オーバーロード・ラナー外伝BUSIN風 (Wizも好き)
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人類の反攻の時は来ました

 偉大なるアインズ・ウール・ゴウン魔導国より存続を認められ、国土を減らしながらも女王ラナーのもと復興を進め、最盛期を迎えようとしていたリ・エスティーゼ王国。その領域は最大領域の半分近くまで絞られながらも、人口と食糧生産は当時を上回るほどとなっていた。豊かになった農村ではラナーの勅令で分割相続が禁止され、溢れた人口は支度金まで与えられて都市に誘導され、既得権益の制限を含む様々な施策もあって様々な手工業の発展に繋がった。そして、都市を活性化する流入人口は、農村に限らず国の外部からももたらされる。

 繁栄は希望を生み、希望はさらなる繁栄を約束する。領土の大半を差し出した代わりに魔導国の干渉を受けない曖昧な立場を維持した新生リ・エスティーゼ王国は、同時代の人間種の国家として類を見ない繁栄ぶりを見せ付けることで多くの移住者を集め、それを力として人類の希望となった。無秩序に拡大する王都リ・エスティーゼは人間種の人口に限れば世界一を誇り、魔導国領域内を除けば世界で最も豊かな都市にもなっていた。

 さすがの魔導国も新生リ・エスティーゼ王国の国力を侮れず、友好国として通商や人的交流を拡大するとともに、魔導国冒険者組合支部の設立や訓練場の建設を計画して、女王ラナーの同意のもと守護者と呼ばれる最高幹部をたびたび送り込んだ。そして、ついに新生リ・エスティーゼ王国は魔導国と平等の条約を締結するに至る。

 

 

 だが、ある日、地獄の底より伝えられた激震は王城ロ・レンテの中枢に牙を剥く。それは、多くの国民に愛され【黄金】とまで称された女王ラナーの誕生日に送られた、悪魔からの残酷なプレゼントとも言うべきものだ。

 この日、【黄金の広場】には数千人の群衆が集まっていた。そのお目当ては当然ラナーだ。華やかな王宮であるヴァランシア宮殿と、王城から程近い場所に完成したばかりの質素で無骨なケノル離宮、それらを結ぶ【黄金のテラス】に面しているのが【黄金の広場】だ。かつて大貴族たちの広大な館が並んでいたこの場所は、開かれた王家の象徴として、女王が群衆に語りかけるための場所となるべく整備されていた。テラスや広場には表面が黄色く風化した安価な石材が使われたが、女王の名声がそれらにも【黄金】の名を及ぼしていた。

 そこで国民に感謝の言葉を述べるラナーの姿をひと目見ようと訪れた者たちは、一人も残すことなく激震の中で口を開けた大地に喰らい尽くされた。激震は【黄金のテラス】を引き裂き、【黄金の広場】に大穴を穿つだけに留まらず、王宮を喰らい、王城ロ・レンテの城壁を喰い破り、王都リ・エスティーゼの大半を蹂躙した。

 

 そして、悲劇はそこで終わらない。

 

 大地に生じた多数の亀裂は、後の世において現世の地獄と謳われる恐るべき地下迷宮と半壊し大地に沈んだ王城ロ・レンテを繋げてしまったのだ。

 王城ロ・レンテが地の底より溢れる魔物によって陥落すると、魔導国はリ・エスティーゼ王国の滅亡を宣言した。両国関係を対等なものと定めた新条約に基づいて、保護国であれば可能であったあらゆる支援を断った。

 さらに、魔導王アインズ・ウール・ゴウンは溢れだす魔物を封じ込めるため、王都リ・エスティーゼを巨大な結界で包み込んだ。

 王都の空は鈍色の膜に覆われたようにその色を失い、街は深い霧に包まれた。馬は怯えてその領域へ立ち入ろうとせず、精強な八足馬(スレイプニール)でさえ結界の奥深くへ侵入すれば恐慌状態に陥った。わざわざ出入りを禁じらずとも、呪われた都市に訪れる者など冒険者くらいしかいなくなる。

 王国を失い、魔導国の支援を失い、ついには外の世界の全てを失った王都リ・エスティーゼに残ったのは絶望だけだった。

 

 そんな王都にあって、孤軍奮闘したのが女王ラナーだ。王城ロ・レンテにおいて無事だったのは、無骨なケノル離宮だけだった。僅かな小窓があるのみでバルコニーもステンドグラスも無い離宮とは名ばかりの要塞は、危急のリ・エスティーゼ王国を率いる女王の居所として良く機能した。

 

 女王ラナーは王都を決して見放さなかった。気丈にも最前線となったケノル離宮に留まり、王国戦士団や自ら募った冒険者たちを指揮して戦い、ついには地上の魔物を駆逐した。

 

「人類の反攻の時は来ました」

 

 女王ラナーは王国戦士団や数多の冒険者たちを前に宣言する。それは大きな喝采と、小さな驚きをもって受け止められた。ラナーが選んだのは、王都の復興でも、他都市との交流の復活でもなく、迷宮の探索だ。廃墟同然の王都の復興もままならない中、限りある国庫から少なくない報酬が提示されたことに戸惑う者も少なくなかった。その後、ラナーは地上の魔物との戦いで功のあった褐色の聖女ナギ・レスプルを大司教として側へ起き、離宮に篭りがちになる。

 

 ここに至っても、女王ラナーへの不信感が広がりを見せることはなかった。それまで、ラナーの存在は王国において黄金に輝く希望の象徴であり続けたからだ。

 戦士団による迷宮の探索が本格化すると、すぐに迷宮の秘宝についての噂が流れる。

 

 曰く、人の欲望に応える悪魔の果実

 曰く、永遠をもたらす神の恩寵

 曰く、閉ざされた世界を満たす幸福の根源

 

 かくして、迷宮に固執する女王ラナーに疑問を呈する者は居なくなる。もはや、行き詰った王都リ・エスティーゼを救う方法は迷宮の秘宝以外には考えられない状況だからだ。

 廃墟同然の王都で地を這うような暮らしをしてきた者たちは、次々と冒険者となってヴァランシア宮殿を土足で踏み荒らし、地下迷宮へと挑んでいった。

 ある者は名声を得て女王ラナーの騎士となるために、ある者は日々の糧を得るために、またある者は際限ない欲望を満たすために。

 

 そして、最も猛き者たちは、王国の安らかな日々を取り戻すため、そして周辺最強国家たる魔導国に対抗する力を得るため、地下迷宮へと踏み込んでいく。

 その名を【蒼の薔薇】という。



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