死神と9人の女神 (獄華)
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第1話 波が届けた物


バイオ7も出ることだしバイオの小説書きたくなったので書きました(悔いは無い)
ラブライブ!サンシャイン!!の要素も勿論入れて行きます。
今回は梨子と鞠莉と果南は出ません。


 

「やめてくれ!……俺はお前の為に隔離したんだ……命令だったんだよ!……だから、だから!お、俺を殺さないでく……がぁぁぁ!」

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ、屑野郎…………『アイツ』を隔離したのは分かった、じゃあ居場所を吐け……ってお~い、死にやがったよこのバカ、まだまだ痛め付け足りねぇってのに……」

 

 

「まぁ、良いや……俺と『アイツ』をこんな無様な格好にした屑共に貸りを返してやる……死を越えた恐怖を俺は教わって来たんだ……今更、『アイツ』以外の他人共が何人死のうが関係ねぇ」

 

 

ジャラ、ジャラ、ジャラ……ギィィィ……

 

 

バタン

 

……

…………

………………

……………………

 

 

ピロリン

 

 

「あ、梨子ちゃんからだ!……梨子ちゃん遅くなるんだ……」

 

「千~歌~ちゃん!」

 

 

「わっ!も~う曜ちゃん驚かせないでよ~」

 

 

「ヨーソロー!いつも元気に全速全身!さっ、今日もダンスの振り付けとか頑張ろうね!」

 

 

彼女らの名前は高海千歌と渡辺曜。

私立浦ノ星女学院に通う生徒で有り、aqoursの一員でもある。ラブライブ予備予選に出場し、本選に向けて駒を進めた彼女らは更なるスキルアップに向け此まで以上に力を入れている。

しかしaqoursは本来9人なのだがこの時は8人で挑んだ。

大切なメンバー梨子の為に。

 

「梨子ちゃんもピアノでいい結果を出したみたいだし、私達ももっと頑張ろうね!千歌ちゃん!」

 

 

「うん!じゃあ部室に行こっか!」

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

 

バタン!

 

「ヨーソロー!」

 

 

「きゃ!もう!曜さん!毎回びっくりさせないで!」

 

 

1年生の津島善子は声を立てる

 

 

「曜ちゃん、こんにちは~」

 

 

「こんにちはずら」

 

 

黒澤ルビィと花丸は挨拶をして返す。

 

 

 

「ごめんね善子ちゃん、じゃあヨーシー」

 

 

「何番煎じよそれ」

 

 

 

台詞の途中に突っ込まれた曜は黙りこくる。

 

 

 

バタン!

 

 

 

「はぁはぁ……曜ちゃん早すぎ!って何でこんな落ち込んでるの?」

 

 

「かくかくしかじかずら」

 

 

「成る程」

 

 

タイミングの見極めは難しいのだと千歌は思った。

 

 

「だって千歌さん!曜さんが何回もヨーシコーって言うのよ!突っ込みたくなるのも無理はないわよ!」

 

 

「いやでも……」

 

 

「ピギィィィィィィィィィィ!」

 

 

バン!

 

 

場は奇声を上げたルビィにより空気が変わる……

ルビィはスマホを床に落としていた。

 

 

「どうしたの!?ルビィ!?……まさかゲヘナの悪魔に憑依されたの!?今、このヨハネがその呪縛を解いて……」

 

 

「ちょっと口を閉じようね善子ちゃん」

 

 

「何よ!ズラ丸!」

 

 

 

「原因は……明らかスマホだよね……何か怖い動画や画像でも見てたの?」

 

 

 

気分を取り戻した曜はルビィのスマホを操作しスマホに写し出されている物を見た。

 

 

「嘘…………」

 

 

「よ、曜ちゃん」

 

 

曜は口に手を当てスマホから目をそらし何かを忘れるかのように必死に下を凝視した。

 

 

「な、何を見たの曜ちゃん?」

 

 

「千、千歌ちゃ……う、海に、し、」

 

 

バタン!

 

 

「大変ですわよ貴女達!」

 

 

「「「ダイヤさん(ちゃん)!」」」

 

 

「落ち着いて聞いて下さい……2時間前、この内浦の浜辺に人の死体がうち上がっていました……今日は練習どころじゃ無いですわ……」

 

 

「……え?」

 

 

ザザァン……

 

 

千歌の耳に波の音がいつもより大きく聞こえた

 

 





某教室のキャラにも「まり」と言うキャラが居ますが、此方がシャイニー☆と言ったら怖いですね。
他の二人も含めて、A-R○SEかな?(すっとぼけ)


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第2話 変死体


オリキャラ登場
まだこの回は日常パート(な筈)


『今日、午後2時頃沼津の浜辺に人の遺体が打ち上がっていました……遺体には傷がついており警察は殺人事件として捜査を進めています、身元の特定はまだ出来ていません』

 

電気店のテレビエリアの前には人だかりが出来ていた。

「今日は来店者が多いですね店長」

 

「おいおい、冗談にしたって質が悪いぞ佐藤……ま、確かに普段もこれぐらい人が来てほしいもんだがな」

 

それを聞いて勤続2年目の青年店員の佐藤 竜一は口元を上げた。

19歳でこの電気店に入社、髪型は坊主で身長は178程だ。

 

(………にしても殺人ねぇ~ この沼津の奴が犯人じゃ無きゃ良いけど……)

 

そんなことを考えながらも竜一は普段通りに仕事をこなしていった。

殺人が起ころうが、一般人には関係の無い事であった。

 

……

…………

………………

……………………

 

 

「……うわ、本当じゃん」

 

「警官が一杯居るずらね……」

 

「私の言った通りでしょう?」

 

ダイヤの言葉を聞きダイヤと5人は沼津の浜辺に向かった。

実際のところ、千歌、花丸、善子は半信半疑だったのだが、光景を見て疑惑は確信に変わる。

 

「悪魔の仕業……何て言葉は場違いか……」

 

「うぅぅ……!」

 

「よ、曜ちゃん!」

 

曜は膝をつき海に向かい泣き出した。

 

「今までさ、この沼津の海で御世話になったのに!……こんな事になるなんて!」

 

泣きじゃくる幼馴染みに掛ける言葉が千歌と他のメンバーには見つからない……

 

「……とにかく、今日はもう御開きにしますわ、明日から練習出来るように各自ゆっくり休んで下さい、果南さんと鞠莉さんには私から連絡をいれておきます……ルビィ、行きますわよ」

 

「うん……」

 

「おらもルビィちゃん達と帰るずら……」

 

「み、皆また明日ね!」

 

千歌の声を聞き3人は手を振って帰路についた。

「じゃあ梨子ちゃんに連絡いれなきゃ……」

 

千歌のスマホの場面には梨子がパンを持って赤面しているお馴染みの場面が出てきた。

 

ピッ!

 

「もしもし!梨子ちゃん!」

 

『どうしたの?千歌ちゃん』

 

「ニュースで見たならもう知ってるかもしれないけど……今日の練習は無しだよ」

 

『……死体がうち上がっていた事件だっけ』

 

「うん……こんな事になって沼津もドタバタしてるし、メンバーも……」

 

『そっか……千歌ちゃんや曜ちゃん達はここで育ったんだものね』

 

「明日からはまたいつも通り練習する予定だから今日は家に真っ直ぐ帰ってもらって大丈夫……」

 

『分かった……千歌ちゃんくれぐれも我慢や無理はしないでね、辛かったら正直に言ってくれれば良いから……』

 

「ありがとう梨子ちゃん、でも私はそこまでショックを受けて無いから大丈夫だよ。

……曜ちゃんに電話してあげて」

 

『曜ちゃんね、しておくね。それじゃまた明日』

 

「うん」

 

ピッ!

 

「梨子さん何て言ってた?」

 

「無理はしないでねだって。やっぱり梨子ちゃんは優しいよ」

 

「そう……」

 

チラリ

 

視線を浜辺に移すとまだ曜は落ち込んでいた。

「曜ちゃん……」

 

千歌は体育座りをし顔を膝に埋めている曜を後ろから抱き締めた。

 

「……ねぇ、曜ちゃん。私ね、これは本当に仕方が無いことだと思うんだ……。

私も悲しいよ、この内浦の海にさ……死んだ人が流れてくる何てさ……」

 

「……う……ん……でもね、私が感じているのは悲しいだけじゃ無い……何か、やるせないんだよ……原因は分からないけど……」

 

「それは……曜ちゃんがこの内浦の海を大好きな証じゃ無いかな?」

 

「……え?」

 

「泳ぎが大好きな曜ちゃんだから、当然海も好きだよね。

この海には色んな思い入れがあるもん、梨子ちゃんが転校して来てすぐに海の音を聞こうとして私達3人でダイビングしたり、私達を会わせてくれたのもこの海だよ。

……その海に死んだ人が流れて来てしまったのが悲しいんだよ……」

 

「千歌ちゃん……」

 

「ラブライブ……優勝しよう!絶対!それが今の私達に出来る最大の内浦への恩返しだよ!亡くなってしまった人への思いも込めてさ!」

 

「何気に言ってる事が凄いわね……千歌さん……」

 

「そ、そうかな?」

 

「善子ちゃんの言う通り凄いよ!……千歌ちゃん!、私……頑張る!ラブライブに向けて頑張る!」

 

「ギラン、勿論このヨハネもね」

 

「ありがとう二人共、良かったぁ~元気になってくれて」

 

「じゃあ、今日は私達も帰ろう!千歌ちゃんまたね!ヨーソロー!」

 

「ふふ、元気になって良かったわ……リトルデーモン……此れからもこのヨハネの……って引っ張ら無いでぇぇぇぇぇ!」

 

「ぁははは……また明日ね、曜ちゃん、善子ちゃん」

 

2人の姿はみるみる小さくなっていった。

 

「じゃ、私も帰ろうかな」

 

そんな自宅の方に向かう千歌に警官達の話し声が聞こえてきた……

 

「……瞳孔が無いぞ!、それどころか瞳の全てが白眼になっている……」

 

「おかしいな?……この遺体の損傷箇所は腹部及び頭蓋骨だ。眼には何のダメージも無いし、この傷は明らかに新しい……最近付いた物だろうが」

 

「変死体だな……至急鑑識へ回し解剖を……」

 

(変わった、死に方……か)

 

警官達の会話の内容を頭に浮かべ、不謹慎だがどのような姿なのか想像を膨らませながら千歌も帰った。

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

同日……深夜……小原家……

 

『身元不祥のこの遺体は沼津市内の警察署に安置されており……』

 

「……うぅ嫌な事件……私達、aqoursの活動に何も影響が出なければイイけれど……」

 

「そっちは大丈夫なんじゃない?」

 

「Oh!果南!?ビックリさせないでクダサイ!」

 

「何さ、いつもセクハラ紛いな行動してる癖に、鞠莉の部屋にこっそり忍び込んじゃ悪いの?」

 

「……分かりました、五分五分デスネ……それで貴女の家の経営へは、どれくらいの影響になりそうかしら?」

 

「当分、ダイビングとかは客足が途絶えると思う……開店休業って奴だね」

 

「ま、あんな大々的に取り上げればね……どちらにせよ私達はラブライブに向け練習するしかないわね」

 

ピッピ、ピッピ

 

部屋に響く。

 

「臨時ニュースだね」

 

「What's?何かしら?」

 

数秒後、テレビ画面の上にテロップが出た。

 

『沼津市内の警察署で暴動発生、銃の発砲音もした模様』

 

「……は?」

 

「じょ、ジョークよね……ふふ」

 

あまりに現実離れしたテロップの内容に二人は固まった。

 

 

 




次回から、グロ描写をたくさん書いていきます。
何やらいきなり沼津市内がラクーンの再来になりそうな雰囲気ですがまだ大規模なバイオハザードは発生しません。


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第3話 クリムゾン・ヘッド


警察署の名前は沼津中央警察署にしました。
良い名前が浮かばなかったのでw



 

『番組の途中ですが、ここで沼津中央警察署で起きた暴動事件のニュースを御伝えしようと思います。昨夜11時30分頃、沼津中央警察署で暴動事件が発生しました。

近隣に住む視聴者の証言によると発砲音の他に動物とも人間ともとれないうなり声も聞いた模様です……それでは現場と中継を』

 

ガゴン!

 

ニュースを伝えていたテレビの液晶を一つの拳が貫いた。

 

「はぁ、はぁはぁ……化け……物……め」

 

沼津警察署は混乱に陥っていった。

「ゥアアアア!」

 

突如起き上がって暴れまわる赤く変色した亡骸によって。

今、まさに一人の警官がこの怪物に命を奪われようとしている。

急に起き上がった死体、誰が見ても素人が見ても明らかに死んでいる……筈だった。

 

目の前の惨状はなんだ?

 

頭を吹っ飛ばされ詰まっている肉片と赤い液体を辺りに散らばして死亡した警察官、首に噛み付かれ出血多量で死亡した警察官、他にもテレビのように肉体を貫通させられて死亡した警察官も居る。

「死体が人を殺す……か……」

 

必死に腹部からの出血を抑え銃を化け物に向ける。

気のせいかも知れないが自分の腹が脈動してるように感じた。

「今度こそちゃんと死ね」

 

バン!バン!バン!バン!

 

 

ズシャア

 

……

…………

………………

……………………

 

「また通った」

サイレンの音で目を覚ましたら千歌は海辺の道に目を向けていた。

旅館の前を30分前から何度も消防車やパトカー、救急車が通過している。

「眠れないよ……これじゃ……」

 

向かいの部屋は千歌が目を覚ます前から電気が点いてるが千歌と同じく眠れないのだろうか?

 

「何が起きたか気になるもんね……よし、梨子ちゃーん!」

 

普段は大きい千歌の声だがこの時だけはサイレンの音であまり騒がしく感じられない。

 

ガラガラガラ

 

「……千歌ちゃん……」

 

「やっぱり起きてた。今さ、救急車やら消防車とかが何回も行ったり来たりしてるけど……梨子ちゃん何があったか分かる?」

 

「ニュース見てないの?……」

 

「あー、私スマホは充電中だしテレビは居間だから遠くて」

 

「そう……」

 

「……もしかして結構危険な出来事?ニュースにもなるくらいだし……」

 

「……とりあえずこれを見て、私が話すよりも早いから」

 

梨子の掲げたスマホの画面を千歌は見た。

某サイトのニュース欄だ。

 

「なになに……?沼津中央警察署で暴動発生…………現在火災が発生しておりうなり声や発砲音も聞こえた模様…………!?」

 

自分の顔面から血の気が引いていく

「流石に、嘘だよね?……だって、有り得ないじゃんこんなのさ……」

 

「これを見てもまだ言える?」

 

「…………ひっ!」

 

千歌の目に飛び込んできたのは、おびただしい数の沼津中央警察署の写真、燃えてる画像やら傷ついた警官の画像やら、この短時間の内に大量にupされているではないか。

「分かった?千歌ちゃん。これは現実に起きてる出来事なの」

 

「信じるなって言う方が無理だね……何でこんな事に……」

 

「分からない……とにかく明るくなればもっと被害の状況が判明するんじゃないかしら?……何れにせよ私達がどうこう出来る問題じゃ無いわよ……」

 

「………………だね」

 

「ごめん、もう寝るね……とても話せるような雰囲気じゃないから」

 

「……うん、私の方こそ、何も知らずに起こしてごめんね……」

 

「気にしてないわ、御休み千歌ちゃん」

 

「御休み……梨子ちゃん」

 

ガラガラガラ

 

梨子がカーテンを閉めた5秒後、灯りが消えた。

 

「今日は……変な日だな……」

 

千歌は現実の実感が無いまま床についた。

 

 

 

 





次回は少し黒幕に触れるようなストーリーにしていく予定です。


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第4話 糧は忠誠


黒幕には少しだけしか触れません


警察署の暴動事件から一夜が明けた沼津市内

ざわ、ざわ。

 

件の警察署はマスコミと聴衆に取り囲まれ焼き焦げた廃墟に等しき外見をしている、本格的にこの署に火の手が回り始めたのは午前1時頃、阿吽絶叫の中署員は火の手と動く死体を掻い潜りながら出口や一階二階のガラス等を割って逃げたようだ。

まだ、警察側からは国民に対して発表されてはないが少なくとも死者は20数人を越えていると現地の情報と近隣住民達から寄せられた情報を元に数社のテレビ局で放映……だがここで暴動の根源に触れる報道はどの局もしなかったのである……つまりこの時点で死体が暴れまわったと言う恐ろしい事実を知っているのは当時勤務していた署員達だけなのだ。

詳細な情報は警察側からの記者会見を待つ事となった。

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

『今日の午前11時より警視庁から代表が今回の暴動について釈明会見を開く事になっています』

 

「怖い事件ね」

 

「うん……」

 

朝食を食べながら千歌と千歌の母親はニュースを見ていた。

千歌の母親の顔がここまで険しくなったのはいつ以来だろうか?

 

「国民を犯罪や危険な事から守るのが警察なのに、年頃の娘も居るんだからしっかりしてほしいわ」

 

「ぇへへ、なんか恥ずかしいな」

 

「笑い事じゃないの。千歌だってもう少しで大人になるんだから、こんなご時世なんだから自分の事は自分で管理出来るようにならなきゃ駄目だからね?」

 

「は~い」

 

「本当に分かったのかしら……この子……」

 

「あーもう大丈夫だよ!皆が居ればどんな困難も乗り越えられるもん!だからお母さんが東京に居たって大丈夫!」

 

「ふふ、そう。ところで……バスが来るまであと30秒も無いわよ?」

 

「え……うわっ!本当だ!じゃ、お母さん行って来ます!」

 

「行ってらっしゃーい、気を付けてね~」

 

「分かってるって~!」

 

ガラガラガラ

 

「あの子ったらまた表口から……はぁ、言った側から先が思いやられるわね…」

 

母親の独り言を聞き、こっそり隣部屋に忍び込んでいた二人の娘は口元を上げて静かに笑う、その様子に母親は気付いているのかいないのか………こうしていつもと変わらぬ旅館 十千万(とちまん)の一日が始まった。

 

…………

 

「もーう!遅いわよ!千歌ちゃん!」

 

「ごめん!話に夢中になっててー!」

 

目と鼻の先にはバス停で千歌を待つ梨子、早く行きたいが一心で彼女は掛ける。

 

「あ!千歌ちゃんストップ!」

 

「へ?」

 

ドォン

 

「きゃ!」

 

衝突した、人と、あまりの反動で千歌は後ろによろめいてしまうが明らかに自分に非があるため両足に力を込め自身の姿勢を保ち不安定ながらも「ごめんなさい!」 と頭を下げた。

梨子も「本当にすいません!」と頭を下げる。

 

ぶつかった相手は初老の男性で「良いんだ」とだけ返事をし、旅館の左方の道を何事も無かったかのように機械的な動きで歩いていく。

(良い人?……なのかな……)

 

一般人ならば怒ってもおかしくないくらいの痛みだと思ったが、あの男性はそんな素振り1つしてない……少し不思議だ。

……まるで千歌の事が最初から眼中に無いような……

 

ブブー

 

「「あ、乗りまーす!」」

 

ガシャン

 

揃って声を出した二人は大急ぎでバスに駆け込む。

 

「はぁぁぁ……」

 

「間に合ったわ……ね」

 

朝っぱらからくたくただ。

 

「ヨーソロー!御早う!千歌ちゃん!梨子ちゃん!」

 

息を乱しながら「御早う」と二人は曜に返した。

 

いつも通りの日常だ。

昨日のあの悲惨な出来事が嘘に思えてくる。

 

「よっと」

 

乗降口に近い方から千歌、梨子、曜の順序で一番後ろの席に3人はついた。

 

「それでさ……」

 

先程の明るさとは何処へやら曜の口調が暗くなった。

 

「昨日警察署で何で暴動何て起きたんだろうね?」

 

悪い人が暴れたのかな、と曜は冗談混じりに付け加えた。

 

「どうなんだろう?……ネットでは『唸り声が聞こえた』とか、『何者かが暴れていた』とか、色々聞いたけど……」

 

「ふ~ん……」

 

梨子と話す曜の顔……涙こそ流して居ないが海辺で変死体を見つけた時と同等かそれ以上に暗い。

 

(はぁ…、意味分かんないよ、次から次へと)

 

不貞腐れ気味に窓枠に肘をついた千歌は歩道へと目を通す、あんな事件が起きても社会が止まる事は無い。サラリーマンや学校の教師等がいつもと変わらず通勤している。

 

(さっきのおじさん…だ)

 

そう言えばこんな男性今までこの時間帯に見掛けた事が無い、越して来たのか?旅行者か?

 

ブロロ

 

バスが男性が歩く横を通過し歩道に影がかかる……その影に、千歌は恐ろしい物を目に焼き付けてしまった……

 

 

 

 

暗闇が歩道を支配した数秒間、男性の両目が赤く発光したのを

 

 

 

「待って!梨子ちゃん!千歌ちゃんの様子が!?」

 

「ち、千歌ちゃんどうしたの?」

 

「いやぁ……いやだよ……もうこんな夢覚めて……!」

二人が何があったか聞き続けるが千歌は身体を震わせ踞るだけだ。

 

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

「あの、小娘…儂の正体に気付いたか?……ふん、まあよい、あの御方の為にも組織の繁栄と再生の為にも!邪魔者は全て殺す!女子供問わずな!」

 

男性は千歌の制服を見てある考えを浮かべた。

 

 

『あの御方の娘と同じ服装だ』

 

「儂に生きる希望を与えて下さったあの御方に栄光あれ!」

 

男性は何処か吹っ切れていた……精神も……肉体も……

 





新キャラ おっさん


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第5話 惨劇への序曲


一刻、一刻と危機が迫る沼津。
今回は悲劇への序章です。


……アメリカ

「そうか。あいつは逃げたのか」

 

「申し訳ございません、何分場所が場所ですからなぁ。」

 

佇む豪邸の一室、タキシードを着た老人の前に金髪の少年が椅子に深く腰を預けて興味深くその話を聞いていた。

少年が属する組織の大切な実験対象が数日程前に収監されていた研究所から脱走したようなのだ。

そして、何よりその研究所の場所は……

 

「うむ、あそこは異国の地。いくら同志とは言えすぐ救援に行けるわけじゃない。しかも『かの国』では手の平サイズの子供が使うようなハンドガンの所持すら許されて無いと言う」

 

「大規模なテロ災害や不足の内乱等にはどうやって耐えるつもりなのでしょうな?ジャパンは?」

 

「さぁな、ま、それを収束出来るだけの自身と技術があるんじゃ無いか。しかし今回はそう上手くも行かなかったようだが……」

 

彼の目の前のテーブルに、複数の新聞や写真等が散りばめられている、沼津市内の警察署の暴動、発生からまだ8時間程しか経過してないが、海外もこの暴動について大々的に報じた。

 

「どう思うね?グルード。奴(実験対象)を収監してた研究所の場所は日本の太平洋沖の本土からあまり離れていない島らしい……して、今回の暴動が起きたのは奴が脱走してから間もなくだ」

 

「奴が関与していると?」

 

「あぁ、だとすれば……コイツが暴れてたのも頷ける」

 

少年はテーブルの一枚の写真を指差した。

「こ、これは!?……」

 

執事のグルードは思わず声を失った、無理もないだろう。撮られたその写真に写っていたのは

 

「……クリムゾン・ヘッド」

 

「18年前の悪夢が再来したか」

 

少年が産声をあげた年、アメリカの1つの町でとある悲劇が起こった

『アンブレラ事件』

 

巨大製薬企業アンブレラが裏でt-ウィルスを用いた非人道的な実験が公になったと同時にラクーンシティが地図上から姿を消すことになった。

犠牲者は数えきれない……今も尚、ラクーンからの脱出者には大きな傷を残している歴史的な大事件だ。

 

「レ、レイモンド様!至急、手をお打ちにならなくては!……このままでは当時と同じように我々の行為が公に出てしまいます!」

 

怯えるグルードを見てレイモンドは顔色一つ変えずに、大丈夫だ、と言い張る。

 

「最初は驚いたが、女神は俺達の味方のようだ。」

 

「と、言うと?」

 

「この静岡の沼津にも我が同胞が居るのだ。発足したその年に既に市民には感染症の予防と言い張りt-ウィルスの抗体を接種させている。……無論、老人も赤子も例外なくな」

 

「おぉ……そうだったのですか」

 

「それだけじゃない。他の地域から越してきたり通勤する者や転勤してきた者達にもその日の内に接種させると言う徹底ぶりだ」

 

「実力者が仕切っているわけですな……」

 

「あんな大惨事にはもうするわけには行かないからな、問題は現在混乱状態にある沼津市にこの沼津市民以外の人間達が足を踏み入れると言うところだが……グルード。至急沼津の同胞達に連絡を取りこのクリムゾン・ヘッドがどうなったのか確認を取ってくれ」

 

「承知致しました」

 

 

……

…………

………………

……………………

 

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 

千歌は梨子と曜に身体を支えられながら教室へは向かわず保健室に来ていた。

 

「千歌ちゃん!もう大丈夫だからね!」

 

曜はベッドに横たわる千歌を必死に励ます。

 

(昨日、私が立ち直れてあの新たな悲劇にも耐えられたのは千歌ちゃんのおかげ……だから今度は私が支える!)

 

「まだ早いから、保健室の先生は居ないわね……曜ちゃん、私おしぼりを濡らしてくるね」

 

「うん!ありがとう!梨子ちゃん!」

 

ガラガラ、バタン

 

(こんな時でも梨子ちゃんはしっかりしてる……私も何か少しでも千歌ちゃんを安心させれるような事をしなきゃ)

 

「よ、曜ちゃん……」

 

「千歌ちゃん!」

「赤く……光った。怖い……」

 

「光った?……何が、一体何が赤く光ったの!?」

「人の目がね……赤く光ったの……信号機の、赤信号みたいに……」

 

「充血して、赤く見えたって事?」

 

千歌は首を横に振る

 

「違う、もう充血とか、少し赤くなったとかの話じゃないの……遠目に見てもはっきりと分かる程に赤かったの……」

 

怯えかたからして、千歌が嘘を付いてるようにはとても見えなかった。

 

「千歌ちゃん、浦ノ星には皆が居るんだから怖がらなくて大丈夫だよ。あんな大惨事が有ったんだから怖い事に敏感になるのは仕方が無い事だよ」

 

「曜ちゃん……ありがとね」

 

「あ!少し元気が戻って来たんじゃない?」

 

「ふふ、 50%ぐらいかな?」

 

「じゃあ今日中に100%にしなきゃね!待って皆を呼んで来るよ!」

 

「あ、曜ちゃ~ん!」

 

ガラガラ、バタン

 

「行っちゃった……けど勇気が出たよ……ありがとね」

 

千歌は見間違いだと自分に言い聞かせた。

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

「あー……やべぇな……」

 

竜一は自転車を走らせ、通勤していた。

しかし事故により渋滞が発生してしまい彼は足止めを食らっていた。

火災も発生してるようで黒い煙がもくもくと空に昇っていく。

 

「どうする?店長に電話するか……」

 

その時老人が話掛けてきた。

 

「君、すまぬが浦ノ星女学院はどこに有るか分かるかね?」

 

「あ、浦ノ星ならこっから……ちょうど今事故が起きてるこの道を真っ直ぐ3キロ程行けば着きますが」

 

老人はありがとうと頭を下げ道なりに真っ直ぐ歩いて行く。

 

「え?あの!危険ですから迂回した方が……」

 

「その必要は無い」

 

「何を言ってんだよ!あんた!死ぬ気か!?」

 

竜一の抑制の言葉等物ともせず老人は歩みを止めない。

 

「イカれてやがるぜ……」

 

竜一は振り切るように別な道に足を進めた。

 





次回、沼津、崩壊す。


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第6話 奪われる日常


明けましておめでとう御座います!
今年も仕事やらなにやら頑張りながらユル~く投稿していくので宜しくお願いします。


 

……静岡沼津……地下……災難避難センター

 

 

沼津市内の地下には、近年日本各地で発生している突然の災害やそれに伴う病院の収容数の限界やライフライン崩壊の二次的被害それらを考慮した世界中に会社を置く海外のとある多国籍企業が資金を出し市で着工に移した地下避難センターがある。頑丈なコンクリート壁に囲まれ日本の耐震基準、耐火基準、その他の圧力基準等も国が定めるものよりも遥かに上回った。

 

 

 

しかしこの地下避難センターが真価を発揮するのは災害が起きた時で有り、普段は資金を提供した企業の仕事場となっている……。

 

 

 

当然、仕事の内容等知る者は居ない。

 

 

 

 

「ほーら、お前ら暴れるなよ~」

 

 

そう言って医者等が着ていそうな白衣を身に纏った若い男は強化ガラスが張ってある部屋に僅か数センチの開口扉から動物の肉を放り込んだ。

 

 

彼の名は、飯野 哲(いいの さとし)

 

 

ガツ、ガツ

 

 

中の生物達は美味しそうにその肉を平らげて行く。

 

 

「そうか、旨いかお前ら!はは」

 

 

そんな彼を他所に後ろから溜め息が聞こえた。

 

 

「朝から楽しそうだね、飯野君」

 

 

「あ、谷田室長!御早う御座います!」

 

室長の谷田と言う男は心底呆れ果てたような顔をしていた。

 

 

「組織の上層部は君の腕を確かな物だと認めて東京からこの沼津研究所に送ったらしいが、どうにも私にはそれが実感出来ないよ、何か?17歳で最前線の仕事にありつけて受かれて自惚れているのか?」

 

 

「いえ……そんな事は……」

 

「確か君は……孤児だったな。君が産まれて両親は間もなく失踪……そして君はーー

 

 

「我々の組織に属する孤児院に入った…ふ、尤もあそこは孤児院とは表の顔で……この会社のように人間を子供の玩具みたいに扱う場所なのだが、ふふふ」

 

 

「……俺はその玩具遊びから逃れた人間です。数々の殺人ウイルスも俺には効きませんでした」

 

 

「産まれながらにして神に選ばれた人間と言うわけか……まぁいい、『奴の脱走』、『沼津の混乱』と危機続きだ」

 

 

「はい」

 

 

「アメリカからも伝令が来た、『昨日沼津警察署で確認されたクリムゾン・ヘッドはどうなったか』とな」

 

 

「く、クリムゾン・ヘッドが……!?」

 

 

「恐らくは……昨日打ち上げられた水死体のT-ウイルスの変異だろうな、頭蓋骨と腹部に傷があったそうだ。これも奴が元凶だ」

 

 

「やっぱり奴ですか……なんか相当イライラしてそうですよね……奴」

 

 

「ふ、我々への憎悪と自分の悲惨な人生にか?知った事か。組織の発展の為には人っ子一人の生涯なぞ安すぎる」

 

 

コッ、コッ、コッ……

 

 

離れていく谷田を他所に飯野はそっと呟く。

 

 

「安すぎる命……か。谷田さん……あんたら私利私欲の為に非人道的な事を繰り返す人間が……良く言えますね」

 

 

(尤も、今の俺はあんたらと同じ屑ですがね……でも俺は逃げはしない。いつか罪と向き合う時が来たら命を張ってでも罪を受け入れます)

 

飯野は数秒程、去っていく谷田の背中を見つめ……部署に向かった……

 

 

 

 

「ふふ、中々面白い小僧だな」

 

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

 

「どうかしら?千歌ちゃん」

 

 

「ひんやりして気持ちいい……ありがとう、梨子ちゃん!」

 

 

おしぼりをおでこにのせてもらった千歌は梨子に普段通りの笑顔を見せ、梨子は安心した。

 

 

「曜ちゃんは何処に?」

 

「皆を呼びに言ったみたい」

 

 

「まだ来て無いと思うんだけど……千歌ちゃん授業出れそう?」

 

 

「うん、梨子ちゃん達のおかげでね!」

 

 

「心配したわよもう!」

 

「ふふふ、ごめんでももう大丈夫」

 

 

二人ともすっかり安堵に包まれた、本来ならいつもと変わらぬ日常の中のいつもと変わらぬ普段通りの会話と言う出来事の筈なのにそれが二人に安心を与えたのだ。

 

……だが、『異常』は轟音を伴い『日常』を地獄へと変えようとそこまで迫って来ていた。

 

 

ボガァン!

 

二人はほぼ同時に驚いた。

 

「え……な、何かな……今の?……」

 

 

「少し待ってて……千歌ちゃん。私見てくるわ」

 

 

 

「きゃあ!」

 

轟音の正体は

 

「くくく、何処だっ!儂の目を見たあの小娘はぁ!」

 

今朝、千歌がぶつかった初老の男性が、浦ノ星女学院の校舎を破壊し穴をぶち開けた音だった……。

「ひ、あ……」

 

不幸にも他の仲間達を呼びに行こうとした曜はその場に居合わせてしまう。

ガク……ガク……

 

あまりの恐怖に曜は腰を抜かし地面に座り込んで一歩も動けなくなってしまった。

(千歌ちゃ……んの、話……本当だ……た)

 

 

思考さえも目の間の異常に支配される。

老人は近づき曜を上から見下ろした。

「う~む……こいつは違うな。儂が見たのはもっと髪の色が明るい小娘だった」

 

老人は確認すると、そのまま廊下を左の方向に進んで行った。

助かったのか……

 

未だに心臓ははち切れそうな程バグバクしている。

男性の姿が完全に見えなくなった時、曜は始めて立ち上がる事が出来た。

 

「……今の話が本当なら、あの男は千歌ちゃんの命を……くっ!」

 

スマホを取り出し慌ててトークアプリで千歌に発信する。

 

ピッ

 

 

『もしもし、どうしたの曜ちゃん?』

 

「千歌ちゃん、ごめんなさい!」

 

『え、突然なに?……曜ちゃんなんか悪い事したっけ?』

 

「したよ……私、千歌ちゃんに嘘をついた」

 

「千歌ちゃんが今朝見た……赤い目の人間はね……実際に居たの……」

 

『え……』

 

「音、聞いたよね。あの音は千歌ちゃんに自分の赤い目を見られた男が浦ノ星の校壁を破壊した音だよ……」

 

『う、そ…だよね……』

 

「……千歌ちゃん。こんな時に……ただでさえ沼津や内浦が大変な時に嘘をつける程私は馬鹿じゃないよ」

『ごめん……だよね』

 

「その……動ける千歌ちゃん?あの男は千歌ちゃんの事を狙ってるよ」

 

『っ!……そうなんだ。じゃあ学校サボるしかないね』

 

その言葉に曜は少し口元を上げながらも切羽詰まった様子で声を上げた。

「逃げて!早く学校の外にっ!」

 

『うん!……って、曜ちゃんは!?』

 

「私は生徒達を避難させてくよ。あの男……あんな力を持った男が見境もなく暴れたりしたら……どれだけ被害が出るか分からないからね……」

 

『そっか……実は梨子ちゃんがさっき様子を見に行くって言って出て行っちゃって……』

 

「梨子ちゃんが……。分かった。すぐに見つけて校舎から離れるように言うよ、とにかく千歌ちゃんは一刻も早く逃げて何処でも良いから遠くへ」

 

『分かった。まだ学校に来てないaquorsメンバーには私から伝える……曜ちゃん……待ってるからね!』

 

ピッ

 

「ふふ、待ってるからね……か。絶対行くよ、千歌ちゃん」

 

 

タッタッタッ……

 

 

「ふぅ、保健室に戸がある学校で良かった」

 

ガラガラ

 

出た先は中庭だ。

浦ノ星女学院の中庭は校舎の西側と向かい合うように部室や体育館等が配置されており、その間に人が自由に通れる道がある。

 

(此処から、校門に向かうか)

 

中庭には特にこれと言った変化が見られなかった。

 

千歌は音を立てずに素早く移動し校門の外へ出た。

「はぁ、こんな気が滅入る下校は始めてだよ……」

 

「あ、君!」

 

「はい!?」

 

いきなり話かけられ千歌はびっくりする。

声を掛けて来たのは若い男性警察官だった。

 

「すまないが、この近辺に凶暴な男が現れたとの情報が入ってね。どうだろ……不審な男を見なかったかい?」

 

「その男は私を探して今学校内を彷徨っています!まだ中には私の友達や生徒が居るんです!助けて下さい!」

 

千歌は必死に訴えた。

 

「……分かった僕が全力でこの学校の生徒達を助けるよ。だから君はまず自分の身を守る事を考えてくれ」

 

「はい……必ず、必ず宜しくお願いします!」

「少し待ってくれ」

 

「え?」

 

警察官は自身のスマートフォンを取り出しとある地図を見せた。

 

「沼津の全体で異変が起きていてね、この避難場所を目指してくれ」

 

「これって……」

 

千歌はじっと目を凝らす。

 

「沼津市民なら聞いた事が有ると思うが、地下の避難センターだ。もしもの時はここに避難するのがこの沼津市民の掟となっていてね。君もここに逃げなさい。あの男は絶対に捕まえる」

 

警察官は校舎に向かって走り出した。

 

「そういえばあったねそんなの。とにかく考えてる暇は無いね……なんか色んな所から黒煙が上がっているし……」

 

「お母さん、美渡姉、志満姉、私……自分で自分の身を守ってみせるからね……!」

 

災害避難センターを千歌は目指す。

 

 

 

……

…………

………………

……………………

 

……内浦海上……

 

大惨事が起こっている沼津市の様子を船に乗り海上から監視している者達がいた。

 

「このどさくさに紛れT-ウイルス感染者を沼津に放つとは……呆れるぜ大西」

「ただの感染者じゃ無い、改良に改良を重ねたプラーガで脳の前頭葉の壊死を防いでんだ。故に奴等は人としての自我と知能を保ったまま強靭的な身体能力と凶暴性を得る事が出来る、意志疎通も可能」

 

「ほう、相乗効果とT-ウイルスとプラーガの弱点を互いが互いに補強しあって弱点無しってわけかい」

 

「ふ、まぁ俺の駒としては戦力は下の下だがな……だがこんな町一つ乗っとるには充分過ぎる戦力だな」

 

海上に突然現れた船は、数分程滞在すると姿を消した。





おっさん快進撃


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第7話 悪魔(マジニ)の誘い


ここからは2年生組以外のキャラ達に焦点を当てたお話を投稿していきます。



ブー、ブッブー

 

「なによ……これ……」

運転手と乗客1名の2人だけのバスは身動きを取れないでいた。

 

津島善子はこの日も同じくバスに乗り自身が通う浦ノ星女学院に向かう予定であった。

バスの中から変わらぬ街を眺めながら今日は何をしようかとかどんな衣装を着ようかとか……小さな事から大切な事まで身の回りの事に思いを寄せる気楽な時間の筈だったのだ。

だが今の彼女の瞳には……普段自分が冗談半分で口に出している『地獄』のような光景が写し出されていた。

 

他方から舞い上がる黒煙と鳴り止まないクラクション。

 

紙のように呆気なく紅蓮の炎に包まれ、いともたやすく燃え広がる沼津の街……。

 

ガードレールをぶち破り、壁に激突した車や他の車に衝突している車……此方は酷い物は運転席がひしゃげ生々しく車内に血が飛び散りハンドルや硝子を赤く染めてるものもあった。

良く良く見ると、まだ死体が運転席に残っている車両も。

しかしいくら事故を引き起こしたとしてもこんなに短時間に数十台規模の車両が一斉に事故を起こすのは明らかに異常な事である。

「昨日の警察署と言い………何なのよ……」

 

まさか……。

本当に呪いでも降りかかったのだろうか……。

「……馬鹿馬鹿しいわ。こんな悲惨な事が現に起こってるのに……呪いとかそういうオカルトの類いにしようとするなんて」

 

この地獄のような出来事は津島善子にとって現実なのだ……自分を悪魔としたてあげても、神頼みしても……ただ単なる現実逃避に過ぎず、いくらそう自分で思っていても目の前の悪夢が尽きる事は無い。

 

そして……

 

『ぎゃあ!』

 

外より聞こえる人の悲鳴。

 

「え……ちょっと!?」

 

『く、来るな!……此方に来るなぁぁぁ!!』

目の前で新たな悪夢が発生していた。

彼女がバスの車内から見下ろす歩道で身体中から出血している若い男性を赤く染まった金属バットを片手に掲げ目が荒ぶってる少年が迫りながら男性のあちこちを思いっきり叩いていた。

……とてもまともには見えない。

 

『おらぁ!』

 

ガゴン

 

狂気の振りが男性の腹部に直撃した。

 

『ガフッ……』

 

バタ……

 

「ひ!……」

 

事切れたように仰向けに倒れ伏す男性……口元からは血が溢れ……顔は見下ろしている善子を逆に見つめ返すかのように眼を見開かせて。

 

逃げろぉ!と言う声と共に外に居る人々は今自分達が向い合っている状況を次々と放棄しだす……。

バスの運転手の男性もうわぁ!と声を挙げ乗車口の開閉スイッチを急いで起動させ逃げ出した。

外からの悲鳴は金属音が鳴ると同時に善子の耳に入ってきた。

 

バゴン、ガゴン、ガンッ!

 

(ヤバイわ……もし見つかったら!)

 

簡単にどういう目に遭うか余裕で想像出来た。

安易に外に出るのは危険だと判断した善子は直ぐ様屈み自分が今座っていた座席の下に入り込んだ。

(何でよ……何でバットを持った男は、あの男性を攻撃したの!?)

 

背中を丸め両足の膝を両手で抱えながら思案するが答えは出てこない。

とにかく一刻も早くここから逃げ出した方が良いと言う事を身に染みる程痛感した。

 

しかし場所は何処へ?

 

(分からないわ……何か、何処か場所は……)

 

ビー、ビッビ

 

その時、自身のスマホのトークアプリの着信音が鳴り響いた。

 

(ヤバイ!……聞かれた、かしら!?)

 

しかし少年が此方へと向かって来る事は無かった。

変わらず人間の悲鳴が木霊する。

 

(誰かしら……?)

 

画面に表示されているサムネイルの主は千歌だ。

内容は

 

 

『善子ちゃん!もう気付いてるかも知れないけど内浦や沼津が大変な事になってるの!今、私からaquorsのメンバーに連絡してるところ!このメッセージを見たら早く災害避難センターへ向かって!』

 

 

「千歌さん……」

 

悲劇に遭遇しているのは自分だけでは無かった。

自分達のリーダーの千歌も……いや、もしかしたら他のメンバーだって悲劇を目にしながらも頑張って進もうとしてるのかもしれない。

 

「ありがとう……やっぱり千歌さんが……私達のリーダーね……」

 

(一人じゃないんだ……私は)

善子に少しだけ強い気持ちが芽生えた。

絶対にここから抜け出そう!と言う強い意志が……。

一先ず、『分かった』とだけ返事し彼女は如何にしてここから沼津避難センターにまで向かうか考え出す。

 

すぐそこには異常な人間が金属バットを持ち無差別に人を襲っているのだ……。

それに、バスの扉は前も後も開きっぱなしだ少年がいつ乗り込んで来たっておかしくない。

 

(どうすれば……)

 

ゴギ、バギ!

「あ……あぁ……」

 

また一人犠牲になったようだ。

「ははは!馬鹿な奴等だな!あの人にさえ忠誠を誓えば俺と同じくこの素晴らしい力を持てたのによ!」

 

ガンッ!ガンッ!

 

「最高だ!あの人は!非力だった俺でもこんな事が出来るなんて!」

 

善子は少年の言動に悪寒と底なしの恐怖を感じた。

さも、ゲームをやってるような感覚で笑いながら楽しそうに人を痛め付けてるのだから。

(それに……あの人って……)

 

此方も少年の腹の中のように想像がつかぬがこんな狂った人間から崇拝されてる時点で碌でも無い人間だと言う事は確かだろう。

 

(あれ……?)

 

考え事に時間を費やしていたら金属音が聞こえなくなっていた。

人のうめき声も聞こえない……全員殺られたか。

 

「俺がお前の存在に気付かないとでも?」

 

ビクッ!

 

窓硝子のすぐそばから悪魔の声が囁かれた。

 

「きゃ……」

 

バリーン!

 

悲鳴を上げる時間すら与えずに無情にも硝子はバットでは無く少年の拳によってくだけ散った。

顔前で広がる破片に善子は顔をガバンで防いだ。

「よっと」

 

カタン

 

逃げ場を防ぐかのように少年はバスの通路に降り立ち、屈んで居る善子を見下ろした。

 

「私も……殺す気?」

 

彼女は思わず問う

 

「どうだかな……外見から察してお前は高校生だ。俺の組織の『計画』の対象年齢の範囲内でもある」

(組織、範囲内……全く先が読めないわ……)

 

今すぐ殺す気は無いと言う事は何となくではあるが分かったようだ。

 

「お前も協力してみないか?ストレス発散にはうってつけだぞ」

 

「……貴方馬鹿じゃないの?人を殺すのがストレス発散?理性も保たないで暴れるのが楽しいってわけ!?」

 

善子は立ち睨み返しながら反論する。

 

「何が組織よ……何が協力よ……人を小馬鹿にしないで!」

 

「よく分かった……では名前も分からないが御別れだな」

 

ジュルジュルジュル……

 

「っ!……」

 

少年の口からつぼみのような物が出現し、花弁のようにゆっくり開いていく。

 

「我々の仲間になる気が無いなら此処で死ね」

 

善子は覚悟を決め……目を閉じた……

 





バイオ7のファミパンとのドライブには笑ってしまったw
先月バイオハザード7を購入したのですが忙しさと疲れでやれて無いのが現状です。


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第8話 目覚めは暗闇


久々の投稿。
今回から善子に変わり黒澤姉妹です。


ガチャアン……

 

「おうぇ!!」

 

「っ!?」

 

ドチュリ

 

怪物と化した少年が善子に触れようとした時……ある野球ボールがバスの硝子を突き破りマジニに激突した。

マジニは衝撃で床下に叩きつけられる。

その際マジニのボールが激突した場所から黄色い液体が車内に飛び散った。

 

「うぅ……おぇぇ!」

 

呆気にとられながらその一部始終を目に焼き付けていた善子は床に倒れながらもウネウネと自身の口から伸びた体細胞を動かすマジニの姿を見て嘔吐した。

 

「はぁ……はぁ……駄目よ……逃げ……なきゃ……殺され……る……」

 

這うようにバスの乗降口から地べたに降りた。

 

「くっ……はぁはぁはぁ……」

 

「無事だったか……」

 

無機質な男の声が真上から響く。

立って居たのは丸坊主に刈り上げ研究服を着た背の高い少年だった。

 

「誰……敵……?」

 

善子は度重なる恐怖の襲撃に完全に疑心暗鬼となっていた。

「お前に手を出す者ではないとだけ答えておく」

 

歳が善子と同じぐらいなのに酷く大人びた物言いだ。

「ほん……と……?」

 

虚ろな表情を浮かべ彼女はほそぼそと口を動かした。

そして……

 

「なら……良かった……」

 

安堵した瞬間に彼女は気を失った……。

 

「……うむ、まぁ一般人にしては良く今まで気を保てていた……と言ったところか……」

 

少年はバスに目を向けた。

窓越しにグネグネとうねる物体が映っている。

 

「人様の住み処で暴れるんじゃない……駆除してやるぞこの害虫が……」

 

…………

 

 

同日…………午前5時……

 

「起きなさい……」

 

「うゆ……」

 

「起きなさい!ルビィ!」

 

「ピギッ!……お姉ちゃん!?」

 

ルビィは姉ダイヤの怒号のような声を聞き、目を覚ました……起きて数秒で様々な違和感を彼女は感じた。

 

何故、姉のダイヤは懐中電灯で私を照らしているのか

 

何故、照らさなければいけない程暗い場所に自分が居るのか

 

ここは……何処なのか……

 

「お、お姉ちゃん……ここは……私達、部屋で寝てた……よね……?」

 

「……私も先程目を覚ました時貴女と同じような事を考えましたわ。何か手掛りが無いか暗い中手探りで調べていたら床にこれ(懐中電灯)が落ちていましてね……」

 

光をルビィから自分達を囲んでいる場所の壁に向けた

 

「どうもこういう場所らしいですわ」

 

壁には赤いペンキで文字が書かれた看板が張り付いていた。

 

『株式会社 ローゼンソーン 設計部門』

 

「何処かの会社の中……?」

 

「みたい……ですわね」

 

ダイヤが室内の真ん中に光を向けた所、ポツンポツンと机となんらかの紙が置かれていた。

しかし何故……自分達はただ自室で眠っていただけである。

全くの想定外の事態にルビィもダイヤも思考が追い付かない。

 

「誰が私達を此所に連れて来たのでしょう……寝てたから当然ですが思い当たる節が見当たりませんわ」

 

「ま、まさか!……誘拐……!」

怯えながらルビィは口に出した。

「誘拐……です……か」

 

その線も考えられないわけではない。

aquorsも人気が出てきて顔もメンバーも覚えられて来た時だ。

ファンも増えて来ている。

……ではファンがこんな事をしたのだろうか

ダイヤの両腕に寒気が走る。

 

「あまり考えたくは……ないわね。それに貴女のその考えには穴が有るわよルビィ」

 

「……」

 

「私達のお父様やお母様が鍵も掛けずに寝ると、お思いで?……寧ろ、顔を公にする活動を自分の娘達がしているならば……戸締まりをしないわけがありませんわ」

 

「うん……そうだよね……ふぇ!?」

 

俯きながら返事をする身体をダイヤは包んだ。

 

「不安なのね、ルビィ……」

 

「うん……」

 

「私にはお母様のような安らぎを貴女に与える事は出来ませんが……落ち着くまで私の胸で泣きなさいルビィ」

 

「うん……!ごめん!お姉ちゃん……!……うわぁぁぁぁ……!」

 

「大丈夫よ、貴女は悪くありませんわ……」

 

暗い工場にルビィの泣き声が響いた。

ダイヤはそんなルビィを力強くも優しく抱き締めた。

7分程経ち、ルビィは顔を上げダイヤの顔を見つめた。

 

「えへへ、ありがとうお姉ちゃん……取り敢えず大丈夫」

 

「さすが、我が妹ですわ。では、まずはこの工場から出ましょう」

 

現在ダイヤ達が得た情報はローゼンソーンと言う会社の設計部門の一室に自分達がいると言う事。

 

「何処かに……全体図は無いかしら?」

 

灯りを各場所に振り向ける。

 

「あ、お姉ちゃん!これ!!」

 

「え?」

 

ルビィが声を出した方を照らすと柱に案内図と書かれたプリントが貼りつけてあった。

 

「でかしましたわ……!」

 

小走りでダイヤは柱に近付いた。

 

「成る程……この工場は全長が50m。港の近くの貿易会社のようね……」

 

「ともあれ、大体の位置は分かりましたし。早く出口へ向かいましょう」

 

「うん!」

 

二人の心に希望がこもる。

 

出口への道を辿ろうとした時

 

 

ガシャアアアン

 

何処かで思いっきりシャッターが閉まるような音が響いた。

 

「おねぇちゃ……」

 

「……良い事では無いことは確かですね」

 

怯える妹を抱え姉は音がした方を見続ける。

 

ウォォォン……

 

「何なの……」

ダイヤは警戒を怠らない。

今度は何かが走るような音が近付いてきた。

何せ暗くて良く見えないのだ。

 

カチ

 

照明器具を付けるような音が聞こえ、彼女らを『光源』が照らした……

光と共に現れたのはフォークリフトだった。

運転手は彼女らを見つけると笑みを浮かべ狂ったように笑い始めた。

服装は所々に穴が開き、赤く汚れたり出血したりしていた……

そして、

 

「此処に居るぞー!黒澤家の娘共の居場所が分かったぞー」

 

と声を上げた。

 

「ルビィっ!急いで身を隠せる場所を見つけるわよ!来なさい!」

 

「ピギ!お姉ちゃん!」

 

ダイヤとルビィはこの瞬間自分達を殺そうとして居るのだと理解した……

 

ウォォォン!

 

逃げる彼女らの後ろでモーター音が近づく……




誘拐って怖いですね……
見知らぬ、会社内で奮闘する彼女らの葛藤を書いていけたらと思います。


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第9話 救出者


久々の更新。



午前6時30分……沼津……某所……

 

「異常なし」

 

カタカタカタカタ

 

パソコンのモニターに次々と写る場所を見ながら刻々と異常が起きていないか確認をする少年がいた。

その隣には同い年と思わしき少女が少年と同様の行動をしている。

灼場剛と凍花鳴二人は小さい時より組織によって育てられ現在恋仲である。

そして彼等は組織の実験材料として幼少の頃から頻繁にウイルスを摂取しており、とある力を身に付けていた。

 

「あー、私本当にデスクワーク嫌い……しかもこんな朝早くから……剛君はどう思う?」

 

「同感……だけど仕事だからな……鳴も愚痴らずやるんだ……給料貰えないぜ?」

 

剛の台詞に鳴は苦笑した。

「そんな事言ったって私達まだ高一だよ。あーあ、どうせだったら飯野先輩や巌撤先輩の元で働きたいよね~私達の事コキ使わないし……あんなおっさんの元で働いてたら20になる前に過労死するかも。唯一の救いは好きな貴方と働ける事だけ」

 

剛の腕をグッと自分へと引き寄せる。

 

「大袈裟だな。ま、確かにあの二人の方がマシだけどさ。10代で幹部クラスの仕事に就けるなんて俺達孤児院組の誇りだよ」

 

「……うん、本当に懐かしいね。お父さんやお母さん達元気かな……伝えたいね。私達の兄さんが凄く立派になったよって……」

 

「そうだね。俺らの成長も見てほしいな」

 

ガチャン

 

昔の思い出に浸かっている二人の元に上司が来た。

「随分楽しそうな様子だが仕事はしているのか?」

 

「勿論しています。今のところ異常はありません」

 

剛が答えた。

 

「うむ、お前達が監視している区域は特に問題が無いようだ。だが他の区域で二人の娘が不審な集団に連れさわられる事件が起きた」

 

「え……」

 

「この写真を見てもらえば分かると思うが、犯行を働いたのは株式会社 ローゼンソーンの社員達だ……何故このような蛮行に出たか理解しかねるが……外部からの圧力があった事は明白だ。調査員を派遣した所、プラーガと思わしき寄生虫が確認出来た」

 

「う、そ……!?」

 

「なんでプラーガがこんな所に……?」

 

「我々と敵対する組織がごまんとある事を忘れたか。我々は一致してこの敵共を滅ぼさなければならない。かの『脱走者』も奴等の手引きがあったかもしれんのだ!」

 

「すいません博士……あのクリムゾン・ヘッドは『脱走者』よりもたらされたものなのでしょうか……?」

 

おそるおそる鳴が聞いた。

 

「分からぬ……だが一つだけ言えるのはこの施設の管理力は万全と言う事だ……万が一にもこの町の住人を化け物に変える事はない……町の人々は何も知らぬのだからな」

 

汗を拭いながら博士が指令を出した。

 

「凍花、灼場。君達に指令を出す二人の娘を拐ったこのならず者達に罰を下しかつ娘共も救えこれだけ事が大きくなってしまっては消しても無意味だ。どんな手を使っても構わん私が言いに来たのはそれだけだ」

 

博士は去って行った。

 

「何よ!あの人!……消しても無意味だなんて人の命を何だと思ってるのかしら!?」

 

「……だがいずれ俺達もやらなきゃいけない時が来るんだろうな……俺達は人間である前にこの組織のマスコット(実験材料)なんだからな……」

二人はまだ人間を材料とした実験はしたことが無いが、 暴徒化した感染者等を殺して来た事はあった。

「そうだね……でも今回の任務は命を救う事何だから頑張ろ?……剛」

 

「あぁ」

 

二人は抱きしめあい不安を軽減させる。

 

感染者が元人間だったとしても自分達に牙を剥いて来る以上殺らなきゃ殺られるのだ

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

尋常ではない。

 

ドグシャ……ミキミキミキ……

 

「はぁ、はぁはぁ……」

ダイヤは思わず後ろを振り返ると、ベソを掻き疲れながら必死に走る我が妹がその背面に迫り来るリフトより伸びた二つの刃がルビィに当たらんとしているばかりだ。

 

私達が一直線に(リフト)と並んでいるこの通路から待避出来る場所は……?

このままではルビィが殺されるのは時間の問題だ、 残された少ない時間で必死に辺りを見回し考えた。

前方は薄暗く脇にそれる通路があるか分かったもんじゃない

 

後方は論外である……ならば残されたのは右側か左側に他の部署に通じる道があるかどうかだ。

早く見つけなくてはルビィの命が危なかった。

 

「あった!」

 

暗いが僅かに壁の途中に隔てる物が無い内部へと通ずる道を発見した。

後はそこに飛び込むだけだ。

 

「ルビィ!あと少しよ!頑張って!」

 

ルビィを激励しダイヤは抜け道へ駆け込んだ。

 

「はぁ、はぁ!……逃れられた!……後は貴女だけですわ。ルビィ!」

 

ヘロヘロと必死に走るルビィ。

ダイヤが抜け道へと入った場所でグイッと思いっ切り引っ張った。

直後にダイヤは入口から数m後方に下がる。

 

ギギギギィ……ガァァァァン!

 

フォークリフトが勢い良く突っ込んで来たが幸いにもダイヤの行動が実を結び二人共怪我を負うことはなかった。

 

「お姉ちゃん……私、生きてるの?……」

 

「生きてますわよ。まだまだ何があるか分かりません慎重に出口を探しましょう」

 

現在フォークリフトが激突した方の出口意外にも他の部屋へと移動出来る道は有るようだ。

先ずはその出口の数と先程見つけた地図を頭で照らし合わせるしかない……。

 

「通じる出口の数は……」

 

少し外の光が射し込んでいるのか明確に工場内に設置してある物が肉眼で充分確認出来るようになっていた。

 

「間違いありませんわね……ここはA区……港側の海に近い作業区域……出口迄約150mだそうよ!」

 

二人の顔に希望が籠った……だがまだ油断は出来ない……この場所に更にリフトを運転していた男の仲間が待ち伏せている可能性があるのだから。

案の定予感は的中した。

 

「いたな!」

 

理性を失った男がダイヤの元へ走って来る。

「く、またですの!?」

 

その時異変が起きた。

 

ヒィン……

 

不思議な音と共に急激に温度が下がる。

 

「どうなってるの……」

 

「分かりませんわ。でも急に温度が……なっ!」

 

ダイヤ達に迫ろうとしていた男は凍り付いていた。

 

「一体何がどうなっているんですの……?」

 

不思議に思うダイヤに

 

「やっと見つけた!貴女達が拐われた人達ですね」

 

救出に来ました!

 

と身体に氷を纏い可愛らしい笑顔を振り向く女子の姿があった。

 

 





剛の方の能力も名字やらでだいたい検討が付いたと思います。


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