだ。これはソラト君に渡しておくよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ソラトはツワブキ社長からペンダントを受け取るとそれを力強い眼差しで見つめ、自分の首へとかけた。

 

「ツワブキ社長、ありがとうございま―!?」

 

ソラトがお礼を言おうとした瞬間、デボンコーポレーションのビルに爆音が響き、大きくビルが揺れた。

どう考えてもこのビルで爆発が起ったのだ。

その振動が最上階の社長室まで伝わったということは、かなりの規模の爆発だったのだろう。

ツワブキ社長は机の電話を取るとすぐに社員に電話をかける。

 

「どうした!? 今の音は!?」

 

『しゃ、社長! 青い装束の者達が突然乗り込んできて…! 今エレベーターで何人か社長室に向かいました!』

 

「なんだと!? はっ!」

 

そうして連絡を取り合っている間にエレベーターがこの最上階に到着してしまい、ドアが開くと黒く長い髪をした青い装束の女性を先頭に青い装束の男が2人乗り込んできた。

 

「あれは…」

 

「お前たちは何者だ!」

 

「我々はアクア団、アタシは幹部のイズミだよ。ツワブキ社長アンタの持っている例のパーツを渡してもらおうか」

 

アクア団と名乗った集団のリーダー的存在なのか、長い黒髪の女性は一歩前に出るとそう宣言した。

それに対し、アクア団とツワブキ社長の間に割り込むようにしてソラトが前へ出た。

 

「お前らが最近ホウエンで暗躍してる悪の組織、アクア団か」

 

「アンタはさっき邪魔してくれたヤツだね。今度も邪魔するならタダじゃおかないよ! 行けグラエナ!」

 

「グァウ!」

 

「デン、バトルの時間だ!」

 

「マイ!」

 

ソラトがアクア団の前に立ち塞がると幹部の女性であるイズミがグラエナを繰り出し、それに応える様にソラトは肩に乗っていたデンを繰り出した。

まずはグラエナが地面を蹴って跳びかかる。

 

「グラエナ、かみつく攻撃!」

 

「グァ!」

 

鋭い牙を光らせながらデンに噛み付こうとするグラエナだが、それを易々と受けるデンとソラトではない。

 

「かわせデン!」

 

「マイマーイッ!」

 

ジャンプしてグラエナの攻撃を回避することに成功したデンだったが、その隙にアクア団のしたっぱの2人が脇をすり抜けてツワブキ社長の所へ行ってしまう。

 

「こ、こらやめろ!」

 

「いいから例のブツをよこせ!」

 

「しまった! ツワブキ社長!」

 

「今だよグラエナ、とっしん!」

 

「グラウッ!」

 

「マイー!?」

 

ソラトがツワブキ社長の方へと意識を逸らしてしまい生み出した隙を、イズミは見逃さなかった。

グラエナの強力なとっしんが決まり、デンが大きく吹き飛ばされてしまう。

そしてその隙にツワブキ社長はアクア団のしたっぱに無理矢理潜水艇のパーツを奪われてしまう。

 

「デン! 大丈夫か?」

 

「マイ…!」

 

「パ、パーツが!」

 

デンはまだ何とか戦闘に戻れそうだったが、パーツを手に入れたイズミはもう用は無いとばかりにグラエナをボールに戻してしまう。

 

「目的は達成した。ズラかるわよ!」

 

「「イエッサー!」」

 

撤退を決めたアクア団は社長室の窓を突き破り外に飛び出した。

高層ビルの最上階なのでかなりの高さがあるが、アクア団は持っていた機械を展開すると一瞬で簡易のグライダーのようなもので安全に降下していった。

 

「パーツが奪われてしまった…! すぐにジュンサーさんに連絡しないと!」

 

「俺が追いかけます! 戻れデン。出て来いサジン!」

 

「フラッ! フラ~」

 

ソラトはデンを戻し、サジンを新たに破れた窓の外に出す。

ボールから出てきたサジンだったが、何時も通りソラトを見るとすぐに顔を擦り付けて甘えてしまう。

だが今はそんな事をしている余裕は無い。

 

「こらサジン! 今は緊急事態なんだ! あの窓からアクア団を追うぞ!」

 

「フラ、フライッ!」

 

サジンの背中に乗って窓の外に飛び出たソラトはアクア団が飛び去って行った方向へ飛び後を追跡する。

その間にアクア団は道路に着地して陸路を逃走する。

空から降りてきた怪しい集団に周囲の人々は驚いていたが、そんな事はお構いなしとばかりにアクア団は風のように街を駆け抜ける。

だがサジンで空から追跡するソラトはアクア団をすぐに補足する。

 

「逃がすか!」

 

「チィ、もう追いついてきたのかい!」

 

アクア団が逃げ、ソラトが追跡するその先にはサトシとピカチュウとマサトが出店で買ったであろうアイスクリームを食べながら歩いていた。

 

「うーん、美味しいなこのアイス!」

 

「ピッカ!」

 

「うん! …あれ、もしかしてあれってソラト?」

 

「え?」

 

道を歩いていたサトシとピカチュウとマサトだったが、道を走るアクア団とそれを追いかけるソラトを発見する。

 

「サトシ! ピカチュウ! マサト! 頼むそいつら止めてくれ!」

 

「え? えっと…ピカチュウ、とりあえず10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウ!」

 

「なっ!? 総員回避!」

 

ピカチュウの10万ボルトが放たれるが、アクア団は間一髪で回避する。

だが外野からの攻撃を受けて焦っているようにも見えた。

それもそうだ、10万ボルトなんて技を受けてしまえば先ほど奪ったパーツが壊れてしまうかもしれないのだ。

 

「外野まで攻撃してくるとはね…こうなったら…!」

 

イズミはサトシからの攻撃を受けて考えを変えたのか、近くにいた老人の傍にいたキャモメを無理やり捕まえると脇に抱え込んだ。

 

「ピ、ピーコちゃん! 何をするんじゃ!?」

 

「黙りな! 攻撃するんじゃないよ、もし攻撃してきたらこのキャモメは唯じゃ済まないからね!」

 

「キャー! キャー!」

 

「人質…じゃなくてポケ質を取るなんて卑怯だぞ! て言うかお前等誰だ!?」

 

「サトシ、そいつらはアクア団だ。ホウエン地方に暗躍してる悪の組織で、今まさに強盗の真っ最中なんだ!」

 

「このキャモメがいれば逃げ切れるね。ズラかるよ!」

 

「「はっ!」」

 

状況がよく分かっていないサトシにソラトが補足をするが、それで状況が変わる訳でもない。

そのままアクア団はキャモメをポケ質に取ったままカナシダトンネルのある方向へと向かった。

 

「俺達も追いかけよう!」

 

「うん!」

 

「先に行くぞ!」

 

サトシとピカチュウとマサトもすぐにアクア団を追いかけようとし、ソラトはサジンに乗ったまま追跡を再開した。

そしてその後を走って追いかけようとするサトシだったが、そのサトシの腕を何者かが掴んだ。

 

「え?」

 

「た、頼む少年! ワシのピーコちゃんを助けてくれ!」

 

サトシの腕を掴んだのは先ほど連れ去られてしまったキャモメのピーコちゃんのトレーナーであろう老人だった、

連れて行かれてしまったパートナーであるキャモメのピーコちゃんを余程心配しているようで、鬼気迫る様子でサトシに詰め寄ってきている。

 

「任せて下さい! 必ず助け出してみせます! 行くぞピカチュウ、マサト!」

 

「ピカ!」

 

「うん!」

 

そしてサトシ達もアクア団が走り去っていた方向へと走り出す。

アクア団を追いかけて行く道の途中、ショッピングと聞き込みを終えたハルカが荷物を持ってサトシ達の視界に入る。

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

「あれ、マサトにサトシ。そんなに急いでどうしたの?」

 

「大事件なんだよ! ソラトが犯人を追ってるから俺達も行くぞ!」

 

「え、え? ちょっと何がどうなってるのー!?」

 

と、このように道すがら合流したハルカも何がなんだか分からない内に巻き込まれてしまうのだった。

ハルカを巻き込みカナシダトンネルの付近へとやってきたサトシ達はすぐにトンネルの入り口を見つける。

 

「あった! あれがカナシダトンネルだよ!」

 

「あれってさっきの奴らだよな。なんかいっぱいいるけど見張りか?」

 

「もー、何がなんだか分からないかも~」

 

文句を言っているハルカはさて置き、トンネルの入り口は4人の青い水夫のような服を着た男女…アクア団のしたっぱ達が封鎖していた。

 

 

 

 

 

一方、トンネルというよりは洞窟と言ったほうが良いほど整備されておらず、とりあえず穴を掘って開通させただけのトンネル、カナシダトンネル。

ホウエン地方の大都市カナズミシティとのどかな田舎町シダケタウンを繋ぐために開通させられたホウエンの大切な陸路。

そんなカナシダトンネルをアクア団は通過していた。

このままシダケタウンへと行き、逃げ切る算段をつけているのだろう。

街でキャモメをポケ質にしてから追跡も振り切れ、後ろには既に誰もいなかった。

 

「ふぅ、何とか振り切ったかね」

 

「イズミ様、そのキャモメはどうするのですか?」

 

「そうだね…このままアジトへ連れ帰ってアクア団の新たな戦力にするというのも悪くないね」

 

「キャー…」

 

「まぁまずは今回のミッションの要である例のパーツを運びきるのが先だね。最後まで油断するんじゃないよ」

 

「「はっ!」」

 

そうしてやり取りをしている最中、アクア団のしたっぱの足元の土が盛り上がる。

 

「「へ?」」

 

「フーラッ!」

 

「「のわーっ!?」」

 

ボコっと音がすると同時に、その盛り上がった土からサジンが飛び出してアクア団のしたっぱを吹き飛ばした。

イズミは間一髪で回避したが、その隙に捕まえていたキャモメを手放してしまう。

キャモメは翼で滑空するとサジンの背に乗っていたソラトの肩に止まって落ち着いた。

 

「チィ、さっきのフライゴン…穴を掘って先回りしてたのかい!」

 

「そういう事だ。さぁ観念して潔くお縄に着きな」

 

サジンのあなをほるによって作られた地中の道を通り、ソラトが姿を現した。

吹き飛ばされたしたっぱは気絶してしまっているようで動くことができない。

今度こそソラトとイズミの一騎打ちだった。

 

「このトンネルの入り口に別のチームを配備して追っ手を撒く手はずだったってのに無駄になったかい」

 

「今頃そいつ等も俺の仲間が相手してるさ。さぁ、降参するか?」

 

「冗談じゃないよ。アンタを倒して逃げ切らせて貰う! いきなグラエナ!」

 

「グァウ!」

 

「サジン、バトルの時間だ!」

 

「フーラッ!」

 

再びイズミのグラエナがモンスターボールから繰り出され、ソラトもサジンを前に出す。

デンはキャモメとは反対のソラトの肩に乗っかり待機していた。

 

「グラエナ、とっしん!」

 

「ドラゴンクローで迎え撃て!」

 

「グガウッ!」

 

「フライッ!」

 

全身全霊のとっしん攻撃を繰り出すグラエナだが、サジンは緑のエネルギーで生み出された竜の爪を振るって迎撃する。

突進と爪がぶつかり合った瞬間、トンネルを揺るがす大きな振動が起こり相殺される。

イズミは舌打ちすると大勝負に出ることにした。

このまま時間を浪費してしまえばソラトだけではなくサトシ達やジュンサーにも追いつかれてしまう。

 

「グラエナ! このトンネルごと吹き飛ばすんだ! はかいこうせん!」

 

「させるか、サジン! りゅうのいぶき!」

 

「グァ!」

 

「フラー!」

 

トンネルを破壊して逃げようと考えたイズミははかいこうせんを天井に放ちトンネルを崩そうとする。

はかいこうせんの威力があれば、まだしっかりと整備されていないカナシダトンネルを崩落させる事はできるだろう。

だがそれを易々とさせるソラトではない。りゅうのいぶきではかいこうせんを相殺させてトンネルの崩落を防ぐ。

 

「くっ!」

 

「よし、今なら反動で動けない! サジン、もう1度りゅうのいぶきで―」

 

はかいこうせんの反動で動けないグラエナを狙いもう1度サジンに攻撃の指示を出そうとするソラトだが、その周囲で蠢く気配に気がつき思わず動きを止める。

周囲で蠢いた気配、それは周囲の岩に擬態していたポケモン達だった。

 

「イシツブテにゴローン…ゴローニャ…!」

 

カナシダトンネルは整備がされていないため野生のポケモンが多く出没するため未だに通る人は少ない。

そしてこのイシツブテとゴローンとゴローニャは岩に擬態するため接近されても気がつかない人々が多いのだ。

ソラトとイズミもゴローニャ達が動き出して正体を現すまで気がつかなかった。

しかもゴローニャ達は近くでドンパチされたためか興奮しており、怒りに体を震わせていた。

 

「ゴロ」

 

「ゴロー」

 

「イッシ!」

 

「あー…これはヤバいな…」

 

「ま、まさか…!?」

 

「「「「ゴローッ!!」」」」

 

周囲に10体以上のゴローニャ達に囲まれ、体を震わせながら体内にエネルギーを溜める。

そして体を炸裂させるようにしてそれを解き放った!!

 

「じ、じばくだぁ!」

 

「くっ!?」

 

「「どわぁあああああああっ!?」」

 

ゴローニャ達のじばく攻撃による爆風と衝撃でソラトとイズミ、そしてようやく目を覚ましたアクア団のしたっぱ2人は大きく吹き飛ばされる。

ソラトは吹き飛ばされるが地面を転がりすぐに体勢を立て直すが、イズミは吹き飛ばされてしまいそのまま倒れこんでしまう。

そしてアクア団のしたっぱ2人はカナシダトンネルの出口の方まで吹き飛ばされてしまった。

 

「まずい! 今の衝撃でトンネルが崩れる…!」

 

ゴローニャ達のじばくにより、カナシダトンネルが大きく揺らめき崩落を始める。

アクア団のしたっぱ2人は大慌てでトンネルの出口から逃げ出していくが、奥に吹き飛ばされてしまったイズミはそう簡単に脱出はできない。

すぐに立ち上がりイズミも部下が出て行った出口に向かって走り出すが、どう考えても間に合わない。

イズミの頭上の岩が崩れ、イズミを押し潰そうとする。

 

「なっ…!」

 

それを見て流石に体が膠着してしまい動けなくイズミ。

だが、次の瞬間イズミの視界が大きくブレると崩れてきた岩から逃れる事ができた。

 

「…ア、アンタ」

 

ソラトがイズミに飛びつき岩から逃れたのだ。

まさか追っ手に助けられるとは思わなかったのか、イズミも目を見開いて驚いている。

 

「ふ~、あっぶね…急いで脱出するぞ!」

 

「あ、ああ…」

 

ソラトはイズミを助け起こし、サジンとグラエナと共にすぐにトンネルの出口から脱出した。

それと同時にカナシダトンネルが大きく揺れて出口から大量の粉塵が吹き出てくる。

カナシダトンネルの外に出ると、先ほど先に脱出したアクア団のしたっぱ2人とカナシダトンネルの入り口を守っていたしたっぱ6人が、サトシ達とバトルを繰り広げていたようだ。

 

「けほっ、けほっ! ったく、生き埋めになるとこだったぜ」

 

「まったくだね…こほっ」

 

「お兄ちゃん! 大丈夫!?」

 

「ああ、なんとかな」

 

「「ソラト!」」

 

洞窟から出てきたソラトを見るや否や、ハルカはバトルを放棄してソラトの元へと向かう。

サトシとマサトもソラトの元へと駆けつける。

 

「俺は大丈夫だよ。さてアクア団、お前らはどうする? このままバトルして捕まるかそれとも盗った物を返すか…選びな」

 

「フラッ!」

 

ソラトがそう宣言するとサジンがキッとアクア団を睨みつける。

その実力を知るアクア団のしたっぱ2人は震え上がり、イズミも額に汗を流している。

 

「…仕方ないね。正直アンタの実力は尋常じゃないし、さっき助けられた借りもあるしね」

 

イズミは持っていた潜水艦のパーツをソラトに向けて放り投げ、ソラトはそれを受け取ると先ほど見たパーツだと確認するとポケットの中に納めた。

 

「だが覚えておきな。アクア団の理想の世界を作るまで、アタシ達は諦めないよ! ズラかるよお前たち!」

 

イズミはパーツを返すとすぐさま合図してしたっぱ達を率いて撤収する。

カナシダトンネルの近くにある森の中へとスッと溶けるように消えていった。

 

「ああっ、逃げちゃったよ!」

 

「深追いはしない方がいいな。今は奪われた物を取り返せただけでも良かった事にしよう」

 

「キャー!」

 

「あっ、お前カナズミシティにいたお爺さんのキャモメだな。無事でよかったぜ」

 

先ほどポケ質にされていたキャモメも無事だったようでサトシの頭の上に留まると元気に鳴いた。

これにて事件は一件落着ということでサトシ達はカナズミシティに戻ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

日も暮れてきた頃、取り返した潜水艦のパーツを返すためにサトシ達はデボンコーポレーションのビルの下でツワブキ社長と対面していた。

周囲にはデボンコーポレーションの社員の人々やジュンサーさんが事後処理と取調べを行っていた。

ソラトは1歩前に出て持っていたパーツを差し出した。

 

「ツワブキさん、潜水艦のパーツは取り戻しました。お返しします」

 

「ありがとうソラト君。君は我が社の恩人だよ」

 

「ソラト、まさかデボンコーポレーションの社長さんと知り合いなの!?」

 

その一連の光景を見ていたマサトが驚きの声を上げた。

 

「さっき知り合ったばかりだけど、オヤジの古い友人らしいんだ。先日オヤジがツワブキさんにこのペンダントを預けていったらしいんだ」

 

ソラトはツワブキ社長から貰った母親のペンダントを見せると3人はまじまじとそれを見つめた。

 

「不思議なペンダントだね」

 

「それをアラシさんがソラトに宛てて預けたのか」

 

「でもそれ着けたお兄ちゃんもかっこいいかも!」

 

「はは、ありがとな。さて、それじゃムロ島に向けて出発するか」

 

「あれ? でもキンセツジムにも行けるんだろ?」

 

この件が済み、次の町に向かうために行き先を決めるソラトだったがそれに対してサトシが疑問を浮かべる。

陸路でキンセツシティのキンセツジム、海路でムロタウンのムロジムの筈だったがソラトは既にムロジムに決めているような口ぶりだった。

 

「いや、キンセツシティを目指すにはカナシダトンネルを抜けなきゃいけなかったんだが、今回のゴタゴタで崩れちまったからな。ムロタウンに決定だ」

 

「あの爆発で崩落しちゃったんなら、開通にはまた時間がかかっちゃうかも」

 

今回の事件で崩落してしまったカナシダトンネルを通らなければキンセツシティには向かうことができないため、ムロタウンへ向かう事に決定したらしい。

そのためには定期便に乗らなければならないのだが…。

 

「残念だけど、今回の件で定期便はしばらく出せないわ」

 

ジュンサーさんが話を聞いていたのかサトシ達に近寄ってそう言った。

 

「ええっ!? 何でですか!?」

 

「アクア団は海を縄張りにしているから、今回の事件を聞いた定期便を運営している会社がしばらく船を出すのを自粛するそうよ」

 

「そ、そんな~!」

 

「ピ、ピーカ!」

 

船や船員の安全のために定期船がしばらくでないと知ったサトシはショックを受けてしまい項垂れる。

ジッとはしていられない性質なのだが、陸路も海路も塞がれてしまってはどうしようもない。

落ち込むサトシに皆は苦笑いするが、そこへ近づく人影があった。

 

「そういう事ならワシに任せてくれんかの」

 

「キャー!」

 

「アナタは…ハギ老人!」

 

ジュンサーさんが近寄ってきて声を掻けたガタイの良い老人を見てそう言った。

 

「誰なんですか?」

 

「この街に住んでいる船乗りのお爺さんよ」

 

「あなたは、さっき事件に巻き込まれていたキャモメのトレーナーさんですね!」

 

そう、今回の事件に巻き込まれてしまったキャモメのトレーナーである男性の老人だ。

その肩にはしっかりとキャモメがとまっており元気そうに鳴いていた。

 

「ピーコちゃんを助けてくれたお礼じゃ! ムロまでワシの持つ高速船、ピーコちゃん号で連れて行ってやろう!」

 

「本当ですか!? やったぁ!」

 

「ピーッカ!」

 

どうやらハギ老人が船を出してムロ島まで送ってくれる事になったらしく、一転サトシとピカチュウは元気になった。

何とかムロタウンへの道は開けたようである。

 

「だが出発は明日の朝じゃな。明日港で準備しておるからな」

 

「「「はい! ありがとうございます!」」」

 

サトシとハルカとマサトはハギ老人にお礼を言い、そしてソラトはそれを微笑ましく見守っていた。

そしてそんなソラトにツワブキ社長が声を掛ける。

 

「ソラト君、ムロ島に向かうなら2つほど頼まれてはくれないかね?」

 

「え?」

 

「1つは、この潜水艦のパーツをカイナの造船所まで届けて欲しいんだ。ムロでの用事が済めばカイナに向かうだろう? 今回の事があるし、普通の輸送手段では不安でね…」

 

貴重なパーツをソラトに渡す事でまた危険な目に逢わせてしまうかもしれないという不安からだろうか、ツワブキ社長の目には躊躇いが見て取れた。

だが、ソラトは持ち前の面倒見の良さが発揮されてフッと笑った。

 

「はい、このペンダントの件もありますし、お礼代わりになるのでしたら」

 

「そうか、すまない。危なくなったら捨ててしまっても構わないから、頼んだよ」

 

「大丈夫です、必ずカイナまで持っていきます」

 

「ありがとう。もう1つはムロ島の石の洞窟という場所に私の息子のダイゴがいると思うから、この手紙を渡して貰えないかな?」

 

「それくらいなら、お安い御用です」

 

ソラトはツワブキ社長からパーツと手紙を受け取ると大切にリュックに仕舞い、サトシ達の元へと向かった。

 

アクア団の魔の手から無事に大切なパーツを取り返したソラト達。

さぁ、次のジムがあるムロタウンへの船出はもうすぐである!

 

 

 

to be continued...




前書きにもありましたが今後については活動報告に書いておきます。
またこれからもポケットモンスター黒衣の先導者をよろしくお願いします。

追記
あと今回ソラトに渡されたペンダントの形って皆さんに伝わりましたか?
アレです、あのそうぞうポケモンのマークの真ん中に石がはめ込まれた感じでイメージして下さい。

…ってこれネタバレですねスイマセン。


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サメハダーの島 波動の絆

今回の投稿と同時期に活動報告にてリクエストを受け付ける欄を追加するのでリクエスト等は今後そちらの方でお願い致します。
では今回もお楽しみ下さい。


ホウエンリーグ出場を目指すサトシ達。

彼らは今朝方、ムロ島のムロタウンまで送ってくれるというハギ老人の船でカナズミシティを出航したのであった。

 

「うーん、潮風が気持ちいいかも」

 

「僕船旅なんて初めてだよ!」

 

ハギ老人の所有する高速船、ピーコちゃん号はキャモメの形をした船であり、高速船というだけあり快適なスピードで航行していた。

初めての船の旅にハルカとマサトはご機嫌であり潮の香りや波の動きを堪能していた。

 

「ハギさん、ムロ島にはいつ頃到着しますか?」

 

「この調子なら夕方には到着するじゃろう。それまでゆっくりしててくれ」

 

「はい! それなら明日にはジム戦ができるな、頑張ろうぜピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

サトシとピカチュウは船の上だと言うのにジム戦のためにやる気を高めていた。

 

「私たちは初めてだけど、お兄ちゃんはもう何度も船旅をしてるのよね?」

 

「……」

 

「お兄ちゃん?」

 

ソラトは船の隅に座ってカナズミシティでツワブキ社長から貰ったペンダントを握り締めて眺めていた。

何か考え事をしているのか、ハルカの声にも反応せずにペンダントを見続けていた。

 

「お兄ちゃん? お兄ちゃんってば!」

 

声をかけても反応しなかったソラトに対してハルカは今度は大きな声を掛けると、ようやくソラトはハッとした様子でハルカの方を見た。

 

「ん? どうかしたかハルカ?」

 

「どうかしたかじゃなくて、お兄ちゃんはもう何度も船旅をしてきたのかって聞いたの」

 

「あぁ…まぁそれなりにな」

 

ハルカの問いかけにぞんざいに答えるとソラトはまたペンダントを見つめなおした。

その反応を見て流石にハルカもムッとしてしまう。

いつもは面倒見のいいソラトが自分とのやり取りを投げやりな態度で済ませてしまい、他の事に夢中になっているのが面白くなかったのだ。

 

「むー…もういいかも! それよりせっかくの船旅なんだし皆を出してあげましょ! 出てきてアチャモ、ケムッソ!」

 

ソラトが相手をしてくれないと判断すると拗ねてしまったハルカはアチャモとケムッソをボールから出す。

 

「チャモー!」

 

「ケム」

 

「お、それなら俺も! 皆出て来い!」

 

ボールからポケモンを出してのびのびと休息を取らせるハルカを見てサトシもキモリとスバメを出して船の上で休息を取らせる。

 

「皆、ムロ島までゆっくり休んでくれよな」

 

そう言うとポケモン達はそれぞれのんびりと過ごし始めた。

ピカチュウとアチャモは船の上で寝転がり、スバメとピーコちゃんは空を思い切り飛び、キモリは船の縁に腰掛けて座り、ケムッソはポケモンフーズを食べて即座に寝てしまった。

 

「うーん、ホントにいい気持ちね!」

 

「なんだか僕泳ぎたくなっちゃったよ」

 

「私も!」

 

「海水浴なら最高の場所があるぞ」

 

「「えぇ!」」

 

ハルカとマサトは海の旅をする内に海で泳ぎたくなってしまったようだが、それに待ったをかける人物が1人。

 

「駄目だよ寄り道なんて! 早くムロタウンに行って次のジムに挑戦するんだから!」

 

待ったをかけたのはジム戦を楽しみにしているサトシである。

一刻も早くジム戦を行いたいサトシは寄り道を良しとはしなかった。

 

「ピカチュウもそうだろ? ってあれ?」

 

「ピ、カ…チャ…」

 

のんびりとしている内にピカチュウも含めて皆目を閉じて眠っていた。

 

「そんなピカチュウ~」

 

「ピカチュウだってたまには休みたいのよ。休ませてあげたほうがいいかも」

 

「そうだよサトシ。カナズミジムだって勝てたんだしもっと余裕を持っていこうよ」

 

「そ、そうか…まぁたまにはいいか」

 

「「やったー!」」

 

本当は少しでも早くムロ島に向かいたかったサトシだったが、ピカチュウ達にも休憩が必要かと思い仕方が無いといった風に許可を出した。

という訳でハギ老人はルートを変更し、海水浴に最適な場所へと向かう事にした。

 

そんなサトシ達を海中から見つめ、追いかける影があった。

 

「「「それ行けやれ行けロケット団。それ行けやれ行けロケット団」」」

 

コイキング型の潜水艦に乗り、人力動力のペダルを必死に漕ぐロケット団の3人組である。

経費削減のために自転車を漕ぐようにして動かす動力のため持続力は3人の持久力にかかっており、またスピードも出にくいが、何とかサトシ達の船に食らい付こうとしている。

 

「だぁー! 急がないとジャリボーイ達が行っちゃうわよ!」

 

人力と高速船ではスピードに差がありすぎるため、ピーコちゃん号はどんどん離れていってしまう。

3人は気合を入れなおし力強くペダルを漕ぐが、それでも距離は開いていく。

 

「あー、駄目駄目! 全然スピードが足りない!」

 

「こうなったら!」

 

「全速力で追跡だニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「もう! アンタも漕ぎなさい!」

 

ソーナンスにも手伝わせ、勢い良くペダルを漕いでいくロケット団。

はたして彼らはサトシ達に追いつくことができるのだろうか…。

 

 

 

そしてしばらく経った頃、サトシ達は上から見ると三日月のような形をした島に到着した。

ここがハギ老人の言う海水浴に最適な場所なのだろう。

船は三日月型の島の内部へと入り止まった。

 

「本当に秘密の場所って感じだな!」

 

「海賊の宝物とか隠されてそうな場所だよね」

 

「ピィカ!」

 

最初は反対気味だったサトシも実際に綺麗な秘密のリゾート地のような場所を見て楽しそうにしていた。

マサトとピカチュウも島の持つ独特な雰囲気を感じて待ちきれないといった感じだ。

ソラトは相変わらず隅っこでペンダントを眺め続けているが…。

 

「ハギさん、ここはなんて島なの?」

 

「地図にも載っておらん小さな名も無い島じゃ。時々ここへ来てはのんびり時間をすごしておったんじゃが…海を離れている間はここの事などすっかり忘れておったわ。不思議なもんじゃ」

 

「キャー」

 

ハギ老人も昔を懐かしむように島を見渡していた。

若かりし頃の記憶が次々に呼び起こされているのだろう。

と、そこで船内に続く扉が開かれてピンクの水着を着たハルカが出てきた。どうやら中で着替えていたようだ。

 

「ジャンジャジャーン!」

 

「あっ、お姉ちゃん何時の間にそんな水着を!」

 

「えへへ、こんな事もあろうかとカナズミシティでゲットしておいたのよ。どうお兄ちゃん? 似合う?」

 

「……」

 

ピンクの可愛らしい水着に身を包んだハルカは好意を寄せるソラトに感想を聞くために声をかけるが、やはりソラトはペンダントを見続けるだけで返事を返さなかった。

その様子にハルカはまたしてもムッとしてしまい、今度は抑えられなかったのかソラトに近寄って声をかける。

 

「ちょっとお兄ちゃん! 私が声をかけてるのに何で無視しちゃうの!?」

 

「え? あっとスマン、どうかしたか?」

 

「どうもこうもないかも! 声をかけてもそのペンダントに夢中で何も返してくれないし! もう知らない!」

 

イライラが頂点に達したハルカはソラトに怒ってしまい、最終的には好きにすればいいといったばかりに海に飛び込んでいってしまった。

 

「え? あれ、何だ? 何かあったのか?」

 

「…えい」

 

「あだだっ!? 何するんだマサト!? 俺何かしたか!? あだだだ!」

 

状況を把握できていないソラトだが、何故かマサトも機嫌を悪くしてしまいソラトの耳を引っ張った。

痛がって暴れるソラトと耳を引っ張るマサトをサトシはよく分かっていないような表情で見つめ、ハギ老人は微笑ましいものを見るような目で見守っていた。

 

「よし、それじゃ俺達も泳ぐとするか。皆も一緒に泳ごうぜ」

 

「ピカー!」

 

「チャモ!? チャモチャモー!」

 

サトシはポケモン達にも声をかけると、アチャモ以外は喜んで泳ぐ気満々のようである。

アチャモは首を勢い良く横に振るって嫌がっていた。

 

「あ、そっか」

 

「アチャモはほのおタイプだから水が苦手なんだよね」

 

「それじゃあ俺達も着替えるか」

 

「キャー!?」

 

サトシとマサトが水着に着替えようとした時、先に海に飛び込んでいたハルカが悲鳴を上げる。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「どうしたハルカ!」

 

流石のソラトもハルカの悲鳴に反応してすぐに船の外を見ると、ハルカはサメハダーの群れに囲まれていた。

 

「サ、サメハダー!? どうしてこんな所に!?」

 

「た、助けてー!」

 

「ハルカ! サジン、ハルカを助けるんだ!」

 

「フラ、フラッ!」

 

ソラトはすぐさまサジンを繰り出すとハルカを助けるように指示を出す。

サジンも状況を見て何時ものようにソラトに甘えるような事はせずにすぐさまハルカへ向かって飛んでいきハルカを掴んで海面から離れる。

 

「サメ、サッメー!」

 

「サメ!」

 

空中ではサメハダーも手出しできないと思いきや、大きな体のサメハダーが声を張ると群れの内の1匹が海に深く潜ると勢いをつけて海面から飛び出した!

勢いよく海から飛び出したサメハダーは上昇しきっていなかったサジンの尻尾に噛み付いた。

 

「フラ~!?」

 

「まずい! スバメ、つばさでうつで援護するんだ!」

 

「スバー!」

 

サトシのスバメがつばさでうつを使いサジンに噛み付いているサメハダーを打ち払いサジンを助ける。

だがつばさでうつを使ったスバメの翼に傷がつき、スバメが体勢を崩してしまう。

 

「スバ~…!」

 

「スバメ! 攻撃は受けてないのにどうして…」

 

「サメハダーにはさめはだという特性があるんじゃ! 直接攻撃をするとダメージを受けてしまうぞ! ピーコちゃん、みずでっぽうじゃ!」

 

「キャー!」

 

次々にサジンに襲いかかろうとするサメハダー達をピーコちゃんがみずでっぽうで撃ち落していく。

しかしサメハダーはまだまだ沢山いるためこのままではキリがない。

 

「ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ、チュ~!」

 

「「「「サメ~!?」」」」

 

ピカチュウが10万ボルトを海面に放つと、海水により広範囲のサメハダー達へダメージを与える事ができ、サメハダー達の動きが止まった。

その隙にサジンはハルカを連れて船の上へ戻ることができた。

 

「はぁ、助かったかも…」

 

「ハルカ、大丈夫か!?」

 

「お兄ちゃん、何とか大丈―あぁっ!?」

 

ソラトがハルカの無事を確認するが、ハルカは自分の着ていた水着を見てショックを受ける。

買ったばかりのお気に入り水着が所々破れてしまっていたのだ。恐らく今のドタバタでサメハダーのさめはだで破られてしまったのだろう。

これにはハルカもサメハダーに文句を言わずにはいられず、海にいるサメハダー達に向かって怒る―

 

「ちょっと! この水着すっごく気に入ってたのよ! 絶対許さないからね!」

 

「サメー!」

 

「あわわわわっ!?」

 

―ったのだが大きな口をあけてサメハダーの1体が海面から飛び出してきたので、ビックリして近くにいたソラトに情けなく抱きつく事になってしまった。

 

「サメハダーか、どんなヤツなんだ?」

 

サトシはポケモン図鑑を取り出してサメハダーを検索する。

 

『サメハダー きょうぼうポケモン

キバニアの進化系。海のギャングと呼ばれ恐れられている。折れてもすぐ生えるキバを持ち、大型タンカーも1匹でバラバラにする。』

 

「凄く気性の荒いポケモンなんだな」

 

「サメハダーがいると分かった以上、すぐにこの島を離れ―うわっ!?」

 

ハギ老人が島を離れるために船を操舵しようとするが、大きな揺れが船を襲った。

サメハダーの何匹かが船に対して体当たりをしているのだ。

 

「サッメー!」

 

「「「サメッ!」」」

 

大きなサメハダーが指示を出すように動くと他のサメハダーが続々と船に攻撃を仕掛けていく。

このままでは船が沈むのも時間の問題だろう。

 

「なんてパワーだ…! サトシ!」

 

「ああ! ピカチュウ、もう1度10万ボルトだ!」

 

「ピカ! ピカ、チュ~!」

 

ソラトがサトシに声をかけると、サトシも意図を理解したのかすぐにピカチュウに指示を出す。

再びピカチュウの10万ボルトが海面を奔りサメハダー達を痺れさせる。

サメハダー達は動きを止め、その隙を見逃さずハギ老人はすぐさま船を動かした。

 

「よし、今じゃ!」

 

ピカチュウの活躍とハギ老人の素早い判断でサメハダー達の包囲網から抜け出して島の浅瀬にたどり着いたサトシ達だったが、まだまだピンチからは抜け出せずにいたのだった…。

 

 

 

夜。

島の海岸で夕食のためにキャンプをしているサトシ達。

焚き火を囲んでソラトお手製のシチューや島で採れた果物を食べてお腹を満たしていた。

 

「うむ、美味いな。こんな所でこんなご馳走にありつけるとは思わなかったわい」

 

「沢山あるんでお代わりもどうぞ。皆もたんと食えよ」

 

「このフルーツもとっても美味しいわ!」

 

「そりゃそうさ、だって僕が採ってきたんだもん!」

 

「こういう無人島でのキャンプもいいものですね」

 

「そうじゃな、アレさえ無ければな」

 

思い思いに無人島でのキャンプを満喫するサトシ達。

サトシがハギ老人にそう言うと、ハギ老人は厳しい眼差しを海に向けた。

より正確には海にいるサメハダー達にだ。

昼間のような大群ではなく数匹程度だが海を巡回するように泳ぎ回っていた。

 

「でも昼間よりサメハダーの数が減ってきてない?」

 

「いや、今残っておるのは恐らく見張りじゃろう。他の連中はどこかで休んでおるんじゃろう」

 

夜になればサメハダー達もどこかで眠っているのだろうが、サトシ達が逃げ出そうとすれば見張り役がすぐさま仲間を起こしに行くのだろう。

そうなればまたサメハダーの大群に囲まれることになるのは避けられない。

 

「へぇー、サメハダーって頭いいんだな」

 

「確かにそうだが、あのサメハダー達はかなり特殊な例だな」

 

「特殊な例?」

 

「ああ、サメハダーは通常単独で行動する。ああやって群れは作らない筈なんだ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

ソラトがサメハダーの生態について説明するとサトシ達は驚きの声を上げた。

そう、通常サメハダーは群れを作らずにいるため襲われた際にはサメハダーの生態を知るソラトとハギ老人は非常に驚いていたのだ。

 

「それについてはワシも驚いておる。それに昼間の様子を見る限りだとヤツ等の結束は相当堅いみたいじゃからな」

 

「だとしたら私達もうこの島から出られないの!?」

 

「なーに、あんなやつ等ポケモンバトルで…」

 

「相手は物凄い数だよ。こっちのポケモンは12体しかいないし、強引に突破するのは無理があるんじゃないかな?」

 

「そっか…」

 

サトシがバトルで道を切り開こうと考えたが、その案はマサトにすぐさま否定されてしまう。

目測でだがサメハダーは50体以上の大群だったため、今の手持ちのポケモン達だけで強引に突破するのは確実ではない。

だがソラトは昼間のサメハダー達の様子を思い出し、何かを思いつく。

 

「……いや、そうとも限らないぞ。サメハダーの群れの中に1体凄く大きいヤツがいた。恐らくそいつが群れのボスだろうから、ソイツをバトルで倒せば群れに言うことを聞かせることができるかもしれない」

 

確かに大きなサメハダーは号令を出して群れに攻撃の指示を行っていた事を皆は思い出す。

この作戦ならば無闇に突破を図るよりは良いだろう。

 

「なるほど! 確かにそれは試してみる価値はありそうじゃな」

 

「それにはまず、群れとボスを分断しないといけないね」

 

「ああ。その上で作戦を話すから、皆聞いててくれ」

 

こうしてソラトが考案した作戦の会議が開かれ、明日の脱出作戦への準備が進められる事となった。

そしてその島から少し離れた場所で…海面に浮かび上がる巨大な影があった。

 

「それ行けやれ行けもう限界…」

 

「やれやれジャリボーイも見失い…」

 

「迷いに迷って…いったいここはどこニャんだ?」

 

コイキング型の潜水艦にてずーっとペダルを漕ぎ続けていたロケット団3人組であった。

結局ピーコちゃん号には追いつけずに見失い、海を彷徨っていた様子である。

と、そこでムサシが目の前に島に気がついた。

 

「あ! 前方に島発見!」

 

「島があると言う事は…!」

 

「きっと水や食べ物があるに違いないニャ!」

 

「サッメー!」

 

希望が胸に膨らんだロケット団だったがそれは許さんと言わんばかりに先ほどサトシ達を襲ったサメハダーの群れのボスが海面から現れてコイキング型潜水艦に食らい付く。

 

「「「ギャー!?」」」

 

「は、早く何とかしなさいよー!?」

 

「何やってるニャコジロウ!?」

 

何やら呆然としているコジロウに気がつき声をかけるムサシとニャースだったが、後ろを振り向いた瞬間にその理由を理解して顔を青くする。

昼間のサトシ達のように周囲をサメハダーの大群に完全に包囲されていた。

 

「こ、これは…」

 

「どうやらすっかり囲まれてしまってるようで…」

 

「サメハダーの大群ニャ!」

 

「えーいこうなったら! 行くのよハブネーク!」

 

「ハッププー!」

 

ムサシはやぶれかぶれといった様子でハブネークを繰り出すと攻撃の指示を出す。

それを迎え撃つようにサメハダーのボスも海面から飛び出してかみつく体勢に入る。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「ハッブブ!」

 

ポイズンテールが決まりサメハダーのボスにダメージを与えるものの、それに怯まずサメハダーのボスはハブネークの胴体にかみつく攻撃を仕掛けてきた。

 

「ハプッ!?」

 

「負けるなハブネーク、もう1度ポイズンテールよ!」

 

「ハプッ!」

 

「サッメー!?」

 

連続でポイズンテールが決まり、大きく吹き飛ばされて海面にボチャンと落ちてしまうサメハダーのボス。

それを見てロケット団は一時撃退できたと大はしゃぎだった。

 

「「やったやったー!」」

 

「ザマミロニャ!」

 

が、この程度でサメハダー達も終わる訳もなく再び海面に出てきたサメハダーのボスが群れに指示を出す。

 

「サッメー!」

 

「「「サメ!」」」

 

「「「え?」」」

 

サメハダー達はとてつもない勢いでロケット団目掛けて頭突きの体勢に入っていた。

これはもしかしなくても…

 

「サメハダーの集団ロケットずつきニャー!?」

 

ドカーン!とぶつかり今日も今日とて夜空を飛ぶロケットの如く飛んでいくロケット団達。名前に偽り無しである。

そして飛んでいっている途中に島の上を通り過ぎ、ピーコちゃん号を発見する。

 

「あ、あの島にジャリボーイ達の船発見」

 

「ムサシ、目良いな」

 

「凄いニャ!」

 

「5.0よ!」

 

「「ウッソだ~」」

 

「ハプップ!」

 

キラリン☆

そのまま夜空の星となって消えていったのでしたとさ。

 

 

 

そして翌朝となり、サトシ達はサメハダーのボスとバトルをするための準備に入っていた。

サトシは金ダライとロープを用意してピカチュウとスバメ、ピーコちゃんと一緒に岩場へと移動しており、ハルカ、マサト、ハギ老人逆サイドの岩場で待機していた。

そしてソラトは海岸でモンスターボールを構えてバトルに備えていた。

今回の作戦はサトシとピカチュウが囮役、ハルカとマサトとハギ老人が足止め役、ソラトがバトル役である。

 

「これで良しと。こっちは準備OKです! そっちの方はどうですか!?」

 

「こっちも準備OKじゃ!」

 

「いつでもいいぞ!」

 

ハギ老人達も、ソラトも準備が完了したのを確認するとサトシおピカチュウはロープを持ったまま金ダライに乗り、スバメとピーコちゃんはロープを足で持って飛び上がった。

 

「よーし、2人とも頼んだぜ」

 

「キャー!」

 

「スバ!」

 

飛び上がったスバメとピーコちゃんにより金ダライが引っ張られて動き出し、海面を滑るように移動していた。

 

「ほーらサメハダー! こっちへおいでー! ほらほら!」

 

「ピカピカ!」

 

「サッメー!」

 

「「「サメ!」」」

 

挑発するようにあちこちに移動するサトシを見てサメハダーのボスが支持を出す。

動き回るサトシに狙いを定め、ボスを除いた群れの全員がサトシを追いかけ始めた。

 

「サメハダー達が動き出したよ!」

 

「うまくいきそうかも!」

 

そしてサトシとピカチュウ達によりサメハダーの群れを島の外側までおびき寄せてサメハダーのボスを孤立させる事に成功した。

その隙にハルカ達が行動を開始する。

 

「今じゃ、ロープを引っ張るんじゃ!」

 

「はい! せーのっ!」

 

ハルカ達は海の中に続くロープを引っ張ると、対岸から木でくみ上げられた柵が島の進入口を封鎖してしまう。

これが昨日ソラトが考案したサメハダーのボスと群れを引き離す作戦である。

作戦は見事成功し島を封鎖することができたが、サメハダーのボスも黙って捕まっているわけにはいかなかった。

 

「サッメー!」

 

勢いをつけて柵を突き破らんと体当たりを行うサメハダーのボス。

ハルカ達も逃がすまいとロープを引っ張る力を強めるが…。

 

「ぐうっ!?」

 

「うわぁ!」

 

「キャー!?」

 

勢いのついた体当たりによりロープが引っ張られ、1番前で引っ張っていたハルカが海に転落してしまった!

それに気がついたサメハダーは標的をハルカへ変更する。

 

「サメー!」

 

「いかん!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「キャアアアッ!」

 

あと少しの所でサメハダーのボスに噛み付かれそうになったハルカだったが、ハルカは海に転落しそうになった時点で危険を察知し駆け出したソラトが海に飛び込んだ。

 

「ハルカーッ!」

 

「キャッ!」

 

ハルカを抱きしめるようにしてサメハダーのボスの狙いから逃れたソラトにより、何とかハルカは無事だった。

サメハダーのボスは狙いを外したからなのか大きく体を動かし暴れまわっている。

 

「大丈夫かハルカ!?」

 

「う、うん。ありがとうお兄ちゃん」

 

「早く岸に上が―うお!?」

 

「お兄ちゃんっ!?」

 

すぐにハルカを岸に上げようとしたソラトだったが、何かに引っ張られるようにして海の底へと沈んでいってしまう。

周囲をよく見て見れば先ほどは海面に暴れまわっていたサメハダーのボスがいなくなっていた。

海中では、1度潜ったサメハダーのボスがその鋭い牙でソラトの足に噛み付き海中を引きずり回していた。

 

(ヤベ、息が…! それにスイゲツのモンスターボール、手放しちまった…!)

 

バトルのためにスイゲツのモンスターボールを構えていたソラトだが、さきほど海中に引きずりまれた際に手放してしまったのだ。

更に高速で海中を引きずり回されているために抵抗もできなかった。

一方、海面では自分のせいでソラトがサメハダーに捕まってしまったと理解したハルカは青い顔でパニック状態になっていた。

 

「お姉ちゃん、早く上がってきて!」

 

「でもこのままじゃお兄ちゃんが!」

 

早く海から上がらなければサメハダーのボスがまた攻撃を仕掛けてくるかもしれないが、それよりも海に引きずり込まれてしまったソラトが心配でハルカの思考能力は低下していた。

 

「ハルカ、大丈夫か!?」

 

「サトシどうしよう! お兄ちゃんがサメハダーに噛み付かれて海に引き込まれちゃったの!」

 

「えぇっ!?」

 

ハルカ達がどうすればいいのか分からなくなっている所に、群れを引き付けていたサトシが戻ってくると、サトシは海面にプカプカと浮かんでいるモンスターボールに気がついた。

 

「ハルカ、そのボールは?」

 

「これは…スイゲツのボール! お願いスイゲツ、お兄ちゃんを助けて!」

 

「ラグ! ラーグ!」

 

ハルカはソラトが手放してしまったスイゲツのボールに気がつきボールを投げた。

スイゲツはボールから出るとすぐさま海中に潜りソラトとサメハダーのボスを追いかける。

そして海中でソラトを既に数十秒近く水中を引きずり回しているサメハダーのボスだが、その様子がおかしいことにソラトは気がついていた。

 

(何でさっきから無闇に暴れるような事を…!? 昨日とは明らかに様子が違う…!)

 

昨日襲われた時は縄張りに侵入した自分たちを撃退しようとする明らかな敵意を感じていたが、今は違った。

今ソラトが感じたように目的もなく無闇に暴れているように感じられたのだ。

 

(もっと集中しろ! サメハダーの意図を感じろ…! は、どう、を…!)

 

ゴホッ!と息が続かずに口から残っていた酸素を全て出してしまうソラト。

既に意識は朦朧としており、噛み付かれており痛い筈の足も気にならなくなっていた。

 

(く…そ……)

 

意識を手放そうとしたその時、閉じかけた瞳の奥から長年の相棒の姿が見え、目を見開いた。

 

(スイゲツ!)

 

たきのぼりにより、水を纏いサメハダーのボスに一気に突撃するスイゲツは見る見るうちにサメハダーのボスに追いつき、下から突き上げるように攻撃した。

 

「ラグァ!」

 

「サッメー!?」

 

スイゲツはそのままサメハダーのボスを海面から飛び上がらせるように突き上げると、その衝撃で噛んでいたソラトの足を離させた。

 

「がはっ! ゲホッゲホッ! はぁー、助かった…!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「うわっと、大丈夫だよハルカ。足をちょっと怪我したけど他は無事だよ。スイゲツもありがとな」

 

「ラグ」

 

文字通り息も絶え絶えだったソラトだったが、どうにか砂浜に上がり息を整える。

そこにハルカが駆け寄りソラトに飛びついて抱きしめた。自分のせいでソラトが危険な目にあったのが余程心配だったのだろう。

ソラトがスイゲツに礼を言うとスイゲツはサメハダーに向き合いつつ頷いた。

 

「ソラト君、大丈夫かね?」

 

「ハギさん、皆…足以外は何とか大丈夫だ」

 

「良かった。それじゃバトルはどうするんだ? 俺とピカチュウがやるか?」

 

「いや…サメハダーがあんなに暴れてた理由は俺達に敵意を向けていたからじゃないんだ」

 

状況も整いこれからがバトルの本番だと思っていたサトシは代わりに自分たちがバトルをしようかと提案したがソラトは首を横に振った。

ソラト以外の皆は頭の上に疑問符を浮かべる。

海ではスイゲツの攻撃を受けたサメハダーが逆さまにひっくり返りながら浮かんできた。

 

「ええっ!? もう戦闘不能にしたのか!?」

 

「いや、スイゲツはたきのぼり1発しか当ててない」

 

「そんな! いくらスイゲツが強いからってみずタイプの技1発でサメハダーを戦闘不能にするなんて無理だよ!」

 

「ああ、サメハダーは毒にやられてるんだ。それで苦しんで暴れていたんだ」

 

「毒!? 海にいるどくタイプ…ドククラゲなんかとバトルしたのかな?」

 

「かもな…とにかくこのままじゃ危険な状態だ。とにかく治療をしよう」

 

「ちょっとお兄ちゃん! まずはお兄ちゃんの足の怪我の手当てをしないと…!」

 

「いや、このままじゃサメハダーは本当にマズい。この場でできる手当ては限られてるがやれるだけやる」

 

毒を受けておりどんどん体力を奪われているサメハダーを見てソラトは普段の雰囲気とは違うピリっとした雰囲気を纏っていた。

ソラトを心配する皆だったが、その気配に押されて何も言えなくなってしまった。

 

「まずはどくけしと、きずぐすりと…後はアレで代用するか。始めるぞ」

 

ソラトは荷物の中から必要な物を用意しサメハダーの傍に近寄るとまずはどくけしで毒を打ち消し、スプレー型のきずぐすりを吹きかけて傷を消毒していく。

これでひとまず応急手当は完了したが、サメハダーはまだ体力を消耗している。

未だに苦しそうにしているサメハダーにソラトは手をかざして瞳を閉じた。

するとソラトの掌に青いぼうっとしたような光が現れ、その光がサメハダーの体へと移っていく。

横から見ていたサトシ達は驚きに目を見開いていた。

 

「ソラト、それは何なんだ? 何をしてるんだ?」

 

「これは波動だ」

 

「波動…?」

 

「波動…聞いた事がある。この世に存在する生き物や物全てが持つ力の流れのような物じゃな。気やオーラとも呼ぶ物じゃ」

 

ソラトが波動をサメハダーに移している間に長い経験の間にどこかで聞いた事があったのかハギ老人が波動について説明をする。

ハギ老人の言うとおり、この世に存在する物が持つ力や生命の流れを波動と呼ぶ。

そしてそれを操る者は波動使いと呼ばれていた。

かつてトウカシティでポケモンをゲットする前にソラトはミツルに波動を与えて体調を整えたのである。

 

「今は俺の波動をサメハダーに与えているんだ。これならしばらくすれば体力を取り戻せる筈だ」

 

「そんな事ができるんだな…やっぱりソラトは凄いぜ!」

 

「…よし、ひとまずはこれで大丈夫、だな」

 

「ああっ、お兄ちゃん!」

 

サメハダーに波動を与え終わったソラトは力が抜けたようにその場に膝を着いた。

 

「大丈夫、波動を渡したから少し眩暈がしただけだ。いつつ…」

 

「ソラト! 足の怪我もちゃんと手当てしなきゃダメだよ! ハギさん、救急箱ある!?」

 

「船の中にあるからそれを使おう。ついてきてくれマサト君」

 

マサトとハギ老人はピーコちゃん号にある救急箱を取りに行き船の中に入ってき、その間にサトシとハルカはソラトを砂浜に上げて足の怪我の具合を見た。

怪我そのものはそれほど酷くなく、適切な手当てをすればすぐに治るだろうと見て取れた。

 

「怪我はそんなに酷くないみたいだな」

 

「良かったかも…」

 

「サメハダーも本気で噛み付いてはなかったんだよ。ただ必死に毒の事を伝えようとしてたんだ」

 

「サメ…」

 

怪我を診ていると、サメハダーが落ち着きを取り戻した様子で起き上がっていた。

どうやら毒はもう治り、体力が戻ったようだ。

怪我をさせたのを申し訳なく思っているのかどことなく消沈気味である。

そんなサメハダーを見てフッと優しく笑ったソラトはサメハダーに近寄り頭を撫でてやる。

 

「もう気にするなって、お前だって苦しかったんだもんな」

 

サメハダーはソラトに頭を撫でられると黙ってそれを受け入れていた。

サトシとハルカもそんなソラトとサメハダーを見てなんだか安心したのかやれやれといった様子ながらも笑顔を浮かべていた。

 

「ソラトー! ほら怪我見せてー!」

 

「ソラト君、怪我は海水に浸けん方がいいぞ」

 

「ああ、悪いなマサト。今そっちに―」

 

救急箱を持ってマサトがソラトの方へ駆け寄ってくると、ソラトも再び海から上がろうと振り返る。

だがそこで海中から巨大な影が浮かび上がり姿を現した。

それはとても巨大な、ギャラドスにすら匹敵しそうな大きさのコイキングだった!

サトシ達が反応するよりも早く、その巨大なコイキングは頭部のハッチが開いてそこからネットを発射した。

 

「ピカッ!?」

 

「サメッ!?」

 

「うわっ、何だこりゃ!?」

 

発射されたネットはピカチュウとサメハダー、そして近くにいたソラトを捕らえるとそのまま引き寄せて吊り上げた。

 

「ソラト! くそっ、いったい何なんだ!?」

 

巨大コイキングの背びれのハッチが開くと、中からどこかで見たことのあるシルエットが2人と1匹分現れる。

 

「くそっ、いったい何なんだ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

何時もの如くロケット団である。

巨大なコイキングはサトシには馴染みのある、ロケット団お手製の海での移動手段であるオンボロ潜水艦である。

 

「ピカチュウと、ついでにサメハダーは頂いたわよ」

 

「またロケット団か!」

 

「ちょっと! お兄ちゃん達を放しなさい!」

 

「へ? あれ、なんだかヒーローボーイも捕まえちゃったっぽいぞ」

 

「まぁこれならいつものように邪魔できなくて丁度いいニャ」

 

どうやらソラトを捕まえたのは偶然のようであったが、結果としてソラトを封じ込めておけるとポジティブに捉えたようである。

そんなソラトはネットで捕まっているからか体を震わせて俯いていた。

 

「お、お前ら…」

 

「ん? どうしたってのよ?」

 

「お前ら、その潜水艦は…!」

 

「「「へ?」」」

 

「超イカしてるじゃねぇかぁああああああああ!!」

 

「「「「「「「だぁああああああっ!?」」」」」」」

 

俯いていたと思ったらガバッと顔を上げて水平線の彼方まで聞こえるような大声でそう言った。

どうやらこのオンボロコイキング型潜水艦はソラトの何かに触れたようで、状況も忘れてソラトは少年のように目を輝かせていた。

これには敵味方問わず全員がズッこけてしまった。

 

「そんな事言ってる場合じゃないだろー! ソラトのバカーッ!」

 

「あ、いやすまんついな…にしてもイカしてるな。機会があれば俺も乗ってみたいぜ」

 

手が届かない所だから耳を引っ張れないがマサトはきっちりツッコミを入れていった。

 

「そんな事よりロケット団、皆を返せ!」

 

「そーよ! そのサメハダーも毒にやられてて弱ってたんだから!」

 

「あーら! じゃああん時のハブネークのポイズンテールがガッツリ効いちゃったってワケね」

 

「なんだと!? じゃあアレはお前たちがやったのか!」

 

サメハダーの特の事が話題に上がるとムサシがしてやったり顔で返してきた。

その内容からサメハダーの毒はムサシのハブネークにあった事を察したサトシは怒りに顔を染める。

だがロケット団にはロケット団なりの言い分があり、3人は青筋を浮かべて反論する。

 

「それがどうしたってのよ!」

 

「こっちはこっちで! サメハダーの大群に囲まれて大変だったんだぞ!」

 

「そうだニャ!」

 

そうこうロケット団がしている内にソラトはチャプリと何かが海中で動く気配を波動で感じ取った。

何時もの不敵な笑みがソラトの顔に浮かぶ。

 

「よし、スイゲツ! グロウパンチで網を下げてる竿を叩き折れ!」

 

「ラグラッ!」

 

バレないようにこっそりと海中に身を隠していたスイゲツは指示があった瞬間海中から飛び出してグロウパンチで竿を粉砕する。

そしてネットが開いてソラト達はすぐさま自由を取り戻した。

 

「「「え!?」」」

 

ピカチュウとサメハダーは自力で泳いで岸まで戻り、ソラトはスイゲツの背に乗ってサトシ達の元へと戻った。

 

「「「あーっ!?」」」

 

「ピカピ!」

 

「よーしピカチュウ、10万ボル―」

 

いつもの通りにロケット団をやっつけようとピカチュウに10万ボルトの指示を出そうとするサトシだったが、何かに気がついたように言葉を途中で切る。

そしてピカチュウと顔を合わせて笑顔を浮かべた。

 

「どうやら今回、俺達の出る幕は無さそうだな」

 

「ピカチュウ」

 

「「「へ?」」」

 

「いったいどういう事ニャ?」

 

「ロケット団、後ろを見てみろ!」

 

「「「え、後ろ? ゲーッ!?」」」

 

サトシに言われた通りに後ろを振り向くと、そこには昨日襲われたサメハダーの大群が。

今日も今日とて囲まれてしまっていた。

それにこの群れのボスのサメハダーに手を出したのだから群れのサメハダー達も黙ってはいないだろう。

 

「またサメハダーの大群に囲まれてるー!」

 

「し、しまったニャ! 他のサメハダー達の事をすっかり忘れてたニャ!」

 

「なんですって!?」

 

「じゃあ、何の対策も考えてないワケ…?」

 

ロケット団は全員顔を青くして現状を認識していく。

何かしら考えてこの状況を切り抜けようとするニャースだが、時すでに遅し。

 

「サメー!」

 

「「「シャー!!」」」

 

サメハダーのボスが大きく声をあげると群れのサメハダー達も呼応するように声をあげる。

これは威嚇のような、気合を入れているようなそんな声である。

 

「これは…」

 

「もしかして…」

 

「もしかすると…」

 

「「「「「サッメーッ!!!」」」」」

 

「「「集団ロケットずつきー!?」」」

 

「ソ-ナンス!」

 

「「「ヤなカンジーッ!」」」

 

どかーん! きらん☆

サメハダーの群れ全員による集団ロケットずつきをまともに受けてしまい、ロケット団は潜水艦ごと空の彼方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「「「やったぁ!」」」

 

「サンキューなスイゲツ。助かったよ」

 

「ラグ」

 

スイゲツが陸に上がってくると、サメハダーのボスも海岸沿いまで泳いでやってくる。

それを見たソラトはさきほどと同じようにサメハダーの頭を撫でてやる。

 

「サメハダーもロケット団をぶっ飛ばしてくれてありがとな。もう体も大丈夫みたいで安心した」

 

そんなソラトとサメハダーの様子を見ていたマサトがある疑問を思い浮かべる。

 

「あれ、そういえばソラト、サメハダーを撫でてて痛くないの? さめはだなんでしょ?」

 

「さめはだが効かなくなったんじゃろう。ポケモンの特性は仲良くなった相手には効かなくなる事もあるんじゃ」

 

ハギ老人がそう解説するとサメハダーの群れが海岸沿いまでやって来る。

試しにマサトもサメハダーの1匹に触ってみると確かに痛みはなく、湿った肌触りのいいサメハダーの肌が触れた。

 

「あ…ホントだ痛くないや!」

 

「うん、なんだか不思議かも」

 

「ポケモンってこういう所が面白いんだよな」

 

「ピィカ」

 

サトシもハルカもマサトもそれぞれサメハダーとの触れ合いを楽しんでいた。

 

「ありがとうサメハダー。俺達はもう友達だな」

 

「サメッ、サメッ」

 

ソラトが笑顔を浮かべてサメハダーのボスにそう言うと、サメハダーのボスもそれを肯定するように力強く頷いたのだった。

 

 

 

そして時刻は夕刻。

サトシ達はサメハダーの群れを引き連れ、ついにムロ島に到着した。

 

「さぁ、ここがムロ島のムロタウンじゃ」

 

「ありがとうございます、ハギさん」

 

「ワシはこれからカイナシティへ行って船旅の準備をするつもりじゃ。いつかまた、どこかで会おう!」

 

「キャーキャー!」

 

「「「「はい!」」」」

 

別れの挨拶を済ませると、ハギ老人とピーコちゃんは船を出して海を進んでいく。

それに合わせたようなタイミングでサメハダーの群れもムロ島を背にして大海原へと帰っていく。

 

「サッメー!」

 

「「「サメ!」」」

 

「お前たちも元気でな!」

 

「ピカピカー!」

 

サトシ達は大きく手を振り、サメハダー達は背びれを左右に振って別れの挨拶とする。

 

こうしてハギ老人やサメハダーと分かれたサトシ達。

まだ見ぬ人やポケモンとの更なる出会いを求め、彼らの旅はまだまだ続く!

 

「よーし、明日はいよいよムロジムに挑戦だ。頑張ろうぜピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

 

 

to be continued...




この話は何故か昔から記憶に残っていてスラスラ書けました。
次回はムロジム編になります。
ムロ島編では暫く修行期間があるので何かリクエストあったら活動報告の方までお願いします。


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剛と柔! かくとうポケモンの猛攻!

すいません、感想覧にもあったと思うのですが体調崩して投稿遅れてしまいました。

あと今回2万字超えました…結構辛かったw


朝一番にムロタウンにあるポケモンセンターの自動ドアが開きそこから元気に飛び出してくる2つの影があった。。

 

「よーし、準備完了だ! いくぜピカチュウ、早速ムロジムに挑戦だ」

 

「ピッカ!」

 

無論、ジム戦に向けてやる気満々のサトシとピカチュウである。

こんな朝早くからここまでテンションとやる気の高い人物はそうはいないだろう。

そしてサトシとピカチュウに続いてマサトとソラトもポケモンセンターから出てくる。

 

「ふわぁ~、サトシったらやる気満々だね」

 

「そうだな、1つ目のバッジをゲットした勢いのまま次のジム戦に臨みたいんだろうな」

 

流石にサトシほどの元気はないが欠伸をしつつも少しずつ目を覚ましていくマサトと、早起きには慣れているのか何時も通りのソラトだった。

そしてハルカはというと…

 

「ふぁ~、こんな朝早くからジム戦だなんて…」

 

「…お姉ちゃん何持ってるの?」

 

「え? あっ、ポケモンセンターの枕、持っていっちゃう所だった…」

 

とまだ半分寝ぼけており枕を抱えたままポケモンセンターから出てきてしまう所だった。

 

「マサトとハルカはサトシを追いかけて先に行っててくれ。俺はちょっと手持ちのポケモンを入れ替えてくるかさ」

 

「分かったわ。じゃあまた後でねお兄ちゃん」

 

「ソラトもジム戦に備えるんだね。頑張ってね!」

 

「ああ!」

 

ホウエンリーグ出場を目指すサトシ達は、2番目のジムがあるムロタウンにやって来た。

目的は勿論ムロジムに挑戦し、2つ目のバッジをゲットすることだ!

 

朝から元気に走り、すぐさまムロジムに到着したサトシ達。

そのムロジムにはアーチ状の看板が構えられており、そこには「格闘ビッグウェーブ!」と書かれていた。

 

「ここがムロジムか」

 

「格闘ビッグウェーブ?」

 

「ジムの看板に格闘って書くなんて、よっぽどかくとう技に自信があるんだろうね」

 

「こっちは今勢いに乗ってるんだ! 一気に2個目のバッジゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ジムの看板から既に戦略は始まっているのだろうか、マサトが分析して予想を立ててみるが勢いに乗った猪突猛進型のサトシは己のペースで突っ走る。

看板の言葉を真に受けることなくすぐさまジムの扉を叩いて自分の来訪を伝える。

 

「たのもーっ! たのもーっ!」

 

「「「イエーイ!」」」

 

「「「ヒャッホーウ!」」」

 

「ぐえー!?」

 

…扉を叩いていたサトシだったが、中から外へと扉が勢い良く開き人が飛び出してくると、扉に顔面激突してしまう。

不意打ちに?に目を回して倒れてしまうサトシだったが痣の1つもできないとは頑丈である。

 

「ぐぬ~、不意打ちなんて卑怯だぞ~」

 

「おや? 何やってるのキミ? そんな所で寝てると危ないよ」

 

「え? いや俺…」

 

倒れていたサトシに気軽に声をかけたのは、水色の髪を逆立てて額にサングラスをかけており、動きやすそうなピッチリした上着と短パンを履いた背の高い男性だった。

そして後ろに数人の美しい女性がついており、全員サーフボードを持っていた。

 

「キミ、もしかしてウチに用?」

 

「ええ、ジムリーダーはどなたですか?」

 

「ああ、それならボクの事だよ! ボクがムロジムのジムリーダーのトウキだ! キミもしかしてチャレンジャー?」

 

「はい、マサラタウンのサトシです! トウキさん、バトルをお願いします!」

 

目の前の逞しそうな男性がジムリーダーだと分かり、すぐさまバトルを申し込むサトシだったが―

 

「ゴメンよ、今日は凄くイイ波が来ててさ! コレを逃すのはあまりにも惜しいからまた明日来てくれ! それじゃ皆行くぞ!」

 

「「「キャー! トウキー!」」」

 

―と、すぐさま断れてしまいトウキと女性達はサーフボードを抱えたまま海のほうへと走り去っていってしまった。

 

「そ、そんなぁ~…せっかく勢いに乗ってた所なのに」

 

「イイ波って…サーフボードを持ってたしサーフィンしに行くのかな?」

 

「でも生活をエンジョイしながらジムリーダーをしてるのもアリかも! ねぇ、私達も泳ぎに行きましょうよ!」

 

ハルカは以前サメハダーの島でそんなに泳げなかった事が少し心残りなのか海で泳ぐことを提案すると海岸の方へと向かってしまう。

そしてジムの前に残されたのはサトシとマサトだけになってしまった。

 

「どうするサトシ? ジムリーダーがいないんじゃ…」

 

「うーん、仕方ないな…」

 

と、そこへ黒いロングコートがトレードマークのソラトが合流してきた。

ポケモンの交換を終えて後を追ってきたのだろうがジム戦をしていると思っていたサトシがジムの前で立っているのを見て疑問符を頭に浮かべる。

更にハルカも先に海岸へ行ってしまい見当たらないので周りを見渡している。

 

「あれサトシ、ジム戦はしないのか? それにハルカは?」

 

「あ、ソラト。それがジムリーダーが波乗りに行っちゃってさ…明日来てくれって」

 

「お姉ちゃんも泳ごうって行って海のほうに行っちゃったんだ」

 

「ああ、ムロ島はリゾート地としても有名だからな。毎年シーズンには多くのサーファーや水ポケモン使いのトレーナーがやって来るらしい」

 

「でもせっかくジム戦しに来たのに」

 

「まぁどうしてもバトルしたいってなら諦めずにジムリーダーに頼んで見たらどうだ? とりあえず俺達も海岸の方へ行こうぜ。その方が俺にとっても好都合だし」

 

「へ? …まぁそうだな」

 

こうしてサトシ達は皆で海岸へ向かう事にしたのだった。

 

 

 

ムロ島のリゾート地として多くの人に利用されている海岸は多くの人々で溢れていた。

海で思い思い泳ぐ人、ポケモン釣りに精を出す人、砂浜で横になり肌を焼く人、サーフィンで大きな波に乗る人など様々な楽しみ方でムロ島をエンジョイしている。

そしてそんな砂浜にある1つの海の家にあるカップルが入店して周囲を見渡すが店員らしき人の姿は見当たらなかった。

 

「すいませーん、誰かいませんかー?」

 

とカップルの男性が声を出すとカウンターの向こう側からスッと現れる人影が2つ。

 

「誰かいませんかー? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「売り上げ低下を防ぐため」

 

「お店の安泰守るため」

 

「愛と真実の商売を貫く」

 

「ラブリーチャーミーなバイトさん」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「バイトで稼ぐロケット団の2人にはー」

 

「借金返済バラ色の明日が待ってるぜ」

 

そしてカウンターには出てこないが厨房にてフライパンを振るいつつ働くばけねこポケモン1匹。

 

「あニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

そんな謎の名乗りをするバイト中のロケット団にカップルのお客さんは引きつつもとりあえず注文をしてみるが…。

 

「あ、あの…ミックスオレ2つ…」

 

「「毎度アリー!」」

 

注文をするとムサシとコジロウはすぐさまミックスオレのジュース缶を差し出す。

即座に品物を用意する辺り、店員としての能力は高そうである。…何故普通に働かないのだろうか。

カップルのお客さんは代金を払って商品を受け取ると逃げるように海の家から飛び出した。

 

「「なんか変なバイトー!」」

 

そして厨房からホールの様子を見ていたニャースがポケモンとしての勘で何かを察知する。

 

「ムッ、来たニャ!」

 

「「いらっしゃいませー!」」

 

「おミャーら! 骨の髄までバイトの店員さんになってるニャー! 客が来たんじゃニャくてあいつ等が来たのニャー!」

 

ニャースが指差した先にはサトシ達が砂浜を歩いていた。

そこには勿論ロケット団のお目当てであるピカチュウもいる。

 

「ジャリボーイ!」

 

「こんな所で出会うとは、俺達サーファーだけに波に乗ってるぜ!」

 

「誰がいつサーファーになったのよ」

 

「つまんニャい事言ってニャいでピカチュウゲットの準備をするのニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

かくして今日も今日とてロケット団によるピカチュウゲットのための作戦が始動するのだが、バイトを放り出してしまったためにこの後ロケット団がバイト代を貰えなかった事は言うまでも無い。

そんな事など露知らず、サトシ達は砂浜に到着したためそれぞれの目的を果たそうとする。

 

「海よ海! 早く泳ぎに行こう!」

 

まずはハルカが早速海で泳ごうと服に手をかけて脱ぎ捨てようとする。

が、ハルカは年頃の女の子だりそれは色々と問題がありすぎる。

 

「だ、駄目だよお姉ちゃん!? こんな所で着替えちゃ…!」

 

慌ててマサトが止めようとするが、止めるまもなくハルカは次々に服を脱いでしまう!

 

「大丈夫! ちゃんと中に水着着てるわよ! どう、似合う?」

 

「「ったく…」」

 

予め服の下には水着を着ていたようであり、サトシとマサトはやれやれといったように俯いた。

一方ソラトはモンスターボールを持って波打ち際までやって来ていた。

 

「さぁ、久しぶりの海だ。出て来いヒョウカ!」

 

モンスターボールを投げると繰り出されたのは青い体に長い首、背中の甲羅が特徴的なのりものポケモン、ラプラスである。

 

「キュー!」

 

「久しぶりの海だから存分に楽しんでくれ」

 

「キュキュー!」

 

ソラトの言葉通りならしばらく海で泳いでいなかったのだろう、嬉しそうに笑顔を浮かべるラプラスのヒョウカ。

ラプラスは海に生息しているポケモンなので、故郷に帰ってきたような気分なのだろう。

そこへサトシと、水着に着替えたハルカとマサトがやってくる。

 

「ラプラスだ! ソラトはラプラスを持ってたんだね!」

 

「ああ、ラプラスのヒョウカだ。皆よろしくな」

 

「クゥー」

 

「ラプラスかぁー、俺も昔持ってたなぁ…元気にしてるかなアイツ」

 

サトシはかつての仲間だったラプラスを思い出す。

オレンジ諸島を旅していた頃にいじめられて人間不信になってしまったラプラスを助けて仲間になったのだが、逸れていた仲間を見つけた時に逃がしたのだ。

サトシにとっては共にオレンジリーグを制覇した大切な仲間なのである。

 

「なんだ、サトシもラプラスを持ってたのか?」

 

「ああ、仲間達とはぐれてたんだけどその仲間達が見つかったからその時に別れたんだ」

 

「そうだったのか。寂しいが、仲間といれるならその方がいいだろうからな」

 

昔を懐かしむサトシにソラトは優しく微笑んだ。

実を言うとソラトもサトシのように理由があって逃がしたり、交換したポケモン達がいるのだ。

サトシを見て、別れた自分のポケモン達を思い出しているのだろう。

 

「ハルカ、マサト、よかったらヒョウカと一緒に遊んでやってくれないか? 久しぶりの海だから目いっぱい遊ばせてやりたいんだ」

 

「分かったわ! よろしくヒョウカ」

 

「クゥ!」

 

「ねぇソラト、背中に乗っていいかな?」

 

「勿論。けどあんまり沖には行くんじゃないぞ」

 

「「はーい!」」

 

「クークゥ!」

 

そしてヒョウカはハルカとマサトを背中に乗せて海へと泳いでいった。

しばらくはああやって遊んでいる事だろう。

サトシはサトシの目的を果たすべくジムリーダーのトウキを探す。

 

「トウキさんはどこにいるんだ…あっ、いた!」

 

波打ち際を注意深く探すと、そこには先ほどのトウキが海パン姿でモンスターボールを構えていた。

 

「よし行くぞ! マクノシタ、テイクオフ!」

 

「ノシタ!」

 

モンスターボールから繰り出されたのはこんじょうポケモンのマクノシタだった。

マクノシタはトウキと共にサーフボードに乗ると大きな波に乗ってバランスを取る。

 

「あのポケモンは…」

 

「マクノシタだな。いいバランス感覚だ」

 

「マクノシタ?」

 

サトシは初めて見るポケモンを図鑑で検索してデータを見る。

 

『マクノシタ こんじょうポケモン

何回倒されても諦めずに立ち上がる。立ち上がるたび進化するためのエネルギーが体の中に蓄えられていく』

 

「…でも俺の挑戦を断ってサーフィンで遊ぶなんて。絶対にジム戦を受けて貰うぞ!」

 

「今日は休暇のつもりだったんじゃないのか? まぁ諦めずにお願いすれば気が変わってバトルしてくれるかも―っと、急に風が強くなってきたな」

 

ソラトがそう言うと、突然風が海のほうから強く吹いてきた。

今日の海の潮風は不安定であり、少々油断すると泳いでいる内に沖に流されてしまうかもしれないほど潮の流れは速かった。

だがサトシはそれがどうしたと言わんばかりにトウキの方へ近づき大声を出す。

 

「おーい! 遊んでいる暇があるなら俺とバトルして下さいよー!」

 

「なんだキミか。今日はすげぇビッグウェーブだから逃したくないんだ。頼むから明日にしてくれよ」

 

「ノ、ノシタノシタ!」

 

突然サトシに声をかけられるが、トウキは慣れた様子でやはり明日にして欲しいと返事をする。

一方トウキの隣でサーフィンをしているマクノシタはサトシに気をとられてしまいバランスを崩しかけてしまう。

 

「マクノシタ、下半身のバランスが崩れてるぞ! 周りの事は気にするな!」

 

「ノシタ!」

 

トウキのアドバイスによりすぐに集中し直してマクノシタはバランスを取り戻した。

そしてトウキとマクノシタはひと波乗り終わるとサトシとちゃんと話をつけにサーフボードから降りて砂浜に上がった。

 

「困ったな、今日はでっけぇ波が来てるってのに…サーファーとしては今日は絶対に逃したくないシチュエーションなんだよ」

 

「でも、俺だってはるばる海を渡ってムロジムに挑戦しに来たんです! トウキさん、バトルをお願いします!」

 

「ピカ、ピカピーカ!」

 

お互いに譲れない主張をぶつけ合うトウキとサトシだったが、ソラトも思う所あるのか口を挟む。

 

「トウキさん、俺もチャレンジャーなんです。2人いるので効率良くジム戦を行うためにも今日…午後からでもいいからサトシのバトルを受けてやってくれませんか?」

 

「えー…こりゃまいったな…。うわっと! 何だ、突然風が速くなったな」

 

ゴウッと音を立てながらまるでポケモンのかぜおこしやふきとばしといった技の如く風が強くなる。

次第に海の波は高くなり始めていた。

 

「うーん、この波だとサーフィンするのは危ないかな…」

 

「じゃあ!」

 

「分かったよ、午後からはキミの挑戦を受けるよ」

 

「やったぁ!」

 

「ピッカチュウ!」

 

トウキからジム戦の承諾をしてもらったサトシとピカチュウはガッツポーズを決めて喜んだ。

と、そこへ突然投網が飛んできてピカチュウを捕らえると一瞬でピカチュウを連れ去ってしまう!

 

「ピカッ!?」

 

「なっ、ピカチュウ!?」

 

「何っ!?」

 

「ノシタ!?」

 

ピカチュウは海の上に浮かぶボートへと連れ去られてしまい、そのボートに乗っているのは勿論ロケット団の3人組である。

 

「ニャハハハハ!」

 

「やったわやったわ!」

 

「ついにピカチュウゲットだぜ!」

 

「ソーナンス!」

 

だが黙って捕まっているピカチュウではない。すぐさま10万ボルトを繰り出して脱出を図る。

 

「ピーカ、チュゥウウウウ! ピカァアアッ!?」

 

しかし投網の外へ全く電流が漏れず、逆にピカチュウが痺れてしまう。

 

「この網は電撃を反射するのニャ」

 

「ボスもきっと大喜びよ!」

 

「これでバイト生活ともオサラバだ! がっぼり賞与だボーナスだ!」

 

「幹部昇進支部長就任イイカンジだニャ!」

 

お得意の電撃対策によりピカチュウは抵抗できない事を確信したロケット団は既に勝った気になっており有頂天である。

そんなロケット団にトウキが問いかける。

 

「お前たちはいったい何者なんだ!」

 

「お前たちはいったい何者なんだ! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが―」

 

「それはさっきやったのニャー! ピカチュウをゲットできたんだからすぐ逃げるのニャー!」

 

「「そういやそうだ」」

 

さっきやったと言っても聞いていたのはあのカップルのお客さんだけなのだが…とりあえず逃げることにしたロケット団はボートのエンジンを動かしてトンズラする。

 

「「「というワケで帰る!」」」

 

「待てー! ロケット団!」

 

ピカチュウを連れて素早く逃げようとするロケット団だが、海の風は更に強くなり波が高くなる。

そして大きな波が真横からロケット団のボートを直撃するとボートが大きく揺れてバランスを崩してしまう。

 

「「「わたたたたた!?」」」

 

「ああっ、危ない!」

 

「「「どひゃー!?」」」

 

「ピカー!?」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシが声を発した直後、更に大きな波がロケット団のボートを襲いボートが転覆してしまい、ロケット団とピカチュウは海に投げ出されてしまう。

更に運の悪い事に海が荒れ、沖のほうからとてつもなく巨大な波が海岸へ迫ってきていた。

 

「あの波! ヤバいくらいのビッグウェーブだ! 皆すぐに陸に上がれ! 海岸から離れるんだ!」

 

「キャー!」

 

「逃げろー!」

 

トウキがそう叫ぶと海で遊んでいた人々はすぐさま陸に上がり、砂浜にいた人々もすぐに海岸から離れた。

海に出ていたヒョウカとそれに乗っていたハルカとマサトもすぐさま砂浜に戻ってくる。

 

「クゥ!」

 

「お兄ちゃん! 早く逃げないと!」

 

「ああ、だがピカチュウが取り残されてる! このままじゃ行けない!」

 

そう、ビッグウェーブがもうすぐそこまでやってきているというのにピカチュウとロケット団はこのままでは逃げることができない。

 

「ピカピー!」

 

「「「あぁああああ! お助け~!」」」

 

「ピカチュウー!」

 

サトシはピカチュウを助けるために単身海に飛び込もうとするがその前にトウキとハルカとマサトに手足を掴まれて引き止められてしまう。

 

「待てってサトシ君!」

 

「そうよサトシ! このまま行ったらサトシも波に飲み込まれちゃうかも!」

 

「他の方法を考えないと~!」

 

「そんな事してたら間に合わないだろ! ピカチュウ~!」

 

もうビッグウェーブはすぐそこまで来ている上に、サトシ達がいる砂浜もこのままでは波に飲み込まれてしまうだろう。

このままではサトシ達も波に巻き込まれてしまうという考えがトウキの頭をよぎったその時、黒い影がヒョウカに飛び乗り風のように海を駆けていった。

 

「急げヒョウカ! 全速力だ!」

 

「クー!」

 

黒い影ことソラトはヒョウカに指示を出すと全速力で海を泳がせてピカチュウの元へ向かう。

そしてピカチュウの元へとたどり着いたソラトとヒョウカはすぐにヒョウカの上へピカチュウを引き上げる。

 

「大丈夫かピカチュウ!?」

 

「ピカ…ピカピーカ!」

 

ピカチュウはヒョウカの上に乗るとホッとした様子を見せると、すぐに大丈夫だ!と言わんばかりに元気をアピールした。

 

「何よ! アタシ達は助けてくれないのー!?」

 

「まぁ何となく予想はしてたけどね…」

 

「ていうか乗せて貰ったとしてもこの波から逃げ切るのはもう無理ニャー!」

 

当然だがロケット団は無視である

波はすぐそこまで来ており、ヒョウカの泳ぎでも最早逃げられない所まで来ていた。

しかも後方の砂浜にはサトシ達がいるため、ソラトはこのまま黙って逃げる訳にはいかなかった。

 

「ピカチュウ! 大丈夫かー!?」

 

「ソラトー! 早くそこから逃げてー!」

 

「お兄ちゃん急いでー!」

 

「仕方ない…海への被害があるからあんまりやりたくなかったが…やるぞ」

 

「クゥ!」

 

ソラトとヒョウカは波から逃げる気配はなく、むしろ立ち向かうように向かい合い目を細めた。

 

「ヒョウカ、ぜったいれいど!」

 

「クゥー! クゥウウウウウウッ!」

 

ヒョウカの体から超低温の寒波が放出され、強烈な冷たい風と白い光が海を埋め尽くす。

あまりの低温と光に陸にいた全ての人々は思わず目を閉じてしまう―

 

「よくやったぞ、ヒョウカ」

 

「キュー、クゥ」

 

―そして目を開けた時、そこには南の島とは思えぬ銀世界が広がっていた。

あるのは完全に凍りついた海とビッグウェーブ、そしてその銀世界の中央にいるソラトとヒョウカ、ピカチュウだけであった。

凍りついた海は日の光を浴びて乱反射した光を放っており、周囲にはダイヤモンドダストが舞っている。

その美しい光景には誰しもが息を呑み、見とれていた。

 

「…すっげぇ」

 

「綺麗…」

 

「ぜったいれいど…当たれば相手を一撃で倒せる技だね…。それでこの辺り一帯を凍らせたんだ…」

 

サトシ達もこの光景を呆然と見ており、思わず見とれていた。

 

「…なるほど、面白い」

 

トウキも普段とは全く違う獰猛な笑みをその顔に浮かべてソラトを見つめていた。

そしてソラトはヒョウカに凍った海の上を滑らせて砂浜に戻らせた。

 

「ピカピ!」

 

「ピカチュウ! ピカチュウを助けてくれてありがとな、ソラト!」

 

「ああ。その代わり、しばらくビーチは使えなさそうだけどな…」

 

ソラトはそう言って周囲を見渡す。

ムロ島の気候は暖かいため、永久に凍ったままということはないだろうがそれでもこの氷が全て溶けるまでには時間がかかるだろう。

 

「すいませんトウキさん、海カチコチに凍らせてしまって…」

 

「いや、ピカチュウを助けるためには仕方の無い事さ。誰も君を責めはしないよ。まぁこれが溶けるのに1週間はかかっちまいそうだけどな」

 

カチコチに凍った海を見て申し訳無さそうに謝罪するソラトに、トウキは笑顔で返した。

大好きなサーフィンが1週間もできなくなりそうなのには流石に苦笑いだったが…。

 

「まあジュンサーさんには俺から後で報告しておくから心配しないでくれ」

 

「ありがとうございます。しかし派手にやっちまったな…厳重注意くらい受けるかもな」

 

やれやれといった具合で頭を押さえてやり過ぎを反省するソラトに、落ち着いてきたのかサトシ達は笑って答えた。

しかしトウキは顔つきを変えると目を細めてソラトを見据えた。

 

「サトシ君、予定通り君とのバトルは午後にするということでいいかな?」

 

「え、はい! お願いします!」

 

「それじゃあ、この海じゃサーフィンもできないし…ソラト君、これから俺とジム戦をしないかい?」

 

「…俺ですか?」

 

サトシとは午後という風に約束をしていたから予定通りなのだが、まさかソラトの方と先にバトルをするとは思わず皆首を傾げる。

 

「さっきの君とラプラスの連携と信頼関係は凄いと思ったんだ。そしてそんな君達の実力が、1人のジムリーダーとして気になって仕方ないのさ。どうかな、バトルを受けてくれないかい?」

 

「分かりました。元から挑むつもりでしたし、よろしくお願いします」

 

「よしきた! なら早速ジムに行こうか!」

 

こうしてまずはソラトとトウキのムロジムのジム戦が行われる流れとなり、サトシ達も共にムロジムへと向かう事になったのだった。

一方で―

 

「あばばばばば…」

 

「つ、冷たい…」

 

「誰か助けてくれニャ…」

 

「ソ~ナンス…」

 

―ぜったいれいどで凍った海の中で一緒に凍りながらもしぶとく喋っているロケット団なのでしたとさ。

 

 

 

ムロジムのシンプルなバトルフィールドで向かい合うソラトとトウキ。

既にお互いモンスターボールを持って準備は完了しており、審判の合図を待つばかりである。

観客席では先ほどまで海岸にいた人々が、ジムリーダーと海を凍らせた黒衣の青年のバトルを見ようと溢れかえっていた。

その1番前の席にはサトシとハルカとマサトもおり、ソラトのバトルを見守っている。

 

「ソラトー、頑張れよ!」

 

「お兄ちゃんいっけー!」

 

「油断しないでねソラト!」

 

それぞれの応援に、ソラトはトウキから視線を外さすに軽く手を振って答えるといつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「それではこれよりジムリーダートウキとチャンレンジャーソラトのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能となった時点でバトル終了とします!」

 

「ソラト君、君の経歴を見させて貰ったよ。それを見て君とのバトルで使うポケモンは俺が持つポケモンの中でも最強のヤツらを使わせてもらうぜ!」

 

「光栄です。俺も全力で行かせてもらいます!」

 

審判の宣言にバトルのための緊張感が高まっていく2人。

周囲で応援しているサトシ達も思わず息を呑んでしまうほどだった。

 

「それでは、バトル開始!」

 

「サワムラー、テイクオフ!」

 

「サワッ!」

 

「モウキン、バトルの時間だ!」

 

「ヴォー!」

 

トウキが繰り出したのはかくとうタイプ、キックの鬼の異名を持つキックポケモンのサワムラー。

対するソラトが繰り出したのはひこう/ノーマルタイプであるゆうもうポケモンのウォーグルだった。

 

「ソラトのポケモンって…」

 

「初めてみるポケモンだわ」

 

「僕もあのポケモンは見たことないや」

 

ポケモンについて色んな事を知るマサトですらウォーグルの姿を見たことはなかったのか目を見開いてウォーグルを見つめていた。

ハルカはポケモン図鑑を開いて検索してデータを見ようとするが、図鑑には「該当データ無し」の文字が浮かび上がっていた。

 

「え? 図鑑に載って無いポケモンなの?」

 

「きっと遠くの地方に生息してるポケモンなんだよ。それか凄く珍しいポケモンかのどっちかだね」

 

ウォーグルの事は一旦置いておき、2人がポケモンを繰り出したのを確認した審判は両手のフラッグを勢い良く振り下ろした。

 

「それではバトル開始!」

 

「モウキン、まずはおいかぜ!」

 

「ウォー!!」

 

ウォーグルのモウキンは力強く翼で羽ばたくと、室内だというのにモウキンの背中を押すような追い風が吹き始めた。

これでまずは素早さを高めて攻めていくつもりなのだろう。

 

「こっちもまずは軽いジャブからだ。サワムラー、ストーンエッジ!」

 

「サーワッ!」

 

サワムラーは突如自分の周囲に幾つもの石の刃を出現させると、それを空中のモウキンに向けて一斉に発射した。

いわタイプの技であるストーンエッジはひこうタイプを持つモウキンにはこうかはばつぐんである。

苦手なひこうタイプへの対策は万全のようだ。

 

「かわせモウキン!」

 

だが易々と当たるソラトではなく、すぐさま回避の指示を出すと素早さが上がって加速したモウキンはストーンエッジの刃を掻い潜りサワムラーに接近していく。

 

「今だモウキン、ブレイブバード!」

 

「甘いぜソラト君! サワムラー、ふいうちだ!」

 

「ヴォー…!」

 

「サイヤッ!」

 

「ヴォッ!?」

 

回避して突っ込む勢いを利用してそのままブレイブバードを放とうとしたモウキンだったが、サワムラーは相手が攻撃技を使う際に使うと必ず先制攻撃できる技、ふいうちを使った。

結果、ブレイブバードより先にふいうちが決まりサワムラーがモウキンを吹き飛ばした。

 

「モウキン、大丈夫か!?」

 

「ウォー!」

 

「よし、まだ行けるな。距離を取りつつもう1度ブレイブバード!」

 

「ヴォオオオッ!」

 

ダメージがそれほど多くなく、まだ戦闘が十分可能だと確認したソラトは今度はふいうちが決まらない距離である空中から攻撃するように指示を出した。

だがそんな直線的な攻撃を黙って受けるトウキではなかった。

 

「正面から来るならこっちだってやってやる! サワムラー、ストーンエッジ!」

 

「サワラッ!」

 

再びストーンエッジを真正面から来るモウキンに放つサワムラー。

一気に向かってきているだけあってこのタイミングで回避するのはほぼ不可能であり、モウキンにストーンエッジが直撃する。

 

「ヴォッ…ウォオオオオオオッ!」

 

「サワッ!?」

 

直撃の衝撃で砂埃が周囲に広がるが、それを切り裂いてモウキンは勢いを緩めずにブレイブバードをサワムラーに命中させた。

 

「サワアアアアッ!?」

 

「サワムラー! 大丈夫か、しっかりしろ!」

 

「サワ…」

 

ブレイブバードはかくとうタイプであるサワムラーにはこうかはばつぐんでありかなりのダメージを受けたがサワムラーはまだ戦闘はできそうである。

そしてモウキンもブレイブバードを命中させた事による反動を受けてしまい更なるダメージを受ける。

現在の状況はモウキンの方が多くダメージを受けておりトウキのペースに見えるが、今の攻防の間にもソラトは追撃に手を緩めない。

 

「根性見せろよモウキン! 更にばかぢから!」

 

「ウォッ、ウォオオオオアッ!」

 

「サッ!? サワーッ!?」

 

サワムラーが立ち上がる所へ追撃をかけるようにしてモウキンは両足に懇親の力を込めてばかぢからを放つ。

見事サワムラーに命中すると、サワムラーは場外まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「サワムラー!? しっかりしろ!」

 

「サワ…ムラ…」

 

壁に叩きつけられて地面に倒れたたサワムラーだったが、何とか立ち上がり跳躍してフィールド内に戻ると肩で息をしながらも再び構えを取った。

 

「まだやるか…モウキン、気をつけろ!」

 

「ウォッ!」

 

「サワムラーがキックの鬼と呼ばれる所以を見せてやるぜ! サワムラー、メガトンキック!」

 

「サワッ!」

 

「モウキン、上昇しろ!」

 

サワムラーがキックの体制を取るとモウキンはすぐさま上昇してキックが届かないように距離を取る。

だがその動きを見てトウキが口端を上げてニヤリと笑った。

 

「今だサワムラー!」

 

「シャッ!」

 

「なっ!? よけろモウキン!」

 

サワムラーは空中にいるモウキンに目掛けてメガトンキックを繰り出すと、バネのように脚が伸びてキックがモウキンへと接近する。

だが間一髪、おいかぜにより素早さが上がっていたおかげかモウキンはメガトンキックを回避することに成功した。

だが…

 

「君らなら必ず避けると思ったぜ! 今だサワムラー、とびひざげり!」

 

メガトンキックを避けるのは予想通りだったのか、動きを先読みしてサワムラーが空中に飛び上がりその膝をモウキンに叩き込む!

 

「サワッ!」

 

「ウォッ!? ウォオオッ!?」

 

「モウキン! とんぼがえり!」

 

「ウォッ! ヴォオオオッ!」

 

「サワーッ!?」

 

モウキンは吹き飛ばされると地面に叩き落されそうになるが、ソラトの声を聞くとカッと目を見開くとギリギリの所で踏みとどまり体勢を立て直した。

そしてとんぼがえりを繰り出してむしタイプの力を纏いながらサワムラーに体当たりを行いそのままソラトの手元へ光となって帰っていく。

とんぼがえりは発動すると他の手持ちと入れ替わる技であるためソラトの持つモンスターボールへと戻っていったのだ。

そして今のとんぼがえりを受けてサワムラーは地面に倒れ動けなくなってしまった。

 

「サワ~…」

 

「サワムラー戦闘不能! ウォーグルの勝ち!」

 

「よくやったな、戻れサワムラー。ウォーグルもかなり消耗してるし、次のポケモンを抑えれば勝機はある! 続いて行くぞエビワラー、テイクオフ!」

 

「エビャッ!」

 

トウキの2体目のポケモンはサワムラーとはある種対となるポケモン、パンチの鬼ことパンチポケモンのエビワラーだった。

また、ソラトもとんぼがえりで戻ったモウキンに代わりのポケモンを繰り出す。

 

「レイ、バトルの時間だ!」

 

「サナ」

 

出てきたポケモンは以前に見た5年前のポケモンリーグでソラトが使っていたサーナイトのレイだった。

モンスターボールから出てきたレイはふわりとスカートのような体を漂わせながら優雅に着地した。

そしてレイはソラトに向かいあうと両手でスカートの裾を掴むようにしながら頭を下げた。

まるでどこかの令嬢が主人に挨拶するような仕草に気品が溢れ出ている。

 

「レイ、お前ならやれる筈だ。よろしく頼むぜ」

 

「サナッ」

 

ソラトもレイにそう言うとレイはまたしても優雅に振り向きバトルに備えた。

と、そこでエビワラーの様子を見ると視線はレイに釘付け。更には目がハートマークになっていた。

 

「エビー! エビエビ!」

 

「サナ?」

 

「エビビ! エビ!」

 

どこに持っていたのかエビワラーは花束を取り出すとレイに向けて差し出して気を引こうとしている。

完全にメロメロ状態であった。

 

「こらエビワラー! これからジムバトルなんだからしっかりしろ!」

 

「エビャ…エビ…」

 

勝手にメロメロになっていたエビワラーだったが、トウキに怒られるとションボリした様子ながらもバトルをするために花束を捨てて所定の位置に戻り拳を構えた。

 

「えー、それではバトル開始!」

 

「レイ、めいそうだ」

 

「サーナー…」

 

改めてバトルが始まると、レイは目を閉じて両手を合わせると心を落ち着かせるようにして特殊攻撃力と特殊防御力を高めた。

だがこの隙にトウキはエビワラーに攻撃の指示を出す。

 

「エビワラー、とびひざげり!」

 

「エッビ!」

 

強烈な膝蹴りが放たれめいそう中のレイにクリーンヒットするが、レイは数メートル後ずさりしただけで特にダメージを受けた様子は見せなかった。

 

「何っ!? いくらこうかはひまひとつだからってそんな余裕で…」

 

「ご存知ないかもしれませんが、レイにかくとう技はほぼ効きませんよ。なんたってエスパー/フェアリータイプですからね」

 

「フェアリータイプ?」

 

聞き慣れないタイプ名に思わず聞き返したサトシだけではなく、トウキや周囲でバトルを観戦していたほとんどの人が首を傾げていた。

 

「ご存知ないですか? 最近発見された新しいタイプですよ。かくとうタイプやあくタイプ、ドラゴンタイプに有効で、どくタイプ、はがねタイプに弱いタイプなんです」

 

「へぇ…そんなタイプがあったとはな。それじゃバトルの続きといこう!」

 

「はい! レイ、めいそう!」

 

「サナ」

 

バトルが再開されるとレイは目を閉じて精神を集中させ、特殊攻撃力と特殊防御力を高めているのだ。

だがそんな隙を見逃すほどトウキは甘くは無かった。

 

「弱点をバラしたのはマズかったんじゃないかな? エビワラー、バレットパンチ!」

 

「エビャッ!」

 

「サナッ!?」

 

強烈なはがねタイプのパンチがレイに突き刺さり、大きく後退しながらレイは苦痛に顔を歪めた。

こうかはばつぐんだが、レイはすぐに表情を引き締めてソラトの指示を待つ。

 

「さっきのソラトの話ならはがねタイプの技であるバレットパンチはこうかはばつぐんだよ! 得意なエスパー技で反撃しないと!」

 

「頑張れソラトー!」

 

こうかばつぐんの技を受けたレイを見てマサトがソラトにアドバイスをし、サトシが声援を送ると、ソラトは相変わらずの不敵な笑みを浮かべて次の指示を出した。

 

「レイ、めいそう!」

 

「サナ」

 

「ええっ!? 何でめいそう!?」

 

「お兄ちゃん、反撃しないとやられちゃうかも!」

 

だがソラトは反撃には出ずに未だにめいそうをさせ続けた。

これには観客席で見ていたマサトも驚きと焦りで思わず立ち上がってしまい、ハルカも不安そうな視線でバトルを見ていた。

 

「一気に押し切れエビワラー! れいとうパンチ!」

 

「エビエビエビ!」

 

今度は冷気を纏ったパンチを放つエビワラーの動きは直線的だが、レイはめいそうを続けており回避せずにまともに受けてしまう。

またしても後ずさりしてしまいフィールドの端にまで押し切られてしまい追い詰められる。

客観的に見ればソラトはレイにめいそうばかりさせており圧倒的に追い詰められているが、不敵な笑みは崩してはいなかった。

 

「レイ、更にめいそう!」

 

「サナッ」

 

「どうしたんだよソラト!? やられちゃうぞ!」

 

だがそれでもめいそうを続けさせるソラトに観客席のサトシは焦りで叫んでしまう。

そしてトウキは一気に勝負を決めるためにトドメの一撃を指示する。

 

「エビワラー、トドメのバレットパンチ!」

 

「エビャ! エービャ!」

 

「サナッ! サ…ナ…」

 

強烈な鋼のパンチがレイに突き刺さり、今度こそレイは倒れてしまう―

 

「レイ、お前を信じている…!」

 

「サナ…サーナッ!」

 

―と思った瞬間、レイは膝に力を入れなおして持ち直した。

その目には闘志が燃え上がっており、ソラトへの絶対の信頼が現れていた。

 

「なっ、まだ戦えるのか!? だったらエビワラー、バレットパンチ!」

 

「エビッ!」

 

「レイ、フィールド全体にサイコキネシス!」

 

「サー…ナァアアアッ!」

 

今度こそ勝負を決めようとしたトウキはエビワラーにバレットパンチを指示するが、その前にレイはバトルフィールド全体に強力な念力であるサイコキネシスを放つ。

強烈な念力はフィールドを引き裂き、エビワラーの足場を奪い技が不発に終わってしまう。

 

「エビーッ!?」

 

「な、なんてパワーなんだ!?」

 

「今だ! ドレインキッス!」

 

「サナ…ナッ」

 

フィールドを引き裂いて空中に弾かれてしまったエビワラーはドレインキッスを避ける事ができず、まともにレイの投げキッスを受けてしまう。

ドレインキッスを受けたエビワラーからエネルギーが発生すると、レイがそのエネルギーを取り込んで体力を回復させた。

めいそうで高めた特殊攻撃力により、エビワラーへ効果的にダメージを与えつつ体力を回復した。

 

「これで五分…いや、流れを掴んでるのはこっちだ! レイ、サイコキネシス!」

 

「サナッ!」

 

「よけるんだエビワラー!」

 

「エビ…!」

 

素早いフットワークでレイのサイコエネルギーを回避していくエビワラーだが、ドレインキッスのダメージが残っているためにか動きのキレが先ほどよりも悪くなっている。

 

「くっ、エビワラー、れいとうパンチ!」

 

「レイ、ハイパーボイス!」

 

「エビャ…!」

 

「サーナー!」

 

れいとうパンチを放って流れを変えようとするエビワラーだったが、その拳が届く前にレイのハイパーボイスがフィールドを奔りエビワラーは動きを止めてしまう。

 

「しまった! 逃げろエビワラー!」

 

「トドメだレイ! サイコキネシス!」

 

「サナナッ!」

 

「エビャー!」

 

動きが止まった瞬間を見逃さずに強烈なサイコキネシスがエビワラーを捕らえると、そのまま場外の壁へと叩きつけた。

そしてエビワラーは完全に目を回しており、戦闘不能となっていた。

 

「エビワラー戦闘不能! サーナイトの勝ち! よって勝者、チャレンジャーソラト!」

 

ソラトが激闘を制し、見事2つ目のジム戦に勝利したのだった。

 

「レイ、よく耐えてくれたな。ありがとう」

 

「サーナサナ」

 

「戻れエビワラー、お疲れ様。ソラト君、いいバトルだったよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

トウキはエビワラーをボールに戻すと全力で戦ったからだろうか晴れ晴れとした笑顔でソラトに近寄り手を差し出す。

ソラトもそれに応えてその手を掴んで固い握手を交わした。

 

「それじゃバッジは後で渡すとして…次はサトシ君だ準備はいいかい?」

 

「はい! よーし、俺もソラトに負けずにバッジゲットだぜ!」

 

ソラトとの試合が終わるとトウキはサトシに声をかける。

サトシもやる気は元々十分あり、更に今のバトルを見たせいでか何時も以上に燃えあがっていた。

 

レイのサイコキネシスで引き裂かれたフィールドを修復し、トウキとサトシはそれぞれモンスターボールを構える。

 

「それではこれよりジムリーダートウキとチャンレンジャーサトシのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能となった時点でバトル終了とします!」

 

「俺の1体目はコイツだ! 行けスバメ!」

 

「スバー!」

 

「今度は負けないぜ、ワンリキー、テイクオフ!」

 

「リキ!」

 

サトシはセオリー通りかくとうタイプに有効なスバメを繰り出して試合の流れを掴む気だろう。

それに対してトウキが繰り出したのはかいりきポケモンのワンリキー。

かくとうタイプのポケモンとしては基本的でありつつも小さな体に凄まじいパワーを秘めている。

ハルカはワンリキーを初めて見たのかポケモン図鑑を開いて検索をかける。

 

「ワンリキー?」

 

『ワンリキー かいりきポケモン

どんなに運動しても痛くならない特別な筋肉を持つポケモン。大人100人を投げ飛ばすパワーを持つ。』

 

「凄い…サトシ、大丈夫なの!?」

 

「へっ、任せとけって! ソラトにも負けられない! こんな試合あっという間に終わらせてやるぜ!」

 

心配して声をかけるハルカにサトシは自信満々にそう返す。

だがその言葉に、ソラトは僅かに表情を厳しくした。

 

「それでは試合始め!」

 

「スバメ、つばさでうつ攻撃!」

 

「スバー!」

 

試合が始まると同時にサトシは速攻をかけ、スバメのつばさが輝きワンリキーに接近する。

 

「来るぞワンリキー!」

 

「リキ! リキーッ!」

 

つばさでうつは見事にワンリキーに命中するとワンリキーは地面を転がるように大きく吹き飛ばされた。

だがワンリキーは先ほどと変わらぬ表情を見せるとスッと起き上がった。

興奮しているサトシはワンリキーの余裕そうな表情に気づいていないが、トウキは口角を上げて僅かに笑っていた。

 

「いいぞスバメ! もう1発つばさでうつだ!」

 

「スバッ!」

 

「リキーッ!」

 

再びつばさでうつがワンリキーを打ち据え大きく吹き飛ばした。

またしてもゴロゴロ転がるように吹き飛ばされたワンリキーだが、その勢いを利用したかのように再び立ち上がった。

それを見て、ソラトは大きく目を見開いた。

 

「トウキさん、さっきの俺とのバトルと戦法が違う…」

 

「え?」

 

「どういう事ソラト?」

 

「…見ていれば分かる」

 

何かトウキの様子が先ほどと違うと感づいたソラトだが、試合をしているサトシはガンガン押しているこのペースを維持するために連続攻撃を仕掛けていた。

 

「相手が反撃してこない今がチャンスだ! 連続でつばさでうつ!」

 

「スバスバスバー!」

 

「リキリキリキーッ!」

 

3連続で翼をワンリキーに叩きつけるスバメだが、ワンリキーは地面を転がるとすぐに立ち上がり大きなダメージを受けた様子を見せなかった。

流石にこうかばつぐんの技をこれだけ受けても立ち上がるワンリキーを見てサトシも動揺する。

 

「そんな! 何で立ち上がれるんだ!?」

 

「スバメの攻撃は、当たってないんじゃない!?」

 

「いや、当たってはいる。だがワンリキーは攻撃がヒットする直前に後ろに跳んで、衝撃を和らげている。ダメージは最小限になっている筈だ」

 

サトシとマサトの疑問に答えたのは、冷静な観察眼でトウキの戦法とワンリキーの動きを見切ったソラトだった。

ソラトの言うとおり、ワンリキーはスバメの攻撃の全てを受け流していたのだった。

 

「だったら次はスピードで勝負だ! スバメ、でんこうせっか!」

 

「ワンリキー、クロスチョップ!」

 

「スバーッ!」

 

「リキー! リキッ!」

 

「スバッ!?」

 

スバメが高速で下降し、でんこうせっかを繰り出したのを待ち構えて交差したチョップで迎え撃ったワンリキー。

正面からのぶつかり合いならばワンリキーの方に軍配が上がり、スバメは吹き飛ばされて戦闘不能になってしまう。

 

「ああっ、スバメ!」

 

「スバメ、戦闘不能! ワンリキーの勝ち!」

 

「ワンリキー、よくやった!」

 

「リキリキ!」

 

先鋒戦を制したのはトウキのワンリキーだった。

先ほどの自分とのバトル、そして今のバトルを観察したソラトはある1つの結論にたどり着いた。

 

「なるほど、あれがトウキさん本来のバトルスタイルって事か」

 

「えっ、どういう事なのお兄ちゃん?」

 

「さっきの俺とのバトルは力と力のぶつかり合い、云わば剛と剛の戦いだった。だが今のトウキさんはその逆、柔の戦いをしている。相手の力を受け流し、ここぞという時に全てをぶつけるあの動き…サーフィンで培われた足腰が活きているな」

 

「別にさっきの戦いも俺の全力さ。ただ、剛の戦いは俺も熱くなり過ぎちゃうから中々しないんだけどね」

 

「なるほど…サトシにとっては相性の悪い相手だな。さてどう出るサトシ…?」

 

ソラトの分析に対して否定をしないところを見ると、それは概ね当たっているのだろう。

それを確認したソラトはサトシが次にどんな手を取るか目を細めて観戦する。

 

「攻撃をかわす内にいつか疲れが出るはずだ。ここは真正面から連続攻撃だ! キモリ、キミに決めた!」

 

「「ええっ!?」」

 

「…」

 

作戦を変えないと言うサトシはキモリを繰り出して次の戦いに備える。

ハルカとマサトはサトシの作戦続行に驚きの声をあげ、ソラトは無言でフードを目深に被った。

 

「キャモ!」

 

「キモリ、はたく攻撃だ!」

 

「キャーッモ!」

 

「リキー!」

 

サトシはキモリに真正面からはたくで攻撃をさせるが、結果は先ほどと同じように受け流されてしまいほとんどダメージになっていなかった。

それでもキモリのはたく攻撃のキレに何か感じる所があったのかトウキは感心した表情になる。

 

「ほぅ、中々良いはたくだね」

 

「キモリ、攻撃の手を緩めるな! はたくはたくはたくだ!」

 

「キャモキャモキャモ!」

 

「リキ、リキ…リキ…!」

 

「あっ、ワンリキーの動きが!」

 

攻撃を受け流していても全くダメージを受けていない訳ではない。

更にサトシの言うとおり大きく動いていた事による体力の消耗からワンリキーの動きが止まった。

待っていたその隙を、サトシは見逃さない。

 

「キモリ、でんこうせっか!」

 

「かわせワンリキー!」

 

「キャモキャモ!」

 

「リキ!」

 

キモリの素早いでんこうせっかが放たれるが、間一髪でワンリキーは攻撃を避ける。

 

「今だ、はたく攻撃!」

 

「何っ!?」

 

「キャーモッ!」

 

「リッキー!?」

 

だが接近していた状況とスピードが乗っていた事を利用してキモリは大きく体を捻ってはたく攻撃を繰り出すと、ワンリキーを大きく吹き飛ばす。

今度は間違いなくクリーンヒットした。

そしてワンリキーは蓄積していたダメージが祟り、立ち上がる事はできなかった。

 

「ワンリキー戦闘不能! キモリの勝ち!」

 

「戻れワンリキー」

 

「どうだ、俺の言ったとおりだろ! これで1対1だ!」

 

「面白くなってきたな。波は危険で大きなビッグウェーブほど、ライドのし甲斐があるってモンさ」

 

「サトシ挽回してきたわね!」

 

「うん!」

 

ワンリキーを倒し、勢いづくサトシとその勢いに負けず不敵な笑みを浮かべているトウキ。

観客席のハルカとマサトも希望が見えてきた事を喜び、笑顔を浮かべている。

そんな中、ソラトだけはフードの下で目を細めてキモリを見ていた。

 

「マクノシタ、テイクオフ!」

 

「ノシタ! ノシ、ノシ!」

 

「キモリ、はたくで一気に決めてやれ!」

 

「キャーッモ!」

 

キモリは力強くはたく攻撃を繰り出すが、マクノシタは先ほどのワンリキーと同じように転がるように攻撃を受け流してしまう。

身のこなしはワンリキー以上であるため、先ほどよりもダメージや疲れは期待できないだろう。

 

「いいぞ、サーフィン仕込みの身のこなしで受け流せ!」

 

「クソッ! はたくはたくはたくだッ!」

 

「キャモ…! キャ…!」

 

受け流しを続けるマクノシタに対してそれでも真正面から攻撃を繰り出すことにこだわるサトシだったが、キモリのスタミナが切れてしまい、キモリはその場に方膝を着いてしまう。

 

「どうした? その程度かい?」

 

「キモリ、でんこうせっかだ!」

 

「マクノシタ、あてみなげだ!」

 

「キャモ! キャモッ!?」

 

「ノシタ!」

 

でんこうせっかを繰り出すキモリに対してマクノシタは優れた体格でそのスピードを受け止めると、首を掴んでキモリを地面に叩きつけた。

まともに攻撃を受けてしまったキモリに、もう立ち上がる力はないと誰もが思っていた。

 

「どうやらこの勝負、ここまでみたいだね」

 

「キャ…キャモ…!」

 

「何ッ!?」

 

だが、キモリは立ち上がった。

全身ボロボロで、誰が見ても慢心相違でもうほとんど戦えないのは目に見えていた。

それでもサトシはまだ勝負がついていないのが嬉しかったのか闘志を燃やす。

 

「いいぞキモリ! お前の根性は世界一だぜ! …えっ!?」

 

「なっ、マクノシタ!?」

 

キモリが立ち上がった事に気をとられていたが、マクノシタの体が輝きだし、徐々に姿を変え始めた。

これは紛れも無く進化の光だった!

 

「ハリーテ!」

 

「マクノシタがハリテヤマに進化した!」

 

「ハリテヤマ?」

 

『ハリテヤマ つっぱりポケモン

マクノシタの進化系。

肥った体は全身筋肉の塊。ぐぐっと全身に力を込めると筋肉は岩と同じ硬さになる。』

 

「今のキモリにハリテヤマの相手は無理だ。キミのビッグウェーブはもう去っちまったんだぜ」

 

バトルそのものの流れもトウキが掴んでおり、ポケモンの体力もキモリはもう僅かしか残っていないだろう。

更に進化してパワーアップしたハリテヤマが相手では最早サトシに勝ち目は無い。

ギブアップするのが当然の流れだろう。

だが―

 

「そんなこと無い! キモリ、エナジーボール!」

 

「キャーモ!」

 

「ハリーテッ!」

 

キモリはエナジーボールを撃ち出すが、ハリテヤマはその手の平でエナジーボールを容易く受け止め掻き消してしまう。

そしてトドメの攻撃態勢に入る!

 

「ハリテヤマ、つっぱりだ!」

 

「ハリハリハリ、ハリーテ!」

 

「キャモー!?」

 

4連続のつっぱりが決まり、キモリはフィールド外に叩き出されてしまい壁に激突する。

今度こそ立ち上がる力は残っていなかった。

 

「キモリ戦闘不能! ハリテヤマの勝ち! よって勝者、ジムリーダートウキ!」

 

「キモリ!」

 

「良いバトルだったよ。早くキモリをポケモンセンターに連れて行ってやるんだな」

 

そう言い残すとトウキはジム戦に勝利したソラトに持っていたナックルバッジを差し出す。

 

「ソラト君、これが―」

 

だがソラトはトウキの言葉を手で制するとフードの端から見える口を、僅かに吊り上げてこう返した。

 

「そのバッジは、また後日取りに来ます。…アイツと一緒に」

 

ソラトの言うアイツというのが誰の事なのか、そしてどういう意図があってなのかを察したトウキはフッと微笑むとバッジをしまう。

 

「分かった。それじゃその時までこのバッジは預かっておくよ」

 

「はい」

 

「……くっ」

 

そしてサトシは悔しそうにキモリを抱え上げ、ポケモンセンターに向かうのだった。

 

 

 

日も傾き始めた頃、キモリはポケモンセンターで治療を受けていた。

 

「ジョーイさん、キモリは…」

 

「体に異常はないけど、ポケモンがこんなになるまで試合を続けるなんてどうかと思うわ。しばらくはゆっくりさせてあげてね」

 

一通りの治療を終えたジョーイさんはキモリの病室から出て行くと、傍で控えていたハルカとマサトがサトシを励まそうと声をかける。

 

「ジョーイさんの言うとおりよ」

 

「熱くなりすぎちゃったね。引き際も肝心だよね!」

 

だがまだ熱が抜け切っていないのか、サトシは悔しそうに歯を食いしばりながら顔を上げると大声で反論した。

 

「…皆に何が分かるんだよ! あともうちょっとだったんだぞ! なのに、あんな遊んでばかりのジムリーダーに負けるなんて…!」

 

「サトシ、ちょっと頭を冷やし―」

 

「うるさい!!」

 

「ピカピ!」

 

自分は必死に修行してきて、バトルをしたのにサーフィンで遊び呆けているようなトウキに負けたのがどうしても納得できないのだろう。

ハルカがサトシを落ち着かせようとするが、サトシはそれすらも聞き入れずにポケモンセンターを飛び出していってしまった。

ピカチュウはサトシの後を追うが、ハルカもマサトもあまりの事にその場を動けずにいた。

 

そしてサトシはトボトボと海岸線を歩いて気を紛らわせていた。

サトシだって分かっている。熱くなりすぎてキモリに無茶をさせてしまい、心配して元気付けようとしてくれたハルカとマサトに酷いことを言ってしまったと。

 

「ピカチュウ、俺…キモリに酷いことしちゃったよ。ハルカとマサトにも酷い事言って…」

 

「ピィカ…ピ?」

 

「えっ?」

 

ピカチュウの声に反応してサトシが顔を上げると、そこには砂浜にある大きな岩に座って海風を浴びているソラトが居た。

まるでサトシを待っていたかのように佇んでいたソラトは、サトシが来たのに気がつくとフッと優しく微笑んで被っていたフードを外した。

 

「サトシも座れよ」

 

「え、あ、俺……」

 

「ピッカ」

 

「……」

 

どうすればいいか分からないサトシだったが、ピカチュウがソラトの隣に座ったのを見て戸惑いつつもピカチュウを挟みソラトの隣に腰を降ろす。

 

「…その、俺」

 

「独りよがりだった…だろ?」

 

「え」

 

「バトルはポケモンと一緒にするもので、自分のポケモンの事も相手のポケモンの事も考えなきゃいけないのに、自分の事しか考えてなかった。違うか?」

 

まるでサトシの考えを何もかも見抜いているような、そんな口調で語りかけるソラトはとても優しく笑っていた。

サトシも誰かに話がしたかったのか、そこまで見抜かれているなら仕方ないと思ったのか、ソラトに全部話す事にした。

 

「…うん。俺、仲間たちに酷い事しちゃったし、トウキさんにも失礼な事思ってた…トレーナー失格だよ」

 

「失敗したなら糧にすればいい。間違ったなら正せばいい。ダメだったならまたやればいい」

 

「……」

 

「俺は5年の旅で自分にそう言い聞かせてきた。オヤジを追う上で何度も失敗して、間違って…真っ暗で何も見えないような絶望した事もあった。でも、真っ暗だからこそ小さな光明ですら必ず届くんだ」

 

そこまで言うと、ソラトは岩から立ち上がって波打ち際まで足を進めて振り返った。

綺麗な赤い夕日がソラトを後ろから照らして輝かせる。

だがサトシはそんな夕日とは関係なく、何故かソラトの事をとても眩しく感じた。

 

「…お前は、諦めるにはまだ若すぎるぜサトシ」

 

夕日を背にしてニッと笑いながらソラトがそう言うと、サトシは心の中に何かが芽生えたのを感じた。

何か…というのを言葉で表すことはできないが、とにかく自分の中で、今までになかった何かが生まれたのを感じたのだ。

 

「ソラト…」

 

「ほら、後ろ」

 

「えっ?」

 

サトシが後ろを振り返るとそこにはサトシを追って今ここに来たのか、ハルカとマサトが立っていた。

罪悪感から一瞬居たたまれなくなるサトシだが、そんな想いを振り切ってハルカとマサトに頭を下げる。

 

「ハルカ、マサト、さっきはゴメンな」

 

「「え?」」

 

「俺、皆が許してくれるなら、この島でポケモン修行がしたいんだ」

 

先ほどまでと雰囲気が丸っきり変わり、真剣かつ前向きな表情になったサトシを見て、ハルカもマサトももう吹っ切れたのだと察した。

そして笑顔を浮かべ、こう答えた。

 

「許すも何も、大賛成よ」

 

「うん! この島珍しいポケモンもいそうだしね!」

 

「ありがとう! よーし、俺もトウキさんに負けないように頑張るぞ!」

 

試合に負けて、更なる闘志を燃やすサトシ。

ムロ島での修行の日々が、今始まろうとしていた。

 

そして、己の中に芽生えたある想いに気がつくのは…今はまだ先の話である。

 

 

 

to be continued...




次回はあの方が登場しつつ、アレのお披露目になります。

あの方→結局僕が1番凄くて強いんだよね。

アレ→進化を超えろ!


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激突メガバトル! ラグラージVSメタグロス

ちょっと遅くなって申し訳ありません。
今回はタイトル通りメガバトルです。


ホウエン地方2番目のジムがあるムロ島に到着したサトシとソラトは、早速ムロジムジムリーダーのトウキにバトルを申し込む。

ソラトはウォーグルのモウキンとサーナイトのレイを使い、見事力と力のぶつかり合いを制した。

続くサトシもキモリとスバメで挑戦するが、攻撃を受け流す戦法に苦戦を強いられてしまう。

これにより自分を見失ったサトシは無理をしてバトルを続行するも、進化したハリテヤマに惨敗。

更にキモリも大ダメージを負ってしまう。

だがサトシはソラトの導きにより自分を取り戻し、ムロ島で修行をする事を決意するのだった。

 

朝、日が昇り始めた頃。

カーテンの隙間から射す光に刺激され、ハルカは目を覚まして大きな欠伸をする。

 

「ふぁぁ…おはよう…あれ、サトシとピカチュウは?」

 

ポケモンセンターで借りている部屋には2つの2段ベッドがあり、昨夜はここで全員寝ていた筈だったが、サトシの姿だけ見えなくなっていた。

 

「ふわぁ、昨日の夜はいたのにね」

 

「…ん、何となく予想はつくな。とりあえず朝メシ食べに行くか」

 

3人で部屋を出てポケモンセンターの中を歩いていると、キモリが治療を受けている病室の前のベンチで毛布だけかぶってサトシとピカチュウが眠っていた。

こんな場所ではよく眠れないのにも関わらず寝ているとは、余程キモリの傍に居たかったのだろう。

 

「「「サトシ」」」

 

皆で声をかけると、眠そうにしながらも起きたサトシは目を擦って周りを確認した。

 

「…ん、ああ皆」

 

「こんな所で寝てたら風邪ひくわよ」

 

「あぁ、でもキモリの事が心配だったんだ」

 

「ピィカチュウ」

 

目が覚めたサトシは治療を受けているキモリがよく見えるガラス張りの壁へ近寄り中の様子を見る。

治療器の中で眠るキモリの体の傷はほとんど治っており、今はもうゆっくり眠っているように見える。

 

「キモリ、大丈夫かな」

 

「ピーカ」

 

「大丈夫だ。キモリから感じられる波動は安定してるから、体の調子は元に戻ってるさ」

 

「そっか! なら良かった!」

 

と、そこへキモリの病室からジョーイさんが出てくる。

どうやら治療が終わったようだ。

 

「ジョーイさん、おはようございます」

 

「「「おはようございます」」」

 

「おはよう」

 

「あの、キモリの様子はどうですか?」

 

朝の挨拶を軽く済ませると、サトシはすぐにキモリの容態について聞く。

今ソラトに大丈夫だと言われたが、治療を担当してくれたジョーイさんからも大丈夫だという事をちゃんと聞いておきたいのだろう。

するとジョーイさんは笑顔で答えてくれた。

 

「安心して。もう大丈夫よ」

 

「ホントですか! 良かった!」

 

その後サトシ達はすぐにポケモンセンターのロビーに移動するとボールに納められたキモリとスバメを受け取った。

 

「はい、サトシ君」

 

「ありがとうございます! キモリ、スバメ、出て来い!」

 

「キャモ」

 

「スバスバ!」

 

様子を確認するために2つのボールを開けると、キモリもスバメも元気な様子で朝の挨拶を交わした。

もう2体とも傷は完全に癒え、万全の調子を取り戻したようである。

 

「すっかり元気になったみたいだね!」

 

「2人ともゴメンな。昨日は俺が悪かったよ」

 

「スバスバ~」

 

「キャ~モ」

 

昨日無理をさせ過ぎた事を反省しているサトシはキモリとスバメにそう謝るが、2体とも気にするなと言うように首を横に振った。

サトシも反省し、キモリとスバメも根に持つように思ってはいない。

こうなれば、後は次のために頑張るだけである!

 

「ありがとな! また一緒に頑張ろうぜ!」

 

「ピィッカチュウ!」

 

こうしていつもの調子を取り戻したサトシ達はとりあえず体力をつけるためにポケモンセンターの朝食を食べることにした。

ポケモン達にもそれぞれポケモンフーズを食べさせて今日も1日頑張るのである。

中でもハルカのケムッソはトレーナーに似て凄い勢いで食べていく。

 

「ケムケムケムケム!」

 

「ケムッソ、沢山食べて大きくなるのよ」

 

「ケム!」

 

「よーし、俺も今日からポケモン修行開始だぜ! でも、どこでどうやって修行しようかな」

 

「修行って、やっぱ滝に打たれるとかかな?」

 

「うーん…」

 

サトシ達が修行について話し合っていると、ササッとサンドイッチを食べ終わったソラトは一息ついて立ち上がりリュックを背負った。

 

「さて、俺はちょっと用事済ませてくるわ」

 

「用事? 何するのお兄ちゃん?」

 

「ツワブキ社長から預かったこの手紙を渡しに行くのさ。ムロ島の石の洞窟にいるって言ってただろ」

 

カナズミシティで出会ったデボンコーポレーション社長のツワブキ社長から、ムロ島に行くならついでに石の洞窟にいる息子のダイゴに手紙届けてほしいと言われたソラトはそれを預かっている。

その手紙を届けるのと、ソラトの勘が間違っていなければ更なる貴重な経験ができる筈である。

 

「サトシ達も来るか? きっと、いいものが見れると思うぜ」

 

「「「いいもの?」」」

 

「あぁ。俺にとっても貴重な経験だし、来て損は無いと思うが」

 

「んー、まだ何も決まってないし、ソラトがそう言うなら行ってみるか!」

 

「「うん!」」

 

こうしてサトシ達はソラトの用事を済ませるために石の洞窟へと向こう事にした。

石の洞窟はムロ島にある大きな岩山の内部に入れる洞窟であり、山の内部はとても大きな空間になっている。

そこには洞窟に住む習性を持つポケモンや、いわタイプやじめんタイプを始めとする多くのポケモンの住処となっていた。

そんな石の洞窟にやってきたサトシ達。

こういった本格的な洞窟を初めて見たハルカとマサトは驚きに目を見開いていた。

 

「わぁ~、ホントに洞窟ってカンジかも!」

 

「というか洞窟だよお姉ちゃん」

 

「ここにダイゴさんがいるんだな」

 

「ああ、ツワブキ社長から聞いた話だと、ダイゴさんは珍しい石を集めるのが趣味らしいんだ。石の洞窟でもそんな珍しい石を探してるんじゃないかって言ってたよ」

 

「珍しい石?」

 

「多分進化の石や綺麗な石とかそういうモンだろ。ダイゴさんを探す上で注意する事は2つだ。石の洞窟は入り組んでるからはぐれないようにする事と、野生のポケモンを無闇に刺激しない事だ」

 

洞窟での探検経験もあり、進化の石の採掘も行うソラトからすればこういった洞窟はお手の物である。

そのため初めての洞窟探検となるハルカとマサトに向けて注意事項を説明する。

洞窟に住むポケモンは刺激しなければ大人しいのだが、下手に騒いだりして刺激してしまうと縄張りを守るために攻撃してくるポケモンも少なくない。

一部例外の習性を持つポケモンもいるが、とりあえずソラトの言うとおりにしておけば安全である。

 

「それじゃ、ダイゴさんを探しに行くとするか」

 

「「「おー!」」」

 

こうして石の洞窟の奥へと進んでいくサトシ達であった。

しかしサトシ達行く先にロケット団あり!とでも言わんばかりにロケット団の3人組はサトシ達を先回りして落とし穴を掘っていた。

石の洞窟の上層部にある吹き抜けになっているエリアは、必ずサトシ達が通ると睨んでそこをスコップを使い、汗水流して穴を掘る。

 

「「「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ」」」

 

穴を掘ってサトシ達を落とした後でピカチュウだけ掻っ攫う作戦なのだが、コジロウは何時も通り失敗しそうな予感がしており不満顔であった。

 

「なぁ、やっぱし落とし穴作戦はやめて直接バトルした方がいいんじゃないか?」

 

「何言ってんのよ! 口より手を動かす! 手を!」

 

「でも、これって何時ものダメなパターンじゃないか…?」

 

いつもいつも落とし穴を掘り、サトシ達を嵌めては脱出されてバトルで吹き飛ばされてヤなカンジーであるため、コジロウはもう先の展開が読めているのかげんなりしていた。

だがムサシは聞き入れずコジロウに怒鳴り散らす。

そんな2人を尻目にせっせと穴を掘っているニャースだったが、やれやれといった様子で仲裁に入る事にする。

 

「おミャーらサボってニャいでさっさと掘るニャ」

 

「ゴォド」

 

「ほら、コイツもそう言ってるニャ」

 

「ゴド、ゴドゴド」

 

「俺のナワバリで勝手に穴を掘るニャーって…ニャ!?」

 

ニャースが何気に訳していたポケモンの言葉は、いつの間にか穴を掘っているロケット団の横に現れた野生のボスゴドラの言葉だった。

どうやら石の洞窟のこの辺りはこのボスゴドラのテリトリーだったらしく、見回り中にロケット団を見つけてしまったらしい。

因みに言うと先ほどチラリと出てきた刺激をしなくても襲ってくる、例外の習性を持つポケモンの一種でもある。

 

「「「ボ、ボスゴドラー!?」」」

 

無論、自分のナワバリを荒らす不埒者をボスゴドラが許すはずも無い。

 

「ゴォオオオッド!」

 

「「「ウッソだぁ~!?」」」

 

「ソーナンス!」

 

口に鋼のエネルギーを凝縮し、ラスターカノンを発射してロケット団を吹き飛ばす。

ドカーン!と大きな音を立てて吹き飛ばされたロケット団は、吹き抜けになっていた所から大空の彼方へと飛んでいってしまったのだった。

 

一方石の洞窟を進むサトシ達は、ボスゴドラがロケット団を吹き飛ばした音と振動を感じ取っていた。

 

「あれ、何だ今の?」

 

「何か音がしたかも。あとちょっと揺れたかしら」

 

「野生のポケモンがナワバリ争いでもしてるのかもしれないな。いや、もしかしたらダイゴさんが野生のポケモンを相手にバトルしてるのかもしれないな。何か手がかりになるかもしれないし行ってみるか」

 

今の音と振動にサトシとハルカが反応すると、ソラトが思いつく限りの予想をする。

もしかしたら野生のポケモンとカチ合うかもしれないが、もしかしたらダイゴと早々に出会えるかもしれない。

しかしソラトも超能力者ではないため行ってみなければ何が起きているのかなど分からない。

サトシ達はとりあえず音がした方向へ向かう事にしてみた。

 

「あ、光が見えるわ!」

 

「もしかして外に出ちゃうの?」

 

「いや、何かしらの要因で洞窟内に光が入ってるのかもしれない。とにかく行ってみよう」

 

「うん! なんだか洞窟探検ってワクワクするね!」

 

「ピッカ!」

 

石の洞窟を歩いて冒険心に火が着いてきたのかマサトとピカチュウはニコニコしながら先頭を突き進んでいく。

そして光が差す道を進み、大きな広間に出る。

そこは天井が吹き抜けになっており空が見えるような大きな空間だった。

何故か一部分にはスコップと、それで掘ったであろう大きな穴があった。

 

「成る程、吹き抜けになってたから光が見えたんだな」

 

「なぁソラト、こっちの穴は何かな?」

 

「スコップがあるし、ダイゴさんが石を探してたのかもしれないな。案外近くにいるかもな」

 

「それじゃこの近くを探してみるか」

 

一先ずはこの吹き抜けの広間を中心に周囲を探索する方向で話を纏めるサトシとソラト。

ハルカは吹き抜けを見上げており、マサトとピカチュウは広間のあちこちをウロチョロして色々探索してみている。

 

「何か面白そうな物やポケモンはいないかな~」

 

「ピィカチュ」

 

「ゴド」

 

「あれ? ピカチュウ何か言った?」

 

「ピカ?」

 

広間の隅で何か無いかを探していたマサトだが、何か聞き慣れないような声を聞いて思わずピカチュウに問いかけるも、ピカチュウは首を横に振る。

 

「じゃあ今の声は…」

 

「ピカ…」

 

2人は恐る恐る、といった様子でゆっくりと後ろを振り返るとそこには…

 

「ゴォオオオド!」

 

先ほどロケット団を吹き飛ばしたボスゴドラが立っていた。

ロケット団を追い払った後、ナワバリの他の場所の見回りに向かったのだがサトシ達の気配を感じたのか戻ってきたのだろう。

 

「うわぁあああー!?」

 

「ピィカー!?」

 

マサトとピカチュウはボスゴドラに驚くと大声をあげて大慌てで逃げ出し、姉であるハルカの元まで駆け寄りその陰に隠れる。

 

「きゃっ!? どうしたのよマサト!?」

 

「ボ、ボスゴドラだよ!」

 

「ええっ!?」

 

幸いボスゴドラはすばやさが低く、動きはあまり機敏ではないがズンズンと地面を揺らしてゆっくりとマサトを追いかけてきている。

 

「ハルカ! マサト!」

 

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

 

「ピカピッカ!」

 

離れていたサトシとソラトも今の声を聞きつけると、ソラトはハルカとマサトを庇うようにボスゴドラの前に立ちはだかり、サトシはピカチュウに迎撃の指示を出す。

ピカチュウは体を大きく捻り、アイアンテールをボスゴドラに叩きつける!

だがガキィン!と耳障りに音を立ててアイアンテールは弾かれてしまう。

はがねタイプの技であるアイアンテールは、同じはがねタイプを持つボスゴドラに対しては効果はあまり期待できない。

 

「ゴォオオオッド!」

 

ピカチュウのアイアンテールを凌いだボスゴドラは再び口に鋼のエネルギーを収束、発射体勢に入る。

 

「気をつけろサトシ! ラスターカノンが来るぞ!」

 

「ラスターカノン?」

 

「ゴォド!」

 

聞き慣れない技の名前を聞いて疑問符を頭に浮かべるサトシだが、そうしている間にボスゴドラは口からラスターカノンを発射する。

はがねのエネルギーはピカチュウを捉えると直撃し、ピカチュウは吹き飛ばされてしまう。

 

「ピカー!?」

 

「しまった! 大丈夫かピカチュウ!?」

 

「ピィ…カ!」

 

ある程度ダメージを受けたようだが、戦闘自体はまだ問題なく続けられそうであるピカチュウは元気をアピールすると再びボスゴドラへと跳びかかる。

 

「よし、次は10万ボルトだ!」

 

「ピーカー、チュゥウウウウウ!」

 

渾身の電撃を放つと、鈍足のボスゴドラはそれを避ける事もできずにまともに受けてしまう。

 

「グォオオオオッ!? ゴグァ!」

 

電撃を受けて一瞬怯んだボスゴドラだったが、ピカチュウの反撃に怒ったのか全身を鋼のパワーで包んでピカチュウに突進する。

 

「今度はアイアンヘッドだ! 真正面から受けるのはマズいぞ!」

 

「だったらピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピーカー、ヂュウウウウウウ!」

 

ピカチュウのより強力な電撃とボスゴドラのアイアンヘッドがぶつかり合い、大きな音と地響きを立てて石の洞窟全体を大きく揺らした。

ぶつかり合った衝撃で舞い上がった粉塵が晴れると、ボスゴドラは目を回して倒れていた。

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

見事野生のボスゴドラを倒したサトシとピカチュウはハイタッチして喜びを分かち合っていた。

 

「でも急に襲ってきたわね。マサト怪我はない?」

 

「うん、ボクは大丈夫だよ」

 

「ボスゴドラは山や洞窟を丸ごと1つナワバリにするんだ。見回りしてる時にかち合ったんだろうな」

 

このようにナワバリを見回りするタイプのポケモンは下手に刺激しなくとも襲ってくるので、先ほどのソラトの忠告を守らなくてもバトルになってしまう。

こういった場合は逃げてナワバリの外に出るか、バトルで倒してしまうかするかで場を収めるしかない。

 

「しかしこうなってくるとダイゴさんが心配だね。野生のポケモンに襲われてるかもしれないし」

 

「いや、それは大丈夫だと思うぞ」

 

「え、何で?」

 

「何でってそりゃ―」

 

石の洞窟のどこかにいるダイゴを心配するマサトだが、それをソラトはすぐに否定した。

そしてその訳を言おうとした瞬間、倒れていた野性のボスゴドラがゆっくりと起き上がる。

 

「グォド!」

 

「何!? もう目が覚めたのか!?」

 

完全に不意を突かれた形となり、無防備な状態なサトシ達に怒りのボスゴドラが攻撃を繰り出す!

 

「コメットパンチ!」

 

「メッタ!」

 

「ゴドッ!?」

 

ボスゴドラの攻撃が放たれるまさにその瞬間に、洞窟の奥から白く大きな鉄塊が流星のように飛び出してボスゴドラを弾き飛ばした。

白い鉄塊は空中で速度を緩めて止まると、折り畳んでいた4つの足を伸ばしてその姿を露にした。

 

「あのポケモンは…!?」

 

『メタグロス てつあしポケモン

ダンバルの最終進化系。4つの脳はスーパーコンピューターよりも早く難しい計算の答えを出す。4本足を折り畳み空中に浮かぶ。』

 

サトシはポケモン図鑑で現れたポケモン、メタグロスを検索する。

しかし図鑑の写真の姿は青い色をしているのに対して目の前のメタグロスは真っ白な色をしている。

 

「図鑑と色が違う…色違いのメタグロスか!」

 

「メタグロス、バレットパンチだ!」

 

「メタッ!」

 

「グォッ!? ゴドッ! ゴォド!」

 

その巨体に見合わぬほどのスピードでバレットパンチを繰り出したメタグロスは、ボスゴドラを軽々と吹き飛ばす。

吹き飛ばされて壁に叩き付けられたボスゴドラは実力差を感じたのか、慌てて起き上がり洞窟の奥へと逃げていった。

そして色違いのメタグロスのトレーナーらしき灰色の髪をしたリュックを背負った美青年が現れる。

 

「戻れメタグロス。君達、大丈夫かい?」

 

「「「「はい、ありがとうございます」」」」

 

「助けてくれてありがとうございます! 俺サトシっていいます」

 

「ピッピカチュウ」

 

「ハルカです」

 

「ボク、マサトです」

 

「ソラトです。あの、貴方のお名前はツワブキ ダイゴさんでお間違いないですか?」

 

「ん? そうだよ、僕がダイゴだ」

 

この色違いのメタグロスのトレーナーであるリュックを背負った美青年が、デボンコーポレーションの御曹司であるツワブキ ダイゴのようだ。

意図せずともダイゴと出会うことができたソラトは、ツワブキ社長からの頼まれごとを果たす事にする。

 

「ダイゴさん、貴方の父親のツワブキ社長からお手紙を預かっているんです」

 

「親父から?」

 

ソラトはリュックから預かっていた手紙を取り出すと、確かにダイゴに手渡した。

 

「確かに親父の字だ。ありがとうソラト君」

 

「いいえ。それよりも個人的にダイゴさんにお願いがあるんですが、聞いて頂けないですか?」

 

「お願い?」

 

「はい…俺と、ポケモンバトルをして欲しいんです」

 

「「「えっ!?」」」

 

ダイゴに対してポケモンバトルを申し込んだソラトに対して、サトシ達は驚きの声をあげる。

まさかほぼ初対面であるダイゴに対してソラトがバトルを挑むのは予想外だったのだ。

 

「ちょっとお兄ちゃん、どうしてダイゴさんとバトルをするの?」

 

「そりゃ強さを求めるトレーナーからすればあの人とバトルするのは1つの目標だからな。ですよね、ホウエン地方チャンピオン、ダイゴさん」

 

「「チャンピオン!?」」

 

ソラトの言葉を聞いて、サトシとマサトは思わずオウム返しのようにその言葉を繰り返してしまう。

しかしハルカはその言葉の意味を知らなかったようで首を傾げていた。

 

「ねぇマサト、チャンピオンって何?」

 

「お姉ちゃん知らないの!? ポケモンリーグにいる4人の四天王とその頂点に立つ最強のチャンピオン! つまりダイゴさんはホウエン地方で1番強いポケモントレーナーなんだよ!」

 

「ホウエン地方で1番!?」

 

それぞれの地方に存在するポケモンリーグ公認のジムから8つのジムバッジを集め、ポケモンリーグトーナメントを制覇して優勝するとチャンピオンリーグへの挑戦権を得ることができる。

そしてチャンピオンリーグで4人の四天王を破る事により、その地方で最強の存在であるチャンピオンとのバトルを行う事ができる。

そのバトルに勝利するとそのトレーナーとポケモン達を永遠に記録する殿堂入りが行われ、新たなるチャンピオンになる権利が与えられるのだ。

 

まさか目の前の人物がそのチャンピオンだとは思わなかったハルカは口元を手で押さえて驚いている。

そう、今まさにソラトはホウエン地方最強のポケモントレーナーにバトルを申し込んだのだ。

 

「この場所でやると非公式試合になってしまうけど、それでもいいかな?」

 

「はい。公式戦はホウエンリーグに挑戦してるので…今は俺の実力がチャンピオンであるダイゴさんにどこまで通じるかを試したいんです」

 

「…分かった。親父からの手紙ではソラト君にお世話になったと書いてあるし、そのお礼として申し出を受けるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

こうしてこの吹き抜けの広場をバトルフィールドとして向かい合い、バトルを行う事となった。

それぞれ1つモンスターボールを手に持っており、既にバトルの準備を整えていた。

 

「それじゃあ使用ポケモンは1体。どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点でバトルは終了だ」

 

「はい、よろしくお願いします! 頼むぞスイゲツ、バトルの時間だ!」

 

「ラグラ!」

 

「行け、メタグロス!」

 

「メッタ!」

 

ソラトは自身の相棒であるラグラージのスイゲツ、ダイゴは先ほどの白い色違いのメタグロスを繰り出した。

だがスイゲツは何時もとは違い右前足に腕輪を装着しており、その腕輪には蒼く輝く石が取り付けられていた。

互いにポケモンを繰り出した所でサトシが合図を出す事になっていた。

 

「それじゃ、バトル開始!」

 

「まずは小手調べだ。メタグロス、サイコキネシス!」

 

「メタ」

 

はがね/エスパータイプであるメタグロスはサイコエネルギーを発生させると周囲に落ちていた岩をサイコキネシスで持ち上げるとスイゲツに向けて撃ち出した。

ダイゴは小手調べと言ったが、その速度と威力はそこらのポケモンには決して出せない出力だった。

 

「打ち落とせスイゲツ! マッドショット!」

 

「ラグラッ!」

 

だがスイゲツもマッドショットを放ち飛んでくる岩を打ち砕いた。

 

「中々やるねソラト君。それじゃあこれはどうかな? メタグロス、バレットパンチ!」

 

「メタッ!」

 

「スイゲツ、まもる!」

 

「ラグ!」

 

先制攻撃ができる鋼のパンチ、バレットパンチを放つメタグロスに対してソラトはまもるでバリアを発生させてそれを防いだ。

先ほどからダイゴはソラトの対応を試すように先手を取ってくるが、ソラトも守ってばかりではいない。

 

「今度はこっちからいきます! スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「ラッグァ!」

 

「避けろメタグロス」

 

闘気を纏ったパンチを繰り出すスイゲツだが、メタグロスは4本の脚を折り畳んで空中に浮かぶと空を飛んで回避した。

 

「逃がすか! たきのぼり!」

 

「ラグァ!」

 

「メタッ!?」

 

空中に浮かんでスイゲツの上を取ったメタグロスだったが、スイゲツは水の力を纏い跳び上がると頭上のメタグロスにたきのぼりを決めた。

 

「バレットパンチだ!」

 

「メタッ!」

 

「ラグゥ!?」

 

だがダイゴも空中に跳び上がったスイゲツの隙を突いてバレットパンチを直撃させると、叩き落されたスイゲツは体勢を整えて着地する。

メタグロスもゆっくりと地面に降りると再び4本足を伸ばして地面に立った。

 

「ソラトもダイゴさんも凄い攻防だ!」

 

「流石はチャンピオン…どの技も凄いパワーだったよ」

 

「でもお兄ちゃんだって負けてないわ! 頑張ってお兄ちゃーん!」

 

一旦仕切り直しのつもりなのか、スイゲツもメタグロスも距離を取ったまま睨み合い、次の指示を待っている。

 

「うん、ソラト君のラグラージはとてもよく育てられているね。並みのポケモンじゃ、メタグロスの攻撃を掻い潜って反撃する事はできないよ」

 

「ありがとうございます。でもダイゴさん、お互い探りあいはここまでにしましょう」

 

「「「えっ!?」」」

 

その言葉に観戦していたサトシ達は驚きの声を隠せない。

ソラトの言った探りあいはここまで、という言葉が本当ならば今の息もつかせぬ攻防はまだ全力のバトルではなかったという事である。

 

「それじゃあ、コレを使うという事でいいのかな?」

 

そう言ったダイゴは、服に着けているラベルピンに手を添える。

そのラベルピンには虹色に輝く不思議な石が取り付けられている。

ソラトも手に着けているバングルを構える。

バングルにもダイゴのラベルピンに付いている物と同じ虹色に輝く石が装着されていた。

 

「はい…ここから先は、全力本気でいかせて貰います! 行くぞスイゲツ!」

 

「ラグァ!」

 

「今までの俺達を越えろ! 力は想いに、想いは力に! スイゲツ、メガシンカ!」

 

ソラトの口上と共に、ソラトのバングルに装着された石とスイゲツが右腕に装着された石が同時に輝きを強める。

 

「な、何だ!?」

 

「メガシンカ!? 何それ!?」

 

ポケモンに関する様々な知識を持つマサトでさえ、目の前で起こっている事は分からないらしい。

光に包まれたスイゲツの体は徐々に変化していき、光が弾けると同時にその姿を現した。

元の姿よりも上半身が太く大きくなっており、見た目からして先ほどよりもパワーが増しているように見える。

またレーダーとなる背ビレも巨大になっており先ほどよりも全体的に丸く、力強くなっていた。

 

「ラグァアアアアアアアア!!」

 

「スイゲツの姿が変わった!?」

 

「さっきより明らかにパワーアップしてるよ!」

 

「凄いかも!」

 

メガシンカと呼ばれる現象によりパワーアップしたスイゲツを見て、ダイゴはフッと笑うとラベルピンの石の輝きを強める。

それに呼応するようにメタグロスの右前脚に装着されていた石が輝きを増す。

 

「メタグロス、メガシンカ!」

 

「メッタァ!!」

 

メタグロスも光に包まれて徐々に姿が変化し、光が弾けると4本脚が背面側から生えるように変化しており、先ほどとは違い常に浮遊するようになっていた。

 

「メタグロスも姿が変わったわ!」

 

「ここからが本番だ! スイゲツ、マッドショット!」

 

「ラ…グラッ!」

 

スイゲツは大きく息を吸い込んでマッドショットを放つ。その威力は先ほどの比ではない。

するとメタグロスも先ほどよりも圧倒的に素早く動きマッドショットを避けた。

どちらも見掛け倒しではなく、実際に能力が上昇しているのが見て取れた。

 

「メタグロス、しねんのずつき!」

 

「迎え撃てスイゲツ! グロウパンチ!」

 

「メタ!」

 

「ラグラァ!」

 

「「「わぁああああっ!?」」」

 

思念の力を集めたずつきと、闘気を纏ったパンチがぶつかり合いその場に大きな衝撃が生まれる。

広場の隅で座ってみていたサトシ達も、その衝撃を受けてひっくり返ってしまう。

技のぶつかり合いはタイプの相性もあってかメタグロスのしねんのずつきが僅かに押すと、スイゲツを弾き飛ばした。

 

「ラグゥ!」

 

「スイゲツ、マッドショット!」

 

「ラグ!」

 

弾き飛ばされて後ずさりしたスイゲツだが、あまりダメージを受けた様子は見せずにすぐさまマッドショットを放ち反撃する。

 

「サイコキネシスで撃ち返すんだ!」

 

「メッタ!」

 

だがメタグロスはサイコキネシスでマッドショットを受け止めると、逆にスイゲツに向けて撥ね返した。

撥ね返されたマッドショットを受けるスイゲツだが、大きなダメージを受けた様子は無かった。

どうやら防御力も上昇しているようである。

 

「メタグロス、コメットパンチ!」

 

「メッタァ!」

 

「ラグッ!?」

 

メタグロスは4つ脚を顔の前に集結させると、再び流星のようなスピードでスイゲツに向けてコメットパンチを繰り出した。

ソラトの指示とスイゲツの能力を持ってしても攻撃を避けきれずにコメットパンチを受けてしまう。

こうかはいまひとつではあるが、強烈な攻撃を前に確実にダメージを受けてしまっている。

 

「負けるなスイゲツ! たきのぼりだ!」

 

「ラッガァ!」

 

「メタッ!?」

 

だが黙ってやられているソラト達ではない。

自分たちを攻撃してきた隙を突いてたきのぼりで反撃してメタグロスを吹き飛ばした。

大きく吹き飛ばされたメタグロスだったが、空中でクルクル回って体勢を整えてダイゴの傍へと戻っていく。

 

「マッドショット!」

 

「サイコキネシス!」

 

「ラグッ! ラッ!?」

 

「メタ~! メタタッ!?」

 

スイゲツはマッドショットを放つとメタグロスへと命中させるが、メタグロスのサイコキネシスがスイゲツを捕らえて壁に叩きつける。

互いにダメージが蓄積しており、そろそろバトルも佳境となってきている。

その事を察した2人はトドメの一撃を放つ!

 

「スイゲツ! フルパワーでたきのぼりだ!」

 

「メタグロス、全身全霊のコメットパンチ!」

 

水の力を纏い全身を使った体当たりをするスイゲツと、流星の如く速度と重さを持ってパンチを繰り出すメタグロスが互いに跳び上がり激突する。

 

「ラグァアアアアアアアアアアアア!!」

 

「メタァアアアアアアアアアアアア!!」

 

再び最大パワーでぶつかり合う2体により、今度はこの広場だけではなく石の洞窟全体を揺るがすほどの衝撃と振動を生み出した。

振動と衝撃によって粉塵が舞い上がりスイゲツ達の姿を隠してしまう。

 

「「……」」

 

徐々に粉塵が晴れていくと、そこにはお互いに睨み合いつつ向かい合うスイゲツとメタグロスの姿があった。

今の強烈な一撃でぶつかり合ってもお互いに決着がつかないのか―そう思った時、スイゲツの体から剥がれるように光が散り、元の姿に戻ってしまう。

そしてスイゲツは膝を着いて倒れてしまった。

 

「スイゲツ!」

 

「ラ、グ…」

 

「ここまでだ。今回は僕の勝ちだね」

 

「はい…戻れスイゲツ、お疲れ様」

 

残念そうだが、どこか満足そうな表情でソラトはスイゲツをボールに戻した。

ダイゴもどこか嬉しそうな顔でメタグロスをボールに戻すとソラトに近づいた。

 

「ソラト君、とてもいいバトルだったよ。久しぶりに緊張感のあるバトルができて僕も満足だ」

 

「そう言って頂けると嬉しいです。今期のホウエンリーグでリーグを制覇して、いずれチャンピオンリーグに行きますので、その時はリベンジさせて頂きます!」

 

「ああ、その時を楽しみに待っているよ!」

 

 

 

こうしてソラト達はダイゴと別れ、石の洞窟を後にした。

石の洞窟の探検やダイゴとのバトルをしている内に思いのほか時間が経っていたらしく、日は大分傾いていた。

 

「ねぇお兄ちゃん、あのメガシンカっていうのは何だったの?」

 

サトシ達が抱えている疑問をハルカが代表として聞いてみると、ソラトは腕に着けているバングルを見せた。

 

「これはメガバングル。このバングルに付いている石はキーストーンって言ってな。ポケモンに対応するメガストーンと呼ばれる石に反応してポケモンを更に1段階進化させるんだ」

 

「ポケモンをもう1段階進化!? そんな事ができるの!?」

 

「ああ、バトルの間だけな。俺のこのキーストーンと、スイゲツに持たせておいたラグラージナイトというメガストーンが反応してスイゲツはメガラグラージにメガシンカしたんだ」

 

「そんな事ができるなんて、ボクちっとも知らなかったよ」

 

「メガシンカは昔からあったんだが、研究目的で注目されたのはごく最近なんだ。今はカロス地方で熱心に研究されてるんだぜ」

 

「……」

 

新しい知識を知って楽しそうにするマサトとハルカに、それを教えているソラトだが、サトシは黙ったままソラトを見つめていた。

それに気がついたソラトは首を傾げてサトシに問いかける。

 

「どうしたサトシ、俺の顔に何かついてるか?」

 

「…なぁ、どうしてソラトはそんなに強いんだ?」

 

「強い? 俺さっきダイゴさんに負けたじゃないか。俺より強い人なんて幾らでも…」

 

「でも、ソラトはチャンピオンのダイゴさんに1歩も引かずにバトルしてただろ! それにトウキさんにだって正面から勝ってた! どうしてそこまで強くなる事ができたんだ!?」

 

サトシは真剣な眼差しでソラトに問いかけていた。

ソラトには5年の年月で得た経験があると言ってしまえばそれまでだが、サトシはもっと具体的な方法が知りたいのだろう。

ソラトは自分が強くなった過程を順番に思い出すと、やはり最初の想いから話す事にした。

 

「…俺のオヤジはバトルがスゲー強かったんだ。それこそ負けた所なんて見たことが無かった」

 

「……」

 

徐々に日が傾き赤い夕日が周囲を照らす中で、サトシ達はソラトの話に聞き入っていた。

 

「それからいつからか、俺の目標は決まってた。オヤジより強くなっていつか勝つんだって、そう思うようになってたんだ。それから俺のライバルはいつだってオヤジだったんだ」

 

「アラシさんがライバル…」

 

「ああ、いつかオヤジより強くなってオヤジを連れて帰る。それが今の俺の全てだからな。きっとサトシに必要なのは、身近にいる人を明確な目標としてそれに近づく事なんじゃないかな」

 

「……」

 

ソラトの話を聞き終えたサトシは嬉しそうな笑みを浮かべており、何かを決意したような顔つきになっていた。

その様子にソラト達は皆不思議そうな表情をしていた。

 

「へへっ、そっか! なら俺の目標はソラトだ!」

 

「え?」

 

「俺より強くて、経験も豊富だし身近にいる! 俺にとってこれ以上ないくらいの目標だぜ! だからソラト、これからも色々教えてくれよ!」

 

どうやらサトシの中で身近にいる目標としてソラトが指定されたようだ。

何だかとても嬉しそうな顔をしているサトシを見て、何だか実感が沸かないようだがやがて嬉しそうに笑みを浮かべつつため息を吐いた。

 

「さっきも言ったが、俺より強い人なんて幾らでもいる。だが俺の目標はその人達を超えるほどのオヤジを超える事だ。全員超えるならキツくなるぞ?」

 

「望む所だぜ! そうしなくちゃ、ポケモンマスターになんてなれないからな! やってやろうぜピカチュウ!」

 

「ピカチュウ!」

 

「サトシ、お兄ちゃんを超えるのはすっごく大変かもよ?」

 

「なーに! いつか必ず追いついて見せるさ!」

 

「頑張ってねサトシ!」

 

更なるバトルの可能性、メガシンカ。

そしてバトルの頂点であるチャンピオンの戦いを目の当たりにしたサトシ達。

新たなる目標と可能性を見たサトシのムロ島でのポケモン修行は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




やはりまだまだこれからなのでソラトには負けて貰いました。
しかしイマイチバトルの臨場感というか緊張感が醸し出せないのが悩みです…。
ここら辺も少しずつ成長しながら執筆していきたいので、皆様お付き合いをお願いします。


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新たなる仲間 石の洞窟を守れ

今回はサトシに新しい仲間が加わります。
因みにヘイガニじゃありません。
でも後日ヘイガニもちゃんとゲットしますのでご安心を。

あと活動報告に劇場版編の事を書いておきました。
気が向いたら読んでみて下さい。


ムロ島でのポケモン修行を本格的に開始することにしたサトシ達。

島の外れにあるビーチの近くにある広場でキャンプをしていたサトシ達は、日が昇った頃に目を覚まして朝食を食べていた。

ゆっくりと自分たちのペースで食べていくソラト、ハルカ、マサトに対してサトシはガツガツと一気に食べておりあっという間に食べきってしまう。

 

「モグモグ…よしっ、ごちそうさま! ソラト、早速ソラトの修行法を教えてくれ!」

 

「ピッカ!」

 

「んあ、まだ食ってるんだが…むぐむぐ」

 

サトシとピカチュウは一気に食べてもう修行の準備に入っているが、修行を看るはずの肝心のソラトはまだ朝食を食べている途中である。

だがサトシはもう待ちきれないといったキラキラした表情でソラトを見つめていた。

 

「…分かった分かった、だからその視線やめてくれ」

 

「やった! サンキューソラト!」

 

「いいのお兄ちゃん?」

 

「後で食うから大丈夫だよ。それじゃお前ら、出て来い!」

 

ソラトは4つのモンスターボールを用意すると空高く放り投げると、それぞれのボールからはスイゲツ、レイ、クロガネ、ヒョウカが現れる。

 

「4体もポケモンを使うのソラト?」

 

「ああ、特殊で危ない修行法だからな。今日はレイとやるか、スイゲツ、クロガネ、ヒョウカは位置についてくれ」

 

「サナ!」

 

そう言うとソラトはレイと共に位置につく。

それに向かい合うようにスイゲツとクロガネが構えを取り、ヒョウカは海へと入り海面に浮かぶ。

 

「よし、それじゃ始めるぞ! レイ、めいそうだ!」

 

「サーナー…」

 

「ラグッ!」

 

「ゴドォ!」

 

開始の合図と共にレイはソラトの指示に従いめいそうを初めて能力を高める。

そして向かい合っていたスイゲツ達も行動を開始する。

スイゲツはグロウパンチを繰り出し、クロガネはがんせきふうじで岩を生み出して発射する。

 

「えっ!? スイゲツ達とバトルするのか!? それも3対1で!?」

 

「スイゲツ達も指示を出してないのに自分で技を出すの!?」

 

驚くサトシとマサトを他所にソラトの修行は進んでいく。

グロウパンチを繰り出したスイゲツはレイに肉薄すると闘気を纏った拳を振り上げ、更に周囲にはクロガネの放ったがんせきふうじが落ちようとしている。

このままでいればグロウパンチを受けてしまい、避けようとしてもがんせきふうじを受けてしまう。

 

「レイ、サイコキネシス!」

 

「サーナッ」

 

レイはサイコキネシスを発動して周囲のがんせきふうじをキャッチすると、それを自分の前方に集めて岩の壁を作り出す。

グロウパンチは岩の壁にぶつかり止まる。

サイコキネシスでグロウパンチとがんせきふうじの2つの技を同時に防いだレイは、逆に攻撃の体勢に入る。

 

「レイ、そのまま岩を撃ち出せ!」

 

「サーナー!」

 

「ラグッ!」

 

「ゴド!」

 

「クゥー。クゥウー!」

 

サイコパワーで岩を弾き返したレイだがスイゲツはまもるで、クロガネはてっぺきを使い防御し、ヒョウカは海に潜って回避する。

潜ったヒョウカはすぐさま浮上すると氷を生み出して凄まじい速度でそれを発射した。

 

「レイ、めいそう!」

 

「サーナ…サナッ!?」

 

ヒョウカの撃ち出したこおりのつぶてはでんこうせっか等と同じように相手の先手を取ることができる技であり、回避が困難であると判断したソラトはめいそうで特殊防御力を上げて防御の姿勢に入りこおりのつぶてを受け止めた。

 

「ラグァ!」

 

「グォオオオ!」

 

その隙を突いてスイゲツはたきのぼり、クロガネはアイアンテールを発動してレイとの距離を詰める。

 

「後ろに跳んでかわせ!」

 

「サナ!」

 

バックステップで大きく後ろに下がったレイは回避に成功し、さきほどまでレイがいた場所にたきのぼりとアイアンテールが叩き付けられる。

 

「スイゲツ達の足元にサイコキネシス!」

 

「サーナー!」

 

「ラグッ!?」

 

「ゴォドッ!?」

 

「おおっ、上手い!」

 

「凄い、お兄ちゃんってばさっきから3対1でも全然怯んでないわ!」

 

サイコキネシスでスイゲツ達が着地した場所の土を崩すと、地面に穴が開いてしまいそこへスイゲツとクロガネが落ちてしまう。

体重が重い2体は穴に落ちてしまうとうまく身動きが取れなくなっていた。

 

「クゥー!」

 

そんなスイゲツ達をカバーすべく海にいたヒョウカは水のパワーを引き出して大きな波を起こしてその波に乗る。

 

「なみのりだ!」

 

「なみのりは周囲の味方にも攻撃しちゃう技だよ!? このままだとスイゲツとクロガネまで―」

 

「ラグ!」

 

ヒョウカがなみのりを発動するとマサトがスイゲツ達を心配するが、スイゲツがすぐさままもるを発動して自分とクロガネをバリアで守った。

 

「おおっ、こっちも上手い連携だ!」

 

「ハイパーボイスで波に穴を開けろ!」

 

「サァーナァアアアッ!」

 

それに対抗するレイはハイパーボイスで大きな音の振動を起こすとなみのりの波の中心に大穴を開けてこれを凌いだ。

だがその波に空いた大穴からたきのぼりを使いスイゲツがレイに接近する!

 

「ラグラ!」

 

「何っ!?」

 

「サッ!? サナッ!?」

 

これは完全に予想外でソラトとレイをもってしても避けることはできず、レイは大きく吹き飛ばされて地面を転がった。

そしてここぞとばかりにクロガネのがんせきふうじとヒョウカのこおりのつぶてが放たれる。

 

「レイ、地面を転がって避けるんだ!」

 

「サナッ」

 

「ラグ、ラッ!」

 

地面をゴロゴロと転がり、どうにか追撃を避けるレイ。

隙を見て立ち上がり、同時にスイゲツのマッドショットが放たれる。

 

「ハイパーボイス!」

 

「サァーナァアアアアアッ!」

 

ハイパーボイスとマッドショットがぶつかり合い、互いに相殺されて再び睨み合う。

だが流石に1体でずっと相手をしていたレイは息が切れておりあちこちに傷を負っていた。

 

「サナッ…サナッ…」

 

「…そこまでだ。今日はここまでにしておこう。お疲れ様、戻れスイゲツ、クロガネ、ヒョウカ」

 

「サナ…」

 

どうやら修行に区切りをつけたようで、全員緊張を解く。

疲れたのかレイはその場に座り込んでしまい、ソラトはスイゲツとクロガネとヒョウカをボールに戻すとレイの横に腰を降ろした。

 

「お疲れさんレイ。オボンの実を食べて体力を回復させるんだ」

 

「サナ、サナサナ♪」

 

疲れているレイを見て、ソラトはリュックから体力を回復させる木の実であるオボンの実を取り出してレイに手渡した。

オボンの実を受け取ったレイは嬉しそうに実を齧って体力を回復させた。

 

「今のがお兄ちゃん流の修行法ってことなの?」

 

「ああ。3対2形式でバトルしてポケモンは不利な状態でも活路を見出し、限界に挑み続けて能力を高めるんだ」

 

「3対2? 3対1でしょ?」

 

「いや、俺がついてるから3対2さ。そして相手の方が手数が多い状態でトレーナーも状況の把握や思考の瞬発力を高める訓練になるのさ」

 

ソラト流の修行方法とは自分の手持ちポケモンで3対1の状態を作り、1体の方へソラトは指示を出して不利な状態からあえて抗う事でトレーナーとポケモンの能力を高めるという手法らしい。

確かにポケモンは常に全力を要求され、トレーナーも必死に思考するため能力は磨かれるだろう。

 

「やっぱ自分を追い込んでるのか」

 

「端的に言うとそういうことになるな。その上で活路を見出す、格上との戦いを想定した訓練方法だな。まぁ自分より強い人と戦った方がいい経験になるからな」

 

「よーし、なら俺もトウキさんとのバトルを想定しつつ、今の修行法をやってみるぜ!」

 

サトシも今のソラト流の修行法を早速試してみようと燃えているが、この修行を行うに当たっての問題点があるのに気づいていなかった。

が、サトシ以外は気がついていたようで即指摘される。

 

「でもサトシは今3体しか持ってないよね?」

 

「お兄ちゃんの修行法ならポケモンが4体要ると思うかも」

 

「あ…そういやそうか…。でもそれなら新しい仲間をゲットしに行けばいいんだよ! 昨日行った石の洞窟に行けば沢山ポケモンがいる筈だ!」

 

「ピカピカチュウ!」

 

この修行にはポケモンが後1体必要ならば、新たにポケモンをゲットすればいいだけの事である。

昨日行った石の洞窟にいるポケモンに目をつけたサトシは、善は急げとばかりにリュックを背負って石の洞窟の方へと駆け出した。

 

「ちょっとサトシ!」

 

「ま、待ってよー!」

 

「お、おい! 俺は朝飯もまだ食べきってないんだぞ!? 待てよ!?」

 

「サナ? サーナ」

 

さっさと石の洞窟へ向かって走っていくサトシを慌てて追いかけるハルカとマサトだが、ソラトは朝食が途中だったにも関わらず修行法を見せていた。

そのため満腹には程遠いが仲間外れになるのが嫌だったのか、はたまた年長者として皆を放っておく事に抵抗があったのか律儀に皆の後を追いかけるのであった。

 

 

 

所変わって石の洞窟では様々なポケモンが活動していた。

あざむきポケモンのクチートも、この石の洞窟に生息しているポケモンの一種である。

今日は食料となる物を求めて石の洞窟を練り歩いていた。

 

「クート、クート。クー?」

 

この石の洞窟を支配しているボスゴドラの巡回ルートを外れているので安全な場所の筈なのだが、クチートは何か妙な音を感じ取る。

ガガガガという何かを削り取るような、抉っているようなそんな音。

普通ならばこんな自然溢れる洞窟では聞こえる筈の無い音に、クチートは警戒レベルを引き上げる。

 

「…クート」

 

自分の住処の近くで何か異常事態は発生しているのならば見過ごせない。

クチートは少し怖かったが勇気を振り絞り嫌な感覚がする方向へと足を進めた。

そしてこの後、クチートの嫌な予感は的中してしまう事となってしまうのである。

 

一方で石の洞窟へとやって来たサトシ達。

意気揚々と洞窟の一本道を歩いていくサトシとピカチュウ、その少し後をキョロキョロしながらついていくハルカとマサト。

そしてお腹がグ~と鳴りつつ若干項垂れ気味に最後尾を歩くソラトで石の洞窟のポケモンを探していた。

 

「いい奴で、かくとうポケモンに強いポケモンなら文句無いんだけどな」

 

「ひこうタイプ、エスパータイプ、フェアリータイプが候補だね。でも石の洞窟にそういうタイプのポケモンっているのかな?」

 

確かに洞窟のような場所はいわタイプ、じめんタイプ、はがねタイプ等のポケモンが一般的でありかくとうタイプに有効なタイプのポケモンはあまり見られない。

 

「そんな事はないぞ。ズバットみたいなポケモンもいるし、複合タイプなら条件にあったポケモンが十分いる筈だ…ハァ、腹減った…」

 

サトシの狙うポケモンについて説明をするソラトだが、思いのほか朝食が中途半端になってしまったのが効いているらしい。

珍しく弱弱しくお腹を押さえて空腹をアピールしていた。

 

「大丈夫お兄ちゃん? チョコのお菓子持ってるけど食べる?」

 

「お、ありがとな。それじゃ頂きま―」

 

「クート!!」

 

「どわっ!?」

 

ハルカに貰ったチョコバーのお菓子の袋を開けていざ口に放り込もうとしたその時、洞窟の奥から先ほどのクチートが大慌てで走ってきてソラトの足元を通る。

そのせいでソラトの足にぶつかってしまい、その衝撃でソラトは持っていたチョコバーを落としてしまった。

チョコバーには小石やら砂利やらが沢山付着してしまい、もう食べられる物ではなかった。

思いがけずお預けをくらう事になってしまったソラトは先ほどよりも深く項垂れてしまい、何時に無く落ち込んでいた。

 

「あぁ…食べれると思ったのに…寸前でこうなると余計に力抜ける…」

 

「が、頑張ってお兄ちゃん! 早くポケモンゲットしてご飯にしましょう!」

 

落ち込んでいるソラトとそれを励ましているハルカを他所にサトシとマサトは今すれ違ったクチートに目が行ってしまっている。

 

「今のポケモンは…」

 

「クチートだよ!」

 

『クチート あざむきポケモン

鋼の角が変形した大きな顎を持つ。大人しそうな顔に油断していると突然振り向きガブリと噛みつかれてしまう。』

 

図鑑でクチートの事を検索するとクチートの情報が表示される。

タイプの覧を見れば、それはサトシが今求めていた条件そのものだった。

 

「お! クチートははがね/フェアリータイプなんだな!」

 

「それなら十分トウキさんのかくとうタイプのポケモンに対抗できる筈だよ!」

 

「よーし、そうと決まればゲットだぜ!」

 

ゲットするポケモンをクチートに絞ったのか、サトシとマサトは走り去っていったクチートの後を追うために来た道を戻るように駆け出した。

 

「あっ、お兄ちゃん私たちも行かないと!」

 

「…分かってる、行くとするか」

 

それを更に追いかけるようにしてハルカは落ち込むソラトを励ましつつその後を追いかけた。

しかしソラトは食べるものが無くてあそこまで落ち込むとは余程お腹が減っているのか、思っていたよりも食いしん坊なのか…。

先ほどソラトがいた場所に小さな湿りがあるような気がするが泣いていない。

泣いてないったら泣いてないのだ。

 

 

 

「クート…」

 

先ほどソラトにぶつかったクチートが走り去っていった先は行き止まりになっており、クチートは立ち止まる事になってしまっていた。

その為サトシとマサトはすぐに追いつくことができ、かつ退路を断つ形になっていた。

 

「見つけた! 行き止まりになってるよ!」

 

「よーし、早速バトルだぜ! 行けピカチュウ!」

 

「ピカッ!」

 

「ク、クート…」

 

選ばれたピカチュウはサトシの肩から飛び降りると、クチートと向き合い電気袋からビリビリと発電をする。

それに対してクチートは怯えているような、戸惑っているような表情を見せており、バトルをする意思は出してはいなかった。

 

「…どうしたんだろう、何だか様子が変だよ」

 

「ああ…なんだかバトルするって感じじゃないな」

 

「ピィカ…」

 

マサトもサトシもクチートの様子がおかしいのに気がつき、やる気に満ちた気配を四散させる。

 

「追いついた! どうサトシ、ゲットできた?」

 

「ん? どうした、バトルしてないのか?」

 

そこへ後から追いかけてきたハルカとソラトがやって来る。

既にバトルを始めているものだと思っていたようだが、サトシがまだバトルをしていない事に気がつき不思議そうな表情をする。

 

「あ、ソラト! ちょうどいいや。あのクチートがどんな様子かって分かるか?」

 

「波動で感情を読み取れって事か。お安い御用だ」

 

ソラトが波動を感じることでポケモンの感情を把握できる事を思い出したサトシはソラトにクチートの様子を見て貰おうと考える。

ソラトは快諾すると瞳を閉じてクチートから発せられる波動を感じ取る。

 

「…何だか怯えているな。不安と焦燥、それから悲しみを感じる」

 

「そんなに怯えてるんだ。何があったんだろう」

 

「悪いが波動を感じるだけじゃそこまではな…」

 

「ク、クート…!」

 

クチートは未だに怯えた様子でサトシ達を見つめている。

だがこんなに怯えているポケモンを捕まえるなどサトシからしてみれば言語道断である。

サトシはピカチュウと共にゆっくりと歩きながらクチートに歩み寄る。

 

「ク、クート!」

 

クチートはサトシに乱暴をされると思ったのか顔を背けて目を瞑る。

だがサトシは膝を着いて姿勢を低くすると優しくクチートに語りかけた。

 

「クチート、俺たちは何もしないよ。何か困ってる事があるなら力になりたいんだ」

 

「ピカ、ピカピカチュウ」

 

「クート? クー……クート!」

 

クチートは最初はまだ少し警戒している様子で、少し悩んだ素振りを見せたがサトシ達が何もしないのを見て少し信用したのか自分が着て道を指差した。

 

「お前が来た方の道に何かあるのか?」

 

「クート! クークー!」

 

「あっ、クチートが行っちゃうよ!」

 

「追いかけよう!」

 

クチートはこっちに来て!と言う様にして道を走って戻って行ってしまうのを見て、サトシ達も慌てて追いかけたのであった。

 

 

 

一方此方も石の洞窟内部にて。

ウィーンガシャン、ウィーンガシャンと耳障りな機械音を立てて2本のアームが動き先端にあるスコップやツルハシによって石を砕き、穴を掘って周囲の壁を削っていく。

大きな工業機械のような黄色いメカは元々あった少し広い広場を更に広くしていた。

そのメカには、正面に大きなRのマークがついていた。

勿論ロケット団お手製の穴掘りメカである。

 

「どうニャース? 進行状況は」

 

「順調ニャ。このままロケット団ホウエン支部の秘密基地をさっさと作ってしまうニャ!」

 

「しかし、このメカ作るのにまた借金嵩んじゃったな…」

 

いつものムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団の3人組は穴掘りメカを使い秘密基地用の穴を掘り進めているらしい。

 

「秘密基地作っちゃえばチャラよチャラ!」

 

「でもこんなにガシャガシャうるさくやってたらまたあのボスゴドラや他のポケモンを刺激しちゃうんじゃないか?」

 

「もう! 心配性ねアンタは。そこらへんもちゃんと対策してあるんでしょニャース?」

 

「勿論ニャ! このメカはバッチリ頑丈にできてるからその辺のポケモンも蹴散らせるニャ!」

 

「そっか! さっきもクチートだったか…あのポケモンを追い返したもんな」

 

どうやら先ほどサトシ達とであったクチートはこのメカの作業音に刺激されてメカに近づいたようだが、追い返されてしまったらしい。

こうもガシャガシャうるさく、住処の近くを荒らされては周囲の野生のポケモンも黙ってはいれないだろう。

 

「クート!」

 

噂をすれば何とやら。

先ほど追い払われたというクチートが広場に入ってきてメカの前に立ち塞がる。

 

「ニャ!? アレはさっきのクチートだニャ!」

 

「何、邪魔する気なの? ニャース、ちゃっちゃと追い払っちゃって!」

 

「ハイニャ!」

 

「クッ!?」

 

ニャースはメカのレバーやボタンを操作するとスコップの着いているアームを振り上げ、クチートを攻撃しようとする。

クチートは咄嗟の事で避ける事もできずに頭を抱えてその場にしゃがみこんでしまう。

 

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

 

「ピカ~、ピカピッカ!」

 

だがスコップが振り下ろされる直前にピカチュウのアイアンテールで横払いされ、スコップの着いたアームは間接部分の半ばから折られてしまう。

 

「クチート、大丈夫か!?」

 

「ピッカ!」

 

「クート!」

 

クチートを助けたのはサトシとピカチュウであり、すぐさま広場へ入ってくる。

それに続いてマサト、ハルカ、ソラトも広場へと駆け込んでくる。

 

「う、うぉおおお! 何だあのイカしたマシンはぁああああ!?」

 

「何だあのイカしたマシンはぁああああ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

通常運転のソラトと、通常運転で口上で名乗り上げるロケット団であった。

 

「ロケット団! 何やってるんだ!?」

 

「何って、ロケット団のホウエン支部を作ってるんだよ! 邪魔するな!」

 

「こんな所に作ったら周りのポケモンが迷惑かも!」

 

「もしかしてクチートもロケット団に刺激されて住処を追い出されたりしたのかも!」

 

「使い方はイカしてねぇな」

 

「うるさいわね! ニャース、やっちゃいなさい!」

 

「とニャ!」

 

律儀に目的を教えるコジロウにサトシ達が大声で反論するがそんな事で、ハイ分かりました他所に作ります、とは言わないのがロケット団である。

ニャースは再びボタンを押してメカのアームを操作する。

先ほど折れたアームも半ばからスペアが現れて再び元の長さに戻る。

 

「頼んだぞピカチュウ! 10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュウウウウ!」

 

ピカチュウの10万ボルトの電撃が奔りメカに直撃するが、メカはすぐに電撃を弾いてしまう。

 

「ピカ!?」

 

「何っ!?」

 

「今回も電撃対策は万全なのニャ! 今度はこっちから行くニャ!」

 

「「「わぁああああああっ!?」」」

 

「っと! キノコ、バトルの時間だ!」

 

「ガッサ!」

 

メカのアームが振り上げられ、スコップとツルハシが振り下ろされる。

当たればひとたまりも無いだろうが、大雑把な動きだったためサトシ達は間一髪でその場から飛び退いてこれを避けた。

そしてソラトは避けると同時にモンスターボールを投げてキノガッサのキノコを繰り出した。

 

「キノコ、マッハパンチ!」

 

「ガーッサ!」

 

キノコのマッハパンチがメカの正面に直撃するが、メカには目立った傷はなく効果は無かったようだ。

 

「私だって! お願いケムッソ、たいあたりよ!」

 

「ケムケム。ケムー!」

 

ハルカもケムッソを繰り出してバトルの姿勢に入り、すぐにたいあたりを指示する。

ケムッソのたいあたりもメカにヒットするが、やはり効果はなくケムッソの方が弾き返されてしまった。

 

「ケムー!?」

 

「ああっ、ケムッソ!」

 

「ニャハハ! そんなヘナチョコ攻撃効かニャいニャ!」

 

「下がれピカチュウ!」

 

「キノコ、バックステップだ!」

 

「きゃああっ!? 危なぁい!?」

 

「ク? クーッ!?」

 

再びニャースはメカのアームを振り回してサトシ達を攻撃する。

サトシとピカチュウ、ソラトとキノコは軽い身のこなしで攻撃を掻い潜り後ろに下がり、ハルカも弾き返されたケムッソを抱きかかえて慌てて後ろに下がった。

だが、クチートは誰の指示を受けた訳でもなく、アームのなぎ払いを受けてしまい吹き飛ばされてしまう。

 

「クチート! 大丈夫か!?」

 

「ク、クー!」

 

サトシが吹き飛ばされてしまったクチートに駆け寄ると、多少のダメージは受けているようだがまだ大丈夫そうである。

 

「ニャハハハハ! これはこの洞窟の主であるボスゴドラをバトル相手に想定してるのニャ! ピカチュウの電撃は勿論、細々とした攻撃は効かニャいニャ!」

 

「…ふむ、だったら! クロガネ、バトルの時間だ!」

 

「ゴォオオオド!」

 

対ボスゴドラを想定しているというニャースの言葉を聞いてソラトは続けてクロガネも繰り出した。

野生のボスゴドラではなくソラトが育てたクロガネならば通常よりも能力は上である。

 

「クロガネ、アイアンテール!」

 

「ゴォド!」

 

鋼の尻尾が繰り出されてメカの胴体を横薙ぎにし、メカは大きく後退するがやはり目立った傷は無かった。

 

「なーっはっは! 今回は俺たちの圧勝だぜ!」

 

「ニャース、トドメよ!」

 

「了解ニャ!」

 

ロケット団が最後の反撃に出ようとしたその時、サトシの頭にある光景が浮かんだ。

それは先ほどクチートを助ける時、ピカチュウのアイアンテールがメカのアームを叩き折った光景である。

今、クロガネのアイアンテールでさえ効果的なダメージを与えられなかったのに、何故ピカチュウのアイアンテールは通用したのか…?

 

「そうか! ピカチュウ、あのアームの間接にアイアンテールだ!」

 

「ピカ! ピカ~ピカピッカ!」

 

ピカチュウはサトシの指示通りにアイアンテールをメカのアームの間接に叩き込むと、アームは間接から先が叩き折れてしまった。

 

「よし! あのメカ頑丈だけど、繋ぎ目は脆いぞ!」

 

「ナイスサトシ! 装甲の繋ぎ目にキノコはマッハパンチ! クロガネはアイアンテール!」

 

「ガッサ!」

 

「ゴド!」

 

マッハパンチとアイアンテールがメカの装甲の繋ぎ目に叩き込まれると、装甲が剥がれてメカの内部が一部むき出しになってしまう。

 

「ニャニャ!? しまったニャ、頑丈さばっかり追求して繋ぎ目が甘かったニャ!?」

 

「「えーっ!?」」

 

「ソーナンス!」

 

「撤退よ! 一時撤退!」

 

「逃がさないわよ! ケムッソ、いとをはく!」

 

「ケムー!」

 

逃げ出そうとキャタピラをフル回転させてメカをバックさせて逃げ出そうとするロケット団だが、ケムッソのいとをはくでネバネバした糸がメカに巻き付いて動きを止める。

パワーを上げて逃げ出そうとするが、余計に糸が絡まり動けなくなっていく。

 

「よし、もっと装甲を剥がしてやる! ピカチュウ、10万ボ―」

 

「クート!」

 

サトシがメカに更なるダメージを与えようとするが、それを遮ってクチートがサトシの前に出て何かをアピールする。

どうやら自分にも戦わせて欲しいと言っているようだ。

 

「―ってクチート、お前も戦ってくれるのか?」

 

「クー! クー!」

 

「よーし、頼むぜクチート! かみつく攻撃だ!」

 

「クート!」

 

クチートはメカに接近すると体を翻して後頭部にある大きな偽の口を突き出してメカの装甲に噛み付いた。

そしてそのまま頭を振るい装甲を引き剥がす!

この一撃によりメカの前部の装甲が全て引き剥がされて内部がむき出しになる。

 

「クー!」

 

「いいぞクチート! よし、トドメだピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカーチュウウウウウウ!」

 

むき出しになった内部には電撃対策も何も無い。

10万ボルトの電光が奔りメカの内部に直撃し、バチバチとショートしてメカは爆発四散する。

爆発により石の洞窟の天井に穴が開き、そこから何時も通りロケット団が吹き飛ばされていく。

 

「あーあ。今回はいけると思ったのになぁ…」

 

「ちょっとニャース! メカの設計甘いんじゃない!?」

 

「というか予算不足でどの道繋ぎ目は脆くなってたニャ」

 

「ソーナンス!」

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

キラン☆

今日もめでたく空の彼方の星となったロケット団を見届ける。

これでもう石の洞窟のポケモン達も住みかを脅かされずに済むだろう。

 

「やったぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「これでもう石の洞窟の野生のポケモンも安心だね。これからはまた静かに暮らせそうだし。クチートも住処に戻るのかな」

 

「あっ、そういえばクチートをゲットしたかったのすっかり忘れてた!」

 

勝利の喜びも束の間。

マサトの言葉に元々はクチートをゲットしようと思っていたのを思い出すサトシだが、せっかくロケット団を倒して住処の安全を確保したのにゲットしてしまっては意味がないように思える。

どうしようかと頭を抱えているサトシだが、クチートはそんなサトシをジッと見つめるとバッと大きく飛び退いてバトルの体勢を取る。

 

「クートクト!」

 

「サトシ! クチート、バトルしたいみたいよ!?」

 

「えっ? 俺とバトルしてくれるのかクチート?」

 

「クー!」

 

住処を取り戻す戦いを共にしたサトシに何かしら影響されたのか、クチートは自らゲットされる可能性のあるバトルを挑んできた。

これはサトシも願ったり叶ったりである。

 

「よーし、頼むぜピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「でんこうせっか!」

 

「ピカ、ピッピッ!」

 

先手必勝とばかりにピカチュウは凄まじい速度でクチートに体当たりをするが、正面からの攻撃を態々受けるわけはないとばかりにクチートはジャンプしてでんこうせっかを避ける。

そしてクチートは先ほどのように後頭部の大きな口をピカチュウに向けて突き出した。

 

「クーット!」

 

「ピィカ!?」

 

大きな口が目の前に突き出され、ピカチュウは驚いて怯んでしまう。

 

「クチートのおどろかすだよサトシ! 怯むとピカチュウは動けなくなっちゃうよ!」

 

「来るぞピカチュウ! 避けるんだ!」

 

「クー、クゥウウウウウ!」

 

「ピ!? ピィカー!」

 

クチートは怯んでいるピカチュウに向けてようせいのかぜを巻き起こして攻撃する。

動きが止まってしまっていたピカチュウは避けることができずにまともにようせいのかぜを受けてしまうが、地面をコロコロと転がると素早く立ち上がった。

 

「あれってトウキさんのやってた攻撃を受け流す動きじゃない!?」

 

「ああ。どうやらピカチュウはあの動きも体得したみたいだな。ベンチで見てた分動きがよく見れたのかもな」

 

「よーし、いいぞピカチュウ! かみなりで反撃だ!」

 

「ピーカヂュウウウウウウウ!」

 

「クー!?」

 

素早く反撃の体勢に入ることができたピカチュウは、素早くかみなりを繰り出す。

クチートもピカチュウの素早い反撃は予想できなかったのかかみなりを避けることができずにダメージを受けてしまう。

 

「たたみ掛けろ! アイアンテール!」

 

「ピカピッカ!」

 

「クァウ!」

 

ピカチュウのアイアンテールとクチートのかみつく攻撃がぶつかり合い弾き合う。

だがピカチュウは空中でクルリと回って体勢を整える。

 

「行けピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカーチュウウウウ!」

 

「クゥウウウウウッ!?」

 

再びピカチュウの電撃が放たれ、その電撃は見事にクチートに命中する。

これにより十分にダメージが蓄積したと見たサトシはモンスターボールを構える!

 

「いっけぇ! モンスターボール!」

 

投げられたモンスターボールは真っ直ぐにクチートに向かって飛び命中すると、クチートを中に吸い込んで地面に落ちる。

クチートの最後の抵抗とばかりにモンスターボールが激しく揺れる。

だが揺れが徐々に小さくなっていき、ポンッと音を立ててボールは動かなくなった。

 

「よっしゃぁ! クチートゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

新たなる仲間であるクチートをゲットし、ボールを高く掲げるサトシと、それを共に喜ぶピカチュウ。

そしてそれを見守っていたハルカ達も新しい仲間のゲットを喜んでいた。

 

「やったわねサトシ!」

 

「これで修行もできるな」

 

「フェアリータイプの技があれば、トウキさんのかくとうポケモンにも対抗できるね!」

 

「ああ。これからの修行が楽しみだぜ!」

 

ロケット団を撃退して石の洞窟の平和を守り、新しい仲間であるクチートをゲットしたサトシ。

ムロ島でのポケモン修行は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




クチートの技とかとくせいを纏めたページって作った方がいいですかね?
またサトシやハルカのポケモンが増えたりしたら執筆考えておきますね。


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ムロ島の暴れん坊! 恋のバトルは甘くない?

どうやら日刊ランキングに載ったようで多くのマイリスト登録をして頂き嬉しい限りです。
皆さんの感想やマイリスト登録、高評価低評価関わらず評価は執筆の励みになっています。
これからもこの小説をよろしくお願いします。


ムロ島でのポケモン修行のため新たな仲間であるクチートをゲットしたサトシ。

今日は新しい仲間であるクチートと、他の仲間達との顔合わせを行っていた。

 

「皆、新しい仲間のクチートだ。よろしくな」

 

「クートクート!」

 

サトシのクチートの挨拶から始まり、サトシ、ハルカ、ソラトの手持ちポケモン達が挨拶をする。

新しい旅の仲間に皆喜んでおり、それぞれが言葉を交わす。

そしてクチートの視線はあるポケモンに注がれる。

 

「クー…」

 

「キャモ?」

 

クチートの視線はキモリへと注がれており、どことなく視線は熱っぽいものとなっており顔を赤くしている。

そのクチートの視線にサトシ達も気がつく。

 

「クチート、キモリを見てどうかしたのか?」

 

「顔が赤いけど、熱でもあるのかな?」

 

「いや、クチートの波動には乱れは感じられないから病気とかではないな。寧ろ落ち着いてるぞ」

 

「…これってもしかして」

 

サトシとマサトとソラトはクチートの様子を不思議がっており、何が起きているのか分かっていない様子だが、ハルカは何かを察したのか真剣そうな表情になる。

 

「どうしたんだハルカ? 何か分かったのか?」

 

「クチートは…もしかして…」

 

「クートー!」

 

「キャモッ!?」

 

何が起きているのか悟ったハルカにサトシが問いかけるがその前にクチートがキモリに飛びついて腕を取った。

そしてキモリの腕と体に自分の体をくっつけておりどう見てもキモリに好意を表現していた。

マサトとソラトはああ、そういうことか…と納得しているがサトシは相変わらず首を傾げていた。

 

「え、どうしたんだクチート?」

 

「クチートはキモリの事が好きになったのよ。所謂一目惚れってやつかも!」

 

「好きに? ポケモン同士なんだから仲良くするのは当たり前だろ?」

 

「…サトシってばお子様かも」

 

そう、クチートはキモリの事が好きになってしまったのだ。

だが基本恋愛の事が全く頭に無いサトシはそんなのは当たり前という言い分を持っておりよく分かっていないらしい。

そんなサトシにやれやれと首を振って応対するハルカに、サトシは益々首を傾げていた。

 

「クー、クー!」

 

「キャモ…キャモッ」

 

しつこく付きまとうクチートに嫌気が差したのかキモリはクチートを振り払うと近くの木に登って寝転がってしまう。

振り払われたクチートは残念そうにしているが木登りは苦手なのか木の上のキモリをずっと見つめていた。

 

「ありゃりゃ、フられちゃった」

 

「クッ! クーット!」

 

「いたたたたー!? こ、これがクチートのかみつくか! 痛いけど感激だぁー!」

 

マサトのフられたというワードにムッときたのかクチートは後頭部の口を突き出してマサトのお尻に噛み付いた。

 

「うーん、ポケモン達の恋の行方も見ものかも! 頑張ってねクチート!」

 

「クー!」

 

「いたたたた! お姉ちゃん助けてよー!?」

 

一方でハルカはクチートの恋を応援しているらしく、クチートを応援して仲良くなっていた。

 

そんなサトシ達をキャンプ地の近くの海から見つめている影があった。

影は水中から飛び出すとその巨体からググッと伸びるアームを使いピカチュウとクチートを捕まえた。

 

「ピカピー!?」

 

「クート!?」

 

「ピカチュウ!? クチート!? 何なんだこれは!」

 

アームの元を辿るとそれはどこかで見たことがあるような大きなコイキング型潜水艦だった。

上部のハッチが開くと、そこから飛び出す更なる3つの影が。

 

「何なんだこれは! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

当然いつものロケット団であり、お決まりの口上と共に参上する。

 

「ロケット団、ピカチュウとクチートを返せ!」

 

「返せと言われて返す悪党はいないのよ!」

 

「ピカチュウと、ついでにクチートもゲットしてやったぜ!」

 

「というワケでさっさと逃げるニャ!」

 

ピカチュウとクチートを捕まえたロケット団はコイキング型潜水艦の中へ入るとさっさと逃げてしまおうと海の中へと潜ろうとする。

しかし黙って捕まっているだけのピカチュウではない。

 

「逃がすか! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュウウウウウ!」

 

ピカチュウの電撃がコイキング型潜水型に奔るが、電撃が弾かれてしまう。

やはり何時も通り電撃対策をしているようである。

 

「へへーん、今回も電撃対策はできてるのさ!」

 

「くそ、だったら…!」

 

「キャモ! キャーッモ!」

 

サトシが次の手を考えていると、木の上にいたキモリが飛び出してきてコイキング型潜水艦に向けてエナジーボールを放つ。

エナジーボールはコイキング型潜水艦に直撃すると、プシューと音を立てて潜水艦から煙が出てくる。

 

「ちょっとニャースどうしたのよ!?」

 

「今のエナジーボールのせいで潜水艦が壊れちゃったのニャ。このままじゃ動かないニャ」

 

「ぐぬぬ! えーいこうなったらバトルでジャリボーイ達をやっつけんのよ!」

 

潜水艦が壊れてしまい、逃走手段が無くなってしまったロケット団は潜水艦から出てくるとモンスターボールを手に正面からポケモンバトルを挑んできた!

 

「行くのよハブネーク! と、ケムッソちゃん!」

 

「サボネア、お前もだ!」

 

「ハッブネーク!」

 

「ケム」

 

「サーボ、ネッ!」

 

「いだだだだ!? だからこっちじゃないって言ってるだろ!?」

 

ムサシはいつものハブネークと、サトシ達には初めてのお目見えとなるケムッソを繰り出してきた。

コジロウは何時も通りサボネアだが、やはり何時も通り抱きつかれてトゲが刺さっていた。

 

「ええっ!? ロケット団もケムッソを持ってたの?」

 

「そうよー。私の可愛いケムッソちゃん! 可愛いからバトルはさせないけどねー!」

 

「頼むぞキモリ!」

 

「キャモ!」

 

「だったら俺は! ヒョウカ、バトルの時間だ!」

 

「キュー」

 

ロケット団に対してサトシはキモリを、ソラトはヒョウカを繰り出して対抗する。

ヒョウカは陸上ではあまり素早く動けずに全力は出せないが、サボネアやケムッソに有効なこおりタイプの技が使えるから繰り出されたのだろう。

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「サーボネ!」

 

「ヒョウカ、れいとうビーム!」

 

「クゥー!」

 

ミサイルばりをれいとうビームがカチコチに凍らせて打ち落とすと、そのままれいとうビームはサボネアに直撃した。

 

「サボネー!?」

 

「よし、そのままこおりのつぶて!」

 

「クゥー、クウ!」

 

「サボボー!?」

 

「ああっ! サボネアー!? ぶえー!?」

 

更にこおりのつぶてで追い討ちをかけると、サボネアはコジロウを巻き込みつつ吹き飛ばされていった。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「キモリ、かわしてはたく攻撃!」

 

「ハッブネーク!」

 

「キャモッ、キャモ!」

 

「ハププッ!?」

 

「なっ!? へぶっ!」

 

「ニャニャッ!? 何でニャーまで!?」

 

ハブネークのしなる尻尾でのポイズンテールをジャンプで器用にかわしたキモリはその隙を突いて空中で体を捻ってハブネークの胴体をはたいた。

はたく攻撃により吹き飛ばされたハブネークもムサシと、ついでにニャースを巻き込みつつ吹き飛ばされていく。

吹き飛ばされたロケット団は全員壊れて動かなくなったコイキング型潜水艦に激突する。

 

「今だキモリ! あのアームにエナジーボール!」

 

「キャーモ!」

 

「ピカ!」

 

そしてエナジーボールでアームを半ばから吹き飛ばすと、そのアームに捕まっていたピカチュウを救い出した。

 

「ピカピ!」

 

「無事でよかったぜピカチュウ!」

 

「こうなったらニャース、クチートを人質に使うのよ!」

 

「了解ニャ!」

 

ニャースはコイキング型潜水艦のアームをリモコンで操作すると、クチートは頭を海面に近づけさせられてしまう。

 

「ジャリボーイ、このままバトルを続けるニャらクチートには溺れて貰う事にするニャ!」

 

「ク、クー!?」

 

「何っ!? 卑怯だぞロケット団!」

 

「卑怯は俺たちには褒め言葉だぜ!」

 

「そーいう事。さぁ、クチートに溺れてほしくなかったら攻撃しないことね!」

 

追い詰められたロケット団により、クチートは突如として人質ならぬポケ質にされてしまう。

これによりサトシ達はロケット団に手が出せなくなってしまい、逆にロケット団が反撃の体勢に入る。

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハッブネーク!」

 

「サボサボサボネーッ!」

 

「キャモッ!?」

 

「クゥー!?」

 

クチートのポケ質により攻撃をよけることもできないキモリとヒョウカはロケット団渾身の反撃をまともに受けてしまう。

キモリは吹き飛ばされて木に激突してしまい、ヒョウカも大きく後退してしまった。

そしてロケット団はトドメの一撃を放つ!

 

「次でトドメよー!」

 

「おう!」

 

「くそっ、クチートさえ助けられれば…! ん?」

 

次の攻撃に入ろうとしているロケット団のいるコイキング型の潜水艦の近くにユラリと小さな影が見える。

小さな影は勢いよく海面から飛び出すとその大きな鋏でアームを切り裂いた!

 

「ヘイヘーイ!」

 

「クー!」

 

海面から飛び出した赤い影の正体はごろつきポケモンのヘイガニであり、どうやらクチートを助けてくれたようだ。

 

「ああっ、クチートが!?」

 

「ちょっと何すんのよアンタ!?」

 

「ヘイ! ヘイヘイヘーイ!」

 

「卑怯な戦い方をするヤツは許さないって言ってるニャ」

 

どうやらヘイガニは近くでサトシ達の戦いを見ていたようである。

クチートをポケ質に取ったロケット団に対して怒りを抱いたのかクチートを助け出してくれた上にバトルに加わるようである。

 

「何を生意気な! ハブネーク、やっちゃいなさい!」

 

「ハブー!」

 

「ヘーイガッ!」

 

「ハププッ!?」

 

乱入者であるヘイガニを退場させようとハブネークが襲い掛かるが、ヘイガニは一歩も怯まずにクラブハンマーで反撃してハブネークを吹き飛ばす。

吹き飛んだハブネークは戦闘不能となりコイキング型潜水艦の所で倒れてしまう。

 

「よーし、クチートが無事なら遠慮なく行くぜ! キモリはエナジーボール! クチートはようせいのかぜ!」

 

「キャーモッ!」

 

「クート!」

 

「サボネーッ!?」

 

そして遠慮が要らなくなったサトシ達も攻撃を行う。

キモリとクチートによるダブル攻撃によりサボネアをハブネーク同様戦闘不能になりコイキング型潜水艦の所まで吹き飛ばされる。

 

「これでトドメだ! ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ヒョウカ、れいとうビーム!」

 

「ピーカチュゥウウウウ!」

 

「クゥーーー!」

 

「「あわわわわ!? ギャーッ!?」」

 

ピカチュウの電撃とヒョウカの氷結のビームをまともに浴びてしまったロケット団は凍りながら痺れてドカン!と爆発した。

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

ヒュ~と潜水艦ごと飛んでいき水平線の彼方へと消えていったロケット団を見送り、サトシ達は漸く一息つくことができた。

 

「戻れヒョウカ。お疲れさん」

 

「ピカチュウ、クチート、大丈夫だったか?」

 

「ピィカ!」

 

「クークー!」

 

ソラトはヒョウカをボールに戻し、サトシはピカチュウとクチートの無事を確認すると助けてくれたお礼を言うためにヘイガニに近寄った。

 

「クチートを助けてくれてありがとな。えーっと…」

 

『ヘイガニ ごろつきポケモン

するどいハサミで敵を捕まえる。好き嫌いが無いので何でも食べる。汚い水でも平気で住めるポケモン。』

 

クチートを助けてくれたヘイガニにお礼を言おうとするサトシだが、ヘイガニは初めてみたため名前が分からなかったためポケモン図鑑を開いてヘイガニを検索する。

 

「ヘイガニか! ありがとなヘイガニ!」

 

「ヘイヘーイ!」

 

名前が分かったところで改めてヘイガニにお礼を言うとヘイガニも気にするなと言う様にハサミを上げて返事をする。

 

「クート」

 

「ヘイ? …ヘイヘイヘーイ!!」

 

クチートもヘイガニにお礼を言うためにヘイガニに近寄る。

そしてヘイガニはクチートを見ると、少しの間硬直すると目をハートマークにして悶え始めた。

どうやらクチートはヘイガニのストライクゾーンど真ん中だったらしい。

 

「あれ、ヘイガニどうしたの?」

 

「ふむ…波動を感じると激しく喜んでいるな。というか波動の動きが激しくてそれくらいしか読み取れないな」

 

サトシもマサトもソラトも、男3人は突然ヘイガニが騒ぎ出した理由を察する事ができなかったが、恋に敏感な乙女であるハルカはすぐにその理由を察する事ができた。

 

「もう、3人とも分からないの? ヘイガニはクチートの事が好きになっちゃったのよ」

 

「…だからそれ普通の事だろ? ポケモン同士なんだし」

 

「だから…ハァ、もういいわ。サトシには言っても分からないでしょうし」

 

「?」

 

ハルカがヘイガニの心境を教えるものの、サトシはやはり恋愛の事はサッパリらしい。

そうこうしている間にヘイガニはクチートへと熱烈なアタックを仕掛ける。

どこから持ってきたのか花束を持ってクチートに迫って差し出す、というか突き出す。

 

「ヘイヘイ! ヘイヘイヘーイヘイ!」

 

「クー…クー!」

 

「ヘイヘーイ! ヘイ?」

 

あまりにヘイガニがしつこく迫るため、恩人であるにも関わらずクチートは嫌そうな顔をして逃げ出してしまう。

押して押して押しまくるヘイガニは逃げたクチートを追いかけるも、クチートの逃げた先を見て硬直する。

クチートはヘイガニから逃げ出して自身が愛するキモリの腕を取り、その後ろに隠れたのだ。

 

「クート」

 

「キャモ?」

 

「ヘ…イ…!?」

 

惚れた相手には既に心に決めた相手が居た…といった具合にクチートとキモリを見てしまったヘイガニはショックのあまりに真っ白になって燃え尽きていた。

ショックついでにヘイガニが持っていた花の花びらはヒュゥ~と吹いた風に全て飛ばされていってしまった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そっか、クチートはキモリの事が好きになったんだよね」

 

「ヘイガニの恋は始まる前に終わってたって事か…。まぁ、ドンマイ?」

 

「ヘ…ヘイヘイヘイ! ヘイガッ!」

 

「キャモ? キャーモキャモ」

 

マサトとソラトの言葉にヘイガニの中で何かが切れたのか、ヘイガニはキモリに向けてハサミを向けると何やら早口でまくし立てている。

対してキモリは何やら戸惑っておりどうどうとヘイガニを落ち着かせようとするが、それがかえって逆効果となりヘイガニを嫉妬の炎で燃え上がらせる。

 

「何だ? どうかしたのかヘイガニ?」

 

「きっとバトルを申し込んでいるのよ。クチートを賭けて勝負しろ!みたいな感じなのよきっと」

 

「ヘイヘイ!」

 

「どうするキモリ? ヘイガニとバトルするか?」

 

「キャモ…キャーモ?」

 

「クート」

 

ハルカの予想に対してヘイガニは大きく頷いているため、どうやらその通りらしい。

だが当のキモリはバトルには消極的でありやる必要なくないか?といった困り顔でヘイガニを見ていた。

無論クチートもキモリ一筋でヘイガニはノーセンキューであるためバトルには興味無さ気である。

だがそれで収まるのであればヘイガニもごろつきポケモンなどとは呼ばれない。

 

「ヘイヘイ!」

 

「キャモッ!?」

 

「なっ!? 危ないキモリ!」

 

無理やりにでもバトルだと言わんばかりにヘイガニはハサミを開いてはさむ攻撃を繰り出す。

キモリは間一髪ではさむを回避すると、仕方が無いとばかりにバトルの構えを取った。

 

「キャモ!」

 

「お、やる気だなキモリ! それじゃ行くぞヘイガニ!」

 

「ヘイヘーイ!」

 

ヘイガニは先手必勝で両手のハサミを開くとそこから泡の弾丸、バブルこうせんを発射する。

 

「キモリ、ジャンプしてかわせ!」

 

「キャモー!」

 

「そのままはたく攻撃!」

 

「ヘイ!」

 

キモリはバブルこうせんを大きくジャンプして回避すると、落下の勢いを利用しつつ体を捻りはたく攻撃を繰り出す。

だがヘイガニは身を縮めてキラリと体を少し輝かせるとはたく攻撃を正面から受けてみせた。

 

「今のは!」

 

「ヘイガニのかたくなるだな。防御力を上げて正面から攻撃を受けきってみせたな」

 

「やるなヘイガニ! だったらスピード勝負だぜ! キモリ、でんこうせっか!」

 

「キャモキャモキャモ!」

 

「ヘイー!?」

 

ヘイガニの攻防共にバランスの取れた戦法に感心しながら観戦するマサトとソラトを横に、サトシは今度は速度で勝負を仕掛ける。

正に電光石火に相応しきスピードでヘイガニとの距離を詰めたキモリの攻撃が決まり、今度は防御することもできずにヘイガニは吹き飛んだ。

だがヘイガニは空中で体勢を整えると片方のハサミを振り上げる。

 

「ヘイヘイヘイヘイ!」

 

「キモリ、クラブハンマーが来るぞ!」

 

「キャモ!?」

 

空中からの強烈な一撃がキモリに振り落とされる瞬間、キモリは避けようとヘイガニに背中を見せてしまう。

その無防備な背中にヘイガニのクラブハンマーが叩き込まれた―

 

「ヘイッ! …ヘイ?」

 

「キャモッ!? …キャーモ?」

 

―のだが、キモリは大きく吹き飛ばされはしたものの大したダメージを受けていなかった。

このダメージの少なさはタイプ的な相性以外にも何か要因がありそうである。

 

「何!? お兄ちゃん、今何が起こったの!?」

 

「今のは…キモリの背中をクラブハンマーで攻撃したが、キモリの尻尾に当たったせいでそれがクッションになってダメージが軽減されたんだ」

 

そう、ソラトの解説通りクラブハンマーはキモリの尻尾に命中してしまいクッション…盾のような役割を果たしてダメージがより軽減されたのだ。

 

「ヘイ…ヘイヘイ!」

 

だがそれで止まるヘイガニではなく、今度はバブルこうせんを放ってキモリに攻撃を仕掛ける。

 

「キモリの尻尾…よし! キモリ、尻尾でバブルこうせんを受け止めるんだ!」

 

「キャモー!」

 

サトシの指示に従い、振り返ってキモリは尻尾を盾のようにして構えてバブルこうせんを受け止めた。

先ほどと同じようにほぼダメージは無いようである。

 

「よし! いいぞキモリ! はたく攻撃だ!」

 

「キャーモ!」

 

「ヘイガッ! ヘイヘーイ!」

 

キモリの反撃を、ヘイガニはかたくなるで受け止めると再びバブルこうせんで反撃する。

しかし先ほどと同じく尻尾で防がれて思うようにダメージを与える事ができないでいる。

流れは完璧にサトシ達が握っていた。

 

「トドメだキモリ、エナジーボール!」

 

「キャモ、キャーモッ!」

 

「ヘイ!? ヘーイー!?」

 

エナジーボールは吸い込まれるようにしてヘイガニに命中すると爆発し、ヘイガニを吹き飛ばした。

こうかはばつぐん、かつ防御してたとはいえはたく攻撃のダメージも0ではないためヘイガニは戦闘不能になってしまった。

 

「ヘイヘイ…」

 

「よし、このままゲットだぜ! 行け、モンスター―」

 

倒れたヘイガニをゲットしようとモンスターボールを構えるサトシだったが、その前に再び海面から大きな影が飛び出してくる。

大きな影は先ほどサトシ達が吹き飛ばしたロケット団のコイキング型潜水艦である。

先ほどとは違いボロボロであちこちツギハギで修繕されており、×マークでテープも張られて穴を塞がれている。

お手製修理感満載だが、どうやらあれで最低限機能しているらしい。

 

「な、何だ!?」

 

「アレはロケット団の…なんか今日はしつこいな」

 

「なんか今日はしつこいなと言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「以下省略なのニャ!」

 

再び現れたロケット団はコイキング型潜水艦のボロボロアームを操作すると、再びピカチュウとクチートを捕まえてしまう。

 

「ピカー!」

 

「クー!」

 

「ああっ!? ピカチュウ! クチート!」

 

「今度こそコイツらは頂いていくニャー!」

 

今度こそピカチュウとクチートを捕まえたロケット団は素早く潜水艦の中へ戻ると中でペダルを漕いで急速潜行する。

あっという間の出来事に、サトシ達は何かする前にロケット団に逃げられてしまう。

 

「ああっ!? 待てロケット団!」

 

「ど、どうしよう!? このままじゃ逃げられちゃうよ!」

 

「お兄ちゃん! 何か方法は無いの!?」

 

「よし、今度はスイゲツを―」

 

「ヘイヘーイ!」

 

海へ潜って逃げるロケット団に対して追いかけるためにソラトはスイゲツを繰り出そうとするが、その前にヘイガニが飛び出して海へと潜った。

どうやらピカチュウとクチートが連れ去られていくのは戦闘不能になりつつ見ていたようである。

愛しのクチートが攫われたと見て、急いで助けに行くつもりなのだろう。

ヘイガニは猛スピードで水中を泳ぎ、みるみるうちにコイキング型潜水艦に追いついてしまう。

 

「いやー、なんとか上手くいったな!」

 

「あいつら1度ニャー達を撃退して油断してたのニャ」

 

「それよか早く距離を離してピカチュウとクチートを回収すんのよ! 溺れられたら大事だからね」

 

コイキング型潜水艦の中では勝ちを確信したロケット団による喜びの会話がされているが、潜水艦に追いついたヘイガニは鋭いハサミを使い、再びピカチュウとクチートを捕まえているアームを切り裂いた。

そして溺れないようにピカチュウとクチートをハサミで軽く掴むと海面へと浮上した。

 

「ヘイヘーイ!」

 

「ピカッ! ピカ、ピカチュウ!」

 

「クッ! クートクート!」

 

「ヘ、ヘーーイ!!」

 

ピカチュウとクチートは助けてもらったお礼をヘイガニにすると、クチートのお礼を受けたヘイガニは目をハートにして悶え喜んでいた。

しかし悶えるのもほどほどに、ヘイガニはピカチュウとクチートを連れて少し離れてしまっていた先ほどの海岸まで戻る。

 

「ヘイガニ! またピカチュウとクチートを助けてくれたんだな! ありがとな!」

 

「ヘーイ」

 

無事にサトシ達と合流すると、再びサトシはヘイガニにお礼を言う。

今日だけでヘイガニに2回も助けられてしまい世話になってしまったのだ、お礼は1つ2つだけではサトシの方が気がすまないだろう。

 

だがそこへコイキング型潜水艦が戻ってきてしまった。

どうやらピカチュウとクチートが逃げた事に気がついたようだ。

 

「コラー! 折角捕まえたんだから逃げたらダメでしょーが!」

 

「そうだそうだ! また捕まえるから今度は逃げるなよ!」

 

まこと勝手な主張である。

だがそんな提案を受ける者はサトシ達は勿論この世では誰も居ないだろう。

 

「勝手な事言うな! 今度こそやっつけてやる! 行くぞ皆!」

 

「ピカッ!」

 

「キャモ」

 

「クー!」

 

「ヘイヘイ!」

 

「「「ゲゲッ!?」」」

 

ピカチュウ、キモリ、クチートと共にヘイガニまでもがロケット団を攻撃する姿勢になる。

先ほどのバトルでハブネークとサボネアが戦闘不能になっているロケット団に抵抗する術は無い。

 

「ピカチュウは10万ボルト! キモリはエナジーボール! クチートはようせいのかぜ! ヘイガニはバブルこうせんだ!」

 

「ピーカチュウウウ!」

 

「キャーモッ!」

 

「クートーッ!」

 

「ヘーイガッ!」

 

ポケモン達の攻撃が一斉に放たれ、最終的にはエネルギーが1つに纏まりコイキング型潜水艦に直撃すると、今度こそコイキング型潜水艦は大きな爆発音と共に四散して吹き飛んだ。

今日も今日とて空を飛ぶロケット団。今日は今日で2回目の空中飛行だロケット団。

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

キラリン☆と昼間だというのに空の星となってしまったロケット団。

あれだけ吹き飛べばもう今日は安全になるだろう。

 

「今度こそやったぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「皆いいコンビネーションかも!」

 

「うん! ヘイガニもイイ感じでバトルできてたし、サトシもさっきゲットしようとしてたからこのまま仲間になってもいいんじゃない?」

 

「ヘイ?」

 

皆が無事であった喜びを分かち合っていると、マサトの言葉にヘイガニが首を傾げる。

確かに先ほど邪魔が入る直前、サトシはヘイガニをゲットしようとしていた。

それに今のバトルでの最後の合体攻撃は中々皆の息が合っていた。

 

「そうだな…ヘイガニ、どうだ? 俺達と一緒に来ないか?」

 

「ヘイ、ヘイヘイ…」

 

ヘイガニは戸惑いつつも愛しのクチートと一緒にいられるなら良いかもしれない、と考えてクチートの方を向く。

 

「クートクト!」

 

「キャモ? キャモキャモ…」

 

「ガッ!?」

 

が、クチートはキモリの腕を取って抱きついており誰がどう見てもヘイガニは眼中に無いようだった。

しかもキモリもやれやれといった態度を取りつつも今度は振り払うような事はしなかった。

無論先ほど助けてくれた事には感謝しているのだろうが、クチートからすればヘイガニは恋愛対象ではなかったらしい。

あまりのショックにヘイガニは再び真っ白になってしまい、ヒュゥと寂しい風がヘイガニの周囲を吹き抜けていった。

 

「ヘ、ヘ、ヘイヘイヘーイ! ヘイヘイ!」

 

硬直から回復したヘイガニは捲くし立てるようにしてサトシに何かを訴える。

 

「うわっ!? どうしたんだヘイガニ!?」

 

「波動が物凄く激しく燃え上がってるな。なんだか滅茶苦茶やる気に満ち溢れているぞ」

 

「もしかして、自分をゲットしてって言ってるのかも。サトシの手持ちになってクチートを振り向かせるつもりじゃないかしら」

 

「ヘイヘイ!」

 

ハルカの言葉はまたも的中していたようで、ヘイガニは勢いよく首を縦に振って肯定した。

どうやら恋愛事に関してのハルカの観察眼や勘というのは侮れない物があるようだ。

 

「よーし、そうと決まれば! 行くぜヘイガニ!」

 

「ヘーイ!」

 

サトシはモンスターボールを放ると、ヘイガニは自らハサミを当ててモンスターボールに吸い込まれてゲットされる。

こうしてキモリのライバル?であるポケモン、ヘイガニをゲットして更に仲間を増やす事ができたのだった。

 

「よーし! ヘイガニ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

クチートに惚れ込んだヘイガニをゲットする事ができたサトシ。

新しく、賑やかな仲間を加えた彼らのポケモン修行はまだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




オカタヌキさんより挿絵を頂きました。
ご本人の許可も頂いているので挿入させて頂きます。
ありがとうございます!


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進化 カラサリス! 過去の思い出と変わらぬ想い

皆さん、ただいま戻りました。
こんな小説を待っていてくれた方も、初めて見ていただける方も、お待たせ致しました。
再びポケモンを描くために戻ってまいりました。


ムロ島でポケモン修行を始めたサトシ達。

先日クチートとヘイガニを新たな仲間に加えたサトシは、ここ数日間ソラトに教わった修行法でメキメキとバトルの腕を上げていた!

今日も今日とて、ムロ島のビーチで修行に明け暮れていた。

 

「ピーカーチュゥウウウウ!」

 

「来るぞキモリ! ジャンプして避けろ!」

 

「キャモ!」

 

ピカチュウの放つ10万ボルトをジャンプして回避するキモリだが、空中には既に迎撃の用意をしたスバメが居た。

スバメはつばさでうつを使いジャンプしたキモリを迎え撃つ。

 

「スバ!」

 

「キモリ、尻尾で受け止めろ!」

 

「キャ! モッ!」

 

「ヘイヘーイ!」

 

尻尾を盾にしてつばさでうつを受け止めたキモリはクルリと回転して着地して攻撃を凌いだ。

だがそれを待っていたと言わんばかりにクラブハンマーをヘイガニが放つ。

 

「でんこうせっか!」

 

「キャモッ!」

 

「ヘ!? ヘイー!?」

 

だが易々とそうさせるサトシとキモリではない。

ヘイガニが間合いを詰めきる前にキモリのでんこうせっかにより一気に距離が詰められ、ヘイガニのクラブハンマーを振り下ろす前にキモリのでんこうせっかが決まる。

だがその隙を見てピカチュウがジャンプして跳び上がり、尻尾にパワーを集中してアイアンテールを放つ。

 

「ピカピッカ!」

 

「キャモー!?」

 

でんこうせっかを決めた隙を突かれて避ける事もができず、キモリはアイアンテールをまともに受けてしまう。

 

「スバー!」

 

「キャモモ!?」

 

更にキモリの背後に空中から回りこんだスバメのつつく攻撃が決まり、こうかばつぐんの攻撃によりキモリは大きなダメージを受ける。

 

「キャ、モ…!」

 

「キモリ! あっ、ヘイガニが来るぞキモリ! エナジーボールで撃ち落とせ!」

 

「ヘーイガッ!」

 

「キャーモッ!」

 

ヘイガニがハサミを開いてバブルこうせんを放ち泡の弾丸がキモリに迫る。

だがキモリはサトシの指示で咄嗟にエナジーボールを放ってバブルこうせんを相殺する。

技がぶつかり合い相殺されて土煙が舞い上がると、ポケモン達はそれぞれ距離を取って様子見の状態に入る。

 

「よし、そこまでっ!」

 

そして横から監督として修行を見ていたソラトから終了の合図が入り、バトルを終わらせる。

1体側だったキモリはとサトシはフゥと息を吐いて漸く落ち着いた。

まだこの修行に慣れておらず、元々熱くなりやすい性質のサトシでは、この修行でポケモン達に無理をさせて怪我をさせる可能性もあるため、ソラトが終了の合図をかける事になっていたのだ。

 

「お疲れ様キモリ。いいバトルだったぜ」

 

「キャモ」

 

「ピカチュウ、スバメ、ヘイガニもお疲れ様。ありがとな!」

 

「ピカピッカ」

 

「スバー」

 

「ヘイヘーイ」

 

サトシは一旦修行を終えると、疲れているポケモン達を休ませるためにモンスターボールにした。

傍で修行の様子を見ていたマサトがサトシに駆け寄り、興奮した様子で話しかける。

 

「イイ感じだったねサトシ! もうトウキさんにリベンジしてもいいんじゃない!?」

 

「サンキュー、マサト。でもまだまだ…このくらいで満足してちゃトウキさんには勝てないよ」

 

ここ数日間この修行法でサトシとポケモン達のバトルの腕はかなり上がったが、それに満足せずにサトシは更に自分を磨こうとする向上心を持っていた。

 

「その向上心は良いことだぜサトシ。それがお前をもっともっと強くするんだ」

 

「へへっ、ありがとなソラト!」

 

目標と定めたソラトから褒められて嬉しそうに頬を掻くサトシにソラトも思わず頬を緩めた。

と、そこでサトシはこの場にハルカが居ないことに気がついた。

 

「あれ? そういえばハルカは?」

 

「お姉ちゃんならさっき林の方を散歩してくるって言ってそっちに行っちゃったよ」

 

「ハルカはバトルよりかはコンテンストに興味があるみたいだし、バトルをずっと見てるのも退屈だったんだろ」

 

「それじゃ修行もひと段落したし、そろそろお昼ご飯にしないか?」

 

「ああ。それじゃあ俺はお昼の準備をしてるから2人はハルカを呼びに―」

 

「きゃあああああっ!?」

 

サトシ達がお昼の準備をしようと話をしている最中に、先ほどハルカが散歩に向かったという林の方からハルカの悲鳴が響き渡る。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「林の方からだ! 行ってみ―」

 

サトシの言葉が言い終わらない内に、ソラトは林の方へと全速力で走り出していた。

それだけ妹分であるハルカの事が心配なのだろう。

 

「ソ、ソラト! 待ってよー!」

 

「とにかく俺たちも行こう!」

 

「ピカッ!」

 

こうしてソラトを先頭にサトシとピカチュウとマサトも林の方へと向かうのだった。

一方ハルカはというと、林にポケモンと一緒に散歩へ行ったはいいが、初めて見るポケモン達に目移りしていた。

そしてそういったポケモン達にちょっかいをかけていたら、茂みの中に潜んでいたコノハナ達の怒りを買ってしまい追いかけられているという状況だった。

 

「あーん! コノハナの鼻を触ったら怒るなんてー!」

 

「チャモチャモ!」

 

「ケム」

 

「「「コノコノコノ!!」」」

 

アチャモとケムッソと一緒に走ってコノハナ達から逃げながらポケモン図鑑を開いてコノハナの事を調べる。

 

『コノハナ いじわるポケモン

タネボーの進化系。鬱蒼とした森に住むポケモン。たまに森を出ては人を驚かせる。長い鼻を掴まれたり触られるのは大嫌い。』

 

「嘘~! 知ってたら触らなかったのに~!」

 

コノハナが鼻を触られるのが嫌いなのに触ってしまい怒らせた自分の過去を悔いるハルカだったが、そんな事を言っても後の祭りである。

徐々にハルカ達との距離を詰めるコノハナ達は、射程範囲に入るとすぐさま手に持つ木の葉を手裏剣のように投げてはっぱカッターを繰り出した。

 

「助けて! お兄ちゃーん!」

 

「キノコ、マッハパンチだ!」

 

「ガーサッ!」

 

「コノー!?」

 

ハルカの叫びと共に駆けつけたソラトがモンスターボールからキノコを繰り出して攻撃させる。

キノコのマッハパンチははっぱカッターの嵐を引き裂き、音速の拳がコノハナの1体に直撃する。

あくタイプを持つコノハナにはかくとう技であるマッパハンチはこうかばつぐんだ。

マッハパンチを受けたコノハナは一撃で戦闘不能になり倒れた。

 

「コノ!? コノコノ!」

 

「コーノ!」

 

突然の乱入者に仲間を倒されてしまったコノハナ達は倒れた仲間を担ぐと慌ててその場から逃げ出していく。

ソラトも逃げていくコノハナを攻撃する理由もないのでそのまま見逃した。

 

「ハルカ、大丈夫だったか?」

 

「うん! ありがとうお兄ちゃん!」

 

「ハルカー!」

 

「お姉ちゃん大丈夫!?」

 

事が収まった後でだが、サトシとマサトもやって来る。

 

「うん、お兄ちゃんが助けてくれたから」

 

「良かった…もう、危ない目に遭わないように気をつけてよね!」

 

「あはは、ゴメンナサイ…」

 

「ま、旅の合間にはこういう事もあるもんだ。こうやって勉強しながらトレーナーは成長していくモンだよ」

 

弟であるマサトに逆に心配と注意をされてしまうが、身から出た錆なため素直に反省して縮こまってしまうハルカだった。

それを見てソラトは苦笑いを浮かべながらフォローをする。

マサトとしては不注意な姉に対する心配があり、ハルカとしては分かってはいるのだがついやってしまったという所がある。

しかしハルカは弟であるマサトに注意されてしまうという、ある意味屈辱を味わってしまい少しピリピリした雰囲気になってしまう。

そうこうしている内に、グゥ~とサトシとピカチュウのお腹が鳴る音が響く。

 

「…あはは、さっきまで修行してたからお腹減っちゃった」

 

「ピカ…」

 

「「「…あははははは!」」」

 

先ほどまでのピリピリした雰囲気はサトシとピカチュウのお陰で吹き飛ばされ、ハルカとマサトにも笑顔が戻った。

こうしてサトシ達は1度お昼ご飯を食べるためにキャンプに戻るのであった。

 

 

 

キャンプに戻りソラトの作ったお昼ご飯であるサンドイッチを食べながら会話を弾ませる。

 

「そういえばサトシ、特訓はどう?」

 

「おう! 俺もポケモンもメキメキ強くなってるぜ! けどまだトウキさんを倒すには修行を続けないとな!」

 

午後からも修行をするつもりであるサトシは体力をつけるためにサンドイッチをガツガツと食べていく。

ピカチュウ達もポケモンフーズを食べて力をつけている。

と、食べている内に話題は先ほどのハルカの件になる。

 

「そういえばお姉ちゃん、さっきもソラトに助けてーって言ってたよね。お姉ちゃんはすぐにソラトに頼るんだから」

 

「ん? さっきも…? それってどういう事だマサト?」

 

「お姉ちゃんってば、ソラトが旅に出てるって分かってるくせにすぐに助けてお兄ちゃ~んって言うんだよ」

 

「ちょ、ちょっとマサト!」

 

先ほどハルカがソラトに助けを求めた件についてマサトが掘り返すと、『さっきも』という言葉にサトシが反応する。

どうやらハルカはソラトが旅に出ている5年間の間も事あるごとにソラトに助けを求めていたらしい。

 

「だってお姉ちゃん、前に家で脚立に昇って脚立の脚が壊れてフラフラしてた時にもソラトの事呼んでたじゃない」

 

「あ、あれは咄嗟の事でつい…」

 

「咄嗟にソラトを呼んじゃうくらい体に染み付いてるんだね」

 

実際にあった事を例に出されてマサトに突っ込まれると、ハルカは恥ずかしさから顔を赤くしてうろたえる。

 

「でも昔からハルカに何かあると助けるのは俺の役目だったからな。俺が旅に出る前もハルカが木の上にある木の実を取ろうとしたら降りれなくなって、俺が抱えながら降ろしたっけな」

 

「ちょっとお兄ちゃんまで!」

 

ハルカは失敗談を語られるのがよっぽど嫌なのか顔を赤くしながらソラトに対して声を上げるが、思いのほか話は盛り上がりマサトとソラトは話をやめない。

 

「それとお姉ちゃん、昔はポケモンがちょっと苦手でさぁ。昔ポチエナに吠えられて尻餅ついて倒れたんだよ! その時もお兄ちゃ~んって!」

 

「昔釣りに行った時もコイキングがかかったんだが逆に水の中に引き込まれて、その時も俺が抱えて引き上げたんだよ」

 

「~~~~っ! マサトもお兄ちゃんも昔の事バカにして! もう知らない!」

 

余程恥ずかしかったのか、ハルカは羞恥と怒りで顔を真っ赤にすると勢いよく立ち上がってその場を離れていってしまった。

マサトとソラトもやりすぎたと思ったのかバツの悪そうな表情で互いに顔を合わせる。

 

「ちょ、待てってハルカ!」

 

「ゴメンって、お姉ちゃーん!」

 

ソラトとマサトは森へ向かっていくハルカを追いかけて行くが、ハルカもムキになっているのかそれから逃げるように森へ入っていってしまった。

サトシはポツンと1人残され、呆気にとられていた。

 

「もうっ! マサトもお兄ちゃんも失礼しちゃうわ、昔の失敗談を態々サトシの前で言うなんて! それにお兄ちゃんに助けを求めちゃうのも昔からの癖みたいなものだし仕方ないかも!」

 

1人でプンスカ怒って森に入って行ったハルカは、未だに怒りが収まらず周囲の様子も確認せずにズンズン進んでいってしまう。

そして進んでいく道すがら、ハルカは何か柔らかい物を踏んでしまう。

 

「グガッ!?」

 

「あら、今何か踏んだかしら?」

 

「グルルルルル…!」

 

ハルカが踏んでしまったのは、とうみんポケモンのリングマの尻尾である。

気性が荒いポケモンで有名なリングマの尻尾なんか踏んでしまった日には―

 

「あ、えと…その…」

 

「グルアアアアアアア!」

 

「きゃあああああっ!」

 

―まあ、怒られて追いかけられるのは間違いない。

リングマに追いかけられつつもハルカはポケモン図鑑を開いてリングマを検索する。

 

『リングマ とうみんポケモン

ヒメグマの進化系。森の中にはリングマが餌集めをする大木や小川があちこちにあるという。毎日餌を求めて森を歩く。』

 

「きょ、凶暴そうな見た目かも~!」

 

「グルァアアアアア!」

 

「ひゃあああああ!」

 

大慌てで逃げるハルカを追いかけるリングマは鋭い爪と牙をむき出しにしており、ハルカは顔を青くして走りに走る。

だがまたしても後ろから追いかけてくるリングマに気をとられて前方不注意により正面の谷に気がつかないまま脚を踏み外してしまう。

 

「えっ!? きゃああああああ!」

 

「ハルカーッ!」

 

そのまま谷の底へと岩壁を滑り落ちていってしまうが、後を追いかけてきたソラトも谷へ飛び込んでいきハルカを抱きしめる。

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

「このまま滑り降りる! しっかり捕まってろ!」

 

「う、うん!」

 

谷底に滑り降りてどうにか勢いを殺したソラトは抱きしめていたハルカを離すと一息ついた。

先ほどハルカを追いかけていたリングマも流石に谷に落ちたハルカを追うのは諦めてどこかへ行ってしまった。

 

「ありがとう、お兄ちゃん。マサトとサトシは?」

 

「マサトは森に入ると危ないからサトシと一緒にキャンプに居て貰ってる。それより怪我はないかハルカ?」

 

「うん、大丈―痛っ!」

 

怪我をしていないか体をチェックするハルカは一見怪我は無いように見えるが、足首にズキリと痛みを感じて蹲る。

見てみると足首が赤く腫れあがってしまっている。

恐らく谷の岩壁を滑り降りている時に捻ったか挫いたかしてしまったのだろう。

 

「見せてみろ…大丈夫だ。じっとしてろよ」

 

ソラトは足首に手をかざすと波動を集中させてハルカの体へと流し込む。

生命力の流れである波動は、相手に譲渡すれば傷や状態異常をある程度まで癒すことができる。

これによって、ハルカの足首の腫れは少しはマシになった。

以前トウカシティでミツルの体調を良くしたり、島でサメハダーの毒を癒したのと同じ原理である。

 

「どうだ?」

 

「…うん、大分良くなったかも!」

 

「そうか。だが腫れてるし、無理はするなよ。…さて、この谷どうやって登るか」

 

ソラト達が落ちた谷は地面に裂け目ができているような形になっており、岩壁は傾斜はついているがよじ登るのは無理ではないがキツいだろう。

こんな地形では空を飛ぶ以外に脱出方法は無いように思えるが…。

 

「空を飛ぶなら…出て来い、モウキン!」

 

ソラトは空を飛んで脱出するためにウォーグルのモウキンを出す。

モウキンに掴んで貰い空を飛んでもらえば脱出は容易だろう。

 

「モウキン、俺たちを上まで運んでくれるか?」

 

「ウォッ!」

 

「よし、じゃあまずはハルカからだ。しっかり掴んで離さないようにな、モウキン」

 

「わわっ! よろしくねモウキン」

 

モウキンの力ならば2人同時に運ぶこともできるが、安全面を優先したためまずはハルカを掴んでゆっくりと空へと飛びあがる。

周囲の岩壁にぶつからないようにゆっくりゆっくりと上昇していると、谷の端に潜んでいた黒い影が飛び立った!

 

「「「ヤァー!」」」

 

「ヴォッ!?」

 

「きゃあっ!? 何この子達!?」

 

谷の影から飛び立ったのは黒い羽を持つポケモン、ヤミカラスの群れだった。

ヤミカラスは縄張りを侵されたと思ったのかモウキンに群がって攻撃を仕掛ける。

 

「ヴォッ! ウォーッ!」

 

「きゃああ! やめてー!」

 

「モウキン、ハルカを離すなよ! 1度下に戻れ!」

 

「ヴォ!」

 

ヤミカラスの攻撃を掻い潜り、モウキンは急降下して1度安全な場所までやってくるとヤミカラスは無理に攻撃はせずに再び谷の端へと戻っていった。

しかし空を飛んで脱出しようとすれば先ほどのヤミカラスに攻撃されてそれ所ではないだろう。

モウキンもソラトやハルカを掴んだままではまともにバトルもできないだろう。

 

「…こうなったら、岩壁よじ登るしかないか」

 

「ええっ!? この高さを!? 無理よお兄ちゃん、私も足を痛めてこんな壁登れないし…」

 

「俺がハルカを背負って壁をよじ登るから安心しろ。念のためにモウキンは一気に谷を抜けてサトシとマサトを呼んできてくれ」

 

「ヴォッ!」

 

モウキンだけならばヤミカラスを振り切って谷から脱出することは簡単であるため、サトシとマサトに助けを求める事ができる。

そしてソラトはトレードマークである黒いロングコートを一旦脱いでハルカを背負い、ハルカを落とさないようにロングコートの袖を使って自分の体ごと縛り付ける。

 

「よし、と。ハルカ、手を離すなよ。モウキン、行ってくれ」

 

「う、うん…!」

 

「ヴォー!」

 

まずはモウキンが一気に飛び立って谷を抜けると、空高く飛び上がってキャンプの方向へと飛び去っていく。

そしてソラトは手ごろな出っ張りに手足を引っ掛けて岩壁を登る。

 

「よしっと、千里の道も一歩からだ。手頃な出っ張りを上手く掴んで登っていけば、っと!」

 

少しずつだが確実に岩壁を登っていくソラトの動きは思ったよりもしっかりとしており、ハルカはこんな状況だというのに安心感を感じていた。

そしてそんな安心感に包まれると、昔の事を思い出してしまう…そう、昔ソラトが旅立つ前にも同じような事があったような…。

 

「そういえば、昔もこんな事があったわね」

 

「ああ、確かセンリさんのポケモンにあげる木の実を探しに山に登った時だったか。ハルカが転んで足を怪我したけど木の実を取りに崖登ったんだよな」

 

「うん、思えばあの頃から…私…おにいちゃんの事が…」

 

「でも実はあの時、俺も足痛めてたんだぞ。スゲー痛かったけど意地張って涼しい顔しながらハルカ背負って登ったモンだ」

 

「ええっ!? そうだったの!?」

 

「ああ。まあそれも思い出だ。俺が勝手にやってただけだしな」

 

岩壁を登っているとは思えないほど楽しげに昔話を弾ませるソラトとハルカ。

先ほどのような失敗談に近い話だが、今度はどちらかと言うと朗らかな雰囲気で話し合っていた。

血は繋がっていなくともやはり兄妹なのか、そういった昔話の失敗談ですら良き思い出になっているのであった。

 

そして少しずつだが岩壁を登ってきたソラト達は後もう少しで谷から脱出できる位置まで来ていた。

 

「よし、もう少しだ!」

 

「うん! これなら谷から出られるわ! ヤミカラス達も襲ってこないし―あ」

 

ハルカはヤミカラス達が襲ってこないのを確認するため谷の端を見ると、キラーンと光るヤミカラスの目と目が合ってしまった。

 

「あ…」

 

「「「ヤァー!!」」」

 

目が合ったヤミカラス達は住処から飛び出してくると岩壁をよじ登っているソラトとハルカに狙いを定めて襲い掛かる。

 

「きゃああっ!? お兄ちゃん早く登ってー!」

 

「ぐっ、ハルカ! じっとしてろよ!」

 

ソラトは襲い掛かってくるヤミカラスからハルカを守るために背負っていたハルカを体の前で抱きかかえるように体勢を変える。

ヤミカラス達はソラトの背中目掛けてつつくやつばさでうつで打ち据える。

 

「ぐっ! いでっ!」

 

「お兄ちゃん!? お願いケムッソ、いとをはくよ!」

 

「ケムッ、ケームー!」

 

「ヤァー!?」

 

攻撃されているソラトを見てハルカはケムッソを繰り出した。

ケムッソのいとをはく攻撃により糸で巻かれて身動きができなくなったヤミカラスは谷の底へと落下していった。

だが仲間が1体居なくなっただけで攻撃をやめるヤミカラスではない。

更にソラトとソラトの背中にいるケムッソへ攻撃を仕掛けようとする。

 

「「ヤァー!」」

 

「いだだっ!」

 

「ケムケム!?」

 

「お兄ちゃん! ケムッソ! どうしよう、何か私にできることは…!?」

 

自分を庇ってソラトとケムッソがヤミカラスに攻撃されているのに黙っていられる筈がない。

だがソラトに抱えられたままでは身動きがあまり取れない状況では何もできない現状に、ハルカは歯噛みする。

 

「このままじゃお兄ちゃんとケムッソが…どうすれば、どうすれば…えっ!?」

 

それでも何かできる事が無いかと考えるハルカだったが、突如としてケムッソの体が白く輝きだす。

これは―

 

「これは、進化!?」

 

ケムッソは輝きと共に徐々に姿を変えていき、光が収まるとそこには繭で包まったような、白くて丸いポケモンがいた。

 

「ケムッソがカラサリスに進化したぞ!」

 

「カラサリス…」

 

ケムッソはさなぎポケモンであるカラサリスに進化し、その先の進化のためのエネルギーを蓄えていた。

 

「ヤァー!」

 

「ムゥー」

 

だがヤミカラス達は進化がどうしたと言わんばかりに嘴を使ってつつく攻撃を繰り出す。

カラサリスは白くて丸い体を輝かせると真正面からつつくを受け止め、ガキンッと鈍い音を立てて弾き返した。

 

「凄いわカラサリス!」

 

「かたくなるだな。上手く攻撃を弾いてくれるなら今の内によじ登れる!」

 

ヤミカラス達の攻撃はカラサリスがかたくなるを使って弾き返し、その間にソラトはハルカを抱え、カラサリスを背負いながら岩壁を登る。

そして谷から脱出するまで後一歩という場所までたどり着いた。

だが…

 

「よし! これで脱出―」

 

ソラトが最後に手をかけた場所が崩れ、支えを失ったソラトは重力に従い谷へと落下しそうになってしまう。

このまま落ちてしまえば今までの努力が水の泡になるだけでなく、今度こそソラトもハルカも大怪我をしかねない。

だが完全に不意を突かれたような現状で、ソラトにできる事は届かないと知りながらも手を伸ばす事だけだった。

 

落ちる―!

 

「「危ないっ!」」

 

「ヴォー!」

 

「っと!? サトシ、マサト! それにモウキンも!」

 

「モウキンが俺たちを案内してくれたんだ。大丈夫かソラト?」

 

間一髪という所で伸ばしたソラトの手を取ったのはモウキンに案内されて助けに来てくれたサトシとマサトだった。

2人は身を乗り出してソラトの腕を掴むと力いっぱい引っ張った。

モウキンは群がっていたヤミカラス達をブレイブバードで軽く蹴散らし、すぐにソラトを掴んで上昇して谷から助け出す。

 

「大丈夫だったかソラト、ハルカ」

 

「あぁ…サトシ達が助けてくれなかったら危なかったな。ホントありがとな」

 

「気にするなって。あれ、ハルカそのポケモンは…」

 

どうにか危機から脱して落ち着いたサトシ達は進化したカラサリスに気がついた。

 

「カラサリスだ! ケムッソが進化したんだね!」

 

「うん、ヤミカラス達からお兄ちゃんと私を守ってくれたの!」

 

「そうなのか! スゲーなカラサリス!」

 

危機を脱して進化したカラサリスを見てこれにて一件落着かと思ったその時、空からクレーンゲームのアームのような物が伸びてくると、ピカチュウとカラサリスを捕まえて連れて行ってしまった。

 

「ピカー!?」

 

「ムー!?」

 

「ああっ!? ピカチュウ!」

 

「カラサリス! もう、いったい何なのよ!」

 

空を見上げれば、そこにはソラトやハルカももう見慣れてきたロケット団のニャース型気球が浮かんでいた。

 

「もう、いったい何なのよ!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

何時も通りの口上と共に現れ、ピカチュウとカラサリスを攫ったのはやはりロケット団だった。

捕まったピカチュウとカラサリスは小さな檻に纏めて入れられてしまう。

 

「ロケット団! ピカチュウとカラサリスを返せ!」

 

「お姉ちゃんのカラサリスは今ケムッソから進化したばかりなんだぞ!」

 

「え、このポケモンがケムッソの進化系なの?」

 

「えーっと…ケムッソの進化系のカラサリスだな。進化するとあのアゲハントになるみたいだ」

 

ムサシはカラサリスの事を知らなかったようで、マサトの言葉に首を傾げる。

そしてコジロウは持っていたお菓子の付録であるポケモンの情報が載ったカードでカラサリスを見てその情報をムサシに伝える。

アゲハントに進化すると聞いたムサシは目を輝かせてカラサリスを見る。

 

「イイじゃんイイじゃん! ならこのカラサリスを進化させてアゲハントにすれば、アタシのコンテスト優勝は決まったモノよ!」

 

「そんなの許さないかも!」

 

「うるさいわよ! 行くのよケムッソちゃん! いとをはく!」

 

「ケームー!」

 

「させるか! モウキン、ブレイブバード!」

 

「ヴォオオオッ!」

 

繰り出されたロケット団のケムッソはいとをはく攻撃をハルカに放つ。

だがそうはさせまいとソラトはモウキンに指示を出すとブレイブバードで糸を切り裂く。

 

「えーい面倒な!」

 

「行けクチート!」

 

「クート!」

 

「こっちも応戦だ。サボネア!」

 

「サーボネッ!」

 

「いだだだだ! こっちじゃなくてあっちだー!」

 

サトシもクチートを繰り出してバトルの態勢に入る。

それに応戦するためにコジロウもサボネアを繰り出すが、何時も通りサボネアに抱きつかれて悲鳴を上げていた。

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「打ち払えモウキン! ばかぢから!」

 

「サーボネーッ!」

 

「ヴォオオオオッ!」

 

「ついでにロケット団も叩き落せ!」

 

「ヴォオオオオ!」

 

サボネアの放ったミサイルばりを、モウキンは翼や爪を使って全て打ち払い叩き落した。

そのままモウキンはロケット団に接近して爪を使い気球を切り裂いた。

 

「「「わわわわっ!? ギャーッ!?」」」

 

浮力を失った気球は墜落する。

その衝撃でアームが外れたピカチュウとカラサリスは急いでサトシとハルカの元へと戻ってきた。

 

「ピカピ!」

 

「ムー」

 

「ピカチュウ、大丈夫だったか!」

 

「カラサリス、良かったわ!」

 

ピカチュウにもカラサリスに怪我もなく無事に取り戻すことができたが、それを易々と見逃すロケット団ではない。

墜落した気球から這い出てくるとすぐさまバトルの準備をする。

 

「ピカチュウ達に逃げられたニャ!」

 

「力尽くで奪い取るのよ!」

 

「おう!」

 

「そうはいくか! クチート、かみつく攻撃だ!」

 

「クー!」

 

「ケムッソちゃん、いとをはく!」

 

「ケムー」

 

ロケット団を迎え撃つサトシはクチートを繰り出してかみつく攻撃をさせるが、ムサシのケムッソは糸を吐きクチートの後頭部の顎を巻きつけて開け閉めできないようにしてしまう。

 

「クー!?」

 

「今よ! クチートにたいあたり!」

 

「ケムー!」

 

「クートー!?」

 

「ああっ! クチート!」

 

後頭部の顎を封じられ、クチートはたいあたりを受けて吹き飛ばされてしまった。

それと同時にたいあたりを決めたケムッソの体が輝きだし、徐々に姿が変化していく。

 

「これはまさか…!」

 

「進化だニャ!」

 

「ワーオ! アタシの可愛いケムッソちゃんが、今まさにカラサリスになろうとしてるのね!」

 

テンションの上がるムサシの瞳が輝き、ケムッソを包んでいた光が消える。

そこに居たのはカラサリス…ではなく、カラサリスより目がパッチリとしており体色も若干紫がかっているポケモン、マユルドだった。

 

「…マユルドだな」

 

「マユルド?」

 

『マユルド さなぎポケモン

ケムッソの進化系。マユルドの体は口から出した糸が体を包み堅くなったもの。繭の中で進化の準備をしている』

 

ソラトがマユルドだと断定すると、サトシはポケモン図鑑でマユルドをスキャンしてデータを検索する。

間違いなくマユルドと表示され、見た目もハルカのカラサリスとは体色や目の形なのが違っていた。

 

「ホントだ。似てるけどちょっと違うや」

 

「確かにケムッソはカラサリスとマユルドの2つの進化先があるからね」

 

「あぁ、でも進化してみるまではどっちに進化できるか分からないんだ」

 

「ハァ!? どっからどう見ても可愛い可愛いカラサリスちゃんでしょうが!」

 

マサトとソラトの補足が入るも、以前のコンテストでアゲハントの美しさを見たムサシはアゲハントを手に入れるのに拘りがありマユルドだという事を認めようとはしなかった。

 

「いや、やっぱり俺もマユルドだと思うけど…」

 

「ニャーもそう思うニャ」

 

「ソーナンス!」

 

「うっさい!! アタシのカラサリスちゃんにケチつけんじゃないの! それはともかくジャリボーイ達のポケモンを奪うわよ!」

 

コジロウやニャースも見た目からしてカラサリスとは違うことをツッコムのだが、最早ムサシには何を言っても無駄であった。

 

「カラサリスちゃん、たいあたりよ!」

 

「こっちもたいあたりよ!」

 

ムサシのマユルドのたいあたりとハルカのカラサリスのたいあたりがぶつかり合い、空中でお互いを弾き合う。

どうやらパワーはほぼ互角のようだ。

 

「俺も行くぜ! サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「させるか! クチート、てっぺきだ!」

 

「サーボネッ!」

 

「ククー!」

 

サボネアから放たれたミサイルばりだが、クチートは後頭部の大きな顎を盾のように構えててっぺきを発動して防御力をぐーんと高めて弾き返した。

 

「だったらニードルアームだ!」

 

「サーボサボサボ!」

 

「かわしてかみつく攻撃!」

 

「クー! クーット!」

 

「サボネー!?」

 

今度は近づいてニードルアームを繰り出したサボネアだったが、クチートはジャンプして回避するとそのまま後頭部の顎でかみつき攻撃を決めた。

顎にガジガジ噛みつかれてしまったサボネアは身動きをとる事ができない。

 

「そのまま投げ飛ばせ!」

 

「クーッ!」

 

「ああっ、サボネ―ぐへぇっ!?」

 

「ギニャー!? ニャんでニャーまで!」

 

クチートは体をグルンッと回して後頭部の顎をスイングし、サボネアをロケット団に向けて投げ飛ばす。

サボネアは見事にコジロウにヒットするとニャースを巻き込んで吹き飛ばした。

一方ムサシはカラサリスに対して苛烈な攻撃を仕掛けていた。

 

「カラサリスちゃん、連続でたいあたりよー!」

 

「カラサリス、かたくなるで耐えるのよ!」

 

「ムー、ムー、ムー」

 

「ムーッ!」

 

連続でたいあたりを仕掛けるマユルドだが、かたくなるで防御を固めたカラサリスを打ち崩す事ができないでいた。

更に連続攻撃による疲労からか動きにキレが無くなっていく。

そしてついに動きがフラフラのままたいあたりを慣行した。

 

「そこだわ! カラサリス、かたくなるで空中に弾き飛ばすのよ!」

 

「ムー!」

 

ガキンッ!と固いものがぶつかる音を立ててカラサリスは動きがフラフラのマユルドのたいあたりを弾き返して空中へ打ち上げる。

こうなってしまっては最早抵抗のしようがない。

 

「なっ!? 逃げるのよカラサリスちゃん!」

 

「そうはいかないわ! たいあたりよ!」

 

「ムムーッ!」

 

「ムーッ!?」

 

カラサリスのたいあたりは見事に直撃しマユルドを吹き飛ばした。

そして吹き飛ばされたマユルドはムサシにぶつかりコジロウとニャースがいる所へと纏めて吹き飛ばされた。

 

「よーし、ピカチュウ! 10万ボルトだ!」

 

「ピーカチュゥウウウ!」

 

「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」

 

纏まった所へピカチュウの10万ボルトが炸裂し、ドカンと爆発して吹き飛ばされていったロケット団。

水平線の彼方まで―

 

「「「ヤなカンジー!」」」

 

「ソーナンス!」

 

―今日も今日とて星となる。

 

「やったな皆!」

 

「えぇ! カラサリスも頑張ったわね!」

 

「ムー!」

 

「カラサリスが進化したらアゲハントになるんだよね! お姉ちゃん、後一歩だよ!」

 

「えぇ! カラサリス、頑張ってアゲハントになりましょうね!」

 

「ムー!」

 

こうしてロケット団を撃退したサトシ達。

彼らのムロ島での修行は、まだまだこれからである。

 

 

 

こうしてキャンプのある海岸まで戻ってきたサトシ達。

既に日は暮れ始めているが、サトシは元気良く修行を続けておりマサトとハルカもそれを見ながら応援している。

だがソラトはというと、ちょっと用事があると言って離れた場所まで移動していた。

 

「痛ッ…あーあ、やっぱり酷くなってら」

 

ソラトは木陰で座り込んでズボンの裾を捲くると、足首の部分が赤く腫れていた。

実を言えばハルカを抱えて谷底に滑り降りている時にソラトも足首を捻っていたのだ。

 

「とりあえず湿布貼って後は波動でマシになると待たないとな。湿布湿布と…」

 

「サナ」

 

「あれ、どうしたレイ?」

 

荷物の中から治療用の湿布を取り出そうと探していたソラトだったが、そこへボールから出していたレイがやって来る。

 

「サナサナ」

 

レイはソラトから荷物を取ると、湿布を出して腫れているソラトの足首へと貼り付けた。

 

「ん、サンキュな」

 

「サナ…」

 

ソラトが礼を言うがレイは浮かない表情のままソラトの顔を見つめていた。何かを伝えたがっているようだが、特に何を言うわけでもなかった。

だが長年の仲間であるレイの感情ならば波動を感じるまでもなくソラトには分かっていた。

不安そうな顔をするレイを安心させるために、ソラトはレイの頭を撫でてやる。

 

「大丈夫だよ、別に無理してる訳じゃないさ。ただ…兄貴ってのは妹の前でカッコつけたがるモンなんだよ」

 

レイはソラトが怪我をしたまま崖を登ったりする無理をしたのを心配していたのだ。

5年間の旅でアラシを追う内に何度も怪我を負うような道筋を辿ってきたソラトを、レイは近くで何度も見ているのだ。

だがソラトからすれば今回は以前にしてきた無理や無茶をした訳では無かったのだ。

 

そう、ただ―ハルカの前でいいカッコしたかっただけなのだ。

 

「…サナ」

 

「心配かけて悪かったな…さ、行こうぜ。波動で治してりゃ数日以内に治るだろ」

 

「サナ」

 

レイはソラトの言葉と、頭を撫でてもらって安心したのかソラトと一緒に立ち上がってサトシ達の元へと向かった。

 

「お兄ちゃーん! そろそろご飯にしましょー!」

 

「ああ! 今そっちに行くよ!」

 

ケムッソが進化しソラトとの絆を改めて深め、憧れのコンテストへのデビューへと着実に歩んでいくハルカ。

彼らの修行は、まだまだ続く!

 

 

 

to be continued...




またいつ失踪するか分かりませんが…その時が来るまで頑張って書いていきたいと思います。


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アゲハントとドクケイル 進化の分岐点

実はこの話の途中までは失踪する直前の時期に執筆してました。

活動報告に本編未登場を含めたソラトのポケモンの一覧と、今後ゲットする予定のポケモンの一覧を纏めました。
ネタバレにもなりますのでOKという方のみ閲覧下さい。


ムロ島での修行を始めてしばらくが経ち、サトシのバトルの腕は以前とは見違えるほどに成長していた。

今日もバトルの腕を磨くために修行に明け暮れている。

対トウキのために、今日はクチートに指示を出すサトシとキモリ、スバメ、ピカチュウが相手をして修行を行っていいる。

 

「クチート、かみつく攻撃!」

 

「クーット!」

 

「ピーッカッ!」

 

クチートのかみつく攻撃とピカチュウのアイアンテールがぶつかり合い弾きあう。

その隙を狙うかのように上空からスバメが急降下してクチートにつつく攻撃を繰り出す。

 

「スバー!」

 

「防御だクチート! てっぺき!」

 

「クー!」

 

クチートは上手く顎を使い上空からの攻撃を防いでみせた。

だがそこへキモリが背後から奇襲をかけ、はたく攻撃を繰り出して追い討ちをかける!

 

 

「キャモー!」

 

「クッ!?」

 

「キモリが来るぞクチート! もう1度てっぺきだ!」

 

てっぺきと後頭部の口を使いクチートはキモリのはたくを受け止めて凌いだ。

その様子をハルカとマサトは脇で座って見ており、ソラトはポケモン達の様子をチェックするように監視していた。

 

「サトシ達、かなり力をつけてきたかも!」

 

「うん、この調子ならムロジムへの再挑戦ももうすぐだね」

 

ハルカとマサトがそう語る間にもサトシ達の息もつかせぬ修行は続き、技と技がぶつかり合う。

そしてある程度バトルに区切りがつくとソラトが声を張った。

 

「よし、そこまでっ!」

 

「…ふぅー、お疲れ様皆! イイ感じだったぜクチート! 皆もありがとな」

 

「クーッ!」

 

修行に付き合ってくれたポケモン達を労うサトシにも強くなっている自覚があるのだろう。気のせいか普段よりも余裕のある表情をしていた。

このソラト流の修行法を始めてからしばらく経つが、サトシもポケモン達も見違えるほど強くなっていた。

ムロジムへのリベンジマッチもそう遠くない内に果たされるだろう。

 

「サトシ、どんどん強くなってくね!」

 

「あぁ、まだまだ伸びしろはあるって事だな。さて、それじゃあ休憩も兼ねて昼飯にするか」

 

「おう! もうお腹ペコペコだぜ」

 

「今日はパンとベーコンサラダね! 美味しそう!」

 

事前に準備しておいた昼食のパンとサラダ等を並べて皆で食べる準備をする。

ポケモン達にもポケモンフーズを用意してやり皆でいただきますをしようとしたその時―

 

「ピカッ!? ピィカー!?」

 

「なっ!? ピカチュウ!」

 

突然草むらから投網が投げられてピカチュウを捕らえるとそのまま草むらへと引き込んでしまった。

ピカチュウを狙ってこんな事をする連中はいったい誰なのか、言うまでもない。

 

「なっ!? ピカチュウと言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

当然、いつものロケット団である。

草むらから華麗に登場し、口上を述べるのだが、名乗るくらいなら早く逃げた方がいいのではないだろうか。

今日も今日とて懲りもせずピカチュウを狙って奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

「ロケット団! ピカチュウを返せ!」

 

「お断りよ!」

 

「だったら、10万ボルトだピカチュウ!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウ! ピカッ!?」

 

ピカチュウは逃げ出すために電撃を放つものの、投網の外へは全く電撃が通らずに無効化されてしまった。

 

「無駄無駄! この網は電気を内部に閉じ込める特殊金属の糸でできてんのよ!」

 

「目標を達成したからには即時退却ニャ!」

 

「あばよ!」

 

ワンテンポ遅れながらもその場から駆け出して逃走するロケット団だが、サトシ達も態々見逃してやるほどお人よしではない。

ハルカとソラトは素早くモンスターボールを投げて手持ちのポケモンを繰り出した。

 

「お願い、カラサリス!」

 

「クロガネ、バトルの時間だ!」

 

「ムー」

 

「ゴドッ!」

 

それぞれポケモンを繰り出し、逃げるロケット団を食い止めようと技を指示する。

 

「クロガネ、がんせきふうじで奴らの進路を塞げ!」

 

「ゴドォ!」

 

虚空より岩を生成したクロガネはがんせきふうじを放ち、ロケット団が逃げる先に岩を積み上げて進路を塞いだ。

道の左右は草木の生い茂った道とも呼べない森なので素早く逃げるのは不可能な地形である。

 

「「「げげっ!?」」」

 

「今よカラサリス! いとをはく!」

 

「ムー」

 

「うわっ!?」

 

退路を塞がれて動きが止まったロケット団の持つ、ピカチュウを捕らえた投網にカラサリスが糸を吐いた。

糸は見事に投網にくっつくとぐいっと引っ張りロケット団の魔の手からピカチュウを取り戻した。

 

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

 

「ピカ! ピカピカチュウ!」

 

「よーし、よくもやってくれたなロケット団!」

 

すぐさまピカチュウを網から出してやり、無事を確認すると勿論怒りの感情の矛先はロケット団に向く。

だが退路を断たれ、ピカチュウを取り返されたロケット団も半ばヤケになっていた。

 

「それはこっちの台詞よ!」

 

「こうなったら、ポケモンバトルでピカチュウを奪い取ってやるぜ! 行けサボネア!」

 

「行くのよ、私の可愛いカラサリスちゃん!」

 

ムサシとコジロウもそれぞれマユルドとサボネアを繰り出してサトシ達に相対する。

それにしても未だにムサシは自分のマユルドをカラサリスだと勘違いしているらしい。

 

「サボネッ!」

 

「いでででで!? す、すなあらしだサボネア!」

 

「サーボネッ!」

 

いつもの如くサボネアに抱きつかれて棘が刺さるコジロウだがどうにか技を指示して繰り出させる。

サボネアは地面に降りると高速回転して砂を巻き起こした。

 

「引き裂け! アイアンテール!」

 

「ゴォドッ!」

 

だがすなあらしで繰り出した砂の竜巻はクロガネの力強いアイアンテールが振るわれると、半ばから両断されて掻き消えてしまった。

 

「カラサリスちゃん、いとをはくでピカチュウを捕まえるのよ!」

 

「かわせ!」

 

もう1度ピカチュウを狙ったムサシとマユルドだったが、ピカチュウは素早い身のこなしで糸を楽々と避けた。

その隙を狙ってハルカが攻撃を仕掛ける。

 

「カラサリス、たいあたり!」

 

「負けないでカラサリスちゃん! こっちもたいあたりよ!」

 

体格や成長性がほぼ同じのカラサリスとマユルドが正面からぶつかり合いつばぜり合う。

一進一退の互角のぶつかり合いかと思われたが、突如としてハルカのカラサリスの体が輝きだした。

 

「あれは…!」

 

「進化の光だ!」

 

そう、それは紛れも無く進化の光。

つい先日カラサリスに進化したばかりだというのにもう進化するハルカのカラサリスに対して驚く周囲だが、輝いたカラサリスはどんどん姿を変えていくと光が晴れた。

 

「ハァ~ン」

 

そこにいたのはカラフルで明るい羽を持つポケモン、アゲハントだった。

初めて見たときから憧れていたアゲハントが自らのポケモンとなったハルカは大興奮だった。

 

「やったぁ! 私のカラサリスがアゲハントに進化したわ! よろしくね、アゲハント!」

 

「ハァン」

 

こうしてハルカは念願のアゲハントを手に入れる事ができた訳だが、それに対して納得できていない大人気ない人物が1人。

 

「ちょっとちょっと! 何でジャリガールのカラサリスはアゲハントに進化したのに私のカラサリスちゃんは進化しないわけ~!?」

 

唯我独尊という言葉が相応しいムサシからすれば、似たようなタイミングで捕まえ、ほぼ同時に進化したのにも関わらず自分のポケモンだけ進化が遅いのは納得がいかないらしく喚き散らしていた。

だがまずは1つ訂正しなければならない事がある。

 

「いやだから、お前のはカラサリスじゃなくてマユルドだって」

 

「はぁ!? だからどこがよ!? どっからどう見てもこれはカラサリス! ケチつけないでちょうだい!」

 

「いやムサシ…それはやっぱりマユルドなんじゃ…」

 

「ニャーもそう思うニャ…」

 

ソラトが訂正しようとするが、ムサシは一切聞き入れない。

どうやらロケット団内ではコジロウとニャースもマユルドだと思っているらしいが、基本ムサシに逆らう事ができない2人の発言をムサシは当然のように否定していた。

 

「こうなったらジャリガール達をケチョンケチョンにして、私のカラサリスちゃんを進化させんのよ! たいあたり!」

 

「ムー!」

 

「えっと、ア、アゲハントの使える技は…!?」

 

怒り心頭といった様子のムサシは問答無用で攻撃を仕掛けてくるが、進化したばかりのアゲハントに慣れていないハルカは何の技が使えるか分からずアタフタしてしまう。

そんなハルカを見かねてマサトが声を上げた。

 

「お姉ちゃん、アゲハントが使える技はたいあたりやかぜおこしだよ!」

 

「そ、そうなのね! アゲハント、かぜおこしよ!」

 

「ハァーン!」

 

マサトからアドバイスを貰ったハルカはすぐさまアゲハントへと指示を出すと、たいあたりを放とうと接近してきていたマユルドへかぜおこしで反撃して逆に吹き飛ばした。

ひこうタイプの技であるかぜおこしはむしタイプであるマユルドに対してこうかはばつぐんである。

 

「カ、カラサリスちゃん!?」

 

吹き飛ばされてしまったマユルドは戦闘不能になってしまう。

 

「いいわよアゲハント!」

 

「コ、コジロウなんとかしなさい!」

 

「お、おう! サボネア、ニードルアーム!」

 

「サーボサボサボネッ!」

 

アゲハントを狙いサボネアが攻撃を繰り出すが、その間にクロガネがその大きな体を割り込ませた。

 

「クロガネ、てっぺき!」

 

「ゴド!」

 

「サボッ!?」

 

サボネアのニードルアームはてっぺきを発動したクロガネの硬い鎧に弾かれてしまい、逆に体勢を崩す結果となってしまった。

その隙を見逃さず、今度はサトシが打って出た。

 

「ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「ピーカ! ピカピッカ!」

 

「サボネーッ!?」

 

鋼鉄の如き尻尾を空中に弾かれて身動きの取れないサボネアに思い切り叩き付ける。

逃れる事もできずにサボネアは吹き飛ばされて戦闘不能となった。

 

「サ、サボネアー!?」

 

「何やってんのよコジロウ! こうなったらニャース、アンタが何とかしなさい!」

 

「ニャニャ!? そんなの無理ニャ!」

 

「今だピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウ!」

 

やいのやいのと内輪で揉めているロケット団に対してサトシは容赦なくトドメの10万ボルトで追い討ちをかけると黄色い閃光が奔りロケット団に直撃した。

ドカンと爆発してロケット団はいつも如く空高く吹き飛んでいった。

 

「「「ヤなカンジー!?」」」

 

吹き飛んだロケット団は星になって見えなくなってしまい、今回も無事撃退に成功した。

一段落すると、進化したハルカのアゲハントがハルカの頭の上に停まる。

 

「あぁ~! やったやったー! とうとうアゲハントに進化したわ!」

 

「おめでとう、ハルカ」

 

「流石の進化速度だな」

 

「コンテストに向けて、これからは技の方もしっかり磨かなくっちゃね、お姉ちゃん!」

 

美しく進化を遂げたアゲハントならばコンテストでも十分通用するだろうが、それだけではコンテスト優勝はできない。

技を磨き上げる事も重要である。

 

「そうね。こうしちゃいられないわ! コンテストでのアピールやコンテストバトルを前提にした特訓をしないと!」

 

やる気満々のハルカであるが、その前にくぅ~と腹の虫が鳴る。

ロケット団に邪魔されてしまっていたため忘れていたが元々は食事にしようと思っていた所である。

 

「あ…」

 

「その前に腹ごしらえだな。それが終わってからサトシとハルカの特訓にするか!」

 

「「「さんせ~い!」」」

 

こうしてサトシ達はキャンプをしていた場所まで戻り改めて食事にする事にした。

 

 

 

一方、吹き飛ばされたロケット団はムロ島の隅にある林に落下してボロボロになっていた。

 

「いたたた…結局今回もダメだったニャ…」

 

「くぅ~! 何でジャリガールのカラサリスが進化してアタシのカラサリスちゃんが進化しないのよ~!」

 

「だからカラサリスじゃなくてマユルド…」

 

「こうなったらアタシ達も特訓すんのよ! そんでもって、アタシのカラサリスちゃんを進化させんのよ!」

 

自分のマユルドが進化しなくて躍起になるムサシ。珍しく燃え上がっており正々堂々とした特訓で進化を目指す事を決めたようである。

しかしながらコジロウやニャースの意見はガン無視である。

だが決めたら曲げない頑固なムサシ。吹き飛ばされた痛みも忘れてマユルドを抱えて立ち上がると闘志を燃やしていた。

 

「コジロウ! あんた相手しなさい!」

 

「ええっ!? 俺が!?」

 

「当たり前でしょうが! ほら、さっさとやる!」

 

こうしてムサシはマユルドで、コジロウはサボネアで特訓のための模擬バトルを行う事になったのだが…

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「カラサリスちゃん、かたくなるからのたいあたり!」

 

「サーボネッ!」

 

「ムムッ! ムーッ!」

 

「サボーッ!?」

 

マユルドがかたくなり防御力を高めてミサイルばりを弾き返すと、隙だらけのサボネアに向けてマユルドが接近する。

勢いの乗ったマユルドのたいあたりが炸裂するとサボネアは大きく吹き飛ばされてしまい地面に倒れた。

戦闘不能。マユルドの勝ちである。

 

「サボネア戦闘不能! マユルドの勝―」

 

「はぁ…? マユルド…?」

 

「ニャニャ!? カ、カラサリスの勝ちニャ!」

 

審判であるニャースがマユルドの勝ちを宣言しようとしたが、黒い笑みを浮かべるムサシの低い声に背筋を寒くしたニャースは慌てて訂正した。

この後もニャースとサボネアで交代しながらムサシの特訓に付き合ったが気合を入れて燃えているムサシに手も足も出ずマユルドは連戦連勝だった。

 

「ったく、だらしないわねぇアンタ達は」

 

「ぜぇ、ぜぇ…でも結構な経験値になったんじゃないか…?」

 

「そうだニャ…これならもうすぐドクケイルに進化できるニャ…」

 

「アゲハントだって言ってるでしょうが!」

 

意地でもそこは曲げないムサシだが、最早コジロウもニャースも突っ込む体力すら残っていない。

しかし確かにバトルによる経験値はかなり得たであろう。進化が近いのも間違いなかった。

 

「でもやっぱり最後の一押しが必要よね…進化するためには強いポケモンとのバトルが1番。そして強いポケモンと言えば…ジャリボーイ達のポケモンよね」

 

 

 

 

 

そしてキャンプに戻ったサトシ達は昼食を済ませてキャンプにてそれぞれの特訓を行っていた。

サトシはバトルの、ハルカはコンテストのためにそれぞれソラトからアドバイスを貰っている。

 

「サトシ、トウキさんの攻撃を受け流す戦法を攻略するには相手の体勢を崩すのが1番だ。フィールドを利用したり牽制して相手の動きを封じたりするのが良い」

 

「オッケー!」

 

「ハルカは、アゲハントの技をしっかり確認しないとな。ポケモン図鑑で確認してみろ」

 

「うん! えっと、使える技は…たいあたり、かぜおこし、いとをはくと、ぎんいろのかぜね!」

 

「小道具を使えばたいあたりやかぜおこしも十分アピールになる。いとをはく、ぎんいろのかぜは単体でも十分なアピールになる筈だ」

 

「よーし、やるわよアゲハント!」

 

「ハァン」

 

砂浜でサトシはキモリと共に対トウキを想定したバトルをするため、攻撃を受け流す動きのできるピカチュウを相手に向かい合う。

ハルカはハルカで少し離れた場所でアゲハントと共に技を繰り出そうとしていた。

 

「行くぜキモリ! まずはエナジーボール!」

 

「キャモッ! キャーモッ!」

 

「ピカッ! ピカピカピカ…!」

 

エネルギーを収束してからエナジーボールを発射する。だが本気で当てようとしている訳ではなく牽制の一撃に過ぎない。

ピカチュウはエナジーボールを受けつつもコロコロ転がってダメージを最小限にする。

 

「そこだ! でんこうせっか!」

 

「キャーモ!」

 

「ピッ!? ピカーッ!?」

 

コロコロ転がるピカチュウが体勢を戻す前に素早い動きででんこうせっかを決める。

今度は攻撃を受け流す事ができず、まともに攻撃を受けてしまったピカチュウは大きく吹き飛ばされた。

 

「いいぞキモリ!」

 

「キャモ…!」

 

距離を取ってサトシの傍まで下がったキモリだったが、ほんの僅かにだが体がうっすらと輝いた。

バトルに夢中のサトシは気がつかなかったが、傍から見ていたソラトはそれを見逃さなかった。

それは紛れも無く―

 

「今の光は…」

 

「アゲハント、ぎんいろのかぜ!」

 

「ハハァーン!」

 

「えっ!? うわぁああああああっ!?」

 

「キャモー!?」

 

砂浜にゴウッと強い風は吹き荒れる。

アゲハントの放ったぎんいろのかぜは砂浜の砂を大きく巻き上げた。それはまるで大いなる砂の波である。

吹き荒れる砂の波はサトシとキモリの元へ向かうとあっさりと2人を呑み込んだ。

 

「あわわわっ!? サ、サトシごめーん!」

 

「ハハァン!?」

 

「もう、何やってるのさお姉ちゃん!」

 

「た、試しにぎんいろのかぜを使っただけなのよー! そしたらこんな事に…」

 

「ぷはっ…びっくりした…」

 

「キャモ…」

 

どうやら技の練習をしていたらしいが思った以上に強力で砂を巻き上げてしまったらしい。

ハルカとマサトは砂に呑まれたサトシとキモリを救出しようと砂の山へ駆け寄るが、その前にサトシとキモリが砂の山の中から出てきた。

そんな一連の出来事を少し離れてみていたソラトはキモリに視線を向ける。

先ほどの体の光は消えてしまっているが、ソラトの見立てが間違いでなければあれは…。

 

「ごめんねサトシ…」

 

「あはは、まぁ特に怪我もないし大丈夫だよ。な、キモリ」

 

「キャモキャーモ」

 

怪我もなく無事のためサトシとキモリは砂の中から出てきて体についた砂を払う。

そしていざ修行を再開しようと思った矢先、フヨフヨと動く大きな影がサトシ達の前に現れた。

 

「ん? 何だ!?」

 

影の正体を見るために空を見上げれば、そこには見慣れたニャースの気球が飛んでいた!

 

「ん? 何だ!?と言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

本日2度目のロケット団の登場である。

気球を地上へ降ろすとムサシ、コジロウ、ニャースは気球から降りてニヤリと笑ってサトシ達を指差す。

 

「またお前達か!」

 

「今日はしつこいかも!」

 

「フフ、ジャリガール! アタシのカラサリスちゃんと勝負しなさい!」

 

珍しく策も罠も無く正々堂々真正面から勝負を挑むムサシに驚くサトシ達だったが同時に呆れていた。

その理由は言うまでも無い。

 

「いやだから、お前のはマユルドだって」

 

「体色や目つきが違うって何度も言ってるのに…」

 

「はぁー!? どっからどう見てもカラサリスだって何度も言ってるでしょうが!」

 

ソラトとマサトがそう指摘するもムサシは聞く耳を持たない。

 

「とにかく! アタシのカラサリスちゃんが進化するために、バトルを挑みに来たのよ!」

 

「…いいわ! 受けてたつかも! お願いアゲハント!」

 

「ハァン!」

 

「行くのよカラサリスちゃん!」

 

唐突かつ突拍子もないバトルの申し込みだったが、ハルカは受ける事にしたらしくアゲハントを前に出す。

それに合わせてムサシもマユルドを前に出した。

 

「カラサリスちゃん、たいあたり!」

 

「ムー!」

 

「アゲハント、かぜおこし!」

 

「ハァン!」

 

たいあたりが決まる前にかぜおこしによってマユルドは吹き飛ばされてしまう。

パワー、技の多用さ、飛行の有無など進化後のアゲハントと進化前のマユルドでは能力にかなりの差があった。

だがそんな事では諦めないのはムサシである。

 

「ムー…!」

 

「負けちゃだめよカラサリスちゃん! 綺麗なアゲハントになるためよ! たいあたり!」

 

「ムッ!」

 

ガッツを見せて再びたいあたりを繰り出したマユルド。今度は狙いを外さず素早い動きのためアゲハントに回避や反撃の隙を与えなかった。

たいあたりを受けたアゲハントは大きく後退してしまう。

 

「ハァーン…!?」

 

「しっかり、アゲハント! ぎんいろのかぜ!」

 

「ハハーン!」

 

むしタイプの力のある、自身の鱗粉を乗せた風を繰り出したアゲハントの強力な一撃。

狙いを逸らさず、吸い込まれるようにマユルドに命中した。

 

「ムーッ!?」

 

「ああっ! カラサリスちゃん!?」

 

「ムム…ムーッ!」

 

「あの光は…!」

 

「進化が始まったのニャ!?」

 

攻撃を受けたマユルドだったが、その衝撃に触発されたのか体が輝き姿を変えていく。

いよいよ進化が始まったのである。

コジロウやニャースも見守る中、光が晴れていく。

 

「あぁ…ついにやったのね! さぁ、その姿を見せて頂戴アゲハントちゃん!」

 

進化の輝きがバッと晴れると、進化したポケモンは大きな翼を広げて大空に羽ばたいた。

空の彼方まで飛んでいきそうな勢いと共に上昇し、急降下する。

そして成長した自分の姿を自慢するようにムサシの前へとその全容を現した。

 

「アゲハント…ちゃ…ん…?」

 

「ケーイル!」

 

そう、立派な立派なドクケイルである。

ムサシは最後までカラサリスと信じていたが実際は周囲の言うとおりマユルドであるためこうなってしまうのは仕方の無い事である。

現実を直視したムサシはドクケイルを見て呆然としていた。

 

「あのポケモンは…」

 

『ドクケイル どくがポケモン

灯りに引き寄せられる習性を持つ。街灯りに誘われたドクケイルが街路樹の葉っぱを食べ散らかしてしまう』

 

「ドクケイル…」

 

「そ、お前のはケムッソからマユルドに進化したからドクケイルに進化したんだよ」

 

「ジャリガールと同じようにケムッソを捕まえて、同じように進化させたのに…ジャリガールのはアゲハントになって、アタシのはドクケイルになったっていうの…?」

 

目の前でバサバサと羽ばたくドクケイルと、ソラトの解説を受けて少しずつだがムサシが現実を認識していく。

 

「んぐぐ…! ぬぐぐぐぐぐぐぐ~っ!!」

 

「あ、あれは…!?」

 

「ムサシの怒りが爆発するニャ!?」

 

「ソーナンス!?」

 

完全に現実を認識したのだろう、ムサシが何かを堪えるように歯を食いしばり両手を握り締める。

アゲハントを手に入れられなかった怒りだろうと思ったコジロウとニャースとソーナンスは身を寄せ合ってそれから逃れようとする。

ムサシが怒りを爆発させてしまえば仲間だと言っても飛び火する事は免れられないだろう。

そしてムサシは感情を爆発させた。

 

「チョーカワイイー!!」

 

「「ガクッ!?」」

 

「だってそうじゃない!? お尻のところにあるギザギザとか、ウィンクするのも一苦労しそうな大きなお目々とか、フットボールのようにもりっとした触覚とか! あ~! もうとってもゴージャスじゃない!? あんなジャリガールのアゲハントよりもずっとキュートじゃない!? ラブリーチャーミーじゃない!?」

 

どうやらドクケイルの事をいたく気に入った様子である。

しかしあれだけ欲しがっていたアゲハントではなくドクケイルになったというのにこの手のひらの返しようにサトシ達だけではなくコジロウとニャースも呆れてズッコケていた。

 

「ムサシの趣味はさっぱり分からんニャ…」

 

「まぁ、気に入ってもらえたようだし良いんじゃないか」

 

「ジャリガールのアゲハントなんか、アタシのドクケイルで捻り潰してやるわ! コジロウ、ドクケイルの技は何が使えるの!?」

 

ムサシに問われたコジロウはお菓子のオマケでついてくるポケモンのカードを見て使える技を確認する。

 

「えーっと…たいあたりにとくばり、サイケこうせんとかかな…」

 

「技も多種多様って事ね。ドクケイル、たいあたり!」

 

「ケーイル!」

 

「ハァン!?」

 

マユルドの時よりもパワーもスピードも遥かに増している。

素早いドクケイルの攻撃を避け切れなかったアゲハントは攻撃をまともに受けてしまった。

 

「ああっ! アゲハント!?」

 

「いいねいいね! アタシのドクケイルは技もキレるねー!」

 

「よくもやったわね! 私のアゲハントはドクケイルなんかには負けないわ!」

 

「フン、アタシのドクケイルの方が強いわよ」

 

「なら正々堂々と勝負しましょう!」

 

「望む所よ! ドクケイル、どくばり!」

 

「ケケーイル!」

 

同じようにケムッソを育ててきて進化させてきたプライドか、ハルカもムサシも互いにライバル心がむき出しである。

結局真正面からのバトルで決着をつける事になったためドクケイルが口からどくばりを発射する。

 

「かぜおこしよ!」

 

「ハハァーン!」

 

だがアゲハントの放つかぜおこしによってどくばりはあらぬ方向へと吹き飛ばされてしまう。

どくばりが飛んでいった先にいたコジロウとニャースはその場から這うように慌てて逃げる。

 

「わたたたたた!? くそ、よくもやったな! 行け、サボネア!」

 

「サーボネッ!」

 

「ドクケイル、セイケこうせん!」

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

攻撃のとばっちりを受けたのが癪に障ったのか、コジロウもサボネアを繰り出して同時に攻撃を加える。

 

「2対1なんて卑怯だぞ!」

 

「卑怯はアタシ達のトレードマークよ! やっちゃいなさい!」

 

ドクケイルとサボネアの同時攻撃がアゲハントを襲うが、その間にキモリが割り込んだ。

 

「キャモッ! キャモーッ!?」

 

「キモリ! クッ、戻れキモリ!」

 

体を張って同時攻撃からアゲハントを守ったキモリだったが、こうかはばつぐんを含む同時攻撃を受けてしまい戦闘不能になってしまう。

やむを得ずサトシはキモリをモンスターボールに戻した。

 

「ドクケイルちゃんつよーい!」

 

「だったら次は…クチート、キミに決めた!」

 

「クーッ!」

 

キモリに代わってサトシが繰り出したのはクチートだ。

ボールの中から外の事情を把握していたのだろう。卑怯な手段で恋するキモリを戦闘不能にしたロケット団に対して怒りを燃やすクチートはいつもより迫力がある。

 

「サボネア、もう1度ミサイルばり!」

 

「よけろクチート!」

 

「サボネッ!」

 

「ククーッ!」

 

再び繰り出されたミサイルばりをクチートは素早い身のこなしで回避する。

 

「ドクケイル、どくばりよ!」

 

「避けて!」

 

「ケケーイル!」

 

「ハァン!」

 

一方でムサシもアゲハントに対して更なる攻撃を行うが、ハルカとアゲハントも冷静に対処して回避する。

攻撃を繰り出したせいで隙のできたロケット団のポケモン達に対し、サトシ達は反撃を開始する!

 

「アゲハント、たいあたり!」

 

「ハンッ!」

 

「ケケッ!?」

 

「ぶへらっ!?」

 

アゲハントのたいあたりが見事に決まり、吹き飛ばされるドクケイルに巻き込まれてムサシも一緒に気球の元まで吹き飛んでしまう。

 

「クチート、ようせいのかぜ!」

 

「クーッ!」

 

「サボネーッ!?」

 

「ぐへっ!?」

 

同じくサボネアもクチートの攻撃を受けて吹き飛ばされてしまいコジロウと、しがみ付いていたニャースを巻き込んで気球の元まで吹き飛ばされてしまった。

 

「トドメだピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカチュゥウウウウウウウウ!」

 

「「「ぎゃああああああああああっ!?」」」

 

気球を巻き込んで電撃が奔り、ドカンと爆発してロケット団は空を飛ぶ。

コジロウとニャースはうんざりした表情だったが、ムサシはいい笑顔を浮かべていた。

 

「よく頑張ったわね、アタシの可愛いドクケイルちゃん」

 

「ケケイル」

 

「やれやれ、喜んで貰えて一安心だ…」

 

「でも…」

 

「「ヤなカンジー!」」

 

「ちょっとイイカンジ…!」

 

それぞれにテンションの違いはありつつも、ロケット団は本日2度目の星となり空へ消えていったのだった。

 

 

 

 

 

ロケット団を撃退したサトシ達はポケモン達を休めてそれぞれの時間を過ごしていた。

サトシはピカチュウ、クチートと共にキモリの治療を、ハルカはアゲハントと共にコンテストへのイメージトレーニングを行っている。

その様子を離れて見ていたマサトは夕飯の準備をしているソラトへと問いかける。

 

「ねぇソラト、アゲハントやドクケイルみたいに…ポケモンにはどっちに進化するか分からないポケモンが沢山いるんだよね」

 

「ん? あぁ、そうだな。条件があったりするものが多いが…ケムッソから進化する時の条件は分かっていないんだ」

 

「ポケモンって不思議だよね。ボクも早くポケモンをゲットしたいなぁ」

 

「フフ、そうだな」

 

ポケモンの不思議を目の当たりにして目を輝かせているマサトが微笑ましく、ソラトは頬を緩めてサトシとハルカを遠目に見る。

 

「ポケモンだけじゃない。トレーナーだって似たような道を歩んできてもそれぞれの道を進む…」

 

そう、サトシがバトルの道に進み、ハルカがコンテストの道に進んだように。

それぞれがそれぞれの意思を持ち自らの道を進んでいく。

ソラトはサトシ達が治療するキモリへと目を向ける。

 

「仕上がってきてるな…そろそろリベンジの時か」

 

カラサリスがアゲハントへと進化し、ポケモンコンテストへの意欲を燃やすハルカ。

そしてソラトがキモリに感じた異変。

ムロジムへのリベンジマッチは…もうすぐである!

 

 

 

to be continued...




今回ほとんど原作添いで何か特別な事できませんでした。申しわけありません。

ムロ島編も終盤に差し掛かってきました。

名探偵ピカチュウ見てきました。
凄い良かったです。
ポケモンバトルとか迫力あって感動。


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ムロジムリベンジマッチ 信じろ! ポケモンが信じる自分を!

今回はバトルがメインの回になります。
個人的には熱いバトルが描けたのではないかぁ、とか思ったりしています。


ムロジムへのリベンジのために修行に明け暮れるサトシ達。

修行の成果によってサトシのポケモン達は格段にレベルアップしており、サトシ自身もトレーナーとして成長していた。

しかし現状に満足はせず、今日も今日とて修行を行っていた。

 

「キモリ、はたく攻撃!」

 

「避けろキノコ!」

 

「キャモーッ!」

 

「ガッサ」

 

今行っているのはソラトを相手にした模擬バトル訓練。

実戦とほぼ変わらぬバトルを行いサトシとポケモン達の調整を行っているのだ。

キモリが尻尾を振るい攻撃を繰り出すも、キノコは慌てずにフットワークを利用してそれを避ける。

 

「マッハパンチ!」

 

「ガーッサ!」

 

音速に匹敵する強力なパンチが放たれる。

回避は間に合わないと判断したサトシは例の方法で受け止める事にする。

 

「キモリ、尻尾を盾にしろ!」

 

「キャモッ! キャモーッ!?」

 

柔らかく弾力のあるキモリの尻尾によってマッハパンチを受け止めて凌ごうとするが、強烈なパンチにはキモリを弾き飛ばしてしまう。

しかしダメージを軽減したのも確かなようで、空中で体勢を立て直したキモリは見事に着地してキノコを警戒する。

 

「キモリ、大丈夫か!?」

 

「キャモ!」

 

「やるなキモリ。ならコイツはどうだ…? キノコ、かみなりパンチ!」

 

「ガサガサ、ガーッサ!」

 

キノコの右腕にバチバチと電撃が集まると、雷を纏ったパンチが繰り出される。

 

「なっ!? キモリ、もう1度尻尾で受け止めるんだ!」

 

「キャモッ! キャモモモーッ!?」

 

先ほどと同じように尻尾でキノコの拳を受け止めたキモリだったが、今度は電撃を纏ったパンチである。

尻尾に触れたかみなりパンチはそのまま尻尾を伝いキモリへ電撃のダメージを与える。

 

「ああっ! 大丈夫かキモリ!?」

 

「キャ、キャモ…」

 

「尻尾の防御は悪くないが…頼りすぎるのは良くないぜサトシ。何度も見てればトウキさんだって対策してくるだろうし、今みたいに予想外の技で突破されるかもしれないからな」

 

「そうか…そうだな! でもソラトのキノコも、何時の間にかみなりパンチを覚えたんだ?」

 

「俺だって修行に付き合うだけじゃないさ。オヤジを見つけて連れ戻すためにも、もっと強くならないといけないからな」

 

どうやらソラトはソラトで修行を重ねていたらしい。

キノコは弱点となるひこうタイプの相手へのジョーカーとなり得るかみなりパンチを習得していたようだ。

 

「トウキさんだって、サーフィンを利用して日々鍛えているだろうし…ハリテヤマも前より強くなってるだろうな」

 

「望む所だぜ! 今度こそ絶対に勝ってやるんだ!」

 

バトルが一息ついたところでハルカとマサトがサトシ達の元へやって来る。

 

「凄いやソラト! キノコがかみなりパンチを覚えたんだね!」

 

「お兄ちゃんもサトシも、どんどん強くなっていくわね!」

 

「でもサトシ、今度こそ勝つって言うけどいつトウキさんにリベンジしに行くの?」

 

「え? それは…」

 

確かに、サトシはトウキにリベンジするために幾日も修行に励んでいる。

だがいつリベンジをするのかは明言してはいない。

ホウエンリーグの開催はまだまだ先だがいつまでもこの場所に留まっている訳にもいかないため、そろそろムロジムへのリベンジを本格的に考えなければならなかった。

だが…

 

「いや、リベンジはまだ先だ。ポケモン達は頑張ってくれてるけれど、俺はまだまだだからな」

 

「キャモ…」

 

「ピカ…」

 

「よし、ピカチュウ、キモリ! このまま走りこみ行こうぜ!」

 

「ピカ…」

 

「キャモ…」

 

自らを未熟だと言うサトシは自身もまた鍛えるために砂浜を駆け出した。

傍にいたピカチュウもキモリもそんな事は無いと言いたげにサトシを見つめるが、サトシは走っていってしまう。

 

「サトシ、ちょっと自分に厳しすぎないかしら」

 

「多分、ムロジムで負けた時の事を反省してるんだろうな。自分がもっと冷静にしていれば勝てたかもしれない。そうじゃなくてもキモリやスバメにあんなに負担をかけなかったかもしれないって考えちゃうんだろうな」

 

サトシの背中を心配そうに見つめるハルカとマサト。

そしてサトシを気遣う気持ちはソラトも同じだった。

バトルに負けたトレーナーの気持ちは大きく2種類に分けられる。

1つはポケモンが弱くて負けたと敗北の理由をポケモンに押し付けるタイプ。もう1つは自分の指示が悪かったとトレーナー自身が大きく責任を感じてしまうタイプである。

前者も悪いわけではない。ポケモンのレベルが足りなければ勝てないのは道理であるし、それによってポケモンを鍛えたり進化させたりと様々な解決法がある。

寧ろ問題なのは後者である。トレーナーの力量はポケモンのレベル等とは違い目に見えにくい。つまりトレーナーとしての力量が上がっても自分では実感し難いのだ。

そのためトレーナーが責任を感じてしまうと立ち直るのに時間がかかってしまう。

丁度今のサトシのように…。

 

「…また一つ、話しておくとするか」

 

遠くなっていくサトシの背中を追いかけるピカチュウとキモリを見つつ、ソラトはそう呟いた。

 

 

 

その日の夜。

満天の星空の下。夕飯を済ませたサトシ達はそろそろ眠る時間だった。

だがサトシは建てられているテントから出てしまっており、相棒のピカチュウと共に芝生に腰を降ろして空を見上げていた。

サトシが眠れない理由、それは…

 

「俺、成長できているのかな…」

 

「ピカピ…」

 

「ピカチュウ、お前やキモリ…皆は頑張ってくれてるよ。でも俺自身がトレーナーとして成長できてるか不安でさ…」

 

サトシを気遣い傍に寄り添うピカチュウに、内心の不安を吐露するサトシ。

そのまま星空を眺めていると、夜の闇に溶けるような黒いコートを着たソラトがやって来た。

 

「キレーな空だよな」

 

「え? あ、ソラト…」

 

「よう、サトシ」

 

ソラトはサトシの横に腰を降ろすとそのまま寝転がると共に空を見上げた。

 

「…」

 

「それで、いつ頃トウキさんにリベンジしに行くか決めたか?」

 

「…分かんないよ、そんなの」

 

まさに今考えていた痛い所を突かれたサトシは少々ぶっきらぼうに返事をした。

修行をしてポケモン達は強くなってきた。だが自分自身はどうなのか。もう挑んでもいいのか、まだ早いのか…その判断がサトシにはできないでいた。

次こそ勝つと自分とポケモン達に誓った。

それでも勝てるかどうか不安は拭えない…そういったサトシの複雑な内心がソラトも手に取るように分かった。

 

「…俺もさ、旅する途中で何度も負けたよ」

 

「…」

 

「それで悔しいって思う気持ちもある。この前だってダイゴさんに負けて、本当は凄く悔しかった」

 

「え…」

 

あの時確かにソラトは負けたが、サトシから見たら冷静そのものだった。

それでもソラトが内心悔しがっていたと聞いてサトシは意外そうに目を見開いた。

 

「この世界、上を見上げればキリがない。チャンピオンのダイゴさんに、四天王、ジムリーダー…まだ見ぬトレーナー達…そして俺のクソオヤジもな」

 

「アラシさんも…」

 

「ああ。自分の積み上げてきた全てを打ち崩されるような敗北を喫することもある…それでも俺達は、もう1度最初から積み重ねて前に進む」

 

そこでソラトは1度言葉を区切ると、頬を撫でる涼しげな一陣の風が吹きぬける。

 

「それがポケモントレーナーだ」

 

「ポケモン…トレーナー…」

 

「ピィカ…」

 

ソラトの思うポケモントレーナーとは…その言葉の意味を知ったサトシはソラトの顔を見つめる。

 

「後は自分の積み重ねたものを信じて、全力を尽くすだけだ…だからさ、サトシも自分と、自分の積み重ねたものを信じてみろ」

 

「俺自身と、俺の積み重ねたものを…」

 

「お前がこの修行で積み重ねたものは決して無駄じゃない。俺が保障する」

 

再びサァーっと風が吹き抜けると、サトシは不安に覆われていた心がスッキリと晴れていくような気分だった。

ソラトに修行は無駄ではないと言われるととても安心できた。

自分の努力をひけらかすのはあまり好きではないサトシだったが、こうして認められるのは悪い気はしないのだ。

 

「…ありがとうソラト。俺、明日トウキさんにリベンジするよ!」

 

「そうか…頑張れよ」

 

「うん!」

 

サトシはソラトの真似をするように草原に寝転ぶと満天の星空の下で眠るのだった。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

サトシは皆と共にムロジムの前へとやって来ていた。

 

「たのもーう! トウキさん、リベンジしに来ましたー!」

 

「ピカピカチューウ!」

 

ムロジムの扉を叩くサトシは気合に満ち溢れており燃えに燃えていた。

 

「サトシってば朝一番でムロジムに再挑戦するーって言うなんて、ホント突然過ぎるかも」

 

「でも今のサトシ達なら十分トウキさんに通用するよ! 頑張ってねサトシ!」

 

「おう! トウキさーん! お願いしまーす!」

 

しばらく扉を叩いていると、中から扉が開けられる。

中から現れたのは勿論ジムリーダーのトウキである。

 

「おっ、やっぱりこの声はサトシ君達だったか! リベンジに来てくれたんだね?」

 

「はい! お願いします!」

 

「勿論オッケーだ。待っていたよ」

 

サトシはトウキの案内でジムの中へ通されるとバトルフィールドの挑戦者側へ立つ。

ハルカ、マサト、ソラトの3人は観客席側へ通されてサトシのバトルを応援する事になった。

そしてトウキは不敵な笑みを浮かべてサトシに向かい合うようにバトルフィールドのジムリーダー側に立った。

 

「さてサトシ君、キミとポケモン達の修行の成果を見せてくれよ!」

 

「はい! 修行の成果を出し切れるように全力で戦います!」

 

「それではこれよりジムリーダートウキとチャンレンジャーサトシのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能となった時点でバトル終了とします!」

 

審判の言葉と共にサトシもトウキもそれぞれ先方のポケモンの入っているモンスターボールを手に取った。

そしてトウキからモンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。

 

「ワンリキー、テイクオフ!」

 

「リキッ!」

 

1番手はワンリキー。以前と変わらない様子だがトレーニングは欠かしていないため筋肉はバッチリ保たれているし経験値は得ているため以前より少しレベルアップしている。

 

「俺はコイツだ! クチート、キミに決めた!」

 

「クーット!」

 

サトシが繰り出したのは新しい仲間であるクチートである。はがね/フェアリータイプのクチートならば完全に有利とは言えないが不利とも言えないだろう。

 

「クチートだ!」

 

「サトシの一番手はクチート…新しい仲間がどこまでやれるかだな…」

 

「クチート頑張ってー!」

 

観客席にいるマサト、ソラト、ハルカから声援が飛んでクチートも心なしかやる気が出て来ているようである。

そして以前には見なかったポケモンをサトシが繰り出した事でトウキも面白いそうに笑っていた。

 

「へぇ、クチートか。もしかして石の洞窟でゲットしたのかい?」

 

「はい! 新しくゲットした仲間なんです!」

 

「面白い…! それじゃ、新しい仲間と成長したキミの力を見せてくれよ!」

 

「はい!」

 

「それでは、バトル開始!」

 

審判の合図と共にフラッグが振り下ろされる。

そして先手を取ったのはやはりサトシとクチートだった。

 

「クチート、ようせいのかぜ!」

 

「クートーッ!」

 

フェアリータイプの力を引き出して風を巻き起こして攻撃を放つ。

ようせいのかぜは真っ直ぐにワンリキーに向かい直撃するものの、相変わらずの身のこなし…攻撃を受け流す動きによってダメージを最小限に抑えられてしまった。

 

「リキ!」

 

「どうしたサトシ君! キミとクチートの力はそんなモンかい!?」

 

「まだまだぁ! クチート、かみつく攻撃!」

 

「クァー!」

 

後頭部の大きな顎を開いてかみつき攻撃をする。

あくタイプのかみつく攻撃はワンリキーに対してこうかはいまひとつであるが、敵に喰らいついて攻撃する関係上受け流したりする事ができない。

確かに命中すればそれなりのダメージになるだろう。

 

「避けろ、ワンリキー!」

 

「リキッ!」

 

だがタダで喰らうトウキとワンリキーではない。素早いステップで大きな顎を避けると、クチートのかみつく攻撃は地面に噛み付いてしまう。

 

「そこだワンリキー! からてチョップ!」

 

「リッキャ!」

 

右手を振りかざしてからてチョップを繰り出そうとするワンリキー。ターゲットのクチートは地面に噛み付いてしまっており隙だらけである。

だが、それはサトシの作戦だった。

 

「今だクチート!」

 

「クトクート!」

 

クチートは噛み付いた地面ごと後頭部の顎を振り回すと、バコッとフィールドの地面が割れて後頭部で岩を噛み付いたままそれを振り上げる。

そして勢いよく顎を振り回して噛み付いていた岩をワンリキーに向けて投げつけた!

 

「リキャッ!?」

 

「ワンリキー!? くっ…今のは完全に予想外だったぜ…!」

 

まさか噛み付いた地面の岩を投げつけてくるとは夢にも思わずトウキもワンリキーも反応仕切れなかった。

受け流す事もできずにまともに受けてしまったため今の攻撃はかなりのダメージになっているだろう。

 

「ワンリキー、ビルドアップ!」

 

「リキ! リッキ!」

 

「え? あの技は何?」

 

「ビルドアップだ! 攻撃力と防御力を同時にアップさせるかくとう技だよ!」

 

自分の筋肉を誇示するようにポーズを決めるとワンリキーの攻撃力と防御力が上昇する。

戦いはまだまだこれからだと言う事である。

 

「からの…ワンリキー! クロスチョップ!」

 

ビルドアップでパワーアップしたワンリキーは真正面からクチート目掛けて腕を交差させて突撃する。

 

「クチート、ようせいのかぜ!」

 

「クートーッ!」

 

再びようせいのかぜによって攻撃するクチート。真正面から突撃してきていたためワンリキーも受け流すこともできず直撃する。

しかしワンリキーは止まらない。

寧ろクロスチョップでようせいのかぜを切り裂き一気に突破した。

 

「リキリキーッ!」

 

「クーッ!?」

 

「クチート! しっかりしろ!」

 

真正面から攻撃を打ち破られてしまい、クロスチョップが命中したクチートは吹き飛ばされてしまう。

ビルドアップでのパワーアップも考えると結構なダメージを受けてしまっただろう。

しかし倒れていると追撃を受けてしまう。クチートは気合で立ち上がった。

 

「ク、クー…!」

 

「頑張れクチート! もう1度ようせいのかぜだ!」

 

「クートーッ!」

 

三度ようせいのかぜを放つクチートだが、ワンリキーは今度も華麗に攻撃を受け流した。

体を横にクルリと回転させて受け流したワンリキーは今の攻撃ではほとんどダメージを受けていないようだ。

 

「いいぞワンリキー! 距離を詰めろ!」

 

「来るぞクチート! てっぺきで防御するんだ!」

 

「リキリキリキ!」

 

「ククー!」

 

てっぺきで防御力をぐーんと上げたクチートに対し、ワンリキーは一気に接近すると拳を振り上げた。

 

「かみなりパンチ!」

 

「何っ!?」

 

てっぺきを発動したクチートは後頭部の顎でワンリキーのかみなりパンチを受け止める。

パンチの威力はかなり殺せたが、奔る電撃のダメージはそれだけでは防ぎきれずクチートの体に電流が流れてしまう。

昨日のソラトとの模擬バトルと同じであった。

 

「ワンリキー、もういっちょかみなりパンチ!」

 

「そうはいくか! 対策は思いついてるんだ! クチート、かみつく攻撃!」

 

「リキーッ!」

 

「クーッ!」

 

ワンリキーのかみなりパンチが再びクチートに命中するものの、クチートは攻撃をあえて受けて懐に飛び込み後頭部を向けるとワンリキーに噛み付いた。

 

「そのまま地面に向けて投げろ!」

 

「クート! クトクトクート!」

 

「リキ!? リキーッ!?」

 

後頭部の顎で喰らい付いたワンリキーを振り回すとグルグルと振り回した上で地面に向けて叩きつけるようにブン投げた。

大きく振り回されたワンリキーは受身を取る事もできずに地面に叩きつけられてしまい大ダメージとなる。

 

「なっ!? 大丈夫かワンリキー!?」

 

「リキ…!」

 

何とか立ち上がったがワンリキーはほとんど体力が残っていないだろう。もう一押しだった。

 

「いいぞ! もう少しだクチート!」

 

「クー!」

 

「やるなサトシ君! ワンリキー、渾身のクロスチョップ!」

 

「リッキー!」

 

最後の力を振り絞りワンリキーは腕を交差させてクロスチョップを放つ。

だがそれもサトシは冷静に対応した。

 

「クチート、おどろかす!」

 

「クー、クット!」

 

「リ、リキーッ!?」

 

後頭部の口を突き出すようにワンリキーに向けると、その凶悪な顎に驚いたワンリキーは動きを止めてしまう。

ここがトウキの相手の攻撃を受け流す動きを止める狙い目である。

脚が竦んで動けない今のワンリキーに攻撃を避ける事も受け流す事も出来はしない。

 

「トドメだクチート! ようせいのかぜ!」

 

「クートーッ!」

 

巻き起こしたようせいのかぜは今度こそ完全にワンリキーを捉えて吹き飛ばした。

 

「リキーッ!?」

 

「ああっ! ワンリキー!」

 

「リ…キ…」

 

これまでのダメージの蓄積と、こうかばつぐんの攻撃を受けた事でワンリキーは完全に目を回してしまっており戦闘不能になっていた。

 

「ワンリキー戦闘不能! クチートの勝ち!」

 

「いいぞクチート!」

 

「クートクート!」

 

まず先鋒戦はサトシに軍配が上がった。まずまずのスタートである。

 

「やったやった! クチートが勝った!」

 

「サトシ、良い調子かも!」

 

「あぁ…だがトウキさんの真の力はこれからだ。なんたってあのハリテヤマが控えているからな」

 

「あ…そっか…。前のバトルではハリテヤマに手も足も出なかったよね…」

 

「でもサトシ達だって修行で成長したから大丈夫よ!」

 

「あぁ、以前のようにはいかないだろう。バトルはこっからが本番だ」

 

観客席でもマサトとハルカとソラトが喜びつつも応援としても気を引き締めなおす。

ソラトの言うとおり、トウキのパートナーは先日進化を果たしたハリテヤマでありハリテヤマも以前より成長しており更に安定した戦いができるだろう。

終わるまでバトルはどうなるか分からないのだ。

 

「うん、やっぱり成長したねサトシ君。俺の柔の動きをここまで封じられるとはね」

 

「ありがとうございます! この調子で一気に勝たせて貰いますよ!」

 

「ソイツはどうかな? こいつの強さを忘れちゃいないだろう? ハリテヤマ、テイクオフ!」

 

続いてトウキが繰り出したのはやはりハリテヤマ。

ドスンと音を立ててその巨体がバトルフィールドに現れるとやはり威圧感がある。

 

「ハリーテ!」

 

「ク、クー…!」

 

「頑張れクチート…! 行くぞ!」

 

「バトル開始!」

 

威圧されるクチートだが、サトシの言葉を受けて気を持ち直す。

そして審判が再び合図すると再びサトシが勢いよく攻勢に出た。

 

「先手必勝! おどろかすだ!」

 

「クー、クーット!」

 

先ほどのワンリキーにしたように後頭部の顎を突き出しておどろかせようとするが、ハリテヤマはビクともしなかった。

 

「何っ!?」

 

「俺のハリテヤマの胆力を甘く見てもらっちゃ困るぜ! ハリテヤマ、あてみなげ!」

 

「ハリテー!」

 

「クーット!?」

 

「ああっ! クチート!」

 

おどろかすを使ってハリテヤマの真正面に無防備に飛び出してきたクチートをあっさり捕まえたハリテヤマはそのまま地面に叩きつける。

見事に決まったあてみなげにクチートは地面を吹き飛ばされてしまい、サトシの近くまで地面を転がってくる。

何とか立ち上がったクチートであるが、ワンリキー戦のダメージも蓄積されておりもう1発攻撃を受けたらまずい状況だった。

 

「ク、クゥー…」

 

「クチート、地面にかみついて岩を投げつけろ! ハリテヤマを近づけるな!」

 

「ク、クート!」

 

先ほどと同じく地面に後頭部の顎でかみつくと岩を引き剥がして勢いよくハリテヤマに投げつけた。

確かにハリテヤマはかくとうタイプらしく近接攻撃を多く使うため近づけなければ有利に立ち回る事が可能ではある。

 

「はたきおとす!」

 

「ハリーテ!」

 

「クッ!?」

 

「な、何だって!?」

 

だが投げつけた岩は無情にもその大きな掌ではたき落とされる。以前のバトルでキモリのエナジーボールを受け止めたように、あの手のひらは強力な盾にもなるのだ。

 

「近づけなければ有利っていうのは甘いぜサトシ君! ハリテヤマ、じしんだ!」

 

「ハーリテッ!」

 

四股を踏むように片足を高く上げてそのまま地面を勢いよく踏みつけるように下ろすと、強力な衝撃波が発生してクチートに迫る。

確かにじめんタイプ最強クラスの技でもあるじしんは物理技ながらも離れた場所から使える優れた技だ。

 

「クチート! ジャンプして避けるんだ!」

 

「ク、クー…ト…! クトーッ!?」

 

迫るじしんの衝撃波を避けるように指示を出すサトシだったが、クチートの体がそれについていけなかった。

体力が限界に近かったクチートはジャンプが間に合わず、じしんをまともに受けてしまったのだ。

はがねタイプを持つクチートにじめん技はこうかばつぐんで戦闘不能だった。

 

「クチート、戦闘不能! ハリテヤマの勝ち!」

 

「よくやったな、戻れクチート」

 

クチートをモンスターボールに戻したサトシは次のポケモンを繰り出すためにモンスターボールを握る。

 

「クチートがやられちゃったわ…」

 

「流石トウキさんだ。ハリテヤマにじしんを覚えさせているとはな…」

 

「サトシは次はどのポケモンにするんだろう?」

 

「ボールを持ったって事はピカチュウじゃないんだろうけど…やっぱりひこうタイプのスバメかしら?」

 

「案外ヘイガニかもしれないよ!」

 

次に繰り出すサトシのポケモンは何かハルカとマサトで話し合っているがソラトは誰が出てくるか予想がついていた。

サトシの性格を考えればほぼ間違いない。

 

「頼むぜキモリ! キミに決めた!」

 

「キャモーッ!」

 

「キモリだ」

 

「やっぱりそう来たか、サトシ」

 

「そっか、そうよね。前は負けちゃったけどリベンジするならキモリが1番よね!」

 

ソラトの予想通り、サトシは2番手はキモリを繰り出した。

先ほどまではスバメやヘイガニを予想していたハルカとマサトもリベンジする意味を考えればキモリになるのも納得という表情をする。

そしてかつて自分を打ち負かしたハリテヤマを前に、キモリは再戦の闘志を燃やしつつも冷静に枝を咥え、相手の様子を伺った。

 

「ハリーテ」

 

「キャモ」

 

「やっぱり2番手はキモリだったか」

 

「はい! 今度こそこいつに勝たせてやりたいんです! だから、全力で行きますよ!」

 

「ああ、かかってこい!」

 

「試合開始!」

 

審判の合図と共に、今度は先手を取ったのはトウキとハリテヤマの方だった。

 

「ハリテヤマ、じしん!」

 

「ハーリテッ!」

 

再び四股を踏むように片足を持ち上げてじしんを放とうとするが、そこが狙い目。

大きな技を繰り出す時には隙が出来る。

 

「キモリ、懐に飛び込め! でんこうせっか!」

 

「キャモッ!」

 

一気に間合いを詰めてハリテヤマの顔面目掛けてでんこうせっかを決めるキモリ。

片足を上げる関係上攻撃を受け流す事が難しい体勢のため、攻撃を加えるならここしかないと先ほどのじしんの際にひらめいていたのだ。

 

「ハリテッ!?」

 

「まだまだ! キモリ、はたく攻撃!」

 

「キャーモッ!」

 

「ハリーテッ!?」

 

でんこうせっかとはたくの連続攻撃を受けたハリテヤマは思わずたたらを踏んで後ろに下がる。

 

「落ち着けハリテヤマ! キモリが来るなら迎え撃つんだ! つっぱり!」

 

「ハリハリハリハリ!」

 

「かわせ!」

 

「キャモキャモッ! キャモモッ!」

 

4連続のつっぱり攻撃をキモリは軽快なフットワークで避けて凌ぎ切った。

全体の流れは、今はキモリが掴んでいると言っていいだろう。

 

「なら、ハリテヤマ! はたきおとす攻撃!」

 

「ハーリテ!」

 

「キモリ、尻尾を使って防御だ!」

 

「キャモッ!」

 

ハリテヤマからの猛襲を、今度は尻尾を使って防ぐキモリ。

柔らかく弾力のある尻尾はハリテヤマのはたきおとす攻撃を受け止めるとダメージを抑えて距離を取った。

 

「よしっ! いいぞキモリ!」

 

「へぇ、やるなサトシ君!」

 

「へへっ! キモリ、一気に決めるぞ! エナジーボールだ!」

 

「キャモキャーモッ!」

 

「もう1度はたきおとすだ、ハリテヤマ!」

 

牽制と遠距離攻撃を兼ねてエナジーボールを放つキモリだったが、放たれたエナジーボールはかつての戦いの時と同じくハリテヤマの掌で叩き落されて掻き消される。

そのままハリテヤマはキモリへと接近してくる。

 

「迎え撃てキモリ! はたく攻撃!」

 

「キャモーッ!」

 

「受け流せハリテヤマ!」

 

「ハリッ!」

 

接近してきたハリテヤマを迎撃するように尻尾を使い攻撃するキモリだったが、ハリテヤマは攻撃を受ける瞬間身を捻りダメージを最小限に抑えると共に即座に反撃の体勢に入る。

 

「そのままつっぱりだ!」

 

「ハリハリハリ!」

 

「もう1度尻尾で防ぐんだ!」

 

「尻尾ごと鷲掴みだ!」

 

「ハリッ!」

 

「キャモ!?」

 

ハリテヤマの猛攻を再び尻尾を使い防ごうとしたサトシだったが、ハリテヤマはその大きな手で尻尾ごとキモリを鷲掴みにして持ち上げると空中へ放り投げた。

 

「に、逃げるんだキモリ!」

 

「今度こそキメろ! つっぱり!」

 

「ハリハリハリハリハリ!」

 

「キャモモーッ!?」

 

空中に放り投げられてしまい身動きが取れなくなってしまったキモリは逃げる事も防ぐ事もできずにハリテヤマの放つ怒涛の5連続のつっぱり攻撃を受けてしまった。

大きく吹き飛ばされたキモリは大ダメージを受けて地面を転がる。

 

「追撃だ! じしん!」

 

「ハーリテッ!」

 

再び四股を踏みじしんを放つと、大地を駆ける強力な衝撃波がキモリを襲った。

 

「ギャモーッ!?」

 

「キモリーッ!」

 

ハリテヤマの連続攻撃を受けてしまったキモリはボロボロになってしまう。

それでもどうにか、キモリはハリテヤマを睨みながら立ち上がった。

 

「キ…モ…」

 

「キモリ、大丈夫か!?」

 

「キャ…」

 

立ち上がりはしたものの、キモリはかなりのダメージを受けているようで片膝を着いてしまう。

もし次も攻撃を受けてしまえば…

 

「くそっ…! やっぱり俺にはまだ早かったのか…!?」

 

クチートもキモリもベストを尽くしてくれていた。

昨日ソラトに尻尾での防御について注意されたというのに安易に尻尾の防御に頼ってしまいこうして追い詰められてしまっている。

サトシの胸中をやっぱり自分はまだ未熟で、リベンジは早すぎたのではないかという後悔が渦巻いていく。

 

「キモリ…俺…!」

 

「キャモッ…!」

 

リタイアしてしまおうかとも思ってしまうサトシだったが、それはキモリ自身が遮り立ち上がった。

 

「キモリ…!」

 

「やっぱりキミのキモリのガッツは凄いな。でもこのままじゃ、前の時の焼きなおしだぜ」

 

「ハリ」

 

「くっ…!?」

 

ハリテヤマとトウキが普段よりも大きく見えるような気がしてしまい、サトシ自身が怯んでしまう。

目を瞑ってしまい、勝負を諦めかけてしまうサトシに観客席で見守るハルカとマサトも心配そうな視線を向ける。

ソラトも1度目を伏せると、腹の底から声を出した。

 

「サトシッ!!」

 

「っ!?」

 

「キモリを見ろ! お前の指示を待っている! お前を信じて待っている! 自分自身に自信が持てなくても、ポケモンなら信じられるだろう!? だったら…!」

 

今日一番…いや、今までで1番芯の通った大きな声でソラトはこう言った。

 

「ポケモンが信じる、自分を信じろ!!」

 

「ポケモンが信じる…キモリが信じる俺を…! キモリ、俺を信じてくれるか…!?」

 

「キャモッ! キャモォオオオオオオッ!」

 

例え自分を信じる事ができなくても、自分を信じてくれるポケモンを信じるのなら。

それなら、誰よりもポケモンが大好きなサトシにならできる。

サトシは迷いを振り払った瞳でキモリを見つめて問いかけた。

そしてそれに当然だと言わんばかりにキモリは声を張り上げると、体が輝き始めた。

 

「なっ!? あれは…!」

 

「キモリ…!?」

 

観客席のソラトはこうなると分かっていたと言う様な優しい笑みを浮かべており、ハルカとマサトは驚愕に目と口を開きながら観客席から身を乗り出した。

 

「あれはもしかして!」

 

「キモリが進化するんだ!」

 

姿がどんどん変化していき、形を変えた光は弾け飛ぶと内なる姿を現した。

 

「ジュルァアアアアアアアッ!」

 

「あのポケモンは…!」

 

ハルカはポケモン図鑑を取り出して進化したポケモンをスキャンする。

 

『ジュプトル もりトカゲポケモン キモリの進化系。

体から生えた葉っぱは森の中で敵から身を隠す時に使われる。密林に暮らす木登りの名手』

 

キモリが進化してジュプトルになった事により、より体が大きくなり能力が大幅に上昇した。

体力も上がった事で、ダメージは減ってはいないが多少体力に余裕ができたらしく、ジュプトルはサトシに向けてサムズアップする。

 

「ジュルルァ」

 

「ジュプトル…! 俺に応えてくれたのか…! よーし、行くぞジュプトル!」

 

「ジュルァ!」

 

仕切り直しとばかりにジュプトルは強靭な後ろ足で爆発的に加速してハリテヤマに迫る。

だがトウキとハリテヤマに驚きはあっても油断は無い。冷静に迎撃の構えを取る。

 

「ハリテヤマ、あてみなげだ!」

 

「ハリッテ!」

 

「潜り込め!」

 

「ジュルァ!」

 

ジュプトルを捕まえようとするハリテヤマだったが、素早く下に潜り込んだジュプトルはあてみなげを回避するとその腕に付いている草を鋭い刃にしてすれ違い際にハリテヤマを斬りつける。

脇腹を切り裂かれたハリテヤマに大きなダメージを受けて膝を着く。

 

「ハリ…!」

 

「今のは…!?」

 

サトシはポケモン図鑑を開いて今のジュプトルの技を確認する。

そして新たに覚えた技の正体は…

 

「リーフブレド…!? リーフブレードを覚えたんだなジュプトル!」

 

「ジュル」

 

新しい技、リーフブレードを覚えたジュプトルは腕の草を戻してニヤリと笑った。

 

「リーフブレード…あの鋭い攻撃を受け流すのは無理か…! だったら攻めるまでだ! ハリテヤマ、つっぱり!」

 

「ハリハリ!」

 

「かわせジュプトル!」

 

「ジュルッ! ジュラッ!」

 

リーフブレードを受け流す事が難しいと判断したトウキは逆に攻勢に出る。

つっぱりの連続攻撃を放つが、進化した事で更なる素早さを手に入れたジュプトルは軽々とそれを回避する。

 

「バックステップからのエナジーボール!」

 

「ジュラ! ジュルルァ!」

 

「ハリーッ!?」

 

強靭な後ろ足でバックステップしてハリテヤマの体勢が崩れた所でエナジーボールを放ち更なるダメージを与える。

攻撃を受け流す動きを捨てて攻勢に出た今のトウキ達になら、他の攻撃を当てる事ができる。

 

「くっ!? ハリテヤマ、最後のパワーを振り絞れ! じしんだァ!」

 

距離が離れたジュプトルへ最大の力で攻撃をするため、ハリテヤマはひっくり返ってしまうのではないかというほど足を高く上げ―

 

「ハァアアアアアアリテェエエエエエッ!」

 

―踏み下ろした。

ハリテヤマを中心に蜘蛛の巣状にフィールドの地面が砕け、最大最強のじしんがジュプトルに向かう。

 

「お前の刃で、じしんを切り裂け! いっけぇえええええええっ! リーフブレードォ!」

 

「ジュルァ! ジュルァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

両腕の草を再び刃へと変化させてじしんの衝撃波へと突撃するジュプトル。

そして雄叫びと共にフィールドを丸ごと両断する勢いで振るわれたリーフブレードとじしんがぶつかり合った。

強力な技同士がぶつかり合い大きな砂埃が巻き上がる。

砂埃はジュプトルの姿を隠してしまい、どうなったか見えなくなってしまう。

 

「ジュプトル…!」

 

「どうなった…?」

 

サトシもトウキも砂埃で見えなくなったジュプトルがどうなったかを伺う。

観客席のハルカ達も固唾を呑んで見守る。

そして…砂埃を切り裂いてジュプトルが姿を現した!

 

「ジュルァアアアアアッ!!」

 

「ジュプトル!」

 

「何っ!?」

 

「ハリッ!? ハリーッ!?」

 

砂埃を切り裂き飛び出したジュプトルはそのまま右腕のリーフブレードをハリテヤマの体に叩き付けけて袈裟切りにした。

ジュプトルもハリテヤマも数秒そのままの姿勢で固まっていたが、ガクリとハリテヤマが膝を折って倒れた。

 

「ハ、リ…テ…」

 

「…ハリテヤマ、戦闘不能! ジュプトルの勝ち! よって勝者、チャレンジャーサトシ!」

 

「勝っ…た…? ぃやったぁあああああっ! 勝ったんだぁああああっ!」

 

「ピカ! ピッピカチュウ!」

 

自分が勝ったという事を少しずつ噛み締めていくサトシは、勝ったということをやっと認識すると大声をあげてガッツポーズを決めた。

そして喜びのあまりフィールドの中へ駆け込みジュプトルを抱きしめた。

 

「ありがとうジュプトル! お前のお陰だ! お前が俺を信じてくれたお陰だぜ!」

 

「ジュルァ」

 

最後まで自分を信じてくれたジュプトルと、それに応えたサトシの2人の勝利を互いに称え合う。

このバトルは、正にジュプトルとサトシ…ポケモンとトレーナーが互いを信じあったからこそ勝てたバトルと言えるだろう。

 

「戻れハリテヤマ」

 

戦闘不能になったハリテヤマをボールに戻したトウキは拍手しながらサトシに歩み寄った。

 

「見事だったよサトシ君。クチートもジュプトルもキミも、最高の信頼関係だったぜ!」

 

「ありがとうございます! トウキさん!」

 

「まぁ、背中を押してくれた存在もあったけどね」

 

トウキはそう言うと観客席から此方へ向かってくるソラトへ視線を向ける。

確かに途中のソラトの言葉が無かったらサトシはリタイアしてしまったかもしれない。サトシとポケモンと、そして導く存在の全てがありこの勝利に繋がったのかもしれない。

 

「サトシ、トウキさん、お疲れ様」

 

「サトシ君、ソラト君、ムロジムで勝利したキミ達にはこのバッジを進呈するよ。ムロジムを勝ち抜いた証、ナックルバッジだ」

 

トウキが差し出す手には2つの拳を模したバッジがあった。

ナックルバッジ。これこそがこのバトルを勝利した証となる。

 

「よーし、ナックルバッジ、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「クートット!」

 

「ジュラ!」

 

サトシは勝利をより強く噛み締めるように受け取ったバッジを空に掲げてピカチュウとクチート、ジュプトルと勝利の余韻を味わった。

そして同じく今までバッジを受け取るのを先延ばしにしていたソラトも漸くバッジを手に入れる。

指でパチンとハッジを弾き、手元へ落ちてきたバッジを掴んで前に突き出した。

 

「ナックルバッジ、イカしたバトルでゲットだぜ」

 

「やったねサトシ! ソラト!」

 

「すっごいバトルだったかも!」

 

「あぁ! でも…ありがとなソラト! 俺、ソラトのお陰でここまで来れた!」

 

サトシもこのバトルや修行での日々を思い返せば、ソラトの背中を追いかけ、そしてソラトに背中を押して貰っていたのを強く実感していた。

ソラトが居なければ、サトシはここまで来れなかっただろう。

 

「いいや、俺は少しだけ背中を押しただけだ。勝利を掴み取ったのは、間違いなくサトシ達の力さ」

 

「それでも、ありがとう!」

 

「…そっか。それじゃ、ジムバトルも済んだし準備をしたら海を経由してカイナシティに向かうとするか!」

 

次の街へ向かうための準備をするため、ソラトはトウキに一礼をすると踵を返し、ジムの出口へと向かった。

その遠くなっていく黒い背中を追いかけるようにしてサトシは駆け出した。

自分の目指す人はまだまだ先に居て、その背中に追いつけるまでどれくらいかかるかは分からない。

それでもいつか必ず追いついてみせると、彼から教えて貰った事を胸に強く刻み込みながら…サトシはまた一歩、トレーナーとして高みへと昇るのだった…。

 

 

 

to be continued...




2個目のバッジゲットです。
そして本来のアニポケよりだいぶ早いですがジュプトルへ進化してもらいました。
ゲームだと遅くてもこれくらいで進化しそうですしお寿司。

次はシーキンセツの話になるのですが…どことなくニヤニヤできるような話にしておくつもりなのでご期待下さい。


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マグマ団幹部現る! シーキンセツ危機一髪!

どうも、最近キーボードを叩く指が軽い三点リーダです。
先日より感想の受付を非ログインの方からも受け付けるようにしました。
ちょっとした気分転換のようなものですね。
モチベーションにも繋がりますのでよろしければ感想、評価、お気に入り登録、しおり等をよろしくお願いします。


ムロジムでの激戦を制し、2つ目のバッジを手に入れたサトシとソラト。

次のジムがあるキンセツシティを目指すため、まずは海を渡りカイナシティへ向かうサトシ達。

波に揺られながらも、ソラトのヒョウカに乗るサトシとハルカとマサトは今日も元気に旅に励む。

 

「うわーい! いけいけー!」

 

「ピカピーカ!」

 

「キュー!」

 

ポケモンに乗って海の旅をするのが初めてのマサトとピカチュウはヒョウカの頭の上に乗って舵を取っておりとても楽しそうにしている。

そんなマサト達に感化されてヒョウカもとても楽しそうである。

 

「マサト達、楽しそうだな」

 

「私も楽しいわ。ポケモンでの海旅っていうのも船の旅とは違ってちょっとワイルドで!」

 

ヒョウカの背中の甲羅に座っているサトシとハルカも会話に花を咲かせながら海の旅を楽しんでいた。

かつてサトシはオレンジ諸島にてラプラスに乗って旅をしていたため懐かしさも感じていた。

 

「これから向かうカイナシティってどんな町なんだ?」

 

「海に面した港町ね。色んな船が出入りするから色んな人や物が集まるのよ」

 

「へぇー」

 

これから向かうカイナシティはホウエンではミナモシティと並ぶ港町であり多くの人や物、そしてポケモンが出入りする町である。

ポケモンが好きな人も、そうでない人も集まる正に海の交差点である。

 

「それだけじゃないぞ」

 

と、そこで会話を少し離れた場所で聞いていたソラトが会話に入ってくる。

ソラトは1人でスイゲツの背中に乗ってヒョウカと並走するように泳ぎ進んでいた。ラプラスのヒョウカは大型のポケモンだが、流石に背中の甲羅に4人乗るのは狭いしヒョウカの負担になると判断したためである。

スイゲツの動きを体重をかけることで操作したソラトはヒョウカに近づくと、持っていた雑誌をヒョイッと投げてハルカに渡した。

 

「わたたっ!? えっと…ポケモンコンテストカイナ大会!?」

 

「ああ、近い内にカイナでポケモンコンテストが開かれるんだ。ハルカ、デビューにどうだ?」

 

「出る! 絶対に出るわ! よーし、気合出てきたかもーっ!」

 

手持ちにアゲハントが追加された事でポケモンコンテストへの意欲が燃えているハルカは、これから向かう町でコンテストが開かれると知り元気が爆発した。

デビュー戦となるが、基礎訓練はムロ島での修行期間に多少は行っているため最低限形にはなるだろう。

 

「よーし、それじゃカイナに向けて全速前進だぜ!」

 

「「おーっ!」」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「と、その前に!」

 

「「「え?」」」

 

やる気と元気が出てきたサトシ、ハルカ、マサトとピカチュウが息を合わせて号令をかけたのだが…そこへソラトが待ったをかけた。

 

「そろそろ休憩だ。ヒョウカとスイゲツを休ませてやらなくちゃな」

 

「クゥー!」

 

「ラグ!」

 

まだまだ体力的に問題は無いのだが、いかなる不測の事態にも対処できるようにしておくために休憩は余裕のある内に取るのがポケモンでの海旅の基本である。

そのため陸に上がれる場所を探さなくてはならない。

 

「でもこの辺り、島みたいなのは無いみたいだけど…」

 

マサトがポケナビを使い周囲の地形を探り島を探してみるものの、それらしい地形は見つからなかった。

 

「島は無いが、代わりに面白いモンがあるんだ。きっと楽しいぞ。スイゲツ、ヒョウカ、ルートをやや左へ変更だ!」

 

「ラグラグ!」

 

「クーキュー!」

 

ルートを変更したソラトに連れられ先に進むサトシ達。

そして当たり前のようにそれを追う大きな影が海の底に潜んでいた。

 

ギコギコと安っぽい金属が擦れる音が響く船内にはゼェゼェと息を切らす3人の人物…ロケット団がいた。

今日も今日とてサトシのピカチュウを狙いコイキング型潜水艦のペダルを漕いで後を追っている。

 

「んぎぎぎぎぎ! まだまだぁ! 加速するわよー!」

 

「ひぃひぃひぃ…も、もう駄目だ…これ以上漕げない…」

 

「ニャーもだニャー…」

 

追いつけないほどの速度ではないが、ポケモンが泳ぐよりも進むのに負担がかかるコイキング潜水艦のペダルをムロ島から漕ぎ続けておりコジロウとニャースはもう体力の限界らしい。

ここまでほとんど休み無し、食事無しでペダルを漕いでいるのだから無理も無い。

 

「何言ってるのよ! 根性出しなさい!」

 

「そんな事言っても疲れたモンは疲れたんだよ…」

 

「休憩取らないと本気で無理ニャ」

 

「ったく、だらしないわね!」

 

「ソーナンス!」

 

「ほら、アンタも漕ぎなさい!」

 

ボールから勝手に出てきてしまうソーナンスにも手伝わせ、どうにかこうにかサトシ達を追跡するロケット団3人組。

今日こそピカチュウゲットなるのだろうか…。

 

 

 

 

 

そしてサトシ達一行は浅瀬に乗り上げた古びた難破船の所までやって来ていた。

難破船とは言うものの、どことなく整備されておりそこまでボロボロという印象は受けない。

それに小型船があちこちにあり、浅瀬には多くの人々が集まり賑わっていた。

 

「あれ、何だアレ?」

 

「あれはシーキンセツ。船の形をしたポケモン保護区だ」

 

「シー、キンセツ? 次のジムのある町が確かキンセツシティだったよな?」

 

「昔、ダイキンセツホールディングスって会社があってな。その会社で使ってた海底資源採掘場だったんだが原因は不明だが閉鎖されて放棄されたんだ。取り壊す予定が、ポケモンが住み着いたから自然保護区に認定されたんだとさ」

 

そう、この場所の名はシーキンセツ。

かつて大企業が海底資源を集めるために運営していた大型船だったのだが現在では放棄されて人の手を離れポケモン達が集まる自然の一部になっている。

 

「へぇー…それであの人達は何なんだ?」

 

「多分カイナシティから来た観光客だろ。カイナからも近いからな。俺達も休憩がてら見学してかないか?」

 

「えー、でも早くカイナシティに行きたいかも…」

 

「そう言うなよ。結局休憩は必要だし、珍しいポケモンが見られるかもしれないぞ?」

 

「僕行きたい!」

 

「面白そうじゃないか、行こうぜ!」

 

ポケモンコンテストの開催が決まっているカイナへ早く行きたいと思うハルカであるが、マサトとサトシは乗り気である。

確かにホウエン地方は海の広い地方であるため多種多様なみずタイプを含んだポケモンが生息している。

それがこの船に住み着いているのなら珍しいポケモンをお目にかかる可能性も高い。

保護区だからゲットする事はできないのだが、アゲハントの時のように次のポケモンゲットの目標を見つけられるかもしれないのだ。

 

「んー…そうね、もしかしたら可愛いポケモンに出会えるかもしれないし」

 

「それじゃ決まりだ。スイゲツ、ヒョウカ、頼む」

 

「ラグ!」

 

「クゥー」

 

スイゲツとヒョウカは浅瀬に身を寄せてサトシ達を降ろし、ソラトのボールの中へと戻っていった。

このままボールの中でしばらく休憩していれば体力が戻るだろう。

そしてこのままシーキンセツに入ろうとしたサトシ達の元へと1人の女性がやって来た。

 

「こんにちはアナタ達。シーキンセツの見学に来たのかしら?」

 

「はい! 俺、マサラタウンのサトシです!」

 

「私はハルカです」

 

「僕、マサトっていいます!」

 

「ソラトです」

 

「私はシーキンセツのガイドスタッフのナミと言います。よければ中をご案内しましょうか?」

 

「「「「お願いします!」」」」

 

サトシ達の元へやって来たのは観光のためのガイドスタッフであるナミというダイビングスーツを着て黒髪をポニーテルにした女性だった。

挨拶を済ませたサトシ達は折角なのでナミに案内して貰う事にした。

こうしてシーキンセツの船の中へ入っていくサトシ達だったが、それに着いてきたロケット団も近くまでやって来ており海底からシーキンセツを伺う。

 

「んあ? 何、あのボロっちい船は?」

 

「この辺りにあるボロい船と言えば確か…」

 

「ニャニャ? コジロウ、何か知っているニャ?」

 

潜望鏡を覗き込むムサシの言う船というワードに反応したコジロウが荷物の中から雑誌を取り出した。

雑誌を開けばこの辺りの海だったりカイナシティの情報が載っており、当然シーキンセツの事も特集されていた。

 

「あったあった。これだ、シーキンセツ」

 

「シーキンセツだニャ?」

 

「あぁ、昔大企業が使ってた海底資源採掘船だったけど放棄されてポケモン保護区になってるみたいだな」

 

ポケモン保護区と聞いて、3人の目がギラリと怪しく光る。

これは目の前に好物のポケモンフーズを釣られたゴンベとも言える状況だった。

 

「ポケモン保護区…ならそこにいるポケモンを丸ごとゲットして!」

 

「サカキ様に献上すれば…!」

 

「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジは間違いナシだニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「それじゃあ、あのボロ船にいるポケモン達ゲット作戦を開始するわよ!」

 

「「応!」」

 

こうして本日のターゲットをサトシのピカチュウからシーキンセツのポケモン達へと変更したロケット団はその準備に入る。

だがこの時サトシ達はおろか、ロケット団も気がついていなかった。

シーキンセツに赤い影が迫っている事に…。

 

 

 

 

 

一方でナミの案内を得てシーキンセツを見学するサトシ達。

船内は電気が通っていないので薄暗いが昼間という事もあり外からの光もあるため全く見えないという事もなく皆で周囲を伺いながら足を進めていた。

 

「なんだか冒険してるって感じだね! ワクワクしちゃうな!」

 

男の子らしくマサトはこういった状況を最大限楽しんでいるらしくテンションが上がりに上がっている様子だった。

ナミはスタッフとしてマサトの素直な反応が嬉しく笑顔を浮かべた。

 

「ウフフ! それがシーキンセツの醍醐味なのよ。ただし禁止事項もあるからちゃんと守ってね」

 

「禁止事項ですか。ポケモン保護区ですし、ゲットは厳禁なんですよね」

 

「それもあるけれど、バトルは基本的に全面的に禁止なの。船全体が古びてて脆くなっているから下手をすると浅瀬から滑り落ちて海の底に沈んでしまうかもしれないから」

 

ポケモン保護区であるため保護されているゲットが禁止されているのは基本として、ポケモンバトルも全面的に禁止されていた。

確かにポケモンの住処として手入れや補修は最低限となっておりあちこちにガタが来ている。

もし大技がぶつかり合うようなバトルが起きてしまえば、ナミの言うとおり船が浅瀬から滑って海底まで沈んでしまう可能性も高いだろう。

 

「サトシ、ポケモンを見つけてもいきなりバトルを仕掛けちゃダメよ?」

 

「するわけないだろ! まったく…」

 

三度の飯よりバトル好きのサトシと言えども流石に保護区の中にいるポケモンに対してバトルを仕掛けたりはしないだろうが、ハルカが茶化すとサトシはむすっとしてしまいそんなサトシを見て皆でクスクスと笑っていた。

そのまま薄暗い廊下を進んでいると向かい側から小さな影が見えてきた。

近くにやってくるとその小さな影の正体が分かる。

 

「わぁ! クラブだ!」

 

「これがクラブね」

 

『クラブ さわがにポケモン

強力な武器であるハサミは攻撃の際にまれにもげるが、後からすぐ生えてくる』

 

そう、小さな影の正体は2体のクラブだった。

初めてクラブを見たハルカはポケモン図鑑を取り出してクラブを検索してデータを見る。

そんなハルカとマサトを横目にカニらしく横歩きで廊下を進んでおり人にも慣れているらしくサトシ達に驚く事も怯える事もなくすれ違っていった。

 

「クラブかぁ。俺も進化系のキングラーを持ってるけど、アイツ元気かなぁ」

 

「ピィッカ」

 

ホウエン地方に出発する前にマサラタウンのオーキド博士の下へと預けてきたのだが、サトシはキングラーを持っている。

カントー地方でゲットしてカントーリーグやうずまきカップといった大きな大会でサトシと共に戦った仲間の1人なのだ。

 

「サトシ、キングラーを持ってたんだね! いいなぁ!」

 

「へへっ! ん? また何か来るぞ」

 

再び薄暗い廊下の向こうから何かがやって来る。

クラブとは違い今度は少し大きいが、影だけでもとても丸いのが分かりコロコロと転がるようにこっちにやって来ていた。

 

「タマタマ!」

 

「今度はタマザラシか」

 

「わぁ! この子とっても可愛いわ!」

 

今度サトシ達の前に現れたのはボールのように丸っこいポケモン、タマザラシだった。

タマザラシの可愛さに骨抜きになってしまったハルカは再び図鑑を向けてデータを見る。

 

『タマザラシ てたたきポケモン

歩くより転がるほうが断然速い。食事の時間は仲間が一斉に手を叩いて喜ぶのでけっこううるさい』

 

「うーん、保護区じゃなかったらゲットしたかったかも」

 

「タマ?」

 

「ほらな、来て良かっただろ?」

 

「うん!」

 

最初はここへ来ることを渋っていたハルカだったが、初めて見るポケモン達にすっかり満足してしまっていた。

サトシ達はそのまま更に船内の奥へと進んでいく。

しかし廊下の先は浸水してしまっており、先に進めそうになかった。

 

「あれ、行き止まりだよ?」

 

「この船は半分浸水しててこういった場所も多いの。でもこっちの部屋から通り抜けられるから大丈夫よ」

 

廊下にあった扉を開けるとそこは客室だったが壁が崩れており通り抜けられるようになっていた。

 

「へぇー! こうやって移動できるなんて面白いな!」

 

「本当にダンジョンって感じだな。もしかしたらオヤジも来てたかもしれないな…」

 

「え? アラシさんが?」

 

「ポケモン冒険家だからな。各地の遺跡だけじゃなくて、こういった廃棄された施設にも行くと聞いた事がある」

 

どうやらアラシが来る可能性もある場所らしく、ソラトは目を細めて周囲を見渡す。

万が一にもアラシがいないかどうか探っているのだ。

 

「ソラト君のお父さん?」

 

「はい、こういう風貌をしたいい加減な男なんですが、どこかで見かけてないですか?」

 

ナミがソラトの話に興味を持つと、聞き込みのためにソラトは荷物からアラシの写真を出すとナミへ見せる。

写真を受け取ったナミは目を見開いた。

 

「この人! 少し前に来てたわよ!」

 

「なっ!? いつ頃来ましたか!? この後どこに行くかとか、聞いてないですか!?」

 

「見かけたのは数週間ほど前になるわ…遠目に見ただけで直接話した訳じゃないから詳しい事は分からないのだけれど…ただ、他のスタッフの話だと船内の戸棚にある本や雑誌、資料を気にしていたって聞いているわ」

 

まさか本当に来ていたとは夢にも思わず、ソラトは慌ててナミに問い質すが残念ながら行方に関する事は何も分からず仕舞いであった。

しかし代わりに気になる情報を手に入れた。

 

「本や資料を?」

 

「ええ。このシーキンセツがまだ海底資源採掘船として機能していた当時の本や資料が残っているの。ただ、大切な資料は全て廃棄時に回収されているから残っているのはあまり価値の無い物なんだけれど…」

 

ソラトは客室にあった棚にあるファイルや本を引っ張り出してそれを開いて見る。

 

「え、えーっと…ソラト?」

 

「俺は船内を色々調べてみる。後で合流するから先に行っててくれ!」

 

ソラトは資料を食い入るように見ており、アラシが何を調べようとしていたのかを探ろうとしている。

 

「お、おいソラト…」

 

「折角ポケモン保護区に来たのに…」

 

「サトシ、マサト。お兄ちゃんはアラシさんの事になると梃子でも動かないからそっとしておいてあげましょう」

 

「仕方ないなぁ…」

 

「じゃあソラト君、ゲットやバトルをしなければ好きにしててくれて構わないから、また後で会いましょう」

 

「はい!」

 

結局ソラトは部屋に残り資料を漁る事になり、サトシ達は先に進む事にした。

その後もサトシ達は多種多様なポケモン達に出会いながらシーキンセツの見学を続けていった。

 

「シーキンセツって楽しいね! 僕大満足!」

 

「沢山のポケモンを見てたらゲットしたくなってきちゃったぜ!」

 

「もー、2人ってば単純かも」

 

マサトもサトシもすっかり満足しており満面の笑みを浮かべていた。

一歩引いているようなハルカも、本当は多くのポケモンを見てゲットへの熱意とポケモンコンテストへのイメージが浮かぶようになっていた。

 

「そう言ってもらえると私達もシーキンセツの環境保護をしている甲斐があるわ。それじゃあそろそろ甲板に出ましょう―きゃあっ!?」

 

船内から甲板に出て一息つこうとした所、船全体が大きく揺れた。

サトシ達はたたらを踏んで堪えたがかなりの衝撃である。心なしか船が僅かに傾いたようにも思えた。

 

「うわぁっ!?」

 

「こ、この揺れは何なのー!?」

 

「甲板に出ましょう! 着いてきて!」

 

甲板に出れば何か分かるかもしれないと判断したナミは階段を駆け上り甲板へと向かう。

それに続いてサトシ達も甲板へ出ると、そこにはどことなく見慣れたコイキング型の潜水艦が船に突っ込んでおり外壁を破っている。

破った外壁から、潜水艦の左右にあるアームを進入させてポケモンを捕まえていた。

 

「あれは!」

 

「ちょっと! 何なのこれは!?」

 

「ちょっと! 何なのこれは!?と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

そう、このコイキング型潜水艦と言えばロケット団である。

いつもの通りの口上と共に潜水艦の上部ハッチを開けるとそこから飛び出してポーズを決めたロケット団は遠隔操作でアームを操作して潜水艦の内部へと捕らえたポケモン達を収容する。

それを見たナミが駆け出してロケット団へ非難を浴びせる。

 

「やめなさい! ここにいるポケモンは保護されているのよ!」

 

しかしそんな言葉1つでやめるくらいならば最初から手出しなどしないのがロケット団である。

 

「へーんだ! そんなの俺達には関係ないぜ!」

 

「ニャース、じゃんじゃん捕まえるのよ!」

 

「はいニャ!」

 

ニャースが持っているリモコンを操作するとコイキング型潜水艦が突っ込んで突き破った壁から船内にアームを入れてポケモンを捕獲していく。

そして捕まってしまったポケモンは漏れなく潜水艦内へと収容されてしまう。

 

「やめろロケット団! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ! ピーカチュウウウウウウッ!」

 

「「「おっと!」」」

 

ピカチュウの電撃が放たれるが、予想していたと言わんばかりにロケット団は素早く潜水艦内へ非難した。

電撃は潜水艦へ命中するが弾かれてしまう。

10万ボルトを弾いた事を確認するとロケット団は再びハッチを開けて船外へと出てきた。

 

「いつも通り、電撃への対策はできてんのよ!」

 

「ならこれはどう!? ニョロゾ、みずでっぽう!」

 

「ニョロッ!」

 

ナミがモンスターボールを投げて手持ちのポケモンであるニョロゾを繰り出すと渦巻き模様の中心からみずてっぽうを放つ。

みずてっぽうは命中するとグラグラと潜水艦を大きく揺らした。

 

「わたたたたたっ!? ちょっとニャース、どうなってんのよ!?」

 

「電撃対策以外はしてないのニャ!」

 

「って、みずポケモン捕まえるんだから水対策もしておけよ!」

 

「んニャ事言ったって時間が足りなさ過ぎるニャ!」

 

なんだかんだと言い争いをしている内に自ら弱点を露呈してしまうおマヌケロケット団。

電撃以外は対策していないと聞いたサトシとハルカはニッと笑ってモンスターボールを構えた。

 

「ジュプトル、エナジーボールだ!」

 

「アチャモ、ひのこよ!」

 

「ジュラ!」

 

「チャモチャモ!」

 

モンスターボールから繰り出されたジュプトルとアチャモはそれぞれ技を繰り出して潜水艦に命中させる。

 

「ぐぅううううっ!? くそ、こうなったらポケモンバトルでジャリボーイ達を黙らせるのよ! 行きなさいハブ―」

 

「応! 行け、サボネ―」

 

ロケット団がサトシ達に反撃しようとモンスターボールを手に取ったその時、コイキング潜水艦を押し退けるように勢いよく海面が盛り上がる。

海面から姿を現したのは更に巨大な潜水艦であり、船体にはマグマ団のマークが刻み込まれていた。

 

巨大な潜水艦に吹き飛ばされたロケット団のコイキング型潜水艦は先ほどのダメージもあってかバラバラに解体されながら吹き飛んでいった。

そのお陰で潜水艦内に捕らわれていたポケモン達は海に逃げ出す事が出来、ロケット団だけ空の彼方まで吹き飛ばされていった。

 

「「「ウッソだーっ!? ヤなカンジーッ!?」」」

 

まさかバトルする前に退場する事になるとは思わずロケット団も驚愕の表情で吹き飛ばされていってしまった…。

 

そして新たに現れたマグマ団の潜水艦のハッチが開き赤い装束の団員が現れシーキンセツへ乗り込んでくる。

 

「お前ら、マグマ団か!」

 

「いかにも! シーキンセツは我々が抑えた! 大人しく従え! さもなくば…!」

 

「誰がお前らの言うことなんか聞くか!」

 

「ピカ!」

 

「ジュルルル…!」

 

「ほう? ならば相手をしてやろう! 行け、ポチエナ!」

 

マグマ団の団員十数名に包囲されてしまうサトシ達だったが、負けん気の強いサトシはマグマ団の言うことなど聞かずにバトルの体勢に入り、ピカチュウとジュプトルも構えを取る。

抵抗するなばとマグマ団のしたっぱ達はモンスターボールを投げるとポチエナやゴルバットを繰り出した。

 

「サトシ君! あまり船にダメージを与えないようにしてね!」

 

「はい! ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピカ! ピッピッピッピッ!」

 

「チエッ!?」

 

船を気にしつつできるだけ衝撃が発生しないようにでんこうせっかで近くにいたポチエナを吹き飛ばし、続けてサトシは指示を出す。

 

「ジュプトル、はたく攻撃!」

 

「ジュラッ!」

 

「ゴルッ!?」

 

ジュプトルも頭の葉っぱを使いゴルバットをはたき叩き落す。

先手をサトシに取られたマグマ団だったが黙ってやられている訳もなく反撃のために支持を飛ばす。

 

「くっ! ポチエナ、かみつく!」

 

「ゴルバット、エアスラッシュ!」

 

ポチエナが牙を剥き、ゴルバットが翼から風の刃を飛ばす。

向かう先は攻撃の後で隙ができているピカチュウとジュプトルである。

 

「アチャモ、ひのこ!」

 

「ニョロゾ、みずでっぽう!」

 

「チャモー!」

 

「ニョロッ!」

 

だがそうはさせまいとハルカのアチャモとナミのニョロゾが援護してポチエナをひのこで吹き飛ばし、エアスラッシュをみずでっぽうで掻き消した。

 

「ハルカ、ナミさんありがとう! ピカチュウ、でんこうせっか! ジュプトルはリーフブレード!」

 

「ピカピッカ!」

 

「ジュルァ!」

 

援護によって無事に体勢を整えたピカチュウとジュプトルは再び攻撃を繰り出すとポチエナとゴルバットを叩き落した。

子供であるサトシやハルカに思いのほか苦戦してしまっているマグマ団のしたっぱ達は額に汗を浮かべる。

 

「よし、いいぞ!」

 

「くっ…! おのれ…!」

 

「…なに…してるの?」

 

「カ、カガリ様!」

 

手こずっているマグマ団のしたっぱ達の下へ、潜水艦から新たなマグマ団員が現れ、やって来る。

他の団員とは違いフードに付いている角が金色になっている、紫髪の物静かな女性だった。

 

「じ、実は抵抗してくる者が…!」

 

「…別働隊…破壊痕から船内にいる…任務…遂行中」

 

「そうでしたか! でしたらこいつ等を始末するためにも、カガリ様! 力を貸して下さい!」

 

「……」

 

会話内容から察するに、先ほどロケット団が破壊した場所から他の団員が侵入してしまっているらしい。

しかもここからはカガリと呼ばれた女性までバトルに加わるようだ。

カガリは無言でモンスターボールを取り出すとポケモンを繰り出した。

 

「バクーッ!」

 

現れたのはふんかポケモンのバクーダだった。

重い巨体が甲板をミシリと鳴らして現れると、背中の火山のように見えるコブから黒煙を噴出した。

 

「あのポケモンは…!」

 

「バクーダだよ!」

 

『バクーダ ふんかポケモン

ドンメルの進化系。背中に火山を持つポケモン。体内のマグマが増えると震えた後に大爆発する。』

 

ポケモン図鑑でバクーダを調べたサトシは油断のないように構えてジュプトルを前に出す。

このカガリと呼ばれた女性が只者ではないという事は、周囲の雰囲気からサトシにも伝わっていた。

 

「サトシ! バクーダはほのお/じめんタイプだから気をつけて!」

 

「任せろ! 行くぞジュプトル、リーフブレード!」

 

「ジュルァ!」

 

「…いわなだれ」

 

「バクバクッ!」

 

リーフブレードを繰り出すジュプトルに対してバクーダは虚空から岩を生み出し、ジュプトル目掛けて放つ。

だがジュプトルは慌てずリーフブレードで岩を切り裂いて逃れた。

切り裂かれたり、命中しなかった岩が甲板を突き破り船を壊していく。

 

「いけない! 船にダメージが…!」

 

ナミが心配する通り、今のいわおとしの衝撃で船が更に揺れて傾いた。

このままバトルが続けば最悪の場合、ナミが危惧する通り船が沈没してしまう可能性もある。

しかしそんな事はマグマ団には関係ないとばかりにカガリは再び指示を出す。

 

「…ふんか」

 

「バァアアアクゥウウウッ!」

 

ドカンッ!と大きな音と共にバクーダの背中が爆発すると、強烈な火山弾が噴射されて空へ飛び上がる。

そして飛び上がったふんかの火山弾は弾けるようにして落下し、サトシ達へと襲い掛かってきた。

 

「きゃああああああっ!」

 

「うわわわっ!?」

 

火山弾はいわなだれよりも激しく船の甲板を破壊していき、その1発がハルカとマサトに襲い掛かった。

 

「スイゲツ、まもる!」

 

「ラグッ!」

 

間一髪。ハルカとマサトに火山弾が命中する寸前に飛んできたモンスターボールからスイゲツが現れて間に割り込むと、緑色のバリアを発生させて火山弾を防いだ。

階段の方を見れば急いでやって来たのだろう、ソラトが息を切らして立っていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ソラト!」

 

「無事のようだな、ハルカ、マサト。しかしまぁ…衝撃がするから来てみれば…マグマ団とはな」

 

突如乱入してきたソラトを見て、こてんと首を傾げるカガリ。その所作1つ1つがどことなく空ろな雰囲気を漂わせる。

 

「……だれ?」

 

「俺の名はソラト。あんたは?」

 

「…マグマ団幹部…カガリ」

 

「幹部と来たか。シーキンセツに何の用か知らないが、好きにはさせないぞ」

 

「…バクーダ…とっしん」

 

「スイゲツ、グロウパンチ!」

 

「バクゥウウウウッ!」

 

「ラグァ!」

 

好きにはさせないと宣言したソラトを敵と認識したカガリは再び静かな声でバクーダへと指示を出す。

ソラトも迎え撃つためにスイゲツに指示を出すと、闘気を纏ったパンチと凄まじい突進がぶつかり合いビリビリと周囲にまで衝撃が伝わる。

数秒鍔迫り合うスイゲツとバクーダだったが、結果的にスイゲツのグロウパンチが押し勝ちバクーダを押し返した。

 

「バクゥ…!」

 

「…予想外…バクーダ、ふんか」

 

「ブルァアアアアアウ!」

 

スイゲツの予想以上のパワーを感じたカガリは僅かに表情を動かすと再びバクーダに噴火を指示する。

背中の火山を再び噴火させたバクーダによって幾つもの火山弾が放たれる。

 

「サトシ、ハルカ! これ以上船が傷ついたらまずい! 撃ち落とすんだ!」

 

「分かった! ピカチュウは10万ボルト! ジュプトルはエナジーボールだ!」

 

「ピーカチュゥウウウウウウウ!」

 

「ジュルッ! ジュルァ!」

 

「アチャモ、ひのこよ!」

 

「チャモ! チャモーッ!」

 

ピカチュウの10万ボルト、ジュプトルのエナジーボール、アチャモのひのこによって空中に放たれたふんかの火山弾が次々に撃ち落とされていく。

火山弾を全て撃ち落としたサトシ達だったが、そこまではカガリも予想の範囲内。

 

「…予想内…バクーダ、とっしん」

 

「バクーッ!」

 

「スイゲツ、たきのぼりだ!」

 

上へ視線が逸れた隙に強烈なとっしんを御見舞いしようとするカガリだったが、上への対処をサトシとハルカに任せたソラトが迎え撃つ。

今度はグロウパンチによって上がった攻撃力を利用したたきのぼり。

いざ、スイゲツとバクーダがぶつかり合うその瞬間―

 

「うわっ!?」

 

「ラグ…!」

 

「…っ!?」

 

「バク!?」

 

―甲板の床が崩れた。

元々壊れている船で脆くなっていた上、いわなだれやふんかによる攻撃によって甲板は崩れかかっており今限界が来たのだ。

崩れた床の底へと落ちていくソラトとスイゲツ、カガリとバクーダ。

 

「ソラトーッ!」

 

「お兄ちゃーん!」

 

「カ、カガリ様っ!?」

 

抜けた床の底へと落ちていくソラトとカガリを心配し声をかけるサトシとハルカ、そしてマグマ団のしたっぱたち。

そんな声に反応する暇もなく、落下したソラト達は下層にあった水で満たされた場所へと落ちてきた。

ドボン!と水に落ちたソラトとスイゲツだが、幸い怪我もなくみずタイプを持つスイゲツからすれば何ら問題はない。

水中で体勢を整えたスイゲツはソラトを背に乗せて水面へと浮かんだ。

 

「ラグ」

 

「ぷはっ…助かったよスイゲツ。無事だな?」

 

「ラグラグ」

 

お互いに無事を確認するソラトとスイゲツ。

大丈夫だと把握すると周囲を見渡す。

この場所は広く、水底に目をやると沢山の椅子や机、他にも食器やトレイといった物が沈んでいた。シーキンセツが動いていた際はここは恐らく食堂だったのだろう。

そして水底を見て目を見開いた。

底の方ではカガリが一緒に落ちたバクーダの巨体の下敷きになっていた。バクーダは水に弱く体重も重いため泳ぐことができないのだろう。

ボールにも手が届かないのだろうか戻す気配も感じられない。

 

「スイゲツ!」

 

「ラグラッ!」

 

即座にソラトはスイゲツに掴まり底へと潜っていく。

一方でカガリは思わぬアクシデントでバクーダの下敷きになってしまいどうにか動こうと体をもがかせるものの300キロ以上の体重を誇るバクーダを退かせられない。

しかも突然水中へ落ちてしまったため空気を吸い込む暇も無かったためこれ以上は息が持ちそうになかった。

 

「…っ!」

 

息が持たずに口から酸素をごほっと吐き出してしまい、海水を飲み込んでしまう。

意識が朦朧とするカガリの元へ辿り着いたソラトはスイゲツのパワーでバクーダを抱えて退かして貰い自分はカガリを抱えて海上へ向かう。

 

「ぷはっ! はぁ…はぁ…オイ、大丈夫か!?」

 

「……」

 

「くそっ…! あっちの段差の上なら…!」

 

声を掛けるがカガリは意識を失っており返事が無い。

どうにか救命しなければと周囲を見渡したソラトは部屋の隅にあった段差の上を目指す。そこならば水が及んでいないため落ち着いて処置ができる。

段差の上に辿り着いたソラトはカガリを仰向けに寝かせて様子を見る。

 

「水を飲み込んでる…息も無い…! しっかりしろ!」

 

「バクゥ…」

 

「大丈夫だバクーダ、まだ間に合う! 必ず助ける!」

 

自分のトレーナーを心配するバクーダを安心させるため、そして自分に言い聞かせるためにソラトはそう言うとカガリに心臓マッサージを行う。

だが心臓マッサージを行ってもカガリは目を覚ます気配がなかった。

 

「…なら!」

 

ソラトはカガリの顎を持ち上げて気道を確保すると鼻を摘まみ、息を吸いカガリに口付けをした。

正確には人工呼吸。吸い込んだ息をカガリへ流し込む。

人工呼吸を終えると再び心臓マッサージをして、折を見て再び人工呼吸をする。

そして3度目の人工呼吸の最中、カガリはゆっくりと目を覚ました。

 

「……? ……っ!?」

 

「うわっと…!」

 

「げほっ…! けほっ…」

 

自分の状態が理解できていなかったカガリだったが、ソラトの顔が目の前にあり口に温かいものが触れていると気がつき驚きからソラトを突き飛ばす。

そして呼吸を取り戻したカガリは喉の奥から飲み込んだ水がせり上がってくるためそれを吐き出した。

バクーダは心配そうにカガリに寄り添い、スイゲツは突き飛ばされたソラトを受け止めた。

 

「どうにかなったな…気分はどうだ?」

 

どうにか救助に成功したソラトは壁に背を預けると溜息を吐きながらカガリに気分を問うが、当のカガリはソラトの行動が理解できず真剣な表情でソラトと目を合わせる。

 

「……なぜ?」

 

「ん? 何だ?」

 

「…なぜ…助けたの? …ボク達…敵同士なのに」

 

先ほどまで明確に敵対しており、更にはカガリはバトル禁止のポケモン保護区でバトルを仕掛けた悪党である。

それなのに自分を助けてくれたソラトは、カガリにとっては理解不能であった。

 

「確かにそうだけど…それは命を見捨てる理由にならないだろ」

 

「……」

 

「助けるさ。俺は、俺に助けられる命を」

 

それはかつて母を救えなかったソラトが自分に誓った事だった。

病に苦しむ母に対して何をしてやる事もできなかった。それでも自分に何かできる事があって、それで誰かが救えるのならば。

ソラトの決意の表情を見たカガリは理解はできないが納得はしたらしく、頷いて立ち上がった。

 

「……ターゲット……ロック」

 

「は?」

 

「…キミ…ターゲットロック…したから」

 

「ターゲットって、どういう事だ?」

 

「…キミを…実験(エクスペリメント)…するから。…キミを…分析(アナライズ)したい」

 

「意味が分からないんだが…」

 

イマイチ意図が読めないカガリの言葉に首を傾げるソラトだったが、何となく悪い意味ではないような気がしたため少しだけ警戒心を緩めた。

そしてその警戒の緩んだソラトを見てカガリは顔を寄せると、今度はカガリから口付けをした。

 

「…ん」

 

「!?」

 

突然の事で反応できず、背中を壁に預けていたため下がる事もできなかったソラトはカガリが下がるまでの数秒間動けなかった。

ソラトから離れたカガリは相変わらず無表情だったが、どことなく満足そうだった。

 

「な、何を…!?」

 

「…お返し」

 

顔を真っ赤にしているソラトを他所に、カガリは一言そう言うとバクーダをボールへと戻して新しいボールを投げた。

出てきたのはスバメの進化系であるオオスバメ。

オオスバメはカガリの両肩を脚で掴むとそのまま羽ばたいて上昇し、落ちてきた穴目掛けて飛び上がった。

 

「…何だったんだ」

 

「ラグゥ~?」

 

「茶化すな」

 

相棒であるソラトのキスシーンをおちょくる様にスイゲツがニンマリと笑うがソラトはそれをピシャリと遮りスイゲツをボールに戻した。

 

「頼むぞ、モウキン!」

 

「ヴォッ!」

 

とにかくソラトも上に戻らなければならない。

ソラトはモウキンを繰り出すと先ほどのカガリと同様、両肩をモウキンに掴んで貰うとそのまま飛び上がって甲板まで飛び出した。

空中から状況を確認すると、サトシ達はマグマ団のしたっぱ達とのバトルを継続していたようだが全て返り討ちにしていたようである。

ソラトはサトシ達の傍へ着地するとモウキンを空中へと放つ。

無事に戻ってきたソラトを見てハルカが駆け寄って笑顔になる。

 

「お兄ちゃん! 無事だったのね!」

 

「ああ、心配かけて悪かった。さて…」

 

ソラトより一足先に上に戻ったカガリだったが、これ以上戦う意思は感じられなかった。

 

「…データは?」

 

「はい! 別働隊により確保完了しています!」

 

「…なら…撤退」

 

「はっ!」

 

「……」

 

どうやらマグマ団は目的を達成したらしく、したっぱ達は次々と潜水艦へと戻っていく。

最後に残ったカガリは潜水艦へ戻る前にソラトをチラリと見ると無表情なその表情を僅かに赤くして甲板から跳んで潜水艦へと戻った。

全員が潜水艦内へ戻ったマグマ団はすぐさまに潜水して逃走する。

 

「くそっ! 待て!」

 

「止めとけサトシ。今はシーキンセツを守れただけで良しとしよう」

 

「……そっか。そうだな」

 

マグマ団を追おうとするサトシだが、既に潜水艦は潜水してしまいすぐに発進してしまうだろう。

今から追っても潜水艦は止められないと判断したソラトにそう言われ、サトシは追いかけるのを断念した。

 

「ソラト君、大丈夫!?」

 

「はい、ナミさん」

 

「船はどうにか大丈夫そうよ。皆、彼らを撃退してくれてお礼を言うわ。でも…残念ながら今日の案内は終了ね」

 

困ったように笑うナミ。

それもそうだ。どうにか沈む事はなかったが船は側面が破壊されており甲板はボロボロといった酷い有様である。

これはしばらくは修理と補修に忙しくなるだろう。

 

「でも、マグマ団は何をしに来たんだろう? データがどうとか言ってた気がするけど…」

 

ポケモンを狙ったロケット団はともかく、目的の見えないマグマ団に対してマサトが疑問を浮かべる。

確かに去る前にデータと言っていたが…。

 

「それも合わせて調査が必要かもしれないわね…。とにかく船から出ましょうか。カイナまで送っていくわ!」

 

「「「「ありがとうございます!」」」」

 

こうしてシーキンセツでの攻防は終わり、サトシ達はシーキンセツから去るとナミの船でカイナシティへと向かう事になったのであった。

 

 

 

 

 

「見えてきたわ。あれがカイナシティよ」

 

日が傾いてきた頃、サトシ達を乗せたナミの船はカイナまであと少しの所まで来ていた。

 

「カイナシティ! あそこでポケモンコンテストが開かれるのね!」

 

「頑張れよハルカ!」

 

「応援してるからね、お姉ちゃん!」

 

「ま、開催はもう少し先だ。それまでみっちり練習しなくちゃな」

 

ロケット団とマグマ団を撃退してシーキンセツを守り、とうとうカイナシティに到着したサトシ達。

そしてカイナシティで開催されるポケモンコンテストに燃えるハルカであった…!

 

 

 

to be continued...

 




カガリさん登場です。
正直オメガルビーで初めて見た時はインパクト強すぎて開いた口が塞がりませんでした。
ちゃんとカガリさんらしく描写できているでしょうか? ちょっと不安です。
因みに人工呼吸する時はソラト君と同じようにやってあげて下さいね。キスして空気送るだけじゃ意味無いので。

ところで、ソードとシールドの新情報来ましたね。
欝になりかけの時期だったのでサンムーンは買わなかったんですけど復帰しようかどうかかなり悩んでいます。


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造船所の再会! ソラトとルチアとアクア団!?

タイトル通り、彼女が出ます。
正直ORASは可愛い女性キャラ多すぎるんだよ!
ハルカ可愛いしカガリさん可愛いしイズミさん美しいしルチア可愛いしヒガナ可愛いしミツルも可愛いし(?)。

そういう訳です、ハイ。


ムロ島から海路で進み、カイナシティに到着したサトシ達。

これから2週間後に開催されるポケモンコンテストに出場するために、ポケモンコンテスト会場でハルカのエントリー登録を済ませていた。

 

「よーし! これでエントリーは完了かも!」

 

「初出場、頑張ってねお姉ちゃん!」

 

「任せなさい!」

 

初めて憧れのコンテストへ参加できるため気分が上がりに上がっているハルカであるが、勝ち上がるためにはやらなければならない事がある。

 

「それじゃあ、早速ビーチの方へ行ってコンテストの練習しなくちゃ!」

 

そう、技の練習である。

通常のバトルとは違いポケモンを輝かせる技やアピールが必要になるポケモンコンテストではバトル以上に事前の練習や準備が重要になってくるのだ。

 

「コンテストバトルの練習相手が必要ならいつでも言ってくれよ! 相手になるぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「ありがとうサトシ、ピカチュウ! それじゃ皆でビーチに行きましょう!」

 

「っと、ちょっと待ってくれ」

 

早速練習と気合の入っているハルカに待ったをかけたのは意外な事にソラトだった。

 

「え? どうしたのお兄ちゃん?」

 

「いやほら、俺カナズミシティでツワブキ社長から頼まれてた事があっただろ」

 

「そう言えばソラト、何か届けに行くんじゃなかったっけ?」

 

「そ、潜水艦のパーツを造船所にな」

 

そう、ソラトはカナズミシティを出発する前にデボンコーポレーションの社長であるツワブキ社長からペンダントのお礼としてムロ島にいるダイゴへ手紙を、カイナにある造船所までパーツを届ける約束をしていたのだ。

 

「だから俺は先に造船所に行ってくる。後で合流しよう」

 

「分かったわ。ビーチで待ってるわね」

 

こうしてハルカ、サトシ、マサトの3人組とソラトの1人で分かれてそれぞれ別行動する事になったのであった。

 

ビーチへ向かったハルカ達は人が沢山いるカイナシティのリゾートビーチへやって来た。

右を見ても左を見ても人やポケモンが沢山おり、皆バカンスを楽しんでいる。

それを見て思わずサトシもピカチュウもテンションが上がってしまう。

 

「おっ、皆楽しそうだな!」

 

「チャア~!」

 

「ちょっとサトシ、今は遊びに来た訳じゃないのよ」

 

「分かってるって」

 

「でもお姉ちゃん、ここじゃ人が多すぎて練習に向かないんじゃない?」

 

「そうね。もう少し人が少ない所に―」

 

「キャーッ! ルチアちゃんよーっ!」

 

場所を移動して練習をしようと思い場所を探していると、浜辺に黄色い声援が響き渡る。

大勢の人々が大慌てで移動していきビーチの近くの道に集まっている。

 

「ルチアって…もしかしてあのルチアさん!? 嘘、そこにいるの!?」

 

「ルチア?」

 

「お姉ちゃん、ルチアって誰?」

 

「2人とも知らないの!? ホウエン地方のNo,1コンテストアイドルよ! 前回のホウエン地方のグランドフェスティバルで優勝した、トップコーディネーターなの!」

 

グランドフェスティバル。

それはポケモンコンテストに優勝して得る事ができるコンテストリボンを5つ集めた者だけが参加する事のできるコーディネーターの憧れ。

これに優勝できれば名実共にトップコーディネーターと言えるのだ。

つまり、今来ているルチアという人物はハルカの言うとおりホウエン地方でもトップクラスのコーディネーターなのである。

 

「私も一目見て見たいかも!」

 

「俺達も行ってみようぜ!」

 

ハルカたっての希望でルチアを一目見ようとサトシ達も人だかりの元へと行ってみると、人だかりの中心にいる青い女性を見つけた。

エメラルドグリーン色の髪をポニーテールにしており、青を基調としたヘソ出しの可愛らしい服装をしている。更に服の首元、腰、手首にはフワフワの白い綿が付いていた。

 

「キラキラ~! くるくる~?」

 

「「「くるくる~!」」」

 

ルチアがクルリと回ると、周囲にいた彼女のファン達も大勢が同じようにクルリと回転する。

突然周囲の人々の多くがクルリと回ったためサトシ達も困惑してしまい、その熱量に若干引いてしまう。

 

「突然のファンサービス! ミラクル☆アイドルステージ って感じだね!」

 

「「「うぉーっ!」」」

 

「「「キャーッ!」」」

 

そしてビシッとルチアがポージングすると、周囲のボルテージは最高潮に。

唯の道端が、本当にアイドルのライブステージになってしまったようだ。

 

「す、凄い人気だな…!」

 

「なんだか僕、人酔いしちゃいそう…」

 

「あーん! ステキーッ!」

 

周囲の熱量に押されるサトシとマサトを他所に、ハルカは他の人々と一緒に盛り上がっていた。

 

「はいはーい、皆さんどいて下さいねー!」

 

「それじゃあマリさん、ルチアさん、スタンバイお願いします」

 

と、周囲のファンを掻き分けて大きなカメラを担いだ男性とマイクを持った女性が現れた。他にも大きなマイクを持った人やスケッチブックを持った人々がやって来る。

見た目からして、何かのテレビ番組のスタッフだろうか。

男性がカメラを構えると、ルチアの邪魔をしてはいけないと周囲のファン達も少しだけ離れて声を抑える。

 

「あれは…テレビか?」

 

「テレビキンセツだよ。キンセツシティにあるテレビ局で、ホウエンでは人気の番組を幾つも放送してるんだ」

 

「へー」

 

ホウエン地方では有名なテレビ局であり、今回もルチアと共に番組の撮影をするようである。

 

「はいそれじゃ行きます。3、2、1…!」

 

カメラマンの男性が合図を出すと撮影を開始する。

カメラの先にはマリと呼ばれた女性とルチアが並んでいた。

 

「どうも皆さんこんにちは! 今回はカイナシティが誇るクスノキ造船所が開発した最新の潜水艦の特別取材を行いたいと思います! そして、今回の撮影には特別ゲストが来ています!」

 

「キラキラ~! くるくる~? 突然の登場! サプライズ☆ゲストアイドルって感じだね!」

 

先ほどと同じようにルチアが回転してからのポーズをカメラに向かって決めた。

再び控えめながらも野次馬から声援が上がる。

 

「はい! ゲストは今話題沸騰中のトップコーディネーターにしてアイドルのルチアさんです! 今日はよろしくお願いしますね」

 

「此方こそよろしくお願いしま~す」

 

「現在私達はカイナシティのリゾートビーチに居ます。早速カイナシティの誇るクスノキ造船所へ向かいましょう!」

 

マリとルチアはカイナシティに関するトークを行いながらテレビスタッフと共に造船所のある方向へと足を進めていった。

 

「行ったな…どうするハルカ? 練習できる場所を探しに行くか?」

 

「…いいえ! ルチアさんを追いかけるわ!」

 

「追いかけるって…追いかけてどうするんだよ?」

 

「ルチアさんを見ていれば、コーディネーターとして何か学べるかもしれないわ。あのテレビ撮影を追いかけるのよ!」

 

「わぁっ!? 待ってよお姉ちゃん!」

 

ルチアの追っかけと化してしまったハルカはルチアが向かっていった造船所方面へと駆け出していってしまった。

それをサトシとマサトも慌てて追いかけていくのだった…。

 

一方、ハルカ達と別れて造船所へ辿り着いたソラトはフードを目深に被って正面入り口から造船所へと入っていた。

 

「ここがカイナのクスノキ造船所か…さて」

 

受付に向かい荷物の中からツワブキ社長に託された潜水艦のパーツを取り出すと、受付にいる男性へと声をかけた。

 

「あの、すいません」

 

「はい、カイナ造船所にようこそ。何か御用でしょうか?」

 

「実は、デボンコーポレーションのツワブキ社長から届け物がありまして」

 

「届け物…あぁ、伺っています。クスノキ館長はこちらにいらっしゃいます。どうぞ」

 

どうやら事前にツワブキ社長から連絡がありソラトは荷物を届けに来る事は伝わっていたらしく、あっさりとソラトは奥へと通された。

造船のドックにはソラトが見たこと無い最新鋭の大きな潜水艦が開発されていた。

 

「凄い…」

 

人の技術の集大成を間近で見たソラトは思わずそう呟いた。

 

「ハハハ! 単純な褒め言葉ほど嬉しいものはないね!」

 

潜水艦を見ていたソラトの元へ初老の男性がやって来た。

胸に着けている名札を見れば、彼がここの造船所の責任者であるクスノキ館長で間違いなかった。

 

「ようこそソラト君。ツワブキ社長から話は伺っているよ」

 

「どうも、クスノキさん。早速ですが、これがツワブキ社長からお預かりしていた潜水艦のパーツです」

 

ソラトは用意していた潜水艦のパーツを間違いなくクスノキに手渡す。

クスノキも荷物に異常が無い事、間違いなく潜水艦のパーツである事を確認すると大切そうに仕舞いこんだ。

 

「ありがとうソラト君。これで古代の海底洞窟の調査に向かえるという物だよ」

 

「海底洞窟?」

 

「あぁ、今まで人の身では行くことのできなかった深海にある伝説のポケモンが眠ると言われている場所さ。そこを調査する事ができれば、古代のポケモンの事がより詳しく分かるかもしれないんだ」

 

「それは凄いですね。自分もいつか、そういった場所に行ってみたいものですね」

 

そこまで言ってソラトは頭に何かが引っかかった。

まさか自分の探すアラシはそういった海底洞窟にまで行っていないだろうな、と。

ポケモン冒険家として様々な場所へ行くアラシであるが、流石に前人未到の伝説の海底洞窟までは行っていないだろうと思いつつも、あの型破りで非常識な男ならやりかねないと嫌な予感もしていた。

そこへ造船所の職員がクスノキの元へとやって来る。

 

「クスノキ館長、テレビキンセツの取材の方がもうすぐ到着します」

 

「そうか、分かった。それではソラト君にはお礼にこれを渡しておこう」

 

クスノキは懐から小さなチケットを取り出すとそれをソラトにお礼として渡した。

チケットにはむげん島行き往復券と書かれている。

 

「…これは?」

 

「カイナの南にある小さな島へ渡れる乗船券さ。そのむげん島には珍しいポケモンがいると言われていてね…中々手に入らないレア物チケットなんだが、どうかな?」

 

「ありがとうございます。近い内に行ってみようと思います」

 

「それは良かった。それでは失礼するよ」

 

「はい」

 

こうしてむげん島行きのチケット、むげんチケットを手に入れたソラトは造船所から出ようと出口へと足を進めた。

が、建物から出る前に荷物を届けた事を報告しておこうと思いロビーにあったテレビ電話を使う事にした。

数コールもするとツワブキ社長の部屋へテレビ電話が繋がる。

 

「やぁソラト君」

 

「どうも、ツワブキ社長。先ほどカイナの造船所にお預かりしたパーツを届け終わりました。ムロ島でもダイゴさんにお手紙を渡しておきました」

 

「いやぁ、本当にありがとう。ダイゴからもあの後連絡が来たよ。ソラト君とバトルをして、久々に熱くなったと言っていたよ」

 

「いえ、ペンダントのお礼もありますしお安い御用ですよ。ダイゴさんとのバトルは自分にとっても良い経験に―」

 

そうして話をしているソラトとツワブキ社長を他所に、テレビキンセツの取材班であるマリやテレビスタッフと、ゲストであるルチアが造船所に到着する。

ツワブキ社長とダイゴとのバトルの事を話しているソラトはそれに気がついておらず、取材班のテレビスタッフもロビーの隅で電話をしている黒いコートを着た青年になど目もくれていなかった。

 

「さぁ、クスノキ造船所に到着しました! ここには人類では未だに到着できなかった深海へ潜る事のできる最新の潜水艦があると言われています!」

 

「とっても楽しみですね! 未知の探索! ワクワク☆深海アドベンチャーって感じだね!」

 

「それでは早速造船ドックへ向かってみましょう!」

 

スタッフ達とルチアは造船ドックへ向かうために奥へと向かうが、その途中でルチアの視界の端に黒い人影が写った。

ロビーの隅にある電話で誰かと話をする黒いコートを着た青年。

どこか既視感のあるその背中を見てルチアは動きを止めてしまう。

 

「ルチアさん、どうかしましたか?」

 

「え? あっ、何でも無いです!」

 

突然動きを止めてしまったルチアを心配してカメラマンの男、ダイが問いかけるとルチアはハッとなって奥の部屋を目指した。

ダイは先ほどルチアが視線を向けていた方を見るが、黒いコートを着た人物がテレビ電話をしているだけで他に何か目立った事は無い。

本当に何も無かったのだろうとダイもカメラを担ぎ直しルチア達の後を追った。

 

 

 

その頃、クスノキ造船所の外では青い装束を来た人影が外にある配線盤の元へやって来ると配線盤を操作していた。

電力を操作すると、裏口にあるあまり使われていない荷物搬入用の扉を開ける。

すると待機していた他の青い装束の男達が一斉にその扉から造船所へと侵入していた。

 

 

 

「それではツワブキ社長、またいずれ」

 

「ああ、アラシについて何か分かったら連絡するよ」

 

「ありがとうございます」

 

ツワブキ社長との電話を終えたソラトは電話を切るとビーチでコンテストに向けて練習をしているであろうハルカの所へ向かうために造船所の出口へ向かう。

だが突然出口のシャッターが勢いよく閉まってしまい出られなくなってしまう。

 

「あれ、どうしたんだ?」

 

突然閉まってしまったシャッターを見て何かの手違いか事故かと思ったソラトは受付の男性へと再び声をかける。

 

「あの、シャッターが突然閉まってしまったんですが、開けられますか?」

 

「シャッターが? 変だな、何か誤操作があったのかもしれませんね…見てくるので少し待っていて下さい」

 

「はい」

 

ソラトはそのまま受付の近くで壁にもたれて受付の職員が戻るまで待つ事になってしまう。

職員の男性はその場を離れてシャッターを制御できる配電盤を見るため、ドックを通って造船所の裏へと向かった。

そのドックではテレビキンセツの取材班とルチアがクスノキ館長に最新の潜水艦に関するインタビューを行っていた。

 

「クスノキ館長、これが最新型の潜水艦なんですね?」

 

「はい。この最新の潜水艦に、ここにある革新的なパーツを組み込む事で今まで潜ることができなかった深海にまで潜る事ができるようになったのです」

 

「それは凄いですね! もし潜水艦が完成したらどんな調査をするんですか?」

 

「伝説のポケモンに関係する海底洞窟の調査を行いたいと思っています」

 

「わぁ! それってとっても素敵ですね! 本当に未知の大冒険って感じです」

 

「ハハハ、いやまったくです。後はこのパーツを取り付ければその大冒険に向かう事ができるようになっているんですよ」

 

マリとルチアのインタビューに答えているクスノキ館長。

そんな彼らの邪魔をしないよう離れた場所を通り配電盤のある裏へと向かう受付の男性職員だったが…。

 

「ええと…配電盤は確か向こうの―うわっ!?」

 

配電盤のある裏の入り口へ向かおうと足を進めていた所、突然扉が開いて大勢の青い装束を着た者達―アクア団が突入してきた。

 

「大人しくしろっ! この造船所は我々アクア団が乗っ取った!」

 

「抵抗するヤツはタダじゃおかないよ!」

 

アクア団はポチエナやグラエナ、ペリッパー等のポケモンを連れており造船所の作業員の人々を威圧する。

 

「な、何だお前たちは!? 今すぐ出て行―」

 

「ペリッパー!」

 

「ペパーッ!」

 

「うわぁああああああっ!?」

 

反抗しようとした作業員の1人がペリッパーのハイドロポンプで吹き飛ばされてしまい、壁に激突すると崩れ落ちた。

それを見た他の作業員やスタッフはすっかり萎縮してしまう。

 

「な、何なのアナタ達は!?」

 

「我々は―」

 

「俺達は世界の形を在るべき形に戻すための組織、アクア団だ!」

 

突然やって来てポケモンを使い危害を加える集団に対し、マリは表情を厳しくしながらもそう問いかける。

マリの目の前に居たしたっぱがそれに答える前に、奥から一段と体格の良い男がやって来て自己紹介だとばかりにそう宣言した。

 

「アナタは…?」

 

「おう、俺はアクア団のリーダーのアオギリってモンだ。クスノキってのはどいつだ?」

 

「わ、私だ…」

 

「アンタか。俺達がここに来たのはこの最新型の潜水艦が欲しいからなんだよ。大人しく譲ってくれりゃ悪いようにはしねぇ」

 

「こ、断る…! 私の作った潜水艦が君たちのような者達に悪用されるのは我慢ならん!」

 

「ほう? 思ったより根性があるな。なら…ウシオ!」

 

「オウ! アオギリのアニィ!」

 

アオギリが後ろに声をかけると体格の良いアオギリよりも更に巨体の浅黒い肌の大男がやって来る。

ウシオと呼ばれた巨漢はモンスターボールを構えているが、彼の体が大きすぎるせいでかモンスターボールが小さく見える。

 

「館長さんの体にちょいと教えてやりな」

 

「ワかったゼ、アニィ!」

 

「野郎共! 潜水艦のシステムを奪え! 外部の邪魔が入らない内にズラかるぞ!」

 

「「「はっ!」」」

 

ウシオが持っていたモンスターボールを投げて繰り出したポケモンはサメハダー。

潜水艦を着水させるためにドックには水が溜められているため、その水場にサメハダーは繰り出される。

凶悪な牙を覗かせ威嚇するサメハダーを見てクスノキは冷や汗を流してしまう。

しかもその間にもアクア団のしたっぱ達が潜水艦を乗っ取る準備を行うために次々と潜水艦内へ乗り込んでいく。

 

「サメーッ!」

 

「くっ…!」

 

「クスノキ館長、さがっていて下さい! お願い、チルル!」

 

「チルーッ!」

 

クスノキを庇うように前に出たのはなんとルチアだった。

彼女はトップコーディネーターというだけありコンテストバトルの経験も豊富であるため、バトルも得意としているのだ。

繰り出したのはチルタリス。ニックネームはチルルである。

 

「ほウ! オレッチとヤる気だナ?」

 

「悪い人達の好きなようにはさせないよ!」

 

「ハッ! 面白イ! サメハダー、アクアジェット!」

 

「サメーッ!」

 

「チルッ!?」

 

先手必勝とばかりに先制攻撃のできるアクアジェットを繰り出したサメハダーは水を纏い、凄まじい勢いで水面から飛び出してチルルに技を決めた。

ドラゴン/ひこうタイプのチルタリスに対してみずタイプの技はこうかはいまひとつだが、ウシオのサメハダーはかなりのレベルらしく中々のダメージを与えていた。

 

「負けないでチルル! りゅうのいぶき!」

 

「チールーッ!」

 

攻撃を受けつつもチルルはアクアジェットで空中に浮かぶサメハダーに向けてりゅうのいぶきを放った。

サメハダーの軌道を読んで空中でりゅうのいぶきが命中するとサメハダーは撃ち落とされる。

 

「ぬおっ!? やりやガるナ! ナラもういっちょアクアジェットだ!」

 

「サメッ!」

 

サメハダーは撃ち落とされながらも水場に着水すると、再びアクアジェットを発動してチルルに向かって突進する。

 

「チルル、コットンガード!」

 

「チルルルッ!」

 

サメハダーの攻撃が決まる前にチルルは体に纏っている綿を膨らませると鎧のようにして防御力をぐーんと高めた。

アクアジェットとコットンガードがぶつかり合うが、柔らかな鎧を打ち崩せずにチルルはサメハダーを弾き返すことに成功する。

 

「チャンス! チルル、みだれづき!」

 

「チルチルチルチル!」

 

空中に弾いたサメハダーは無防備であり隙だらけであるため、それを逃さずみだれづきによって追撃を行う。

 

「サメメメッ!?」

 

「チィッ! 飛ビ上がれサメハダー!」

 

「サメェッ!」

 

飛行能力を持たないサメハダーは空中では身動きが取れないが、サメハダーは背面から勢いよく水を噴射するとチルルの上を取った。

 

「サメハダーが飛んだ!?」

 

「ハッ! サメハダーは背面カラ水を噴射して加速すンだヨっ! そラっ、こおりのキバだ!」

 

「サーメーッ!」

 

「チルーッ!?」

 

背面から水を噴射して泳ぐスピードを加速させる能力を利用して空中での移動手段にしたのだろう、予想外の動きにルチアとチルルは反応が遅れてしまう。

冷気を纏った牙がチルルを捉える。

こおりタイプの技であるこおりのキバはチルルに大して効果絶大であり、まともに受けてしまったチルルは翼が凍ったまま倒れてしまった。

 

「チルル! そんな…!」

 

「チ…チル…!」

 

「勝負アリだナ。それジャ、トドメといくカ!」

 

「ダメッ! これ以上チルルを傷つけさせないよ!」

 

戦う事ができなくなってしまったチルルへトドメを刺そうとサメハダーの凶悪な牙が剥き出しになり喰らい付こうとする。

だがパートナーであるチルルを庇いルチアが前に出てそれを遮ろうとする。

 

「ホう? なラまずお前カラ痛い目見せてヤル! 行け、サメハダー!」

 

「サメーッ!」

 

「っ!」

 

ルチアに迫るサメハダーの牙。

周囲もルチアに危機が迫るのは分かっているが動く事ができない。

このままではルチアが―

 

「ハイパーボイス!」

 

「サーナーッ!」

 

「サメッ!? サメェエエッ!?」

 

―誰もがサメハダーがルチアに襲い掛かるだろうと思い目を背けた瞬間、強烈な音波がサメハダーを水場まで吹き飛ばした。

 

「ンナッ!? 誰だァ!?」

 

音波の発生源を見れば、そこに居たのは黒いロングコートがトレードマーク。今はフードを目深に被っているソラトと傍に並び立つサーナイトのレイである。

 

「テメェ、何者だ!?」

 

「通りすがりさ。お前らは外部から邪魔が入らないように正面入り口のシャッターを降ろしたんだろうが…そのお陰で出られなくなっちまってな」

 

ソラトはルチアとチルルを庇うように前に出、ルチアの傍を通る際にポンと頭を軽く撫でてやり小さく呟いた。

 

「よく頑張ったな。後は任せとけ」

 

「ソラト…くん…?」

 

「ハッ! どこノ馬の骨とも知れネェヤツが邪魔すんじゃネェッ! サメハダー、アクアジェット!」

 

「サメーッ!」

 

会話をする暇もなく、ウシオはサメハダーに指示を出すと水場から飛び出したサメハダーが猛烈な速度でレイに迫る。

だがソラトとレイに焦りは無い。

 

「レイ、ハイパーボイス!」

 

「サァ、ナァアアアアアッ!」

 

「サ、サメーッ!?」

 

先ほどより更に力が込められたハイパーボイスがサメハダーのアクアジェットごと押し返して吹き飛ばすしてしまうと、ウシオのサメハダーは戦闘不能になってしまった。

先ほどからダメージは蓄積していたが、まだ戦えると思っていた矢先に戦闘不能になってしまいウシオは驚きを隠せなかった。

 

「ンナ馬鹿ナ…!? なんて威力シてやがル…!?」

 

「なに、ほんの挨拶代わりさ」

 

「グッ…!」

 

手持ちを失いうろたえるウシオだが、その後ろからアオギリがウシオの肩に手を置くとソラトに声をかける。

 

「アオギリのアニィ…!」

 

「おいお前、中々やるじゃねぇか。名前は?」

 

「…ソラト。お前は?」

 

「俺はアオギリってんだ。ソラト、俺達と一緒に来ねぇか? お前ほどの力なら幹部として歓迎するぜ」

 

「寝言は寝て言え」

 

「はっ、ナマ言いやがる」

 

前に出てきたアオギリがモンスターボールを構えて一触即発の雰囲気が漂うが、そんな中でアクア団のしたっぱが声を上げた。

 

「リーダー! 潜水艦のシステム奪取に成功しました!」

 

「おっと…つー訳でここにはもう用はねぇ。トンズラこかせてもらうぜ」

 

「逃がすか! レイ、サイコ―」

 

「ベトベトン、ダストシュート!」

 

潜水艦に乗り込み脱出しようとするアクア団を逃がすまいと、ソラトはレイに指示を出そうとするがアオギリもモンスターボールからベトベトンを繰り出して技を指示する。

 

「ベトベーッ!」

 

「サナッ!?」

 

ベトベトンの放ったダストシュートはレイを素通りする。まるで最初から当てる気が無かったかのように。

そして気がついた。このコースはレイでもソラトでもなく、後ろにいるルチアとチルルを狙った物だと。

 

「きゃあああっ!?」

 

「チルッ!?」

 

その事にルチア達も気がついたのか、悲鳴を上げて蹲った。

 

「くっ…!」

 

今からレイに指示をしても防御が間に合わないと判断したソラトは、自分の体をダストシュートの軌道上に割り込ませ、体で攻撃を受け止めた。

汚いヘドロの弾丸がソラトに直撃すると、とてつもない衝撃が体を襲うと共に思わず顔を背けたくなるほどの悪臭が広がった。

 

「ぐぅっ…!」

 

「サナ!? サナサナ!」

 

「っ!? 私達を庇って…!」

 

体を貫くような痛みを感じたソラトは思わず片膝を着いてしまい、今の衝撃で被っていたフードが取れて素顔が露になる。

攻撃を受けてしまったソラトを心配したレイが駆け寄ってくると最大限の敵意を込めた瞳でアオギリとベトベトンを睨んだ。

 

「今日はここまでだ。決着はまたその内つけるとしようぜ。ズラかるぞ野郎共!」

 

「「「はっ!」」」

 

「くそっ…!」

 

目の前から逃げていくアオギリとウシオ、そしてアクア団のしたっぱ達を見送る事しかできない。

今再びアオギリ達を止めようとすればルチアやチルルを狙って攻撃を仕掛けてくるだろう。それだけならばソラトとレイで防げるかもしれないが、他の作業員やテレビキンセツのスタッフまで狙われてしまえば、ソラトだけでは対処できない。

ここは彼らを見逃すしかなかった。

潜水艦に乗り込んだアクア団は遠隔操作でドックの大きな扉を開け、潜水艦を発進させて海へと逃亡していった。

 

「逃がしちまったか…仕方が無いか」

 

「サナ、サーナ?」

 

「俺は大丈夫だよ、レイ」

 

「皆、すぐにシステムを復旧してジュンサーさんに連絡を!」

 

「「「は、はい!」」」

 

アクア団が完全に去った事を確認したクスノキ館長は作業員に指示を出して素早くジュンサーさんに連絡する事にした。

作業員はすぐさま裏の配電盤やコントロールパネルを操作してシステムを元に戻した。

 

「システムの復旧、完了です! 封鎖されていた扉やシャッターも解除しました!」

 

「分かった。テレビキンセツの皆さん、申し訳ありませんが本日の取材は中止という事で…」

 

「ええ、こうなっては仕方ないですね。でも、逆にこの事件を徹底的に取材させてもらいますよ!」

 

「ははは、マリさんは逞しいですね」

 

「付き合わされるこっちの身にもなって欲しいですけどね…」

 

潜水艦の取材は中止になってしまったが、逆にこのアクア団の襲撃を取材すればスクープは間違いなしとばかりにマリは燃え上がっていた。

だが彼女の相棒であるカメラマンのダイはやれやれといった様子で溜息を吐いていた。

と、ルチアは傷ついたチルルをボールに戻すと周囲をキョロキョロを見渡していた。

 

「あの、ソラトくんを知りませんか?」

 

「ソラトくん…? あぁ、さっき助けてくれたあの黒い服の…ダイ、見なかった?」

 

「アレ? そういえば居ませんね…いつの間に…?」

 

「もしかして…また…!」

 

嫌な予感がしたルチアは正面入り口のある方へと駆け出した。

また自分を置いていってしまうのかと、ちゃんと想いを伝えたいのに、酷い事を言ってしまったことを謝りたいのに、5年前と同じでそれもできないのかと。

不安が胸中を渦巻いており、それを振り払うようにルチアは走った。

 

皆にバレないようにこっそりクスノキ造船所の正面口から外へ出たソラトはダストシュートを受けて痛む体を半ば強引に動かして歩いていた。

 

「サナ…」

 

「大丈夫…ポケモンセンターに行ったらちゃんと手当てするよ」

 

「―ソラトくんっ!!」

 

自分を呼ぶ声にソラトは振り返らずに立ち止まった。ソラトからすれば、できれば会いたくなかった相手である。

だがこうして顔を突き合わせてしまった以上、逃げる事はできないだろう。

意を決して、ソラトは振り返った。

最後に会った5年前よりも成長して大きくなっていたルチアだったが、不安そうに揺れる瞳は5年前と同じだった。

 

「…ルチア」

 

「…ソラトくんっ!」

 

夕暮れが照らす中、ルチアはソラトに駆け寄って抱き着いた。

そしてルチアは搾り出すように言葉を紡いだ。

 

「あの時は、ごめんなさい…! 酷い事言っちゃった…! ソラトくんに遠くに行ってほしくなくて…! 私、私…!」

 

「…俺の方こそ、悪かった。…あの後、何も言わずにホウエンを出て行った」

 

「ううん…! ソラトくんは悪くないよ。ただアナタの道を進んでいっただけだったんだから…」

 

ルチアの揺れる瞳からは、搾り出すように紡ぐ言葉共に涙が溢れていた。

夕暮れの赤い光が涙に反射して美しく輝いている。

 

「ルチア、俺は…まだオヤジを見つけられてないんだ。あの時お前に一丁前に啖呵を切ったのに、情けないよな」

 

「そんな事ないよ。だってソラトくんの旅はまだ終わってないんでしょ? なら、アラシさんを見つけるのもまだまだこれからなんだよ」

 

「…ありがとな」

 

「えへへ…。私、ソラトくんの旅を応援してるよ。だって、私はソラトくんの事が―」

 

そう言うルチアの表情は涙を流しながらも笑っていた。泣きながら、笑っていた。

そしてルチアの顔がソラトに近づいて―

 

「あーっ!? お兄ちゃん!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

聞きなれた声が周囲に響き渡ったため、ギクリと体を硬くしたソラトはルチアに押し倒されるような形で倒れこんでしまった。

勿論、聞き慣れた声の主はハルカである。どうやらルチアを追ってここまでやって来たようだ。

 

「な、何でお兄ちゃんがルチアさんとくっついてるのーっ!?」

 

「ハ、ハルカ…!? 何でここに…!?」

 

「いいから、この状況を説明してお兄ちゃん!」

 

「ソラトー! ってあれ、どうしたんだこの状況?」

 

「…よく分からないけど、何だか面倒な事になりそうな気がするよ」

 

ハルカに続いてサトシとマサトもやって来てこの場は収拾がつきそうにないほど混迷してきた。

そんなやいのやいのと騒ぐソラト達を、造船所の方から見ている2人の人物が居た。

 

「いや~、まさかあのトップコーディネーターにして超売れっ子アイドルのルチアちゃんに好きな男の子が居たとは…これはスクープですよ!」

 

その人物とは、テレビキンセツのスタッフであるマリとダイである。

明言はしていないが、今の言動を見てルチアがソラトに対してどんな想いを抱いているのかを察したマリとダイはカメラにその映像を収めていた。

確かにトップコーディネーターにしてアイドルのルチアに片想いの相手がいたと知られれば特ダネになるのは間違いないだろう。

思わぬスクープにダイは満足そうにしているが、反対にマリはどこか不満そうな表情をしていた。

 

「ちょっとダイ、カメラ貸して」

 

「へ? はぁ、どうしたんすか?」

 

マリは不満顔のままダイからカメラを受け取るとピッピッと操作して今しがた録画したソラトとルチアの映像を削除した。

 

「あーっ!? ちょ、何してるんすか!? これスクープっすよ!?」

 

「何言ってるの! 女の子の恋心を見世物にするようなマネは喩えスクープだって許さないわよ! ほら、それより造船所の方の取材内容考えるわよ!」

 

「…へーい」

 

こうしてカイナシティでの造船所におけるアクア団との攻防は一旦の決着を見せた。

だがソラトとルチアの関係を含めたポケモンコンテストの舞台は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




ルチア登場回でした!
次回はソラトとルチアの詳しい関係についてと、ソラトのコンテストに関する事が語られますので、また近い内に更新します。

それと、マリとダイさん。
レベリングとお金稼ぎに御世話になりました。マジで。
何度ボコった事か…w

活動報告に自分の近況とかを雑談形式で垂れ流しています。
暇つぶしにもなりませんが息抜きにどうぞ。


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特訓開始! 5年前、出会いと別れのコンテスト

今回はルチアとソラトの関係及びソラトの過去の一端を語ります。


カイナシティで開催されるポケモンコンテストに参加するためにポケモンセンターに泊まるサトシ達。

昼間に起きたクスノキ造船所においてアクア団が起こした潜水艦奪取事件に巻き込まれたソラトが怪我をしたため、ポケモンセンターの個室で手当てを行っていたのだが…。

 

「はい、ソラトくん。これで大丈夫だよ」

 

「ありがとなルチア」

 

ソラトの傷の手当をしていたのはトップコーディネーターであり売れっ子アイドルでもあるルチアであった。

昼間の事件の後、ソラトが怪我をした事に責任を感じてポケモンセンターにまで着いてきて手当てを申し出たのである。

 

「…お兄ちゃん、そろそろ説明して欲しいかも」

 

ムスッとして不機嫌なハルカを見て、ソラトは苦笑いしながら事情を説明する事にした。

 

「分かってるよ。こっちはルチア、5年前にホウエンで旅をしている頃に出会ったんだ」

 

「私ルチア! よろしくね!」

 

「俺、サトシです!」

 

「ピカ、ピカチュウ!」

 

「僕マサトです!」

 

「私ハルカです。今度のポケモンコンテストカイナ大会でコーディネーターデビューするんです!」

 

「そっか、アナタがハルカちゃんなんだね」

 

「え?」

 

それぞれが自己紹介をするが、ルチアがハルカを以前から知っていたような口ぶりで話したためハルカは首を傾げて疑問符を浮かべた。

 

「5年前、ソラトくんと出会った時に聞いてたの。妹みたいに可愛がってる子がいるって」

 

「わぁ~! ルチアさんに知って貰えているなんて、光栄です!」

 

憧れのトップコーディネーターに自分を知って貰えていたと知ったハルカは目を輝かせていたが、すぐさま当初の疑問を思い出してソラトに問い掛けた。

 

「そ、それで! お兄ちゃんとルチアさんはどういう関係なの!?」

 

「どういう関係、か…まぁ話すと少し長くなるが…」

 

そしてソラトは語り出した。5年前、ルチアと出会った時の事を…。

 

 

 

 

 

時は遡り5年前。

父であるアラシを探す旅を始めたばかりの、まだ若き日のソラトは現在と同じルートで海路でムロ島からカイナへとやって来た。

 

「よーし、カイナに到着だ! 皆、降りるぞ!」

 

「マクロッ!」

 

「コノコノ!」

 

「ラル」

 

「ココッ!」

 

手持ちのポケモンは当時はヌマクローのスイゲツと、コノハナのフウジン。ラルトスのレイとココドラのクロガネである。

カナズミとムロのジムでバトルを経て父アラシを知る人物がいないかどうかを探している。

しかしながら上手くいっていなかったが、人やポケモンが多く出入りするこのカイナシティならば何か手がかりがあるかもしれないと一縷の希望を持ちながらソラトは定期船から降りた。

 

「はー…カイナみたいな港町は初めてだから新鮮だな。人も多いし、早速聞き込みを―」

 

「マクロマクローッ!」

 

「コノーッ!」

 

「コココッ!」

 

しかし初めて来た港町のリゾートビーチにスイゲツもフウジンも、クロガネも大はしゃぎだった。

目的はアラシの事を聞きこみする事なのだが、その事も忘れている勢いである。

 

「あーもう! お前たちはボールに戻ってろ! ったく、行くとするかレイ」

 

「ラルラ」

 

結局レイ以外のポケモンは全員ボールに戻す事になってしまい、落ち着いて聞き込みを行う事にした。

だが行方不明になってから随分経つアラシを知る人物に中々出会う事ができず、聞き込みは難航する事となる。

そして50人以上に聞き込みを行ったものの収穫ゼロという事実に打ちのめされたソラトはビーチの外れの岩場に座り込み休憩をする事にした。

 

「人が多いって事は、それだけオヤジを知ってる人にも出会い難いって事だよなぁ…はぁ、どうしたモンか」

 

「ラール」

 

「ん? どうしたレイ?」

 

「ラルッ」

 

海を眺めながら近くにあった手ごろな小石を海に向けて投げて気晴らしをしていると、レイが何かを感じ取ったのか小さな足を動かしどこかに移動しようとする。

アラシに関して何か手がかりを掴んだのかもしれないと思ったソラトはレイの後に着いていくと…そこにはチルットを抱え、蹲って泣いている青い服を着た女の子がいた。

 

「…ぐすっ、うっ、ひっく」

 

「チル~」

 

「ラル」

 

「…っ!? な、なにっ!? だれっ!?」

 

「チルッ!? チルチルッ!」

 

泣いていた女の子は声をかけられるまでレイに気がつかなかったのか驚いた様子で立ち上がり、振り向いた。

チルットも女の子に抱えられたままだが彼女を守るようにソラトとレイを威嚇するように鳴いた。

そして振り向いた事でソラトの存在にも気がついた。

 

「俺は旅のポケモントレーナーだ。名前はソラト。お前は?」

 

「ル、ルチア…」

 

そう、これがソラトとルチアの出会いだった。

そして彼女が抱えているチルットが、現在の彼女のパートナーであるチルルでもある。

 

海辺の岩場で泣いているルチアをレイがその感情をツノでキャッチして気になったため心配してやって来たというのが出会いの理由であった。

そしてソラトはルチアに泣いていた理由を、興味本位で聞いてみた。

本当はアラシに関係の無い事に首を突っ込むのは少し躊躇われたのだが、レイがルチアを心配しているため最初は渋々だが関わる事にしたのだ。

 

「私…アイドルの卵で、明日コーディネーターとしてデビューするの」

 

「アイドルで、コーディネーターか」

 

「うん…でも練習がうまくいかなくて、お母さんに怒られちゃって…逃げ出してきちゃったの」

 

話を聞いてソラトははぁ、と溜息を吐いた。

母親を失い、行方不明の父親を探すソラトからすれば親に怒られただけで泣いて逃げ出してくるとは随分と贅沢な悩みに聞こえたのだ。

だが首を突っ込んだ以上は区切りがつくまで面倒を見るのがソラト流である。

 

「何で上手くいかないとか考えたか?」

 

「えっと…ううん」

 

「じゃあ今考えてみろよ」

 

「…お母さんも言ってたけど、私に自信が無いからだって。それがポケモンにも伝わっちゃって失敗しちゃうんだって言われた」

 

「なら自信持てばいいじゃないか」

 

「無理だよ…私鈍臭いし、きっと上手くいかない」

 

最初からダメだと決め付けてグズってしまうルチアはまたしても膝を抱えて泣き出してしまった。

先ほどよりも大きな溜息を吐いたソラトだが、面倒を見ると決めた以上は何かしてやらなければならない。

そしてルチアを見てある事に気がついた。

 

「お前、その服でコンテストに出るのか?」

 

「グスッ…う、うん…」

 

ルチアの着ている服は普通の女の子らしいシャツとスカートである。別段変な所は見受けられなかったがアイドルとしては地味である。

ある案がソラトの頭には浮かんでいた。

 

「来い」

 

「え…?」

 

「いいから来い。カイナの出店なら、良い生地きっと売ってるからさ」

 

「生地…?」

 

ソラトはルチアの手を引いてカイナシティでは有名な出店をやっている一角、カイナ市場にやって来る。

そこで布生地が売られている店で幾つか生地を見定めていく。

結局青を基調とした生地と、キラキラの装飾ができそうな生地を購入すると、そのままポケモンセンターにルチアを連れ込んで荷物の中からメジャーを取り出してルチアの体の各部を測定していく。

 

「あ、あの…」

 

「いいから動くなって。……よし、採寸オッケーっと。また明日ここに来い」

 

「えっと…?」

 

「チル?」

 

「いいものやるから、絶対来い。いいな?」

 

「う、うん…」

 

ルチアは何がなにやら分からないままソラトに押されて頷いてしまった。

その後はルチアは家に帰って塞ぎこんでしまったが、不思議な黒い服の男の子、ソラトの事を脳裏に浮かべながら眠りについた。

 

 

 

翌日、ポケモンコンテスト当日。

ルチアはチルルと共に朝早くに家を抜け出しソラトに来いと言われたポケモンセンターにやって来た。

ポケモンセンターのロビーではフードを目深に被ったソラトが待っており、ルチアを見つけると軽く手を振った。

 

「来たか」

 

「うん…約束、したから」

 

「それじゃこれ、受け取れ」

 

ソラトがルチアに手渡したのは青を基調とした可愛らしい服だった。綿のように付いているのはチルットの翼をイメージしたものだろうか。

服を受け取ったものの、何がどういうことなのか分からないルチアは困惑した表情でソラトを見つめ返した。

 

「こ、これは…?」

 

「お前の服だよ。それ着てコンテストに出れば自信つくだろ。最近はコンテストでトレーナーがドレスアップするのも流行ってるんだってよ」

 

アイドルらしく可愛らしい服を着れば自信がつくという安易な発想だが悪くはない。何事も形から入った方が分かり易いものである。

 

「…ソラトくんが、作ってくれたの?」

 

「急ごしらえだから、出来についてはとやかく言うなよ。でもオフクロ仕込みの裁縫だから、激しく動いたって破れたりしないから安心しろ」

 

「……」

 

「ほら、早く行け。コンテスト、見に行くからな」

 

「え、あ…う、うん!」

 

服を受け取ったまま動かないルチアの背中を押してやりコンテストへ向かえと後押ししてやると、どことなく元気になったルチアはコンテスト会場へ急いだ。

ソラトは衣装を徹夜で作ったため少しだけ仮眠を取るとその後ルチアのデビュー戦となるコンテストを見に行ったのだった。

 

 

 

 

 

「結果はルチアの優勝だ。それでデビューと共に優勝した天才アイドルコーディネーター現るって話題になったんだっけな」

 

一通り話を終えたソラトは昔を懐かしむようにルチアに顔を向けると、ルチアは恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも共に昔を懐かしんでいた。

 

「今の私が在るのは全部ソラトくんのお陰なんだ。私の大恩人なの」

 

「そんな事があったのか…」

 

話を聞き終えたサトシ達は昔のソラトの話を聞けてどことなく面白そうにしていた。

 

「そう言えばルチア、その衣装…」

 

「うん! 流石にソラトくんに貰った衣装はサイズ的に着られなくなっちゃったけど、同じデザインの服を仕立て直して着てるんだ! 勿論、ソラトくんに貰った衣装は大事に取っておいてあるよ!」

 

どうやら今ルチアが着ている服がソラトの作った服とほぼ同じものらしい。

自分の作った服を大事に保管してくれていて、そしてデザインをそのままに仕立て直して着てもらえていて、ソラトもどことなく嬉しそうだった。

 

「それでソラトくんとはその後分かれたんだけど、旅先で再会したりして…私が誘ってソラトくんもコンテストに参加したりしたんだよ」

 

「そういえばお兄ちゃん、昔少しコンテストに出てたって言ってたものね」

 

「少しなんてとんでもないよ! ソラトくんは5年前にコンテストリボンを5つ集めてグランドフェスティバルに出場した経験もある凄腕コーディネーターなんだから!」

 

「「「グランドフェスティバルに出場!?」」」

 

ルチアから出た新情報に、ハルカ達は口を揃えて復唱してしまった。

グランドフェスティバルはポケモンコーディネーターにとって最高峰の戦いを行う決戦の舞台。

それに出れるというだけで優れたコーディネーターなのは間違い無かった。

 

「お兄ちゃん! 何で教えてくれなかったの!?」

 

「…半端者だからな、俺は。初歩的なアドバイスならともかく、人に偉そうに語れるほどのコーディネーターじゃないんだよ」

 

「…どういう事なの?」

 

「それも5年前の話だな。あれはホウエンリーグが終わってグランドフェスティバルに出場した時の話なんだが…」

 

 

 

 

 

再び時は戻り、5年前。

ホウエンリーグでベスト4という成績を残したものの、ホウエンでの旅でアラシの情報を禄に集められていなかったソラトは意思消沈しながらもグランドフェスティバルに出場していた。

共に出場しているルチアと一次審査を勝ち抜き、コンテストバトルのルールで行われるトーナメント式二次審査。

その準決勝の試合開始まで残り数分というところで、ソラトは会場の出口に居た。

 

「……行くか」

 

「待って!」

 

黒いコートに付いているフードを目深に被り会場に背を向けて足を進めようとするソラトだったが、その背中に声が掛けられる。

声の主はルチアだ。

カイナでソラトが作り、渡した衣装を着ており、あれから随分と自信をつけて成長していた。

だが今は瞳を不安げに震わせて縋るようにソラトに問いかけた。

 

「ソラトくん! どこに行くつもりなのっ!? これから準決勝なんだよ!?」

 

「…さっきの対戦相手の人と話をした。そしたらほんの1週間前、シンオウ地方でオヤジを見かけたらしいんだ」

 

「シンオウ地方…!? シンオウ地方に行っちゃうの!? 今から…!?」

 

ソラトの旅の目的が父親のアラシの捜索だと知ってはいたルチアだったが、それでもまさかグランドフェスティバルを途中棄権してまで行ってしまうとは思わず責めるような口調でソラトに問いかける。

だがソラトもアラシの事で譲る気は全くなく、突き放すようにルチアに言葉を返した。

 

「オヤジが1箇所に長く留まるとは思えない。すぐにでも出発しないとまた見失っちまう」

 

「せ、せめてグランドフェスティバルが終わるまで―」

 

どうにかしてソラトを引きとめようとするルチア。

自分の背中を押してくれたソラトと、夢のグランドフェスティバルで共に競い合いたかった。

もっと一緒にいたかった。

ルチアにとってソラトは心の大きな支えだったのだ。

だがソラトは左手で拳を作ると会場の壁を思い切り殴る。ドンッ!と大きな音が響き、そらに驚いたルチアはビクリと体を震わせてしまう。

 

「俺はッ…! 何としてもオヤジを連れ戻さなきゃならないんだ…! そうじゃなきゃ、トウカの墓で待つオフクロはいつまでも1人ぼっちだ!」

 

その時フードの隙間から見えたソラトの表情をルチアは忘れないだろう。

ギリッと音が鳴るほど強く歯を食い縛り、愛憎入り混じったような鋭い目がアラシに対する想いを物語っていた。

 

『さぁ、いよいよポケモンコンテスト二次審査の準決勝が開始されます! 準決勝第一試合はアヤネ選手対ソラト選手の対決です!』

 

「「「わぁあああああああああああああっ!!」」」

 

搾り出すように叫んだソラトの言葉ですら、会場の歓声とアナウンスによって掻き消されていく。

 

「…俺は行く。じゃあなルチア」

 

遠くなっていくソラトの背中を見てルチアは堪え切れずに涙を流してしまう。

そしてどこかヤケになってしまい、ソラトの背中へと震える声で声を投げかけた。

 

「…っ! ソラトくんにとっては…コンテストも、私も片手間に相手をしていたどうでもいい事なんだねっ! もう知らない! ソラトくんなんて知らないっ! シンオウへでもどこへでも行っちゃえばいいんだよ!」

 

言ってしまってからハッとする。勢いに任せてつい心にもない事を言ってしまった。

涙で滲む視界では、どんどんソラトは離れて行ってしまう。

 

「あ…ま、待ってソラトくん! 違うの、今のは―きゃ!?」

 

今の言葉は本心ではないと言いたくて、追い縋ろうとするルチアだったが躓いて転んでしまいそれも叶わなかった。

 

「ソ、ソラトくん…!」

 

そして気がつけはソラトの姿は無かった。

 

「うっ…! ううっ…! ソラト、くん…!」

 

ルチアはソラトに対する想いと、酷い事を言ってしまった後悔を押し殺すようにして咽び泣いた。

その嗚咽は会場の歓声に溶けて消えてしまい、誰にも届くことはなかった…。

 

 

 

 

 

それが5年前のソラトとルチアの別れだった。

以降ソラトは旅先でポケモンのパフォーマンスを競うような競技大会に出る事はあっても、ポケモンコンテストには出場しなかった。

最後にルチアに言われた、コンテストを片手間にしていると言われた事がチクリと心に刺さっていたからである。

 

「そういう訳だ。幾ら過去に実績があっても、俺がコンテストを語るなんておこがましいよ」

 

「そんな事があったのか…」

 

5年前の過去を知り、部屋の中はしんみりとした空気が流れて皆押し黙ってしまった。

嫉妬から不機嫌になっていたハルカも、まさかそんな事情があったとは知らず先ほどまでの自分の嫉妬をとても恥ずかしく感じていた。

 

「私…ソラトくんがソヨカさんのお墓に誓った約束がどんなに大切かも考えずに、酷い事言っちゃったよね…。本当にごめんなさい」

 

「いや、俺の方こそ悪かった。結局オヤジの情報を追うばかりで見つけられてすらいない…俺にルチアをどうこう言う資格は無いよ」

 

改めて5年前の事を謝罪するルチアとソラト。

お互いに向かい合いながら頭を下げること数秒…。

 

「…お互い様ってとこか」

 

「…そうだね。あの時は私達もまだ幼かったから」

 

顔を上げた2人は、すっきりした表情で笑いあっていた。

どうやらお互いに悪い所があったため、それぞれ今の謝罪ですっかり水に流すと決めたらしい。

それを見てハルカ達も良かったと思い部屋の重苦しかった空気は四散していった。

 

「ところで、ルチアはどうしてカイナに?」

 

「私はお仕事だよ。テレビキンセツさんの番組にゲスト出演するのと…ポケモンコンテストカイナ大会に出るために来たの!」

 

「カイナ大会に、ルチアさんも出るんですか!?」

 

どうしてルチアがカイナシティにいるのか尋ねたソラトへの返答は、先ほどの造船所でのテレビ番組への出演ともう1つ。まさかのポケモンコンテストへの出場である。

それに驚きの声を上げたのはハルカだった。

 

「そういえば、ハルカちゃんもカイナ大会でデビューするんだよね? 5年前の私と同じ…キラキラ☆コンテストデビューって感じだね!」

 

「ど、どうしよう…!? ルチアさんが参加するんじゃ私に勝ち目なんてないかも…!?」

 

「落ち着けよハルカ。相手が誰であろうと、全力で特訓して全力でコンテストに挑めばきっと勝てるさ!」

 

「そうだよお姉ちゃん! 始まる前からそんな弱気じゃ勝てるものも勝てないよ!」

 

「そんな事言ったって…! お願いお兄ちゃん! 私の事コーチして!」

 

実力的に圧倒的に上であるトップコーディネーターのルチアが相手では、カイナ大会がデビュー戦のハルカにはほとんど勝ち目が無いと考えるのは普通である。

サトシとマサトが応援するものの、軽いパニック状態のハルカはあわあわとしながらソラトに助けを求めた。

 

「ハルカ、話聞いてたか? 俺はコンテストのコーチなんてできないよ。それに最後にコンテストに出たのは5年前のグランドフェスティバルが最後だったし…」

 

「ソラト、ハルカの事応援してないのか?」

 

「いや、そりゃ応援はしてるが…」

 

「だったらお姉ちゃんに協力してあげてよ! お姉ちゃんがトップコーディネーターになるには、いつかルチアさんに勝たなきゃならないんだし!」

 

「まぁ…それはそうだが…」

 

幾らハルカの頼みと言えどもコンテストのコーチをする事を躊躇しているソラトだったが、サトシやマサトに説得されてうーんと唸りながら考える。

 

「ソラトくん…5年前に私が言った事を気にしてるのかな?」

 

「…まぁ、それもあるな」

 

5年前、ルチアにコンテストを片手間にしていると言われたソラトはその通りだと思った。

ジム戦もポケモンリーグもコンテストも、ソラトにとってはアラシに関わる手がかりがないか探すための手段の1つという事が多かった。

勿論バトルもコンテストも全力で挑んだ。

それでも本命がアラシの情報であるという事に変わりは無かった。

 

「…ソラトくんが片手間でコンテストをやってないって、私は分かってるよ」

 

「いや、でも俺は―」

 

「確かにアラシさんに関する事を色んな人から聞いていたのも知ってる。けれど、コンテストそのものには全力で、本気で打ち込んでたって事も私は知ってるから」

 

ソラトが自分の事を否定する前にルチアは言葉を紡ぐ。

自分の背中を押してくれたソラトがコンテストに参加してくれた時の嬉しさ。共に競い合いアピールをしたコンテストの思い出。

その思い出の中のソラトは、いつだって全力だった。

 

「だから…もっと自分を誇っていいんだよ」

 

ソラトの手を取って、真っ直ぐに瞳を見つめるルチア。

その瞳は5年前に最後に見た、涙に揺れる弱々しいものではなく…しっかりと芯の通った真っ直ぐなものだった。

 

「………分かった、分かったよ。それじゃ、明日からハルカのコンテストの特訓を始めるか」

 

「やったぁ! ありがとうお兄ちゃん!」

 

皆からの説得で考えを改めたソラトはようやくハルカへのコンテストのコーチを受ける事に決めた。

そしてそれに合わせてルチアも元気に手を挙げた。

 

「それじゃ、私も一緒にレクチャーするね!」

 

「ルチアさんも一緒にですか!?」

 

「うん! 実はこう、ハルカちゃんからはコーディネーターとしての才能をビビッと感じてるんだよね! そう、言うなれば…突然の出会い! ミラクル☆アイドルスカウトって感じかな!」

 

「わぁ~! ありがとうございますルチアさん! よーし、明日から頑張るわよ~!」

 

憧れのルチアとソラトから一緒にコンテストのコーチをしてもらえる事になったハルカはよりコンテストへの熱意を高める事になった。

しかし、そんなハルカ達の会話を外から盗み聞きする人影が3つ…。

毎度お馴染みロケット団である。

 

「ほー、明日コンテストの特訓ね…」

 

「これはチャンスニャ! 明日特訓するヤツ等の隙を突いて、まとめてポケモンゲットだニャ!」

 

「おぉ、そりゃいいな!」

 

今の会話内容から次なる作戦を思いついたニャースにコジロウも賛同する。

ムサシも大賛成である。ロケット団として悪事を働くだけではない…。

 

「フフフ、いいわ! ジャリガールと、あの青いアイドルの小娘のポケモンを奪ってやればコンテストに参加できない…つまりライバルを潰せるって事じゃない!」

 

強力なライバルが現れたら、それに対抗して腕を磨くのではなく相手の足を引っ張るのがロケット団流である。

 

「それじゃ早速準備にかかるニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

こうしてロケット団は徹夜の作業で明日の作戦のための準備にかかるのであった。

 

 

 

 

 

翌日、ハルカ達は街から離れた人目の少ない広場までやって来ていた。

無論ポケモンコンテストの特訓のためである。

アイドルで有名人のルチアがいてはすぐ騒ぎになってしまい街中では特訓ができないためこういった場所を選んだのである。

サトシとピカチュウとマサトは少し離れた場所で座ってハルカ達を眺めており、ハルカとルチアとソラトはそれぞれモンスターボールを用意した。

 

「よーし、出てきてアゲハント!」

 

「ハァン」

 

ハルカが繰り出すのは勿論アゲハント。カイナ大会はアゲハントに全てを託すつもりなのである。

 

「お願い、チルル!」

 

「チル~」

 

「頼むぞ、レイ!」

 

「サナ」

 

ルチアはチルタリスのチルル、ソラトはサーナイトのレイを繰り出していよいよハルカへのコーチが始まる。

 

「さて、まずは一次審査に向けての特訓だな。審査内容は技を駆使したかっこよさ、たくましさ、かしこさ、かわいさ、うつくしさを競うものだ」

 

「自分のポケモンの外観や、技を把握してどんな方向性で審査員にアピールするかを決めるのが重要だよ」

 

「アゲハントが使える技はたいあたり、いとをはく、かぜおこし、ぎんいろのかぜだから…よーし、それじゃあまずはぎんいろのかぜよ!」

 

「ハァーン!」

 

使える技を考えてどういうアピールを行うのか頭の中でイメージし、実際にアゲハントに指示を出す。

羽から巻き起こる文字通り銀色に輝く風は単体で見ても美しく思えるがこれだけではコンテストで勝てはしない。

 

「続いてかぜおこし!」

 

「ハァン!」

 

そのまま通常の風を起こすと、宙を舞っていた銀色の鱗粉が風で吹き飛ばされて掻き消えてしまった。

失敗である。

 

「あ…うーん、失敗かも…」

 

「風を使ったタイプの技はコントロールが難しい。特にぎんいろのかぜとかぜおこしの組み合わせは難易度が高いだろうな」

 

「そうだね。今は別の組み合わせを考えた方がいいと思うよ! 一次審査に限っては小道具の使用も許可されているし!」

 

「そっか…それならコレね!」

 

今の失敗とアドバイスを踏まえて別のアピールに切り替える事にしたハルカは荷物の中から小さなフリスビーを取り出した。

 

「それっ! アゲハント、かぜおこし!」

 

「ハァン!」

 

フリスビーを投げて再びかぜおこしを指示し、巻き起こす風でフリスビーがその場で回転しながら滞空する。

数秒ほど滞空したフリスビーだったが、風が僅かに乱れてしまい落下してしまった。

 

「惜しい! でも良い調子よアゲハント!」

 

「ハハァーン」

 

確かに結果こそ失敗したもののフリスビーの滞空自体はできていた。練習を重ねればそう遠くない内にマスターできるだろう。

ハルカも実際にやってみてそれを確信しているのかニコニコ笑顔で地面に落ちたフリスビーを手に取った。

 

「この調子で技を磨けば、結構良いセンいけるかも!」

 

「確かに技を磨くのは大事だけれど…ハルカちゃんにもポケモンコンテストで1番大切な事を教えておくわね」

 

「1番大切な事?」

 

「大切なのは技を魅せるだけじゃない。1番アピールしなきゃいけないのはポケモンだって事だ」

 

「そう、例えば…チルル、コットンガード!」

 

ルチアとソラトのアドバイスを受けるものの、あまりピンと来なかったハルカは首を傾げる。

そんなハルカのために手本を見せようとルチアがチルルへ指示を出すと、チルルは翼の綿をフワフワと大きくして羽ばたいた。

 

「チルーッ!」

 

そして一際大きく翼を羽ばたかせると綿でできた羽の塊が幾つか宙へ浮く。

 

「そこでみだれづき!」

 

「チルチルチル!」

 

フワフワと浮かぶコットンガードによる綿をみだれづきで貫いて弾けさせると幻想的な細かい綿のシャワーを浴びるようにしてチルル自身が輝いていた。

これにはハルカだけではなく離れて見ていたサトシとピカチュウとマサトも目を奪われる。

 

「レイ、ドレインキッス!」

 

「サナ! サーナッ!」

 

続いてソラトもレイへ指示を出すと、レイは投げキッスをする仕草で空中へと大きなハートを撃ち出した。

 

「からのサイコキネシス!」

 

「サーナーッ!」

 

そしてそのハートへとサイコキネシスをかけ、ギュギュギュッとハートを圧縮していく。

圧縮されていくハートはどんどん小さくなっていく。

 

「フィニッシュ!」

 

ソラトの合図と共にサイコキネシスを解除したレイ。

サイコエネルギーによる圧縮を解除されたハートは風船が割れるように弾けると、小さなハートへ分裂してハートの雨を降らせた。

その中心にいるレイはとても可愛らしくアピールできたと言って良いだろう。

 

「凄い…! お兄ちゃんもルチアさんも、技だけじゃなくてポケモンが輝いてる…!」

 

「審査員がよく見るポイントだよ。技の綺麗さやかっこよさも採点内容だけれど、ポケモンがより輝ければ一次審査の突破の可能性はグッと高くなるよ!」

 

「初心者は技のアピールばかりに拘る節があるからな。一次審査突破の鍵はそこだ」

 

「よーし、なら私もアゲハントが輝けるようにアピールしなくっちゃ!」

 

こうしてソラトとルチアのコーチを受けながらハルカはコンテストへの練習をアゲハントと共に進めていった。

そして気がつけば数時間も練習をしてしまっていた。

 

「はぁ…はぁ…ちょっと、いや大分疲れてきちゃったかも…」

 

「ハァ~ン…」

 

流石に数時間も練習してしまっていては体の方が持たず、ハルカもアゲハントも地面にへたり込んでしまった。

 

「それじゃ休憩にするか」

 

「そうだね! そろそろお昼ご飯の時間だし! カイナシティのレストランに何か食べに行く?」

 

「「「さんせーい!」」」

 

そろそろお昼時でもあるため、皆でカイナシティで何かを食べに行くというルチアの提案にサトシ達も大賛成である。

サトシもマサトも見ているだけとは言えお腹は減るものだ。

 

「ピカピカ! ピッ!?」

 

一緒にいたピカチュウもご飯に大喜びだが、そんなピカチュウを狙ってマジックハンドのようなアームが伸びで来るとガッチリとピカチュウを捕らえてしまった。

 

「なっ!? ピカチュウ!」

 

「こ、これはいったい…!」

 

「こ、これはいったい…! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

ピカチュウを捕まえたアームの元を見れば、そこには巨大なロボットに乗り込みながら口上を決めるロケット団が居た。

ロボットは下半身が戦車のようなキャタピラになっており、上半身は人を模しており、右腕の先を伸ばしてピカチュウを捕らえたのだ。

 

「ロケット団! またお前らか!」

 

「ロケット団…?」

 

「人のポケモンを奪おうとする、悪い奴らなんです!」

 

ホウエン地方では馴染みの薄いロケット団の名前を聞いて疑問符を浮かべるルチアにサトシが説明をする。

人のポケモンを奪う、というワードにルチアも表情を厳しくする。

 

「おおっ! 相変わらずイカすメカデザイン!」

 

「はいはい、そういうのは後回しにしてねー」

 

「い゛っ!? あだだだだ!? ちょ、マサト! タイムタイム!」

 

と、そんな周囲の雰囲気とは関係なく相変わらずソラトはロケット団のお手製メカを見て目を輝かせていた。

しかしながらいつも通りマサトに耳を引っ張られて退場する事になるのだが…。

 

「ピカチュウ確保でイイカンジー!」

 

「そうはいくか! ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ! ピーカーチュゥウウウウウウッ! ピカッ!?」

 

10万ボルトを放って抵抗しようとするピカチュウだったが、電撃はロボットに吸収されるように掻き消えてしまった。

どうやら今回もちゃんと電撃対策してきたらしい。

 

「オホホホーッ! このメカは電気を吸収できるステキ設計なのよ!」

 

「どうせ今回も電撃以外の対策はしてないだろ? ルチア、ピカチュウを助けるぞ!」

 

「うん! チルル、りゅうのいぶき!」

 

「レイ、サイコキネシス!」

 

「チルーッ!」

 

「サーナーッ!」

 

「と、そうは問屋が卸さないのニャ!」

 

いつもの如くピカチュウの電撃以外の想定対策はしていのだろうとソラトがルチアと共に攻撃の姿勢に入るが、それを見越していたニャースは操作盤のボタンをポチッと押した。

するとメカはピカチュウを捕まえているのとは反対、左手のアームが引っ込むとそこからバシュッと網を発射した。

 

「サナッ!?」

 

「チルチルルーッ!?」

 

不意を突かれたレイとチルルは網を避けることができずに捕らえられてしまう。

 

「ニャハハハハハ! サーナイトとチルタリスゲットだニャ!」

 

「「やったーやったー!」」

 

「ソーナンス!」

 

驚異であったレイとチルルを捕まえる事に成功たロケット団は手放しで喜んでいた。

だがタダで捕まっているほどレイもチルルも甘くない。

 

「そんな網、レイのサイコパワーなら簡単に脱出できるっての! レイ、サイコキネシス!」

 

「チルルだって黙って捕まってなんかいないんだから! みだれづきだよ!」

 

「そうはさせないのニャ!」

 

網に捕らえられながらも脱出するために技を繰り出そうとするレイとチルルだったが、ニャースはそれも想定内とばかりに操作盤のもう1つのボタンを押した。

バチバチバチッとレイとチルルを捕らえる網に電流が流れ、レイとチルルを苦しめる。

 

「サナーッ!?」

 

「チールーッ!?」

 

「レイ!」

 

「チルル!」

 

「どうニャ! ピカチュウから受けるであろう電撃を吸収し、それを放って別のポケモンを抑えるこのシステム!」

 

「考案は俺、作成はニャースが担当したんだぜ!」

 

どうやら今回は単に電撃を吸収するだけではなくその電撃で得たエネルギーまで利用しているらしい。ロケット団にしてはよく考えられている。

網への電撃が収まるとレイもチルルもぐったりとしてしまっている。

 

「なーっはっはっは! 今回は俺達の完全勝利だぜ!」

 

「そうはいかないわよ! アゲハント、たいあたり!」

 

「ハンッ!」

 

まだ捕まっていなかったアゲハントが皆を助けようとメカに向けてたいあたりを繰り出す。

だが疲れのせいかキレがなく、頑丈なメカに対してはあまり効果的にダメージを与えられていないように見えた。

 

「そんな攻撃、このメカには通じないわよ! ほらニャース、アゲハントも捕まえちゃって!」

 

「って、そうは言うけど手が足りないニャ」

 

右手のアームではピカチュウを捕まえており、左手の網ではレイとチルルを捕まえている。

アゲハントを捕まえるには3本目の腕が必要になるがこのメカにはそこまでの機能は無かった。

 

「ったく! なら一時撤退よ! 今捕まえてる3匹をどっかに置いてきてもっかい奪いに来るわ!」

 

「ラジャ!」

 

ムサシの指示を受けたニャースはメカのキャタピラを反転させるとサトシ達に背を向けて逃げ出そうとする。

 

「ああっ! 逃げられる!」

 

「ど、どうしたら…!」

 

「お姉ちゃん! アゲハントのいとをはくで止められないかな!?」

 

「そ、そっか! アゲハント、いとをはくよ!」

 

「ハァーン!」

 

アゲハントは口から糸を吐いてメカの右腕を巻き取り糸の反対側を地面へと固定する。

狙い通りメカのキャタピラは地面を削るだけで進めなくなっていた。

 

「おいニャース、どうなってんだ!」

 

「ぐぬぬ、むしポケモンの糸は厄介ニャ! こうなったパワーを右腕に集中して脱出ニャ!」

 

メカの余剰出力を右腕に集中してパワーを上げるとミキミキと音を立ててアゲハントの放った糸が千切られていく。

このままでは数秒も持たずに逃げられてしまうだろう。

 

「ど、どうしよう…! ただのいとをはくじゃ逃げられちゃう…!?」

 

打開策が思いつかずにおろおろとするハルカ。

逃げようとするロケット団を追撃しようとソラトとサトシは別のポケモンを出すためにモンスターボールに手を伸ばすが恐らく間に合わない。

どうすればピカチュウ達を助けられるか、必死に思考するハルカはある事を思いついた。

 

「…パワーを集中しなきゃ糸が切れない。なら、全体に糸を巻きつければ…! アゲハント、いとをはく!」

 

「ハァ~ン!」

 

アゲハントは空中へ向けて糸を吐いた。糸は日の光を浴びてキラキラと輝きながらフワリと宙を舞う。

 

「かぜおこしよ!」

 

「ハァーン!」

 

ハルカは空中の糸に向かってかぜおこしを繰り出すように指示をすると、空中で風を浴びた糸はバラバラと解れて広範囲に広がると、ロケット団のメカの全体に絡みついた。

広範囲に広がった糸はより細かく光を反射して美しく輝いた。

 

「ニャニャッ!? メカが雁字搦めになってしまったニャ!?」

 

「何してんのよニャース! もっとパワー上げなさい!」

 

「そうだそうだ! あともうちょっとなんだぞ!」

 

「それニャら、オーバーフローで最大パワー発動ニャー!」

 

メカの残るパワーを全体に発動させて糸を千切ろうとするニャースだが、幾重にも重なり合い絡み合った糸は全く切れず、寧ろメカの方が悲鳴をあげていた。

ミキミキ…メキメキと金属が軋む音が響き、それでもパワーを上げて力ずくで糸を切ろうとした結果…結局メカの強度が足りずにバキバキバキンッ!と音を立ててメカがバラバラになってしまった!

 

「ニャニャーッ!?」

 

「「わぁああああああっ!?」」

 

「ソーナンス!?」

 

操縦席もバラバラになってしまい地面に落ちるロケット団。

そしてメカがバラけてしまった事でピカチュウ、レイ、チルルは即座に脱出してそれぞれのトレーナーの元へと戻った。

 

「ピカチュウ、無事か!?」

 

「チャァ~!」

 

「レイ、大丈夫か?」

 

「サーナ」

 

「チルル、良かった…!」

 

「チル~」

 

「ありがとなハルカ!」

 

「まさかいとをはくをああして使うとは…イカしてたぜ」

 

「光り輝いてた糸も綺麗だったし、あれならきっとコンテストでも通用するよ!」

 

「え、えへへ…そ、そうかな?」

 

それぞれ戻ってきたポケモンの無事を確認すると、ハルカにお礼を言う。

今のハルカの気転が無ければ逃げられていたかもしれない。

まさかいとをはくで動きを封じるだけでなくメカそのものを破壊してしまえるとは、思いついたハルカですら思わなかった予想以上の展開である。

 

「ぐぬぬ~! 絶対ピカチュウ達を逃がすんじゃないわよ!」

 

「おう! こうなったら直接あいつ等を纏めてゲットしてやるぜ!」

 

「一斉にかかるニャ!」

 

メカを破壊されてしまい半ばヤケになるロケット団だったが、サトシ達が一斉にロケット団を睨みつけるように向き直ると思わず怯んでしまい体を硬くする。

 

「な、何よ…!?」

 

「あ…これは嫌な予感…」

 

「多分…同時攻撃来るニャ…!」

 

「ソ~ナンス!」

 

そう、ニャースの予想通り。

サトシ達はそれぞれのパートナーにお礼だと言わんばかりに指示を出した。

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウッ!」

 

「アゲハント、ぎんいろのかぜ!」

 

「ハァアアアンッ!」

 

「レイ、ハイパーボイス!」

 

「サァアアアナァアアアアアアアアッ!」

 

「チルル、りゅうのいぶき!」

 

「チィイイルッ!」

 

「「「ひぃいいいいいいいいいいいっ!?」」」

 

電撃が、輝く風が、強烈な音波が、竜のエネルギーが。

放たれたそれぞれの技が合体すると1つの強烈なエネルギー波となりロケット団い襲い掛かった。

勿論そんな強烈な一撃を受けて無事に済む訳も無い。

ドカーン!と地を震わす衝撃が辺りを揺らすと共に、ロケット団はぐんぐん青い空に向けて吹き飛んでいく。

 

「「「ヤなカンジーッ!」」」

 

「ソーナンス!」

 

こうして変わらずロケット団は今日も星になっていくのであった。

 

「やったわね! アゲハント、頑張ってくれてありがとう!」

 

「ハン」

 

今回のMVPであろうアゲハントを労わるハルカは、先ほどのいとをはくからのかぜおこしのコンビネーションを思い出していた。

光を細かく、広範囲に反射するあの技ならコンテストで使えるだろうと。

 

「今回はハルカと、アゲハントに助けられたな」

 

「本当にありがとうね、ハルカちゃん!」

 

「えへへ…!」

 

憧れで在り続けるソラトとルチアを助ける事ができて、ハルカもとても嬉しそうにしていた。

しかしそこへ場違いな、クゥ~とお腹の鳴る音が響く。

 

「あ…」

 

音を出してしまったのはハルカである。思わぬお腹の主張にハルカは顔を赤くした。

だが無理も無い。何時間もコンテストへ向けて練習して、これからお昼にしようと思っていた所に今の全力バトルだったのだ。

 

「「…あははははっ!」」

 

「も、もうサトシ! マサト! 笑わないでよっ!」

 

「くく…! いや、それじゃ一段落したし、メシ食いに行くか」

 

「ウフフ! そうだね!」

 

あまりに可愛らしいハルカのお腹の主張に、皆で笑いあいながらも、今度こそ食事のためにサトシ達はカイナシティの街へと足を進める事にしたのだった。

 

ソラトとルチアの過去を知り、頼もしいコンテストのコーチを得たハルカ。

ポケモンコンテストカイナ大会まで…特訓あるのみである!

 

 

 

to be continued...




という訳でコンテストへ向けてハルカの練習が開始されました。
ご感想や評価…活動報告へのリクエストなどお待ちしております。

話は変わりますがソードシールドにおいてメガZが廃止されるそうですね。Zワザはサンムーンを買ってないので馴染みが薄くあまり実感無いのですがメガシンカが無くなるのは寂しいですね。

と言うかアニポケ好き勢としてはああいう覚醒パワーアップや取って置きの切り札みたいな要素は燃えるからあって欲しかったんですよね。
ダイマックスに期待です。

次回はようやくリクエストを反映できるお話になります。
ご期待下さい。


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カイナを跳ぶ赤い影

前回の話にあった5年前の回想でソラトがルチアに対してどこかぶっきらぼうな態度はまだソラトが精神的に幼い所があったのと、旅が始まったばかりでアラシの手がかりが全く見つかっていないという苛立ちからあんな口調や態度になっていたんです。
遅いですがここで補足しておきます。


人が静まり返った深夜。カイナシティの港町に夜間航行していた船が到着した。

ジョウト地方から荷物を運んできた大きな船であり、これから朝になるまでに荷物を降ろしてそれぞれの配達先に物を運ばなければならない。

この船の乗組員である船乗りの男も自慢の筋肉で荷物を担いで船から降ろしていく。

そして同じく荷物を降ろしている自分の相棒にも声を掛ける。

 

「おいカイリキー、次の荷物を頼むぜ」

 

「リキ! リキリキ!」

 

「おぉ、張り切ってるなカイリキー。仕事が終わったら特製のポケモンフーズを用意してやるから頑張ってくれよ!」

 

「リッキリキ!」

 

彼の相棒はかいりきポケモンのカイリキー。その自慢の4本の腕で荷物を沢山持ち次々に荷物を降ろしていく。

船乗りの男とはワンリキーだった頃からの付き合いであり、大切な、自慢のパートナーである。

それは今しがたのやり取りからも見て取れ、お互いに肩を組んで笑いあっていた。

 

そして、その様子を船に積まれている荷物の上から見下ろす影があった。

 

「……ッ!」

 

影は目にも留まらぬ素早さで荷物を駆け下り、一気に船乗りの男とカイリキーへ向かって奔る。

 

「リキッ!?」

 

「どわっ!? な、何だ!?」

 

鋭い一撃が影からカイリキーに向けて放たれるが、それを察知したカイリキーはトレーナーである船乗りの男を庇い腕でその一撃を防御した。

突然の事に驚く船乗りの男だったが、何者かから攻撃を受けたのは理解できた。

 

「な、何だおめーは!? やる気か!?」

 

影はカイリキーに一撃浴びせると即座に距離を取り2人の様子を伺っていた。

夜の闇に紛れているため正確な姿は分からないがその影は鋭いフォルムをした赤い色をしている。

 

「ッ!」

 

「来るぞカイリキー! からてチョーップ!」

 

「リッキャ!」

 

再び此方に接近してくる赤い影を迎え撃とうとカイリキーはからてチョップを放つ。

射程範囲に入った瞬間に腕を振り下ろしたが、目の前にいた筈の赤い影が消えた。

 

「リキッ!?」

 

からてチョップは空振りし、周囲を見渡して赤い影を探すものの見当たらない。

だが―

 

「うぎゃっ!?」

 

背後にいた筈のパートナーである船乗りの男の悲鳴が聞こえたため振り返れば、そこには赤い影に殴り倒されたのだろう…船乗りの男が頬を腫らして倒れていた。

 

「リキ…! リキャァアアアアアアア!」

 

大切なパートナーを傷つけられた怒りから、カイリキーはあらん限りの力を込めて咆哮する。

きあいだめを行い攻撃を急所に当てやすくすると、全身全霊の力を振り絞りインファイトを放った―筈だった。

技を放つ前に赤い影からの高速の攻撃を受けたのだろう、痛みを感じたカイリキーは膝を折りその場に崩れ落ちた。

パートナーの為に全身全霊を賭けて赤い影に立ち向かったカイリキーを見下ろす赤い影の瞳に侮蔑の感情が篭っていた。

そして赤い影は水面に映る自分の姿を確認すると更に目つきを鋭くさせつつその場から立ち去った…。

 

 

 

 

 

カイナシティで行われるポケモンコンテストカイナ大会に出場するハルカは、ソラトとルチアという頼もしいコーチを得て日々特訓に励んでいた。

今日も街の外れで技を磨き、日が暮れてきたためルチアを彼女が泊まっているホテルまで送っている所だった。

 

「ん~! 今日も疲れたかも…」

 

「でも技は少しずつ仕上がってきてる。これならコンテストまでには例の技の完成が間に合いそうだな」

 

「うんうん。私もうかうかしてられないね。バチバチ☆強敵ライバル参上!って感じかな!」

 

ソラト、ルチア、ハルカは歩調を合わせながらハルカのコンテストへ向けての練習について話し合い、明日以降の練習内容を考えていく。

しかしそうこうしているとすぐにルチアが泊まっている高級リゾートホテルの前へと到着してしまった。

 

「…もう着いちゃったかぁ。残念」

 

「残念って…何でだ? 明日もハルカの練習に付き合ってくれるんなら会えるだろ?」

 

ホテルに到着した事を何故か残念そうにしているルチアにソラトが問いかけるも、ルチアはふうせんポケモンのプリンのように頬を膨らませて不満である事を主張した。

 

「そうじゃなくて…! その、あの…もうっ! 女の子には色々あるんだよソラトくん!」

 

「……?」

 

恋する女の子は少しでも好きな男の子と一緒に居たいのだが、ソラトにはそれが伝わっておらず首を傾げていた。

そんなソラトに更に頬を膨らませてしまうルチア。しかし今はこのままの関係を満喫したいと思い頬を元に戻してニコリと笑った。

 

「まぁ、今はいいや。それじゃあね、ソラトくん、ハルカちゃん! また明日!」

 

「おう、またな」

 

「…はい、ルチアさん」

 

ソラトも笑いながらルチアに手を振るが、ハルカは困ったような笑顔で手を振った。

大好きな兄貴分であるソラトと憧れの先輩であるルチアの関係が、ルチアのソラトに対する気持ちがどんな物なのかというのがハルカには手に取るように分かっていた。

今はコンテストに集中しなければと自分に言い聞かせて複雑な気持ちを押し殺した。

 

「それじゃ、ポケモンセンターに帰るか。サトシとマサトも待ってるだろ」

 

「うん、一緒に帰ろう」

 

すっかり暗くなってきた道を歩きながら、先にポケモンセンターに帰ったサトシとマサトの元へと足を進めるソラトとハルカであった。

 

 

 

 

 

一方のサトシは次のジム戦に向け、ポケモンセンターの横にあるバトルフィールドを借りてポケモン達を鍛え上げていた。

ソラトに教えて貰った修行法でヘイガニと共に、ピカチュウ、ジュプトル、スバメとバトルを繰り広げている。

 

「ヘイガニ、バブルこうせん!」

 

「ヘーイガッ!」

 

「スバッ! スババッ!」

 

空中を飛ぶスバメに向かって鋏を開いてバブルこうせんを放つ。

しかし素早く三次元的に動くスバメはヘイガニの攻撃を華麗に避けると反撃のために翼に力を込める。

 

「つばさでうつが来るぞ! ヘイガニ、はさむ攻撃!」

 

「ヘーイ!」

 

スバメのつばさでうつのカウンター攻撃を鋏で挟んで受け止めたヘイガニだったがそれを見逃すピカチュウとジュプトルではない。

 

「ピ~カ~ヂュゥウウウウウウウウウ!」

 

「ジュラッ! ジュラァ!」

 

かみなりを放つピカチュウとリーフブレードを構えるジュプトル。

スバメの攻撃を受け止めて防御していたヘイガニはこのままではこうかばつぐんの攻撃を同時に受けてしまう事になってしまう。

だが、そうならないためにサトシが居る。

 

「ヘイガニ! スバメを投げ飛ばして前にダッシュ!」

 

「ヘイ! ヘイヘイヘイ!」

 

「スババ~!?」

 

鋏を振り回してスバメを投げ飛ばして動けるようになったヘイガニはサトシの指示通り前方へダッシュする。

上空からヘイガニを狙っていたかみなりは外れるものの、ヘイガニの眼前にリーフブレードが迫る。

 

「迎え撃てヘイガニ! クラブハンマー!」

 

「ヘイヘイヘーイ…ガッ!」

 

「ジュラァ!」

 

ヘイガニの水の力を纏ったクラブハンマーとジュプトルの草の力を纏ったリーフブレードがぶつかり合う。

ビリビリと周囲に衝撃が広がり、ヘイガニとジュプトルはお互いに弾きあって距離を取った。

 

「よーし、ここまでにしておこう! よくやったぞヘイガニ」

 

「ヘーイ! ヘイヘイ!」

 

サトシと共にうまく戦えたヘイガニは大いに喜びマサトと共にバトルを観戦していたクチートへアピールする。

しかしクチートの視線はジュプトルに固定されており、目が大きなハートマークになっていた。

進化したジュプトルに対して更に惚れ込んでしまったクチートはヘイガニはアウトオブ眼中である。

 

「ヘ…イ……」

 

「ありゃりゃ…フラれちゃった…」

 

ヒュウと冷たい風が吹きぬけてヘイガニは真っ白に燃え尽きてしまう。

マサトが呆れた顔をするものの、いい所を見せたのに全く見て貰えていなかったヘイガニは、今日はもうショックで動けそうになかった。

 

「あはは…とりあえず、皆戻ってゆっくり休んでくれ」

 

サトシはピカチュウ以外のポケモン達をボールに戻すと休ませてやる。このままバトルで負った傷もポケモンセンターで癒せばまた明日もバトルの特訓を続けられるだろう。

 

「ピカチュウ、マサト、そろそろソラト達も戻ってくるだろうし俺達も中に入ってようぜ」

 

「うん! そうだね!」

 

「ピカチャ~」

 

「おっ、どうしたんだピカチュウ」

 

「チャ~」

 

バトルを終えてサトシの元へやって来たピカチュウはサトシの肩に乗ると甘えるように顔を擦り付ける。

最近バトルの修行が多く、甘えられていなかったのだろう。

ピカチュウが甘えてきてくれるのがサトシも嬉しく、頭を撫でたり顎を掻いてやったりするとピカチュウは体を震わせて喜んだ。

 

「ッ!」

 

「え? うわっ!?」

 

「ピカーッ!?」

 

すると突然近くの茂みから影が飛び出してくると、触れ合っているサトシとピカチュウを殴って吹き飛ばす。

突然攻撃を受けたサトシとピカチュウは倒れこんでしまうが、幸い大きな怪我もなく軽傷で済んだようですぐさま立ち上がった。

 

「サトシ! 大丈夫?」

 

「あ、あぁ…でも突然、何なんだ!?」

 

「ピィカ…!」

 

攻撃を受けた事でピカチュウはサトシを守るように前に出るが先ほど攻撃してきた影はすぐさま別の茂みに身を隠した。

 

「マサト、相手が見えたか?」

 

「ううん、突然すぎて何も見えなかったよ」

 

「くっ…次はどこから来る…!?」

 

目を凝らして影が茂みのどこにいるかを探るサトシ。

そして神経を研ぎ澄まして注意してみればガサガサと僅かに茂みの一部が動いたのを確認する。

 

「そこだピカチュウ! アイアンテール!」

 

「ピッカ! ピカピッカ!」

 

鋼の尻尾を振るってサトシの指示通り茂みが僅かに動いた場所に技を叩き込む。

完璧なコンビネーションでこれは避けることはできないだろうとサトシもマサトも思っていた。

しかし影は自分の腕でピカチュウのアイアンテールを受け止めてピカチュウの尻尾を掴むと、バトルフィールドとは反対側にある公道側へ思い切り投げ飛ばした。

 

「ピカーッ!?」

 

「ピカチュウ! 大丈夫か!?」

 

「ピカ…!」

 

投げ飛ばされたピカチュウを追ってサトシも茂みを飛び越えて公道側までやって来ると再び影と向き合う。

公道は暗く、影が身を晒しているのに赤い色をしているポケモンだということ以外分からなかった。

 

「おいお前! 突然何のつもりなんだ!」

 

「ピカ、ピカピーカチュ!」

 

こんな不意打ちのような真似をして自分たちを襲ってくる赤い影をサトシは強く非難するが、そんな事は関係ないとばかりに赤い影は腕を振るった。

腕の先についているギラリとした刃物が見えたサトシは急ぎピカチュウへ指示をする。

 

「避けろピカチュウ!」

 

「ピカッ!」

 

「ッ! ッ! ッ!」

 

身軽なピカチュウは赤い影からの攻撃を次々にかわしてみせるが、赤い影は連続で攻撃を放ってくる。

 

「今だピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカー…!」

 

「サァッ!」

 

サトシとピカチュウが反撃に出ようとピカチュウが電撃を放つためのパワーを溜めるための一瞬の隙を作ってしまう。

その隙を赤い影は見逃さなかった。

ただし狙うはピカチュウではなくその後ろ。

ブンッと残像を残すような素早さで姿を消した赤い影はピカチュウをすり抜けてサトシの眼前に現れる。

 

「うっ!? うわあっ!?」

 

突然眼前に現れた赤い影の顔をしっかりと見たサトシだが、次の瞬間には脇腹に強い衝撃を受けて吹き飛ばされていた。

鋭い一撃が入ったことでサトシは壁に叩きつけられて意識を失ってしまった。

 

「ピカピ!?」

 

「ああっ、サトシー!」

 

サトシにトドメを刺さんとばかりに赤い影はサトシにゆっくりと歩み寄るが、その間にマサトとピカチュウが割り込んだ。

 

「こ、これ以上はダメだよ!」

 

「ビィガ…!」

 

これ以上は許さないとばかりに電気袋からバチバチと放電しているピカチュウと、怖がりながらもサトシのために身を割り込ませるマサト。

だが赤い影は容赦なくその腕の鋏を開き―

 

「そこの! 待ちなさい!」

 

「ッ!?」

 

と、そこへ白バイに乗ったジュンサーさんがやって来た。

赤い影は驚きに目を見開くと、この場は退散する事を瞬時に選択したためその場からジャンプした。

建物の屋上まで届くその跳躍力を駆使し、次から次へと建物へ飛び移っていく。

 

「くっ…こちらジュンサー! 各員へ連絡! ホシは屋根を跳びながら港方面へと向かったわ! 捜査網をそちらに集中して!」

 

逃走した赤い影を捕らえるためにジュンサーは無線を使い警察の部下へ連絡を入れる。

 

「キミ、大丈夫!?」

 

ジュンサーがサトシに声を掛けるが完全に気を失っている。

だが見た所酷い怪我はしていないようだ。

 

「…怪我は無いみたいね。君たちもあの赤い影に襲われたの?」

 

「赤い…影?」

 

「ピカ…?」

 

「その説明も必要ね。一先ず彼を運びましょう」

 

ジュンサーさんがサトシをポケモンセンターに運ぼうとすると、そこへ丁度ポケモンセンターに戻ってきたソラトとハルカがやって来る。

 

「サトシ!?」

 

「ええっ!? 何でサトシが倒れてるのっ!?」

 

「お姉ちゃん! ソラト!」

 

「マサト、何があった?」

 

「実はボクも何がなんだか分からなくて…」

 

状況が呑み込めないソラトとハルカはマサトに詰め寄るようにこの状況を問い質すが、マサト自身もよく分かっていないため何も説明ができない。

ソラトはジュンサーさんに目を向けると、彼女が任せて欲しいと言う様に頷いたため、とりあえずは落ち着く事にした。

 

「とにかくポケモンセンターに戻ろう。サトシは俺が運ぶ」

 

「う、うん」

 

一先ずはソラトがサトシを担ぎポケモンセンターに戻る事にした。

ロビーの一角にある休憩スペースを使い、ソファにサトシを寝かせてソラト達も座りジュンサーさんから話を聞く事にした。

 

「3日ほど前に、ジョウト地方から来た船に乗っていた船乗りの男性が襲われたのが発端になるわ。あの赤い影は、夜間に活動して仲の良いポケモンとトレーナーを見ると襲い掛かってくるの」

 

「仲の良いポケモンとトレーナーを…だからサトシが襲われたんだ…」

 

「えぇ。しかもポケモンバトルをするのではなく…トレーナーの方を積極的に狙うみたいなの」

 

「「ええっ!?」」

 

まさかポケモン同士のバトルでトレーナーを積極的に狙うポケモンがいるとは思わず、ハルカとマサトは驚きの声を上げる。

ソラトも表情を険しくした。

 

「それは何とも…穏やかじゃないですね」

 

「この3日間で既に10人以上の人が被害に合っているわ。でも一刻も早く捕まえるよう努力するから、安心して。それじゃあ私はこれで」

 

犯人のポケモンを逮捕するためにジュンサーさんは説明も程ほどにポケモンセンターから出て行った。

 

「ど、どうしようお兄ちゃん? ポケモンと仲良くすると襲われるなんて…」

 

「大丈夫だ。ジュンサーさんの話だと夜間にしか活動していないみたいだし…暗くなるまでにポケモンを戻して帰ってくれば安全だろう。だが…まさか人間を狙うポケモンが街に出没するとはな」

 

ソラトもこれまでの旅で人間に対して敵意を持つポケモンには何度か出会ってきたが、あからさまに人間だけを狙って活動する個体に出会うのは初めてだった。

とりあえずはソラトの言うとおり夜間にポケモンと外出しなければ大丈夫であろう。

 

「でも、そのポケモンっていったいどんなポケモンなんだろう」

 

「……ハッサム、だった」

 

「サトシ!?」

 

「ピカピ!」

 

マサトが人を襲うポケモンがどんなポケモンなのか疑問を口にすると、今目覚めたのかサトシが殴られた脇腹を押さえながら起き上がった。

ピカチュウがすぐさまサトシに飛びついて頬ずりする。

大切なパートナーが無事だったのがよほど嬉しかったのだろう、ピカチュウの目にはじんわりと涙が浮かんでいた。

 

「ピカ~…」

 

「あはは、俺は大丈夫だよ。ありがとなピカチュウ」

 

「チャ~」

 

「サトシ、襲ってきたポケモンはハッサムだったのか?」

 

目を覚ましたソラトは改めてサトシに確認すると、サトシは赤い影に攻撃を受ける直前に間近で見たあの顔を忘れてはいなかった。

 

「あぁ…間違いない。それと、左目に傷があった」

 

「左目に傷か。それが固体を識別する目印になるな」

 

「それと…」

 

「それと?」

 

「なんだろう…アイツの目には、俺みたいな人間に対する明確な敵意があった気がするんだ。憎しみにも似たような…」

 

いつもポケモンと真正面からぶつかり合い、その感情を受け止めてきたサトシにとってそれは確信に近いものがあった。

でもポケモンとトレーナーは分かり合えるとも信じている。

だから、このままハッサムを野放しにしておくことは、サトシにはできなかった。

 

「なぁソラト、ハッサムを止めれないかな?」

 

「サトシ! ここはジュンサーさんに任せた方がいいわよ!」

 

「そうだよ。またサトシが攻撃されちゃうかもしれないんだよ」

 

「でも…」

 

確かにソラトの言うとおり夜間に大人しくしていればこれ以上ハッサムに襲われる事は無いかもしれない。でもこのままハッサムの犠牲者を出し続けるのを見過ごす事もできない。

だが危険が伴う。

ハルカとマサトはサトシの身を案じて止めようとするが、サトシは何とかできないかソラトに知恵を求めた。

 

「…ハッサムがそこまで人間を狙うのには何か理由がある筈だ。それを理解してやらないとハッサムの行動を止めるのは難しいだろうな」

 

そしてソラトの口から出たのは、暗にハッサムを止める方法を探すという言葉だった。

それを聞いたサトシは表情を明るくした。

 

「サンキュー! ソラト!」

 

「もう、お兄ちゃんもサトシも危ない事に首を突っ込みすぎかも」

 

「大丈夫さ。皆で協力すれば、きっと止められる。いいか、作戦はこうだ―」

 

ソラトの口から語られる作戦を実行に移すため、サトシ達は準備を整えるために夜の街に繰り出した。

しかしそれをポケモンセンターの屋根の上から聞き耳を立てていた3人組…いつものロケット団がニンマリと笑顔を浮かべてサトシ達の背中を見ていた。

 

「ほうほう、人を襲うハッサムね…」

 

「積極的に人を襲うハッサムなんて、アタシ達ロケット団にうってつけのポケモンじゃない」

 

「それじゃあそのハッサムをゲットして我らロケット団の一員として働かせれば戦力アップは間違いナシニャ!」

 

「ソ~ナンス!」

 

「それじゃ、ジャリボーイ達の後をつけるのよ!」

 

「「ラジャ!」」

 

ロケット団も動き出しているとは知らずに、サトシ達はそれぞれポケモンをボールから出さないように注意しつつ、それぞれ分かれて目的地へ向かう。

ハルカとマサトはルチアの元へ、ソラトとサトシは人目につきやすいカイナの中央公園へ下準備をしに。

公園で下準備をしているソラトとサトシの元へ、30分もするとルチアを連れたハルカとマサトが大きな荷物を積んだトラックと共に合流した。

その後はルチアやルチアが連れてきた彼女の専属スタッフも準備に加わり舞台を整えた。

 

 

 

静まり返る深夜のカイナの中央公園。

夜の闇と同じ黒衣を纏ったソラトが目立つ広場の中央に立つと、ポケモンセンターで入れ替えておいたポケモンを繰り出した。

 

「ミロッ」

 

「シズク、おいで」

 

「ミロミロ~」

 

仲の良いポケモンとトレーナーを狙うというハッサムに見せ付けるようにソラトの胸に顔を埋めるミロカロスのシズクと、それをわしゃわしゃと撫でてやるソラト。

誰からどう見ても互いを信頼するとても仲の良いポケモンとトレーナーである。

周囲で隠れて見守る者の一部から…と言うかハルカとルチアからジェラシーを感じてしまうほどの仲の良さである。

 

そんなソラトとシズクをビルの上から見つけた赤い影…ハッサムは目つきを鋭くさせるとビルから飛び降りる。

背中の翼を広げて風を受けると滑空して一気にソラト達に接近する。

 

「ッサム!」

 

両手の鋏を硬質化して鋼の拳とし、高速で相手を打ち抜く技、バレットパンチを放ちお互いに身を預けて安らいでいる2人に襲い掛かろうとする。

だが拳が届くより先にソラトとシズクが動いた。

 

「シズク、ドラゴンテール!」

 

「ミロォッ!」

 

「ッ!?」

 

拳を竜の力を纏った尾で受け止めると、しなるムチの如く振るわれた尻尾で弾き返されたハッサムは広場の真ん中で体勢を整える。

誘い出された―ハッサムがそう気がついた時にはもう手遅れだった。

 

「今だよ!」

 

ルチアの合図でスタッフがスイッチを入れると、ルチアに頼んで貸してもらい、事前に準備しておいた照明器具に電源が入れられる。

照明器具の光はハッサムを四方八方から照らし出し、隠れていたサトシやハルカ、ルチアとスタッフ達によってハッサムの包囲網が築かれた。

今まで闇夜に紛れて赤い影にしか見えなかったハッサムの全貌が露になる。確かにサトシの言うとおり左目に一本傷のある固体だった。

 

「サムッ!? ハッサ!?」

 

突然照らし出され、驚きに周囲を見渡しながら警戒するハッサム。

そんなハッサムに対してソラトはゆっくりと近づき右手を伸ばす。

 

「落ち着いてくれハッサム。大人しくしてくれれば、俺達は手出しはしない」

 

「ハッサム!」

 

できるだけ柔らかい口調で語りかけるソラトだったが、ハッサムは信用ならないとでも言うように近づいてくるソラトに向けて鋏を開いて威嚇する。

だがここまで近くに来ておいて立ち止まる選択肢は無い。

ソラトはゆっくりと、だが確実にハッサムに歩み寄る。

 

「俺達はお前がどうして人を襲うのか知りたいだけなんだ。警戒せず、俺の手を受け入れてくれ」

 

「ッサァ!」

 

だがハッサムもそう言われて警戒を解く筈も無い。

牽制の意味合いも込め、ソラトの頬スレスレに鋏を振るいれんぞくぎりを放つ。

頬が切れて傷ができるが、ソラトは立ち止まらずに更にハッサムに近づき右手で頬に触れた。

 

意識を集中する。

自分の体の波動を相手の波動に合わせて同調させる。

正式な修行を受けておらず、片手間に独学で学んでいたソラトは波動使いとしては未熟なためぶっつけ本番である。

しかしハッサムの気持ちを知るためにやるしかない。

 

過去最高に集中してハッサムの波動に自分を同化させてハッサムの深層心理を覗き込む。

ハッサムを構築する波動にはこのハッサムにしか無いものがあり、同調する事でハッサムの心理を覗き込む事ができるのだ。

ホウエンに戻る前の旅で出会った波動使いのトレーナーから僅かに手ほどきを受けたソラトは、この手法でハッサムが人を襲う原因を探ろうとしていた。

 

 

 

 

 

「やった! ストライク、ゲットだ!」

 

ジョウト地方出身のとある少年。

バトルの果てに野生のストライクをゲットして嬉しそうにボールを掲げていた。

少年はストライクや他の仲間と共に多くのバトルを経験していく。勝つ事もあれば負ける事もあり、少しずつ成長していた。

だがある転機が訪れる。

ある港町で、ストライクの進化系であるハッサムを求めている男が居たのだ。

男は言った。

 

「ストライクにこのメタルコートを持たせて交換すればハッサムになる。交換してくれれば、大金をあげようじゃないか」

 

最初は少年も断っていた。仲間をお金に変えるなんてとんでもないと。

しかししばらくして状況が変わった。

少年には大金がどうしても必要になってしまったのだ。

どうしても、どうしても必要だったのだ……だから、大切な仲間と引き換えにした。

 

「ごめん…ごめんよストライク」

 

裏切られた―

信じていたのに―

守ってくれると思っていたのに―

なんで―

なんで―

なんで―

 

所詮人間など信用できない。人間は悪い奴らだ。だから復讐する。

ハッサムに進化した彼は裏切られて得た自身の姿を呪いながらも、新たに得た力で檻を破る。

自由の手始めに自身を買った男と、そのポケモンを打ち倒し、どこか知らない場所へ向かうために船に密航した。

去り際に男のポケモンから最後の反撃を受けてしまい、左目に傷を負ったが些細な事だった。

 

仲の良いポケモンと人間を見ると怒りの炎が燃え上がる。

何故お前はそうして笑っていられる。

何故お前は幸せそうなんだ。

何故お前は愛されているんだ。

 

自分はこんなにも惨めなのに―――

 

 

 

 

 

「ッサム!」

 

「ごはっ!?」

 

深層心理を覗き見していたソラトからすればそれなりの時間が経っていたが、現実の時間は一瞬である。

バレットパンチによりソラトを殴り飛ばしたハッサムの顔には汗が滲み、息をゼェゼェと切らしている。

自分の心理を覗き込まれたのを感じているのだ。

 

「ソラト!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「大丈夫!?」

 

「ソラトくん!」

 

「ミロ…!」

 

吹き飛ばされたソラトの元へとサトシ達が駆け寄り、ソラトを庇うようにシズクが前へ出る。

だがソラトの波動による深層心理の把握は成功した。

後はどうやってハッサムを止めてやるかだ。

 

「ごほっ…大丈夫だ。それに、何とか成功した。あのハッサムはお金と引き換えにトレーナーに売られたんだ。それで裏切られたと思っている。仲の良いポケモンとトレーナーを見るとかつての自分のトレーナーを思い出してしまい怒りが抑えられないんだ」

 

「そんな事が…」

 

「ハッ…ハッ……サム!」

 

「ミロッ!」

 

自分の心を知ってしまったソラトにどうしようも無い怒りが湧き出るハッサムはソラトに向けてれんぞくぎりを放つ。

だがソラトを守るシズクのドラゴンテールによってれんぞくぎりを受け止められてしまう。

 

「サァアアアアアアアッ!」

 

邪魔をするなと連続で渾身のバレットパンチを放ちシズクを退かそうとするハッサムだが、冷静な判断で全ての攻撃を尻尾で受け止めたシズクを退かす事ができない。

埒が明かないとばかりに、ハッサムは1度大きく後退して距離を取りシズクの隙を探す。

シズクも油断無く、いつでもハッサムを迎え撃てるように構えている。

だが…。

 

「シズク、そこまででいい」

 

「ミロッ!?」

 

シズクを押し退けるようにしてソラトが前へ出た。

これにはシズクだけではなく、ソラトの元へ集まっていたサトシ達も、果ては向き合っていたハッサムも驚きを隠せなかった。

 

「ちょ、お兄ちゃん!? どうしたの!?」

 

「コイツの中に燻っている怒りの炎は押さえ込む事はできない。いや、押さえ込んだって根本的な解決にはならない。だから…全部受け止めてやる!」

 

「受け止めるって…!?」

 

「来い、ハッサム。お前の怒りの炎が燃え尽きるまで、俺が付き合ってやる!」

 

「ッサム!?」

 

逃げも隠れもしないというアピールのために、両手を広げて好きにしろとするソラトに対してハッサムは逆に警戒する。

 

「誰も手を出すなよ」

 

だがソラトのその警告と共に、全員ピタリと動かなくなってしまったのを感じたハッサムは試しに踏み込んでみた。

れんぞくぎりを放ってソラトの体を切りつける。

痛みから顔を顰めるソラトだったが、逃げも隠れもせずにそれを受け止めた。

 

―気に食わない。

そう思ったハッサムは本当に自分の怒りが消えるまでソラトが立っていられるか試してやると続けて何度もれんぞくぎりを放った。

れんぞくぎりは名の通り連続で使用するとどんどん威力が上がっていく。

2度目、3度目とソラトを斬りつけるほど威力は増していき、ソラトの体を傷つける。

そして4度目のれんぞくぎりでソラトは膝を着いた。

 

「ぐ…!」

 

「ハァ…ハァ…サム…」

 

感情をぶちまけるような全力のれんぞくぎりを何度も放ったせいでかハッサムも息を切らしていた。

だが次の5度目のれんぞくぎりは最大の威力になる。

次でトドメを刺すとハッサムは鋏を開いた。

 

「ダメ! お兄ちゃん!」

 

「ソラト、それ以上は!」

 

「ミロ!」

 

「誰も動くなッ!」

 

ソラトの傷を心配し駆け寄ろうとするハルカとサトシ、シズクを言葉で制すとソラトは立ち上がってハッサムに向かい合う。

 

「さぁ、どうしたハッサム…! 俺はまだ立っているぞ? お前の怒りの炎はそんなモンなのか!?」

 

「ハッサ…!?」

 

あれほど痛めつけたのに全く折れていない。

不可解な人間を目の前に、ハッサムの方が戸惑ってしまう。

芯の通った力強い瞳に射抜かれて、ハッサムは振り上げた鋏を動かせなくなってしまった。

そのまま数秒、ソラトと目を合わせて両者動かなかった…そして―

 

「ッサム!?」

 

「なっ!?」

 

突如としてハッサムの両手両脚を、空から伸びてきたクレーンアームのようなものが拘束すると空へ連れ去っていってしまった。

空を見上げれば、そこには見慣れたニャース型の気球が飛んでいた。

 

「あの気球は…!」

 

「あの気球は…! と言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

そう、先ほどポケモンセンターでサトシ達の話を盗み聞きしていたロケット団である。

気球で空から隙を伺い、チャンスだと今仕掛けてきたのだ。

 

「ロケット団!」

 

「ピピッカチュ!」

 

「ハッサムは貰っていくわよ~!」

 

「ハッサム、人間が憎いなら俺達と一緒に来い!」

 

「ニャー達と一緒に世界征服するニャ! まぁ嫌って言っても連れて行くけどニャ~」

 

人間を憎むハッサムを捕まえてロケット団の野望である世界征服の役に立てようとするというのは理に適っているが、本人の意思を無視して無理やりという所がいかにもロケット団らしい。

ハッサムもこんなやり方で自分を捕まえようとする相手など願い下げであるため、暴れてアームから逃れようとする。

 

「サム! ハッサ!」

 

「こニャ! 暴れるニャ!」

 

「ハッサムを連れていかせるもんか! ピカチュウ、10万ボルトでハッサムを助けるんだ!」

 

「ピカッ! ピーカーチュゥウウウウウウウッ!」

 

「おっと! そうはいくか!」

 

ハッサムを連れ去るのに手間取っているロケット団を逃がさないようにピカチュウの10万ボルトが放たれて一直線にロケット団の気球へ向かう。

だが寸前の所でコジロウが持っていたリモコンのスイッチを押すと、気球の左右から機械的な翼が現れてボシュッとブーストがかかると素早く左右に動いて電撃を回避した。

 

「何っ!?」

 

「ニャハハハ! 今回は気球に回避システムを導入してみたのニャ!」

 

「いつものようにはいかないわよ!」

 

「それなら、お願いチルル! つばめがえし!」

 

「チルーッ! チルーッ!」

 

ハッサムを助けるためにルチアもチルルを繰り出してつばめがえしを指示した。

1度大きく飛び上がったチルルは上空からロケット団の気球へ向けて急降下してつばめがえしを放つ。

本来ならば相手に必ずと言っていいほど命中する技であるつばめがえしだが…。

 

「おーっと、危ない」

 

再びコジロウがボタンを押すと大きく右へ動いた気球につばめがえしも外れてしまった。

気球の癖にやたらスピーディである。

 

「くっ…このままじゃハッサムが…!」

 

相変わらずハッサムは抵抗を続けているが逃げられそうな気配はしない。

このままではロケット団に逃げられてしまうと誰もが思ったが、ソラトは痛む体を抑えてシズクへ声を掛けた。

 

「ぐ…! シズク、こっちへ来てくれ…!」

 

「ミロ!」

 

「お兄ちゃん、何をするつもりなの?」

 

「ハッサムに手を貸してやれば、多分逃げられる。シズク、ドラゴンテールだ!」

 

「ミロッ!」

 

シズクへドラゴンテールを指示したソラトは、振りかぶったシズクの尻尾へ両脚を乗せて姿勢を整えた。

これはもしや…と誰もが思った次の瞬間…!

 

「今だ! やれっ!」

 

「ミーローッ!」

 

強靭な尻尾を振るうと、その勢いでソラトは空中へと投げ飛ばされて凄まじい勢いでロケット団の気球へ迫る。

 

「ニャ!? ヒーローボーイがこっちに飛んでくるニャ!?」

 

「へっ! そうはいくもんか!」

 

飛んでくるソラトに驚くロケット団だが落ち着いた様子で再び気球を緊急回避させるとソラトの飛んでいくコースから逸れる。

これも失敗になると思われたが、ソラトはニッと不敵に笑うと更にモンスターボールを手にした。

 

「出て来いモウキン! 俺を弾いてコース変更だ!」

 

「ヴォッ!」

 

ボールから繰り出したのはモウキン。

空中で羽ばたくモウキンは大きく翼を振りかぶると、そのまま翼を叩きつけてソラトをロケット団の方向へと弾き返した。

誰もが予想しなかった空中方向転換にロケット団も反応できずに、ソラトはハッサムを捕まえているアームにしがみ付いた。

 

「んニャ!? この、離れるニャ!」

 

「そうは…いくかっ!」

 

アームからソラトを引き剥がそうとアームを操作するニャースだったが、ソラトは足でアームを蹴り飛ばすとハッサムを掴む力が弱くなったためハッサムは力を込めてアームから脱出した。

 

「ハッサム!」

 

「「「あー! ハッサムがー!?」」」

 

「よし! 頼むぞモウキン!」

 

「ヴォー!」

 

ハッサムの解放に成功したソラトはし空中でモウキンに掴まって地上まで降りるためにしがみ付いていたアームから離れる。

空中で体勢を整え、手を伸ばしてモウキンの足に掴まろうとする。

 

「痛ッ!」

 

だが先ほどのハッサムとのやり取りが祟り、体に痛みを走ったソラトは体勢を崩してしまいモウキンの足を掴み損ねてしまった。

 

「ウォッ!?」

 

「ヤベ…!?」

 

体制が崩れてモウキンとの距離が離れてしまう。

このまま地面に叩きつけられるように落ちてしまえばソラトの身が危ない。

 

「お兄ちゃん! アゲハント、お兄ちゃんを助けてっ!」

 

「ソラトくん!? チルル、ソラトくんを…!」

 

その様子を見たハルカはアゲハントを出し、ルチアはチルルへ指示を出してソラトを助けようとする。

だが距離的に間に合わない。

ソラトもまずいと理解していたが、どうする事もできない。

 

「万事休すか…!」

 

「ッサム!」

 

「なっ…!?」

 

覚悟を決めたソラトが歯を食い縛り両目を瞑るが、ソラトの近くで滑空していたハッサムがソラトを抱えて見事に着地を決めた。

ハッサムに抱えられたソラトは無事に地上に戻ると、ソラトとハッサムの元へサトシ達が集まってくる。

 

「ソラト、大丈夫か!?」

 

「あぁ、ハッサムが助けてくれたんだ。ありがとな」

 

「…サム」

 

助けてくれたお礼をハッサムにするソラトだが、ハッサムはすぐに目を逸らしてぶっきら棒に返事をした。

彼もまたソラトに助けられたため、気にするなとでも言っているのだろう。

 

「ニャース! もう1度ハッサムを捕まえるのよ!」

 

「ついでにピカチュウもゲットだぜ!」

 

「了解ニャ!」

 

そこへ再びロケット団がハッサムとピカチュウを狙いアームを操作する。

 

「きゃああっ!?」

 

「おっと!」

 

「うわ!? くそ、ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピーカーヂュゥウウウウウウウウウウ!」

 

サトシ達はそれぞれアームを回避するとピカチュウへ再び反撃の指示を行うものの、それに反応してコジロウは再び気球を回避させてかみなりをかわした。

 

「へへ! この緊急回避システムがあればお前らの攻撃なんて怖くないぜ!」

 

「そして空中の安全圏からアームを使っていれば、その内ハッサムもピカチュウもいただきよ! ニャース、やっちゃいなさい!」

 

「ラジャ!」

 

確かにあの回避システムは厄介であり、今のところ1回もまともに攻撃を当てられていなかった。

あの動きについていくのなら先ほどのソラトのように意図せぬタイミングで向きを変えて喰らいつくか、それこそ目にも留まらぬようなスピードでの攻撃をしなければならない。

 

「くそ…どうやって攻撃を当てれば…!」

 

「…そうだ、いい考えがある。サトシ! 下準備をするから、その後でかみなりを撃て!」

 

「え? わ、分かった!」

 

「シズク、あまごいだ!」

 

「ミーローォオオオッ!」

 

シズクが祈るように空へ謡うと、空に黒い雲が生まれて広がっていく。

瞬く間に広がった黒い雲は狭い範囲にポツポツと雨を降らせた。

 

「ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピカ! ピーカーヂュウウウウウウウッ!」

 

ソラトとシズクが下準備を終えたと判断したサトシはピカチュウに再びかみなりを指示すると、ピカチュウから発せられたかみなりの閃光が、ロケット団を無視して空へと登っていった。

雨を降らせてかみなりを放ったかと思えば掠りもしない軌道で放たれたそれにロケット団は拍子抜けだった。

 

「なーんだ、何をするかと思いきや」

 

「ちゃんと狙わないと当たるものも当たらないわよ~?」

 

「ニャハハハハ! それじゃハッサムとピカチュウを―」

 

 

ゴロゴロゴロと、腹の底に響くような雷鳴が轟いた。

そして次の瞬間には空から降り注ぐ雷がロケット団の気球に命中し、機材をショートさせてドカン!と爆発させた。

 

「「「あべべべべべべべべべべ!? うぎゃーっ!?」」」

 

正に本物の落雷。

シズクがあまごいによって用意した雨雲はピカチュウのかみなりのエネルギーを受けて絶対命中の光速の一撃と化したのだ。

これにはロケット団も回避する余裕などない。

気球が爆発したロケット団はそのまま真っ逆さまに地上へ落ちてくる。

 

「サァアアアアッ! ハッサム!」

 

そしてロケット団の着地点を狙い、ハッサムが鋏を開いて右手を振りかぶる。

先ほどのソラトとのやり取りで溜められたれんぞくぎりのパワーが解放され、ロケット団に叩き付けられた。

 

「「「んぎゃああああああああっ!? ヤなカンジーッ!?」」」

 

最大パワーになったれんぞくぎりの攻撃を受けたロケット団は、真っ暗な夜の空へと一筋の星となって消えてってしまったのだった。

 

「よっしゃあ! やったぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「これで一件落着ね!」

 

「ってお姉ちゃん! 最初の目的忘れてるよ!」

 

「え?」

 

「元々はハッサムを止めるのが目的だったじゃないか!」

 

「あ、そういえばそうだったわね。ロケット団とのゴタゴタで忘れちゃってたかも」

 

ロケット団の撃退に成功し、一件落着…とはならない。

横槍が入ったというだけであり、当初のハッサムが人間を狙うのを止めなければならないという目的は有耶無耶になってしまっているのだから。

ハルカはテヘと笑って誤魔化しているがソラトは再びハッサムと向かい合っていた。

 

「サム…」

 

「ハッサム、続きをやるとしよう。お前の復讐の炎が消えるまで、俺が―」

 

「ッサム!」

 

ソラトの言葉を最後まで待たず、ハッサムは再び鋏を広げてソラトに向けてれんぞくぎりを放つ。

だがソラトは決して目を逸らさなかった。

力強い、真っ直ぐな瞳に見抜かれたハッサムはソラトの眼前で鋏を止めた。

 

「……」

 

「……俺が、受け止めてやる」

 

ソラトが最後まで言葉を紡ぐと共に、シズクのあまごいで降っていた雨が止んだ。

そしてハッサムは目を伏せると鋏を閉じてその場に座り込んだ。

 

「ど、どうしたの…?」

 

「…ハッサムの怒りの波動が収まってる」

 

「それじゃあ…!」

 

「ああ、もう人を傷つける気は無いみたいだ」

 

ソラトが身を挺してハッサムの思いを受け止め、そしてハッサムを助けたからだろうか。

ハッサムも憎しみを四散させ、もう1度人間を信じてみようと思えたのかもしれない。

ともかく今度こそ一件落着である。

 

「それじゃあ、この事をジュンサーさんに報告に行かないとな。俺が行ってくるから、サトシ達はこの場の後片付けを頼む。シズク、モウキン、戻ってくれ」

 

「ってお兄ちゃんは休んでないとダメでしょ!」

 

「そうだよソラトくん! 体もボロボロだし…片付けは私とスタッフの皆さんでやっておくからソラトくんはもう休んだ方が…」

 

「この位大丈夫だよ。じゃあ行って―」

 

ハッサムの攻撃を受け止めていたせいでソラトの体は確かにボロボロである。

だがソラトは大丈夫だとアピールするとシズクとモウキンをボールに戻しジュンサーさんがいるであろう警察署へと向かおうとする。

しかしそんなソラトの道を塞ぐようにハッサムが立ち塞がった。

 

「…どうしたんだハッサム? 大丈夫だ、ジュンサーさんに報告はするが悪いようにはしないから」

 

「ハッサム!」

 

立ち塞がっていたハッサムは右手の鋏を自分の胸に当てて何かを訴えていた。

ソラトが波動を感じる限り敵意のようなものはもう持っていない。むしろ何かを願うような、そんな感情を感じる。

 

「…もしかして、連れて行けって言ってるのか?」

 

「サム!」

 

「きっとソラトがハッサムの気持ちを全部受け止めてくれたから…そんなソラトにハッサムもついて行きたいって思ってるんだよ!」

 

「ハッサム!」

 

サトシがハッサムの気持ちを代弁するようにそう言うと、その通りだとばかりにハッサムは力強く頷いた。

 

体を張って自分を受け止めてくれたお前を―

形振り構わず自分を助けてくれた人間を―

―もう1度信じてみようと思えた。

 

「…分かった。なら、いくぞ!」

 

「ハッサ!」

 

ソラトは荷物の中から空のモンスターボールを取り出してハッサムに向けて投げた。

ハッサムに命中したモンスターボールはハッサムを中に収めて地面に落ち、数秒間カタカタと揺れていたが、ポンという音と共にハッサムのゲットを知らせた。

そして動かなくなったモンスターボールを拾い上げたソラトは新しい仲間を歓迎するように笑って月夜が照らす空へとボールを掲げた。

 

「イカした仲間、ハッサムゲットだぜ!」

 

夜の闇に潜んでいたハッサムの憎しみを受け止め、和解し、見事ゲットしてみせたソラト。

平和を取り戻したカイナシティで行われるポケモンコンテストは、もうすぐである!

 

 

 

to be continued...




今回のお話に登場し、ソラトがゲットするに至ったハッサムは天羽々矢さんからのリクエストを採用させて頂きました。
この場を借りて天羽々矢さんにお礼を申し上げます。リクエストありがとうございました。

今後もこういった風に皆さんのリクエストを形にできればいいなと思っております。


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開催 ポケモンコンテストカイナ大会

人を襲うハッサムの一件を無事に解決したサトシ達。

そしてあの日から幾日か経過して、ポケモンコンテストカイナ大会開催まであと1日。

ポケモンコンテストカイナ大会の開催を翌日に控え、ハルカはカイナシティにある公園でより練習に励んでいた。

今日もアゲハントと共に技を磨き上げる。

 

「アゲハント、かぜおこしよ!」

 

「ハァーン!」

 

手に持っていたフリスビーを投げ、それをアゲハントが起こす風で受け止めて滞空させる。

以前からの練習もあり、フリスビーは完全に滞空しており技は見事に決まっていた。

 

「いいわよアゲハント! フィニッシュよ!」

 

「ハンッ!」

 

ハルカの合図と共にアゲハントは風を強くするとハルカへフリスビーを戻し、それをハルカが回転しながらキャッチしてフィニッシュである。

技も見事だし、ハルカとの息もバッチリである。

 

「よーし、決まったわ!」

 

「ハァ~ン」

 

練習が一段落した所でハルカの元へ離れた所で見守っていたサトシ、ピカチュウ、ソラト、マサトが駆け寄る。

 

「いい感じじゃないかハルカ!」

 

「ああ、技そのものの熟練度も悪くない」

 

「これなら本当に優勝できるかもしれないね!」

 

「えへへ…! アゲハントが頑張ってくれてるからよ。でもまだまだ、ルチアさんに勝つためにも!」

 

日頃の練習の成果が実を結び、コンテストでも十分通用するアゲハントをサトシ達も大絶賛であり思わずハルカの方が照れてしまっていた。

しかしできるだけ練習を積まなければならない。

何と言っても、今回のカイナ大会にはトップコーディネーターであるルチアも参加するのだから。

コンテストを明日に控えているため、今日はルチアもハルカのコーチではなく自分のポケモンと共にコンテストの最終調整を行っていた。

ルチアと言えども、努力をせずに勝てるほどポケモンコンテストは甘くないという事だ。

 

「よーし、それじゃあもう1度いくわよアゲハント!」

 

「ハァーン!」

 

「それっ!」

 

ハルカが再びフリスビーを投げてアゲハントもかぜおこしの準備をするが、突然強い横風に煽られてフリスビーはあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

しかもそのフリスビーの向かう先にには1人の人が居た。このままではぶつかってしまう。

 

「あっ! いけない!」

 

まずいと思いハルカはフリスビーが飛ぶ先にいる人物へと駆け寄ろうとするが間に合う筈も無い。

フリスビーがぶつかると思われたその時―

 

「ロゼリア、はなびらのまい!」

 

「ロッゼ!」

 

フリスビーがぶつかりそうになった人物は傍に居たポケモンに指示を出した。

指示を受けたロゼリアはフワリと舞い上がるようにジャンプすると両手の花を降るって桃色の花びらの嵐を巻き起こした。

はなびらのまいによる美しい花びらの嵐は逆にフリスビーを押し返した。

 

「えっ!? きゃあっ!?」

 

「ハルカ! 大丈夫か?」

 

「ハァン!?」

 

押し返されたフリスビーは跳ね返るような勢いで戻ってきたためハルカの顔に直撃してしまった。

思わぬ衝撃を顔に受けてしまったハルカは尻餅を着くように倒れてしまい、それを心配したソラトとアゲハントは真っ先にハルカへ駆け寄った。

サトシとマサトも続いてハルカの元へやって来る。

 

「う、うん…大丈夫よ。それより今のは…」

 

フリスビー自体は軽いためハルカに特に怪我は無さそうである。

それよりも今の美しいはなびらのまいを見たハルカは技を放ったポケモンと、そのトレーナーであろう少年へ目を向けた。

 

「悪かったね。自衛をしただけで狙った訳ではないから許してくれるかい?」

 

緑色のウェーブのかかった髪をした少年は優雅な立ち振る舞いでハルカに謝罪をする。

どこか気品を感じさせるような立ち振る舞いに、ハルカは一目で確信した。彼がコーディネーターであると。

 

「え、えぇ。身を守っただけだものね…あなた、コーディネーター?」

 

「ああ、僕の名はシュウ。明日のポケモンコンテストカイナ大会に出場する予定さ」

 

その言葉にハルカはやはりと思い、彼のポケモンへと目を向けた。小さな体だが両手に赤と青の花を携えるいばらポケモンのロゼリアだ。

ロゼリアの先ほど技を思い出したハルカは勢いよく立ち上がって目を輝かせた。

 

「やっぱり! さっきの技、見事だったものね!」

 

「フッ、ありがとう」

 

「私はハルカよ」

 

「俺はサトシ」

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

「僕マサト!」

 

「俺はソラトだ。よろしくな」

 

一通り挨拶を済ませた一同だが、マサトはシュウがコーディネーターでカイナ大会に出場すると聞いてある事に気がついた。

 

「でもカイナ大会に参加するならお姉ちゃんのライバルって事になるんじゃないかな?」

 

「なんだって…?」

 

ハルカがロゼリアの技を褒めるとシュウも悪い気はしなかったのか微笑んでいたが、マサトの言った一言でシュウは表情を硬くした。

そしてシュウはハルカの横で羽ばたくアゲハントを見るとハルカに問いかけた。

 

「キミ、そのアゲハントでコンテストに参加するつもりかい?」

 

「ええ! 明日のカイナ大会がデビュー戦なの!」

 

「…フッ」

 

自慢げにしているハルカに対して、シュウは目を伏せると嘲笑するように鼻で笑った。

そんな風に笑われて嬉しい筈もなく、ハルカはムッとした表情で問いたてる。

 

「ちょっと、どうして鼻で笑うのよ?」

 

「止めておいたほうがいい。今のキミとアゲハントでは一次審査突破も難しいだろう」

 

「なっ!?」

 

ほぼ初対面に近いシュウに突然そんな酷評をされてしまってはハルカも黙ってはいられなかった。

 

「そんなのやってみなきゃ分からないでしょう!? それに初対面のアナタにどうしてそんな事がわかるのよ!」

 

「僕は今まで様々なコンテストに参加してきたからね。一目見ればそのポケモンがどれほどコンテストに向いているのかくらいは分かるのさ」

 

「だ、だからって見ただけで私とアゲハントの事が全部分かるなんてありえないかも!」

 

「ハンハン!」

 

確かにハルカはコンテスト初心者であるし、経験豊富なシュウからすれば大した相手ではないかもしれないが勝負とはやってみなければ分からないものである。

ハルカとアゲハントは一緒になって反論をするものの、シュウは涼しい顔で受け流した。

 

「まあ出場するのならそれでもいいさ。でも、プライドをへし折られて立ち直れないなんて事にはならないようにね。行こうロゼリア」

 

「ロッゼ」

 

最後にそう言い残すとシュウはロゼリアと共に別の場所に移動していってしまった。

そんなシュウの背中に噛み付くのではないかと思うほど険しい顔をしているハルカだったが、その場はどうにか堪えてシュウを見送ったのだった…。

 

 

 

 

 

その夜。コンテストの最終練習を終えてポケモンセンターに戻ったハルカ達。

だがハルカはポケモンセンターに戻った後、どうにも元気が無い様子だった。

今も明日のポケモンコンテストを特集したテレビ番組が放送されているが、ハルカはそれを見ずに離れた場所で窓からカイナシティの夜景を眺めていた。

 

「…お姉ちゃんどうしちゃったんだろう」

 

「明日はコンテストだし、そろそろ休んだほうがいいんじゃないかな?」

 

元気の無いハルカを心配するマサトとサトシはそう言うが、今無理に休もうとしても中々寝付けず逆効果だろう。

浮かない表情をするハルカをどうにかしてやろうと、ソラトはハルカの横に立つと共にカイナの夜景を眺める事にした。

 

「…」

 

「どうした、ハルカ。何か悩み事か?」

 

「…うん、まぁちょっと」

 

「昼間会ったシュウって奴に言われた事、気にしてるのか?」

 

多くを語らずにいたハルカだったが、信頼するソラトに図星を突かれたためか観念したように大きく頷いて顔を伏せた。

 

「ねえお兄ちゃん、やっぱりコンテストは私にはまだ早いのかな…?」

 

今出場しても一次審査突破も難しいとシュウに言われたハルカの胸中には大きな不安が渦巻いており、出場を棄権してしまおうかとも考えてしまっている程だった。

それと同時に、シュウが言っていた通り…もし明日失敗して恥を掻くようなことになってしまえば、プライドがへし折られてしまいコンテストへの熱を失ってしまうかもしれないという不安もあった。

 

「…くく、くくっ!」

 

だがそんなハルカにソラトは何を言う訳でもなく堪えるように笑っていた。

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 私これでも真剣に悩んでるのよ!」

 

一体何を笑っているのかと不機嫌になるハルカに対して、ソラトは慌てて平謝りする。

 

「いや、悪い悪い。今のハルカの様子が5年前のルチアにそっくりだったんでな」

 

「私が…ルチアさんに…?」

 

「前に話しただろ? 5年前のルチアは今からじゃ想像できないほど引っ込み思案でな。自信なさ気でポケモンも不安そうにしてたんだ」

 

確かにソラトとルチアの出会いを聞いた限りでは、当時のルチアは今ほど自信も無く、それでポケモンのパフォーマンスに失敗していたと聞いた。

 

「だから、アドバイスも同じだ。トレーナーが自信を持てずに不安になってたらポケモンにまでそれが伝わって不安になり、パフォーマンスは上手くいかない。自分に自信を持つんだハルカ」

 

「でも、私なんかじゃ…」

 

背中を押すようにハルカを諭してやるソラトだったが、ハルカはそれでも自分に自信が持てないようだった。

そんなハルカをソラトは懐かしいものを見るような目で見ると、荷物の中からある物を取り出してハルカに差し出した。

 

「ほら、ハルカ」

 

「え? これは…?」

 

「お前のコンテスト用の衣装だ」

 

「ええっ!?」

 

ソラトがハルカに手渡したのはピンクと白の、キラキラでヒラヒラの可愛らしい衣装だった。

広げてみればそれはどことなくルチアの衣装に似た雰囲気のあるものだった。

 

「いつの間に…」

 

「カイナに到着してから夜な夜な作ってたんだ。ルチアの事を思い出して、デザインもそれに習うようにしてみたんだが…どうだ?」

 

「凄く可愛いかも!」

 

どうやらハルカはこの衣装を気に入ったようで、衣装を胸に抱きながらピョンピョンと飛び跳ねていた。

その反応が嬉しくてソラトも良い笑顔を浮かべる。

 

「衣装が変われば気分が変わる。気分が変われば不安もすっ飛ぶ。不安が無くなれば…最高のパフォーマンスができる筈だ」

 

「ありがとうお兄ちゃん! これ、大事に着るわ!」

 

ソラトの言うとおり、コンテスト用の衣装はハルカの不安を払拭したようで先ほどまでの浮かない表情から一転。

ハルカは幸せそうな笑顔を浮かべてソラトにお礼を言った。

こうしてどうにかハルカは不安を振り払い、明日のポケモンコンテストカイナ大会へと臨む事になる―。

 

「ところでお兄ちゃん、この衣装私にピッタリみたいだけれど…サイズとかどこで調べたの?」

 

「あー…すまん、ハルカが寝てる間にちょっとな…」

 

「――っ!?」

 

好意を抱く相手に、寝ている間に体を採寸されたと知ったハルカは顔を真っ赤にして逃げるように寝室へと駆け出した話は…しなくても良いだろう。

 

 

 

 

 

ポケモンコンテストカイナ大会当日。

会場には日頃から鍛えられ、練習を重ねたコーディネーターとポケモンのパフォーマンスを見ようと客席を埋め尽くすほどの観客がやって来ていた。

観客席の最前列にはハルカの活躍を見るためにサトシとマサトとソラトの姿があった。

 

「お姉ちゃん大丈夫かな?」

 

「なーに、カイナに着いてからずっと練習してたんだ。きっと行けるさ!」

 

「ピカピ! ピカピカチュ!」

 

「ああ、練習は十分。後はハルカ次第だ」

 

心配しながらも全力で応援する3人は、コンテストが始まるのを今か今かと待ちわびていた。

一方でハルカもソラトから貰った衣装に身を包みコンテストの開始を選手控え室で待っている。

 

「あ~、緊張する~! 大丈夫よ私、お兄ちゃんにも言われたじゃない、自信を持てって!」

 

緊張から少々硬くなっていたが、昨晩ソラトから受けたアドバイスを思い出して気合を入れなおしていた。

そんなハルカは控え室のベンチに座っている昨日見た緑色の髪の少年、シュウを発見した。

昨日あんな事を言われたため声を掛けるべきか少々悩んだハルカだったが、一応ライバルとなるため宣戦布告をしておこうと意気込みシュウの前に立った。

 

「シュウ」

 

「おや、ハル…カ…」

 

声を掛けられたシュウはハルカへ目を向けるが、目を大きく見開くと顔を紅潮させた。

無理もない。今のハルカは衣装によっていつもよりも更に可愛らしくなっており、昨日会った時とは大きく違う印象を相手に与える。

シュウも思わずハルカに見とれてしまったのだろう。

 

「シュウ、どうしたの?」

 

「…あっ! いや、何でもないよ。それより、どうかしたのかい?」

 

ベンチから立ち上がったシュウを見れば、彼もまたドレアスアップしており白いタキシードが決まっている。

彼とロゼリアを象徴するかのように挿された胸の赤い薔薇が印象的である。

 

「昨日アナタにああ言われたけれど、私は全力でコンテストに臨むわ! アナタにも負けない…きっと優勝してみせるわ!」

 

「フッ、口でならどうとでも言えるさ。コーディネーターなら、演技で示さないとね」

 

ハルカの宣戦布告に、シュウはいつも通りクールに対応すると前髪を掻き分けるような仕草をしてその場を立ち去った。

シュウの背中を見送ったハルカは再び本番前に集中しようと深呼吸しようとするが―

 

「えいっ!」

 

「きゃあああっ!?」

 

突然背中から抱きつかれて驚きから大声を出してしまった。

ハルカが背中を見ればそこには青い衣装とエメラルドグリーンの髪が印象的なハルカのコーチでありライバルであるルチアが居た。

 

「ル、ルチアさん!? どうしたんですか!?」

 

「ウフフ! ハルカちゃんが見えたからちょっとだけ驚かせようと思って。それよりその衣装、もしかして…」

 

「あ、はい! お兄ちゃんが作ってくれたんです」

 

「やっぱりソラトくんのお手製だったんだ。私の衣装に似てるからもしかしてって思ったけど」

 

ハルカにとってもこの衣装は特別な物であるし、ルチアにとってもソラトから受け取った衣装はこの世界に2つととない大切な物だ。

ソラトからすればハルカとルチアを応援するために作っただけの衣装であったとしても、2人にとっては何物にも替えられない大切な宝物だった。

そしてハルカもルチアも…お互いがソラトに抱く感情をもう察していた。

 

「ハルカちゃん。私、ここ数日あなたをコーチしてきたけれど…コンテストも、恋も絶対に負けないよ!」

 

「私だって負けません! ルチアさんにだって勝つつもりですから!」

 

「そうだね! 言うなれば…キラキラ~! くるくる~? 必然の出会い! バチバチ☆ライバルバトルって感じだね!」

 

「はいっ!」

 

ルチアとも改めてライバルとして、女の子として互いに宣戦布告すると控え室のモニターが表示された。

いよいよポケモンコンテストカイナ大会の開催である。

モニターの奥、コンテストステージでは司会進行の女性と3人の審査員達が映し出されていた。

 

「レディースアンドジェントルメーン! お待たせ致しました! ホウエン地方ポケモンコンテスト、カイナ大会の始まりでーす!」

 

「「「わぁああああああああっ!」」」

 

司会の女性ことビビアンがコンテストの開催を宣言すれば、満員御礼の観客席は歓声に包まれてコーディネーター達の演技を今か今かと待ちわびていた。

だがその前に審査員の紹介をしなければならない。

ビビアンは審査員席の横へ移動すると各審査員を紹介していく。

 

「その出場者達を厳しく優しく審査して頂くのはこちら、大会事務局長のコンテス太さん。ホウエンポケモン大好きクラブ会長のスキ蔵さん。そしてカイナシティのジョーイさんです!」

 

審査員の紹介が終われば、会場にある大きな特設モニターにコンテストリボンが映し出された。

 

「見事優勝に輝いたコーディネーターとポケモンには、栄誉あるこのカイナリボンを贈呈! 各地で開催されたコンテストを勝ち抜き、リボンを5つ集めたグレイトなアナタにはトップコーディネーターの祭典! ポケモングランドフェスティバルへの参加が認められちゃいますよー!」

 

そう、それこそがコンテストの道を進むコーディネーターの夢であり目標。

そのための一歩として参加者全員がこの大会での優勝を狙っている。

コーディネーター達の熱い戦いが、今幕を開けた。

 

「それではエントリーナンバー1番の方、どうぞ!」

 

歓声と共にステージの奥からエントリーしたコーディネーターが現れると、パートナーのポケモンを繰り出して演技を開始する。

一次審査は魅せる演技。技を決め、ポケモンを魅せるために、次々とポケモン達の素晴らしい技が繰り広げられる。

観客の歓声と共に演技が進んでいき…。

 

「では続きましてエントリーナンバー10番、トップコーディネーターにしてアイドル! 前回グランドフェスティバルの覇者! ルチアさんの登場です!」

 

続いてはルチアの出番だった。

まだ登場しただけで演技すら行われていないというのに、客席は今日1番の大盛り上がりを見せていた。

 

「うわ、凄い熱量だ…!」

 

「流石はルチアさんだね」

 

「…俺もルチアのコンテストの演技を見るのは5年ぶりだな」

 

周囲のボルテージは最高潮だが、ソラトはそんな声など気にせずに、懐かしむような瞳でルチアを見つめていた。

最前列にいたためルチアからも目についたのだろう。ソラトとルチアの目が合うと、ルチアは少しだけ頬を染めてモンスターボールを構えた。

 

「お願い、チルルッ!」

 

「チールーッ!」

 

繰り出されるは勿論チルル。

ボールから飛び出したチルルはルチアと共にクルリと回ってポーズを決めると空中で静止した。

コーディネーターと共に決めたポーズによって出だしは好調といった所だろうか。

 

「チルル、りゅうのいぶき!」

 

「チールー!」

 

チルルは上空へ向けてドラゴンエネルギーを吐き出すと空中で破裂するようにエネルギーが四散する。

それと共にチルルは一気に飛び上がった。

 

「そこから、連続でつばめがえし!」

 

「チルチルチルッ!」

 

四散しようとするエネルギーの周囲をつばめがえしの凄まじいスピードで飛び回ると、エネルギーは風に煽られて集合する。

まるでチルルの動きに合わせてドラゴンエネルギーが固まり踊るように。

その光景に会場はただただ見とれるばかり。

不定形であるりゅうのいぶきのドラゴンエネルギーをつばめがえしで纏め上げてしまうというのは、相当の技量が無ければできない事だ。

 

「フィニッシュだよチルル! コットンガード!」

 

「チルルッ!」

 

そして翼を羽ばたかせると綿のような羽を周囲に散らして緑色のドラゴンエネルギーとフワフワの綿羽が周囲に飛び散ってフィニッシュを飾った。

幻想的な光景に、最早誰も言葉を発する事ができず会場は静まり返ってしまう。

 

「…はっ!? そ、それではルチアさんの演技でした! 審査員の皆さん、どうでしたか?」

 

「とても美しい光景でした。何度でも見たいと思えるほどに」

 

「いや~、スキですねぇ」

 

「流石トップコーディネーター。技の美しさだけでなく、チルタリスの美しさを引き立てる演技が素晴らしい」

 

各審査員からも絶賛であり、審査員達の評価が終われば会場は再び大きな歓声を上げて盛り上がる。

これが全国でも有数のトップコーディネーターの実力だった。

控え室のモニターでルチアの演技を見ていたハルカは息を呑んでそれを見ていた。

いや、ハルカだけではない。シュウも、他のコーディネーター達も瞬きをするのも忘れてモニターに食い入るように目を向けていた。

 

「ルチアさん…! やっぱり凄い…凄すぎるかも…!」

 

今までコーチをしてもらい、何度かお手本の演技を見せてもらっていたがそれよりも数段美しく感じたほどだ。

これがコーディネーターとして本気のルチアの力なのだろう。

 

そしてルチアの演技が終わっても次のコーディネーターの演技も続く。

ルチアに負けないとばかりにかっこよく、たくましく、かしこく、かわいく、うつくしいアピールが繰り広げられる。

次はエントリーナンバー24番―シュウの出番だった。

 

「ロゼリア、ゴー!」

 

「ロッ」

 

「はなびらのまい!」

 

「ローゼーッ!」

 

登場と共に桜色の花びらの嵐を生み出して着地する。シュウも出だしは美しく決まった。

 

「ロゼリア、はなびらのまいで華麗に登場! これはビューティフォー!」

 

「あいつ、言うだけあって中々やるな…!」

 

「ピィカ…!」

 

「うん、昨日練習してたはなびらのまいがバッチリ決まったね」

 

ビビアンの実況を聞きながらサトシ達は表情を厳しくする。

昨日公園で出会った時の練習風景から只者ではないと分かっていたものの、実際に本番を目にするとまた違って見える。

 

「続いて、しびれごなからマジカルリーフ!」

 

「ロゼー…ロッゼリッ! ローゼリャー!」

 

ロゼリアはまずはしびれごなを周囲に撒き、それを切り裂くようにマジカルリーフを放った。

オレンジ色のキラキラを輝くしびれごなを乗せ周囲を飛ぶマジカルリーフを纏うロゼリアの美しさはかなり際立っていた。

 

「そろそろフィニッシュといくか…ロゼリア、はなびらのまいだ!」

 

「ローゼー!」

 

再び両手の薔薇からはなびらのまいで桜色の花びらを生み出したロゼリアは、花びらに隠れて姿を消してしまう。

観客や他のコーディネーターからもどよめきが起こる。

本来はもっとポケモンをアピールしなければならないのに逆にポケモンを隠してしまったのだ。

ミスかとも思われたその時、シュウが動いた。

 

「マジカルリーフ!」

 

「ロゼリャー!」

 

桜色の花びらの奥から七色に輝くマジカルリーフが現れて花びらを切り裂き細切れにしてしまった。

まるで塵に還るかのように消えていく花びらを見送り、シュウとロゼリアは優雅に一礼をしてフィニッシュとした。

 

「フッ、決まった…」

 

「素晴らしい演技です! 他の参加者を圧倒するかのパフォーマンスです!」

 

ルチアほどではないが歓声も大きく、今の演技でシュウも間違いなく優勝候補の一角に名を連ねただろう。

ライバルであるルチアとシュウの活躍をモニター越しで見ていたハルカはプレッシャーを感じ、手のひらに汗を滲ませていた。

 

「シュウ…やっぱり凄いかも…。それでも、私も負けられない…!」

 

ハルカもそろそろステージの準備をしなければならない。

自分を落ち着かせるためにも、アゲハントの入ったモンスターボールをギュッと握り締めるとハルカはステージへと向かった。

 

そして、いよいよ運命の時が訪れる。

 

「では続きましてエントリーナンバー41番、ハルカさんの登場です!」

 

「よ、よーし…!」

 

気合を入れなおしたハルカはステージの上へ移動する。

 

「ハルカさんは今回が初めてのコンテスト参加となります。では、ポケモンの登場を華麗に決めて頂きましょう!」

 

ビビアンの紹介と共に観客達は拍手と声援でハルカを出迎える。

観客達は純粋に応援してくれているのだが、こういった舞台が初めてのハルカにとってはそれもプレッシャーとなってしまう。

しかし怯む訳にはいかなかった。

恐らく二次審査に進むであろうライバル達と対等に戦うためにも、そして応援してくれているサトシやマサトのためにも…背中を押してくれたソラトのためにも。

 

「…すぅーはぁー」

 

最後に自分を落ち着けるために深呼吸をして、ソラトとルチアに教わった事を思い出す。

そしてカッと目を見開くと、ハルカはモンスターボールを投げた。

 

「アゲハント! ステージON!」

 

「ハハァーン!」

 

見事な羽をアピールするように飛び出したアゲハントは会場のライトを浴びて光り輝いていた。

アゲハントの登場と共に会場の声援は更に大きくなる。ハルカも掴みはOK。ルチアにもシュウにも負けてはいない。

 

「アゲハント、かぜおこしよ!」

 

「ハァーン!」

 

用意していたフリスビーを投げてアゲハントに指示を出すと、アゲハントも落ち着いた様子でかぜおこしを放ちフリスビーを滞空させる。

だがそれに収まらずアゲハントはかぜおこしを強くするとフリスビーを押し返してハルカへと返した。

 

「いいわよ! もう1度っ!」

 

「ハハハァーン!」

 

再びハルカの手からフリスビーが投げられアゲハントがかぜおこしでそれを受け取るというラリーが何度が続きアゲハントの技の練度をアピールする。

フリスビーは完璧にコントロールされており、技のアピールとしては十分だと言える。

 

「おおっ! これは見事なラリー! アゲハント、完璧なかぜおこしで魅せてくれます!」

 

ビビアンも、審査員の反応も悪くない。

観客席で見守るサトシ達から見ても、今のところ演技は完璧。問題なかった。

 

「いいぞハルカーッ!」

 

「頑張れアゲハントー!」

 

「ここからだ…! 魅せろハルカ! お前の全部を!」

 

観客席で見ているだけのサトシ達まで熱くなってしまい、大声でハルカへと声援を送る。

その声はハルカにも届いたのだろう。笑顔でフィニッシュへと持っていく。

 

「よーし、フィニッシュいくわよ! アゲハント、いとをはく!」

 

「ハァアアアン!」

 

空中へ向けていとをはくによりキラキラ輝く糸が放たれ―

 

「かぜおこし!」

 

「ハァアアアアンッ!」

 

―かぜおこしにより糸が細く大きく広がった。

細やかになった糸はライトの光を反射して更に輝きを強くし、舞い降りる糸の中心にいるアゲハントはその光を受けて更に美しく輝き、フィニッシュとなった。

 

「なんと素晴らしい演技でしょう! とてもコンテスト初出場とは思えません!」

 

そう、ビビアンの言うとおり初出場とは思えないほどの演技に会場にはスタンディングオベーションが巻き起こっているほどであった。

 

「えへへ…! うまくいったかも!」

 

「ハンッ!」

 

演技を終えたハルカはアゲハントを労わりつつ控え室へと戻っていった。

ハルカの後にも数人が演技を続け、総勢50名のコーディネーターとポケモンの一次審査が終了した。

 

控え室に戻ったハルカは再び食い入るようにモニターを凝視していた。

ベストを尽くしたが、一次審査が突破できたとは限らない。二次審査へ進む8人が発表されるまでは安心などできないのだ。

そしてそれはこの場にいる全てのコーディネーターも同じ。

祈るような気持ちで結果を持つ。

 

「はーい、お待たせしました! 一次審査を突破したのは…この8人のコーディネーターさん達です!」

 

モニターに映し出された8人のコーディネーターの中にはルチアを筆頭にシュウ、そしてハルカも入っており、ライバルが揃って二次審査へ進めた事にハルカは満面の笑みを浮かべた。

隣にいたシュウはハルカが通った事に少々驚いてはいたが、すぐに普段のクールな笑みを浮かべていた。

 

「やった! ありがとね、アゲハント!」

 

「ハンハン」

 

「フッ…思ったよりはやるみたいだね。でも、勝負はここからが本番さ」

 

同時刻、観客席でもモニターによってハルカが一次審査を通過した事を知ったサトシ達もハルカ本人に負けず劣らず盛り上がっていた。

 

「凄いぞ! 二次審査に進出だ!」

 

「ピィカッ!」

 

「これは優勝狙えるかもね!」

 

確かにベスト8にまで残り、二次審査のコンテストバトルを勝ち抜けば優勝もあり得るだろう。

しかしソラトには少しだけ懸念事項があった。

 

「だが次の審査はバトルだからな…ハルカはあまりバトル慣れしてないから、ここからが正念場だろうな」

 

「「そっか…」」

 

盛り上がりもそこそこにソラトの懸念事項を受けてサトシとマサトの表情が僅かに曇る。

ここ数日の練習もハルカは一次審査に向けてのアピールの練習ばかりだった。

この先の二次審査ではバトルの腕も試される事になる。

そしてモニターに映る8人の参加者の写真がシャッフルされていく。

 

「この8人がシャッフルされ、二次審査であるコンテストバトルの対戦カードが…決まりました!」

 

シャッフルが止まると、トーナメントの表が出来上がる。

ルチアはAブロックに、ハルカとシュウはBブロックに割り振られたが、何よりも…。

 

「ええっ…!? シュウが、対戦相手…!?」

 

そう、Bブロック第1試合はハルカ対シュウの対戦カードとなったのだ。

いきなりのライバルとの対決に動揺を隠せないハルカだったが、シュウは冷静だった。

 

「悪くない組み合わせだね」

 

「…負けるもんですか」

 

こうしてコンテストは更に熱を帯びて二次審査へと進んでいく。

先にAブロックでの試合が開始されるが、此方は圧倒的な実力で相手のポイントを奪ったルチアが完勝してしまった。

あっという間にAブロックの試合は終わってしまい、ハルカ達の出番が回ってくる。

先ほどのステージとは違い、明確なバトルフィールドの上で行われるコンテストバトル。

ハルカはシュウと対峙し、モンスターボールを構えた。

 

「さぁ、二次審査はコンテストバトルです。5分という制限時間の中で如何に技を決め、相手のポイントを削れるかが勝負です! それではBブロックの第1試合、スタート!」

 

審判でもあるビビアンのバトル開始の合図と共に、ハルカとシュウはモンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。

 

「さぁ、ロゼリア! ゴー!」

 

「アゲハント! ステージON!」

 

「ロゼ」

 

「ハァン」

 

ロゼリアとアゲハント。相性で言えばアゲハントが圧倒的に有利だが、コーディネーターとしての経験はシュウが上だろう。

ならばこの勝負は、コーディネーターとポケモンのコンビネーションが物を言う。

先に仕掛けたのはシュウだった。

 

「ロゼリア、マジカルリーフ!」

 

「ロッゼー!」

 

七色に輝く草の刃放つロゼリアに対して、ハルカは冷静に対応する。

 

「アゲハント、かぜおこし!」

 

「ハァアアア!」

 

かぜおこしとマジカルリーフがぶつかり合うと、かぜおこしはマジカルリーフを弾き飛ばした。

ロゼリア自身にダメージは入っていないが防御1つで相手のポイントを削れるコンテストバトルならば有効な対応に思えた。

しかし、左右に弾かれたように見えたマジカルリーフは突如軌道を変えるとアゲハントを左右から挟みこむ形で襲い掛かった。

 

「ハァアアンッ!?」

 

「そんな…!?」

 

「甘く見ないで欲しいね。マジカルリーフは相手に必ず命中する技なんだ。あの程度のかぜおこしで弾き返したからって、安心するからいけないのさ」

 

マジカルリーフの特徴を知っていれば回避行動も取れたかもしれない。そう思うとソラトはハルカにバトルの事をあまり教えてやれなかった事を悔やんでしまう。

モニターに表示されるハルカのポイントバーが減少してしまい試合が進むと、シュウが更なる追撃に出た。

 

「しびれごな!」

 

「ローゼリーッ!」

 

両手からしびれごなを放つロゼリアに対し、今の一連の流れで息が乱れてしまったハルカとアゲハントはそれを避ける事すらできなかった。

アゲハントはまひ状態になってしまい動きが鈍くなり技が出し難くなってしまう。

 

「アゲハント、いとをはく!」

 

「シューッ!」

 

「マジカルリーフ!」

 

「ロゼッ!」

 

口先から糸を吐いたアゲハントだが麻痺しているせいか動きが鈍くキレも無い。

そんなハルカ達を軽くあしらうようにシュウとロゼリアは再びマジカルリーフを放つと糸をバラバラに切断してしまった。

 

「ああっ…!」

 

ハルカのポイントが更に減少してしまい、観客席のサトシ達も表情を歪めて試合を見守る。

 

「こりゃまずいぜ…!」

 

「アゲハントとの息がバラバラだ。ハルカ、立て直せるか…!?」

 

どうにかしてこの悪い流れを断ち切ろうとハルカは再び反撃に出る。

 

「アゲハント、ぎんいろのかぜ!」

 

「ハァーン!」

 

アゲハントの羽が輝き虫の力が込められた風が放たれロゼリアに迫る。

この攻撃が決まればロゼリアに大ダメージを与えられる上にポイント的に追い上げる事もできるが…シュウとロゼリアは涼しい顔で対応した。

 

「ロゼリア、はなびらのまい!」

 

「ローゼリー!」

 

ロゼリアの両手の薔薇から桜色の嵐が巻き起こりぎんいろのかぜを弾き返し、そのままアゲハントへと攻撃しようとする。

 

「飛び上がってかわして!」

 

「ハァン」

 

「決めるよロゼリア、ソーラービーム!」

 

「ローリー……!」

 

どうにか攻撃を回避できたハルカとアゲハントだったが、ここでシュウはくさタイプ最大の技であるソーラービームを指示。ロゼリアは両手の薔薇に周囲の光を吸収してエネルギーをチャージし始める。

チャージ中は動けないが、これが放たれれば勝負を決める一撃になりかねない。

 

「おーっとロゼリア、ソーラービームの体勢に入りました! 貴重な残り時間を使ってエネルギー充填を図っているという事は…勝負に出たかーっ!?」

 

残り時間は後2分と少し。ポイントはシュウは無傷でハルカは残り3分の1程度。

ハルカも追い上げないと勝機が無くなってしまう。

 

「ハルカ! 攻撃するなら今だぞ!」

 

「ええ! アゲハント、いとをはく!」

 

観客席からのサトシの声が届いたハルカはソーラービームで動けないロゼリアに向けて攻撃を放つ! だが…

 

「アゲハントが攻撃に出たー!」

 

「ローッ!」

 

アゲハントの攻撃が届く前に、ロゼリアのエネルギーチャージが終了してしまった。

両腕の先から放たれる虹色にも似た強大なビームが糸を引き裂きアゲハントへと直撃する。

 

「ハァアアアアアアアン!?」

 

「ああっ!?」

 

「「アゲハント!」」

 

「…ここまでか」

 

ソーラービームを受けたアゲハントはボロボロになってしまい、羽ばたくのを止めてバサリと地面に落ちて倒れた。

まだハルカのポイントは僅かに残っているが、ソラトはアゲハントの様子から結果を察してしまった。

 

「くさタイプ最大の技がアゲハントにクリーンヒット! 残り時間は後僅か。バトル続行可能なのでしょうか!?」

 

ポイントはまだ残っており、残り時間は残り1分半といった所。アゲハントが立ち上がる事ができればまだ勝機は残されていた。

だが、アゲハントの様子からバトル続行が不可能と判断した審査員達は審査パネルに×印を表示させた。

これはつまり…

 

「アゲハント、バトルオフ!」

 

ビビアンがバトルオフを宣言すると、会場から歓声が上がった。

聞きなれない言葉に、サトシは困惑するもののバトルの様子と言葉の響きからハルカにとって良いものでないとは察しがついていた。

 

「バトルオフ?」

 

「つまり、戦闘不能って事だ」

 

「そうか…」

 

タイプの相性ではアゲハントに分があったが、ロゼリアとのレベル、シュウとのコーディネーターとしての技量の差はダメージを蓄積させ、戦闘不能にまで追い込まれてしまったのだ。

 

「シュウさんとロゼリアが、準決勝へと進出でーす!」

 

「…フッ」

 

「……」

 

勝負が決まったシュウとロゼリアは紳士的に会場と審査員、そして対戦相手のハルカとアゲハントへ一礼をすると、キザったらしく前髪を掻き分けて退場していった。

その様子は、ハルカはアゲハントを抱きしめながら涙目で見送る事しかできなかった…。

 

「お姉ちゃん…負けちゃった…」

 

「コンテストバトルもやっぱりバトルなんだ…。途中でもポケモンが負けたら終わりなのか…」

 

「ああ…今のハルカにはキツい相手だったな。シュウとロゼリアか」

 

会場の大型モニターにはシュウとロゼリアの写真と、大きなWINNERの文字が表示されておりシュウの勝利を称えていた。

バトルとハルカの様子を見ていたルチアも、どこか残念そうにしていた。

自らコーチを行い、新たなライバルとなったハルカとの直接対決は実現しなかった事が残念だったのだ。

 

 

 

 

控え室に戻ったハルカはベンチに腰掛けながら涙を流していた。その涙は頬を伝い、悔しさからギュッと握り締めた手の甲に落ちる。

どうにか慰めようとサトシとマサトは言葉を探すが、どう声を掛けたらいいものか分からなかった。

 

「お姉ちゃん…」

 

「私、何もできなかった…! アゲハント、あんなに頑張ってくれたのに…私、ぜんぜんダメだった…! 悔しいよ…!」

 

「ハルカ…」

 

「私、ポケモンコンテスト、出場するだけで楽しいって思ってた…アゲハントと一緒に出られればって…」

 

大好きなポケモンと一緒に何かをするというのは、トレーナーにとってこれ以上ないほどの楽しみである事は間違いない。

ハルカだってコンテストを十二分に楽しんでいた。

ただ、知らなかったのだ。

 

「でも…やっぱり負けるのは悔しい!」

 

涙を流しながら、更に力強く手を握ってハルカは強い声色でそう言った。

初めて知った苦い敗北の味。

だがそれは次へ進むためのエネルギーになる。

また1つ成長したハルカを見て、ソラトは嬉しそうにハルカの横に腰掛けると、優しく頭を撫でてやった。

 

「お兄ちゃん…?」

 

「ハルカ、お前はポケモンコーディネーターだ。俺なんかよりよっぽど立派な」

 

コーディネーターとしての試合を途中で放り出してアラシを探しにいったソラトよりも、ハルカの方がよっぽど真剣にコーディネーターとして成長しようとしている。

だから、ハルカは将来とても良いコーディネーターになるだろうと、ソラトは確信した。

 

そうしていると、控え室のモニターから歓声が聞こえる。

現在の試合は決勝戦で、対戦カードはやはりと言うかルチアとシュウの戦いになっていた。

 

「さぁ決勝戦も既に4分が経過! 準々決勝、準決勝を難なく勝ち進めてきたロゼリアですが、圧倒的な強さのチルタリスに攻めあぐねています!」

 

「チルル、りゅうのいぶき!」

 

「チールーッ!」

 

空を飛び高所から撃ち下ろすようにチルルはドラゴンエネルギーを口から発射すると、ロゼリアに命中する。

表示されているポイントの残りはルチアが8割ほど、シュウが4割ほどになりルチアが有利だった。

 

「くっ! ロゼリア、マジカルリーフ!」

 

「ローゼリーッ!」

 

反撃のためにマジカルリーフを放つシュウとロゼリアだったが、ルチアにも油断は無い。

 

「チルル! つばめがえし!」

 

「チールルーッ!」

 

絶対命中同士の技のぶつかり合いだが、高所から急速降下するチルルは強烈な気流を纏っておりマジカルリーフを全て弾いてしまっていた。

そしてマジカルリーフを破り、チルルのつばめがえしがロゼリアに命中する。

 

「ロゼーッ!?」

 

「ロゼリア!」

 

シュウのポイントが更に減ると同時に残り時間が0となってタイムアップとなる。

残りポイントの差は歴然、つまり勝ったのは…。

 

「タイムアーップ! ポケモンコンテストカイナ大会! 優勝したのは…ルチア選手とチルタリスです!」

 

「やったぁ! やったねチルル!」

 

「チルッ!」

 

大いに喜ぶルチアとチルルに対して、普段はクールで冷静沈着なシュウも今は悔しさに手を握り締めていた。

 

「…ここまでか。お疲れ様、ロゼリア」

 

「美しさだけではなく、かっこよさ、たくましさも魅せてくれたチルタリス! 流石、コーディネーターとの息もピッタリでした!」

 

モニターを見ていたサトシ達も驚きを隠せなかった。

ハルカを全く寄せ付けることの無かったシュウも、トップコーディネーターであるルチアには歯が立たずに敗北してしまったのだ。

 

「あのシュウを相手に…」

 

「チルタリス、凄かったね…」

 

「あれがトップコーディネーターだ。コーディネーターの頂点の1つ」

 

「トップ…コーディネーター…」

 

そしてポケモンコンテストカイナ大会の全プログラムが終了し、リボンの授与式へと移行する。

サトシ達もハルカの着替えを終えると、皆客席へと向かいルチアへのリボン授与式を見届ける。

 

「今、優勝したルチアさんとチルタリスに、カイナリボンが授与されました! ポケモンコンテストカイナ大会は、これにて終了です! またお会い致しましょう!」

 

ビビアンの言葉と共に正式にカイナ大会が終了される。

だが会場は熱気が残っており、まだしばらくこの興奮は続きそうだった。

 

「…」

 

「あれ、シュウ…?」

 

そしてハルカ達は、客席にいたシュウがルチアへのリボン授与を見届けると足早に立ち去っていくのを視界に納めたため、彼の後を追いかけた。

会場の外は夕暮れ時になっており、シュウは次のポケモンコンテストが開催される街へ行くために足を進める。

そんなシュウの背中に、追いついたハルカは声を掛ける。

 

「シュウ!」

 

「ん?」

 

「私、今度は絶対負けないから!」

 

今度は負けない。

そんなハルカの、次のコンテストに向けての意気込みを聞いたシュウは、先日自分が言った事が間違いであったと認めて笑みを浮かべるとこう言った。

 

「…ああ、期待しているよ」

 

それはハルカをライバルとして認めたというシュウなりの敬意だった。

 

「まぁ、その時には僕ももっと強くなってるだろうけどね」

 

しかし続く言葉から、シュウも相当な負けず嫌いである事が伺えた。

シュウから認められたと分かったハルカは悔しさと共に嬉しさも同時に胸の奥から湧き出てきた。

そしてシュウは今度こそ立ち去っていった。

 

「シュウのやつ、更にやる気が出てきたみたいだな」

 

「えぇ!」

 

遠ざかっていくシュウの背中を見送ったハルカ達だが、今度はそんなハルカの背中へと声が掛かる。

 

「ハルカちゃん!」

 

「あっ、ルチアさん」

 

後ろにいたのはリボン授与式を終えたルチアと、彼女のマネージャーだった。

ルチアはハルカへと歩み寄ると、その手を取ってキラキラした目で話しかけた。

 

「ハルカちゃん! 今日のあなた、とってもキラキラしてたよ! 次のコンテスト、頑張ってね!」

 

「…! はい! 私、いつかルチアさんと直接対決できるように頑張ります!」

 

「その時を楽しみにしてるね! それじゃあ私、次のお仕事があるからまたどこかで会おうね!」

 

「はいっ!」

 

ルチアは売れっ子アイドルでもあり、様々な仕事に引っ張りだこである。

いつまでも一箇所に留まっている訳にもいかないため、一旦ルチアとはここで別れる事になるだろう。

最後にルチアはソラトの元へとやって来る。

 

「ソラトくん、また会えてよかったよ」

 

「ああ、俺もだ。ハルカもコンテスト巡りを続けるだろうから、またその内会えるだろうな」

 

「……あのね、ソラトくん」

 

赤い夕暮れに照らされて分かり難いが、ルチアは顔を赤くしてモジモジとしている。

 

「何だ?」

 

「……ううん! なんでもないよ! ソラトくんもアラシさんを探すの、頑張ってね!」

 

「あぁ。いつか、必ず見つけ出すさ」

 

本当に伝えたかった事は、恥ずかしさと久しぶりに会えた想い人との関係を壊したくなくて出てこなかった。

だからせめて、彼が目的を果たせるように応援を―。

 

「それじゃあ、またね!」

 

「あぁ、またな」

 

「ルチアさん、ありがとうございました!」

 

初めてのコンテストを敗北で終えたハルカ。

だが、良きライバル達にも巡りあえたハルカの挑戦は、まだまだこれからである!

 

 

 

to be continued...




最初のコンテストはやはり敗退で終えましたね。原作通りです。
次回の投稿なのですが、ちょっと間が開くと思います。
恐らく1週間くらいだとは思いますが、どうかご了承下さい。


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むげん島の冒険

ポケッターリ
モンスターリ


ポケモンコンテストカイナ大会を終え、ルチアと別れたサトシ達。

そろそろ次のジムがあるキンセツシティを目指すために出発の準備を整える事になったのだが…。

 

「「「むげん島?」」」

 

「ああ、カイナシティの南にある小さな島なんだが…その島には珍しいポケモンが住んでいるらしいんだ。ツワブキ社長から預かった荷物を造船所に届けた時、お礼にむげん島行きのチケットを貰ったんだ。折角だしカイナを出発する前に行ってみないか?」

 

ソラトの手には小さなチケットが握られている。以前造船所のクスノキ館長から譲り受けたむげん島行きのチケット、むげんチケットだ。

今日明日にもカイナを出発する予定だったのだが、朝食の最中にソラトに提案されたサトシ達は目を輝かせていた。

 

「ピッカー!」

 

「僕行きたーい!」

 

「俺も構わないぜ!」

 

「私も! 次のポケモンコンテストに備えて、可愛いポケモンをゲットしたいかも!」

 

珍しいポケモンがいる、と聞いたマサトは大賛成のようだ。

サトシとハルカも乗り気のようなので、満場一致である。

 

「それじゃ、飯を食い終わったらむげん島行きの船のある港に行ってみるか」

 

「「「おーっ!」」」

 

テンションが上がるサトシ達だが、そんな彼らの会話に聞き耳を立てるポケモンセンターの清掃員が3人居た。

ツナギを身につけておりモップや雑巾で床や窓を磨く人物達は一見すればただの清掃員だが、その正体はいつものロケット団である。

今日もピカチュウゲットのためにサトシ達の隙を伺いつつ動向をチェックしているのだ。

むげん島へ行くという事を聞いたムサシ、コジロウ、ニャースは目立たない場所で集合すると作戦会議に入る。

 

「ほーう…珍しいポケモンがいるむげん島ね」

 

「フン、分かり易いじゃない。ジャリボーイ達の後をつけてその島に行き…」

 

「その珍しいポケモンをゲットすれば、幹部昇進支部長就任イイカンジは間違いナシニャ…!」

 

本来は一般人の立ち入りができない秘境であるむげん島だが、サトシ達の後をつければ発見と進入も容易い事だろう。

つまり島に入ってしまえばピカチュウも、その珍しいポケモンもゲットのチャンスがあるという事だ。

今日こそロケット団の野望のために、ムサシ、コジロウ、ニャースの3人は食事を終えてポケモンセンターから出て行くサトシ達の後を追いかける事にしたのだった…。

 

無論、清掃のバイト代はおじゃんとなった。

 

 

 

 

 

港にたどり着いたサトシ達はむげんチケットに書かれている船のある場所にまでやって来る。

だが大きな豪華客船のような物は見当たらない、普通の漁船のような船が多くある小さな港だった。

 

「ソラト、むげん島行きの船はどれなんだ?」

 

「んー…出発はこの港って事しか書かれてないな」

 

「あそこに人がいるよ。ちょっと聞いてみようよ」

 

チケットには場所しか書かれておらず、詳しい事が分からなかったため港にいる人物に声をかけて何か知っていないか聞き込みをしてみる事にした。

一先ずはマサトが見つけた桟橋の先で座っている青年に声を掛けてみる。

 

「あの、すいません」

 

「ん、なんだい?」

 

「この辺りからむげん島に行くための船が出てるみたいなんですけど、何か知りませんか?」

 

マサトの言葉に青年は表情を固くした。

 

「むげんチケットは持っているかい?」

 

「あ、はい。これです」

 

ソラトが持っていたむげんチケットを渡すと、青年はそれをまじまじと見つめる。

そしてソラトに目を向けると少しだけ威圧するような視線でソラトを射抜く。

何故そんな目で見られるのかソラト達も理解できないで戸惑うが、皆がその意図を問う前に青年が口を開いた。

 

「このチケットはどこで手に入れたんだい?」

 

「造船所のクスノキ館長から頂いたんです」

 

「…クスノキ館長か。なるほど彼が渡したのなら信用できる人なんだろうな」

 

問われた内容にソラトが正直に答えると、青年は納得したような表情になり威圧するような視線を収め、頭を下げた。

 

「変に威圧して悪かった。俺の名はヨウキ…むげん島の番人だ」

 

「「「「番人?」」」」

 

むげん島の番人というイマイチ把握しきれない事情に、サトシ達は揃って首を傾げてしまう。

しかし何か事情があるというのは何となく察することができたサトシ達は、ひとまず挨拶をしておく事にした。

 

「あ、俺サトシです」

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

「私ハルカです」

 

「マサトです」

 

「ソラトです。ところでヨウキさん、むげん島の番人とはいったい…?」

 

それぞれが自己紹介を終えるとソラトが代表して疑問を問う。

 

「むげん島には珍しいポケモンが沢山いるというのは知っていると思うけれど、そのポケモンを密猟者達から守るために俺が島に入る者を制限しているんだ」

 

なるほど、とサトシ達も納得した。

普段ロケット団からポケモン達を狙われているサトシ達ならではの納得である。

 

「それに…まぁ、むげん島には珍しいというよりも、特別なポケモンがいるんだ」

 

「特別?」

 

「ああ、とりあえずむげん島へ向かうとしよう。運が良ければそいつにも出会えるさ」

 

ヨウキはそう言うと桟橋の先にあった漁船に乗り込むとサトシ達にも乗り込むよう促す。

そしてサトシ達が漁船に乗り込むとヨウキは船を出してむげん島へと向かい発進した。

発進した船の後を追うように空をフワフワと漂いながら海に出たロケット団のニャース型気球もそれを追いかけた。

 

「ジャリボーイ達が海に出たぞ」

 

「ニャース、もっとスピード出せないの!?」

 

「んニャこと言われても、気球だから限界はあるニャ。見失わないように双眼鏡でジャリボーイ達を監視するのニャ」

 

「ソーナンス!」

 

気球のフワフワとした速度では漁船と言えども船には置いていかれてしまっている。

幸い海には身を隠す障害物はないため双眼鏡を使ってサトシ達を見張りながら追いかける事にした。

そうしてサトシ達が海を進み、ロケット団が空を進む事数十分。

 

「あれ、霧が出てきたよ」

 

マサトの言うとおり、突如として白い霧が出てきて視界が悪くなってしまう。

10メートルほど先ならば問題ないのだが、それ以上はほとんど先が見えなくなってしまった。

 

「むげん島は周囲に霧が掛かる特別な環境になっているんだ。そして、周囲の岩礁が生み出す特殊な海流もあって普通の船ではまず近づく事すらできない」

 

「ええっ!? じゃあどうやってむげん島に行くんですか!?」

 

「はは、大丈夫さ。むげん島の番人をやっている俺なら、海流のルートは把握しているしこの霧もむげん島が近いという目印でしかないからね」

 

近づくことすら難しい特殊な環境の事を聞いてハルカが慌てるが、ヨウキはこれっぽっちも取り乱す事無く船を操って海流に乗る。

海流に逆らわず、流れに身を任せつつ進路を取る。

 

「この環境のお陰でむげん島には独特の生態系が築かれていて、珍しいポケモンが住み着くようになったんだよ。外部からはむげんチケットを持った人を俺が時折案内するくらいしかないからね」

 

「つまり、ヨウキさんが認めた者以外は立ち入れない。その名の通り番人って事なんですね」

 

「あぁ…ただこの前、俺が案内した覚えの無い男がむげん島にいたんだ」

 

「と言うと…?」

 

「さっき言っていた特別なポケモンの様子を見るために、時々むげん島に足を運ぶんだが…その時ある男が島にいたんだ。そしてその特別なポケモンの片割れを連れて行ってしまったんだ」

 

「まさか密猟者が?」

 

内容だけ聞けば密猟者やポケモンハンターが何らかの手段を使って島に侵入して特別なポケモンを無理やり連れて行ってしまったという風にも取れる。

だがヨウキは首を横に振った。

 

「いや、話してみたけど悪い人じゃなかったよ。そのポケモンも自分の意思で彼についていくと決めたようだったしね。…でもどうやってやって来て、どうやって去っていったのかまるで分からないんだ」

 

「うーん、飛行機や飛べるポケモンに乗って空から来たとか?」

 

マサトがそう言うと、ヨウキはまたしても首を横に振った。

 

「この霧と海流の他にも、上空も強い気流があってね。並のひこうポケモンは近寄れないし、飛行機でも島に着く前に墜落してしまうんだ」

 

空も海も、ヨウキ以外の人間ではまともに近づけないむげん島にどうやってかやって来た人物。

それが誰なのか、どうやってやって来たのかをサトシ、ハルカ、マサトはうーんと唸りながら考えていたのだが…ソラトは何だか嫌な予感がしていた。

そこで荷物の中から写真を取り出し、ヨウキに差し出してみる。

 

「その、ヨウキさん…もしかして何ですがその男ってこんな風貌じゃなかったですか?」

 

差し出したのはソラトがアラシを探すのに使っている家族写真。

方法はソラトにも考え付かないが、神出鬼没のアラシならばむげん島にやって来ているのではないかという予感がしたため尋ねてみたのだ。

そしてその予想は当たっていた。

 

「ああ! この人だよ! もしかしてソラト君の知り合いなのかい?」

 

どうやってむげん島にやって来たのか、そしてそこにいる特別なポケモンを身勝手に連れて行ったアラシに対してソラトは呆れ、思わず右手で顔を覆ってしまった。

 

「やっぱりか…その男は俺の父親なんです。いつ頃来てましたか? 次にどこに行くとか言ってませんでしたか?」

 

「親父さんだったのか…見かけたのは確か3週間ほど前だったかな。どこへ行くかは言っていなかったけれど、ポケモンを連れて行ったのも何か特別な理由があったからだと思うよ」

 

「…そうですか。ありがとうございます」

 

時間的に考えて恐らくシーキンセツから直接むげん島に向かい、その特別なポケモンを連れて去っていったという所か。

ヨウキはアラシの事を悪く思っていないようなのでフォローしていたが、ソラトからすればソヨカの墓参りにも来れないほどの特別な理由とやらを問い質したい所であった。

 

「ともかく、もうすぐむげん島だ。到着したら俺から離れない所でなら自由に探検してくれて構わないからね」

 

「「「はーい!」」」

 

むげん島に到着するまでもう数分のところまで来ていたため、サトシ達は上陸の準備を整えて心を躍らせる。

 

 

 

 

 

そしてここはむげん島近海、その上空。

ニャース型の気球をどうにか操作してサトシ達を追っていたロケット団3人組だったが、霧の中にサトシ達が消えてしまってから追跡できないでいた。

 

「どう、コジロウ?」

 

「駄目だな。霧の中に入ってから完全に見失っちまった」

 

「どうすんのよニャース、何かこう、巨大扇風機とか作ってあの霧吹き飛ばせないの!?」

 

「んニャ無茶言われてもニャ…」

 

「こうなったら、あの霧の中にアタシ達も突入するわよ!」

 

せっかちで基本的に待つのが苦手なムサシからすればやる事のない現状は我慢ならない所があった。

そのため気球を操作して霧の中へ入っていく事になってしまう。

やはり霧の中は先が見通せず、これではサトシ達を発見しようにもかなり接近しなければ見つけられないだろう。

 

「んー、10メートルくらいなら先は見えるが…こりゃ見つけるのは難しいぞ」

 

「でもこのまま浮いてればその内むげん島にたどり着けるかもしれないニャ」

 

「それもそうだな」

 

「そこにはジャリボーイ達もいる筈よ。そこでピカチュウとむげん島の珍しいポケモンを一網打尽に―」

 

作戦を練っているロケット団の所へ、突如としてゴウッと吹き荒れる暴風がやってくる。

霧と共に気球をも吹き飛ばすその風に煽られたロケット団は思わず気球にしがみ付く。

 

「うわわわわっ!? ちょっと、どうなってんのよ!?」

 

「妙な気流の中に入っちゃったんじゃないか!?」

 

「うニャー!? ニャんにしてもこのままじゃマズいニャー!」

 

「ソーナンス!」

 

右へ左へ、上へ下へと風に煽られて気球ごと縦横無尽に吹き飛ばされていくロケット団。

しばらくは持ちこたえていたものの、気球の方に限界が来てしまい風に負けてバリっと破れてしまい急速落下していく。

 

「「「ぎゃああああああっ!? ウッソだぁああああああっ!?」」」

 

浮力を失い、風に煽られつつ海へドボンッ!と墜落してしまったロケット団。

勿論むげん島付近の特殊な海流に流されてしまう彼らの運命はどっちだ。

 

 

 

 

 

一方のサトシ達はむげん島に無事到着していた。

 

「よし、着いたぞ」

 

「わぁ…! これがむげん島なのね!」

 

むげん島自体には霧がかかっておらず、島を十分に視認できるようになっている。

美しい青々とした草原と森、島の中心にある見事な山、浜辺付近の海はほとんど流れもなく静かに美しく波を立てていた。

 

「よーし、上陸だぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

サトシとピカチュウは天然の桟橋になっている岩に飛び移り上陸し、それに続いてハルカとマサト、ソラトも上陸していく。

最後にヨウキも船を岩に繋ぎサトシ達の元へとやって来た。

 

「よし、それでどうするんだい? よければ森の奥にあるポケモン達の住処まで案内しようかい?」

 

「「「お願いします!」」」

 

珍しいポケモン達の住処と聞いてサトシ達は喜んでヨウキの案内をお願いした…のであるが、ソラトは是非ともヨウキに頼みたい事があった。

 

「ヨウキさん、俺はオヤジが連れて行ったっていう特別なポケモンの片割れに会ってみたいんですが…」

 

アラシが連れて行ったポケモンの片割れ、つまり仲間であるのならアラシの旅の目的が何か分かるかもしれないという思惑からソラトはそのポケモンに会ってみたかった。

 

「あぁ…そのポケモンは普段から島のあちこちを飛び回っているから出会えるかどうかは運なんだ」

 

「そう、ですか…」

 

折角むげん島にたどり着いたと言うのに、ソラトのテンションは低めだった。

予想外にアラシの手がかりを掴めるかもしれないと思ったが、その手がかりが手に入るかどうか分からないとなっては落ち込みもするだろう。

 

「お兄ちゃん…ほら、お兄ちゃん! しっかりして! そのポケモンを見つけれるように探してみましょう!」

 

「そうだよソラト! ほら、行ってみようぜ!」

 

「見つけたポケモンでソラトが知っているのがいたら教えて欲しいし!」

 

そんなソラトを元気付けるように、ハルカが背中を押し、サトシとマサトで両手を引く。

 

「うわっ!? ちょ…!」

 

自分を元気付けようと明るく振舞い、手を引っ張り背中を押してくれる。

そんな仲間達の絆を感じたソラトは困ったように笑顔を浮かべると、今度はサトシ達を引っ張るように駆け出した。

 

「皆、ありがとな!」

 

「あわわっ!?」

 

「うわっとっと!?」

 

「わぁっ!? ソ、ソラト早いよぉー!」

 

こうしてソラトを先頭にしてサトシ達は少々騒がしく森へ入って行った。

そんな様子を見て、ヨウキはきっと彼らにならあのポケモンも姿を見せてくれるだろうと空を見上げつつ、サトシ達を追いかけた。

 

 

 

森へ入ったソラト達はヨウキの案内の元ポケモン達の住処を目指していた。

この森も鬱蒼としたような雰囲気ではなく、木漏れ日の光が眩しい穏やかな森で、時折目にするポケモン達も遠巻きから物珍しそうにサトシ達に視線を向けていた。

見かけるポケモンも本来ホウエン地方では見かけないようなポケモンが多い。

コロボーシやコリンク、ヨーテリーやフシデにメェークルといったポケモン達だ。

 

「本当に珍しいポケモンが多いんですね。ヨウキさん、このポケモン達は昔からここにいるんですか?」

 

「昔からこの島に生息しているポケモン達もいるけど、時と共に流れ着いて住み着いていくポケモン達もいるんだよ。…着いた、此処だよ」

 

ヨウキの案内でやって来たのは森の中にある大き目な池。

池には小島があったり、池の底から生えている木などがあるためそこを巣として生活する、正にポケモン達にとって最高の住処であった。

日の光が水面を照らして輝き、優しいそよ風が木々と葉を揺らしている幻想的な風景がそこにあった。

 

「キレーな場所ね…」

 

「あぁ…おっ、あのポケモンは…!」

 

池に浮かぶ見たことのない白く美しい鳥ポケモンを見つけたサトシは図鑑を広げてデータを検索してみるが、No Dateと表示されてしまう。

ムロジムでソラトのモウキンを検索しようとした時と同じ、ホウエン版のポケモン図鑑にはデータが無いのだ。

 

「あれ、データが無いみたいだ」

 

「ほらサトシ、これ使え」

 

「サンキュー、ソラト」

 

サトシとハルカの持つポケモン図鑑はこの島ではあまり使えないため、ソラトの持つ全国版ポケモン図鑑の出番である。

ソラトは図鑑をサトシに手渡すと、改めてサトシはその鳥ポケモンを検索した。

 

『スワンナ しらとりポケモン

コアルヒーの進化系。クチバシの攻撃は強烈。長い首をしならせて連続で突きを繰り出す。』

 

「スワンナ…綺麗なポケモンね」

 

「本来イッシュ地方なんかに住んでいるポケモンだな。サトシ、あっちにもポケモンがいるぞ」

 

「おっ、どれどれ?」

 

スワンナとは少し離れた場所に木々で巣を作っている茶色いポケモンを見つけたソラトはサトシに声をかけると再び図鑑で検索する。

 

『ビーダル ビーバーポケモン

ビッパの進化系。川を木の幹や泥でダムを作ってせき止めて住処を作る。働き者として知られている。』

 

「へぇ、ビーダルっていうのか」

 

「あいつは本来シンオウ地方に住んでいるポケモンだな。ホウエンじゃ中々見られないポケモンばっかりだ」

 

聞いていた話の通り、このむげん島では長い月日をかけて独自の生態系が作られているため本来ホウエン地方では見られない珍しいポケモンを見る事ができるようである。

そんな初めて見るポケモン達に目を奪われたサトシ達はゲットしたくてたまらない様子だった。

 

「あの、ヨウキさん。ここのポケモンってゲットしちゃ駄目ですか?」

 

「うーん…俺は番人ってだけで彼らを保護している訳じゃないんだが…できるだけ止めて欲しい」

 

「え、何でですか?」

 

「ホウエンでも珍しいスワンナやビーダルをゲットしたら、君達もバトルやコンテストで使うだろう? 君達がむげん島でそういったポケモンをゲットしたと知ったら、密猟者達がやって来るかもしれないからね」

 

「そうか…そうですね。この島の平和のためにも我慢します!」

 

「ありがとう」

 

そう、情報を漏らさないためには最初から外へ持ち出さないのが1番なのだ。

むげん島へはそう簡単に侵入できるものではないが、もしかしたら何かの抜け道だったり間違いだったりで悪い人間がここへ辿り着いてしまう可能性もゼロではないのだから。

そういった事情を汲み取り、サトシも残念そうだが笑ってゲットを諦めた。

 

「それじゃあ、今度は別のポケモン達の住処へ行ってみようか。こっちだよ」

 

そして再びヨウキに先導されてサトシ達は移動を開始する。

最後尾にいたソラトも後に続こうとしたのだが…ヒュンッと空気を裂くような音が自分のいた場所の上を何かが通り過ぎるのを感じたソラトは立ち止まる。

 

「今のは…?」

 

ハッキリと姿は見えなかったが、赤と白の色をしたポケモンに見えた。

根拠は無かったが、その不思議な気配に導かれるようにソラトはそのポケモンを追いかけた。

 

 

 

 

 

そしてむげん島のある場所にて…溺れかけていたムサシ、コジロウ、ニャースの3人は息も絶え絶えながら辿り着いた。

 

「はぁ、はぁ…た、助かった…」

 

「で…ここはいったいどこなのよ?」

 

「わかんニャいけどどっかの島みたいだニャ」

 

「ソーナンス!」

 

どうやらロケット団が流れ着いたこの場所はむげん島の綺麗な森の中にある水場に囲まれた広場のような場所にやって来てしまったらしい。

海を流されている内にむげん島の川へ入り、そのまま内陸部まで流れてきたのだろう。

まさかむげん島に辿り着いたとは思っていないロケット団はここがどこなのか確認しようとすが、とある物資以外は全部海の底に沈んでしまい位置は確認できないでいた。

 

「はぁ、どうするんだよ。こんな所に漂着して物資は半分以上沈んじまったんだぞ」

 

「うっさいわね。生きてりゃなんとかなるわよ。…何よこれ」

 

ぶつぶつ言っているコジロウを尻目にムサシは広場の先にある石で組み立てられた祭壇のようなものを発見する。

 

「ニャニャ? なんだか綺麗な石があるニャ」

 

「虹色に光ってるなんて中々ゴージャスじゃない? これ頂いちゃいましょ!」

 

「石よりも今は船が欲しいぜまったく…」

 

「ニャニャ? 2人とも隠れるニャ! 何か飛んでくるニャ!」

 

何か分からないが祭壇にある虹色の丸い石をムサシが取って懐に収めてしまうと、森の上空を何かが飛行してくるのを確認したニャースの警告を受けてムサシとコジロウ、ソーナンスも共に近くの茂みの中へ飛び込んで隠れた。

そのまま様子を伺っていると、空からあるポケモンがやって来た。

何とそのポケモンは幻のポケモンとも言われる、むげんポケモンラティアスだった。

 

「クゥ…クウゥ!?」

 

広場にやって来るや否や、ラティアスは祭壇に置かれていた虹色の石が無いのに気がついて慌てふためいていた。

どこかに転がり落ちてしまったのではないかと周囲を飛び回って探してみるものの見つからない。

それも当然。先ほどの石はムサシのポケットの中にあるのだから。

 

「…あれってもしかして」

 

「幻のポケモン、ラティアスだニャ」

 

「それで、何やってんのアレ」

 

「多分だけど、さっきムサシが拾った石を探しているんじゃないか?」

 

「そうだニャ! ここまで来たし、その石を餌にラティアスを捕まえるニャ!」

 

「よーし、コジロウ、残ってたアレの準備しなさい」

 

「ラジャ!」

 

ラティアスを捕まえるために、ロケット団は手元に残っていた物資を開けて準備を開始した。

そして準備を整えると、ムサシはラティアスの注意を引き付けるために茂みをガサガサと揺らす。

 

「ラクゥ?」

 

突然近くの茂みが揺れたため、そちらを見るラティアス。

そしてその茂みからコロコロと出てきたのは彼女が探していた虹色の石。

 

「クゥ! …クゥー?」

 

探していた大切な虹色の石が見つかり、安心して大いに喜ぶラティアスだったが、虹色の石を拾おうと近づくものの石に近づききる前に止まってしまう。

辺りを見渡し、周囲を警戒しているような仕草をしている。

 

「ちょっと…! 何でこっちに来ないのよ…!」

 

「もうちょいこっちに来てくて…! 石のとこまで来てくれれば射程範囲内だ…!」

 

茂みに隠れてある物でラティアスを狙いつつ、小声でそう言うロケット団だがラティアスは中々動かない。

ラティアスは周囲の人の感情を感じ取れる能力が備わっているため、ロケット団の持つ悪意をどことなく察して警戒しているのだ。

だが…

 

「クゥ…」

 

ラティアスにとって目の前の虹色の石はとても大切な物であり、いくら周囲に怪しい気配があると言っても少しずつ近寄っていってしまう。

 

「よーしよーし、あと少しだニャ…」

 

3メートル、2メートル、1メートル……そして射程範囲内に入ると同時にラティアスが虹色の石を手に取った。

 

「今よ!」

 

「クキュッ!?」

 

ムサシの合図と共にコジロウが担いでいたランチャーの引き金を引くとネットが発射されてラティアスを捕らえる。

ランチャーから放たれたのは鋼鉄製の網。捕らえられたラティアスは逃れようと暴れるものの、鋼鉄の網に押さえ込まれてしまい逃げられなかった。

 

「クゥー!」

 

「よっしゃ! ラティアスゲットだぜ!」

 

「ニャハハハハハ! これで幹部昇進支部長就任イイカンジだニャ!」

 

邪道ではあるがラティアスの捕獲に成功したロケット団はもうお祭り騒ぎで大喜びである。

だがそこへソラトがやって来る。先ほどソラトが追いかけたポケモンの正体はラティアスだったのだ。

 

「ん? ラティアス!? それにお前らは!」

 

「ん? ラティアス!? それにお前らは!と言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

ラティアスを捕まえて上機嫌のロケット団はやって来た相手がソラトだと言うのに余裕で口上を言い切った。

 

「ロケット団、ラティアスを放せ」

 

「フン! お断りよ!」

 

「ラティアスを本部に連れ帰ればこれまでの失敗も全部チャラだぜ!」

 

確かに幻のポケモンであるラティアスならば戦闘能力も高く、ロケット団の野望に大いに役立つだろう。ロケット団ボスのサカキも3人を見直すかもしれない。

しかしそれを見逃すほどソラトも甘くは無い。

 

「だったら力ずくでも置いていって貰おうか。ザンゲツ、バトルの時間だ!」

 

「ハッサム!」

 

ソラトが繰り出したのは先日ゲットしたハッサムである。

ザンゲツというニックネームを与えられた、左目に傷のあるハッサムは鋏を開いて構えを取った。

 

「あれはこの間のハッサムだニャ!」

 

「ヒーローボーイにゲットされてたのか」

 

「フン! ヒーローボーイ相手だからって引き下がる訳にはいかないのよ! 行くのよドクケイル!」

 

「行けっ、サボネア!」

 

「ケーイル!」

 

「サーボ…ネッ!」

 

「いだだだだだだ! こっちじゃなくてあっちだろうがー!」

 

ソラトに対抗するためにムサシはドクケイルを、コジロウはサボネアを繰り出した。

コジロウはいつも通り抱きついてくるサボネアに痛がっているものの、バトルが始まる。

 

「ドクケイル、どくばり!」

 

「ケケーイル!」

 

「突っ込め、ザンゲツ!」

 

「サム!」

 

ドクケイルのどくばりが放たれるものの、はがねタイプを持つザンゲツにとっては効果の無い攻撃に過ぎない。

真正面から突っ込んでどくばりを弾き返す。勿論ザンゲツの体には傷一つついていない。

 

「ダブルアタック!」

 

「ハサハッサ!」

 

「ケーイル!?」

 

両手の鋏で殴るようにして2階連続攻撃を繰り出し、攻撃を命中させる。

ザンゲツの特性はテクニシャン。威力が低めの技の威力を上昇させる特性であり、ダブルアタックも効果範囲内である。

強烈な攻撃を受け、ドクケイルは大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「サーボサボサボ!」

 

「受け止めろ! れんぞくぎり!」

 

「ッサム!」

 

サボネアの針のある腕と、ザンゲツの鋭い鋏がぶつかり合いお互いに弾き合う。

両者の間に距離が生まれたため、この隙にソラトはザンゲツに指示を出した。

 

「ザンゲツ、つるぎのまい!」

 

「ハーッサ!」

 

まるで舞うように踊ったザンゲツは攻撃力がぐーんと上がり、それを具現化するようにザンゲツの背中側に半透明の剣が2本浮遊し始めた。

 

「今の内に同時攻撃よ! ドクケイル、サイケこうせん!」

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

つるぎのまいを行って動きが止まっているザンゲツに向けてドクケイルとサボネアの同時攻撃が決まり、ドカン!と大きな音と共に衝撃が奔る。

 

その大きな音と衝撃は、離れた所にいたサトシ達にも届いていた。

 

「あれ、何だ今の?」

 

「向こうの方から音がしたわね」

 

「あっちの方角は…祭壇のある広場だ!」

 

「祭壇?」

 

「この島にいる特別なポケモンを祀る祭壇のある広場があるんだ! あそこで何かあったのかもしれない!」

 

「あっ、ヨウキさん!」

 

ヨウキは広場に向けて駆け出した。

サトシ達もヨウキを追いかけて走り出すが、そこでようやくソラトが居なくなっている事に気がついた。

 

「あれ、そういえばソラトはどこだ?」

 

「そういえばいつの間にかいなくなっちゃってるかも!」

 

「もしかしたら、広場にいるのかもしれないよ」

 

「とにかく急いでヨウキさんを追いかけよう!」

 

サトシ達がソラトとロケット団のバトルの音を聞きつけて向かっている最中、ドクケイルとサボネアの同時攻撃が命中したザンゲツとソラトの姿は土埃に隠れてしまっていた。

その様子をラティアスは網に捕らえられていながらも心配そうに見つめていた。

 

「クゥ…」

 

「へっ! どうだ、流石にこれは効いただろ!」

 

コンビネーションも悪くない同時攻撃のクリーンヒットならばかなりのダメージを与えられただろうと思っていたロケット団だったが、土煙が晴れるとザンゲツはピンピンしていた。

 

「な、なんですって!?」

 

「むし/はがねタイプのハッサムにはサイケこうせんもミサイルばりもこうかはいまひとつだ。避けなくても大したダメージにゃならないさ! ザンゲツ、ダブルアタック!」

 

「ハサハッサ!」

 

「ケーイル!?」

 

「サボネーッ!?」

 

ロケット団の同時攻撃を見事に耐えたザンゲツによる反撃のダブルアタックを受けたドクケイルとサボネアは戦闘不能になって倒れてしまった。

つるぎのまいを使い攻撃力がぐーんと上がっているザンゲツの攻撃は強力無比と言えるだろう。

 

「ど、どうするムサシ!?」

 

「ぐぬぬ…! こうなったらアタシが時間稼ぎするからその間にアンタ達はラティアスを連れて逃げるのよ! 行けハブネーク!」

 

「ハッププー!」

 

「よし、俺達は逃げるぞニャース!」

 

「了解ニャ!」

 

「クゥッ!? クキューッ!」

 

手持ちのポケモンがサボネアしかいないコジロウは大慌てだが、まだ手持ちのポケモンが残っているムサシが殿としてソラトの相手をする覚悟を決めたようである。

新たにハブネークを繰り出すムサシに代わり、コジロウとニャースは網で包まれているラティアスを抱えると森の奥へと走り去ろうとする。

 

「逃がすなザンゲツ! れんぞくぎり!」

 

「ハブネーク、ポイズンテールで受け止めるのよ!」

 

「ハッサム!」

 

「ハブネー!」

 

鋭い鋏と尻尾がぶつかり合い鍔迫り合いになる。

ギギギと擦れる鋏と尻尾だが、パワーと土台ではザンゲツの方が有利である。

 

「ハブネークを振り回してやれ!」

 

「ハッサイヤ!」

 

「ハププププププ!?」

 

尻尾を引っ張るようにしてジャイアントスリングでハブネークを振り回す。

 

「そのまま奴らに向けて放り投げろ!」

 

「ハッサ!」

 

「ハプーッ!?」

 

「んなっ!? んぎゃあああああっ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

「ぐニャッ!?」

 

そのままムサシに向けて投げ飛ばすと、ハブネークはムサシを巻き込みそのまま後方へ飛んでいく。

更にはラティアスを抱えて逃げているコジロウとニャースを巻き込みその場でクラッシュする。

その衝撃でコジロウはラティアスを取り落としてしまい、ソラトはその隙にラティアスに駆け寄って網を解いて解放してやる。

 

「ラティアス、大丈夫だったか?」

 

「クゥー!」

 

自由になったラティアスはお礼のつもりなのだろう、助けてくれたソラトに顔を擦り付けていた。

 

「いたた…ムサシ、何やってるんだよ!」

 

「全然時間稼ぎになってないニャ!」

 

「う、うっさいわね! ほらハブネーク、もっかいラティアスを捕まえるのよ!」

 

「ハプッ!」

 

この状況になってもまだロケット団は諦めていないらしく、再びハブネークでザンゲツと対面した。

ソラトはラティアスを守るためにラティアスを背中に隠す。

 

「どうやらまだやられ足りないらしいな」

 

「ハッサ!」

 

「うるさいわね! ハブネーク、かみつく!」

 

「ハッブネーク!」

 

大きな顎を開いてザンゲツに噛み付こうと襲い掛かるハブネークだったが―

 

「チュゥウウウウウッ!」

 

「ハププブブブッ!?」

 

―その牙が届く前に森を切り裂く電撃が放たれ、ハブネークを撃ち落とす。

今の声と電撃で、ソラトは誰が来たのかすぐに分かった。

 

「ソラト!」

 

「ピッカ!」

 

「サトシ、ピカチュウ。ありがとな」

 

当然、やって来たのはサトシとピカチュウを筆頭にハルカとマサトとヨウキだ。

唯でさえソラト1人に苦戦しているというのに敵の援軍がやって来てしまったロケット団は顔を青ざめさせる。

 

「げげっ、ジャリボーイ…!」

 

「ロケット団、こんな所まで追いかけてきたのか!」

 

「お前ら、どうやってこのむげん島まで辿り着いたんだ!」

 

ヨウキがむげん島の番人としてどうやってやって来たのか問い質すと、ロケット団はピンときていないように首を傾げていた。

 

「むげん島? ここがむげん島だったのか!」

 

「あーら、なら珍しいポケモンが沢山いる島に運よく流れ着いたって事だったのね!」

 

「ニャーたち運がいいかもニャ!」

 

「もしかして、海を漂流してる内に偶然流れ着いたの?」

 

「ロケット団って意外と悪運強いかも」

 

会話の内容からロケット団がここへ着いたのも全て偶然だったと悟ったマサトがそう言い、ハルカが続ける。

確かに今まで散々な目に会っているもののちゃっかり無事でいる辺り悪運だけはかなりのものである。

しかし…

 

「強いのは悪運だけだな。ザンゲツ、バレットパンチ!」

 

「ッサム!」

 

「ハプァッ!?」

 

高速の拳をハブネークに御見舞いしてやると、ムサシ達の元へとハブネークは吹き飛んで戦闘不能になった。

これでロケット団には戦力はほぼ残されていない。

 

「よーし! トドメだピカチュウ! 10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウウウッ!」

 

「「「あわわわわわわわっ!? ギャアアアアアアアッ!?」」」

 

そして締めの電撃が放たれてロケット団に命中する。

バチバチバチ!と痺れに痺れてドカンと爆発すると、ロケット団はいつもの如く勢いよく吹き飛んでいき―

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

―キラッと輝く星になって消えていったのだった。

 

 

 

 

 

ロケット団を撃退し、船を停めている海岸までやって来たサトシ達。

改めてラティアスを連れ去ろうとしていたロケット団を追い払ってくれたソラトに対してヨウキが頭を下げていた。

 

「ソラト君、ラティアスを助けてくれて本当にありがとう」

 

「いえ、当たり前の事をしただけですよ。それでヨウキさん、言っていた特別なポケモンと言うのは…」

 

「ああ、このラティアスの事だ」

 

「クゥ」

 

ソラトもラティアスを一目見た時から何となく察していたが、ヨウキが言っていたむげん島に住む特別なポケモンの片割れというのはこのラティアスの事だった。

ラティアスは助けてくれたソラトの事を気に入ったらしく、頬ずりをして甘えていた。

 

「これがラティアスね。可愛いかも!」

 

可愛らしい見た目のラティアスをハルカも気に入ったらしく図鑑を開いて検索する。

 

『ラティアス むげんポケモン

知能が高く、人の言葉を理解する。ガラスのような羽毛で体を包み込み、光を屈折させて姿を変える。』

 

そこでサトシがピンときた。

以前ジョウト地方を旅していた頃に立ち寄った水の都アルトマーレにおいて、サトシも別固体のラティアスと出会っているのだ。

そしてそのラティアスにも片割れが居たことを思い出したのだ。

 

「ヨウキさん、もしかしてアラシさんが連れて行ったラティアスの片割れって…」

 

「ああ、ラティオスだ。2匹は兄妹で、昔からむげん島に住む守り神のような存在だったんだ。でもどうやってかソラト君のオヤジさんがラティオスを説得したみたいでね。今まで島の外に出た事は無かったんだが納得したようについていってしまったんだ」

 

やはり片割れは同じくむげんポケモンのラティオスだったようだ。

ソラトも納得したようで、ラティアスに語りかける。

 

「ラティアス、俺のオヤジがお前の兄さんを連れて行った理由や行き先は分かるか?」

 

「クゥ? クゥゥ」

 

だがラティアスは悲しそうに目を伏せると首を横に振るだけ。

ヨウキもラティアスを慰めるように頭を撫でてやると補足する。

 

「ラティオスはラティアスには何も伝えなかったみたいなんだ。行き先や目的も分からず、ラティアスはここで待つ事になってしまったんだ」

 

「そうですか…」

 

「クゥ…」

 

兄に置いていかれた悲しみか、兄の身を案じてか、ラティアスは落ち込んでしまい瞳が潤んでしまう。

その様子を見たソラトは、ある記憶がフラッシュバックする。

かつて父に置いていかれてしまった自分と、その父を追いかけて旅立った自分に置いていかれたハルカの姿が。

 

置いていかれたくなかった。

連れて行って欲しかった。

 

置いていきたくなかった。

本当はもっと一緒に居たかった。

 

父を求め、父を探す自分の気持ちと母との約束。

そして本当の家族に等しい妹分の涙。

 

置いていかれる気持ちも、置いていく気持ちも知るソラトだからこそ…ラティアスの気持ちもラティオスの気持ちも分かるような気がした。

そして気がつけば、ソラトはラティアスに手を差し出していた。

 

「一緒に行かないか、ラティアス」

 

「クゥ?」

 

「お前の兄さんは、俺のオヤジと一緒にいる。どうして行ってしまったのかは分からないけれど、もしお前がジッとしていられないのなら…一緒に俺のオヤジと、お前の兄さんを探しに行こう」

 

少しだけ躊躇するような仕草を見せるラティアスだったが、兄の顔を想ったのだろう。ラティアスはソラトの手を取った。

 

「クゥ!」

 

「よろしくな、ラティアス。すいませんヨウキさん、ラティアスも島の守り神なのに…勝手に連れて行く事になってしまって…」

 

「いいや、ラティアスが決めた事なら俺が口を挟む事じゃないさ。ソラト君、ラティアスを頼んだよ」

 

「はい!」

 

どうやらラティアスがソラトについていく事はヨウキも反対はしないようだ。

あくまでもラティアスは野生のポケモンであり、彼女が誰についていくかはラティアス自身に任せるという事だろう。

 

「ソラト凄いや! 幻のポケモンを仲間にしちゃった!」

 

「それにとっても可愛いかも! よろしくねラティアス!」

 

「それじゃあ、新しい仲間も加わったし…キンセツシティを目指すために戻るとするか」

 

「よーし、次のジムはキンセツジムだ! 燃えてきたぜーっ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「クゥーッ!」

 

幻のポケモン、ラティアスを仲間に加えたソラト。

カイナシティでの様々出来事を経て、サトシ達はいよいよキンセツシティに向けて出発する事になるのだった。

 

 

 

to be continued...




ラティアス可愛いよラティアス。
次回から七夜の願い星、大幅アレンジ版が始まります。
全2,3話構成の予定です。
劇場版については以前の活動報告でお知らせした通り大幅にアレンジしてお送りします。
今絶賛執筆中なんですがもう全く別物になっています。ご了承下さい。

それと、劇場版についてまた考えている事があるため考えが纏まったらまた活動報告でお知らせしますね。

次回の更新ですが、また1週間ほど間が開きます。
ちょっとパソコンに触りにくい環境にありまして。申し訳ありません。


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彗星の夜に星は降る

はい、ジラーチ編入ります。
この小説ならではの話になりますので、どうかご容赦下さい。


ホウエンリーグ出場を目指し、旅を続けるサトシ達。

3つ目のジムがあるキンセツシティを目指していたのだが、その道中でとても珍しい現象を見れるという事で、サトシ達はとある草原で満天の星空の下キャンプを行っていた。

 

「ねぇねぇ、まだ見えないのかな?」

 

待ちきれないマサトは落ち着かない様子で、ワクワクしながら草原に座っていた。

 

「もう、マサトもちゃんと夕飯の片付けの手伝いしなさいよ」

 

ハルカがソワソワしているマサトを注意するものの、マサトは期待に満ちた目で星空を見上げるだけであった。

そんなマサトにハルカは溜息を吐くが、マサトの気持ちも分からない訳ではない。

何しろ千年に1度しかない現象をこの目で見れるのだから。

 

「いいよハルカ。後は俺がやっておくからサトシもハルカも彗星を見る準備をしててくれ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「よーし、寝袋持ってこようぜピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

皆で食べた夕飯の食器をソラトが片付け、ハルカとサトシは荷物の中から寝袋を取り出して準備をする。

そして片付けも終わり、全ての準備が整うと辺りは草原の草が風に揺れて擦れる音が聞こえるだけの静寂が訪れた。

マサト、ハルカ、サトシとピカチュウの4人は寝袋に入ると仰向けに寝転がり夜空を見上げる。

 

「すっごい綺麗だね…」

 

「ええ、まるで宝石ね」

 

「キラキラしてるもんな」

 

「チャァ~」

 

「でも、こんなに綺麗な星たちよりももっと輝いてるんだよね、千年彗星って!」

 

千年彗星。

それは文字通り1000年に7日間だけ見る事のできる彗星の事であり、カイナシティを出発する前のニュースでそれが見れる場所が近いと知ったサトシ達は折角なので絶好の彗星観察スポットを探してキャンプをする事にしたのだ。

 

「ソラトもこっちに来いよ」

 

「フフ、俺は…こっちの特等席だ」

 

寝袋に入り、並んで草原に転がるサトシ達は折角だから一緒に見ようとソラトに声を掛けるものの、ソラトは珍しく子供っぽい悪戯な笑みを浮かべると傍に生えていた木に登り、上の方にある枝に腰掛けて座った。

 

「こうやって高い所にいると、星も掴めそうになるよな」

 

そう言いながら夜空の星に向けて手を伸ばすような仕草をするソラト。

普段はサトシ達のリーダーのように振る舞い、大人びているソラトだったが1000年に1度の彗星を見れるという事で珍しくワクワクしているらしい。

 

「あっ、お兄ちゃんズルいかも」

 

「悪いが1人用だ。折れちまうかもしれないからな」

 

「「「「あははははははははっ!」」」」

 

ハルカが笑いながらソラトに対してそう言うと、ソラトもそれに無邪気な笑みをして答え、皆で笑いあった。

そして数十分の時間を皆で語り合いながら千年彗星が見えるのを待っていると…。

 

「あっ! 見えた!」

 

空の向こうに見えた、白く輝く一筋の光。

見つめていればそれはどんどん大きくなって見え、更に数十分眺めていればそれはそれは見事な彗星となった。

 

「あれが千年彗星なんだね」

 

「すっげぇ…」

 

「綺麗…」

 

美しい千年彗星に見とれて、サトシ達は言葉少なくなりながら誰に言うわけでもなくそう呟いた。

木の上にいるソラトも再び手を空へ伸ばし、千年彗星に重ねると力強くグッと握って彗星を捕まえるような仕草をしながら静かに千年彗星を眺めていた。

そしてそのまま千年彗星を眺め、静かな草原でサトシとハルカ、ピカチュウはいつの間にか眠ってしまった。

しかし楽しみにしていただけあってマサトは未だに千年彗星を眺め続けていた。

ソラトもウトウトしてきたのだろうか、完全には寝ていないものの船を漕いでいた。

 

「……あれ?」

 

1人千年彗星を見つめていたマサトが気がついた、空を動くキラリとした一条の流星。

 

「あー、流れ星だ」

 

願い事をしなくちゃと思ったマサトだったが、いざこういった場面になると何をお願いしたら良いのか分からない。

立派なポケモントレーナーになれますようにだろうか。歴史的なポケモン博士になれますようにだろうか。それとももっと別の願いを願うべきだろうかと考えている内に流れ星は消えてしまった。

 

「あっ…消えちゃった…」

 

願い事をする前に消えてしまった流れ星に少しガッカリするマサトだったが、そのお陰で願い事は決まった。

流れ星は消えてしまったが、もしまだ間に合うのなら―

 

「僕に、最高のパートナーを下さい…!」

 

サトシにとってのピカチュウのように。ソラトにとってのスイゲツのように。

互いに互いを信じあえる、強い絆で繋がる事のできる最高のポケモンパートナーと出会いたかった。

そうは願うが、もう流れ星は流れない。

 

「やっぱ駄目だよね。ふぁ…僕もそろそろ寝ようかな…」

 

マサトも遅くまで千年彗星を眺めていて眠気が堪えきれなくなったのか、大きな欠伸をして眠ろうとする。

最後にもう1度、流れ星が流れていないかチラリと空を見上げると―

 

「あっ、流れ星…! えっと、僕に最高のパートナーを下さい! 僕に最高のパートナーを下さい! 僕に最高のパートナーを下さいっ!」

 

流れ星が消えるまでに3度言い切れたためおまじない的には願いが叶えられるかもしれないと、マサトは表情を明るくした。

動きが遅く、随分と長く残る流れ星だったから言い切れて助かったとマサトは満足気にその流れ星を見続けていた。

だが流れ星はいつまでも消える気配が無い。

いや寧ろなんだかどんどん大きくなっているような…。

マサトの気のせいではない。その流星は空気を切り裂いて地上へと落ちてきていた。

そしてマサトがその事に気がつき、声を上げようとした時には―

 

「あっ…」

 

ドッゴォオオオオオオオオオオオン!!!

 

大地を揺らすような地震とも思えるような衝撃と、腹の底にまで響く強烈な音が響き渡った。

 

「きゃあああっ!?」

 

「な、何だ!?」

 

「ピカッ!?」

 

「うごっ!?」

 

突然の地響きと音に、ハルカとサトシ、ピカチュウは跳ねるように飛び起きた。

木の上で船を漕いでいたソラトも地響きと、突然目を覚ました事でバランスを崩してしまい木の枝から落下して背中を打ち付ける。

 

「痛ってぇ……な、何なんだ?」

 

「何だかんだと聞かれたらーって、ロケット団が来たわけでも無さそうだし…」

 

「ビ、ビックリしたかも…」

 

何が起きたのか把握できていないサトシ達は突然の事に驚きを隠せないでいる。

当然と言えば当然だ。まさかこの付近に流れ星が落ちてきたとは思わないだろう。

マサトは寝袋から飛び出すと、草原の向こう側に落ちた流れ星を追いかけて駆け出した。

 

「あっ、ちょっとマサト! どこ行くの!」

 

突然駆け出していってしまったマサトを追いかけて、ハルカを筆頭にサトシとソラトも走り出す。

数分も走っていると、大きなクレーターのできた場所に辿り着いた。

 

「ハァ、ハァ…」

 

「マサト、どうしたの…って何ここ!?」

 

「でかいクレーターだな…。さっきの音といいもしかして星が落ちてきたのか?」

 

「そんなまさか…」

 

こんな所に大きなクレーターがあり、先ほどの音と衝撃からもしかしてとソラトがそう口にするが、いくらなんでもそれは無いだろうとサトシが乾いた笑いを浮かべる。

しかしマサトは見ていたのだ。あの流れ星が落ちる瞬間を。

そしてその流れ星が気になったマサトはクレーターを滑り降り、中心にある筈の流れ星へと近づいた。

 

「お、おいマサト!」

 

サトシが声を掛けるが、マサトは今落ちてきた星に夢中で声が届かない。

もしかしたら、と頭のどこかで考えているのだ。もしかしたらこの流れ星は…自分の願いを叶えてくれるのではないか、と。

 

クレーターの中心にあったのは、直径40センチほどの繭のような形をした石だった。

 

「これが流れ星…?」

 

空から落ちてきた不思議な石を見て、そっと手のひらで石に触れるマサト。

しかし、石に触れた瞬間まるで頭に直接流れ込んでくるような感覚で声が聞こえた。

 

『名前を呼んで』

 

―と。

 

「……僕はマサト! キミの名前は?」

 

まるで自己紹介をするように。

マサトは名乗り、同時にこの石の中にいるであろう存在に向けて名前を尋ねた。

そして聞こえた。

彼の名前は―

 

「そっか…よろしくね、ジラーチ!」

 

名を呼んだ瞬間、石から暖かな緑色の光が漏れ出してくると同時に、少しずつ石が粒子になって消えていく。

離れた場所からそれを見ていたサトシ達にも見えていた。

石が消え去ると、中から現れたのは体長30センチほど。黄色い星のような形をした頭には緑の短冊が下げられており、小さな体はよく見れば何か羽衣のようなもので包まれて丸くなっていた。

 

「な、なんだあれは…?」

 

「あのポケモンは…!」

 

何がなんだか分からないという風に動揺しているサトシとハルカとは対照的に、ソラトは現れた小さなポケモン見覚えがあるらしく、図鑑を開いて検索をかけた。

 

『ジラーチ ねがいごとポケモン。

1000年間で7日だけ目を覚まし、どんな願い事でも叶える力を使うと言われている。』

 

「やっぱり、幻のポケモン…ジラーチか!」

 

「「幻のポケモン!?」」

 

「ピィカ!?」

 

ソラトの口から出た思わぬワードにサトシもピカチュウもハルカも驚きを隠せない。

そう、マサトの元にいるポケモンの名はジラーチ。図鑑の説明通り願いを叶える力を持つと言われている幻のポケモンである。

 

「あぁ、俺も見たのは初めてだ。オヤジを追って世界を旅している道中でその地に伝わる伝承なんかに登場する事もあったんだが…」

 

ソラトが聞いた話によれば、ジラーチは星からの贈り物とも言われているポケモンであり、空から落ちてきては千年彗星から得られるエネルギーを使ってその土地を豊かにするらしい。

そのため場所によっては祭壇や祠、もしくは神殿等が建てられてジラーチを祀っているという。

ソラトがジラーチの姿に気がついたのは、昔とある地方にあったジラーチを祀っていた遺跡の壁画にジラーチの姿が描かれていたのを見たからである。

 

『ふぁ…おはよう、マサト』

 

「うん! おはようジラーチ!」

 

「え…!? 今ジラーチが…!?」

 

「これは、テレパシーか…?」

 

マサトだけではなく少し離れた場所にいるサトシ達にも頭に響くような声が届いた。

これは一部のポケモンが使うことのできるテレパシー等を使った会話である。

石の中から現れたジラーチをマサトは優しく抱きかかえると、転ばないように慎重にクレーターを登るとサトシ達の元へと戻ってきた。

 

「えへへ、皆、紹介するね! ジラーチだよ!」

 

『よろしく!』

 

よろしくと当然のように言われるが、サトシ達からすればちょっと理解が追いつかないでいる。

とりあえず状況を整理する所から始める事にした。

 

「ええと…マサト、ジラーチがここにいるって分かったのか?」

 

「うん、最初は流れ星に願い事をしてたんだけど…その流れ星が落ちてきたんだ! それでここに来て、石に触ったらジラーチがいるって分かったんだよ!」

 

マサトの言葉だけでは正直信じられないものがあったが、状況から考えてもマサトが嘘をついているとは思えないし、嘘をつく理由もない。

 

「お、お兄ちゃん…どうしよう?」

 

「どうするもこうするも…連れて行けばいいんじゃないか?」

 

この状況をどう収拾をつけるかと迷ったハルカはソラトに助けを求めるが、ソラトとしてもどうする事もできないし、する必要もないだろう。

 

「ジラーチ、今晩は一緒に寝ようね!」

 

『うん!』

 

既にジラーチはマサトに懐いているようだし、ここでジラーチを放っておいて変な連中に幻のポケモンを狙われるのも良くない。

一先ずは自分達で保護していくしかないだろう。

 

「ジラーチは千年彗星からエネルギーを得て1000年に7日間だけ目を覚ます。眠りにつくと再び眠り繭というさっきの石の状態になって大地に恵みをもたらすとされているんだ。眠りにつくまでは面倒を見てやろう」

 

「…そうね。マサトともあんなに仲良しになっちゃってるみたいだし」

 

「よーし、それじゃあ一先ずは明日に備えて寝るとしようぜ!」

 

「ピィカチュ」

 

こうしてマサトと仲良くなったジラーチを連れて、サトシ達はキャンプに戻る事になったのだが…そんな彼らを見ている3つの影…。

 

「聞いた? どんな願い事も叶える幻のポケモンですって」

 

本日もサトシ達を追いかけるロケット団3人組である。

ロケット団も千年彗星を眺めながら眠っていたのだが、突然の轟音に叩き起こされてここへやって来たのである。

タッチの差でサトシ達に遅れを取ったようだが、こんな事ではめげないのがロケット団のガッツである。

 

「寝てる時に何やら大きな音がするから来てみれば…」

 

「まさかこんなオイシイ話にありつけるなんて、アタシ達ツイてるわ。ジャリボーイ達の隙を突いてあのジラーチってポケモンを奪えば…!」

 

「願い事を叶えてもらってニャー達もサカキ様に見直されるニャ」

 

「それじゃ作戦を練って、明日以降に仕掛けるわよ」

 

「「ラジャ!」」

 

こうしてピカチュウではなくジラーチに狙いを定めたロケット団は作戦を考えるためにも一時撤退する。

ジラーチを奪えば、自分達の願い事が叶うと信じて…。

 

 

 

 

 

そしてサトシ達がキャンプをしている頃…近くにある天体観測の施設にて。

数多くの機器が並び、星の動きを観測するこの施設において、とある男が千年彗星を眺めていた。

 

「落ちた…落ちたぞ! ついにこの地にも願いの星が落ちた! それはつまり、私の願いを届けてくれるジラーチがこの近くにいるという事だ!」

 

「バトラー」

 

バトラーと呼ばれた男は後ろに目を向けると、長い金髪と赤いジャケットが目立つ美しい女性がやって来ていた。

 

「ダイアン、出発の準備をしてくれないか。観測によるとジラーチは少々離れた場所に落ちてしまった。今から出発すれば明日の日暮れ頃には落下地点に着けるだろう」

 

「…分かったわ。ガレージで準備をしておくわ」

 

ダイアンと呼ばれた金髪の女性は目を伏せるとバトラーに背を向けて部屋を出て行った。

かつて大切だった人。掛け替えの無い存在だった筈なのに、今のバトラーの目には千年彗星しか写っていなかった。

 

「千年彗星よ、感謝するぞ! 私の野望を叶えるために、願いの星を落としてくれた事を! フフフ…ハハハハハハハハハハ!」

 

高らかな笑い声が観測所に響き渡る。

その声にはバトラーの狂気と、腹の底から湧き出る渇望が含まれていた。

 

 

 

 

 

7日間見る事ができる千年彗星が現れてから最初の昼。サトシ達は近くにあった歴史ある街、フィレンタウンに辿り着いていた。

古びておりながらもオレンジ色のレンガの建物が立ち並ぶ落ち着いた雰囲気のある街だった。

カイナシティを数日前に出発したばかりなので物資にも余裕はあるのだが、オシャレな町並みを見たいというハルカと、アラシに関する情報集めをしたいというソラト2人の希望で立ち寄る事にしたのだ。

 

「よーし、フィレンタウンに到着だ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「私観光したーい!」

 

「僕もー!」

 

『僕もー!』

 

今朝から今まで、ジラーチはマサトにベッタリで出会ってからまだ24時間も経過していないと言うのに2人はサトシとピカチュウ並みに仲良しになっていた。

ジラーチには浮遊できる能力があり、今は羽衣を羽のようにしてフワフワとマサトの近くを浮かんでいた。

 

「それじゃ二手に分かれるか。俺はこの街にある広場で聞き込みをしてくるよ」

 

「私達はこの街にある美術館に向かいましょう!」

 

「「『おーっ!』」」

 

サトシ、ピカチュウ、ハルカ、マサト、ジラーチの5人組とソラトの二手に分かれてこのフィレンタウンを満喫する事にした。

まずはソラト。

街の中心部にある聖堂のある広場にてアラシの写真を片手に道行く人に見覚えがないかどうか尋ねて回る事にした。

以前むげん島にアラシがいたのなら、もしかしたら近くにあるこの街でも見た人がいるかもしれないという淡い期待を込めて。

 

「…そうですか、ありがとうございます」

 

アラシの事を知らないかと数人の通行人に尋ねたものの、未だに良い結果は得られなかった。

 

「ハァ…駄目か。話だけならオヤジの事を聞けるけど、実際には影も形も見えな―」

 

瞬間、視界の端に何かが見えた気がした。

見慣れた白い四足のポケモンが、建物の屋根の上から自分の方を見ていたような、そんな気がした。

ハッとしてそちらに顔を向けるものの、そこにはもう何もおらず、美しい建物と青い空が広がっているだけだった。

 

「今…のは…!?」

 

居ても立ってもいられなくなり、ソラトは駆け出した。

あちこちの建物の屋根の上を注意して見ながら街中を駆け回る。

見間違いかもしれない。でもそうでなければ、今のは恐らく…アラシの手持ちのポケモン。

ニックネームをヴィランという、わざわいポケモンのアブソルだ。

 

 

 

一方でフィレンタウンにある美術館にやってきたサトシ達。

美術館には様々な骨董品を始めとして、美術品や芸術品が数多く並んでいる。

ハルカはそういった美術品に見とれており、あっちを見たりこっちを見たりと忙しなく動いているものの、サトシとピカチュウは既にぐったりとしていた。

本来体を動かす事を好むサトシにとって静かに美術品を鑑賞するだけの美術館というのはハッキリ言って少し退屈だったのだ。

 

「なぁハルカ、そろそろ出ようぜ…」

 

「何言ってるのよサトシ、まだ来てから30分くらいしか経ってないじゃない」

 

「でも退屈だし…ピカチュウもそうだろ?」

 

「ピィカ…」

 

サトシよりは我慢強いものの、ピカチュウも元気いっぱいでバトル好きの性格であるため美術館はやはり少し退屈しているようでサトシに同意しているようだった。

こんな事ならソラトを手伝っていた方が良かったと思うほどである。

 

そうしてサトシとハルカが話している場所より少し離れた場所でマサトとジラーチは額縁に入れられ、壁に掛けられているとある絵を見つめていた。

絵は赤と黒を基調した風景画のようだ。

夜空から赤い炎が降り注ぎ、地上を燃やしているような…そんな災厄を表現しているようにも見える。

しかし希望を示すように、夜空の中心に星のような白い光も描かれていた。

 

「…これは何が書かれてるんだろう?」

 

『マサト、この絵気になる?』

 

「うん。なんだかちょっと…この絵を見ていると胸騒ぎがするような気がするんだ」

 

『この絵を知ってるの?』

 

「そういう訳じゃないんだけれど…」

 

どちらかと言えば恐ろしいような絵画だと言うのに、何故か目を離す事ができない。

いったい何が描かれているのか、誰が描いたものなのか気になったマサトは添えられている解説文に目を通す。

絵のタイトルは七夜の願い星。大昔に遠くの地で実際に起きた事を当時の画家が描いた物になっているらしい。

長い間、奇跡的に良い状態で保存されていたものを、最近発見されたようである。

 

「へぇ…実際にあった事なんだ」

 

解説文を読んでからもう1度絵画を見つめると、こんな災厄がかつて本当にあった事ならばどんなに被害が出た事だろうか。

そうマサトが想像していると、ジラーチが何かを感じ取ったのか周囲を見渡す。

 

『マサト、何か来る…』

 

「え?」

 

「ピ? ピカピ!」

 

ジラーチと同じく、何かを感じ取ったピカチュウもピクピクと耳を動かすと同時に周囲を警戒するように回りを見渡す。

 

「どうしたんだピカチュウ?」

 

「ピカチュウ、美術館では静かにしないと駄目よ」

 

「ピカ! ピカピカ!」

 

突然大きな声でサトシに何かを訴えかけるピカチュウだが、ハルカに静かにするように注意されてしまう。

だが余程何かあるのだろう、ピカチュウはより大きな声を出すと四足で立ち尻尾をピンと立てる。これはピカチュウが何かに警戒している戦闘態勢だ。

 

「ピカチュウ、どうし―」

 

再びピカチュウに何があったのか問おうとするサトシが言葉を発する途中で、パリィン!と天井のガラスが割れる。

 

「きゃああっ!?」

 

「な、何だ何だ!?」

 

突然の音と上から落ちてくるガラスの破片に他の美術館にいる人々が悲鳴を上げて身を竦める中、割れたガラスの部分からとあるポケモンが降りてきた。

 

「な、何だ!?」

 

「アブルルルル…」

 

「こ、このポケモンは…!」

 

『アブソル わざわいポケモン。

アブソルが人前に現れると必ず地震や津波などの災害が起こったのでわざわいポケモンという別名で呼ばれる。』

 

現れたのはほぼ全身が白い体毛で覆われており、顔の額の部分が三日月型の刃になっている四足のポケモン、アブソルだった。

図鑑でアブソルを検索したサトシは驚きに目を見開いた。

まるでポケモンが災いを呼ぶというデータと、そのアブソルが目の前に現れたという事に。

 

「アブソル…お前がここにいるって事は、災いを起こすって事か…!?」

 

「アブル…」

 

そうサトシが問いかけるや否や、アブソルは額の三日月の刃にエネルギーを貯めると顔を軽く降るってそれを放った。

 

「ピカッ!?」

 

「うわっ!?」

 

放たれたのはかまいたち。

空気の刃が駆け抜けるが、ピカチュウとサトシは屈んでどうにか回避した。

 

「と、突然何…するん…」

 

かまいたちを躱したサトシとピカチュウだったが、後ろからパラパラと音が聞こえたためチラリと後ろを見て再び目を見開いた。

サトシのいる後ろの壁。かまいたちが当たった壁がゴッソリと削り取られていたのだ。

もし今のかまいたちが当たっていたらと思うとゾッとする。

そんなサトシをアブソルは一瞥すると、少し離れた場所にいたマサトとジラーチに目を向けた。

 

『ひっ!?』

 

「ジ、ジラーチ! 逃げよう!」

 

アブソルの鋭い瞳で射抜かれたジラーチは身を竦めてしまうが、ジラーチの手を引くようにしてマサトが引っ張った。

そしてアブソルは再び額の刃に力を込め、、マサトとジラーチに向けて連続でかまいたちを放つ。

 

「わあああああっ!?」

 

「マサトッ!? 大丈夫!?」

 

ドガガガガンッ!と、かまいたちがマサトの後ろにあった壁を粉砕する。

壁は崩れ落ちて瓦礫の山となり、埃が舞う。

マサトとジラーチはどうにか無事のようだったが、心配したハルカがマサトの元まで駆け寄って怪我が無いかを確認した。

 

「マサト、ジラーチ、怪我はない?」

 

「う、うん」

 

『マサトのお陰で大丈夫だよ』

 

「良かった、早く逃げ―」

 

「アブルッ」

 

逃げようとするハルカ達だったが、アブソルは歩いてハルカ達の目の前まで迫っていた。

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウッ!」

 

「アブルッ!」

 

ハルカ達を助けるため、サトシはピカチュウに指示を出し、アブソルに向けて電撃が放たれる。

だが身軽な動きでアブソルは10万ボルトの電撃を回避すると、自らのかまいたちで崩した瓦礫の上に着地した。

そしてアブソルは瓦礫の中を漁った。

すると先ほどまでマサトが見ていた壁にかけらていた七夜の願い星というタイトルの絵画を漁りだすと額縁を口で咥えた。

 

「絵を…?」

 

「アブッ!」

 

そして絵画を口に咥えたまま、アブソルは駆け出すと美術館の出口へと向かっていく。

 

「アブソルが美術品を盗んだぞ! 捕まえろ!」

 

美術館の職員がアブソルを捕まえようと追いかけるものの、アブソルは絵画を咥えているとは思えぬスピードで美術館の廊下を駆け抜けると扉を破って逃げおおせた。

アブソルが去ったものの、未だに騒然としている美術館でサトシはハルカとマサトとジラーチに駆け寄った。

 

「皆大丈夫か!?」

 

「えぇ、ありがとうサトシ。でも、あのアブソルなんだったのかしら?」

 

「僕らが見てた絵を盗んでいったみたいだけど…」

 

「ポケモンが絵を欲しがるなんて事があるのかしら…?」

 

ポケモンが美術品を盗むとは考え難い。

あのアブソルにトレーナーがいて盗ませたという事なら考えられなくもないが、トレーナーがいるかどうかも分からないのが現状である。

 

「僕らを攻撃した訳じゃなくて、僕らの傍にあった絵が欲しくて技を出したんだよね?」

 

「多分だけど、そうじゃないかな」

 

「でもマサトがジラーチを連れて逃げなかったら危なかったかも!」

 

確かに、先ほど壁を破壊したかまいたちはマサトが連れて避けなかったらジラーチは無事では済まなかったかもしれない。

巻き込まれただけかもしれないが、被害が出ていたらと思うとゾッとする。

 

『マサト、助けてくれてありがとう』

 

「友達を助けるのは当たり前だよ!」

 

何はともあれ皆に怪我が無くて良かったと思うことにしたサトシ達は、アブソルの影響でその日はもう閉館となった美術館を後にしてポケモンセンターに向かう事にするのだった。

 

 

 

 

 

夕刻。

ジラーチの落ちたクレーターのある場所へ車でやって来たバトラーとダイアン。

クレーターの中心部にある筈の眠り繭が存在せず、バトラーは険しい表情をしていた。

 

「バトラー…」

 

そんなバトラーを心配そうな瞳で見つめるダイアンだが、バトラーはフッと笑うとモンスターボールを用意した。

 

「なに、誰かに先を越されたようだが問題ないさ。寧ろ眠り繭が無いという事は既にジラーチがパートナーの少年によって目覚めているという事でもある」

 

用意したモンスターボールを投げ、バトラーの手持ちのポケモンであるグラエナを繰り出す。

 

「グラエナ、ここに残っている匂いを追いかけるんだ」

 

「グラゥ!」

 

人間より遥かに優れた嗅覚を持つグラエナに、その場に残る匂いを覚えさせるとグラエナが駆け出して追跡を開始する。

バトラーとダイアンは車に乗りなおすとスピードを調節してグラエナを追いかけた。

向かうはフィレンタウン。

マサトとジラーチの元へ、バトラーの魔の手は確実に迫っていた。

 

 

 

 

 

そして完全に日が落ちた後、アラシのポケモンであるヴィランを探して街中を駆け巡っていたソラト。

もうどれくらい走っただろうか。もうどれくらい歩いただろうか。

ヴィランの影も形も見えず、あれはやっぱり見間違いだったのだろうと判断したソラトはトボトボと人通りの少なくなった街を歩いていた。

 

「ハァ…ハァ…もうこんな時間か。サトシ達が待ってるかもしれないし、ポケモンセンターに行くかな」

 

空を見上げれば2日目の千年彗星を眺める事ができる。

 

「ジラーチに願えばオヤジを見つけれるかな…」

 

普段ならば自分の力で探し出すのを躊躇しないソラトだが、最近のアラシに近づいているようで近づけていない様子からついつい弱気になってしまいそんな事を呟いてしまう。

 

「ハァ、駄目だな。オヤジを見つけるの頑張るってルチアにも約束したんだ。今日はとりあえずポケモンセンターに行って休むとしよう」

 

カイナで再開したルチアにもアラシを見つける事を応援されて、必ず見つけると誓ったのだ。

だが今日は街中を駆け回って疲れてしまったため、ポケモンセンターに向かう事にした。

そんなソラトの背中を、離れた場所にいる絵画を咥えたアブソルが見つめているとは知らずに…。

 

フィレンタウンにあるポケモンセンターへと到着したソラトは、ロビーで話をしているサトシとハルカを見つけると彼らに合流した。

 

「サトシ、ハルカ」

 

「あ、ソラト。情報集めはどうだったんだ?」

 

「駄目だったよ。そっちはどうだ? フィレンタウンは歴史のあるお洒落な町だし、色々見て回れたか?」

 

「それが…」

 

サトシはソラトに、美術館でアブソルに出くわした事を話した。

そしてそのアブソルが美術館にあった絵画を盗んで逃げ去っていった事も。

 

「アブソルが…」

 

「そうなの。マサトとジラーチが巻き込まれそうになって危なかったんだけれど…サトシのお陰で助かったわ」

 

「…そうか。ところで、マサトとジラーチは?」

 

「今はトイレに行ってるよ。それでソラト、この町はいつになった出発するんだ? 情報収集を続けるなら明日から俺も付き合うぜ」

 

アブソルと聞いたソラトはやっぱりこの町のどこかにヴィランがいるのではないかと考えてしまうが、首を横に振ってその考えを振り払った。

 

「いや、明日明後日にでも出発するとしよう。キンセツシティはそんなに遠くないからな」

 

アラシならもう他所に行ってしまっているだろうと判断したソラトは次のジムがあるキンセツシティへ向けて出発する方針を固めた。

それを聞いて、本当は早く次のジム戦をしたかったサトシのテンションが上がってきていた。

 

「そうか! よーし、それじゃジム戦に向けて特訓頑張らないとな! やるぞピカチュウ!」

 

「ピッカー!」

 

「でもサトシ、ジム戦ならジラーチに勝てますようにってお願いしてからの方がいいんじゃない?」

 

「何言ってるんだよ! ジム戦は自分の力で勝つから意味があるんじゃないか! ハルカだって他の誰かの力でコンテスト優勝したって嬉しくないだろ?」

 

「うーん…それもそうかも」

 

自分と、ポケモンの力で勝つから意味がある。

それはサトシもハルカも同じらしく、多くのポケモントレーナーも共感するところだろう。

 

「でも折角すぐ近くにジラーチがいるんだし、何か願い事をしておくのも悪くいないかも!」

 

「まぁ、そりゃそうだけどさ…ハルカなら何て願い事をするんだ?」

 

「そうねー…美味しいものをいっぱい食べたいかも!」

 

「ははは! ハルカらいしな」

 

「ちょっと、何で笑うの!? それならサトシは何て願い事するのよ!」

 

「俺はそうだな…強いポケモンと出会えますようにとかかな!」

 

「プッ! それもサトシらしいかも!」

 

「何だよ、ハルカだって笑ってるじゃないか」

 

サトシとハルカはお互いにジラーチという願いを叶える事ができるという存在に何を願うのかと話し合っていた。

だがハルカはハルカらしい、サトシはサトシらしい願いを聞いてお互いに笑いあっていた。

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんならなんて願い事するの?」

 

「おっ、俺も興味あるな!」

 

「ピィカ?」

 

サトシとピカチュウ、ハルカに目を向けられたソラトはうーんと考え込む。

アラシを見つける事は自分の力ですると決めているし、他で何か願い事と言われても正直あまり思い浮かばなかった。

―いや、1つだけあった。

 

「そうだな。もう1度だけでいい…オフクロに会いたい、かな」

 

「「あ…」」

 

思わぬ願いを聞いてサトシ達は目を見開くと気まずそうな表情になってしまった。

自分達の俗っぽい願い事の後にソラトのような願いが出てくるとは思わず申し訳なくなってしまったのだ。

 

「そんな顔するな、俺は大丈夫さ。ただ、何か1つ願いが叶うならって思っただけだよ」

 

表情が暗くなるサトシとハルカの頭をポンポンと軽く撫でてやると、ソラトは窓の外に見える千年彗星に目を向けた。

1000年に1度の奇跡に願うなら―

 

 

 

そんなサトシ達の会話を、手洗いへと続く奥の薄暗い廊下でジラーチと共にマサトは聞いていた。

だがマサトは下を向いており顔には影が差している。

マサトに何かあったのかと心配になったジラーチは声をかけるがマサトの表情は変わらなかった。

 

『マサト、どうしたの?』

 

「…ううん、何でもないよ」

 

『マサト…?』

 

そう言うとマサトはサトシ達の元へと歩いていった。

しかしジラーチはマサトの背中を見ていると胸騒ぎがした。

何か、良くない事が起こるような気がして。

 

千年彗星が見えなくなるまで、後5日。

 

 

 

to be continued...




次回も1週間後の更新になると思います。
っていうか基本的に週1更新でいこうと思います。
イイカンジで書けた時は週2回更新になることもあると思いますが、基本が週1だと思って頂ければ。


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第3の瞳が開く時

すいません、ちょっと遅れました。
ちょっと区切りのつけかたに悩んだのと、少し体調崩してしまいました。


1000年に1度見る事のできる巨大な彗星である千年彗星が現れてから2回目の早朝。

まだ人々がほとんど目を覚ましていない暁の時間帯。

サトシ達も例に漏れず、ポケモンセンターに用意されている宿泊用の部屋にあるベッドで横になり寝息を立てていた。

そしてそんな静かなフィレンタウンに1匹のポケモンがやって来た。

 

「ハッハッハッハッ…!」

 

息を切らしているが、クンクンと優れた鼻で匂いを嗅いで追跡してきた目標が近くにいる事を感じた黒い毛が美しいポケモン、グラエナは後ろから着いてきていた主人へと声をかける。

 

「グラァウ!」

 

グラエナの後ろから着いてきていた車から降りてきたのは紫色の髪に黒いスーツを来た男、バトラーと彼に付き添うダイアンである。

眠り繭が落ちてきた場所からグラエナに匂いを追跡させてようやく辿り着いたのだ。

 

「グラエナ、このポケモンセンターにいるんだな?」

 

「グラゥ」

 

「そうか、よくやった」

 

グラエナの案内でフィレンタウンのポケモンセンターにやって来たバトラーの瞳にはある種の覚悟が映っていた。

そう、どんな手を使ってでもジラーチを確保してみせるという覚悟が。

そんなバトラーが心配になり、ダイアンは静かに声をかける。

 

「バトラー…」

 

「大丈夫さダイアン。ジラーチが私に協力してくれるのならば、手荒な事はしないさ」

 

「もし、協力しなかったら…?」

 

「その時は…」

 

ダイアンの質問には答えず、バトラーはポケモンセンターの扉を開けた。

流石にこんな早朝ではジョーイさんも休んでいるが、緊急で患者が舞い込んで来る可能性もあるポケモンセンターの扉は基本的には24時間開けられている。

ポケモンセンターに入ったバトラーは、まだ周囲に誰もいない事を確認するとロビーにあるソファに腰掛けた。

 

「バトラー、ジラーチを探さないの?」

 

「なに、さっきも言ったがいきなり手荒なマネはしないさ。まずはジラーチと少年を見つけてしっかりと説明をする。その上で協力をお願いするからね」

 

以外にも冷静で紳士的な行動に安心したダイアンはバトラーの横に腰掛け、グラエナもバトラーの傍に座り込んだ。

それからしばらく時間が経過すると、徐々にポケモンセンターに泊まっていた宿泊客が出て来、ジョーイさんも仕事を始めて賑やかになっていく。

 

そしてついにやって来た。

 

「よーし、今日も張り切っていくぞ!」

 

「ピカチュウ!」

 

「もう、サトシ…朝から横で大きな声出さないで欲しいかも」

 

「それじゃあ朝飯食いながら今日の予定を決めるか。ほら、マサトとジラーチも来いよ」

 

「うん」

 

『マサト、朝ごはん食べよう!』

 

ジラーチと、ジラーチに選ばれた少年が奥の通路から現れたのを見たバトラーは僅かに口角を上げると少年こと、マサトに近づいた。

 

「キミ、少しいいかな?」

 

「え?」

 

朝一で見知らぬ男から声をかけられたマサトはまだ少し眠そうな目を擦りながらバトラーを見上げる。

そんなマサトに警戒心を抱かせぬように、バトラーはニコリと笑って次の言葉を紡いだ。

 

「私の名はバトラー。キミの連れているそのポケモンについて、少し話がしたいんだが、いいかな?」

 

「えっと…」

 

バトラーと名乗った見知らぬ男にジラーチの事で話があると言われても、マサトはどうしていいか分からず傍にいるサトシ達を見る。

年長者としてソラトが一歩前に出るとバトラーと言葉を交わした。

 

「ジラーチについて話との事ですが…バトラーさん、あなたは何者なんですか?」

 

ジラーチは1000年に7日間だけ活動する非常に珍しい幻のポケモンであり、それを狙うような怪しい相手かもしれないと警戒するソラトの視線をバトラーは真正面から真っ直ぐ見つめ返した。

それと同時にスーツの内ポケットから名刺を取り出してソラトに差し出す。

名刺にはトクサネ宇宙研究所ホウエン南支部主任・バトラーと書かれていた。

 

トクサネ宇宙研究所とは、ホウエン地方のトクサネシティに本部を構えるその名の通り宇宙について観測や研究をする組織の事である。

 

「名刺の通り、私はここから少し離れた場所にある天体観測所で活動する研究者だよ。千年彗星が見えた夜に星が落ちたのを観測してね…それでもしかしたらジラーチが落ちてきたんじゃないかと思ってやって来たのさ」

 

「成る程…それでお話とは?」

 

「ああ、実は―」

 

「バトラー、彼らはまだ起きてきたばかりなのだし…話は朝食をしながらにしない?」

 

話を始めようとした所に、バトラーの後ろからダイアンが声をかけた。

確かにサトシ達は起床したばかりで朝食もまだである。

 

「あなたは…?」

 

「私はダイアン。バトラーの助手よ」

 

突然会話に入ってきた女性に疑問符を浮かべながら問うと、ダイアンも自己紹介をした。

バトラーもずっとジラーチを追跡しており食事もしていなかったため、フッと笑うとロビーにある席を指した。

 

「あそこで食事をしながら話すとしよう。いいかな?」

 

「…はい」

 

一先ずは全員席に着いて朝食を注文し、食事をしながらバトラーの話を聞く事にした。

 

「あ、俺、サトシです」

 

「私ハルカです」

 

「僕は、マサト…」

 

『ジラーチだよ』

 

「俺はソラトといいます。それでバトラーさん、話とは?」

 

自己紹介を終えたサトシ達を待ち、バトラーはコーヒーを一口飲むと落ち着いた様子で話を始めた。

 

「私は昔からとある夢があってね。そのためにジラーチの力を借りたいんだ」

 

「夢?」

 

「各地に残っている伝説のポケモンの話は知っているかい?」

 

ハルカ、マサトとジラーチは首を傾げた。

それに対して、様々地方を冒険してきたソラトとサトシは聞き覚えがあった。

5年間で多くの場所を冒険してきたソラトは勿論、サトシもルギアと伝説の三鳥、結晶塔のエンテイ、時を越えるポケモンセレビィ、水の都アルトマーレで出会ったラティアスラティオスといった伝説、幻のポケモン達と接点があった。

 

「彼らは素晴らしい力を秘めている。それこそ、人助けに使えば数多くの人々を救う事ができるだろう。だが彼らはその力を人の為にはあまり使ってくれない」

 

伝説のポケモン、幻のポケモンの秘める能力やエネルギーが凄まじいものというのは多くの人の共通認識だが、彼らはポケモン。自然の生物だ。

ゲットをするならまだしも、そうでないのなら基本的に言うことは聞いてくれないだろう。

 

「だから私は思ったんだ。もし伝説のポケモンが言うことを聞いてくれなくても、そのエネルギーだけでも私達で使う事ができれば多くの人々を救えるとね」

 

「それで、ジラーチが欲しいと?」

 

バトラーの志は立派だ。

だが彼の声に篭る熱に何か嫌なものを感じたソラトは怪訝そうな表情をしながら問いかけた。

 

「あぁ、ジラーチの持つ千年彗星のエネルギーを活用できれば人類の更なる発展も夢ではない。是非私の研究所に来てもらいエネルギーを取り出させて欲しいんだ」

 

「おことわ―」

 

「駄目だよ!」

 

断ろうと口を開いたソラトの言葉を遮ったのはマサトだった。

ジラーチを両手で抱えて守るように抱きかかえており、バトラーを睨みつけている。

 

「マサト、何で駄目なんだ?」

 

「そうよマサト。バトラーさんの言ってることは別に悪い事じゃないと思うわよ?」

 

「でもそれってジラーチのエネルギーを吸い出しちゃうって事でしょ!? そしたらジラーチは1000年間眠りに着いちゃうんだ! そんなの嫌だよ!」

 

サトシとハルカはバトラーの言葉に疑問を持っておらず、拒絶の姿勢を見せるマサトに問いかける。

しかしマサトはジラーチのエネルギーが無くなるという事は即ちジラーチが眠りに着くことだと悟ったため絶対の拒絶を示していた。

 

「…バトラーさん、あなたの言っている事は一見立派に聞こえます」

 

「そうか。ならソラト君もマサト君を説得してくれないかい?」

 

「…でも、1つおかしい点がある」

 

ソラトも警戒していなければスルーしてしまったかもしれない、バトラーの会話の中にあった違和感。

牽制するように瞳を細めてバトラーを見るソラトに対して、バトラーはあくまで落ち着いた様子でコーヒーを飲み干した。

 

「…ほう? どこか変だったかな?」

 

「あなたの話の通りなら、エネルギーが取り出せるのなら他の伝説のポケモンでも良かった筈だ。なのにあなたはトクサネ宇宙研究所に所属している。つまり、宇宙や星に関する伝説のポケモンに狙いをつけているという事だ」

 

そう、バトラーの話に裏がなく全て本当ならば相手はジラーチに限定される事は無い。

ならばトクサネ宇宙研究所に所属する意味とは…。

 

「あなたが本当に必要なのは伝説のポケモンじゃなくて…ジラーチなんじゃないんですか? 千年彗星の莫大な力を秘めている、1000年に1度の唯一無二のポケモンを」

 

他の伝説のポケモンも様々な能力を持っているが、願いを叶えるという万能な能力があると言われているのはジラーチくらいのものだろう。

それだけで、ジラーチを狙う十分な理由になる。

 

「バトラーさん、ジラーチを欲する本当の理由は何ですか? …ん?」

 

正直に話すよう促したソラトだったが、バトラーの様子がおかしい事に気がつく。

バトラーは笑っていた。

くつくつと、堪えるようにしているがそれでも抑えきれていないようだ。

 

「ククク…! いやそうだね、本当の理由を話すとしよう。人々を救いたいと思っていたのは本当さ。だが人々は無理だと言った。そんなものは現実には不可能だと、幻想だと。私を嘲笑ったよ」

 

笑っているバトラーから狂気に似た感情を感じたのは、ソラトだけではなくサトシ達もだった。

先ほどまでは紳士的で礼儀正しく振舞っていたバトラーが突然豹変したように狂気を発しだした事で、サトシ達は全員驚きに体を硬くしてしまっている。

 

「確かに奴らの言うとおり、私1人の力ではどうする事もできない。だから私は決めたのさ。千年彗星の力を持つジラーチの力を使い、私が人々を支配すると! そして私を嘲笑った者達を見返してみせるとね!」

 

「バトラーさん、アンタ…!」

 

口調が早くなり、支配するという言葉と共にバトラーから明確な敵意を感じたソラトは咄嗟に立ち上がって腰のモンスターボールに手を伸ばす。だが事前に準備していたのだろう、バトラーの手には既にモンスターボールが握られていた。

 

「喋り過ぎたかな? サマヨール、シャドーパンチ!」

 

「サマッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

ボールから繰り出されたサマヨールは机の上に立つと、ゴーストタイプの技、シャドーパンチを放ちソラトを吹き飛ばした。

ロビーに設置されていた椅子や机を巻き込んで吹き飛んだソラトは床に転がる。

完全な不意打ちを受けたソラトはシャドーパンチで殴られた腹を押さえながらどうにか立ち上がろうとしていた。

周囲にいた人々も何があったのかと驚きに目を見開きながらも巻き込まれないよう遠巻きに様子を伺っている。

 

「なっ、ソラト!? 何をするんだ! ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「ピカ! ピカピッカ!」

 

「グラエナ、こちらもほのおのキバ」

 

「グラゥ!」

 

咄嗟にサマヨールへ反撃しようとしたサトシとピカチュウだったが、バトラーの傍に控えていたグラエナが飛び出してピカチュウのアイアンテールを灼熱の牙で受け止めた。

 

「なっ!?」

 

「そのまま投げ飛ばせ」

 

「グラッ!」

 

「ピカーッ!?」

 

空中でアイアンテールを受け止められてしまったピカチュウに対し、グラエナは机の上に着地すると振り回して勢いをつけるとピカチュウを投げ飛ばした。

ピカチュウは窓ガラスにぶつかり、パリーンと窓ガラスを破って外まで吹き飛ばされてしまった。

 

「ピカチュウ!」

 

「マサト、ジラーチを連れて逃げなさい!」

 

「うん! ジラーチ、行こう!」

 

『う、うん!』

 

「サマヨール、サイコキネシス!」

 

「サーマ」

 

マサトとジラーチに逃げるようハルカが告げるとマサトはジラーチを抱えたまま走り出そうとする。

だがバトラーの指示を受けたサマヨールがサイコパワーを発揮してサトシ、ハルカ、ソラト、マサトとジラーチを捕らえてしまう。

 

「う、動けない…!」

 

「く、ぅ…! モンスターボールに手が届けば…!」

 

「ぐ…! クソ…!」

 

サトシ、ハルカ、ソラトはバトラーに対抗いようとモンスターボールに手を伸ばそうとするが強力なサイコキネシスによって手を動かすこともできない。

このままではジラーチが奪われてしまうと思われたが、まだ仲間全員が捕まった訳ではなかった。

 

「ピカピ!」

 

先ほどグラエナに放り投げられてしまったピカチュウが割れた窓から駆け込んで戻ってきたのだ。

 

「何っ!?」

 

「ピカチュウ! よーし、サマヨールに10万ボルトだ!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウウッ!」

 

「サママママッ!?」

 

今度はバトラー達が不意を突かれた形になり、電撃がサマヨールに直撃する。

突然攻撃を受けてしまったサマヨールはサイコキネシスを解いてしまい、それによってサトシ達は自由になる。

 

「よし、動ける! スイゲツ、バトルの時間だ!」

 

「ラグラ!」

 

サイコキネシスから解放されると、ソラトはいの一番にボールからスイゲツを繰り出してバトラーに立ち向かう。

 

「クッ、グラエナ! バークアウト!」

 

「グラァアアアアアッ!」

 

「スイゲツ、マッドショット!」

 

「ラガァ!」

 

捕らえたと思った相手に逃げられ、忌々しそうな表情をするバトラーはジラーチを奪うために、ソラトはそれを阻止するため、それぞれポケモンに指示を下す。

グラエナの悪の力が込められた音波が、スイゲツの放った泥の弾丸を受けて掻き消される。

 

「サトシ、ハルカ! 今の内にマサトとジラーチを連れて逃げろ!」

 

「ああ!」

 

「分かったわ! マサト、行くわよ!」

 

「うん!」

 

ソラトがバトラーを足止めしている間にサトシ達はジラーチを連れてポケモンセンターから飛び出した。

このままフィレンタウンのジュンサーさんに通報してもいいし、バトラーからできるだけ距離を稼いでもいいだろう。

そう思っていたが、ポケモンセンターを出てすぐ目の前の道路に凄まじいスピードで飛ばしてきた車が急ブレーキをかけて止まった。

 

「な、何だ!?」

 

運転席の窓が開くと、そこに乗っていたのはダイアンだった。

どうやらバトルの最中に先回りされていたらしい。

 

「あなたは…!」

 

「くそっ、先回りされてたのか! ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

先ほどバトラーと共にいた助手であるためダイアンもジラーチを狙っているのだろうとバトルの姿勢になるサトシとピカチュウだったが、突然車の後部座席のドアが開かれる。

 

「乗って! バトラーから逃げるんでしょう!?」

 

「えっ!?」

 

しかしダイアンの口から出たのはサトシ達の予想とは逆の言葉だった。

 

「ど、どうするのサトシ!?」

 

「どうするって言われたって…」

 

「サマヨール、シャドーボール! グラエナ、はかいこうせん!」

 

「サマーッ!」

 

「グラァアアアアッ!」

 

ダイアンが敵か味方か分からずどうすればいいか戸惑っていると、ポケモンセンター側からサマヨールとグラエナの追撃が入る。

 

「スイゲツ、まもる!」

 

「ラグ!」

 

攻撃の間にスイゲツが割り込みまもるを使って攻撃を防ぐが、ドカン!と大きな爆発音が響き渡る。

どうにか攻撃を凌いだが、このままバトラーから激しい追撃を受けていては危険である。

 

「く…! 分かった、乗るよ!」

 

「ええっ!? いいのサトシ!?」

 

「今はこの場所を離れるのが先決だ! マサト、ジラーチ、乗るんだ!」

 

「う、うん!」

 

結局サトシの判断によりダイアンの車にサトシ達は急いで乗り込むと、車のドアが閉められて急速発進する。

その様子を見ていたバトラーはどこか悟ったような雰囲気を纏ながら目を伏せた。

 

「…ダイアン、やはり裏切ったか」

 

誰に言うでもなく、バトラーはそう呟いた。

それを聞いたソラトは先ほどのサトシ達の行動が間違いではないと分かり内心胸を撫で下ろしていた。

 

「と言う事は、ダイアンさんのあの行動は信用しても良いって事か?」

 

「ああ、彼女は私の助手でもあり、幼馴染でもあったのだが…結局信じられるのは自分だけと言う事だな。サマヨール、シャドーパンチ! グラエナ、たいあたり!」

 

「サマッ!」

 

「グラーッ!」

 

「スイゲツ、たきのぼり!」

 

「ラグラァ!」

 

「サマッ!?」

 

「グラウァ!?」

 

サマヨールとグラエナの同時攻撃だったが、それを物ともせずスイゲツは真正面から2体を吹き飛ばす。

2体とも戦闘不能になり、地面に倒れるとバトラーは特に慌てた様子も無く2体をボールへと戻した。

 

「終わりだ、バトラー」

 

「それはどうかな?」

 

3つ目のモンスターボールを開けたバトラー。中から出てきたのはラルトスの進化系、かんじょうポケモンのキルリアだった。

このまま再度バトルの姿勢に入ると思いきや、バトラーはソラトに背を向けた。

 

「ジラーチは必ず私が頂く。千年彗星が消えるまでに、再び会いまみえよう。キルリア、テレポート」

 

「キルッ」

 

キルリアのテレポートにより、バトラーとキルリアの姿はその場から掻き消えてしまった。

どうにかバトラーを退ける事ができたソラトだったが、どうやらこの先まだまだ狙われる事になりそうだと溜息を吐いてしまった。

マサトにはサトシとハルカがついているから大丈夫だろうと、この場の収拾をつけるためにジョーイさんに話をしに向かうのだった。

 

 

 

同じ頃、ダイアンの運転する車でフィレンタウンの道路を走り街の外へと出たサトシ達。

バトラーからの追撃も無い事を確認して落ち着いた頃に、ハルカはダイアンに疑問をぶつけた。

 

「あのダイアンさん、どうして私達を助けてくれたんですか?」

 

「…昔は本当にただ人々を助けたかっただけだった。でも心無い人達からの中傷で傷ついた彼は変わってしまったの。彼を助けたい。正しい方法で」

 

つまり、昔はバトラーの願いも純粋なものだったが彼は傷つき変わってしまい、目的が支配となってしまった。

だが幼馴染で昔のバトラーを知るダイアンは昔の優しい彼に戻って欲しかった。

そのためにも、彼女はサトシ達を助けて逃げ出したのである。

 

「ダイアンさん、どこへ向かっているんですか?」

 

「ひとまずバトラーと距離を稼ぐわ。千年彗星が見えなくなる頃にはジラーチは眠りにつくから、そうなればバトラーの野望は潰えるわ」

 

つまりタイムリミットまで逃げ続けるという事だろう。

確かにジラーチが眠り繭になってしまえば願いを叶えることも、千年彗星のエネルギーを使う事もできない。

それまでジラーチを守り続けるのが1番だろう。

 

「分かりました。マサト、ジラーチを頼んだぜ」

 

「うん。大丈夫だよジラーチ、絶対守ってみせるから」

 

『マサト…』

 

サトシ達も勿論ジラーチを守るが、何かがあった時の最後の砦は恐らくマサトになるだろう。

それを悟ったサトシはマサトにジラーチを託す証明のためにそう声をかけた。

決意した表情のマサトもジラーチを安心させるために笑いながらジラーチに必ず守ると誓い、ジラーチもそれを信じてマサトに身を委ねた。

 

そして車の窓からフィレンタウンのあった方へと視線を向けるハルカの瞳にも不安の色があった。

 

「お兄ちゃん、大丈夫かしら…」

 

足止めのためにポケモンセンターに残りバトラーに立ち向かったソラト。

ソラトが強いのは分かっているが、それでもあの場に1人残してきてしまった事を心配するハルカの表情は明るいとは言えなかった。

 

「なーに、ソラトなら大丈夫さ。すぐに追いついて来るって」

 

そんなハルカをサトシは元気付けようとする。

本心からソラトなら大丈夫だと思っている事もあるが、こういった時にサトシの前向きな性格はムードメーカーとして優秀と言えるだろう。

 

「そうね、一先ずフィレンタウンを離れて北上するわ。バトラーが追いつくのができるだけ遅くなるように、飛ばしましょう! しっかり掴まって!」

 

「「「『わあああっ!?』」」」

 

「ピィカー!?」

 

ダイアンの合図と共に車は更に加速してスピードを上げると草原に広がる街道を進んでいく。

うっすらと空に見える千年彗星に向かって、追いすがるように、祈るように…。

 

 

 

 

 

そしてその夜。千年彗星が現れてから3日目。

サトシ達はダイアンに連れられ、ジラーチを守りながら移動し、野宿をするために焚き火を囲んでいた。

食事を作れるソラトがいないため、夕食は持っていた非常用の缶詰くらいになってしまい、最近はソラトの美味しい晩御飯ばかりだったためたった一晩だというのにソラトが恋しくなってしまっていた。

 

「はぁ~、缶詰って味気ないかも」

 

「まあたまにはいいじゃん。それより、マサトのやつどうしたんだ?」

 

先ほどからマサトは焚き火から少し離れた場所で、眠っているジラーチと一緒に座り込んで空を、千年彗星を見上げていた。

 

「…私が聞いてくるわ」

 

姉として弟の様子が気になるのだろう、ハルカは缶詰を置くとマサトの下へと歩み寄った。

マサトの横に腰を降ろすと、一緒に千年彗星を見上げる。

 

「相変わらず綺麗よね」

 

「…」

 

「…マサト、どうかしたの?」

 

そう尋ねたハルカの目に映ったのは、ジワリと目に涙を浮かべたマサトだった。

 

「だっで…千年彗星が消えだらジラーチがまた消えぢゃうんでしょ…!」

 

泣きながら涙声でそういうマサト。

バトラーから逃げる際にジラーチが眠りに着くまで守るという事を、ジラーチとの別れになると強く感じてしまったのだろう。

既にパートナーと言っていいほどの仲の良い2人の仲を引き裂いてしまう、避けられない宿命は刻一刻と迫っているのだ。

 

「僕…僕…! ジラーチと別れたくないよ…! ずっと一緒に居たいよ!」

 

「マサト…」

 

紛れもないマサトの本心。

いやマサトだけではない。サトシだってピカチュウと別れるのは絶対に嫌がるだろうし、ハルカだって最初のパートナーであるアチャモとは別れるのは嫌だろう。

だからハルカも言葉選びに迷ってしまう。

目の前の弟にどう声を掛けたらいいものか、迷ってしまい上手く言葉にできないハルカ。

どうすればいいのか。こんな時、ソラトなら―

 

「…マサト、きっと私達は出会いと別れを繰り返しているのよ。出会いがあれば、別れもある」

 

「出会いと別れを…?」

 

「えぇ、きっと…私もいつかポケモン達と別れる事が来ると思うわ。いつになるかは分からないけれど、きっといつか…」

 

たとえどんなに仲の良い人とポケモンでも、いつかは別れる時が来る。

時には何らかの事情で交換したり、逃がしたり……そして死別したり。

 

「でも、別れる事を怖がってたら出会う事なんてできないわ。だから、恐れないでマサト。別れるその瞬間まで、ジラーチと一緒にいる事を楽しんで」

 

「別れるその瞬間まで…」

 

誰もが別れるその時を意識している訳ではないが、それでもいつかはやって来る。

でも、その瞬間が来るまでは。

 

今の言葉に何か思うところがあったのか、マサトはギュッとジラーチを抱きしめた。

そんなマサトの様子を見て一先ずはなんとかなったと思ったハルカは安心し、再び空を見上げた。

そして空の向こうから何かが飛んでくるのが見えた。

遠目では何かは分からなかったが、徐々に近づいてくるとそれが赤と白のポケモンだと分かり、その背中に誰が乗っているのかも見えた。

 

「お兄ちゃーん!」

 

そう、ラティアスの背中に乗ったソラトがハルカ達に追いついてきたのだ。

ハルカの声でソラトが追いついてきたと知ったサトシ達もハルカの元へと来ると、目を輝かせた。

そしてラティアスは高度を下げると地面に降り、サトシ達と合流した。

 

「ソラト、無事だったんだな!」

 

「あぁ、どうにかな」

 

「お兄ちゃん、バトラーさんはどうなったの?」

 

「逃げられた。あの様子だとまた仕掛けてきそうだったが…」

 

「やっぱり諦めないのね、バトラー…」

 

ジラーチを捕らえるのがバトラーの長年の夢であり、野望であった。

諦めてくれれば幸いだったのだが、バトラーをよく知るダイアンだからこそ簡単には諦めてはくれないというのは分かっていた。

 

「ムゲン、お連れ様。戻ってくれ」

 

「クーキュウ」

 

ムゲンと名づけられたラティアスをボールに戻すと、ソラトは焚き火の傍に座り込んで落ち着いた。

 

「とりあえず、向こうも拠点に戻っただろうしすぐには来ないだろ。一先ずは休んで…それからまた逃げるとしよう」

 

「うん…ジラーチ、きっとキミを守ってみせるからね」

 

ソラトが行動方針を決めると、マサトは改めてジラーチを守ると決意を固めた。

千年彗星が消えるまで、後4日。

 

 

 

翌日からサトシ達はダイアンの運転する車に乗り、バトラーから距離を稼ぐようにして逃亡を開始した。

だが予想に反してバトラーは何もして来なかった。

不気味なほど静かに時間が経過していき、千年彗星が消えるまで3日、2日、1日と…。

 

その間、マサトとジラーチはお互いから決して離れようとしなかった。

1000年に7日だけ。この残された時間を噛み締めるように。

 

 

 

そして千年彗星が消える夜。ジラーチが再び眠りに着くこの夜。

サトシ達はバトラーから逃げ続け、とある森でキャンプをして落ち着いていた。

空を見上げれば、あれほど輝いていた千年彗星は少しずつ薄くなってしまっている。

もう後数時間もすれば千年彗星は見えなくなってしまい、ジラーチも再び眠り繭になって永い永い眠りに入ることだろう。

 

「千年彗星も今日が最後か…」

 

サトシが空の千年彗星を見上げてそう呟くと、マサトとジラーチはお互いを見つめてギュッと抱きしめあった。

 

「ジラーチ、1000年後になっても…僕の事忘れないでね…!」

 

『うん、絶対に忘れないよ』

 

千年彗星が消えるまで、残り数時間。

サトシ達は慈しむような瞳で最後の時を過ごすマサトとジラーチを見守っていた。

 

「でも、結局バトラーさんは何もしてこなかったわね」

 

「きっと俺達に追いつけなかったんだよ。ダイアンさんが飛ばしてくれたからな!」

 

「ピカピカチュウ!」

 

ここ数日でバトラーが何もしてこなかったという事もあり、サトシもピカチュウもハルカもすっかり気を抜いてしまっているらしい。

だがバトラーをよく知るダイアンと、出会った際にバトラーの言動を見ていたソラトは厳しい表情をしている。

 

「いや、どうだろうな…あの様子からしてこのまま何も無く終わるというのは考え難いが…」

 

「えぇ、バトラーは用意周到だから油断はできないわ。最後まで気を抜かずに―」

 

ダイアンが言い切る前に、サトシ達の傍にあった茂みがガサリと揺れる。

まさかバトラーがやって来たのかと思ったサトシ達は一気に警戒する。

マサトはジラーチを抱きかかえ、そのマサトを庇うようにサトシとハルカが前に立ち、茂みを動かした何者かに立ち向かうためにソラトが最前線に出てボールを構える。

 

「…誰だ」

 

ソラトが森の闇に潜む存在にそう問いかけると、再び茂みがガサガサと揺れる。

茂みの揺れる動作が大きくなり、何者かがすぐ傍まで来ていると察知したソラトは迎え撃つためにボールを投げようとした瞬間、大きな影が茂みから飛び出した。

 

「アブル…!」

 

茂みを揺らした正体はアブソルだった。その上なんと口には額縁に収まった絵画を咥えていた。

紛れも無くフィレンタウンの美術館を襲ったあのアブソルである。

 

「あのアブソルは…!」

 

「美術館で僕たちが見ていた絵画を盗んだアブソルだよ!」

 

「おま…えは…!?」

 

思わぬ再会に驚きサトシ達は目を見開くが、ソラトは別の意味で驚いていた。

その理由は…

 

「ヴィラン…!? やっぱりヴィランか!」

 

「ヴィラン…って何だソラト?」

 

「俺のオヤジの手持ちのポケモンだ! アブソルのヴィラン!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

そう、このアブソルこそソラトの父親であるアラシの手持ちのポケモンの1体にして、子供の頃にはソラトの遊び相手にもなった…家族にも等しいポケモン、ヴィランである。

まさかフィレンタウンで出会ったあのアブソルがアラシの手持ちのポケモンだとは思わず、サトシ達も驚く。

 

「ヴィラン、お前がいるって事はオヤジも近くにいるのか!?」

 

「アブルルル…」

 

そしてヴィランはゆっくりとした足取りでソラトに近づくと咥えていた絵画をソラトの傍に落とした。

まるでこの絵画を見ろとソラトへ告げるように。

意図を察したソラトは怪訝そうな顔をしながらもヴィランが落とした絵画を拾うとその絵を見るものの、別段変わった様子は無い。

 

「…この絵がどうしたんだ?」

 

「アブルッ」

 

疑問を問うソラトに対して、ヴィランは役目は終えたとばかりに即座に踵を返して森の闇の中へと去っていった。

 

「あっ!? 待てヴィラン!」

 

ようやく見つけたアラシへの手がかりが即座に消えてしまうものの易々と見逃す手は無い。

ヴィランを追いかけるようにソラトは絵画を持ったまま森の奥へと駆け出した。

 

「お、おいソラト!」

 

サトシが引きとめようとするものの、今のソラトには何も聞こえていない様子でそのままソラトは行ってしまった。

 

「行っちゃった…」

 

「どうしましょう、ダイアンさん」

 

「そうね…ここでソラト君を追ってバラバラになるのも良くないし、私達はこのままここで待機していましょう」

 

「分かりました」

 

突然ソラトが居なくなってしまったため、1番の年長者であるダイアンにどうするか尋ねるサトシだったが、無難にソラトが戻るまでこの場で待機する事になったのであった。

 

一方でヴィランを追いかけるソラトは視界の悪い森を走り続ける。

いくら暗くて見通しが悪いと言ってもアブソルは真っ白な体毛のため夜の闇の中でも薄っすらと見えるためどうにか喰らいついていた。

 

「ハァ…ハァ…! くそっ!」

 

走りながらソラトは思考していた。アブソルの俊足ならば、幾ら運動能力が高いとは言え人間のソラトを突き放す事くらい余裕である筈。

だと言うのに完全に振り切らないという事は、ヴィランには何か狙いがあるようだ。

例えば、ソラトをどこかへと導いているような―

 

「はっ!?」

 

そして気がつけば、森の中にある木の生えていない広場までやって来てしまっていた。

広場の中央に佇むヴィランはソラトを見据えていた。

 

「ヴィラン…こんな所でどうして…」

 

息を整えながらソラトはヴィランに近寄ろうとすると、突然どこからともなく、周囲に声が響き渡った。

 

『相変わらずみてぇだな、クソガキ』

 

「っ!?」

 

忘れもしない、この声。

ソラトにとっては5年ぶりにもなる通りの良い低い男性の声。

腹の底から湧き出る怒りの感情を抑えて、ソラトは僅かに震える声で返答する。

 

「そう言うアンタも変わっていないみたいだな。コソコソ隠れてないで出てきたらどうだ、クソオヤジ!」

 

そう、この響く声の正体はソラトの父、アラシのものである。

森の中だというのに響くような声でどこにいるのか分からないが、近くにいるのは間違いがないためソラトは全神経を集中してアラシの姿を探す。

 

『嫌だよメンドくせぇ。俺だってヴィランがどーしてもっつーから来てやっただけだ』

 

「何だと…?」

 

『ヴィランがお前に渡した絵だよ』

 

「この絵が何だって言うんだ…ただの絵だろ!」

 

別段変わりの無いただの絵を渡すためにヴィランがアラシを引っ張ってここまで来たというのは分かったが、詳しい事情が見えてこない。

姿の見えないアラシはソラトの言葉を聞いて心底面倒臭そうに溜息を吐いた。

 

『持ち主が大切にしたり、何か強い思い入れを込めて作られた物にゃ喩え無機物だろうが波動が宿る』

 

「何…!?」

 

『波動くらい使えるだろ? その絵の波動に同調して読み取ってみろ。それが答えだ』

 

「……」

 

アラシの言うとおりにするのは癪だったが、ソラトが目を閉じて集中すると確かに絵画には独特の強い波動が込められていた。

そして同調する。

カイナシティでザンゲツにした事と同じく、波動を同調させて深層へ潜り込み過去を視る。

 

そこでソラトが見た光景は―

 

「なっ!?」

 

周囲は炎に包まれ、空からは無数の燃え上がる大きな岩が落ちてきている。

人も自然もポケモンも、万物を等しく破壊するこの光景は正に災厄。

 

「何が…起きて…」

 

訳も分からず驚く事しかできないソラトだったが、空の上から強い光が放たれているのに気がつき空を見ると、そこには…

 

「ジラーチ…」

 

眠るように目を閉じたまま宙に浮かぶジラーチだったが、ソラトの知るジラーチとは1つ違う箇所があった。

それはジラーチのお腹にある大きな1つ目。

ギョロリとソラトを射抜くように見つめるその瞳からは、何か強大な力を感じていた。

 

「ジラーチ!」

 

するとソラトの後ろからジラーチの元に駆け寄るようにして少年が現れた。

顔はよく見えないが、背は低く服装は古い民族が着るような古びたものである。

 

「ジラーチ、やめて! 僕が、僕が悪かったんだ…! こんな事になるなんて思ってなくて…!」

 

『私は汝の願いを聞き届けただけ。皆いなくなってしまえばいいという願いを』

 

「確かにそう願ってしまった…! キミの力を利用しようとする大人たちが嫌になって…思わずそう叫んでしまったんだ…! でもこんなの、こんなの違うよ!」

 

どうやらこの少年がジラーチに願ったことが原因でこの災厄が起きてしまったようだった。

そしてこうしている間にも空から降り注ぐ星が地に落ちて人々とポケモンの悲鳴が聞こえた。

 

『違う、とは? 汝の願いの通りであろう』

 

「こんな、他の人やポケモンも巻き込むような事…僕は望んでないよッ!」

 

『第3の瞳が開かれる時、はめつのねがいは叶えられる。それが定め』

 

「…なら、もう1度だけキミに願う! お願いだ、どうか―!」

 

どこか近くで星が落ち、光が広がる。

その光から逃れるためにソラトは腕で目を覆うと共に、弾かれるようにしてソラトは尻餅を着いて倒れた。

 

そして気がつけば先ほどの災厄の光景は消えており、静かな夜の森へと戻ってきていた。

 

「今の光景は…」

 

『どうやら見えたみてぇだな。その絵は1000年前にとある場所で起きた実際の事。災厄を生き抜いたある人物によって書かれた絵だ』

 

「…この光景を俺に見せて、何のつもりだ」

 

『ジラーチはパートナーになる少年がいて初めて目覚める。千年彗星の力を秘めるジラーチだがその力に善悪の分別はねぇ。つまり力の使い方はパートナーの少年次第って事だ』

 

つまり今の…あのジラーチの力の使い方はマサト次第と言う事になる。

それを察したソラトは立ち上がって振り返り、マサト達がいるであろう方へ向いた。

空を見れば、マサト達がいるだろう場所の上空に、大きな飛行要塞のような物が浮かんでいた。

 

「あれは…!?」

 

『オメーが見た光景も大昔にジラーチの力を奪い合おうとした奴らが原因だ。今回は、どうだろうな?』

 

「…くそっ!」

 

近くにアラシがいると思うと歯噛みするほど悔しいが、マサト達を放っておくこともできない。

ソラトは後ろ髪を引かれる思いを振り払ってキャンプ地へと駆け出した。

誰も居なくなった広場に、ガサガサと草木を掻き分けてアラシがやって来ると、ヴィランはアラシの傍へと歩み寄った。

 

「後はクソガキ次第だが…まぁ保険くらいはかけとくか。行け」

 

アラシの言葉と共にアラシの影から何か小さなものが飛び出すと夜の闇の中を駆けてソラトを追った。

 

「さぁて、行くとするか。来いヴィラン」

 

「アブッ」

 

そしてもう興味は無いとばかりにアラシはヴィランを連れ、ソラトとは逆方向へと足を進めるのであった…。

 

 

 

ソラトがヴィランを追いかけた後のサトシ達はその場で時間が過ぎるのを待っていた。

このまま時間が過ぎてくれれば何も問題無かったのだが、それは突然現れた。

静かな夜の森に突然強い風が吹いた。

 

「ピカ? ピ?」

 

「何だろう、突然風が強くなったような…」

 

「これは…自然の風じゃないわ…。あれはっ!?」

 

不自然な風に皆が反応し、風の吹いてきた空を見上げると、空の彼方から黒い大きな空中要塞が迫って来ていた。

 

「な、何あれ~!?」

 

「もしかして、バトラーが追って来たんじゃ!?」

 

「そんな…!? あんな飛行要塞をどこから…!?」

 

ダイアンの記憶ではバトラーはあんな飛行要塞は持っていなかった筈である。

しかしここで驚いている訳にはいかない。もう数時間しか時間は無いのだからどうにか逃げ切らなくてはならない。

 

「皆、すぐに車に乗って! 逃げるわよ!」

 

「で、でもお兄ちゃんが!」

 

「ソラトなら後から追いついてくるさ! 行こう皆!」

 

先ほどヴィランを追っていってしまったソラトが居ないが、前のように後から追いついてこれるだろうと判断したサトシ達は急いで車に乗り込んで移動を開始した。

アクセル全開で車を飛ばすダイアンだったが、空中を高速で飛行する空中要塞には敵わずどんどん詰められていく。

 

「くっ…このままじゃ…!」

 

「真上につかれたよ!」

 

そして空中要塞はダイアン達の車の真上に位置取り、そのまま高度を下げていく。

更に空中要塞は下部にあるハッチを開くと車を納めてしまった。

 

「くそっ、これじゃあ…!」

 

「逃げられないかも!」

 

ハッチが閉じられて要塞内に閉じ込められてしまい、サトシ達は捕まってしまった。

サトシ達を捕らえた空中要塞は再び高度を上げて空中へと飛ぶ。

 

「ど、どうするの…?」

 

「とにかく、ジラーチを守らないと!」

 

「ええ、大きい要塞だからマサト君とジラーチだけでも隠せればいいのだけれど…」

 

サトシ達は車から降りて周囲を確認するが、どうやらここは密室になっているらしく逃げられそうな場所は無かった。

 

「駄目…これじゃ逃げられないわ…」

 

『マサト…』

 

「大丈夫だよジラーチ。僕の傍から離れないで」

 

捕まってしまい弱気になってしまうハルカの言葉に不安そうにするジラーチだったが、マサトはジラーチを不安にさせまいと気丈に振舞う。

そしてサトシ達が閉じ込められている部屋の大きな扉が開くと、そこからバトラーとサマヨールが姿を現した。

 

「バトラー!」

 

「君達はよく逃げたが…残念だがここまでだ。さぁ、ジラーチを此方へ」

 

「嫌だ! 絶対にジラーチを渡すもんか!」

 

ジラーチを抱きかかえて拒否の姿勢を見せるマサトにバトラーは意外にもフッと優しそうに微笑むと、サマヨールを前に出した。

だがマサトに手出しをさせないと、サトシとピカチュウ、ハルカ、ダイアンがバトラーに立ち塞がる。

 

「ジラーチは渡さな―」

 

「サマヨール、サイコキネシス」

 

「サマ!」

 

だがサトシ達が行動を起こす前にサマヨールがサイコキネシスを発動し、サイコパワーで動きを封じてしまう。

 

「ぐぎぎ…! こ、こんなの気合で…!」

 

「無駄だ。サマヨール、彼らを閉じ込めるんだ」

 

「サマヨッ」

 

そのままサイコパワーで宙を浮かび部屋の外へ連れ出すと、用意してあった移動させれる檻へと放り込んだ。

檻に閉じ込められてしまったサトシだが、ただ捕まっている訳にもいかない。

 

「く、こんな檻! ピカチュウ、アイアンテールだ!」

 

「ピカ! ピカピッカ!」

 

アイアンテールで檻の鉄格子を破壊しようと試みるものの、硬い音が響くだけで檻は壊れる様子は無かった。

 

「ピカッ!?」

 

「硬い…!」

 

「君達はそこで大人しくしていたまえ」

 

「バトラー、こんな要塞をいつの間に…」

 

「ダイアン、君が裏切るのは予想がついていた。だから君に隠してこの要塞を用意していたのだよ」

 

サトシ達を無力化したのを確認したバトラーは残されたマサトとジラーチに向き直り少しずつ近づいていく。

逃げ場も無く、ジラーチを守るように抱きしめるマサトに対し、バトラーは更にサマヨールに指示を出す。

 

「サマヨール、ジラーチを引き離せ。サイコキネシス」

 

「サマ」

 

「うわぁっ!」

 

『マサト!』

 

再びサイコパワーでマサトとジラーチを捕らえて互いを引き剥がそうとするものの、全力で互いに抱きついている2人は中々引き離せない。

 

「ジラーチ、離さないで!」

 

『ぐ、ぐううううっ!』

 

「…まぁいい。サマヨール、2人をそのまま連れてくるんだ」

 

「サマッ!」

 

2人を引き離すのを面倒だと思ったバトラーはそのままサマヨールに2人を運ばせる事にした。

サトシ達を閉じ込めている檻も動かし、要塞のエレベータに乗せる。

そしてエレベーターで要塞の最上階に到着すると、そこは要塞の外。

要塞上部にはこれから使われるのであろうサトシ達ではよく分からない装置が設置されており、サマヨールはその装置の中心にマサトとジラーチを置いた。

更にマサトとジラーチを逃がさないように、透明のドーム状のカプセルを出現させて2人を閉じ込めた。

 

「何をするつもりなんだ!」

 

「ジラーチの中にある千年彗星のパワーを取り出すのさ。そのパワーさえ頂ければジラーチには用は無い」

 

「そんな…やめろっ! 僕たちを出せっ!」

 

カプセルを叩いて抜け出そうとするものの、カプセルはビクともしない。

その間にバトラーは装置を操作して作業を進めようとしている。

 

「もうすぐだ…もうすぐ私の野望が叶う…!」

 

「やめろっ! ジラーチの力はそんな事に使うためにあるんじゃない!」

 

「そうよ! そんな事のために、1000年に1度目覚めるわけじゃないわ!」

 

「もうやめてバトラー! 千年彗星の力を得ても、あなたの願いは叶わないわ! 昔の純粋な頃のあなたの願いを思い出して!」

 

檻の中からバトラーを説得しようとサトシ達も声をかけるが、バトラーの手は止まらない。

そして後もう少しでジラーチからエネルギーを取り出す準備を整えられるという所まで来た。

 

「ククク…これで、私の願いは届く―」

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「サーボネッ!」

 

「っ!? サマヨール、シャドーボール!」

 

「サーマッ!」

 

だがその直前、空の向こうからミサイルばりが飛来し、素早くそれに反応したバトラーはサマヨールに迎撃させてそれを撃ち落とした。

空を見上げれば、そこにはロケット団のニャース型の気球が浮かんでいる。

 

「貴様等…邪魔をするつもりか」

 

「貴様等…邪魔をするつもりかと聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の―」

 

「サマヨール、シャドーボール!」

 

気球に乗っていたロケット団がいつもの如く口上を述べようとするが、バトラーには関係の無い事。

不意打ちのシャドーボールはニャース型気球に命中すると、ドカンと爆発して気球は撃ち落とされ、ムサシ、コジロウ、ニャースの3人も要塞へと落ちてきた。

 

「「「ぎゃああああああっ!? ぶへぇっ!」」」

 

「もうあと少しで私の野望が叶うのだ。邪魔をするな」

 

無様に落下してきたロケット団を冷たい瞳で見つめるバトラーに対し、ロケット団はどうにか無事だったらしくのそのそと起き上がる。

 

「ぐぬぬ~! 口上の途中で攻撃するとは卑怯なヤツめ!」

 

「ロケット団、お前ら何しに来たんだ!」

 

「知れた事ニャ! ジラーチをゲットしてその力をニャー達の世界征服に利用してやるのニャ!」

 

「こうなったら力ずくでジラーチを奪うわよ!」

 

突然現れたロケット団に対し、サトシも敵意を隠さずに問い掛けるが、予想通りと言えば予想通りの回答。

この場はサトシ達とバトラーとロケット団の三つ巴の戦いになったのだ。

 

「行くのよハブネーク!」

 

「やれ、サボネア!」

 

「ハッブネーク!」

 

「サボサボ!」

 

「サマヨール、迎え撃て」

 

「サマ!」

 

ムサシとコジロウの繰り出すハブネークとサボネアを、バトラーのサマヨールが迎え撃つ。

 

「もうやめてよっ!」

 

だが両者がぶつかり合う前に、閉じ込められているマサトがそう叫んだ。

突然の叫びに思わずバトラーもロケット団も動きを止めてマサトを見ると、マサトの瞳からは涙が溢れていた。

そして吐露する。マサトが抱えていたジラーチへの想いと周囲への不満を。

 

「ジラーチの力を利用するって…! さっきから皆ジラーチの力の事ばっかりじゃないか!」

 

『マサト…』

 

「サトシ達だって、ジラーチの力の事を話してた! ジラーチは僕のパートナーなのに…!」

 

ジラーチは自分のパートナーなのに。千年彗星のエネルギーばかり付け狙い、願いを叶えるという力ばかりに狙う。

マサトの胸中は様々な感情でぐちゃぐちゃだった。

でも1つだけハッキリしている事があった。

 

「そんな人達なんて…ジラーチの事をただの力としか見ていない人なんて…皆―」

 

そこへ夜の空から、ラティアスのムゲンに乗ったソラトが高速で飛来してくる。

詳しい事情は分かっていないがマサトが泣きながら何か胸中の想いを吐き出そうとしている事を、波動から察知していた。

先ほど絵画から読み取った波動で見たあの光景を繰り返さないように、ソラトは腹の底から叫んだ。

 

「やめろマサトーッ! 願うなぁああああああああああああああああっ!!」

 

「皆いなくなっちゃえぇえええええええええええええっ!!」

 

そして、第三の瞳は開かれた。

 

 

 

to be continued...




皆さんはミュウツーの逆襲evolution見に行きますか?
私はもちろん見に行きますよ。かつて映画館でミュウツーの逆襲を見た者としては見ないわけにはいきませんからね!

後私、新作ポケモンはソードを予約しました。
サイトウちゃんが可愛かったので!


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1000年に1度の物語

とりあえずジラーチ編はこれで終わりです。
皆様ご意見あると思いますが、とりあえずこれが私のジラーチの物語となります。

どうかご容赦下さい。

後活動報告にて読者の皆様に少々ご相談があるので、お時間がある方はお目通しして頂けるとありがたいです。

最後に、今回のあとがきは映画で例えるとエンドロールとスタッフクレジットの後にあるオマケ要素のようなものを書きます。


まどろむ意識の中から、鼻を突くような嫌な臭いと節々に感じる痛みにサトシは目を覚ました。

 

「あれ、俺…どうしたんだっけ…?」

 

確かバトラーに捕まってしまい―と思ったところで勢いよく体を起こした。

 

「そうだ…マサトが叫んだらジラーチのお腹にあった大きな目が開いて…!」

 

「サトシ! 無事か!?」

 

「クー!」

 

何があったのか思い出しながら体を起こしたサトシの元へ、倒れている木を飛び越えてソラトとムゲンがやって来た。

 

「ソラト! 俺は無事だけど…ピカチュウがいないんだ!」

 

「大丈夫だ。ピカチュウもハルカもダイアンさんも向こうにいる。サトシだけ檻が壊れた衝撃で弾き出されたんだ」

 

「そっか、良かった…」

 

相棒であるピカチュウの姿が傍に無く焦るサトシだったがソラトの言葉で落ち着きを取り戻す。

落ち着いて周囲の様子を確認すると、どうやらここはサトシ達がいた森の中らしいが…周囲の木々はなぎ倒されていて少し離れた場所はバトラーの空中要塞が墜落しており、火事になっているらしい。

ゴウゴウと木々が燃える焦げた臭いが、目を覚ます時の嫌な臭いだったのだろう。

 

「ソラト、何が起こったんだ?」

 

「説明は後でする。まずはハルカ達と合流しよう」

 

「ああ、分かった」

 

ソラトの後に続いて薙ぎ倒されている木々を飛び越えて少し離れた場所へ1分ほど走って移動すると、ピカチュウとハルカ、そしてダイアンが待つ場所に到着した。

 

「おーい!」

 

「あっ、サトシ! 無事だったのね!」

 

「ピカッ! ピカピ!」

 

「ピカチュウ! 無事で良かったぜ!」

 

サトシが声を掛けるとハルカとピカチュウが反応し、ピカチュウはサトシの所まで駆け寄り飛びつくとサトシもピカチュウをギュッと抱きしめた。

 

「なんとか皆無事だな…」

 

「でもお兄ちゃん、マサトがまだ…」

 

「ソラト君、確かマサト君が叫んだと思ったらジラーチのお腹に大きな目が開いたと思ったのだけれど、何が起きたの?」

 

「ハルカ、分かってる。ここももう安全じゃない…手短に説明をすると、マサトが皆いなくなればいいと願った事によってジラーチの第3の目が開いた。はめつのねがいという力で大昔もその力で災厄が起きたらしいんだ。その開眼のエネルギーで要塞が破壊されて墜落し、俺達は地上に投げ出されたってとこか」

 

確かにマサトはこの場におらず、仲間全員が揃った訳ではない。

ダイアンも何が起きたのかを全ては把握できておらず、何かを知っているようなソラトへ問い掛ける。

要塞で何が起きたのかはソラトが語った通りである。ついでに言うと、サトシ達が閉じ込められていた檻は吹き飛ばされた時の衝撃で壊れてしまったためサトシ達は外に出ることができたのだ。

そしてソラトが言葉を続ける前に、真っ暗な夜空の筈だというのに上空が明るくなる。

 

「な、何だアレ!?」

 

サトシが指差す先には、燃え上がる巨大な岩が…そう、隕石が落ちてきていた。

それも1つや2つではない。無数の隕石がこの周辺に向けて落ちてこようとしているのだ。

そしてその隕石の1つが少し離れた場所へと落ちると、大きな爆発を起こし空気を引き裂くような音と、大地を砕くような振動を起こした。

 

「きゃああああああああっ!?」

 

「くっ…! 少し離れた場所だってのにこの衝撃か…!」

 

「ソラト君、これは…!?」

 

「…ジラーチのはめつのねがいです。マサトが願った『皆いなくなってしまえばいい』という願いをジラーチが聞き届け、千年彗星のエネルギーを利用してこの周囲に星を落としているんです。ジラーチを止めないと、まだまだ降り注ぎます」

 

「そんな…きゃあっ!?」

 

ソラトが説明している間にも、隕石が1つ2つと地上に落下してくる。

大地を破壊し、森を吹き飛ばし、周囲が炎と共に燃え上がり野生のポケモン達が逃げ惑う。

 

「あの絵画から読み取って見た過去と同じだ…このままじゃ辺り一帯が更地になっても隕石は降り続ける…」

 

「そんな! ソラト、何か止める方法は無いのか!?」

 

「マサトが願った事だからな。ジラーチを止めれるのはマサトしかいない」

 

ソラトが見据えるのは墜落したバトラーの空中要塞の最上部。

先ほどサトシ達が居たあの場所に、マサトとジラーチはまだ取り残されている。

バトラーやロケット団がどこにいるのかは分からないが、今はもう時間が残されていない。

 

「よーし、だったら話は早い! この要塞を登ってマサトを助け出せばいいんだ!」

 

「その通り。ムゲンに乗って上空から一気に行けばすぐだ」

 

隕石が降り注いでいる中では一刻を争う。

ソラトは再びムゲンの背中に乗ると飛ぶように指示を出そうとするが、直前で空からこの場所へ隕石が向かってきている事に気がついた。

 

「まずいっ! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クーキュゥウウウウッ!」

 

向かってきている隕石はかなり小さめだったためどうにか破壊できないかと、ムゲンにりゅうのはどうで迎撃する。

ムゲンは口を大きく開くとまるで竜のような形をした紫のエネルギーを放った。

強力な竜のエネルギー波は隕石に命中すると粉々に砕いた。どうにか隕石を破壊できたソラトはホッと胸を撫で下ろしたが、破壊した隕石の粉塵の中から何かが飛び出してきた。

そして飛び出してきた何かは、ソラト達の近くに落ちるとその姿を露にした。

 

「な、なんだコレ!?」

 

「これは…!?」

 

それは何か黒い液体のようなものだったが、地面に着くとグネグネと動き人のような姿になった。

 

「オオオォ…!」

 

「っ!? 皆避けろ!」

 

「うわっ!?」

 

人型になった液体は右腕を振り上げると、右手を巨大化させて振り下ろした。

手が大きくなった瞬間に敵意を感じ取ったソラトは皆に警告を出すと飛び退くようにして攻撃をかわした。

サトシ達もどうにか攻撃を避けたが、目の前の謎の生物は再び右手を振り上げた。

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウッ!」

 

「オオオオォォォォォ……」

 

サトシがピカチュウの電撃で反撃すると、謎の生物はドロドロに溶けるようにして崩れ落ちてしまった。

 

「何だったんだ…?」

 

「分からない…だが隕石の中から出てきたって事は…!」

 

今この瞬間も隕石は落ち続けている。

もしこの隕石全てにこの謎の物体が入っているのであれば、マサトを救出するのに大きな障害となる。

それを裏付けるかのように、周囲の茂みがガサガサと揺れると先ほどと同じ、黒い人型の謎の生命体が複数体現れた。

更には空も飛べるらしく、フワフワと浮いている個体までいるようで空を飛ぶ選択肢が潰されてしまっていた。

 

「いったい何なの~!?」

 

「分からない…隕石の中にいた宇宙生命体か…? とにかく襲ってくるぞ!」

 

「ソラト、どうするんだ!?」

 

「ともかく、これじゃ空からは近づけない。走って要塞まで行くぞ!」

 

「おう! ピカチュウ、道を切り開くんだ! かみなり!」

 

邪魔は入っているが、早くマサトを助けてジラーチを止めなければ現状は改善されない。

ソラトが空からマサトの元へ飛んで行ければ良かったのだが…謎の生物が飛行もできるとなれば空を飛んでも狙われやすくなるだけだろう。

 

「ピーカーヂュゥウウウウウウウウ!」

 

要塞への道を作るため、ピカチュウの強烈なかみなりで謎の生物達を吹き飛ばす。

 

「今だ!」

 

ピカチュウがこじ開けた道をサトシ達は駆け抜ける。

だが謎の物体も1度サトシ達に狙いを定めたのか空を跳び、地を駆けて後を追いかけてくる。

 

「ムゲン、ミストボール!」

 

「キューッ!」

 

追ってきている謎の物体に、ラティアスの専用技であるミストボールを放つ。

霧状に纏めたラティアスの羽毛のボールを、サイコエネルギーと共に放つ技である。

ミストボールが命中するものの、すぐに隙間を埋めるように新しい謎の生物が現れる。

 

「やっぱり元を断たないとダメか…!」

 

「要塞が墜落した場所はそんなに遠くない! 急げばすぐに到着できるわ!」

 

追っ手としての謎の生命体を振り切る事はできないものの、森を走り抜けていくと暫くすればすぐに要塞の所へと辿り着く事ができた。

だが巨大な要塞はマサトのいる最上部に到達するのには道のりは遠い。

要塞が無事ならエレベーターを使ったりすればそれほど時間はかからないだろうが、墜落した衝撃でそういった設備の使用は期待できないだろう。

 

「ハァ、ハァ…とにかく要塞には着いたな。後は要塞を登ってマサトの所に行くだけだ」

 

「ええ、早くマサトの所まで行きましょう!」

 

弟のマサトが心配なのだろう。ハルカはいの一番に要塞の破れている外壁から中へ入っていこうとする。

だがここまで追ってきていた謎の生物の群れがサトシ達に追いつくと、要塞に乗り込もうとしているハルカへ襲い掛かってくる。

 

「え、きゃあああっ!?」

 

「ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「ピカ、ピカピッカ!」

 

ハルカに襲い掛かろうとした謎の生物達にピカチュウが立ちはだかり、尻尾を硬質化させてアイアンテールを振りぬくと、謎の生物達を纏めて吹き飛ばした。

 

「ソラト、ハルカ、ダイアンさん! ここは俺が食い止める! マサトを助けにいってやってくれ!」

 

「ピカ! ピッカチュゥ!」

 

この場所で追ってきていた謎の物体をサトシとピカチュウで食い止める事になり、サトシとピカチュウは空に浮かぶ謎の生物に向き直る。

 

「…分かった! 無理はするなよ!」

 

「ああ、任せとけ!」

 

そしてサトシとピカチュウをその場に残し、ソラトとハルカとダイアンは崩れ落ちて破れている外壁をから要塞の内部へと侵入した。

 

「よーし、ソラト達がマサトを助けるまで持ちこたえるぞピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「「「オォォォォ…!」」」

 

空から燃える隕石が降り注ぐ中、サトシはピカチュウと共に謎の生物達を相手に足止めをする事になったのであった。

 

 

 

そして要塞の中へ再び侵入したソラト達は要塞の傾く回廊を走りながら上を目指していく。

 

「ハァ、ハァ…! 道が分かれば楽なんだがな…!」

 

要塞の間取りが分からないため勘で道を選んで上に続く道を探すソラト達だったが予想以上に複雑な要塞の内部を手探りで進むのは予想上に手間だった。

 

「オォォ…!」

 

「お兄ちゃん! あの生き物、もう中に入ってきてるわ!」

 

回廊の進む先から他の場所から侵入していたのだろう謎の生物の群れが飛んでソラト達の元へ向かってきていた。

 

「くっ…! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クーキューッ!」

 

再びムゲンがりゅうのはどうを放って謎の生物達を吹き飛ばして道を切り開いたものの、この様子ではまだ他にも要塞内に侵入していると考えた方がいいだろう。

 

「このままアテも無く走ってるだけじゃジリ貧だな…!」

 

どうにかして最短距離で最上部へ向かう事ができないかと思うソラトだったが解決策は手元に無い。

だがそんな最中、ダイアンがあるものを発見した。それは…

 

「バトラー…?」

 

要塞の一室に、倒れて機材に押し潰されて気絶しているバトラーがいるのが見えた。

 

「ぐ…ぅ……」

 

「バトラー! 無事なの!?」

 

ダイアンがバトラーを見つけた事で、ソラト達も足を止めてバトラーのいる部屋に入り無事を確認する。

部屋の天井を見れば一部が崩れてしまっており、どうやらバトラーも要塞が墜落した衝撃で天井や床が崩れ落ちてしまいここまで落ちてきてしまったのだろう。

また部屋の隅にはバトラーの手持ちであるサマヨールも倒れており、どうやら戦闘不能状態になっているようだ。

 

「バトラー、しっかりして!」

 

「ダイアンさん、一先ずこの機材を退かしましょう。ハルカ、そっち持ってくれ」

 

「うん! せーのっ!」

 

合図と共に3人でバトラーの上にある機材を動かしバトラーを自由にすると、仰向けの体勢にして容態を確認する。

どうやら軽い擦り傷等はしているようだが大怪我はしていない。手当ても一先ずは必要無いだろう。

 

「う、うぐ…」

 

そして機材を退かしたお陰か、バトラーもうっすらと目を開けて起き上がった。

 

「わ、私は…どうなったんだ…? ジラーチは…」

 

「バトラー!」

 

「ダイ、アン…」

 

バトラーが無事だった事で、ダイアンは安心から涙を流して彼を抱きしめた。

彼がどれだけ闇に落ちようとも、幼い頃から共に在り、そして心根の純粋な願いを知るダイアンだからこそバトラーの事を案じているのだ。

 

「ダイアン…どうなっているんだ…?」

 

「バトラー」

 

「ソラト君…何が起こったんだ?」

 

「マサトがジラーチに願い、はめつのねがいを引き起こしてしまった。このままじゃこの辺り一帯は跡形も無く消え去るだろうし、被害は更に拡大する」

 

「……」

 

「1度自分の目で外を見てみろ。それでもアンタがジラーチの力を望むのなら、その時は相手をしてやる」

 

ソラトに促されて立ち上がったバトラーは部屋の窓を開けて外の様子を見ると目を大きく見開いた。

空から降り注ぐ燃える隕石と、そこから現れる黒い人型の謎の生物。

森を焼き、大地を砕き、空を引き裂き…森に住むポケモン達の悲鳴が響き渡り、正にこの世のものとは思えない災厄だった。

 

「こんな…こんな事が…」

 

バトラーの欲していた支配をするための千年彗星のエネルギー。

だがそれが呼び寄せるのはただの破壊の力だった事を悟ったバトラーは俯き、肩を落とした。

 

「バトラー、ジラーチの千年彗星が引き起こすはめつのねがいは破壊しか呼ばないわ。マサト君を助けて、はめつのねがいを止めないと」

 

「マサトのいる最上部に到達できる最短ルートを知りたいんだ。案内してくれないか?」

 

「…あぁ。案内するからついてきてくれ」

 

バトラーも決意を固めた表情になると、倒れているサマヨールをボールに戻して3人を先導するように駆け出し、その後に続いてソラト達も走り出した。

要塞の内部を知り尽くしているバトラーの案内を得る事ができたソラト達はどんどん上階へと進んでいき、もう後数分もしない内に最上部に辿り着けるだろうと思ったその時だった。

ドカン!と大きな音と共にソラト達の近くの要塞の外壁が爆発して破壊され、隕石が要塞内部へと入り込んできた。

 

「うわっ!?」

 

「きゃああっ!」

 

「くっ…隕石が直撃したのか…!」

 

外壁を破り要塞を破壊した隕石がバキンと音を立てて皹が入ると、やはりそこから黒い液状の物体が現れて人に似たフォルムへと姿を変えてソラト達の前に立ちはだかった。

 

「オォォォォォ…!」

 

「時間が無いってのに…! ムゲン、ミスト―」

 

「行けグラエナ! ほのおのキバ!」

 

「グラゥ!」

 

邪魔をする謎の生物に攻撃をしようとするソラトだったが、そこへバトラーが割り込み、ボールを投げてグラエナを繰り出した。

グラエナは鋭い牙に灼熱の炎を宿して謎の生物の腕に噛み付く。

 

「バトラー?」

 

「最上部へはこのまま真っ直ぐ行けばもうすぐだ。…償いにもならないが、ここは私に任せてくれ」

 

「私も残って手伝うわ」

 

案内も必要ない場所までやって来たため、ここから先はバトラーがいなくても大丈夫だと判断したのだろう。

寧ろバトラーがマサトの元に向かってしまえばより拒絶されてしまうかもしれない。だからここでソラトとハルカが進めるように謎の生物の足止めを買って出たのだろう。

ダイアンもバトラーを手伝うために、バトラーからモンスターボールを預かり、キルリアを繰り出して加勢した。

 

「…分かった、行こうハルカ!」

 

「えぇ、バトラーさんとダイアンさんも気をつけて!」

 

その場をバトラーとダイアンの2人に任せ、ソラトとハルカは2人で真っ直ぐの道を突っ切り最上部へ向かった。

 

「…邪な感情で純粋な少年やポケモンを利用する夢など、このような未来しか呼ばないという事か」

 

「バトラー…」

 

バトラーの表情は何かを悟ったような、夢が叶わなかった悲しみを噛み締めているような複雑そうな顔をしていた。

だがこれからやらなければなならない事は分かっていた。

 

「ダイアン、私は間違っていた。だがそれに絶望して歩みを止めてしまえば本当の意味で私は救いようのない人間になってしまう。だから、たとえ許されなくても…私は償いの一歩を歩む」

 

「…今までずっと一緒に居たのだもの。これからも一緒に歩んで行きましょう」

 

「…ありがとう」

 

今までも、そしてこれからも。バトラーは自分を支えてくれるダイアンに心から感謝し、2人は手を繋いで目の前の謎の生物を見据える。

そして謎の生物は両腕を振り上げて攻撃態勢に入った。

 

「ォォォォ!」

 

「グラエナ、たいあたり!」

 

「キルリア、サイコキネシス!」

 

「グラウッ!」

 

「キールッ!」

 

グラエナとキルリアに指示を出し、バトラーとダイアンはこの災厄を終わらせるために、贖罪の道を歩み始めた。

 

 

 

そしてバトラーとダイアンの助けを得て謎の生物の攻撃をすり抜けたソラトとハルカは、上部ハッチを開放して遂に最上部へと辿り着いた。

 

「よし、着いたぞ!」

 

「お兄ちゃん、マサトとジラーチは…!?」

 

「…あそこだ!」

 

ハッチを登り傾いている最上部を見渡してマサトを探すソラトだったが、マサトとジラーチが閉じ込められていた丸いカプセルが眩いばかりに輝いているのを発見した。

恐らくあの光の中にマサトとジラーチがいるのだろう。

マサトとジラーチの中にいるであろう光へ向かって駆け出すソラトとハルカだが…要塞の上部に更に隕石が幾つも落ちてくる。

 

「きゃあああっ!?」

 

「ハルカ! 大丈夫か!?」

 

「う、うん…」

 

ドカンドカン!と要塞を粉砕しながら爆音が辺りに響き渡り、要塞全体が大きく揺れる。

しかも着弾した隕石からは謎の生物が人型へと変化してソラト達を狙いゆっくりと近づいてくる。

 

「お兄ちゃん、どうしよう…!」

 

「ここは俺が抑える。ハルカはマサトの所に行ってくれ」

 

「そんな…お兄ちゃん…私…」

 

ここにソラトが残り謎の生物を足止めすればマサトの所に辿り着くことはできるだろう。

だがハルカの胸中には不安があった。

それも当然だ。この周囲一帯を襲う災厄を止める役目を一身に負う事になるのだから。

自分にできるのだろうか。ソラトに傍に居て欲しい。マサトを、弟を助けたい。

様々な感情を抱えて不安そうに瞳が揺れているハルカの胸中を察したソラトだったが、ハルカの頭を優しく撫でると微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。マサトはお前の弟だろ? だったらお前が一言声をかけてやればすぐに目を覚ますさ」

 

「…そうね、私はマサトのお姉ちゃんなんだから。こんな大変な時に引きこもってる弟には、一言言ってやらなくちゃ!」

 

「その意気だ」

 

ハルカが覚悟を固めた所で、ソラトとハルカの前に謎の生物の群れが立ち塞がる。

 

「オォォォ…!」

 

「道を作るから、一気に駆け抜けろよハルカ! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クゥウウウウウウウッ!」

 

ムゲンから放たれるりゅうのはどうにより、直線上の謎の生物を纏めて薙ぎ払い出来た道をハルカが全速力で駆け抜けていく。

だがまだ控えていた謎の生物が近くを通ろうとするハルカを狙って攻撃しようとする。

 

「きゃっ⁉︎」

 

「ムゲン、ミストボールだ!」

 

「クーキュゥ!」

 

ハルカを攻撃しようとする固体に狙いを定めてミストボールを命中させて吹き飛ばし、ハルカを守る。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

無事に謎の生物の群れを突破したハルカを見届けたソラトは時間を稼ぐため、ムゲンと共に改めて謎の生物に向き直る。

 

「さぁて…それじゃあいっちょ付き合って貰うぜ! 行くぞムゲン!」

 

「キュゥ!」

 

ソラトがハルカをマサトの元へ送り出した頃、要塞の外で襲い来る謎の生物の群れを迎え撃っていたサトシだったが旗色は良くなかった。

次から次へと現れる謎の生物に、ピカチュウを始めとしたポケモン達は疲労が隠せない。

 

「ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ…! チュゥウウウ…!」

 

ピカチュウから放たれる電撃も、体内に残る電気エネルギーが残っていないのか普段より弱くなっている。

そんな弱々しいピカチュウの電撃を耐えた謎の生物の1体が腕を振り上げる。

 

「ピカチュウが危ない! スバメ、でんこうせっかだ!」

 

「スバーッ!」

 

ピカチュウに続けて繰り出していたスバメとヘイガニにも援護させているが、それでもこのままではジリ貧だろう。

スバメがでんこうせっかでピカチュウに攻撃しようとしていた謎の生物を吹き飛ばすものの、またすぐに別の物体が現れてしまう。

 

「スバ~…」

 

「くっ…ヘイガニ、バブルこうせん!」

 

「ヘーイ、ガッ!」

 

バブルこうせんを薙ぎ払うように放つことで正面の謎の生物を撃ち払うとかなりの数を吹き飛ばして処理できたものの、それでもまだまだ謎の生物は沢山沸いてくる。

 

「ヘイ…ヘイ…」

 

「駄目だ…このままじゃ皆のスタミナが切れてやられる…!」

 

「「「オォォォォ…!」」」

 

「っ!? 皆、来るぞ!」

 

「ピカッ!?」

 

「スバッ!?」

 

「ヘイッ!?」

 

そしてサトシ達が疲労している隙を突いて、謎の物体達が同時に攻撃を仕掛けて来る。

疲れていたせいか反応が遅れてしまい、ピカチュウ達は身動きが取れずに身を強張らせてしまう。

まともに攻撃を受けてしまうと思われたその時―

 

「ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハッブネーク!」

 

「サボサボサボ、サーボネッ!」

 

「「「オォォォォ…!?」」」

 

近くの茂みが揺れると、そこからハブネークとサボネアが現れてピカチュウ達を守るように謎の生物の群れの攻撃を弾き返した。

 

「このハブネークとサボネアは…!?」

 

「苦戦してるようだな、ジャリボーイ」

 

「なんだったら、アタシ達が加勢してやるわよ」

 

ハブネークとサボネアが現れた茂みを見れば、ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人組が現れたのだ。

普段からサトシ達の邪魔ばかりし、今回も先ほどジラーチを奪おうと乱入してきたというのに今度はサトシを助けるような行動をしたため、サトシも面食らう。

 

「ロケット団…どういう事だ!?」

 

「ニャー達もここで一緒に戦ってやるって言ってるニャ」

 

「詳しい事情は知らんが、お前らコレを止めるために戦ってるんだろ? だから協力するって言ってるんだよ」

 

「世界を征服するためには、その世界が無事じゃないと話にならないってコトよ!」

 

「それにこうなったのには、ニャー達にも責任があると思うからニャ」

 

「お前ら…」

 

普段からは考えられないロケット団の言い分だが、今ばかりは彼らが頼もしいと思ったサトシは、ロケット団と協力する事に決めた。

 

「よーし、一気に行くぜ! ピカチュウはアイアンテール! スバメはつばさでうつ! ヘイガニはクラブハンマー!」

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ニャーもみだれひっかきニャ!」

 

力を合わせた一斉攻撃により、一気に謎の生物の群れを押し返す。

普段は相反するチームだったが、今だけは百人力の頼もしいチームになっていた。

そしてサトシは後ろを振り返り、要塞の上を見上げる。

 

「ソラト…ハルカ……頼んだぜ」

 

この災厄を止めるために上に向かった仲間が早くマサトを助けてくれる事を祈り、サトシは再び目の前の戦いに集中する事にした。

 

 

 

 

 

マサトはまどろみの中で眠っていた。

やけに外がうるさい気もするが、それよりもこの心地良いまどろみの中で眠っていたいと身を委ねていた。

 

「―ト…! マサト…! 起き……サト…!」

 

何やら自分を呼ぶ声がする。起きなければと思うマサトだったが、同時に頭に響くような声が聞こえた。

 

『安らかな夢の中にいるといい。醜い現実と向き合う必要など無い』

 

誰だろうか。

いや、誰でもいい。今は頭に響く声の通り、この居心地のいい場所で眠り続けていたい。

 

「マサト…! マサト起きなさい…! 聞こえてるんでしょう!?」

 

次第に自分を呼ぶ声がハッキリとしてくる。

誰だったか、随分と聞き馴染みのある声だが…と眠りながらゆったりと考えるマサトだったが、再び頭に響くような声が語りかけてきた。

 

『まどろみの中で、願いが叶うまで眠るのだ。そうすれば辛く、汝の想いを踏みにじる汚い大人達に悩む必要もない』

 

願いとは何だっただろうか。汚い大人達とは誰の事だっただろうか。

頭の片隅でそう考えているものの、強い眠気に誘われてマサトは目を開ける事ができなかった。

なんだろうか、頭の中に響く声がマサトの思考を奪っているような…。

そこまで考えて、マサトは思考を放棄して眠りに着く事にした。

 

「マサト…! こうなったら奥の手よ…!」

 

欠伸を噛み殺し、自分の両手を合わせて枕代わりにして横になる。

さぁ、もう一眠り―

 

「マサト! またおねしょしたでしょ! だから寝る前にジュースは飲むなって言ったのに!」

 

その言葉に、マサト思わずカッと目を見開いて飛び起きた。

 

「わぁあああああっ!? ご、ごめんなさいお姉ちゃん!?」

 

そうだ、この声は姉であるハルカの声だ。

 

「ごごご、ごめんなさいお姉ちゃん! 最近は全然おねしょしなくなったから油断してて…! だからお願い! ママにだけは言わないでー!」

 

「マサト、しっかりしなさい! こっちを見て!」

 

「え?」

 

言い訳をするマサトだったが、ハルカの声に意識をハッキリとさせて確認するとおねしょなんてしていなかった。

そしてハルカの方を見れば、切羽詰まった表情のハルカが迫っていた。

 

「お、お姉ちゃん!? どうしたの…!? ていうか何があったの!?」

 

「マサトがジラーチにみんないなくなっちゃえって願ったから、ジラーチがその願いを叶えようとしてるのよ!」

 

「えっ? うわぁっ!?」

 

轟音と共に揺れる大地に空を見上げてみれば、上空から落ちてくる無数の燃える隕石が目に入る。

それだけではなく、離れた場所ではソラトが黒い謎の生物の群れと戦っている。

何が起きているのか、マサトには把握しきれないが、ハルカの言葉通りならこの状況を作ってしまったのは恐らく…。

子供ながら頭の回転の速いマサトだからこそ、察してしまった。

 

「そ、そんな…! 僕、僕はそんなつもりじゃ…! ジラーチ!」

 

そんなつもりではなかった。

いなくなっちゃえというのも、勢いで咄嗟に口から出た言葉に過ぎず本気で言ったつもりは無かった。

そして抱きかかえているジラーチに目を移せば、ジラーチは眠るように両目を閉じており、代わりにお腹にある大きな単眼が開かれており、ギョロリとマサトを見つめていた。

 

「ジ、ジラーチ…!? その目は…!?」

 

『第3の瞳が開く時、はめつのねがいは叶えられる。それが定め』

 

普段のジラーチとは違う低く重い声が頭に響くと共に、マサトとジラーチを閉じ込めていたカプセルが割れ、ジラーチはマサトの手から離れてフワリと浮かび上がる。

 

「ジラーチ、ジラーチなの!? 何でこんな事をするの!?」

 

『私はジラーチの中に眠る力そのもの。この光景は、汝の願いを聞き届けただけ』

 

「そんな…違うよ…! 僕が言ったのはそういう意味じゃないんだ!」

 

『何が違う? 全て無に還れば皆いなくなる。汝の願いの通りとなる』

 

マサトが先ほどの言葉と願いを否定するものの、ジラーチは冷たい声で返すのみだった。

そんなつもりで言った訳ではないのだが、言葉にして発してしまったのも間違いではない。だからこそマサトは言葉に詰まってしまった。

どうすればいいのか、分からなくなってしまったマサトは目を瞑り、涙を流しながら俯いてしまった。

 

そんなマサトを見て、ハルカは心を決した。

この災厄を収めるためには、マサトがジラーチを何とかしなければならない。

災厄を止めるためにも、涙を流す弟のためにもハルカはマサトの傍に寄り添った。

 

「マサト、確かに1度は願ってしまったかもしれないわ。でもこのままじゃいけないのは分かるでしょう?」

 

「お姉ちゃん…」

 

「ジラーチだって、このままにはしておけないわ。そして、ジラーチを止められるのはマサトだけなの」

 

「僕が…僕だけが…」

 

ジラーチのパートナーとして、この災厄を止められるのは自分だけだとハルカに告げられて自覚をしたマサトは涙目で宙に浮かぶジラーチを見つめる。

そう、ジラーチにこんな災厄を引き起こさせているだけではいけない。ジラーチにこんな事はさせたくない。

ジラーチを想えばこそ、マサトは涙を拭って立ち上がった。

 

「ジラーチ! お願いだから、こんな事はもうやめて!」

 

『何故だ? この現状はキミが願った事。私はそれを叶えているだけ』

 

「違うんだ! 言ってしまっただけで、望んではいないんだ! だからもう止めて!」

 

開かれている第3の目は不思議そうに瞬きをすると、マサトと目線を合わせるように高度を落とすと改めて問いを投げた。

 

『ならば汝の願いとは? 何を願い、何を望む?』

 

「僕は…! 僕の願いは…! ジラーチにこんな事をして欲しくないんだ! お願いジラーチ! こんな事は、もうやめて! 無かった事にして!」

 

心の底から願う、マサトの本当の願い。

それは災厄の否定。

ジラーチが災厄を引き起こしたという事実を無くして欲しいというものだった。

 

『…承知した』

 

ジラーチはそれを承諾すると空を見上げた。

夜空に輝く消えかけの千年彗星が一瞬だけ強い光を放つと、一条の光が地上へと舞い降りてジラーチに吸収される。

 

(キミ)の願いを届けよう』

 

第3の瞳だけではなく、本来の瞳を開いたジラーチはマサトに向かって笑顔でそう答えると、先ほど吸収したのだろう千年彗星の力を解放した。

ジラーチの体から放射状に広がる光は、周囲一帯を優しく包み込む。

そして光に包まれた場所は、まるで時間が巻き戻るかのようにして修復されていく。

 

隕石が落下して窪んだクレーターは、何も落ちてないように平坦な土地になり。

地面が抉られて倒れてしまった木々は元の場所へと根を張り戻し。

燃えていた森の炎はまるでそこには炎など無かったかのように掻き消えてしまい。

墜落していたバトラーの空中要塞も破損箇所がどんどん修復されて機能を取り戻し、徐々に離陸を始めていた。

 

そして隕石と共にやって来た謎の生物達も、テレポートをするが如く瞬時に掻き消えていく。

無論、サトシ達が戦っていた黒い謎の生物達も次々に姿を消してく。

 

「な、何!? ちょっと、何が起きてんの!?」

 

「いや俺に聞かれても…!」

 

「でも何とニャく、無事に事件が解決したっぽいのニャ!」

 

「きっとソラト達がやったんだ…! マサトとジラーチを助けたんだな!」

 

「ピィカ…ピカピカ」

 

地上にいた謎の生物達が掻き消えていくと、サトシとロケット団は事態の収束を感じて喜んでいた。

各々疲れてはいるものの、どうにか最後まで持たせる事ができたようだった。

そして同時に修復されていく要塞が徐々に地面を離れて浮かび上がっていく。

 

「要塞がまた飛ぶ…!? 急いで乗らないと! 戻れ、スバメ、ヘイガニ! 行こうぜピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

地上から離れようとしている要塞を見て、中に居るソラト達と逸れるわけにはいかないサトシはスバメとヘイガニをモンスターボールに戻してピカチュウを抱きかかえるとまだ直りきっていない壊れた外壁から要塞に飛び乗った。

 

「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」

 

「そうだそうだ! 俺達だって頑張ったんだぞ!」

 

「飛び乗るニャー!」

 

自分達だけ仲間外れは嫌だとでも思ったのか、ロケット団も要塞の壊れた外壁から中へ入ろうとする。

しかしそのタイミングでその外壁の修復が始まってしまい、ロケット団は硬い鋼鉄の壁に激突。そのまま要塞は空中へと飛び上がってしまった。

結果としてロケット団は外壁にしがみついたまま空の旅へ。

 

「「「ええぇ~!? ヤなカンジ~!?」」」

 

折角頑張ったというのに最終的にはこんな仕打ちになってしまい、結局いつも通りヤなカンジになってしまうロケット団なのだった…。

 

 

 

そして場所は再びバトラーの空中要塞の最上部。

千年彗星のエネルギーを使い、災厄を無かった事にしたジラーチは第3の瞳を閉じてゆっくりとマサトの元へと戻ってきた。

 

「ジラーチ…」

 

『マサト、悲しい思いをさせちゃってゴメンね。でも、もう全部元通りだから』

 

「ううん、ジラーチは悪くないよ。僕の方こそゴメンね」

 

互いに謝りながらマサトはジラーチを再びその手に取り戻し、ギュッと抱きしめた。

 

「ハルカ、マサト、ジラーチ、皆無事だな」

 

「お兄ちゃん…うん、もう大丈夫かも」

 

「ソラト…えっと、その…」

 

謎の生命体が消えたため、ソラトもハルカとマサトの元へと合流した。

マサトは迷惑をかけてしまったため気まずそうに言葉を探すが、ソラトはフッと微笑んでマサトの頭に手を置いた。

 

「あ…」

 

「無事で良かった」

 

「うん…ありがとうソラト」

 

深くは言わず、ただ身を案じてくれていたと言ってくれるソラトに、マサトもお礼を言った。

そして少し離れた場所でハッチが開くとバトラーとダイアンが登って来て、エレベーターが動いて最上階まで到着すると、サトシとピカチュウが降りてきた。

 

「マサト君、無事だったのね!」

 

「…」

 

「マサト! ジラーチ! 良かったぜ!」

 

「ピカピ! ピカチュウ!」

 

これでサトシ達は全員無事に合流し、バトラーとダイアンも無事だった。

災厄も無かった事にされ、全ては無事に収まったと言えるだろう。

そしてバトラーは一歩前に出ると、マサトとジラーチを始めとして、サトシ達に深々と頭を下げた。

 

「皆、すまなかった」

 

「バトラーさん…」

 

「私が間違っていた。私の歪んだ目的のせいで多くの被害を出す所だった…申し訳ない」

 

あの災厄の光景を見て間違いに気がついたのだろう。

バトラーからは深い反省と後悔の意思が感じられ、本心からの謝罪だとサトシ達からも分かった。

 

「もういいですよ。皆無事だったし、バトラーさんも考えを変えてくれたのなら。ね、ジラーチ?」

 

『うん!』

 

「そうか…ありがとう」

 

マサトとジラーチから許された事でバトラーも気持ちが幾分か楽になったのか、優しい表情になって笑っていた。

 

そして全てが片付き、ハッピーエンドを迎えられた……と思っていたが、まだ1つだけ残っている事があった。

空に輝いていた千年彗星は、もうほとんど見えなくなってしまっている。

それは即ち、ジラーチが目を覚ます事のできる7日間が終わってしまったという事。

 

ジラーチとの、別れの時が来た。

 

「あ…ジラーチ…」

 

『マサト、ゴメン。僕、眠くなってきちゃったみたい…』

 

気がつけば、ジラーチの体がうっすらとした光に包まれていた。

 

「うん…眠るんだね、ジラーチ」

 

『マサト、7日間ありがとう。これから先、また1000年後に目覚めても…マサトと一緒の7日間より楽しい時はきっと来ないよ』

 

「うん…ぼぐも…! ジラーチとい゛っじょの7日間、だのじかっだよ…!」

 

覚悟は決めていた筈なのに、いざその時が来ると感情が抑えきれない。

涙が溢れてしまい、鼻をすすり、しゃくりをあげてしまう。

 

『おやすみ、マサト。おやすみ、皆』

 

「「「「「おやすみ、ジラーチ」」」」」

 

「おやずみ゛…ジラーヂ…!」

 

そして空の千年彗星が完全に見えなくなると、ジラーチを包んでいた光が変化すると硬い石、眠り繭となった。

こうしてジラーチは眠りに着いたのだった…。

永い永い眠りに…。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

サトシ達はバトラーの空中要塞から降ろしてもらい、ホウエンリーグを目指す旅を再開する事にした。

だだっ広い草原に要塞を停めたバトラーとダイアンの見送りと共に、サトシ達は次の目的地を目指す事になる。

 

「皆、本当にありがとう」

 

「いえ、此方こそここまで送って貰ってありがとうございます」

 

「それじゃあマサト君、ジラーチの眠り繭は私達が責任を持って預からせてもらうわね」

 

昨晩、ジラーチが眠った後で眠り繭はバトラーとダイアンが預かるという事になった。

旅をするには重い眠り繭を運ぶのは難しいし、改心したバトラーとダイアンになら眠り繭を任せられるという事でマサトも納得していた。

 

「うん…お願いします」

 

だがやはりマサトはどこか元気が無かった。

頭では分かっていても感情は全くの別物だ。やはりジラーチとの別れは堪えているのだろう。

 

「私の観測所に来てくれれば、眠り繭で眠るジラーチに会える。いつでも来てくれて構わないよ」

 

「ありがとうございます…」

 

バトラーはそう言ってくれるが、マサトはやはり少し落ち込んでいるような声色でそう答えた。

 

「じゃあ、俺達はこれで」

 

「さようなら、バトラーさん、ダイアンさん」

 

「またどこかでお会いしましょう」

 

「……」

 

それぞれが別れの挨拶を済ませると、サトシ達は地平線の先まで続く街道を歩き出した。

マサトも少し俯きながら、サトシ達の背中を追うように歩き出す。

もう2度と会えないであろうパートナーに背を向けて―

 

『またね、マサト』

 

「えっ?」

 

ここ7日で聞き慣れた声がマサトの耳に届く。

まさかと思い振り返ると、そこには変わらずバトラーとダイアン、そしてダイアンが抱えるジラーチの眠り繭があるだけだった。

眠っているジラーチは声を出せない筈なのに、マサトには確かに、ハッキリと聞こえていた。

 

そして、またねと言ってくれた。

また会えるように、願いを込めて。

 

「…うんっ! またね、ジラーチ!」

 

だからマサトも最高の笑顔でそう言った。

またいつか、奇跡を経て最高のパートナーと再会できるように願いを込めて。

そしてマサトは今度こそ振り返る事無く歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

バトラーの空中要塞が着陸した事で、一晩中外壁にしがみついていたロケット団もどうにか腰を落ち着ける事ができた。

ずーっとしがみついていたせいでクタクタのため、3人とも草原に寝そべって青い空を見上げている。

 

「あー、今回もダメだったなぁ…」

 

「でも丸く収まったみたいだし、とりあえずは良しって事にしときましょ」

 

「ソ~ナンス!」

 

「でも流石にクタクタにニャっちゃったし、今日はこのまま休むとするニャ」

 

早朝のためか、まだうっすらと星が見える西の空を見上げてロケット団3人はボーっとする。

今日はこのまま休業だ。

 

そしてそんなロケット団3人の目に、西の空にキラリと走る流れ星が目に入った。

 

「おっ、流れ星だ」

 

「こんニャ朝に見られるニャんて」

 

「なーんかイイ事ありそうじゃない?」

 

「ソーナンス!」

 

気持ちのいい草原に寝転がって見た流れ星1つで何となく機嫌が良くなってきたロケット団は、ニンマリと笑顔を浮かべてこう締めくくる。

 

「「「なんだかとっても、イイカンジー!」」」

 

「ソ~ナンス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が覚めていく。

誰かが呼んでいる。

起きなければ…行かなければ…。

 

目を覚まして前を見ると、そこは狭い部屋の中。

天井の照明が目に眩しくて思わず目を細めてしまう。

そうしていると、視界の真ん中にある少年が入ってきた。

照明の逆行で顔がよく見えないけどれど、幼い少年のようだった。

 

「あ、目が覚めたんだね!」

 

声を聞いて目を見開く。

だって忘れる筈も無い。この声はかつての友達、大親友の彼と同じ―

 

「え、起きたの!?」

 

「おっ! おーい、起きたみたいだぞ!」

 

「ホントか!?」

 

「ピカッ!」

 

少年だけではなく、少年と一緒にいる、少しだけ年上の帽子を被った青い少年と黄色い電気ねずみ、赤い少女。そして黒衣の青年にも見え覚えと聞き覚えがあった。

戸惑っている間に、少年に抱えて持ち上げられると同じ目線の高さになる。

 

「ねぇ、キミの名前は?」

 

『…ジラーチ』

 

そう、1000年の眠りに着いた自分の名。

そして目を覚ましたという事は、1000年の時が経ち再び千年彗星によって呼び起こされたという事。

 

なのに、目の前に彼は居た。

願いを込めて言った、「またね」という言葉が現実になった。

それでもまだ夢かもしれない。

人違いかもしれない。

 

だから、こう尋ねた―

 

『キミの名前は?』

 

「僕? 僕の名前はね―」

 

 

 

それは、1000年に1度の奇跡の物語。

 

 

 

to be continued...




突然の事だったが事態は収束した。
全固体の復活を確認。

記憶を再生。
大いなる光に呼ばれて行ったあの場所で遭遇した生物について分析。

電、水、羽、炎、悪、念、毒、草、竜。その他多数の要素を分析。

解 解 解

言語を分析。

解 解 解

体組織を分析。

解 解 解

あの生物の呼称をポケモン。
有機生命体として優れた生命体であると断定。

分析結果から得られた情報を自身のDNAに書き込み、記録。

エラー

あの有機生命体の体組織再現のための個体数の不足。
解決、固体収束。
結合し、合体。
融合し、1つの生命体と成る。

再度DNAに情報の書き込みを開始。

… … …

成功。
体組織を変更。
肉体構造変更。

警告、個体数急激に減少。
残個体数3。

支障なしと判断。

サイコパワー、発動。

周囲のデブリを収束し結合。
自身を囲み、巨大デブリを構築。

箱舟として使用。
今は遠きあの星を目指す。

体組織変更。スリープモードへ移行。

目的地到達までの予測時間、残り―


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氷結の四天王登場 キンセツキッチン!

また活動報告書きました。
今後の予定とか書いてるんで良かったらお目通し下さい。


ホウエンリーグ出場を目指し旅を続けるサトシ達。

とうとう第3のジムであるキンセツジムがある、キンセツシティに辿り着いた!

 

「よーし、とうとうキンセツシティに到着だ! 燃えてきたぜーっ!」

 

「ピカーッ!」

 

キンセツシティはホウエン地方が誇る大都市の1つであり、街のあちこちが近代化されている最先端の街。

それ故に人通りも多いのだが、街の入り口で大声で叫んだサトシに注目が集まってしまう。

 

「もうサトシ、そんなに叫んだら色んな人に見られちゃうわよ!」

 

「いいじゃん! だっていよいよ3つ目のジムバッジに挑戦できるんだぜ!」

 

そう、目的のジム戦に挑めるというだけあってサトシのテンションはもう最高に上がっており、今にもジムに突撃してしまいそうなほどだった。

だがその前にサトシのお腹がグ~と鳴ってしまう。

 

「…お腹減った」

 

先ほどまでの元気はどこへやら。いきなりお腹が減ってしまったサトシは一気にテンションが落ちてしまったようである。

 

「さっきまであんなに元気だったのに…」

 

「サトシってばそんなにテンションを変動させて疲れないの?」

 

「えへへ…」

 

これにはハルカもマサトも呆れ顔だったが、サトシは笑って誤魔化す事しかできなかった。

そしてキンセツシティの事を仲間達よりも知っているソラトはそんなサトシ達を先導するように前に出てキンセツシティの中心部へ向かう。

 

「それじゃ、ジムの前にポケモンセンターに行って…その後腹ごしらえだな」

 

「おう! 腹が減っては戦はできぬ! 沢山食べて、体力つけようぜピカチュウ!」

 

「ピーカチュ!」

 

そしてその後サトシ達は街のポケモンセンターに向かいポケモンを回復させ、ソラトは手持ちのポケモンを入れ替えて、万全の状態にするとどこかで食事をするために街中を散策する事にした。

しかし流石は最先端の大都市キンセツシティと言ったところか、あっちを見てもこっちを見ても店や物で溢れている。

 

「わぁ~、この服可愛いかも!」

 

「あっちに本屋がある! 寄っていきたいなぁ~」

 

「はいはい、それは後にしような。飯を食べてから、色々見て回ろうぜ」

 

ハルカもマサトも思わずあちこちで立ち止まってしまい陳列されている商品に目を奪われてしまう。

だがその前にお腹を満たすのが先決であるため、苦笑するソラトに手を引かれながら名残惜しそうにその場を離れる事になってしまった。

しかしあちらこちらに食事の店も並んでいるためどこで食べるかは悩みどころである。

 

「サトシ、何か食べたいものあるか?」

 

「うーん、美味しければ何でも良いんだけど…ん?」

 

ザワザワと騒がしいお店の一角を見てみれば、そこには幾つかの店が入っているフードコートがあった。

しかもガラス越しに中を見てみれば―

 

「マグカルゴ、かえんほうしゃ!」

 

「マグッ!」

 

「ブーピッグ、サイケこうせん!」

 

「ブーピッ!」

 

―設置されているバトルフィールドで、マグカルゴの放つ灼熱の炎とブーピッグの放つ虹色の光線がぶつかり合い、せめぎ合っていた。

まさかフードコートの中にバトルフィールドがあるとは思っていなかったサトシ達は驚いて目を見開く。

 

「なんだここ!? フードコートなのにバトルしてるぞ!?」

 

「もしかして、ここがバトルフードコート…キンセツキッチンか」

 

「お兄ちゃん、知ってるの?」

 

「5年前には無かったが、最近噂だけなら聞いてたんだ。なんでも注文した料理が出るまでポケモンバトルをして、勝った方が席に着いて食事をする事ができるらしい」

 

そう、ここはバトルフードコート・キンセツキッチン。

最近キンセツシティで話題沸騰中。バトルと食事を同時に行う事のできる、バトル好きと食事好きにはたまらない施設だった。

ルールはソラトが解説した通りだが、注文した料理が冷めない内にバトルを終わらせられるかがミソとなっている。

 

「面白そうじゃないか! ここで食べてこうぜ!」

 

「ピカチュウ!」

 

「ああ、俺も賛成だ」

 

「コンテストバトルの特訓にも良いかも! それにご飯も美味しそうだし!」

 

「僕もバトルを見れるしここで食べたい!」

 

満場一致。キンセツキッチンで食事をする事にしたサトシ達は中へ入る事にした。

そして、物陰に隠れながらサトシ達の後をつける怪しい影が3つ。

 

「ニャ~、良い匂いがするニャ」

 

「バトルフードコートかぁ…俺達も何か食べたいぜ…」

 

「お馬鹿! そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」

 

そう、いつも通りのムサシ、コジロウ、ニャースのロケット団である。

今日も諦めず、文字通りのハングリー精神でサトシ達の後を追いかけてきたのである。

 

「そんな事って…」

 

「お腹が減っちゃ力が出ないニャ」

 

「んなちゃっちい事言ってないで、あのフードコートにいる連中のポケモンを纏めて奪ってやるのよ!」

 

「おぉ、そうか!」

 

「あそこには強いポケモンが沢山いる筈ニャ!」

 

「それじゃ、フードコートのポケモン纏めてゲット作戦、開始よ!」

 

「「ラジャ!」」

 

はてさて、今日こそロケット団の作戦はうまくいくのだろうか。

一方、キンセツキッチンに入ったサトシ達は店の看板やメニューを見てどの料理を注文しようかと考える。

 

「さて…何を食べるかな」

 

「あっ! 私はアレにするわ!」

 

ハルカが選んだのはビレッジセットというサンドイッチのようなメニューで、お洒落で美味しいという、女子受けの良さそうなメニューを選択した。

 

「お姉ちゃん、僕のも一緒に頼んできて!」

 

「オッケー、任せなさい!」

 

マサトもハルカと同じビレッジセットにする事にし、カウンターに並んで注文を済ませる。

料理が完成するまで少しだけ時間がかかるので、ここからがキンセツキッチンの本番であり醍醐味である。

ハルカは料理が完成したら音と振動でそれを伝えてくれる機械を受け取ると、周囲を見渡して席を探す。

だがキンセツキッチンはほぼ毎日満員御礼。空いている席は無かった。

 

「うーん、ほとんど満員かも」

 

「じゃあやっぱり、座るにはバトルをして席を勝ち取るしかないんだね」

 

「…なら、俺とバトルしないか?」

 

席を探すハルカに声をかけたのは、近くの席に座っていた少年だった。

 

「俺はシロウ。俺のこの席、バトルしないで座れちゃったからさ。この席を賭けてバトルしようぜ!」

 

「よーし、望むところだわ!」

 

シロウと名乗った少年に座る席を賭けてのバトルを提案され、ハルカはそれを受け入れた。

店内に設置されているバトルフィールドに移動すると、ハルカとシロウが向かい合い、店が雇っている審判がやって来る。

 

「それでは、席を賭けたバトルを開始します! 使用ポケモンは1体、時間無制限、どちらかのポケモンが戦闘不能になったらバトル終了です!」

 

ハルカとシロウのバトルが始まるということで、マサトは勿論サトシもソラトもハルカのバトルが見える位置まで移動してきた。

 

「頑張れよハルカ!」

 

「お姉ちゃん! 僕の席もかかってるんだから、しっかりね!」

 

「分かってるわよ! お願い、アチャモ!」

 

「チャモチャモチャー!」

 

ハルカが繰り出したのはアチャモ。

それを見てシロウも構えていたモンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。

 

「行けっ、マンキー!」

 

「ブキッ! キキキッ!」

 

「あれは…」

 

シロウのポケモンは白と茶色の毛色と器用な長い尻尾が特長的なぶたざるポケモン、マンキーだった。

マンキーを見たことがなかったハルカは、ポケモン図鑑を取り出してマンキーを検索してデータを表示する。

 

『マンキー ぶたざるポケモン

体が震え、鼻息が荒くなれば怒り出す前触れなのだが、あっという間に激しく怒り出すので逃げ出す暇は無い。』

 

図鑑の説明通り、マンキーは好戦的な性格をしているが攻撃力以外はそれほど高くないためアチャモでも十分に対抗できるだろう。

 

「それでは、試合開始!」

 

「キキーッ!」

 

審判の合図と共に、待ってましたと言わんばかりにマンキーがアチャモに向かって飛び掛った。

 

「よしマンキー、みだれひっかきだ!」

 

「キーッ!」

 

いきなり凄い勢いで間合いを詰めてきて攻撃をしてくるシロウとマンキーだが、ハルカもカイナシティのコンテストバトルで色々学んでいる。

勢いに任せた直線的な攻撃を受ける筈もなく、冷静に対処した。

 

「アチャモ、かわすのよ!」

 

「チャモッ!」

 

マンキーの爪から繰り出される連続攻撃を、その場から飛び退く事で避けたアチャモは攻撃の体勢に入る。

 

「ひのこで反撃よ!」

 

「チャモーッ!」

 

「キキキッ!?」

 

雨のように降り注ぐ炎の弾丸を受けて思わずマンキーは蹲ってしまい、更なる隙を晒してしまう。

その隙を見つけたハルカとアチャモは思い切り踏み込む事にした。

 

「隙ありよ! アチャモ、つつく攻撃!」

 

「チャモチャモチャモッ!」

 

「まずい! マンキー、かわすんだ!」

 

「ブキ…!? キーッ!?」

 

嘴にパワーを集中し、マンキーに突撃するアチャモを見てシロウは慌ててマンキーに回避の指示を出すものの、ひのこを受けて蹲ってしまっていたマンキーは攻撃を回避する事ができなかった。

こうかはばつぐんの攻撃をまともに受けてしまったマンキーフィールドの隅まで弾き飛ばされてしまうが、何とか持ちこたえて立ち上がった。

 

「キ…!」

 

「よく持ちこたえたぞマンキー! 反撃のクロスチョップだ!」

 

「ウギッ! キーッ!」

 

反撃に出たマンキーは勢いをつけてアチャモに迫りクロスチョップを繰り出した。

思い切りつつくを繰り出していたアチャモは隙ができてしまっており、クロスチョップの回避は間に合いそうになかった。

かくとうタイプの大技がアチャモに迫り、ハルカは慌てて指示を出す。

 

「アチャモ…! ええと…屈んで避けるのよ!」

 

「チャモ!」

 

咄嗟の事でやや思いつきの指示しかできなかったものの、アチャモは地面に倒れるように伏せる事にした。

するとどうした事か、フィールドにあった砂埃がアチャモの脚に蹴られて舞い上がりマンキーの目に入ると、マンキーは目を閉じてしまい狙いが外れてしまった。

 

「ウギャ…!」

 

「今の……もしかして!」

 

マンキーが目を擦って動けないでいる内にハルカは図鑑を開いてアチャモの状態を確認すると、新しい技を習得していた。

 

「やっぱり! アチャモ、あなたすなかけを覚えたのね!」

 

「チャモ?」

 

先ほどのはアチャモも自覚しない内に偶然技が出てしまったのだろうが、確かにアチャモはすなかけを習得していた。

命中率を下げるすなかけは、使いようによってはとても有用な技である。

 

「負けるなマンキー! もう1度クロスチョップだ!」

 

「ウギ…キキキーッ!」

 

マンキーは視界は元に戻っていないがハルカとアチャモの動きが止まっている今がチャンスだと思ったのか、シロウの指示の元再びクロスチョップを繰り出した。

おおよその狙いをつけてアチャモを狙うマンキーだったが、ハルカは落ち着いてアチャモに指示を出した。

 

「アチャモ、すなかけ!」

 

「チャ、モッ!」

 

「ブキャッ!? キキッ…!?」

 

アチャモは足を使い、マンキーの顔に目掛けて砂を巻き上げる。

狙い通り、マンキーは再び視界を奪われてしまい攻撃を外すどころか動きを止めてしまった。

 

「よーし今よ! ひのこ!」

 

「チャモーッ!」

 

「ブキャキャー!?」

 

動きが止まった所に受けたひのこによってマンキーは戦闘不能となってしまい、バトルの決着がついた。

 

「マンキー、戦闘不能! アチャモの勝ち!」

 

「やったぁ! よくやったわね、アチャモ!」

 

「チャモチャー!」

 

バトルが終わると同時にハルカの持っていた料理の完成を告げる機械が鳴り、タイミングもバッチリである。

 

「あっ、ビレッジセットができたのね!」

 

「僕受け取ってくる!」

 

マサトが足早に店頭まで向かい、料理を受け取る。

それと同時にシロウはマンキーをモンスターボールに戻してハルカとマサトの為に席を空けた。

 

「やられたよ。この席、使ってくれ」

 

「ありがとう!」

 

こうしてハルカと付き添いのマサトは食事にありつく事ができた。

そして目の前であんなに熱いバトルを見せられたらサトシとピカチュウも黙ってはいられない性格である。

 

「よーし、俺も早速注文してくるぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

サトシとピカチュウは近くにあったコイルを模したたこ焼き風の料理、コイル焼きを売っている店を選び、コイル焼き大盛りを注文してバトル相手を探す。

 

「おーい、誰か俺と席を賭けてバトルしようぜ!」

 

声を出して相手を探すと、それに応えるように1人の少女が立ち上がった。

 

「なら、私が受けてたつわ」

 

「おっ、来たな!」

 

「私はモカっていうの。折角だし、ダブルバトルで勝負しない?」

 

「ダブルバトルか、臨むところだぜ!」

 

サトシの挑戦を受けた少女、モカはサトシと相対してそれぞれバトルフィールドに立ち、モンスターボールを構える。

 

「それでは、席を賭けたバトルを開始します! 使用ポケモンは2体のダブルバトル、時間無制限、どちらかのポケモンが2体とも戦闘不能になったらバトル終了です!」

 

先ほどと同じように審判が宣言し、サトシとモカは同時にモンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。

 

「クチート、ジュプトル、キミに決めた!」

 

「クート!」

 

「ジュラ」

 

サトシが選んだポケモンはクチートとジュプトルのコンビである。

悪くない選択だがこのコンビだと少々問題があった。それは…

 

「クー! クートクート!」

 

「ジュラ…」

 

「こらクチート、これからバトルなんだぞ!」

 

そう、クチートがジュプトルにメロメロ状態であるという事である。

今もジュプトルの気を引こうとジュプトルの手を取ってスリスリと体を擦り付けている。これにはジュプトルも困り顔になってしまう。

もしヘイガニがこの光景を見ていたら、またしても真っ白に燃え尽きていた事だろう。

 

「私のポケモンは…この子達よ!」

 

「ニドッ!」

 

「ラクラゥ!」

 

対するモコが繰り出したポケモンはどくばりポケモンのニドリーノと、いなづまポケモンのラクライの2体だった。

ニドリーノの毒攻撃ははがねタイプを持つクチートには効果が無く、ラクライの電気技もジュプトルにはいまひとつのためタイプだけ見ればサトシが有利である。

 

「それでは、試合開始!」

 

そして両者のポケモンが揃った所で審判がフラッグを振り下ろした。

 

「先手必勝だ! ジュプトル、ラクライにでんこうせっか!」

 

「ジュラ!」

 

この中で最も動きの素早いジュプトルが放つでんこうせっかにより、あっという間にラクライとの間合いが詰まっていく。

 

「迎え撃つのよラクライ! スパーク!」

 

「ラクッ!」

 

対するラクライは体中に電撃を纏った体当たりで攻撃をするスパークで迎え撃つ。

ジュプトルとラクライがぶつかり合い、衝撃が発生するものの体格と体重、そして加速した際の勢いによりジュプトルに軍配が上がりラクライを弾き飛ばす。

 

「ラクーッ!?」

 

「ラクライ!? ニドリーノ、ラクライをカバーするのよ! ジュプトルにどくばり攻撃!」

 

「ニドッ!」

 

吹き飛ばされたラクライを助けるため、ニドリーノが角から無数のどくばりを放ちジュプトルを狙う。

どくタイプの攻撃はくさタイプのジュプトルにはこうかはばつぐんであるが、そうは問屋が卸さない。

 

「クチート、てっぺきで受け止めろ!」

 

「クート!」

 

だが降り注ぐどくばり攻撃は、クチートの後頭部の顎を硬質化させる事で防御させた。

どくタイプの技であるどくばりはクチートには効果が無く、更に防御力をぐーんと上げられてしまっては全く意味を成さないだろう。

 

「くっ…あの2体のコンビネーションを崩さないと攻めきれないわね。だったら…ニドリーノ、クチートにメロメロよ!」

 

「メロメロ?」

 

聞きなれない技名にサトシは頭上に?マークを浮かべているが、観戦していたソラトはその技の怖さをよく知っていた。

 

「サトシ! メロメロは違う性別のポケモンを虜にして行動を封じる技だ! 喰らったらクチートが指示を受けなくなるぞ!」

 

「なっ!?」

 

そう、メロメロを受けてしまえばしばらくの間いう事を聞かなくなってしまうのだ。

ニドリーノは♂で、サトシのクチートは♀である。メロメロは十分に効果を発揮するだろう。

ソラトからのアドバイスに慌てて回避の指示をしようとするサトシだったが、知らない技に反応が遅れてしまう。

 

「ニードッ」

 

ウィンクをしたニドリーノから渦を巻くハートマークが放たれ、クチートを取り囲む。

 

「逃げろクチート!」

 

サトシの指示を虚しく、ハートはクチートを包み込んでメロメロに―

 

「クーッ!」

 

―しなかった。

 

「へ?」

 

自分を取り囲むハートをうっとおしく思ったのだろうか、クチートは片手を振り払うようにして周囲のハートを弾き飛ばしてしまいメロメロを防いだ。

そして自分の活躍をジュプトルへアピールするようにウィンクする。

 

「クーッ、クート?」

 

「ジュラ…」

 

どうやらジュプトルに既にメロメロであるクチートには他のメロメロが通用しない、という事なのだろうか。

 

「そ、そんな…メロメロを弾くなんて…!?」

 

「よく分かんないけどチャンスだ! クチート、ニドリーノにかみつく攻撃!」

 

「クーッ、クト!」

 

「ニド!?」

 

メロメロが効かなかった事によって驚き、隙を晒してしまったニドリーノはまともにクチートの噛み付く攻撃を受けてしまう。

更にそれに留まらず、クチートは後頭部の顎を振り回してニドリーノをラクライに向けて投げつけた。

 

「ラクッ!?」

 

「ニドーッ!?」

 

結果、ニドリーノとラクライはもみくちゃになってフィールドの隅にまで転がってしまい、動きが止まってしまった。

 

「今だ! ジュプトルはエナジーボール! クチートはようせいのかぜ!」

 

「ジュルラァ!」

 

「クーット!」

 

そしてジュプトルとクチートの同時攻撃が決まり、ドカン!と大きな音と共にニドリーノとラクライはそれぞれフィールド外まで吹き飛ばされた。

2体の様子を見れば、目をグルグル回して立ち上がる気配は無い。

サトシの完勝である。

 

「ニドリーノ、ラクライ、共に戦闘不能! クチートとジュプトルの勝ち!」

 

「よっしゃぁ! よくやったな、クチート、ジュプトル!」

 

「クーット!」

 

「ジュラッ!? ジュルル…」

 

勝った事で感極まったのかクチートは再びジュプトルの手を取って抱きついた。

ジュプトルは相変わらず困惑しているようだったが、今回の勝利はクチートがメロメロを弾いた事でできた隙を突いた所が大きかったため、やれやれといった態度でクチートのスキンシップを許していた。

 

「やられちゃったか…戻って、ニドリーノ、ラクライ。それじゃ、ここの席使ってね」

 

「おう! サンキュ!」

 

そしてサトシは丁度出来上がったコイル焼きを受け取るとモカから勝ち取った席に座り、ピカチュウと、バトルを頑張ってくれたクチートとジュプトルと共にコイル焼きを食べる事にした。

 

「ほら、クチートとジュプトルも食べてくれ」

 

「ピカッ!」

 

「ジュラ」

 

「クート」

 

それぞれサトシからコイル焼きを受け取ると、大きく口を開けて大きく頬張った。

 

「もぐもぐ…熱-っ!?」

 

「ピカーッ!?」

 

「ジュラーッ!?」

 

「クーッ!?」

 

出来立てホヤホヤ、アツアツのコイル焼きに口の中を火傷するのではないかというほどの熱を感じたサトシ達は、揃いも揃って口からかえんほうしゃ並みの熱を吐き出した。

その様子を見ていた周囲は楽しそうに笑っていた。

 

「もう、サトシったら。食べてる時も元気かも」

 

「でもコイル焼きも美味しそうだね。後でちょっと分けてもらおっと!」

 

「ははは…さて、俺も何を食べるか決めないとな」

 

ハルカとマサト、そしてサトシも無事に席を勝ち取って食事の手を進めている。

ソラトもそろそろ自分の分を確保しなければと思い、目に付いた店のメニューを注文する。

 

「すいません、キンセツチャンポン1つ」

 

「分かりました。では出来上がったらこちらでお知らせしま―」

 

ソラトがキンセツチャンポンというメニューを注文していると、突然店内がザワワッと騒がしくなった。

その原因はたった今バトルフードコートに入ってきた人物だった。

 

入り口にいるのは、美しい金髪をした優雅な貴婦人。

薄紫色のドレスが彼女のミステリアスな雰囲気を表しており、注目が集まる理由も分かるというものだ。

しかし注目が集まっている理由はそこではない。

彼女は容姿は勿論だが、別の理由でも有名なのだ。

その理由は―

 

「プ、プリムさんだ! 四天王プリムさんが来たぞ!」

 

「キャーッ! プリム様ぁ!」

 

「す、凄い…! 生の四天王、初めて見た…!」

 

そう、彼女こそホウエン地方における四天王の1人なのだ。

 

「四天王だって…!?」

 

「ピカ…」

 

「四天王って、確か地方に4人しかいないチャンピオンの次に強い人だったわよね?」

 

「その四天王がどうしてここにいるんだろう?」

 

突然の四天王プリムの登場にサトシ達も驚きを隠せず、視線を向ける。

だが有名人であるプリムはそんな大衆からの視線に慣れているのか特に気にした様子もなく優雅な足取りでソラトのいるキンセツチャンポンの店にやって来る。

 

「失礼、いつものお1つお願い致しますわ」

 

「はい、プリム様。キンセツチャンポンですね」

 

優雅な佇まいでキンセツチャンポンを注文したプリムは振り返りフードコート全体を見渡すと、芯の通る声で問いかけた。

 

「わたくしと席を賭けてバトルして頂けるトレーナー様はいらっしゃいますか?」

 

「「「……」」」

 

だが誰一人としてその言葉に応える者は居なかった。

当然である。四天王のプリムは実力も相応のものであるため、その辺りの一般トレーナーがバトルすれば敗北は必至と言える。

確かにプリムと戦える機会など中々無いが、流石に実力差があり過ぎる。

 

ただ1人を除いては。

 

「俺が受けます」

 

それはプリムのすぐ横にいた黒衣のポケモントレーナー。

ソラトはプリムとバトルができる貴重な機会に不敵な笑みを浮かべており、傍目からでも分かるほどうずうずしていた。

 

「あら、貴方は…?」

 

「旅のトレーナー、ソラトといいます。俺とバトルをして、勝った方が次に空いた席に座るというのはどうでしょう?」

 

「…ウフフ、よろしくてよ」

 

不敵な笑みを浮かべるソラトに何かを感じ取ったのか、プリムもミステリアスな微笑みを浮かべ、バトルフィールドへと足を進める。

相対するは黒衣のトレーナーソラトと氷結の四天王プリム。

審判も普段より緊張した面持ちでフラッグを握り締めていた。

 

「それでは…折角ですしバトルはトリプルバトルに致しましょう」

 

「分かりました」

 

「「トリプルバトル?」」

 

トリプルバトルという聞き慣れない言葉を耳にして、サトシとハルカは首を傾げる。

そんな2人にマサトは自慢の知識の中からトリプルバトルのルールを引っ張り出して2人に聞かせる。

 

「ポケモンを3体同時に使って戦うバトルルールだよ! それぞれに指示を出さなきゃいけないし、ダブルバトル以上にコンビネーションを考えなきゃいけない上級者向けバトルだ!」

 

「3体同時だって…!?」

 

「す、凄いバトルになりそうかも…! 頑張って、お兄ちゃん!」

 

バトルに出すポケモンを選び、ソラトとプリムはそれぞれモンスターボールを3つ構える。

 

「それでは、席を賭けたバトルを開始します! 使用ポケモンは3体のトリプルバトル、時間無制限、どちらかのポケモンが3体とも戦闘不能になったらバトル終了です!」

 

「頼んだぞ! スイゲツ、クロガネ、ザンゲツ!」

 

「ラグ!」

 

「ゴドォ!」

 

「ハッサム!」

 

ソラトが繰り出したのはラグラージのスイゲツ、ボスゴドラのクロガネ、ハッサムのザンゲツである。

そしてプリムもポケモンを繰り出した。

 

「お行きなさい。オニゴーリ、トドゼルガ、ツンベアー」

 

「オーゴッ!」

 

「トドォ!」

 

「ベタァ!」

 

それに対し、プリムはオニゴーリとトドゼルガとツンベアーである。

大方の予想通りの選出に、ソラトは僅かに口の端を上げた。

ソラトのポケモンの選出はこおりタイプに拘りを持ち専門とするプリムに対して有効なポケモン達であり、相性ではソラトが有利である。

だがそれだけでは勝てない。

以前に石の洞窟でチャンピオンであるダイゴと戦ったソラトだからこそそれが分かった。

 

「やはりこおりタイプのポケモン…流石は氷結の四天王ですね」

 

「えぇ。特に、わたくしのオニゴーリはとても強いですわよ」

 

「えぇ、そうでしょうね」

 

ソラトはプリムのオニゴーリから強大な波動を感じ取っていた。

はち切れんばかりのパワーとエネルギーを内包しているのが、それだけでも分かるというものである。

 

「それでは…バトル開始!」

 

審判の合図と共に、先ずはソラトが牽制の一撃を放つ。

 

「スイゲツ、ツンベアーにマッドショット! クロガネはオニゴーリにがんせきふうじ!」

 

「ラグラァ!」

 

「ゴドォ!」

 

手始めに遠距離から攻撃を仕掛けるが、プリムも余裕のある優雅な姿勢を崩さない。

 

「オニゴーリ、フリーズドライ!」

 

「ゴーッ!」

 

オニゴーリの力により、飛んでくるマッドショットとがんせきふうじを急激に冷却すると、泥と岩はカチコチに凍り付いてしまい砕け散る。

そしてプリムがそのまま反撃に出る。

 

「ツンベアー、ハッサムにつららおとし!」

 

「ベッタァ!」

 

ツンベアーが生み出す冷気によって生成された氷の氷柱が上から放たれてザンゲツに襲い掛かる。

タイプ的には不利ではないが、四天王のポケモンだけあって通常のつららおとしよりも圧倒的に氷柱が大きい。

それにつららおとしは受けてしまえばひるんでしまう可能性もあるため、出来るだけ受けるべきではない。

 

「スイゲツ、ザンゲツの前へ! まもる!」

 

「ラグ!」

 

そのためソラトはザンゲツを庇うようにスイゲツを前に出して守らせた。

緑のバリアに氷柱が防がれ、砕け散っていく。

 

「ザンゲツ、この隙につるぎのまい!」

 

「ハーッサ!」

 

舞いを披露して攻撃力をぐーんと上げたザンゲツは攻撃を防いでくれたスイゲツの横を抜け、ツンベアーに対し鋭い一撃を繰り出した。

 

「ザンゲツ、バレットパンチ!」

 

「ッサム!」

 

「トドゼルガ、こおりのキバ!」

 

「トドッ!」

 

今度はツンベアーを庇い、トドゼルガが大きな口を広げ、その自慢の牙でザンゲツのバレットパンチを受け止めた。

ギギギギと音を立てて鍔競り合いになる2体だったが、パワーはつるぎのまいで攻撃力を大きく高めているザンゲツの方が上であり徐々にトドゼルガを押していく。

 

「そのまま押し切れ!」

 

「トドゼルガ、更にこおりのキバ!」

 

「ドドォ!」

 

とてつもない冷気を帯びた牙が、ハッサムの鋼鉄の鋏に食い込んで凍らせていく。

 

「サァッ…!?」

 

「まずい…! 離れろザンゲツ!」

 

「サム…!?」

 

急いで離脱しようと試みるものの、しっかりと噛み付かれているため離れる事ができずに鋏から徐々に凍らされてしまい、数秒で全身が凍ってしまった。

これはこおり状態。こうなってしまえば氷が溶けるまで動く事ができない。

 

「くっ…! スイゲツ、トドゼルガにグロウパンチ!」

 

「ラーッグ!」

 

「ツンベアー、きりさく」

 

「ベターッ!」

 

凍ってしまったザンゲツをカバーするためにスイゲツが飛び込んで闘気を纏ったパンチを放とうとするが、その前に立ち塞がったツンベアーの爪で受け止められてしまい、弾き合う。

再び距離が離れた両者だったが、その隙にトドゼルガが動いた。

 

「トドゼルガ、ハッサムにトドメですわ。のしかかり」

 

「トードド!」

 

こおり状態で動けないザンゲツから先に仕留めるために、トドゼルガが大きく体を反らして覆いかぶさった。

バキンッ!と音を立ててザンゲツの体を包む氷が砕けると共に、ザンゲツは戦闘不能となってしまった。

 

「ハッサム、戦闘不能!」

 

「く…! 戻れザンゲツ、よくやった」

 

ソラトの手持ちの中では新参であり、レベルが足りなかったのだろう。

己の不甲斐なさに歯噛みしつつ、ソラトはザンゲツをボールに戻した。

 

「まだまだこれからですわ。オニゴーリ、フリーズドライ!」

 

「クロガネ、スイゲツを庇うんだ!」

 

「ゴドォ!」

 

みず/じめんタイプであるスイゲツに本来ならこおりタイプの技は普通の効き目だが、フリーズドライはみずタイプに対してもこうかばつぐんになるという特徴がある。

そのためスイゲツが受けてしまえば効果絶大、4倍のダメージである。

だからソラトはこうかはいまひとつになるクロガネにあえてフリーズドライを受けさせた。

 

「ゴドォ…!」

 

強烈な冷気がクロガネを包むものの、クロガネはフリーズドライを耐え切った。

 

「よし! クロガネ、メタルバーストだ!」

 

「ゴッドォオオオオオオオオオッ!」

 

「オッゴ…!?」

 

「トドォ!?」

 

「ベターッ!?」

 

今受けた攻撃を増大させて相手に返すはがね技であるメタルバーストを放ち、エネルギー波がオニゴーリ、トドゼルガ、ツンベアーを襲う。

こうかはいまひとつだったものの、四天王プリムのポケモンだけありかなりの威力だったフリーズドライ。

それを増大させて返すため、こうかはばつぐんも合わさりかなりのダメージになる。

 

「トドォ…」

 

先ほどのザンゲツのバレットパンチを受け止めた際にもダメージが入っていたのも合わさり、メタルバーストを受けてプリムのトドゼルガが戦闘不能になった。

 

「トドゼルガ、戦闘不能!」

 

「まぁ…! トドゼルガ、お戻りなさい」

 

これでバトルは2対2のダブルバトル形式となる。

このソラトとクロガネの反撃でトドゼルガがやられた事にはプリムも驚き、周囲でバトルを観戦していた人々もざわつき出した。

 

「プリムさんのトドゼルガがやられたぞ…」

 

「あいつも結構やるなぁ!」

 

「この勝負、どうなるかまだ分からないわ」

 

周囲が固唾を呑んで見守る中、今度はソラトが仕掛けた。

 

「スイゲツ、ツンベアーにたきのぼり!」

 

「ラガァ!」

 

「オニゴーリ、フリーズドライですわ!」

 

「オーゴッ!」

 

水を纏いツンベアーに向かって突撃するスイゲツに対しプリムはツンベアーを守るためオニゴーリのフリーズドライで迎撃する。

ズイゲツの纏っていたたきのぼりの水が瞬間冷却されてカチコチに凍ってしまう。

だがたきのぼりの勢いは止まらずに、凍ったままスイゲツは突撃を慣行した。

 

「いけぇっ!」

 

「なっ!?」

 

「ベタァーッ!?」

 

大きな氷塊をの突撃をまともに受けてしまったツンベアーはフィールドから弾き出されると壁に激突して崩れ落ちた。

同時にズイゲツを包んでいた氷が砕け散り、効果絶大のフリーズドライを受けたせいでスイゲツも膝を折って倒れてしまう。

 

「ベタ…」

 

「ラグ…」

 

「ツンベアー、ラグラージ、両者戦闘不能!」

 

「よくやってくれたスイゲツ、戻って休んでくれ」

 

「お戻りなさいツンベアー。面白い戦術をお使いになられますわね」

 

スイゲツの氷のたきのぼりとオニゴーリのフリーズドライにより、残る互いのポケモンは1体ずつ。

残されたクロガネとオニゴーリは睨み合い、相手の隙を伺っている。

周囲のギャラリーも再び息を呑み、クライマックスに差し掛かるだろうこのバトルの行く末を見守っている…。

 

「クロガネ!」

 

「ゴドォオオオオオッ!」

 

「オニゴーリ!」

 

「ゴォオオオオオリッ!」

 

そしてソラトとプリムが同時に目を見開き、合図をすると両者が激突するために駆け出した。

決着か―そう思った瞬間、突如としてフードコート全体に強い風が吹く。

しかも唯の風ではなく吸引するような強力な風であり、フードコートにいたトレーナーが身に付けていたモンスターボールが風に乗って吸い込まれていってしまう。

 

「わああああっ!?」

 

「ちょ、ちょっと何なのコレ~!?」

 

「ちょっと何なのコレ~!? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

フードコートの入り口に姿を現したのは、毎度お馴染みロケット団の3人組とソーナンス。

コジロウの手には大きな掃除機のような物が握られており、吸い込むような風はあの掃除機が起こしているのだろう。

トレーナー達のモンスターボールは掃除機に吸い込まれていき、タンクに溜まっていく。

 

「ロケット団!」

 

「ちょ、ちょっと! この風止めなさいよ!」

 

「そうはいくか! このモンスターボール収集掃除機・スイスイスイトール君8号で、ここにいるやつ等のポケモンを全部奪ってやるぜ!」

 

「更に出力アップニャ!」

 

「おう!」

 

ニャースの指示でコジロウはスイスイスイトール君8号の出力を上げると更にフードコート中のモンスターボールを吸引してしまう。

しかもそれだけではなく、サトシの傍にいたピカチュウ、クチート、ジュプトルまで宙へ浮かんでしまう。

 

「ピィカ~!」

 

「クーッ!?」

 

「ジュラ…!」

 

「あっ!? ピカチュウ!? クチート、ジュプトル!?」

 

あえなく吸引されてしまったピカチュウ達とモンスターボール。

いつの間にかサトシとハルカの所持していた他のモンスターボールまで奪われてしまっている。

 

「きゃあああああっ!?」

 

「ああっ!? 俺のモンスターボールが!」

 

フードコートのあちこちでも、他のトレーナーの悲鳴が上がっている。

サトシは踏ん張りながらもピカチュウ達を助けるためロケット団の前へ出た。

 

「やめろロケット団!」

 

「やめろと言われて止める悪党はいないのよ!」

 

「ジャリボーイのポケモンも全部吸い込んだし、今回は楽勝だぜ!」

 

「ソーナンス!」

 

その調子でしばらくボールを吸い込み続けたロケット団だったが、ボールが飛んでこなくなるとスイスイスイトール君のパワーを落とした。

 

「よーし、そろそろほとんどのボールを吸引できた筈だニャ」

 

「それじゃ、そろそろ逃げるわよ!」

 

今回こそは作戦大成功でその場から逃げ出そうとしたロケット団だったが、フードコートの出口にプリムのオニゴーリが立ち塞がった。

 

「オーゴ…!」

 

「うわっ!? ちょっと、何よアンタ!? まだ吸い込んでなかったポケモンがいたの!?」

 

「コイツはオニゴーリだな…重すぎて吸い込めなかったんだろ」

 

そして今度はロケット団の背後側に、ドスンと重々しい足音を立ててクロガネが退路を塞いだ。

 

「今度はヒーローボーイのボスゴドラだニャ!」

 

「ゴド」

 

体重が300キロを超えるオニゴーリとボスゴドラなら先ほどの吸引を耐えるなど簡単な事である。

そして退路を塞がれたロケット団の前にプリムとソラトも駆け寄り睨みつけると、四天王であるプリムの凍てつく視線に怯んだロケット団は萎縮してしまう。

 

「な、何よ…!?」

 

「まったく…久しぶりに手ごたえのあるバトルだったと言うのに、こんな横槍が入ってしまうとは。興ざめですわ」

 

プリムの事が誰か分かっていないロケット団だったが、とにかく自分達の邪魔をする相手だというのは理解できたためオニゴーリとクロガネを排除するためモンスターボールを構えた。

 

「何だかよく分からんが、邪魔するならタダじゃおかないぜ! 行けサボネア!」

 

「やっちゃいなさい、ハブネーク!」

 

「サーボ…ネッ!」

 

「いでででで! ち、違うだろだから~!」

 

「ハッブネーク!」

 

いつも通りのコジロウとサボネア、そしてムサシのハブネークが強引に突破しようとオニゴーリへ向けて一転突破で攻撃を仕掛ける。

 

「ハブネーク、しめつける攻撃!」

 

「サボネア、ミサイルばりだ!」

 

「ハッブル!」

 

「サーボネ!」

 

ハブネークがオニゴーリに巻きついて締め上げ、サボネアのミサイルばりがオニゴーリの頭にヒットする。

だがオニゴーリは全くダメージを受けた様子はなく、変わらず佇んでいた。

 

「オニゴーリ、かみくだく攻撃ですわ」

 

「ゴーリ!」

 

「ハプァッ!?」

 

ガブリと巻きついているハブネークの体に砕くような力で噛み付くオニゴーリ。

あまりの攻撃に思わずしめつける攻撃を解除してりまうハブネークだったが、オニゴーリはそれだけに留まらず、噛み付いたままハブネークを振り回す。

 

「ハプププププポ!?」

 

「そのままお投げなさい」

 

「ゴッ!」

 

「ハブァー!?」

 

「ああっ、ハブネーク!?」

 

そのまま投げ飛ばされてしまったハブネークはかなりの大ダメージを受けてしまう。

それをカバーするためにサボネアがハブネークと入れ替わり前に出て攻撃態勢に入る。

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「サーボサボサボ…!」

 

「クロガネ、てっぺきだ!」

 

「ゴドッ!」

 

サボネアの繰り出す渾身のニードルアームだったが、そこへクロガネが割り込んでてっぺきを発動してそれを受け止めた。

 

「プリムさん、今の内に!」

 

「フフ、お礼を申し上げますわ。オニゴーリ、フリーズドライ!」

 

「オーゴッ!」

 

「サボッ…!?」

 

冷却された空気でカチコチに凍らされてしまったサボネアは動く事ができなくなってしまい、その場にゴロリと倒れてしまう。

 

「ああっ、サボネア!?」

 

「クロガネ、アイアンテールであのタンクを壊すんだ!」

 

「ゴォオオオドッ!」

 

鋼鉄の尻尾を振るい、ロケット団のスイスイスイトール君8号で吸い込んだモンスターボールが収納されているタンクを粉砕する。

破壊されたタンクからボロボロとモンスターボールが溢れ出てきてそれぞれトレーナーの元へと帰っていく。

無論、ピカチュウ、クチート、ジュプトルもサトシの元へと戻った。

 

「ピカピ!」

 

「クート!」

 

「ジュラ」

 

「ピカチュウ、クチート、ジュプトル! 無事でよかったぜ!」

 

モンスターボールを取り戻し、後はロケット団を成敗するだけである。

 

「ロケット団、よくもやったな!」

 

「お前たちの作戦が失敗したら…あとはどうなるか、分かるよな?」

 

「お覚悟を」

 

「「「ひ、ひぃいいいいいいっ!?」」」

 

サトシとソラトとプリムが並び、ロケット団へそう告げると同時に技を繰り出した。

 

「ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「クロガネ、がんせきふうじ!」

 

「オニゴーリ、フリーズドライ!」

 

フリーズドライで凍らされてしまい、岩石と電撃の強烈なコンボにを成す術もなく直撃してしまったロケット団。

ドカーン!という轟音と共に、ロケット団はフードコートの天井を突き破って空の彼方まで吹き飛んで行ったのだった。

 

「「「ヤなカンジ~!」」」

 

「ソーナンス!」

 

今日もまた星になって消えていったロケット団を見送り、トレーナー達はモンスターボールが自分のものかちゃんとチェックし、10分もすればそれぞれ自分もポケモンを取り戻す事ができた。

 

「どうにか皆無事にポケモンを取り戻せたみたいだな」

 

「あぁ、良かったぜ」

 

それをフードコートの隅で見守っていたソラト達だったが、そこへプリムがやって来る。

 

「ソラト君、でしたね」

 

「あ、プリムさん。今回はどうもありがとうございました。勝負は有耶無耶になってしまいましたが…」

 

「その勝負の事ですが…この続きはチャンピオンリーグでお待ちしております」

 

「え?」

 

突然の言葉にソラトも思わず聞き返してしまう。

ポケモンリーグを優勝した者だけが進むことのできるチャンピオンリーグ。

四天王、そしてチャンピオンとバトルを行えるポケモンリーグ制覇を目指す者の憧れ。

 

「あれほどの実力をお持ちでしたら、ポケモンリーグへ挑戦もしているのでしょう? 私は貴方ならホウエンリーグを優勝できる実力だと思っていますので」

 

「…はい。勿論優勝を目指します。では、チャンピオンリーグでお会いしに行きます!」

 

「楽しみにしていますわ。それと…席の件はお譲り致します。では」

 

そう言い残し、優雅に一礼をしてプリムは立ち去った。

これはプリムがソラトの事を認めた証だった。

 

「凄いやソラト! 四天王にあんな風に認められるなんて!」

 

「流石はお兄ちゃんかも!」

 

「確かに…プリムさんにああ言って貰えたのは嬉しいな。これは、ホウエンリーグは優勝するしかないぜ」

 

「おっと、そうはいくもんか! 俺達だって負けないぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

四天王プリムと思わぬ出会いを果たし、認められたソラト。

プリムとの再戦のためにも、ホウエンリーグ出場を目指し、サトシとソラトのキンセツジムへの挑戦が始まるのであった…。

 

 

 

to be continued...



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