復讐者の世界周り Weltdrehung des Rächers (ダス・ライヒ)
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設定とか色々
参戦作品(順次追加予定)


参戦作品の纏めです。


版権作品

 

ラノベ編

 

緋弾のアリア

ISインフィニット・ストラトス

フルメタルパニック!

涼宮ハルヒの憂鬱

戦姫絶唱シンフォギア

 

漫画編

シェイファーハウンド

 

少年漫画編

 

北斗の拳(一部参戦無し)

ドラゴンボールシリーズ

ジョジョの奇妙な冒険シリーズ

幽遊白書

ONEPIEOE

HUNTER×HUNTER

NARUTO

トリコ

家庭教師ヒットマンREBORN

ぬらりひょんの孫

 

魔法少女アニメ編

 

魔法少女リリカルなのはシリーズ

魔法少女まどか☆マギカ

 

ロボットアニメ編

 

マジンガーZ

ゲッターロボシリーズ

太陽の牙ダグラム

装甲騎兵ボトムズシリーズ

機甲猟兵メロウリンク

蒼き流星SPTレイズナー

トランスフォーマーシリーズ

マクロスシリーズ

超時空世紀オーガス

機動戦士ガンダムシリーズ

機動武闘伝Gガンダム

新機動戦士ガンダムW

新機動世紀ガンダムX

∀ガンダム

機動戦士ガンダムSEEDシリーズ

機動戦士ガンダム00

機動戦士ガンダムAEG

神無月の巫女

マブラブ オルタネイティブシリーズ

ゾイド バトルストーリー

ゾイド TVアニメ全作品

新世紀エヴァンゲリオン 劇場版シリーズ

コードギアスシリーズ

天元突破グレンラガン

革命機ヴァルヴレイヴ

 

深夜アニメ編

 

Fate/Zero

ブラックラグーン

ヨルムンガンド

ひぐらしのなく頃に

恋姫†無双

フリージング

 

その他アニメ編

 

ゴルゴ13

紺碧の艦隊

旭日の艦隊

HELLSING

 

 

特撮・映画・小説編

 

仮面ライダーシリーズ(ディケイドのみの場合あり)

海賊戦隊ゴーカイジャー

スターウォーズ(一部のみ参戦)

スターシップトゥルーパーズ(実写映画シリーズと原作宇宙の戦士も参戦)

エイリアンシリーズ(植民地海兵隊のみ)

アイアムレジェンド(登場人物出番無し)

 

ゲーム編

 

メタルギアソリッドシリーズ

BLAZBLUEシリーズ

スーパーロボット大戦OG

スーパーロボット大戦シリーズ

バイオハザードシリーズ

オペレーションダークネス

コープスパーティー

フロントミッションシリーズ

戦国BASARAシリーズ

戦場のヴァルキュリアシリーズ

NAMCO x CAPCOM

無限のフロンティアシリーズ

PROJECT X ZONE

 

海外ゲーム編

 

ウルフェシュタインシリーズ

モータルコンバットシリーズ

スナイパーエリートシリーズ(カール&キルカメラのみ)

F.E.A.Rシリーズ

SHELLSHOCK 2: BLOOD TRAILS

アンチャーテッド

オペレーションフラッシュポイント:レッドリバー

7554

フォールアウト3

ディスオナード

ホームフロント

スペックオプス ザ・ライン

Call of Dutyシリーズ

Medal of Honorシリーズ

Half-Lifeシリーズ

HALOシリーズ

レジスタンスシリーズ

キルゾーンシリーズ

ギアーズ・オブ・ウォーシリーズ

CRYSISシリーズ

デッドスペースシリーズ

メトロ2033

UBERSOLDIER

HOUR OF VICTORY

R.U.S.E

トム・クランシー作品(ゲーム)

ブラッドレインシリーズ

 

その他ゲーム編

 

のび太のバイオハザード

青鬼

 

小林源文作品編

 

黒騎士物語シリーズ

カンプグルッペZbv

狼の砲声

オメガ7

ハッピータイガー

 

コラボ作品編

 

神々の黄昏

恋姫†無双-外史の傭兵達

白石様のキャラ(改変)

鋼鉄の蜘蛛

俺と少女と救われなかったこの世界

学園の守護者




まだまだ追加予定です。


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コラボ予定作品登場キャラ紹介(募集中)

コラボ先のキャラの紹介です。


sakura様の神々の黄昏より

 

マリー・ロセター

 グレートブリテン及びアイルランド連合王国出身でロンドン生まれで、育ちも純粋なロンドンっ娘。

 だが、感覚がおかしくなっていくのを境に1942年のドイツ(しかもラインハルト・ハイドリヒの棺桶の中)にタイムスリップし、マリー・ハイドリヒとして生きていくこととなる。

 巷に溢れる歴史改革物とは違い、彼女には当時の歴史など一切詳しくない。

 前世は恐らく金髪の野獣と名を轟かせる親衛隊上級大将、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒであろう。

 タイムスリップ前もかなり愛らしい金髪碧眼の美少女であった為、普通にドイツ人として、親衛隊全国指導者であるハインリヒ・ヒムラーに認められた。

 ちなみにネタバレになってしまうが、彼女蒼い瞳は隠された人間の本質を解放させるらしい。

 宣伝になるが、詳しくはコラボ先である神々の黄昏を読むことをオススメする。

 

同作者の黒鉄の騎兵隊より

 

ザシャ・デーゼナー

 ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)では珍しい女シュツーカ乗りで、低い身長と機体にヒヨコのエンブレムを付けていることから、ヒヨコというあだ名で呼ばれている女主人公。ちなみにスペイン内戦で暴れ回ったコンドル軍団に参加していたこともある。

 十代で大学を卒業した才女であり、政府と親の都合から軍学校へ入学する。地上訓練を受けた後、パイロットとして訓練を受け、突出した飛行技術で、主席を取る。本来は看護師を目指していた彼女には良い迷惑。

 その所為か、ポーランドの電撃戦前で偵察部隊から急降下爆撃隊に無理矢理転属させられた。

 こちらの設定ではワルキューレの所属となっており、男女関係ない組織なので珍しくなかった。

 しかし、行政府と親の都合である事は変わりなく、元偵察部隊所属であることは変わりない。

 転属した部隊が味方を蹴落としてでも、トップを狙うようなサバイバルなA~Dの四個小隊で編成された第1中隊、E~Hの四個小隊で編成される第2中隊と整備中隊を含む大隊規模の競合部隊であるため、爆撃隊よりハードと化している。

 あだ名もほぼ変わっておらず、H小隊の小隊長であり、部下もザシャと余り変わりそうもない体格である為、Hをローマ字読みにしてヒヨコと呼ばれている。

 

ブレイズ様の恋姫†無双-外史の傭兵達-より

 

(かん)(こう)狼牙(ろうが)

 名前からして三国志時代の人物だが、日本人である。

 本名は桂木和樹(かつらぎかずき)、数多くの偽名を持っているが、傭兵として数多の戦場を駆け回り、名を上げていた。

 構成員がアジア人が多数を占める機甲中隊規模の傭兵部隊BLACK WOLF(ブラックウルフ)を付き合いの長い戦友と共に率いている。

 前世のとある戦場にて一個歩兵大隊に包囲され、部隊は全滅、彼も最後まで戦ったが、傭兵らしく戦場で散った。

 その際神に気に入られてしまったのか、それとも神が何を思い付いたのか、三国志のパラレルワールドである恋姫†無双に部下諸共転生された。

 物心着く前に親が死に、孤児院に入れられたが、彼にとっては地獄の日々だった。

 18歳の時、親友である将司と共に孤児院の医院長を殺害。それがきっかけで傭兵の道を歩むこととなる。長年戦場を駆け回ったこともあり、傭兵としての腕前は一流、各種戦闘技能を習得している。

 剣術は子供の頃に習った古流剣術の二刀流であるが、普段は一刀流で相手をする。

 神の手によって、身体能力強化や氣を扱えるようになったが、本人は氣の治療力の低さが気に入らないらしく、医療知識が豊富な相棒に治療をしてもらってる。

 

 孤児院時代に双子の兄が居り、和樹と同じく戦場で散っているが、彼とは違う世界、しかも同じ神に相棒諸共転生されている。

 

(りょ)(もう)百鬼(ひゃっき)

 和樹の相棒で最大の戦友、本名は加藤将司(かとうしょうじ)で、偽名も相棒と同じく多数存在している。

 傭兵部隊を率いる和樹の副官的な存在であり、幼い頃から生活を共にしており、彼の考えや性格を熟知している。医療知識が豊富であり、部隊内での軍医でもある。

 普段は温厚であるが、戦闘で生き残るためなら手段を選ばない。

 傭兵になった経緯は相棒と同じ、隊長が和樹なのは傭兵部隊創設時、自分が統率能力が劣っている為である。

 前世での戦場では弾薬も装備も無い状態で接近戦となり、相手の首筋に噛み付いて頸動脈を噛み千切った経験があった。

 剣術は和樹と同じく幼い頃習っていた古流剣術だが、彼の場合は一刀流である。

 和樹と同様神に身体能力強化と氣と言うのを扱えるようにされている。

 軍医で衛生兵でもある為か、前世で培った経験と氣を融合させた新たな治療方法を編み出す。

 外傷治療専門とされるが、内談も行けるらしい。

 

BLACK WOLF(ブラックウルフ)、黒狼隊メンバー

 和樹と将司が率いる傭兵部隊のメンバー、それぞれ国の軍隊の精鋭部隊に属していた者達で構成されている。

 平均身長は180㎝代とアジア人とは思えぬ程の高身長な者ばかりである。

 兵員数は122名であり、二個歩兵小隊と一個砲兵小隊、戦車隊、戦術戦闘飛行隊で編成されている。

装備はAK-74、T-72A、UH-1。

 

白石様より

 

鷹山勇治(たかやまゆうじ)

白石さんのオリキャラ。

 あだ名はタカで、元陸上自衛隊のレンジャー隊員。

 防人とは違い、参戦した学黙と同じく武偵は存在しないので改変されている。

 年齢が25歳まで伸び、身長も177伸ばされ過去が若干改変された。

 ただし性格も能力、家族構成はそのまま。

 容姿も学黙のとは違って変更されており、目付きが鋭くなり、髪の色が黒に変更されている。

 自衛隊を辞めた理由は、フランス留学で外人部隊に魅了され、家族や同僚に「外人部隊に入って、フランス人になる」と言って辞めて志願した。

 まだ自衛官である頃に光稀と出会い、一目惚れ。

 キバオウがキレるほどの壁が必要なほど恋人以上夫婦未満の存在となり、夜の営みもやっている(なんでや!)。

 外人部隊入隊当初、光稀と共に平和ボケした日本人と馬鹿にされていたが、訓練終了後に小規模な戦闘を経験、見事上官を見返すことに成功する。レンジャー資格を持ち、陸上自衛官除隊当初一等陸曹であった為に初任階級は軍曹であり、3回目の実戦で少尉に昇進し、小隊指揮官になった。

 防人と同じく二輪免許や車の免許は持っており、愛車もきちんとある。

 ガンダムAEGフリット編に出てきた憲兵まがいなことをやってるおっさんの様にチョコスティックバーを常時に持ち歩いている。

武器はFN FMC(ドットサイトに40連弾倉仕様)、コルト ガバメントシーキャンプカスタム

スパス15、フォールディングナイフ

 

蓼光稀(たでみき)

 白石さんのオリキャラ。

 鷹山と同じく年齢が25歳に伸ばされ、身長も174㎝に過去も若干改変されている。そしてスリーサイズも良い方へ強化された。

 ただし、性格と容姿、能力、家族構成はそのまま。

 本作では学黙と同じく元警察官と言う設定だが、改変されてる。

 上司の不正を検察に告知したところ、口封じの為に警察を辞めさせられる。その後、就活の最中に立ち寄った銀行にて、強盗に巻き込まれてしまう。偶然にもその場にいた現役自衛官で二等陸曹だったタカが居り、あっさり強盗犯を撃破。

 その際、タカに惚れてしまいその場で告白、見事、壁が必要なくらいの関係に成ってしまった。

 タカが「フランスの外人部隊に入る」と言った際には彼に付いていき、共に外人部隊に入隊。入隊当初は上等兵であったが、3回目の実戦で軍曹に昇進し、タカの副官になることに成功した。

武器はステアー AUG(カービンカスタム)、ベレッタM84、ダガーナイフ

 

風連希(ふうれんのぞみ)

 白石さんのオリキャラ。

 ほぼそのままの設定で登場、ただし武装探偵ではない。その為に過去も変わっているが、学黙とはちと改変されている。

 異常な連続殺人鬼に目の前で両親を惨たらしい程バラバラに解体され、それを見せつけられ、自身もナイフを首に突き付けられ、凄まじい暴行を受け、夜尿症ならび失禁症になり、お襁褓が手放せなくなる。

 さらに酷いことに残った肉親である兄を同じ殺人鬼に殺され、麻薬取締官の姉がヤクザや暴力団員に輪姦された挙げ句に殺されるなど、防人よりも酷いことになっている。

立ち直って復讐する際、いつの間にか自室に置かれていたPMマカロフを握り、失禁しながら姉を輪姦したヤクザと暴力団員をいつの間にか手に入れた能力を使って次々と皆殺し。殺人鬼に対しては恐慌状態になりながらも追い詰めて殺すことに成功する。

 警察に自首しようとしたが、ご都合主義を使って何故かフランスで無国籍の孤児として外人部隊に入隊することになっている。

武器はFAMAS(25連弾倉)、AMT オートマグ44(防人とは違い、誰かからプレゼントされる)、特殊警棒

 

M16A1様の鋼鉄の蜘蛛より

 

ジョン・タケダ

 特に目立ったことがない日系アメリカ人。

 曾祖父がOSSの工作員でアメリカ陸軍の第442連隊に属しており、親が曾祖父から名前をそのまま付けた。何処で登場するかは検討中である。

 

残念無念様の俺と少女と救われなかったこの世界より

 

岩崎武(いわざきたけし)

 ゾンビ発生後に起こった特効薬ワクチンを巡って争われた第三次世界大戦の影響で崩壊した日本で、傭兵家業をしながら少女と共に生きる永遠の17歳。

 彼の容姿はゾンビが現れた20年前から一切変わっていない。

 何故このように至ったのかは、宣伝になるが、本作から20年前、武が襲い掛かるゾンビと面白可笑しく戦ったサバイバル高校生を読むことを勧める。

 本当の年は立派な後3年で40手前の37歳だが、外見の所為で餓鬼扱いを受けている。

 治安が保たれた地域の自宅で不知火(しらぬい)サキと呼ばれる少女と暮らしており、100挺以上の銃器、弾薬、食料を貯蔵している。

 崩壊前からかなりの軍事や漫画・アニメ・ゲームオタクだったらしく、その知識力は半端無い。

 今日も彼は、同じ傭兵家業をしている外国の隣人(コイツも同じ趣味)とやや揉めつつ、同居人のサキと愛犬の4匹のシェパード達の為に依頼された仕事をこなす。

 残念無念氏から許可が下りたので、参戦が可能になりました。

 

新稲結城様の学園の守護者より

 

五十嵐裕也(いがらしゆうや)

 学園の守護者の主人公。

 徴用兵と呼ばれる国家のための愛国心豊かな兵士と消耗品であったが、復讐者では、初期の設定を用いている。

 なので、元航空自衛官であり、元日本国防軍空軍パイロットである。

 年齢も16歳から28歳へと上げられており、体格も180㎝以上となっている。

搭乗機は、F3戦闘機の更なる最新戦闘機「紫電」。




コラボ作品は募集中です。

応募方法はこの作品の感想版にお書き下さい。
作者の都合で設定が変更される、酷い場合にはかなり改変されたり殺される恐れがございますので、その点はご了承ください。

尚、募集は作者の都合によりそのキャラが締め切られたり、再開したりするのでその点もご了承下さい。


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主人公&レギュラーキャラ紹介

これ、地雷じゃない?

準レギュラー枠を追加


マリ・ヴァセレート

ゲルマン系金髪碧眼の長身美女、旧名はマリ・シュタール・ヴァセレート・カイザー。

妖艶な美貌を持ち、知能も運動力も高い上、不老不死というチート設定な女キャラ。

だが、性格は歪んでおり、とても幼稚でワガママ、おまけに同性愛者でロリコン、女性至上主義者である。

しかもDIO以上に人間を超越しており、チートとも言える能力を持ち、カリスマ性も備え、自分が悪とは思ってないと言うまさしく最凶の存在。

幼少期に性奴隷だったこともあり、男を嫌悪しており、男が居るから全ての女が自由になれないと考えている。

7人の子持ちであり、夫はもちろん同性愛者なので居ない。

こんなのが主人公だから大丈夫なのかと自分は思っている。

女だけの大帝国、神聖百合帝国の元女帝であり建国者でもある。

人間に限りなく近い女だけの種族が暮らす広大な大陸で建国、その時は聖帝マリと国民や将兵に呼ばれており、側近からは神に見せる為に姿を最高階級の者以外に晒さすことは無かった。

そして女だけの世界を些か強引なやり方で作り上げた。

帝国滅亡後は、末っ子の娘が建国した天才と能力者だけの国家でやや派手な隠居生活を送っている。

今も神聖百合帝国再興を試みる残党が各世界でテロ活動を行っており、軍事結社ワルキューレがマリに残党軍に武装解除するよう頼んでいるが、彼女は依然とその頼みを聞き入れていない。

 

※これから行われるマリの行動が作者から見ても苛々とか汚すぎるので、「実に腹立たしい!」という方とそれがお嫌いな方はこの物語を読む際には注意するように。

 

ルリ・カポディストリアス

一応この作品のヒロイン、劣化チートに百合っ娘。

絶世の美少女であり、多重人格者、本来の人格は軽い知的障害を患っている。

容姿は身長150㎝?で、綺麗すぎるブロンドにスカイブルーな瞳、雪のように白い肌、貧乳。

不老不死を持ち合わせているが、戦闘力は決して高くない。

だが、人格が変わることによって、戦闘力が上がったり下がったりする。

過去の影響下でやや男性が苦手であり、マリとは少し気が合う(?)。

初夜をマリに捧げたこともあり、何かしたいとき以外、ずっと彼女にくっついている。

 

ミサカ・サキ

軍事結社ワルキューレの一個師団の戦闘力を有する女性工作員、寡黙で表情が少なめ。

いつもマフラーを巻いてるが、暑いときは外す。

戦闘に用いるのは主に2本の剣である。

転生の戦闘力の持ち主であり、恐るべき戦闘力を持つ、その為工作員ではなく、某一人旅団と同じく「一人師団」と呼ばれる。

一応工作員なので、ありとあらゆる武器は扱える。

外見のベースは一人旅団のあの少年ではなく、進撃の巨人のミカサ・アッカーマンをさらに怖くした感じである。

過去にルリに助けられ、初めてマリと会った時に助けを必要な女だと思っている。

 

ノエル・アップルビー

ワルキューレの情報部の女性上級士官で、元神聖百合帝国の陸軍情報局の新人士官。

神聖百合帝国時代は、情報士官にも関わらず、前線にかり出された過去を持つ。

聖帝であるマリに強く憧れており、彼女自体の姿を見たことがない為、姿自体を見ることをとても光栄だと思っている。

外見のベースは機動戦士ガンダム戦記の連邦の中で右に出る者が居ないとされるノエル・アンダーソン。

 

※神聖百合帝国ではドイツ名と日本名が主流だが、何故ノエルだけがこんな名前なのかは、彼女が大陸以外の女性とのハーフだからである。

 

連崎京香

ワルキューレの情報部の女性中級士官で、ノエルの後輩。

漫画・アニメ・ゲームが大好きな大のオタクであり、コスプレが趣味。

外見が愛らしいノエルのことを先輩と呼び、自分より圧倒的な美貌を持つマリのことを女王様と呼ぶ。

コスプレが趣味な為、実際自身の容姿を生かしてコスプレヤーをしていた。

周りから情報が漏れるのではないかと言われているが、本人は漏らさないと公言している。

これは余談だが、イベントに参加する際には上官であるノエルや同僚達も誘っている。

 

クレメンティーネ・フォン・ブランシュバイク

元神聖百合帝国の総統を務めていた才女、政治面、戦略面において、天才と呼ばれる程の力量を持っており、マリをそれらで凌駕している。

昔は一際美しい女性であったが、外見が海外ドラマのダメージのパティ・ヒューズに似てきている(声もそっくり)。

それと性格も何となく似ており、政敵など手を回してとことん排除していた。

平和時代が長引いた時、軍縮を進めるマリに対し、一度クーデターを企てた事もあり、その時は偶然に異世界から敵が攻めてきた為、彼女にとっては好都合だった。

神聖百合帝国崩壊後はその才能を買われてワルキューレの最高司令官の一人となった。

ちなみにマリを良く知る人物であり、マリを大衆から神にさせた人物でもあり、建国メンバーの一人である。

準レギュラーキャラである。

 

シューベリア

もの凄い巨乳と尻、腰まである長い桃色の髪が特徴的な僕っ娘な女性、痛みですら快楽なドM。

マリとは神聖百合帝国建国以前から良く知る人物、彼女とは肉体関係であり、最近はルリとも関係を結んでいる。

性格はおとなしめだが、セックス依存症であり、相手が男性や女性でも構わない。

その為かマリや側近達からヤリマン呼ばわりされ、終いには歩く18禁と言うあだ名を付けられた。

元は魔王の娘であり、初めて会った時はマリがまだ人間だった頃。

勇者と共に魔王の城に乗り込んだ際に遭遇、初めてシューベリアと会った時は勇者一行に犯されることを望んでおり、偶然にもマリしか居なかった為、そのまま彼女に処女を捧げた。

その後一緒に人間界に連れ帰ったが、快楽が忘れられず、マリには飽きたらず、男性や女性、誰彼構わず行為に及び、散々マリを困らせ、百合帝国崩壊後もマリにしつこくついてきた。

ある意味、マリのストーカー第一号である。

戦闘力は魔王の娘なので、少々高いし、マリと同時に不老不死になっているので、生存力は無限の領域。

性格や設定がカテジナさん以上に危険すぎる為、出番が少ない。

クレメンティーネと同じく準レギュラーキャラである。

 

ガイドルフ・マカッサー

謎の男、これからキリコやメロウリンクに次ぐ主人公を追い回すストーカーになる。

文字通りストーカー扱いを受ける。

ヘビースモーカーであり、現れる度に煙草、もしくは葉巻を口に咥えながら登場する。

外見のベースは装甲猟兵メロウリンクのボトムズのロッチナに次ぐ主人公をストーキングするキーク・キャラダイン。

持っていたモーゼルC96に似た自動拳銃のモデルであるモーゼルC96を持ち歩いている。

 

フリッツ・クリューガー

元ドイツ国防軍特殊部隊ブランデンブルク所属の妻子持ち。

ポーランド電撃戦から終戦までドイツの為に戦ってきた。

終戦後は中東に渡り、イスラエル建国の為に戦い、その後も傭兵となり、ひたすら戦い続け、そして命を落とした。

だが神の手によって蘇させられ、再び戦いに身を投じることとなる。

その際、次元の領域の事件に対応する組織"ZEUS(ゼウス)"に属し、良からぬ者と戦う。

外見のベースはレイズナー第二部のエイジ、喋り方はキリコで性格はクソ真面目。




イメージCV

マリ:井上麻里奈

ルリ:MAKO

ミサカ:石川由衣

ノエル:那須めぐみ

京香:三上枝織

クレメンティーネ:大西多摩恵

シューベリア:日笠陽子

ガイドルフ:大塚明夫

フリッツ:井上和彦

ネタ枠が4人も居るな・・・
大御所の人が3人も居るし・・・


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登場組織紹介(順次追加予定)

突然、専門用語が現れると読者の皆様が混乱されるようなので、紹介します。

※色々と変更。ぶっちゃけ順次追加でいいや。


神聖百合帝国

 ぼくのかんがえた最凶の帝国。ぶっちゃけジオンと同じくナチスまるパクリである。

 かつて魔法がある世界で存在していた世界の全てを占領した大帝国、首都は巨城があるウンディーネ、マリが自分の思い通りもとい女だけの世界を創るべく建国した。とにかく説明が多い。

名前に百合が入ってる為か、女性至上主義国家であり、建国された本土が人間に良く似た女性(メガミ人と命名)しか居ない種族の大陸であった為である。

 皇族・貴族・騎士・平民・奴隷(名義上は二級市民)と五つの階級制度があった。元性奴隷で人間だったマリ・ヴァセレートが、何を血迷ったのか全ての男性に復讐する為に建国し、全ての男性を根絶やし(20歳以降の男子は全て魔王が居た裏世界に送り込み、奴隷兵士として育成した)にし、女性だけの世界を強引に創った。

 それ以降、その世界の全てが神聖百合帝国の領土となる。

 その後、長きに渡る平和を勝ち取ったが、平和は異世界からの侵略で潰えた。長きに渡る平和のお陰で兵士達が練度が粗末であり、連敗を重ねた。

 圧倒的な物量を持って、何とか侵略者を自分達の世界から追い払うことが出来た。

 その復讐と異世界の女性解放、増えすぎた人口の為の生存圏の拡大を兼ね備えて、自在に世界を転移できる魔法を開発し、崩壊の序章である異世界侵攻を開始する。2世界ほど制圧下に納める事に成功した百合帝国であったが、自分達の世界に攻めてきた世界だけは半分ほどしか占領できず、補給が粗末なことあって、自分達の世界に再び侵略を許してしまう。

 本土まで侵略を許し、首都も包囲されて敗北したが、マリの2人の娘が率いる精鋭部隊を密かに侵略世界の国家群の首都に転移させ、逆転勝利を勝ち取ることに成功する。

 しかし、想像も覆すような戦争で既に国家の再建は不可能であり、そのまま神聖百合帝国は消滅し、元々帝国のあった世界は軍事結社ワルキューレに明け渡された。

 そして、建国者であるマリと側近やその子供達、最高・上流階級や軍の残党は様々な世界へと散っていった。

 今でも再興や自分達の考える女性解放を夢見て活動を行う残党が居る。

 

 ちなみに元々のメガミ人とは全員の外見が美女や美少女であり、外部の者が来るまで平和で穏やかな種族であった。

 西部の辺りはドイツ系の名前が多く、東部の辺りは日本系の名前が多い。

 ゆっくりと繁栄していたが、外部からの侵略で、性奴隷産出大陸となってしまい、メガミ人は外部からの来る海賊や人身売買系組織の男達に怯えて生活することとなった。マリが来るまでのメガミ人は人型の中で最弱の種族であり、平均身長は最高でも170㎝以上、外部からの影響の所為である。

 外部からマリの手によって解放された後、彼女は貧弱なメガミ人を最強の戦闘民族に育て上げ、その影響下で目付きが鋭くなり、筋肉質になるや身長が190㎝代となるなどかつての面影が消えそうなくらい成り果ててしまった。

 崩壊後は、ワルキューレの影響もあって、元に戻りつつある。

 装備は世界征服の時は第一次世界大戦のドイツ第二帝国の物、異世界からの侵略時は一部が第二次世界大戦戦前の装備がなされ、異世界侵攻時には第三帝国や大日本帝国の物へと完全に切り替わった。

 その際、ナチス・ドイツや大日本帝国が開発を断念した兵器の開発を実現させており、グデーリアンの理想である400両の戦車で編成される装甲師団も実現させている。

 また、宇宙軍を1940年代後半の科学力で創設しており、その為に出来た宇宙艦隊は15個である。

 元神聖百合帝国の大半の将兵達は、現在ワルキューレの兵士として活躍中か、残党として活動中である。

 

親衛軍

 ぼくのかんがえた最凶の軍隊。

 神聖百合帝国の陸軍・海軍・空軍・宇宙軍に続く五つ目の軍。もちろん皇帝であるマリと総統を守る為の軍隊であり、私兵でもある。

 親衛隊が総統の物であり、近衛兵や直属の護衛部隊はマリの物である。

 武装親衛隊に海上戦力と航空戦力を持たせたような物で、情報機関までが存在し、同じく陸海空軍と同じ情報収集をするが、この機関は主にスパイ派遣・色仕掛け等の諜報関係の仕事を担当する。

 神聖百合帝国建国と同時に創設された騎士団も存在し、さらに特務機関まで存在、あろう事かくノ一まで存在していた。大戦中の日独の近衛兵師団と武装親衛隊が入り混じった軍であるが、武装親衛隊風の方は何故か名称がソ連親衛軍で、近衛兵は護廷十三番隊やキメラアントみたいな編成になっている(一応2個軍団くらいあるが)。

 武装親衛隊のような者達である親衛軍は軍隊と同じだが、近衛兵達は狂信的な支持者達の集まりであり、マリの為なら死ぬことさえ恐れない。ナチスの極悪人物達もビックリな悪行をなしており、詳しく書くと長くなる為、専用ページを作る予定。

 百合帝国崩壊後は解体されたが、近衛兵だけは解体されず、一度は解散したが、再び再建された騎士団と共に今のところはマリの身辺警護に就いている。

 親衛軍は一部残党化するか、情報機関や特務機関、くノ一等の少数の者達と共にワルキューレに吸収された。

 ちなみにマリの身辺警護に就く近衛兵や直属の護衛部隊の戦力数は100万人規模である。

 尚、詳しい編成は何れする予定。

 

ムガル帝国

 かつて栄えていた全世界を脅かすほどの戦闘民族の大帝国。古代インドに存在する帝国名と同じだが、全く関係ない。

 百合帝国の異世界侵攻に遭い、王族と能力者を含めた5000万人が脱出、ムガル帝国は百合帝国の手によって滅ぼされた。

 残された民によって、国土は5分割にされ、数年程百合帝国の支配下にあったが、百合帝国の帝都が落とされると、駐屯軍はやってきたワルキューレに武装解除され、そのまま本土へと戻ったが、ムガル帝国の手には戻らなかった。

 

インペリウム

 我々の世界と良く似た世界にある大帝国、国土はデンマーク領であるグリーンランド程、首都は

マリが生んだ7人の子供の末っ子であるマリアーゼが、天才や超能力者を集める為に建国した。

 人口はおよそ1000~2000万人程で、その全てが天才や超能力者である。無論、何の能力を持たない者や能力を失った者は強制的に排除される。

 様々な隣国を自分達の都合の良い傀儡政権にしており、一部の極右系や極左系の活動家からテロの対象となっている。

 もちろん、なんらかの天才や超能力者であれば、どんな人種や民族でもその者だけをインペリウムに入国、或いは拉致して強制的に移住させる等、天才や超能力者を確保するためには手段を選ばない。

 ならず者国家と何ら変わりようがない国家だが、この国の建国者で皇帝は幼児にしか見えない女性である。

 現在、元神聖百合帝国の女帝であるマリは、最愛の人であるルリと共にこの国で隠居生活を送っている。

 

クールラント連邦

 インペリウムと同じく我々の世界と良く似た世界にある連邦国家、国土はフランス程度、人口は1億3000万人。

 マリの生んだ唯一の男で、元義勇軍第8軍集団司令官グレゴール・フォン・マキシルダーの手によって建国された。

 国民に人間の欲や感情を抑制させるような法律を厳守させており、国民はグレゴールの人形みたいな物である。その所為か、観光名所など無く、娯楽施設も一切無い。見る物とすれば、退役した兵器が展示されている博物館程度である。

 軍の総兵力は350万人以上で装備は以前、主力であったパンターやティーガーⅡ、Z35型駆逐艦、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦、中型潜水艦ⅦC型、Te152、Ar234ブリッツ等の大半の装備を退役させ、新たにドイツ連邦軍の装備に更新し、小火器も、ボルトアクション主体からH&KG36主体に更新した。

 まだ更新が終わってない部隊があり、一部の部隊では未だにパンターG型やアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦、Te152が運用されている。

 ちなみにあの世界では、この国家が一番経済面や技術力が高い。

 

日ノ本の帝国

 文字通り日本であるが、とてつもない日本が出たことで有名になったレッドアラート3に登場する旭日帝国である。

 その為トンデモねぇ兵器を多数保有しており、侵攻しに来た連中を意図も簡単に捻り潰している。

 ちなみに、他の兄妹達とは違った別世界にあり、マリの娘の一人の嫁ぎ先である。

 

合衆国

 かつて神聖百合帝国のある世界に攻め入った国家の一つ、現実のアメリカ合衆国と同じ。

 だが、今はマリの娘の一人に影から支配されて、ソ連ならぬ社会主義陣営と冷戦中である。

 転移装置を保有しており、ゲーム感覚で異世界まで巻き込んだ社会主義連邦と睨み合いと壮大な冷戦を行っている。

 

社会主義連邦

 合衆国と同じく神聖百合帝国のある世界に攻め入った国家の一つ、かつて存在したソビエト社会主義連邦と同じ。

 同じくマリの娘の一人に影から支配されており、合衆国率いる自由主義陣営と冷戦中である。

 同じく転移装置を保有しており、マリの娘達による単なる暇潰しとは知らず、合衆国と睨み合いと壮大な冷戦を続けている。

 ちなみに、合衆国と社会主義連邦は別世界にある。

 

フォールド王国

 序章の舞台となるマリが旧友に会いに行く為に訪れた国家、中央の大陸に位置する。

 国土はオーストラリア大陸並みで、人口は3~4億人、首都はフォウドヴィッス。資源も豊富であり、環境も良好、観光名所も良好。

 平和主義国家であり、周りが列強国に囲まれているにも関わらず、軍縮が進んでいる。

 その為、軍需大臣や国防大臣が軍縮に反対しており、一部ではクーデターの噂まで立っている。

 実はフォールド王国がある地は、元ムガル帝国があった場所で、その為、朽ち果てたムガル帝国の建造物が国中にある。

 

ワルキューレ

 ダス・ライヒ作品の使い回し組織。

 倒すのに1世紀くらい掛かる軍事結社であり、構成員も戦乙女(ワルキューレ)の名にちなんで女性で構成されてる。

 だが、上級将兵の大半は男性で構成され、驚異的な戦闘力を有する。様々な世界に進出しており、裏で世界を操っている。

 しかし、女性の人口が半端なく多いので、構成員は殆ど女性しか居ない。亜人や宇宙人も居るのだが、本編では全く出ない。

 装備や使う兵器はとてもバラバラで、作中は単なるやられ役のような扱いを受ける。

 元百合帝国の将兵が多数在籍しており、一部女性至上主義に目覚める女性将兵も多く、マリの事を気に食わない者まで居る。

 人的資源が豊富で、無人兵器を使うまでもない。

 主に使う兵器はエゥーゴ・オーブ・太陽光系MS。他勢力系ゾイド。VFシリーズを初めとした統合軍の兵器類。戦術機シリーズ。ナイトメアフレームシリーズ。

 

組織

 名称が不明な為、特定が不明な悪の組織、創設者はムガル帝国の元皇帝アドムズ・ア・ペン・ムガル。装甲騎兵ボトムズに登場する秘密結社と同等の組織である。

 分かるとすれば、かつて百合帝国の異世界侵攻によって滅ぼされたムガル帝国の生き残りで構成されていることであるが、構成員の大半が外部の者である。幹部の一人に生前悪行をなしてきた者を生き返らせる術を使う者であるアガムストと言う人物が居る。

 下っ端の戦闘力は志々雄一派の兵隊やコブラソルジャー、フリーザ軍兵士並だが、侮れない戦闘力を持つ者も居る。

 悪行を成し遂げてきた者達を生き返らせたこともあり、勢力は拡大しつつある。秘密組織にも関わらず、あっさりとムガルとか言っちゃう奴が多い。

 人員不足なのか、主に無人兵器を運用している。

 主に使う兵器は悪役系統の他作品のメカ。

 

十人格

 十傑集に似た組織の特殊部隊であるが、衝撃のアルベルトのような戦闘力を持つ者や走り方をする者が居らず、志々雄一派の十本刀くらいの戦闘力しかない。主な任務は暗殺や襲撃である。

 構成員の容姿は作者が気に入った漫画・アニメ・ゲームのキャラで構成される予定。

 素晴らしきヒィッツカラルドは生き返ったが、十傑集の格下と性格の所為で外された。

 

十人格候補

 文字通り十人格の候補者。十人格と匹敵する戦闘力と能力、実力を秘めた者達である。

 

企業同盟

 企業と言ってもならず者的な行動をする民間軍事会社が同盟し、結成した組織であるが、アガムストによって生き返らせられた一部軍の部隊も紛れている。組織の傘下に入り、組織の使いとして襲撃を仕掛けてくる。

主に企業同盟に入ってる会社・部隊。

 

クライシスシリーズ CELLコーポレーション

メタルギアソリッド4 5大PMC社

メタルギアライジング デスペラード社

機動戦士ガンダム00 PMCトラスト

装甲騎兵ボトムズ レッドショルダー

コールオブデューティーMWシリーズ マカロフの手下

F.E.R.Rシリーズ ATC社PMC・レプリカ兵

マクロスシリーズ バンディッド

 

四天王

 文字通り仏教における4人で構成される守護神。

 一人一人の戦闘力が十人格を越えており、内1人が私兵を持ち合わせている。

 主な任務は幹部を守ることであり、その内3名がムガル帝国の伝説的な闘士であり、残り1名が外部の者で、それが私兵を持っている者である。

 

百合帝国残党軍

 神聖百合帝国の再興と、自分達が考えるような女性解放を掲げ、男尊女卑を掲げる国家にテロ攻撃や武装蜂起を企てている。

 様々な兵器を盗んだり、ワルキューレにいる元戦友から横流しを受け、勢力を拡大している。同じ様なジオン残党やデラーズ・フリートとは違い、戦力が正規軍並である。

 中でも一番の大きい勢力は、元異世界侵攻総軍司令官ドロテーア・ルン・シュナイゼルが率いる満月(フォル・モーント)と呼ばれる残党組織であり、総兵力は他の残存部隊と新規兵力を加えた1000万人であり、装備も正規軍並みである。

現在、ワルキューレに武装解除されてない神聖百合帝国の部隊一覧。

 

陸軍

第7歩兵師団

第13歩兵師団

第29歩兵師団

第37歩兵師団

第41歩兵師団

第57歩兵師団

第69歩兵師団

第77歩兵師団

第89歩兵師団

第93歩兵師団

第107歩兵師団

第231歩兵師団

第357歩兵師団

第444歩兵師団

第503歩兵師団

第545歩兵師団

第621師団

第698歩兵師団

第700歩兵師団

第9装甲師団

第23装甲師団

第37装甲師団

第301装甲師団

第442装甲師団

第501装甲師団

第5装甲擲弾兵師団

第13装甲擲弾兵師団

第25装甲擲弾兵師団

第6山岳師団

第21山岳師団

第7国防師団

第11国防師団

 

海軍

第4艦隊

第14艦隊

第19艦隊

第26艦隊

第37艦隊

第2国防艦隊

第3海軍歩兵師団

第6海軍航空師団

第8海軍航空師団

 

空軍

第6航空艦隊

第11航空師団

第16航空師団

第17航空師団

第28航空師団

第37航空師団

第51航空師団

第8降下猟兵師団

第17降下猟兵師団

 

宇宙軍

第1宇宙艦隊

第4宇宙艦隊

第8宇宙艦隊

第10宇宙艦隊

第3宇宙軍航空艦隊

 

親衛軍

第13親衛装甲師団

第17親衛擲弾兵師団

第21親衛擲弾兵師団

第23親衛隊擲弾兵師団

第32親衛装甲擲弾兵師団

第38親衛隊擲弾兵師団

第42親衛隊装甲師団

第50親衛隊擲弾兵師団

 

義勇軍

第2義勇歩兵師団

第21義勇装甲擲弾兵師団

第35義勇歩兵師団

第39義勇歩兵師団

第46義勇装甲師団

第53義勇歩兵師団

 

 主に使う兵器は、ジオン系MS。統合軍兵器。その他諸々。

 

統合連邦

 とある世界で何かの出来事が起きて、多元世界となってしまい、元々あったその世界の各連邦を一つに統合した大勢力。

 総戦力は、圧倒的な戦力を持つ各連邦軍(一部連合軍も含む)が統合しており巨大その物。生存圏を拡大するため、異世界侵攻を行う。

 ぶっちゃけ言うと、物量国家の集まりなので、恐ろしい生産力を持っている。チート物量。

 地上軍・宇宙軍・宇宙海軍・宇宙海兵隊という四つの軍に別れている。それを束ねる統合総司令部というアメリカ軍の統合参謀本部や大本営に似た最高組織が存在する。

 主に使う兵器は様々な作品の連邦系メカ。

 

惑星同盟

 統合連邦の各対抗勢力が結成した同盟(一部そうではないのが居る)。彼等も統合連邦に対抗するべく、異世界まで勢力を拡大する。

 化け物を沢山飼い慣らしているので、こちらも物量国家。こちらは地上軍と宇宙軍しか存在しない。

 主に使う兵器は、洋ゲーや洋画の生物兵器。参加国家の兵器。

 

ZEUS

 各勢力が余りにも資源や勢力拡大を目論んで、異世界侵攻を始める為、それに危機を感じた神の手によって創られた対抗組織。

 構成員は生前に善意を行ってきた者によって構成されている。

 意見も分かれることも有り、自分の正義を貫き、敵を躊躇いもなく殺す者はタカ派と呼ばれ、敵を殺さない者はハト派と呼ばれている。

 自分が正義の味方(ヒーロー)ではないと思う者は平行派と呼ばれ、同時にタカ派とハト派を纏める苦労人である。組織外の者から偽善者の集団と呼ばれている。

 参加者は色んな作品の主人公や正義の味方(?)で構成されている。

 

(ヴィラン)

 文字通りアメリカンコミックス(以下アメコミ)に登場する敵キャラ。怪人を指す単語だが、悪役キャラクターとして認知されることが多い。

 同じくアメコミの敵キャラが登場するが、この作品は多重クロスなので、世界各国の悪役キャラも参加する。

 ZEUSの英霊達と同じく復活させられた者達であるが、そうでない者達もいる。組織にも似たように復活させられた者達が使役されているが、あのロキの僕になったり、勝手に暴れ回ったり奴が多い(笑)。ちなみにデストロン軍団も入っている。

 

新ローマ帝国

 ナチス・ドイツとして知られるドイツ第三帝国の意志を継ぐネオナチ組織。

 ネオナチと言えば、ナチスに影響されたチンピラのような連中の意味だが、この組織は大規模であり、第三帝国の驚異的な科学力を持ち、それなりの軍事力を持っている。

 しかし、傘下にあるヒドラ、ショッカー、ミレニアムが離反し、少々勢力が衰えた。

 だが、脅威であることには変わりない。

 

ヒドラ・大ショッカー同盟

 ナチスの流れをくむヒドラと仮面ライダーを倒すべく、様々な敵組織を吸収して巨大化した大ショッカーが同盟を結んだ凶悪なヴィラン集団。

 ヒドラの科学力と大ショッカーの作り上げた怪人達により、組織に次ぐ新たな脅威としてみられている。

 

ミレニアム

 あの少佐が率いる人工吸血鬼1000人で編成された最後の大隊(ラストバタリオン)

 当然ながら、一人当たりの戦闘力は高く、軍集団並みの戦闘力。

 こちらも驚異と見られている。

 

ロキ一派

 あのロキが率いるヴィラン軍団。

 ヴィランが蘇ったのは、大体ロキの所為であり、元凶もロキと言えるが・・・

 マーベルコミックのヴィランならず、殆どのヴィランとも呼べる者達がロキ一派に参加している。

 カムジン一家やガミラス軍クーデター派もロキの傘下となっている。

 

放浪者

 ZEUS、他様々なヴィラン的組織に属さない者達。

 自由気ままにあらゆる世界を旅する者にも示される言葉。 




修正が必要な物があったら感想でお願いします。


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短編 泥沼前のイラク

なんやかんやあって、予告編のような短編物を投稿。
こんな始め方をして大丈夫かな?

イラク戦争のバグダット制圧から始まります。

※チート能力使用有り

試しに、アクセス数の多い人の句切りをしてみた。


2003年 イラク戦争

イラク戦争で亡くなられた方々にご冥福をお祈りします。

 

 イラク戦争真っ最中なイラク、アメリカ空軍とイギリス空軍の空爆を受ける首都バグダットの郊外にて、首都攻撃に向かうアメリカ陸軍の戦闘車両群の中にあるハンヴィーの車内にこの物語の主人公が乗っていた。

 車内にいる周りのM16A2やM21対人狙撃銃、M249E4を持った兵士達と同じBDU砂漠迷彩服の上からPASGTカバーを付け、上にゴーグルを付けた砂漠迷彩のフリッツヘルメットを被っているが、顔は目出し帽(バラクラバ)で隠しており、手に持つライフルは当時余り出回ってないホログラフィックサイトが装着されたM4A1カービンだ。

 バラクラバの目線の部分から大きな碧眼が見え、金色の髪の毛が少し飛び出しているのが見える。黒人の兵士が外で行われている戦闘を見ながら車内にいる全員に聞こえるように喋る。

 

「海兵隊の奴らは派手にやってるな!」

 

「それなら空軍の連中もだ!紅茶共の連中と一緒にバグダットに大量の爆弾やミサイルをお見舞いしたらしいぜ!」

 

「ジェシカ・リンチの仇だ!」

 

 白人の兵士が言った後、シールド付きのM2重機関銃に着いていた兵士が、バグダットの地上支援に向かうAH-64アパッチを見ながら叫ぶ。そんな兵士達を無視して、バラクラバの人物はずっと黒煙を上げるバグダットを見ていた。

 やがて銃撃戦や怒号、爆音が響き渡る主戦場に到着。車内にいた彼等はハンヴィーから飛び出し、バラクラバの人物は攻撃部隊の指揮官の元へ向かう。

 

「着いたか。中尉、君はあちらの制圧に加勢してくれ。ミーティング通りにやるんだ」

 

 バグダットの地図に書かれた赤いマークで囲まれている制圧地点が記されている地点に指を指し、バラクラバの人物に告げる。

 バラクラバの人物は頷いて、その地点に向かうM2ブラットレーの後へ、他の兵士達と共に続く。後ろに着いた途端、イラク兵や民兵からの銃撃の歓迎を受けた。

 先行していたM2ブラットレーの前面装甲に銃弾が当たり、後に続いていた兵士達がM16A2、M240、M249E4、M21対人狙撃銃をこちらに向けて撃ってくる場所に向ける。

 

「12時方向から小火器による攻撃!敵兵を確認!」

 

 味方のM16A2を持った兵士が叫んだ後、M2ブラットレーの固定武装である25㎜機関砲が火を噴いた。それと同時に攻撃してきた敵兵の銃撃が止んだ。良く見れば壁が血で赤く染まっており、内蔵らしき物も見える。

 その間に何名かの味方兵士が敵陣に向かい、一気に制圧しようと試みる。バラクラバの人物もその後へ続いた。

 自分達にとって驚異的なブラットレーを仕留めようと、一人の民兵がRPG-7を担いで出て来た。空かさずバラクラバの人物はホログラフィックサイトを瞬時に覗き、ブラットレーを狙う民兵の頭部に照準を合わせ、単発で発砲した。

 初弾はRPG-7を持った民兵の胸に命中、防弾チョッキなど着けていない為、RPGを手放し、胸を両手で押さえながら絶命する。

 次に、右から何名かのイラク軍に採用されているAKMかAK74、中国製AKを持った敵兵士が出て来るなり手に持つAKシリーズで撃ってきた。味方の兵士が被弾して地面に倒れ込むが、アメリカ軍の容赦ない倍返しが始まり、倍返しにブラットレーも加わる。

 

「撃ち方止め!撃ち方止めぇ!!敵はミンチになってるっ!」

 

 M4カービンを持った士官が銃撃を止めさせた後、先程敵兵が居た場所には赤く染まり、人間の内臓や手足が転がっていた。それを見ていた一部の兵士が吐いたが、衛生兵に負傷した者を後方に下げさせた後、部隊は前進を再開した。ブラットレーが充分に入れるほどスペースのある路地に入った途端、また敵兵からの銃撃が始まった。

 出て来た敵兵達はAKやRPK持ちばかりではなく、RPG-7持ちも居る。

 

「敵歩兵多数!RPG持ちを排除しろ!!」

 

 心強い味方であるブラットレーが破壊されてしまってはタイムロスと戦死者が増えてしまうので、米陸軍の兵士達はRPG-7持ちを優先的に排除することにした。小火器等を撃ってくる敵兵に対してはブラットレーの機関砲や搭載機銃に任せ、随伴歩兵はRPG持ちを排除に専念し、バラクラバもそれに専念する。

 

「一気に殲滅してやるぜ!」

 

 そう言って一人の兵士がAT4を構えて、安全装置を外した後、敵兵が密集している辺りに撃ち込もうと、狙いを定めていたが、狙撃されてしまう。親類であった兵士が狙撃された兵士の名を叫んだ後、M4カービンを持った指揮官が怒号を飛ばす。

 

「スナイパー!全員遮蔽物に退避っ!分隊選抜射手(マークスマン)、狙撃兵を排除しろ!!」

 

了解(イエッサー)!!」

 

 指揮官が指示した後、M21対人狙撃銃を持った兵士が大声で返答し、ARTスコープを覗き、敵の狙撃兵を探す。その分隊選抜射手を狙うかのように出て来た敵兵を、バラクラバが誰よりも早く手に持つ騎兵銃(カービン)を使って排除する。

 RPG持ちが全て排除されたが、まだブラットレーの脅威が去ったわけではない。まだ生きている敵兵が死んだ味方からRPGを取って、撃ってくるかもしれないからだ。

 敵兵が味方の制圧射撃に寄って抑え付けられているので、バラクラバは接近し、地面に落ちているRPG-7を掴もうとした砂漠迷彩服を着た敵兵に狙いを付け、引き金を引いた。

 M4A1カービンの銃声が響いた後、イラク軍正規兵の額に穴が開き、地面に這い蹲ったまま息絶える。

 気付いた他の敵兵達はバラクラバに向けてAKやRPK、PKM等の銃口を向けてきたが、バラクラバの持つM4A1カービンを単発から連射に切り替え、直ぐに引き金を引いた。排出口から5.56㎜弾の空薬莢が次々と排出される中、敵兵は次々と悲鳴を上げながら血飛沫を上げて倒れていく。

弾切れになる頃には、動いている敵兵など居なかった。

 空になった弾倉を排出し、新しい弾倉を装着し、前進を再開した部隊の元へ戻った。開けた場所に着いた後、海兵隊が多数の敵兵とテクニカルと交戦しているのが見えた。

 M1A1エイブラムスがバラクラバ達が来たのと同時に現れ、目に付いた敵を44口径120㎜滑腔砲で吹き飛ばす。さらに迫撃砲やアパッチによるロケット攻撃も行われ、イラク兵の人間とは思えない悲鳴が耳に入ってくる。これに生じてバラクラバは米軍とは違う別の場所へ一人で向かった。M4A1カービンを構えながら狭い路地を進む。

 その途中、銃剣付きの56式自動歩槍を持った民兵がバラクラバの死角から飛び出してきた。直ぐにM4A1カービンの銃口を向けようとしたが、既に遅く、連射された何発かの7.62㎜弾を喰らって、バラクラバは地面に倒れ込んだ。

 銃痕から血が噴き出し、地面が赤く染まっていく。民兵は銃剣を向けながら、屍になったバラクラバの元に近付いた。目の前に倒れた敵兵が動かないのを確認した民兵は、フリッツヘルメットを取り、バラクラバに手を掛けた。力を入れてバラクラバを取った瞬間、抑えられていた長い金髪が現れになり、雪のように白い肌と大きめな碧眼の瞳を持つ綺麗に整ったまだ幼さが残る顔立ちが見えた。

 その顔を見て民兵は驚きの声を上げた。

 

「〔女だ・・・!〕」

 

 驚いた民兵であったが、左手に持ったバラクラバを捨てて、56式自動歩槍を壁に立て掛け、金髪碧眼の美女から装備を剥ぎ取ろうとした途端、左手が動かない死体の右手に掴まれた。

 

「〔うわぁぁぁぁぁぁぁ!!死体が動いたぁ!?〕」

 

 アラビア語で叫びながら立ててあった56式自動歩槍を取ろうとしたが、M9銃剣で頭を突き刺され、即死して地面に倒れる。起き上がった彼女は地面に落ちていたM4A1カービンを手に取り、長い金髪から砂を叩き始める。

 何事もなかったかのように心臓らしき物を取り出して、M4を片手で構えながらそれを頼りに進み始めた。左手に握られた心臓は鼓動しており、何かに近付いているのか、近付くにつれて鼓動が強くなる。

 占い師の家らしき場所に近付いた途端、左手に握られた心臓の鼓動がさらに強くなった。彼女の目の前に目当ての物があった。それは不気味に光る水晶玉であり、そこに住んでいた占い師が商売道具として使っていたらしく、大切に保管されていた。家の主人は戦闘になる前に避難していたらしく、慌てて支度をしていた後があった。

 彼女は心臓を仕舞った後、その水晶玉を取るなり地面に向けて投げ付け、水晶玉を叩き割った。水晶玉が割れた場所から中にあった藤色の煙が現れ、それが彼女の身体を包み込む。

 煙が身体に入り込み、彼女の身体が藤色に光った。何かの力が宿っているのか、彼女は自分の手を見始める。それが終わった途端、口に火の付いた煙草を咥えた男が現れた。

 

「よぉ、お嬢さん。もう力は取り戻したかな?」

 

 後ろから声を掛けられたので、彼女はM9ピストルを引き抜いて、煙草を咥える男に銃口を向ける。男の容姿は金髪で浅黒い肌、瞳の色は茶色、身体的に優れており、身長は185㎝程で顔立ちは整っている。男は手を挙げながら笑みを浮かべて敵ではないと告げる。

 

「おっと、早まるな。俺はあんたを殺しに来たんじゃない。ヒントを与えようと思ってきたんだ」

 

 煙草を机の上に置いて、地図を右胸のポケットから地図を取り出した。

 

「ここから2㎞にモスクがある。そこにあんたの標的も居る。ルートにはアメリカ軍の兵士は一人も居ない、居るのはイラク兵と民兵だけだ」

 

 そう彼女に告げた後、男は地図を彼女に向けて投げた。飛んできた地図を軽くキャッチする彼女は、地図が本物かどうか確かめる。

 

「そう疑うなさんな。直ぐに疑う女は男にモテないぜ?」

 

 下品な表情を浮かべる男を彼女は睨み付けた。

 

「おっと失礼、あんたはどう同姓好きだったな。スマンスマン。それよりもあんた、前に会った時より口数が減ってないか?等々この俺の事を無視することにしたか?」

 

 突如表情を変えた男は彼女に問う。その彼女は男の問いに答えず、無視して部屋を出ようとした。

 

「オイ待てよ。そんなに俺がストーカーに見えるのか!?」

 

 男が彼女の肩に触れようとした瞬間、彼女は男の手を払い除け、汚物を見るような目で男に告げた。

 

「ついてくんなよストーカー!それとも今すぐここで死にたいの?」

 

 そう告げた後、彼女はM4A1カービンを持って部屋を出て行った。部屋に残された男は手を挙げて、独り言を呟いた。

 

「やれやれ、感謝もせず、俺を脅して立ち去りやがった。一体どうやって接すれば振り向いてくれるかな?可愛らしい外見で中身はクレイジーな女帝マリ・シュタール・ヴァセレート・カイザー様よ。いや、今はマリ・ヴァセレートか」

 

 笑みを浮かべて男も部屋を後にした。男に殺気を見せたマリであったが、渡された地図に示されたルート通りを進むことにする。敵兵が前に居たが、マリはM4A1カービンを向け、周りに気にすることも無く発砲し、敵兵を排除。マリの存在に気付いた他の兵士達が大声で知らせ、総出で彼女の元へ向かって来る。

 

「少し邪魔ね・・・一気に突破しますか」

 

 そう言ったマリは左手の拳を握った。時を止める呪文か技であったらしく、彼女以外の周りの物が時が止まる。敵兵全員が止まっている間にマリは敵兵が身に付けている手榴弾の安全ピンを抜いていき、手榴弾のない敵兵にはM9ピストルを撃ち込む。

 もちろん撃った瞬間、銃口から発射された銃弾は時が止まったままで、排出された空薬莢もそのままである。唯一動けるマリが触れないと、時が止まったままだ。

 

「もう良いかな?」

 

 マリが指を鳴らした瞬間、時が動き出した。安全ピンを抜かれた手榴弾が爆発、撃たれた兵士は地面に倒れ、マリに立ち向かったイラク兵達は全滅する。意図も簡単に突破した彼女は、標的が居るモスクへ向かった。

 道中、敵兵がマリを見るなり破片手榴弾を投げてきたが、彼女はそれをキャッチボールの如く掴み、投げた本人に返した。

 もちろんそれを手に取ってしまった敵兵は、飛んできた多数の破片が突き刺さって死亡、あっという間にマリにはモスクの前に来た。

 彼女の姿を見たモスク前にいた兵士達は手に持つライフルの銃口を彼女に向けて、何の警告もせずに一斉射撃を行った。

 

「やっぱりこの格好してるから?」

 

 直ぐに遮蔽物に身を隠して、米陸軍の砂漠迷彩の戦闘服を見ながら一人で呟く。左手に風を纏わせ、銃弾を受け続ける遮蔽物から飛び出した後、左手から強風を放った。

 強風は銃弾を巻き込み、発砲された方向に返っていき、自らはなった銃弾で敵兵達は息絶える。RPG-7を撃とうとした敵兵が居たが、マリに気付かれてM4A1カービンの単発で仕留められる。

 モスクの前にいた敵兵を全て排除した彼女は、門を開け、モスクの屋内に入った。門を開ける音を聞いて屋内にいた三人ほど敵兵が集まってきたが、それが三人の運の尽きであることも知らずに。一人は転落防止柵に身を隠してAKMを何時でも撃てる準備していた。

 だが、既にその兵士の存在はマリに気付かれており、身を隠す遮蔽物も5.56㎜弾で貫通できる為、M4A1カービンで撃たれ、絶命する。

二人目がマリの目の前に現れて、サイガ12を彼女に向けて撃とうとしたが、一瞬で距離を詰められ、撃つ前に手刀で頭を飛ばされた。

 最後の一人がマリにAKS74uを乱射したが、どこからとも無く剣を取り出し、人とは思えない早さで最後のイラク兵の突き刺す。それと同時に礼拝の場の門が開き、息絶えたイラク兵から剣を抜き、丁度真ん中にいた標的の男に向かう。標的はマリの姿を見た途端に怯え初め、アラビア語で命乞いを始めた。だが、標的の手にはナイフが握られていた。

 不意打ちが出来る距離までマリが近付いた瞬間、標的は叫び声を上げながらマリに斬り掛かった。だが、あっさりとナイフを避けられ、剣で一刀両断にされてしまった。真っ二つにされた男の死体がその場に横たわり、根本から流れ出る血が床に広がっていく。

 

「始末完了・・・回収ポイントは上ね・・・」

 

 右手に握られた剣を消し、M4A1カービンを左手で持ちながらモスクの屋上へと向かった。屋上に着けば、銃声や爆音が響いていた。市内では未だ戦闘が行われており、上空にはA-10サンダーボルトやアパッチが飛び交っている。

 負傷兵を乗せた赤十字マークの付いたUH-1やUH-60ブラックホークまで見える。戦闘が終わらないバグダット市内を見ていたマリの元へ一機のUH-60Kが来た。マリが充分に乗れる場所まで機体を近付け、ホバリングして待機する。

 開閉ハッチが開かれ、機内には童顔の茶髪の女性と、顔を隠した特殊作戦仕様のM4A1カービンを持った四人のデルタフォースの隊員が座っている。茶髪の女性は立ち上がって、マリに手を差し延べ、彼女をブラックホークに乗せた。

 マリを乗せたのを確認したパイロットは機体を動かし、バグダット上空から去っていった。一人の隊員が開閉ハッチを閉めた後、マリは座席に座り、女性から渡された飲料水を口に含んだ。

 そして、今まで起こったことを思い返す。




こんな始め方を大丈夫だろうか・・・?


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序章 復讐の原点
序章、崩れ去る事の訳


ようやく第一話投稿・・・

それと後半部・・・なんか自分でも書いてて諄い・・・

こちらが第一話になります。

*自分の脳内で後付が多かったので修正。ついでに句切りも他の作者さんのを真似てみた。


ムガル暦789年。

 地球と似ても似付かない、魔法が存在する別世界にて、ムガル帝国と呼ばれる大帝国が存在した。

その大帝国の首都は海に繋がる湖を背にした帝国名と同じくムガル、首都の中心にある巨大な建造物はこの帝国の皇族が住まい、政務の中心地である。

 この世界の地図に描かれた7つある大陸の一、中央にある大陸にある。領土は中央の大陸に収まらず、全大陸全て、世界がムガル帝国の物であった。

 世界を手に入れる為に犠牲にした人数は計り知れず、夥しい量の血が流され、建国から681年で遂に世界を手に入れ、100年以上も戦も起きず、平和に繁栄してきた。

 だが、その繁栄は、108年と8ヶ月27日をもって終了する。

 

 異世界より近代兵器を持つ、敵の軍勢が攻めてきたのだ。

 敵は我々の世界における第二次世界大戦でドイツ第三帝国の国防軍・武装親衛隊で使われた陸上・海上・航空兵器を所有しており、科学力と火力はムガル帝国より勝っていた。

 異世界からの侵略者の名は神聖百合帝国。

 百合が名前に入った通り、女性が指導者であり、女性だけの亜人メガミ人の大帝国である。

 圧倒的な火力と優れた戦略や第二次大戦初期で用いられた電撃戦を駆使して、魔道兵器を中心とするムガル帝国の領土を次々と奪っていく。

 緒戦にて数で勝っていたムガル帝国も、近代兵器と戦術を有する侵略者に為す術もなく倒されて行った。反撃を試みようとするムガル帝国であったが、悪戯に犠牲者を増やすだけで、領土も取り返せず、敵方から捕虜も捕れず、むしろ逆に領土を奪われるだけであった。

 中央大陸以外の大陸にいたムガル帝国の軍勢は、神聖百合帝国の手によって中央に撤退するか全滅した。僅かな希望を抱いて、新兵器や新魔法を開発しようとしたが、時間を無駄にするだけであり、そうしている間に神聖百合帝国の航空機による定期爆撃で、重要な人物が次々と死んだ。

 

 絶望感にさいなまれたムガル帝国は、反撃に出るのを止めて、新天地へ移住に集中し始める。

 つまりこの世界を捨てて、異世界に逃げることである。

 勝てる術など無くしたムガル帝国は、神聖百合帝国の進軍ルートに罠を張り巡らせ、残った戦力を温存し、帝都に集結させると言う、首都決戦に備え始めた。その間に新天地への移住先を確保することに成功し、残った領土に住む才能や能力に長けた者、有能な者達から先に新天地へと移住させた。

 珍しく皇族や上流階級の者は真っ先に新天地への移住はしなかったが、ごく少数が向かっただけに過ぎない。

 取り残されているのは、凡才や優れていない者ばかりであり、優秀な者だけを先に逃がすことに腹を立て、暴動までも起こしたが、時のムガル帝国の皇帝アドムズ・ア・ペン・ムガルは、慈悲の心を込めて軍に暴動の鎮圧を命じた。

 それを繰り返すことによって、全ての優れて有能な者達の移住が完了し、後は自分達と残った守備戦力、平凡的な民と共に移住をするだけだった。

 しかし、異世界の侵略者、ムガルまでに迫った神聖百合帝国陸軍のC軍集団計70万の兵力がムガル民の移住の時間を待つはずもなく、帝都への総攻撃を掛ける。

 その攻撃前、天幕の軍集団本部にて、ドイツ国防軍陸軍の野戦服を着て、ストレートのズボンをはいて略帽を被った若い女性将校が一枚の報告書を片手に軍集団司令官が居る本部へと足を踏み入れた。

 

「閣下、宣伝中隊の戦地実況小隊が戦場を実況中継したいと申しておりますが・・・」

 

 敬礼してから、報告書を顔に皺のある中年女性将官の目の前に置いてある机に置いた将校。肩章に付けられた階級の星の数からして、その将校は大佐クラスだろう。椅子に腰を下ろしている高級感溢れる軍服を着て、乗馬ズボンをはいた中年女性将官の肩章を見れば、部下の大佐から閣下と呼ばれるからして上級大将と分かる。

 報告書を手に取って人通り目を通した上級大将は、ポケットから万年筆を取り出し、その書類にサインをする。

 

「許可します。敵超大国からの勝利は良い宣伝となり、これに乗じて我が軍の士気も上がることでしょう」

 

「で、ですが・・・守りきれる自身も・・・」

 

 反対の異議を唱える大佐に、上級大将は手を翳して黙らせた。

 

「標準人の部隊に先を越される訳にはいきません。ましてや他の部隊に先を越されるわけにはいきません。それに我が軍集団の宣伝にもなります。では、これを宣伝中隊の実況部隊に届けてください」

 

 上級大将は大佐に自分の考えを伝え終えた後、報告書を彼女に渡した。

 ちなみに標準人とは、神聖百合帝国軍の人間の奴隷兵士、名義上は二級市民階級の事である。

 

「ハッ!では、失礼します」

 

 報告書を渡された大佐はそれを受け取り、敬礼してから報告書を持って本部を出た。直ぐにそれを外で待機している完全装備の戦地実況小隊の小隊長らしき野戦服を着た若い女性に手渡した。

 

「大尉、軍集団指令が許可を出した。事きめ細かく我が軍集団の戦果を記録するのだ」

 

「あ、はい!大佐殿!一生懸命記録させていただきます!!エリーザちゃん、頑張って実況してね!」

 

 階級からして大尉の将校が軍集団司令官サイン入りの報告書を大佐から受け取って敬礼した。

 大尉は、同じ野戦服を着用し、破片避けの為にヘルメットを被っている20代前半の顔立ちが整って、ヘルメットから長い茶髪が飛び出している童顔の女性が振り返り、声を掛けた。それに反応して手を振る。

 

「は~い!エリーゼ・バーデン実況小隊第1分隊分隊長少尉、実況頑張ります!!」

 

 大尉に向けて手を振り終えた後、敬礼して、同じ野戦服を着たスタッフクルーが乗るオベルブリッツトラックに乗り込み、エリーゼと呼ばれる将校は二本指を当てて投げキッスをした。

 これを見ていた大佐は不快な顔をし、巻き煙草をポケットから取り出してそれを口にくわえ、火を付けて煙草を吸った。

 どうやらエリーゼの長い茶髪が気に入らなかったらしい。それもそのはず、長い髪で戦場に出て、引っ張られるからだ。硬派な軍人である大佐は、戦場を舐めすぎていると思って、気に食わなかったのだ。

 攻撃命令を待つ指揮車型を含めたⅡ号戦車F型、35t軽戦車、38t軽戦車を始めとした非力な戦車で編成された多数の部隊、Ⅲ号戦車J型とⅣ号戦車F型と長砲身型であるF2型で編成されたましな戦車部隊、Ⅲ号突撃砲しかない突撃砲部隊、Ⅰ号自走重歩兵砲一個中隊分に88㎜高射砲を搭載したSdKfz8を追加した自走砲部隊。

 その後ろに構えるのはSdKfz223,250指揮車型や251兵員輸送型、迫撃砲搭載型、工兵仕様、で編成された機械化歩兵部隊もとい装甲擲弾兵部隊。

 エリーゼ達の実況小隊のトラックは、SdKfz7やトラックで編成された歩兵部隊もとい擲弾兵部隊の後へ続く。

 軍集団司令部からの攻撃命令が出ると、それぞれの戦闘車両で編成された大多数の機甲部隊もとい装甲部隊は、最後の攻撃目標であるムガル帝国の首都、ムガルへと突き進んだ。

 それと同時に横三列に並べられた数十門の軽榴弾砲10.5㎝leFH18や重榴弾砲である15㎝sFH18、カノン砲の15㎝K39、一門の42㎝ガンマ臼砲による砲撃が始まった。

 ムガルへ向けて前進する彼女等の頭上に急降下爆撃機のJu87Dや主力戦闘機のBf109F、双発戦闘機のBf110Dの編隊、その後ろには輸送機であるJu52が編隊を組んで、続いていた。空軍の空挺部隊もとい降下猟兵部隊による首都攻略作戦も行われていることに気付いた前線指揮官は、首都へ続く部隊に足を速めるよう急かした。

 

「速度増速!空軍よりも先に首都に乗り込め!!」

 

 指揮車型のSdKfz250から、指揮官は受話器を持って全部隊に空軍よりも先にムガルへ入るよう指示を出した。

 その頃、神聖百合帝国の軍勢が迫ってきていることを察したムガル帝国側は、直ぐ様迎撃の態勢を取っていた。

 

「急げぇー!迎撃準備を取るのだ!!異界からの侵略者を一人でも多く殺し、ムガルの聖地を守るのだ!!」

 

 ローマ帝国に近い兜を被った指揮官らしき男が、周りにいる槍やボウガンを持った兵士達に近付いてくる着弾音に負けないような声量で告げる。中には銃らしき物を持った兵士も居た。

 どうやら魔力を込めた弾を発射し、魔法を使えない者でも扱える銃らしい。

 そんな兵士達の顔は絶望感に染まっており、何時誰か逃げ出してもおかしくない程の状態だ。中にも女兵士まで居て、彼女等の顔付きも男の兵士達と同じく絶望感に染まっている。

 攻めてくる女だらけの神聖百合帝国とはかなり異なる物である。

 

『鉄の鳥だぁー!』

 

 見張り台に居た兵士が、神聖百合帝国の空軍の大編隊を発見し、叫んだ。

 

「迎撃態勢だ!異界の者共の鳥からムガルを守るのだ!!撃て撃て!!」

 

 指揮官の怒号と共に魔力銃を持った兵士達が、空軍の大編隊に向けて構え、対空射撃を始めた。銃口から魔力弾が発射され、戦闘を飛ぶ殿のメーサーシュミットBf109に集中する。無論、殿のBf109は飛んできた魔力弾から避ける為にその場から離れる。

 近付いていた着弾音がムガルにも届き始めたが、全体が防御魔法に守られており、榴弾が無力化されてしまった。それを見ていたのか、Ju87シューツカが何機かのBf109と共に接近し始める。

 

「鉄鳥が接近してきます!!」

 

「撃て!撃ち落とせぇー!」

 

 部下の知らせに指揮官は怒号を上げるだけだった。その後、急降下してきたJu87の250㎏爆弾を落とされ、指揮官ごと吹き飛んだ。的の殲滅を確認したそのJu87は、そのまま次の標的に向かった。

 やがて両翼に搭載されていた爆弾を全て落とし終えると、補給ともう一度爆撃すべく、後方にある基地に帰投する。何機かが魔力弾の餌食となり、撃ち落とされたが、攻略部隊にとってはそれほどの痛みではなかった。

 やがて後ろから付いてきたJu52の編隊はムガルの中央に到達し、運んでいた空挺部隊の兵士達を地上へとばらまき始めた。機体から飛び出した兵士達もとい降下猟兵が背負うパラシュートが飛び出したと同時に開かれた。

 その数は約八千で、まるで雪のように、空気抵抗を受けてゆっくりと地上へ落ちていく。

 それと同時に地上から攻めてきた装甲部隊がムガルに到着、帝都を防衛するムガル軍の兵士達は恐怖のどん底に陥れられた。

 一方、ムガルに入らなくても十分見える程の大きさを持つ皇族が住まい、政務の中心である立派な宮殿にも戦火の火が届いた。二個中隊ほどの降下猟兵がその宮殿へと降下したのだ。

 皇太子らしい凛々しい顔立ちと短めの茶髪の髪を持つ若い男が自分の子であろう赤子を左手に抱え、魔法剣と呼ばれる剣を右手に持ち、自分に銃を向ける降下猟兵相手に奮闘していた。

 

「死ね!皇族の蛆虫めがっ!!」

 

 ジャンプスモックを着た顔付きが整った顔立ちを持つ女性降下猟兵が、手に持つ降下猟兵モデルのkar98kを皇族の男に向けるが、剣から放たれた斬撃に切り裂かれ、絶命する。続々と同じジャンプスモックを着た同モデルの小銃やMP40短機関銃、軽機関銃MG34を持った降下猟兵が、男が向かうバルコニーからやって来るが、男の護衛を務める魔力銃を持った兵士達と交戦状態に入る。

槍や斧を持った兵士達も居たが、あっさりと殺されていく。

 皇族の男は左手に抱えた幼すぎる我が子を自らを省みずに抱き抱え、我が子を銃弾から守る。念の為に男は防御魔法まで唱え、自分と赤子を守った。

 他の兵士達はついてきた魔術者が唱えてくれるので安心したが、M24柄付手榴弾を投げ込まれ、魔術者諸共爆死する。

 

「うわぁぁぁぁぁ!俺の足がぁぁぁぁ!!」

 

 辛うじて爆風から生き残った兵士も居たが、自分の足が爆風で引き千切られて繋がっていないのを見て、恐慌状態に陥っていた。連続した銃声と共に、小銃を持つ一人の降下猟兵に額を撃たれ、トドメを刺された。

 それを見ていた男は我が子を強く抱きしめたが、状況は何も変わらない。直後、別の若い男の声が聞こえた。

 

「邪魔をするな!異界の侵略者共が!!」

 

 声の後に男と部下達に銃撃を加えていた降下猟兵が持つ銃の銃声が途絶えた。

 男が降下猟兵の方を向いてみると、全員が物言わぬ死体になっており、壁に血が飛び散っており、頭の無い死体まである。

 腰まで届く紫色の髪を持つ美男子が剣に付着した血を振り払って、自分の兄である男に近付く。その美男子の正体に気付いた男は声を掛けた。

 

「リガン!お前、どうしてここに?!」

 

「兄上、よくぞご無事で!防衛戦が次々と突破されております!ここは私に任せて早くゲートへ!!」

 

「そうか・・・では、サベーヌを頼む」

 

 声を掛けられたリガンと呼ばれる美男子は兄である男に近付き、早くゲートと言う脱出経路らしき所へ向かうように言った。

 だが、男は赤子をリガンに渡し、元来た道を戻ろうとしていた。リガンは直ぐに兄である男の肩を掴んで止めた。

 

「兄上!何をなさるお積もりです?!あそこはもう的の砲撃を受け・・・」

 

「まだ妻が残って居るんだ。護衛を100人余り残しているが、もう持たんだろう。私が行かなければ・・・!」

 

「なれば私も一緒に!」

 

 そのリガンの言った言葉を聞いた男は、ついていこうとする弟の腕を振り払った。

 

「お前にサベーヌを頼むと言っただろう?お前は我が子と共にゲートへ向かい、私と妻が来るのを待っておけ。一時間して、来なかったら先に行くのだ。分かったな?」

 

 男はリガンに告げたが、それでもリガンは部下を指で呼んで、サベーヌを連れて行かせ、自分もついていこうとした。

 

「部下にサベーヌを連れて行かせます。兄上と私なら、連中が何人いようと・・・!」

 

 リガンが言い終える前に、兄である男に肩を掴まれた。

 

「馬鹿者!お前でないと駄目なのだ!!お前が来た方向から敵兵が来たとするとそこも敵中の支配下、我らが皇族でないと赤子を傷一つ付けずにゲートまで向かうことまで不可能だ!これはお前にしか出来ないことなんだ・・・分かるな?これが兄の頼みとして行くのだ・・・!」

 

 肩を掴まれながら、強く告げられたリガンは、直ぐにサベーヌを抱いて、ゲートがある場所まで向かおうとしたが、配下の兵の叫び声が二人の耳に入った。

 

「鉄の獣だぁー!!」

 

 叫び声を上げた兵士が指を差した先には、60口径の長砲身を持つⅢ号戦車と機関砲をこちらに向けたⅡ号戦車が、複数の歩兵と共に居た。それに気付いた男はリガンを守る為に蹴飛ばし、妻が居る方向に向かった。

 リガンがサベーヌが起きないように受け身を取った後、Ⅲ号の60口径の砲声が唸りを上げ、何名かが発射された榴弾によって吹き飛ばされた。土煙が上がり、次にⅡ号戦車の55口径20㎜の機関砲と敵歩兵が持つ小火器が火を噴き、立ち上がろうとしていた兵士達を挽肉に変える。

 響き渡る銃声の中で、男は弟に聞こえるような声量で伝える。

 

「良いか!一時間だ!一時間で戻らなければ行け!!妻を連れて行く時、別の場所から向かう!良いな?!」

 

「承知しました兄上!兄上の奥方共、必ずや生きて戻ってくることを願います!!」

 

 リガンも銃声に負けないほどの声を上げて返した後、ゲートがある場所まで向かった。不思議と幾多もの危機があったのにも関わらず、赤子であるサベーヌは一切起き無かったという。この時までにムガルの戦況は、圧倒的に防衛側のムガル帝国側の不利であった。

 攻め側の百合帝国陸軍並び空軍は少なからずの損害を出しながら、建物や陣地の一つ一つずつ制圧しつつ前進中である。さらに海軍の一個艦隊が沿岸に到着したことや他の部隊の援軍まで到着し、百合帝国陸軍と空軍の制圧速度は飛躍的に向上した。

 滅びつつあるムガル帝国の皇帝、アドムズ・ア・ペン・ムガルは湖に現れて、ここに艦砲射撃を行う百合帝国海軍の艦隊を眺めていた。

 

「もうこの帝国は駄目だな・・・」

 

 首都に溢れる崩れ去る建造物と、今居る自分の住まいで政務を行ってきた巨大な宮殿が攻撃を受けて、ボロボロになっていく様を見ながら呟く。現皇帝、アドムズの後ろには別世界へ繋がる巨大な円形型のゲートがあった。アドムズの妻らしき老婆が彼に声を掛ける。

 

「貴方・・・兵がここも危険と言っております・・・それと、あの子達は大丈夫かしら?」

 

「心配するな、リギーナ。私の息子達だ。時間以内に戻ってくるだろう・・・」

 

「そうでよければ良いのですが・・・嫌な予感がします」

 

 リギーナと呼ばれたアドムズの妻は、自分が腹を痛めて生んだアバンとリガンの事も心配で不安になっていた。あることを思い出したアドムズは、先にゲートへ向かおうとしたリギーナを呼び止めた。

 

「そうだリギーナ、キニフィムはどうした?説得はできたのか?」

 

 ちなみにキニフィムとは、アドムズとリギーナの娘の名前である。二人の表情から伺う限り、娘のキニフィムに何かあることは間違いないが。

 

「あの子は取り残された民の為に残ると言いました。これ以上の説得は無意味でしょう」

 

「そうか・・・あの子は我々よりもこの国を愛していたな。また舞い戻ってくると言ったのに、融通の利かない子だ」

 

「えぇ、皇族の者が全て逃げるわけには行きませんからね。民と共に勝利者から耐え難い屈辱を味わうことになりましょう」

 

「本当に残念だ・・・ここに舞い戻ったら、私達は謝らなければいかんな・・・」

 

 娘のキニフィムが居るとされる方向に視線を向けた二人は、哀れむ気持ちで見ていた。そこへ赤子のサベーヌを片手で抱いたリガンが来る。

 

「父上ぇー!母上ぇー!」

 

 息を切らしながら、リガンは父と母であるアドムズとリギーナの元へ来た。彼の服装は全身血塗れであり、左手に抱えた赤子を包む白い布が赤く染まっており、ここまでかなりの数の敵と遭遇し、死闘を演じてきたことが分かる。

 外傷は運が良いのか頬に付いた掠り傷一つだけで、赤子のサベーヌには敵の返り血だけが付いているだけだ。

 

「おぉ、リガンよ・・・無事に戻ってきたか。それに何故お前が我が孫であるサベーヌを抱いて居るのだ?」

 

「アバンは一体どうしているの?」

 

「はい、訳をお話しします」

 

リガンはサベーヌを近くにいた直属の兵士に預け、理由を話した。

 

「グラージを迎えに行ったのか・・・だが、もうあそこは敵中の中だぞ。ここから見ても敵の戦車と呼ばれる兵器と敵兵が殺到しているのが見える・・・」

 

「おぉ・・・キニフィムに続いてアバンまで・・・!」

 

 理由を聞いたアドムズは、アバンは妻諸共助からないと判断し、リギーナは自分の息子が助からないことが分かり、同時に二人の子を亡くすことにショックを受け、その場で泣き崩れた。この場に姉が居らず、母が姉の名前を言いながら悲しんでいることに疑問に思ったリガンはアドムズに訳を問う。

 

「姉上が・・・訳をお話ください。父上」

 

「あぁ、お前も知っているだろう・・・キニフィムはこの場に残ることにし、残された民と共にムガルの崩壊を見届けるつもりだ」

 

 答えを聞いたリガンはショックを受け、声を荒げながら父を責めた。

 

「な、なんと愚かな・・・!姉上も分かっているはずだ!皇族や王族の女がどれだけの辱めを受けることを!何故、無理にでも連れて行こうとはしなかったのですか?!」

 

「あの子はとても優しいのよ・・・敵にも慈悲を掛ける・・・そしてアバンも・・・!」

 

 泣きながらも答えた母に、リガンは沈黙した。まだ兄と姉が助かるかと思い付き、リガンは槍を持って、二人を助けに行こうとしたが、父であるアドムズに左腕を掴まれ、止められる。

 

「止せ、リガン!アバンもキニフィムももう助からん!二人がいる場所はもう既に敵中にある!!お前まで死ぬつもりか?!」

 

「お放しを父上!まだ二人は助かるのです!!私ならあの様な雑兵共、いくら居ようと・・・!」

 

 リガンが言い終える前に、直属の護衛部隊の幹部らしき男に腹を思いっきり殴られ、気絶しそうになっていた。

 

「き、貴様ぁ・・・!何故、私を・・・?!」

 

「お許しください、リガン様。この行為は父と母が貴方まで失わせない為の物なのです・・・」

 

 その男の言葉を聞き終えたリガンは気絶し、直属の兵士達にゲートまで連れて行かれた。

 

「ムガル皇帝、どうか私に斬首を!貴方の息子様を殴ってしまい・・・」

 

「止せ、ドゥーフ。今のは助かった。まだ未熟なリガンに対して必要な処置だ。これ以上私と妻は息子と娘を失いたくはない」

 

「ハハッ、有り難き幸せ!」

 

 膝を床に付け、首をアドムズの前に差し出すドゥーフと呼ばれる護衛の男にアドムズは礼を言った。それに対し、ドゥーフも頭を下げて、自分を処罰しない主君に感謝する。

 そのアドムズは悲しむリギーナに手を差し伸べ、立たせた後、ゲートに視線を向けた。

 

「さて、行くか。また舞い戻る準備をしなければな・・・!」

 

「えぇ・・・死んでいった兵と民達、この世界に取り残された民の為にも・・・!」

 

 そう決心した二人は、その場にいた護衛と側近達と共にゲートへと足を運んだ。

 主君と皇后が居なくなったムガルは崩壊寸前であった。

 銃声・砲弾の着弾音・怒号が飛び交う瓦礫に埋もれた帝都にて、カメラを持った野戦服の女性とエリーゼがマイクを持ちながら、戦地実況を行っていた。

 

「もうムガル帝国は崩壊寸前です!我が軍の擲弾兵が敵の雑兵達を次々と打ち倒しております!!」

 

 右手にマイクを持ちながらカメラに向けて熱く語るエリーゼ。彼女が左手で向ける方向には、ドイツ国防軍陸軍の印象的な野戦服と鉄兜を被った5人の兵士が居り、右手や左手に持った小銃や短機関銃で敵兵を抑え込んでいた。

 Ⅳ号戦車F2型が丁度現れ、75㎜の長砲身を敵兵が居るとされる場所に砲口向ける。撃とうと思った瞬間、キューポラから戦車長が出て来て、撮影班とエリーゼに向けて下がるように叫ぶ。

 

「そこの宣伝部隊!その場から離れなさい!!」

 

「え、直ぐに離れろ?ちょ、引っ張んないで!!」

 

 突如現れたMP40を持った将校に襟を掴まれ、エリーゼはⅣ号から力尽くで遠ざけられた。

 数秒後、Ⅳ号の43口径の砲身の長い75㎜砲が唸った。耳が潰れる程の砲声で、近場にいた兵士達が耳を抑えて口を開ける。その砲声はエリーゼ達にも聞こえ、彼女の顔は驚きの声を上げた。

 

「す、凄い・・・!」

 

 カメラを持った兵士は砲撃の様子をちゃんと映していた。

 

「戦車が来たら離れること!!」

 

「あ、はい・・・以後、気を付けます・・・」

 

 将校から注意を受けたエリーゼは呆気な返事を返した後、別の戦闘区へ向かった。やがてムガル帝国の抵抗が消えていき、銃声や爆破音も徐々に消えて行く。

 暫し休憩していた実況小隊に、小銃を持った兵士が報告に来る。

 

「あのデカイ宮殿がもうすぐ陥落寸前!」

 

「えぇ!?直ぐに行かないと!早くして!!」

 

 その報告を聞いた水筒の中身を飲んでいたエリーゼは休憩していた撮影班を急かし、皇帝無き宮殿に向かった。実況小隊は宮殿に向かう戦闘車両を中心とした車列に加わり、直ぐに乗れるようなⅢ号突撃砲の上へ強引に乗り込んだ。

 無論、車長が怒鳴ったが、エリーゼがいつの間にか手に入れたまだ満タンの酒瓶を渡し、宮殿まで乗せて貰うことにした。

 数分後、撮影班とエリーゼは宮殿に到着。神聖百合帝国の国旗を持った数十名が多数の兵士達と共に宮殿の中へ入っていく。

 

「あっ、我が神聖百合帝国の国旗を持った擲弾兵が宮殿内に入いります!私達もこの輝かしい瞬間を目に焼き付けましょう!!」

 

 それを見たエリーゼはカメラに向かって熱く語った後、彼女等についていくことにした。宮殿に入る前に、出て来た将校に止められた。

 

「ちょ、カメラ止めて!」

 

「え、何でです?」

 

 抜けた質問をするエリーゼに対し、将校は宮殿の方に指を差して答えた。

 

「映せない死体が大量にあるから!そうでなければ通せない」

 

 もちろんエリーゼ達はその条件に従い、急いで国旗を持った兵士達の後を追った。宮殿内に入ると、室内が血で染まり、死体から飛び散った内臓が辺りに散乱し、首や四方が飛んだ死体が転がっており、誰か誰だか分からない程の損傷の激しい死体まである。

 そのおぞましい光景を見たエリーゼは血で真っ赤に染まった質の良い床に向けて嘔吐した。

 

「こりゃあ、映せない訳だべ」

 

 カメラを担いでいた女性兵士は周りに広がるおぞましい光景を見ながら呟いた。階段は死体から流れ出た血で滑りやすくなっており、階段を上がろうとする旗の搬送者が転ぶほどであった。

 階段を上がる度に、先行して空挺降下した空軍の降下猟兵や後から突入した陸軍兵士の死体が増えていく。

 

「うぅ・・・怖いよ・・・お母さん・・・!」

 

 エリーゼが大量にある無惨な死体を見て震えている中、もうすぐ屋上に差し掛かる前に、階段が瓦礫で塞がれ、海軍歩兵・降下猟兵・擲弾兵が必死で瓦礫を退けようとしていたが、手間が掛かると判断した旗を搬送する兵士達は別の道を探し始めた。撮影班もそれに続く。

 道中、妻と共に息絶えたアバンの死体を見つけたエリーゼだが、栄光なる瞬間を優先し、その場に止まらず旗を持った兵士の後へ続いた。数分後、旗の搬送者が屋上へ到着し、全体に見える場所へと旗を掲げた。この場には映せないような死体が無いので、カメラで撮影を始めた。

 

「格好良く映ってる?」

 

 旗を掲げる年若い女性兵士がエリーゼに聞くと、彼女は笑顔で答えた。

 

「もちろん映ってるよ!」

 

 カメラに目線を向けた後、勝利した事を大々的に伝えた。

 

「ご覧ください!我が軍の勝利です!!また我が軍は強大な敵を打ち負かしたのです!!我が軍に敵無しです!!」

 

 唾が飛ぶほど熱く語ったエリーゼは興奮冷めず、マイクを捨てて屋上で戦勝を祝う陸・海・空の兵士達の元へ向かった。

 MKb42と呼ばれるStg44の前身である突撃銃を持つ兵士が空へ向けて連発で撃った後、その銃声を聞いた他の兵士達が、それぞれ手に持つ小火器を空へ向けて撃ち始めた。この光景を見ていたムガルに居たムガル帝国の兵士達は、耐え難い敗北感を味わった。

 もちろん、その帝国民達が受けた屈辱は最大であり、特に皇太子妃であるキニフィムが受けた物は最大である。

 

 こうしてムガル歴789年を持ってムガル帝国は滅亡した。

 皇帝と皇后、まだ戦力は残っているが、この世界には存在しない為、滅亡したことになっている。ムガル暦から新暦元年と暦名は変更され、神聖百合帝国による占領政策が始まった。

 かつて巨大帝国の栄えた帝都ムガルにあった美術品と金品財宝は全て軍に取り上げられ、技術力や魔術力も吸収された。取り上げる物が無くなったかつての大帝国の地は、管理しやすくする為に五つの国家に分断された。

 その際にムガル帝国を象徴する建造物は破壊尽くされ、帝都ムガルにあった損傷が激しかった宮殿も解体され、占領軍の本部として新しい城が建てられた。この城が後程、フォールド王国の象徴となった。

 

 そしてさらに時は経ち、新暦26年。

 ムガル帝国を打ち倒した神聖百合帝国は勢いに乗って、陸・海・空・親衛・予備軍合わせての総兵力2500万の内、前回の950万人よりもさらに多い2000万人と言う大兵力を投入し、自分達の世界を蹂躙した同技術レベルの侵略者の世界へと侵攻したが、地形や環境の悪さで進撃速度が低下し、半分の距離まで行ったところで逆に追い詰められた。

 長引く戦争で戦力の喪失を徴兵で埋めることが徐々に出来なくなってきた。侵攻から17年経った日に撤退戦へと変更し、徐々に自分達の世界と繋ぐゲートがある拠点へと後退していった。

 侵攻から21年目に圧されに圧されて侵略者の世界から軍は完全撤退。ゲートは時限式爆弾で爆破処分、これで戦力を立て直して、再び侵攻を行おうとした。

 総兵力2500万は1800万までに減少、帝国全軍参謀本部は宇宙から攻めてくると予想し、宇宙軍を設立して、軌道上に全艦隊を展開させるも、全くの効果無し。

 総統クレメンティーネ・フォン・ブランシュバイクは、かつてムガル帝国のあった地を侵攻すると予想し、自身の私兵と同様の精鋭揃いの親衛軍と正規軍陸軍のA軍集団、海軍の第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊、空軍の第1航空艦隊、第3航空艦隊、総勢200万の兵力と共に向かった。

 しかし、予想は大いに外れて合衆国・連邦を始めとした侵略者達の連合軍は再び百合帝国のある世界に物量に物を言わせて再侵攻。この時の為に、壊滅した陸軍・海軍・空軍の部隊で編成した国民擲弾兵師団や空軍野戦師団、やけくそ気味の部隊を次々と迎撃に向かわせる物の、連合軍は化学兵器などを使用して、次々と突破していく。

 それでも残った正規軍や戦力地域から徴兵した者や志願した義勇兵を中心とした親衛軍、戦力補強に編成した部隊は粘り強い抵抗を続け、5年ほど持ちこたえる事に成功するが、頼みの綱であるクレメンティーネの軍勢が居る世界にて大規模な反乱が連合軍の本土の大陸侵攻と同時に起こり、援軍すら出せない状況に陥った。

 各地でまだ長期戦闘が行える大規模な部隊は存在していたが、連合軍の圧倒的な兵力に分断され、完全に本土は孤立した。

 本土にあった兵力は本土侵攻してきた連合軍の兵力850万に劣る700万であり、装備は整っている物の、兵士の身長が180㎝代から女性と同じ150㎝代に低下し、兵質は最低になっていった。

 神である永久女帝、マリに全軍参謀総長や最高司令部総長、親衛隊長官は効果的な対策法を神にすがる気持ちで問うが、彼女には軍事に対して才があった物の、出した案の効果は全く無く、悪戯に領土を減らすだけであった。

 そればかりかマリは形勢逆転を狙い、本土に残っていた全ての精鋭を連合軍の世界へ再侵攻を命じ、帝都を守る精鋭部隊だけを全て、再侵攻の為に注ぎ込んだ。敵の主力がこちらに向いている間に精鋭のみで編成された陸・海・空軍合わせて3個軍と自身の娘が両方とも指揮する親衛軍2個軍集団が敵の本土を全て落とす作戦だ。

 もちろん、侵攻軍が敵の首都を落とすまで残った部隊で、敵の猛攻から耐えきれなければならない。

例え敵中の中にいる彼女等がやり遂げたとしても、首都ウンディーネは陥落してる頃だ。

 侵攻軍が失敗した場合、神聖百合帝国は滅亡である。誰もが成功しないか、連合国全ての首都を潰して成功しても帝国は崩壊と模索したが、これが結果的に成功するとは誰も思わなかった。

 この時、本国が危機にあったことと、マリが成功の兆しもない作戦を知った不在のクレメンティーネは、神聖百合帝国滅亡と判断し、ワルキューレとマリの許可を取らず接触。百合帝国の領土を全て明け渡す事・最高司令官の地位・連合軍に侵攻されている本土を女性のみで編成された部隊で開放することを条件に、自身に従う者達と共にワルキューレの軍門に下った。

 国を売った売国奴として扱われる筈だが、クレメンティーネは本国にいるマリと全ての友軍を助けることができると判断した。

地獄となった首都防衛戦が行われた直後に百合帝国の侵攻軍は再度連合軍の世界へと侵攻開始。連合軍はほぼ全ての戦力を百合帝国の世界へ送り込んだことが徒となり、守備隊は次々と壊滅していき、侵攻軍は一気に各連合国の首都へ攻め入り、首都攻撃を開始する。

 一方、ウンディーネに攻撃を開始した連合軍であったが、百合帝国側は帝都に住まう市民までも兵士として投入、戦闘は激しさを増し、帝都は敵味方の死体で溢れた。一ヶ月間の戦闘で敵味方合わせて約69万人相当が死に、ウンディーネはもはや陥落寸前だった。

 だが、ウンディーネにはマリは居らず、自身に従う者達と共に大陸の聖域に立て籠もり、自ら作り出した不老不死の少女ルリこの世界へ呼び出し、自国が滅亡の危機にも関わらず愛し合っていた。

 地獄の首都防衛戦は、死傷者数700万人になったと同時に首都防衛を指揮していた陸軍元帥の降伏声明でウンディーネは陥落。

 だが、連合軍は勝利の美酒を味わうこともなく、連合軍を遙かに上回る物量を持つワルキューレが介入し、疲弊しきった連合軍は次々と壊滅していった。

 その37分後に侵攻軍が、少ない損害で作戦を達成させた。見事マリは形勢逆転を成し遂げたが、神聖百合帝国の主立った者達は殆ど死んでおり、国の再建はもう不可能であり、ワルキューレに全ての領土を明け渡した。

 新たな侵略者と判断した百合帝国の敗残兵達は、圧倒的な物量を持つワルキューレ相手に徹底抗戦の構えを見せていたが、ワルキューレに保護されたマリが全軍武装解除命令を発令。主君の命に従い、殆どの部隊がワルキューレの武装解除に応じたが、一部が応じず、世界から脱出し、軍の保管庫から盗んだ転移装置を持って、栄光なる日々に戻るべく、各異世界へ散っていった。

 かつて百合帝国が存在していた世界はワルキューレの一大拠点となり、連合国の世界はマリの二人の娘が合衆国と連邦のゲーム感覚で冷戦を行われ、ムガル帝国が存在した世界はムガル帝国の手に戻る事は無く、マリの一番下の娘マリアーゼと唯一の息子グレゴール・フォン・マキシルダーが建国したインペリウム帝国とクールラント連邦の二つの国家が存在するだけだった。

 ちなみに、マリはルリと愛人、自身に従う忠実な部下達と共にマリアーゼのインペリウムに隠居している。

 だが、かつてムガル帝国が栄えた世界に、さらに進歩を遂げたムガル帝国が舞い戻ることとは、その世界に住む者達は誰も思わなかった。




良く見たら、ルビが一つもねぇな・・・

これからの展開に、主人公の軍事の才能が無いと駄目だな・・・


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女王からの招待状

ゲンブンの連載中に投稿なんて・・・俺は銃殺刑だっ!(PAM!


 親愛なる元偉大な神聖なる女帝と女性の救世主であられるマリ・ヴァセレート様へ。

 

 最後に会ったのはいつ頃でしょうか?貴女はご自分で生んだ子供達と愛を寄せる自身と同じ美しき少女と永久的に生き続け、初めて私と会った時から容姿など変わっていませんね。

 貴女とは20年以上の付き合いでしょう。元の職場であった木綿工場の帰り道、売春街で酔った貴女を見付けて私の自宅に連れ帰った時から付き合いが始まりましたね。それから貴女は一階の労働者にしか過ぎない私を政治の世界へと導きました。

 政治学校の卒業から今までの生活が一変し、私の支持率が恐ろしいほど上がり、見事国の首相まで上り詰めました。そして貴女の少し暴力的な帝国の女帝をしてらっしゃる一番下の小さな娘さんからこのフォールドを王制にし、言われてから15年でフォールド王国を建国しました。それから毎日頭を悩める日々が続いてます。

 私が三十路手前で貴女は私に永久的な若さと美しさをくれると言いましたが、あの時の私は断りました。

 あれから20年経って、徐々に老けていく自分の顔を鏡で見て、今更ながら後悔しています。

 貴女の神に等しい能力なら、私をあの時の私まで若返らせる事が出来ますが、なんだか心の奥底で今の自分が気に入ってるようなので、断らせていただきます。

 

 昔話はさて置き、今我が国はピンチです。

 周辺国の新聞で書かれているとおり、我が国防軍の関係者によるクーデターが噂されています。私は純粋な平和主義者であり、ある者は私のことを偽善者と呼びますが、そんなことは一切気にしておりません。その所為か、私を一国の王にしてくれた政治学校では軍事関係の事は同級生と比べて少し成績が最悪でした。担任の先生が完璧主義者であれば、私は留年か退学されていた事でしょう。

 この招待状を出したのは、フォールド王国を遙かに巨大な大帝国の元女帝であった貴女からアドバイスを貰うためです。出来るなら私が貴女が居る宮殿に赴きたいのですが、いつ、私から玉座を奪い取ろうとする輩が居て、私が居ない間に平和なフォールド王国が無くなるのではないのかと心配でならないのです。

 失礼ながら貴女にこの王国まで足を運んで貰うことになりました。誠に申し訳ありません。心配ならば、マリ様専属の親衛隊を大勢連れてきて貰って構いません。もちろん貴女が愛を寄せるルリ様もお連れしましても構いません。親愛なる貴女のご到着を待っています。

                フォールド王国初代国王 モルコッチ・ローカストより。

 

____________________________________________

 

 

招待状の表紙を剥いたそこに書かれていた文字。

 

お前から能力と不老不死を奪ってやる。

 

 




大丈夫かな・・・これ・・・?

多重クロスなので、原作をその他原作に変更。

一般からの感想受付開始。当然、荒らしは無視です。

感想版を荒らすような行為をすれば、ゲシュタポや野戦憲兵隊、督戦隊による粛清や銃殺刑が対象者に行われます。


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転落の地へ

帝国暦349年。

 神聖百合帝国がある世界にて、森林地帯を進むソビエト赤軍の機甲部隊があった。

 だが、彼等は共産主義者では無いし、彼等の属する国は社会主義国家でもなく、この世界の住民ではない。

 複数の国家の集合体である連邦だ、国土はロシア並みの広大だが。そんな彼等が女性主義もとい、男性は奴隷兵士のような扱いされている世界にきたのは報復の為である。

 今、彼等が足を地に付けている場所は、神聖百合帝国の本土がある資源豊富で環境が整ったそれなりの面積を持つ大陸だ。

 大陸は南の方に位置し、大規模な戦争をする資源も揃い、人口も2億7000万人と多い。報復の理由は自分達の世界で市町村の破壊、住民の大量殺害、略奪等を含めた蛮行だ。

 無論、先に連邦が合衆国と共に神聖百合帝国を攻撃し、略奪や強姦等の蛮行を犯したのが原因であり、彼女等が連合軍の世界に報復の為に出たのは無理もないが。

 話を戻して、T-34/85中戦車、SU-85対戦車自走砲、SU-122突撃砲、IS-2の車列の横を進むソビエト赤軍の小火器を持つ歩兵部隊の中にムガル帝国の生き残り、同じような軍服を着たリガン・ゾア・ペン・ムガルが居た。

 何故、ここにいるのかは、祖国ムガル帝国を滅ぼした百合帝国への個人的な復讐である。手に抱えているのはSVT-40で、頭に被っている将校帽から後ろに括った紫色の髪が見えている。

 腰のガンホルスターに仕舞ってあるのはTT-33トカレフ、安全装置がないので訓練を受けていない兵士が持つことが危険とされる自動拳銃とされているが、あらゆる面で才能を持つリガンにとっては容易に扱える自動拳銃だ。

 他は腰に差してあるムガル帝国崩壊後から持っている剣だ。周りにいる兵士達から見えるリガンの姿は実にシュールだろう。他の兵士達は気にしてはいけないと判断し、雑談を交わし始めた。

 

「なぁ、俺達勝ったらこの世界にいる女を好き放題抱いても良いんだろう?」

 

「馬鹿かテメェは、この世界もとい百合帝国とか言う女とヤったら性病に感染しちまうんだぞ。やるとしたら連れてきた娼婦にしておけよ」

 

「ふざけんなよ。この世界の女はみんな美人だ!この戦争に勝てば、みんな俺達の性奴隷なんだぞ!嬉しくないのか?!」

 

「嬉しい訳ないだろう!あいつ等人間じゃないんだぞ!それにみんな性病を持ってるに違いないんだ!」

 

「お前、家族を殺されたことをまだ値に持ってやがるのか・・・良いよ、後で抱きたいとか言ってもハレームは渡さないからな!」

 

 IS-2の車体の上にいる二人の兵士は途中から口論となった。

 周囲を警戒しているのは殿を勤めるT-34/85の戦車長と先行している円形型の弾倉が特徴なPPsh41短機関銃を持ったヘルメットを被ったほんの数名の兵士達だけだ。

 そんな彼等を狙うのは公道の左右に広がる森林に身を潜める百合帝国軍の兵士達だ。

 かつては女性の身でありながら平均175~180㎝以上の長身の兵士達で溢れていたが、今では150㎝代に下回る程になり、装備は整ってる物の軍服がブカブカの者も居り、見るだけで百合帝国が疲弊していることが分かる。そればかりかパンツァーファウストと呼ばれる使い捨ての対戦車火器を持った顔付きが幼い少女まで居り、年端もいかない少女まで戦闘に参加していることがもう百合帝国の末期であることを示している。

 茂みに隠れた対戦車砲Pak40の砲手達は殿のT-34に砲身を向け、連続射撃に備えて頭に包帯を巻き、その上からヘルメットを被った女性兵士が75㎜徹甲弾を抱え、木の葉を付けたヘルメットを被った少女が三脚を付けたMG42を構え、弾詰まりが起きないようにベルト式弾帯をもう一人の少女が両手の上に置いており、もう一人は双眼鏡を覗く。軽駆逐戦車ヘッツァーは森に溶け込みやすいように周りの枝や葉っぱを使って上手くカモフラージュしていた。

 もちろん48口径の75㎜対戦車砲は後続のT-34に向けられており、年端もいかぬ少女や新兵が持つパンツァーファウストやパンツァーシュレックは主に戦車に向けられている。MG42・MG08重機関銃等を始めとした機関銃は敵歩兵部隊に銃口を向けた。

 対戦車砲と同じく茂みに隠された2㎝Flak(フランク)38機関砲も機関銃と同じく敵歩兵部隊に照準を合わせている。彼女等の装備を見た所、普通の末期時のドイツ軍だが、持っている小火器や着ている軍服が違う者まで居た。

 木の葉などを巻いてカモフラージュした38式歩兵銃を持ち、それに合わせた軍服を着た兵士、木の枝に乗っている同じドイツ陸軍の戦闘服を着ていた兵士だが、持っている武器が弓矢な者まで居る。

鏃には爆弾らしい物が取り付けられている。

 もちろん、ただの構えている訳じゃなく、連邦軍の機甲部隊の進む道にSマイン等を仕掛けており、爆破範囲は前方を警戒しながら進む殿の複数の歩兵を十分に全て片付けられる程の威力だ。彼女等は殿の敵歩兵が引っ掛かったのと同時に攻撃を開始する。

 これが成功すれば間違いなく連邦軍の機甲部隊の損害は計り知れないだろう。

 だが、数の差で押し返される可能性があり、それを踏まえてパンターG型中戦車10両を中心とした戦車部隊がこちらに来る予定だ。

 そんな自分達を待ち受ける彼女等を思惑通り、短機関銃を持つ殿の兵士がSマインに引っ掛かった。

 

「Sマインだ!伏せろぉー!!」

 

 直ぐに伏せようとする引っ掛かった兵士であったが、数秒遅く、爆発した後に飛ばされた多数のボールをまともに食らって挽肉になった。近くに居た兵士達も飛ばされたボールを食らって死ぬか悶え苦しむ。

 

「うわぁぁぁぁ!?て、敵襲だ!迎撃しろ!ワッ!!」

 

 T-34のキューボラで、事の事情を見ていた戦車長は後続の部隊に敵の存在を知らせたが、Pak40の砲撃を受けて絶命する。

 

「て、偵察部隊と斥候は何をしていたのだ!?」

 

 安全と思われたルートに突如敵が出現した為、戦闘に近い場所で銃声を聞きつけて激怒する部隊指揮官。その場にいたリガンも手に持つ自動小銃で応戦を始める。

 爆弾矢で射抜かれた兵士は周りにいた兵士を巻き込んで爆死、機関砲の砲声も響き、身を隠す場所を探す兵士達の身体を次々と切り裂き、小火器の鎮圧射撃もあり、次々と地面に連邦軍の兵士達は倒れて行く。

 

「茂みに対戦車砲や機関砲が隠れて居るぞ!榴弾を装填し、各個撃破。うわぁ!!」

 

 車内に居た戦車長が言い終える前に、殿の後ろにいたT-34がヘッツァーの攻撃を受けて大破した。僅か数秒で撃破された2両のT-34/85に続くかのように次々とT-34やSU-85、SU-122が歩兵の対戦車火器で葬られていく。

 それでも応戦する連邦兵達であったが、適当に弾が飛んでくる方向に撃つだけで、敵兵の一人も殺せずに散っていった。砲弾を弾き返すIS-2の上にいる兵士はキューポラに取り付けられた車載搭載機銃であるDShk重機関銃のコッキングレバーを引き、連続して弾が飛んでくる方向に向けて引き金を引こうとしたが、やって来たモシン・ナガンM1891/30小銃を持つ兵士が止めに掛かる。

 

「止せ!挽肉にしたらやれない!!」

 

「うるせぇ、黙ってろ!この死姦好きが!!」

 

 そう止めに掛かった兵士に告げた重機関銃に座る兵士は、引き金を引いて無闇に撃ち始めた。木々が折れる音が鳴り響き、同時に肉の避ける音が微かに聞こえる。

 二人が居るIS-2は飛んでくる徹甲弾を弾きながら、砲身をヘッツァーが居る方向に向け、122㎜戦車砲を唸らせた。

 リモコン式MG42を撃ちまくるヘッツァーは122㎜弾を正面に諸に食らって大破。攻撃を受けた正面は恐ろしく拉げ、車内にいた乗員らしき腕や足が見えている。

 一方、左右の森林から銃撃を受けるリガンは破壊された戦車や突撃砲、駆逐戦車に身を隠し、敵の位置を確認していた。

 

「このような手を使う程戦力が衰退がしてきたか、百合帝国め。だが、貴様等には滅亡有るのみ!」

 

 言い終えた後、素早く遮蔽物から身を乗り出して、枝の上からkar98kを撃っていた女性兵士に目掛けて撃った。

 弾丸は二発とも胴体に命中し、枝の上にいた女性兵士は地面に落ちて絶命した。

 次に火炎瓶が複数、林や茂みから投げ込まれたが、リガンはそれを素早く察知し、味方に知らせることもなく、直ぐに銃弾を避けながらこの場を離れた。火炎瓶を諸に受けた味方の兵士達は前身に火が燃え移り、もがき苦しみながら暴れ回る。

 

「うわぁぁぁぁぁ!熱い、熱い!」

 

「誰か水を!水を掛けてくれ!!」

 

「あぁぁぁぁ!助けて、助けて!!」

 

 惨劇を見ていたリガンであったが、銃弾を避けるのに必死で助けてやることも出来なかった。

 後ろからMP40を撃ちながら出て来た敵兵に気付いたリガンは素早く銃口を向け、頭を狙い撃つ。一瞬でこの世と別れを告げた敵兵は短機関銃を撃ちながら倒れた。

 待ち伏せていた敵は連邦軍が退いていくのを見て、さらに戦力を削ぐ為に茂みから出て来て追撃を行う。これ以上、この場にいては数の差で圧されると判断したリガンは退いていく味方の後を追った。

 

「直ぐにこの場から退避しろ!味方の砲撃が始まる!!」

 

 PPs43を持った将校が、味方の砲撃が来ることを退いていく兵士達に告げた後、敵の狙撃兵に頭を撃たれて死んだ。

 

「後ろの奴、早く出ろ!グワァ!!」

 

 これ以上の損害は出さないように戦車部隊も下がり始めたが、百合帝国の対戦車猟兵がそれを逃すはずもなく、次々と撃破されていく。

 

「うわぁぁぁ!茂みから敵兵が出て来たぞ!!」

 

 下がり始める歩兵部隊は左右の茂みからから出て来た敵兵士に側面を突かれ、次々と公道に倒れた。

 

「ぬっ、挟まれたか!」

 

 リガンも乱戦に巻き込まれ、襲ってくる敵兵や手負いの敵兵相手に腰に差した剣で斬り捨てる。

 

「えーい!そこを退け!敗残兵共が!!」

 

 ガンホルスターに仕舞った拳銃も抜いて、進路上に邪魔になる敵兵を撃ち殺していくリガンだが、そんな彼の目の前に、ステン・ガンに似た短機関銃MP3008を持った少女が立ち塞がる。

 

「小娘、命を欲しくは道を空けろ!!」

 

 目の前で短機関銃を向ける少女に告げるリガン。その少女は紛れもない美少女だが、今の彼にとっては邪魔なだけの存在だ。

 

「母さんを殺した奴はみんな死ね!!あれ?」

 

 聞く耳持たない少女はリガンに向けて短機関銃を撃とうとしたが、どうやら弾切れであったらしく、引き金を何度も引いていた。その隙にリガンは少女を茂みに向けて蹴り飛ばした。

 

「命あったと感謝しろ!」

 

 茂みに飛ばされた少女に告げながら、安全圏に向けて走るリガンであったが、時は既に遅く。もう砲撃が始まった後だった。

 

「まだ俺達が」

 

 一人の兵士が空から飛んでくる砲弾を見て、叫ぼうとした瞬間、彼の上に砲弾が落ちて着弾した。それと同時に次々と砲声が鳴り響き、その場にいた敵味方問わず吹き飛ばしていく。

 

「おのれ、味方という存在もありながら!」

 

 味方諸共砲撃に晒す指揮官に悪態を付き、リガンは重い装備を外して砲撃が凌げる場所を探し回る。悲鳴が響き渡る中、砲撃を凌げそうな洞穴を見付け、直ぐさまそこに向かうが、一人分しか入れない上に先客まで居た。先客は味方の兵士であり、階級もリガンより下だが、今は自分の命を優先し、リガンに向けてDP28を向けて撃ってきた。

 

「ここは先に俺が見付けたんだ!お前はおとなしく死んでろぉー!!」

 

 もちろんリガンは早く動けるようにSVT-40を捨ててしまった為、今撃てるのはトカレフしか無い。

 だが、生憎トカレフも全て撃ちきってしまい、弾倉も捨ててしまった。どれを使うか答えは一つ。愛用の剣で相手を始末することである。

 

「な、なんだこりゃあ!?銃弾が防がれて・・・」

 

 銃弾を魔力で造ったバリアで防ぎつつ、錯乱した兵士に接近し、彼の頭を飛ばした。

 凌げる場所を確保した彼はそこへ身を隠して砲撃をやり過ごそうとしたが、砲弾の雨の中で、一人の少女が呆然としながらこちらへ向かってくる。いつ砲弾を食らうか分からない状況で、少女はゆっくりと歩きながらこちらへ向かってくるのだ。

 リガンはもう少女は助からないと判断し、顔を背けた。近くで砲弾が着弾し、リガンが隠れていた洞穴が吹き飛び、リガンは吹き飛ばされた。

 彼が地面に叩き付けられるのと同時に砲撃が止み、泣き叫ぶ兵士達の声が耳に入ってきた。自分の身体が何処も吹き飛ばされていないと確認した後、立ち上がって周囲を見渡した。

 砲撃が終わった後に景色は一変し、荒れ地となっていた。無惨の死体で溢れ、焼けた肉の臭いがし、黒煙が舞い上がる。そんな光景に呆然としていたリガンの足下を何者かに掴まれた。

 掴まれた右足に感覚を覚えたリガンは右足に注目すると、無くした下半身から骨や内臓が見えた少女が自分を見ていた。

 

「お母さん・・・お母さん・・・」

 

 幻覚を見ているらしく、リガンのことを自分の母だと思っている。この少女も十分に美少女であり、きっと母親も美人であったであろう。

 そんな事を考えたリガンは右足から少女の手を退けた後、味方の陣地へ戻る。

 

「待って・・・お母さん・・・」

 

 這いずりながらリガンの後を追う少女。リガンは無視するが、少女はしつこく追ってくる。やがて少女は大量出血で息絶えた。

 彼は振り向くことなくそのまま進んだが、一人の敵兵の死体に差し掛かった辺りで、M39卵型手榴弾の安全ピンを抜いたまま握られている事に気付いた。

 

「ハッ!仕舞った・・・!」

 

 手榴弾は爆発し、リガンは遠くまで吹き飛ばされた。

 

 場所は変わって、何処かの寝室。高級ベットでリガンが勢いよく目覚めた。

 

「ハッ!!はぁはぁ・・・あの時の夢か・・・」

 

 良くない思い出を夢で見ていたらしく、眉間を掴みながら思い出した。落ち着いた後、鏡の前に立って、目の前に映る自分の姿を見ながら思い出す。

 

「(ムガルから脱出して35年余り・・・そしてあの戦闘から9年か・・・ようやく我々が故郷の地へ戻れることが可能となった・・・)」

 

 数秒間見てから窓に向かい、カーテンを開いて目の前に広がる光景を見る。

 

「(向こうでは100年以上が経ち、ムガルのことなどとうに忘れている頃だろう・・・だが、ムガルから脱出した我々は決して忘れん!忘れているなら我々が思い出させてやればいい、ムガル人としても誇りを・・・!)」

 

 ムガルの目の前に広がる光景は、近未来的デザインの兵器群が並べられた倉庫であった。かつて魔法が主流だった国家とは思えないほど近代化しており、浮遊する戦闘車両まであり、V-22オスプレイのローターがジェットエンジンに変わった輸送機まである。

 暫しリガンがその光景を見ていると、通信機のアラームが鳴った。通信機の近くまで足を運び、スイッチを押して出る。

 

「何事だ?」

 

『ハッ、リガン様。皇帝陛下がお呼びになっております!”時は満ちた”と』

 

「遂にこの時が来たか!直ぐ支度をする。それまで父上に待つよう伝えろ」

 

『ハッ!』

 

 自分の父であるリガンは”時は満ちた”と言う言葉を聞いて、遂に祖国に舞い戻ることを察し、身支度を始めた。

 ムガル帝国の皇太子の衣装を身に纏った彼は部屋を出て、父であるアドムズが居る場所へと向かった。道中、近未来的装備の兵士達がリガンの姿を見た瞬間、直立不動状態となり、敬礼する。

 

『ムガル帝国万歳!!』

 

 リガンもその敬礼に対し、笑顔で返した後、母国ムガルへ舞い戻ることを伝えた。

 

「喜べ我が将兵達よ、遂に我が祖国ムガルへ帰ることが出来るぞ!」

 

「ホントですか!?遂にこの時が・・・!息子や娘に本来住む場所を見せることが出来ます!」

 

「やったー!遂に帰れるぞー!!」

 

「ムガル帝国バンザーイ!!」

 

 近代化した装備の兵士達の歓喜に包まれる通路、リガンは自分達が本来住んでいる土地へ帰れる事を喜ぶ兵士達を見て、微笑みながら、父の元へ急いだ。歓喜に包まれる通路を出ると、道を空けるかのように左右に居る全身が隠れるまである黒い衣を纏った大勢の集団がリガンを見るなり跪き始めた。

 

「我々を冥府から生地へ帰した頂いたことを感謝いたします!」

 

「このご恩、一生忘れません!貴方様と皇帝陛下、ムガル帝国のこの命を捧げます!」

 

 次々と感謝の言葉を告げる黒い衣を纏った集団であったが、リガンは無視してアドムズが居る玉座の間へ足を運んだ。リガンの姿が無くなった後、一人が地面に向けて唾を吐き、悪態付いた。

 

「チッ、こんなに媚び入れてるのに無視かよ」

 

「馬鹿野郎、首を飛ばされるぞ!」

 

 ちなみに一度死んだ者達であり、生前に悪事を働いた者達である。中には死よりも恐ろしい罪を犯したにも関わらず、未だ反省もしていない者まで居り、それがリガンの気に食わない原因であるだろう。

 

『総員気を付けぇ!敬礼!!』

 

 玉座に続く通路にはいると、並んでいた様々な国の兵士達がリガンを見た瞬間、直立不動状態となり、敬礼した。敬礼で返した後、玉座の間の巨大なドアを開け、中に入った。

 玉座の間には側近らしき人物が数十名程揃っており、以下にも四天王と思える4人がリガンから見た左側に並んでおり、右側には10人の白い衣を纏った者達が並んでいる。玉座に座るアドムズの前まで足を運んだ後、膝を付いて頭を下げた。

 

「リガン・ゾア・ペン・ムガル第2皇太子!父君である皇帝陛下のご命令により参上いたしました!して、お呼びした用件は・・・?」

 

「面を上げい、我が後継者リガンよ・・・用件は大方察しが付くだろう・・・?」

 

「”時が満ちた”ですね?」

 

「左様、遂に我が祖国、ムガルの地へ帰る時が来たのだ・・・!サベーヌからの情報によると、我が帝国を滅ぼした者までそこにおる・・・!」

 

「なんと・・・奴目が・・・!しかし、私は些か不安です・・・」

 

「不安?何が不安なのだ、リガンよ?」

 

 リガンは俯いた後、先程の黒い衣の集団の事を話した。

 

「国益、家族、愛する者の為に戦った者達はマシといえますが、奴らはどうも信用がなりません・・・幾ら奪還に戦力が足りないとは言え、生前に腹が煮え繰り返そうな事をしでかした連中を加えるなど、作戦に支障が来すのでは・・・?」

 

「ご安心なされ、リガン様。奴らは我々に逆らえなどしませぬ。そのような真似をしでかした場合、即刻冥府に返す事にしております」

 

「そう言うことだ、生き返らせた張本人が言っておる。お前はムガルを奪還した後のことを考えるのだ」

 

 リガンの答えを聞いて、並んでいた側近の一人、アガムストが口を開き、それを聞いたアドムズが締めた。

 

「ハッ、仰せのままに・・・では、私目は戦の準備をしてまいります」

 

「うむ、歴史に名を残す程の大勝利を期待しておるぞ」

 

「必ずや期待に沿えて!この場にいる将軍と四天王に十人格、私について参れ。参謀本部にて祖国奪還の軍議を始める!」

 

 一礼してからリガンは立ち上がった後、武人らしき幹部や側近、四天王と十人格と呼ばれる集団を引き連れて玉座の間を出た。

 

『では皇帝陛下、我々も軍議に参加しますので。失礼します』

 

 武人の集団はアドムズに一礼した後、玉座の間を出て行った。巨大なドアが閉ざされた後、アドムズがアガムストに声を掛けた。

 

「アガムストよ。次はどれくらい生き返るのだ?」

 

「一万程です。仮に奪還作戦で多くを失ってもまた補充できるでしょう」

 

「そうか・・・現地の協力者も含めると、再びムガル帝国を再建することも可能だな」

 

「ムガル帝国ですか・・・見てみたい物ですね・・・どれだけ巨大な物かと・・・」

 

 側近の中で、一人の男が声を掛けた。

 

「ン、何か不安でもあるのか?バーバブエよ」

 

 バーバブエと呼ばれた男は両手を握りながら、媚びるようにアドムズに告げた。

 

「いえ、不安などございません。私目は20年ほど前に入ってきたばかりですので、資料で見る限りかなり繁栄しているとか・・・生で見るとどんな感じか楽しみになりまして」

 

「それは栄光に満ちあふれた帝国であったぞ、バーバブエよ。それとその表情を見る限り他にも用件がありそうだが・・・?」

 

 アドムズに見破られたバーバブエは、下品な笑みを浮かべながら用件を告げた。

 

「はい・・・あなた方の帝国を滅ぼした神聖百合帝国の元女帝、マリを私目の妻に招き入れようと思いまして」

 

「貴様!他にも妻が居るにも関わらず、我が帝国を滅ぼした敵方の女帝を貴様の性奴隷に入れるだと!?ふざけるな!この余所者目!!」

 

 幹部の中にいた紫色の衣を纏った年輩の男が、バーバブエの告げた用件を聞いて声を荒げた。

 

「ジエン、静かにせよ。で、妻に入れてなにをするのだ?」

 

「えぇ、彼女は絶世の美女であり、性的な魅力もあります・・・殺すなど勿体ない・・・生かして我々が受けた屈辱を払わせた方が良いかと・・・」

 

 下品な笑みを浮かべながら告げるバーバブエに対し、アドムズは冷めたのか、その用件を却下した。

 

「何とも下品な考え方だ・・・その用件は却下する。聖女マリは罪を犯してないのにも関わらず屈辱を受けている。それも幼い時に無理矢理犯されたそうではないか・・・聖女マリの処置は即死を前提とした公開処刑と処す。リガンもそれをやるであろう。それに彼女は我が娘の墓を作ってくれた。感謝も含めて、一瞬で殺してやろうではないか」

 

「流石は皇帝陛下、敵方の王家の女性に情けを掛けることもありますな!」

 

 ジエンと呼ばれた年配の男が称えた後、一部の側近達から拍手が起こる。自分の用件を却下されたバーバブエは不機嫌そうに幹部の列へと戻っていった。

 拍手が鳴り終わった後、幹部の一人がアドムズに近付き、有ることを知らせる。

 

「”能力者殺し”が準備を整えたと言っております」

 

「そうか・・・これで聖女マリを公の処刑台へ立たせることが出来るな。では、直ぐにリガンと共に出陣せよと命ぜよ」

 

「ハッ、仰せのままに!」

 

「ムガルを奪還できて、憎きマリ目を同時に葬れるとは、一石二鳥ですな!」

 

「そのままあの女目の一族を根絶やしにしてしまいましょう!」

 

 報告に来た幹部が出て行った後、他の側近や幹部達は歓喜していた。

 

「まだ喜ぶのは早いぞ、皆の者よ。事はムガルを奪還した後にしておけ」

 

『ハッ、皇帝陛下の仰せの通りに!!』

 

 アドムズが手を叩いて幹部や側近達を黙らせて、告げた後、彼等は直立不動状態となって、主君の命に従った。バーバブエは用件が受け入れられずに不満になっていたが、ここでその態度を見せれば殺されるかと思い、一応従っておくことにした。

 

 場所は変わって、かつてムガル帝国が存在していた世界の北東に位置する大帝国インペリウム。

 美しい自然に囲まれた大きな屋敷の二階の寝室にて、一人の金髪碧眼の長身美女が、キングベットの上で一糸纏わぬ姿で目覚めた。彼女の隣には鮮やかな栗色の髪を持つ少女が、金髪美女の胸に顔を押し付け、寝息を立てながら寝ている。

 その少女の容姿は人形のようで、顔立ちも整っていて誰もが見取れそうな容姿であったが、体付きは未発達であった。

 それに比べて金髪美女は性的魅力に優れ、妖艶で胸の大きさも美少女よりも遙かに上だ。顔立ちも隣に寝ている美少女並に整っており、男が見たら確実に声を掛ける事だろう。

 

「フフ・・・可愛い・・・」

 

 目の前で眠る少女の頭を撫でながら、上着を羽織った。

 ほぼ自分の肌をさらけ出しているが、この屋敷にいる者は全て女性である為、彼女には関係ない。ドアを三回程ノックする音が聞こえ、彼女はドアの方へ視線を向ける。

 

「誰?」

 

 彼女が声を掛けると、若いメイドがドアを開けて顔を覗かせた。しかし、二人の一糸纏わぬ姿を見て赤面する。

 

「何のよう?」

 

「ヴァセレート様、手紙が届いております。外で届出の者が待っております。それとカポディストリアス様と共にお着替えを・・・着替えがなければ持ってきますので・・・」

 

 メイドは幾ら同姓とはいえ、ヴァセレートと呼ばれる絶世の美女の余りの大胆さに目をやりようがない。

 

「じゃ、持ってきて。ルリちゃんを起こしたら受け取るから」

 

「はい。では、直ぐに準備して参ります」

 

 彼女の答えにメイドはドアを閉めて、着替えを取りに行った。

 その場に残された彼女は、ベットの近くにある机の上に置かれた煙草を取り、一本取って口に咥えた。寝ているルリが煙たがらないように窓を開け、煙草に火を付けた。

 彼女の名前はマリ・ヴァセレート、かつてはマリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーと名乗り、神聖百合帝国を創設し、自ら皇帝として君臨。人間の一つの姓を世界から消すと言う大罪を犯し、生存圏拡大と報復の為に別世界侵攻を行い、自分が数百年も掛けて育んできた大帝国は滅びた。

 現在は自分の産んだ末っ子の国に愛するルリと共に隠居生活を送っている。

 これから始まる物語は、彼女にとっての復讐劇の始まりである。

 

「転落の一歩手前か・・・それじゃあお嬢さん、全て失った後にお会いしましょう」

 

 屋敷を囲む柵に凭れ掛かっている男が葉巻を咥え、窓から見えるマリを見ながら告げた。

 当然ながら彼女にはこの男の声は聞こえていない。葉巻を口から離して煙を吐いた後、何処かへ去っていった。




二話目を投稿・・・この男の正体は後々分かります。

知っているお方は葉巻とガン黒の情報士官と言えば、分かるはず・・・でも、あのストーカーとは違うよ。


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安全確保

また組織設定に追加しねぇと・・・

それと使い回しが・・・


 屋敷の門の前で待つ白い軍服を着て軍帽を被った男が右手に手紙を持って、待っていた。

 白シャツとズボンという簡素な服装に着替え終えたマリが屋敷の玄関から出て来て、門の前で待つ将校から手紙を受け取る。手紙を渡した将校は、マリに向かって左手を挙げて、ローマ式とは違う逆の敬礼をしてから名乗る。

 

「第14番護衛隊所属、郵便係のダカラム・ザラートです。そちらの手紙を届けに参りました!」

 

 敬礼を終えたダカラムは直立不動状態になる。マリと一緒に出て来たメイドがトレーに水の入ったコップを将校に差し出した。

 

「ご苦労様です、ザラート郵便係様。規定により、ここへの男性の出入りは禁止されており、飲み物しか出せませんが・・・」

 

「嫌々、構いません!では、メイド長殿、本官はこれにて失礼いたします!」

 

 将校は敬礼してから、元来た道を戻っていった。メイド長と呼ばれた人物の名はグローナ・マクスウェル。マリが隠居先にしている屋敷で働くメイド達の長を務めるにはいかせん若すぎるが、マリと 同じく何百年も生きており、彼女がまだ”人間だった頃”から仕えている。170㎝ほどの長身であり、それなりの美貌を持ち、腰まで伸びた鬱金色(うこんいろ)の髪が風で(なび)いていた。

 

「フォールド王国?それにモルコッチから・・・?」

 

 手紙を読んでいたマリは差出人のモルコッチとい人物の名を見て、あることを思い出した。

 

「どうしましょうこのコップ・・・飲んじゃおうかな・・・?あれ、お嬢様、どうされたので?」

 

 手紙の符も開けずに差出人の名を見ていたマリは、グローナからの質問に答えた。

 

「昔のセフレ」

 

「昔のセフレって・・・その方と肉体関係で!?もしや脅迫の文章では・・・?」

 

 屋敷に戻るマリに自分の推測を告げるグローナであったが、無視された。数分後、マリはルリと共に食事室で朝食を取りながら手紙の符を開けて中身を確認した。

 反対側に座るルリも、マリが見ている手紙に書かれた文章を見ようとしたが、身長が足りずに見られない。机に上って無理にでも見ようとしたルリであったが、隣にいたメイドに肩を掴まれて、強制的に席へ戻された。

 

「駄目ですよ、ルリお嬢様。作法に詳しい貴女であろう者が、お行儀が悪い」

 

「だって気になっちゃうんだもん」

 

「そんなに気にするなら後で見せてあげるわよ」

 

 マリは手紙を読みながら、我慢できないルリにこう返した。ちなみに彼女が読んでいる手紙の内容はこうだ。

 

 親愛なる元偉大な神聖なる女帝と女性の救世主であられるマリ・ヴァセレート様へ。

 

 最後に会ったのはいつ頃でしょうか?貴女はご自分で生んだ子供達と愛を寄せる自身と同じ美しき少女と永久的に生き続け、初めて私と会った時から容姿など変わっていませんね。

 貴女とは20年以上の付き合いでしょう。元の職場であった木綿工場の帰り道、売春街で酔った貴女を見付けて私の自宅に連れ帰った時から付き合いが始まりましたね。それから貴女は一階の労働者にしか過ぎない私を政治の世界へと導きました。

 政治学校の卒業から今までの生活が一変し、私の支持率が恐ろしいほど上がり、見事国の首相まで上り詰めました。そして貴女の少し暴力的な帝国の女帝をしてらっしゃる一番下の小さな娘さんからこのフォールドを王制にし、言われてから15年でフォールド王国を建国しました。それから毎日頭を悩める日々が続いてます。

 私が三十路手前で貴女は私に永久的な若さと美しさをくれると言いましたが、あの時の私は断りました。

 あれから20年経って、徐々に老けていく自分の顔を鏡で見て、今更ながら後悔しています。貴女の神に等しい能力なら、私をあの時の私まで若返らせる事が出来ますが、なんだか心の奥底で今の自分が気に入ってるようなので、断らせていただきます。

 

 昔話はさて置き、今我が国はピンチです。

 周辺国の新聞で書かれているとおり、我が国防軍の関係者によるクーデターが噂されています。

 私は純粋な平和主義者であり、ある者は私のことを偽善者と呼びますが、そんなことは一切気にしておりません。その所為か、私を一国の王にしてくれた政治学校では軍事関係の事は同級生と比べて少し成績が最悪でした。担任の先生が完璧主義者であれば、私は留年か退学されていた事でしょう。

 この招待状を出したのは、フォールド王国を遙かに巨大な大帝国の元女帝であった貴女からアドバイスを貰うためです。出来るなら私が貴女が居る宮殿に赴きたいのですが、いつ、私から玉座を奪い取ろうとする輩が居て、私が居ない間に平和なフォールド王国が無くなるのではないのかと心配でならないのです。

 失礼ながら貴女にこの王国まで足を運んで貰うことになりました。誠に申し訳ありません。

 心配ならば、マリ様専属の親衛隊を大勢連れてきて貰って構いません。もちろん貴女が愛を寄せるルリ様もお連れしましても構いません。親愛なる貴女のご到着を待っています。

               フォールド王国初代国王 モルコッチ・ローカストより。

 

 読み終えたマリは近場にいたグローナを呼び出し、フォールド王国へ行くと告げる。

 

「そう言えば、今日の予定は無かったよね?」

 

「はい、予定表には何も書いておりませんが・・・」

 

「今日はフォールド王国へ行くわよ」

 

「え、本気で行くのですか?あの内戦寸前のあの国へ」

 

 現状がやや不安定なフォールド王国へ行くと言ったマリに、グローナは真意なのか聞いた。

 

「ねぇ、見せてよ。その手紙」

 

 声を掛けたルリに、マリは手紙もとい招待状を彼女に向けて軽く投げた。飛ばされた招待状を満足に受け取ることが出来ず、額に当たった後で、ようやく受け取ることに成功する。

 招待状を読んでいるルリを他所に、マリとグローナは再開した。

 

「行くわよ、本気で」

 

「ですが・・・現在中央大陸には巨大な新興宗教団体、ムガル教団の武装蜂起が相次いでおり、それに乗じてマリアーゼ様のインペリウムの傀儡政権に対しての不満やクールラント連邦、ワルキューレの駐留軍に対する武装組織のゲリラ的攻撃も相次いでおりますし、さらには現地軍のクーデターも噂されていており、治安が乱れてとても危険な場所です。ただでさえ、ローカスト王政の平和主義国家に対する軍や右翼系組織の反発も強いですし・・・護衛総隊長様に頼んで、全護衛17番隊と全近衛兵師団の投入、それと全ての直属の騎士団に出撃を命じて、大陸の治安が安定されるまで待った方が・・・」

 

「それじゃあ、早くて二週間くらいの時間が掛かっちゃうじゃない。直ぐに出動できるヒメユリかクロユリ、あんた等メイド部隊で十分よ」

 

 グローナはマリが今も抱えている全戦力の投入を進言したが、マリは「直属の二騎士団と護衛部隊のみで十分」と答えた。

だが、グローナは食い下がらない。

 

「でも、用心で居ていた方が良いですよ。この前なんて十万くらいの大軍に囲まれちゃって、騎士団に死傷者が沢山出ちゃったし・・・」

 

「そうね・・・ワルキューレに部隊増勢を頼んで、護衛隊のその手に詳しい奴でも送って、中央大陸を落ち着かせようかしら?」

 

「ありがとうございます!では、早速エンゲラート様に頼んできますね!」

 

 マリが言った提案に、グローナは喜び、お辞儀してから食事室を出た。彼女は朝食の席に戻り、食事を再開した。

 一方その頃、マリの護衛17隊総本部の執務室にて、グローナの連絡を受けたエンゲラートと呼ばれる老婆は、マリの屋敷で働くメイド長からの要請を聞いた。

 

「何奴じゃ?」

 

『第9番隊メイド部隊隊長グローナです。部隊派遣要請して良いですか?』

 

「で、派遣先は何処じゃ?」

 

 受話器を首に挟んで、左手でメモを取り出し、右手で老婆とは思えぬほど器用に万年筆の蓋を外し、派遣先を聞く。

 

『中央大陸のフォールド王国です。制圧・殲滅戦の専門家の派遣を願います』

 

「フォールド王国に派遣じゃと?では、安全が確保されるまでマリに、直属の小娘共の陣で待つように申せ」

 

『分かりました。マリお嬢様にはそう告げます』

 

「もう用が済んだな?では、切るぞ」

 

 メモに派遣先を書いた後、受話器を戻し、執務室から出て、エンゲラートは中央を開けるかのように並べるように置かれた通信機器の前に座るカーキ色の軍服を着た集団に告げる。

 

「お前等、マリ様からの任務じゃぞ。4番隊強襲部隊、6番達偵察部隊、7番隊空挺部隊、11番隊コマンド部隊、13番隊駆逐部隊、第1~6近衛兵師団に伝達。フォールド王国へ安全確保の為に派遣を命ずると」

 

 それを耳にしたエンゲラートの配下の通信兵達は一斉に立ち上がって、敬礼した後、命令を宛先の部隊へ伝達した。

 出撃命令を受けた各部隊は秩序が保たれていない中央大陸の旧ムガル帝国の帝都が存在した場所にあるフォールド王国へ向かう為、地形の把握と装備の準備を行い、それが終われば、仕える主君の安全確保の為に輸送船や輸送機に乗って中央大陸へと向かった。

 主君の安全確保の為に向かった制圧部隊が行き先である中央大陸の治安は保たれていない。

 各地でムガル教と呼ばれるこの世界ではとうの昔に滅びた大帝国を再興させようと、武装蜂起を行う巨大なカルト教団、外国や彼等にとって実態の分からない軍事組織の駐留軍に対するゲリラ攻撃やテロ攻撃を行う武装集団、そして今の政権を余りよく思わない各現地軍のタカ派に右翼組織。かつてムガル帝国が存在した中央大陸は、それら今の政権に不満を持つ者やムガルを再興しようとする者達によって混沌の地と化していた。

 そんな地獄へ辿り着いたマリの先兵達は、主君の安全確保の為、早速行動を始めた。先に攻撃するのは第7護衛空挺部隊だ。

 

『こちらロギンネス、目標AZE0に後100メートル。敵警戒ラインに到達、各自対空放火に警戒せよ!』

 

『ホワイト1、目標を視認。サーチライト並び対空砲を確認した。地対空ミサイルは見られない』

 

『よし、ホワイトチーム各機へ。敵拠点にある全ての対空火器を見付け次第撃破せよ!』

 

了解(ラジャー)!』

 

 空挺兵を乗せた複数の輸送機の前を先行する4機のハリアーⅡは、複数の輸送機の真ん中に居る民間機ガルフストームG550をベースにしたイスラエルの早期警戒機G550CAEWから指令を受けた後、攻撃に向かった。

 警報が鳴り響き、直ぐさま対空砲の弾幕が始まったが、全くハリアーⅡには当たらない。敵が使っている対空砲はボフォース40㎜機関砲で、戦後型の70口径長砲身化された現在でも現役な機関砲だが、ハリアーⅡのパイロットがベテランなのか、何かの妨害対策でもしているのか、全く当たらず、25㎜機関砲ポッドの単発で次々と潰されていく。敵拠点各地で火の手が上がる中、なけなしの小火器による対空射撃が行われる。

 

『もう少しで降下地点だ!各小隊は装備の確認(チェック)を行え!』

 

 早期警戒機に乗る7番隊隊長グーグリアンの指示により、歩兵一個小隊分が乗っている輸送機の機内にて、搭乗した空挺兵達が装備の確認を始める。

 装備の確認を終えると、上官に向けて報告し、その上官が早期警戒機にいる7番隊隊長に無線機で報告した。

 

「こちらヤーコフ小隊、装備に以上はありません!」

 

『よし、レッドがグリーンになるまで待機だ!』

 

「ラジャー!」

 

 ヤーコフ小隊の長は返答して受話器を戻した後、肩に掛けてあるAKS-74の安全装置を外した。

 

『こちら機長、降下地点まで後僅かだ。後部ハッチを開ける。ライトが緑に光るまで飛び降りるな』

 

 機長からの報告が終われば、後部ハッチが開かれ、外から聞こえる騒音が機内に入ってくる。その時、降下地点まで近付いた証拠であるグリーンライトが光った。

 

「グリーンライトだ!飛び降りろっ!!行け、行け(ダバイ、ダバイ)!!」

 

 小隊長が外の騒音に負けないような声量で命じ、それが耳に入ったAK系統やM16A2のカービンタイプであるM727を持った空挺兵達が、開かれた後部ハッチから次々と飛び降りていく。その数は600以上であり、一個大隊分の人数だ。

 地面に着地した兵士達は周囲警戒をした後、4機のハリアーⅡに襲われている敵拠点に向かう。周囲に銃を向けながら拠点に近付くと、M727を持つ先行した兵士が双眼鏡を取り出し、慌てふためく敵兵達を観察する。

 だが、その兵士は敵兵が着ている服が軍服ではないことを疑問に思う。近付いてきた上官にその事を報告する。

 

「隊長、ここは軍の右派の兵士が居る筈ですが、居るのは武装勢力の民兵だけです」

 

「なんだと?情報ではスルキア国防軍の一個歩兵連隊が陣取ってるはずだぞ。どうなっているんだ?」

 

 部下からの報告に上官は疑問に思ったが、相手が排除すべきリストに入っていた為、攻撃を命じた。降下前に予め分解していた組み立て式の迫撃砲や無反動砲、重機関銃が組み立てられ、攻撃に適した位置に配置され、大隊長からの攻撃を待った。

 上空で暴れ回っていたハリアーⅡが去った後、大隊長は攻撃の合図を送った。

 一斉に重機関銃の銃声が鳴り響き、無反動砲に搭載された榴弾が拠点に向けて放たれた。迫撃砲の攻撃も始まり、拠点に居る民兵達は次々と見るも無惨な死体に変わっていく。重火器の攻撃が終わると、空挺兵達の突撃が開始される。

 僅かに残った民兵達が雑多な銃器で抵抗を試みるが、相手が高度な訓練を受けた兵士である為、立ち向かっても撃ち殺されるのがオチだった。

 周囲に四方が引き千切れた死体や元の姿を想像できないほど酷く損壊した死体が転がっている。ハリアーⅡが取りこぼした機関銃陣地が残っていた為、それを目撃した空挺兵が叫んだ。

 

「機関銃陣地が生きてるぞ!直ぐに何処かへ隠れろ!!」

 

 その叫びの後に、味方の兵士が一人負傷し、全員が今いる場所に伏せて、弾幕から身を隠す。迫撃砲の砲撃が再開され、何発か外れて周囲にいる兵士達が砂を被ったが、一発の砲弾が機関銃陣地の真ん中にピンポイントで命中した。

 命中した砲弾は白燐弾であり、焼夷効果で中にあった弾薬が爆発し、中から全身に炎を纏った民兵達が、悶え苦しみながら出て来る。それを見ていた空挺兵達は、白燐弾は絶対に食らいたくないと思うのであった。

 

「ハリアーのパイロットと、白燐を撃った迫撃砲分隊の奴は戻ったらぶん殴ってやる」

 

 一人の兵士は悪態付きながら遮蔽物から身を出すと、敵拠点の完全鎮圧に向かった。

 その後、敵拠点は物の数分で鎮圧され、武装勢力の指揮官らしい人物を3人ほど捕虜にし、陥落した敵拠点は後続の現地軍の部隊に任せ、仮拠点にした近くの廃墟にて、尋問を始める。

 

「どうだ。あの拠点にいた民兵組織のリーダーは吐いたか?」

 

 7番隊隊長であるグーグリアンが、尋問官に代わりの部下に問う。

 

「駄目です。元から居た連隊の奴らは行き先も告げずに拠点を明け渡したそうです。装備の殆ども持っていたそうです」

 

「民兵組織は囮か・・・やれやれ、姫様や女共にどやされるな・・・」

 

「はぁ?はぁ・・・」

 

 グーグリアンが放った言葉に部下は理解できなかった。そんな中、もう一人の部下がグーグリアンに連絡に来る。

 

「グーグリアン隊長、6番隊隊長からの通信が入っております」

 

「ん?ローンの奴か。受話器を持ってこい!」

 

 報告を耳にしたグーグリアンは、部下に受話器を持ってくるよう伝えた。通信兵が持ってきた受話器を受け取り、耳に当てながら煙草を咥えた。

 

「ローンか。どうだ、何か出て来たか?」

 

『何も出ないさ・・・襲撃した軍の基地には軍人の一人も居ない、居るのは民兵や新興宗教の狂信者共だけだ。装備もコピー品や密造銃ばかり・・・なにかあるんじゃないのか?』

 

「あるに決まってるだろう、駐屯してるワルキューレの連中にもやらせているが、相手はいずれも兵隊もどきの民兵ばかりだ」

 

 煙草に火を付けて、煙を吸って吐いた後、向こう側の人物に告げた。

 

『そちらも民兵か狂信者相手だったのか?』

 

「そうだよ。永遠の命を貰って、それで姫様の護衛部隊に入ってから、最近はそんな連中の相手ばかりだ。もう軍人と傭兵と()りあったのは10年以上前のことだぞ。俺の兵隊共も手応えのある奴と戦えると喜んでいたが、今はすっかりダウンだ」

 

『俺の所でもだよ。ワルキューレに鞍替えでも・・・あ、それじゃあ姫様に殺されるな・・・では、こちらは引き続き掃討を続ける。そちらも頑張れよ、グーグリアン!』

 

「よし、俺の方でも敵が居なくなるまで掃討を続ける。あばよ、ローン」

 

 受話器を戻した後、短くなった煙草の火を灰皿で消し、立ち上がって指示を出した。

 次の日も中央大陸の反政府組織、武装勢力、テロ組織、極右組織の掃討が続けられた。今日はインペリウムの掃討戦のスペシャリストであるローデアン・ベビン・アーバクロンニーが指揮を取る。

 

「街全体が反政府勢力の拠点になってるな・・・こういう時の場合は爆撃が一番だ」

 

 司令部代わりにされている洋館の一室にて、目の前に広げられた中央大陸に示された街に指を差し、爆撃機の模型を反政府勢力の拠点とされる街の上に置く。

 

「閣下、市民も巻き沿いにするのですか?現地軍はおそらく反対すると思いますが・・・」

 

 副官の男が異を唱えるが、ローデアンは副官の顔を向いてフォールド王国の上に置かれた複数のワルキューレの人形に指を差す。

 

「何の為にワルキューレの部隊があれ程駐留していると思っている?」

 

「閣下は現地軍を戦力外と仰るので?」

 

「その通りだ、連中は今の今まで戦争など知らなかった連中だ。それに何時敵側に寝返るか分からん。皇帝陛下の中央大陸占領計画には苦労させられる。飲むか?」

 

 グラスにワインを注ぎながら副官からの問いに答えた後、副官にワインを進めた。副官もグラスを取って、ローデアンに注いで貰う。

 

「そう言えば、陛下の母であるヴァセレート様が、フォールド王国の女王と会談するのが決まったらしいです」

 

「ご苦労なことだ、わざわざ魔女の鍋の中に入るとは。そのフォールド王国の女王は平和主義者で反戦主義者だそうだな。馬鹿な女だ、完全平和国家など掲げおって。そんな国が存在したら今頃植民地だ。その女の配下の連中が我々の手駒として動いてくれるのは助かるがな」

 

「国民の大半は女王の軍廃止に賛成だそうです。一部の軍関係者や右派陣営から猛反発を受けてますが。うちの言いなりやマスコミが黙らせてます」

 

 それを聞いたローデアンは鼻で笑った後、地図に目を向けた。

 

「フッ、金を掴ませれば楽な物だ。政治の話はさておき、今は目の前にいる客人の脅威を排除すべきだ。爆撃機一個中隊をワルキューレから借りるぞ、機首はB-52だ、無ければB-17でもB-29でも構わん。直ぐに発進して、街の巣を張る蛆虫共の上から爆弾の雨を降らせろ」

 

「分かりました、直ちに掛からせます。まだ、反政府組織は残ってますが?」

 

「それに適した専門の部隊が居るだろう。彼等に排除を任せる」

 

「ハッ。では、失礼いたします」

 

 敬礼した副官は、命令書の作成の為に部屋を出て行った。

 数時間後、ローデアンの指令通り、近場にあるワルキューレの航空基地からB-29一個中隊分が護衛戦闘機を随伴して目標の街に向け出撃。55分後、爆撃隊は目標の街に到着。街中に隠されていた対空砲が上空へ向けて一斉に放たれたが、B-29と随伴戦闘機が射程圏外に飛んでいる為、無駄弾であった。

 彼等の頭上に何百物の爆弾がばらまかれ、街に拠点を築いていた反政府組織は反政府思想に染まっていた街の住民達ごと爆撃を受けた。

 次に11番護衛隊強襲部隊を含めた制圧部隊が空襲を受けたその街に突入し、抵抗する者は全て殺害し、生き残りの者達を一人残らず捕らえる。

 

「これで生き残りは全てです。軍人も元軍人、傭兵すら居りません」

 

 空襲の影響で、瓦礫や焼死体が溢れる広場に捕縛されて集められた民兵や敵性市民をこの作戦の指揮官であるローデアンに告げる士官。副官と共にヘリで現地へ赴いたローデアンは、その士官と共に辺りの参上を見ながら捕縛された捕虜に近付く。歩きながらローデアンは士官に問う。

 

「リーダーは捕らえて吐かせたか?」

 

「いえ、こいつ等も制圧した拠点で捕らえた者達と同じく知らないと申しております」

 

「シラを切ってるんじゃないのか?」

 

 一緒に来ていた副官が、報告する士官に話し掛けた。

 

「はぁ・・・魔術師も呼び寄せて、嘘をついているか調べましたが、どうやら本当のようです」

 

「本当なのか・・・反対勢力は使い捨てるほど戦力が余り余っているという訳か・・・」

 

 副官がその答えに驚いた後、ローデアンは一人の捕らえられていた女性に近付き、顎を掴んで女性の顔を見た。

 

「殺すには惜しい顔付きで、連れて行きたいが、後が怖い。捕虜を全員殺せ」

 

「は・・・?彼等をこの国の正規軍に押し付けるのでは?」

 

 ローデアンの命令に副官は疑問に思うが、彼は女性から離れて答える。

 

「折角連れてきた近衛兵の連中に弾薬を消費して貰わんとな。それに敵性市民には女子供も居る。これが私の優しさだ」

 

「あ、ハッ!直ちに掛からせます!近衛兵!!全員集まれぇ!!」

 

 その命令に副官は従い、周りに居た将校にマリの近衛兵達を集めてくるよう指示を出す。

 数分もしない内に黒い軍服に身を包んだ女性兵士がHKG41を持った広場に集まってきた。まだ残っている大きな建築物の壁に並べられた敵性市民や民兵達の前に一列で並んだ後、手に握る突撃銃の安全装置を外した。

 

「構え!」

 

 近衛兵の士官の怒号で銃口を市民や民兵等に向ける近衛兵達、引き金に指を掛け、将校の合図を待つ。

 

「撃て!」

 

 将校の指示で一斉に銃声が鳴り響き、並べられた者達が一斉に堅い道路に倒れた。

 

「よし、次だ。そこへ並べ!」

 

 装甲車の上に立つ将校の命令で、次に銃殺刑に並べられる人々が、処刑場に並べさせられた。その二日後、中央大陸の治安が回復し、マリ達が居る屋敷に報告が入った。

 

「報告です。中央大陸の安全は確保したと」

 

「そう。じゃあ、行く準備を・・・」

 

 メイドからの知らせで出かける準備をしようとするマリであったが、門が強引に開けられる音が耳に入り、そちらの方へ振り返る。

 

「あ、ヤリマン・・・!」

 

「シューベリア様ですか・・・?」

 

 庭の方を見てみると、大きめの鞄を持った帽子を被った桃色の髪を持つ女性が、その特徴的な大きい胸を揺らしながら玄関に向かっていることが分かった。

 門はやって来た門兵に締められ、その女性、シューベリアが玄関のドアを開けて屋敷に入る。マリは頭を抱えながら、シューベリアを迎えに行った。

 

「あ、マリちゃん。ただいま~!」

 

 階段から下りてきたマリを見るなりシューベリアはルリを抱き締めながら、彼女に視線を向けた。

 そのマリよりも大きな胸には抱き締められたルリの顔が押し付けられており、苦しそうだ。直ぐにマリはシューベリアからルリを取り返し、抱き抱えて彼女に視線を向ける。

 

「そんなに警戒すること無いじゃない、まだ誘っても居ないのに。なんだかごたごたしてるようだけど、何処かに出かけるの?」

 

「あんたみたいなド腐れビッチには関係ないの!」

 

「もう・・・ツンデレなんだから・・・昨日は少しヤリすぎたから、僕はもう休むね~」

 

 ルリを抱えながら警戒するマリに笑顔で答えた後、シューベリアは彼女等を避けて階段を上がった。マリにとって少々な危険人物が去った後、ルリを降ろした。

 

「絶対何十人の男とやってるわ・・・」

 

「魔族だから妊娠しないのが奇跡的だね」

 

 ルリが言った言葉は本当だ。シューベリアは魔族で、しかも魔王の娘なのである。

 その出会いは、マリがまだ人間だった頃で、魔王城突入時であり、彼女が勇者一向に犯されたいと生まれ付きある性癖で興奮して、自分の部屋で待っていた所、偶然にも同姓であるマリが部屋を訪れ、彼女に必死で願って寝屋を共にした。

 それ以降、しつこくマリについていき、人間を止めた後でも金魚の糞のようについてきた。途中でマリが他の女性と性行為をしている所を目撃し、構って貰いたくて男と性行為したが、彼女は相手にしなかった為、娼婦になった時もあった。

 たまにマリが相手されない時は、経験の無さそうな男女や修羅場を潜り抜けた者を探して、街に赴いて手当たり次第に誘惑している。

 

「あの腐れビッチが寝ている間に済ませるわよ」

 

「私は別に連れて行っても良いと思うけどな・・・」

 

「馬鹿、あんな奴連れてったら不味いことになるでしょうが!」

 

「え、そうなの?じゃ、着替えてくるね」

 

 そんなシューベリアに気付かれないように、マリとルリは出掛ける準備を速やかに進めた。




次はカオスになると思います。

なんか、主人公がアレだし・・・そう言う作品だからコメントも来ないから殆ど見てないんじゃ・・・

感想、お持ちしております。



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転落まで・・・

前回の更新は一ヶ月前・・・そして説明が多い回。

ネタバレ 「南斗人間砲弾!」


 出掛ける仕度を済ませたマリとルリはシューベリアに一切声を掛けず、数名の護衛を連れて屋敷を出た。

 その数名の護衛は腰に剣を差し、銃器の類など持ち合わせておらず、服装も古くて髪も長い。それはマリの直属の護衛騎士団である。

 この直属の騎士団の数は10、全てがユリの花の名前に由来し、構成員は全て女性に限定されている。騎士団創設は百合帝国創設と同じであり、古くからある伝統ある騎士団だ。

 主君であるマリを守る為に創設され、彼女が自ら戦場へ視察に向かった際には、その護衛に付いた。百合帝国が神聖百合帝国と改名すると、騎士団の数も増え、国軍と親衛隊の近代化の際には、直属の護衛部隊と共に戦車や戦闘機などの最新式の装備も支給され始めた。

 当初、前線には投入されず、ずっとマリの警護任務だけであったが、本土に敵が侵攻した際にはこの女騎士団も前線へ投入され始め、その多くが戦場で無惨に散った。

 神聖百合帝国解体の際には全ての騎士団が解散されたが、マリがルリと共に隠居生活を始めれば、人員を補充して再建され、同じく再建された護衛部隊や近衛兵と共に再び主君の護衛に就いた。

 無論、伝統に則って入隊条件は設立当初のままである。

 

「さぁ、行くわよ」

 

「うん」

 

 マリがルリの手を掴んだ後に問うと、彼女よりも背丈が20㎝程下の少女は笑顔で答えた。

 その忠実なる女騎士達を連れ、二人は門の前で待っている乗用車に乗り、フォールド王国行きの”便”が待つ空港へと赴いた。

 

 

 

 丁度その時、別世界では世界規模とは比べ物にならない程の事が起こった。一言で表すなら宇宙規模、否、超次元規模だろう。

 とある岩と砂だけの惑星の衛星軌道上にて、30隻以上の宇宙戦闘艦や輸送船が浮かび。輸送船や駆逐艦、巡洋艦、戦艦に搭載された無数の揚陸艦や上陸用舟艇、輸送機がその惑星へと降下していく。

 雪のように降り注ぐ無数の輸送機や上陸艇に無数のアラクニドバグズと呼ばれる巨大昆虫生物が眺めていた。

 ただ眺めている訳ではなくバグの中でも尤も大型なプラズマ・バグと呼ばれる体色が暗い青のバグが腹部からプラズマを放ち、長距離対空射撃を行うが、衛生軌道上にいる侵攻艦隊からミサイルの雨のお返しを受け、他のバグと共に吹き飛ばされる。

 この砂と岩の星に降り立った侵攻部隊は積んでいた未来的な装備の歩兵や未来的戦闘車両、重火器の等の荷を降ろし、迎撃に来た多数のグンタイアリのようなウォリアー・バグや飛行型のホッパー・バグと呼ばれるバグに攻撃を開始する。

 輸送機や上陸艇、揚陸艦が運んできたのは我々が良く知る通常兵器だけではない。二足歩行の人型ロボット兵器もこの戦場に投入されており、両手に握られた人間サイズなら機関砲レベルの小火器を、押し寄せてきたバグに向け、発砲する。

 

『AT隊並びMS(モビルスーツ)隊は前に出て、上陸地点を確保しろ!後続のスペースを空けるんだ!!』

 

 全長4(メートル)の人型ロボット兵器アーマードトルーパーに乗り込む、耐圧服と呼ばれるパイロットスーツを身に纏い、ゴーグルの付いた顔が見えないヘルメットを被ったパイロットが先程の指示に返答する。

 

「了解!第1中隊ならび第2中隊は俺に続け!他は左右を確保しろ!!」

 

『了解!!』

 

 無線からの部下達の返答を聞いた後、両手に握った左右のスティックと両足に踏んだ左右のペダルを動かし、指示された場所へと向かう。

 コクピット内には頭部のカメラを通じて映し出されるモニターは無く、ヘルメットに付いた専用ゴーグルが彼等の目であり、故に横や後ろからの攻撃に弱い。何故このような構造になったのかは、生存性を捨て、生産性を重視したからである。

 ちなみに侵攻軍が装備しているATはスコープドッグ、型式番号はATM-09-ST、カラーリングは緑、ポリマーリンゲル液と呼ばれる液体燃料で稼働する。

 元は侵攻軍の世界ではない別世界のギルガメス軍の主力ATなのだが、これについての理由は後程。

 大多数の様々な兵装を施したAT部隊はそれぞれ指示された位置へ移動し、地上で一直線に襲い掛かったり、飛びながら襲うバグにGAT-22ヘビィマシンガンと呼ばれる人間なら機関砲クラスの機関銃を向け、連発で撃つ。機関砲クラスの攻撃を受けたバグは次々とバラバラになっていく。

 惑星に降り立った人型ロボット兵器はATだけではない。モビルスーツと呼ばれる16mや18mの人型ロボット兵器がこの星に踏み入れ、バグを掃討していた。

 このMSが持つビームライフルやバズーカはかなり強力であり、複数のバグが纏めて吹き飛ばされる。背中にバックパックと呼ばれるジェットパックを基準的に装備されており、一定時間の間飛び回ることが出来る。

 16mのドートレス、特徴的な三つ目の頭部以外特に特徴はない量産型MS、手に持つビームライフルはかなり強力、主な稼働エネルギーは原子力。名前の由来は第二次世界大戦時の米海軍の急降下爆撃機ドートレスから取っている。これも元は別世界の新連邦と呼ばれる主力機である。

 18mはストライクダガー、頭部左側に75㎜対空自動バルカンを武装し、右の直接機体背部にビームサーベルと呼ばれる筒を一本設置し、対ビームシールドを左手に持ち、右手には57㎜ビームライフルを持っている。この機体は地球連合軍の主力機であり、ドートレスとは別世界のMSであり、電力稼働で動いている。

 強力な巨人兵器達は、その圧倒的な火力でバグを駆逐する。時には足で踏み潰す物も居たが、これは後程整備兵達に文句を言われるだろう。

 だが、ATやMSばかりではない。

 ゾイドと呼ばれる動物型兵器もこの戦場に投入されていた。元は惑星Zi(ズィー)と呼ばれる地球と環境が大体同じの星に住む金属生命体だが、そこに住む人間の手によって文明が発達されると、生体兵器として改造された。

 地球から漂着した移民船によって文明はさらに発達し、ミサイル等の近代な武装が施されるようになり、ビーム砲まで武装に入り始める。やはり惑星Ziの人間も互いに戦う本能もあり、その際にはヘリック共和国とゼネバス帝国に別れ、互いに争った。

 戦争が長引くにつれて、双方とも新ゾイドの開発が乱立し、その度に古いゾイドが後方に追いやられたり退役して行く。

 復活させられたゾイドもあったが、戦略的価値がないと判断すると、復活計画も容赦なく斬り捨てられた。ゾイドの主なエネルギーは、レッゲルと呼ばれるゲル状の液体燃料だが、厳密なエネルギーは一切不明。侵攻軍が投入しているゾイドは全て共和国製の物で、以下の種類の共和国ゾイドが投入されている。

 サソリ型小型ゾイドガイザック、クワガタ型小型ゾイドダブルソーダ、翼竜型小型ゾイドプテラス(ボマー仕様やレドーム仕様)、ヘビ型小型ゾイドステルスバイパー、オオカミ型中型ゾイドコマンドウルフ(火力と速度が強化されたアタックカスタム仕様)、アロサウルス型中型ゾイドアロザウラー、ステゴサウルス型中型ゾイドゴルヘックス、同じステゴザウルス型で巨大ゾイドのゴルドス(ロングレンジバスターキャノン仕様)。

 これらの強力な兵器を投入したことにより、侵攻軍は着々とバグをこの惑星から駆逐していく。そんな機動兵器や生体兵器の活躍を新兵らしい歩兵は、その圧倒的な強さにあ然していた。

 

「こ、これなら。俺達歩兵が居なくても大丈夫じゃないのか・・・?」

 

「馬鹿野郎、そんな訳ねぇだろう。デカイのが入れねぇ所は俺達が担当するんだよ」

 

 近くにいた下士官がその新兵の肩を叩き、そう告げてから部隊員に活を入れていく。新兵はその光景を見ながら、自分らに与えられた命令遂行の為、自分の隊に加わった。

 上空には多数の攻撃機や爆撃機が飛び、バグを見付け次第掃討に当たっている。侵攻から一日経過すると、この惑星には殆どバグは残ってはおらず、ただ侵攻軍が設置されたと思われる前哨基地や補給拠点があるだけだ。

 侵攻から二日目、完全にバグの掃討に成功し、ここに本格的な基地を作り上げ、やって来た交代の部隊に明け渡して侵攻部隊は帰還ポイントに向かった。

 この侵攻軍の正体は地球統合連邦、別々の歴史を歩んできた並行世界が大時空震動で融合し、出来てしまった多元世界に創られた地球連邦政府。科学力が進歩した世界や宇宙規模の世界も融合しており、技術力もさらに高まっており、戦力や物資、兵員等も比べ物にならないくらいの物となっている。

 統合連邦の対抗勢力は惑星同盟。この勢力もそれぞれの歴史を歩んできた並行世界が大時空震動で融合し、多元世界となってしまった。

 惑星同盟の傘下には各統合連邦の参加勢力の対抗勢力も入っており、その戦力差は的である連邦と少しは埋まりつつある。構成人員は人間ばかりではなく、宇宙人、異星人、昆虫も含まれる。装備や兵站分ではやや下回っているが、異星人や昆虫の資源、科学面では勝っている。

 こうした二つの巨大勢力の戦争が別世界や別の銀河系まで戦火を広げており、これに抵抗して立ち上がる抵抗組織も居たが、双方の強大な軍事力の前では蚊が刺した程度であり、いとも簡単に捻り潰された。

 この二つの巨大勢力に対抗できるのは連邦と同盟とそれ以上の戦力を持つ戦乙女の名を持つワルキューレ。

 200以上の管理世界を持ち、豊富な資源を持つが、時空管理局。

 戦火を悪戯に広げる二つの巨大勢力を止める為、数々の並行世界や多元世界のバランスを保つ秩序神に創られ、ギリシャ神話の全知全能の存在である主神であるゼウスの名を取った戦士達の集まりZEUS。

 そのZEUSの戦士達は、生前英雄と呼ばれた者や影なる英雄(ヒーロー)達の集まりであり、少しクセのある英雄も居るが、それでも二大勢力を食い止められる。他にも百合帝国残党や様々な勢力が各世界や銀河系に居るが、二大勢力を止められない。

 そして、その勢力図に神聖百合帝国によって滅ぼされた古(いにしえ)の大帝国が加わる。

 

 

 

 数時間後、マリとルリの一行を乗せたV-22オスプレイは、フォールド王国の空軍基地に降り立った。

 彼女達を出迎えるのは先にこの地へ来ていた近衛兵師団や護衛17番隊、直属の騎士団。それぞれの兵科で並び、二人のフォールドへの入国を歓迎した。

 

「ヴァセレート嬢にカポディストリアス嬢、フォールド王国にようこそ」

 

 マリ直属の騎士団の総長である赤橙色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ白色のマントを羽織った女性ディートリント・フォン・バウマイスター総長が近付き、二人を歓迎の言葉を贈る。

 マリはその歓迎を無言で頷いて受け取った後、待合室がある空港本館に向かう。向かう最中にディートリントはある程度のことをマリに報告する。

 

「大方フォールド国内及び周辺の反政府勢力は片付けておきました。それと手当たり次第中央大陸に居る反政府組織や反体制派は残らず始末しましたが、離反軍は見当たりませんでした。おそらくは中央大陸を離れて南大陸にて大規模な反乱に備えていることでしょう」

 

「へぇ、そう。取り敢えずは汚れないわね」

 

 ディートリントからの報告を聞いていたマリはそう返事をし、先に本館の中へ入った。

 本館の警備も騎士や護衛隊の兵士で固められており、フォールド国防軍の兵士、空港の警備員、乗客一人すら居ない状況だ。空港内に入った後も、ディートリントは報告を続けた。

 

「フォウドヴィッスにも幾つか部隊や騎士団も駐屯させており、国軍も総動員させて警備は万端です。さらにワルキューレから30個師団程借りましたので、大規模な敵部隊が攻めてきても問題ないかと」

 

「じゃあ、汚れずに済むってわけね?」

 

「そうなります」

 

「良かった。このお洋服買ったばかりだから、汚れちゃったらまた買いに行かないと」

 

「貴女の着ているお洋服が汚れなくて私もホッとしております」

 

 ルリが自分の着ている洋服を見ながら言った後、ディートリントは笑顔で答えた。空港内を出たマリとルリは外で待機していた乗用車に乗り込み、フォールド王国の首都フォウドヴィッスへ向かった。

 この一部始終を空港の近くにある森で見ていた男は何かの契機を見てから、近くに置いてあった通信機に向かい、そのアンテナを伸ばし、前に座って通信相手に報告を行った。

 

「こちらヴァーモット2、こちらヴァーモット2。スカイア1へ、聖女が古の地へ降り立った。繰り返す、聖女が古の地へ降り立った!」

 

 暫くして雑音が混じった通信が返ってくる。

 

『こちらはスカイア1,それは真か?それと傍受されていないだろうな?』

 

「はい。ちゃんと確認してから報告しました。この森にも(トラップ)は一切見当たりません」

 

『そうか。では、我が主に報告する。ヴァーモット2は急いでゴボット1へ報告するのだ』

 

「分かりました!直ちに掛かります」

 

 ヴァーモット2というコールサインを持つ男は通信機を直した後、それを背負って報告に向かった。

 

 

 

 

 一方、マリ達が居る世界の宇宙にて、組織の作戦移動本部とされる巨大な宇宙戦艦にて、その報告を受けた通信兵は近場にいた情報士官に報告した。

 

「なに?早くそれをよこせ!」

 

 通信兵から契機から出て来た報告書を受け取った後、急いで作戦本部にいる指揮官の下へ急いだ。

 

「閣下!閣下!!」

 

 参謀達と机に映し出された立体映像を見ていた鮮やかな紫色の長髪を持つ男リガンの前に立ち、情報士官は報告書を見せた。

 

「なんだ?」

 

「いよいよ待ちに待った時が来ました!これを!」

 

 それを手に取ったリガンは勝ち誇った笑みを浮かべ、指示を飛ばした。

 

「フハハハ、遂に来たぞ。憎き女帝、打倒の時なり!現地部隊に待機命令!全攻撃部隊転移装置へ移動し、待機!衛生軌道上攻撃部隊は全隊発進準備!合図を待て!私も攻撃部隊に加わる!」

 

 指示を飛ばし終えたリガンは再び笑みを浮かべ、遠くにあるマリ達が居る地球に似た惑星を掴み取った後、口を開いた。

 

「覚悟せよ、遂に貴様の最期の時が来たのだ。貴様等に敗れ去った我が古の帝国が貴様等を倒す!」

 

 こうしてマリはとうの昔に滅ぼしたムガル帝国に襲われるとは夢に思わず、自分にとって最悪の惨事でなるフォールド王国首都フォウドヴィッスに知らずに向かったのだった。

 丁度その時、フォウドヴィッスに到着。首都に住む人々は軍の異常とも呼べる警備に震え、マリ達が乗る乗用車の前に歩兵戦闘車を殿にして走る車列を見ようと集まる。

 車線に入れないよう柵を配置し、そこに警官や兵士まで配置して更なる警戒を行う。

 

「うぉ!すっげー美人が乗ってるじゃねぇか!しかも金髪巨乳の!」

 

「隣座ってるブロンドの髪の()、とっても可愛いわ!」

 

 周りでこの車列を見ている観衆からマリとルリの容姿は格好の的になり、騒がれた。

 それを静めようと警官が静止の声を上げるが、観衆は全く聞かず、よりいっそう騒がしくなるだけだった。その光景をマリとルリは見ていたが、彼女等の移動中の退屈凌ぎ程度にはなった。

 車列は外からでも十分に見える城へ到着し、戦闘車両だけは城の外で待機して、マリとルリが乗る乗用車と騎士団だけが城の中へ入っていく。この城は神聖百合帝国の占領軍が駐留していた頃に建てられた城であり、この中央大陸、否、世界を完全に百合帝国の支配下とした象徴であった。

 ここで総統であるクレメンティーネが女帝であるマリの許可を取らずして、ワルキューレと接触し、直属の部隊ごと軍門に入った場所である。

 今ではフォールド王国の行政と象徴として使われているが、突然の裏切りを受けてワルキューレから様々な屈辱を受けたマリに取っては余り良い気分ではないが、今の彼女は対したことはない。

 中庭に入った後、マリとルリは乗用車から降り、複数の騎士と共に城内へと入っていった。

 

「中は視察当時のまんまか・・・ちょっと改装してる場所もあるけど、エレベーターもエスカレーターもないのね」

 

 マリが城内を見回せて、口を開いた。それなりに近代化はされているが、エレベーターやエスカレーターなど設置されていない。

 玉座の間に行くには階段を上らなくてはいけないようだ。これを見たルリは少し溜め息を付いたが、我慢して上ることにする。

 数十分掛けて階段で上がり、ようやく玉座の間へ到着した。そこへ一人の年輩の女性が二人を出迎える。

 

「ようこそ、ヴァセレート嬢にカポディストリアス嬢。階段はさぞや辛かったことでしょう。少し遠いですが、バルコニーの席へ・・・」

 

 その女性の名はモルコッチ・ローカスト、貧困層からフォールド王国の女王まで上り詰めた才女である。二人が席に着くと、近場にいた執事に飲み物を持ってくるよう指示を出した。

 

「何か飲み物を。ルリちゃん、大丈夫だった?何か飲む物を持ってこさせるから、少し我慢してね」

 

「うん」

 

 そう聞くモルコッチにルリは頷いた。隣に座るマリは足を組み、外の景色を眺めた。

 2分すると執事がトレイに載せた水が入った容器を持って来て、机の上に置き、置かれていたコップを持ち上げ、水を注いだ。先に疲れた顔をしているルリのコップに水を注ぎ、それを丁寧に彼女の前に置き、マリのコップにも水を注ぎ始める。

 何故かモルコッチは席に座らず、ずっと立ったままだ。

 

「座らないの?」

 

「いえ。貴女に階段を上らせたから・・・それにまだまだ現役よ。いつまでも若いままの貴女達には負けないわ」

 

 マリの問いにそう答えた後、モルコッチは執事に紅茶を持ってくるよう指示を出す。執事が紅茶の入ったティーカップを持って、それをマリとルリの前に置いた。

 

「ご苦労。下がって良いわ」

 

「御意に」

 

 モルコッチが下がるように指示した後、執事は部屋から去った。玉座の間から出て来た執事にある青年が訪ねた。

 

「どうだ、あの二人は警戒している様子だったか?」

 

「これはガロン様。お二方は全く警戒しておりません」

 

 ガロンと呼ばれた青年は、小さく笑った。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、何でもない。戦闘が起きた時は地下へ急げ」

 

「かしこまりました。有事の際は地下へ急ぎます」

 

 執事がそう答えて去った後、ガロンは玉座の間を見ながら口を開いた。

 

「”スーリア・ガロン”としての人生は今日で終わりか・・・明日からは”サベーヌ・ジギム・ペン・ムガル”として、元の生活に戻れる。もう戦闘準備がされている頃かな?義父殿に合図でも出してくるか。さようなら、モルコッチ・ローカスト初代国王・・・」

 

 サベーヌは笑みを浮かべながら、モルコッチに別れを告げ、玉座の間から去っていった。このことはマリ達には聞こえていない。マリは紅茶を一口飲んだ後、モルコッチに何故自分を呼んだのかを聞いた。

 

「手紙で読んである程度分かってるけど、そこまで相談することって何?」

 

「それね。今から話すわ・・・私から玉座を奪い取ろうとする輩や軍によるクーデターの話は手紙で分かるでしょう?ちゃんと軍の再就職場所は決めてるんだけど、その職場が断るのよ。人殺しは内の職場には入れさせないとか言って。クーデターの方は完全平和国家実現の反対派だわ。この国の軍備を大幅増強させ、100年以上前に存在していたムガル帝国の意志を継ぎ、中央大陸を統一し、行く行くは世界制覇を果たそうと考えてるわ。中央大陸周辺ではその古来のムガル帝国の偉業に影響されて、一部の軍の高官達が反乱軍を結成して、平和維持に来たクールラント連邦軍を襲ってるの」

 

「あんな帝国の何処が良いのか・・・」

 

 机に肘を付きながら聞いていたマリはかつて滅ぼしたムガル帝国の酷さを思い出し、悪態付いた。

ルコッチは景色を眺めながら続ける。

 

「ムガル教まで現れてさらに大変よ。おまけに駐留軍や現政権に対して不満を持つ人々が武装勢力まで作って、中央大陸反体制派軍に荷担し始めたの。貴女の私兵の御陰でこの中央大陸は静かになったけど、その中には軍の反乱軍が一人も居なかったそうね?これは何かあるわ・・・」

 

「何かあるね・・・私は無い方が良いんだけど」

 

「私もー」

 

 話を退屈そうに聞いていたマリがそう答えると、ルリはケーキを食べながら答えた。

 

「何もないことを祈るわ。このまま血が流れずに済めばいいけど・・・」

 

 景色を眺めていたモルコッチが言った瞬間、砲声が連続して聞こえた。

 

「へぇ、なに?」

 

「おかしいわね・・・今日は演習なんて予定はないはず・・・」

 

 紅茶を飲もうとしていたルリが砲声に驚いて声を出すと、モルコッチは少し動揺していた。マリはため息を付き、紅茶を飲み干すと、このバルコニーから見える場所から能力を使って”敵”を発見した。

 

「やっぱり誤射じゃなくて、敵だったようね・・・撃ってるのは砲弾じゃなくて、人間だけど」

 

「サーカス団ですか?」

 

「フフフ、違うわよ。雑魚キャラを打ち上げているのよ」

 

 ルリの抜けた問いにマリは上品に笑ってから、彼女に双眼鏡を渡した。

 

「あっ、本当に人間を打ち上げてる!」

 

「そんな馬鹿な事・・・」

 

 モルコッチは信じていないが、髪型がモヒカンで肩パットを着けた体格の良い男達がこちらへ向けて飛んでくる。また連続した砲声が響き渡り、再び人間が空高く打ち上げられ、城に向かって飛んできた。

 砲撃陣地に視点を移してみると、刀剣を携えた屈強な男達が大砲につまれ、目標に向けて発射されている。

 一見マヌケなように見えるが、正確な計算の元で発射を行う為、人間の死角である頭上からの攻撃を可能とする。

 南斗聖拳一〇八派に属する拳法の一つなのだが、これは拳法とは言えない。ガレッキーとその配下の軍が勝手に呼んでいるだけである。

 

「南斗人間砲弾!ドンドンぶっ放せ!!先兵は俺達だ!先に手柄を挙げられるぞぉー!!」

 

 青い髪を持つマスクを付けた男、この部隊の長であるガレッキーが、配下の兵達の士気を上げる為に、砲声に負けないぐらい叫ぶ。砲弾が発射される度に屈強な男達が空高く打ち上げられ、次々と城に向かってくる。

 

「ヒャッハー!俺達が一番乗りだぜー!!」

 

「に、人間が、空から飛んできてるぞー!?」

 

 無数の屈強な男達が城に向かって飛んできた為、城を警備していた兵士達はどうして良いか分からず、ただ動揺しているだけだった。

 一人が屈強な男達が持っていた刀剣で斬り殺されると、空かさず兵士達は手に持つM16A1やAKMの安全装置を外して迎撃を開始した。何人かが銃弾のまでで倒れたが、次々と敵はやって来て、城の兵士達は次々と斬り殺されていく。

攻撃は城だけでは無かった。

 慌ただしい軍司令部内にて将官が受話器を取って、報告を聞いていた。

 

「なに、城が攻撃されているだと!?敵は何だ?言え!」

 

『大多数のモヒカンで肩パットを着けた屈強な男達が空から降ってきて、襲ってきております!至急増援を願います!』

 

「寝言を言うな!人間が空から降ってくるなど・・・」

 

 将官が言い終える前に新たな報告が入った。

 

「大将!フォウドヴィッスを包囲する形で暴走族の大軍が出現!射撃許可を直ぐに求むこと!」

 

「一体何が起こっているというのだ・・・!?」

 

 それを聞き終えた大将は呆然としていた。フォウドヴィッス郊外では改造車両の大群が軍の守備隊に向けて突っ込んできた。

 

『止まれぇー!!止まらんと撃つぞー!!』

 

 拡声器で警告するが、エンジン音とラッパを吹かせながら突撃してくるだけであり、全く軍の静止など聞いてない。それらの改造車両に乗っているのは空中から城に張り付いてきた屈強な男達と同じ者達だ。

 

「射撃許可が出ました!」

 

「よーし、全部隊、発砲開始!捕虜など気にするな!撃ちまくれ!!」

 

 部下から発砲許可の知らせを聞いた指揮官は、配下の部隊全てに攻撃を命じた。指揮下の歩兵部隊が持つ小火器の一斉射撃が始まり、戦闘車両部隊や戦闘ヘリ部隊の強力な攻撃も始まる。

 重火器などの攻撃も始まり、真っ直ぐ突っ込んでくる暴走族の大群は蹴散らされ始めた。全滅できるかと思ったが、戦闘ヘリが何かに破壊された。

 

「な、なんだ!?うわぁぁぁぁ!!」

 

 指揮官は今起こっていることを知ることなく死んでしまった。上空にはライフルらしき物を持った10mの人型の戦闘兵器が飛んでおり、それが戦闘ヘリを破壊した正体だった。

 その人型の戦闘兵器は複数上空に飛んでおり、迎撃に来た戦闘機を次々と破壊し、攻撃を圧倒的な機動で回避する。

 この戦闘兵器の名はSPT。地球より遙かに優れた科学力を持つ惑星グラドスで開発された人型ロボット、頭部にコクピットがある外見が特徴的、有視界戦闘も可能である。

 異星の調査や開発用に作られた装甲強化服がさらに発展した兵器で、その自由ゆえ用途を選ばない高い汎用性を持つ。単独で大気圏突入が可能であり、その後も何の支障も無しに戦闘が継続が可能であると言う強靱・推力・機動性を併せ持っている。

 宇宙空間でのSPTの機動力は圧倒的で、強靱な装甲すら兼ね備えており、無敵とも呼べるが、それは乗り手次第である。

 状況に応じてバックパックの換装で特定の性能を特化する装備の変換可能、動力源は燃料電池。操縦管制は統合型コンピューターによって行われ、高性能センサーと状況分析能力を有しており、音声での状況伝達から注意、戦術の提案まで行う。音声による操作も可能で、初心者でも完全にSPTを動かす事が出来る。

 今飛んでいるのは型はSPT-BV-15Cブレイバー。

 一般兵士用量産型SPTで特に対した性能はないが、安定性が高く、グラドスより科学力の低い兵器を圧倒できる性能を持つ、全高は9.61m。ちなみにSPTの略称はスーパー・パワード・トレーサーである。

 他にもMF(マルチ・フォーム)と呼ばれる可変型の機体であるMF-SL-52Cソロムコも多数投入されており、フォールド王国の首都守備隊を圧倒している。

 この光景は中央大陸各地で行われており、同時に正規軍から離反していた反乱軍の大攻勢まで行われ、中央大陸各国家はさらなる混乱を極めていた。各地で銃声や悲鳴、爆破音が聞こえるこの状況に対してマリはこちらのバルコニーへ飛んできた多数の屈強な男達を霧払いでもするかのように手を振った。

 

「なにやってんだ?あの女!」

 

「知るか!いい女じゃねぇか!生かしとけよ!!」

 

 何をされたのか分からない男達であったが、その数秒後、男達は人体がバラバラになり、城壁に男達の身体の一部がぶつかり、赤く染めた。返り血を浴びたマリは自分の着ていたドレスを見て、ため息をついた。

 

「はぁ・・・何処の馬鹿だか知らないけど、襲われた以上、全部片付けないとね」

 

「うん。また何か恨みでも買った?」

 

「知らないわよ。人間を大砲で飛ばしてくる奴なんて、さぁ、早く終わらせてティータイムにしましょう」

 

「うん、分かった」

 

 モルコッチは驚きを隠せず、声を失っていたが、マリとルリは慣れているらしく、どこからとも無く銃や刀剣などの武器を取り出すと、次々と向かってくる男達の迎撃を開始した。

 

「久し振りの殺戮ショーね・・・!」

 

 マリは子供のような無邪気な笑顔でそれを口にした後、左手で自動拳銃SIGP228を自分に目掛けて飛んできた斧で斬り掛かってきた男に向けて発砲した。




誤字脱字があれば、感想にて。


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死屍累々

ちょっと、色々とカオス過ぎるので、書き換えました。


 謎の勢力と反体制勢力による襲撃は、フォールド王国を始めとした各中央国家群だけではなかった。地球によく似たこの星の衛星軌道上に展開する宇宙駆逐艦や巡洋艦、戦艦、揚陸艦、空母等を始めとした五十隻以上の艦隊に謎の勢力の機動兵器部隊が襲い掛かる。

 

「レーダーに反応!所属不明、アンノウン多数!」

 

「アンノウンが多数?一体何処の馬鹿かしら?」

 

 全長120m代の駆逐艦のブリッジ内にて、レーダー手が艦長に報告する。それを聞いた艦長はレーダーの方角から大多数のアンノウンが来る方向をガラス越しに見た。通信員に旗艦である全長420mの強襲機動特務艦アークエンジェル級に報告する。このアークエンジェル級は別世界の軍艦であり、開発元の許可も取らず、ワルキューレが勝手に複数建造して制式採用した軍艦だ。ちなみに艦隊の構成員は全て女性である。

 それに制式採用された機動兵器の種類の一つとして、戦闘機状態のファイター、鳥人間状態のガウォーク、人型形態のバトロイドの三種類に変形する可変戦闘機バルキリーがある。これは別世界の裏取引で入手した名ばかりの戦闘機だ。

 

「提督、第4戦隊の駆逐艦アレストから、アンノウン多数との報告が」

 

「そう・・・下界の中央大陸から謎の勢力と反体制派勢力との交戦と繋がっているのかしら?アレストは威嚇射撃。相手が応じないなら即座に攻撃しなさい。他は警戒態勢。それと空母と揚陸艦は搭載している機体をある程度出せと」

 

 報告を受けた旗艦のブリッジ内で、提督が耳にして指示を出す。

 

「了解しました。旗艦より全艦に通達、警戒態勢を取れ。アレストは威嚇射撃、威嚇射撃に応じない場合、攻撃せよ。空母並び揚陸艦は搭載機を発進させ、戦闘に備えよ」

 

 これに応じた通信員は艦隊の各艦艇に提督の命令を打電する。この指示を受けた各艦艇は警戒態勢に入り、武装の安全装置解除が行われ、先程旗艦に報告した駆逐艦は威嚇射撃に入る。

 その間に1200m級の空母や500m級の揚陸艦から様々な種類の機動兵器が射出口のカタパルトから発進していく。50機ほど出たところで、発進は打ち切られた。威嚇射撃を行った駆逐艦であったが、相手はそれに動じず突っ込んでくる。

 

「命中弾、避けられた模様!」

 

「熱源、大きいです!これは・・・18mクラスの機動兵器!?」

 

「何ですって!?第一戦闘配置!!」

 

 レーダー手が向かってくる大多数のアンノウンが機動兵器であることに気付き、その報告を受けた艦長は迎撃態勢を取るよう指示を出す。向かってきたアンノウンは現在中央大陸全土を襲っている謎の勢力と同じ機体であるSPTやMF、それに様々なMSや機動兵器まであった。

 

「機種、どれもこれもバラバラです!」

 

「バラバラって・・・どういう事!?通信員、全艦に報告。敵は国籍不明の武装勢力!」

 

「はい!国籍不明の大規模な武装勢力!繰り返す!国籍不明の大規模な武装勢力・・・」

 

 通信士が各艦艇へ伝えている間、ブルグレンと呼ばれる型のSPTに接近を許し、ブリッジを破壊された。このSPTに乗る操縦者(パイロット)は残忍極まりない性格の持ち主であり、ブリッジを破壊された駆逐艦を何度も攻撃し、脱出した小型艇に攻撃し始めた。

 

「生き返ってからの人殺しだぜ!それにこんなに獲物は五万といるしなァ!ヌハハハ!!」

 

 コクピット内で不気味な笑い声を上げながら、向かってきた3機の艦載戦闘機や搭載MSのM1アストレイを纏めて撃墜する。数機のジムⅡやVF-11Cサンダーボルトが向かってきたが、ブルグレンのレーザーライフルで次々と撃墜されていく。

 

『ゴステロ!俺の分も残しておけよ!!』

 

「ヘッ、早い者勝ちよ!クズクズしてると、俺が皆殺しにしちまうぜ!!」

 

 ゴステロと呼ばれる目が狂った凶漢は、友軍機からの通信にそう答えた後、対空砲などで弾幕を張る巡洋艦に突撃した。

 次にアルケーガンダムと呼ばれる擬似太陽光が動力源のアンバランスなMSが、手に持った強大な剣のGNバスターソードⅡで、迎撃機を連続で斬り捨てながら、対空弾幕を張る駆逐艦を切り裂いた後、GNファングと呼ばれるビームを放つ遠隔操作可能な10基の無線誘導端末で、ジムⅢや可変系MSのZプラスやムラサメ、バルキリーのVF-11C、VF-117ナトメアを始めとした数機の迎撃機を撃破する。

 こうした腕を持つ操縦者達の手によって次々と、艦隊の艦載機は撃破されていき、艦艇も次々と沈んでいく。中央大陸各地でも謎の勢力による大進撃が始まっていた。

 

 

 

 地上では多大なミサイルポッドや超重粒子ビーム、火炎放射器を搭載した重武装のMFガンステイドが列をなして進み、それに先行するかのように地上専用SPTドトール、高性能ATツヴァーク、エルドスピーネ、オーデルバックラーが前を進む。上空にはソロコム、コウモリ型ゾイドザバット、ドダイ改やベースジャンバーに乗ったドムの流れを組むMSドライセン、ガルスJやK、可変契機ガ・ゾウム、空中専用MSエリアーズが、他の輸送機と共に空を埋め尽くすほど飛んでいる。

 一方のフォウドヴィッスは、謎の勢力の先遣隊との交戦でフォールド国防軍守備隊はほぼ壊滅。戦っているのは事実上マリの護衛部隊や騎士団を始めとした私兵達とワルキューレの駐屯部隊だけであった。

 

「クソッ、国防軍の連中は何処へ消えた!?戦っているのは俺達だけか!」

 

 左腕の袖に5の記章を付けた迷彩服を着た兵士が、SG550という高価なスイスのアサルトライフルで応戦していた。他の兵士にも左腕の袖に5の記章が見られる事から、マリの5番目の護衛部隊所属であろう。

 彼等が撃っているのは粗末な小火器などで彼等マリの護衛部隊と戦っているようだが、経験と装備の差で一方的にやられまくっている。しかし、数の上では勝っているので、次から次へと5番隊の兵士達に襲い掛かる。

 敵の機動兵器群が通報兵器しか持たぬ彼等を圧倒する中、こちらも機動兵器で対抗するべく、また異世界から入手した戦術歩行戦闘機、通称戦術機と旧型のバルキリーVF-1Aを含む多数を迎撃へと向かわせた。ワルキューレの機動兵器群が急行する中、同等の相手が居ないことを良いことに、ザクが手に握る機関砲サイズの120㎜ザクマシンガンで次々と抵抗する者達を肉片へと変えていく。

 

「ハッハッハッ!相手にMSかそれと同等の奴が居ないんじゃ話にならないぜ!」

 

 そのザクⅡF型に乗り込むパイロットはザクマシンガンの弾丸に当たって肉片へと変わる敵歩兵をディスプレイ越しで見ながら興奮していた。だが、その楽しみの時間は直ぐに終わる。

 

『気を付けろ、サベン!連中は何処から襲ってくるか分からないぞ!』

 

 頭にレーダー範囲向上のアンテナを付けたザクⅡS型に乗る隊長からの注意にザクⅡF型のパイロットはいい加減に答えた。

 

「大丈夫ですよ!ここいらの敵の機動兵器部隊は周囲の友軍部隊が止めてますから!」

 

 それがこの男が上官に対しての最後の返事だった。男は調子に乗って、まだ生きているワルキューレの女性徴用兵を掴み、握り潰そうとする。

 

「フッヘッヘッ、こうやって握り潰すってどう痛いかな~?」

 

 これが最期の言葉とは男は分かってはいない。

 マリが突如と無く彼が乗るザクの目の前に現れ、彼が反応する間もなくザクを鉄くずの山と変えてしまった。

 その頃、城内では地下から侵入してきたフォールド国防軍の離反軍の兵士達で溢れていた。城内にいた女王を守る近衛兵達は壊滅状態であり、戦っているのはマリとルリに付き添って城に入ってきた忠実なる戦闘メイドを含めた兵士達だけである。戦闘メイドと騎士達が持つ武器は剣や槍、斧、ハンマー等と言った中世を代表するような接近専用の武器ばかりだ。流石に近衛兵は突撃銃や短機関銃だが、ハルバートを持っている物まで居る。

 

「なんだ、この女共。武装が殆ど原始的だぞ?」

 

「構う物か、連中の御陰で容易に革命が起こせるんだ。突破しろ!」

 

 離反軍の兵士達は、立ち向かってくる原始的な武器を持つ集団に手に持つAEK-971の銃口を向けた。しかし、その前に先遣隊である屈強な男達が射線の前に出て来る。

 

「ヒャッハー!女だぜ!しかも全部!!」

 

「全員美人だ!なるべく生かしておけ!!」

 

「クソッ!射線上の邪魔だ!!」

 

 照準器に映ったモヒカンの男達に注意する離反軍の兵士達であったが、その無法者達は目の前にいる殺気を放つ美女達に下品な笑い声を上げながら突っ込む。何名かが近衛兵達が持つSG550、HKG41、UMP45、FNP90で撃ち殺されるが、数が多いので中々減らなかったが、全く問題なかった。飛び掛かった男達が槍で突き刺され、剣やハルバート、バルディッシュで斬り殺されていく。

 

「はなべ!」

 

 目元を斬られた男は奇妙な断末魔を上げ、床に倒れた。男を斬った騎士はそのまま離反軍の兵士達に立ち向かった。

 

「奴らに白兵戦を挑むな!斬られる前に、グワッ!」

 

 指示を出そうとした下士官を戦闘メイドがモーニングスターで撲殺した。左右からハルバートやバルディッシュ、グレイブ、鎌、その他諸々の武器を持ったメイド達が襲ってくる。

 

「包囲された!グェ!」

 

「騎士に接近された!メイドにも・・・!オワァ!!」

 

 接近された離反軍の兵士達はナイフや銃剣を抜いて彼女等と戦おうとするが、接近戦に強い彼女等には適うはずもなく、次々と斬り殺される。辺りは離反軍の兵士達の血で染まり、彼等の無惨な形の死体が周囲に転がっていた。

 

「うわぁ・・・あぁ・・・この化け物め・・・!」

 

 一人の右腕と両足を切断された兵士が、床に落ちていたPMマカロフ自動拳銃に手を出そうとしたが、気付かれたメイドに腹を思いっ切り切り裂かれて絶命した。ザクをスクラップにして戻ったマリと、城内にいたルリはと言うと、城に飛んできた男達の大半を全滅させていた。

 

「ふぅ・・・大方片付いたわね。そっちは?」

 

 元の形が想像できないほどバラバラになった男の死体を見ながら、返り血を浴びたマリはルリの居る方向に視線を向け、「片付いたのか」と問う。

 

「こっちも終わったよ。ちょっとお洋服が汚れちゃったけど」

 

 答えた後、自分の着ていた衣服が汚れている事をアピールする。

 

「もう・・・こいつ等空気を読むことは脳内に無いのかしら?」

 

「た、頼む・・・こ、殺さないでクベラ!」

 

 そう言いながらマリはまだ息のあるモヒカンの男を踏み殺した。城へ兵員を飛ばしていたガレッキーは、第三次の砲撃を始めようとしていた。それに気付いたマリは、巨大な筒を亜空間から取り出し、ガレッキーと人間を撃ち出す大砲を狙撃しようとする。

 

「あれね・・・雑魚共をこの城へ飛ばしてるのは・・・!ルリちゃん、援護!」

 

「うん!機関銃で飛んでくるのを?」

 

「そうよ。近衛兵には私が念話で伝えておくから」

 

「分かった。じゃあ、行ってくる!」

 

 亜空間からFNミニミM249Pや他多数の機関銃を取り出し、飛んでくる男達の迎撃を行った。その間にマリは念話で小火器等を持つ近衛兵達に対空射撃を命じる。

 

『全近衛兵へ、余裕のある者は直ちに対空射撃を行いなさい。この城には対空兵器も搭載されている。それを使って城へ取り付いてくる敵兵を撃ち殺しなさい。私は指揮官と大砲を狙う』

 

『御意に!』

 

 近衛兵達からの返答を聞いた後、マリは大きな筒を遠くにいるガレッキー達に向けて発射した。飛ばされたビームのような物は放射線を抱きながら飛んでいき、敵の砲撃陣地へ命中すると、大爆発を起こした。

 

『うわぁぁぁぁぁ!!』

 

 遠くの方から悲鳴が聞こえてくる。他にも全身に炎を纏って悲鳴を上げながら苦しみもがいて死ぬ者も居り、大砲から撃ち出されて城へ飛んできた男達は対空機銃を撃たれ、次々と撃ち落とされていた。

 

「ハベッ!」

 

 凄まじい弾幕でハエのように落とされていく男達は、奇妙な断末魔を上げ、肉塊となり地面に落ちていった。

 

「お、俺の部隊が・・・俺の大砲が・・・南斗人間砲弾が・・・!」

 

 自分の部隊が壊滅状態となっていくのを見ていたガレッキーは戦意を消失。そんなガレッキーを逃すはずもなく、マリはバレットM82A1対物ライフルを取り出し、スコープを覗き、頭に照準をやや上に合わせ、引き金を引いた。

 

「ホペェッ!」

 

 首を撃たれたガレッキーは断末魔を上げた。狙撃で切断された頭部は宙を舞い、身体が地面に倒れたと同時に首が地面に落ちる。残りのガレッキーの部下達もマリによって狙撃されていき、やがて全滅した。

 

「これで城に雑魚は来ないわね・・・ッ!?」

 

 一息ついて、対物ライフルを亜空間に仕舞うマリであったが、突如敵の増援が現れた。上空をV-22に似た複数のティルトローター機が護衛機を勤めるブレイバーやソロコムと共にフォウドヴィッスの上空に現れたのだ。秘密の地下通路からやって来た離反軍の兵士達は援軍と叫び始めた。

 

「例の組織の援軍だぞ!このまま一気に畳み掛ける!!」

 

『オォー!!』

 

 空中からパラシュート降下で降りてくる謎の勢力の増援部隊を見た士官が叫んだ後、周りにいた将兵達は喊声を上げ、防衛陣地を構築して根強い抵抗を続けるワルキューレの駐屯部隊に突撃して行く。空から現れた援軍である将兵達の正体は、滅亡して何処かに皇帝と共に潜伏していたムガル帝国の生き残り達であった。

 近未来的突撃銃や短機関銃、軽機関銃、バックアップとして散弾銃を装備したムガル帝国の生き残り達はフォウドヴィッスへゆっくりと降りていくが、丁度その時、制空権を確保する為に現れたワルキューレのMSやバルキリー、戦術機を含めた航空部隊が現れ、護衛機の部隊と交戦状態になる。

 

「安心しろ!敵の戦闘機にMS、戦術機は護衛機の連中がやってくれる!地上からの援護もあるから地上に着地することを目指せ!!」

 

 指揮官が周りの降下中の兵士達に告げた後、市街地を暴れ回っていた八機のザクが対空射撃を始めた。城からも対空砲や高射砲が放たれているが、地上からのザクの攻撃を受け、妨害される。市街へ降下したムガル帝国の兵士達は手短にいた国防軍の敗残兵かワルキューレの駐屯部隊とマリの護衛部隊の兵士達に攻撃する。マリが見ている間に城の城門にムガル帝国の将兵達とその祖先達である離反軍の兵士達が取り付いてしまった。

 その場を防衛していたワルキューレの軽歩兵中隊は既に全滅しており、城門前には道路を血で赤く染めた彼女等の死体が幾つも転がっていた。

 

「五分も持たずに百以上を片付けた・・・!?」

 

 その様子を城から見ていたマリは驚きを隠せない。城門前にいる大多数の敵兵達は目の前の大きな門を意図も容易く開き、城内へと続々と入ってくる。

 

「突撃しろぉー!我がムガル帝国の再建のためにィー!!」

 

 突撃部隊の指揮を勤めるムガル帝国の指揮官が、周りの将兵達と共に叫びながら城内へ溢れ出る。中庭に来たところで彼等の足が止まった。敵兵達の目の前にはワルキューレの衛兵部隊とマリの護衛部隊の兵士達がサーベルや日本刀等を始めとした刀剣や銃器類等を持って立ちはだかる。

 

「我ら衛兵隊がここを通さん!何処の馬の骨か知らんが、任務の為、ここで奴らを始末しろ!!」

 

『オォー!!』

 

 衛兵部隊の指揮官である初老の男が、英国の回転式拳銃エンフィールドNo2とサーベルを抜いて、指示を出した後、他の衛兵達もサーベルを鞘から抜いて、目の前にいたムガル帝国と離反軍の両軍の兵士達に喊声を上げて向かっていった。敵兵達もそれに対抗して目の前から来る衛兵達に向けて発砲し始めるが、護衛部隊の兵士達の掩護射撃で次々と射殺されていく。

 その一方、城の対空砲と高射砲は黒い可変系型のMSオーバーフラッグによって次々と破壊されていた。ザクとは違った世界のMSであるオーバーフラッグに乗るジョシュア・エドワーズはかなり上機嫌だった。

 

「ハッ!そんな化石対空火器でこのフラッグが落ちるかよ!!」

 

 調子に乗っているのは彼だけでは無く、MSに対抗するには少し工夫がいる装備の敵兵達を一方的に攻撃するザクⅡF型に乗るジーンもかなり調子に乗っている。

 

「ヘッ、これ程楽な仕事は無いもんよ!周りが雑魚ばかりで簡単すぎるぜぇ」

 

 ザクマシンガンで抵抗陣地を次々と粉砕しながら市街地を進むジーンのザク。周りからの注意すら無視している。さらに生身でワルキューレの部隊を圧倒する者達まで居た。サイヤ人の最下級戦士のラディッツや、フォウドヴィッス内で大暴れする盗賊集団ジードのボス(ジード)だ。

 

「フン!全く相手にならんわ!これがこの国の軍隊の力とでも言うのか!?」

 

 死屍累々と化していたフォールド国防軍の兵士達の死体を踏みつけながらジードは他の者達とは違い、苛立っていた。ラディッツに対しては、えらく調子に乗っている始末である。

 

「ハハハ!全く相手にならんな!!この星の連中も兵器も!俺一人で十分だぜ!!」

 

 上空を生身で飛びながら、手から放った気弾と呼ばれるエネルギーの塊で敵兵を建物ごと潰すラディッツ。彼等は生前悪行を為し遂げてきた者達であり、他の髪型がモヒカンや肩パットの屈強な男達、ガレッキーのゴールドウルフ軍の兵士達もそれの類であった。蘇って暴れ回る悪人達であったが、これ以降生きることはなかった。

 

「よし、これから城下を攻撃に、ひでぶッ!!」

 

「へ、(ヘッド)!」

 

 ジードの巨体をマリがラディッツよりもさらに強力な気弾が内部に入り込み、体内で爆破する。

 

「ひ、ひぇ~!へ、ヘッドがやられたぁ~!!あわびゅ!」

 

 周りにいたZと言う文字を頭に書いた仲間達の一人が、頭であるジードがやられた事を大声で叫べば、マリの気弾を受けて殺された。その状況を見ていたラディッツは、次々と殺されていくジードの仲間を見ながら嘲笑っていた。

 

「フン、あの程度の戦闘力を持たない奴に殺されるとは、ここで一番強いのは俺の方だったようだな」

 

 左耳に装着して左目に移されるディスプレイが見える位置に付く、スカウターと呼ばれる戦闘力を計る装置でルリの戦闘力を計っていたラディッツは、彼の戦闘力が自分より低いのを見て、自分が一番強いのだと確信した。

 

「へぇ~、18m級を破壊するなんて、ルリちゃん結構やるわね。何か買ってあげようかしら?」

 

 オーバーフラッグを撃破したルリを見ながらマリは褒めた。その時、牛の鳴き声を上げる人工筋肉の足を持ち、上半身はM2重機関銃二門を装備した現代戦車並の装甲で覆われた機械部の身体を持つ”月光”と呼ばれる二足歩行型の兵器がマリに向かって飛んできた。

 

「こいつは・・・!」

 

 月光が踏み殺そうとマリの頭上に落ちてきたが、回避され、掌の中で作った氷の槍を投げた。上部に装備した二門の重機関銃を撃とうとしたが、マリの方が早く、氷の槍に突き刺された月光は重機関銃を撃ちながら大破した。そこを去ろうとしたマリであったが、複数の月光が彼女の行く手を阻んだ。

 月光ばかりではない、背中に動力源の液体燃料とされる水色の液体の入ったタンクを付けたトールボーイと呼ばれる機械仕掛けの竹馬の様な装置に乗った全身を金属の鎧で覆った兵士も混じっており、手に持つ弓に焼夷ボルトでマリを射抜こうとしていた。

 だが、マリがそう簡単にやられるはずもなく、焼夷ボルトを射抜いた瞬間、彼女の姿が消えた。彼女が元々居た廊下が爆発したが、トールボーイ達や多数の月光はそれを既に見破っている。周囲を見渡し、警戒態勢に入った。

 

「全員抹殺!!」

 

 物の数秒後、トールボーイや月光の頭上にマリが敵の数と同じ数の光球と共に現れ、それを目の前にいる全ての敵にぶつけた。光球は外れることもなく全ての標的に命中し、その全てを倒した。

 

「まぁ、こんな所ね。うっ!?」

 

 廊下に転がる残骸を見ながら呟いた後、突如、マリの胸に穴が空いた。丁度心臓の辺りに大きめの穴が空いたことから大口径の狙撃銃とされ、そこからの狙撃に絶好な建物に居た彼女を撃った狙撃手は左拳を握り、勝利を確信していた。

 

「よし、敵将討ち取ったり!」

 

 隣にいたスポッターとハイタッチを交わし、水筒の水を一口飲んだ。

 

「案外楽勝だったし、情報通りでも無かったな」

 

「あぁ、瞬間移動した時は、ヒヤッとしたもんだが、不死身じゃなかったぜ。どうやら不老不死なんて物は無いらしい・・・」

 

 マリを撃った狙撃手は、自慢げに相方に話しながら、その場から離れる仕度をした。次にルリがラディッツを殺そうと、全速力で接近するが、スカウターのセンサー内に入ってしまい、気付かれる。

 

「むっ、戦闘力78がこちらに接近!?フン、少しは楽しめそうだな!」

 

 全く相手にならない国防軍の敗残兵を始末していたラディッツは、直ぐにルリの迎撃へと向かった。

 

「どうやら戦闘力はこれ以上上がらないらしいな!」

 

 大鎌で斬り掛かるルリにいきなり強力なパンチを繰り出したラディッツ。ルリはそれを避けることなく腹に食らい、吹き飛ばされた建物に激突した。

 

「ハッ、戦闘力78と聞いたら、少しは楽しめるかと思ったが、もう終わりか」

 

 建物に激突したまま全く動かないルリを見たラディッツは呆れ、トドメに気功波と呼ばれる強力な気弾を瀕死の少女に向けて放った。

 

「フン、ゴミめ!所詮、俺に勝る者はここには居なかったようだな!」

 

 余りのルリの弱さに呆れていたラディッツであったが、この後地獄を見るとは思いもしなかった。

 

「さーて、城の方へ向かうとするか!」

 

 ラディッツは自ら自分の死に場所となる場所へと飛んだ。その頃、マリを撃った狙撃手達は建造物から出た直ぐの瞬間、悪夢に遭遇した。

 

「あ、あぁ・・・そんな!し、心臓を撃たれて何故生きてる・・・!?」

 

 彼等の目の前に現れたのは、心臓を撃って殺したはずのマリであった。

 

「あ、あいつは影武者・・・ッ!?」

 

 スポッターの兵士が言い終える前にマリに首を刎ねられた。刎ねられた根本から血が生きよい良く吹き出す中、狙撃手は右手に握られていた大口径の狙撃銃で再びマリを撃ったが、通常の人間とは違うほどの速度で避けられてしまい、心臓を手刀で刺され、上へと上げられる。

 

「ど、どうして・・・生きて・・・いる・・・!?」

 

 吹き出す自分の血で真っ赤になるマリの顔を見ながら狙撃手は問う。そんな彼女は無表情で答える。

 

「え、だって、不死身だもん」

 

 手刀で刺した狙撃手の息の根が止まったのを確認したマリは、城へ向かうラディッツを目撃し、物言わぬ死体となった狙撃手を捨てた。

 

「あいつ城に何しに行くんだろう?」

 

 直ぐ様マリは、ラディッツの目の前まで瞬時に移動した。

 

「な、なんだ!お、女だと・・・!?戦闘力、グワッ!測定不能だと・・・!?」

 

 目の前に現れた血塗れの金髪碧眼の美女の戦闘力を計ろうとしたラディッツであったが、どうやらマリの戦闘力の高さは測定不能であったらしく、スカウターが耐えきれずに壊れてしまう。動揺しきったラディッツは、敵であるマリに何故か問う。

 

「き、貴様ぁ!な、何者だ!?その傷で平気でいられるなど!!」

 

「え、何って・・・私が不老不死だから・・・?」

 

 その問いにマリは軽い気持ちで答え、さらにラディッツは動揺する。

 

「ふ、巫山戯たことを・・・!死ねっ!!」

 

 動揺を通り越して怒り、我を忘れてルリを殺したと同じ強力な気功波を放ったラディッツであったが、その気功波をマリは指一本で軽く受け止めた。

 

「ば、馬鹿な!俺の全パワーを使っての攻撃だぞ!?」

 

「一々煩いわね・・・いい加減に死ね」

 

 自分にとって喧しかったラディッツの渾身の攻撃を倍にして返した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 さらに強力な気功波となって返ってきた自分の渾身の攻撃を受けたラディッツは、一つの灰を残さず消滅する。完全にラディッツが消え去ったのを確認したマリは城へ戻り、城内にいる敵の排除の続きを再開した。

 地上では一個連隊規模の歩兵や戦闘車両、MS、AT、上空では多数のSPTやMFがマリに攻撃を加えるが、彼女は透明のシールドを目の前に張って全て防ぎ、目の前に見える敵全てに攻撃し、全滅させた。

 一方、城内の地下では恐るべき男が来ていた。その男の中性的な容貌で、紅色系のアイシャドウとパープルの口紅で妖艶な施し、紅い髪を背中まで達するウェーブのかかったロングヘアスタイルに左右の髪の一部を編んだ身長183㎝の男だ。地下から来るとされる敵を待ち伏せていた衛兵達が、堂々と歩くその男の行く手を遮るように立つ。

 

「なんだ、この気色悪い男は?」

 

「知らん、おそらく大砲で城まで飛んできた無法者共と同じ類だ。躊躇はいらん」

 

 腰に差したサーベルを抜き、左手に拳銃を持つ者は銃口を中性的な容貌の男に向け、引き金を引いた。

 

「なっ、こいつ。能力者か!?」

 

 銃弾を男が手を振っただけで切断されたのを見た衛兵隊長はサーベルで斬り掛かったが、手刀で放たれた衝撃はで縦半分に切断され、絶命した。

 

「き、気を付けろ!こいつは、ガァ・・・」

 

 味方に指示を出し終える前に切り裂かれ、その味方も斬撃で次々と斬り殺されていった。

 

「な、なんだ・・・こいつは・・・!?」

 

 一人、その場から逃げようとしたが、男が見逃すはずもなく、奥義らしき斬撃を受けた。

 

南都鷹爪破斬(なんとようそうはざん)!」

 

 指一本から来た斬撃を受けた衛兵は触れても居ない胸から衝撃から裂けた。この男の使う技は能力ではなく、拳法である。

その名は南斗聖拳と呼ばれ、男が使うのはその数ある流派のトップに値する六聖拳の一つである紅鶴拳(こうかくけん)。ガレッキーが使うようなまがい物とは違い、伝統者であるユダと呼ばれる男が使うのは少し違うが、外部から突きを入れて全てを破壊する正統派だ。

 証拠にユダに斬り掛かった衛兵達は縦半分に切断されている。本来なら横に切断されるが、南斗紅鶴拳は切断の仕方が違う。襲い掛かってきた衛兵を全滅させたユダは、城の上階まで向かう為、階段に向かうとしたが、騎士に戦闘メイド、銃火器を持つ近衛兵が行く手を遮る。

 

「フッ・・・」

 

 近衛兵からの銃撃をかわし、斬り掛かってきた騎士や戦闘メイドを斬撃で切り裂く。切り裂かれた騎士やメイドは小さな悲鳴を上げ、バラバラになって床を赤く染めた。彼女達の返り血は、ユダをさらに赤く染め上げる。

 

「このぉ、死ねぇ!!」

 

 上階から騎士が飛び降り、頭上からユダを斬ろうとしたが、空中で縦に切断され、死ぬ。銃撃を続ける近衛兵に一気に接近し、数名を纏めて斬殺。その調子で次々と襲い掛かる騎士やメイド、近衛兵達を斬り殺していく。

 

「フン・・・他愛もないな・・・!」

 

 最上階まで来て、そこにいた最後の一人を斬り殺したユダは、その死体を床に捨てた。

 

「聖女がこちらに来るか・・・」

 

 背中から来る気配を瞬時に感じ取ったユダは、後方に身体を向けた。

 

「ほぅ、実に美しい・・・!このような美女を殺すとは、リガンは美的感覚が無い男よ・・・」

 

「(うわっ、こいつ・・・ナルシストっぽい!)」

 

 やって来た敵に気付いたユダはマリの容貌に惹かれていたが、当の本人である彼女は、ユダの容貌を見て、瞬時にナルシストと断定する。

 

「フフフ・・・お前、俺を美しいか?」

 

 低く笑いながらユダはポーズを取り、マリに美しいのかを聞いたが、彼女は地面に落ちていた破片で答えた。

 

「うっ、お、お前・・・この俺の顔に傷を・・・!」

 

「やっぱりナルシスト・・・むしろ気持ち悪いけど。死んでくれない?」

 

 投げ付けられた破片で頬に傷を付けられたユダは怒り、マリは付け足してさらに怒りを煽った。

 

「ゆ、許さん・・・!こ、殺してやる!南斗紅鶴拳奥義伝衝裂波(でんしょうれっぱ)!」

 

 怒りで我を忘れたユダは離れた敵を切り裂く奥義であるロングレンジ攻撃を連発し、マリの左肩を切り裂いた。

 

「クッ・・・!」

 

「切れろ、切れろ、切れろ、切れろ、切れろ、切れろぉ!!」

 

 左腕を持って行かれることは無かった物の、凄まじい程血飛沫を上げる。手傷を負うマリに、ユダは伝衝裂波をひたすら連射した。マリは抜け道を見付け、一気に接近、気付いたユダは直ぐさま迎撃の態勢に入ったが、彼女の方が早く、顔に強力な蹴りを受けて吹き飛ばされる。

 

「ぬぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 蹴りを受けたユダは塔の方まで吹き飛び、激突したが、まだ息はあった。戦闘を終えたマリは、自分の衣服がボロボロになっていることに気付き、着替えようかと考えていたが、それは空高くから降りてきた男の声で変わった。

 

『ほぅ、中々やるではないか!そやつは我が精鋭である十人格の一人、妖星のユダ!だが、十人格の中では下の方だがな!』

 

「あんた、誰よ!」

 

 腕組みをしながら降りてきた男にマリは名前を問う。その男は高笑いをしながら答えた。

 

『私か、私の名はリガン・ゾア・ペン・ムガル。かつて貴様の建国した国に滅ぼされたムガル帝国の皇太子だ!そして私はこの地に戻り、ムガルを再建する!貴様を倒してな!!』

 

 自分専用の剣と盾をどこからとも無く出したリガンは、マリに剣先を向けて宣言した。

 




ルリとリヴァイ擬き、コルト擬きの戦闘場面を総カットしました。
ルリの所は、第一章終了後に書かれる外伝にご期待下さい。

中断メッセージ

アンドリュー・フォーク(以下アンドリュー「なんですと!?この私の出番がないということはどう言う事です!?」

ダス・ライヒ「知らないのか君は、らいとすたっふルール2004年を?」

アンドリュー「それはご存じですが何故私を省くのです!?どうしてあのゴマすりの日和見主義者であるゲールが私の代わりに!?」

ダス・ライヒ「この作品はルールに違反しているのだ!運営からの削除通告があれば、このあとがきだけ消して許してくれるとは限らないんだ!それに銀河英雄伝説が参戦する作品も考えている。それまで待とうじゃないか・・・」

アンドリュー「う、ぬぅ・・・!」(PAM!

ダス・ライヒ「ウッ!?」

~END~
※作者は撃たれてません

中断メッセージで銀英伝のキャラを出しちゃったけど・・・大丈夫かな・・・?


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マリ死す

TVアニメ版遊戯王の城之内死すと同じゼツボー的にネタバレなタイトル。


 マリに向けて宣言したリガンは一直線に突っ込み、斬ろうとしたが、あっさりと避けられる。

 

「フッ、弱・・・!」

 

「ぬぅ・・・ハッ!」

 

 その安い挑発に乗ったリガンは地面に着地し、剣を再び振りかざすも、マリは軽く避け、亜空間から取り出したkar98kのストックで殴ろうとするが、盾に防がれる。

 

「おのれ、剣を抜けー!」

 

 再びマリを斬ろうとするが、左手のkar98k専用の銃剣で防がれた。リガンの方はマリのその態度で苛立ち、右手に持つ剣の押しを強めた。

 

「そのような剣で私と戦うつもりか?」

 

「あんた相手にはそれで十分」

 

「なんだと・・・!?」

 

 また挑発に乗ったリガンは押しの力をさらに強め、マリの手から銃剣を弾いた。これで勝ったと思ったリガンであったが、マリは直ぐさま銃剣を離し、腹に蹴りを入れてその場を離れ、kar98kの安全装置を外して相手を狙う。

 

「卑怯者!!」

 

 咄嗟に盾を構えて、銃弾から身を守るリガン。マリは手に持つボルトアクションライフルの弾薬が尽きるまで撃ち尽くした後、それを捨てて再び亜空間から銃を取り出す。

 それは短機関銃のMP40であり、直ぐに安全装置を外してリガンに向けて撃つ。

 

「清々堂々と戦う気があるのか!?」

 

 騎士なら剣同士、武士なら刀同士であるが、マリはそのリガンからの挑戦などはらはら受けるつもりもなく、ただ逃げる時間を稼ぐべく、後退りながら両手に握る特徴的な形の短機関銃を撃ち続ける。

 

「おのれぇ・・・!タァッー!!」

 

 盾で銃弾を防ぎながら、リガンは剣先から強力なビームをマリに向けて放った。

 

「キャッ!」

 

 剣先から放たれたビームはマリの左横腹を擦れ、銃撃を一時中断するも、左手で脇腹を抑えながら銃撃を続ける。傷が完全に治癒したのを確認したマリは、後ろが断崖である事を確認した後、態と落ちた。

 

「落ちた!?いや、奴は空を飛べる!」

 

 落ちたマリを確認しようとリガンは落ちた場所を見に行こうとした瞬間、右肩に銃弾を受けた。銃弾は肩を貫通し、銃創から血が噴き出し、剣を手放しそうになったが、右腕に残った力を込めて離さないようにした。

 その銃撃の正体はマリであった。腰にベルトをしており、そこからロープを出し、城壁にフックを引っ掛けてぶら下がっていた。

 両手にはMP40ではなく、ワルサーGew43半自動小銃が握られており、先程まで握られていた短機関銃は数十メートル先のバルコニーに落ちてバラバラになっている。

 驚いた顔をしたマリは第二射目を撃とうとしたが、リガンが自身の魔力で張った防御結界に弾かれた。連続で引き金を引いて、全てリガンに命中させるも結界に弾かれるだけだった。

 弾切れとなった所でリガンが攻撃を加えようとしたが、マリが多数の煙幕手榴弾を亜空間から取り出し、それを今に攻撃しようとする高潔な男に投げ付けた。

 

「っ!?手榴弾か!」

 

 どうやら煙幕手榴弾を爆風手榴弾と勘違いし、病後体制を取った。その隙にマリは亜空間からStg44を取り出して安全装置を即座に外し、大量に投げた煙幕手榴弾に向けて乱射、自分の姿を見えなくした。

 

「煙幕か・・・!クソっ、私とさらさら戦うつもりは無いという事か・・・」

 

「閣下、右肩に銃創が!」

 

「うむ、治療を頼む。それと痛み止めを打て」

 

「ハッ、直ちに掛かります!」

 

 下のバルコニーが全く見えなくなると、リガンはVTOLから降りてきた衛生兵から治療を受けた。その頃マリは出来た城壁の穴の先にあった部屋に入り、近くに敵が居るにも関わらず、肌に身に付けている下着が見えるくらいまでズタボロになってしまった衣服の着替えをしていた。

 

「よし、魔法で新しく縫い合わせば大丈夫かしら?」

 

 自身が身に付けているゴスロリ風ミニスカートドレスを確認しながらMG42を両手で抱えて外へ出た。だが、それを待ち受けるかのように小さなシルクハットを被り、先に球体が付いた杖を持った可愛らしい衣服に身を包んだ美少女が現れた。

 

「フッフッフッ、見付けたわよ。マリ・ヴァセレート」

 

「あら、敵に何で魔法少女が・・・」

 

「皇帝とグラヒュエール様に拾っていただいた恩、貴女を倒して返させていただく!」

 

 杖をマリに向けて宣言した後、床を蹴って、一気に距離を詰めてきた。手に持つ毎分1200発の連射力の汎用機関銃で魔法少女を撃ったが、リガンと同じような魔法防御で弾かれる。

 次に少女が魔力弾で攻撃してきたが、マリはMG42を捨てて容易に回避し、掌に魔力を込め、炎を作り出す。

 

「そんな物で!」

 

 少女はマリの攻撃を回避して次なる攻撃を掛けようとした。攻撃を始める頃にはマリがいつの間にか目の前まで接近しており、少女の攻撃は距離が近すぎて不可能となった。

 

「(駄目・・・距離が近すぎて・・・!)ッ!?」

 

 どう反撃するか迷った少女は次なる反撃を行おうとしたが、マリが後頭部に手を添えるという謎の行動に驚き、思考が停止する。

 

「なにを・・・!?」

 

 引き離そうとする少女であったが、マリの力が強すぎて適わない。顔にマリの顔が近付き、少女は必死で引き離そうとするが、一向に離れず、顔が徐々に近付いて来る。マリの瞳が閉じた瞬間、少女は自分の唇に感触を感じた。

 

「(へっ・・・!?)」

 

 少女はマリに唇に接吻(キス)された。突然、倒すべき相手であるマリにキスをされたのだから、抵抗を覚え、必死に引き離そうとするが、身体に力が入らず、そのまま為す術もなく相手にされるがままだ。

 十秒後、少女にとっては長く感じるキスは終わり、マリは口に付いた自分と少女の唾液を左手で拭い、空いた右手で少女の身体を支え、名を問う。

 

「名前・・・なんて言うの?」

 

 相手が名前を聞いてきた為、動揺する少女であったが、相手の真意も分からずに答えた。

 

「ラナ・・・」

 

「そう。じゃあ、ここで」

 

 少女の名を知ったマリは気を失ったラナをそっと床に降ろし、寝かせた後、斧を二つも携えた男が近付いてくる事に気付き、迎撃の態勢を取る。

 

「貴様ぁ!やはり噂通りかぁ!?この我が斧の錆としてくれるわ!このロリコン女がぁ!!」

 

 一気に近付いてきた男にマリは何の動きもせず、ただ呆然と立っているだけだ。

 

「どうしたぁ!?我が攻撃が怖すぎてまともな動きも・・・ぐぁ!?」

 

 マリに後1mの所に男が近付いた瞬間、男の身体が真二つになった。二つに切られた男は、マリの右手に日本刀が握られていることに気付き、死の数十秒前に彼女の剣裁きに驚く。

 

「(そ、そんな馬鹿な・・・!?我の目には終えない程の速さで我を斬ったと言うのか・・・!)」

 

 重力に従って、真二つにされた男の屍は堅い床に落ちた。

 

「こんな物かしら?まともに相手になるのはあいつと化粧したオカマだけね」

 

 刀に血が付いてないか確認しながら呟いた後、自分を殺そうとやって来たムガル帝国の将兵達を迎え撃つ。

 

「居たぞぉー!あの女を討ち取れば昇進間違い・・・」

 

 将校らしき兵士が、マリの姿を見て言い終える前に、彼女が亜空間から取り出したM4A1カービンを額に撃たれ、絶命した。指揮官が撃たれた将校が倒れる前に、動揺する兵士達の士気を戻す為に叫ぶ。

 

「討ち取って名を上げろ!陛下から褒美がもらえるぞ!!」

 

『おぉー!!』

 

 動揺を振り切った将兵達は一斉にマリへと手に持つ自動小銃、軽機関銃、短機関銃、突撃銃、散弾銃を撃ち始めた。敵からの一斉射撃にマリは銃弾より早い速度で回避し、刀を亜空間から取り出した鞘に戻し、M4A1カービンをフルオートにして敵兵を次々と撃ち殺す。

 

「うわぁ!」

 

「ぎゃっ!」

 

「ぬわぁ!」

 

「怯むな、撃ち返せ!アァ!!」

 

 次々とムガル軍の将兵達が5.56㎜弾によって倒れていく中、マリが撃ち続けていたM4A1の弾薬が尽きた。空かさず床に散らばっていた死んだ味方の近衛兵から回収した同型の弾倉(マガジン)を蹴り上げて空中で掴み、銃本体の左側にあるボタンでカラになったマガジンを排出し、その満タンのマガジンを差し込み、再装填してから再び敵兵達を銃撃する。

 

「うわぁ!」

 

「こ、こいつ!銃弾を避けてるように見えるぞ!!」

 

「そんな馬鹿な、俺達の銃は全て連射速度1000発分だぞ!幾ら相手が能力者とはいえ、回避できる筈が!」

 

 マリの恐るべき強さに恐怖した敵兵達は銃を撃ち続けるが、銃弾は一発も掠めることもなく、全て回避されていく。再びM4A1の弾倉が尽きると、マリは弾切れになった騎兵銃を捨て、鞘から刀を抜き、自分に恐怖を抱いている敵兵達に銃弾を避けながら斬り掛かった。

 

「目標接近、グワァ!!」

 

 近場にいた兵士が報告を終えた直後にマリに胴体を斬られ、切り口から血を吹き出しながら絶命した。短機関銃を持つ兵士達は銃口の短さを利用して、近距離戦を挑もうとしたが、マリに適うことなく次々と斬り捨てられる。

 

「こ、この(アマ)~!!」

 

 一人の兵士が右腕に取り付けられた器具からナイフ程度の刃を出し、マリに斬り掛かったが、あっさりと避けられ、斬り殺された。

 

「おのれぇ・・・!全員取り囲んで八つ裂きにしろ!!」

 

 指揮官の指示でマリを包囲する形でムガル軍の将兵達は陣形を組み、全八方から襲い掛かったが、また避けられ、八名の兵士達は全員斬り殺されてしまった。

 その後、ムガル軍の将兵達はあの手この手でマリに挑んでいくが、全てが破られてしまい。残っているのは指揮官だけであった。

 

「く、クソ・・・!ば、化け物め!死ねぇ!!」

 

 悪足掻きの如く、ホルスターに差し込んであった自動拳銃でマリの眉間に放ったが、彼女の姿が消えて、突如目の前に現れ、腹に刀をいつの間にか刺されていた。

 

「あ・・・グハッ!こいつは・・・悪魔だ・・・!!」

 

 最期の言葉を残した指揮官が息絶えた後、マリは刀を死体の腹から抜き、刀身に付いた血を拭き取り、次なる挑戦者であるリガンの方を向いた。

 

「我が将兵を無惨にも撃ち殺し、斬り殺しおって・・・!許さん!今度こそいざ尋常に勝負!!」

 

 右肩に巻いた包帯が赤く滲む中、リガンは自身の剣を構え、マリに向かっていった。リガンが振り下ろした剣を自分の刀で防いだ後、足で相手を引き離して距離を置く。

 

「また小賢しいマネを・・・!」

 

「私は弱いからこんな手を使うしかないの」

 

「喧しい!卑怯な手しか使えん貴様などに勝ち目はない!食らえ!!」

 

 腹に蹴りを食らわしたマリの返答に怒りを覚えたリガンは人が編み出せる物ではない超高速的な突きを放った。この恐ろしい突きの速さにマリは動ずることなく、冷静に対処し、リガンの膝を切りつけた。

 

「ぬぁ・・・!おのれ!」

 

 膝から出血しながらも、リガンは剣を振ったが、またかわされ、マリの二振り目が来た。

 

「今度はその手には乗らん!」

 

 盾を構えてマリの攻撃から身を守ろうとしたが、マリが盾を踏み台にして左へ飛び、左腕を攻撃され、盾を手放してしまう。直ぐさまリガンはマリから離れ、僅かに動く左腕を動かし、両手で剣を握る。

 

「何という奴・・・貴様、何故銃を使わん?」

 

「だって、あんた魔法で飛び道具なんかみんな防いじゃうでしょ?」

 

「ほぅ、一発目で気付きおったか。二発目で仕留められるかもしれんのにな!」

 

 右膝から出血しているにも関わらず、リガンは左足で床を蹴ってマリに一気に近付いた。

 しかし、またもや回避され、今度は左横腹を斬られた。

 リガンが怯んでいる隙にマリは胸を斬った。刃先が鎧ごと胸を切り裂き、傷口から勢いよく血が噴き出す。

 

「うわぁ・・・がぁ・・・!」

 

 激しい激痛に耐えながらリガンは再び立ち上がり、マリを斬ろうとするが、また回避され、背中を斬られた。床に這い蹲るリガンを見ながらマリは、反りを右肩に乗せながらため息をついた。

 

「はぁ・・・あんた弱いね。デカイ口叩いておきながらこの様なんて。そんなんで私に勝てるとでも思ってるの?」

 

 マリはリガンの鮮やかな紫色の髪を掴みながら、何も言わない高潔な男に問う。リガンの右手にまだ握られていた剣が微かに動く音を察知したマリは、右手を力強く踏み付け、高潔な男から剣を遠ざけた。

 

「そんなことしたってまた蘇ってあんたを殺すわよ。さぁ、大人しくくだらない復讐なんか止めて、私の奴隷兵士になったらどうなの?」

 

 ゴミを見るかのような目で見下し、リガンを自身の奴隷兵士に勧誘するマリ。だが、彼女はこれからやって来るどん底に気付くことはなかった。

 マリの後ろからスキンヘッドの大男が現れ、彼女に何か強力な技を食らわせた。この技を受けたマリの背中から無数の結晶玉が飛び出し、無数の結晶玉はランダムに何処かへ飛び去っていく。

 その光景は近くにいたリガンと謎の大男、城下町で戦っていたルリ、マリに忠誠を誓う者達も目撃していた。大男の技を受けて吹き飛んだマリは、床に2~3回ほど叩き付けられた。

 

「なんだろう・・・?あの光・・・なんだか胸騒ぎがする・・・」

 

「死ねぃ!小娘!!」

 

「早く城に行かないと!やぁー!!」

 

 多数の光が乱雑に飛び去っていくのを見て、ルリは胸騒ぎを起こし、周りを取り囲んでいるムガル帝国の将兵達や暴走族に無法者達を手っ取り早く大鎌で一気に片付けて、城へと向かった。

 ルリの予感は彼女にとっては嫌になるくらい見事に当たった。ダメージを受けて立ち上がろうとしたマリであったが、いつもの感じとは違い、かなり昔の感覚を感じていた。

 

「(なに・・・この感覚・・・まるでとうの昔に忘れたような痛み・・・身体が思うように動かない・・・)」

 

 心で思いながらマリはなんとか立ち上がったが、床に落ちる自分の血の音を聞きながら、あることに気付く。

 

「あれ・・・?手から痛みが消えない。傷口なんて数秒くらいで塞がるのに・・・」

 

 そう独り言で小さく呟き、一番血が流れている右手の掌を見た。本来の不老不死のマリならとっくに塞がっている筈の掌の傷口が塞がっていなかった。

 

「嘘・・・不死身じゃなくなってる・・・!?」

 

 掌に出来た傷を見て、マリは絶句した。その時、血塗れになって床に這い蹲っていたリガンが起き上がり、腰のホルスターに差し込んでいた黄金の自動拳銃を抜き、マリに構えながら告げた。

 

「貴様の不老不死と大多数の能力を奪った・・・いや、吐き出させたのだ・・・」

 

「吐き出させたって・・・どういう・・・アァッ!」

 

 答えを問う前に左肩を撃たれた。左肩を抑えて痛みに苦しむマリに、リガンは答えた。

 

「そう、吐き出せたのだ。この大男の名は能力者殺し・・・!本名は知らんが、圧倒的強さを誇る能力者を殺すために生まれた者と私には分かる。貴様はもう最強ではない、ただの女だ・・・そして私は貴様を公開処刑に処す」

 

 リガンは超えるついでにマリにもう不死身ではないことを告げ、右肩を撃った。

 次に右足を撃ち、床に倒れ込ませた後、今度は左足を撃つ。四方を撃たれたマリは、大いに苦しんで悲鳴を上げる。

 

「ぐぁ・・・あぁぁぁ!!」

 

「それが・・・私が受けた痛みと、この地から追放された我らムガル帝国の痛みだ・・・!」

 

 銃を降ろした後、激痛で悶え苦しむマリにリガンは叫ぶように告げた。その光景は偶然にも見ていたルリは、怒りの余り何の考えも無しにリガンへ突っ込んだ。

 

「お姉ちゃんを、虐めるなぁーーーー!!」

 

 急な敵の接近にボロボロなリガンは反応できず、体当たりを諸に食らい、吹き飛んだ。愛すべき女性から敵を離した後、ルリはマリに無事を問う。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 

 もちろんルリはマリが不老不死で無くなったことに気付いておらず、傷口から流れる血を見て驚く。

 

「え、傷が再生してない・・・なにかされたの!?お姉ちゃん!」

 

 必死で大量に血が出ている場所を抑えながら、ルリは自分の手をマリの血に染めながらひたすら聞いた。

 だが、当の本人であるマリは今何が起こっているのか全く理解できない。そんな時に能力者殺しがルリの後ろへ近付き、彼女の背中を手刀で刺した。

 血を止めるので精一杯だったルリは、能力者殺しの存在に気付かず、自分の胸から出た大男の手でようやく気付いたところだった。そしてマリも、自分の顔にルリの血が付着したことに我に返り、目の前で貫かれている愛すべき娘の姿を見て、抵抗しようとする。

 

「私のルリちゃんに何を!?」

 

 能力者殺しからルリを引き離そうとしたマリであったが、全身に力が入らず、床に顎を打ち付けて倒れてしまう。その間に能力者殺しから手を引き抜かれたルリの身体は、傷口から徐々に紅い氷で覆われていき、全身に力が入らなくなっていた。

 

「え・・・お姉ちゃん・・・私・・・どうなっちゃうの・・・?」

 

 口から血を垂らしながらルリは目の前で必死に立ち上がろうとするマリに聞いた。マリの答えを聞くこともなく、ルリは完全に凍り付き、なにも喋れなくなった。

 

「そんな・・・嫌よ・・・ルリちゃん・・・嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 愛する()が氷付けになった光景を見たマリは我が子を失った母親の泣き叫び、必死に紅い氷付けになったルリに近付こうとしたが、全身に力が入らず、届かない。

 ルリの攻撃で更なるダメージを受けたリガンはなんとか立ち上がり、泣き叫ぶマリを剣の取手部分で気絶させる。氷付けとなったルリは、能力者殺しによって何処かへ飛ばされた。

 やってきた部下達に、リガンは治療を受けながらフォウドヴィッスにいる全ての者達に聞こえるよう部下が持ってきた拡声器を使ってマリの敗北を知らせた。

 

『この城、城下にいる者達に告げる!たった今、我がリガン・ゾア・ペン・ムガルが元神聖百合帝国永続皇帝マリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーを討ち取った!!』

 

 その知らせに城下や城で戦っていたマリの私兵達とワルキューレの駐屯部隊は、動揺の色を見せ始めた。

 

『奴が尤も愛すべき小娘も既に我が忠実なる兵士が打ち倒している!奴の私兵とそれにつき従う兵共は即刻我がムガル帝国に降伏せよ!!丁重に取り扱うことを約束する!!』

 

 拡声器からの降伏勧告に、従うマリの私兵達やワルキューレの将兵達など居なかった。

 城下町を暴れていたザクを全て撃破したリヴァイア達は、早急に残存戦力を集めてフォウドヴィッスからの退却を既に始めており、残りのワルキューレの残存部隊も退却を始めていた。

 

「ど、どうすんだ・・・!?俺達・・・」

 

「俺等も撤退だろ・・・!大将がやられちまったんだぜ・・・!?」

 

 忠実なる兵士達であったマリの護衛17番隊も少し焦りを見せていたが、隊長達の指示により退却を始めた。

 居残って主君の死体でも回収するか、主君とこの城下町で心中しようとしていた騎士と近衛兵達であったが、隊長等の指示で騎士達だけは退却に応じ、近衛兵達だけはマリを救出か心中する為に、無謀な突撃して、次々と死んだ。

 この御陰で全員が退却に成功したのは無理もない。こうしてフォールド王国、いや、中央大陸全土が戻ってきたムガル帝国の手に返り咲いた。




~今回の中断メッセージ~

ネタが決まったので、寡黙キャラによる予告。

ゴルゴ13「・・・」

キリコ「・・・」

アイゼンナッハ「・・・」

ヒイロ「・・・」

ユウ「・・・」

レイ「・・・」

宗介「・・・」

泰虎「・・・」

美魚「・・・」

刹那「・・・」

さくら「・・・」

紗紀「・・・」

キリコ「囚われの美女・・・」

ゴルゴ13「全身を拘束されては動けまい・・・」

ヒイロ「あれだけの拘束を解くには・・・」

宗介「不可能だ、あの拘束着は大男でも簡単には解けない。並の成人女性ではあの拘束は解けん」

泰虎「せめて能力さえあればな・・・」

レイ「私でも不可能・・・誰か助けに来てくれれば別・・・だけど誰も助けには来ない」

さくら「我でも不可能だ、あの拘束を解くのは・・・」

刹那「拘束着を外す瞬間を待てばいい」

ユウ「その時が来ればな・・・」

紗紀「次・・・虚無の世界で・・・貰う・・・」

美魚「次回・・・」

アイゼンナッハ「復讐への道・・・」


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復讐への道

黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)の提督、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトによるオマケコーナーがあるよ!


 あの戦いから二日後、マリは牢獄の中に居た。

 場所はフォウドヴィッスから少し離れた距離にある刑務所。先の戦いで敗れたマリは厳重に拘束され、身動きが取れないほどであり、拘束着で完璧に手足が塞がれ、首だけしか動かせないほどだった。

 虚ろな目付きで周囲を見渡していると、看守と共に鉄格子からリガンの姿が見えた。他にも何名かの部下が彼の後ろに構えていた。

 痛々しい姿であり、左腕はルリに吹き飛ばされた時に骨折でもしたのか固定されている。

 

「どうだ。監獄に入れられ、人並みの扱いを受けぬ気分は?」

 

 見下した表情で問うリガンに、マリは答えなかった。どうやら精神疾患らしき物を起こしたらしい。

 

「フッ、答えられるのも無理はないな。それと我がムガル人を堕落させおった女は先程処刑した。死体は見るか?」

 

 小さく笑った後、マリにモルコッチを処刑したことを知らせたリガン。証拠を見せようと、魔法で壁にその映像を映し出す。

 両腕を拘束されて跪いたモルコッチが、控えていた処刑人に斧で首を刎ねられた映像だ。それをマリは何の反応もせず、ただ見ているだけだった。

 

「我が身可愛さに何の同情も無しか・・・それに貴様の公開処刑が決まった、明日の正午だ。この地を追い出された者達は貴様の死を喜ぶことだろう。それまでに今までの悪行を反省し、この世に思い残す事がないようにな。安心しろ、お前の身内や部下共もその内送ってやる。地獄で待っていると良い」

 

 ただ、旧友の死を見ていたマリに、ゴミを見るかのような目で告げたリガンは、その場から離れようとしたが、近場にいた薄色の髪を持つ目付きが危険な長身の男、ゴステロに言い寄られた。

 

「公開処刑!?そ、そんな良い体した女を殺すなんて勿体ねぇ!その女を俺達にお下げ下さいぃ!ヌワッ!!」

 

「黙れっ!この毛皮らしい獣めがっ!!この聖女は、公の場で殺すことによって、意味があるのだ!お前達のような獣や鬼が容易く触れて良い物では無いッ!!」

 

 乗馬用鞭で叩かれ、吹き飛んだゴステロは、リガンを睨んだ。

 

「くぅ~、アマちゃんめ・・・!俺が生前仕えていた”あいつ”を思い出すぜ・・・!」

 

 生前仕えていた上官を思い出しながら、ゴステロは列に戻った。

 

「兎に角、貴様の公開処刑は明日の正午だ。それまでに自分の行いを悔やめ。我々はこれで失礼する。所長、明日の正午まで食事と身の洗い以外誰も(キャツ)目に近づけるな」

 

「御意!殿下の言うとおり、食事係以外誰も奴には近づけません!私の部下共に徹底的に覚えさせておきます!!」

 

 所長は敬礼して復唱した後、リガン達と共にこの場を去った。

 列の中にいたバーバブエと呼ばれる男がマリを見る目が大変いやらしかったが、彼女は何の反応もしないままだ。その2時間後、マリの元へ食事が届いた。

 トレイに並べられたのはパンにシチュー、飲み物は牛乳と簡素な食事であるが、刑務所ではこれが普通の食事だ。

 食事係は二人で全員女性であり、リガンがマリに配慮でも行ったのだろうが、当の本人である彼女は能力を失った屈辱感とルリを失ったショックで精神疾患に近かった。

 

「はぁ・・・こんな赤ん坊みたいになった人になんでこんな拘束着でも着せてるのかしら?」

 

「知らないわよ。早く食べさせて帰りましょう」

 

 生気のない目でずっと呆然としたままのマリに、女性看守達は開けたままの口にシチューの具が入ったスプーンを入れた。余り上手く飲み込めていないのか、口からルーが零れ、マリの口元が汚れる。

 

「あぁもう!どうして食べてくれないのかしら!!」

 

「どうせ明日に処刑されるから現実逃避でもしてるんじゃないの」

 

「それもそうね」

 

 雑談を交わしながら、食事係はマリの口元を拭いて、食事を続けさせる。飲み物を飲ませる際にはストローを口の中に入れ、牛乳を口に流し込んだ。

 次にパンを手に取り、細かく千切って小さな端くれを空いたままの口に入れた。今度は口を動かしてパンを細かく砕き始めた為、食事係はパンを優先して食べさせた。

 トレイに並んでいたパン、シチュー、牛乳が無くなると、食事係はトレイを下げ、マリの口元を塞ぐ布を付け、牢獄を出た。

 食事を終えたマリは、何もすることなく、ただ呆然と前だけを見ている。話し相手も居らず、目の前に通り過ぎる者も居らず、ただ呆然と鉄格子越しに見える壁を見ているだけだ。

 日が落ち始めても、かなり深い場所にあるこの牢獄には光は届かず、マリは外がどんな状況下知り得ない。無論、精神崩壊している今の彼女には、外のことなど興味はないが。

 やがて外は暗くなり、夜になった。

 暗くなっても見回りはこの牢獄の前を通らない。見回りはここを通らないように命令されており、聞こえるとすれば、見回りの足音のみだ。

 カートのタイヤが転がる音と足音が聞こえ、夕食の時間が訪れた。昼食時と同じ女性であったが、人数が3人と多い。

 今度は昼食を担当していたあの女性二人では無く、20後半から30前半と若い女性だ。30前半の女性看守の腰には、モデルは不明だが自動拳銃が入ったホルスターを吊している。

 牢獄の出入り口を開け、カートを中へ入れ込み、マリの前まで持ってくる。一人がマリの口元を開け、カートの上を覆っていたシートを取る。カートの上に並んでいた料理は昼食の簡素な食事とは違い、少し豪華だった。

 食欲を誘うようなメニューであったが、今のマリにはそんな食欲は無いに等しい。それに手が完全に塞がれており、自由に食べる事など出来はしない。

 付き添いでついてきたロシアの突撃銃AKS-74uの銃紐を肩に掛けた看守の男がその食事を見て、酷く苛ついていた。

 

「チッ、明日は公開処刑だからって、何で飯は俺等より豪華なんだ!」

 

「ちょっとあんた、煩いわよ」

 

「分かってるよ!囚人の飯に、特にこの女の飯に手を付けたら鞭打ちの刑だからな。それにしてもむかつくぜ!どうして死刑囚にこんな贅沢な飯を」

 

「あんたの働きがなってないからだろ?」

 

「ハッ、給料分の仕事はちゃんとやってるんだ。これだけの飯を俺にも食わせて欲しいぜ」

 

 看守と30代前半の女看守が雑談を交わしている間、若い二人の食事係はマリの口を開け、少し豪華な食事の中にある小さく刻んだ鶏肉を入れ込み、食べさせる。

 雑談を交わしている看守と女看守の二人は、マリの食事をまるっきり若い二人に任せきりであるが、精神疾患気味のマリにとってはどうでも良いことだ。

 ひたすら美味しい料理を口の中に入れていく食事係だが、マリは「旨い」の一言すら言わず、ただ入れられた料理を歯で細かく砕いて喉に入れ込む。

 デザートも食べさせられ、最後にアップルジュースを飲まされると、マリにとって最後になるかもしれない夕食は終わった。

 次の彼女の最後と言うべき食事は朝食であろう。先程雑談を交わしていた看守達はカートと二人の食事係と一緒に牢獄から去った。

 それから二時間後。時計の針が八時を指した時、彼女にとっての最後と呼べる身体の洗浄が始まる。

 

「さぁ、お風呂の時間ね」

 

「凄いスタイルですけど・・・こんな綺麗な人を明日殺すのでありますか?」

 

「仕方ないでしょ。殿下のご命令だから」

 

 やはり配慮されており、洗浄係も女性であった。監視も配慮され、狭い場所でも取り回しが効く自動小銃や散弾銃を持った女性兵士がマリを監視している。

 拘束着を外され、美しい裸体が露わになったマリに兵士達は銃を向けたが、彼女は何の抵抗もせず、ただ死人のような目で見ているだけである。

 このマリの状態に兵士達や係の者達は警戒したが、当の本人は脱獄するやる気も無い。身体を洗う者は水を使って石鹸を泡立て、マリの身体を洗い始めた。

 ずっと銃を構えている兵士は溜息をつき、隣の者と会話を始める。

 

「はぁ・・・早く帰って寝たい・・・」

 

「まだ時間はあるし・・・こんな仕事も明日で終わりだから」

 

「それもそうね。さぁ、明日は疫病神が公開処刑を受ける日だ」

 

 目の前の兵士達の会話すら耳に入らないマリは、ただずっと洗われ続けるだけであった。数十分が経過すると、マリの身体を洗い終えた係が、水の入った桶を彼女に掛け、泡を落す。次に腰まで届いた長い金髪に取り掛かり、汚れを落としていく。

 三分もすれば泡は全て洗い流され、さらに綺麗になったマリの裸体と金髪が見えた。何名かがその美しいスタイルに目を奪われるが、新しい拘束着を着させられ、再び厳重に拘束される。

 係が歯ブラシに歯磨き粉を付けると、それをマリの歯に当て擦り、歯磨きが始まる。虱潰しに三分間やり続けた結果、歯も綺麗に白く光った状態になった。

 なんで死刑囚の身なりを整えるのかを何名かが疑問に思ったが、長く生きたいと思ってしまい、考えるのを止めて忠実に任務を実行した。身なりを綺麗に洗い終える頃には時計は九時を指し、ここでの収容所なら自由時間が訪れる。

 だが、マリには全身を厳重に拘束されており、自由など無かった。やることとすれば、ずっと前を見てるだけか、寝ることだろう。

 マリは後者を選び、この現実から逃れるために眠りに就いた。

 明日は公の場で処刑台に立ち、殺されるだろう。今の内にマリは夢を見て、幸せな気分を味わうことにした。

 

 

 

 刑務所の牢獄から、奇妙な光景が広がる薄明るい巨大な空間に変わった。幾つもの細切れた街の建造物らしき物が浮いており、誰しもが驚く光景だ。

 そんな世界に刑務所で眠っている筈のマリが居た。眠りに就いた時、自分が本来居たはず刑務所ではなく、いつの間にかこの奇妙な世界に居ることに驚き、目に生気が宿った。

 

「何処よ・・・ここは・・・!?」

 

 周囲を見渡し、そこが自分の居るはずのない場所であることに驚いてマリは声を上げる。

 

「拘束着・・・あれ・・・自由に動ける・・・?」

 

 牢獄で自分を拘束していた拘束着が無くなっている事に気付いたマリは、同時に素っ裸であることに気付き、近場にあった衣服を見付け、それを身に付けた。

 その服装は以下にもマリを男装の麗人と見せるような物であり、腰にはサーベルがベルトに差し込んであったが、だが、彼女は服の近くにあったアメリカの軍用大口径自動拳銃コルトM1911A1を手に取って安全装置を外し、それを両手に握りながら浮いている足場に沿って進んだ。

 この空間は十分に明るく、影もあったが、それでも見通しは良い。道中、何かに身構える男性を見付けたが、微動しないほど動かないマネキンのような物だった。

 

「なにこれ・・・」

 

 一度触れてみたが、鋼のように堅く、その場から動かなせない。

 放っておいて先へ進むと、基地らしき床の上に統合連邦の兵士達がそれぞれ手に持つ銃を構え、科学者や作業員が逃げている場所に着く。

 

「一体何から・・・?」

 

 近くにいる一人の兵士が銃を構えている先を見ると、マリにとって驚くべき物があった。

 空中を浮遊する武装親衛隊の将校用の制服を着て制帽を被ったルリが、小悪魔のような笑みを浮かべ、自身の能力を発揮して数名の兵士や科学者、作業員を凄まじい方法で殺害していた。

 ルリの足下の床には血で赤黒く染まっており、何名かの死体が転がっている。模型のように動かないのが幸いだが、これが現物なら、凄まじい惨事だろう。

 能力を発揮して殺戮を楽しむルリの姿を見たマリは、直ぐさまルリに近付き、足下に触れたが、先程の身構えていた男性と同じく鋼のように堅く、動かせない。

 仕方なくここから去ろうと、次の場所への道に行こうとした途端、入り口に長い白髪を持つ紅色のジャケットを身に付け、袴のようなズボンを履いた赤目の男が左手に大剣を持ち、ルリを睨み付けていたが、マリは無視して先へ向かう。マリは後にこの男がルリと共に行動するとは夢にも思わなかった。

 

「何かしら・・・あれ・・・」

 

 気になってしょうがないマリであったが、兎に角先へ進んだ。暫し歩いて、終着点らしき所へ着いたマリは周囲を見渡し、何処も進む場所がないと分かると、何処か腰掛けられる場所へ座り、現実での自分が目覚めるのを待つ事にした。

 

「綺麗・・・」

 

 目の前に広がる光景にマリは感化され、乙女らしい笑顔で眺めて呟いた。だが、そんな彼女に二日目の驚くべき事が起こる。

 突如何もない場所から病気とも思えるほどの青白い肌をした青年男性が現れたのだ。マリは警戒して、今持っている拳銃を向けようとしたが、いつの間にか消えており、腰に差し込んであったはずのサーベルも消えていた。

 

「やぁ、マリ」

 

「あ、あんた・・・誰よ!?」

 

 突然現れた19世紀のヨーロッパの男性服に身を包んだ青年に名を問うマリであるが、目の前の青年は腕組みをしながら落ち着いた表情で口を開く。

 

「かなり驚いているようだな、用があってお前を虚無の世界へ引き入れることにした」

 

「一体何がどうなってるのよ?」

 

「そう焦るな。二日前、いや、三日前。お前は古の帝国の襲撃を受け、リガンを打ち倒した後、能力者殺しの攻撃を受け、ほぼ全ての能力を失い、愛する者まで失ったたな?」

 

「そ、それがどうかしたのよ・・・!?」

 

 今まで自分の身に起きた事を正確に当てた青年にマリは驚き、鳥肌を立った。

 

「そんなお前を私は救うことにした。自己紹介が送れたな、私はアウトサイダー。神と悪魔が入り混じった存在とでも言っておこう。失った能力の代わりになる物をお前に渡すことにする。この世界より一段上の次元にうずまく力だ。これがその証拠の印だ」

 

 マリの左手の甲が燃え始め、謎の印が甲に刻まれた。

 

「では、ついてこい」

 

 アウトサイダーは姿を消し、何処かへ去った。

 謎の存在であるアウトサイダーを追うべく、マリは彼が与えた能力を早速使うことにした。目の前に行きたい場所へ行こうとした瞬間、いつの間にかその場所へ来ていた。

 

「こ、これは瞬間移動・・・?」

 

 少し戸惑うマリであったが、失った能力に似たような物があった為、取り戻すまでに重視することにする。

 先に進むと、飛び越えられない程の間の向こうに足場があった。早速この能力を駆使して、次の足場まで一気に移動した。

 

「結構便利ね。前とは違うけど」

 

 瞬間移動を多用しながら進み、宝箱の前まで来ると、アウトサイダーが姿を現した。

 

「それはお前がかつて持っていた瞬間移動と同じ能力だ。他の者達はブリンクやトランスバーサルと呼んでいるが・・・お前はどう呼ぶのだ?」

 

「そんなの・・・知らないわよ。それより他の者達ってどういう事?」

 

「質問を質問で返すとな、お前の他にもここへ来た者が居る。では、本題に戻すぞ。これをお前に授けることにしよう」

 

 彼の右手から心臓らしき物が現れ、それをマリの左手に瞬時に移動させた。

 

「なに・・・これ?」

 

 アウトサイダーから渡された心臓らしき道具は、機械と心臓が組み合わせた奇妙な外見だった。

 

「お前の能力を探すための道具だ。前の所有者はルーンやボーンチャームと呼ばれる能力強化を探すために使っていた。それを使ってお前の各地に散らばった能力を探すと良い」

 

 心臓を眺めるマリを見ながらアウトサイダーは続けた。

 

「おぉ、そうだ・・・この世界にあるお前の能力を探してみると良い。この世界にもお前の能力が飛ばされていたらしくな、確か・・・あの塔の先にあったはずだ。早速使ってみると良いだろう」

 

 言いたいことを言い終えたアウトサイダーはまた姿を消した。マリはアウトサイダーの言うとおり塔に向かう。

 塔は横に倒れて浮かんでおり、十分に足場の意味を為している。直ぐに塔を渡り、心臓の鼓動を頼りに進んでいくと、心臓の少し鼓動が強くなった。

 

「向こうに・・・」

 

 一歩一歩近付く度に心臓の鼓動が強くなっていく。やがて心臓の鼓動が激しくなり、反応の元となる水晶玉が見付かる。

 

「これね・・・?」

 

 水晶玉を手にとって、それを見回した。

 

「どうやってこれを・・・?」

 

 徐に調べ回していると、手を滑らして水晶玉を落としてしまった。割れた水晶玉から中にあった藤色の煙が吹き出し、マリの身体を包み、身体の中に入ると、突然自分の身体が藤色に光った。

 

「ど、どうなって・・・!これは・・・!?」

 

 光る自分の身体を見ながら驚くマリに、再びアウトサイダーが姿を現す。

 

「ふむ、どうやら不老を取り戻したらしいな。これなら誰かに殺されるか、自分で命を絶つか、病に罹るからない限り死にはしないな」

 

「へっ・・・嘘・・・?」

 

「本当のことだ。その調子で全ての能力と愛すべきルリを取り戻すと良い。ん?もうお前の目覚めの時のようだ・・・最後に伝えておくが、お前に執着する男が近い内に、いや、直ぐに現れることだろう。それではまたいずれ何処かで会うことにしよう。いつでもお前を見守っているぞ」

 

 いつでも見守っていると言われたマリはまた鳥肌を立たせ、アウトサイダーに対して警戒心を持ったが、突然目の前が真っ暗になり、意識を失った。

 

「うぅ・・・あぁ・・・夢・・・?」

 

 刑務所の牢獄の中で目を覚ましたマリは、拘束着の感覚を直接肌で感じ、現実に帰ってきたことを実感する。

 

「変な夢・・・?」

 

 少し混乱気味のマリであったが、係の者が着た瞬間、今までの振る舞いをした。マリにとって最後の洗面が終わった後、カートに乗った最後の食事になるかもしれない朝食が目に映った。

 

「(本当にあれが夢だとすると・・・?)」

 

 朝食を口の中へ入れて、食べさせながらマリは昨日の夢の事を考えていた。そして最後の食事を終えると、係の者に歯を磨かされた。歯磨きの後の髪の手入れが終わると、複数の兵士と看守が姿を現す。

 

「歯磨きと手入れは済んだか?では、死刑囚を待合室まで移動させる」

 

 牢獄の戸が開けられ、マリは4名の男に抱えられながら、カートの上に載せられた。三日ぶりに浴びる朝日にマリは目を閉じる。

 

「どうだ、三日ぶりの太陽は?まぁ、これがお前の最後だがな」

 

 カートを押す兵士に言われ、少し腹が立ったマリであるが、今は全身を拘束されてなんの抵抗も出来ない。数十分後、待合室に到着し、そこでひたすらマリは公開処刑されるのを監視付きで待つことになった。

 監視している兵士は額が汗ばんでおり、「マリが拘束を解いて自分を殺すのではないか」と言う思考に捕らわれているようだ。証拠に身体ががたがたと震え、足下に水溜まりが広がっている。

 どうやら訓練を終えてから日の浅い新兵だろう。

 

「(何時間持つかしら?)」

 

 マリは震えが全く止まらない新兵を見ながら、いつまで持つか待つことにした。彼女に見られた新兵はより一層震えが止まらなくなり、いつ気絶してもおかしくない状況に陥ってしまったが。

 一時間経つと、新兵は床に倒れた。それを見ていたマリは、少し笑ったが、代わりの者が直ぐに来た。

 今度は歴戦の下士官が来る。全身を拘束されて決して外せないと思っている顔付きだ。

 マリにとっての死ぬまでの唯一の楽しみはここで潰え、彼女はじっと死刑台まで上がる時間まで待つことになった。妄想でもして時間を潰すことにした。

 

 まずは拘束着を外せたとして、一体どうやって逃げるかを考えるあの下士官をまだ覚えている格闘術で倒し、武器を奪う。

 だが、裸で逃げ回るなど以ての外である。必ず何処かで衣服を調達しなければいけない。

 着替えている間に敵が待ってくれるのか?そう頭に過ぎってしまい、別の考えにする。

 

 拘束着を外し、監視の下士官を殺害し、武器を奪う。第一の考え方と同じであるが、違う点はある。夢の世界で手に入れたブリンクと呼ばれる瞬間移動の能力を使うことだ。

 しかし、「本当に使えるのか?」と言う疑問が過ぎってしまい、断念してしまった。

 またマリは考えを変える。

 

 第三の考えは、信憑性のない夢の中でアウトサイダーが言っていた自分に執着する男の存在が自分を助けると言う発想だ。その男が監視している監視を無力化し、当時に衣服を用意しており、共に脱出する。

 本当にその男が来るかの問題であり、全く不確かでない事実である為、考えることを止めた。

 

「(どう考えたって、そんな都合の良いこと起きないじゃないの・・・楽しいこと考えよ)」

 

 マリは、脱出するより、懐かしくルリとの思い出を振り返ることにした。数々の思い出がマリの脳内を過ぎる。

 

「(そうだ・・・あの()、幼い頃にいつも一緒で唯一の友達だった人形にそっくりだったわ・・・あぁ、もう一度ルリちゃんに会いたい・・・)」

 

 ルリのことを思い出したマリは、自然と目元に涙を浮かべた。監視していた下士官も「遂に末期か」と心の中で呟いた。

 マリが妄想に浸っている途中で、それを邪魔するような事が起きた。

 

「失礼する。死刑囚のマリはその、拘束されている女か?」

 

「あぁ、そうですが・・・何用で?処刑の時間が迫ってるのですが・・・」

 

 バーバブエが複数の護衛と共にこの部屋に押し入り、監視役の下士官に質問していた。

 

「殿下の御命令だ、その女を私に預けよ」

 

「殿下の御命令?その命令は私に届く手はずになっておられ筈なのですが・・・」

 

「喧しい、貴様はごちゃごちゃ言わず、私の命に従え!貴様の首なんぞ私の手でいつでも刎ねれるのだぞ!!」

 

「は、はっ!直ちにお引き渡しします!」

 

 下士官は敬礼した後、マリを立たせてバーバブエの護衛に引き渡した。

 

「(え・・・どういう事・・・?なんでこんな馬鹿みたいなのに引き渡すの?)」

 

 突然、命令に忠実なはずの下士官が、自分を性欲の対象としてみるバーバブエに引き渡した為、マリは全く理解出来ずにいた。バーバブエの護衛達に引き渡されたマリはそのまま何処かへ連れて行かれた。

 

「何よもう・・・」

 

 歓声が聞こえる処刑場とは違う方向へと向かっている為、マリは不安の言葉を口に出した。

 マリにとっては久し振りに味わう恐怖だ。数十分もすると、目的の場所へ着いた。

 そこは手錠が高い位置に三個ずつ設置してあり、それが壁に三つずつ設置された部屋だ。三つの壁と出入り口の二つを合わせると、合計で十一個になる。直ぐにマリはこの部屋に来させられた理由が分かった。

 

「(レイプされる・・・!)」

 

 察したマリは、暴れ出して拘束を解こうとしたが、外れるはずもなくバーバブエの護衛達に抑えられ、目の前の手錠まで連れて行かれた。

 拘束着を外され、裸にされたマリは手錠を掛けられようとしていたが、バーバブエが彼女の左手にアウトサイダーから与えられた印が刻まれていることに気付く。

 

「なっ、この女、入れ墨をしておるぞ!」

 

 左手を掴んだバーバブエは、マリに印が付いていることに腹を立てた。どうやら左手に印が付いているのは何か”気不味い”証らしい。

 

「おのれ!この女、傷物ではないか!!」

 

 酷く腹を立てたバーバブエにマリは逃げる隙を見付けた。印があると言うことは、昨日のあの虚無の世界は単なる夢では無かったことだ。

 バーバブエの股間を蹴って、ブリンクを使い、左ポケットにナイフを差し込んだジャケットを着た兵士までマリは移動した。

 

「グワァ・・・」

 

「き、消えた!?」

 

 周囲にいた兵士達はマリの姿が消えたことに動揺を覚える。物の数秒後、ジャケットの兵士の前に全裸の金髪碧眼の美女が現れた。

 

「さよなら・・・」

 

 妖艶な笑みで、ジャケット兵士からナイフを奪い取り、苑へ意志の喉を切り裂いた。切り口から大量の血が噴出し、マリを血で赤く染めた。

 死まで後数秒を切った兵士から、AKs-74uを奪い、速攻で安全装置を解除し、引き金を引いて部屋にいた全員に向けてフルオートで発砲した。

 

「居た!がぁっ!!」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 その場にいた兵士達は全員マリが放った銃弾に断末魔を上げながら倒れた。バーバブエは肩に銃弾を食らっただけで済んだが、彼の護衛を務める兵士達は当たり所が悪かったのか、全員絶命している。

 生きている護衛が居ないことに恐怖したバーバブエは、目の前にいるマリに命乞いを始めた。

 

「うわぁぁぁ!た、頼む!殺さないでくれ!!」

 

 マリが拘束着を脱いだ後で浮かべていた顔は、情けないほどになって泣きじゃくっており、股間の辺りに目を向ければ失禁している始末だ。

 そんな自分にとって殺意の対象である男を、ゴミを見る目で睨み付けながらライフルを向けたが、銃口の短い突撃銃は弾切れであった。代わりに死んでる兵士から自動拳銃を取り、それを震えているバーバブエに向ける。

 

「や、止めてくれ!死にたくない!」

 

「着る物がある部屋に案内して」

 

「あぁぁぁ!止めろ!頼むから命だけは!!」

 

 銃を向けられている所為か、バーバブエは酷く怯えて泣き叫び、全くマリの話など聞いていなかった。これに苛ついたマリは、自動拳銃のクリップでバーバブエを殴り付けた。

 

「案内しろよ、おっさん」

 

「ヒェェェェ!!殺さないで!殺さないで!」

 

 逆効果だったのか、バーバブエはさらに泣き喚き、マリの怒りは頂点に達し、贅肉に包まれた男の腹を思いっ切り蹴り付けた。

 

「だ~か~ら~話聞けよ、おっさん!!」

 

「は、はい・・・た、直ちにご案内します・・・」

 

 贅肉だらけの腹を蹴られた痛みからか、バーバブエはマリの命令に従い、彼女を衣服のある部屋まで案内する。裸で豊満の体付きの金髪碧眼美女に後ろから拳銃を突き付けながら歩けさせられると言う何ともシュールな光景が映っている。

 背中に銃を突き付けられているバーバブエは、救いの神である衛兵が来るのを待っていたが、一向に来ない。

 

「(クソ・・・早く来んか、のろまな衛兵共め!)」

 

 彼自身は銃声に気付いた衛兵達が早く来るのを期待してたが、全く来なかった為、苛ついていた。

 目的の部屋まで着いてしまい、彼女はバーバブエに拳銃を向けながら着る物を探し始めた。これにバーバブエは、マリが着替えている最中に強姦しようと考え、そのチャンスが来るのを待った。

 

「(さぁ・・・早く着替えろ。その瞬間、お前をシャブリ尽くしてやる・・・!)」

 

 以前、マリが自分に視線を向けていた為、下品な顔付きは抑えたが、心の中は抑えられなかった。物の数秒後、マリの視線が自分から外れる。

 

「(今だ!!)」

 

 これをチャンスと見た、バーバブエは一気にマリに飛び掛かったが、マリは当に気付いており、襲ってきた男の額に銃口を突き付け、引き金に指を掛けた。

 

「あんたが襲ってくること、最初から分かってたから」

 

「よ、止せぇぇぇぇ!!」

 

 銃口を額に突き付けられたバーバブエは叫んだが、マリが引き金を引いた途端、その叫びは事切れた。バーバブエを撃ち殺したマリは、動きやすい服を見付けた後、身体に付いた血を白いシャツで拭き、動きやすい服である枯色の戦闘服を着る。

 

「まぁ、これでピッタリか・・・」

 

 自分の着ている戦闘服を見ながらマリは先程の部屋に行って武器を回収、そのまま出入り口がある場所へと向かった。

 

「ここが出入り口ね・・・歓声が聞こえるけど・・・ここでの戦闘は気付いてないようね?」

 

 出入り口の向こうから歓声が聞こえてくる為、マリはここで戦闘は気付いてないと察した。

 だが、その当ては外れ、出入り口から数人の声が聞こえてくる。

 

「おい、何か聞こえなかったか?」

 

「銃声だな・・・暴発か?もうすぐ処刑の時間だってのに」

 

「どちらにせよ調べる必要はありそうだ」

 

 声からして三人と分かったマリはAKs-74の安全装置を外し、こちらに来る敵に輪生体制を取った。

 今の彼女は不死身ではない、銃弾を何発も食らえば死んでしまう。不死身でないことは、もう既に力とルリを失った時に分かり切っている。そして、マリにとっての復讐への道が一歩と前進した。

 これから幾度と無く試練が訪れる事だろう。それでもマリは進む、かつての栄光と幸せを取り戻すために。




中断メッセージ

ビッテンフェルトの部屋

ビッテンフェルト「ほぅ、これが俺のコーナーか・・・随分とこの作品の作者も粋なことをするな」

ディルクセン「ハッ、作者も銀河英雄伝説を出したいそうですが、本編にてルールに違反する描画が多いそうで・・・」

ビッテンフェルト「当然だ、同性愛者の主人公が出る時点で参戦は不可能に近いからな。ゴールデンバウム王朝時代に同性愛者の皇帝が居たが・・・あれは引っ掛からんのか?」

グレーブナー「はぁ・・・小官はそれには・・・」

ビッテンフェルト「ふむ、そうか。で、一体俺は何をするれば良いんだ?ただお前達と喋ってるだけで良いのか?」

ディルクセン「いえ、確か・・・」

ハルバーシュタット「この場に来た者、ゲストとただ会話するコーナーだそうです」

ビッテンフェルト「で、その肝心なゲストは何処に居るんだ?」

ディルクセン「・・・」

ハルバーシュタット「・・・」

クレーブナー「・・・」

オイゲン「・・・」

ビッテンフェルト「まさか・・・居ないのか・・・?」

ディルクセン「そ、そうなります・・・」

ビッテンフェルト「次からゲストは来るのか?作者」

オイゲン「カンペでは、来るはずだと、申しております」

ビッテンフェルト「フッ、そうか・・・では、話でも変えるか。最後のマリが敵を待ち構えるが、あれは猪突猛進あるべきだろ?」

ディルクセン「その通りでしょう!閣下。突撃して敵陣から抜け出すべきです!」

オイゲン「(不死身じゃないんだし・・・無理だと思うけどな・・・)」

ビッテンフェルト「それもそうだ、猪突猛進あるのみ!マリ、これを見てたら、直ぐに突っ込め。分かったな?」

※ネタバレですが、ビッテンフェルトの言うとおりにマリは猪突猛進しません。


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脱獄と奇妙な男との出会い

スナエリのナチゾンアーミー2が出たので、ガルパンとナチゾンアーミーのコラボと同時連載になるかもしれません・・・

今回は最低野郎御用達のアニメに登場したガングロストーカー擬きが登場。


 マリは向かってくる敵を待ちかまえる為、左右に規則正しく立っている柱に身を隠した。

 建物内に入った三人の兵士は、お互いの死角を補佐しながら前進する。彼女が隠れている柱の近くまで近付いた瞬間、マリは手に握るAKs-74をフルートで撃った。

 

「あ、あいつは!?ワッ!!」

 

「オワッ!」

 

「ガッ!」

 

 三人の兵士は遮蔽物に身を隠すこともなく全滅した。

 先頭に立っていた兵士は他の二人と食らった5.45㎜ライフル弾の数が多い為に即死。他の二人は生きていたが、マリが取り出した自動拳銃MP-443で頭部を撃たれてトドメを刺された。

 そのままマリは外に出る前に、周りに敵兵が居ないか確認してから出た。

 

「周囲に敵兵は・・・居ないようね・・・」

 

 周囲を見渡して、誰も見に来ないか確認した後、空港がある方角を思い出し、そこへ進んだ。処刑場の辺りからなにやら怒りの声が上がっているらしく、周辺にいた警備兵達が慌ただしく動いていた。

 

「(もうバレてる・・・!?)」

 

 慌ただしく動く兵士達を見て、マリは直ぐに自分が逃げていると分かった。身を隠している場所から将校が見え、その将校が整列している兵士達に命令する。

 

「小隊各員、死刑囚がたった今、この場所から逃亡した。今のところ憲兵が血眼になって逃亡者を探し回っておるが、全く見付かっておらん上に地下でバーバブエ男爵が女性用更衣室で死体となって発見された。拷問室でも男爵の護衛に就いていた者達が死体となって発見されている。そればかりか、様子を見に行った三名の警備の者が逃亡者に襲われ、死体まで発見されたという報告まで上がってきた。死体はまだ新しく、逃亡者はまだここへ居るはずだろう。油断はするな、逃亡者を発見した場合、一人では立ち向かわずに五人一組で対処するのだ。なるべく生かして捕らえるのだ、殿下はこの報告を受けて機嫌を損なわれている。直ちに取り掛かれ!」

 

『ハッ!!』

 

 整列している三十六名からなる兵士達は上官に向けて一斉に敬礼した後、五人一組となって逃亡者であるマリを捕らえるべくそれぞれの担当地区へと向かった。

 無論、先程捜索に向かった小隊や憲兵・警備兵一個中隊分ばかりではなく、続々とこの処刑所に軍の部隊が集まってくる。

 正門から多数の兵員を乗せたトラックが続々と入ってきた。止まったトラックの荷台から次々と自動小銃を携えた兵士達が降りてきて、捜索部隊に加わっていく。捜索部隊の士気を高めようとしたのか、一人の士官が拡声器を持って全員に聞こえるような音量で叫んだ。

 

『捜索部隊の将兵達に告げる。たった今殿下から亡国の女帝、マリを捕らえた者は三階級特進だそうだ!二等兵なら兵長、軍曹は准尉、少尉なら少佐、少佐なら准将まで一っ飛びだ!!食える飯も旨くなって、給料も沢山もらえるぞ!!』

 

 この知らせにその場にいた探索部隊の将兵達の士気は上がったが、逆に出世したが為に冷静な判断を削ぐことになろうとは、報告した士官は思わなかった。

 地響きでも起こすかの勢いの足音の数に、マリはなるべく見付からないように隠れながら移動する。探索部隊の将兵達は「一人の女を捕らえれば、三階級特進できる」と言う思考に脳内を支配され、先程の小隊長の告げた五人一組を完全に忘れ、己の功績を優先してマリを探し回っていた。

 先程の佐官クラスの男が今の将兵達の状況を見て、頭を抱えながら言う。

 

「これでは味方同士での殺し合いに発展しかねんぞ・・・」

 

 今のマリを探し回る兵士達を見て、そうとは思えない佐官であった。これはマリとっては、有り難い事なのか、またはさらに危険が増したかである。

 処刑所を抜け出そうと、様々な道を見て回るマリであったが、行ける場所の何処でも分隊以上の人数の兵士達で封鎖されており、下手に動いても周辺で血眼になって探し回る兵士達に見付かる可能性が高かった。

 

「(詰んだ・・・どうすれば・・・?)」

 

 別の道を模索するマリであったが、移動しようにもこの場にいる兵士が多すぎて移動できない、そんな時にこちらへ手招きする男が居た。

 

「(なに・・・?あいつ)」

 

 マリを手招きする男の外見は浅黒い肌に金髪の長身の男だ。笑顔で手招きし、周囲から探索の兵士が来ないか警戒している。

 男は声を発せずに口だけを動かしながら、マリにこちらへ来るよう指示した。

 

「(逃げ道を教えてやるからこっちへ来い?変なこと考えてるんじゃないでしょうね?)」

 

 男性に対して尤も警戒心の強いマリは男を疑った。

 だが、昨日の夢にあった「自分に執着する男」の事を思い出し、相手が自分を呑むのなら、逆に自分が呑んでやろうと思い付き、男の誘いに乗ることにして、無言で頷く。手招きしていた男は笑みを浮かべ、周囲に視線を向けた後、懐から手榴弾を取り出し、安全栓を抜いて、何処か適当な場所へ手榴弾を投げた。

 それと同時に男が顎を動かして「来い」という合図をマリに送り、彼女はそれに応じて男の所まで向かう。手榴弾が爆発した瞬間、耐えることのない足跡が途絶えた。

 

『爆発だ!』

 

 一人の兵士が放った言葉の後に、連続した声が聞こえてきた。その間にマリは男が居る場所へと到着する。

 

「誘いを受けて貰って嬉しいよ、お嬢さん」

 

 男は笑みを浮かべながら、マリがこちらへ来た事に感謝したが、当の本人は男に拳銃を突き付けている。

 

「どうやらお嬢さんは殿方がお嫌いのようだ・・・」

 

 先程浮かべていた笑みは消え、両手を上に上げて降伏の意志を見せた。

 

「完全にあんたを信用した訳じゃないから」

 

「それもそうだ、突然手招きしてきた男をはいそうですかと信用できるわけがないな。それよりこっち兵隊が集まってきそうだ、自己紹介は静かな場所でやろう。こっちだ」

 

 マリに拳銃を突き付けられても何の動揺もせず、男は安全な場所へと彼女を案内し始めた。行くところに兵士達の声が聞こえてきたが、どうやら男と自分が居る場所には、探索が及んでいない様子だ。

 暫し進んでいくと、開けた場所に出た。

 

「よし、敵は居ないな・・・?では、お嬢さん、名乗らせていただこう。俺はガイドルフ、ガイドルフ・マカッサーだ。日本の戦後後処理に努めたGHQ司令官であるダグラス・マッカーサーとは縁もゆかりもない」

 

 自己紹介をした男、ガイドルフに続いてマリも名乗ろうとしたが、彼が人差し指を上げて口を開いた。

 

「おっと、お嬢さんは大変人気だからな。自己紹介しなくて良いぜ。マリ・ヴァセレート、旧名マリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーだ。こんな飛び切りの美人の名前を忘れない筈がない」

 

 ガイドルフが当てた名前にマリはやや動揺を覚えた。

 

「(こいつ・・・ストーカー・・・!?)」

 

 相手に聞こえないようにマリは心の中で言い、ガイドルフに警戒心を抱く。

 

「おっと済まない。少々怖がらせてしまったようだ・・・では、直ぐさまお嬢さんには処刑場から出て頂いだこう。そうだ、そうして頂こう。断じて、お嬢さんを付け回して、追い回すつもりはない。で、そこから・・・」

 

「居たぞ!!」

 

 警戒心を抱くマリの誤解を解こうと、ガイドルフは脱出を協力する事を誓い、簡単に纏めた手はずを言い終える前に兵士に発見された。即座にガイドルフは木製ホルスターの蓋を開き、そこからモーゼルC96を引き抜き、相手が携えている自動小銃を撃つよりも早く、兵士を撃ち殺す。

 

「こう見えて、早撃ちは得意な(もん)でな。これで生きながらえた物だ。こいつでの早撃ちはストックを改造する必要があるがな」

 

 モーゼルC96の銃口から出ている煙を吹き消し、マリに語った。

 

「さぁ、ここで呑気にお話をしてる場合じゃない。さっきの銃声を聞かれちまった。数が少ないとはいえ、この場にいる兵隊共が集まってくるぞ。西に脱出用の車を用意してある。強行突破するぞ」

 

「静かに行かないの?」

 

「さっきあの兵隊に大声を出された上、消音器付きの自動拳銃(オートマチック)を間違えて、慣れでモーゼルを抜いちまった。派手にやっちまった以上、逃れられない。さぁ、派手に行くぜ」

 

 撃ち殺した兵士から自動小銃FN FAL(ファル)とその弾薬に無線機を回収しながらマリに答えた後、FALを抱えて彼女についてくるように言った。

 

「ポイントマンは俺が務める。お嬢さんは後ろをカバーしてくれ」

 

「なに勝手に決めてんのよ。私はまだあんたなんか信用した訳じゃ・・・」

 

「不死身じゃないんだろう?俺がその分、頑張らないとな」

 

 ガイドルフの答えにマリは少し苛つきながらも、自分に協力する男の指示に従う。その間に多数の足音がこちらへ近付いてくる。

 

『エリア7-3-4にて銃声だ!その場に近い者は確認に迎え!』

 

 先頭に立つガイドルフが持つ、敵兵から奪った無線機から敵が来る情報が流れてくる。

 

「敵さん、こっちに来るぞ。身構えておけよ」

 

 無線機からの情報に、ガイドルフはマリに注意したが、彼女はただ無言で頷くだけだ。先へと進むと、二十人ほど兵士が二人を見るなりいきなり撃ってきた。

 

「居たぞ!なるべく生かして捕らえろ!」

 

 手に持つ小火器を一斉に放ち、二人を遮蔽物に釘付けにした。銃撃を止めた一人の兵士が、ガイドルフの存在に気付き、隣にいる同僚に問う。

 

「なぁ、逃亡犯の女と一緒に居る男、誰だ?」

 

「知るか、あの女の逃亡に協力している奴だ。撃ち殺せ!」

 

 同僚はそう答えた後、再び銃撃に加わった。兵士達は二人を数の上で押しているはずだが、次々と兵士達はガイドルフの早撃ちで倒されていく。

 隣で突撃銃を撃っていた兵士が倒れたのを見た指揮官は、士気を落とさぬよう怒号を飛ばす。

 

「相手はたったの二人だぞ!怯むな!突撃しろ!!」

 

 銃剣の付いた突撃銃AKMを持った兵士達が突撃の構えを見せれば、敵の増援が十人ばかりやって来た。それを見たガイドルフはマリに知らせる。

 

「お嬢さん、追加のお客さんだ!それに突撃してくる!AK74をフルオートにして撃ちまくれ!」

 

 ガイドルフの指示にマリは従わず、軽機関銃や突撃銃に支援されて突撃してきた兵士達をマリは的確に撃ち殺していく。だが、弾倉の中身が足りず、最後の一人で弾切れを起こす。

 

「あっ、クソ!」

 

 マリへの肉薄を許してしまったガイドルフは、直ぐに彼女を助けようとしたが、自分に向けて攻撃が集中してきた為に、構っている暇など無かった。

 しかし、その必要はなく、マリは突撃してきた兵士の腰にぶら下がっていた手榴弾の安全ピンを抜き、蹴って自分から遠ざけた。

 

「あっ、あぁぁぁ!!た、助けてくれ~!」

 

 助けを呼びながら、手榴弾をぶら下げたベルトを必死で外そうとする兵士だが、慌てている所為で手元が狂い、外れない。そのまま突撃した兵士は爆死する。

 破片を周辺に飛ばすだけの手榴弾であった為、人体は残っていたが、腹から内蔵が見えているなどの酷い有様だ。慣れない者は吐くはずだが、マリとガイドルフは慣れており、敵兵達も戦闘の最中であった為に吐くことはなかった。

 まだ兵士は突破できないほど残っている。近くにある敵兵の死体から破片手榴弾を幾らか拝借して、それを敵兵が多く集まっている場所に投げた。

 

「手榴弾だ!」

 

 飛んできた手榴弾が足下に転がってきたことに気付いた一人の兵士が叫べば、全員が撃つのを止めて、その場から離れる。

 一部では、手榴弾に気付かず、飛んできた破片で倒れる者が出た。少しキリがないと悟ったガイドルフは煙幕手榴弾を懐から取り出し、中央に投げ込む。

 

「うわっ、手榴弾!?」

 

 放り込まれた煙幕手榴弾を手榴弾と間違えた兵士は叫び、中央で銃撃を加えていた兵士達はその場から逃げ出す。煙幕手榴弾が爆発し、中に詰まっていた白い煙が吹き出した。

 

「煙が十分に哮るまで、持ちこたえろ」

 

 ガイドルフがモーゼルを撃ちながら、遮蔽物に身を隠してAKs-74の再装填をしていたマリに告げた。十分に煙が充満したのを確認したガイドルフは、一気に煙の中に突っ込み、マリも後へ続く。

 煙で二人が見えない所為か、敵兵達は撃つのを止めていた。

 

「撃つな、同士討ちになる!」

 

「射撃止め!味方同士で撃ち合うことになるぞ!」

 

 白い煙で見えない場所から敵兵の声が聞こえ、兵士達が手探りで二人を探し回っている事が分かる。煙が充満している内にマリとガイドルフは突破する。

 

「団体さんとの交戦はなるべく控える。突破できそうな数だけ交戦するぞ」

 

 ガイドルフの言うとおりに少数の敵兵だけと交戦して一気に西門まで近付く。だが、発見されたことを報告されたのか、20名程の兵士が門を封鎖しようとしていた。

 

「西門のまだ封鎖されていないようだな・・・あの人数なら突破できそうだ。行くぞ」

 

 物陰に隠れたガイドルフは、モーゼルC96の再装填をしながら敵兵の人数と装備を確認し、突破をしようとする。再装填を終えると、物陰から飛び出して、門を閉めようとする兵士達に声を掛け、注意を惹いた。

 

「おい!」

 

「ン、誰だ?あ、何者!?」

 

 得意の早撃ちで気付いた下士官を撃ち殺した後、周りにいた兵士達を次々と撃ち殺す。

 

「オワッ!」

 

「ギャッ!」

 

「ナアッ!」

 

 バタバタと倒れていく兵士達を見て、マリはガイドルフの強さを知った。

 

「(こいつ・・・私の援護無しでも一人で全部やっつけてるじゃない)」

 

 生きている敵兵からの銃撃を上手く回避し、直ぐに反撃に移る。物陰でただ傍観していたマリに、ガイドルフが声を掛けた。

 

「車を取ってくるから、残りは任せる!」

 

「はっ!?ちょっと!」

 

 ガイドルフはマリの肩を叩いて、残った敵兵の排除を頼み、車を取りに行った。こちらに向けて銃口を向けた残りの兵士達にマリは持っている突撃銃で反撃を行う。

 残っている兵士達の人数は五人ほどで、マガジンの弾薬分で十分に排除できた。それと同時に屋根のないオープンカーに乗ったガイドルフがマリの近くまで来て、車を止めた。

 

「おい、早く乗れ。敵の増援が来るぞ」

 

 言われたとおり、マリが左側の助手席に座り込むと、乗ったのを確認したガイドルフはアクセルを踏んで、車を急発進させ、西門から処刑所を脱出した。

 後ろを振り向けば、二人を追ってきた兵士が手に持つ銃を撃ちながら、足で追跡しようとしていた。

 追いつけるはずもなく、足での追跡を諦めた指揮官が、通信兵から受話器を取って、追跡用の車を持って来させようとする。その間に、出来るだけスピードを上げて、処刑所から遠ざかる。

 

「これがドライブなら、最高だがな」

 

 冗談交じりで言ったハンドルを握るガイドルフの言葉に、マリは少し苛ついたが、今ここでガイドルフを殺すと、この先困難になりそうなので、止めた。

 しかし、完全に逃げ切れた訳ではなく、機関銃を搭載したジープやサイドカー、短機関銃を持った兵士が乗るバイクが複数追ってくる。

 

「クソ・・・これから美女と楽しいお話をしようと言うのに・・・」

 

 サイドミラーで追ってくる敵を見て、悪態付いたガイドルフは、マリに追っ手を排除するよう命ずる。

 

「済まんが、置いてある突撃銃か、今持ってる突撃銃で追っ手を追っ払ってくれないか?」

 

 ガイドルフが親指を向けた先にはアメリカの突撃銃M16A1の進化形態で、米海軍だけが正式採用しているM16A3が、複数の西側の大抵の突撃銃と互角性がある弾倉が入った箱と共に置かれていた。テープで二つに巻き付けられた弾倉もあったが、マリはM16よりも距離が長い元を折り畳みストックに変えたAKs-74を使うことにする。

 

「なんだ、使わないのか?AK74は、M16より命中精度が倍以上に高いからな」

 

 M16A3を使わなかったマリを見たガイドルフは声を掛けたが、彼女は無視して射撃に専念した。的確に排除すべく、運転手に狙いを定めて引き金を引いた。

 風除けのガラスに穴が空くと、運転手が胸から血を吹き出して動かなくなり、コントロールを失ったジープは横転し、乗員達が吹き飛ばされた。次はバイクに狙いを付け、引き金を引いたが、ガイドルフがハンドルを切った為に外れてしまう。

 

「済まん!こちらも避けるので必死でな!!」

 

 ガイドルフは謝っているが、マリにしてみれば邪魔された物である。

 セミオートからフルオートに切り替え、5.45㎜弾をばらまく。折り畳みストックから伝わる反動を抑えながら、追っ手をある程度片付ける。

 弾倉の中身が無くなれば、新しい弾倉を取り出し、刺さってる空の弾倉を弾き飛ばして、新しい弾倉を差し込み、再び銃撃した。

 

「やるな!これで何台目だ?!」

 

 倒した車両の数を、ガイドルフは聞いてきたが、マリは無視する。

 

「お、空からお客さんだぞ!」

 

 ガイドルフの叫んだ事に耳を傾けると、空にロシアの多目的ヘリコプターKa-60が飛んでおり、側面のドアから軽機関銃を持った兵士が、マリ達を狙っていた。

 

軽機関銃(ライトマシンガン)か、こいつは厄介だな。仕留めてくれ!」

 

 言われたとおり、マリは上空のKa-60に向けて撃った。軽機関銃RPKを撃とうとした兵士が弾丸に当たり、息の根が止まる。

 

「次が出て来たら、厄介だ。テールローターを狙え!」

 

 ハンドルを片手に右手でモーゼルC96を握り、右側面から襲ってきたバイクに乗った兵士を撃ち殺した後に、ガイドルフはマリにヘリを撃墜するよう命じた。

 

「簡単に言ってくれちゃって・・・!」

 

 マリは独り言を言い、ヘリのテールローターに狙いを定めた。風の抵抗を受けており、弾は真っ直ぐ飛ばないだろう。

 敢えて照準を右側に少しずらし、引き金を引いた。銃口から放たれたテールローターは見事命中、ヘリはバランサーを失って、地面に激突し、大いに炎上して大破する。

 

「今度はトラックで追ってきたぞ」

 

 追っ手は兵員トラックまで増員してまでマリ達を追ったが、運転席に乗った兵士等がフルオートで撃ち殺され、コントロールを失って横転し、荷台に載っていた兵士達は地面に投げ出された。

 

「これで、追っ手は全滅したかな?」

 

 ハンドルを握りながら、ガイドルフは集を見渡し、誰か追ってこないか確認していた。マリは空になった弾倉を外して、満載の弾倉に入れ替えようとポケットを探ったが、弾倉は無くなっており、AKs-74はただの殴る”棒”でしか無かった。

 持っていても殴るしか無いAKs-74を捨て、マリは助手席に座り、乾パンをポケットから取り出し、それを口に含んだ。

 

「美味しいかそれ?」

 

 運転席に座るガイドルフが、マリが食べている乾パンを見ながら聞いた。

 だが、マリは男からの質問に対して無視を決め込む。次にガイドルフはマリの射撃力の高さを褒める。

 

「それにしてもテールローターを撃ち抜くなんざ、凄い射撃力だな・・・まぁ、狙撃手と知っていたが、まさかこれ程の腕前とは思わなかったぜ。俺も自信はあるんだが、強い横風が来る中であの芸当は出来ない」

 

 射撃力の高さに尊敬の意志を表したガイドルフだが、マリは相変わらず黙ったままだ。空を見上げて見ると、日が落ちていることに気付く。

 

「もう日が落ちる頃だな・・・これからはあんたと呼ばせて貰うことにするぜ。なんたって見た目は俺より年下そうだが、実際には俺より遙か年上だ。こんな若くて美しい容姿じゃあ、婆さんだなんて容易に呼べば、失礼極まりない。俺の方は好き放題、どんな名前でも呼んでも良いぞ。どうだ、これで話す気になったか?」

 

 少し無理をして、マリと話そうとしたガイドルフであったが、当の本人は相変わらず黙ったままだった。

 

「へぇ・・・男嫌いも情報通りか・・・」

 

 こちらの話しに聞く耳持たないマリに、ガイドルフは溜め息をつく。暫くすると、マリは寝息を立てて寝始めた。

 これを見たガイドルフは、マリのことをまた情報通りだと確信した。

 

「外面はこんなにセクシーなのに、中身は子供のままとは・・・これも情報通りか・・・不用心過ぎないか?それとも安心しきちまったか・・・?」

 

 隣に男が居るというのに疲れで寝てしまったマリを見ながら、ガイドルフは推測したが、それは追いて置き、運転に集中する。

 日が落ちる頃には、目的の街が見えて来た。数分後、街に着くと、ガイドルフは寝ていたマリを起こそうと、肩に手を置いた。

 その瞬間、彼女の肩に触れようとした右手が掴まれ、目を覚ましたマリに拳銃を額に突き付けられていた。

 

「目が覚めたか・・・?」

 

 動揺せず、マリが目を完全に覚ました事を問う。

 

「落ち着け・・・俺は紳士だ・・・それに近くには旅団規模の民兵のキャンプと離反軍の連隊本部がある・・・」

 

 ここで銃を撃つことの無謀さを知らしめて、銃を降ろすように告げた。それに承諾したマリは、MP443を降ろした。

 

「そうだ・・・それで良い。ここで、俺を殺しても、何にもならん」

 

 安心しきったガイドルフは銃を降ろしたマリに向けてそう言った。後部座席に置いてあったM16A3と弾薬を持って街に入ろうとするマリであったが、ガイドルフから声が掛かる。

 

「おいおい、そのまま街へ行くのか?それと、消音器を付けた銃が必要じゃないのか?」

 

 ガイドルフの声に振り向いたマリは、彼がドイツの数ある自動拳銃の一つHK USPを差し出している事に驚く。この自動拳銃の銃口には消音器(サプレッサー)が装着しており、街で静かに敵を排除するには打って付けだった。

 

「俺がさっき処刑所で抜こうとした拳銃だ。この先あんたが一人で行くと仮定して渡すことにする」

 

 マリにUSPを渡した後、ガイドルフはその自動拳銃について説明を始めた。

 

「コンパクトモデルでは些かスタミナに欠ける。だから45口径モデルを持ってくることにした。この大口径の45ACP弾は喧しいとされるが、実は消音器と相性が良いんだ。だから俺は一番スタミナがあって、かつ45ACP弾を使用するこのモデルを使うことにしたって訳だ。あんたが持ってるMP-443も消音器が付けられるが、9㎜弾じゃ減装弾を使わないと完全に音は抑え込めない。俺にはモーゼルがあるから大丈夫だ、少しその自動拳銃(オートマチック)は重いが、比較的に敵を排除できるし、それにサービスとしてライトならびレーザーサイト付き。こいつは俺からのプレゼントだ」

 

 笑顔でそう告げたガイドルフにマリは無言でUSPを調べてから、MP-443が入っていたホルスターを外して、彼に渡した。

 

「お、こんなにスタミナのある拳銃を取っ替えるのか?では、この拳銃は預からせて貰おう」

 

 MP-443を預かったガイドルフは、代わりにUSP用のホルスターを渡す。

 

「では、気を付けて行けよ。おっと、合流地点は・・・」

 

 合流地点を決めるべく、懐から地図を取り出して、マリに合流予定地の位置を示す。

 

「空港がある方角に位置する街の北側に合流しよう。ここなら早く空港に行けるだろう。俺達は処刑所からトンズラする際に派手にやりすぎたんだ。今頃は警備が厳重になってる頃だな。俺は先に合流地点で待ってるから、あんたはなるべく音を立てず、誰にも見られることもなく、静かにやれよ?では、幸運を(グットラック)

 

 左手を額に向け、それをマリに翳した後、ガイドルフは車に乗って、先に合流地点へと向かった。

 

「今はこれで許してやるとしますか・・・事が終わってから、あいつの始末どうしようかな?」

 

 突撃銃を肩に掛け、プレゼントされた自動拳銃を見ながらマリは独り言を呟き、仮に全ての能力とルリを取り戻した後、ガイドルフの始末のことを考える。

 そう考えている内に街の出入り口に着く。無論のこと、出入り口には離反軍の印を付けた兵士が一個小隊の人数分が警備し、道の左右には土嚢で出来た機関銃陣地があり、厳重な警備網と検問がなされていた。

 正面突破など以ての外であり、尤も危険きわまりなく、自殺行為である。何処か別の進入路がないか調べ、目を凝らせる。

 

「(あそこから上れそうね・・・)」

 

 道を塞ぐように置かれた仮設壁が上れそうと判断したマリは、早速行動に移った。街の周囲を回るかのように軍用犬を連れた警備兵が巡回しており、それが通り過ぎるのを待って、壁の出っ張りに手を掛けた。

 

「行ける・・・」

 

 周囲に聞こえないような声量で呟いたマリは壁の出っ張りを掴みながら上へと上がる。

 装備の重たさで普通の女性ならば相当鍛えてないと上がれないかもしれないが、彼女は成長期に超人的な訓練を受けてきた為、筋肉質な外見でいなくても容易に上がれた。

 壁の上に上がった後、周囲に人影が居ないか確認した後、街へ入った。住民は一人も居らず、警官や兵士、民兵の姿しか見えない。どうやら軍は街に戒厳令を敷いたらしく、市民、労働者などの一般人には自宅に居るよう命じたのだろう。

 フルカスタムのUSPを握りながらマリは何処か見付からないように移動できる場所を探す。住宅の屋根を見た彼女は、屋根を伝って移動することにした。

 最初に決めた家に住む家主に気付かれぬよう静かに上り、屋根の上へと上がった。上空にヘリが飛んでいないことを確認したマリは、音を立てないよう移動する。道中、家々の屋根と言う屋根を伝っていると、一人でイスラエルの短機関銃ウージーを持った警官の独り言がマリの耳に入った。

 

「ハァ・・・俺達がムガル人の末裔だとか、誇り高い民族とか今更言われても実感が沸かねぇよ・・・」

 

 どうやら一連の出来事にこの警官はついてこられないようだ。盗み聞きしていたマリは、移動を再開する。

 屋根を伝っている所為か、少し大きめの音がした為、少し感付かれたが、警備の兵士や警官、民兵からは屋根から何か落ちた物と判断される。

 やがて高い建物まで着くと、壁の出っ張りを探し、それを利用して上へと上がった。屋上に上がれば、そこで民兵が煙草を吸いながらさぼっていた。マリの存在に気付いていないらしく、さらに欠伸までしている。

 早速始末するべく、ナイフを取り出して背後から迫り、民兵の首元に突き刺した。首元を突き刺された民兵は声を出さずに血を吹き出して息絶えた。

 安全を確認すると、能力の位置を確認すべく、ポケットに手を入れた。

 

「入れたつもりは無いのに・・・?」

 

 能力探知機である心臓が入っている事に驚くマリ。鼓動の数は微か、近くに自分の能力がある証拠だ。心臓を肌に近いポケットに入れ込み、鼓動を直に感じるようにした。

 

「鼓動が薄れる・・・こっちじゃない・・・」

 

 鼓動が薄れた事に気付き、マリは鼓動が強くなる方へ進んだ。先へ進むほど鼓動は強くなり、自分の能力が近いことが分かってくる。鼓動が強い所まで来ると、周辺に警官が一人も居なくなっていることに気付く。

 巡回しているのは兵士と民兵だけで、機関銃を搭載した車両も巡回に加わっていた。

 

「厳重な警備・・・私の能力の近くに何かあるのかしら・・・?」

 

 厳重な警備体制を見ていたマリはそう仮定し、先へと進む。なるべく音を立てずに、能力がある場所へと確実に近付いて行く。

 途中、マリの侵入ルートを塞ぐかのように56式歩兵槍を持った民兵が現れた。あの民兵は彼女の存在に気付いていないらしく、ただ決められた巡回路を進んでいるだけだ。気付かれずに進めないような位置に立ち止まった為、排除が必要である。

 USPをホルスターから抜き、照準を民兵の頭に合わせる。民兵の頭部にレーザーポイントが当たり、簡単に当たるようになった。

 引き金を引いた瞬間、消音器で圧し殺された銃声が鳴り、頭を撃たれて事切れた民兵が地面に倒れ込んだ。他の歩哨に気付かれる前にマリは迅速に行動する。

 

「鼓動が強い・・・私のはあそこにあるのね・・・」

 

 厳重な警備体制が敷かれた五階建ての屋敷を見ながら、マリはそう呟き、屋敷への侵入ルートを探し始めた。




~今回の中断メッセージ~

ビッテンフェルトの部屋

ビッテンフェルト「全く、この時期に同時連載など何を考えておるのだ。作者は・・・」

ディルクセン「なにぶん、誰もやったことが無いことをしたがる者ですから・・・」

ビッテンフェルト「そうか・・・で、客は来たのか?」

オイゲン「ハッ、ゲストは来ました。西住みほです」

みほ「ど、どうも・・・県立大洗女子学園2年生普通科の西住みほです・・・」

ビッテンフェルト「ほぉ、あのマインカイザー・ラインハルトと同等の戦術家とされる西住みほか!!想像していたのと違うがな・・・」

みほ「す、済みません・・・」

ビッテンフェルト「何を謝る。で、今回はあの作者が始める新作、歩き回ってギャーギャー喚く死人共と貴様等の仲間達が戦うそうだが、どうなんだ?」

みほ「えぇ・・・ゾンビ物は余り見たこと無いので、良く分かりませんが・・・頑張りたいと思います」

ビッテンフェルト「ほぅ・・・そうか・・・では、目の前に群がる死人の軍勢に向けて、猪突猛進を掛けるのだな?」

みほ「え、私達のⅣ号でですか・・・?ちょっと、掃除が・・・大変・・・」

ビッテンフェルト「なに、掃除?貴様、そんな事を考えているのか・・・?貴様達の戦闘車両の中に突撃砲があるではないか、これで突撃を仕掛けるのでは無いのか?」

みほ「突撃砲は・・・突撃する為の物ではなく、支援車両などでありまして・・・つまり自走砲なんです・・・」

ビッテンフェルト「なにぃ!自走砲だと!?前面装甲が堅いではないか、敵陣へと突撃するために特化した戦車ではないのか?」

みほ「確かに敵陣への直接的攻撃は出来ますが、突撃はしません・・・」

ビッテンフェルト「ぬぅ・・・では、戦車道に属する貴様に聞こう。俺に似合った戦車は何だ?」

みほ「突撃を重視するから・・・重装甲な戦車・・・ティーガーⅡかな?」

ビッテンフェルト「ティーガーⅡだと・・・?おい、資料を持ってこい!」

資料をビッテンフェルトに渡す部下。

ビッテンフェルト「どれ、前面装甲が150㎜に他は80㎜、砲塔は180㎜に他は同じか・・・攻撃力は・・・認めてやろう。速度が38㎞/hだと?我が艦隊は高速戦艦と足の速い艦艇で編成されているんだぞ!かなりの鈍足ではないか!?」

みほ「ふぇぇ!?だ、大丈夫です!発展型がありますから!!」

ビッテンフェルト「なんだと・・・?よし、そいつの資料を持ってこい!」

また資料を持ってきた部下。

ビッテンフェルト「ほぅ・・・中々の性能じゃないか・・・!決めた、早速乗り回してやろう!」

オイゲン「え、部屋は・・・?」

ビッテンフェルト「部屋だ?次回は休みにする。では、ティーガーⅡもとい、ケーニヒス・ティーゲルを乗り回すぞ!」

みほ・オイゲンを除く一同『オォー!』

※次回はシュワルツ・ランツェンレイターの一同が装甲師団を編成して、乗り回している為、ビッテンフェルトの部屋はお休みです。


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見付けた・・・

今週のネタバレ

白燐弾使用


 厳重な警備網を見ながら、侵入ルートを探すマリ。丁度視線に入った地下通路に目を付けた。

 

「あそこなら行けそう・・・」

 

 ボソボソと呟いたマリは、直ぐに地下通路まで向かう。やはりここも兵士や民兵に溢れており、軍用犬連れの兵士が巡回している。

 消音器付きのUSPを両手で握り、侵入ルートに邪魔な者がいれば排除する構えを見せ、警備兵や軍用犬に気付かれぬよう屋敷への侵入路へ進む。

 

「あっ、なんだ?」

 

 進んでいる最中、マリの通り過ぎる姿を見た兵士が居たようだ。確認のために手に握るM16A1をいつでも撃てるような姿勢で持ち、マリが隠れている場所まで向かってくる。

 声を出される前に彼女はナイフを抜いて、いつでも始末できるよう準備をする。近付いてくる足音に耳を傾けながら、他にも来ないか確認し、額に汗を浮かばせる。

 敵兵が自分の隠れている場所を除いた瞬間、マリはナイフをこちらに視線を向けようとした敵兵の首に突き刺した。首を突き刺された敵兵は口から大量の血を吐き、声を上げようとするが、口を塞がれ、喉に溢れた自分の血で窒息死する。

 引き金に掛けていた指が引きそうになっていた為、直ぐに指を退け、動かない敵兵が持っていたM16を取り払い、人目が付きそうもない場所へと直ぐに死体を隠した。その後に死体から何か回収できる物は無いかと調べる。

 自分が持っているM16A3しか互角性のある弾倉しか持っていなかった為、敵からの情報が分かる無線機を回収しておく。これで敵の情報や先の行動はある程度分かる。

 徐に無線機のスイッチを入れてみると、周りに聞こえるような音量で音声が聞こえた。空かさず音量を下げ、耳に近づけて聞いてみる。

 

『こちらパトロール、B-266の一番高い建物の屋上に解放戦線の民兵の死体を見付けた。こいつ、さぼってたな。首元に刃物を刺されて死んでる。この傷、この辺に居るレジスタンスじゃなぇな。おそらく逃げ遅れた残党の仕業だ。B-266に増援部隊を』

 

『こちら本部(HQ)、現状の戦力では不満か?オーバー』

 

『不満?相手は訓練を受けている。それなりの戦力が必要だ、空きを出来る限り送ってくれ』

 

『了解、分隊規模をその地区に派遣する。アウト』

 

 無線からの遣り取りを耳に入れたマリは直ぐさま移動を再開する。道を巡回する歩哨の目を盗んで、移動していくと、地下の出入り口まで着いたが、警備兵がドアに凭れて掛かって陣取っている。

幸い周囲に他の歩哨は居ない。

 距離からして、消音器から発せられる僅かな銃声も聞こえずに済む。陣取っている兵士に近付こうとした瞬間、煙草を吸いながらこちらに来る兵士に目撃された。

 

「し、侵入・・・」

 

 口にくわえた煙草を落とし、肩に掛けてある突撃銃を向けようとしながら兵士が声を上げようとした瞬間、マリはUSPを男の額に向けて引き金を引いた。額を撃たれた兵士はそのまま即死し、僅かな銃声を聞きつけた陣取ってる兵士がマリの存在に気付き、手に持つ銃の安全装置を外して声を上げようとしたが、先の撃たれた兵士同様、額を撃たれて絶命する。

 ドアに凭れ掛かって死んでいる兵士を退けると、地下通路へと進んだ。地下にも警備兵が巡回しているが、数は少なく、強行突破も可能であった。

 だが、銃声は地上にいる兵士達が気付き、今不死身ではないマリは大多数の銃弾の前に倒れることだろう。なるべく銃を使わずに進める為、警備兵の視界に入らないよう移動した。

 

「こんな汚い場所で警備とは、運が悪いぜ・・・」

 

 散弾銃を持った警備兵が悪態付きながらマリの視界に入ってきた。彼女の存在には気付いていないようであり、そのまま通り過ぎていく。足音を聞かれない程度の距離まで警備兵が行くと、直ぐに別の隠れる場所へと向かう。

 敵との戦闘を避けつつ、身を隠しながら屋敷へと続く階段を見付けた。周囲に敵兵が居ないと確認したマリは、階段へと足を踏み入れようとしたが、階段から誰かが降りてくる二人分の足音がして、慌てて身を隠す。

 遂、音を立て過ぎた為、存在を気付かれてしまった。

 

「ん、誰だ?」

 

「確認する必要があるな」

 

 銃の安全装置を外す音が微かに聞こえ、二人の兵士が自分を殺しに来る。そう思ったマリは何処隠れる場所を探した。

 天井を見上げれば、微かな出っ張りがある場所を見付ける。

 

「行けるかな・・・?」

 

 望みに掛け、出っ張りを掴んで天井に張り付く。二人の兵士が、マリが天井に張り付いている場所へと足を踏み入れた。

 

「気のせいか・・・?」

 

「おかしい、さっき音が聞こえたんだが・・・?」

 

 上以外を見渡しても、侵入者の姿は発見できなかった為か、二人の兵士は過ぎ去っていった。一息ついてマリは天井からなるべく音を立てないように降り、地面に足を付けた。

 完全に足音が聞こえない距離に兵士が行ったのを確認すると、直ぐに階段を上がった。屋敷に内部から入ったマリは周りに敵兵が居ないか周囲を見渡し、心臓を取り出し、何処に自分の能力があるか確認する。

 東に向けると、鼓動が早くなった為、そこへと進む。屋敷内にも警備兵が巡回していたが、屋外戦闘を想定したか、持っているのは短機関銃か散弾銃、それか銃身を切り詰めた自動小銃や突撃銃だ。

 ここで戦闘すれば、確実に数の差で負けるだろうと悟った彼女は外と同じく見付からないように進んだ。幸い外に比べて敵兵の数が少なく、少し楽に移動することが出来た。

 

「(鼓動が早くなった・・・近い・・・)」

 

 何処かに仕舞った心臓の鼓動が早くなる内に自分の能力がある場所が近いと察するマリ。希に視界に入ってくる警備兵を避けながら、徐々に距離を詰める。

 そして、自分の能力が近い部屋を見付けた。周りに敵兵が居ないか確認し、部屋にも敵が居ないか、鍵穴から部屋を覗く。

 

「よし、居ない」

 

 小さく声を出して、マリは部屋の中へと入る。心臓を左手に持って、部屋を見渡すと、机の上に反応の元である水晶玉が置かれていた。

 それを手に取り、床に叩き付けて割った。虚無の世界と同様、マリの身体を藤色の煙が包み込み、身体が光る。どの能力を取り戻したか確認し、力を使ってみると、自分の視界が白黒に変わる。

 

「見えない場所からでも敵が見える能力・・・ダークビジョン・・・」

 

 そう口にしたマリは、屋内や屋外に居る敵兵のシルエットを確認できるようになった。ダークビジョンをオフにした彼女は早速、脱出する為のルートを探す。

 敵兵のシルエットだけでは数は把握できても、正確な位置までは把握できない為、上階まで向かう。先程手に入れたダークビジョンで警備兵の数を容易に把握できるので、難楽屋根裏部屋まで辿り着くことが出来た。

 屋根裏部屋に入ると、単なる物置にされていたが、床に血の跡を見付ける。

 

「血・・・?」

 

 それに目を付けたマリはそれを辿っていくと、埃を被った本棚に辿り着いた。血の跡はここで途切れている。

 

「この裏に何か・・・?」

 

 そう悟った彼女は本棚を調べ始める。棚に入っている本を一冊一冊と取っていくと、本棚が右に移動した。

 

「正解・・・」

 

 現れた入口を見て呟いたマリは入っていった。そこには血塗れの迷彩服を着た女性狙撃手が凭れ掛かっており、横にはフィンランド製の狙撃銃であるサコー TRG-22が床に落ちている。

 死んでいるという事は顔を見れば分かる。どうやら死んでからまだ一日しか経っていないようだ。

 止血剤を使ったようだが、応急処置でも助からないような傷を負っており、所属を表す軍隊手帳を見れば、ワルキューレ所属と分かる。狙撃兵で女性なので、出るにも出られず、捕まればどんなことをされるのかは、マリは即座に理解した。

 死体から弾薬を回収し、狙撃銃を手に取り、屋根裏部屋に戻って窓から銃身を出して、標的になりそうな人物を探す。弾薬が入っているのを確認した後、安全装置を外して、ボルトを引いて薬室に弾を送り込む。広場を確認すると、処刑所で自分を監視していた下士官を見付けた。

 

「あいつをやろう・・・」

 

 また小さく呟いたマリは呼吸を止め、狙う標的を仕留めるのに集中する。風の強さと標的までの距離を脳内で計算し、照準器をのぞき込む。

 周りの時間がゆっくりと過ぎ去っていく感覚に襲われるが、照準器に捉えた標的、獲物を仕留める事だけを考える。

 引き金に指を掛け、撃とうとしたが、何か銃声を掻き消すような音が聞こえる事をマリは期待した。

 

「(早く来なさいよ・・・!)」

 

 もうすぐ息切れを起こす寸前なマリであったが、そんな彼女の願いを叶えるかのように、夜空にV-22に似たジェット型のテイルローター機の大多数の編隊が、この屋敷の上を通り過ぎて行く。好機が訪れたと判断したマリは引き金を引いた。

 銃声は上空を飛ぶ大多数の編隊に掻き消され、標的にされた下士官は頭を撃たれ、地面に倒れ込んだ。標的が倒れたのを確認したマリは呼吸を再開し、息を整える。

 息を整え終えれば、騒音が途切れない間に次の標的を探す。広場の北側にキャンプを見付け、そこに司令官専用の天幕を発見した。

 居るか居ないかは別として、周囲に一度に吹き飛ばせるような爆発物を探していくと、まだ片付けられていない爆薬類を見付けた。どうやら、この街にいたとされるワルキューレの残党が置いていった物とされるが、余りにもバレバレであり、今まで気付かれなかったのが奇跡だ。

 また距離と風速を確認した後、爆薬に気付いた一人の民兵がそれを片付けようとしたが、片付けられる前にマリは爆薬に目を付け、引き金を引いて撃つ。

 

「ビンゴ」

 

 マリが呟いた瞬間、民兵が持っていた爆薬が爆発し、一緒に司令官用の天幕も吹き飛んだ。司令官は居なかったが、わざわざ標的にした司令官がこちらに見える所に出て来てくれた為、探す手間が省けた。

 口の動きからの怒鳴りようからして、何故爆発したのかを、向かってきた部下らしき士官に聞いている。そこが司令官の最後だった。

 死ぬなら何処でも当たっても良かった為、マリは司令官のやや上に狙いを付けて、引き金を引いた。銃声は編隊が掻き消している為に、屋敷を警備する兵士達は気付くことは無い。

 銃口から飛ばされた7.62㎜NATO弾は空気抵抗を受け、ゆっくりと落ちながら標的に向かって行く。標的の首に命中し、司令官は自分の血で苦しみ藻掻いてから死んだ。

 当然ながら、爆発した上に司令官が狙撃されたので、流石にマリの存在に気付いた。彼女を発見した民兵が慌てて機関銃で屋敷に攻撃を始める。

 空を飛んでいた編隊はもう居なかった。突然屋敷を攻撃してきたので、警備していた者達は慌てる。

 

『て、敵襲か!?』

 

 敵が体勢を立て直す前に屋根裏部屋から出て、脱出先である北側まで向かう。

 

『クソ、誤射だ!』

 

『クソったれ!適当に撃ちやがって、ド素人共が!!』

 

 味方からの攻撃を受けた屋敷を警備していた兵士達が悪態付いていた。攻撃が終わったらしく、体制を多直しつつあった。

 その間をマリは抜けていったが、等々気付かれてしまう。

 

「な、なんだ、この女は!?」

 

 手に持っている突撃銃の安全装置を外してマリを撃とうとしたが、彼女が持っているM16A3で撃ち殺される。単発で仕留めたが、鳴り響いた銃声で他の敵兵達に気付かれる。

 

『敵だ!敵が居るぞ!!』

 

『いつの間に!?直ぐに三階へ向かえ!』

 

『屋敷の出入り口を封鎖しろ!』

 

 下の階から聞こえる声から、屋敷全部の出入り口が封鎖される危険性が出て来た。封鎖される前に、急いで階を降りる。

 階段を降りている最中に、下階から上がって来た数名ほどの敵兵と鉢合わせしてしまった。

 

「侵入者だ!!」

 

 手に持つ自動小銃を撃とうとするが、あっさりとマリに殺される。次の兵士達がそれぞれ持つ銃で、先程殺された仲間の仇討ちを試みたが、マリがM16A3をフルオートに切り替えた為に、全員が屍になった。

 階段を下っている最中にまた敵兵達と交戦し、その全てを一掃する。一階に着けば、待ち伏せていた警備兵達が機関銃類などでマリを攻撃した。

 

「撃ち殺せ!」

 

 指揮官が叫んで、物陰に隠れているマリは打開策を考えた。このままここで隠れていると、上階からやって来た警備兵達に殺されてしまう。

 策を即座に思い付いた彼女は、階段で死んでいる警備兵達の死体から手榴弾がないか調べる。懐を探ってみると、ドイツのDE DM51手榴弾があった。

 この手榴弾は弾殻を付けて破片を飛ばす防御用として使え、弾殻を外して爆発用として使える手榴弾だ。もちろん、彼女は火力を求めている為、回収した分全ての弾殻を外して、爆発用として使う。

 安全栓を外して機関銃を撃っている兵士達目掛けて壁越しから投げた。

 

「わっ、手榴弾!」

 

 機関銃を撃っていた兵士が手榴弾に驚いて射撃を中止し、物陰に隠れようとする。マリはもう一つを反対側に投げ、最初に投げたのが爆発した瞬間、物陰から出た。

 投げた一方も爆発し、後ろからの銃撃が止む。その間にマリは北側の裏口に向けて、再装填を終えた突撃銃で突き進む。

 

「来たぞ!撃ち殺せ!!」

 

 指揮官が自動拳銃を出してマリを撃ち殺そうとしたが、逆に撃ち殺された。機関銃を再び撃とうとする兵士も撃たれ、突破を許した。

 屋敷に釘付けにしようと、多数の警備兵が裏口に集まって来た。

 

『屋敷から出すな!肉壁になっても防げ!!』

 

 外から怒号がマリの耳に入ってくる。裏口には大多数の民兵で肉の壁が作られており、雨のような銃弾がマリに襲い掛かる。

 遮蔽物に隠れることなくただ銃を撃っているだけなので、余分に取っておいた手榴弾が役に立った。遮蔽物になるような場所に隠れて、持っている手榴弾を全部こちらに向けて銃を撃ち続ける民兵に投げた。

 投げられた手榴弾に全く気付かず、全員が手榴弾の爆発で吹き飛んだ。破片を飛ばさず、そのまま爆発するタイプであった為、手足を吹き飛ばされた民兵の死体が転がる。まだ息のあり、悶え苦しむ者も居たが、トドメを刺すことなく、裏口を突破した。

 外へ出れば、大多数の敵兵が裏口から出て来たマリに容赦なく銃撃を加えてきた。凄まじい弾幕であった為に、銃弾が一発マリの肩に掠った。

 

「あぁ・・・!」

 

 掠った左肩の上部の箇所から血が滲み出た。服が若干赤く染まっていき、そこを少し抑えて、傷の具合を手で確かめる。

 出血量からして、これなら大丈夫と判断した彼女は、顔を出してこちらに銃を撃っている敵兵に反撃する。マリが適当に狙いを付けた兵士が顔面に5.56㎜NATO弾を食らって、地面に倒れ込んだ。

 次は自分がやられると判断した彼女に銃撃を加える兵士達が遮蔽物に身を隠す。その隙にマリは身を隠している場所から飛び出して、邪魔になる兵士を殺害しながら脱出地点まで走る。走っている最中にも、次々と敵兵達が現れ、マリに銃を向け、撃ってくるが、返り討ちにされる。

 激しく動いた所為なのか、左肩の血の染みが広がってきた。途中、迫撃砲を見付けたが、今の彼女に使う暇など一切無い。だが、砲弾は信管を叩いて投げれば使えるので、箱から持てるだけ拝借していく。

 

「死ねぇ!!」

 

 ジープに搭載されたDShk重機関銃でマリを挽肉にしようと、一人の兵士が撃ってくる。銃数発撃ったところで、マリから迫撃砲弾のお返しを食らい、重機関銃を撃っていた兵士は空中高く飛び上がる。

 兵士が落ちるのと同時に次の場所へと銃撃を交わしながら突き進む。また道中に墜落した多目的ヘリUH-1から何かを見付けた。銃撃は少し無理をすれば、回収できるほどの時間はあった為、残骸から奇跡的に燃えてない箱を開ける。

 箱の中には迫撃砲用の白燐弾があった。これを見たマリはニヤリと笑い、白燐弾を手に取り、それをポケットに出来るだけ入れる。数名ほどの民兵が突撃銃を撃ちながらここへ向かってきた。

 残骸に弾丸が当たったのと同時にマリは砲弾の信管を堅い場所に叩いて、複数の民兵に向けて投げ込んだ。見事、民兵達に命中し、赤い煙が上がった。

 下半身を失い、腸を出しながら民兵がこの場から逃げようと這いずっていた。他にも足を失った者が泣き叫んだりしているが、マリに取っては関係ないことである。

 残骸から出ると、また民兵か兵士の集団が出て来たが、砲弾で一網打尽にされる。その度に無惨な姿になる敵兵が続出し、マリが進む度に緑の芝生が赤い血で染まる。

 街路の近くまで来た途端、出入り口は大多数のテクニカルに機関銃を搭載した車両、小火器類を持った兵士と民兵で塞がれており、凄まじい銃弾がマリを遮蔽物まで下がらせる。

 

「(あれだけの敵を片付けるのに砲弾が足りない)」

 

 抱えてきた砲弾は投げて使ったか、途中で落としてしまったかで足りない。そこで白燐弾を使うことにした。

 

「(これ、空中で爆発する奴よね。使えるのかしら?)」

 

 白燐弾を手にとって見ながらそう思って、信管を堅い場所に向けて叩き、空高く投げた。丁度、敵兵達の頭上までに白燐弾が飛んだのを確認したマリはUSPを素早く引き抜いて、白燐弾に狙いを付けて早撃ちした。

 空中で撃たれた白燐弾は爆発し、内部に収納されていた白リンが撒き散らされる。自分にも飛んでくると思ったマリは相手から見て、完全に見えないくらい身体を小さくし、撒き散らされる白リンから身を守った。白リンに晒された敵兵達の身体は自然発火し、全身火達磨になった敵兵達が苦しむ地獄絵図と化す。

 

「うわっ、わっ、アァァァァァァ!!」

 

「熱い!熱い!!ワァァァァァァァ!!!」

 

「ウワァァァァァァァ!!誰か、誰かァ!火を、火を消してくれっ!!」

 

 耳から聞こえる敵兵達の悶え苦しむ声に人の肉が焦げる悪臭がし、マリは自分を攻撃していた者達の姿を見て絶句する。

 

「ッ・・・!?」

 

 これを自分でやったのか?と少し疑問に思うマリであったが、誰かに聞く暇もなく、この惨劇を引き起こした本人である彼女に怒り、手に握る銃を撃ってくる。

 

『殺せ!戦友達を焼き殺した女を殺せ!!』

 

 怒号が聞こえた後、恐ろしいほどの銃撃を浴びるマリは、建物と屋根の上へと瞬間移動した。

 

「消えた!?」

 

「何処へ消えたんだ!?」

 

 突然、標的が姿を消した為に敵兵達は混乱したが、上空を飛んでいた多目的ヘリが容易にマリを発見し、搭載された機銃で撃ち殺そうとする。

 

『屋根の上だ!現在北に向けて逃走中!先回りしろ!』

 

 建物の屋根を伝って逃げるマリをしつこく追撃してくるヘリは、逃亡先を教え、先回るよう指示を出している。脱出の際には邪魔になる為、一度立ち止まり、M16A3からTRG-22に切り替え、メインローターに狙いを付けて引き金を引いた。メインローターを破壊されたヘリは街路の真ん中で墜落し、機体に詰んであった弾薬が誘爆して大爆発した。

 瓦の上を全力で走っていく内に、ガイドルフが見えるくらいまでの距離に近付く。処刑所から脱出に使ったオープンカーではなく、後部にkord重機関銃が搭載されたジープだ。

 FALを持って、応戦している所を見ると、どうやら見付かったらしい。建物の端まで来た途端、マリは建物から飛び降り、瞬間移動で地面に着地する。

 ガイドルフを撃っている兵士達は当然ながら、後ろからマリがやって来たことなど気付きやしない。M16A3でガイドルフを撃っている兵士達を全員撃ち殺した後、ガイドルフと合流した。

 

「よぉ、遅かったな」

 

 弾切れになったFALを素早く弾倉を取り替えて、コッキングレバーを引いたガイドルフは遅れてやって来たマリに気軽に話し掛けた。こんな状況でも気軽な男の声を、マリは無視して残りの敵兵の排除にあたった。

 バタバタとマリに撃たれた敵兵が倒れていく中、ジープに乗る間が出来た。この機をガイドルフは逃すことなく、ジープへと向かう。

 

「乗りな、あんたの座席はロシアの重機関銃だがな!」

 

 エンジンを掛けながら、ガイドルフはマリに重機関銃を親指で指しながら告げた。その指示に彼女は機関銃座に立ち、kordのコッキングレバーを引いて、初弾を薬室に送り込み、サイトを覗く。

 ジープが走り出すと、徒歩の兵士達は追うために自動車に乗ろうと移動する。

 

「そいつの火力は折り紙付きだ!ヘリを()るなら装備を狙え!」

 

 ハンドルを握りながらガイドルフはマリに知らせた。兵員を満載した数台のトラックや機関銃搭載の車両がジープに追い付いたが、マリの放った重機関銃の12.7㎜弾で、運転手や荷台に乗った兵士達が挽肉にされる。

 もう一台銃撃を受けたトラックはエンジンに銃撃を受けて大破した。数台以上kordで潰すと、多目的ヘリが上空から現れた。

 

「ヘリだ!ミサイルポッドを狙え!!」

 

 ガイドルフの指示に言われることもなくマリはミサイルポッド目掛けて引き金を引く。ミサイルポッドは爆発し、ヘリは空中爆発する。

 その間に追撃部隊は来なかったので、kordの再装填を行う。開閉式の蓋を開けて弾帯を外し、弾薬箱を機関銃から外す。満載の弾薬箱を新しく付け、弾帯を置いて蓋を閉めると、コッキングレバーを引いて薬室に初弾を送り込む。作業を終えれば、次の追跡部隊が来る。

 

「次だ!ぶちかませ!!」

 

 ハンドルを握るガイドルフからの指示に言われる間もなくマリは迎撃を行った。トラックがジープに近付く前に大破し、次の車両も次々と大破していく。痺れを切らしたのか、敵は装甲車を追跡に投入してきた。

 

「クソ、装甲車だ!あいつ等本気だな!」

 

 追ってくる旧ユーゴスラヴィアのBOV装甲車をガイドルフは見ながら言った。流石に軽装甲車両でも無いあの装甲車には重機関銃は通じない。さらに川辺までに辿り着いた為に、機関銃を搭載した数隻の警備艇まで追ってくる。

 

「川にも追撃か!川の方を狙え!」

 

 この指示にマリは直ぐに機関銃を警備艇に向けて撃ち始めた。警備艇に乗っていた兵士は挽肉になり、操艦手が居なくなった警備艇は何処かにぶつかって爆発するか、陸に乗り上げる。

 何隻かは撃ち続けられていく内に大破し、川の藻屑となる。川に数隻ほど警備艇を沈めていく内に空港が見えてきたとガイドルフが知らせてきた。それと同時に日が昇り始め、川から遠のく事が出来た。

 

「おっ、空港が見えてきたぞ!RPGは取れるか?」

 

 男の声に耳を貸すと、RPG-7が置かれていた。これでなら、追ってくる装甲車を破壊できるだろう。

 早速それを手にとって、弾頭の安全栓を外し、追いながら機関銃を撃ってくるBOV装甲車に向けて発射した。装甲車は一撃で大破し、乗っていた乗員が飛んでくる。

 今まで破壊した車両にボート、ヘリの数を知ったガイドルフは陽気に口を開く。

 

「俺達が軍隊に入ってたら、勲章物だな!」

 

 笑いながら告げるガイドルフに対してマリは無視を決めた。離反軍に占領された空港まで近付くと、二人は相手から銃弾の歓迎を受けた。見張り台や土嚢に設置された様々な機関銃が火を噴く。

 

「うわっ!俺達は記念式典にでも呼ばれたのかな?!」

 

 冗談交じりの言葉を笑いながら口にして、ガイドルフはマリに聞いていたが、銃座に座る彼女が放った重機関銃の銃声で掻き消された。易々と土嚢や木造で出来た見張り台を貫通し、銃座に付いていた者達は挽肉されるか、貫通して威力が減った12.7㎜弾を受けてマシな死に方をする者達が出た。

 ジープはそのままゲートを突破し、滑走路に入る。

 

「滑走路に入られた!」

 

 警備兵の指揮官が叫ぶ頃には、もうマリ達は滑走路の中央まで来ていた。スクランブル部隊のパイロット達が綺麗に並んである戦闘ヘリに乗り込もうとするが、マリが放つ重機関銃で次々と肉塊と化す。

 同じ武装のジープがやって来るも、瞬時にマリに破壊された。

 

「ば、化け物だ・・・!」

 

 一人の警備兵がマリの余りの強さを見て、口で表した。ジープは脱出用の航空機がある格納庫まで全力で走る。

 

「格納庫に近づけるな!撃ち殺せ!」

 

 SVD狙撃銃やRPD軽機関銃を持った兵士達がマリ等を撃ち殺そうとするが、ガイドルフの運転テクニックであっさりと回避される。だが、一発はマリの左足に命中し、銃座から離すことが出来た。

 

「がっ・・・!」

 

「あっ、クソォ!」

 

 丁度、格納庫まで着いた為、閉じていたドアを突き破り、そのまま中へ入る。

 

「頼むから燃料は入っていてくれよ・・・!」

 

 速度の速い航空機を探しながら車を動かし、そのどれもが燃料が入っていることを願う。一番早そうな輸送機に決めたガイドルフはジープを止め、出来るだけ対戦車火器を持って機体に乗り込んだ。マリも撃たれた足を動かしながら乗り込む。

 

「ラッキーだ!燃料がある。しかも満タンだ。それと、あんたは出血が酷いな・・・早く飛び立つぞ」

 

 操縦席に座り、エンジンを起動させて離陸の準備をするガイドルフ。彼女の左足の出血模様を見ながら操縦桿を握る。

 銃弾で撃たれながらも二人が乗った輸送機は滑走路へと向かっていく。ガイドルフが通信機や無線機を弄っていると、敵の通信を傍受できた。

 

『輸送機を奪われました!』

 

『構わん!撃墜しろ!!』

 

「早いとこ飛び立とう」

 

 通信を聞いたガイドルフは速度を速めた。凄まじい銃撃を受けているが、幸い乗ったのが軍用の輸送機であった為に重機関銃の銃撃には耐えられている。操縦桿を握りながら、ガイドルフはポケットからリモコンらしき物を取り出した。

 

「仕込みはしておく物だ」

 

 呟いてスイッチを押していくと、格納庫や対空陣地、待機していた戦闘機が爆発し始めた。通信からは敵の混乱模様が分かる。

 無事に滑走路に着いて速度を上げていき、脚注が滑走路から離れていくと、輸送機は空高く上がっていった。

 

「無事に上がったようだ・・・追撃機もさっき爆破したから大丈夫だが、あちらのお嬢さんは・・・」

 

 無事に飛び立って一安心して自動操縦に切り替えたガイドルフは、左足を自分で治療するマリを見た。

 

「無茶苦茶な治療をするな・・・まぁ、俺が行ったら余計に悪化しそうだが、放っておくか」

 

 痛みに耐えながら治療するマリを見ながらガイドルフは自分の銃の整備を始めた。




~中断メッセージ~

マリに対してのエル・エルフの評価

エル「ほぅ、中々やるな。能力を失ってただの女になったと思ったら未だに衰えぬ戦闘力を秘めているとは・・・少し酷評し過ぎたようだ」

ハルト「す、凄い・・・マリ・ヴァセレートはエル・エルフ以上だ・・・!」

エル「余り大いに評価し過ぎるな時縞ハルト、あの女は力を失う前まで自分に適う奴は居ないと思っていた女だ。力を取り戻していく内にミスが多くなる事だろう。それに男嫌いだ。その所為で信用できるとアピールする男を避けている。使える物は最大限に利用しないとな」

ハルト「そ、そうなのか・・・彼女は完璧では無いんだ・・・」

エル「忘れるな、この世に完璧の者など存在しない。例え完璧に見えるのは見せ掛けだ、何処かに弱点がある。あの女は能力を失っても凄まじい戦闘力を発揮しているようだが、あれは見せ掛けだ。弱点は良く探せ。戦闘の際にも敵の新型と交戦した場合、弱点を見付けろ。分かったな、時縞ハルト」

ハルト「それ・・・今の問題と関係ないんじゃ・・・」

その頃、ビッテンフェルト。

ビッテンフェルト「進め、進め!猪突猛進こそ、我らの本領よ!!」

黒色槍騎兵艦隊一同(オイゲンを除く)『オォー!!』


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奪われた女

少しエロ描画有り・・・えっ?だって、今日は性夜だろ?


 数時間、輸送機に揺られながら治療を終えたマリは、ずっと窓から外を眺めていた。左足から出血は、彼女が少し医療知識のある御陰で治まっている。

 協力者であるガイドルフはコクピットの操縦席のシートで寝ており、膝に置いた左手の中にはモーゼルC96があった。どうやらマリが自分を殺すのではないのかと警戒している様子だ。輸送機が北部大陸まで来ると、領空へと入ったのか、通信機から声が聞こえてくる。

 

『そこの大型機!機は領空に侵入している!所属を表せ!それと飛行プランもだ!』

 

その声でガイドルフは目覚め、ヘッドフォンを身に付け、欠伸をしながら答える。

 

「ファ~、こちらは・・・自由商人だ。今し方命辛々異世界からの侵略者の手から逃げてきた。難民が多数乗っている。受け入れてくれ」

 

「難民・・・?」

 

 ガイドルフの言葉にマリは貨物室に入り、全てあるコンテナの中身を調べ始めた。子供の声がする方へ向かい、コンテナを開けると、中には一人の三十代の女性と複数の幼い少年や少女が居た。

 

「ヒッ!こ、殺さないで・・・!」

 

 女性は兄妹であろう幼い少年と少女を抱き締め、マリを怖がった。他の子供達も彼女を怖がり始める。

 彼女等が座る床を見てみると、食べ物の食べ滓が残っており、おそらくガイドルフが与えたのだろうとマリは思った。コンテナを開けたままにしておき、彼女は朝食を取りに行った。自分の分も取って、先程のコンテナまで行き、震える彼女等に朝食を無言で差し出す。

 

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

 

 震えながら先程の女性が、マリから手渡された全員分の朝食を取り、全員に手渡していく。マリもコンテナに凭れ掛かって、取ってきた朝食を口にし始める。

 食事を終えれば、全員分の飲み物とコップを取りに行き、珈琲を入れてから再び戻る。入れ立ての珈琲を呑んでいると、一番年上の少女がマリに近付き、話し掛けてきた。

 

「あの、貴女も私達と同じくこの機体に乗っていたのですか・・・?」

 

 視線を向ける少女からの質問に、マリは顎に人差し指を付いて答えた。

 

「いや、私はあの男と一緒に・・・」

 

「あの男・・・?あの人はお兄さんですか?それとも妻ですか?」

 

「違うっ!」

 

 マリは嫌いなガイドルフの「妻なのか?」と興味津々な少女に勝手にされたので、怒りが篭もり、叫ぶように否定した。そのマリの怒りに満ちた返答に、少女は震えて謝り始める。

 

「ごめんなさい!へ、変な質問しちゃって・・・!」

 

 怯えているのは少女だけではなく、幼い子供達も震えている。それを見た彼女は、少女と幼い子供達に謝った。

 

「ごめん・・・ちょっと感情的になりすぎた・・・」

 

 謝ったマリは、少女等が居るコンテナから離れ、別のコンテナに凭れながら珈琲を飲んだ。少し飲み続けていると、負傷して包帯を巻いたままの左足に冷たさを感じた。

 

「うん?」

 

 下を見てみると、凭れているコンテナから血が流れ出ていた。中に人影を察知した彼女はコンテナの中身を確認するため、まだ残っている珈琲を床に置いて、右手にUSPを持ちながらドアを開けた。中には血塗れの戦闘服を着たワルキューレの軽歩兵が三人居り、内一人は右脚を無くすほどの重傷を負っており、赤く染まった包帯から血が流れ出ている。他の二人は傷口からの出血を必死で止めようとしているが、まるで意味をなしていない。

 マリに気付いた二人は怯え、震える手でドイツの短機関銃MP5の小型版であるMP5kとアメリカの小型自動拳銃SW M39を向けた。床にもスウェーデンの短機関銃カールグスタフM/45が二挺程置かれていたが、右脚を無くした若い女性兵士の血で数分ほど血に浸っているので、清掃しないと使い物にならいだろう。

 

「く、来るな!」

 

 拳銃を持つ女性兵士が叫ぶと、マリは医療道具を取りに行った。脚を無くした女性兵士の顔を見れば、後数時間ほどで出血死するレベルと悟ったからだ。

 丁度ガイドルフが管制官からの返答を終え、食事をしながら医療道具と大量の止血剤を持つマリに声を掛けた。

 

「そんなに止血剤を持ってどうした?」

 

 もちろんマリは急いでいるので、ガイドルフは無視して重傷の軽歩兵の元へ向かった。

 

「やれやれ、まるで反抗期の娘だな・・・」

 

 無視して過ぎ去っていくマリを見ながら、彼はコクピットから見える北部大陸を見下ろした。貨物室には先程のマリに質問していた少女が、他の子供達と共に外に出て、血塗れのコンテナの中を心配そうに見ていた。医療道具と大量の止血剤を抱えた貨物室に来たマリを見て、少女は質問する。

 

「あ、あの女の人・・・大丈夫ですよね・・・?」

 

「さぁ、死ぬんじゃない」

 

 この問いに、マリは適当に答えて重傷者が居るコンテナの中へと入った。未だに中の二人の軽歩兵は彼女に警戒していたが、医療道具と大量の止血剤を見て、警戒心を解き、止血剤を手にとって女性兵士の無い脚の傷口に掛け始めた。焼け石に水を掛けるような物だったので、医療道具箱から止血帯を取り出して、右脚に巻く。出血は止まったが、ずっと止めていたら壊死する可能性があるので、ある程度血を流すように二人に伝える。

 

「あんた等、ずっと止めっぱなししてたらこの()の脚、切り落とさなきゃいけないから。数分おきに解いて血を抜いておきなさいよ?」

 

『は、はい!』

 

 二人の軽歩兵が返事をすると、マリは朝食を二人に与えた。

 

「ほら、あんた等食べてないでしょ?一応食べておきなさいよ」

 

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

 

 小型の短機関銃を持っていた女性兵士が礼を言えば、二人は袋を開けて食べ始めた。重傷の兵士に対しては、マリが口の中で食べ物を細かく砕き、柔らかくして兵士の口の中に直接入れ込んだ。

 虚ろな目でマリを見ていた重傷の兵士は、突然キスされて驚き、口の中の物を流し込まれた。周囲の者達はそれに驚き、少女は子供達を遠ざけた。いつの間にかガイドルフが来ており、腕を組みながらコンテナにもたれ掛かり、口を開く。

 

「俺のことは無視して、女には積極的か・・・まるで女好きの野郎だな」

 

 笑みを浮かべながら告げると、朝食を食べていた軽歩兵がガイドルフに向けて銃を構え、マリは睨み付けた。

 

「よせよせ、おたく等を殺しに来たんじゃない。もうすぐこの機は着陸する。そこの脚を無くしたお嬢さんも適切な治療が受けられるだろう。なんだって空港にはワルキューレの部隊が駐屯してるからな。さぁ、衝撃に備えてくれ」

 

 用件を伝えると、ガイドルフは操縦席に去っていった。その後、無事に着陸し、輸送機からマリ達がコンテナと共に降りてきた。

 空港内は英国の戦闘機であるスーパーマリン スピットファイアやデ・ハビランド モスキートが並べられている。流石にレジプロ機では駄目なのか、同じ国のジェット戦闘機であるトーネードADVも並べられていた。

 

「重傷してるの!脚が無くなってるから早く来て!!」

 

 輸送機から降りた重傷の兵士と一緒に居た女性兵士が叫び、衛生兵が担架や看護師と共に貨物室に流れ込んだ。同じく降りていたマリは、少女と子供達と別れを告げ、家路につこうとしたが、ガイドルフに声を掛けられる。

 

「戻っても追い出されるかと思うぞ」

 

「はっ?」

 

「能力を失って、不死でも神様に等しい能力を持ってないあんたを追い出されると言ったんだ」

 

「どういう意味よ?」

 

「仕方がない・・・行って確かめるんだな。俺はこれを済ませてから街で一杯やってるよ。後で文句を付けるなよ?」

 

 そうマリに告げてから、ガイドルフは入国審査官と入国警備官に顔を向ける。ガイドルフの言葉が後に当たる事を知らず、マリは空港を出て、ヒッチハイキングで乗り継ぎ、家路についた。

 数時間後、インペリウム国境近くまで来た。荷馬車の男がマリに降りるよう告げる。

 

「悪いが、お嬢さん。ここで降りてくれないか」

 

「良いわよ」

 

「すんなりと言うな・・・あの国の人間が怖くないのか?」

 

「別に」

 

「気を付けるんだぞ。最近、中央大陸で、でかい戦争があったからな!それとあの国の連中は危険だぞ!」

 

 荷馬車の男の忠告を無視し、マリはインペリウム国境の検問所に近付いた。門の中に入ろうとした瞬間、ハルバートを持った二人の警備兵に止められる。

 

「止まれ!貴様、ここを皇帝陛下の聖なる土地であるインペリウムであるぞ!」

 

「許可や報告にもない者は通せん!大人しく帰れ!」

 

 追い払おうとする二人の警備兵に、マリは自分の名前を言った。

 

「私はあの帝国の皇女の母親だけど、連絡を入れてみてよ」

 

 それに対し、二人の警備兵は相談し合った後、国内にいるもう一人の警備兵に連絡するよう命じた。

 

「おい、お前!本部に連絡してこい!」

 

「分かりました!」

 

「その詳細については、本部からの返答を乞う!連絡が来るまで、暫くそこに居ろ!」

 

 警備兵はマリにそれを告げると、連絡が来るまで睨み付けて監視している。その間に彼女は何処からか調達した煙草を吸いながら、待つことにする。

 暫くして連絡が来たが、顔付きが彼女がさっき見たのとは違っていた。連絡係は直接警備兵に耳打ちし、彼女に聞こえないように告げた後、元の位置へと戻っていった。

 

「許可が入った。だが、我が帝国の領土を自由に歩き回る許可など無い!向こうの建物まで来るんだ!」

 

 領土内で待機していた警備隊の者達に、マリは連れられ、受付出入国管理施設に送られた。尋問室に入れられた後、椅子に座らされ、そこで暫く待たされることになった。

 数分後、出入り口から高級将校の制服を着た男が出て来て、マリの反対側の席に座る。

 

「やぁ、我が皇帝の偉大な母たるマリ・ヴァセレート様。私はインペリウム特別攻撃軍司令官、ローデアン・ベビン・アーバクロンニーです」

 

 反対側の席に座る男は、中央大陸で掃討作戦を担当していた司令官の一人だ。仮にも皇帝の次に立場が大きい筈のマリに、それに値しない態度で接している。見下すような目線でローデアンはあることを口にした。

 

「おっと、今の貴女は存在しないんだ・・・」

 

 この発した一言に、マリは理解できずにいた。

 

「はっ・・・?」

 

「驚くのは無理もないな・・・説明してやろう。君は4日前に死んでることになる」

 

 副官に持ってこさせた新聞を机の上に置いた。その新聞を見たマリは、思わず驚きの声を上げた。

 

「どういう・・・こと・・・なの・・・?」

 

「分からんのか?君はもう死んでいる。古の帝国の手に寄ってな。私はどうして君がここに来て、椅子に座っているか理解できない」

 

 両腕を上げながら告げるローデアンに、マリは苛立ちを覚え、隠していたコルトジュニア小型自動拳銃を抜こうとする。

 

「おっと、ここで私を殺しても何の特にもならないぞ。亡霊。なんたってお前は不死身じゃないからな」

 

 ローデアンは煽りながら、鏡をマリに見せた。気付かぬ内に顔に小さな擦り傷があり、マリは動揺し始める。

 

「これは・・・何処かで深く刺さって・・・」

 

「嘘をつくな。それは脱出する際に受けた傷だな?傷が治るのに人並みに掛からないはずだ。現に私は君の傷の治る速度を記録している」

 

 これにマリは怒り、小型拳銃を抜いてローデアンを射殺しようとしたが、後ろにいた警備兵が持つPMマカロフ自動拳銃で右肩を撃たれて手放してしまう。返り血がローデアンの顔に飛び散り、マリは取り抑えられる。

 

「気を付けろ、間抜け目!」

 

「し、失礼しました!」

 

 彼女を撃った警備兵に怒鳴り付けた後、ポケットから取り出したハンカチで顔を拭き終えると、説明を再開する。

 

「それとだ、誰かの助けを借りようとしても無駄だぞ。みんなお前が死んだと思っている。エンゲラートはお前を助けようと向かった瞬間、敵の四天王に襲われて生死をさ迷う程の重傷だ。それで私はお前の護衛部隊を貰わせて頂いた。メイドと近衛兵、騎士はいらんから何処か適当な労働所に送った」

 

 抑えながら聞いていたマリはショックを受け、抵抗を止めて混乱し始めた。

 

「そんな・・・嘘よ・・・私が完璧に目を通して作り上げた・・・」

 

「シューベリアとか言ったか・・・あの魔族の娘もいらん。お前に返してやる」

 

 ハンカチで拭きながら口を動かすと、左手で部下に指示を出し、ピンク色の長髪で、豊満すぎるほどのバストを持つ女性、シューベリアを尋問室に連れてこさせた。

 

「ちょ、ちょっと!乱暴しないでよ!僕はこの帝国の皇帝の・・・」

 

「黙れ!この淫売女目!さっさと入れ!!」

 

 連れてきた警備兵はシューベリアの尻を蹴り上げて、マリの目の前に叩き出す。

 

「いたぁ~い、もう・・・何なの・・・?あっ、マリちゃん」

 

 マリを見たシューベリアは立ち上がり、触れようとしたが、右肩の傷が治っていない事に気付く。

 

「マリちゃん・・・どうしたの・・・!傷が治って無いじゃない・・・!?」

 

 シューベリアはマリを抑えていた二人の警備兵の手を退け、過呼吸を起こす彼女の両手に手を置いて心配する。

 

「用件は済んだな。さぁ、国境までお送りしろ」

 

 血を吹き終えたローデアンはマリとシューベリアを追い出すよう指示する。それに応じた国境警備隊の兵士達は二人に自動小銃を向け、国境まで送った。

 追い出された二人は、検問所から少し離れた場所に送られる。

 

「よし、ここまでで良いだろう。二度とここへは来るなよ?」

 

 警備隊の面々は検問所まで戻っていった。放り出された二人は、ずっとそこへ座ったまま、呆然としていた。マリの方は立ち直る気配が無い。

 

「全部、無くなっちゃったね・・・ねぇ・・・マリちゃん・・・?」

 

 隣に座るシューベリアはマリに訪ねたが、その彼女は虚ろな瞳をしており、まるでこの世の全てが終わったかのような顔をしている。

 そんなマリをシューベリアは抱き締め、元気付けようとする。

 

「大丈夫、大丈夫・・・僕、私達は永久に生き続けるの・・・いつか全部取り返せるわ・・・ルリちゃんも取り戻せる・・・大丈夫からね・・・?」

 

 自分の胸にマリを押し付けながら、シューベリアはまるで子供をあやすかのように言う。それを聞いたマリの碧い瞳から涙が溢れ落ち、シューベリアに抱き付き始めた。

 

「今は甘えて良いよ・・・ムガルの連中もやっつけよ・・・貴女ならやっつけられる・・・だって貴女は強いもの・・・」

 

 頭を撫でながら言うシューベリアにマリは頷き、顔を近付けた。いつの間にか、虚ろだった彼女の表情が泣く少女の表情に代わり、シューベリアの唇を奪い、舌を口の中に入れる。

 暫く舌と舌を絡まらせ、理性が飛び掛けたマリが両胸を掴むと、顔を赤くしたシューベリアが、糸を引きながら唇を離す。

 

「ここでエッチは不味いから・・・あの洞穴でする?」

 

「うん・・・」

 

 シューベリアが近くの洞穴に指差すと、マリは頷き、そこへと向かい、そこで朝まで情を交わした。

 翌朝、一糸纏わぬ姿となったマリとシューベリアは洞穴の中に居た。まず始めに目覚めたのは、シューベリアの胸に顔を埋めていたマリであった。

 少し寒気がしたが、ずっと前にも同じ事をしてきた為、慣れている様子だった。

 

「そうだ・・・私達・・・全てを・・・」

 

 隣で寝息を立てて寝ているシューベリアを見ながらそう口にした。

 

「夢なら良かったのに・・・」

 

 左手の甲を見ながら、これが夢でないことに気付き、落胆する。再びシューベリアの胸に顔を埋め、両手で自分より大きすぎる彼女の胸を揉んだ。

 胸を揉まれたシューベリアは小さく喘ぎ始める。

 

「ハァ・・・!あぁ・・・!」

 

 そのまま揉み続けようかとマリは思ったが、これ以上夢に浸るわけにも行かず、起きて脱ぎ捨ててある自分の衣服を着始めた。全ての衣服を身に着けると、シューベリアが目覚める。

 

「おはよう・・・」

 

「あ、おはよう・・・」

 

「昨日は激しかったね・・・」

 

「うん・・・」

 

 恥じらいもないシューベリアからの問いに、マリはそう返して全ての衣服を身に着けた。シューベリアも自分の衣服を身に着け始めた。

 

「これからどうするの・・・?」

 

 衣服を身に着けながら、シューベリアが問うと、マリは直ぐに返した。

 

「これからどうするって?決まってるでしょ。復讐のためにワルキューレに入る」

 

「ワルキューレに入る・・・?入れるの・・・?」

 

「入れるわよ。あそこ、何でも受け入れるし。私も今の生活に飽きたら来いって言われてるし」

 

「でも・・・今の貴女じゃ死んじゃうんじゃ・・・?」

 

「大丈夫よ。あいつ等みんな殺すまで死なないし、ルリちゃんをこの手に抱き締めるまで死ねない。それに失った物を取り戻す手段もあるし」

 

 返事をするマリに、シューベリアは心配したが、いつもに戻ってると思って笑みを浮かべた。

 その後、川で朝食と飲料水を済ませると、二人はワルキューレが駐屯する街へと向かった。財布など持っている訳ではないので、何処か適当に拾った棒切れを武器に、街へと脚を進める。

 道中、暫しの休憩を入れて、何事もなく街道を進んでいると、旧式のボルトアクション小銃や、粗末なコピー突撃銃を持った人相も悪く、服装も以下にも盗賊な男達がマリとシューベリアの前に姿を現した。

 

「フッヘッヘッ!すんげぇ体付きの姉ちゃん達じゃねぇか!野郎共、傷付けるなよ!高く売れるからな!!」

 

 中国版AK47である56式自動突撃槍を持つ頭の男が、二人の周囲を囲む部下達に告げる。このような盗賊が飛び出してくる事に、マリは少し怒りを覚えた。

 

「ワルキューレが居ながらこの様なんて・・・」

 

「そうでも無いみたい。こいつ等の顔に銃弾の掠り傷がある」

 

 シューベリアの言葉に耳を傾けたマリは、盗賊達の顔を見た。彼女の言うとおり銃弾が掠った跡があり、一部の盗賊が包帯を巻き付けていた。

 相手の武器を確認していると、モヒカン頭の男が山刀(マチェテ)を振り回し、下品な笑みと笑い声を上げながら襲ってくる。

 

「ウッヘヘヘ!もう我慢できねぇ~!早く俺のイチモツをぶち込みてぇ~!イェェェェ!!」

 

 奇声を上げながら二人に襲い掛かってきたが、マリが持つ棒切れに顔面を叩かれた挙げ句に鼻を潰された。鼻を潰されたモヒカンは顔を抑えて悶え苦しむ。

 

「俺の鼻が!俺の鼻が潰れちまったぁ~!!」

 

 泣き叫ぶモヒカンであったが、山刀を取ったマリにトドメを刺された。

 

「あべし!」

 

 奇妙な断末魔を上げ、モヒカンは心臓を一突きにされて死亡。まともな武器を手に入れたマリは、周囲を囲む盗賊達を挑発した。

 

「ほら、仲間を殺したんだから。掛かってきなさいよ」

 

「くそったれ!銃は使うんじゃないぞ!なんとしても生かして捕らえろ!!」

 

『応!』

 

 頭の指示で、盗賊達が一斉に襲い掛かった。一見か弱い美女であるシューベリアであるが、魔王の娘であり、魔法は完璧にこなせる。両手に魔力を込めて、カマイタチを放つ。

 

「はぁっ!!」

 

「うげ!?」

 

「ぼわっ!?」

 

「ま、魔法使いだ!!」

 

「そんな馬鹿な!魔法使いはこの辺には!?」

 

 魔法を見た盗賊達の戦意が下がり、シューベリアに向けて一斉に銃が放たれた。

 

「こ、この魔女目!死にやがれ!」

 

「魔女が銃なんかに勝てる訳がねぇ!!」

 

「馬鹿野郎!銃なんか使うな!」

 

 手に持っている粗末な銃を撃ち始める部下達に、頭は制止の声を上げるが、銃声で掻き消される。銃弾は真っ直ぐシューベリアに飛んでいくが、党の彼女は防御魔法を展開し、銃弾を弾く。

 

「銃弾を!銃弾を弾いた!?」

 

 銃を撃った盗賊達は、銃弾を魔法で弾くシューベリアに驚き、手榴弾に手を伸ばしたが、彼女が左手で飛ばした火炎魔法で焼かれる。

 

「うわぁぁぁぁ!!あ、熱い!!た、助けてくれぇー!!」

 

 一人は燃えながら苦しんで焼死し、もう一人は引火した手榴弾の爆発で爆死した。一方のマリは、斬り掛かってきた盗賊達を次々と斬り捨て、粗末なAK47を殺して奪い、後ろから向かってくる盗賊達に向けて乱射する。

 

「ぐわっ!」

 

「ぎゃぁ!?」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 斧で斬り掛かってくる盗賊に対し、マリは粗末なAK47をぶつける。

 

「ゴワッ!?」

 

 腹に突撃銃をぶつけられた盗賊は怯み、その隙を突かれて山刀で首を飛ばされた。二人の恐ろしい強さを見た頭は、まだ無事な部下達と共に逃げ始めた。

 

「な、なんだこの女共は!?強すぎる!逃げろ!!」

 

 一斉に盗賊達が逃げ出す中、マリはそれを逃さず、瞬間移動して、逃げる盗賊達を次々と殺した。

 

「うわぁ!?」

 

「がぁ!?」

 

「うへっ!?」

 

「ひっ、ひぃー!?た、助けてくれぇー!!」

 

 殺されていく部下達を見て、頭はマリとシューベリアに対しての威勢は消え、ただ逃げる事だけを考えていた。

 だが、そんな盗賊達は、WW2英軍の陸軍歩兵の装備をしたワルキューレの討伐隊に待ち伏せされ、機関銃に撃たれて次々と撃たれて倒れていく。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!降伏する!降伏するから撃たないでくれぇぇぇぇ!!」

 

 ヴィッカース重機関銃に撃たれながら頭は降伏すると言ったが、リーエンフィールドNo4やブレン・ガン、ステン・ガンの一斉射を受けて、部下諸共地面に倒れた。

 

「肝心なときだけ来て・・・」

 

 手柄を横取りしたワルキューレの討伐隊を見て、マリが言うと、シューベリアが近付いてきた。

 

「マリちゃん、ちょっとあの能力は・・・?」

 

「え、あれは借り物よ。顔色の悪い男の」

 

「そうなの・・・はぁ・・・」

 

 走ってきたシューベリアは少し息を整え、マリの返答に納得することにした。

 その後、二人はワルキューレの入隊受付の施設に居た。士官に入隊者と言えば、あっさりと施設へと案内し、丁寧にも受付まで案内してくれた。

 

「次の方どうぞ~」

 

 受付の女性の声に、マリは立ち上がって受付に向かおうとしたが、シューベリアに止められる。

 

「何よ」

 

「頑張って」

 

「分かってるわよ」

 

 まるで母親のように言うシューベリアに、マリは照れながら1から7まである内の4番の受付へと向かう。4番の受付に立つ女性は、受付嬢と表して良いほどの容姿を持つ女性であった。

 他の受付の女性も受付嬢であるが、今のマリに取ってはどうでも良いことだ。

 

「ご入隊ですか?それとも女の子相手のアレ・・・?」

 

「入隊よ。アイドル活動に来た訳じゃ無いわ」

 

「あぁ、そうですか。ご希望の兵科は・・・」

 

「マリ・ヴァセレートって言えば、分かるかしら?」

 

「へっ?少々お待ち下さいませ~」

 

 マリが放った言葉に、受付嬢はキーボードを叩いて検索し始めた。検索が出たのか、受付嬢は笑顔でマリに報告する。

 

「検索が出ました。貴女は士官ですね~軍隊で言う少尉から始まる事になってます」

 

「そう。じゃあ・・・それで・・・」

 

 早い内に入隊手続きが終わった為、マリは席を外そうとしたが、若い女性の声に止められた。

 

「皇帝陛下・・・?」

 

 自分にとっては懐かしいのか葬るべき過去なのか分からない呼び名に、マリは読んだ本人の顔を見た。

 それは佐官クラスの制服を着た金赤色の瞳を持つ若い女性であり、容姿は一緒にいた茶髪の尉官クラスの若い女性と同じく優れている。ワルキューレで言う情報士官を示す襟章を付けていた。

 マリの顔をはっきり見たその若い女性情報士官は彼女に近付き、腕を取った。

 

「あ、貴女は、あのマリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーですよね!?」

 

 興奮しながら言う女性将校に、マリは少し引いた顔で返答し、名前を聞く。

 

「そ、そうだけど・・・あんた誰?」

 

「私は、私はノエル・アップルビーです!神聖百合帝国陸軍情報部所属少尉、並び国民突撃軍第7小隊小隊長です!!」

 

「は、はぁ・・・?」

 

 余りにも熱烈的な返答に、マリは戸惑う。

 

「あぁそうだ!皇帝陛下はワルキューレにご入隊されるのですね?!」

 

「そ、そうよ・・・だから何なのよ・・・!」

 

「だったら私の所属になってください!お力になりますからお願いします!!」

 

 突然、ノエルに「入ってくれ」と言われて、頭を下げられた為、マリは困り果てた。周囲が驚いた顔で見ながら、マリは「力になる」という言葉を信じてそれを承諾した。

 

「良いわよ・・・力になるってホント?」

 

「本当にホントです!必ずや皇帝陛下のお力に!!」

 

 膝をついて宣言するノエルに、マリは復讐への道がまた一歩進んだと確信した。こうして、マリの復讐の為の世界を渡る旅が始まった・・・




これが今年最後の復讐者の世界周りの更新です。
イメージEDはディスオナードのメインテーマ。
http://www.youtube.com/watch?v=iVlVyi9rKDo

それと私から送るクリスマスプレゼントです。


そして、雰囲気ぶち壊しの中断メッセージ。

~今週の中断メッセージ~

クリスマス!

銀時「クリスマス?あれだろ、性なる夜だ」

エレン「いや・・・聖なる夜で、サンタが子供達にプレゼントを配り回る日じゃ・・・?」

リヴァイ「そうだエレン・・・サンタと言う頭のイカれたジジイがトナカイが引っ張るソリに乗り込み、家宅侵入して、プレゼントを置く」

エレン「合ってるけど・・・何か、違うような・・・?」

みほ「沙織さんから聞いた話では、恋人達の夜って聞いたけど・・・」

銀時「このお嬢ちゃんの言うとおりだよ。カップルが自宅かラブホに行って、ベットの上でズッコンバッコンする日だ。それとボッチが一人寂しくケーキを食う日だ。分かったか?坊主」

エレン「さっきから、下ネタで返してるなこいつ!」

ミカサ「エレン・・・赤い服を着たおじいさんからこれ貰った(コンドーム)」

エレン「おい!サンタ自体が子供の夢をぶち壊してるじゃねぇか!!」

ミカサ「これ付けたら、懐妊できるって言ってた。しかも同じのが10個もある」

エレン「何だよ・・・これ・・・イメージしたのと違うじゃねぇか・・・」

銀時「あのな、クリスマスは性なる夜なんだ。大人しく受け入れろ」

リヴァイ「そうだぞ、エレン。クリスマスは商業的に利用を考える連中によって変えられた。これを打開する為に、バチカンのイスカリオテ機関の礼の神父が動き出した・・・!」

アンデルセン「エェイィメェン!!」

エレン「ヤバそうな予感がする・・・」

ミカサ「大丈夫、エレンは私が守る」

エレン「いらねぇよ!!」

~END~


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第一章 死亡率37パーセント
第一章 死亡率37パーセント第1の世界予告


報告の方に載せても観覧注意の所為で乗らなかった。
ので、ここに投稿する・・・!

予告は装甲騎兵ボトムズの外伝、機甲猟兵メロウリンクのキャラダインの次回予告風味。
ガイドルフによる予告です。イメージBGMは本作のOPであるソルジャー・ブルー。

ちなみにこのメロウリンク、大塚明夫のデビュー作であります。

※この予告編にはやや反社会的表現があります。注意して観覧ください。


 どうやら俺の読み通りワルキューレに入ったらしいな。あんたは復讐のためなら何だって利用する質だ。

 長年の経験からして俺には一目で分かる。

 飛んでいったあんたの能力がある場所が分かった。そう、日本の東京の町の一つである新宿区の歌舞伎町だ。あんたは普段は行きそうもないから説明してやろう。

 

 歌舞伎町。東京都新宿区の町名で、一丁目から二丁目まで設置され、全域で住居表示が実施されている。

 飲食店、遊戯施設、映画館が集中する歓楽街で、東に明治通り、南に靖国通り、西にJR中央線、北に職安通りがあって、それらの囲まれた範囲に位置する町である。

 

 町の真ん中には映画館に漫画喫茶、居酒屋、キャバクラ、風俗店、ホストクラブにラブホテル、パチンコ店が並んで、「眠らない町」と呼ばれて、近所迷惑の如くネオンが光って、深夜でも人通りが多い。なんて迷惑な町だ。俺は絶対に歌舞伎町には行かないね、キャバクラに行くとしたら歌舞伎町以外だ。もちろん歌舞伎町だけを軽蔑している訳じゃない。あそこに腕の立つ情報屋が済んでるから行くだけだ。勘違いするなよ。

 

 俺も年に一度や二度訪れる大手ディスカウントストアの本店前と、セントラルロードには、スカウトやホストのキャッチ、怪しげな客引き、ポン引きが多い。合法、非合法などを合わせて独自の雰囲気があり、東洋一の歓楽街と言われてる。俺は微塵も思わないがな。歌舞伎町を歩いてたら客引きに遭う。余りにもしつこいから短くなった煙草を吐き捨ててやったよ。これはこれで自分でもマナーが悪かったと反省してる。

 

 新宿ゴールデン街の裏通りは、あんたの大嫌いな店がたんまりだ。そこを派手にぶっ壊すって言うんなら、俺は止めやしないぜ?能力を一つくらいしか取り返してないあんたでも、爆薬と5000発くらいの銃弾があれば、充分破壊尽くせる。

 

 この町の歴史は、東京大空襲で更地にされたことから始まる。

 終戦後は歌舞伎の演舞場を建設し、新東京で健全な家庭センターを作るという復興案が纏められ、都市計画で歌舞伎町と名付けられたって訳だ。今とは正反対の町だな。

 だが、そんな町を作るにはお金が掛かる。財政の問題で出来ず、新宿コマ劇場が建設されるだけにとどまった。

 60年代にはいると、映画館、ボウリング場、サウナ、バッティングセンター等の施設が出来、健全の意味に反してラブホテルや言ってはトルコに悪いトルコ風呂等の施設が目立ち始めた。余りにも飽きられたから、町長さんは自棄を起こしたらしい。他にも色々と作るつもりだったらしいが、バブル崩壊でおじゃんだ。

 

 東洋一の歓楽街と言われたが、今はかなり変容して欲望の迷宮都市やら外国人労働者の新租界とまで言われてるぞ。

 中国と韓国の観光ツアー客も多く、昼間はツアーコンダクターが多く見える。俺も昼間歩いてたら見えたよ。

 

 治安が悪そうに見えるが、日本政府が重い腰を上げたのか、現在は安心だが、今でも不法な性風俗の客引きが無法の如く横行が続いてるらしい。だから余り行きたく無いのさ。

 

 あんたの嫌いな物を全部詰め込んだような町だ。最近では小学生くらいの10歳にも満たない少女を客引きに出しているそうだ。

 オマケに若い10~20代の女が風俗店に勤めてる。若者が夢を見れないって、俺は嫌な気分になるね。これは、会社に寄生する老害扱いされている老人共の所為かな?そう思うのはあんたの勝手だ。

 どれだけあんたが我慢できるか見物だぜ。もちろん、あんたが殺すのは周りで嫌われたり、むかつかれたり、あんたの嫌いなタイプの連中だから、インターネットの連中は、多分あんたを英雄に祭り上げるだろうな。

 まぁ、新宿が火の海や血に染まらないように祈るよ。

 

ガイドルフ・マカッサーより、マリ・ヴァセレート嬢へ。




第1章の一話が入るのはいつ頃であろうか・・・?それと見てくれる人は居るであろうか・・・?


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新宿編
見えない汚れ


ようやく第一章の一話・・・

※反社会的表現有り


 歌舞伎町。それは日本国の首都、東京都新宿区の町名。

 だが、歌舞伎町という名前は付けられたのは、戦後からだ。

 大戦中に東京が焼け野原にされた後、戦後の復興と共に芸能施設を集め、新東京で最も健全な家庭センターを建設すると言う復興案が纏められ、この都市計画から新しい町は、歌舞伎町と名付けられた。

 だが、財政の問題で、結局実現できなかった。

 年が明ける度に町は賑わっていき、飲食店や映画、ボウリング場、サウナ、バッティングセンター等の施設が目立ち、いつしか健全とは思えないラブホテルや風俗店などの施設が目立つようになり、東洋一の歓楽街がいつしか欲望の迷宮都市と呼ばれるようになった。

 そんな町を、異世界からやって来たワガママな復讐者が、復讐のために訪れる。

 

「東京って言ったって、銀座と秋葉原にしか行った事無いし」

 

 歌舞伎町前で止まったマリは、目の前のネオンサイドに光る町を見ながら呟いた。

 彼女が初めに歌舞伎町に入ったのは靖国通りだ。話は逸れるが、マリは新宿歌舞伎町に入る前に、靖国神社に寄っている。

 

「ここがこの世界における前大戦の戦死者を弔ってる・・・」

 

 見える参道と鳥居を見て、呟くマリであるが、生憎と彼女は参拝などしている暇はない。

 そのまま歌舞伎町へ向かい、今に至る。

 

「この辺かな・・・?」

 

 自分にしか見えない自身の能力探知機である心臓を、左手の甲に紋章が入った手で取り出し、鼓動が早くなっているのを見て、近くにあると確信する。

 暫く暗闇でもネオンサインの御陰で明るすぎる歩道を歩いていくと、以下にもチンピラな男二人が、マリに左腕を態とぶつかった。

 

「イテっ!イタタ!う、腕がぁ~!」

 

「おぅ!パツキンの姉ちゃん!俺の連れが左腕を骨折しちまったじゃねぇか!どうしてくれるんだ?オオン!?」

 

 端からどう見ても、態とであり、誰にも分かるような演技である。

 だが、柄の悪そうな丸刈りの男は英語でマリに治療費を請求しようとしており、しかも金額はやや現実的に見せようとしている。

 

「治療費として・・・この分だと50万だな・・・おぉ、そんなら75万じゃ。今から出せや」

 

 周りにいる者達は、関わりたくないと言うことで避け始める。

 この胡散臭い男二人に、マリは周りの通行人と同じく無視しようとするが、丸刈りの男は彼女の前に立って、行く道を塞いだ。

 

「こらぁ!無視すんな!早く直さんと、腕の骨がくっつかないじゃねぇか!!」

 

「うぁぁぁ!肩が、早くしないと肩が!」

 

 余りにもしつこい二人であるが、マリは態とぼけた。

 

「〔英語(エングリッシュ)、分かりません〕」

 

 相手を怒らせるような表情で、しかもドイツ語で告げた為、丸刈りの男は怒りの余り、本音を漏らしてしまった。

 

「このアマ!大人しく金を出せば良いんだ!!とっとと出しやが・・・」

 

 怒りに我を任せた丸刈りの男はマリの胸倉を掴もうとしたが、当の本人が、気が付かぬ内に消えていた。

 

「あれ・・・何処・・・?何処・・・?」

 

「ギヤァァァァァ!!」

 

 突如聞こえた仲間の声に、丸刈りの男は怪我人役の方へ振り向いた。怪我人役は本当にぶつかった左肩を折られており、余りの痛さに叫び声を上げる。

 

「イテェ!ホントにイテぇ!!本当に折られたぁ~!!」

 

「あな、あぁ・・・ほ、ホントにぃ・・・!?」

 

 本当に折られてしまったことに、丸刈りの男は尻餅をついて、鼻水を垂れ流し、失禁している。

 もちろん怪我人役の男の腕を折ったのはマリであるが、彼女はその場を離れて能力探しを再開する。

 

「さぁーて、何処かな・・・?」

 

 マリは何事もなかったかのように続けるが、周りの者達にとっては驚くべき光景であり、丸刈りと怪我人役の回りに人集りが出来ていた。

 人気はなくなり、マリは一番賑わう一丁目に入り、町の奥へと向かう。

 

「あれ・・・こんな所にあるの・・・?やだ・・・」

 

 心臓の鼓動が強い方へ向かう内に、知らぬ間に風俗店やアダルトショップが密集している裏通りへと来てしまった。

 辺りを見たマリは、少し不機嫌になる。そんな裏通りを鼓動が強くなる方を向きながら進むと、彼女の身体に目を付け、よからぬ事をしようと考える者達が、先の騙し取ろうとした二人と同じく行く先を封じる。

 

「ウッヒョー、外人の姉ちゃんデケェ~!」

 

 ポケットに両手を突っ込んだ柄の悪い男達が、マリを絡んできた。

 

「ねぇねぇ、金髪の姉ちゃん。今夜暇ぁ?」

 

 黒い髪を金髪に染め、耳にピアスを填めた若い男が、自分より背丈の高いマリに近付き、無表情な彼女を誘おうとする。

 これを断れば、彼等は気分を概して「自分達が悪かった」とは微塵も思わないだろう。普段はこの場で男達こと不良達を再起不能まで叩きのめすところだが、彼女はあっさりと誘いに乗った。

 

「良いわよ。路地裏で()る?」

 

「おっ、マジで?ヤらせてくれるの?じゃぁ、お前等。路地裏行くぞ」

 

「うっひゃぁ~、こんな美人で巨乳でビッチとか最高じゃねぇ?」

 

「最高最高!」

 

 不良達はマリと共に路地裏へと向かう。もちろんこれが不良達の最期とは、マリ以外には思わなかった。

 

「じゃあ、全部脱げ。ここでヤるぞ」

 

 マリよりやや背丈の高いニット帽の不良が、手をポケットに突っ込んだまま、彼女に全ての衣服を脱ぐよう指示する。

 

「うん、()るんだね・・・」

 

 この指示を、自分達を殺して良いと受け取ったマリは子供のような笑みを浮かべ、心臓を仕舞った。

 

「おぉ、すげぇ可愛いじゃねぇの・・・」

 

「やべぇ・・・!」

 

 未だに不良達は、マリに殺されるとは知らず、彼女と性行為が出来ると思っている。

 一向に脱がない彼女に苛立ちを覚えたのか、ニット帽の不良はマリに掴み掛かろうとした。

 

「おいコラ。早く脱げや!」

 

 掴もうとした不良に、マリは隠し持っていたナイフで、首をニット帽に感覚も与える間もなく素早く斬った。

 

「おい!テメェなにやって・・・アボボ!?」

 

 言い終える前に苦しくなり、ニット帽は首を押さえ始めた。他の不良達は何が起こったのかまるで理解できないでおり、固まったままだ。

 首を斬られたニット帽は、マリを睨み付けるが、等の彼女は妖艶な笑みを浮かべ、ニット帽に答えた。

 

「だって、()って良いって言ったでしょう?無駄に生かされている殺処分のお前達もな!!」

 

 ニット帽が力尽き、死んだことに快感を覚えると、周りにいる不良達に向けて、殺気だった表情で言った。

 不良達は、「あの女を殺さねば自分達が殺される」と思い、メリケンサックを持つ者達は即座に取り出し、各々の近くにある角材や鉄パイプ、廃材などでマリに襲い掛かる。

 

「この野郎死ねぇ!!」

 

「わぁぁぁぁぁ!!」

 

「殺してやるぅ!!」

 

 一人の金髪碧眼の長身美女に襲い掛かる不良達の表情は、恐怖一色に染まっており、「やらなければやられる」と、顔を見れば直ぐに分かるほどだ。

 死の恐怖に怯えながら襲ってくる不良達を、マリは何の躊躇いもなく反撃を食らわせる。

 

「食らえぇぇぇ!!」

 

 まず初めに襲ってきたジャンバーの男に強力な蹴りを食らわせた。首をあらぬ方向に曲がり、身体は硬いアスファルトの上に落ちる。

 

「わぁぁぁぁ!くたばれぇ!!」

 

 次の角材を持った男が殴りかかったが、あっさりと受け取られてしまう。隙を見た鉄パイプを持つ男と割れたガラス瓶を持った男がマリに強力な一撃を加えようとする。

 

「甘い」

 

 この一言が発せられた直後、強力な蹴りが鉄パイプの男とガラス瓶の男の腹に炸裂した。

 強力な蹴りを受けた男達は、腹の中にある物を吐き出し、地面に膝をつく。角材の男は直ぐに引き離そうとするが、マリの腕力が女性とは思えない程強く、全く引き離せない。

 

「な、何だよ・・・!は、離せよ・・・!」

 

 必死に引き離そうとするが、まるで柱を引き離しているようで微動しなかった。

 そんな男に右手で角材を握るマリは、メリケンサックで殴りかかってくる不良達を片手と足で倒しつつ、簡単なことを告げる。

 

「簡単じゃん。引き離せなかったら、離せば良いんじゃないの?」

 

「えっ・・・!?」

 

 男は「なんでそんな簡単なことを思い付かないだろう」と思ってしまう。戦闘に浅い者でも見逃さない隙を見せた男は角材を奪われ、口に角材を入れ込まれた。

 

「ブガッ!?」

 

「ほら、簡単でしょ?」

 

 男の口に角材を突っ込みながら、マリは笑みを浮かべながら聞く。吐いていた男二人が立ち直り、再び襲い掛かって来たが、角材を手放したマリが、落ちていた鉄パイプを拾い上げ、二人の男を同時に払った。

 

『ゴベェ!?』

 

 顎が外れた二人はコンクリートの壁に頭部を打ち付けて即死する。メリケンサックの三人の男達は再び殴りかかったが、あえなく流されて全員倒された。

 

「ふぅ~何人か殺してないけど・・・」

 

 自分を誘った不良達を全滅させたマリは、両手を払い除け、まだ生きている者達の手足を踏み付け、しばらくは動けないようにする。

 

「まぁ、これくらいで済ませてあげますか」

 

 死んでいる者達と気付かぬ内に重傷を負わした不良達を見て、マリは能力探しを再開した。

 だが、彼女はこの先自分の堪忍袋の緒が切れるような事が起こるとは知るよしもなく、ひたすら鼓動が強くなる方向へと進む。

 強くなる方へ進んでいく内、客引きの声が、彼女の耳に入ってきた。

 流石にこの場を歩くマリの容姿は目立ち、見られてしまうが、彼女が妙な威圧感を放っている所為か、誰も近付かず、一目見てから家に帰るなり仕事に戻るなりする。

 ずっと心臓の鼓動を見ながら歩いていると、客引きの声が多くなったが、その声の中にとてもこの町には合わない十代にも満たない少女の声が聞こえた。

 

「今・・・女の子の声が・・・?」

 

 直ぐにマリは能力ダークビジョンを発動し、少女を探す。こう人が多くては探すのは困難そうだが、その場を歩く人間と居る人間の大半は152~180㎝程だ。

 声からして少女は128か140㎝程なので、他のとは違って視界の低さを見れば直ぐに分かるだろう。案の定、あっさりと背丈130㎝程の少女は見付かった。

 鼓動する心臓を左手に仕舞い、少女に声を掛けようとするが、後ろからホストに声を掛けられる。

 

「ねぇ、お姉さん。今夜暇?」

 

 ホストは金髪に染めた髪で、仕事なのか、洒落たスーツを着ている。

 これは所謂ナンパであり、マリの容姿と体型、この町を歩いていることから誘い待ちと思ったのだろう。

 だが、これが彼女の逆鱗に触れたのか、マリは思い切りホストの股間を、背を向けたまま蹴り付けた。

 

「ヴア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!?」

 

 余りの痛さにホストは声にもならない叫び声を上げ、股間を押さえ、道路に膝をついた。

 その声は通りを歩く通行人が振り向いて足を止めるほどであり、声を掛けようとした少女が無表情で自分に迫るマリの姿を見て、持っていた看板を落とす。

 落とした看板には、ガールズバーの宣伝と場所が記されている。これを目にしたマリは、怯える少女に声を掛けた。

 

「ねぇ、なんでこんな汚い町に居るの?」

 

「そ、それは・・・」

 

 それもその筈、突然白人女性が余りにも日本人の発音に近い日本語で話し掛けて来た為、少女は困惑した。

 どう答えて良いか分からず、少女はマリから視線を逸らす。マリは困惑する少女の身長に合わせて屈め、頬に右手を沿え、問う。

 

「怖がらないで、何処にも連れて行かないから・・・」

 

 優しげな表情と言葉に安心感を抱いたのか、少女は素直に答える。

 

「分かった・・・おじさんが、ここに居て、看板持ってれば、お金くれるって・・・」

 

 その答えにマリは舌打ちをしそうになったが、「これ以上怖がらせてはなら無い」と思い、なんとか抑えた。丁度、少女が言っていた”おじさん”がマリの目の前に現れた。

 

「全く。なんで俺が餓鬼の面倒を・・・」

 

 嫌々ながらこちらに向かってくる若い男に、少女は指差してマリに告げた。

 

「あっ、あの人・・・」

 

「へぇ・・・あいつが・・・」

 

「あっ、なんで外人の女に声かけれてんだ?」

 

 男は自分の方へ視線を向けるマリに近付いていく。

 

「(やべ、俺英語話せねぇーや)」

 

 彼女を完全に日本語が話せないと決め付けた男は、マリに声を掛けた。

 

「あの・・・」

 

「酷いじゃないかお姉さん・・・よくも俺の股間を・・・オオオッ!?」

 

 マリの後ろから、先程股間に強烈な一撃を食らったホストが近付いてくるのが見えたが、今度は強力な肘打ちを顔面に食らい、鼻の骨が完全に砕け、整った顔立ちが美しい金髪碧眼の美女に潰された。

 衝撃で抜けた複数の歯を落としながら道路に倒れ、気絶する。これを目撃した男は失禁どころか脱糞し、まるで金縛りにあったかのように動けず、ただマリを見ているしか無かった。

 少女はまたも震え上がるが、彼女の優しげな表情でなんとか落ち着く。

 

「案内してよ」

 

「はい!案内させていただきます!!」

 

 男はこの頼みは即座に受け入れ、直ちにマリを自分の職場に案内する。

 しかし、彼女としてはこの場に少女を置いていくわけにはいかず、たまたま目に入った花柄の服を着たえらく古風な角刈りグラサンチンピラを捕まえ、少女誘拐犯に仕立てた。

 

「お巡りさ~ん!このロリコンが、女子小学生を誘拐しようとしてま~す!」

 

「え、えっ、俺ぇ~?」

 

 人が変わった事を言うマリに、古風チンピラは戸惑い、周りを見るが、彼を見る周りの目は冷たい物だった。少女もこれは言っておくべきなのか、助けを呼ぶ。

 

「助けて!このダサイ服の男が連れて行こうとしてます!!」

 

「アイエェェェ!?」

 

 もはや男には逃げ場はなかった。マリをナンパしようと気絶しているホストとは違う別のホストが、警察に通報する。

 その間に彼女は少女に別れを告げた後、恐怖で付き従う男に案内するよう言う。

 

「じゃあ、ちゃんとお家に帰るのよ」

 

「うん、お姉ちゃん!」

 

「ほら、あんたは私を案内しなさい」

 

「ぅわ、分かりました!お嬢様ァ!!」

 

 男は凄まじい悪臭を周囲に撒き散らしながら、マリを自分の職場に案内を再開した。

 当然の如く悪臭が酷いので、マリは男から距離を離してついていく。無論、周りの通行人も避けるほどであり、客引きやポン引きすらその場を離れるほどであった。

 

「あんた、漏らしすぎ」

 

「そ、そんなこと言ったって怖かったんですよ!」

 

 額に汗を滝のように流しつつ噛んでから答えた。男から距離を置いて進んでいくと、目標のガールズバーに辿り着いた。

 

「ここね・・・」

 

「もう案内したんですから・・・解放してくださいよ・・・!」

 

 案内を終えた男は、マリに解放してもらおうと頼むが、拒否される。

 

「駄目よ。あんたにはまだ使い道があるの」

 

「そんな・・・お母ちゃん、助けて!!」

 

 黒い笑顔で告げるマリに、男は泣き叫び、また失禁して脱糞までし、ズボンの裾から排泄物が落ちる。排泄物を目にしたマリは汚物を見るような目で見て、背中に蹴りを入れた。

 男は痛がるが、彼女にとっては関係のないことである。

 周囲を見ると、若い女性を連れた禿げた年配の男が、自分の高級車に連れ込もうとしていた。それを見たマリはにやりと唇を曲げ、男の利用方法を思い付く。

 

「あっ、ここで良いわ」

 

「良かった・・・ハナッ!?」

 

 助かったと思っていた男であるが、突如足払いされ、年配の男の高級車へと蹴り飛ばされた。

 男は高級車の運転席の窓に尻から激突し、車内を悪臭で充満させた。車内にいた若い女は即座に飛び出して、走りながら何処かに去っていった。

 一方の禿げた男は激怒し、窓に突っ込んだ男を引き摺り落とし、蹴りまくっている。

 憂さ晴らしが出来たマリは、ガールズバーの出入り口から堂々と入店した。

 

「いらっしゃい・・・ませ・・・?」

 

 いつものように男性客ではなく、女性、しかも金髪で白い肌、碧い目を持つ外国人女性が入店してきた為、店員は少し対応に焦る。

 カウンターに居る店長は追い払うよう顎で用心棒に命じるが、当人であるマリは堂々とカウンターに近付いてくる。これを見た接客係達はざわつき始める。

 

「あの・・・女性の方でも・・・?」

 

「ここはガールズバーだぞ。女が女に張り付いて接客なんて、レズバーだけだ。とっとと出てって貰うしか無いだろう」

 

 話し掛けてきた接客係の女性に、答えた店長はカウンターに立つマリに視線を戻す。

 

「すみません、お客様。当店は女性客のサービスはしておりません。お帰りお願いします」

 

 向かってきて自分の肩を叩く用心棒であるが、彼女は無視する。

 

「おい、無視するな!ここは・・・ギャッ!」

 

 マリに取っては余りにも煩かったのか、彼女は用心棒の右腕をへし折った。それを見た店長の顔は驚き、後ろへ下がる。

 隣の席に座る酔った客は驚いて声を上げようとしたが、肘打ちを頭に食らって地面に倒れる。

 女性店員は悲鳴を上げ、床に尻餅をつく。騒ぎはこれだけでは収まらず、マリはカウンターに置かれたウィスキーの瓶を手にし、それをグラスに注ぐ。

 

「このアマぁ~!」

 

 肘打ちされた客が起き上がり、殴り掛かろうとするが、片手で片付けられる。マリはカウンターに腰掛け、他の客に向けて手の甲を向けて中指を立て、グラスに入ったウィスキーを飲む。

 この挑発的なジェスチャーであるファックサインの意味を知る外国人を含めた客達は席を立ち、マリを睨み付け、近付いてくる。

 

「外国のお姉さん。それはどういう意味かな・・・?」

 

 腕を鳴らしながら近付いてくる柄の悪い男に、マリは態と顔に向けて嚔をした。

 

「ヘックシュ!あっ、ごめん」

 

「このアマぁ・・・!」

 

 人に向けて嚔と言う余りにも無礼極まりない表情で謝ってきた為、柄の悪い男はキレ、殴り掛かってきた。

 だが、顎を蹴り上げられ、テーブルまで吹き飛ばされる。ファックサインの意味の分からなかった他の客達も立ち上がり、酔いに任せて一斉にマリに襲い掛かる。

 

「おらっ!何するんじゃ!ワレェ!!」

 

 中には暴力団員も居たらしく、得物のナイフを抜いて襲ってくる。一方の店長は武器を取りに行く為か、カウンターには居なかった。

 周囲にいる女性店員が悲鳴を上げる中、マリは襲い掛かる酔っぱらい達十六人に対し、空になったグラスを投げ付け、一人目を倒した。

 

「ドバッ!?」

 

「食らえぇ!」

 

 次にナイフで斬り掛かる暴力団員が来るが、あっさりと避けられた挙げ句に髪を掴まれ、カウンターのバックバーに投げ込まれて、自分の頭で多数の酒瓶を割る。酒瓶を持った客が殴り掛かってくるも、これも避けられて逆に酒瓶で殴られた。

 もう一人は顔面に強烈な蹴りを食らって窓を突き破り、外に放り出される。カウンターの近くにいた客も殴り掛かろうとするが、避けられて頭を掴まれ、カウンターに打ち付けられる。

 武器である長い棒を持ってきた店長はマリを殴ろうとしたが、逆に彼女に武器を渡すようになってしまい、右頭部を棒で強打され、脳震盪を起こし、白目を剥いて口から泡を吹いて失神する。

 残る酔いに酔った客達は次々と店長から奪った棒で倒されていき、店内は大いに荒れる。

 

「あっ、そうだ」

 

「グベッ!?」

 

 メリケンサックで殴り掛かってくる男の頭部に一発叩き込んだマリは、後ろで固まって怯える接客係達を見て、何か思い付いた。

 

「あんた等の中に未成年混じってるでしょ。こんな所で働かず、もうちょっとマシな所で働きなさいよ」

 

『は、はい・・・』

 

 襲ってきた腹を思いっ切り棒で突きながら言うマリに、どうして良いか分からない接客係達であるが、未成年の接客係達は取り敢えず素直に答えた。

 酔った勢いで襲ってきた客達は全滅し、襲ってこなかった客はただ震え上がっているだけだった。

 

「これで全滅ね・・・あっ、ほら。金庫の鍵」

 

 棒で失神している店長から奪った金庫の鍵を、接客係達に向けて投げた。一番の年長者がそれを慣れない手付きで受け取り、マリに視線を向ける。

 

「あの・・・これ・・・」

 

「だって、未成年働かすなんて違法じゃない。客も同然だから、警察が来るまでに盗ってしまいなさいよ」

 

 この言葉に接客係達は、外に飛ばされた男以外の伸びている客から財布を抜き取り始め、金庫とレジの鍵を開けて現金を取り始めた。

 棒を捨ててまだ無事で入っている酒瓶を盗り、店から立ち去ろうとするマリであるが、彼女にとっては思わぬ不意打ちを食らった。

 

「やった・・・!」

 

 先程震えていた男が、マリを酒瓶で殴ったのだ。ガラスが割れ、容器の中身が彼女の綺麗な金髪を濡らし、頭部を傷付け、額から血を流させる。

 床に血が混じったアルコールが水滴のように落ちて広がる中、男は一人で歓喜する。

 

「やったぞーッ!暴力女を片付けたぞ!!」

 

 接客係達からの白い目を気にせず、男は一人で勝手に歓喜するが、マリに首を掴まれ、直ぐに黙る。

 

「な、なんだ・・・こ、この、犯罪者め・・・!」

 

 睨み付け来る男だが、マリがそれよりも遙かに殺気立った瞳で睨み付けてきた為、男は泣き出し、失禁までした。

 マリはこの男には全く害は無いと察し、床に投げた。男は反撃することなくただ震えてばかりだ。

 店を後にする前に、マリは固まっている接客係達に告げる。

 

「あぁ、取り敢えずこの惨状は、そいつの所為にしときなさいよ。お金も奪ったのもそいつで」

 

 あ然する接客係達に告げ終えたマリは何の応急処置もせず、店を出た。酒を飲みながら店から離れる中、以下にもヤクザなグラサンを掛けた男に呼び止められた。

 

「おい、お前さん。か弱く見えて強いじゃねぇーか。俺達の組に・・・」

 

 言い終える前に、マリはヤクザの横顔に強烈な蹴りを入れ、道路に伸びさせた。そのまま通りを出て行くと、突然目前がし始めた。

 

「頭が・・・痛い・・・」

 

 そう口にしながら再び酒を飲むと、足がフラフラし、蹌踉ける。また口にすると、今度は視界がぼやけ始めた。

 

「あれ・・・?私、お酒に弱かったっけ・・・?」

 

 視界がぼやけて足も蹌踉めく中、点滅する赤いランプを見たのを境に、歩道に倒れた。倒れた後に、歩道に広がる自分の血と紺青色のズボンの裾に黒い靴を見たのを最後にマリは眠りについた。




こんなの書いて、大丈夫かな・・・?


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隠れた敵

今更思った。組織の連中って、堂々とムガルと名乗っちゃってる・・・


 時は、マリが新宿に足を踏み入れる前に遡る。

 

「良いですか、我が皇帝(マイン・カイザー)。町では絶対に大暴れしないでくださいね」

 

「分かってるわよ。RPGゲームに例えるなら経験値がゴミみたいな奴ばっかだって事でしょ」

 

 豊島区の何処かにある屋敷に扮したワルキューレの基地にて、ノエルが前の君主であるマリに注意していた。

 それに対し、マリはゲームに例えて答える。その巫山戯たような受け答えに、ノエルは頬を膨らませるが、これがマリの思う壺であった。

 

「あら、ちょっと可愛い」

 

「もう!」

 

 可愛らしい怒り方をするノエルに、マリはからかいながら玄関まで向かった。

 ちなみに、このワルキューレの基地こと日本支部として使われている洋館の防御用設備は内部だけであり、外の防御設備は一切無い。ただ警戒赤外センサーを置いているだけである。それに警備兵は置いて居らず、ただ監視カメラを設置しているだけだ。

 その御陰か、周辺の人々には、この屋敷もとい基地はただの金持ちが建てた洋館だと思われている。

 中庭もただ数本ほど木々があり、庭も綺麗に清掃されていることから、誰も屋敷に異世界から来た軍隊組織が居るとは気付かない。

 徹底的なカモフラージュがされているので、日本政府や情報機関も、お膝元に異世界の軍隊組織が居るとは思わないだろう。

 

「ホントに可愛い・・・」

 

 ノエルの情報将校としての後輩である京香も、先輩の愛らしい怒りプリに感激し、声を出す。

 

「じゃあ、情報通り新宿にムガルの使いパシリと私能力はあるのね?」

 

「はい。能力に関しては、少し信憑性が薄いですが、標的に関しては確実であります」

 

 マリからの質問に、ノエルは取り直して答える。そう確認したマリは、ドアを開けて出て行こうとする。

 

「あっ」

 

「なに?」

 

「絶対に大暴れしないでくださいよ?」

 

「分かってるわよ。しつこいな・・・」

 

 何度も釘を刺すノエルに対し、マリは答えて聞こえないように呟いた後、玄関を出て外に出た。屋敷の門から出ると、未だに聞こえてくる車の走行音が耳に入ってくる。

 

「さて、どっちから向かいましょうかね」

 

 東京都の地図を見て一人で呟きながら、マリは新宿へと向かった。

 

 

 

『おい・・・起きろ・・・』

 

 加工でもされているかのような声を聞き、マリは目を開けた。

 まるで悪魔のような声だが、今のマリにそう聞こえるだけで、目の前にいる警官の声は、普通の男性の低い声である。徐々に視界のぼやけがはっきりとしていく中、彼女は机に手を乗せ、体勢を立て直した。

 

「ようやく起きたか・・・」

 

 目の前に座る紺青色の制服を着た警官の声がちゃんと聞こえてくると、体勢を立て直したマリに頭痛が襲った。

 

「いたっ・・・!」

 

「まだ頭痛が残っているらしいな。それもそのはずだ、頭から血を流したまま日本酒を飲んでいたからな」

 

 警官は両肘を机に置き、包帯を巻いている部分を抑えるマリに告げる。どうやら取調室に運び込まれたようだ。

 

「あぁ、出血が止まりそうもないから治療しておいた。幸い、署でも治療が可能レベルでな」

 

 付け加えた警官は同じく机に置かれている書類に目線を合わせ、ペンを取り、身元確認と事情聴取を始める。

 

「早速目覚めて悪いが・・・これから事情聴取を兼ねた身元確認を行う。君の姿はどうから見ても、白人女性だな・・・何処の国の出身だ?」

 

「何処でもない」

 

 英語で訪ねてくる警官に対し、マリはウクライナ語で答えた。警官は表情を変え、少し間を開けて、ロシア語で問う。

 

「何処の国の出身かと聞いている」

 

「私は何処の出身でもない」

 

 少し声色を変えた警官の質問に対し、マリは付け加えただけの同じ答えを返す。流石に苛ついたのか、警官のマリの見る目が睨み付けるような目線に変わっていた。

 警官がまた質問に取り掛かろうとした瞬間、取調室のドアから別の警官が入ってきた。

 

「おい、その金髪女の身元引き取り人が来たぞ」

 

「ちっ。まだ何も特定できてないのに・・・でっ、身元の受取人は?」

 

 舌打ちした取り調べの警官は、マリの身元の引き取り人の事を聞く。

 

「さぁ、そこにいる金髪女よりは劣るが、美人だ。兎に角、早く受付まで運んでおけ」

 

「分かった。良し、案内するからついてこい」

 

 答えた警官はそのままドアに陣取り、取り調べ係の警官はマリについてくるよう指で指示する。それに応じて、マリは警官達についていくことにした。

 案内する警官達の背中を見て「何かおかしな事をするのでは無いか?」と思ったが、思い違いであったのか、ちゃんと受付まで案内してくれた。

 受付の待合い席に、赤み混じった茶髪の女性が座っていた。顔は整っており、美人の領域に入るくらいの容姿だった。

 

「ノエルじゃないわね・・・」

 

 女性を見たマリは、一瞬自分の忠犬寸前になっている情報士官のノエルかと思ったが、顔を見て違うと判断した。マリを見付けた女性は、彼女に近付いてくる。

 

「あの・・・ヴァセレート様でしょうか?」

 

 少し不安げな表情を浮かべる童顔の女性は、マリ本人であるかどうかを問う。

 当然の如くマリは自分だと答えた後、目の前にいる二十代にも満たしそうにない若い女性に何者かを聞いた。

 

「そうだけど。それにあんた誰よ?」

 

「あぁ、私ですか?私はアップルピー情報中佐から貴方を引き取るように命ぜられた新宿区でスカウトガールを担当している麻奈美(まなみ)と申します者です」

 

「スカウトガール・・・?」

 

「はい、スカウトガールとは・・・あっ、ここじゃ駄目だったんだ。あの、一緒に外に出てください。ここじゃ何かとやばそうなんで」

 

 スカウトガールと言う単語に疑問を覚え、顔をやや斜めに傾けたマリ。理解されていないと麻奈美は、ここで詳しく話すのは不味いと思ったのか、警察署から一緒に出るように伝える。

 少しマリを連れ回した後、ここなら安心して喋れると思い、彼女の手を離した麻奈美はスカウトガールについての説明を始めた。

 

「ここなら良いか・・・誰も見てないし。スカウトガールは、別にエッチな店に案内する女性の意味じゃないですよ。この世界の人間を我々軍事結社ワルキューレの兵士として勧誘するスカウトする人のことであります。スカウトは我々の意味では偵察と斥候でありますが、ガールを付けて区別しました。これがスカウトガールです」

 

「へぇ・・・そうなんだ」

 

 聞いても無い事まで説明に、マリは理解した。彼女の表情を見て、麻奈美は「理解してくれた」と思い、安心する。

 次の問題に移るため、彼女は目の前で安心しきっている麻奈美に問う。

 

「それで、何処に連れて行くの?」

 

「あぁ、そうでした!」

 

 問われた麻奈美は少し慌て、行き場所を告げる。

 

「これから基地に帰りますので・・・まだ何かやり残したことは?」

 

「あるわ」

 

 この世界におけるワルキューレの拠点である屋敷に帰ると麻奈美は告げるが、マリは拒否するかのように口を開いた。直ぐに「それが何か」と彼女は弱々しく聞く。

 

「それはどんな・・・?」

 

「私の能力。大分離されちゃったから、直ぐにあそこへ戻らないと」

 

「怪我をしておられるのですよ。直ぐに戻らないと・・・」

 

「この程度の傷、問題ないから。あんたは仕事でもしてなさい」

 

 手を伸ばしてくる麻奈美の手を払い除けたマリは、直ぐに能力探知機である心臓の鼓動が強い歌舞伎町裏通りへと戻ろうとする。

 

「待ってください!」

 

「何よ」

 

 行こうとするが、呼び止められた為、マリは振り向いて麻奈美に問う。

 

「それなら私も連れて行ってください。拳銃・・・持ってますから」

 

 麻奈美は、上着から見えるショルダーホルスターに差し込んである小型自動拳銃コルトポケットを見せた。これを見たマリは麻奈美の頭を撫でて、自分より背丈が17㎝も低い彼女を褒める。

 

「へぇ~用意が良いじゃない。偉い偉い」

 

「え、は、恥ずかしいですよ・・・」

 

 まるで子供を褒めるかのような物であった為、麻奈美は恥ずかしくなり、赤面する。

 

「しかし、私のはどうすれば良いかしら?基地に戻っても、ノエルちゃんが煩いし・・・」

 

 顎に人差し指を当てて、自分の銃はどうすれば良いか迷うマリ。戻ってもノエルが銃の所持の許可を出すとは思えず、近くの警察署に忍び込み、銃を盗むのもありだが、それでは琴が大きくなりすぎて、上官のような人物である彼女にどやされるかもしれない。

 

「どうしようか・・・?」

 

 そう考え込んでいる内に、あの男の事を思い出した。

 

「あいつなら銃を持ってるかもしれないわね・・・」

 

「あいつって?」

 

 聞いてきた麻奈美に、マリは即答する。

 

「なんか私にまとわりついてくるガングロのおっさん」

 

「ストーカーですか?」

 

「まぁ、そんなところ。頼めば出してくれるかしら?でも居場所なんて分からないし・・・」

 

 続いて聞いてくる質問に答えた後、ガイドルフがこの世界の何処かに居るかどうかを悩み始める。だが、運が良いことに探す手間もなく、そのガイドルフ自身がマリと麻奈美の元にわざわざやって来た。

 

「よぉ、まさかあんたがサツにとっ捕まるなんて思いもしなかったから、見に来てやったぜ」

 

「あっ、カモが葱しょってやってきた」

 

「あの人ですか?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 また聞いてくる麻奈美にマリが答えるのを見ていたガイドルフは、二人が何を考えているか察しを付ける。

 

「そこのお嬢さんが(チャカ)を脇の下にぶら下げているのを察するに、この日本じゃ大変やばいことをおっ(ぱじ)める根端だろ?」

 

 自分の考えていたことをある程度当てたガイドルフにマリは警戒心を抱いたが、銃を手に入れるには彼が必要なため、強気で銃を渡すよう伝える。

 

「えぇ、もちろんそのつもりよ。だって、ムガルとか言う頭のイカれた集団が先回りしてるかもしれないじゃない。ほら、銃出してよ」

 

 隣にいた麻奈美は少し不安げになったが、ガイドルフは後頭部を少し掻いた後、煙草を取り出して、それを吸って煙を吐いた後、マリに答える。

 

「あぁ、良いぞ」

 

「えぇ!良いんですか!?」

 

 麻奈美があっさりと銃を渡すガイドルフに驚き、マリも意外な答えに少し驚いた。

 

「良いんだよ。それにそこの女神のようなお嬢さんに能力を取り戻して貰わんと困るんでな」

 

「へぇー、その銃であんたを殺すかもしれないけど。それで良いってわけ?」

 

 腕組みをしながら強気で問うマリに、ガイドルフは煙草を離してから答えた。

 

「それだけは勘弁願いたいな。まぁ、そんな話は置いておき。サツの署の目の前で銃なんて出したらお縄だ。案内するから俺の車まで来てくれ」

 

 煙草を咥えながら、ガイドルフがマリと麻奈美についてくるよう言った後、自分の車まで向かった。その後を二人は警戒しながらついていく。

 

「そんなに警戒しなさんな。別に盗って喰いやしない」

 

 疑いの目を向ける二人に、ガイドルフは振り返り伝える。それでも二人は、未だにガイドルフを警戒しながらついていくのだった。

 

「よし、着いたぞ。あのフォードエイスプローラーの4代目リア型がこの世界における俺の愛車だ」

 

 自分の(SUV)を指差して言うガイドルフに、マリは早速トランクに向かい、髪からヘアピンを取って、ピッキングして開けようとする。

 

「おいおい!そんなに慌てなさんな。今開けるからよ」

 

 ピッキングで開けようとするマリを遠ざけた後、自分で鍵を使ってトランクを開けた。

 

「車内でチェックを済ませてくれ。通報される」

 

 近くの歩道を歩く通行人を見ながらガイドルフが告げると、マリは車内で銃の確認を行った。

 銃は全部で八挺入っており、突撃銃が二挺、狙撃銃が一挺、短機関銃が一挺、散弾銃が一挺、自動拳銃が三挺入っていた。

 突撃銃はAKS74の銃身を限界まで切り詰めたAKS74U、FN社のブルパップライフルF2000。

 狙撃銃はロシア軍では今での使われているSVDドグラノフ、短機関銃は最初から消音器付きのMP5SD6、散弾銃はモスバーグ社のM500。

 自動拳銃はFNハイパワー、APSスチェキン、グロック17だ。

 それぞれがケースに入れられており、弾倉が一緒に入れられている。ケースに仕舞えば、周囲の人間にばれずに済む。

 

「結構揃ってるじゃん。取り敢えずこれとこれ貰っておくわ」

 

 マリはMP5SD6とAPSスチェキンを十分な弾倉分と共に手に取った。MP5SDはケースに仕舞って持ち、スチェキンはショルダーホルスターに差し込み、その上から上着を羽織って隠すようにする。

 

「あれ、持てるだけ持って行かないのですか?」

 

「お嬢さん。そんなに持ってたら重い上に目立つだろ?」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

 マリが余り銃を持てるだけ持って行かないのを聞いた麻奈美であるが、ガイドルフからの答えに納得し、自分も銃を持って行くことにした。麻奈美はAKS74Uが入ったケースを手に取り、それを両手に握る。

 

「準備は出来たようだな。そこまで送っていくか?」

 

「いえ、あの人が言うように、そんなに離れてないようなので」

 

 ガイドルフは送っていこうと思ったが、麻奈美が即答で答えた為、トランクを仕舞う。

 

「それじゃ幸運を祈るよ」

 

 SUVに体重を掛けながらガイドルフは開いている右手で幸運のジェスチャーを送った。それを見た麻奈美はお辞儀をしてから行くが、マリは何の礼も無しに麻奈美と共に向かった。

 麻奈美は礼をしないマリに注意しようかと思ったが、とても声をかけられそうもない表情を浮かべていた為、断念した。

 空いている手で心臓を取り出し、鼓動が強くなる方向へと向かう。何度も言うが、この心臓はマリと一部の人間以外見えていない。暫く歩いていると、裏通り近くまで来ていた。

 

「あの・・・?」

 

「なに?」

 

「取り敢えず連絡だけはしておきますね」

 

 スマートフォンを取り出して、聞いてくる麻奈美にマリは無言で答え、彼女は拠点に連絡を入れた。その間にマリは、鼓動が強い方向に視線を向ける。

 

「連絡終わりました。では、行きましょう」

 

「そう。じゃあ、私が案内するからついてきて」

 

 麻奈美からの知らせに、マリは彼女と共に裏通りへと入る。裏通りは日が出ている時間帯には人通りが少なく、夜とは違ってかなり活気がなかった。

 ここの地区のスカウトを担当する麻奈美であるが、彼女は初めて入る場所なのか、えらくケースの握る両手が強くなっている。

 このまま心臓の鼓動が強くなる方へ向かうと、鼓動が着々と増していき、何処にあるのかが分かってくる。40分以上鼓動が強くなる方向へと歩いていると、自分の能力がある場所へと辿り着くこと着いた。

 能力がある場所は、周りにある建物と同じ三階建ての鉄筋コンクリート構造の建築物だ。

 

「ここね・・・何か食べれる物出して」

 

 立ち止まって目標を見付けたマリは心臓を仕舞い、麻奈美に何か食べられる物を渡すよう指示する。応じた麻奈美は、鞄から栄養調節食品を取り出し、マリに渡す。

 

「ありがとう」

 

 礼を言った後、封を開けて栄養調節食を食べ始める。全て食べ終えると、置いていた短機関銃が入っているケースを持ち上げ、建築物の正面出入り口から堂々と入るが、麻奈美に止められる。

 

「えっ、裏から回らないんですか?」

 

「そうに限って、裏に何か仕込んでるかもしれないじゃない。だから、面から堂々と」

 

 問いに答えたマリは周囲に通行人が居ないことを確認し、ケースからMP5SD6を予備弾倉と共に取り出し、銃を構えながら出入り口のドアを開けた。

 その後に続くように、麻奈美もケースから短機関銃に近い突撃銃と入っている弾倉を慌てて取り出して、建物に入った。

 ちなみに弾倉は、入る限りポケットに入れている。室内は薄暗く、数ヶ月ほど余り掃除をしていなかったのか、床を踏み付けると、埃が舞う。

 麻奈美がご丁寧にも銃身に着いていたフラッシュライトを点けて、辺りを照らした。

 何も置かれて居らず、この建物に張られていた取り壊しお知らせのポスターが貼られていた事から無人と分かるが、奥の部屋から何か物音が聞こえてきた。

 

「何でしょうか・・・?」

 

「行ってみるしか無いでしょ」

 

 咄嗟に銃を向ける麻奈美はマリに聞くが、等の彼女は物音が鳴った方へと向かう。

 奥の部屋を覗いてみると、良く紛争地域で見られる中国製AK47の56式自動歩槍を所持した男が、床下収納庫から出て来るのが見えた。中国製のコピー突撃銃を持った男は窓を開けて、外を見た。

 男が気付かない内に、マリは肩にスリリングを掛けてMP5SDを吊し、スチェキンを取り出して、足音を立てないように近付く。

 

「はぁ~、ボスはきついな・・・」

 

 呑気に溜め息をつく男であるが、後ろから近付いてくる彼女には気付かず、あっさりと捉えられた。

 

「動かないで」

 

「ヒッ・・・!な、何者だ・・・!?」

 

 後頭部に銃を突き付けられながら、銃を吊しながら男は手を挙げ、マリに何者かを聞く。だが、彼女は答えず、壁に頭をぶつけて尋問を開始する。

 

「あんた等ここで何やってるの?」

 

「あ、あぁ・・・俺はただ雇われているだけで、見張りをしているだけなんだ!この建物の地下には変な男達が何かを計画している。それしか分からない・・・!」

 

「それと上階には何が?」

 

 次の質問をすると、これも教えてくれた。

 

「上の階は何もない。ただ夜になると、この辺の馬鹿な若者がたむろするだけだ!なぁ、言ったから解放してくれよな?」

 

「そう、ありがと」

 

 あっさりと口を割った男に、マリは礼を言うと、叫ばれたら困る為、壁に思いっ切り男の頭を叩き付け、気絶させた。

 壁に男の血痕が二つ残ったが、そんな事は彼女には関係のないことである。遅れてやって来た麻奈美は、マリに何が起こったのかを問うが、彼女に残れと指示される。

 

「あの、一体何が?」

 

「あんたは残っておきなさい」

 

「え、でも・・・」

 

 食い下がらずに問うが、マリが表情を変えて言ってきた為、少し怯えて断念する。

 

「良いから!」

 

「は、はい・・・」

 

 泣く泣く指示に従った麻奈美はこの部屋に残ることにし、マリは地下へと入っていった。

 梯子を降りた先は、明かりの付いた地下通路だった。部屋は見える限りで七部屋であり、複数の足音が聞こえてくる。

 確認のために心臓を取り出して見ると、鼓動がより一層強くなっていた。

 

「ここね」

 

 小さく呟いた彼女は、ここに能力があると踏んだ。ダークビジョンを発動し、部屋に居る人数を確認する。

 銃を構えながら進むと、近くの部屋から白いタンクトップを着た男が出て来た。

 直ぐに自分の存在を隠すため、安全装置を解除して男の頭を撃ち抜く。頭部を撃たれた男は堅い床に倒れ込み、物音を立ててしまう。

 

「おい、どうした?」

 

 偶然にも男が出て来た部屋には他の男が居た為、直ぐにその部屋へ入り、中にいた男を排除した。部屋の中は二段ベットが4つあり、それぞれが隅に配置されている。

 近くにベットの数だけの中国製突撃銃が置かれていることから、ここは日本の過激派の基地かもしれない。

 引き出しの上に置かれてあった手鏡を取り、それで他の部屋の人数を確認することにする。部屋を出ると、辺りを見渡し、虱潰しに隅から調べる事にした。

 まず近くの部屋のドアの隙間から鏡を覗かせて見ると、八人くらいが自分の銃を解体して清掃をしており、面倒臭そうにする声が聞こえてくる。

 

「面倒臭いぜ。なんで銃の清掃なんか」

 

「全部雇い主からの指示だぜ。いつでも撃てるようにしろとよ」

 

「はぁ、本当に面倒臭いよな」

 

 清掃を面倒臭がる男達であるが、清掃を終える前に、ドアを開けて入ってくる女に殺されようとは思いもしないだろう。

 

「おっ!誰だお前は!?」

 

 ドアを開けて思いっ切り開けて入ってきたマリはドイツ製の短機関銃を単発にし、驚きの声を上げる一人一人の頭を素早く撃ち抜き、この部屋にいた男達は全員あの世行きとなった。

 部屋を出たマリは次の部屋の人数を確認した後、突入して他の者達には気付かれぬよう全員始末する。

 これを繰り返すことによって、左の部屋群は全て片付いた。物音に気付いた男が出て来るが、口を開く前に射殺される。

 そろそろ弾切れだと思った彼女は弾倉を引き抜き、中身を確認する。

 

「これなら大丈夫かな?」

 

 弾倉の重さで確認を終えると、右の部屋に取り掛かった。まず始めに制圧した部屋を除き、一つ一つの部屋を、ドアの隙間から手鏡で確認し、誰も居ないか確認する。

 隣の部屋には誰も居なかった為、次の部屋を覗くと、大人数で集まってギャンブルで盛り上がっているのが見えた。

 今余っている弾数では排除できない程居るため、後回しにして次の部屋をダークビジョンで調べる。その部屋には壁に一人の女性が五人の男に追い詰められ、襲われそうになっていた。

 幸いにも銃弾は全て倒せるほど残っており、ドアを開け、直ぐに突入した。

 

「おぉ、誰だ?」

 

 リーダー格の男が振り返った瞬間、額に穴が開き、床に倒れ込んだ。

 気付いた残りの男達も微かに聞こえた銃声に気付いて、ホルスターに入ってある拳銃を抜こうとするが、抜く前に全員が頭部を撃たれ、地面にドミノ倒しの如く倒れていく。

 

「あ、あぁ・・・」

 

 先程自分を襲おうとしていた男達が一瞬にして地面に倒れ込み、血を流し始めた為、声を上げようとしたが、素早く近付いてきたマリに口を塞がれた。

 

「静かに・・・」

 

 空いている手で口を塞ぎながら、自分の唇の前に人差し指を立て、静かにするようジェスチャーする。

 応じた女性は頷き、マリがここで待つよう手で指示した事も受け入れる。空になった弾倉を外し、満タンの弾倉を差し込んで初弾を薬室に送り込むと、ギャンブルで盛り上がる部屋に向かった。

 ドアを蹴破って、中にいる男達を次々と射殺していく。

 

「ぎゃ!?」

 

「だ、誰だ!?」

 

 声を上げる者も居たが、直ぐに射殺されて黙らされた。物の数秒で部屋にいた男達はたった一人を残して全滅し、床は血で赤く染まる。

 生き残った男は警報装置に手を伸ばしたが、傷口を踏まれて声を上げる。

 

「グアァァ!」

 

「ねぇ、ここ何なの?」

 

 傷口を踏みながら問うマリに、男は痛みに耐えながら答える。

 

「ここは、豊島区の洋館を襲撃する為の三つある拠点の一つだ!」

 

 傷口を踏む足の強さを強め、続いて問う。

 

「洋館って何処の洋館?」

 

「人気の感じられない洋館だ!それ以上は分からん!頼むから踏まないでくれ!」

 

「そう。じゃあ、楽になれ」

 

 片手で短機関銃の引き金を引き、男にトドメを刺したマリは先程の部屋に戻り、女性に自分が降りてきた梯子から出るよう指示する。

 

「ほら、出てって良いよ」

 

「は、はい!」

 

 直ぐに女性はこの地下から出て行った。出て行ったのを確認したマリは、一番奥のドアに向かい、隙間から手鏡で確認する。

 

「まだ部屋が続いてるみたい」

 

 通路を歩く男を見たマリはそう呟いて、ドアを開けて奥に入った。

 男はマリの存在には気付いておらず、後ろから来られてナイフを奪われた挙げ句、そのコンバットナイフで喉を掻き斬られ、喉にたまった自分の血に溺れながら死んだ。

 彼女は死んだ男から鞘を抜き取り、コンバットナイフを自分の物にする。一番奥の部屋から話し声が聞こえてきたので、直ぐにそこへ向かい、中で何をしているのかを、手鏡で調べる。

 

「こいつ等・・・!」

 

 部屋には大きめの机が配置し、その上には地図が広げられており、定規やペンが置かれている。

 人数は七名ほどであり、全員が自分から何もかも奪った組織のマークを付けた物だと分かった。その証拠に壁の上中央には、ムガル帝国の国旗が張られている。

 

『この世界における奴らの拠点は近くの区にあるこの洋館と孤児院だけだ。孤児院は別の隊が担当するとして、我々は洋館に集中するぞ。上層部が用意してくれた金で二個中隊分の人員と武器は確保できた。幸いにもあの洋館の規模は、二百人足らずで制圧できるほどだ。駐屯している敵戦力も歩兵二個小隊だけ。十分だろう』

 

『しかし、金で釣った奴らは信用できるのか?この国の人間だろう。我々を警察に売るのでは?』

 

『そう心配するな。この国の連中は殆ど売国奴ばかりだ。金さえ払えばなんでもする。例え子供でもな。金に意地汚い資本主義者ばかりだ』

 

『だったな、心配した俺が馬鹿だったよ。この国の奴らは愛国心も毛党もない売国奴と奴隷の集まりだ。自分達で何もしようとしない』

 

『平和、平和なんぞ叫ぶアホの集まりだからな。とても戦史で見たアジア最強の戦闘民族とは思えん』

 

 話している話題では日本を貶すような事で盛り上がっているようだが、最初の襲撃のことを話している事を察すると、作戦会議を行う会議室のようだ。空の弾倉を取り出し、突入の準備をする。

 

『よし、決行は今夜10時だ。それまでに部下と連中に作戦の内容を知らせて・・・なんだ?』

 

 中にいる士官が言い終える前に、弾倉が滑る音が鳴って、弾倉に注意を取られる。その隙を逃さず、マリは会議室に突入し、部屋にいた兵士達の排除を始めた。

 

「何者だ!?」

 

 持っている自動小銃を向ける組織の兵士であるが、直ぐにマリに排除され、壁にもたれ掛かる形で死亡する。先程机に集まっていた士官と下士官達は全員射殺された。

 全員の排除を確認したマリは、直ぐに他の拠点など位置が記された重要な資料を近くにあったトランクに出来るだけ詰め込み、会議室を出ようとする。

 

「この死体は!あっ、誰だお前、アッ!?」

 

 だが、先程死体が見られた為、無事には脱出できず、近場にいた男を脇から抜いたスチェキン等で射殺する。

 無論、ロシア製の大型自動拳銃には消音器など付いてはおらず、響いた銃声が他の銃を持つ男達を集めてしまった。

 

『侵入者だ!』

 

 まだ調べてもいない部屋から続々と突撃銃や自動小銃、散弾銃を持った男達が出て来るが、次々とマリに射殺されていく。

 幸い、通信機を扱える人間は全て会議室に居たために、ここの拠点が落ちた事を知らされずに済んだ。襲ってきた敵を全滅させたマリは心臓を取り出し、何処にあるのか探し始める。

 

「あった・・・!」

 

 そんなに時間も掛からず、机の上に大事に置かれてあった水晶玉を遂に見付けることに成功した。

 早速水晶玉を割る。藤色の煙がマリを包み込み、暫くして身体が光ると、力が沸いたような気がした。

 

「この能力は・・・殺意の波動・・・?」

 

 試しに取り返した能力を発動してみると、風も通らない地下で強風が巻き起こった。

 自信が付いた彼女は、死体だらけのこの地下拠点から出て、麻奈美と女性が待つ建築物に戻った。

 地下から頭を出したが、手を伸ばしてくる麻奈美が不安がっており、とても良くない状態であることは確かだ。

 

「お帰りなさい、ヴァセレートさん。あの戻って悪いのですが・・・」

 

「敵の増援かしら・・・?」

 

 ケースを麻奈美に渡し、二階に上がって外を確かめてみると、釘バットやお手軽な凶器を持った多数の柄の悪い男達が待ち受けていた。

 

「どうします、警察呼びますか?」

 

「その必要はないわ」

 

「えっ?ちょっと!」

 

 麻奈美からの問いに答えたマリは二階から飛び降り、男達の前に姿を現した。

 

「おぅ。お前が例の」

 

 リーダー格の男が言い終える前に、マリは殺意の波動を発動した。忽ち全員が腰を抜かし、道路に倒れ込んで震え始めるか気絶する。

 この殺意の波動は強い殺気を飛ばし、相手から戦意を奪うか気絶させることの出来る能力だ。失禁するリーダーの胸倉を掴み上げ、誰に雇われたのかを問う。

 

「あんた、誰の命令で来た?」

 

「分からねぇ・・・!突然あいつからやって来て、金を渡して仲間を集めてここで待ってろと・・・!」

 

「そう。じゃあ、お礼として死になさい」

 

「はぇ?」

 

 マリは空いている手でスチェキンを取り、リーダーを射殺した後、連発に切り替えて、倒れ込んでいる男達を撃ち始めた。

 弾倉の中身が切れたら素早く入れ替え、立ち上がれない男達を次々と射殺していく。

 響き渡る銃声を聞きながら、麻奈美はそれをただ見ていた。

 全員の射殺を終えたマリは建物に戻り、起きて震える女性を人質に取ろうとする先程の男を射殺する。

 全ての脅威を排除した後、マリは震える女性に近付き、額にキスをして立ち去った。この後、女性は直ぐに裏通りから離れて、帰宅したという。

 

「麻奈美、帰るわよ!」

 

 二階から見ていた麻奈美はマリの声で我に返り、手に持ったAKS74Uをトランクに仕舞い、同じくMP5SD6をケースに仕舞った彼女の後へと続いた。

 ちなみに麻奈美は右手に資料を詰め込んだケースを持っている。

 

「ほら、持ってあげるから連絡」

 

 資料の入ったケースをマリに取られた麻奈美は、彼女の指示通り、連絡を入れた。

 

「こちらティンカー・ベル7、敵拠点を保護対象制圧!同時に敵異世界軍の拠点の位置を記した資料を入手せり!」

 

『保護対象と共に敵拠点を制圧ぅ!?何を言っているのか分かりません!ティンカー・ベル7、事の詳細を報告してください!』

 

「ですから、敵の拠点をヴァセレート氏と共に制圧したんで、部隊を・・・」

 

 スマートフォンを耳に当てて、相手と格闘する麻奈美を見ながら、マリは銃を返しにガイドルフの元へ戻った。




書いていと、能力を忘れちゃった。
それとマリが能力の大変を失っているのに強すぎる・・・一般人相手だからかな・・・?
こんな駄目作者ですいません。

ちなみに、中断メッセージは今回の編ではお休みです。


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客の居ない演劇

マリお姉さんによる殺戮ショー、始まるよ~


銃をガイドルフに返品したマリと麻奈美はこの場から立ち去ろうとするが、止められた。

 

「その様子だと、能力を取り戻したようだな・・・」

 

その言葉にマリの足が止まった。

取り戻した能力である”殺意の波動”を発動し、近くにいた麻奈美を震え上がらせ、周囲の人間を巻き込んでまでガイドルフを威圧するが、当の本人は全く聞いていないようだった。

 

「おいおい、俺にはそのおっかない殺意は効かないぜ?それに闇雲にその能力を使わないことだ。そこの嬢ちゃんが尻餅付いて、震えてるじゃねぇか」

 

ガイドルフは右腕を愛車に乗せながら左手で尻餅を付いて震える麻奈美を指差し、マリに告げた。

彼が言うとおり、周辺を歩く通行人達が気絶したり震えていたりしている。

マリは舌打ちした後、睨み付けながら尻餅を付いている麻奈美を優しく起こし、近くにある孤児院に扮したワルキューレの兵員補充センターに向かう。

二人の女の背中をただ見ていたガイドルフは、煙草を蒸かせながら見ているだけであった。

孤児院へと向かう最中、通り過ぎた女性が麻奈美に気付き、声を掛ける。

 

「あれ?麻奈美じゃん。どうしてこんな所でほっつき歩いてるの?」

 

気軽に声を掛ける女性の容姿は麻奈美より10㎝程高く、整った顔立ちと茶色混じった黒髪を持ち、マリよりはやや劣る美貌を持っている。

背中に麻奈美と同じ150㎝台の女性と同じくミニスカートを履き、鞄を左肩に提げた少女が居た。

美人の類に入る女性に、麻奈美は敬語で答える。

 

「あっ、先輩。今、この人を連れて戻るところです」

 

自分の先輩からの問いに対し、麻奈美はマリに手を翳しながら伝えた。

 

「うっひゃぁ~凄い美人じゃないの。乳も大きいし、髪も腰まであって金髪だし。あんたのセフレ?」

 

「ち、違いますよ!この人は、上級情報士官から指令で、保護しろと言われた人物です!そ、そんな関係じゃありません!」

 

先輩からの問いに麻奈美は顔を真っ赤にして反論するが、等のマリは全く気にしてはいなかった。

次は麻奈美の出番である為か、先輩の連れている少女について問う。

 

「その娘は何処から?」

 

「あぁ、この娘?この子はね、ちょっとナンパしちゃったかな?」

 

先輩は少女の肩に手を掛けながら麻奈美に説明する。

少女は少し照れくさかったのか、顔を赤らめ、下を俯いてしまう。

唐突にマリは名も名乗らずに、少女を何処に連れて行くか先輩に声を掛ける。

 

「ねぇ、その娘どうするの?」

 

「どうするって、ワルキューレに入れるのよ。この娘も入りたいって言ってるから」

 

「そう。その子の親に許可は?」

 

「この子に親は・・・バイトとか売りして生計立てちゃってるみたい。知らないおっさんと一緒にやるよりはマシじゃないの?と言うか親自体全く構ってもないし。構いもしないから居なくなったって騒いだりしないかも」

 

その答えにマリは何も言えなかった。

脳内では「親から構ってもらえず、捨てられたのも当然なら入っても言わないだろう」と言う答えが彼女の頭を支配した。

黙っているマリに、「他に何か聞くことがあるか?」と聞いてきたが、等の彼女は少女を見たまま黙っていた為、自分の目的地へ向かおうとする。

 

「じゃあ、私はこの子あっちの孤児院に連れて行くから。あんた等の行く場所も孤児院そうだから・・・一緒に行く?」

 

「はい、行きます。ヴァセレートさんもそれで宜しいのですね?」

 

先輩に一緒に行くのかどうかの問いに、直ぐ麻奈美は答え、マリに聞くと、彼女は無言で頷いた。

数十分ほど歩いて彼女等は孤児院へと辿り着く。

 

「こ、これが・・・孤児院・・・!?」

 

マリが驚きの声を上げ、少女は驚きの余り声が出なかった。

この世界で最初に足を踏み入れた支部に扮した屋敷と同じく、孤児院は怪しまれるような物はない。

変わっているとすれば、少し敷地の広い和式の屋敷であることだけであろう。

先輩が出入り口の戸を開け、屋敷の中庭へと入る。

周囲に広がる池や築山、庭石、草木、灯籠に東屋等の和に満ちた日本庭園に、マリと少女は驚くが、麻奈美と先輩は慣れているようだった。

石畳の上を歩いていると、屋敷が気になったマリは麻奈美に問う。

 

「これ・・・本当に孤児院?」

 

「私も最初見たときはビックリしましたけど、どうも孤児院に扮した和風のお屋敷みたいです」

 

その答えに納得した後、玄関に入り、靴を脱いで本館へと入った。

 

「あっ、靴脱いでね。ここ、支部本館じゃないから」

 

先輩は土足で上がろうとするマリに、靴を脱ぐように伝える。

先に上がった少女と麻奈美も靴を脱いで上がっている為、マリは赤面して靴を脱いで上がった。

この屋敷の中はどこもかしこも和風で占められており、廊下は木目が見える床、部屋の戸を開けて中を覗いてみれば、床は畳で敷き詰められた和室だ。

 

「完全に和式の屋敷だわ・・・」

 

先輩に案内された客間に入り、天井に吊されている和式全般照明を見ながら呟く。

 

「失礼します」

 

右手の戸を開けて、茶を入れた湯飲みを盆に載せた和服を着た黒髪の女性が入ってくる。

少女は緊張し、長方形の机の前で正座の姿勢を取る。

人数分の湯飲みを置いた後、女性は和室から退室した。

湯飲みの茶を少し時間おいて飲んでいると、紫の和服を着た長い黒髪の女性が資料を持って客室へと入ってきた。

黒い瞳を持つ女性の顔は整っており、大和撫子と表すべき程の容姿である。

彼女等の前に座り、まず始めに口を開いた。

 

「どうも。私はこの孤児院に扮した兵員補充所の院長桜野華月です。貴女達は自分の存在意義を問う為に私達ワルキューレに入ろうと思ったの?」

 

一礼してから名乗りを上げ、院長である華月はマリと少女に問う。

元々入っているマリは、華月の問いを直ぐに否定する。

 

「私は元から入ってるから」

 

「え、そうなの?やだ、ごめんなさい。入りたいのはそちらの娘ね?ヴァセレートさんは、申し訳ないけど客間から席を外してもらえるかしら?支部から迎えが来るそうよ。部屋を用意するわ」

 

否定したマリの言葉に、華月は和服を着た部下を呼び込み、部屋を用意するよう指示する。

 

「このお嬢さんを外来客用の部屋まで送り届けてもらえないかしら?」

 

「はい。では、こちらへどうぞ」

 

先の女性とは違うが、同じ着物を着た女性に案内され、マリは客間から出た。

 

「では何かご用がありましたら、そちらのボタンでお呼び下さい」

 

畳式の部屋に案内されたマリは、畳の上に押し入れから出した布団を敷き、寝転がって仮眠を取ることにした。

この部屋を出たのは昼食だけである。

それから数分後、完全に夕日が空に上がった頃に再び仮眠を取っていると、外が見える窓を叩く音が鳴った。

確認するために窓を開けてみると、にやけ付いた表情を見せるガイドルフが居た。

 

「よう!」

 

「ッ!?」

 

いつの間にか忍び込んでいたガイドルフにマリは驚きを隠せなかった。

どうやってここに忍び込んだのかを彼に問おうとしたが、その考えは先読みされる。

 

「なんでここに”忍び込んだ”って顔をしてるだろう。まぁ、そいつは置いといて、今のワルキューレはこの世界での戦争は望んじゃ居ない。支部を攻撃しようとした中隊規模を全滅させたのが奴らの全力と見込んでる。さっきのあんたがしでかした組織の連中を始末したことが日本政府にバレちまったらしくな、今ワルキューレが全力であんたの尻を拭いている所だ」

 

周囲から誰か来てないか見ながら言うガイドルフの言葉に、マリは目を泳がせた。

 

「それと、今回の件であんたは拘禁される。あの茶髪の愛らしい嬢ちゃんが必死でなんとかしようとしているが、余り良くないらしい。このままじゃあんたは組織ことムガルの連中に、この世界のワルキューレ共々殺されるだろう。このままじっとしておく・・・訳にはいかんだろ?」

 

にやついた表情が変わり、目付きが真剣な目差しに変わった。

 

「これを聞けば一人で戦うしかない、だろ?一人で3600人、およそ二個連隊分の人数を相手せなにゃならん。その為には装備、つまり確実に人数分を殺せる銃弾と武器も必要だ。戦車を相手にする訳じゃないから対戦車火器等は使用できない。機関銃とミニガンは用意してやろう。ナイフ、拳銃、狙撃銃は用意してやる。ただし、ライフルは自分で調達しろ。まぁ、自衛隊の駐屯地から盗むわけにも行かないから、ライフルと珍しい居合いに特化した日本刀がある。詳しい場所はこれに書いてる」

 

武器とその所在が記載された資料を渡されたマリは頷き、それを自分のポケットに仕舞った。

 

「消音器付きの拳銃は外に出てから渡す。多分、迎えは憲兵隊だ。何か適当なこと言って、外に出ろ。そこからその資料に書かれたとおりに進むんだ。俺はもうここに居られないから先に出ていく、近くの電柱で待ってるからな。じゃあ、電柱で会おう」

 

窓を閉めたガイドルフは誰にも見付からないように、この兵員補充所を静かに出た。

ガイドルフが出て行ったのを確認したマリは屋敷を出て行こうとする。

出て行こうとすると、動きやすいような服装で、茶髪のショートカットの女性職員に止められる。

 

「何処へ行くので?」

 

「ちょっと運動」

 

「もうすぐ暗くなるのに?」

 

疑問に思うショートカットの女性職員に、マリは妖艶な笑みを浮かべ、態と胸元を見せるような姿勢で答える。

 

「ちょっと、出て行くだけよ・・・」

 

この表情に赤面した職員はマリに隙を見せてしまい、彼女を外へと出してしまった。

止めようとする職員であるが、既に補充所の外へと出られており、諦めて元の配置へ戻る。

外へ出た彼女は近くの電柱で待っていたガイドルフから、先のその男の車にあったFNハイパワーと幾つかの弾倉が入った袋を受け取り、ポケットから取り出した資料を見ながら目的地へ向かおうとするが、声を掛けられる。

 

「幸運を」

 

一言を告げたガイドルフはその場から去った。

取り敢えずマリは感謝の意の右手でジェスチャーをして、目的地へと急いだ。

 

「ここね・・・」

 

最初の目的地である交差点の角のビルにある過激派のアジトへ着く頃には、既に夕日は落ちる時間帯であった。

過激派は警察に目を付けられており、標的とされる構成員はどれもヤクザや暴力団を破門された救いようのないクズばかりであり、中には薬物中毒者も属している。

ガイドルフからの情報に寄れば、この危険極まりない集団が密造された武器を闇市で購入したという恐るべき事が纏められた書類に記載されていた。

購入した武器も、細かく記録されている。

AK47突撃銃(恐らく密造銃)が六挺、収納銃座型を含む56式自動歩槍が十九挺、TT-33トカレフ自動拳銃が十二挺、MPマカロフ自動拳銃が七挺、レミントンM870ポンプアクション式散弾銃が五挺、二連装散弾銃が十挺、RGD-5破片手榴弾が五十個。

赤いペンでマークされた目的の品であるM4カービンがあった。

目的のライフルであるM4カービンを見付けたマリは、袋から消音器付きの黒い自動拳銃を取り出し、初弾を薬室に送り込み、入っていた弾倉を全てとナイフをポケットに入れると、パイプを上り、過激派の構成員に気付かれるようビルに潜入した。

 

「臭いし汚い・・・」

 

人間が入れるほどの排気管の中を這いずりながら移動している為、衣服は炭で汚れ、悪臭が漂ってくる。

独り言を呟きながら、排気口まで辿り着いた。

そこから銃を持って馬鹿騒ぎをする過激派の構成員達が見えた。

それに宅配されたピザを食べ、飲料水を飲みながらである。

 

「馬鹿みたいに騒いじゃって・・・!」

 

消音器付きの自動拳銃を取り出し、マリは余り人数の少ない場所へと、排気口を開けて降りた。

蓋が落ちたにも関わらず、全く気付かずただ酒を飲んでいる。

ここで銃を撃って射殺しても良いが、倒れる方向が前かもしれないので、ナイフを取り出し、口を塞いで喉をナイフで掻ききった。

首から血を吹き出す中、マリは人目に付かないような場所に死体を隠した後、近場にいる見える範囲の者達をダークビジョンでマークする。

 

「(過激派の総人数は三十四人。声からして二十七名が居る。向こうに居るのは十名・・・大体二本のマガジンで片付く)」

 

口に出さずに今この階にいる人数を確認した彼女は、直ぐに隠れている場所から飛び出し、目の前にいる一人目の頭に照準を合わせ、引き金を引く。

一人目の頭が撃ち抜かれた後、マリにマークされた男達は彼女の存在に気付き、机の上に置いてある銃を取ろうとするが、銃を持つ前に次々と射殺される。

瞬く間にマークされた構成員達は頭を撃たれ、全員が床に倒れ込む。

 

「あぁん、なんだぁ?」

 

ビール缶を持った男が物音に気付いて近付いてきたが、額に穴が開いて、マリに人生を奪われる。

続いてやって来た二人も、物の数秒で魂がこの世から消え去った。

FNハイパワーの弾数は十三発なので、今の発砲で弾切れになる。

新しい弾倉に取り替え、闇市(ブラックマーケット)で購入した銃を持ち、騒いでいる構成員達を全員射殺するべく、構成員達が居る部屋に突入する。

 

「誰だおまぁ・・・」

 

馬鹿みたいにソファーに座りながらドアを開けた彼女に問う男を、マリは何の躊躇いもなく撃ち殺した。

続いて目に見える者達に銃口を向け、次々と命中させ、命を奪っていく。

まだ無事な者達は銃を取り、マリを撃ち殺そうとするが、撃つ間もなく射殺される。

出て来る度に床に倒れていく構成員達であるが、物陰に隠れて待ち伏せしようと出てこない者もいるが、まるで見えてるかのようにマリが立ち止まり、銃口を隠れている男の場所に向けた。

 

「蜂の巣になりやがれぇ!」

 

収納ストックのAK47を下手な構え方をしながら飛び出し、口に出したとおり彼女を蜂の巣にしようとしたが、額に穴が開いて壁に後頭部をぶつけ、動かなくなる。

十三人程を始末した辺りから、マリはマガジンキャッチのボタンを押し、空の弾倉を排出した。

 

「死ねェェェェェ!!」

 

最後に残った男が、叫びながら56式自動歩槍の引き金を引こうとするが、マリの方が早く、撃つ間もなく男は開いた眉間から血を吹き出しながら床に大の字になって倒れた。

床が血で紅く染まっていく中、僅かに生きていた男がトカレフを握り、唯一立っている女に銃口を向けるが、マリは見るまでもなく、消音器を男の頭に向けて引き金を引くだけだった。

 

「終わり・・・」

 

この階に居る全員を始末した彼女は、硝煙が出る消音器の銃口を吹き払い、ズボンに無理矢理突っ込んだ。

近くに置いてあるティッシュで両手を拭いた後、まだ無傷なピザに手を伸ばし、それを食する。

何枚か食べたら手を付けてない紙コップを手に取り、飲料水を入れてそれを飲む。

軽い夕食を済ませたら丁寧に置かれてあった目的の品であるM4カービンを取り、照準機の後ろにあるレバーを引いて初弾を薬室に送り、目の前の標的に構えた。

 

「重さからして間違いなく本物ね」

 

銃口を上に向けて本物かどうか確かめた後、そう呟いて六本ある弾倉が入ったギターケースを取り、死体と血塗れの一室を後にしようとした。

アメリカ陸軍ならび、各国家の特殊部隊に採用されているM4カービンが、何故危険極まりない過激派の手に渡ったのかは謎であるが、今のマリには丁度良かったことだ。

外で報道のヘリコプターが何台もこの場所の上空を通り過ぎる中、まるで全滅したのを待ってたかのように残りの七人が帰ってくる。

 

「なんだよこれ・・・!」

 

まず始めに入ってきた男が第一声を放った。

直ぐにマリは安全装置を外し、試し撃ちと表して第一声を放った男の胸を撃つ。

 

「誰だぁ・・・!」

 

廊下にいる男達の一人が、血を吹き出しながら倒れる仲間とマリを見て声を上げた。

その声は今の彼女にはまるでスロー再生しているかのように聞こえる。

瞬く間に、一人、二人、三人、四人、五人が10秒で撃たれた場所から血を吹き出して倒れていく。

最後の一人がマカロフを取り出して撃とうとするが、安全装置が掛かったままなので、撃てずに喉を撃たれて廊下に倒れ込み、血が噴き出す首を押さえながらのたうち回る。

 

「お終い」

 

帰ってきた男達を25秒で全滅させたマリはギターケースに米国製騎兵銃(カービン)を仕舞い、ビルの外に出た。

 

「次はここね」

 

ギターケースを担ぎながら、汚れたズボンのポケットから資料を取り出し、次の目標である居合いに特化した日本刀がある極右翼団体のアジトへ向かう。

夜道を歩く通行人達は、美人の類の一歩先を行くマリが汚れた衣服を着ていることに驚くが、何か危険なことがありそうだから目を合わせないで居た。

向かう最中、不良中学生達がマリに絡んできたが、彼女が殺意の波動を放って追い払った為、再起不能となる。

そんなこともあって、ようやく極右翼のアジトに辿り着いた。

 

「めんどくさいから正面から行こう」

 

無理矢理突っ込んだFNハイパワーを取り出し、アジトの正面出口をノックした。

 

「誰だ?」

 

ドアをノックしたマリに、中にいる男がドアを開けた。

 

「ハロー、マリだよ~」

 

ドアを開けた男に軽い自己紹介をしながら銃口を額に向け、引き金を引いた。

額に穴が開いた男は当然の如く床に倒れ、動かなくなる。

 

「政府の特殊部隊か!?」

 

「生かして返すな!」

 

気付いた男達が、冷戦期に西側諸国で製造された突撃銃AR18を手に取り、ドアを閉めたマリに向けて銃を撃ってくる。

彼女は隠れることなく、目の前にいる男達に殺意の波動を放ち、怯ませる。

 

「なんだぁ!?」

 

「おわぁぁぁ!うわぁぁぁ!」

 

彼等の中に実戦経験のある者でも居るのか、直ぐに立ち上がって銃を撃とうとする者も居るが、銃を撃つもなく殺されていく。

自動拳銃を仕舞って、落ちているAR18を取り、自分に立ち向かってくる男達に狙いを付けて、次々と撃ち倒す。

 

「死ねぃ!」

 

後ろから日本刀で斬り掛かってくる男もいるが、腹に蹴りを入れられ、数発撃ち込まれた後、絶命する。

何人か撃ち殺していくと、壁に日の丸国旗が掛けられたリーダーらしき人物の部屋に辿り着いた。

目的の品は袋に入れられ、机の上に置かれていた。

 

「これが・・・!」

 

AR18を置いて袋から中身を取り出すと、鞘に引き金の着いた日本刀が出て来た。

それを手に取り、見回しながら声を出す。

 

『奴は私の部屋に入ったぞ!部屋に突入しろ!』

 

リーダーの声が聞こえてくると、日本刀やSIG P220や十四年式自動拳銃を持った男達が入り込んでくる。

ダークビジョンで正確な人数を数えてみると、数は全部で十四人以上居る。

先程殺した九名を足せば、全部で二十一人になる。

 

「このアマ、死ね!」

 

日本刀で斬り掛かってきた男に、マリは居合いの構えを見せ、鞘の引き金を引き、刀を飛び出させ、柄を手に取り、男の胴体を斬る。

 

「う、うわぁぁぁ・・・」

 

斬り掛かった男は上半身と下半身を切り離され、切れ目から勢いよく血が噴き出した。

刀身を鞘に仕舞ったマリを、男達は呆気に取られて動けなかったが、拳銃を持つ男が撃とうとする。

だが、マリは殺意の波動を発動し、部屋にいた七人の男達を床に倒れ込ませた。

 

『一体、何が起きて居るんだ!?』

 

外から怒鳴り声が聞こえてくるが、部屋にいた男達は全てマリに斬り殺された。

返り血で血塗れになったマリが、部屋から出て来る。

 

「何者だ?!貴様!!」

 

リーダーが十四年式拳銃を向け、残った四人もAR18を構えるが、マリは瞬間移動を使い、ライフルを構える男達を次々と斬り殺し、リーダーの腹を突き刺す。

腹から刀身を抜いたマリは、血を振り払い、近くの死体の衣服で血を拭き取り、鞘に戻す。

 

「貴様は・・・一体・・・?」

 

まだ息のあるリーダーが、マリに問う。

それに対しマリは睨み付けるように自動拳銃を取り出し、銃口を向けながら答えた。

 

「そうね・・・じゃあ、復讐者(レッヒャー)?」

 

顔を傾けながら血塗れの女が答えた後、圧し殺された銃声が鳴り、リーダーの息は止まった。




ただいま二話目を執筆中~

次回は・・・マリお姉さんがJKに援助(PAM!


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いけない遊び

一条「ところがどっこい・・・・・・・夢じゃありません・・・・・・・!現実です・・・・・・!これが現実・・・!現実です!!!」

この回・・・自分で書いてて相当マズイで・・・

後微エロ注意。


目標の品を全て手に入れたマリは、近くのホテルに泊まることにした。

所持金の方は襲撃したアジトから持てるだけ頂いたたんまりある軍資金である。

泊まったホテルの一室に、M4カービンと六個の弾倉が入ったギターケースと、少し血の染みが付いている袋に入れてある日本刀をもう一つあるベッドの上に置き、極右翼アジトで調達した服を、ホテルに泊まる前に服屋で購入した衣服に着替え、開いているベッドに寝転がった。

 

「ノルマ達成・・・」

 

寝転がりながら独り言を呟いた後、FNハイパワーとギターケース、居合い刀の入った袋を見て、手を伸ばす。

ご丁寧にもガイドルフが自動拳銃の入った袋に清掃道具までいれてあり、それを使って一番発砲しているFNハイパワーを解体し、清掃を始めた。

数十分ほどでFNハイパワーの清掃を終えたマリは元の袋に戻して、ギターケースを手に取り、M4カービンを取り出し、それを分解して清掃を始める。

七発分の汚れが付いていたが、専用のブラシで擦っている内に汚れは取れ、一時間も満たない内にM4カービンは新品同然となり、十五分で元の形に組み立てられた。

ギターケースに戻し、またベッドに寝転がり、天井を見上げていると、自分の股間に手を伸ばして不満を口にする。

 

「なんか性欲溜まった・・・」

 

頭を掻きながら起き上がると、マリは最低限の護身用の武器を持ち、部屋に鍵を掛けて出て行った。

途中の売店で煙草を一箱とライター一つ買って、ホテルの外へ出て、一本吸う。

煙を吐きながら、最初にこの世界に足を踏み入れたワルキューレの支部にてあること話し合う女性警備員達の事を思い出した。

 

『ねぇ、知ってた?この辺のJKとJCって、お金さえ出せばやらせてもらえるらしいよ』

 

『はぁ、国絡みで売春やってんの?この国チョーヤバイじゃんよ』

 

第一声にその事を口にしたのは、机に座ってスウェーデンの短機関銃、カールグスタフm/45のスリリングを肩に掛けた茶髪の美人の類に入る女性警備員だ。

机に左腕を乗せながらそれを知り、日本を危険な国と勘違いする同じ銃を持つ赤毛の女性警備員が口にする。

ちなみに全員がスウェーデンの短機関銃だ。

 

『いや、そんなにやばくないよ、日本は。まぁ、ロリコンは多いけど』

 

紫染みる黒髪を持つ警備員が、それらを否定した。

 

『あぁ、そう言えばあんたの出身って日本だよね。別の世界だけど』

 

『うん。あんまり詳しくないけど。そんなにはやばく無いよ』

 

『えぇ、でも。女子高生にお金・・・幾らか忘れたけど、やらせてくれたよ?』

 

『嘘・・・マジ・・・!?』

 

黒茶色の長髪で、他の者より胸が大きい警備員がそれを口にし、一瞬赤毛が凍り付いた。

巨乳警備員は、何故固まっているのか分からないようだ。

 

『色々と経験しちゃっててさ。性に活発的だよね・・・気持ちよかったし・・・なんか、不味い?』

 

『いや・・・それ、不味いよ・・・かなり不味い・・・』

 

そこでノエルに手を取られ、彼女等の会話を聴きそびれる。

短くなった煙草を喫煙所で捨て、彼女は目を開き、成人男性と歩く13~18の少女を捜し始めた。

まず目に入った中年男性と制服を着た女子中学生の後を追う。

さながらマリが生活安全局の少年課に属する女性刑事のようだが、今の彼女は違う。

人目のないところまで中年男性が近付くと、マリは襟を掴んで男を路地裏に連れ込んだ。

近くにいた女子中学生は何が何だか分からないが、路地裏に放り込まれた男はマリに向けて叫ぶ。

 

「な、なんだ!お前は!?」

 

直ぐに携帯を取り出して警察に通報しようとするが、マリがそれよりも早く近付き、携帯を粉砕し、男の頭を掴んで壁に叩き付ける。

一撃で男は気絶し、額から血を流しながら堅いコンクリートの上に倒れた。

一部始終を見ていた女子中学生は、気絶した男から財布などを抜き取るマリに恐怖し、この場から逃げようとするが、全く動けなかった。

 

「ねぇ・・・」

 

「は、はい・・・」

 

「このおっさんの有り金全部渡すからさ、やらせてよ・・・」

 

何か哀れむような目線で自分と性行為をするよう問うマリに、女子中学生は恐怖に満ちた表情を見せながら逃げた。

 

「なによ・・・金さえ払えばやらせてもらえるんでしょ・・・」

 

逃げていく女子中学生を見ながら、マリは男の財布を叩き付けて苛々し始める。

仕方なく別の方を探すことにしたマリであるが、偶然にも、彼女の怒りを発散できるような者達が声を掛けてきた。

 

「おっ、金髪の外人な姉ちゃんじゃん。お~い!お姉さぁ~ん!」

 

彼女に手を振りながら近付いてくる男に、マリは腹に強烈な膝蹴りを食らわせた。

蹴られた男は嗚咽し、仕舞いには嘔吐し始めた。

仲間を倒された為、バイクに跨っていた三人の男達が向かってくる。

 

「このアマぁ~!」

 

一人金属バットを持った男が居たが、華麗にかわされ、全員が者の数秒で片付けられた。

暫く辺りを見回して探したが、中々見付からず、遂に我慢が出来なくなったのか、ダークビジョンを使って探し始めた。

主に背丈の沿わないグループを捜す。

 

「(男の方が169㎝、女の方が155㎝・・・身長が合わない)」

 

直ぐにその場所へと向かい、先の女子中学生と同じく後をつける。

男はなんと制服を着た立派な警官であり、連れている女性は女子高生だった。

端から見れば、女子高生を補導する警官であるが、マリからすれば、パトカーに連れ込んで性行為をする警官に見えたのだ。

 

「制裁する理由は十分あるわね」

 

直ぐに警官と女子高生の元へ急ぎ、警官の肩を掴んだ。

 

「なにか?」

 

振り返った警官にマリは路地裏を指差し、そこへ来るよう指示した。

警官は無視しようとするが、マリが女子高生の手を引いて路地裏に向かった為、やもえずついてくる。

 

「それで、なにしようって・・・!?」

 

警官が言い終える前に、マリは胸倉を掴み、路地の奥の方へ投げた。

投げ出された警官は堅いコンクリートの上に倒れて顎を打つ。

 

「何を・・・!?うぅ!?」

 

直ぐに立ち上がろうとする警官であったが、マリが馬乗りになり、振り放そうとするが、強烈な拳を食らって動けなくなり、さらに何度も顔を殴られ気絶する。

その光景を見ていた女子高生はただ口を押さえて震えているだけであり、気絶した警官から警察手帳と財布を抜き取ったマリは、警官の左手に手錠を掛け、近くのはめられそうな配管に付けた。

鍵は遠くの方へ投げ込み、警察手帳を破って、財布から有り金全てを抜いた。

 

「ねぇ、私とセックス・・・あれ?」

 

先の女子中学生のように、金を使って性行為を迫ろうとしたが、等の女子高生の姿は無かった。

憂さ晴らしに白紙のページに「私は援助交際してました。警官失格です」と書いて、警官の背中に張った。

その後、幾つかの援助交際をする年配の男、サラリーマン、上流階級、何処かの野党や他の党員、右翼系、左翼系、その他70代までの男達を彼女は襲撃したが、少女達を怖がらせ、逃げられるばかりだった。

遂に女子大生を連れた企業幹部や社長などを襲撃し始めたが、結果的には女子大生にも逃げられるばかりであった。

 

「お金が無くても良いから・・・私とセックス・・・」

 

「ひ、ヒィィィィ!!」

 

議員を締め上げている最中に、性行為を議員の愛人の女子大生に迫るが、女子大生は悲鳴を上げて逃げ出してしまった。

 

「は、離してくれ・・・金なら・・・幾らでも出す・・・」

 

壁に叩き付けられている白髪の議員がマリに解放するようこうが、等の彼女は泣きじゃくりながら議員を殴り始める。

 

「どうして!どうして!どうして!こんな!妻もいる老いた男と!出来て!私とは・・・!出来ないのよ・・・!」

 

怒りに任せて何度も殴り付けると、顔面崩壊を起こし、殴った右手は既に血塗れになっていた。

歯がずたずたに折れて気絶している年配の議員を離し、ホテルに帰って寝ようとした。

その時、丁度目の前にガタイの良い179㎝の男と制服を着た身長153㎝の女子高生が一緒に歩いているのがたまたま目に入った。

 

「これが駄目なら・・・諦めよ・・・」

 

涙を吹き払い、ガタイのいい男と少女の後についていくことにしたマリ。

男はマリに全く気付かず、そのまま女子高生と共に泊まる場所へと向かう。

路地裏まで二人が通りかかると、一気に距離を詰めて女子高生の手を取り、路地裏へと連れ去った。

男は後を追うべく、路地裏まで入ってくる。

人気に着かない距離まで着いた所でマリは立ち止まり、男を出迎えようとする。

 

「おい、俺を自衛官だと知っての事か?」

 

自衛官である男は上着を脱ぎ、戦闘態勢を取った。

少女は流石に怖がるが、マリに頭を撫でられ、少し安心感を覚える。

 

「女だからとはいえ、容赦しないぜ?」

 

意気込みながら、殴り掛かってくる自衛官であるが、腹に強烈な蹴りを食らって吹き飛ばされそうになる。

だが、それを耐えて再び攻撃に移ろうとする。

 

「舐めるなぁ!」

 

蹴りをお見舞いするが、呆気なく回避された挙げ句、蹴りで足払いされ、バランスを崩す。

 

「しまっ・・・!?」

 

言い終える前に、頭部に強力な蹴りを受け、壁にぶつかって倒れた後、脳震盪を起こして気絶した。

今までやって来た追いはぎと同じ行動に移り、手帳に白紙のページを見付けて「私は自衛官失格です。援助交際をしてました。国民の恥です」と書き込み、それを気絶した自衛官の背中に張る。

一連の作業を終えたマリは、少女に聞く。

 

「逃げないの?」

 

「・・・」

 

答えを求めるが、少女は黙ったままだ。

財布の中身を抜き取って捨て、つまりに詰まった財布をポケットに仕舞った後、マリは少女に夕食はまだなのかを問う。

少女はその問いに答えた。

 

「はい・・・」

 

「じゃあ、行こ」

 

手を伸ばしたマリの長い手を、少女は取り、路地裏から出た。

自分が泊まっているホテルに少女を連れ込んだマリは、受付で追加の申請を行った後、ホテルのレストランに向かい、空いている席に座った。

メニュー表を手に取り、どれを食べるか選び始める。

 

「幾らでもあるから、遠慮しないで高いのも食べて良いわよ?」

 

「は、はい・・・じゃあ・・・」

 

少女は緊張しながらメニュー表を見ながら答える。

数時間後、食事を終えた二人は部屋に戻った。

マリは部屋に戻るなり、護身用の武器を少女に見えないように仕舞った。

一連の作業を終えると、マリはバスルームに向かおうとする。

 

「じゃあ、適当な所に座って待ってて。私はシャワー浴びてくる・・・」

 

突然少女に抱き締められたので、マリは少し驚き、頭を撫でる。

 

「一緒に入ろうか・・・?」

 

「うん・・・入る」

 

少女と一緒に入ることになったマリは共に浴室に向かい、衣服を脱いでシャワーを浴び始めた。

シャワーを浴びるマリの妖艶な裸体を見ながら、少女は自分の身体を見て赤面した。

彼女のやや大きすぎる胸と尻が羨ましくて堪らないのであろう。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何も・・・」

 

マリに気付かれた為、引き下がる少女であるが、彼女にシャワーを掛けられ、全身が濡れる。

 

「ほら、あんたも洗わなきゃ」

 

「え、ちょ、やめ・・・!」

 

泡立つスポンジを持つマリに洗われる少女は嫌がるが、その内大人しくなり、どこもかしこも徹底的に洗われた。

彼女も身体を徹底的に洗った後、少女のむだ毛を全て、手慣れた手付きで剃り、全ての泡を落として髪を綺麗に洗う。

それが終われば浴室から出て、バスタオルで水滴を全て吹き払ってから少女にバスローブを着せ、隅々まで綺麗さっぱりになった。

自分の身体も拭き終えた後、何も身に着けず、机に置いてある飲料水を少し口に含むと、裸のままベッドへ向かう。

 

「あの・・・これ着なくて良いんですか?」

 

「え、私は全然平気だけど?」

 

全裸のマリに少女は問うが、彼女は平気と答えてベッドに腰掛ける。

足を組み、妖艶な笑みを浮かべ、少女を誘う仕草を取る。

 

「私・・・溜まってるからさ・・・セックスする・・・?」

 

仕草を取りながら、少女に問うマリであるが、少女は下を俯いたまま立っているだけだ。

何も答えない少女に、マリは諦めてベッドの上に寝ころんだ。

 

「まぁ、良いわ。無理言っちゃってゴメンね。隣のベッドの上に乗ってるのは片付けるから、勝手に寝ちゃって」

 

そう目の前で立ったままの少女に告げ、シーツを被って枕に自分の頭を置いた。

暫く横を向いていると、ただ立っていた少女が飲料水を一口飲んだ後、マリの上に被さっているシーツを引っぺがし、上に馬乗りになる。

ジッとこちらを見つめる少女に対し、笑みを浮かべてバスローブを器用に脱がした。

少女のまだ成長途中の裸体が露わになるが、マリは再び妖艶な笑みを浮かべ、腰を両手で掴んだ。

 

「やっぱり・・・したいの・・・?」

 

郁奈(カナ)って呼んで・・・」

 

自分の名前を言った郁奈はマリの大きい胸に飛び込み、まるで幼い子供のように抱き付き始めた。

 

「あら、まるで子供みたい。ウフフ・・・」

 

それを見たマリは郁奈の髪を撫で、右頬を頭に付ける。

柔らかい胸に抱き付いている郁奈は幼子のような笑みを浮かべ、マリから聞こえる心臓の鼓動を聴き、安心感と母親に抱かれている気分を覚える。

 

「どう・・・私の鼓動、聞こえる?」

 

郁奈は抱き付きながら無言で頷き、顔から胸を離した。

揺れる大きめの胸を見て再び赤面したが、マリの顔を見てさらに赤らめる。

 

「私・・・処女じゃなくても良いかな・・・?」

 

自分が処女では無い事が恥ずかしくなり、下を俯きながら問うが、マリは首を横に振って、郁奈の顔を右手で掴み、唇を塞いだ。

当然のマリの行動に驚き、郁奈は何が何だか分からなかったが、彼女からの自分の口の中をなめ回すようなキスに我を忘れていく。

キスが終わると、二人の唾液が糸橋のように繋がり、郁奈が顔を離すと、糸は途切れる。

 

「じゃあ・・・しようか・・・」

 

「うん・・・」

 

自分達の部屋の明かりを消し、同性同士な二人はベッドの上で一糸縫わぬ姿で情を交わし始めた。

 

 

 

その頃、新宿の何処かにあるビルにて、マリの標的にされている大柄で年配の白髪の男が、広すぎる自室で苛々しながら左右を行ったり来たりを繰り返していた。

そんな男に、出入り口のドアから部下らしき男が報告するべく入ってくる。

右拳と右脚の膝を共に付け、頭を下げたまま報告を始める。

 

「申し上げます!ワルキューレ日本支部襲撃隊残像部隊、一人として帰らず!!」

 

「おのれぇ~!ワルキューレめぇ・・・!こうなったら本隊の義勇軍団を出動させるしかあるまい!予備兵力のコリア連隊も投入だ!伝令を走らせ、奴らを迎え撃つのだ!!」

 

「ハッ!!」

 

報告を聞いた年配の男は、長い時間を掛けて編成した自分の手駒を動かす事にした。

指令を受けた部下は直ちに返答し、部屋を出て行った。

標的の男の名はマザイ・コアラーと言い、ムガル帝国が健在の時は政務に関する職業に就いており、現在は軍の士官の訓練も受けたことがあり、この世界の攻撃司令官に就任している。

自分の椅子に座り、これからどうするべきか、悩み始める。

 

「用心棒を雇うか・・・なるべき狙撃者を・・・参加の組やマフィアにも雇わせるか・・・」

 

決断が出来たのか、マザイは命令書を取って白紙のページに書き始めた。

 

 

 

一夜明け、朝日がこのコンクリートジャングルの東京を照らす中、マリは先に目を覚す。

 

「昨日は滅茶苦茶しちゃった・・・」

 

自分の胸の中で、寝息を立てながら眠る郁奈を見ながらマリはそう呟く。

起こさないように郁奈を退けて、自分の下着を身に着け、衣服を着込んだ後、椅子に座り、机の上にメモを置き、ペンを右手で握って書き始める。

それは郁奈に向けてメッセージだ。

書き終えれば、貯まりに貯まった札束を財布から抜き取り、置物になるような物を置き、鍵を閉めて部屋を後にする。

受付で「少女が出て行けば鍵を渡せ」と伝えた後、マリはホテルを出た。

 

「よぉ、おはようさん。装備の方は準備してるぜ?」

 

電柱に凭れているガイドルフから挨拶されたマリは振り向き、後へ着いていくことにした。

 

「あのお嬢ちゃんはどうするんだ?ホテルに残しっぱなしだが」

 

「大丈夫、メモ置いてきたから」

 

答えるマリに、ガイドルフは鼻を鳴らした後、アパートの一室を指差す。

 

「そうかい・・・じゃあ、装備はあの一室にある。準備は良いな?」

 

「もちろん」

 

「よし、じゃあこれが鍵だ。行ってこい」

 

ガイドルフから鍵を受け取ったマリは、アパートの一階にある右側から二番目の一室へと向かった。

こうして、彼女の大人数との孤独な戦いが始まった。




次回、一人対三千六百人+一千四百人。

足せば某一人旅団が足止め出来る人数。


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一人対3600人前半

メイトリックス「新宿がドンパチ、賑やかになる」

トラウトマン大佐「警官をあの女に近付けるな。手を出せば、死体袋が200ほど必要になる」

※警官は権限によって介入いたしません。SATもです。


ガイドルフが用意したアパートの一室に足を踏み入れたマリは、一室に置かれた武器と装備を確認した。

一緒に持ってきたM4カービンが入ったギターケース、騒がれないように袋に入れた居合いに特化した日本刀を床に置き、壁に掛けられているマガジンベストや戦闘服を手に取る。

 

「用意が良いわね・・・」

 

装備を見ながら一人呟いた後、それらを置き、何か足りないと思い、一室を出る。

近くで煙草を吸っていたガイドルフはマリのその奇抜な行動に驚いた。

数十分間、アパートの前で煙草を吸いながら待っていると、ビニール袋を左手に持ったマリが帰ってきた。

部屋に戻ったマリは100円ショップで買ってきた髪留めを取り出し、鏡を見ながらそれを両方の髪に止め、髪型をツインテールにする。

 

「これで良し・・・」

 

髪型を整えたマリは壁に掛けられている戦闘服を手に取り、今着ている衣服を戦闘服に着替えた。

マリが今着ている戦闘服の色はローズグレー、バラ色がかった灰色であり、その上から身に着けようとしているマガジンベストは黒一色だ。

次は半長靴のブーツを手に取り、一度履いてしっくりくるか確かめる。

動きやすいと判断すると、マリはブーツを脱いで、置かれている木箱を開ける。

木箱の中身はイタリアの半自動散弾銃ベネリ M4が収められていた。

12ゲージ弾も二十一発分も共に入れられ、銃本体に弾が入っているとなると、二十八発分撃てる計算になる。

弾丸をベストの弾倉ポケットに入れ、背中に散弾銃を付け、他の箱からもAR15系統三十発箱形弾倉を取り出し、マガジンベストに限界まで入れる。

ライフルの弾倉や散弾銃の弾丸で重くなったが、まだ拳銃の弾倉が入る余分が足のポーチにある為、それも入れようと拳銃を探す。

 

「これね・・・」

 

ガンホルスターとスイスの自動拳銃SIG P229を見付けた。

箱からP229の弾倉を出来る限り入れ込み、腰にホルスターを巻き付け、その自動拳銃、M67破片手榴弾六つM84スタングレネード三つを入れた。

色々詰め込んだ所為でかなり重くなったが、それでもそれらを隠すコートを着なくてはならない為、重い上半身を動かしながらコートを着た。

 

「ホログラフィックサイト・・・?」

 

M4カービン用の照準器が入った箱を開け、中身を手にしながら呟いた。

ギターケースからM4カービンを取り出して、取り外しが可能なキャリングハンドル(鞄の取っ手みたいな物)を外してそのサイトを付けた。

試しに構えると、妙に標的に当たりそうな気がした。

 

「よし・・・」

 

M16A2のカービンモデルをギターケースに仕舞うと、二挺の自動拳銃、ベレッダM92とCZE Cz75をコートのポケットの中に入れ込み、ギターケースと刀の入った袋を持って部屋を出た。

出来るだけ持てるだけ持った為に鎧を何着も重ね着しているような気分がしたが、少女期の修行で鎧の重ね着はやったことがあるので、なんとか動けた。

 

「それで良く動けるな・・・それと、太ってるように見えるぞ」

 

待っていたガイドルフからはまるで肥満体型の女性がコートを羽織っているように見えた。

この言葉に少しマリは怒りを積もりそうになったが、「こいつは美人なら何でも良い馬鹿」と思って怒りを静める。

 

「それじゃ、何処から攻めるか?だ・・・」

 

片手で色々とペンで書き込まれた地図を広げながら、ガイドルフは新宿区の地図を見て呟いた。

空いている手で顎に付けて悩んでいると、マリが無言である場所を人差し指で示す。

 

「この組からやっていくのか・・・この組も組織の義勇兵団の一部だからな・・・」

 

「じゃあ、車何処なの?」

 

地図に「天上組」と書かれた場所を指差すマリの人差し指を見ながらガイドルフは口にする。

目の前で地図を見る男から指を離すと、止まっている車の場所を聞いた。

 

「それもそうだ。あんた見たいな美人を超が付くほどの重装備で歩かせるわけにはいかない。ちょっと待て、今車を持ってくる」

 

笑みを浮かべながらガイドルフは口にすると、車がある駐車場まで向かう。

昨日の武器を積んでいたSUVがマリの目の前に現れる。

 

「乗りな。送ってやる」

 

運転席から告げる浅黒い肌の男に、マリは後部座席のドアを開け、手に持つと一緒に乗り込んだ。

マリが乗ったのを確認したガイドルフは目的地へ向けて車を走らせた。

数十分後、車は目的地へ到着し、運転席でハンドルを握るガイドルフはマリに告げる。

 

「着いたぞ。さぁ、覚悟は良いな?」

 

無言でマリは反対側のドアを開け、荷物を持って外に出た。

運転席から目的地まで行く、これから孤独な戦いに向かう彼女の背中を見て、ガイドルフはこの場から離れる為、再び車を走らせた。

一方のマリが向かった先は「天上組」の組長を出迎える暴力団員や鉄砲玉、ヤクザが並ぶ総本山の7階建てのビルの出入り口だ。

重い身体を動かしながらそこへと向かう。

ダークビジョンを発動し、正確な人数を確認する。

 

「数は30・・・これなら余裕で行けそう・・・」

 

能力を止め、目の前から堂々と組長を出迎える暴力団の総本山の前に向かった。

 

「おぉん、誰だお前は・・・?」

 

「(最大のストレス発散方法は人前で泣くこと・・・泣きたいくらいの悔しさを思い出して・・・)」

 

警備の暴力団員が威圧しながら問うが、マリは自分の記録にある屈辱的な事を思い出すのに集中しているので、黙ったままだ。

暴力団員がマリの肩を掴もうとした途端、彼女は両手に持った荷物を手放し、急に大きな声を上げて泣き出し始めた。

その泣き方は嘘泣きでも演技でもない、正真正銘の涙である。

突然泣き出したマリに、目の前にいる柄の悪い男はどうして泣いているのかが分からず、困り始めた。

そこへ、他の警備の者達が集まってくる。

 

「どうした?」

 

「あっ、これは兄貴。どうも急にこの女が・・・」

 

「組長の愛人か・・・?おい、パツキンの女。早くここから・・・」

 

組では身分の高いヤクザがマリに立ち去るよう告げるが、子供のように泣き喚く彼女には全く聞こえていない。

高級車から出て来る組長とその付き添いの若い愛人にも、マリの泣き喚く声が届いていた。

 

「なにあの女・・・貴方の昔の愛人?」

 

「白人の女なんか、愛人にしたことねぇぞ」

 

愛人からの問いに組長はそう答えた。

未だに泣き喚くマリに、怒りを積もらせた一人のヤクザが彼女の近くまで行き始める。

 

「ウッセーゾ!そこのアマぁ!!」

 

鈍った日本語で怒鳴り付ける外国人ヤクザであったが、突然マリが下を俯いて泣きやんだ為、足が止まる。

どうなっているのかを外国人ヤクザはマリに近付いて、確認しようとする。

 

「あぁ、スッキリした・・・!」

 

何の前触れも無しに泣き止んだ顔を上げたマリに、ヤクザは他の暴力団員達と共に驚いて距離を離す。

用心棒は警戒するが、行動が遅かったらしく、目から溢れる涙を拭かずにマリは、二挺の自動拳銃をコートのポケットから安全装置を外して取り出した。

二挺の見慣れない拳銃をモデルガンと判断した暴力団員達も居たが、用心棒が本物と気付いて銃を抜くよりも早く、二つの銃声が連続して鳴り響き、二人の暴力団員が道路に倒れた。

 

「反撃しろ!!」

 

自前カスタムの大口径の回転式拳銃タウルス M44を構える用心棒は、叫んで固まっていたヤクザや暴力団員達を我に返す。

しかし、一人の女に殺されていく味方の数は増えるばかりであった。

マリは拳銃を抜こうとする暴力団員達を、片端から冷静に二挺拳銃で撃ち殺していく。

組長はと言うと、愛人を車に置き去りにした挙げ句、自分は前線の配下の犠牲に背を向け、護衛と共に総本山のビルの中へと逃げ込む。

弾数が切れる頃には、二十体程の死体が道路に転がっていた。

予備の弾倉は持っているわけでは無いので、二挺の自動拳銃を捨てると、コートからポケットを取り出し、それを敵が隠れている間に素早く付ける。

 

「これで指は痛くない・・・」

 

一人で呟き、ビルから敵の増援が出て来たので、これに対応するために右に置かれたギターケースからM4カービンを取り出す。

その間にビルから出て来た増援の暴力団員達は銃を撃つが、全くマリには当たらず、安全装置を外したM4カービンの単発を食らって、次々と階段の上に倒れていく。

撃とうとした用心棒は諦め、遮蔽物の車に引っ込んだ。

出て来た増援が僅か三十秒で全滅すると、用心棒は銃を撃ちながら後退しようとした。

 

「っ!?」

 

だが、コートを脱いだマリが瞬間移動で用心棒に接近して、左足に着いた鞘からコンバットナイフを抜き、首を掻き斬って、大口径リボルバーを奪った。

 

「格好いい銃じゃない・・・」

 

少しばかりM44を眺めていたが、またも増援がビルの出入り口から現れた。

 

「死ねコラァ!!」

 

先程と同じく階段を下りながら銃を撃って、怒鳴り声を上げて向かってくる。

これに対しマリは、直ぐに距離を取り、奪ったスコープ付き回転式拳銃で増援の暴力団員や鉄砲玉を撃った。

火力は絶大であり、撃たれた鉄砲玉が吹き飛ぶ程である。

顔に向けて撃てば、顔面が潰れ、吹き飛びながら階段の上に倒れる。

撃たれた敵は腕が吹き飛んだり足が吹き飛んだりしたが、最後の一人を倒す前に弾が切れた。

 

「う、うわぁ・・・!」

 

最後に残った鉄砲玉の戦意は喪失しており、ただ引き下がるだけであったが、弾切れになったタウルス M44を捨て、M4カービンを取って、片手射撃で鉄砲玉を撃ち抜いた。

増援の気配が無いと判断すると、マリは日本刀を取りに行き、ビル内に入ろうとしたが、高級車の車内で頭を抱えて震える若い愛人に気付き、彼女の元に向かった。

 

「こ、殺さないで・・・!」

 

震える若い愛人はマリの姿を見てさらに震え上がるが、等の彼女は哀れな目で愛人を見ていた。

 

「本当にこういう男って最悪・・・あいつ絶対年の近い妻が居るわ・・・やっぱり男って若いのが好きなのね・・・性欲発散の為の交際にどうして応じるのかしら・・・お金のため・・・?」

 

全く話を聞かない震える愛人に対し、意味もないことを告げた後、愛人に近いドアを開けて逃げるように伝える。

 

「ほら、逃げなよ。殺さないから・・・」

 

ドアを開けて告げるマリに、愛人は直ぐに応じ、この場から逃げ去った。

M4カービンからベネリM4に切り替えたマリはビルへと入り、出迎える為に、短機関銃や拳銃、太刀を持って出て来た暴力団員達を手に持つ散弾銃で殺し始める。

近い距離にいた者は、腕や脚が千切れるか、頭部が吹き飛ぶ。

 

「敵は一人だ!()っちまぇー!!」

 

リーダー格からの指示に、続々と沸いて出て来る暴力団員と鉄砲玉達であるが、諄いと感じたマリに殺意の波動を発動され、怯んで床に膝をついていく。

怯んでいる敵は、突撃銃に切り替えたマリに次々と射殺されていき、やがて最後の一人が立ち直る前に、最後の弾が残っている散弾銃を撃たれ、頭部に無数の穴を開けて床に倒れた。

床に死亡した人数分だけの血で赤く染まる中、彼女はエレベーターに乗り込み、組長が逃げたとされる6階までのボタンを押す。

エレベーターに乗っている最中、少し腹が空いたので、尻のポケットから栄養食材を取り出し、軽めの朝食を取って、散弾銃を再装填した。

もちろん、マリがエレベーターに乗ってくることなど敵は分かっているので、動いているエレベーターの前に大勢で集まり、自動拳銃や散弾銃、短機関銃などを向けて待ち構えていた。

それを察している彼女は装備で重い身体を動かし、天上の通気口を開けて、エレベーター本体の上で、敵が来るのを待つことにする。

エレベーターが到着し、ドアが開いた瞬間、男の図太いデカイ声と銃声が一斉に鳴り始めた。

 

『撃てぇ!!』

 

忽ちエレベーター内は銃弾を浴び、壁に次々と大から小の穴が開く。

銃声が止むと、自動拳銃などを持った何人かの男が入ってきて、エレベーターを調べ始める。

 

「中には誰も居やせん!」

 

「もっと調べろ!ボケナス!!」

 

報告した男は罵倒するヤクザの言葉に従い、用心深く調べ回った。

これを好機と見たマリはスタングレネードを取り出し、安全千を抜いて通気口からの隙間から投げ込み、耳を両手で塞ぎ、目を閉じる。

床に落ちたスタングレネードは爆発し、閃光がエレベーター内に広がった。

中にいた三人の男達は一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状を起こし、恐慌状態になる。

 

「目が!耳が!助けてくれぇ!!」

 

「うわぁぁぁ!!見えない!!」

 

外で銃を構えていた者達も軽い方だが、それに同じ症状を患い、目線をずらしてしまう。

マリはこの瞬間を逃さず、一気に通気口から散弾銃の銃口を出し、三人を一発で片付ける。

ばらけた球を頭部に食らった三人は即死し、床に倒れていく。

外にいる立ち直った一人が銃を慌てて構えたが、マリが瞬間移動して距離を詰めた為、自動小銃のように撃てる散弾銃の弾丸を食らって、他の者達と一緒に肉塊へと姿を変える。

 

「制圧成功・・・」

 

壁一面が血で真っ赤に染まり、床で血肉と化した暴力団員とヤクザの屍を見ながら一言呟く。

散弾銃の再装填を終えると、部屋から出て来て迎え撃とうとする敵を、左手で抜いたP229を向け、一発で急所を撃ち抜いて始末する。

バタバタとドミノ倒しのように敵が倒れていく中、組長が居るとされる執務室に到着した。

ダークビジョンを発動して中にいる人数を確認した後、手榴弾の安全ピンを抜き、ドアを少し開け、そこから手榴弾を投げ込んだ。

何名かが破片で死んだのを確認すると、自動拳銃はホルスターに仕舞って、散弾銃でまだ立っている男達を撃ち始める。

 

「わぁぁぁぁ!!」

 

一人が撃たれた衝撃で窓ガラスを割りながら落ちた後、マリは組長の銃を握る手を散弾銃で撃ち、右腕から左手を引き千切った。

組長は残った手で右腕を抑えながら、物凄い声で悶え苦しむ。

 

「グワァァァァァァァ!!俺の手が!手がぁ!!?」

 

「へぇ~、奥さん居るんだ・・・」

 

机に置かれた写真を見ながらマリは右手を失って悶え苦しむ組長に近付き、頭に散弾銃の銃口を向ける。

写真に写っている女性は、組長と年が近い程の年齢だ。

 

「本当、こんな年なのにまだ子孫を残そうとするなんて・・・良くもまぁ、こんなのと付き合える・・・ねっ!!」

 

殺気染みる剣幕で言った後、引き金を引いて組長の頭を吹き飛ばした。

脳味噌や頭蓋骨の破片が周囲に飛び散り、マリの顔を汚したが、彼女は気にもせず、銃を持って部屋に入ってこようとする男達を切り替えたM4カービンで次々と射殺していった。

死体が出入り口で重なり合う中、外から怒号が聞こえてきた。

それも外国語であり、様子を見るために窓から覗いてみると、紛争地帯で良く見る突撃銃を持った大勢の外国人達がビルに突入してくる。

狭い場所で待ち伏せするべく、7階に階段で上がる。

 

「狭いわね・・・ここなら最適」

 

周囲を見回して、エレベーター前が最適だと判断した後、散弾銃の再装填を終えてM4カービンの残弾数を確認した。

十分あると判断して弾倉を銃に差し込むと、予想通り二つあるエレベーターを使って7階まで上がってきた。

手榴弾をポケットから二つ取り出し、安全ピンを外す構えを見せ、着いて扉が待つ瞬間を待った。

エレベーターがこの階に到着すると、ドアが左右に横に開き、一斉に銃を持った外国人達が出ようとする。

それと時を同じくして、手榴弾をエレベーターに向けて投げ込み、中に居た者達を一気に全滅する。

もう一つの着いたエレベーターにも投げ込み、雪崩出て来る外国人を何名か殺傷することに成功した。

まだ健在な者が必死に突撃銃を撃ってきたが、弾詰まりを起こし、銃を叩き始めた。

咄嗟に壁に隠れていたマリはM4カービンで健在な男を射殺した後、まだ息のある外国人達にとどめを刺す。

 

「全滅・・・」

 

辺りで物言わなくなった死体に向けて呟いた後、突撃銃のマガジンキャッチボタンを押して空の弾倉を外し、新しい弾倉を差し込んで再装填を行い、屋上へと上がった。

屋上へと上がると、何処からともなくガイドルフの声が聞こえてきた。

 

『よう!先程聞こえた銃声が止んだのを確認した辺り、このビルを制圧したそうだな』

 

突然聞こえてきた声に、マリは警戒心を抱くが、排気口の上に置かれた小型無線機から聞こえてくる事から、その無線機を手にとってガイドルフからの連絡を聞く。

 

『察しが良くて助かる。それじゃあ、向こうのビルに能力を使って移ってくれ。攻撃型MK3手榴弾と対人地雷が入った箱がある。後、その無線機は右肩後ろに装着できる』

 

言われたとおり、小型無線機を右肩の後ろに装着した後、瞬間移動を使って、隣の8階建てのビルに移った。

昇降口の壁の前に置かれた頑丈な箱が、直ぐに目が付く。

蓋を開けて中を覗いてみると、ガイドルフの言っていた者が揃っていた。

近くにバックパックがあったので、それに手榴弾と円形の対人地雷、クレイモアなどを限界まで入れていく。

背負ったバックアップに散弾銃を付けた後、昇降口のドアを開けてビル内部へと入った。

8階まで来れば、複数の男の話し声が聞こえてくる。

 

『なぁ、この金髪の女を仕留めたら13億円ってなんだ?』

 

『知るか。俺達の雇い主さんに何かしたんじゃないのか?』

 

『それもそうだな。こんな女を殺すなんて勿体ねぇな、どうする?殺す前に・・・』

 

『あぁ、お前の言うとおりだ。こんないい女を殺すなんて勿体ね!捕らえて犯してから殺そう・・・』

 

この自分のことを犯そうと考えている彼等に切れたマリは、直ぐにその男達の居る部屋にM4カービンを構えながら突入し、一人目を射殺した。

 

「あの女だぁ!」

 

気付いた男が、持っているチェコ製の小型短機関銃Vz61スコーピオンの銃口を向けて引き金を引こうとするが、マリが余りにも撃つのが早すぎ、他の仲間達と共々殺される。

銃声を聞きつけたビルにいる敵が全て、マリの居る8階に集まってくる。

部屋を出て、部屋や階段、エレベーターから出て来る金に目の眩んだ不良な男達、不良外国人、暴力団員達をひたすら撃ち殺す。

襲ってくる男達の武装はどれもお粗末な物ばかりであり、全くマリに当たらず、彼女の正確な射撃で次々と殺されるだけであった。

 

「死ね死ね!!」

 

叫びながらアメリカ製短機関銃のMAC M10をひたすら乱射してくる男が居たが、直ぐに弾切れを起こし、新しい弾倉に差し替えようとした所をコンバットナイフで首を斬られて絶命した。

階段に向かうと、数多くの敵が待ち受けていたが、殺意の波動を発動して全員を怯ませ、手榴弾で一気に制圧する。

1階に下りるまでに遭遇した敵の数は十の台数を軽く超え、その度に血は階段を赤く染めていく。

 

「賞金首が来たぜ!!」

 

遂に目的地の1階まで辿り着くと、待ち構えていた男達が一斉にマリに向けて襲い掛かる。

今持っている突撃銃で仕留めていくが、弾切れとなり、ベネリM4に切り替え、襲ってくる一人一人を穴だらけにした。

散弾銃も切れれば、遮蔽物に身を隠し、突撃銃を素早く再装填を行い、銃を撃ってくる敵を優先的に排除する。

やがて敵の声が聞こえなくなると、遮蔽物から出て、ビルの外へ出た。

切り替えた散弾銃の再装填を行っていると、ラッパを鳴らす音が連続して聞こえてくる。

 

「暴走族ね・・・」

 

後方からもラッパは聞こえ、忽ちマリは暴走族に包囲された。

 

「ウッヒャッヒャッ!捕まえて輪そうぜ!!」

 

「そうしようぜぇ!!」

 

自分の愛車である改造されたバイクのエンジンを鳴らしながら、マリの周りを回る暴走族達であるが、殺意の波動を発動され、凄まじい殺気を肌で感じてしまい、愛車から落ちて戦闘不能に陥る。

 

「た、助けてくれ・・・!」

 

戦意を削がれた暴走族達は、這いずりながら逃げようとするが、瞬間移動で包囲網を抜けたマリが彼等の改造バイクに向けてバックパックから取り出した対人地雷を投げ込み、襲ってきた暴走族全員を爆死させた。

彼女の後ろで爆炎が舞い上がり、肉の焦げた音が聞こえる中、目の前から狂気の笑みを浮かべ、鈍器や安い銃などを持った人々が現れる。

 

「こいつをやれば・・・!薬が・・・!!」

 

「これで薬が買える・・・!」

 

ブツブツと呟きながら、麻薬を欲しがる中毒者達はマリに向かってくるが、彼女はまるで豚を見るかのような目で彼等を見ながら殺意の波動を発動し、全員の戦闘力どころか精神を壊した。

目の前にいた全員が道路の上で恐怖を覚え、怯えて震える中、彼女は何の躊躇いもなく、戦意もない彼等を散弾銃で射殺し始める。

銃声が散弾銃の弾の数だけ鳴ると、マリはベネリM4を捨てて、M4カービンを構えながらその場を後にする。

 

「これでざっと200人は殺したわね・・・」

 

ここまで来るまでに殺した人数を思い出しながら、薬物中毒者達の無惨な死体を背に、次の殺戮場所へと向かった。

残りの人数は、後3400人・・・!




これで前半・・・後半は残り3400人と1400人を殺さねばならない・・・

キルストークが使いたいが、東京で使うわけにもいかない・・・
精々軽機関銃とグレネードランチャー、M134ミニガンが使える程度でございます。


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一人対3600人後半

ちと、この回は問題発言があっての・・・

大殺戮回です。
我ながら、新宿をドンパチ賑やかにするなんてトンデモないことをしたもんだ。

※追記
イメージ戦闘BGMはイタリアのシンフォニアメタルバンド、ラプソディー・オブ・ファイアのウィザース・ラスト・ライムス。
エメラルド・ソード・サーガシリーズ最終章前編のアルバムに入ってる曲です。
UPLはこちら→http://www.youtube.com/watch?v=L95MNCQzD-A


次の場所へと向かっている最中、わざわざ探さなくとも敵が出て来てくれた。

敵は自動車に乗った暴力団員とヤクザ達であり、直ぐに車から降りて、手持ちの回転式拳銃や自動拳銃でマリを撃ち始める。

 

「死ねコラァ!!」

 

叫びながら撃ってくるが、マリは遮蔽物になる場所に隠れたので、弾の無駄になってしまっている。

物陰に隠れずに撃ってくる暴力団員やヤクザ達をマリは全員マークし、M4カービンの残弾数を確認して十分と判断すると、マークした全員を撃ち始めた。

マークされた標的は、次々と命中弾を食らってバタバタと道路の上に倒れていく。

残った者達は叫びながら出て来てくれた為、的確に倒せたが、弾切れを起こしてしまう。

 

「オラァァァ!!」

 

中国製トカレフを撃ちながら向かってくるが、P229に切り替えたマリにヘッドショットを決められ、仰向けになって道路の上に倒れた。

今持っている自動拳銃の残弾数を確認した後、M4カービンのマガジンキャッチのボタンを押し、空になったマガジンを外した後、新しいマガジンを差し込み、コッキングレバーを引いて初弾を装填した。

付近には住民も居たようだが、皆銃撃戦の最中に逃げてしまったようだ。

先へと進んでいくと、柄の悪い男と不良外国人、薬物中毒者(ジャンキー)の大人数が姿を現した。

 

「ぶっ殺せぇーッ!!」

 

銃などを撃ち、様々な凶器を用いて叫びながら、マリに向かって襲い掛かってくる。

数えてみてもざっと百人は居るので、M4カービンは背中のバックパックに装着し、狭い場所に瞬間移動し、そこに誘い込んで対処する。

 

「消えた!?」

 

「あそこに居るぞぉ!」

 

案の定、全員が狭い路地に吸い込まれるように入ってくれたので、バックパックから取り出した円形型対人地雷を設置し、態と姿を晒して相手を誘い込んだ。

仕掛けた罠に掛かっていき、敵が一気に数を減らしていく。

行き止まりに着く頃には、もう十人ほどに減っていた。

 

「追い詰めたぞ・・・!」

 

何人もの仲間の返り血が付いた十人が、マリにトカレフやマカロフ、棍棒を構える中、マリは笑みを浮かべながら、MK3手榴弾の安全ピンを抜いて投げ込み、そこから換気扇へと瞬間移動して爆発を避ける。

爆煙が晴れると、先程襲い掛かってきた敵の腕や脚、内臓などが転がっており、狭い路地は彼等の血で赤く染まっていた。

下半身が無くなってもまだ息のある者は飛び出た内臓を垂らしながら残っている腕を動かしてその場から逃げようとする。

 

「助け・・・助けてくれ・・・!ゴフッ!」

 

換気扇から飛び降りてとどめを刺した後、まだ息のある者達を左腰に差した刀で息の根を止めていく。

自分を殺しに来た者達を全員排除した後、態と目立つ場所を歩いて敵がくるのを待った。

予想通り、敵が沸いて出て来るように彼女に襲い掛かってくる。

 

「わざわざ来てくれてありがとう・・・」

 

刀身に付いた血を振って落としながら、マリは自分を棍棒や金属バットなどで殺しに来る柄の悪い男達に対し、迎え撃つ構えを見せた。

 

「死ねぇ!!」

 

一人目が多数の釘を刺した棍棒などで殴り付けてきたが、彼女にとっては欠伸が出るほどの速度であった為に、避けられてしまい、頭を首から切り落とされた。

頭を失った身体は根本から水が吹き出るホースのように血を吹き出しながら倒れる。

次に金属バットやナイフなどで殺しに来るが、彼等はまるで時代劇のやられ役の如く斬られて行き、切り口から血飛沫を上げながら堅い道路の上に倒れていくだけだ。

その後にも何人、何十人と賞金目当てにマリを殺そうと立ち向かってくる敵であるが、誰も彼女に適うはずもなく、次々と斬り捨てられていく。

マリの身体が返り血で紅く染まる頃には、殺しに来た敵は数を僅か6人程となり、残っている者達は彼女に恐れ戦いて引き下がろうとする。

 

「ば、化け物だ・・・!」

 

ナイフを握るニット帽の男は、血で紅く染まったマリを見て、恐怖の余りそれを口にしてしまった。

これを聞いた彼女は空いている手で自動拳銃を抜き、眉間を正確に撃ち抜いてから口を開いた。

 

「私・・・そう見えるかな・・・?」

 

感情のこもらない声と表情で問うマリであったが、残る5人も射殺したので、誰も答える者は居なかった。

次なる敵を求めて新宿区の奥へと足を進めていると、また敵は目の前から現れが、今度は後ろからも現れ、退路を塞がれる。

人数は前方と後方を合わせて150人ほどであり、武器は角材、棍棒、バール、レンチ、金属バット、ナイフなど様々な凶器であり、幸いにも銃を持った者達は居ない。

身構えることなく空を見上げると、青い空は黒い雲に覆われ始め、辺りは少し暗くなった。

 

「一雨来るね・・・」

 

雨雲で塞がれていく青い空を見ながら呟いた後、周りから殺しに来る敵に対し、殺意の波動を発動し、全員に殺される脅威を無理矢理感じさせ、精神力を削いだ。

襲ってきた敵達は、恐怖の余り立ち上がれなくなるか、その場で泣き叫ぶ者も居たが、彼女は何の躊躇いもなく残っているM67破片手榴弾の安全ピンを外して投げ込み、右手にM4カービン、左手にP229を持ち、彼等を容赦なく殺し始めた。

MK3手榴弾も取り出して、さらに多くの敵を殺害していく。

暫しの間、彼女にとってのBGMは銃声と断末魔、肉の焦げる音であったが、やがて動いている者が居なくなると、耳に入るBGMは降りしきる雨へと変わる。

彼女の周りの道路は、襲ってきた敵の血で紅一色に染まっていたが、天から降りしきる水で排水口へと共に流されていく。

マリの衣服や肌に付いた返り血も自然のシャワーで流されていき、雪のように白い肌から紅い血が流し落とされる。

 

「おらぁ死・・・ブァァァ!?」

 

暴力団員が拳銃を構えながら飛び出してきたが、後ろから撃たれて絶命した。

直ぐさま遮蔽物となる場所に瞬間移動し、ダークビジョンで相手の数を数える。

 

「(人数は26人・・・でも武器は違う・・・自動小銃・・・?)」

 

隠れている場所から人数を数えていると、相手が持っている武器がいつもと違うと分かった。

能力を解除して壁越しから覗いてみれば、不法滞在者の外国人達とは格が違う短機関銃や突撃銃、散弾銃などを持った外国人達がマリを探していた。

 

「〔あの女、さっきまではここに居たはずだが?〕」

 

喋っている言葉は英語であり、短機関銃はMAC M10にさらに小型化したM11、突撃銃は市販型(連射機能出来ないモデル)のコルトAR15、コルトM639、散弾銃はモスバーグM500やレミントンM31にM870。

どれもアメリカ製であり、腰のホルスターに差し込んである拳銃もアメリカ製だ。

 

「アメリカンマフィアね・・・」

 

マフィア関連の映画を見たことがあるマリは、周囲で自分を捜し回るマフィア達を見て呟いた後、突撃銃と自動拳銃の再装填を行い、それが終われば彼等の前に姿を現した。

 

「〔居たぞぉ!!〕」

 

気付いた一人が手に持った突撃銃でマリを撃とうとしたが、顎を撃たれて暫し悶え苦しんでから死亡した。

他の者達は各々が持つ銃を向けるも、撃つ間もなく次々と頭部や首を撃たれて道路に倒れていく。

近くにいる者にはナイフで首を掻き斬って殺す。

乗用車にまだマフィア達は生きてはいたが、奪ったM639突撃銃の連射で撃たれて全滅する。

エンジンに銃弾を何発も受けた一台の車が爆発すると、向かってきた敵は全滅した。

その時にガイドルフからの無線が入る。

 

『生きてるか?今あんたの居る所から70mのビルに入ってくれ。中に狙撃銃がある。4階の受付にそれが入ったケースを預けてある。後は分かるよな?』

 

言いたいことだけを伝えた男は無線を切った。

互角性の高い弾倉を幾つか回収した後、マリはガイドルフが指定したビルへと向かう。

道中、幾人か銃を持った敵が猟銃などで襲ってきたが、姿をさらしながらばかすか撃ってくるため、余裕で殲滅することが出来た。

指定されたビルに入ると、置き忘れを物色していた柄の悪い男と鉄砲玉達が襲ってくる。

銃を持った者達は今居る場所から撃ち、凶器を持つ者達はマリが居る場所へ来ようとする。

 

「賞金首が来たぞぉ!!」

 

バールを持ったパーカーの男が、マリを見て叫びながら突っ込んでくる。

直ぐに頭を撃たれてこの世からお別れを告げた後、続々と後を追う者が続出した。

 

「う、うわぁ~!」

 

最後に残った男が持っていた武器を捨てて逃げようとするも、逃れることなく頭部を撃たれて絶命する。

4階に着くまでに幾人かの敵と遭遇したが、マリの相手に全くならず、ただビルを自分達の血で汚すだけであった。

誰も居ない受付の中に入って、狙撃銃の入った長方形のケースを探す。

 

「あった」

 

ケースの重みで判断したマリは、中を開けて狙撃銃を発見した。

それはイギリスのボルトアクション式狙撃銃であるL96A1事AIアークティウォーフェアだ。

共に入っている六個の弾倉をポーチに入れた後、イギリス軍で採用された狙撃銃を抱えながら屋上へと向かう。

 

「ここなら見渡せる・・・」

 

狙撃銃の安全装置を外したマリは二脚を立て、蓋を開いてスコープを覗き、固まって自分を探す敵200名の内一人の頭に照準を斜め上に合わせ、引き金を引く。

敵は狙われている事にも気付かず、頭を撃ち抜かれて死亡した。

ボルトを引いて空薬莢を排出し、押して新しい弾を薬室に送り、次の標的に照準を合わせる。

敵は何処から撃たれているか分からず、闇雲に連射できる銃を乱射し始める。

 

「馬鹿ばっか・・・」

 

降りしきる雨の中、マリは呟きながら引き金を引き、胸に命中させて敵の命を奪う。

次は二人揃って仕留められ、ますます混乱した敵は見境無く銃を撃ち始め、仕舞いには他の味方との同士討ちをしてしまう。

これは彼女にとっては好機であり、ニヤリと笑みを浮かべながら銃を撃つのを止めるよう叫ぶ男の頭を撃っていく。

弾倉の中身が無くなるまで撃ちきった後、狙撃位置から離れて再装填を行う。

別の狙撃位置から狙撃を再開しようとしたが、相手にも狙撃手の用心棒が居たらしく、狙撃を受ける。

 

「やっぱりプロは違う・・・」

 

瞬間移動で別のビルに移った後、自分を探す敵狙撃手のスコープの光を探す。

混乱状態に至った敵は同士討ちで全滅しており、マリに取っては弾の節約になった。

 

「見付けた・・・!」

 

光っている窓を見付け、そこへ向けてL96A1のスコープを覗き、照準に合わさっている旧ソ連の狙撃銃SVDドグラノフを持った男の頭を撃った。

頭部には命中しなかったが、肺を撃たれた為、自分の血で溺れながら力尽きた。

見える限りの敵を撃ち殺した後、ビルを瞬間移動で渡りながら、そこに居る敵を撃ち殺し、腰に差した日本刀で斬り殺していく。

 

「ざっと600人は殺したわね・・・」

 

死んでもピクピクと痙攣している頭の無い死体を見ながら呟く。

屋上から敵の位置を確認していると、ガイドルフから連絡が入った。

 

『スカイタワーから見てるぜ。予想からして歩兵一個大隊を殺した所だろ?今丁度あんたの居るビルにグレネードランチャーが置かれている。あるのは6階の客間だ。では、また連絡する』

 

また言いたいことだけ伝えると、ガイドルフは無線を切った。

言うとおりに昇降口からビル内へと入り、6階の客間の辺りを探して英国のアーウェン37グレネードランチャーを見付けた。

ついでにC4リモコン爆弾も見付け、何かの役に立つかと思い、空きのポーチに入れておく。

外が見渡せる場所まで向かい、窓ガラスを銃座で割って、安全装置を外して集団で自分を探す敵に向けて発射する。

発射された対人榴弾が集団の真ん中に命中し、爆発に呑まれた敵が吹き飛んでいく。

撃ちきるまで撃ち続け、自分を探していた集団を全滅させた。

再装填を終えると、敵が気付いて、マリの居るビルに向けて突撃してくる。

突っ込んでくる敵に対し、限界までグレネードランチャーを撃ち続け、敵を肉塊へと変えていく。

 

『ウワァァァァ!!』

 

足が吹き飛んだ敵の叫び声がマリの耳にも入ってきたが、彼女は一切気にせず敵を複数纏めて排除していく。

何名かをビルに入れてしまったが、全く物陰に隠れずに突っ込んで来る為、直ぐに全滅させることが出来た。

アーウェン37を捨ててM4カービンを持ちながらビルを出ると、バラバラになった敵の死体が目に付いた。

雨で血は排水口へと流されているが、内臓は重みで流されてはおらず、そこに放置されたままだ。

内臓を踏み付けながら、爆風で集まってきた敵を撃ちつつ、敵がもっと集まりそうな場所へと移動する。

途中、ガイドルフからの連絡がまたもや入った。

「どうせ用件を伝えれば切るだろう」と思い、走りながら聞いていた。

 

『聞こえるか?雨で少し電波が悪くなってやがる。公園にM134ミニガンが置いてある。それを使って大勢の敵を排除しろ。では、また連絡する』

 

思い通り切った後、マリは敵を倒しつつ公園へと向かった。

しかし、行く手を遮る敵の数は様相を反して多く、さらにはマフィアの集団までが現れ、一時的にマリを遮蔽物に釘付けにする。

 

「数が多い・・・!」

 

攻撃型手榴弾の安全栓を抜いて敵が密集する場所に投げ込み、複数の敵を一気に排除する。

腕や脚を失った者達が泣き叫んでいるが、銃声で掻き消されてしまう。

数十名ほど撃ち殺していると、向こうからの銃声は減り、逆に呻き声だけが聞こえてくる。

銃を構えながら向かうと、韓国語で「助けてくれ」という声が耳に入る。

声のする方に銃を向けると、胸を撃たれて口から血を履いている韓国マフィアが居た。

マリの姿を見ると、男は残っている腕で逃げようとするが、刀で頭を一突きにされ、絶命する。

まだ息のある者を探していると、五体満足で血塗れなだけの男が震えているのが見えた。

 

「丁度良いかも・・・」

 

少し危険な表情を浮かべ、辺りの死体から採取した敵の手作り爆弾を回収し、震える男の元へ向かう。

男は先程トドメを刺した男と同じく韓国マフィアであるが、戦意を損失しており、もはや一生戦うことなど出来ないほど酷く怯えていた。

そんな男に対し、マリはポケットにC4爆弾を入れ、回収した手作り爆弾を何処からか取り出した無理矢理ガムテープで巻き付け、立たせた。

 

「ほら、あんたの仲間の所へ行きなさい」

 

無理矢理立たされた男は、一目散にマリの元から逃げ去った。

気付かれないように瞬間移動で見えない場所から男を居っていると、自分が指示した通り、男は仲間の元へと戻っていく。

味方の集団と合流したマフィアは、集団の中にいる同じマフィアのリーダー格の男に抱き付き、助けを乞おうとしている。

それを見ていたマリは、左手に起爆装置を持つ。

 

「ストライク!」

 

そう言ってから起爆装置のスイッチを押し、戦意を損失した男のポケットに入れてあるC4爆弾を起動させる。

巻き付けられていた爆弾が誘爆し、爆破範囲は広がり、周囲にいた同じ無地の穴の男達は吹き飛んだ。

爆発した地点から赤い煙が上がる中、周囲のビルのガラスが爆風で一斉に割れる。

叫び声が泣き叫ぶ声が晴れた血煙から聞こえ、晴れた爆発現場には、肉片や内臓、腕、足、頭部、胴体が転がっていた。

このおぞましい光景に、まだ戦闘が可能な者達を、狙撃銃で優先的に排除し始めた。

 

「敵は・・・何処だ・・・バッ!?」

 

「助けてくれぇ!」

 

四方が吹き飛んだ者は無視し、五体満足でまだ息のある者から仕留める。

排除し終えると、今居る場所から降りて公園へと向かった。

公園へと辿り着くと、ガイドルフから雑音が混じった連絡が入る。

 

『聞こえるか?・・・中央の・・・ミニガンが・・・箱がおいて・・・る。地雷もあるから・・・周りに防衛戦・・・構築しろ。1800人編成の一個連隊・・・来ている。急げ!』

 

雨の所為で電波が悪いのか、殆ど聞き取れなかったが、自分の居る公園に向けて1800人程の一個連隊が迫っている事が分かった。

直ぐに中央に向かい、M134ミニガンと弾薬が共に入った箱と地雷の入った箱を見付け、大急ぎで地雷を出来るだけ持って、公園の周囲に設置した。

クレイモアも入っているので、今持っている円形型地雷を全部配置し、箱のような対人地雷も出来る限り設置する。

 

「これね・・・よい、しょっと・・・!」

 

ミニガンの三脚を立て、それを持ちながら敵が向かってくる方向へと配置すると、それに着いて敵を待ち受ける。

六門ある銃口を向ける場所から多数の声が聞こえてきた。

それと同時にガイドルフからの無線が聞こえてくる。

 

『来るぞ、一個大隊だ!公園を殺戮地帯(キルゾーン)にしてやれ!!』

 

今度は電波も良いが、直ぐに切れてしまった。

スコープで叫び声がする方向へと向けて覗いてみると、多数の人集りがこちらへ向けて突っ込んでくる。

全員が銃でも無くても刃物や鈍器などの凶器を持っており、一人一人がマリを十分に殺せる武器を所持している。

 

「居たぞぉぉぉ!!」

 

銃を撃ちながら突っ込んでくる敵を十分に引き付けた後、ガトリングガンの引き金を引いた。

撃った箇所から血煙が上がり、肉の避ける音と叫び声がマリの居る場所まで聞こえてくる。

一方の凄まじい発射速度の銃弾を受けた敵は撃たれた箇所が吹き飛び、腕や脚、胴体が千切れ落ちる。

撃つ度に加熱する銃身は雨の水で冷やされるが、発射速度の方が早いので、直ぐに加熱してしい、一々銃身を冷やさなくてはならなくなる。

敵は隠れもせずにただ闇雲に突っ込んでくるだけであり、それが逆にマリを焦らせた。

石の床に大量の空薬莢が散らばる中、敵は防衛戦まで達する。

 

「うわぁぁぁ!地雷だぁぁぁぁ!!」

 

先に突っ込んだ数十名が地雷で吹き飛び、残った者達は後退しようとするが、皆ガトリングガンの連射速度で薙ぎ倒されていく。

電動のこぎりのような銃声から声が聞こえなくなると、マリは引き金から指を離した。

機銃掃射されていた地点は、惨たらしいほどの量の死体や肉片、内臓が散らばり、赤く染まっていた。

生き残った者達は体勢を立て直すために引き返す。

次に備えてミニガンから離れ、何か無いか探し始める。

 

「他にもあるじゃん」

 

まだ開けていない大きな箱を開けると、他にもミニガンが収められていた。

引き金は無く、何かの装置が代わりに取り付けられている事から自動砲台のようだった。

マリはそれぞれの入り口が見渡される場所に配置し、起動させて周囲を自動砲台で見張らせた。

先程撃っていたミニガンも、装置を付けて自動砲台にすると、南アフリカの連射できるグレネードランチャーダネルMGLを箱から取り出し、対人榴弾を装填し、次の襲撃に備えた。

今度は四方八方から雨が落ちる音に混じって、多数の足音が耳に入ってくる。

ダークビジョンを発動して周囲を見渡すと、四方八方から無数の白い影がこちらから向かってくるのが分かる。

 

「大丈夫かな・・・?これ・・・」

 

中央にいる一人目に照準をかめたマリは、雄叫びと聞こえてくる大勢の足音を聴きながら口にすると、引き金を引いた。

7.62㎜NATO弾は一人目の身体を貫通すると、二人目、三人目を貫通していく。

これを繰り返していくと、自動砲台が火を吹き始めた。

自動砲台はレーザーサイトに当たった標的を次々と撃ち殺していくが、仕留めきれるはずもなく、防御戦への侵入を許してしまう。

銃火を潜り抜けた者はマリに近付こうとするが、次に待っている地雷原にはまり、続々と肉塊へと変わる。

公園の緑の芝生が血で紅く染まっていく中、マリは必死に突っ込んでくる敵を確実に仕留める。

 

「まだ終わらない・・・!」

 

人海戦術を駆使して絶え間なく突っ込んでくる敵に対し、流石の彼女も疲れを見せた。

地雷に引っ掛かった敵が悲鳴を上げて吹き飛ぶか肉塊になりも、まるで動物の如く敵は突っ込んでくる。

その圧倒的な数の敵に対し、彼女は銃の引き金を引き続けた。

防御戦が徐々に狭まる中、公園は着々と血に染まり、水溜まりも血に染まってマリの疲労感が徐々に溜まる。

遂に最後の防御戦も突破され、彼女の後ろから敵が斧を振りかざしてきた。

 

「死ねぇ!!」

 

声で直ぐにマリは空いている手で刀を抜き、敵の胴体を両断した。

どうやら設置した地雷が全て無くなってしまったようだ。

自動砲台も倒されており、この状況を彼女は一人で乗り切るしかない。

必死に向かってくる敵を撃ち殺していき、好きが見えればグレネードランチャーを使って敵を纏めて片付ける。

まだ距離のある敵に対しては、L96A1をM4カービンに切り替え、弾のある限り敵を殺した。

今持っている銃の弾倉の中身が切れれば、鞘に付いた引き金を引いて刀を抜き、襲い掛かる接近戦武器を持つ者達を斬り捨てていく。

自分の近くで敵の死体が増える中、ようやく敵の勢いが止まり、殺意が彼女への恐怖へと変わった。

 

「ど、どうなってんだこりゃぁ・・・!?」

 

「化け物だ・・・!」

 

「さっき殺した奴と同じ回答する・・・!」

 

同じことを言われたマリは、立ち止まって足を振るわせている多数の敵をグレネードランチャーの榴弾がある限り撃って排除する。

爆発に肉と骨が砕ける音、悲鳴しかマリの耳に入ってこない。

数分もすれば公園に立っているのは彼女一人だけとなった。

辺りは死体で埋め尽くされ、雨では洗い流せないほどの血と肉で溢れかえる。

 

「これで・・・3000人超え・・・」

 

雨で自分の顔を洗いながらそう呟くと、持っていたダネルを手放し、今持っている全ての銃の再装填を終えて公園を出た。

疲弊したマリを殺そうと、車が目の前に止まり、アメリカ軍から横流しされた武器を持ったヤクザと暴力団員の集団が襲ってくる。

 

「死ねコラァ!!」

 

M16A2を撃ちながら叫ぶヤクザだが、急にその突撃銃が撃てなくなってしまった。

他の者達も同様であり、原因は銃の清掃不足か、弾の劣化だと思われる。

 

「動け!このポンコツぅ!!」

 

弾の出ない銃を叩いて撃とうとするが、次々とマリに撃ち殺されていく。

やがて、敵は間抜けにも銃が撃てないまま全滅してしまった。

死体になった敵から彼女はまだ無事な弾倉を回収した後、また入ってきたガイドルフの無線を聞いた。

 

『電波は回復したようだ。あんたの標的、マザイ・コアラーは北の一番デカイビルにいる。出て来る敵を目印にして進むんだ。それとセーブポイントを設置しておいた。今持っているM4カービンはそろそろ悲鳴を上げる頃だろう。FN ミニミを置いておいたから好きに変えてくれ』

 

言いたいことだけ伝えたガイドルフは、前回と同じく無線を切った。

彼女は言われるがまま、ヤクザが残した乗用車に乗り込み、標的の居るビルへと車を走らせた。

 

 

 

一方、標的であるマザイ・コアラーはと言うと、マリが自分の主戦力の大半を全滅させたことに驚きを隠せないでいた。

 

「な、なんだ、あの女は・・・!?一個連隊を全滅させたぞ・・・!能力者でも無い限り、単独で歩兵一個連隊の殲滅など容易ではないぞ!!」

 

自分の机を叩きながら、目の前で報告に来た男に怒鳴り付けるマザイ。

だが、これは紛れもない事実であり、今も立ち向かった兵力がマリに次々と殺されている。

 

「どうやら、(キャツ)はワルキューレから装備を受け取ったらしく、着々と我々の居るビルに近付いてきます!!」

 

「おのれぇ・・・!予備戦力のコリア連隊はどうした!?」

 

「この天候で、兵員招集と装備至急に手間取っているらしく・・・」

 

「煩い!相手の文化を盗る能なし民族などに装備など不要だ!ただ殺せる武器を持たせれば良い!!」

 

顔を上げて予備戦力の準備が思わしくない事を報告する部下であるが、マザイの怒鳴り声に黙り込んでしまう。

次に部下は、マザイにこの世界から逃げるよう提案した。

 

「では、貴方様だけでもこの世界から・・・」

 

「馬鹿者!そんなことをすれば、私が皇帝陛下に粛正されてしまうではないか!!なんとしてもあの女を討つのだ!俺の副官に伝令し、本国にも増援を仰げ!!」

 

「ハッ!直ちに副官に本国からの増援を仰って参ります!!」

 

部下はマザイからの指示に応じ、部屋を出て行った。

 

 

 

その頃、乗用車に乗るマリは、次々とやって来る敵を排除しつつ、標的の居るビルへと急いでいた。

道中で倒した敵は百人以上であり、道路は雨では消せないほど炎上した車とバイクの残骸、死体で溢れている。

残り500名が居るとされるビルの前に辿り着くと、車を捨て、最後の弾薬補充に向かった。

 

「クッ!スナイパーが・・・!」

 

楽には行かせてもらえるわけは無く、狙撃銃を持つ用心棒達がマリの撃ち抜こうと狙撃してくる。

直ぐに遮蔽物に身を隠し、狙撃銃を構えて狙撃手をダークビジョンで探した。

 

「さっきの奴を殺すときにこれを使えば良かった」

 

今更後悔しながら狙撃ポイントに姿を現した敵狙撃手を次々と撃ち殺していく。

最後の一人がマリに狙撃されてビルから転落した後、ガイドルフが用意した補給所へと向かう。

置かれた複数のはこの内、一つを開けてみると、そこにはベルギーの軽機関銃FN ミニミが入っていた。

この軍用機関銃を殆ど弾倉が無くなったL96A1と取り替えると、専用の弾倉と予備の銃身を持てるだけ持ち、M4カービンとMK3手榴弾の補充を終え、手に入れたばかりの軽機関銃を持ちながら標的の居る20階建てのビルへと突入した。

 

「敵が侵入したぞ!!」

 

受付にいた男がベレッタM92Fを抜いて撃とうとすると、直ぐに蜂の巣にされた。

この連続した銃声の後に、続々とマリが侵入した1階の広間に敵が集まってくるが、呆気なく倒されていく。

出て来る敵を撃ち殺しながら北にあるエレベーターまで進んでいると、鈍った日本語が聞こえてきた。

 

「あの女殺して銭取るで!」

 

えらく古典的な角刈り頭でサングラスを掛けたヤクザが叫ぶと、続々とアフロや丸刈りのヤクザと暴力団員、鉄砲玉達が姿を現してくる。

 

「死ねやゴラァ!!」

 

アフロの男がロシアの軽機関銃であるRPD(中国製)を連射しながら叫んでいた。

瞬間移動で遮蔽物に身を隠すと、見える限りの敵に掃射を掛ける。

 

「グァァァ!!」

 

「うぁぁぁ!!」

 

「機関銃は・・・反則やろ・・・」

 

次々と撃ち殺されていく関西のヤクザや暴力団員、鉄砲玉達であるが、マリを釘付けにしているところからして、かなりの良くできていると言えるだろう。

機関銃の弾は切れ、直ぐに新しい弾倉と交換する。

 

「いくでぇ!」

 

「アホ!突っ込んだらあかん!」

 

マカロフを持った暴力団員が、仲間の静止の声も聞かずに一人でマリが隠れている壁に突っ込んでいった。

無論、死体となって味方の目の前に姿を現すことになってしまう。

再装填を終えたマリは、遮蔽物から飛び出し、隠れもせずに撃ってくる関西の暴力団員達に掃射し始める。

次々と銃弾を浴びて倒れていく中、最後の一人が銃弾を浴びて倒れると、断末魔を上げて力尽きた。

 

「東京は・・・厳しい所・・・やで・・・」

 

その特徴的な断末魔を上げたヤクザは、最初に意気込んだ古典的なヤクザであった。

エレベーターに向かおうとすると、後ろから56式自動歩槍を持ったチャイニーズマフィア達が彼女の後ろから撃ってきた。

 

「〔殺せ!金になるぞ!!〕」

 

中国語で叫びながら銃を撃ってくるマフィア達であるが、マリは複数の攻撃型手榴弾を投げて応戦し、一気に敵を纏めて倒していく。

天上まで血が付着した後、まだ息のある者をM4カービンで始末した後、エレベーターに乗って、標的が居るとされる最上階まで向かった。

今彼女が乗っているエレベーターは、出入り口と天上、床以外はガラス張りであり、後ろを振り返れば雨が降りしきる新宿の景色が広がっていた。

段数の確認をしていると、別のエレベーターから銃撃が加えられ、頬を負傷する。

 

「もう!こんな所まで撃つな!!」

 

撃ってくる敵に対し、軽機関銃で応戦しながら叫んだ。

多数の銃撃を受けたエレベーターは下に落ちていき、乗っていた敵は悲鳴を上げながら落ちていった。

今乗っているエレベーターに多数の銃撃を受けて、落ちそうになった為、速度を合わせてやって来る近くのエレベーターに飛び移った。

ガラスで肌を傷付ける中、乗っていた中国マフィア達を撃ち殺すなり落とすなりして乗っ取り、到着すれば、直ぐにその階に降りた。

 

「乗ってる最中に撃つなんて・・・」

 

降りたエレベーターを見ながら口にした後、次々と出て来る敵を今持っている機関銃で排除し始めた。

火力押しで出て来る敵を倒す中、銃声に混じってロシア語が聞こえてきた。

持っている銃は、短機関銃を除いてロシア製である。

突撃銃はAKMとAKMS、AK-103、短機関銃はポーランドのPM-84、散弾銃はイズマッシュ・サイガ12だ。

 

「〔ぶっ殺せ!金は俺達の物だ!!〕」

 

外の雨にも負けないほどの銃弾の雨に、マリは遮蔽物に釘付けにされるが、殺意の波動を発動して室内にいる敵から戦意を奪おうとするが、敵は怯むだけであり、体勢を立て直して銃撃を再開しようとする。

この隙を逃さず、機関銃を倒れているマフィア達に撃ちながら前進した。

遭遇する敵を排除しながら最後の階まで辿り着くと、壁に凭れてマリは一息ついた。

途中でミニミの弾は切れたのか、捨てられており、残るM4カービンとP229の弾薬も残り少ない。

 

「後、五十人って所かな・・・?」

 

今まで殺してきた敵の数を数えてみると、落ちていた缶の蓋を開けて、それを口に含んだ。

一気に飲み干した後、立ち上がって待ち受ける敵の真正面から飛び込んだ。

 

「き、来たぞ・・・!」

 

旧ソ連のDShk重機関銃を構える雇われた傭兵が、突っ込んでくるマリを見て全員に知らせた後、引き金を引いた。

他の傭兵達も東西入り見混じった銃をマリに向けて、バリケード越しから撃ち始める。

凄まじい五十人が持つ銃に対し、マリは瞬間移動で回避し、物陰に隠れながら最後のスタングレネードをバリケードに向けて投げ込んだ。

 

「うわぁ!?スタングレネードだ!!」

 

拾って投げ返そうとするが、直ぐに爆発し、マザイを守る傭兵達全員の目が眩んだ。

銃撃が薄くなった好きに、マリは残っている攻撃型手榴弾を全て投げ込み、相手を次々と爆風で殺傷した。

辺りを爆発で出た煙が覆う中、ダークビジョンを発動してまだ煙の中で反撃しようとする敵を撃ち殺していく。

全員が物言わぬ死体に変わると、弾も無くなったM4カービンとP229を捨てた彼女は、標的の居る部屋のドアを蹴破り、中へ入った。

 

「クッ・・・!化け物めぇ!!」

 

部屋の中にはマザイを始めとした組織の者達が、入ってくるマリに銃を構えて待ち構えていた。

直ぐには撃たず、FN F2000ブルパップ型自動小銃やFN SCAR L型突撃銃を構える副官と部下達も腰駄目で構えたまま引き金を引かず、標的にされているマザイでさえ、イスラエルの大型自動拳銃デザートイーグルを構えたまま椅子に座っているだけだ。

後ろにも特徴的な形の短機関銃FN P90を持った二人が構えており、彼等も引き金に指をかけたままその場に立っているだけである。

 

「お前も同じ答えを・・・」

 

椅子に座るマザイに殺気を放ち、銃を握る手を震わせる。

他の部下達の手に持つ銃も震え始めた。

 

「ど、どうせ貴様はここで死ぬんだ・・・!武器はその刀とナイフだけだからな!四方八方から銃口を構えられては、瞬間移動しても逃れられはせん!さぁ、大人しく首を我々に差し出せ!!」

 

少し震えながらも、マリに首を差し出すよう告げるマザイは椅子から立ち上がり、安全装置を外してマリの胸に照準を構えた。

全員の銃口が向けられる中、マリは暫く目を瞑ってから殺意の波動を発動し、後ろで銃口を構える一人をコンバットナイフで刺し殺し、もう一人を居合い刀で斬殺しながらP90を奪い、銃を向ける組織の兵士達を連射で撃ち殺していく。

マザイからの銃弾を左肩に受け、P90を手放してしまう。

全員が倒れて、息をしなくなったのを確認すると、机からする呻き声の元へと向かった。

 

「この化け物め・・・!ゴフッ!高が3600人程度を殺した程度で、我々には勝てん・・・!ゴハッ、ゴハッ!!」

 

胸に数発ほど受けたマザイは血を吹き出しながらマリに告げる。

等の彼女は標的である重傷の男を無理矢理立たせ、首元に刃を向けながら割れた窓の方へ向かう。

 

「何をする気だ・・・!?止せ・・・!止めろ!!」

 

引き離そうとするが、思った通り力が入らず、自分より慎重の低い女性に窓まで運ばれる。

 

「止めろ!なんでもする!だから命だけは!!」

 

まだ負傷してない頃の威勢は消えており、命乞いまで始めたマザイ。

マリはその言葉を一切聞かず、マザイを負傷した左手で遙か下の道路に向けて投げた。

 

『ウワァァァァァァァァァァ!!!』

 

悲鳴が聞こえなくなった後、彼女は刀を鞘に収め、落ちていたP90を予備弾倉と共に拾い、この場を後にした。

大きな穴が開いた左肩から血が噴き出す中、近くのエレベーターに乗り込み、一気に1階まで降りる。

1階まで到着すると、雨はもう止んでおり、雨雲は腫れつつあった。

出血しながらビルの外へ出ようとすると、大多数の男達が武器を持って待ち構えていた。

 

「はぁ・・・またいっぱい殺さないと・・・!」

 

マリは溜め息をつきながら、目前にいる様々な物を武装した1400人に突っ込んでいった。




ん?今なんでもするって言ったよね?

長いな・・・これ、本当に読んでくれる人が居るのだろうか・・・?


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殺戮の後で

前回のあらすじ

東京都知事「解せぬ」

今回は短めです。それと新キャラ登場。


敵主力3600人と標的であるマザイ・コアラーを殺害することに成功した。

しかし、遅れてやって来た1400名からなる在日朝鮮人と韓国人で編成されたコリア連隊が現れ、自棄を起こしたマリは真正面から突っ込んだ。

 

「あ、あれは・・・!?」

 

だが、ある者を空に見て足を止めた。

それは空から身長180㎝程の碧い髪の青年が降りてきたからだ。

目の前にいる無数の敵も、目の前で殺戮を行った女に武器を向けるのを止めて、何も無しに腕組みをしながらゆっくりと降りてくる青年に視線を取られる。

青年は地面に足を付けると、1400人に右手を向け、それを翳した。

次の瞬間、1400人が短い悲鳴を上げて灰となって消え去った。

道路が黒い炭で染まる中、恐るべき力を見せつけた青年に対し、マリは後ろへ下がり始めた。

それを見た青年は優しい笑みを浮かべながら、マリに敵ではないことをアピールする。

 

「大丈夫だって、俺は味方だからよ。別にあのムガルとか言う、訳分かんない連中の仲間じゃねぇから」

 

そう警戒心を抱く彼女に告げる青年であるが、マリは体勢を崩した。

 

「おい、どうした!大丈夫か・・・?」

 

「大丈夫よ・・・!このくらい・・・!」

 

青年からの心配を他所に、必死に立ち上がろうとするマリであるが、視界は霞んでいき、徐々に力が入らなくなる。

 

「こんなの平気・・・」

 

「てっ、おい!マジで大丈夫か!?」

 

その一言を言った後、マリは大理石の上に倒れた。

倒れた彼女を見て、青年は無事を確認する。

 

「息はあるようだな・・・じゃあ、衛生兵でも呼んで、病院に運んで貰うか」

 

マリがまだ生きていることを確認した青年はポケットからスマートフォンを取り出し、本部と連絡を取った。

 

「俺の出番は無さそうだな・・・帰るか・・・」

 

一部始終を見ていたガイドルフは、得物のモーゼルC96を構えていたが、自分の出番はないと判断し、この場を去る。

 

 

 

暫くして、マリは不可思議な光景が広がる虚無の世界にて目を覚ました。

先程負った傷は全て完治しており、足も手も身軽に動いた。

ベンチがある小島へと移動し、そこへ腰掛けるとアウトサイダーが姿を現す。

 

「やぁ、マリ。偽善に満ちあふれた世界で、殺意の波動を取り戻し、標的の殺害に成功したようだな」

 

突然現れた生気の無い肌の青年は、一連の行動を語った。

 

「どうして・・・それを・・・?」

 

「”いつでも見守る”と言ったろ?お前の行動は手に取るように分かる」

 

その言葉に、マリは動揺を見せる。

 

「まぁ、言わないでおいてやろう。前の者は殆ど気にしてはいなかったがな。では、本題に入ろう」

 

次の言葉にマリは落ち着きを取り戻し、アウトサイダーからの話しに集中する。

 

「お前の吹雪を召還できる能力シュネー・トライベンは1941年8月6日のソビエト領北西部にある。ワルキューレならその世界へ行くことなど容易いことだろう」

 

自分の能力が、1941年8月のソ連領にあると聞き、表情が堅くなる。

 

「運が悪ければ、黒い十字軍と赤い防衛軍との戦いに巻き込まれる・・・それを覚悟の上で行くのだな、お前は?」

 

「もちよ」

 

アウトサイダーからの問いに、マリは即答した。

 

「そうか。お前がいつの日か完璧な存在となり、数々の世界を崩壊から救う勇者となることを祈ろう。では、お前を元の世界へ戻すぞ」

 

それをアウトサイダーが告げた後、マリの視界が霞み、やがて真っ暗になった。

次に目覚めて視界に入ってきたのは、麻奈美の顔であった。

 

「あっ、起きましたよ!」

 

「皇帝陛下!!良かった・・・!」

 

麻奈美からの知らせにノエルは直行し、マリが目覚めたのを見て、安心した。

見える白い天上からの視線を変える為、身体を起こす。

変わった視点には、こちらに向けて笑みを向ける京香と女性医師が居り、ワルキューレの日本支部と分かる。

 

「よっ、目覚めたか?」

 

左から聞き覚えのある男の声がしたので、振り替えて睨み付けてみると、自分を助けに来た青年がそこに居た。

 

「あんた・・・なんでここに・・・!?」

 

「おいおい。前にも言ったが、俺はムガルとか言う訳の分からん連中のお仲間じゃねぇ」

 

マリに指差しながら告げる青年は、最初に会った時のアピールをした後、自己紹介を始めた。

 

「俺はこう見えてもワルキューレの16人いる幹部の一人、火焔丸だ。まぁ、あの中で一番の年長だがな」

 

「へぇ・・・そう」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら自己紹介した火焔丸に、マリは適当な返事をした。

この返事の仕方に、慌てたノエルが異議を唱える。

 

「だ、駄目ですよ。陛下!この人は一応我が組織の幹部なんですよ!?」

 

「そうですよ、カイザー。初めて見ましたが、これでも幹部らしいです・・・」

 

「お前等、酷いな!俺幹部だよ!?幹部!」

 

酷く例えるノエルと京香に、火焔丸は彼女等にツッコミを入れた。

このやり取りを見ていた女医はクスクスと小さく笑う。

イマイチこの空気には慣れないマリは、言い争うノエルの袖を掴み、虚無の世界でアウトサイダーが言っていた次の能力がある世界への行き方を問う。

 

「ねぇ、あんた等ワルキューレに過去の世界とか行ける機械とか無いの?」

 

「えーと、それは・・・」

 

「あぁ、それは禁じられた事なので。その世界を一々探さないと行けません」

 

マリからの問いにノエルは戸惑うが、京香が正確に答えたので納得する。

 

「まぁ、探すのは楽な事だがな。おっと、忘れる所だった。お前、この世界の人間とはいえ、敵をぶっ倒したんだ。この幾多の功績を称えて、今日から上級大尉な」

 

火焔丸がそれに続いた後、思い出してポケットから階級章を取り出し、それをマリに渡した。

階級章を見たノエルと京香は祝いの拍手をし始める。

 

「おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます。カイザー!上級大尉って・・・大尉の上かな?」

 

「ぶっちゃけ俺等の組織じゃ、階級章なんてあんまり意味無いしな。権限が増えるって所で意味はあっけど」

 

椅子に腰掛けながら渡された階級章のことを告げた後、頭を掻いた。

 

「一応は貰っておくわ・・・」

 

階級章を近くの机に置いた後、マリは火焔丸に告げた。

用件を全て伝えた火焔丸は椅子から立ち上がって、この病室にいる全員に別れを伝える。

 

「それじゃあ、俺帰るわ。なんか俺等より上な御上から呼び出し食らっててな。そんじゃぁお前等、死ぬんじゃねぇぞ」

 

火焔丸は背を向け、手を振りながら病室を出て行った。

唯一の男が出て行った後、京香は思い出したかのようにマリに告げた。

 

「あぁ、そう言えば。カイザーが泊まってたホテルに行ったら、消音器付きの拳銃が入った袋を持った女子高生が居ましてね。拳銃を回収した後、保護者に少年課の婦警と名乗ってそのJKの自宅まで送ってきました。消音器付いた拳銃持ってるから、最初はてっきり何処かの暗殺者なJKかと思いましたよ」

 

「あぁ、あの娘・・・大事に抱えてたんだ・・・」

 

この報告にマリは、一夜を共にした少女のことを思い出す。

 

「まぁ、警察に届けられずに済んだし・・・一件落着?」

 

顎に指を付けながら京香は愛らしく解決を口にした。

だが、それを知ったノエルは怒っているようで、剣幕な表情でマリに問う。

 

「陛下ぁ!成人ならまだしも、学生な少女と一夜を共にした挙げ句、この国では違反な拳銃を忘れるなんてどういう事ですか!?」

 

「拳銃は忘れちゃったけど、女の子と寝たって良いじゃないの。あっちから求めて来たんだし。もしかして・・・妬いてる?」

 

その答えにノエルは顔を赤らめ、静まりかえった。

マリと京香は互いに目を合わせて小さく笑った後、ノエルに落ち着かせる為に謝る。

それから暫くし、マリはワルキューレの化学と魔法が合わさった高度な医学力で早期に回復し、派手に動き回れる程になった。

自分が新宿で起こした惨事が気になった彼女は、資料室に向かって近日中の東京の出来事が記載された資料を読み漁る。

 

「こんな事になってたの・・・」

 

マリが起こした新宿における常人では決してマネは出来ない戦闘は、マフィアとヤクザ、様々な非合法組織の抗争で出た被害と言うことにされていた。

あの灰にされた朝鮮人と韓国人のみで編成された組織の歩兵連隊だって、ガス爆発で片付けられている。

買い溜めされた各社の新聞を読んでも、大規模な抗争としか書かれてはいない。

 

「情報操作と隠蔽工作はちゃんとしているようね・・・」

 

その世界におけるワルキューレの影ながらの活躍に関心を抱いた後、資料室を後にした。

そして、次に彼女の向かう世界は1941年8月6日の第二次世界大戦序盤のバルバロッサ作戦真最中の北ロシアだ。

作戦に参加したナチスドイツ軍の三つある軍集団の一つである北方軍集団が目指すロシア革命の中心地となっているレニングラード(現サンクトペテルブルク)の途中に配置されたソ連赤軍防衛拠点である要塞の何処かに、マリが失った能力の一つ、吹雪(シュネー・トライベン)がある。

次の世界に向かう前に、彼女は現地のワルキューレの諜報部に白紙の手紙を取り出し、お礼の手紙を書いてそれを送った後、ノエル、京香と共に次元転送装置に入り、この世界を後にした。

 

 

 

場所も世界も時は変わって、1941年8月某日の北ロシア。

侵攻してきた枢軸国軍のドイツ軍陸軍北方軍集団の傘下である第18軍に属する歩兵師団の歩兵と自動車が差ほど整備もされていない長いロシアの街路の行進を見ている男が居た。

男は煙草を吸いながら近くの丁度良い石に腰掛けてただ行進している兵士達を見ている。

浅黒い肌と短めの金髪、腰のホルスターに差し込んだ形が特徴的な古い自動拳銃モーゼルC96から察するに、男はガイドルフであった。

行進する列から離れた一人の歩兵が、ドイツ国防軍全軍と武装親衛隊に制式採用されている小銃kar98kをスリングで肩に担ぎながらガイドルフの元に向かってくる。

着ている軍服は灰色であり、腰に小銃の弾薬を入れる弾帯を巻き付け、間にジャガイモ潰し器のようなM24柄付手榴弾を二本挟んでおり、頭にはドイツ陸軍の略帽を被り、ヘルメットは腰に掛けてある。

兵士はガイドルフが煙草を吸っているのを見て、煙草を要求した。

 

「おい、煙草くれよ」

 

煙草を要求する兵士に対し、ガイドルフはポケットから煙草を取り出し、二~三本ほど渡す。

 

ありがとう(ダンケ)

 

ドイツ語で礼を言った後、兵士は煙草を左手に握り、列に戻った。

上空からドイツ空軍の単発急降下爆撃機であるJu-87が数機独自のエンジン音を鳴らしながら通り過ぎていく。

 

「さて、先回りした物の・・・場所を間違えちまったようだ・・・」

 

通り過ぎていくドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の航空機を見て呟いた後、短くなった煙草を水溜まりに捨てた。

 

「ソ連赤軍の拠点でも行って、地図でも書くか」

 

独り言を呟いてから、新しい煙草を口に咥えて、先に火を付けて煙草を吸った。




火焔丸=イメージCV杉田智和

次の世界は、グレートブリテンに敗れた総統閣下が、大粛清しまくって防衛戦力がガタガタなソビエトに攻める独ソ戦初期の北ロシア。
ドイツ国防陸軍の北方軍集団の目標であるレニングラードの途中にあるソ連赤軍の防衛拠点にされている要塞です。
ぶっちゃけ調べて無いんで、要塞なんてあるかどうか分かんないですけど。

ネタバレだけど、マリはどちらにも属しません。言わばたった一人の第三勢力です。
多重クロス世界周り物で、歴史の世界を入れる・・・大丈夫だろうか・・・?
誰かやってたら教えて欲しい物です(笑)


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1941年8月北ロシア
要塞に。


最初の歴史は独ソ戦初期だってばよ!

こんな要塞はレニングラードの防衛ラインには存在しない!と、言う方は感想でお願いします。


1941年・・・

 それはヒトラー政権が率いる大ドイツ帝国(グローズドイチェス・ライヒ)によるポーランド侵攻から始まった第二次世界大戦の勃発から2年が経過し、大英帝国(グレートブリテン)との総力戦であるバトル・オブ・ブリテンに敗れた時のドイツ第三帝国の総統アドルフ・ヒトラーは代わりとなる標的を、不可侵条約を結んでいる筈のソビエト社会主義連邦、通称ソ連に定めた。

 侵攻理由は、自身が書いた「我が闘争」で、ドイツ人がより広い生存園に適したのがソビエトの領土だったからだ。ロンメルを始めとした他の側近から怪物と言わしめた彼の計画図には、ソビエト侵攻は事前に組み込まれていたのだ。

 未だに英国を屈服させることには成功しておらず、ドイツ軍首脳部は二正面作戦に懸念を表する。

 だが、ヒトラーは側近達の助言をしりぞけ「土台が腐った納屋は入り口を一蹴りするだけで倒壊する」と豪語し、軍の大半の戦力である300万をソ連国境に集結させ、歴史上最大の作戦を開始しようとしていた。

 

 ヒトラーと軍司令部は、300万の兵力を三つの軍集団に分けた。

 ヴァルヘルム・フォン・レープ陸軍元帥率いるレニングラードを目指す北方軍集団。

 フェードア・フォン・ボック陸軍元帥が率いる首都モスクワを目指す中央軍集団。

 ゲルト・フォン・ルントシュテット陸軍元帥が率いる当時ソ連領内にあったウクライナの首都キエフの奪取を目的とした南方軍集団。

 この侵攻作戦はドイツだけではなく、枢軸国に入ったフィンランド、ルーマニア王国、ハンガリー王国、イタリア王国、スロバキア共和国、クロアチア独立国も参加した。

 他に支援国としてスペインから青師団、ドイツの傀儡政権下のフランスから反共フランス義勇団も参加している。合計兵力を合わせて320万に達していた。

 一方の枢軸国の主要国であるアジアの大日本帝国はこの作戦には参加しなかった。

 元々ノモハンで陸軍の関東軍が手痛い目に遭っており、それにソ連領内に侵攻などする気も無かったからだ。

 

 このソ連侵攻作戦の名を赤髭(バルバロッサ)作戦と名付けた。

 神聖ローマ皇帝だったフリードリヒ1世の渾名である”バルバロッサ”から取った物だ。フリードリヒ1世の実績から対ソ戦に相応しいとされている。

 

 作戦はナポレオンがロシアに侵攻した同じ日で月、6月22日に開始された。ヒトラーはナポレオンが成し得なかったロシア征服を為し遂げようよしたのだ。

 それに対するソ連赤軍は、2年ほど前に始めた冬戦争で侵攻した小国フィンランドに叩きのめされた挙げ句、戦間期である30年代後半に時の書記長ヨシフ・スターリンによる反対派の軍人の大粛正を行った為、赤軍の指揮力は貧弱その物だった。

 瞬く間に侵略者であるナチスドイツを始めとした枢軸国に敗北し、損害を拡大していく。

 だが、侵略軍は差ほど整備されておらず、時期が梅雨である為にぬかるんだ泥に足を取られ、進撃速度が低下した。

 そればかりか補給線も伸びきってしまい、パルチザンと呼ばれる共産抵抗勢力の攻撃に貧弱となり、ソ連赤軍が撤退の際に行った焦土作戦で計画も大幅に遅れを生じた。

 さらにはKV-1重戦車とT-34中戦車の装甲の厚い戦車の出現により、ドイツ軍は自国の対戦車の火力不足を実感させられた。スターリンの大粛正から免れた優秀な将軍に自国の環境と戦車の御陰で、ソ連はなんとか持ち堪えることができたのだ。

 

 話はマリが能力のある場所へと変わる。

 彼女の能力がある場所は、北ロシアのドイツ軍北方軍集団の進撃路にあるレニングラードの防衛ラインのソビエト赤軍北部戦線に属する部隊が守る要塞の内部である。

 作戦開始から2ヶ月が経っている為、要塞を守る赤軍は撤退してきた友軍部隊で拡大しており、警備態勢も一筋縄ではいかないほど厳重だ。付近にある町にも再編された部隊もあり、町全体もそれなりの警備が敷かれている。

 厳重な警戒態勢のソ連赤軍北部戦線の要塞にマリがそこへ侵入しようというのだ。

 歴史上最大の地獄の戦争となったこの地に、マリは足を踏み入れた。

 

「回収ポイントはドイツ国防軍占領下のこの地です。ここなら誰にも見られることは無いでしょう」

 

 後ろにいる背中にドラムマガジンが特徴的なPPsh41を掛け、緑色の戦闘服を着てウシャンカを被った男がマリに地図を見せ、回収ポイントを指差しながら告げた。

 今マリが着ているのは、当時ソ連の女性民間人の衣服だ。彼女はスカートが短くないことを気にしていたが、当時の女性からすればこの長さが常識である。

 

「これが装備一式です」

 

 兵士から先程の地図が入った鞄と消音器の付いた回転式拳銃ナガンM1895に折り畳みが可能なポケットナイフを渡され、拳銃は一緒に渡された鞄に入れ、ナイフはポケットに入れた。

 

「では、自分はこれで。ご健闘をお祈りします」

 

 装備一式を渡した兵士は敬礼してから後ろにある白い光の中へと向かい、姿を暗ました。白い光が完全に消えると、マリは目的地である要塞へと向かった。

 街道を沿って第一目標である町へと進んでいると、兵員を乗せたトラックが数台ほどマリの隣を通り過ぎた。

 荷台には小銃や皿形弾倉が特徴な軽機関銃を持った兵士達が乗れるくらい乗っており、最後のトラックの荷台に乗っている兵士達は、マリの姿を見ると、笑みを浮かべて手を振る。これに対し、彼女は優しく微笑んで手を振って答えた。

 

「はぁ・・・帽子が必要なようね・・・」

 

 溜め息をついて、帽子が必要なことを悟った彼女は、左耳に付いた超小型無線機に左人差し指を付ける。

 指を軽く無線機に押し当てることで、相手に通信を入れられる仕組みだ。別の世界にいる相手は、マリからの通信に出る。

 

『あぁ、我が皇帝(マイン・カイザー)。通信を入れてくれてありがとうございます』

 

 通信に出た相手は直属の上官に当たるノエルであった。

 

「それ良いから。でさ、帽子屋とかこの近くにある?」

 

『帽子屋さんですか・・・ありませんね・・・落ちてないか周囲を探してみます』

 

 問いに即座に答えたノエルからの通信はしばらくの間、微小に聞こえる機械音になる。マリは「帽子がそう都合良く落ちてない」と思いながら返答を待っていると、思い掛けない返答が返ってくる。

 

『ありました!北西を13m進んでください』

 

 予想にしない答えに従って、ノエルが示した方向へと足を進めた。言われたとおりの距離に進むと、草原の中にマリが今身に着けているベージュ色の上着と同じ色で、女物の帽子があった。

 帽子を手にとって被ると、ノエルに報告する。

 

「あったわ。何か・・・効果ある?」

 

『いや・・・特に・・・』

 

 マリを遙か彼方の真上から見ているノエルは、今見ている彼女からの問いに「変化無し」と答える。

 

「そう・・・じゃあ、何かあったら連絡するわ」

 

『はい。では、気を付けてくださいね?陛下』

 

 ノエルからの無線を切ったマリは、被っている帽子を取って調べてみた。帽子に何かメモのような紙が挟まっており、それを取って書いてある内容を読む。

 

「”あんたにとっておきの潜入道具を渡しておく。被るとあんたの美貌は隠せる。あんたに惚れたファンより”これ・・・あいつじゃん」

 

 メモの最後に書かれた文章を見たマリは、この帽子をここの草原に置いた人物を、直ぐにガイドルフ・マカッサーと判断し、その男の事を口にする。

 上空に見える数機ほどの赤い星のマークを左右の主翼に付けたレジプロ機の航空機が目的地の方向に飛んでいくのを見て、街道に戻り、目的地へと再び足を進めた。

 先程の軍用トラックとは型が違うZIS-5と言う違うメーカーのトラックが、荷台に歩兵を乗せながら目的地に向けて走り去っていく。暫く通り過ぎていくトラックを避けて進んでいくと、第一の目的地である町が見えた。

 

「着いたね・・・」

 

 さらに遠くに見える要塞を見ながらマリは呟く。町の入り口に入ると、モシンナガンM1891/30小銃を持ち、腰に専用の弾帯を巻き付け、頭にヘルメットを被った兵士が彼女に声を掛けてきた。

 

「見ない顔だな。この町の親族の者か?」

 

 本来ならマリの美貌を見た男はにやついた笑みを浮かべながら声を掛けて来るが、帽子の鍔で顔が見えないのか、或いは帽子の効果で美貌が隠されているかである。

 

「(あの気色悪い笑みが無い・・・?)」

 

 声に出さずに思いながらマリは兵士が問いに合わせた。

 

「えぇ、親族を引き取りに・・・」

 

「そうか。なら、なるべく急いでくれ。ファシストの軍勢がもうすぐこの要塞に迫ってる。第一防衛ラインが奴らの戦車に軽々と破壊され、今第二防衛ラインの我が軍の戦車隊が必死に奴らを食い止めている。もうすぐここまで来ることだろう。早くしろよ。ここでの戦闘が始まる前に、早くお前達市民を避難させたい」

 

 真剣な表情で告げる兵士に、マリは女性らしい笑みを浮かべて答えた。

 

「分かりました。直ぐに親族を連れて出て行きます」

 

「そうしてくれ。市民を守りながらの戦闘はしたくない」

 

 最後に兵士が言うと、マリは町の奥へと向かった。

 通りは馬車や車に荷物を出来るだけ積んでこの町から疎開しようとする市民で溢れかえり、歩道を歩いていても、持てるだけ自分の荷物を持った人々で混雑している。

 町から疎開する人々を、整理するのは警官達であるが、人数が足りないのか、小銃や短機関銃を背負った兵士達まで整理に参加していた。

 彼等とは逆な方向へ進むマリは、次から次へと来る人を避けながら要塞へと進んで行く。やがて人混みを抜けると、要塞付近まで辿り着くことに成功する。

 警備の兵士が小銃に付いた紐を持ってそれを肩に担ぎ、二人組を組んで巡回していた。マリの姿を見るなり声を掛けてきた。

 

「避難勧告が出ております。民間人の方は早急にこの町から離れてください」

 

 町の入り口に居た先の兵士と同じ装備をしている兵士がマリに勧告するが、もう一人の兵士が笑みを浮かべながら割ってはいる。

 

「イーゴリ、きっとこのお嬢さんの恋人があの要塞に居るんだ。通してやれ」

 

「何、お前。同志要塞司令官殿からの命令では市民を要塞には入れるなと言う事だぞ?お前、何か変なことをこのご婦人にしようって言うんじゃないだろうな?」

 

「ち、違う!そんなやましい事なんてこれポッチも・・・」

 

「フン、まぁいい。丁度あそこに同志の女兵士が居る。あの女兵士にご婦人を送ってもらうか。おい、そこの同志!」

 

 一喝されたもう一人の兵士は口ごもり、一喝した兵士はたまたま通りかかった同じ軍服に略帽を被り、長い茶髪を後ろで留めた女性兵士に声を掛け、マリをその女性兵士に送ってもらうことにする。

 

「同志、勤務中に済まないがこのご婦人を町の外に案内してくれ」

 

「はい、分かりました。同志伍長殿。さぁ、こちらへ」

 

 この指示に、女性兵士はマリの前に立って伝える。彼女は何の抵抗もせずに応じ、同じ小銃を持った女兵士の後へと続いた。何故マリがそんな指示に従うかは理由があった。

 それは今前にいる女兵士から軍服を奪って変装して要塞に潜入するためだ。巡回する兵士から見えない距離にまで達すると、近くの4階建ての建物に入り、案内する女兵士を誘いの言葉を掛ける。

 

「あの・・・トイレに行きたいです。それに町の人達の噂で火事場泥棒をする人が居ると言いますし、怖いのでついてきて貰います?」

 

「はぁ・・・では、ついていきます」

 

 溜め息をつきながら女兵士はマリと共に建物に入った。

 女兵士は入るなり、誰か居ないか確認する為、声を上げる。

 

「誰も残ってはいませんか?お手洗いを借りたいのですが?誰も居ないみたいね。では、行きましょう」

 

 4階にまで聞こえる声量で問うが、返事が無かったので、勝手に借りることにする。

 先に女兵士が浴室にトイレを見付けて入ると、マリも一緒に入り、出入り口のドアを閉め、鍵を掛けた。

 

「さて、早く済ませて・・・何をして・・・?」

 

 突然自分の衣服を脱ぎ始めたマリに、女兵士は驚く。さらに帽子を取ると、女兵士の驚きはさらにました。

 

「一体何を考えて・・・それに・・・美しくなってる・・・!?」

 

 驚きを隠せない女兵士は肩に掛けてあった小銃を向けようとするが、マリの方が早く、腹に強烈な一撃を食らい、気絶した。

 

「軍服ゲット・・・」

 

 気絶させた女兵士に近付き、マリは彼女から軍服と装備をはぎ取った。

 服と着て装備も身に着けたマリは、自分の姿を鏡で見て潜入は駄目だと思う。

 

「なんか目立っちゃうかも・・・」

 

 顔を見ながら呟くと、気絶させた女兵士が持っていた化粧を取り出し、地味目に見えるようにメイクした。

 

「これで良し・・・」

 

 地味目になった自分の顔を見てマリは小銃を抱え、始めから持っていた鞄も肩に掛け、下着姿になっている女兵士に自分の衣服を着せると、建物を出て行った。

 軍隊手帳や身元を証明する物で、女兵士の名を知れば、要塞の出入り口まで向かう。要塞内部に入ろうとするが、検問の下士官に捕まる。

 

「おい、同志一等兵。任務はどうした?」

 

 目付きの鋭い大柄の下士官が、赤軍女性兵士に化けたマリに問い詰めてくる。この問いに対し、彼女は直立不動状態を取り、敬礼しながら答えた。

 

「ハッ!同志軍曹殿。マリーナ・ボドロフ一等兵、巡回任務を終了しました!」

 

 似合わない演技をしながら答える変装したマリに、下士官は彼女を要塞の中へと招き入れた。

 

「うむ、ご苦労。原隊の上官に報告せよ。同志ボドロフ一等兵」

 

「はい、ありがとうございます!原隊に戻り、同志大尉殿に報告します!」

 

 復唱すると、マリは要塞の対空砲や高射砲などが置かれた中庭を抜け、要塞内部へと潜入することに成功した。内部に入ったマリのまず始めに目が入ったのは、前線から運ばれてきた負傷兵が次々と治療室へと運ばれていく光景だった。

 

「大分迫ってるようね・・・」

 

 まだ戦える軽傷者が小銃や短機関銃を持ちながら壁を背にして座っているのを見て、小さく呟き、能力探知機である心臓を何処からか左手で出し、鼓動が強くなる方向を頼りに自分の能力を探し始めた。




次回は北方軍集団の場面を加えようかな・・・
それと第4装甲軍に属していた(過去形)Zbv勢の連中とRUSEのリヒター(ヒロシ将軍)も出さないとね・・・

後、追加で中断メッセージも書くかも?


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何処にある?

ゴステロ「約束ってのはな!守るよりな、破る方が刺激的でおもしれぇんだぜぇ!?」

と、言うことでZbv勢の参戦は無かったんや・・・

まずは反ナチスなヴォルヘルム・フォン・レープ陸軍元帥から・・・


 所変わり、マリが今居る要塞に攻める北ロシア某市の市役所をドイツ国防軍陸軍北方軍集団の司令本部とした司令室にて、軍集団司令官である丸刈りが特徴なドイツ陸軍の元帥であるヴィルヘルム・フォン・レープは頭を悩ませていた。

 

「う~む」

 

 椅子に腰掛け、机に膝を置き、目の前の地図と睨めっこをしながら頭を悩ませている。地図の隣には幾つもの報告書が山積みにされており、そのどれもが被害報告と占領報告、補給問題に関しての報告であった。

 

「レニングラードまで後一歩・・・ソ連軍の北部戦線の要塞を堕とせれば直ぐだな・・・」

 

 地図の今マリが潜入している要塞を鉛筆で突きながら呟くレープ。しかし、進行方向の後方に書かれた罰印を見て、再び頭を抱える。

 

「パルチザンの所為で補給がままならんな・・・前大戦で兵站部長をしていたとは言え、悩みどころだな」

 

 所属部隊の補給不足の報告書を見て、灰皿に置いた煙草を吸い、煙を吐いた。

 現在バルト三国は北ロシアの辺りを自軍の制圧下に置いているが、まだ目標であるレニングラードには近付けてはいない。悪天候と悪路。ソビエト赤軍の戦車の御陰で当初予定が、他の軍集団と同じく狂ってしまっている。

 

「そして前線に出て来るT-34やKV-1という斜面装甲の中戦車や装甲の厚い重戦車だ。Ⅲ号の60㎜でぎりぎりな程度・・・特にKV-2と言う砲塔が馬鹿でかい重戦車には88㎜を撃っても動いて来るときた。こんな戦車に空軍の奴らの急降下爆撃機が必要だが、借りるのに余り時間が掛かる。今回は貸してくれるが、あの堅い戦車が出て来たら不味いな・・・」

 

 ソ連軍の戦車に関する資料を見ながら呟いた。次に、この要塞を陥落させた後の事を考える。

 

「仮に要塞を陥落させ、レニングラードの攻略戦に第4装甲軍は、包囲の後ろをついてくるソ連赤軍の排除に当たらせようか・・・」

 

 自軍部隊傘下の第4装甲軍の扱いについて考えていると、置いてあった電話が鳴り始めた。

 

「もしもし?」

 

 電話に出たレープは、掛けてきた人物からの問いに答える。

 

「あぁそうだ。で、準備は出来たのか?」

 

 相手はドイツ空軍の第1航空艦隊の報告係の将校だ。

 

「なに?爆撃機と急降下爆撃は一個中隊くらいしか貸し出し出来ない?私は二個中隊を要求したのだぞ。なに、それで足りると貴官の上官は申している?くそ、仕方があるまい。随伴の戦闘機部隊を引き連れて出撃せよ。ただし、出来る限りの地上部隊の脅威の排除をせよ。対空砲も高射砲も邪魔なら潰しておけ。用がそれだけなら切るぞ」

 

 空軍の支援の悪さに機嫌を悪くして電話を切ったレープは、外にいる番兵に飲み物を持ってくるよう命じた。

 

「誰か水を持ってこい!たくっ、ゲーリングの豚め・・・!」

 

 空軍司令官であるヘルマン・ゲーリングの悪口を言った後、レープは部下が運んでくる飲み物を待った。

 

 

 

 場所は変わり、要塞へと見事潜入に成功したマリであったが、青い帽子を被った大柄の男達がPPsh41短機関銃を持ちながら目を光らせていた。

 着ている衣服は周りにいるソ連赤軍の将兵達と一緒であるが、帽子は先程言ったとおりに違い、彼等は内務人民委員部、通称MKVDと呼ばれたソビエト連邦の国家機関から派遣された督戦隊だ。

 彼等の任務は自軍部隊の監視で、命令無しに勝手に戦闘から退却・逃亡或いは降伏などする自軍兵士に攻撃を加えることである。そんな戦闘を強制的に続行させる督戦部隊の将兵達を見たマリは感付かれると思い、彼等の目線に入らないように進む。

 

「(なんかやばそうなのが居る。避けた方が良さそうね)」

 

 そう判断して、マリはなるべく見えない場所を進むことにした。

 鼓動が強くなる方向へと進み、着々と鼓動は強くなっていくが、進行方向にMKVDの将校や兵士が居るため、迂回させおえなくなる。

 始末しようにも、周りに他の兵士が居るので出来ない。人気がない場所に向かうと、そこにもドラムマガジンの短機関銃を持ったMKVD兵が居た。幸いここには他の将兵達の目もない為、何事もないように近付き、声を掛けた。

 

「あの・・・通って良いですか?」

 

「おい、見ない顔だな?それに何で一等兵の階級章を・・・」

 

 直ぐに感付いたので、マリはMKVD兵の腹にモシンナガンM1891/30小銃の銃座で強打し、怯ませた。

 

「ファシストのスパイ・・・」

 

 叫ぶ前に顔面を一発強打し、気絶させた。近くの人気のつかない場所にMKVD兵を隠すと、先へと進んだ。

 短機関銃も回収しようかと思ったが、他の将兵達からも怪しまれるので断念する。小銃を担ぎ、心臓の鼓動が強くなる方向へと進んでいき、地下1階に出ると、またもMKVD兵達が、行く手を遮るように立っていた。

 

「(あぁ~、もう面倒な奴らね!)」

 

 心の中で怒りを露わにしながらも、それを表に出さないように努力し、平然を装って他に将兵は居ないか確認した。

 

「(これなら殲滅できそう)」

 

 この場にいるMKVD兵を含めた七人をマークしたマリは、右手で消音付きナガンM1895回転式拳銃を素早く抜いた。

 

「ファシストのスパイだ!!」

 

 抜くところを見た兵士が肩に掛けてあるSVT-10自動小銃を構えようとするが、眉間を撃たれた。他の兵士達も気付いて今持っている銃の安全装置を外して銃を撃とうとするも、早撃ちで撃つ間もなく全滅する。全員が動かないことを確認した彼女は、拳銃の再装填を終えて先に進む。

 

「(あんまりやらない方が良いわね)」

 

 次に進んだ場所でも、持っている拳銃の残弾数で片付けられる人数だが、無駄に繰り返せば、この要塞の全兵力を相手にすることになる。

 彼女は避けられるだけ避け、致し方ない時は排除することに決めた。順調に鼓動が強くなる方向へと近付くと、空襲警報が要塞内に鳴り響いた。

 警報が鳴ったと同時に要塞内にいる将兵達が走り始める。

 

「ドイツ軍の爆撃機だ!!」

 

「配置に着け!」

 

「対空戦闘だ!防衛ラインが陥落したぞ!!」

 

 あちらこちらで怒号が聞こえ、将兵達が階段に向けて走っていく。目の前から来る兵士を避けつつ、鼓動が強くなる方向へと足を速める。対空砲や高射砲の砲声がここまで聞こえて来る。

 

「先には進めないか・・・」

 

 マリは壁を見ながらそう呟いた。

 この先に能力があるのは確かなのだが、行き止まりであり、またも迂回するしかなかった。

 辺りが落ちた爆弾が着弾して揺れ、小さな破片が床に落ちていく中、彼女は階段を目指す。1階に上がる階段を見付けて上がろうとすると、複数のMKVDの将兵達に止められた。

 

「おい、貴様。一体何処の中隊の所属だ?」

 

「出入り口で死体が発見されたんだ。この要塞にファシストのスパイが紛れ込んでいることが分かっている。さぁ、教えるんだ」

 

 TT-33トカレフ自動拳銃を向けながら聞いてくる政治将校に、マリは全員を始末する事にした。

 殺意の波動を発動し、目の前にいるMKVDの将兵達を怯ませる。肩に掛けてある小銃を構え、一人一人の急所を撃ち抜き、確実に殺していく。最後の一人を撃ち殺すとしたが、合計五発を撃ちきったので、ボルトを押し込んで引き金を引いても弾は出なかった。

 

「な、何が起きて・・・!?」

 

 立ち上がろうとする兵士であったが、マリが取り出した拳銃で眉間を撃たれて絶命した。

 

「まぁ、上は煩いから大丈夫か・・・」

 

 そう呟いてその場を後にし、階段を上がって1階に上がる。

 砲声と怒号を辺りに響き、将兵達が慌ただしく動き回っている為、マリもそれに合わせて走り始めた。途中、図面を見て行き方の手順を分かった後、地響きがする要塞の中を急いで移動した。走っている最中に、砲声や怒号に混じって彼女には良くないことを聞こえてきた。

 

「同志大尉殿!大変です!ファシストのスパイが紛れ込んでいます!!」

 

「なにぃ!?こんな時にファシストのスパイが紛れ込んでいるだと!?」

 

「はい!金髪の女です!我が赤軍の軍服を着て要塞内に入りました!!服の持ち主の同志が来たので始めは民間人だと思いましたが、その同志の上官を訪ねたところ、全くその報告は受けてないと言ったんです!!」

 

「そうか!じゃあ空襲が始まってるならスパイはもう居ない!奴はとっくに逃げている頃だ!お前は配置に着け!!」

 

了解(ダー)!同志大尉殿!!」

 

 先程検問の下士官が上官に報告したが、上官はもう逃げていると判断し、部下に配置に着くよう命じた。そのやり取りを最後まで聞いていたマリは、直ぐにこの場から離れ、別の地下への階段を見付け、能力がある地下へと向かった。

 

「(地下二階に私の能力がある。要塞が吹き飛ぶ前に行かないと!)」

 

 自分の能力がある場所を心の中で言ったマリは、直ぐに階段を下がりながら目的の場所へと走る。

 一方の上空では、ドイツ空軍の爆撃機一個中隊が要塞を爆撃した後、Ju87シュツーカ急降下爆撃機の中隊が撃ち落とそうと狙ってくる高射砲を急降下爆撃で潰していく。

 上空での戦闘が激しさを増す中、地上のドイツ陸軍の戦車部隊が見える距離まで迫ってきた。要塞の防衛砲が火を噴いた頃、マリは誰も居なくなった地下2階に来ていた。ここでも外の戦闘音が彼女の耳に入ってくる。

 

「大丈夫かしら?」

 

 小銃を持ちながらマリは自走砲からの砲撃で小さく地響く地下2階を移動しながら呟く。この階にいるのは彼女一人であり、将兵もMKVDも居ない。

 今耳に入ってくるのは地響きと銃声や爆発音、それに自分の足音だけであり、蛍光灯が揺れる中、心臓の鼓動が強くなる方向へと足を進める。鼓動が強い場所まで辿り着いたが、ここも行き止まりであった。

 

「なにかある・・・?」

 

 何かあると踏んだマリは、近くに置かれている銅像を調べ始める。その銅像はロシア帝国の皇帝ピョートル一世の騎馬像である。

 実際の騎馬像は現サンクトペテルブルクことレニングラードにある銅像であるが、この要塞にあるのは同じ材質で造られた複製品であり、室内に入れるため、本体よりかなり小さい。

 

「この銅像、何か仕掛けが・・・?」

 

 騎馬像を調べ回していると、何かに触れたのか、目の前を塞いでいた壁が音を立てて開き始め、通路が現れた。

 

正解(パパダーチ)

 

 ロシア語で言った後、現れた通路へと進んだ。通路には灯りなど一切無い暗闇であり、ダークビジョンを発動しながら進む。通路は何十年も清掃はされては居なかったのか、埃まみれであり、隅っこにはネズミが数匹ほど灯りに向けて走っていくのが目に入る。

 

「造ってから何年経つんだろう?」

 

 何十年も掃除が為されていない辺りを見渡しながらマリは呟く。道行きを進んでいくと、微かに光る物体を確認した。

 

「あれね」

 

 心臓を取り出し、鼓動がかなり強くなっているので、あれが自分の能力と再確認を取る。紫に光る水晶玉を手に取り、それを地面に叩き付けて割った。

 割れた水晶玉に入っていた薄紫の煙がマリの身体を包んでいき、それが消えれば彼女は能力を取り戻すことに成功した。

 取り返した能力はアウトサイダーが予言していた吹雪を起こせる能力、シュネー・トライベンだ。試しに取り戻したばかりの能力を使ってみると、周りに吹雪が起きた。

 

「涼しいけど・・・寒いかも」

 

 マリは使った能力を思い出し、少し使えないと判断して元来た方向へと帰ろうとした。この場所をMKVDに見付かったのか、遠くの方から声が聞こえてくる。

 

『この通路の奥にスパイが逃げ込んだかもしれん。全員警戒しながら進むんだ!』

 

 遠くの方から懐中電灯を持ち、手に銃を持った集団がマリの居る元へと近付いてくる事が分かった。弾の入っていない小銃に弾を入れ込んだ後、向かってくる人の形をした白い光に照準を合わせる。撃てる距離まで敵兵が近付くと、引き金を引いて敵兵を射殺した。

 

「スパイだ!スパイが居るぞ!!」

 

 味方が倒れたので、闇雲に短機関銃を乱射し始めたが、全くマリには当たってない。

 暗闇の中で次々とMKVDの将兵達は倒れていき、最後の一人が逃げだそうとするも、拳銃を二発食らって絶命する。敵を全滅させた彼女は戦利品のPPsh41と弾薬を回収し、元来た道へと急いだ。

 

「確実にバレてる」

 

 増援として出て来たMKVDの兵士達を見て、そう呟き、短機関銃を出て来る敵兵に向けて撃ち始める。

 通路の入り口にいた兵士達は全滅し、階段から下りてくる兵士達も一人の女に呆気なく倒されていく。1階まで上がっていくと、先程上官に報告していた下士官がマリを見るなり叫び、周りの兵士達にスパイだと告げる。

 

「あの女だ!殺せ!!」

 

 下士官は叫んでから持っている半自動小銃を構え、他の兵士達と共にマリを撃ち始めた。急いで彼女は邪魔になる兵士を撃ち殺しながら遮蔽物になる壁に隠れ、銃撃から身を隠す。反対方向からも敵は来るが、PPsh41の連射で一気に撃ち殺され、遮蔽物へと逃げて行く。

 弾が切れたので、回収した袋に入っているドラムマガジンを取り出し、空の弾倉を外して再装填を行った。右側のコッキングレバーを引いて初弾を薬室に送り込み、逃走の邪魔になる集団に銃口だけ出し、乱射して牽制すると、反対方向へと走る。

 次々と小銃を持った赤軍兵士が出て来るが、出て来た途端に連射で撃たれて床に倒れていくだけだ。外での戦闘はドイツ軍の侵入を許したのか、戦車の走行音が銃声に混じって聞こえてきた。

 

「早いところ逃げ出さないと」

 

 前にいた敵兵の喉を銃剣で掻き斬った後、迎撃に向かうT-34/76中戦車とT-26軽戦車、その後へと続いていく歩兵部隊を見ながら呟いた。銃声や爆破音も着々と聞こえ始め、ソ連軍の兵士達はマリには構っている暇はなく、ドイツ軍からの砲撃に身を隠すために塹壕へと逃げていく。

 脱出ルートへ向けて走っていると、M193245㎜対戦車砲を引っ張る一団と鉢合わせになりそうになったが、直ぐに身を隠して通り過ぎていくのを待った。

 

「急げ!早く配置するんだ!!」

 

 士官が拳銃を持ちながら、引っ張る兵士達に怒号を飛ばしているあの対戦車砲では当時ドイツ軍の主力のⅢ号やⅣ号の装甲など打ち抜けない。

 通り過ぎた後、次の建物で身を隠して様子を探っていると、シモノフPTRS1941対戦車銃を担いだ二人組を見たので、対戦車銃を手に入れるべく、後をつける。

 

「何をしている!?お前!」

 

 途中、八人ほどの敵兵がマリの姿を見て声を掛けてきたが、今はあの対戦車銃を持った二人を最優先にしているので、全員を短機関銃で手早く撃ち殺す。八人は反撃も出来ぬまま道路に倒れ込み、まだ息のある者は呻き声を上げるだけだった。

 直ぐに大きなライフルを背負った者と今持っている短機関銃とはやや形が違う短機関銃を持った二人組は、建物へと入った。

 またも敵兵に遭遇したが、彼女は直ぐに銃口を皿形弾倉が特徴なDP28軽機関銃を持った兵士に向けて引き金を引き、小銃を持っていた兵士も撃ち殺した。先程の二人組が入った建物に入ると、凄い銃声が2階から聞こえてきた。

 窓を見てみると、鉄十字マークを付けた38t軽戦車が燃え上がっているのが目に入った。随伴の歩兵がドイツ語を叫びながら2階に向けて小銃や機関銃、短機関銃を撃っているのが分かる。

 

「2階にいる」

 

 直ぐにマリは2階に上がったが、あの二人組と鉢合わせしてしまう。

 

「な、なんだお前は!?」

 

 対戦車銃を担いだ兵士が拳銃を引き抜き、もう一人の兵士がPPD-40短機関銃を向けながら問うが、彼女は直ぐに短機関銃を乱射して二人を殺害した。空になった弾倉を外し、新しい弾倉を袋から取り出して差し込んだ後、射撃手の兵士が持っていたPTRS1941対戦車銃と弾薬係から奪った袋を奪った。

 

「重い・・・」

 

 流石に重量21㎏の大型小銃は重いため、腰に巻き付けてある弾帯と小銃を捨て、ドイツ軍からの銃撃を受ける建物から出た。要塞付近での戦闘が増す中、マリは大きな対戦車銃を抱えながら脱出拠点を目指して移動していた。その間に何名かのドイツ兵とソ連兵と遭遇したが、今持っている短機関銃で一掃した。

 数が多い場所を避けながら進んでいると、ドイツ兵達を下がらせるソ連軍のT-34が見えた。

 

戦車(パンツァー)だ!収束手榴弾を持ってこい!」

 

 MP40短機関銃を持った下士官が、kar98k小銃、MG34軽機関銃を持った兵士達と共に逃げながら指示を出す。幸いソ連軍の戦車はマリの存在には全く気付いてないようである為、目の前で逃げるドイツ兵達に向けて前面機銃や砲塔機銃を撃ちながら前進したままだった。

 直ぐに対戦車銃を側面部に合わせて撃つと、凄い反動で蹌踉めいた後、薄い側面部に弾丸が貫通した音が鳴り、T-34の動きが止まった。砲塔がマリの方を向くが、もう一発砲塔に撃たれたので旋回が止まる。

 仕舞いには拳銃を持った装填手が戦車から飛び出してくるが、先程追っていたドイツ兵達に撃ち殺され、断末魔を上げて砲塔から滑り落ちる。

 

「何が起きた・・・?」

 

 逃げていたドイツ兵達が調べに来たので、F1手榴弾を投げ、その場から逃走する。機関銃を持ったドイツ兵と遭遇するも、短機関銃で乱射して蹴散らした。

 2階建ての民家に入ると、進行方向にⅢ号突撃砲が砲弾を撃ちながら止まっているが、マリは突撃砲を踏み台にして渡ろうと考えた。早速2階から飛び降りて、Ⅲ号突撃砲の上に着地し、そこから一気に次の民家に向かう。踏み台にされた突撃砲の乗員達は排出される大きな空薬莢でマリには気付かず、標的に砲撃を続けるだけであった。

 

「もう少しかな?」

 

 地図を取り出して、自分の現在地を確認した後、迫り来るドイツ兵と戦車を避けながら進んだ。進路上邪魔になるT-26軽戦車が居たが、目の前の敵に精一杯で気付かなかったので、エンジン部を狙ったら一発で破壊できた。

 

「わっ、わぁぁぁぁぁ!!」

 

 燃え盛る戦車から戦車兵が火達磨になりながら出て来たが、彼女には一切関係なく、直ぐ隣を通り過ぎて脱出地点へと走る。少ない人数で居るドイツ兵とソ連兵を排除しつつ脱出地点の距離を詰める。

 進行方向の邪魔になる戦車は通り過ぎるのを待ち、一両だけ居ればエンジン部を狙って破壊した。マリを見付けて砲身を向けるⅢ号戦車のエンジン部を狙って破壊すると、戦闘区域外が見えてきた。

 戦闘区のエリア外の近くまでに辿り着くまでに殺害した人数は両軍揃って百四十名ほどで、戦車はⅡ号戦車二両、Ⅲ号戦車一両、Ⅳ号戦車一両、38t軽戦車一両、Sd kfz251一両、T-26軽戦車二両、T-34中戦車四両、BA-10装甲車一両、合計13両もの戦闘車両を破壊した。

 だが、もう二両とその乗員の十一人を追加することになる。

 

「結構堅い戦車ね」

 

 ドイツ戦車の砲撃とドアノッカーとすら表されたPak36よりもT-34に対抗できるマシなPak38対戦車砲すらも弾くKV-1重戦車を見て呟いた。側面でも砲弾は突き刺さったままであり、ドイツ軍の徹甲弾がまるで的に刺さったダーツのようだった。

 対戦車銃でも余り効果が無さそうな為、マリはKV-1がドイツ軍を追い払うまで待つことにする。砲撃を無意味と判断したドイツ軍がKV-1を放って別ルートから迂回すると、調子に乗った戦車長がキューボラから出て、引いていくドイツ軍に向けて叫んだ。

 

「この戦車を吹飛ばしたいなら88㎜かシューツカでも持ってこい!!」

 

 そう叫んだ戦車長は車内に戻ろうとした。だが、マリに対戦車銃で砲塔を撃たれ、破片で負傷する。開けっ放しのキューボラから負傷した戦車長の声が彼女の耳にも聞こえてきた。

 

「対戦車銃を撃った奴を吹き飛ばせ!」

 

 砲身がマリに隠れている場所に向いたので、マリは急いでその場から離れた。隠れていた一帯が砲撃で破壊や機銃掃射で滅茶苦茶になる中、彼女はドイツ兵の死体から火炎瓶を回収し、先程居た場所に突っ込んでくるKV-1を待った。

 案の定、KV-1は周りの建物を破壊しながら突っ込んできた。双方の兵士から回収した収束手榴弾を投げて、さらに挑発する。

 

クソ(チィリモー)!あの女、巫山戯やがって!」

 

 爆発で揺れる車内で、頭から血を流している戦車長はさらに冷静さを失っていく。やがてマリを追い詰めたと戦車長は、砲塔後部の機銃に付いて、後ろを見張った。

 

「さぁ、出てこい・・・!この機関銃で綺麗な顔諸共ズタズタにしてやる!!」

 

 照準手に前方を見張らせ、自分は後方を見張る興奮状態の戦車長は、砲塔後面機関銃を構えながら叫んだ。

 だが、彼女は後ろから来るのではなく、側面から火炎瓶に火を付け、エンジン部に向けて投げ込んだのだ。エンジン部に当たった火炎瓶は割れ、忽ち中の可燃性の高い溶液に灯が灯り、エンジンが燃え始める。

 

「か、火炎瓶がエンジンに当たった!みんな逃げるんだ!!」

 

 直ぐに煙の臭いを察した戦車長は全員に戦車から脱出するよう命ずるが、時は既に遅く、エンジンに引火して詰まれてあった弾薬に引火して爆発を起こした。乗員は出られる場所から車外に飛び出すも、間に合わずに爆発に呑まれて焼死する。

 燃え盛る死体とKV-1の残骸を見ながらマリはその場を後にし、脱出地点へと急ぐ。左耳に付いている超小型無線機に左手の指で触れ、ノエルに連絡を取った。

 

「今から脱出地点へ向かうわ。準備して!」

 

『はい!直ちに掛かります!!』

 

 直ぐにノエルは転送準備を始めた。しかし、脱出地点までもうすぐな所で茂みから飛び出すと、ドイツ軍の装甲部隊と遭遇してしまった。

 

止まれ(ハルト)!!」

 

 短機関銃を持つドイツ軍の兵士に止められたマリは、大人しく手を挙げて持っていた短機関銃を捨てる。周りから小銃を持った兵士達が集まる中、無線指揮車型のSd Kfz250に乗った耳が少し尖った将官クラスの男が装甲車に乗ったまま問う。

 

「ダミアン曹長、そのお嬢さん(フロイライン)はどうした?」

 

「ハッ、リヒター閣下。突然茂みからソ連軍の女兵士が飛び出したのであります!」

 

「よし、憲兵などに渡して後方に送ってもらって・・・」

 

 リヒターと呼ばれる将官が言い終える前に強烈な砲声が鳴り響き、目の前にいた兵員輸送車が吹き飛んだ。辺りから叫び声が聞こえ、対戦車砲を押して迎撃に向かう兵士達が見える。

 この間にマリはどさくさに紛れて逃げだそうとしたが、Ⅲ号戦車J型が行く手を遮る。戦車長がキューボラから出て、マリに退くように叫んだが、これが彼の最期の言葉だった。

 

「邪魔だ!退けぇ!!」

 

 砲撃された戦車は爆発し、ただの燃え盛る廃車となった。指揮車に乗ったリヒターも、この場にいる部下全員に後退命令を出す。

 

「総員後退だ!巨人(ギガント)だ!我が部隊の火力ではとても適わん!!」

 

 その後、指揮車も持てるだけの兵器を持って後退ドイツ兵達と撃ちながら下がる戦車と共にマリが見えない距離まで後退した。辺りは砲撃でやられたドイツ兵の死体や残骸で広がっていた。直ぐにマリは脱出地点まで向かったが、先程のソ連軍の戦車に砲撃され、近くの茂みに吹き飛ばされる。

 

「何なのよ・・・もう・・・!」

 

 泥だらけになったマリは立ち上がって辺りの様子を見ると、巨大な砲塔とKV-1の車体を持つ重戦車が目に入った。

 その戦車はKV-2と呼ばれる当時のソ連赤軍の重戦車だ。152㎜榴弾砲を持つこの戦車は、砲塔でもKV-1を上回る装甲を持ち、ドイツ軍でも倒すのに航空支援が必要とされているほどの戦車である。

 対戦車銃を取り出そうとしたが、帽子共々何処かに飛ばされており、さらには折れて使えなくなっていた。

 

「はぁ・・・こいつ倒さないといけない?」

 

 マリは無線機に手を当ててノエルに聞いた。

 

『はい、排除してください。あの戦車が居る限り、貴方の転送は許可されません』

 

「そうよね・・・」

 

 苦笑いしながらマリは十五両目を撃破するべく、強力な重戦車であるKV-2に立ち向かう事となった。




次回は読んで分かるとおり、カチューシャたん大好きなKV-2というバカでかい重戦車戦です。
スペックは何故か試作車よりも強化され、IS-3よりも鬼強くなっております。


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対巨人戦車KV-2戦

ちなみにこのKV-2重戦車。
装備魔法カードで通常の三倍の能力になっております。

字が足りないので、後半は別の世界のを・・・


 この世界から逃走するために、マリはKV-2と呼ばれる巨大な砲塔を持つ重戦車と戦うことになった。

 だが、砲撃でPTRS1941対戦車銃を使用不能にされ、手が出せない状態に居る。他の対戦車火器は、あの巨人戦車の射程範囲内にあり、何かで気を逸らさないと回収できない。

 

「どうしよう・・・」

 

 エンジン音を唸らせながら巨大な砲塔を周囲に旋回させるKV-2を見て、物陰に隠れて策を考える。周囲にある武器と死体を茂みから見て、使えそうな物を探す。

 

「やるしかないわね」

 

 消音器の付いたナガンM1895回転式拳銃を取り出し、KV-2に向けて撃った。

 全く効果はないが、気を引かせることには成功する。もう一発撃って、自分の位置を知らせると、急いでそこから離れた。数秒後、砲声が響き、先程隠れていた茂みが吹き飛んだ。

 

「あんなの食らったら粉々じゃない」

 

 黒い炭だけになった茂みを見て呟き、長い薪を取って落ちているMP40短機関銃を取ろうとした。PPsh41があったはずだが、それも砲撃を受けた後に飛ばされたらしく、遠くの方で短機関銃が無惨な姿を晒している。紐に引っ掛けてドイツ製の短機関銃を回収すると、それを持って使えそうな武器を探す。

 

「あの対戦車ライフルを・・・」

 

 パンツァービュクセ(略称PzB)39と呼ばれるドイツの折り畳み式対戦車銃を発見した。あの巨人戦車に急襲されて横転したトラックに積んであった物が、他の武器や弾薬と共に草村の上に落ちたようだ。

 身を屈めながら茂みから出て、その対戦車銃と弾薬を回収し、別の隠れられる場所へと走る。近くの死体から短機関銃専用ポーチも回収して折り畳みの対戦車銃を開いて構えた。

 

「履帯を狙えば・・・!」

 

 履帯に照準を合わせ、引き金を引いた。強い反動が右肩に来て、大きな銃声が鳴り響き、対戦車弾がKV-2の履帯に向けて飛んでいく。

 だが、巨人戦車は数㎝ほど前進してしまい、弾丸は車体に突き刺さった。

 

「はぁ・・・!?」

 

 なんと運が悪いことだろう。

 履帯を狙ったはずなのに、全く意味もない履帯部分の右車体に弾丸は突き刺さったままであり、それを見たマリは驚愕した。後ろへ下がったKV-2は突き刺さった弾丸を意図も簡単にへし折り、砲身を旋回させる。

 幸いKV-2は全くマリの存在に気付いていないらしく、周囲を回って煙幕を張ろうとしていた。ゆっくりであるが、煙が上がり、車体が隠れる。

 しかし、巨大な砲塔までは隠れなかったが、マリを発見することに成功する。

 

「不味い!」

 

 砲身がこちらに向いたので、対戦車銃を持って急いでそこから離れる。砲声が響くと、隠れていた場所は吹き飛び、マリは爆風の衝撃で倒れてしまう。倒れた彼女は空かさず立ち上がって、前面と砲塔の二門からの機銃掃射から逃れようと、岩まで走る。

 煙から来る機銃掃射を避け、身体を打ち付けながら岩陰に隠れた。岩に銃弾が当たり、跳弾するなどして、マリを岩に釘付けにする。

 

「移動しなきゃ・・・!」

 

 岩に隠れながら他の狙える場所を探すマリであるが、機銃を撃ちながらKV-2は彼女の元へ向かってくる。二門の機関銃の銃声とエンジン音、走行音が着々と近付いてくる間に隠れる場所が見付かった。

 そこへ瞬間移動する。見付けた場所は、横転したSb Kfz251装甲兵員輸送車である。

 M24柄付手榴弾が何本か落ちており、爆薬を収束した手榴弾もあった。

 先程の岩を砲撃で吹き飛ばした巨人戦車は周囲を探るべく、中央にやって来る。背中を晒したKV-2にマリは対戦車銃を構えた。

 だが、砲塔後部機銃が火を噴き、元の場所へ瞬間移動で戻った。

 機銃に付いていた乗員は突然消えたマリに驚き、車内にいる乗員に知らせる。この間に戦車は行動を停止した為、この機を逃さず、彼女は飛び出して持っている対戦車銃で履帯を破壊した。

 

「やっぱりあれが効いた・・・!」

 

 そう確信したマリであったが、後部機銃は再び火を噴き、右腕に一発掠って、PzBを落としてしまう。直ぐに瞬間移動で別の場所に隠れ、チャンスを待った。

 身動きが取れなくなったKV-2だが砲塔は回るので油断は出来ない。勝てる見込みはあるので、僅かな勝機に賭け、血が吹き出る右腕から来る痛みを我慢しながらマリは、蓋を外した収束手榴弾を持って、隠れている場所から飛び出した。

 砲塔は前を向いており、側面には機銃も無いので、彼女を容易に接近させてしまった。

 

「これで・・・終わり(カニェーツ)!!」

 

 最後をロシア語で叫んだ後、左手で収束手榴弾の安全紐を抜いて、エンジン部に向けて投げ込んだ。勢い余ったのか、跳ねてしまい、上で爆破してしまう。

 

「あっ・・・」

 

 跳ねて上で爆発した収束手榴弾を見て、マリは次の瞬間、死ぬかと思った。

 だが、運良くドイツ軍に助けられた。二門の88㎜高射砲を用意したドイツ陸軍が戻ってきたのだ。

 

撃て(ファイア)!!」

 

 砲身はKV-2を捉え、88㎜徹甲弾を装填すると、指揮官の怒号の後に砲声が響いた。

 しかし、砲弾は突き刺さったままであり、あえなく152㎜榴弾砲で一門が砲兵達と共に吹き飛ばされた。残る一門は、もう一発撃った後、砲塔が自分達の元に向けられる前に一目散に逃走し、なんとか助かる。余り役に立ってないような印象のドイツ軍高射砲部隊であったが、十分に時間を稼いだ。

 破片が左肩に刺さったマリは、それを引き抜いて車体に乗り上げ、砲塔に上がる。

 取り戻した能力、吹雪(シュネー・トライベン)を発動し、照準器とペリスコープを曇らせる。全く意味もない行動に見えるが、一時的に視界を塞ぐことに成功した。

 砲塔の砲口から手榴弾を入れると言う案もあったが、今持っているのは柄付なので、出来ない。手榴弾の安全蓋を外して待っていると、拳銃を持った乗員が出て来る。空かさずマリは持っていたMP40を撃って乗員を殺害し、閉まるハッチを銃身で無理矢理塞ぎ、紐を抜いた手榴弾を入れ込んだ。

 

手榴弾(グラナータ)!!』

 

 中から手榴弾が車内に落ちて、慌て始める乗員の声が聞こえたが、今のマリには関係なく、瞬間移動でKV-2から離れる。数秒後、巨人戦車は内部で起きた手榴弾の爆発が弾薬に誘爆し、大爆発を起こした。特徴的な大型砲塔が宙を舞って地面に凄まじい金属音を鳴らしながら落ちると、車体は燃え続けた。

 

「今度こそ終わりね」

 

 KV-2重戦車を破壊したマリはそう呟いた。

 空から現れた光の下へ向かい、この世界から立ち去る。光が消えた後、周囲に残ったドイツ軍車両の残骸と兵士の死体、そして無惨に燃えるKV-2の車体と近くに転がる砲塔が、無惨にも残っていた。

 

 

 

 太陽系が遙か彼方の宇宙空間。

 ワルキューレのマークが付いたシャトル型の警備艇がこの宇宙空間を航行していた。遠くの方には、太陽系とは違う惑星が見える。

 警備艇のグラスコックピットでは、宇宙用の作業服を着込んだ男三人が、宇宙専用キャノピーから広がる光景を面倒臭そうに見ている。助手席に座る本を呼んでいる男がまず口を開く。

 

「なぁ、こんな俺等の占領下の星系なんてパトロールして、なんか意味あんのか?」

 

「意味はあるんじゃないのか・・・中央の星系じゃあ、戦争やってるしな」

 

 操縦席に座る男は答えれば、無重力で浮いているドリンクを掴み、ストローで中の飲料水を飲んだ。次に、後ろで計器を見ている頭にヘッドフォンを付けた茶髪の男に話し掛ける。

 

「おい、そんなレーダーなんか見てよ。映るのは残骸ばっかりだろ?」

 

「そうでも無いぞ。たまに熱源を持ってるのが映る」

 

「けっ、そうかよ。早いとこ終わらせて、店で一杯やろうぜ」

 

 レーダー手からの返答を聞いた男は両手で頭を抱え、シートに腰掛けながら言う。その言葉に一同は頷き、さっさと仕事を終わらせることにする。少し静かになったのか、男は再び口を開いた

 

「なぁ、聞いた話なんだがよ。管理局の総本部であるミッドチルダで大暴れした特殊部隊を乗せた次元戦闘揚陸艦・・・型は忘れちまったが、アルテミスって艦だ。それが訓練所にされてる惑星サザーランドに停泊しているそうだ」

 

「あぁ、俺も聞いたぞ。確か、管理局の追跡を振り切ってこの世界に逃げ込んで来たんだろ?」

 

 操縦席の会話を聞いていたレーダー手も、レーダーを見ながら話しに入る。

 

「極秘の特殊作戦だったんだろうよ。何か上にとってはマズイ物でも奴らが回収したんだ」

 

 レーダー手からの話を聞いて、操縦席に居る二人は声を揃えて「それもそうだ」と言う。

 だが、これが彼等の日常的会話の最後だとは誰も思いもしなかった。

 

「ン?大型の熱源が複数・・・?」

 

 レーダーを見ていたレーダー手が、普段映るはずのない複数の大型の熱源が映ったのに対し、疑問に思う。

 

「練習艦の艦隊行動じゃないのか?」

 

「それなら、事前連絡があるぞ」

 

 助手席の男が言ったことに、操縦席に座る兵士が声を上げる。やがて大型の熱源が彼等の警備艇まで近付いてくる。

 

「こ、この大型艦艇・・・!か、管理局の大型次元艦だ!!」

 

 操縦桿を握る兵士が目視できるまでに近付いた多数の大型艦艇を見て叫んだ。隣に座るもう一人の兵士は対応可能な味方と連絡するべく、マイク付きヘッドフォンを取る。

 

「こちらガリバー12!こちらガリバー12!管理局だ!管理局の艦艇が現れた!!」

 

『管理局の艦艇だと?ふざけるのも対外にしろ、情報では奴らは北の星系にこもったままだぞ?』

 

「そうじゃない!本当にいる!しかも200隻以上目視できる!場所はパトロールコース574!現在、敵艦隊は惑星サザーランド圏内に接近中!!ガリバー12は直ちに・・・」

 

 通信手が言い終える前に、警備艇は時空管理局の次元航行艦に撃沈された。大型のみならず、中型や小型級も含めた時空管理局の250隻からなる艦隊は、ワルキューレの訓練場として扱われている植民地惑星、サザーランドに向けて進路を取る。

 この管理局による攻撃作戦は一切マリと上官に当たるノエルには一切知らされず、ただ失われた能力を求めて、次なる世界へとマリ達は向かったのであった。




今回は主人公VS戦車戦です・・・
次は、ティーガーⅠと殺し合わせる予定・・・
88㎜はただの噛ませ犬やったんや・・・

次はようやく二次元作、ここハメルーンで大量にある緋弾のアリアです。
作者はアニメしか見たこと無いから・・・ブラド戦で終わるかと思います。
そして原作は人外と能力者が多いから他作品の能力者とオリジナルの能力者が参戦。
これで感想増えるかな・・・?(ゲス顔で


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緋弾のアリア編
変わった世界


クロス物でようやくラノベ作品に突入・・・

そしてデスノのシブタク登場~


 2010年代5月 東京湾付近。

 月が顔を見せる時間帯に、余りに人が少ない町中を一際目立つ容姿の金髪の美女であるマリが居た。ショルダーホルスターには拳銃が仕込んでおり、それが見えないように上手く上着を羽織っている。

 街灯が唯一の暗い町を照らす中、彼女に襲い掛かる者が現れた。

 

「お姉さぁ~ん!」

 

 スクーターに乗った長髪を茶髪に染め、ゴーグルを付けたヘルメットを被った柄の悪い出っ歯とケツアゴの男がマリを見るなりスクーターを走らせながら声を掛けてきた。

 声を掛けられた彼女は立ち止まり、近くでスクーターを止めた男を睨み付ける。だが、男はニヤニヤした表情を浮かべながら口を開く。

 

「そんなに睨み付けなさんなって。俺、渋井丸拓男。略してシブタク。お姉さん一人ぃ?俺と遊ばなぁい?」

 

 女性が避けそうな表情で良からぬ事を考える男であるが、その考えは既にマリは分かっていたのか、睨み付けたまま黙っている。全く男は気にせず、表情を変えずに続けた。

 

「なんかさぁ、俺の雇い主ってか、ボスがさぁ。金髪で碧い目の白人女連れて来いって煩くてさぁ。ゴメンだけど、代わりに来てくんなぁい?」

 

 再び誘おうとする男であったが、彼女は無視して自分の目的地へ歩いていった。

 

「待ってよぉ、お姉さん!」

 

 男はマリの上着に手を掴んだ。これが、男が取ったこの世での最期の行動だった。

 上着を掴んだ右手を彼女に引っ張られ、スクーターから無理矢理降ろされた後、道路に叩き付けられる。勢いよく叩き付けたのか、ゴーグルが割れる音が聞こえ、血が流れ始めた。立ち上がろうとする男であったが、頭を蹴られ、被っていたヘルメットが飛んでいく。

 

「や、やめ・・・」

 

 命乞いをする男であったが、倒れたスクーターを起こしたマリに前輪を顔面に付けられた。彼女はアクセルを踏み、前輪を男の顔面で走行させた。エンジン音と共に声にならない悲鳴と肉を抉る音が鳴り響く。

 その一部始終を、近くのビルの屋上から見ていた人影が舌打ちをした後に口を開く。

 

「チッ、使えん奴目。どうしてこんな奴が蘇ったんだ?」

 

 どうやら今マリがスクーターで殺している男は、アガムストに蘇らされた生前に悪行をなしてきた者の一人らしい。

 彼女を監視している人影は、その今死んだ男の余りの弱さに苛立ちを隠せないでいた。

 一方のマリは、スクーターの前輪で殺した男の死体を見て、唾を吐きかけた後、自分の目的地へと向かった。男の死体はまるでゲームの死体のように跡形もなく消える。

 数十分ほど経つと、彼女は目的地へと辿り着いた。

 

「ここがムガルの連中が・・・」

 

 目的地は港の貨物を仕舞う倉庫群であった。数ある倉庫群を見たマリは、能力探知機である心臓を取り出してみたが、何の反応も無い。

 彼女は目の前に広がる大型倉庫の一つに、自分の失われた能力の手掛かりを持つ、組織ことムガルの者達が潜んでいる情報がある為、ここへ足を運んだ次第だ。

 

「何にも反応しない・・・」

 

 心臓を仕舞った彼女は、ホルスターから引き抜いた消音器付きCZ75を持ちながらフェンスを上って港の倉庫群へと侵入した。

 普段は警備員も居ない倉庫であるが、この時ばかりは暴力団等の非合法組織を始めとした取引が行われているのか、スーツ姿の男達が巡回していた。ダークビジョンを発動し、正確な人数を確認する。

 

「人数は二十人ほど・・・まぁ、こいつ等雑魚だからやれるわね。それに・・・誰よ、こいつ?」

 

 不審な行動を取るスーツの男達とは違って不審な行動を取る同じく白く光る人間をマリは見逃さなかった。拳銃をホルスターに戻し、右に吊してある鞘からM1917銃剣を抜くと、一番近い距離にいるサングラスを掛けたスーツの男に近付く。敢えて自分の姿を晒すように近付いた為、スーツの男に声を掛けられた。

 

「あっ?誰だ、お前は?」

 

 懐中電灯をこちらに向けてくるスーツの男は、銃剣を持った右手を背中に隠すマリに近付いてくる。十分な距離にまで相手が来ると、彼女は瞬間移動で一気に距離を詰め、顎を銃剣で切断した。

 

「がぁ・・・ガガ・・・!?」

 

 顎を切り落とされてしまったのか、大きな声が出せず、赤い血が勢いよく流れ落ちる根本を押さえながら立ち尽くす。上着から拳銃に手を伸ばそうとした所を、額を一突きされ、男は絶命した。

 死体をそのままにして、不審な行動を取る人物が居る場所へと向かう。

 

「おっ?」

 

 向かう最中に缶を蹴ってしまい、巡回の男が確認の為に向かってくる。直ぐに隠れられるドラム缶に隠れ、やり過ごそうとする。

 

「風か・・・?」

 

 周囲を懐中電灯で照らしながら探すスーツの男であったが、空き缶が風で倒れただけと思って、その場を去ってゆく。

 気付かない距離まで離れると、ドラム缶から出て、不審な人物の元へ急ぐ。その人影が居る倉庫に入り、ダークビジョンを使わずとも見える距離まで近付くと、血塗れの銃剣を仕舞い、拳銃を取り出す。

 

「制服?」

 

 学生服の上から防弾ベストを羽織った少年が両手に一挺の拳銃を抱え、腰の辺りに肩からMP5の最小化モデルMP5k短機関銃を吊しながら何かブツブツと呟いていた。瞬間移動で一気に距離を詰め、消音器の銃口を少年の頭に向ける。

 

「動くな」

 

「っ!?何処から来た・・・?」

 

 拳銃を握ったまま動かなくなった少年は、銃を向けるマリを見ながら質問した。

 

「聞くのはこっちだから。なんで拳銃とマシンガン持ってここで取引を覗き込んでる訳?」

 

「あ、あんた・・・武偵を知らないのか・・・?」

 

「武偵?」

 

 聞かない言葉にマリは少し頭の中を整理して、この世界に来る前に読んだ資料にあった単語を思い出した。

 

「あっ、武装探偵・・・」

 

「そう、それよそれ!」

 

 外には聞こえない声量で答えた後、マリに何者かを問う。

 

「あの・・・所で貴方は・・・?」

 

「今は関係ない。あそこに私の目標が居るから」

 

「目標・・・?あの用心棒ポイのか・・・」

 

 マリの答えに、少年は電柱に凭れて腕組みをしている丸刈りでサングラスを掛けた長身のスーツの男を見て、あれが後ろで銃口を向けている女の標的と分かった。頭上に向けていた銃口を下げた彼女は、少年の前に出た。

 

「白人?あんた・・・そんな装備で・・・?」

 

「じゃあ、その機関銃貸してよ」

 

 少年からの問いに、マリは短機関銃を見ながら問う。自分の得物を渡すわけにはいかないのか、少年は拳銃を持ちながらMP5kを隠す。

 

「駄目だよ・・・これ買うのにどれだけ苦労したか・・・」

 

「そっ、私一人でやるわ」

 

 断られたので、マリは単独であの中を突っ込もうとした。出入り口のドアから出ようとする彼女であったが、少年に声を掛けられて立ち止まる。

 

「ちょっと」

 

「なに?」

 

「あんたの名前は?」

 

少年から名前を聞かれたので、彼女はそれに答えた。

 

「マリ」

 

「俺、民哉充(たみや・みつる)。また会ったらよろしく」

 

 充からの自己紹介に、ジェスチャーだけで答えたマリはドアから外に出て、取引をするマフィアやヤクザの目には入らないように移動する。

 身を隠せる場所へと移動していくと、良い武器を持った男が、丁度良い場所へ突っ立てる。スーツを着た男が持っている銃は、元が冷戦期である1961年にソ連で設計され、採用されて以降、改良されたモデルである今もロシア軍で現役なPKM軽機関銃だ。持っている男諸共身を隠す場所に連れ込み、心臓を一突きにして殺害すると、銃と弾薬諸共PKMを手に入れる。

 

「少し重いけど、これならあの人数を・・・!」

 

 持っている機関銃の安全装置を外したマリは、今隠れている場所から飛び出した。

 突然現れた一人の白人女性に、取引を行っていたヤクザとマフィア達は彼女に視線を集中させる。彼女の姿を見た丸刈りの男は、懐に仕舞っている拳銃を抜こうとする。

 

「な、なんだぁ、これは、あんさんの・・・?」

 

「知らん。こんな女を用心棒にした覚えはない・・・」

 

 ヤクザの組長が取引相手であるラテンアメリカ系のマフィアのボスに問うが、当然ながらマリの事は全く覚えもない。ただ知っているのは、拳銃を引き抜いた組織の関係者である丸刈りでサングラスと言う風貌の男だけだ。

 仲間の一人が、今マリが持っているPKMに見覚えがあったのか、AKM突撃銃を持ったマフィアがスペイン語で叫ぶ。

 

「〔あいつ!ロペの銃を持ってやがるぞ!!〕」

 

 これを聞いた仲間のマフィア達が持っている銃をマリに向け、ヤクザ達もスペイン語は理解できないが、マフィア達に続いて銃を彼女に向け始める。安全装置を解除する音が連続して聞こえる中、多数の銃口を向けられているマリは、殺意の波動を発動した。

 波動を受けたヤクザとマフィア達は吹き飛び、地面に叩き付けられれば、怯んでしばらくは起き上がれないようになる。大多数の者達は波動を受けて倒れたが、何人かは波動の範囲から離れていた為、銃を持ちながら叫ぶ。

 

「な、なんだ!?」

 

「兎に角撃て!撃てェー!!」

 

 各々が持っている銃を撃ってきたが、マリは機関銃を撃ち始め、その弾幕に飲まれたヤクザとマフィア達は次々と倒れていく。立っている敵を全て倒した彼女は、起き上がろうとする者達を撃ち始めた。

 起き上がれずに次々と堅いコンクリートの上で死んでいくヤクザとマフィア達であるが、倒れながらも拳銃を抜いて反撃をしてくる者も居た。その者達も呆気なく撃ち殺されていき、やがて全員が呻き声を待ちながら死を待つこととなる。

 

「あの女、サツの回し者か!」

 

 銃声を聞きつけた巡回の者達が駆け付けて来たが、再装填を終えたマリからの掃射で全滅した。運が良かったのか、ヤクザの組長とマフィアのボスだけは生き延びていた。残る動く敵は組織の関係者だけである。

 

「お前、マザイの連中を全滅させた女だな?」

 

 先程銃弾を受けて倒れていたようだが、まるで何とも無かったかのように立ち上がる男に、マリは銃口から硝煙が出るPKMを担ぎながら男を見て口を開く。

 

「あんた、能力者?」

 

「質問を質問で返すとは礼儀のなってない女だ」

 

 自分が着ているスーツを思いっ切り破いて脱いだ。男の身体は鉄そのものであり、銃弾を弾いた跡があった。さらに男は自分の顔を掴み、それを剥がして全身が鉄であることをアピールすると、不気味な笑みを浮かべながらマリに告げる。

 

「この俺が教育してやる!」

 

 意気揚々と告げると、マリに向けて突っ込んできた。今持っている機関銃を撃つが、弾かれるばかりで全く効いていないようだ。体当たりをされる前に瞬間移動して回避し、対抗策を考えた。

 

「こいつには徹甲弾が必要ね・・・」

 

 ひたすら体当たりをしてくる男から距離を離しながら、マリは徹甲弾を探し始めた。この戦いを見ている充は何が起きているのか理解できないでいる。

 

「俺・・・夢でも見てんのかな・・・?」

 

 自動開閉式のドアから様子を見ている充は夢を見ているのだと思い込む。その間にも徹甲弾は一向に見付からず、マリはひたすら鉄男から逃げるばかりであった。

 

「どうした!?反撃してこい!お前はその程度なのか?!」

 

 挑発する男であるが、彼女にはそんな挑発など効くはずも無い。彼女ならもっと相手を怒らせる挑発の仕方をすることだろう。徹甲弾を探しながら逃げ回るマリに、男の方が煮え繰り返したのか、声が怒りに満ちてくる。

 

「逃げるな!大人しく俺に殺されろ!!」

 

 怒りの余りに体当たりの速度を上げてきた男であるが、攻撃の単純であるので、容易に回避されるばかりであった。回避される度に動きが単調となっていき、瞬間移動を使わずとも回避できた。

 海まで態と誘い込むと、そこで立ち止まり、鉄の男が来るのを待つ。

 

「ほぅ・・・俺に吹き飛ばされて魚の餌になりたいか!死ねぇ!!」

 

 本来ならこの男は分かっているのだが、散々避けられてしまい、正常な判断も出来なくなっているので、迂闊に体当たりをしてしまった。もちろんあっさりと避けられ、勢いを付けすぎた為に止まれず、そのまま海へと落ちる。

 落ちた衝撃で水飛沫が上がった後、鉄の男は藻掻き始める。

 

「た、助けてくれぇー!!」

 

 先程の勢いは何処へ行ったのか、鉄の男は溺れ、敵であるマリに助けを求めた。海で溺れている男の前にマリは屈み、助けることを条件にして自分の能力の詳細を聞いた。

 

「ねぇ、私の能力知らない?教えたら助けるから」

 

「ほ、本当かぁ!?」

 

 溺れている男は「助ける」の言葉に反応し、べらべらと喋り始めた。

 

「能力はブーゲルビルの奴が知ってる!市内で売春組織をやってる奴だ!!」

 

「その組織の人数は?」

 

 教えても助けないマリに、少し男は不安になったが、続けて答えれば助けてくれると思い、引き続き答える。

 

「100人足らずだ!市内に手下が得物を探している!詳しい場所は手下に吐かせれば分かる!!」

 

「へぇ・・・そう・・・」

 

「これで全部だ!早く助けてくれ!!このままじゃ沈んじまう!!」

 

 無論、マリにはさらさらこの男を助ける気は無く、笑顔をしながら嘘を付く。

 

「うん、今から助けるわ」

 

「嘘だろ!?そんな!止せ止せ止せぇ!!」

 

 溺れながら嫌がる鉄の男に対し、マリは機関銃を構え、引き金を引いた。銃声と弾く音が鳴っても男は叫んでいたが、全く彼女には聞こえることも無く、冷たい東京湾の中へと沈んだ。完全に鉄の男が沈み、水面に浮いて出て来る酸素の泡が無くなったのを確認すると、倉庫から出て来た充にまだ息のある組長とボスを差し出す。

 

「ほら、あんたこいつ等狙ってたんでしょ?持って行きなさいよ」

 

「あっ、あぁぁ・・・はい」

 

 あの戦いでまだ状況を呑み込みが出来ていないらしく、マリの声で少しは理解できた。直ぐに二つの手錠を何処からか取り出すと、充は組長とボスに定常を掛ける。

 PKMを捨てた彼女は、懐からスマートフォンを取り出し、電源を起動すると、先程溺死した鉄の男が言っていた市内の地図を確認する。

 

「ここも前の世界とは変わりそうも無いわね・・・」

 

 前の世界とは、東京都新宿区の事である。新宿区で戦闘を起こしたことを思い出しつつ、港を出たマリは市街地を目指した。

 街灯が辺りを照らす道中を歩いていると、ノエルから連絡が入った。

 

『聞こえますか?我が皇帝(マインカイザー)

 

「聞こえてるわよ」

 

 スマホからの連絡に、マリは従来の携帯と同じく耳に当てて答えた。

 

『先程、衛星の映像で暴れ回ってましたが、余り暴れないでくださいよ?』

 

「分かってるわよ。それで、私が今向かってる方向にある市内の売春組織は?」

 

『あぁ、暫くお待ちください』

 

 ノエルが資料を探っている最中に、市内の明かりが近付いてくる。市内にはいるところでノエルの声が聞こえてきた。

 

『出ました。リーダーに組織らしい人物が居ます。それと、その売春組織、武装探偵からマークされてます』

 

「へぇ・・・ムガルの奴が・・・武偵からマークされてるって?」

 

『はい、マークされてます。ムガルって、組織のことですか?』

 

「そうよ。自分から言ってるし」

 

『あぁ。では、次の情報が入れば連絡しますね』

 

 連絡を終えたノエルに、マリはスマホをポケットに仕舞った後、市内に居るとされる売春組織の構成員を捜し始めた。

 標的は女性をナンパしている男、捕まえたら直ぐに尋問を開始し、構成員かどうかを聞く。違わなければ解放、構成員であればアジトの正確な場所を聞き出す。手順を脳内で作成した彼女は、女性をナンパする男を捜した。

 

「おっ、お姉さん、今夜暇ぁ?」

 

 目を凝らして周りを見渡してみると、派手な服装の男が女性をナンパしているのが目に入った。直ぐに男の元へ向かい、肩を掴む。

 

「あん、なにぃ?」

 

 突然金髪の白人女性に掴まれた男は、振り返って問うが、そのまま路地裏まで連れて行かれる。

 

「うわっ!ちょ!?」

 

 目の前でナンパしてきた男が連れて行かれた為、女性はただあ然しているだけであった。路地裏に男を連れ込んだマリは、ナンパ男の尋問を開始する。

 

「あんた、売春組織の構成員かなんか?」

 

「し、知らねぇよ!そんなの!」

 

 彼女にはシラを切ったかのように見えたのか、男の身体を壁に強く叩き付けて問う。

 

「本当に売春組織の構成員?」

 

「誓う!マジだよ!!俺が知ってたらこれで言ってるって!!」

 

 必死に否定するナンパ男に、マリは違うと判断して離す。

 

「この女、やべぇよ・・・!警察に・・・」

 

 スマホを取り出して警察に連絡しようとした為、マリはナンパ男の頭を掴んで壁に思いっ切り叩き付けた。壁には血痕が残り、気を失った男が気絶して倒れる。そんな男を放置し、彼女は路地裏を出て次の標的を探した。

 直ぐにナンパ現場を見付けることができたのだが、どれもこれも全く売春組織とは無関係の男であり、一々路地裏に連れ込んで尋問し、違ったら壁に頭をぶつけて気絶させる。途中、少女をナンパする男を見付けるも、その少女が武装探偵であった為、先を越された。

 

「貴方、売春目的で少女をナンパしてましたね?逮捕します」

 

 直ぐ力尽くに抑え付けようとするが、武偵の少女は訓練を受けているのか、逆に抑え付けられ、両手に手錠を掛けられ、未成年を強制的に売春させた容疑でお縄となった。

 奪い取る手もあったが、突然ノエルからの連絡が来る。

 

「なに?」

 

『今、奪い取ろうと考えてましたね?駄目ですよ、武装探偵と問題おこしちゃ』

 

「はいはい」

 

 ノエルからの注意を受けてスマホを仕舞うと、やって来たパトカーに連行される男を見た後、次なる標的を探した。またもスカばかりではあったが、ようやく売春組織の構成員が見付かった。

 直ぐさま路地裏に連れ込み、尋問を開始する。

 

「はぁ、俺が売春組織の関係者?犯すぞコラァ!」

 

 強気で否定したので、股間を蹴り上げてみると、先程の威勢は何処へ行ったのか、股間から来る強烈な痛みに耐えながら吐いた。

 

「そ、そうだ・・・!グアァ!俺は関係者だ・・・アァ!」

 

 余りにもあっさりと吐いた為、何か裏があると踏むマリではあったが、良く考えたら忠誠心も無く、裏切りそうな顔付きと性格だった。アジトの正確な位置を聞く。

 

「アジトの場所、分かる?」

 

「あぁ、それなら一樹の奴が知ってる・・・カラオケ店の前でナンパしている・・・」

 

「そっ、じゃあそいつに聞くわ」

 

 全てを話した男は、その答えで安心しきる。

 

「なぁ、全部話したから俺を解放・・・」

 

 解放をせがむ男に、マリは無慈悲に凄い速さで抜いた銃剣で額を突き刺す。筋肉が伸縮する前に剣先を引き抜き、男の服で血を拭き取り、鞘に戻すと、死体を放置して路地裏を後にする。

 一樹という男を捜しに、スマホの地図アプリを開いて近くのカラオケ店を探す。案の定、直ぐに見付かり、そこへ足を運んだ。

 派手な服装の男が高校生ほどの少女をナンパしているのが目に入り、即座に「このナンパ男が一樹」だと分かった。直ぐさま一樹に近付き、肩を掴む。

 

「んぁ、なんだよ?イタタ!!」

 

 ナンパの邪魔をされたのか、かなり機嫌を悪くしていた。しかし、マリに強引にも耳を掴まれ、路地裏へと連れて行かれる。

 

「なんだよ!急に耳を引っ張りやがって!!」

 

 突然耳を掴まれて路地裏に連れ込まれたので、さらに機嫌を悪くして怒鳴り付けるが、彼女に一発殴られる。殴られた衝撃で壁にもたれ掛かり、反撃しようとするも、避けられて顔面に一発食らい、堅いアスファルトの上に倒れ込む。一樹の長く伸びた髪を掴み、無理矢理立たせる。

 

「あんた、売春組織の奴?案内してくんない?」

 

「一体何だってんだ・・・!俺はただナンパを・・・」

 

 否定をするが、マリが消音器付きの拳銃を取り出し、自分の近くに撃って銃口を向けたので、直ぐに認める。

 

「わ、分かった!案内するから撃たないでくれ!」

 

 案内されることになったマリは、いつでも一樹を殺せるように準備をしながら彼の後についていった。市内を一樹に案内されながら進んでいると、人集りの少ない通りに入っていき、やがて5~7階建てのビル群の一つである中央のビルに辿り着く。

 罠の可能性を考慮して警戒していると、予測通り柄の悪い若者達が現れた。

 

「おい、一樹。誰だ、その女?」

 

「新しい商売道具か?」

 

 場所は売春組織のアジトのようだ。構成員達はマリの事を新しい売春用の女だと思って答えを期待して一樹に問う。もう彼女にとっては目の前で案内した男がどうでも良くなったのか、首に向けて蹴りを入れ、首の骨を折ってあの世へと送った。

 

「ひ、一蹴りで・・・!」

 

「く、首を・・・!?」

 

 驚きを隠せない男達であったが、直ぐにポケットからメリケンサックやポケットナイフを取り出し、マリに襲い掛かる。

 

「数はこっちの方が上だ!」

 

「抑え付けて(まわ)せ!!」

 

 一斉に襲い掛かる男達に対し、彼女は一切の武器を使うことなく徒手格闘で倒していく。数が多いのは確なのだが、していないか何かの格闘技を齧っているかの者達は、地獄のような訓練を受けてきたマリに適うはずもなく、次々と喉や股間に強烈な打撃を加えられて伸びるか呼吸困難に陥って死ぬ。

 不幸な者は首を折られて死ぬか、幸運な者は男性機能を不能にされるか全治三ヶ月の重傷を負わされるぐらいで済む。少し数が多すぎるので、シュネー・トライベンを発動し、屋内で吹雪を起こした。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「吹雪だ!部屋の中で吹雪いてやがる!!」

 

 部屋の中で突然吹雪が起きた為、敵は混乱し始めた。マリは吹雪かせる力を徐々に強さを増させ、敵を凍えさせる。

 

「さ、寒い・・・!」

 

「め、メリケンサックが・・・手にへばりついてやがる!!」

 

 ある者は凍えて身体を丸くし、金属製のメリケンサックを持つ者はそれが低温の影響で肌にへばり付いて離れなくなる。金属バットや鉄パイプを持つ者達も金属部分を握っていた為に、肌にへばり付いて取れなくなった。

 

「(こっちまで凍死しそう)」

 

 このまま自分も凍死しそうであったので、能力を解除して金属製の武器を持つ者達からそれを引き剥がす。無理矢理引き剥がされた所為か、皮ごと持って行かれ、そこから血が噴き出し、持っていた者達は傷口を抑え始める。

 敵の大半が悶え苦しむ中、残った者達は蜘蛛の子を散らすようにこの建物から逃げ去る。逃げて行く売春組織の構成員達を見て、マリは「また懲りずに同じようなことをするだろう」と思っていたが、後程背丈142㎝の少女に全てお縄になるとは思いもしなかった。

 周囲に敵影が居ないかを確認するべく、ダークビジョンを発動し、標的の人物を見付ける。だが、直ぐには向かわず売り上げのために集められた女性と少女達を解放する為、そこへ向かう。

 

「なんだぁ?白人の女も・・・」

 

 客の男がマリを見て言うが、言い終える前に頭を掴まれ壁に叩き付けられた。他の客も、入ってきた女から逃げようとするも、彼女は一人も残さず、客全員に暴力の制裁を行った。

 行為中の客に対しては、無理矢理引き剥がして股間を蹴り潰し、機能不能にする。自分に敵意もない者達を殺さずとも重傷を負わせたマリは、集められた女性や少女にこの場から逃げるよう告げる。

 

「ほら、警察とか来たらなんかされるから。服着て逃げなさいよ」

 

 親指で出口を示しながら告げると、女性と少女達は一目散にこの建物から逃げ去った。全員が逃げたのを確認するれば、急いで標的の居る部屋へと向かった。

 階段で最上階まで上がり、標的の居る部屋のドアを開けようとすると、銃声が鳴り響き、木製のドアに無数の穴が開いた。消音器付きのCZ75を引き抜き、ダークビジョンを発動して正確な人数を図る。

 

「7人程度ね。突入しましょうか」

 

 能力を解き、銃声が途切れたのを機に、穴だらけのドアを破って部屋へと突入した。

 弾倉を取り替えている七人の敵は慌てて装填するが、間に合わず、中央にいるブーゲンビルと言うこの中で人種が違う男以外、全員は頭部を撃たれて即死する。ブーゲンビルは肩を撃たれて床に倒れ込んだ後、瞬間移動してきたマリに銃弾を撃ち込まれた肩を踏まれ、呻き声を上げた。

 

「グゥァ~!!」

 

「ねぇ、あんた。私の能力がある場所知らない?心臓取り出しても全然反応しないけど」

 

 空いている手で懐から能力探知機である心臓を取り出したマリは、銃口を向けながらブーゲンビルに問う。

 

「し、知らん!何のことだかさっぱりだ!!それに心臓?グゥゥ!なんの、ことだかさっぱり分からんぞ!!」

 

「とぼけないでよ。あんた等のデカイ禿頭が私の能力を飛ばしたのよ。それくらいは知ってるでしょ。さぁ、この世界の私の能力がある場所、何処なの?」

 

「能力を失ったのは知ってるが、場所は分からないんだ!それだけはほんとだ!」

 

 この返答に傷口を踏む力をさらに強め、再び問う。

 

「うわぁぁぁ!!ホントだ!本当に知らないんだ!頼む!殺さないでくれ!!」

 

 痛がりながらも命乞いをするブーゲンビルであったが、マリは「全く無意味」と判断し、頭を撃たれた。物言わぬ死体から足を退けると、部屋を出て行く。

 エレベーターに向かう最中、スマホが震動し、取り出してノエルかと思うと、知らない番号だった。

 

「誰よ」

 

 そう思って着信を押して出てみると、前の世界で置き手紙を置いた人物の声が聞こえてきた。

 

『よぉ、久し振りだな。まぁ、一ヶ月程度だがな』

 

「お前・・・!」

 

 スピーカーから聞こえてきたのはガイドルフの声だった。連絡を入れてきた男は陽気に続ける。

 

『酷いな・・・そいつは置いといてだ。あんたの能力は東京武装探偵高等学校の地下にある。場所はレインボーブリッチの南北に浮かぶ人工浮島だ。警備はもちろん厳重。地下に入るには、俺でも骨が折れるぜ』

 

「そっ。じゃあ、態と捕まって・・・」

 

『おいおい、下見もせずに地下を探すのか?何日か待って、地図が出来るのを待つんだな。それにあんたの標的の場所は依然不明だ。居場所が分かるまで待て。それじゃあ、場所が分かれば連絡する』

 

 用件を伝えたガイドルフは電話を切った。

 連絡が終わる頃には丁度エレベーターがこの階に来ており、ドアが開いた。スマホを仕舞ってエレベーターに乗ったマリは武器を仕舞い、1階につくまでの間に背伸びをする。1階に着くと、エレベーターから降りてビルの正面玄関まで向かう。

 外へ出ようとした途端、制服を着た小学生か中学生くらいの髪のピンク色で髪型がツインテール、赤紫の瞳を持つ人形のような少女がマリを待ち受けていた。少女はスカートから大きすぎる自動拳銃コルト・ガバメントのクローンモデルを一挺ホルスターから抜き、それをマリに向け、大きく口を開いた。

 

「暴行罪及び器物破損、それと殺人罪であんたを逮捕するわ!」




次はアリア戦。

中断メッセージで緋弾のアリアにツッコミを入れるをするかもよ~


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詠唱歌(アリア)と狙われた巫女

戦う相手は緋アリのアリアなので。
その名にちなんでイメージ戦闘BGMは、モーツアルト作曲の歌劇「魔笛」の第2幕 復讐の炎は地獄のように我が心に燃え。

UPL↓
http://www.youtube.com/watch?v=FIFEj6V6rHg


 今マリの目の前にいる少女の名前は、神崎・(ホームズ)・アリア。

 誕生日は9月23日、父親がイギリス人と母親が日本人のハーフで、クォーターの祖母はディムの称号を持つ、王室公認の貴族。

 容姿はピンクのツインテールに小学生のような体型、赤紫(カメリア)の瞳を持つ人形のような愛らしい美少女。

 前の所属はロンドン武装探偵局であり、今の所属は東京武装探偵高等学校2年A組所属。

 背中には見た目からグリーズガンと呼ばれ、第二次世界大戦中、米国で生産性重視して設計された45口径短機関銃M3A1サブマシンガンを腰に付けている。そんな少女にステンレス製な45口径の自動拳銃コルト・ガバメントを向けられている彼女は、子供を迎えに行く親のような笑みを浮かべてアリアに近付く。

 

「貴方・・・小学生?」

 

「ッ!あんた・・・!それ以上近付くと風穴開けるわよ!」

 

 自分を子供扱いするような質問をするマリに強く脅しつけると、アリアは安全装置を外し、もう一つのスチールの同じ45口径の自動拳銃が入った左太腿のホルスターに手を伸ばす。

 それでも尚近付いてくるマリに対し、遂にアリアは引き金を引くことにした。狙ったのは足下であり、これでマリの足を止める。

 

「あら・・・そんなの持ってると危ないわよ?」

 

 また子供扱いされたのか、遂に二挺目の自動拳銃を引き抜き、両方をマリに向け、顔を真っ赤にしながら怒った。

 

「煩い!子供扱いするな!!私は高二だ!!」

 

 怒りの余り引き金を引いてしまう。二発分の銃声が鳴り響き、マリは瞬間移動で回避する。突然目の前で金髪碧眼の美女が消えた為、アリアは驚き、周囲に銃口を向けて探す。

 

「消えた!?何処に・・・!?」

 

「へぇ・・・怒った顔も可愛いじゃない・・・」

 

「っ!あんた一体なにを・・・!?」

 

 いきなり後ろから現れたマリに気付き、直ぐに銃口を向けた。銃口を向けられているにも関わらず、マリは子供のような笑みを浮かべながらアリアの好意の言葉を掛ける。

 

「ちっちゃくて可愛いし、声も可愛い。髪型も可愛い・・・まるでお人形さんみたい・・・」

 

 そう、アリアの周りを歩きながら続ける。

 

「ちょっと私の好みかな・・・?一緒にオシャレしたり、お菓子食べたり、お茶したり、可愛がったり?」

 

 立ち止まってしゃべり終えたマリに、アリアは銃口を向けたまま問う。

 

「言いたことはそれだけ?痛い目に遭いたくなかったら大人しく私に逮捕されなさい」

 

 銃の重みで残弾を確認したアリアは、マリに投降するよう勧告した。

 だが、そう易々と彼女が受け入れるはずも無く、左のショルダーホルスターからチェコ製の9㎜弾仕様の自動拳銃CZ75を引き抜く。銃口に装着されている消音器を抜いてそれを捨てると、アリアに話し掛ける。

 

「抵抗したら無理矢理しちゃう・・・?」

 

「そうに決まってるでしょ。そのCZ社のCZ75を出した時にあんたは抵抗の意味を示しているわ!こうなったら無理矢理にでも連れて行くしかないようね!!」

 

 銃口を構えながら強く告げた後、アリアは戦闘態勢に入る。先に仕掛けず、身構えるアリアに対し、マリは笑い始めた。

 

「アッハッハッハッ!」

 

 突然笑い始めたマリに、アリアはまた驚き、即座に警戒態勢を取る。

 

「あ、あんた・・・一体何なのよ・・・!?」

 

「あぁ、なんでそんなに大きい銃口の拳銃で逮捕するって・・・それじゃあ死んじゃうわよ?もっと貴女でも扱いやすいのにしないとね」

 

「クッ・・・!これ以上減らず口を言わせないわ!!病院送りにするくらいの用量で相手してあげる!私を怒らせたことを後悔するのね!!」

 

 マリの答えにアリアはさらに激昂した。二挺の拳銃をホルスターに戻すと、背中から二本の小太刀を抜き、突っ込んでくる。

 

「あらあら、恐い恐い。まぁ、楽しいお遊戯を始めましょうか?お人形さん」

 

 冗談交じりで告げたマリは、先に銃を撃ちながら突っ込んでくるアリアに今持っている拳銃で撃つ。

 だが、アリアが着ている制服は防弾繊維と呼ばれる特殊な布を用いた衣服なので、マリが撃った9㎜弾は勢いを殺され、弾け飛んで地面に落ちた。

 

「はったりじゃ無かったんだ・・・」

 

 防弾制服を俄に信じられなかったマリであったが、実在することを自分が攻撃をしたことで証明されたので、照準を足に向けるも、奇妙な抵抗感を覚える。その間にアリアに距離を詰められ、危うく斬られそうになる。

 

「おっと・・・!」

 

 直ぐに瞬間移動で回避するが、衣服を着られており、くびれの辺りが見え隠れする。

 

「あぁ、怒られちゃう・・・」

 

 身の危機よりも自分の衣服を心配するマリだが、アリアは容赦なく斬り込んでくる。

 港で戦った鉄の男と同じく怒りで冷静さを失っているが、海に落ちて自滅した男とは違って攻撃は単純ではなく、攻撃は少し読みにくい物となっており、衣服やズボンを斬られて行き、徐々に肌や下着が見えてくる。

 

「あら・・・ちょっとやましい気もある?」

 

 戦っていた屋内から外に瞬間移動で避難したマリは、屋内にいるアリアに勝ち誇った笑みを浮かべながら問う。少女に問うマリの姿はあられもない姿であり、着ている衣服は所々破れ、肌に身に着けている黒の下着と豊満な谷間まで見えていた。

 そのあられもない彼女の姿を見たアリアはさらに顔を真っ赤に染める。

 

「なっ、ななな何て格好してるのよぉ!?」

 

「あら、その姿も可愛い。でもやったのは貴女よ?」

 

 自分で行った行為を相手に問うアリアに最も適切な答えで返したマリだが、目の前の少女に脅威を覚えた。

 

「(服で助かったけど、あの前の馬鹿とは違って侮れない。今はあんなのだけど、後から凄く化けそう・・・)」

 

 開いている左手で銃剣を抜き、建物から出て来るアリアを迎え撃とうとする。

 二本の小太刀を背中の鞘に収め、二挺の大口径の拳銃を構えた小さな少女は、マリを遮蔽物に釘付けにせんと連続で撃ってくる。アリアが読んだとおり、マリは遮蔽物に隠れてしまい、そこで釘付けにされる。

 

「もう少し大きかったら撃てるのにな・・・」

 

 遮蔽物の車に隠れながら呟くマリは、壁越しから拳銃で反撃するも、防弾制服が当たった銃弾の勢いを殺し、弾いてしまう。迎え撃とうとするも、相手も柱に隠れて撃ってきているので、膠着状態となる。アリアの弾切れを待とうとするが、一挺ずつ撃って牽制している。

 

「流石にそうは行かないよね・・・」

 

 自分を撃ってくる相手を見ながら呟くと、何処か回り込める場所を探す。この時、アリアは携帯で応援を頼んでいた。

 

「聞こえるキンジ!今大量殺人犯と戦ってるんだけど、直ぐ応援に来れない?はぁ、何でお前がかって?そんなのどうだって良いわ!今すぐ白雪と共に来ること!!場所は例の売春組織のアジト!今すぐ来なさい!!」

 

 その声は車に隠れるマリにも聞こえており、それを耳にした彼女はクスクスと小さく笑う。

 だが、小さな腰に付いていたM3A1グリーズガンを取り出し、安全装置を外し、マリが隠れる車を撃ち始めた。連射力は低い物の、遮蔽物から動けなくするには十分だった。小さな身体に工具のような短機関銃はフィットしており、射撃は十分に安定している。

 

「機関銃持ってくれば良かった!」

 

 銃弾が当たる車で、身体を小さくして屈みながらマリは後悔した。相手の弾が切れるまで待っていると、銃声が拳銃へと変わる。

 

「これなら・・・!」

 

 好機と見たマリは、瞬間移動で一気にアリアの居る柱まで距離を詰める。

 

「しまった・・・!?」

 

 横から攻められた為、銃を向けるが、マリに無駄撃ちをさせられて弾切れであり、仕方なく小太刀を抜いて応戦する。接近したマリは拳銃を撃とうとするも、床を蹴って接近してきたアリアの峰打ちで落としてしまう。仕方なくM1917銃剣一本で太刀二本と戦うことになる。

 

「(このままじゃ勝てない・・・降参しようかしら?)」

 

 刀身が混じり合い、火花が舞い散る中、マリは戦いながら降参することを考えていた。一方のアリアは勝てると見込み、徐々に振りの速度を速めていく。体格や経験はマリの方が有利なのだが、形勢はアリアの方が有利である。

 銃剣を持つ彼女は、自分より30㎝も小さい少女からの攻撃を一々受け止めるに精一杯であり、いつ敗れるか分からない。蹴りや殺意の波動をしてやろうかと思っても隙がないのだ。

 暫く防戦を行っていると、剣が混じり合う音に混じって、四つ分のタイヤの走行音が耳に入ってくる。

 

「あぁ~、詰んだ・・・」

 

「はぁ?」

 

 道路を蹴って後ろに下がり、膠着状態から抜け出したマリが口にした言葉で、アリアは暑気に取られた。

 銃剣を捨て、両手を上に挙げて戦意のないことを示し、目の前の二刀流の少女に降参した。このマリの態度に対し、アリアは「まだ何かを隠している」と思い、刃先を向け、降参した彼女に問う。

 

「あんた・・・それって、どういう事よ・・・!?」

 

「え、何って?私、降参したんだけど?」

 

「はぁ、あんた何を言って!?」

 

 余りにも不甲斐ない結果に終わった勝負に、アリアは怒りを表したが、東京武偵校所属の車両から男子と女子の高校生二人が降りてきた所で終わる。

 

「なんだ。俺等が来る必要ねぇのかよ・・・」

 

 黒髪で少し顔の整った男子高生は、持っていたイタリアのベレッタ社の自動拳銃M92Fを懐のホルスターに仕舞い、少し機嫌を悪くする。もう一人の長い黒髪で雪のように白い肌と青い瞳を持つ少女は、似合いそうもないアメリカの軽機関銃M60を持ち、手を挙げているマリに銃口を向ける。

 応援の二人が来る頃には勝負が付いてしまっており、取り越し苦労となった。アリアはそんな二人を気にすることもなく、マリに手錠を掛けるよう命ずる。

 

「丁度良いところに来たわね。キンジ、あの女に手錠掛けなさい」

 

「その前にちょっと待て・・・!」

 

「き、キンちゃん・・・見ちゃ駄目!」

 

 少女がキンジと呼ばれる少年の目を両手で塞ぎ、マリのあられもない姿を見せないようにした。

 だが、既にキンジは目を覆い隠される前に見てしまっており、間に合わなかった。この状態もアリアも気付いたらしく、顔を赤くしながら代わりに黒髪の少女に手錠をするよう命じる。

 

「白雪、代わりにあんたがやりなさい」

 

「わ、分かった・・・キンちゃん、上着貸してくれる?」

 

「あぁ、分かった」

 

 白雪は応じ、キンジから上着を貸して貰った後、それを意味もなさない衣服を着ているマリに着せ、手錠を掛けた。

 

「午後20時32分、暴行罪並び器物破損の容疑で貴女を逮捕します」

 

 何の抵抗もせず、マリは白雪に手錠を掛けられ、キンジと白雪が乗ってきた車の後部座席に乗せられた。運転席にキンジが付き、助手席に白雪が座り、後部座席にはアリアとマリが座る。全員が乗ったのを確認すると、キンジは東京武偵校まで車を走らせた。

 少し揺れる車内で、暫し沈黙の空間が続くが、それをマリが口を開いて沈黙を破る。

 

「ねぇ、アリアちゃんって言ったかな。私の携帯取ってくれる?」

 

「子供扱いするな」

 

 自動拳銃を抜いてマリに向けるが、ハンドルを握るキンジに言われる。

 

「アリア、取ってやれ。まだこの人が犯人だと決まったわけじゃない」

 

「クゥ・・・もう、分かったわよ」

 

 悔しがるアリアはマリの身体を探り始めた。肌に触れると、態と声を出すマリであるが、数秒後には奇跡的に無事だったスマートフォンが見付かった。見付けたことを示すため、スマホをマリに見せる。

 

「ありがとう。じゃあ、電話帳からノエルってのを触れて」

 

「分かったわよ・・・」

 

 マリからの頼みに、アリアは慣れない手付きで電話帳を開き、ノエルの文字の書かれた場所を小さな指で触れ、通話を押した。

 

「どうも。じゃあ、耳に当てて」

 

「それくらい自分でやりなさいよ!」

 

 空いている手で拳銃を向けるアリアからそう言われたので、仕方なくマリは手錠の掛かった手でスマホを取り、それを耳に当てる。

 

『カイザー、何用で?』

 

「あぁ、ノエルちゃん?私、武偵に捕まったの。東京の武偵校まで迎えに来てくんない?」

 

『ぶ、武偵校に!?あれだけ言ったのに!!』

 

 連絡相手の可愛らしい怒り声に、マリは小さく笑いながら謝る。

 

「ごめんごめん。Sランクのアリアちゃんとちょっと踊ってたら、勝てなくて降参しちゃった」

 

『もう、どうして貴女はそう・・・まぁ、仕方ないです。迎えを寄こしますから、何も喋らないでくださいね』

 

「大丈夫、喋る気ないから」

 

 諦めたノエルに、マリはそう答えて連絡を切った。

 

 

 

 所変わって旧フォールド王国首都フォウドヴィッス跡地にある建物の一部屋にて、新たな刺客が今マリの居る世界へ送り込まれようとしていた。

 

「弱兵の集団とはいえ、1800人編成の連隊を二つ壊滅させた女だ」

 

 玉座に見立てた椅子に座る腰まである紫色の髪を持つ男リガン・ゾア・ペン・ムガルは、片膝を付く白いタキシードを着て、白いシルクハットを被り、杖を持つ右手を床に付けている190㎝の男と、ポケットに手を突っ込みながら同じくらいの身長な男の目の前で口を動かす。

 ポケットに手を突っ込んでいる男は、リガンを睨み付けるなどの無礼極まりない態度を取っているが、彼は全く気にせず続ける。

 

「さらにこの一ヶ月で能力を三つも取り戻しておる。とても油断はならん、早急に手を打つ必要がある」

 

「と、言うことは、この私、元魔法王国の王子マジェスティックプリンスの出番ですね?」

 

 顔を上げ、自分の名を口にした男は、自信に満ちた表情を浮かべながらリガンに問う。

これに対し、リガンは頷く。

 

「うむ。祖国を滅ぼされ、次元の狭間で漂流していた貴様を拾ってやった恩、聖女の死体、首、それか生きて私の前に差し出すことで示して見せよ」

 

「御意にございます、皇太子様。このマジェスティックプリンス、聖女の生死は問わず、必ずや連れて参り、貴方様に拾われた恩をお返しします」

 

「うむ、その息だ。貴様は一個中隊を預ける。現地の部隊と協力し、その言葉通り必ずや討って見せよ」

 

 リガンからの命令に応じたマジェスティックプリンスは、立ち上がり、頭を下げるなどの礼をし、この部屋を後にした。次にリガンは失礼な態度を取る男に目を向ける。

 

「貴様も頼むぞ。ミレニアム」

 

「大先輩だコラ。てめぇ、誰に向かってその口聞いてんだぁ?」

 

 目上の者に対して余りにも無礼すぎる男は、さらにリガンを睨み付けた。

 

「フッ、それなら先輩の意地を見せよ」

 

「チッ、分かったよ!見とけよ、あんな調子扱いた後輩よりも先に”せいじょ”てっのを先に仕留めてやる!」

 

 リガンからの覇気で、あっさりと受諾したミレニアムという男は、マジェスティックプリンスと同じくこの部屋を後にする。二人が出て行った後、リガンは椅子の肘掛けに手を置きながら、予備の戦力を投入する必要も考えた。

 

「予備として、十人格の候補者も送っておくか・・・」

 

 

 

 一方、東京湾の浮島にある東京武偵校に連行されたマリは、取調室へと連れて行かれる所だった。

 

「降りなさい」

 

 45口径の拳銃を向けながらアリアはマリに降りるよう指示する。代わりの生徒が車両を倉庫に戻すため、キンジと白雪も降りてアリアに同行した。マリが辺りを見渡し、武偵校の周囲を確認していると、アリアに銃を突き付けられる。

 

「何処見てんのよ」

 

「偵察?」

 

 答えたマリは視線を正面に向け、先に進むキンジの後へと続く。またも沈黙の空間が生まれそうなので、マリは白雪に話し掛けた。

 

「ねぇ、貴女。どう見ても前線に出るタイプじゃないけど、そこの付き添い?」

 

「喋るんじゃないわよ」

 

 またアリアに銃口を突き付けられたが、キンジが宥める。

 

「おい、そんなに銃口を突き付けんな。武偵法を破る気か?」

 

 言われたアリアは舌打ちをし、マリを睨み付けながら黙り込んだ。連行した金髪の女から問われた白雪は適当に答えた。

 

「なるべく人手が多い方が良いかな?て思って」

 

「そう。貴女、何か狙われている感じがするんだけど」

 

 この何気なくマリが言った事で、三人が驚いたような顔付きをした。言った本人は本当に何気なかったが、三人がした表情を彼女は逃さなかった。

 

「ね、狙われてませんよ。私・・・」

 

 白雪が答えを噛んだことを、マリは図星と悟った。だが、アリアに自分を疑わせる要因を作ってしまう。

 取調室に連れ込んで、マリの正体を確かめてやろうと考えるアリアであったが、間が悪かったのか、取り調べる予定だった犯人の迎えが来てしまった。

 

「居ました!」

 

「おう、居たか。連れてさっさと引き上げんぞ!」

 

 バラクラバを被り、フランスのブルパップ式突撃銃FAMASを持つ淺緑色の戦闘服を着た女性兵士の声が聞こえてくると、次に男の声が聞こえた。

 

「(ノエルじゃない?)」

 

 男の声を聞いてマリはノエルが来てないと分かると、教師らしい男と共にやって来た灰白色の髪の男が目に入った。女性兵士と同じく、腕にワルキューレの所属を表すワッペンを付けている。

 

「おぉ、そいつだ。そのほぼ半裸状態の女。なんか着る物持ってこい」

 

 写真を見ながら男はマリを指差して、近くにいた部下らしき先の兵士と同じ銃と戦闘服を着た女性兵士に指示を出す。男は写真をポケットに入れて、同じ身長のマリに近付き、睨み付ける。

 

「おうおう。良くもまぁうちに迷惑掛けてくれたなぁ?」

 

 手にポケットを突っ込み、マリを睨み付けると、女性兵士が持ってきた上着を手に取る。次にキンジを目に付けると、「外せ」と顎で指示する。

 

「おい、そこの餓鬼。手錠を外してやれ」

 

「あっ、はい・・・」

 

 キンジは直ぐにマリの手に掛けられた手錠を外した。だが、アリアは納得できないようで、男に噛み付く。

 

「ちょっと、どういう事!なんで連れて行くのよ!?もう少しでこいつがデュランダル・・・」

 

「あぁ!?ウッセーぞ糞チビ!お子ちゃまはうちに帰って寝る時間だろ!」

 

 言っている最中に男がアリアに怒鳴り付け、口喧嘩が始まりそうになるが、教師に止められる。

 

「止めなさい!では、この方で良いですね?」

 

「あぁ、その女だから。よし、ヘリまで行くぞ」

 

 キンジの上着から男の部下が持ってきた上着に着替えると、マリは向かえ男と二人の女性兵士の後へ続いた。アリアは向かえの男の後へ続くマリを睨み付ける。

 男が乗ってきた乗用車まで来ると、形が違う女性兵士と同じ色の戦闘服を着て、帽子を被った男性兵士がドアを開け、先にマリを乗せた。他の女性兵士がマリと同じ後部座席に乗り、男が助手席に座ると、全員が乗ったのを確認した兵士は運転席に座り、ハンドルを握った。エンジンを掛けて運転手がアクセルを踏むと、連絡橋へ向けて車を走らせる。

 周りを武装した女性兵士に囲まれ、自分らの乗る連絡橋を走る中、マリはアリアが言った「デュランダル」と言う単語が気になる。

 

「(もしかしてそのデュランダルってのがあの娘を狙ってる奴かな?)」

 

 心の中で右の窓から見える東京湾を見ながらそう脳内でマリは考える。視線を正面に戻すと、迎えの男はマリが持っているとは違う別機種のスマホを懐から取り出し、触り始めた。

 

「(後で調べてみようかしら?」

 

 心の中で呟いたマリは、基地に帰れば調べることにした。




~中断メッセージ~

回収ミッション!

カズ「スネーク、今回の任務は・・・」

BIG BOOS「あぁ、分かっている。あれだろ」

カズ「今回は、ワルキューレの基地に潜入し、重要な書類を回収する任務(ミッション)だ」

BIG BOOS「済まないがカズ。端末で調べてみたんだが・・・これはただグラビア写真集じゃないか・・・」

カズ「スネーク、何を勘違いしている?」

BIG BOOS「はぁ?」

カズ「その写真集は決して表では手に入らない大変貴重な写真集だ。それを俺達は手に入れなければならない」

BIG BOOS「どうてもか?」

カズ「あぁ、どうしてもだ!何故ならマリ・ヴァセレートとシューベリア、合法ロリBBAのルリ・カポディストリアスの水着・下着写真集だからだ!!」

BIG BOOS「そこまで熱く語るとは・・・じゃあ、取ってきてやる」

カズ「ありがとうございます!!」

BIG BOOS「ただし、どんな事になってても知らないぞ?」

カズ「なるべく・・・無傷で頼む・・・」


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二日後はアドシアード

ここ最近の呟き 
「鼻水が止まらねぇーよ!!」

それとノエルはアングロ系なので、英語は喋れる。


 民間軍事企業に扮したワルキューレの基地へと戻ったマリだが、着ている衣服をボロ同然とされながらも、相手の不殺の精神に助けられ、無傷で帰ってこられた。違反であった武偵と一戦交えたことで、直属の上官であるノエルのオフィスに呼び出され、そこでこっぴどく叱られた。

 

「もう、皇帝(カイザー)ったら、あれ程問題を起こさないよう言いましたよね!どうして貴女はそう・・・」

 

「へぇ・・・元百合帝国軍で私を叱ったのは貴女で7人目よ」

 

「はっ・・・?一体何を言ってるのですか・・・!?はぁ・・・まさか憧れの皇帝陛下がこんな御方だなんて・・・」

 

 ノエルに取っては、前の祖国である百合帝国にとって神の存在であった皇帝が、これ程まで自分勝手だとは思いもしなかった。後輩である京香も、頭を抱えるノエルと、無邪気な笑みを浮かべるマリを苦笑いしながら見ている。だが、一緒に入ってきた迎えの男が、この空気を打ち壊す言葉を吐いた。

 

「ケッ。天下の皇帝がこんなんじゃぁ、百合帝国が滅びたのも納得だな」

 

『ッ!?』

 

 元百合帝国皇帝であるマリ・ヴァセレートと、元百合帝国陸軍情報部所属のノエル・アップルピーは、スマホを弄りながら言った男を睨み付けた。

 この男の名はドン・アシェル。余り不甲斐なさそうな容姿をしているが、これでもノエルより上の階級に当たる人物である。睨み付けられたことにドンは逆に怒ったのか、マリとノエルに向けてドスの効いた声で問う。

 それを見ていた京香はあたふたしていた。

 

「おい、なに睨み付けてんだぁ?俺はお前より上、軍隊じゃ中佐の階級に当たるんだよ。それに俺は元特別機動兵だ。分かるな?あのワルキューレ最強に分類する兵科だぞぉ。情報士官のお前じゃとっくに知ってるけどな。まぁ、そこの馬鹿な元皇帝様は全く知らないけどよ」

 

 最後のドンの言葉がマリの感に障ったのか、凄い速さで近付かれ、胸倉を掴まれる。

 

「な、なんだぁ?この俺を殴ろうってのか。上官殴ったらどうなるか分かってんだろ?皇帝様よぉ」

 

 少し戸惑ったドンであったが、直ぐに平常心を取り戻して、強気で自分の胸倉を掴むマリに告げる。

 

「へぇ・・・これが元特別機動兵・・・三年の全くの訓練は無駄かな・・・?」

 

「なんだと・・・!?」

 

 マリの挑発に乗ったドンは彼女を引き離し、ホルスターから銃を抜こうとした。

 だが、愛銃であるIMIデザートイーグル大口径自動拳銃は、既に相手に抜かれており、逆に自分に銃口が向けられていた。

 

「こんなデカイ拳銃ぶら下げておいて、元特別機動兵の実力ってそんな(もん)って訳?」

 

「チッ・・・」

 

 悔しがるドンを見ながら、再び挑発を行うマリだが京香の一声で止まる。

 

「あの・・・憲兵さんが見てるのですが・・・」

 

「あっ・・・」

 

 良く周りを見ると、ミリタリーポリスの略称である「MP」と書かれたヘルメットを被り、ワッペンを腕に付けた複数の男女が拳銃や騎兵銃を構えていた。これを見たマリは大型拳銃をドンに投げ返し、無表情で憲兵達に告げる。

 

「ただのお遊びよ・・・」

 

 何気なく答えたマリに、憲兵達は少し戸惑うが、ドンは許すはずも無さそうだ。

 

「これがただのお遊びに見えんのかぁ?直ちにそこの女を・・・」

 

「あの・・・その人・・・幹部からこれを・・・」

 

「幹部って・・・火焔丸様の・・・!」

 

 オドオドしていた京香が書類を出して声を上げた事で、視線が彼女に集中し、ノエルはマリを昇進させた人物である幹部の名を口にした。

 

「か、火焔丸ってあの・・・」

 

 奪い取るように書類を取り、ドンは両手で齧り付きながら読み始めた。物の数秒で読み終えると、書類を床に投げ付ける。

 

「クソッ!あの女は何やっても良いのかよ!!全員下がれ!畜生!!」

 

 内容がマリの拘束を一切禁じる事だったのか、集まってきた憲兵に向けて解散するよう怒鳴り付ける。余りにもドンにとっては苛つくような結果に終わったのか、ノエルのオフィスから落ちた自分のスマホを拾い、機嫌を悪くして出て行った。オフィスが三人だけになったのを確認したマリは、デュランダルについての情報を探るようノエルに伝える。

 

「さぁ、ノエルちゃん。”デュランダル”って奴の情報探してくれる?」

 

Yes(イエス)His(ヒス) Imperial Majesty(インペリアル・マジェスティ)

 

 英語で返答し、ノエルは机の上に置かれたパソコンの前に座って起動させ、マリの命じたとおりデュランダルについての情報を探し始めた。調べている間、後輩である京香に応援を頼むよう指示する。

 

「連崎ちゃん、応援呼んできて!」

 

「は、はい!」

 

 調べながら指示するノエルに、京香は敬礼してからオフィスを出て、応援を呼びに行った。残されたマリは、取り敢えず手伝う。

 ストーカー扱いしているガイドルフに頼めば一発で情報は出て来るのだが、ここは敢えてノエルと京香の情報士官としての顔を立てることにする。応援が来て”デュランダル”についての情報が着々と明らかになる中、数十秒で些細なことが分かった。

 

「デュランダルと言うのは誘拐犯の名前で、誘拐する前に脅迫電話を相手に送るそうです」

 

「脅迫に屈せず、相手が警察に電話されたらどうするのかしら?」

 

 先に見付けた京香がそれを同じくパソコンで調べていたマリに報告すると、彼女はデュランダルがもしもの時を考えていないタイプだと推測する。

 

「まぁ、気の弱い人は脅しに屈しますから・・・」

 

「そう言えば大抵は屈指ますもんね」

 

 ノエルも的確なことを言って、京香はその事に納得し、二回ほど頷く。さらに情報を探ってみたが、これ以上は閲覧不能となっており、調べることが出来ない。

 

「どうにか出来ないの、これ?ハッキングとか・・・」

 

 マリは画面に映る「閲覧不能」と言う文章を指差しながらノエルと京香に問うが、二人とも首を横に振って出来ないとアピールする。応援の情報員達にも問うも、その者達ですらハッキングは出来ないと断った。だが、一人の情報士官が「この基地内にハッキングが出来る者が居る」とマリに伝えた。

 

「そう、じゃあそいつを直ぐに連れてきなさい」

 

「あっ、でも・・・この時間帯は・・・」

 

 伝えた士官は、壁に掛けられた時計の針を見て、気まずい表情を浮かべて返答に困る。マリはハッカーがこの基地に居ないことを悟った。

 これ以上は時間の無駄と判断して、デュランダルの情報収集は明日に持ち越すことにした。時計の針は既に2時を指しており、一同は後片付けをし、移住区に行って睡眠を取った。

 

 

 

 東京都某所。

 何処かの倉庫にて、サングラスを掛けた身長180㎝程の寡黙そうな男と、青と黒のツートンカラーのマスクをした忍者のような男二人が、積み上げられたコンテナの上で向かい合っていた。その忍者のような二人のマスクの排気口から冷気が出ている。

 

「集まったのはお前達だけか・・・?」

 

 第一声に寡黙そうな男が放つと、忍者のような二人が頷き、マスクの下で口を開く。

 

「あぁ、どうやら僕ら兄弟二人だけのようだ」

 

「他の者達は各世界で行われている組織の破壊活動や連邦と同盟、合衆国、社会主義連邦による侵攻を食い止める為に奮闘している」

 

 一人が言えば、もう一人がそれに続いて寡黙そうな男に告げる。

 

「スモークの力も借りたいところだが、奴も出払ってる。俺達だけでやるしかない」

 

「どうやらそのようだ・・・スコーピオンが来ないことを祈ろう・・・」

 

「スコーピオンか・・・あいつは厄介だ・・・」

 

 スコーピオンと言う人物の名を青と黒の忍者が口にすると、寡黙そうな男が頭を抱える。

 

「確かに。私達兄弟を恨んでおり、何処の陣営にも属してない。集団で掛かれば撃退できるが、生憎とこの人数では・・・」

 

「他の敵と戦っている最中に襲われたら一溜まりもないな・・・」

 

 三人は何処にも属さないスコーピオンと言う人物に悩む中、これ以上は時間の無駄と判断する。寡黙そうな男が左手の腕時計の針を見ると、目の前の二人に告げる。

 

「もう時間だ。では、”サブゼロ”。現場で」

 

「あぁ、”フリッツ”」

 

「御意」

 

 次の瞬間、三人の姿は倉庫から消えた。フリッツと呼ばれる男は一瞬で姿を消し、サブゼロと呼ばれる忍者のような二人は、自分の姿を冷気で包み、それが晴れる頃には二人の姿は消えていた。

 

 

 

 翌日、寝台で目を覚ましたマリは、目を擦りながら辺りを見渡した。いつもの自分に朝に必要な事を済ませる為、寝台を降りて、洗面台に向かう。

 顔を洗ってからシャワーを浴び、髪を整えると、珈琲を飲むために食堂へ行った。寝間着のまま廊下に出れば、時間帯が朝なのか、余り職員や将兵は歩いてはいない。

 

「呑気な物ね・・・」

 

 欠伸をしながら食堂へと向かうカーキ色の作業服を着た男を見て、マリは呟いた。

 食堂に入り、カウンターに置いてあるコーヒーメーカーに取ったカップを置いてスイッチを押し、十分な量になるまで待つ。十分な量になればカップを取り、入れ立ての珈琲を口に含む。

 トレイを手にして、出される朝食を受け取りに行く。朝食が全て置かれるまで待ち、全部置かれたら空いている席に座って、朝食を食べ始める。食べ終えれば、珈琲を全部飲んで、歯を磨きに洗面台へと再び向かった。

 洗面台へ行って、歯を磨き終えたら今の時代に見合った外出着に着替え、ノエルのオフィスへ足を運んだ。

 

「おはよう。なんか見付かった?」

 

 机に置かれたパソコンと睨めっこしているノエルに挨拶して、デュランダルについて何か分かったことは無いのかと彼女に聞いた。

 

「いえ。ハッキングを仕掛けてみましたが、跳ねとばされちゃいました」

 

 結果はマリが瞬時に考えた良いと悪い答えの後者に当てはまった為、彼女はノエルに出掛けると告げる。

 

「えっ、出掛けるのですか?何処へ?」

 

「武偵校の周りでも行こうかしら」

 

「そうなのですか。では、行ってらっしゃいませ」

 

「何か買ってくるかも。じゃあ」

 

 マリはノエルに告げてからオフィスを出た。受付に向かい、そこで外出の許可書を書いて、護身用の武器と鞄を受け取った後、出入り口へ向かう。外に出れば、朝日で眩しい空を見上げて背伸びをし、それを終えれば横浜の街へと掛けだした。

 この時間帯では出勤ラッシュは終わっている頃だが、それなり人が多かった。大半は遠くの方から東京にやって来た観光客か、休暇を取った人々で溢れている。

 

「結構休んでる人とか観光客が多いのね・・・」

 

 辺りを見渡しながらそう呟き、マリは街中を歩いた。やはりマリの容姿は一際目立っており、歩道を歩く数々の人が彼女を見る。カメラで撮る者も居り、暗殺を狙う者達にとっては格好の的だが、彼女は全く気にせずに興味の沸いた場所へと向かう。

 目的地であるカフェテラスに辿り着くと、店内に入る。

 

「いらっしゃいませ・・・」

 

 入店してきたマリを見た店員は、その容姿を見て少し呆然とした。時間が時間なので、客の数は少なかったが、それでも全員が彼女の姿を見て、一時的に視線を集中させてしまう。

 店内を見渡したマリはテラスの空いている席を見て、テラスの方へ向かった。接客の店員が自分の元に来て、水や手拭き用タオルを置き、緊張しながら告げる。

 

「ご、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい・・・し、失礼します・・・!」

 

 いつもと違う客が来た所為か、店員は偉く震えていた。もちろんマリはいつも通りに接しているつもりであり、相手にそれなりのサービスを求めているわけではない。メニューボードを手にとって、即座にカフェオレに決め、手を挙げて店員を呼んだ。

 

「お決まりでしょうか・・・?」

 

 さっきの店員とは違う男性店員が、マリを海外の何処かの令嬢か女優と勘違いしているような雰囲気だった。無言でメニューボートにあるカフェオレを指差し、注文する。

 

「カフェオレですね・・・か、畏まりました・・・!暫く・・・お待ち下さい・・・!」

 

 復唱した後、早足で屋内に戻った男性店員は、店長らしい人物と相談していた。その様子をマリは一切見ることなく、ただ横浜の景色を眺めているだけであった。暫くすると、カフェオレが入ったカップを置いたトレイを持った男性店員が彼女の座るテラスの席へやって来た。

 トレイを持つ手は震えており、顔も緊張感丸出しであるが、当の注文した本人は机に肘を付けて横浜の景色を眺めているだけだ。

 

「お、お待たせしました・・・か、カフェオレであります・・・」

 

 声を掛けた店員は、震える手でカップと乗せた皿をマリの目の前に置き、緊張しながら他に注文はないか問う。

 

「ほ、他に注文は・・・?」

 

「無い」

 

「そ、それではごゆっくり!」

 

 店員は逃げるように自分の持ち場へ去っていった。そんな男を見ていたマリは、自分の存在がこの店で一番問題になったとは全く思ってはいない。砂糖を少量入れ、スプーンで解けるまで混ぜ合わせた後、それを口に含んだ。

 

「あっ、美味しい・・・」

 

 マリが飲んだカフェオレの感想を言うと、それを見ていた店長がガッツポーズを取った。暫く景色を眺めて、カフェオレを飲みながら時間を潰し、煙草を吸おうとした。

 ワルキューレの支給品である煙草とライターをポケットから取り出し、机の上に置いて屋内を見る。どうやらテラスなら吸って良いようであり、遠慮無く煙草を吸うことにする。

 煙草を口にくわえ、火を付けるためにライターを起こそうとするが、中々火が付かず、少し苛々し始める。何度も押していると、突然先に灯が灯り、フィルターから煙が口の中に入ってくる。火を付けた人物の正体を確かめようとその方向へ振り向いてみると、そこには見覚えのある男ガイドルフ・マッカサーが居た。

 

「お嬢さん、おはようさん」

 

 気軽に声を掛けてくる目の前の席に座った色黒の男に対し、マリは驚きを隠せず、うっかり煙を吸ってしまってむせてしまう。

 

「煙草を吸うときは、そう言う顔をしちゃいけない」

 

 目の前の席に座り、サンドイッチと珈琲の入ったカップを置いたトレイを机の上に置き、マリに告げてから、自分も煙草を吸い始める。むせ終えたマリは再びガイドルフを睨み付け、拳銃を抜こうとする素振りを見せた。

 

「おいおい、こんな所で拳銃(チャカ)を抜いちゃいけない。それに俺はここで銃撃戦をするつもりは無いよ」

 

 注意してから吸った煙草を灰皿に置き、珈琲を一口飲んだ。カップから口を離すと、ポケットから何かのパンフレットを出し、マリの目の前に出す。

 

「東京武偵校で行われるアドシアードの告知パンフレットだ。下見ついでに楽しんでこい。それと・・・」

 

出したパンフレットの説明をすると、もう一枚ポケットから出して、それもマリの目の前に置いた。

 

「まずは花火大会だ。英気を養え」

 

 笑みを浮かべながら告げたガイドルフは、サンドイッチを食べ始める。

 アドシアードの告知パンフレットと花火大会のパンフレットを取ったマリは、何か仕掛けられていないか確認する。花火大会のパンフレットの裏に、東京武偵校の地下地図があった。この地図を見付けた彼女は、ガイドルフに視線を向けた。

 

「用意してやった。忍び込むのはあんた次第だ・・・まぁ、その前に”デカイ”事が起きるがな・・・」

 

 よからぬ事を考えている表情をしたガイドルフを見て、マリはパンフレットを鞄の中に入れ、カフェオレを全て飲んで席を立つ。

 

「御代は奢ろうか?」

 

 代金を支払うかどうかを問うガイドルフを無視しながら、マリはカウンターの会計の方へ向かった。

 

「ここ最近態度が悪いな・・・」

 

 サンドイッチを食べながらガイドルフは、代金を支払うマリを見てそう呟いた。




~今週の中断メッセージ~

イグナシオ・アクシスによる次回予告みたいな物

イグナシオ「フン、どうやらここまで来たらしいな。ここまでは褒めてやろう。マリ・ヴァセレート」

イグナシオ「それよりもなんだこの世界は?探偵と表しながら学生が武装して街を彷徨いているぞ」

イグナシオ「おまけにアリアと言う小学生、こいつ・・・ことある事に拳銃を抜いて撃ってやがる。トリガーハッピーか・・・?」

イグナシオ「それにキンジという奴、どうしてこんなちっこい奴に発情してんだ?まさかロリr」

ガッシャン!


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氷の障壁

今更ながらの説明が入る・・・

この回はZEUS(ゼウス)参戦とアロンダイト様と白石様の募集キャラが参戦。
参戦づくしの回であります(笑)。
それと格ゲーと銃撃戦、超能力が行われるカオスな回・・・


 武装探偵

 凶悪化する犯罪に対抗するべく新設された国家資格。略称して「武偵」とも呼ばれる。

 武偵免許を持つ者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察に準ずる活動が可能になる。

 しかしあくまで武偵は金で働き、金さえ貰えれば武偵法の許す限りどんな仕事でも請け負う「何でも屋」の側面がある。その武偵を育成する教育機関も存在する。

 東京武偵校を始めとしたニューヨーク、ウィンチェスター、ローマなど世界中に存在し、独自の学科を設けている施設の存在も確認できる。一般教育課程も履修しているが、学業の大半は武偵に関する授業である。

 武偵校から一般校への転入は一応可能だが、学力の低さと社交性のなさで転校先の学校を退学することが多く、若しくは転校先が嫌がって転入は認められない。

 出身者の大半は孤児院などの養護施設、貧しい家庭で育った者達で占められている。その為、東京武偵校では個人情報保護法8条の穴を利用して一度武偵校を退学させてから編入をさせている。もっとも、結局は武偵校に持ってくる場合が殆どだが。

 教育化もそれを見越してか、再受入の態勢を整えている。

 

 話は変わり、アドシアード当日となった東京武偵校。

 アドシアードは武偵校の学園祭のような物であり、物珍しさに来る観客で溢れている。受付の順番の中にマリの姿があった。観客の中には老若男女多彩だが、中には小さな子供までいる。

 

「結構混んでるわね・・・」

 

 受付に並ぶ三つの順番を見て呟く。今彼女が着ている衣服は一度武偵に拘束された事がある為、ワルキューレから余り目立たないようにしたのか、ブラウスとスカートを着込み、頭には白いピクチャーハットを被っている。

 数分もすると、ようやくマリの出番が来た。チケットを受け取り、武偵校内に入る。武偵の武の部分がつく為か、殆ど武器に関する出し物だ。

 暫く出し物を見て回っていると、見覚えのある髪型と小柄な少女が何処かへ向かっていくのが見えた。

 

「アリアちゃん・・・?」

 

 直ぐにその少女の後を追った。その様子を見ている怪しげな男が携帯をポケットから取り出し、何者かと連絡を取る。

 

「こちらカラス。”アリスは猫を追った”。繰り返す、”アリスは猫を追った”」

 

 何かを暗示している言葉を相手に伝えると、携帯を仕舞って何処かへ去っていく。一方、この連絡を受け取った人物は、学園島の何処かでニヤリと笑みを浮かべ、にやつきながら口を開いた。

 

「フッフッ・・・では、聖女の元へ参ろうか、諸君」

 

 白いタキシードと白いシルクハットを被った男マジェスティックプリンスは、杖を持ちながら後ろにいる黒いマントを羽織った部下らしき者達に告げ、その者達と共に移動を開始した。歩いて移動しており、隣から武装した集団が現れ、リーダーらしき人物が彼に近寄る。

 

「ヘッヘッ、王子(プリンス)の旦那。こちらの準備は出来ましたぜ。あの金髪の女、好きにして良いんだろ?」

 

「こっちも準備はOKだ・・・引き金を引きたくて指がウズウズしてるぜ・・・!」

 

 下品な笑みを浮かべながら問う黄色人と白人の男に対し、マジェスティックは紳士の態度で注意する。

 

「君達、仮にも相手は幾ら極悪非道とはいえ、美しいお嬢様だ。そのような下品な口調は止めたまえ」

 

「流石は旦那だ・・・では、俺は部下の配置をする」

 

「俺は位置(ポイント)に行って、目標の綺麗な顔を吹き飛ばすぜ」

 

 何処かへ去っていった武装した男達を見て、マジェスティックはやや不機嫌になる。

 

「何とも下品な傭兵達だ」

 

 不機嫌な言葉を吐くと、ポケットからタブレットを取り出し、標的であるマリの位置を探る。画面上に白く光っているマリの位置を見ながら歩いていると、ボンタンを履き、黒い短ランを羽織った以下にも不良な長身の男が、マジェスティックに近付いてきた。

 

「オイコラ。テメェ、なに見てんだぁ?」

 

「おぉ、これはミレニアム先輩。現在ターゲットである聖女の位置を確認している所です」

 

 玉座で会った時とは違った衣服を着ているミレニアムに対し、マジェスティックは先輩を敬う気持ちで問いに答えた。

 

「ほぅ、それで探すのか。じゃあ、とっとと締めに行くか」

 

 両手を鳴らしながら言うと、ミレニアムはポケットに両手を突っ込み、マリが現れる場所へと向かった。ミレニアムの後に続くように、多数のM2ブローニングを二挺装備した周りを装甲で覆った機械部と、下に馬のような脚を生やした月光と言う名の無人機が、飛びながら後へ続いた。

 その頃、ようやく追っていたツインテールにピンク色の髪の少女を捉えたマリは、手に持っている発信器を確認する端末に目を足られている隙に、少女を後ろから抱き付く。

 

「うわぁ!ちょっと、何よ!?」

 

 聞き覚えのある声色と言葉遣いで、直ぐに自分を逮捕したアリアと分かった。突然抱き付かれて暴れているが、全く解くことは出来ない。マリは自分の大きい胸をアリアの後頭部に押し付け、自分より30㎝程背が小さい少女に誰だかを問う。

 

「だ~れだ?」

 

「巫山戯るのも・・・大概にしなさい!」

 

 このじゃれ合いに怒ったアリアは身体を前に丸め、マリの右手を両腕で掴み、自分より大きい女性を投げた。だが、思いも知らずに投げられたマリは、即座に受け身を取って体勢を立て直し、アリアの目の前に立つ。

 

「あら、ちょっと酷いじゃない。アリアちゃん」

 

「煩い!あの時、なんで(あたし)の名前を知ってたのよ?」

 

 逮捕して連行中、携帯を取るように頼んだ際に「何故自分の名を口にしたのか」を問うアリアに対し、マリは笑みを浮かべながら答えた。

 

「生徒手帳見ちゃった?」

 

「生徒手帳!?いつの間に!」

 

「私に貴女が銃口向けてる時かな・・・?」

 

 いつの間に生徒手帳を見られた事に、アリアはさらに怒りを覚え、二挺の拳銃を抜こうとした。だが、それは機関銃の銃声で止められる。近くで銃弾が当たり、マリとアリアは距離を取り、拳銃を抜いて周囲を警戒する。

 

「今のは・・・!?」

 

 両手に大口径自動拳銃を構えて警戒するアリアは、チェコの自動拳銃であるCZ75を構えるマリに問う。

 

「多分あいつ等」

 

「あいつ等って・・・!」

 

 適当に答えたマリにアリアはあ然するが、飛んできた月光である程度理解できた。二人の前に月光が煙を上げながら着地し、その後からミレニアムやマジェスティックとマントを羽織った集団が現れる。

 

「おぉ、これは、これは・・・私、本名は言えませんがマジェスティックプリンスと申します」

 

 二人の目の前に立ったマジェスティックは頭を下げ、礼儀正しい挨拶をする。

 

「あ、あれがあいつ等・・・?」

 

「えぇ。見たことがない奴も居るけど、あれが奴らよ」

 

 挨拶をしたマジェスティックに対し、戸惑いながら問うアリアに、マリは答えた。

 

「ほぅ、少しは出来そうな奴だ・・・!まず俺が試してやる!」

 

 マジェスティックの後ろにいたマントの集団の中の一人が意気揚々と前に出て来て、今来ているマントを片手で脱ぎ取る。脱ぎ捨てられたマントから現れたのは、この世には存在しない生物だった。

 それは大きく裂けた口と鋭く並んだ牙以外人とは変わらぬ半裸の生物だ。これを見たアリアは今目の前にいる生物の存在が信じられないらしく、口を開けてただあ然している。

 

「な、なによ・・・こいつ・・・!?」

 

「おっと、失礼。彼は魔界の住人でね。その中でミュータントの遊牧民族である飢刃一族出身者だ。名前は・・・」

 

 あ然しているアリアに紹介するマジェスティックは、異形の存在である魔界の戦士の名を口にしようとしたが、その異形の存在が自分の名を口にした。

 

「バラカだ・・・よし、この俺様の相手は誰だ・・・?」

 

 バラカはマリとアリアを見ながら挑発する。この挑発に敢えて乗ったのは、マリであった。手にしていた拳銃をスカートに隠してあるホルスターに仕舞い、バラカに構える。

 

「ほぅ、素手で俺とやり合うつもりか?面白い。ズタズタに切り裂いてやる!」

 

 マリの挑戦を受けて立ったバラカは、同じく構えの姿勢を見せた。両名は構えたまま動かないが、先にバラカが動いた。

 

「先に動かないならこっちがやってやる!」

 

 拳を構えながら向かってくるバラカに対し、マリはただ構えているだけだ。

 

「(身構えるつもり?)」

 

 声に出さずにそう思ったアリアは、次に目線を目の前を塞ぐように並ぶマジェスティックを始めとした面々に向け、警戒している。バラカが右腕から鋭利な刃を出し、それでマリを突き刺そうとしたが、彼女の姿が突き立てる前に消えた。

 

「ン!?何処だ!」

 

 突如相手が姿を消したので、周囲を探すバラカであったが、その相手であるマリは自分の後ろに居た。

 

「おまぁ・・・!」

 

 振り返って言い終える前に頬を殴られ、吹き飛んだ。マリは瞬間移動を使って、バラカの後ろを取ったのだ。彼女の左手の甲に刻まれている紋章を目にしたマジェスティックは、直ぐにそれを理解した。

 

「あ、あれは・・・!”アウトサイダー”の・・・!?」

 

「あぁん?なんだお前、あの女の左手に付いてる刺青、分かんのか?」

 

 腕組みをしながら聞いてきたミレニアムに、マジェスティックは息を呑みながら答えた。

 

「あの左手の甲の紋章は、神と悪魔が混ざり合った存在であるアウトサイダーに会うことを許された証である紋章・・・!まさか・・・ここで見られるとは・・・」

 

「ほぉ・・・そのアウトサイダーって奴、俺より年下らしいな」

 

 説明をほぼ理解できてないミレニアムに対し、マジェスティックは敢えて無言を決め込む。起き上がったバラカは反撃に出ようとするも、追撃を掛けてきたマリに蹴りを入れられ、立つことが出来ない。

 

「畜生がーッ!!」

 

 叫んだ後、左腕からもう一本の刃を出し、マリに距離を取らせた。距離を取った彼女にバラカは突っ込んでくる。

 刃を突き刺されようとした瞬間、マリは身を屈んでバラカの腹にパンチを入れた。威力は強力であり、数秒間は怯んでいる事だろう。彼女はこの隙を逃さず、後ろへ回って強力な蹴りを入れた。

 

「ブワッ!」

 

 マジェスティックの前に蹴飛ばし、汚れた手をポケットから取り出したハンカチで拭き、次の挑戦者を目で探す。全員はマリの強さを見て、銃や今持っている武器を構えるが、ミレニアムが腕を鳴らしながら前に出て来た。

 

「ほぉ・・・面白れぇじゃねぇか・・・テメェどこ中だぁ?」

 

 睨み付けながら問うミレニアムに対し、マリは呆れた表情をする。

 

「あぁん?おい、どうした。答えろよ?」

 

「(こいつ馬鹿かしら・・・?さて、こいつはどうやって・・・)」

 

 内心目の前で睨み付けながら聞いてくる柄の悪い相手を馬鹿にしながら、彼女はどう倒すか頭を回転させる。だが、ミレニアムと戦うことはなかった。突如目の前に鋭利な刃が付いた山高帽が飛んできて、戦闘どころでは無くなる。

 

「なんだ!?」

 

 マジェスティックと後ろにいる者達は、突然の攻撃に辺りを警戒し始める。ミレニアムも途中で邪魔されたのか、周囲を睨み付け、舌打ちをする。

 

「一体何が起きてるのよ・・・!?」

 

 連続した非現実的な光景に声も出なかったアリアは、ようやく重たかったその口を開くことが出来た。コンクリートに突き刺さっているままの鍔の部分が刃の山高帽を、体格が戦士のような男が取り、山高帽を被った。

 次にロケットの発砲音が響くと、一機の月光が破壊され、ロケットランチャーらしき物を持つサングラスを掛けたドイツ人らしき白人の男が現れる。二人の男だけではない、他にも数人ほど様々な格好の男女が現れたのだ。彼等の姿を見たマジェスティックは動揺した表情をマリとアリアに見せ、口を開く。

 

「ま、まさか、奴らはZEUS(ゼウス)!?」

 

「ぜ、ZEUSだと!?」

 

「奴らもこの世界に!?」

 

 マジェスティックの後ろに居るマントの集団も、ZEUS(ゼウス)と呼ばれる者達の姿を見て、口々にその名を言い始める。アリアはさらに混乱し、マリは驚きを隠せないでいた。

 

「あ、あいつ等も・・・あんたの仲間・・・?」

 

「こんな奴ら、私・・・知らないわよ・・・!?」

 

 銃を下げたアリアからの問いに、マリは横に集まるただ者とは思えない臭いを放つ面々を見ながら答える。中央にロケットランチャー、アメリカのカールグスタフM2携帯式無反動砲を持ったグラサンを掛けた男が来ると、組織の者達が一斉にZEUSに視線を向けた。

 

「どうやら全員間に合ったようだ・・・」

 

「あぁ、一時はどうなるかと思った」

 

 さっきの山高帽を被った中国系の男が口を開くと、サングラスを掛けた男が答えた。持っていた無反動砲を背中に掛けると、腰にぶら下がっていたドイツの突撃銃HK G36を手に取り、マリとアリアに視線を向けた。

 

「お前達二人は先に誘拐犯の方へ行け。道の相手はそこの女一人で片付けられるほど簡単だ」

 

「はっ・・・?」

 

「ちょっと待って!あんた等一体何者よ・・・!?」

 

 サングラスを掛けた黒髪の男からの指示に、マリは呆然とし、アリアは男に何者かを問う。

 

「まぁ、”フリッツ・クリューガー”とでも言っておこう」

 

「テメェ等ぁ!先輩の俺を無視してんじゃねぇぞ!!」

 

 アリアに名乗ったフリッツに対し、ミレニアムは出て来た空間に手を突っ込み、何本かの竹刀を出すと、それをマリ達に向けて投げた。投げられた竹刀は即座に前に出て来た同じ茶髪のドイツ人が現れ、周囲にシールドらしき物を張り、弾かれた。

 

「テメェどこ中だコラァ!!」

 

 バリアを張って弾いた男に怒鳴り付けるミレニアムを見ながら、フリッツはマリとアリアに早く行くよう言う。

 

「さっさと行け!」

 

 その声に従って、マリは先行するアリアの後へと続いた。大人しく逃がすわけが無かったのか、マジェスティックが配下の者達に指示を飛ばす。

 

「に、逃がすな!手の空いている者は直ぐにマリを!!」

 

 マントを羽織った何名かと数機の月光が追撃を掛けてきたが、ZEUSの戦士達に妨害される。マリはアリアの後を追いながら後ろを振り返ると、自分達が離れたのと同時に組織とZEUSの戦いが始まった。

 全盛期と能力を失う前の自分ならあの中では最強だが、今の自分では全く太刀打ちできない。前を向き、先行する小柄な少女の後を追う。しかし、マジェスティックの用意した妨害が彼女等の足を止めた。

 

「来たぞ!撃ち殺せ!!」

 

 男の野太い声が聞こえた後、銃声が鳴り響き、先に行くアリアの足に銃弾が着弾し、少女が遮蔽物になるような場所へ飛んで身を隠す。敵の襲撃があるとフリッツから伝えられたので、マリは即座に拳銃を抜き、間抜けにも遮蔽物に隠れず、身をさらけ出したままアメリカの小型短機関銃MAC M10を撃ち続けている男を走りながら撃つ。

 銃声を上げてから発射された9㎜パラベラム弾は見事頭部に必中。男は短機関銃を撃ちながら死んだ。他の武装した男達も身をさらけ出したまま今持っている銃の弾丸が切れるまで撃ち続けている為、次々とマリに撃ち殺されていく。

 

「あんた・・・人を・・・!」

 

 遮蔽物で身を屈んでいるアリアは、数名を撃ち殺した後に自分の元へやって来たマリを睨み付けながら言った。

 

「あっ、そう言えばアリアちゃん武偵は殺しちゃ行けなかったんだっけ?でも、私は武偵じゃないから!」

 

 睨み付けるアリアにマリは答えると、身を出して残っている男達を全て撃ち殺した。弾奏の中身がまだ残っているか確認した後、少女の肩を叩いて遮蔽物から出た。

 

「そんなに甘いと死んじゃうよ?」

 

 先程全員射殺した死体から使えそうな武器を探しつつ、撃ち殺された死体を見て苛立っているアリアに告げた。ロシアのAKS74をさらに短くしたAKs74uを見付けると、それを手に取り、予備の弾奏も出来るだけ持ち、アリアに先に行くよう顎を動かして指示する。

 

「ふん!」

 

 苛立ちながらアリアは指示に応じ、追跡している人物を追うために先行した。先行するアリアに対し、近付いて武器を拾わないのかを問う。

 

「武器とか拾わないの?」

 

「私はこれがあるから良いの!」

 

 二挺のシルバーとブラックのコルト ガバメントを見せて答える。身を隠せる遮蔽物が多い場所へと着くと、目の前から身を隠していた男達が一斉に飛び出し、こちらに向けて撃ってきた。

 

「殺せ!」

 

 密造銃やクローンモデルの銃を撃ってくる男達の一人が叫び、銃を乱射してくる。即座にマリは手に持つ短い突撃銃で反撃に移り、アリアも殺さないように相手の銃を持つ手を撃って反撃する。

 

「グワッ!」

 

「うわっ!」

 

 一人は胸を撃たれて地面に倒れるが、もう一人は肩を撃たれて銃を手放す。前者がマリで、後者がアリアだ。

 自動拳銃や鈍器類を持つ男達は、雑多な小火器の支援を受けてマリとアリアが隠れる遮蔽物へ突っ込んでくる。しかし、遮蔽物に隠れずに撃っているので、あっさりと片付けられてしまい、突撃した男達も迎撃され、全滅する。

 

「これで全滅・・・?」

 

 空になった弾奏を外し、新しい弾倉に取り替えたマリは周囲を確認しながら呟く。周囲にて敵影と増援の気配が無いと判断したアリアは遮蔽物から出ようとするが、マリに首根っこ掴まれて遮蔽物に戻される。

 

「何すんのよ!?」

 

「敵の増援。しかもいつもの連中とは違う」

 

 引っ張ったマリにアリアは怒鳴ったが、進む先を指差す。指を差している方向を見てみると、AK用マガジンベストを身に着け、56式自動歩槍やAKM等のAK系統の突撃銃を持った複数の男達が見えた。

 動きは先程戦った素人の集団ではなく、兵士そのものであった。これを見たアリアはマリを見る。

 

「あいつ等・・・傭兵じゃない・・・!なんでここに・・・?」

 

「さぁ、あの白いアホが雇ったんじゃないの?」

 

 小柄の少女の方を向いて答えたマリは空の弾倉を掴み、先行している傭兵に向けて投げ込んだ。

 

「なんだ?」

 

 日本語でない言語で言った傭兵は、弾倉が投げ込まれた方向へと向かう。その隙を見て、アリアの肩を叩いて次の遮蔽物に移動する。先行している男以外の傭兵は、先程の銃撃戦でまだ息のある者達のトドメを刺しており、全くマリとアリアには気付かなかった。

 遮蔽物に身を隠したマリは先行した傭兵が持っている旧ソ連の小口径突撃銃AK74を見て、奪おうと考える。アリアに待つよう告げた彼女は、身を屈めながらAK74を持つ傭兵まで静かに近付く。瞬間移動を使って徐々に距離を詰め、ポケットから取り出したポケットナイフを持ち、背中のサスペンダーを掴んでコンクリートに強制的に座らせ、ナイフで喉を掻き斬る。

 

「ゲット」

 

 AK74を入手した彼女はさらに数本の専用弾倉を入手し、手に入れたばかりの突撃銃の安全装置を外し、単発にセレクターを合わせ、自分達を探している傭兵の頭に照準を合わせて引き金を引いた。狙われた傭兵の頭に穴が開いて倒れると、銃声に気付いた傭兵達は直ぐに遮蔽物に身を隠して警戒態勢に入る。

 

「敵の攻撃だ!」

 

 フィリピン語で叫んだリーダーらしき人物は全員に聞こえるように叫び、ハンドサインで指示を出す。未だに身を隠しているアリアは自分の得物の残弾を確認し、出るタイミングを計っている。暫くすると、傭兵達は標的の探索を始めた。

 

「見付け次第撃ち殺せ!死体でも結構な値段だ!!」

 

 リーダーが指示を飛ばせば、傭兵達は四人一組となり、各々の死角をカバーしつつ探索を行う。ついでに手に入れた旧ソ連のRGD-5破片手榴弾の安全ピンを外し、レバーを外して一番近い組に投げ込む。

 

「手榴弾!!」

 

 投げ込まれた手榴弾に気付いた傭兵達は散会したが、一人が間に合わず、爆発で飛ばされた破片で死亡する。この隙に、爆発で足を止めた組を全員マークして、一人ずつ頭を撃つ。

 

「あそこだ!あそこに居るぞ!!」

 

 見付けた傭兵が叫ぶと、全員がマリに向けて一斉に攻撃し始める。直ぐに身を隠し、銃弾を避けた。

 

「出てこい!」

 

 自分が隠れている場所を傭兵達が銃撃している間に、相手側から見えないよう屈んで移動し、無駄弾を使わせた。アリアも反撃に出ようとするが、瞬間移動で近付いてきたマリに肩を叩かれ、撃たないよう指示される。その間にリーダーがハンドサインで何名かに接近するよう指示を出す。

 軽機関銃などで掩護射撃を受けながら五名の傭兵がマリとアリアに気付くことなく、先程隠れていた場所に銃口を向けた。居ないと分かったのか、大声で撃つのを止めるよう指示するが、彼女はそこが狙いであったのか、連発に切り替えたAK74の銃撃を食らって全滅する。

 

「居たぞ!」

 

「撃てぇ!」

 

 流石に発見した傭兵達が、一斉にマリとアリアが隠れている場所へ銃撃する。凄まじい一斉射撃で牽制されている為、まともな反撃が出来ず、ここに押し留められた。さらには紛争地でよく見掛ける対戦車ロケットランチャーRPG7を持った傭兵まで現れた為、アリアは頭を抱えつつマリに問う。

 

「どうするのよ!?」

 

「貴女はそこに居て!あたしが全部やっつける!」

 

 最後の手榴弾を敵が密集している場所へ投げ込んで、銃撃をある程度減らし、瞬間移動で 別の場所へと移動した。アリアの居る場所へRPG7を撃とうとする傭兵に照準を合わせ、引き金を引いた。撃たれた射手は地面に倒れ、瞬間移動で一気に傭兵達の近くに接近し、その場にいる傭兵達を次々と撃ち殺していく。

 弾倉の中身が切れると、スカートのホルスターから拳銃を引き抜き、残弾の限り敵を撃つ。ある程度の敵がマリの銃撃で倒れると、遮蔽物からアリアが飛び出し、残った敵を無力化する。

 

「うわぁ!」

 

 最後にマリを撃とうとしたリーダーに体当たりし、倒れている頭に銃口を向け、右手に手錠を掛けた。

 

「おぉ、やるぅ~」

 

 傭兵のリーダーを無力化したアリアを見て、マリは小柄な武装探偵を褒め、パチパチと二回手を叩いて小さく拍手した。普段のアリアなら怒っている所だが、初めて戦ったベテランの傭兵に勝利した事で少し嬉しかった。

 傭兵に手錠を掛けた後、マリは弾薬補充を終え、端末をポケットから取り出し、追跡している標的の位置を確認すると、倉庫群がある方向へと向かった。妨害は続いていたのか、走っている最中に前を走っているアリアの足下に銃弾が当たり、跳弾する。

 

「今度は狙撃!?」

 

 下を蹴って車芸物に身を隠したアリアは、狙撃手に狙われている事を悟る。これを聞いたマリは「狙撃銃でも持ってくるべきだった」と後悔するのだが、その狙撃手が大声で叫んで撃ってくれたので特定は出来た。

 

『クソクソクソクソ!!どうして避けやがるんだ!!』

 

「あいつ・・・」

 

「馬鹿ね」

 

 狙撃手とは思えないくらい叫んでいる男に、アリアが呆れて言葉を言うと、マリは冷静に相手をただの”馬鹿”と判断する。彼女等の言うとおり、この男はとても狙撃手には向かない男である。

 

「クソッタレ・・・!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

 

 ブツブツとアメリカの自動小銃M14の狙撃モデルであるM21狙撃銃の弾倉をブツブツと呟きながら交換している男の名はブローニング・マーカス。

 驚くことに元アメリカ海兵隊の「コマンドD」と呼ばれる特殊部隊の一員であった男である。

 特殊部隊員どころか選抜狙撃手には絶対に向かないトリガーハッピーであり、おまけに初弾を外せば激しく感情を高ぶらせ、何度も引き金を引き始める。

 それに反して、格闘技、爆薬、アジア圏の語学に精通しており、湾岸戦争では四十六名のイラク兵を殺害した。

 今は殺し屋などの家業を行っているが、プロとしてのプライドを傷付けられると、激しく感情を高ぶらせ、トリガーハッピーとなる。

 ブローニングは弾倉をM21の取り替えると、次の狙撃地点へ移動した。あの男からの狙撃が来ないことを確認したのか、マリとアリアは次の遮蔽物へと移動を開始する。目的地である火薬倉庫まで向かおうとしたが、傭兵達の攻撃で止められた。

 

「また傭兵!?」

 

『野郎共!出来るだけ生かしておけよ?!後で楽しむんだからな!!』

 

 マリとアリアを攻撃する傭兵達のリーダーの男が、よからぬ事を混ぜて部下に指示していた。しかしこのイスラエルの短機関銃ウージーを持った日系のリーダー、周りの多彩な多国籍の傭兵達とは違ってかなりの小物集がする。

 その男の名は秋葉安治(あきば・やすじ)、根っこからの大悪党どころか鬼畜であり、十四歳の時に両親を殺害し、実家を放火して逮捕され、少年院へ収容されるが、看守を殺害して脱獄した。

 名前を変えて陸上自衛隊に入るが、目標だったレンジャー資格はその正確と態度の所為で取れず、同じ境遇の仲間と一緒に凶漢を殺害し、レンジャー資格を奪い取り、あたかも自分がレンジャーの資格を取ったかのように周りで自慢する始末。自衛隊を脱走した後、暴力団を立ち上げ、数々の殺人や強姦を行う。

天罰が下ったのか、警察の一斉検挙で組は壊滅したが、悪運が強かったのか、秋葉は仲 間と共に国外へ逃走し、フィリピンの山奥で陣地をこしらえ、金で雇った傭兵達と共に相変わらず鬼畜の所行のみならず誘拐や麻薬売買まで行っている。日本に仲間達を連れて帰ってきたと言うことは、マジェスティックに雇われたのだろう。

 

「ヒッヒッ!まぁ、じっくり楽しんだ後は剥製にでもしてやろうかな~?」

 

 薄気味悪い笑い声を上げた後、下品な表情を浮かべて秋葉は後のことも考えを口に出し、数名と仲間と共に去っていく。かくして、マリとアリアは危険な二人と戦うことになったが、倉庫でこれから戦うことになるあるフランスの英雄の子孫である美しき戦士と同じ氷使いの戦士である兄弟に助けられようとは思いもしなかった。

 

『フッハハハハ!死ね!死ねぇ!!』

 

『さっさと脚でも腕でも撃ってよ!先に無力化した奴には一発やらせてやるからよ!!』

 

 叫びながら撃ってくるブローニングと全く戦闘せず、ただ指図ばかりする秋葉に攻撃される二人は着々と追い詰められていた。

 

「アリアちゃん、私がこいつ等を引き付けるから!その間に目標の場所に!」

 

「分かったわ!あんた、絶対に死なないでね!」

 

 マリはアリアだけ目標の場所へと行かせることにし、少女と共に遮蔽物を飛び出した。

 

「馬鹿が!」

 

「自分から的になりたいってか?!」

 

「ズタボロにするんじゃねぇーぞ!!」

 

 飛び出した二人を見た傭兵が第一声を言えば、次にスコープを覗いているブローニングが言って、最後に秋葉が無線機を使って指示を出した。遮蔽物から身を出して攻撃してくる傭兵を倒しつつ、目的地である火薬庫まで向かうマリとアリア。

 ブローニングと傭兵達が彼女等を仕留めようと銃を撃ってくるが、トリガーハッピーの男は連射しすぎて外し、傭兵達も走る標的には中々当てられない。遂に目的地まで来ると、先にアリアを入れ、マリは自分だけ正面に立って、そこでバリケードを築いて追撃を掛けてくる傭兵達を迎撃した。

 

「どれだけ居るのよ・・・!」

 

 弾倉を交換しながら悪態付くマリであったが、敵は無限のように増殖するが如く自分の隠れる場所へ銃撃を加えてくる。さらにはブローニングの無茶苦茶な狙撃もあるため、正確な射撃が出来ないで居た。飛んでくる手榴弾は投げ返し、バリケード内に出来るだけ数を減らす。

 だが、次の対戦車ロケットランチャーによる攻撃で吹き飛ばされてしまう。安全が確保されたのか、秋葉が配下の仲間や傭兵達を率いて自ら赴いてきた。堅いコンクリートの上に横たわるマリを狙撃しようとするブローニングは、唇を舌で舐めた後、引き金を引こうとした。

 

「この女の身体に銃弾をぶち込んでやるぜ・・・!」

 

 引き金を飛行とした瞬間、ブローニングは気配もなく寄ってきた青と黒のツートンカラーの男に銃ごと凍らされた。

 

「なんだ・・・?スコープが凍って・・・?」

 

 ブローニングが言い終える前に完全に凍らされて動けなくなってしまった。完全に凍った状態になると、凍らせた本人であるサブゼロが近付き、強力な蹴りをブローニングに叩き付けた。結果は氷を強い力で割ったときと同じく、ブローニング・マーカスは氷の如くバラバラになった。

 他の狙撃手達も同じくサブゼロに倒されており、凍った銃と氷付けにされた肉片となってただ溶けるのを待つだけである。最後の一人であるブローニングを倒したサブゼロは、もう一人の”サブゼロ”が傭兵達を次々と倒しながらマリに接近しているのを、ただ仕留めた男が居た倉庫の上から見ていた。起き上がろうとするマリに接近する秋葉は、そのもう一人のサブゼロに部下諸共仕留められことは全く知らない。

 

「いい女じゃねぇか・・・まずは俺が味見を・・・!」

 

 嫌らしい笑みを浮かべながら向かってくる秋葉に銃を向けようとするマリであるが、余りにも取りづらい場所にあるので間に合わず、向かってくる男が出したコルト・ローマンと呼ばれるアメリカの回転式拳銃で右手と右腿の間を撃ち、銃から手を離させる。

 

「ヒッヒッ!大人しく俺にレイプ・・・」

 

「ぼ、ボス・・・」

 

 舌をなめずりながら言い寄ってくる男が言い終える前に、仲間と部下達が声を上げた。

 

「ん、どうした・・・って、お前等・・・何で凍って・・・?」

 

 凍る部下達を見た秋葉は怖じ気づき、左手にウージーと右手に回転式拳銃を構え、残った部下達と共に周囲を警戒する。凍った部下達の中から出て来たのは先程秋葉の部下達を倒しながら現れたサブゼロだ。彼の姿を見た秋葉は二挺の銃を向け、左右にいる部下四名に聞くかのように口を開く。

 

「こ、こいつ・・・忍者か・・・!?」

 

 しかし、その服装は忍者に似せただけの物だった。

 まだ残っていた傭兵がサブゼロの背後から銃を撃ったが、彼は銃弾を凍らせ、凍気で銃を撃った傭兵を凍らせる。次にトマホークを持った傭兵が斬り掛かるも、見事なまでの格闘技で呆気なく倒された挙げ句凍らされ、右と左から斬り掛かってきた傭兵二人は氷で作った刃で斬り殺された。

 

「撃ち殺せ!」

 

 秋葉の指示で仲間と部下達が銃をサブゼロに向けって一斉射撃を放つが、彼は舌に手を当てて氷の壁を作り、銃弾を防いだ。

 

「ば、化け物だ・・・!」

 

 仲間の一人が下がろうとしたが、コンクリートを凍らせてスピードを上げて迫るサブゼロに捕まり、臓器を凍らされた挙げ句、頭突きを食らって死亡する。恐怖の対象が一番近くに来たことに驚いた秋葉達は銃を向けるも、サブゼロに銃を触れられて凍らされてしまい、ナイフで戦う羽目になる。

 

「死ねぇ!」

 

 一人がナイフを振り下ろそうとするが、呆気なく避けられて凍らされ、次の男も凍らされる。

 

「ぬぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら斬り掛かってくる男に対しては、強烈なアッパーを食らわせて頭部を丸ごと吹き飛ばした。最後に残った部下は怖じ気づいて逃げようとするが、身体を凍らされ、サブゼロに上げられて上半身と下半身を分断された、凄まじい血飛沫が上がる中、秋葉は失禁した挙げ句に、恐怖でこの場から動けなくなる。

 

「う、うわぁ・・・た、頼む!命だけは・・・!」

 

 命乞いを始める秋葉であったが、今まで行ってきた鬼畜の所行で許されるはずもなく、サブゼロに素手で首を突き刺される。

 

「ハァァ!!」

 

 思いっ切り力を入れて頭蓋骨ごと脊髄を抜き、惨たらしい死を鬼畜に与えた。さらにサブゼロは秋葉の脊髄を鈍器代わりに使って、凍っていた鬼畜の部下二名に叩き付け、バラバラにした後、脊髄を捨てた。一連の出来事を見ていたマリは、ただ立っていることしか出来なかった。

 

「(こ、こいつ・・・何者・・・?)」

 

 気付かれない内に立ち上がり、アリアが入った倉庫に逃げようとしたが、逃げ道は氷で塞がれてしまう。逃げ道を失ったマリは立ち上がり、CZ75をサブゼロに向けて立ち向かうことにした。銃を構える彼女を見たサブゼロは感心し、冷気を吐きながらマリに告げた。

 

「ほぉ・・・それなら説明は不要だな。では、マリ・ヴァセレート。貴様の実力を図らせて貰おう」

 

 背後からもう一人のサブゼロが現れ、後ろに立って、マリと対峙しているもう一人に加勢しようとする。

 

「兄さん。僕も加勢しようか?」

 

「いや、その必要はない。追ってきた雑魚の始末を頼む」

 

「分かった」

 

 もう一人の弟であるサブゼロの加勢を断ると、弟は追撃を掛けてきた組織が送り込んできた月光と、雇われた者達の排除に掛かった。後方で戦闘が始まる中、兄であるサブゼロは銃を構えるマリに向けて言う。

 

「これで私とお前だけだ・・・」

 

「二人掛かりでやらないの?」

 

 余裕の表情を見せながら問うマリに、サブゼロは鼻で笑ってから答える。

 

「フッ、弟も私並みに強い。では、その実力、図らせて貰うぞ!」

 

 下のコンクリートを蹴って向かってくるサブゼロに、マリは照準を向かってくる男に合わせ、引き金を引いた。




FATALITY・・・!

募集されたキャラをたった一話で二人も殺す作者・・・

今回の中断メッセージは、ネタが浮かばないので無しです。


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絶対零度

前回のあらすじ。
フェイタリティ・・・!

自分が知っている氷タイプの戦士

氷の造形魔道士 グレイ・フルバスター

護廷十三番隊十番隊隊長 日番谷冬獅郎

海軍大将 青キジ

スタンド使いのハヤブサ ペットショップ

エックスメンの一人 アイスマン

上げると面倒臭いので他多数。


 マリは、チェコの自動拳銃CZ75をこちらへ向かってくる黒と青のツートンカラーの服装をしている背丈188㎝の男、絶対零度(サブ・ゼロ)に対し、引き金を引いて銃を撃つが、発射された銃弾は凍気で凍らされ、堅いコンクリートの上に落ちる。

 続けて発砲するも、目の前の忍者のような男に対しては全くの無駄であり、近付かれたサブ・ゼロに拳銃を持つ右手を攻撃され、CZ75を手放してしまった。

 次に左手でポケットナイフを取り出して、突き刺そうとするも、これも左手を殴られてはたき落とされてしまう。

 

「チッ」

 

「武器はそれだけか?」

 

 武器を全て無くして舌打ちをしたマリに、サブ・ゼロは余裕を見せながら告げる。このサブ・ゼロの態度がマリを少し怒らせたのか、彼女は相手の背後に瞬間移動し、後頭部を殴ろうとする。

 

「甘い!」

 

 瞬時に後ろから攻撃してくるマリに気付いたサブ・ゼロは己の分身を氷で作り、攻撃を回避した。氷で作られた分身は攻撃で砕けるが、砕けた氷の中からサブ・ゼロの拳が飛んで来た。回避できる筈もなく、胸部に重い拳を食らい、後ろへ蹌踉ける。

 吹き飛ばされずに倒れこそはしなかったが、かなりのダメージを食らった。唾液を吐いて体勢を立て直したマリを見て、サブ・ゼロは右手で彼女を指差しながら告げた。

 

「この程度のパンチで蹌踉けるとは、この先の戦いは乗り越えられないぞ!」

 

 言い終えれば反撃をする隙も与えようとせず、片膝を付けて両手を合わせて氷の闘気を溜め、それをマリに向かって掛け声と共に放った。

 

「トリャア!」

 

 サブ・ゼロの両手から放たれたボールのような冷気の塊は凍気波(フリーズショット)と呼ばれており、当たった敵を凍らせる効果のある技だ。

 勢いよく飛んでくる凍気波を、マリは下を蹴って上手く回避したが、サブ・ゼロは続いて氷流脚と呼ばれる堅いコンクリートを凍らせ、威力の高いスライディングアタックを彼女に仕掛ける。

 

「クッ!」

 

 辛うじて回避に成功し、体勢を戻そうとするサブ・ゼロに反撃を試みるも、受け止められてしまう。

 

「腕は良い・・・だが、遅すぎる!」

 

 マリの拳を受け止めながらサブ・ゼロは空いている手で凍気を溜め込み、彼女の足下を凍らせ、移動不能にした。

 

「う、動けない・・・!?」

 

「遅い・・・!相手はそうそう待ってはくれないぞ!」

 

 必死で氷から出ようとする相手に、急げば回避できた筈の攻撃を回避しなかったマリに激怒し、サブ・ゼロは強力な蹴りを彼女の腹に食らわせた。

 攻撃を受けた途端、マリの足首ごと凍らせていた氷が解け、彼女は吹き飛ばされ、地面に倒れる。倒れたマリは唾を吐いて立ち上がり、左手で口元を拭ってから口を開く。

 

「だって、あんたみたいなのと戦ったこと無いもん」

 

「そう言えばそうだったな・・・」

 

 もっともなマリの答えに、サブ・ゼロは冷静になって彼女を見て口を動かす。

 

「(ちょっと動きづらい)」

 

 今マリが着ている白いブラウスと黒いスカートは余り戦闘に向いてない衣服の所為か、動きづらかった。

 思い切った彼女はブラウスとスカートを破り、綺麗な腕や脚、腹の辺りが露わになった黒いノースリーブとスパッツの姿となる。この動きやすく露出度が増えたマリの姿を見たサブ・ゼロは、腕を組みながら場違いなことを問う。

 

「なんだ、誘惑でもしてるのか?」

 

「違うわよ。ちょっと動きやすい服装にしただけよ」

 

 豊満なバストを揺らしながら準備運動をするマリは、的確な突っ込みをサブ・ゼロに入れる。ツッコミを入れられた氷の戦士は「それもそうだな」と一言入れ、凍気波を放った。

 即座にマリは先程脱ぎ捨てた衣服を投げ、攻撃を防いだ。この防ぎ方にサブ・ゼロは感心したのか、彼女にお褒めの言葉を告げた。

 

「ほぉ、脱いだ衣服で防いだか・・・だが、これはどうかな?」

 

 両手に氷の槍を作り、それをマリに向けて投げた。身軽になった彼女はその攻撃を軽々と回避し、続いての攻撃を瞬間移動で回避して、サブ・ゼロの顔を殴り付ける。

 吹き飛びはせず、ただ地面に足を付けながら数㎝ほど下がっただけだ。空かさず追撃の一手をマリは掛ける。

 

「ごぉ!?」

 

 サブ・ゼロの腹にパンチを入れ、さらに蹴りを加えて左へ吹き飛ばす。倉庫の壁の方へ向かって飛んでいくが、凄い速さで体勢を変え、サブ・ゼロは壁に両足を着けた。そのまま勢いを付けて壁を蹴り、マリへの反撃に出る。

 僅かな滞空時間でまた体勢を変え、マリに蹴りを食らわせようとした。だが、これも避けられてしまい、マリの攻撃を受けてしまうが、サブ・ゼロの狙いはそこだった。

 両腕をクロスさせて攻撃を受け止め、衝撃で後方へと少し飛んだ。受け身を取って地面に身体が着けば、即座に立ち上がって凍気波をマリに向けて放つ。

 

「とりゃあ!」

 

「また!?」

 

 今度はスカートを投げて凍気波を防いだが、突如と無く凍ったスカートが割れ、無数の欠片の中からサブ・ゼロの拳が飛んでくる。咄嗟に左手を出して防御し、攻撃を防いだ。

 

「クッ・・・!」

 

 攻撃が重かったのか、左手に強い痛みを感じ、サブ・ゼロから距離を離した。簡単には逃さない筈もなく、相手は追撃を掛けてくる。

 マリは反撃をするしか無くなり、続々と繰り出される拳を受け止める事となる。やはりサブ・ゼロは人間の範囲を超えているためか、一発一発が重たい拳であり、さらには打つ速さも凄まじく、反撃もままなら無い。

 

「(こいつ・・・どんだけ強いのよ・・・!)」

 

 心の中でそう思いながら、次々と繰り出される拳を受け止めるしかなかった。状況を打開する為、サブ・ゼロの顔面に向けて唾を吐いた。

 吐き出された唾を防ぐためか、拳を打つのを止め、顔の目の前でマリから吐き出された唾を凍らせる。その隙を見て、マリはサブ・ゼロの顔面を思いっ切り殴る。

 

「グッ!姑息な手を使う・・・!」

 

「私、正々堂々と勝負しないタイプなの」

 

 殴られた頬を抑えずに問い、反撃に出るサブ・ゼロに対し、マリは余裕の表情をしながら答えた。今度は蹴りを入れての打ち合いとなり、両者とも互いを譲らずとなる。

 唾を掛けられたことに少し根を持ったのか、サブ・ゼロはマリの足下を凍らせ、バランスを崩そうという手を取る。

 

「わっ!?ちょ・・・!」

 

「そちらが唾を掛けるなら、私はお前の足下を凍らせるまでだ!」

 

 バランスを取ろうとするマリに、容赦なくサブ・ゼロは攻撃を入れる。マリは軽装になったとは言え、防御力は極度に低下している為、攻撃力が馬鹿にならないサブ・ゼロの攻撃を受ければ思い一撃となる。

 凍った足場から瞬間移動で離れ、後ろを取って蹴ろうとするが、蹴ったのは氷分身であり、蹴るために使った左足が凍ってしまう。

 

「ぐぁ・・・!」

 

 左足を抑えて解凍しようとしている最中に、後ろからスライディングで迫ってきたサブ・ゼロの攻撃を諸に受け、衝撃で上に吹き飛んだ。反撃の出来ない彼女を右手で顔面を殴り付け、さらに右脚の肘で背中を打つ。

 

「ガハッ!」

 

 目を見開いて口から唾液を吐き、鼻血を出しながら空中に少し滞空するマリであるが、サブ・ゼロは容赦なく左腕の肘攻撃を胸に食らわせ、彼女を地面に叩き付けられた。

 

「ガッ、ゴホッ!ゴホッ!」

 

 叩き付けられたショックで咳き込むマリであるが、そんな彼女に対して、サブ・ゼロは慈悲もなく、腹筋もない腹を踏み付け、罵倒の言葉を浴びせる。

 

「どうした、お前はその程度か?先程の威勢は何処へ行った?」

 

 踏み付けながら罵倒するサブ・ゼロに、マリはただ声を上げて苦しむ。だが、サブ・ゼロは致命的なミスをしてしまった。

 相手の両腕と両脚を凍らせおらず、地面に付けている足を晒してしまったのだ。直ぐにマリは左足を掴んで相手を転ばせ、踏んでいる右足が離れれば、瞬間移動である程度の距離まで離れ、地面を蹴って反撃に移った。

 地面に倒れることなく立ち上がったサブ・ゼロは、殺意の篭もった瞳で見ながら殴り掛かってくる金髪の女に身構えた。長くて細い腕から連続で素早く放たれる拳を相手は冷静に受け止め続ける。ただひたすら繰り出されるパンチを受けながらサブ・ゼロは考え始めた。

 

「(何かのスイッチが入ったかのようだな。暴走してる)」

 

 殺気に満ちる瞳をし、無表情で攻撃してくるマリを観察しながらそう脳内で判断する。蹴りを入れてバランスを崩そうとしたが、足で受け止められてしまう。アッパーしてマリから距離を離し、凍気波で凍らせようとするも、瞬間移動で回避される。

 再び向かってくるマリに、このままでは膠着状態になると察したサブ・ゼロは、無力化する事にした。

 

「少しは認めてやろう・・・」

 

 そう呟いて手から冷気を放ち、自我を失っているように見えるマリに向かった。

 凍気で長い棒を作り上げ、マリの攻撃を回避し、足を凍らせて動けないようにして、後頭部に思いっ切りその棒を叩き付けた。足下を凍らせていた氷は解け、後頭部を殴られたマリは気絶し、地面に仰向けになって倒れた。

 

「実力は良かったが、自我を保てないのが残念だな」

 

 持っていた氷の棒を消し、倒れるマリに続ける。

 

「尤も、自我を保てていれば、この攻撃も避けられていたら、完全に合格だ」

 

 最後まで言い終えた後、やって来た弟と合流し、火薬庫から騎士のような格好をした銀髪と雪のように白い肌の少女を連行して出て来るアリア、キンジ、巫女服姿の白雪に視線を向けた。

 

「あんた等、何者よ?それにそいつ・・・」

 

 開いている左手から出した45口径の自動拳銃コルト・ガバメントを向けながら二人のサブ・ゼロに問う。キンジも身構え、白雪は腰に差してある日本刀を抜く素振りを見せていた。

 

「貴方は・・・!?」

 

 連行されている少女は、サブ・ゼロの姿を見て、驚いた表情を見せた。

 

「おぉ、君か・・・どうやら負けたようだな。”ジャンヌ・ダルク”の子孫よ」

 

「はい・・・貴方の教えも適わず、彼等の見事な連携で敗れました」

 

 暗い表情を見せる“ジャンヌ・ダルク”の子孫と名乗る少女に、サブ・ゼロは「そんなことはない」と励ます。

 

「君は全力で戦った。恥じることはない」

 

 この言葉が嬉しかったのか、少し顔を赤らめた。次にアリアがサブ・ゼロに問い掛けてくる。

 

「ねぇ、あんた等。ジャンヌとどんな関係?と、言うか何者?」

 

「なに、ただ氷の使い方を教えただけだ。そこの後ろでマスクを脱いでいる男は私の弟だ」

 

 後ろでマスクを脱いで、厳つい風貌の素顔を見せる弟に手を翳しながら答えた。その後、やって来た警備部隊にジャンヌの身柄を引き渡した。サブ・ゼロ兄弟はアリア達が目を離した瞬間に消えており、何処へ消えたか分からなかった。

 先程の学園島で大規模な戦闘を行っていたZEUS(ゼウス)と組織のメンツは、警備部隊が動き出したと同時に姿を消しており、あるのは多数の月光の残骸とマジェスティックに雇われた柄の悪い者と傭兵の死体が転がっているだけだったと言う。

 そしてマリはと言うと、警備部隊に引き渡され、迎えに来たワルキューレの者達に施設へ送還となった。

 

 数時間後、夕焼けが上った頃、マリは白いベッドの上で目覚めた。

 

「あぁ、間に合わなかった・・・」

 

 窓から見える夕焼けが上る横浜の景色を見ながらそう呟く。横のタンスの上に置かれている手鏡を取って自分の顔を見てみると、サブ・ゼロに殴られた頬にガーゼが張られていた。

 

「治るまでいつになるかしら?」

 

 顔の傷を確認しながら呟いていると、ノエルと京香が部屋に入ってきた。

 

「傷の具合はどうですか、皇帝陛下」

 

 入ってきたノエルは、不安そうな表情を見せながら問い、ベッドの上に居るマリは頷いて答える。

 

「それは良かった・・・聖女の顔を傷付けるとは・・・一体どれほどの無礼な奴か・・・」

 

 安心しきった後、ノエルが小声でブツブツと呟いている言葉が耳に入った。京香にも聞こえていたらしく、彼女は苦笑いしながら上官を宥める。あの後、どうなったのかをマリはノエルに聞いた。

 

「ZEUSと呼ばれる勢力と組織との戦闘がどうなったかって?双方とも学園島から逃走したそうです」

 

 資料を見てから報告するノエルに、京香が上官の持っている資料を覗きながら続ける。

 

「それも煙のように消え去って・・・痕跡は組織に雇われた付近に居る・・・DQNと金に目の眩んだ暴力団員、麻薬中毒者、外国から集めた傭兵の死体と、異世界から持ち込まれた多数の無人機の残骸だけです。生きている何名かは、こちらの息の掛かった警備部隊が拘束し、当基地に連行し、尋問中であります」

 

 報告を終えた京香は少しやりきったような表情を見せ、隣にいたノエルは、出番を取られて少し不機嫌な顔付きになる。

 

「へぇ・・・そうなんだ・・・」

 

 そんな二人を気にすることなくマリは頷くと、あることを思い出し、それを口にした。

 

「あぁ、そうだ。あの学園島に潜入したいんだけど、装備ある?」

 

 突如発せられた信じられない言葉を聞いたノエルと京香は顔を青ざめ、口を震わせながら辛うじて動かす。

 

「せ、潜入って・・・!?」

 

「な、なに考えてるんですか!?」

 

 京香が真っ青にしながら言った後、ノエルがマリの肩を掴んで、目を見開きながら何故そのようなことをするのかを問う。表情からして冷静さを失っており、マリの事を病人だと忘れているようだ。

 

「ど、どうして潜入するんですかぁ!?幾ら私達がスポンサーだからとは言え、問題起こせば上の人が・・・!」

 

「はいはい、落ち着いて。誰も殺さないし、何も壊さないから・・・」

 

 涙目で言い寄ってくるノエルに、マリは冷静に答えた。

 

「うぅ・・・分かりました・・・命令書作成して兵站部に装備貸し出しして貰います・・・」

 

 言葉と優しげな表情でなんとか納得したノエルは、涙を拭きながら部屋を出て行った。残された京香は、上官であるノエルが置いていった資料を確認した後、特に報告することもなかったので、出て行くことにする。

 

「では、自分もこれで」

 

 病室を出た二人の部下を見送った後、マリは窓から見える景色に視線を戻した。

 一方、日が沈んで月の光が差し込めてくる頃、二人のサブ・ゼロは何処かの倉庫の前にいるフリッツの元を訪れた。

 

「どうだった、あの女の実力は?」

 

「あぁ、実力と才能は悪くないが、自我を保てないのが難点だ」

 

 兄であるサブ・ゼロが、フリッツの問いに答えた。

 

「そうか、”ハン”。それで、”カイ”。スコーピオンは襲撃してきたか?」

 

「いや、彼は来なかったよ。取り敢えず今日は運が良かった」

 

「それは良かった・・・では、次の世界へ行くか」

 

 次に問われた弟のカイは即座に答え、それを聞いたフリッツは「次の世界へ行く」と二人に告げた。

 

「それもそうだな、ここのワルキューレの部隊なら十分に組織は食い止められる。我々が居る必要はない」

 

「では、次も厄介な仕事が来た。しかも急な仕事だ。ここで油を売っている暇はない。行くぞ」

 

 尤もなことを兄であるハンが言うと、フリッツは懐からペンを取り出し、それを何もない場所に下に走らせると、空間が歪み、人が入れるほどの大きな穴が現れた。フリッツを始めとした他のZEUSの面々が出来た穴へと入っていき、最後にサブ・ゼロが入ると、穴は閉じ、元の何もない場所へと戻った。

 物陰から気配を消して見ていた人影があったが、彼等は気付くことなく新たな戦場である世界へと向かった。




なんか微妙なお色気と戦闘描画・・・
モーコンのもう一人の看板キャラであるスコーピオン出そうかと考えてたけど、ややこしくなったので取り止めに。
次回は東京武偵校へ潜入する(するとは言ってない)予定です。はい。

今回もまた思い浮かばないので中断メッセージはお休み。

ビッテンフェルト「おのれぇ・・・悪劣な・・・!」


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武偵校への潜入。

カズヒラ・ミラー『今回の任務(ミッション)は東京武偵校への潜入だ。日本の警備員だからと言って、甘く見るなよ』


 アドシアードから翌日。

 朝日が照らし付ける中、傷も癒えたマリは、レインボーブリッチから学園島を眺めていた。落下防止用の柵に膝を置き、ずっと眺めたままである。そんな彼女に紙煙草を咥えながら向かってくる長身の色黒な男、ガイドルフが声を掛けてきた。

 

「よぉ。どうした、そんなに学園島を眺めて。学生になって青春を謳歌したくなったか?」

 

 冗談交じりに声を掛けてくるガイドルフに、マリは一瞬振り向いたが、何も答えず、学園島に視線を戻した。

 

「最近なんか冷たいじゃないか?お礼は仇で返すタイプ女か?」

 

 煙草を口から離して、ずっと学園島を眺めているマリに問うが、さっきと同じ通り無視したままだ。そんな彼女に溜め息をついて、懐から何らかの資料を取り出し、それをマリの近くに翳す。

 

「一番比較的人が少ないのは今日の夜中だ。何たって学園祭の後だからな。潜入するのは今日がチャンスだ」

 

 無言で資料を受け取ったマリは、説明をするガイドルフの言葉に耳を傾けず、ただじっと読んでいる。

 

「明日は夜中でも学園にいる生徒が多いから、誰にも見られずの潜入には不向きだ。装備は大丈夫か?」

 

 問うガイドルフに対し、マリは振り向いて、無言で頷く。

 

「そうか・・・では、健闘を祈るよ」

 

 その合図を見て、ガイドルフはマリの元を立ち去っていった。資料を受け取った彼女は、それを肩から下げている赤い愛らしいバックに入れ込み、空を見上げた。

 

「これは一雨来そうね・・・」

 

 太陽の光を灰色の雨雲が覆い隠す中、そう呟いてから自分の拠点である施設へ戻った。

 

 

 

 あれから数時間後。

 太陽は沈み、月の光が上がる夜中になったが、未だに雨は止まず、さらに酷くなっていた。民間軍事会社のビルに扮したワルキューレの基地のガレージから大型バイクを押している黒いポンチョを羽織ったマリが出て来た。一端バイクを置いて、開けたガレージを閉めると、バイクに戻って跨り、刺さっているキーを回し、エンジンを掛ける。

 コンクリートに付けている足を離すと、両方のグリップを回してバイクを進めた。前輪を動かし、学園島へと向かう。タイヤが道路に溜まった水を弾く音を立てながら走る中、学園島へ続く連絡橋に止まる。バイクに乗ったまま懐から双眼鏡を取り出し、学園島を覗いた。

 

「やっぱり検問が・・・」

 

 学園島への出入り口に、HK G3大口径自動小銃をそのまま小口径にした突撃銃HK33を持つ灰緑色のポンチョを身に着けた警備員が四人ほど見渡していた。組み立て式の見張り台もあり、中には五人目の警備員がサーチライトを辺りに当てている。

 

「流石に正面突破は無理ね・・・」

 

 双眼鏡を仕舞い、バイクを人気のない場所にエンジンを止めて降り、海から学園島への潜入を試みる事にした。荷台にあるケースを取り、空いている手でポンチョを脱ぎ去った。雨が当たっているにも関わらず、脱ぎ捨てられたポンチョが空中高く舞い上がる中、マリの姿が露わとなる。

 ボディラインが浮き出ている黒色のボディスーツを着用しており、右太腿には麻酔銃に改造した拳銃が入っているガンホルスター、左太腿は麻酔銃用の弾倉が入ったポーチを付けている。

 左胸にスタンガンが付き、腰には装備品を入れる防水性ポーチがぶら下がっていた。へそから下は防水性の高いクリップ用ポーチを左右に三つずつ身に着けている。持ってきたケースの中身を開けると、中にあったのは大戦中のドイツ軍の主力小銃であるkar98kがあった。

 照準器にはZF41と呼ばれる中距離用狙撃スコープであり、使用する弾丸は麻酔弾だ。銃口には専用の消音器が取り付けられ、足音も殆ど聞こえない事から隠密かつ非殺傷任務のための装備と分かる。

 それらを手に取った後、長い髪を後ろに束ね、ケースに入っていた潜水用ゴーグルと超小型酸素ボンベを取り出し、ゴーグルを頭に付け、手のサイズまである酸素ボンベを手に持つ。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

 小型酸素ボンベを咥え、ゴーグルを頭に付けると、天候で少し荒れている海の中へと飛び込んだ。水飛沫を上げて汚れた東京湾へ入ると、そのまま学園島へ泳いで水中の中を進む。

 数十分間水の中を泳いで進めば、学園島の倉庫群の近くにある湾へ辿り着いた。目線の当たりまで上がって周囲を覗いてみると、ポンチョを羽織った警備員が銃を持って巡回している。

 

「ここは駄目・・・」

 

 湾の近くを巡回する警備員を見て、マリはそう呟き、人気のない場所まで泳いで移動する。また上がる前に周囲を確認し、居ないと判断して湾を上がり、ゴーグルと酸素ボンベを外した。

 肩に掛けてあるkar98kを周囲に構えて敵が居ないことを再度確認して、この当たりを安全と判断。ポーチからGPSを取り出し、画面に映し出された学園島の見取り図から自分の位置を確認する。

 

「丁度この辺りね・・・」

 

 位置を確認した後、麻酔銃に改造したボルトアクション式小銃を背中に掛け、右太腿から第二次世界大戦下で英国の特殊作戦執行部に使用された始めから消音器付き自動拳銃であるISRB ウェルロッドを取り出す。

 この消音拳銃も麻酔銃に改造されており、彼女が人を殺せる手段と言えば素手のみだ。向かおうとすると、左耳に付けた小型無線機から無線が入る。

 

『着きましたか?』

 

「着いたわよ」

 

 それはノエルからの通信であり、直ぐさま到着を確認する問いを掛けてきたので、マリは即座に答えた。

 

『着きましたか・・・何度も言いますが良いですか?誰も殺さないでくださいよ。武偵や警備員と違う場合によっては・・・』

 

「分かってるって。それより武器が古くさいんだけど?」

 

 どうやらノエルは何度もマリに言いつけているようで、彼女はウンザリしているようだ。次に彼女は持っている麻酔銃に改造されたウェルロッドとkar98kについて問う。

 

『それは・・・兵站部が渡してきた物ですので・・・』

 

「そう・・・じゃあ、頑張って能力見付けてくるわ」

 

『あぁ待ってください!』

 

「なに?」

 

 無線を切ろうとしたマリに、ノエルは慌てて止めた。

 

『警備員の何人かに協力者を紛れ込ませています。帽子やヘルメットを被っていないのが証拠です。それと、組織に雇われた敵兵が何名か武装探偵に捕らわれているので、事故に見せかけて()っちゃってください』

 

「それなら人殺せる武器寄こしなさいよ」

 

 先程の説明にツッコミを入れたマリに、ノエルは苦笑いしつつ続けた。

 

『警備員はワルキューレ所属ですが、差ほどがこの作戦のことを知らされておりません。しかも協力者も怪しまれないようにしているので、発見されれば撃たれます。敵兵を尋問するみたいに確認してください』

 

「分かった。じゃあ切るね」

 

『はい、お気を付けて』

 

 無線を切ると、マリは懐から心臓を取り出し、鼓動の強さを確認した。

 

「小さいけど・・・近いわね」

 

 そう言ってから心臓を仕舞い、麻酔銃を構え、目的地である東京武偵校へと向かった。警備員の足音に耳を傾けつつ進み、記録に新しい場所へ着いた。

 二日ほど前に組織に雇われたごろつきや傭兵と戦闘した場所であるが、雨で戦闘の後が流されたのか、それとも警備部隊が後の無いように清掃したか、戦闘の後が一切なかった。

 警備員が二人ほどごろつきと傭兵と銃撃戦を行った場所に現れる。マリは直ぐに身を隠して、物陰から形がどう見ても警備兵な警備員の様子を探る。二人の警備員は顔を合わせると、会話を始めた。

 

「よぅ」

 

「どうした?」

 

「ここの場所って、Sランクの小さい武偵と噂の金髪の女が、傭兵達と銃撃戦をやった所だな?」

 

「あぁそうだ。それがどうしたんだ?」

 

「実は俺、ここの片付けを担当しててな。余りにも面倒だったよ」

 

「それか。倉庫担当の奴らは大変だったそうだぞ」

 

「酷く損壊した死体が多かったって話だな・・・俺はここの担当で良かったよ」

 

「あぁ、俺も倉庫担当でなくて良かった」

 

 二人は会話を終えると、元の位置へ戻る。十分な距離まで二人の姿が離れれば、直ぐにそこを通り過ぎる。

 前に見える進路に邪魔な警備員を見付ければ、直ぐに頭を麻酔銃で撃ち、眠らせた。警備員が睡魔に襲われて倒れると、直ぐに人気のない場所へ隠す。

 ライフルが試したくなったので、kar98kに切り替え、手頃な距離にいる警備員の頭に照準を定めた。止まったところを逃さず、引き金を引くと、圧し殺された銃声と共に麻酔弾が警備員の頭へ向かって発射された。頭に麻酔弾が刺さった警備員は倒れ、降りしきる雨の中を眠ることとなる。

 

「お大事に」

 

 そう呟いてボルトを引いて空の薬莢を排出し、ボルトを押して次弾を装填した。落ちた空薬莢は、取り敢えず排水口辺りに落とし、証拠を隠滅する。警戒しながら先へ進みつつ、東京武偵校への距離を縮める。

 途中、複数の車の走行音が耳に入り、音がする方へ視線を向ければ、屋根付きのジープがこちらに向かってくるのが分かる。身を隠せる場所へ隠れると、ジープの後からトラックが数台ほど続いていた。車列が通り過ぎるのを確認してから飛び出し、背後をマリに晒しているポンチョを身に付け、頭には何も被っていない警備員に向かった。

 

「動くな」

 

 自分に気付かず、背中を晒している警備員に向けて銃を向ける。急に声が聞こえたのか、警備員は驚いて持っていたH&K(ヘッケラーあんどコッホ) MP5を5.56㎜弾倉仕様に変えたような形をしたHK53突撃銃を落とし、両手を挙げた。銃を構えつつ、両手を挙げている警備員に尋問する。

 

「あんた協力者?」

 

「・・・何のことだ?質問の意味が分からん・・・」

 

 数秒間黙ってから答えた警備員は、マリが問う「協力者」では無かった。返答を聞いたマリは、左手に持ったスタンガンを警備員に当て、気絶させる。気絶した警備員を人気のない場所まで運び、無線機を頂戴すると、目的地へと進む。

 何名かの警備員が居たが、どれもノエルが言っていた協力者の証拠である帽子やヘルメットを被ってない警備員は居らず、事情の知らない者達だけだった。隙を見計らってから移動し、邪魔な者に対しては急所に麻酔弾を食らわせるか、素手で気絶させながら目的地への距離を縮める。

 

「着いた・・・」

 

 ようやくの所で東京武偵校まで辿り着くことに成功した。直ぐにノエルに報告の無線を入れる。

 

「もしもし?今、学校に着いたけど」

 

『到着しましたか・・・予想通りの時間帯です』

 

「うん。協力者に会うわ」

 

『そうしてください。何人か生徒が残っております。それと近年に日本政府が定めた特定秘密保護法案決定で、日本各地の武偵校もそれに従い、生徒達が機密情報漏洩防止の元、殺傷用の武器を大量に保管するようになりました。寮内にも武器庫が備えられ、校舎の中にも武器が保管されております。発見されれば機密保護の元、最悪貴方は射殺されるでしょう・・・くれぐれも発見されないようにお気を付けて・・・』

 

「分かったわ。絶対に見付からないように進むから・・・」

 

『見付からないことを祈っています・・・では、何かあればご連絡を・・・』

 

 重要な説明を理解したマリは返事をした後、ノエルからの祈りの言葉を耳に入れ、無線を切った。塀から武偵校の中庭に潜入し、辺りに敵は居ないかダークビジョンで確認する。見える範囲で屋内には白く発光する何名かのシルエットが確認でき、地下には同じ色に光る鼠のシルエットが見える。

 

「(余りこの能力使ってないわね)」

 

 ここ最近ダークビジョンを使っていないことを気にしながら、辺りを巡回する警備員を避けつつ校内へと入っていく。雨が降りしきる中、椅子に座って寛いでいる四人のシルエットを窓から覗き見する。

 ダークビジョンを解いて確認してみると、武偵校の防弾制服を着た男子生徒四人であった。そんな彼等にモスバーグ M500散弾銃を持った警備員が帰るように注意しに来る。

 

「おい、学生はもう寮に帰る時間だぞ。早く帰らないか」

 

「あっ、もうそんな時間かよ・・・」

 

「とっとと帰れ。仕事の邪魔だ」

 

「帰ろうぜ」

 

 四人の男子生徒は警備員の指示に従って寮へと帰った。警備員が立ち去るのを待ってから、屋内への潜入を開始した。音を立てないように入り、ダークビジョンをもう一度発動し、監視カメラと屋内にいる人間のシルエットの数を確認する。

 

「全部合わせて百個足らず・・・」

 

 視界に映るカメラと人の数を確認しながら呟くと、近くにある監視カメラに映らないよう隠れて移動し、地下への行き方を知る協力者を探す。ノエルが言った帽子もヘルメットもしていない警備員を監視カメラや警備員の目を避けつつ探す中、ようやく目印にあった警備員を見付ける。

 だが、五人の集団で行動しており、一人でも捕まえれば発見される危険性があった。仕方なく集団の後を気付かれないように尾行する。広い場所へ五人が到達すると、立ち止まり、互いに顔を合わせて会話を始めた。

 

「なぁ、お前等もあれか?」

 

「あぁ、侵入者の事だろ」

 

「余りその事は言うな。他の奴らに聞かれたら、俺達は消される」

 

 丸刈りの警備員が注意すると、最初に口を開いた二人は謝って、まだ喋ってない他の二人に視線を向ける。

 

「お前もそうか?」

 

「あぁ。昨日、学園島を片付けてる最中、視察に来た将校が俺に」

 

「お前もか」

 

「俺もだ。一体どんな奴が・・・」

 

「さぁな、兎に角痛いことを我慢しなきゃいけない。巡回に戻るぞ」

 

 話を終えた五人はそれぞれ担当の場所へと戻っていった。直ぐに手近にいる警備員を捕まえようと、足音を立てずに接近し、こちらに背を向けている警備員に近付き、は追い責めにする。

 

「あぁ・・・!だ、誰だ・・・!?あぁ・・・!」

 

 警備員は顔を見ようとするが、マリは顔を見せないよう左手で首を絞める。頭に麻酔銃の銃口を近付け、尋問を開始する。

 

「吐け」

 

「あんた・・・例の・・・」

 

「良いから言いなさい」

 

「分かった・・・地下への”カード”は右ポケットへ入ってる・・・」

 

 教えられた通りに右ポケットからカードを回収し、再び銃口を向ける。

 

「もう良いだろ?流石にばれる・・・早くやれ・・・!」

 

「うん、ありがとう」

 

 警備員の頼みを聞き、壁に頭をぶつけて気絶させた。

 

「次は敵の捕虜を・・」

 

 次に、もう一つの任務(ミッション)である敵の捕虜の排除に向かった。端末で位置を確認した後、足音を立てずに移動し、監視カメラや警備員の目をかいくぐり、目的地である留置所を目指す。

 そのまま屋内を移動しつつ、留置所の出入り口付近へ近付くと、出入り口のドアには監視カメラが一台に、七人の警備員が立っており、通ることが出来ない。さらには後ろからもう一人警備員が近付いてくる。直ぐに隠れる場所を探し、天上を見上げた。

 

「行きますか・・・」

 

 そう呟いてから、左右にある壁を蹴って天井に張り付き、留置所付近へ向かうHK33を持つ警備員をやり過ごした。警備員は出入り口に集まっている七人と合流すると、足を止めて彼等の会話に混ざり始めた。

 

「よぉ、そんなに留置所の前に集まってどうした?」

 

「あぁ・・・それが・・・」

 

「誰にも言わないって約束できるか?」

 

 ヘルメットを被った散弾銃を持ち、ボディアーマーを付けた警備員が先程やって来た警備員に問う。それを頷いてから承知し、ヘルメットの警備員の話に耳を傾けた。

 

「あぁ、誰にも話さないよ・・・」

 

「よし、実はな・・・」

 

 誰にも聞こえないように小声で伝えた。その言葉を聞いた警備員は驚きの声を上げようとするが、他の警備員に止められる。

 

「おい、騒ぐな・・・!」

 

「聞かれたらマズイ・・・!」

 

「兎に角、そう言うことだ。絶対に言うなよ」

 

「分かった。お前等、ここに集まってたら他の警備員に怪しまれる。直ぐに元の位置に戻れ」

 

 先程やって来た警備員が言えば、ヘルメットを被り、散弾銃を持った警備員を残して残りの六人は去っていった。二人の警備員が残され、煙草を取り出し、それを口にして煙を吸う中、マリは天上から離れて床に静かに降りる。門番のように佇む二人のボディアーマーの警備員の様子を探る。

 

「(あいつ等・・・)」

 

 麻酔弾を撃とうにも、ボディアーマーをしているので当てることが出来ない。

 それに外には留置所の周囲だけ何かを予想してか、防弾盾(ライオットシールド)やM240軽機関銃を持った大多数の警備員達が配置され、厳重な警備網が敷かれている。

 これを見付からずにかいくぐるのは、骨が折れそうだ。仕方なく目の前にいる二人の警備員をどうにかする事にする。何か使える物がないか周囲を探してみると、消化器が目に入った。

 

「これ使おう・・・」

 

 消化器を手にとって、監視カメラに映らない位置で警備員の前に立つ。

 

「おい、誰だ?」

 

 声を掛けて、モスバーグを持った警備員がマリに近付いてくる。その瞬間を見計らい、消化器の安全装置を外して警備員に向けて噴射した。

 

「うわっ!?」

 

「どうした!?」

 

 噴射を食らって怯む警備員を見たもう一人は、様子を見に近付いてくる。腰のポケットから煙幕手榴弾を取り出し、安全栓を抜いてカメラの位置へ投げた。煙幕手榴弾を手榴弾と勘違いした警備員は離れようとする。

 

「ぐ、グレネード!」

 

 煙が十分になったところで消化粉を浴びた警備員を壁にぶつけて気絶させ、瞬間移動で一気に離れた警備員に近付き、顔面にスタンガンを当てて気絶させた。直ぐに見付からない場所へ警備員を隠し、出入り口のドアを開けて留置所へ入った。ドアをゆっくりと閉め、ダークビジョンで人数と監視カメラの数を確認する。

 

「以下にも殺してくれって数?」

 

 外の厳重さとは違って警備とカメラの数が少なかったので、疑ってみたが、これに敢えて応えることにした。屋内と同様、カメラに映らないよう移動しつつ、端末に記されている管理室まで向かう。

 警備員の目もあったが、麻酔銃で眠らせ、着々と距離を詰める。管理室へ辿り着くと、中に誰か居ないか腰のポーチからケーブルカメラを取り出し、様子を伺う。

 

「誰も居ない」

 

 見回して誰も居ないことを確認して、ドアの鍵をピッキングでこじ開けた後、管理室の中へ入った。

 中には誰も居らず、計器も付けっぱなしだった。机の上には説明書のような書類とワイヤー針タイプのスタンガンが置かれたままにされている。それを手にとって調べてみると、裏に文字が書かれていた。

 

「フィンランド語・・・」

 

 文字を即座にフィンランド語と理解したマリは、書いてある文章を読み上げる。

 

「”熱を探知するゴーグルを使え”?」

 

 書かれたとおりサーマルビジョンゴーグルをポーチから取り出し、右目に付けて書類の裏を見てみると、捕虜の排除の仕方が記されていた。

 

「“地下に誘導し、水に浸して電気を流して殺せ”か・・・」

 

 ゴーグルを仕舞い、スタンガンを取ってから指示されたとおりにマリは動く。全ての牢の鍵を解放してから留置所へ向かい、牢屋の中で捕らわれている頭に袋を被った傭兵や不法外国人、柄の悪い男達を解放した。

 

「た、助かった・・・袋を取ってくれ」

 

 助けられた傭兵らしき男がマリに袋を取るよう頼むが、声色を変えた彼女は拒否する。

 

「嫌よ。それから私の指示通り動きなさい」

 

「分かった。必ず助けてくれよ・・・!」

 

 すがる気持ちで伝える傭兵に、マリは声で捕虜達を死に場所である地下へ誘導した。他の捕虜達も声に誘導され、地下へと降りていく。全員地下へ降りると、マリはバルブを開けて、地下に海水を入れ始める。

 

「おい、なんで海水を・・・?」

 

 一人聞いてくる捕虜が居るが、無視して十分な量まで海水が部屋にはいると、バルブを閉めた。海水に浸からない階段まで来ると、手に入れたワイヤー針スタンガンを水面に向けて発射した。人体に針を突き刺し、人体に電流を流して相手を気絶させる為の物だが、このスタンガンの威力は凄まじく、電流を受けた捕虜達の悲鳴が聞こえてくる。

 

「うわっ!?」

 

 余りの衝撃にスタンガンを手放して、海水に落としてしまう。管理室に戻って排水ボタンを押し、死体の確認に向かった。そこには見事なまで黒こげになった捕虜の死体が転がっていた。

 

「任務完了・・・」

 

 こなさなければならない任務を終えたマリは、留置所を出ようとする。ダークビジョンで留置所の周囲を調べてみると、見回りも調べに来る警備員も来なかった。

 

「行ける」

 

 屋内からの留置所の出入り口に向かい、端末で地下への入口を確かめる。位置を特定した後、速やかに地下への入り口に向かう。壁や天上に隠れつつ、警備員や監視カメラを避け、時には便利な瞬間移動を使い、目的地への場所へと進む。

 数分後には、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を置かれた階段へと辿り着いた。しかし、地下への入り口は二人の警備員が陣取って行けない。

 

「あいつ等、サボりかしら?」

 

 一人はHK53を抱えながら壁にもたれ掛かり、もう一人はHK33を杖代わりにし、立ち話をしている。彼女は物陰に隠れて彼等の話を聞いてみることにした。

 

「お前、ハーフか?」

 

「いや、純粋な日本家系だ」

 

「俺も純粋だ」

 

「そう言えば、ここの警備員の連中、俺達も含めてみんな親のどちらかが日本人だな」

 

「あぁ、俺も気になってた所だ。理由は・・・ここが日本だからか?」

 

「さぁな、よく分からんことだ。それよりも何で地下は俺達でも立ち入り禁止なんだ?」

 

「分からねぇよ。”余所者の俺達”には見られたくない物でも隠してるんだろ」

 

「そんな気がするな。では、俺達が・・・」

 

 調べようとした二人の警備員の無線機が鳴り始めた。

 

「ちっ、こんな時に呼び出しか」

 

「俺も。ここに居たら怒られそうだ、持ち場に戻るか」

 

 無線機を片手に、二人は地下の入り口から離れ、自分の持ち場に戻り始めた。この隙にマリは地下へと続くドアに近付き、尋問して手に入れたカードをドアの隣に着いている端末に立てにスライドした。ドアの鍵が開く音が鳴り、ドアノブを握って中へと入る。

 地下へと続く階段が直ぐにマリの目に入った。

 

「到着っと・・・」

 

 地下への入り口を見付けたことをノエルに報告するべく、受信を開始する。

 

「地下に到着」

 

『着きましたか。では、ご自分の能力をお探し下さい』

 

 ノエルからの無線が切れると、マリは地下への階段を降り始めた。地下へ降りれば懐から心臓を取り出して、鼓動の強さを確認する。

 

「近い・・・でも・・・」

 

 強さを確認し、ダークビジョンで周囲を見渡してみると、警備員は居なかったが、複数の監視カメラと赤外線センサーを見付ける。

 

「そう簡単にはいかないか・・・」

 

 そう呟き、先を急いだ。最初にマリの目に入ったのは、横に四本の赤外線だ。

 引っ掛かりやすいよう、足下にセンサーを引いているので、助走を付け、壁走りで突破する。カメラも何台かあったが、死角を見付け、そこを通って鼓動が強くなる方へ進む。進むにつれて鼓動は強くなり、やがて激しくなる。

 

「近い・・・」

 

 大きなドアの前に立ち止まり、ダークビジョンを発動して再び確認すると、カメラやセンサーが一切なかった。

 何かがおかしいと察するマリではあったが、チャンスを逃してしまうと思って、ドアを開けてしまう。周囲にウェルロッドを構え、辺りを警戒したが、誰も出なかったので、中央に置かれ、藤色に光る水晶玉が置かれていた。

 直ぐにそれを手に取って、地面に向けて叩き付ける。水晶玉が割れた途端、中に詰まった藤色の煙がマリの身体を包み込み、身体の中へ入っていく。全て煙が入ると、身体が藤色に光り出した。

 

「戻った・・・!」

 

 力が戻った事で嬉しそうな表情を浮かべ、さっそく力を試してみた。脳内で取り戻した能力を思い出し、足に闘気を溜め込む。闘気を右足に集中させると、炎が吹き出す。

 

「これ・・・足から炎を出す技・・・名前は・・・”炎蹴り(フォイアー・キック)”?」

 

 適当に取り戻した能力に名前を付けた。自分の能力も取り戻し、任務も終えたので、もう学園島には用はない。来た道を戻って、学園島から脱出することにする。

 各所にあるカメラやレーザーを越えつつ、出入り口である階段を目指す。数分後には、階段へ辿り着くことに成功した。

 

「後は・・・」

 

 そう呟いてから、階段を上がり、校舎内へ戻ってきた。ダークビジョンを発動し、周囲に誰も居ないか確認してから移動を開始しようとしたのだが、突如と無く警報が鳴り響く。

 

「(死体が見付かった!?)」

 

 警報が響く廊下にて、マリは心の中でそう察した。天井にあるスピーカーから声が聞こえてくる。

 

『警報!留置所の地下にて、何者かに焼き殺された捕虜の死体が発見された。何者かが譲歩漏洩を防ぐために侵入し、殺害した模様。全隊員は侵入者をあぶり出せ』

 

 繰り返される放送に混じって、廊下を慌ただしい足音が耳に入ってくる。どうやら捜索態勢に入ったようだ。見付かるのは時間の問題となったので、端末の地図に記されている脱出ポイントまで急ぐ。

 窓から外に出て、直ぐさま近くの茂みに隠れ、自分を捜し回る警備員達の様子を探る。突撃銃や散弾銃を持つ警備員達だけではなく、頭には防弾バイザーなヘルメット、身体にはボディアーマーを身に着け、左手にライオットシールドを持ち、右手にオーストリアのロングマガジンモデルのグロック18自動拳銃を持つ重装備な警備員達も捜索に加わっている。

 

「あぁ、最悪・・・」

 

 周囲に銃を持ちながら捜し回る警備員達を見て、マリは溜め息をついた。さらに雨の音に混じって、スイッチを入れっぱなしの盗んだ無線機から声が聞こえてきた。

 

本部(HQ)、HQ!こちら警備犬(パトロールドック)7、地下に侵入された痕跡があった。機密情報を持ち出された可能性がある。特定秘密保護のため、武装探偵にも殺傷武器の武装を要請する。オーバー』

 

『こちらHQ、要請を受理した。侵入者は見付け次第排除せよ。アウト』

 

 このやり取りが終わったと同時に、学園島に取り付けられている拡声器から音声が流れる。

 

『在校中の武装探偵に告ぐ。地下の特定情報保管所に何者かに侵入された形跡があった。捜査はまだ行われてはいないが、情報を持ち出された可能性がある。情報漏洩を防ぐため、殺傷武器を武装し、探索に参加せよ。侵入者を発見した場合は拘束せよ。最悪な場合は射殺も躊躇わない。全力で情報漏洩防止に努めよ』

 

 地下に侵入した痕跡が発見され、情報を持ち出したと勘違いされたようだ。遠くから雨の落ちる音に混じって怒号が聞こえてくる。余り長居していると、脱出がより一層困難になりそうだ。

 そう思ったマリは、速やかにその場からの移動を開始した。捜し回っている警備員達から隠れつつ、移動していると、無線機から敵のやりとりが聞こえる。

 

『HQ、こちら鷹の目2。眠っている隊員を発見、隊員は無線機を盗られた模様。アウト』

 

『こちらHQ、直ちに盗られた無線機の場所を探知する。アウト』

 

 自分が持っている無線機で、居場所を特定される可能性があったため、慌てて無線機を何処かへ投げ捨てた。直ぐに異常なことが起きたことを確認した警備本部は、近くにいる何名かの隊員を差し向けてきた。

 ライト付きのHK33を持った警備員達が、マリが隠れている場所へ迫ってくる。

 体勢を低くして、直ぐにそこから離れる。脱出ポイントまで移動している最中、ノエルに連絡が来た。

 

『学園島が想定と同じく騒がしいですが・・・大丈夫ですか?』

 

「大丈夫よ、これも想定の内。後は見付からないように行けるか・・・」

 

『そうですか・・・ポイントにはボートがありますので。見付かった場合、ボートは離れます。その時は全力で脱出ポイントに向かい、海に飛び込んで4㎞泳いでください。そこでボートが回収します』

 

「分かった。じゃあ、見付からずに向かうわ」

 

 マリは走りながらノエルからの連絡に答えた後、無線を切った。無線を切った後でも走り続けていたが、運悪くライオットシールドとボディアーマーの重装備な警備員と遭遇してしまった。

 

「わぁ!?」

 

 警備員は驚いて、盾を構えながら無線機に手を伸ばそうとする。それをさせぬとマリは、先程取り戻した能力フォイアー・キックを相手に食らわせた。強力な蹴りが炎を纏ってさらに強力となり、容易に防弾盾を打ち破り、ボディアーマーまで到達した。

 

「グハッ!?」

 

 蹴りをボディアーマー越しに受けた警備員は3m程吹き飛び、気絶する。もし、相手が透明のポリカーボネイトで出来た防弾盾と、強靱な繊維のケブラーやアラミド繊維を幾重にも織り込んであるボディアーマーで防いでいなかったら死んでいた所だろう。

 フォイアー・キックを食らって気絶している警備員を放置して、マリは脱出ポイントへ急いだ。脱出ポイントまで半分を切った所で、目の前から出て来た黄色いレインコートを羽織った十代後半の少女に銃を突き付けられてしまう。

 

「動くな!」

 

 フードから見える顔付きからして、歳は16と言った所だろうか、自分に突き付けている銃は良くメディアで目にするドラムマガジンが特徴的なM1928トンプソン短機関銃では無く、箱形弾倉の軍用モデルのM1A1トンプソンだ。

 大きめな短機関銃を持つ両手は少し震えており、東京武偵校の学科の一つである強襲科(アサルト)と呼ばれる戦闘専門の所属ではない事を示していた。脳内で「強襲科所属である程度の経験があれば、銃を持つ手は人を殺して無くても震えない」と言う情報を思い出してから余裕を見せ、マリは短機関銃を持つ女子生徒に近付く。

 

「う、動くな!う、撃つぞ!!」

 

「あら、銃を人に撃つのは初めて?」

 

 近付いてくるマリに、女子生徒は少し怯えながら警告するが、逆に彼女は近付いてきて、「人を撃ったことがあるか?」と問い掛けてくる。引き金にはちゃんと指は掛けてあり、ちゃんとした構え方ではあるが、M1A1トンプソンは震えている状態だった。

 間近までに近付いても強襲科所属ではない女子生徒は人を傷つくことを恐れて発砲することが出来ず、彼女に銃を触れさせてしまう。

 

「あ、あぁ・・・」

 

「ほら・・・やっぱり撃てないじゃない・・・」

 

 震える女子生徒に顔を近付け、マリはそう告げた。本当のことを言われた女子生徒は銃を降ろしてしまい、膝をつき、悔しさの余り涙する。そんな女子生徒に対し、彼女は背中に麻酔銃を向け、引き金を引いた。

 麻酔弾を背中に受けた女子生徒は睡魔に襲われ、銃を落としてからその場で眠ってしまった。

 

「おい、どうした!?」

 

 次に、クリップを排出する時の音が特徴的な半自動小銃M1ガーランドを持った男子生徒が、膝をついた女子生徒を見付けたのか、マリにとっては間が悪い時に調べに来た。さらには、ウェンチェスター社の自動小銃M1カービンを持ったもう一人男子生徒まで来る。二人はマリの姿を見るなり、銃を撃つ前に叫ぼうとした。

 報告される前に、即座にボルトを引いて空薬莢を排出し、二人の頭部に向けて麻酔弾を放った。M1ガーランドを持つ男子生徒は頭に麻酔弾を食らって倒れ込む。次のM1カービンを持つ男子生徒は、慣れない手付きで今持っている銃を撃とうとするも、引き金を引く前に頭を撃たれて夢の世界へ行ってしまった。

 叫ぼうとした二人が仰向けになって倒れる中、彼女は目的地まで急いだ。身を隠せる場所に立ち寄り、そこで息を整え、周囲の状況を探る。

 

「なんか武器だけ第二次世界大戦の米軍」

 

 現代的な自動小銃や突撃銃を持つ警備員達に混じって、学生には重いUS M1918A2軽機関銃や工具に箱形弾倉を付けた感じのGM M3A1グリーズガンを持った在校中の武偵校の生徒達が探索をしていた。

 先程の女子生徒や男子生徒が持っていたM1A1トンプソンにM1ガーランド、M1カービンなどを持っている生徒達が慌ただしく捜し回っているのを見て、マリは「武器だけが第二次世界大戦下の米軍」と呟く。

 実際に、M1919A4軽機関銃やこの学園では物騒な物に値するM1A1バズーカまであればだが。

 何故、学生達に与えられたのは第二次世界大戦中に米軍とその他連合国、戦後は払い下げ先の自衛隊に使われていた小火器を使っている理由は、恐らく自衛隊からの払い下げか、アメリカの集軍から埃を被っていた物を安く買いあさったか、新しく所有する工場で生産した物だろう。

 そんな事を呟きつつ、彼女は人目を避けつつ目的地まで急ぐ。隠れて敵をやり過ごすか、邪魔な奴を麻酔弾で眠らせるのを繰り返す中、ようやく脱出ポイントの海岸沿いに辿り着くことに成功した。

 

「やっと着いた・・・」

 

 一息ついて、ボートがある事を確認する。

 

「あれ、人が・・・」

 

 見付けたのは良いが、黒いゴムボートには誰も乗ってはいなかった。変だと思って舵を調べたところ、何か装置みたいな物が取り付けられている。理由を問うためにノエルに無線連絡する。

 

「ねぇ、ボートに人が居ない上に、舵に変なの付いてるけど?」

 

『それは自動操縦装置です。赤いのを押してください。そうすればボートは出ます』

 

 言われたとおり、ボートに乗り込んで、装置の赤いボタンを押した。

 すると、ボートのエンジンが勝手に掛かり、舵まで勝手に動き出す。

 

「成る程・・・これが・・」

 

『はい。これで貴方は自動的に帰れます。任務と能力回収は完了したようですね。では、食事を用意して待ってます』

 

 ノエルはそれを告げた後、連絡を切った。揺れるボートの上で、マリは小さくなっていく学園島を、ここまで聞こえてくる警報を聞きながら、ただ眺めているだけだった。




カズ「えっ、俺の出る幕じゃない?何を言うんだマリ、これは俺と・・・おぉ!?あ、あべし!!」

えぇ、メタルギアソリッド グラウンドゼロズのあのキューバにあるアメリカの秘密軍事施設(ブラック・サイト)と化している米軍基地をイメージして書きました。

ちなみに"ブラック・サイト"と言うと、アメリカ国外でテロ犯を拷問するための秘密軍事施設であり、施設の所在国は"秘密"となっております。

そして、グラウンドゼロズの舞台にされているあの米軍基地、実は存在しているのです・・・
その名はグァンタナモ米軍基地・・・国内法でも国際法でもない軍法のみが適用される治外法権区域であり、基地周辺が地雷原で固められている事からマスメディアにも実体が見えない海外基地とされています。
調べた時は驚きました・・・なんたってアメリカの犬猿の仲である真逆の社会主義国家なキューバに米軍基地があるのだから・・・
マジでそこを舞台にするとは・・・小島監督、半端無いっすよ!

それと、学園島の警備を担っている武装した警備員達の設定は、民間軍事警備会社に扮したワルキューレの警備兵部隊です。
人員は緋アリの世界の出身者で親のどちらかが日本人で編成されています。
会社の名前は、SAKIMORI。防人をローマ字にしただけです。はい(PAM!


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近付く怪盗の子孫

キルア「おっし!十中八九奴はこれで罠にはまった・・・後は・・・!」

※微エロ注意。いや、ヤバイかな・・・?


 学園島にある能力を取り戻し、脱出してからの翌朝。

 組織の構成員を始末したし、能力も取り戻したことで、マリはこの世界にいる理由もなくなった。特にすることもなく、昨日の酷い雨とは違ってとても良い天気の下で、ガイドルフから東京武偵校と学園島に関する資料を貰った横浜のカフェテラスのテラスの席に座り、煙草を吹かしていた。

 今回の服装は黒いフリルの付いたスカートと洋服のゴシック・アンド・ロリータ、略してゴスロリであり、容姿が際だって目立っており、他の客の目が、時々マリに向いている。

 机の上には、灰皿と共に淹れ立ての紅茶が入ったティーカップと下に置く皿とかき混ぜるためのスプーンが置かれている。そのカップには口は付けておらず、ずっと湯気が立っていた。煙草を灰皿の上に置けば、淹れ立ての紅茶に口を付けた。一口飲むと、カップから口を離して皿に置き、横浜の景色を眺める。

 そんなマリを監視する謎の人影があった。

 

「全部やっちゃったから・・・そろそろ別の世界に・・・」

 

 他の世界へ行き、自分の能力を探そうと思うマリであったが、それはある出来事によって取り止める事となる。暫くして紅茶を飲み干し、代金を支払って店を後にすると、自分に声を掛ける人物が現れた。

 

「お姉さん、ちょっと良い?」

 

 ナンパでもするかのような口調ではあったが、声色はそれにはそぐわない物だった。正体を確かめるため、振り向いて確認する。

 そこには、マリと同じようなゴスロリな服装で、身長147㎝で長い金髪をツーサイドに結んだ、ゆるい天然パーマが特徴で、身体に似合わない胸が大きい童顔の美少女の姿があった。似合った服装であり、思わず彼女は声を上げた。

 

「わぁ・・・」

 

 振り返ったマリに対し、少女は媚びるかのような表情で問う。

 

「来て貰って・・・良いかな?」

 

「良いわよ」

 

 その表情で即答し、少女の後へ続いた。

 

「やった!じゃあ、ついてきて」

 

 少女は後ろに両手を合わせ、鼻歌を歌い、楽しそうなステップしながら向かう。そんな嬉しそうにしながら向かう少女を見て、マリはにこやかにして、後へ続く。数分後、人気があまりしない場所へ着き、少女は目の前にある6階建てのホテルへ入ろうとする。

 

「お姉ちゃん、こっちだよ~」

 

 にこやかな表情で振り返った少女は、マリをホテルへ手招きした。それに応じ、彼女は少女と共にホテルへと入る。少女はマリを近くで待たせて受付を済すと、自分らの部屋がある3階へと上がる。

 

「ここだよ~お姉ちゃん♪」

 

 子供のような笑顔で目標の部屋を指差して、マリに告げる少女はドアを開けた。ドアを開けた少女は意気揚々と先に部屋に入り、彼女もその後へ続く。部屋に入ったマリは、少女の姿が消えていることに気付いた。

 

「あら・・・?」

 

 辺りを見渡すと、察するかのように入った場所から死角になる場所を確認するも、少女の姿はなかった。他に待ち伏せに適した箇所を探してみたが、少女の姿がない。敢えて避けた寝室に視線を向けた。

 

「絶対にいるわね・・・」

 

 そう察して寝室に向かい、ドアを開けて部屋に入った。予想通り、少女は暗殺に適したナイフを持って、出入り口の死角から襲ってきた。感付いたマリは、振りかざされたナイフを回避し、ナイフを握る右手を掴み、ベッドへ向けて少女を投げる。

 ベッドへ投げられた少女は反撃に出ようとするも、彼女はそれを許すはずもなく、押し倒された。マリに両手両脚は防がれ、少女は身動き一つ取れなくなる。

 

「お姉ちゃん、すっご~い」

 

 少女は抑え付けられているにも関わらず、苦痛の表情を一切見せず、笑顔でマリに凄いと表した。戸惑った表情を見せ、悔しがると思っていたマリは、少し呆気に取られる。少女には抵抗の意思はないと思い、彼女は少女から離れようとする。

 だが、少女はマリの手を掴んだ。

 

「ねぇ、ベッドに押し倒して・・・そのまま?」

 

「あっ、やっちゃった・・・」

 

 容姿に似合うくらいの笑みで誘う少女に対し、マリは妖艶な笑みを浮かべながら、少女の顔に近付ける。身構える少女であったが、予測したとおりの事をマリはせず、自分の耳元で囁くように問う。

 

「私に何か用?」

 

 それを聞いた少女は、小さく笑ってから答えた。

 

「私の大事な物が、取り上げられたままなの・・・でも、私だけじゃ駄目だから、お姉ちゃんに頼みたいの。私の身体で良いなら引き受けてくれる?」

 

 自分の身体を代償に、甘えた表情を浮かべながら依頼する少女に対し、マリは口ごもる。

 

「駄目・・・かな・・・?」

 

 口ごもったマリに、子供が上目遣いで頼むかの表情を浮かべながら返答を問う。その表情に興奮し、承諾した後でする行為で快楽に溺れる少女の表情を妄想した彼女は、少女の額に手を当て、問いに答えた。

 

「承知するわ・・・」

 

「わぁ・・・ありがとう!本当にお姉ちゃんは女神様だよ!!」

 

 依頼を承諾したマリに、少女は抱き付きついた。体勢はベッドの上で抱き合っている形になり、少女はマリの自分より大きい胸に顔を渦くめる。彼女は自分の胸に顔を渦くめている少女の名前を訊く。

 

「で、名前は何て言うの?」

 

「お姉ちゃんが承知してくれたから答えるね。私、峰理子(みね・りこ)。東京武偵校2年A組、探偵科(インケスタ)所属の美少女探偵なのだ!」

 

 抱き付いたまま、顔を上げながら自己アピールのような紹介をする理子は、右手で横ピースをする。そんな理子に対し、マリは自分の名を口にしようとしたが、彼女は人差し指を上げ、横に振った。

 

「NONO。お姉ちゃんの名前はもう知ってるよ。マリ・ヴァセレートっていうんでしょ?」

 

「すっごーい、当たってるじゃん」

 

 この世界において自分は存在しない物であるが、ワルキューレの情報端末にハッキングでもして調べたのか、自分の素性を知っていた。だが、マリにとっては丁度良い暇潰しになったので、敢えて理子を褒めることにした。

 

「えへへ、りこりんが本気になればこんな物なのだよ!」

 

 自分の胸に手を当てながら自慢する理子に、マリは今着ている衣服を脱ぎ始めた。

 

「わぁ・・・大きい・・・しかもヤバイくらいに肌綺麗・・・!」

 

 揺れる白いブラから見える豊満なバストを見て、理子は驚きの声を上げた。呆気に取られている内に、マリに衣服を脱がされる。

 

「こんな体型の子、見るのはいつぶりかしら・・・」

 

「お姉ちゃん私と同じ体型の()としたことあるんだ・・・豊富なんだね~」

 

「あっ・・・」

 

 理子の小柄で巨乳な体型な姿を見て、「久し振りに見た」とマリが言う中、理子は悪戯半分に彼女の胸を鷲掴みにし、ブラ越しから揉み始めた。触られた後に声を小さく上げ、顔を赤らめ、長くて白い腕で理子の背中に手を回す。ブラを器用に外し、体型にはやや似合そうもない豊満なバストが解放された。

 

「じゃあ、しちゃう?」

 

「うん、しちゃう♪」

 

 手を止めて性行為をするかを問う理子に対し、マリは妖艶な笑みを浮かべて応じ、答えを聞いた理子は、小悪魔のような笑みを浮かべ、マリのショーツの中に手を突っ込んだ。その後、二人は真昼からホテルのベッドの上で、喘ぎ声を上げつつ身体を交えた。

 

 

 

 数時間後、ベッドの上で汗だくまま全裸で抱き合って激しく息を荒げる二人。

 二人が横たわるシーツの皺と広まった染みは激しい行為の後を表しており、体液で火照る一糸纏わぬ肌がとても妖艶しい。

 行為を終えたマリと理子は、数秒間互いに見つめ合った後、厚いキスを交わす。互いの舌を絡ませ、十数秒間も唾液を交換し合う。やがて口元を離すと、唾液の橋ができあがる。

 体液まみれの手で起き上がり、シーツで体液を拭った後、ベッドの周囲に脱ぎ捨ててある自分の衣服から煙草とライターを取り出す。

 

「お姉ちゃん煙草吸うんだ・・・」

 

 理子も起き上がって、マリの背中に抱き付き、煙草を咥える彼女に向けて言う。それを見たマリは煙草から口を離そうとするが、理子は「吸っても良い」と告げる。

 

「吸って良いよ。慣れてるから・・・」

 

 その言葉通り、マリは一服して、全裸のまま机の上に置いてある灰皿に灰を落とす。灰を落とすと、理子に先にシャワーを浴びるのかを問う。

 

「先にシャワー入る?」

 

「りこりんは、お姉ちゃんと一緒に入りたいな~」

 

 理子はマリの体液で濡れた人差し指を舐めながら、マリに告げる。もちろん、彼女はこれに応じ、理子と共に行為で濡れた身体を洗い流した。そして、衣服を身に着けて部屋を出ると、理子と別れ、スカートのポケットからスマートフォンを取り出し、ノエルに連絡を入れる。

 

「あ、もしもし?私だけど。ノエルちゃん、いきなりだけど」

 

『なんです?』

 

「用が出来ちゃったから、予定は持ち越しってことで」

 

『え、どういう事です?』

 

 向こう側のノエルは、マリが言った事に驚いたようだ。それに対し、マリは適当に説明する。

 

『はぁ?美少女に頼まれたからって・・・』

 

「まぁ、そんな事だから。帰ってもそれしか答えないから」

 

『えっ!?まさかまた・・・』

 

 ノエルが言い終える前に、電話を途中で切った。

 スマホを仕舞い、マリはこの世界のワルキューレの拠点である民間軍事警備会社本部ビルへ戻る。帰ってから、ノエルにどういう事なのかを問われたが、シラを切り、時計の針が22時を指すなり自分の部屋に戻って寝た。翌日、マリは本部を出て、理子と待ち合わせの場所へ向かった。

 護身用の武器であるSIG社の小型自動拳銃P232は、ちゃんと脇のホルスターの中に収まっている。スマホの地図アプリで待ち合わせ場所の確認を行い、秋葉腹にある待ち合わせに足を運んだ。それからおよそ40分、ビルへと辿り着く。

 

「ここかしら?」

 

 階段を上がり、「メイド喫茶」とドアの横に掛けてある看板を見ると、ここが待ち合わせ場所と分かった。メイド喫茶と言えば、メイド服を着た女性店員が接客する喫茶のことだ。マリは前に入ったことは3~4回くらい入ったことがあるので、緊張感も無しにドアを開けて入る。

 

『いらっしゃいませ!お嬢様!』

 

 入ってきた彼女を、複数のメイド服を着た女性店員が挨拶を行った。店内は主にピンク色で派手であり、彼女等の服装も少し露出があって派手である。そんな彼女等の中に、一番派手で露出度が高いメイド服を着た理子が出て来た。

 

「おっは~、お姉ちゃん!早速だけどぉ、メイド服に着替えてくれるかなぁ?」

 

「えぇ・・・?別に良いけど・・・」

 

「やったー!じゃあ、更衣室は案内するから、ついてきてね♪」

 

 いきなりの頼みを承諾したマリは、更衣室へ向かう理子の後へ続いた。更衣室に到着して中へ入り、理子が手を翳したロッカーに向かう。

 

「そっちに着替えが入ってるから。着替えてね♪」

 

 言われたとおり、示されたロッカーを開けて中を見てみると、そこにはえらく露出度が高いメイド服がハンガーに掛けられていた。胸元は強調され、スカートもぎりぎりなほど短い。

 

「これ着るの?」

 

「うん。駄目かな・・・?」

 

 理子にこの異様なまでの露出度が高いメイド服を着るのかを顔が問う。返ってきた答えに少し顔を引きつらせてしまうが、理子が上目遣いで返したので、躊躇することなく着替え始める。数分後には、この露出度の高いメイド服を着たマリの姿があった。

 

「わぁ・・・凄く似合ってるよ♪」

 

 その姿を見た理子は大はしゃぎした。動く度に谷間が見えるマリの大きいバストは揺れ、あわや短いスカートの中にあるパンツは見えそうになってしまう。雪のように白い肌の肉付きの良い太腿が見え、黒いニーソックスでさらに色気が増している。

 

「うん、この見えそうで見えない絶対領域が良い!ふとましい太腿も良いよ~」

 

「私だけこんな格好で接客するの・・・?まるで風俗じゃない・・・」

 

「大丈夫。お姉ちゃんのこのメイド服は、今回だけだから♪」

 

 グッドサインのジェスチャーを送る理子に対し、マリは今着ているメイド服を見ながら問うが、直ぐに返ってきた答えに安心する。理子がスマホを取り出し、マリのメイド服姿を撮影し始めた。

 

「はいはい。ポーズ取って~」

 

 指示に応じ、マリは即座に思い付いたポーズを取った。思い付いたポーズは、ワルキューレの拠点にあったグラビア雑誌に載っているグラビアアイドルのポーズだ。大きい胸を強調し、美脚を見せる等の様々なポーズを取る。

 ポーズを取っているマリは、結構楽しそうだ。時間が来たのか、理子はスマホを仕舞ってマリに中止を知らせる。

 

「あっ、もうこんな時間。今から説明するから」

 

「なに?」

 

「実はね・・・」

 

 理子は、キンジとアリアが来ることを知らせた。

 

「へぇ、あの二人も今回の件に・・・分かったわ」

 

「ありがとう~じゃあ、出入り口の見えないところで待っててね」

 

 そう理子が伝えた後、二人は更衣室を出て店内に戻り、マリは出入り口から見えない場所で待機する。壁越しから出入り口を覗き、キンジとアリアが入ってくるのを待つ。それから数分後、銃を構えた二人が入ってきた。

 マリも銃を取ろうとしたが、着替えで銃が入ったホルスターを外していることを忘れていた。だが、銃を使う必要は無かったらしく、メイド服に身を包んだ店員達はキンジとアリアが持つ銃を見ても同様も悲鳴上げず、顔色一つ変えなかった。そのまま店には似合わない物を持つ二人に挨拶を行う。

 

『いらっしゃいませ。ご主人様、お嬢様』

 

「なっ・・・!?」

 

「じ、実家と同じ挨拶だわ・・・まさか、日本で聞くとは思わなかったけど・・・」

 

 二人は余りにも予想外の展開に驚いている。

 

「そ、それに、なんなのよ、あの衣装!あんなのあたしは絶対着ない!!」

 

 アリアはメイド達が着ているメイド服を見て、えらく批判していた。メイド達の中から理子が出て来て、二人に話し掛ける。

 

「は~い、りこりん参上!待ってたよ~キーくんにオルメス!さっ、詳しいことはお茶でもしながら。理子はいつものイチゴパフェとパフェオレ!ダーリンにはマリアージュ・フレールの春掴みダージリン!そこのピンクには桃まんで!」

 

 理子は満面に満ちた笑顔を浮かべながら、早速キンジとアリアを席まで案内する。その席に二人を座らせ、マリに飲み物を持ってこさせる。

 

「まさか、リュパン家の人間と同じ席に着くなんてね。偉大なるシャーロック卿も天国で嘆いているわ」

 

「理子、俺達は茶を飲みに来たんじゃない。まず確かめておくが、俺達にした約束は守ってくれるだろうな?」

 

 席に着いた二人は、向かい側の席にいる理子に問う。キンジには紅茶、アリアには桃まん、理子にはパフェとイチゴオレだ。それらをトレイに載せ、三人の席に向かう。

 

「いらっしゃいませ。ご主人様」

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

「えぇ!?」

 

「な、なんであんたがこんな所に居るのよぉ!?」

 

 飲み物とパフェをテーブルに置くマリの格好を見たキンジとアリアは、驚きの声を上げた。キンジに至っては、マリの大きめの谷間を見て、赤面しており、それを理子はクスクスと笑っている。どうやら彼の反応を楽しんでいるらしい。

 

「さぁ・・・?成り行き?」

 

 アリアからの問いに、適当に答えたマリは三人の席から離れた。マリが離れたと同時に三人は再開する。

 

「話を戻すが本当に守るのか?」

 

「あはっ、もちろんだよ!ダーリン♪」

 

「誰がダーリンだ」

 

「キーくんに決まってるじゃん♪理子達恋人でしょ?」

 

「コンマ一秒たりともお前とそんな関係にあった事はない!」

 

「酷いよ、キーくん!理子にあんなことしておいて。ヤリ逃げだぁ!」

 

「そもそもやってないだろう!?」

 

 マリから目を離したキンジが再び問うが、そのまま理子のペースに乗せられ、手の中で弄ばれる。この状況にアリアが腹を立てたのか、愛用の大口径自動拳銃コルト・ガバメントを引き抜き、安全装置を外し、天上に向けて発砲した。

 

「そこまでよ。風穴開けられたくなかったら、いい加減ミッションの内容教えなさい」

 

 銃口を向けるアリアに対し、理子はキンジに向けていた表情から一変し、睨み付けながら答えた。

 

「お前が命令すんじゃねぇーよ、オルメス」

 

 これに腹を立てたアリアが引き金を引こうとしたが。マリに引き金を掛ける指を人差し指で外される。

 

「お客様、無闇な発砲はお控え下さい」

 

 笑顔で告げるマリに、アリアは苛々しながら大口径自動拳銃を机の上に置いた。それと同時に胸元を開けたメイド服を着ているマリを睨み付ける。露出の多いメイド服を着た彼女が居るので、気を変えようと、キンジは本題を理子に問う。

 

「取り敢えず本題に入ろう。理子、教えてくれ」

 

「はいはーい!今回の目標は、横浜郊外にある紅嗚館。ただの洋館に見えるけど、実は鉄壁の要塞なんだよ~」

 

 理子は説明しながらノートパソコンを取り出し、紅嗚館の詳細なマップを表示し、キンジとアリアに見せる。

 

「これ、あんたが作ったの?」

 

「うん」

 

 アリアからの問いに、理子は適当に答える。続いて問われる。

 

「いつから?」

 

「んと・・・先週」

 

「何処で作戦立案術を学んだの?」

 

「イ・ウーでジャンヌから。キーくん、アリアにお姉ちゃん。理子のお宝はここの地下倉庫にあるはずだけど、りこりん一人じゃ破れない鉄壁の金庫なのだよ。もうガチで無理ゲー・・・でも息のあった優秀な二人の連携と外部からの連絡役、それから補佐役が一人ずついればなんとかなりそうなの」

 

 それを聞いたアリアは少し黙り込んだ後、再び口を開く。

 

「で、理子。ブラドはここに住んでるの?見掛けたら逮捕しても構わないわね?」

 

「それ無理」

 

 ブラドというアリアのターゲットにしている人物が居ることを問うと、理子は即答した。

 

「どういう事よ?」

 

「だってあいつ・・・ガチで反則級だもん・・・」

 

 突如と無く、いつもの喋り方も変わって真面目な口調に変わり、理子の表情が暗くなった。その中にキンジが割って入る。

 

「ちょっと待て。ブラドってなんだ?」

 

 ブラドという人物のことをキンジは聞いた。それに対し、理子は正直に答える。

 

「スピードはキンジより劣るけど・・・」

 

「と、言うことはパワーとスタミナね」

 

 話を聞いたアリアは、ブラドをパワータイプと決め付けた。そんなアリアに対し、理子は続ける。

 

「少し違う、スタミナなんかレベルじゃない・・・!」

 

「ッ?要領を得ないわね、とっとと話しなさい!」

 

「何ていうのかな・・・異常なまでの回復力・・・」

 

「回復力・・・?」

 

 理子の返答に、キンジとアリアは疑問に思う。それに対して、理子は詳しく続けた。

 

「うん・・・四肢を切り落としても、首を刎ねても数秒後にはピンピンしてる・・・反則じみた超回復能力。それがブラドに勝てない理由だよ・・・アリアと私のスピードがあれば十分翻弄できるけど、スタミナが尽きた瞬間、あのパワーで潰される。どうあっても勝てない・・・多分、お姉ちゃんでも・・・」

 

 隣でトレイを持っていたマリを見て、表情を暗くしながら言い終える。

 

「だから勝てないって訳?」

 

 アリアからの問いに、理子は少ししてから答えた。

 

「まぁ・・・何か弱点はあるらしいけど・・・」

 

「弱点?そんな奴に弱点があるのか?」

 

 キンジは不死身とも思えるブラドに弱点があると聞き、理子に問う。マリが割って入って代わりに答えた。

 

「この世にはメリットとデメリットがある。つまり何か良いことがあれば悪いことがある。致命傷を数秒で回復するほどの超回復能力だけど、そのブラドって言うのになんかカラクリでもあるんじゃないの?そこのお馬鹿さん」

 

 貶すように言ってきたので、キンジは少し腹が立ったが、谷間に目が入り、マリから目を逸らした。理子に視線を向けて問う。

 

「お前でも分からないのか?」

 

「キーくん、人体知ってるからって、人体の全てが分かるわけじゃ無いよ。それにあいつ人間はないし・・・」

 

「人間じゃない?だったらなんなのよ?」

 

「強いて言うなら化け物よ・・・ジャンヌが会ったサブ・ゼロって人とが居ないと勝てないからしんない・・・」

 

 二人からの問いに、理子は表情を暗くしたまま答えた。そんな三人に対して、気分を変えようと、マリが割って入る。

 

「まぁ、そう言う奴は置いといて。そいつの館からなに盗めば良いの?」

 

 マリからの問いに、理子は暗い表情をしたまま答えた。

 

「理子のお母様がくれた十字架(ロザリオ)

 

「あんたってどういう神経してるの!?」

 

 これを聞いたアリアは腹を立て、机を叩いて理子に怒鳴った。

 

「あたしのママに冤罪を着せてといて、自分のママからのプレゼントを取り返せですって!?あたしがどんな気持ちか考えなさいよ!!」

 

「おい、アリア、落ち着け。理子の言うことに一々頭に来てたらキリがないぞ」

 

 キンジは注意するが、アリアは怒りを抑えることが出来ず、止まらなかった。

 

「頭にも来るわよ!理子はママに会いたかったらいつでも会える!電話もすれば直ぐに話せる!でも、あたしはアクリルの壁越しに、ほんの少ししか・・・」

 

「羨ましいよ、アリアは・・・」

 

 怒りをぶつけるアリアに理子は遮る。遮られて苛立っているのか、怒鳴り付ける。

 

「あたしの何が羨ましいのよ!?」

 

 怒りの余り、銃口を理子に向け、辺りが静まりかえった。マリが拳銃を理子に向けるアリアに構え、キンジが止める姿勢を取る中、理子は口を動かす。

 

「アリアのママは生きてるから・・・」

 

「っ?」

 

「理子にはもう、お父様もお母様も居ない・・・あの十字架はお母様が5歳の誕生日に下さった物なの・・・命の次に大切な物・・・でも、ブラドの奴はそれを分かっててあれを理子から取り上げたんだ・・・!それをこんな警戒厳重な所に・・・!ちくしょう・・・ちくしょう・・・!」

 

 理子は嗚咽を漏らしながら連呼し、アリアは失言したと後悔する。涙しながら理子はアリアに視線を向ける。

 

「アリア・・・」

 

「わ、分かってるわよ。ほ、ほら、泣くんじゃない・・・わよ・・・化粧が崩れてブスがもっとブスに見えるでしょうが・・・」

 

 涙を浮かべる理子に対し、アリアはスカートのポケットからハンカチを取り出し、それを理子の前に置いた。

 

「まぁ、兎に角・・・その十字架を取り戻せば良いんだな?」

 

 キンジからの改めての問いに、理子は涙を拭いながら頷く。

 

「泣いちゃ駄目よ理子。理子はいつでも明るい子。だから、さぁ、笑顔になろう」

 

 自分に言い聞かせると、理子は笑顔をなった。

 

「とはいえこのマップね。普通に侵入する手も考えたんだけど、それだと失敗しちゃうんだよねー奥深くまではデータ無いし、お宝の場所も大体分かんないの。トラップもしょっちゅう変えてるみたいだから」

 

 先程、暗い表情を見せ、涙を見せていたとは思えないほど理子は立ち直り、マリ、アリア、キンジの三人に詳細を話した。

 

「と、言うことは、潜入捜査(スリップ)か?」

 

「そうそう。キーくんは理解が早いね」

 

 顎に手を添えながら発言したキンジを理子は褒めた。

 

「潜入捜査?」

 

「何をやるんだよ?」

 

 少し抜けた表情で問う二人に対し、理子は満面な笑顔で答えた。

 

「アリアには紅嗚館でメイドちゃん、キーくんには執事になってもらいまーす!」

 

『はぁぁぁ!?』

 

 二人揃って理子からの発表に驚く中、続いてマリの役割を発表する。

 

「お姉ちゃんは、二人のバックアップをしてもらいまーす!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!なんであたしがメイドなんかやらなくちゃいけないのよ!そこのおっぱいが大きいのがやれば良いでしょう?!」

 

 理子の取り決めた役割にアリアが異議を申し立て、マリを指差しながら怒鳴る。それに対し、理子は巫山戯た態度で答える。

 

「だって理子は顔がバレてるし、お姉ちゃんがメイドなんかやってたら警戒されかねないし。それにキーくんとアリアは武偵として知れ渡ってるからね~相手の油断を誘うためにも、一般人を装った人員が必要なのだよ~ってなわけで、これで決定!」

 

 手を大きく翳した理子は、忘れたことがあるのか、アリアに視線を向けて伝える。

 

「あっ、アリアはメイドの特訓ね。そのお嬢様なとこ、潜入調査するには治さなきゃ行けないし。お姉ちゃんも協力するから」

 

 この宣告に対し、腹を立てたアリアは拳銃を出して暴れようとし、キンジに止められた。こうして、マリはアリアのメイドになりきるための訓練に、協力する事となった。




やっちまった・・・りこりんファンに殺されちまう!

~今週の中断メッセージ~
マリマリによる次回予告?

マリ「次回、アリアは潜入捜査(スリップ)の為、メイドになる訓練を受けることになる」

マリ「しかし、貴族称号を持ち、裕福な暮らしをしてきた彼女は、身の世話をする者達の訓練を受けることにより、プライドは傷付くばかり」

マリ「果たして、アリアは訓練を終え、メイドになりきる事が出来るのか?次回、メイドになりきれ!」

マリ「見ないと、風穴開けちゃうわよ!」

BAM!BAM!(格好良くM1ガーランドを撃つ

マリ「はぁ~、一度やってみたかったのよね~。あっ、次回は違うタイトルだから、間違えちゃ駄目よ」


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メイドになりきるための訓練。

前回のあらすじ「マリマリ完全勝利UC」

今回は、タイトル通りのことは少ないだに。


 アリアのメイド訓練を承る事になって数日後、マリは特に用もないのにビルの屋上で、目の前に広がる光景を眺めていた。ちゃんと護身用の装備である小型自動拳銃のP232は目立たない脇のホルスターに治まっている。落下防止の策の先にある崖ぶちに腰掛け、足を下げたり上げたりして、時間を潰す。

 暫く眺めていると、日本の都会では聞くことがない狼の鳴き声が耳に入ってきた。

 

「っ?」

 

 鳴き声がした方向を見ると、一匹の大型犬としては大きすぎる犬のような動物が東京武偵校へ向かっていくのが分かる。ポケットから小型の双眼鏡を取り出し、学校へ向かう大型犬のような動物を確認する。

 

「わぁ・・・狼じゃん。どうしてこんな所に・・・?」

 

 双眼鏡で拡大して、映ったのは日本ではテレビや本ではないとお目にかかれない狼であった。追っていく内に校舎で見えなくなると、ガラスを割れる音が耳に入ってきた。 どうやら飼い主に校舎にいる人間を襲うために学園島に解き放たれたようだ。そう察したマリは、転落防止の柵を乗り越え、ビルを急いで降りる。

 降りる最中に拳銃を出しておき、いつでも撃てるよう安全装置を外して追跡に向かう。ビルを降りると、バイクの走行音が耳に入ってきた。

 ダーク・ビジョンを発動し、走行音がする方向を見てみると、大型バイクに乗った二人の男女に乗って、狼を追跡しようとしているのが目に入る。

 

「あの狼、なにかありそうね」

 

 そう呟やいた瞬間、狼が横から襲ってきた。

 

「いつの間に!?」

 

 驚きの声を上げ、覆い被さって噛み付こうとする狼を引き離す。引き離された狼は呻声を上げ、マリに向けて構えるが、バイクの走行音を耳にするなり逃げていった。

 

「無視って・・・!?待ちなさいよ!」

 

 狼はマリを「眼中に無い」と判断して逃げたと悟り、マリは少し馬鹿にされた感覚を覚え、瞬間移動で狼を追う。

 しかし、四足歩行動物の脚力に追い付くはずもなく、例え間近で移動できたとしても、訓練でも受けているのか、避けてマリから遠のいていく。一向に捕まらないため、拳銃を狼に向けて撃ったが、狼はジグザグに動いて弾丸を避ける。

 

「あのワンコ・・・調教されてる・・・!」

 

 狼が飼い主から相当な調教を受けていることが分かったマリは、ダーク・ビジョンで痕跡を追った。追っていく内に、工事現場へとたどり着いた。

 犬と同様聴覚が優れているので、靴を脱ぎ、靴下も脱いで裸足となり、幼少期の死に直結するほどの訓練で培った足音を立てぬ歩き方をする。ダーク・ビジョンも再び発動し、狼の位置を確認し、後ろから接近しようと試みる。

 柱に隠れて自分を待ち伏せしようとする狼の背中を取ろうとした途端、大きく目立つバイクの走行音が聞こえてきた。その所為で、音を耳に入れた狼は動いてしまう。

 

「あの馬鹿・・・!」

 

 動いた狼は後ろから接近するマリに気付き、体当たりを仕掛けた。瞬間移動で回避し、拳銃で狼を仕留めようとするが、彼女の背中から発砲音が聞こえ、狼は上階へと逃げた。発砲した張本人は、マリの姿を見て驚く。

 

「あんた!?」

 

「なにすんのよ!あんた等!!」

 

 撃った銃はイタリアのベレッタ社のM92F自動拳銃で、それを持つのは遠山キンジだ。後ろのシートに座る背中にSVDドグラノフ狙撃銃を掛け、頭にヘッドフォンを付けた下着姿の少女は、マリからすれば初対面の人物だ。

 キンジに怒鳴り付けたマリは、狼の追跡に移る。上階に上がると、狼は10m程ある幅を飛び越え、向こう側に飛び移り、立ち止まったマリを見据えた。

 

「これで出し抜いたつもり?」

 

 自分を見る狼に余裕の笑みを見せながら告げ、向こう側に向けて走る。マリの行動を見た狼は、距離を離すべく、後ろへ下がる。それと同時に、キンジと狙撃銃を持つ少女が乗るバイクが上階に辿り着く。

 瞬間移動で向こう側に辿り着いたマリは、残り一発の拳銃で狼を仕留めようとする。

 だが、キンジは近場の足場用木材を撃ち、即席ジャンプ台を作り上げた。

 

「(あいつ・・・何をするつもり?)」

 

 バイクのエンジン音が聞こえる後方に目をやり、キンジの奇行を見て、心の中で呟く。そのままキンジはバイクをジャンプ台に向けて進ませ、こちら側に渡ってきた。

 

「嘘でしょ!?」

 

 拳銃を構えていたマリは、バイクがこっちに渡ってきたことに驚き、その場から横へ転がった。

 後ろへ座る少女はなんとシートの上に立ち、狙撃銃を構え、スコープを覗いた。狙撃銃を構える少女は落下しつつバイクの上で、クセのようなことを口ずさみ始める。

 

「私は一発の銃弾・・・銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

 

 落ち着いた姿勢で安全装置を素早く外し、引き金に指を掛けた。

 

「ただ目的に向かって飛ぶだけ」

 

 言い終えた途端に引き金を引き、この場に銃声が響き渡った。銃口から放たれた7.62㎜×54R弾は狼に向かって飛んでいく。だが、現代にまで根強く残るライフル弾は頭部には飛ばず、背中を掠めるだけだった。

 バイクがこちら渡り終えると、狼は屋上へと逃げて行く。横たわっていたマリは、シートから降りた少女に声を掛けた。

 

「貴方、トンデモない事するくせに、結構甘いのね」

 

「彼女の言うとおり。レキもやっぱり人間なんだな」

 

 マリの言ったことにキンジは同意し、レキと呼ばれる少女に告げたが、彼女は寡黙を貫く。そして三人は、屋上へ逃げた狼を追い、屋上まで来た。そこには足を震わせ、未だに立ち向かおうとする狼の姿があった。

 暫くすると、狼はコンクリートの上に横たわる。

 

「そうなるね・・・」

 

「そうなるって・・・そうか。脊椎と胸椎を掠めるように狙撃することで、瞬間的に圧迫したのか。だから首から下は動けない状態に・・・」

 

 狼の状態を見たマリがそう呟くと、キンジは即座に思い付き、それを口にした。

 

「その通りです。ですが、五分もすればまた動けるようになるでしょう。逃げたければ逃げなさい。ただし、次は2㎞、四方に、何処へ逃げても私の矢が貴方を射抜く」

 

 SVDを構え、狼に言い聞かせるようにレキはゆっくりとした口調で狼に語りかける。五分が経過したのか、狼は立ち上がって、少し震える足取りでレキに近付いた。

 万一に備えたキンジが拳銃を構えたが、それは全くの無意味であり、狼はレキに服従しており、レキの太腿に頬ずりをしている。レキは狼の身長に合わせて屈み、背中を撫でた。

 

「で、その狼はどうするんだ?」

 

「手当てして飼います」

 

「はっ?飼う?」

 

「そのつもりで追いましたから」

 

 キンジからの問いに、レキは即座に返答した。その答えにキンジは少し戸惑う。彼女は「狼を飼う」と言っているのだ。

 この日本で狼を飼っているのは、よほどの物好きな金持ちだけだ。これを聞いたマリは、小さく笑った。

 

「でも・・・女子寮はペット禁止だぞ・・・」

 

「では、武偵犬ということにします」

 

「犬にしちゃうんだ・・・」

 

 狼を犬とするレキに対し、キンジは適切な言葉を掛けた。

 

「そいつは犬じゃないだろう」

 

 何の反応もしないレキと、キンジの中をマリが割ってはいる。

 

「まぁ、狼も犬も差ほど変わらないし。良いんじゃないの。貴方の好きにしちゃえば?」

 

「あ、あぁ・・・そうだな・・・レキ、そろそろ服を着てくれないか?」

 

 そうレキに告げて、キンジは自分の上着をレキに羽織らせた。だが、そんな三人と一匹に襲い掛かる者達が現れる。

 

「ありがとうございます。ですが、まだ帰れそうもありません・・・」

 

 レキがキンジにお礼を言った後、周囲から旧ソ連の半自動小銃シモノフSKSや中国製AK47、56式自動歩槍、チェコの小型短機関銃Vz61を持った男達が現れた。

 狼とレキ、マリはとっくに気付いており、キンジも彼等が自分等を隠れ見た瞬間から気付いていた。

 

「死ねぇ!政府の犬共!!」

 

 突撃銃を持つ男の叫びと共に、一斉に銃が放たれようとした。だが、キンジは撃つ前に彼等が持つ小火器を早撃ちし、銃を手から放す。レキは腰だめで器用に武器を持つ手だけを撃った。

 狼は近場にいる男に覆い被さって喉を噛み千切り、マリは自分を撃とうとする男の額を撃ち抜いた後、瞬間移動で近場に居る男に接近する。

 

「わぁぁぁぁ!?」

 

 一瞬で自分の目の前に立った金髪の女を目にした男は驚き、彼女は足に闘気を溜めて放つ蹴り、炎の蹴り(フォイアー・キック)を食らって身体に火を纏いながら吹き飛び、シモノフSKSを奪われる。

 半自動小銃を奪ったマリは、早速その銃で、目の前に見える敵を全て撃つ。十数秒後には、八発の発砲で八人の男が天に召された。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 シモノフSKSにバレル下部に折り畳み式に備えられている銃剣を開き、それを持つ男がマリを突き刺そうとして突っ込んできた。だが、彼女は即座に銃剣を開き、逆に男を突き刺して息の根を止めた。僅か一分余りで、襲撃してきた武装集団は戦闘不能に陥る。

 素人が大勢相手なら武偵に勝てる物だが、なんせ相手は超人的な行動をする青年と恐ろしい狙撃をやってのける少女。高度に調教された狼。超能力的な能力を持ち、戦闘力は一個旅団相当に匹敵する女だ。

 彼等に攻撃した時点で、武装した男達に勝ち目など無い。

 

「こいつ等は・・・あの・・・」

 

「遠山さん、まだ終わってません。次が来ます」

 

 キンジが武装した男達を見て呟くと、レキは次の攻撃に感付き、狙撃銃を構えた。レキが構えた先を見ると、紛争地域でよく見掛ける旧ソ連の対戦車ロケットランチャーRPG7を持った男が居た。SVDを構えるレキは、いつものクセは言わず、黙々と引き金を引き、男の手を撃ち、RPG7を引き離した。

 

「これで全滅か・・・こいつ等は、公安からマークされていた極左の団体だな」

 

 全員の無力化を確認したキンジは、肩を撃たれて痛がる男を見て、口にする。のたうち回る男はキンジやレキを見るなり、強気な発言をした。

 

()るならさっさと()れ!政府の犬目!!」

 

「残念だが、俺達は武偵だ。殺しのライセンスは持ってない。差し詰め目的は東京武偵校の襲撃だろう。不穏分子として逮捕させて貰うぞ」

 

「クソっ!何も喋らんぞ!!」

 

 ポケットから手錠を取り出し、叫ぶ極左テロリストの両腕に付けた。だが、容疑者の数が多く、今持っている手錠だけでは足りるはずもない。

 逃げようとした者達が居たが、マリが容赦なく銃剣付きの半自動小銃を投げて串刺しにし、再装填を終えたP232で、一人残らず射殺する。これを見たキンジは不愉快な顔付きになったが、レキは顔色一つ変えず、リーダーらしき男に狼のことを聞いた。

 

「この子の飼い主はあなた方ですか?」

 

「知らん、そんな犬など!」

 

 男の答えに口元が血で汚れた狼は噛み付こうとするが、レキに止められる。

 

「そうですか。詳しく調べます」

 

 狼を撫でつつ、答えを聞いてその場を去ろうとした。マリも少しは良い暇潰しになったと思い、レキと同じく去ろうとしたが、倒れている男がある一言を耳に入れ、足を止めた。

 

「フッ、つくづく貴様等は政府の育成機関は低俗な女ばかりだな。自分等がヒーローなどと思っているのか?」

 

 それを耳にしたキンジは顔色を変えたが、レキはまた顔色一つ変えない。

 

「間違っているのは貴様等だ。我々こそ正義であり、武器を持たぬ事で平和と発展をもたらすのだ。なのに周りは我らのすばらしき思想を理解せん・・・そればかりか邪魔をする。貴様等餓鬼共にも銃を持たせ、弾圧を強化した・・・つくづくと間違ったことの多い。人殺しの集団である自衛隊のみならず、学生にまで武装させるなど、これでは我らの願う完全平和国家・・・バフッ!?」

 

 極左テロリストが言い終える前に、マリの気に障る言葉を吐いた所為か、その男の口を左足で踏み付けた。

 

「うざ。だから理解されないんだよ。後、完全平和なんて人間が絶滅しない限り無いから」

 

 マリはまだ動く手で払い除けようとする男に対し、踏んでいる左足に闘気を溜め込み、フォイアー・キックを発動した。男は忽ち丸焼けとなり、マリが瞬時に距離を離すと、周囲をのたうち回りながら声にならない叫び声を上げる。

 

「おい、何もそこまで・・・!」

 

 惨たらしい殺し方をするマリの肩を掴むキンジであるが、彼女の一睨みで肩から手を離す。キンジが少し怯んで手を離すのを確認したマリは、何処かへ立ち去っていった。

 数分後、通報を受けた警備部隊と護送班が到着し、生きている極左テロリスト全員を拘束する。彼等が持っていた武器の他に、マリや狼が殺した死体も回収して、現場の後処理を始めた。

 

 

 

 極左テロリストの学園島襲撃事件から翌日、マリの姿はとあるメイド服専門店にあった。

 試着室にはアリアや理子の影もあり、あの事件で共闘していたキンジも居た。昨日のことを気にしているのか、キンジはマリに対して警戒している。

 だが、試着室から聞こえるメイド服を嫌がるアリアに、理子が無理矢理着せようと着付けをしようとしているのを聞いて、気が散ったようだ。

 

「へ、変態!変態二号だわ!アンタ!!」

 

「変態理子さんが本気になれば、アリアなんてとっくに裸エプロンなのだ~」

 

 理子の言葉を最後に、アリアが試着室から出て来た。制服にフリル付きのエプロンは、アリアの体格からしてより一層可愛さを増しており、マリの視線が小さなメイドに集中していた。理子は早速アリアのレッスンに入る。

 

「はい!それじゃぁ本格的なレッスンにいってみよー!!」

 

「っ?なにをやらせる気?」

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ~まずは、【ご主人様、ご用件はなんですか】って笑顔で聞くの。キーくんがご主人様役ね」

 

 理子からの説明にアリアは驚きの声を上げ、キンジは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。

 

「えぇ!?」

 

「何を驚いているのかな?アリアんは。潜入調査(スリップ)のロールプレイは基本中の基本だぞぉ?武偵ならそれくらい知ってるよねぇ?」

 

 かなり挑発的な口調で、理子はアリアに向けて問う。アリアは顔を真っ赤にして、今にも拳銃を抜きそうな勢いであるが、我慢してなんとか言おうとする。

 

「う、ううぅぅ・・・!ご、ご・・・ゴホッ!」

 

 プライドの高いアリアにとっては、余りにも酷すぎて恥ずかしかったのか、言い切ることが出来ずにむせてしまう。

 

「なんでそいつはやらないのよ!」

 

「言ったじゃない。お姉ちゃんは駄目だって」

 

 この理子からの返答に、アリアは口籠もった。そんなアリアに対し、理子は声色を変えてレッスンを続行する。

 

「さっ、続きだよ、続き。出来るまでやってみよう!何度も繰り返せば、アリアだって出来るぞぉ?」

 

 ブートキャンプのような口調で理子はアリアに語りかけた。これにアリアは応じ、何度も出された台詞を口にしようとしたが、全く言うことが出来ない。暫くすると、言えるようにはなったが、表情が暗く、目から生気が消え失せていた。

 

「ご主人様、ご用件はなんですか。ご主人様、ご用件はなんですか・・・」

 

 その表情でアリアは機械のように同じ言葉を延々と繰り返す。

 

「重傷・・・だな・・・」

 

 今のアリアの状態を見たキンジは、若干苦笑いしながら口を開く。流石の理子も、頭に手を当てて少し悩む。肝心のアリアがこのような有様なので、今日はここで終了することとなった。

 数日後、訓練の甲斐あってか、アリアは完全に言えるようになり、メイドになりきることが出来た。東京武偵校のカフェテラスにて、あのメイド服を着たアリアがキンジに接客する。

 

「ご主人様、ご用件は何ですか?」

 

「紅茶で」

 

「はい、暫くお待ち下さい」

 

 暫くして、アリアがトレイにティーカップを乗せてキンジの座るテーブルへと戻ってきた。

 

「お待たせしました。紅茶でございます」

 

「ありがと・・・」

 

「よし、アリア合格ぅ~!これで潜入調査も万事OKだよ~!」

 

 見事にアリアはメイドの訓練を終えることが出来た。理子は大喜びし、アリアにグッドサインのジェスチャーを送った。他の武偵の姿もある中で、マリの姿もあり、課題をこなしたアリアを褒めるべく、小さな握手を送る。

 それから更に二日後、横浜の空が雨雲に染まり、雨が降りしきる中、街中にマリの姿があった。

 特にすることもないので、理子に「特にすることがないからウロウロしててね~」と言われたので、マリは言われたとおり、傘を差して街中を彷徨き、時間を潰そうとする。暫く歩いて、近くの建物に入り、雨宿りをしていると、少女に声を掛けられた。

 

「貴方が”マリ・ヴァセレート”か?」

 

 知っているはずもない自分の名を口にした途端、マリは振り返り、護身用のP232小型自動拳銃を少女に銃口を向けた。銃口を向けている少女の容姿は美少女と言うべき程美しく、長い銀髪と美しい紺碧の瞳だ。それに銃口を向けられても動揺してない。

 武偵校の制服を身に纏っており、学生の姿が街中で見えるからして、学校を出た辺りだろう。いきなり相手の名で聞いたのが無礼だと思ったのか、少女はマリに向けて謝罪する。

 

「失礼した。いきなり名を口にしてしまうとは・・・済まない。それに私は貴方と戦う気など無い。近くの飲食店で詳しい話を」

 

 この言葉に応じ、マリは拳銃を仕舞い、少女と共に近くのファミレスに入った。個室の席へ座り、メニューボードをマリが取って、メニューを見る。

 

「さて、詳しい話を・・・」

 

「お嬢ちゃん、なに飲む?」

 

「はっ?」

 

 マリがメニューを見ながら自分の言葉を遮った為、少し呆気に取られる。仕方なく「珈琲(コーヒー)」と言って、話を進めようとする。

 

「私はデザート、アイスクリームにでもしようかしら?後、紅茶もセットで。所で、何の話し?」

 

「あ、あぁ・・・少し申し遅れた。ジャンヌと言えば分かるか?」

 

 少女こと”ジャンヌ・ダルク”は自分の名を口にし、マリに告げた。その言葉でマリは、サブ・ゼロと死闘を繰り広げた火薬庫前の事を思い出す。

 

「あぁ、あの時の・・・」

 

「顔を合わせるのはこれが最初だな・・・」

 

 ジャンヌが笑みを浮かべながら言った。それと同時に店員がやってきて、マリとジャンヌに水と手洗いの布巾を出した後、帰ろうとするが、マリに呼び止められる。

 

「私はデザートのアイスクリームのバニラ、ドリンクは紅茶で。そっちの()は珈琲」

 

「あ、はい・・・アイスクリームのバニラでドリンクは紅茶。そちらのお客様は珈琲・・・以上でございますか・・・?」

 

 店員からの問いに、マリは手を挙げて返答する。

 

「畏まりました。しばらくお待ち下さい」

 

 店員が去ったと同時に、マリはジャンヌに問う。

 

「所で、イ・ウーって何?理子ちゃんに聞きそびれちゃったんだけど」

 

「我々でも手が出し難い組織に属していながらとわな・・・得られる情報は少ないぞ」

 

 マリからの問いに、ジャンヌは腕を組んだ。

 

「そっ。話すとヤバイってわけ?」

 

「いや、貴方と話をする前に一人に喋った。それに私の戦闘能力はイ・ウーの中でも最も低い。リュパンもそれに値する」

 

「へぇー、今の“完全”じゃない私が戦ったら、100%こっちが負けじゃん」

 

 イ・ウーと呼ばれる組織の戦闘力の高さに、今の自分では勝てないとマリは意識する。ジャンヌは、イ・ウーについて詳しく話し始めた。

 

「前にも話した者にも言ったが・・・イ・ウーとは天賦の才を神から授かった者達が集い、技術を伝えあえ、どこまでも、いずれはあの者達と同じく神の領域にまで強くなれる。それがイ・ウーだ」

 

「ふーん。で、何が目的ってわけ?」

 

 膝をテーブルにつきながら問うマリに対し、鼻で笑ってから答えた。

 

「組織としての目的はない、目標は個々人が自由に持つのだ。イ・ウーのトップ、教授(プロファシオン)からの依頼ならばあるがな」

 

「あぁ、つまりみんなで協力し合って目標のためにみんなで頑張りましょう的な慈善団体って訳ね」

 

「まぁ、大体はそんなところだ。マリ・ヴァセレート」

 

 マリが言った適当な例えにジャンヌは頷く。丁度この時に、注文していた物が届いた。

 

「お待たせしました・・・デザートのバニラと紅茶、そちらのお客様の珈琲です・・・」

 

 美しい外見を持つ二人の白人女性と少女に、店員は緊張して注文した物を置いた後、一目散に持ち場へと帰った。店員の行動を見ていた二人は、どうして緊張しているかを理解できない。ジャンヌは少し珈琲を口に含むと、本題に入った。

 

「さて、本題に入ろう。教授によればマリ・ヴァセレートが理子との仕事が終わればこの世界を出て行くと推測はしたが、貴方がもし残っていたとすればと言うことを仮定して伝えろと伝言が送られてきた。また同じ事を話すのもなんだが・・・この情報はアリアと非常時のみ共有しろ」

 

「あぁ、あの子。真っ先に突っ込んじゃうからね」

 

「理解が早くて助かる。まず、ここに先日現れたコーカサスハクギンオオカミだが、あれはブラドの手下と見て間違いない」

 

「あのヨーロッパ狼、そのブラドって奴の手下なの?それと、私らを襲撃した頭が沸いた連中は?」

 

 狼と聞いて、自分等が極左テロリストの集団に襲撃された事も聞くが、ジャンヌは首を横に振った。

 

「あの連中に関しては、恐らくただの使い捨てだ。ブラドがあの様な過激派連中を使うとすれば、捨て駒にする以外見当は付かん。話を戻すが、遠山キンジとアリアの動きを見越した物か私には分からない。奴の下僕は世界中にいて、それぞれかなりの直感だよりで襲撃するようだからな」

 

 マリは数日前に襲ってきた極左テロリストが捨て駒と分かって納得した後、えらく詳しいことにジャンヌに問う。

 

「随分と詳しいのね・・・ブラドってのと訳ありな訳?」

 

「奴の話は一族の仇敵だ。私の三代前の双子が初代アルセーヌ・リュパンと組んで引き分けている」

 

「相手の祖先に?」

 

「違う、ブラド本人とだ。奴は不死身、俗に言う不老不死だ。あの化け物を強いて言えば日本語、いや、ドイツ語で言えば(トイフェル)だ」

 

 ジャンヌはマリをドイツ人と見て、ドイツ語に翻訳して言った。

 

「わざわざドイツ語でありがとう。日本語分かるんだけど。それで、弱点あるの?」

 

「あぁ、奴には魔贓と呼ばれる機関が四つある。それを同時に破壊できればいい。過去にバチカンの聖騎士が目玉状の模様を付けているが、三つだけだ」

 

 隣に置いてある鞄から、自分で描いた絵を取り出し、それをマリに見せた。だが、その絵は三歳児が書いたような絵であり、もはやどれが弱点なのか分かりづらかった。

 

「あんた・・・下手過ぎよ・・・」

 

「へ、下手だと・・・!?」

 

 この絵を見たマリは正直にジャンヌに告げ、彼女に紙と鉛筆を要求した。

 

「私がわかりやすく描いてあげるから、紙と鉛筆を出しなさい」

 

「わ、分かった・・・」

 

 ジャンヌは言われたとおり鞄から紙と鉛筆を取り出し、それをマリに渡した。受け取ったマリは、鉛筆を持って、ジャンヌの下手なブラドの絵を見ながら元の姿を思い出して、描き始める。途中でバニラを口にしながら描きつつ、バニラが無くなる頃には紙に巨体を持つ狼男が描かれていた。

 その絵を見たジャンヌは驚きの声を上げ、マリは何処か弱点なのかを問う。

 

「おぉ・・・」

 

「でっ、何処か弱点?」

 

 ジャンヌは分かり易くなったマリのブラドのイメージ図に、バチカンの聖騎士が付けた模様に指差す。指差した場所に、自分でイメージした目玉状の印を描いていく。

 

「これが弱点ね・・・後でキンジ辺りに渡しておくわ。貴方の絵じゃ分かりづらいだろうし」

 

「むっ、分かりづらいとは何だ・・・?」

 

 自分の絵を貶されたことに顔を真っ赤にして、ジャンヌはマリに聞いた。

 

「だって、貴方絵心無いじゃないの。剣の稽古だけじゃなくて、絵の稽古もするべきね」

 

 そう顔を赤らめて怒るジャンヌに対し、マリは答え、紅茶を啜った。




マダラ「極左テロリストは犠牲となったのだ・・・場を盛り上げるためにな」



~今週の中断メッセージ~
ファークライ3のDQN金持ち主人公ジェイソン君の次回予告?

ジェイソン「よし、やるぞ!次回はアリアとキンジがブラドとか言う奴の紅鳴館って所に潜入調査するらしい」

ジェイソン「それもメイドや執事になって潜入するってそうだ。俺ん()にもメイドや執事も居るしな」

ジェイソン「ただし、俺の所じゃあんなトリガーハッピーな小学生はお断りだがな」

ジェイソン「おっと、もうこんな時間だ。次回は「紅鳴館潜入!」次回も見ないと、ケツの穴二つ、いや、額に風穴あけるからな!」

BAM!BAM!(M16A1の単発射撃で近くにある的を撃つ。

ジェイソン「こんな風にな。絶対見ろよ~!」

※見なくても、貴方のご自宅にジェイソン君は襲撃してきません。


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裏方

前回のあらすじ 「ジェイソン、君に予告は荷が重すぎるよ」


「遅い!理子とヴァセレートの変態女はいつになったら来るのよ!」

 

 集合予定地とされる駅前で、ピンクのツインテールの小学生のような体型で愛らしい美少女である神崎・H・アリアがいつまで経っても来ない理子とマリに対して立腹だった。隣にいるマリより背丈が3㎝低い遠山キンジが、アリアを宥める。

 

「落ち着けよ、アリア。短気は損気と言うしな・・・」

 

 そう宥めていると、理子が二人に声を掛けてきた。

 

「キーくん、アリア~!ちょりーす!ゴメンゴメン、メイクで遅くなっちゃった!」

 

「理子?遅いじゃない。それに隣にいる人は誰なの?」

 

 気付いて理子の方へ振り返ると、隣に長い茶髪の童顔で長身な女性が居た。アリアの声に気付いたキンジは、理子の隣にいる女性に視線を向けた。

 

「カナ・・・!?」

 

 隣にいる女性を見たキンジはかなり動揺し、理子に何故この女性にしたのかを問う。

 

「理子・・・なんでよりにもよって!?」

 

「理子、ブラドに顔割れてるからさー。防犯カメラに映ってブラド帰ってきたら不味いでしょ?それに変装してるのお姉ちゃんだし」

 

 理子は隣に立つ女性はマリが変装した物とキンジに説明するが、彼は納得しない。

 

「だったら他の顔にしろ!なんで・・・なんでカナなんだ!?」

 

「カナちゃんは理子の良く知ってる一番、いや、お姉ちゃんが・・・どっちも一番かな?それに、キーくんにとってカナちゃんは大切な人だもんね。もしかして、怒っちゃった?」

 

 この答えに、キンジは折れたのか、駅の方へ向かおうとした。

 

「一々ガキのお遊びに腹を立てるほど俺もガキじゃない。行くぞ」

 

「ちょっと待ちなさいよ!カナって誰なの!?」

 

 不機嫌になったキンジにお構いなしアリアはカナと呼ばれた女性に対し問い詰めるも、キンジは無視して取り合わない。一行はそのまま階段を上がり、横浜郊外へ向かう電車に乗った。

 時間帯なのか、車内にいる乗客の数は少ない。キンジは出入り口に近い席に座り、カナと呼ばれる女性に変装したマリを避けようとしたが、理子が態とキンジと向かい側になる席に彼女を敢えて座らせる。さらに、答えを聞いて納得していないアリアはキンジの隣に座り、問い掛けてくる。

 

「ねぇ、カナって誰よ?」

 

 アリアからの質問に、キンジは黙り込み、変装したマリに目線を合わせないようにする。

 

「元カノなの?」

 

「違う!俺は一度も女と付き合ったこと・・・兎に角、余り聞かないでくれ」

 

 このキンジからの返答に、アリアは聞き出すことを諦めた。数十分かすると、一行が乗る電車は目的地である横浜郊外へ着いた。駅を出て暫く歩くと、目的地の紅鳴館が見えた。

 

「これが紅鳴館・・・」

 

「の。呪いの館って感じね・・・」

 

 鉄格子の外壁に囲まれた洋館を見て、キンジとアリアは思ったことを声に出す。中庭の大きさを見る限り、かなり大規模な洋館と見える。

 

「あそこに誰か居る」

 

「え、何処よ?」

 

 郊外に着いてから、一言も発していなかったマリが、屋敷の中庭を指差して口を開き、アリアが反応して中庭を見る。

 キンジと理子もそれに釣られて見てみると、眼鏡を掛けた丸刈りの身長163㎝程の貧相な顔をした男が、外壁を上がって屋敷の外へ出た。

 

「泥棒か・・・?」

 

 男の一連の行動を見ていたキンジはそう呟いた。だが、男は目の前から突然やって来た自動車に跳ねられそうになる。

 

「アッブネー」

 

 理子が危うく轢かれそうになった男を見て呟くと、車から男の上司と思われる人相の悪い肥満体型な人物が出て来て、男に対して殴ってから怒鳴り付けた後、男を自分の車に乗せ、何処かへと去っていった。

 

「なんだったろうな・・・あれ・・・」

 

「さぁ・・・?」

 

 一部始終を見ていた一行は、その茶番のような出来事に呆然とした。気を取り直して、顔が相手に割れている理子とはここで別れ、潜入調査を行うキンジとアリア、変装したマリだけが紅鳴館へと向かう。

 門に近付き、開けて中に入ると、大量のコウモリが屋敷の方からこちらへ向けて飛び出してきた。

 

「キャッ!」

 

 飛んできたコウモリに驚いたアリアは悲鳴を上げる。コウモリが過ぎ去ると、屋敷の方へ向かう。出入り口の扉の前に立つと、マリは扉のドアノッカーを叩く。

 暫くすれば、屋敷の主らしき人物がドアを開けた。

 

「誰ですか・・・?」

 

 キンジとアリアは出て来た人物を見て、驚きを隠せなかった。マリは気にすることなく、理子が書いた台本通りにハウスキーパーの紹介人を演ずる。

 

「本日よりこちらで家事のお手伝いをさせて頂く人のご紹介に参りました」

 

「どうも、ありがとうございます。ハウスキーパーがまさか貴方達とは・・・」

 

 どうやらキンジとアリアの顔見知りらしい。早速その人物が屋敷の中へ入れてくれたので、一行は遠慮無く屋敷へ上がった。

 

「それにしても、小夜鳴(さよなき)先生はこんなご立派なお屋敷に住んでいたのですね。吃驚しました」

 

 応接室へ入り、アリアが向かい側のソファーに座る小夜鳴と呼ばれる若い教師に対し、丁寧な口調で告げる。

 

「いやぁ・・・住んでるって言うと少し語弊があるのです。私はここの研究施設を借りることが多少ありまして、いつの間にか管理人のような立場になってしまったのです」

 

 少し言葉を句切って、小夜鳴は笑みを浮かべて続ける。

 

「しかし、私は直ぐに研究に没頭する癖があるので、お手伝いさん(ハウスキーパー)が武偵なのが良いことかもしれませんね」

 

 その例えに変装しているマリは緩やかに笑みを浮かべ、会話に入り込む。

 

「私も驚いております。まさか偶然、同じ学校の先生と生徒でいらっしゃったなんて。ご主人が戻られればちょっとした話しになりますね」

 

「いやぁ、彼はとても遠くに居りまして。しばらく帰ってこないみたいです」

 

「ご主人様はお忙しいのですか?」

 

「それが・・・実はお恥ずかしながら詳しいことは知らないのです。私と彼は、とても親密なのですが、直接話した言葉はない物で」

 

「そうなのですか・・・」

 

 マリと小夜鳴は軽く話した後、マリは屋敷から去ろうとする。その前に、マリは小夜鳴に聞こえないほどの声量でアリアに告げる。

 

「あいつ、私を口説こうとしてた」

 

 そう告げた後、マリは別れの挨拶をしてから屋敷を出た。玄関を出て門を出ると、ポケットからスマートフォンを取り出し、理子に連絡する。

 

「OKよ、理子ちゃん。これから監視ポイントに向かうわ」

 

『良いよ。お姉ちゃんの演技凄かったわ・・・じゃあ、監視ポイントに着いたらメイク取って良いよ~』

 

「ありがとう。それじゃあ」

 

 連絡を切って、屋敷を見渡せるには絶好の位置にある無人のビルへと向かった。ビルの近くまで辿り着くと、柄の悪い男達がビルの前で(たむろ)していた。

 

「おぉう。お嬢ちゃん・・・綺麗だね・・・俺達と遊ばない?」

 

 リーダー格の男が品の悪い笑みを浮かべながらマリを誘おうとするが、今の彼女には彼等に付き合っている暇はないため、股間に強烈な蹴りを食らわす。

 

「おっ、玉ァ!!」

 

「このアマぁ!やる気か!?」

 

 変な叫び声を上げ、男は激痛の余り失神した。頭がやられたのを見て、仲間の男達はマリを取り囲もうとする。全員を一々相手にするのが面倒臭くなったのか、彼女は瞬間移動を使って叩きのめす。

 

「この化け物ぉ!これでも食らいやがれぇ!!」

 

 とっておきの秘密兵器という訳か、柄の悪い男はロシアの回転式拳銃ナガンM1895を取り出し、マリを撃とうとしたが、彼女は瞬間移動を使わずとも早かったので、顎に一撃食らわし、ノックダウンさせる。

 

「ヒィィィ!ば、化け物だッ!!逃げろぉぉぉぉ!!」

 

 まだ息のある男が叫ぶと、気絶している他の仲間達を抱えてビルから蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去る。他に倒れている男達は、マリが直接運んで別の場所に捨てた。

 ビルへ入り、監視ポイントとされる階まで向かい、ドアを開けて入り、予め置かれていた桶の前に立ち、メイクを落とす。素の顔に戻ると、同じく用意されている衣服に着替え、長い髪を束ね、双眼鏡を持ち、屋敷の監視に入る。机の上に携帯式小型無線機が置かれているので、それを手に取り、理子に着いたことを報告する。

 

「CQ、CQ。こちらガーゴイル。監視位置に着いた。どうぞ」

 

『CQって・・・まぁ、良いわ。お姉ちゃん、屋敷はどんな感じ?』

 

「入った時と同じく異常なし。ここから詳しく調べてみる」

 

『そうしてくれると助かる。じゃあ、後は頼める?』

 

「もちろん」

 

『ありがとう。じゃあ、切るね』

 

 理子からの無線が切れると、マリは無線機を机の上に置き、珈琲を飲みながら監視を続けた。監視を続けてから数時間後、日は夕暮れとなり、辺りは暗くなりつつあった。

 

「問題無さそうね・・・」

 

 双眼鏡でメイドや執事に扮し、せっせっと家事を行うアリアやキンジを見る限り、「問題ない」と判断したマリは窓から離れ、監視ポイントにされている部屋を調べ始める。

 置かれているロッカーを開けてみると、全長113.8㎝の狙撃銃と専用の弾倉が入っていた。狙撃銃はフランスのボルトアクション式のMAS36小銃のベースに開発されたFR F1狙撃銃だ。弾薬が入った箱も幾つかロッカーに収められている。

 マリは狙撃銃を手にとって構えてみると、中々の手の収まりようだったので、屋敷が見渡せる窓の側へ置いておく。夕日が落ちて夜になると、マリは身体の汗を流すべく、用意されていた桶とバスタオル、ボディタオル、シャンプーと着替えを持って、近くの銭湯へと向かった。銭湯へ入った時、周りの客はマリに目線を集中させた。

 

「おぉ・・・凄い美人だ・・・」

 

 彼女が格好の目線の対象になるのは仕方のないことだが、マリは気にせず女湯に入る。卿の疲れと汚れを落とせば、再び監視ポイントへ戻り、監視を続行する。暫し監視を続けていると、月の光を遮るように雨雲が立ち籠め、地上に雷を落とす。

 雷に慣れているマリにとっては、ただの騒音にしか過ぎないが、屋敷に潜入調査活動中の小さな武偵に取っては恐い物である。暫くすれば、雨雲は去り、元の月の明かりが戻ってきた。それからは時間が時間なのか、屋敷の明かりが消えた。

 マリは監視部屋の出入り口がちゃんと閉じているか確認し、眠くなるまで監視を続ける。

 数時間後、睡魔に襲われたので、合図を確認してから、用意された寝袋へ入り、就寝した。そして朝に起きれば、外へ出て軽く運動し、朝食を食べてから監視を続ける。

 こうして、キンジやアリアとは違ってのマリに取っては退屈な監視の日々が過ぎ去っていく。少し変わっていることと言えば、小夜鳴の食事がえらく偏っているという事だ。

 

「あいつ。毎日軽く炙った串焼き肉しか食べないわね・・・」

 

 毎日、朝昼晩も串焼き肉しか口にしていない。他に口に含むとしたら、晩食の際のワインだけである。屋敷の明かりが消え、キンジとアリアがベッドへ入る時間帯となると、マリは片耳にイアフォンを入れ、理子の声に耳を傾けた。

 

『それでは、潜入捜査(スリップ)の報告会と行きましょう!』

 

『理子・・・お前・・・テンション高いな・・・』

 

 キンジはこの時間帯にも関わらず、テンションが高い理子に呆れた言葉を口にする。だが、理子はお構いなしに続ける。

 

『キーくん、そこは気にしない、気にしな~い。じゃあ、アリアんからどうぞ』

 

『アンタ、良くこの夜中に元気でいられるわね・・・始めるわ。理子、キンジ、ヴァセレート。不味いわ。掃除の時に調べたんだけど、地下金庫のセキュリティーが以前より強化されてるの。物理的な鍵に咥えて、磁気キー、指紋キー、声紋キー。網膜キー、室内には赤外線の他、感圧床もあるわ』

 

「まるで計画に気付かれているみたいね・・・」

 

 アリアからの地下金庫のセキュリティー強化の報告を聞いたマリは、自分の考えた予想を口にした。

 

『う~ん、お姉ちゃんの言うとおりバレてたら不味いな~それじゃあ、プランC21で行くかぁ』

 

『プランC21?なんだそれは?』

 

 報告を受けた理子が言った「プランC21」にキンジは問う。

 

『キーくん、アリア、お姉ちゃん。何も心配いらないよ?どんなに厳重に隠そうと、理子の物は理子の物!絶対お持ち帰りィー!!』

 

『本当にテンション高いな、お前。夜型か?』

 

 またもキンジから呆れた言葉と共に問われるが、理子は流した。

 

『まぁ、そんな事は置いといて。超古典的な方向だけど、誘き出し(ルアー・アウト)で行こう。先生と仲良くなれた方が先生を地下から連れ出して、その隙にもう片方が十字架(ロザリオ)をゲットするの。それで、今先生に一番気に入られてるのは誰かなー?』

 

 キンジは分かっていたのか、アリアを指名した。

 

『アリアじゃねーの?お前、バラの名前にアリアってつけられて喜んでたろう?』

 

『なっ!?喜んでなんかいないわよ!』

 

 これから痴話喧嘩になると察したマリは、理子に告げた。

 

「これは、これは。痴話げんかの予感がするねー理子ちゃん」

 

『『違う!』わよ!』

 

 大きな声で否定した為か、マリはイアフォンを耳から離す。

 

「ちょっと、大きな声で言わないでよ・・・」

 

 これに少し機嫌を損ねたのか、何か二人が驚くような物を探した。丁度、探している時に、マリの耳に女の喘ぎ声が聞こえてきた。

 どうやら、男女のカップルがこのビルに忍び寄り、誰にも見られないからと言って、性行為(セックス)をしているらしい。良く耳を澄ませば、先程のカップルと同じ考えを持つカップルも行為に及んでいる。

 

「これは使える・・・」

 

 ニヤリとこれから悪戯をする子供のような笑みを浮かべたマリは、平然を装って会議に戻る。

 

『取り敢えず、先生を誘い出すのはアリアで、十字架を取り戻すのはキーくんで。理子とお姉ちゃんはアリアのサポートに入るね~』

 

『了解した』

 

『けど、時間が問題よ。小夜鳴が休憩時間から見て、誘い出すのは十分が精々だわ』

 

 時間の短さに、理子は少し悩む。

 

『十分かぁーまぁ、その時間を引き延ばす方法は理子が考えておくよ。じゃ、明日の夜中の二時にね!』

 

 理子が切った後に、キンジとアリアも切ろうとするが、マリがこれから行うことをする為に、それを止めた。

 

「あっ、待って!聞かせたい物があるの・・・」

 

 演技で必死に止めれば、小悪魔のような笑みを浮かべ、マリは一番近い場所で行為をしているカップルの場所へイアフォンを近付けた。

 

『ば、馬鹿!なんて物聞かせてるの!?』

 

『お前、正気か!?』

 

 恥ずかしくなったのか、二人から正気を問う質問が飛び交ったが、マリは笑ってから答えた。

 

「ハッハッハッ、二人とも高校生にしちゃあ初心ね。それと私は正気よ、これは本の冗談。良いオカズになったでしょ?」

 

『なってない!』

 

 その声と共に二人は連絡を切った。一人では無く複数のカップルだけとなったマリは、行為に夢中な男女の喘ぎ声が聞こえる中、寝床へ着いた。

 

 

 

 それから二日後、空が雨雲に覆われ、雨が降りそうな天気になる中、大泥棒大作戦が開始された。作戦は古典的な誘い出し、アリアが対象者である小夜鳴を庭園で引き付け、キンジが地下金庫の本物の十字架を盗り、偽物とすり替えるという作戦だ。

 キンジの装備は、潜入スキルの高いマリが深夜に屋敷へ忍び込んで用意した。理子とマリは、潜入調査を行う二人のサポートへ回る。

 もしもキンジが出来なかった場合、時間帯を深夜にして、マリが地下金庫へ侵入し、十字架を盗る。だが、何か策があるのか、理子が指名でキンジにこの作戦の要を任せたのだ。

 監視ポイントにされている無人のビルの丁度屋敷が見渡せる一室には、マリだけではなく理子も居る。遊戯室からコツコツ掘った穴を通じ、地下金庫へと出たキンジからの無線報告が来た。

 

『こちらキンジ、モグラはコウモリになった』

 

「OK、キーくん。”レール作戦”始めるよ」

 

「こちらガーゴイル、アリアを視認」

 

 マリは庭園にアリアと小夜鳴と一緒にいることを確認し、キンジに報告する。庭園では、アリアが小夜鳴と一緒に薔薇を観賞し、双眼鏡に付いてあるレーザーマイクから拾われた内容からして、薔薇に関する話のようだった。暫くすると、空から雨が降ってくる。

 

「降ってきた」

 

 雨が降ってきたことをマリが言えば、理子は直ぐにアリアに傘を持ってくるよう指示を出す。

 

「アリア、傘!出来るだけ時間稼いで!」

 

『分かってるわよ』

 

 双眼鏡で確認してみると、アリアが小夜鳴を残して傘を取りに行く姿が見える。物の数秒でアリアは傘を小夜鳴へと届けた。二人とも傘を差し、小夜鳴は屋敷へ戻ろうとするが、アリアはそれを止める。

 

『では、中へ戻りましょう』

 

『待って。このまま続けてくれますか?私・・・雨が好きですから・・・』

 

 このアリアが放った出任せに小夜鳴は少し笑った後、屋敷へ戻るのを止める。

 

『ハハハ、神崎さん。貴方は変わっていますね。雨と言えば水、水は素敵だと思いませんか?』

 

『水が素敵・・・?』

 

『はい、人体の60%以上は水ですし、動物植物問わず、水がその差ほどの要素となっていますからね』

 

 小夜鳴は一度口を閉じると、庭園の薔薇に触れ、口を開ける。

 

『例えばこの薔薇。貴方の名前から取って”アリア”と名付けましたね?この薔薇は他の種から優秀な遺伝子だけを取り、劣悪な物を排除して、品種改良された薔薇なのです』

 

 薔薇を手にしながらさらに小夜鳴は、活き活きとした表情を浮かべ、アリアに遺伝子の講義を始める。時間稼ぎには適切的な”講義”ではあったが、マリにとってはやや癪に障るような内容であった為、双眼鏡から手を離し、近くに立て掛けてあるFR F1狙撃銃に視線を向け、手を伸ばそうとするも、理子に止められる。

 

「駄目・・・武偵として、目の前で人を殺すことは、お姉ちゃんでも許さない。あいつが言うことは気にしちゃ駄目だよ」

 

「分かったわ・・・」

 

 理子からの説得に応じたマリは狙撃銃を戻し、双眼鏡に視線を戻して監視を続行する。席に戻った理子を見たマリは、無線機のマイクの前に何かの機械を持っている事に気付いた。彼女は無線を操作して、キンジだけに語り掛ける。

 どうやら口前に持ってきたのは変声機であるらしく、理子の声色がアリアの声色へと変わった。声色をアリアへ変えた理子が語り掛けた内容は、絶対にアリアが言いそうもない事だ。言い終えると、先の言葉に反応して変わったキンジから見事な推理が返って来た。

 それからキンジから十字架を偽物へすり替えたという報告が入る。

 

「アリア、ご苦労様。キーくんが十字架をすり替え終わった。もう大丈夫だよ」

 

『ふぅ・・・終わったのね。小夜鳴を屋敷へ戻すわ』

 

 報告を聞いたアリアのホッとした言葉が混じった報告と共に伝え、庭園を覗くと、アリアが小夜鳴と共に屋敷へ戻るのが見えた。それから理子が殆どの装備を回収してから先に帰り、マリはキンジとアリアが時間一杯になるまで働き続けてから紅鳴館を出るまで待った。

 

「よし、任務達成(ミッションコンプリート)

 

 紅鳴館から出て来たキンジとアリアを見て、作戦は成功したと判断すると、マリは一人で呟いて、監視ポイントであるこの部屋から証拠を一つ残さず消し、脇のホルスターを隠すように、夏用の上着を羽織ってから部屋を出た。

 ビルを出て、この世界のワルキューレの拠点である場所がある方向へと帰ろうとすると、ポケットに入れていたスマートフォンが震動し始める。スマホを取り出し、連絡相手を確認してみると、不登録者のようだ。

 

「はい?」

 

 徐に出て、相手を確認しようと出てみると、連絡してきた相手の声は、ここ最近会っていないガイドルフ・マッカサーだった。

 

『理由は話している時間はない。直ぐに耳をかっぽじって良く聞くんだ。今、組織の十人格の候補者があんたを狙ってそっちへ来ている!今のアンタじゃ候補者に勝てるわけがない、全力で拠点に逃げ込むんだ!』

 

「はっ?私を狙って十人格の候補者が?それに勝てるわけが無いって?あんな、ここ最近声を聞かないと思ったらわざわざそれを伝えに連絡したわけ?変な連中に私が負けるわけ無いでしょ。返り討ちにしてやるわ」

 

 ガイドルフは冷静になってマリに伝えるが、逆にそれが彼女を煽ってしまう。

 

『止せ。絶対に勝てない。奴は能力者だ、瞬間移動と足に炎を纏って蹴るような物を取り戻した程度のアンタじゃ絶対に敵いって無い』

 

「煩い!今の私は・・・」

 

 マリが返す言葉を放とうとした瞬間、下腹部に穴が開いたような激痛を感じた。感じた下腹部を見てみると、左側に槍が自分の腹を貫いていた。

 

「何よ・・・これ・・・!?」

 

 気付かずに自分の腹を貫いている槍に触れようとした途端、後ろから引き抜かれ、激しい激痛を感じながら、槍で自分の腹を貫いた正体を見た。

 そこには屋敷にいた小夜鳴と、見覚えのない背丈が198㎝の屈強な体格を持つ金髪のオールバックな髪型な男が立っていた。

 

『どうした!?返答しろ!おい!!』

 

 手から落ちたスマホから、切られていないのか、ガイドルフの声がまだ聞こえてきたが、槍の持ち主である屈強の男がそのスマホを踏み潰す。腹部から血を流しつつ、マリは薄れ行く意識の中、スマホを踏み潰した男に問う。

 

「あんた・・・何者・・・?」

 

「お前のようなカスに名乗る名だの無い」

 

 男からこの返答に殺意が出たが、今はどうすることも出来ず、マリの意識は遠のいた。




マリ、死亡確認!

まだ死んでないです、はい。

今回の中断メッセージは、時間の問題とネタの問題で無し。


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絶望に沈む

前回のあらすじ 「マリ、死亡確認!」

今回はまだ出てないレギュラーキャラの初参戦。それとグロ中尉。

それと今回で、緋アリ編最終回です。


 マリが組織の刺客が放った槍に突き刺され、倒れた事を知らない理子は、ずっと待ち合わせの場所である横浜ランドパワーの屋上で待っていた。

 

「遅いな・・・お姉ちゃん・・・」

 

 空は当に雨雲から月の光が照らす中、理子は腕時計を見ながら、マリが来ないことを心配する。

 

「あっ、お姉ちゃん抜きでも出来るから。折角オルメスを撃ち倒して、褒めて貰いたかったのにな・・・まぁ、良いか」

 

 待ち合わせの時間となってしまい、キンジとアリアも来てしまったので、理子は二人の前に姿を現した。

 

「キーくぅ~~ん!」

 

 何か短機関銃が収められるほどのケースを持参しているアリアの前に出ているキンジに抱き付き、彼等二人を褒め称えた言葉を送る。

 

「やっぱり理子の見込んだ通り、キー君とアリアは名コンビだよ!理子に出来ないことを平然とやっちゃうんだから!」

 

 キンジに抱き付く上機嫌な理子を見て、アリアは不機嫌になる。

 

「キンジ・・・さっさと十字架渡しちゃって。ソイツが上機嫌だと、ムカつくから」

 

「おーおー、アリアんや。キー君を取られてのジェラシーですな?分かります」

 

「違うわよ!」

 

 不機嫌なアリアが放った言葉に、理子は煽るような事を告げると、案の定。短気なアリアは理子に向かって怒鳴り付けた。彼女の体格や声からして、余りにも迫力がない。

 

「理子、お望みの物は渡してやるから離れろ」

 

 また言い争いになるかと思い、キンジは理子にロザリオを手渡す。それを受け取った理子は、いつもとは違う笑みを浮かべる。

 

「それで理子、アリアとの約束は守るんだろうな?」

 

「くっふふふ。キー君ってば、まだ理子のことを疑っているの?心配しなくても、理子は約束を守る子なのですよ~それよりもキー君。はい、君にプレゼントのリボンを解いてください」

 

 十字架を手渡したキンジからの問いに、これから悪戯をする子供のように小さく笑い、理子は後頭部に増設しているリボンを指差し、キンジに向かって頭を下げる。

 少し息を呑んだキンジは、理子のリボンを掴み、少し力を入れて解いた。一瞬、場の空気が凍り付いた。それはキンジがリボンを解くと、理子が自分の唇をキンジの唇に押し付けたのだ。

 この光景を見たアリアは、顔を真っ赤にして怒号を放つ。

 

「り、りりりりり理子ぉ!?な、なな何やってるのよ!!」

 

 撃たれると悟ったのか、理子はバク転を行い、キンジとの距離を取る。

 

「ゴメンねぇ、二人とも。キー君がさっき言ったとおり、理子は悪い子なの。この十字架(ロザリオ)さえ戻ってくれば、理子の欲しいカードは全部揃っちゃったの」

 

 いつも浮かべている笑顔とは違って今の理子の笑顔は、まるで悪魔のような表情だった。二丁の拳銃を引き抜いた理子は、ケースから取り出す素振りを見せているアリアに語り掛ける。

 

「アリア・・・腐った肉と泥水しか与えられない檻の中で暮らしたことある?理子はね、お母様が亡くなってから、親戚を名乗る人に引き取られて、ブラドに捕まって、そんな暮らしをさせられてたんだ。まるで犬の優良種を増やすための養殖用雌犬(ブルード・ビッチ)みたいに・・・」

 

 大仰な身振り手振りを交え、理子は笑いながら自分の過去を語る。その直後、理子は笑うのを止め、感情的になり、暗い虚空に向けて言葉を吐き始める。

 

「ふざけんなっ!あたしはただの遺伝子かよ!?優秀な5世を生むための機械かよ!?違う、違う、違うぅ!!私は理子だ!峰・理子・リュパン4世だ!!」

 

 悲痛な言葉を虚空に吐き続け、スッキリしたのか、身構えるキンジとアリアの方へ視線を戻す。先のキスで性的興奮が高まり、ヒステリアモードと呼ばれる一種のサヴァン症候群を発症し、性格が少し変わったキンジは理子に告げる。

 

「可哀想に・・・だが、もう一度言おう、理子は悪い子だ。しかし、女性の犯した罪は罪にならないが、俺のご主人様はそうじゃないみたいでね」

 

 そう理子に告げると、キンジは固まっているアリアの眼前で指を鳴らし、アリアを硬直から解放した。

 治ったアリアは早速、ケースからTDIクリス・スーパーVと言う短機関銃を出す。口径は45口径、弾倉は三十発箱形弾倉。またの名をベクターという愛称で呼ばれるスイスとアメリカで共同開発された短機関銃を取り出し、銃口を理子に向けた。

 

「こうなる事を予想してたわ・・・キンジ、合わせなさい!」

 

 最新型の短機関銃(サブ・マシンガン)を構えるアリアに続き、キンジもベレッタM92F自動拳銃を抜き、理子に向ける。二つの銃口を向けられている理子であったが、彼女は全く同じず、十字架を手にしながらまた語り始めた。

 

「この十字架はね、ただの十字架じゃないんだ。理子が大好きだったお母様が、これはリュパン家の秘宝って、ご生前に下さった一族の秘宝なんだよ・・・だから理子は、檻の中で捕まっている間も、これだけは絶対に取られないよう、ずっと口の中で隠し続けていた」

 

 一度口を閉じると、理子のツーサイドアップの髪のテールが、神話の中の魔物、メデューサの如く動き始める。左右のテールが動きながら、理子は続ける。

 

「ある夜、理子は気付いた。この十字架、いいや、この金属は理子のこの力をくれる。それでこの檻から抜け出したんだよ!!」

 

 語りの最後を叫ぶと、蠢いていた左右のテールが背中に隠していた大降りのナイフを取る。今の理子が持つ武器はドイツのワルサーP99自動拳銃が二挺、テールが持つ大降りのナイフが二本、それは双剣双銃(カドラ)と異名を取るアリアとは異なるが、その名の通りではある。

 

「今日!私はオルメス、お前を倒して証明する!曾おじい様を越えたことを!そして、自由のみになるんだ!」

 

 そう理子が叫ぶと、アリアはベクターの折り畳みストックを開き、ストックを肩に付けると、照準器を覗き、確実に理子の右肩へ照準を合わせた。キンジは相手の左肩に照準を向け、アリアと同じく引き金に指を掛けた。だが、二人の戦闘態勢は、小さな落雷の音で無駄になる。

 その音が鳴り終わった途端、理子が顔を強張らせ、身体のバランスを崩して倒れようとする。理子は背後から何者かに攻撃されたと察し、ゆっくりと振り返った。

 

「な、なんで・・・お前が・・・!?」

 

 襲ってきた人物の正体を見て、驚愕した理子は前に倒れた。背後に立っていた人物の姿は、目の前で銃を構えていた二人が驚くべき人物だった。

 

小夜鳴(さよなき))先生!?」

 

 アリアの驚いた声を上げた。背後に銀狼を従えた小夜鳴は、猛獣用の大型スタンガンを捨てた。

 しかし、この現場に来たのは小夜鳴だけで無く、マリを槍で突き刺した身長198㎝の屈強な槍を持つ男と、キンジやアリアの脳内に記憶されている極左テロ集団の首領、同じく記憶にある暴力団の組長まで居た。

 

「それにこいつ等・・・!公安にマークされた・・・!?」

 

 自分等の教師である小夜鳴(さよなき)が、笑みを浮かべながら警告する。

 

「ふふふっ、動かない方が良いですよ。お二人が少しでも余計なマネをすれば、襲うようにしつけてあります」

 

「コーカサスハクギンオオカミ。保健室のことは芝居だったのか。じゃあ、レキが従えたのも」

 

 キンジは狼を見て、目の前にいる自分の学校の教師が、レキが従えることに成功した狼の飼い主であることに気付いた。

 

「えぇ、もとは私の(しもべ)です。レキさんの優秀さには驚きましたよ。やはり強引にも血を貰うべきでしたね」

 

「何を躊躇っている?さっさと目の前にいるカスを殺せ。小夜鳴」

 

 小夜鳴の背後にいた槍使いの男が、空気を読まずに割り込み、早くキンジとアリアを殺すよう急かす。

 

「落ち着いてください、紅い槍(レッドランサー)さん。今は我々が優勢、彼等にもう勝ち目はありませんよ」

 

 後ろを振り向き、レッドランサーと呼ばれる男に言った小夜鳴は、キンジとアリアに視線を向けながら告げる。

 

「あなた方もこれと組んだことが過ちでしたね・・・このリュパン4世とね」

 

「な、なんでアンタがそれを知ってるの!?まさか、アンタがブラド・・・!」

 

 リュパン4世という単語を放った小夜鳴に、アリアは照準を肩へ向ける。

 

「彼は間もなくここに来ます。あぁ、そうだ、遠山君。君に一つ補講しましょう。君がこのリュパン4世と不純な曽比に耽って追試になったあのテストの補講・・・DNAについてです」

 

 今、銃口を向けられているにも関わらず、小夜鳴はキンジに向けて遺伝子(DNA)の講義を始めた。キンジとアリアを除く、小夜鳴の仲間達はウンザリし始める。

 

「DNA、つまり遺伝子とは、気紛れな物でして、父と母、その両方の優秀な遺伝子が受け継がれれば優秀な子が。受け継がなければ無能な子が、それぞれ生まれます。そして、これはその失敗のケースのサンプルと言えます」

 

 仲間達に合わせ、講義を早めに終えた小夜鳴は、理子を見下しながら頭を軽く蹴る。

 

「お、お前か・・!あの時のブラドにあれを吹き込んだのは・・・!」

 

 自分を蹴った小夜鳴を睨み付け、理子は思い出す。

 

「えぇ。そうだ・・・君達にも教えてあげましょう。リュパン家の血をひきながら、この子は・・・」

 

 理子にとっては屈辱的なことなのか、彼女は必死で小夜鳴を止めようとする。

 

「や、やめろ!言うなぁぁ!!」

 

「優秀な能力が、全く遺伝してなかったのです。つまり、遺伝学的には、この子は全くの無能ということです!」

 

 小夜鳴は、狂喜染みた笑みを浮かべながら告げ、理子は顔を背けるように地面に額を押し付ける。それと同時に、何処からともなく背丈178㎝はある武装したルーマニア人の男が瀕死状態のマリを抱えて現れ、乱暴にキンジとアリアが見える場所に、乱雑に置いた。

 

「あそこにいるお美しい金髪のお嬢さんは、容姿と才能も含めて全くの優等種なのですが、些か子宮に異常がありましてね・・・子供が産めない、つまりゴミです。それに彼女はあれだけ優秀にも関わらず同性愛者、女性で言えばレズビアン。私は何故、同性に恋をするのか理解できませんね。同性愛など非生産的です。生物の意思に反しております。今、目の前にいる無能と同じ存在です」

 

 瀕死状態のマリに手を翳しながら、アリアが殺意を覚える持論を吐き、理子を踏み付け始めた。

 

「人間は遺伝子に決まる。優秀な遺伝子を持ちながら、生む子宮に異常があってはならない。さらに同性愛者など以ての外!優秀な遺伝子を持たない人間は幾ら努力を積んでも限界を向かえるのです!今の貴方のようにね!」

 

 そう言いながら、さらに小夜鳴は理子を踏み付けた。だが、これがアリアの感に障ったのか、彼女が止めるよう叫ぶ。

 

「止めなさい!瀕死の相手に追い打ちを・・・!」

 

「はい?あぁ、そう言えば貴方も4世でしたね。ただし、肝心な部分を受け継いでいない・・・」

 

 今度はアリアに標的を向け、小夜鳴は狂喜した笑みで告げる。だが、キンジからの質問に、その笑みは止まる。

 

「一つ聞く、小夜鳴先生」

 

「はい、遠山君。なんです?」

 

「あんたの目は節穴か?」

 

「あぁ?」

 

 このキンジからの問いに、小夜鳴は気分を害し、睨み付けた。

 

「遺伝子の専門家のアンタが言うことだ。理子にはその優秀な遺伝子は受け継がれていないんだろう・・・だが、それがどうした?」

 

 キンジが拳銃を下げ、小夜鳴を指差した。これを見た小夜鳴は、キンジが言った事が余程自分に取って馬鹿げていたのか、笑い始める。

 

「あははは、一体何を言うかと思えば・・・遠山君。君は才能を否定するのですか?君自身は才能に恵まれているというのに?」

 

「いや、才能そのものを否定するつもりは少しもない。けどな、才能と言ってもピンからキリまである。確かに俺は強襲科や教務科から言われたとおり、戦闘力とかに関しての才能はあるだろう。でも、銃に関してはアリアより劣る。結局は以下に自分の才能を見付け、それを伸ばすかが問題だ。リュパンとしては無能?なら理子として有能になればいい。ただそれだけの話だ」

 

「ふふふ・・・あっははは!!」

 

 キンジが放った言葉が余りにも自分にとっておかしかったそうで、今度は大きく笑い出す。

 

「あははは!実に面白いですよ、遠山君!とても面白い喜劇を見ている気分ですよ!全く・・・君達のその強気な顔が、絶望に染まると思うと堪らない物がありますね!!」

 

 狂った表情を見せつけ、小夜鳴は強気なキンジとアリアに告げる。言い終えた彼は、目の前で倒れている理子に視線を向ける。

 

「まぁ、今は目の前にある絶望を楽しみとしましょうかね」

 

 そう言って小夜鳴は、理子から十字架を奪って、ポケットに仕舞い、取り出した偽物の十字架を彼女の口に無理矢理こじ開け、十字架を押し込む。

 

「今の貴方には、このガラクタがお似合いでしょう。ほうら、しっかりと口に含んでおきなさい・・・以前からそうしていたのでしょう?」

 

 無理矢理口に十字架を突っ込んだ後、理子の頭を何度も蹴り始める。それを見たアリアは、止めるよう叫んだ。

 

「止めなさい!理子を虐めて何の意味があるのよ!?」

 

 止めるように叫んだアリアに愛し、小夜鳴は両手を広げながら答える。

 

「絶望が必要なんです。彼を呼ぶには絶望の歌を聴かせることが条件なのです・・・この十字架をわざわざ本物を盗ませたのもそう・・・より深い絶望に落とすためでしてね。御陰で、良い感じになってきました・・・遠山君、良く見ておいてくださいね・・・」

 

「何をする気だ?お前」

 

 空気も読まずに問うレッドランサーに対し、小夜鳴は舌打ちをしながら答えた。

 

「チッ。まぁ、これから分かりますよ・・・私は人に見られている方が、気がかりの良い物でしてね・・・」

 

 答えた小夜鳴の雰囲気が変わってきた。キンジは察したのか、それを口にした。

 

「ヒステリア・サヴァン・シンドローム・・・」

 

「そうです。遠山君。ヒステリア・サヴァン・シンドロームです。遠山君のお兄さんからDNAを得ました」

 

「ヒステリア・・・サヴァン・・・?」

 

 アリアは銃を構えながら首を傾げているが、誰もその疑問には答えなかった。これから何が起こるかを知っているのは、レッドランサーだけである。

 

「皆さん、暫しのお別れです。が、その前に一つ講義しておきましょう」

 

 こんな時にも、小夜鳴は講義を始めた。もし相手がマリであったら、その間にやられている頃であるが。

 

「ジャンヌ4世から聞いているでしょう。イ・ウーとは能力を教え合う場だと・・・しかし、それは彼女等のような階梯の低い者達のおままごとに過ぎません。私のような高い階梯にいる者は、能力を写す場になった・・・私とブラドがそのような革命を起こしたのです」

 

 これを耳にしたアリアは、思い出したのか、それを口にする。

 

「聞いたことがあるわ。イ・ウーの奴らは何らかの方法で、能力をコピーしているって」

 

「ブラドはそれを600年も前から、交配では無い方法でそれを行ってきました。つまり、吸血で」

 

「キンジ・・・ブラドの正体が読めたわ。ドラキュラ伯爵よ」

 

「ブラド・・・」

 

 キンジは小夜鳴が串刺し肉しか食べていないことを思い出す。

 

「そうか、ブラド4世、串刺し公か」

 

「えぇ、ブカレスト武偵校で、聞いたことがあるの。胃までも生きているっていう怪談付きでね」

 

 ブラドの正体が自分であることに気付いたキンジとアリアに、小夜鳴は拍手を送る。

 

「お二人とも正解です。ですが少し違います。間もなく、そのブラド公を拝謁できるのです。楽しみでしょう?」

 

 だが、キンジはブラドに自分の兄のDNAが入っていることを信じない。

 

「出任せだ。そもそも、兄さんの能力をコピーしたとして、何故そこまで理子を傷付けられる!?」

 

「良い質問です、遠山君。私は人間(ホモ・サピエンス)ではなく、吸血鬼(オーガ・バンピエンス)。私にとって人間とは、君達から見た犬猫となんら変わりありません。そして、私はそういう動物虐待でも性的興奮できる加虐思考の持ち主でしてね・・・!!」

 

 雰囲気が一変し、小夜鳴の細身の身体が筋肉質な巨漢の肉体へと変貌していく。

 

「さぁ・・・彼が・・・来たぞ・・・!!」

 

 衣服を破り、歯が狼の牙になり、整った顔がどんどん狼に近くなる。

 やがて肌の色は赤褐色に変色し、肩や腕の筋肉は牡牛のように盛り上がり、露出した脚は、もう獣のように毛むくじゃらだ。上半身の肌には、ツタ植物みたいな模様が浮き出ている。吸血鬼と言うより、狼男に近いだろう。

 レッドランサー以外の者達は、その姿を見て驚きを隠せないでいる。

 

「初めまして、だな」

 

 声帯が不気味に変わり、キンジとアリアに挨拶する。

 

「俺たちゃ、頭の中でやり取りするんでよ・・・話は小夜鳴から聞いている。分かるか?ブラドだよ、今の俺は」

 

 黄金色の凶暴そうな眼で、キンジとアリアを睨みながらブラドは名乗った。キンジは何かを察したのか、舌打ちしながら呟く。

 

「そうか、そういうことだったのか」

 

「ど、どういう事よ!?」

 

「擬態だよ」

 

 呟いた言葉にアリアが問い掛けてきたので、直ぐに答える。

 

「ぎたい・・・?」

 

「動物が自然界で有利に生きようとする時、他の動物の姿や動作をそっくりに真似するだろ?」

 

「う、うん」

 

「ブラドと小夜鳴は、それの吸血鬼・人間バージョンと考えられる。元々、あの化け物みたいな姿だったが、進化の過程で人間に擬態して生きるようになっていった。その擬態は高度で、姿だけじゃなくて、小夜鳴という人格まで作り出したんだ。つまり、少し変わった一種の二重人格だ」

 

 キンジからの付け加えた説明に、アリアは納得した表情を浮かべる。ブラドは目の前に倒れている理子の頭を鎌のように長くて鋭くなった腕で切らないよう器用に掴み、持ち上げる。

 

「4世、久し振りだな。イ・ウー以来か?」

 

 理子を掴んでいるブラドの隙をついて、キンジとアリアは銃撃した。放たれた銃弾は全て命中したが、その銃創は紅い煙のような物を盾ながら、簡単に、ほんの一秒で塞がる。放たれた銃弾は腕から排出され、ブラドの足下に落ちる。

 

「じゅ、銃弾が・・・」

 

「効かない!?」

 

 この銃撃で、身体に付いてあるマークを全て同時に撃たないと、ブラドは倒せないと判断した。

 

「ぶ、ブラドぉ・・・!だ、だました、な・・・!お、オルメスを倒せれば、あ、あたしを・・・解放するって、い、イ・ウーで、約束、した、くせに・・・!」

 

 悔し涙を流し、そうブラドに訴えかける理子であったが、ブラドは嘲笑うように答えた。

 

「お前は犬とした約束を守るのか?ゲゥゥゥアババハハハハ!!」

 

 牙をむきながら笑い、そのまま続ける。

 

「檻に戻れ、お前は無能だが、優良種には違いない。そこにぶっ倒れてる良い血しか採れない女とは違ってな。交配次第では、品種改良された良い5世が作られ、そいつから良い血が採れるだろうよ!遠山、おめぇの遺伝子も掛け合わせてみるか?」

 

 人間全体を侮辱するような言葉に、二人は怒りを覚える。

 

「良いか4世?お前は一生俺から逃れられない。世界の何処に逃げても、お前の居場所はあの檻の中なんだよ!ほれぇ!これが人生最後のお外の光景だ」

 

 ブラドは理子の頭を振り回し、屋上の外へその目を向ける。

 

「よ~く目に焼き付けておけよぉ!ゲハッ、ゲバハハハ!!」

 

 大笑いするブラドに、泣き顔を見せまいと強がる理子は目を閉じるが、頬に大粒の涙が浸り、涙が落ちる。絞り出すように、キンジとアリアの名を口にする。

 

「アリア・・・キンジ・・・」

 

 その微かな声を聞いた二人は、理子の声に耳を澄ませる。

 

「たすけて・・・!」

 

「言うのが遅い!このバカ親友!!」

 

 アリアはブラドへ向けて突っ込み、その後にキンジも続く。構えていた狼が二人に襲い掛かかるが、レキが行った芸当をキンジは真似をし、脊髄と胸椎の間を掠めるように撃った。

 襲ってきた全ての狼は、昏倒して倒れ、戦闘不能になる。

 

「ブラド!理子は私の獲物よ!!」

 

 そう叫んで、アリアはベクターで理子を掴むブラドの手を撃ちまくる。数十発ほど撃ち込まれ、理子を掴む手は緩くなり、彼女を手放した。アリアは空かさず、短機関銃を構えつつ、キンジに指示を出す。

 

「キンジ、お願い!」

 

 指示を出されたキンジの左手には、理子の十字架(ロザリオ)が握られていた。

 どうやらブラドに変異する際、破れた衣服に入っていた十字架が偶然にもキンジの方へ飛んできたのだろう。キンジは普段の物とは思えない速さで、理子の救出に成功する。

 弾倉三十発分の弾を撃ち尽くしたアリアは、キンジが居る場所へと後退し、ケースから取り出した新しい箱形弾倉を取り、空の弾倉をマガジンキャッチボタンで排出、新しい弾倉を差し込み、ボルトを引いて初弾を薬室へ送り込む。

 仕切り直しなのか、ベクターのスリリングを肩に掛け、短機関銃をぶら下げながら、ブラドに告げる。

 

「無限罪のブラド。あんたはあたしのターゲットの中でも正体不明で、見付けにくそうな相手だったけど、相当な間抜けで助かったわ。警戒心もなく、あたしの目の前で正体を現したんだからね、覚悟しなさい!」

 

「勢いのあるチビだな。俺はそんな奴を何千何万も殺してきたが」

 

 途中、レッドランサーが割り込むように言葉を挟んできたが、アリアは気にせずに続ける。

 

「私はアンタを許さない!確かに人間は遺伝子で変わるかもしれない。だからと言って、その人の価値までもが遺伝子で決まるなんてことはあり得ないわ!例え、優秀な能力が遺伝しなくても、人は更なる高みに上がることが出来る!」

 

「ほざけ!ホームズの欠陥品が!!そんな減らず口、二度と吐けないようにしてやる!!」

 

 撃たれた腕が再生したブラドは、努力論を叩き付けるアリアに向けて叫ぶ。だが、アリアは臆することなく、ブラドに向けて逮捕宣言を叩き付けた。

 

「ブラド、あんたを虐待の現行犯で逮捕するわ!」

 

 宣言が終わったと同時にブラドが、キンジとアリアに向けて突っ込んできた。丁度その時、多数の極左テロリストの構成員と暴力団の構成員達が、見物人として何処からともなく出て来た。

 ブラドの手下と思われるAK47突撃銃のルーマニアモデルであるAIMを持った男は、戦闘に巻き込まれると思って即座に瀕死状態のマリから離れた。負傷した理子を抱き抱えているキンジはマリの近くに理子を降ろし、ブラドの死闘を繰り広げるアリアに加勢しようとしたが、彼女に脚を掴まれ、止められた。

 

「どうした?」

 

「これを・・・あの化け物の弱点・・・」

 

 マリは出来る限り持てる力で使って、懐からブラドの弱点を記したイラストを取り出し、キンジに渡す。

 

「ありがとう・・・」

 

 ジャンヌよりより分かり易くなったイラストを受け取ったキンジは、マリに礼を言うが、レッドランサーがそれを目撃し、キンジとマリの間に槍を投げ込んだ。

 

「おい、くたばり底無い!これから殺処分される猿に何を渡している!?」

 

「瀕死の美しい女性を”くたばり底無い”と表すとは・・・それがレディに対する口か?」

 

 槍を投げ込んだレッドランサーに敵意の視線を送りつつ、キンジは告げた。

 

「雑魚が・・・!生意気な口を・・・!」

 

 レッドランサーは掌から槍を出現させ、キンジに投げようとするが、ブラドに止められる。

 

「おい、俺の獲物を捕るな!レッドランサー!!まずはテメェから始末するぞ!」

 

「クッ、犬ころ目。まぁ良い。後で貴様も・・・」

 

 まさか敵に助けられるとは思いもしなかったキンジであったが、ブラドを倒した後にレッドランサーと戦うことになると、勝算は絶望的だ。だが、今はブラドを倒すしかないと決心したキンジは、アリアに加勢した。アリアは弾倉一つ分を使って、ブラドに再生に時間が掛かるほどの重傷を負わせた。

 

「アリア、ヴァセレートが詳しいイラストを渡してくれた。相手が間抜けで助かる」

 

 戦場へ戻ったキンジは、若干血が染みたブラドの弱点図をアリアに見せた。

 

「あのレッドランサーっての、絶対脳筋だわ・・・普通、こういうのは没収するのが結束よ。それともあいつのことだから、何かの手を使って・・・」

 

 図を見ながらアリアは、マリがこの図を何かしらの手を使って入手したと考える。

 

「おい小僧共。作戦会議は終わったか?こっちも丁度準備が終わったところだ」

 

 その言葉と同時に、ブラドがキンジとアリアの元へ突っ込んでくる。

 

「おらぁ!()っちまえ!!」

 

 二人の後ろにいつの間にか回った暴力団員が、ブラドに向けて叫ぶ。直ぐにキンジとアリアは退避したが、暴力団員の男は口を大きく開けて呆然とする。

 

「あっ・・・」

 

 これが男の最期の言葉だった。ブラドに体当たりされた暴力団員の身体は、衝撃で四方が吹き飛び、肉塊となりながら壁にぶつかり、壁に血と内臓がこびり付いた。

 

「おっと、うっかりしてゴミに体当たりしちまった。まぁ、実際ゴミだから何でないがな」

 

 ブラドはうっかりして虫を踏み潰したような感覚と、殺した相手が優秀な遺伝子を持たない理由で人を殺したのだ。これに怒りを感じたキンジとアリアは、ブラドの弱点を撃ち始める。

 だが、同時に撃たないと意味は無いらしく、傷は塞がっていく。その時、ブラドが左腕で口を防御している事をキンジは見逃さなかった。

 

「兎に角ブラド!ママの罪の99年分はアンタの罪よ!!」

 

「あぁ?それとこれがどう関係ある?」

 

 アリアがブラドに向けて叫ぶと、理子の力を借りてマリは立ち上がった。

 

「お姉ちゃん・・・大丈夫・・・?」

 

「えぇ・・・それより、あいつ・・・口を防御する姿勢を取ってた・・・多分、あの犬の弱点は・・・」

 

 十分に動ける理子は、瀕死のマリを抱えつつ、彼女がブラドが銃を撃たれた時に、口を防御する姿勢を取ったことを伝える。それをキンジに伝えようと、指信号で伝えようとする。マリからのメッセージを受けたキンジは、ブラドの気をマリと理子から逸らすべく、問い掛ける。

 

「ブラド、俺達が恐いか・・・?」

 

「あぁ?何言ってやがる」

 

 案の定引っ掛かり、野次馬達もブラドに視線を集中している為、気を逸らすことに成功した。

 

「不思議な(もん)だよな・・・古の時代からどんなに高潔な国の王であっても、老いていくにつれて、死にたくないと思い始め、やがては不老不死に手を伸ばす・・・そんな不老不死に近い存在だからこそ、有害有死になるような状況、つまり武器が一つ以上あるこの状況が恐ろしくて堪らない」

 

 不老不死と聞いて、マリはかつての自分を思い出した。それを聞いたブラドは鼻で笑う。

 

「フン、ガキがいっちょまえの口を利くじゃねぇか。確かにお前等みたいなのがウロチョロしているのが鬱陶しいでな。取り敢えず、お前には退場して貰おうか、遠山!」

 

 そうキンジに告げると、息を大きく吸い込み、胸を風船に膨らませた。

 

「ワラキアの魔笛に酔え・・・」

 

 次の瞬間、ブラドは吸った息を大きく吐き、キンジとアリアに向けて咆哮した。凄まじい大音量が耳に轟き、レッドランサーを除く周りにいる者達は耳を塞ぐ。咆哮を直接受けたキンジの様子が一変した。

 どうやら先の咆哮で、ヒステリアモードを解かれたようだ。

 

「ど、ドラキュラが吠えるなんて聞いてないわよ!」

 

 アリアが騒いでいたが、ヒステリアモードが解けたキンジはそれどころではない。ブラドは近くにあったアンテナを引っこ抜いて、アリアに殴り掛かった。アリアはギリギリ回避できたが、見物人の一人が避けきれずに顔面を諸に受け、ビルから落下する。

 

「キンジ!何してるの!?殺傷圏内(インレンジ)よ!」

 

 呆然としているキンジに、ブラドは無情にアンテナを振るい落とそうとしたが、すんでの所でアリアに突き飛ばされることで九死に一生を得た。

 

「そう簡単にはやらせないわ!」

 

 キンジを突き飛ばし、回避に成功したアリアは、二挺のガバメント自動拳銃を抜いて、ブラドへ向けて撃ち始める。

 

「効くか!」

 

 放たれる銃弾をアンテナで防御し、キンジに視線を向けた。

 

「フン、今はおめぇの相手をしている暇はねぇ」

 

「キンジ!そこから逃げなさい!!」

 

アリアの宣告虚しく、キンジはアンテナに殴られ、先程顔面を殴られて落ちた男のように、ビルから吹き飛ばされる。

 

「キンジィーーーー!!」

 

 落ちたキンジに向けて、アリアの悲鳴が木霊した。瀕死のマリを降ろし、理子がキンジを助けるために、屋上から飛び降りる。

 気になったアリアが慌ててビルの下を見ると、改造制服を展開し、パラグライダーにした下着姿の理子と脚の両脇に抱えられたキンジの姿があった。アリアが安心する中、瀕死状態のマリは力を振り絞って立ち上がり、アリアに伝える。

 

「アリアちゃん・・・ここからは時間稼ぎよ・・・あの変態と理子ちゃんが戻るまでね・・・」

 

 それを聞きつけたアリアは、警戒しつつ、マリの近くに向かう。

 

「何言ってるのよ。あんた、そんな状態で戦うつもり?」

 

 今のマリの状態は、瀕死状態であることは一目瞭然だ。この調子で戦えば、いずれか死んでしまうだろう。

 

「そう言えば、貴方・・・疲れたって言葉は嫌いじゃ無かったっけ?」

 

「瀕死状態の人間を、わざわざ働かせようなんて思わないわ」

 

 流石に死んでは困るのか、アリアはマリの参戦を拒むが、ベクターを奪われ、予備弾倉も奪われてお手上げとなる。

 

「それじゃあ、私はこれで援護に回るわ・・・」

 

「そう、じゃあ、死なないように私が頑張るわ・・・」

 

 マリがベクターから空の弾倉を排出し、新しい弾倉を差し込みながら言うと、アリアは頷いてから、ブラドに立ち向かった。照準器を覗いたマリが、ブラドの脚へ向けて銃弾を放ち、動きを封じる。二挺の45口径自動拳銃を仕舞ったアリアは、二本の太刀を抜き、動きが鈍ったブラドを切り裂く。

 

「ほぅ、中々やるな・・・」

 

 見物客であるレッドランサーは、マリとアリアの連携を見て、褒めの言葉を贈る。マリが足を撃って鈍らせ、アリアが腕を切り裂き、攻撃力を下げる。これをキンジと理子が帰ってくるまで何度も繰り返したが、やがて限界が来た。

 

「クッ・・・!」

 

 無理が祟ったのか、レッドランサーに刺された下腹部から血が噴き出した。その所為で照準がぶれ、ブラドに弾かれる。

 弾かれた45ACP弾は見物人の男の額に命中し、三人目の死者を出す。攻撃が遅れたアリアも、マリの元に弾き飛ばされ、傷が癒えたブラドは二人の有様を見て、大いに笑う。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「グバババ!もう限界か!小娘共!!」

 

 トドメを刺しに来るブラドを見て、アリアとマリは死を覚悟したが、完璧なタイミングでキンジと理子が到来する。

 

「アリア!ヴァセレート!!」

 

 キンジが叫ぶ中、アリアとマリは着陸する隙を与えようと、全力射撃を始める。何十発の45ACP弾を受けたブラドの身体は、凄まじいダメージを受け、少し再生に時間が掛かる程の傷を負わせる。

 全力射撃を終えたマリは下腹部から来る激痛に耐えられず、跪いてしまう。心配したアリアはマリに寄り添うが、彼女は振り払った。

 

「行って!こいつは私が食い止めるから!!」

 

 いつも自分に接する時とは違う表情だったので、アリアは内心ビビってその指示に従う。アリアが離れると、マリはベクターを手に取り、再装填した後、ブラドの脚へ向けてフル・オートで射撃した。

 

「このくたばり底無いが!!」

 

 脚を撃たれて動けなくなったブラドは怒り、近くにあった排気口の蓋を引っこ抜き、マリに向けて投げた。瞬間移動を使って回避しようとしたが、思うように標的が決まらず、左腕を切断される。

 

「グハァ、アァァァァァァァ!!!」

 

 腕を切断された余りの激痛で絶叫し、その声が木霊した。左腕の断片から大量の血が勢いよく噴き出し、マリは堅い床の上に倒れる。

 

「やられた・・・!」

 

 この断末魔めいた叫びで、キンジ、アリア、理子はマリが死んだと判断する。だが、マリの御陰か、ブラドに隙が出来た。

 それと同時に空からドイツのH&K(ヘッケラー&コッホ)社のHK53突撃銃が落ちてきた。

 

「これは・・・!」

 

 「誰が渡してきたのか?」とそんな疑問が浮かび上がるが、気にしている暇は一切無いので、安全装置を外し、照準器を覗いてブラドに構える。アリアが二挺のガバメントを、理子が胸から護身用拳銃であるデリンジャーを取り出し、ブラドへ向けて撃とうとした。

 

「撃て!」

 

 キンジが叫んだ瞬間、雷が鳴り響いた。雷が苦手なアリアは怯んでしまい、若干狙いを外してしまう。このままでは右側が逸れてしまうので、キンジは一秒遅れて右側の弾に向けて、素早く抜いたベレッタで撃つ。今の彼の動体視力なら可能であり、口を塞ぐブラドへ向け、素早くベレッタを捨て、HK53で撃った。

 飛んでいった9㎜パラベラム弾は45ACP弾に当たり、右側へ向かってゆく。

 この撃ち方をキューと呼ばれる棒で球を打って点数を競うゲーム、ビリヤードからそのまま名を取って、銃弾撃ち(ビリヤード)と呼ばれる。超人でもない限り出来ない芸当だ。

 放たれた弾丸はブラドの弱点であるマークに全て命中し、最後の弱点である舌へと5.56㎜NATO弾が命中した。

 

「グオォォォォォ!ば、馬鹿なぁ!?」

 

 弱点を全て撃たれたブラドは、急激に力を失い、膝をついた。さらには自分が引き抜いた鉄柱を受けたブラドは下敷きとなり、間抜けにも舌を出しながら力尽きた。力尽きたブラドに向かった理子はブラドの顔を踏み付け、舌を出しながら馬鹿にする。

 

「ぶぁーか」

 

 ブラドが倒れたことを見た見物人達は、キンジとアリア、理子の三人に恐れおののき、戦意を失う。

 

「ば、化け物を・・・倒しやがった・・・」

 

「あいつを倒した・・・何て奴らだ・・・!」

 

「これが・・・武偵、なのか・・・!」

 

「無理だ・・・勝てるわけがない・・・!」

 

 肝心の極左テロ集団のリーダーと暴力団の組長も三人を恐れている。

 周囲の者達がざわつく中、あの集団には戦意はないと判断し、三人は気にせず、ブラドをどうするか考える。

 

「ブラドはどうする?」

 

「どうにも出来ないわ。こんな鉄柱、あたし達の力じゃ動かせない。そもそもこれはブラドが勝手に持ってきた物でしょ、自業自得よ」

 

 実際にアリアの言うとおりであった。アリアはこちらに来た理子に問う。

 

「ねぇ、本当にアルセーヌ・リュパンとブラドは戦ってたの?」

 

「うん、当時のジャンヌ・ダルクと引き分けでね」

 

「へぇ、そうなの。じゃあ、あんた・・・今、初代を越えたわね」

 

 腰に両手を当てているアリアが、理子が初代を超えたことを称えると、彼女は断片の方へと向かう。

 

「今回のことは貸しにしないよ、オルメス。今回はただ利害が一致しただけ・・・だけど、神崎・ホームズ・アリア、遠山キンジ。あたしはもうお前達を下に見ない。敵としてではなく、対等なライバルと見なす。だから、した約束は守る。バイバイ、ライバル達(オルブワール、マリヴォー)。あたし以外の人間に殺られたら、許さないよ」

 

 そうキンジとアリアにライバル宣言した理子は、屋上から落ちた。

 

「理子・・・!待て!こいつ等は・・・!?」

 

 キンジが言い終える間もなく、理子は改造制服パラグライダーで、ワイヤーを確保し、何処かへと飛び立った。

 

「ははっ、やられたよ・・・あの子の一番の武器は、逃げ足なんだよなぁ・・・」

 

 この場から脱出した理子を見ていたキンジは、そう言って理子のことは諦め、マリが生きているかどうか確認しに行こうとしたが、男の断末魔でレッドランサーの事を思い出す。

 

「ウワァァァァァ!!」

 

「おい、それで勝ったつもりか?」

 

 先程殺した男の首を槍の先端に突き刺したレッドランサーが、キンジとアリアの目の前に現れた。

 

「どうするのよ、キンジ」

 

「何って、逃げるしか無いだろう?」

 

 アリアは二本の太刀を握りながらキンジに問うが、彼の口から予想したとおりの答えが返ってくる。レッドランサーが脅しでも入れたのか、先程の反社会的組織の構成員達が、こちらに向けて雑多な銃器を突き付けていた。ブラドの手下は、鉄柱を退けようと必死になっている。

 

「万事休すか・・・」

 

 キンジがHK53を握り締めながらその言葉を吐くと、二人は死を覚悟した。だが、奇跡はキンジとアリアを助けてくれた。屋上の出入り口から、様子のおかしい暴力団員が、乱雑にドアを開けて出て来た。

 

「助けて・・・くれ・・・!頼む・・・!助けてくれ・・・!」

 

 暴力団員の足並みはフラフラであり、男の背中から血が流れ出てコンクリートを赤く染めている。物の数秒後、男の背後から全身を中世のような甲冑を身に着けた人物が男の背中に刺さった何かを引き抜くと、男は地面に倒れた。

 男の背中に刺さって、命を奪ったのは大振りの両刃の西洋式斧であり、それを手に持ち、同じような甲冑を身に着けた者達は複数居た。全員が返り血を浴びていることを察すると、ここまで上がってくる最中に、ビル内にいた暴力団員達とテロリスト達を殺してきたようだ。

 

「うわぁ・・・!撃て!撃てぇ!!」

 

 中国製AK47である56式自動歩槍を持った極左テロリストが叫ぶと、この場では全く似合わない存在である鎧の集団に向けて銃撃するが、銃弾は全く効かず、銃弾はただ下へ弾かれて落ちるだけだった。

銃撃が終わると、謎の鎧集団の反撃が始まった。

 後ろからボウガンを持った数人と、ロシアの一人で運搬が可能なZID KORD重機関銃を持った一人が現れ、固まっている集団に向けて撃ち始めた。ボウガンから放たれた矢の威力は凄まじく、当たった構成員が屋上から吹き飛ばされる程だ。重機関銃で制圧射撃を掛ける鎧の人物は、次々とテロリストと暴力団員を挽肉に変えていく。

 

「死ねや、コラァー!」

 

 射程から外れている一人の暴力団員が、斧を携えた鎧の集団に太刀一本で仕掛けた。

 だが、隊長らしき中央にいる鎧の男に頭を掴まれ、右脚の膝で頭を叩き潰された。その威力が凄まじく、頭蓋骨が意図も簡単に割れ、目玉とピンク色の脳の一部が辺りに散らばる程であった。

 

「掛かれぇ!」

 

『ウォォォォ!!』

 

 暴力団員の頭を扮さし、返り血塗れの隊長が指示を出すと、後ろに使えていた鎧の集団が掛け声を上げながら斧を持って、反社会的組織の構成員達に襲い掛かった。

 

「うわぁぁぁ!来るな!来るなぁ!!」

 

 錯乱した構成員達は各々が持つ銃を鎧の集団に向けて撃つが、彼等は雨でも弾くかのように軽々しく銃弾を物ともせず、突っ込んでくる。続いてボウガンと重機関銃の射撃も行われ、テロリストと暴力団員達は次々と挽肉にされていく。

 

「この野郎、死ねぇ!」

 

 一人も暴力団員が、掛け声を上げながら隙間へ向けて太刀を突き刺すも、刺す前に斧で両断された。勢いよく血が噴き出し、コンクリートが血で紅く染まる。他の者達も鎧の集団の接近を許し、次々と斬殺される。

 ある者は脚を斬られた後にトドメを刺され、ある者は腕を切断され、ある者は首を飛ばされ、ある者は腹の傷口から手を突っ込まれ、内臓を引き抜かれ、絶命する。

 キンジとアリアの目の前には、こういった大虐殺(ジェノサイド)が繰り広げられていた。

 

「な、なんだと・・・!?」

 

 唯一の退路を塞がれ、焦りを見せるレッドランサーであったが、自分等を殺しに来た者達は鎧の集団だけでは無かった。

 

「な、なんだぁ・・・?俺の視界が歪んでるぞぉ?」

 

 一人の暴力団員の頭の上部が、右に斜めずれ始めていた。周りにいる同僚達が、血が噴き出している事を知らせる。

 

「お、お前!頭が・・・!」

 

「あぁん?」

 

 頭の上部が斜めにずれた男が振り向いた瞬間、上部が地面に落ち、断片から血が噴き出した。周りの男達は悲鳴を上げるが、次々と斬殺されていく。

 

「腕が!俺の腕が!!」

 

 一人右腕を切断された男が左手で断片を押さえ、出血を止めようと試みたが、自分の腕を斬った正体に、左右に両断され凄まじい血飛沫を上げながら絶命する。

 

「な、何者だ・・・!?貴様ァ・・・!」

 

 恐怖の余りに失禁する各リーダーの前で、レッドランサーは惨状を作り出した正体に問う。その正体は首にマフラーを巻いた黒髪のショートヘアーの背丈170㎝の東洋人の女性だった。両手には、周りに倒れている男達を切り裂いた剣が握られ、両腰にはアンカーのような物を放つ装置がぶら下がっている。

 

「邪魔・・・」

 

 両手に剣を持つ女は両腰にある装備を外し、身軽になる。自分を撃ち殺そうとするシモノフSKS半自動小銃を持つテロリストに斬り掛かる。

 

「死ね、死ねぇ!!」

 

 引き金を引こうとするが、その前にテロリストは首を落とされた。

 断片から勢いよく血が噴き出す中、反社会的組織の構成員達の背後にある手摺りにアンカーが引っ掛かり、そこから女と同じ装備を持つHK33突撃銃やHK53等を持った兵士達が飛びながら現れ、屋上へ着地すると、周囲にいる敵に向けて発砲を開始する。

 背後からの奇襲されたテロリストや暴力団員達は反撃もままならず、次々と地面に倒れていく。そして前には両手に剣を持った女に斬殺され、虐殺の光景へと変わる。

 

「クソぉ!」

 

 苦虫を潰した表情を浮かべたレッドランサーは、呆然としているキンジとアリアに襲い掛かろうとしたが、周囲から現れた鎖に動きを封じられてしまう。

 

「な、なんだぁ!これは!?」

 

 槍を手放してしまい、まだ動く首を動かして上を見てみると、上空を飛んでいるUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターから、動きやすい服装をした長いピンク色の髪で、胸の大きい女が落ちてきた。

 

「着地成功・・・!」

 

 その女の正体はシューベリアであり、上手く屋上へ着地し、周りから斬り込んできた暴力団員達を風魔法で吹き飛ばし、倒れているマリの元へ向かった。

 

「マリちゃん!」

 

 シューベリアが周りの敵を倒しつつ、マリの元へ向かう中、マフラーの女がレッドマーカーに近付いてくる。近場にいたテロリストのリーダーと暴力団の組長は、女から放たれる殺気で気絶する。レッドランサーは必死に鎖を解こうとするが、魔王の娘の魔力は凄まじく、全く解けない。

 

「クソ!外れろ!槍さえあれば俺は勝てるんだぁ!!」

 

 引き離そうとするも、鎖はびくともせず、近付いてきたマフラーの女に両手両脚を切断された。

 

「グワァァァァ!ヌワァァァァァ!!おのれぇぇぇぇぇ!!」

 

 四方を切り裂かれたレッドランサーは、首だけにも形ながらも、マフラーの女に噛み付こうとしたが、首を剣で突き刺され、四方や首から大量の血を吹き出しながら絶命した。

 それと同時に虐殺は終わり、辺り一面が血で真っ赤となり、その上には大量の空薬莢と武器、内臓、頭、脚、腕、眼球、死体が散乱し、地獄絵図と化していた。

 アリアはこの地獄絵図に慣れていないのか、床へ向けて嘔吐する。同じく、鎧の集団とアンカー装備の新兵達も床へ向けて嘔吐した。

 一方、マリを介抱していたシューベリアは左腕の断面に手を翳し、治療魔法で止血しようとしていた。介抱されているマリの顔色は非情に悪く、血を失いすぎて失血死の可能性があった。

 

「誰か!マリちゃんの左手持ってきて!まだくっつくかもしれないから!!」

 

 周囲へ向けてシューベリアが叫ぶと、その他のみを耳にした者達が、切断されたマリの左手を探し始めた。案の定、マリの綺麗な左手は直ぐに見付かり、持ってきた者から左腕を取ると、シューベリアは左腕の断片に付け合わせた。

 脅威の排除を確認した上空を旋回していたブラックホークが、ヘリポートへと着陸し、ヘリからノエルと京香が降りてくる。おぞましい光景を見た京香は嘔吐してしまうが、ノエルは直ぐにマリの元へ寄り添う。

 

「大丈夫ですか!皇帝陛下!?」

 

 両手で口を覆い、今のマリの状態を見たノエルはショックを受ける。同じヘリから衛生兵も降りてきて、シューベリアの治療魔法による腕を付ける手術に参加する。暫し呆然としていたキンジとアリアではあったが、やって来たマフラーの女にHK53を取られる。

 

「これ、君のだったのか・・・」

 

 キンジはHK53を取ったマフラーの女に向けて言ったが、彼女は無視して同じ対の者達の元へ戻る。

 

「おいおい、滅茶苦茶やってくれたな・・・」

 

 屋上の出入り口から、部下達と共に不甲斐ない容姿の男、ドン・アシェルが姿を現した。鉄柱に下敷きになっているブラドを見て、部下に指示を出す。

 

「よーし、通報通りデカイ犬は倒されているようだな。ヘリを使って回収しろ」

 

「はい、中佐殿」

 

「通報・・・?理子の奴に助けられたか・・・」

 

 キンジは、ここにワルキューレを呼んだのは、理子だと察した。出入り口からワルキューレの作業員達が入ってくる中、フランスのブルパップ式突撃銃FAMASを持つ戦闘員達がキンジとアリアに銃を向ける。ドンはキンジ等にも気付いたのか、指差しながら忠告する。

 

「おい、お前等。このデカイ犬を俺らが倒したことにしておけよ?手配中の不穏分子を渡してやるからよ」

 

「事実をもみ消すつもりか・・・!」

 

 キンジはドンに反抗の態度を見せるが、アリアが止めた。

 

「止めなさい、キンジ・・・こいつ等、多分イ・ウーよりヤバイ連中だわ。ここは一端手を退きましょう・・・」

 

「そうだ、そうだ。そこの中学生の言うとおりだ。大人しく言うこと聞いておけ」

 

「なっ!?誰が中学生よ!私は高二だ!!」

 

「ウッセー!どっからどう見ても中学生だろうが!!」

 

 言い争いを始めるアリアとドンを他所に、キンジはヘリに乗せられるマリに視線を向けた。瀕死の状態のマリが、シューベリア、ノエル、京香と三名の衛生兵と共に乗ると、ブラックホークは太陽が昇る空へと舞う。十分な距離まで高度を上げると、ワルキューレの拠点がある方向へと、マリ達を乗せた多目的ヘリコプターは飛び去った。

 それをただキンジはみているだけだった。




久しぶりの淫乱ピンクの登場。
これで緋アリ編は終了、長くし過ぎた・・・良く思えばご都合主義ばっかりですな・・・
アリアが最新型の45口径短機関銃ベクターを使うのは本作オリジナル。
フランス語が不安だ・・・緋アリはアニメしか見たことないから・・・大丈夫かな・・・?

それと本作品は、銀河英雄伝説及び進撃の巨人とは一切関係ありませよ~

誤字脱字の報告は、感想にて御願いします。
そして、次回はスペースオペラと民族浄化・・・になるかな・・・?
では、この辺で。


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遠征編
サザーランドの戦い 前半


これは管理局アンチになってしまうな・・・(小並感


 時空管理局名、第88管理外世界、他の勢力の共通名、戦国ワールド。

 魔法を主力とする次元管理局が付けた管理外世界とは、他の世界への航行技術を持たない世界を示す意味であったが、今はその意味はなさなくなった。

 初めて見付けた管理局はこの世界の文明を持つ者達は宇宙航行が限界であり、別の世界への航行技術を到底持つことがないと判断して”管理外世界”と名付けた。

 

 その第88管理外世界では、今確認できるだけで北、西、東、南、中央の星系に多数の惑星が確認できる。

 五つの星系を束ねていた統合政府の崩壊に基づき惑星一つ一つが国家として名乗りを上げ、日本の天下統一争奪戦となった戦国時代と、混乱状態のアフリカと同じく戦乱の時代となっていたが、管理局は高みの見物を決め、何の干渉をすることなく戦乱の時代を安全地帯から眺めていた。

 だが、20年前に起きた次元震災の影響下により、その3年後からは初めて管理局の寮内に同等、否、さらに上回る次元航行技術を持つ統合連邦と呼ばれる巨大な勢力が入り込んだ。

 

 直ぐさま管理局は領土不可侵入した不届き者を排除すべく、艦隊を差し向けたが、戦略・戦術・経験に勝る統合連邦遠征調査艦隊の前では惨敗であった。連邦に対抗してか、惑星同盟も管理局領内へと侵攻を開始する。

 無論、管理局も艦隊を侵入してきた同盟軍艦隊に差し向け、対応に当たったが、結果は連邦と同じく、悲惨たる物である。

 こうして、堂々と先住者である時空管理局から一部の領土を奪い取った連邦、同盟の二つの巨大な勢力は互いに争い合う戦国国家群に対し、武器を与えて自らの勢力に引き入れる。

 その結果、連邦が西側、同盟が東側に別れ、さながら東西冷戦に似た形にはなったが、連邦と同盟は互いに砲火を交え、尚も星系各地で戦闘が続いていることから冷戦とは言い難い物である。

 管理局は北の星系で前哨基地と強固な防御線を拵え、このまま東と西が互いに砲火を交えるのをただ傍観するだけであり、何の干渉もしなかった。

 

 だが、連邦と同盟が第88管理外世界に侵入する前に、先に入り込んだ勢力が存在した。それはワルキューレである。この勢力は次元震災が起こる前から来ており、南の星系に腰を下ろし、惑星開拓に励んでいた。

 これと言った行動も起こさず、管理局は気付かず終いであったが、ようやく存在に気付いたのは二つの巨大な勢力に敗れた後であった。

 八つ当たりでもするかのように、管理局はワルキューレに第88管理外世界から即時撤収を勧告したが、ワルキューレ側はこれを拒否、管理局は攻撃艦隊を送り込んだが、二つの巨大な勢力とは違って技術力は劣るが、魔法は管理局と同等であり、戦略と戦術を持って撃退に成功した。

 三度の敗北により、管理局は第88管理外世界を手放そうと考えるが、大多数の反対意見で一部の部隊が留まることとなった。

 ワルキューレが居座る南の星系にも、連邦・同盟の勢力の危険が及んできた為、絶対防衛線と強力な大量破壊兵器を搭載した宇宙要塞アレスタントを築き上げ、侵略に対しては抵抗の意思を見せた。

 

 さて、話を戻して、時はマリがアリア達の世界で活動中の時間へと遡る。

 彼女達がその世界へ行った直後、時空管理局の様々な次元航行艦艇二五〇隻以上の大艦隊が、ワルキューレの勢力圏内のど真ん中にある訓練・演習目的で運用されている惑星サザーランド圏内へ侵入したのだ。

 当然ながら敵対勢力の大艦隊が自分等の勢力圏内のど真ん中に出現し、近場の勢力圏内にある自分等の星を目指しているなど、信じられない。

 

『コメット、レーダーの故障じゃないのか?何故、絶対防衛ラインを抜けて二百五十隻が我々の勢力内へと入り込むなど不可能だ。警戒ラインに入った時点で報告があるはずだ』

 

「ですが・・・目の前にホントに居るのです。私と僚艦も含め、この艦の乗員全員が見ています。彼等の目的地はサザーランドです、映像をそちらへ送信します」

 

 管理局の大艦隊を監視する二隻の全長95m級のフリゲート艦の内一隻のブリッジにて、艦長が目の前の画面に映る上官へ報告するが、当然ながら信じる筈がない。証拠を示すべく、灰色の制服を着た艦長は航海士に録音した映像を送信するよう指示する。

 

「クヒョン上等航海士、本部に映像を中継しろ」

 

承知しました(アイアイサー)艦長(キャプテン)

 

 航海士は指示されたとおり、機器を慣れた手付きで操作し、映像を上官の居る場所へ中継した。

 

「キャプテン、中継しました」

 

「ご苦労。どうです?私の言ったとおりでしょう?」

 

『演習用の標的艦じゃないのか?呼び出してみろ、コード3-4-9だ』

 

「はっ。通信士、呼び出せ。コード3-4-9だ」

 

 映像を見ても上官は信用せず、呼び出しで確認しろと命令してきた。その指示に応じた艦長は、通信士に上官の命令を伝達した。指示に従った通信士はコードを入れて呼び出してみたが、応答はない。

 

「応答ありません・・・」

 

『管理局だ!警告して追い返せ!応じなければ威嚇射撃だ!!』

 

「はっ、大将閣下!マイクを持ってこい!」

 

 ようやく信じたと思った艦長は部下にマイクを持ってこさせ、それを手にして警告を行った。

 

『こちらワルキューレ宇宙軍第90パトロール艦隊傘下の第4分艦隊のオリビア・ファインズ中佐だ!貴官等は重大な領土侵犯を行っている。直ちに次元航行を行い、貴官等の領土内へ帰投せよ。応答がない場合は警告射撃を行う』

 

 暫く待って、反応を確かめてみたが、管理局側は何の反応も示さなかったので、威嚇射撃を命令する。

 

「砲術長、威嚇射撃だ。ミサイルを使え。信管を調節して、ど真ん中で爆発させ、火薬嫌いな奴らを驚かしてやれ!」

 

「アイアイサー!ミサイルだ、時限信管にセット、相手に当てるなよ」

 

『警告射撃を行う。警告に応じなかった場合は、貴官等を敵と見なし、攻撃する』

 

 艦長が警告を行った後、威嚇射撃のためのミサイルが発射された。ミサイルは管理局の大船団の真ん中に飛んでいき、一定時間後に爆発する。彼等にとっては単なる威嚇射撃であったようだが、管理局はこれを攻撃と見なした。

 

「こ、攻撃だ!反撃だ!反撃しろ!!」

 

 艦隊の提督である部隊長がミサイルの爆発に驚き、攻撃と勘違いして反撃を命じた。二百五十隻からなる艦船の凄まじい弾幕が二隻のフリゲートを襲う。

 

「て、敵艦隊!反撃してきました!!」

 

「か、回避!!」

 

 索敵手が直ぐさま報告してきたが、回避が間に合うはずもなく、二隻のフリゲートは宇宙の塵となった。

 通信が途切れた事により、直ちに攻撃目標にされたサザーランドに駐在する再編成中の宇宙軍第102艦隊分艦隊二百隻と各勢力圏内に再編成目的で駐屯する同艦隊所属の八百隻の分艦隊、絶対防衛線からピーチ・グラフム・ロデリオン宇宙軍中将率いる千五百隻の討伐艦隊が出動した。

 まず、時空管理局の大艦隊と初めに接触したのは最も近い勢力範囲の惑星から来た空母などの機動戦力を持たない戦艦や巡洋艦、駆逐艦で編成された三百隻からなる火力重視の分艦隊だった。

 火力重視の分艦隊の後ろからは、サザーランドから出て来た空母、軽空母を持つ二百隻以上の機動分艦隊だ。

 

「戦争を知らん腰抜け共目が!我らの領内に忍び込んだことを後悔させてやる!攻撃機発進!!」

 

「了解。第一次攻撃隊、発艦!」

 

 分艦隊の長から命令で、全長1000mはある大型空母や各空母、軽空母から、大多数の対艦ミサイルを搭載した攻撃機が発進する。その数は二千機超え、宇宙を海とするなら魚の群れのようだ。艦載機の大群と三百隻の艦隊が管理局の二百五十隻の艦艇に襲い掛かかる。

 圧倒的勝利はワルキューレ側と思われたが、予想は裏切られた。

 

「敵戦闘艦艇から強力な魔力反応確認!」

 

 索敵手からの直ぐに報告を聞いた提督は、指令を出す。

 

「いかん、奴らの高出力魔道砲だ!直ぐに第一次攻撃隊を・・・!」

 

 指示を出したが、艦載機部隊の退避は間に合わず、強力なビーム攻撃を受け、強烈な閃光がした後、先行した艦隊諸共艦載機部隊は宇宙のデブリとなった。

 

「間に合わなかったか・・・!全艦、サザーランドまで後退。機雷を撒けるなら撒いておけ。戦艦は長距離砲撃をしつつ後退だ。衛星軌道上で地上からの支援を受け、交戦しつつ、味方の増援艦隊と本隊である討伐艦隊を待つ。早くあの大量破壊兵器の射線場から後退しろ、我々もデブリにされるぞ」

 

 アルカンシェルと呼ばれる管理局の大量破壊兵器の威力を見て、やや恐怖したが、臆することなく後退の指示を出す。艦隊はサザーランドまで後退し、600m級の戦艦が主砲からビームを撃ちつつ後退する。

 数の優位があると察した管理局の艦隊は、ワルキューレの艦隊を追って前進してくる。機雷を撒きつつ後退している為、先行した複数の管理局の艦が撃沈したり、大破したりしたが、砲撃して機雷を処分しながらも前進を諦めない。後方からもワルキューレの艦隊が集まってきたが、アルカンシェルの火力の前に損害を出す。

 しかし、彼等は諦めず、再編成を行って追撃を続行する。

 

「奴ら目、しつこいぞ!火薬が恐くないのか?」

 

 艦隊の内一隻の巡洋艦の艦長が執念深く追ってくる管理局の艦隊を見て、驚きの声を上げた。遂に艦隊は惑星サザーランド衛星軌道上へ到達し、予め集結していた第102艦隊所属の分艦隊と合流し、艦艇数は四百隻に達し、防衛の陣形を取っていた。

 無論、次元航行艦船に搭載されているアルカンシェルで薙ぎ払われる可能性があるので、乱戦覚悟で突撃する構えを行う。空母、軽空母から様々な機動兵器を含めた艦載機を出しつつ、数による殲滅を試みようとしている時に、サザーランドから全長20m程の迎撃機(インターセプター)が複数出て来た。

そ のまま管理局の艦隊に突っ込み、交戦状態となる。他にも、集結してきた艦隊とも交戦状態に入るが、管理局は損害が出ても前進を止めない。

 

「奴ら・・・何たってこれ程しつこく迫ってくるんだ・・・!」

 

 駆逐艦の艦長がサザーランドから来る迎撃機や弾道ミサイル等、艦隊のミサイル攻撃に晒されながらも突っ込んでくるブリッジから見える管理局の艦隊を見て、恐れ戦く。こちらの射程距離にまで管理局の艦隊が迫ってきた為、艦隊はアルカンシェルを撃たれる前に、敵艦隊に突っ込んだ。

 

「消し炭にされるぞ!敵艦隊に突撃!乱戦状態に持ち込め!!」

 

 提督の指示で、一部の護衛艦を残し、空母や軽空母を除く戦闘艦が管理局の艦隊に突撃した。もちろん、戦争、ましてや艦隊戦などやったことが無い管理局は突っ込んできた敵の艦隊に対処できるはずもなく、乱戦状態に持ち込まれる。

 

「敵艦隊、我が艦隊に・・・!あぁ!アルカンシェル、敵と味方の艦艇が入り乱れて撃てません!!」

 

「質量兵器を扱う野蛮人共目が!なんとしてもあの惑星に降下するんだ!」

 

 管理局艦隊の旗艦のブリッジにて、艦隊の提督が無理難題の命令を出した。

 

 

 

 その頃、軌道上で大規模な艦隊戦が行われている惑星サザーランド内の港町にて、今行われている艦隊戦から、開拓民の住民を守るべく、訓練を終えたばかりの新兵達まで動員した避難活動が行われていた。

 

「急いでください。なるべく荷物は少なくして」

 

 ブロディヘルメットを被り、第二次世界大戦下の英連邦軍のバトルドレスと呼ばれる戦闘服を纏った何人かの女性兵士が、持てるだけの荷物を持った大多数の避難民を誘導する。

 他にも同じ服装を纏い、見合った装備を身に着け、リーエンフィールドNo4小銃やステン短機関銃、ブレン軽機関銃を持った女性兵士も何人か居る。

 彼女等の盾となる装甲車両は、英連邦の傘下国家の戦車のラム巡航戦車やセンチネル巡航戦車、クルセイダー巡航戦車を対空戦車に改造したクルセイダー対空戦車、アメリカから給与されたM3スチュアート軽戦車、M3リー中戦車、M5ハーフトラック、M16対空自走砲が数量ほど。

 近くの港には、戦中に英海軍で運用されたC級駆逐艦が何隻かが、避難民を乗せている輸送船を守っている。

 空には同じく戦中に英空軍に運用された単発機のハリケーン、スピットファイア戦闘機、双発機のモスキートが飛び回り、町の各所ではヴィッカーズ水冷式重機関銃、ボフォース対空砲、QF3.7インチ高射砲が配置されていた。

 とてもこの装備では、管理局の武装局員と呼ばれる魔法を扱う戦闘員では相手にならないだろう。その様子を遠くから、大戦中のドイツ軍の10.5㎝高射砲を設置し終えた少年少女達が眺めていた。

 

「あいつ等も惨めだな・・・あんな演習用や映画の撮影にしかならねぇ物を持ち込んで迎撃態勢だなんて・・・」

 

 双眼鏡で、市街地で行われている避難活動と配置された古い対空火器を見て、背丈170㎝程のエメラルドグリーンの瞳を持つ白人の少年は呟く。

 

「仕方ないよ。ミサイルや最新式の火器はみんな前線部隊が持って行っちゃったんだから・・・」

 

 背丈が163㎝と白人の少年が訳を語った。

 この二人の少年の名は、エッケハルト・グリルパルツァーにアンゼルム・バルシュミーデ。長身な黒髪の少年がエッケハルトで、金髪の少年がアンゼルムだ。

 彼等の他にはクンツ、トビアス、ハンス、クラウス、アロイジア、ドーリス、黄色人の見田、和田尾、真子の9名が居る。少年少女等が肩にぶら下げているのは大戦中のドイツ軍で使われたkar98k小銃やMP40短機関銃だ。

 他にも高射砲が設置されており、エッケハルト等と同じ服装をして装備を身に着けた少年少女等が確認できる。彼等は特別機動兵と呼ばれるワルキューレの装甲擲弾兵や突撃猟兵と呼ばれる最強兵科の一つである。3年もの長い訓練を終え、特殊な技術を身に着けたエキスパートな者達だ。

 その特殊な技術を簡単に言えば、専用装備を身に着け、ターザンやサーカスのブランコ渡りのような立体的な機動を行う物である。管理局の武装局員に対応できる兵力であるが、彼等特別機動兵の配置を見る限り、サザーランドに居る司令官は訓練を終えたばかりの最強兵科の新兵達を失いたくないようだ。

 

「あぁ?なんだ、あれ?」

 

 ハンスが空に何かが浮いているのを見付けた。それに釣られて全員が空を見上げ、双眼鏡を持つ高射砲の照準手が見る。

 

「あれは・・・!見たこともない艦・・・敵だ・・・!」

 

「なっ!?もう突破されたのかよ!報告じゃあ、乱戦状態に持ち込んでいるんじゃなかったのか!?」

 

 高射砲の砲兵達が慌て始めた為、エッケハルト達は少し不安になってきた。直ぐに砲手がエッケハルト等、特別機動兵の新兵達に告げる。

 

「お前等、後方陣地まで戻れ。教導部隊と共に敵を迎え撃て」

 

「えっ、でも、俺達・・・」

 

「良いから行け!ここは俺達だけで十分だ!」

 

 エッケハルト達はこの場に留まり、共に戦おうとしたが、激しく怒鳴られ、渋々、言われた通り、やって来た陣地へと戻った。

 

「おいおい、あいつ等・・・俺達をまるで足手纏いみたいに!」

 

「仕方ないよ。僕達は経験の浅い新兵だし・・・パニックって貰っては困るだろうし・・・」

 

 10.5㎝高射砲で狙いを付ける砲兵達を見て、帰らされたクンツが文句をたれるが、アンゼルムは砲兵達が思っていたことを告げた。

 

「クソッ!これじゃあ、いつまで経っても・・・」

 

 拳を強く握り、自分等を除け物扱いされて悔しがるエッケハルトが言い終える前に、高射砲の砲声が彼等の耳に入ってきた。

 

「近いな、早く戻ろう!」

 

 両耳を塞いだ見田が、街や近くの対空砲や高射砲の砲声には負けないような声量で伝え、一同は直ぐに陣地へ急いで戻った。エッケハルトが振り返ってみれば、管理局の大型次元航行艦船が街の上空に到達し、地上からの激しい弾幕を受けていた。地上からの攻撃は、余り意味はなく、艦船から出て来た武装局員に次々と制圧され、次々と弾幕が消えていく。

 空のハリケーンやスピット、モスキートはハエの如く落とされ、港のC級駆逐艦も次々と撃沈され、数分後には、街はほぼ完全に制圧された。未だに街からは銃声が響いているが、徐々に静かになっていき、やがては周囲にある対空砲や高射砲の砲声で掻き消される。

 対空ミサイルなどが艦船に向けて何発か飛んでいくが、迎撃されてしまう。迎撃機や海から来た艦艇など尚更のこと、地上から来る部隊も反撃を受け、壊滅状態になる。

 

「クソっ!滅茶苦茶じゃねぇか!!二級戦装備じゃまるで歯が立たないぞ!」

 

 この惨状を目撃したエッケハルトは黙って入られず、戦場へと向かおうとするが、仲間達に止められる。

 

「離せ!」

 

「よせ!お前が言っても何ら変わりないぞ!!」

 

 クンツの言葉にエッケハルトはそれでも向かおうとしたが、持ち場を離れて配送する街にいた残存部隊の有様を見て、今の自分では無駄死にだと分かってしまった。

 

「装備が無いんだ!ちゃんと攻勢に機会は考えているはずだよ。今は戻って、装備の受理を」

 

「チッ、分かったよ!」

 

 アンゼルムから説得を受け、エッケハルトは仲間と同じ方向へと走った。道中、兵員を乗せている最中のトラックを見付けたので、彼等は有り難く乗せて貰うことにした。

 

「街に居た部隊はもう壊滅だな」

 

「住民がどんな目に遭わされているか・・・」

 

「えっ、時空管理局は比較的な蛮行行為はしない組織じゃ・・・」

 

 和田尾が黒煙の上がる街を見て言った後、トビアスが放った言葉にアンゼルムが異議を唱えた。

 

「馬鹿、あいつ等だって人間でしょ。絶対胸くそ悪いことしてるに決まってるじゃない」

 

 隣にいるアロイジアの言い放った言葉に、アンゼルムは黒煙が上がる街を見た。「あの街では武装局員達は職務を全うしているのか?それとも欲望のままに暴れ回り、蛮行行為に及んでいるのか?」そんな考えが彼の脳内を支配していた。

 エッケハルトの方は、揺れるに台の上で手摺りに掴みながら街を睨み付けるように眺めている。数十分もすると、彼等は元から来た後方陣地に戻り、さらに合流した同期の新兵達と共に、後方陣地の予備兵力として配置された。

 無論、管理局からの攻撃を受けている場所はエッケハルト等が居た港町だけと限ったことではない。港町を含む約九カ所が攻撃を受けており、先程陥落した港町も含めて内七カ所が陥落、一カ所の要塞だけしか撃退に成功していなかった。そして、今戦いにおいて最大の悲劇が起こることとなる。

 大規模な市街地を攻撃した管理局の大型次元航行艦船三隻と言う編成の部隊は、市街地各所から来る激しい攻撃を受け、部隊長はパニックを起こしていた。

 

「市街地全土から攻撃を受けております!」

 

「周囲から敵質量兵器多数接近!!」

 

「うわぁ・・・うわぁ・・・!」

 

 大規模な戦闘は宇宙にて行われていたが、今度は違った形の戦闘であった為、先の戦闘でかなり疲弊しており、もはや部隊長に冷静な判断など出来るはずもなかった。

部隊長はサザーランドに降りれば対した抵抗はないと楽観視していたらしい。

 恐慌状態に陥った部隊長は周囲の脅威を排除しようという考えに囚われ、市街地にはまだ避難民が多数残されているにも関わらず、揺れる船内の中で市街地に向けての無差別攻撃を命じた。

 

「う、撃て・・・!下に・・・!」

 

「はっ?今なんと!?」

 

「僚艦とも撃つのだ・・・!市街地に・・・!」

 

「少将、市街地にはまだ住民が・・・!」

 

 副官の反対を押し切り、部隊長は強行しようとする。

 

「黙れっ!脅威の排除を優先だ!!」

 

 正気を失ったかのような目付きで告げた為、部下達は止めようという考えもあったが、状況が状況で、敵の正確な位置などほぼ特定が出来ておらず、もうこの手しか思い付かなかった。

 直ぐにアルカンシェルを下に広がる市街地に向けて発射した。

 

「正気か!?」

 

 攻撃を受け、四方八方から飛んでくる対空ミサイルや対艦ミサイルの迎撃に負われていた僚艦の艦長が正気の沙汰でもない攻撃を敢行する部隊旗艦の有様を見て、部隊長の正気を疑う。

 他二隻の僚艦が止められる間もなく、アルカンシェルが発射された。発射された光が市街中心部に命中すると、強烈な閃光が市街地を包み込む。光が晴れる頃には、市街地は瓦礫の山と化した。

 

「せ、生体反応無し・・・!民間人諸共敵は全滅です・・・周囲の敵は撤退しました」

 

 索敵手からの報告に、部隊長はホッと息を撫で下ろし、椅子に腰を下ろす。

 

「報告は武装した敵の戦闘員が市街地全土に居たことにしろ、民間人など一人も居なかったとな・・・」

 

 部隊長からの指示に、上層部に民間人ごと敵戦力を排除した事を責められたくない部隊長と同じ気持ちの部下達は従うことにした。無論、咎められずに済むのは「勝てば」の話である。

 管理局はワルキューレの勢力範囲のど真ん中で戦闘を行っており、仮にサザーランドの戦いにおいて勝ったとしても、直ぐにワルキューレの奪還部隊が向かってくるだろう。

 時空管理局にとってはこの戦いが数少ない新世紀が始まってから大規模であり、そればかりか兵員こと局員の実戦経験がほぼ皆無だ。最初の攻撃で既に疲労が溜まっており、宇宙では休む暇もなく数で勝るワルキューレの宇宙艦隊の攻撃を受け続けている。

 地上で勝っても、宇宙がこの有様ではもはや勝利するなど奇跡でも起こらない限り無理だろう。かくして、後にサザーランドの戦いと呼ばれる管理局とワルキューレとの地上と宇宙の一ヶ月以上に及ぶ大規模な戦闘が開始された。

 

 

 

 一ヶ月後、戦いの終わりを告げる女神と表すべきかどうか分からない女がサザーランドへ舞い降りた。

 

「大丈夫?神経が何本か繋がっていないみたいだけど・・・」

 

 サザーランドへ降り立つ輸送機の船内にて、シューベリアが現行英陸軍の歩兵装備のような物を纏ったマリの左腕を掴みながら問う。

 

「大丈夫よ。これまで何本も斬られたり、引っこ抜かれたり、潰されたりしてるんだから」

 

 右手にドイツのG36用グレネードランチャーと互角性を持つイギリスのブルパップライフルL85A2を握りながら、シューベリアの手を払う。マリとシューベリアの他には、カナダ製AR15であるC7A1突撃銃を持つ、現行のカナダ軍のような装備をした複数の兵士達が居る。

 年齢は隊長の黒人女性以外20代ほどであり、実戦経験は一回か二回ほどの顔付きだ。左手を何回か握って感覚を確かめていると、輸送機のパイロットが知らせてくる。

 

「大尉。もうすぐ着陸地点です」

 

「分かったわ。全員、良く聞いて。最初に説明したとおり歩兵連隊と合流、他の部隊も来るから。連隊と共に作戦行動よ。英雄になろうと出しゃばらない限り死にはしないわ、兎に角言われたとおりにするのよ。分かった?」

 

 大尉が立ち上がり、左右の座席に座るマリとシューベリアも含めた部下達に告げる。

 

「そこの二人は・・・取り敢えず、私の指示に従って」

 

 マリとシューベリアの存在に気付いた大尉は、ヘルメットを外しから、ついで代わりに言った。ヘルメットを被り直した大尉が、席に戻ろうとした瞬間、機内が大きく揺れた。直ぐに大尉がパイロットに問う。

 

「何事!?着陸地点にはまだ敵が迫ってない筈よ!」

 

「多分、敵の斥候部隊に攻撃されているかと!」

 

「なら着陸地点を変更しなさい!」

 

 報告したパイロットへ、大尉は直ぐに指示を出す。だが、パイロットがハンドルを切るよりも前に期待に穴が開いた。マリの目の前にいた新兵の左脚が吹き飛び、血飛沫が彼女とシューベリアを汚した。

 

「うわぁぁぁぁぁ!俺の脚が!脚がぁ!!」

 

 無くなった左脚を抑えながら悶え苦しむ新兵を見て、マリとシューベリア、大尉を除く他の者達は恐怖する。次いで他の者達も貫通してきた魔力の球で身体を貫かれ、四方を裂かれ、頭を吹き飛ばされ、死んでゆく。

 船内が内臓や脳の一部、腕や脚など血で真っ赤に染まっていく中、シューベリアは不老不死でないマリを庇うように覆い被さる。

 

「被害甚大!墜落、墜落します!!」

 

 報告を終えたと共にパイロットは胸に大きな穴を開けて絶命し、コントロールを失った輸送機は、大きく回転しながら墜落した。

 

「うぅ・・・ここは・・・?」

 

 マリが目を覚ますと、久々に虚無の世界へ来ていた。周囲を見渡し、幾つもの細切れた建造物が浮いている。

 

「久し振りに来たわね・・・」

 

 特に変わっていない光景を見て一人呟く。「暫くすれば、アウトサイダーが出て来る」と思ったマリは、見通しの良い場所へと向かった。その場所へ辿り着いた瞬間、案の定、死人のような肌の男性青年の容姿を持つアウトサイダーが何処からともなく出て来た。

 

「やぁ、マリ。何日ぶりの虚無の世界だな」

 

 腕組みをしながら挨拶をするアウトサイダーに対し、マリは黙ったままだった。

 

「コルヴォと同様、寡黙を貫くか・・・お前はもう少し彼とは違って口数が多いと期待していたが、この際はどうでも良い。私とここで再会するまでに能力を三つ取り戻したようだが、今はそんな所ではないようだ」

 

 今、自分が置かれている状況をアウトサイダーが告げる。

 

「ここで私と話している間に死なれては困る。目を覚まさせる前に、次のお前の能力がある世界は、インフィニット・ストラトスと呼ばれる女性のみにしか扱えない兵器が支配する女尊男卑の世界だ。そこにはお前の懐かしい物がある。今の戦いを終わらせるか、その次の戦いを終わらせてから行くのもお前の自由だ」

 

 アウトサイダーが言い終えれば、突然視界が真っ暗になる。次に目覚めた時は、銃声や断末魔が聞こえる戦場だった。

 

「あぁ、起きた・・・!」

 

 先に気付いたのはシューベリアだ。周りを見渡し、周囲がどのような状況なのかを確認する。

 目に見えているのはシューベリアと、輸送機の残骸を遮蔽物代わりにして反撃している兵士、カナダ製FN MAG軽機関銃であるC6を撃ち続ける兵士と、数発撃った後、シューベリアの知らせでこちらに来る大尉だ。

 

「どうやら起きたみたいね」

 

 立ち上がったマリに、大尉は近くに立て掛けてあったL85A2を渡した。重い銃を受け取ったマリは、ストックの近くにある弾倉を引き抜き、重さで残弾を確認し、再び差し込むと、身を屈めながら近くで銃撃戦を行っている兵士の元へ向かった。




なのは二次で、管理局が敵にされていると同じ様な扱い・・・

あの場でビッテンフェルトが居れば、管理局の艦隊は一撃で宇宙の塵となっていますわ・・・

~今週の中断メッセージ~

カナダ製AR-15やFN MAGについて簡単な説明。

C7A1
カナダのM16A3のライセンス生産品。カナダ軍正式採用モデル。
A3と同じくM203グレネードランチャーが装着できる。

C6 GPMG
カナダのFN MAGのカナダ軍正式採用モデル。
特に変わった事はなく、採用国家と同じ。
一般的に、一個ライフル小隊に一挺が割り当てられている。


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サザーランドの戦い 中編

宇宙戦終結は後半にて・・・


 兵士の隣に着いたマリは、グレネードランチャー付きL85ブルパップライフルを構え、兵士が撃っている方向を見る。隠れたり出たりして、銃らしき物を撃っている人影を確認すると、自分等が来ている物とは違う迷彩効果も無い動きやすい服装の敵らしき人物が見えた。照準器を覗いて、数発ほど飛び出した敵らしき人物へ向けて撃った。

 飛び出した敵こと局員は頭に二発ほど穴を開け、後頭部から脳の一部を吐き出しながら倒れた。一人倒しただけで終わるはずもなく、こちらの手薄な方向から、何名かが杖や銃らしき物を持って突っ込んでくる。

 

「敵十六名、こちらに接近!」

 

「機関銃、直ぐに回って!」

 

「は、はい!」

 

 部下からの知らせに、大尉は即座に指示を出し、C6軽機関銃を持った兵士を向かわせる。二脚を立て、ストックに左手を置き、突っ込んでくる局員達に向けて他のC7A1ライフルを持つ兵士達と共に撃ち始めた。

 局員達は掩護射撃を受けているが、弾幕を避けることも出来ず、数十発の弾丸を受けて次々と倒れていく。一部四方が引き裂かれ、泣き叫ぶ局員達も居た。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 突撃してきた生き残りの局員が居たが、興奮状態の兵士達は容赦なく背中を向ける局員達に銃弾を浴びせた。最後の一人が背中に銃弾を受けて倒れると、立っている局員は一人も居なくなった。後に見えるのは、遮蔽物に隠れながら撃ってくる局員だけだ。

 空を飛んでいる局員は皆ワルキューレが飛ばしている戦闘機の相手に手を焼いており、暫くの間はこちらに攻撃を浴びせてくる気配はない。マリはグレネードランチャーの照準器を立て、引き金に左手の指を入れ込むと、敵が多い遮蔽物に向けて撃った。

 強い衝撃が右肩を襲い、砲口から榴弾が放たれ、局員達が多く隠れる遮蔽物へと飛んでいく。榴弾が命中し、当たった遮蔽物から局員が吹っ飛ぶのが見えた。四方のない死体も一緒に飛んでくるのが見え、同時に断末魔や悶え苦しむ声が耳に入ってくるのが分かる。

 多数の敵の排除を確認したマリは、照準器を仕舞い、銃撃を再開した。それから物の数分後、戦車の走行音が耳に入り、後方の森林から複数のM5軽戦車やM4中戦車が随伴歩兵と共に出て来た。

 

「味方だ!」

 

 森林から逃げるように出て来た局員達を機銃で薙ぎ払い、時には戦車砲で吹き飛ばして挽肉に変え、大尉と配下の兵士達を勇気づける。脚を失いながらも逃げる局員に対しては、随伴歩兵がリーエンフィールドNo4小銃で頭を撃ち抜いて、死体を戦車の進行方向から二人がかりで退かす。

 戦車や多数の歩兵が現れたことで、マリ達を攻撃していた局員達は撤退し始める。撤退とは言え、まともな統制は取れておらず、もはや逃げているようにしか見えなかった。そんな局員達に対し、やって来た援軍は容赦なく戦車砲や搭載機銃を浴びせ、無惨な姿へと変えていく。

 大尉はやって来た援軍の部隊長に会うため、小銃を抱えた童顔の女性兵士を捕まえ、部隊長の居場所を問う。

 

「あんた達の隊長は何処?」

 

「向こうにいます」

 

 兵士が指を指した方向を見ると、M4A2シャーマン中戦車のキューボラから指示を出しているベレー帽を被った小綺麗な女性士官が居た。

 

「ありがとう」

 

 礼を言った後、大尉は兵士を離し、部隊長が乗る戦車の元へと歩み寄る。マリとシューベリアも情報を得ようと彼女についていく。

 

「隊長は貴方?」

 

「そうだけど、何?」

 

 戦車の元へ辿り着いた大尉は、戦車に乗り上げている部下から報告を聞いている若い女性部隊長に問う。直ぐに答えが返ってきて、彼女は自分より年下な部隊長に次なる質問を投げかけた。

 

「合流地点はここだった筈だけど、連隊は何処へ行ったの?」

 

「連隊は敵の襲撃を受けて一時後退して、向こうの開けた場所を合流地点にしたわ。今からそっちへ行く予定なの」

 

 そう答えた若い部隊長は砲塔の装甲を叩き、局員達が逃げ去った方向へと向かう。後続の部隊も来る中、大尉は二人の肩を叩いて一緒に向かうことを告げる。

 

「聞いたとおり、平原が合流地点に変わったわ。取り敢えず、あんた等も一緒に来てね」

 

 二人に告げ、大尉は吊していた銃を持つと、部下達が待つ場所へと戻っていった。マリとシューベリアは平原に向かう部隊と一緒に向かうことにする。五分後には平原の長い塹壕へと到着し、その中に飛び込み、同じく塹壕の中へと入っている味方の兵士達を確認した。

 まだ顔に幼さが残る兵士や、徴兵されたばかりの若い兵士達、空挺兵、専用装備を与えられていない特別機動歩兵が突撃の合図を待っていた。突撃を待つ兵士達の中にはエッケハルト等の姿もあり、前の世界で自分を助けた東洋人の少女の姿もあった。

 

「ねぇ、あの()・・・」

 

「そう言えばあいつ等もここに来てたわね・・・」

 

 この星に降り立つ前に、別の輸送船に乗っていた特別機動歩兵の中に、彼女の姿があったことを思い出した。

 名前はミサカ・サキ、黒髪黒目の列記とした東洋人の少女であり、マリの記憶の中ではルリが助けた少女の一人らしく、ミサカはその少女が成長した姿なのだと思う。どうやら、エッケハルト等の同期であったらしく、彼女だけ装備を与えられていることを羨ましがっているように見えた。

 さらに、遙か後方から多数の砲声が聞こえ、上空をランカスター大型双発爆撃機がハリケーンやタイフーンと共に編隊を組んで、砲撃されている管理局が支配する地域へと飛び去っていく。

 双眼鏡を取り出し、爆撃へと向かった大型爆撃機と戦闘爆撃機を見てみると、飛んでいる魔道士に何機か撃墜されていた。

 

「あっさりとやられていくわね・・・」

 

 双眼鏡からは砲撃が防御魔法で防がれたり、折角の爆撃も無意味になろうとしていたが、局員達はかなり疲弊していたらしく、魔法が解けて、何名か爆弾で死んでいた。砲撃も防ぎきれなくなり、着弾した場所で局員が吹っ飛ぶのが見える。砲声が途絶えると、初老の高級将校が散弾銃を抱えて前に出て来た。

 手に抱えられているのは、自分と同じ最新式装備を身に着けている連射できる物とは違って、撃つ度に前座を引いて、空薬莢を排出するポンプアクション式のウェンチェスターM1897であり、被っているヘルメットは第二次世界大戦で米軍においてしようされたM1ヘルメットだ。

 塹壕に入っている全員を見渡して一息つくと、拡声器を持って口に当てて士気を高めるための演説を始めた。

 

『諸君!どういう経緯で来たか知らんが、北に引き籠もっていた魔法至上主義のアホ共がこの惑星に攻めてきた!だが、我々の奮闘で一ヶ月間耐えきることが出来た。連中は戦争なんぞやったこともないから長期戦でかなり疲弊し、今攻撃すれば我々の勝利は確定だ!宇宙でも、かなり長い戦闘で疲弊しておる!完全勝利確定じゃ!火薬の臭いや刃物が大嫌いな連中に”質量兵器”の便利さを教えてやれ!!』

 

 演説を終えると、腰に下げてある銃剣の鞘からM1917銃剣を抜き、取り付ける場所に取手の部分を付けて着剣した。これを見た将校や部隊指揮官は、指揮下の部隊に着剣を命ずる。

 

「総員着剣せよ!!」

 

「着剣!!」

 

 着剣命令が続々と出る中、エッケハルト等は困惑する。

 

「おい、やばい魔法を放ってくる連中に銃剣突撃するのかよ!?」

 

「とても正気の沙汰じゃない!」

 

「小僧共!お前等も銃に銃剣を付けろ!付けられない場合は、そのままワシについてこい!ワハハハ!!」

 

 髭面の幾度も戦場を駆け抜けてきた大男が笑いながら初の実戦となる特別機動兵等に掛けた。銃剣を持っている兵士達が続々と着剣する中、マリは着剣をしなかった。

 彼女と同じく、銃剣を持たない者達は塹壕から頭を出し、突撃の合図を待つ。全員の着剣が終わると、塹壕から将軍と同じ年齢ほどの士官が出て来て、将軍に告げる。

 

「総員、着剣が完了しました」

 

「よし!突撃だ!!」

 

 報告を受けた将軍が叫ぶと、その声を聞いた将校は呼子笛(ホイッスル)を口に咥えて吹いた。凄まじい音が鳴り響いた後、配下の兵士達が雄叫びを上げながら塹壕から飛び出す。先頭に立って走っているのは将軍であるが、左右から出て来た戦車に追い越されてしまう。

 

「き、来ました!!」

 

「撃てェー!撃てェー!」

 

 接近してくるワルキューレの大軍に対して管理局側の指揮官は恐怖し、十分な距離に引き付けぬまま攻撃を命じた。凄まじい弾幕が放たれるが、全く距離は届いていない。

 

「馬鹿たれ目、そう言うときはもっと惹き付けるんじゃい!」

 

 先頭に立って走る将軍は、十分な距離に惹き付けずに射撃を命じた敵の指揮官を叱る。小銃の射程距離まで近付くと、ライフルの類を持つ兵士達は走りながら撃ち始めた。

 管理局側に選抜射撃手(マークスマン)狙撃手(スナイパー)が居たらしく、走っている兵士の頭や四方が吹き飛んだ。マリの隣で走っていたリーエンフィールドNo4を持った女性兵士の胸に大きな穴が開き、平原の上に倒れた。

 狙撃銃のようなデバイスと呼ばれる魔道端末を持った局員等が手当たり次第に撃っており、周囲に走っていた味方の兵士が次々と頭や四方が引き千切れ、首がもげたりしている。

 陣地に近付いている内に死体が増えていった。戦車は次々と強力なデバイスによる攻撃で大破していき、突撃部隊への遮蔽物を増やしていく。やがて、突撃した大軍は管理局側の陣地に流れ込んだ。

 

「死ね!局員共!!」

 

 最初に辿り着いた将軍は目の前にいた局員を銃剣で突き刺し、引き金を引いて、反動で銃剣を引き抜く。周りにいた局員達は、将軍を殺そうと杖や銃のような形のデバイスを向けるが、将軍に次々と散弾銃で射殺される。

 

「お前達!鈍っとるぞ!!ハハハッ!!」

 

 笑いながら局員達を次々と殺していく将軍を見て、マリとエッケハルト等はやや恐怖を覚える。銃剣で次々と刺して殺し、散弾銃の弾が切れるまで出来るだけ殺し続け、ホルスターから45口径自動拳銃であるコルトガバメントを抜いて、一発で仕留めていく。マリ等もこれに続いてか、周りに見える目立つ服装の局員達に向け、攻撃を仕掛けた。

 兵士達も陣地に殺到して、銃剣で局員達を次々と刺し殺した。デバイスを向ける局員等をマリは次々と撃ち殺し、シューベリアは強力な魔法で局員達を打ちのめす。

 

「おらぁ!」

 

 杖のデバイスを持った局員を殴り倒し、エッケハルトは手に持ったMP40短機関銃の銃を向け、死ぬくらい撃ってトドメを刺した。他の特別機動歩兵の新兵達も次々と局員達を仕留め、訓練の成果を見せる。

 ミサカに関しては、空を飛ぶ局員にフックを発射して局員を剣で突き殺した後、同様に飛んでいる局員にフックを突き刺し、一気に接近して次々と仕留めていく。

 

()ぇ・・・」

 

 一方的な空中戦を行うミサカを見て、エッケハルトは呆然とした。これが隙を見せてしまい、残っている局員に背中を見せてしまった。

 

「このぉ、死ね!」

 

 デバイスから射撃魔法を発射しようとしたが、横からドラムマガジンのM1928A1トンプソン短機関銃を持った老婆の戦車兵が現れ、局員は踊りをするかのように撃たれ続けて倒れた。

 老婆は局員が完全に動かないのを蹴って確認すると、礼を言おうとしたエッケハルトを無視し、背を向けて逃げる局員を撃ちながらこの場を去っていった。

 

「クリア!」

 

 C7A1を構えたままの大尉が局員全員がこの場から逃走した事を確認し、全員に聞こえるよう叫ぶ。何名かが一息ついていたが、将軍は散弾銃の再装填を終えると、追撃する部隊の後へ続く。後続の部隊もやって来て、追撃に加わった。

 

「凄い殺気・・・」

 

「みんな殺気立ってんのよ・・・」

 

 返り血をハンカチで拭き取るシューベリアが呟いたことに、大尉は残弾を確認しながら答える。L85A2の再装填を終えたマリは、新しい弾倉を叩き込んでからボルトを引くと、陣地奥内へと進んでいく後続部隊の後へ続いた。この時、偶然にもエッケハルト等新兵達とミサカが属している部隊と合流した。

 呑気に話し込んでいる暇はなく、市街地へと後続部隊の歩兵と共に進んでいく。辺りを見渡せば、一ヶ月前の戦闘で破壊された戦闘車両と対空砲などの固定兵器の残骸や、墜落した航空機等が見えた。

 それらの兵器を操っていた者の死体がないと言うことは、管理局が回収してことになろう。戦闘で破壊され尽くした市街地の郊外にまで差し掛かると、空中を浮遊していた局員が地面にいるマリ達に向けて攻撃してきた。

 

「クソっ!」

 

 直ぐに遮蔽物となる場所へ身を隠そうとする。その必要はなかったらしく、飛んでいた局員を煙が噴いた単発機のハリケーンが突っ込んできた。局員は避けようとするが、拘束で突っ込んでくるハリケーンを避けることが出来ず、衝突され、高速で回転するプロペラに挽肉にされた。

 血と肉の破片が辺りに飛び散り、飛んできた局員の左腕が新兵等の一人であるロータルに命中した。

 

「衛生兵!」

 

 口から吐血したロータルを支えた同期の新兵が叫ぶ。大尉が全員に周囲を警戒するようハンドサインで伝えた。後続部隊以外、全員が銃を構えて周囲を警戒する中、声を聞きつけた赤十字を付けたブロディヘルメットを被り、右腕に赤十字の腕章を付けた衛生兵がやって来た。

 一人だけではなく、担架を持った四名も一緒に来ている。ロータルを新兵達と共に抱え、担架に乗せると、衛生兵達は急いで野戦病院があろう場所へと戻った。

 

「前進!」

 

 大尉の指示で警戒態勢を解除し、先に向かった部隊の後へ続く。

 通りに十人くらいの分隊規模のリーエンフィールドNo4を持った軽歩兵部隊が入ったことを確認し、後を付いていくと、特殊な銃声が鳴り響き、一人の兵士が地面に膝をついた。兵士の背中から光弾が貫いて絶命する。

 光弾は連続して発射され、女性兵士がバタバタとドミノ倒しのように倒れていく。ある者は腕が引き千切れ、ある者は引き千切れ、無惨な死体が次々と増える。童顔の女性兵士は近くにある遮蔽物に逃げ込んだが、腹が開いて内臓が飛び出しており、壁に凭れながら必死で内臓を戻そうとする。

 

「内臓・・・私の内臓・・・!」

 

 泣きながら必死に戻そうとするが、内臓は全く戻らない。その間に次々と突撃を敢行した兵士達は倒れてゆく。突撃している兵士に気を取られている間に、マリがグレネードランチャーでデバイスを撃っている局員を仕留めようと構える。

 引き金を引くと、榴弾は飛んでいき、爆発音と共に悲鳴が耳に入った。急いで内臓を戻している若い兵士の元へ駆け寄り、続いて出て来る局員達を他の兵士達と共に撃ち始める。一緒に来たシューベリアが内臓を戻している兵士に寄り添い、内臓を戻すのを手伝う。

 隣で銃を構えていたエッケハルトは、無惨な形となった女性兵士等の死体を見て、誰にも居ない場所で嘔吐する。他の新兵達も同様であったが、何人かは失禁しているようだった。後続部隊や戦車の支援もあり、制圧はスムーズに進み、突破できた。

 それと同時に若い兵士の内臓も腹に収まり、傷口はシューベリアの治療魔法で塞がりつつある。完治を待てないため、マリ等は先に進むことにした。

 

「治療が終わってから来なさい」

 

 大尉はシューベリアの肩を叩いてから、自分の部下と新兵達を率いて銃声が激しい市街地へと向かった。進む度に前線から後方へと運び出される負傷兵が増えていき、銃声も途絶えることなく、頭に両手を当てて抵抗の意思を見せていない降伏した局員達が増えていく。

 そればかりか降伏しても撃ち殺された局員の姿もあった。

 前線に到着すると、遠くに次元航行艦船が墜落しているのが見え、空には海上の戦艦や巡洋艦を中心とした艦隊と群がる戦闘機と交戦しているまだ健在の次元航行艦船が見える。

 

「海上の艦隊が注意を引いているようね・・・ちょっとあんた、状況は?」

 

 双眼鏡を取り出して状況を窺う大尉は、指揮を執っている若い前線指揮官にさらに詳しい状況を問う。

 

「えっ?はい、海上の艦隊が管理局の次元航行艦艇を足止めしてます」

 

「それは分かるのよ。今の詳しい状況はどうなの?」

 

「あぁー、残った敵が全てあちらへ集結している為か、抵抗が厳しくて進めません。それで先頭に立った閣下が負傷なされました」

 

 前線指揮官は、葉巻を吸いながら衛生兵から応急処置を受ける血塗れの将軍に手を翳し、大尉に説明した。

 

「そう。じゃあ、この子等の装備ある?」

 

 左手の親指でエッケハルト等の指差し、次に彼等特別機動兵の装備があるかどうか問う。

 

「えっと、取り返した倉庫にあります。部下に案内させます」

 

 前線指揮官はM1A1トンプソン短機関銃を持った部下を呼び出し、エッケハルト等に案内するよう指示する。

 

「ありがとう。じゃあ、私らは突撃するわ」

 

「なら援護します。総員援護射撃!!」

 

 大尉が突撃すると伝えると、遮蔽物に身を隠していた兵士達は各々が持つ銃の残弾を確認し始めた。突撃の準備をする大尉達とマリに、シューベリアとミサカが合流する。

 

「治ったのね」

 

「うん、ちゃんと全部収まった」

 

 銃口を下に下げて様子を伺う大尉がシューベリアに問うと、彼女は血塗れな手をハンカチで拭きながら答える。マリがミサカに目を向けると、彼女は尋常じゃないくらい返り血を浴びていた。左肩には掠り傷らしき物が見え、両手に握る剣は何十人も斬り捨ててきたのか、少し刃こぼれしている。

 少し息を切らしている彼女の状態を見ながら、マリはグレネードランチャーの残弾を確認した。

 

「残弾残り三発・・・装填済みを入れて四発」

 

 残った榴弾の数を確認した後、専用のポーチに仕舞った。ミサカと同じ装備をしたエッケハルト等が来ると、大尉は彼等に指示を出す。

 

「あんた等は、立体機動で上に飛んでいる魔道士を対応して。私らは地上の敵に対応するから」

 

「えっ、俺等これが初なんですよ!立体機動の実戦なんて・・・」

 

 Stg44突撃銃を抱えた新兵等のリーダー格の金髪の青年が異議を唱えた。だが、一喝されてしまう。

 

「あんた等は特別機動兵でしょう。三年間の訓練は無駄にするつもり?」

 

 これには反論する余地が無いのか、彼等は命令に従うことにした。

 

「それで良いわ。地上の敵は私達がやるから、あんた等は気にせず空の敵をやりなさい」

 

 大尉はリーダー格の青年の肩を叩いて、彼に自信を付けさせる。ミサカと共に新兵等がフックを使って屋根に上がると、道中で出来る限り集めた原隊が壊滅した敗残兵達と共に突撃準備を始める。敵陣の様子を伺う大尉が、ハンドサインで狙撃銃や機関銃を持った兵士達に合図を送った。

 合図を確認した士官が頷き、援護射撃を命じた。援護射撃が始まれば、大尉はハンドサインで特別機動兵に突撃を指示する。指示を出し終えると、目の前に見える局員の銃を撃ちながら、大尉とマリ達は敵陣へ突っ込んだ。

 

行け(ムーブ)!」

 

 空から航空機や地上にいる敵に射撃魔法を食らわしている局員達が撃ってくるが、隠れていた特別機動兵の新兵達に急襲され、次々と殺虫剤にやられた蚊のように地面に落ちていく。

 手足が落ちてくる中、マリは飛び出してくる局員達を走りながら性格に撃ち倒す。シューベリアは強力な炎の魔法で数名の局員を焼き殺し、突破口を開く。

 

「な、なんて魔力だ!」

 

「S級クラスか!?」

 

 局員達がシューベリアの強さを見て恐怖し、足を震わせる。

 

「タァァァ!!」

 

 手から氷で剣を作ったシューベリアは、自分に拳銃型のデバイスを向けて撃とうとする女性局員を斬り捨てた。

 

「クソっ!奴を噛み殺せ!」

 

 一人の局員が狼の使い魔に背中を晒しているマリに襲うよう命じたが、気付かれて眉間に穴が開き、絶命してしまう。

 

「使い魔!まだ生きてる!!」

 

 シューベリアから知らせに、主が死んでも使い魔が未だに自分の命を狙っている事を知ったマリは、使い魔に強力な蹴りを食らわせ、ライフルで脳天を撃ち抜いて使い魔を始末した。

 

「この、死ね!」

 

 数名を撃ち倒した腕の良い局員が、マリを殺そうと強力な砲撃で仕留めようとするが、大尉と部下達の射撃で邪魔をされる。まずは大尉から始末しようとするが、銃弾で動きを封じられる。

 

「こんな雑魚なんかに!俺はA級なんだぞ!!」

 

 防御魔法で必死に銃弾を防ぐA級局員であったが、投げられた手榴弾に怯み、防御魔法が解けて蜂の巣にされ、周囲に血を撒き散らしながら絶命する。

 

「魔法が使えない奴等なんかに!」

 

 見下したような台詞を吐く女性局員は、手に持つデバイスで周囲から攻撃してくる特別機動兵に射撃魔法を放つが、全く当たらず、灰屋の屋上にいる彼等のフック攻撃を受ける。

 彼女は回避するが、放たれたフックの数は多く、やがて何本も身体に突き刺さり、吐血して死亡した。何名かの局員が一カ所に集まって抵抗していたが、新兵達の銃撃を受け、次々と撃ち殺されていく。マリ等もその場に到着し、彼等と共に頑なに抵抗する局員達に銃弾を浴びせる。

 

「ま、待て!降伏する!!」

 

 一人の局員が手を挙げて出て来たが、ワルキューレ側はお構いなしに銃弾を浴びせ、彼等が全員地面に倒れても銃撃を続けた。

 

「撃ち方止め!撃ち方止めぇ!!」

 

 大尉が数回ほど叫んだところで、彼等は銃を撃つのを止めた。煙が晴れる頃には、無惨な形となった局員達の死体が重なるように倒れていた。

 内臓を出したまま死んだ者もおり、目玉や脳の一部が地面に転がり、脳が露出している死体もあった。一人が物言わぬ死体となった彼等に近寄って唾を吐いた後、墜落した次元航行艦船まで向かう。

 

「おい、今更魔道士のお出ましかよ」

 

 大尉の部下の一人が空を見上げて呟き、それに釣られて空を見上げると、空を飛ぶ複数に人影が見えた。ワルキューレも魔法を運用しているので、時空管理局のような魔道士が居てもおかしくない。空を飛んでいる彼等は管理局の局員達と交戦状態に入った。

 特別機動兵の新兵達は空を飛ぶ局員達の掃討を彼等に取られた為、地上部隊と合流することにした。

 

「後もう少しね・・・」

 

「うん!」

 

 少し立ち止まって息を整えてから、マリとシューベリアは墜落した次元航行艦船の周囲へと辿り着いた。気が付けば、制空権はワルキューレが握っており、空から海上の艦隊に攻撃を加えていた次元航行艦船は、煙を噴きながら海へ向かって落下している。

 数分後には艦船は地面に墜落し、向こう側にいた友軍部隊の機甲部隊に傾れ込まれる。こちら側も決着が付きそうなので、マリとシューベリアは急いで次元航行艦船へと向かった。しかし、最後の門番が彼女等に立ちはだかる。

 

「グォォォォ!!」

 

「嘘っ!?」

 

「ど、ドラゴン!?」

 

 向かっている最中に、ドラゴンの使い魔が彼女達を襲った。大尉の部下達はドラゴンが吐く炎に焼かれ、悶え苦しみながら焼け死んだ。戦車はエンジンにドラゴンからの火焔放射を食らい、炎に包まれ、車内から全身に火を纏った戦車兵達が飛び出してくる。

 こんな時に限って、味方の魔道士は局員達の排除で忙しく、応援に駆け付けてくれない。仕方なく、自分等でドラゴンを倒すこととなった。

 

「やるわよ、淫乱ピンク」

 

「淫乱ピンクって・・・」

 

 名前で呼ばずに渾名で伝えてきた為、シューベリアは少し顔が引きつったが、この場にいる者達と共に攻撃した。マリはブルパップライフルでシューベリアは氷魔法だ。だが、攻撃は使い魔に乗り込む主が防御魔法を唱えて攻撃を無効化する。

 銃弾でドラゴンの堅い皮膚を貫くなど不可能であり、もっと強力な武器、対戦車クラスの火器が必要だ。ドラゴンをシューベリアと同じく攻撃する兵士達に任せ、マリはロケットランチャーの他軍を探し始める。高い建物に上がれば、余りに余った榴弾をドラゴンに向けて放った後、グレネードランチャーを外した。

 先に向かっていた者が居たらしく、M3カールグスタフ無反動砲を背負った女性兵士が居たが、騎乗していたドラゴンの主の射撃魔法に当たり、絶命する。身体に直径20㎝ほどの穴を幾つか開け、目を見開いたまま死んでいる女性兵士からアメリカの無反動砲を手に取り、まだ無事なのを確認した後、ドラゴンに照準を向ける。

 胴体に照準を合わせると、軌道を読み、未来予知射撃を行う。そして、ドラゴンが来る方向に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

「あっ・・・外れた・・・」

 

 だが、発射されたロケット弾はあろうことか使い魔の主に命中。主の身体は木っ端微塵に吹き飛び、ドラゴンの胴体を血で赤く染め、残った臓器を振るい落とした。ドラゴンに気付かれてしまい、視線がマリの居る場所に向けられ、焼き殺そうとドラゴンが向かってくる。

 

「あぁもう、最悪」

 

 急いで再装填を行うマリであったが、イマイチ手元が狂って装填が遅れる。近付いてきたドラゴンが炎を吐こうとした瞬間、地上から多数のロケット弾が放たれ、腹に何発か受けて血を吹き出す。下を覗けば、様々な携帯式ロケットランチャーを持った兵士達が居た。

 砲口から煙が出ている辺り、彼等が撃ってくれたのだろう。次にこの場では全く耳にしなかったジェットエンジンの耳が割れるほどの音が聞こえてくる。大きいエンジン音がする方向を見てみると、アメリカの一度も撃墜されたことがない大型戦闘機F-15がこちらへ向けて飛んできている事が分かった。

 

「ジェット機・・・なんで今更・・・」

 

 航空会社マクドネル・ダグラス社こと現ボーイング社によって開発され、初飛行が四十年経った今でも、世界トップクラスの性能の戦闘機である。だが、運用コストが高く、アメリカの親密的な経済大国しか運用されていない。

 二基のブラッド・アンド・ホイットニー社のF100ターボファンエンジンを噴かせながら、C型と呼ばれたF-15Cは、ドラゴンを空対空ミサイルで照準(ロックオン)する。

 ドラゴンは生物であるが、両翼に装備されているミサイルは特殊な物であり、ちゃんとロックオン出来る。パイロットがミサイルの安全装置を外し、ボタンを押すと、ミサイルは翼から離れ、ドラゴンに向けて飛んでいった。ミサイルはドラゴンの胴体に突き刺さり、内部爆発を起こしてドラゴンを肉片に変える。

 ドラゴンの身体が四方八方に散らばり、その血飛沫がマリの身体を赤く染めた。

 

「うわぁ・・・最悪・・・」

 

 全身がドラゴンの返り血で紅く染まり、ほぼ真っ赤な手を見て苦言を漏らす。ハンカチを取り出して顔を拭くと、当たりから銃声が途絶えたことに気付いた。どうやらドラゴンが爆発したのと同時に、抵抗していた局員達が一斉に降伏したようだ。

 全長19.43mのF-15が目の前を通り過ぎた後、強烈な風から顔を守り、それが過ぎ去れば双眼鏡を取り出し、手を挙げた多数の人影が見える方向を見た。

 続々と窶れた顔の局員達が、C7A2と呼ばれるC7A1を縮小ストックに変えたモデルやカナダ製M4カービンであるC8カービンを持つ現行装備をした兵士達とフードを被った魔道士達に銃口を向けながら歩いているのが分かった。

 局員達の中には年端のいかない子供の姿もあり、時空管理局の人手不足の理由が理解できた。

 次に、シューベリアや大尉、新兵達と無事を確認しようと下を覗くと、壁にもたれ掛かって休息を取るシューベリアと大尉や、過度なストレスからようやく解放されてその場で仰向けになって倒れ、座り込んでいるエッケハルト等も見え、無事を確認した。

 衣服が所々に穴が開いているシューベリアを除き、かなり動き回っていたミサカも含めて他の者達は幾つかの傷を負っていたが、対したことは無い。

 

「これで地上は終わりね・・・」

 

 地上における戦闘が完全に停止した事を感じたマリは、座り込み、未だに戦闘が続く宇宙(そら)を見上げながら呟いた。カールグスタフを床へ置き、懐から煙草を一本取り出し、それを咥え、先に火を付けて一服した。




ビッテンフェルト「俺の艦隊なら、サザーランドなど12時間で制圧できる!管理局とか言う魔法に頼り切り、戦争をやったこともない腰抜け共より遙かに効率よくな!」

ビッテンフェルトを送ったら、惑星ごと敵が消滅する気がするな~

後編は宇宙戦。sakuraさんから許可とったキャラが出るよ~


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サザーランドの戦い 後編

これで、完結。なのはさんが居れば、管理局は勝てたんや・・・

今回は銀英伝みたいになったり・・・

それとsakuraさんの現在執筆中の黒鉄の騎兵隊 ― die schwarzen Husaren ―から主人公、ザシャ・テーゼナーさんの登場です。


 地上の戦いで大敗を喫した時空管理局であったが、宇宙では未だに大規模な戦力相手に、頑な抵抗を続けている。

 乱戦に持ち込まれ、状況を打開できるアルカンシェルも撃てず、さらには旗艦も撃沈され、恐慌状態に陥ったが、代理の指揮官が優秀で、その手際の良さに救われたのか、体勢を立て直して、乱戦状態からの脱出の機会を待ちながら戦い続けていた。

 ワルキューレ側の早急に事態を収拾する為、余りに余った艦艇で幾度も攻撃を仕掛けたが、反って戦闘を長引かせるだけだった。長期戦を望まないワルキューレ側は、移乗攻撃を戦闘を行っている艦艇全てに発令した。

 移乗攻撃とは、敵艦に戦闘員を乗り込ませ、敵艦の船内で白兵戦を行い、拿捕または鹵獲する戦術である。

 直ちに戦闘員や最強兵科の一つである装甲擲弾兵を乗せた艦艇では、強行移乗部隊を一番近い敵艦に乗り込ませる準備をしていた。

 

「よし、手近な敵艦に張り付いて、戦闘員を移乗させろ!」

 

 乱戦状態で出られずにいる巡洋艦の艦長は、手近にいた次元航行艦船に張り付くよう指示した。操艦手は言われたとおり、弾幕を張る敵艦に強引に張り付く。船内が震動で揺れる中、複数の強行移乗用タラップが、敵艦の船体に突き刺さる。

 突き刺さって、相手の艦へ乗り込めるようになると、タラップの近くで待機していた中世ヨーロッパのような甲冑を身に纏い、狭い船内でも扱いやすくする為か、ブロードソードや投斧を持った集団が待機している。

 彼等の後ろには、銃身が短い銃器を持った戦闘員達も待機していた。

 

「総員、敵艦に移乗せよ!」

 

 一番前に立った剣を持った隊長が、タラップへ向けて突撃すると、全員がその後へ続いた。あっさりと侵入を許した次元航行艦船の乗員達はデバイスを持って迎撃に当たろうとするが、撃つ間もなく接近され、刀剣や斧で切り裂かれる。

 装甲擲弾兵が持つ接近用の武器は特殊な合金で出来ており、容易に骨すら切断するほどの切れ味を持つ。例え局員達がバリアジャケットと呼ばれる魔法の防具を身に着けていても、装甲擲弾兵にとっては簡単に切れる紙のような物だった。

 

「ひっ、ヒィィィ!!」

 

 斧で真二つにされた武装局員を見て、恐慌状態に陥った女性乗員が滅茶苦茶に拳銃型デバイスを撃ちまくるが、装甲擲弾兵には一切通じず、斧で首を両断され、血飛沫を上げながら床へ倒れる。

 彼等が通った後は、死体や首、手足、内臓にまみれ、通路は血で真っ赤に染まっていた。血で水浸しになった床を、巡洋艦から乗り込んできた戦闘員達が足を踏み入れていく。着々とブリッジへと装甲擲弾兵達が進む中、局員と乗員達は彼等を迎え撃つため、バリケードを築き上げ、迎え撃つ準備をする。

 移乗部隊はバリケードが築かれることぐらい知っていたが、敢えて彼等は突撃した。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 斧を持った装甲擲弾兵がバリケードの張られたブリッジ前に突撃するも、待ち伏せていた局員達の攻撃で蜂の巣になり、全身から夥しい血を撒き散らしながら絶命する。何名かが突っ込むも、装甲を貫くほどの射撃魔法を受け、先の装甲擲弾兵のような死体を増やすだけであった。

 流石に遮蔽物となる壁に隠れ、銃器を持つ戦闘員達に、手榴弾を投げるよう指示する。手榴弾を投げるべく、MP5A5短機関銃やHK53突撃銃、ベネリM4散弾銃を持つ戦闘員達が、一斉に銃を撃ち始める。何十発もの弾丸が放たれ、局員達は身を屈め、銃弾から自分の身を守った。

 敵が撃ってこなくなったのを確認した手榴弾を持った兵士が敵の立て籠もる場所へ、手榴弾を投げられるだけ投げた。局員達は元々投げ込まれた手榴弾など想定していなかったのか、投げ返すことなく、その場から逃げようとしていた。頭を出せば、銃を持った兵士達に撃ち殺され、退路はブリッジだけになる。

 逃げようと思っても間に合わず、手榴弾は爆発し、最後の砦を守っていた局員達は肉塊へと変わった。防衛戦を突破した移乗部隊はブリッジへ傾れ込み、その場に居た者達を手当たり次第に殺していく。

 

「や、やめろ!ガッ!?」

 

 抵抗の意思を見せない乗員が居たが、興奮状態の装甲擲弾兵には届かず、斧を振りかざされ、斬殺される。銃を持つ者達は目に見える者を手当たり次第に撃って射殺し、接近用武器を持つ者達は、手当たり次第に斬り殺す。

 

「うわぁ・・・ま、待て・・・!話を・・・!うわぁぁぁ!」

 

 艦長も降伏の意思を見せたが、目の前に集まってきた狂戦士達に八つ裂きにされた。

これで、ブリッジで動いているのは装甲擲弾兵と随伴した艦内戦闘員達だけだ。元々の乗員達は皆ブリッジの床で無惨な形となって倒れている。返り血まみれの指揮官は、無線機を取り出し、他の箇所の制圧に向かった移乗部隊と連絡を取る。

 

「こちらアボルタージュ。スイロス、レバント、そちらはどうだ?」

 

『こちらスイロス、機関室を制圧した』

 

『こちらレバント、移住区を制圧』

 

「よし、これでほぼ艦内は制圧だな。降伏勧告を出して完全に船を物にする。降伏に応じなければ、皆殺しだ」

 

『了解』

 

 無線機から返答が聞こえると、指揮官は無線機を切り、艦内放送室へと向かった。

 こういった移乗攻撃が行われたが、効果は薄く、十隻以上を拿捕しただけであった。

 移乗攻撃を続けても、お互いに沈んだり、逆にやられてしまう艦艇が出て来たため、帰って長引かせるだけなので、強引に乱戦を解いて、包囲陣形を取り、やって来た増援部隊に後始末を頼んだ。

 

「なんだ、敵が退いていく・・・?追うなよ!返ってやられる」

 

 代理の旗艦をしていた提督代理は、強引にも乱戦状態を解いて、捕縛した味方艦艇を引き入れて包囲陣形を取るワルキューレの艦隊を見て疑問に思い、他の艦隊が追わないよう注意する。

 

「気になるな・・・損傷した艦艇の修復と編成を急がせろ。それにアルカンシェルのチャージも急げ」

 

「敵艦隊を殲滅して、惑星に降下して制圧するのですか?」

 

「馬鹿者、一点突破を図り、退路を開いて撤退だ。これ以上の戦闘は犠牲者を増やすばかりで、時空管理局の戦力を徒に減らすだけだ。分かったらさっさと仕事に集中しろ。死にたくなければな」

 

 細かい指示を出した後に、聞いてきた自分の近場にいる通信手に怒鳴り付けた。命令執行不可と悟り、撤退を優先する提督代理であったが、これから起こる自分等にとって惨劇は予想できなかった。

 何故なら、管理局の頭上、それもレーダー範囲外に揚陸艦と軽空母が待機しているからだ。既に艦載機は発進しており、真下の管理局の艦隊へ進んでいた。それに気付かず、提督代理は元来た道へと回頭し、アルカンシェルの照準を定める。

 

「照準完了!」

 

「よし、撃てぇ!」

 

 先頭にいた艦艇がアルカンシェルを撃とうとした瞬間、頭上からの対艦ミサイルで撃沈した。

 艦艇に直撃を食らわせて撃沈したのは、全長15m程の戦闘機だ。

 戦闘機の名はVF-4ライトニングⅢ。戦闘機形態のファイター、ロボット形態のバトロイド、両者の中間であるガウォーク形態の三形態に変形するバルキリーと呼ばれる機動兵器だ。タイプは艦上機のD型。

 数は五十機程であり、VF-4は散会しながら艦隊の中央へと突っ込み、管理局の艦隊に襲い掛かる。

 

「クソッ!中隊長、他の隊に獲物が!みんな盗られて昇進や転属どころの話じゃないですよ!」

 

 一人のパイロットの青年が、他のバルキリーが次々と艦艇に襲い掛かり、沈めていくのを見て焦り始めていた。それに対し、上官である女性中隊長が宥める。

 

「落ち着け、アビーク!獲物はまだ残っている!」

 

 男口調で宥めながら、中隊長は他の隊にまだ襲われていない艦艇にロックオンし、対艦ミサイルを発射するボタンを親指で押した。発射されたミサイルは中央に命中し、命中した箇所から火が噴き出す。

 

「敵艦大破。喋ってる間にも、獲物は捕られていくぞ。分かったらまだ誰にも喰われていない獲物を見付けろ。そうでなければより高見へは行けないぞ」

 

「りょ、了解です!中隊長殿!」

 

 さらに中隊長は敵艦にトドメを刺した後、ツチラト・アビークと呼ばれる青年に活を入れ込んだ。アビーク機は対空放火のような物で弾幕を張る次元航行艦船に、同じ小隊の僚機と共に接近する。

 各VF-4が管理局の艦艇に襲い掛かる中、対空砲を軽やかにかわす天才的操縦技術を持つパイロットが乗った攻撃機が居た。そのVF-4は、最初にアルカンシェルを撃とうとした艦船を沈めた機であり、機首には愛らしいヒヨコのエンブレムが描かれている。

 艦船のピンポイントを捕捉し、対艦ミサイルを撃ち込んで一撃で沈める。真二つに割れた艦船の間から通り過ぎ、次の艦艇へ矛先を向ける。ブリッジがある辺りに照準を向けてミサイルを放ち、一発を命中させた。

 艦船は未だに対空砲火を止めなかったが、後続の攻撃機のミサイル攻撃を受け、火を噴きながら沈んだ。

 

「すげぇ・・・なんでヒヨコ隊長は第2中隊所属でH小隊隊長なんだ?あの腕ならA小隊に楽々行けるぞ・・・」

 

 何発かのミサイルを叩き込んでようやく一隻を撃沈したツチラトは、”ヒヨコ”と呼ばれたパイロットの腕前を見て、疑問に思う。ヒヨコは彼が言う通り隊長であり、傘下の三機の腕前はヒヨコよりさらに劣っており、お世辞にも余り操縦技術は高いとは言えない。

 ツチラトが見取れている間にも、管理局の艦艇はヒヨコの手に掛かって次々と沈められていく。その活躍ぶりは、次元航行艦船を包囲して痛めつけている友軍部隊のVF-4より遙か上だ。

 

「ザシャ・テーゼナー少尉・・・何故、昇進を蹴る?その才能を生かそうとは思わないのか?」

 

 次々と艦船を沈めていくヒヨコことザシャの活躍ぶりを見て、声も届かない相手にシャロンと呼ばれる女性中隊長は問う。この間にも、管理局の艦艇は次々と火に包まれ、護衛機を持たない艦隊は次々と宇宙の塵となり、デブリと化した。

 艦内に穴が開いて、宇宙に放り出された乗員の姿もあちらこちらに見え、流れ弾に当たって肉塊となる。攻撃を受ける管理局の艦船の艦内では地獄絵図が広まっていた。

 

「か、母さん・・・!母さん・・・!」

 

 炎に包まれた艦内の廊下を、下半身を無くした乗員が、脱出手段がある場所へと内臓を引き摺りながら這いずって向かおうとしている。周りには、全身に炎を纏って悶え苦しんでから死ぬ者や、両目をやられてあらぬ方向へと進む乗員の姿もあった。

 艦内は死体と炎に溢れ、やがてはトドメの攻撃を受けて沈んでいく。次々と沈み行く味方の艦を見て、白旗を掲げて降伏する艦も続出した。

 

「損害に構うな!前進だ!一点突破してこの宙域から脱出するんだ!!この船を殿に・・・」

 

 提督代理が伝え終える前に、自艦にも攻撃が命中した。複数のVF-4が対空砲火を避けながら提督代理が乗る大型艦船を集中的に攻撃し、痛め付ける。

 

「敵機、我が艦隊に取り付いています!」

 

「我に構うなと通達しろ!脱出に専念しろとな!」

 

 自分を犠牲にしてでも、味方の艦隊の脱出を優先する提督代理であったが、ブリッジ近くに攻撃が命中し、一部の機器が爆発して、それを操っていた乗員達が死傷した。提督代理も飛んできた破片をまともに受け、致命傷を負おう。

 

「提督代理!急いで医者を呼べ!」

 

「み、味方は脱出したか・・・?」

 

「はい、七十九隻程が脱出に成功!残りは全てあの質量兵器やビーム兵器の攻撃で沈みました・・・」

 

「そうか・・・」

 

 副官からの報告を受け、不敵な笑みを浮かべた後、提督代理は吐血しながら、副官に次の命令を出す。

 

「降伏だ・・・!我が艦も逃げ切れなかった艦船と共に降伏する・・・」

 

「降伏ですか?まだ抵抗を続けている船をあるのですよ!?」

 

「これ以上の戦闘は無意味だ・・・徒に死人を増やすだけで、奴等に点を稼がせる事にしかならん・・・白旗を掲げるのだ・・・ゴフッ!」

 

「機関停止!射撃止めぇ!我が艦は降伏する!!」

 

 言い終えた後に提督代理が吐血した後、副官は忠実通り命令を遂行する。最後まで抵抗していた艦船が群がっていたVF-4の攻撃によって沈むと、宇宙における戦いは終結し、サザーランドにおける戦いは完全に終結した。

 この戦いで、両軍は多大な死傷者を出し、サザーランド衛星軌道上に多数のデブリ群を作り上げた。地上の損害も凄まじく、完全なる復興には多大な時間と労力が費やされる結果となる。

 

「ふぅ~、終わった。まぁ、俺等にとっては一日だけど」

 

 戦闘が完全に停止したのを見て、ツチラトは周囲を見渡し、操縦機器から手を離して、コクピット内で背伸びをする。

 彼も含めてVF-4が母艦へ戻っていく中、ザシャ・テーゼナーと呼ばれた小柄な女性パイロットは、キャノピー越しから見える周囲に浮かぶ残骸と死体を見て、吐き気に襲われ、他の艦載機と共に母艦へと帰投する。

 ワルキューレの艦隊は工作艦を投入し、損傷した艦艇の修理や回収をさせた。駆逐艦や護衛艦も投入して、降伏した管理局の艦艇の接収を行わせる。一方、逃げ去った管理局の艦隊は、追撃を受けながらも次元航行で脱出に成功し、追撃を振り切った。

 こうして、サザーランドの戦いは幕を閉じたが、別の領内の惑星では、大規模な叛乱が巻き起ころうとしていた。




ヒヨコッ!それは鶏が生んだ卵から孵った鶏のヒナ鳥ッ!!

前編と中編とは違って、今回は短め・・・

次週辺りも戦闘をおっぱじめるつもりです。

※攻撃機とジムⅡ、ジムⅢをVF-4ライトニングⅢDに変更。

~今週の中断メッセージ~

しばらく休止のお知らせ。「慌てるな、孔明の罠だ」

キバオウ「なんでや!」

ビッテンフェルト「なにぃ!?」


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天才的な素人

前回でドンパチするって言ったけど・・・オペレーションだし・・・

今回からはザシャちゃんに台詞が入ります。


 戦闘終了後、母艦である軽空母に帰還したザシャはVF-4ライトニングⅢDから降り、ヘルメットを脱いでから長い金色の髪を解放した後、床へ向けて嘔吐した。自分等の隊長が無重力の空間で吐いているのを見た一人を除く部下達が、直ぐに隊長であるザシャの元へ向かう。

 

「たたた、隊長!」

 

「ヒヨコ・・・しっかり・・・」

 

 やや異様すぎる喋り方をする巨乳な女性や小柄で口数の少ない女性に寄り添われ、背中をさすられる。口元をハンカチで拭かれる中、攻撃機の近くで黙ってみていた長髪の女性であるもう一人の部下が、エチケット袋を持って、上官に手渡すために来た。

 

「あ、ありがとう・・・ペトラちゃん・・・」

 

 エチケット袋を手に取ったザシャは、手渡してきた態度の悪い部下に礼を言った後、袋へ向けて嘔吐する。先程の天才的な操縦技術を見せつけ、多大な戦果を上げた天才女性パイロットとは思えない醜態だ。ペトラ・ハウルと呼ばれた長髪の女性は、周りの視線が癪に障ったのか、舌打ちをしながら格納庫を出て行く。

 

「もう大丈夫・・・千鶴ちゃんにチェリーちゃん・・・」

 

「あ、ああありがとうございます!水持ってきますね!」

 

 礼を言われて照れたチェリー・ビュランと呼ばれる巨乳の女性が、水を持って来るためにザシャの元を離れた。小柄の長門千鶴は残り、ザシャの背中をずっとさすっている。その醜態ぶりを見ていた同中隊所属のパイロット達は、先程のことが信じられないようで、聞こえないように小声で語り合う。

 

「なぁ、あれ・・・マジで管理局の巡洋艦や駆逐艦クラスを九隻以上沈めた女か・・・?新兵が酷く損壊した死体を見て、ゲロってるみたいだぞ?」

 

「元が偵察部隊だったから仕方ないだろ。噂じゃ、一戦も交えていないらしいぞ」

 

「マジか。あいつも酷だよな・・・家柄と才能でヴァンキッシャー隊所属になるなんて・・・」

 

 部下が持ってきた水を飲むザシャの姿を見て、ツチラトが隣にいたジョン・ボイスと呼ばれる青年に声を掛ける。ジョンは水を飲みながら答え、ツチラトはザシャを哀れんだ。

 ちなみにヴァンキッシャー隊とは、ワルキューレで創設された競合部隊の一つで、英語で勝者を意味する通り、一定の戦果を上げれば、エリートや精鋭部隊の転属が可能である。

 ヴァンキッシャー隊は二個の戦闘中隊と、一個整備中隊からなる大隊であり、一個戦闘中隊が三~四機からなる小隊四つで編成されている。このような競争力の激しい部隊の転属となったザシャは、さぞ地獄であろう。ストローから口を離したジョンは、左手に持っていたハンバーガーを口に含んだ後、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そう言えば、第1中隊と整備中隊の連中が、H小隊が一ヶ月持つかどうか賭けてたぞ」

 

「うわぁ・・・そう言えばヴァンキッシャー創設以降、何度も全滅してからな・・・一ヶ月で一人も掛けずに持ったくらいで良いくらいだぜ」

 

「まぁ、あの調子じゃ、いつまで病院行きになるか分かんないけど」

 

 ツチラトがこれまでにザシャの前任者達が散っていたことを口にし、ジョンは言い終えてから再びハンバーガーを口に含む。モニター付き通信機で上官に報告していたシャロン中隊長はザシャに少し目線を向けた後、目線をモニターに戻し、報告を再開した。

 彼等ヴァンキッシャーが乗る全長700mの軽空母は命令でも受けたのか、サザーランドから上がってきたマリ等が乗ったシャトルを収容した後、軍需施設がある近くの小惑星へと進路を定め、二隻の護衛艦を引き連れてそこへ向かった。

 

「宇宙船に乗るなんて、いつ以降かしら・・・?」

 

 船内の廊下にて、マリは自分の手荷物を持ちながら、辺りを見渡す。今着ている衣服は、サザーランド内で着ていた戦闘服とは違って、地味なカーキ色の作業服だ。

 彼女の周りには、制服を身に着けたシューベリアにノエル、京香が歩いている。マリ等の目の前で歩いているのは、案内人の将校だ。

 

「ここです。案内図はここにありますから・・・詳しい話は近くの乗員でも捕まえて聞いてください。では、小官はこれで」

 

 彼女等の部屋まで案内すると、将校は案内図を彼女等に見せてから、去っていった。

 尉官専用の部屋であり、部屋は四つもある。ドアの横にある名札には、それぞれの部屋の名前が記されている。それぞれが部屋に入って手荷物を置くと、部屋から出て顔を合わせる。

 

「では、私達は情報収集に当たってきますので、失礼します」

 

 ノエルは挨拶をした後、京香と共に情報収集用の設備があるとされる方向へと向かう。残ったマリとシューベリアは、部屋の前にあるソファーに座り、軽空母が目的地へ着くのを待つ。二人の目の前にあるテーブルには、近くの自販機で購入した飲料水の紙コップが置かれている。

 

「あれ、マリちゃんは飲まないの?」

 

 紙コップは一つだけで、シューベリアの分だけだ。マリは席を立ち、案内図を見て、自分の行きたい場所へと向かう。

 

「ちょっと暇潰しにゲームしてくるわ」

 

 そう言って戦闘シミュレータ室がある方向へと向かった。移住区を出て、数分間廊下を歩いていると、目標の部屋へと辿り着いた。戦闘シミュレータ室には何名かのパイロットも居り、その中にはヴァンキッシャー隊の面々の姿もあった。

 突然入ってきた金髪の女に対し、パイロット達は視線を向けたが、物の数秒で飽きたのか、元の位置へ視線を戻す。ただ一人、マリの容姿を見て興味を持ったのか、口説こうとするパイロットが前に出て来た。

 

「やぁ、お嬢さん。こんな所へなんの・・・」

 

 言い終える前に腹に強烈な一撃を受け、パイロットは余りの痛さに両膝を床に付け、腹を押さえて悶絶する。そんな男を無視してマリは並んでいる戦闘シミュレータを見る。

 

「なんかゲームセンターみたいね・・・」

 

 シミュレータ機から出て来るパイロット達を見て、マリは思ったことを口にした。それを聞いて「馬鹿にしている」と受けた将校が彼女に絡んできた。

 

「おい、ゲームセンターみたいだとは何だ?」

 

「はい?」

 

「貴様はそれでもワルキューレ宇宙軍の将兵か?シミュレータをゲーム機呼ばわりとは・・・」

 

 突っ掛かってくる将校に対し、マリは無視したが、答えない彼女に対して将校は胸倉を掴んできた。

 

「なんとか言え!」

 

 胸倉を掴んだ将校に対し、マリは反撃しようとするが、偶然にもそこにいたツチラトに助けられた。

 

「まあまあ中尉殿、落ち着いてください。この新兵から見れば、ここはゲームセンターと勘違いするのも無理はありませんから。それにみんなの目線もあることですし」

 

「ちっ、覚えておけ!」

 

 周りの目線を感じた将校は、捨て台詞を残して去っていった。

 

「大丈夫か?それにあんた・・・何処かの要人か?取り敢えず暇潰しで来たみたいだけど、ゲーセンじゃ無いぞ、ここ」

 

 ツチラトはマリの階級が上級大尉であることに気付いていない。先程の一部始終を見ていたジョンも近付いてきて、ツチラトに問う。

 

「おい、ツチラト。先程将校がその女の胸倉を掴んでるのが見えたぞ」

 

「あぁ、丁度今追い払ったところだよ。それと、要人が乗ってる事は放送にあったか?」

 

「いや、聞いてない」

 

 彼等が会話している間に、マリはポケットから階級章を取り出し、それを左腕に張る。

 

「や、やべ!上級大尉だぞ!!」

 

「け、敬礼だ!総員敬礼!!」

 

 取り出して付けた階級章を見て、ツチラトとジョンが騒ぎ出すと、マリの階級章を見た周りにいたパイロット達が、彼女へ向けて右手を挙げて敬礼の姿勢を取る。

 

「もう良いわよ」

 

 その一言で部屋にいた一同はそれぞれの作業に戻る。マリは興味本位である一つのシミュレータに目を向けた。

 

「これ面白そう」

 

「あぁ、これはMS、モビルスーツ用のシミュレータです。他にもASとか、戦術機とか、ゾイドとか、色々あります!後、KMFや可変戦闘機とか・・・」

 

 緊張するツチラトの説明に、マリは目を付けたMS(モビルスーツ)用シミュレータに乗る。シートに腰を下ろし、ベルトを締めると、戦闘シミュレーションを開始する。全周囲にモニターが光り出し、地下にあるパネルから操作説明のメッセージが表示された。

 説明を読み、捜査方法を理解すると、次へ進める。

 

「地上戦と宇宙戦、どっちにするかって?」

 

 地上と宇宙の選択肢が表示されたので、マリは迷うことなく校舎の方を選んだ。宇宙戦を選択すると、全天周囲モニターに宇宙における戦場が映し出される。周囲を見渡してみれば、爆発やビームが全方位で飛び交っているのが見える。

 

「綺麗ね・・・」

 

 宇宙における戦場を見たマリが呟けば、無重力状態を知らせるアナウンスが流れる。

 

『無重力状態になります』

 

「わぁ・・・!」

 

 自分の腰まである金髪が浮き上がると、マリは驚きの声を発した。MSの操作方法が近場にある制御板モニターに表示され、それに目を通して、操縦桿を握る。両足をペダルに付け、上下に動く操縦桿を押したり引いたりしてみる。

 操作感覚を身に付けると、制御板モニターの下にある決定ボタンを押し、次へ進む。

 

「機種選択?どれが良いのか分かんないわ」

 

 機種選択の画面が表示され、様々な機体が表示される。しかし、MS等を初めとした機動兵器など、マリは一切知らず、どれが高性能な機体で一番扱える機体なのか分からない。

 適当にランダムボタンを押すと、(ゼータ)ガンダム呼ばれる全高20mの機体が選択された。

 

「なんか格好いいわね」

 

 Zガンダムのスペックを見たマリは、迷うことなくその機体を選択した。選択すると、戦闘開始のアナウンスが耳に入ってくる。

 

『三秒後にシミュレーションを開始します』

 

 目の前のモニターに戦闘開始までの番号が表示され、数字が0になれば、戦闘が始まった。

 

『戦闘開始』

 

 アナウンサーが伝え終えると、目の前から様々な敵のMSが今操作している自分の機体に襲い掛かる。

 

「いきなり!?練習とかさせてくんないの!」

 

 そう嘆いたマリは、敵機から来る攻撃を回避する。攻撃の回避に成功するが、彼女が乗るZガンダムを狙う敵機は休まず、こちらの反撃を受けないように動きながら攻撃してくる。

 照準を合わせようとするが、敵はジグザグに動き回っているので定まらない。自動照準でロックオンし、長い縮小式ビームライフルを攻撃してみるも、不特定に動く敵機には全く当たらなかった。

 

「ゲームと軍用では違うってことね!」

 

 ゲームセンターにあるシミュレータゲーム機とは別格と分かったマリはバルカン砲に切り替え、近場の敵機へ向けて無作為に乱射する。60㎜バルカン砲を何発か受けた敵機は、回避を止めて盾を構えながらバルカン砲を防ぐ。

 それがマリの狙いであり、瞬時にビームライフルに切り替え、防ぐ体勢から攻撃の態勢に切り替えようとする敵機に狙いを付け、トリガーを引いた。

 発射されたビームは、別の機体の盾を持つザクフリッパーと呼ばれるザクⅡと呼ばれるMSの頭を三連装カメラに変えたザクに命中し、防ぎきれなかった敵機はビームを受けて大破した。

 

「やった・・・!」

 

 敵機を落とすことに成功したマリは小さく歓喜するが、敵機は先程彼女に撃破されたザクフリッパーとは違うMS、ゲム・カモフと呼ばれる連邦軍の主力MSジムの偽物MSが次に襲ってきた。

 元のジムが持っているビームスプレーガンでは無く、MMP-80と呼ばれるジオン軍のMS用マシンガンを撃ってくる。

 

「あぁん?ジム?」

 

 しかし、世代上で遙か上のスペックを誇るZガンダムの装甲を貫くことが出来ず、マリがビームライフルの銃口からビームサーベルと呼ばれるビームの剣を出し、串刺しにして撃破した。

 穴が開いてから数秒後、サーベルを抜いて、爆風で視界が塞がるのを塞ぐために蹴る。爆風が晴れると、ザクⅠと呼ばれるザクⅡの前の機種と、ガフランと呼ばれる生物的な滑らかなMS合計六機がこちらへ向けて攻撃してきた。

 これらも不特定に動き回っている物の、感覚を掴んだマリの敵では無かったので、ザクⅠは数秒で全機撃破、ガフランは瞬時に二機撃破に成功し、残る一機は蹴りで撃破した。

 

「そう言えば、このガンダムって変形できたっけ」

 

 マリは機体説明に、Zガンダムが変形できることを思い出すと、直ぐに変形するボタンを押してみる。すると、機体は戦闘機のような形状に変形し、操縦方法がジェット戦闘機のような物になった。

 

「まぁ、ジェット戦闘機みたいな物ね」

 

 そう呟きながら、遠くからザクの胴体にジムのような手足を付けたザニーと呼ばれるMS二機が、こちらへ向けて右手に抱えたキャノン砲を撃ってくるのが見えた。戦闘機の操縦に慣れているマリは、機体上部に付けられたビームライフルでザニー二機を数秒単位で撃破する。

 

「よしっ!」

 

 左手でガッツポーズを取り、爆発する敵機の横をすり抜けた。これまでにマリが撃墜した敵機の数は十機以上で、ボスとも呼べるMSが登場した。

 

「あいつ、早いわね・・・」

 

 変形したZガンダムに追い付こうと、21m程あるジンハイマニューバと呼ばれる前身であるジンの強化型が右手に持つ重突撃銃を撃ち続けながら近付いてくる。それに対してマリは変形を解除し、ビームライフルでジンハイマニューバを撃墜しようとするが、先程のMS達とは違ってビームを回避する。

 

「さっきの奴等とは違う!」

 

 重突撃銃を避けながら、マリは実戦慣れしたような動きを見せるジンの強化型を見て、気を引き締める。敵機が彼女の機体まで一気に距離を詰めると、左腰に付けていたMS用の剣を抜き、斬り掛かってきた。それを盾で防ぎ、右手のビームライフルを離してビームサーベルを引き抜き、切り倒そうとしたが、相手が蹴りを入れて距離を離す。

 

「雑魚の分際で!」

 

 右前腕部にある二連装グレネードランチャーを放ち、敵機の左足を破壊する。左足を失ったジンハイマニューバは左手で重突撃銃を撃ってきたが、Zガンダムの装甲を貫通することが出来ず、接近を許してしまう。右手に持った剣で切り裂こうとしたが、Zの左手で受け止められ、パワーの違いで右手を握り潰され、ビームサーベルで上半身と下半身を引き裂かれた。

 ジンハイマニューバが爆発を起こし、爆風がZガンダムを覆った。

 

「ハァ・・・ハァ・・・これで終わり?」

 

 息を荒げながら、シミュレータが終わるのを待つ。だが、一分ほど待ってもシミュレータは終了しない。いつまで経っても終わらないので、ベルトを外そうとすると、警告音が響いた。

 

「ハッ!?」

 

 警告音が響いた後、目の前からZガンダムが持つ強力なビームが拘束で迫ってきた。直ぐに回避行動を起こし、ビームを避ける。

 

「まだ終わってないようね・・・」

 

 遠くの方から見えるジオン宇宙軍の軽巡洋艦ムサイと多数のザクⅡがこちらへと向かってくる。

 

「限界まで、やりますか!」

 

 ニヤリと唇を曲げて、マリは敵中の中に突っ込んだ。

 

 

 

 物の数時間後、戦闘シミュレータは終了し、マリは汗を袖で汗を拭いながら出た。

 

「ふぅ・・・結構きつかったわね・・・」

 

 颯爽とした表情で汗を拭き終えた後、髪の汗を左手で弾く。彼女はただシミュレーションを終わらせただけであったが、マリが出て来た途端、周りにいたパイロット達が呆然としていた。

 

「(なにかしら?)」

 

 イマイチ状況が理解できないマリは、近くにあったタオルを手にして頭を拭き始める。汗を拭き終えたマリに、沈黙を破って聞いてきたのはジョンであった。

 

「上級大尉殿・・・あんた・・・あれをクリアしたんですか・・・!?」

 

手を震わせながら聞いてくるジョンに対し、マリは無言で頷いた。

次にツチラトが話し掛けてくる。

 

「今、見ていたんですが・・・かなりの高難度ですよ・・・!?」

 

 どうやら適当に難易度を選んだのが、高難度の難易度だったらしい。

 初めに出て来る機体はZガンダムより低スペックの機体ばかりだが、中盤辺りから同機に開発された機体やスペックを上回る機体が登場し、最終的には性能を凌駕するMSが出て来た。

 彼女が颯爽とした表情でシミュレータから出て来たからして、全て撃破したのだろう。無言で答えた途端に、周囲にいたパイロット達が騒ぎ始める。

 

「あの難易度をクリアするなんて、マジで素人か?」

 

「ありえねぇ・・・退役したパイロットじゃないのか?例えばメガミ人とか」

 

「元エースじゃないのか・・・?」

 

 勝手な憶測が交わされる中、シャロン中隊長がザシャを初めとしたH小隊の面々と共に入ってきた。たまたま近場に居た配下のパイロットに、マリのことについて問う。

 

「何事か?」

 

「はっ、中隊長殿!導入されてまだ誰も為し遂げていない難易度を、あそこで汗を拭いている上級大尉殿がクリアしました!!」

 

「あの難易度をクリアするとわな・・・上級大尉殿は何処の所属だ?」

 

「そ、それは・・・分かりません・・・」

 

「なに・・・?」

 

 無所属なマリの事を知ったシャロンは、直接彼女に聞こうと近付く。突然、話し掛けてきたシャロンに対し、マリはタオルを置き、ストローを口に咥えながら答える。

 

「上級大尉、ヴァンキッシャー隊第2中隊中隊長シャロン・ロード大尉です。あの難易度をクリアするとは・・・何処の隊の所属ですか?」

 

「何処の所属って?何処だっけ・・・?分かんない」

 

「はっ?」

 

 先程の答えの通り、マリは自分が何処の所属か分かっていないようだった。シャロンは保安要員を呼ぶ為、左上腕部に取り付けられている通信機を起動しようとしたが、一緒にいたペトラがマリに指差しながら口を開く。

 

「このデカパイは情報部所属です。情報士官と一緒に歩いているのを見ました」

 

「デカパイって・・・」

 

「ペトラちゃん、上官に向かってそんな事、言っちゃ駄目だよ」

 

 ザシャは自分の部下が放った無礼極まりない言葉に呆れる。遙か上の階級であるマリに対し、失礼な態度を取るペトラをチェリーが注意した。

 

「部下の不手際、失礼しました」

 

「ごめんなさい・・・ペトラ、お前も謝る・・・」

 

 変わりにシャロンとザシャがマリに謝罪する。続いて千鶴やチェリーは頭を下げて謝罪し、ペトラは強制的に頭を下げられて謝罪させられた。

彼女が「良し」と言ったので、シャロンは空かさずマリが何処で訓練を受けたのかを訪ねた。

 

「失礼でありますが、何処であの天才的な操縦方法を習ったので?」

 

「Bf109、いや、Me109で習ったかな?それとF-15?とか」

 

「め、メーサーシュミットで・・・!?」

 

「うん、そうそう。説明書読んでから適当に乗り回したわ」

 

 とても考えられないマリの答えに、シャロンとザシャは驚愕した。彼女が初めに答えた戦闘機は、どれもMSの操縦方法とは全く違う。それを単に説明書を読んで、あの高難度を制覇したというのだ。

 

「て、天才だ・・・!」

 

 この答えには、流石にベテランのシャロンでさえ、驚きの声を上げる。ザシャや部下の三人も、驚きを隠せない。

 

「ザシャより上かもしれんな・・・」

 

「もう帰って良いかな?」

 

「あぁ、良いですよ・・・」

 

「ありがと」

 

 マリはシミュレータ室を出て、普通に移住区に帰っていく。彼女が出て行ったのを確認した後、マリが乗っていたシミュレータ機まで向かい、ランキングを確認してみる。

名前を入力しなかったのかマリの名前は入って居らず変わりに名無しが一位に君臨していた。

 クリアと横に表示されており、ザシャ・テーゼナーが二位にランクインし、クリアと言う文字は一位から無かった。

 

「少尉、たしかお前が一番のランキングだったな?」

 

「は、はい・・・クリア出来ませんでしたが・・・」

 

「あの上級大尉、もしかしたらお前より上かもしれんぞ。それも遙か上の・・・」

 

「それは、嬉しいことです・・・」

 

「悔しくないのか?」

 

 ザシャから返ってきた意外な答えに、シャロンは拍子抜けする。

 

「悔しくなんかありませんよ。ただ、私より上な人に出会えたことが、嬉しくて堪らないのです」

 

「ヴァンキッシャー隊には相応しくない人材だな。少尉は。どうしてお前がここに配属されたのか、私には全く理解できない」

 

 自分より上な者に出会えたことを喜ぶザシャを見て、シャロンは笑みを浮かべながら告げる。

 

「自分は、競争とかそう言うのが苦手ですから・・・」

 

「納得の答えだな。ところで、お前の戦果はあれで良いのだな?」

 

 次にシャロンは、前回の海戦でザシャが撃沈した艦船数が、彼女の部下達に分配されている事を問う。

 

「はい、そうすればあの子達もこの隊から安全な隊に転属できますから」

 

「部下思いだな。自分の戦果を他人に譲り渡すとは。それでは元の部隊に返るどころか、安全な後方勤務が出来ないぞ」

 

「自分はあの子達を安全な地帯に居る部隊に転属させてから行きます。私が先に転属しちゃうと、あの子達は死んじゃいそうですから・・・」

 

 千鶴、チェリー、ペトラがシミュレータで少しでも腕を上げようとしている所を見ながら、ザシャはそう上官に答えた。

 

「つくづくと甘いな、少尉。この世界もとい、この部隊はそう柔な考えが通じるとは思えんぞ。それに自分がもしもの場合、残った部下はどうするつもりだ?良く考えておくんだな」

 

「・・・それは」

 

「安心しろ、ヒヨコ。望むとおりあの三人にお前の戦果を分け与えてやる。答えは考えれば直ぐに出る。余りにも簡単だがな」

 

 シャロンに厳しく問われると、ザシャは不安になりながらも答えを出そうとしたが、彼女が部屋を出て行ってしまう。

 

「自分もあの子達も誰一人欠ける事無く戦果を上げろってこと・・・?」

 

 直ぐに出て来た答えを口にしたが、もう上官は出て行った後だった。それから数時間後、軽空母は目的地の小惑星に到着、大気圏に突入はせず、護衛艦と共に衛星軌道上で待機する。マリ達は小惑星に降下するので、降りるシャトルに乗り込み、小惑星へと降下した。

 

『当機は大気圏突入に入ります。乗員の皆様はシートベルトを着用してください』

 

 機内でアナウンスが流れる中、マリは隣に座るノエルにあることを問う。

 

「ねぇ、今降りる星に演習場とかあるよね?」

 

「あると思いますが・・・何を企んでいるのです?」

 

「ちょっとロボットを動かしたくなって」

 

「機動兵器を動かしたいのですか?まぁ、取り敢えずは動かせそうに見えますが・・・」

 

 ノエルがシートベルトを付けながら、今降りる小惑星で機動兵器を乗り回せる演習場があるかどうかを思い出す。その間に京香が訪ねてくる。

 

「急にどうしたんです?ロボットに乗りたいなんて・・・アニメかゲーム、BL物の影響ですか?」

 

「違うわよ。シミュレータで動かしてみたらなんか楽しくて・・・他に動かしてみたくなったの」

 

「ハハ、ロボットに目覚めたようですね・・・それは置いといて、息抜きですか?」

 

「ぶっちゃけそんな所」

 

「息抜きに機動兵器・・・随分と皇帝陛下は変わっていらっしゃる・・・」

 

 返ってきたマリの意外な答えに、京香は彼女を変人と思う。

 

「あぁ、ありました。丁度空港の近くに演習場がありますよ。自由には動かせないみたいですが」

 

 ノエルが思い出して伝えると、マリは顎に手を当て、解決策を模索する。数秒後、シャトルは小惑星に降下し、目的地の近くにある空港へと無事に着地した。

 

「さーて、行きますか」

 

「えっ?ちょ、待って!」

 

 シャトルから降りたマリは、早速地図を持って、ノエル達からの獅子の声も聞かずに目的地である演習場へと向かう。何故だかシューベリアも一緒についてきたが、彼女は気にも留めなかった。

 

「なんで淫乱ビッチが・・・」

 

「またマリちゃんがなにかするのかなー?て思って」

 

「まぁ良いわ。そこらの男とやってなさいよ」

 

「はいはい」

 

 そう掛け合いながら、マリとシューベリアは近くの演習場へ向かい、その門を叩いた。門番を担当しているフランスのブルパップライフルFAMASを持った警備兵が、二人を見るなり声を掛けてきた。

 

「これはこれは、情報士官殿がこの演習場へ何のご用で?」

 

「ロボット動かしに来た」

 

「同じく私も・・・」

 

「はっ?」

 

 その返事で警備兵はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 

「あの・・・許可書がないと、駄目なんですが・・・持ってます?」

 

「許可書?そんなの持ってないわよ」

 

「それならお帰り下さい。この演習場は第13機甲教導部隊が都市部模擬戦闘で使用する予定であります」

 

 許可書がないと分かると、警備兵は二人を門前払いしようとする。だが、偶然にも演習場を使用する教導部隊の隊長がやって来る。

 

「入れろよ。うちの隊の丁度良いウォーミングアップになる」

 

「えっ?これは中佐殿!で、ですが・・・いきなり来てそんなことを言われても・・・規則ですし・・・」

 

 突然やって来て、マリとシューベリアの演習場へ入ることを許可した教導部隊隊長に対し、警備兵は規則に則って、上官に進言するが、ジープを降りてきた彼に肩を叩かれる。

 

「別に良いだろう。こんな美人の願いだぞ、断る訳にもいかんだろ?」

 

「わ、分かりましたよ・・・警備主任に報告します」

 

 警備兵が無線機を持って、報告しようとすると、教導部隊隊長である中佐は警備兵から無線機を取って、代わりに報告する。

 

「聞こえるか?これから当演習場を使用する予定の第13機甲教導部隊の隊長だ。模擬戦を始める前に、素人相手のウォーミングアップをする。以上」

 

 報告を終えれば、無線機を警備兵に返し、自分が先程乗っていたジープに戻り、副官らしい女性士官に、マリとシューベリアの元へ向かうよう指示し、座席へと座り、女性士官を向かわせた。

 門が完全に開くと、中佐が乗ったジープを先頭に、隊員達を乗せたトラックと大型トレーラーが数台ほど後へ続く。

 

「では、こちらへ」

 

 一方のマリ等は女性士官の案内で、徒歩で戦術機専用保管倉庫まで向かう。

 ちなみに戦術機とは、戦術歩行戦闘機の略称であり、第三世代まである人類に敵対的な生物対BETA用の機動兵器だ。

 数分後、戦術機専用の保管倉庫へ到着し、女性士官がどれを選択するか問う。

 

「どの機体をお選びで?」

 

 倉庫に保管されて並べられているのは、目に見えるだけで左右に十五機ずつ、合計三十機は見える。種類と形は様々であり、同じ型でも、何処か細部が違う機体もある。元の世界で開発され、設計図のコピーを取って安全な世界に持ち込んで生産された戦術機を眺め、どれに乗るかを選ぶ。

 

「私、これにしようかな?」

 

 シューベリアはラファールと呼ばれる現実のフランスの戦闘機と同じ名を持つ戦術機を選んだ。辺りを歩いて、マリは乗ったことがあるジェット戦闘機と同じ名前を持つF-15に目を付け、その戦術機を選ぶ。

 

「これにするわ。F-15と同じ名前だし」

 

 型はストライク・イーグルであり、現実の戦闘爆撃型ではなく、やや形が変わった強化型のE型だ。

 

「ラファールにストライク・イーグルですか。では、強化装備にお着替え下さい」

 

 機体選択を完了した二人からの報告を受け、女性士官は女性更衣室へと案内した。案内された更衣室に入り、ロッカーを開けて中身を確認すると、訓練用衛士強化装備と呼ばれるパイロットスーツが一着入っていた。

 

「・・・なにこれ?」

 

 強化装備を手に取ったマリは、その際どさにドン引きする。生地の厚さは薄く、指を立ててみれば指の皮膚が薄く見えた。

 

「なにこのエロに都合の良いスーツ」

 

 そう吐き捨て、ロッカーに無着色半透明なスーツを投げ込み、女性士官にマシな物はないかと問う。

 

「ねぇ、こんなの着れないんだけど?マシな(もん)出してくんない」

 

「今のところ、それしかサイズの合う物がありませんので。あちらの方は、平然と着ておりますが?」

 

 苦笑いしながら女性士官が手を翳した方向を見てみると、自分がロッカーに投げ付けた強化装備を平然と身に着けているシューベリアの姿があった。その姿は「際どい」の一言であり、彼女のボディラインをさらに強調させるほどだ。

 

「あれ、マリちゃんは着ないの?これ結構きついけど、とても動きやすいよ」

 

 際どい強化装備を身に着けたシューベリアは、準備運動をしながらマリに着ないのかを問う。彼女が動く度に、大きなバストがかなり揺れていた。仕方なくマリは訓練用の強化装備を身に着ける事にした。

 女性士官も自分の強化装備を身に着け、マリとシューベリアと共に更衣室を出る。流石にこの格好で歩くのはマリにとっては屈辱的なのか、専用の上着を羽織って、自分が選んだ搭乗機まで向かう。

 シューベリアと女性士官は上着を身に着けず、平然と歩いている。保管倉庫に乗り込んで、調整を済ませたF-15Eのコクピットに乗り込むと、上着を脱いだ。コクピットに入ってみると、モニターがないことに驚く。

 システムを起動させると、チュートリアルと言う文面が網膜に表示される。後に付けたヘッドセットが、その効果をもたらしているようだ。

 

「こっちは網膜で表示されるのね。それ以外の動かし方はMSと一緒なの」

 

 感心しながら、網膜に表示された操縦方法を見て、ペダルや操縦桿を動かし、操作のコツを掴もうとする。チュートリアルを終えると、ヘッドセットのイアフォンから声が流れてくる。声は女性オペレーターの物であり、声が聞こえたのと同時に網膜に外の映像が映し出される。

 

『上級大尉、失礼します。自分は貴方の補佐を担当する水城マナと言います。大体の操縦方法は分かりましたか?それじゃあ、演習場に向かいながらコツを掴んでください。目的地は網膜に表示されます』

 

「この矢印?」

 

『そうです。目標の場所へ向かってください。ペダルを踏めば歩けます』

 

 オペレーターのマナの指示に従い、保管倉庫のゲートが開いた場所へ向かって歩き始めた。シューベリアの乗っているラファールは鈍くさい動きをしていたが、随伴していた別の戦術機に支えられながら、なんとか前へと進んでいる。外から差す光が段々と近付き、やがてマリが乗ったF-15Eは倉庫の外へと出ることに成功した。




カミーユ「セ○クス!」

Zガンダムは出ましたが、カミーユは出て来ません(笑)。

それとザシャの部下達のキャラ・・・完全に"アレ"だな、うん。
ヴァンキッシャー隊メンバーから漂r

~今週の中断メッセージ~
超簡単な説明。

MSZ-006 Zガンダム
機動戦士Zガンダムの後期の主人公機。
機体性能は凄く高く、40年後の機体に匹敵するほどである。
ちなみにキレやすいパイロットは、TV版と劇場版で末路が違う(笑)。

MS-06-E3 ザクフリッパー
頭部がモノアイじゃなくて、三つ目になったザク。
クソ脆いザク強行偵察機の強化型である。ちなみにZガンダムには出てない。
持っているシールドはゲルググの物。

ゲム・カモフ
IGLOOに出て来る偽ジム。ジオンが開発したジムのぱちもの。
連邦艦隊の侵入する為に使用された。遠くで見れば、ジムと見違うが、近場で見ればはっきりと違いが分かる。

MS-05 ザクⅠ
通称旧ザク。史上初めての実戦配備用MS。
一年戦争では旧式化しているのか、後方支援に回されている。
ガデムがこれに乗ってガンダムに勝負を仕掛けて死んだ。

ovvーf ガフラン
ヴェイガンが地球圏に初めて投入した量産型MS。
生物的な滑らかなデザインをしており、変形すればドラゴンみたいになる。
投入から数年ぐらいは優位であったが、ガンダムAEG1の登場により、優位が崩れた。
最終決戦にまで運用される程、愛着が持たれている。

RRf-06 ザニー
連邦軍がぶん捕ったザクをベースにして作ったMS。
頭はジムみたいなバイザーで、ガンタンクの大砲を担いでいる。
手足も独自な物に変えた所為なのか、ザクみたいな性能だったので、陸戦型ジムが配備されると、早々と配備は打ち切られた。

ZGMF-1017M ジンハイマニューバ
ザフトの新型機の足繋ぎとして開発されたジンの高性能機。
実はクルーゼが量産型一号機に乗って、月でフラガと戦っている。
ちなみにエンジンはミーティアの元である。

MS-06F ザクⅡF型
言わずとしれたジオンの主力機ザク。派生型が沢山ある。
初の投入から終戦まで使われ続けた愛着のあるMS。ぶっちゃけジオンを象徴するMS。
屈指のやられMSである。

ムサイ軽巡洋艦
ジオンがMS運用目的で設計して開発した宇宙の軍艦。
大気圏突入ポッドであるコムサイが艦体下部付いている。
対空砲らしき物が見当たらないので、連邦軍の艦艇より滅茶弱い。
派生型は沢山あり、ムサカと呼ばれる艦艇も終戦から13年後に出て来ている。


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模擬戦闘。

野々村議員「あァァァンまりだァァああァ~!」


 移動している間に、戦術機の操縦方法のコツを掴んだマリは、演習場に到着するなり手足をブラブラさせる動作をF-15E(ストライク・イーグル)で行う。

 一方のシューベリアはラファールを余り満足に動かせてないようで、F-4と呼ばれる戦術機に抱えられながらも、なんとか演習場へと辿り着いた。

 

『それでは、模擬戦開始前にある程度の操作に慣れて下さい』

 

 オペレーターの水城マナから指示が来る。指示に応じ、マリは戦術機の動作を行った。

 左右にある操縦桿を動かして手を動かし、ペダルを踏んで片足で立ったりする。操作に慣れたと思ったのか、マナからの通信が入る。

 

『操作は慣れましたか?あちらの方は手こずっている用ですが』

 

「あれはちょっと機械物が苦手らしいのよ。そう言う関連の男と寝てる癖に」

 

 網膜モニターの端に表示されたマナと思われる女性オペレーターが、赤面しているのが分かった。隣の方からシューベリアが乗ったラファールが転んでいるのが見える。

 全高が18~20m台はある機動兵器が地面に転んだことにより、やや軽い震動が起こった。マナは気を取り直したのか、装備の説明を始める。

 

『チュートリアルで学んだと思いますが、貴方が乗る機体の装備の説明を始めます』

 

 端に見える画面で、マナが資料を持ち出して、目を通しているのが見えた。

 

『主兵装はAMWS-21です。ブルパップ式36㎜突撃砲で、イスラエルのTAR-21タボールをイメージして開発されました。弾種は模擬戦なので、ペイント弾です。本来なら120㎜滑走砲が突撃砲の銃身に備えられておりますが、模擬戦闘用のため、オミットされています。貴方が乗るF-15Eの膝部装甲の両側にはそれぞれ一振りずつ近接戦闘短刀が収められています。膝部に備えられているウェポンコンテナには、突撃砲用の予備弾倉が幾つか収められており、不要となればパージが可能です。ジャンプユニットにはオリジナルのユニットは搭載されておらず、ワルキューレの独自のユニットが備えられております。他の装備についても説明しますか?』

 

「良いわ。取り敢えず、さっさと始めたいんだけど。相手の準備はまだなの?」

 

 説明を聞き終えたマリは、アグレッサー役を務める第13機甲教導部隊の準備が出来たかを問う。

 

『模擬戦闘用都市部にて、全五十機の展開を終えております。模擬戦闘用の都市部はここから近い距離にありますので、物の数分で到着します。矢印の方向に従って移動してください』

 

 その返答に、マリは模擬戦をする都市部がある方向へと戦術機を進めた。シューベリアが乗るラファールがなんとか立ち上がって、必死についていく。模擬戦をする都市部へ到着すると、ノエルが追い付いたのか、通信が入ってくる。

 

『皇帝陛下!私達を出し抜いて、なんで勝手に戦術機に乗ってるんですか?!』

 

 画面端にノエルとマナが映った映像が表示され、こちらに向けて叫ぶノエルが映し出される。隣には京香が居り、マリが着ている強化装備を見るなり声を上げる。

 

『うわぁ・・・エロい・・・!やっぱり強化装備はエロい身体の人が着れば芽生えますね』

 

『京香ちゃん、そう言うのは良いから!シューベリアさんも、なんで止めなかったんですか!』

 

 画面端の横からシューベリアの映像が追加され、彼女の声も入ってくる。

 

『ゴメンゴメン。面白そうだからついやっちゃった』

 

『わぁーお、シューベリアさんはもっとエロい!エロ過ぎる!!』

 

『もう。どうして貴方達はそう勝手に・・・』

 

「許可取ってるから大丈夫よ。なんか、ここで模擬戦する予定の部隊長さんが許可してくれたみたいなの。それでこうやって戦闘機みたいな名前のロボット動かしてるわけ」

 

 このマリからの返答に、ノエルは頭を抱えた。

 

『はぁ・・・もう良いです。やられて頭を冷やしてください・・・』

 

 ノエルからの通信が切れる頃には、もう都市部に辿り着いている頃だった。無論、都市部は無人であり、人など住んで居らず、ただのゴーストタウンである。

 何度か演習や模擬戦を行った後なのか、ビル等の高い建造物には銃弾の跡が残っている。都市部に入ったのを確認してか、マナからの通信が入った。

 

『都市部に到着されたようですね。データに都市部のマップと情報が載っております。確認してください』

 

 言われたとおり、マリは都市部の情報を確認した。

 

「あら、結構色々とあるじゃない」

 

『市街地における戦闘を想定し、演習と模擬戦目的で造られた無人都市です。待ち伏せや奇襲に適した場所が多数存在します』

 

「へぇ・・・気を付けて進めってことね」

 

『そうなります』

 

 辺りを見渡し、都市部の様子を伺う。シューベリアのラファールが到着したのを確認すると、マナが模擬戦開始時間までカウントダウンを始める。

 

『敵の戦力以外情報は一切不明、数は五十機程です。貴方の付き添いも到着したので、カウントダウンを開始いたします』

 

「ちょっと待って。貴方、仕事終わり暇?」

 

『特に予定はありませんが。何か?』

 

 急に割り込み、マリはマナに仕事終わりの予定がないか問う。

 

「地図で見たんだけど、空港に美味しいスイーツの店があるんだけど、仕事終わりに一緒に行ってみない?」

 

『あぁ、それ僕も行きたい!』

 

 スイーツと聞いてか、シューベリアも割り込んできた。

 

『考えておきます』

 

 マナは赤面しながら答えると、カウントダウンを再開した。

 

『1・・・0・・・模擬戦開始です!』

 

 模擬戦が開始されると、遠くの方から震動が聞こえ、同時に相手側の無線が入り込んでくる。

 

『相手は戦術機稼働時間三十分のド素人のお嬢さんだ。各機、派手に歓迎してやれ!』

 

『はっ、連邦からぶんどったジェガンの力を見せつけてやります!』

 

『こちらは同盟からぶんどったギラ・ドーガの力を見せてやりますよ!』

 

 気揚々と迫ってくる教導部隊(アグレッサー)の所属パイロット達の無線を聞き、マリとシューベリアは身構える。ずっとレーダーを見て、相手が何処から来るかを警戒する。

 

『市街地はセンサーを遮断する時があります。十分に気を付けてください』

 

「アドバイスどうも」

 

 マナから来たアドバイスに、マリは目視で周囲の警戒を行う。シューベリアはレーダーに頼っているらしく、背中や側面から襲われたら一溜まりもない。

 

「レーダーはあんまり意味ないと思うけど?」

 

『そんな事、私に言ったって・・・』

 

 レーダーを見ながら警戒しているシューベリアに、マリは注意しながら怪しげな場所を観察し、何処から敵が来るか予想する。怪しげな場所へ視線を移すと、何かの足が見えた。直ぐに突撃砲を向け、二、三発撃ち込むと、着弾した箇所が赤色に染まる。

 

「違う・・・?」

 

マリが放った言葉の後に、コクピット内で警告音が響いた。

 

「上から!?」

 

 上の方へ視点を向けると、上空から三機の19mくらいのMSがシューベリアの乗るラファールに襲い掛かってきた。

 機体の色はスプリッター迷彩と呼ばれる主に第二次世界大戦下で使用された迷彩色であり、アグレッサーの使用するMSはジェガンと呼ばれる今でも連邦軍で現役のMSだ。鹵獲した物を敵役として使っているのだろう。

 ブルパップマシンガンと呼ばれるペイント弾仕様のMS専用機関銃で、牽制しながら襲ってくる。

 

「えっ!?ちょっ!」

 

 突然の襲撃にシューベリアは対応しきれなかったのか、反応は遅く、やたら空の敵に向けてFAMASに似た突撃砲を乱射する。だが、一機も当たることなく、ビルの上に立った三機からペイント弾の集中砲火を受け、あっさりと倒された。

 

『ごめんなさい!僕、やられちゃった!』

 

 シューベリアが謝罪の通信を入れてくると、多数のペイント弾を受け、機体が真っ赤に染まったラファールがこちらに顔を向けている。

 上にいた三機が地上に降りて、退路を塞ぐように三方に立った後、ザクと似たような形であるギラ・ドーガと呼ばれる同盟軍で現役なMSが、ジムライフルと呼ばれる連邦製MS用ライフルを構えるジェガンの後ろから三機ほど現れる。

 ギラ・ドーガも同盟軍から鹵獲した物を使っている。

 

『これであんた一人だな?女帝様よ』

 

『さて、どうやって料理してやろうか?』

 

 周りを包囲し、接近戦用の武器であるビームサーベルを抜いたジェガンの三機が着々と間合いを詰めてくる。自分を囲っている三機の内、一機が襲い掛かってくるのを待っていると、側面のビームサーベルを持ったジェガンが突き刺そうと突進してきた警告音が鳴り響くと、マリは即座に回避し、ジェガンをF-15Eの足で蹴り上げた。

 

『うぉ!?』

 

 蹴り上げられたパイロットの声が通信に入ってくるが、マリはお構いなしに至近距離で突撃砲を発射し、一機を戦闘不能にする。

 

『このアマ、巫山戯やがって!』

 

 残る二機が腹を立てたのか、開いている手で持ったマシンガンを撃ってきた。直ぐに倒れたジェガンが立っていた方向へ地面を蹴って、マシンガンを回避する。相手が次の行動へ移る前に、突撃砲を手近なジェガンへ向けて発射し、動きを封じる。

 もう一機は、ビルの上へ跳躍して逃げ込み、上から撃とうとしていた。だが、撃つ前にマリの反応が早かったらしく、撃つ前にペイント弾を浴びて戦闘不能となった。盾でペイント弾を防いでいたジェガンがマリの乗る戦術機へ向けて直ぐにマシンガンを撃ってこようとしたが、最後も反応速度の差でやられてしまう。

 

『な、なんだ、あの反応速度は!?』

 

『本当に素人か!?』

 

 後ろで見物していたギラ・ドーガ三機に乗るパイロット達がマリの恐ろしい反応速度を見て、驚きの声を上げて恐れ戦く。

 直ぐさま持っているペイント弾を撃ち込むが、マリはそれを回避し、シューベリアのラファールから接近戦用武器であるフォルケイトソードを取って、ジャンプユニットを使いながら接近する。無論、演習用なので刃先は付いていない。

 空いている手で持って一気に接近した後、戦術機用長刀を近場にいたギラ・ドーガの頭に叩き込んだ。頭部に長刀の打撃を受けたギラ・ドーガは振った方向へと吹き飛び、ビルへ直撃して突っ込んだ。

 残る三機は演習用のソード・アックスで斬り掛かったが、投げ飛ばされたり、地面に叩き付けられたりして戦闘不能となった。本陣であるコマンドポストに構える部隊長は、MS六機が戦闘不能になったことに驚く。

 

「化け物用の機動兵器で、それもたった三分でMSを六機も・・・!とても素人とは思えん、何者だ!?」

 

 近場に居た部下に部隊長が問うと、部下は資料を漁ってマリの事を調べる。もちろん、彼女のデータはあるのだが、操縦経験はジェット戦闘機程度しか無い。

 

「操縦経験は、F-15C制空戦闘機飛行時間二十七時間以上しかありません!」

 

「ば、馬鹿な!機動兵器の搭乗経験のない女があれ程の動きを・・・!百年に一度の天才という奴か!?」

 

 報告を受けた部隊長は、驚きを隠すことが出来ず、周辺にいた部下達に動揺を覚えさせた。

 

「クソ・・・都市構造を利用しての待ち伏せ(アンブッシュ)だ!直ちに命令を伝達しろ!」

 

「はっ!」

 

 戦闘オペレーターは直ぐに命令を遂行した。

 数機のグラスゴーと呼ばれ、異世界で開発された4.24mのナイトメアフレームと呼ばれる人型兵器が向かってくるマリのF-15Eに対し、専用の突撃銃を撃つが、直ぐに遮蔽物となるビルに隠れられ、各機が一発ずつ受けて戦闘不能となる。

 

『な、ナイトメアに当てた!』

 

 驚きの声が通信で聞こえてくるが、マリは出て来る敵を手当たり次第に破壊していく。命令通り、アンブッシュを行う機も居たが、あっさりと見分けられてペイント弾を当てられて戦闘不能にされた。

 

「待ち伏せしたって、私にはお見通しよ」

 

 コクピット内でマリは相手の影を見通す能力であるダーク・ビジョンを発動しながら呟き、待ち伏せを食らわせようとする都市迷彩型の敵機にペイント弾を当てる。その調子で次々とアグレッサー部隊を次々と戦闘不能にしていき、残り十五機まで減らした。

 全長15m程のオオカミ型ゾイドであるコマンドウルフが三機マリの前で姿を現し、ペイント弾仕様に変えられた専用の50㎜対ゾイド二連装ビーム砲座を撃つが、彼女の反応速度が高く、一気に接近される。

 隊長機が顔にあるコクピットにペイント弾を受け、戦闘不能になり、残り二機は蹴り飛ばされ、腹にペイント弾を受けて戦闘不能となる。コマンドウルフが倒された直後に、F-14トムキャットと同じ名を持つ戦術機が角からいきなり飛び出し、マリの後ろを取った。

 

『貰った!』

 

 F-14に乗る衛士と呼ばれるパイロットは、マリに勝ったと思ったが、彼女は超人に匹敵するようなその反応速度で突撃砲を脇の下から向け、相手の戦術機に当てて戦闘不能にした。

 次にアーム・スレイブと呼ばれた分類に入るカエルのような8.1mのサページと言う名の人型兵器が、ASサイズのAK47を抱えながら飛び出してきた。同時にMiG-25と同じ名を持つ戦術機も現れ、開発された国と同じライフルであるOC-14に似た突撃砲を向け、撃とうとする。

 

「やられる前に!」

 

 撃たれる前に、マリは咄嗟に目に入ったサページをMiG-25スピオトフォズに向け、サッカーボールのように蹴った。ジャンプユニットを使っての強力な蹴りであるため、サページは勢いよく吹き飛び、MiG-25の同隊に命中して二機ともダウンさせた。蹴り上げられたサページのパイロットはもちろん気絶している。

 一応、二機共にペイント弾を撃ち込むと、次へ進んだ。進んでいくと、側面から同じ型で日本仕様であるF-15J陽炎が、74式近接戦闘長刀と呼ばれる戦術機サイズの長刀をこちらへ向けて振り下ろそうとしていた。

 

「よっと!」

 

 咄嗟に回避して、陽炎に蹴りを入れた後、相手の手から離れた長刀を手に取り、元の持ち主である陽炎に叩き付けた。

 

「これ、結構使えるわね」

 

 戦闘不能になった陽炎から手に入れた長刀を観察しながら、試しに振り回してみた。十分に扱えると分かると、左腕の脇に抱え、残り八機が居るとされる場所まで向かう。見晴らしの良い場所でダーク・ビジョンを発動し、残り八機の所在を確認する。

 

「この目からは逃れられないって、言っても一々潰すのは面倒ね・・・」

 

 一々潰していくのが面倒と思ったマリは、思い切って見晴らしの良い場所へ飛び込み、全機が出て来るのを誘った。

 

『馬鹿かっ!堂々とど真ん中に居るなど!!』

 

 四機程が身を潜めていた場所から飛び出し、包囲する形でペイント弾をマリのF-15Eへ向けて発射したが、彼女は上空へ高く上昇する。直ぐに四機は上空へ向けて持っている武器を撃ち込もうとするも、彼女の尋常じゃないレベルまで発達した早撃ちで四機とも撃破される。

 

『奴目・・・!ば、化け物か・・・!?』

 

 着地したF-15Eを見て、一人のパイロットが恐れ戦く。そのパイロットの乗る機体はマリが投げた戦術機用の短刀に当たり、戦闘不能になる。

 

「これで後三機・・・」

 

 そう呟いた途端、残り三機からの一斉射撃を受けた。ペイント弾による凄まじい弾幕を受け、赤い色の煙が立ち篭める。

 

「やった・・・!?」

 

 スウェーデン王国製の戦術機グリペンに乗った教導部隊の副官を務める女性士官はマリを倒したと思った。僚機である二機も倒したと思っており、煙が上がっている場所へと向かおうとする。

 

「待ちなさい!敵はまだ・・・」

 

 だが、女性士官が言い終える前に残りの二機は煙の中から飛び出してきた”何か”に戦闘不能にされた。

 

「突撃砲を・・・盾に!?」

 

 煙から出て来たのは先程の陽炎から奪った長刀を右手に持ったF-15Eだった。女性士官が言うとおり、突撃砲を盾にしてやり過ごしたようだ。

 

「流石に何発か受けちゃったようね・・・」

 

 戦闘不能と判断された二機が離れていく中、肩や足の箇所にペイント弾が命中した後がある。長刀を構え、グリペンに向け突っ込んだ。向かってくるマリ機に対し、女性士官は戦術機が持っている突撃砲を撃つが、避けられてしまう。

 やがて接近を許してしまい、訓練用の長刀を叩き落とされ、吹き飛ばされて戦闘不能となった。それと同時に戦闘終了の警報が鳴り響き、アナウンスが流れる。

 

『勝者、ビギナーチーム』

 

「ま、負けた・・・たった稼働時間八分の素人相手に・・・」

 

 コマンドポストにて、部隊長が両膝を床に付けながらショックを受ける。この結果にノエルと京香も驚きを隠せないでいた。

 

「たった一機で機甲兵器五十機相手に勝利・・・これが元百合帝国皇帝の強さ・・・!?」

 

「つ、強すぎ・・・主人候補生・・・!?」

 

 京香がそれを口にした後、マリが乗っていたF-15Eの右腕と左脚が音を立てて壊れた。

 

「ふわっ!?」

 

 機体を支えていた足の一本が外れた為、機体はバランスを崩して地面に向けて倒れる。安全帯はちゃんと付けていたので、負傷せずに済んだ。

 

「やっぱ、無茶し過ぎちゃったか・・・」

 

 コクピットの中で機体状況を知らせるモニターを見て、そう呟く。その後、機体から降りたマリとシューベリアはノエルに叱られた。

 

「ちょっとは自重してくださいよ!そして余りにも身勝手です!どれだけ私に苦情が来ると思ってるんですか?!」

 

 自分より20㎝は身長が高く、飛び切りの美貌を持つ女性二人を叱るノエルであったが、二人は全く反省などしていなかった。

 

「そんなの、私に言えば良いのに。私の連絡番号なんだっけ?」

 

「全然反省してないじゃん・・・これです」

 

 ノエルは少し呆れた表情をしながら、メモをマリに渡した。

 

「へぇ・・・これが・・・じゃあ、次行くわ」

 

「えっ、次に行くって・・・?」

 

「どちらへ?」

 

 メモを受け取ったマリは次へ行くと言い出し、ノエルと京香が何処へ行くかを問う。

 

「全部回るに決まってるでしょ?」

 

「全部回るって・・・マリちゃん、全部のロボットに乗るの?」

 

「そうよ。それ以外に何があるのよ?」

 

 このマリからの答えに、三人は呆れて物も言えなかった。

 

「はぁ・・・もう勝手にしてください・・・」

 

「そう。じゃあ、行ってくるわ」

 

 頭を抱えたノエルを他所にマリは更衣室へと向かい、着替えてから次の演習場へと向かった。次の演習場ではシミュレーションで体験したMSに乗り込み、模擬戦に勝利。

 その次はASに搭乗してまたも勝利し、その次にゾイドやKMF(ナイトメア)、可変戦闘機、バルキリーに乗っても勝利を重ね、教官達を呆然とさせた。

 

「あぁ、楽しかった!」

 

 全ての人型機動兵器に乗り終える頃には、夜が近い時間帯であった。マリは意気揚々と自分等の宿泊施設である場所へとそのまま帰る。

 この操縦経験のない素人が操縦経験のある操縦者に勝利するというここでは前例にない事態に、教官やベテランパイロット、アグレッサーの隊員達との間で激しい論争が行われたと言う。

 予定通り、マナとの約束した空港のスイーツ店へとシューベリアと共に向かい、色々と美味しげなスイーツを堪能した。マナの口数の少なさに、少々マリ達は困ったが、あらゆる手を使ってなんとか彼女を笑顔にさせた。

 

 

 

 一方、ヴァンキッシャー隊の母艦とされる軽空母アスラに、隊長機と第1中隊の機体が帰還した。

 

「ロード大尉、報告します。一七〇〇(ひとふたまるまる)にて、ボギンスキー大隊長とベルントソン大尉が帰投しました」

 

「ご苦労。第2中隊と整備中隊に通達、総員格納庫へ集合せよ」

 

「はっ」

 

 副官からの報告に、シャロンはザシャ達第2中隊の面々と整備中隊に格納庫へ集合するよう指示した。理由は簡単、競合部隊ヴァンキッシャー隊の長とその中のエリートの集まりである第1中隊の出迎えである。全員が格納庫へ集合すると、第2中隊と整備中隊の隊員達は整列し、帰還した大隊本部と第1中隊の面々を出迎えた。

 

「総員、傾注せよ!」

 

 シャロンの号令で一同は皆機体から降りてきた大隊長へ目線を向ける。大隊長は身長192㎝の大柄の男であり、その大男の後ろから第1中隊の面々がついてくる。彼等の態度は以下にもエリートで、第2中隊や興味本意で見ていた防空部隊の面々を見下すような目線を送っている。

 

「第2中隊と整備中隊、出迎えご苦労。早速で悪いが、任務だ」

 

「任務って・・・」

 

「俺達、管理局の艦隊を蹴散らした後だぞ・・・」

 

 整列していた第2中隊の面々は、大隊長に聞こえないよう愚痴を漏らした。ケースを置いてから開き、中に入っていた書類を手に取った大隊長はそれを読み上げた。

 

「では、命令書を読み上げる。”貴官等、競合部隊ヴァンキッシャー隊は全戦力を持って、現在叛乱軍が占拠した惑星アスターに向かい、鎮圧部隊に加わるべし。敵戦力は下級兵士が八百万、市民等などの蹶起した勢力の市民軍が一千万、解放された各勢力の捕虜が二百万。所持機動兵器は八十万機、所持宇宙軍艦艇は二十万隻以上、その他通常兵器が八百万以上。大量破壊兵器の詳細に関しては不明。尚、アスターは比較的惑星同盟軍の近い領土にあるため、情報部はこの叛乱を同盟軍の裏工作によって引き起こされた物だと推測している。敵戦力が増加する可能性があるので考慮されたし。柔軟な対応策を持って心して当たれ”」

 

 読み上げた大隊長は書類を下げ、先の情報の付け加えをする。

 

「第2中隊の諸君等はここへ来て、命令書が出される前にこの叛乱を知っている事だろう。だが、状況は悪い状況へと傾いている。同盟方面の絶対防衛線の付近にて、同盟軍の艦隊が集結中だ。これは確実に攻勢の準備であり、手薄になっている防衛線を抜けて防衛線方面の鎮圧部隊の背後を取って、鎮圧部隊を撃破し、我々の矛先もそちらへ向けて排除した後、アスターを侵攻の足掛かりにする根端だろう。だが、その前に我々が叛乱軍を殲滅し、突破してきたであろう同盟軍も殲滅する!以上だ。解散してよし」

 

 大隊長の付け加えが終わったところで、全員がバラバラに解散した。整備中隊は元の作業へ戻り、パイロット達はそれぞれの場所へと戻る。ザシャも三人の部下と共に移住区へ戻ろうとしたが、嫌みな目線を向けられていることに気付き、敢えて振り返らないようにする。

 だが、何かの物を当てられ、振り向いてしまった。そこには、自分を見下すような目線を向けて嫌悪感をするような笑みを浮かべた青年が三人ほど居た。

 

(ヒヨコ)小隊、まだ生きていたのか。先程の魔法至上主義のアホ共との戦闘で、戦争知らずのアホが大量に乗った船にぶつかって死んだのかと思ったよ」

 

 腕組みをしながら、ラディスラオ・デ・アルタミラーノと呼ばれた青年はザシャへ向けて吐き捨てた。何の反応のない彼女に腹を立てたのか、ラディスラオは舌打ちしたが、取り巻きの二人がザシャに突っ掛かった。

 

「まさかアホの魔法使い共の船を何十隻も沈めたくらいで調子に乗っているのか?フッ、俺なら一万隻以上沈められるぜ!」

 

「おい、聞いてるのか?!ヒヨコ!」

 

 突っ掛かってくる取り巻き二人に対し、ザシャは無言を貫き、上官に習って千鶴、チェリー、ペトラも無言を貫く。

 

「フン、無視か。まぁ良い、お前は所詮、教官に媚びへつらうしか脳のない無能な女だ!精々ニワトリにでもなれるよう努力するんだな!」

 

 

 返す言葉も返してこないことを良いことに、ラディスラオは心にもない言葉をザシャへぶつける。ザシャが言い返そうとした途端、桃色の長髪を持ち、マリに負けないくらいのスタイルを持つ女性が上品な笑いを上げながら割り込んできた。

 

「オッホホホ!A小隊の貴方達が、最下級のH小隊の面々に寄って集って罵倒するのが我が第1中隊の中でエリート中のエリートである貴方達の振る舞いですの?」

 

「なんだと!?C小隊の分際でこの痴女が!」

 

 取り巻きの一人が彼女の着ているボディラインをさらに強調させているパイロットスーツを見て罵倒の言葉を投げ付けるが、育ちの良い彼女は特に怒ることなく長い髪を振り払ってから言葉を返す。ちなみに彼女の名前はエルミーヌ・レオニー・ド・バルバストル。

 

「あらあら、それがエリートである人へ投げかける言葉ですか?周りを見下すことしかできなくて?」

 

「クッ、この変態女が・・・!行くぞ!」

 

 ラディスラオはこれ以上エルミーヌに関わりたくないのか、取り巻き二人を連れて何処かへ去った。

 

「エリートらしい言葉遣いを身に着ける事ですのよ~」

 

 何処からか取り出したハンカチで、A小隊の面々を見送った後、ザシャ達に視線を向けた。

 

「テーゼナーさん、ああいう輩には無視が一番ですのよ。例え相手が肩を掴んできても、振り払うこと。その対応は良くって?」

 

「は、はい・・・」

 

 自分より6㎝は高い気品高い女性に、ザシャはただ返事をするしか無かった。エルミーヌが身に着けているパイロットスーツは動く度に彼女の大きな胸が揺れ、浮き出ている肌も衣服を着ていないように浮き出て、例え同性でも目のやり場に困る物である。

 

「よく分かってまして?特に貴方にはそう近い将来に後の私の部隊に入ってもらい、部下になって貰う予定なのですから、背中から撃たれて死んでしまうのは勘弁して欲しいですわ。それまでに決して死なぬように、お願い致しますわね。それでは、ごめん遊ばせ」

 

 言いたいことを伝え終えると、エルミーヌは勝手に去っていった。

 

「はぁ、そんなの私聞いてないよ・・・」

 

 勝手に自分の将来を決めた女性に対し、ザシャは溜め息をついてから愚痴を漏らした。部下の一人であるチェリーが先程の事を聞いてくる。

 

「あの・・・隊長さんはそんな約束をC小隊の隊長さんとしたんですか?」

 

「違うよ。軍の幼年学校であっちが勝手に言ってきただけ・・・」

 

「同じ学校のお友達だったんですか。とても常人では着れそうもないあの服を着こなしている方とは思えません」

 

「うん、昔からあんなのだから」

 

 ザシャは苦笑いしながら答えた。軽空母アスラは護衛艦と共に武器弾薬の補充と補給を終えるまで待機する。

 その途中にマリ等を乗せたシャトルを回収すると、上がってきた他の艦艇と共に、アスターへと向かった。




今回も濃くなったな・・・(小並感)

~今週の中断メッセージ~
登場したロボットの簡単すぎる解説。

F-4
現実のF-4戦闘機じゃない戦術機の方。
文章では最初に出てただけ。実はアグレッサー部隊に盾を持っているのが居た。

F-14 トムキャット
現実のF-14戦闘機じゃない戦術機の方。
都市迷彩が出て来た。

F-15E ストライク・イーグル
現実の戦闘爆撃機に改造されたF-15戦闘機とは違う戦術機の方。
マリの搭乗機となり、見事勝利したが、無理させすぎた所為で間接がぶっ壊れた。

MiG-25
現実のMig-25戦闘機とは違う戦術機の方。
これも都市迷彩、ボールをぶつけられて倒されるジムみたいにやられた。

F-15J 陽炎
現実の日本製F-15戦闘機ではなく、戦術機の方。
平たく言えば長い片刃持ったF-15。
その長刀はマリに有効活用された。

グリペン
スウェーデン王国で開発された戦術機。
マリを案内した女性士官が登場していた。
僚機の二機は現実の戦闘機じゃない方のF-16とMiG-29。

ラファール
現実のフランスの戦闘機じゃない戦術機の方。
ド素人のシューベリアが乗って、瞬殺される。
実はアグレッサーの中に居たりする。

ジェガン
連邦軍が実戦投入から30年間も使い倒したMS。
アグレッサーでは鹵獲した物をスプリッター迷彩型して、3機投入された。
「この大型ジェガンは無理だ!」
今年発売されたサイドストーリーズで動かせる。

ギラ・ドーガ
シャアが隕石を地球に堕とす際にアナハイム社に発注したMS。
鹵獲した物の色は青色にして、3機が投入された。
ジェガンと同じく、サイドストーリーズで動かせる。
フルレベルのガンダムのビームライフルで一発で壊れない。

ザクⅡ改
バーニーが乗っていたザクの改良型。
文章では一切でないが、いつの間にかやられている。

ザクⅡF2型
0083に出て来るザクの後期型。
ジオン残党で運用された。作者が好きなMS。
文章に出ないままやられている。

ジム改
0083に出て来るジムの後期型。
ぶっちゃけ一年戦争の末期で投入されてる。
こいつもキングクリムゾンされていた。

ジン
SEEDのザク的存在なMS。
鹵獲した物を使用。出ないがやられている。

ストライクダガー
SEEDのジム的存在なMS。
鹵獲した物を使用。こいつも出ないがやられている。

ジェノアス
AEGのジム的存在なMS。
鹵獲した物を使用。こいつも文章に出ないままやられた。

グラスゴー
コードギアス 反逆のルルーシュに登場するナイトメアフレーム。
本編では序章か専用機か派生タイプしか出ない。
何故かワルキューレが所持しており、アグレッサーとして投入された。

サページ
フルメタルパニック!に出て来るソ連のアームスレイブ。
本編ではやられ役で、主人公も乗っている何処でも流通する冷戦時代の東側世界特有の大量生産品。
この二次元作ではボールにされた(笑)。

M6
アメリカのアームスレイブ。
これも大量に生産され、本編でもやられ役であり、西側諸国の国々で配備されてる。
この二次元作では、文章にないままやられたことにされた。

ゴドス
共和国の恐竜型小型ゾイド。
ゴジュラスの小型版だが、アニメでは単なるやられ役。
誰かが乗ると異常に強くなる。作者が好きなゾイド。
だが、文章では出ず、やられたことにされる。

イグアン
帝国の恐竜型小型ゾイド。
ゴドスに対抗するため、ゴドスを帝国がコピーして実戦投入した。
アニメでは一切出て来ない、しかもこの二次元作でも出ない(笑)。

コマンドウルフ
共和国のオオカミ型中型ゾイド。
扱いやすさから長年現役であり、改良されつつ長く現役の座に居座っている。
アニメでは全作品登場しており、ジェネシスを除いて主人公側のゾイドを務めてる。


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初陣。

これは、主人公補正掛かりすぎやな・・・それに幾つかネタが・・・

戦闘のイメージBGM→http://www.youtube.com/watch?v=lMn0UO0omIs

※書き直しました。


 叛乱軍に占拠された惑星アスターへと向かう軽空母アスラの格納庫(ハンガー)にて、特別な機体が運び込まれた。

 全長20mで特徴的な角と顎が付いたMS、マリがシミュレーションで動かしていた(ゼータ)ガンダムだ。

 この特徴的な可変MSを見たラディスラオは自分のエリート意識の余り、自分の為に用意された機体だと誤認する。

 

「こ、この機体は俺のために配備された物か?!」

 

 近くで作業していた整備兵を捕まえ、興奮しながら問う。

 

「ち、違いますよ・・・!あの機体は、シャトルに乗ってきた情報部のあの・・・」

 

「なんだとぉ!?」

 

 自分の物ではないと知るや、ラディスラオは整備兵を殴り付けた。

 

「何故だ!何故俺は選ばれないんだ!?俺はA小隊の隊長だぞ!!」

 

「ひっ!?す、すみません!」

 

 殴り付けてられて倒れ込んだ整備兵は殺されるかと思って恐怖し、怒るラディスラオを置いてその場から逃走した。怒りをぶちまけたラディスラオはZガンダムの搭乗者を知るため、近場にいた下士官を捕まえ、胸倉を掴みながら問う。

 

「おい!あの機体の搭乗者は誰だ?」

 

「た、確か、上層部のアップルビー少佐の・・・ヴァセレート上級大尉だったはずです・・・多分、移住区にいるかも・・・」

 

「そうか、なら俺の機体を整備しに行け」

 

 掴んだ手を離し、移住区へと向かう。ラディスラオは移住区にマリが居ると思ったが、生憎と彼女は食堂で珈琲を飲んでいた。

 

「ふぅ・・・いつ着くのかしら?」

 

 一口飲んだコーヒーカップを机に置き、壁に掛けられた時計を見る。近くに灰皿を置いて、煙草とライターを取り出し、一服しようとした途端、なんらかの資料に目を通しているザシャを見付けた。

 

「なに見てるのかな?」

 

 吸ってから吐いた後、ザシャの元へ寄り添う。煙草と香水の臭いで気付いたザシャは直ぐに振り替える。

 

「敵に拿捕された要塞や防衛用設備の配置ですけど・・・」

 

「そう。この大きいのと小さいのって?」

 

 ザシャが見ている資料は偵察情報で、詳細な敵配置が記された図だ。身体を寄せて聞いてくるマリに、ザシャは正確に答える。

 

「大きいのが要塞で、小さいのが防衛設備です」

 

「へぇ~、こんなの見て楽しい?」

 

「命が掛かってますから・・・」

 

 慣れない相手に答えるザシャに、マリは配置図を見ながら次の質問をする。

 

「全部覚えたの?」

 

「はい、覚えました。アスターのも。なにか?」

 

「私も覚えられるけどさ。私はつまんないけど」

 

 小首を傾げるザシャに、マリは隣にあった椅子に座りながら告げる。

 

「人間って言うのは、意識下でもの凄い量の情報を無意識に処理ものなんです。だから、つまり・・・ちゃんと理解してるし、覚えてるんです」

 

 そう言ってザシャは微笑むのだが、彼女と同じく才能に溢れたマリは理解した物の、余りつまらなさそうだった。

 

「地図を眺めているのは楽しいことですよ。その土地の天候と気候帯、地域性、動植物の分布を理解して、標高を思い描けば、どんな場所でも大抵は想像できます。そう言ったことを考慮し、頭に叩き込めば飛ぶときに応用できますので」

 

「もっと女の子らしい趣味とか無いの?あんた。私なんかも覚えられるけど、見ててなんかストレス溜まるだけだし」

 

 簡単に言うザシャに対し、マリも簡単にできることだが、彼女は軍人でも飛行士でも無い上、地図などに一切興味を示さない。

 

「友達とかさ、あのでっぱいと声の小さいロリっ娘、あの態度悪いの三人以外他に居ないわけ?それと他に趣味とか無いの?」

 

「そ、それは・・・」

 

 無神経に聞いてくるマリに、ザシャは返答に困る。彼女はその有り余る才能で苦労していた。

 幼い頃から外部と切り離され、寄宿学校(ボーディングスクール)で猛勉強し、彼女は大学を十代で飛び級する。

 生まれの土地で名門の大学に進学した年若い少女であった彼女は、看護師になる為の勉強を続けていた。

 ザシャの才能に目を付けたワルキューレの能力至上主義者は、ワルキューレの軍学校へ入学させられた。それまでは看護師の資格を取る為に勉強していたというのに、親の名誉欲しさに放り込まれる結果となる。

 親に逆らうことなど自分の出身地ではあり得ないことであり、やむなく彼女は軍事訓練を受けることとなった。自分をワルキューレに引き入れた本人と面会した際、本人の口からこう告げられた。

 

『お前は特別な才能を持っている。そんな自分で身動きの出来ない奴のクソ処理をする職業より、才能で俗人共を従わせるここへ来た方が良い。お前には凡人を遥かに超える才能がある』

 

 そう告げられたザシャは直ぐさま辞表を出したが、上層部は全く応じず、保留となった。

 無能なふりをして辺境の場所へ飛ばされるも、自分を引き入れた者に見付かり、ザシャにとっては地獄な競合部隊に配属されて今に至る。そんな彼女には戦友と部下達以外、友人と呼べる者は居なかった。

 自分のように小柄な女性軍人は無数に居るも、部下や整備兵以外禄に口など聞いたことがない。

 

「・・・私にはそんな物はありません」

 

 返答して黙りしたザシャに、マリは席から立ち上がってから溜め息をつく。

 

「ハァ・・・それ以外の趣味とか持ちなさい。色々あるでしょ?あんたの可愛い部下達に聞きなさいな」

 

「でも・・・」

 

「あんたも女の子でしょ?そう言う趣味とか持って良いけど、なんかアレっぽいし。もうちょっと女の子らしいの持ちなさい」

 

 口答えをしようとするザシャの話しも聞かず、マリは珈琲を飲み干し、煙草を灰皿に置いてから食堂を出た。食堂を出たマリに「他の趣味を持て」と言われたザシャは少し悩む。廊下を歩いている最中、彼女を探していたラディスラオと出会した。

 

「上級大尉殿、あのZガンダムの搭乗者は貴方ですか?」

 

 不敵な笑みを浮かべながらラディスラオは問うが、マリは無視して士官用移住区へ帰ろうとする。

 

「待ってくださいよ、上級大尉殿。質問に答えてください。それと、稼働時間は?」

 

「はぁ、四十分くらい?」

 

 溜め息をついてから立ち去ろうとするマリに、ラディスラオは怒り、自分より10㎝程は低い彼女の胸倉を掴む。

 

「よ、四十分だと!?ふざけるな!四十分如きであの高性能機が預けられる物か!!」

 

 怒り心頭に怒鳴り付けてくるラディスラオに対し、マリは腹に膝蹴りを入れて引き離した。

 

「うぉ!?貴様ァー!!」

 

 逆上して殴り掛かってくるラディスラオに対し、マリは飛んでくる拳を避け、頭に強力な蹴りを食らわせ、失神させた。廊下に183㎝の鍛え抜かれた男が倒れると、マリは掴まれた部分を直しながら、自分の部屋がある移住区へと帰って、前線に着くまで寝ることにする。

 

『当艦は目的地であるアスターへ到着した。これより第一戦闘配備に入る。各パイロットは格納庫(ハンガー)へ集合せよ』

 

 マリが寝ている間に着いたらしく、知らせのアナウンスが寝ている部屋まで届いてくる。自室を出てみると、廊下ではパイロットスーツや宇宙服などを身に着けた将兵達が慌ただしく動いていた。自分の部屋から出て来た者達まで居る。

 

「着替えよ・・・」

 

 部屋に戻り、ロッカーに入っていた自分のパイロットスーツを取り出す。

 

「あのエロスーツよりマシね」

 

 そう呟き、パイロットスーツを身に纏い、ヘルメットを左手に持ちながら部屋を出た。欠伸をしながら廊下を歩き、外の状況を確かめるために窓を覗いた。既に戦闘は開始されており、ここからでは主戦場は傍観できなかったが、流れてくる残骸や流れ弾を見る限り、大規模な戦闘が行われているようだ。

 窓から離れてデッキへ向かうと、着く頃にはもうブリーフィングが始まった後だった。ヴァンキッシャー隊の長であるチムーロヴィチ・ボギンスキーが、集まった各小隊長と中隊長に敵の配置図の解説を行っている。

 

「遅いですよ。皇帝陛下」

 

「はいはい」

 

 ノエルからの注意に、マリは生返事をしながら空いている席に座る。しかし、途中で眠りこけてしまい、ブリーフィングはマリが起きる頃にはもう終わっている後だった。

 

「起きてください。もうブリーフィング終わっちゃいましたからこれを」

 

 少し機嫌の悪いノエルは起こしたマリに資料を渡し、何処かへ去った。

 

「何をしている!早く機体へ搭乗しろ!!」

 

 チムーロヴィッチの怒号で、マリは自分のためにわざわざ用意させたZガンダムのコクピットへ入り、シートへ座った。機体を作動させると、全天周囲モニターに外の映像が映し出された。重力装置が切れたのか、専用の宇宙服を着た整備兵達が周囲を舞っている。

 持ち込んだ音楽プレイヤーであるウォークマンをスーツ内に忍ばせ、イアフォンを耳の穴へ入れ込む。

 

「なにもそんなに怒鳴らなくても・・・」

 

 そうぼやきながら、誘導員の指示に従ってカタパルトまで機体を動かす。カタパルトに機体の両足を付けると、通信機でツチラトを呼び出した。

 

『はい、なんすか?』

 

 目の前の計器用のモニターに、ツチラトの正面が映った映像が映し出される。

 

「ねぇ、こういう時ってさぁ。どう言うの?」

 

『そりゃあ・・・行きまーす!とか、出る!とかじゃないすっか?』

 

「へぇ~、そう。じゃあ」

 

『それだけで呼んだのかよ・・・』

 

 最後にツチラトの愚痴が聞こえた後、マリは通信を切った。通信機から戦闘オペレーターの声が聞こえてくる。

 

『それでは、まず第1中隊、どうぞ!』

 

 目の前のモニターに、発進した第1中隊の機体が見えた。続いて第2中隊の機体もカタパルトに着き、次々と発艦していく。

 

『次は・・・あぁ、新兵さん?取り敢えず、死なないように』

 

「私だけなんで適当なんだか・・・」

 

 長い髪を一つに縛り、ヘルメットを被ってからバイザーを閉めると、乗った場所がエレベーター式であったのか、上へと上がる。上がった場所は飛行甲板であり、外の状況が確認できる。

 

「花火みたい・・・」

 

 花火のように、点いたり消えたりする爆発に目を奪われたマリは、オペレーターの声で我に返る。

 

『新兵さん、発艦(はっかん)の準備ですよ』

 

「うん。じゃあ、行ってくる」

 

『出しゃばらないようにお願いします』

 

 オペレーターに伝えた後、突然ノエルが通信に入ってきたので、一応返しておいた。

 

「分かってる」

 

 近くにカウントダウンが記された電子看板を見付ける。カウントが0になると、カタパルトは凄まじい勢いでレールに沿って進んだ。強いGが身体を襲うが、機体とパイロットスーツの御陰か、全く痛みを感じなかった。

 カタパルトの御陰で一気に先行していたヴァンキッシャー隊に追い付いた。機体を変形させて自動操縦にした後、ノエルから貰った資料に目を通す。

 

「敵はこちらの五倍?”主力部隊が降下部隊を降ろし終えるまで敵の主力を惹き付けよ”って、囮なの、私ら。まぁ、全部片付けちゃっても問題無いよね」

 

 そう呟いてから資料を仕舞い、左右にある操縦桿を握った。前線へと向かっている間、チムーロヴィッチの通信が入ってくる。

 

『良く聞け。先程のブリーフィングで言ったとおり、敵の数は膨大だが、何の訓練も受けていないただの烏合の衆だ。数で劣っている我々でも十分生き残れる。第154艦隊の到着まで持ち堪えれば良い』

 

 チムーロヴィッチからの通信が終わると、マリはパイロットスーツの上着を開き、ウォークマンを左手に持ち、曲を選択して、それを再生させた。再生させて前奏が始まると、ウォークマンをパイロットスーツに仕舞い、上着を閉める。耳元で曲が流れる中、ツチラトの声が入ってくる。

 

『なんだありゃ、動く戦争博物館か?』

 

『良い物はみんな下級兵士の連中が持ってたんだろ。あいつ等は良い装備を持ちたがるからな』

 

『あぁ、それもそうか。あいつ等口だけは達者で、役に立たないからな』

 

 ジョンの答えにツチラトは納得する。ちなみに、彼等が乗っている機体はVF-19エクスカリバーと言う可変戦闘機の一種だ。通常のパイロットでは乗りこなせないが、彼等は特別であり、乗りこなせる。隊長機はAかSで、隊員機はEかFである。

 全機戦闘機状態へ変形しており、前線へと向かっている。数分もすれば前線へ到着し、様々な敵機がこちらへ向けて攻撃してきた。

 

『各機散会!出来る限り敵を落とし続けろ!』

 

『了解!』

 

 通信機からチムーロヴィッチの指示が飛んできた後、各員は散会して群がる敵機に襲い掛かった。

 宇宙専用装備を身に着けた全長4m程のAT(アーマード・トルーパー)と呼ばれる小型の人型兵器の類であるスコープドックが、専用のマシンガンをマリのZガンダムに向けて撃ちまくってきた。

 

「あのちっこいのは蹴りで潰せそう」

 

 そう考えたマリは機体を人型に戻し、スコープドックに蹴りを入れて破壊した。次に同型が三機も襲ってきたが、頭部バルカンで蜂の巣にして撃墜する。装甲の薄いATでは、60口径のバルカン砲に耐えられるはずもなく、三機とも爆散した。

 

「腸をぶちまけろ!」

 

 爆散するATへ向けてその台詞を吐くと、VF-1バルキリーと呼ばれるVF-19よりも古い可変戦闘機が複数現れ、こちらへ向けて主兵装であるガンポッドを撃ちまくってきた。

 

『な、なんだこいつ等、装備も酷い上に腕も酷いぞ!』

 

 ジョンの通信が耳に入ってきた。彼の言うとおり、余りにも酷い動きをしており、射撃も全く当たって居らず、同士討ちをする敵機が居るほどだった。

 ビームライフルで適当に撃つと、勝手に当たって命中して他の味方を巻き込んで大破した。後ろから攻撃が来たが、これも容易に避けられ、攻撃してきた戦闘型のポッドであるボールはビームライフルで潰される。

 

「なんか、もう全部やっつけられる気がしてきた」

 

 余りの弱さにマリは敵を全滅させられる気がしてならなかった。A小隊のラディスラオ達は敵中に突っ込み、次々と敵機を堕としているようだ。C小隊の長であるエルミーヌの暴れぶりも凄まじく、敵機が向かう度に破壊されていた。

 

「あっちも大暴れね」

 

 ザシャやツチラト、ジョンを含めた第2中隊も、第1中隊に負けないほど敵機を次々と敵機を堕としている。敵機が多く群がっている方向へ向き、カメラを拡大して艦艇や機動兵器がゾロゾロしていることを確認した。

 

「私も!」

 

 スラスターを噴かし、敵陣のど真ん中へと突っ込んだ。敵からの総攻撃が来るが、マリの人の領域とは思えないほどの操縦技術で回避される。敵機が迎撃のために次々と向かってくるが、ビームライフルを当てられて次々と堕とされていく。

 

「なんだあいつは!?」

 

「と、止めろ!」

 

 敵艦のブリッジに艦長達は主砲などの一斉射撃を行うが、乗員の大半が訓練不足の素人であり、全く当たらなかった。だが、下手な鉄砲でも数撃てば当たるので、ビームやミサイル、砲弾の弾幕が激しくなってくる。

 流石に避けきれなくなってきたので、左手にビームサーベルを取り出し、それを前方に投げた。サーベル本体に向けてビームライフルを発射し、ビームを拡散させて攻撃を防ぎ、突っ込んでくる敵機をも堕とした。

 

「ビーム・コンフィーズ!」

 

 それを行ってから、マリは敵艦隊のど真ん中に突っ込み、対空弾幕を避けながら急所にビームを撃ち込んで次々と敵艦を沈めた。

 

「本当に稼働時間三十分かよ・・・主人公補正すげぇーな・・・」

 

 近場で戦闘をしていたツチラトは、敵機や敵艦を次々と堕としていくマリを見て呟いた。そんな彼に、敵機が四機ほど襲い掛かってくる。

 

「わ、我々には神が()いているのだ!あんな奴等など我々には・・・!」

 

 この通信はツチラトを初めとした周囲にいた者達に聞こえていた。通信を聞いたラディスラオは大いに笑い、敵を愚弄した。

 

『ハッハッハッ!神が憑いているだと?貴様等ゴミ共に神は憑きなどしない!俺達のようなエリートに神は憑くのだ!!』

 

「こいつの言い方にはむかつくが、その通りだ。神様は主人公みたいな奴にしか憑かない。非情だよな!」

 

 向かってくる敵機へ向けて、大腿部ビームカノンを撃ち込んで、向かってきた敵機を全て堕とした。ザシャの方は変形もせずに次々と来る攻撃を回避し、敵機や敵艦を的確に沈めている。操縦センスはマリの方が化け物じみているが、それに負けないほどであり、単なるド素人集団の中で良い動きをする老兵が乗った敵機をも堕とした。

 

「ろ、老兵が乗ったザクが破壊されたぞ!」

 

「奴は俺達の手には負えない!」

 

 捕虜収容所から志願した捕虜になるまでは現役のパイロットな者達ですら、ザシャには遠く及ばなかった。ましてや、自分等に神が憑いていると考えている下級兵士や市民軍等には、彼女に敵うはずもない。マリからしてみれば、敵は単なる雑魚集団にしか過ぎなかった。

 

「はいだらー!」

 

 敵陣の中で次々と来る敵機や敵艦を堕とし続け、自分の周囲でスクラップ場を築いていた。ザシャを除くヴァンキッシャー隊や他の部隊は損傷して後退しているにも関わらず、マリだけは異様なほど撃墜数を稼いでいる。

 

「本当に人間が乗っているのか・・・?」

 

 左手と右足を紛失したVF-19に乗ったチムーロヴィッチは、鬼神の如く強すぎるマリの戦いぶりを見て、人が乗っているかどうか疑う。実際、彼女はチムーロヴィッチが思った通り、既に人間ではない。ヴァンキッシャー隊が損傷のために殆ど後退した後、増援の味方艦隊が前線に到着した。

 

『こちらは第154艦隊提督澁谷だ。この戦線は我々が引き継ぐ、まだ戦闘可能な部隊以外は後退して宜しい』

 

「ふぅ・・・疲れた。後は勝手に後続の艦隊がやってくれそうだし。休憩しようかな」

 

 通信機から女性の声が流れてきたので、三十隻編成の敵二個艦隊と多数の機動兵器や迎撃機、防衛設備を破壊し尽くしたマリは、機体を変形させて母艦である軽空母アスラへ帰投した。

 彼女が乗ったZガンダムが立ち去った後には、大量のデブリと化した敵機と敵艦が宙を舞っていた。帰る最中、多数の味方の艦載機が残った敵の排除へ向かっているのが見える。母艦に辿り着くと、作業員達が現れ、補給作業を開始する。

 作業員達や整備兵達が補給作業を行う中、ノエルからの通信が入ってくる。

 

『無事にご帰還できて良かったです。このままこちらに戻ってきても良いですよ。もうヴァンキッシャー隊も死傷者も居ませんが、機体は損傷してますし、それに今来た艦隊の戦力で十分だと思います。もう純分だと思うのですが』

 

「えっ?まだまだやるつもりだけど」

 

 ノエルの請いを蹴ったマリはヘルメットのバイザーを開いて、ストロー付きのドリンクを口に含んだ。

 

『まだやるつもりなんですか・・・被弾も殆どしてないテーゼナー少尉の方は披露で戦線離脱ですよ』

 

 モニターに疲労困憊のザシャの映像が映し出され、マリに戦線離脱を勧める。だが、次なる敵が現れる。

 

『艦長、新たな敵影を多数確認。後方からです!』

 

『敵影が多数?同盟軍の艦隊が防衛線を突破してきたか!本部へ連絡しろ!』

 

『こ、これは、忘れてください!』

 

「あら、さっきのよりもマシなのが来たようね」

 

 ノエルがブリッジに居るため、中のやり取りがマリの耳に届いてしまった。これを聞いた不敵な笑みを浮かべ、補給作業がいつ終わるのかを問う。

 

「補給はいつ終わるの?」

 

『はっ、後二分で終わります』

 

「そう言うわけ。なんかさぁ、全部やっつけられる気がするの。それに力が沸いてくるし」

 

『ハァ、貴方には負けますよ・・・痛い目を見ても知りませんよ』

 

 溜め息をついたノエルからの通信が切れると、整備班長からの通信が入る。

 

『上級大尉、ハイパー・メガ・ランチャーを持って行ってください。これなら、同盟軍の戦艦も急所に当てれば沈められます』

 

 整備班長の通信が終わった後、近くに大型の携帯式ビーム砲が飛んできた。それを手に取り、補給作業が終わったのを確認し、現れた同盟軍の艦隊の迎撃に向かう部隊に加わる。ヴァンキッシャー隊の誰もついてこず、迎撃に向かったのは補給を終えたばかりの先程共闘していた部隊の機体ばかりだ。

 戦場に到着すると、叛乱軍とは違う同盟軍の現役の戦闘機や攻撃機、人型兵器が出て来る。やはり正規軍の訓練を受けたパイロット相手では軽い損害では済まなかった。同盟軍のパイロット達の動きを見て、マリは少し褒める。

 

「さっきの連中より腕も装備は良いのね」

 

 変形した状態で攻撃機をビームで撃墜すると、突っ込んできた重巡洋艦に向けて、ハイパー・メガ・ランチャーを試し撃ちする。強力なビーム砲が急所へ命中すると、重巡洋艦は一撃で沈んだ。

 

「結構な威力があるのね」

 

 手に入れたビーム砲の威力を知って、敵艦を何隻か沈めた後、向かってくる多数の敵機に、補給の際に取り付けられた小型ロケット弾を一斉に放つ。先程の叛乱軍の殆ど訓練も受けていないパイロット達なら全滅できたが、同盟軍の現役のパイロット達には聞かなかった。

 だが、何機か損傷は負わせることに成功し、動きが鈍くなった敵機をビームライフルで仕留めた。敵は動揺することなく、ビーム攻撃を仕掛けてくる。マリはビーム攻撃を巧みに回避し、ライフルで敵機を堕としていく。彼女の操縦センスは現役のパイロット達ですら敵わなかった。

 

「こいつ、エースか!?」

 

 ザクウォーリアに乗ったパイロットはマリの人間の領域を超えた動きを見て、ワルキューレで名のあるエースパイロットだと勘違いする。無論、彼女はこれが宇宙における初陣であり、MSを動かしたのは三十分程度である。彼が乗った機体はグレネードランチャーを受けて撃墜された。

 その後のマリが敵機を堕としていく内に、機体が何かの力を帯びていく。

 

「なんだろう・・・?力が、高まる・・・」

 

 力を帯びていくことに気が付いたマリは、機体が何かのオーラを纏っている事に気が付いた。やがてオーラは機体全体を包み込み、艦載機のビームや戦艦のビームなどを弾くほどになる。

 

「び、ビームが効かないぞ!?」

 

「ならばミサイルを撃て!」

 

 ビーム攻撃が効かなくなったZガンダムに、艦艇や実弾兵器を搭載した艦載機は一斉に撃ち始めるが、チャージされたハイパー・メガ・ランチャーの掃射で数隻ほどの艦艇ごとミサイルを全滅させる。

 ビームサーベルを取り出し、ビームを発生させてみると、長大にビームが伸びた。

 

「こんなのが出来るんだ・・・」

 

 長大に伸びたビームサーベルを見て、マリは縦に振る。ビームを縦に振れば、何隻かが縦に一刀両断され、敵機も両断された。

 

「これなら・・・こいつら全滅させられる・・・!」

 

 長大に伸びたビームサーベルの威力を見て、同盟軍の艦隊を全滅させられるとマリは判断した。連続でサーベルを振り、敵機や敵艦を纏めて両断し、次々と破壊していく。同盟軍もなんとか反撃しようと思ったが、随伴した味方機諸共撃破された。

 サーベルで何十機と何十隻も切り裂いて沈めていくと、かなりの損害を受けた同盟軍の艦隊は撤退を始めた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・これで終わり・・・?」

 

 撤退していく同盟軍の艦隊を見て、マリは戦闘が終了したかレーダーで確認する。見事に黄色と赤色の反応は消えており、通信機から戦闘終了の知らせが聞こえてきた。通信の内容によれば、叛乱軍の残存戦力は武器を捨てるか、白旗を揚げて降伏したようだ。

 

「ふぅ・・・終わった・・・」

 

 戦闘が終わったことを確認したマリはZガンダムを変形させ、母艦であるアスラへ帰投した。




改めて思うと、Zガンダムはオーバースペック過ぎ。乗っているキレる若者がニュータイプの中で最強な所為だけど。

まぁ、Gジェネでも後の時代の機体より断然強いし。

それとsakuraさん、ザシャちゃんをあんまり活躍させなくてすみません(汗)。
本編の地図の件も入れ込んでしまいました・・・(汗)。

~今回の中断メッセージ~

今回入ったネタ一覧。

アムロ「アムロ、行きまーす!」

クワトロ「クワトロ・バジーナ、百式出る!」

アーチャー「別に倒してしまっても構わんのだろ?」

斗貴子「腸をぶちまけろ!」

ケン「はいだらー!」


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空で一番ヤバイ奴

長くなったので、二話分に分けて投稿します。

今回はHALOからUNSCとコブナント軍が登場し、自分で考えたオリジナルのリアルロボ物の戦闘ロボが登場します。

名前はチャット仲間に決めて貰いました。まぁ、名前は被っちゃうけど。

※機体に統一性が見られないとして、書き直しました。


『こちらブラックキャッスル。全機、降下用意。降下後、地上の敵の掃討に当たれ。ヴァンキッシャーのGとE小隊は地上支援に当たれ。オーバー』

 

宇宙における戦闘が終わった後、マリとヴァンキッシャー隊は軽空母から揚陸艦に乗り換え、惑星アスターの地上における残敵排除に加わった。連戦で披露している筈のヴァンキッシャー隊だが、前にも連戦に次ぐ連戦を経験してきたのか、少しの休憩で体力が回復したようだ。

 マリは(ゼータ)ガンダムからスペックがさらに劣る戦術機に乗り換える。機種はEF-2000タイフーンと同じ名を持つ第三世代機だ。またあの専用の強化装備を着用しているので、不満を抱いている。

 ちなみに、乗っていたZガンダムは宇宙の戦闘で操縦系統が異常を来し、受理された整備場へ送り返された。

 ヴァンキッシャー隊の所持していた機体も損傷が激しく、余っていた機体にそれぞれ乗り合わせていた。

 第1中隊のA小隊はティラノサウルス型ゾイドであるジェノザウラー、B小隊は百式と呼ばれるMSの改良型の量産機である量産型百式改、C~D小隊は戦術機ラファール。

 第2中隊のE~G小隊は可変戦闘機のVF-11Cサンダーボルト。H小隊はハーディガンと呼ばれる半永久機関レインボーエネルギーで動く連邦・同盟に現役の人型兵器に乗り込んでいる。

 ザシャだけは大戦時ドイツ空軍の単発爆撃機Ju87スツーカとフォルムが似た新型可変機であり、他三人はラタトスクと呼ばれる全長23m可変系攻撃機型ハーディガンだった。大隊長もハーディガンだが、地上専用機で他二人の中隊長はG小隊と同じVF-11である。

 

「バラバラね・・・」

 

 格納庫から見える機種がややバラバラな各機をカメラ越しで見たマリはそう呟く。降下まで残り数分となり、目の前のハッチが開いた後、降下中止を知らせる通信が入る。

 

『ブラックキャッスルより各降下部隊に告ぐ、降下は中止だ。降下予定ポイントにこの星から脱出しようとする同盟軍の艦艇を確認、コブナント軍だ。航空戦力のみ発艦せよ』

 

『おいおい、大型の艦艇まで侵入してのかよ。絶対防衛線ゆるゆるじゃねぇーか』

 

 通信にツチラトの突っ込みが入り混じった後、航空機が可能な戦力が揚陸艦から発進していく。

 

『テーゼナー少尉。貴官の搭乗機は、大戦下のドイツ空軍の単発爆撃機ユンカースJu87スツーカを模した可変系ハーディガンだ。搭載されている機銃や爆弾は現行の物でミサイルも付いている。二人乗りは出来ないが、急降下爆撃も行え、ジェリコのラッパも鳴ると言う機能も備えている。完全に開発者の趣味で混じった新型機だ』

 

「なにそれ。完璧にネタ機体じゃない」

 

 チムーロヴィッチの通信を聞いていたマリは、ザシャが乗る新型ハーディガンを「ネタ機体」と表した

 

『無理に急降下爆撃をする必要はない。そいつの実戦データの収拾がお前の任務だ。鳥になってこい!』

 

『了解』

 

 ザシャがそう返答すると、彼女は部下達やG小隊、他の航空部隊と共にカタパルトで大空に舞う。開いたハッチの外から見える大空では、本隊の航空部隊と敵機との交戦しているのが見える。航空部隊が全機飛び去った後にマリは機体を動かし、G36を模した突撃砲を同機から奪ってハッチまで走る。

 

『おい、返せよ!』

 

 同じタイフーンに乗る衛士がマリの乗る機体の肩を掴んだが、彼女は振り払う。ハッチの直前に立つと、通信機から管制官の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

『レッヒャー1!まだ降下命令は出ていないぞ!!直ちに配置に戻れ!』

 

 怒鳴り声が聞こえてくるが、マリは無視して飛び降りようとしていた。

 

『誰かあの女を止めろ!ハッチを閉めろ、馬鹿が飛び降りようとしている!』

 

 管制官はマリを止めようと、手近な機体に指示を出し、ハッチを閉め初めた。だが、彼女の方が早く、マリが乗ったタイフーンはハッチから飛び降りた。

 

『ジャンプユニットを使って降りろ!レッヒャー1!!聞いているのか?!』

 

 未だに通信機から管制官の怒鳴り声が聞こえてくるが、マリは無視して真下にいる敵艦へと向けて降下する。異種な形の航空機がワルキューレの可変戦闘機や可変MS、航空機と死闘を繰り広げられていた。

 コブナント軍の主力戦闘機セラフ達の中に、ザフトが開発したディンと呼ばれる大気圏用MSや、似合いそうなヴェイガンのガフランやバクト、ドラドまで居る。

 さらにネオゼネバス帝国のカブトムシ型小型ゾイドサイカーチス、エイ型小型ゾイドシンカーすら居た。

 着々とコブナント軍の空母まで降下していくマリのタイフーンであったが、敵が見逃すはずもなく、異形の戦闘機が攻撃を浴びせてくる。

 

「凄い激戦じゃない」

 

 直ぐに両手に握った二挺の突撃砲で迎撃し、数機以上を撃ち落とす。続いてコブナント軍が保有する大気圏用MSやゾイドが襲い掛かってきたが、マリやワルキューレの機体に次々と堕とされてしまう。

 

『なにやってる!?早く母艦へ・・・』

 

 近くで友軍機のVF-11が変形して空中静止し、戻るように伝えた途端、敵機に撃墜された。撃墜したのは複数のディンであり、マリに向けて重突撃機銃や対空散弾銃、ミサイルを撃ってくる。他にもガフランやバクトまで現れ、ビームの弾幕を浴びせる。

 飛来してくるシンカーを足蹴にして、攻撃を巧みに回避する。空かさず反撃し、何機か撃ち落とした後、1450m級のコブナント軍の超空母へ着地した。

 

「なんて無茶苦茶な人なの・・・!?」

 

 危なっかしい方法でも、一発も被弾もせずに空母へと着地したマリの腕前を見て、ザシャは驚きの声を上げた。そんな彼女にも、複数の敵機が襲い掛かる。上からディンやガフランに、後ろからはサイカーチスにシンカーだ。

 どれもこれも従来の航空機から空を奪うような機体ばかりで、さらに戦闘ヘリのようなMSであるザンスカール帝国が開発したトムリアットや、同国で開発されたアインラッドと呼ばれるタイヤ型支援用メカに乗り込んだブルッケングまで来た。

 

「こんなふざけたのが空を飛んでるなんて・・・」

 

 空を飛ぶタイヤの集団を見て、ザシャは苦言を漏らした。彼女が乗っているのはスツーカの模した可変系ハーディガンであるが、後方機銃など付いているはずもなく、後方から迫る多数の敵機からビームの弾幕を受ける。

 

『変形しろ!ザシャ!!』

 

 シャロンが乗るVF-11が複数の敵機を堕としてからザシャに変形するよう命ずるが、彼女は無視して上や後ろから来る敵機の攻撃を回避し続ける。目の前で照準に入った敵機には、躊躇うことなく機銃攻撃を浴びせて撃墜した。

 

『隊長!援護します!!』

 

 チェリーが乗っている攻撃機型ラタトスクが変形し、後ろからザシャを追い回す敵機へ向けてビームマシンガンを撃ち始める。千鶴、ペトラの搭乗機も駆け付け、ある程度撃墜してザシャを包囲しようとしていた敵機を追い払うことが出来た。

 

「ありがとう。チェリーちゃん、千鶴ちゃん、ペトラちゃん」

 

 自機の後ろで編隊を組んだ三機にザシャは礼を言う。自分の上官が乗るVF-11が接近してきて、通信でザシャを叱った。

 

『ザシャ、人型形態は何のためにある!追尾から抜け出すためにある物だろう!』

 

「す、すみません・・・今度からします・・・」

 

 上官であるシャロンの叱りに、ザシャは小さく謝った。謝ったのを聞いたシャロンは編隊から外れて戦闘に戻る。一方の空母へ降りたマリは、飛行甲板から出て来る敵を次々と撃ち倒していた。

 惑星同盟参加国の一つバララント同盟で開発されたカエルのような外見を持つファッティーと呼ばれるATが携帯式四連装ロケットランチャーを撃つも、避けられて蜂の巣にされる。

 ちなみに太っちょ(ファッティー)は敵対同盟のギルガメスが付けた蔑称であり、本当はカエル(フロッガー)と呼ばれている。

 

「ゾロゾロと・・・!」

 

 エレベーターから他の陸戦兵器と共に出て来るフロッガーが出て来るのを見て、苛立ちを覚える。下の階へ降りるエレベーターへ向けて、左腰から戦術機用の手榴弾を掴み、それを投げ付けた。18m級の人型兵器に合うほどの手榴弾がエレベーターに落ち込み、大爆発を起こす。

 もう一度手榴弾を取り出し、エレベーターへ向けて投げ込んだ。大きな手榴弾は煙を上げるエレベーターへ入り込み、再び大爆発を起こした。ダメ押しに突撃砲の銃身下部に着いている滑腔砲を手当たり次第に撃ち込む。

 近い全長のMSジンやネオジオンで開発されたガザEが出て来たが、滑腔砲の直撃を受けてやられる。爆風が弾薬庫に引火したのか、飛行甲板の各所で爆発が起こっていた。

 

「ちょっと不味いかも」

 

 フロッガーが爆風に飲まれて吹き飛ぶのを見て、マリは急いで超空母からの脱出を決めた。空母がバランスを崩して傾く中、ジャンプユニットを使って全力で外を目指す。全力で張飛すると、乱戦状態の空中へと飛び立った。

 コブナント軍の空母が沈んだにも関わらず、未だに敵味方乱れての航空戦力が飛び交っている。地上へと落下しながら、推進剤の残量を確認した後、周囲の状況を確認した。

 

「まだ戦闘が続いてる。っ!?何か来る・・・?」

 

 警告音が鳴り響き、画面上部に「ミサイル接近」という警告文章が出る。下から飛んできたミサイルを回避すると、B-2爆撃機に似た大型航空機が複数通り過ぎた。

 

「今度は国連宇宙軍(UNSC)か!?」

 

 人型形態になったムラサメのパイロットが、編隊を組んで飛んでくるロングソード級迎撃機と呼ばれる多目的戦闘機を見て叫んだ。ロングソードの編隊から来る大口径機関砲の弾幕には耐えきれず、ムラサメやVF-11が撃墜される。

 さらに別の世界で開発された連邦軍の戦闘機セイバーフィッシュ、ジェット・コア・ブースター戦闘爆撃機、ヘリック共和国空軍の翼竜型小型ゾイドプテラスとテラノドン型中型ゾイドレイノス、ギルガメスや連合軍の戦闘機がロングソードの編隊に混じって飛来してくる。

 その後ろからはクワガタ型ゾイドダブルソーダを先頭に、統合連邦参加国の主力MSヘビーガンやGキャノン、ジェムズガン、シャベリン、ドートレスに航空能力を持たせたフライヤータイプ、大気圏飛行能力を持つバリエント、ジェットパック装備のダガーLやウィンダム、連邦製のハーディガン多数が飛来してきた。

 どうやらワルキューレが保管していた鹵獲機を倉庫から連邦軍の捕虜達が引っ張り出してきたのだろう。脱出用のためか、クラップ級巡洋艦やUNSCを初めとした統合連邦参加国の艦艇が続いてきており、コブナントの艦隊ごと艦砲射撃を浴びせてくる。他の勢力やワルキューレの艦艇まで混じっているが、彼等からしてみれば背に腹は代えられない。

 

「新手ね!」

 

 マリは飛んできたドートレスに張り付き、味方の居る一まで戻ろうとした。

 

「艦艇多数、航空機・機動兵器多数接近!れ、連邦軍です!我が艦隊へ向けて突っ込んできます!!」

 

「連邦軍だと!?コブナントのみならず連邦軍までこの星に!」

 

 アスターへ降りた艦隊の旗艦のブリッジにて、その艦隊の提督であるピーチ・グラフム・ロデリオンは通信士からの知らせに驚きの声を上げる。隣に立っている副官が、自分等の艦隊へ突っ込んでくる混成艦隊の構成員の人員を教える。

 

「おそらくこの星に収容されていた捕虜達でしょう。アスターは多数の捕虜収容所がありますからな」

 

「なるほど、それで納得が付く・・・」

 

「では、艦隊戦でもしますか?」

 

「艦隊戦?大気圏内の戦闘で艦隊戦をするのか?我々の任務は地上支援だぞ」

 

「そうです。現状の艦載機では対処が限界です」

 

 ピーチは親指の爪を噛んだ後、立ち上がって指示を飛ばした。

 

「艦隊戦だ!敵艦隊へ向けて一斉射撃。車線上にいる降下部隊は直ぐに離れろ!一斉射撃、撃てっ!!」

 

 降下部隊の揚陸艦や護衛部隊が車線上から離れると、彼女の艦隊が様々な艦艇で編成された脱出艦隊へ向けて一斉射撃が放たれた。間に挟まれたコブナント艦隊は既に壊滅状態となり、全滅は時間の問題であった。

 

「滅茶苦茶ね・・・」

 

 別の敵機に張り付いていたマリは、敵と味方の艦隊が撃ち合っているのを見てそう呟く。

 

「あれは・・・!変形は嫌だけど!」

 

 敵機に張り付いていたマリのタイフーンに気付いたザシャは機体を変形させ、彼女を助けようとする。コクピットは前部から腹筋の部分へと移動し、戦闘爆撃機用グラスコクピットから、周りがモニターに囲まれたようなコクピットへ移り変わる。

 操縦桿も、左右に操縦桿があるタイプに変わっていた。ヘッドアップディスプレイ、通称HUD(ハッド)はそのままで、目の前に敵機に対する情報は表示されている。

 変形した可変系ハーディガンスツーカは、女性フォルムが特徴的な人型形態へと変形した。右手には専用のライフル、左手には盾が握られている。

 

「あのヒヨコマークが付いたスツーカみたいなのが変形したぞ!」

 

「新型機みたいだな。各機、収容所での憂さ晴らしだ!ワルキューレに一泡吹かせてやる!あのヒヨコマークの女みたいなのを堕とすぞ!」

 

 変形を目撃した連邦のパイロット達は、ザシャが乗るハーディガンへ向けて攻撃を始めた。ニェーバと呼ばれる連邦製空戦用ハーディガンがライフルを撃ちながら突っ込んでくる。

 警告音が響き始めた物の数秒で気付いたザシャは飛んでくる銃弾を回避してからニェーバを撃墜した。通常のパイロットとは違う反射神経を見せた為、統合連邦兵達は些か動揺する。

 

「早いぞ!」

 

「数で押せ!敵はあの二機だけだ!!」

 

「りょ、了解!」

 

 数十機単位がビームや戦車砲クラスのライフル弾を撃ちながら接近してきた。ザシャはライフルを連射して、弾幕を張りながらマリの元へ向かう。

 彼女が乗ったタイフーンを引き離そうとしているウィンダムの元へ到達し、敵機を蹴り飛ばして上手くマリの機体の手を空いている手で取った後、連合国軍の最新鋭機をライフルで蜂の巣にして撃墜した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「えぇ。それより、敵の集団に投げてくんない?」

 

「はい?」

 

 マリを助けたザシャであったが、彼女は突然「敵へ向けて投げろ」と命じられた。その間にマリはハルバートタイプの長刀を抜き、いつでも投げられる準備をしていた。

 

「投げた瞬間、私に集中すると思うから。あんたは私に気を取られてる奴を堕としなさい」

 

「良いですか?投げちゃって」

 

 未だにこちらへ向けて攻撃してくる敵機の集団の中に、助けた同姓を投げる事を躊躇ったが、モニターに表示されたボディラインがえらく強調された強化装備を身についているマリの声で決心した。

 

『良いから早く!』

 

「は、はい!」

 

 指示に応じてザシャはマリのタイフーンを敵機の集団へと投げた。突然飛んできた全高18mの敵機に驚いた連邦兵達は、マリが乗ったタイフーンへ意識を集中させてしまう。飛ばした先にいたジェムズガンは、左腕に搭載されたビームシールドで防ごうとするも、タイフーンが持つ長刀に左腕ごと胴体を切り裂かれ、撃墜された。

 投げ飛ばされてきた敵機に気を取られてしまった連邦軍の人型兵器達は、ザシャの人型形態のスツーカによって次々と撃墜される。ようやく気付いて反撃に移ろうとするも、彼女の方が早すぎて反撃する間もなく堕とされていく。マリの方は爆風を利用して、近場にいたヘビーガンを盾ごと切り裂き、爆破寸前の機体を蹴ってGキャノンも切り裂いて見せた。

 

「お、俺だけかよ!?」

 

 最後に残ったシャベリンのパイロットは絶叫し、味方の元へ逃げようとしたが、ザシャのスツーカが瞬時に接近してきて、盾から取り出したフランベルジェに似たビームの剣で後ろからコクピットを突き刺され、融合炉を停止して地面へ落ちていった。

 向かってきた敵機を全て堕とした二人は、降下部隊へと戻ろうとする。補給のために自分等の揚陸艦へ戻ると、かなり苛立った管制官からの通信が入ってくる。

 

『上級大尉、何故降下した?戦術機は戦闘機の名を持っているが、空中戦は出来んぞ』

 

 苛立った声がマリの耳に入るが、彼女は気にせずヘッドセットを外して座席の近くにある糧食キットからドリンクを取り出し、ストローを口に含んで中の飲料水を飲む。未だに管制官の説教は続いているが、マリは全く話を聞かず、地上の戦いがどんな物なのかで頭がいっぱいであった。

 説教が終わった後、適当に返事をして撃った残弾や推進剤、動力の残量が全て満杯になっている事を確認し、降下の合図を待つ。補給の為に一度戻ってきたザシャ達を初めとした航空機組は、補給を終えて直ぐに戦闘へ戻った。その時に降下のカウントダウンが始まる。

 

『降下用意、五秒前。四、三、二、一・・・降下、降下!』

 

 合図と共にハンガーに居た人型兵器達は一斉に対空砲の弾幕が飛び交う外へと飛び出した。マリも直ぐに外へ飛び出し、空と同じく激戦状態の地上へと降り立つ。

 味方の陣営の方へ視線を向けてみると、イギリス陸軍の現用装備のチャレンジャー2やFV510ウォーリア歩兵戦闘車、WAH-64アパッチ戦闘ヘリの集団と後ろで続く歩兵の大群が見え、その後方からは人型兵器らしき物が多数見える。

 地上のすれすれの所まで到着すると、ジェットを噴かして衝撃を和らげた。

 

『おぉ、なんだこりゃあ?地上も戦争博物館かよ!?』

 

 再出撃して向かってくる様々な新古揃いの敵機を見たツチラトは通信越しから叫んだ。彼の言うとおり、ワルキューレを含めた他の勢力の兵器群が自分達に向けて攻撃してくる。

 

「結構、暴れられそうね」

 

 周りからゾロゾロと出て来る敵機を見てマリは呟き、突撃砲を敵機の集団に向けて撃ち始めた。近場にいた同盟製のハーディガンがマリのタイフーンが放った攻撃を受け、地面に豪快に倒れる。敵機が地面に倒れた途端、マリは面白いように敵機に弾を当て続けた。

 ヴァンキッシャー隊の方も派手に撃って、次々と敵機を撃破していく。空の方では連邦軍の捕虜混成艦隊はワルキューレの艦隊によって全滅し、残った敵航空戦力との掃討に移り変わっていた。

 

「うっひょー!面白いように敵が潰せるぜ!マジでヌルゲーじゃねぇ?」

 

「ポイントを稼ぎたい放題だな!」

 

「説明書読んだのか?」

 

「これならエース部隊の転属だって可能だぜ!」

 

「やっぱしこういう連中を潰すのは気分良いな!」

 

 余りにも弱すぎる敵を簡単に潰せることで、調子に乗るヴァンキッシャー隊の隊員達であるが、一緒に降下した他の機体が堕とされるのを見た隊の長であるチムーロヴィッチは、これに怒りを覚え、部下達を叱る。

 

「調子に乗るな!ここは戦場だ!!他の隊とはいえ、降下中に友軍機が何機か撃墜され、今でも味方がやられているんだぞ!」

 

 この言葉に、部下達は態度を改めて真面目に取り組んだが、A小隊のラディスラオと取り巻き達は態度を改めなかった。

 

「こんな訓練用の動く的のような相手に真面目にやれだと?それに味方がやられただけで、競争相手が減って良いじゃないか。それに俺はさっさとこの隊を出て俺だけの部隊を持つんだ。お前等、こんな機会激戦区ではないと到底来ない!行くぞ、お前達!」

 

『はっ、アルタミラーノ中尉!』

 

 ヴァンキッシャー隊の中で高火力を持つゾイドであるジェノザウラーに乗り込んだA小隊は、出て来る敵を薙ぎ倒しながら敵が集中している方向へと向かった。一方のザシャは飛行形態に戻ったスツーカで、他の小隊や部下達と共に地上支援へと回る。

 味方の地上部隊を砲撃しているトーチカや砲撃陣地に向けて、対空砲の弾幕を避けながら小型の爆弾をばらまく。落とされた爆弾は敵の陣地やトーチカに落ち、爆発を起こした。

 敵の民兵が爆風で吹き飛ぶ光景や、全身火達磨になった民兵が声にもない声を上げて藻掻き苦しみながら出て来るのを見たザシャは、気分を害してしまうが、地面にいる複数のスコープドックからの攻撃でそれどころじゃなくなる。

 巧みな操縦技術で回避するも、部下達はついてこられないようで、少し被弾し、人型形態に変形して反撃に出た。装甲の薄いATでは、戦車砲ばりの大口径ライフル弾に耐えられるはずもなく、無惨な形となって大破する。

 次にジェノアスⅡやアデルと呼ばれる別世界の連邦製MSがザシャの乗るスツーカにビームライフルよりも強力なドッズライフルを撃ち込んできたが、乗っているパイロットと彼女の技術の差がありすぎ、避けられて部下達の攻撃で撃破される。

 

「ありがとう。みんな」

 

『いえいえ、これくらい出来ますよ』

 

『どうってことはない・・・』

 

『別に。アンタが雑魚に構うはずもないから私達がそうしただけ』

 

 この返答で全員が少し強くなっていることを確認したザシャは次なる支援を待ち、地上を飛び回る。対空砲は後続の部隊や降下した部隊が破壊してくれ、無事にこの地区に留まれるほどの安全な飛行が出来ている。敵側の抵抗も殆ど無くなり、銃声や砲声が少なくなると、敵の民兵達が武器を捨て、手を挙げてこちらへ向かってきた。

 

「なんだ、降伏か・・・?」

 

 民兵ばかりではなく、地上兵器は砲を撃つのを止め、人型兵器も武器を捨てて投降の意思を示している。どうやらこれ以上抵抗を続けても無意味と判断し、降伏を選んだのだろう。だが、降伏を選んだ彼等を許さぬ者達が居た。

 武器を捨てたハーディガンの胸に穴が開き、地面へと倒れた。民兵や歩兵達の後ろからミサイルが落ち、彼等を無惨な姿へと変える。

 

『貴様等ァ!それは命令違反だぞ!!』

 

 拡声器でも使っているのか、味方を撃った正体の人物の声が聞こえた。

 

『祖国のため、貴様等は最後の血の一滴まで戦え!敵を一人でも多く道連れにし、我らの愛国心と我が祖国ジンニアの恐怖を植え付けるのだ!!』

 

 降伏しようとする者達の後ろから督戦隊らしき者達が銃を突き付け、戻るよう怒鳴り散らしているのが見えた。これに応じなかった者達は撃ち殺され、逃げようとした者達も同様に始末された。人型兵器も同様で、武器を取らなかった機体は次々と味方に撃たれて破壊される。

 

「胸くそ悪い光景だ・・・!味方を撃つなんて・・・」

 

「こいつ等、頭おかしいじゃねぇか?」

 

 この光景を見たジョンとツチラトは酷い惨状を見てそう表す。

 

『隊長・・・これ・・・』

 

『酷い・・・!』

 

『胸くそ悪い』

 

 ザシャの方も部下達のショックの声で同様のショックを受けた。だが、マリの放った言葉でなんとか持ち直す。

 

「要は一人じゃ寂しいから、(みんな)ついてきてって事ね。まぁ、私はついていかないけど!」

 

 先に動いたのはマリであり、敵陣の中に突っ込み、敵や督戦隊機を次々と撃破していた。これを見て、ヴァンキッシャー隊を含めた味方機も続々と敵陣へと突入していく。

 

『隊長!』

 

「分かってる。みんな、行くよ!」

 

『了解!』

 

 たった一機で敵陣の中に突っ込んだ友軍機を支援するべく、ザシャは部下と共に敵陣へと突っ込んだ。敵は玉砕命令で以前より強くなっていたが、マリとザシャ、士気が向上したヴァンキッシャー隊を初めとした他の部隊を止められなかった。

 次々と陣地や防衛線を突破されていく。叛乱軍が押される中、そこへイレギュラーが乱入してきた。

 

『敵陣後方からアンノウンが急速接近!警戒してください!!』

 

「アンノウン?一体何が・・・?」

 

 戦闘オペレーターの知らせを聞いたザシャは、レーダーに映っている正体不明を表す白い点が来る方向を見た。

 

「あいつ等・・・!」

 

 イレギュラーが来る方向を見たマリが唸る。そのイレギュラーの正体はフォウドヴィッスを襲撃し、陥落させた組織の人型兵器群であった。

 空には大多数のSPTブレイバーやMFソロムコ、TS(テラー・ストライカー)と呼ばれる無人人型兵器スカルガンナー、大気圏専用MSエアリーズ、旧ガイロス暗黒大陸軍ドラゴン型大型ゾイドガン・ギャラドが飛び。

 地上では地上専用SPTドトール、MFガンステイド、暗黒軍仕様の恐竜型小型ゾイドマーダやスティラコサウルス型中型ゾイドダークホーン、エレファント型大型ゾイドエレファンダー、サソリ型小型ゾイドガイザック、ヘビィ級ATスタンディングトータス、同ヘビィ級ATエルドスピーネ、ライト級ツヴァーク、MSリーオーが迫ってきている。

 現れた第三勢力は、壊滅状態の叛乱軍を無視してワルキューレに攻撃を始めた。




この二次元作でもやられ役にされるヘビーガンとGキャノンェ・・・
そしてATの扱い・・・


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暴れるキューケン

ザシャちゃん暴走回・・・

やっちゃって大丈夫かな・・・?

そしてあのネタキャラベースのキャラ登場。
他に二分割するほどの文字数が多くて濃い回があるけど、いつか二分割にする予定。

あぁ~、なんかやばそうな気分・・・


「今更のこのこ出て来て。わざわざ私に殺されに来たのかしら?」

 

 向かってきた叛乱軍の数種類の戦術機を切り裂いた後、奪った機関銃のような突撃砲を組織の軍勢に向けて撃ち込んだ。流石に訓練されているだけであって、流れ弾に当たって大破する叛乱軍とは違って飛んでくる弾丸を回避しながら向かってくる。

 ザシャも現れたイレギュラー相手に奮闘するも、連邦軍とは違った動きをする機動兵器相手に苦戦する。味方の方もイレギュラー達相手に苦戦を強いられ、損害も出ていた。

 

『隊長、危ない!』

 

「えっ・・・?」

 

 奮闘していたザシャは、チェリーの知らせで三機のブレイバーに包囲された事に気付く。持ち前の常人とは掛け離れた反射神経で反撃を試みるも、間に合わず、三つのレーザーライフルの銃口からは逃れられなかった。千鶴、チェリー、ペトラは直ぐに助けようとしたが、ソロコムの包囲網を突破できない。

 あわや撃たれようとした瞬間、ザシャを撃とうとしたブレイバーのコクピットである頭部が三機ともリボンのような攻撃を受けて爆発した。

 

「へっ!?」

 

『大丈夫ですか?お嬢さん』

 

 死が間近に迫った瞬間、ザシャは生きていることに驚いた。自分に向かって来る敵機が次々と大破し、人型形態に変形したザシャは、自分を助けた正体が居る方向を見た。そこには、鳥人のようなフォルムを持つ翼を生やした全高17mの人型兵器が浮遊していた。

 

『済まないが、名乗っている暇はないのでね。華麗に美しく戦闘を終わらせたら自己紹介をしてあげよう』

 

 鳥人のようなフォルムを持つ人型兵器のパイロットはザシャにそう告げると、翼を羽ばたかせ、先程ブレイバーを攻撃したときに使ったリボンで敵機を次々と堕としながら去っていった。

 ザシャが見取れていると、地上から組織の数機の人型兵器が彼女を狙っていたが、C小隊の三機のラファールの攻撃で、瞬く間に全滅する。エルミーヌは止まっていたザシャに通信を入れてきた。

 

『ちょっと、貴方。幾ら美しいとはいえ、戦場で神聖な鳥(ハイリヒ・フォーゲル)に見取れるなんて命を落としてしまいますわよ?』

 

「ねぇ、そのハイリヒ・フォーゲルって何?」

 

「じょ、上級大尉・・・」

 

 敵を仕留めてその場に割り込んできたマリに対し、エルミーヌはハイリヒ・フォーゲルについて説明する。ザシャは別に聞いてもいないのに、勝手に説明されてふて腐れた表情を浮かべる。

 

「ハイリヒ・フォーゲルとは鳥人のようなフォルムを持つ高性能汎用型ハーディガンですわ。武装はリボンに内臓式ビームソード、ビーム砲、及び多連装内臓式ミサイル。パイロットは美しい戦い方をすることで有名な上田エリックが搭乗し、輝かしい戦果を上げていますのよ」

 

 説明を行っている最中に、敵機が攻撃してきたが、エルミーヌの取り巻き達が手際よく片付けていた。ザシャの方は説明を聞かず、敵機の動きを良く読んで、数機ほど撃墜している。

 

「へぇー、そうなんだ」

 

 説明で上田エリックのことが分かったマリは、ザシャのH小隊とエルミーヌのC小隊全機に通信を繋げる。

 

「聞こえてる?今からあいつの後に続けば、割と戦果が上げられそうなんだけど」

 

『あの中に進むのですか?』

 

『あら、結構面白そうですわね。その案乗って差し上げますわ』

 

『流石はバルバストル様!』

 

 ザシャの不安げな声が聞こえてきた後、通信からエルミーヌの取り巻き達の尊敬する声が響き、マリは溜め息をつく。マリの案に乗った七機の機動兵器は、敵機を次々と破壊するエリックの元へ向かった。

 

「読み通りね。あのすかした馬鹿にムガルのアホがいっぱい集まってる!」

 

 エリックのハイリヒ・フォーゲルに、組織の地上と空の機動兵器が集中しているのが見えた。叛乱軍の機体も居り、こちらへ向けて攻撃を浴びせてくる。

 

「邪魔ですわよ!それそれ」

 

 進路場に立つ敵機に対し、エルミーヌはマリにも負けない操縦テクニックで次々と破壊していく。二人の取り巻き達も機敏な動きで叛乱軍機を次々と仕留めていった。

 

「ふざけたマークを!死ねぇ!!」

 

 ガン・ギャラドに乗ったパイロットがザシャのスツーカを潰そうと接近戦を仕掛けてきたが、呆気なく避けられ、背中にライフル弾の連射を受けて逆に潰される。エリックの周りに集まっている敵機を、マリは戦術機用の機関銃を撃ち、次々と命中させた。多数の敵機が大口径弾を受けて大破していき、辿り着いたザシャとエルミーヌ達の攻撃も加わって組織の戦力は低下していく。

 

「な、何て奴等だ!こうもあっさりと我ら新生ムガル地上軍が!」

 

「くっ、標的を目の前にして・・・!こうなったら!」

 

 白いSPTディマージュに乗り込んだ部隊長は、自分等の遙か後方にある拠点で、敵が迫っているにも関わらずこの星の脱出手段の争奪戦をしている連邦・同盟双方の捕虜達に目をやった。

 

「そうだ。あいつ等を引き込めば・・・!」

 

 直ぐに部隊長は争奪戦をしている彼等へ向けて、拡声器を使ってマリを狙うよう伝える。

 

『聞け、お前達!少ない脱出用の船の争奪戦をするよりも、我々の軍門に入った方が生きて脱出できるぞ!標的を討ち取った者を我が軍門に咥えよう。今から全員にそのデータを送る!』

 

 争奪戦をしていた連邦・同盟の双方の捕虜達はその放送に耳を傾け、戦闘を中止した。データを受け取ったのか、一斉にマリが居る方向へ向けて突っ込んできた。

 

『あいつ等、捕虜達を自軍の戦力に!』

 

『目を血相に変えて襲ってくるぞ』

 

『各機、敵の増援だ。各自の判断で対処しろ』

 

「幾ら集まろうと無駄よ!」

 

 ジョンやツチラトの声が通信から入ってきた後、チムーロヴィッチの指示が飛んでくる。マリは機関銃の再装填を終えた後、向かってきた連邦・同盟の機体へ向けてそう言い、銃弾を撃ち始める。何機かは撃墜されたが、即座に避けて反撃に移ってきた。

 反撃に移る双方の元捕虜のパイロット達であったが、砲撃で吹き飛ばされる。地上支援艦隊か砲兵部隊がこの戦場に到着したのか、敵陣へ向けて砲撃を開始する。後続の鎮圧部隊の到着し、叛乱軍は既にまともな動きも出来ず、組織や連邦に同盟も先程争奪戦が繰り広げられていた拠点に追い込まれた。

 

「よし、これでもう敵さんはお終いだろう」

 

 ガンポッドを肩に担ぎながら、バトロイド形態のVF-11Cサンダーボルトに乗るツチラトは拠点へと退いていく叛乱軍と組織を見て呟く。

 

「これで終わったかな・・・?」

 

 上空にいたザシャは後続部隊に追い詰められる敵勢力を見て、戦闘が執着へと近付いているかと思っていた。

 

「退却だ!本部に打電しろ!我、マリ・ヴァセレート討ち取れず!」

 

『了解!』

 

 拠点で立て籠もっていたディマージュに乗っていた部隊長は、部下に指示を出し、退却の準備を始める。しかし、彼等は本部に戻ることは出来ず、この星で全滅することになる。

 

『こ、高熱源体接近!真下からです!!』

 

「今度は何だ!?」

 

 部隊長がその知らせで真下にセンサーを向けてみると、巨大な反応がレーダーに映った。

 

「なんだこれは!?」

 

 余りの大きさに驚愕したその直後、真下から来た強力なビームで部隊長は部下と共に塵となって消え去った。当然ながら外にいたマリ達にも見えており、ビーム砲で開いた穴から全高・全長とも300mの巨大な球体が現れた。

 

「お、大きい・・・!叛乱軍の奥の手?」

 

 拠点から現れた超大型兵器を見て、マリはそう呟いた。

 

『あいつ等、対艦隊専用兵器まで持ち込んできたのかよ!?』

 

 ツチラトの通信が入って来た後、対艦隊専用兵器に乗り込んだ操縦者の声が拡声器から聞こえてくる。投降しようとした味方の兵士達を殺した人物の声だ。

 

『貴様等!揃いも揃って臆病者だな!!愛国心のない奴等目!!直々にこの新生ジンニア公国総帥自らが侵略者共を片付けてくれるわっ!!』

 

 対艦隊専用兵器は多数の砲門を開き、地上にいるワルキューレの鎮圧部隊へ向けて一斉に撃ち始めた。雨のようなビーム砲やレーザー砲を受けた鎮圧部隊は壊滅状態に陥る。鎮圧部隊が余りの損害に退却する中、次に対艦隊専用兵器は味方に牙を向きた。

 

『敵前逃亡は死罪だ!よってここに死刑を実行する!!』

 

 味方の集団へ向けて外部装甲から外れた二十問のレーザー砲を向け、レーザー攻撃を開始する。叛乱軍の残存部隊が次々と仕留められる中、組織や連邦、同盟軍は逃げようとしたが、発射された無数のミサイルを浴びて全て堕とされる。ワルキューレの艦隊や地上の砲撃部隊が対艦隊専用兵器に向けて砲撃を開始したが、シールドで防がれ、直ぐにレーザー攻撃による反撃を受けた。

 

『うわぁぁぁ!て、撤退だ!みんなやられてしまう!!』

 

 ピーチの悲鳴じみた声が通信機から聞こえ、半数が撃沈された艦隊は撤退を始める。

 

『ハッハッハッ!逃がすわけがないだろうが!!消えろぉー!!』

 

 撤退する艦隊に向けてもう一度レーザー攻撃をしようとしたが、部下らしき人物が乗った空中戦専用ハーディガンに止められた。

 

『そ、総帥!我々にもう勝ち目はありません!!例えこの移動空中要塞愛国心を持ち出しても、奴等には敵いません!何卒、投降の意思を・・・!』

 

 部下は説得を始めるが、総帥は話を聞かず、球体の右側から出て来た巨大な手で部下を握り潰した。

 

『喧しい!才能を我が国家のために使わなかった戯け者が!!我が国で生まれた以上、最後の血の一滴まで国家に捧げることが当然の義務であろう!この臆病者が!!』

 

 この言葉に、ザシャは怒りを積もらせた。マリの方はまだ敵が諦めてないことに呆れた言葉を拡声器越しから投げかける。

 

『あんた、まだやる気なの?もう勝てないでしょ。さっさと降伏するか、自殺したら?』

 

『黙れ!愛国心のない淫奔女目!!貴様等のような我が国を怪我した連中の勧告など受ける物か!!』

 

 直ぐに悪意に満ちた返答が返ってきたのでマリは怒りを覚え、操縦桿を握り締める。

 

「むかつく・・・あいつはどうやって料理してやろうかしら・・・!」

 

 彼女がそんな台詞を入った後、次にザシャの問いが始まる。

 

『貴方達の国では、才能のある人と、才能のない人は夢が見られるのですか・・・?』

 

 緊張しながら敵の総帥に問うてみると、自分よがりな答えが返されてきた。

 

『夢?夢だと?そんな物、下らぬ物よ。天賦の才を持つ者達はそうでない者達と同様に国家に愛国心を持ち、国家の繁栄に尽くすべし。拒否権などは一切無い、愛国心が全てなのだ。下らぬ夢を捨て、己の身を犠牲にして国家に捧げてこそ我が国ジンニア国民の栄誉よ!』

 

「まるで国家の奴隷になれと言ってるような物ですわね」

 

「俺だったら即座に亡命してるな。そんな国家に尽くしたかねぇし」

 

 エルミーヌが言った後、ツチラトが皮肉った台詞を吐いた。

 

「道理で滅ぼされるわけだ・・・」

 

 続いてジョンもジンニアが滅ぼされた理由を理解した。答えを耳にしたザシャは腹を煮え繰り返し、操縦桿を強く握った。怒りが頂点に達し、無意識のうちにスツーカが人型形態に変形する。

 

「確かに自分の生まれた国を愛すのは大事だけど・・・あんたが言ってるのは、死ぬまで国家のために働く奴隷になれってことだよ!」

 

 憎しみに満ちた視線で総帥の巨大兵器を睨み付けた後、機体の外装が外れていき、別の機体が姿を現した。その姿は元のスツーカではなく、女性フォルムの本隊に羽根を生やしたような全く別の機体だった。

 

「あれは・・・ヴァルキリー・・・?」

 

 スツーカが別の機体へと変貌した所を目撃したエリックはそう呟いた。変形して様子を伺っていたシャロンは、ザシャに機体のことを問う。

 

「テーゼナー少尉!機体が変化しているぞ!訳を教えろ!聞こえているのか?!」

 

 そう問うも、ザシャは返答せず、無言で総帥が操る移動要塞愛国心に音速じみた速度で向かっていく。

 

「な、なんて速さだ!迎撃だ!迎撃しろ!!ジンニアの対空防御システムをフルにしろ!!」

 

「はっ!対空防御システム作動!」

 

 超兵器ジンニアの操縦室にて、異常な速さで接近するザシャが乗る機体に対し、総帥は操縦長の席に座り、全部で十四席に座る操縦者達に指示を飛ばす。

対空防御システムが作動し、一斉に対空レーザーや対空ミサイルが放たれるが、全く命中しない。

 そればかりか外装が次々と瞬時に剥がされていく。この光景を見ていたマリは、ザシャが乗っている圧倒的強さと音速の速さを持つ機体に乗りたいと思った。

 

「あれに・・・乗ってみたい・・・」

 

 その間にも愛国心の外装は全て潰され、艦隊専用の兵器は全て破壊されてしまった。

 

「機体損傷率90%!尚も増加中!!」

 

「ば、馬鹿な・・・!?我が国家を尊重する愛国心がこうもあっさりに・・・!」

 

 操縦士からの知らせに総帥は腰を抜かし、椅子から転げ落ちそうになる。

 

「敵機!操縦室に接近!!」

 

「た、退避ぃ・・・」

 

 総帥が言い終える前に、ザシャが乗る機体が外壁をぶち破り、広い操縦室へと入ってきた。前の席に座っていた操縦士達は挽肉へと変貌し、広い操縦室を血で真っ赤に染める。

 

「わっ、わぁぁぁぁ!!」

 

 操縦士の一人がロケットランチャーを構え、入ってきた敵機へ向けて撃とうとしたが、左手で殴られ、下半身だけを残して挽肉と化す。

 

「た、助けてくれぇ!」

 

「死にたくない!!」

 

「逃げろぉ!!」

 

 他の操縦士達は我先へと脱出口へ向かおうとしたが、音速の速さで来たパンチで瞬時に挽肉と化した。辺り一面おぞましい惨状が広がる中、総帥は腰を抜かして足が動かず、失禁して怯えていた。

 

「た、頼む・・・!殺さないでくれぇ・・・!」

 

 先程の威勢は消えており、恐れるが余り凄まじい勢いでまるで老人のように老けた。もはや総帥には抵抗の意思無かったが、怒りが頂点に達したザシャは容赦しなかった。

右 手にエネルギーを集中し、照準を老人のように老けた総帥に向ける。エネルギー充填完了の知らせが聞こえると、ザシャは何の躊躇いもなしに引き金(トリガー)を引いた。右手に込められた高エネルギーの塊は総帥へ向けて発射され、老人となった総帥を消し去り、愛国心の内部へと突き進んでいった。

 爆発に呑まれないため、ザシャは外へ音速の速さで脱出する。移動空中要塞が爆発を起こしながら地上へと落ちる中、ザシャが乗る変貌したスツーカは瞬間移動でもしたようにマリ達の目の前に現れた。

 

「まさか、これを狙って・・・!」

 

 ザシャだけがスツーカを模したハーディガンに乗せられた事にシャロンは気付いた。その時、変貌したスツーカは動きが止まったのか、まるで糸が切れた人形のように地面へと落下した。




別に愛国心を貶してる訳じゃありませんよ?

まぁ、日本マンセー物の架空戦記が多いしね・・・

今週の中断メッセージは疲れたので無し。

次回はエリック上田(笑)。


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悪魔の襲来

?「愛してるぜぇ~カぁシムぅ~」

フルメタからあのテロリストが参戦します。
そして、三作目が発売中止になったあの大先生も・・・


 地面へと落下するザシャの機体を拾うべく、部下達のハーディガンが急速で接近する。操縦するパイロットである彼女は気を失っており、機体はそのまま落ちていく。

 

「危ない!」

 

 すんでの所でザシャの機体を拾うことに成功した。三機掛かりで機体を抱えながら、直接の上官であるチムーロヴィッチにペトラが問う。

 

「隊長、テーゼナー少尉が乗っていた機体は本当にただのハーディガンなんですか?それと先程のシステムについては?」

 

『あぁ、私も気になるわね』

 

『分からん。命令書では新型機にテーゼナー少尉を乗せろとしか書いていなかった』

 

 通信にマリも割り込んできたので、チムーロヴィッチは本当のことを答えた。一番接することが多い上官であるシャロンは通信を聞いて、自分の上官ですら知らなかった事を知る。

 

「隊長ですら知らない・・・もしかすると?」

 

 自分で導き出した答えを出そうとした瞬間、地面に落ちた愛国心が大爆発を起こし、H小隊に巨大な破片が飛んできた。

 

「危ない!」

 

 直ぐにマリは破片を破壊しようとしたが、その必要はなかった。

 

『おっと、危ない。お嬢さん達、もう少し離れていましょう』

 

 ハイリヒ・フォーゲルを操るエリックが破片を破壊してくれたのだ。それと同時に、都合が良いようにザシャは目覚め始める。

 

「あれ・・・?私、今まで・・・何を・・・?」

 

『あぁ!目を覚ました!!』

 

 チェリーが大喜びした後、ザシャ達を助けたエリックは、彼女が乗っていた機体が変貌したのが気になったのか、目を覚ましたばかりの彼女に質問した。

 

『済まないが、ザシャ・テーゼナー少尉と言ったかい?君が乗っているのはヴァルキリーでかい?』

 

「ヴァルキリー?バルキリーじゃなくて・・・?」

 

 ザシャは全く質問の意味が理解できなかった。どうやら、暴走した時に意識を失っていたらしく、何も覚えていなかったようだ。

 

『覚えていないようだね・・・なら、暴走する前に・・・』

 

『エリック、上だ!』

 

 エリックが次の質問の途中に誰かが通信に割り込んできた。釣られてマリとザシャ達が上の方を向いてみると、何かの物体が拘束でエリックのハイリヒ・フォーゲルの真上から落ちてくる。

 

「えっ?」

 

 気が付いたエリックは回避する間もなく、落ちてきた何かの物体に当たり、断末魔を上げながら機体ごと葬り去られた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 断末魔が途絶えた後、ハイリヒ・フォーゲルが何かの物体を隠すほどの大爆発を起こす。爆発による火災と煙が舞い上がる中、一緒に爆散したと思われた何かの物体の影が見えた。

 

「な、何なんだよ・・・!?一体何が起きてんだよ!」

 

 目の前で起きた信じられない出来事に、ツチラトがついてこられずに叫び声を上げる中、彼の上官であるアルノー准尉が何かを感知した。

 

「ん?あの煙の中から何か来る!F小隊、警戒しろ!」

 

 F小隊の面々が乗り込むバトロイド形態のVF-11が警戒態勢を取る中、煙の中から何かが飛び出してきた。煙から出て来た物体は人型の形をしており、アルノー准尉が乗るVF-11の間近に近い全高の右手が鉄砲の形をして向けられていた。

 

「な、なに・・・!?」

 

『こういう事が起きているのさ。バン!』

 

 拡声器から男の声が聞こえ、VF-11Cサンダーボルトと近い全高9m台の人型の右手が銃の反動のように上を向いた途端、アルノー准尉の搭乗機の頭と胸部が吹き飛んだ。吹き飛んだ途端、ツチラト達は自分の上官を粉々に吹き飛ばした敵に向けてガンポッドを乱射し始めた。

 

『う、うわぁぁぁぁ!!』

 

『化け物だ!撃て、撃てぇ!!』

 

 ツチラト達F小隊の面々が叫び声を上げた後、チムーロヴィッチが部下達に怒号を飛ばし、近くにいた他の部隊にも指示を出した。隊長機が攻撃に巻き込まれて爆発する中、F小隊の面々は攻撃に巻き込まれぬよう、ガンポッドを撃ちながら後退する。

 ザシャとH小隊の面々は攻撃に参加せず、後方へ退避した。マリも残り余った弾丸を謎の人型兵器に撃ち込む。

 

「消し飛べ!!」

 

 一体何処へ行っていたのか、ラディスラオのA小隊のジェノザウラーが現れ、三機分の荷電粒子砲を目標へ受けて撃ち込んだ。

 

「撃ち方止めぇ!!」

 

 凄まじい爆煙が上がる中、チムーロヴィッチの怒号が聞こえ、各員トリガーから指を離した。同じVF-11で編成されるE小隊が確認するべく、攻撃で舞い上がった煙に近付いた。

 

(よう)少尉、気を付けろ。敵は何かを装備して居るぞ』

 

「りょ、了解!E小隊、熱源センサーをフル稼働!」

 

 四機の10m級の人型兵器がゆっくりと晴れ行く煙の中へ足を踏み入れる。隊長機を破壊されたF小隊は、上空に浮遊しているG小隊のVF-11と共にいつでも援護できるよう待機する。煙が晴れた後、E小隊がガンポッドの砲身を向けた先に、敵の正体が見えた。

 頭部にポニーテール状の放熱索を付けた全高9m程のASが透明のシールドのような物を張っていた。

 

「おうおう、派手だね。流石はアメリカやソ連の百倍くらいの物量を持つ勢力だ。火力も半端ねぇーな、こりゃあ」

 

 欧州の中世の悪魔のひとつであるコダールの名を持つ特殊な能力を持った第三世代型ASに乗り込んだ操縦士は、コクピット内で肩を鳴らしながら呟く。

 

「さてと。標的の女を戦術機から引き摺り出して犯してから殺す前に手始めに挨拶でもしてやるか」

 

 コダールの操縦士である長髪を後頭部へ束ねた顔に傷のある東洋人の男は、不気味な笑みを浮かべながら手近に居たE小隊に襲い掛かった。E小隊のVF-11はガンポッドを乱射してコダールを潰そうとするが、機体が放つ特殊な機能により、防がれてしまう。

 攻撃を防ぎながら一機に向けて手持ちの専用ライフルの銃口を向け、コクピットがある部分へ向けて数発撃ち込み、一機を十数秒ほどで仕留める。一機を撃破すると、残った三機を特殊な攻撃で一気に蹴散らした。次にB小隊の量産型百式改三機に牙を向ける。

 

「金ぴかとは贅沢な装備だな」

 

 金色の外装の量産型百式改を見た男はそう呟き、両肩に付いたビーム・ガトリングガンを乱射してくる三機の内の一機の懐へ入り、三機の戦術機を吹き飛ばした特殊な攻撃で腹部に穴を開けた。

 

「こ、この野郎!」

 

 B小隊の隊長機がビームサーベルを抜き、コダールに斬り掛かったが、サーベルを握る右手は相手の特殊な攻撃で引き千切られ、その攻撃で上半身が抉られて倒れた。

 残った一機はひたすらビーム・ガトリングガンを乱射するが、バリアらしき物に封じられ、コダールが蹴りの素振りを見せると、残った量産型百式改は吹き飛ばされ、上空を浮遊していたG小隊のVF-11に命中した。

 

『エッカルト!!』

 

「はっははー!命中~」

 

 飛ばした敵機が、別の機体に命中するのを見た男は上機嫌だった。友軍機が居なくなったことで、誤射の心配が無くなったワルキューレの部隊は再びコダールへ向けて攻撃を再開するも、またあの特殊なバリアで全て防がれてしまう。

 

「まただ!あの特殊なバリアの所為で攻撃が貫通しない!!」

 

 VF-11に乗っているジョンは、攻撃がバリアで防がれているのを見てそう叫ぶ。その間にも、攻撃を防ぎながらコダールの操縦士は次なる標的をC~D小隊のラファールへと向けた。

 

「こっちへ来る!?」

 

 六機のラファールは突撃砲を撃ち続けるも、全て防がれてしまう。下部に着いた滑腔砲を撃ち込むも、全く効果が無く、接近を許してしまった。近接戦長刀を抜いて斬り掛かろうとするが、あの特殊な攻撃でC小隊は三機とも弾き飛ばされる。

 長刀を抜いていないD小隊は突撃砲を撃ち続けるが、三機とも一気に破壊された。D小隊を瞬時に全滅させたコダールは、エルミーヌ等が乗るラファールにトドメを刺そうとしたが、チムーロヴィッチが乗る陸戦用ハーディガンが単機で攻撃を仕掛けてくる。

 

「これ以上部下はやらせん!!」

 

『あぁん?』

 

 彼のハーディガンは専用のライフルを振り向いたコダールに全弾当てるが、先のバリアのような物で全て向こうかされてしまう。苛ついたコダールの操縦士は、チムーロヴィッチからの攻撃を特殊な物で弾き返した。

 

『ほれ、お返しだ』

 

「なにっ!?」

 

 一発の大口径弾が返されて頭部に命中し、彼のハーディガンは豪快に地面へ倒れ込んだ。

 

「調子に乗るなよ!一本毛が!!」

 

 そう表したラディスラオは、ジェノザウラーの上部に搭載されたロングレンジパルスレーザーライフルを味方がまだ残っているにも関わらずに撃ち続けるが、全くの無意味であり、エルミーヌ達を誤射する可能性があった。

 

「まぁ、先に三匹のティラノサウルスをぶっ殺してからでも良いな」

 

 エルミーヌ達にとどめを刺すことを止め、標的を今攻撃してくるジェノザウラーに変えた操縦士は、直ぐさまジェノザウラーに向かった。

 

「この!死ね、死ね、死ねぇ!!」

 

 パルスレーザーライフルを撃ちまくるも、バリアで防がれてしまう為、全く意味がない。瞬く間にコダールに接近され、彼の取り巻き達が乗ったジェノザウラー二機が、一瞬にして鉄くずへと変わった。一瞬のうちに自分の部下を失ったラディスラオは、至近距離で荷電粒子砲を撃ち込もうとする。

 

「この一本毛が!消し飛べぇー!!」

 

 部下の無念を晴らすためか、ラディスラオは叫びながら撃ち込もうとした。だが、口腔内の荷電粒子砲の砲口に指を突っ込まれる。

 

「バン!」

 

 コダールの操縦士が銃声の擬音を言えば、ラディスラオのジェノザウラーは頭からグシャグシャになっていき、それが全身まで達すると、大爆発を起こした。本来なら爆風に巻き込まれている筈だが、コダールは先程のバリアの御陰で無傷である。

 三機に減ったG小隊のVF-11が上空から一斉射撃による攻撃を行ったが、当の6mは低いコダールはバリアを張りながら頭を上に向ける。

 

「ラムダ・ドライバで対空射撃は行けるかどうかだな」

 

 空や地上から来る攻撃をラムダ・ドライバと呼ばれる特殊な干渉炉の力で防ぎつつ、左手を構えて撃ったような仕草をする。すると、上空から飛来してきた一機のファイター形態のVF-11が被弾し、地面へと墜落した。

 

「おっ、行けた」

 

 一機をラムダ・ドライバで撃墜した操縦士は、ガンウォーク状態と呼ばれる戦闘機に両足が生えたような形態をしている二機に向けて同じような仕草をして撃墜した。

 

「あんなの・・・反則でしょ・・・!」

 

 あれに類似した能力を見たことがあるマリであるが、今の自分にとってラムダ・ドライバのような物理の法則をねじ曲げるような能力を持つ相手なら反則その物である。

 二人の中隊長と残ったF小隊は同僚達や上官を他の部隊と共に機体ごと運び、撤退を始めている。コダールへ向けての榴弾砲やロケットによる砲撃が始まり、この場にいた他の部隊も動けない者達を担ぎながら撤退し始めた。

 

『さぁ、貴方も早く』

 

 マリと同じタイフーンに乗った衛士が退くことを勧め、彼女は同意した。だが、コダールの操縦士は易々と逃がしてくれはしない。

 

「待てよ、女帝様。この俺と遊ぼうぜぇ~!」

 

 降り注ぐ砲弾やロケットをラムダ・ドライバで防ぎながら、操縦士はマリのタイフーンを追う。拡声器(スピーカー)から操縦士の笑い声が聞こえ、マリの隣にいる同じ機体に乗る衛士は鳥肌が立った。

 

『やっ!なによこいつぅ!』

 

 追い払おうと滑腔砲を撃ち込んだが、ラムダ・ドライバで弾かれ、その干渉炉で一気に接近されてしまう。

 

「悪いな、お隣さん。あんたには用がないんでね」

 

 そう標的の隣にいた戦術機に告げると、ラムダ・ドライバで吹き飛ばした。

 

「こいつ!」

 

 コダールから瞬時に距離を取り、突撃砲の銃口を向けて撃ち込んだ。だが、ラムダ・ドライバで先程と同じく防がれてしまう。

 

「(あいつがアレで防ぐ前に!)」

 

 ラムダ・ドライバを発生させる前に、早く動こうとしたマリであったが、いざそれを実行した途端、タイフーンが彼女の反応速度についてこられず、間に合わなかった。

 

「嘘っ!?」

 

「自分の機体は棺桶にならないように大事に扱わんとな」

 

 操縦士がそうマリに告げた後、ラムダ・ドライバで彼女のタイフーンを吹き飛ばした。だが、悪運でも強かったのか幸運だったのか、操縦室がある胸部がへこむ程度で済み、マリは強い衝撃で気絶する程度で済んだ。胸部へ強烈な打撃を受けたタイフーンはザシャ等H小隊が居る場所まで吹っ飛び、彼女等のハーディガンラタトスクに激突する。

 

「ん?まぁ、中の人間はミンチだろうがな。後で調べてみるか。さて、怒ったら恐いヒヨコちゃんにもトドメを刺しますか」

 

 吹き飛んで地面に横たわる胸部がへこんだタイフーンを見た操縦士は、次なる標的をザシャのスツーカとラタトスクに変えた。

 

「さーて、ヒヨコちゃんのお顔を御拝け~ん」

 

 上機嫌な表情を浮かべながら、操縦士はライフルを構える千鶴、ペトラが乗った二機のラタトスクと、ザシャが乗るスツーカを抱えるチェリーのラタトスクへ歩みながら向かう。

 ザシャの部下である三人の若い女性パイロットは恐怖し、身震いや失禁をしながらゆっくりと向かってくるコダールから自分等の上官を守るべく、立ち向かおうとする。だが、気持ちは恐怖感が勝っており、瞳から涙が浮かび、両手も震える。

 

『おい、ガウルン!何をしている!?さっさと標的にトドメを刺せ!何のために蘇らせてもらったと思っている!!』

 

「ちっ、うるせーな。人を勝手に蘇らせておいて使い捨てかよ。まぁまぁ、そう焦りなさんな。ちょいとばかし楽しんだ後でも良いじゃねぇか。相手は例え生きていてもあの有様じゃ出て来るのに時間は掛かる。ゆっくり楽しもうぜ。あんたも来ねぇか?」

 

 ガウルンと呼ばれる操縦士は、小声で自分の上司に当たる人物の悪口を言った後、上司を誘おうとする。ザシャの方は恐怖しながらも立ち向かおうとする部下達を見て、責任を感じ、自分の腕で彼女等をヴァンキッシャー隊から転属させようとする事を諦め、逃げるよう告げる。

 

「みんな、逃げて!私はもう・・・」

 

『な、なな何言ってるんですか隊長!』

 

『部下が隊長を置いて・・・逃げるなんて駄目・・・』

 

『これ以上規律を、破れないつーの・・・』

 

 震えながら返答する彼女達の声を聞き、ザシャは部下を道連れにしてしまうことに自分の責任を感じ、なんとか機体を動かそうとするが、機体は言うことを聞かない。組織のアガムストの手によって蘇ったガウルンが乗るコダールが迫る中、ザシャは「万事休すか」と思い、目を瞑った。

 

「私はこんな所で死ぬわけには・・・!」

 

 壊れて横たわった機体へ閉じこめられたマリは、開閉ハッチを蹴り続けて脱出しようとするが、ハッチはへこんで全く開かない。コダールの右腕が翳された途端、彼女等は死を覚悟したが、どうやらまだ死なせてくれないみたいだ。突如コダールの右腕と上腕との間に何かが命中し、腕が下がった。

 

『右上腕と前腕の間接部の回路に30-06スプリングフィールド弾の徹甲弾仕様が命中。右腕機能不能』

 

「なにぃ、三十口径弾が間接の隙間に入っただとぉ?そんな骨董品で当てた狙撃手は何メートルから撃ちやがった?」

 

 機体に搭載されたAIからの知らせに少し驚いたガウルンは、狙撃手の位置を問う。

 

『当機の右側面から2200mの距離から発射された模様』

 

「2200mだと?スナイパーモデルのスプリングフィールドライフルの有効射程距離から五倍も離れてるじゃねぇか。一体何処の化け物だ?精密射撃をする奴は?」

 

『不明』

 

「チッ、運が良かったな」

 

 舌打ちをしたガウルンは次なる狙撃が確実に自分の命を殺める物と思い、退くことにした。勝手に撤退しようとするガウルンを見た上司は、直ちに彼元へ来て、任務に戻るよう勧告する。

 

『おい!任務はどうした?!何故勝手に逃げようとしている!』

 

「馬鹿野郎、化け物狙撃手が居るってのに・・・」

 

 ガウルンが上司に対して哀れんでいると、先程コダールの右腕を使えなくした狙撃手が狙撃した位置から移動し、上司が乗ったディマージュを狙った。

スコープを覗いて排出口へ狙いを定め、風速を読み、距離を測り、引き金に指を掛ける。

 息を止めて意識を集中させ、やや照準を上に向けると、引き金を引いた。銃声が鳴り響き、銃口から飛ばされた30-06スプリングフィールド弾はディマージュに向かって飛ぶ。銃弾は奇跡の如く上手く跳弾して排出口へ入り込み、内部機関に命中して爆発を起こす。

 内部爆発を起こしたディマージュは燃え盛りながら地面へと落下する。

 

「あーあ、いわんこっちゃない」

 

 自分の上司がライフル弾一発で機体と共に運命を共にしたのを見て、ガウルンは即座に撤退した。助かったザシャ達は、一体何が起きているのか分からず、呆然としていた。ようやくの所でマリが横たわるタイフーンから出て来たが、既に戦闘は終わった後だった。

 

「あれ?戦闘・・・」

 

 周囲を見渡すと、遠くの方でスコープ付きスプリングフィールドM1903A4小銃を持った短髪の男が去るのが目に入る。

 

「またZEUS(ゼウス)の連中ね・・・」

 

 そう呟いたマリは、ザシャ達の元へと向かった。こうして、惑星アスターにおけるワルキューレと叛乱軍、連邦・同盟双方の捕虜、組織との戦いはワルキューレの勝利で幕を閉じた。この戦いでワルキューレの鎮圧軍の損害は半数以上であり、予想よりも上回る損害を被ってしまった。

 損害を被った数ある部隊の一つであるヴァンキッシャー隊は、他の部隊と同様に再編成を余儀なくされる。幾つか壊滅的な損害を被った部隊は解散され、残った隊員は編成の余地ありとされた部隊に振り分けられた。




相変わらずの超人ぶり・・・流石はカール大先生だ!この狙撃手に掛かればグラドスの人型兵器なんて怖くないぜ!
次は誰を出してやろうか・・・

~今週の中断メッセージ~
C小隊とH小隊と一緒な水着回。※ザシャのバストサイズは作者の勝手な推測です。

マリ「はぁ~たまには息抜きは必要ね」

水着姿のマリがバスト93㎝の巨乳を揺らしながら浜辺に現れる。

チェリー「あっ、上級大尉さ~ん。こっち、こっちでぇーす!」

ザシャを初めとした水着姿のチェリー、千鶴、ペトラがマリを出迎えた。
彼女等も中々のスタイルを持っており、中でもビキニなチェリーは豊満なバストを持っていた。
ペトラの方に見える美乳のレベルで、中々の物である。
ザシャは恥ずかしがっており、スクール水着の千鶴の後ろへ隠れている。

マリ「あら、あんた等も息抜き?ここ女の子しか居ないから、裸になっちゃおうかしら?」

ザシャ「そ、それは駄目ですぅ!」

周囲を見渡し、同姓しか居ないことで水着のヒモを解こうとしたが、ザシャに止められた。
飛び出してきたザシャの水着はヒヨコ柄のビキニであり、彼女のバストも中々あった。

マリ「可愛い水着じゃん、ヒヨコって」

ザシャ「み、見ないでください!」

チェリー「私が選びました~」

マリが可愛いと言った後、ザシャは恥ずかしがり、チェリーが選んだと告げた。
そんな時、マリはザシャの胸元に視線を向け、バストサイズを口にする。

マリ「ひよこちゃん85」

ザシャ「はっ・・・?」

マリ「あっちは89で、スク水は78、タンキニは83」

ペトラ「なんのサイズを言ってんの?デカパイ」

マリ「なにって、バストサイズ」

H小隊面々『はっ!?』

H小隊面々はそれに驚き、声を上げた。

千鶴「それ、貴方が言うのはおかしい・・・」

ペトラ「あんた、あっちの方?」

チェリー「じょ、じょじょ上級大尉さんは下着メーカーの・・・」

マリ「いや、11の時からいっぱい女の子としてきたから、胸とか腰とか、お尻とかのサイズ憶えちゃった。見たら直ぐに分かっちゃうし」

ザシャ「れ、レズの人じゃないの・・・」

この質問で、ザシャ達はマリに狙われるのではないかと心配した。
そんな時に、規格外のサイズを持つ女達が彼女等の前に現れた。

?「オッホッホッ!皆さ~ん、ご免遊ばせ!」

?「ヤッホー!来たよ~」

そのザシャに取っては聞き覚えのある声がする方向へ振り向くと、100は越えて居るであろう豊満なバストを持つ二人の桃色の長髪を靡かせる女が現れた。
お嬢様口調がエルミーヌで、テンションの高い方がシューベリアだ。
彼女等が身に付ける水着は露出が多く、この場に男性陣がいれば恐らく目のやり場に困るほどであろう。
そして彼女等の後ろには、エルミーヌの取り巻き二人が続いてきている。
二人も中々の美乳レベルであった。
空かさずマリは、やって来た四人のバストサイズを口にする。

マリ「あの露出狂令嬢は108で淫乱ピンクとは何回もしてきたから127。あの二人は87と88ね」

エルミーヌ「なんの数字かしら?」

シューベリア「さぁ?」

自分等のバストサイズとは知らず、取り巻き二人も分からなかったようだった。


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遠征の時

今回でようやくレギュラー?な高性能過ぎるオバハンが登場(PAM!

なんか・・・アニメ版銀英伝第一話・・・

そしてマリは今後の戦いのために髪を切る・・・うっ、頭が!


 惑星アスターの地上戦から三日後、あの場にいなかったノエルと京香はこの世界における司令本部の通信室に居た。暗い部屋の中で、中央の壁に設置されたモニターに映し出された金髪の年配女性は、かつての神聖百合帝国総統クレメンティーネ・フォン・ブラウンシュバイクであった。

 ワルキューレに鞍替えした彼女の今の役職は上級司令官であり、ノエルや京香より遙か上の存在である。

 

「そ、総統閣下・・・」

 

「総統閣下・・・?」

 

 かつて属していた陸軍情報局の癖か、それとも緊張か、ローマ式敬礼を行うノエルを見て、通常式敬礼をしている京香は、上官をネオナチに属している人物なのかと疑う。画面に映る人物は、ノエルにその敬礼を止めるよう告げる。

 

『おやめなさい。もうあの帝国は滅びたのだから』

 

「は、はい!総統閣下!」

 

『その呼び名もやめなさい。今の私は百万人ほどいる珍しくもない上級司令官よ』

 

「失礼しました!」

 

 謝罪の言葉を発したノエルは通常の軍隊式敬礼に変える。

 

『で、貴方は確か・・・』

 

「帝国陸軍情報局の東大陸北部地方出身のノエル・アップルビー少尉です」

 

『そう、陸軍の・・・貴方もワルキューレに入った口?』

 

サー(はい)、その通りであります」

 

 ノエルが返答した後、クレメンティーネは視線を京香に向けた。

 

『そちらは・・・ただの人間ね』

 

「はい、ただの人間であります」

 

 京香がクレメンティーネからの質問に答えた後、ノエルはかつて百合帝国の最高頭脳を誇った総統に、元皇帝陛下であるマリをどうやって組織から隠す知恵を貰おうとした。

 

「あの・・・ブランシュバイク上級司令官。皇帝陛下・・・ヴァセレート上級大尉をどうやって組織の襲撃から隠しましょうか・・・?」

 

『あの我が儘女帝を今話題になっている組織とか言うかつて我が帝国が滅ぼした筈のムガルの残党から守る?』

 

「はい、三日前に組織から送られてきた刺客にヴァセレート上級大尉が襲われた次第です」

 

 三日前にマリが組織からの刺客に襲われたことを、かつての総統に報告する。その報告を耳にしたクレメンティーネは、即座に結論を出した。

 

『そう・・・じゃあ、一回マリには死んで貰いなさい』

 

『えっ!?』

 

 クレメンティーネが出したマリに死ねと言う結論に、ノエルと京香は驚愕する。

 

「そんな!貴方は陛下に死ねと仰有るのですか!?」

 

「いくら上級大尉さんが貴方より綺麗とはいえ・・・!」

 

『別に死ねという訳じゃないわ。表向きはこれから行われる大規模な遠征作戦中に死んだってことにね』

 

 この言葉に、ノエルと京香は直ぐに理解した。上官であるノエルよりも先に、京香が直ぐに画面の人物に再確認の質問を行う。

 

「表向きは、次の作戦で戦死ってことで?」

 

『表向きはね。その作戦中に戦死ってことになるわ。でも、死を偽装させるためにはなにか物足りないわね・・・そうだわ、あの女に髪を切らせなさい』

 

 答えた後、女にとってはとんでもない事を思い付き、それを口にするクレメンティーネに、二人は少し困惑し、ノエルが何故髪なのかを問う。

 

「どうして髪を切るのですか?」

 

『あの美貌と腰まで届く長い金色の髪はワルキューレ内には殆ど居ないわ。同様の容姿に値する人物も手で数えられる人数しか居ない。内部に組織の内通者でもいれば直ぐに割り出される。同じ髪型にして上手く姿を暗ませるしかないわ』

 

 この納得のいく答えに、二人は口を出すことが出来なかった。

 

 

 

 一方のマリは本部の事務室にて、空いている席で始末書の山と格闘していた。

 

「なんで軍人じゃないのに書かなくちゃいけないのかしら?」

 

 長い金色の髪を退けながら、書類にペンを走らせる。

 軍隊としては、あれ程の問題行為を立て続けて起こす人物に対し、反省の意思を見るためとして始末書を書くことは当然のことであるが、彼女は軍人としての自覚は一切無い。始末書の隣に煙草を一箱と灰皿、珈琲を置いている。何枚か仕上げた後、自分の前髪を掴んで弄ってから呟く。

 

「髪・・・切ろうかしら・・・」

 

 そう呟いて前髪を離した後、始末書の執筆に集中した。数時間後、出された始末書は全て書き終え、受付に纏めて手渡す。

 灰皿の炭を片付け、珈琲を全て飲み終えれば、火の付いた煙草を一本咥えながら事務室を出る。室内勤務の将兵が行き交う廊下で、自分の宿泊地まで向かっていると、上級司令官であるクレメンティーネから知恵を授かったノエルと京香と出会した。

 

「あら、どうしたの?そんな顔して」

 

 先程の案で、浮かない顔をしている二人を見てマリが問う。問いに対して口籠もったままであったが、京香がようやくの所で口を開いた。

 

「か、髪・・・」

 

「紙?」

 

 上手く言えない京香の代わりにノエルが答えた。

 

「あの、こちらで」

 

 人気の少ない場所にマリを連れ込み、クレメンティーネから出された案を彼女に話した。

 

「そう・・・死を偽装するために髪を切れってね・・・」

 

「はい・・・どう申して良いか・・・」

 

 悩むノエルと京香に対し、マリは気軽に口を開いた。

 

「良いわよ、丁度邪魔ぐらいに伸びてたし。それに一々ヘルメットを被る度に結ばないといけないしね」

 

 髪を弄くりながら話すマリに対し、京香は疑問に思っている事を口にした。

 

「あの・・・つかぬ事をお聞きしますが・・・女王様は髪切ったら生えてこないじゃ・・・」

 

「はっ?不老不死でも伸びてたけど?ほっといたら凄く伸びて大変だったもん。短く切っても暫くすれば元に戻るから」

 

「そうですか。では、自分は仕事があるので。失礼しました」

 

「私も失礼します!」

 

 頭を下げて礼をした後、京香は立ち去っていった。それと同時にノエルも立ち去る。一人残されたマリは伸びに伸びた髪を短くするべく、基地内の美容院を目指した。

 

「いらっしゃいませ。カットですか?それともパーマ?」

 

「カットで。髪型はショートカット」

 

「丁度席開いてるんで、そこにお座り下さい」

 

 美容院にはいると、マリは挨拶をしてきた店主にカットを願い出た。数十分後、マリの腰まで届いていた金色の髪は項まで留まり、前髪もある程度切られ、視界がある程度確保できた。

 

「出来ました~ご注文のショートカットです」

 

「ありがとう。切った髪は束ね解いて」

 

「何でです?」

 

「使う予定だから」

 

 切った髪で死の偽装を行う為、担当していた美容師にそう告げて束ねて貰う。束ねた切り落とされた自分の髪を持ち、軍票を支払ってから美容院を出た。

 

「ありがとう。じゃあ」

 

 次の日、クレメンティーネの言っていた遠征に参加する為の搭乗艦の視察を行うべく、宇宙港へと向かった。ちなみにシューベリアは遠征には参加せず、総司令部があるこの惑星に残る。

 

「どの艦に乗艦しちゃ駄目ってこと?」

 

「そうなります。ちなみに、私達が乗る艦艇はブリュンヒルデ級万能次元航行揚陸艦バルキュリャです」

 

「古ノルド語かしら?」

 

 宇宙港に向かう通路にて、ノエルから聞いた自分等が乗る艦の名前を知ったマリは、既に死語となっていか、ワルキューレにおいては未だに地方の極少数の言葉を口にする。数分後には宇宙港へ到着し、バルキュリャがある場所を確認してからそこへ向かう。艦のクルーの詳細を知る為、マリは隣に歩くノエルに聞いた。

 

「所で、クルーとかは聞くとおりエリート揃い?」

 

「あぁ、その・・・陛下に配慮して、乗員は全て女性にしました・・・」

 

「それはありがたいんだけど、どうしてエリート揃いで口籠もっちゃったのかな?」

 

 肝心なところを答えなかったノエルに対して怪しく思ったマリは続いて問うが、彼女はその事に関しては以前と口を開かない。しつこく聞いても、別の答えを返すだけだったので歩調を乱し、ノエルの背後に回って彼女の掴めるほどある胸を両手で鷲掴みにして揉み始めた。

 

「本当のことを言わないと止めないぞ~」

 

「ひゃっ!こ、こんな所で!?は、話しますからこんな所では止めてください!!」

 

「それでよし。でっ、本当の人員は?」

 

 赤面するノエルの胸から手を離したマリは、周囲を気にする彼女に問う。

 

「貴方の思うエリート揃いの人材とは違い、人材は容姿だけが優れた適当な人員か新人ばかりです。艦長は退役した輸送艦の元艦長で実戦経験は一応あります・・・」

 

「あのババア、マジで私を殺す気ね」

 

 目の前で未だに顔を赤らめているノエルからの答えに、彼女に聞こえないよう小声で愚痴を漏らす。実態を確かめようとドックへ急ぐと、全長460mはある大型艦艇が停泊している。その大型艦の甲板に、マリを出迎える為か、艦長を含めた乗員達が五列に整列していた。

 乗員はノエルが通路で教えたとおり、全員女性で顔立ちは幼い者や妙齢、年配、少女の者まで居る。体付きも成熟し、特に妙齢や年配の者達は性的な魅力に溢れていた。乗員達が敬礼を終えると、京香と艦長らしき若い女性が二人の元へやって来る。

 

「ご視察ご苦労です。我々が乗艦する予定のバルキュリャの乗員達です」

 

 敬礼してから例の言葉を告げ、乗員達に対して手を翳しながら説明する。

 

「そう。で、みんな私とする為か心中する為に集められたなの?」

 

「貴方専門の娼婦が乗った船じゃありません」

 

冗談めいた事をマリが言った後、もっともらしい事を京香が告げた。

次に隣に立っている艦長の紹介を始める。

 

「こちらがバルキュリャ艦長の・・・」

 

「お、オロンピア・カラマンリスです!」

 

 名乗った艦長の若い女性は、マリを上位階級の者と勘違いし、緊張しながら敬礼する。それに気付いた京香はオロンピアにマリが下の階級の士官と告げる。

 

「カラマンリス艦長。ヴァセレート上級大尉だから敬語・・・」

 

「あっ、京香ちゃん。この前通達があって、陛下は少佐に昇進したよ」

 

「ありゃ、先輩と同じ階級に。艦長、ため口で良いですよ」

 

 ノエルからの知らせで、京香はオロンピアに、マリに対して楽に接して良いと告げる。

 

「そうなんですか?よろしく、ヴァセレートちゃん」

 

 言われたとおり楽に接してきたオロンピアは、マリに握手を求めた。

 

「えぇ、よろしく」

 

 出された手をマリが気軽に取った後、バルキュリャ船内の案内を行った。

 

 

 

 ワルキューレにおいて、時空管理局領内への武力制裁の遠征の為、15000隻編成の八個艦隊と25000隻編成の二個遠征艦隊、六個軍で編成された第9遠征軍が投入される事がそう参謀本部で決定された。

 第9遠征軍は途中、中央の最前線区まで纏まって進むが、最前線から敵領域内へ入ると、二つの分隊に分かれ、第1分隊が連邦領土内の西から、第2分隊が同盟領土内の東へと北の星系の管理局領土内へ進むことになる。第1分隊と第2分隊も、纏まって行動せず、それぞれ西と東から北を目指して進む。

 二つの分隊の陣形はどれも同じく、二個艦隊を後衛に担当させ、もう二個艦隊を側面の担当し、遠征艦隊は前衛を担当する。損害を受けたときも考慮して、損害の大きい部隊は三個軍の護衛について貰うことになる。航行不能となった艦艇に対しては、爆破処理を施し、乗員達は拿捕した敵艦か、三個軍の輸送艦隊に乗り込む。

 マリ達は西から北へ向かう第1分隊の遠征艦隊の所属となる。

 遠征艦隊の提督はクレメンティーネ・フォン・ブラウンシュバイクの娘、デリア・フォン・ブラウンシュバイク大将が務める。

 この艦隊には偶然にも艦隊所属の競合師団に組み込まれたヴァンキッシャー隊や、艦隊の人員が全て女性に編成された2500隻はある分艦隊の長を務めるアスター戦で対地支援を担当したピーチ・グラフム・ロデリオンも居た。ちなみに、マリ等が乗るバルキュリャはピーチの分艦隊所属となる。

 この作戦の準備期間はサザーランドにおける戦いが終わったときから進められていた。先の惑星アスターの叛乱軍蜂起の鎮圧については、管理局領内にある惑星制圧のデータ収集にしか過ぎないとされる。準備期間を終え、第9遠征軍が中央に位置する防衛線に集結する中、ピーチの分艦隊に属するバルキュリャのブリッジから集結する大艦隊をマリは眺めていた。

 

「蛍が集まってるみたい・・・」

 

「まぁ、ぶっちゃけ宇宙軍の人じゃないと遠目で見たら、蛍が集まっているようにしか見えないから」

 

 隊列を組む艦艇をマリが見てそう表すと、オロンピアは「見方が合ってる」と告げた。軍属が短い彼女から見れば、蛍が集まっているようにしか見えなかったのだろう。

 大艦隊の中に自分達の分艦隊が入り込み、隊列を組むと、多数の補給艦が補給のために分艦隊の艦艇に接触してくる。どうやらここまで来た分を補充する為であろう。補充が満タンになれば、補給艦は離れて行く。

 集結を終えた第9遠征軍はエンジンを吹かして防衛線から出発し、安全なルートとされる中央を通って最前線基地を目指した。道中、前線なだけに敵の襲撃があったが、随伴した他の艦隊の御陰で遠征軍の損害も皆無であった。やがて四日掛けて最前線基地へ着くと、随伴していた艦隊は戦列から離れ、遠征軍は十分な補給を終えた後、当初の予定通り西と東に分かれ始める。

 

『各艦隊に通達する。我が第1分隊は西へ目指す。この先補給は帰るまで受けられない。いわゆる自給自足だ。だが、何らかの場合によって備蓄が尽きれば、海賊行為で物資を奪って賄う。各員この事態に陥ないよう節約に努力せよ。以上だ』

 

「補給が受けれない・・・マジで私を殺すつもりかしら?」

 

 西から北へ向かう第1分隊の陣形が組まれる中、モニターから第1分隊の司令官の通達が入ってくる。それを見ていたマリはそう呟いた。陣形が整うと、マリ等第1分隊は予定された陣形を組みながら北西に向かって進み始める。

 こうして、彼女に取っての殺戮の旅となる遠征が始まった。




ぶっちゃけ主人公以外、女だけの軍艦ってどうよ?まぁ、マリが女だから女性だけだけど。



~今週の中断メッセージ~

魔術師ヤン・ウェンリーによる次回予告。

ヤン「えっ、この私に次回予告をやれと?台本は?」

台本が出される。

ヤン「成る程・・・しかし、この私にはナレーターの才能は無いんだぞ。それでもやれって言うのか?」

コクリ

ヤン「仕方がない。やるか・・・えーと、【次回、ワルキューレの遠征軍は二手に別れ、管理局の領内へと目指すことになった。】」

ヤン「【西から向かう第1分隊は連邦軍と対処し、東から向かう第1分隊は同盟軍と対処する。】」

ヤン「【マリが属する第1分隊の存在を知った連邦軍は、当戦線の火消しであるフリッツ・アプト中将率いる宇宙軍第11遊撃艦隊と、宇宙軍二個艦隊と宇宙海軍二個艦隊を差し向ける。】」

ヤン「【果たして、マリは第1の試練を乗り越えることが出来るのか?次回、復讐者(レッヒャー)VS黒槍騎兵隊(シュヴァルツ・ランツェンライター)。殺戮の宴が始まる】」

ヤン「ふぅ~、柄じゃないな・・・」ベレー帽を被り直しながら。


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レッヒャーVSシュヴァルツ・ランツェンライター 前編

ムスカ「投稿日が終戦記念日とは上出来じゃないか!」

※前編では戦いません。それと若干の差別描画とエロ描画に注意。


「報告します。ワルキューレの侵攻部隊が勢力外の東と西の二手に分かれ、北を目指しております」

 

 所変わり、西の星系群で陣を構える統合連邦軍戦国ワールド方面軍総司令部にある司令室にて、部下からの報告を受けた。マリ達の第9遠征軍の動きは連邦軍によって監視されていたらしい。

 

「威力偵察の甲斐があったな。本部にいる幹部と参謀を会議室へ集めろ!」

 

「はっ!」

 

 司令官からの指示で、部下は敬礼してから司令室を出て行った。直ちに本部の会議室に幹部と参謀が集められた。質の良い将官用の軍服を着た全員が集まったのを確認すると、司令官は会議を始める。

 

「全員揃ったな?では、始めよう」

 

「例の敵大船団が二手に分かれたと聞きましたが?」

 

 白髪の年配の男が問うと、司令官は頷く。

 

「うむ。何を考えているか分からんが、”精神異常者共”は我が勢力圏内の西と、同盟軍の勢力圏内の東に分かれて”時空帝国”が支配している北を目指している」

 

 精神異常者共とはワルキューレの将兵達のことを示し、時空帝国は時空管理局を示している。科学も医療も凄まじく発達し、障害者達を殆ど見たこともない彼等からすればそう見えているのだ。

 

「その蔑称は、些かやり過ぎでは・・・?」

 

「そんな物は知らん。あんな奴等を軍属に加える奴等の気が知らん」

 

 どうやら戦国ワールド方面軍司令官はかなりの偏見の持ち主のようだ。幹部の一人からの注意を無視し、司令官は続ける。

 

「さて、東に行った奴らは同盟軍の連中に任せるとして、我々は前線部隊の後方を素通りする奴等を叩く。補給部隊を襲われてはたまらんからな。討伐部隊は、宇宙艦隊司令官」

 

 左手の席に座る宇宙艦隊司令官に視線を向け、代わりに説明するよう顎を少し動かして指示する。宇宙艦隊司令官は席から立ち上がり、左手に持った書類を読み上げる。

 

「はっ、近くにいる宇宙軍第11遊撃艦隊と大口径の砲塔を持つ戦艦十八隻と護衛艦二十隻、軽空母五隻で編成された艦隊が敵侵攻部隊の標的にされる可能性の高い宇宙軍の最前線基地であるバースステーションへ急行中です。第11遊撃艦隊は連戦で疲れ切っており、今すぐ向かうことが出来ませんが、補給と補充を終え次第、急行させる予定です」

 

 言い終えた宇宙艦隊司令官は席に座り、司令官は頷き、対応戦力増加を進言する。

 

「そうか・・・攻勢用に取ってある宇宙軍と宇宙海軍から二個ずつ艦隊も動員しよう」

 

「それもそうですな。火消しの第11遊撃艦隊数とは言え、敵の数は多い。戦力を多くして勝敗を上げるしかないでしょう」

 

 幹部が納得した後、司令官は宇宙軍参謀に作戦の説明を告げる。

 

「参謀、作戦を」

 

「はっ」

 

 次に宇宙軍の参謀が立ち上がり、テーブルの中央にあるホログラムを起動させ、作戦の説明を始めた。ホログラムには、第1分隊の船団が中央に映し出され、その周りを包囲する形で連邦軍の艦隊が映し出されている。

 

 まず第11遊撃艦隊が、前線基地であるバースステーションの防衛部隊や艦隊と共に、ステーションを攻撃するのであろう遠征艦隊を迎撃する。交戦している間に、前線から引き抜かれた一個艦隊と、後方から来た攻勢の為に温存された戦力が第1分隊を包囲し、数の多さを生かした波状攻撃で押し潰す。幾度となく、領内に侵攻してきた敵対勢力に対しての連邦軍の包囲殲滅作戦だ。

 敵が自分の思惑通り動かなくても、それも考慮しての策も打ってある。殲滅戦と言うより戦術に近いのだが、敵がいつもと同じような行動を取るとは限らず、常に臨機応変に対応できる作戦を練らなければならない。

 

「いつもの包囲殲滅戦術か・・・敵が予想通り動けば、こちらが圧勝なのだがな」

 

 作戦の内容を聞いた司令官は、皮肉った口振りをする。それに対し、参謀は苦笑いしながら答える。

 

「そうなれば良いのですが。もし、失敗した場合は、四個艦隊で先頭の二万五千の遠征艦隊を包囲し殲滅。側面から攻勢用の部隊をぶつけます」

 

「いつもの数の多さで圧倒か。それと、中央星系群の群雄割拠に同盟軍がここ最近首を突っ込んでいるのだが。時空帝国が精神異常者共の勢力内のど真ん中で暴れ回ったことが原因か?」

 

 参謀の予備の案を聞いた後、司令官は同盟軍の動向について情報参謀に問う。

 

「はい。無視して構わない存在である時空帝国でも些か強力です。いきなり遙か後方である”ヴァルハラ軍”の領内に二百五十隻以上にも及ぶ大艦隊が現れましたからね。貧弱な中央星系国家群の兵力を十分に殲滅できます。彼等も中央に突然現れ、暴れ回れたら困りますからね」

 

 ヴァルハラ軍とは、通常のワルキューレの連邦・同盟双方の呼び名である。

 

「それもそうだな。頭が中世以下な魔法使い共にこちらの飼い犬にも敷地で暴れ回れたら困る。もし現れたりでもしたら、北に大攻勢だ」

 

 司令官が放った報復案に、全員が頷いた後、次の話題へ移る。

 

「後、テロ集団”X”の連中はどうしているか?」

 

 テロ集団Xとは、組織のことである。

 

「ここ最近、動きが活発です。我が軍を問わず、同盟軍やヴァルハラ軍、中央星系国家群を含め、無差別にテロや海賊行為を行っております」

 

 情報参謀から聞いた答えで、司令官は肘を机に付けながら事が落ち着いた後の対策案を口にする。

 

「相変わらず訳の分からん連中だ・・・それが他の植民世界でも行われているから厄介だな。事が落ち着いたら片付けるか。では、解散」

 

 司令官が解散を命じると、一同は立ち上がり、敬礼してから会議室を出た。

 その頃、方面軍司令部から火消しとして頼られている第11遊撃艦隊は、次元空間にて、管理局の次元航行艦から勧告を受けていた。

 

「アプト提督、時空帝国の次元艦艇が即刻当空域から退去せよと通告が」

 

 黒く塗装された艦艇で編成された第11遊撃艦隊旗艦戦艦シュプリンガーのブリッジにて、機器を操る通信員が中央に立つ大柄な男に報告する。

 この男こそ、第11遊撃艦隊通称”黒槍騎兵隊(シュヴァルツ・ランツェンライター)”提督フリッツ・アプト宇宙軍中将だ。

 

「こう返答しろ。”俺のケツを舐めろ”とな」

 

「はっ、”俺のケツを舐めろ”」

 

「提督、彼等にそれが通じるかどうか分かりませんぞ?」

 

「通じなければ相手は怒るもんだ。それにここは俺達の敷地内だぞ」

 

 副官の男の問いにそう告げたフリッツは、管理局の次元航行艦が居る方向へと視線を向けた。フリッツの言ったとおり、次元航行艦はアルカンシェルと呼ばれる大量破壊兵器を起動しようとする。これは紛れもなく下品な返答で怒りを表している証拠だ。

 

「どうやら意味も分からなかったらしいな、魔法使い共。全艦に通達、相手は標的艦だ。どちらがここの主か思い知らせてやれ!」

 

「はっ!砲雷長、砲撃戦開始!」

 

『はっ!砲撃戦用意!!』

 

 誰がここの領主か分からせるため、フリッツは艦長に攻撃を命じた。管理局の次元航行艦を射程距離に捉えている駆逐艦、巡洋艦、戦艦は砲身を標的に向ける。次元航行艦は艦隊の大半を消し去るほどのアルカンシェルがあるが、チャージに時間が掛かる。

 その点黒槍騎兵隊の主砲には、それだけのチャージは一切掛からない。凄まじい数の強力なビームやレーザーが一斉に放たれ、一直線に次元航行艦へと飛んでいく。集中砲火を浴びた次元航行艦は瞬く間に次元空間の塵と化した。

 

「ふん、そう言う強力でチャージが必要な兵器は予めチャージをしておく物だ」

 

 落ちていく残骸を見て、フリッツは返事も出来ない相手に対して吐き捨てた。次元航行艦を一隻塵へ変えた黒槍騎兵隊は次元空間から宇宙空間へ出て連邦領内へ戻ろうとしたが、通達が入った。

 

「提督、方面軍司令部より打電。補給と修復、損失した補充を受け次第、至急、ヴァルハラ軍の攻撃目標にされた前線のバースステーションへ向かえとのことです」

 

「なにぃ!我々に過労死しろと言うのか!?度重なる転戦で兵員はクタクタで、休息が必要なのだぞ!」

 

 方面軍司令部から来た指令に、フリッツは怒りの声を上げた。彼等黒槍騎兵隊は度重なる転戦で疲れ切っており、将兵等の披露もかなり蓄積していた。

 

「手元に残っている余剰戦力を差し向ければ良いではないか!なんでわざわざ連戦を終えた我々を向ける?」

 

「おそらく、攻勢の為に無駄な損害は出したくないのでしょう」

 

 不満げなフリッツに、参謀が方面軍司令部の考えを伝える。この答えを聞いたフリッツは、大きく舌打ちをした後、方面軍司令部に対しての不満を漏らす。

 

「俺に殴られたことを未だに根に持っているのか」

 

「補給部隊並び整備部隊がランデブーポイントを示していますが?」

 

「分かった。直ぐに行くと伝えろ」

 

「はっ」

 

 通信士の知らせに、フリッツは直ぐに指示を出した。

 

 

 

 一方、前線基地であるバースステーションに向かうはずの第9遠征軍の第1分隊であったが、攻撃するのは別の宇宙艦隊である。これで方面軍司令部の予想が大いに狂ったことになる。宇宙揚陸艦バルキュリャのブリッジでマリは、第1分隊とは違う別の艦隊が艦載機を発進させる別の艦隊を見てノエルに問う。

 

「ねぇ、私達は攻撃しないの?」

 

「弾薬とエネルギーを節約するためです。あの艦隊のその為に攻撃してます」

 

「そう、手伝おうかしら?」

 

「勝手なことはしないで下さい。それと、服を着てください」

 

 ノエルは顔を赤らめながらマリを注意した。その彼女の服装は、スポーツブラにスパッツという完全なる下着姿だ。ブリッジ内に居る全員が呆れ返るか、顔を赤らめている。

 

「いいじゃない。この船は女の子しかいないからさ」

 

「規律が乱れるから駄目です。男性の方が乗艦してくる可能性があるんですから・・・自覚を持ってください」

 

「はい、は~い。軍服着てきますよ~」

 

 生返事をしてからマリはブリッジを出た。通路を歩けば、行く先々で出会う乗員達がマリの滑降を見れば、顔を赤らめ、冷めた表情をしている。自室へ辿り着くと、クローゼットの中にある宇宙軍用の軍服を取り出し、それを身に着ける。

 軍服は黒い船内勤務服であり、上着の両襟と両肩には少佐の階級章が付けられており、下は膝を覆うくらいのスカートだった。部屋を出たところで、マリは戦況を確認すべく、待機室まで向かう。行き先々で出会う船員達の服装はマリと同じく黒の勤務服だが、違いはズボンが何名かが居る。

 何名かは勤務服を改造しており、ミニスカートの者も居た。途中、豊満な胸を見せ付けるために大胆に開け、色白な太腿を見せびらかすようにミニスカートを履いた色気を漂わせるエメラルドグリーンの瞳を持つ茶髪の美人船医が現れた。

 

「ハロー、少佐殿。ここで一回イッておきますぅ?」

 

 妖艶な笑みを浮かべつつ、マリを誘おうとしている。足を止めたマリは、美人船医の言い分でも聞こうと立ち止まる。

 

「この艦は男の方が居なくて・・・それにメガミ人も居ないし・・・前の艦で問題起こしちゃったから嫌われているのかしら?」

 

 どうやら美人船医は性欲の強い異性愛者のようで、女性しか居ないバリキュリャに配属されたことが不満なようだ。その為か、性別は女性しか居ない物の、一万に一人当たり男性器に似た生殖器を持つメガミ人を探していた。

 

「貴方・・・そんなに美人な所を見ると、メガミ人?ちょっと”生えてる”か見せてくれない?」

 

 美人船医はマリにメガミ人の希に生えている生殖器があるかどうか確認すべく、彼女のスカートのファスナーに手を伸ばす。同性愛者のマリであるが、この場で下着を脱がされるのは嫌なのか、彼女の手を払った。

 

「ちょっと!ここで脱がすつもり!?」

 

「良いじゃなですか。周りのことがどうでも良いくらい気持ちよくさせますよ」

 

「そんな気分じゃないの!」

 

 しつこく迫ってくる美人船医に対し、マリは押し倒す。床に尻餅をついて倒れ込んだ美人船医はマリを睨み付けてくるが、押し倒した彼女は再び格納庫へ向かった。

 格納庫の待機室へ着くと、様々な年齢の整備兵達が上のモニターを見て、バースステーションにおける戦況を確認していた。整備兵達の中に士官や防空要員のパイロットまで混じっていたが、マリは気にすることはしなかった。

 攻撃を敢行する艦隊の大型宇宙空母から多数の艦載機が発進し、バースステーションへ編隊を組みながら飛んでいく。バースステーションに居る連邦軍は防衛用艦隊が既に発進して迎撃準備が済んでおり、空母や搭載できる艦艇から多数の艦載機が迎え撃とうと出て来る。数秒後には、発艦した両軍の艦載機同士の交戦が始まる。

 

「私達はなんにもしないのかしら?」

 

 モニターに映る戦闘を見ながら、マリはそう呟いた。マリが整備兵やパイロット達と戦闘の様子を見ている頃、ブリッジでは遠征艦隊の提督であるデリア・フォン・ブランシュバイクから直々の司令が来た。

 

「艦長、提督より命令です。バルキュリャは速やかにバースステーション攻撃の支援に向かえとの事です」

 

「えっ、ロデリオン分艦隊総員じゃないの?」

 

「はい、我が艦だけで向かえと・・・」

 

 通信統括を通してきた提督直々からの指令に、オロンピアは戸惑う。

 

「速過ぎる・・・!もうあの人を・・・」

 

 同じくこの場にいたノエルもやや戸惑っていた。オロンピアが迷っていると、艦隊旗艦からの通信が入ってくる。

 

「ブランシュバイク大将、これはどういう事で?」

 

 突然来た通信に、ノエルはモニターに映るデリアに問う。

 

『この指令は貴官等特務艦バリキュリャの乗員の実力を図るための物である。それにちゃんとロデリオン分艦隊指揮官の許可も取ってある。カラマンリス少佐、直ちに命令を執行せよ。拒否する場合は周囲にいる僚艦がその艦を拿捕し、乗員等を拘束する』

 

「しゅ、周囲の僚艦がこちらに砲を向けております!それに揚陸艇を発艦させるような行為も!」

 

「む、無茶苦茶じゃない・・・こんなの・・・!」

 

 拒否権すらない指令にノエルは困惑する。周囲の僚艦は提督の指示を受けてか、砲身をこちらに向け、揚陸艇の発進準備もしていた。戸惑うブリッジクルー達に、デリアはさらに追撃を掛ける。

 

『どうした?直ぐに執行しろ。少佐。後三分で執行しない場合、揚陸艇が強制的にバリキュリャに乗り込んでくるか、僚艦が撃ってくるぞ?刑務所で暮らしたくなければ命令を遂行しろ』

 

 威圧感満載のデリアの指示にオロンピアは暫く俯いた後、命令を遂行した。

 

「90度回頭、本艦はこれよりバースステーション攻撃部隊の支援に向かいます!戦闘ブリッジへ移動!デフコンレベル1発令!」

 

「はっ、90度回頭!」

 

「総員、第一戦闘配備(デフコンレベル1)発令!繰り返す、第一戦闘配備(デフコンレベル1)発令!!」

 

 艦長の指示に航行統括が舵を動かし、船体を戦闘が行われている方向へ向ける。副官は艦内放送を使って戦闘配備をバリキュリャの乗員達に知らせた。放送を聞いた乗員達は戦闘配備につき始める。

 被弾を避ける為か、ブリッジは下へ移動して戦闘指揮所と一体化した。着いたと同時にノエルは京香を含む部下達が居る戦闘指揮所の方へ移動し、席に着く。マリが居る待機室でも、知らせが入り、整備兵とパイロット達は慌ただしく動き始める。

 

『総員戦闘配置!繰り返す、総員戦闘配置!』

 

「防空要員は所定の配置に急いで!」

 

「ダメコン要員は速やかに所定の位置へ!」

 

 アナウンスとサイレンが流れ、士官が指示を飛ばす中、マリは歩きながら状況を眺めていた。

 

「あぁ~、一発しとけば良かったかな?」

 

 先の船医と「情を交わしておけば良かった」と後悔するマリであったが、既に艦内は戦闘態勢に入っている。途中で走っている眼鏡を掛けた三つ編みの整備兵を捕まえ、自分が乗る機体のことを問う。

 

「ねぇ、私の機体は何処?」

 

「あちらです!」

 

 指差した方向には、前進翼の戦闘機が置かれていた。

 

「戦闘機って、ロボットとか置いてないの?」

 

「可変戦闘機VF-19Aエクスカリバーです!多分、バルキュリャが戦闘宙域に着く頃には動かせるようになってるかと!」

 

 そうマリに報告した整備兵は、自分の配置に着くために彼女から離れた。これを聞いたマリは、子供が悪戯を思い出したかのような表情を浮かべ、待機室でパイロットスーツを調達した後、先の美人船医が居た医務室近くの通路へ向かった。

 通路でもアナウンスやサイレンも聞こえ、こちらも慌ただしく乗員達が行き交えしている。性欲が強い美人船医を探していると、不満げに所定の位置へ着こうとする彼女を発見した。

 

「砲兵は砲座へ急げぇ!」

 

「あらぁ~、戦闘配置ぃ?捕縛でもされたら、連邦軍の捕虜にかしらぁ?」

 

 短機関銃を抱えながら怒号を飛ばす士官の近くに居たよからぬ事を呟く女医の肩を掴む。

 

「なに?あぁ、あんたさっきの!ちょっと、なにすんのよ!」

 

 振り返った女医はマリの顔を見るや、先程の文句を付けてやろうかと思っていたが、彼女は人気のない場所へ連れ込む。走りながら移動している乗員達が一人も来ない場所まで女医を連れ込むと、マリは彼女の開いた胸元を肌いた。たわわに実った乳房が豪快に揺れ、露わとなり、マリに壁に押し付けられる。

 

「ちょ、あんた・・・こんな一大事の時に何を考えて・・・!?キャッ・・・!」

 

 女医は襲おうとするマリに対し、抵抗しようとするが、彼女に乳房を舐められ、声を出してしまう。

 

「ちょっと、こんな所で・・・する・・・あぁ!」

 

 空いている手でマリを離そうとするが、マリに組み伏せられる。

 

「これが欲しかったんでしょ?さっきの発情ブリはどうしたの?雌豚」

 

「いやっ、ちょっと・・・!まっ・・・!」

 

 罵倒してからマリは乳房への刺激を再開する。乳房だけではなく、首筋まで舐め、女医から抵抗の意思を奪っていく。

 

「大きいわね・・・それにここもあそこも結構良い具合に良いし。どれだけ男と遊んできたのかしら?」

 

「きゃっ・・・!」

 

 自分を引き離さないと確認したマリは、両手で女医の色気を漂わせる身体のあちこちを撫でますように触り始める。マリの触り心地が器用であるため、堪らずに声を上げる。

 

「時間掛けてる暇ないや。ねぇ、出撃前に一発したいだけど、やらせてくれる?」

 

 スカートを脱ぎ、マリは妖艶な笑みを浮かべ、自分のショーツを見せ付けながら女医に性交渉を望む。途中で中断されては不満なので、女医はマリの望みを受け入れた。

 数十分後、移動した医務室で性行為を終えて満足したマリは脱ぎ捨てた肌着や下着は身に着けず、そのままパイロットスーツを着込み、部屋を出た。

 

「一回イクのに時間掛かっちゃった!急がなきゃ!」

 

 彼女が出て行った医務室のベッドの上には、艶やかな肌を輝かせる息を荒げる一糸纏わぬ女医の姿があった。走りながらパイロットスーツを着込んだ後、格納庫へと急いだ。

 

「なにしてたんですか!艦載機は発進命令が出てるんです!もうVF-19Aの発進準備は整ってますよ!!」

 

「分かってるわよ!マニュアル、持ってきて!」

 

「はい!」

 

 情を交わしている間に発進準備が既に整っていたようで、整備兵がマリを注意した。

マリはVF-19Aエクスカリバーと呼ばれる可変戦闘機のコクピットへ乗り込み、整備兵が持ってきたマニュアルを受け取って、それを読み始める。心配になった整備兵は、マニュアルを読み込むマリに問う。

 

「VF-19Aの乗り方、分からないですか?」

 

「そうよ。だから説明書を・・・」

 

「そんなんで大丈夫なんですか?もうすぐ発進ですよ」

 

「大丈夫よ。戦闘機なんてみんな同じでしょ?」

 

 マニュアルを途中で読むのを止め、ヘルメットを被ったマリはそう答える。呆れた整備兵はコクピットから離れた。

 

「はぁ~、どうなっても知りませんよ」

 

 整備兵が機体から離れると、マリはキャノピーを閉め、車輪(ホイール)でカタパルトまで機体を進める。カタパルトまで着くと、機体がシャトルに固定され、後ろから噴射防止用の柵が出て来る。熱核反応ターボエンジンのスラスターからが火を噴くと、右手にあるデジタル標識がカウントダウンを始めた。

 その間にマニュアルで発艦の仕方を覚え、操縦桿を握る。カウントダウンが0と表示されると、マリはVF-19をバルキュリャから発艦させた。

 

「あそこに花火みたいに点いたり消えたりしてる方へ向かうのね」

 

 戦闘が行われている方向を見たマリは、そこへ向かった。後方を確認すると、後から発艦したマリが乗っているのと同じVF-19が三機ほど見える。動きがおぼつかない事を察するに、一般兵士用に調整されたF型であろう。

 戦闘宙域まで近付くと、早速連邦宇宙軍から歓迎を受けた。

 ラウンドムーバーと呼ばれる十二基の小型バーニアを装備したATM-09-STスコープドック数機が、ヘビィマシンガンをマリのVF-19へ向けて撃ってきた。

 

「あの小さい奴ね・・・余裕!」

 

 ガトリングガンポッドで進行方向にいる敵機を蜂の巣にした。スコープドックの集団の中を抜けた後、バトロイドと呼ばれるロボット形態に変形し、全機を手に持ったガンポッドで一掃する。爆発したのは七機であり、先程の一機を含めれば八機となる。数秒足らずで八機も撃墜したマリであったが、休む暇もなく、連邦軍の敵機が次々と襲ってくる。

 

「今度は大きいのが・・・」

 

 ビーム攻撃を避けつつ、敵機がRGM-89ジェガンJ型と分かる。三機編隊で襲ってくるジェガンに対し、ガンポッドを牽制用に数十発撃ってからファイター形態に変形して一気に懐まで入る。

 懐に入れば、三機は直ぐにバルカン砲を撃ったり、ビームサーベルを抜いたりするが、ピンポイントバリアと呼ばれるバリアを右手の拳に溜め込み、バルカン砲を撃ってくるジェガンに叩き付けた。

 コクピットに叩き付けた為、爆発は起こらず、やられた敵機は機能を停止して宇宙に放流していた。残りの二機がビームサーベルで斬り付けてくるが、マリは余裕で避け、持っている右腕を蹴り付け、サーベルを奪って両機とも逆に切り裂く。爆発する前にファイター形態で離脱し、乱戦状態の中を突っ切りながら、バースステーションへと向かう。

 途中、何機かの敵機が襲ってきたが、ガンポッドで堕とせる敵機だけに撃って、突破を図ろうとする。戦闘機や人型兵器、駆逐艦、巡洋艦同士による乱戦状態の中を突っ切ると、今度はバースステーション防衛艦隊が立ちはだかる。主な艦艇は戦艦に護衛艦、正規空母に軽空母であり、駆逐艦や巡洋艦の類は全て最前線に出ているようだ。

 

「凄い数ね・・・突破しがいがあるわ・・・!」

 

 そう意気込むと、ファイター形態で迎撃に来た戦闘機やハーディガン、MS、ATを避けながら、敵艦隊へ突っ込んだ。艦砲射撃を行う艦隊から多数の迎撃用のミサイルが発射される。迎撃に来た敵機は直ぐさま離れようとするが、離れるのが遅すぎて巻き込まれてしまう。

 

「どんだけミサイルを撃ってくるのよ!」

 

 後ろから来る無数のミサイルが追い掛けてくるのを見たマリは回避すべく、フレアを使うが、フレアの量を遙かに上回るミサイルで無駄になる。仕方なく、自分が興味を抱いたマニュアルに載っていた高速移動で起動しながらの回避で、ミサイルから逃げ切ることにした。高速で複雑な機動をしながら回避しているので、凄まじいGがマリの身体を襲った。

 

「これ・・・!結構キツい・・・!」

 

 凄まじいGに耐えながら、マリはキリがないほど追ってくるミサイルを避け続けた。艦隊まで近付くと、大多数の艦艇が対空砲による弾幕を張ってくる。対空弾の雨の中を、マリはミサイルを避けながらお構いなしに突っ込む。

 通り過ぎた戦艦のブリッジからその様子を見た艦長は「正気か!?」と叫ぶ。対空砲を撃ちまくる大艦隊の中を駆け抜けつつ、ホーミングミサイルに追われながら、彼女は旗艦と思われる全長1000m級の大型戦艦のブリッジへ目掛けて飛んだ。

 

「敵機、来襲!!」

 

「撃ち落とせぇ!!」

 

 艦長が叫び、旗艦の対空砲の弾幕が厚くなるが、マリのエクスカリバーは恐るべき機動力で避ける。

 

「来ます!!」

 

「うわぁぁぁ!?総員退避!!」

 

「た、助けてくれぇー!!」

 

 ブリッジに向かってくる敵機を見た艦長は退避を命じた。提督は一目散に逃げようとする。だが、マリはブリッジへ激突する瞬間にガウォークと呼ばれるファイターとバトロイドの中間形態に変形して衝突をギリギリ避け、再びファイター形態に変形し、バースステーションを目指す。

 

「ミサイル接近!!」

 

「もう間に合わん!!」

 

 当然ながら、彼女をしつこく追い回していたミサイルは旗艦のブリッジへ続々と命中した。残ったミサイルは艦首や船体に当たり、旗艦を撃沈させた。

 

「ヒュー、本当に上手く行くなんて・・・」

 

 どうやら、当の本人は敵のミサイルで敵の旗艦を沈めるという行為が失敗すると思っていたようだ。防衛艦隊の退いた防衛ラインを突破したマリは、バースステーションへ直行する。

 

「敵可変機に防衛ラインを突破されました!」

 

「旗艦が撃沈したことにより、戦線が混乱しております!」

 

「馬鹿な!たった一機でこの様なのか・・・!」

 

 初老のステーション司令官は次から次へと来る報告に焦りを積もらせる。

 

「わしが司令官の時にこの難攻不落のバースステーションが落ちるというのか!」

 

「防衛艦隊は壊滅状態です!敵攻撃部隊がステーションに接近してきます!!」

 

「防衛艦隊が援軍を求めてきてます!」

 

「こちらに引き下げろ!守備隊と共に迎撃させるんだ!」

 

『もう駄目だ!突破される!!』

 

「可変機、接近!迎撃機が全て撃墜されました!」

 

 落ち着く間もなく次々と来る報告に、司令官は決断を決めた。

 

「クソ・・・!守備隊を出せ!ガチンスキー戦隊のセイバー局地戦闘機隊とMS隊を差し向けてあいつを堕とすんだ!」

 

「し、しかし、たかが一機の可変機に、局地戦闘機とMSを一個中隊も送るのはどうかと・・・」

 

「喧しい!奴はエースだ!!直ぐに実行しろ!もうすぐ増援が来る!」

 

「わ、分かりました・・・守備隊発進!ガチンスキー戦隊は例の可変機を迎撃しろ。他の守備隊は押し寄せてくるヴァルハラ宇宙軍の迎撃だ」

 

 隣に立つ副官の疑問に対し、怒鳴り付けて黙らせ、指示を実行させた。

 UNSCのYSS-1000セイバー局地戦闘機が、専用の発射施設から続々と発進していく。

 連邦軍の可変系MSであるRGE-G2100クランシュ十二機編成中も、他の機体と共にカタパルトから発進する。

 性能は優れているが、ワルキューレのパイロット達とは違って連邦軍のパイロット達はそれなりの練度がなければ可変機構を使いこなす事は出来ない為、主に練度の高いパイロットが乗る。

 護衛艦も出て来て迎撃に向かう中、セイバー局地戦闘機30機とクランシュ隊が配備されているガチンスキー戦隊は、マリのVF-19が飛び回る方向へ向かう。

 

「動きが優れてる・・・あいつ等ともやり合いながら行くしか無いわね」

 

 向かってくる高い練度を誇るガチンスキー戦隊に対し、マリは凄まじい弾幕を浴びせてくるバースステーションへ全速力で向かった。それに合わせ、ガチンスキー戦隊のパイロット達が追ってくる。

 

「しつこいわね・・・!」

 

 後部を確認し、味方の弾幕を器用に回避しながら追ってくるセイバーや戦闘機形態のクランシュを見て、そう吐き捨てた。ステーション本体へガウォーク形態に張り付き、追撃を掛けてくる敵機に反撃する。何機かは撃墜できたが、編隊は散会して、各個射撃で集中させる。

 

「精鋭の類じゃない!もう!」

 

 ガウォーク形態のまま、敵の編隊から壁を走りながら逃げ切ろうとした。外壁から砲塔が現れ、こちらに砲身を向けてきたが、マリは器用に回避し、ガンポッドを浴びせて破壊する。弾薬が切れれば、即座に再装填を行い、追ってくる敵機を撃つ。流石に二度目は通じないのか、避けられてしまう。

 次にガチンスキー戦隊はセイバー局地戦闘機にはミサイル、人型形態に変形させたクランシュにドッズライフルを撃ってきた。凄まじい集中砲火で大爆発が起こり、マリが乗ったVF-19が見えなくなる。

 

「やったか?」

 

 クランシュに乗ったパイロットが呟くと、爆煙の中から弾幕が現れ、呟いたパイロットが乗るクランシュが蜂の巣になって大破する。その隙にファイター形態に変形し、ステーション内部の侵入経路を探す。仕切り直してか、六機減ったガチンスキー戦隊は再び追ってきた。

 

「全くしつこいわね・・・あっ、見っけ!」

 

 偶然にも、十分に入れる侵入口を見付けたマリはガウォーク形態に変形させてそこへ入る。通路に入った物の、ガチンスキー戦隊のセイバー戦闘機は未だに尚追ってくる。MSのクランシュは諦めたようだが、自分等の施設内だというのにお構いなしに撃って来た。

 

「自分の基地だって分かっているのかしら?それならこっちも派手にやっちゃいおう」

 

 相手が撃ってくるなら、マリはマイクロミサイルを掃射した。辺りに飛ばされたミサイルは各部に命中し、ステーション内部に被害をもたらす。だが、この程度ではステーションを内部爆発は起こすことは出来ない。

 動力源にミサイルを当てる必要がある。そう考えたマリは、もっと奥まで機体を進める。相変わらず敵機はしつこく追ってくるが、何機か壁に激突して自滅する。

 進む度に道は狭くなっていき、追ってくる相手も壁に激突するか引き返すかしたのか、数は減る。

 

「あれね・・・」

 

 途中で壁をぶち破りながら進むこと数分後、ステーションの動力源まで辿り着いた。

 場所は開けており、ファイター形態でも飛び回れそうな場所だ。ミサイルを撃ち込もうとするが、流石にそこまで甘くないのか、迎撃のMSやATが撃ってくる。攻撃を回避しながら脚部の中型ミサイルを動力源にロックオンする。

 

「しっずめぇぇぇぇ!!」

 

 叫びながら操縦桿のボタンを押すと、脚部から中型ミサイルが一斉に放たれ、動力源に向けて飛んだ。ミサイルは全て動力源に命中し、爆発を起こし始める。

 

「やばっ!」

 

 マリは直ぐにステーションが爆発すると判断し、即座にファイター形態に変形し、元来た道に沿って脱出を行う。ミサイルを避けたと同じく高速で戻っているため、またしても凄まじいGが彼女の身体を襲った。途中に中型ハーディガンや小型ハーディガンが撃ってくるが、高速移動しているVF-19には全く命中しない。

 内部で連続爆発が起こる中、遂に出口が見えた。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

 叫びながらマリはアクセル全開で内部爆発を起こして崩壊するステーションを脱出した。脱出した後、機体をバトロイド形態に変形させ、大爆発を起こすバースステーションを眺める。

 

「ふぅー、一丁上がり」

 

 崩壊するバースステーションを見ながら、マリは飲料水を飲みながら一息ついた。ステーションを脱出した残存部隊は、続々と自分等の勢力圏内へと退いていく。未だに戦闘は続いているが、治まりつつある。

 

「もう少しで戦闘は終わりかな・・・」

 

 退却する連邦軍の部隊を見て、そう思い込むマリであったが、予想は覆された。連邦軍の勢力圏内から来た強力なビーム砲が、攻撃部隊のフリゲート二隻が同時に撃沈した。さらに強力なビーム砲やレーザーによる攻撃が連続して続き、攻撃部隊に更なる損害を与える。

 

「なにっ・・・!?」

 

 攻撃が来る方向を見ると、そこには1000mにも及ぶ超大型戦艦が十八隻程居た。強力なビームやレーザーを撃っているのは、大口径な巨大な十門はある主砲だった。

 

「はっはっはっ!見たか、ヴァルハラ軍!これが大艦巨砲主義だ!!」

 

 旗艦のブリッジにて、大柄の提督が超大型戦艦による艦砲射撃で沈んでいくワルキューレの艦艇を見て、叫んでいた。超大型戦艦の艦隊は主砲を撃ちながら、攻撃部隊に接近してくる。ワルキューレの艦隊は反撃を試みるが、戦艦の主砲すら弾く超大型戦艦の装甲の厚さを見て、引き越しとなる。

 援軍が現れたためか、防衛艦隊と守備隊の残存兵力が持ち直してきた。

 

「何これ、絶望的なじゃないの!」

 

 これを見たマリは無線機のチャンネルを動かし、情報を得ようとする。

 

『敵超大型戦艦・・・装甲は厚く・・・弱点は・・・ブースター・・・主砲の砲口・・・』

 

「弱点はブースターに砲口ね・・・!」

 

 弱点を得たマリはファイター形態に変形し、超大型戦艦の艦隊へ向かった。

 

「敵機が突っ込んできます!」

 

「馬鹿目、たった一機で我が無敵艦隊に挑むつもりか!大艦巨砲主義の力を見せ付けてやれ!!」

 

 向かってくるマリに対し、提督は迎え撃つ準備を命じた。そして、射程圏内にマリのエクスカリバーが入ると、大口径の巨大な主砲が火を噴いた。




大艦巨砲主義艦隊との戦闘は次回に持ち越し・・・それと第11遊撃艦隊とも・・・

~今回は中断メッセージ~

ただの次回予告。

現れし大艦巨砲主義を象徴した超大型戦艦ドレッドノート級。
果たしてマリは、艦隊を打ち破り、シュヴァルツ・ランツェンライターと交えることが出来るのか?
次回、レッヒャーVSシュヴァルツ・ランツェンライター。


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レッヒャーVSシュヴァルツ・ランツェンライター 後編

輝「柿崎ぃぃぃぃ!!!」


後半の戦闘イメージBGM
https://www.youtube.com/watch?v=X6O4UonfKyM


 大口径の連装砲が火を噴き、放たれた強力なビームがマリのVF-19Aエクスカリバーに向かってくる。周りにいる超大型戦艦からもビームやレーザー攻撃を受けるが、距離が近く、同士討ちを避けているのか、全く当たらなかった。

 

「砲雷長、なにを外している!?」

 

「敵機が速すぎて狙いが定まりません!連装砲ではなく、対空砲での排除をお願いします!」

 

 一番近い戦艦のブリッジにて、艦長が砲雷長に怒鳴り付けていた。対して砲雷長は対空砲での排除を進言。その返答の通りに対空砲による弾幕が張られた。それに続き、随伴している護衛艦なども対空砲による弾幕を張り始める。

 

「凄い歓迎ね!でもっ!!」

 

 豪雨のような対空砲の弾幕を見たマリは、速度を全快にして突っ切る。ファイター形態からガウォーク形態に変形し、手近に居た超大型戦艦のブリッジまで近付くと、ガトリングガンポッドを撃ちまくる。ブリッジは即座に蜂の巣となり、指揮系統機能を失った。

 だが、未だに対空砲や連装砲は稼働している。完全に沈めるべく、こちらに砲身を向ける主砲の砲口にミサイルを撃ち込む。大口径の砲口はVF-19のミサイルが十分に入る程の大きさであった為、すんなりと入り、飛ばされたミサイルは砲塔内部に命中し、大爆発を起こして真二つに割れる。

 

「プロヴァンス撃沈!」

 

「たかが一機になにをしているんだ。ミサイルも撃つように伝達しろ」

 

「はっ!」

 

 旗艦”大和”のブリッジにて、僚艦の撃沈の報告を受けた提督が即座に指示を出した。命令は各艦艇に伝達され、直ぐさま対空砲に続いてミサイルがファイター形態のVF-19に向けて放たれる。

 

「結構厳しくなってきた・・・!」

 

 対空砲に続いてミサイルまで来たので、マリは操縦桿を巧みに動かし、少し擦れながらも目立った損傷を受けずに次の標的へ進む。

 標的にした二隻に並んだ超大型戦艦は、敵護衛機の防衛網を突破してきた対艦装備のVF-11CスーパーサンダーボルトとVF-171ナトメアプラス、MSZ-006C1ZプラスC1型、MVF-M11Cムラサメ、その他ハーディガンの攻撃を受けるが、目立った損傷はなく、対空砲によって次々と撃墜されていく。

 ただ撃墜されていくワルキューレ宇宙軍の可変系人型兵器だが、赤い粒子を撒き散らしながら高速で移動する機体が居た。

 その機体はGNX-803TジンクスⅣと呼ばれ、GNドライブと呼ばれる粒子を発生させるMS用のエンジンを搭載し、出撃時に五種類の基本装備を選択でき、さらに機体の出力を通常の三倍に引き上げ、性能を向上させるトランザムシステムと呼ばれるシステムを搭載しているが、時間制限があり、時間切れになれば、性能が大幅に低下してしまう。ワルキューレが保有する量産機の中では尤も高性能な機体である。

 

「赤い粒子・・・?あのジンクスって量産型ね」

 

 自分が所属する遠征艦隊の艦載機ジンクスⅣも入っていたのか、それを口にする。しかし、凄まじい弾幕の前に堕とされる機体もあり、前に出ていた超大型戦艦が中破する頃には撤退するか撃墜された。二隻とも目立った外傷は与えられたが、戦闘継続は可能だ。

 直ぐにトドメを刺すべく、マリは下から超大型戦艦に接近することにした。やはり下部にも対空砲が幾つか搭載されており、弾幕を浴びせてくる。

 

「ですよねー」

 

 弾幕を回避しつつ、ダーク・ビジョンを発動して他の弱点を探る。船体中央部に原子炉を見付けることに成功した。直ぐに動力源がある方向へ全速力で飛んでいく。

 船体間近までに近付くと、バトロイド形態に変形し、右拳にピンポイントバリアを溜め込み、中央部へ向けて拳を振り翳す。殴り付けた下部装甲版には、全高16m代のバルキリーが通れるほどの穴が開く。船外に入ったマリはそのまま障害物を潰しつつ、原子炉を目指す。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 原子炉を見付ければ、ガンポッドを数発ほど撃ち込んで破壊し、全力で超大型戦艦内部から外へ脱出する。外の宇宙空間に出れば、撃沈する戦艦から離れ、近場にいる戦艦の元へファイター形態で向かった。

 

「僚艦ダンカン撃沈!!」

 

「敵機、こちらへ向かってきます!!」

 

「撃て、迎撃だ!!」

 

 ブリッジ内で、僚艦の撃沈させたマリのVF-19の接近を知らせるレーダー手の報告に、艦長は直ぐに指示を飛ばした。

 即刻、戦艦の防空網が厚くなり、対空砲やミサイルの嵐になったが、マリはこれを避けながらブリッジまで接近し、ピンポイントバリアパンチを打ち込んだ。拳をブリッジから離すと、兵士達が宇宙空間へと放出され、苦しみながら死ぬのが見える。

 無論、戦艦はまだ機能しており、対空機関砲がマリのエクスカリバーを堕とそうと、砲身を向け、凄まじい速さで弾丸を放ってくる。しかし、その戦艦は敵の防衛線を抜けてきたVF-11が持つ強力な対艦ライフルを数十発ほど撃ち込まれ、撃沈された。

 

「良い(もん)持ってるじゃない!」

 

 沈んでゆく戦艦の真上で、マリは対艦ライフルを欲しがった。分捕ってやろうと接近する彼女であったが、ステーションの爆発後、生存が確認し得なかったガチンスキー戦隊のエンブレムを付けたセイバー局地戦闘機やクランシュが襲い掛かってきた。

 

「あいつ等、まだ生きてたのね」

 

 ファイター形態に変形し、迫ってきた数機のセイバーの突撃攻撃を回避し、後ろへ付いて撃破していく。接近戦を挑んできたクランシュに対しては、ビームサーベルを持つ手を殴り、サーベルを奪って返り討ちにする。

 この間にも、対艦ライフルを持ったバルキリー部隊がガチンスキー戦隊の攻撃を受け、数機以上が撃破された。それにより、撃破された機体の対艦ライフルが宇宙に漂い始める。

 

「ラッキー!」

 

 空いた対艦ライフルを見付けたマリは、攻撃を受けながらもそれを回収しに行った。VF-19のスピードで直ぐ対艦ライフルの元へ着き、右手でライフルを取ると、試し撃ちとして護衛艦に狙いを付けた。

 未だに尚、セイバーがその他連邦製戦闘機と共にしつこく追ってきたが、ガンポッドを撃ち込んで退散させる。邪魔な敵が消えると、マリは対艦ライフルを護衛艦に向けて撃った。反動で銃身が上へ跳ね上がった後、護衛艦はたったの一発で沈む。

 

「これなら打ち所が良かったら行けそうね」

 

 対艦ライフルの威力を見たマリは近くの戦艦へと向かった。一番装甲の薄そうな下方へ回り込み、原子炉を再度ダーク・ビジョンで確認して対艦ライフルを撃ち込んだ。強い反動と共に発射された弾頭は甲板を貫通し、原子炉に食い込んだが、沈まなかった。

 

「もう一発!!」

 

 その声の後にもう一発撃ち込み、確実に戦艦を沈める。次の標的を確認すると、獲物の元へ向かう。今度は上から接近することにして、近い距離から対艦ライフルを数発ほど撃ち込んで撃沈させる。

 同じ手で二隻ほど撃沈させた後、強制的な通信が入ってきた。

 

『こちら、攻撃部隊旗艦のダイヤモンド。敵大型戦艦の艦隊と交戦中の友軍機に告げる。これより、新マクロス級やマクロス・クォーター級などの大量破壊兵器を持つ艦艇が一斉射撃を行う。射線上に居る友軍機は直ちに射線上から退避されたし。繰り返す』

 

 事実と確認するため、味方の艦隊が居る方向を見ると、光がこちらへ向かってみるのが見えた。周囲を見渡してみると、味方機が次々と別の方向へ逃げ去っていく。

 

「どうやら本当みたいね」

 

 直ぐにマリも射線上から撤退しようとしたが、取り残された味方の脱出ポッドを見付けた。脱出ポッドは射線上に入っており、このまま放置すれば巻き込まれるだろう。対艦ライフルを捨て、直ぐにポッドを回収して射線上から離れようとしたが、ガチンスキー戦隊の隊長機が追ってくる。

 

「逃がさんぞ!逆翼!!」

 

 戦闘機形態のクランシュはMS形態へと変形し、ドッズライフルを撃ち続けてきた。ガンポッドで撃ち落とそうとするも、そう簡単に敵機は当たってくれなかった。変則的な機動で照準が合わないので、仕方なく撃ちながら後退する。

 

「どうした!これまでか?!」

 

 一気に接近しようと、ガチンスキーはビームサーベルを抜こうとしたが、熱源反応の警報が鳴り響く。

 

「熱源反応?なっ!?」

 

 時既に遅く、ガチンスキーは強力な光に包まれ、消し炭となった。そして、強力な大量破壊兵器の一斉射撃を受けた超大型戦艦の艦隊は、凄まじい被害を受け、壊滅状態に陥っていた。光が止むと、無事だった旗艦大和のブリッジにて、レーダー手からの報告が入る。

 

「ひ、被害報告!」

 

「当大和には損害はありません。護衛艦は全滅。ドレッドノート級超大型戦艦、モンタナ、キングジョージ、ビスマルク、陸奥、リシュリュー、ドイチェラント、インペラトリッツァ・マリーヤ、武蔵、アイオワ、リットリオ、伊勢撃沈!」

 

「ば、馬鹿な・・・!プロヴァンスとダンカン、紀伊、グナイゼナウ、ノースカロライナ、ソビエツキー・ソユーズが撃沈されたばかりだと言うのに・・・!」

 

 この報告に提督は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、悔しがる。

 

「長門はまだ航行が可能ですが、戦闘不能。当戦闘宙域からの離脱を要請しております!」

 

「クソォ・・・!足手纏いだ!下がらせろ!!」

 

 損傷を受けて、火災が起きている長門を下がらせるよう指示を出す。こうして、艦隊で戦闘可能なのは自分が乗っている大和だけとなった。現状の戦力ではワルキューレの艦隊と太刀打ちすることなど不可能であり、連邦軍は撤退するしかない。

 提督が撤退を指示しようとした瞬間、脱出ポッドを友軍機に預けたマリが、トドメを刺しに高速で大和へ接近してきた。

 

「て、敵機!接近!!」

 

「なにぃ!?」

 

 報告で驚いている間に、対空砲の射程距離内まで到達した。対空砲による弾幕の嵐の中をマリは突っ切り、一気にブリッジ近くまで来る。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!」

 

 ブリッジ前で変形し、バトロイド形態となったエクスカリバーは右拳をブリッジ内に突っ込み、提督を掴む。拳を引き抜けば、宇宙空間へと放り出される乗員達の姿が見え、掴まれた提督は酸素のない宇宙へ出され、かなり苦しんでいる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 叫んだマリは、提督を掴んでいる右手にピンポイントバリアを発生させ、残ったミサイルを手当たり次第に放つ。ミサイルをある程度撃った後、提督を握ったまま甲板へ向けてピンポイントバリアパンチを打ち込む。凍った提督の肉体は消滅し、甲板に穴が空くと、残ったミサイルを全て撃ち込み、大和を撃沈させた。

 船体各部で爆発が起こる中、ファイター形態へ変形させ、バルキュリャに帰投した。もうすぐの所でバトロイド形態となり、開いているハンガーへ入り込む。発進後に飛んでいた同じエクスカリバーも帰投しており、整備兵達の整備を受けている。

 

『ファイター形態に変形してください!』

 

「えっ?うん」

 

 整備長からの指示に、マリはファイター形態へ変形させる。キャノピーを開けて降り、ヘルメットを取って汗を振り払うと、医務室がある通路へと入った。

 パイロットスーツを脱ごうとしたが、直接肌から着ていたことを思い出し、着直して自分の勤務服と下着がある医務室へ急ぐ。医務室へ入った瞬間、全裸の女医がマリに抱き付いてきた。

 

「ちょっと・・・!」

 

「きゃん・・・!」

 

 小さく悲鳴を上げ、倒れ込んだ女医は顔を赤らめた。その衝撃でパイロットスーツの形半分がはだけ、片方の乳房がさらけ出される。

 

「レイプする気?まぁ、相手は女の子だから良いけど」

 

「レイプって・・・あんた、相当な淫乱女ね」

 

 マリからの罵倒に対し、女医は小さく笑った後、誘うような仕草をしながら口を開いた。

 

「まぁ、勘違いされた時に中絶手術することになっちゃったんだけど。初めては中出しでモーニングアフターピルを使う羽目になったし。でも、女の子同士だから、コンドームもピルも必要ないでしょ?」

 

 そう告げる女医に対し、マリは呆れた表情をして出て行こうとしたが、股間を触れられ、声を上げてしまう。

 

「きゃっ・・・!」

 

「あら、可愛い声・・・私、あの程度じゃ不満なのよ?せめて私を満足させてからシャワーを浴びる事ね」

 

 顔を赤らめるマリは、仕方なく女医の願い事を聞くことにした。裸の妖艶を漂わせる女医の裸体をベッドへ押し倒し、自分より何㎝か大きい乳房を両手で揉み出す。

 

「良いわよ・・・満足させて・・・!」

 

 パイロットスーツを脱ぎ捨てて馬乗りになったマリに対し、女医はさらに彼女を誘う。

 

「もう滅茶苦茶にしてやるんだから・・・!」

 

 先の戦闘で疲労感が溜まっていたマリはそう告げた後、それを吐き出すかのように女医の身体を強引に抱き始めた。二~三時間ばかり、医務室で二人の美女の喘ぎ声が響き渡った。

 

 

 

 その頃、戦力補充と補給を終えた第11遊撃艦隊通称シュヴァルツ・ランツェンライダーはバースステーション陥落の報告を受けていた。

 

「なに、バースステーションが陥落しただと?あそこには二万隻ばかりの艦艇が配備されていたはずだ、三ヶ月くらいは持つはずだぞ」

 

 全長830mのフリッツ・アプト専用の戦艦旗艦シュプリンガーの会議室にて、報告書に目を通したフリッツが疑問を口にした。

 

「それが、僅か一機の可変機に堕とされたようです・・・」

 

 幹部の一人が口にした言葉に、フリッツは机を叩く。

 

「そんな訳あるか!変形するだけの人型兵器一機が、要塞化されたステーションを堕とすなど、何処のプロパガンダ映画の話だ?」

 

「確かに。おそらく一個大体規模の小型機動兵器の侵入を許し、動力源を破壊されたのでしょう。これが妥当な考え方だと、小官は思います」

 

 副官が出した答えに納得したフリッツは次の課題に移った。

 

「それもそうだな。では、作戦の練り直しだ。補充した戦力は九千隻増えたが、人員は敗残兵と新兵、そして女だ。新兵と女はいらんと言ったのに」

 

「提督・・・余りその発言は・・・」

 

「分かっておる!しかしな、男は女を振り向かせようと、馬鹿をやるもんだ。特に新兵は格好付けようとして、勝手に突っ込んでいって無駄死にする。俺はこれが嫌なんだ。男女平等と言う問題じゃない」

 

 フリッツが口にした答えに、会議室にいた一同は納得した。

 

「それに対する対応を考えなければなりませんね。なるべく新兵や女性が乗った艦艇と艦載機は後方に下がらせましょう」

 

「そうですな。我々は他の艦隊とは違って特殊だ。慣れるには実戦を二~三度する必要がある。敗残兵達にも注意が必要ですな」

 

 参謀が対策案を出すと、老練な幹部はそれを承認し、次の敗残兵の問題を出す。

 

「うむ。敗残兵達に前の古巣と同じノリでやられては困る。隊長クラスには絶対にするな」

 

「分かりました。編成は彼等が隊の長にならぬよう編成します」

 

 航空参謀が聞き入れ、データバンクに記録し始める。

 

「よし、これで補充は解決だろう。では、敵の前衛を迎え撃つため、ポイント6-2-8へ向かい、迎撃陣形を取る。解散!」

 

 この艦隊の提督であるフリッツの一言に艦隊幹部達は立ち上がり、敬礼してから会議室を出た。

 

 

 

 して数時間後、フリッツ等の艦隊の標的となる前衛である遠征艦隊所属のバルキュリャの移住区の自室にて、女医との行為を終えたマリはシャワーを浴びた後、全裸のままベッドの上で寝息を立てながら爆睡していた。

 勤務服とパイロットスーツは辺りに脱ぎ捨てており、散らかりようが酷い。そんな夢の世界に浸る彼女に、通知が入る。

 

『艦載機の全パイロットに告げる!偵察機が進路方向に連邦艦隊を捕捉。至急全パイロットは出撃待機に入れ!繰り返す』

 

「ん・・・もう敵と遭遇・・・?」

 

 起き上がったマリは、下着を身に着け、勤務服を纏い、乱れた髪のままパイロットスーツを抱えて部屋を出る。通路は慌ただしく動き回る乗員達で溢れていた。

 

『デフコンレベル2発令!各員は所定の位置へ急行せよ!繰り返す、各員は所定の位置へ急行せよ!』

 

「パイロットはミーティングルームへ集合してください」

 

 乗員に肩を叩かれて知らされたマリは、パイロットスーツを乗員に渡した。

 

「これ、洗っといてね」

 

「は、はい!」

 

 渡された乗員は敬礼し、マリはミーティングルームへと向かう。既にバルキュリャの全パイロットは集合しており、マリを待っているようだ。

 

「少佐、五十秒の遅刻です」

 

「あっ、ごめん」

 

 ミーティングルームに入れば、解説を行う青が混じった黒髪の女性士官に注意された。マリが座席に座ると、それを確認した士官はミーティングを開始する。

 

「偵察機の情報に寄れば、連邦軍の艦隊は同盟軍の艦隊と交戦中です。提督は漁夫の利を得ようと考えているようです。連邦軍の戦力は艦艇二万三千隻、同盟軍は一万六千隻、艦載機の数は空母の大きさで不明ですが、連邦軍の艦隊は九千隻以上を後方へ下がらせています」

 

 壁に掛けられている電子版に、矢印棒を指しながら解説する士官だったが、マリは居眠りしている。どうやら開始数秒後に睡魔が襲ってきて、そのまま眠ってしまったようだ。彼女が起きる頃にはミーティングは既に終わっていた。

 

「出撃ですよ、少佐」

 

「う・・・終わってた・・・」

 

 隣に座っていたパイロットに起こされたマリは、欠伸をしながら退室し、更衣室へと向かう。新しいパイロットスーツを着込むと、自分のVF-19の元へ向かったが、機体はそこには無かった。直ぐに近くにいる整備兵に問う。

 

「私のVF-19は?」

 

「機器系統と外装が破損してたんで出撃は不可能です!あちらのガンダムMkⅡにお乗り下さい!」

 

 整備兵が指差した方向には、頭頂高18.5mのMSがあった。

 RX-178ガンダムMkⅡとは、ティターンズと呼ばれる治安部隊がかつての大戦で活躍したRX-78ガンダムを復活させるために開発したMSであり、かつてのガンダムの開発に関わった人材を使って開発され、当時最新的な技術を盛り込まれて開発された。本機は反連邦組織エゥーゴに奪還されて以降、長期に渡り運用される。

 

「あれね・・・」

 

 マリは即刻ガンダムMkⅡに乗り込み、途中で手に取ったマニュアルで操縦方法を覚える。

 

「大体はZガンダムと一緒ね・・・」

 

 同じコクピットタイプであるため、マリはそう呟く。

 

「Gディフェンサー装備で行きますか?」

 

「うん、それにする」

 

 整備兵が聞いてきたので、マリはマニュアルで確認した後に答える。機体をカタパルトまで持って行くと、アームが後方から現れ、背後にGディフェンサーと呼ばれる強化装備を装着させる。専用のビームライフルはサイドスカートに装着され、ロングライフルと呼ばれる強力なビーム砲を持った。

 

『MkⅡ、発進OK。進路オールグリーン』

 

「じゃっ、行きますか」

 

 電子掲示板がカウント0を表示すると、マリが乗ったMkⅡディフェンサーことスーパーガンダムは、戦闘宙域に向けて射出された。宇宙空間へ投げ出された後、光が点いたり消えたりしている方向へと飛んでいく。一方の遠征艦隊に同行した競合師団に属するザシャ達も出撃する。

 

『各機エンジンスタート!各旅団は発進後、戦闘宙域へ急行せよ!!』

 

 全長1700m、全高600mにも渡る超巨大な空母のハンガー内にて、アナウンスが流れる。

 

「最新鋭機ばっかりね・・・」

 

 マリが乗っていたVF-19Aより上位機種であるVF-25メサイアシリーズに乗り込んだザシャは、周囲に並ぶジンクスⅣや戦乙女のようなハーディガンを見て呟く。彼女等元ヴァンキッシャー隊が乗っている空母は最新鋭機ばかりであり、下に見られていた第2中隊にも最新鋭機が配備されていた。

 ちなみに、ザシャが乗っているVF-25Aにはノーズアートが描き込まれており、専用の火力・防御力を上げたアーマードパック装備だ。僚機は生産性の高いスーパーパックを装備する。

 彼女が属している元ヴァンキッシャー隊である第5大隊も、同タイプのVF-25が配備され、全員が乗っている。

 

『D旅団発進用意!各大隊は順次発進せよ!!』

 

『隊長、発進準備です』

 

「え・・・うん、分かった。聞こえてる」

 

 チェリーからの知らせにザシャはそう答えた。各大隊が発進していく中、ザシャ達が属する大隊の発進の出番が来た。

 

『第5大隊発進!!』

 

『総員発進!』

 

『了解!』

 

「了解」

 

 カタパルトに着いた大隊のVF-25は、開いたハッチから一斉に発進していく。宇宙空間へ出た大隊は連邦と同盟の艦隊の攻撃に向かう大編隊に加わる。

 

「あら、最近の奴。ザシャちゃん達が乗っているのかしら?」

 

 他のバルキリーより早いメサイアの集団をモニターで見付けたマリはそう呟いた。戦闘が行われている宙域へ向かっている最中、オペレーターから通信が入ってくる。

 

『戦況を報告します。現在連邦軍が同盟軍を圧勝しており、同盟軍を殲滅後も連邦軍は余裕です。迎撃される恐れがあります。注意してください!』

 

「結構強いのね、連邦宇宙軍って」

 

 通信からの報告に、マリは一応フリッツ・アプト提督率いるシュヴァルツ・ランツェンライターの活躍ぶりを褒めた。無論、敵艦隊の哨戒部隊に遠征艦隊が察知される。

 

「ヴァルハラ軍、我が艦隊の右舷より接近!」

 

「なにぃ!右舷よりヴァルハラ軍の大艦隊だと!?もう着いたのか!後方に下がらせた連中を向かわせろ!!」

 

 早速戦闘中の旗艦シュプリンガーのブリッジに伝えられ、フリッツからの指示が飛ぶ。

 

「宜しいので?後方の新兵と敗残兵達をぶつけるなど・・・」

 

「時間を稼がせている間に、目の前のこいつ等を速攻で始末して加勢に行けば良いだけの事だ!分かったら早く伝達しろ!!」

 

「りょ、了解!」

 

 副官から抗議が来たが、フリッツは怒鳴り付けるように答え、通信士に後方の九千隻に指示を出す。後方で待機していた艦隊は空母から艦載機を発進させ、遠征艦隊から発進した大編隊の迎撃へと向かわせる。

 

『相手はヴァルハラ軍です!女ばかりだからって油断しないでください!!』

 

『女ばかりだって?そいつはいいや!』

 

「ふざけるな柿崎。奴等にも男が居るぞ!それに下手すれば同盟軍より手強いんだぞ!」

 

 迎撃に向かうガンダムのような外見を持つMSであるエールパック装備のGAT-04ウィンダムに乗り込むパイロットは、同じ機体に乗る同僚のパイロットがふざけた態度を取った為に注意した。

 

『そりゃあ、確かにヴァルハラ軍にも男性は居るでしょう。でも、大半は女性だ。手強いと言えば面白い』

 

「面白い?もしかしたら死ぬかもしれないんだ!」

 

『どうしたんです?そんなに臆病風を吹かせちゃって』

 

『マイクの言うとおり。女ばっかりだって事は変わりないんだろ?あっ、お前、もしかすると女でもできたか?ふははは・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!?』

 

 突然笑っていた柿崎が断末魔を上げながら爆風に飲まれ、その直後に彼が乗っていた機体が爆散した。

 

「柿崎ぃぃぃぃ!!!」

 

 爆散した同僚の名を叫びながら、飛んでくるビームに対する回避行動を取る。

柿崎が乗ったウィンダムを撃墜したのは、マリが乗るスーパーガンダムのロングライフルの初弾であった。

 

「おっ、当たった!」

 

 柿崎のウィンダムの爆煙が消え去ると、当たるとは思っていなかったマリは喜ぶ。この第一射で両軍の機動兵器同士による交戦が開始された。連邦軍側には戦闘機や攻撃機なども居たが、ワルキューレの可変系統の人型兵器に苦戦していた。

 敵機が大量に目の前から現れたため、マリはミサイル全弾を使って、全ての敵をロックした。発射されたミサイルはロックされた敵機へ飛んでいき、何発か外れたり回避されたが、数機以上を撃墜できた。

 

「あぁん、もう!避けられた!」

 

 三機は撃墜できたが、マリは放ったミサイルが命中しなかったことが悔しかった。後続の機体が続々と到着し、連邦軍機と交戦を開始する。

 乱戦状態と言っても、連邦軍のパイロット達は実戦経験がないのか士気が低いのか、次々とワルキューレの機体達に撃墜されていた。ザシャ達が属する競合師団も到達、これにより敵の防衛戦を総崩れとなる。

 

「ステーションの時とは違って随分と呆気ないわね・・・」

 

 次々とやられる連邦軍機を見てマリはそう呟く。防衛戦も乱れ、艦隊に近付ける程手薄になったので、躊躇うことなく他の友軍機と共に向かう。

 流石に九千隻の艦艇の弾幕は厳しく、何機が撃ち落とされていくが、マリは臆することなくロングライフルを撃ち込む。標的にされたサラミス改級巡洋艦は一撃で撃沈した。

 

「これ凄いわね!」

 

 ロングライフルの火力に興奮したマリは、見える敵の艦艇に強力なビームを撃ち込んでいく。彼女の狙撃が出来るほどの射撃能力で、一発も外れることなく次々と艦艇を沈める。

 

『各機、反応弾発射!!』

 

 強化装備のVF-25の大編隊も防衛戦を抜け、敵艦隊を射程に捉えていた。連邦軍は照準が難しい可変戦闘機に向けて連装砲や主砲を撃ちまくるが、一発も命中しない。

 十分に当たる距離まで接近され、反応弾と呼ばれる純粋水爆に近い大型ミサイルが発射された。発射された大多数の大型ミサイルは標的にされた艦艇に続々と命中し、艦艇を沈める。さらには遠征艦隊の射程距離まで来られ、艦砲射撃で損害を拡大していく。

 

「これで時間稼ぎをさせているつもりか?弱すぎるな、これならあの精鋭もやれそうだ」

 

 次々と沈み行く敵艦を見たデリアは呆れ返る。無論、この醜態は上官のフリッツにも知らされた。

 

「右舷の味方艦隊より救援要請!至急増援を請うとの要請です!」

 

「時間稼ぎも出来んのか!!」

 

 報告を耳にしたフリッツは、モニター映し出された時間稼ぎに出した艦隊の醜態ぶりを見て、怒鳴り散らす。その直後に、目の前で圧倒されていた同盟軍の艦隊がこれ以上撃ち合うのは不可能と判断したのか、撃つのを止めて白旗を揚げていた。

 

「敵艦隊戦闘中止!白旗を掲げています!」

 

「えぇーい、そんな暇があるか!適当なところに撃って追い払え!!」

 

 怒るフリッツの指示に対し、参謀の一人が注意する。

 

「それでは、規約に違反することに・・・」

 

 だが、フリッツは異議を唱えた参謀に怒鳴る。

 

「今は戦闘中だ!傷付いた敵艦を拿捕したまま拠点まで背中を晒しながら撤退しろと言うのか?!それでは帰って被害を拡大することが分からんのか貴様!良いから撃って追い払え!」

 

「は、はっ!」

 

 フリッツの指示は直ぐに実行され、威嚇射撃が始まると、同盟軍の残存艦艇は自軍領域内へと一目散に逃げていく。だが、この間が仇となり、時間稼ぎを担当していた艦隊を打ち破った遠征艦隊の接近を許してしまい、対応が遅れてしまう。

 

「右舷より敵艦隊!!」

 

「怯むな!反撃しろっ!!我が艦隊が数ばかりで押すしか脳のない連中とは違うことを知らしめるのだ!!」

 

 側面より来た攻撃に臆することなく、反撃を指示するフリッツであるが、先の同盟軍艦隊との戦いとは違って、数も多くてデリアの能力は彼より上である。瞬く間に千隻以上の黒い艦艇が沈められ、反撃に移った艦艇も沈められていく。

 

「指揮官の腕前が良いが、無能に側面を任せたのが失敗だったな。高火力を有する艦艇はそれを惜しまなく使え。少しでも早く戦闘を終結させよ」

 

 対応が遅れて損害を拡大するシュヴァルツ・ランツェンライターを見たデリアは、強力な兵器を搭載する艦艇にそれを使うよう指示を出す。

 

「艦長、旗艦よりアルテミシオンの使用許可がおりました!」

 

「は、はい!直ちに発射シークエンスを行ってください!」

 

 その指示を受けたバルキュリャは、搭載されている強力なレーザー砲を撃ち出す大量破壊兵器アルテミシオンの発射準備を行う。艦首が開き、そこから大口径の砲身が現れ、エネルギーをチャージしていく。十分以上敵から来る攻撃を耐えしのいでいると、エネルギーのチャージが溜まった。

 

「エネルギー充填完了、撃てます!」

 

「砲雷長、アルテミシオン発射してください!」

 

「了解!照準、敵艦隊中央部!アルテミシオン発射!!」

 

 艦長のオロンピアの指示に、砲雷長は艦隊中央部に狙いを定め、強力なレーザーが砲口から発射した。同時に発射された他の艦艇の強力なビームやレーザーと共に、シュヴァルツ・ランツェンライターへと飛んでいく。それらの強力な攻撃は敵の艦隊に命中し、多数の艦艇を焼き払う。

 強力な光から視界を守りながら、フリッツは退避命令を出す。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「回避だ!回避運動!!」

 

 忽ち精鋭のシュヴァルツ・ランツェンライターの艦隊は大半が消し去られ、ギリギリ戦闘継続が可能であっても、士気低下は紛れもない程であった。

 

「損害多数!戦闘継続は可能ですが、勝算は限りなく低いです!」

 

「ぬぅぅ、おのれ・・・!撤退だ!撃ちながら後退しろ!!」

 

 的確な指示を出すフリッツであるが、この後に自分の艦隊が再編不可能なほど叩き潰される事となる。アルテミシオンを撃った後のバリキュリャの戦闘ブリッジ内では、シミュレーションでしか撃ったことがなかったのか、呆然としていた。

 

「す、凄い・・・」

 

 第一声に声を放ったのはオロンピア艦長だけであったが、そんなブリッジにいる彼女等に、Gディフェンサーを目の前で外したマリが声を掛けてくる。

 

『ちょっと、シールドとバズーカ頂戴。この装備返すから』

 

「え?あっ、はい!整備長、MkⅡのシールドとバズーカを出してください!」

 

 マリからの要請に対し、オロンピアは整備長に指示を出し、カタパルトからMkⅡのシールドとバズーカを出させる。出て来たシールドとバズーカを受け取ったマリは、補給を終えて戦地へと戻るアーマードパックとは違う機動性を高めたスーパーパック装備のVF-25に捕まり、戦場へと戻る。

 パイロットから注意を受けたが、マリは気にすることなく捕まって、エネルギーを節約する。戦場へ到着すると、後退しながら主砲を撃つ艦艇を護衛する艦載機が、味方機と乱戦状態になっていた。

 

「前とは違うけど、十分居るわね・・・」

 

 メサイアから離れ、レーダーに表示された赤い反応を示す敵機の多さを見て呟く。そして自分へ向けてビームを撃ってくる黒いヘビーガン三機に対し、パック式のビームライフルを撃ち込んで撃墜する。

 

「や、奴はエースか!?」

 

 同じ色のNRX-009バリエントに乗ったパイロットは、マリの異常な早撃ちを見て叫ぶ。そうしている内にマリに撃墜され、他の機体も次々と葬られていく。数分間に十機以上を撃墜した彼女は、次なる矛先を巡洋艦へ向け、バズーカに切り替えてから向かった。

 対空弾幕は来るが、バズーカの散弾を浴びて何基かの対空砲が無力化され、それによりマリのMkⅡの接近を許し、抜かれたビームサーベルでブリッジを両断された。次の標的を地球連合軍のネルソン級戦艦に向け、ビームライフルを撃ちながら接近する。

 黒い数機のダガーL等の護衛も着いていたが、ビームライフルの射撃を受けて大破し、ビームサーベルで両断されてしまう。バズーカに持ち替えたマリは、対空砲の弾幕を避けながら船体へバズーカを数発発射、ネルソン級は二つに分裂して沈む。

 

「これで十五機は墜とせたかな?」

 

 破壊した敵機の数を指で数えていると、ザシャ達が乗るVF-25が大量のミサイルを発射して敵機や戦艦を次々と沈めていくのが見えた。ミサイルを撃った後、ザシャは機体をバトロイド形態に変形させ、ビームサーベルで斬り掛かってくるジェガンをガンポッドで蜂の巣にする。

 

「私もあれに乗りたい!」

 

 VF-25に乗りたいと思って叫ぶマリであったが、そんな彼女に二十機以上の黒い塗装の敵機がビームやミサイルなどを撃ち込んでくる。

直ぐにシールドで防御するが、ミサイルを伏せきれず、シールドは爆散する。

 

「やったか?!」

 

 煙で見えなくなるガンダムMkⅡを見て、シャベリンのパイロットはそう確信したが、煙の中から飛んできたビームを受けて撃墜される。それと同時にマリのMkⅡが飛び出し、周りに見える敵機にビームを撃ち込んでいく。何機かには回避されたが、十分に怯ませることは出来た。

 バズーカを全弾撃ち込み、六機を撃墜、予備の弾が無いバズーカを捨てビームサーベルを抜き、五機ほど切り裂いて撃墜する。

 

「後、八機!!」

 

 瞬く間に十二機を撃墜したマリは、弾切れのビームライフルを捨て、退こうとする残り八機に向けてもう一本サーベルを抜き、二刀流で挑む。ライフルを撃ち続けながら退く連邦軍機だが、彼女は回避しつつ、追い付いた二機を一気に両断し、三機目を一刀両断にした。次の標的に対しては、左手に握るサーベルを投げ、串刺しにして引き抜き、もう一機を切り裂く。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 恐ろしい強さを見た連邦軍の三人のパイロットはライフルを撃つのを止めて逃げようとする。無論、彼女が逃すことなく、ブースターを噴かせて接近し、一機を串刺しにして二機目を上半身と下半身に分断、最後の一機を四つに両断した。

 

「これで、終わり!!」

 

 最後は縦に切り裂いた後、ビームサーベルを仕舞い、元の位置へ戻し、流れてきたジムⅡのビームライフルを手に取り、周囲を確認する。戦闘は既に終わったらしく、再編が不可能となったシュヴァルツ・ランツェンライターが損傷した艦艇を連れながら撤退していく様子が見える。

 ようやく戦闘を終えたマリはヘルメットを脱ぎ、シートへ深く座って大きく息を吐いた。




大艦巨砲主義者達との熱い(?)艦隊戦から柿崎ぃぃぃぃ!!!

ネタバレ的に言うと、柿崎は後一回死ぬんだな(笑)。
ちなみに、マクロスのステーキとミンメイが大好きな柿崎じゃありません。

~今週の中断メッセージ~

ビッテンフェルト「今日は休みだ!」

※ネタが思い付かないのでお休みします。


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艦隊戦

前回のあらすじ 「柿崎ぃぃぃぃ!!!」


 第11遊撃艦隊ことシュヴァルツ・ランツェンライターとの戦闘に勝利したデリア率いる遠征艦隊は逃げ去る敵の残存艦艇を無視し、当初の目的地へ進行を再開した。

 

「提督、敵の残存部隊は放っておいて宜しいのですか?」

 

「精鋭部隊とはいえ、あれだけの損害を負ったのだ。反撃など不可能さ。彼等にはもう敗走でしか選択肢はあるまい」

 

 旗艦ウンター・ガングのブリッジにて、隣に立つ背丈が190㎝程はある長身の副官が問いに対し、玉座のような専用の椅子に腰掛けるデリアはそう答える。

 

「敵艦隊、レーダー圏外へ逃れました!」

 

「偵察機より報告、黒い騎兵隊、折レタ槍ヲ担ギナガラ敗走セリ」

 

「行ったとおりだ。彼等精鋭が再び戦場に戻るには、半年くらいはかかるさ」

 

「何しろ精鋭部隊ですからな。良くあれだけの手勢を揃えた物ですよ」

 

 レーダー手や通信士からの報告を耳に入れたデリアは、副官に表情を浮かべながら告げる。副官はそれに笑みを浮かべて答えた後、上官の代わりに指示を出す。

 

「各艦、警戒態勢を維持したまま待機。傷付いた艦は補修作業を急げ。補修が済み次第、目的地へ向けて進行を再開する」

 

 各艦艇は指示に応じ、傷付いた艦艇は工作艦から補修作業を受け、戦闘可能な艦艇は警戒態勢を取った。エネルギー切れ寸前なマリのガンダムMkⅡは母艦であるバルキュリャへと帰還する。録画していたマリの活躍を見ていたデリアは新たな期待を胸に抱き、受話器を取って第1分隊本部と連絡を取る。

 

「第1分隊本部へ、ロデリオン分艦隊に新しいMS一機の配備を願いたい」

 

 子供のような笑みを浮かべながら、デリアは相手に告げた。一方、母艦であるオリフラームへ帰投したザシャは自室に戻り、ベッドへ腰掛けて本を読んでいた。彼女の部屋はそれなりの戦果を上げたことを認められたのか、士官用の個室だ。

 部屋は少し変わっており、棚にはドイツ帝国時代の軍用複葉機フォッカーD.Ⅶ、ドイツ国防軍の偵察機・連絡機Fi156シュトリヒ、急降下爆撃機ユンカースJu87スツーカがぬいぐるみと共に飾られていた。とても女性の部屋とは思えない。

 脱いだパイロットスーツはクローゼットの中に掛けられ、今着ている制服の階級章には中尉を示す紋章が刻まれている。待機命令が出ているはずだが、代わりの部隊が展開している御陰でこうしてゆっくりと本を読むことが出来る。そんな本を読んでいるザシャの元へ来客が訪れた。

 

「どうぞ」

 

 ベルが鳴って入るように伝えると、相手が自動ドアを開けて入ってくる。その入ってきた相手は少佐扱いのマリであった。

 

「貴方は・・・!」

 

「やっほー、ザシャちゃんが乗ってたあのバルキリーの操作について教わりに来ちゃった」

 

「は、はぁ・・・?」

 

 突然やって来て少女のような笑みを浮かべて告げるマリに、ザシャはついてこられないでいた。長身の彼女の後ろには、チェリー、千鶴、ペトラのザシャの部下達が居る。どうやらマリに案内をさせられた様子だ。

 

「教えてくれるかな?あのバルキリーの乗り方」

 

「はい・・・それと、その格好はなんとかならないのですか?」

 

「え、これ?良いじゃん別に」

 

 マリの格好を見たザシャは、なんとかならないのかと注意した。その彼女の格好は、上の方はバルキュリャで着ていたいつもの勤務服であったが、下はミニスカにガーターベルトであった。黒いストッキングがマリの健康的な脚の魅力を際立たせ、さらにミニスカと黒いガーターベルトの間には、彼女の白くて肉付きの良い太腿が見える。

 ガーターベルトを身に着けた彼女の美貌は、同姓ですら目のやり場を困らせる程の威力だった。

 

「はぁ・・・じゃあ、ハンガーまで来てください」

 

「OK」

 

 溜め息をついたザシャは、本にしおりを挟み、ベッドから立ち上がって部屋を出た。

通路を歩いている最中、通り過ぎていく空母の乗員達は足を止めてしまい、マリの脚に目を取られる。道中、ザシャは指でチェリーを呼び出し、後ろからついてくるマリに聞こえないよう小声で問う。

 

「ねぇ、チェリーちゃん。なんで案内したの?」

 

「すすすすみません!遂パフェを奢っちゃうと買収されちゃって」

 

「アホの子・・・」

 

 自分の上司が小声で問うたのに対し、チェリーは普通の声量で答えてしまい、千鶴に貶される。

 

「まぁ、そう言う事だから。さぁ、トレーニング♪」

 

 このマリの小悪魔のような笑顔に四人は呆れ返る。ハンガーへ着いた五人は予備のVF-25Aメサイアの元へ向かう。二十数機以上の各種類のVF-25が並べられ、いつでも出撃できるよう整備されている。

 近くにいた担当の整備班長にシミュレーターの許可を貰った後、マリはドックファイト用であるVF-25Fに乗り込む。

 

「本当は練習機に乗って欲しいのですが、生憎と戦闘以外は飛行禁止命令が出てますので・・・」

 

「へぇー、そうなの」

 

 コクピットの近くでザシャはマリに愚痴を漏らす。操縦席に座るマリは適当に返事をしてザシャからの講義を受ける。講義をほぼ理解した彼女はキャノピーを閉め、シミュレーションを開始する。

 

『それでは、戦闘シミュレーションを開始します』

 

「OK、戦闘シミュレーション開始。フィールドは宇宙」

 

 インカムを付けて端末機を持ったザシャが指示を出すと、マリは返答して戦闘する場所を告げる。

 

EX(エクス)-ギアとか言うのを着ないと乗れないってマニュアルに書いてあったわね・・・」

 

 独り言を喋りながら戦闘シミュレーションの設定を行う。

 

「設定完了。これより戦闘シミュレーションを開始する」

 

 設定を終えると、マリは戦闘シミュレーションを開始した。

 

 

 

「なに、虎の子の第11遊撃艦隊が敗れただと?」

 

 その頃、戦国ワールド連邦軍本部の司令室にて、フリッツ・アプト宇宙軍中将が率いる第11遊撃艦隊通称シュヴァルツ・ランツェンライターが破られたことが司令官に報ぜられた。

 

「はっ、現在攻勢中である同盟軍の一個艦隊を敗退させた後に敵遠征艦隊に側面から強襲を受けて敗退しました」

 

「漁夫の利をされたか・・・して、アプト中将は?」

 

 報告しに来た部下に対し、次に司令官はフリッツの生死を問う。

 

「シュプリンガーは少々の損傷であり、アプト中将には傷一つありません。しかし、中将の艦隊の再建はかなりの時間を要するでしょう」

 

「そうだな。では、アプト中将にはペガサス級でも与えて惑星アヌビスで地上勤務でもやらせるか」

 

「は、はぁ・・・では、アプト中将にはそう伝えます」

 

 窓の向こう側を見ながら告げる司令官に、戸惑いながらも部下は復唱する。次に司令官は遠征艦隊の動向を問う。

 

「で、遠征艦隊の監視はどうなっている?」

 

「傷付いた艦艇の修復を終えた後、目的地である北方を目指して現在進行中です。工兵隊による進行方向に機雷原構築の陽動のため、コロニー連合軍(UCA)の艦隊が側面から襲撃します。それと宇宙軍第28艦隊と第43艦隊、宇宙海軍の第7機動艦隊と第15艦隊が惑星アヌビス衛星軌道上に到達。そのまま予想進行宙域に直行し、そこで包囲陣形を取り、待ち伏せします」

 

 報告を聞いていた司令官は、部下の元へ振り返り、口を開く。

 

「あのシュヴァルツ・ランツェンライターを破った連中だ・・・おそらく指揮官はかなりの実力者・・・まぁ、包囲網構築の時間稼ぎにはなるだろう」

 

 口を動かしながら部下の元へ向かい、圧力を掛ける。

 

「では、私は同盟軍の対処に当たる。追い払うまでには奴等を掃除しておけよ?」

 

「は、はっ!同盟軍が我が勢力圏内から居なくなる前に、ヴァルハラ軍を倒して見せます!」

 

 部下は額に汗を浸らせながら復唱した。そんな部下の姿を見た司令官は、彼の肩を軽く叩き、司令室を後にした。

 

 

 

 VF-25Fのシミュレーションを終えたマリは、敵艦隊の襲撃のアラームを耳にする。

 

「アラーム・・・ここは連邦軍の勢力圏内だから、襲撃かな?」

 

 近くで整備を行う整備兵が呟くと、機体から降りていたマリは、先程乗っていたメサイアに視線を向ける。その場にいる整備兵やパイロット達が戦闘準備のために動き回っていると、アナウンスが流れ始めた。

 

『左側面より敵艦隊の強襲。敵艦隊の数は二十数隻ほど。艦載機の発進を多数確認。陽動と考えられる。小規模の敵艦隊の対処には左側面の分艦隊が担当するため、我が第6競合師団の出撃の必要は無い。各部隊は待機命令を継続せよ。以上』

 

 このアナウンスで、ハンガーにいた整備兵とパイロット達は動き回るのを止め、元の位置に戻る。

 

「ちっ、スコアはあちらさんのか・・・」

 

 パイロットスーツを着込んだ兵士が、悪態をつきながら自分が来た道を戻ろうとしていた。アナウンスが流れている最中にVF-25専用のパイロットスーツに着替えを終えていたマリは最後部分だけ聞いて落胆したが、無理にでも出撃しようと思い、先程乗ったVF-25Fの元へ向かう。

 

「あの、少佐。そんな格好をして、まだ出撃命令なんて・・・」

 

 ザシャがマリに話し掛けて止めようとするが、等の彼女は止まる気配はない。

 

「そんなの関係ないわ。私はやりたいことだけする」

 

 そう言って答えたマリは予備機のVF-25Fの元へ向かおうとした。それを見たザシャ達はマリを止めようとする。

 

「それは命令違反よ、デカ乳。憲兵!こっちに・・・」

 

 まず初めにマリに触れたペトラが憲兵を呼ぼうとした瞬間、気付く間もなく押され、尻餅をついた。次に千鶴が立ち向かうが、意図も簡単に倒されてしまう。

 

「ふにゃ!?」

 

 普段は出さない大きな声を出し、千鶴は床に転ぶ寸前でマリに抱き抱えられ、ゆっくりと降ろされる。残ったのはザシャとチェリーだが、敵わないと判断してマリに道を譲る。そんな彼女に次の挑戦者達が現れる。

 

「おい、これはうちの大隊の予備機だぞ!勝手に乗ろうとするな!」

 

 マリを指差して告げる大尉の階級章を付けた男は、部下達と共に立ち向かう。等の彼女は一々相手にするのが面倒臭かったのか、瞬間移動を使って一気に機体の元まで向かい、何気なくコクピットに乗り込む。

 

「ふぁ、ファル大尉!あの女がもうあんな所に!?」

 

「あいつ・・・能力者か!ハーラー、憲兵を呼んでこい!」

 

 ファル大尉と呼ばれた男はハーラーと呼ばれる部下に憲兵を呼んでくるよう伝える。VF-25Fに乗り込んだマリはエンジンを起動させ、計器チェックを行う。チェックを行っている最中、計器右のモニターにインカムを付けた女性管制官の顔が映る。

 

『D旅団第5大隊予備機に搭乗している佐官の方、直ちにエンジンを停止させ、降りてください!』

 

 管制官からの警告の通信が来るが、マリは無視して出撃の準備を進める。そんな彼女に管制官はしつこく降りるよう勧告してくるが、逆にマリは機体を人型形態であるバトロイドに変形させ、エレベーターをぶち破ってでも出撃しようとする構えを見せた。

 

「さっさとエレベーターを上げなさい!でないと突き破ってでも出るわよ!」

 

 軍隊として銃殺刑レベルの行動を起こすマリに対し、ハンガーに居たパイロット達は各々の機体へ乗り込み、彼女が乗るメサイアを撃つつもりでいた。周囲で銃口を向ける人型兵器達を見たヘルメットを被っていたマリは額に汗を浸らせる。緊張感が続く中、モニターにデリアの顔が映る。

 

「あんた、あのババアの・・・!」

 

『卿の出撃を許可する。専用の高機動オプションを身に着け、生け贄とされたUCAの艦隊を殲滅してまいれ』

 

 突然割り込んできては、勝手なことを言う本艦隊のデリアに対し、競合師団の師団長は講義する。

 

『し、しかし・・・それは側面の部隊が・・・』

 

『私が許可したのだ。卿はそれに黙って従ってだけば良いことだ』

 

『か、畏まりました!D旅団第5大隊の予備機のメサイアにSPS-25Sスーパーパックを装備させろ!!』

 

 師団長に命令を受諾させたデリアは、何かを良からぬような笑みを浮かべながらマリに告げる。それを聞いたマリは、機体をファイター形態に変形させる。銃口を向けていた最新式の人型兵器達は、元の位置へと戻り始めている。

 

『さて、卿にはまた楽しませて貰うぞ。今宵の”前菜”としてな』

 

「あんたも親に似たわね・・・でっ、”主食の方”は?」

 

 専用の装備を取り付けている最中、マリは”主食”について問う。

 

『主食は連邦宇宙軍や海軍の艦隊だ。まぁ、有能な指揮官がいればの話だがな』

 

「そっ。流石はあのババアの娘ね、結構変わってるわ。本当にメガミ人なの?」

 

『ふん、母を美貌以外の物しか持たぬ弱い亜人と一緒にされては困る。母は特別なのだ。卿が百合帝国の皇帝に慣れたのは母の御陰であると知れ』

 

「ぷっ、マザコン・・・」

 

『なにか言ったか?では、楽しませてくれ』

 

 母を慕うデリアに対し、マリは聞こえないように小声で彼女を「マザコン」と表した。そんな会話をしている間に、目の前には宇宙空間が広がるカタパルトまで着いていた。デリアからの通信が途切れると、マリは電子掲示板のカウントダウン0になったのを確認すると、操縦桿を握り、ペダルを踏み込み、無数の味方の艦艇が航行する宇宙空間へと飛び出した。

 敵艦隊が来ている方向を目視で確認すると、メインブースターを噴かせ、戦地へと向かった。無線機で迎撃部隊の通信を傍受する。

 

『各中隊、迎撃フォーメーションAG-1を取れ。奴等はある程度やったら帰るわ』

 

 前方に見えるファイター形態のVF-11CサンダーボルトにVF-171ナイトメアプラス、MSの行動半径を三倍に伸ばす宇宙用の89式ベースジャンバーに乗ったジムⅡとジムⅢが迎撃編隊を取っていた。どうやらミサイルを撃って相手と撃ち合うらしい。

 レーダーを確認すれば、同じ数ぐらいの敵機が似たような編成を取りながら前進しているのが分かる。

 

「時間が掛かるわね・・・まぁ、最善策だけど」

 

 陣形を取る迎撃部隊の事を言った後、マリはミサイルが発射されるのを待った。数秒後、ミサイル発射の合図が無線機から聞こえ、各機体はミサイルを敵機に向けて発射する。それに合わせてか、敵部隊もミサイルを撃ってきた。

 発射された敵味方のミサイルがレーダーに映り、センサーに捉えた目標へと飛んでいく。敵味方のミサイルが互いに命中すると、残ったミサイルは敵機へと向かった。これに合わせて、マリはブースターを噴かせて前に出た。

 

『ちょっと!勝手に前に出ないで!!』

 

 迎撃部隊の隊長機から通信が入るが、マリは無視して敵機を叩きに向かう。ミサイル攻撃で何機か減っていたが、それでも迎撃部隊を十分に殲滅できるほどの数が居る。

 UCAの戦闘機や攻撃機、専用カラーであるカーキ色のジェガンやジェノアスⅡ、スコープドックがマリの乗るVF-25を見るなり機関砲やビームを撃ってくる。

 

「SU-27か?」

 

『馬鹿野郎、あれはVF-1の新型だ!』

 

 UCAのパイロット達はVF-25を通常のF-14ファントムやファイター形態が似たシルエットを持つVF-1バルキリーと勘違いした。先に目撃して口を開いたパイロットが乗る戦闘機はVF-25のガトリングポッドで蜂の巣にされ、爆散させられる。次に変則的な機動を取りながらヘビィマシンガンや無反動砲を撃ってくる複数のスコープドックをロックオンし、マイクロミサイルを撃ち込んだ。

 ロックオンされたATは手に持ったマシンガンでミサイルを迎撃するが、間に合わず、何機かが撃墜されてしまう。張り付いたジェガンは、シールドミサイルを撃ちながら接近を試みるが、バトロイド形態に変形したメサイアの頭部両耳部のレーザー機銃二問の掃射を胴体に受け、数秒後に爆発する。これを見たパイロット達は、単機で大多数の敵機を翻弄するマリの強さに恐れ戦く。

 

「な、なんて強さだ・・・!」

 

「博物館送りのVF-1じゃねぇ!最近出て来た可変戦闘機だ!!」

 

 ようやくメサイアが新型機に気付いたパイロット達であったが、どうこうしている間に迎撃部隊のVF-11やVF-171、ジムⅢが到着し、乱戦状態となる。この時を待っていたのか、マリはVF-25をファイター形態に変形させ、艦砲射撃を行う敵艦隊に向けて飛ぶ。それに気付いてか、手が空いた戦闘機やジェノアスⅡが追ってくる。

 機銃やビームが後ろから放たれるが、マリは器用にそれを開始し、敵艦隊へ向けて突撃する。

 敵の艦艇の数は二十五隻、UCAの標準的な巡洋艦と駆逐艦、護衛艦、空母、軽空母を合わせて十五隻隻であったが、残る八隻は参加国の連邦軍のマゼラン改級戦艦、サラミス改級巡洋艦であった。直援機や艦載機が護衛についていたが、今のUCAにマリに敵うパイロットは居ない。

 

「ヤフォーイ!!」

 

 気分が高騰したマリはコクピット内で大きな声で叫び、右端のマゼラン改級戦艦一隻とサラミス改級三隻の方へ向かった。四隻全てにマイクロミサイルをロックオンし、一斉に放つ。標的にされた四隻は対空弾幕を張るが、撃ち落としきれず、全艦撃沈された。

 巻き上がる爆煙の中からマリが乗るバトロイド形態のVF-25が現れ、護衛艦に向けて左腕シールドから取り出したアサルトナイフを投げ付ける。船体に突き刺さったナイフを手に取り、横に思いっ切り切り裂いて、ガンポッドをエンジンに向けて撃ちまくって撃沈させた。

 

「無駄無駄ぁ!」

 

 護衛艦を沈めたマリは飛んでくるミサイルや機銃、ビームを回避しながらありったけのマイクロミサイルを全ての標的に向けて放つ。何発かは迎撃された物の、迎撃しきれずに命中し、数隻ほど撃沈できた。

 残った艦艇は前線から艦載機を戻して護衛に当たらせてはいたが、マリの猛攻は止められず、次々と沈められていく。遂に旗艦である巡洋艦にまで接近され、ブリッジへとナイフを突き刺した。ナイフを引き抜いた後、巡洋艦の船体にガンポッドと頭部両耳レーザー機銃で一斉射撃し、旗艦を沈めた。

 

「これで終わりみたいね・・・」

 

 撤退していく残存艦隊を見て、マリは戦闘が終わったことを確認する。護衛機を引き連れた円盤型のレドームを搭載したVE-11サンダーシーカーが現れ、敵が潜んでいないか探索を行っている。

 後続に任せることにして、マリは発進した空母オリフラームへと帰投した。遠征艦隊進行上に機雷原が構築されるはずであったが、構築途中で前衛部隊に強襲され、撤去されてしまった。ある程度の足止めにはなった物の、遠征艦隊を待ち受ける宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊の予定は大幅に狂うこととなる。

 

 

 

 して、待ち伏せを行う惑星アヌビスの衛星軌道上に展開する宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊は、陽動と機雷原構築の失敗が報ぜられる。

 

「UCAが陽動と機雷原構築に失敗したか・・・」

 

 旗艦”呉”のブリッジで、専用の席に座る宇宙海軍第7機動艦隊の提督であるチェ・ボム中将は報告を聞き、腕組みをしながら目を瞑り、黙り込む。暫く黙り込むと、何かを思い出したかのように目を開き、指示を出した。

 

「各艦隊、包囲陣形を組みつつ前進だ。当初の予定通り両翼から圧力を掛けて包囲する!」

 

「アイアイサー!全艦前進、各艦隊にも伝えろ!」

 

 打って出ることにしたボムは、包囲陣形のまま艦隊を前進させた。連合艦隊の指揮権は彼に与えられている。この様子を見ていた少佐の階級章を付けた青年は、呆れるような表情でボムを見ていた。

 

「はぁ・・・これは包囲が崩されてしまうな・・・」

 

「メン中佐、なにを言っているのですか?」

 

「いや、何でもない。どうぞ聞き逃してくれ」

 

「は、はぁ・・・」

 

 独り言を呟いた彼は、自分より階級の低い尉官に告げた後、自室へと戻っていった。この男の名はメン・ロン、後程第7機動艦隊を救い、デリアに一泡吹かせ、連邦軍でマリに唯一対応できる人物とは誰も思いはしない。部屋に戻った彼はベッドへ座り込み、窓から見える宇宙の光景を見ながら独白する。

 

「はぁ・・・戦死確定か・・・私の人生も短かったな・・・」

 

 紙コップに入れたウィスキーを一杯飲みながらメンは溜め息をつく。暫くウィスキーを飲みながら宇宙の光景を眺めていると、睡魔が襲ってくる。

 

「酔ってきたようだな・・・戦闘宙域に着くまで、一眠り・・・」

 

 紙コップをゴミ箱に捨て、飲み干したウィスキーを机に置いたメンは、ベッドの上で横になり、酔いが覚めるまで仮眠を取ることにした。

 

 

 

「提督、偵察機からの報告です。進路方向に敵四個艦隊が包囲陣形を取りながら展開中」

 

「ふん、最初から待ち伏せをすればいい物を・・・座標をモニターに映せ」

 

 ウンター・ガングのブリッジにて、通信士が待ち伏せを行う宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊の事を報告する。デリアは来ると分かっていたのか、冷静に敵艦隊の座標をモニターに映すよう指示を出す。

 

「網のような陣形だな・・・」

 

 敵四個艦隊の配置は、宇宙軍の艦隊が西に展開し、宇宙海軍の艦隊が東へと展開している。残っている宇宙軍と宇宙海軍のそれぞれ一個艦隊は連合艦隊を組み、中央端を陣取っている。

 

「お得意の数の多さを生かした包囲殲滅戦法でやる気か・・・迂回するか、後方に増援を頼んで、中央突破でもしますか?」

 

 隣に立っている長身の副官は、デリアにどう進むのかを問う。モニターの配置表を見ていたデリアからは、とても大胆な答えが返ってくる。

 

「左翼に展開している艦隊、随分と突出している・・・連邦軍の十八番である物量で、まずはあの艦隊から数の差で叩く」

 

 この返答に、副官はモニターを見ながら納得した。

 

「そう言えば突出していますね。これでは包囲網が完成できない、有能な指揮官にここから攻めてくれと言っているような物だ」

 

「そうだ。その後は北の連合艦隊三万隻との交戦を避け、右翼の艦隊を叩く。メインディッシュの連合艦隊は両腕をもぎ取ってからだ」

 

「流石はブラウンシュバイク提督だ・・・その若さで大将まで上り詰めたことはある」

 

 彼女が出した戦略に、副官は笑みを浮かべながら多大に評価する。だが、当のデリアはそれが気に食わない。

 

「お世辞は結構だ。あの動きようからして、自信家の態とでも無い限り、艦載機の出撃は不要だ。艦隊戦で仕留める。敵艦載機は対空火器で対処せよ。右翼との艦隊では艦載機を使う。パイロット達には待機命令を出しておけ」

 

「はっ、純粋な艦隊戦ですか。演習以降ですな」

 

 敵艦隊と艦隊戦をすると聞き、副官は期待を抱く。

 

「そうだ。連邦宇宙軍がどれほど艦隊戦を出来るかどうかを試すためな。右翼の艦隊はあの女とパイロット達に譲ってやる」

 

 副官にそう伝えると、デリアは受話器を手に取り、全艦に指示を飛ばした。このアナウンスは、オリフラーム船内でも聞こえ、カードゲームをしていたマリとザシャ達が居る部屋にも届いていた。

 

「もうすぐ戦闘になりそうです」

 

「忙しいわね、さっきドンパチしてきたばかりなのに」

 

 アナウンスを聞いたザシャが口を開くと、マリが頭を抱えながら愚痴を漏らす。

 

「ここは敵地だから仕方ないじゃない」

 

 ペトラが尤もなことを言うと、全員が納得して一回頷いた。そんな彼女の部屋に、新しい来客者達が訪れる。

 

「いやぁー、棚に飛行機の模型とは、妙齢の女性の部屋とは思えない・・・あっ、良いですかな?お嬢さん方」

 

 ノックもしないで入ってきたのは、陽気な大柄の青年だった。青年の後ろにドイツ系の青年とサングラスを掛けた長髪の青年が二人ほど廊下に立っている。

 

「柿崎伍長、いきなり女性の部屋に入るのは失礼だと思うぞ」

 

「すみません、軍曹殿。VF-25で敵艦隊を壊滅寸前までに追い詰めた美人パイロットに会いたいと思いまして、ハハハ!」

 

「(なんかこの人嫌だ・・・)」

 

 豪快に笑う柿崎と呼ばれる男に、ザシャは嫌悪感を抱いた。嫌悪感を抱いたのはザシャだけでなく、マリを含めた三人も抱いていた。そんな柿崎は嫌悪感を抱かれていることに気付かず、勝手に自己紹介を始めた。

 

「これは失礼を。自分は第5大隊D中隊所属の柿崎駿夫伍長であります!以降よろしくおねがいします!ハハハ!」

 

 軍人らしい見事な敬礼をする柿崎であったが、最後の印象が最悪であった。次に軍曹と呼ばれた青年が自己紹介を始める。

 

「自分は同中隊所属ヘクター・ディーリング軍曹であります。伍長の失礼をお詫びします」

 

「私はレリック・ジーナス軍曹です。ちゃんと小隊長から許可を貰っております」

 

 礼儀正しく名乗ったヘクターとレリックに対し、マリは無反応であった。

 

「では、皆さん。ご一緒で我々と共にお茶でも・・・」

 

「私帰る」

 

 柿崎はザシャ達を誘うつもりであったが、マリが部屋を出て行こうとする。それを柿崎は止めようとしたが、彼女の一睨みで怯み、尻餅をついてしまった。

 

「うわぁ・・・恐い人。あれは彼氏が出来ないな・・・では、お茶に・・・」

 

「ごめんなさい。私達、着替えて出撃待機するから」

 

「私も行きますので」

 

「以下同文」

 

「他に周りな」

 

 部屋にロックを掛けて、待機室へと向かうザシャ達に柿崎は落ち込む。

 

「何が悪かったのかな・・・」

 

「お前がノックもしないで部屋に入るなり、相手が気にしていたことを言うからだ」

 

「納得がいく答えですね。では、我々も着替えて待機しましょう」

 

「そ、そんな!酷いじゃないか~」

 

 慰めずに尤もらしいことを告げて待機室へと向かうヘクターとレリックに対し、柿崎は泣きつくように追い掛けていった。マリがバリキュリャに帰った頃には、デリアが彼女のために後ろから続いている輸送船団に注文した機体が届いていた。

 

「新しい機体が届いたの?」

 

「はい、貴方専用の機体です」

 

 母艦へ帰るなり整備兵が慌ただしく動いていたので、近くにいた整備兵問い、彼女が指差す方向に視線を向けた。そこには灰色の全高18m程のガンダムMkⅡとは違うタイプのガンダム、ストライクガンダムが置かれていた。

 

「中々格好いいじゃないの。どうして私宛に?」

 

「まぁ、ブラウンシュバイク提督が貴方にと・・・」

 

「へぇー、そう」

 

 整備兵からの返答で、デリアの仕業と察し、早速パイロットスーツに着替えるために更衣室の方へと向かった。彼女がコクピットへと入り、マニュアルを読んでいる頃には包囲陣形を取る左翼の艦隊に対する攻撃が始められる。

 

『立った今、我が艦隊は敵艦隊との交戦状態に入る。戦闘要員、防空要員、修復要員は速やかに所定の位置に着け。搭載機のパイロットは機体に搭乗後、出撃命令が出るまで待機せよ。繰り返す』

 

「はぁ、出撃命令無し?まぁ、休めるなら良いけど」

 

 コクピットでマニュアルを読みながらOS調整を行っていたマリは、出撃命令が出ないと知ったが、休めると思って気にも留めなかった。そして不意を突かれた連合艦隊の左翼艦隊は、予想外の事態に対応が遅れてしまう。

 

「敵艦隊、我が艦隊へ向かってきます!」

 

「どうなっている!?偵察機はどうした!」

 

「それが、敵が電子戦を開始したか、撃墜されたかで連絡が取れません!それどころか他の艦隊との連絡も不能!!」

 

「なんだと・・・!?こうもあっさりと予想が・・・」

 

 報告を受けて動揺する左翼艦隊提督であったが、指示を出す前にデリアの遠征艦隊の攻撃が始まる。

 

「敵艦隊、攻撃開始!前衛分艦隊壊滅状態!!」

 

「は、反撃しろ!艦載機も直ちに発進だ!!」

 

 ようやく反撃に出た左翼艦隊であったが、全く反撃できずに艦艇は次々と沈んでいく。それどころかワルキューレの艦艇に着ず一つ付けられない始末であった。この左翼艦隊の有様を見たデリアは手応えが無くて落胆する。

 

「なんだ、連邦宇宙軍の艦隊は突然の強襲や、数の多い敵に対してこの様か・・・艦載機の発進は不要だ。艦砲射撃と魚雷、ミサイルだけで殲滅せよ」

 

 椅子にふんぞり返りながら、デリアは指示を出す。その指示を出された数秒後、ロケットや魚雷、ミサイルが混乱する左翼艦隊に向けて放たれた。向かってくるロケット、魚雷、ミサイルに対応できず、次々と沈む。

 搭載機を持つ艦艇はその搭載機を発進する間もなく撃沈してしまう。着々と敵は掃討されつつあるが、時間が掛かってしまう。一気に殲滅して右翼艦隊の攻撃に向かいたいデリアは、大量破壊兵器を持つ艦艇に指示を出した。

 

「このままでは埒があかん。新マクロス級並び、クォーター級は変形(トランスフォーメーション)し、マクロスキャノンを敵旗艦がいそうな方向へ発射しろ」

 

「五百秒程お待ち下さい」

 

「フン・・・」

 

 ふんぞり返りながら指示を出すデリアに、副官はそう告げ、彼女は鼻を鳴らす。指示を受けた変形が出来る大型艦艇である新マクロス級とクォーター級はトランスフォーメーションを開始する。バトロイド形態に変形している最中、獲物の数は減りつつある。

 変形を終えれば、直ぐに旗艦がいそうな方向へ向けてマクロスキャノンが発射された。巨大なレーザーが壊滅状態の左翼艦隊に浴びせられ、爆発が連続して起こる。掃討速度が飛躍的に増し、敵は既に壊滅寸前となり、もう勝ち目すらなかった。

 敵は反撃するのは止め、白旗を揚げて戦闘の意思が無いことを知らせる。

 

「敵残存艦、降伏しました」

 

「拿捕する暇はない。直ぐに右翼艦隊へと向かえ」

 

 そう言って残っている敵残存艦を放置し、デリアは右翼艦隊攻撃へと向かう。マクロスキャノンを撃った御陰で予想より早く殲滅できたので、連合艦隊に位置を悟られずに済んだ。数時間後には右翼艦隊である宇宙海軍の艦隊が居る宙域へと辿り着く。

 偵察機は撃墜することには成功したが、襲撃を察知されてしまう。

 

「流石に二度目は無いか・・・」

 

「安心しろ、数は我々の方が上だ。艦載機発進させよ」

 

「はっ!」

 

 副官が迎撃態勢を取る敵艦隊を見て呟くと、デリアは温存しておいた艦載機の出撃を命じる。遂にマリの新しい機体であるストライクガンダムの出撃の時が来た。

 格納庫では大型可変翼と四基の高出力スラスターを持つ高機動型ユニットであるエールストライクパックが付けられ、標準兵装と防御兵装であるビームライフルと対ビームシールドが渡される。

 コードが背中に付けられたままカタパルトまで移動すると、発射機に両足を着け、出撃の合図を待つ。CICからの声を聞きながら、出撃の合図を待っていると、電子掲示板がカウントダウンを始める。

 

『出撃命令確認。進路オールグリーン、エールストライクガンダム、どうぞ!』

 

「さぁ、今度はもっと堕としまくるわよ!」

 

 そうマリは意気込むと、発射台から射出された彼女のストライクガンダムは宇宙へと飛び出す。宇宙空間へと飛び出たストライクの逃走は、灰色から白と青、赤の三つの塗装へと変わり、大型可変翼が開く。

 彼女が乗る派手に目立つガンダムは、四基のスラスターを噴かせ、こちらを迎え撃つために出撃した連邦宇宙海軍の多数の敵機へと向かっていった。




この回のイメージEDはこちら↓

https://www.youtube.com/watch?v=jr9kO9Jlx7c

西川兄貴のINVOKE(イヴォーク)
だってストライクガンダムが出て来てるもん・・・

~今週の中断メッセージ~

時間がないので、ラインハルト・フォンローエングラムの一言。

ラインハルト「姉上の誕生日に勝利を持ち帰った戦いに似ているな・・・」


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四変化のストライク

気が付けば連載一周年。これぞ達成美ィ!


 編隊を組む連邦宇宙海軍の大多数の敵機に対し、マリのストライクガンダムはたった一機で突っ込んでいく。味方と連携することなく、スタンドプレイに走る一機のガンダムタイプに対し、海軍のパイロット達は獲物がわざわざ狩られにやってきたと思う。

 

「へっへっへっ、わざわざ一機で来てくれるとは嬉しいぜ!各機、奴を袋叩きにするぞ!!」

 

『待て、大尉。スタンドプレイをする奴は相当な腕前だぞ!』

 

「大隊長殿、わざわざ獲物が来てるんですぜ。捕らなきゃ損・・・うわぁぁぁぁ!!」

 

 調子に乗っているパイロットが乗った艦載機型ハーディガンホーネット(ファイブ)は、ストライクガンダムが放ったビームライフルをコクピットに受けて爆散した。それに続いて連邦宇宙海軍機が次々とビームライフルの攻撃を受けて撃墜されていく。

 

「あぁ!俺の獲物が!!」

 

『ちょっと、勝手に前に出ないで!』

 

 数の多さではワルキューレが圧倒している為、獲物が全てマリに取られてしまうと焦ってしまい、スーパーパック装備のVF-25Aメサイアに乗る柿崎は制止を聞かず、編隊を崩して前に出てしまう。

 

「たく、そんなに死にたいのかしら。ディーリング、ジーナス、前に出るわよ!」

 

『はっ!』

 

 柿崎が属している小隊の長を務める白人の中年女性コリンヌ・ビヤール中尉は、マリとは実力の差がありすぎる部下を助ける為、二人の部下達と共に先発隊より前に出た。これに釣られてか、競合師団に属するエリートや腕の立つ者達は功を焦って前に出始める。

 

「戦果を横取りするつもりか!俺達も前に出るぞ!」

 

『了解!!』

 

『おい!勝手に前に出るなじゃない!!』

 

 D中隊を指揮するカスパル・ファル大尉は指揮下に置いている二個小隊が勝手に前に出始めた為、静止の声を上げた。新しく小隊長になった同じVF-25に乗るジョン・ボイス曹長も、戦友達の制止を振り切り前に出た。

 

「風来坊の金髪女なんかに負けてたまるか!俺達も行くぞ!!」

 

『お、おい!たく・・・エースはそんなに前に出ないっつーの』

 

 同僚であるツチラト・アビーク軍曹は頭を抱えながら、功を焦って編成を崩して突っ込む自分のライバル達を見て呆れ返る。編隊は崩れてしまったが、航空参謀は競合師団の事は戦力外と見ているようだ。多数の敵機を次々と撃ち落とすマリは、柿崎複数の敵機に包囲されているのを見た。

 

『た、助けてください、隊長!』

 

「あいつ、馬鹿ね・・・」

 

 勝手に突っ込んで迷惑を掛ける柿崎が助けを請う通信を聞きながら、マリは三機一体となって襲ってくる敵機を堕とし続けた。柿崎と同様に、一人で突っ込んで敵機に包囲されている競合部隊の隊員達の助けを求める通信が連続して聞こえてくる。

 

『メーデー、メーデー!周り中敵機だらけだ!助けてくれ!!』

 

『ケツに着かれた!誰か撃ち落としてくれ!頼む!!』

 

『わ、私だけに・・・!た、助けて!!』

 

 あちらこちらから救援要請の通信が来るが、マリは無視して敵機を堕とし続ける。二十機目をビームサーベルで両断して撃墜すると、コルベット艦が五隻ほどビーム単装砲を撃ちながら前に出て来た。内一隻は柿崎の緑色のVF-25の方へ向かっている。

 無論、彼女は柿崎を助けず、固まって弾幕を張るコルベット艦へ突撃した。

 高速で向かってくるストライクガンダムに対し、少数のメビウスやダガーLがコルベット艦守る為に迎撃に向かうが、あっさりと撃ち落とされ、モビルアーマーであるメビウスに対しては、イーゲルシュテンという対空バルカン砲で蜂の巣にされる。

 

「敵機、来ます!!」

 

「撃て、撃ちまくれ!!」

 

 レーダー手はストライクの接近を報告し、艦長は直ぐさま弾幕を厚くするよう指示する。だが、対空機銃はストライクの特殊な装甲であるフェイズシフト装甲で弾かれてしまう。ブースターやブリッジをビームライフルで撃ち抜かれ、瞬く間に一機のMSによって四隻のコルベット艦が沈んだ。

 敵に包囲されていた柿崎の方はと言うと、上官であるコリンヌと共にやってきたザシャ達に助けられる。

 

「うわぁぁぁぁ!!あ、あぁ・・・あ、ありがとうございます!」

 

『勝手に突っ込むんじゃないの!私の側に居なさい!』

 

「りょ、了解!」

 

 バトロイド形態に変形していた柿崎機は、ファイター形態に変形して救援に向かうコリンヌと同僚達の後へ続く。ザシャ達は向かってくるコルベット艦に、新手に現れた増援のコルベットと駆逐艦を沈める為、ビームをかいくぐりながら突撃する。何機かの護衛機が前に出て来たが、ガンポッドで蹴散らされる。

 二門の対艦対空両用ビーム旋回砲塔を、対空機銃を撃ち続けているコルベットに向けて放った。対戦艦用に考慮して設計されたビーム砲なので、装甲の薄いコルベットは一撃で沈む。続いてマイクロミサイルを発射し、阻もうとするホーネット5とコルベット諸共沈め、駆逐艦への進路を開く。

 

「弾幕を厚くしろ!対空ミサイル発射!!」

 

 護衛機と僚艦を失った駆逐艦は対空砲で弾幕を厚くし、対空ミサイルまで放つが、彼女にはあっさりと回避され、対艦ビームを撃ち込まれて沈んだ。

 

「やった!」

 

『この程度で喜ばないで。敵はまだ居る』

 

 火を噴きながら撃沈する駆逐艦を見て、チェリーが喜ぶが、ザシャは機体を近くに寄せ、こちらへ向かってくる敵機や敵艦を指差しながら注意する。迎え撃つために前進しようとしたが、高速で三機の同じ機体が通り過ぎた。エルミーヌ・レオニー・ド・バルバストル中尉と取り巻きのロア軍曹にエロディ軍曹だ。

 あの戦いでヴァンキッシャー隊の何名かは昇進しているはずだが、何故か第1中隊の生き残りであるエルミーヌ達は昇進できなかった。

 

「おっほっほっ!ザシャさん、この程度の損害を与えても連邦軍は諦めませんわ。このバルバストルの名を継ぐ私目が、戦意を損失する程の損害を与えて差し上げますわ!ロア軍曹、エロディ軍曹、フォーメーション”星の海”!!」

 

『了解!』

 

 この指示でロア機とエロディ機がエルミーヌ機の両端につき、マイクロミサイルや対艦ビーム砲を敵本隊が居る場所へと放たれた。大量のミサイルや放たれたビームは密集隊形を取る敵機や敵艦に次々と命中し、巡洋艦や戦艦以外の艦艇は沈んでいく。軽空母はデッキにミサイルが入り込み、内部爆発を起こして撃沈した。

 爆発の嵐が起こり、何機かの敵機が怯む中、エルミーヌ小隊はその中に突入し、三機ともバトロイド形態に変形して背中を合わせる。

 

「踊りますわよぉ~!」

 

 背中を合わせた三機のVF-25Fメサイアは、ガンポッドや対艦ビームを撃ちながら回転し始める。周囲を取り囲んでいた敵機やガンポッドやビームを受けて撃墜されていき、コルベットや護衛艦、駆逐艦、巡洋艦も被弾し、たったの三機に撃沈されていく。

 

「まるで花火のようですわ!それ、それそれぇ~!」

 

「流石エルミーヌ様!」

 

「連邦軍なんかが色んな意味では敵いませんわ!」

 

『おっほっほっ!苦しくなくてよ!』

 

「なんだろう・・・この気持ち・・・あの人やっぱり馬鹿なんだろうか・・・?」

 

 笑いながら敵機や敵艦を撃破していくエルミーヌを、褒めるか貶すかの分からない取り巻き達の声に対して全く怒り様子もない彼女に、聞いていたザシャは色んな意味で複雑な気持ちであった。

 

「あっ、私の分が無くなっちゃう!」

 

 大暴れするエルミーヌの活躍を見ていたマリは、爆発の連鎖が起こる乱戦場へと乗り込んだ。本隊よりはぐれた何機かの敵機が道を阻もうとしたが、彼女の撃墜スコアを稼ぐ役割を担ってしまう。乱戦場へ到着すると、敵の巡洋艦が対空砲やミサイルで歓迎する。

 

「邪魔よ!雑魚艦!!」

 

 そう巡洋艦を罵ると、飛んでくる対空弾幕やミサイルを意図も容易く回避し、直撃ポイントやブリッジ、エンジンに向けて撃ち込み、物の数秒で敵艦を沈める。

 次に数機以上のスコープドックやシャベリンとアデルマークⅡ、戦艦一隻がマリのストライクガンダムに向かって攻撃してきたが、これも全て回避されてしまう。瞬く間に立ち向かった人型兵器は全滅し、戦艦はブリッジをビームサーベルで両断され、ミサイル発射口にビームを撃ち込まれ、内部爆発を超して撃沈した。

 

「張り合いがないわね。おっと!」

 

 立ち向かっては呆気なくやられる連邦軍のパイロットに張り合いを感じないマリであったが、ビームを弾く機体が現れる。ストライクガンダムの正式な量産機で廉価版である105ダガーだ。頭部と腰、武装を除いてほぼストライクと同格だが、装甲はコストの問題である程度のビームを弾くラミネート装甲に変わった量産機だ。

 だが、生産性は簡要版のストライクダガーが勝っており、余り生産はされなかった。ストライクと同じパックは使えるので、性能、火力、汎用性は優る。

 

「資料で見た装備をしてるじゃない。奪えそうね」

 

 同じエールや白兵戦用のソード、砲撃戦のランチャーなどのストライクパックを装着した105ダガーを見てそう思ったマリは、ビームライフルを撃ってくる同じパックの敵機に突っ込んだ。ランチャー装備のダガーから放たれるMSの携帯火器としては過剰な威力を誇るアグニの砲撃を避け、エールパックのダガーへと接近する。

 

『キャァァァ!』

 

 途中、勝手についてくる味方のジムⅢがアグニを受けて爆散したが、彼女は気にせずエールダガーに取り付き、本体の近接用武器である腰部サイドアーマーから収納された折り畳みナイフであるアーマーシュナイダーを取り出し、コクピットへと突き刺す。

 機能を停止した敵機からエールを無理矢理外し、自分のエールパックを外して敵のエールパックを手作業で装着した。

 

「あ、あいつ!この戦場の中を・・・!?」

 

「手作業で付け替えやがった!?」

 

 この芸当を為し遂げたストライクのパイロットの腕前を見て、海軍のパイロット達は驚きの声を上げる。

 

「やっぱり互角性があるのね。それにエネルギーまで回復するし」

 

 エネルギーが補充されていくのを確認したマリは、予想通り事が進んでかなり上機嫌でいる。不意打ちを掛けようと後ろから迫ってくる敵機に、ライフルを撃ち込んで返り討ちにする。次は単装砲を撃ってくる駆逐艦に対しては、全スラスターを最大にしてから外し、それを駆逐艦にぶつけた。

 

「パックがこちらに来ます!!」

 

「回避しろぉー!!」

 

 直ぐに回避を指示する艦長であったが、間に合うはずもなくエールパックは船体にぶつかって爆発を起こし、爆発で船体を抉られた駆逐艦は沈んだ。無装備となったマリのストライクは次の獲物をランチャーダガーに定め、アグニを避けながら敵機を殴り付ける。

 怯んだ隙に胴体を掴み、空いた手でパックを外してから胴体にバルカンを数発撃ち込み、アグニを奪う。手作業でパックを着け、早速アグニの試射を戦艦へ向けて行なった。アグニの強力なビームを受けた戦艦は一撃で撃沈、それと引き替えのエネルギー消費量にマリは長期戦には向かないと判断する。

 

「ペナルティが大きいわね。威力は結構あるけど」

 

 そう評価してからランチャーパックを外し、斬り掛かってくるソードダガーの攻撃を避ける。

 

「こいつの装備は行けそうだわ」

 

 対艦刀シュベルトゲーベルを見た彼女は早速エールに使った同じ手で無力化し、パックを無理矢理外す。敵の攻撃に晒されながらも、自分の機体へ手作業で付けて装着を成功させた。主武装である対艦刀に対しては、漂流していた物を取り、敵機に向けて構える。

 

「この野郎、舐めやがって!」

 

 これが挑発と受け取られたのか、エールダガーが腰部サイドのビームサーベルを両方抜いて斬り掛かってきた。無論、この無名の宇宙海軍のパイロットとマリの実力の差があり過ぎ、あっさりと回避され、上半身と下半身に分断されてしまう。

 最初に斬った敵機が爆発を起こすと、マリは続けて目に見える敵機を斬り倒して行く。向かってくるマリのストライクに向けて射撃武器で対抗するが、彼女は攻撃を避けながらシュベルトゲーベルを敵機へと振り下ろす。

 

「て、敵機、こちらへ来ます!!」

 

「撃ち落とせ!弾幕を張るんだ!!」

 

 一発も当たることなく次々と友軍機を切り裂いたマリのストライクが向かってくることを知ったコルベットの艦長は、直ぐに弾幕を厚くするよう指示を出す。フェイズシフト装甲に、ただの機銃が通じるはずもなく、接近を許し、対艦刀の一振りで撃沈する。

 僚艦も同様に一振りで撃沈され、護衛艦や駆逐艦もマリの手によって撃沈した。軽空母のブリッジを両断した後、飛行甲板から敵機や敵艦が旗艦の居そうな方向へと後退して居るのが見えた。下がった敵艦隊はハリネズミの陣を築き、何者も近付けないほどの弾幕を張って後退し始める。

 

「面倒臭いことやってくれるわね」

 

 ハリネズミの陣を維持しながら後退する敵艦隊を見て、接近しようと思ったが、あることを思い付いて母艦へと戻る。競合師団の兵士達も流石にあの弾幕には近付けないのか、後退していく。暫くは艦隊同士の撃ち合いになりそうだ。

 艦隊同士が撃ち合っている間に、マリは母艦であるバルキュリャに帰投し、思い付いたことを実行する。

 

「ねぇ、全部載せしてくんない?」

 

『全部載せ?パーフェクトストライクの事ですか?』

 

「そうよ。直ぐ取り掛かって。この戦闘を速攻で終わらせてくるから」

 

『は、はぁ・・・』

 

 整備長にストライクガンダムのパックを全て載せるよう告げた後、ヘルメットを脱いでドリンクを口に含んだ。数分ほど経つと、ストライクの全ての装着が済んだ。両肩にはランチャーとソードの装備が付けられ、背中にはエールパックが付けられている。

 だが、このエールパックは違い、バッテリーパックが五基連結され、左右にはシュベルトゲーベルとアグニを付けるアームが増設されている。ついでに補給を済ませたマリは高速移動用のサブフライトシステムに機体を載せ、ハッチから発進した。

 

「ショータイム・・・!」

 

 笑みを浮かべたマリは、ハリネズミの陣を敷く敵艦隊へ向けて飛んだ。無論、この様子はデリアにも見えていた。

 

「提督、友軍機が単機で突っ込んできます」

 

「ヴァセレート少佐だ。あの女ならこの戦闘を早期に終わらせる事が出来る。強力な武装を持つ各艦艇は敵艦隊へ向けて撃ち込め。敵が怯んだ隙に第二次攻撃隊を発艦させ、敵艦隊へぶつけろ」

 

 レーダー手からの報告に、デリアは直ぐに指示を飛ばした。直ぐさま強力な武装を持つ艦艇から、強力なレーザーやビームが放たれ、さらには反応弾頭ミサイルまで敵艦隊へ向けて放たれる。

 密集隊形であるハリネズミの陣を敷いていた宇宙海軍の艦隊は弾幕を張るも、諸に強力な攻撃を受け、凄まじい損害を負う。敵艦隊は怯んで弾幕を止ませてしまい、マリのパーフェクトストライクガンダムの接近を許してしまった。

 

「敵機、一機で乗り込んできます!」

 

「馬鹿目、たった一機で何が出来る!潰せ!!」

 

 直ぐに迎撃態勢を取るように指示する戦艦の艦長であったが、その数秒後に自分の艦が沈んだ。マリは手当たり次第に見える敵艦に向けてアグニを撃ち込んで沈めていく。

 ビームが飛んでくると、直ぐに避けて対艦バルカン砲をコルベットや護衛艦に撃ち込んで沈め、シュベルトゲーベルでさらに沈める。瞬く間に数十隻以上の艦艇が沈み、マリに対しての恐怖感が沸いてくる。

 

「たった一機のMSに二十隻以上の艦艇が・・・!艦載機を全て出せ!!」

 

 報告を受けた敵艦隊の提督は戻した艦載機の再発艦を命じ、防空を厚くするが、彼女を止めることは出来なかった。ビームブーメランのマイダスメッサーやバルカン砲で次々と撃墜され、マリの撃墜スコアを上げる羽目になってしまう。ロケットアンカーであるパンツァーアイゼンを空母に向けて発射して突き刺し、一気に距離を稼ぐ。

 ハッチに入り込んだ後は、対艦刀を振り回すだけだ。人型の敵機は迂闊に火器を撃つことが出来ず、ただストライクに斬り捨てられていく。ハンガー内が火に包まれる中、遠慮なしにマリはランチャーを撃ち込み、船体に穴を開ける。

 そこから沈んでいく空母から脱出し、バッテリーパックを一つ外した後、直ぐアグニを戦艦クラスの艦艇に撃ち込む。

 

「これ以上味方の艦を沈めさせるな!」

 

 また艦隊の艦載機がマリを止めようと立ち向かうが、返り討ちにされる。さらには第二次攻撃隊の到着もあり、艦隊の防空戦力は低下の一歩を辿る。両方の武器を仕舞ったマリは、漂流しているダガーLのビームカービンを二挺回収し、向かってくる敵機や弾幕を張るコルベットへ向けて撃ちまくる。

 護衛艦を沈めると、ビームカービンを捨て、再びアグニとシュベルトゲーベルを取り出し、艦艇を沈めながら旗艦を目指す。

 

「あれが旗艦ね・・・!」

 

 数十隻ほどを沈めて道を作っていけば、護衛艦に囲まれた旗艦を見付けた。既にフルアーマー形態のVF-11にVF-117ナイトメアプラス、ジンクスⅢが旗艦付近まで張り付いていたが、必死の弾幕で近付けないでいた。

 

「こんなの、ヌルゲーよ!!」

 

 マリは近付ける自身があったのか、バッテリーパックを外し、護衛していた戦艦をアグニで沈め、突破口を開く。護衛機や護衛艦の弾幕をかいくぐりながら旗艦のブリッジまでに辿り着くと、シュベルトゲーベルを突き刺した。

 

「うわっ、うわぁぁぁぁ!!!」

 

 提督はブリッジを貫いて向かってきた刃先に突き刺さり、凄まじい血飛沫を上げながら壁に串刺になり、やがて肉塊となる。ブリッジから対艦刀を抜いた後、アグニを二発ほど撃ち込み、旗艦を沈めた。残りの敵残存艦は味方機に堕とされ、敵機も殆どが破壊されていた。

 連続して起こっていた爆発もなくなり、敵機も敵艦もこれ以上の抵抗は無意味と判断し、降伏するか撤退した。

 

「終わった・・・でも、これは本番前・・・出し過ぎちゃったかしら?」

 

 周囲を漂流する敵味方の残骸を見ながら、マリはバイザーを開いてドリンクを口に含む。過少程度の損害を負った第二次攻撃隊が母艦へ戻っていくのを見ると、マリも次の本命である連合艦隊との戦いに備えるため、母艦へと帰投した。途中、敵機体の残骸から偶然にも残った写真がメインカメラに張り付く。

 

「なにこれ・・・」

 

 張り付いた写真は偶然にも面であり、戦死したパイロットの家族写真が写っている。普通の神経を持つ兵士なら、殺した相手に家族が居ることを知って戸惑うところだが、生憎とマリの心は冷酷その物だった。

 

「こんなので私が敵に躊躇する訳がないじゃない」

 

 そう一人で呟いて、機体の手を器用に動かして写真を剥がし、帰投を急いだ。




ストライクガンダムって、格好いいよね。特にパーフェクトストライクは。
HD版で見た時はムウさんが凄いくらい敵をぶっ壊してたけど。

次回はあの某魔術師・・・ゲフン!

~今週の中断メッセージ~

今更連載一周年美ィ!

マリ「もう一周年・・・作者は一年経っている事に今更なんで気付いたのかしら?」

ルリ「気付いたのは9月だってさ。遅いよね~、そんなんだから更新も遅くなっちゃうだから」

マリ「確かに更新が遅いわね・・・それは作者が色々と見てる所為かしらね・・・」報告書を見ながら

ルリ「そうだね。今年は色々と面白いアニメも多いし」

マリ「へぇー、そうなの。私朝のアニメとドラマしか見てないから分かんない」

ルリ「大人だね~。そう言えばBLとGL物も見てなかったけ?」

マリ「あっ、それも見てた」

ルリ「折角の一周年なのに、作者は思い付かないから無いんだって」

マリ「まっ、更新で忙しいから許してあげましょ」

ルリ「お姉ちゃん、なんか優しいね」

マリ「たまにちょっと優しくしてあげたら色んな事は許してくれるでしょう」

ルリ「だね☆」


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勝てない奴。

昨日言ったとおり、絶望回。

?「ゼツボー的な状況だぜ!」


 一方、連邦宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊は、左右に展開していた艦隊の壊滅を知る。

 

「こうもあっさりと予定が狂うとは・・・」

 

「残存兵士の証言に寄れば、敵は捕虜を取らず、放置してこちらへ向かっているそうです」

 

「クソォ、我々宇宙海軍も舐められた物だ。宇宙軍第28艦隊のクラフト提督に通達しろ。我が第7機動艦隊は当初の予定通り、第一次攻撃隊を敵艦隊攻撃に向ける。その間に貴官の艦隊に防衛を任せる」

 

「はっ!」

 

 予定が狂いも狂って少し焦るボムは、自分の予定表通り第一次攻撃隊を発艦させることにした。

 ちなみに機動艦隊とは通常の艦隊とは違い、艦載機を搭載する空母が主力の艦隊である。機動艦隊は大日本帝国海軍の航空艦隊を母体とし、創設された。言うなれば艦載機で敵艦隊にそれなりの被害を与える事を目的として編成された機体を目的地まで運ぶ艦隊だ。

 正規空母や軽空母から続々と対艦装備の航空機や艦載機が発進していき、偵察機から随時報告されるデリアの遠征艦隊の位置を聞き取りつつ、目標へと飛んでいく。数十万以上の艦載機が編成を組んで飛んでいくのを眺めていたメンは、第一次攻撃隊が一機も帰ってこないことを悟った。

 

「(敵の提督はかなりのやり手だ。可哀想だが、彼等は誰一人として帰ってこないだろう。もし私が指揮官であれば、彼等は無駄死にはしなかっただろうか?)」

 

 今の自分に第一次攻撃隊を救う権限がないことを悔やみながら、メンは参謀専用の席へ座り、艦隊戦の時を待った。攻撃に向かった第一次攻撃隊は偵察機からの情報得つつ、目的地へと急ぐ。

 

『敵艦隊二万四千九百九十四隻、依然として進路を変えず』

 

「なんだあいつ等、俺達を迎え撃つ気か?こいつは楽だ、第二次攻撃隊がトドメを刺したら一杯やろうぜ、みんな」

 

『ありがたいです、隊長。私も一杯頂きます』

 

「勝利に祝って乾杯だ!ハッハッハッ」

 

 前を飛ぶ隊長機は、戦闘が終われば一杯酒をくみ酌み交わすという約束を部下達にして陽気に笑うが、偵察機のパイロットの悲鳴を聞いて警戒する。

 

『うわぁぁぁぁ!!』

 

「どうした!?応答しろ、ガーゴイル4!クソォ、敵にやられちまったか!各機、散会しろ!遠距離ビームかレーザー、対空ミサイルのどっちかが来るぞ!!」

 

 切り替えた隊長は、直ぐに部下達に的確の指示を出す。指示通り部下達は散会し、射程距離に敵艦隊を捉える為に個別で接近を試みた。

 

 

 

「もう敵の襲来かよ!」

 

 競合師団の母艦であるオリフラームに敵部隊襲来の警報が鳴り響き、VF-25Aのコクピットでサンドイッチを食していた柿崎は慌ててサンドイッチを平らげる。各員のパイロット達も食していた物を平らげ、自機のコクピットへと乗り込んだ。簡要珈琲を口に含んだザシャも、機体のキャノピーを閉め、出撃を待つ。

 既に海軍の第一次攻撃隊は艦隊の接近に成功し、何隻かの艦艇に被害をもたらしていた。軽空母の飛行甲板の上では、ジムⅡ、ジムⅢ、VB-6ケーニッヒモンスターが襲来する攻撃機やMS、ハーディガンに対し、艦載機を堕とされないよう対空射撃に参加している。

 

『敵機襲来、対空要員は直ちに所定の位置に着け!繰り返す!』

 

「態と許したの?なにやってるんだか」

 

 コクピットの中で敵機襲来の報告を聞いたマリは、ハンバーガーを食べながら愚痴る。直ぐに出撃しようとするマリであったが、背中に装着しているパックは変わった物だった。

 このストライクパックの一種であるガンバレルストライカーであり、見た目は小型のMAがMSの背中に張り付いているように見える。そのストライクパックについて、マリは戦闘指揮所(CIC)に居るノエルに聞いた。

 

「ねぇ、後ろに付いてるの、なに?」

 

『あぁ、アレは陛下が空間認識能力を持っていると言うことでブラウンシュバイク提督がストライクと共に配備したオールレンジ攻撃用ストライクパックです。四基の有線式ガンバレルが・・・』

 

「説明は良いわ。兎に角漫画やアニメみたいな攻撃が出来るってことでしょ?まずは攻撃してる連中で試すわ」

 

『あっ、ちょっと、まっ・・・』

 

 ノエルが説明を始める前に、マリは通信を切る。射出機に両足を固定すると、電子パネルのカウントが0になるのを待つ。ハンバーガーを食べ終えたときにはカウントは0になっており、射出機がレールを勢いよく進んでいた。

 宇宙へと放出されると、フェイズシフト装甲を発動させ、攻撃隊の迎撃へと向かった。

 

「試してみようかしら?」

 

 早速ガンバレルシステムを試すことにした。複数の敵をロックオンしてからトリガーボタンを押すと、背中の四基のガンバレルが有線を伸ばしながら敵機へ向けて飛んでいく。標的にされた敵機は避けきることが出来ずに撃墜され、他の標的も次々と撃墜される。

 

「わーお、凄いじゃない!」

 

 ガンバレルのオールレンジ攻撃の威力を知ったマリは、次の敵機群を標的に捉える。それを五回ほど繰り返していると、物に出来るようになった。慣れた手付きで複数の敵を標的に捉え、マークした敵機を一気に数十機以上を撃墜する。

 

「な、なんだ・・・あの攻撃は!?」

 

 マリが乗っているガンバレルストライカーのオールレンジ攻撃で次々と堕とされる友軍機を見た海軍のパイロットは、視線を彼女の機体に寄せてしまう。注意力が散漫した為、柿崎に撃墜される。

 

「いただき!」

 

 避けることもなく撃墜され、ようやく敵機を撃墜することが出来た柿崎は大いに喜ぶ。

 

「これでようやく一機だ。よーし、次へ・・・あら?」

 

 そう意気込んでいた柿崎であったが、敵攻撃隊はマリ、ザシャ、エルミーヌ小隊、元ヴァンキッシャー隊の面々、他の部隊によって撃墜され、壊滅した後だった。攻撃隊を退けた柿崎を除くマリ達は即座に母艦へ戻り、補給を受ける。艦隊は確かに損害を負ったが、少々な程で戦闘には全く致傷はない。

 即刻機動艦隊の第二次攻撃隊が来る前に、連合艦隊へ向けて前進した。真っ正面から挑んできたデリアの遠征艦隊に対し、ボムは相手が無謀に挑んできたと思い、迎撃態勢を取らせる。

 

「敵艦隊接近!」

 

「馬鹿目、我々は七千隻の差があるんだぞ!第二次攻撃隊を直ぐに発艦させて返り討ちにしてやれ!!」

 

 舐められていると思って指示を出すボムであったが、五十代の女性宇宙軍将官であるクラフト提督に止められる。

 

『お待ちなさい。我々より少ない数で正面から向き合うとは、何か策がある証拠だわ。ここは慎重に・・・』

 

「それでは駄目だ!惑星アヌビスの住民は早期に戦闘が終わることを望んでいる。ここは我が軍の心強さを見せ、速攻で数と物量で圧すべきだ!」

 

 熟練の宇宙軍女性提督からの提案を無視したボムは、力押しの先制攻撃に出た。各艦艇が一斉射撃を行ってから艦載機を発艦させ、敵艦隊にぶつける。だが、こんな事でデリアを倒せるはずもなく、強力な反撃を受け、返り討ちに遭ってしまう。

 

「ば、馬鹿な!?数で優っているのは我々だぞ!!」

 

 一気に千隻以上の味方の艦艇を沈められたボムは、予想しなかった反撃で動揺を覚える。さらには攻撃に向かった第二次攻撃隊も先のマクロスキャノンやローエングリーンなどの強力な攻撃で全滅し、機動艦隊の防空戦力が大幅に低下する。

 

「第二次攻撃隊、強力なエネルギー砲により消滅!」

 

「敵攻撃隊、接近!」

 

「空母アダムスカ、ヨス、ウルサン、ハートマン撃沈!」

 

「クソォ・・・!何故だ!?敵は真正面から挑んでいるのに、何故我が連合艦隊が負けているのだ!」

 

 次から次へと来る報告に、ボムは刻々と悪化する状況に苛立ち、敵に向けて怒鳴り散らしていた。その原因は敵を侮って攻めた自分の命令であるが、本人はまだ気付いてはいない。未だに気付かぬまま、彼は悪戯に損害を出すような指示を出し続けた。

 

『ソールリーダーより各航空団へ。各員、損害に構わず前進せよ。繰り返す、損害に構わず前進せよ』

 

「無茶苦茶な指示だな・・・俺達を殺す気か?」

 

 大佐クラスの女性パイロットからの指示に、柿崎は不安に思う。対艦装備の攻撃隊を護衛する味方機の集団の中にいたマリは、遠くの方で敵機の集団が来ていることをモニターで確認する。

 

『11時及び一時方向から敵迎撃部隊の展開を確認。攻撃機を死守せよ!』

 

 隊長機からの指示が出ると、マリは攻撃機目掛けて突っ込んでくる多数の対空ミサイルを捕捉し、ガンバレルを放った。飛んできたミサイルの全ては全方位から来る攻撃で次々と撃ち落とされ、物の数秒で全滅した。次に宇宙軍艦隊の大多数の迎撃機が押し寄せてくる。

 

『敵機多数!』

 

『散会、散会!』

 

 通信機から味方機の声が聞こえ、機動兵器同士がぶつかり合う乱戦状態へと突入する。マリのストライクガンダムにも三機のジェガンが襲い掛かってきた。ビームライフルで瞬時に一機目を撃破し、コンマ台で二機目を撃破、三機目もライフルで撃墜した。

 一気にMS一個小隊程を宇宙のデブリに変えたマリだが、敵の戦力は海軍の機動艦隊を含めてまだまだ上回っており、叩いても出て来る。

 

「前とは違って結構多いわね」

 

 レーダーに映る多数の赤い点に、マリは思う存分暴れられると思い、ガンバレルを展開して、多数の敵機を撃ち落とす。ザシャ達競合師団の方にも大多数の敵機が襲来し、雨のようなビームやミサイル、その他諸々を浴びせてくる。何機かは被弾するが、実戦慣れした彼等はそれらの攻撃をかいくぐり、敵機に食らい付く。

 Gキャノンの間近に接近したタン色のVF-25Aはシールドから出したコンバットナイフでコクピットに突き刺し、パイロットを殺す。融合路が停止した敵機を突き放してからファイター形態に変形して、他の僚機と共に集まっている敵機に襲い掛かる。

 

「よし、やった!てっ、うわぁぁぁ!?」

 

 一機を撃墜した柿崎であったが、ファイター形態のままジェノアスⅡに取り付かれ、ビームサーベルで刺される寸前だ。そんな彼は叫び声を上げて死を覚悟する柿崎であったが、小隊長になったエッカルト・アンシュッツ准尉が乗る青色のVF-25Fに救われる。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

『敵を墜としたと思って油断するな!敵はまだ居る!!』

 

「済みません!以降気を付けます!!」

 

 通信用のモニターに映る青年からの注意に、柿崎は謝罪して周囲に気を配ることを心懸ける。

 

「ゴールドカンパニーリーダーより各機へ。あのヒヨコマークを包囲しろ!奴は弟の敵だ!!」

 

 連邦軍の中隊長機は、弟の仇を取るために部下達にザシャのVF-25Aを包囲するよう指示した。直ぐに部下達はザシャ機を包囲して一斉射撃を掛けようとするが、彼女は包囲網を突き抜け、機体をバトロイド形態に変形させ、背中を向ける中隊分の敵機を全て捕捉し、マイクロミサイルを発射する。

 

「なにぃ!?しまっ・・・!」

 

 中隊長が言い終える前に、マイクロミサイルを受けて撃墜され、残る部下達もミサイルにやられるか、ガンポッドで撃墜される。

 

「な、何て奴だ!本当にあんなマークを付けてる奴なのか!?」

 

 ザシャの攻撃から脱出したパイロットは、鬼神のような強さを持つパイロットが、愛らしいヒヨコのマークを付けていることが信じられないでいる。そのパイロットは千鶴機の接近に気付かず、ガンポッドで撃墜される。

 

「敵機撃破」

 

『凄い!これで五機目ですよ!エースですよ!千鶴ちゃん!!』

 

「そんなに騒がなくても良い」

 

『すすす済みません!』

 

 無駄にテンションの高いチェリーに一言告げると、怒られてもいないに彼女は勝手に慌てて謝りだした。この合間にペトラは一気に三機以上をマイクロミサイルで撃墜していた。

 

「これで七機目、隊長の方は二十機ばかりは墜としてるけど」

 

『凄いですね隊長。下手すればトップクラスになっちゃうくらいです』

 

『でも、風来坊の金髪巨乳の人が、隊長に匹敵するほどの撃墜数を稼いでいる・・・』

 

「本当にそうね。初の実戦でヤバイくらい撃墜しまくってるし」

 

 戦闘中にマリの事で話題になっていると、コルベットが二隻ほど前に出て来た。

 

「なにやってるの!?コルベットが来たから直ぐに散会して!」

 

『あっ、了解!』

 

『キューケン3、了解」

 

『キューケン4、了解!』

 

 ザシャからの注意に、部下達は直ぐに散会し、コルベットを同時攻撃して撃沈させた。

 

「格闘戦は得意中の得意だ!やったるでぇ!」

 

 連邦宇宙海軍の軽空母に取り付いた柿崎は、シールドから出したコンバットナイフを振り回しながら、砲台代わりになっている対艦無反動砲を装着したダガーLに斬り掛かった。二門ある砲身の一本を切り落とし、最後は同隊に突き刺して蹴り離す。蹴り離された敵機は爆発、それを見た柿崎は大いに喜ぶ。

 

「おっしゃー!やったでぇ!」

 

 見事敵機を撃墜した柿崎であったが、後ろから敵機の攻撃を受けて甲板に倒れる。彼を後ろから攻撃した敵機は、ジョン機のガンポッド攻撃によって撃墜された。ハンガーから出て来る敵を全て破壊したジョンは、通信で柿崎が無事かどうかを問う。

 

『大丈夫か、デカ男』

 

「イテテ、余所見しちゃいましたけど、大丈夫であります!曹長殿!」

 

 モニターに映し出されたジョンに対し、柿崎は敬礼しながら答える。その後戦闘はデリア率いる遠征艦隊が優勢となり、宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊は悪戯に犠牲者を増やした。

 

「なんてこと・・・!各艦、応戦しながらアヌビスの衛星軌道上まで後退しなさい!」

 

 第43艦隊提督は、これ以上の損害を出さぬ為に自分等の後方にある惑星アヌビスまでの後退を命じる。この指示に対して副官が異議を唱えた。

 

「提督、惑星アヌビスの衛星軌道上の戦闘は控えた方が・・・!」

 

「こんな時にそんなことを言っている場合か!死にたくなかったら直ぐに指示を実行しなさい!」

 

「あっ、はっ!!」

 

 直ぐに部下達は老練な女性提督からの指示を実行に移す。ボムの第7機動艦隊もそれに釣られて後退を始めた。

 

「宇宙軍第43艦隊、応戦を続けながらアヌビスへと後退しております!」

 

「クソォ・・・!自分だけ逃げるつもりか?!宇宙軍の艦隊と共に後退せよ!」

 

「アイアイサー!」

 

 連合艦隊は後退しながら応戦を続けるが、損害は増えるばかりで、対して変わらない。デリアは更なる追い打ちを掛けようと、追ってくる。

 

「惑星から援護射撃をしてもらうつもりか?各艦艇前進!撃滅せよ!!」

 

 席から立ち上がって指示を飛ばすデリアに従い、各艦艇は前進を始める。マリの母艦であるバルキュリャがある女性のみで編成されたロデリオン分艦隊も長を務めるピーチは、席から立ち上がって叫んでいた。

 

「撃て!逃がすな!敵を全て殲滅しろ!!提督からの指示だ!!」

 

「この人、煩い・・・」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ・・・なにも・・・」

 

「では、早く敵を追い掛けて叩きのめせ。我が分艦隊は他とは違って成果を殆ど上げてないのだぞ」

 

 隣に立っている副官の若い女性が小声で呟いたが、ピーチは突然落ち着いて自分等が殆ど成果を上げていない事を気にし始める。

 

「他より先に我々が一番乗りだ、巻き返していくぞ。各艦良いな?」

 

『はっ!』

 

「よし、全艦前進!敵艦隊が停止したら、めいいっぱい強力なのをお見舞いしてやれ!」

 

 返答を聞いたピーチは意気込み、手を翳して指示を飛ばした。ロデリオン分艦隊の攻撃が激しさを増し、連合艦隊は更なる損害を出す。惑星アヌビス衛星軌道上まで後退した連合艦隊は惑星軍からの援護射撃を受けたが、遠征艦隊を追い払うことは出来なかった。

 

「小賢しい。払い下げの旧式兵器がなんだというのだ。宇宙軍の旗艦に集中砲火だ」

 

 デリアが命じれば、宇宙軍艦隊旗艦が居そうな場所へと砲身が向けられ、集中的な砲撃が始まった。標的にされた旗艦を守ろうと装甲の厚い艦艇が盾となるが、余りにも強力な攻撃で沈み、提督が乗る旗艦は沈められてしまう。

 

「第43艦隊旗艦アスガルド撃沈!」

 

「友軍艦隊の指揮系統が崩壊!混乱しております!!」

 

「戦線が崩壊しております!このままでは危険です!」

 

「なんたることだ!作戦が台無しではないか!」

 

 友軍艦隊の混乱により、戦線も崩壊して作戦続行が不可能となり、ボムは机を叩いて苛立つ。

 

「レーザー砲、当艦に来ます!」

 

「回避しろ!」

 

「間に合いません!」

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 さらに悪いことに、彼が乗る旗艦呉にも強力なレーザー砲が擦り、船体を大きく揺らす。その衝撃は凄まじく、ブリッジクルー達はバランスを崩して床に叩き付けられ、負傷する。特に提督であるボムは他のクルーとは違って強く頭を打ち、意識が朦朧してまともに指揮が取られないほどの重傷だった。

 

「て、提督!大丈夫でありますか?!」

 

「う、うぅ・・・そうか・・・ヴァルハラ軍の艦隊には強力な、強力な兵器を持つ艦艇・・・それに恐ろしい才能の提督が・・・私では、敵わない・・・」

 

「提督!船医と医療班はまだか?!早く来させろ!!それと戦線の維持を!」

 

 朦朧した口調で敵の提督が自分より遙か上を行く指揮官と語る中、副官はボムを看護する。船医と医療班が来ると、真先に重傷の者達からの応急処置を始め、ボムのその一人なので直ぐさま出血している頭部の傷口に止血剤を塗られた後、包帯を巻かれた。応急処置が完了すれば担架に乗せられ、他の重傷者と共に医務室まで運ばれる。

 軽傷な者達は影響がないほどであった為、適切な応急処置を受けて戦線復帰した。だが、指揮官が不在となり、副官も腕の骨を折るほどの重傷であった為、艦隊を指揮する提督代理は居なかった。このままでは艦隊の士気崩壊速度は増し、いずれは混乱状態になって敵から一方的になぶり殺しにされるのは目に見えている。

 そこで軽く突き指した程度のメンが士官帽を被り直して提督の席に立つ。

 

「何故参謀の貴様がそこに立つんだ?」

 

 提督代理を務めようとする艦長が問うが、メンは謝罪してから自分が適切だと答える。

 

「失礼だと思いますが、艦長。ここは一つ私に任せて貴方はこの艦を生き残らせるのに努めて下さい。絶対に私が貴方を無事に家族のお顔を見せられるよう努力します」

 

「な、何を言って居るんだ・・・貴様は・・・!?」

 

 理解が出来なかった艦長はまた問うが、メンが口を動かさずにウィンクして「信じて」と告げてきたため、彼に任せることにした。

 

「わ、分かった・・・本当に俺達は助かるんだな?」

 

「えぇ。必ず貴方のご家族に生きて会わせます」

 

 そのメンの言葉を信じて、艦長は艦隊の指揮権を彼に委ねた。艦隊の指揮艦となったメンは受話器を取り、この戦場で戦う全ての艦艇に告げる。

 

「全艦に告ぐ、こちらは宇宙海軍第7機動艦隊参謀メン・ロン中佐だ。ただいま本艦がこの連合艦隊の指揮を執る。全員生き残りたければどうか軍の違いや階級の有無を問わず私の指示に従ってくれ。死体袋に入らずとも恋人や家族に会える。これは敵に勝利する物では無く、我々が生き残るための戦いだ。どうか協力して欲しい」

 

 余りにも無茶苦茶な頼みだが、当の本人はそれを承知の上だ。

 

「(こりゃあ、後で軍法会議物だな・・・強制除隊されても退職金は出るかな?)」

 

 心の中でそう呟いていると、通信機から返答が返ってきた。

 

『こちらは分艦隊のアプル・ジャガン准将、これより貴官の指揮下に入る!』

 

『我々宇宙軍も協力する!こんな事抜かす奴の指揮下なら生き残れそうだ!』

 

『中佐が代理提督なのは納得出来んが仕方がない。ここは貴官に賭けてみるのも悪くない』

 

『俺達を生き残らせてくれるんだな?!分かった、お前に協力する!一刻も早くこの戦闘を終わらせて家族に会わせてくれ!』

 

 通信機から聞こえてくる当の本人も予想もしなかった答えに、メンはホッと一息を付く。

 

「あぁ、良かった・・・まさか本当に信じてくれるとは思わなかったよ・・・」

 

「お前・・・まさか・・・」

 

「えぇ。正直自信がなかったんです。これで従って貰えなかったら、我々は今頃宇宙の藻屑です」

 

 そんな自信の無かった答えに艦長は顔を真青となり、元の席へ戻る。視線を戻したメンは、早速指示を出し、連合艦隊の混乱状態を収拾した。連携が全く取れていなかった連合艦隊が、突然動きが良くなって連携を取り始めたので、デリアは驚く。

 

「敵の動きが変わった・・・?」

 

「強力な兵装を持つ艦艇が主に狙われております!」

 

「マクロス級雷が中破しました!同時にマクロスキャノン損壊!後退を要請しています!」

 

「バルトシーク分艦隊の損害が上昇!」

 

「どうやら、代理の指揮官はかなり優秀な者のようですな」

 

 次々と来る損害報告に副官はメンがかなり優秀な指揮官だと察する。それまでに優勢だったデリアの艦隊はメンが指揮官となった連合艦隊に巻き返されていく。徐々に巻き返されていき、膠着状態へと突入する。

 この状況はデリアにとっては当初の予定を崩され、面白くなかった。舌打ちしてから次の指示を出す。

 

「チッ、右翼の分艦隊を敵の後方に回り込ませろ」

 

 指示通り右翼にいる幾つかの分艦隊が敵艦隊の後方へ回ろうとするが、惑星からの長距離攻撃を受けて戻る。

 

「駄目です!惑星からの長距離レーザーを受け、回り込めません!」

 

「敵艦隊、陣形を変えながら攻撃しています!」

 

「一定時間が経てば陣形を変える。敵は勝つ気が無いみたいですな」

 

「消耗戦を狙い、我々が退くのを待っているのか・・・!」

 

 メンが勝つ気がないと分かった副官が口にすれば、デリアは消耗戦をやらされていると分かる。状況を変えようと、マリが前に出ようとしたが、メンの即座に打ち立てた対策法で阻まれる。

 

「凄い弾幕・・・!これじゃあ進めないじゃないの!」

 

 多数の空母や軽空母、護衛艦、コルベットの対空砲や対空ミサイルの雨で、マリは回避するのに精一杯だ。ザシャも同様の対策法であり、弾幕の壁に阻まれて前進が困難であった。

 

『隊長、進めません!味方の損害も増えています!!』

 

「指揮官が替わってる・・・!」

 

 残っている敵艦載機からの攻撃を避けながらザシャは指揮官が替わったことに気付いた。ワルキューレの攻撃部隊も損害が拡大して前進が困難であり、母艦の方へ後退し始めていた。

 

『こちらハービンガーリーダー、これ以上の前進は困難!撤退する!!』

 

 艦艇の弾幕で阻まれた攻撃部隊は自分等の母艦へと撤退する。競合師団の者達はと言うと、戦果を上げようと無理にでも前進したが、帰って損害を増やすばかりであるので、諦めて後退し始める。マリも無理があると思って後退することにした。

 

「今のままでは無理ね・・・大人しく退きましょうか・・・」

 

 後ろへ下がって弾幕を抜け出したマリは、母艦があるバリキュリャの方へと戻り始めた。彼女に対しての攻撃は遠ざかっていく内に減っていき、十分な距離まで離れると、弾丸の一発も飛んでこなくなった。ザシャも十分に戦果は稼いだため、後退する味方機の後へ続く。

 

「例のストライクとヒヨコマークの二機、後退を確認しました!」

 

「ふぅ、打撃者はベンチへ帰り、ヒヨコは親鳥の元へ帰ったか・・・」

 

 強すぎる二機の撤退の報告に、メンは額の汗を拭う。このまま事が順調に運べば、敵は撤退するだろうと思っているメンであったが、その後に地獄を見ようとは思わなかった。

 

「報告します。惑星アヌビスから現地宇宙軍が援軍としてこちらへ接近しております!」

 

『こちらはアヌビス宇宙軍第1艦隊のハフマン提督だ。これより貴官を援護・・・何事だ!?』

 

『敵機接近!これは・・・!?』

 

『一体何が、うわぁぁぁぁ!た、助けてくれぇぇぇぇ!!!』

 

「アヌビス軍の艦隊、反応消失!」

 

「何が起きているんだ・・・!?」

 

 やって来た艦隊が突如と無く全滅したことに、メンは何が起きているか分からないでいる。その正体は彼が調べる必要もなく現れる。

 

「我が艦隊の後方から所属不明の艦隊が接近!ワルキューレ側にも出現しています!」

 

「なんだって!?」

 

 正体はメンの連合艦隊の後ろから現れ、接近してくる。

 

「そこの機体、当宙域は戦闘中である!我が軍の支援なら指揮下に入り、それ以外なら即座にこの場から退去せよ!繰り返す・・・」

 

 ジェガンに乗ったパイロットが戦場へと乱入しようとする所属不明の謎の機体へ勧告するが、返ってきた答えはビームであった。勧告を行う連邦軍機は全て撃墜され、謎の集団は戦場へ乱入し、ワルキューレと連邦軍問わず攻撃し始める。

 

「所属不明機、こちらにも攻撃を加えております!」

 

「まさか・・・例のムガルの残党か!?」

 

 正体が組織の手の者達と気付いたデリアであったが、時既に遅く、味方は襲われ始めていた。

 

「こいつぁ随分凄い膠着状態だな!俺が終わらせてやるぜぇ!!」

 

 赤い粒子を出すガンダムタイプのMSアルケーガンダムに乗ったパイロットは、他の仲間達と共にワルキューレと連邦軍問わず襲い始めた。ファングと呼ばれるオールレンジ攻撃用の兵器で、次々と撃破していく。

 

「フハハハ!死ねぇー!雑魚共ぉ!!」

 

 ヴェイガン製の特別MSに乗り込むパイロットは狂喜の笑みを浮かべながら目に見える敵を手当たり次第に潰す。その動きはまるで獣であり、脱出したパイロットでさえ殲滅の対象だった。

 

「群れることしか知らぬ雑兵共目。このEXAM(エグザム)に選ばれた騎士であるニムバス・シュターゼンが裁いてくれる!!」

 

 青と赤の塗装のEXAMシステム搭載のガンダムタイプのMSに乗り込むプライドの高いパイロットは、この世界では敵わない最新鋭機であるヘビーガン、シャベリンに襲い掛かり、意図も容易く目に見える十数機を全て撃破した。

 

「フン、造作もない。機体の性能に頼りすぎ、群れることで戦うことしか出来ぬ奴等に、蘇ったジオンの騎士である私に敵うはずもない」

 

 撃墜した敵機の残骸を見ながら、ニムバスはそれに向けて吐き捨てる。一方の悪魔のようなガンダムタイプのMSプロヴィデンスガンダムに乗り込む仮面のパイロットは、多数の敵機を背中に付いたオールレンジ攻撃用の兵装を展開させ、同時に撃破する。

 爆発の連鎖が起こる中、何故か宇宙を飛ぶ派手な塗装のF-15Cが突き抜ける。

 

「え、F-15が接近!」

 

「F-15だと!?そんな化石が宇宙で飛ぶ物か!」

 

 接近してくるのがF-15だとは信じられないでいる駆逐艦の艦長だが、目の前に現れたF-15がロボットになった事で自分が信じたとおりだと分かった。

 

「ほら見ろ!奴はロボット・・・」

 

 言い終える前に、変形したロボットの両肩に付いているビーム砲を放たれ、撃沈された。さらにそのロボットは周囲にいた艦載機と艦艇を潰しまくり、爆煙の中で大いに笑い始める。

 

「フハハハ!復活したこのスタースクリーム様がナンバー1だ!!俺様に敵う者など居ない!!トランスフォーム!」

 

 自意識過剰なトランスフォーマーなスタースクリームは、元のF-15に変形してワルキューレの艦隊へと突っ込んだ。バルキリーが迎撃に向かうが、敵うはずもなく次々と撃破されていく。

 マクロス・クォーター級にまで近付くと、弾幕の雨を潜り抜け、クォーター級内部に入り込み、ロボット形態に変形して内部で大暴れし始める。数秒後にはクォーター級は撃沈。スタースクリームは爆発の中を変形して飛び出してくる。

 余りにも凄すぎる五人であったが、さらに凄すぎるのが六人目であった。エジプト神話の冥界の神アヌビスと同じ名を持ち、類似した外見を持つ大型ロボットは、腕組みをしながら両軍から来る攻撃を物ともせず、浮いていた。

 

「なんだあいつは!?」

 

「兎に角撃て!撃ち続けろ!!」

 

 アヌビスに攻撃を加える連邦軍のパイロット達であったが、目の前にいた敵は消える。

 

「ど、何処に!?」

 

「後ろだ!!」

 

「えっ!?」

 

 突如と無く後ろへ現れたアヌビスに貫かれ、隣にいた連邦軍機も撃破された。更にアヌビスは全ての攻撃を先ほどした瞬間移動で回避し、ワルキューレ、連邦軍の双方の機体と艦艇を一気に百隻近くまで沈める。

 

「あ、悪夢だ・・・!」

 

 その様子を見ていたメンは余りの衝撃に悪夢と表した。爆発の連鎖が巻き起こり、戦場が混乱する中、マリとザシャ達は次々と迫り来る無人機の人型兵器と死闘を繰り広げていた。

 

『こ、この機体は・・・!?』

 

「またムガルとか言う連中ね!今度は一体何を・・・」

 

 大量に出て来たスカルガンナーをオールレンジ攻撃で撃破しながら、マリはエルミーヌに答えた。

 スカルガンナーだけで無く、無人可変MSトーラスや、プライネイトディフェンサーと呼ばれる防御システムを搭載し、強力なビーム砲を持った無人MSビルゴが多数投入されており、さらに新しい無人機である自立型無人戦闘機ゴーストX-9まで投入され、被害は拡大しつつある。

 だが、全員がほぼ実戦慣れした競合師団やマリとザシャには敵わなかったらしく、次々と撃ち落とされていた。

 

「ロボット如きが私に敵うと思ってるの?」

 

 ディフェンサーの弱点を突いてビルゴを撃破したマリは、次から次へと来る無人機達を潰しながら吐き捨てる。彼女等と共に数十機以上を撃破していると、ガンバレルストライクと似たオールレンジ攻撃を行うプロヴィデンスガンダムが襲い掛かってくる。

 

「ほぅ、メビウス・ゼロはストライクのパックになったか。あの動きからして、ムウが乗っている訳ではないだろう」

 

 仮面のパイロットは生前のことを思い出し、ドラグーンシステムでマリのストライクの周辺に居た敵機を全て撃ち落とす。大量のビームの中をマリは必死に射線を予想しながら回避する。

 

「やるな。ムウ、いや、キラ・ヤマト以上か・・・いつまで持つかな?」

 

 さらにビットの量を増やし、仮面のパイロットはマリを追い詰める。

 

「あっ、助けないと・・・!」

 

 まともに反撃できず、一方的に追い詰められているマリを助けようと、ザシャは向かおうとするが、ニムバスに邪魔をされる。

 

「ヒヨコのノーズアートだと・・・!?ふざけた事を!このニムバス・シュターゼンが直々に裁いてくれる!」

 

 ザシャのVF-25Aの機首に、トレードマークであるヒヨコが描かれていることに腹を立てたニムバスが、そんな理由を付けて襲ってきた。直ぐにミサイルやビームを回避しながら、バトロイドに変形して反撃に移る。この間に双方の艦艇は沈められるか、損傷して惑星アヌビスの引力から脱出できなくなり、大気圏突入する艦艇が増えている。

 

「おっと、そのヒヨコちゃんは俺の(もん)だ!」

 

 アルケーガンダムに乗り込むパイロットが、ニムバスからの攻撃から必死に逃げているザシャ機の攻撃に参加する。

 

『アリーアル・サーシェス、この不届き者は私が制裁を下している最中なのだぞ!騎士の狩りを邪魔するでない!!』

 

「相変わらずうるせぇ騎士様だ。獲物は早い物勝ちだろうがよ!」

 

 通信を開いて離れるように告げるニムバスに対し、サーシェスは後ろからトランザムで追ってくるジンクスⅢ三機を瞬時にファングで撃墜した。

 

「雑魚が!トランザムなんか使ってんじゃねぇ!」

 

 爆散する敵機へ向けてそう吐き捨てると、ザシャの機体に狙いを定めた。だが、新たな乱入者によって邪魔される。警告音が響き、直ぐにサーシェスはこの場から離れた。

 彼を襲った正体は通り過ぎ、アルケーガンダムとブルーディスティニー二号機をガンポッドで引き離す。

 

『ヒャッホォーーィ!大丈夫だったかい?お嬢ちゃん』

 

「えっ、だ、誰・・・!?」

 

 突然通信に入り込み、モニターに映るパイロットスーツを着込み、騎士の兜のようなヘルメットを付けた二十代前半の男がザシャの無事を問う。当然ながらザシャはこの男は知らず、戸惑いを覚える。

 

『おぉ、いきなりじゃ悪かったな。お嬢ちゃん。俺はイサム・ダイソンって言うんだ。今度の予定は空いてるかい?』

 

「はっ、はぁ・・・?」

 

 自分を口説いてくるイサムという男に、ザシャは更なる戸惑いを覚え、思考が混乱した。

 そんなイサムが乗っているのは、VF-19の試作機であるYF-19だ。正式採用機とは違って乗っているパイロットの事など余り考慮されていないので、採用機より速度は上だ。口説きはニムバスやサーシェスに邪魔され、二人と交戦状態に入る。

 

「おい!人が折角美人を口説いてんのに、なんで邪魔しやがるんだ?!」

 

『黙れ!貴様のような下賤な奴はジオンの騎士として生かしてはおけん!!ここで裁いてくれよう!!』

 

『折角のヒヨコ狩りを邪魔されたんだ!ぶっ殺してやるぜ!イサム・ダイソン!!』

 

「上等だ!二人纏めて叩き潰して、ヒヨコの嬢ちゃんにアピールしてやるぜ!!」

 

 こうして、イサム・ダイソンとニムバスにサーシェスとの激闘が始まった。一方のザシャは、何が起きているのか分からないで居る。戦場へ乱入したのは組織だけでなく、ZEUSも乱入してきた。

 

「イサムの奴、独断専行しすぎだ!スカルリーダーより各機へ、ワルキューレと連邦軍には手を出すな!撃ってきても知らん振りだ!行くぞ!!」

 

 旧式のバルキリーであるVF-1Sロイ・フォッカー・スペシャルに乗り込む豪快な男なパイロットは各ZEUSのパイロット達に告げ、交戦状態へと入った。早速彼はスタースクリームに襲われている柿崎を救う。

 

「おい柿崎、お前も蘇ったのか?!」

 

 どうやら柿崎を知っているらしく、彼に問うが、この男は同姓同名で同じ容姿を持つ別人である。

 

『えっ?俺、あんたなんて知らないよ!』

 

「なんだ、ただのそっくりさんか!そんじゃぁ、生き残れよ!」

 

 一度バトロイド形態に変形し、同じ形態のVF-25の肩を叩くと、ファイター形態に変形して、スタースクリームを追った。

 

「何だったんだ、あのおっさん」

 

 柿崎が先程のパイロットの事を言った途端、後ろから撃ってきたトーラスの攻撃を受け、惑星アヌビスへと大気圏へと突入してしまう。

 

「うわぁぁぁぁ!!誰か助けてくれぇー!!」

 

『柿崎ぃぃぃぃ!!!』

 

 直ぐに上官と部下が助けに入ろうとするが、多数の無人機の攻撃を受けて同じく惑星へ落ちていった。その様子はスタースクリームと高速戦闘を行うVF-1Sに乗る男が見ていた。

 

「やられちまったか・・・!クソッタレ目!」

 

 自分に背中を見せるスタースクリームに向け、悔しい思いを載せたミサイルを撃ち込む。ミサイルは見事命中し、スタースクリームは傷を負い、戦場から逃走した。

 

「く、クソっ!覚えてやがれ!!」

 

「ケッ、何処にでも行きな!ロボット野郎!」

 

 逃げるスタースクリームに吐き捨てると、彼は主戦場へと向かった。一方的に追い詰められていたマリにもZEUSの助けは来た。助けに来たのは金色の塗装が特徴的なアカツキと呼ばれるオーブ製の高性能MSだ。

 プロヴィデンスと同じドラグーンシステムを搭載した宇宙戦闘装備シラヌイを装備したアカツキは、早速プロヴィデンスに迫る。

 

「クルーゼ!貴様も生き返ったか!」

 

「フン、貴様も蘇ったか、ムウ。ここであの時の決着を再開するのも悪くないな!!」

 

 仮面のパイロットはマリを放置し、アカツキとの戦闘状態へと入った。

 

「一体何が起きてるのよ・・・!?」

 

 マリの思考は完全に混乱状態であった。組織の次はZEUSが乱入し、更に戦場を混乱させていた。先程ZEUSが介入するまでの間に交戦状態であったワルキューレと連邦との戦闘は中止され、ただ生き残りを賭けて組織の無人機と戦っている。

 そんな彼女に、ヴェイガン製のMSクロノスに乗ったパイロットデジル・ガレットが襲い掛かる。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 胸部に内蔵された高出力のビームキャノン、ビームバスターを発射し、周囲にいた敵機ごとマリのストライクを攻撃する。近くに居た数機以上の味方機が墜とされ、マリが乗るストライクも回避が間に合わず、左腕と左ガンバレルユニット二基を失う。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

 衝撃が来てマリは悲鳴を上げるが、デジルは容赦なく攻撃を加える。クロノスガンを撃ちながら接近し、ストライクガンダムの両足を潰し、更にビームサーベルを頭部に突き刺す。アーマードシュナイドを抜こうとした右腕も潰し、なぶり殺しを始める。

 

「そら、そらぁ、そらぁ!!」

 

 一方的になぶり殺しをするデジルは、ビームサーベルを仕舞い、不気味な笑みを浮かべ、ひたすら胴体を殴り続ける。次々と来る衝撃でコクピット内の計器は爆発し、破片がマリの身体に突き刺さる。

 

「クッ・・・!こんな所で私は・・・!」

 

 破損したヘルメットを脱ぎ、マリは背中のガンバレルを使って張り付いているクロノスを破壊しようとしたが、デジルはそれを回避し、最後に残った攻撃手段であるガンバレルを全て破壊されてしまった。

 

「嘘ぉ・・・!?」

 

 攻撃手段を失ったマリは絶望する。必死に助けようとするZEUSの面子であったが、彼等には強敵が付いており、とても向かえる状況ではなかった。だが、彼女を助ける者が現れた。

 それはザシャであり、ストライクガンダムに張り付いているクロノスを引き剥がそうと、ガンポッドを撃ちまくる。

 

「チッ、邪魔をするなぁー!!」

 

 邪魔されたことに怒りを露わにしたデジルは、マリのストライクに蹴りを入れ、惑星アヌビスへと墜とした。

 

「おっと!」

 

 勢いよく落下するストライクに、戦闘中のイサムはある物を放って、突入の熱で溶けてしまわないようにする。一方のデジルと交戦中なザシャはアーマードパックをパージして爆煙で煙幕を張り、ファイター形態になってマリの救出に向かう。

 

「このぉ・・・逃がすか!!」

 

 しつこくデジルが狙ってくるが、ザシャはその攻撃を回避しつつ、大気圏の中を落ちていくストライクガンダムの回収へと向かう。そんな時に自分の部下である三人がこの場へと入ってきた。

 

『隊長!』

 

「駄目、来ちゃ駄目!」

 

 警告を行うザシャであったが、三人の部下はデジルの標的にされ、一気に撃墜されてしまった。

 

「そ、そんな・・・!」

 

 ショックを受けたザシャは手が止まってしまい、そのまま惑星へと落ちていく。次に標的をザシャに定めようとしたデジルであったが、入ってきた通信で撤退を命じられる。

 

『デジル・ガレット大尉、当初の目標は達成された。即時帰投せよ』

 

「んだと・・・?まだ終わってねぇぞ!」

 

『これ以上の追撃は不要だ。後はあの星の連中に任せれば良い。即時帰投せよ。命令に応じぬ場合は、貴官の機体を爆破する』

 

「ちっ、分かったよ。戻れば良いんだろ!戻れば!」

 

 モニターに映る顔に傷を負った金髪碧眼の男の指示に従ったデジルは、ブースターをフルにして大気圏から抜け出し、突如と無く現れた大型空母へと帰投した。他の組織の機体も母艦へと帰投し、全ての機体を収容した大型空母は、一瞬光ってから何処かへと消え去った。

 こうして、アヌビス衛星軌道上に残ったのは多大な損害を受けたワルキューレの遠征艦隊と連邦軍の連合艦隊、損害が皆無のZEUS、浮遊する双方の残骸だけであった。




相変わらず凄い超展開・・・

そしてようやく多重クロスらしい事が出来た・・・まぁ、スパロボだけどね。
ちなみにディンゴも駆け付けてるよ!やったねノウマン!これでジェフティと戦えるよ!

それとイサムの放ったアレは、バリアでございます。なんともご都合主義的。

今週の中断メッセージはお休みでございます。はい。


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落ちた場所で。

ネタバレな予告「マリ死す!」

これ、前にやったような・・・


 マリが惑星アヌビスへと落下した頃、それを追うザシャは必死でダルマ同様となったストライクとこの星に落ちた筈の部下達を探していた。キャノピーから目視で確認し、見付からなければVF-25Aのカメラをフルに活用して発見を試みる。だが、謎のバリアに包まれたストライクは発見できない。

 それどころか、この惑星の現地軍のスクランブル二機が後ろから追ってくる。

 

『そこの国籍不明機!こちらはアヌビス地上軍航空部隊のスクランブルだ。お前は不法にこの惑星の領空に侵入している。大人しく宇宙へ戻るか、ここの空港で着陸し、手続きを済ませろ』

 

 スクランブルのパイロットからの勧告が来るが、ザシャは無視して探索を続ける。返答が無いと判断したパイロットは本性を現し、VF-25Aメサイアを照準に捉える。両翼のワルキューレ所属を表すマークが最初から見えており、勧告するなど毛頭なく、撃墜することが目的だった。

 

『まぁ、ヴァルハラ軍所属機だからな。撃墜すれば給料が上がる。悪く思うな、入ってきたお前がいけないんだ。ダルゴ8、どっちが撃墜するか勝負だ!!』

 

 回線を開きっぱなしでそう告げた後、二機のスクランブル機は空対空ミサイルを撃ってきた。近すぎても遠すぎでもない距離であったため、命中は確実であったが、警告音が鳴った直後から、ザシャは回避行動を取っていた。

 

『なに!避けただと!?』

 

「落ち着け、ダルゴ8。奴は恐らく勘の良い奴だ。機体の傷を見るからにして、もう長くは止めないはずだ!」

 

 パイロットは僚機を落ち着かせると、逃げるザシャ機をしつこく追い回し始める。時には機銃を撃ったが、これも容易に回避され、後ろを取られて僚機を撃墜される。

 

『う、後ろに!うわぁぁぁぁ!!』

 

「クソッ、こちらダルゴ5!増援を請う!場所はポイントY-65・・・グワァァ!!」

 

 応援を呼ぶ前に、バトロイド形態に変形したVF-25のパンチを胴体に受け、撃墜される。

 

「時間掛かっちゃった・・・次が来る前に探さないと・・・!」

 

 探査を続行すべく、ファイター形態となる。前から迎撃機が三機ほど編隊を組んでやって来たが、ザシャの敵ではなく、容易に二機を機首に内蔵されている二門の高速機関砲で撃墜する。

 散会して攻撃を免れた敵機が居たが、直ぐにガンポッドの射程に捉えられ、トリガーを引かれて撃墜された。こうして、幾度となく敵機と交戦しながらザシャはマリと三人の部下の探査を続けた。

 

 

 

 一方、ザシャが探すマリのダルマ同様のストライクガンダムはと言うと、荒れ地の現地軍基地の近くに落下した為、駆け付けてきた部隊に発見され、トレーラーで運ばれていた。

 当然、落下中にパイロットであるマリは気絶しており、爆発した計器の破片が体中のあちこちに刺さってはいたが、軽傷程度の傷であった。

 

「コクピットは開けないのですか?」

 

「基地に着いてからだ!パイロットが自爆するかもしれん」

 

 トレーラーの運転席で運転する部下が上司に問うと、上司はそう返す。数十分ほどで基地に到着し、中心部にある床から天上まで60mはある整備場まで運ばれる。運転手はトレーラーを丁度中央に停車させ、上司と共に下車すると、整備兵を呼ぶ。

 何名かの工具を持った整備兵が集まり、コクピットへよじ上って、へこんだハッチを開けようと、隙間に差し込む。何かあった場合に備え、銃を持った兵士も同行する。

 

「ヴァルハラ軍だからな。一体どんな美人が乗っているんだ?」

 

「もしかしたら男かもしれないぜ?まぁ、開けてみないとな」

 

 ハッチを開けようとする整備兵や銃を持つ兵士達の表情は、何か良からぬ事を考えている物だった。大方中にいる者が女だとすれば、犯し尽くして恵み物にする根端だ。無論、戦場での女性兵士の性的暴行は当然のことであり、酷い言い方だが、彼等は戦場における当然のことを行っていることにしか過ぎない。

 中にいるのが男と分かれば、散々痛め付けて殺すまでだろう。隙間からバールの先端が挟まれ、開かれようとする中、気絶していたマリが目覚めた。

 

「うぅ・・・」

 

 目を覚ますと、隙間から光が差し込んでいるのが見え、未だに回復していない視力で隙間へ視線を集中させる。バールの先端が見えると共に、回復した聴力から多数の男の声が聞こえ、ハッチをこじ開けて自分を引き摺り出そうとしているのが分かる。更に耳を澄ませ、ダーク・ビジョンを発動して人数を確認する。

 

『おい、今度のヴァルハラ兵は上物か?』

 

『多分な、こいつは高級機だ。乗っているのはかなりのエリートだろうぜ』

 

『エリートの女か。楽しみだな、これから身体の隅々まで身体検査を!へへへ!』

 

『将校に献上するのも忘れんなよ。それと連邦軍の憲兵様の接待にも使うからな』

 

「(引き摺り出して輪姦するつもり!?敵地に落ちちゃったの?兎に角ここから脱出して、戻らないと!)」

 

 外にいる兵士達が自分を輪姦するのが目的と分かったマリは、まだ無事であったサバイバルキットを取り出し、中からドイツの短機関銃H&K MP5A5と同国で同社の自動拳銃H&K USPを取り出す。拳銃に消音器を取り付け、マガジンを抜いて弾を確認した後、再び差し込み、外にいる全員をマークする。

 次に短機関銃の残数を確認とサバイバルナイフを取り付け、異常がないと分かれば差し込んでスリリングとバックを身体に巻いた。もちろん、中での行動の音は外に聞こえており、変だと思った整備兵がバールに力を込め始めた。

 

『何か聞こえたぞ』

 

『生きてるぞ!早く開けて抑え付けろ!』

 

 開けるスピードが増す中、マリはUSPの安全装置を外し、開けて顔を覗こうとする兵士の顔に向けて撃つ準備をした。

 

「よし、開いたぞ!」

 

 外から整備兵の大きな声が聞こえる中、顔に強烈な光が差し当たり、瞳を一瞬閉じてしまう。目を開いた瞬間に舌舐めずり、引き摺り出そうとする整備兵の顔が見えた。即座に照準を整備兵の顔に合わせ、引き金を引いた。

 撃たれた整備兵はマリが銃を持っていることには気付かず、9㎜パラベラム弾を顔面に受け、貫通した弾丸が後頭部から飛び抜けると、彼女は瞬間移動で空中まで移動した。

 

「撃たれたぞ!」

 

 スローモーションで下にいる兵士の声が聞こえる中、マリはマークした敵兵に全て撃ち込む。放たれた弾丸は精確に急所を撃ち抜き、機体へよじ上っていた十五人以上が床へと倒れる。残っている人数は、今持っている銃の安全装置を外して撃とうとするが、マリに殺意の波動を発動され、怯んで地面に倒れ込んでしまう。

 再装填を終えた彼女に倒れ込んだ兵士や整備兵達は、体勢を立て直す前に次々と撃ち殺され、大型整備場にいた兵士達は全滅した。

 

「集団レイプなんて考えるかからよ」

 

 そう物言わぬ死体に吐き捨てると、直ぐさまマリは使える道具を探し始める。ここが整備場であった為か、人を銃ほどの大きな音を立てずに殺せる道具は揃っていた。投げナイフ代わりにドライバーを数本取り、レンチを一本接近専用の武器とする。

 それから兵士の死体から無線機や手榴弾を入手して、整備場を出る。基地内部の道路には巡回車が走っているが、助手席に座る兵士はやる気がない。歩哨でも同様であり、欠伸をしながら巡回ルートを歩いているだけだ。

 正確な基地の地図を知るため、マリは近くに歩いている警備兵を捕まえて聞くことにした。拳銃をホルスターに仕舞い、ナイフを取り出し、背中を向けて歩いているところを羽交い締めにしてナイフを首元に突き付ける。

 

「な、なんだお前は・・・!?」

 

「大きな声を出すな。基地の見取り図がある場所を知りたい」

 

「それなら、この先の休憩室にある・・・!喋ったから、うぐっ!?」

 

「ありがと」

 

 見取り図のある場所を知った後、マリは警備兵の喉にナイフを突き刺し、数秒後に窒息死した彼を他の警備兵から目の届かない場所へと捨てた。警備兵が言っていた休憩所へ忍び込むと、複数の男の話し声が聞こえてきた。何か役に立つ情報かもしれないので、盗み聞きする。

 

「なぁ、女まみれの軍隊が使ってる銃って、数百年も前の物だよな?」

 

「そうだな。なんでビーム兵器やレーザーを主力にしてるのに、あんな古い銃を使うか分からん。何処に保管したか分かるか?」

 

「保管庫だろ。多分、誰かがあの銃をマニア辺りにでも売るために盗み出すだろうぜ」

 

「だろうな。どうせ、ここの警備主任は買収されちまってるから、意味はねぇさ」

 

 盗み聞きを終えると、ダーク・ビジョンを発動して正確な人数を数えた。監視カメラが一台、立っているのが四人、座っているのが三人、シャワールームには、煙草で一服している半裸の男と、裸体の女性が二人ほど横たわっているのが見える。

 これが彼女の怒りを誘ったのか、隠れている場所から飛び出し、まずはカメラを破壊、空かさずライフルを手にしようとした兵士達を、反撃を与える間もなく全員撃ち殺した。

 

『なんだ?』

 

 倒れ込んだ死体の音を聞いて、シャワールームに居た男が拳銃を持って出て来た。

 

「誰だ!?」

 

 マリの姿を見るなり、拳銃を向けて安全装置を外したが、瞬間移動で一気に間近まで接近され、フォイアー・キックを受け、全身に炎を纏わせ、呻き声を上げながら壁に叩き付けられて死亡する。

 シャワールームへと入ると、全身に白い体液が付着した全裸の若い女性の死体が二つほど転がっていた。痣も幾つか残っており、何十人もの男にかなり強引、それも無理矢理犯されたらしく、股間から血が出ている。

 近くに捨てられている宇宙軍の乗員用の勤務服の中に紛れ込んでいた金属の認識票から、ワルキューレ所属の兵士と分かる。口から血が流れ出ていることから、ショックの余り舌を噛み千切って自決したようだ。

 

「許さない・・・!」

 

 敵に捕らわれた若くて美しい女性兵士の末路を見てマリは銃を握る手に力を込め、怒りを露わにする。怒りは倒れている女性兵士にこのような屈辱を与えた兵士たちでは無く、自分をレイプしようとする敵兵達に対してである。

 恐らくこの二人だけでなく、基地の捕虜を拘束する施設でも、同等の光景を見ることになるだろう。そう思ったマリは消音器付きの拳銃をホルスターに仕舞って、レンチを持った。

 

「一人残らず殺してやる・・・!」

 

 ブツブツと呟くように殺意を露わにし、警備兵の背後から接近し、レンチを頭に向けて振りかざす。ヘルメットを被っていたため、それほどのダメージは無かったが、もう一度力を込めて振り下ろせば警備兵の頭は血を吹き出しながら変形した。無論、頭が変形して生きているわけでもなく、警備兵はその場に倒れ込む。

 物言わぬ死体となった警備兵から端末を盗ると、基地の全体図を表示させる。ちなみに、この基地の将兵達が持つ銃はID登録された者以外は引き金が引けない仕組みのハイテク銃だ。先程マリが音の響かない場所で試し撃ちして見たが、引き金が堅く、撃てなかった。

 新しい銃を入手するには、押収品保管庫へ行かなくてはならない。端末から選択した地図で確認した後、無線機も死体から拝借して行動を再開した。出会す警備兵は全て静かに始末して監視カメラに映らないような位置に置く。

 確認しに来た兵士も全て殺し、巡回の車両も無力化する。

 

「ここね」

 

 押収品保管庫へ辿り着き、内部へ入ると、一人の兵士がワルキューレ宇宙軍の落ちてきた残骸から押収した銃器を眺めていた。入って来たマリには気付かなかったらしく、その上ヘルメットまで被っていなかったため、レンチで思いっ切り殴られ、即死した。

 マリはイギリスのボルトアクション式狙撃銃L96A1を取ろうとしたが、厳重に保管されている弓に目を向ける。

 

「これは・・・?」

 

 この弓に見覚えがあったのか、レンチでガラスを割った後、弓を手に取る。

 

対戦車弓(パンツァー・ボーゲン)かしら?」

 

 手にとって確認しながら、マリは昔存在した百合帝国軍の武器の一種と判断する。

 対戦車弓とは、対戦車用の榴弾を鏃に付けた矢を弓で引いて放つ原始的な弓矢である。当初は対戦車戦を予想し、陸軍兵器開発省によって開発されたが、矢を戦車に向けて放つと言う中世期の様な攻撃方法だったため、不採用となった。

 長年倉庫で試作品が眠っていたが、連邦軍の本土侵攻が始まったため、試作品を引っ張り出し、小火器生産ラインに乗せて専用の矢と共に大量生産され、制式採用された。

 普通の木の矢や繊維強化プラスチックで出来た矢、金属の矢を引くことも出来る。この消音器に頼ることもなく、敵を無力化できる原始的な武器を手に入れたマリは狙撃銃よりも弓を取り、幾つかの矢も回収して外へ出た。

 早速試し撃ちするため、目に映った敵兵を標的とする。照準器を覗き、力を込めて弓を引き、矢を射た。放たれた矢は銃弾の如く敵兵に向かって飛んでいき、身体に突き刺さった。

 

「結構飛ぶのね」

 

 少し力が強すぎたのか、刺さった衝撃で敵兵が吹き飛んだ。強力な武器を手に入れた彼女は全ての敵兵の殲滅と情報収集のため、情報収集施設へと向かう。途中、出会す警備兵や将兵に対しては、普通に射た矢とレンチを食らわせ、始末していく。

 監視カメラを避けながら死んだ警備兵からセキュリティカードを取り、情報保管室へのセキュリティを解除して、中へ忍び込んだ。基地情報を選択し、どのデータが保存されているかを確認する。搬入された兵器、巡回ルート、捕虜の数、回収した敵の兵器類、その他諸々などを調べ上げる。

 

「これって・・・!」

 

 更に調べ上げていく内に、衝撃的な物を見てしまった。その衝撃的な物とは、ボロボロの神聖百合帝国の国旗が映った写真である。

 百合帝国崩壊後、ワルキューレの支配を拒んだ一部のメガミ人達は、余っている異世界転送装置を使って別世界へ行くか、低い宇宙技術で建造された移住性の低い移民船に乗って遙か彼方の宇宙へと旅立っていった。

 このボロボロの国旗は、女だけの種族メガミ人の開拓者達が後から来た人間の開拓者と戦って敗北した末路だろう。調べれば調べるほど、アヌビスの先住者達であるメガミ人はかなり酷い弾圧を受け、高い技術力を持つ人間達に蹂躙されている様子だ。

 更に詳しく調べようかと思ったが、流石に気付かれたのか、警報が鳴り響き、通路から怒号と走る足音が聞こえてくる。

 

『侵入者だ!』

 

『味方が死んでるぞ!!』

 

 声が聞こえた後に、天上から無人のタレットが飛び出し、銃身をマリに向けるなり撃ってくる。直ぐに回避して、全てのタレットをMP5の単発で破壊する。破片が地面に落ちると、丁度六人ほど警備兵や兵士達がマリを見付けるなり叫ぶ。

 

「居たぞ!撃てぇ!!」

 

 見付けるなり警告もせず、撃ってきた。遮蔽物に隠れ、短機関銃や散弾銃、騎兵銃を撃ってくる敵兵達に撃ち返す。三人ほど秒単位で撃ち殺すと、遮蔽物に隠れて手榴弾を投げ込んできた。

 

「グレネード!」

 

 彼女が居るところへ手榴弾が投げ込まれたが、投げ返すには十分すぎる程の時間があった為、直ぐに敵兵達の所へ投げ返した。悲鳴が聞こえたときには、爆発音と肉が避ける音が聞こえ、腕が飛んでくる。

 辺りに敵兵が居ないことをダーク・ビジョンで確認し、やって来た場所から見ると、四方が吹き飛んだ死体や上半身と下半身が千切れた死体が転がり、辺り一面が血で真っ赤になっていた。

 未来の手榴弾は爆発する物が多いらしい。まだ無事な手榴弾を回収して、投げられるかどうかを試すと、敵が持つ銃とは違って投げられた。

 

「使えるみたい」

 

 二、三個程回収すると、遭遇するタレットと敵兵を排除しながら外へ出た。出た先にはやはり待ち伏せしていたのか、敵兵がバリケード越しから銃を撃ってくる。再装填を終えたMP5で一人ずつ頭を出した敵兵から排除していく。

 

『こちらシグマ15、被害甚大!応援を頼む!!』

 

 何人も片付けていると、敵が増援を呼んだのか、機銃搭載車が彼女の視線に入った。機銃手は直ぐにマリに向けて機関銃を撃ってきた。今隠れている情報施設の壁が穴だらけになる中、敵兵が続々とマリの居る情報施設の前に集まってくる。

 出入り口から出るのは不味いと判断し、裏口から出ることにしたマリであったが、裏口からも人員が手配されており、挟み撃ちにされる。

 

「絶対に逃がすな!」

 

 士官の声が聞こえ、室内での銃声が更に広がる。室内で十数名ほどが集まっている為、何名かを一気に始末できるので、マリは手榴弾を投げ込む。案の定、狭い室内での手榴弾の効果は拡大し、数十名ほどを殺傷できた。

 手足のどちらかを無くすか、腹から内臓を垂れ流している将兵が泣き叫ぶ中、彼女は裏口から出た。敵兵は何名か居たが、瞬間移動でジープまで移動し、運転手諸共自分の周りにいる敵兵を全て排除する。

 ジープに乗り込むと、脱出手段であるMSやAT、ゾイド、ハーディガンを格納しているハンガーへと向かった。移動している最中、銃弾は絶えず飛んでくるが、マリのドライビングテクニックが凄いのか、殆ど被弾しない。装甲車などが出て来て機関砲を撃ってくるが、一発も命中しなかった。

 ハンドルを必死に切り、銃弾や機関砲を避ける中、ようやく目的地のハンガーが見えてきた。

 

「もう少しで・・・!」

 

 そう思った矢先、骨のような全高8m程の恐竜型ゾイド、ガリウスが右手から複数現れ、腰部に取り付けられたビーム砲を撃ってくる。そのビームは低出力ながら、威力は高かったのか、爆風に呑まれてジープが横転した。

 

「キャッ!」

 

 横転したジープから投げされた彼女は、迫ってくるガリウスに向けて対人型兵器用の矢を放つ。矢はガリウスの胴体に当たって爆発し、粉々に吹き飛んだ。これにはパイロット達も驚いたのか、前に出るのを止めて後ろに後退っていくが、大型でそれなりの装甲を持つステゴサウルス型ゾイド、ゴルドスの登場で前進を再開する。

 

「あんなの無理!」

 

 流石に大型ゾイドを撃破することは不可能なのか、マリは全力でハンガーまで走る。自分等の基地なだけにあってゴルドスは主力である105㎜高速レールガンは撃っては来なかったが、踏み殺そうと迫ってくる。ガリウスもビームを撃ちながら迫ってくるので、ジグザグに動きながら走り続ける。

 時には瞬間移動を使って距離を縮めるも、新たな脅威であるスコープドックが現れた。彼女にとっては、機動兵器に乗った状態でのATは、地上戦や宇宙戦は雑魚その物ではあったが、こうして生身で戦うことになると、脅威その物である。ローラーダッシュを行い、金属が削り落ちるような音を立たせ、手に持ったヘビィマシンガンを撃ちながら追い掛けてきた。

 

「これでも!」

 

 少し立ち止まり、対戦車用の矢を先頭に立つスコープドックへ向けて放つと、胸と頭の部分にあるコクピットの中にいた人間に貫通して刺さったのか、バランスを崩して数回転んだ後、動力源である気化性と引火性の高い燃料とされている液体に火花が引火し、爆発した。後続機はそれを避けながら、マシンガンを撃ってくる。

 様々な脅威に見舞われながら、ようやくハンガーまで後少しという所であったが、幸運は長続きせず、目の前で流れ弾が着弾して爆発し、飛んできた破片が左目に刺さり、その衝撃で堅いアスファルトの上に倒れる。

 

「があぁぁぁ!!目がぁ・・・!」

 

 余りの激痛で叫び、破片が刺さった左目を抑えながら悶え苦しむ。痛みをこらえながら立ち上がると、周囲は完全に包囲されていた。左手にはガリウスにゴルドス、右手には装甲車、前後にはATに装甲車、周りは銃を持った敵兵、空には戦闘ヘリ、八方塞がりでもはや絶体絶命だ。

 抑える手から流れる血を感じながら、これから周りにいる兵士達に輪姦されると予感し、される前に腰にある拳銃で自決しようかと考えた。

 

「どうする?殺す前に(まわ)すか?」

 

「こんな良い体付きの美人を殺すのは勿体ねぇ、やっちまおう」

 

 自分を性欲のはけ口として見る兵士達の声を聞けば、敵に悟られぬよう、腰に手を伸ばす。もうすぐUSPに手が届こうとした瞬間、思わぬ助けが現れた。

 

「な、なんだ!?」

 

 大きな音をした後、兵士が音のした方向へと振り向く。釣られてまだ見える右目で見てみると、白い外装のライオン型大型ゾイドが居た。その白いゾイドは元々この基地に搬入された物なのか、周りにいた将兵達は驚きの声を上げる。

 

「か、勝手に動いているぞ!?」

 

「ライガー・ゼロのパイロットは誰か?!」

 

 ライガー・ゼロと呼ばれるライオン型大型ゾイドを見た兵士達は慌てふためき、乗っている者は誰かと問う。管制塔からもライガー・ゼロのパイロットが乗っているかどうかの確認の通信が腰に付けていた無線機から流れていたが、白いゾイドからの返答はない。

 全長24m、全高8.3mの大型ゾイドは、砲身を向けるガリウス達に襲い掛かる。

 無論、旧式で化石同然なガリウスでは歯が立つわけでもなく、振り払い一撃でバラバラになり、数秒足らずで全機がスクラップへと変わる。次にマシンガンを撃ってくるATに目を付け、胸部にある二連装ショックキャノンを連続で撃ち、スコープドックと装甲車を一掃する。

 

「な、何て奴だ・・・!あの女のことは後回しだ!各機、暴走したライガー・ゼロを破壊しろ!!」

 

 もうマリに構っている暇はないのか、彼女を包囲していた敵部隊がライガー・ゼロへと集中した。早期に破壊しようと考えたのか、戦車、小型ゾイドのゴドスやカノントータス、中型ゾイドのコマンドウルフ、MSのドートレスやストライクダガーまで増員して来る。

 ゴルドスに乗るパイロットも、次々とやられる味方の装甲車や戦闘ヘリを見て、基地の被害に構わず、強力なレールガンを撃とうとするも、近すぎて撃てず、レーザークローの一振りで倒れる。

彼 女の周りにいた兵士達は、踏み潰されるかと思い、全員がその場から逃走していた。周囲の敵を一掃したライガー・ゼロはマリの元へ近付き、腰を低くしてコクピットのハッチを自ら開く。

 

「私に、乗れと言うの?」

 

 左目から血を流しているマリは、ライガー・ゼロに問う。ライガー・ゼロはライオンの様な鳴き声で返答する。

 

「分かったわ!お前に乗って、基地を徹底的に破壊してやるわ!」

 

 そう意気込んでライガー・ゼロに乗り込むと、コクピットのハッチを閉め、痛む左目の破片を抜いてから応急処置を施し、操縦桿を握った。

 

「さぁ、行くわよ!」

 

 まずはビーム砲を撃ちながら向かってくるコマンドウルフに接近して、レーザークローで斬り掛かり、一撃で左足を吹き飛ばす。トドメに左足でコクピットを踏み潰し、パイロットを殺した。二体目はレーザーファングで噛み千切り、首を逃げまどう兵士達に向けて吐き捨てる。

 何名かを吹き飛ばした後、ショックキャノンを撃ち込んで大勢を殺す。こちらに向けて撃ってくる装甲車や戦車も破壊し、周囲に存在する建造物も徹底的に破壊する。

 

『各員、これ以上基地を破壊させるな!売り飛ばす予定のライガー・ゼロを破壊しても構わん。撃て!』

 

 基地の管制塔からの指示が聞こえ、ドートレスとストライクダガーが遠慮なしにマシンガンやビームライフルを撃ってくる。ライガー・ゼロの機動力を使い、マリは攻撃を回避しつつ手近なドートレスに接近し、クローでコクピットをえぐり取る。

 コクピットの胸部を抉られたドートレスが倒れると、即座にビームを撃ち続けるストライクダガーに覆い被さり、レーザーファングで腹部を噛み千切った。残りの敵機はパイロットが怯えているのか、機関銃やビームを乱射するが、全くマリのライガー・ゼロに当たることもなく、次々と撃破された。

 十数機以上の敵機が撃墜されたが、基地に多数配備された兵器の数は未だに残っており、基地司令官は惜しまなく投入する。

 

「どれだけ居ようが・・・!」

 

 向かってくる数十機のゴドスに向け、マリはショックキャノンを撃ちながら吐き捨てる。標的にされたゴドスは次々と倒れていき、最後の一体は首を跳ねとばされる。両肩にガトリング砲を付けた全高8m程の手足の短いハーディガンや、基地の自動砲塔などが出て来たが、話にもならず、潰されるだけだった。

 周辺の敵を排除すると、増援が来る前に捕虜収容所へと向かう。道中、絶えず装甲車や戦闘ヘリ、自動砲塔が出て来るが、体当たりする程度で潰せるので、容易に突破できる。敵歩兵が携帯式対機動兵器ミサイルを持ち込んできたが、ライガー・ゼロには効かず、踏み潰されるか、ショックキャノンを撃たれて挽肉へ変わる。

 捕虜収容所へ辿り着くと、歩兵が携帯式ミサイルやロケットランチャーで歓迎してくる。右足で振り払い、挽肉へと変えてからコクピットを開け、ダーク・ビジョンで捕虜を確認した。

 

「全員・・・死んでる・・・?」

 

 ダーク・ビジョンで捕虜収容所内部を確認したマリは、全裸になって死んでいるワルキューレの将兵達を見て呟いた。散々犯され尽くした後、敵兵が居なくなったところで舌を噛み千切るか、壁に頭を何度も自分で叩き付けて自決したようだ。さらに怒りがこみ上げた彼女はコクピットを閉め、基地中で暴れ始める。

 増援が現れ、マリのライガー・ゼロに攻撃するも容易に回避されて瞬く間に全滅する。数十分後には、基地の至る所で火災が発生し、堅い道路やアスファルトの上は兵士の死屍累々だった。建造物と管制塔も倒され、ハンガーも破壊尽くされている。

 周囲に死んでいる兵士と同様、立ち向かった兵器群の残骸が死屍累々のような有様だ。ライガー・ゼロの白い外装は敵兵の返り血で所々紅く染まっている。

 

「来るな!来るなぁー!!」

 

 錯乱したパイロットが乗るハーディガンが手に持った機関砲を撃ちまくるも、瞬時に接近され、コクピットの部分を食い千切られる。

 

「ヒィィィ!!や、止めろ!止せ!!」

 

 まだ生きているパイロットは必死の命乞いをするが、マリに通じるはずもなく噛み砕かれ、肉片と化した。周囲に飛び散った血が付着する中、最後に残しておいた司令施設まで歩み寄る。

 あのハーディガンが最後の一機だったのか、ライガー・ゼロ以外の機動兵器の反応は見られず、通常兵器の反応すら見られない。そんな時に、敵基地司令官からの通信が入ってくる。

 

『こちらはゴルド基地の司令官だ・・・!これ以上の破壊は止めて、我々と交渉しよう・・・!一体何が欲しいんだ?金か?それともダイヤか?ダイヤならそこらにあるぞ、金も一緒だ。ほら、どうだ?欲しいだろう。ん?』

 

「・・・待ってて、今貰いに行くから」

 

 この通信に対し、マリは暫しの沈黙の後、返答した。

 

『そ、そうか・・・!直ぐに用意する、お前が着く頃には用意は済んでいるはずだ!』

 

 基地司令官からの通信が途切れると、マリはMP5の残弾と矢の残りを確認した。司令施設に到着すると、ライガー・ゼロから降り、弓を持ちながら司令施設へと入る。

 

「さぁ、用意したぞ。これで見逃して・・・あっ」

 

 基地司令官が用意したダイヤと金塊の山を見せびらかしながら、見逃して貰おうとしたが、それに対する彼女の返答は爆弾矢だった。腹に突き刺さった矢を見て数秒後に、基地司令官は爆発して肉片と化す。

 

「貰いに来たわよ。お前達の命」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 基地中の人間を皆殺しにしようとする女の発言を聞いた将兵達は、悲鳴を上げて死の恐怖を感じて今持っている銃を向けて引き金を引く。多数の銃弾が放たれる中、マリは瞬間移動して接近し、手近な兵士を弓の前部に付いた刃で斬り殺す。このパンツァー・ボーゲンは接近戦も行えるらしい。

 その刃を使って次々と敵兵を斬り殺していき、時には盾にして司令施設に居る敵兵を次々と殺していく。周囲が血で真っ赤に染まる中、マリはMP5を敵が集まっている方向へと掃射し、一気に数名を排除した。

 数十分後、司令施設に立て籠もった将兵の殆どが全滅、辺り一面が真っ赤に染まり、外とは余り変わらない光景が広がっている。部屋の隅々に死体から手に入れた手榴弾を投げ込み、残存兵を掃討する。

 数時間後、彼女が屋上に辿り着いている頃には基地の生存者は殆ど居ないに等しかった。もうすぐ明けそうな夜明けに向け、空を見上げると、一言空に向けて放つ。

 

「スッキリした・・・」

 

 小さく呟いた後、背後から銃声が鳴り響き、自分の腹部に血を吹き出しながら穴が開く。銃声がした後ろを振り向いてみると、拳銃を構える一人の血塗れな将校が佇んでいた。

 

「こ、この化け物目・・・!」

 

 将校がそう吐き捨て第二射の引き金を引こうとした時、拳銃を持つ右手へ向けて矢を放つ。突き刺さった矢は深く突き刺さり、拳銃を手放させる事に成功する。激痛を他所にマリは将校に近付き、まだ未使用の矢を取り出し、それを痛みで悶絶する将校の左目に突き刺す。

 

「グッ、あぁぁぁぁぁ!!!」

 

 余りの痛さに叫び、必死で抵抗しようとする将校だが、残っている手足を全て拳銃で撃たれ、抵抗のしようもなくなる。悪足掻きでジタバタするが、胸にサバイバルナイフを突き刺され、余りの出血多量で力尽きる。彼女はナイフをそのまま動かして、心臓を取り出そうと肉を切り続ける。

 取り出せるほどの穴を開けると、心臓を取り出し、それを高く上げて握り潰した。この残忍な行動は全くの無意味だが、マリからすれば気が晴れたような物だ。

 自分の血と返り血で殆ど赤く染まったマリは、ライガー・ゼロのコクピットへと瞬間移動で戻り、ハッチを閉めてから明後日の方向へと歩き出す。マリが去ってからの戦闘が終わった後の基地は、殆ど火災と死体、残骸で埋め尽くされ、完全に壊滅していた。

 戦闘終了後、彼女は凄まじい激痛に襲われ、呻き声を上げる。

 

「がっ、あぁぁ・・・・!無理、しすぎちゃったかな・・・」

 

 溢れ出る腹部から血を抑えながらそう呟やいた。応急処置した目からも血が溢れる中、視界が霞み始める。

 

「こ、こんな所で死ぬなんて・・・まだ、始まった・・・ばっかり、なのに・・・」

 

 余りの出血多量で意識が遠のいていく中、マリは自分の死期を悟る。

 

「まだ・・・死ねない・・・」

 

 その一言の後、マリの目の前が真っ暗になる。

 それは、丁度朝日が顔を覗かせている時間帯であった。




新武器、と言うか自分で考えた弓矢の一種、対戦車弓がまたしても登場。
でも、誰か先に考えているだろうな・・・

あっ、一応ワルキューレに亜人とか居ます。

~今週の中断メッセージ~
メイトリックス大佐からの一言。

ムエタイX「今日は休め」


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ロボット兵器が普及した世界

アウトサイダー、また登場。

マクロスに出て来るバルキリーって、格好いいよね。


 視界が目の前で真っ暗になった後、次に目覚めた先は虚無の世界であった。

 周囲には、見慣れる頃合いのカオスな空間が広がっている。今回はわざわざ特定の場所へ出向くこともなく、アウトサイダーがわざわざ出て来た。

 

「今回はかなり不味い状況だな。マリ」

 

 やはり自分がかなりの重傷を負っていることは知っているようだ。この世界におけるマリの外見に特に目立つ外傷はないが、アウトサイダーが出した映像には、ライガー・ゼロのコクピットで死にかけている自分の姿が映されている。

 

「これが今のお前の状況だ。早くなんとかしなければな」

 

 映像を見ながらアウトサイダーは、左手に顎を当てながら口を開く。暫くすると、ライガー・ゼロのコクピットが突然開き、髪の毛が逆立った体格の良い男と、長い茶髪の女が自分を抱えている所が流れた。

 

「どうやら助かったみたいだな。さて、本題に入ろう」

 

 自分がコクピットから出される所で映像は消え、元の空間へと戻った。映像を消したアウトサイダーは本題に入る。

 

「運の良いことに次の能力が見付かったぞ。歴史がとある悪名高い男の手によって呼び出された少女の手によって変わりつつある世界だ。お前では少し生き辛い世界だろうが、今のお前なら、長い時間を掛ければ望むままの世界へと変えられるはずだ。尤も、それが少女を見た後でできるかどうかだが」

 

 腕組みをしながら告げると、アウトサイダーは別れを告げた。

 

「確かめたければ、今の試練と次の試練をこなす事だ。では、また何処かで会おう」

 

 目の前の青白い青年が告げれば、彼女の視界はまた真っ暗になった。

 

 

 

 次に目覚めた場所は、何処かの医務室のようだった。隣には、タンクトップと作業ズボンというラフな姿のザシャが椅子に腰掛けている。マリが目覚めたのが分かると、ザシャは彼女が横たわるベッドへ寄り添う。

 

「あっ、少佐・・・!余り無理をなさらない方が・・・」

 

 無理に起きようとするマリを、ザシャは優しく受け止める。

 

「重傷だったのですよ。左眼は完全に失明、左腹部には大口径の拳銃による銃創・・・死んでもおかしくなかったのですから・・・」

 

 心配そうにザシャが告げると、マリは笑顔で礼を言った。礼を言った途端、頭痛が彼女を襲う。どうやら大量出血した所為で、貧血になってしまったようだ。

 ザシャが寄り添って、身体を支える。

 

「頭痛い・・・これ貧血だわ・・・」

 

「無理もないですよ、コクピットは血塗れだったんですから。むしろ生きてるのが信じられないくらいです」

 

「あんなに血がいっぱい出ちゃったんだ・・・はぁ、ちょっと寝るわ。なんか起きたら起こして」

 

「えっ?は、はい・・・」

 

 溜め息をついたマリは、ザシャに何か起きれば起こすように指示をすると、彼女は布団を深く被って横になる。横になって寝息を立てたのを確認すると、ザシャは席を立ち、医務室を出て自分等を拾った恩人の元へ向かった。今、マリ達が居る場所は停車している大型トレーラーだ。

 この星に降りてきて、ザシャが乗っていたバルキリーVF-25Aメサイアと、小柄の男に整備を受けているマリが乗っていたライガー・ゼロ、誰かの物とは分からない旧式のVF-1Aバルキリーが、牽引車に連結されたトレーラーに収納されている。

 

「よぉ、血塗れのお姫様は目覚めたかい?ヒヨコの嬢ちゃん」

 

「その言い方やめてくださいよ」

 

「良いじゃねぇか。現に最新式のバルキリーにヒヨコちゃんが描かれているからよ」

 

「フフフ」

 

 ザシャが訪れたのは牽引車の操縦室であり、ハンドルを握る髪の毛が逆立った男と茶髪の女が彼女を茶化す。ちなみにその二人がマリを助けた張本人であり、治療を施したのはザシャである。

 

「目を覚ましましたが、貧血で寝込んじゃいました」

 

「そいつぁ、飯を大量に食わんとならないと治らないな。リュシー、お前の手料理を沢山作らんと」

 

「えぇ、それならジェロームにも手伝って貰わないとね」

 

「ヌッハハハ!俺様の料理の腕が鳴るぜ!」

 

 ジェロームと呼ばれる男と、リュシーと呼ばれる女のやり取りに、ザシャは呆れる。

 他の搭乗者はマリとザシャ、トレーラーも持ち主の二人を除き、先程のライガー・ゼロを整備している小柄な男とライフルを持って見張りをしているバンダナの男、老夫婦の二名が乗っている。新婚者のやり取りを行う二人を放置して、ザシャは操縦席を出た。

 医務室でマリが良く眠っているのを確認した後、自分の機体に何もされてないか確認に向かう。格納庫に入なり、整備をしていた小柄な男が触れていないと言ってくる。

 

「お前さんの新しいバルキリーなんかに触れてないぞ!」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 そうザシャは返すと、コクピットから工具箱を取り出し、自分の機体であるVF-25の野戦整備を始めた。整備と言っても、専門的な整備でもなく、軍の士官学校の操縦科で習った程度の物である。

 慣れない手付きで一時間程被弾箇所の整備を終えると、工具箱をコクピットへ戻し、再びマリの様子を見に行った。一方の医務室で寝ているマリは、ジェロームとリュシーが作った料理を食していた。

 

「どうだい、俺達ポートリエ夫妻の料理は?」

 

 ジェロームが自分等の料理を食しているマリに問うが、等の彼女の反応は皆無だ。無視して、普通に口へと運び、黙々と食べるだけである。

 

「あの・・・味は・・・?」

 

「・・・」

 

 同姓のリュシーの問いにすら反応せず、ただ血を蓄える為の栄養を補給している。医務室へと入ってきたザシャは、命の恩人の問いを無視して食事を続けるマリを見て、注意しようかと思ったが、何かされるか分からないので、引き下がることにした。食事を三十分で終えたマリは淹れられた珈琲を飲み、ジェロームに無言で何かを強請る。

 

「な、なんだよその手は・・・?」

 

「煙草」

 

 彼がその手の意味を問うと、マリは煙草を渡すように言った。

 

「やっと口を開いたと思ったら煙草かよ!?この医務室は禁煙だっちゅーの!それに命の恩人に対して、感謝の言葉すら無い上に何だその態度は!」

 

 ジェロームが何の礼をも言わずに煙草を強請るマリに対して怒鳴り付けるが、妻であるリュシーに宥められる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてジェローム。きっと気が立っているのよ」

 

「すまねぇなハニー。だがよ、例の一つすら無く、こんな態度でいられちゃ、助けた甲斐がないぜ。それに煙草まで強請ってきたってもんだ。助けたことを後悔しちまいそうだ」

 

 世話になった挙げ句に例の一つも言わないマリに、ジェロームはやりきれない気持ちだった。そんな彼に対し、リュシーは説得を始める。

 

「そんなこと言わないでジェローム。こんなに綺麗な人をあんな所へ放置したままにすれば、私達後悔すると思うの」

 

「はぁ・・・負けたよ、ハニーの頼みなら仕方がねぇ。感謝しろよ、血塗れのお姫さんよ。ハニーと俺の広い心の御陰で、胸くそ(わり)ぃ女に飢えた悪漢共から死姦されずに済んだんだ。ちゃんとお礼は言うんだぞぉ?もし言わなかったら、俺のトレーターから放り出してやるからな!」

 

 愛する者の説得が通じたのか、ジェロームはマリに自分の妻に礼を言うよう告げると、医務室を出て行く。マリはここがトレーラーの医務室だと言うことを理解する。夫が出て行くのを確認したリュシーは、無表情な彼女に謝る。

 

「ごめんなさいね、突然ジェロームが怒っちゃって。私の名前はリュシー・ポートリエ。ジェロームの妻よ、よろしくね」

 

 握手を申し出たので、マリはそれに応じた。

 

「そこにいる貴方の部下が心配してたわ。苦手な血を我慢して、貴方を治療したのよ」

 

 リュシーは出入り口の前で立っているザシャに手を翳しながら告げる。

 

「失礼ながら少佐殿を私の浅はかな医療知識で治療しました!」

 

 ザシャが敬礼しながら告げると、マリは他に医者が居なかったのかを問う。

 

「ザシャちゃんが私を治療?他に医者とか乗ってないの?」

 

「私達も一応応急処置くらいは出来るけど、本格的なのは医療ロボットに任せっきりだったから。壊れて修理に出したままで困ちゃったけど、貴方を助ける前にザシャちゃんを助けておいて良かったわ」

 

 リュシーはザシャの肩に手を置きながら彼女の頭を撫でる。長身の人妻に頭を撫でられているザシャは、顔を赤くして恥ずかしがっている様子だった。そんな愛らしい162㎝の女性中尉を見て、マリは心中で「可愛い」と思った後、他の乗員のことを聞く。

 

「それくらい技術力のある星なんだ・・・で、箒頭の他は?」

 

「箒頭って・・・えぇ、居るわよ。整備士をして貰ってるタンに見張りをしているリバス、ご老体のディアス夫婦よ。今はもう居ないけど、後は・・・」

 

「そいつの名を思い出すだけで、虫唾が走るぜ」

 

 リュシーの乗員達の哨戒に割って入ったのは、両手に人数分のアイスキャンディを持ったジェロームだった。マリとザシャに一本ずつアイスキャンディを投げた後、津まであるリュシーに手渡し、今は居ない乗員のことを代わりに告げる。

 

「ヒヨコちゃんはあの旧式のバルキリーの事は知ってるかと思うが、用心棒が乗ってた奴だ。まっ、乗ってた奴は女の敵。それも胸糞が悪くなるくらいで、女を食い物か性処理道具かと思っている脳が生殖器のトンデモねぇクソ野郎だ」

 

「彼ね・・・あんな性格じゃなかったら・・・」

 

「言うんじゃないハニー、自業自得さ」

 

 暗い表情を浮かべるリュシーに、ジェロームは寄り添って肩を抱く。下品な表現に引いたが、興味本位なのか、ザシャはあのVF-1Aの持ち主である男の事を聞いた。

 

「ど、どうなったんですか?その人」

 

「あぁ、前の町で小便をしてる最中、女に背中から刺されて便器に顔面を突っ込んで死んでたよ。言い様だぜ。雇ってやってるのに、ハニーをレイプしようとしやがった。死んで清々したぜ」

 

「同感。そんな男、みんな死んでしまえばいい」

 

 ザシャからの問いに答えたジェロームはマリが放った言葉に同意し、先程の彼女に対する苛立ちを撤回した。

 

「おっ、言うねぇ~!俺も同意見だ。あんな強姦魔なんかとっとと滅べばいいのに、殺しても殺してもゴキブリの如く増えやがる。全く世の中は不条理な(もん)だぜ」

 

 アイスキャンディの封を開けながら告げると、それを食べ始める。リュシーも封を開けてアイスキャンディを口に含め、ジェロームと同様に舐め始めた。

 

「血塗れの少佐さんもヒヨコちゃんもアイスキャンディを食べろ。煙たい煙草より健康的だぞ。さぁ、食べろ、食べろ」

 

 オレンジ味のアイスキャンディを勧めるジェロームの言葉に従い、マリとザシャはアイスキャンディを口に含んだ。

 

「そうだ、そうだ。煙草なんかより、アイスキャンディの方が上手いに決まってる。なんたって、二十歳になる前から・・・なんだ!?」

 

 自分の考えを力説している最中、爆音と共に強い衝撃がこのトレーラーを襲った。その後に、ジェロームが身に着けている無線機から着信音が鳴る。

 

「どうした!?」

 

『だ、旦那ァ!大変でさ!盗賊団が、盗賊団が攻めてきあしただ!!』

 

「な、なにぃ!盗賊団だとぉ!?」

 

 ジェロームは外へ出て屋上へ上がり、双眼鏡を取り出して砲弾が飛んでくる方向を見る。双眼鏡に映ったのは、機種がバラバラすぎる機動兵器の集団だった。

 列車砲並の火砲を四門も搭載した大型機動兵器デストロイド・モンスターに、数種類の小型ゾイド、軍から退役して払い下げられた数々のMS、横流しされたAT類、他には払い下げられたのか、民間で売買されているハーディガンや、連邦・同盟にも流通していない機動兵器もある。数は見る限り六十機は超えているだろう。

 生身ならともかく、相手は通常兵器を上回る性能を有する機動兵器なので、もはや大人しく金目の物を渡すか、逃げるしかない。逃げようと、操縦席へ走るジェロームであったが、ザシャは盗賊団に立ち向かおうとする。

 EXギアパイロットスーツに身を包んだザシャが自分の搭乗機であるファイター形態のままのVF-25Aに乗り込み、開いたハッチから出撃した。

 

「お、おいおい!ヒヨコちゃん!相手は大隊規模だぞ!!」

 

『大丈夫、敵は動きが疏らで統制が取れていません!隊長機を叩けば敵は退きます!』

 

「そんな事言ってもなぁ・・・って、病人は寝てろ!!」

 

 こちらへ向けて重砲を撃ち込んでくる盗賊団へ向けて飛んでいくザシャのVF-25Aを見て、ジェロームは無線機を使って止めようとするが、制空権を握っている彼女は、盗賊団の動きがバラバラであることを見抜き、単機で敵陣へと突っ込んでいく。

 そんな危険な行動を取るザシャを注意するジェロームだが、マリも戦闘へ参加しようとしたので、怒鳴って止めようとする。

 

「煩いわね!こんな傷、どうって事ないわよ!」

 

「貧血なんだろ!大人しくしてろ!!」

 

「煩い!」

 

「こらっ!ギャッ!?」

 

 彼女の腕を掴んで無理にでも止めようとするジェロームであったが、砲撃の衝撃で手を離してしまい、マリを取り逃がしてしまった。そんな彼女が来た先は格納庫であり、ライガー・ゼロに乗り込もうとしたが、整備士のタンに止められる。

 

「姉さんよ、そいつぁ暫くの間、動かせねぇぜ?」

 

「何でよ!?」

 

「そんなに怒鳴りなさんな。何をしたのかは知らんが、アンタが荒っぽい事をした所為でかなり大掛かりな修理が必要だ」

 

 タンはライガー・ゼロの損傷箇所を全て修理しない限り、動かせないとマリに告げた。

 

「なら早く直しなさいよ!」

 

「今は戦闘中だ。こんなに揺れてちゃ、手元が狂って、指の二、三本は持ってかれるかもしれねぇ。大人しく病室のベッドで寝ているこった」

 

 的確なことを告げたタンは、応戦するために階段を上がっていった。ここで大人しく引き下がる訳ではないマリは、ファイター形態のまま収容されているVF-1Aに目を付ける。

 

「使える機体、あるじゃない」

 

 早速マリはVF-1Aバルキリーに乗り込み、操作系統の確認、装備の確認を行う。

 

「古いけど、操縦には問題ないみたいね。装備も現行のバルキリーには劣るけど、雑魚相手にはこれで十分だわ」

 

 確認を済ませたマリはキャノピーを閉め、ガウォーク形態になって固定具を無理矢理外し、ハッチを開けて出撃した。ある程度速度を付けると、ファイター形態に変形してザシャの後を追う。VF-25の半世紀前に開発された旧式のバルキリーであった為か、全くザシャ機に追いつけなかった。

 

「あーもう、このポンコツ!早く追いつきなさいよ!」

 

 最高速度の違いに文句を付けるマリであったが、当のザシャは既に盗賊団と交戦状態に入っていた。

 

「馬鹿野郎!そいつの弾は高いんだぞ!!」

 

 ジープに乗って立っている盗賊団の頭が撃っては外すデストロイド・モンスターの砲手に怒鳴り散らしている最中、一人のモヒカン頭の部下が知らせに来る。

 

「お頭、上空から奴等の用心棒らしき戦闘機が出て来あした!」

 

「なにぃ!戦闘機だと!?」

 

 直ぐに双眼鏡で向かってくるザシャのファイター形態のVF-25Aを見る。

 

「一体何処の軍隊の戦闘機だ・・・?」

 

 そう言っている内に、バトロイド形態になったVF-25Aのガンポッドの掃射を受け、ジープから投げ出される。隣で砲撃していたデストロイド・モンスターは、蜂の巣になって大破した。

 

「く、クソッタレ!あの見たことのないバルキリーをぶっ潰せ!!」

 

 直ぐに頭は指示を出し、自分だけ逃げようとする。指示を受けた盗賊達は即座にザシャ機に向けて下手くそな対空射撃を行う。ただ目標へ向けて闇雲に撃つだけであり、容易く避けたザシャの反撃を受けて返り討ちにされるばかりだ。

 

「な、なんだこいつは!?うわぁぁぁ!!」

 

 ザシャの強さに驚いている盗賊は、追い付いてきたマリのVF-1Aのガンポッド攻撃を受けて破壊される。この後、物の数秒で六機以上が破壊され、更に被害を拡大していく。

 

「やっと追い付いた!」

 

 敵機を潰しながら、マリはザシャに追い付いたことを喜ぶ。マリが援護に駆け付けたことに驚いたザシャは、直ぐに戻るよう通信で伝える。

 

『なんで来たんですか!?安静にしてなきゃ行けないのに!』

 

「だって、こんなにドンパチされちゃ、安心して寝られないじゃない。だからこうやってお掃除に来たのよ!」

 

 言い争いながら敵を掃討するマリとザシャに、操縦室で戦闘を見ていたジェローム達は呆然とする。

 

『傷口が開いたらどうするんですか?!』

 

「そんなの自分で治せるわよ!一々煩いわね、もう!!」

 

 尚も言い争いを続けるマリは、ガウォーク形態に変形させ、装備されたマイクロミサイルを標的にした複数の敵機へ向けて発射した。盗賊達は発射されたミサイルを回避する術もなく次々と命中し、数を続々と減らしていく。ミサイルを装備してないザシャのVF-25Aは、性能差で盗賊団の旧式の機動兵器を圧倒し、面白いようにやられる。

 

「私はそんなに柔じゃないの!こんな傷、飽きるくらい受けてきたんだから!」

 

 ミサイルランチャーを撃とうとしたジープ群をガンポッドで一掃しながら、ザシャに告げる。

 

『それが駄目なんですよ!そう言って、死んだらどうするんですか!?』

 

 盾から取り出したコンバットナイフをMSのコクピットへ突き刺した後、ガンポッドを撃ち続けているマリを叱る。尚も言い争いが続き、敵機は続々と平地に倒れていく。

 仕舞いには六十機以上も居た盗賊団は三十分で全滅。平地に残骸が黒煙を上げる。その頃になると、言い争いはもう終わっていた。バトロイド形態に変形していた二機のバルキリーは、互いに向き合う。

 

『はぁ、はぁ・・・傷口は開いていませんか?少佐』

 

「開いてないわよ。貴方の治療が効いたみたい」

 

『光栄の極みです。少佐』

 

 ザシャからの問いに、包帯を巻いた自分の腹部に触れ、血が出ていないことを確認して返答すると、モニター越しからVF-25Aに乗る彼女は敬礼する。そんな時に、レーダーに新たな機影が映り、ジェロームが通信で知らせる。

 

『おっ、おい!嬢ちゃん達!治安維持局の外人部隊だ、撃つんじゃないぞ!』

 

 ジェロームの知らせに、マリ機とザシャ機はガンポッドの銃口を下げる。東より現れた大隊規模の外人部隊は、盗賊団とは違って動きも統制も取れ、装備も優れていた。トレーラーの操縦室にいるジェロームは、リュシーと共に金塊の用意を始める。

 

「あいつ等も盗賊とは変わらんゴロツキの集団だからな。急いで駄賃を用意せんと」

 

「えぇ。本当に地方の治安局員は大半が腐ってるから」

 

 せっせっと用意しながらこの惑星の地方における現状を口にするポートリエ夫妻達。金塊が詰まったケースの用意が出来ると、マリに取ってくるよう指示を出す。

 

「お駄賃の用意が出来た。取りに来てくれ」

 

『お駄賃?何のことよ?』

 

「良いから早く取ってこい!そうせにゃ、また戦う羽目に・・・どわっ!?」

 

 言い終える前に、外人部隊の戦車部隊が砲撃してくる。他にも戦闘ヘリや戦闘機、コマンドウルフにハイザック、重武装スコープドック、可変系MSアシュマーが警告も無しに、マリ達へ向けて攻撃してきた。

 

「な、なんで攻撃してくるの!?」

 

「お前等なんかやった!?」

 

 外人部隊からの攻撃を受けつつあるジェロームは、直ぐにマリとザシャに問う。彼女等は正直に彼の問いに答えた。

 

「基地をライガー・ゼロで滅茶苦茶にしたけど?」

 

「この惑星のスクランブル機や迎撃機を数十機以上撃墜しました」

 

「お前等、なんちゅうことしてんだぁぁぁぁ!?」

 

 返ってきた答えに、ジェロームは絶叫した。更に彼の恐怖を煽り立てる最悪な事態が起きる。

 ヒルドルブと呼ばれる戦車をMSと融合したような機体が、30サンチ砲から焼夷弾頭を長距離で戦場から逃げようとする生身の盗賊団へ向けて放った。忽ち盗賊団の残党は高熱の炎に包まれ、悶え苦しむ叫び声を上げて死んでいく。これを見たジェロームは絶句し、即刻マリとザシャに指示を出す。

 

「お、おい!先にあの戦車とMSみたいなのを潰せッ!早くしろぉ!!焼夷弾を撃ち込まれたら一環の終わりだぁ!!」

 

 無論、彼女等は向かえる状況ではなかった。

 9連装ロケットランチャーやミサイルポッド、ハンディ・ソリッドシューター、脇に付いたガトリング砲を装備したカスタムタイプスコープドックに、ザクキャノンやコマンドウルフLCのロングライフルによる砲撃、ザクⅠスナイパータイプによる狙撃、ハイザック、デュエルダガー、ジェノアス、サーベルタイガー、数々の連邦製輸出用ハーディガン、その他諸々の通常兵器による攻撃で釘付けにされていた。

 

「こんな状態で来れる訳ないでしょうが!」

 

 ここが古戦場だったのか、巨大な穴を塹壕代わりにし、敵の攻撃から身を守りながら向かえないと返す。撃ち返しても、敵はプロの傭兵であり、容易に避けて攻撃を加えてくる。

 

「戦闘慣れしてる・・・!このままじゃ・・・!」

 

 包囲陣形を取りながら十字砲火を加え、前進してくる外人部隊に、ザシャは勝機がないと悟る。その間に、ヒルドルブがトレーラーに主砲である30サンチ砲を向ける。

 

「だ、旦那!戦車MSがこっちに大砲を!!」

 

「そ、そんな・・・!」

 

「こんな所で終わりかよぉ~!?あの嬢ちゃん達が悪いってのにぃ!!」

 

 リバスからの知らせに、死を覚悟するジェローム達であったが、空より新たな戦士が現れた。

 上空からマリと同じファイター形態のVF-1だが、髑髏のような塗装のレーザー機銃が二門のJ型だ。

 即刻目の前に見える戦闘機や戦闘ヘリを両翼に付いたミサイルを使わず、ガンポッドで撃ち落とし、ヒルドルブへガンポッドを掃射しながら向かう。

 

「く、クソ!何(もん)んだ!?」

 

 射撃を中止し、両腕を出して護身用火器のマシンガンで追い払おうとするが、ザシャには負けないほどの腕前で回避し、距離を詰めてくる。対策として配置されていた護衛機からの弾幕を回避しながら、VF-1Jはガウォーク形態へと変形、二発のミサイルを同時発射で二機の護衛機を撃墜する。

 固定脚も付けず、バトロイド形態になったVF-1Jに対し、ヒルドルブのパイロットは無理にでも砲撃しようとしたが、一機に距離を詰められ、コクピットにガンポッドを数十発撃ち込まれた。搭乗者が死んだヒルドルブは機能を停止し、被弾部分から黒煙が上がり、トレーラーの脅威が排除される。

 

「な、何か知らんが、助かった・・・」

 

 奇跡のような出来事で、命拾いしたジェロームは、ホッと一息つく。ヒルドルブを排除した乱入者が乗り込むVF-1Jは、ファイター形態に変形して直ぐさまマリとザシャの元へと向かった。

 二人が乗るバルキリーに砲撃する敵機に照準すると、両翼に付いたマイクロミサイルポッドを掃射した。先程の盗賊達とは違い、何機かに避けられたが、砲撃が止んだことに変わりなく、二人に反撃の隙を与えることが出来た。

 

「攻撃が止んだ・・・?」

 

「今です!」

 

 直ぐに二人は塹壕からブースターを噴かせて飛び出し、互いの搭乗機の背中を合わせ、ガンポッドを構え、撃ちながら回転した。周囲に銃口から発射された弾丸が撒き散らされ、地面に足を付ける敵機は回避する間もなく次々と被弾、大破していく。戦車や装甲車、戦闘ヘリも巻き込まれ、外人部隊は突然の乱入者で、大きく足並みを崩される。

 敵がようやく反撃してきた所で、回転攻撃を解き、飛んでくるミサイルを頭部のレーザー機銃で迎撃し、攻撃を避けながら手近な敵を撃破する。

 マリはスコープドックカスタムを三機、ザシャはサーベルタイガー、レッドホーン、ステルスバイパー、ハイザック、デュエルダガーを撃墜した。

 制空権を抑えていたアッシマーやギャンプラン改、レドラ、シンカー等の航空メカに対しては、VF-1Jが攻撃を加え、次々と撃ち落としていた。地上と上空の数十機も撃墜され、被害が戦闘不能レベルまでに近付いた為か、外人部隊のジム装甲強化型が閃光弾を放ち、彼女等の目を眩ませた。

 動きが一時的に鈍くなった隙に、手に持った火器を撃ちながら撤退を始める。回復したマリは、残ったミサイルを全弾撤退する外人部隊へ放ち、何機かを撃墜したが、取り逃がしてしまう。

 

「後、もう少しだったのに・・・」

 

 全ての敵を排除できず、悔しがっていると、負傷した腹部から血が噴き出し、痛みが彼女を襲う。

 

「ヤバイ・・・ちょっと、無理しすぎた・・・」

 

 痛みに耐えながら傷口を抑える。機体も無理させすぎたのか、間接部に電流が走っていた。先程のような戦闘を行えば、今乗っているVF-1Aは戦闘中に分解を起こすだろう。

 バトロイド形態に変形し、肘を地面に付けると、応急処置を始めた。処置を施している最中、ザシャの通信が入り、開いた傷口のことがばれてしまった。

 

『あぁ!やっぱり・・・急いでトレーラーに戻って治療しましょう!』

 

 直ぐにザシャのVF-25Aが近付いてきて、自機の肩を担ぐ。先程、自分達を助けたVF-1Jがガウォーク形態で地面に着地し、コクピットのキャノピーを開けた。即座に警戒態勢を取る二機だが、機体に乗るザシャに近い身長なパイロットは戦う意思を見せず、操縦席から立ち上がり、ヘルメットを脱いだ。

 VF-1Jバルキリーのパイロットの正体は、黒髪の日本人の少年だった。




明らかにポルナレフみたいなのが出た・・・それとザシャちゃん、再び大暴れ。
そして最後の日本人の少年パイロット・・・輝じゃないよ!

VF-1Aにマリを載せてみたけど・・・まぁ、一般機なので、マリの反射速度についてこられないから壊れる・・・
J型やS型に乗せないとね。
作画崩壊で生まれた海外設定のR型を出そうかと思ったけど、止めました(汗)。

今回も中断メッセージは無し。

次回は柿崎が出るかもよ?


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三人娘を捜して

今回は新キャラとゼントラーディやナメック星人みたいな男だけの亜人が登場。
が、戦闘シーン無し。そして中断メッセージも無し・・・

まぁ、中断メッセージはオマケ程度だし・・・
それと、なんだかアクセス数が増えてるぞぉ?

PS.柿崎は次回で。


「子供・・・?」

 

 VF-1Jバルキリーに乗った少年の姿を見たザシャは、そう呟く。少年はヘルメットを被って座席へ座ると、機体に付いている拡声器で伝える。

 

『今の内に周囲にある敵機の残骸を回収しておいた方が良い』

 

「どうして?」

 

『生きていく上で必要なことだから』

 

 通信を繋げたザシャは少年に問い、相手はバトロイド形態に変形し、敵機の残骸から使えるパーツを回収し始める。マリのVF-1Aを担いでいるザシャのVF-25Aは、残骸を回収する少年のバルキリーを放っておき、担ぎながらトレーラーへと戻った。その戻るべきトレーラーはここまで移動して来て、少年と同じように自分達が破壊した敵機の残骸から使えるパーツだけの回収を始めた。

 

「どうしてこんな事を・・・?」

 

 クレーンや小型の人型作業機を使って、残骸を漁る彼等の姿を見て、疑問に思う。そんな軍学校育ちのザシャに疑問に、負傷の身であるマリは答える。

 

「まだ売れるパーツを探してるのよ」

 

「売れるパーツを?違法ですよ。許して良いですか?」

 

「多分無理ね、それとこの星の治安は最悪だわ。治安が良かったらあんなド素人の集団が出て来るわけないし。きっと命が安いのよ。ここは」

 

「そ、そんな・・・」

 

 軍に属するザシャは自分が降り立った星が命の安い無法地帯と知り、衝撃を受けた。トレーラーに辿り着いた二機は、格納庫専用の貨車に入り込み、負傷したマリを機体から降ろすと、先程の衝撃をなんとか堪え、ザシャは彼女を治療するために医務室へと運んだ。

 

 

 

 その頃、統合連邦軍方面軍総司令部では、惑星アヌビスの現地国家元首からの苦情が舞い込んでいた。

 理由は組織による無差別攻撃で惑星に墜落した連邦軍・ワルキューレ双方の宇宙艦艇の被害についてだが、モニターに映る惑星政府主席の告げていることは、首都周辺と主要都市、工業地帯、穀倉地帯の被害ばかりであり、地方の被害など全く気にしていない。元首のこの口振りからして、現地政府は地方をゴミ同然と思っているようだ。

 

『兎に角、あんた連邦が衛星軌道上で艦隊戦なんかするからこうなるんだ!今度衛星軌道上で戦闘でもしてみろ、そうなったら二度とこのアヌビスには入れないからな!分かったか?!』

 

「ですから、あれは優位的、戦術的撤退でありましてな・・・」

 

『喧しいっ!墜落した敵の軍艦に乗っていた生き残りが、首都や主要都市で暴れ回っているんだ!早くなんとかしろ!』

 

「駐屯軍による掃討は進んでいますが、こちらにも救出すべき我が軍の将兵が居まして・・・」

 

『もう、あんた等軍人とは話にもならん!直接統合連邦政府に文句を叩き付ける!以上だ!!』

 

 元首は司令官の言い訳も聞かず、通信を一方的に切る。司令官は懐から葉巻と高価なライターを取り出し、葉巻を口に咥え、先端に火を付けて一服した。

 

「これだから、戦場には行ったこともないボンボンな政治屋は大嫌いなんだ」

 

 相手が聞こえないことを良いことに、文句を言った司令官は専用の椅子に座り、通信機を使って指令を出す。

 

「地上軍の余剰戦力十個師団を増援として惑星アヌビスに派遣しろ。空いた分は本国から増援を仰げ」

 

『はっ、直ちに派遣します!』

 

 部下からの復唱を聞き終えると、司令官は葉巻の灰を受け皿へ落とした。

 

 

 

 して、ワルキューレの遠征艦隊の方はと言うと、惑星アヌビスから離れ、工作艦、生産と兵站を備えた超大型艦がある本隊と合流し、先程の戦闘で受けた傷を癒していた。

 

「救出作戦はまだなのですか?!」

 

 ロデリオン分艦隊の旗艦の会議室にて、エルミーヌがピーチに救出作戦の実行を申し出ていた。取り巻きの二人も一緒で、エルミーヌと共にピーチに申している。

 

「貴方の分艦隊のトップエースが敵地に居るんですよ!」

 

「助けに行かないんですか!」

 

「喧しい!助けたいのは山々だが、連邦軍が鉄壁の防衛ラインを引いて、突破が難しい。それに、惑星アヌビスの攻略は元よりこの遠征には含まれてはいない」

 

 そう三人に出来ないと答えると、諦めるように付け足す。

 

「敵地に取り残された戦友を助けたいお前達には気の毒だが、諦めろ。少数を助ける為に、第1分隊を危険に晒す訳にはいかない。仮に脱出に成功したとしても、あの数だ。助かる見込みはないだろう。軍人らしい判断をしろ、中尉に軍曹」

 

 エルミーヌ達に告げたピーチは、案内役の士官を呼び出し、彼女等を部屋から退室させた。廊下を歩いている最中、ロアとエロディは大人しく引き下がったエルミーヌに粘るよう言い寄ってくる。

 

「どうして呆気なく引き下がったんですか!これではテーゼナー中尉が死んでしまいます!」

 

「私も同感です!もう少し粘れば、必ずや・・・」

 

「分かっていますわ!しかし、あれだけの数、今の戦力では返り討ち・・・」

 

 そんな二人に苛立ちを吐き出すように、窓から見える惑星アヌビスの前に立ち塞がる連邦宇宙軍の機動要塞と大艦隊を指差しながら告げた。エルミーヌの最後が弱々しくなり、表情を暗くして俯いてしまう。

 

「ザシャさん、貴女は私の好敵手。無事に帰ってくださるのよね?」

 

「え、エルミーヌ様が・・・」

 

「泣いていらっしゃる・・・」

 

 顔を上げ、アヌビスを見ながらエルミーヌは瞳から涙を流し、伝わらないであろうザシャに語り掛けるその様子を、ロアとエロディは心配そうにしていた。

 マリの母艦であったバリキュリャの展望室でも、彼女の安否を心配する者達が、八人ほど手の届かないアヌビスを眺めている。

 

「陛下・・・」

 

 その中の一人であるノエルが心配そうに呟く。しかし、彼女は心配しているのが自分だけだと思っており、他の者達はただ休憩しているだけだと思っていた。心配してアヌビスを見えているのはノエルだけでなく、彼女達も同じ気持ちだった。

 

「貴方達は?」

 

「あっ、少佐殿!」

 

 徐に訪ねてみると、乗員達は上官であるノエルを見るなり直ぐに敬礼し、即座に返答する。

 

「私達は、その・・・」

 

「マリ少佐に初めてを頂いた者達です!」

 

「はっ、はぁ・・・!?」

 

 この初心なまだ成人にもなしてない少女乗員の厚い答えに、ノエルは絶句した。

 

「(はぁ、あの女医ならともかくこんな娘達まで。しかも名前で呼んでるし・・・)」

 

 手摺りに体重を掛け、頭を抱える。マリに”初めて”を奪われた彼女達の目は真剣その物であり、いつ彼女の救出作戦が上がるのかを問う。

 

「あの、マリ少佐の救出作戦って、いつ始まるんですか?」

 

「ブリッジクルーや情報将校に聞いても知らないの一言なんです!」

 

「お願いです!教えてください!」

 

「あ、あぁ・・・はぁ・・・」

 

 言い寄ってくる乙女から女に変わった十六~二十の乗員達に対し、ノエルは返答に困る。揚陸艦バルキュリャで、一番美人の乗員の統計でも取れば、上位にランクインするほどの容姿を持つ彼女等を無造作に選び、遊び半分で処女を奪ったマリが心底憎いとノエルは思った。

 

「(はぁ、こんなにあの人が憎いと思ったのは、今は無き百合帝国の崩壊以降かしら?)」

 

 心の底で、昔のことを思い出しながら、ノエルは言い寄ってくる彼女等に視線を向けず、網を張る連邦軍が待ち受けるアヌビスの方へと視線を向けた。その様子を、胸元を大胆に開け、白衣を羽織ったあの女医もこの展望室へ入り、ノエルと同じ方向に視線を向けていた。

 

 

 

 残骸の回収を終えたマリ達は、一番近い距離にあった集落へと訪れた。そこで待ち受けていたのは、この惑星に墜落した連邦宇宙軍と宇宙海軍の艦艇に乗っていた大勢の負傷兵達であった。

 

「おぉ、昨日の戦闘で落っこちてきた軍艦の乗組員達か?見事に怪我人ばっかりだな?」

 

 牽引車の操縦席から見える範囲で、包帯を巻かれて担架に横たわる宇宙軍と海軍の負傷兵を見て、ジェロームは口にする。医務室の窓から見ていたザシャは、直ぐに腰のガンホルスターに差し込んであるHK USP自動拳銃の安全装置を外し、いつでも撃てるようにしていた。だが、先程の助けに来たVF-1Jのパイロットである少年に止められる。

 

「銃は必要ないよ、集落に居るのは大体負傷した将兵ばっかりだし。軍服を着たまま外に出なければ問題はない」

 

 少年の一言に、ザシャは拳銃の安全装置を掛け直す。次にジェロームが医務室に入ってきて、治療を終えてベッドに横たわっているマリとザシャに注意してくる。

 

「あんた等、ヴァルハラ軍のパイロットなんだろ?検問はやってねぇみたいだが、まぁ、敵地の中で軍服着ていくアホじゃねぇしな。それに、あのバルキリーはちゃんと隠しておいたから。外に出る時は気を付けて行けよ」

 

 言いたいことを言い終えたジェロームは、仲間達と共にトレーラーを降りた。ザシャも集落の様子が気になったのか、マリに一言告げてから少年と共に出て行く。

 

「ちゃんと寝ててくださいね。少佐」

 

 そう不機嫌な表情を浮かべるマリに告げると、部屋を後にした。トレーラーから降りるなり、ガウォーク形態になったVF-1Jが外に出ているのが目に入った。あの少年が乗っている物だろうと思い、集落の方へ目を向けると、墜落した宇宙艦艇から運び出された連邦軍の負傷兵で溢れかえっていた。

 

「うぅ、いてぇよ~!」

 

「目が、目が見えない!ここは何処なんだ!?」

 

「あ、赤いガンダムだ、赤いガンダムが!うぅ・・・!」

 

「母さん・・・母さん・・・!」

 

 担架で運ばれてくる負傷兵達が呻き声を上げる。治療を終えた将兵達は、テントの中へと運び込まれている。

 

「はぁ、まるで野戦病院だなぁ、こりゃあ。売れるかな?集めた奴」

 

「えぇ。怪我した兵隊さんが多くて、それどころじゃなさそう」

 

 同じくその光景を見ていたジェロームは、後頭部を掻きながらトレーラーに詰んである先程の残骸を見て口にすると、リュシーが負傷兵の治療をする集落の人々を見て心配そうに言う。そんな時に、年配の男が頭に包帯を巻いた連邦軍の将校と共に少年のVF-1Jに近付いた。

 

(ひかる)ぅ~!戻ってきたでか!」

 

 年配の男はVF-1Jに乗り込む少年に向け、大きな声で告げる。それに対し、晃は機体から降りて年配の男の前に立つ。

 

「どうしたの?」

 

「この将校さんがな、話があるって言うかからよ」

 

「君か、あの古いバルキリーを飛ばしたのは?助けに行くのは良いが、空を飛ばないでくれんか。MSはともかくバルキリーともなれば、兵達が怯えてしまう」

 

「分かりました。バトロイドで戻ります」

 

「そうしてくれると助かる。それでは」

 

 言いたいことを告げた将校は、奥地の方へと去っていった。話が終わったところで、ジェロームが年配の男に近付いて訪ねる。

 

「おっさんよ。ちょいと訪ねるが、この集落はイクサ人の集落って聞いて、寄ったんだが、居るのは人間ばっかりじゃねぇか。イクサ人は何処行っちまったんだ?」

 

「んあー、イクサ人の皆さんってか。連邦軍の落っこちてきた軍艦から兵隊さん達助けに行ったべ。長老さんか残ってるわい。カンタ、長老さを呼んでくるだ」

 

「はーい!」

 

 年配の男は近くにいた丸刈りの少年に長老を呼んでくるよう伝えた。物の数分後、少年が杖をつく老人にしてはえらく筋肉質な白い髭を蓄えた2mはあろう長身の老人を連れて現れた。

 

「お、大きい・・・!」

 

 長老らしき老人の外見を見て、ザシャは驚きの声を上げる。そんな彼女を見ていたリュシーは、あの老人がイクサ人であることを教える。

 

「あの大きいおじいさんがイクサ人よ。以下にも純血って感じね」

 

「あ、あれが純血の・・・」

 

 女だけの亜人のメガミ人とは逆の男だけの亜人であるイクサ人は、ワルキューレでも他の亜人と共に見られるが、ザシャはイクサ人を殆ど見たことがない。

 驚きの声を上げ、ジェロームが長身の長老と商談を進める姿を眺めていた。

 自分より20㎝は高いジェロームが、210㎝はある老人では差は圧倒的である。何もすることがなかった為、リュシーが「辺りを見回っても良い」と告げた為、ザシャはお言葉通り集落を見回る事にした。それも含め、三人の部下の詳細について問うことにする。

 

「(連邦の人に聞くのは不味いかも)」

 

 手伝っている無傷や軽傷な敵軍将兵に流石に聞くのは不味いのか、選択肢に連邦兵を除外し、集落の者達に定める。まず、先に視界に入った包帯を抱えた女性に問うことにした。

 

「あの・・・」

 

「なんのようだ?」

 

「この集落の周辺に、見たこともないバルキリーとか墜落してましたか?」

 

「バルキリーならイクサ人が持っとるが、そんな話は聞いてねぇな。今忙しいから他所さ当たってくんろ」

 

 女性は包帯を抱えながら、呻き声がする方へと去っていった。次に、使用済みの包帯の山が入った箱を肩に抱えたイクサ人に問う。

 

「済みません・・・」

 

「なんだ?」

 

「わっ・・・!」

 

 自分よりは40㎝は高いイクサ人を見て、驚いたザシャは後退ってしまうが、威圧感に負けずに部下のことを聞く。

 

「その、この集落の外に見たこともないバルキリーとか墜落していましたか?」

 

「俺は守衛担当でここ暫く集落の外へ出たことがないから分からんな。孤児院のチャンドラが知ってるんじゃないのか?」

 

「そこに当たってみます。ありがとうございました・・・」

 

 イクサ人の男が立ち去っていくと、ザシャは胸を撫で下ろす。どうやら、ただならぬ威圧感に圧され、緊張してしまったようだ。

 孤児院へと向かっていくバトロイド形態の晃のVF-1Jが見えた為、後を追った。

後を追っていく内に、集落の奥地へと入っていく。ここにも連邦軍の負傷兵が運び込まれていたが、出入り口ほど煩くなく、呻き声も聞こえない。気にせずに追おうとすると、通りで連邦兵に声を掛けられた。

 

「おい、嬢ちゃんや。ちょいと面貸せ」

 

 無視していこうとしたが、叫ぼうとする素振りを見せた為、大人しくザシャはその連邦兵に近付く。

 

「なんですか?」

 

「あんた、ヴァルハラ軍のパイロットだろ?」

 

 見抜かれた事に驚き、腰にある拳銃を抜こうとしたが、連邦兵が口元に人差し指を賭け、静かにと言うジェスチャーを送る。

 

「安心しな、ゲロたりはしねぇよ。それより、仲間を捜してんだろ?早くしたほうが良いぜ、この星の治安は最悪でな、人身売買組織にでも捕まったら大変だ」

 

 この言葉に、ザシャは顔を真っ青にした。直ぐに向かおうとしたが、宥められる。

 

「落ち着け、まだそうと決まった訳じゃない。仮本部の将校共から盗み聞きした話じゃ、ここから東30㎞でヴァルハラの敗残兵と駐屯軍と現地軍がやり合ってる。仲間も合流してんじゃないか?礼はいい、精々頑張れよ」

 

 今の件とは関係ないが、有益な情報をくれた連邦兵から離れ、ザシャは確かな情報を得るべく、孤児院の方へ足を運んだ。孤児院へと辿り着けば、先程のVF-1Jは倉庫に収められ、庭にはまだ幼い子供達が遊んでいる。その子供達を避け、孤児院の出入り口のドアを開けて中に入った。

 

「いらっしゃい。来たんだ」

 

「あっ、晃君・・・」

 

 受付にいたのは晃であり、ザシャは少し驚きの声を上げた。孤児院には負傷した連邦兵は運び込まれていないため、早速隠さずに部下達のことを問う。

 

「晃君、私と同じバルキリーが三機くらい墜落した場所とか知ってる?」

 

「貴女が乗ってたあのバルキリーと同じ型?それなら父さんと一緒に町に出掛けたとき、三機くらいが乗り捨てられて、下手だけどデータバンクが復元できないほど壊されたバルキリーがあった。多分、パイロットは捕まっているみたいだけど」

 

 情報を聞いたザシャは、急いで孤児院を出ようとしたが、察した少年に手を掴まれる。

 

「離して、私は行かないと・・・!」

 

「止めなよ。ここであのバルキリーを動かせば、確実にこの集落は戦場になる。もし無理にでも行こうとするなら、集落を守るために僕は貴女を殺さなくてはいけない」

 

 いつの間にか抜いた拳銃を額へ向けられ、ザシャは抵抗を止めて立ち止まる。そんな晃に、身長の差がありすぎる男が頭に拳骨を食らわせて銃口を下げさせる。

 

「晃、こんな所で拳銃を撃つんじゃない。済みません、うちの晃が」

 

「い、いえ・・・こちらこそ、済みません・・・」

 

「そんなに謝る必要はありません。申し遅れましたが、この孤児院の園長をしているチャンドラと言う者です」

 

 先程のイクサ人とは身長が30㎝は高い別格の強面の巨漢に、ザシャは恐る恐る後退り、謝ってしまった。

 

「ごめんなさい。でも、あのバルキリーで・・・」

 

「言い訳は良い。兎も角だ、外人部隊に手を出したのが悪かったのか、先程通信施設でお前を引き渡せと言ってきた。後は分かるな?」

 

「あぁ、分かってる。みんなによろしくって伝えて」

 

 チャンドラと思われるこの孤児院の園長に告げられ、答える晃の表情が暗くなる。余り宜しくない状況であるため、ザシャは勇気を出して問う。

 

「あの、失礼なんですが、それってどういう・・・」

 

「出て行って貰うと言うことですな。酷いようだが、全てはこの集落から火の粉を払うためです」

 

「そ、そんな・・・」

 

 チャンドラの答えに、ザシャはショックを受けた。

 

「致し方ないことです。ここには孤児(みなしご)やここに暮らす難民の為です。ご了承下さい」

 

 付け加えたチャンドラは受付から去った。お茶を出されたので、暫く席に座って休憩していると、荷物を持った晃とチャンドラが出て来た。

 

「おや、丁度良いところに。済みません、迷惑なのは承知で頼みますが、晃とあのバルキリーを預かっては貰えないでしょうか?」

 

「えっ?ま、まぁ・・・ポートリエさん達に聞かないと・・・」

 

 謝りながら、チャンドラは晃を搭乗機のVF-1Jと共に預かっては貰えないかと聞いてくる。直ぐにザシャは返答して、集落の出入り口前に居るジェローム一行の元へ、チャンドラと晃を案内した。

 

「なぁにぃ、その餓鬼を連れて行ってくれだぁ?園長先生の頼みなら兎も角、なんで餓鬼も連れて行かにゃ、ならんのかい?」

 

「実はですね、彼は・・・」

 

 ジェロームが理由を聞いてきたので、チャンドラがその理由を話すと、大きな声を上げた。

 

「外人部隊に目を付けられただとぉ!?なんで俺に押し付けるんだ?!チャンドラの旦那!」

 

「これもこの集落の安全のためです。何なりと晃をお使い下さい」

 

 怒りをぶちまけるジェロームだが、あの強面でかなりの修羅場を潜り抜けたチャンドラが気持ちを込めて頭を下げてきた為か、彼はやるせない気持ちになり、あっさりと了承してしまった。

 

「う、うぅ・・・わ、分かったよ!餓鬼の一人や二人くらい連れてってやらぁ!」

 

「ありがとうございます!お礼と言ってはなんですが、うちの倉庫にある物資をある程度お渡しします」

 

「あ、あぁ、どうもなぁ・・・」

 

「それでは、倉庫にある物資を持ってきますので、暫くお待ちを」

 

 礼を言うチャンドラに負けたジェロームは、巨漢な男が立ち去ると、後頭部を両手で押さえ、がに股になってブツブツと呟き始めた。そんな旦那を放っておき、リュシーは新しく入った仲間である晃をトレーラー内へと案内する。同じく戻ってきたザシャはマリの様子を見るべく、医務室へと向かった。

 

「あれ、少佐は何処に・・・?」

 

 ベッドの上にマリの姿がなかったので、ザシャは捜しに出掛けた。「また何かをやらかしているのではないだろうか」と思い、外に出て、いつの間にか立ち直ったジェロームに訪ねる。

 

「あっ、パツキンの女がどうしたって?そこらで丸太を顔面に叩き付けられたような連邦の女軍人と一緒に向こうへ行ったぞ。そっち系の女だったんだな、ヤってる最中に傷口でも開いたら・・・ありゃ?」

 

 ジェロームが言い終える前に、ザシャは彼が指差した方向へと向かった。

 案の定、人目に付かぬ場所で女性将校を壁に押し付け、自分の舌を女将校の舌と絡め合わせていた。直ぐにマリの肩を無言で掴み、敵軍の女将校から離すと、手を掴んで無理矢理彼女を連れ帰る。

 

「ちょっと!どういうつもりなの!?誘っておいて!」

 

 女将校が叫んでいるが、ザシャは無視してトレーラーへと向かう。

 

「なにすんのよ!」

 

「もう出発の時間です。少佐」

 

 マリが立ち止まってザシャの手を振り払うが、彼女がまた手を掴んで連れて帰ろうとする。

 

「もうちょっとだけでも」

 

「駄目です!ここは敵地なんです!何処から敵が来るか分からないんですよ!ちゃんとしてくださいよ!」

 

「分かったわよ・・・それじゃ、気が付いた敵が気付く前に行きましょう」

 

「ひゃっ!?や、やっちゃった・・・どうしよう・・・?」

 

「ほら、早く行く」

 

 自分より階級も身長も低いザシャに叱られたマリは、彼女をからかってから逆に引っ張り、トレーラーへと戻った。戻ってみれば、格納庫にMSのジムが同サイズの箱を入れ込んでいるのが見える。詰め込んでいるのを見守っているジェロームに、マリは何を詰んでいるのかを問う。

 

「何詰んでるの?」

 

「なにって、あのイクサ人の園長先生が物資を分け与えて下さってるのよ。助けに来た餓鬼付きで」

 

「へぇー、そう」

 

 関心がなかったのか、マリはザシャと共に医務室へと向かった。夕暮れになる頃には、物資の詰め込みも終わり、もうすぐ出発の時間となると、孤児院の子供達が晃を見送ろうと集まってくる。

 

「晃の兄ちゃん、さようなら~!」

 

『さようならー!!』

 

 年長者の少女が告げると、子供達は一斉に晃へ別れの言葉を告げる。それに対し、晃は搭乗しているバトロイド形態のVF-1Jで手を振り、子供達に答える。集落の者達も晃との別れを惜しんでか、集まってきて彼に手を振った。

 さらにザシャに情報を流したあの連邦兵まで居る。

 

「んじゃ、行くぜぇ!」

 

 間もなくトレーラーが発進すると、VF-1ファミリーの高級機である頭部レーザー機銃が四門でカメラがバイザー式のS型が飛び乗ってきた。トレーラーにしがみついてきた為、強い震動が走り、ジェロームがブレーキを踏み、トレーラーを急停止させる。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 驚いてトレーラーの方を見て、飛び乗ってきたVF-1Sが晃のVF-1Jと対峙しているのが見える。VF-1Jより高性能なVF-1Sから出て来たパイロットは、少年と差ほど年は変わらない赤髪の少女であった。

 

「どうして君が・・・?」

 

「自分だけ抜け出して、私だけ置いてきぼり?そんなの、許さないわよ!」

 

 少女はそう晃に告げると、機体から降りた。

 

「園長先生、今頃怒ってるよ?」

 

「良いもん。私、もう17歳だし。それにこのバルキリーは余ってた奴だし」

 

 晃がチャンドラの事を告げると、少女は言い返して、荷物を見せびらかす。直ぐにジェロームが追い出そうとしたが、負傷兵を回収に来た連邦軍の地上戦闘艦艇や軍用輸送トレーラーが来た為、検問を受ける前に急いで離れる必要があった。

 仕方なく、勝手に乗り込んできた少女を仲間に引き入れることにして、連邦軍から見えない場所で収納する羽目になる。収納した格納庫で、聞けなかったことを聞いた。

 その少女の名はレイ、晃と同じチャンドラの孤児院で育った家族同然の少女だ。何故二人がバルキリーを動かせるのかは、孤児院を建てる前に傭兵として戦場に出ていたチャンドラが教え込んだそうだ。

 

「それじゃ、これからもよろしくね!」

 

 今までのことを離したところで、自分の機体の前でレイは愛らしく全員に挨拶する。この場にマリとザシャの姿がないと気付いたレイは、二人は何処にいるのかを問う。

 

「それで、眼帯付けたおっぱいの大きい人とヒヨコみたいな子は何処なの?」

 

「二人なら医務室にいるよ」

 

「へぇ、それじゃあ、挨拶しに行きますか!」

 

 晃からの答えで、彼女は早速医務室へと向かった。物の数分で辿り着くと、ベッドに横になっているマリとザシャに挨拶した。

 

「初めまして、レイよ。これからよろしくね!」

 

「え、こちらこそ初めまして・・・」

 

「こちらこそ初めまして。マリよ」

 

 突然入ってきた少女に、ザシャは少し戸惑うが、マリは笑みを浮かべて返した。レイはザシャに近付き、身長と外見が近い所為か、同い年と思って接してくる。

 

「あら、気が合いそうね。よろしく」

 

「あの、私・・・21歳なんだけど・・・」

 

「嘘っ!?全然見えないんだけど!」

 

 ザシャが年上だと聞いたレイは驚きの声を上げた。当然ながら、外見の所為で良く十代後半の少女と間違われてしまう事が多い。それから暫くして、トレーラーは目的地である町へと進路を定め、走行を再開した。

 数㎞先を移動すると、晃が言っていた墜落現場へと辿り着いた。

 

「ここかい?ヒヨコちゃんの部下の機体が墜落してるってのは」

 

「はい」

 

「早くしてくれよ。いつ夜盗が襲ってくるか分からねぇ」

 

 ジェロームが問うと、卵色の作業服な格好のザシャは即答し、地に足を付けた。晃が言ったとおり、三機のVF-25Aメサイアが砂地に横たわり、キャノピーが開いたままで、機体の横には壊されたデータバンクが残されている。ちゃんとチェリー、千鶴、ペトラの物かどうかを確かめるため、自分の小隊のトレードマークであるヒヨコのノーズアートを確認する。

 

「なにやってんの?ザシャ姉ちゃん」

 

「自分の部下の機体かどうかを調べているんだ」

 

「へぇ、あの人隊長さんで軍人だったんだね・・・」

 

 晃とレイもついてきたのか、それぞれのバルキリーに乗って盗賊や夜盗の襲撃に備えている。そしてザシャの方は、墜落した三機の機首にヒヨコのノーズアートが描かれている事が確認され、これが部下達の物と判断された。

 

「何処に行ったんだろ?」

 

 足跡を直ぐに捜して見付けると、地図を開いて足跡が続いている方向を確かめる。向かった先は、偶然にも自分達が目指しているガラヤの町だった。

 

「見付けた・・・」

 

 地図を仕舞ったザシャは、町がある方向へ視線を向けた。首に掛けてある双眼鏡を持ち、覗いてみれば、輸送車や輸送機の出入りが激しいと分かる。そこに居ることを確信した彼女は双眼鏡を下ろし、町に向かうためにトレーラーへと戻る。

 ザシャが背中を向ければ、待機していた二機のVF-1JとSは墜落した三機のVF-25の回収に向かった。




今回は主人公であるマリマリの出番が少ないです。

次回からはちゃんと主人公しますよ?

VF-1AとJに続き、Sも登場。
塗装はJとSは輝専用カラーです。ただしAは一般機。

イクサ人は男しか居ない亜人で、男同士で子供が作れるという腐女子御用達な設定・・・
でも、むさ苦しい強面ばっかで、イケメンは極僅か・・・美人ばっかりのメガミ人とは大きな違い。
しかし、性欲は薄い。よって殆どの人口をクローンで補っている。ワルキューレに居るイクサ人以外は。
そんな設定です。


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闘技場

※微エロ注意!


 日が沈み、辺りが暗くなった時間帯にマリとザシャ、ポートリエ一行は目的地であるガラヤの町に着いた。町は高い防御壁に囲まれ、壁の上には二門の砲身を町の外へ向けているトーチカが幾つかある。まるで要塞のようで物騒だが、この星で機動兵器を所持する盗賊団が出て来たことから、これくらいが丁度良いと思われる。

 出入り口である門を潜ると、人々で溢れる明るいネオン街が広がっていた。まずポートリエ一行が目指すのは病院である。ハンドルを切るジェロームに、何処に向かうのか分かっていないレイが話し掛けた。

 

「ねぇ、何処行くの?」

 

「なにって、病院だろ普通」

 

「あっ、眼帯のお姉ちゃん!」

 

 今更理解したレイに対してジェロームは呆れ返り、病院を目指した。数分後、トレーラーは町の病院に到着。事前に連絡していた看護師達が、マリを治療室へと運び出す。

 

「なんで私は病院なのよ?」

 

「傷口開いたら大変でしょ?明日になれば完治してるから」

 

 寝台車に載せられたマリは、トレーラーへと戻る一同に問うが、代表してリュシーが答えれば、病院へと搬送されていく。マリを病院へと送り届けた一同は、休息を取るためにトレーラーを専用の駐車施設へ止め、近くのホテルを確保する。部屋割りはジェロームとリュシーが一部屋、ザシャ、晃、レイも一部屋、残りは一部屋ずつだ。

 一同はジェロームとリュシーの部屋に集合し、リーダーであるジェロームがこれからの予定を伝える。

 

「よし、怪我人を除いて全員集まったな?これからの予定を伝えるぞ。俺達はこのガラヤの町に五日間滞在する」

 

「えっ、五日も滞在するの?」

 

「んぁ?文句あんのか?」

 

 伝えている最中にレイが質問したためか、ジェロームは逆に質問で返して黙らせる。

 

「別に無いけど・・・」

 

「そうかぃ。町では機動兵器の闘技大会が開かれてるし、丁度品物が売れる時期だ。ここでジャンジャン売るぞ。それと、腕利きのパイロットが四人も居るしな」

 

 ザシャ、晃、レイの三人を見たジェロームは、良からぬ事を考えている表情を浮かべ、三人に告げた。

 

「飯を食わせてやってんだ、お前等には闘技会に出て貰うからな」

 

「はぁ!?そんなの無しでしょ!普通!アンタ何様のつもり?!」

 

「この馬鹿たれ!勝手に乗って来た奴が言うんじゃねぇ!」

 

 闘技大会の出場を勝手に決められたレイが反発するが、ジェロームが指差ししながら正論を叩き付ける。これに対して返す言葉も無いのか、レイは小さくなる。ザシャも反対しようとしたが、彼等には世話になったこともあり、泣く泣く従うしかなかった。

 

「取り敢えず、パツキン女は暴れたり無さそうだから、一番キツイ闘技場の方にして。ヒヨコちゃん達はレシプロ航空戦大会にでも出て貰うか」

 

「レシプロ航空戦大会・・・?」

 

「おうよ、レストアされたレシプロ機でドックファイトをする大会よ!」

 

 ジェロームからの熱い返答に、レシプロ機の操縦経験のあるザシャは少し興味を持った。可変戦闘機と言う名だが、一応ながら戦闘機であるバルキリー乗りである晃とレイも話しに釣られる。

 ちなみにレシプロ航空戦大会とは、彼が言うとおり、この世界の技術力でレストアされた第二次世界大戦時に各国で制式採用されたレシプロ戦闘機で航空戦を行う大会である。

 無論、仕様弾は競技用のペイント弾であり、航空戦は死ぬ恐れはないが、事故は起こることがあるので、主催者側が責任を取らない為の契約書にサインしなければならない。言わば自己責任と言う奴だ。

 

「後で参加すれば良かったなんて事にならなかったら、了承することだな」

 

 お高くとまる独創的な髪型の男からチラシを渡され、それを読んだ三人はその大会に出る事にした。興味津々で見る三人の様子を見たジェロームは、大会へと出場する気と察する。態とらしく大会へ出るかどうかを問う。

 

「それで、お前等大会へ出るか?」

 

『出ます(るわ)』

 

「(よし!)」

 

 即答した三人に、思惑通り上手く事が運んだので、握り拳を下げて内心喜ぶ。

 

「おぉ~、だったらエントリーしにいかねぇとな!取り敢えずだ、これで上手い飯でも食ってきんしゃい」

 

 上機嫌なジェロームはこの惑星アヌビスで最高位の札を数枚渡す。

 

「えっ、良いですか?これ」

 

「良いも何も、明日からウンと稼いでもらわにゃならんのよ。それで英気を養いな」

 

 椅子に深く座り込み、ザシャからの問いに誇らしげに笑みを浮かべて答える。

 

「ありがとうございます。明日の大会で拾ってもらった恩を返します!」

 

「礼をきちんと返せと園長先生に言われていますので、自分も頑張りたいと思います」

 

「まぁ、勝手に乗ってきて、それなりの腕を見せないとね。優勝して、あんたを見返してやるんだから!」

 

 大会への出場を決めた三人は意気揚々と優勝する気を見せ付ける。

 

「その息だ。期待してるぜ!」

 

「はい!では、私達は外のレストランへ」

 

 外にある飲食店でザシャが声を掛けてから晃とレイを連れて部屋を出て行く。

 

「あんまり遠くへは行くなよ。それと食い過ぎて腹壊すな~」

 

 ジェロームがそう注意すると、ザシャは少女のような笑みを浮かべ、出入り口のドアを閉めた。三人が居なくなり、他の仲間達も部屋に戻って二人きりになったのを確認すると、黙っていたリュシーが声を掛けてくる。

 

「あんなに乗る気にさせて良いの?もし怪我でもしたら・・・」

 

「大丈夫だぜ、ハニー。あいつ等がヘマをするような連中に見えるか?俺の目には狂いはないぜ、あの戦いぶりを見れば分かる。特に左眼が失明しちまってるパツキンの姉ちゃんわな。あの四本頭に乗ってる嬢ちゃんもそうだ。ガッポガッポと儲かるぜ、こりゃあ」

 

 自慢げに答えるジェロームは、更に続ける。

 

「明日にはパツキンの姉ちゃんもライガー・ゼロも実戦可能状態さ。チャンプを倒せずとも、たんまり大儲けって訳でこの忌々しい星から出られるぜ。そして豊かで治安の良い星に移住して、そこで豪邸を建ててハニーと・・・」

 

「えぇ、そうね・・・あの子達には悪いけど、これも私達の幸せのため・・・」

 

「あぁ、これも俺達のためだ・・・」

 

 ジェロームの夢に、リュシーは賛同して彼に抱き付いた。一方、夜の町へ繰り出した自分達が良いような駒にされたとは思わないザシャ、晃、レイの三人は、空いていそうな中華料理店へと入った。

 

「ここが良さそう」

 

「えぇぇ!?もっと美味しそうな所に行こうよ!」

 

「他のお店は何処もいっぱいだよ?それにここのお店は席が空いてるし、ホテルからも近いし。ここが合理的だと思うよ」

 

「むぅ・・・!」

 

 文句を付けるレイであったが、尤もな事をザシャに言われ、ムスッとした表情を浮かべる。仕方なく中華料理店に入り、空いている席へと座る。チャイナドレスの店員が接客に来て、人数分の水の入ったコップを回転式のテーブルへ置く。

 

「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい。失礼します」

 

 一度お辞儀してから、店員は従業員の入り口の方へと去っていった。メニューボードで何を食べるか迷っている最中、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「いやー、美味い、美味い」

 

「あれ、この声・・・何処かで・・・?」

 

 気が付いたザシャは声がした方向へ視線を向けると、思わぬ人物がそこに居た。

 

「柿崎君・・・?」

 

「あぁ、中尉!店員さん、席移すよ!」

 

 思わず声を掛けると、その大柄の男は気付き、食事を中断してザシャ達の席へやって来た。席へ戻り、自分が食べていた料理を持って来て、彼女等の席へと移す。

 

「いや~、偶然ですな。ハハハ!中尉殿、貴女もこの惑星に墜落してきたとは」

 

「誰、このおっさん?」

 

「柿崎駿夫、確か、D中隊所属の伍長・・・」

 

「覚えて貰って光栄であります!中尉殿」

 

 突然やって来た大男の事を聞いてきたレイに対し、ザシャはフルネームを口にすると、覚えて貰ったことが嬉しかったのか、柿崎は敬礼した。その瞬間、周りで食事をしていた客達がざわめき始める。

 

「おい、兵隊だぞ・・・」

 

「一体何しに来たんだ?またイチャモンを付けに・・・」

 

「ん?みんなどうしちゃったのかな?」

 

 何が起きているのか分からない柿崎は、周囲を見て不思議に思う。

 

「兎に角座ってください。ここの人達は兵隊が嫌いだそうで」

 

「あぁ、そうなのか。では、失礼」

 

 晃が気を利かせると、彼は遠慮なしに空いている席へ座り、食事を再開する。メニューが決まったので店員を呼び出し、注文すると、柿崎は食事をしながらザシャに晃とレイの事を問う。

 

「所で中尉殿、そこのちっこいの二人は何ですか?」

 

「晃君にレイちゃん。今お世話になっている人達の、預かってる子達・・・」

 

「あぁ、預かってる子達ですか!ハハハ!それで、貴女は保護者としてご同行を」

 

 苦手な柿崎の質問に答えるザシャは少し言葉が濁る。そんな柿崎に対して自分を子供扱いしたのか、レイは突っ掛かる。

 

「煩いおっさん!私は17歳よ!」

 

「誰がおっさんだ!俺だって17歳だぜ?」

 

「えっ、嘘・・・!柿崎君17歳!?」

 

「中尉までなにを、自分はまだ17歳ですよ!」

 

「見た目に反してか・・・」

 

 どうやら、柿崎が17歳であることを初めて知ったのか、ザシャは驚きの声を上げる。この事実に対し、晃は意外と思ってそれを口にした。

 

「ひっどいな~、俺はまだ17歳だって言うのに」

 

「外見と中身が一致しないのよ!あんた鏡みてるの?」

 

 後頭部を掻く柿崎に、ここぞとばかりレイは罵倒する。注文した物がテーブルへ置かれると、彼女等は柿崎と同じく食事を始めた。その間に柿崎はここまでの経緯を聞いてもないのに、勝手に話し出す。

 

「ここまでくるのにやや苦労しましたよ。機体の修理はできたのですが、空はひっきりなしに連邦軍の戦闘機と軍艦が飛び回っていましてね。ひたすら低空飛行でここまで来たんですよ」

 

「そ、そう・・・(聞いてないのに)」

 

 苦笑いして、聞いているフリをしようかと思っていたザシャであったが、次の柿崎が放った言葉が衝撃的であった。

 

「この星の通過なんか持ってませんから、VF-25A、売っちゃいました」

 

「ハァァ!売った!?」

 

 驚きの声を上げ、机を叩く。

 

「いや、だって、VF-25で飛んだら撃ち落とされちゃいますし、それにデータバンクはしっかりと壊してますよ!」

 

「てっ、そんなの駄目に決まってるじゃない!隠すとか考えないの?!」

 

「考えましたけど、どうやってここでの生活費を稼ぐんです?VF-25で飛んでたら、確実にお縄になりますよ」

 

 軍の最新鋭機を売った柿崎の言い訳に、ザシャは頭を抱えて呆れ返る。

 

「大丈夫ですよ、中尉殿。VF-25は高く売れましたし、そのお金で機体も調達しました。それに使い切れないほどのお釣りだってあるし」

 

「はぁ。で、売ったのは連邦軍の人じゃないよね?」

 

「それなら心配ご無用ですよ。売ったのは大金持ちのバルキリーマニアで、高く買い取ってくれました」

 

 続ける柿崎から聞いた答えにザシャは少しホッとする。次に、売った金で得購入した機体について問う。

 

「何を買ったの?」

 

「我々の勢力下に戻るため、VF-1Aバルキリーを購入しました。古い型ですが、最初に乗った機体ですし、操縦は慣れてますので」

 

「そう。それなら安心だけど・・・」

 

 答えを聞き、食事を再開するザシャに、今度は柿崎が話し掛ける。

 

「所で、中尉は機体を売らないのですか?」

 

「売らない!」

 

 即答したザシャは聞き手にレンゲを持ち、頼んだチャーハンを口に運んだ。この二人のやりとりを見ていたレイは柿崎が本当に軍人なのかザシャに聞いた。

 

「ねぇ、あの柿崎って人、本当に軍人でザシャ姉ちゃんの部下?」

 

「本当に軍人だよ。それと柿崎君は部下じゃないよ」

 

「部下じゃないの?別の隊の人?」

 

「そう、私と同じ階級の人の部下」

 

「その人大変そう・・・」

 

 ザシャからの答えに、柿崎の上官であるコリンヌが余程苦労しているのだと思った。デザートを終え、食事を終えると、代金を支払って四人は店を出る。雑談を交わしながら宿泊地へと戻っている最中、道路の中心で現政権打倒を掲げる者達が、宣伝カーに乗って現れた。

 

『腐敗した現政権を倒せ!』

 

『我々は人間だぞぉ!人権侵害だッ!!』

 

『我がアヌビス憂国会に協力を!現政権を倒し、このアヌビスに繁栄を!!愛国者達よ、立ち上がるのだ!!』

 

 高らかに叫ぶ彼等だが、周りの者達は協力する気など無く、むしろ迷惑がっている。

 

「まただぜ。あいつ等、暇だな」

 

「愛国心、愛国心って、うるせーんだよ」

 

「愛国心で飯が食えりゃ、誰でも愛国者だぜ」

 

 周りの者達は、聞こえないように小声で陰口を叩く。現政権の打倒を掲げる者達、所謂反政府勢力が現れたとなると、この星をいよいよ末期という事だろうか。

 

『志願せよ!我が正義の軍勢に参加し、現政権を打ち倒すのだ!!』

 

「あいつ等、まだメガミ人が生きてること知ってるのか?」

 

「知らねぇだろう。最近未開拓地から出てこないから、みんな死んだと思ってるんだ。馬鹿な奴等だぜ」

 

「メガミ人?」

 

 志願兵を募る反政府組織に呆れた市民の一人が「メガミ人」という言葉を発した為、ザシャは疑問を抱いた。そんなザシャの疑問に、少しは状況を知っている柿崎が答える。

 

「詳しい事は分かりませんが、どうやらこの星でのメガミ人は先住民で、昔の戦争に負けて何処かに潜んでるらしいですよ。全くおかしな話ですよ」

 

「そうなんだ・・・」

 

 未だに現政府打倒を叫ぶ反政府勢力を他所にザシャ達は柿崎と別れ、自分等の宿泊地へと戻る。そのままシャワーを浴び、着替えを行って就寝前の行事を済ませると、明日の大会に備え、ベッドへ入り、少し早めの就寝にはいることにする。疲労が溜まっていたのか、数分もしないうちに睡魔に襲われ、夢の世界へと引き込まれた。

 

 

 

 翌日、病院に押し込まれていたマリは目を覚まし、ベッドの上で上体を起こした。

 

「ふっ、んん・・・!」

 

 身体を伸ばすと、ベッドから離れ、手鏡で自分の顔を確認する。失明していた左眼が治っていることに気付くと、穴が空いていた腹部に触れてみる。

 

「治ってる・・・!」

 

 まるで最初から傷口が無かったかのように、ザシャが施した縫い跡は綺麗さっぱりなくなり、傷のないマリの雪のように白い肌に戻っている。ベッドから離れると、机の上に用意されていた着替えを取り、患者服から作業服へ着替え始める。身体のラインが浮き出る程であったが、これしかないので我慢するしかない。

 着替えの下に置かれていたメモに気付き、それを手に取って読む。

 

【お前が目覚める頃には、ライガー・ゼロはもう直っている頃合いだ。暴れられる場所は用意しておいた、闘技場へ向かえ。警備の男にエントリー表紙を渡せ。ジェローム・ポートリエより】

 

 メモを裏返すと、闘技場への道が記された簡単な地図が書かれていた。読み終えてからメモを捨てると、他に用意された物を全てポケットへ入れ、病院を後にした。朝の町に駆け出すと、朝食を取るために空いている飲食店を探す。

 探している途中、自販機で煙草を一箱買うと、仕事先へ向かう労働者に混じって、ファーストフード店へと入る。朝食用のメニューを頼み、それを受け取って代金を支払い、空いている喫煙用のテーブルの席へ座り、朝食を始める。食事を済ませれば、珈琲を飲み、一服してから店を出ると、バイクに跨った柄の悪い男達がマリに目を付けた。

 

「おい、見ろよ。すげぇエロい身体の女だぜ?」

 

「あんな格好で歩いてよ、ありゃぁ誘ってるって証拠だ」

 

 下品な台詞を吐く男達を無視して闘技場を目指すマリだが、彼女の身体、あわよくば性交渉をしたくなった男達は、バイクを走らせ、マリを包囲する。

 

「よう、姉ちゃん。そんな格好してるなら、俺達と気持ち良いことしねぇか?」

 

「ヒュー!たまんねぇ・・・!もうレイプしちまおうぜ?!」

 

「まずは俺から味見をさせてもらいてぇな!」

 

 次々と下品な台詞を吐く彼等に対し、マリは面倒臭くなったのか、周囲に強烈な殺意を放つ殺意の波動を使い、男達を再起不能にさせた。

 

「ひっ、ヒィィィィ!!こ、殺さないでくれ!!」

 

「うわぁ、うわぁぁ・・・!」

 

「た、頼む・・・!殺さないで・・・!」

 

 先程の威勢は嘘のように消え去り、バイクから転げ落ちて悲鳴を上げ、失禁や脱糞もして、命乞いや泣き出し、情けない姿へ変わる。

 

「チンピラ風情が、粋がってんじゃないわよ・・・」

 

 そんな男達にマリは唾を吐き捨て男達から財布を盗り、闘技場へと向かった。闘技場近くまで辿り着くと、入ろうとする観客で溢れかえっていた。

 

「大分人気な大会みたいね・・・ああいう連中が居るから、殺人系のバトル物かしら?」

 

 どんな闘技大会が開かれているか想像し、関係者用の出入り口へ向かった。

 

「なんだお前は?」

 

 警備の男が問うと、マリはメモに書かれたとおり、エントリー表を渡した。それを手に取った男はエントリー表に目を通し、ネームタグを渡してからマリを中へ通す。

 

「入って良いぞ」

 

 出入り口へ入り、ネームタグを服に付けてから見取り図を読み、控え室へと向かった。出場選手専用の控え室へ入ろうとすると、待っていた女性係員に話し掛けられる。

 

「マリ・ヴァセレート様ですね。こちらへお越し下さい」

 

 言われたとおり、マリは女性係員についていき、出場選手用の格納庫(ハンガー)へと辿り着いた。

 

「貴女の搭乗機はライガー・ゼロで間違いないですか?」

 

「えぇ、間違いないわ」

 

「ありがとうございます。予選開始十分前には自分の機体に搭乗してください。失礼します」

 

 手を翳した方向に、白い塗装の装甲を持つライオン型大型ゾイドライガー・ゼロがあることで、自分の所有物だと答える。分かった瞬間、女性係員は元の位置へと戻ろうとするが、マリに手を掴まれてしまう。

 

「あの、冗談なら止めて貰えませんか?」

 

「ねぇ、私ちょっと溜まってるの。貴女が相手くれるかしら?」

 

「止してください!そう言う係は向こうでお願いします!」

 

 掴まれた手を振り払った女性係員はマリの元から去っていく。誘いを断られたマリは、見取り図で確認した選手用性的サービスエリアへ向かいつつ、パンフレットを手に取って闘技場のルールを確認する。

 

「一対一の勝負でルール無用ね、武器は何でもOKと。簡単ね」

 

 トーナメント制の闘技大会のルールを理解したマリは、次に自分の出場グループを確認、まだまだ時間のある予選Cブロックであることが分かる。

 一人勝ち残れば、本大会に参加できるバトルロワイヤルと分かり、歩みながらこれから地獄へ送る参加選手の搭乗機体に目を通す。確認していると、いつの間にか性的サービスエリアに到着した。

 部屋から女の甘い嬌声が聞こえ、肌が互いにぶつかり合う音が耳に入ってくる。受付まで向かうと、出場選手がマリの姿を見るなり絡んできた。

 

「おい、姉ちゃん。俺とやらねぇか?」

 

 どうやら、彼女を闘技場専属の娼婦として見ているようだ。そう選手の男に思われたマリの堪忍袋が切れ、男の顔にかなりの力を込めた拳を食らわせた。

 

「ホゲッ!?」

 

 叩き付けられた鼻は完全に潰れ、衝撃で歯も数本抜け、男は顔面陥没し、凄まじい余りの痛さで気絶した。むかついて男をぶちのめしたマリは受付の台に胸を寄せるように体重を掛け、空いている娼婦が居るかどうかを聞く。

 

「ねぇ、空いてる娘って居る?」

 

「あぁん、レズかぁ?うちはレズはお断りなんだよ」

 

 この受付係の返事に腹が立ったのか、胸倉を掴み、殺意に満ちた瞳で睨み付ける。

 

「ひっ、な、なにを・・・!?」

 

「良いから、空いてる娘は居るの・・・?」

 

「い、居るよ・・・!今呼んでくるから!」

 

 一睨みでマリに屈した受付係は、殺されないうちに空いている娼婦を直ぐに呼んだ。

 止めるはずの用心棒は彼女から漂う殺意で怯み、迂闊に近付けないで居た。

 呼び出された娼婦の容姿は白人であり、顔立ちは整って美人の類に入る程で黒髪、豊満なバストに肉質の良い美脚で、かなり性的魅力に溢れている。服装は豊満な体付きを強調させるためか、胸元が大きく開き、太腿を大胆に見せるためのスカートが短いドレスだ。

 それを見たマリは受付係から手を離し、呼び出された若くて美しい娼婦を見て、顔を赤くする。

 

「はーい!ご指命ありがとうございまーすって、指名したの女の人?もしかしてレズプレイ?」

 

「そ、そうなんだよカリナちゃん。試合開始間近までにサービスしちゃって・・・!」

 

「はいはーい!カリナ、パンパンやっちゃいまーす!空いている部屋、奥ですよ~」

 

 カリナと呼ばれた娼婦は、マリの左腕に自分の胸を押し付け、空いている部屋へと向かう。部屋はその気にさせるためなのか、見えないように壁を引いておきながら防音など一切しておらず、中から聞こえる嬌声と肉と肉がぶつかる音がはっきりと聞こえる。空いている部屋は奥であり、向かっている途中で出場選手達と行為に勤しむ娼婦達の甘い嬌声が耳に入ってくる。

 周りから聞こえてくる声に、マリは自分の行為が見られたり聞かれたりと思って恥ずかしくなり、顔を下に俯いてしまう。そんな様子なマリを楽しんでいたカリナは、左手でマリの胸を作業着の上から掴み、ゆっくりと揉み始め、彼女から声を出させた。

 

「ひゃっ・・・!?」

 

「お姉さんさ、周りでやってる声聞いて発情しちゃったでしょ?ほらほら、あそこ丸見えだよ~」

 

 カリナが指差した方向には、裸の娼婦に何度も腰を叩き付ける下半身に何も穿いていない大柄な出場選手が見えていた。ドアは開きぱっなしであり、丸見えになっている。恥ずかしくて顔を背けていると、カリナが追撃を掛けてくる。

 

「私さ、さっき二、三発くらい出された後で、一回しかイってないから。満足してないんだよね。レズのお姉ちゃんなら、色々気持ちいい所知ってるみたいだしさ。満足させてくれる?」

 

「クッ・・・」

 

 妖艶な笑みを浮かべ、誘うような言葉を掛け、マリの股間に手を忍ばせ、撫でるように触れる。そうしているうちに、指定された簡易すぎる部屋へと到着した。中へ入り、マリが来ている作業着を脱がせる。

 下着姿となり、露わになった彼女の見事なボディラインに、カリナは驚きの声を上げる。

 

「わぁ・・・凄いナイスバディ!ここで働いたらマジで大儲けできるよ!」

 

 大いに騒ぐカリナだが、マリは娼婦になって働く気など一切無い。男相手に身体を売るなど、彼女にとってはあり得ないことなのだ。

 

「まぁ、バストの方は、私が上だけど」

 

 自分のマリよりは大きいであろう胸を強調する姿勢を取るカリナだが、数々の誘いで我慢が出来なくなったマリが胸元の布を掴み、一気に下げて抑えられていた巨乳を露わにさせた。謎こうも簡単にはだけたのかは、どうやらカリナの服はそう言う仕組みになっているらしい。

 

「あん・・・!」

 

 周りを気にしなくなったマリは、カリナをベッドへ押し倒し、自分の下着を全て取り払って、一糸纏わぬ姿となると、ベッドへ倒れ込んで誘うような姿を見せる彼女の服を全て脱がした。こういうときに備えてか、カリナは下に一切の下着を身に着けてはいなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

 マリは息を荒げながらベッドへ上がり、カリナの上から覆い被さり、彼女の豊満な胸に自分の顔を挟み込む。顔を数回ほど擦り合わせ、カリナから甘い嬌声を吐き出させると、彼女の表情を見る。

 

「集合時間までにいっぱいしても良いよ・・・」

 

 そのカリナの言葉にマリの理性が飛び、彼女の突起した乳輪にむしゃぶりついた。奥のマリとカリナの行為に勤しむ声は、周りの行為中の娼婦達の嬌声に負けないほど強く響き渡った。

 一方、マリが極上の娼婦と情を交わしている中、ザシャ、晃、レイの三人はレジプロ機航空戦大会会場まで来ていた。エントリーは既にジェロームが済ませておいたのか、受付に彼に渡された許可証を出して入るだけだった。中へ入れば、控え室へと通される。

 

「緊張するね・・・」

 

「う、うん・・・でも、散々飛んできたからレジプロ機くらい楽勝よ!」

 

「そうとも言えない」

 

 緊張を解すためにザシャが口にすれば、レイは意気込むが、晃は周りにいる出場選手達を見ながら言う。マリが出場する機動兵器を使った闘技大会とは違って、殺気に溢れた選手達は居ないが、誰も彼もがただならぬ物を感じさせていた。更に、参加してきた自分等に視線を集中させている。

 控え室に入ってきた係員が、テストフライトの時間を知らせに来た。

 

「出場選手の皆様、係員から飛行服を受け取ってください!」

 

「着替え終えたら、飛行場へ集合してください!そこでテストフライトを行います!」

 

 係員の指示に従い、テーブルに並んでサイズにあった飛行服を受け取る。女性専用の更衣室へと向かい、飛行服に着替えると、もう一人の係員の指示に従って、飛行場へ出た。

 

「わぁ・・・プロペラ機がいっぱい・・・!」

 

 整備された飛行場には、選手用のプロペラ機の練習機が並べられている。

レイはそれを見て口に出す。

 

「では、皆様には単発エンジンの練習機に乗って貰い、十分間のテストフライトをしてもらいます!操縦経験のある方も受けて下さい!テストフライトが終われば、仮想シミュレーションでの予選を開始します!」

 

 係員の指示で、ザシャ等を含む出場選手達は練習機に乗り込み、エンジン音が響かせながら、空へ飛び立っていく。練習機は複座席であり、教官役のパイロットが先に搭乗していた。

 十分間のテストフライトを終えた出場選手達は滑走路を使って地上へと戻り、暫しの休憩の後、予選会場であるシミュレーションルームへと入り、それぞれが仮想戦闘訓練を開始する。入りきれない者達は並んで待つことになる。ルールは簡単、出て来る無名のエースが乗った敵機を倒すだけである。

 何故こんな予選にしたのかは、参加者が多すぎることが理由だった。

 当初は三十二人制のトーナメント方式であったが、参加者が予想より多く、篩いに掛けて腕の良いパイロットだけを選別することに決めた。その御陰か、脱落していく選手達が続出した。

 流石に三桁台のエースパイロットでは話にならないのか、二桁台の六十機以上を撃墜したドイツ空軍のエースパイロットが担当する。

 数十分も持ち堪える者が居たが、結局は第二次世界大戦時の東部戦線に従軍していたエースに勝てず、脱落してしまう。開始から二十分ほどが経つと、黄色人種で融通が利かなそうな熱血漢が大きな声を上げて勝ったと宣言していた。

 

「勝ったぞぉ!零戦は最強だぁぁぁ!!」

 

 大きな声で予選を突破した男は、係員に案内されて本戦専用の控え室まで案内された。それに続いてか、白人の金髪の青年や長い水色の髪を纏めたポニーテールの容姿が美女のような少年がエースに勝利し、本戦選手用の控え室まで案内されるのが見える。

 

「あの人達・・・周りとは全然違う・・・!」

 

「次、貴女の出番ですよ」

 

「あっ、はい!」

 

 遂にザシャの出番が来たのか、彼女は仮想戦闘用のコクピットへ入り、キャノピーを閉めた。周りが明るくなり、画面が映し出されると、機体選択の一覧が出る。

 迷わず相手と同じ国のフォッケウルフFw190D型を選択すると、キャノピーの外が青空へ変わり、両翼と機体後部に鉄十字を付けたメーサーシュミットBf109Gが向かってきた。

 

「では、予選を開始します」

 

 その声と共に、エースが乗るBf109が機銃を撃ち込んできた。

 一撃離脱戦法を取ろうとする敵に、ザシャは高度を下げて回避し、格闘戦に持ち込んで後ろを取ったが、ただ者ではないパイロットが乗った敵機はジグザグに動いて的を絞らせないようにしている。

 照準に敵機が重なる瞬間に撃ち込むが、一発も被弾せず、敵は高度を上げて引き離そうとする。しつこく追い回し、機銃を数発ほど撃ち込めば、何発か命中させる事に成功した。

 煙を噴く敵機は一回転してから速度を落として彼女の後ろを取ろうとするが、ザシャはこれを読んでか、宙返りを行って再び後ろを取り、取っておいた20㎜機関砲を浴びせ、エースを撃墜に成功し、見事本戦への出場を勝ち取った。

 

「予選突破おめでとうございます。こちらへどうぞ」

 

 キャノピーを開き、待機していた係員の案内を受ける。

 

「ここで予選終了までお待ち下さい」

 

 本戦出場選手専用控え室に案内され、中へ入って椅子に座ると、係員は立ち去って行った。先程の三人が椅子に座って選手が集まるまで、椅子に座って待機している。予選を勝ち抜いたのは三人だけでなく、他に十数人以上も勝ち抜くことに成功していた。

 数十分後、エースに勝ち抜いた選手達が控え室へと入室してくる。その中には、知った顔である晃とレイのも含まれており、彼女はホッと胸を撫で下ろした。さらに数十分程経つと、驚くべき人物が、予選を突破した選手等と共に入ってきた。

 

「か、柿崎君・・・!?」

 

「おや、中尉殿もこの大会へ?偶然ですな。ハハハ!」

 

 なんと、柿崎もこのレジプロ機航空戦大会に出場していたのだ。彼が次の台詞を吐こうとした瞬間、係員による次の指示が出された。三十二人制のトーナメント方式で一グループが八人で、A~Dの四つのグループに分かれることとなる。

 机の上に置かれた箱の前に並んで、箱の中に手を入れ込み、英数の書かれたボールを取り、所属グループをランダムに決める。ザシャはDグループとなり、晃はAグループ、レイはBグループで、柿崎はザシャと同じDグループだ。

 

「いや~、出場する大会と言い、所属グループも一緒と言い、何から何まで偶然ですな!ハハハ!」

 

「ははは・・・」

 

 大笑いする柿崎にザシャは苦笑いして、指示された空港へと向かった。集められた簡易的な空港には、自分が予選に選んでいた機体が用意されていた。それから暫しの休憩の後、第一試合が始まる。

 

「これよりAグループ第一試合を始めます。出場選手は直ぐに出撃の準備をしてください!」

 

 係員に呼び出されたエメラルドグリーンの長い髪を持つ女性パイロットと長身の男が、それぞれの搭乗機へと向かった。その頃のマリは行為を終え、体中に着いたカリナと自分の体液をシャワーで洗い流し、身体を清らかにしていた。シャワーを浴び終えれば、全身の水滴を全てタオルで拭き取り、それが終われば作業服を身に着ける。

 未だに周りで娼婦達の甘い嬌声が響いているが、マリは気にすることなく娼館を出ようとする。彼女が入っていた簡易的な部屋には、糸一つ纏わぬ姿でベッドの上で横たわり、息を荒げるカリナの姿がある。

 

「スッキリした・・・」

 

 娼館を出たマリはそう一言呟くと、自分の機体があるハンガーへと向かう。

 ハンガーへ着けば、早速キャノピーを開けてコクピットへ入り込み、座席に腰を下ろし、自分の出場する予選の知らせが来るまで待つことにした。暫くすれば。自分が所属するグループの集合を知らせるアナウンスが耳に入ってくる。

 

『予選Cグループの皆様にお知らせします。機体に搭乗し、予選開始まで搭乗機にて待機を願います。繰り返します・・・』

 

 そのアナウンスが鳴ってから十分後、ライガー・ゼロが固定されていたハンガーが上へと上昇し、広い空間まで着くと止まった。周囲には、同じく先程のエレベーターで上がってきた出場選手達の乗る機動兵器群が予選開始の合図を待っている。合図は物の数秒で出された。

 

『それではCグループバトルロワイヤルを開始します!派手に殺し合い、本戦への出場権を取れぇ!!』

 

 その狂喜染みた予選開始の合図が出されると、各機一斉に動き出し、本戦出場を掛けた壮絶な殺し合いが始まるのだった。




今回はやや長め。無駄な部分多いかな・・・?

夢のようなレジプロ戦闘機大会・・・あると良いな~
それと、出場してる選手の中に、CVが中村悠一でロボット物の主人公とライバルキャラ、後は分かるな?
パトレイバーの太田みたいなのは、本人じゃないです。外見がベースのキャラです。
髪の色がエメラルドグリーンな美人女パイロットも、何処かの作品のキャラじゃありません。オリキャラです。

マリの方は娼婦とレズセックスして、スッキリしてからバトルロワイヤルへ。
正直言って、機動兵器が一般に普及してる世界ってどうなの?


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トーナメント マリ編

 バトルロワイヤル開始のブザーが鳴り響き、出場選手達が乗る多種多彩な機動兵器は、手近にいる敵機に襲い掛かる。マリが乗るライガー・ゼロの元にも、出場選手が乗るゲルググの砂漠戦用タイプであるデザート・ゲルググが、ビーム長刀を振り回しながら斬り掛かってきた。

 それを容易に回避し、空かさず飛び掛かってレーザークローで胴体を抉る。胴体を抉られたデザート・ゲルググは倒れ込み、左腕に付いたナックルバスターを撃とうとするが、右前足で振り払われ、コクピットにクローを刺し込まれてパイロットごとトドメを刺される。右前足を引き抜き、自分を攻撃してくるバトリング用スコープドックに飛び掛かり、レーザーファングで噛み付く。

 

「や、やめろ!」

 

 パイロットが命乞いをしているが、彼女は容赦なしに中の人間ごと噛み砕いた。マリは目に映る敵を手当たり次第に攻撃し、戦闘不能に追い込むか撃破した。

 

「なんて奴だ!」

 

「あのライガー・ゼロ、やばいぞ!みんな固まって潰すんだ!」

 

 余りにもマリが強すぎたのか、大半の出場選手達が一致団結し、彼女のライガー・ゼロに向けて一斉射撃を掛けてきた。これに対してマリは、一々相手をする手間が省かれると思い、操縦桿を巧みに動かした。次から次へと目に入る敵を手当たり次第に倒し、予選会場にスクラップと死体を増やす。

脱落者がマリの御陰で続出する中、弱肉強食の如く、強い者達だけが残る。自分を攻撃してきた最後の一機を潰し、その上に左前足を置くと、残っている者達に視線を向けた。

このバトルロワイヤルで生き残っているのは、異世界で運用されている機動兵器ヴァンツァーの一種であるフロスト。バトリング専用のATストロングバックス。灰色の塗装ザクⅡS型。ゴリラ型大型ゾイドアイアンコング。茶色の塗装のサページの五体だ。自分も含めて、殺し合いの場には合計で六体は残っている。

 

「残っているのは五匹・・・どいつもこいつも少しは楽しませてくれそう」

 

 生き残っている五機の敵機を確認し、ザクⅡから放たれるザク・マシンガンを回避して飛び掛かかり、ファングでコクピットを噛み千切った。これを合図に、残った四機が頃試合を再開する。

 次にストロングバックスをクローで引っ掻いて倒し、ASサイズの突撃銃を持ったサページにザクⅡS型を倒した手を使ってパイロットごと噛み千切る。フロストは後退しつつ、マシンガンを撃ち続けるが、容易に避けながら接近してクローで胴体を引き裂き、パイロットを殺した。

 パイロットが居なくなったフロストは倒れ、煙を噴きながら動かなくなった。立っているのはマリのライガー・ゼロと、同じゾイドであるアイアンコングだけだ。

 

「こ、この野郎~!」

 

 自棄になったパイロットが右肩の六連装ミサイルをマリのライガー・ゼロへ放つが、容易に回避され、懐に接近されてしまう。

だが、アイアンコングは射撃と格闘を両立するための大型ゾイドとして設計されたため、ゴリラの特性である強烈なパンチを食らわせようとするが、これも避けられてしまった。

マリは避けられて地面に突き刺さった腕を踏み台にして飛び掛かり、レーザークローで頭部のコクピットを引き裂いた。コクピットに迫る高熱の爪を受けたパイロットは、断末魔を上げながら斬られる前に蒸発する。

 

「ウギャァァァァ!!!」

 

 パイロットの悲痛な叫びと共に頭部が無くなったアイアンコングは、バランスを失って倒れ、地面に横たわった。

 このたった一枠の本戦出場を掛けたバトルロワイヤルの勝者はマリとなり、それと同時に終了のブザーが鳴り響き、勝者を宣言するアナウンスが行われる。

 

『勝者、マリ・ヴァセレート!』

 

 アナウンスが終わった後、マリはエレベーターまでライガー・ゼロを進ませた。エレベーターに乗り込み、ハンガーへと上がった。

 上がった先にハンガーへ辿り着くと、多数の整備員が待ち構えており、指定されたポイントに付けば、アームで固定され、整備が行われる。ライガー・ゼロから降りたマリは、案内役の係員の後へついていき、本戦出場の控え室へと足を運ぶ。着いた先では予選のバトルロワイヤルを勝ち抜いた猛者達が何名か先に控え室へ辿り着いていた。

 

「ここで暫くお待ち願います」

 

 係員がそう告げれば、控え室を後にした。置かれている席へ座った後、部屋の高さと広さ、それに人数を確認する。

 部屋の高さ15mで広さは60m程ある。彼女に取ってこれが何の意味を示すか分からないが、これは後から入ってくる勝ち抜いた選手が答えを示してくれる。次に人数を確認とどれほどの強さを持っているか見極める。

 今この控え室にいるのはマリを含めて六人。誰も彼もがあのバトルロワイヤルを生き延び、勝利した猛者達だ。同姓の選手は居らず、全員が男であり、歴戦の強者と示す傷がある。

 

「(どいつもこいつも、強そうな感じ。特に奥にいるでっかい奴)」

 

 特に奥の220㎝はある長身の男を見て、マリは彼がただ者でない事を察する。その男は目が見えないほどの銀色の特徴的な兜と軽い防具を身に着け、下は動きやすい青いタイプの作業服を身に着けている。

 

「おぉ・・・!」

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

「きょ、巨人だ・・・!」

 

 暫く観察していると、10mはある巨人が控え室に入ってきた。鎧の男以外が驚きの声を上げる中、一緒に入ってきた係員の男は、良く聞こえるように拡声器を使って巨人に知らせる。

 

『この控え室でお待ち下さい!』

 

 巨人の男は言われたとおり、空いている場所へと腰を下ろし、他の選手達と同じく試合開始を待つことにした。

 また数分後、最後の男が入ってきたのと同時に、控え室の天上から大画面のモニターが降りてくる。全員の目線に合うような位置まで降下すると、そこで止まり、映像が映し出される。映し出された映像は八人式のトーナメント表だ。

 彼女が属しているのは第一試合第三回戦の右で、左に表示されている相手選手はドクザレフ。椅子に腰掛けている男がそうだ。背丈は196㎝程ある。

搭乗機はミドゥヴィェーチと呼ばれる全高20mはある大型ハーディガン。それに乗り込むドグザレフはマリを見るなりにやついた表情を浮かべる。

 係員が控え室へと入ってきて、確認を終えたかどうかを選手達に問う。

 

「皆様の出場試合の確認は宜しいでしょうか?」

 

 この問いに一同は無言で頷いて答えた。それを受けた係員は、第一試合の第一回戦に出場する選手を呼び出す。

 

「それでは、第一試合第一回戦に出場する方達は私についてきてください」

 

 呼び出されたのは、あのただ者ではない男と身長差で負けるが、目付きが細い大柄な男だ。

 兜の男が乗っているV字型のアンテナ、人間の目を模した複眼式センサーカメラ、白、赤、青のトリコロールの機体は、全高18mのRX-78-2ガンダム。このMSはガンダム神話を生んだ根源と知られている。この骨董品を何処からか手に入れたのか一切分からないが、多少のコネクションを持ち合わせていると見える。

 対する目付きが細い男の機体は、全高14mとガンダムより4m低い小型MSデナン・ゾンだ。連邦軍と対する同盟軍で制式採用されている機体だが、理由は横流しか宇宙に漂うデブリから集めた再生品であろう。

性能差はガンダムの40年程くらいに開発されたデナン・ゾンの方がどう考えても上だ。しかし、パイロットの腕の差で”もしも”の可能性はある。

控え室を出た二人は、そのまま自分の機体があるハンガーへと足を運ぶ。マリは兜の男の実力を図るため、選手用の観覧席へと向かう。

 

『さぁ、第一試合第一回戦。この闘技場のチャンプ、ガルナ・ネルー対ロルソン・スカジビア!性能差はどう見たって、スカジビア選手の方が上だぞぉ~?さぁ、チャンプであるネルー選手はどう勝つんだぁ?』

 

 実況がふざけた口調でガルナがどう勝つのか期待を寄せる。観客の歓声が沸く中、左右の中央部に設置されたゲートから、ガルナが乗るガンダムとロルソンが乗るデナン・ゾンが出て来る。

ステージの広さは700m程、天井までの高さは100m程だ。互いに450mの距離まで近付くと、両者は立ち止まり、試合開始の合図を待つ。試合開始のブザーが鳴り響くと、デナン・ゾンが地面に足を付けるガンダムより高く浮遊し、ショットランサーのヘビィマシンガンをガンダムへ向けて放った。

 

『おっと!試合開始と共にスカジビア選手のデナン・ゾンが猛攻撃だ!!これにはネルー選手、ただ盾で防ぐしかない!』

 

 実況が告げれば、一方的に撃たれ、ただシールで防ぐしかないガンダムの姿があった。

 次々と弾丸が着弾し、シールドの耐久力が着々と無くなる中、デナン・ゾンはショットランサーを撃ち込む準備をしていた。このランスを撃ち込まれれば、ガンダムの装甲とで意図も容易く撃ち抜かれてしまうだろう。

ガンダムはビームライフルを撃ち込んで反撃するも、容易に回避されてしまった。

 

「これで終わりだ。チャンプ」

 

 舌を舐めずりながら、スカジビアはショットランサーを撃ち込んだ。先端からランスが放たれるが、ガンダムはビームを連発しながらこれを避ける。

 

『おっと!流石はチャンプ、こんなにあっさりと負けるはずがない!!』

 

「チッ、流石はチャンプって所か」

 

 実況が周りを盛り上げ、喚声を更に上げさせる中、スカジビアは舌打ちをしながらビームを回避し、腕部ディアルビームガンで反撃する。ガンダムが地に足を付けて移動する中、デナン・ゾンはそれを回避しつつ、引き続きビームガンを撃ち続け、ヘビィマシンガンも加えて弾幕を増やす。ステージ中から戦闘の影響で煙が吹き荒れる中、何を思ったのか、ガンダムはバルカン砲を地面に向けて無作為に撃ち始めた。

 

『おや?ガンダムが地面に向けてバルカン砲を乱射してるぞぉ?』

 

「気でも狂ったか?なっ!?」

 

 舐めていたスカジビアだったが、煙幕を作っていることに即座に気付いた。レーダーに目を向け、相手のガンダムの居場所を確認するも、そのレーダーは全く動かない。

 

「クソっ!細工しやがったな!!」

 

 自分の機体をここの整備員に任せたのが失敗と分かり、動かないレーダーに八つ当たりする。この間にガンダムはビームサーベルをバックパックから引き抜き、スラスターを噴かせて地面を強く蹴り、斬り掛かってきた。

 

『煙の中からチャンプのガンダムが登場だぁ~!!』

 

「馬鹿野郎、そんなに死にたいのか?!」

 

 スカジビアは直ぐにビームガンを撃ち込もうとするが、相手のガンダムは物凄いスピードで迫り、彼が反応するよりも早くビームサーベルを振り下ろした。

 

「うわぁぁぁぁ!!?」

 

幾ら四十年は先を行くMSでもビームで切断されれば一溜まりもなく、スカジビアが断末魔を上げる中、彼が乗るデナン・ゾンは縦斜めに両断された。ガンダムが地面に着地すると、両断されたデナン・ゾンは空中で大破する。爆風が上がる中、マリは姿勢を戻すガンダムの姿を見て、乗っているパイロットが見掛け倒しではないことを察した。

 

「(これは結構きつそう・・・でも、相手は弱かったし)」

 

 そう脳内で強がり、彼女は後の試合はつまらないと思い、自分の試合の番まで控え室で待つことにする。喫煙所に向かい、箱から煙草を一本取りだし、それを咥えて先に火を付け、煙を吸う。口から離して煙を吐くと、また加えるのを繰り返す。

 試合会場から歓声と爆破音が耳に入ってくるが、マリは興味を抱くことはなく、自分の出番が来るまで煙草を吸い続け、珈琲を一杯ほど隣に置き、待つだけだ。数時間後、天上に設置された拡声器から、自分の名を読み上げる声が聞こえた。遂に自分の番が来たのだ。

 椅子から立ち上がり、ハンガーへと足を運んだ。途中、彼女の相手であるドグザレフが下品な笑みを浮かべて声を掛けてきた。

 

「運が良かったなお前。生き残れるぜ、ただし公開レイプだけどな!」

 

 そう告げたドクザレフは、下品な笑い声を上げながら自分の機体の元へと向かう。

 この相手選手の発言に、マリは強烈な殺意を抱き、ドグザレフをただでは殺さないと誓い、どう殺すか考えながらライガー・ゼロに乗った。開かれたゲートへと進み、ステージに出る。

 彼女のライガー・ゼロの目の前には、銃剣付きのライフルを持つ四本の太い腕と機銃や長砲身が多数ある四足歩行の大型ハーディガンの姿があった。両者位置へ着くと、相手のミドゥヴィェーチェの拡声器からドグザレフの卑猥な言葉を吐く。

 

『わざわざ公開レイプされに来たのか?随分とレイプ願望のお高いお嬢さんだぜ!』

 

 拡声器から下品な笑い声を上げるドグザレフ。これがマリを怒らせる切っ掛けとなり、彼の人生の幕が閉じる要因となった。

 

『さぁ、第三回戦の目玉は当大会の紅一点、マリ・ヴァセレート!それに対するは、ドグザレフ・アフーノフ選手だ!大きさと火力の面では、アフーノフ選手が上回り、ヴァセレート選手は機動力で上回っている!どちらが勝利するかは神のみぞ知る!!』

 

 実況が観客達を盛り上げる中、マリは操縦桿を強く握り、試合開始のブザーが鳴るのを待っていた。

 今の彼女の脳内では、一瞬でドグザレフが乗るミドゥヴィェーチを叩き潰す事しか無い。対するドグザレフは、ライガー・ゼロの四方を自慢の大口径の主砲で吹き飛ばし、動けなくなったところをコクピットからマリを引き摺り出し、群衆の前で彼女を犯すことしか無かった。

 試合開始のブザーが鳴り響くと、ドグザレフは予定通り大口径の主砲を撃ったが、そこにはマリのライガー・ゼロの姿はなく、代わりに巨体を支える四本の足が切り裂かれ、バランスを崩している自分の愛機だった。

 

「な、何が起きて!?」

 

 ドグザレフが気付く頃には、腕も全て切り裂かれ、迎撃用の機銃ですら全て潰されていた。彼の愛機がダルマになるまで要した時間は三十秒余り。この出来事に、実況は驚きを隠せないでいる。

 

『い、一体何が起きたのでしょうか!?アフーノフ選手の機体が瞬く間にダルマ状態に!ここでヴァセレート選手のトドメが入るぞ!!』

 

実況が告げたとおり、マリはミドゥヴィェーチェのコクピットを両前足で抉り始めた。ドグザレフが命乞いをするが、彼女は全く聞き耳持たない。

 

「や、止めてくれ!さっきのはほんの冗談なんだ!た、頼むから命だけは!!」

 

必死で命乞いをするも彼女は止めず、遂にドグザレフの姿が外の人間にも分かるよう見えてしまう。殺されると分かった彼は泣き喚き始め、それに失禁までする始末だ。

 

「やめろぉ~!やめてくれぇ~!」

 

 泣き叫びながら命乞いをするも、無慈悲なマリは操縦桿を巧みに操り、ドグザレフを噛みながらコクピットから引き上げた。興奮した観客達は、口を揃えて「噛み砕け」と叫ぶ。

 

『噛み砕け!』

 

『バラバラにしろぉ!!』

 

 ここの観客達は血に飢えているようだ。そんな観客達の期待に応え、マリは操縦桿を動かし、ライガー・ゼロの口の中で暴れ回るドグザレフを一度空中に放り投げてから噛み砕いた。勢いよく血が吹き出て、頭部の白い装甲を血で紅く染め上げる。

 頭部や手足、内臓類や骨が飛び散り、ステージがドグザレフの物で汚れる。目の前で人が噛み千切られた光景を見た観客達は更に沸き、期待に応えてくれたマリの名前を叫び始める。

 

『マリ!マリ!マリ!マリ!』

 

『歓声がヴァセレート選手に向けられています!やはり敗れたアフーノフ選手を噛み砕いたからでしょうか?!私もアレには興奮しました!!』

 

 興奮しきった観客達の歓声がマリに向けられている事を実況が伝える中、彼女は次の試合に備えるため、ライガー・ゼロと共にハンガーへと戻った。開いた門を潜って整備上へ辿り着けば、ライガー・ゼロの顔を見た待機していた整備士達が嫌な顔を浮かべる。

 

「うわぁ・・・マジでやりやがったぞ、あの女」

 

「観客の連中は、俺達の苦労も知んねぇのかよ」

 

「これを次の試合までに直せって言うんだろ?嫌だぜ、人のバラバラ死体を片付けるのは」

 

整備士達は文句を言いながらも、整備上に着いたライガー・ゼロの整備を始めた。キャノピーを開け、控え室へと向かうマリの姿を見た整備士達は睨み付けるが、彼女が殺気を感じるほど出せば、殺される恐怖を感じ、自分等の仕事に向かった。

控え室へ入って自販機から飲料水を取り出し、それを一気に飲み干すと、用を足すためにトイレへと向かう。

途中、彼女を背後から襲おうとする輩が出て来たが、殺意の波動を諸に受け、だらしない格好を晒す羽目となる。一般用の通路まで行って、女子トイレで用を足し終えた頃には、準決勝戦が終わっている頃だった。ガンダムに乗る兜の男が相手の機体を瞬時に倒してしまったようだ。

アナウンスが行われる中、マリは急いでハンガーまで向かう。

 

「早過ぎるでしょうが!」

 

 愚痴をこぼしながら、整備が終わったライガー・ゼロのコクピットへ乗り込み、キャノピーを閉めると、機体をステージまで進める。

マリの次なる相手は、ビームやミサイルが搭載された専用のバトルスーツに身を包んだ巨人の異星人であるゼントラーディ人だ。指定の距離に立ち、試合開始のブザーが鳴るのを待つ。実況が観客達を盛り上げる中、マリは相手のゼントラーディ人が着込むバトルスーツを見た。

 

「(武装はビーム砲にミサイル・・・かなり強力そうだけど、懐に入ればやれそうね)」

 

 声に出さず、頭の中で武装を観察すると、いつでも戦闘体勢に取れるよう警戒する。ブザーが鳴り響けば、バトルスーツは両肩のミサイルを一斉発射した。

 

「いきなり!?」

 

 一斉に発射されたミサイルを回避すべく、相手に近付こうとするが、相手はスラスターを噴かし、後退しながらビームを撃つ。相手からの射撃線を予想し、距離を縮める。

このまま飛び掛かろうとするが、相手は上に飛んで、一方的に撃とうとする。

そうはさせまいと、地面を蹴って空へ飛び、左足をレーザークローで引っ掻いた。足を高熱の爪で引っ掻かれたゼントラーディ人は余りの痛さに呻き声を上げ、地面に倒れ込こむ。

 

「ヤック!」

 

 高熱で焼き爛れた左足を押さえながら言語を叫び、怒りに我を任せてビームをライガー・ゼロへ向けて乱射した。

 発射されるビームを回避しつつ、背中のスラスターを噴かせて一気に接近し、巨人に覆い被さり、相手の胸元に右前足を突き刺す。

 

「グァ・・・あ・・・!」

 

バトルスーツの装甲を貫き、深く突き刺されたゼントラーディ人は、胸から上がってきた血を吐き出し、突き刺さった胸元から血を勢いよく吹き出しながら力尽きた。物の数秒で試合終了のブザーが鳴り響き、マリの勝利を宣言する実況が入る。

 

『ヴァセレート選手、勝利です!』

 

 観客の歓声が沸き上がる中、マリは決勝戦に備え、ライガー・ゼロをハンガーへと戻した。コクピットから出た後、暫しの休憩を知らせるアナウンスがなされたので、彼女は昼食を取るべく食堂へと向かう。選手用の食堂へ着くと、そこには決勝戦で相手であるガルナの姿があった。その男は奥の席へ座り、スプーンでスープを啜っている。

 そんな質素な食事を取るチャンプに目を配りつつ、カウンターに向かってハンバーグとザワークラウトの付け合わせと珈琲を注文すると、奥の席を監視できる席へと座り、食事を始めた。

 

「(あんなデカイ図体なのに、なんで食べる物は質素なのかしら?)」

 

 フォークでキャベツの煮物を口に運んでいると、ガルナは兜を取り、それを自分のテーブルの上に置いた。兜から見える彼の顔は傷だらけであり、かなりの激戦を潜り抜けてきた証拠であった。

 かなり厄介な敵と推定すれば、奥の席に座るガルナは食事を再開した。そしてスープを飲み終えた彼はカウンターに空の皿を戻し、次の試合に向けての準備か、食堂を後にする。

 マリも食事を終えれば、身体の汗を流すべく、浴室へと向かう。

 あのガルナと言う男と戦うこととなると、これが最後のシャワーと風呂なのかもしれない。そう脳裏に思い浮かべたマリは浴室に辿り着けば、脱衣所で作業服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となり、広い浴室へと入った。

闘技場の浴室はかなりの豪華さであり、闘技以外では上流階級の者達によって、使用されているようだ。

闘技場専属の娼婦達の姿もあり、彼女達もここでマリと同じく汗を流している。美しい髪と身体を持つ彼女が入ってくれば、知れずと視線がマリに集中した。

等の彼女は視線を気にせず、シャワーの蛇口を捻り、全身に熱いお湯を浴びて汗を流す。シャワーを浴び終えれば、石鹸を取って泡立たせ、それを自分の肌に付けて洗い始める。

自身の体を洗いつつ、マリは周りにいる娼婦達の裸体を見て、性欲を発散させようと思った。

 

「(後でお金払えば良いか・・・)」

 

 そう自分に言い聞かせつつ、自分の身体を洗い終えたマリは、一番性欲が貯まっていそうな娼婦を選ぶ。その彼女の後ろから接近し、自分の胸を直に背中へ押し付け、耳元に唇を近付けて性行為を強請る。

 

「ねぇ、後でお金払うからさ。私とセックスして」

 

 妖艶な笑みを浮かべ、肩に両手を添えて頼み込むが、娼婦は仕事以外の性行為はしたくないのか、断りの言葉を告げる。

 

「あんた、この私が金で誰でも金で売る女かと思っているのかい!」

 

 怒気に満ちた表情でマリを睨み付け、彼女の身体を振り払うと、苛々しながら浴槽へと向かった。娼婦に断られたマリは不貞腐れた表情を浮かべ、個室の浴槽へと向かう。

 

「なにさ、男共よりも高い料金と気持ちよくさせてあげるのに。私のこの触り心地の良い身体より、男の堅い筋肉と肉棒で中を掻き回される方が良いって言うの?」

 

 個室に入って髪を纏め、湯船に身体を沈めながらマリは不満を漏らした。

 自分で慰めようかと思ったが、自らの指で絶頂するのが嫌になり、決勝戦に備えるために、湯船から上がり、個室を出て浴室を出る。脱衣所で濡れた身体をタオルで拭き終えれば、作業服に身を包み、ハンガーへと足を運ぶ。

 滑り止めのために指抜きグローブを両手に填め、ハンガーに着けばライガー・ゼロの元へ真っ先に向かい、コクピットへ乗り込んだ。

 ステージに出れば、決勝戦の相手であるガルナが乗り込むガンダムの姿があった。身を守るのは盾が一つに、武装はビームライフルとビームサーベルが二本、頭部60口径バルカン砲が二門と随分とシンプルであるが、軽くて丈夫なガンダリュウム合金の装甲と高い機動力を有している。

 

「今までの奴とは段違いね」

 

 機体から漂ってくるオーラに、マリは緊張する。今の彼女の脳内には「本当に勝てるのか?」と言う思考が支配しており、操縦桿を握る両手が震える。

 実況が観客を盛り上げる中、彼女は試合開始のブザーが鳴り響くまでに幾つかの作戦を脳内で立て、如何にして自分が無傷で勝利することだけを摸作した。脳をフル回転させ、ライオンが武器を持った人を効率よく殺す戦術を思い浮かび、その戦術で行くことに決める。

考えが纏まったと同時に、タイミング良く試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

『決勝戦、開始ぃ!!』

 

 予想通り、相手はビームライフルを撃ち込んできた。戦艦に匹敵するほどのビームが連続して発射されるが、彼女は射線を予想し、回避しながら二連装ショックキャノンを撃ち込んで反撃を行う。盾で防がれたが、これはマリの予想の範囲であり、動きを止めるための攻撃であった。

 一気に接近して、レーザークローで切り裂こうとしたが、頭部から放たれたバルカン砲を受けた。衝撃で攻撃がずれてしまい、空中で浮遊している間に腹を大きく蹴られ、吹っ飛ばされる。

 

「キャッ!」

 

 蹴りの衝撃でマリは声を上げる。ライガー・ゼロが壁に叩き付けられ、地面に倒れ込む。ガルナは動けない相手に対して、無情にもビームライフルの銃口を向け、トリガーを引いた。だが、地面を蹴ってビームを間一髪で回避し、再びショックキャノンをガンダムに浴びせる。

 流石に同じ手は食らわないのか、相手も移動しながらビームを撃ってきた。彼女も負けじとショックキャノンを撃ち込むが、機体を正面に向けねば操縦は合わせられず、自分が一方的に撃たれる羽目になる。

 

「いい気になって!」

 

 側面からビームライフルを撃ってくるガンダムを横目に、マリは相手のビームライフルが切れるまで撃たせることにしたが、相手はその彼女の考えを予想したのか、余りビームを撃ってこなくなった。

 寧ろビームライフルの残弾を余す為なのか、ガンダムから接近してきた。

 

「嘘っ!?」

 

 接近しながらビームを撃ってくる相手にマリは驚き、後退してしまう。ガンダムはライフルを腰に装着し、バックパックのビームサーベルを抜いて向かってくる。

 

「そっちがその気なら!」

 

これを倒せる好機と見たマリはビームサーベルを持ちながら来るガンダムに立ち向かい、自ら飛び掛かった。だが、ガンダムはビームサーベルを振らず、盾をライガー・ゼロに当てて吹き飛ばした。

吹き飛ばされたライガー・ゼロは地面に倒れ込み、乗っているマリは頭を天上へぶつけてしまう。

 

「キャン!」

 

 頭を強く撃ったマリは軽い脳震盪を起こして頭を抱えた。

マリが頭を抱える間にも、ガンダムがビームサーベルを振り下ろそうと、倒れ込んだライガー・ゼロへと向かってくる。頭部から出血する血を引き払い、操縦桿を素早く動かして、振り下ろされたサーベルを回避する。

 地面が高熱のビームで焼かれ、焼き焦がれる中、マリは即座に飛び掛かり、反応が遅れたガンダムにクローで斬り掛かる。相手の反応は早く、直ぐにシールドでガードされ、表面に大きな引っ掻き傷が出来るだけになってしまう。

 ガルナも直ぐに反撃に移り、ビームサーベルで斬り掛かってくる。それを回避してクローを振るも、盾で防がれてしまうだけだ。

 

『おーと!一進一退の攻防が続いているぞ!!チャンプと互角だ!!』

 

 実況が告げたとおり、それは一進一退の攻防であった。

 この戦いは、鋭い牙と爪を持つライオンと剣と盾を持つ戦士が戦っているように見える。もう一つ例えるならば、古代ローマ帝国のコロッセオで剣闘士と猛獣が死闘を演じているかのようにも見えるのだが、その役目は槍を持つ闘獣士が務める。

 膠着状態が続く中、遂にガンダムのシールドが使い物にならなくなってきた。

身を守る物はガンダムの装甲のみとなったが、ライガー・ゼロのレーザークローとファングは防げる物ではない。あっと言う間に高熱で溶かされ、その勢いで高熱の牙と爪で噛み千切られるか、引き裂かれるだけだ。

一定の距離まで地面を蹴って下がった後、使い物にならなくなった盾をマリのライガー・ゼロへ投げ付ける。案の定、避けられてしまうが、少しは前進を阻むことは出来た。

サーベルをバックパックに戻してライフルを抜き、出し惜しみをせず、弾切れまで撃ち続けた。全弾は回避されてしまい、噛み付かれる寸前まで近付かれるが、バルカン砲で牽制して相手を下がらせた。

 

「ちょこまかと!」

 

 バルカン砲を何発か受けたライガー・ゼロだが、全て弾かれている様だった。マリは早期に決着を付けるべく、操縦桿を動かし、サーベルを抜いて待ち構えるガンダムに飛び掛かる。

 これを待っていたのか、ガルナは飛び掛かってきたライガー・ゼロを空いている左手で抑え付け、サーベルを突き刺そうとしたが、クローでコクピット付近を切り裂かれ、自信は焼かれずには済むが、自分の姿がマリに見えるほどになる。

 

「やるな・・・!」

 

 彼女のライガー・ゼロから離れた後、寡黙のガルナがようやく口を開いた。

 引き裂かれて出来た穴から見える白いライオン型のゾイドを見たガルナは、遂に自分を倒す者が現れたことを察し始める。

 

「(ここで長くやってきたが、まさか俺を倒す者が現れるとはな。そろそろ運が尽きる頃か)」

 

 ガルナはショックキャノンを避けながら、マリに討ち取られる覚悟を取る。向かってくるライガー・ゼロに対し、ビームサーベルを構えながら身構え、飛び掛かってきたところを横にサーベルを振って、両前足の装甲を斬り取る。

着地した途端に次が振り翳される前に、体当たりを食らわし、ガンダムを吹き飛ばした。

起き上がる前に直ぐに覆い被さり、両足をクローで切り裂き、後ろ足で地面を大きく蹴り、両腕の付け根に向けて高熱の爪を振り翳し、武器を持っている右手諸共両手を切り裂いた。

ダルマ同然となったガンダムにトドメを刺そうと、クローを振り翳したマリであったが、爪を突き立てたのはコクピットではなく、象徴であるV字型アンテナと人間の目を模した複眼センサーカメラ、マスクと尖った顎を持つ頭部であった。

吹き飛ばされた頭部がステージに転がる中、試合終了のブザーが鳴り響き、トドメを刺さなかったマリに対しての観客達からのブーイングが巻き起こる。

 

「おい!なんで殺さないんだ!?」

 

「良いからトドメを刺せぇ!」

 

「こっちは高い金を払ってんだぞぉ!!」

 

 観客達からの罵声の後には、マリのライガー・ゼロに向けてありとあらゆる物が観客席から投げ込まれる。どれもこれもがたまたまそこにあった物で、何の影響もない。実況が観客達を宥めようとする。

 

『皆様、落ち着いてください!優勝者に対して物を投げ付けるのはお止め下さい!!お願いします!!』

 

 実況のこうした努力は通じず、観客達は罵声も物を投げ付けるのも止めなかった。遂に強硬手段に出たのか、銃を持った係員が現れ、天上へ向けて銃を撃って観客達を黙らせた。

 

『静粛にお願いします!では、優勝者に優勝賞品を!!』

 

 銃声で静まった観客達を確認した実況は係員達に、優勝者であるマリに優勝賞品の授与を命じた。優勝賞品の準備が行われる中、マリはコクピットから出て、ダルマ同然となったガンダムからガルナを見る。

 

「どうして、俺を殺さなかった?」

 

 コクピットから自力で出て来たガルナは、マリにどうしてトドメを刺さなかったのかを問う。彼女は何も答えず、ただ黙って優勝賞品が来るのを待っていた。そんなマリの態度を鼻で笑うと、ガンダムから降りて皮肉を漏らす。

 

「フッ、ただの気紛れか・・・これから再就職を考えないとな」

 

 ガルナはそう言った後、煙草のケースを取り出して一服した。そんな彼を放っておき、マリは優勝賞品を待った。

暫く待っていると、ようやくの優勝賞品が運ばれてきた。それを受け取ろうと、爆音が外から聞こえた。それから数秒後、この闘技場に何かが当たった爆破音が響き、天上が崩れた。

 

「なに・・・!?」

 

 観客達が逃げ惑い、声を上げる中、マリは聞こえてくる爆音の方へ視線を向けると、自分が所属しているワルキューレのマークを両翼に付けたVF-11Cサンダーボルトが闘技場に落ちてきた。




次回は、ザシャのレジプロ戦闘機航空大会です。


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トーナメント ザシャ編

中村悠一ボイスのキャラ「人呼んで、中村スペシャル!!」

イメージ戦闘BGMhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm3657029?ref=search_tag_video
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 マリが闘技場にてバトルロワイヤルを行っている頃、レジプロ航空戦大会Aグループ第一回戦は、エメラルドグリーンの長髪の女性パイロットの勝利で終了していた。試合時間は僅か三十秒。余りの早い勝利に、参加したザシャ達は呆然とする。

 

「あ、あいつは・・・!」

 

 ザシャ達は女パイロットの情報を得るべく、他の参加者達の声に耳を傾ける。

 

「あぁ、主要都市の航空大会にまで現れる”大会荒らしのニコラ”だ!」

 

「あいつ、噂じゃそこらのパイロットじゃ相手にならないからって、軍の航空隊にも手を出したらしいぜ。それに連邦軍の駐屯部隊に喧嘩吹っ掛けて、全機撃ち落としたらしい。とんでもない賞金首だぜ」

 

 他の参加者達が口々に言っていると、柿崎がザシャに近付き、着陸したBF109Kから降りてくるその大会荒らしのニコラを見て、聞こえないよう告げ口する。

 

「幾ら選手が弱いからって、軍隊の基地まで襲うなんて。物凄くヤバイ女であることは確かですね・・・」

 

「う、うん・・・主脚の脆いメーサーシュミットで着陸をするなんて、凄い人だと思うよ?」

 

「そんなもんですかね・・・」

 

 近付いてきた柿崎に、ザシャはそう答えた。

地に足を付けた大会荒らしのニコラの外見は腰まで届くエメラルドグリーンの長髪に雪のように白い肌、グレーの瞳を持ち、身長180㎝とかなりの長身である。手足も長く、体型は飛行服を着ていて分からないが、想像する限りでは、戦う女とは思えないほどのかなりの美貌を持つとされる。

試合を見に来た選手達に指差し、挑戦する者が居るかどうかを問う。

 

「今度こそ私に敵う者は居ないのか?!」

 

 自分と対等の相手を求めるニコラに他の選手達は後退り、恐れ戦いた。そんな女エースにレイは堂々と名乗り出て、その挑戦を受ける。

 

「この私があんたを墜としてやるわ!」

 

 前に出て来た少女を見て、ニコラは軽んじた目をしながら告げた。

 

「ほぅ、小娘が私の相手か。面白い、私が教義してやる」

 

「教義ですって!?子供扱いして!もう許さないんだから!!」

 

 子供扱いされて怒りを露わにしたレイは、ニコラに掴み掛かろうとしたが、晃に止められた。係員が次の試合を始めると告げ、一同は控え室まで下がる。第二回戦の始まりと聞けば、あの美女のような顔付きの少年が用意された自分の機体の元へ走った。

 そんな少年に、観客席から一際目立つ大人びた金髪の少女が声援を送る。

 

『アルト!絶対に優勝するのよ!!』

 

その声援に、少年は嫌な顔をしながら自分の機体である旧日本海軍の局地戦闘機「紫電」改に乗り込んだ。

並行して行われていたB~Dの一回戦が終了し、勝利したパイロット達が戻ってきた。その戻ってきた選手達の中にあの金髪の顔が綺麗に整った青年が居た。彼以外の出場選手が、三十秒で終わったAグループ第一回戦の事を他の出場選手達に聞く。

 

「おい、Aグループの第一試合の第一回戦が三十秒で終わったそうじゃねぇか。一体どういう事なんだ?」

 

「あそこに居る緑色の髪の女だ」

 

「あの女か・・・この大会もニコラの独壇場になっちまうな」

 

「ケッ、誰かあの女をどうにかしてくれねぇもんかなぁ」

 

 軽蔑の目でニコラを見ながら勝ち抜いた選手達は、態と聞こえるように嫌味を漏らす。

 暫くして各グループの第二回戦が終了し、二回戦を勝ち抜いた選手達が控え室へ入ってくる。その中には、先のアルトと呼ばれた少年の姿もあった。

数分後、第三回戦の知らせが入る。第三回戦には、Aグループの晃とBグループのレイが出場する。ザシャは二人に応援の声を届けた。

 

「二人とも頑張ってね」

 

「うん。あの女の人と戦うことになると、勝つ気がしないけど、出来るだけやってみるよ」

 

「その時は任せておきなさい。私があの女を墜としてやるわ!」

 

 余りやる気のしない晃に、レイは自信満々でニコラを墜とす気でいた。ザシャはそんな二人を送り出し、第三回戦の終了まで待つ。ちなみに、晃が乗る機体は中島四式戦闘機「疾風」で、レイが乗る機体はスーパーマリンスピットファイアMk17だ。

 数十分後、試合終了のブザーが鳴り響き、トーナメント表に視線を向ける。晃とレイは第一試合を勝ち抜いたようだ。それを確認して安心すると、ザシャは次に始まる自分の出番である第四回戦に参加するため、Fw190D型の元へと向かう。

 向かっている最中、レイが応援の言葉を送ってくる。

 

「絶対に勝ってね!お姉ちゃん!」

 

 少女の言葉にザシャは無言で頷き、親指を上げて「OK」のジェスチャーで答えた。フォッケウルフFw190D型のコクピットに乗り込み、キャノピーを閉めると、エンジンを掛ける。

 通常、当時のレシプロ戦闘機のエンジンを掛ける際、変速機にクラッチを差し込み、回して始動させる物だが、新しいエンジンに代行してレストアした所為か、それが必要なくなっている。早い話、中身が別物と言うことだ。

 滑走路で十分な速度まで走ると、操縦桿を上へと向け、機体を飛び立たせる。十分な高度まで達すれば、主脚を仕舞い、戦闘空域へと向かった。

 ザシャの相手は、予選シミュレーションを零式艦上戦闘機で勝利した融通が利きそうもない男だ。詳しく乗っている型は、五二甲型という20㎜二号機銃四型を搭載したタイプである。それに乗り込む男は無線で宣戦布告を行ってくる。

 

『ヒヨコみたいな奴目、俺の零戦で撃墜してくれるわ!』

 

 旋回しながら宣戦布告を行う男に、ザシャは若干の呆れを感じつつ、戦闘開始の合図を待った。数秒後に合図である赤の信号弾が放たれ、自分の見える高さまで上がる。

 開始と同時に男が乗る零戦が向かってきた。無線を掛けっぱなしにしているのか、男の独り言が無線機から聞こえてくる。

 

『一撃離脱戦法だッ!直ぐに終わらせてやる!!』

 

 これから行う戦法が丸気声であったので、直ぐに対策が出来た。

 機銃を撃ちながら接近してくる零戦に対し、ザシャは射線から避け、零戦の後ろを取り、斜め上から機銃を浴びせる。瞬く間に零式艦上戦闘機の後部に赤いペイント弾が命中、試合終了の合図である緑の信号弾が上がった。

 

『チクショォォォ!!』

 

 自分が先にやられてしまったので、男は悔しさの余り叫んだ。その声はザシャの無線機にも届いており、余りの煩さに顔を歪めてしまう。

 主脚を出して着陸態勢を取り、滑走路へ着陸する。機体が完全に止まったのを確認すると、キャノピーを開けて機体から飛び降り、後のことを整備員達に任せ、控え室へと向かった。

 控え室に着けば、スポーツドリンクを買い、椅子にどっぷり腰を下ろしてそれを飲む。ある程度口を離さずに飲めば口から離し、手にぶら下げながら飛行帽を剥ぎ取り、長い金髪を解放させた。

 

「疲れた・・・」

 

 天井を見ながら一言呟く。暫くすると、ザシャの顔見知り達が控え室に入ってきた。

 

「お疲れ様です、中尉殿。いや~、20㎜が付いた零戦をあっと言う間に撃墜するなんて、凄いですよ!もう勝てる気がしませんよ。フハハハ!」

 

 入って来るなり、柿崎は口を開き、高笑いする。次に晃が棄権しようかと考える。

 

「もう勝てる気がしないな。棄権しようかな?」

 

「そんなことはないよ。勝負は時の運だから・・・多分、勝てると思うよ?」

 

 無表情で弱気な発言をする晃に、ザシャがそう告げると、自信が湧いたレイが発言する。

 

「それじゃあ、私も勝てるって事でしょ?決勝戦で待ってるわ。それまで負けないでよね!」

 

「あっ、うん。負けないよ」

 

 自分との対決を楽しみにするレイに対し、ザシャは無理に笑顔を作って約束した。

 次の試合に備え、トーナメント表に目を向けると、次なる対戦相手が柿崎であることが分かった。

 

「えぇ!中尉殿と!?こいつは参った、中尉殿と当たるなんて」

 

「運がなかったね。まぁ、私のために頑張ってやられてなさいな」

 

「酷いなぁ。そんなんじゃ、彼氏の一人も出来ないっての」

 

「煩い!」

 

 ザシャと当たって確実に負けると思った柿崎に、レイは茶化した言葉を掛けた。それから口論となるが、これに関しては特に注目することなど一切無い。

 各グループの第二試合第一回戦が開始されるので、出番の選手は即座に滑走路へと走る。

 十六人に減った選手達が八人に減ろうとしている。それぞれの搭乗機がエンジンを呻らし、空へと飛び立っていく中、試合開始の合図である赤の信号弾が放たれれば、第二試合の第一回戦が開始された。

 出場選手用観覧席にむかい、ザシャはそれぞれのグループで行われている一対一の空戦を行く末を見た。

 試合は十数分以上も続く物もあれば、僅か秒単位で終わる物もある。

全八戦が終了すれば、試合を終えた機体は滑走路へと戻り、勝利者だけが控え室へと戻る。

次なる試合に備えるべく、ザシャは滑走路へと向かう。自分のFw190D型のコクピットへ乗り込み、エンジンを作動させると、滑走路から飛び立ち、試合空域へと機体を飛ばした。

相手は同じ組織と大隊に属する一応ながらの戦友の柿崎だ。搭乗機体は大日本帝国陸軍の一式戦闘機「隼」一型乙。

 

「柿崎君のは名前からして日本軍機か・・・」

 

ザシャは柿崎が乗る戦闘機が、先程の対戦相手の乗っていた零戦と同じ日本軍機であることに呟く。隼は大戦初期に大きく戦果を上げた戦闘機であり、それに搭乗するパイロットはあのような性格でありながらも、優秀な若いパイロット達が撃墜数を競い合う競合部隊に所属していることから、かなりの実力を持っている。

油断せぬようにと自分に言い聞かせ、試合開始の合図である赤の信号弾が上がるのを確認すると、柿崎が乗る隼に向かった。

 

「格闘戦なら得意だ!相手が中尉殿でも負けるかよ!やったるで!」

 

 ザシャのフォッケウルフを見るなり、柿崎は得意の格闘戦に持ち込もうと、後ろを取ろうとした。機銃を浴びせて前に逃げるように誘導しようとするが、彼女はその手には乗らなかった。

 横に機体を向けて照準から避け、相手に照準を絞らせないようにジグザグに動く。

 

「この、このっ!」

 

照準に敵機が合わさった瞬間に引き金を引くが、一発も当たることはない。

ジグザグに動き、相手の弾丸を避けつつ、操縦桿を引いて上空へと上がる。急降下攻撃で仕留めようというのだ。

 

「上か!?」

 

 直ぐに操縦桿を引いて上へと行こうとしたが、時既に遅く。照準に柿崎の隼が捉えられれば、引き金が引かれ、ペイント弾が銃口から発射された。

 機体に赤いペイント弾が当てられ、撃墜扱いとなり、試合終了の合図である緑の信号弾が上がった。

 柿崎に勝利したザシャは一息つき、機体と共に地上へと戻った。

 

「やっぱり勝てる訳がないか・・・まぁ、あの人は天才だからな」

 

 先行して滑走路へ着陸するザシャ機を見て柿崎は二言呟き、その後へ続いた。

 滑走路に着陸すれば、柿崎の元に係員が来て、彼を敗退者用の部屋へと案内する。勝利したザシャは、控え室へと足を進める。

 次なる対戦相手を確認すべく、トーナメント表を確認する。

 

「あの”女の人”が乗る紫電改か・・・」

 

 彼女はアルトのことを女性と間違えている。容姿がとても女性のようであることで仕方がないのだが。

 アルトが乗る紫電改は13㎜機銃を四丁追加搭載した三一型だ。局地戦闘機「紫電」の欠点を改良した高性能機である。

 ザシャが乗るFw190D型とは訳が違う。それに乗るアルトと言う少年は慣れている相手に二回戦も勝ち抜いていることからかなりの実力の持ち主だ。相手が高性能機に乗っているとすれば、勝率は五分五分と言うところだろう。

 少しの休憩の後、彼女は滑走路へと向かい、自分の機体に乗り込む。キャノピーを閉めると、丁度隣にアルトが乗る紫電改があった。

 視線を紫電改のコクピットに向けると、ゴーグルを付けるアルトの姿が見える。互いの機体がエンジンを呻らせれば、視線を前に戻し、機体を滑走路へ向け、十分な速度まで達すると、機体を空へ飛ばさせた。

 

「レシプロ機をあれだけ使える奴が二人もいるなんてな・・・しかもそれが相手とは・・・最悪だぜ」

 

 紫電改のコクピット内で、アルトはレシプロ機に慣れているザシャ相手に緊張する。二回戦も勝ち抜いたのは、相手が舐めていたからであり、その油断に付け込んで勝利しただけだ。慎重敵に挑むザシャが相手では勝てる気がしない。

 試合空域へ行き、試合開始の合図を待っていると、アルトにとって聞き慣れた言葉がキャノピー越しから聞こえた。

 

『あたしの歌を聴け!』

 

「えっ、なに?」

 

 この声はザシャにも聞こえていたらしく、緊張感が途切れてしまう。

 正体は一回戦にアルトに声援を送った金髪の少女だ。隣にラジオカセットレコーダーを置き、再生ボタンを押す。

周りがざわつく中、大人びた少女は聞こえてくる音楽にリズムを合わせ、マイクを握り、歌い始めた。その歌は無線からも聞こえてくる。

 

「なに、この歌・・・!?」

 

 無線機から聞こえてくる歌に、ザシャはやや困惑し、アルトは頭を抱えていた。係員達が歌う彼女の元へ向かう中、試合開始の合図である赤の信号弾は上げられる。

 

「こんな状態でも試合開始かよ!」

 

「へっ?えぇ!?」

 

 ザシャの混乱状態を解けないまま試合は開始され、二機の単発式レシプロ戦闘機は戦闘行動を開始した。機銃を撃ちながら互いに接近するが、両者共の弾は一発も当たらない。互いに通り過ぎ、次の攻撃へと移ろうとする。

 

「クソッ、ビビって照準が合わない!」

 

 そう言いながら、アルトは紫電改をザシャのフォッケウルフへ向けようとした。

 だが、アルトよりも先にザシャが攻撃を仕掛けてくる。

 

「うわっ!こいつ、空の飛び方を知ってやがる!!」

 

 攻撃を避けつつ、ザシャが”空の飛び方”を知っていることを言う。彼女もアルトがかなりの腕前を持つ事が分かった。

 

「あの女の人・・・出来る・・・!」

 

 相変わらずアルトのことを女性と勘違いしているが、そのエメラルドグリーンの瞳は戦闘に集中している物だ。ザシャの攻撃でアルトは逃げ回ることしか出来ないでいる。

 反撃を試みようとするアルトだが、ザシャは容赦なしに機銃を浴びせ、反撃させないようにする。

 

「(残弾考えなきゃ)」

 

しかし、機銃を撃ち続けていれば、いずれ弾が切れてしまう。その事を頭に入れていたザシャはトリガーから指を離し、確実に撃破できるまで撃たないように心懸けた。

 

「機銃を撃ってこない?確実に撃ち落とそうとしているからか」

 

 相手の考えが分かったアルトは、操縦桿を動かしながら、反撃の隙を見つけ出そうとする。

 

「(相手はロイ・フォッカー、いや、シミュレーターで戦ったエーリッヒ・ハルトマンやイサム・ダイソン以上だ!隙を見せれば一瞬でやれそうだ。どうにかして格闘戦に持ち込まないと!)」

 

 そうアルトが考えていると、ザシャは照準器に彼の紫電改を捉えた。

 

「これで・・・!」

 

 自分の勝利に持ち込もうとトリガーを引くザシャであったが、アルトは変則的な機動を取りながら回避する。

 

「バルキリーなら確実に勝てるだがな!」

 

 操縦桿を動かしながらアルトはバルキリーなら勝てると言うが、ザシャもバルキリー、可変戦闘機に乗っており、才能の差が出てしまうだろう。彼は相手もバルキリー乗りであることに気付かず、機体を回転させて反撃に移った。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

 照準器にザシャのFw190D型を捉えれば、叫びながらトリガーを引き、機銃を撃ち続ける。並のパイロットなら当たっている所だが、ザシャの操縦技術は常人を卓越しており、最初の一発目が目の前で逸れたのを見て、全弾回避することが出来た。これに驚いたアルトは撃ちながら声を上げる。

 

「化け物かよ・・・!?」

 

彼がトリガーから指を離した後には、ザシャは紫電改の後ろに付き、照準をあらぬ方向に合わせ、方向に合わせ、機銃の引き金を引いた。不思議にも、発射されたペイント弾はアルトが逃げた先に飛んでいき、吸い込まれるように命中し、胴体を赤く染めた。

この攻撃方法はアフリカの星と呼ばれたドイツ空軍のエースパイロット、ハンス・ヨアヒム・マルセイユが行った「見切り」と「先読み」の敵の行く先を予想し、そこに機銃を撃ち込む。所謂「未来予測射撃」と言う奴だ。

彼女はマルセイユが相手の仮想戦闘シミュレーターを経験しており、何度も撃墜された経験がある。

 

「なっ!?」

 

 当てられたことに気付いたアルトは驚きの声を上げ、ザシャのFw190D型へ視線を向ける。

どうやら、当てられたことが信じられなかったようだ。試合終了の合図が上がる頃には、丁度歌が終わった頃だった。

 双方はナビゲートに従い、着陸態勢を取って滑走路へと戻っていく。滑走路へと着陸すると、コクピットから降りて控え室へと向かうが、アルトに声を掛けられる。

 

「あんた、凄いパイロットだな。俺なんて足下にも及ばない・・・」

 

「えっ、男!?」

 

 声を掛けられたザシャは振り返り、別の意味で驚きの声を上げた。当の声を掛けた本人であるアルトはこれに激怒する。

 

「俺は女じゃない!男だ!」

 

「てっきり、女の人だと・・・ご、ごめんなさい!」

 

「なんでこういつも間違われるか・・・さっきのが台無しじゃねぇか・・・!」

 

 必死に謝罪するザシャに、アルトはいつも女と間違われることに頭を抱えた。

 そんな彼と別れ、控え室へと戻ると、次の対戦相手である金髪の男性が待ち構えていたのか、ザシャが入って来るなり声を掛けてきた。

 

「先程の君の動き、試合中から眺めさせて貰った。まさかあのアルト君を倒すとはな」

 

「はっ?」

 

 見知らぬ男に声を掛けられた為か、ザシャは反応に困る。

 男は気にせず続け、自己紹介を始めた。

 

「失礼した、私はグラハム・エーカー。全ての世界を救うため、死の世界から神に呼び起こされ、蘇らされた哀れなパイロットだ」

 

「蘇った・・・?」

 

「以下にも。ここに来た理由はとある女性を訪ねる為に来たが。この大会に出場していると予想し、私情を挟みつつ出場した物の、アテが外れたようだ」

 

 グラハム・エーカーと名乗る男はザシャを見て、何かしらの期待を抱き、ニヤリと笑みを浮かべた。何を考えているか分からない男に対し、彼女は一歩引き下がる。

 

「そんなに警戒しなくても、私は君を口説く為に待っていたわけではないさ。次の試合、よろしく頼む」

 

 手を差し伸べ、握手を求めるグラハムであったが、ザシャは手を出さなかった。

 

「ん?おっと、これは失礼。少し女性との付き合いがない物でね。いつものように接してしまった。すまない」

 

 謝罪するグラハムに、ザシャは終始警戒したままだった。

 

「先程の試合で疲れているところだろう。次の試合まで休むと良い」

 

「あっ、ありがとうございます・・・」

 

 何一つ答えないザシャに、グラハムはスポーツドリンクを投げ、それを彼女は受け取り、礼を言った。

 

「それでは、私は機体で待っている」

 

グラハムが控え室から立ち去ると、ザシャはドリンクを口に含み、トーナメント表に目を通した。

 

「晃君が、負けてる・・・!?」

 

 あれ程の操縦技量を持つ晃が負けたことに驚きを隠せない。彼を倒したニコラの次の相手はレイだ。彼女の実力は見ていないが、予選を突破した程なので、かなりの技量を持っているだろう。

 そんなレイを心配しつつ、ザシャは自分の対戦相手を見た。

 

「あの人だ・・・」

 

 先程自分の顔を見に来たグラハム・エーカーであった。三回戦を終えても、あれ程の余裕を持っている事から、かなりの強敵だろう。ドリンクを口に含みつつ、次の試合開始まで休息を取った。

 暫く時間が経つと、ザシャの姿は空を飛ぶFw190D型のコクピットの中にあった。

 空戦空域へ向かっている最中、グラハムの声が無線機から聞こえてくる。

 

『試合の前に聞きたいことがある。我々ZEUSに入る気はないか?』

 

 この無線機からの問いに、ザシャは少しばかり無言になったが、暫しして断りの返答を出した。

 

「入りません。私はワルキューレの競合師団の所属です。寝返る気はありません」

 

『フッ、予想通りの返答だ。元より君を陣営に入れるつもりはない。どんなパイロットなのか戦いたくなった』

 

「それが理由ですか。好戦的な性格ですね」

 

『全くその通りだとも、私は戦うことしか能がない男だ。現に私は君と戦えることに最大の喜びを得ている!さぁ、始めようか!』

 

 彼がそう言えば、試合開始の合図である緑の信号弾が上がるのが見えた。開始直前からグラハムのP-51Dムスタング戦闘機が自分の元へ向かってきた。

 一気に射程距離まで接近すれば、六門もの12.7㎜重機関銃が火を噴いた。

 ザシャはこれを回避し、一撃離脱戦法を取って通り過ぎるグラハムのP-51を追う。未来予測射撃で当てようと試みるが、相手は不規則に動いて軌道が読めず、照準が定まらなかった。

 

「この動き、ベテランパイロットの比じゃない・・・!」

 

 グラハムの動きを見たザシャは、予想していた歴戦のパイロットとは異なる強さを持つパイロットと判断した。機銃を何発か疎らに撃って動きを牽制すれば、上から急襲を図ろうと、その隙に機体を上昇させたが、相手はそれを読んでいたのか、無茶に操縦桿を上に引いて機体を上昇させた。

 

「甘い!」

 

 無理に上昇させて身体に負担が掛かってしまったが、グラハムはそれを超えるほどのG(高速で動くと感じる圧力)を感じているので、どうと言うことはない。上から強襲を掛けようとするザシャ機に向けて機銃を撃った。

 

「嘘!?」

 

 真下から来る敵に驚いた彼女は、直ぐに飛んでくる数発ほどの銃弾を回避する。後ろに付かれてしまい、生殺与奪の権利をグラハムに取られてしまう。

 

「これで生殺与奪の権利は私の物になった。しかしこれは競技であり、”実戦”ではないがな」

 

 背中を見せるザシャのFw190D型に対し、グラハムは照準を敵機に合わせ、トリガーを引いた。四門からの銃口から銃弾が放たれ、ザシャ機に向けて放たれるが、彼女は横に回避してそれを避ける。

 中々当たらないが、彼女は後ろから飛んでくる機銃を避け続けるしかないので、追い詰めていることだけは確かである。

 これを退場選手用の観戦室のモニターから見ていた敗れた者達は、あのザシャが追い詰められていることに驚いていた。

 

「ど、どういう事だよ!あの天才女傑パイロットの中尉殿が変な奴に追い詰められてるぞ!」

 

 第一声を放ったのは、ザシャに二回戦で敗れた柿崎であった。自分が手も足も出なかったザシャをこれ程までに追い詰めている者が居たことに驚きを隠せないでいた。

 モニターに映るザシャとグラハムの戦いでは、次の策に出ようとするザシャ機を封じるグラハム機が流れている。後ろを取られている彼女は、機銃の照準に捕らわれないよう不規則に動いているだけだ。

 

「あのパイロット、尋常じゃないね」

 

「その通りだ。あいつは普通じゃない」

 

 晃がそう口にすれば、彼と同じZEUSの一員であるアルトがそれに同意する。

 

「前に模擬戦をしたとき、あいつに手も足も出なかった・・・あいつは空を物にしている・・・!」

 

「な、何を言うとるんだお前は・・・!?」

 

 あるとの言った意味を、イマイチ理解できないザシャに一回戦で負けた男が言うと、モニターの映像では、彼女がようやく反撃に移る様子が映し出されていた。

 ブレイクと呼ばれる急旋回でグラハムの後ろを取り、機銃を浴びせようとした。

 

「そうはさせんよ!」

 

 後ろから来る攻撃を回避しようと、グラハムはフラップを下ろし、通常ではあり得ない回避行動を取った。それはエンジンカットと呼ばれる飛行中にエンジンを停止すると言う自殺同然の物だ。特にレシプロ機でやれば、気圧や風速で冷え切ったエンジンは、余程運が良い限り再始動しない。

通常のレシプロ機でやれば、エンジンが再始動しなければ何処かに激突して確実に御陀仏だが、この未来の科学力で外面だけは似せられている競技用レシプロ戦闘機なら、直ぐにエンジンが再始動できる。

プロペラが動かなくなり、空を飛んでいる物体と化したP-51ムスタングがぶつかってくるのが見え、これに驚いたザシャはトリガーを引くのを止め、操縦桿を横に引いて回避する。

 

「えっ!?きゃぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げながらも、間一髪回避することに成功したザシャであったが、エンジンを再始動したグラハムのP-51に後ろを取られてしまう。

 

「後ろに!?」

 

 キャノピー越しから復帰したP-51を見たザシャは操縦桿を必死に動かし、敵機の機銃攻撃を回避した。操縦桿を動かす彼女の額には汗が浸り、息も荒くなる。グラハムの予想もつかない行動の連続に体力を消耗させ、疲労感も増している。

 それに今までにない相手をしているところもあって、グラハムに対しての恐怖も感じ始めた。その証拠に操縦桿を握る手も震え、機体が水平飛行を保てず、ゆらゆらと揺れていた。

 このザシャの有様を見ていたグラハムは、無線機で相手の機体にコンタクトを取り、落ち着くように告げる。

 

『落ち着け。パニックに陥れば、死ぬぞ』

 

「なんです・・・?私が落ち着こうとする間に撃つつもりですか?」

 

『生憎だが、私はそのような姑息な手を嫌う主義でな。パニックに陥った相手を実戦以外に墜とすつもりはない。それにこれは競技だ、死ぬ確率は格段に低い』

 

 グラハムの言葉に、ザシャは落ち着きを取り戻した。

 

「(そうだ、死ぬことはないんだ・・・)」

 

 平常心を取り戻して吹っ切れたザシャは急旋回を行い、グラハムの視界から逃れた。

 

「フッ、その息だ!」

 

 動きが良くなったザシャのフォッケウルフを見て、グラハムは期待に胸を躍らせた。

 直ぐにザシャ機の追跡を始め、視界に捉えれば、照準器に収めようと接近する。だが、ザシャは下に逃れ、照準から外れる。それを執念深く追い回す。

 

「(あの人はエースを超える人だ。このまま普通にやり合ってたら、確実にやられちゃう。それに疲れてきたし・・・どうやって早く倒そうか・・・)」

 

 追ってくるグラハムのムスタングを見ながら、ザシャはグラハムを早期に倒す方法を考えていた。また脳をフル回転させ、あらゆる策を摸作していると、空軍士官学校の競技を思い出した。

 それは急減速のやり方であった。フラップを下げて急減速し、敵機の後ろに付く戦法だ。

 先程のグラハムのやったエンジンを停止し、敵機を驚かせ、敵機の後ろに付けば、そのまた掛かる可能性の低いエンジンを始動させる危険極まりないやり方とは比較的安全な方法だ。

 

「よし!」

 

 下がる方向に敵機が居ないことを確認したザシャは、直ぐにそれを実行した。高揚力装置を操作し、多くのプロペラ推進の飛行機で採用されている後緑フラップを下げ、急減速を行った。

 

「中々やるな!」

 

 フラップが下がるのを見逃さなかったグラハムは、後ろに付いたザシャのFw190D型を見て笑みを浮かべる。敵が機銃から回避出来るに距離を取る前に、ザシャは直ぐに引き金を引いた。

 

「しまった!?」

 

 機銃が必ず命中する10mから離れようとした瞬間、視界にペイント弾が飛んでくるのが見えた。既に回避不可能であり、弾はグラハムのP-51に吸い込まれるように命中し、胴体を赤く染め上げる。

 

「不覚を取られたか・・・私もまだまだだな」

 

 潔く負けを認めたグラハムは、試合終了の合図である緑の信号弾が上がるのを確認した。

 ザシャもそれを確認すると、グラハム機と共に滑走路へと戻っていく。

 滑走路へ着陸し、コクピットから降りた彼女の体力は既に限界であった。係員に抱えられて控え室へと戻る途中、グラハムに声を掛けられる。

 

「味わったこともない感覚を味合わせてくれて感謝する。少女よ」

 

「(少女じゃないよ・・・)」

 

 そうグラハムはザシャに感謝すると、敗退選手専用の待機室へと去った。

 未だに尚、自分を少女と思っているグラハムに悪態をつくと、ザシャは係員に抱えられながら控え室へと戻った。

 

「あっ、レイちゃんが・・・」

 

 抱えられながら長椅子へ座らされたザシャは、レイがニコラに負けていることを知り、驚きの声を小さく上げた。やはり大会荒らしの渾名は伊達ではなかったようだ。

 次なる試合に備えて長椅子で横になろうとすると、次に自分と戦うニコラが声を掛けてきた。

 

「これが私の次なる対戦相手か?小柄な上に短足のヒヨコではないか」

 

 慎重の割には腰の位置は高いので、消して短足ではないのだが、短足扱いされたザシャは堪忍袋が切れたのか、起き上がって悪態を悪態で言い返した。

 

「た、短足じゃありません!貴女が棒みたいに長すぎるだけです!!」

 

「フン、チビにしては中々我慢強い性格だな。以前、ワルキューレの勢力圏内に入り、お前と同じようなパイロットを挑発して勝負を申し込んだが。結果は口だけは達者な奴だったさ。まぁ、お前もそう言うタイプだろうがな」

 

 どうやら傭兵としても回ってきたらしく、ワルキューレとも交戦経験がある様だ。

 ザシャを蔑みながら続けた後、ドリンクを彼女へ向けて投げ付け、ニコラは言葉を掛けてから控え室を後にした。

 

「では、精々私に抗う為に体力を回復させておけ」

 

 ドリンクを受け取ったザシャは、ニコラが居なくなると、再び横になり、体力回復に励んだ。

 数分後、ザシャの体力はある程度回復。頭もスッキリして、回転が良くなっている。

 控え室から出たザシャは自分の機体に乗り込み、滑走路から大空に舞った。

 先にニコラは出ていたのか、無線機から彼女の声が聞こえてくる。

 

『ほぅ、棄権せずわざわざ私にやられに来たか。よかろう、四十秒で蹴りをつけてやる』

 

 無線機から彼女の声が聞こえなくなると、試合開始の合図の信号弾が上がった。

 相手は自分と同じドイツ機であり、Fw190採用後もドイツ空軍で主役を担っていた戦闘機だ。性能は劣るが、それでも数々のエースを生んだ戦闘機なので侮れない。

物の数秒でニコラが乗るメーサーシュミットBf109Kが、横から向かってきた。こちらに向かってくるなり、機銃を浴びせに来る。持ち前の反射神経で速度を上げて回避し、次なる一撃離脱を取ろうとする敵機に警戒する。

 

『あの攻撃を避けるとは、中々面白い奴だな。これは避けられるかな?』

 

 何処から来るか分からない無線機からニコラの声が聞こえる中、ザシャは次なる攻撃に備えた。無線機が終わってから数秒後に、彼女のBf109が真上から姿を現し、急降下攻撃を仕掛けてきた。操縦桿を横に倒して機銃を回避する。

 通り過ぎれば、敵機は次なる攻撃を間髪入れずに入れる。今度は真下から急上昇攻撃を仕掛けてきた。

 ニコラは流石に避けきれないと思っていたが、ザシャはこれを避けたのだ。

 

「馬鹿な!?」

 

 四十秒立っても墜とせないザシャに、ニコラは焦りを見せ始めていた。いままでのパイロットなら墜とせてはいたが、最終戦まで上がってきたザシャには通じなかった。

 相手が動揺しきっているのを見逃さなかったザシャは、それを見逃さず、動揺しているニコラに追跡を掛けた。

 今まで攻めのまま勝利していたニコラであったが、後ろを取られてしまう。

 

「何処の馬の骨か分からぬ女に・・・!」

 

 後ろから来る機銃を避けながら、ザシャへ向けて毒を吐くと、次なる反撃に移ろうと急旋回を取ろうとした。だが、彼女は食いついて離さない。

 

「私が追い詰められているだと!?そんな筈は・・・!」

 

 追い掛けてくるザシャのFw190D型を見ながら、ニコラは更に焦りを積もらせた。

 地にいる敗退者達は、手も足も出なかったニコラが新参者のザシャに追い詰められているのを知って、モニターに集まってくる。

 

「おーい、あの大会荒らしのニコラが小柄の嬢ちゃんに追い詰められるぞぉー!!」

 

 敗退選手の一人が言えば、他の選手達も集まってきた。その中には柿崎の姿もある。

 

「さっすが中尉殿だ!あんな軍人崩れの女なんか目じゃないぜ!!」

 

 ニコラを追い詰めるザシャ機の姿をモニターから見て、柿崎は大いに喜ぶ。

 準決勝戦でニコラに負けたレイも、その様子を喜んでいた。

 

「やっちゃって!お姉ちゃん!」

 

「あの女を叩き落とせ!」

 

「俺達の恨みを晴らしてくれ!!」

 

 他にも負けた選手達が、ザシャには聞こえていない声援を送り始める。

 

「(そんな筈が・・・そんな筈がある物か・・・!)」

 

 ザシャに追い詰められ、ニコラは冷静さを失い始めていた。大会連続優勝の皆勤賞が、名も知らぬ自分より背が低い女に打ち破られ、自分のプライドがズタズタにされるのが目に見えているのだろう。

 次なる反撃に出ようとしても、後ろから追ってくる敵機(ザシャ)がそれを許さない。

 形勢逆転を狙い、フラップを下げて相手の後ろに付こうとしたが、ザシャも同様にフラップを下げ、現状を維持してくる。

 「もはやこれまでか」と脳内に浮かべたニコラだったが、勝負に水を差すような事態が発生した。

 

「な、なんだ!?」

 

「ミサイル!?」

 

突如両者の目の前からミサイルが飛んできたのだ。流れ弾であったらしく、自機には命中しなかったが、これは流石に試合中止であろう。直ぐにザシャはニコラのBf109kから離れ、地上へ帰った。

離れていくザシャのFw190D型を見て、ニコラは怒りを感じた。

 

「これで私が安心したと思ったか・・・!」

 

 怒りの声を上げると、ニコラも機体を地上へと帰らせた。




ザシャちゃん大活躍回。色々と納めすぎて、長くなっちまったZE!

取り敢えず、この大会で一番強いのはグラハム・エーカーです。はい。

それとタンク博士のフォッケウルフFw190は変態機動を取れます。
攻撃機・戦闘爆撃機タイプのであるF型も取れるそうで、護衛が必要ないらしいです。

本当はジョニー・ライデン、ムウ、フォッカー、イサムも出そうかと思ったけど、ライデンは兎も角、フォッカー少佐とイサムはチート過ぎたので没になりました。
そうなったら、フォッカーとイサムの勝負になっちまうじゃねぇか・・・


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激戦の町

?「また戦争がしたいのか!あんた達は!!」


 各トーナメント制の大会で盛り上がっていたガラヤの町であったが、そこに連邦軍と現地軍の追撃を受けるワルキューレの残存部隊が逃げ込んできた。

 町に逃げ込んできた残存部隊の指揮官は、自分等の勢力下にある町を攻撃しないだろうと考えたのだろう。だが、結果は予想外にも程がある物だった。

 

『た、隊長!町を盾にしても良いんですか?!これじゃ私達がまるで悪役・・・』

 

「馬鹿、戦争でしょうが!私達が生き残るにはこれが一番なの!」

 

 VF-25メサイアの指揮官用機である頭部レーザー機銃が四門のSタイプに乗る若い女性大隊長は、画面に映る町を盾にすることに反対する少女パイロットに、怒鳴り付けた。彼女のVF-25Sの周りに飛んでいる機体は、同型だが一般機仕様のVF-25A、ドックファイト向けのVF-25F、狙撃仕様VF-25G、電子戦型RVF-25だ。

 他に町の上空に逃げ込んでくる味方のファイター形態のままの大多数のVF-11CサンダーボルトやVF-117ナイトメアプラスである。MSのZプラスやムラサメも、飛行形態のままで町の上空に入ってくる。

 町の住民達は見掛けぬ機動兵器の集団に、かなりの不安を抱いていた。地上の方を見れば、MSのジムⅡやジムⅢ、ネモシリーズ、M1アストレイ。戦術機のF-5EADVトネード、A-10サンダーボルトⅡ。KMFのサザーランド、パンツァー・フンメルが砂塵を上げながら向かってきている。

 町の周囲の壁に設置されたトーチカに砲手が入ろうとしたが、VF117に妨害され、トーチカは踏み潰されてしまう。

 

『トーチカを潰しました』

 

「OK、これで町は完全に私達の物よ」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべる大隊長であったが、その余裕はぶち壊された。

 

『敵追撃部隊からミサイル発射を確認!数、八千!!』

 

「はぁぁぁ!?あいつ等、自分達の町のこと考えてんの!?各機反撃体勢!!」

 

 敵が自分等の町に、大量のミサイルを発射したと索敵機から報告を受けた大隊長は、即座に反撃体勢を取った。

飛んでくる大量のミサイルをガンポッドやレーザー機銃等の弾をばらまく武器で迎撃するも、迎撃しきれず、何機かが被弾して町の建造物に墜落した。流れ弾のミサイルは町の至る所に命中し、数々の被害や死傷者を出す。

この追跡部隊の非道極まりない行為に、大隊長は敵の指揮官に向けて抗議の通信を送る。

 

「ちょっとあんた等、自分達の町にミサイルを撃ち込んでのよ?!被害とか考えないの?!」

 

 町を盾にしようとした大隊長が言っても説得力は無いのだが、敵軍の指揮官からの返答は身の毛もよだつ物であった。

 

『町に被害だと?そこに住んでいるのはこの星のゴミ共だ。幾らゴミが戦闘に巻き込まれて死のうが、我々軍が気にすることはない』

 

「あんた等・・・狂ってるわよ・・・!各機、交戦開始。相手もその気なら、こっちもよ!」

 

 その恐ろしい返答に、大隊長は悪意に満ちた言葉を返し、通信を切ってから指示を出す。

 かくして、連邦軍と現地軍のグスタフカールやジェムズガン、ドートレスフライヤー、バリエント、ダガーL、ウィンダム、プテラス、レイノスを中心とした多数の航空部隊が接近すると、ワルキューレの残存部隊と交戦状態に入る。

 闘技場にて、VF-11Cが墜落して空いた穴で行われている戦闘を見たマリは、そのまま出て行こうとするが、ガルナのガンダムとの試合でライガー・ゼロは足ががたついており、これ以上の戦闘は不可能であった。

 

「その機体で行くつもりか?」

 

 腕組みをしていたガルナは、足ががたついているライガー・ゼロで戦場に飛び出そうとするマリに問う。流石に彼女も分かっていたのか、機体から降りて、ガルナの前に立つ。

 

「分かっているようだな。では、代わりの機体を紹介してやる。ついてこい」

 

 ガルナはマリに代わりの機体がある場所へと案内した。その後にライガー・ゼロがついていく。

 

「フッ、まるで忠犬だな。後で修理してやれ」

 

 ついてくるライガー・ゼロを見たガルナはそう呟くと、流れ弾の着弾で揺れる通路の中を歩いた。数分後には、代わりの機体がある場所へと到着した。そこにはライトブラウンのファイター形態のVF-1バルキリーがあった。

 

「これがお前の代わりの機体だ。VF-1Rバルキリー、別名三本角だ。操縦方法はVF-1系統とは殆ど変わらん。旧型だが、お前の腕なら最新鋭機でも渡り合えるだろう」

 

 VF-1Rの解説をするガルナに耳を貸すと、マリはキャノピーを開け、機体に乗り込んだ。機器を操作し、機体を起動させると、ファイター形態からガウォーク形態へと変形させる。

 

「ライガー・ゼロは任せろ。俺は後から加わる」

 

「分かった」

 

「ようやく口を開いたか・・・」

 

 ガルナがライガー・ゼロを預かると告げれば、マリがキャノピーを閉める前に答えた。ようやく口を開いたので、ガルナは感心した言葉を出したが、とうのマリは既に飛び立った後だった。

 マリのVF-1Rが飛び去った後、ガルナはライガー・ゼロを連れて何処かへ去って行く。

 

 

 

一方のザシャは、競技用のフォッケウルフFw190D型を滑走路へ着陸させた後、機体から飛び降り、左腕に付けたVF-25用小型遠隔操作装置を使い、自分のVF-25Aを呼び出した。

 柿崎も同様に呼び出そうと左腕に付けている物に触れてみたが、バルキリーマニアに売却したことを思い出す。

 

「あっ、俺のVF-25Aは売ったんだった!」

 

 声に出した柿崎は近くの自動車に乗り込み、自分のVF-1Aのある倉庫へと向かう。晃とレイも一緒であり、近くの自動車に乗り込むや否や、自分のバルキリーがある倉庫へと向かった。

 アルトはシェリルを連れ、ザシャと同様に小型遠隔装置を使って自分の愛機を呼び出していた。グラハムの方も同じように自分の愛機を呼び出している。

 上空で幾つかの爆発が起こり、爆破音や銃声が響き渡る中、ザシャのVF-25Aがこの場に到着し、ガウォーク形態に変形して彼女の目の前に着陸する。キャノピーを開いてコクピットへ乗り込むと、今着ている飛行服を手早く脱ぎ、専用のパイロットスーツを着込み、計器の確認を迅速に行った。

 

「異常なし・・・そう言えば、あの人はどうしたんだろう?」

 

 町が戦場になる前に、優勝を賭けて争っていたニコラの所在が心配になったが、鳴り響いた警報で即座に操縦桿に手を伸ばし、上から来た攻撃を回避した。空かさず上からビームライフルを撃ち込んでくるジェムズガンを右手に持つガンポッドで撃墜する。

 防御する間もなく、上空で数十発の弾丸を受けた15m級の小型MSが爆発する中、キャノピーを閉め、ザシャはヘルメットを被る。

 

「ここは民間の施設なのに・・・」

 

 二機のスコープドックが自分の期待を見るなり所構わず攻撃を加えるのを見たザシャは、攻撃を防御しながらガンポッドで反撃を行う。二機のATは遮蔽物に逃げる間もなくガンポッドの掃射を受けて蜂の巣になった。今度はドートレスが出て来たが、同型のガンポッドを受けて倒れた。

 味方と思って攻撃した正体にカメラを向けたが、その正体は識別反応を示していない白いVF-25だった。さらに通信まで入ってくる。驚いたことに声はあの美女のような少年であるアルトだ。

 

『おい、そこのワルキューレ機!ここで俺達が離れれば連邦軍は攻撃を止める!離れるぞ!!』

 

「えっ?ちょっと、君あのお姫様みたいな男の子?なんでVF-25に!?」

 

『煩い!この場で戦ってたら犠牲者が増える!町で戦闘している連中も引き離す!良いから俺についてこい!』

 

 向かってくるストライクダガーを撃破しながら、アルトは自身のVF-25Fをファイター形態に変形させ、町の方へと飛び去る。

 

「待って!」

 

 ザシャは町の方へと飛んでいくアルトのVF-25Fを追うため、Fと書かれたレバーを引き、自機をファイター形態に変形させ、アルト機を追った。

 

 

 

 その頃の町は、至る所で機動兵器同士の戦闘が行われ、既に市街戦と化していた。

 上空でもワルキューレのバルキリーに可変系MSが連邦軍や現地軍の航空兵器と乱戦状態になり、墜落した双方の機体が更に町の被害を増大させている。早めに片付けねば、町が壊滅してしまうだろう。

 この様子を上空に飛びながら見ていたマリは、連邦軍と現地軍が町の住民に何の配慮もせず、所構わず戦闘を行う様子を見て、皮肉った台詞を吐いた。

 

「あいつ等、マジで軍人なのかしら?」

 

 そう毒づくと、目の前に見えるプテラス三機を標的に捉え、両翼に装備された四つのミサイルポッドからミサイルを放つボタンを押す。発射されたミサイルの数は十二発以上で、相手は逃げ切ろうとするが、三機とも撃墜される。

 続いて現地軍の戦闘爆撃機の編隊をガンポッドと二連装レーザー機銃で次々と撃ち落とし、更にダブルソーダやジェットコアブースターまで撃墜した。

 

「十機以上撃破!まぁ、このガタ落ち同じSでもっと墜としてるけどね」

 

 昔の自分を思い出しながら、見える敵機を次々と撃ち落としていると、町の上空に到達したアルトから通信が入ってくる。通信はスピーカーを使った物や全チャンネルに通してであり、この町で戦闘を行っている者達全てに届いている。

 

『この町で戦闘行為を行う全機に告げる!良心の心があるなら即刻戦闘を中止し、町からの退去を命ずる!軍人ならば、民間人を巻き込むな!』

 

 町で戦闘行為を行う全ての者達に告げたが、連邦軍と現地軍の反応は冷ややかな物であった。

 

「うるせぇ!ここに住んでる連中は、盗品をさばいてる犯罪者共だ!幾ら死のうが知ったことか!!」

 

 町の住民を全て犯罪者と見なす量産型ガンタンクに乗り込むパイロットは、アルトが乗るVF-25Fに向け、主兵装の120㎜低反動キャノン砲を撃ち込んだ。結果はあっさりと避けられて、町の建造物を破壊しただけだった。

 

「アルト!全然通じないじゃないの!!」

 

「クソッ、あいつ等本当に軍人なのか?!まだ民間人が避難してないって言うのに!!」

 

 後部座席に座るピンク色の混じった金髪の大人びた容姿を持つシェリルが言えば、アルトは町の住民のことを考えずに戦闘を続ける彼等を止められなかったことに腹を立てる。

 町を見下ろせば、電話ボックスほどの空薬莢が当たって死んでいく者。流れ弾に当たり、死んでいく者。撃破された人型兵器の下敷きになる者。町の至る所で、死で溢れていた。

 戦闘を中止しない両軍に苛立つそんな二人に、マリは通信を入れる。

 

「ちょっとアンタ、何寝ぼけたこと言ってるの?うちの所は兎も角、あいつ等腐りに腐った馬鹿共にそんなのが通じるわけ無いでしょ!やるんだったら力尽くで叩き潰すのよ!」

 

「そう言ったてな!町にはまだ避難してない無抵抗な人々が居るんだよ!知らない間に殺しているかもしれないんだぞ!!俺はそんなのごめんだッ!!」

 

「そんな物に乗っておいて偽善ぶるんじゃないわよ!お姫様みたいな顔しちゃって!」

 

「お前もそれを言うか!自己中心女が!!」

 

 つっかかってくるマリの通信に、アルトは八つ当たりでもするかのような返答すれば、口論が始まる。それを止めるため、シェリルが割ってはいる。

 

「アルトもそこの金髪デカ乳女も喧嘩してる場合じゃないでしょ!今は町の被害の最小限に食い止めると、ヒヨコちゃんの可愛い部下達の救出でしょ?!早くやりなさいよ!!」

 

「あぁ!分かってる!!」

 

『可愛い部下達!?それって、私の部下達のことですか?!』

 

 シェリルに叱られたアルトは、口論を止めて行動に移った。ヒヨコと言われて自分のことだと思ったザシャは、直ぐにシェリルに部下の居場所を聞いた。それに彼女は直ぐに答える。

 

『そうよ、今から案内してあげるわ!しっかりとついてきなさい、ヒヨコちゃん!さぁ、アルト、行って!』

 

「・・・ようやく見付けた・・・!はい!」

 

 探していた自分の部下達の居場所が分かったザシャは、その場所へと向かうアルトのVF-25Fの後へとついていった。

 

「あぁ、言いそびれちゃった・・・まっ、取り敢えず手当たり次第に行きますか!」

 

 残されたマリは操縦桿を動かし、VF-117を追撃するレイノスをミサイルで撃墜した。続いてバトロイド形態に変形して、市街地に入ってライフル砲を撃ちまくるガンタンクⅡの乗っかり、ガンポッドをキャノピーに押し付けて撃った。

 結果は中にいる砲撃手が機関砲クラスの口径でミンチとなり、コクピットに乗っていた操縦手も挽肉と化す。爆発寸前のガンタンクⅡから離れ、目の前に群がるドートレスやストライクダガーに向けてガンポッドを連射する。

 敵MS部隊は市街地で戦っている所為で、面白いように弾丸が当たり、敵機が次々と道路の上に倒れていく。敵からの反撃もあるが、マリは機体をローリングさせてこれを回避し、防御の薄い箇所にガンポッドを撃ち込んで撃破数を増やす。次に数十機のコマンドウルフACが現れ、彼女が乗るVF-1Rへ向けてロングレンジキャノンを撃ち込んできた。直ぐに遮蔽物に隠れ、攻撃から逃れたが、遮蔽物から出られなくなってしまう。

 

「あぁ、ミスった・・・!」

 

 判断を誤ったことを後悔するマリだが、問題のコマンドウルフは上空から来た複数のミサイルで全滅した。飛んできた方向を見ると、自分と同じVF-1系統の機体が三機がファイター形態からガウォーク形態に変形し、自分の近くまで来る。

 

『少佐、その機体に乗っているのは少佐でありますか?覚えていないと思うけど、柿崎伍長であります!』

 

「あぁ、あのおっさんみたいなの」

 

『おっさん!?俺はまだ17歳ですよ!!』

 

「あっ、そう」

 

 バトロイド形態に変形した胸部が白のVF-1Aからの通信で、柿崎であることが分かった。他にもVF-1Jに乗った晃やVF-1Sに乗るレイから通信が入る。

 

『それに乗っているのは貴女でしたか。ライガー・ゼロはどうしたのですか?』

 

『お姉ちゃん!優勝したの?』

 

「チャンプに預けた。それと優勝したわよ」

 

『やっぱりお姉ちゃんはただ者じゃなかったんだ!』

 

 二人の質問に答えたマリは、空から奇襲を掛けようとしたジェムズガンが撃破した。柿崎を除く他の二人も、向かってくる敵機を次々とガンポッドで撃ち落としていく。瞬く間に十機以上が市街地へ墜落し、被害が拡大してしまったが、既に人が居ない場所で、問題はない。

 一方の柿崎は、三機を堕として舞い上がっていた。

 

「よーし!三機目撃墜!!」

 

『ちょっと、ちゃんと町のこと考えなさいよ!』

 

「分かってらい!」

 

 レイから注意されると、地上から来る敵を撃墜した後、柿崎は生返事をする。

 

「五機目!やったね、俺エースだ!こんな旧型機で、って、な、なんだぁ!?ガルダ級輸送機!?」

 

 柿崎が五機目を地上で撃墜した丁度その時、上空からガルダ級大型輸送機が現れた。

 全長317m、全幅524m、最大積載量9800tと言う桁外れの輸送機である。ミノスキー核融合炉と二十基の熱エンジン/スクラムジェットエンジンで航続距離に制限が無く、無補給で地球一周が可能だ。さらには防空能力も高く、エースでも無い限り迂闊に近付くことは出来ない。

 町の上空に到達したガルダ級大型輸送機はミサイルを数発撃ち込み、目の前のワルキューレの地上戦力を排除した。ガルダ級を墜とそうと、ワルキューレの航空戦力が立ち向かったが、多数搭載された対空火器に阻まれ、まともに近付けず、撃ち落とされる機体が多くなる。

 

『第81機動歩兵連隊、降下用意!!』

 

後部大型ハッチを開け、中に満載しているMSを降ろす。積荷はMSだけでなく、機動歩兵と呼ばれる歩兵科最強の兵科である。

二年もの訓練を受けた彼等は、専用の防弾制やブースター搭載により機動性に優れたパワードスーツに身を包み、優れた装備と知識を持って敵を圧倒する鋼鉄の兵士なのだ。

 

「各員、武装をチェック!」

 

指揮官の指示で、周りにいる鋼鉄の鎧に身を包んだ機動歩兵達は折り畳み式のアサルトライフルの点検を始めた。それが終えると、通信で「異常なし」と報告する。

 

『第一大隊、全中隊各装備問題なし!』

 

『第二大隊、全中隊各装備も異常なし!』

 

『第三大隊、こちらも問題なし!』

 

『第四大隊も異常なしであります!』

 

「よし、各大隊は即座にガラヤに降下。残っている連中を一人残らず片付けろ!!」

 

 戦闘指揮所(CIC)に居る連隊長からの指示で、二千人以上は居る機動歩兵が町に降下した。機動兵器からすれば、機動歩兵など単なる歩兵に毛が生えた程度だが、ここは市街地であり、隠れる場所など幾らでも存在する。機動歩兵はその小ささを生かして、身を隠し、確実に敵機動兵器を排除するのだ。

 雨あられに落ちてきた機動歩兵は、着地の瞬間にブースターを噴かして着地の衝撃を和らげ、地面に足を付けた。何体かが地上から来た対空放火にやられるが、十分に脅威になるくらいの機動歩兵が地上へと降り立つことに成功した。

 道路の上に降り立った機動歩兵は折り畳み式のアサルトライフルを開き、味方の部隊と交戦中である敵機動兵器の元へ向かう。友軍部隊と交戦しているのは、MSA-003ネモ三機だ。ビームライフルを連射し、追い詰めようとする味方のMS部隊を近付けまいとしている。

 味方の機動兵器に気を取られている隙に接近し、携帯式対機動兵器用ランチャーを構え、間接部に照準を定め、引き金に指をかけさせた。

 

「照準完了!」

 

『よし、指示があるまで発砲するな!』

 

「了解!」

 

 位の高いスーツを着た分隊長に砲手が報告すると、分隊長は他の分隊が位置に着くまで発砲はするなと部下に命ずる。それから物の数秒後、他の分隊から光信号で「配置完了」の合図が出た。

 

『よし、撃て!』

 

 確認した分隊長からの指示で、各分隊が潜む場所から携帯式対機動兵器用ミサイルランチャーが一斉に発射された。

 発射されたミサイルはネモの足の間接部に向かって飛んでいき、見事命中した。三機とも足を狙われたらしく、足の脆い部分に当てられた三機はバランスを崩して地面に倒れ込む。

 まだ動く部分で自分の機体を攻撃した機動歩兵を撃とうとするが、続けて発射されたミサイルランチャーで、武器を持つ手とバルカン砲が搭載された頭部を潰されてしまう。

 パイロットはコクピットから出て、C8カービン(カナダ製M4カービン)を持ち出し、撃ちながら逃げようとするも、待ち構えていた機動歩兵のHK G11に似たアサルトライフルの掃射を受け、銃創から血を吹き出し、機体から落下して死亡する。

 

「片付けた!」

 

 一人が死んだ女性パイロットから体温を感じず、死亡したことを確認して叫ぶと、次の敵が居る場所へと向かった。

 機動歩兵一個連隊の投入により、町に逃げ込んだワルキューレは劣勢になりつつあった。

 逃げ込んだワルキューレの残存部隊は宇宙軍所属であり、地上戦の訓練は一応受けている物の、敵の地上軍相手ではあまり長くは持たない。更に連邦軍の数も町を包囲するかのように増え、ワルキューレは徐々に町の中枢部へと追い込まれていく。

 

「捕虜になるなんかごめんよ!赤ん坊でもなんでも盾にしなさい!!」

 

 連邦軍の機動歩兵や現地軍の歩兵部隊に追い詰められているワルキューレの士官は、遮蔽物に身を隠して持っているC8カービンを抱えながら、絶対に兵士がやってはいけない事を叫ぶ。当の本人は本気で言っているようではないが。

 民間人を盾にするのは、軍に属する者が絶対にやってはならない事だが、戦時中若しくは戦闘中に戦時条約が守られることなど殆ど無い。つまり生き残るためなら手段は問わないと言うことだ。

 早速少女の乗員が赤ん坊を抱えながら遮蔽物に身を隠している母親から赤ん坊を奪い、敵前の目の前に立ち、赤ん坊を高く掲げ、盾にした。

 

「ちょ、あんた!なにマジでやってるのよ!!」

 

 まさか本気でやるとは追わなかった士官は、本気でやった少女乗員を見て怒鳴る。これを見ていた機動歩兵の小隊長は、ライフルを撃つのを止める。

 

「あのクソ餓鬼!なんてことを・・・!」

 

 卑怯な真似に出た敵軍の少女兵士を見て、敵を撃つことが出来ないことに苛立ったが、この町の住民をゴミと見なす現地軍の反応は違った。

 現地軍の狙撃兵は赤ん坊を掲げる少女乗員の胸に照準を合わせ、引き金を引いた。発射された弾丸は高速で目標に向けて飛び、胸に大穴を開けて背中を貫通し、地面に着弾した。

 胸に穴が空いた少女は何が起こったのか分からない表情を浮かべ、泣き叫ぶ赤ん坊と共に地面に倒れ込んだ。赤ん坊はその場に倒れ、ひたすら泣き叫び、母親が我が子を助けようと、赤ん坊の元まで走るが、狙撃兵に撃たれてしまう。

 この光景を目撃した機動歩兵の小隊長は、強く現地軍の前線指揮官に抗議する。

 

「おい!彼女は母親を助けようとしたんだぞ!どういうつもりだ?!」

 

『ゴミが一人死んだところでどうと言うことはない。貴官は周囲の被害を気にせず、敵残存戦力の掃討を続けろ』

 

「何なんだよ・・・!お前等は・・・!?」

 

 血も涙もない返答に、機動歩兵の小隊長は呆然としていた。

 同じくこの光景を見ていたアルトとシェリルは、赤ん坊を盾にしてまで生き残ろうとするワルキューレと、市民の被害を気にせず追撃を続ける現地軍の行動等、戦場では希に見られる光景に理解が出来ないでいた。

 

「なんだよ、これ・・・!?これが本当の戦争だって言うのか・・・!」

 

「ちょ、ちょっと・・・戦争映画だなんて比じゃないわよ!赤ちゃんを盾にしたって良いの!?」

 

 初めて生の人間同士の戦争を見たのか、二人は戸惑っている。アルト機の後部座席に座るシェリルはザシャに怒鳴り付ける。これに対し、ザシャも初めてこの光景を写真でした見たことがなかったのか、答えられずにいた。

 

「こ、こんなの・・・私には・・・」

 

『クソ、あんた本当に軍人かよ!兎に角だ。早いとこあんたの部下を救い出して、こんな光景直ぐにでも終わらせてやる!!』

 

 答えないザシャに対し、アルトは一刻も早くこの惨状を終わらせるべく、目の前に居る複数の敵機をミサイルで全て撃ち落とし、彼女の部下が囚われている場所へ急いだ。

 

「キャッ!もう!!」

 

 思い詰めていたザシャは、攻撃を受けて我に返り、ガウォーク形態に変形し、しつこく後ろから撃ってくる複数の敵機を連続発射したミサイルで撃退すると、直ぐにアルトの後を追った。数秒もしないうちに、チェリー、千鶴、ペトラが囚われている場所へと到着する。

 その場所は倉庫であり、先客と言えばアルトとシェリルが乗るガウォーク形態の白いVF-25Fだけだが、倉庫の中に多数の先客が待っていた。正体はトライアンフと呼ばれる旧型のハーディガンだ。既に二十年前に連邦軍から今動いているM型を最後に全機が退役し、二級戦部隊にも運用されていない機体だが、加盟国家に払い下げられ、そこで現役に付いている。

 連邦軍における初の小型ビーム兵器搭載のハーディガンで、量産型より性能が低い試作器が敵陣からパイロット共に生き残ったという逸話を持っているが、それは単に運が良かっただけである。

 

「人身売買の組織がこんな物を!」

 

 アルトは飛んでくるビームを回避し、ガンポッドでド素人同然の動きをするトライアンフM型を撃破する。バトロイド形態に変形させていたザシャもガンポッドでもう一機のトライアンフを撃破し、更に二機目を撃破した。

 他にも雑多な機動兵器が居たが、乗っている者達がずぶの素人なだけであって、天才的な操縦技術を持つ二人に敵うはずもなく、物の数分で全滅する。

 

「クリア!」

 

 熱源反応がないことを確認したザシャは、キャノピーを開いてEXギアパイロットスーツのまま飛び出し、ジェットを噴かして地面にゆっくりと着地すると、足裏のローラー型の走行装置を動かして、部下を捜し始める。

 同じくキャノピーを開けて倉庫の中に入ろうとしたアルトであったが、この場にやってきた敵軍のATからの攻撃を受け、向かえないようになる。

 

「おい、待てよ!うわっ!?」

 

 そんなアルト達の気にも留めることなく、ザシャは地下に降りて部下の探索を続けた。途中、組織の構成員がいきなり飛び出してきたが、パワードスーツを着たザシャに頭を殴打され、首があり得ない方向に曲がり、即死する。

 

「死ね!このロボット野郎!!」

 

 続けて銃を持った複数の構成員が出て来たが、軍から払い下げられたか密造された銃では、ザシャの強化外骨格タイプのパワードスーツの装甲を貫ける筈もなく、手に持った専用のライフルを撃ち込まれて全滅した。

 

「何処にいるの?」

 

脅威を排除した彼女は周囲を見て、三人の少女の体温を探し始める。

案の定、直ぐに見付かるが、早く行かねばとんでもない事になりそうだ。即刻その場へ向かい、出会い頭に合う敵を排除しながら彼女達の元に辿り着いた。

 

「な、なんだお前は!?」

 

 あられもない姿になっているチェリーを犯そうとした半裸状態の男が、パワードスーツを着込んだザシャを見て驚いていた。両手を縄で縛られた千鶴やペトラの姿も見える。ようやく部下を見付けたザシャは、チェリーを犯そうとした男を即座に殴り倒す。

 

「ブガッ!?」

 

 顔面を強く殴られた男の顔面は強く陥没し、壁に強くぶつかって死亡した。周囲に脅威が無くなったと判断したペトラを除く部下達は、ザシャに抱き付く。

 

「たたた隊長!恐かったですぅ~!」

 

「隊長・・・!」

 

「良かった・・・無事で・・・!」

 

 部下の無事を確認したザシャは感動して涙を少し流した。部下の方はいつレイプされるか分からない恐怖から解放されたのか、涙の量が軍人とは思えないほどだった。

 

「そんな事より早く脱出しないと!皆(みんな)、掴まって!」

 

『はい!』

 

 アルトが持ち堪えている間に戻らないとならないザシャは、部下達に自分の身体に掴まるよう告げると、三人はそれに応じて彼女の身体に抱き付く。これを確認したザシャは走行装置を動かし、自分の機体がある地上へと向かった。

 地上へ物の数秒で辿り着くと、飛んでくる銃弾を回避しながら機体に乗り込み、後部座席に三人を乗せる。

 

『遅いぞ!』

 

「ごめん、ちょっと遅れちゃった!」

 

 アルトから叱りを受けると、自分等が居る倉庫を攻撃してくる連邦軍と現地軍のMSやAT、ゾイドを撃破する。数秒間くらい持ち堪えていると、ZEUSの援軍が現れた。

 光の翼のような18mのガンダムタイプのMSが現れ、立ち向かってきた敵機を瞬時に撃破した。

 

「町をこんなに滅茶苦茶にして・・・!一体どれだけの人が死んでると思ってるんだ?!あんた達は!」

 

 パイロットは町の住民の被害のことなど考えず、ひたすら殺し合いをする両軍の将兵達を見て、アルトと同じく怒りを覚える。

 多彩な戦況に対応するため、差生様装備を持つこのMSの名はディスティニーガンダム。悪魔を思わせるような深紅の翼、涙のような縁取られたアイカメラのライン、薄銀色の鋭く光る機体色は、ダークヒーローのような風貌を持つ機体である。

 この機体を見た両軍の将兵達は驚きを隠せないで居る。ディスティニーガンダムのパイロットであるシン・アスカは、住民ごとワルキューレ宇宙軍の将兵達を殺そうとする現地軍の部隊に単機で向かう。

 

「ガンダムタイプが一機で向かおうなどと!」

 

 複数の連邦軍機がディスティニーガンダムに立ち向かうが、投げられたビームブーメランで蹴散らされてしまう。自分に向かってきた敵を全て片付けたシンは、現地軍の歩兵部隊に向けて頭部バルカン砲を撃ち込み、住民に銃を向ける歩兵を挽肉に変える。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

 

 生き残った兵士達は我先に逃げ出す。攻撃を受けていたワルキューレの将兵達は、ディスティニーガンダムが振り向くと、今度は自分達の出番だと思い、別の方向へと逃げ出した。次にシンは、旋回しながら地上にメガ粒子砲を撃っているマリとザシャ達が知らぬ前に出て来たクラップ級巡洋艦に向かった。

 

「う、撃て!迎撃だ!!」

 

 向かってくるディスティニーを見た艦長は、慌てながら迎撃態勢を取るよう指示した。対空レーザーが弾幕を張るが、ディスティニーはまるで分身しているかのようにそれを避け、クラップ級に近付いてくる。

 迎撃機を墜としながら接近すると、背中から長距離ビーム砲を取り出し、それをクラップ級へ向けて撃ち込んだ。高エネルギーのビームは船体に命中して貫通したが、それでも尚ビームやミサイル、対空レーザーを撃ってくる。

 

「まだ動くのかよ!うぉぉぉぉ!!」

 

 トドメにシンは大型ビームソードを取り出し、クラップ級に突き刺すと、スラスターを噴かせて町の外まで押し始める。町の外まで来れば、各所で火を噴いているクラップ級からビームソードを引き抜き、船体を蹴って、地面に叩き付けた。

 向かってくるダガーLやウィンダムを撃墜しつつ、かなりの損害を与えたのに対し、未だに尚向かってくる連邦軍や現地軍を見て、まだ諦めないのかと叫ぶ。

 

「かなりの損害が出てるのに、まだ諦めないのかよ!」

 

 更に現れた増援を見て、シンはそう叫ぶと、敵増援を排除する為、一人で敵陣に突っ込んだ。増援として現れたのは、シンだけではない。北からくる増援をたった一機で排除したMSが居た。

 

「待たせたな!この深紅の稲妻、ジョニー・ライデン様がいれば、百人力だぜ!」

 

 北の包囲網を意図も容易く突破した赤いザクⅡS型に乗り込むパイロットは、目の前にいる量産型ガンタンクやドートレス、ストライクダガーを瞬く間に撃墜すると、市街地で釘付けになっているワルキューレの部隊の救出に向かう。

 自分等からしてみれば、博物館送りの旧型に値する機体と教科書に出て来たパーソナルカラー色の機体が現れたため、連邦軍のパイロット達は驚いたが、昔の戦争の敵軍のエースが出て来るはずがないと信じなかった。

 

「あ、あれは!深紅の稲妻、ジョニー・ライデン!?」

 

「そんな筈がないだろう!どうせ模倣犯だ!ザクでジェムズガンに勝てるかってんだ!」

 

 ライデンのザクより遙かに性能が高い機体に乗り込むパイロット達はそう意気込み、自分が生まれる前のエースパイロットが乗り込むザクに挑む。

 

「へっ、ハイテクに頼りすぎた機体なんかに乗りやがって!」

 

 数と性能差で優る複数のグスタフカール、ヘビーガン、Gキャノン、ジェムズガンが襲い掛かるが、蘇った英霊が乗り込むザクに敵うはずもなく、次々と撃墜されていく。

 

「ば、馬鹿な!?たかが旧型のMSが一機だぞ!」

 

「機体の性能に頼り切ってるからよ!」

 

 博物館送りの機体で最新鋭機を次々と撃破するライデンの腕前を見て、連邦軍のパイロット達は恐怖した。

 援軍に来たのは彼だけではない。衛星軌道上の戦闘で助けに来たYF-19に乗り込むイサム・ダイソンも駆け付けてきたのだ。

 

「水臭いな!お前等!そんな大会があったら、なんで俺も呼ばないんだよ!」

 

『そうだぜ!レシプロ戦闘機大会なんて物があるんなら、このジョニー・ライデン様を呼ばないとはどういう事だ?!アルト姫は良くて、なんでこの俺は駄目なんだ?!』

 

『済まないな。だが、君達が参加すれば、大会は面白くなくなってしまうからだ!』

 

 どうやらイサムとライデンの二人は、レシプロ戦闘機大会に出たかったらしく、グラハムに僻んでいた。当のグラハムはブレイブ指揮官用試験機に乗り込み、たった一機で現地軍の一個機甲師団を食い止めていた。

 

「そう言うことかよ!たくっ!!」

 

 大会に参加できなかったイサムは、苛つきながら連邦軍と現地軍の航空戦力を蹴散らす。数秒の内に数十機以上が墜とされる。

 

「なんだよこいつ等、雑魚ばっかじゃねぇか。下手くそな奴ばかり揃えやがって!エースの二~三十人でも呼んでこい!!」

 

 手応えもない連邦軍と現地軍のパイロット達に告げると、イサムは次々と敵機を撃破する。

 彼等ZEUSの登場により、制圧が進まぬどころか逆に押し返されそうな状況になったため、現地軍の追撃部隊本部では、まだ味方の居るガラヤの町に砲撃しようとしていた。

 

「クソッ、どうして鎮圧出来んのだ!ええい、もう我慢ならん!砲撃開始!!」

 

「し、しかし!まだ味方の部隊と連邦軍の部隊が・・・!」

 

「黙れ!押し返されとるではないか!このままでは俺の面子に関わる!良いから砲撃を開始だ!!」

 

 まだ味方の部隊が居るにも関わらず、前線指揮官は砲撃を強行した。だが、砲撃は実行されず、近くで爆破音が鳴るだけだ。

 

「どうした!何故砲撃しない!?」

 

『そりゃあ、この俺がぶっ潰してるからさ』

 

 本部のモニターに映ったのは、左眼に三眼の眼帯を付け、オレンジ色のバンダナを巻いた青年だった。外を見れば、敵側勢力のチーター型中型ゾイドであるライトニングサイクスが、砲撃用装備のゴルドスやカノントータス、量産型ガンタンクを手当たり次第に破壊していた。

 本来のキャノピーの色は緑だが、青年が乗り込むライトニングサイクスはオレンジ色となっている。

 砲兵部隊を襲撃し、破壊し続ける青年に、前線指揮官はモニターに映る青年に何者かを問う。

 

『だ、誰だお前は!?』

 

「俺か。そうだな・・・俺は英霊に祭り上げられ、蘇った哀れな賞金稼ぎさ」

 

 そう答えた青年の名はアーバイン。彼が乗るライトニングサイクスは、前に乗っていたゾイドのメモリーバンクが移植されている。その所為でキャノピーの色がオレンジ色である。

 ゴドスやコマンドウルフ、スコープドックが迎撃に出るが、高速戦闘と奇襲戦法を得意とするライトニングサイクスには通じない。空からプテラスが迎撃に出るも、パイロットの技量があって、次々と撃ち落とされる。

 砲撃陣地までZEUSに潰された現地軍の士気はガタガタであり、連邦軍に至っては撤退を考え始める部隊指揮官が続出していた。彼等の活躍を見ていたマリとザシャは、驚きの声を上げるしかない。

 

「またあいつ等・・・」

 

「相変わらず人とは思えない・・・」

 

 瞬く間に敵に撤退を考えさせるまで疲弊させた為、ただ己が出来なかった結果を認めるしかなかった。だが、脅威は連邦軍と現地軍だけでは無かった。

 

「これで二十機・・・ん、なんだ?」

 

 二十機目を撃墜した晃は、レーダーに自分の近くまで迫る機影を確認した。その機影は敵味方問わず目に映る物を撃墜か撃破している。新たな脅威と判断した晃は、単機でそれに立ち向かった。

 

「早い・・・!あれはVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡ。僕のVF-1Jじゃきついな・・・」

 

 機影の正体が同じバルキリーVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡと分かった晃は、ミサイルを全て撃ち込み、一気に撃墜を試みたが、敵はフレアを使うまでもなく、全て避けきると、ミサイルで反撃してきた。バトロイド形態に変形し、ガンポッドと両耳の二門のバルカン砲で迎撃を試みる。

 辛うじて飛んできたミサイルを全て撃ち落とすことに成功したが、懐に接近されてしまい、ピンポイントバリアパンチを諸に受けてしまう。パンチを受けた箇所はへこみ、ガンポッドを鈍器として反撃を試みる晃であったが、蹴りでガンポッドを持つ手を蹴られ、手放し、空中でなぶり殺しにされる。

 抜け出そうにも、敵は逃してはくれず、ズタズタにされる頃には、変形すらままならい状態になっていた。

 

「もう持たない・・・!」

 

 無表情だった晃も、額から血を流しながらこれ以上は持たないと判断し、死を覚悟していたが、レイに助けられる。

 

「なにやってんのよ!」

 

『ごめん。でも、これに乗っている人、かなり強いよ』

 

「そんなの、私が倒してあげるわ!」

 

 相手の強さが分かっていないレイは、晃のVF-1Jがファイター形態に変形して離脱したのを確認すると、バトロイド形態に変形し、ガンポッドとミサイルを撃ち込んだ。凄まじい弾幕だが、敵は反撃をしながらこれを器用に避ける。

 

「なんで当たらないのよ!」

 

 ミサイルを全弾使っても当たらず、ガンポッドの掃射を避けながらVF-22Sは近付いてくる。接近はさせまいと、レイはVF-1Sをファイター形態に変形させ、市街地へと逃げ込んだ。敵もファイター形態に変形し、ガンポッドやビーム砲を撃ちながら追撃を掛けてくる。

 レイはそれに逃げるので必死であり、後ろから一方的に撃たれ続けていた。それもそのはず、相手は後年に開発されたバルキリーであり、性能的にもそれに乗るパイロットの技量的にも敵うはずもない。追い付かれてしまい、胴体とエンジン部に当たられて墜落寸前にまで至った。

 バトロイド形態に変形して墜落のショックを和らげたが、VF-22Sにガンポッドの銃口を突き付けられる。

 

「こんな所で、終わりなの・・・!?」

 

 レイは死を覚悟したが、思わぬ相手に助けられる。

 

「これでも食らえぃ!」

 

 ASであるM9に登場した何者かが、VF-22Sに向けてアサルトライフルを乱射した。しかし、ライフルの弾は全て回避され、一気に懐まで接近され、ピンポイントバリアパンチを受け、吹っ飛ばされる。

 

「ドワァァァ!!?」

 

 吹き飛ばされたM9はビルに激突し、機能を停止した。役に立たなかったように見えるが、レイが逃げる時間を稼ぐには役に立った。次にVF-22Sに乗るパイロットは、多数の敵と空中戦を繰り広げるマリのVF-1Rに向けて飛んだ。

 

「まだ来るって言うの?」

 

 多数の敵を相手にしているマリは、敵機を撃墜しながら言う。数秒後、自分の周りにいた敵機がVF-22Sに全て撃ち落とされた。

 

「あっ、なに?」

 

 次々と敵を撃ち落としていくVF-22Sを確認した。

 

「げっ、この機体より高性能な機体じゃん!」

 

 VF-1では分が悪いと判断したマリは、ファイター形態に変形してVF-22Sから逃げる。獲物は逃さまいと、ガンポッドやビームを撃ちながら相手は追ってくる。

 最高速度では相手が乗るVF-22Sが優っているため、直ぐに追い付かれ、バトロイド形態になったVF-22Sから両腕のビームの弾幕を受ける。

 

「相手を雑魚キャラみたいな物だと思って!」

 

 一方的に嬲られるのを嫌って、ムキになったマリは機体を同じくバトロイド形態に変形させ、ガンポッドで反撃する。二~三発程相手に被弾させたが、倍返しを受け、市街地に降下し、ガウォーク形態に変形して道路を滑るように飛行する。

 相手も同じくガウォーク形態に変形し、追撃を掛けてきた。マリは追撃を掛けてくる敵にガンポッドを撃ちながら撃墜を試みるが、後ろ向きで撃っている為に全く当たらず、向こうからの攻撃を一方的に受けてしまう。

 追撃を受けている内に、ザシャとアルトのVF-25が居る倉庫まで来てしまった。

 丁度その時に機体を撃墜され、機体は火花を上げながら数十m進んだ後、ようやく止まる。トドメを刺される前にマリはVF-1Rから脱出すると、ザシャのVF-25Aの元まで走る。

 

「あっ、少佐・・・!」

 

 走ってくるマリに気付いたザシャは、現れたVF-22Sに向け、ガンポッドを撃ち込んだ。この間にマリは倉庫に入り、安全そうな場所へ隠れる。

 

『あいつは?!』

 

「多分、敵だと思う!」

 

 アルトからの問いにそう答えると、ザシャはガンポッドやミサイルを撃ち込んだ。

 倉庫を包囲する陣形を取っている機動歩兵やATをアルトに任せ、ザシャはVF-22Sの迎撃に集中した。攻撃は全て回避され、上からの攻撃を受け、防御に徹するしかない。

 

「つ、強い・・・!」

 

 強すぎる相手にザシャは追い込まれていた。ガウォーク形態からバトロイド形態に変形し、バトロイド形態になって近付いてきたところをコンバットナイフで対処しようとしたが、相手はガウォーク形態で高速で接近し、ナイフを握る右手をピンポイントバリアパンチで破壊した。

 VF-25はVF-22Sより性能は勝っているが、パイロットの技量の差があるために、押され気味になってしまう。それにザシャには守るべき部下も居り、思う存分戦えないで居る。

 

「キャン!」

 

 後部座席でシートベルトをしていない三人は、衝撃で身体を打ち付けられ、ぶつけた皮膚から切れ、そこから出血している。

 一方的になぶり殺しにされてしまい、このままでは殺されてしまうと四人は思ったが、敵である機動歩兵やATに助けられた。背中を被弾したVF-22Sは、攻撃を続ける機動歩兵と連邦軍機に対し、その牙を向けた。

 ミサイルで複数の機動歩兵とATを纏めて排除すると、残っている集団をガンポッドやビーム砲で排除する。連邦軍は反撃がまともに出来ず、一方的に黒いバルキリーにやられるだけだった。

 

「今だ・・・!」

 

 残っている左手でガンポッドを持ち、ザシャは機体をガウォーク形態に変形させ、背中を向けているVF-22Sに向けて撃ち込んだ。邪魔者を一掃するのに忙しかった黒いバルキリーは諸に背中に銃弾を受け、道路の上に倒れた。

 

「やった・・・!?」

 

 後部座席に座っていたチェリーは、道路に倒れているVF-22Sを倒したと思い、その台詞を吐いた。この台詞を吐いて、成功したという保証はない。物の数秒で黒いバルキリーは立ち上がる。

 

「まだ生きてる・・・!」

 

「早くトドメを!」

 

 千鶴が立ち上がった敵を見れば、ペトラがザシャにトドメを刺すよう指示する。指示通り、ガンポッドをVF-22Sへ向けるが、標的は既に間近に迫っていた。

 回避しようとしたが、間に合わず、ピンポイントバリアパンチを胴体に受け、貫かれてしまった。拳を引き抜かれたザシャのVF-25Aが倒れ込むと、機体各所に電気が走り、機体が動かなくなる。

 

「脱出を!」

 

 機体の操縦桿が動かなくなったため、機体のキャノピーを開け、部下と共に脱出した。不思議にも、VF-22Sのパイロットは逃げるザシャ達には攻撃せず、ただずっと逃げる四人を見ているだけだった。

 

「あの女は・・・!?」

 

 黒いバルキリーに乗る女性パイロットは逃げるザシャ達を見てそう呟くと、爆発する機体から離れた。マリの元に来たザシャ達はそこへ隠れ、アルトがVF-22Sを追い払うまで待つ。

 

「あのパイロット、かなりの腕前ね」

 

「はい。乗っているのはベテランのパイロットらしいです」

 

 アルトのVF-25FとVF-22Sとの交戦を見たマリがそう呟くと、ザシャは黒いバルキリーに乗るパイロットが、先程の交戦でベテランと分かった。

 数分間、VF-25FとVF-22Sが交戦していると、何処かへ行っていた柿崎のVF-1Aがバトロイド形態で現れる。

 

『手伝うぜ!そこの友軍機!!』

 

 味方と分かって貰うようスピーカーから声を出すと、ガンポッドでVF-22Sを撃ち始めた。流石に分が悪いと判断したVF-22Sのパイロットは、舌打ちしてから機体をガウォーク形態からファイター形態に変形させ、この場から去っていった。

 

「チッ、次はこの手で必ず仕留めてやる」

 

『よーし、追い払ったか。大丈夫ですか?少佐、中尉殿!』

 

 追い払ったのを確認した柿崎は、二人の無事を確認するため、スピーカーから声を出しながらマリとザシャ達の元へ近付く。

 

『無事でしたか。それに三人娘も無事に助け出したようですね!これで一件落着だ!うぉはははは!!』

 

 ガンポッドを右腕に付け、VF-1に両手に腰を付けさせた柿崎は、スピーカー越しから大声で笑う。外にいる五人には堪った物ではないので、マリが怒鳴る。

 

「煩い!そんなこと良いから早く私達を乗せなさい!!」

 

『あっ、そうだった!しっかりと掴まっていて下さいよ!』

 

 マリの怒鳴りで、柿崎は機体をガウォーク形態に変形させると、両腕に五人を乗せた。

 アルトのVF-25Fを見て、通信を入れると、乗っているのが大会で顔を合わせた彼だと分かり、驚きの声を上げる。

 

「う、うわぁぁぁ!な、なんでお前がVF-25に乗ってるんだ!?」

 

『それはこっちの台詞だ。なんでお前達がVF-25をあんなに持っている?あの機体は元々俺達の世界の物だぞ。それにバルキリーは元々俺達の世界の物だ』

 

 柿崎の問いに対し、アルトは元々自分の世界の物だと答える。答えを聞いた柿崎はやや戸惑うが、脱出を優先する。

 

「そんなこと俺が知るか!取り敢えず、今は脱出だ!連邦軍が突然現れた変な連中に襲われて混乱してるんだ!今がチャンスだ!」

 

『お、おい!待てよ!!』

 

 柿崎はアルトの静止を聞かず、柿崎は五人を抱えながら空へと飛び立った。上空には、包囲網が途切れた方角に進む味方のバルキリー群と飛行形態のMS群が見える。地上でも損傷した機体を抱えながら走る陸上機動兵器も見えていた。

 数は町に入り込んできたよりも大分減っており、無傷な機体は殆ど無い。地上で損傷した機体を抱えている陸上機は、まるで地獄へ向かう戦死者の列のようだ。

 弾薬は先程の戦闘で殆ど残らず、ワルキューレ宇宙軍の将兵の気力も無かった。次に連邦軍の追撃を受けたら、全滅は確実だろう。五人を抱える柿崎のVF-1Aに、同じ機種の機体がファイター形態で近付いてくる。速度を合わせた機体に、直ぐに柿崎は所属を問う。

 

「ん?そこのVF-1!所属は?!」

 

『晃です。代わりの機体を調達してきました』

 

『私よ。前のが壊れちゃったし、時間もないから、晃と同じVF-1Aだけど』

 

「まぁ、そんな所ね。私のライガー・ゼロは届いてるかしら?」

 

 二人から聞こえる通信に、マリはそう呟くと、自分のライガー・ゼロがどうなっているのか気になる。その後、柿崎は疑問に思ったことを口にした。

 

「お前等、そう言えばどうやって編隊に入れて貰えたんだ?」

 

『警告されましたが、テーゼナーさんとヴァセレートさんの知り合いだと言ったら、通してくれました』

 

「そんな簡単な理由で良いのかな・・・?まぁ、良いか」

 

 細かいことを気にしない柿崎は、その問題を白紙にし、味方が向かっている場所へと続いた。そんな時、ザシャの様子がおかしかった。それに気付いたマリは、彼女の隣に寄り添う。

 

「だ、だだだ大丈夫ですか!?隊長!」

 

「隊長・・・どうしたの?」

 

「こんな時に冗談は止めてよね」

 

 三人の部下はザシャを心配して声を掛けるが、彼女からの反応はない。そんなザシャにマリは額に手を当てると、体温が常温と違うことに気付く。

 

「熱が出てるじゃないの。まぁ、連戦続きとか重荷とだからか仕方ないけど・・・」

 

 ザシャが連戦続きや部下を死なせてはならない重荷で耐えきれずに倒れた事を知らせたマリは、そう彼女の部下達に告げた。マリはザシャを横にして、自分の太腿に頬を赤くして小さく息を荒げる彼女の頭を乗せる。

 チェリー、千鶴がザシャの腕を掴み、ペトラが他の二人と同様に心配そうに見る中、マリは向かう方角に視線を向けた。そんな彼女等をVF-25Fに乗るアルトは、遠くの方から眺めていた。

 




詰め込みすぎちまったぜ・・・

追記 バジュラでも出せば良かったかな・・・シェリルも居るし・・・


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休息は来ない

なんか・・・一万字以上書いている気がしない・・・

今回は連邦&ジオンMS小祭り。むせるもあるよ!


 ガラヤの町での戦闘を終えたマリとザシャ達を含むワルキューレ残存部隊の向かった先は、放棄された砦であった。

 滑走路らしき物は遠くの方に見えたが、至る所に穴が空き、使用不可能になっている。幸運にも残存部隊には離着陸を必要とする機体は存在せず、安心して降りられる。

 

「砦ね・・・あの旗は・・・?」

 

 ザシャを自分の太腿に寝かせているマリは、双眼鏡で砦に靡いているぼろぼろの旗を見て驚きの声を上げた。かつて自分が世界の主として君臨していた大帝国、神聖百合帝国の国旗だ。この国旗があると言うことは、この惑星にワルキューレの支配を拒んだメガミ人が居たという証拠である。

 砦周辺を見渡してみると、生い茂った草や枝の中に、ドイツ国防軍の野戦服を着た白骨死体が幾つか転がっており、死体の隣にはHKG3A4やMpi-KM等を始めとした旧東西ドイツの小化器も転がっている。攻撃を受けて穴だらけになった城壁、朽ち果てたトーチカ等の防衛設備がある。

 おまけに両国の戦闘車両や戦闘ヘリの朽ち果てた残骸まであった。

 錆び付いているからして、この砦が放棄されたのは十年ほど前だろう。双眼鏡から目を離したマリは、誘導灯が光っている箇所を見た。

 友軍機がそこへ入っていく事から、先に到着した味方の工兵が作った即席のハンガーか、元からあった物だ。地上機は、下にある大型ハッチから入っていく。

 砦の近くまで来ると、上手く地形にカモフラージュした見張り番が立っている。柿崎のVF-1Aの手に乗せられた一行がハンガー内へ入ると、入ってきた機体の整備を急ぐ整備兵達の姿があった。いつ敵がここを見付けて襲ってきてもおかしくないためか、動きは慌ただしい。

 

『降ろしますよ!』

 

 柿崎がそうスピーカーから知らせ、ハンガーに着陸すると、マリ達を乗せる手がハンガーに下ろされ、ある程度の距離を離れれば、ファイター形態へと変形し、キャノピーを開けて柿崎が降りてくる。晃とレイのVF-1Aも一度ガウォーク形態に変形して足を付け、ファイター形態に変形して機体から降りる。

 マリは熱を出しているザシャを抱えながら、近くを通りかかる整備兵に医務室は何処なのかを問う。

 

「ねぇ、医務室何処?」

 

「え?そんなの案内図でも見てくださいよ!」

 

 熱を出した女性士官を抱えたマリに構っている暇はないと判断したのか、連絡路前の壁にある案内図を指差した後、自分が担当する場所へと向かった。

 質問に答えなかった整備兵に舌打ちしたマリは、案内図で医務室の位置を確認した後、ザシャを抱えながら、チェリー、千鶴、ペトラと共に医務室へと向かう。柿崎も後に付いていこうとしたが、自分の上官と今は望まぬ再開をする。

 

「少佐ぁ~、待ってくださいよ!」

 

『柿崎!』

 

「げっ、隊長!?」

 

「げっ、じゃないわよ!聞きたいことは山ほどあるんだから、こっちにいらっしゃい!」

 

「そ、そんなぁ~!イテテ!」

 

 そのまま自分の上官であるコリンヌ・ビヤールに掴まり、耳を掴まれたまま連れて行かれた。

 医務室へと辿り着いたマリと三人は部屋へ入ったが、全てのベッドは重傷の負傷兵に占領されており、さながら野戦病院のような光景が広がっていた。入ってきた彼女等に気付いた血塗れの手術服を着た女医が近付き、血で真っ赤のゴム手袋を取り、ザシャの額に触れる。

 

「ただの熱じゃない。向こうに士官用の宿舎があるから、そこに寝かせておきなさい」

 

 この指示に応じ、四人は医務室を出て士官用の宿舎に向かった。

 

「やっぱり受け入れられませんね・・・」

 

 チェリーがもっともなことを言うと、三人は無視して目標に向けて歩く。道中、弾薬や設置用の火器を運んでいる包帯を巻いただけの軽傷者達と遭遇する。中には骨折した者達も居たが、十分に動けると判断され、働かされているのだろう。そうこうしている内に、士官用の宿舎があるエリアに到着した。

 空いている部屋を見付け、そこにあるベッドへザシャを寝かせると、マリは彼女の部下である三人に看病するよう命じ、着替えを調達するべく、被服類があるエリアへと向かう。

 係の女性士官に着替えを渡すよう告げる。だが、係が出したのはドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の飛行服の下に着用するフリーガーブルーゼと婦人用制服だった。

 

「なにこれ?」

 

「なにって、着替えです」

 

「こんな埃だらけの物出して良いの?」

 

「密封されてましたから大丈夫です。嫌なら持ってこなくて良いですよ」

 

 マリのクレーム対し、係はそう答えると、マリは自分と三人娘の着替えを受け取り、ザシャ達が居る部屋へと戻った。ザシャの着替えはあるので、許すことにする。

 

「あの、ヴァセレート少佐ですか?」

 

「なに?」

 

 戻る途中、女性士官に突然声を掛けられ、用件を聞くために足を止めた。

 

「ハンガーに白くて大きいゾイドを預けたら、貴女に言えとデカイ人に言われたので伝えに来ました」

 

「あぁ、そう。ありがとね」

 

 自分のライガー・ゼロをガルナが届けてくれたので、一応女性士官に礼を言って、士官用の宿舎へ戻る。ザシャが横になっている部屋へと入ると、額に冷たいタオルを乗せられてベッドに横になる彼女と、看病するチェリーと千鶴、部屋の隅に立つペトラの姿があった。

 

「あっ、お帰りなさい。その着替えは・・・?」

 

「なんか着替えないから、ここの使えとか言ってきた」

 

「埃とか入ってるんじゃないの?やたら死体だらけだったし」

 

「密封されてたから大丈夫みたい。着ても大丈夫だってさ」

 

 持っている着替えについてチェリーが訪ねれば、マリはそう答え、ペトラが悪態をついた。マリが「着替えは大丈夫」と追加で伝えれば、机の上に四人分の着替えを置き、ザシャの着ているパイロットスーツを脱がし始める。

 パイロットスーツと下に着ている衣服も脱がせば、マリよりは劣るが、十分にそそられるほどの体付きであるザシャの下着姿が露わとなる。さらに熱を出して顔を赤らめ、息を荒げている所為でこの場に異性でもいれば、我慢できず、飛び付いてしまうところだが、ここには同性しか居ない。

 身体に付いた汗を乾いたタオルで拭き取り、下着の中にまでタオルを入れ、汗を拭き取る。敏感なところに触れられたのか、ザシャは声を上げてしまう。

 

「ひゃっ・・・」

 

 声を上げたザシャであったが、マリは構わず続け、全身の汗を全て拭き取った。次に白い長袖のシャツと長ズボンに着替えさせる。

 

「あの、隊長の下着とか替えないんですか?」

 

着替えを終えた後、チェリーが聞いてきたが、それに対しては替えの下着がないと答えた。

 

「終わったし、私も着替えよっか」

 

 自分の作業着も汗でベタベタとしていたのか、マリは部屋の中で作業着を脱ぎ始めた。それと見ていたザシャを除く一同は、驚きの声を上げる。

 

「ななな何で脱いでるんですか!?ここは更衣室じゃないんですよ?!」

 

「え?だって、ここ女の子しか居ないじゃん」

 

「女子校みたいな感覚ね・・・」

 

 顔を赤らめて注意するチェリーの問いに、マリはそう答えれば、ペトラは軽蔑したかのような目をしながら口を開いた。その間にも彼女は遠慮なしに脱ぎ始め、下着姿となる。

 彼女の下着姿を見えた三人は、ただ息を飲み込むか、見取れるだけである。そんな三人を他所に、彼女は机の上に置いてあったフリーガーブルーゼに着替え始めた。着替え終えたマリは、三人に着替えるよう告げる。

 

「ほら、あんた等も着替えなさいよ」

 

 周りのことを気にしないマリは、三人に着替えを出して進めるが、この場で着替えるのは恥ずかしいと思ったのか、着替えを受け取り、部屋を出た。そんな彼女達を見て、マリは疑問に思う。

 

「男なんて居ないのに」

 

 出て行く彼女達を見て嘆いたマリは、つまむ物を探すためにザシャが眠る部屋を後にした。

向かう最中、廊下で出会す者達の服装は、自分と同じようなフリーガーブルーゼを着たパイロット達やドイツ国防陸軍の迷彩服を着た将兵達と遭遇する。どうやら着替えなどを持ち出せなかったらしく、仕方なく十年ほど密封されて倉庫に眠っていた物を引っ張り出してきたのだろう。流石に小火器類、弾薬は持ってはいないが。

 糧食類については、町で奪ってきた物か、敵の補給部隊から奪ってきた物で補っている様子だ。ある程度の日用品と衛生用品は無事であった。そんな事を気にしつつ、マリは開口部に体重を掛け、夜空を見上げた。

 

 

 

 マリとザシャ達が砦に到着した頃、全長1200mにも及ぶマクロス級を追う白い塗装が特徴的なペガサス級強襲揚陸艦の姿があった。追跡はマクロス級の長距離レーダー範囲や哨戒機から外れた距離で行われている。尤も、追跡の対象であるマクロスが巨大すぎ、遠くから見える程であるが。

 そのマクロスの追跡を担当し、ペガサス級強襲揚陸艦ネシェルに乗るのは、連邦宇宙軍の精鋭の将兵を大勢死なせ、敵に何の損害も与えられなかった罰として、地上勤務をやらされているフリッツ・アプト元第11独立艦隊の提督だ。

 

「中将。敵哨戒機、変形型要塞艦に戻っていきます」

 

 双眼鏡を持つ下士官からの報告に、フリッツは操艦手に指示を出した。

 

「よし、距離を詰めろ。ただし、レーダーの範囲に入るな」

 

「了解!」

 

 操艦手はネシェルをある程度の距離まで前進させた。追跡対象であるマクロス級は、フリッツ等が乗るネシェルに気付いていない。フリッツは左手に持った珈琲をすすりつつ、相手の巨大艦の動向を探った。

 フリッツの予想では、マクロス級はこの惑星に落下した残存部隊が集まる合流ポイントに向かっていると睨んでいる。そんな彼に、眼鏡を掛けた通信士が上層部からの連絡を報告する。

 

「中将、駐屯軍本部が攻撃しろとまた通達してきています」

 

「またか。無能共に現状の戦力では不可能と返しておけ!」

 

「はっ!」

 

「たくっ、安全圏に居る連中は、ペガサス級一隻で敵の大型戦艦を墜とせるとでも思っているのか?」

 

 通信士にその返答文を送信するよう伝えた後、安全圏に居る駐屯軍本部の将官達に対しての悪態をついた。そんな時に、通信士がまた連絡が来たと報告した。

 

「中将、また連絡・・・」

 

「えぇーい!ミノスキー粒子とか電波妨害を受けているとかで通信を切れ!」

 

 また本部からの通信だと思い、着るように命ずるフリッツであったが、違う物と通信士は報告する。

 

「いえ、追跡部隊本部からです」

 

「なに?貸してみろ!もしもし、こちらは宇宙軍所属シュヴァルツ・ランツェンライター隊の長であるフリッツ・アプト中将だ。貴官は何様で通信を掛けてきたのかを問う」

 

 報告した通信士からヘッドフォンを奪い取り、通信先の相手の動機を問う。

 

『単なる報告です。アプト宇宙軍中将殿。我が統合連邦地上軍並びアヌビス地上軍の連合追跡隊は、ガラヤの町で大損害を被った為、連邦地上軍所属のバルキリーで編成されるアグレッサー隊、アヌビス地上軍の二級戦部隊と外人部隊や懲罰部隊、傭兵部隊を編成に加え、再編を行いました』

 

「アグレッサーや外人部隊は兎も角、なんで懲罰部隊や傭兵部隊まで投入する必要があるんだ?現地軍や駐屯部隊から要請すれば良いではないか」

 

『それにつきましては、本部とアヌビス地上軍司令部から、近々大規模な掃討作戦を実行するそうで。作戦実行のため、増援は出せないと言われました』

 

「ふざけた事を・・・上の連中は何を考えているんだ?なら、拳銃で脅してでも引き抜いてこい」

 

 この報告にフリッツは本部に対して悪口を言った後、強硬手段を執ることを提案するが、相手は拒否する。

 

『そんな野蛮なことは私には出来ません。この連合部隊の長を貴方にしてもらいたいのですが・・・拒否しますか?』

 

「馬鹿野郎!誰がそんなことを・・・」

 

「中将、現地軍のヘビィ・フォーク級陸上戦艦がこちらに主砲を向けております!」

 

「なにぃ・・・!?」

 

 追跡部隊指揮官からの頼みに、フリッツは断ろうとしたが、レーダー手からの報告で中断される。

 

「拒否権は無いという事か・・・!」

 

『その通りです。お願いできますね?アプト閣下』

 

「ぬぅ・・・分かった・・・」

 

『それで良いのです、閣下。では、敵の潜伏先が分かり次第、攻撃を開始してください。露払いをお願いしますよ?』

 

 追跡部隊指揮官からの通信が切れると、苛立ちを隠せないフリッツは、ヘッドフォンを強く握った。そんな彼から通信士はヘッドフォンを恐る恐る手を伸ばすと、フリッツは投げ返し、苛々しながらブリッジを出ようとした。

 

「中将、どちらへ?」

 

「少し寝る!あの馬鹿でかい敵艦が潜伏先の連中と合流したら、直ぐに起こせ!分かったな?!」

 

「はっ!!」

 

 参謀からの問いにフリッツはそう答え、ブリッジを後にした。

 

 

 

 その頃、フリッツが追跡中のマクロス級は、彼が睨んだとおり、集結ポイントである砦の近くまで来ていた。マクロス級の巨体で着陸でもすれば、子供でも目的地が分かってしまう。直ちに残存部隊を纏める指揮官はコースを帰るようマクロス級に、秘匿回線で告げた。

 

「こちらは混成部隊指揮官メルヴィ・テア・クピアイネン中佐だ。そこのマクロス級、直ちにコースを変えよ!」

 

 砦の司令部にて、指揮官であるメルヴィがそう告げるが、マクロス級の艦長はそれを拒否する。拒否する声の主は、まるで少女のようであり、司令部にいる何名かが驚きの声を上げる。

 

『えっ、そっちが来いって言ってるんでしょ?(みんな)を乗せられるくらいの大きい船を敵の攻撃を受けながらここまで持ってきたのよ。感謝してよね』

 

 潜伏先が敵に察知される事など知ったことではないように告げる少女のような声の艦長に、メルヴィは反論する。

 

「その巨体をここに着陸させれば、ここが敵に察知されてしまうのだ。直ちにコースの返答を願う」

 

『察知される?だったらこのツェルベルスに積み込めば良いじゃないの。それなら早く着陸して、物資とか色々積み込まないとね』

 

「あぁ、その手があったか・・・時間稼ぎのために、防衛線を築かねば・・・」

 

 ツェルベルスの艦長からの返答に、メルヴィは直ぐさま防衛線を取るよう指示を出した。それに応じてツェルベルスから艦載機が発進し、迎撃態勢を取る。この指示はマリ達が居る士官用の宿舎にも響いた。

 

『各員に通達する。マクロス級要塞艦ツェルベルスが当砦に着陸し、諸君等を回収する。戦闘要員以外の者は、敵襲来に備え、ツェルベルスに当砦の物資の搬入と負傷兵の移送を速やかに始められたし。繰り返す!』

 

 砦中に設置されたスピーカーから流される放送に、砦にいるワルキューレの将兵達は慌ただしく動き始めた。戦闘要員であるパイロット達は直ちに自分の機体に急ぎ、そうでない者達は着陸しようとするツェルベルスに物資や負傷兵を詰め込むべく、それぞれの持ち場に向かった。

 スピーカーから流れる放送に、ザシャは身体を起こし、戦おうとしたが、三人の部下に止められる。

 

「敵が来る・・・戦わないと・・・!」

 

「隊長はツェルベルスに行ってください!」

 

「そんな、こんな状況で、熱でなんかで寝込んでいられないよ・・・!」

 

「良いから・・・」

 

 無理にでも身体を起こし、機体に乗り込んで戦おうとするザシャだが、バランスを崩し、チェリーと千鶴に抱えられる。そのまま部屋から連れ出される。そんな彼女等に、マリとペトラは同行する。

 一階に辿り着く頃には、ツェルベルスは砦の近くに着陸し、物資の集積と負傷兵の移送が行われていた。

 

「お願いします!」

 

「了解です」

 

「待って・・・!」

 

 衛生兵にザシャを引き渡すと、余っている機体が無いか探しに向かおうとするが、彼女に呼び止められる。三人の部下は振り替り、訳を問う。

 

「なんですか?」

 

「絶対に、死なないで・・・!」

 

『はい!(分かった)』

 

 チェリーと千鶴は笑顔で答え、ペトラは無言で頷く。それから三人は動ける機体を探しに向かった。

 一方のマリは、自分のライガー・ゼロの元へ向かっていたが、全く違う外装になっていることに驚く。元々ライガー・ゼロは、チェンジング・アーマー・システム、通称CASを搭載しており、今の外装はそれの一種である。

 直ぐに近くにいた少女整備兵を捕まえ、理由を問う。

 

「私のライガー・ゼロが違うのになっちゃってんだけど?!」

 

「ライガー・ゼロ?これはゼロイェーガーですよ!」

 

「イェーガー・・・?どんな機能なの?」

 

 整備兵からの答えに、マリは続けて問う。

 

「高速戦闘タイプであります!」

 

「成る程、前のよりも早いって訳ね!」

 

 答えを聞いたマリは、直ぐにゼロイェーガーのキャノピーを開けて乗り込む。キャノピーを閉めて直ぐにハンガーから出て行こうとしたが、先の整備兵から静止の声が上がる。

 

「待ってください!追加装備がまだです!!」

 

「追加装備?そんなの待ってらんないわよ!」

 

「そのままで出ると、火力が貧弱なので!」

 

「もぅ!早くしなさいよ!!」

 

 追加装備をするまで出撃が出来ない為、マリはコクピットの中で苛々とし始める。ゼロイェーガーに装備されるのは、専用の追加装備ではなく、別の機体の物ばかりであった。

 両前足には円形の八連装ミサイルポッドが二つずつ無理矢理付けられ、背中にはコマンドウルフ用の50㎜二連装ビーム砲を付けられる。整備兵は作業が終わったと、マリに報告する。

 

「終わりました!速度は落ちますが、ある程度の射撃戦は行えます。それと不要になれば、パージが可能です!」

 

「ありがと。それで貴方の名前は?」

 

 礼を言うマリに、整備兵は自分の名前を問われたので、それに答える。

 

「宇宙軍所属、艦載機整備士のカチヤ・フンメル二等兵であります!」

 

「そう。生き残ったらまた会いましょう」

 

「はい!」

 

 敬礼するカチヤを見た後、マリはキャノピーを閉め、ハンガーから飛び出した。彼女が外に出た頃には、既に戦闘が開始されていた。

 

「もう戦闘が始まってる・・・!」

 

 モニターからは連続する爆発や曳光弾が見え、外から収拾された音には、銃声や爆音が響いてくる。遠くに見えるフリッツ等シュヴァルツ・ランツェンライターが乗るネシェルを確認できた。

 ミサイルや左右の高出力メガ粒子砲を砦に向けて発射し、被害を与えている。味方のバルキリーが撃沈を試みるも、対空砲火で追い払われてしまう。マリは向こうの敵には届かないと思い、自分を攻撃してきた敵機の殲滅に集中した。

 まず目に入ったのは、懲罰部隊のスコープドックだ。背中のビーム砲を撃ち込んで撃破し、続いて二機目と三機目を撃破する。

 複数居る敵機に対しては、ミサイルでマルチロックオンしてから全弾発射し、ミサイルポッドをパージして、機体を軽くした。発射されたミサイルは目標に全て命中し、マリの撃墜数に十数機以上がプラスされた。

 高速移動をしながら上空に飛ぶ敵機を何機か撃墜していると、アグレッサー隊所属の可変戦闘機であるVF-5000Bスターミラージュが上空から襲来し、ガンポッドをマリのゼロイェーガーに向けて撃ち込んでくる。イェーガーが持つ好機動力を駆使し、ガンポッドの掃射を回避すれば、背中のビーム砲で対空射撃を行う。動きが速くて中々当たらなかったが、偏差射撃をすることで、撃墜することが出来た。

 

「次は・・・?居ないか・・・次が来るまで・・・」

 

 レーダーを確認し、自分の周りに敵が居ないことを分かると、少し休憩を取ろうとする。だが、通信でツェルベルスのCICに居る年若い少女のような管制官の叱りを受ける。

 

『そんな所で休んでいる人、早く次の戦場へ向かうのです!』

 

「はっ?ここには敵なんか居ないわよ」

 

『敵陣からの砲撃で味方の被害が10%に達成したです!早く砲撃陣地へ行って、敵の砲撃をなんとかするのですよ!』

 

「はいはい。分かったわよ!」

 

 指示に応じたマリは、生返事をしてから背中のビーム砲を外し、機体を軽くした後、背中のブーストポッドを展開し、ブーストを噴かせて砲撃陣地へと向かった。

 座席が後方に下がり、Gの抵抗を薄くする。僅か数秒単位で敵陣へと到達し、敵機が迎撃してきたが、更に速度が増したイェーガーには全く命中せず、音速に達した速度で近くを通過され、その衝撃波で迎撃機は吹き飛んでしまう。

 

「は、早過ぎる!?」

 

 迎撃に当たったVF-5000Bに乗るパイロットは、イェーガーの速さに驚きを隠せないでいる。この間にもマリは音速の衝撃波で砲撃陣地を荒らし回り、敵を混乱させる。荒らし回っている最中、あの管制官からの通信が入ってきた。

 

『単機で突っ込んじゃ駄目です!誰かコンビを組んで・・・』

 

「遅いわよ!もう敵陣のど真ん中に居るんだから!」

 

『えっ、もう敵陣に!?うわっ、本当です!いつの間に!?』

 

 戸惑う管制官を無視し、砦に砲撃を行うヘビィ・フォーク級に向け、高速で突っ込んだ。

 余りにも速すぎたので、少し速度を落としたが、それでも対空機関砲の弾幕を回避出来るほどである。ジャンプして乗り越えると、弾幕が途切れた箇所から爆装したVF-25Aが侵入し、ヘビィ・フォーク級に向けて対艦爆弾を投下する。

 投下された爆弾は見事着弾し、ヘビィ・フォーク級を撃沈する。それを確認したマリは、追加爆撃を受ける砲撃陣地から高速で脱出した。出た先が外人部隊の担当戦区だったのか、マリのイェーガーを見るなり撃ってくる。

 高速戦闘を想定して作られたイェーガー形態は、ゼロタイプよりも防御力が低い。今撃ってきている攻撃を諸に受ければ、イェーガーは忽ち鉄くずと化す。

 だが、彼女の腕があれば容易に回避が可能であり、攻撃を回避しながら接近し、装備されたブレードを突き刺して、次々と敵機を撃ち落としていく。瞬く間に十数機以上がマリの手によって撃墜され、残っている敵は撤退を始めた。

 マリが逃すはずもなく、背中を向ける敵の足にバルカンポッドを撃ち込み、移動不可にさせれば、レーザークローでトドメを刺していく。残っている敵を全て排除したマリは、次の目標を確認すべく、モニター越しから周囲を見渡す。そんな時に、別の落ち着いた感じの女性管制官が新手の接近を知らせる。

 

『新手の部隊の接近を確認しました!敵の精鋭部隊かもしれません。注意してください!』

 

 知らせの後に、モニターに新手の敵部隊の位置情報が表示される。位置は二手に分かれており、北東と北西から接近してくる。

 

『レーダーに表示します。心して当たってください!』

 

 この戦場で戦うワルキューレの将兵に届いており、競合師団のメンバーにも聞こえていた。

 

「新手の敵部隊?どれどれ」

 

 VF-25Gに乗るツチラトが狙撃用の照準器を出し、北西の方を確認してみると、カスタムされたMSやAT、ゾイドなどが陣形を組みながらこちらに向かってきている。他にも、上空からは数々の飛行形態に変形するMSや可変戦闘機が確認できる。

 

「おいおい、また博物館かよ」

 

 現れた敵部隊がどれもこれもが古い機体だったので、それを見たツチラトは舐めきった言葉を吐いた。そんな彼に、VF-25Fに乗るエッカルトが注意する。

 

「油断するな。古い機体に乗ってあれ程の動きをする連中だ。おそらく相当な手練れだろう」

 

 敵部隊の統率が取れた動きを見て、エッカルトは分析してかなりの戦闘経験を持つ傭兵集団と判断する。

 もちろん彼の言うとおりであり、敵陣営に居るフリッツが、どんな者達であるのかを副官に問う。

 

「あの傭兵部隊、装備は旧式の物ばかりだが、動きはまるで精鋭部隊だな。一体何処の傭兵だ?」

 

「はっ、イクサ人で編成された戦闘団規模の傭兵部隊だと追跡部隊指揮官が仰有っていました」

 

「成る程、イクサ人の傭兵部隊か・・・これだけは正しい判断だな」

 

 副官からの答えに、フリッツは自分に露払いを強制させた追跡部隊指揮官を少しは褒めた。ドムキャノン、ドム・トローペン、ドワッジがフォーメーションを組み、ホバー移動をしながら砦の迎撃部隊に接近してくる。

 射程距離まで近付くと、マシンガンやジャイアントバズを撃ち込み、迎撃に当たる複数のジムⅡやM1アストレイを撃破し、更にネモⅡやⅢ、デストロイド・シャイアンⅡを撃破する。

 次に重武装のスコープドック数機がヘビィマシンガンやミサイルを撃ち、上空から接近してくる可変系MSやVF-11CやVF-117を撃墜していく。行く先を塞ぐ地上にいる敵機に対しても猛威を振るい、味方の地上部隊の損害が増える。

 今までは動く棺桶でしか無かったATとは思えないほどの強さだ。余りの強さにVF-25Aに乗るジョンは驚きを隠せないで居る。

 

「ま、マジでATなのか・・・!?」

 

 驚きの声を上げるジョンであったが、空にも地上の同等な恐怖が待ち受けていた。VF-1バルキリー、VA-3Bインベーダー、VF-9カットラス、VF-14バンパイア、VA-14ハンター等の様々な既に退役済みのバルキリー群が、ワルキューレの制式採用型や最新型のバルキリーに襲い掛かる。

 可変MSであるアッシマーやギャンプラン、帝国ゾイドである黒い塗装のレドラまで襲ってくる。

 乱戦状態となるが、性能差を持って何機かを撃墜できた。だが、相手の実戦経験が上なのか、あっと言う間に巻き返された。

 

「各機、注意しろ!奴等は戦争のプロだ!!」

 

 VF-25Sに乗るチムーロヴィッチは、急降下戦法や一撃離脱戦法を二機一隊となって行う傭兵部隊に、交戦しながら部下達に注意して掛かるよう命ずる。その間にも性能差で優るはずのVF-25Aが一機撃墜された。

 

「ベーン!畜生、仇は取ってやる!」

 

 ジョンが撃墜されたVF-25Aを見て、それに乗っていた戦友の名を叫んだ。仇を取ろうと、目の前で後ろを見せる敵機にバルカン砲やガンポッドを撃ち込み、撃墜する。

 エッカルトも敵機を撃墜することに成功するが、撃墜できたのはVF-9一機だけである。

 

「やっと一機か・・・相手はどれだけの実戦を潜り抜けているんだ・・・!?」

 

 双方から来る敵機の攻撃を避けつつ、自分の予想の範疇を超えている事に驚く。バトロイド形態でスナイパーライフルを構えるVF-25Gに乗るツチラトは、この場にザシャが居ないことを悔やむ。

 

「クソッ、この場にヒヨコ中尉がいれば・・・!」

 

 定まらない照準に苛立てつつ、引き金を引いたが、標的にしたVF-14を小破させただけだった。

 

『各小隊、バトロイドになって互いを・・・わぁぁぁぁ!!』

 

「中隊長!!」

 

 その数秒後に、第1中隊長のベルントソン大尉が指示を出している最中に撃墜された。動揺する彼の部下達を抑えるため、VF-25Sに乗るシャロンが第1中隊の指揮権を引き継ぐと告げる。

 

「私が第1中隊を預かる!各小隊はバトロイド形態となり、互いの死角を補佐せよ!」

 

『了解!』

 

 動揺する第1中隊のパイロット達に指示を出して落ち着かせた後、コンバットナイフを投げてバトロイド形態のVF-1Aを撃墜する。

 各地区で防衛線がイクサ人の傭兵部隊によって崩れる中、担当地区で敵の排除をしていたマリに、CICの管制官から直ちに砦に戻るよう指示される。

 

『ポイントデルタに居る部隊は直ぐに砦に戻ってくださいです!敵の精鋭地上部隊が砦に取り付き、現在守備隊と交戦中です!!』

 

「突破されるの早過ぎでしょ!」

 

 ブーストを噴かせて砦まで一気に戻ろうとしたが、ビーム攻撃による正確な狙撃を受け、回避を余儀なくされ、失速してしまう。立ち立ち止まった瞬間にミサイルが近くに着弾し、正面に黒い塗装の重装型ガンキャノンとジム改が現れた。

 先にブルパップマシンガンを撃ってくるジム改をブレードで串刺しにして撃破し、向かってくる重装型ガンキャノンに襲い掛かる。相手はこれを待ち受けていたのか、跳び蹴りを食らわせ、マリが乗るイェーガーを吹き飛ばした。

 

「キャッ!」

 

 蹴り飛ばされた衝撃と共に強い衝撃がコクピットを襲い、マリは声を上げる。地面にイェーガーが倒れ込めば、重装型ガンキャノンが近付いてくる。

 

「良くも!」

 

 相手が近付いたところで体勢を立て直し、イェーガーの首を引き千切ろうとした重装型ガンキャノンのコクピットをレーザークローで引っ掻く。引っ掻かれたコクピットのハッチは吹き飛び、乗っているパイロットが丸見えとなる。

 重装型ガンキャノンのパイロットは機体に似合った帽子を被った大柄の男で、かなりの強面顔のイクサ人だ。しかし、イ腹にはハッチの破片が深く突き刺さっており、時期にイクサ人の傭兵は吐血し、重装型ガンキャノンを自らの棺桶として息絶えた。

 パイロットが死んだ重装型ガンキャノンは、まるで立ったまま死んだ弁慶の如くであった。

 直ぐにその場から離れ、砦に戻ろうとするが、マリの足止めを行うためか、狙撃が行われた後、陸戦型ジムや陸戦用ジム、陸戦型ガンダム、ザクキャノン、ザクⅡ改、グフ、ドムが現れ、さらにはライオン型ゾイドシールドライガー、ロングレンジ砲装備のコマンドウルフ、スティラコサウルス型ゾイドレッドホーン、セイバータイガー等のゾイド群も行く先を封じる様に現れる。

 更に航空部隊の余剰戦力が回されたのか、もはや砦に向かうことは不可能だった。

 

「なんで私にこんなにも集まってくるのかしら・・・?」

 

 まるで自分を足止めするために集まってきたような旧型の機動兵器群に、マリは頭をフル回転させた。ほんの数秒で答えは出て来る。

 

「私を足止めするためだけにこんなに集めたのね・・・さっきの雑魚共は様子見の為の生け贄って訳ね」

 

 答えはマリが口にした通りだ。先程の外人部隊と砲撃陣地は彼女の実力を図るための生け贄であり、イクサ人の外人部隊が遅れて現れた理由はそれだった。

 今、目の前と上空を飛ぶイクサ人の傭兵達が乗る機動兵器は、マリを足止めするだけに選ばれた隊の中で上位に君臨する技量の高いパイロット達である。彼女は強行突破を試みるも、凄まじい弾幕で阻まれてしまう。

 

「クッ、砦に戻らないと行けないのに!こいつ等は!!」

 

 ヒートロッドを撃ち出してくるグフの攻撃を回避し、近付いて頭部のブレードで串刺しにして、攻撃を回避しつつ、次なる敵機に攻撃を仕掛けた。何機潰しても、泉の如く湧いて出て来る。そんな敵部隊に、マリは必死に突破を試みようと、敵を倒し続けた。

 一方のマリが必死に戻ろうとする砦では、ツェルベルスの物資搬入と負傷兵の移送は終了し、撤退の準備が始められていた。しかし、砦にイクサ人の傭兵部隊の侵入を許してしまい、上手く撤退が進んでいない。砦内部で撤退中のワルキューレの機動兵器隊に、先行して入ってきたグフのエース仕様機であるグフ・カスタムが襲い掛かる。

 

「き、来た・・・!」

 

『迎撃準備!』

 

 ジムⅢとネモ改の混成MS部隊五機が迎撃態勢を取ったが、イクサ人の傭兵が乗るグフ・カスタムは混成部隊のMSが撃つ前に近くまで迫ってきた。直ぐにビームサーベルを抜いて、性能が遙かに劣る敵機を切り裂こうとしたが、相手はそれよりも早く動き、瞬く間に混成部隊のMS三機をヒートサーベルで片付けてしまう。

 残りの二機はビームライフルを撃ちながら後退しようとしたが、側面から現れた近接戦闘特化型のジムであるジム・ストライカーのツイン・ビーム・スピアに切り裂かれる。最後の一機は引き抜いて後ろに回り込んできたジム・ストライカーのグラップ・シールドの先端にあるクロー・アームでコクピットを串刺しにされた。

 この二機による攻撃で、砦に未だ残っていた部隊はほぼ壊滅する。

ツェルベルスへの最後の道を塞ぐかのように、宇宙用に改装された戦術機F-4ファントム七機が突撃砲を撃ちながら敵を近付けまいと必死で死守するが、プロの傭兵集団を食い止める事は出来なかった。

 ミサイルランチャーを構えた数機のスコープドックからのミサイル一斉掃射を受け、壁が崩される。爆煙が晴れる前に、右腕にパイルドライバーと同じ原理を持つ武器であるパイルバンカーを装備した一機が突撃する。壁になっていたF-4は立ってはいなかったが、倒れ込んだ一機はまだ戦闘継続が可能であり、突撃砲を敵が居そうな場所へ乱射し続けている。

 そんな敵機にトドメを刺すべく、煙の中をかいくぐってきたパイルバンカーを装備したスコープドックが近付き、杭をコクピットへ向けて打ち出した。杭を打ち込まれたF-4は動かなくなり、ずっと突撃砲をあらぬ方向へと撃ち続けるだけである。手に持った銃身を切り詰めたヘビィマシンガンを撃たれ、突撃砲を持つ腕が落とされ、銃声は止む。

 遮蔽物に身を隠していたATやMS達は、先にあるツェルベルスに向かって突撃した。

 

「来やがったな、傭兵共!この柿崎様が相手だ!」

 

 待ち受けていたVF-1Aのバトロイド形態に乗る柿崎は、ハッチから出て来た傭兵部隊に向けてガンポッドを撃ち始める。敵の反応は早かったが、数機以上が弾幕を浴びて爆算する。

 迎撃に参加したのは柿崎機だけでなく、先にツェルベルスに撤退した地上機や帰還した航空戦力も参加し、砦から出て来る激しい弾幕を浴びせる。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 ジムⅡに乗ったチェリーや、VF-1Jに乗った千鶴やペトラも迎撃に参加。さらに晃とレイも参加して徹底的に撃ちまくり、完全にハッチ内に釘付けにすることが出来る。

 その間に、空で迎撃を行っていたバルキリーや可変MSを始めとした航空部隊が戻ってくる。残ったVF-25系統の数は殆どが撃墜され、まともに動けるのは一機と少ないという有様である。残りは修理すれば飛べるが、今すぐでは不可能だ。搭乗していたパイロット達は、人型形態の可変機に抱えられて帰還した。

 他の機体に搭乗しているパイロット達も、腕に抱えられてツェルベルスに帰ってきた。航空戦力が撤退したので、傭兵部隊の航空部隊が編隊を組みながら接近してくる。対策は出来ていたのか、フルアーマー装備のVF-1系統やVF-11C、対空ミサイル装備の機動兵器群が待機していた。

 

「目標、敵編隊。ミサイル一斉射用意!」

 

 アーマードバルキリー群や対空ミサイル装備の機動兵器群の中央に、双眼鏡を覗く尉官と受話器を持った佐官が居り、指揮を執っている。ミサイルが十分に当たる距離まで近付くと、受話器を持った佐官はミサイル発射の指示を出した。

 

「撃てぇぃ!」

 

 指示が出されると、ミサイルは一斉発射される。発射された大量のミサイルは傭兵部隊の航空部隊へ向けて飛んでいく。散会する敵バルキリーや可変MS、航空ゾイド群であったが、流石に回避しきれず、何機かがミサイルの弾幕を浴び、撃墜された。

 これにより空からの攻撃もなくなり、ツェルベルスは上昇し、ある程度の高さまで上昇した後、バーニアを一気に噴かせて安全圏へと向けて飛び立つ。取り残された者達もいるが、間近までに近付かれたために回収できず、置いていくしかなかった。

 戦っている間に置いてきぼりを食らったマリは、戦いながら離れていくツェルベルスに通信で待つように呼び掛ける。

 

「ちょっと待ちなさいよ!私がまだ・・・!」

 

『許してくださいです・・・敵の増援が接近していますのです。ここに留まっていれば、確実に数の暴力で抑えられてしまうのです・・・合流ポイントを出しますので、戦場から脱出できれば、直ぐにそのエリアに向かうのです・・・』

 

 通信に答える少女管制官は、申し訳なさそうに答え、合流ポイントをイェーガーのモニターに表示させる。敵の増援まで現れ、もはや乗ることは不可能と悟ったマリは、少女管制官に対し、自分と性交渉をするよう相手の同意を得ずに約束させる。

 

「そう。生きて再開したら私とセックスしてね」

 

『せ、セックスぅ!?あわわわ!!』

 

 それを聞いてモニター越しで顔を赤くして慌てふためく少女の表情を数秒間見た後、通信を切り、周囲から襲ってくる敵機を倒し続ける。それから暫く戦っていると、先程まで向かう目標であった砦から爆発音が聞こえ、崩れ始めた。どうやら少しでも足止めをするために、中枢部に爆薬を仕掛けたらしい。

 風塵が巻き起こる中、マリはイェーガーの機動力を生かして防備が薄い箇所へ突っ込み、包囲から突破する。それからブーストを全力で噴かし、音速のスピードで戦場から脱出した。

 

「追ってこない?私を引き離すだけだったようね」

 

 戦場から脱出したマリは、追ってこずに撃つだけの傭兵部隊の機動兵器群を見て呟き、出来るだけ遠くまで移動する。

同じく戦場から離れていくツェルベルスであったが、増援として現れた連邦軍と現地軍の連合追撃部隊が、行く先を塞ぐように展開してくる。数は先に襲撃してきた混戦部隊とは比べものにならない物であり、このままでは包囲され、今度こそ確実にやられてしまうだろう。

 

「敵部隊!前面に展開開始!!このままでは進路が!」

 

「ど、どうしよう・・・マクロスキャノンを撃ったら速度が遅くなっちゃうし・・・」

 

 レーダー手からの報告に、ツェルベルスの艦長は戸惑い始める。後ろからは先程の傭兵部隊の残りが接近し、前からは敵の大部隊が展開しつつある。

 八方塞がりになりそうな時に、アーマードパック装備のVF-25Sが単独で前衛の敵部隊に突っ込んでいく。知らせは負傷してコクピットから降ろされたシャロンから来る。

 

『こちらロード・・・!大隊長が・・・!』

 

「えっ、誰かが無断出撃してる!?艦長!ボギンスキー少佐がアーマードパックで無断出撃をしています!」

 

「か、勝手に!?直ぐに取り抑えて!」

 

『私が道を開きます!その間にツェルベルスは安全圏に!』

 

 モニターに映っているチムーロヴィッチはそう告げた後、敬礼してからモニターを切る。彼が乗る機体は前方を塞ごうと展開する敵部隊に突入し、交戦状態に入る。チムーロヴィッチの御陰で進路を塞がれずに済み、戦場からの退避が可能となる。

 彼の勇気ある行動で脱出が可能となり、ブリッジクルーはチムーロヴィッチが居るとされる爆発が連続する方向に向けて敬礼し、艦内にいる部下達も敬礼を行った。

何機かの敵機は抜けてきたが、ツェルベルスの巨体を沈めるには少なすぎ、多数の対空砲火で蜂の巣にされたか追い払われた。チムーロヴィッチ一人の犠牲で数千人の乗員と敗残兵、負傷兵達が乗るツェルベルスは敵の射程圏外から離れることが出来た。

 それと同時にチムーロヴィッチが乗るVF-25Sアーマードパックは、敵からの集中砲火により爆散。過剰なまでの集中砲火を受けているからして、完全に彼は死んでいるだろう。見事にチムーロヴィッチは、ツェルベルスを安全圏まで退避の時間を稼ぐことに成功した。




またまた長くなってしまったズラ・・・!

今回も詰め込みすぎた。次回もそうなるかもしれない・・・


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おぞましい光景

レイブンが乗っている重装甲型ゴドスじゃありません。

※ヒロイン大虐殺注意。


 ツェルベルスが戦域からの脱出に成功した後、同じく脱出に成功していたマリは、追ってこないか後方を確認した。

 

「ふぅ・・・追ってこない・・・」

 

 傭兵部隊が追ってこないことを確認したマリは、そのまま合流地点へと向かおうとするが、エネルギーがそこまで向かえるほど残っていない。地図を出し、補給が出来る場所を探す。

 

「もう、こんな時に・・・」

 

 この惑星の地図を見ながら、マリは自分の居る位置を長い時間掛けてようやく割り出し、近くに町があるかどうかを探し始める。どんな町なのかを調べようとしたが、このライガー・ゼロイェーガーにそんな便利な機能は搭載されてなどいなかった。

 

「自分の目で確かめるしかないのね・・・」

 

 仕方なく、マリは自分で確かめに向かった。

 そんな彼女が乗る濃い青色の外装なライオン型大型ゾイドの後を、傭兵部隊が保有するMS、ジムのエース仕様タイプのジム・スナイパーカスタムが監視していた。その高性能機乗る迷彩服を着たパイロットは、自分の上官にマリを撃つかどうかを問う。

 

「隊長、撃ちますか?」

 

『いや、放っておけ。運が良ければ、あの”町”の住民が八つ裂きにしてくれる』

 

「そんなに上手く行く物かね・・・こちらハイエナ、帰投します」

 

 上官に聞こえないように、受信マイクを口から離して小声でぼやいた後、報告してから機体を動かし、自分の隊が居る方向へと戻る。先程まで、傭兵部隊の監視対象であったマリは、何処からか現れるかも知れない敵に警戒しながら、操縦桿を握っていた。

 暫く進んでいると、灰色の軍服を着た死体が吊されているのが目に入る。カメラをズームしてよく見れば、先の砦と同じ百合帝国残党軍を着た兵士の死体だった。

 吊されてから、先の砦が放棄されたのと同じく、数十年は経っているだろう。死体が吊されている周囲には、腐敗した死体が幾つか転がっている。装備品はそのままで、金属部分が錆び付き始めている。

 殺された理由は、腐った死体がバラバラになっていることで予想できる。数十年前、ここで敗残兵達が敵らしき者達と殺し合い、負けて無惨に殺された事実だ。

 

「哀れな物ね・・・」

 

 朽ちていく敗戦国の兵士達の物言わぬ死体をモニターから見て、マリは哀れみの欠片もない言葉を掛け、その場を通り過ぎた。

 それから数百メートル進んだところで、霧が立ち籠め、不気味さが出始める。

 先程の敗残兵の死体とは違う別の腐乱死体を多数目撃する。着ているのは軍服でもなく、地味な女性物の平服を着た死体であった。直ぐにカメラをそちらに向け、良く観察する。

 

「ここらの住民は、先住民には情け容赦ないのね・・・」

 

 掘られた壕の中に大量の死体が折り重なっているのを見て、この辺りに住む住民が血も涙もない冷酷な人間と表する。中には幼い少女や赤ん坊の死体まであったことで、マリはやや住民に対して怒りを覚え始めていた。進む度に虐殺や民族浄化の後が見られ、さらにマリの怒りを掻き立てる。

 既にマリのイェーガーの周りには、古戦場の戦車に戦闘機、その他諸々の兵器群の残骸や、酷く損壊して腐り果てて性別が判断しない死体で溢れかえっていた。まるでこの世の物とは思えないほどの光景だ。それをここまで放棄するとは、惑星政府がどれほど地方に対して何の支援もしていないことが分かる。

 

「嫌な光景・・・疫病が流行ったらどうする気なの・・・ん、味方・・・?」

 

 地獄にも思えるほどの光景を目にして吐き気を覚える。そんな時にマリは、レーダーに味方の機影が北西に確認されたので、操縦桿を動かし、そちらに向かってみる。

 レーダーの位置に沿って近付いていくと、味方と思われる物体が見えた。更に近付けば、正体は銃弾を受けた民間用の大型トレーラーであり、護衛にはジムⅡが二機付いている。直ぐに通信でその大型トレーラーに味方かどうかを問う。

 

「そこ、応答しなさい。合い言葉は確か・・・」

 

『サンダーとフラッシュですよ』

 

「あぁ、そうだった」

 

『もぅ、このまま撃っちゃう所でしたよ・・・』

 

 合い言葉を忘れたマリに、トレーラーに乗る女性は注意してから返答した。二機のジムⅡはビームライフルの銃口を上にし、トレーラーの上にいる歩哨達も銃を下げ、マリのライガー・ゼロイェーガーを見た。

 トレーラーまで近付き、機体を格納庫へ入れると、直接責任者の顔を確認するため、機体から降りる。格納庫内に居る整備員はどれも少女ばかりで、大人など自分以外居なかった。

その少女達の中には、先程砦にいたカチヤ・フンメルの姿があったのだ。マリの姿を見たカチヤは、直ぐに近付いてくる。

 

「生還したのですね、少佐殿!」

 

「えぇ。アンタの付け足した装備、役に立ったわよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 近付いてきた少女整備員に付け足された装備が役に立ったと褒めた後、カチヤは頭を下げて感謝した。トレーラーの運転室へ入れば、頭に包帯を巻いた黒髪の女性士官がマリを見るなり敬礼する。

 その女性士官は頭の包帯のみならず、所々に血が滲んだ包帯を巻き付け、左手の指が千切れ掛かり、それを包帯で固定している。実に痛々しい姿だ。早速彼女はマリに向けて報告を始めた。

 

「この中で一番階級の高い羽瀬川早紀少尉です。徴発したトレーラーで数十人の兵・下士官と共に砦から命辛々脱出してきました!」

 

「そんなの良いから、ここら辺に敵は居ないか索敵した?」

 

 堅苦しく報告する羽瀬川に、マリは索敵したのかを問う。

 

「はい。索敵しましたが、敵は確認できませんでした!」

 

「そう。じゃあ、この近くに町があるけどさ、どうなっているか調べてくれないかしら?」

 

「はい。直ちに掛かります」

 

 向かう先の町の情報が欲しかったマリは、羽瀬川に町についての繊細な情報を探らせた。しかし、彼女は自分ではせず、ヘッドフォンを付けた少女兵士にやらせていた。

 

「情報、出ました」

 

 少女兵士からの報告に、マリは少女の近くに寄り添い、画面に映るデータを確認する。羽瀬川も近付き、共にデータを見る。余り自分達を絶対に歓迎などしない住民が住む町のようだ。

 

「うわぁ・・・人身売買までやってるなんて・・・結構ヤバイ町じゃないですか・・・」

 

「思った通り、酷い連中が住んでるわ。あの町」

 

 余り宜しくない情報ばかりで、羽瀬川は引き、マリは思った通りの者達が住む町だと確証する。そんな時に、外から歩哨の怒鳴り声上がった。

 

『止まれ!』

 

「っ!?」

 

「貴方達は持ち場を離れないで!」

 

 外の怒鳴り声を聞いて、マリが外へ出て行った後、羽瀬川は部下に持ち場から離れないように告げてから外へ出る。目に見えた光景は、ふらつきながらトレーラーに向かってくる少女の姿であった。

 双眼鏡で良く少女の姿を確認すれば、白い服に所々赤い染みが付き、目から生気が失われている。両足に足枷の後と、右肩の辺りが銃弾らしき物で抉れていることから、奴隷商人から逃げてきた”商品”だった少女と思われる。少女の無惨な姿を見たマリは、歩哨に銃を下げるよう大きな声で告げる。

 

「全員、銃を降ろしなさい!」

 

「で、ですが」

 

「殺すわよ!」

 

「ひっ・・・!」

 

 剣幕の凄い表情で将兵に怒鳴った後、トレーラーから降りると、奴隷だった少女の元へと走って向かう。そのまま少女を抱き抱えながらトレーラーに戻り、衛生兵に治療するよう命令する。

 

「この()、治療して」

 

「えっ?我々を殲滅する為の罠という可能性が・・・」

 

 突然現れた少女を、自分達を殲滅するための罠かもしれないと主張する衛生兵に対し、マリは彼女の胸倉を掴み、恐ろしい眼力で告げた。

 

「・・・良いからさっさっとやりなさい、この雌豚・・・!」

 

「はっ、はい・・・!」

 

 彼女の青い瞳から凄まじい殺気を感じた衛生兵は、震えながら変死をした後、直ぐさま少女の治療を始めた。着ている汚れた衣服を脱がせ、死人のように白い肌の少女を全裸にする。抉れた肩をアルコールで消毒し、止血剤を撒く。血が止まれば、治療用の糸と針で傷口を縫い合わせる。

 治療が施される間、少女の身体にある幾つもの傷を見て、マリの表情が固まった。

 乳房が痛く腫れ、身体中至る所に痣や鞭で打たれた傷がある。生気の方に目をやれば、ここに来るまで少女が無理な性行為を強いられていた事が一目で分かる。これを見たマリの堪忍袋の緒が切れた。

 

「ち、治療完了しました・・・次は・・・性器の治療ですか・・・?」

 

「やっといて・・・」

 

「わ、分かりました・・・!」

 

 失禁して怯えながら報告する衛生兵に、追加の治療を頼み込むと、マリは更衣室へ向かい、自分のサイズにあった砦から回収されたと思われる迷彩服を袋から取り出す。今着ている衣服と着替えると、勝手に装備を持ち出し、町へと向かおうとする。

 彼女の目的は町の殲滅である。理由は簡単、町ぐるみで人身売買を行っているからだ。

 

「ちょ、ちょっと少佐殿!何処へ行かれるのですか!?あそこには、重武装の自警団が居て、ゴドス数機が配備され・・・な、なんでも・・・無いです・・・」

 

 羽瀬川がマリを静止の声を掛けるが、振り返った彼女の殺気に満ちた表情が恐ろしく、止めようとするならば殺される予感がして、そのまま行かせてしまった。

 

「まっ、待ってください!貴方は・・・あっ・・・あぁ・・・!」

 

 次にカチヤが止めに入ったが、睨まれた途端に恐ろしい殺気を感じ、足腰が立たなくなり、尻餅をついて失禁までして怯え始める。他の歩哨達も、トレーラーから出て来たマリに目を合わせないように避け、彼女の前から次々と離れていく。誰もマリを止めることなく、町に行かせたのだ。

 この時、マリが無断で持って行った装備は、サプレッサー付き並びホログラムサイト付きC8カービン一挺にカールグスタフM2一つ、消音器付きシグP226自動拳銃一挺、その他専用弾倉と予備弾、手榴弾が四つ、トレンチナイフ一本だ。動きが鈍くなる重装備であるが、相手は羽瀬川が言っていた自警団、つまり正規訓練を受けていないとされる民兵なので、不測の事態が起きない限り大丈夫であろう。

 マリは堂々と町の正面から向かっていく。当然ながら自警団の自警団員が、武装した彼女を見るなり銃を向け、警告してくる。

 

『そこの骨董品で武装した女!直ぐに立ち去れ!!』

 

 堂々と正面からやって来たマリに対し、この世界における軍隊の払い下げである自動小銃を突き付ける。服装は統一されておらず、ただ平服の上から個人装備を身に着けているである。

 近付いてくる数名と、見張り台に立つ自警団員の人数を数え、標的に捉える。今持っている騎兵銃(カービン)の安全装置を外し、素早く構え、手近な自警団員の頭を撃った。

 

「撃ってきた!」

 

 一人が撃たれたので、直ぐに仲間達に反撃するよう告げる自警団員であったが、他の者達と共に物の数秒で撃ち殺される。残りの者達は、銃を撃とうと構えるも、撃つ前に眉間を撃ち抜かれ、全員が物言わぬ死体と化した。撃ち殺した人数は二十七名。残弾は後三発。後三人は殺せる。

 瞬間移動で正面出入り口近くの建物に上がり、双眼鏡を使って正確な自警団の戦力を確認する。ツーマンセルで辺りを巡回する自警団員が幾つか居たが、テクニカルなどは確認できていない。倉庫の方を見ると、羽瀬川が言ったとおりゴドスが数機ほど見えていた。

 

「あれを奪えば町の住民を皆殺しに出来そう・・・」

 

 倉庫に収められているゴドスを見てそう呟くと、奴隷商人が居そうな辺りを探す。人集りが多い場所を見れば、直ぐに奴隷市場が分かった。

 瞬間移動で建物の屋根を伝って、敵に発見されずに奴隷市場まで辿り着いた。ダーク・ビジョンで囚われている人数を確認すれば、台の上に手枷や足枷で美しい若い女性の奴隷が監視付きで立たされ、客達を盛り上げるためか、司会者が奴隷の紹介をまるで商品を紹介のように行っている。

 

「メガミ人・・・?」

 

 司会者の紹介を耳にしたマリは、スリリングでC8カービンを吊し、カールグスタフM2を客達が密集している箇所に構えた。この人を物として買う行為は、マリにとっては許してはならない物である。何故なら彼女は幼少期の頃、性奴隷として過ごした事があるからだ。

 安全装置を外し、照準を人集りが多い場所へ向けると、引き金を引いた。発射された多目的ロケット弾頭は放射線を描きながら人集りの多い場所へ飛び、丁度そこにいた気付いた一人に着弾。当たった男は周りの人間も巻き込んで木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「う、うわぁぁぁっ!!」

 

「イテぇ、痛いよ・・・!ママ・・・!」

 

「メガミ人の盗賊の襲撃だ!奴隷を奪い返しに来たんだ!!」

 

 血煙が上がり、呻き声と悲鳴が聞こえる中、マリはライフルの消音器を外し、目に見える人間を一人一人と撃ち始めた。弾切れを起こせば、直ぐに新しい弾倉に取り替え、装填して再び逃げ惑う人々に撃つ。撃たれた人間の銃創はどれも急所であり、確実に即死する箇所であった。

 

「ぎゃっ!?」

 

 忽ち何十人もの人間が物言わぬ死体と成り果てる。殺された彼等には、護身用の武器しか無く、何の罪も無さそうだが、奴隷を買いに来る時点で積荷値するため、マリのターゲットに加えられているのだ。

 

「はまっ!?」

 

 司会者の頭部にも風穴が開けられた後、マリは建物から飛び降り、瞬間移動で自分を殺しに来た自警団員達を殺し始める。遮蔽物に身を隠し、銃を撃つために頭を出す敵を一人ずつ撃ち殺していく。四方八方から自警団員達が出て来るが、一発も撃つ事無く死体に成り果てる。

 先程の台に乗せられた競売に掛けられていたメガミ人は、震え上がって、そのまま台の上で両膝を付き、頭を抱えていた。

 今自分が隠れている箇所に砲火が集中している為、何処か移動できる場所を探す。左手の民家が空いていると確認し、手榴弾の即席トラップを仕掛け、民家まで瞬間移動で移動した。敵はマリが移動したことを知らず、ずっと先程まで隠れていた場所をずっと撃ち続けている。

 手榴弾が投擲される前に、民家の窓を割って屋内に侵入し、敵が確認に来るまでやり過ごすことにする。だが、民家の家主達がそれを許すわけが無く、侵入者であるマリに向けて包丁や防犯用の武器で襲い掛かってきた。

 

「死ねぇ!余所者が!!」

 

 年配の主婦が未来の防犯用の武器で殴り掛かってきたが、あっさりと避けられてしまい、トレンチナイフで喉を切られて自分の血で窒息死する。次に老婆が散弾銃を撃とうとしているが、抜かれたP226で頭部を撃たれ、床に倒れ込む。

 

「このアマ、よくも!殺してやる!」

 

 亭主と主婦の息子であろう十代後半の青年が拳銃を持ち出し、仇を取りに来るも、あっさりと頭を撃たれて死んだ。まだ民家に誰か隠れていないか、マリは民家の探索を始める。案の定、敵はまだ残っており、背後から工具で襲い掛かってきた。

 殺意の波動を発動し、相手の戦意を削ぐ。振り返って敵の正体を確かめてみると、若い女性が失禁しながらマリを見るなりクシャクシャな顔で泣きじゃくり、命乞いをしていた。

 

「こ、殺さないで・・・!お願い・・・!」

 

 命乞いを掛けてくるが、マリは情報を集めるため、胸にナイフを突き付けて尋問する。

 

「ねぇ、この町の奴隷市場はあれだけ?」

 

「あ、あそこだけですぅ・・・!お願いですから殺さないで!」

 

 泣き喚きながら答える女性に、マリは次の質問に移った。

 

「他に奴隷が捉えられている場所は?」

 

「南東にある死体置き場です・・・!これで、殺さないでくれる・・・?」

 

「そう、ありがとう。俺に楽に殺してあげる」

 

 必要な情報を得たマリは、これ以上泣き叫ばれて敵を呼び出されるのを避けるために、女性の額にナイフを突き刺し、一瞬で即死させた。泣き喚いた表情のまま死んだ女性から内皮を引き抜き、裏から外へ出た。丁度その時、自警団員が罠に掛かり、数名を巻き込んで爆発した直後だった。

 向かう途中でゴドスが町中に現れ、マリを捜し回っていたが、彼女はカールグスタフM2の再装填を行ってから頭部のコクピットに照準を向け、引き金を引いた。徹甲弾では無いが、多目的ロケット弾頭は脆い箇所に当たれば、戦車とで撃破できる。発射されたロケット弾はコクピットに命中、頭部が吹き飛んだゴドスは地面に倒れ込んだ。

 

「死ね、メガミ人!」

 

 老人の自警団員がマリを見るなりライフルを撃ったが、一瞬で抜かれたP226で撃ち殺され、他の者達もバタバタと頭を撃たれ、地面に倒れて死体に変わる。再装填を行ってから、マリは死体置き場を目指した。途中で何名かの自警団員や武装した住民と遭遇したが、反撃する間もなく次々とマリに殺される。

 目標の死体置き場に着いたが、敵は管理人だけであり、ダーク・ビジョンであっさりと隠れている場所を発見され、手榴弾を投げ込まれて肉の塊となる。中に入って奴隷が囚われている場所を見付けたが、誰も彼もが既に死んでいるか、死ぬ間際なので解放しても死ぬだけであり、誰しも助かる見込みもなく、連れて行くのは無意味に等しかった。

 

「ごめん」

 

 自分の姿を見て解放者だと思い、手を伸ばしてくる奴隷達に一言謝り、町の地図を手に入れ、外へ出た。周囲警戒もせずに出て行った為、上空から現れたヘリからの攻撃を受けた。マリは直ぐに遮蔽物となる場所へと全力疾走する。

 建物が崩壊する中、マリの近くでロケット弾が着弾し、吹き飛ばされ、破片が彼女の身体に突き刺さる中、掘られた壕の中へ落ちた。壕の中に入っていたのは大量の死体で築き上げられた山であり、殆どがメガミ人だった。

 

「へっ、いや・・・!」

 

 壕の中に落ちたマリは、驚いて立ち上がろうとしたが、ヘリがまだ上空を旋回しており、まともに姿を晒すことが出来ない。身体を死体の血で汚しながら、死体の山の中に入り、敵をやり過ごそうとする。奥へ潜り度に死体の内臓や手が触れ、彼女の耐久心を徐々に削いでいく。

 

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い・・・」

 

 そうブツブツと小さく呟き、上からは見えない場所まで潜ってそこに身を潜めた。死体は全て裸であり、男女ともの感触が肌の露出した部分に伝わってくる。マリは死体から感じる冷たい感触を感じつつ、人の声やヘリのローター音が無くなるまで堪え忍ぶ。

 

『そっちは見付かったか?』

 

『粉々に吹き飛んでいるんじゃないのか?』

 

『クソ、生きてたらレイプしてやるのによ!』

 

『あれだけの美人だ。きっと死体でもかなりの値が付くぜ!』

 

 周囲を捜索し、自分を捜し回る自警団員達の声や足音が増えてくる。中には自分を性の捌け口や売り飛ばそうと考える者達の声も聞こえ、マリからすれば、今すぐ飛び出て皆殺しにしてやりたいが、相手の数が多すぎ、逆にこちらが殺される可能性が高い。

 ずっと死体の山の中で我慢していると、やる気がなかったのか、敵は捜索を打ち切って死体置き場から離れていく。

 

「今だ・・・!」

 

 敵が居なくなったところで、光が見える箇所を目指して死体の退かしながら上へと目指す。途中で触りたくない”物”や内臓に触れたが、背に腹は代えられない。ようやく死体の山から抜け出すと、周囲を探り、まだ敵が残っていないかを見渡してみる。敵が居ないところで這い上がろうとすると、死体置き場の中から複数の銃声が響いた。

 どうやら死にかけの奴隷達を”処分”している様だ。彼等を処分したと思しき自警団員達が、出入り口から出て来る。

 

『全く、無駄に苦労させやがって』

 

 戦闘の男が悪態をつくと、その後を他の者達が続いていく。彼等はマリが隠れている死体を捨てる壕に目もくれず、ただ黙って死体置き場を後にしようとしていた。直ぐにマリは、何の警戒もしていない彼等の背後に回り込み、一人ずつナイフで首を突き刺し、喉を切り裂き、後頭部に突き刺して殺していく。

 最後の一人を背後から羽交い締めにして、ナイフを突き付け、戦力について尋問を開始する。

 

「あんた等は後何人いるの?それと車両とかは?」

 

「自警団は後五十人くらいだ・・・車両は四台ほど・・・離したから解放・・・」

 

 情報を離した自警団員の喉にナイフを突き刺し、それを引き抜いて鞘に戻した。死体を雑に捨てると、無線機や手榴弾を回収し、ゴドスが保管されている倉庫へと向かった。瞬間移動を駆使して、巡回に戻った自警団員達の目をかいくぐり、また屋根を伝って移動した。

 数分もしないうちに倉庫へ到着し、余っているゴドスがないか確認する。先程の騒ぎで何機かが出撃した所為か、余り残っているようには見えなかったが、三機以上がまだ倉庫の中にあった。

 地上に降り、守衛の団員を消音器付きの拳銃で撃ち殺しつつ、動いていないゴドスの元へ向かう。その時、パイロットと思しき十代後半の少女と遭遇してしまう。直ぐに声を出して仲間を呼ぼうとする少女に、マリは瞬間移動で距離を詰め、少女に覆い被さって首を絞める。

 首を絞められながらも、覆い被さったマリを必死で引き離そうとするが、少女の力では彼女を引き離すことなど出来ない。これ以上時間を掛ければ、敵が来ると思ったマリは、少女の首に親指を強く入れ込み、指を首に突き刺した。

 突き刺した首から血を勢いよく引き出し、少女はあられもない表情をしながら死んだ。少女の血を顔面に浴びた彼女は袖で顔の血を拭い、銃に血が付かないようにして離れる。ただの重りとなったカールグスタフM2を捨てると、マリはゴドスのキャノピーを開け、機体に乗り込んだ。

 キャノピーを閉めて機体を起動させ、操縦桿を握り、ペダルに両足を付けると、ゴドスを前に移動させた。機体の操作マニュアルを確認し、味方と表示されているゴドスを全て敵に変える。

 

「二連装バルカンに二連装対空レーザー砲、ビーム砲二門ね・・・大分扱いやすい機体だから、ここの連中は皆殺しに出来るわね」

 

 武装の確認をした後、マリはゴドスを倉庫の外まで動かし、倉庫に向けてビーム砲を乱射する。中にあったゴドス二機は大破し、爆発物に命中すると、倉庫は盛大に大爆発した。

 

『おい!お前、気でも狂ったか!』

 

 マリが乗っているのを味方と思っている自警団員が乗ったゴドスが、通信を開きながら近付いてくる。そんな男が乗るゴドスの首に照準を合わせ、トリガーを引いた。腰にあるビーム砲が発射され、ゴドスの首が飛ぶ。

 

『味方が撃ってきてるぞ!』

 

『違う!奴は敵だ!!』

 

 味方であるはずの同じゴドスに攻撃された為、自警団は混乱し、反撃が遅れる。その間にもマリに次々と撃破されていく。テクニカルの武装ではゴドスの装甲は貫けず、踏み潰されるか尻尾のスマッシュアップテイルで叩き潰され、ゴドスが倒れていく中で全滅した。

 ロケットランチャーを撃ってくる敵兵に対しては、手で捕まえて自動小銃を撃ってくる自警団員に投げ付ける。まだ息があったが、踏み潰される。快進撃を続けるマリであったが、パイルバンカーを装備したゴドスが現れ、マリが乗る同機を串刺しにしようと向かってくる。ビーム砲を撃つが、相手は回避しながら接近し、パイルバンカーを突き刺そうとした。

 だが、スマッシュアップテイルで吹き飛ばされ、ビーム砲を数発撃たれて撃破される。コクピットにも命中している為、搭乗者はビームで蒸発したようだ。あれが最後の一体だったのか、自警団員がこれ以上マリに攻撃してくる事は無かった。

 次に目標である町の住民の皆殺しを実行するため、民家や施設に向けてビーム砲を撃ち始める。撃ち込んだ民家は爆発し、全身に火を纏った人間がゆっくりと歩きながら出て来た。民家から飛び出して逃げようとする住民に対しても、容赦なくビーム砲を撃ち込み、殺害する。

 

「た、助けて・・・!」

 

 手足が無くなってもまだ息のあり、呻き声を上げる者が幾人か居たが、マリのゴドスに踏み潰されるか、その場で息絶える。この調子で町から逃げようとする住民を虐殺するマリであったが、ロケットランチャーによる攻撃で被弾した。まだ動けるほどの損傷なので、その正体に向けてビーム砲を撃ち込む。

 撃った正体は年配の女性であり、一瞬で蒸発した後、後ろで我先にと逃げていた住民達に当たり、多数の死傷者を出す。町中で火災が起こり、重傷者の呻き声や人が燃える臭いが充満していたが、まだ彼女の虐殺は終わらない。彼女が町で対した抵抗も出来ない住民を殺しまくっている間に、町長等や人身売買組織の幹部達が町から逃げ出したのだ。

 

「誰も逃がさない・・・!」

 

直ぐに追跡に移り、非武装の車両群に爆発物まで投げ付け、ビーム砲を撃ち始める。投擲された爆発物は車両の真ん中に着弾し、多数の車は大破。生き残った車両は全てビーム砲で破壊される。

 まだ生存者が居たが、彼女は容赦せず、引き金を引いて生存者達を蒸発させた。

 

「皆殺し完了・・・」

 

 町の住民を虐殺したマリはそう呟き、奴隷市場まで機体を進めた。先程の台に立たされたメガミ人は未だに頭を抱えて震えたままであり、マリが乗るゴドスを見るなり更に震え上がり、失禁までしてしまう。そんな彼女に、マリはキャノピーを開けてゴドスから瞬間移動で降り、メガミ人の両肩に手を添え、優しげな表情で安全であることを告げる。

 

「もう大丈夫、恐い奴等はみんな燃やしたから・・・」

 

 それを聞き、顔を上げたメガミ人は、マリの女性らしい優しげな表情で安心感を覚え、立ち直る。そんな彼女に待つように告げたマリは、生き残りが建物の中に潜んでいるかも知れないと予測し、ダーク・ビジョンを発動しながらカービンを構え、中に入った。

 予想通り、少数の生き残りがおり、爆発が止んだところで何人かが外の様子を見ようと自分が居る方向へと向かってきた。直ぐに銃を構え、猟銃を下手に構えながら出て来た男の頭をカービンで吹き飛ばした。

 

「俺達を殺しに来たぞ!!」

 

 銃声を聞いた生き残りの一人が叫べば、残りの者達が悲鳴を上げて奥へと逃げ出していく。勇敢にも立ち向かってくる者達が居たが、皆マリに射殺された。行き止まりに追い込まれた者達は今持っている銃を構え、マリが自分達の前に姿を現すのを待ち構えていた。

 ダーク・ビジョンを発動している彼女にとっては丸見えであり、あっさりと対策法を取られてしまう。立ち向かってきた女の死体を担ぎ上げ、それを生き残り達が銃を向けている場所へ投げ込むと、一斉に銃声が乱発した。けたたましい銃声が奥内に響き渡り、死体が一気に肉塊へと変わる。

 

「やったか!?」

 

 一人が殺したと勘違いした後、マリは持っている手榴弾の安全栓を外し、息のコチたちが居る方向へと投げ込んだ。

 飛んできた手榴弾に驚いた彼等は直ぐに投げ返そうとするが、彼女は次々と手榴弾を投げ込み、彼等を慌てさせる。切羽詰まった生き残り達は我先に逃げようとしたが、最初に投げ込まれた手榴弾が爆発し、続いて他の手榴弾も爆発。誘爆する物もあり、爆発が治まる頃には部屋中血で真っ赤となり、辺りに内臓が散らばるトラウマになるほどの光景へと変わっていた。

 

「終わった・・・」

 

 悪臭が漂う中、マリは囚われている奴隷達の解放へと向かった。

 今の彼女は綺麗な金髪は敵の返り血で赤く染まり、白い肌も返り血で赤く染まっている。着ている迷彩服は所々紅く染まり、全身が赤く染まった御陰で迷彩効果は失われた。ポケットから取り出したハンカチで顔を拭いた後、奴隷達が囚われている区画へと到着した。

 牢越しから見える奴隷全員は、容姿が美しいために全員が性奴隷であり、殆どの者達の目が、長きに渡る望まない性行為の御陰で生気を失っていた。殆どがメガミ人であり、全員が奴隷の証である焼き印を押されている。マリは直ぐに牢の鍵を開け、彼女達を解放したが、余り外へ出る者達が少なかった。

 

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

 

 牢から出た者はマリに感謝の言葉を投げかけ、外へと出て行く。

 

「ほら、あんた達も・・・」

 

 牢からでない者達に声を掛けるマリであったが、生きる希望を失っているか、牢を出ようともしなかった。仕方なく「自分が新しい主人だ」と言えば、体罰に対する恐怖感で全員が牢から出て来る。外へ向かうように指示をすれば、全員がそれに応じて外へと向かい始めた。

 彼女等を連れて外へ出ると、ゴドスの無線機の周波数を合わせ、トレーラーを呼び出そうとする。暫く弄くり回していれば、ようやく繋がり、通信士である少女兵士が出る。

 

『あの、誰ですか・・・?』

 

「私よ。直ぐに町に来て。脅威は全て排除したわ。食料庫も無事よ」

 

『えっ、少佐殿ですか!?少尉に報告してきます!』

 

 通信士はマリと分かった後、自分の上官である羽瀬川に報告する。物の数秒で羽瀬川に代わり、マリが無事であったことに驚く。

 

『ぶ、無事でしたか・・・それと本当に町を・・・?』

 

「えぇ、胸糞悪いことを町ぐるみでしてたから皆殺しにしてやったわ。それと解放した奴隷の分のトレーラーもあることだし、敵もここの戦闘を書き付けて来るかも知れないから。なるべく早く来てね」

 

『そ、そんな勝手に』

 

 羽瀬川は訳を問う前に通信を切り、マリは奴隷達を市場に残し、町にあるトレーラーを取りに向かった。辺りは廃墟と化し、道は焼死体や身体の一部がない死体で溢れている。これ程の大虐殺を起こし、町を崩壊させた張本人は一切何も感じしなかった。

 本来なら精神の一つや二つ崩壊してもおかしくないレベルだが、マリの神経は通常の人間とは違い、計り知れない物となっている。幾ら人を殺そうとも何も感じない。世界、国家、都市、町、村、集落を幾ら滅ぼしても、彼女は何とも思わないのだ。

 怪物か悪魔とも思えるマリは、解放した人々を乗せる為のトレーラーがある倉庫まで足を運んだ




町を滅ぼし、オラドゥール村の虐殺を起こした第4SS装甲擲弾兵連隊の第1大隊の指揮官であるアドルフ・ディークマンSS少佐もびっくりな虐殺したヒロイン・・・

こんなヒロイン、大丈夫なんですかね・・・?


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ヒヨコと突風

前半マリで、後半ザシャです。


 マリが壊滅させた町に到着した羽瀬川やカチヤ達を始めとする寄せ集めの混成部隊の兵士達は、地獄のような光景を見て絶句していた。

 奴隷市場や食料庫、武器庫を除く倉庫以外は全て廃墟と化しており、街道には町の住民と思しき焼死体が多数転がっている。焼死体以外はあったが、酷く損壊した物ばかりであった。

 余り見慣れない光景を見て、嘔吐してしまう者が出た。そんな彼女達に、解放された人々を大型トレーラーに乗せるマリが出迎える。

 

「ちょっと遅かったわね・・・運転できる人は動かしてね」

 

 言いたいことを伝えると、マリは持ってきた大型トレーラーに乗り込む。この時、マリの指示に従って動く混成部隊の将兵達はこう考えた。

 奴隷だった一人の少女の為に、どうして町を壊滅させ、住民を皆殺しにする必要があるのか?

 そうマリに問おうと混成部隊の誰もが思ったが、町を壊滅させる前の彼女の殺意に満ちた表情を思い出し、殺されるかと思って震え上がって誰も聞こうとはしなかった。

 戦闘を聞きつけた連邦軍か現地軍が駆け付けてくるかもしれないので、直ぐに物資収拾に移り、迅速に行動した。数十分後には町の物資は粗方収拾が終わり、町を出る準備が出来る。

 

「南方の警戒に当たっている班からの報告です。敵機甲一個中隊規模がこちらに接近中、おそらくこの町の戦闘を嗅ぎ付けたと」

 

「そう、それじゃあ虐殺女帝様とご一緒に町を出ましょう」

 

「えっ?で、では、直ちに撤収に掛かります!」

 

 伝令に来た兵士は羽瀬川の例えが分からず、戸惑ったが、無言で肩を叩かれた後、羽瀬川と共にトレーラーへ乗り込む。全員が乗り込んだのを確認したトレーラーのドライバーは、直ぐにアクセルを踏み込み、化け物じみた女の手で廃墟と化した町を後にする。

 数十分後、連邦軍の部隊が到着。町の有様を見て絶句した。数分間固まった後、彼等はまだ生存者が居ないかどうか探索を始めた。

 

 

 

 町でマリが感情の意のままに町を壊滅させ、住民を虐殺してからの翌日。

 熱で寝込んでいたザシャが回復した。付きっきりで看病していたペトラを除くチェリー。千鶴は直ぐに身体を起こした彼女に気付き、抱き付く。

 

「隊長!」

 

「ちょっと」

 

 冷静に抱き付いた二人を引き剥がすと、壁に凭れて腕を組んでいるペトラに、自分が寝込んでいる間に何があったのかを問う。

 

「ねぇ。私が寝込んでいる間に何かあった?」

 

「あった。集結地点が今乗ってるこの馬鹿でかい戦艦が来た所為で、敵の凄腕傭兵部隊の襲撃を受けておじゃん。かなりの損害を出して、今は新しい合流予定ポイントに向かってる。大隊長は馬鹿でも見付けられるこの戦艦逃がすために戦死。それと戦闘に参加せず、ベッドに寝て戦傷もしてない隊長は他のパイロット達から恨みを買っています」

 

「それもそうだね・・・私はただ披露で寝込んでただけなんだよね・・・」

 

 ペトラの嫌味混じった報告に、ザシャは暗い顔を浮かべた。

 そんな暗い表情を浮かべるザシャに、報告を続ける。

 

「罰として、休んでた分まで働くことだって。それで済んで良かったね。闇市で分捕った機体で偵察飛行しろっだって」

 

「それでも十分な罰だよ。でも、分捕ったって・・・幾ら追い込まれてるからって・・・」

 

 十分な処遇として受け止めるザシャであったが、盗賊的な行動を取る味方に少し嫌悪感を抱く。

 

「あぁ、それと隊長。中隊長に昇格ですよ!おめでとうございます!」

 

「中隊長に・・・柄じゃないのに・・・」

 

 嬉しそうな表情でチェリーから自分が中隊長になった事を聞くと、ザシャは自分には全く見合っていない肩書きであり、不満を漏らす。

 

「まぁまぁ、これで周りからは余り文句は言われませんよ!偉くなったんですからね!」

 

「う、うん・・・じゃあ、早速任務に行こうか・・・」

 

 まるで自分のことのようにはしゃぐチェリーに、ベッドから身体を起こしたザシャは、早速任務に当たることにした。

 

「着替えと中隊名簿はここにある・・・」

 

「ありがとう千鶴ちゃん」

 

 着替えとパイロットスーツを用意していた千鶴に礼を告げると、それを手に取って着替え、一連の行事を済ませると、三人と共に部屋から出た。通路で出会す者達は長期にわたる警戒態勢のおかげで疲れ切っており、そこで雑魚寝する者まで居る。

 昨日まで寝込んでいたザシャに対する視線は、軽蔑の目であり、彼女もそんな目を向けられることは覚悟していた。ハンガーまで着くと、自分の同僚達が待っていたが、復帰を祝う声は誰もしてくれなかった。

 流石に疲労で寝込んでいた上に、昇進までしたのだから当然の反応であろう。そんな視線を感じつつ、ザシャ達は用意された機体へと向かう。彼女達を待っていたのは、ご丁寧に専用カラーに塗装されたVF-1系統と、晃、レイ、柿崎と隊長を失った部下達であった。

 

「中隊長、復帰おめでとうございます!」

 

 第一声を放ったのは柿崎であり、しかも快く復帰を祝っていた。他の者達からの声はなかったが、表情で祝ってくれるのは伝わってくる。

 次に何故自軍のパイロットスーツを着ている晃とレイに視線を向け、何故自分の部隊に入っているのかを問う。

 

「あれ、貴方達は確か民間人の筈・・・」

 

「貴方の上官に徴用されました。取り敢えず仮の階級は軍曹です」

 

「私は准尉よ。シミュレーションで腕前を疲労したら、准尉にしてくれたわ。それと復帰おめでとう」

 

「そ、そうなの・・・余裕が無いからって・・・」

 

 何処から来たのかも分からぬ風来坊を入れ込む程、余裕がないと思っていたが、まさかこんなに軽々しく許可するのはどうかと思うザシャであったが、今度は自分達の為に用意されたVF-1バルキリー系統を見て、近くにいる整備兵に問う。

 

「それと・・・これが、私達が乗る闇市から”接収”してきた戦闘機・・・?」

 

「はい。粗末な部品は使ってはいません、正常に動きます。他の機体は調整中であり、VF-25の補充はまだまだです」

 

「そ、そうなの・・・」

 

「そうなります。貴方のはレーザー機銃が四門あるVF-1Sです、一番先頭の。では自分はこれで」

 

 丁寧に自分が乗る機体を指差すと、その場を去っていった。

 自分が乗る機体が分かったザシャは、早速部下達に各々の機体に搭乗するよう指示を出す。

 

「それじゃ、全員搭乗せよ!」

 

『了解!』

 

 指示に応じた部下達は各々の機体に乗り込み、キャノピーを閉めた。自分のヒヨコのノーズアートが施されているVF-1Sに乗り込むと、キャノピーを閉め、計器チェックに入る。異常がないと判断すると、出撃するため、カタパルトまで機体を進めた。

 

『キューケン中隊、直ちに発艦せよ』

 

 誘導員が前脚をカタパルトのシャトルに固定し、耐熱甲板が上がると、エンジンの動作確認を行う。これも異常なしと判断すれば、熱核反応ターボエンジンを噴かせる。管制官から発艦の許可を貰うと、カタパルトを操作する班にハンドサインを送った。

 サインを受け取った班はシャトルを前進させるスイッチを押す。シャトルが高速に動き始めると、軽いGが身体に掛かり、甲板から投げ出される。空中に放り出された機体はノズルを吹かせて風に乗り、水平飛行を取る。

 部下達が乗るVF-1系統が続々と発艦する中、ザシャは全機がついてきているかどうかをサイドミラーで確認する。全機が発艦したのを確認すると、ザシャはモニターに表示された空域へ向かう。その際、自分の部下達に告げる。

 

「こちらキューケンリーダー。これからポイントG-6の偵察飛行に移る」

 

 そう告げてから機体を空域へ向かわせると、部下達も後へ続いていく。目標に向かう中、自分が率いる混成部隊に属する部下達の名前を確認するため、名簿に目を通す。部下全員の名前を覚えた後、部下達が乗り込む機種を確認した。

 まずは数が多いチェリー、千鶴、柿崎、晃、レイが乗るVF-1A。通称三本角のVF-1R。本人が報告しなかった為、寝込んでいる間に小隊長に昇格していたペトラが乗り込むVF-1J。早期警戒管制機や電子戦機型であるレドームを搭載したVE-1エリントシーカー、副座席であり、探知・分析のオペレーターが搭乗している。

 名前と機種の確認を終えると、担当空域へ飛んだ。

 

 

 

 一方のトレーラーで合流地点へ急いでいたマリ達は、進行方向に行軍中の連邦軍の機甲部隊を確認した。数は大隊規模であり、中には巨大クラスに入る恐竜型ゾイドゴジュラスが居た。

 

「大型反応確認。恐竜型巨大ゾイドゴジュラスです!」

 

「ご、ゴジュラス・・・!今の戦力ではとても・・・」

 

 通信士からの報告に、羽瀬川は勝率がゼロに限りなく近いことを察した。今まで相手にはしなかったが、相手がヘリック共和国の象徴となっているゴジュラスともなると、ライガー・ゼロとジムⅡ二機では厳しくなる。迂回して別ルートから集結ポイントへ向かおうとしたが、マリが突然席から立ち上がり、格納庫へ向かっていく。

 

「少佐、何処へ向かわれるのですか?!」

 

「なにって、あいつ等片付けて来んのよ」

 

「幾ら貴方一人でも正規軍相手では無理では!?」

 

 羽瀬川はマリが一人で大隊規模の敵部隊と戦うつもりだと察し、止めに掛かる。

 

「はぁ?あんなの、この前戦った連中と比べれば余裕よ」

 

「ちょっと!比べてる訳じゃ!」

 

 止めようとする羽瀬川の声を聞かず、マリは格納庫へ向かった。

 しかし、彼女が乗る機体はまた変わった外装をしたライガー・ゼロだった。

 

「あれ、また変わってる・・・?」

 

 濃い青色の外部装甲では無く、以下にも格闘戦仕様のオレンジ色の塗装で、ブレードが多数搭載された外装が取り付けられていた。これを見たマリは、直ぐに整備兵に問う。

 

「ちょっと、私のライガー・ゼロ。なんか刃物が沢山付いたオレンジ色になってるんだけど!」

 

「こ、これは、シュナイダーユニットと言う物です!」

 

「シュナイダー?また勝手に変なの付けちゃって」

 

 基地から盗んできた物を、自分の物と豪語するマリは、自分の許可も得ずに勝手に装備を付ける事に苛立っていた。そんな彼女の元に、無断で装備を付けた本人がやって来る。

 

「気に入って貰えてないようですが・・・」

 

 カチヤが来たので、気付いたマリは振り替える。

 

「当たり前よ。でっ、あいつ等を一掃できる装備なの?」

 

「多分、練度の高い傭兵部隊と戦って生き残った少佐なら出来ます。ゴジュラスが居る敵部隊相手では、保証は出来ませんが・・・」

 

「そう。まぁ、あんな雑魚共、私一人で余裕よ!」

 

 まるで自分が敵わないかのような物言いをするカチヤに対し、マリは少し苛つき、当たるように彼女に告げてからライガー・ゼロシュナイダーに乗り込んだ。ハッチの近くまで機体を進め、ハッチを開けるよう操縦室に告げる。

 

「ハッチ、開けて!」

 

『正気ですか!?相手は一個大隊ですよ!ゴジュラス付きの!』

 

「あんなデカイの、余裕だから。ほら、ハッチ開けて!」

 

『もう、知りませんよ!後で助けて何て言ったって、助けませんからね!』

 

 トレーラーから出て、敵の部隊と交戦しようとするマリをまた止める羽瀬川であったが、威圧感に圧され、ハッチを開けた。そこから背中のイオンブースターを噴かせ、行軍中の敵部隊へ強襲を掛ける。真後ろから仕掛けてきたので、流石に敵に気付かれてしまう。

 

「レーダーに反応、地上にアンノウンを捕捉。6時方向よりこちらに接近!数は一機です」

 

「一機だと?何処の馬鹿だか知らんが、威嚇射撃で警告でもしておけ!」

 

『了解!』

 

 指揮車両に居る大隊長は、レーダー手からの接近してくるマリのライガー・ゼロシュナイダーの存在を知り、威嚇射撃でもして追い払うよう指示する。直ちにカノントータスが威嚇射撃を行う。もちろん、威嚇射撃であるので外れているが、マリは威嚇に応じずに敵本隊への突撃を続行した。

 

『アンノウン、威嚇射撃に応じず!こちらに尚も接近!』

 

「イカれた奴だ・・・殺せ!」

 

 威嚇射撃に応じなかったマリに対し指揮官は、今度は確実に当てるよう指示を出す。直ちに傘下の中隊はこれに応じ、火力をマリのシュナイダーに集中させた。

機銃や砲弾、ミサイル、リニア、ビームが雨のように降り注いでくるが、彼女は巧みに機体を操作してこれを避けていく。大隊規模の機動兵器群が集中砲火を浴びせたのに対し、どれもこれもが容易に回避されたので、パイロット達は恐れ戦いた。

 相手が動揺して陣形を乱している隙に、レーザーブレードを展開してから後衛部隊に接近し、ロングレンジキャノンを撃ってくるコマンドウルフACを斬る。一機を切ればもう一機も斬り、切断された敵機の残骸を増やしていく。次々と倒される友軍機を見て、更に動揺を覚え、軽い混乱状態に陥る。

 

『う、うわぁぁぁ!!来るな!来るな!!』

 

『落ち着け35番機!敵は4時方向から来る!!』

 

 各部隊長が部隊長に落ち着くよう指示を出すが、ブレードで次々と切り裂かれ、クローでも倒されてしまう。レーダーから続々と味方機が消え、大隊長も焦りを見せる。敵部隊を狩るマリは、今相手にしている最新式の陸戦用機動兵器を持つ敵機甲部隊に物足りなさを感じる。

 

「前に戦った連中と手応えが全然しない・・・動きは統率されてるけど、型の古いのばっかり使ってた連中とはえらい違いだわ」

 

 アロザウラーを切り裂いてから、短縮型のドッズライフルを撃ってくる二機のアデルマークⅡに接近する。二機とも同時に胴体を切断すると、情報にはなかったストライクダガーの上半身に昆虫を彷彿させる六本足の下半身を付けたモビルアーマーゲルスゲーに飛び掛かった。

 両手に持ったビームライフルを飛び掛かってくるシュナイダーへ向けて連発するが、全く当たらず、懐に入られてしまう。両前足で串刺しにしようとするも、頭部のブレードで両足が切り落とされ、逆に串刺しにされる。爆発寸前のゲルスゲーがブレードを引き抜くと、次の獲物へ標的を定める。

 

「クソッ、これ以上はやらせんぞ!」

 

 次々とシュナイダーに斬り捨てられていく味方機を見て、ゴジュラスに乗る大尉の位を持つパイロットはマリに立ち向かう。スコープドックや61式戦車を踏み潰していたマリは、ゴジュラスの接近を警告音で察知する。

 

「来たわね・・・!」

 

 シュナイダーの首をゴジュラスが来る方向に向けさせ、モニターに映る恐竜型を確認してから声を出す。ゴジュラスが居る方向に全身を向け、頭部のブレードを仕舞い、背中のブレードを展開して突撃するが、腹部から70㎜機関砲や右腕と左腕のレーザーガンやビームガンによる弾幕で突撃を断念させられる。突撃から逃げに徹したマリのシュナイダーを見て、ゴジュラスに乗る大尉は弾幕を激しくしながら追い掛け始める。

 

「そら、逃げろ、逃げろ!この針猫目!!」

 

 機関砲やレーザーやビームを撃ちつつ、逃げるマリのシュナイダーを追い込もうとする大尉であったが、シュナイダーはEシールドと呼ばれるエネルギーシールドを展開して弾幕を防いでいた。これを見た大尉は激昂し、接近戦で仕留めよう考えた。

 

「Eシールドだと!?ふざけやがって!クラッシャークローで引き千切ってやる!!」

 

 ゴジュラスの攻撃の中で破壊力の高いクラッシャークローで仕留めようと、防御態勢を取るシュナイダーに攻撃を続けながら接近した。相手はゴジュラスの装甲と攻撃力に劣るが、機動力と性能は天と地の差である。動かずに防御に徹するシュナイダーに接近する大尉が乗るゴジュラスであったが、マリはライガー・ゼロシュナイダーが誇る必殺の大技を敵のゴジュラスに撃ち込もうとしていた。

 

「来る・・・!あの腕を降ろしてからの勝負・・・!」

 

 向かってくる恐竜に対してマリは、攻撃のタイミングを待っている。数十秒後にはチャンスが到来し、ゴジュラスが撃つのを止めて腕を振り下ろそうとした瞬間、シールドを切り、前足で地面を蹴って後ろへ飛んで下がり、頭部のブレードを展開した。

 

「しまった!?」

 

 大尉が回避行動を取るが、間に合わず、ゴジュラスの腹部に五本の刃が突き刺さった。

 突き刺されたゴジュラスは断末魔を上げた後、機能を停止した。頭部の五本のブレードを引き抜けば、26mにも及ぶ巨体は地面に倒れ込み、その屍を晒した。キャノピーを無理矢理こじ開けた大尉は、ゴジュラスから一目散に離れる。

 

「他には・・・?」

 

 次なる獲物を探すマリのシュナイダーであったが、ゴジュラスを倒した彼女の強さを間近で目撃した他の者達は、戦って全滅するのがオチだと判断し、脱出したパイロットや生存者達を回収して撤退を始めた。逃げるように撤退する連邦軍の部隊を見たマリは、拍子抜けして両手に頭を乗せ、シートに寝転ぶ。

 

「あ~あ、期待して損しちゃった。こいつ等雑魚過ぎでしょ」

 

 モニターから映し出される蜘蛛の子散らすように逃げる連邦軍の機甲部隊を「雑魚」と貶すと、戦闘が終わったことを羽瀬川達に伝える。

 

「終わったわよ。あいつ等、ゴジュラスと人間蜘蛛みたいなのを倒すと逃げちゃった」

 

『敵の殲滅してくれて感謝します。それは貴方が強すぎるからですよ・・・』

 

「あら、そうなの?私だけでそこらの敵を殲滅できそうね」

 

 周囲の安全を一人で確保したマリにそう告げると、マリはこの辺りの敵を全ての自分一人だけで排除できそうだと豪語する。次に羽瀬川は味方と交信が取れた事を告げた。

 

『ツェルベルスとの交信が取れました。直ぐにトレーラーを回収する輸送機を手配してくれるそうですが、到着は今から二時間後。貴方もついてきますか?』

 

「ちょっと早いわね。私は良いわ・・・ライガー・ゼロを元の状態に戻したら、そこらで適当に暴れて注意を引いておくから。データ回しといて」

 

 マクロス級要塞艦ツェルベルスからトレーラーを収容する輸送機が手配されると告げる羽瀬川であったが、マリは囮になると言って告げてそれを断る。

 

『えっ、それじゃ・・・少佐が・・・』

 

「良いから、良いから。私強いし、この辺りの連中は雑魚みたいだから、一人で余裕よ、余裕」

 

 意気込むマリに、これ以上説得しても無駄と判断した羽瀬川は諦め、彼女が囮になることを許可した。

 

『分かりました、上にはそう伝えておきます。本当に宜しいのですか?』

 

「フン、ばーか、私がやられるわけ無いでしょうが。まだまだやることは沢山あるんだから」

 

 不安そうな表情を浮かべ、再度羽瀬川はマリに問う。その質問にマリは、鼻で笑って答えた。

 彼女は補給と換装のためにトレーラーへ戻る。トレーラーへ戻れば、幻想日シュナイダーから最初に拾った時の白い外装への取り替えが行われている。何故、高速戦闘仕様のイェーガーではなく、ノーマルを選ぶのかをカチヤは、ドリンクを口にしているマリに聞く。

 

「あの、囮ならイェーガーの方が良いのでは?」

 

「これはこれで扱いやすいし、追加装備も取り付けやすいから、これで良いの」

 

「は、はぁ・・・」

 

 マリのこだわりを理解できないカチヤは、少し理解できないでいた。数々のエースパイロット達は自分が使いやすいように機体をカスタマイズする物だが、マリもエースパイロット同様の考えを持つ人物だろう。そう思ったカチヤは敬礼してから作業へと戻った。

 元の外装へ戻されたライガー・ゼロは、連邦軍か現地軍から横流しされたのか、闇市に流れている武装が無理矢理取り付けられている。武装は離脱が可能なほどの重量で抑えられており、余り重武装とは言えず、どちらかと言えば中間に入る位置だ。

 

「取り付け作業終わりました!」

 

取り付けが終われば、マリはライガー・ゼロに再び乗り込む。キャノピーを閉めると、通信用モニターに羽瀬川の顔が映る。

 

『では、無事に合流ポイントで再開しましょう』

 

「えぇ、そっちこそ。解放された人達、頼んだわよ」

 

 用件を告げて軽い敬礼を済ませた後、モニターの映像は消え、再びハッチが開かれた。そこから飛び出たマリのライガー・ゼロは、地図に表示された対空陣地の破壊や野戦航空基地の襲撃に向かう。

 現時点でのマリのライガー・ゼロの兵装だが、ロングレンジライフルにミサイルポッド、対空機関砲、スモークチャージャーなどのあり合わせで出来ている。無論のこと、それらの兵装は強制解除が可能である。

 まずは近い場所にある対空自走砲を片付けるべく、マリのライガー・ゼロは雄叫びを上げながら標的に向かって走った。

 

 

 

 その頃、担当空域での偵察飛行を終えたザシャが率いるひよこ(キューケン)中隊は、新しい任務を受け、再度飛行を続行していた。その新しい任務は、羽瀬川達敗残兵を回収する大型輸送機の護衛だ。既に護衛機はVF-117ナイトメアプラスが四機ほど付いているが、なにぶん敵地を飛んでいる物で、任務を終えたザシャの中隊が引っ張り出されたと言うことだ。

 流石にツェルベルスに帰還する物だと思っていたパイロットが不満を漏らす。

 

『あいつ等、俺達は怪我から復帰したばかりだって言うのに』

 

『そうよ。この前の撤退戦で戦ってないからって、こんな旧型に乗せてこき使うなんて・・・』

 

 口々に不満を垂らす隊員達を宥めるため、ザシャは全機にチャンネルを合わせ、隊員達に伝える。

 

「文句言わないで、私達が飛んでるのは敵地なんだから。それに休んだ分も頑張らないと、自分達を逃がすために戦ってくれた戦友達に迷惑掛けちゃう」

 

『まぁ・・・それもそうですけど・・・』

 

『なーに、こんな惑星で脱走して連邦軍に寝返ろうとしても、どうせ殺されるのが関の山さ。投降したって、あいつ等撃墜数欲しさに撃ってくるしな。傭兵に化けたって、いつ基地に帰れるかどうか分からないし』

 

『それもそうだな・・・隊長の言うとおりだ・・・』

 

 熱で寝込んでいて説得力がないと思うザシャであったが、柿崎が上手くフォローしてくれたので、脱走者を出さずに済んだ。フォローしてくれた柿崎に礼を言う。

 

「ありがとう、柿崎君」

 

『えっ?い、いや、隊長を補うのは、下士官としての務めなんたり・・・』

 

「フフフ、変なの」

 

 モニターで礼を言われて顔を赤くして恥ずかしがる柿崎を見て、小さく笑ってから聞こえないように口にする。それから数十分後、合流ポイントで予定時刻通りに大型輸送機と護衛機四機と合流。制式採用機四機と共に輸送機の護衛の任に付いた。

 ザシャ機を含める中隊本部四機が輸送機の上を飛び、他の三機編成の四つの小隊は輸送機を囲むように飛ぶ。護衛の最中、VF-117を見た柿崎は羨ましがる。

 

「あぁ、こっちにVF-117を回して欲しかったな・・・」

 

『柿崎、文句は言わない』

 

「ちぇ、分かってらい!」

 

 千鶴から注意された後、キャノピーから肉眼での周囲警戒に当たった。

 それから一時間ほどが経ち、敵に察知されることもなく輸送機が回収ポイントまで到着した。もちろん、マリが輸送機を射程距離に捕らえることが出来る対空陣地や野戦航空基地を襲撃しているおかげである。二台のトレーラーを回収する大型輸送機は、VTOL型にもなり、ある程度の場所なら着陸が可能だ。

 大型輸送機が着陸すると、護衛のVF-117四機もバトロイド形態に変形して地面に足を付ける。輸送機が後部ハッチを開けば、二機のジムⅡと共にトレーラー二台の回収を始める。回収作業中、ザシャの中隊は周辺を上空から警戒に当たった。

 

「あの二台目のトレーラー、何を積んでんだ?」

 

 柿崎は二両目のトレーラーの中身をどんなものか気になり、それを口にする。中身はマリが解放した奴隷達だが、輸送機を「ただ護衛しろ」と言われたザシャ達には中身は分からない。

 回収を終えると、輸送機が護衛機と共に上空へ飛び、ツェルベルス目指して帰還の航路を進み始める。ザシャの中隊も帰還の航路に乗り、輸送機の護衛を続行する。二両目のトレーラーの中身が気になったチェリーは、輸送機のパイロットに通信で問う。

 

「あの、二両目のトレーラーの中身なのですが・・・何が入っていたのですか?」

 

 その問いに対し、パイロットは即座に返してくる。

 

『解放された奴隷よ、エース級の少佐が助けたんだって。全く、ここを何処だと思ってるのやら・・・ヒーローごっこは他所でやってよね』

 

「で、でも、あのまま放置して、私達だけこの星から脱出したって・・・」

 

 パイロットはマリが行った奴隷解放を偽善として否定するが、チェリーはマリの行った行動を賛美するような発言を取る。

 

『はぁ・・・これだからお子ちゃまは・・・まぁ良いわ、これ以上言い争うと、任務に支障が来ちゃうから』

 

「・・・偽善者扱いされちゃった・・・」

 

 これ以上言えば、チェリーとの言い争うになると思ったパイロットは中断し、通信を切る。チェリーは相手に偽善者扱いされた事で、表情を暗くする。それからツェルベルスまで後半分の距離までになった時、味方の反応しか映ってないレーダーに、識別反応がないアンノウンが映った。

 

『アンノウン来襲!北東から急速接近!!』

 

「全機警戒体勢!敵の接近に備えて!」

 

 早期警戒機からアンノウンの接近の方が知らされると、ザシャは全機に警戒するよう告げる。その言葉で全員が警戒態勢に入り、レーダーでアンノウンが近付いてくるのを確認し、来る方向に視線を向ける。

 アンノウンの接近に対処の構えを見せるキューケン中隊であったが、そんな時に敵である現地軍の航空部隊が来る。

 

「あぁこんな時に・・・!西南より現地軍の航空部隊がこちらへ向けて接近中!数は、嘘!?五十機以上です!!」

 

「ご、五十機って!?大編隊じゃない!!」

 

 VE-1のオペレーターが五十機以上物の航空兵器が接近を伝えれば、パイロットは驚きの声を上げる。この報は部隊全体に広がり、更なる脅威が現れたことで、ザシャは顔を真っ青にさせた。

 

『アンノウンに続いて現地軍の航空兵器五十機・・・!』

 

『どうする隊長。このままじゃどっち共に攻撃を受けるよ』

 

「あぁ、うん。全機、迎撃態勢!」

 

『了解。こちらエンデヴァー小隊、迎撃態勢に移る!』

 

『了解!』

 

 映像に後方に視線を向ける柿崎の声が通信機から聞こえた後、ペトラはチェリーや千鶴を率いて西方から来る敵の大編隊を他の小隊と共に迎撃態勢に入る。

 約三小隊ほどが迎撃態勢に入る中、自分は傘下の三機に残った小隊と共に護衛するよう告げた後、高速でこちらに向かってくるアンノウンに対処することにした。

 機首をアンノウンの居る渓谷方面へ向けると、レーダーに目線を向ける。輸送機から離れれば、アンノウンは真っ直ぐこっちに向かってくる。どうやらザシャが目的らしい。

 

「私が標的・・・?あっ、敵機!数は八機・・・!」

 

 向かってくるアンノウンに目を取られていると、敵の反応が八つ以上も現れる。今のザシャなら、相手にエースが居なければ容易に全機撃墜できるが、アンノウンとの戦いの前に弾薬を浪費してしまう。

 かといってアンノウンとの戦闘中に乱入されても困る。どうするか摸作している内に、現地軍のプテラス八機と鉢合わせしてしまった。

 獲物を見付けた八機の黒い塗装のプテラスはザシャのVF-1Sに襲い掛かる。

 

『こちらエグザクター2、エネミータリホー!あのF-14擬きを攻撃・・・うわぁぁぁぁ!!』

 

「やられた!九時方向よりアンノウンが急速接近!各機散会しろ!!」

 

 先にザシャのVF-1Sを捕捉したプテラスが攻撃に移ろうとしたが、アンノウンから放たれたビームを受け、撃墜された。他の七機は散会して第二射目のビームを回避したが、瞬く間に三機が撃ち落とされる。

 アンノウンの正体は、デルタガンダムと呼ばれる百式というMSの原型機だ。可変機であり、この機体を開発した会社が、デルタガンダムを元に量産を目的として開発した同じ可変MSのデルタプラスと呼ばれる試作機がある。

 本来は可変機としての性能は劣っている筈だが、パイロットの腕もあってか、限界まで引き出されている。塗装も元の金色から黒色になっており、機体の動きからしてパイロットの性格を表しているような感じだ。

 MS形態になったデルタガンダムは、飛んできた空対空ミサイルを頭部のバルカン砲で迎撃すると、四機一隊で接近してくるプテラスを全機をビームライフルの早撃ちで撃ち落とす。それを見たザシャは、動きでガラヤの町で自分を襲ってきたVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡのパイロットだと確信する。

 

「あ、あの機体は・・・!」

 

『その動き、その飛び方・・・やはりお前だったか・・・さぁ、リベンジマッチだ。私の顔に泥を塗った罪、死んで詫びて貰うぞ!』

 

「はっ・・・?」

 

 共同通信で問い掛けてきたパイロットは女性の声であったが、ザシャには身に覚えはなかった。

 そのデルタガンダムのパイロットの正体は、あの大会荒らしの異名を取るニコラだ。VF-22でザシャに襲ってきた理由は、彼女が少女のような外見にありながらも自分より技量が高く、決勝戦では邪魔立てが入った物の、負けそうになり、それで顔に泥を塗られた為と言う小さい物であり、まるで負けず嫌いな幼い少女のような理由だった。

 そんな理由で襲われ、大事なVF-25メサイアを撃破されたザシャは堪った物ではないだろう。目の前にいるニコラは機体をMA形態に変形させ、ザシャのVF-1Sに向けてビームライフルを連発してきた。自分の機体へ向けて飛んでくるビームに対し、操縦桿を巧みに動かし回避した。

 ガウォーク形態になり、ガンポッドを数十発ほど撃ち込んで相手を怯ませると、下にある渓谷まで降下して岩陰に隠れる。バトロイド形態となって自分を探すデルタガンダムにミサイルをロックオンし、トリガーを引いてミサイルを発射する。背中の主翼から発射された四発のミサイルは敵機へ向けて飛んでいくが、相手はミサイルをバルカン砲で迎撃し、飛んできた方向からザシャの隠れ場所を割り出し、ビームを数発ほど撃ってきた。

 隠れている岩を貫通して沸きの側をビームが掠める。ザシャは直ぐに爆発寸前の岩からファイター形態になって離れ、渓谷に入るが、敵も飛行形態に変形してビームを撃ちながら追ってきた。

 

「中々やるな・・・!」

 

 ジグザグに動いて照準を絞らせないザシャのVF-1Sを見て、ニコラは楽しげな表情を浮かべ、照準にザシャの機体が重なったと同時にトリガーを引く。ビームは当たったが、擦れた程度であり、操縦に支障はない。ニコラのデルタガンダムよりやや上に上昇させれば、後緑フラップを下げてスピードを落とし、敵機の後ろへ付けば、機首の下にある頭部四門レーザー機銃を敵機へ向け、ガンポッドと共に撃ち始める。

 やはり可変MSにはフラップは搭載されておらず、直撃は逸れた物の、胴体に何発か受けてしまう。装甲は機関砲の120㎜弾でも弾き返すほどの堅さだが、翼竜型大型ゾイドのサラマンダー対策に徹甲弾が装填されている為か、突き刺さって煙を噴く。

 

「ちっ、所詮は戦闘機の真似をするために作られた可変MSか!」

 

 変形するMSの悪口を言った後、機体をMS型に変形させ、左手でビームサーベルを抜き、撃ってくるファイター形態のVF-1Sに斬り掛かる。

 

「わっ!?」

 

 キャノピーから見えるサーベルを抜いて斬り掛かってくるデルタガンダムに驚いたザシャは、Gのレバーを引いて両足を開かせて逆加速を掛け、回避した。空かさずガウォーク形態に変形してガンポッドを撃ち込むが、相手は紙一重で回避してバルカン砲を撃ってくる。これをバトロイド形態に変形し、ガンポッドを敵機へ向けて撃ちながら落下する。

 

「うっ!この程度で!!」

 

 真下から来る攻撃を盾で防ぎつつ、ニコラはVF-1Sを追おうとするが、ザシャは地表まで50mとなったところで攻撃を止め、ガウォーク形態に変形してマイクロミサイルを数発撃ち込み、撃った直後にファイター形態に変形させる。向かってくるミサイルの警告音を聞いたニコラは機体を飛行形態に変形させ、ブースターを全快にさせてミサイルを突っ切った。

 小型空対空ミサイル群は目標を追うことが出来ずに互いに激突し、他のミサイルと共に誘爆した。数発分のミサイルの爆発の所為か、崖崩れが発生する。無論、彼女達には関係のない事であり、ドックファイトを続行する。

 速度はやはり飛行形態のデルタガンダムの方が速く、ビームライフルの射程距離に捉えられてしまう。ロックオンされた警告音と共にVF-1Sにビームが撃ち込まれる。

 

「追い付かれた!」

 

 キャノピー越しから飛行形態のデルタガンダムを確認すると、ザシャはまたフラップを下げて後ろへ回ろうとしたが、同じ手は通じず、MS形態に変形したデルタガンダムに取り付かれてしまった。

 

「しまった!?」

 

『これで!』

 

 ビームサーベルを抜いて突き刺そうとするニコラであったが、ザシャは咄嗟の判断でまた両足を展開して逆噴射を掛け、デルタガンダムを引き剥がす。急ブレーキで引き剥がされたデルタガンダムは地面へ落下するが、バックパックのブースターで立て直し、追撃を続行する。

 

「まだ追ってくる!へっ?うわっ!?」

 

 ニコラとのドックファイトで夢中になって、いつの間にか渓谷を抜けており、マリの攻撃目標の対象外である現地軍の野戦基地の近くまで来ていた。基地からの対空砲火の弾幕の嵐がザシャのVF-1Sとニコラのデルタガンダムに来る。所々掠めるが、彼女達の技量では、これくらい本気を出せば回避できる。

 そこにMSやAT、ゾイドの対空射撃も加わり、更に弾幕が厚くなるが、ザシャとニコラは操縦桿を巧みに動かし、弾幕を神業の如く回避する。かの有名な世界で尤も多くの陸戦兵器を破壊したナチス・ドイツ空軍のルーデルでも確実に撃墜されるほどの弾幕であるが、彼は航空機を七機程が撃墜している程度なので、二人の腕前は三桁の航空機の撃墜数を誇るエースパイロット並である。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自分達に向けて砲火を集中してくる多数の敵機へ向け、ニコラはビームライフルを撃ち込む。一機、二機と瞬く間に十機以上がニコラの逆鱗に触れ、スクラップとなる。ビームサーベルで切断されて両断された機体もある。固定砲台や戦闘車両、戦闘ヘリに対してはバルカン砲で撃墜される。

 

「このままあの人に・・・キャッ!」

 

 主力はニコラのデルタガンダムに集中しているが、ザシャのVF-1Sにも基地守備隊の攻撃が来る。数はニコラに向かっている主力ほどではないが、自分を殺すには十分な数だ。ミサイルを撃ち込んでから直ぐにバトロイド形態に変形して地面に火花を散らしながら着地すれば、視界に入る敵全てにガンポッドを撃ち込む。数十秒間目に入った敵を撃っていれば、動いているのは自分の機体だけとなる。

 後ろから不意打ちを食らわそうとするATが居たが、ザシャに気付かれ、ガンポッドを撃ち込まれて撃破される。ここで動くのはザシャのVF-1Sだけだ。

 

「後は・・・!」

 

 ニコラが居た方向に視線を向けると、集音機器から外から聞こえる戦闘音が聞こえなくなったのが分かった。

 物の数秒で共通通信からニコラの声が聞こえてくる。

 

『さぁ、邪魔者は居なくなった。続きだ!』

 

「クッ・・・!」

 

 ビームライフルを撃ちながら高速で接近してくるデルタガンダムの攻撃を回避しつつ、ガンポッドで反撃するザシャ。相手のニコラは、ガンポッドの弾幕を避けつつ接近してくる。

 VF-1Sのありとあらゆる箇所にビームが擦れるが、直撃は避けているので戦闘続行は可能だ。相手も何発かガンポッドの弾を食らうも、デルタガンダムも直撃ではなく、こちらも戦闘続行は可能である。ニコラのデルタガンダムがザシャのVF-1Sまで到達すると、サーベルを抜いて斬り掛かってくる。

 ザシャはそれを避けつつガンポッドを撃ち込むも、ニコラは直撃を与えさせる訳がない。ザシャも直撃ではない物の、左肩を斬りつけられた。頭部の四門レーザー機銃を浴びせるも、紙一重で回避され、一門切り落とされる。

 両者至近距離で暫く交戦するが、この状況をザシャがミサイルを発射してニコラを怯ませ、離れさせることで脱し、直ぐさまガンポッドをデルタガンダムに撃ち込み、デルタガンダムに致命的な損傷を与える事に成功した。コクピットにまで破片が及び、ニコラは機体を飛行形態に変形させ、その場から逃亡する。

 

「ちっ!」

 

「逃がさない!」

 

 機体に致命的なダメージを与えられたニコラは渓谷へと逃亡するが、ザシャはVF-1Sをファイター形態に変形させ、煙を噴くデルタガンダムを追撃する。彼女の機体もあちこち切り刻まれ、こちらも直撃とは行かない物の、自動修復が間に合っていない様子だった。

 後ろを見せる敵に対し、今まで微かに感じていた躊躇いもなしにロックオンしてトリガーを引いた。この時のザシャは興奮しており、冷静さを失って十代前半で大学まで飛び級した頭脳は、ただ相手をどうやって撃ち落とせるしか無い。発射された八発ほどのミサイルは、煙を噴く飛行形態のデルタガンダムへ向けて飛んでいく。

 

「クソッ!私は負けるのか!!」

 

 モニターに映るザシャのVF-1Sに向けて拳を振り下ろすと、自機に迫ってくるミサイルを避けるため、取っておいたフレアをばらまいた。ばかまかれたフレアの数はミサイルより多く、ミサイルはフレアを標的と誤認してそちらに向かい、着弾して爆発する。八発分の爆風が巻き起こる中、ザシャは煙を噴く標的を見失う事は無かった。

 

「渓谷に!」

 

 煙を噴くデルタガンダムの逃げた先を確認したザシャは、ガンポッドを撃ちながら追撃を続行する。渓谷で命がけの鬼ごっこをしている最中、高さ40m程の洞窟の中へニコラが逃げ込んだ。即座にザシャのVF-1Sも暗い洞窟へ入り、ライトを照らし、ガンポッドを構え、ニコラのデルタガンダムを探す。

 洞窟の中は20mほどある人型兵器でも身を隠せる場所は幾らでもあり、何処から撃たれるか分からない。神経をすり減らしながら警戒していると、背中からビームとバルカン砲を連射する音が鳴り響いた。暗い洞窟の中で閃光と爆風が舞い上がり、ザシャのVF-1Sが見えなくなる。

 

「やった・・・!」

 

 倒したと思ったニコラであったが、その直後に警告音が響き、煙の中からバルカン砲を数発ほど被弾したザシャのVF-1Sが現れ、ガンポッドを撃ち込んできた。持ち前の反射神経で回避するも、全弾回避は流石に出来ず、数発ほど被弾する。直ぐにビームを撃って反撃に出る。

 ビームライフルを諸に受ければ一撃で撃破されるので、自分がローリングする感覚でバトロイド形態のVF-1Sを回転させ、ビームを回避した。追撃を掛けようと、ビームライフルを捨てたニコラのデルタガンダムがサーベルを抜いて斬り掛かってくる。

 一振り、二振り、三振りとサーベルを振るが、擦れる程度で致命傷は与えられて等居ない。逆にガンポッドやレーザー機銃で被弾箇所を増やされていく。負けまいと頭部バルカン砲を撃つが、十秒ほどトリガーを引いたところで弾切れを起こした。それでもザシャの機体に被弾箇所を増やせる事に成功する。

 唯一この暗い洞窟を照らすのはデルタガンダムのビームサーベルだけであり、ザシャはそれを頼りにニコラのデルタガンダムの位置を特定し、ガンポッドをそこへ向けて撃つ。閃光が洞窟を照らし、一進一退の交戦が続く中、ようやく決着の時が来た。勝者はニコラのデルタガンダムよりも性能が劣るザシャのVF-1Sバルキリーである。

 VF-1Sの脇腹を斬られながらも、ガンポッドでデルタガンダムの頭を叩き折り、そこから胴体を何度も殴打して、機能停止まで追い込むことに成功した。何度も装甲の堅いデルタガンダムを殴り付けた所為で、ガンポッドはへし折れ、使い物にならなくなっていた。ガンポッドを捨てて拳で相手にトドメを刺そうとしたが、機体が限界を超えたのか、ザシャのVF-1Sは地面に倒れ込んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

 倒れ込んだVF-1Sからサバイバル装備を持って降りたザシャは、戦闘の影響でバイザーが割れたヘルメットを脱ぎ捨て、呼吸を乱しながらニコラのデルタガンダムの元まで向かう。H&K社の短機関銃MP5の縮小型の(クルツ)モデルを向けたが、全身から血を吹き出しながら機体から出て来る息を荒げるニコラを見て、殺意が失せてしまい、戦闘が終わって気が緩んだのか、その場に座り込んでしまう。そんな彼女を見たニコラは、何故トドメを刺さないのかと問うた。

 

「どうした、殺すなら今の内だぞ・・・?」

 

「こんな瀕死の人・・・撃てないよ・・・」

 

「ふっ、つくづく甘い奴・・・だな・・・」

 

「っ!?」

 

 ヘルメットを脱いで問うニコラに対し、ザシャは「瀕死の人間は殺せない」と答える。その答えを聞いたニコラは気を失い、機体から転げ落ちて地面に倒れ込む。それを見ていたザシャは鉛のように重い身体を動かし、ニコラの元へ駆け寄った。

 緊急医療キットをこじ開け、直ぐにニコラの治療を開始する。元々彼女は看護師を目指していたので、医者ほどではないが、衛生兵ほどの応急処置は出来る。

 

「キャッ!」

 

 気を失ったニコラの治療を行っている最中、真上に砲弾が掠めた。どうやら先程二人で壊滅させた野戦基地の生き残りが、ここを嗅ぎ付けて来たようだ。運が悪いことに嗅ぎ付けた敵はコマンドウルフであり、今の装備では二人とも纏めて殺されてしまう。

 

「ここで、死ぬ・・・!?」

 

『戦友達の仇だ!纏めてミンチに・・・』

 

 一瞬死の覚悟をしたザシャは、重傷のニコラを庇うが、拡声器から聞こえてくるパイロットは言い終える前にコクピットをロケット弾らしき物で吹き飛ばされ、操縦者が居なくなったコマンドウルフはその場へ倒れ込む。

 

「へっ?」

 

 死ぬと思っていたが、何者かに助けられたので、洞窟の入り口の方を見ると、そこには先程撃ったばかりのバズーカを抱えたMSジムの発展型であるジム・コマンド陸戦仕様が居た。一瞬味方だと思ったザシャであったが、洞窟に明かりを照らしながら入ってきたワルキューレ宇宙軍が持つ銃火器とは違う冷戦期の東西ドイツの銃火器を持ったドイツ国防軍陸軍の山岳装備の女性将兵達を見て、即座に味方ではないと判断する。

 

「動くな!」

 

 HF G3A4やMPi-AK74Nの銃口を向けながら告げる女性将兵達に対し、ザシャは驚きの余り何の言葉を発することなく、大人しく両手を挙げて彼女等に降伏した。

 散々死闘を繰り広げて、その結果がこれとは、流石の彼女も流石には予想できなかった。

 重傷者のニコラと共に、ザシャは女兵士の集団と共に洞窟を出たのだった。




また詰め込みすぎた・・・
ゴジュラスがTVアニメ版並に扱いが酷い・・・

ザシャとニコラの戦闘シーン。「愛・おぼえてますか」を見た奴は分かるな?

sakuraさんが、現在お借りしているザシャの腕前は、ルーデルとハルトマン、マルセイユとバルクホルンのミックスだそうで・・・チャットで仰ってました。
これはもう、マックスもミリアもビックリやで・・・熱気バサラに追い着けそうな気がする・・・

通常のジェット戦闘機で、インチキ性能の機動兵器もぶっ壊しそうです。
つまりザシャ一人居るだけで、アルノドア・ゼロの火星のスーパーロボットと張り合えるのです。はい(超理論)。

こんな結末にして、sakuraさん、マジでごめんなさい(スライディング土下座)。


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ステーキ

タイトルからして、死亡フラグビンビンなタイトル。

ISAって近未来の軍隊なのに、現代的な戦闘をするんだね。


 ザシャがニコラと共に謎の武装集団に捕まった後、ここ惑星アヌビスで大きな変化が起きていた。

 政府機能がある議事堂にて、統合連邦軍の歩兵科の中で尤も最強の兵科である機動歩兵が各地に展開しており、現地軍の議事堂守備隊を瞬く間に制圧し、議事堂に突入寸前まで迫っている。議事堂の出入り口へ向け、グレネードランチャーを撃ち込み、議事堂内部へ突入する。

 

「連邦軍だ!直ちに迎撃、ぐわっ!」

 

 将校が迎撃命令を出す前に機動歩兵のアサルトライフルの弾丸を受け、胸に大穴を受けて絶命する。他の将校が指揮を変わるが、他の将兵諸共機動歩兵に制圧される。アサルトライフルや機関銃の銃声が鳴り止めば、辺り一面が硝煙と血の臭いで溢れかえり、肉塊と化した現地軍の将兵達の姿があった。

 

「相変わらずえぐい光景だな・・・」

 

 一人の機動歩兵がこの光景のありのままの事を言った後、部隊長がハンドサインで全身の合図を出す。機動歩兵が議事堂の奥へ進んでいく間、それを待ち構えるように守備隊の将兵達が重機関銃やロケットランチャーを構えていた。

 無論、突入した機動歩兵の部隊は待ち伏せがあるなど分かり切っており、それでも足を止めなかった。

 何故、こうも彼等が前進するのか?

 それは窓からラベリングで突入してきたブルパップ式のM82アサルトライフルやMP5に似たLS57サブマシンガン、M240に似たM224-1Aライトマシンガンを持った特殊作戦部隊のような装備の兵士達、惑星間戦略同盟(ISA)の兵士達だ。

 瞬く間に守備隊の兵士達を制圧し、部屋から出て来た敵兵すら、数秒単位で制圧した。機動歩兵と合流したISAの兵士達は、室内戦では効果的に適用であるCQBを取り、出て来る敵兵を倒しながら、政府関係者の居るエリアまで前進する。

 三分で政府要人用の退避シェルターまで到着し、核攻撃に耐えられるハッチをハッキング用の機器で開け始めた。その間に機器を操作する兵士が無防備になるため、各隊員と機動歩兵が兵士を守るような陣形を取る。そんな彼等の元に、遠く離れた安全な地にいる総司令官が複数の護衛とスーツ姿の禿頭の中年と共に現れた。

 総司令官を見た一同は、銃を構えるのを止めて一斉に敬礼する。敬意を表する彼等に対して、総司令官は気を緩めるよう告げる。

 

「ご苦労。脅威はあのシェルター以外、全て制圧した」

 

 総司令官は左手に持ったホログラムから、首都周辺にいる黒煙の上がる守備隊の機動兵器の残骸の映像を指揮官に見せる。隣には、ISAのマークを付けたジェガンやダークダガーL、狐型中型ゾイドシャドーフォックス、オオカミ型大型ゾイドケーニッヒウルフ、特殊作戦装備のスコープドックが映っていた。

 

「君達機動歩兵とISAは強いな・・・もはや敵無しだ。あの威張り腐った連邦軍や連合軍とはえらい違いだ」

 

「はぁ・・・お褒めの言葉、有り難く受け取らせて頂きます・・・」

 

 機動歩兵とISAの指揮官に対し、ホログラムを見せる総司令官が皮肉混じらせて彼等を褒めると、指揮官達は少し言葉を濁らせてから返答する。期待した返答が来なかった為、総司令官は損した様な表情を浮かべれば、丁度ロックが解除される。

 

「閣下、シェルターのハッチ、解除完了です」

 

「ご苦労。では、顔を拝みに行くか」

 

「あぁ、これでアヌビスは変わる」

 

 ハッキングをしていた兵士が敬礼して報告すると、総司令官は内部にいる政府要人の元へ向かうと口にすれば、隣にいた禿頭の中年は、まるでこの惑星の支配者が自分になるような台詞を吐き、総司令官と護衛と共にシェルターの中へ入っていく。そんな彼等を出迎えたのは、シークレットサービスの拳銃であった。

 入ってきた彼等に対し、家族連れの国家元首は酷く怒鳴る。

 

「き、貴様等!これはどういうつもりだ!?」

 

「これはどういうつもりと・・・?腐敗政権の打倒ですよ。隣にいる次期国家元首がね」

 

 国家元首が指差しながら怒鳴り散らすように問えば、総司令官は隣にいる禿頭の男に手を翳しながら説明する。その男は前に出て、堂々と国家元首へ向けて告げる。

 

「そうだ。私は地方民のために立ち上がったアヌビス共和国次期国家元首兼大統領、チャールド・マーコフだ!貴方を国家反逆罪並び、スパイ容疑でこの場での死刑を言い渡す!」

 

「なにを勝手なことを!うぁ・・・!?」

 

 そう宣言するチャールドに対し、国家元首は怒りを露わにしながら掴み掛かろうとするが、彼が取り出した拳銃で頭を撃たれ、床に倒れて絶命する。それを見た国家元首の妻が悲鳴を上げ、逃げようとしたが、チャールドに射殺された。同じくシェルターに避難していた政府要人と議員達は「自分達は脅されていた」と口々に無罪を主張する。

 

「ま、待ってくれ!我々は彼に脅されていた、ブハッ!?」

 

「黙れ、お前達も死刑だ。罪状は機密漏洩に資源の独占!我々アヌビスの国民達を脅かすテロリストと関係を持ったこと!十分な理由だ」

 

 一人の要人を射殺した後、チャールドが罪状を突き付けるが、要人達はボロを出しながらも命乞いを始める。

 

「こ、殺さないでくれ!ダイヤで手をうとう!ダイヤなら幾らでも・・・ギャッ!」

 

「腐敗した要人は不要だ。これからは私の政権がこの惑星を動かす。貴様等は必要のない存在だ!」

 

「う、うわぁ、よ、止せ!グワッ!」

 

 命乞いをする要人達に吐き捨てたチャールドは、ISAの機関銃手から軽機関銃を取り上げ、それを要人達に向けて撃った。

 連続した銃声が鳴り響き、政府要人と議員達は蜂の巣となり、バタバタと床へ倒れていく。銃声が止む頃には、シェルターで立っている者はチャールドと連邦軍の者達だけであった。

 

「これで掃除は完了だ」

 

「おめでとう。これで君はこの惑星の新たな支配者だ」

 

「ありがとう。閣下、それでは早速、手始めに我が軍と貴方の指揮下の部隊を動員して、”先住民共”が立て籠もるダイヤモンド地方に進軍するのはどうですかな?」

 

 機関銃をISAの機関銃手に返したチャールドはそう口にする。他の将兵達は、チャールドが行った行動を見て驚きを隠せないで居たが、隣にいる総司令官は新たなアヌビスの支配者となった彼を祝す。それを耳にしたチャールドは礼を言った後、恐ろしげな笑みを浮かべ、自分が予てから国家元首になった時の計画を総司令官に告げた。

 

「ほぅ、それは・・・詳しくお聞かせ願いましょう。大統領閣下」

 

 総司令官は最初から意味が分かっていたようで、良からぬ事を企む笑みを浮かべ、チャールドと共にこの部屋を後にした。

 

 

 

 一方、謎の武装集団に連行かれたザシャは、彼女等の拠点とされる場所へ連れて行かれ、牢屋へ放り込まれていた。手錠も掛けられず、パイロットスーツのまま牢に放り込まれた彼女は、囚われる以前に治療を行っていたニコラの様態を古めかしい突撃銃を抱える看守に問う。

 

「あの、あの長身の人は・・・?」

 

「知らん!」

 

 Stg44を持ち、外にいる女性将兵達と同じ軍服を着た少女の看守は、そう答えて銃口をザシャへ向ける。まだあどけなさが残る少女の顔だが、表情はいつでも自分を撃てるような構えだ。それに怯えたザシャは後退り、ベッドへ向かおうとしたが、先客が居たそうで、その存在に気付く。

 

「あの、何方ですか・・・?」

 

「私よ。わ・た・し」

 

「あ、貴方は・・・!?」

 

 声でザシャは、先客がある人物だと直ぐに分かった。

 正体は血塗れの戦闘服を着た見慣れた美女だ。一度見たら忘れそうもない外見に自分と同じドイツ系ゲルマン人、美しい金髪、宝石のように輝く碧眼、血色の良い白い肌と肉付きの良い体付き。マリ・ヴァセレートがそこに居た。

 先客の正体がマリだと分かったザシャは、また何かされるかと思って警戒する。その反応を見ていた彼女はクスクスと笑い、警戒するザシャに落ち着くように告げる。

 

「そんなに警戒しなくても良いわよ、本当に何にもしないから・・・」

 

 マリは警戒するザシャに告げるが、どうやら信用されていないらしい。彼女にとって愛くるしい反応を見せるザシャに、自分達をここに捉えている武装集団の正体を明かした。

 

「あいつ等、この惑星の先住民よ。正確には先に入植したけどね」

 

「入植者ってことは、つまり・・・私達と共存しないメガミ人、百合帝国の残党勢力ですか?」

 

 直ぐにザシャは、ここに居る武装した女性や少女達、つまりメガミ人の武装勢力が百合帝国軍の残党勢力と分かった。

 何故、自分等と共存しないメガミ人を、ワルキューレが百合帝国の残党として決め付けるのかは、破壊活動を行うメガミ人武装勢力に協力するからである。ただし、神聖百合帝国が崩壊してから領域内で行われた十年余りに続く残党軍と戦いが終わって以降、ワルキューレと残党軍は一発の銃弾はおろか、その残党狩りを行うワルキューレが残党軍に兵器や人員を横流し、私兵として飼い慣らしているという始末だ。

 

「そうそう。連中がそこらの町やここの軍隊に一人も居ないと察する辺り、後から来たあの欲深な人間に負け続けてここまで追い込まれたって事ね。全く、ワルキューレに入ってれば、こんな事にならずに済んだのに」

 

 マリが言うように、始めにこの惑星に降り立った時、古戦場や放棄された砦に転がっていた亡骸は殆どがメガミ人だ。どうやら、後から来た住民との戦争で彼女等が敗北を重ね続け、ここまで追い込まれたそうだ。

 惑星アヌビスの歴史をある程度理解した後、次にどうやってこの状況を切り抜けるかの課題に入る。だが、それを考える必要は無かったようだ。牢の鍵が開けられ、これまた古めかしい短機関銃であるMP40に、木製ストックのMP41を持ち、シュタールヘルメットを被る二人の百合帝国残党兵と、制帽を被った一人の将校が入ってくる。

 

「出ろ。大佐がお待ちだ」

 

 腰のガンフォルスターにワルサーP38自動拳銃が差し込んだ将校が告げれば、マリとザシャはその指示に従って牢から出る。外へ出れば、焚き火を取るザシャを捕らえた将兵達が居た。

 元女帝のマリが目の前にいるが、信用を失い、腰まである髪を短めに切っているので、誰も彼女が自分達の祖国の固定であることに気付かなかったようだ。

 焚き火を取っている辺り、ここが気温の低い山中であることが分かり、二人の身体に冷気が襲う。身体を丸めて寒さを凌ぎ、マリは前を歩く将校に厚着を寄こすよう言う。

 

「ちょっと、厚着とか貸してくれないの?」

 

 凍えながら問うも、将校は無視した。優しさも欠片もない前を歩く女将校に対し、カッとなったマリは飛び掛かろうとしたが、周りにいる小火器を持った山岳装備の将兵達が睨みを利かせているため、迂闊に手を出すことが出来なかった。

 仕方なく指示に従い、何をされるか分からずに震えるザシャと共に、大佐が居ると思われる指揮所まで向かう。途中、マリは彼女を落ち着かせる為、ザシャに話し掛ける。話題は「どういう風に捕まったのか」だ。

 

「ねぇ、どうやって捕まったの?」

 

「小官は、現地軍の攻撃から助けられて・・・」

 

「フムフム。私は適当に空港や対空基地を潰してたらいきなりこいつ等のロボットが現れてさ、それで捕まった訳」

 

「そうですか・・・輸送機が無事なのは貴方のおかげでしたか」

 

「無駄口を叩くな!」

 

 マリが捕まった経緯を聞き、輸送機を護衛している最中、一発の対空ミサイルが飛んでこなかった事に納得して答えると、後ろにいる短機関銃の銃口を向ける若いメガミ人の兵士が会話を強制的に終了させる。それにマリは舌打ちすると、その兵士は睨みを利かせ、彼女達を指揮所まで連行した。

 大佐が居ると思われる指揮所まで到着すると、出入り口に立つ、自分等に向けている同じMP40を持つ警備兵が退いた後、指揮所の中へ入った。

 

「連れて参りました」

 

「ご苦労、下がってよし」

 

「はっ!」

 

 大佐と思われる執務机の椅子に座る左眼に眼帯を付けた短髪の女性に、将校は連れてきたことを報告すれば、彼女から「下がれ」と告げられ、ブーツの踵を鳴らしてから後ろの兵士達と共に指揮所を出る。三人だけとなった指揮所内部で、先に口を開いたのは大佐だ。

 

「お二方の戦闘を安全な場所から拝見させていただいた。恐ろしい技量の高さだ、お二方で三個軍団以上の戦闘力があるな」

 

 二人の技量の高さを過大評価する大佐であるが、人殺しの天才と勝手に呼ばれたザシャは、とても良い気分にはなれない。そんな彼女に、マリは呼んだ理由を問う。

 

「お世辞は良いから、どうして私達を呼んだのか教えなさいよ」

 

「そうだったな。では、これを見てくれ」

 

 マリに理由を問われたので、大佐は資料を二人の前に投げた。それを手に取ったザシャは、驚きの声を上げる。内容は自分とマリが、連邦地上軍の一個軍相手に、僅かながらの戦力で攻撃を仕掛けることであった。

 

「わ、私達を攻撃に動員するつもりですか・・・!?」

 

「捕まえて挙げ句、私達を殺す気!?」

 

 拒否しようとする姿勢を見せるザシャとマリに、大佐は交渉の手札を出す。

 

「そうだとも。そこの見覚えのある女は知らんが、ザシャとか言ったな?お前の患者は現在、我が軍の軍医が治療中だ。そちらは安心して良い。だが、お前達の母艦を拿獲したとの連絡が入った」

 

 ニコラが無事であることに安心したザシャであったが、マクロス級要塞艦ツェルベルスとそれに収納されている一個機甲旅団以上の戦力が纏めて百合帝国残党軍に拿獲された事に驚き、惑星アヌビスの百合帝国残党軍の実力の高さか、自分達が居ないだけでここまで弱体化するワルキューレの情けなさで、二人は声を上げる。

 

「あの馬鹿でかい戦艦を・・・!?」

 

「嘘・・・ツェルベルスには、一個旅団以上の戦力が居るのに・・・」

 

 味方に対しての絶望なのか、百合帝国残党軍の実力の高さなのか分からぬ反応に、大佐は自分等を恐れていると判断し、更に話を進める。

 

「これでお前達は我が軍に従うしかなかったな。奴隷にされていた同胞を助けてくれた事に感謝するが、歓迎するほど我々は甘くはない。以前それで全滅した同胞達が居るのでな」

 

「そう言うと思ったわ・・・」

 

「そう言うことだ。その服では少し辛いな・・・着替えを持ってこい」

 

 大佐は奴隷にされていたメガミ人達を助けたマリに一応の礼は言ったが、過去にあった出来事で、歓迎などするつもりはないと告げる。次に、マリとザシャの着替えを持ってこさせる。

 入ってきた陸軍と空軍の士官が持ってきた着替えは、突撃砲兵の制服に士官用フリーガーブルーゼだった。

 

「着替えだ、その服では少し寒いだろ。一時間後には攻撃に出る。準備が出来てないのはお前達だけだ」

 

 大佐はニヤリと笑みを浮かべ、二人に攻撃の準備をするよう告げた。それから着替えを持って、指揮所を出ると、更衣室まで連れて行かれる。陸軍の突撃砲兵の制服がマリで、空軍のフリーガーブルーゼがザシャは、双方の士官の監視の下、身体中の汗を流し、着替えを行う。

 他人にジロジロと自分の裸体を見られるのは余りいい気がしない中、二人は着替えを終え、それぞれ自分の機体がある格納庫へ連れて行かれた。ザシャはニコラとの激闘で搭乗機であるVF-1Sバルキリーを失っているので、残党軍が用意した機体へ乗り込む。

 格納庫に待っていたのは、捕まる前の白い外装ではなく、これまで格闘戦主体の兵装では無い砲撃戦主体の第三形態であるパンツァーと呼ばれる浅い緑色の外装に換装されたライガー・ゼロだ。

 ザシャの方は何処からか調達したのか、ワルキューレでは最新鋭機とされているVF-25メサイアが、ファイター形態で駐機されていた。更には大気圏内外両用のスーパーパックが装備されている。これを見たザシャは、一言も発せずにあ然する。

 ちなみにVF-25Fの”F”にちなんでか、フォッケウルフFw190F型の塗装にされている。他にもVF-27βルシファーが駐機されている。

 

「驚いたか?何故こんな物を我々が処置しているのかと」

 

 ザシャが言いたいことを予知した女性パイロットは、彼女の隣に着く。

 そんな彼女を見て、パイロットは鼻で笑ってから理由を告げる。

 

「理由はお前達ワルキューレだ。お前は知らないと思うが、我々を心配する元戦友達か、新装備の実戦における試験運用をやらせるためにこんなおもちゃを我々に流してくれる。分解して運ぶと計算して、これだけの機体と装備を揃えるのに、役一年は掛かっている。それだけ貴重な物をお前達にくれてやるんだ、しっかりとやれよ?ひよこ(キューケン)」

 

「は、はい・・・力の限り、やります・・・!」

 

「是非そうしてくれ、生半端な気持ちで挑まれると困る」

 

 パイロットはザシャの肩を叩き、彼女の働きに期待した。意味も分からず期待されたザシャは、相手を失望させないためにしっかりとした返事をした。それを見届けたパイロットは、釘を刺してから自分の機体の元へ向かう。

 

「人質取って、強制してる癖に。勝手に期待するなんて」

 

 人質を理由に自殺行為にも近い攻撃に強制参加させられ、失敗など許されないほどの期待を掛けられる彼女は、パイロットが聞こえないところで、ブツブツと小声で文句を口にする。キャノピーを開けて自分が乗るVF-25Fトルネードパックのコクピットに座り、計器の点検を行う。

 

「各部異常なし。凄い、うちの整備班より練度が高い・・・」

 

 点検を終えたザシャはワルキューレの整備兵より、練度が残党軍の整備兵が高い事に驚愕した。単なる武装勢力として見ていたが、正規軍よりも高い練度に驚かされた。ワルキューレの練度が低い所為と思ったザシャだが、一睡もせずに整備を行う整備部隊に失礼だと思って訂正する。

 出撃に備えるため、ザシャはカートに置かれているEXギアパイロットスーツを取り、それを上から着始める。着替え終えると、隣に置かれていたサンドイッチを手に取って、ヘルメット片手にそれを口に含む。用を足せば、作戦開始までコクピットで待機する。

 マリの方も出撃の準備が終わり、頭に規格帽を被り、上からは通信用のヘッドフォンを付ける。革製の手袋を付けると、ライガー・ゼロパンツァーに乗り込み、点検を行う。

 どれもこれもがザシャと同様にワルキューレの整備班より上と分かると、コクピットの中で残党軍の整備兵達を褒めた。

 

「結構やるじゃん。なんでワルキューレに入らないのかしら?」

 

 これ程の腕があれば、ワルキューレなら高級部隊に入れるのに、マリは何故入らないのかを疑問に思う。こちらも軽い腹ごしらえとトイレを済ませると、腕時計を付けて作戦開始時刻まで待った。

 

「作戦開始時刻だ!総員搭乗せよ!!」

 

『エアレッシェン作戦開始!総員、搭乗せよ!繰り返す、エアレッシェン作戦開始!』

 

 数十分後、腕時計の針が作戦開始時刻を刺した。開始時刻と共に、将校の怒号とアナウンスが聞こえ、ハッチが開き始める。警報も響き、待機室にいたパイロット達が、各々の機体へ乗り込む。

 機体へ乗り込めば、誘導員の指示に従い、ハッチに近い機体からカタパルトに固定され、射出されていく。

 空戦戦力であるバルキリーは滑走路に誘導され、そこから空へ飛び立つ。自分の出番が来たザシャは、見知らぬ大型爆弾を搭載したVF-27を目撃したが、敵の大戦力に対しての火力の問題であるため、気にも留めることなく機体を加速させ、高度を上げて空へ飛び立った。

 マリはカタパルトにライガー・ゼロの足を固定させ、作戦エリアまで飛ぶ。陸戦戦力と空戦戦力が続々と出撃する中、砲兵隊による支援砲撃が始まる。

 山頂にある砲撃陣地から砲声が響き渡り、榴弾砲やロケットが放たれ、本隊を守る為に展開している敵部隊が居る方向へ飛んでいく。展開している敵部隊は警戒態勢に入っていたが、壕を余り掘らずにそこで待機していただけなので、砲撃の格好の餌食となる。

 

「砲撃だ!!」

 

 以下にMSやゾイド、AT、ハーディガンが強力とは言え、それを主力にして塹壕を掘るのを疎かにした彼等には、砲撃から身を守る術はなかった。

 まるで弓から身を守る兵士達の如く、砲撃やロケットから盾やビームシールドで守ろうとするが、雨のように降り注ぐ砲撃に耐えきれるはずもなく、次々と撃破されていく。歩兵部隊や戦車部隊は砲撃から身を守るために、そこから退避し始めた。どうやら、砲撃されることを想定していなかったようだ。

 瞬く間に戦力の半分を減らされ、砲撃が終わる頃には到着した残党軍の航空部隊の攻撃を受け、あっと言う間に敗走する。反撃もせずに逃げる連邦軍機を見て、編隊長を務める残党軍パイロットは鼻で笑う。

 

「フン、機動兵器ばかりに頼るからだ」

 

 逃げおおせる連邦軍機に向けて吐き捨てると、逃げる敵の背中へ向けてビームガンポッドを撃つ。バックパックに当たった敵機は爆発を起こし、後退しながらビームやヘビィマシンガンを撃ち続けてきたが、まともに照準が合わず、差ほどが撃破された。

 展開していた敵残存部隊を壊滅させると、早期警戒機から敵航空部隊の到来を知らせる通達が全機に入る。

 

『敵航空戦力到来!五分後に会敵します!』

 

 五分ごと聞くと、ザシャのVF-25の隣に飛ぶVF-27のパイロットが、暇潰しに通信で話し掛けてくる。

 

『五分後か・・・確か、ザシャとか言ったな』

 

「はい。なんでしょうか?」

 

『少し言いたいことがあってな、この星の名前はなんだ?』

 

「アヌビスです。何ですか急に?」

 

 質問に答えたザシャだが、表情を見る限り正解ではないので、相手に訳を問う。

 

『違うな、この惑星の本当の名は”パクス”だ。我々の祖先が平穏の地を求める為に先に見付けて名付けた。確か意味は、ラテン語で平和という意味だそうだ。アヌビスはこの惑星のダイヤ目当てに後から来た侵略者である人間共が付けた名前だ、そう易々と我々の目の前で人間共が付けた名で気安く呼ぶな』

 

「わ、分かりました・・・以後、気を付けます」

 

 どうやら先住民であるメガミ人達は、後からやって来てダイヤ目当てに侵攻し、パクスから改名した名であるアヌビスが気に食わないらしい。アヌビスと言ってしまったことに、ザシャはプライドの高い士官級のパイロットに謝罪する。

 

『それから我々は正規軍だ。装備は横流しか、商人から買った物だが、どんな装備でも一流の兵士に優る物など・・・』

 

「えっ?敵襲!?」

 

『敵機からの遠距離攻撃!長砲身を搭載したサラマンダーだと!?各機散会せよ!!』

 

 次に一カ所の地域へ追い詰められているにも関わらず、自分達を未だに正規軍と同等の扱いをするよう告げている最中、飛んできた砲弾がコクピットに命中し、血が噴き出した後に墜落するVF-27を見て、ザシャは物の数秒で入ってきた通達で味方機と共に散会する。

 あのパイロットを()ったのは、ロングレンジバレルキャノンを二門搭載したサラマンダーだ。同じキャノン砲を付けているサラマンダーが後六機も居た。通常型のサラマンダーが二十機以上も居り、更にはテラノドン型中型ゾイドストームソーダーやレイノス、ジェットストライカーパックを装備したウィンダムとダガーL、ベースジャンバーに乗ったジェガンM型やヘビーガン、ジェムズガンが百機程居る。他の航空機も含める辺り、二百機近い敵機が自分等の迎撃に来ていると分かる。

 こちらはワルキューレの最新鋭機であるが、先程一機撃墜され、戦闘が出来ない早期警戒機を含めれば、三十三機機以上しか残っていない。

 

「こんな数と戦闘をするんですか・・・?」

 

 目の前に見える敵の大編隊を見て、ザシャは編隊長に問う。

 

『そうだ、我々にはやらねばならんのだ。その為にお前の力が必要だ。各機、対空ミサイル、ファイヤー!!』

 

 ザシャからの問いにそう答えた後、編隊長は全機へ向けてミサイルを発射するよう指示を出した。ザシャのVF-25を除くVF-27から、格納されている箇所から内臓式マイクロミサイルが発射され、編隊飛行する敵機へ向けて飛んだ。

 向かってきたミサイルに対し、回避行動を取る敵編隊であったが、反応が遅れて何機かが撃墜される。特にサラマンダーとベースジャンバーに乗った連邦製MSは命中し、次々と地面へ落下していく。サラマンダーは大型機で重装甲を備えているため、撃墜は出来なかったが、後何発か撃ち込めば撃破できそうだ。

 

「みんな凄い・・・まずはあのサラマンダーを・・・!」

 

 ミサイルを発射してから敵機との空戦を始めたパクス空軍を見たザシャは、旋回式連装ビーム砲をロングレンジキャノン搭載のサラマンダーに照準を合わせ、引き金を引く。発射されたビーム砲は見事サラマンダーの胸部に命中し、空中爆散を起こして墜落する。

 一機を撃墜すれば、次の標的に合わせて撃ち、三機、四機、五機と次々と旋回式ビーム砲で撃墜していく。大多数の敵機が居るため、ザシャは目に見える敵機に出来る限りマルチロックオンした後、マイクロミサイルを発射。フレアを積んでいない敵機は自力でミサイルから逃げるも、逃げ切れずに命中して次々とハエの如く落ちていった。

 

『流石は見込んだとおりだな』

 

 編隊長から褒められた後、ザシャは気にも留めずに自分を攻撃してくる敵機を確実に撃墜する。味方機も手際よく敵機をガンポッドやビーム砲、アサルトナイフを駆使して撃墜していく。二百機近くいた連邦軍が、数では劣るはずの三十二機に押し込まれ、壊滅状態に陥っている。

 空だけではなく、地上でも少数のパクス陸軍に対し、一方的に連邦軍が押されるという空と同様な状況が起きていた。

 

「吹き飛べ!!」

 

 ライガー・ゼロパンツァーに乗るマリは、サラマンダーと同じロングレンジキャノンを搭載するゴジュラスMkⅡ量産型へ向けてハイブリットキャノンを撃ち込む。発射された電磁誘導弾は容易くゴジュラスの装甲を意図も容易く貫き、あれ程強力なゴジュラスを次々と撃ち倒していく。他の連邦軍機も攻撃するが、後方支援型の意図を無視した強襲型のような機動性とマリの操縦テクニックで回避され、反撃を受けて撃破される。

 瞬く間に一個機甲大隊規模の戦力がマリ一人により全滅させられ、他には数が自分等より少なく、化石同然の旧型機を運用するパクス陸軍に圧倒され、機動兵器に乗り込むパイロット達は動揺を抱き始める。

 

「な、なんて強いんだ・・・!」

 

「相手は大部分が博物館送りの機体なんだぞ!?なんで圧倒されるんだ!」

 

 彼等の言うとおり、相手はマリのライガー・ゼロパンツァーやシールドライガーを除き、ジム・コマンド、ジム・スナイパーⅡ、ジム・ストライカー、ザクⅡF2型やドム・トローペン、ゲルググ、ゲルググキャノンに陸戦型ゲルググと言うまるで博物館のような光景だ。

 そんな博物館送りの機体ばかり使うパクス陸軍相手に、性能が遙かに上な機体が意図も容易く一方的にやられている。恐らく、連邦軍基地から自分達の領内で豊富に採取されるダイヤと引き替えに横流しされたか、盗んだ部品を使って改造しているのだろう。それとも、単に連邦軍のパイロット達の質が悪いかである。

 陸と空からの圧倒的強さと連携を誇る少数のパクス軍の攻撃で、軍本隊を守る地上軍の二個機甲師団は壊滅状態に陥り、本隊からの増援を要請する羽目となった。

 

 

 

 ここで一端、時はパクス軍による攻撃が行われる二時間前に遡る。

 キューケン中隊が輸送機の護衛の最中、アンノウンの接近と現地軍の大編隊に接近に対し、アンノウンは中隊長であるザシャが一人で対処することになり、自分達が敵大編隊と交戦することになる。敵本隊との交戦している最中に、何人かの戦友が堕とされたが、幸運にも死者はなかった。

 

「なんなんだこいつ等・・・?」

 

 ツェルベルスまで後少しとなったところでパクス軍が現れ、目標であるツェルベルスが旧型MSやVF-19シリーズに拿獲され、輸送機と護衛機も纏めてVF-19Fエクスカリバーに捕獲された。直ぐに取り返そうと接近するが、先程交戦していた現地軍の航空部隊は、機体性能をフルに活用した機動力と阿吽の呼吸のような連携で瞬く間に一掃されるのを見て、残ったペトラ達は戦意を損失する。

 

「こいつ等・・・強すぎる・・・!まともにやったら、勝ち目がない・・・!」

 

 今まで幾度かの強敵と戦ってきたが、それは装備が充実していた事と神の領域へ踏み入れる思われるほどのザシャが居たから生き残ってきた物だが、今の自分達には頼りの上官は居ない。この場で最適な考えは、直ぐに思い付いた。

 

「チェリー、ペトラ、逃げるよ!」

 

『えっ、でも・・・まだ・・・』

 

「良いから早く!晃とレイはとっくに逃げてる!」

 

『了解・・・!』

 

『りょ、了解・・・!』

 

 同じ中隊の所属機が続々と捕獲されていく中、ペトラは一目散に離脱した晃とレイのVF-1Aバルキリーを見て、チェリー、千鶴を率いてこの場を離脱した。VF-1JとVF-1Aを合わせた三機が戦闘空域から離脱するのを目撃した柿崎は、他四名の同僚と共にエンデヴァー小隊の後を追う。

 

「おい、待ってくれよ!」

 

 自身のVF-1Aバルキリーをファイター形態に変形させ、同じく変形させていた同僚達と共に全速力でエンデヴァー小隊に追い付く。パクス軍の航空部隊は追跡してこなかった。

 追ってくる柿崎に気付いたペトラは、彼にパクス軍に捕獲されるよう告げる。

 

「ちょっと、あんた。大人しく捕まってなさいよ!」

 

『そんな、酷いじゃないか。俺達だって、捕まったら何をされるか!』

 

「ちっ、好きにしな」

 

 仕方なく柿崎達も連れて行くことにしたペトラは、彼等も連れて地図にある独立都市へと向かった。

 都市へ着いた後、パイロットスーツの下に着ていた軍服を私服に着替え、町へと繰り出した。まずは周囲の情報収集と先に逃げた晃とレイの捜索だが、久し振りに美味いご馳走に有り付けると思った柿崎は、真っ先にレストランへと入る。

 

「うぅ、ステーキ・・・最近は乾パンにビスケット、肉入りスープだけだったしな・・・もう我慢出来ない!」

 

「俺もだ!」

 

「久し振りのご馳走だ!」

 

「あっ、ちょっと・・・!」

 

 止めようとするペトラであったが、柿崎に続いて他のパイロット達も後へ続いた。

チェリーとペトラも我慢が出来なかったようで、遂に我慢できず、掛け出してしまう。

 

「私もちょっと・・・」

 

「こんなのは目が離せない・・・!」

 

「もう・・・みんな・・・まぁ、隊長でも止められないか」

 

 これは流石にザシャでも止められないと悟り、ペトラも彼等と共にレストランへ入った。

 迅速に行動し、席を確保していたチェリーと千鶴が座る席へ座ると、やって来たウェイトレスに早速注文する。

 柿崎はと言うと、同僚達と共にカウンターの席へ座り、好物を注文したのか、嬉しそうに待っていた。

 そして数十分後、三人が頼んだ物が席へ店員の手によって運ばれると、店長が美味しく焼けた分厚いステーキを柿崎の前に置く。それを見た一同は驚き、そのステーキに注目する。

 

「ミディアムでサーロインのお客様」

 

「お、来たきた!う~、うまそう!」

 

「柿崎、お前・・・それ全部食うのか?」

 

 同僚からの問いに対し、柿崎はナイフとフォークを持ちながら嬉しそうな表情を浮かべて答える。

 

「食えなかったら、包んで貰うさ!はっははは!」

 

 一切れをナイフで切ると、フォークで刺してそれを口に含んだ。噛み終えると、上手そうな表情を浮かべて感想を述べる。

 

「くぅ~、うまい!ほっぺが落ちちまいそうだ!肉入りスープなんかより断然うまいぜ!」

 

 この柿崎の例えに、チェリーと千鶴は彼に聞こえないよう耳を寄せる。

 

「凄く古い例えですね・・・」

 

「多分、育ったところがね・・・」

 

 それから柿崎は食欲に駆られ、ステーキをほおばっていき、数十分後には平らげてしまう。腹を叩き、爪楊枝で歯に挟まった肉を取り除き始める。

 

「ふぅ・・・食った、食った」

 

「ほ、本当に平らげた・・・」

 

「凄い食欲だな・・・」

 

 柿崎の食欲に驚かされた同僚達は、驚きの声を上げる。チェリー、千鶴も驚きを隠せず、ペトラは呆れた表情を浮かべながら、柿崎の体格に納得する。

 

「通りであの体型な訳ね・・・」

 

「す、すす凄い食欲!」

 

「まさに巨漢・・・!」

 

 口々に柿崎の事を言っていると、男が慌てながらこの店に入ってきた。

 

「おーい、大変だ!ここから50㎞の所で、ダイヤモンド地方からやって来た連中が連邦軍の大軍相手にやり合ってるぞ!!」

 

「本当かよ!?この辺で連邦軍に喧嘩売る奴は、居ないはずだぞ!」

 

「それがよ、見たこともねぇバルキリーに乗ってるそうだ。いつここまで来るか分からねぇぞ」

 

それを耳にしたペトラ達は、互いに顔を向き合わせる。

 

「見たこともないバルキリー?」

 

「多分、隊長!」

 

「直ぐに行きましょう!」

 

 ザシャが戦っている事を知った一行は席を立ち上がり、勘定を置いてからレストランを出た。それを目撃していた柿崎の顔なじみが居たが、彼は気付かない。直ぐに自分達の機体がある場所へと向かい、スクランブルと同様に迅速に動き、パイロットスーツを上から着て、キャノピーを開けてコクピットへ乗り込む。

 ガウォーク形態に変形させて機体を上昇させると、ファイター形態へ変形し、全速力で戦場へ向けて飛ぶ。大気圏内をほぼ無限に飛行できるVF-1なら可能なレベルだ。一刻も早く隊長の下へ駆け付けるべく、キューケン中隊の隊員達は急いで戦場へと向かう。

 そんな彼等の行動を見ていた者達は、各々の機体へと乗り込み、後を追った。

 もちろん、多種多彩な機動兵器が追ってくるので、流石に気付かれる。

 

「なんだ、あいつ等・・・ツェルベルスを拿捕した連中の仲間か?」

 

 サイドミラーで自分等を追ってくる彼等を見て、それを口にする。下を覗いてみれば、上空だけではなく、地上にも何機か確認できた。早速ついてくる集団の長が、共同通信を開いて、接触を図ってくる。

 通信用モニターに映った強面の男に、ペトラは何者かを問う。

 

「あんた等誰よ?」

 

『安心しろ、俺達は味方だ。お前等を売ったりはしねぇよ。今から連邦軍とドンパチしてる奴らの応援に行くんだろ?俺達も連邦軍にはちと恨みがあるんでな、俺達も勝手について行かせてもらうぜ!』

 

「はぁ?そんな勝手に!」

 

『へっ、それでも勝手にやらせてもらうぜ!あいつ等の所為で、俺達は失業だ!日頃の鬱憤、晴らさせて貰うぜ!』

 

『無茶苦茶だな・・・』

 

 ペトラの言葉も聞かず、集団の長は部下や賛同する者達を引き連れ、マリとザシャ達が居る戦場へと向かっていった。

 それを見た柿崎は、馬鹿の一つ覚えに突っ込んでいく彼等を見て呆れ返る。そんな彼に、レシプロ戦闘機大会の第一試合で、ザシャに瞬殺されたあの男が確認のために通信を入れて来た。

 

「あっ、お前は・・・!中尉殿に瞬殺された零戦のパイロット!」

 

『誰が瞬殺されただ!俺は”大板光男(おおいたみつお)と言う名前があるんだぞ!』

 

「わ、分かってるって!そんなに怒鳴るなよ・・・鼓膜が破れちまうよ」

 

 自分にとって屈辱的な事を口走った柿崎に、モニター越しから怒鳴ってくる大板光男と言う男に対し、余り怒鳴らないよう告げる。その後、光男はこれからの事も考えてか、連れ達の紹介を始める。

 

『俺も連邦軍には少し恨みもある・・・まぁ、こいつ等も恨みを持っている。紹介しよう、天知(あまち)と加奈子(かなこ)だ。こいつ等は孤児でな、連邦軍にテロリストが居るからだとか言う理由を付けられて壊滅させられた町の生き残りだ』

 

「それって・・・酷い・・・」

 

 連邦軍の武力制裁で破壊された町の生き残りと聞いたチェリーは、不安げな表情を浮かべる。

光男に紹介された少年と少女は、共同通信を開き、モニター越しからの挨拶を行う。

 

『天知です、よろしくお願いします』

 

『加奈子です、こちらもよろしくお願いします』

 

『こ、こここちらこそよろしくお願いします!』

 

「ど、どうも・・・」

 

 チェリーと千鶴が挨拶すると、二人とも頭を下げてからモニターを切る。その後、光男は指揮下に入ると告げ、晃とレイの事を告げる。

 

「と、言うことだ。俺達はお前達の指示通りに動く。それから先客の無愛想な小僧と小生意気な小娘は、別の機体に乗り換えているぞ。もうすぐ到着する頃だ」

 

『なにぃ!?あいつ等、機体を乗り換えてたのかよ!俺も乗り換えたい・・・!』

 

 悔しがる柿崎の後に、機体を乗り換えた晃とレイが合流してきた。

 晃の機体はVF-1を大型化したVF-3000クルセイダーと呼ばれる白い塗装のバルキリーに乗り込み、レイはワルキューレの主力機であるVF-11Cサンダーボルトの前型であるB型に乗っている。塗装はカーキ色だ。合流してきた晃とレイからの通信が元中隊全機に入ってくる。

 

『済みません、機体の調達に少し手間取りました』

 

『ちょっと遅れちゃった。でも、私が来たからには百人力なんだからね!』

 

『てっきりそのまま逃げたと思ってた・・・』

 

「クソォ、俺達より上の機体に乗りやがって・・・!」

 

 晃が謝罪の言葉を掛けるが、レイは全く謝る様子が無い。そんな二人にペトラは、逃げたと思ったと口にする。自分等の乗るVF-1より上位機種の機体に乗る晃とレイに、柿崎は悔しがる。

 ちなみに、光男が乗る機体は彼の性格を表してか、バッファッロー型大型ゾイドであるディバイソンである。天知と加奈子が乗る機体は、直ぐ調達出来そうなビームサーベルを二本装備したジム指揮官型とジムキャノンだ。

 編隊を組みつつ、先程連邦軍に突っ込んだ者達が、最新兵器ばかりの連邦軍機相手に、膠着状態に陥っているのが見える。それを見た何名かは怖じ気づくが、向こうに自分達の中隊長が居るため、突破しなければならない。代わりの隊長を務めるペトラは、指揮下の全機に通達する。

 

「これより戦闘エリアに突入する。連邦軍は最新兵器だけど、あいつ等が殆ど惹き付けているから合流できるかも。各機、三機一隊で行動するように。でないと死ぬわよ」

 

『了解!』

 

 各員から伝わる良い返事を聞き、自信が付いたペトラは指示を出す。

 

「よし、それじゃあ隊長に会いに行くわよ。全機、アタック!」

 

 突撃命令を出すと、戦闘エリアへ全速力で突撃するエンデヴァー小隊の後を、柿崎を含む各機が続いた。地上にいる光男達も、置いて行かれないようなんとかついて行った。

 

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 バトロイド形態のVF-25トルネードパックに乗るザシャは、サラマンダーのコクピットへガンポッドを連射し、撃墜した後、周囲にいる敵機の数をレーダーで確認し、索敵を行う。レーダーには味方の反応しか無く、迎撃部隊はパクス空軍の精鋭部隊によって全滅したようだ。直ぐに早期警戒機から敵本隊への突撃命令が出される。

 

『グランツより各機へ通達。幸運かもしれませんが、敵は別勢力の迎撃のために戦力を裂いています。今なら我が軍への防衛戦力が低下していることでしょう。更なる増援で補佐される恐れがあります!直ぐに本隊への突撃をお願いします!』

 

了解(ヤヴォール)!こちらノルト・リヒト、ここからが本番だ!全機我に続け!』

 

了解(ヤヴォール)!』

 

「や、はい(ヤー)!」

 

 隊長であるノルト・リヒトの指示に、慌てて返答した後、敵本隊へと突撃する数十機のファイター形態となったVF-27の後に、自機もファイター形態に変形させて続いていく。先程の戦闘で三機ほどが失われているが、それでも彼女等は本番である敵本隊への攻撃に移る。ザシャは離陸の最中に見た大型爆弾を搭載したVF-27を探したが、何処にも居なかった。

 探すのを止め、敵本隊から来る対空砲火に警戒する。防空網に入れば、無数の近接信管対空砲弾頭が雨のように飛んでくる。他にも対空ミサイルが飛んでくるが、一度編隊を取っていた攻撃隊は散会し、各自の判断での回避行動を行う。対空砲火が止んだ後、次に現れたのは大多数の迎撃機であった。

 数は先程現れた迎撃部隊より圧倒的に多く、戦意を喪失するほどであったが、パクス空軍のパイロット達は挑むつもりでいた。地上で進撃するマリ達の元にも軍団規模の機動兵器が現れ、戦闘状態に突入する。ザシャ達の方も交戦状態に突入、次から次へと来る攻撃を回避しつつ、敵機を確実に撃破する。

 

「本当にキリがない・・・!」

 

 キャノピー越しから見える尋常ではない数の敵機に、ザシャは攻撃を回避しながらビーム砲で敵機を撃墜する。マイクロミサイルを辺りに発射して数機以上の敵機を堕としてからバトロイド形態となり、ガンポッドを撃ちながら敵機を確実に撃破していく。

 既に五機以上どころか、二十機以上は墜としているが、数える暇もなく、ただ目に見える敵機を墜とす。それでも尚、敵機は現れ続け、レーダーは真っ赤に染まって味方機との区別が付かなくなる。

 マリの方でも空と同等の状態が起きていた。何機撃破しても次から次へと現れ、味方の損害が徐々に増えていく。

 

「一体何機潰せば終わるのよ!」

 

 モニターに見える敵機に対し叫んだ後、ミサイルを一斉射して周囲にいる敵を薙ぎ払う。だが、敵は連隊規模で湧いて出て来るように増え、攻撃を容赦なく加えてくる。

 これでも連邦軍に恨みのある者達に戦力が裂かれている程である。

 優勢から劣勢へと一気に逆転されたパクス軍であったが、頼もしい援軍が敵の大軍の中から現れた。ザシャが数機以上の敵機へ囲まれ、一斉に攻撃されよう時に、ミサイルが包囲していた敵機へ命中し、全滅する。彼女を助けたのは自分の中隊メンバーである一面であった。

 

『隊長!無事だったんですね!』

 

「この声は・・・チェリーちゃん!」

 

 チェリーの声に、無事に再会できて喜びの声を上げるザシャ。続々と中隊所属機や晃のVF-3000とレイのVF-11Bが現れ、ザシャの周りにいる敵機を一掃していく。

 見事な連携と機動で群がる敵を倒していき、彼女のVF-25に合流する。

 

『遅くなりました隊長!ちょっと、野暮用がありまして!それにしてもいつVF-25を調達したんです?はっははは!』

 

 敵機をガンポッドで撃墜した柿崎からの報告に、ザシャは部下が全員生きていてホッとし、胸を撫で下ろす。それから指示を出し、向かってくる敵機の迎撃を命ずる。

 

「良かった・・・」

 

『隊長、早速指示を!』

 

「うん!各機、防戦隊形!」

 

『了解!』

 

 全機がガウォーク形態に変形して円陣を組み、向かってくる多数の敵機へ向けて迎撃を行う。ガンポッドの掃射を受け、数十機以上が被弾して撃墜される。数秒間続けていると、敵部隊は態勢を整えるためか、キューケン中隊から離れていく。

 

『やったー!俺達にビビって、連邦の奴等、逃げていきますよ!』

 

「でも、また仕掛けてくる。パクス軍の人達も助けないと行けないから、移動するよ!各機、油断しないで!」

 

『了解!』

 

 柿崎が逃げていく敵部隊を見て言った後、ザシャが油断しないように告げた後、各機ファイター形態になってザシャのVF-25へ続く。包囲されている味方機を発見すると、直ぐそこへ向かうが、中隊規模敵機が阻んでくる。

 

『前方に中隊規模のMS!』

 

 先に見付けた晃が知らせた後、ファイター形態からガウォーク形態に変形し、ガンポッドで次々と撃破する。ザシャも即座に反応し、機体をバトロイド形態に変形させて一気に中隊規模の敵部隊に壊滅規模を与え、後退させる。

 

「おぉぉ、すげぇ・・・!うわぁ!!」

 

 先程の晃より多くの敵機を撃墜するザシャの動きに見取れた柿崎は、至近距離からビームサーベルで斬り掛かってくるジェムズガンに気付かず、着られ掛けたが、そのジェムズガンはレイのバトロイド形態のVF-11が持つガンポッドの銃剣に串刺しにされ、彼女に助けられる。

 

『油断するなって言われたんじゃないの?』

 

「すまんすまん」

 

 レイにお礼を言った後、VF-27を包囲している敵機にミサイルを撃ち込む。包囲していた複数の敵機は逃れられずに被弾し、何機が撃墜されれば包囲を解いて後退し始め、包囲されている友軍機の救出に成功する。

 

『ありがとう(ダンケ)・・・!』

 

 包囲されていたVF-27に乗るパイロットは礼を言った後、再び戦場へ戻った。

 それからのキューケン中隊は、友軍であるパクス空軍の救援活動を行い、彼女等を自由に動き回れるようにしていく。連邦軍は撃墜してもまだ出て来るが、パクス軍が電子戦をしているのか、連携が殆ど取れていない。

 そんな矢先、本隊へと通じる防衛ラインが後一押しで崩れ去る予兆が見えようとしていた。近くにいるマリに、指揮官である大佐が直々に通信で攻撃を命ずる。

 

『後一押しで、奴等の防衛ラインが崩れる。お前が乗るゾイドの秘技を使うのだ!』

 

「一斉射撃ね。なんか引っ掛かる事があるけど、使ってあげるわ」

 

『それでよい。後は我々に任せろ』

 

 大佐が直々に命令を出したことに、マリは何かの思惑を察し、口にするが、彼女は何も知らないような表情を浮かべ、何事もなく続けた。マリはそれに応じ、ライガー・ゼロパンツァーの必殺技であるバーニング・ビックバンの作動作業に入る。

 モニターの前に多数のロックサイトが展開され、防衛ラインに展開する敵機と地上戦艦に照準を合わせていく。やがて全ての敵機に照準を合わせ終えると、マリは叫んでからトリガーの引き金を引いた。

 

「吹っ飛べ!!」

 

 その叫びと共にライガー・ゼロパンツァーの全武装から一斉射撃が行われ、本隊との最終防衛ラインへ向けて飛んでいく。本来なら小型ゾイドを部隊ごと殲滅する威力ではある筈だが、火力はそれを遙かに上回っていた。展開していた敵部隊は強大すぎる火力で吹き飛び、大穴が空いた。

 放たれたバーニング・ビックバンは本隊にまで届き、待機していた連邦軍機を巻き込みながら運悪くそこで駐機していたトリケラトプス型超巨大ゾイドであるマッドサンダーの横腹まで到達。貫通はしなかった物の、戦闘不能に追い込んだ。これを見たマリは、口を大きく開けて驚きの声を上げる。

 

「凄い・・・」

 

 この高火力過ぎる攻撃は、ザシャ達にも見えており、余りの凄さに呆然とする。

 

「す、すげぇ・・・」

 

 唯一言葉を発したのは、柿崎だけであった。

 それから物の数秒後、穴が大きく空いた箇所から大型爆弾をVF-27βが通過し、本隊の奥にある目標の軍本部へ向けて飛んでいく。

 

「いけない!」

 

 それを目撃したザシャは、あれが五十万の軍ごと一掃できるほどの火力を持つ爆弾と分かり、止めようとしたが、対空砲火と塞がるように現れた敵機に阻まれ、止めることが出来なくなる。

 大型爆弾を搭載したVF-27は、並のパイロットでは耐えきる事が出来ない速度で突き進み、目標である丁度中央にある軍本部まで後少しになると、パイロットはGに耐えながら大型爆弾の安全装置を解除し、投下用のボタンに指を添えた。

 目標まで到達すると、それと同時に爆弾を軍本部へ向けて投下し、全速力で爆心地とこれからなる場所から上昇して離脱する。投下された大型爆弾は対空弾幕に当たることなく軍本部に着弾。中に搭載されていた何かしらの爆薬が落ちた衝撃で信管が起動し、爆発した。

 この大型爆弾の正体は、核兵器を上回る火力を持つアルス・マグナと呼ばれる戦略兵器だ。放射能を撒き散らさないことで、核兵器に変わる新たな戦略兵器となった。

その火力は、今ここにいる軍をマリとザシャ達ごと全て消滅させるほどだ。パクス軍が何処から手に入れたかは、ダイヤで一刻早く出来るだけ遠くに逃げなければ、爆風に飲まれて消滅する。着弾を確認したパクス軍は作戦通りだったのか、即座に退却を始め、自分達の領内へ向けて全速力で去っていく。

 爆発を見たザシャは、爆心地から巻き起こる今この場にいる全員に、共通無線で爆心地から出来るだけ遠くに逃げるように叫んだ。

 

「逃げて!!」

 

 そう叫んだ後に、聞いていた空中戦艦の上にいたペトラ達は機体をガウォーク形態に変形させ、十分な高度まで上げる。ファイター形態に変形させれば、全速力でパクス軍が退却した方向へと向かった。

 柿崎機の変形が遅れたが、全員逃げるのに必死で気付かない。連邦軍機も流石に戦闘などせず、全速力で戦場からの脱出に専念する。本隊近くにいた連邦軍機は運が悪いとしか言いようが無く、爆発に呑み込まれて消滅した。

 地上にいる防衛ライン近くにいたマリと光男達も、パクス軍と共に爆心地から来る爆発からの退避を始める。

 

「こんなの、聞いてないわよ!!」

 

 巻き起こる爆発を見てマリは、こんな所では死ぬわけにはいかないため、パンツァーを強制パージし、機体を軽くして全速力での退避を図る。

 

「お前等、俺の機体に掴まれぇ!あいつ等が逃げた方向まで行くぞ!!」

 

 光男は天知と加奈子に、自分の機体に捕まるように告げる。天知のジム指揮官型と加奈子のジムキャノンが自分のディバイソンの身体に張り付いたのを確認すると、全速力で爆発から逃げ始める。連邦軍に攻撃してきた恨みのある者達は、爆発が起こってから戦闘を止めて即座に逃げ出したそうだ。

 爆発が広がり、連邦軍機が続々と呑まれて消滅する中、VF-25に乗るザシャは、即座にこの場から離脱が可能であったが、部下達を残していくわけにはいかないため、速度を合わせて一緒に飛ぶ。しかし、柿崎のVF-1Aが遅れていた。

 

「柿崎君、遅れないで!!」

 

 爆発が間近まで近付いてくる中、必死に柿崎についてくるように告げるが、スタートダッシュが遅れた事もあり、間に合いそうにない。爆発の光で目が眩み、柿崎機が影でしか確認しかできなくなる。

 

「駄目です!隊長、間に合いません!!グワァァァァ!!!」

 

「柿崎!!」

 

 柿崎の悲惨な叫びと共に、彼が乗っていたVF-1の反応が途絶えた。一同は柿崎が爆発に呑まれて死んだと判断。しかし、誰も柿崎が爆発に呑まれているのを確認していない。

 爆発はそこで止まり、爆風が中隊を襲ったが、飛行には支障はない。そのまま中隊の隊員達を引き連れて基地まで到着すると、彼等の気持ちも理解せずに作戦成功を祝うパクス陸・空軍の将兵達が待っていた。遅れてマリと光男達がその場に姿を現す。

 

「良くやった。これで連邦も我々を認め、ダイヤモンド(ディアマント)を我々から買うしかないだろう」

 

 爆弾を投下したVF-27のパイロットに勲章を授けようとする大佐に、ザシャは抗議しようとしたが、そんな暇は無かったようだ。伝令の将校がマリとザシャ達とは違う深刻な表情を浮かべながら大佐の元に近付き、それを彼女へ報告した。

 

「大佐、真に申しにくいのですが・・・」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「我らメガミ人の最後の領地(レッツトラント)を守るハイリヒ・フリート線が突破されました・・・」

 

 レッツトラントとは、彼女等メガミ人に最後に残された領地のことであり、一般にはダイヤモンド地方とされる。その地方では、豊富にダイヤが採掘されるため、数十年前に行われた連邦軍との戦争に敗れてこの地に逃れてきたメガミ人達は、ダイヤを売ることを口実にダイヤという名の停戦条約をアヌビス政府と連邦駐屯軍と条約。ダイヤの御陰で長らく生き存えていた。

 だが、彼女等が知らぬ間に起きたクーデターで、完全にダイヤで飼い慣らされていた現政権は崩壊し、代わりに連邦の傀儡とも言える政権が発足。欲深な連邦の高官達と同じ考えを持つクーデターで新政権は、与えられるダイヤだけでは我慢できず、ダイヤという名の停戦条約を無視して彼女等の最後の領地へ攻め込んだ。

 これを耳にした大佐はショックを受け、動揺し始める。直ぐに基地にいるパクス軍全将兵に、彼女等にとって世界の終わりに近い事態が報ぜられる。

 

『緊急事態発生!コードプリュンデラー発令!繰り返す、コードプリュンデラー発令!!』

 

「つ、遂にこの時が・・・」

 

「私が生きているときに・・・!」

 

 基地内で勝利に酔いしれていたパクス軍の将兵達が先程の騒ぎ様から一変し、絶望したような言葉を次々と吐く。それから慌ただしく動き始め、撤収作業を始める。周りの空域が変わったことに気付いたマリとザシャ達は、目の前にいた大佐に問う。

 

「ねぇ、コードプリュンデラーって何?」

 

「意味の通り、略奪者達が我々の領内に侵入してきた。つまり、我らメガミ人の領内が侵略されていると言うことだ!この基地は放棄し、我々は守備隊と合流して、そこで侵略軍と戦う!これで失礼する!全く、五十万もの兵力を囮にするとは、恐ろしい指揮官だ!」

 

 大佐はマリの質問に答えた後、先程の装備が充実した軍単位が、更に上の侵攻軍の囮であることが分かり、それを口にしながら撤収作業に加わる。

 

「無駄死だったなんて・・・でも、私がしっかりしないと」

 

 柿崎が無駄死にだと分かったザシャは、少しショックを受けるが、なんとか立ち直って、自分等も撤収の準備を始める。

 マリもここに居るパクス軍が総力戦の準備に入っていると思い、自分も光男達と共に撤収作業を行う。撤収作業が終わり、パクス軍と共に基地を出たマリとザシャ達は、放棄されて爆破される基地を見て、この惑星における最後の決戦が来たと確信した。

 

「絶対に生き残ってやるんだから・・・!」

 

 乗っている輸送機の窓から見える黒煙に、マリは必ず生きてこの地獄のような惑星から出ることを決心した。




今回も詰め込みすぎたわい・・・まじでやっつけだな・・・

柿崎ぃぃぃぃぃ!!!にドイツ語、厨二的なネーミングセンス、僕の考えた戦略兵器。

まぁ、なんで敵地にいるレジスタンスみたいな連中が、あれ程の装備を持っているのかは豊富に採掘されるダイヤのお陰と言うことで。

それにしても、冷戦期の東西ドイツ軍混合装備する軍隊ってどうよ?格好いいでしょう。思えるのは自分だけだけど・・・

ちなみに、柿崎は死んでませんよ。

次回はやっとこさ最終決戦です。多分前半と後半に別れるかも。
これが終われば、IS編だ!!


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地獄の釜からの脱出 前編

後一話で終わると言ったな、あ れ は 嘘 だ 。

と、まぁ、長くなるので二分割。


 遂に惑星パクスにおける決戦の火ぶたが切って落とされた。

 現地軍であるアヌビス軍は総力を挙げ、連邦軍に二百万にも及ぶ大兵力を支援として派遣。その大規模な支援を受けた連邦軍の兵力は、五百万というたかが敗残兵と残党軍を排除するには余りにも多すぎる空前絶後の大兵力であった。馬鹿の一つ覚えのように多すぎる物量だが、連邦軍と敵対する同盟軍もそれに値するほどの兵力を動員し、同じ物量の連邦軍との戦争に明け暮れている。

 そんな大規模な物量作戦に対するワルキューレ遠征艦隊の敗残兵と、残党レベルのパクス軍の兵力は、合わせて十万くらいにしかならなかった。

敗残兵達を除き、パクス軍は更なる増員が出来るが、人口百五十万人の内、メガミ人の百万人とダイヤ採掘のために外部から労働のために連れてきた人間の四十万、イクサ人の労働者十万人を全て動員しても、圧倒的物量を誇る連邦軍には足りず、力押しで倒されるのが関の山だろう。戦えるにしても、それは全員を成人にした例えであり、実際は戦えない人数を引けば、半分程度か三分の一程度にしかならない。

 人間の方は、男女比率は女性の方が圧倒的に多い。男性は一万人程居るが、成人だけにしても二千人程度で、残り八千はまだ18にもなっていない少年か老人、乳幼児・幼児ばかりだ。女性は三万人近くだが、乳幼児・幼児、少女、妊婦、老婆を含める辺り、戦えるのはごく僅かだ。

戦うにしても、今から増員をしたところで、既に連邦軍と現地軍の大兵力は最後の領地(レッツトラント)への侵攻を開始したので、とても領地にいる領民を掻き集めたところで大した兵力にはならないであろう。

 刻一刻とメガミ人にとっての最後の地が、連邦軍の物量に呑み込まれて行く中、最後の決戦の地になる宇宙基地へと、マリとザシャ達は辿り着いた。

 最初に出迎えたのは、車椅子に座り込んだ高級品度の高い軍服を纏った老婆が、勤務服を着た士官に押されながら彼女等を歓迎した。老婆を見た大佐等は敬礼を行う。どうやら、この老婆がパクス軍の総司令官のようだ。

 

「出迎えご苦労様です、総司令官殿!」

 

「良く戻った。戦況は刻一刻と悪い方向へ傾いておる。もう幾つかの鉱山と町、村が連邦軍の攻撃を受け、壊滅したそうじゃ・・・」

 

「なんと!もうそんなに早く・・・!」

 

 総司令官より知らせられた連邦軍の進撃速度に、大佐は驚きの声を上げる。

 それが信じられない大佐は、ダイヤの次に自分達を守っていた自然現象の事を問う。

 

「しかし、この我らの領地には、”自然の守り”がある筈では・・・?」

 

「どうやら連中、それを打ち破る兵器を使い、打ち消したようじゃ。現在、奴等は宇宙軍の支援を受けてここまで迫っておる。各所に防衛戦を引くのは無駄に損害を増やすだけじゃ、全兵力を未だに影響を受けてはおらんここへ集結させ、決戦に備えておる」

 

 問うに答えた総司令官は、自分等を守っていた自然の守りが、連邦軍の自然の摂理すら変えかねない超兵器に寄って、打ち破られたと語る。

 そのメガミ人達のレッツトラントを守っていた自然の守りとは、領地の周りを永世中立国であるスイスのように険しい山々が囲い、ダイヤを求めて入ろうとする欲深な者達をそれで払い除けてきた。

 空からの侵入が考えられるが、領地を囲う山々には計器や電子機器を狂わせる謎の霧が発生しており、更には雷雲まで発生し、航空機による侵入を妨げている。唯一通行可能なルートがあるが、これは領地内にいるメガミ人にしか知らされて居らず、彼女等は外の世界へ殆ど出ることがないので、外部で知るものはごく僅かであり、ルートを通って領地に入っても、彼女等メガミ人達が、侵入者を歓迎するかどうかの問題である。

 尚、人間より優れた体格と体力を持つ男ばかりの亜人であるイクサ人のみ、通行が可能であったようだ。

 それらの自然の守りを打ち破った超兵器とは、未来において条約に違反する威力を誇る非人道的に環境破壊の意味合いを持つ兵器なのだろう。だが、そこに立て籠もる敗残兵と残党軍をテロリストとし、市民の生活を脅かす悪と断定すれば、条約は意味をなさなくなる。

 古今東西、歴史を紐解けば、戦時中に条約を守って戦った軍隊は殆ど居ない。連邦軍も然り、同盟軍も然り、ワルキューレ・合衆国・社会主義連邦も然り、どの軍隊も馬鹿正直に条約を守ることなど一切していない。

 そんな状況下の中、圧倒的に物量を誇る生き残るために戦うか降伏するしかなかった。脱出の手段はある物の、宇宙には一万隻近い連邦宇宙軍艦隊が待ち受けている。大気圏から抜ければ、一斉射撃を受けて木っ端微塵だろう。

 仮に降伏を選んでも、どのような末路が待っているかは考えれば直ぐに分かる。つまり戦うしか無く、彼女等の脳内には「降伏する」と言う選択肢は無かった。

 

「予備兵役も増員し、奴等と血の一滴まで戦う。一人でも多く道連れにしてくれるわ!」

 

 車椅子の上で拳を握り、惑星パクスで骨を埋める決心だ。周囲にいる大佐を含めるこの最後の地にいる者達も、玉砕を覚悟している。これに巻き込まれたマリとザシャ達敗残兵達は、彼女等と一緒に死ぬのはごめんだろう。

 

「(死ぬなら勝手に死になさいよ。私はまだやることがあるのに・・・)」

 

 特にマリの方はまだ復讐の旅が始まったばかりであり、寄り道してこんな所で死ぬことなど出来ない。今からでも自分一人でも大気圏突破が可能なVF-25メサイアを奪い、自分だけで逃げ出そうかと聞いている振りをして駐機されているVF-25に目線を向けたが、ザシャに気付かれて手を掴まれる。

 

「少佐、自分一人で逃げようだなんて駄目ですよ」

 

「はぁ、分かったわよ・・・」

 

 ザシャからの言葉にマリは罪悪感を覚え、手を振り払ってから脱走を断念した。次に、どうやって玉砕せずに生き残るかを問う。

 

「でっ、どうやって連邦軍の大軍から脱出するの?」

 

「それは・・・」

 

 マリに問われたザシャは、回答に困る。都合良く味方が救援として駆け付けてくれるわけもないし、ましてや戦局を打開する兵器や条件など揃っていない。どうするか悩んでいる時に、ガラヤの町で現れたZEUSの面々を思い出した。

 

「あの滅茶苦茶強い人達が助けてくれるかもしれないんじゃないですか。ほら、なにか貴方がピンチになった時に駆け付けて来るかも・・・」

 

「飛び級した貴方らしくも無い答えね。あいつ等が来るのはムガルとか言うアホ共が来た時よ」

 

 ZEUSの面々が助けに来てくれるというザシャからの答えに、マリはらしくない答えと受け取った。

 

「でも・・・例外とかありましたよ。大会にZEUSの人が出ていますし」

 

「息抜きじゃないの?まぁ、どうなるか分からないけど」

 

「きっと来てくれると思います。あの人達、貴方に死なれたら困る意図が見えますし」

 

「そっ。まぁ、助けてくれるなら、英雄(ヒーロー)と認めるわ。助けてこないなら、偽善者の集まりよ」

 

 グラハムとアルトが大会に出ていた例外を告げるザシャであったが、マリは息抜きと表す。ZEUSの面々が救援に駆け付けてくれると期待するザシャに、マリは助けに来ればZEUSを「英雄」とし、助けに来なければ「偽善者」と表した後、自分のライガー・ゼロがあるハンガーへと向かった。

 ハンガーへ向かう最中、集められた予備役の将兵達の姿があった。殆どが軍服を着た女性ばかりで、装備は神聖百合帝国時代であり、武器はMP40短機関銃にStg44突撃銃、Gew43半自動小銃、MG42機関銃、M24柄付手榴弾、パンツァーファウストと言う時代遅れにも程があるものだ。これで未来式の装備を持つ敵軍と戦うなど、石斧を持った原始人が小銃を持った兵隊と戦うような物である。

 中には老婆や十代後半の少女まで居り、燦々たる物だ。自分等が装備品を貸したところで、機動兵器によるゴリ押し戦略を取る連邦軍には敵わない。そんな哀れな彼女等の装備を見つつ、自分のライガー・ゼロの元へ向かう。

 ライガー・ゼロが駐機されたハンガーへ辿り着いたマリは、機体を見上げて戦えるかどうか見定める。

 

「数十万機相手じゃきつそうね・・・あれにしようかな?」

 

 連邦軍の大兵力相手では、ライガー・ゼロではキツイだろうと思い、横にあるストライクガンダムへ視線を向ける。ライガー・ゼロと同じく兵装を選択できるシステムを搭載しており、宇宙海軍の艦隊戦で行ったパーフェクトストライクがあれば、大多数の敵機相手に善戦がある程度可能だろう。

 

「これよね・・・ライオンで大勢の人間と戦うにはちょっときついから同じ人間じゃないと」

 

 ストライクガンダムを見上げてそう口にした後、近くにいた整備兵に、装備をパーフェクトするよう告げた。

 

「ねぇ、この格好いいの、全部載せしといて」

 

「全部載せって・・・?」

 

「パーフェクト装備よ、それくらい分からないの?」

 

「は、はい・・・」

 

 恍ける整備員に、マリは再度告げれば、ミーティングルームへと向かった。ザシャが圧倒的な戦闘力を持つ集団であるZEUS到来に掛けるという彼女らしくないもない作戦の説明だ。

 作戦に組み込まれていたツェルベルスの面々は、自分等だけで脱出を行おうとしたが、待ち受けているのは連邦軍の大艦隊であり、大気圏を突き抜けて衛星軌道上へと上がれば、直ぐに蜂の巣にされるだけなので、嫌々と来るかどうか分からないZEUSを待つ作戦に参加することになる。

これで手数は揃ったわけだが、来るかどうかは分からないので、押し寄せてくる圧倒的な数の敵に対し、長期間持ち堪える必要がある。防衛線を二重三重に厚く敷き、防衛陣地の構築、偽の陣地や地雷原の構築、罠の設置だ。

 宇宙基地までの敵進攻ルートは予めパクス軍が潰しており、空から侵入してくる敵航空機に対しては、飛行妨害用の気球が張り巡らされている。後は航空機による防衛線を展開し、無限のように来る敵機の迎撃を行うだけだった。

 宇宙から攻撃を行ってくる衛星軌道上の敵艦隊に対しては、宇宙基地にある宇宙にまで届く戦略兵器の支援射撃でツェルベルスには宇宙へ飛んで貰い、全ての艦載機を持って敵宇宙艦隊が地上部隊を支援できないほど暴れて貰う。この時に、最終手段である反応弾を思う存分撃ちまくり、一万隻程の敵艦隊を撤退寸前まで追い込んで貰うつもりだ。

 それら思い付く限りの作戦をボードに書き、ツェルベルスの艦長と幹部達、パクス軍の総司令官と参謀達に述べたザシャ。好評だったが、物足りない物があると指摘される。

 

「物足りない物があるわね。使わない機動兵器を無人として、囮の陣地に配置しようっと」

 

「少し長旅には不安なシャトルとHLVが大量にある。爆薬を積み込ませて打ち上げ、敵艦隊にぶつけるのも良いな」

 

「対機動兵器壕も必要だ。報告では、大量の機動兵器が押し寄せてくるとある。直ぐに工兵隊を派遣して構築させよう」

 

 ツェルベルスの艦長と参謀達が、次々とザシャの作戦に付け足していく。

 無人の機動兵器を配置した囮の陣地。対戦車壕ならぬ対機動兵器壕。長旅には不安定なシャトルやHLVを圧倒的数の連邦艦隊へぶつけるという案。

 圧倒的数の連邦軍の進撃を停滞させるほどの案が出される中、敵の指揮官の判断力を鈍らせる案も出された。その案を出したのは、パクス軍総司令官である。

 

「敵の指揮官の判断力を鈍らせるというのはどうじゃ?」

 

「どのように怒らせるのですか?」

 

 案を出したパクス軍総司令官に、ザシャはどのようにしてかを問う。

 マリは直ぐにその答えを見出し、それを口にした。

 

「分かった。ダイヤ鉱山を爆破して、全部駄目にするんでしょ?」

 

「正解じゃ。(きゃつ)等はダイヤ目当てでこの地を侵略してきたからのう。鉱山を爆破すれば大軍勢を束ねる指揮官は、怒り狂うて猪のように突っ込んでくるわ」

 

 自慢げに答える老婆に、ザシャは鉱山を爆破する手段があるかどうかを問う。問われた老婆は、起爆装置を片手に満面の笑みで答えた。

 

「我々がダイヤをただで渡すと思うてか?幾つかは解除されてそうだが、あれ程の物量じゃ。かなりの金額が掛かっているじゃろう。それを賄う程でお釣りが来る程のダイヤが吹き飛べば、怒り狂うことよ」

 

「避難勧告は?」

 

「なに、もうとっくに避難は出来取るわ」

 

 あれ程の兵力と物量を作戦に投入する金額は相当な物だと読み、ザシャから避難状況について対しては、避難は終了と答え、老婆は起爆装置のボタンを押した。

 ボタンが押されたと同時に、モニターに表示された赤く光る鉱山の位置を示す点滅が、真っ先に占領された四つの鉱山以外、全て消えた。これは爆破されてダイヤの採掘が不可能になったという意味だ。

 まだ四つ以上は残っているが、五百万とあれだけの物量の費用を賄うには足りなさすぎるだろう。これならば、敵の司令官は正気を失い、怒り心頭での物量によるゴリ押しに走る筈だ。そう予想した 彼女等の予測は見事的中したのであった。

 

 

 

 最初に占領したダイヤ鉱山に居た方面軍総司令官とチャールドは基地の私室にて、占領予定地だった残りのダイヤ鉱山が爆破された報告を部下から耳にしていた。

 

「報告いたします!当鉱山を入れ、遠隔操作式爆弾を解除した四つの鉱山以外、全て敵に爆破されました!占領下の鉱山における解除中の工兵隊に多数の死傷者が出た様子であります!!」

 

「なんだと!?それではこの大規模作戦の多額の費用が・・・賄えんではないか!」

 

 報告を聞いたチャールドは、自軍の二百万もの兵力の投入をお釣りが来るほど賄える程のダイヤの大半が失われたことを受け、ショックで声を上げる。隣に立つ総司令官は、拳を強く握り、歯ぎしりを始める。

 そんな彼に、部下は額に汗を浸らせ、緊張しながらどのようにするか問う。

 

「閣下・・・いかが致しましょう・・・?」

 

 返答が恐ろしい物だと思い、部下は息を呑みながら返答を待つ。数秒後、総司令官は怒気に帯びた横顔を見せながら答えた。

 

「皆殺しだ・・・爆撃隊に通達、奴等が立て籠もるありとあらゆる場所へ絨毯爆撃だ。宇宙からの艦砲射撃も続行、砲撃も制圧射撃!この土地を火の海に変えるぐらいに徹底的にやれ!!」

 

「りょ、了解!」

 

 鉱山を爆破したパクス軍に対する怒りを混ぜ込んだ総司令官からの指示に、部下は踵をならして敬礼した後、指示を全部隊に通達するために指揮所へと彼からまるで逃げるかのように向かった。部下が立ち去った後、チャールドは総司令官から伝わってくる危険な臭いを感じ、彼も立ち去る。

 

「で、では、私もこれで・・・失礼する・・・」

 

 相手の部下と同じく逃げるように立ち去り、部屋のドアを閉めた。一人になった彼は、独り言で怒りをぶちまける。

 

「クソッ、害虫共目・・・!一人たりともこの惑星から出さんぞ!」

 

 壁に苛立ちをぶつけるように拳を叩き付けると、彼も私室からドアを開けて出て、司令本部まで向かった。

 連邦軍において、彼にはこの世界の地上軍・宇宙軍・宇宙海軍の三軍を全て配下に置く役所に着いている男だが、総司令官は方面軍統合司令官という肩書きでも満足できない。惑星アヌビスことパクスに眠る豊富なダイヤで、議会に属する政治家達を買収し、行く行くは本土の統合総司令部の将官として属し、快適な暮らしをするつもりであった。

 だが、パクス軍にダイヤ鉱山を爆破されたことにより、その望みは断ち切られた。怒りに満ちた総司令官は、今ある連邦軍五百万と現地軍二百万を合わせた七百万の大軍勢で、腹いせと憂さ晴らしにマリとザシャ達敗残兵とパクス軍を殲滅する事にした。

 子供じみているようだが、怒りに燃え、腹の虫が治まらない彼は、彼女等を圧倒的な強さで叩き潰さねば収まらなかった。それを実行するため、総司令官は司令室へと向かう。

 

 

 

 腹の虫が治まらない総司令官からの指示を受けた連邦軍・現地軍の侵攻部隊は前進した。先遣隊は鉱山の爆破で被害が出ていた為、師団内で別の先遣隊を編成し、即時任務に当たらせる。生き埋めになった友軍に関しては、工兵隊による救出作業が行われる。

 少数の将兵が付き合わされて迷惑がっていたが、作戦に参加した全将兵にダイヤを授与するという約束があったが、鉱山を爆破されたことで授与されるのは将官のみとなり、下端の多くの将兵が怒りに満ちており、総司令官と同じく、腹いせに敗残兵やパクス軍を皆殺しにしようと思っていた。敵の女性将兵に対しては、所為の捌け口にするつもりで居るだろう。

 そんな感情を抱きつつ、彼等は侵攻作戦の最終目標地点である敗残兵とパクス軍の残りが立て籠もる宇宙基地へと進軍した。

だが、パクス軍は前進を少しでも遅らせるために、様々な罠とトンネルや橋などの交通手段爆破により、思ったより進軍は進まないで居た。更に地雷のみならず、ブービートラップも仕掛けられ、狙撃兵による部隊長狙撃もあり、行軍する将兵の怒りと疲労は増すばかりであった。

 その御陰でパクス軍は防御陣地構築が順調に進む。砲撃や爆撃対策の偽の陣地と地雷原の構築が完了し、飛行妨害用の気球の配置も完了した。後は避難民が宇宙基地まで辿り着くのを待ち、敵の攻撃に備えるだけだ。

 一日経つ頃には、各地域から避難してきた避難民が宇宙基地へ辿り着いた。避難民達はこうなることを予定しており、早々とここへ来たわけである。防御陣地もそれと同時に完成する。

 避難民を収容する宇宙船だが、この時のためにパクス軍が用意していた大多数の避難民を収容できる2000mの超大型避難船があるので、大丈夫かと思われる。多すぎれば、マクロス級であるツェルベルスにもある程度のスペースがあるので、避難民の収容は可能である。超大型避難船でも収容できない人数も予想してか、その為の避難船が何隻か用意されている。

 後は戦闘のために長旅に疲れた避難民を収容するだけだが、数は徴兵されたか連邦軍の攻撃を受けたのか、予備の避難船が必要ないほどであった。撤退してきた軍は、負傷兵を除けばなんとか足しになる程度だ。

 

「随分と予想より人数が少ない・・・」

 

「奴等、民間人まで・・・!」

 

 少ない民間人の数を見て、パクス軍の将兵達は連邦軍と現地軍に対する怒りを露わにする。同じく見ていたマリは、周りにいる将兵達のように怒らず、自分の機体まで向かう。

 注文通り、ストライクガンダムはパーフェクト装備になっており、これで大多数の敵機と戦闘が出来る。想定外の数の敵と戦う為なのか、両腕と両足と腰に他の機体のミサイルポッドが取り付けられていた。直ぐに彼女は、この装備を施した者を呼び出す。

 

「ねぇ、ミサイルポッド付いてるんだけど、付けたの誰?」

 

「私です!」

 

 呼び出されて現れたのは、カチヤであった。直ぐにカチヤはミサイルを取り付けた理由をマリに話す。

 

「少佐なら一人で防衛線を張ると思い、自己の判断で装備させて貰いました。武器もビームガトリングがあります。かなりの重量になり、機動性が落ちますが、少佐なら上手く扱えます」

 

 カチヤが理由を告げた後、装備に対しての説明をし始める。次に今の装備の説明を終えると、エール・ソード・ランチャーを全て合わせたかのようなストライクパックに手を翳し、その装備についての解説も始める。

 

「少佐のために簡単に説明しますと、あちらはストライクガンダムの全パックを一つに纏めた物です。ビームブーメラン以外実弾主体ですが、少佐なら上手く・・・」

 

解説を行っている最中、マリに抱き締められ、中断される。

 

「ありがとう。これで思う存分出来そう」

 

「ど、どうもです・・・」

 

 マリに抱き締められたまま礼を言われたカチヤは、顔を赤くしながら感謝の言葉を述べる。彼女に離されると、額に口付けされ、更に顔を真っ赤にした。

 

「あっ、あぁぁ・・・」

 

「頑張って生き残りなさい」

 

 顔を赤くして放心状態になっているカチヤに、マリはそう告げた後、手を振ってから何処かへ去った。

 地上で勝ち目のない戦いを行う彼女等の避難船は無いとされるが、ザシャが「勝機がある戦いだと」と言い、防衛戦に参加する全ての将兵の為の避難船をパクス軍に無理言って用意させた。パクス軍全将兵は玉砕する気であったが、彼女が用意させた避難船を聞いて、やる気を失せてしまう。

 シャトルやHLV、使わない宇宙艦船に爆薬が積み込まれる中、ザシャは戦線復帰してきたシャロンに呼び止められる。

 

「ザシャ、お前は宇宙へ来ないのか?他の戦友達は皆宇宙へ上がるぞ」

 

「大尉、私は宇宙へ上がれません。なにせ言い出しっぺですから」

 

 そう問われたザシャは自分が正気とは思えない作戦を提案した責任者であるので、地上に残って戦うと告げる。地上よりもマシな宇宙へ行かせようと説得するシャロンであるが、ザシャはそれを断り続ける。

 

「どうしてもか?来る保証など無いんだぞ、少佐が死ぬのが困る連中だと聞いていたが、余り助けには来なかったのだろう。本当に来るのか?」

 

「必ず来ますよ。可能性は高いです。あれ程の数は少佐でも無理ですので、死なせないためには助けに行かせるしかありません。宇宙にも来ると思いますし、それに大尉がついています。私が居なくても、貴方は十分強いです」

 

「そうか・・・では、健闘を祈る。来ると良いな、連中」

 

 ザシャの答えに説得を諦めたシャロンは、敬礼してからツェルベルスがある宇宙港まで向かった。宇宙へと向かうシャロンを見送ったザシャは敬礼した後、敵がこの基地に接近してくるまで、用意された自室へと眠ることにした。マリも同様に待つことにして、ザシャと同じく眠ることにする。

 

『警報、敵の強行偵察隊が索敵範囲に接近!』

 

 翌日、敵の強行偵察部隊がこの宇宙基地へと接近してくる警報が鳴り響いた。その警報と共に目を覚ましたこれから戦闘に備える将兵達は起き上がり、歩兵は装備を身に着け、パイロットは機体へ向かえば、予め決められた配置に着き始める。

 

『大型対空レーザー砲エネルギー充填完了。発射シークエンス開始五秒前。(フュンヌ)(フィーア)

 

 マリとザシャも各々の機体へ乗り込み為、ハンガーへと急ぐ。その間に宇宙基地の迎撃用兵器である巨大な口径広角レーザー砲塔が地表に現れ、宇宙にいる敵宇宙艦隊へ向けて砲身を向ける。今更ながら何故撃つ必要があるのかと言えば、これでツェルベルスの巨体を通らせるほど雲が晴れ、尚かつ一万隻ほどの敵艦隊に大きな損害を与え、敵艦隊は体勢を立て直すのに時間を費やす羽目になる。

 

(ツヴァイ)(アイン)(ヌル)。対空レーザー砲発射!』

 

 エネルギー充填が完了すると、直ぐに巨大レーザー砲は宇宙にいる敵艦隊へ向けて発射され、雲が晴れた空から幾つもの光が点いたり消えたりしている。それと同時にツェルベルスは連続して打ち上げられていく爆薬を積んだシャトルやHLV等と共に上空へ浮上し、トランスフォーメーションと言う人型形態の強行型に二分掛けて変形、敗残兵と一定の志願兵を乗せたツェルベルスは宇宙へと飛んでいった。

 地上にいるマリとザシャは機体へ乗り込んで出撃した後、自分等の配置へと向かった。

 マリは地上へ。ザシャは空へ。

 それぞれが戦う戦場へ赴き、ZEUSの英霊達が救援に来るまで戦うことになる。

 パクス軍はこの日のために、ダイヤを使って各勢力から裏で回させて手に入れた高性能の機動兵器を惜しまなく投入。性能の腕の差で少しでも数の差を埋めようとするも、敵軍はそれを遙かに上回っており、数の差はどうしても埋まらなかった。その上用意された高性能機も足りず、仕方なく旧型の機体が運用されている始末だ。

 それらの機体が歩兵や戦闘車両と共に塹壕に隠れるか、航空機と共に上空で浮遊する中、マリのストライクガンダムは堂々と敵前の前に姿を晒していた。戦闘指揮所に居る戦闘オペレーターは、通信で直ちに塹壕に隠れるよう告げる。

 

『そこのMS!そんな所へ立っていれば、砲撃の餌食になる。直ちに塹壕へ退避せよ!』

 

 通信で何度も告げるが、マリはずっと敵が来る方向を見据えたまま聞かない。戦闘ペレーターは何度も呼び続けるが、彼女はしつこいと思って通信を切る。

 一方のザシャは、多数のVF-19エクスカリバーシリーズやVF-22Sシュトゥルムフォーゲルが待つ上空へと飛び立っていた。他にはVF-27ルシファーや空中浮遊が可能なMSやハーディガン群も居り、無人機も含めた航空機と共に全機が敵の軍勢の迎撃に備えている。

 今乗っているVF-25Fメサイアをガウォーク形態に変形させてホバリングし、敵がくるのを待った。ちなみに装備(パック)はアーマードパックである。トルネードでは機動力には勝るが、大多数の敵機を相手にするにはやや厳しい。

 敵が来るまで待っている間、敵が来る方向をずっと眺めていると、レーダーに自分と同じVF-25系統の機体が四機来るのが分かった。その四機は編隊を組みながらザシャのVF-25Fまで接近し、ガウォーク形態に変形して横に付き、通信を入れてくる。

 それにザシャは答えることにした。

 

「誰?」

 

『私だ。お前に撃墜された女パイロットだ』

 

 通信用のモニターに映ったのは、渓谷での上空戦で撃墜したニコラであった。VF-25Gのキャノピー越しから彼女が手を振っているのが見える。直ぐに怪我は直ったのかを問う。

 

「えっ、怪我はもう良いんですか?」

 

『私は長寿のイクサ人とメガミ人のハーフだからな。あの程度、掠り傷程度だ』

 

「掠り傷程度って・・・どう見たって重傷でしたよ!あの時は死ぬんじゃないのかと思ったんだから!」

 

 自分から見て重傷だったニコラがあれを「掠り傷程度」と表したので、ザシャは彼女を叱り付ける。だが、ニコラは聞く耳を持たず、ザシャについていくと突然言い出し始める。

 

『ん、そうか?まぁいい、私は私を撃墜したお前についていくことにするぞ』

 

「何を勝手に!?なんでそうなるの?!」

 

 余りにも身勝手すぎる事に、ザシャは直ぐにでも断ろうとするが、チェリー、千鶴が通信に割り込んでくる。

 

『ちょっと!勝手に隊長についていくなんて、貴方何なのですか?!』

 

『一体何処のRPG・・・?』

 

 部下二人に問われるニコラだが、それを無視して二人の顔を見定める。

 

「ほぅ、これがお前の部下達か。皆ひよこみたいだが、ここまで生き残るとは、余程の運が良いか腕が良いかだな」

 

『ちょっと、ひよこは言い過ぎ・・・』

 

 顔を見定めて感想を述べた後、ペトラが注意してくる。それでもニコラは気にすることなく続ける。

 

『まぁ、これほど良い戦友が生きていけるのは、お前の御陰だろう。ザシャ・テーゼナー。流石は私が認めたパイロットだ』

 

「えっと、ど、どうも・・・」

 

 今度は褒めてきたので、どう返答するか分からないザシャは礼を言っておく。それからはニコラと部下達のやり取りに戦闘に対する緊張感が解れ、クスクスと笑い始める。

 

「なんか、貴方達を見てると、さっきの恐怖感が薄れちゃった。ありがとうみんな。これで存分に戦えるかも」

 

『えっ、あぁ・・・どうも・・・』

 

『あ、あぁ』

 

 ザシャから感謝の言葉を述べられた一同は一応ながら礼を言う。その物の数秒後で前線指揮官から、敵の接近を知らせる通信が入る。

 

『宇宙基地を守る全将兵に告げる。敵の強行偵察部隊のみならず、第一陣が索敵ラインまで入り込んできた。数は我々より遙かに上だ。だが、ワルキューレの一介の中尉が言うには、救世主が到来し、我々を助けてくれるそうだ。各員、救世主が現れるまで、持ち堪えよ。以上』

 

 前線指揮官からの通信が終わると、ザシャはニコラを含めた部下達に指示を出す。

 

「各機、防御フォーメーションに展開!」

 

『了解!』

 

 部下達の返答を聞いた後、ニコラのコールサインを決める。

 

「尚、ニコラさんのコールサインはキューケン5とします!」

 

『心得た!』

 

 これに応じたニコラはペトラ機しか居ない右端に着き、防御フォーメーションを取る。

 そしてキャノピーから敵爆撃機と随伴機の大編隊が見えると、航空部隊指揮官からの迎撃命令が通信で入ってくる。

 

『全機、対空気化弾安全装置解除!撃て(フォイヤー)!』

 

 この指示の後にザシャ達を含めた航空部隊は、両翼に搭載された二発の対空気化弾を全て敵爆撃部隊に向けて発射した。

 かくして、ZEUSの救援を来ることを信じて戦う彼女等の絶え間ない戦いが今始まった。




キートン山田「後半へ続く」


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地獄の釜からの脱出 後編

やっと遠征編の終わり。

戦闘シーンです。ガンダム無双の始まり!


 地上で先端が開かれた頃、宇宙にいる連邦宇宙軍の艦隊は半数を失うほどの損害を被り、指揮系統に混乱が見られた。再編成を行おうとしたところで、第二次攻撃である爆薬を搭載した無人のシャトルやHLV、サラミス級巡洋艦、再突入型駆逐艦による特攻により、被害がますます拡大し、地上からの予想だにしない敵からの反撃に混乱状態に陥っていた。

 更に、トドメと言わんばかりに強行型のマクロス級のツェルベルスが大気圏を抜けて宇宙へと上がってくる。

 

「敵大型艦艇接近!」

 

「おのれぇ・・・!全艦艦載機を出せ!たった一隻に我が艦隊がやられれば笑い話だぞ!!」

 

 衛星軌道上に展開する艦隊の提督はツェルベルスの報を聞き、面子を保つために艦載機を持つ傘下の艦艇に、全ての艦載機を出すよう指示を出す。指示に応じた艦載機を持つ艦艇と空母類は、直ちに艦載機を発艦させる。まだ再編成は終わって居ない所為で、艦載機の展開が遅れる。

 だが、それでも数百機ほどが宇宙空間へと発艦した。ツェルベルスも艦載機の発艦を始めた。MSはフル装備であり、バルキリーは全機スーパーパックかアーマードパック装備で、最終手段に取っておいた反応弾も装備している。

 発艦の最中、残存競合混成部隊の指揮官であるシャロン・ロード大尉は、エッカルト・アンシュッツ、ツチラト・アビーク、ジョン・ボイスの三名が居ないことに気付いた。

 

「ケイヒル伍長、アンシュッツ准尉とボイス曹長、アビーク軍曹の三名は何処へ消えた?まさか、逃げ出したんじゃないだろうな」

 

『いえ、それが・・・』

 

「なんだ、言ってみろ」

 

 通信用モニターに移るケイヒル伍長と呼ばれる人物が口籠もる姿を見て、何かを隠していると思い、正直に話すように告げる。

 

『はっ、三名は地上でテーゼナー中尉と共に残りました』

 

「馬鹿共目・・・この状況では点数なぞ関係ないぞ」

 

 呆れた言葉を述べ、頭を抱えるシャロン。その数秒後、管制官から発艦の許可を告げる通信が入る。

 

『競合混成部隊の発艦を許可します。十秒後に発艦してください』

 

「了解した。総員、暴れ回るぞ!!」

 

『了解!!』

 

 数秒後、シャロンが率いる全機装備付きの残存競合混成部隊のVF-25メサイア系統とVF-171EXナイトメアプラスが、他の混成部隊と共にツェルベルスから発艦した。周囲に展開する敵艦載機であるMSやAT、ハーディガンが早速彼女等に攻撃を加えてくる。

 敵の数は多く、放たれる攻撃はまるで雨のようだが、混成部隊はそれを回避して直ぐに反撃に移る。残党狩りに向かった敵艦隊の艦載機は返り討ちに遭い、追い返されてコルベット艦と護衛艦まで撃沈されるほどになり、被害がますます拡大する。焦りに焦った敵艦隊の提督は、追い返そうと艦砲射撃を命じるが、混乱している所為で指示が伝わらない。

 この隙に、ツェルベルスの少女のような外見の女性艦長であるシグヤが反応弾発射を搭載している全機に許可する。

 

「混乱しているようね。全機、反応弾発射!一気に敵艦隊に大打撃を与えるわよ!」

 

『イェッサー!』

 

「全機、反応弾発射!」

 

 シグヤの指示で、ブリッジに居る管制官とオペレーターが担当の部隊に反応弾発射の命令を伝える。展開している部隊と直掩隊にも命令が伝達され、搭載している機体は反応弾の安全装置を解除し、トリガーに指を掛け、敵艦が密集している箇所へ照準を合わせれば、トリガーを引いて反応弾を発射する。

 発射された反応弾は、対空弾幕を張る中央の敵戦艦に向けて飛んでいき、船体に命中した。戦艦は一撃で撃沈し、周りにいた艦載機は反応弾の爆発に呑まれ、消し炭になっていく。特に大型ミサイル型の威力は凄まじく、爆風の余波でコルベット艦が複数纏めて撃沈するほどであった。

 この威力を見た連邦宇宙軍の将校の一人は「核を使用しているのでは無いのか」と声に出し始める。

 

「本当に核兵器じゃないのか!?」

 

 目に見える味方の艦艇が次々と爆発に呑まれて撃沈されるのを見て思ったことを声にすれば、自分が居る艦艇にも反応弾が命中し、爆発の光に呑まれる。

 それからのツェルベルスは、周りを囲む敵艦艇に向けて取っておいた反応弾を殆ど使い、敵艦隊を全滅に追い込むほどの被害を与えた。だが、ここは敵地であり、敵の増援は直ぐに来る。

 

『敵増援を確認!さ、更に増加中!!』

 

「クッ、旗艦を潰せば止まるかと思ったが、やはり連邦は底なしの物量を持っているか」

 

 敵艦隊の残存機を片付けたシャロンは、オペレーターから伝えられる報を聞き、周囲のレーダーを見て口にする。レーダーを広範囲にすれば、自分等が居たエリアを囲むかの如く敵が湧いてくる。その数は千機を超える程で、艦艇でも百隻近くは出ている。

 反応弾を使えば敵艦百隻と敵機千機を駆逐できるが、先程の半数程度に減って混乱した七千五百隻の敵艦隊に壊滅的打撃を与えるのに殆ど使い切ってしまい、あと一回が限界だ。それに敵艦隊の残存艦までいる。不利な状況は依然として変わらない。

 ここで宇宙に上がった自分等だけで逃げ出せば、地上に残っているマリとザシャ達が衛星軌道上からの艦砲射撃を受け、焼き払われる。

 そう思ったシャロンは、大軍で向かってくる敵機動兵器の元へ自身が乗るVF-25Sアーマードパックをファイター形態に変形させ、敵陣へ突撃した。

 

 

 

 一方の先に先端が開かれた惑星パクスの空では、対空気化弾による敵の爆撃隊の迎撃が行われていた。レーダーを見れば、発射された数十発以上が随伴機の機動兵器に迎撃され、半数程度しか届いてないことが分かる。だが、何十発かは敵編隊に届き、数十機以上の撃墜に成功した。それと同時に敵随伴機の攻撃が来る。

 

『各機散会!残った爆撃機を迎撃せよ!一機も通すな!!』

 

『了解!』

 

 通信機から聞こえる指揮官の死守命令で、ザシャの小隊の前にいた中隊が敵から来る攻撃で散会し、各自敵機の迎撃を開始する。一気に数機以上の敵機が撃墜され、火を噴きながら地面へと墜落していく。

 

「各機散会!」

 

『了解(した)!』

 

 ザシャも散会を指示し、敵航空機やMS、飛行ゾイド、ハーディガンの迎撃を始める。ニコラは数機以上の敵機を撃墜すれば自分が乗るVF-25Gをバトロイド形態に変形させ、スナイパーライフルで爆撃機を狙撃し、次々と撃墜する。瞬く間に数十機以上の爆撃機が撃墜され、気付いた随伴機がニコラ機へ襲い掛かったが、彼女の前には全く歯が立たず、返り討ちにされてしまう。

 

「フン、連邦目。所詮は数ばかりか」

 

 火を噴きながら墜落するヘビーガンを見てそう吐き捨てると、ビームシールドを張ってビームライフルを撃ちながら向かってくるジェムズガン三機を瞬時にバルキリーサイズのスナイパーライフルで早撃ちし、全滅させる。

 ザシャも向かってくる敵機を撃墜し続け、三分足らずでニコラの倍の撃墜数を稼いだ。チェリー、千鶴、ペトラの三人も三機一隊でザシャとニコラほどではない物の、十機以上を撃墜に成功する。

 

「やるな!だが、私も負けん!」

 

 自分の好敵手と勝手に決めたザシャが自分より遙かに敵機を撃墜し続けているので、対抗心を燃やしたニコラは、次から次へと出て来る敵機を撃墜し続けた。

 数では遙かに凌ぐ連邦軍であるが、ザシャ達とパクス軍の空戦部隊の一人一人がエース級であるため、五機撃墜のエースが少ない連邦軍のパイロット達はカモ同然となる。爆撃機も攻撃機も防衛ラインを一機も抜ける事が出来ず、一方的に駆られてしまう。空で戦う連邦軍のパイロット達を指揮する指揮官は、司令部に撤退の許可を求め始める。

 

「敵の一機一機が強すぎる!このままでは全滅してしまう!撤退の許可を求める!!」

 

『ならん!増援を送る、損害に構わずなんとしても突破しろ。以上!』

 

「クソッ!数だけ送ったところで、損害が拡大するだけだぞ!」

 

 指揮官機に乗り込む指揮官は、司令部からの自分等を捨て駒にするような返答に苛立ち、近くにある壁に拳を叩き付ける。

 空の攻勢で爆撃機が全く突破できない中、地上では爆撃による脅威排除を待たず、攻勢が開始された。備えていた偽の陣地を雨のような砲撃と数で叩き潰し、第一次防衛ラインまで接近する。マリが居る本物の防衛ラインにも砲撃の雨が注いだ。

 

「来る・・・わよね・・・?」

 

 モニターから見える雨のような砲弾を見てマリはZEUSが助けに来ると思ったが、自分が死のうとしている所でも来なかったので、両肩、両腕、両足のミサイルを発射し、自分の場所だけ来る砲弾やロケット弾、ミサイルを迎撃する。結果は成功。見事砲撃からの回避に成功した。

 物の数秒で自分の着弾地を避けるかの如く、辺りをまるで更地にするかの如く砲弾が地上へ降り注ぎ、凄まじい爆煙が辺りに広まった。砲撃が終わる頃には爆煙で全く辺りが見えなくなり、砲撃で地面の茂みは全て吹き飛ばされ、穴だらけになる。

 その後に、軍靴を慣らせるかの如く、MSや陸戦ゾイド、ハーディガンの足音と、ATのローラー音、戦車の走行音、歩兵の足音がここまで響いてくる。数は第一陣でも一万は超え、歩兵や戦車は百万以上だろう。

 圧倒的数の敵の大軍を迎撃すべく、塹壕から出て来たパクス軍の歩兵はそれぞれの配置に着き、MSも塹壕から武器の銃口を出し、迎撃準備を整える。マリのストライクガンダムは塹壕に入らず、ただ立ったままだ。

 敵からの狙撃を受けそうだが、覆い隠すほどの砲撃の爆煙で助けられている。無かったら今頃多数の狙撃兵による狙撃で蜂の巣にされていたであろう。防衛に当たる全部隊が迎撃準備を済ませると、煙が晴れ、接近してくる敵の第一陣が見えた。

 

「嘘・・・こんな数・・・異常じゃない・・・!」

 

 カメラに映る敵の大軍勢を見て、マリは絶望の声を上げる。

 一面を埋め尽くすほどの数のドートレスとストライクダガーが見え、後ろには多数のゴジュラスが見える。それらの前方には、ATと高速戦用ゾイドの大軍が向かってくる。これと戦うには、同等の戦力が必要であるが、ここは敵地であり、呼ぶにしても来るまでに余程の時間が掛かる。

 諦めて身構えている事にすると、敵の先鋒と斥候が地雷原に突入し、前に出すぎた数機ほどが地雷にはまったのを見て足を止め、工兵隊の地雷除去機を呼んで地雷の排除を始めた。敵がそうしている間に、狙撃銃を持つ機動兵器が妨害を行う。

 

「こんな数、地雷でも排除しきれないわよ」

 

 狙撃で潰される地雷除去機を見て、マリは呟く。確かにこの異常な数の敵を排除するには、一千万単位の地雷が必要である。地雷を排除する地雷除去機がある程度撃墜されれば、残った地雷除去機は撤退を始める。

 敵の狙撃を受けながら地雷を撤去するのは犠牲を増やすと判断してか、ライフルやバルカン砲、ミサイルを使っての強硬手段に打って出る。地雷の爆発が巻き起こり、爆煙が上がる中、大多数のコマンドウルフが出て来た。この光景を例えるならば、狼が群れをなして、大挙して獲物に襲い掛かる物だろう。

 その後ろからは、多数のシールドライガーとアロザウラー、フル装備のスコープドックが続いてくる。

 多数の機動兵器が人海戦術の如く押し寄せる中、パクス軍の防御砲火が開始された。榴弾砲やパンツァーベルファーによる砲撃で突撃した機動兵器は砲撃に晒され、ゾイドは断末魔を上げて機能を停止し、残骸となる。ATは装甲が脆く、意図も容易く砲撃で吹き飛ばされ、瞬く間に鉄屑へと変わり果てた。

 防御砲火が続けられるが、連邦軍は損害に構わず前進し、遂にマリのストライクガンダムの射程距離にまで向かってきた。直ぐに彼女は、ストライクガンダムが両手に持つビームマシンガンを敵へ向けて掃射する。

 折角砲撃を抜けてきた敵機は、ビームの雨により前進を阻まれ、撃破される。遂に地上でも戦闘の火ぶたが切って落とされた。

 砲撃が終われば、敵機動兵器の大軍が煙の中から現れ、大挙して防衛ラインに押し寄せてくる。マリは大量の敵機に対し、搭載されたミサイルを全て撃ち込んだ。

 

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

 

 そう叫んだ後にミサイルを全弾発射すれば、不要となったポッドを強制パージ、機体を軽くさせた。発射された大量のミサイルは無数の敵の何体かに命中し、平地に転がる残骸を増やした。防御態勢を取る味方機の射程距離に入ってきたため、パクス軍も防衛戦を始める。

 

「フォイヤー!!」

 

 この指揮官からの怒号と共に、塹壕に身を隠した機動兵器や歩兵が射撃を開始した。機動兵器のみならず、PAK対戦車砲シリーズを対MS用に改造した対機動兵器用砲が火を噴き、歩兵の対物火器も群がってくる大多数の敵に放たれる。この雨のような阻止弾幕に、連邦軍機は次々と機銃を浴びた歩兵のように倒れていき、巨体の残骸を増やす。

 数分ほどで百機以上の機動兵器がパクス軍による防衛陣地の前で撃破され、歩兵の遮蔽物となる残骸を増やしてしまう。

 

「ビームマシンガンが・・・!」

 

大多数の敵機の前に立つマリは、無理に撃ち続けた所為で、両方ともビームマシンガンの銃身が焼けて撃てなくなってしまった。直ぐに両方捨て、右手にシュベルトゲーベル、左手にアグニと持ち替え、ライフルを撃ちながら突っ込んでくる機動兵器の大群へ向かった。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 まずはアグニを発射して多数の敵機を破壊し、接近してシュベルトゲーベルで薙ぎ払う。

 マリのストライクガンダムの周りでは爆発した敵機の部品が飛び交い、地面には両断された頭や腕、足が転がる。あっと言う間に包囲されてしまうが、マリはこれが狙いであり、より多くの敵機を潰すには効率が良かった。直ぐに右手の対艦刀を振り回し、周りの敵機を纏めて斬る。

 敵機は射撃武器で攻撃して近付けさせまいとするが、マリも射撃武器を使って反撃し、撃墜数を増やしていく。接近戦を試みる敵機も居たが、近付いたところで彼女に敵うはずもなく、真二つにされるか、右肩のバルカン砲で蜂の巣にされてしまう。

 左肩のビームブーメランを取り、投げて数機以上を撃破して戻すと、左腕のロケットアンカーをゴジュラスに撃ち込み、敵機の包囲から脱出する。集中砲火を浴びるが、エールの機動性を使って回避し、敵にゴジュラスを撃墜させれば、地上に群がる敵機にアグニを撃ち込んで一掃した後、地面に降りたって敵を撃破し続ける。

 目に見える敵機を撃破していると、次々とやられていく味方機を見て、敵の戦意が下がり始めたのか、マリのストライクガンダムを見るなり後退り始めた。

 

「ば、化け物だ・・・!う、うわぁぁぁぁ!!!」

 

『ま、待て!逃げるな!!』

 

 塊の中にいた一機のストライクダガーが、マリの余りの強さに恐怖し、上官からの静止の声も聞かずに機体ごと逃亡する。それを見た他のパイロット達も命欲しさに続々と戦場から逃げ出し始め、第一陣が瓦解し始める。

 

「ま、待つんだ!お前達、逃げるんじゃない!クソ、被害は甚大だ!ここは撤退だ!全機退け!体勢を立て直し、第二陣と共に突撃を再開する!」

 

 敵前線指揮官も味方機が次々とスクラップに変わっていくのを見て怖じ気付いたのか、防衛ラインを攻撃中の指揮下の歩兵や戦車部隊にも撤退命令を出し、逃げるように撤退する。他の敵部隊は後退りながらの攻撃もせず、負傷した戦友を連れて一目散に本陣へと敵に背中を見せて逃げ戻っていった。

 

「撤退した・・・?」

 

 自分のストライクガンダムに攻撃することなく逃げる多数の敵機を見て、マリは口にする。塹壕に居たパクス軍の将兵達は、逃げる敵兵達を見て歓喜するが、指揮官に大喝され、静まり返る。

 

『総員直ちに自動砲塔を配置し、持てる限りの装備を持って第二次防衛ラインまで後退。そこで補給を受け、敵の第二陣に備えよ。敵が態勢を整えて再び攻勢に転じる前に迅速にやれ!以上!』

 

 指揮官が拡声器で指示を飛ばせば、指揮下の将兵達は指示に従い、自動砲塔を設置し終えると、持てるだけの装備を持って第二防衛ラインまで下がり始めた。マリもこの指示に従い、第二防衛ラインまで下がる。

 空の方でも、甚大的な被害に敵は体勢を立て直すため、撤退を開始したようだ。撤退する敵機を見て、地上の将兵と同じようにチェリーが歓喜する。

 

「やったー!隊長、敵は撤退を始めましたよ!」

 

『チェリー、こいつ等は体勢を立て直すために撤退しただけよ』

 

『今度はもっと増えて押し寄せてくる・・・』

 

『二人の言うとおりだよ。敵が体勢を立て直す前に、早く補給を済ませないと』

 

「うぅ~、ごめんなさいですぅ!」

 

『プフッ、可愛い奴だなお前は。では、先に補給に行かせて貰うぞ』

 

 ザシャと千鶴にペトラからの注意を受けたチェリーは全員に謝る。これを聞いていたニコラは吹き出し、機体をファイター形態に変形させ、先に補給へと向かった。その後をザシャ達も続く。

 

「さぁ、私達も行きましょう」

 

『了解!』

 

 彼女達も機体をファイター形態に変形させ、補給に向かう。

 数十分後には全部隊の補給は終わり、第二次防衛戦をいつでも行えるほどであった。マリも補給が終わり、機体を塹壕の前まで進める。地上に残るあの三人が口を開き始めた。

 

「おっ、また虐殺姫様が前に出てるぞ」

 

 ガトリングガンを持ったドム・トローペンに乗るツチラトがマリに渾名を付けて第一声を放った。ちなみに、彼が乗っている機体は余った物を分けて貰った物である。

 

「まだ殺したり無いんだろう。全く、迷惑な女だぜ」

 

 ツチラトの言葉を耳にしたジョンが、マリを殺人鬼に表するように口にする。彼もまた、分けて貰った大剣を背負う陸戦型ゲルググに乗り込んでいる。そんな二人を注意するようにエッカルトが口を開く。

 

「少佐の悪口はそこまでだ。敵は数%程の戦力しか失っていない。全機警戒!大板さんもお願いします!」

 

『おぅ!お前等、さっきのは序の口だ!今度はえらい数で押し寄せてくるぞ!!』

 

『了解!』

 

 エッカルトが注意した後、ついてきた光男達に指示を飛ばした。エッカルトが乗る機体はマリのライガー・ゼロであり、パーフェクトストライクと同等に、全ての兵装を載せた全載せであった。ちなみに塗装は統一されている。

 光男達は三人ともザクⅡF2型であり、天知と加奈子はノーマルで、光男は角付きでバズーカと両足にミサイルポッドを装備していた。それぞれの配置へ着き、自動砲塔の第一次防衛ラインを抜けてくる敵軍に備えた。

 空の方では補給を済ませたザシャ達は防空網に戻り、警戒に当たっていた。そこでVF-171EXに乗り込んだ晃と、VF-19Eエクスカリバーに乗るレイに再会する。キャノピー越しで二人の姿を見付けた為、通信で問う。

 

「あれ、晃君とレイちゃん?宇宙へは行かなかったの」

 

『機体は貰いましたが、貴方に拾われた恩もありますので、残ることにしました』

 

『私もよ。仇を取ってくれたお礼に残るわ。その仇と飛ぶのは嫌な感じだけどね』

 

『なんだ、チビも残っていたか。宇宙へ言っているかと思ったぞ』

 

『何を!』

 

 晃が答えた後に、レイが答えれば、彼女の声を聞いたニコラが割り込む。大会で負けたレイをからかえば、怒った彼女がニコラに突っ掛かり始める。

 

『ここでやるか?まぁ、私が高い確率で勝つが』

 

『言ったな!アンタなんか、直ぐに堕としてやるんだから!』

 

「ちょっとストップ!味方同士でやったら駄目だよ。今は敵に備える!」

 

 仲裁に入ったザシャの一声で、素直に二人は口論を止める。

 

『済まない。今ここで仲間割れをしている暇はないな』

 

『むぅ、お姉ちゃんの言うことなら仕方ないわ。その代わり、どちらが多くの敵機を撃破するか勝負よ、ニコラ!』

 

『ほぅ、そうか・・・その勝負引き受けた。だが、勝つのは私だ!』

 

「もぅ・・・まるで子供みたい・・・」

 

 今度はどちらが多くの敵機を撃墜するかの勝負となり、ザシャは頭を抱える。暫く彼女等のやり取りを聞いていると、敵第二陣の接近を知らせる通信が入る。

 

『敵第二陣が第一防衛ラインを突破し、第二防衛ラインまで接近中。偵察機からの報告に寄れば、数は第一陣より大規模と思われる。各員は万全のままこれに対応に当たれ。以上』

 

「各機、防御フォーメーション!」

 

『了解!』

 

 通信を聞いたザシャは即座に配下の機体に指示を飛ばす。指示を受けた僚機は直ちに配置に着き、第一陣の倍は来る敵機の警戒に当たった。地上でも、先程とは倍の数に膨れ上がった大群が防衛陣地に接近しつつある。

 第一防衛ラインと第二防衛ラインの間に置かれた自動砲塔は砲撃で吹き飛ばされ、生き残った砲塔も押し寄せてくる大量の機動兵器の攻撃で粉々に吹き飛ぶ。

 地上は無数の足音と走行音。空は無数のエンジン音が近付く中、射程距離に敵の先端を捕らえれば、指示があるまで待機した。

 砲撃が終わり、敵が防衛ラインまで接近すれば再び防御砲火が開始され、また先陣を切る敵部隊が砲弾の雨に晒され、被害を受ける。今度はトーチカやミサイルも追加されたので、更に被害を拡大させる。腕や脚、頭などのパーツが吹き飛ぶのが見える中、砲撃を抜けた敵機が姿を現す。

 それを見た指揮官は即座に射撃命令を出した。

 

『撃て!』

 

 怒号が上がったと共に一斉に向かってくる敵機への攻撃が始められ、またも砲撃が辛くも抜けた連邦軍機は容赦ない砲火を浴びせられる。上手く防御陣地を攻撃側が十字砲火の射線上に来るように組み合わさっており、敵は一方的に撃たれ続け、被害を増大させ、スクラップの山を築き始める。歩兵や戦車、ATの後列まで接近すれば、歩兵が持つ小火器や2㎝Flak38、配置された2㎝Flakkvierling38四連装対空機関砲が火を噴いた。

 パクス軍よりも遙かに優れる装備を持つ歩兵でも十字砲火に耐えられるはずもなく、次々と肉塊に変えられ、戦車や歩兵戦闘車等はパンツァーファウストやパンツァーシュレック、使い捨て式のRPG18対戦車火器が発射され、廃車となる。

 敵の大軍勢がパクス軍の十字砲火に阻まれて屍を積み重ねる中、マリも再び暴れ始めた。今度は第一陣よりも倍近くの敵機がおり、敵は数に任せて自分を押し潰そうと、自分のストライクガンダムに群がってくる。

 

「幾ら居たってね!」

 

 それに対し、マリはシュベルトゲーベルを振り回して数機纏めて切り裂き、アグニで纏めて撃破する。またも撃破された機体のパーツが周囲に散らばる。

 

「な、なんて強いんだ!」

 

『ひ、怯むな!こちらは数が多いんだ!一気に押し潰せ!!』

 

 僅か数秒で十数機ほどの味方機が撃墜されたのを見た連邦のパイロット達は臆してしまうが、指揮官の一声でマリのストライクガンダムを包囲する形で湧いてくる。エッカルト達もこれに負けまいと、塹壕からマリの機体に群がる敵機を撃ち始める。

 空では爆撃機のみならず、多数の戦闘機や空戦用機動兵器を増員した大編隊との交戦が行われていた。競争心に湧くレイとニコラは鳥の群れのように集まる敵機の集団に突っ込み、群がる敵機に向けてガンポッドやミサイルを撃ち、撃墜し続ける。

 

「ちょっと!」

 

『隊長、上から来る!』

 

 爆発の連鎖を行う二人を静止しようとするザシャであるが、ペトラからの知らせでそれどころではなくなり、上から来る大隊規模の迎撃を行う。三名の部下を連れ、敵の先鋒にガンポッドを浴びせて撃破すれば、直ぐに捕らえた後続の敵機を撃破する。四機ほどで大隊規模の敵機を撤退させれば、多数の随伴機を連れた空中戦艦が彼女等の前に姿を現した。

 

『敵空中戦艦確認。他には多数の随伴機も確認・・・!』

 

「空中戦艦も・・・私が撃沈させるから、貴方達は護衛機をお願い!」

 

『了解!』

 

 千鶴からの知らせに空中戦艦の存在を知ったザシャは、対空砲火の薄い真下からの攻撃を行うことにし、続々と来る敵機の攻撃を避けながら空中戦艦の真下まで到達すれば、機体の両足を展開させ、逆噴射で急ブレーキを掛け、真下からの奇襲に出る。

 流石に空中戦艦の随伴機に見付かり、通報されて対空砲火に晒されるが、彼女が乗るVF-25Fアーマードパックは、当たることなく旋回式ビーム砲の砲身を空中戦艦の中央に合わせ、ザシャは引き金を引いた。戦艦を沈めるほどの火力を持つビームが発射され、空中戦艦の船体に命中すれば、上面まで貫通し、敵空中戦艦を撃墜することに成功した。

 空中戦艦は火を噴きながら地面へと落下し始め、数十秒後には彼女等の前から姿を消す。脅威を排除したと思って少しばかりザシャは油断し、真下から来るダガーLの攻撃を受けそうになったが、晃に助けられた。直ぐに謝罪の言葉を告げる。

 

「あっ、晃君。ごめん!」

 

『気を付けてください。まだ敵機は居ます』

 

「これからは気を付けるよ」

 

 横についた晃のVF-171EXから通信を聞けば、直ぐに返答して、交戦中の部下の元へ飛ぶ。

 地上では連邦軍の第三陣が投入され、飽和攻撃が開始されていた。

 飽和攻撃とは、攻撃側が攻撃を仕掛ける際、防御側の処理能力の限界を超えた物量で攻める攻撃である。この戦場で投入された連邦軍の数はパクス軍の迎撃能力を遙かに凌いだ数であり、飽和攻撃を行うことなど造作もない。敵に休む暇もなく攻撃を与える波状攻撃だって可能だ。

 遂に十字砲火は物量で圧しきられ、味方機の残骸を乗り越えて来る連邦軍機が、塹壕にまで達してくる。迎撃能力の限界を超えるほどの敵機が来たため、パクス軍は後退を始める。

 

「もう駄目だ!こんな数の敵は迎撃しきれんぞ!!」

 

 泉の如く湧いて出て来る敵機を迎撃する光男は、後退を始める。天知と加奈子も撃ちながらの後退を始めていた。エッカルト達も後退りながらの迎撃を行う。

 

「クソッ、これが正規戦ならな!間違いなくエース部隊行きだぜ、全く!」

 

『無駄口叩いてないで、早く最終防衛ラインまで後退するぞ!』

 

「ちっ、マジで来んのかよ!」

 

 ジョンが押し寄せてくる敵機を纏めて撃墜した後、これが正規の戦闘なら自分がエース部隊へ行ける程の撃墜数を稼いでいるので、それを口にするが、ツチラトに言われ、一向に来ないZEUSの悪口を言った後、彼と共に最終防衛ラインまで後退する。

 

「よし、後は自力でなんとかなるだろう」

 

 エッカルトは後退する友軍機の援護を行った後、数機の敵を纏めて撃破してから撤退の列に合流した。この撤退の最中、少なからずパクス軍の被害が出ていた。本来なら、自動砲塔や地雷などを仕掛けて敵の侵攻を遅らせるのだが、押し寄せてくる敵はその暇すら待ってはくれなかった。

 敵の大軍の中にいたマリは、撤退していく味方機や歩兵部隊を見て、群がる敵機を薙ぎ払ってから撤退する味方機へと向かう。

 

「ちょっと!待ってよ!!」

 

 敵機を払い除けつつ、最終防衛ラインまで自力で向かうマリ。右肩の対艦ミサイルを発射して目の前に立ち塞がるゴジュラスMkⅡ量産型を撃破した。それから全弾を使って強行突破し、両肩の装備と左腕の装備を外して機体を軽くさせ、強引に敵中を突破した。

 アグニは撃ちすぎて銃身が焼けて使い物にならなくなり、シュベルトゲーベルは敵を斬りすぎて折れてしまい、これも使い物にならなくなる。エールのビームサーベルを二本とも抜き、最終防衛ラインに迫る敵機を斬りながら敵の目的地へと向かう。

 空の方でも尋常ではない数の敵航空機に押され、空軍の被害が拡大し、後退を強いられる。

 

「もう、こんな数!相手に出来るわけ無いでしょうが!」

 

 夥しい数の敵機に向けてガンポッドを撃ち続けるレイは、目の前の空を埋め尽くすほどの敵機を見て吐き捨てる。VF-25Gに乗るニコラも、勝負所ではないと判断してか、レイのバトロイド形態のVF-19Eの肩に手を置いて「勝負はお預け」と伝える。

 

「もう勝負所ではないな。これからは生き残るための戦いだ、直ぐに後退しよう」

 

『悔しいけど、自分の命が欲しい。分かった。撤退するわ』

 

 レイからの返答を聞いた後、ニコラは彼女のVF-19Eと同様に機体をファイター形態に変形させ、最終防衛ラインまで後退した。ザシャ達もある程度の敵機を排除すれば、同様に最終防衛ラインまで友軍機と共に後退を開始する。

 ここまでにマリとザシャの撃破数と撃墜数はかの有名なルーデルやハルトマンを軽く超えていたが、敵を迎撃するのに必死で数えている暇はなかったので、記録などされなかった。だが、この非公式の記録は全知全能の神、ゼウスによって蘇ったルーデルやハルトマンに追い抜かれる事となる。

 最終防衛ラインにまで達すると、先程あれだけ居たパクス軍の数は見る限り減っており、歩兵の数でも一万は減っている。最終防衛ラインには、アーマードパックを装備したVF-1バルキリーとVF-11サンダーボルトが数十機以上も居るが、迫り来る圧倒的物量の連邦軍には敵わないだろう。

 そんな絶望的な状況の中で、彼女達はZEUSを待ちながら戦い続ける。

 砲弾がある限りの防御砲火が続けられる中、押し寄せる敵は第二防衛ラインと最終防衛ラインの間にある深い堀へと続々と落ちてしまう。砲撃から逃れるのに夢中で気付かなかったのだろう。続々と堀の中へと落ちていき、気が付いた敵が止まれば、堀へと落下する連鎖が止まる。

 第一防衛ラインの前にも深い堀があったが、狙撃で逃げ帰った強行偵察部隊に発見され、砲撃で埋められるか、飛び越えられるか、架橋を立てられるなりして破られた。無論、これは無人の陣地や偽の陣地同様、時間稼ぎにしかならない。

 

「敵機、堀への落下を確認!爆破!!」

 

 双眼鏡で堀に多数の敵が落ちたのを確認した将校は、直ぐに工兵に堀に設置された爆薬を爆破するよう告げる。工兵が点火装置を引けば、堀に設置された爆薬は爆発し、大多数の敵機を仕留めることに成功した。だが、これも時間稼ぎにしかならず、大軍は堀をバックパックで飛び越えてくる。

 直ぐさま防御射撃が開始され、無数に向かってくる敵機への迎撃が行われた。

 この間に、マリはストライクガンダムのエールパックをパージし、予備のストライクパックの全ての長所を積み込んだ統合パックであるIWSPを装備するべく、基地へと戻っていた。それを待っていたが如く、整備兵達が即座に取り付け作業に入る。換装は二分で終わり、直ぐにでも出撃が可能であった。

 換装作業を終ればモニターに目を通した。映像からは、換装作業が終われば脱出準備に取り掛かる整備兵達の姿が見える。

 

「もうお終いのようね・・・」

 

 撤収作業を行う整備兵を見て呟いた後、こちらに向けてピースサインをした後に去るカチヤを見て、ほほ笑む。

 

「さて、早く来なさいよ。ZEUS!」

 

 その後にマリは再び戦線へと戻り、目の前から湧いて出て来る敵の大軍に向けてパックのレールガンや単装砲、シールドのガトリングとビームライフルを撃ちながら高速で接近する。一気に数十機以上がこれにより撃破されるか大破し、接近してきたストライクガンダムが両脇の9.1m対艦刀を抜き、周囲にいる敵を斬り始める。

 

「斬っても、斬っても出て来るわね!」

 

 敵を一掃しつつ、マリは湧いて出て来る敵にそう吐き捨てながら、目に見える敵を斬るか撃ち続けた。

 地上で絶望的な戦闘が行われる中、上空でも絶望的な戦闘が行われていた。地上と同様に、埋め尽くすほどの敵機がおり、パクス空軍の被害が拡大しつつある。それを抑えるためにザシャは奮闘するが、敵は増え続けるばかりだ。

 

「もう、ミサイルが・・・」

 

 アーマードパックのミサイルの残弾が残り少ないと見て、ザシャは絶望感が篭もった台詞を吐いた。地上からは対空砲やミサイルによる対空砲火が行われているが、数は減ることなく焼け石に水だ。そればかりか連邦軍には余裕があり、遂に第四陣まで投入してくる。

 

『敵戦力、尚も増大中!』

 

「まだ来るの・・・!これだけの被害なのに!」

 

 敵戦力増大の通信を受け、ザシャは遂に平常心を失い始める。

 その第四陣には、遅れて参加していた元フリッツ・アプト提督と部下達が乗るペガサス級強襲揚陸艦「ネシェル」の姿もあった。どうやら彼等もこの作戦に投入されたそうだ。幸運にも、イクサ人の傭兵部隊とアグレッサー部隊は随伴していない。

 それでもマリとザシャ達パクス軍は連邦軍の圧倒的物量には勝てないだろう。

 ザシャはZEUSが来ると信じて、次から次へと来る敵を倒しながら部下や仲間を守ることに専念する。マリも生き残るために、無限に湧いて出て来るよう敵を必死に倒し続けた。やがて地上戦艦も投入され、連邦軍の砲兵部隊も前進を始め、最終防衛ライン航法にある宇宙基地を捕らえた。

 

「配置急げ!味方は支援を待って居るぞ!!」

 

 砲兵将官による指示で、自走砲やロケット砲や地対地ミサイルが配置され始める。重砲代わりと呼べる程の量産型ガンタンクやロングレンジ砲を搭載したゴルドス、大口径ロングレンジキャノンをカノントータス二機分に搭載した物の配置が終わり、直ぐさまパクス軍の砲撃陣地への砲撃が始まる。

 恐ろしいほどの砲弾の雨がパクス陸軍の砲撃陣地に降り注ぎ、そこに配置された榴弾砲やロケット砲を砲兵諸共破壊する。これで防御砲火は不可能となった。

 

「ほ、砲撃陣地壊滅!負傷者多数!!」

 

「こ、これでは・・・押し潰されてしまう・・・!」

 

 宇宙基地の戦闘指揮所にて、通信士からの報告を聞いた総司令官はモニターに映し出された戦況を表す立体図に、自分等が居る基地を包囲する赤い連邦軍の反応を見て、絶望的な台詞を吐く。このままでは不味いと判断してか、避難民を乗せた難民船を発進させるよう命令を出す。

 

「管制官、難民船の発進を命じる」

 

「し、しかし、制空権はこちらには無く、衛星軌道上ではまだ敵が・・・」

 

「良いから発進だ!民間人だけでも逃がすのだ!」

 

「や、了解(ヤヴォール)!」

 

 制空権でも命令を拒む管制官であるが、総司令官に強く迫られ、返答した後に席へ戻り、インカムを付けて難民船の発進の指示を出し始める。

 宇宙基地の発射台が起動し、発射台に載せられた超大型避難船が宇宙へと上げられようとしている。護衛艦も発射台に載せられているが、おそらく敵の空中戦艦か、ネシェルの主砲に撃墜されるだろう。

 

「おい、俺達の分は残っているだろうな?!」

 

『俺等の分はちゃんと残してあるぞ!中尉が用意してくれた!』

 

 地上で戦っていたジョンが、宇宙基地から発射台に載せられた避難船の反応を見て、自分等の分は残しているか聞くが、ツチラトが「自分達のもある」と言って落ち着かせる。ザシャ達もこれを受け、直ちに発射を妨害しようとする連邦軍機の迎撃に入る。

 

『た、たた隊長、避難船が発進します!』

 

「敵を近付けないで!どうして来ないのよ・・・!少佐はピンチなのに・・・」

 

 一向に来ないZEUSに文句を垂れつつ、ザシャは部下に直ぐに命じ、近付いてくる敵機を数機纏めて撃墜した。これはマリにも見えており、ゴジュラスMkⅡ量産型のロングレンジ砲が避難船に向けられたのを見て、即刻撃破に向かうが、ゴジュラスの強化タイプであるゴジュラス・ギガに阻まれ、向かいようが無くなる。

 

「もう、こんな時に・・・!」

 

 咆哮を吐いて威嚇してくるゴジュラス・ギガに苛立ち、レールキャノンを撃ち込む。だが、Eシールドで防がれてしまう。マリはこれが狙いであり、機動力を生かしてストライクガンダムすら意図も容易く捻り潰せるクラッシャークローを避け、コクピットがある頭部に対艦刀を突き刺し、撃破する。機能を停止したゴジュラス・ギガに乗ったままゴジュラスMkⅡ量産型をレールガンで撃墜する。

 それと同時に避難船が打ち上げられ、ツェルベルスが居る宇宙を目指して護衛艦と共に上がっていく。念のためのダミーも打ち上げられていた。これを見た方面軍総司令官は、直ちにフリットに撃墜するよう命令する。

 

『中将、直ぐにあの大型輸送船を撃沈しろ。アレにはテロリストの首謀と大量破壊兵器が乗っている』

 

「ですが司令官、あれは避難船で非武装です。例え護衛艦が二隻随伴しているとしても、乗っているのは恐らく民間人です。正規の軍人である本官に民間人の攻撃は出来ません。それに今我々と戦っているのは正規軍であり、テロリストではない。お間違いなく」

 

 ネシェルのブリッジにて、中央に立つフリッツ・アプトはモニターに映し出された総司令官の命令を皮肉った言葉を混じらせて断る。命令を拒否したフリッツに対し、総司令官は舌打ちして、苛立ちを吐いてから通信を切る。

 

『ちっ、馬鹿者が!もういい!他の者にやらせる!』

 

 モニターから彼の映像が消えた後、聞こえていないこと良いことに悪口を言う。

 

「相変わらず自分のことしか考えない奴だ」

 

「閣下、幾ら聞こえないとはいえ、壁に耳あり障子に目ありですよ」

 

「フン、分かっておる」

 

 悪口を言うフリッツに対し、副官が注意すれば、彼は鼻を鳴らして分かったような口答えをする。

 腹の虫が治まらない総司令官からの避難船撃墜命令を受けた後方にいる将兵達は、直ぐに宇宙へと上がる避難船に集中砲火を始める。レーザー砲まで動員し、照準を避難船へと向けて掃射する。ダミーは集中砲火を受けて撃墜され、地面へ落ちていく。

 全てのダミーが撃墜されれば、今度は護衛艦にまで及び、護衛艦も撃沈されてしまう。残った護衛艦も落ちれば、避難船にも攻撃が及び、空中にいるパクス空軍のMSやバルキリーが身を挺して守る。ザシャ達も空や地上から来る攻撃から避難船を守るべく、奮闘した。

 

「キャッ!」

 

 左腕のポンポイントバリアで守っていたチェリーであったが、流石にレーザー砲は耐えられず、左腕が爆発する。通信機から聞こえる部下の悲鳴に気を取られたザシャは、警戒を怠って振り返ってしまった。

 

「チェリーちゃん!はっ!?しまった・・・!」

 

 余所見をした隙に一機のウィンダムが防衛線を抜け、避難船に高速で接近し、ブリッジにビームライフルの銃口を向ける。ニコラが直ちに狙撃銃を向けようとするも、無数の敵機に阻まれる。マリも気付いたが、レールガンの威力では避難船まで沈めてしまう。

 もう間に合わない。

 そう全員が思ったが、この時に、ザシャの願いが叶った。

 突如、ウィンダムのビームライフルが避難船にも当たらないほどの正確な狙撃で破壊された。何が起きたのかと全員がここで考えたが、通信機から知らせと同時にその正体が姿を現した。

それは天使のようで、自由を象徴するような外見を持つガンダムタイプのMSだった。

 

『アンノウン出現!数は、一機!』

 

「あれは・・・天使・・・?」

 

「遅いわよ、クソヒーロー」

 

 マリとザシャがそう吐けば、そのガンダムタイプのMSは、全武装を展開し、群がる連邦軍機に向けて一斉にはなった。正確に全機に命中するが、コクピットはどれも避けられており、武器かそれを持つ手、コクピット以外の場所に当てている。瞬く間に避難船の周りにいた連邦軍機全てを戦闘不能に追い込んだ後、それに乗り込むパイロットは全方位通信で撤退するよう勧告する。

 

『戦闘に参加する連邦軍に告げます!宇宙基地の地下にはこの惑星を崩壊させるほどの強力な自爆装置が設置されています!メガミ人達にそれを使わせないよう直ちに部隊を撤退させてください!』

 

「な、何故それを知っている・・・!?」

 

 何処からともなく現れたガンダムタイプのMSに乗る青年が、マリとザシャ達には極秘の自爆装置が仕掛けられている事を知っており、疑問の言葉を吐いた。どうやら、もしもの時に極秘中の極秘にしており、この惑星の全ての生物を巻き込んで自爆するつもりだったそうだ。

 

『あんた、私達に黙ってそんな事するつもりだったのね。まぁ、来たからもうどおでも良いわ』

 

 思惑がZEUSの青年によって暴露された総司令官は、マリに言われた後、床に膝をついて倒れ込む。だが、連邦軍の総司令官は突然の乱入者に腹を立て、全軍に再び攻撃命令を出す。

 

「おのれぇ、ふざけやがって!全軍あの天使のクソ野郎に攻撃だ!撃て!!」

 

 冷静さを完全に失った総司令官は、私怨に満ちた命令を出した。直ちに指揮下の部隊は勧告を出したガンダムタイプのMS、名を「フリーダムガンダム」に向けて過剰なまでの一斉射撃を行うが、どの攻撃もまるで来るのが分かっているかの如く回避され、逆に返り討ちにされる。

 出て来たのはフリーダムガンダムだけでなく、他のZEUSの面々も地上から現れ、更には惑星場にいるイクサ人までパクス軍とZEUS側に着き、連邦軍と現地軍を攻撃してきた。数は圧倒的な物の、ZEUSとイクサ人は一人一人が強者であるため、雑兵ばかりの将兵達では対処できず、次々とやられていく。

 

『こちら第153機甲師団、被害拡大中!増援を請う!!』

 

『こちら第892歩兵師団!もう持ち堪えられない!旅団と連隊がほぼ壊滅状態だ!撤退の許可を求む!!』

 

「か、閣下!敵は勢いで我々を押し返しています!早急な立て直しを要求します!!」

 

「ならば宇宙に居る艦隊から艦砲射撃を要請しろ!!」

 

 次から次へと来る壊滅状態を知らせる報告に、総司令官の苛立ちは益々増していった。押している宇宙の存在に気付いた総司令官は、宇宙からの艦砲射撃を命じようとしたが、宇宙にもZEUSが現れたらしく、壊滅状態に陥っていた。一人の将官が額に汗を浸らせながらその事実を知らせる。

 

「そ、それが、う、宇宙にもそれと同様に陥っているらしく。更にはどういう事か、ヴァルハラ軍とメガミ人の武装勢力の連合艦隊も来ております・・・!」

 

「なんだと・・・!?」

 

 それを聞いた総司令官は、衝撃の余り口が余り動かなかった。この時、チャールドは戦況が悪化したと聞いて姿を消しており、既に戦場から遠く離れた場所に居た。

 戦況は絶望的状況であったパクス軍側が押しており、連邦軍は数では優る物の、続々と損害を拡大し、士気が恐ろしいほど低下。混乱状態に陥る寸前であった。

 

「これなら・・・!」

 

 敵が取り乱し始めたのを見逃さなかったザシャは、直ぐに全ミサイルを統制が乱れ始めた敵の集団へ向けて発射した。敵はミサイルを回避することが出来ず、次々とミサイルに当たって数十機と空中戦艦数隻が一気にザシャ一人に壊滅させられる。

 

「全機、アタック!一気に巻き返すよ!」

 

『了解!』

 

 攻勢の時と見た彼女は部下達と共に突撃し、統制の取れなくなった敵に追撃を加えたが、未だに数は多く、包囲されてしまう。逆に返り討ちにされるかと思いきや、上から来たミサイルで自分等を包囲していた敵部隊は壊滅した。

 その後に助けた人物がザシャに通信を入れてくる。正体はザシャが良く知る人物であった。

 

『大丈夫でございますか、ザシャさん!』

 

「あ、貴方は・・・!?」

 

 助けに来たのはニコラの前に自分を好敵手と勝手に決め付けていたエルミーヌ・レオニー・ド・バルバストルだ。彼女のVF-25Fのみならず、部下であるロアとエロディが乗るVF-25Aが自分達の機体の前にバトロイド形態で現れる。

 

「なんとか提督を説得して、ここまで来ましたのよ。他にはオロンピア艦長やロデリオン中将も来ていましてよ。まぁ、百合帝国残党は分からないですけどね」

 

『そ、そんなに沢山・・・!』

 

『私達見捨てられてなかった!!』

 

 エルミーヌから聞かされた事に、ザシャは見捨てられていなかったことに感動を覚える。部下達はそれを聞き、歓喜の声を上げていた。これで宇宙は安全となり、シャロン達とツェルベルスは無事だろう。

 これで心おきなく戦える。

 そう思ったエルミーヌ達を加えたザシャ達は、未だに突撃してくる敵部隊への反撃を開始する。まずは脅威であるネシェルへ攻撃に向かう。

 

「敵機接近!数、七機!!」

 

「対空レーザー、撃ちまくれ!弾幕を張るのだ!!」

 

 レーダー手からの報告に、直ぐに対空弾幕を張るよう指示を飛ばす。だが、彼女達はそれを容易に避け、ネシェルに被害を与えていき、エンジンを破壊する。エンジンを破壊されたネシェルは地面へと墜落する。

 ザシャ達やフリーダムガンダム、反撃に転ずるパクス軍、増援に現れたZEUSとイクサ人の大部隊によって圧倒される中、マリもこの惑星における戦いの決着を付けるべく、敵陣へと突撃した。敵は混乱状態に陥っており、まともな反撃は出来ず、次々とマリのストライクガンダムによって撃ち倒されていた。本陣の盾となろうと、地上戦艦が行く手を遮り始める。

 

「邪魔だぁぁぁ!!」

 

 進行を遮る地上戦艦のブリッジを手持ちの火器で潰しつつ、総司令官が乗る旗艦である大型地上戦艦がある本陣まで目指す。敵は倍以上に出て来るが、空から来たザシャ達とイクサ人の航空部隊により、薙ぎ倒される。本陣に近付くにつれて弾幕は厚くなるが、彼女を止めることは出来ず、本陣まで近付かれてしまう。

 この報告は、直ぐに戦闘指揮所にいる総司令官に告げられる。

 

「ストライク、本艦に接近!!」

 

「なにぃ!?」

 

 レーダー手からの報告を聞いた総司令官達は一斉に振り返り、マリが来る方向へ視線を向ける。そのまま彼女は、一斉射撃を旗艦である大型戦艦に食らわせ、戦闘指揮所が見える程までにすると、尻餅をついて倒れる総司令官に照準を向け、腰から抜いたコンバットナイフを投げ付けた。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 マリの叫びと共に投げられた対コンバットナイフは、真っ直ぐ絶叫する総司令官の居る方へと飛んでいき、対象を肉塊に変えた。

 それから物の数秒後、指揮権は別の場所で指揮を執っていた大将に代わる。彼は攻撃を続行はせず、撤退命令を出した。

 

「全軍撤退だ!これ以上の被害は出せん!即刻撤退せよ!!」

 

 これ以上戦ったところで無駄と分かっていたのか、大将は部下達に大声で告げる。

 この撤退命令を受けた全軍は待っていたと言わんばかりに、負傷した戦友や損傷した友軍機を担いで全力で逃げるように撤退を始めた。墜落したネシェルから這い出てきたフリッツ達も、搭載機であるジェガンに抱えられて全員撤退の列へと加わる。パクス軍も戦力不足で追撃は不可能と判断してか、逃げる連邦軍と現地軍を見逃した。

 かくして、連邦軍至上最も歴史的大敗を喫したパクスにおける戦いは終わった。

 無論、大量の物資と五百万という兵員を投入しても勝てず、かなりの損害を出して負けたので、軍の面目が丸つぶれになるために軍事機密となったが。

 撤退する敵を追わなかったマリは、宇宙から降下してきたワルキューレと百合帝国残党軍の回収船を見て、生きてこの星から出られると確信した。




スーパー寝取りコーディネーター参戦。
そしてマリとザシャの横取りしようとするキラ様。

キラ様登場専用BGMは、アラスカでのあの格好良い西川兄貴のMeteor -ミーティアです。

次回からは待ちに待ったIS編。でも、息抜きに少し更新が遅れるかも・・・

今回も中断メッセージは無しです。

代わりにイメージEDでも。
https://www.youtube.com/watch?v=Qn0wTfvuo6w


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IS編
支配された世界


みんなが待ちに待ったIS編。だが、ISのIの字も出て来ない・・・

ここでsakuraさんのザシャの出番は終了です。
IS編にも出そうかと思いましたが、普通の戦闘機でISを堕とすほどの腕前を持ち、専用ISなんて出したら、他の原作崩壊で俺TUEEE!のようになるのでここで・・・

それとsakuraさんは、原作のインフィニット・ストラトスは絶対に読まないと思うし・・・


 惑星パクスにおける連邦軍による前例の無い大規模な掃討戦の結果が失敗に終わった後、マリ・ヴァセレートは搭乗していたストライクガンダムから降り、回収艇が集結するポイントへ足を運んでいた。

 辺り一面が黒煙を上げる連邦軍機の残骸で埋め尽くされているが、幾つかは横に片付けられている。一見すればスクラップの山だが、それら全てが統合連邦地上軍の現用機であり、回収して余り良い噂を聞かない業者にでも売り付ければ、かなりの額となろう。

 だが、彼女らにそんな暇は無い。

 撤退させた連邦軍の大部隊が、態勢を立て直して再び攻勢に出てくるかもしれない。

 すぐにこの惑星からの脱出が必然だ。

 先ほどは奇跡が起こったが、二度目の奇跡など無い。宇宙で救援に駆けつけてくれた艦隊が持っているうちに回収艇に乗って脱出すべきだろう。

 そうこうしている内に、自分の母艦であるバルキュリャからの回収艇まで辿り着いた。

 回収艇の前に居たのは、ずいぶん長い間に見て居なさそうなノエル・アップルビーと連崎京香の二人だ。他は船内で見た乗員が何人か見える。マリは二人に近づき、何気ない笑みを浮かべて帰宅の言葉を述べた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい。無事だったようですね」

 

「あら、なにか冷たいんだけど?もしかして、隠してるの・・・?」

 

「いえ、何も隠してなどいません。帝国残党の艦隊がアヌビスに進路を取らなければ、助けには行けなかった所です」

 

 冷たい反応を取るノエルにマリは何か隠している事を見破るが、本人は白を切り、百合帝国残党軍の艦隊がパクスに進路を取ったので、それに賛同したと誤魔化す。隣に居る京香はクスクスと小さく笑いながらマリに口パクで伝える。

 

「(本当はメッチャ心配してました!)」

 

「へぇ、そう・・・心配してくれたの。ありがとう、ノエルちゃん」

 

「し、心配なんか・・・してませんから・・・!」

 

 やはり京香が伝えたのは正しかったのか、ノエルは顔を赤らめ、その顔を見せないようにしていた。どうやら、隠していたのはマリが生きていて嬉しかったことらしい。それを見たマリと京香は、愛らしく顔を隠すノエルを見ながらほほ笑む。

 それを見届けた後、マリはザシャの元へ向かうと二人に告げる。

 

「ちょっと、ザシャちゃんの所に挨拶に行ってくるわ」

 

「えっ!?あっ、はい・・・」

 

 顔を隠していたノエルは、マリにそう告げられれば顔を上げて返事をする。そんな彼女の様子を見た後、マリは戦友達と共に居るザシャ・テーゼナーの元へ向かった。

 

「ザシャちゃん」

 

「えっ?あ、少佐!?」

 

 後ろから現れた少佐以上の位を持つマリを見たザシャたちは、慌てながら直立状態となり、彼女に向かって敬礼する。戦友であるエルミーヌ・レオニー・ド・バルバストルも敬礼し、マリに対しての敬意を見せる。

 敬礼する彼女らにマリは余り良い気がしなかったのか、休むように告げる。

 

「そんなに畏まらなくて良いわよ。それよりもさ、私と一緒に来ない?」

 

「何処へですか・・・?」

 

「次の世界」

 

「はっ?」

 

 休むように告げた後、マリは次なる能力がある世界へ来ないかザシャたちを誘う。

 だが、彼女らは次なるマリの目的地が分かったのか、誘いを断る。

 

「済みませんがお断りしますわ。私達にはまだやらなければならぬ事があるので」

 

 反応が遅れるザシャに代わってエルミーヌが答えれば、彼女もマリの誘いを断る返答をする。

 

「私も断ります。バルバストル中尉同様、まだやらなくてはならない事がありますから」

 

 会話に勤しむ自分の部下達を見た後にそう告げれば、マリは残念そうな表情を浮かべる。

 

「そう、残念ね・・・貴方達も来れば心強いと思ったのに・・・じゃあ、頑張って生き残ってね」

 

『はい、少佐殿!』

 

 マリが告げると、二人とも見事な敬礼で答えた。それを見届けたマリは回収艇にノエルと京香と共に乗り込み、宇宙へと飛び立った。他の回収艇も宇宙へと上がり、衛星軌道上で待つ艦艇のデッキへと入っていく。マリ達が乗る回収艇もバルキュリャのデッキへ入る。

 ちなみに戦闘に参加したイクサ人達は元々パクスを出るつもりであったのか、あらかじめ用意しておいた民間の大型輸送船で、次々と惑星を出て行く。

 

「久しぶりの我が家って感じね・・・」

 

 回収艇から降りたマリはバルキュリャの船内に足を付け、自分の家に帰った気分となり、それを口にする。暫しハンガー内を見渡した後、艦長に会うためにブリッジへと向かう。途中、京香の左ポケットに何か紙のようなものが入っている事に気付く。

 

「っ、紙・・・?」

 

「えっ?私のポケットに!?」

 

 何の疑いも無しにそれを手に取った。自分が知らぬ間に紙を入れられたことに、京香は驚いた表情を浮かべていた。それは紙であり、文章を見せないようにしているのか、折られている。

 文章を読むために折られた紙を開いたマリは、そこに書かれているのが次なる能力がある場所を示す物であった。予想通りの内容であったことに、余り関心がない。

 

「予想通りね」

 

「予想通りって、どういう内容なんです?」

 

 ノエルが聞いてきたが、マリはそれに答えず、バルキュリャの針路を問う形で質問を質問で返す。

 

「ねぇ、この船の針路は?」

 

「え?はい、随伴した艦隊と共に遠征軍本隊にまで戻る予定です」

 

「そう、なら針路変更。残党が向かう先に変更しちゃって」

 

「え、ちょっと!急すぎるんじゃ・・・!?」

 

 針路の先が、自分の目指す場所とは違う場所と分かったマリは、ノエルに針路の変更を告げる。定められた日程を急に「変更しろ」と無茶を言うので、ノエルは戸惑う。

 

「そんなの良いじゃない。私が直に艦長に言って来るから!」

 

「へ、陛下!お待ちを?!」

 

「マジで怒られますって!」

 

 二人の静止の声を聴かず、マリは艦の制御を統括するブリッジへと走った。

 ブリッジへと着けば、守衛を退かして中へ入り、艦長であるオロンピア・カラマンリスに百合帝国残党軍の艦隊と難民船につていていくよう告げる。

 

「あっ、ヴァセレートさん。お久しぶり・・・」

 

「今すぐ針路変更お願い!あのどっかにワープしそうな艦隊についてって!」

 

「はっ?それは・・・」

 

 急に針路変更を告げるマリに対し、操艦手は戸惑う艦長に代わって無茶な支持に異議を唱える。

 

「えっ?困りますよ、急に針路変更だなんて・・・」

 

「良いから!早くしてよ!」

 

 強く告げられた上に何かしらの殺気を感じたため、オロンピアとブリッジクルーは直ぐに針路変更を指示した。

 

「は、はい!針路変更!直ちに百合帝国残党軍の艦隊へ!」

 

「了解!針路変更!」

 

 脅しのような指示に応じた艦長たちは、次元の狭間を開き、何処かへ向かう残党軍の艦隊へ針路を取る。なんとかその艦隊へ追いつくと、共に時限の狭間へと入り込む。

パクスに居る残存部隊の回収を終えたピーチ・グラフム・ロデリオン提督は、全く違う針路を取るバルキュリャに気付いて通信で戻るように指示を出したが、通信は届かず、バルキュリャは次元の狭間の中へ残党軍の艦隊と共に消えてしまう。

 

「艦長、ワルキューレの強襲揚陸艇がついてきますが?」

 

「私たちについて行きたいのでしょう。放って置きなさい」

 

 残党軍もついてきたバリキュリャに気付いたが、入りたいと思うワルキューレの一部隊と認識して特に気にも留めなかった。

 百合帝国残党軍の艦隊は五十一隻であり、五十隻は護衛艦、駆逐艦、巡洋艦、戦艦、軽空母、護衛空母で固められ、旗艦の一隻はバトル級可変ステルス攻撃宇宙空母と呼ばれるマクロス級より300m大きい空母だ。

 要塞級とは違うが、同じく巨大な強行型へと変形する空母だ。球状船首のあたる位置に、マクロスキャノンとなるガンシップがドッキングしている。このガンシップは、強行型となる際、分離されて右手に持たれ、主砲となる。単独での発射は可能だが、威力は低下し、連発もできない。

 連邦宇宙軍の包囲下を崩したのはこの艦隊あってのことだろう。ブリッジからその艦隊を見ていたマリは早く着かないかと待つ中、後から来たノエルにみっちりと説教された。

 それから数時間後、艦隊は次元空間から出て、別の世界の宇宙へと出る。

 

「ようやく出たわね・・・」

 

「ここが残党軍の目的地らしいですね」

 

 ブリッジの外に見える宇宙の光景を見ながら二人は見た感想を口にするが、索敵レーダー手が異常事態を報告してくる。

 

「艦長!残党軍艦隊の前に、敵影多数!これは、同盟軍です!数は我々の八倍以上です!!」

 

『えぇぇぇ!?』

 

 レーダー手からの知らせに、オロンピアと京香は驚きの声を上げた。マリはそんな艦長に代わって戦闘配備を取るように告げる。

 

「驚いてる場合じゃないでしょ!早く戦闘配備!」

 

「は、はい!総員第一戦闘配備!」

 

 マリに言われた艦長は直ぐに戦闘配備を発令する。アナウンスを通じて発令された態勢に、乗員たちはそれぞれの配置に着き始める。

 

「じゃあ、艦載機借りるわ」

 

「え、えぇ・・・」

 

 主任航空管制官は、ブリッジから出て行くマリに艦載機の使用の許可を与えた。出て行く中、マリにノエルは無茶をしないよう告げる。

 

「無茶しないでくださいよ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 マリはブリッジの出入り口でノエルにそう返した後、ハンガーへと向かった。

 ハンガーには可変戦闘機のVF-11Cサンダーボルトが追加装備のスーパーパックを装備された状態で何機か駐機されており、幾つかのVF-11の発艦準備が進められていた。彼女はハンガーへの出入り口を開けようとしたが、宇宙服を着た守衛に止められる。

 

「お待ちを!ここから先は宇宙服の着用が必須です!」

 

「あっ、そうだった!」

 

 守衛の言葉に従い、更衣室へ向かってパイロットスーツを身に着けてからハンガーへと向かう。

 ハンガーに入れば用意されたVF-11に乗り込み、機体の動力を起動させてからキャノピーを閉める。計器確認を終えれば、機体をカタパルトまで移動させる。ホイールを発射台に固定させ、管制官からの声を通信越しから聴きつつ、電子掲示板のカウントが0になるのを待つ。

 カウントが0になれば、マリが乗るVF-11は宇宙空間へと飛び立った。

 既に戦闘は開始されており、残党軍の艦隊からも艦載機が発艦し、同盟軍と交戦状態に入っている。先に発艦したVF-11は編隊を組んでおり、敵味方が入り乱れる最前線へと向かっていた。マリは先行部隊を追い越し、先に主戦場へと入る。

 

「結構居るわね」

 

 キャノピーから見える友軍部隊と交戦中の大多数の敵機を見てマリはそう呟く。

 そんな彼女のVF-11に、同盟軍のギラ・ドーガが数十機以上来る。直ぐにビームマシンガンの嵐が来たので回避行動を取り、一機をガンポッドで撃墜する。

 次から次へと来る攻撃を回避しつつ、バトロイド形態に変形して向かってきたギラ・ドーガを一機残らず全滅させた。だが、ここは戦場で敵はこちらの八倍以上の戦力であり、敵機は幾らでも沸いて出てくるくらいだ。十機潰そうが、また十機以上が出てくる。

 

「多すぎでしょ!」

 

 目に見える敵機をガンポッドやミサイルで潰していたマリは、レーダーを覆いつくすほどの赤い反応とモニターから見える大多数の敵機を見て叫ぶ。

 残党軍の保有機体であるリックドムⅡやゲルググ、ゲルググ(イェーガー)、アクトザクが奮闘しているが、異常な数の敵機相手に苦戦を強いられている。それに損害も拡大しつつある。このままでは負けてしまうだろう。

 群がってくる敵機を撃墜しながら、マリは何か来ないかと戦い続けていた。

 残党軍艦隊の旗艦であるバトル級攻撃空母がトランスフォーメーションを始めれば、圧倒的な数の同盟軍艦隊との艦対戦を行う残党軍各艦艇は、損害が半数程度にまで陥ったと認識する。それもその筈、五十隻は居た艦艇は半数にまで減り、搭載機も同盟軍の物量に呑み込まれている。

 流石は圧倒的物量を誇る統合連邦軍と対等に渡り合えるほどの勢力である惑星同盟だと褒めるところだが、圧倒的力の前に踏み潰される。

 

「クッ、百機以上潰してもまだまだ沸いて出てくるじゃない!!」

 

 数えても百機以上は撃墜したマリは、無限にも沸いて出てくる敵機と戦いながら何かしらの援軍が一向に来ないことに苛立つ。強行型へと変形した旗艦であるバトル級がマクロスキャノン発射態勢を取る中、同盟軍はその火力を知ってか、火力を集中させてきた。それに対しピンポイントバリアを張りつつ、砲火を凌ぐ。

 発射態勢は直ぐに整い、砲口を敵の中央に向ける。この報を聞いた同盟軍艦隊の旗艦に乗る提督は、直ぐに回避行動を取るよう命令する。

 

「か、回避だ!急げ!」

 

 命令する提督であるがもはや時既に遅く、強力なマクロスキャノンは発射され、艦隊の三分の一は消し炭となった。だが、同盟軍の旗艦は無事であり、まだ戦況は覆せない。

 万事休すかと思いきや、マリが願っていた援軍が都合よく到来した。

 

「これは・・・!我が軍の暗号通信です!味方です!我々の同胞が助けに来ました!!」

 

「迎えに来た・・・!我が百合帝国の同胞たちが・・・!」

 

 通信士からの知らせに、旗艦バトル級に乗る提督とブリッジに居る全員は歓喜する。旗艦だけでなく、他の残存艦艇でも助けに来た同じ残党軍に同じく歓喜していた。

 

「来たじゃない・・・でも、こいつ等と同様の連中だけど・・・」

 

 やって来た援軍に、マリは余り嬉しくは無い様子であった。少数精鋭で圧倒的数の同盟軍の艦隊を次々と撃沈させる勢力が、随伴した残党と同様の百合帝国残党であるからだ。

 ワルキューレから横流しされた最新兵器を見事なまでに性能を活かし、大多数の同盟軍の機動兵器や艦艇を次々と破壊していく。同盟軍は反撃もままならず、瞬く間に瓦解する。少数の敵に同盟軍の艦隊は成す術も無くやられているのだ。

 

「す、凄い・・・!」

 

 暗い戦闘用ブリッジの中でオロンピアは高い練度と高度な連携、繊細さと大胆さを兼ね備えた圧倒的制圧力を誇る救援に現れた残党軍を見て声を出す。ノエルと京香もただ呆然とするしかない。同盟軍はただやられるしかなかった。

 同盟軍の90%を破壊尽くせば、残った艦艇が降伏の意思を示す白旗を揚げた。さらに全方位チャンネルで、降伏の意思を示す通信を残党軍に送る。

 

『我が惑星同盟宇宙軍第903艦隊所属第3分艦隊は貴軍に降伏する!繰り返す、我が軍は降伏する!』

 

 降伏すると宣言した同盟軍であったが、残党軍はそれを無視したのか、無抵抗な同盟軍機を一方的に攻撃し始めた。

 

「うわぁぁぁ!?やめろぉ!やめてくれぇ!!」

 

 同盟軍製ハーディガンに乗り込む同盟軍のパイロットは襲い掛かるバトロイド形態のルフトヴァッフェカラーのVF-25Aメサイアに告げるが、コンバットナイフを振る手はそれに応じず、無造作に振り落とされる。他の同盟軍機も同様、降伏の意思を示しても問答無用で攻撃され、撃破される。

 

『クソ、こいつら俺達を皆殺しにするつもりだ!』

 

『全機、降伏は止めだ!突破しろ!突破して、うわぁぁぁぁ!!』

 

『畜生!一人で多く道連れだ!近くに敵艦に特攻しろ!!グワァ!?』

 

『害虫風情が!ノワァァァァ!!』

 

 オープンチャンネルで伝わってくる同盟軍のパイロットや将兵の悲鳴が聞こえ、戦闘指揮所(CIC)に居るクルーは余りの惨状ぶりに口を押さえる。

 

「こ、これじゃ・・・」

 

「虐殺じゃないの・・・!」

 

 口々に言うクルーであるが、攻撃を受けていた残党軍も殲滅戦に参加し、混乱する同盟軍機に向けて一方的な砲火を浴びせた。それは殲滅戦とは言い難く、虐殺に近かった。

 流石のマリでも、バルキュリャ防空隊と同様に参加などしない。ただ一方的に敵機や敵艦を沈める残党軍の虐殺を傍観するだけだ。数十分後も経てば、レーダーには敵の反応は無く、モニターかキャノピー越しから見れば、宇宙空間を漂う同盟軍機や艦艇の残骸が浮いているだけである。

 それから物の数秒で、オペレーターから戦闘終了の通信が送られる。

 

『せ、戦闘終了です・・・敵の反応はレーダーには見られません。帰投してください・・・』

 

 この指示に応じ、マリは防空隊と共に母艦であるバルキュリャに帰投した。防空隊の損害は軽度であり、損傷した程度で撃墜されたVF-11は居ない。母艦へ帰る中、マリは他の残党軍と合流して歓喜する百合帝国残党艦隊を眺めた。

 母艦へ帰投したマリ達は直ぐに待機室へと移動し、そこでヘルメットを取って座席に座り、戦闘の疲れを癒す。彼女等がそうしている内に、バルキュリャは他の残党軍艦隊と共にこの世界に潜む残党軍の救援部隊の後へ続く。その間、マリはパイロットスーツのまま、ブリッジへと上がった。

 

「あっ、お疲れ様」

 

 入ってきたマリに気付いたオロンピアはマリに、労いの言葉を掛ける。それに対して彼女は無言で頷きながらブリッジの奥へ進む。窓の外から見える光景を眺めていれば、遠くの方に青い地球らしき惑星が見えた。

 その星が見えれば、マリは近くにいる航海士に地球かどうかを問う。

 

「ねぇ、あれって地球よね?」

 

「さぁ?地球型の惑星じゃないのですか」

 

 航海士は機器を操作し、この世界における宇宙地図の閲覧を始める。数秒もしないうちにマリが言った事が当たった。

 

「ち、地球です・・・そして、ここは太陽系・・・!」

 

「えっ?」

 

「嘘!?」

 

 それを耳にしたノエルとオロンピアは驚きの声を上げた。遠くに見えた星が地球と分かったマリは、窓から残存艦隊が向かっている方向を覗き、月だと言うことが分かる。早速ブリッジにいる者達に知らせる。

 

「今私達、月に向かってる!」

 

「ほ、本当に月への針路を取っている・・・!」

 

 マリからの知らせに、航海士は艦隊が月へと針路を取っている事が分かる。

 この事が分かれば、オロンピアは救援に来た別の残党軍の部隊が、地球から来た部隊だと言うことが分かり、それを口にした。

 

「と、言うことはこの世界の地球は既に・・・」

 

「占領されている・・・!」

 

 オロンピアがその事を口にした後、マリがこの世界の地球が百合帝国残党の手に落ちた事を察した。その事を情報士官であるノエルと京香は知らなかったのか、驚きの声を上げ、衝撃を受ける。

 

「こ、こんなの、聞いてないですよ!」

 

「私も・・・!どうして情報が回ってこないの!」

 

 二人が驚きの声と苛立ちを口にする中、マリはここがアウトサイダーが語っていた女尊男卑の世界だと認識する。

 

「ここが、私の能力がある世界で、女が偉い世界・・・!」

 

 かくして、次なる能力を目指して訪れた新たな世界が、既に百合帝国残党の支配下に陥っていた事実に衝撃を受けるのであった。




他の連載も抱えてるから、ちょっと更新が遅れるかも・・・

~今週の中断メッセージ~

ISを通常兵器で倒せるか?

宗介「簡単だ。多数の火砲を用いて長期戦に持ち込み、絶えず集中砲火を与え続ける。そのISとか言う欠陥品を操るのは人間、それも少女か女だ。なんらかの経験か育った環境、もしくは処置をしていない限り、絶えず来る砲火でいずれ正気で居られなくなるだろう。底を突けば、通常兵器でも正気はある。アームスレイブのラムダ・ドライバが、ISに通じれば、恐らく短期間で決着が付くだろう」

イサム「簡単だぜ。あんなポンコツ、俺ならレシプロ機でもぶっ壊せる!」

ガルド「四方八方からミサイルを与えれば、操縦者はパニックを起こし、正常な判断を失う。そこから絶えず放火を集中すれば、通常兵器でも勝ち目はある」

ルルーシュ「アレに乗っている殆どの奴は、無敵の鎧を着込んだと思い込んでいる馬鹿な女だ。底を突けば、倒す空きが生まれる」


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女だけが動かせる兵器と女尊男卑の世界

単なる説明回かも・・・


 IS。それはインフィニット・ストラトスの略称であり正式名。

 宇宙空間の活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。開発当初は全く注目されなかったが、開発者である篠ノ之束(しののの・たばね)の手で引き起こされた発表から一ヶ月後に引き起こされた白騎士事件により、従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能を世界中に知れ渡り、宇宙進出よりもパワードスーツとして軍事転用が始まり、核に変わる各国の抑止力として要となった。

 尚、白騎士事件とは、日本を射程距離内に収めたミサイルが配備された軍事基地全てのコンピュータが一斉にハッキングされ、二千三百四十一発以上物ミサイルが日本へ向けて発射された。

 あわや大惨事と思いきや、その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て捕獲または撃破を試みた多国籍軍、主に軍事力ランキングの上位を占める連合国海上・航空部隊の大半を無力化した事件。死者は皆無と公式には発表されているが、実際は巻き込まれた民間人、流れ弾で死んだ連合国部隊の将兵合わせて万の単位の死傷者が出ている。

 この事件は束が仕組んだISの性能と価値を知らしめる為のマッチポンプ、つまり自作自演であり、事実が明るみに出れば、篠ノ之束は大罪人だが、各国はISを台頭させる為に真相を闇に葬り去った。

 ISは攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器であり、その性能差は現在ISが台頭する世界以外の異世界で猛威を振るう各機動兵器に匹敵する物である。

 特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによってあらゆる攻撃に対処できる。その為、搭乗者の生命に危機に晒されることはほぼ無く、搭乗者の生命維持機能もあるのだ。

 核となるコアと腕や脚、装甲の必要がないため、搭乗者の姿がほぼ丸見えな形状である為に、これにより連続して伝わってくる強力な攻撃で搭乗者が恐慌状態(パニック)を引き起こす事もある。ごく初期や軍用の機体には、恐慌状態を防ぐために全身を覆う全身装甲、フルスキンが存在する。

 ISには武器を量子化させて保存できる特殊なデータ領域があり、操縦者の意思で自由に保存してある武器を呼び出すことが出来る。ただし、全ての機体で量子交換要領に限りがあり、装備には制限が掛かっている。ハイパーセンサーの採用により、コンピュータよりも早く思考と判断ができ、迅速に実行に移せる。

 また、学習装置のような自己進化も設定されており、戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することにより、IS自らが自信の形状や性能を大きく変化させる形態移行を行い、より進化し、高性能な状態となる。現状では第三形態までが確認されている。コアの深層には独自の意思があるとされており、操縦時間に比例してIS自身が操縦者の特性を理解し、操縦者がよりISの性能を引き出せるようになっている。

 一見、ISは完成された究極の兵器であるとされるが、謎が多く、全容が明らかにされていない。特に心臓部のコアに対する情報は自己進化の設定以外、一切開示されておらず、完全なるブラックボックスとなっている。

 更に悪いことに女性にしか動かせないという事。これには最初に搭乗した女性であるからとされているが、原因は未だに不明である。開発者である束は知っているだろうが、それを話そうともしない。

 究極と評するほどの性能を持つ機動兵器であるが、男女平等に扱える兵器としては欠落品であり、ISに己の命を預けるのは余り良い気がしないだろう。

 おまけに唯一の製造方法を知る束はある時に製造を止めためにコアの数は四百六十七機。コアの数に限りがあるため、新型機体を建造する場合は既存のコアを初期化せねばならない。まさに欠落品と表すべき兵器だ。

 だが、戦闘力がずば抜けていることには変わりなく、アラスカ条約において、戦争等の戦闘行為に対する運用は禁ぜられた。尤も、そうした方が正解であったが。

 何故、このような兵器が台頭したのかは理由があった。

 それは異世界よりやって来た未だに過去の栄光に縋り付く女だけの種族、メガミ人のために建国された大帝国、神聖百合帝国の残党の影の力があったからである。

 中でもISの世界に来た「フォル・モーント」と呼ばれる残党勢力は他の百合帝国残党勢力に比べて強大であり、大国を建国するには十分な物を誇っている。そればかりか地球侵攻の機会を窺ってか、地球より遙かに優れた科学力を駆使し、太陽圏外に抱えていた旧帝国臣民達を解き放ち、地球以外の星々に移住して生活圏を広げ、後は地球を残す物であった。

 月の裏側は既にフォル・モーントの手に落ち、表面上には一大拠点と都市まで出来上がっている始末だ。もし、地球に直ぐにでも攻め込めば、ポーランドやベルギー、オランダ、デンマーク、フランスを降伏させたナチス・ドイツの国防軍の如く、忽ち地球を屈服させるまでに至だろう。

 だが、敢えてフォル・モーントは直ぐには侵攻せず、地球に数万の工作員を放ち、侵攻作戦の手筈を整えようとしていた。工作員を送り込むだけではなく、現地でも工作員を作り、地形や天候、自然の状態の地理関連、敵軍の兵器の詳細、配備数や状況、士気の軍事関連などの情報を収集する。

 全てを知り尽くすことにより、地球を我が物にできる。

 この方針で何十年物間、ずっと地球侵攻の機会を待ったが、白騎士事件により、全ては水の泡と化す。

 突如と無く現れた究極の新兵器「IS」により、長年築き上げて来た作戦は崩れ去った。

 だが、長年反社会的活動を行う彼女等の執念はここでは潰えない。逆にISを我が物としようと考えたのだ。

 通常兵器では歯が立たないとされているが、メガミ人達は別の手を使った。

 それは長年築き上げたスパイ網でISを台頭させ、各国に自分達の傀儡となる政権を発足させ、影から地球を支配する事だ。

 影からの支配のため、政治に関連する裏社会を侵攻し、自分達の物へと変えていく。

 物の四年足らずで裏社会はフォル・モーントの物となり、影からの支配がやりやすくなった。

 ISを運用していると言えば、運用しているのだが、実戦経験豊富な彼女達は何かと欠点が多いISを戦闘などで投入しようとまでは考えず、式典用か試合用としての運用がなされている。殆どの兵器を知り尽くしているフォル・モーントとっても、ISは欠落品という事だろう。

 

 女性が世界を制すれば争いごとは無くなるはずだが、ISが登場して七年間程は政治、経済、宗教、民族、人種問題、各地域の風習と伝統文化、テロが立ち塞がり、絶え間ない紛争が続き、更には戦争まで起きた。

 特に中東、紛争の絶えないアフリカでは女性にしか扱えないISの登場により、イスラム教や女尊男卑を良く思わない勢力と女性主義者勢力が衝突。紛争は激化し、恐ろしい数の死傷者が出た。

 更にはISの登場によって大国の影響力を失い、同時に軍事力も衰退化し、それまで各世界で抑え込まれていた反政府組織、武装勢力による闘争が行われ、もはや危機的状況寸前まで達しようとしていた。

 一方のISの開発者、篠ノ之束の出身国である日本は、フォル・モーントから影の支援を受ける過激な女性至上主義を掲げるフェミニストの政党「国家女性社会進出」の政権を獲得し、月からの支援者の指示通りに日本を戦後とはまるで違う国家へと変貌させた。

 指示の一つである再軍備化を行い、単なる国家の防人である自衛隊は国防軍となり、それに伴う軍備拡大で国産戦闘機や兵器を持つことにより、撤退した在日米軍がいらぬほど拡大。戦前の大日本帝国軍以上の軍事力を保有し、保有周辺の領土の狙う国家群を脅かすような国家へと変貌する。

 同時に売国奴勢力、左派勢力、在日朝鮮人、韓国人、中国人に対する国内の敵勢力の排除を行うべく、合法的な排除を目的とした法案を設立。手駒として残しておいた右派勢力を使っての排除に乗り出し、国内から敵を一掃。フォル・モーントによる裏社会完全制圧も合ってか、日本をほぼ手中へと収める事に成功した。

 支援者からの指示の一つである反対勢力を抑え法案を設立すべく、国家女性社会進出党以外の政党を解散させ、一党独裁の政権を実行。支配力を完全にするため、特定機密法案を制定し、政権内で作られた法案や不正を機密して、更なる女性至上主義国家を目指す。

 これにより、戦後史上初めて日本で女性主体による独裁政権が誕生した。

 女性優遇社会となって女性が優先就職になった所為か、職に就けない男性が溢れていたが、軍隊の存在もあり、更なる軍備拡大へと繋がり、軍事力ランキングで日本は世界一位に上り詰める。

 陸海空軍合わせて総兵員数は三百万以上。かつてドイツで政権を獲得した国家社会主義ドイツ労働党、通称ナチス党が再軍備を行った際、第二次世界大戦開始直前のドイツ国防軍のように膨れ上がり、特に日本の領土を不法に占拠、あるいは占領を目論んでいた国家群を震え上がらせた。

 右翼的には女に政権を握られていることを気に食わないが、日本がこれ以上な戦後の屈辱を味合わずに済んで良かった物の、他国や民主主義者から見れば、非難されることは確実だろう。

 だが、反対する勢力は裏からの支配者や政府が制定した法案によって次々と排除される。

 もはや日本はフォル・モーントによって支配されたと言っても過言はないだろう。

 世界を二分するほどの勢力である米露もフォル・モーントの支配下だ。もはや世界は牛耳られたも同然である。

 

 しかし、何故人類の女性達が異世界からやって来たメガミ人の武装勢力の中で尤も危険な百合帝国残党軍であるフォル・モーントを受け入れたのか?

 理由は懐抱して自分等の支配下に入れようと考えているからだ。自分等より優れた科学力を持ち、強大な軍事力を持ち、強力な兵器や宇宙軍も所持している。彼女等を従わせれば世界の覇者、否、太陽系の支配権を握ることが出来る。

 そう脳内に秘めている男性指導者とは変わらない各国の女性指導者達であったが、フォル・モーントからの監視を受けており、反乱など起こせるはずもなかった。

 このようにして、彼女等は人類を支配することが出来た。

 フォル・モーントの支配に対して抗う者達が少なからずいたが、年々その数はフォル・モーントの軍隊や特殊部隊、人類の協力者達の手によって減りつつある。

 五年後、日本が韓国と北朝鮮の排除を行うべく、二カ国に宣戦布告。第二次朝鮮戦争が勃発した。

 この戦争は、フォル・モーントが長きにわたる平和でどれだけ日本人がどれだけ実戦で使えるかどうかを実験する為の物である。この時に女性のみを志願者とした世界各国から集め、自らが鍛え上げたナチスの武装親衛隊のような武装勢力を義勇軍として投入。同時に試験目的としたのだ。

 結果は技術力と軍事力の差で勝利。だが、苦い勝利であった。

 投入した二百万の内、数十万人が戦死または戦傷、数万名が心的外傷ストレス障害、通称PTSDを発症、手痛い勝利であったが、戦後の大勝利に酔う日本はそれから目を逸らした。

 対して義勇軍は戦死者や戦争者は少なからず出たが、PTSD等特に見られず、発症してもフォル・モーントによる治療もあり、直ぐに戦線復帰する。

 当然ながら、戦場では必ず起こる犯罪行為は行われた。それも攻撃を受けた彼等が事実と言って良いほどの・・・

 戦争から二年後、戦後の軍縮に反発する最大の反乱勢力である日本右翼勢力とクーデター派の同盟が大日本帝国の再建を狙い、女性社会に対し、大規模な軍事クーデターを起こしたが、平和的な国家を目指す有能な元自衛官や自衛官を目指す将兵等はクーデター参加を断り、現政権派に加わる。西南戦争以降大規模な内戦が行われた。

 内戦は日本の軍事力を半数に減らすほどであったが、その甲斐あってか、早期に終結し、諸外国からの介入されずに済む。

 こうして、最後の抵抗勢力も居なくなり、反乱勢力となる軍を辞めさせられた各国の将兵達も外部勢力からの兵員補充のためにフォル・モーントの軍門に加えられた。

 百合帝国残党軍の最大の勢力、ドイツ語で満月を意味するフォル・モーントと言う名の勢力が人類を支配し、地球に帝国を建国して君臨する日は近い・・・

 

 

 

 月の裏側にある軍事基地への他の残存艦と共に宇宙港へ入港したマリ達が乗るバリキュリャはドックへと着艦した。

 そのまま宇宙専用強襲揚陸艦から下船する彼女達であったが、基地にいる残党勢力の将兵達の歓迎は無数の現ドイツ連邦の制式採用突撃銃のHK G36の銃口であった。

 おまけに入ってきたハッチは既に閉まっており、横流しか武器商人から揃えた物なのか、ガンダムMkⅡの純粋な量産型であるRMS-154バーザム改がバリキュリャの周りを包囲する形で何十機も展開している。

 

「どうやら、私達・・・歓迎されてないようです・・・」

 

 一緒に降りた京香がそれを口にすれば、マリ、ノエル、オロンピアの佐官クラスの士官は、両手を頭に添えられたまま当残党勢力の総司令官が居る部屋まで連行された。他の尉官からの兵クラスは、捕虜収容所へと送られる。

 通路で古めかしいデザインの黒い戦闘服を着た四人の百合帝国軍兵士に銃口を突き付けながら連行される中、ガラス張りの通路へと到着。そこから表面を削って作られた月面都市が見える。彼女等が思う通り、既に地球は支配下に落ちているだろう。

 

「凄い都市ね・・・これ作るのに何年掛かったの?」

 

「煩い。黙って私についてこい!」

 

 マリが月面都市を見て、建造年を聞いてくれば前を歩く士官にワルサーP99自動拳銃を向けられ、マリは口黙る。

 数十分後、彼女等は基地司令室の前に連れてこられた。

門のようなドアの前に立つこれまた古い突撃銃であるStg44を持つ二人の門番は、立て銃から担え銃の行動を取る。内側からドアが開き、案内役の士官に中に入るよう指示される。

 

「入れ」

 

 指示通り入った彼女達は周囲の壁に飾られている装飾を見て、上級階級の部屋であるかのような印象を受ける。

 部屋の面積は広く、まるで屋敷のようだった。見取れていれば、黒い制服を着て黒いシュタールヘルムを被る長身の白人女性に前に進むよう告げられ、執務机の席に座る初老の金髪の女性の前に立たされる。

 

「ご苦労、下がってよし」

 

はっ(ヤー)!」

 

 総司令官から下がるように告げられた黒い制服の女性は靴の踵を鳴らし、後ろを向いて下がった。

 四人以外居なくなったのを確認した総司令官は、目の前にいる三人に楽になるよう告げる。

 

「楽にしなさい」

 

「ふぅ・・・」

 

 解放された彼女達は腕を揺らして痺れを取ろうとする。この時マリは、皇帝時代の自分の肖像画が壁に掛けられているのが目に入り、不快感を表し、総司令官の方へ振り替える頃には表情を無表情へ変える。

 それを確認した後、総司令官は自分の自己紹介を始める。

 

「まずは私から自己紹介しましょう。私の名はドロテーア・ルン・シュナイゼル、この百合帝国残党、フォル・モーントの総司令官だ。神聖百合帝国健在頃はただの平民での師団長だった。して、そちらは?」

 

 名前を問われたため、彼女達は自分の名を名乗る。

 

「お、オロンピア・カラマンリス!階級は少佐!ワルキューレ宇宙軍所属でブリュンヒルデ級万能次元戦闘艦バリキュリャの艦長です!!」

 

 慌てながら敬礼し、自分の氏名と階級を述べる。

 言わなくても良い事まで敵か味方も分からないフォル・モーントの総司令官ドロテーア・ルン・シュナイゼルに告げたので、ノエルは注意なのか、肘でオロンピアの脇腹を殴る。それから自分の名を名乗る。無論、情報が流れるのを防ぐため、情報士官であることは伏せている。

 

「自分はノエル・アップルビー宇宙軍少佐。戦闘指揮所(CIA)のオペレーターです」

 

「あれ、貴方情報士官じゃ・・・」

 

「そんな事は良いの。貴方は正直すぎなんです。少佐、貴方も嘘の名前を・・・」

 

 ノエルが言ったことに疑問を持ったオロンピアが小声で口にするが、彼女も小声で反論すれば、マリに嘘の情報を与えるよう指示する。

 自分の番が来たマリは、少し深呼吸した後、口を開いた。

 それはノエルが驚くような事であった。

 

「マリ・ヴァセレート、あんた等の元主よ」

 

「ちょ、ちょっと・・・!それは・・・違うんです!この人は、その」

 

「おやおや、悪いご冗談を。確かに似ているが、雰囲気が少し違うが・・・」

 

 マリが告げた事に、ノエルは彼女が目の前にいるドローテア達百合帝国残党の主でないことを誤魔化そうとする。だが、彼女等は過激派のメガミ人達はこれを冗談と受け取る。

 それに対し、マリはありのままの事を告げる。

 

「えぇ、あんた達が見ていた私はただの演技よ。そう、あんた達の思い描いていた高貴で品格があり、容姿端麗のメガミ人達の夢の永遠なる帝国の皇帝で神であるマリ・シュタール・ヴァセレート・カイザーは単なる幻想。私が周りにいる連中に言われて演じていただけなの!」

 

 これを聞いてドローテアは腹を立てたのか、机から古めかしい自動拳銃であるルガーP08を取り出し、マリに銃口を向けた。しかし、銃を握る手は震えて居らず、冷静である。

 

「それ以上、我らの偉大なる皇帝陛下の侮辱は止めていただこう」

 

 安全装置は外してはいない物の、十分脅しにはなり、それに先程の黒い制服を着た体育系の衛兵達がマリ達を取り囲むように出て来る。

 暫く銃を構えていると、執務机の上に置かれた古い黒電話が鳴り響く。それをドローテアは手に取り、電話に出る。

 

「はい。え?はい、今すぐ代わります」

 

 空いている手で受話器を取って電話に出た彼女は、受話器をマリに差し出す。

 

「あの方がお前と話したいそうだ」

 

「はっ?なんで私よ?」

 

「良いから取れ」

 

 ドローテアに受話器を持つように強制されたマリは、それを手に取り、相手の声を耳に入れる。

 

「もしもし?」

 

『おぉ・・・その声は・・・!久しいの、三百年ぶりじゃ・・・!』

 

「あんたは・・・!?」

 

 相手の声で誰だか分かったマリは受話器を強く握り、誰なのか聞こうとする。

 

『まぁ、そうカッカするではない。貴様だけはわしの元まで来て貰おう』

 

 電話の相手から来るように伝えられたので、マリは受話器をドローテアに返す。

 

「代わりました。はい。えっ、この無礼な女目を入れるのですか!?分かりました、担当の物に案内させます」

 

 受話器を戻したドローテアは、マリに拳銃を向けながら、衛兵の一人に部屋から彼女を出すように告げる。

 

「衛兵、そこの無礼な女をこの部屋から出し、案内の物に身柄を引き渡せ」

 

了解(ヤヴォール)

 

 指示を受けた衛兵は靴の踵を鳴らし、マリだけをこの部屋から追い出した。

 追い出されたマリは、予め待機していたコートを纏い、シュタールヘルムを被ってハルバートを持った兵士三名に捕まり、別の部屋へと案内された。

 

「ここに入れ」

 

 兵士に指示されたとおり、マリは案内された部屋に入れば、そこに待っていたのは生命維持装置に取り付けられた百歳は超えていそうな寝たきりの老婆であった。

 マリの姿を見た老婆は僅かな力で動く手を動かし、彼女を手招きする。

 

「こっちへ来い・・・」

 

 言われたとおり、マリは近くに寄る。

 

「良く来た・・・この時をどれほど待ち浴びた事か・・・」

 

 どうやらいつの日かマリがこの世界へ訪れる事をずっとここで待っていたらしい。

マリもこの老婆を知っているらしく、脳の片隅の記憶から掘り出した彼女の名を口にする。

 

「貴方、もしかして・・・サトコ・・・?」

 

「ほぅ・・・貴様が皇帝になって以降、顔すら合わせることもなく忘れられたと思ったが、覚えて追ったとは、流石は天才を自称するだけのことはあるの・・・」

 

 サトコとは、マリがまだ人間だった頃の顔馴染みのメガミ人だ。人間から不法不死の神に近い存在となって以降、全く顔すら合わせていない。久々の再会を楽しむ場合ではないと察してか、サトコはマリの事情のことを口にし始める。

 

「貴様も昔話に馴染んでおる場合ではないじゃろうて。風の噂で聞いたぞ。貴様、不死でなくなり、能力も殆ど失ったとな」

 

「それを何処で・・・!?」

 

「なに、風の噂と言っても、ワルキューレに情報を流してくれる間者がある物でな・・・貴様のことはぜーんぶ知っておる」

 

「嘘・・・!?」

 

 マリはサトコが自分の素性を知っていることに驚きを隠せずにいた。

 自分が行く能力がある所に毎回現れるガイドルフと繋がっているのではないか?

 そう思うマリであったが、ノエルか彼女の部下達の可能性も否定できない。

 誰が目の前の寝たきりの老婆に自分の情報を流しているのかを冷静さを装って悩んでいる最中、サトコに「地球へ降りないのか」と提案される。

 

「大分慌てておるようじゃが、まぁ、一度、お前の能力があろう地球へと降りてみぬか?」

 

「地球へ?みんな、サトコの部下達が占領しちゃってるんでしょ?」

 

 その提案にマリは、地球は既にフォル・モーントに支配されていると思ったが、サトコはそれを否定した。

 

「まだ占領などしておらん。あの世界の支配者ぶっておる女共を飼い慣らしておるだけよ」

 

「飼い慣らしてる?じゃあ、占領したも同然じゃない」

 

「そう事は上手く進まん。まぁ、真実は地球へ降りれば分かることじゃ。お前の部下達は、ここに居るワルキューレにでも返してやろう」

 

「ワルキューレもこの世界にいるの?」

 

 ワルキューレがいる事にマリは次なる質問を掛けた。

 通常なら百合帝国残党軍はワルキューレの敵対組織なのだが、ここ最近砲火を交えた形跡はない。どうやら、フォル・モーントとは”グル”のようだ。

 

 それからマリは、挨拶してからサトコが寝ている部屋を出て行った後、ノエル達が解放されたのを確認した。

 更にはシャトルの用意まで出来たのか、伝令が知らせに来て、案内までしてくれる。

 宇宙港へ辿り着けば、バリキュリャも解放され、ノエル達を乗せて港から出港していくのが見えた。こちらも無事に解放してくれたようだ。

 そのままシャトルに乗せられたマリは指定された座席に座り、シートベルト付ける。

 ここまでサトコが手配してくれるとは、ありがたい物だが、何か裏がありそうな気がする。

 そこまで考えていたマリはこの手厚い加護を有り難く頂戴しておき、他にシャトルに乗っている面子の確認を行った。

 一番近い席には陸軍の勤務服を着た将校、後ろには休暇帰りの将兵達、他には同じ地球へと向かう民間人か貴族達で溢れている。殺し屋らしき人物は居なさそうだ。

 

「特に殺し屋ぽいのは居ないわね」

 

 殺し屋が居ない事を確認したマリは席へと座る。この時、自分が乗っているシャトルに自分の身内とも言える人物が乗っている事は思いもしなかった。

 数十分後、シャトルは港から発進し、月の周回軌道に乗って地球へと針路を取った。




次からは・・・マリ専用のISと、フォル・モーントのコードギアスのナイトオブラウンズと同じような連中を出す予定です。


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蒼き流星との出会い

ごめん、予定通りにはいかなかった・・・

代わりにあの後半がスタッフの悪ふざけで世紀末救世主伝説になったロボットアニメの主人公を出すヨン。


 数時間シャトルの中で揺られ、ようやく地球へと降り立ったマリ。

 シャトルから降り、足を付けた地球の光景は、思った通りにフォル・モーントの支配下にあるように見える。

 

「一目見れば占領済みに見えるわね・・・」

 

 平然と施設内を歩き回るメガミ人達を見て口にしつつ、受付に向かい、手続きを済ませようとする。

 マリが受付の前に立てば、ヨット型の略帽を被った受付嬢が謝ってから受話器を取り、相手から何かの指示を聞いていた。マリの顔を窺った後、小さく「はい(ヤー)」と呟き、受話器を戻し、カウンターから取り出した鞄を彼女の前に出す。

 

「このお荷物は、ヒルデ・フォン・グデーリアン様の物ですか?」

 

 問われたマリは何のことだかさっぱり分からず、首を横に振ろうとしたが、受付嬢に何かメモらしき物を渡される。

 

「これもどうぞ。お客様宛のようで」

 

 言われるがままメモを取ったマリは、メモに書かれている文字がラテン語だと分かった。それも中世において、カトリック教会の文語として用いられた中世ラテン語。

 百合帝国が使う公用語は基本的にドイツ語であり、日本語や英語、地球に今現在使われている言葉は一部の地域限定である。ラテン語も使われる事もあるが、一部の者達に限られ、主に重要資料や暗号などに使われている。ラテン語、しかもその手に精通した考古学者しか読めない中世ラテン語など、単なる受付の平民出のメガミ人が読める物ではない。

 メモに短く書かれているラテン語の文字にはこう書かれている。

 【汝、この手荷物を授かり、この星の真実を自らの目に焼き付けるべし】と。

 無論、マリはラテン語に精通しており、それ以外の言葉など自在に喋られる。中世ラテン語もある程度熟知しているのだ。

 かつて自分の世界に存在していた言葉であるが、マリが若いまま四半世紀の時を向かえた頃には死語と化していた。

 

「受け取るわ。ありがとう」

 

「え、えぇ・・・ありがとうございます。あっ、次の方どうぞ!」

 

 そのメモを読んだマリはカウンターに出された手荷物を受け取り、礼を言ってから施設を後にしようと、出入り口まで向かう。

 受付嬢は渡したメモに書いてある事が気になったが、後ろに並んでいる地球に駐在目的で来た他のお客様を待たせる訳にも行かず、勤務時間終了まで職務に励むことにした。

 一方の施設を出たマリは、外に広がる光景にやや拍子抜けとなっていた。

 何気ない現代日本の町並みその物だが、歩いているのは全て女性。それも日本人的なメガミ人が大半であること。

 皆、容姿も優れており、160~170と高身長が多かった。ここを日本だと勘違いしそうなほどだ。白人系も居るが、町を歩く人数の多さでは黄色系が優っているが。

 

「あら、貴方。地球は初めて?」

 

 施設の出入り口の前で、手荷物を持ちながら突っ立っているマリを地球に初めて降りた旅行者か移住者と勘違いしてか、大和撫子と表して良いほどの黒い髪と美しい外見を持つメガミ人が話し掛けてくる。時期が夏頃にも関わらずに肌は日差しで焼けて居らず、胸も腰つきも良く、女性しか居ないこの町から一歩出れば、男性に声を掛けられること間違いなしだ。

 そんな彼女に対し、マリは首を横に振って断る。

 

「いえ、煩わせるのも何ですし。地図を見ながら行こうと思います」

 

何故かと言えば、他にも地球に初めて降り立った者達が居るのに対し、他の者には目もくれずに自分だけに声を掛けたからだ。

偶然という線もあるが、何か見られては困る不都合な物を隠す線もある。

そう考えたマリは警戒心を隠しつつ、目の前に立つ大和撫子に断りの言葉を告げる。

 

「そうなの。じゃあ、あんまり”租界”から離れちゃ駄目よ」

 

「租界?」

 

 租界と言う言葉を聞き、マリは大和撫子にその事を聞いた。

 

「えっ、知らないの?租界って言うのは私達が今居る場所の事よ。外にいる人間達には女性専用区画って事で通してるけど。まぁ、外にいる人間達にそんな事言っても信じないと思うけど。租界を知らないって、貴方海王星の出身?」

 

「あ、そうです・・・では、自分はここで・・・」

 

「あら、そうなの。じゃあ、租界の外では用心してね」

 

「はい、どうもです・・・」

 

 目の前に立つ大和撫子から租界についてある程度の情報を得ると、礼を言ってから立ち去った。

 何故立ち去ったと言えば、フォル・モーントに取って不都合な物を見た時、相手がスパイであった場合、拘束される可能性があるからだ。拘束されて連行された後、何かされる場合もある。そうこの場にいるメガミ人達が信用ならないマリは、近くにある租界の地図に目を通す。

 租界を囲むように蔽が並べられており、外に居る人間達から見られないようにしている。

 出入り口は四カ所に限られ、メガミ人ならいつでも出入りは可能だが、人間は許可がないとは居られない仕組みとなっている。

 

「それで租界って訳か・・・メガミ人居留地って事ね」

 

 条約改正で西暦1899年、日本で言えば明治32年まで続いた外国人居留地に例え、今入り場所を租界、つまりメガミ人居留地と表した。

 図面を覚えた後、マリは租界の外へ出るため、南の出入り口まで足を運んだ。

 道中、租界の中にある街は賑やかな物であり、地球をまるで自分達が住む土地のように暮らしているように見えた。

 

「(大分賑わっているわね・・・外の様子はどんな物かしら?)」

 

 街の賑やかな様子を歩きながら眺めつつ、出入り口まで足を運ぶ。

 南の出入り口へと辿り着けば、マリが思った通りに厳重な検問が敷かれていた。

 ボディアーマーやカバー付きPASGTヘルメット等の戦闘用防具を身に着け、先程の施設の警備兵と同様にHK G36アサルトライフルを持っており、引き金がいつでも引けるようトリガーガードに人差し指を当てている。おまけにハンヴィーと呼ばれる軍用車両も何台か駐機し、上部に搭載されている恐ろしい連射性を誇るM134ミニガンが銃口を輝かせている。

 そんな厳重な検問を眺めつつ、マリは外に出るために検問を通る。

 当然ながら呼び止められ、検問を警護する兵士がマリに身分証明書を見せるよう問い掛けてくる。

 

「許可無く租界の外へ出ることは禁じられています。身分証明書を出してください」

 

 問われたマリは、手荷物の中に入っている身分証明書となる手帳を取り出し、それを開いて目の前に立つ兵士に見せる。

 

「ヒルデ・フォン・グデーリアン様、名前からして貴族の方ですか。外出は仕事か観光ですか?」

 

「観光よ」

 

「観光で。では、外出を許可します。治安は良いですが、最近何かしらと租界から出て来る者達を狙う輩がおりますのでご注意下さい。それでは、お気を付けて」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 外出目的を問われた偽名を名乗ったマリが「観光」と答えれば、兵士は注意してから彼女が外出許可を出す。

 それを笑顔で受け取って礼の言葉を述べたマリは、開かれた門から租界を出て、外の世界に足を踏み入れた。

 

「以下にも普通の日本の街って感じね」

 

 街を歩く黄色人種である日本人の男女を見て、マリは以前行ったことがある日本の街並みみを思い出し、それに例えて口にする。

 彼女が行った通り、特に変化もない日本の街並みであるが、よく目を凝らせば、信じられない光景が目に入った。

 

「なにあれ・・・?」

 

 その光景を人混みの中から見付けたマリは、ダーク・ビジョンを使って確認した。

 そこにあったのは、チンピラ風の男を通わしそうな女性が恫喝する光景であった。

 普通なら逆であるが、月で女性しか使えない機動兵器であるISが台頭し、女尊男卑の世界になっていると聞いていたマリだが、これには驚きを隠せないで居た。

 チンピラ風の男は土下座をしながら腕組みをする女性の前に札束を出し、「見逃してくれ」とみっともなく頭を下げている。

 札束を受け取った女性はその場を立ち去り、男はそれを確認すれば立ち上がって路上に向けて唾を吐く。

 一部始終を見ていたマリは、ダーク・ビジョンを解き、皮肉を漏らす。

 

「まさかここまでとは・・・この世界における男は奴隷的な存在かしら?」

 

 皮肉を漏らした後、この世界における情報を収集すべく、近くの新聞や週刊誌等を売っているコンビニへと向かった。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 コンビニへと入れば、店員の挨拶と電子音が耳に入ってくる。

 店内へ入った彼女は、早速雑誌コーナーへと足を運び、情勢関連の雑誌を手に取り、それを読み始める。

 週刊誌と言っても、殆どスキャンダルやゴシップ、政治に関連性が無いコラムばかりで得られる情報は少なすぎるが、この世界の情報を殆ど知らないマリに取っては収拾すべく情報源の一つだ。

 一ページずつ早読みで捲っていく中、マリの興味を引く特集があった。

 

「ISを唯一動かせる男、織村一夏は性同一障害者か?へぇ、男がISを動かせるんだ・・・」

 

 この時、マリは初めて唯一男でISを動かせる少年、織村一夏(おりむら・いちか)の存在を知る。

 後程彼と対面するとは、まだ彼女は知るよしもない。

 詳細を調べる内、記事を書いた著者の憶測な物ばかりであった為、読んでいる内に飽きてしまい、読むのを止めてしまった。

 

「あーぁ、週刊誌特有の盛り上げるためのガセネタ・・・ろくな情報も無いわね」

 

 そう言って手に取った雑誌を戻すと、マリは更なる情報を入手すべく、日本地図を購入してからコンビニを出た。

 外へ出れば購入した地図を早速開き、情報が集まりそうな場所である図書館を目指す。

 足を運ぶこと数分後、図書館へとたどり着いた。

 

「ここならマシな情報が入りそうね」

 

 図書館を眺めながら呟いたマリは図書館へと入り、ISについての情報を集める。

 

「へぇ・・・今から十年前に・・・」

 

 ISについての情報を仕入れた後、今から十年間の間に起こった出来事を知るため、過去に出た新聞が閲覧できる場所へと移動した。

 

「白騎士事件・・・ISが初めて世界に現れた・・・」

 

 まず彼女はISが初めて世界に現れ、世界の軍事バランスを覆した事件の詳細を知った。

 それを確認すれば、改革に日本の再軍備、軍備増大、日本と大韓民国、朝鮮民主主義共和国との戦争である第二次朝鮮戦争、西南戦争以降の大規模なクーデターなどを見ていく。

 数時間以上立てば、ISが登場して十年間の経歴を確認したマリは「これで十分」と判断し、新聞を戻してから図書館を後にした。

 

「何処に行こうかしら?」

 

 図書館から出て歩道を歩くマリは目的の情報収集も終えたところで、何をしようか悩んでいた。

 まだ昼の時間帯であり、人通りは多い。

 それに朝食も昼食も持っていなかった為、腹を満たすためにデパートへ行くことにする。

 

「ランチにしちゃいましょ」

 

 一人でそう呟き、近くのデパートを目指して足を動かす。

 数十分後にはデパートへ到着し、他の物には目もくれず、飲食フロアを目指した。

 気に入った洋食店へと入り、そこで腹を満たすことにする。

 席について接客に来た店員に食べたい物を注文すれば、ドリンクバーで紅茶を淹れ、席に戻ってから嗜む。

 それから数十分、腹を満たしたマリは会計を済ませてから店を出て、気紛れに決めた場所へと向かおうとする。

 だが、向かおうとした矢先、聞き覚えのある男の声に呼び止められた。

 

「随分と長い寄り道をしていたそうじゃないか、少佐殿」

 

 その声に反応したマリは即座に振り返り、声を掛けた男を見た。

 

「よっ、久し振りだな。復讐を忘れて観光かい?」

 

 軽口を叩く男の正体は、前の世界であるパクスでは姿こそは見せなかったが、援軍という助け船を寄こしたガイドルフ・マカッサーであった。

 パクスの時は文章しか寄こさなかったガイドルフに、マリは声も発することなく目の前に立つ浅黒い肌の男を睨み付け、殺意を放つ。

 そんな殺意を放つマリに、ガイドルフは全く気にせず、平気で軽口を叩いた。

 

「そう再会して早々、殺気を放ちなさんなって。まさか寄り道するなんて思わなかったんだ、それに死んだことになってるってこともな。随分と上手い手だ。連中、あんたが死んでるって本当に思ってるぜ?」

 

 自分が死んだことになっている事を知っているガイドルフに、マリは驚きの表情を隠せないで居たが、この男に対しては一切の言葉を放たず、ただ睨み付けているだけである。

 

「ノーコメントって訳か。寂しい女だな・・・それはそうだ」

 

 睨んで殺気を放つだけのマリに対し、ガイドルフは苦言を漏らした。

 話題を切り替えるためか、懐からある資料を出す。

 

「あんた、この世界について調べてただろう?」

 

 自分がこの世界についての情報を収集していた事を口にしたガイドルフに、マリは眉を歪める。

 

「図星か・・・週刊誌や図書館に保管してある過去十年間の新聞なんかアテにならん。なんたってこの世界を影から支配している百合帝国の残党が世間の皆様に漏れないようにしてるからな。この資料は月にいる影の支配者共が驚く程の物が書かれている。集めるのに苦労したぜ」

 

 そう言って、ガイドルフはマリがパクスにいる間に集めた資料を彼女の前に出す。

 資料を礼も言わずにマリは手に取り、それを読み始める。

 

「第二次朝鮮戦争・・・世間じゃ、戦後最大で生まれ変わった日本の初の大勝利と騒いでいるが、戦争ってのはいつでもつらい物(もん)さ。脱走兵やら味方同士の殺し合い、虐殺なんかやらの都合が悪い物は全部隠してやがる。まぁ、俺の手に掛かれば軍が隠してることなんか分かっちまう物だがな」

 

 資料を読んでいるマリに、ガイドルフは集めた資料の苦労さを自慢げに話すが、彼女は全く聞いていない。

 

「ISが初めて登場した白騎士事件なんかは、死傷者0なんて大層に言ってるが、死傷者が出ている。それに乗ってた女はその事で酷くショックを受けていてな、罪滅ぼしに被害者の遺族全員に送金なり、謝罪周りなりしているそうだ」

 

 マリが知らないことまで告げた後、煙草を取り出し、一本加えて先に火を付けて煙草を吸う。

 煙を吐いた後、ガイドルフはマリに渡した資料をどうするかどうかを彼女に任せる。

 

「その資料をどうするかどうかはあんた次第だ。警察なり情報機関なり届けてるが良い。まぁ、月に居る連中の息の掛かった奴等に揉み消されちまうがな」

 

 ガイドルフが煙草を吸いながら告げれば、マリは資料をある程度読み終えた後であり、資料を一目見た後、持ってきた鞄に入れ込む。

 

「読み終えた後でどうするかだな。それじゃ俺はここからずらかるぜ。ちょいとヘマをやらかして、月の連中に目を付けられているようでな。じゃ、無事に能力を見付けられることを祈る」

 

 自分だけに無口になるマリに、ガイドルフは煙草の灰を携帯型の灰皿に灰を落として別れの言葉を告げれば、煙草を咥えながらその場から立ち去った。

 

「ストーカー・・・」

 

 再び目の前に現れ、資料を渡せば背中を見せて立ち去っていくガイドルフに、マリはストーカー呼ばわりした後、気紛れにデパート内を歩き回る。

 大方デパート内を回れば、地図を取り出し、この地域の場所を調べる。

 

「IS学園?」

 

 湾の中に、人工島があった。そこにはIS学園と書かれている。

 気になったマリは書店へ足を運び、IS学園関連の本を読み漁る。

 

「へぇ・・・ISの操縦者を育成する高校なの」

 

 読み漁った本で、IS学園がIS操縦者育成用の国立特殊学園であることが分かる。

 学園の土地はどの国家機関にも属さず、いかなる国家や組織であろうとも学園の関係者には一切干渉できない国際条約まであり、それゆえ他国のISとの比較や新技術の試験にも適した面で重宝されている。

 ここに通うのは成人女性ではなく、15~18歳の少女達だ。唯一男性でISを動かせる少年、織村一夏もこの学園に通っている。女性でしかISは動かせない為、教師も女性しか居ない。

 その事が分かったマリは、屋上にある展望台へと上がり、双眼鏡からIS学園を見る。

 

「これがIS学園ね」

 

 IS学園がある人工島を見たマリは、そう呟いて興味を持つ。

 学園本館の隣に、未来都市のような施設があった。

 気になって地図を調べてみたが、なにも記載されておらず、携帯端末を取り出そうにも、鞄には入ってはいない。

 諦めたマリは潤すべく、自販機まで向かおうとする。

 下に降りている最中、下から日本では聞くことが筒底はない連発した銃声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

 銃声に反応したマリは様子を確かめるべく、屋上から下の階まで降りようとしたが、日本では手に入らないであろうアメリカの小型短機関銃イングラムM10を持った男が前に現れた。

 銃口は彼女の方へ向いており、安全装置も解除され、いつでも撃てる構えだ。

 

「動くな!」

 

 覆面を着けている男は小型の短機関銃の銃口をマリに突き付け、動かないように告げる。

 数秒後、男の後ろからは様々な銃を持った男達が屋上に入り込んできた。

 どうやらこのデパートに入り込んだ武装した男達は客達を人質に取って、立て籠もる気だ。

 銃を持った男達を見た屋上にいる客達は悲鳴を上げたが、一人の良く紛争地域で見られるAK系統の突撃銃を空に銃口を向けて数発ほど撃ち、客達を黙らせた。

 

「テメェ等!静かにしねぇと鉛玉ぶち込むぞ!分かったら一カ所へ集まれ!!」

 

 発砲した男は客達に向けて怒鳴り散らし、一カ所へ集まるよう指示を出した。

 マリは隙あれば周囲にいる強盗達を倒すことが出来たが、白い学生服を着ている女子高生の髪を掴んだ強盗がおり、下手に動けば彼女の危険が及ぶと思い、手を出すことが出来ず、大人しく従うことしかなかった。

 人質達が集められている場所へと、手を挙げながら移動し、そこでチャンスを待つことにした。

 途中、女子高生の髪を掴む二連装散弾銃を持つ強盗を、M14自動小銃の民間モデルを持つ男が注意する。

 

「おい、IS学園の生徒は大事な人質だぞ!丁重に扱え!」

 

「ちっ、分かったよ!」

 

 注意された散弾銃を持つ強盗は舌打ちをして女子高生の髪から手を離し、代わりに腕を掴む。

 どうやら、捕まっている女子高生はIS学園の生徒のようだ。

 

「人質を前に出して狙撃が出来ないようにしろ!」

 

 AK-103突撃銃を持つサングラスを掛けたリーダー格のバラクラバの男は、狙撃対策のために仲間に人質を盾にするよう指示する。

 仲間が指示通りに動いたのを確認すると無線機を取り出し、他の場所にいる仲間に問う。

 

「こちらA1、屋上は抑えた。一階と地下はEチームが抑えている。B1はどうだ?」

 

『こちらB1、二階は抑えた。目標の女は見付からない!オーバー』

 

『こちらC1、三階を抑えたが目標は見付からず!』

 

『D1、四階は抑えてる。こっちは女を見てない!』

 

「クソッ、あのちくり屋、ガセネタだったら頭を吹っ飛ばしてやる!なんとしても見つけ出せ!アウト!」

 

 目標の女を捕らえる為にデパートに武装して乗り込んできたようだ。

 それを確認した後、マリはチャンスが来るのをひたすら待つ。少しでも情報を得るべく、彼女は強盗の装備を見る。軍用銃も幾つかあるが、殆どは密造された物だろう。

 銃をマリ達に突き付けている者達以外の者達は大半が銃口を上に向けるなりしていたが、何名かは銃口を足に向けていた。

 この動作を取っていると察するに、元軍人だ。

 ISの登場か、はたまた前の戦争で退役した将兵が金銭に困って起こしたのだろう。

 動きが組織的であると言うことは、入念に計画を立てて装備も長い期間を掛けて集めた人質作戦を取ったと思われる。

 そう思ったマリは、更に情報を得るため、強盗の装備を見ていたが、サイレン音が耳に入ってきた。

 

「おい、サツのお出ましだ!」

 

「予想通りに来たな。お前等、サツが入らないように人質を前に出せ!」

 

 見張り台に立つ男がリーダー格に知らせれば、リーダーは無線機を手にとって、他の階に居る仲間達に指示を出した。

 その時、リーダー格が持つ無線機がアラートを鳴らした。

 

「なんだ?」

 

『こちらD4、女を捕まえた!何人かやられたが人質を取れば楽勝だったぜ!計画通り、今すぐ屋上へ連れて行く!』

 

「よし、これで外国に高飛びだ。警察と交渉を始める!」

 

 良くそれを耳にしていたマリは、強盗達が目標の女を捕まえたことを知った。

 他の人質達にも聞こえているが、銃を向けられて動きが取れない以上、意味がない。

 数分後、強盗達に囚われた女がマリ達の前に姿を現した。

 その女はこの世界ではかなり名の知られているIS乗りであり、現IS学園教師の織村千冬(おりむら・ちふゆ)であった。

 これには人質達は驚きを隠せず、鋭い吊り目に、黒いスーツが似合う長身とボディラインが特徴的な彼女の名を口にする。

 

「織村千冬だ・・・!」

 

「IS学園が近いからなの・・・!?」

 

「初代モンド・グロッソの優勝者を人質に取るなんて、あんた等正気なの!?」

 

 口々に人質達は、人質にした女性に手を出したことが、どれだけ愚かしいことなのかを強盗達に向けて言い立てる。

 それに苛ついてか、イングラムM10を持つ覆面の男が空へ向け、持っている銃を乱射した。

 

「うるせぇぞ!IS学園の関係者だか、モンド・グロッソの優勝者なんか関係ねぇんだよ!テメェ等は黙ってろ!!」

 

 連発した銃声で悲鳴を上げた人質達は、床に伏せる。

 それを見た千冬は銃声に臆せず、鼻で笑ってから平然と口を開く。

 

「フッ、何人かは統率が取れているが、他はチンピラだな」

 

「んだと?このアマ・・・!偉そうにしやがって・・・!」

 

 覆面の男は千冬に銃口を突き付けようとしたが、これを徴発と見抜いたリーダー格の男は、覆面の男を抑えた。

 

「よせっ、こいつは徴発だ!徴発は止して貰おうか、ブリュンヒルデさん」

 

 その名を口にしたリーダー格は、銃口を慣れた手付きで千冬に向けながら告げる。

 銃を向ける男にブリュンヒルデと呼ばれた千冬は眉を歪め、鋭い目付きで目の前にいる銃を向ける男を睨み付けた。

 どうやら、ブリュンヒルデと呼ばれることを嫌っているらしい。

 話を変えたのか、千冬は強盗達に人質を解放するよう説得を始める。

 

「貴様、その素振り、元軍人だな?IS学園の関係者を人質に取れば、どうなるか承知の上でか?今すぐ人質達と私を含めるIS学園の関係者を解放すれば、死刑にはならないよう取りはからってやるが?」

 

 自分を含めた人質達を解放すれば、死刑だけは勘弁してやる。

 そう説得する千冬であったが、リーダー格はそれを鼻で笑って断った。

 

「失礼だが、織村先生。我々は死を覚悟している。俺はあの戦争を生き抜いた。だが、軍は何の勲章も出さず、俺を軍から追い出した。三年前のクーデターに参加したが、失敗して追われる身だ」

 

 自分がこの人質事件を起こした経緯を話すリーダー格。

 表情をバラクラバやサングラスで見せないリーダー格は更に続ける。

 

「三年にも及ぶ潜伏生活は酷い物だった。だから俺はお前等を人質にして、多額の退職金と慰謝料を貰うって訳さ」

 

「金が目的か・・・!」

 

「そうだ、政府と軍は俺達退役兵に慰謝料を払うべきだ。申請しても奴等は払いもしない。だからこれで申請してるって訳よ。その金で高飛びすりゃ、解決だぜ」

 

 自慢げに語るリーダーに、千冬は拳を握る。

 そんな時に、リーダーが持つ無線機が鳴った。

 

「どうした?」

 

『こちらC7!トンファーを持った男が!ギャッ!!』

 

「おいどうした!?応答しろ!一体何が起こってるんだ・・・?」

 

 悲鳴と共に通信が途切れたので、リーダーはやや動揺を覚える。

 マリはこれを好機と見たが、動き出すにはまだ早い。

 

 

 

 一方、強盗の仲間を倒したトンファーの男は、次々と出て来る強盗達を倒しつつ、屋上を目指していた。

 男は青い髪とガッチリした体格を持つ青年であり、身長は182㎝と高身長だ。

 身のこなしは抜群で、銃を持った強盗達が、各々が構える銃を撃つ前に素早く接近して武器であるトンファーを器用に使って殴り倒す。

 

「な、なんて野郎だ!」

 

「こっちは銃だぞ!」

 

 強盗達はそれぞれが持つ銃を青年に向けて撃つが、青年はそれを避け、素早く動いて接近してトンファーで次々と強盗を殴り倒していく。人質を持ち出して投降するように応じる強盗も居たが、投げられたトンファーで呆気なくやられてしまう。青年は易々と屋上まで続く防衛線を突破していく。

 やがて、最上階にまで上り詰める。

 待ち伏せていた強盗達が十字砲火を浴びせるも、青年は煙球を投げ込み、強盗達の視界を奪う。

 

「スモークグレネードか!?グワッ!」

 

 強盗の一人が叫んだ途端、トンファーによって殴り倒された。

 他の強盗達も次々と倒され、たった一人のトンファーを持った青年に、屋上まで続く階段の守りを突破されてしまった。

 

 

 

「クソッ、CチームとDチームの誰からの応答がねぇ!B1とE1!何名か増援を寄こせ!!」

 

 冷静さを失い始めたリーダーは、一階と二階にいる仲間達から増援を出すように無線で伝える。

 これを好機と見たマリは、目の前で視線をリーダーの方へ向けている強盗の首をへし折り、強盗がサイドワームとして持っているベレッタPT92自動拳銃を奪い取り、安全装置を外して屋上で狙撃対策をしている強盗達へ向けて撃った。

 瞬く間に狙撃対策を担当していた強盗達は、頭に9㎜パラベラム弾を一発ずつ撃ち込まれ、床の上に倒れ込んだ。

 

「てめぇ!」

 

 仲間を数人ほど撃ち殺したマリに、強盗は怒りで猟銃であるレミントンM700を撃とうとしたが、彼女の方が早く、数発ほど撃ち込まれて絶命する。

 マリが強盗を次々と仕留める中、千冬も反撃に転じ、近くにいた強盗が彼女の方へと向いたのを見てからその強盗の頭を掴み、背負い投げをして床に叩き付ける。

 千冬の脅威に気付いた強盗達は彼女にも銃を向けるが、やはりただ者ではなく、次々と殴り倒されていく。

 銃を撃った者が居たが、千冬は人とは思えない速さでそれを避け、強盗の腹に強烈なパンチをお見舞いした。

 強盗が残り三名となった所で、二人はリーダーを含める三人を倒そうと思ったが、リーダー達は幼い子供を人質に取っていた。

 

「動くな。この餓鬼の頭を吹っ飛ばすぞ」

 

 リーダーはP220自動拳銃の銃口を幼い少年の頭に突き付け、拳銃を向けるマリと、拳を構える千冬に向けて告げる。

 二連装散弾銃を持つ強盗は一カ所に集められた人質達にも銃口を向けており、二人は迂闊に手が出せないで居た。

 

「良くも仲間をやってくれたな。本当にお前等二人はただじゃ済まさんぞ!」

 

 リーダーが二人に向けて告げている最中、エレベータから上がってきた各々の強盗達が持つ銃をマリと千冬に向けてくる。

 絶体絶命と二人が思ったとき、階段からあのトンファーの青年が現れた。

 

「あいつは・・・!」

 

 一人が銃を向けて撃とうとしたが、青年は銃を撃つ前に接近してトンファーで殴り倒す。

 続けて数名以上を連続で倒し、瞬く間に増援を全滅させれば一気にリーダーの所まで向かってくる。

 

「動くな!餓鬼と人質が・・・!」

 

 リーダーは少年の頭に銃口を突き付けながら青年に警告するも、もう既に近付かれてしまった後であり、頭をトンファーで殴り付けられて吹き飛び、他の二人も蹴られるか殴られるかで倒されてしまった。

 

「す、凄い・・・!」

 

「好みのこなし・・・何処の所属だ・・・?」

 

 強盗達を制圧した青年に、マリが驚きの声を上げ、千冬が所属を問う中、その青年は千冬の問いには答えず、IS学園がある方向へと歩き出す。

 そして、IS学園を指差すと、青年は固く閉じていた口をようやく開いた。

 

「俺の名はエイジ。あの人工島、IS学園は狙われている!」




ガイドルフ、クソ久々な登場。

それにあのエイジさんが登場。

「僕の名はエイジ。地球は狙われている!」


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私のIS

前回のあらすじ。

エイジ「俺の名はアルバトロ・エイジ・アスカ。地の底から蘇った男だ!!」

今回はマリのISが登場。ラウンズみたいなのも登場します。

それと、学園の守護者の作者様から借りた主人公「五十嵐裕也」も登場・・・!
尚、設定は変わってます。


「どういう事だ・・・?」

 

 エイジと名乗る青年に対し、千冬は問う。

 マリも興味本位で拳銃を床に置き、煙草を吸いながらエイジの話に耳を傾ける。

 

「言ったとおりだ。あの学園は、ある者達から狙われている」

 

「ある者達?それは一体・・・?」

 

「今の貴方に言っても分かりはしない。それにあそこに駐屯している部隊でも太刀打ちは出来ないだろう」

 

 再び問い掛けてくる千冬に対し、エイジはそう答える。

 それにあることを思い出したのか、千冬はそれを口にする。

 

「まさか、”異世界の類”か・・・!”月の連中”から聞かされていたが、もう突破される寸前とは・・・」

 

 千冬が口にしたことに、エイジは無言で頷く。

 尚、千冬が月の連中こと「フォル・モーント」と関わりがあるようである。

 詳しい話が聞けると思ったが、H&K MP5SD6短機関銃を持った警察の対テロ部隊が割り込み、エイジに銃口を向け、中断させた。

 一方のマリは、疑いを持たせないために近くの銃を蹴飛ばし、人質のフリをする。

 

「動くな!お前もテロリストか?!」

 

「その時は俺達の仲間も学園に居る。俺も来る。その時にまた会おう!」

 

 銃口を向ける隊長から問われるエイジは一切動揺することなく、最後に言いたいことを千冬に伝え、転落防止の策へ向けて走り出した。

 

「ま、待て!動くな!!」

 

 銃を向けて柵に向けて走るエイジを止めようとする隊長と隊員達であったが、彼は対テロ部隊に一発の銃弾を撃たせることなく屋上から飛び降りた。

 

「自殺か・・・?」

 

 一人の隊員がそう呟いた途端、青い人型の10m前後の機体の肩に乗ったエイジが姿を現した。

 

「あ、IS!?」

 

 驚きを隠せず、隊員達はそのISと似ても似付かない機体をISと誤認する。

 おそらく、新型のISと誤認したのだろう。

 エイジは正体不明の機体のコクピットである頭部のキャノピーを開け、それに乗り込み、キャノピーを閉めれば、マリ達が居るデパートの屋上より高く上昇し、機体を戦闘機形態へと変形させた。

 どうやら、彼の愛機となるその機体は可変系機のようだ。

 隊長が無線機で軍に出動要請を掛ける中、愛機に乗ったエイジは何処へと去っていった。

 

「一体なんなんだ・・・?」

 

 あっと言う間に見せない距離まで過ぎ去ったエイジの愛機を見て、千冬はそう呟いた。

 その後、デパートを占拠したテロリスト達は対テロ部隊に逮捕されて事態は収拾。

 翌日、市民達はまるで何事もなかったかのようにいつもの暮らしを再開させた。

 

 

 

「これがIS・・・」

 

 デパート立て籠もり事件から二日後、マリは日本にあるISの試験場へと来ていた。

 当然ながらIS企業の試験場であり、一般人は入れない物だが、マリが入れたのは、フォル・モーントが持たせた特別な許可証があっての事である。

 

「鳥よりも自由に飛び回ってるけど、VTOLとどう違うのかしら?」

 

 マリは近くに立っている女性研究員に、VTOLとISがどう違うのかを問う。

 無論、ISはフォル・モーントでも採用されているが、織村千冬の弟「織村一夏」と言うイレギュラーの存在もあり、余り姿を見ていない。

 偶然に、マリは地球に来るまでIS等、写真か映像、資料でしか見たことがなかったのだ。

 

「はい。VTOLは自由自在に飛行が可能ですが、手足のようには動かせません。ですが、ISは手足のように自由自在に飛行が可能です」

 

 問うに対して答えた研究員に対し、マリはISに興味を抱き、「乗ってみたい」と研究員に告げた。

 

「えっ、乗ってみたい?良いですけど・・・適性検査を受けてから・・・」

 

「適性検査?」

 

「はい。ISは女性なら誰しもが乗れるというのは限らないので・・・」

 

「ふむふむ、女なら乗れるって限らないの」

 

 研究員の口から放たれた適性検査と言う言葉で、マリは自分の顎に手を添え、思考を回す。

 数秒ほどで考えが纏まれば、マリは単純明快な事を口にした。

 

「まっ、乗ってみれば分かるでしょ」

 

「はい・・・?」

 

 マリが言った事を理解できてない研究員は疑問を抱き、首を傾げた。

 その数分後、マリはISスーツと呼ばれる操縦者に必要な専用のスーツを身に纏い、適性検査も受けず、量産型で訓練用である日本製IS「打鉄(うちがね)」の前に立っていた。

 スーツはマリの身体のラインを浮かばせる生地が薄く、彼女が歩く度に豊満なバストが揺れ、同姓の研究員達ですら目のやり場を困るくらいの物である。

 研究員達に止められたが、彼女は「受けない」と何度も振り払い、諦めさせた様子だ。

 そんな研究員達が見守る中、マリは打鉄に背中を向け、両手を伸ばした。

 

「う、嘘・・・!未知数なのよ!?」

 

 研究員達が予想の範囲を超える事態が発生した。

 それは、適性検査も受けていないマリがISを纏った途端、彼女等が驚くべき適性数値を叩き出したからである。

 IS適性と呼ばれるランクには、C~Sのランクが存在する。Sは初めにISを動かした千冬か、ヴァルキリーと呼ばれる者達でしか持っていない。

 マリはISを身に纏った途端に、高ランクである「A」の数値を叩き出したと言う訳だ。

 研究員達が驚きの声を出す中、そんな彼女等にお構いなしに、打鉄を身に纏ったマリは早速、開いた天上のゲートから勢いよく飛び出し、空を自由に飛び回る。

 

「これって、本当に欠陥品なの?」

 

 まるで手足のようにISを動かすマリは、自由に空を飛び回りながら通信機でオペレーターに向けて告げる。

 操作方法は既に覚えてしまったようだ。

 

『そんな事はないと思いますが・・・』

 

「でも欠陥品って言えるかも。バルキリーより弱そうだし」

 

『ば、バルキリー?』

 

 物足りない感覚を覚えたマリはISとバルキリーを比べ、後者が優秀と判断する。

 当然ながら、オペレーターは可変戦闘機であるバルキリーなど一切知らず、戸惑いを覚える。

 数分間、慣らしで飛び回った後、訓練用の標的に向け、アサルトライフルで撃ち始める。

 あれ程校則で動いているのに対し、狙いは正確であり、的の中央を確実に撃ち抜いていた。

 もちろん、このような常人離れした技を見せたIS乗りは手に数える程しか居ない。

 次は接近専用の武器であるブレードを出し、標的を確実に切り裂いていく。それも的確に急所を。

 これを見た研究員達と試験官は、驚きの余り声が出せないで居る。

 更に調子に乗ったマリは試験場から飛び出し、近くを飛行していた日本国防空軍機に向かった。

 これには流石にオペレーターから「待った」の言葉が掛かる。

 

『待ってください!009号機!そこには空軍の哨戒飛行中の戦闘機二機が!!』

 

「ちょっと、挨拶に行くだけじゃない」

 

 そう言って通信をOFFにした後、マリは全速力で哨戒中の戦闘機二機に向かった。

 

 

 

「異常なし・・・調子はどうだ、新米?」

 

 一方、マリが近付いてくることを知らない日本国防空軍の戦闘機F/A4「紫電」に乗り込む日本国防空軍IS学園防空戦隊第三大隊大隊長である五十嵐裕也(いがらしゆうや)空軍少佐は新米パイロットである少尉を引き連れ、哨戒任務に当たっていた。

 F/A4「紫電」とは、F3戦闘機の後継機である対IS戦闘を想定した第6世代の戦闘機である。

 戦闘力は対IS戦闘を想定しているだけであって高いが、それを操るパイロットは航空自衛隊からの古株である裕也以外性能頼りであり、空軍の戦闘力は大幅に低下してしまっている。

 空軍だけの話ではなく、陸軍や海軍も元自衛官一斉退役によって低下しているのだ。

 かつての自衛隊より弱体化しつつある国防軍に、どうして裕也が残ったのかは、自衛官時代から続く専守防衛の信念であろう。

 彼はその信念を再軍備化した日本国防軍になっても、忘れることなく持っている。

 退役する前の元自衛官達も持っていたようだが、度重なる戦争や暴挙で政府首脳部に呆れ、国防軍を辞めてしまい、信念は薄れつつある。

 

『だ、大隊長!レーダーに異常な速度で接近する物体が!!』

 

「落ち着け、シューター17。目標を目視しろ」

 

『了解!』

 

 新米を落ち着かせた裕也は、キャノピー越しから目視で接近して来るマリが乗る打鉄を確認しようとする。

 その間にマリが操る打鉄は新米が乗るシューター17の目の前を通り過ぎ、裕也が乗る機体のキャノピーの目の前に数秒間ほど止まった。

 裕也は激突を避けるべく、直ぐに回避しようと操縦桿を動かすが、マリはそれを見て微笑み、手を振ってから彼の機体から高速で離れた。

 

「バカヤロー!!」

 

 過ぎ去っていくマリの打鉄へ向け、裕也は馬鹿にされたと思って腹を立て、中指を立てながら怒鳴り散らした。

 裕也はパニックに陥るシューター17を落ち着かせれば、哨戒飛行を中止して基地へと戻ろうとする。

 

「こちらシューターリーダーよりアルファ1へ。哨戒飛行を中止し、基地へ帰投する。さっきのISでシューター17が目を回した。これ以上任務の続行は不可能だ」

 

 新米のシューター17がこれ以上の任務続行が不可能と判断した裕也は、アルファ1のコールサインを持つ管制官に通信を繋げ、任務中止を要請した。

 要請が通れば、舌打ちして地上へ降りたときのことを考え始め、通信が聞こえない事を良いことに独り言を呟く。

 

「ちっ、地上に降りたら、あの馬鹿女に抗議してやる」

 

 そう自分の考えを口で漏らした後、今にでも墜落を起こしそうなシューター17を引き連れ、基地へと帰投した。

 

 

 

 それから数時間後、ISの性能が気に入ったマリは、フォル・モーントに自分のISを作って欲しいと申す。

 結果は昔の好であるサトコからの許可が出て、マリの専用機が作られる事となった。

 完成は開発中止の試験機をベースとし、更にISの開発者である「篠ノ之束(しのののたばね)」を呼び出すため、時間は掛かるそうだが、早くて二週間程だ。

 それまでマリは変わり果てたこの世界の日本を見るべく、租界周辺を歩き回る。

 そんな彼女の様子を、租界で一番高い建造物の屋上から眺める三人の女性と一人の幼い少女の姿があった。

 

「ねぇねぇ、あれが百合帝国の元女帝さん?絵とは大分違うんだけど」

 

 金髪でグラマラスな体型を持つ、童顔で青い瞳の女性がオペラグラスと呼ばれる双眼鏡でマリを見ながら他の二人に問い掛けた。

 眼鏡を掛けた知的で長身な長い茶髪の女性が、金髪のグラマラスな女性の問いに答える。

 

「マリ・シュタール・ヴァセレート・カイザー、私達メガミ人の国、神聖百合帝国の女帝で全てのメガミ人を総べていた支配者・・・だったけど、数ヶ月前に起こった復活したムガル帝国の襲撃により全てを失い、人間同然となった女・・・今の姿を見ていれば、皇帝時代とは偉く違うことが分かるわ。魔力は全く感じないけど、能力はある程度取り戻してるわ」

 

 問いに答える眼鏡の女性に、金髪のグラマラスな女性は感心する。

 

「ふーん、そうなの。で、実力はどんな感じ?」

 

 次に彼女は、壁に腕組みしながらもたれ掛かっている腰に日本刀を差した和服の黒髪の女性に問う。

 和服の女性も、他の二人と同じく容姿も優れており、大和撫子を体現したかのような容姿を持っていた。

 

「数日前、少数の元軍人と多数の素人の集団によって租界近くのデパートが占拠された事件がある。私もその噂を聞きつけ、駆け付けたが、織村千冬とその我らが元女帝、そしてイレギュラーの手によって既に制圧済みであった」

 

 少し話を止めて目を瞑った後、また口を動かし始める。

 

「少し顔を拝見したが、あの女帝一人でもデパートを占拠したテロリストを制圧は可能だ。その制圧に掛かる時間は、九分と言ったくらいだろう。機動兵器や生身でも、我々と渡り合えるほどだ」

 

 マリの実力が自分達以上と言えば、眼鏡の女性は掛けている眼鏡に手を当てて掛け直し、口を開いた。

 

「九分・・・あのデパートの広さと人数の計算の範囲ね・・・”三銃士”のあの疾風迅雷の()なら、三分で制圧するわ」

 

「あぁ、分かるわ。あの娘早いもんね。私、早過ぎて二回くらいしか捕まえた事無いわ・・・」

 

 眼鏡の女性が三銃士と呼ばれるその一人「疾風迅雷の娘」の事を言えば、グラマラスな女性が何か思い出し、頬に手を当てながら言い、残り二人が無言で頷く。

 ここで、銀色の髪を持ち、西洋人形のような外見を持つ幼い少女がようやく口を開いた。

 少女が持つその手には、端末が握られている。

 

「記録・・・」

 

「あら、また記録?」

 

「マメだね~」

 

 少女が放った「記録」と言う言葉に、金髪の女性と眼鏡の女性が目を向ける。

 

「戦争で死んだお母さん(ムッター)が言ってた、色々覚えなさいって。だから私は記憶する」

 

 そう二人の仲間に答えた後、端末にマリの事を記入し、記憶する。

 引き続き彼女達はマリの様子を見ていたが、持っている携帯からアラームが鳴り始める。

 

「リーダーからかしら?」

 

 グラマラスな女性が携帯を取り、連絡に出た。

 

「はいは~い、誰ですか?”ノイン・リッター”の二番手、ツヴァイですよ~」

 

 陽気に連絡に出たツヴァイと呼ばれる女性は、髪を上げて耳に携帯を当てる。

 

『私だ、ツヴァイ。貴様、任務はどうした?』

 

「あっ、アインス。任務?終わったわよ」

 

 アインスと呼ばれる連絡相手はツヴァイの陽気さに応じず、彼女の任務が終わったかを問う。

 ツヴァイはアインスに出された任務を終えたことを伝える。

 

『またか・・・そんな暇があるなら早く報告したらどうだ?皆ちゃんと任務を終えれば出している。それに騎士階級の連中がまた煩いぞ』

 

「はーい、ごめんなさい。次からはちゃんと報告しま~す」

 

 注意されたツヴァイは、面倒臭そうに搬送の言葉を適当に述べた。

 

『ふざけるな。それだから周りから言われるのだ!全く、自分が平民出なのが分かっているのか・・・では、私はアニメを鑑賞する。次からは選ばれた騎士としての自覚を持つのだぞ。分かったな?』

 

「はいはい、畏まりました。平民出の騎士、ハンナ・アスマン。次からはこのような失態は犯しません」

 

 アインスからの注意をしつこいと感じ取ったツヴァイことハンナ・アスマンは、生返事をした。

 そんな彼女の生返事に、アインスは怒りを表したが、アニメを優先して電話を切った。

 して、彼女達「ノイン・リッター」とは、フォル・モーント内で選ばれた尤も実力が高く、優秀な騎士達の事である。ノイン・リッターより上なのが、三人の強者に絞られた三銃士である。

 リッターはドイツ語で騎士なので、第三身分である騎士の階級が多いが、中にはツヴァイ平民出や貴族出身も居り、優秀で実力が高ければ、身分は問わない。

 人間であろうと、実力と優秀さを誇れば、ノイン・リッターになれるのだ。

 

 

 

 それから二週間後、遂にマリのISが完成した。

 限りがあるISコア数の中で、専用機を持つ者は特別扱いされることが多い。

 あの男で唯一ISを動かせることが出来る少年、織村一夏も自分専用のIS「白式(びゃくしき)」を持っている。

 マリも記録映像を見て、過小評価していた一夏でも専用機を持っているので、「自分も与えられるべき」と考えたようだ。して、彼女の専用ISの名は、「クウァエダム・デア」。ラテン語で永遠の女神の意味だ。

 待機状態と呼ばれるISを量子化して、いつでも展開が可能な形は、幸運(グリュック)と刻まれた指輪である。

 それを指に填めたマリは、早速試験場で待ちに待った自分の専用ISを身に纏う。

 忽ちマリの周りを量子が包み込み、身に着けている衣服がISスーツへと替わり、頭部以外の全てにパーツ類が身に着けられる。

 数秒後、クウァエダム・デアを装着した彼女の姿があった。

 直ぐさまマリは、試験場にある射撃目標まで飛び、量子から主兵装であるビームライフルを実体化させ、それをマニュピュレータで取り、均等に並べられた的を撃つ。

 銃口から高熱で強力なビームが発射され、的へと放射線を描きながら飛んでいく。狙いは正確であり、的はビームに当てられて消滅した。これを見たマリは、ビームライフルの威力の高さに驚きの声を上げ、感心する。

 

「凄い威力・・・まるでモビルスーツみたい」

 

 乗ったことがあるZガンダムやガンダムMkⅡのビームライフルの威力と比べる。

 次に別の兵装を選ぶため、自分の視線の前に現れた画面に次の兵装を選ぶ。

 選んだのはバズーカであり、実弾かビームかが選択が可能であった。彼女がどちらを選ぶとすれば、両方であろう。迷わず彼女は実弾とビームの両方を選んだ。

 試射する為、やりがいがある的を探し、それを見付ければ直ぐにバズーカを実体化させた。

 

「結構ごついわね。それじゃ・・・どーん!」

 

 左手に持っているバズーカを見て感想を述べた後、バズーカを大型の標的へ向け発射した。

 少しの反動とバズーカ背面の排出口からガスが吹き出し、方向からロケットが発射され、標的へ向かって飛んでいき、命中する。威力は絶大であり、的が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 これを見たマリは口笛を吹き、次にバズーカの弾種をビームに切り替え、同じような大きさの的を撃った。

 

「やっぱビームはやばいわね」

 

 高熱でドロドロに溶けた大型の標的を見て、その威力でビーム兵器の怖さを知ったマリ。

 次に、ライフルとバズーカを量子化させて仕舞い、スナイパーライフルを実体化させる。

 狙撃の前に、マリは標準兵装である両腰に付いている20㎜機関砲二門の試し撃ちを行う。

 MG151機関砲に似た二門の20㎜機関砲が標的に向けて発射され、命中した20㎜弾が的を粉々にしていく。

 火力と命中率の高さを気に入ったマリは、次にマニュピュレータに握られたスナイパーライフルの試し撃ちを行う。

 的にするのは800mにある戦車用の標的だ。遠い的を狙撃するためにマリはスナイパーライフルを構え、ライフル上部に装着されているスコープを覗いた。

 いつも狙撃を行うように、風力と気温、重力を脳内で計算し、左眼を瞑って右眼でスコープを覗き、ブレを抑えるために息を止める。

 照準が合えば、マリは直ぐにでも引き金を引き、スナイパーライフルを撃った。

 スナイパーライフルの弾頭は特殊な轍甲弾であり、凄まじい速度で的へ向けて飛んでいく。

 数秒後、発射された弾は薄い的の中央に命中。貫通して地面に突き刺さった。精度の高さを見たマリはライフルを量子化させ、マニュピュレータで拍手を行う。

 

「これも凄いわね。生身でも使ってみたいわ」

 

 ライフルの威力と精度の高さに感激したマリは、そう感想を述べた。

 今度は接近専用の武器であるビームサーベルと標準兵装である左腕に装着しているパイルバンカーを使うことにする。

 まずはビームサーベルを使うことにして、両足に付いてあるビームサーベルを抜き、近くの的を切り裂く。切れ味は中々の物であり、マリは直ぐに気に入る。

 

「次はこのパイルバンカー。どんな物かしら?」

 

 次にパイルバンカーを試してみる為、近くの標的に向かい、杭を突き刺そうとする。

 左腕に装着された杭は勢い良く的へ向けて発射され、見事的を貫いた。

 中々の威力ではあるが、他の兵装とは違ってマリは物足りなさを感じ始める。

 

「うーん、これはちょっと・・・」

 

 接近して装甲を勢い良く貫通できる物だが、彼女の趣味には合わなさそうだ。

 最後に残っている兵装であるビームビットを選択し、それを展開し始める。

 ビットは浮遊式の児童砲台であり、その数は合わせて六基。クウァエダム・デアの周りに浮遊し、指示を待っている。

 早速マリは何処か適当な場所にある全ての的を照準して、そこへビットを向けさせた。

 数秒後、ビットはジグザグな動きをしながら標的へ向けて飛んでいき、そこにあった的全てをビームで撃ち抜き、戻ってきた。

 

「これ結構使えるわね・・・!」

 

 その威力を見たマリは、ビットの凄さに惚れ込んだ。

 こうして、自分専用のIS「クウァエダム・デア」を気に入ったマリは地上へ降り、待機状態にさせて、元の生身にと戻った。

 ウキウキしながら廊下を歩いている最中、警備任務を受けている二人の日本国防軍の兵士の噂声がマリの耳に入ってくる。

 

「おい、聞いたか。朝鮮半島から戦艦・・・”大和”だか”武蔵”を旗艦にした艦隊がIS学園に向かってるってよ」

 

「戦艦大和か戦艦武蔵だぁ?お前、何時の話ししてんだ?戦艦なんか、ただの金食い虫だろ。なんでIS学園に向かってるんだよ」

 

 それに興味を持ったマリは、二人の兵士の話し声に耳を傾ける。

 

「将校が電話している時に聞いた話なんだがな。どうにもそれが本当らしい・・・確か、四年かそこら前に海底から引っ張り出した戦艦「武蔵」を海軍の上層部が朝鮮半島の軍港に運び出して、現代の技術で復活させようって計画があっただろ?」

 

「あぁ、あったな。三年前のクーデターでどうなったか忘れちまったが」

 

「中止だと思ってただろ?それがよ、クーデターの生き残りがこっそりとその計画を密かに続けていたらしくてな、今まさに差し親衛戦艦大和だか武蔵だかがIS学園本島に向かってるってよ」

 

「おいおい、戦艦なんざ、海に浮かぶデカイ的だぞ。何で骨董品を復活させてそんな金食い虫を復活させる必要があるんだ?」

 

「知るか。昔流行った大艦巨砲主義なんじゃねぇのか?右翼派の海軍将校はそんな主義の奴等が多かったと聞くぜ」

 

「あぁ、あの大砲がデカけりゃ良いって奴か。そんな馬鹿な(もん)良く受け継いできたな。右翼派の海軍将校の頭は帝国時代まで退化してんのか。でっ、上層部の対策は?」

 

「IS学園の防空航空戦隊と攻撃機二個大隊を送るそうだ。海軍からは第3艦隊が対応に当たるらしい」

 

「なら、俺達陸軍の出番は無いな。直ぐにクーデターの残存艦隊は地上から消え去るだろうな。それじゃ、任務に戻ろうぜ」

 

「あぁ、さぼっているのを軍曹に見られたら怒られるしな」

 

 兵士達は会話を終えれば、持ち場へと帰っていく。

 それを耳にしたマリは、クウァエダム・デアの実戦テストに丁度良いと思う。

 

「私のISの実戦テストには丁度良さそうね」

 

 そう独り言で呟いたマリはそれを実行するべく、IS学園に向かっているクーデターの残存艦隊が居るであろう方向の海岸へと走った。




エイジが乗っていたのは、幻のSPT「レイズナーMk2」です。
次回は日本国防海軍のクーデター派の艦隊とやり合う予定。

そして新稲さん、五十嵐の出番が少なくってごめんなさい!


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私は戦艦だって余裕なの!

五十嵐の活躍・・・これで良いかな・・・?


 マリが自分専用のIS「クウァエダム・デア」を試験運用している頃、IS学園がある人工島より少し離れた陸地にある日本国防空軍のIS学園防空戦隊の基地にて、ミーティングが行われていた。

 情報は収拾済みであり、対応策は直ぐに出されていた。

 試験場の警備兵が言ったとおり、IS学園防空部隊から二個戦闘機大隊に、本土から二個攻撃機大隊をIS学園に向かっているクーデター派の残党艦隊の攻撃に向かう。

 他にも、本土より発進した空軍の一個飛行団と、空母一隻を旗艦とした駆逐艦やフリゲートで編成された海軍の第三艦隊が敵艦隊殲滅のために急行している。

 既に日は沈んで月が空へ上がっている夜であり、ミーティングを行う戦隊指揮官の後ろには、ボードが置かれ、それに照明器が当てられている。

 防空戦隊に属する二個飛行大隊分のパイロット達が上官の前に集合すれば、それを確認した戦隊指揮官はミーティングを始める。

 飛行大隊のパイロット達の中には、第三大隊の大隊長である五十嵐裕也の姿があった。

 

「諸君、夜分集まってくれたのは他でもない。見ての通り緊急事態だ。クーデター派こと国粋主義派、あるいは諸君等が言う超国家主義者達が深海に沈んでいた戦艦を浮揚させて強化させた戦艦がIS学園へと向かっている」

 

 戦隊指揮官はこれから任務を行うパイロット達に状況説明を行った。

 当然ながら、現代戦では単なるデカイ的である戦艦が、自分達が守るべきIS学園に向かっていると聞いたパイロット達は笑い始める。

 それを指揮官が注意し、ミーティングを続行する。

 

「笑い事じゃないぞ。この戦艦は単なる的ではない。現在海軍の首都防衛任務に就いている現代戦艦信濃並の性能を誇っている。おそらく、朝鮮半島にある放棄された造船所で中止にされた計画を奴等が続行したのだろう」

 

 ボードに貼られている戦艦らしき艦影が映った写真を指し棒で示しながら、説明を行う。

 

「これがその戦艦だ。これを撮影した偵察機は命辛々近くの基地へ着陸した。見たところ、大和型戦艦の武蔵を模した用だが、大きさは大和型を上回る全長350mで全幅60m。主砲は良く分からないが、朝鮮半島で試し撃ちされた平地の痕跡を見れば、53口径50㎝の連装砲だと思われる」

 

「53口径50㎝?そんな大砲が詰めるのかよ。信濃なんか大和と同じの45口径46㎝連装砲のまんまだぜ」

 

 指揮官の説明を聞いてか、パイロットの一人が世界で唯一の現役である自国の戦艦の事を口にする。

 

「そうだ。現在我が国最大の艦艇である信濃すら遙かに上回る化け物だ。この大きさの艦艇の撃沈は、対艦ミサイルや魚雷を持ってしても困難を極めるだろう。そこで、君達には対艦ミサイルや対艦用魚雷を搭載した攻撃機を守って貰いたい。敵艦隊の注意は海軍の第三艦隊に引いてもらう予定だ」

 

「済みません。戦艦を沈めるなら、ミサイル駆逐艦の巡航ミサイルや潜水艦の魚雷だけでも十分なのでは?」

 

 任務の内容を説明した後、パイロットの一人が指揮官に質問した。

 

「残念ながら、標的の戦艦にはイージス艦が護衛に着いており、更に空母まで随伴し、防空も充実している。おまけに潜水艦も随伴して、対潜水艦機能も備えている。巡航ミサイルや魚雷などは直ぐに察知され、迎撃される。仮に潜水艦が戦艦の轟沈に成功したところで、その潜水艦は忽ち駆逐艦やイージス艦の餌食となるだろう。旧軍の言葉で言えば、一矢報いるとな」

 

「そうなりますか・・・済みません」

 

 そう指揮官からの答えを聞いた一介のパイロットは、自分の考えが浅はかだった事を知ってか、謝罪した。

 それからは手順が説明されたが、指揮官は腕時計を見てもうすぐ作戦開始時刻だと言うことを知り、目の前にいるパイロット達に目線を向け、口を開いた。

 

「もうこんな時間か。そろそろ攻撃隊が発進している頃だ。それでは諸君、超国家主義者の艦隊を撃ち倒し、奴等が信じ込んでいる大艦砲巨砲主義が既に廃それた物と思い知らせろ!!」

 

『了解!』

 

 その指揮官の号令と共に、パイロット達は一斉に各々の搭乗機に乗るため、駆け足で向かう。

 裕也も向かう中、腐れ縁で戦友である同僚の荒井亮太(あらいりょうた)が話し掛けて来る。

 

「おい、五十嵐!あいつ等、戦艦なんて馬鹿じゃねぇのか」

 

「あぁ、戦艦なんて、現代戦じゃ単なる的だ。第二朝鮮戦争(ユギオⅡ)で信濃に巡航ミサイルが命中して大破しかけたのにな」

 

「大艦砲巨砲主義って奴に拘るって、あいつ等の脳内は前時代に退化したのかな?」

 

「多分、退化してるだろうな。信濃がそれを証明している。生き残れよ、荒井!」

 

「おう!お前も死ぬなよ!」

 

 出撃前の同僚との会話を済ませた後、裕也は自分のF/A4「紫電」に駆け足で向かい、開いているコクピットへ乗り込む。

 シートベルトを締めて、キャノピーを閉めて操縦桿を握れば、誘導員の指示に従って機体を滑走路まで移動させる。

 まず発進するのは、裕也が率いる第三大隊だ。裕也が乗る紫電が先に発進し、その後を彼の部下が飛び立っていく。

 飛び立つ前に、裕也は部下達にブリーフィングで聞かされた作戦失敗条件を再度告げる。

 

「良いか、第一防衛ラインに入られたら終わりだ。あの大口径の主砲の射程距離はIS学園を捉えられるかもしれない。防衛ラインに入られる前に沈めろ!」

 

『了解!』

 

「よし!こちら第三飛行大隊、出撃する!」

 

 部下達の返答を聞いた後、裕也は管制塔へ離陸を通達してからスロットルレバーを全快に上げ、基地から離陸して出撃した。

 その後を部下達が乗る紫電が続き、次々と基地から飛び立っていく。第三飛行大隊が全機飛び立てば、次は同僚の亮太が乗る第四飛行大隊だ。

 数秒後、第三大隊の機体が全て飛び立てば第四大隊の紫電が滑走路へと入る。

 更に数分後、任務に当たる飛行部隊は全機基地から飛び立ち、裕也の大隊が向かう敵艦隊が居る方向への針路を取った。

 

 

 

 一方、裕也達が出撃した頃、警備の兵士達の会話からIS学園に向かっている戦艦を旗艦とした敵艦隊の存在を知ったマリは、艦隊が居る方向にある海岸線まで走っていた。

 

「後どのくらいかな?」

 

 走りながらダーク・ビジョンで距離を測りつつ、海岸の位置を確認する。

 人目に付かない森へと入れば、瞬間移動を使って目標までの距離を縮める。

 国道を通り越し、海岸まで着けば、岸まで一気に向かい、転落防止の柵を跳び越え、崖を飛び降りる。

 海へと落下していく中、マリは待機状態のクウァエダム・デアを起動させ、自分専用のISを身に纏う。

 その時間は僅か数秒、ISを身に纏ったマリは落ちる寸前に一気に海面を加速し、水飛沫を上げながら実戦テストの標的である敵艦隊が居る方向へと向かった。

 レーダーで正確な位置を把握すれば、いち早くつこうと高度を上げる。

 

「こっちの方向ね」

 

 月の光を浴びながらマリは広範囲レーダーに映る多数の赤い点を見て、位置を確認した後、赤い点がある方向へと向かう。

 途中、敵艦隊の迎撃へ向かう日本国防空軍のF3戦闘機と攻撃機型のF-35B戦闘機の編隊と遭遇したが、マリは遠慮無しに真ん中を突っ切った。

 

「邪魔!」

 

 高速で突っ切った為か、攻撃隊の編隊が乱れる。かなり恨みを買っていそうだが、マリは気にすることもなく敵艦隊へと向かう。

 近付くにつれ、砲声や爆破音が徐々に聞こえ、戦場が近い事を知らせてくる。

 中でも戦艦が放つ主砲の砲声が大きく、敵艦隊の旗艦である戦艦がどの位置に居るか分かる。

 

「そっちに居るのね」

 

 戦艦が居る方向に視線を向けたマリは、全速力でその方向へと向かった。

 途中、損傷した艦載機の着艦を受け入れている空母が見えた。

 空母の名は葛城(かつらぎ)型正規空母。損傷して収容されている艦載機は、壱式艦上戦闘機だ。

 負傷者や損傷機の収容や補給作業を行う空母の上を通過し、マリは主戦場へと向かう。

 

「見えた!」

 

 敵艦隊を捕捉したマリは全ての武装の安全装置を解除し、手近な敵を落とそうと標的を探す。

 マリが来る頃には正規軍側は劣勢であり、海面には黒煙を上げる駆逐艦やフリゲートが浮かび、助けを求める日本国防海軍の将兵達の姿が見える。

 生き残っている艦艇による救出活動は行われているが、敵艦隊は容赦なく砲撃を浴びせ、妨害している。

 それを見ていたら、敵の壱式艦上戦闘機三機がマリのクウァエダム・デアを見るや、何の警告も無しに攻撃してきた。

 

「IS目ぇ!死にやがれぇ!!」

 

 敵のパイロットは険悪感剥き出しで操縦桿のトリガーを引き、空対空ミサイルを発射した。

 当然ながらマリはそれを回避し、ビームライフルで三機とも撃墜する。

 三機を撃墜すれば、数十機や海面にいる敵艦がマリに向けて集中砲火を掛けてくる。

 ISでも避けられないほどの集中砲火が浴びせられ、流石のマリでも数発以上が当たってしまう。

 絶対防御が無ければ、一撃で撃墜されていただろう。

 周りにいるVTOLや戦闘機を一掃しようと、ビームビットを展開させる。

 展開した六基のビットは不規則に動きながら標的に向かい、標的を射程距離に捉えれば、ビームを撃ち込み、撃墜する。

 不規則に動くため、通常の戦闘機や戦闘ヘリである敵機は回避する間もなく、次々と撃ち落とされていく。

 

「うわぁぁぁ!た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 敵機のパイロットは仲間達が次々と撃墜されるのを見て、次は自分の出番だと思って恐怖に駆られ、戦場から逃げ出そうとする。

 だが、マリが逃すこと筈もなく、エンジンにビームライフルを撃ち込まれ撃墜される。

 敵機をある程度掃討すれば、今度は駆逐艦の出番だ。

 駆逐艦はISを近付けまいと、CIWSや対空機関砲、対空ミサイルを連発しているが、マリはそれを避けつつ、駆逐艦に接近する。

 

「う、撃て!奴を近付けるな!!」

 

 戦闘指揮所に居る艦長が必死で叫ぶが、マリはそれを軽やかに避け、近付いてくる。

 ダーク・ビジョンで駆逐艦の弱点を確認すれば、ビームライフルを量子化してバズーカを実体化させ、実弾にセットして、そこに照準を合わせる。

 照準が合えば、直ぐに引き金を引き、強力なロケット弾を撃ち込む。発射されたロケット弾は弱点部に直撃し、駆逐艦は真二つに割れて轟沈した。それを見たマリは、改めて凄まじい火力と認識する。

 

「凄いわね。これなら、行ける!」

 

 自信を付けたマリは、自分に向けて艦砲を撃ち込んでくるフリゲート二隻に向けて、ビットを全て差し向けた。

 ビットを撃ち落とそうと、弾幕を張るフリゲート二隻だが、小さくて高速で動き回る的に当てられる筈もなく、数秒ほどで二席とも海の藻屑と化す。

 次に潜水艦を標的に捉え、見える範囲にいる潜水艦に向けてバズーカのロケット弾を撃ち込む。

 潜水艦は海面から来る攻撃を避けようとするのだが、マリは進路を予想してそこに撃ち込み、次々と沈めていく。

 ある程度の潜水艦を沈めれば、マリは上空へと高度を上げ、戦艦を捕捉した。

 

「あれね!あの大きさはやりがいがありそうね」

 

 標的である戦艦大和より巨大な戦艦を見付けたマリは、やりがいを感じ、そこへ行こうとした。

 やはり気付かれていたのか、戦艦から主砲が浴びせられる。

 

「うわっ!?」

 

 放たれたのは対空砲弾である三式弾に似た物だったのか、マリは炸裂する寸前で砲弾をビットに迎撃させた。目の前で爆発が起こり、視界が爆煙で防がれる。煙が晴れる前に、マリは回り込もうとしたが、地上からやって来たF3戦闘機を中心とした敵航空部隊の増援が現れ、戦艦への道を塞がれた。

 

「旗艦に近付けるな!!」

 

 長機が指示を出せば、マリに向けて地対空ミサイルを一斉に発射してくる。

 飛んでくるミサイルを回避するか、ライフルやビットで迎撃しつつ、敵機を撃ち落とそうとする。

 敵編隊は直ぐに散会するが、一機は逃げ切ることなく接近され、クウァエダム・デアのパイルバンカーをコクピットに撃ち込まれようとしていた。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 パイロットは悲鳴を上げて脱出装置を作動させようとするが、マリの方が早く、発射されてキャノピーを貫通したパイルバンカーの杭に串刺しにされた。

 キャノピーが真っ赤に染まる中、マリは引き抜いて包囲して機銃を浴びせてくる敵機を撃ち落としながら海上の攻撃を回避する。

 敵機をある程度撃ち落としていると、正規軍とクーデター派の増援が一挙にこの空域に現れた。

 正規軍の増援は裕也達のF/A4戦闘機二個大隊分とF2支援戦闘機やF-35Bであり、敵は戦闘機と攻撃機の三個大隊ほどであった。

 

「正規軍側の援軍?」

 

 裕也達の部隊を見たマリはそう呟き、自分に襲い掛かってくる敵機や敵艦の対処に当たった。

 そんな矢先、部下に指示を出しや敵機との格闘戦を行っていた裕也は、マリのクウァエダム・デアを見付ける。

 

「IS?なんでこんな場所にISが・・・?」

 

 キャノピーから見えるマリのISが敵機を次々と堕としていくのを見て、そう声に出し、通信機を使って戦闘指揮所に居るアルファ1のコールサインを持つ航空管制官に問う。

 

「こちらシューターリーダーよりアルファ1へ、当空域にISの存在を確認せり。見たこともないISだが、何処の試験場の所属だ?オーバー」

 

『こちらアルファ1、ISだって?IS学園は一機も出してないって言ってるぞ』

 

「なに?じゃあ、一体あのISは何処の所属なんだ!?うわっ!クソッタレ!FOX3(フォックススリー)!!」

 

 アルファ1からの返答を聞いた裕也は、驚きの声を漏らす。

 どうやら、所属不明のISをマリ専用クウァエダム・デアとはまだ気付いていないようだ。

 そんな時に敵機からの攻撃を受けて損傷し、目の前に背中を晒した敵機を機関砲で撃ち、撃墜した。

 通信で損傷したのに気付いたアルファ1は、裕也に無事かどうかを問う。

 

『大丈夫か!?シューターリーダー!』

 

「大丈夫、ただの掠り傷だ。戦闘は継続可能。シューターリーダー、アウト」

 

 無事を告げてから、裕也は通信を切った後、前から来る敵機を照準に捉え、発射のタイミングを見計らってトリガーに指を掛ける。

 そのタイミングが来れば、トリガーを引き、空対空ミサイルを発射した。

 敵機は混戦でフレアを使い尽くしたのか、高速でミサイルから逃れようとするが、逃げ切れることもなく、ミサイルが命中し、大破する。

 ある程度の敵機を堕とした裕也はISの正体を掴もうと、敵機を撃ち落としているマリのクウァエダム・デアに出来るだけ近付く。

 

「あいつか!」

 

 正体がマリだと分かった裕也は、巻き込まれないようにそこから離れて、同僚の亮太に通信を繋ぐ。

 

「こちらシューターリーダーより、バーミリオンリーダーへ。あのISに乗ってるのはあいつだ!あの金髪の女だ!!」

 

『マジか!?哨戒飛行の時にちょっかい掛けてきたあの女か!!』

 

 裕也からの知らせに、彼からその時のことを聞いていた亮太は興奮して声を上げる。

 

『しかし、どうしてあのISなんかに乗ってるんだ?』

 

「知らん。ISの実戦試験か何かだ。どちらにせよ、迷惑なことに変わりない。ISはスポーツでもやってれば良いんだ!下から来るぞ!」

 

 亮太からの疑問に、裕也は皮肉を混ぜて答えた後、部下に敵機が下から来ていることを知らせた。

 一方のマリはと言えば、包囲して四方八方から仕掛けてくる敵機の攻撃を避けつつ、敵機を撃破していた。

 対IS戦用の戦法であるが、これを退けるマリの腕前を見て、敵機のパイロットは驚きの声を上げる。

 

「なんだこいつは!?対IS戦法が効かないぞ!」

 

 そう声を上げた後、コクピットにビームを撃ち込まれ、そのパイロットは高熱の熱で蒸発し、機体は大破した。

 通常のISなら効くはずの戦法であるが、マリには通じなかったようだ。

 それもその筈、彼女は元戦闘機のパイロットであり、この空域で戦う戦闘機パイロット達よりも遙か先の撃墜数や実戦経験を誇る撃墜王なのだから・・・

 マリは目の前に見える全ての敵機の動きを読みつつ、進路を予想してそこへ20㎜機関砲やビームを撃ち込む。

 先の世界でザシャ・テーゼナーがやっていたアフリカの星の異名を持つドイツ空軍のエースパイロット、ハンス・ヨアヒム・マルセイユの偏差射撃だ。

 しっかりとザシャの偏差射撃を見ていたマリはそれを覚え、この空戦で超人的な偏差射撃を実行したのだ。

 これには敵機のパイロット達は、自分等の動きが分かっているようなISの操縦者に恐怖を覚える。

 

「お、俺達の動きを分かってるのか!?」

 

 一人のパイロットがそう叫べば、彼が乗る戦闘機は機関砲で蜂の巣にされ、空中爆発を起こした。

 超人的な偏差射撃を敵の攻撃をかわしながら行うマリを見て、裕也は彼女が人間でないと錯覚し始める。

実際、彼女は人間ではないのだが、マリのことを良く知らない裕也達に取ってはそう思えてしまう。

更に彼等が驚き、敵の戦意が削がれるような事をマリはやってみせた。

それは敵機が特攻を仕掛けてきた後である。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 特攻を行うパイロットは、マリも道連れにしようと、全速力でクウァエダム・デアに突っ込んできたが、彼女は特攻が来るのを分かっていたが、敢えて撃墜しようとせず、相手が仕掛けてくるのを待っていた。

 特攻してくるF3戦闘機を軽やかに避けた後、マリは接近専用の武器であるビームサーベルを実体化させ、敵機の胴体を突き刺す。

 刺した部分から自動的に斬れていき、割れた敵機は大破する。

 敵機が大破した直後、マリの目に二機の敵機が同時に重なり合う瞬間が見えた。空かさずビームライフルをそこへ向け、引き金を引いた。

 

「なっ!に、二機抜きだと・・・!?」

 

 その信じられる光景を見ていた裕也は、驚愕の表情を見せていた。

 それは一発のビームで二機の敵機を撃墜したからだ。

同時に重なり合った瞬間、マリはライフルを撃ち込んだ。発射された強力なビームは一機目を貫通した後、二機目に命中した。

高速で動き回る戦闘機を二機とも撃ち抜くことなど、並の人間では出来る物ではない。

超人的な反射神経を持つ者でしか出来ぬ離れ業だ。

 

「これである程度は片付けたわね!」

 

 敵機をある程度の数を撃墜したマリは、敵艦隊に向けて突貫した。

 裕也は負けずとマリの後を追おうとするが、敵艦隊からの凄まじい対空砲火やミサイルで阻まれ、引き離される。

 

『こちらシューター18!被弾した!離脱する!!』

 

「クソッ、戦闘機じゃここが限界って言うのかよ!」

 

 通常兵器の戦闘機では突破できず、部下の機体が離脱したのを見た裕也は悔しがり、情けなさを感じて左手でキャノピーを殴る。

 そしてISに乗り込むマリは、まず空母から仕留めようと、音速の速さで敵空母へと接近する。

 対空放火を避けつつ、空母の間近まで接近すると、飛行甲板を突き破って艦内へと強引に入り込む。

 

「ISだ!!」

 

「撃て!撃てぇ!!」

 

 艦内へと入り込めば、乗員達が手に持つ銃をマリに向けて撃ち始める。

 当然ながらISの絶対防御で守られたマリには銃弾は通じず、ただ弾かれて床に落ちるだけである。

 周りにいる乗員達を鬱陶しいと思うマリは、20㎜機関砲を回転しながら撃った。

 忽ち周囲にいる乗員達は20㎜弾を受け、肉塊と化し、内臓や血が周囲に散らばる。

 とても恐ろしい光景であり、生き残った乗員は怯えながらマリのクウァエダム・デアから逃げる。

 左手に実体化させたバズーカを持てば、マリは周囲に向けてビームライフルと一緒に手当たり次第に撃ち込んだ。

 周囲にある弾薬や燃料タンク、駐機してある敵機に当たり、艦内で誘爆が起こり、あちこちで火災が発生する。

 乗員達は火を消そうとはせず、一刻も早く空母から脱出しようと脱出艇へと走る。

 炎を浴びて全身火達磨になった乗員や、身体の一部や下半身を無くした乗員も居たが、誰一人助けることなく、外へと向かう。

 ある程度撃ち込んだ後、マリは地獄と化した空母から抜け出し、外で目に見える敵艦にその牙を向けた。

 駆逐艦やフリゲートが続々とマリの手によって沈められる中、標的にされている53口径50㎝の主砲を持つ戦艦は、主砲を彼女のクウァエダム・デアに向けて撃ち込む。

 

「うわっ!?」

 

 間一髪避けたマリは、弾着した方を見た。勢い良く水飛沫が上がり、衝撃がマリの金髪を揺らす。

 

「結構な威力ね・・・」

 

 53口径50㎜連装砲の威力を知ったマリは、戦艦の方へと視線を向ける。

 その戦艦に乗り込み、戦闘指揮所に居る提督は、急いで次弾を撃つよう砲雷長を急かす。

 

「再装填急げ!大艦巨砲主義がISを打ち破る瞬間を世界に見せ付けるのだ!!」

 

 マイクで怒鳴るように告げる提督だが、小型で戦闘機よりも早く動くISに当てるなど糸を針の穴に通すことよりも難しいことだ。

 砲手がマリのような偏差射撃が可能な者でない限り、当てることなど不可能だろう。

 その間にマリは、旗艦である戦艦の周りにいる護衛艦をビームビットやビームバズーカで全て沈め、戦艦に向けて全武装を使った集中砲火を浴びせる。

 

「こんなに撃ってもやっても沈まないなんて!」

 

 主砲やミサイル発射機等を初めとしたありとあらゆる場所へビームやロケット弾を撃ち込んだが、戦艦は全く沈まず、黒煙を上げながらも未だに浮かんでいた。

 同じ箇所へまたビームを撃ち込むも、それでも戦艦は沈まず、対空砲火を絶やさない。

 マリが何発撃ち込んでも沈まない戦艦に対して苛立ちを覚えた頃に、裕也からの通信が入ってくる。

 

『そこのIS!こちらは日本国防空軍の五十嵐裕也少佐だ!後は我々が引き継ぐ。お前は当空域に留まり、国防空軍所属のIS部隊に投降せよ!良いな?!』

 

 どうやら、残っていた敵機の掃討を終えたようで、対艦爆弾や魚雷、ミサイルを搭載した攻撃機を護衛しながら接近してくる。

 獲物を捕られたくないマリは、どうやって倒そうかと脳をフル回転させている最中、目線の前に出された武器選択覧に「光の弓矢」と表示された覧があった。

 

「これは・・・」

 

 何の迷いも無しにマリはそれを選択した。

 それをタッチすれば、固定武装である二門の20㎜を除く武装が全て量子化し、左手に神聖的デザインの弓が現れた。

 

「なにこれ・・・?」

 

 美しいデザインに惚れるマリだが、一発の対空弾が彼女を我に戻す。

 

「キャッ!どうやら、迷っている暇は無さそうね・・・!」

 

 そう意気込んだマリは生身と同様に弓を引こうとする動作を行い、黒煙を上げながらも対空放火を行う戦艦へと狙いを定めた。

 矢がないように見えたが、弦を引く右手から光る矢が召還され、弓に自動的にセットされる。

 

『おい、聞いているのか?早くそこから去れ!』

 

 裕也の声が通信機から聞こえてくるが、マリは邪魔になると思って通信回線を切る。

 ダーク・ビジョンで戦艦の弱点である機関部を見付け出し、風速と重力を計算しつつ、そこへ矢を当てようと神経をすり減らして集中する。

 やがて自分の息遣いと弦を引っ張る音しか聞こえなくなると、狙いが定まる。射るタイミングが来れば、マリは躊躇いも無しに弦から手を離した。勢い良く発射された光の矢は、戦艦の動力部がある場所へと向かって飛んでいく。

 マリが矢を射る姿を見ていた裕也は、彼女が何を理解できないでいた。

 放たれた光る矢は戦艦にまで届き、当たる寸前の距離まで行く。

 彼女以外の誰しもがビームにすら耐える戦艦の装甲に弾かれると思ったが、なんと矢は戦艦の装甲を鋭いナイフが肉を抉るかのように貫通、そのまま機関部へと真っ直ぐ突き進んでいく。

 やがて弱点である機関部に光の矢は突き刺さり、動力部が大きく欠けた機関部は大爆発を起こした。

 機関部を射抜かれた戦艦は内部爆発を起こし初め、炎上しつつ横に傾いて沈み行く。

 

「せ、戦艦が!?」

 

「弓矢で轟沈した!?」

 

 たった一矢で沈み戦艦を見た裕也達は、驚きの声を上げる。

 中でも攻撃隊の面々は余りの衝撃に、言葉が出ない者達が多かった。

 夜が明けて日が空へ上ろうとしている頃には戦艦は完全に海へと沈み、建造のために一部を切り取られてサルページされたパーツは、海中で待っている元の艦艇へと帰る。

 

「凄い威力・・・」

 

 戦艦が完全に沈んだところで、マリは光の矢を圧倒的貫通力の高さに驚きの声を上げる。

 同じく敵艦が完全に沈んだのを見送った裕也達は、マリのクウァエダム・デアの高速へと向かう。

 

『そこのIS!直ちに武装解除し、投降せよ!』

 

 マリのクウァエダム・デアの周囲を部下達と共に跳び続けて投降を呼び掛ける裕也であったが、彼女がそれに従うはずもなく、包囲を抜け出されてしまう。

 

「あっ、クソ!待てぇ!!」

 

 直ぐに追い掛けようと、後を追うが、通常のISより倍の速度を持つクウァエダム・デアに追い付くことは出来ず、逃げられてしまった。

 こうして、マリ専用のIS「クウァエダム・デア」の実戦テストは終わった。




通常兵器を機動兵器で無双する・・・

他のロボットアニメと同じだがや・・・


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忘れられし鬼面

ゲームにはまってしまって更新が遅れた(汗

今回も非難殺到が出そうな描画ばかり・・・

?「何が非難殺到だ! いつもやってる事だろ!? 今更御託を並べるな!!」


 マリの専用IS「クウァエダム・デア」の実戦テストが終わった頃、何処かにある”組織”の拠点にて、画面に映るリガン・ゾア・ペン・ムガルが何者かに命令していた。

 

『マイントイフェル、貴殿に任務を告げる。女尊男卑の世界に居る百合帝国の残党とワルキューレの者共を殲滅せよ!』

 

「はっ! 必ずや奴等目を殲滅いたします!」

 

 画面に映るリガンに対し、マイントイフェルと呼ばれた濃い緑色の軍服を着た頬に傷がある金髪の男は頭を下げる。

 

『うむ、良き報告を待ってるぞ』

 

 マイントイフェルからの返答に、リガンは笑みを浮かべながら通信映像を切った。

 目上の者からの通信映像が切れたのを確認した後、マイントイフェルは通信機器を動かし、新しい映像を画面に映す。

 画面に映し出されたのは、カーキ色の軍服を着た紫色の髪で特徴的な髪型の髭を生やした男だ。

 

「カン・ユー大尉、閣下からの司令だ。標的のワルキューレの基地の攻撃を開始だ。手順はこちらが用意したとおりにやってくれ」

 

『はっ、直ちに! 作戦道理に遂行していきます!』

 

 画面に映るカン・ユー大尉と呼ばれる男は、敬礼してから命令を復唱する。

 

「手順道理行けば作戦は速やかに成功する。だが、想定外のことが起きれば、貴官の対処に任せるぞ」

 

『どうぞお任せ下さい! このカン・ユーに掛かれば、鬼に金棒です!』

 

 意気揚々にカン・ユーは、上官であるマイントイフェルに答える。

 そんな部下に対し、マイントイフェルは煽てる。

 

「そうだな。では、作戦の成功を期待するぞ」

 

『はっ! 必ずや成功させてみせます!』

 

 通信が切れた後、マイントイフェルは椅子に腰を下ろして真剣な表情を浮かべる。

 

「あの”無能”の事だ。失敗は目に見えているだろう。予備に日本国防軍のクーデター派を付けておいて良かったな・・・」

 

 マイントイフェルはカン・ユーを無能と思っており、余り信用していないようだ。

 

「まぁ、対処の仕方はクーデター派の指揮官がしてくれることだろう」

 

 足を組みながら、マイントイフェルは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 一方、クウァエダム・デアの実戦テストを終え、近くのワルキューレの陸軍駐屯地にいたマリは、更にISに興味を抱き、ISの専門学校であるIS学園に入ってみたいと思っていた。

 しかし、正規のやり方では時間が掛かりすぎる。素早く済ませるなら教師免許の偽造するが一番早い。その手の専門家に教師免許を偽造して貰うことにした。

 して専門家とは、ノエル・アップルビーの部下である連崎京香だ。彼女も上官と同じく情報士官であり、偽造に長けているとマリは耳にしていた。

 そう言うことで、マリは京香に自分の偽りの身分である「教師免許」の偽造を頼む。

 普通は反対されるはずだが、予想は大いに外れる。

 

『えっ、偽造すっか? 良いですよ』

 

「え、良いの? ノエルちゃんに怒られそうだけど」

 

 あっさりと頼みを受け入れた京香に対し、マリは疑ったが、彼女は丁度良い機会と思ったようで、その訳を答える。

 

『いやー、大丈夫と思いますよ。少佐はIS学園の情報を知りたがってるですし。実際あの学園、隠し事が多すぎなんですよね~スポンサーの各国政府のみならず、守ってくれてる日本政府、それにうちが防衛担当してるのに、私達にも隠し事してますし。なんですかね、あの学園』

 

 要約すれば、IS学園は情報を隠している。

 そう電話越しでIS学園の機密保持について京香の語りを聴き、マリは学園が隠す物を自分で全て暴いてやろうと意気込む。

 

「謎多き学園ね・・・暴いてやろうじゃないの。それじゃ、免許偽造、よろしくね。それと養護教諭として」

 

『はい、少佐殿! バレないような完成度高いの作ってきます!! では、明日にでも出来上がるので、楽しみにしてくださいね!』

 

 京香に改めて偽造免許の制作を頼めば、彼女はやる気満々で承諾し、楽しみにしておくようマリに告げた後、電話を切った。

 受話器を戻したマリは、部屋にある本棚から養護教諭関連の資料を取り出し、それに目を通し始める。

 

「さーて、養護教諭の勉強と」

 

 椅子に腰を下ろし、机に脚を置いて組み、資料を読みながら呟く。

 それから壱時間後、珈琲を飲みに行こうと席を立った瞬間、基地内に警報が鳴り響いた。

 

「なに?」

 

 警報音を耳にしつつ、マリは様子を確かめようと外に出た。

 

 

 

 一体外で何が起きているのか?

 それはマリが養護教諭関連の資料を読み漁って五十九分の所である。

 

「お、おい・・・あれ・・・!」

 

「なんだよ・・・なっ!?」

 

 駐屯地の出入り口である門の左右にある見張り台にて、警備を担当している迷彩服を着た日本国防陸軍の兵士二人が、警報を鳴らす原因となった物を見付けていた。

 その原因とは、森林迷彩色のボディアーマーにヘルメットを被って自動小銃などで武装した同じ国の兵士達が、女性や少女などを盾にしながら近付いてきていることだ。

 この異常事態を見た兵士は、直ぐに警備本部の方へ連絡を入れる。

 

本部(HQ)本部(HQ)! て、敵襲! 民間人を盾にしながら基地に近付いてきます!! どう対処すれば良いのですか?!」

 

 大勢の敵兵達が、民間人を盾にしながら攻撃してくるなど、警備を担当する兵士達に対処法が無かった為か、本部にいる隊長に対してどう対処するのかを問う。

 だが、頼みの隊長ですら、このような攻撃の仕方は想定外だ。仕方なしに銃を持って威嚇射撃をするよう命ずる。無論、民間人を盾にして前進してくる敵兵達に無意味だが。

 

『銃を持って威嚇しろ! ただし民間人には当てるなよ!』

 

「は、はっ! 銃だ!銃を持て!!」

 

 指示通り、警備兵等は最新型の自動小銃である21年式自動小銃を手に取って、民間人を盾にしながら前進してくるクーデター派の将兵等に銃口を向け、警告を行う。

 

「民間人を盾にしている部隊に告げる! 直ちに民間人を解放し、武装解除して投降せよ! それに応じれば、極刑は避けられるよう上層部を説得する!」

 

 民間人を盾にしながら近付いてくるクーデター派の将兵等に向け、投降を呼び掛けるも、彼等はそれに応じず、怯える女性や少女、老婆等を盾にしながら向かってくる。

 門の前に立ち、銃を構える百人以上の兵士達は、銃を持つ手を震わせ始め、「このまま発砲命令が出るのではないのか?」と恐怖を抱き始める。

 

「お、女を撃てば・・・」

 

「俺達は銃殺刑、いや、死ぬまで強制労働だ・・・!」

 

 今の世は女尊男卑。

 前の男尊女卑は男を撃っても大丈夫であるが、今の時代、男が女を撃てば、極刑に処させる。

 もしかしたら一族郎党皆殺しになるかも知れない。

 そう考える正規軍側の将兵達は、徐々に恐れを抱き始め、逃げ出そうとし始める。

 

「お、おい! お前・・・!」

 

「い、嫌だ・・・! 俺には妹が居るんだ! 女を撃って一族郎党皆殺しなんてご免だ!!」

 

「ま、待て! 今すぐ戻らねば、貴様等銃殺刑だぞ?!」

 

 一人の兵士が銃を棄てて逃げ始めれば、指揮官の静止の声も聞かず、続々と銃を棄てて逃げ出す兵士が続出する。

 だが、クーデター派の将兵等は逃げる正規軍側の兵士等に容赦はしなかった。

 

「撃て」

 

 指揮官の無慈悲な指示に従い、クーデター派の将兵等は背を向けて逃げる正規軍の兵士等に向けて容赦なく銃弾を浴びせた。

 

「う、うわぁぁぁ・・・」

 

 正規軍側の指揮官は、逃げた自分の部下達が撃ち殺されるのを見て恐怖し、自分だけ逃げようとするが、武士が身に着けるような面を付けた指揮官が持つ15年式自動小銃で撃ち殺された。

 それから門を部下に命じて開かせると、後ろに控えている52口径105㎜ライフル砲を搭載した機動戦闘車に突入を指示する。

 

「高機動車、突入。中にいる売国奴共を皆殺しにしろ」

 

 機動戦闘車の砲塔のキューボラから上半身を出している車長は、指示通り門を潜って駐屯地内へと侵入した。

 その後ろから、民間人を盾にしていた歩兵部隊が続いていく。

 

「うぅ・・・あぁ・・・!」

 

 まだ息のある正規兵が居たが、クーデター派の一将兵にトドメを刺される。

 数分後、先行部隊がワルキューレの迎撃部隊と遭遇、銃撃戦が行われようとしていたが、クーデター派の将兵等は無理矢理連れてきた民間人達を盾にして相手に撃たせないようにしていた。

 

「た、助けて!」

 

「連中、民間人を盾にしてますが、どうします?」

 

 民間人を盾にしながら自動小銃やライフル砲を撃つ敵側に対し、AR15系のクローンであるノベンスキーN4を構える若い女性兵士は、少しばかり歳が離れた同性の上官に問う。

 

「そうね。私達には関係ないから撃ちなさい」

 

 冷酷にもそう答え、上官は民間人ごと発砲するように命令する。

 命令された兵士等はそれを何の疑いも無しに実行し、助けを請う民間人ごと敵兵を撃つ。

 他の部隊でも、民間人を助ける事無く民間人ごと敵兵を撃ち殺した。

 

「や、やめて! 私は・・・!!」

 

 盾にされている民間人の女性はワルキューレ側の将兵等に助けるよう叫んだが、銃声でかき消され、胸を撃たれて堅いコンクリートの上に横たわる。

 敵もただ撃たれるだけではなく、盾にしている民間人が死んでいようが死んでいまいがお構いなしに手に持つライフルを構え、反撃を行う。

 死体となっていればそれを持ち上げて盾にし、自動小銃を片手で持って撃ち、反動を抑えながら銃撃を続行する。

 敵兵の中には自動小銃のように散弾が発射できるMPS AA-12を持った者がおり、左手に撃たれて死んだ少女の死体を持ちつつ、利き手である右手でその散弾銃を連射し、周囲にいる敵兵をミンチにしていく。

 おそらく使っている散弾は、猟用の(シェル)か、破壊力の高い大粒の弾を使っているのだろう。死体の惨たらしい損壊具合を見れば、一目瞭然である。撃たれた相手は痛みも感じることなくあの世へと行っただろう。

 

「死ね!」

 

 そんなミンチメーカーとも言える散弾銃を持つ敵兵に、カールグスタフm/45短機関銃を持つ警官のような制服を着た警備兵がその古い短機関銃を敵兵に撃ったが、敵兵は原形をとどめていない少女の死体を盾にして防ぎ、散弾銃を女兵士に向けて撃ち込む。

 撃たれた警備兵は片腕を吹き飛ばされ、無くなった腕の跡を抑えながら呻き声を上げる。

 

「あぁぁぁ!! あぁぁ・・・!!」

 

 数秒間無くなった左腕を抑えながら倒れた後、その女兵士は大量出血で息絶えた。

 エリア内の敵を全て排除した散弾銃のクーデター派の兵士は、下半身が千切れ落ちた少女の死体を棄て、手近に倒れているボディアーマーを着た女兵士の死体を持ち上げ、新しい盾として活用し、次のエリアへと向かった。

 一方の駐屯地の地下でも、敵の侵入があった。侵入してきた場所は、衛星から発見を避けるための機動兵器用の格納庫だ。更に下の地中からドリルなどで掘って侵入してきたのだろう。

 ただ開けられた穴から敵兵が出て来るだけなら、地下にいるワルキューレの将兵達にでも対処できたが、出て来たのが彼女等の手には余る”物”であった。

 それは対爆スーツに防弾チョッキを重ね着し、頭もしっかりと防弾用にして大柄の兵士だ。

 兵士が持っているのは、ロシアの携帯が可能な12.7㎜弾を使用するKORD重機関銃だ。

 開発はソ連崩壊後であり、1998年にロシア軍において汎用性重機関銃として制式採用された。

 従来の重機関銃より大きく反動は軽減されて命中精度も上がっており、力持ちの者なら軽機関銃のように持ち運ぶことが出来る。

 当然ながら発射する弾丸は50口径の物なので、人間を惨たらしい肉塊へ変えることなど造作もない。

 短機関銃やカービンなどで立ち向かった警備兵等を肉塊へと変えた後、拳銃や短機関銃を持つ機動兵器の操縦者や整備兵等に、その大口径の銃口を向ける。

 

「い、嫌・・・!」

 

 先程の火力を見て恐れ戦き、逃げ出し始めた。

 だが、逃がすはずもなく、後続の敵兵士達からの銃撃を背後から受けて次々と倒れていく。

 重機関銃の掃射を受けて上半身が引き千切れ、下半身を失ったパイロットが居たが、まだ息があったのか、上半身だけで動き、内臓や背骨を垂らしながらも逃げようとする女性パイロットの姿があった。

 

「ママ・・・ママ・・・!」

 

 母親の名を口ずさみながら必死で逃げようとするパイロットであったが、重機関銃を持つボディアーマーの兵士に踏み付けられ、息絶える。

 粗方敵を片付けたのを確認した敵の部隊長は、穴から工兵に出て来るよう無線機で指示を出す。数秒後、穴から爆薬類を持った工兵等が出て来た。

 どうやら、格納庫にある全ての機動兵器を破壊するつもりだ。

 物の数分で爆薬の設置を完了すれば、血や贓物、死体で溢れかえる格納庫から撤収を始めた。

 撤収が完了次第、直ぐさま爆薬の起爆スイッチが押され、中にある機体は全て爆破された。

 

「こちら二イタカヤマ、第1格納庫制圧完了。第2格納庫の制圧に掛かる」

 

 部隊長は自分の上官に報告した後、次なる目標へ向かうと告げてから通信を切った。

 報告したのは、おそらくあの駐屯地の門から入ってきた面の指揮官であろう。

 その指揮官も含め、着ている迷彩服の左腕に付けているワッペンは、鬼面の後ろに二本の日本刀を交互させた物が描かれており、絵の下には「零」と言う文字が描かれている。     

 クーデターの際に、日本国防軍から抹消された何らのかの精鋭部隊のようだ。

 ワッペンを付けていない兵士等を確認できることから、他のクーデター派の将兵等を吸収したか、それとも相手が合流してきたのだろう。

 それに迷彩服など着ていない装備が東西バラバラの武装した様々な国の男達も居ることから、女尊男卑に不満を持つ者達を掻き集めて戦力を増強した様子である。

 そして、その部隊の活躍ぶりを見ていたのは、遠くの森林で自分の部隊を待機させているカン・ユーだった。

 彼は配下の隊と同じ機体である全長4m20㎝程の水陸両用タイプのヘビィ級AT(アーマードトルーパー)、ダイビングタートルだ。

 

「守備は上々のようだな」

 

 開いたコクピットから双眼鏡で戦闘の様子を確認するカン・ユーは、鬼面マークの部隊の活躍ぶりを見て、その部隊を褒める。

 どうやら機動兵器が出て来てから駐屯地へ突入する腹のようだ。

 

『隊長、我々は加勢しないのですか?!』

 

「ばかもん! 我々は敵が機動兵器などを出してから出撃するのだ!」

 

 部下からの問いに、カン・ユーは怒鳴って部下を黙らせる。

 爆発の火柱を見てニヤリと唇を歪めた後、双眼鏡を目線から降ろした。

 

 

 

「どうなってんのよこれ!?」

 

 してマリの方は、駐屯地内で行われている恐ろしい戦場を見て、驚きの声を上げていた。

 そんな彼女にも、敵は見るなり銃口を向けて引き金を引いてくる。

 

「キャッ!」

 

 飛んできた銃弾から身を守るため、身を屈んで腰にあるホルスターから小型のP232自動拳銃を抜き、自分を撃ってくる敵兵に撃ち返す。

 二~三発撃ち込んだところで、敵兵は手に持っているAKs74uを撃ちながら倒れた。

 マリが撃った敵兵の服装は、平服の上からAK用の弾帯ベストを纏っただけの民兵のような物であった。

 

「あんなのにやられてるの?」

 

 撃ち殺した敵兵を見て、マリは敵を侮った。

 それは洗練された動きを見せる鬼面のワッペンを付けた元日本国防陸軍の精兵を見ていないからだが。

 

「あそこに居るぞぉー! 宇宙人をぶち殺せぇぇぇ!!」

 

 今度は迷彩服を着ているクーデター派の将兵と民兵等がマリを見るなり叫んで銃を撃ってきた。

 

「もぅ! あんた等はもう終わりでしょうが!!」

 

 銃弾を避けつつ、死んでいる味方の兵からMP5A5短機関銃を取り、自分を撃ってくる敵に対して反撃した。

 

「うわぁ!」

 

「ガァァ!!」

 

 民兵は素人同然の動きであり、直ぐに撃ち殺されたが、訓練された兵士は直ぐに遮蔽物に身を隠し、銃撃を空かさずに撃ってくる。

 だが、現れたワルキューレの増援の銃撃を受け、残った敵兵は銃を棄てて手を挙げたり両膝を地に付けて両手を頭の後ろに付け、降伏の意思を見せた。

 鬼面のワッペンを付けていない辺り、士気の低いクーデター派の敗残兵のようだ。

 

「こ、降伏する! 撃たないでくれぇ!!」

 

「撃つな! 俺達はもう戦わない!」

 

 そう言って降伏の意思を叫ぶ敵兵達に対し、M4カービンベースのLAWR M6A1突撃銃を持つ兵士は、マリに降伏した兵士をどうするのかを問う。

 

「少佐、降伏した兵士は?」

 

 その問いに対し、マリは無慈悲にも射殺命令を出す。

 

「殺しなさい。そいつ等に構ってる暇はないわ」

 

「了解です」

 

「う、うわぁ!? 止めろぉ!!」

 

 マリの指示通り、兵士等は降伏の意思を示す敵兵等を何の躊躇いも無しに射殺した。

 降伏した敵兵達は命乞いをするも、彼女等はそれを聞かず、即死部分に向けて銃弾を撃ち込む。

 エリア内の敵を全員始末したのを確認すれば、マリはどんな状況なのかを近くの兵士等に問う。

 

「ねぇ、どうなってるの?」

 

「はい、クーデター派の残党が襲撃してきたようで。それと襲撃してきたのはクーデターで正規軍の手から逃れた精鋭部隊だそうです」

 

「そうなの。それじゃ、武器庫に向かうわ」

 

 兵士等から情報を仕入れた後、マリは今持っているMP5より高火力な武器を確保するべく、武器庫へと向かった。

 当然ながら外は完全な戦闘状態へと突入しており、敵兵はマリを見るなり銃を向けて撃ってくる。

 これに対してのマリは、瞬間移動などの能力を生かして退け、一気に武器庫までの距離を縮める。

 武器庫についた彼女は直ぐさま武器庫の鍵をピッキングで開け、中へはいる。

 

「弾薬は・・・あるわね」

 

 略奪を受けていないことを確認した後、マリはガンラックに立て掛けてあるコンパクトなデザインのアンチマテリアルライフルを手に取った。

 そのアンチマテリアルライフルとは、BFG-50Aと呼ばれるバレットM82A1のコンパクトにしたようなデザインの対物ライフルだ。

 弾倉をある程度回収してからFN P90短機関銃と弾薬を取り、武器庫を出た。

 また銃撃されるが、マリは空かさず反撃して数名以上を排除した後、狙撃スポットへと向かう。

 

「ここなら・・・!」

 

 狙撃スポットに到着したマリは、対物ライフルの二脚を立て、ストックを右肩に当ててスコープを覗いた。

 風速と風向き、気温、気圧、湿度を計算しつつ、手近な目標を探す。

 機動戦闘車の周囲にいる軽機関銃を持った重装備の敵兵を狙撃の目標とする。

 

「距離は734m・・・12.7だから届くよね!」

 

 そう言いながらマリは、軽機関銃を持つ重装備兵の頭にレクティクルを合わせ、引き金を引いた。大口径の弾丸は標的へ向けて重力の影響を受けながら飛んでいき、目標の頭部を吹き飛ばした。頭を吹き飛ばした弾丸の勢いは止まらず、堅いコンクリートに跳弾して、近くの兵士の腹部をえぐり取った。

 命中を確認した後、次なる目標の狙撃を行う。

 九発目を撃ったところで、敵兵が重なる場所へ向けての狙撃を行った。タイミングを見計らい、敵兵が重なった瞬間、マリはチャンスを逃すことなく引き金を引く。

 大きな銃声の後で発射された弾丸は勢い良く飛び、一人目の身体を貫通、貫通したところで二人目の身体を貫き、三人目を貫いたところで弾丸は勢いを失い、コンクリートに突き刺さった。

 

「トリプルキル!」

 

 スコープで戦果を確認した後、呟いてからBFG-50Aの再装填を行った。

 再装填を終えたところで、狙撃手の基本である別の狙撃スポットへ移動する。

 流石の敵もマリの存在に気付いたのか、彼女が先程居た場所へ自動小銃やライフル砲を撃ち込み、高火力で狙撃手を排除しようとしていた。

 次なる場所へ移動すれば、直ぐにでも狙撃を再開する。狙撃に対しての条件を脳内で計算しつつ、標的の狙撃を行う。六人ほどを狙撃したところで、機動戦闘車の全部の排気口に向けてレクティルを合わせる。

 どうやら、対物ライフルでの装甲戦闘車両の破壊をするようだ。

 確かにライフル弾とは違って重機関銃の弾なら通じるはずだが、それは標的が軽装甲な車両であるに限る。

 

「距離は403m・・・」

 

 狙撃に全神経を集中し、息を止めて引き金に指を掛けた。

 銃声が鳴り響き、反動が右肩に来たところで銃口から発射された12.7×99㎜弾は機動戦闘車の排気口に向けて飛んでいき、命中する。

 だが、斜面装甲で弾かれ、機動戦闘車に自分の存在に気付かれてしまう。

 

「気付いた・・・!」

 

 砲口が自分の方向へ向けられているにも関わらず、マリは慌てることなく砲口にレクティルを合わせ、直ぐに引き金を引いた。

 発射された弾丸は砲口へ入り込み、装填されてある榴弾に命中。榴弾の先端を貫き、中に収納されている爆薬類を車内に炸裂させた。

 搭載している弾薬にも誘爆し、機動戦闘車は内部爆発を起こす。

 

「装甲車撃破・・・別のでも通じるかしら?」

 

 機動戦闘車の爆発を見届けた後、マリは他の105㎜ライフル砲搭載の装甲車にも、対物ライフルによる狙撃が通じるかどうかを試してみたくなる。

 それから弾倉の弾が無くなるまで狙撃を続行していたが、残り一発となったところで下から声が聞こえてきた。

 

「第2格納庫がこれ以上持ち無さそうよ! 残ってる人員はそっちに回って!!」

 

「通りで機動兵器が出ないわけだわ・・・」

 

 それを聞いていたマリは、格納庫の周囲にいる敵兵等の狙撃を行った。

 一発目を撃ち込んだところで素早く再装填を行い、狙撃を再開する。

 格納庫の周囲にいる敵兵の中に、地下の格納庫に現れたあのKORD重機関銃を持った対爆スーツの重装備兵が居た。それも一人だけでなく、二人以上も居る。

 奪還部隊は重機関銃の掃射を浴び、次々と倒れ、死傷していく。

 一刻も早く、重装備兵を排除する必要がある。

 

「あれを排除するしかなさそうね」

 

 直ぐさまマリは、重装備兵の頭にレクティルを合わせ、狙撃に対しての条件を計算を脳内で行う。

 距離と重力による影響を計ったところで、照準が合い次第マリはBFG-50Aの引き金を引いた。

 発射された弾丸は重装備兵が目に付けている対爆ゴーグルに命中し、ゴーグルのレンズを割って眉間を抉り、重装備兵の命を奪った。

 流石の爆発対策のゴーグルであっても、高速で飛んでくる重機関銃の弾丸は防げないようだ。

 一人目を排除したところで、二人目の頭にレクティルが合い次第、引き金を引いた。

 当たったのは防弾用のヘルメットであり、容易に貫通し、頭蓋骨を抉って脳を破壊した後、脳内に留まる。

 重装備兵を全て片付ければ、後は勝手に味方の奪還部隊が残った敵を排除してくれた。

 降伏した敵に関しては、構っている暇はないのか、先程と同様にその場で銃殺する。制圧を見届けた後、マリも格納庫へと向かう。

 BFG-50Aを背中に掛けてP90へと切り替え、奪還部隊の将兵等に続いて地下へと降りると、味方兵士の死体を盾にして散弾銃を撃つ敵兵がそこにいた。

 盾にしている死体が防弾チョッキを身に着けている所為か、余り銃弾は通らない。

 現れた障害に対し、マリは数名を排除してから対物ライフルを構えた。

 

「対物ライフルなら行ける」

 

 そう言ってから死体を盾にする兵士に向けて、対物ライフルを撃ち込んだ。

 結果、発射された弾丸は死体を真二つに引き裂き、盾にしている敵兵の身体に命中した。

 盾にしていた死体で勢いが殺されたのか、敵兵は損壊せず、腹から内臓を垂らしたまま苦しんでいた。

 

「うわぁ・・・うわぁぁぁ・・・!!」

 

 数秒間苦しんだ後、その兵士は散弾銃を撃つこともなく息絶えた。

 残りの敵兵は民兵や士気の低い敗残兵だったのか、散弾銃の敵兵が死んだことであっさりと手を挙げて降伏しようとしたが、戦闘時のストレスで構っていられないワルキューレの将兵等に撃ち殺される。

 マリも降伏した敵兵等に銃を撃ち込み、格納庫を取り戻すべく、地下へと降りる。

 

「爆薬の設置を急げ! 敵が来るぞ!!」

 

 工兵隊の隊長が銃撃を受けながらも部下達に早く爆薬を設置するよう指示をしていたが、マリはそんな隊長の頭に容赦なく12.7㎜弾を撃ち込んだ。

 無論のこと、隊長の頭は木っ端微塵に吹き飛び、跳弾した弾は民兵の腹を貫通した。

 それから爆薬の設置を行っている工兵等は、背後からの銃撃を受け、次々と倒れていった。

 P90に切り替えたマリは容赦無しに銃弾を浴びせ、敵の工兵を射殺していく。

 ワルキューレの保有する機動兵器に張り付いた工兵等を排除した後、銃撃に参加していたパイロット達が各々の機体へと乗り込み始める。

 これで外にいる敵部隊は直ぐにでも殲滅出来るだろう。

 そう思った矢先、敵の指揮官が機体に乗り込もうとするパイロット達を殺そうと、ライフルを撃つ。

 狙いは正確であり、標的にされたパイロットに命中し、その場へ倒れてしまう。

 

「誰かあいつを!!」

 

 誰かが叫んだ後、マリは直ぐさま対物ライフルを構え、自動小銃を撃つ仮面の指揮官を撃った。

 素早く撃った所為か、弾丸は指揮官の左腕を引き千切った程度で終わり、残った右腕で射撃を続けている。空かさず二発目を足に撃ち込むも、指揮官は自動小銃を撃つのを止めなかった。自動小銃の弾が切れれば、腰に差し込んである自動拳銃で射撃を続行する。

 今度はトドメを刺そうと頭を狙い、引き金を引いた。

 だが、仮面に邪魔をされ、トドメを刺せず終いであったが、射撃を中止させることは出来た。

 仮面を剥がされた指揮官の顔は凄まじく焼け爛れており、人相は悪魔のようであった。

 その指揮官は死ぬ間際に何かを言っているようだが、声は銃声でかき消され、聞こえない。

 しかし、口の動きで読み取ったマリは、何を言っているのかを理解した。

 

「”お前達宇宙人共に死あれ”ね・・・あんた等の戦争はとっくに終わってるのに」

 

 指揮官が息絶えたのを確認して、死に際の言葉を読み取った後、マリは敬意を払うことなく吐き捨てる。

 地下にいる敵の全てを排除すれば、マリは一気にケリを付けようと、自分専用のIS「クウァエダム・デア」を起動させ、装具を身に纏う。

 

「さぁ、一気に片付けちゃうわよ!」

 

 そう言って顔が見えないようゴーグルを身に着けた後、地上へと飛び出し、三人固まって動いている重装備兵を両腰の20㎜機関砲で一掃した。

 横に、最後の一人と思われる重装備兵が居たが、使い捨ての携帯式ロケット砲の集中砲火を受け、木っ端微塵に吹き飛び、その跡にはマリが機関砲で一掃したと同様の血痕が残る。

更に勢い着こうとするマリであったが、敵の強力な増援を見てその勢いを劣らせる。

 

「あ、あいつ等・・・なんであんな物を持ってるのよ!!」

 

 彼女が驚いた無理もない。

 それは敵がヴァンツァーや戦術機、ナイトメアフレームを持ち込んできたからだ。

 どの機体もその兵器が存在する異世界の日本で開発された物ばかりである。

 数はおよそ六十機と言ったところだろう。

 そればかりでなく、ワルキューレのみが保有していた筈のバルキリー、VF-0やVF-1まで所持している。

 

「やってやろうじゃないの・・・!」

 

 目の前に現れた脅威にマリは立ち向かうことにし、砲火を浴びせてくる敵機動兵器部隊に突っ込んだ。

 雨のような対空砲火を避けつつ、マリは地面をローラーで走る無頼と呼ばれるKMF(ナイトメアフレーム)に向け、ビームライフルを撃ち込む。

 数機を一発も外さずに命中させ、全滅させれば、突撃砲を撃ちながら近付いてくる戦術機に向けてビットを放つ。

 戦術機は足を止めてビットの迎撃に移るが、的は小刻みに動き、照準が合わず、発射されたビームで撃破される。

 

「な、なんて奴だ!」

 

「これがISの力だってのか!?」

 

 ISより実用的な機動兵器に乗り込む操縦者達は、その憎きISが、自分等が乗り込む機動兵器よりも優れていることに驚き、恐れ戦き始める。

 ISに乗っているマリの所為でもあるが、彼等は彼女の存在を一切知らない。

 日本製ヴァンツァーの65式や90式も上空のバルキリー部隊と協同して中隊規模の火力をぶつけるが、マリはそれをまるで読んでいたかのように回避する。

 

「あ、あれ程の弾幕だぞ!? どうして避けられるんだ!?」

 

 90式に乗り込むパイロットは、自分等の渾身の攻撃を避けるマリのクウァエダム・デアを見て、驚きの声を上げる。

 攻撃を避けたマリはVF-0Aフェニックスのコクピットに機関砲を撃ち込んで撃墜する。

 

「そこは変形でしょ!」

 

 撃墜した跡、折角の三段変形を扱えないクーデター派のパイロットにマリはそう吐き捨て、後続で来る敵機を堕とし続ける。

 七分余りの戦闘で二十機以上を撃墜したところで、ようやくワルキューレ側の援軍が現れた。

 ISも随伴している機動兵器中心の援軍であったが、玉砕覚悟のクーデター派の将兵等が乗る機動兵器部隊に苦戦している有様であった。

 絶対防御を持つISであるが、マリほどの操縦技術は優れておらず、ただ闇雲に手に持ったライフルを乱射するだけで全く役に立って等いない。

 

「もう、素人相手になにやってるのよ!」

 

 クーデター派より機動兵器を乗り慣れている筈のワルキューレのパイロット達の醜態ぶりを見て、マリは業を煮やす。

 続けて十機以上を撃墜したところで、相打ち覚悟で戦術機「不知火」が74式近接長刀を振り翳そうとクウァエダム・デアに向けて飛んでくる。

 

「お覚悟ぉーっ!!」

 

 機体に乗り込む衛士はそう叫びながら長刀を振り翳さんとするが、脅威に気付いたマリに振り翳す前にビームサーベルで両断され、クウァエダム・デアの真後ろで爆散した。

 爆散したのを確認したマリは直ぐさまビットを展開させ、編隊を組んで急襲してくるVF-1Jに向かわせる。

 オールレンジ攻撃を受けたVF-1Jの編隊は直ぐに散会しようとするが、そうはさせまいとマリはビームや機関砲を撃ち込み、散会を妨害する。

 編隊はろくな反撃も出来ぬまま全滅した。

 

「これで四十機目・・・後は・・・?」

 

 四十機目を撃墜したところで、残りの二十機余りはやって来た味方の増援が排除してくれるだろうと思っていたマリであったが、敵の増援であるカン・ユーが現れたことで、戦いは長引くと察する。

 そのカン・ユーはと言えば、マリと同様にここまでワルキューレを追い詰めたクーデター派の将兵等に何の敬意も払わず、無能と表して戦場に参入する。

 

「貴様等ぁ! 機動兵器を与えてやったのになんだこの醜態は!?」

 

 玉砕覚悟でやって来た彼等にとっては耐え難い仕打ちであり、これに激情したクーデター派の一将兵が、カン・ユーが乗り込むダイビングタートルに襲い掛かる。

 

「安全な場所から傍観していたお前が言うことかぁーっ!!」

 

 90式に乗り込むパイロットがカン・ユーのダイビングタートルに、携帯火器を乱射するも、あっさりと避けられ、反撃を受けて逆に倒される。

 

「フン! 上官に向かって銃を向けるとは銃殺刑だぞ!!」

 

 炎上する90式に向けてカン・ユーはそう吐き捨てた。

 それから襲ってくるクーデター派の機体は続出したが、無能な割に操縦技術の高いカン・ユー相手に素人同然な腕前で敵うはずもなく、次々と返り討ちに遭っていく。

 

「えぇい、なんて連中なんだ! 味方を襲ってくるなど」

 

 カン・ユーは襲い掛かってくる味方であるはずのクーデター派の機体を片付けた後、首の汗を拭ってから自分の起こした惨事に気付かず、そう口にした。

 今度はワルキューレが保有する量産型ガンタンクや量産型ガンキャノンがカン・ユーに砲火を集中してきたが、これを避けつつ接近する。

 

「踏み込みが甘いわ!」

 

 接近しながらそう吐けば、懐へ飛び込み、固まって行動している二機をミッドマシンガンで蜂の巣にした後、背後から忍び寄るデストロイドのトマホークをも撃墜する。

 その様子は、空から現れたダイビングタートルの集団を撃破し続けていたマリにも見えていた。

 

「あいつ、結構強いわね」

 

 敵であるカン・ユーの腕前を褒めた後、マリはその男が乗り込むダイビングタートルに空から襲い掛かる。

 

「あ、ISか!?」

 

 気付いたカン・ユーは銃撃しながら後退し、味方の部隊と合流する。

 流石にATでは、遙か上の高スペックなISと戦うなど無謀に等しいと察しているからだろう。

 味方部隊と合流したカン・ユーは、直ぐに部下達に一斉射撃を行うよう指示を出す。

 

「撃てぇ! 撃てぇ!!」

 

 集中砲火を浴びせてクーデター派のパイロット達が当てられなかったマリのクウァエダム・デアに当てるも、絶対防御で防がれており、無意味であった。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 クウァエダム・デアの一斉射撃を受ける前に、カン・ユーは機体を棄てて脱出した。

 乗り捨てた機体は部下の同機諸共蜂の巣にされ、スクラップとなる。

 脱出したカン・ユーは、部隊に撤退命令を出す。

 

「て、撤退だ! 撤退しろぉーっ!!」

 

 通信機で怒鳴り散らすように言えば、直ぐさま部隊は撤退を開始した。

 何故カン・ユーの命令を聞いたのか?

 それは上空にワルキューレ空軍の大規模な増援が現れたからである。

 数十分後には戦闘は完全に終了、敵の蜘蛛の子散らすような撤退を見届けていたマリは、クウァエダム・デアの両足を地に着かせた。

 

「終わった・・・」

 

 そう口にした後、背伸びをしてからクウァエダム・デアを解除した。




次回は養護教諭として、マリマリがIS学園に潜入しまっせ!

~クソ久々な中断メッセージ~

覚者となったラインハルト・ハイドリヒ

ラインハルト「異世界へ転生されて早々、ドラゴンに強襲され、心臓を奪われてしまった。どうした物か・・・」

名前:ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ
性別:男
ジョブ:ファイター
武器:西洋槍、西洋剣、円形シールド
ポーン:誰にしよ?

ラインハルト「さて、まずはダンジョンの制圧だな・・・」


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私は養護教諭

「このチャンスをずっと待っていたんだ!!」


 クーデター派と組織の襲撃より翌朝、マリの偽造教師免許が完成した。直ぐに襲撃された基地に居るマリに報告される。

 

『お嬢様、昨日頼まれた教師免許偽造、完成しました!』

 

「ありがとう、京香ちゃん。これで学園に潜入できるわ」

 

『どうも致しまして。養護教諭で良かったですか?』

 

「えぇ、もちろん。養護教諭で良いわよ」

 

 偽造免許を作った京香に礼を言った後、彼女から確認があったので、マリが良いと答えれば、彼女は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。

 

『フッフッフ、これは楽しみですわ・・・』

 

「? まぁ、良いけど。それじゃ免許ありがとね」

 

『はい、潜入任務、頑張ってください』

 

 マリは京香の企みを放っておくことにして、もう一度礼を言ってから通信を切った。

 

 

 

 マリがIS学園に侵入するための手段を手に入れた頃、彼女が居る世界とは違う異世界の薄暗い空間にて、二本の角が特徴的な兜を被り、杖を持った白人の男が水晶玉に映る映像を見ていた。

 その映像に映っていたのは、IS学園の極秘区画であった。

 

「フム、例の天才博士が作ったISコアか・・・」

 

 極秘区画に貯蔵されているコアを見て、奪取する作を思い付く。

 

「このコア、我の魔の力で生みの親より最大限にまで高めてやろうではないか」

 

 不敵な笑みを浮かべ、ISの生みの親である篠ノ之束(しのの・たばね)より更に強烈なコアを作ってやろうと口にする。次に映るISの模擬戦闘の映像を見て、IS学園にある全てのISの奪取も目論む。

 

「生みの親が作り出した新作のみならず、学園が保有する全てのISを奪取し、我が兵力とするのも悪くないな。だが・・・」

 

 次に映るワルキューレと日本国防軍の合同のIS学園の守備隊の映像を見た男は、不機嫌な表情を浮かべる。

 

「この学園を守る兵力が鬱陶しいな。とてもではないが、我が集めた手勢でも対処は出来なかろう。おっと、同盟軍が居たな・・・あ奴等に守備隊の相手をしてもらおうか」

 

 不機嫌な表情から一遍、同盟軍に偽の情報を流してIS学園を攻撃させようと言う案を思い付き、再び悪巧みの笑みを浮かべる。

 

「さて、早速実行に移すとしよう」

 

 男は水晶玉から離れ、出入り口へと足を運び、その部屋を後にした。

 直ぐ様同盟軍に男の偽の情報が流され、同盟軍の大規模な部隊が、ISが存在する世界へと進軍を開始した。

 偽の情報ではあるが、同盟軍としても研究用にISは鹵獲したいので、これほどの戦力を派遣した訳だ。

 無論、同盟軍にとっては大した数ではないが、標的にされたワルキューレやフォル・モーントからすれば恐ろしい敵の数である。

 そしてIS奪取を企み、同盟軍に囮として使うべく、偽の情報を流した男の名はロキ。

 元は生まれ故郷である神の国「アスガード」の支配を企んでいたが、義理の兄であり宿敵であるマイティ・ソーとの争いに敗れ、異世界に追い遣られた。

 しかしロキはめげず、今度は全ての世界の支配を目論んでおり、密かに世界支配のための兵力を集め、様々な勢力とコンタクトを取っていた。その一環として、IS学園が狙われたわけである。

 邪神となったロキがIS学園を狙っているとは、マリは知るよしもなく、外国人養護教諭としてIS学園に潜入するのであった。

 

 

 

 その頃、カヤ・オーベルシュタインと言う偽名と外国人養護教諭としての身分を得てIS学園に忍び込んだマリは、学園の女子生徒達の話題となっていた。

 保健室の出入り口前にはマリことカヤと言う名の新人外国人教諭の噂を耳にした女子生徒等が集まり、部屋の中を覗いている。

 

「ねぇ、あの人が?」

 

「そうだよ、足長いね」

 

「モデルさんみたい・・・」

 

「グラビアアイドルじゃないの? 胸大きいし」

 

 出入り口からマリの体付きを見て、自分の思ったことを口に漏らす。

 そんな声を耳に入れつつ、マリことカヤはタブレットの画面に表示された学校保健に関する情報に目を通していた。尤も、本来マリがこの学園で行うべき事は情報収集だが、彼女は単に年頃な15~18歳の少女等と話したいだけである。無論、ノエルが欲しがる情報は入手するつもりだ。

 女子生徒らの視線を多く感じながら初日の研修を終えたマリは、用意された教師用の宿舎へと向かった。

 彼女が宿舎へと続く街道を進む中、新任外国人養護教諭の噂を耳にした女子生徒等と、学園の守備を担当する日本国防軍の女性のみで編成された部隊の将兵等も来ていた。

 殆どは学園周辺の警備をしているか待機しているかだが、非番の隊員なのだろうか、学園内の女子生徒等と同じ目線をマリに送っている。

 そんな視線を感じながら宿舎の自室へ辿り着いたマリは、帰るなり書類を纏め、それが終わればIS学園に関しての報告書を纏め上げた。

 

「今回は、公開されている情報のみと・・・ふう、終わった・・・」

 

 手に入れた情報と言えば世間に公開されている物ばかりであった為、特に報告書に書くことはなく、あっさりと終わる。

 報告書を纏め終えたマリは特にすることもなく、床につくための一連の行事をしてから夢の世界へと旅だった。

 

 

 

 翌日、研修二日目のマリは、偶然にも時の人である織村一夏(おりむら・いちか)と遭遇した。

 

「あっ、オリムー、あの人だよ。例の新人外国人養護教諭」

 

「へぇ、あの人が・・・」

 

 一夏の隣にいる袖が異様に長い制服を着たクラスメイトらしい女子生徒が、マリを指差すなり彼に告げた。それに反応してか、一夏はマリの方へ視線を向ける。それはなんとも珍しそうな異国の人間を見る目であった。

 

「(この朴念仁みたいなのがあの織村千冬の弟? 間違いじゃないの?)」

 

 内心そう思いつつ、マリは一夏に近付いた。

 これに一夏は、自分より背丈が1㎝程高い白人女性を見て驚いたのか、緊張しながら挨拶する。

 

「こ、こんにちは・・・! ハロー、ナイスミーチュー・・・」

 

 つたない英語で挨拶する一夏に対し、マリは本当に目の前にいる少年が「本当は少女ではないか」と言う疑念を抱き、喉元と股間に視線を向けた。

 

「な、なんですか・・・?」

 

 突然自分の身体を見始めた白衣を着た白人女性に、一夏は緊張しながら問うが、マリは男と分かったのか、彼には分からないドイツ語で言ってからその場を立ち去った。

 

「な~んだ、男か。女の子だった良かったのに」

 

「はぁ? あの、ちょっと・・・」

 

 ドイツ語で言って自分の前から去っていった外国人女性に対し、一夏は訳を聞こうと呼び止めようとしたが、マリは彼の言葉を一切聞かず、保健室へと向かっていく。

 

「なんだよ、俺になんか付いてあったか?」

 

 自分が男か女かどうか調べられた事も気付かず、首を傾げていた。

 そんな時に一夏の幼馴染みであり、ISの開発者である束の妹である篠ノ之箒(しののの・ほうき)が彼の元へ来る。

 

「一夏、どうした? そんな所で」

 

「あぁ、箒。今さっきな、外国人の養護教諭が俺の身体をなんかジロジロ見てて・・・」

 

「身体を、ジロジロ・・・!?」

 

 一夏が言った事を、箒は間違った解釈をした。どうやらマリが一夏を狙っていると勘違いしたようだ。直ぐに一夏に問い詰める。

 

「一夏・・・お前、また・・・」

 

「いや、してないぞ。でっ、なんの事なんだ?」

 

「お前という奴は・・・!」

 

「お、おい! 一体なんの事なんだ!?」

 

 勘違いしている箒は、そのまま感情に任せて一夏の腹に向けて強烈な蹴りを食らわせた。

 蹴られた一夏の悲鳴を耳に入れたマリは、廊下の方でその一部始終を見ていた。

 

「あいつ、朴念仁の癖に女好きだったのね。サイテー」

 

 一夏が制裁を受けているのと勘違いしたマリは、そのまま機嫌を悪くし、プリプリしながら保健室へと再び向かう。幼馴染みの箒には勘違いされ、マリからは勝手にプレイボーイ扱いされる等、卿の一夏の運勢は不運その物だった。

 それから更に一週間、ろくな情報を得られぬままマリの養護教諭としての研修期間が終了し、正式な養護教諭としての活動を学園内で許された。

 これで機密情報の収集を仕入れる事が出来るだろう。

 そう思っていたが、IS学園のセキュリティは少々ながら厳重であった。

 ハッキングにも長けているマリであったが、流石に本職には届かず、壁にぶち当たって跳ねられ、結局場所を特定させないようにする小細工に手を回すのに必死で、壁に穴を打ち開ける事は出来ない。

 結局の所、直に潜入して情報を盗んでくるしかないだろう。

 そのプランを立ち上げ、潜入に使用する装備を調え始めたマリであったが、彼女が用意し始めた瞬間、警報が鳴り始めた。

 

「なに?」

 

 鳴り響いた警報に、マリは宿舎の窓から外を覗いた。

 

「嘘・・・宇宙人の侵略・・・!?」

 

 外に広がっていた光景とは、IS学園に大挙して押し寄せてくる同盟軍の大部隊であった。

 

 

 

 時間はマリが起床してからに遡る。

 同盟軍が最初にこの世界へ訪れたのは、地球付近の宙域であった。

 フォル・モーント所属の哨戒任務中のサラミス改級巡洋艦が、何もない空間から次元の歪みが生じ、そこから同盟軍の宇宙艦隊が出て来る事を察知した。

 

「あ、あれは! 同盟軍の宇宙艦隊だ!!」

 

 サラミス改の艦長はブリッジから見える一万を超える無数の同盟軍の艦艇を見て、直ぐに通信手に通報するよう命じた。

 尚、乗員全ては人間の男性である。

 

「本部に伝達だ! 我、同盟軍艦隊ヲ発見セリ!」

 

「了解!」

 

 通信手が本部へ向けて伝達しているのを確認すれば、敵艦隊が向かっている方向を確認する。

 

「敵進路は・・・地球だと・・・!? 奴等、一体何が目的だ!?」

 

「敵機接近!!」

 

「なに!? 進路は地球だ! 直ぐに伝えろ!!」

 

 レーダー手が敵の戦闘機が自分等の乗る宇宙船に向かっている事を告げれば、艦長は直ぐに通信手に敵艦隊の進路を伝達するよう告げる。

 艦内全区画にサイレンが響き渡る中、向かってくる戦闘機に向けて全方位の対空射撃を行われ、対空砲を撃ち続けながらサラミス改級は味方の地域に艦首を向け、全速力で逃げようとする。だが、相手は逃がすつもりは無く、追撃の手を強めてくる。

 サラミス改級に襲い掛かる戦闘機とは、宇宙同盟参加国家の一つ、ヘルガスト軍の主力宇宙戦闘機だ。数の多さを生かしてサラミス改級を包囲しつつ、ジワジワとなぶり殺しにしている。持って数分と言った所だろう。

 やがてブリッジにミサイルを撃ち込まれれば、サラミス改級は完全に停止し、対艦ミサイルを撃ち込まれてトドメを刺された。

 敵艦隊の旗艦である旗艦級戦艦のブリッジ内にて、本部に通報したサラミス改級を撃沈したとの報告が来る。

 

「敵巡洋艦、撃沈を確認」

 

 略帽を被り、顔面を覆うほどのマスクを着け、ゴーグルを赤く光らせた通信士が提督に知らせる。尤も、同じマスクを身に着けた者はこの艦のそこら中に居り、違いが分かるとすれば、来ている軍服であろう。

彼等が喋った時にエフェクトが掛かってしまうのは、出身の惑星の空気環境が最悪であるからである。

 

「我々の存在は知らされたか?」

 

「どうやら知らされた模様です」

 

「楽な仕事にはなりそうも無いな。全艦警戒態勢のまま、目標に接近せよ」

 

 通信士からの知らせに、提督は所属艦全てに警戒態勢を敷くよう命じた。

 小規模の攻撃を数回受けながら地球付近まで接近すると、待ち受けていたフォル・モーントの艦隊と交戦状態に入った。

 

「地球へは絶対に通すな! 絶対に食い止めろ!!」

 

 旗艦である1700mはある超大型空母のブリッジ内にて、提督である大柄で髭面な男が席を立ち上がり、怒号を飛ばす。

 空母の各ハンガーからは、ワルキューレの横流しであるバルキリーのVF-4ライトニングⅢがファイター形態で続々と飛び出していく。他にはMSのバーザムやバーザム改等が発進する。少しでも数を増やすためか、ハイザックや旧型のゲルググ、VF-1バルキリーのアーマードやファストパック、スタンピートパック、マイクロミサイル付きも見られた。

 それでも同盟軍の艦載機の数には届かない。

 少しでも数を減らそうと長距離対空反応ミサイルが数千発ほど発射されるが、何発か迎撃され、同盟軍に対する損害は比較的軽微な物となる。

 十数秒もすれば、双方の艦載機同士が混じり合い、第二次世界大戦の航空戦のような乱戦状態へと突入する。

 小さく光る星しか見えない宇宙空間に、花火のような爆破の連鎖が全周囲に巻き起こった。それに合わせてか、双方の艦隊も艦砲射撃を始め、艦隊戦を始める。フォル・モーント側の艦艇は同盟軍より半数以上しか無く、火力も明らかに差がありすぎるのだ。

 奇跡が起こるはずもなく物量の差で防衛線を突破され、一隻の敵艦を衛星軌道上に侵入されてしまう。

 

「しまった! ビーコンを撃ち込まれる!!」

 

 防衛戦を突破した敵艦は、地球へ向けてビーコンを撃ち込んだ。

 撃ち込んだビーコンはIS学園の近海に撃ち込まれ、海底に突き刺されれば光り出し、近海に時空の歪みを生じさせる。

 電流が走り、何もない空間に巨大な穴が開けば、そこからブラキオサウルス型ゾイドブラキオスや魚型ゾイドのウオディック、カブトムシ型ゾイドのサイカーチス、エイ型ゾイドのシンカー、ドラゴン型ゾイドのレドラー等の大群が解き放たれる。

 更にはグゥンと呼ばれるサブフライトシステムに乗ったMSジンやジェニス、セプテム、飛行用MSディンにオクトエイプス、可変機のガフランやバクト、ゾロ、トムリアット、水中用MSグーンにゾノ等も居た。

 更にはコヴナント軍のバンシー近距離支援機にスピリット降下艇、戦闘機のヴァンパイア、ファントム輸送機、キメラの戦闘機やガンシップに空中戦艦、ローカストの空戦用として運用されている巨大な獣のリーバー、他輸送機や航空機も含めて空を埋め尽くすほど居る。

 海上の方は、地上戦用の機動兵器を満載した上陸艇で埋め尽くされていた。

 その姿はまさに宇宙からの侵略者だ。そんな恐ろしい数の敵軍は、真っ直ぐとIS学園へ向けて進軍してくる。

これに対し、日本国防軍は国家の威信をかけ、黒目黒髪の清楚な美しさを持つヤマトナデシコとも言える若い陸海空軍の女性将官等に率いられた統合部隊「ナデシコ」に、IS学園防衛軍を出動させた。

 合わせて数十隻程度であり、とてもではないが数は少なすぎた。尤も、通常兵器では、大多数の機動兵器で攻めてくる同盟軍相手に勝てるはずもないが。迎え撃つ部隊の中には、五十嵐裕也(いがらし・ゆうや)少佐率いるシューター大隊も含まれていた。

 

「シューターリーダーより各機へ、今度の敵は異星人だ。初の宇宙の外敵との交戦はアメリカでもなく我々だ、気を抜くなよ」

 

 出撃前に相手が宇宙人と知って笑っていた裕也であるが、いざ未知の敵との戦闘となれば緊張し、笑い事で済まさないようにして、部下達に告げる。

 裕也の戦友である荒井亮太(あらい・りょうた)も笑っていたが、彼も他のパイロット達と同様に不安を覚え、トリガーに指を掛け、射程距離に敵機が収まるのを待つ。

 そんな緊迫したパイロット達が乗るF/A4「紫電」、F3戦闘機、F2戦闘機、海軍の壱式艦上戦闘機、弐式艦上戦闘機の大編隊の前から、同盟軍参加国家の航空機群が先制攻撃を仕掛けてきた。

 迎え撃つ彼等が想像したとおり、ビームやレーザーなどの攻撃だ。

 

『来た!』

 

『全機、エネミーエンゲージ! FOX(フォックス)3! FOX(フォックス)3!!』

 

 部隊指揮官からミサイル発射命令が出され、直ぐにミサイルが同盟軍の航空機群に向けて発射される。

 放たれたミサイルは、未知の存在である対異星人用に備えた高火力を有する対空ミサイルであり、その火力はフリゲート艦を大破寸前に陥らせるほどの物であった。

 突っ込んでくる多数の敵機は直ぐに散会したが、何機はミサイルに当たって木っ端微塵に吹き飛ぶ。数秒後には敵機と乱戦状態に至り、双方の航空機がハエの如く海へと落ちていく。

 

「クソッ、味方機が!」

 

 海軍の艦上戦闘機が小隊単位で撃ち落とされたのを見て裕也は叫んだ。この間にも味方と敵の戦闘機は火を噴きながら海に落ちていく。その光景はまさしく、彼が経験した三年前の内戦における同じ国の戦闘機同士による航空戦のようだ。

 裕也が乗るF/A4「紫電」戦闘機が機関砲等で敵機を堕とし続ける中、後ろからコヴナントのヴァンパイア戦闘機が急襲を仕掛けてきた。

 搭載されているプラズマガンを受けて撃墜されるかと思ったが、戦友である亮太に救われる。

 

『大丈夫か?! シューターリーダー!』

 

「あぁ、助かった。借りが出来たな」

 

 戦友に礼を言ってから、敵機への攻撃を続けた。

 海の方でも交戦が行われており、日本国防海軍による同盟軍の海上戦力に向けての過剰なまでの攻撃が行われていた。

 

「全艦、ミサイル複数同時発射(サルボー)!!」

 

 旗艦からの指示で、オート・メナーラ127㎜艦載砲のみならず、スタンダードミサイルも同時発射される。こうまでしなければ敵の数は減らせない。無論、敵の数は想定外に言えるほどの数であるが。

 凄まじい一斉射で同盟軍の上陸艇や海上にいる機動兵器群が海中にいる機動兵器群諸共海の藻屑と化していくが、まるで湯水のように湧いてくるかの如く、爆煙の中から続々と敵部隊が出て来る。

 

「全然減ってない!?」

 

 戦地より尤も離れた東京にある陸海空軍統合指揮所に居る海軍の黒髪で若くて美しい女性将官は、レーダーに映る敵部隊の数が全く減っていないことに驚きの声を上げた。

 陸軍と空軍の黒髪黒目の美女達も同様、驚愕名表情を浮かべている。

 

「敵、尚も増加中! これ以上は対処不能!」

 

「敵人型に恐竜型、魚類型の兵器の攻撃により第4艦隊と傘下の航空隊壊滅状態! 撤退の指示を請うております!」

 

「空軍の第5航空軍の損害、尚も増加中! いずれは戦闘不能に陥ります!!」

 

 次から次へと来る損害報告に若い女性将官等は動揺を覚え、思考を混乱させていく。

 その報告に対し、一人の女性将官は撤退を許可しない答えを出す。

 

「撤退? ふざけた事を! 我々に撤退はない! 最後まで戦え!」

 

 狂気じみた台詞を吐くが、彼女を除いて他の若い将官等も含め、誰もその答えに賛同しない。

 映像では今も、日本国防軍全軍がやられ続けている。前線の将兵等の悲鳴も聞こえており、耳を塞ぐ女性オペレーターの姿もある。裕也の部隊も、前線に到着した敵機動兵器群の攻撃を受け、苦戦している。

 悪戯に被害が拡大する中、一人のオペレーターが日本国防軍最高司令部総長からの通信があると伝える。

 

「閣下、最高司令部総長より通信です」

 

「はぁ・・・! 繋いで!」

 

 自分等が称える最高司令部総長からの通信があると聞いたこの場の総司令官を務める海軍大将は、この状況を覆す程の策があると思い、直ぐに繋ぐよう命ずる。

 通信は繋がれ、映像には統合指揮所に居る黒髪黒目の美女等よりも美しく、やまとなでしこに相応しい二十代後半の若い女性が映った。

 彼女が身に着けている国防色の軍服の襟章には、大元帥を示す階級章が縫い付けられている。

 だが、統合司令部に居る女性将官等全員が期待した物とは違う命令が下される。

 

『奮闘ご苦労。早速だが、この最高司令部総長、竜宮美弥子(りゅうぐう・みやこ)が命じる。直ぐに軍を退け。後はIS学園守備隊に任せろ』

 

 この最高司令部からの命令に、若い将官等は指示に従う事無く、異議を唱え始める。

 

「どうしてです総長!? ここで退けば我が軍の威信が・・・!」

 

『言い訳は聞きたくない。例え多くの犠牲で勝利を得て威厳を保てたとしても、戦闘後に日本海側の戦力低下を見た大陸が侵攻してくる可能性もある。ここは命令に従い、装備も練度にも優れるIS学園の守備隊に託されよ。命令に背いた場合、貴官を銃殺刑に処すか、他の者達も一緒に”月の者達”の献上品として送り付けるが』

 

「ひ、ヒィィ・・・!!」

 

 月の者達の献上品として送り付ける。

 この最高司令部総長の言葉を聞き、その意味を知っていた若い女性将官等は震え上がり、直ぐに命に従った。

 献上品という意味は、今の日本のスポンサーに当たるフォル・モーントに、性奴隷として月に送られることである。

 日本のならず、世界各国の若くて美しい軍の政界の議員や軍の上級職の軍人、民間の企業幹部、司法関係者、諜報部関係者等が”献上品”として月に構えるフォル・モーントに送られ、それからの所在は掴めていない。

 この事実を知る一同は震え、震える声で全軍に撤退命令を出した。

 

「て、撤退・・・! 全軍撤退せよ! 早くしなさい!!」

 

「りょ、了解! 統合司令部より通達、全軍第3防衛ラインより撤退せよ! 繰り返す、撤退せよ!」

 

 ただならぬ雰囲気と感じ取った女性オペレーター等は、全戦で戦う全部対に命令を伝達した。

 前線で機動兵器との死闘を繰り広げていた裕也はその通信を聞き、IS学園の守備隊に強力で数も多い同盟軍に対処できるかどうか疑問を抱いていた。

 

『全軍、第3防衛ラインより即時撤退せよ! 繰り返す、即時撤退せよ! 後はIS学園守備隊が引き継ぐ!』

 

「IS学園の連中に、こんな超兵器の大軍を相手できるのか?」

 

 裕也が疑問の言葉を口に出せば、それを聞いた亮太が撤退命令を有り難いと思い、通信を入れてくる。

 

『有り難いことだぜ! どっちにしろISをぶつける気だろ。なんせあの学園にはISが数百機ほどあるからな。宇宙人のトンデモ兵器相手は、ISに任せようぜ!』

 

「それもそうだな。シューターリーダーより各機へ! 御上からの命令だ、ずらかるぞ!」

 

 裕也が部下達に撤退の指示を出せば、亮太と同様に最後まで戦うことなく全機が敵との戦闘を止めて基地へと逃げるように撤退し始めた。

 IS学園の盾となっていた陸海空の日本国防軍が撤退し、最終防衛ラインまで同盟軍の大軍勢が迫る中、IS学園の付近に建っている未来都市のような建造物群が、変形を始めた。

 それに合わせてか、その建造物にある戦闘指揮所(CIC)にて、通信士やレーダー手、オペレーター等がそれぞれの持ち場に着き、近付いてくる同盟軍部隊の開設に当たっている。

 司令官の女性将官が席へ着く頃には、変形していた未来都市のような建造物群は大砲や対空砲、ロケット砲にミサイル、レーザー砲やプラズマ砲で固められている要塞へと姿を変えていた。

 この要塞の名は「バトルシティ」。ワルキューレの重要拠点防衛用施設の一種である。見た感じは要塞であり、敵側からは要塞の一種と認識されている。

 変形した為か、砲塔のみならず、あちらこちらに戦車や軍艦に戦闘機が出られるハンガーも現れ、そこからIS学園守備隊の機甲部隊と海上部隊、航空部隊が発進し、防衛戦構築を始める。

 

「IS学園守備隊、最終防衛ラインに展開中!」

 

「MS隊、バルキリー隊、デストロイド隊、戦術機隊、ナイトメア隊出撃準備中!」

 

「出撃準備が終わった隊から出しなさい! 敵は待ってくれないわよ!!」

 

 オペレーターからの報告に、司令官は直ぐにでも出すように告げる。

 それと同時に学園の教職員及び生徒の避難完了と、学園に近い本土の住民の避難完了が知らされた。

 

「学園教職員及び生徒の避難が完了! 周辺住民の避難も完了済みです!」

 

「これで被害は周辺の建造物とこの付近のみとなるわね。IS学園にシールドバリアー展開! 対空警戒並び、付近の友軍基地より支援要請を!」

 

 報告を聞いた司令官が的確な指示を出した後、出撃準備中のワルキューレが保有する機動兵器部隊の準備が完了した。

 まずは大気圏内兼大気圏外用スーパーパック付きのVF-11Cサンダーボルトがハンガーや空母から続々と発進し、防衛ラインに展開し始める。大多数の敵に備えてか、アーマードパック付きのVF-11Cも発進し、防衛ラインに展開する。VB-6ケーニッヒモンスターの展開も行われていた。

 次は可変系MSのZプラスやムラサメ、空戦用装備のM1アストレイの発進も行われ、IS学園とバトルシティ上空に展開し始める。

 地上からはM16対空自走砲等の戦闘車両やAH-64アパッチ・ロングボウ等と共に、戦術機のF-15Jや不知火、デストロイドのシャイアンⅡ、モンスター、MSのジムⅢやガンキャノンディテクター、ガンタンクⅡ、ナイトメアのグラスゴーとサザーランドも出撃し、防衛ライン展開に向かった。

 歩兵部隊等は、機動兵器部隊よりも先に出動して、敵が上陸すると思われる場所に陣地を構築し、敵が来る方向へと銃口を向けている。

 最後の出番となったのは、戦術機の武御雷を有する部隊である。

 これに乗り込む彼女等は出撃前に円陣を組み、掛け声を上げて気合いを入れる。

 

「これが初の出撃よ! 全員準備は良い?」

 

 隊長が同じく円陣を組んでいる自分と同じ衛士強化装備を身に着けた十六人の部下に問えば、全員が気合いの入った言葉で返す。

 

『もちろん! どんな相手でも負ける気は無し!!』

 

「それじゃあ気合い入れていくわよ! 戦術猟兵隊出動!!」

 

了解(コピー)!』

 

 全員の返答を聞いた隊長が出動命令を出せば、円陣を解散して自分の機体に乗り込み始め、全員乗ったのを確認すれば、専用のハンガーから出撃して担当地区へと展開した。

 

「私も出撃しないとね」

 

 同盟軍の強襲と聞き、避難命令を無視してバトルシティに来ていたマリは、身分証明書を見せて格納庫へと入り、即時に騎士の甲冑のようなパイロットスーツを身に着け、アーマードパック付きVF-1Jに乗り込んだ。

 そのまま歩いてハンガーから飛び出し、恐ろしい数の敵機が見える方向へと視線を向けた。




前半ラブコメ、後半は戦争物という・・・

ラブコメ書いたこと無いから結構苦労したわいな。

それと戦術猟兵隊、出身地クンタラ説。

前書きのトビアの台詞、あれはこの二次元創作を書いてからずっとやろうかと思っていた物です。
連載弐年目にしてやっと到着したぜ・・・!!


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ヴィラン

イメージBGM
トランスフォーマー・ザ・ムービー『AutobotDeception Battle』

https://www.youtube.com/watch?v=eUTnAlYxGj8

次元ビーコンとは。

次元転送装置を組み込んだ中型の電子機器。
普通のビーコンより次元転送装置を組み込んだ御陰で大型化しているが、重さは持ち運べるくらい軽いので、楽に形態は可能。
砲弾型の次元ビーコンも存在する。
次元航行技術を有するどの勢力でも使用されており、形状は勢力によって違う。


 同盟軍の大軍が迫る中、マリを含めたIS学園守備隊は迎え撃つために立ち向かった。

 自身が乗るVF-1Jアーマードパックの限界高度まで飛び、大規模な敵航空機部隊を見て驚きの声を上げる。

 

「ちょっと、なによこの数!?」

 

 そう言いながらも、手に持った強化型のガンポッドを目の前から来る敵に向けて撃ち込む。

 狙ったのはカブトムシ型のゾイドであるサイカーチスだ。戦闘ヘリなので、戦闘機タイプとは違って鈍足なので狙いやすい。それに強化型のガンポッドの火力は凄まじく、狙った敵機を細切れにした。

 

「次!」

 

 誤射しないように敵機の密集している箇所へ向け、高火力なガンポッドを撃ち込む。

 数機ほどが細切れとなったが、流石に散会されてしまう。

 直ぐに纏めて始末しようとミサイルを撃とうとしたが、もっと密集している箇所に撃ち込んだ方が効果的だと思い、発射ボタンから指を離す。

 数機ほど撃ち落とした後、大多数の敵機が居る方向へ向かい、目に映る敵機を限界まで全てロックオンする。

 ミサイル残弾全ての敵機をロックオンし終えればボタンの蓋を開け、親指で押し込んだ。

 アーマーに付いている全てのミサイルポッドから全ての小型ミサイルが一斉に発射される。

 標的にされた全ての敵機に向けてミサイルが飛び、何発か命中して航空機や機動兵器も含める数機以上の敵機が火を噴きながら地面へと落ちていった。

 残ったロケット弾に関しては、陸戦兵器を搭載している降下艇に撃ち込んで撃墜した。

 数機以上を撃墜したところで重たいアーマードパックを分離し、身軽になってから機体をファイター形態に変形させ、標的に入った敵機を手当たり次第撃墜する。

 

「こんなだけやったのに、まだ減らないなんて・・・」

 

 衰えずに攻撃を続ける同盟軍の兵器群をキャノピーから見て呟いた後、前に見える敵機を撃墜した。

 しかし、十機や二十機を潰しても敵はまだまだ湯水のように湧いて出て来る。

 そればかりかバトルシティの迎撃が追い付かず、本島に敵部隊の上陸を許し、更にはIS学園上空に侵入を許してしまった。

 

『各機に通達します! 敵部隊が上陸! 更にIS学園に敵部隊が空挺降下!! 至急迎撃に向かってください!!』

 

「ちょっと、なにやってんのよ!」

 

 オペレーターからの緊急連絡に、マリは通信映像に向けて怒鳴り散らした。

 その間に他の航空部隊がIS学園防衛に回る。遠くから見える辺り、かなりの数の敵が学園の方へ降下したようだ。地上の守備隊は、上陸してきた敵陸上へ威力の迎撃に追われている。

 数機以上を撃墜した後、全速力でIS学園防衛へと回った。

 

 

 

「外はどうなってる?」

 

 IS学園地下の第一避難壕にて、職員や生徒らと共に避難していた織村千冬が目の前に立っているインカムを付けた女性守備隊将校に聞いた。

 

「現在、襲撃部隊と交戦中です。戦闘が終わり次第、残敵排除などの安全確保の後、外へ出られます」

 

「前に同じ事を言ったが、それほど我々に見られたら不味い物なのか? カヤ・オーベルシュタイン養護教諭の姿も見えないが?」

 

「それについてはお話しできません。戦闘が終わるまでここに居てください」

 

 同じ返答をされたのか、千冬は真相を確かめようと再度将校に問うが、答えずに彼女等に避難所にいるよう告げる。

 無論、学園内に敵の侵入を許しており、学園に回された戦力が敵歩兵部隊と戦闘中であるが、千冬等が居る地下の避難壕は厚い壁に覆われているため、銃声一発すら聞こえてこない。

 また同じ回答をしてくるかと思って、千冬は防護扉の方へ視線を向けた。

 彼女の身体能力ならなんとか突破できそうだが、相手が女性兵士とはいえ、完全武装の兵士数名を相手するには骨が折れる。

 そんな矢先、将校が右耳に付けているインカムに手を当て、驚いた表情を見せ、声に出した。

 

「第二避難壕が!?」

 

「第二避難壕がどうしました?」

 

「いえ、何も・・・」

 

 千冬の隣に立つ山田摩耶(やまだ・まや)は、将校が出してしまった声を聞いてしまい、そこに避難している職員と生徒の安否を気にして問うが、将校は誤魔化す。

 千冬はそれを逃さず、自分等に聞こえないような小声で何か指示を出しているのを観察しつつ、終わったのを見計らって問う。

 

「随分と慌てていたようだが、第二避難壕で何があった? あそこにも生徒と職員が避難しているんだぞ」

 

「そうですよ! 一夏さん達は大丈夫なんですか!?」

 

「いえ、ちょっとしたトラブルがあっただけです。直ぐに解決します」

 

 千冬が聞けば、摩耶は心配して、第二避難壕に避難している千冬の弟である織村一夏(おりむら・いちか)や、ISの開発者である篠ノ之束(しののの・たばね)の妹の篠ノ之箒(しののの・ほうき)を始めとした各国代表候補生達が無事なのかをもう一度問う。

 

「本当に大丈夫なの? あそこには私の友達が避難してんのよ」

 

「生徒である私の妹がそこに避難しているんです。本当に大丈夫なんですか?」

 

「本当のこと教えてよ、何が起きてんの? ねぇ!」

 

 摩耶が声を大にして問うたので、他の職員や生徒らに伝染してしまい、将校の周囲に集まってきた。

 

「み、皆様、お、落ち着いてください!」

 

 これは将校でもお手上げなのか、下士官に天上へ向けて銃を撃つよう命ずる。

 なるべく跳弾させぬように、毛布に向けてP226自動拳銃を撃ち込み、生徒や職員等を黙らせた。

 

「キャッ!」

 

「貴様等、なんのつもりだ!?」

 

 銃声では臆さない千冬は、銃を撃った守備隊の将兵等に向けて怒鳴る。

 だが、彼女等は千冬等に銃口を向け、大人しく静かにしているよう告げる。

 

「失礼を。機密保持のため、このような手段に出ました。第二避難壕に関しては我々にはお任せを。もう一度先程の様な行動を取られるなら、こちらにもそれなりの対処を行います」

 

「クッ・・・」

 

 将校が告げれば、守備隊の将兵等を刺激したくない千冬は大人しく下がった。

 

 

 

 その頃の敵の襲撃を受けている第二避難壕では、地面に空いた穴から同盟軍の傘下勢力のコヴナント、キメラ、ローカストの主力歩兵が現れ、守備隊将兵等と銃撃戦となっていた。

 守備隊側には歩兵にとっては脅威とも言える12.7㎜重機関銃を四門も搭載しているM16対空自走砲が一両ほどあり、圧倒的に見えたが、敵はそれを上回るほどの数であった。

 幾ら毎分1200発を誇るMG3汎用機関銃があっても、グンタイアリの如く穴から湧いて出て来る。

 

「き、キリがない!」

 

「どんだけ出て来るのよ!?」

 

 無数の敵と戦う守備隊の兵士等は、余りの数の多さに戦意を失い始める。

 向かってくるのはコヴナントのグラントやジャッカル。キメラのハイブリットやスティールヘッド、ロングレッグ、ラベジャー、そして開発した無人兵器のストーカー。ローカストのドローンにグレネーディア、サイクロップス、ブーマー、グラインダー、モーラー、カンタス等が続々と迫ってくる。

 このままでは突破されるのは時間の問題だろう。

 M16対空自走砲が敵のRPG持ちに撃破されたのを見て、避難壕を守る将兵等は敗北を感じた。だが、援軍は避難壕の中から現れた。それは織村一夏を始めとした専用のISを持った代表候補生達だ。

 我慢しきれなくなったのか、それとも中にいる将校が許可を出したのか、いずれにしても、援軍であることは変わりない。

 

「タァァァ!」

 

 自身の専用IS「白式(びゃくしき)」を駆って、目の前の敵を纏めて主兵装の刀剣の形をした雪片弐型(ゆきひらにがた)で切り裂く。

 血が吹き出るが、この時の一夏は敵を生物とは認識しておらず、無我夢中で見える敵を切り続けた。

 

「なんなんだこいつ等は?」

 

 数体ほど始末したところで、同じく出て来た軍用ISに乗った将校に問う。

 

「私も学園に総攻撃を仕掛けてくる勢力が現れるって聞かされたけど、まさか宇宙人が来るなんて思わなかったわ」

 

 ライフルを撃ちつつ一夏の問いに答える。そんなただシンプルな戦い方をする一夏の白式の背後から、キメラのストーカーが鹵獲用ネット弾を発射しようとする。だが、縦ロールの長い金髪と透き通った碧眼を持つイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットが駆る専用IS「ブルー・ティアーズ」の巨大な特殊レーザーライフルであるスターライトmkⅢを、ストーカーに向ける。

 

「一夏さん! 危ないですわ!!」

 

 一夏に警告してからストーカーに向けてレーザーライフルを撃ち込んだ。

 エネルギーシールドで防御されているはずだが、レーザーの威力は高く、容易に貫通し、守備隊が苦戦したストーカーを易々と破壊した。

 自分の危機を救ってくれたセシリアに対し、一夏は礼を告げる。

 

「ありがとな、セシリア!」

 

「い、いえ、どうも!」

 

 一夏からの礼で顔を赤らめて嬉しがるセシリアであったが、そんな彼女の背後からモーラーが襲い掛かる。

 

「セシリア! あんた戦場のど真ん中で何やってんのよ!?」

 

 そのセシリアの危機を救ったのは、ツインテールで小柄な愛らしい外見を持つ中国の代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)が駆る専用IS「甲龍(こうりゅう)」の崩山(ほうざん)だ。

 ちなみに崩山は元の装備である龍咆(りゅうほう)に二門から四門に増設された物だが、赤い炎を纏った弾丸を拡散衝撃砲として発射する。

 これを受けた敵は一溜りも無く肉片と化し、辺りに散らばる。

 

「ISノ操縦者ダ!」

 

「来んじゃないわよ! 気持ち悪い!!」

 

 側面より迫ってきた複数のグラントを容赦なく双天牙月(そうてんがけつ)と呼ばれるISサイズの青龍刀で纏めて切り裂く。

 

(りん)! お前も戦うのか!?」

 

「当たり前でしょ! こういうのはISで戦わないとね!」

 

「その通りだね!」

 

「あぁ、宇宙人相手には容赦はいらんからな!!」

 

 自分の愛称を一夏に言われた鈴音は、彼のほうに視線を向けて答える。

 それに同調してか、フランスの代表候補生であるシャルロット・デュノアや、ドイツの代表候補生で、学生でありながらIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長であり、少佐の階級を持つラウラ・ホーデヴィッヒの二人が、自身の専用IS「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」や「シュヴァルツェア・レーゲン」を駆り、目の前に居る敵を全て自身のISの主兵装で排除する。

 シャルロットはラファールのアサルトカノン「ガルム」、ラウラはシュヴァルツェアの両肩に二門装備された「パンツァー・カノニーア」。

 どれもが敵歩兵に取っては脅威その物であり、彼女等の攻撃を受けた同盟軍の主力歩兵等は、忽ち無惨な形へと変貌する。

 

「ハァァァ!!」

 

 続いてシャルロットはラファールのシールドの裏に搭載されたパイルバンカーを、エネルギーシールドを張るストーカーに打ち込み、シールドを貫通させ、本隊を破壊した。

 

「纏めて片付ける!」

 

 ラウラも負けていられないのか、周囲にいる敵歩兵の集団をワイヤーブレードで切り裂く。

 そのまま彼女等は、一夏と将校と共に周囲にいる敵の掃討を続けた。

 

「テ、撤退ダ!」

 

「逃ゲロ!」

 

「IS強スギル!」

 

 一夏、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが駆る第三世代専用ISの活躍の御陰で第二避難壕に迫ってきた敵は撤退を始める。

 

「あんた等凄いわね! うち来る?」

 

「いや、俺等学生だし、入る気ありませんって」

 

 その活躍ぶりは「たかが学生」と舐めていた将校も舌を巻くほどであり、一夏達をワルキューレに勧誘しようとしていた。

 無論、彼等は入るつもりもなく、断りの言葉を告げる。

 当然のことながら部外者でしかも民間人な一夏等に戦わせたのか、バトルシティの戦闘指揮所の司令官よりお叱りの通信が来る。

 

『中佐! 貴方は一体何を考えているの!? 民間人、それにIS学園の生徒を戦わせるなんて・・・!』

 

「それは反省しています! でもあれ程の敵兵力で対抗できるのはISのみだと思いますが・・・」

 

 言い訳をする中佐に対し、今は処罰している暇はないと思ってか、司令官は彼女に指示を出した。

 

『まぁ、処罰は戦闘後にしておきます。貴方は学生等と共に学園に侵入した敵歩兵と通常兵器、ウォーカーやドローンの撃破に努めなさい』

 

「え、機動兵器の対処は・・・?」

 

『それは増援にやって来るAS(アーム・スレイブ)と戦術機装備の第9機甲空挺旅団に対処して貰うわ。貴方は今言った兵器の対処に入りなさい。以上』

 

 司令官は中佐からの異議を聞かず、指示を伝えれば通信を切り、自分の仕事へ戻った。

 指示を聞いた中佐は一夏等の方へ向き、先程の司令官の指示を告げる。

 

「取り敢えず、でかいロボットの類は無視して私達は宇宙人や戦車、航空機、小さいのとかの排除に当たるわよ」

 

 先程の自分と同様に、一夏が異議を唱えた。

 

「おい! 俺達はあのロボットとか戦わないのかよ! あいつ等は俺達が戦わないと!」

 

「一夏様の言うとおりですわ! ああ言う未知の兵器の対処は、私達IS操縦者の仕事ですわ!」

 

「そうだよ。僕達がやらなくて誰がやるの?」

 

「なんで張り合いのない通常兵器の相手をしなきゃいけないのよ!」

 

「幾ら守備隊でもあれではやられるぞ!」

 

 一夏が異議を唱えれば、セシリアやシャルロット等が続き、同盟軍の機動兵器群と戦おうとする。

 これに対して中佐は、尤もな答えで返した。

 

「あんた等学生でしょうが! ISに乗って調子こくんじゃないわよ! 私達IS乗りには役割があるのよ! ここであんた等が戦っていられるのは私の御陰でしょ! 死にたく中ったら私の言うこと聞きなさい!!」

 

「あ、わ、分かりました・・・」

 

 凄い気迫で告げた御陰か、一夏等は中佐の指示に従い、歩兵と通常兵器の対処へ回った。

 彼女等がそうしている間に、マリはIS学園上空へと遅れて到着した。

 その前に彼女はキャノピーから見える敵が上陸してくる地点に視線を向け、学園守備隊の迎撃を受けるおぞましい数の敵を見て声を上げる。

 

「うわぁ、何よあの数・・・あんなのと戦えっての」

 

 守備隊の機関銃陣地やトーチカ、沿岸砲、ジムⅢや不知火、デストロイヤー等の機動兵器の掃射で次々と海の藻屑とかしていくが、湧いて出て来るように迫る同盟軍の機動兵器群を見たマリは、戦意を失うような言葉を漏らす。

 そんな彼女のVF-1Jに、複数の近距離支援機「バンシー」の弾幕が浴びせられる。

 

「キャッ! 邪魔よ!!」

 

 少し被弾して機体が揺れたのか、マリは悲鳴を上げ、機体をバトロイド形態に変形させ、自分の機体を攻撃した複数のバンシーに向けて強力なガンポッドを浴びせた。

 当然の如く、戦闘機の攻撃を受ければ一溜まりもないバンシーの装甲では、ガンポッドの掃射を耐えられるはずもなく、細切れとなって爆散する。

 次にマリは対空射撃を行うベロキプトル型ゾイドである「レブラプター」数機に向けて降下し、ガンポッドを撃ち込んで数機ほど細切れにした。

 最後の一体が、レブラプターの接近戦の強さを生かしてマリのVF-1Jに斬り掛かったが、あっさりと避けられ、コクピットである頭部を吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 

『後ろ!』

 

 誰かからの知らせにマリは操縦桿を即座に動かし、ガンポッドを左脇の下に入れ込み、背後から迫る敵に撃ち込んだ。

 背後の方へカメラを向ければ、そこにはイグアノドン型の小型ゾイドである「イグアン」が居り、脆い装甲のためか、上半身が引き千切れており、上半身が地面に倒れれば、バランスを失った下半身も倒れる。

 自分の危機を知らせてくれた相手に、マリはお礼を告げる。

 

「ありがとう。御陰で死なずに済んだわ」

 

『どうも致しまして』

 

 彼女に知らせてくれたのは、武御雷(たけみかづち)を有する戦術猟兵隊の隊長機であった。多数の敵機と巨大生物と交戦してきたのか、機体に返り血がこびり付いている。通信を繋いだマリは、戦術猟兵隊の隊長にどのような戦況なのかを問う。

 

「通信聞いて駆け付けたけど、学園はどうなってんの?」

 

『そこら中敵だらけよ。うちの隊も何機が損傷して、バトルシティに撤退してるわ。あんたの方はどうなってるの?』

 

「えーと、こっちは・・・まぁ、私以外基地に行っちゃったかな?」

 

『そう。もうすぐ援軍が来るから、少しは楽になりそうね』

 

 戦術猟兵隊隊長がマリにそちらもどうなっているのかを聞いてきたので、何処の部隊にも属していないマリは適当に誤魔化す。

 隊長が「援軍が来る」と聞いてか、上空の方へカメラを向け、援軍が来るかどうかを確認した。

 言った通り、援軍を載せた数十機のAn-22超大型輸送機C-5大型輸送機がバルキリーのVF-171の護衛を受けながら現れた。

 その大型輸送機群の貨物室のハッチが開けば、輸送されていた”援軍”を一斉に地上へ降ろした。その数はまさに雨のよう。降ろされたのは専用落下傘装備のASのM9ガーンズバックや戦術機の不知火数百機ほどだ。

 地面へ着陸すれば、直ぐに落下傘を外して守備隊の救援に向かう。

 これで戦闘は終わるだろう。

 そう思った矢先、同盟軍にも増援が現れた。

 

『各員へ通達! 東よりゴリアテ数機が出現! 更にアリーナに敵次元ビーコンを確認! 直ちに対処をお願いします!!』

 

「一遍に二つも!?」

 

『どっち共やるしかないようね。ゴリアテの方は私達が対処するから、アンタはアリーナの方に!』

 

「あっ、ちょっと! もう!」

 

 オペレーターからの緊急連絡に、マリは驚きの声を上げれば隊長はゴリアテの対処に向かうと告げ、マリにアリーナの対処を命じ、彼女の話しも聞かずにゴリアテの方へ向かった。

 話しも聞かずに向かった隊長にマリは腹を立てつつ、敵の増援を異界から呼び寄せる次元ビーコンがあるアリーナへと向かう。

 機体をガウォーク形態に変形させて上昇し、アリーナの方へ機種を向け、ファイター形態に変形させようとしたが、側面より現れた巨体の四本脚を持つ、全長91mのゴリアテと呼ばれるキメラの巨大兵器が海中から現れ、マリが乗るVF-1Jに向けて巨大なミサイルランチャーを掃射した。

 

「嘘・・・!?」

 

 避ける暇もなく、マリのVF-1Jは撃墜された。

 だが、これで死ぬような女ではなく、ミサイルが当たる直前に脱出ポッドで脱出しており、地面へと落下していた。

 直ぐにキャノピーをこじ開けてポッドから飛び出し、待機状態である自身の専用IS「クウァエダム・デア」を起動させ、パイロットスーツから露出度と身体のラインが露わなISスーツに替わり、全身に装備を身に纏った。

 

「さぁ、第二ラウンド、行くわよ!」

 

 クウァエダム・デアを纏ったマリはそう意気込み、自分のVF-1Jを撃墜したゴリアテに接近した。

 直ぐさま迎撃のミサイルが向かってくるが、マリにとっては止まって見えており、避けながら接近し、各所へ向けて手にしているビームライフルを撃ち込む。

 ロケットやミサイルなどを防ぐほどの重装甲であるが、ビーム対策は行っていなかったのか装甲が剥がれ出し、直ぐに同じ箇所に向けてビームを撃ち込まれ、大破した。

 

「なにこれ、木偶の坊じゃない」

 

 脅威とも思えるゴリアテが、自分にとっては大した相手でもなかったので、そう吐き捨ててアリーナへ向かう。

 途中、地上と上空から機動兵器群がマリのクウァエダム・デアに向かってくるが、彼女が放ったビットのオールレンジ攻撃を受け、敵機の集団は瞬く間に全滅する。

 爆煙の中を突っ切り、マリはアリーナへと飛んだ。

 途中、IS学園最強と評され、生徒会長である更識楯無(さらしき・たてなし)が、自身の専用IS「ミステリアス・レディ」で交戦している姿が見えた。

 その強さは最強と評される程であり、自身のISが持つ水を自由自在に扱って次々と敵歩兵を溺死させている。

 戦闘車両の類に対しては、機関部に水を入り込ませて内部から大破させていた。

 全て撃破したのを確認すれば楯無は両手を腰に付け、周囲に転がる見たこともない兵器の残骸と生物の死骸を見て、不思議に思う。

 

「大方片付けたけど、こいつ等何かしら? 宇宙からの侵略者? こいつ等に関しての情報が分かると良いけど・・・本家に連絡できないし・・・」

 

 裏工作に通じているのか、学園に攻撃を仕掛けてきた同盟軍の正体を知ろうと本部とされている「本部」に連絡を取ろうとしたが、機密漏洩対策で張られたジャマーで連絡が取れなくなっており、頭を傾げている。

 そんな彼女に気付いたマリは楯無の元へ近付き、声を掛ける。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

「私も学園の危機と聞いて迎撃に参加させていただきました! なにかご用ですか?」

 

 マリに気付いた楯無は冷静に対処し、通信端末類などを直ぐに切って彼女の方向へ振り向き、先程のことを誤魔化した。

 勘が鋭いマリなら気付くかもしれないが、先程のことは上空に飛んでいて聞こえてなかったのか、楯無はどのような用なのかを問う。

 

「まぁ、なんか生徒だけじゃ駄目かと思って加勢に来たけど、この分だと無理みたいね」

 

「はい、何たって私、生徒会長ですから!」

 

「生徒会長? へぇ・・・だからそんなに強いの・それじゃ、私はアリーナに向かうから、頑張ってね!」

 

「は~い! ふぅ、聞かれてない。さぁ、悪い宇宙人をやっつけましょう」

 

 マリが飛び去った後、何も聞かれていないとホッとした楯無は、同盟軍の迎撃へと向かった。

 そしてアリーナへ到着したマリは、次元ビーコンから夥しい数の敵が続々と出て来るのを見て、卒倒しそうになる。

 

「嘘・・・こんな数を相手にしなきゃいけないの・・・?」

 

 彼女が弱音を吐く程に敵の数は壮大であった。

 同盟軍にとっては通常の投入分であるが、マリにとっては異常と取れるほどの数だ。

 MSやゾイド、AT等の機動兵器などの数は少ないが、歩兵や通常兵器の数は凄まじく多い。

 増援を待ってから攻撃しようと決め込んだ時に、都合良くその”増援”が現れた。

 その増援とは、専用IS持ちである一夏達の事である。

 

「なんだよ・・・これ!?」

 

「この数の敵、異常過ぎじゃない!」

 

「あっ、ちょっとあんた達!」

 

 折角鴨が葱を背負ってやって来たので、早速マリは一夏達に声を掛ける。

 凄まじい敵の数を見て戦意を喪失し掛けているときに、目線を黒いバイザーで隠した見知らぬ女性に話し掛けられたので、一夏達はやや動揺を覚える。

 

「な、なんですか?」

 

「あんた等無断で戦ってるんでしょ? これから私が命令するから、命令通り動きなさいよ。拒否権は無しだからね」

 

「なにぃ!? 貴様、私はIS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長だぞ!!」

 

「勝てる保証は、あるの?」

 

 プライドのある軍人であるラウラは見知らぬ女に命令されて怒りの声を上げるが、シャルロットはマリの命令に従えば、勝てる保証があると思って問う。

 そんな問いに、彼女は頷いて命令の内容を伝える。

 

「えぇ、勝てるわよ。あんた等の相手は雑魚ばっかりだから。ロボットの方は私に任せなさい。 さぁ、行くわよ!」

 

「ちょっと! お待ち下さい!!」

 

 命令の内容を告げれば、マリはセシリアの声も聞かずに敵の巣窟と化したアリーナへ突っ込み、目の前にいたグラントやハイブリット、ドローンを両腰の機関砲で吹き飛ばし、左手に実体化させたバズーカで次元ビーコンを撃った。

 

「はっ!? シールドしてるなんて! 脳筋風情の分際で!!」

 

 同盟軍のコヴナントやキメラ、ローカストを見下すような台詞を吐き、即座にシールド発生装置を探した。

 探している間にも、同盟軍の歩兵や兵器、次元ビーコンを守るゴリラ型で大型ゾイドのアイアンコングやローカストの生物兵器「ブルマック」、MSのジンにザウート等の妨害が来るが、マリは回避とシールド発生装置の探索を同時に行い、辺りに目を配る。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 背後にいる歩兵の大群に対しては一夏等が対処しており、RPGの弾幕が背後から浴びせられる心配はない。

 

「もう! こいつ等しつこい!!」

 

 まどろっこしいと思ってか、マリは次元ビーコンを守る同盟軍の機動兵器群に対して、全火器を使った反撃を行う。

 ビットを全基展開し、右手のビームライフル、左手のバズーカ、両腰の二門の機関砲を使った一斉射撃だ。

 重装甲を持つアイアンコングも耐えきれるはずもなく、他の機動兵器等と共に大破する。

 障害を排除したマリは各所に設置されたヘルファイア・タレットを回避しつつシールド発生装置の探索を続行。高熱のレーザーを避けつつ周囲に目を配っていれば、発生装置と思われる装置を見付けた。

 

「記憶してと」

 

 複数あると思って破壊する前に記憶し、記憶が完了すれば、周囲にある四台のヘルファイア・タレットを全て潰してからビームライフルを撃ち込み、シールド発生装置を破壊した。試しに次元ビーコンへ撃ち込んでみたが、攻撃は防がれている。ヘルファイア・タレットが配置されている場所を目印に、次なるシールド発生装置の破壊に向かう。

 

『ちょっと! まだなの!?』

 

 通信から鈴の悲痛な叫びが聞こえてくるが、マリはそれを無視してタレットの破壊に専念する。

 シールド発生装置を破壊されたことで敵も焦ったのか、上空よりゾロにディン、バクト、レドラ、サイカーチスを数十機ほど増援として送り込んできた。

 地上からは、MSのジンにグーン、ゾノ、ATのフロッガー、ゾイドのモルガにレッドホーン、イグアン、レブラプターを数十機も投入する。

 流石にマリでもこれ程の数は相手には出来ないが、味方の増援も来た。

 

『これより援護を開始する!』

 

 それは先程の救援として駆け付けたASのM9や戦術機の不知火を中心とした機甲空挺部隊だ。随伴の歩兵部隊もおり、一夏達が相手をしている同盟軍の歩兵の大群に強襲を仕掛ける。更にはバルキリー隊による援護もあった為、シールド発生装置の破壊に専念できた。

 

「これで・・・!」

 

 弾幕を避けつつ、最後の一基に向けてビームを放ったところで次元ビーコンを守っていたシールドは消失した。

 これでもかと言うくらいに同盟軍は次元の彼方から増援を送り込んでくるが、海上の敵をある程度片付けた守備隊の部隊もアリーナの方へ回ってきたので、現れて直ぐに潰される。

 誰かが次元ビーコンに攻撃を加えて破壊したところで、同盟軍は撤退を始めた。

 守備隊も追撃を掛けようとするが、敵はろくな反撃もせずに撤退していくので、深追いはせずにその場に留まった。

 

『敵軍の次元ビーコンの破壊を確認! 敵は撤退していきます!』

 

「これで・・・終わったか・・・」

 

「やっと退いてくれた・・・」

 

 オペレーターからの連絡に、守備隊の将兵等はホッと胸を撫で下ろした。

 

「うわぁ・・・やっと終わった・・・」

 

「もう、こんな事は二度としませんのよ・・・」

 

「流石に、特殊部隊の長である私にも・・・キツイ・・・」

 

 一夏達に関してはバテ気味であり、軍人であるラウラですらこの始末であった。

 無論ながら、守備隊の将兵等の何人かも激戦の緊張感から解き放たれて地に膝を付けているが。

 

「あぁ・・・シャワー浴びたい・・・」

 

 マリも長期の戦闘で疲れ気味であり、地面に着地すれば両手を地面に付けて愚痴を漏らした。

 所々に黒煙を上げるバトルシティの戦闘指揮所の方でも、切羽詰まった緊張感に解かれたオペレーターや管制官達が席を立ち上がり、背伸びをしている。

 

「ふぅ・・・終わった・・・」

 

 レーダー手ですら席を立って離れているので、”次なる脅威”が既に来ていることに誰も気付かなかった。

 その次なる脅威とは、ロキが自ら率いるヴィラン達の事である。

 上空からIS学園に迫るロキは学園の防空警備網が緩くなっている隙を逃さず、一気に速度を上げて距離を縮めようとする。

 

「ククク、奴等目、これで終わりと思っているな・・・! それが命取りよ! このロキが秒単位で制圧してくれよう!!」

 

 同盟軍を払い除けて守備隊が油断している事を良いことに、ロキは即座にIS学園を短時間で制圧すると豪語し、IS学園に奇襲を仕掛けようとした。




戦闘のイメージとしてはトランスフォーマー・ザ・ムービーのデストロン軍団によるバトルシティ強襲シーンをイメージにしてます。

次回は、大体こいつの所為の被害者、ロキさんが登場。

お楽しみに!


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ZEUS

「誰か説明してくれよぉ!!」

カオス回、再び!!

イメージBGMは、前回と同じトランスフォーマー ザ・ムービーの挿入歌「Instruments Of Destruction」


 ロキ達の奇襲を受けることも知らず、戦闘が思い込んでいるワルキューレと守備隊は安心しきっていた。

 まずその悪の牙を突き立てられたのは、敵残存兵力の索敵を行っていた日本国防海軍の駆逐艦とフリゲート艦であった。

 

「北東より、国籍不明機が多数接近!」

 

「北東だと!? 一体何処の敵対国だ!?」

 

 駆逐艦の戦闘指揮所にて、この艦の艦長は接近してくるロキ達を敵対国の部隊と判断する。

 間違った判断だが、それは当然のことである。

 この世界の何処に、ロキのようなヴィランが存在するのか?

 IS登場から十年、あれ程荒れていたアフリカでは銃声は消え、世界のどの国にも紛争地帯は消滅し、社会に反抗するテロ組織が誕生しては消える時代だ。

 平和その物と評すべき所だが、男性差別を行っている時点で平和とは言えない。尤も、否、皮肉と言うべきか、その男性を差別せねば、今の平穏状態を保てないのだが。

 ロキ達が日本国防軍海軍所属の駆逐艦に接近する中、甲板に出た水兵達は銃を持ち、士官は警告のためにメガホンを取り、IS学園に接近するロキ達に警告しようとする。

 だが、既に手遅れであった。

 

『警告する! ここは我が日本国の領海である! お前達は我が領海を侵犯している! 直ちに引き返し・・・ウワァァァ!!』

 

 警告を聞き終える前に、ロキは自分の得物である杖に溜め込んだ魔法を駆逐艦に撃ち込み、一撃で仕留めた。

 現代兵器は、ロキからしてみれば鉄屑の塊という事だろう。

 ゴミを見るような目で炎上して轟沈する駆逐艦を眺めた後、地震に付き従うヴィランを引き連れ、IS学園に向かった。

 

「な、なんだあいつ等!?」

 

『新手の侵略者か?』

 

 再出撃した五十嵐裕也(いがらし・ゆうや)少佐率いるF/A4「紫電」やF3戦闘機を中心とした混成航空部隊は、駆逐艦を轟沈させたロキ達を見付ける。

 オペレーターからの情報を得つつ、彼は同僚達と部下を率いてロキ達に接近しようと試みるが、裕也がロキ等に関しての情報を得る前に、ロキの方が先に気付いていた。

 

「ふっ、カトンボが。スタースクリーム、奴等を始末しろ」

 

「あいよ!」

 

 ロキはF-15戦闘機に形を変えるトランスフォーマー、スタースクリームに裕也等日本国防空軍の混成航空部隊の始末を命じた。

 彼ならば航空機如き、赤子の手を捻るように簡単だが、この時は面倒だったのか、格下であるスタースクリームに押し付けた。

 命令に応じた生前はリーダーの座を狙う野心家であったスタースクリームは、裕也達に襲い掛かろうとする。

 が、その前に海軍の航空隊がスタースクリームを包囲した。

 

『そこの戦闘機に通達する! 領海侵犯だ! 直ちに・・・』

 

「うるせー! これからテメェ等全員は直ぐにくたばるんだ!」

 

 通信に海軍パイロットからの通達が終わる前に、スタースクリームはそう吐き捨て、進路を塞いでいた壱式艦上戦闘機を撃墜した。

 直ちに迎撃態勢を取る海軍の航空隊だが、F-15よりも遙か上の戦闘力を誇るスタースクリームの前ではハエ同然であり、あっと言う間に一機のみとなる。

 

「う、うわぁぁぁ!! 助けてくれ!!」

 

 戦意を損失したパイロットは、直ぐに逃げようとするが、あっと言う間に追い付かれ、コクピットに円陣を吹き付けられて焼死する。

 

「なんだ呆気ねぇ、こんな奴等よりハエか蚊のほうが、手応えがあるぜ」

 

 数秒足らずで海軍の航空隊を全滅させたスタースクリームは、その矛先を裕也達に向けた。

 

『敵機、来ます!』

 

「来るぞ! 全員ミサイル発射!!」

 

 裕也は部下達に、近付いてくるスタースクリームに対し一斉に空対空ミサイルを撃たせる。

 

「ハッ! 止まって見えるぜ!!」

 

 向かってくる数十発の対空ミサイルを、スタースクリームは余裕で回避した。

 これに裕也は度肝を抜かれ、呆然して次の指示を出し損ねた。

 

『隊長! ワァァァ!!』

 

「シューター8!?」

 

 部下の一人が一瞬で撃墜された。彼がキャノピーで爆散するシューター8を見た途端に、また一機、一機と撃墜されていく。

 

「畜生!!」

 

 部下達の仇を取ろうと、裕也は自分等の遙か上のレベルであるスタースクリームに格闘戦を挑んだ。

 一方の地上でもヴィランの接近はあり、先程の戦闘では砲撃以外、出番無しだった陸軍が対処する。

 ようやくの出番であるが、相手が悪すぎた。

 

「嫌だ、死にたくねぇ!!」

 

「おい! 逃げるな! 戦え!! 逃げれば銃殺刑だぞ!!」

 

 逃げる歩兵を将校が必死で止めるが、彼等は我先へと逃げていく。

 日本国防陸軍をこれ程統率の取れない状況にまで追い込んだのは、ロキ等が有するザクⅡ、ザクキャノン、グフ、ドム、ドム・トローペン、ザメル、ユニオンリアルド、AEUヘリオン、ティエレンMS部隊と、ゼントラーディのリガードやグラージ、クァドラン・ロー、ヌージェデル・ガー、アームスレイブのM6ブッシュネル、サページ、ミストラル2、M9ガーンズバック、シャドウと言う機動兵器中心の襲撃部隊だ。

 11式戦車と呼ばれる10式戦車の後継戦車ですら全く歯が立たず、スクラップに変えられる。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

 一人の兵士が人型の異形の者達に向けて銃を撃ったが、全て弾かれる。

 次に陸軍の士気を下げさせたのは、人間を遙かに上回る超人的ヴィランの出現であった。

 

「フッ、これがこの世界最強の軍隊か。腰抜けばかりだな」

 

 虎のような姿をしたこの獣人の名はキンタロー。腕が四本ある魔界のショカン族の戦士である。彼からしてみれば、人間が使う銃火器は蚊が刺した程度だ。

 かなりの怪力の持ち主であり、戦車や軍艦、戦闘機など、キンタローからしてみれば、木材を叩き割る感覚である。

 キンタローは目の前に群がっている兵士を意図も容易く肉塊へと変えた。

 

「このスーツ部隊はなんだ!? 銃が効かないぞ!!」

 

 兵士達が自分等に襲い掛かってくる謎のスーツ部隊へ向けて、一斉射撃を浴びせていた。

 だが、銃弾は弾かれるばかりであり、逆にスーツ部隊が持つ98式歩銃と呼ばれる北朝鮮使用のAK74の反撃を受け、次々と倒れていく。

 スーツ部隊が着用する特殊スーツの右肩には、北朝鮮の国旗のワッペンが着けられていた。

 

「なんて強さだ・・・!」

 

 友軍部隊が人外やスーツ部隊の攻撃を受ける中、一人の部隊長が、向かってくる高度な連携を取る敵兵等に向けて絶望した。

 全身をアーマーで覆い、性別の特定は不明だ。

 ただ分かることは、自分等が知る第一空挺団と同等の精鋭中の精鋭とだけである。

 三分もしないうちに、高度な統率力を誇る敵部隊に陸軍のIS学園守備隊は壊滅状態となり、敗退した。

 流石のIS学園を守るバトルシティでも、ロキ達ヴィランの接近に気付き、再び敵襲を知らせる警報を鳴らす。

 

『第四勢力接近! 繰り返す、第四勢力接近!!』

 

「第四勢力・・・?」

 

 戦闘が終わったと思ってISを待機状態にしているマリは、聞こえてくるサイレンとアナウンスの第四勢力の事が、ロキ達ヴィランのことだと理解できなかった。

 その答えは、もうすぐやって来る。

 

「何・・・アレ・・・!?」

 

 太陽の光を塞ぐように、ロキの軍勢が現れた。

 これを見たマリは絶句し、身震いを始める。

 他の者達も同様であり、復興作業を行っている将兵や職員等も同様の反応を示していた。

 

「クックックッ、きゃつら驚いているようだな」

 

『は、はい! 我がガミラスの連合艦隊とロキ様に驚いているのでしょう!!』

 

 ロキは第四勢力の出現に驚くIS学園守備隊の将兵等を見て得意げに自分の部下に問う。

彼の後方に浮遊する複数の独特な形な艦艇を統率する肌が青白いゴマすりをする男が映像通信で答える。

 

「ふむ、そうか。では、下々の者達に挨拶に行かねばな」

 

 顎に手を添えて答えを聞けば、ロキはIS学園の中心に降り立った。

 

「こ、こいつは・・・!?」

 

 地下壕に避難していた千冬(ちふゆ)は、降りてくるロキの映像を見て驚愕する。

 復興作業をしていた将兵等は、手に持っている銃の銃口をロキに向ける。

 

「良き歓迎だな。褒めてやろう・・・」

 

 自分を包囲する女兵士達に向け、ロキは敬意を表す。

 守備隊と増援の戦術機にASも、手にしている携帯火器の砲身を向ける。

 

「こいつ・・・なんかかの能力者か魔術師だと思うけど、馬鹿じゃないの?」

 

 顔が炭だらけな将校は、たった一人で降り立ったロキを馬鹿にする言葉を口にする。

 IS学園を包囲する形で現れたヴィラン連合艦隊に向けても砲身が向けられる。

 直ぐにでも勝てると、守備隊の将兵等の誰もが思っていたが、彼女等は学園にやってきたロキ達ヴィラン勢の恐ろしさを、身を持って覚える事となった。

 

『撃て!』

 

 ロキに銃口を向けていた兵士等は、一斉に標的に向けて撃ち始めるが、発射された全ての銃弾は、全て50㎝の所で止まる。

 

「やはり魔術師!」

 

 一人の兵士が叫んだ途端、周囲にいた兵士等が一斉にロキの波動によって吹き飛ばされた。

 

「この!」

 

 戦術機やASもロキに向けて一斉射を行うが、彼は余裕の笑みを浮かべてバリアを張って全て防ぐ。

 それから上空にいる艦隊に砲撃の合図を送り、バトルシティ中や学園中にある全ての兵器を砲撃させる。

 砲撃ばかりではなく、艦艇より発進した赤い肩のスコープドックや、ダイビングタートル、空戦ポッド、降下艇からの重戦車やガミロイド兵と呼ばれるガミラス軍のロボット兵士を投入した。

 瞬く間に、学園守備隊は劣勢に立たされる。

 ただでさえ戦闘後で疲労感が増しており、もう戦える余力など無かった。

 そんな彼女等を見てか、ロキは守備隊に降伏勧告を行う。

 

「聴け、学園を守りし兵士に戦士達よ。諸君等の抵抗は無意味だ。即刻このロキに降伏し、ここにあるISを私に全て献上しろ。さすれば命だけは取らんぞ」

 

 勝ち誇った表情を浮かべながら、降伏勧告を行うロキであるが、素直に従う者達は少なかったようだ。

 

「バーカ、誰があんたに降伏なんてするもんですか!」

 

 自分専用のIS「クウァエダム・デア」を展開したマリは、ロキに向けてそう吐き捨てた後、ビームライフルを撃ち込む。

 一夏(いちか)達も同様であり、ロキに賛同したヴィラン達に向けて攻撃し始める。

 だが、既に人の範疇を超えているロキに、ビームなど効くはずもなく、周りに張り巡らされたシールドバリアで防がれる。

 

「どうやら、実力行使で分からせる必要があるな。貴様等、行けぇ!!」

 

 降伏する気のないマリ達に対し、今置かれている状況を分からせるべく、配下の者達を差し向けた。

 

「俺達が相手だ!!」

 

 中隊規模のゼントラーディの部隊がマリのクウァエダム・デアに襲い掛かるが、呆気なくビットによるオールレンジ攻撃で全滅する。

 他にもガミラス軍のゼードラーⅡ戦闘機や、ツヴァルケ、デバッケ、スヌーカが襲い掛かるが、惑星国家の兵器とは言え、それらは通常兵器であり、ISに敵うはずもなく、次々と撃墜された。

 一夏達の方も、次から次へと攻めてくるガミラス軍の兵器や、MS、AT、ASの迎撃に追われていた。

 連戦で疲れ切っており、呼吸が乱れている。少年や少女の体力では、命を賭けた戦いの連戦など酷な物である。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・なんなのよ、こいつ等!!」

 

 甲龍(こうりゅう)を駆る(りん)は次から次へと迫る敵機を撃墜しながら、怒鳴り散らすように叫ぶ。

 だが、既に体力が限界であり、ロキの配下に加わっているゼントラーディのリーダー、カムジン・クラワシェラがグラージを駆って、鈴の側面を突いてくる。

 

「へっへっへっ、懐ががら空きだぜ!」

 

「鈴、懐に!!」

 

「へっ!? キャァァァ!!」

 

 一夏の知らせでカムジンの接近に気付いた鈴であったが、間に合わず、グラージの砲撃を受けて墜落する。

 

「こ、この・・・!」

 

「へっ、死んだふりをしてりゃあ、良い物をよ!」

 

「嘘!? シールドが・・・もう・・・」

 

 反撃を行おうとするが、狙いは定まらず、次なるグラージからの小口径インパクトカノンの攻撃を受け、完全に墜落する。

 

「鈴!!」

 

 学園の方へ墜落した鈴を助けようと、一夏は向かおうとするが、ダイビングタートルに乗るカン・ユーに妨害される。

 

「戦場で余所見をする馬鹿が居るか!」

 

 同型に乗り込む部下達と共に、ミッドマシンガンを一夏の「白式(びゃくしき)」に向けて撃ち込み、鈴の元へは行かせないようにする。

 

「一夏!」

 

 激しい弾幕で身動きが出来ないようになるが、ラファールⅡを駆るシャルロットに助けられる。

 

「一夏、行って! ここは僕が食い止めるから!」

 

「あぁ、サンキューな! シャルロット!」

 

 アサルトライフルでカン・ユー等を牽制し、一夏を行かせるシャルロット。

 しかし、疲れ切った身体でマリを翻弄させるほどの操縦技術を持つカン・ユーに勝つ見込みはシャルロットには無かった。

 

「ハァァ!!」

 

 カン・ユー以外のダイビングタートルを、シャルロットは圧倒的な性能差を持って排除した。

 

「お前で!」

 

 トドメの一撃であるパイルバンカーを、カン・ユーが乗るダイビングタートルに突き立てようとしたが、すんでの所で回避されてしまう。

 

「しまった!?」

 

「フン! 踏み込みが甘いわ!」

 

 そう少女である自分より遙か上の強者であるカン・ユーに吐き捨てられ、アームパンチを受けて地面に叩き付けられ、気絶した。

 

「ハッ!? シャルロットさん!!」

 

 ブルー・ティアーズを駆るセシリアは、鈴に続いてシャルロットがやられたのに気付き、そちらの方向へ視線を向け、余所見をする。

 

「小娘が、洗浄で余所見をするとは・・・!」

 

「フッ、戦争がどういう物かを教えてやろう。行くぞ! ヤザン!!」

 

 ジム改に乗り込む金髪のリーゼントで浅黒い肌の風貌の男、ヤザン・ゲーブルと、紫色の覆面を被り、空中浮遊するバロン・ジーモが、セシリアに襲い掛かった。

 

「クッ、これでも食らいなさい!」

 

 遠隔無線誘導型の武器「ブルー・ティアーズ」で、ヤザンとバロン・ジーモを死角からのオールレンジ攻撃を行うも、容易に避けられ、近付かれてしまう。

 

「嘘っ!? これなら!!」

 

 残る二機のミサイルビットで、向かってきたバロン・ジーモを倒そうとしたが、彼が持つ剣で全て切り落とされる。

 

「どういう事ですの!?」

 

「甘いわ! そして攪乱成功!」

 

「おらよ!」

 

 バロン・ジーモにミサイルビットが堕とされたことで動揺したセシリアは、ろくな対策も取れず、ヤザンが駆るジム改が持つバズーカの攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 操縦者の命を守る絶対防御が働いている物の、衝撃までは防ぎきれず、地面に叩き付けられた。

 

「私はそう簡単にやられんぞ!」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンを駆るラウラは、やられた他の三人とは違い、疲弊しながらも奮闘していたが、彼女もまた、ヴィラン達の実力を思い知らされることとなる。

 

『おい小娘! なんだその動は? それでも軍人か!?』

 

「っ!? 何者だ貴様!? この私をシュヴァルツェ・ハーゲンの隊長と知ってのことか!」

 

 拡声器を使った挑発に、意図も容易くラウラは乗る。

 声がする方向を見れば、五機のM9ガーンズバックが立っていた。

 五機ともの左肩には、C.E.L.Lと書かれたマークが付けられている。

 

『シュヴァルツェ・ハーゲン? 黒ウサギってことか? ハッ! お前みたいな小娘が隊長だとすれば、お前と同等の餓鬼が、お遊戯するだけの部隊って事だな!』

 

「な、なにを・・・!!」

 

 中央に立つ指揮官機に乗る操縦者の煽りに過剰に反応したプライドの高いラウラは、指揮官機に向けて突撃した。

 ラウラを挑発した指揮官機に乗るドミニク・ロックハートは、部下達に配置に着くよう指示を出す。

 

「奴が挑発に乗ったぞ。各機、あの素人少佐に戦争を教えてやれ!」

 

『了解!』

 

 部下からの返事を聞いた後、ロックハートは自分が操縦するM9が持つ散弾銃をラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに向けて撃ち込んだ。

 

「そんな物は効かん!」

 

 散弾を浴びるシュヴァルツェア・ハーゲンだが、シールドバリアーの御陰で傷一つ付かない。

 だが、その驕り高ぶった行動が、ラウラの敗因であった。

 両側面からロックハートの部下達が煙幕弾を発射し、ラウラの視界を奪った。

 

「しまった!? ガッ!!」

 

 直ぐに赤外線センサーでロックハートのM9を探すが、足を止めた途端に集中砲火を浴びせられる。

 攻撃を受けながらもパンツァー・カノニーアで正面からの攻撃を防ぐが、背面からの攻撃を受け、バランスを崩す。

 

「次はこちらの・・・!」

 

 煙が晴れて、集中砲火が終わったところで空かさず大型レールカノンで目の前にいるM9に向けて撃つが、砲弾は透き通るだけであった。

 

「な、なに!?」

 

 これにラウラは驚き、必死で周りにいるM9に撃ちまくるが、全てが影分身のようであり、どれを撃っても効果がなかった。

 

「何処に・・・!?」

 

『ここだ!』

 

「なっ!? うわぁぁぁ!!」

 

 周りに居る多数の分身体であるM9から本物を探すが、背後からECSと呼ばれる姿を消すシステムを使ったロックハートのM9の攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 

「この・・・卑怯者・・・!!」

 

『卑怯者だ? ケッ、これだから戦場に出た事もねぇ奴は・・・一度士官学校、いや、ブートキャンプからやり直すんだな!!』

 

 ラウラに卑怯者と罵られるが、歴戦錬磨のロックハートはそれを物ともせず、ラウラに訓練兵からのやり直しを告げた。

 

「クソっ、ラウラまで! お前等許せねぇぞ!!」

 

 自分の仲間達がやられた事に気を取られた一夏は、抱えている鈴を安全な場所まで運んだ後、大将であるロキに斬り掛かろうとした。

 だが、右肩を血のように赤く染めた「レッドショルダー」と呼ばれるスコープドックを中心とした特殊部隊の攻撃を受け、ロキに接近できないようになる。

 

「うわっ!? こ、こいつ等・・・!」

 

「フン、人間風情が。この私に挑もうなどとは、千年早いわ!」

 

 ロキは一夏を相手にせず、自分は何もせず、その無礼者の始末をレッドショルダーに任せた。

 そんな連戦で疲弊しきった一夏は、プロの集団であるレッドショルダーの猛攻に耐えられるはずもなく、地面へと落下した。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 絶対防御は働いたが、衝撃で動けず、暫く動けそうにない。

 ISの操縦者である中佐も、既にヴィラン達の前に倒れ、残りはマリだけであった。

 もう一人ミステリアス・レイディを駆る楯無が居るが、彼女もまた、ヴィランとの死闘で加勢に行けなかった。

 

「後は貴様だけだぞ」

 

「バーカ、私はこんな所で負けないの」

 

「強がるではない。もう貴様に打つ手はないようだが?」

 

「どうせ、あんたの作なんて失敗するわよ。あんたそう言う感じがするもん」

 

「ぬっ・・・口の減らぬ女だ・・・! ウィアードウルフ、スカル、ワイプ、あの女に身の程を思い知らせよ!」

 

『ハッ!』

 

 たった一人だけとなったマリは、勝ち誇った表情で問い掛けてくるロキに吐き捨て、更に挑発した。

 あっさりと挑発に乗ったロキは、背後に待機しているスタースクリームと同じトランスフォーマー三人に、マリの始末を命じた。

 三人はそれぞれの形に変形する。変形の仕方はスタースクリームとは違い、頭部が人型に変形し、胴体は動物メカへと変形して、人型をコクピットへ収める。

 この三人のトランスフォーマーは、ヘッドマスターと呼ばれる。

 オオカミに変形するのがウィアードウルフ、ワニに変形するのがスカル、コウモリに変形するのがワイプだ。

 

「何が来たって・・・! キャッ!!」

 

 直ぐに倒せる敵と思って、慢心するマリであったが、連携攻撃を諸に受け、吹き飛ばされる。

 直ぐに体勢を立て直して、反撃に移ろうとするマリであるが、ワイプからの催眠攻撃を受ける。

 

「コウモリアマモリオリタタンデワイプ・・・」

 

「あ、頭が・・・!」

 

 ワイプからの催眠を諸に受け、まともな反撃が出来なくなる。その隙に、スカルからの攻撃が来る。

 

「オラァ!」

 

「がぁ!」

 

「もういっちょ行くぞ!」

 

 ワニの強力な尻尾の攻撃を受け、再び吹き飛ばされ、ウィアードウルフからの追撃を受ける。

 

「良くも・・・!」

 

『トランスフォーム、ヘッドオン!』

 

 遂に地面に叩き付けられたマリは、力を振り絞って立ち上がろうとするが、ロボット形態に変形したヘッドマスターからの集中砲火を受け、シールドバリアーのエネルギーが尽きる。

 

「この・・・私が・・・負ける・・・!?」

 

 衝撃で頭の皮膚が切れ、そこから血を流しながら、自信の敗北を知る。

 

「なんだ、あんだけ同盟軍の大軍とやりあってたのに、見当違いな程によぇじゃねぇか」

 

「まぁ、俺達が乗り込む前にあんだけの大軍とやりあってたんだ、疲れるのは当たり前だ」

 

「それもそうだな。流石はロキ様だぜ。スコルポノック様は小物扱いしてだがな。こりゃ、見直さないとな」

 

 三人はマリを倒したことを、イマイチ実感していなかったようだ。

 その三人の活躍を見ていたロキも、先程の同盟軍との戦いで消耗したマリが負けることは予想できており、些細なミスもせずに倒した三人を少しだけ褒めた。

 

「まぁ、連中にしてみれば良くやったと思うべきだな。これで全ての戦士は倒れたな」

 

『まだ私が残って居るぞ!!』

 

 ロキは周りの戦況を見て、自分側に有利だと思っていたが、まだ戦える者がおり、無謀にも立ち向かってきた。

 そのロキに挑んだ者は、日本の純国産IS「打鉄(うちがね)」で挑む篠ノ野箒(しののの・ほうき)であった。

 

「イヤァァァァ!!」

 

「あのアマ!」

 

 近接用ブレード「(あおい)」でロキに斬り掛かろうとする。

 これには手下達も、迎撃を行うが、箒はこれをISの機動を駆使して避けながらロキに接近し、その刃をロキに振り翳そうとする。

 

「貰った!!」

 

 そうブレードを振り翳した箒であったが、ロキは自分の得物である杖の先で容易く防ぎ、余裕の表情を浮かべていた。

 

「フッ、ここまで接近したことは褒めてやろう。だが、ここまでだ」

 

「こ、この・・・!」

 

 ロキはここまで来た箒を褒め称え、左手に込めた魔力を浴びせようとした。次の攻撃を回避すべく、箒は離れようとするが、ブレードはまるでくっついたかのように離れない。

 

「がはっ・・・!」

 

 そのまま箒は吹き飛ばされ、強く地面に叩き付けられ、気を失った。

 未知の兵器と呼ばれるISであるが、これ程までの操縦者に対しての安全性の高さは折り紙付きであろう。

 だが、負けてしまっては元も子もない。

 

「これである程度は全滅だな」

 

 周囲の状況を見て、ロキは勝利を確信した。

 そんな彼に、首と胴体が離れた状態の異様な姿の軍人らしい男が、専用の飛行要塞「グール」の天上に乗った状態で近付いてくる。

 

「おや、もう私は無いようだな。ロキよ」

 

「これはブロッケン伯爵、もう貴殿の言うとおり、出番は無いようだ」

 

「一暴れしようと思って、わざわざ馳せ参じた物を・・・この始末か」

 

 その異様な姿の軍人の名は、ブロッケン伯爵と言う。

 彼は折角ロキの勢力に参加したのに、一暴れできないことに悔しがる。

 一方の裕也の方も、スタースクリームの圧倒的な強さに押され、劣勢となっていた。

 

『隊長! ウワァァァ!!』

 

「シューター14! クソ、これ以上は!!」

 

 部下達を面白半分に駆るスタースクリーム一矢報いようと、裕也は背中を見せたF-15戦闘機に変形するトランスフォーマーに、機関砲を浴びせた。

 

「うわぁ!? や、野郎!! お遊びはここまでだ!! トランスフォーム!!」

 

 お遊び半分で裕也達混成航空部隊を狩っていたスタースクリームは、ロボット形態に変形し、一方的な虐殺を始めた。

 

「人型に変形しただと!?」

 

 裕也が驚いている間に、三機の友軍機が瞬く間に撃ち落とされた。

 一機、二機、三機と、瞬きする間に味方機が撃ち落とされていく。

 

『やらせるかよ!』

 

「止せお前等!!」

 

 撃ち落とされていく味方に我慢できなくなった味方機が、無謀にもスタースクリームに挑み、返り討ちにされる。

 

『うわぁぁぁ!! た、助けてください隊長!!』

 

「待ってろ・・・今すぐに・・・!」

 

 スタースクリームに取り憑かれた味方機を救おうと、接近して機関砲で撃とうとするが、撃墜する恐れがあり、容易に撃てない。

 

「クソッ、当たっちまう!」

 

『隊長、たいちょぉぉぉ!! 嫌だ! 死にたくない!! 止めろ! わぁぁぁぁ!!』

 

 裕也が躊躇っている間に、無線機から味方のパイロットの断末魔が聞こえ、キャノピー越しからその死体が目に映る。

 

「待ってろ、直ぐに仇を・・・!」

 

「ほら、踊れ踊れ!!」

 

 トリガーを引いて、スタースクリームを攻撃しようとしたが、敵は胸部からミサイルランチャーを展開し、それを裕也が乗る紫電に向けて発射した。

 

「ま、不味い! ブレイク、ブレイク!!」

 

 直ぐに回避行動に移り、裕也は操縦桿を巧みに動かし、無数のミサイルから全力で逃げ切ろうとする。

 機体を上昇させ、フレアを展開させて数発ほど回避に成功したが、ミサイルはまだ残っており、しつこく追尾してくる。

 

「クソッ、フレアを使いすぎた・・・!」

 

 慌ててフレアを撒いてしまった為か、残量が底を尽きており、ミサイルを回避することは出来ない。

 唯一残された方法は、全速力でミサイルから逃げることだ。

 直ぐにエンジンを全開にさせ、複雑な機動を取りながらミサイルから逃げ切ろうとするが、未だにしつこく追ってきた。コクピット内では警報が鳴り響き、サイドミラーを見れば、幾つかのミサイルが追ってくるのが見える。何処の会社が製造したミサイルと言う考えが脳の片隅にあったが、死の恐怖で薄れつつある。

 脱出する手段があるが、戦争中に脱出して無防備になったところを撃ち殺された味方を思い出したので、相手がそれと同じ事をすると思い、脱出装置に手を伸ばせない。

 数秒間逃げ回っていれば、凄まじいGが身体に掛かってくる。

 

「ぐっ・・・Gがこんなにも・・・!」

 

 凄まじいGに耐えながらミサイルから逃れようとするも、距離は着々と近付いてくる。

 裕也も速度を上げて逃げようとするが、既に限界であり、もう奇跡で起きない限り逃げ切ることなど不可能だ。

 

「クソ・・・! こんな所で俺は・・・!」

 

 生き延びてやる!

 その覚悟で死の追尾ミサイルから逃げようとするが、機体は限界であった。

 これ以上、速度は上がらず、恐ろしいほどのGが身体に負担を掛けている。

 通常の人間ならば、気を失ってもおかしくないほどだが、裕也は不屈の精神力を持って耐え、生き延びようとする。

 

「駄目か・・・!」

 

 残念なことに、機体は悲鳴を上げ、胃から血を吹き出しそうな勢いであり、既に限界であった。死を悟った裕也は、一瞬であの世に召されるように祈ったが、まだ死ねないようであった。警報音が鳴り止み、速度がゆっくりと落ちていく。

 何事かと思って、通常の速度に戻してキャノピー越しから見える空を見れば、青いオーラを纏った謎の戦闘機が、スタースクリームと交戦していた。

 

「はぁ・・・今度は一体何だ・・・!?」

 

 呼吸を整えつつ、裕也は次元の差が違いすぎる戦いを空から傍観した。

 

「どうなってんだよ・・・! 誰か説明してくれよ・・・誰か説明してくれよぉ!!」

 

 一夏は、これ程まで予期せぬ異常な危機的状況に立たされ、困惑と激昂をしながら叫んだ。だが、叫んだところで何も解決するはずもない。

 

「お、終わりなのか・・・!」

 

 この状況を避難壕から見ていた千冬も、ただ絶望するしかなかった。

 

『旦那、学園周辺の雑魚は片付けたぜぇ~!』

 

「抵抗勢力は全て片付いたようだな。さて、ISを・・・何事だ!?」

 

 髪型がモヒカンの柄の悪い男からの報告に、ロキはISの接収を始めようとしたが、前方から聞こえ、そちらの方向へ視線を向けた。

 その方向には、真二つに割れたガミラス軍の宇宙戦艦、メルトリア級航宙巡洋戦艦があった。

 近くにいる味方が直ぐに、戦艦を一撃で轟沈させた正体に向けて攻撃したが、僅か数秒ほどで銃声が聞こえなくなる。

 

「クソッタレ! 何処の馬の骨が知らねぇが、俺達に楯突くなんてな! 野郎共、ゼントラーディの恐ろしさを思い知らせてやれ!!」

 

 カムジンは、部下らに謎の襲撃者の迎撃を命じたが、その襲撃者は攻撃を物ともせず、ただ一直線にロキの方へ向かってくる。道行きを塞ごうと物なら、一瞬で蹴散らされる。

 

「っ!? そうか・・・」

 

 襲撃者の正体が分かったロキは、戦闘態勢を取り、向かってくる襲撃者に備えた。

 して、その謎の襲撃者とは、ムジョルニアと呼ばれる神秘の力を秘めた魔法のハンマーを持ち、神聖的デザインの衣装で身を包み、兜を被ったロキの義兄であり、宿敵であるマイティ・ソーだ。

 ソーは向かってくるガミラス軍やゼントラーディ軍、無人機であるスカルガンナーを破壊しつつ、ロキの元へ迫る。

 

「ロキ! また貴様か!!」

 

「兄上、また私の邪魔をするつもりか!!」

 

 宿敵同士相見えたのか、ロキは向かってくるソーに対し、強力な魔法をぶつける。

 大爆発が起こるが、爆煙の中から無傷のソーが現れ、ロキに向けてムジョルニアを振り下ろす。

 

「チッ、やれやれだぜ。生き返った早々に、その生き返った悪党共の退治とな」

 

 来たのはソーだけでは無かった。

 黒い学帽を被り、黒い改造学ランで身を包んだ背丈195㎝の青年が地上から現れ、ロキ一派の戦闘員に歩いて向かってくる。

 

「な、なんだてめぇば!?」

 

 モヒカンの男は、直ぐに青年に向けて刀剣類を振り翳そうとしたが、突如と無く頬に強力な一撃を食らい、吹き飛ばされた。

 

「い、一体・・・!?」

 

「オラァ!」

 

 何が起きたか分からないモヒカンの男達は、動揺するが、青年は手を出さずに叫び、そんな男達に容赦無しに攻撃する。それも数千発ほど。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

「ひでばぁ!!」

 

「うべぁ!?」

 

「あべし!!」

 

 青年はただ両手をポケットに手を突っ込んでいるだけだが、彼が何もせずとも周りの男達は何らかの攻撃を受け、吹き飛んでいく。

 その青年の名は、空条承太郎(くうじょう・じょうたろう)

 そして正体は、幽波紋(スタンド)と呼ばれるパワーを持った像で超常的能力を発揮する守護霊のような存在だ。

 姿は人によって人間に似たものや、動物や怪物、果ては無機物までと千差万別。

承太郎のスタンドは人間に近い姿をしたスタンド「スター・プラチナ」と呼ばれる桁外れたパワー、スピード、精密動作性、視力、動体視力を持つスタンドである。

忽ち承太郎の進路を塞ごうとするロキの兵隊達は、全てスター・プラチナの圧倒的強さの前に全滅した。

 

「学園外でもロキに組みする者達か・・・市街地の被害が広がる前に片付けるか」

 

 緑色の戦闘用パワードスーツ「ミョルニル・アーマー」で全身を包んだ大柄の人物が、IS学園付近の市街地で暴れるロキの兵隊等の迎撃に向かった。

 

「貴様、なにも!?」

 振り返った黒いスーツを来た北朝鮮の兵士が言い終える間に、アーマーの男は撃ち殺した。

 彼が持つ未来的デザインのライフルは、日本国防軍が使う銃器類の遙か上の火力を持っており、幾ら銃弾を防げるスーツと言えど、耐えられるはずもなかった。

 

「なんだぁ、この全身鎧の奴ぁ?」

 

「これ程の人数だぁ!()っちまえ!!」

 

 承太郎に立ち向かったと同様のモヒカンの男達が、アーマーの男を見るなり襲い掛かるが、次々と返り討ちにされていく。

 

「後ろががら空き・・・ひでぶ!!」

 

 背後より迫ったモヒカンの男が斧で斬り掛かるも、既に気付かれており、左手で殴られ、近くのビルに突き刺さる。

 数秒もしないうちに、モヒカンの男達はアーマーの男によって殲滅された。

 

『重装備兵を確認! 集中砲火だ! 撃ちまくれ!!』

 

 次に、高度に統率された「レプリカ兵」と呼ばれるクローン兵の部隊がアーマーの男に立ち向かうが、男の方が上なのか、次々と撃ち殺されていく。

 これを見た指揮官は、直ぐに増援を要請して圧倒的な数で圧そうとする。

 

『増援を要請する! NANOスーツ部隊を呼べ!!』

 

 増援を要請するが、来たのはそのNANOスーツを纏った死体であった。

 

『し、死体!?』

 

「チーフ、増援に来てやったぞ」

 

 そこに居たのは、北朝鮮のNANOスーツとはやや形状が違い、性能が上のタイプのナノスーツ2.0を身に纏ったプロフェットと呼ばれる人物であった。

 直ぐにレプリカ兵らは、プロフェットに向けて銃撃を行うが、あっさりと避けられ、彼が持つ弓から放たれた矢で、次々と殺されていく。

 更にチーフと呼ばれるアーマーの男の突撃もあり、レプリカ兵達は撤退も出来ぬまま全滅した。

 

「感謝するプロフェット」

 

「なに、少し通りかかっただけだ。次が来るぞ」

 

 同じ全身を包んだ者同士顔合わせするが、彼等に向けて次なる増援が送られる。

 それはASのサページだ。数は一個中隊ほどであり、圧倒的な火力で集中砲火を浴びせてくる。それでもこの二人相手に足りない気もするが、狭い市街地なので密集は出来ないであろう。

 瞬く間に接近を許し、サページ一個中隊分はチーフとプロフェットの手によってスクラップへと姿を変えた。

 

「あ、あれは・・・!?」

 

「ZEUS!!」

 

 学園に視点を戻せば、ソー、承太郎、チーフ、プロフェットと他の英霊達が学園に駆け付け、ロキ一派と参加したヴィランと対峙していた。

 

「ロキよ、貴様の野望、既に終わったも同然だぞ!!」

 

「何を・・・! たかが数百名の英霊相手に、臆する私ではないわ!!」

 

 次々と次元の歪みから出て来る英霊達に、ソーは勝利宣言を出すが、負けを認めないロキは、更に強力な魔法で仕掛ける。

 

「ぬぅぅ・・・! ZEUSにサイバトロンか・・・! しかし、数はこちらの方が上、者共、出撃せよ!!」

 

 ZEUSに属する者達を含める英霊達の襲来に、ブロッケンは自分の飛行要塞グールから多数の搭載機を発進させた。

 

「ど、どうなってんのよ・・・これ・・・!?」

 

 状況を理解できないマリは、ロキ一派が英霊達と死闘を繰り広げる光景を見て、呆然とするほか無かった。

 そんな次元の違いすぎる戦いを見つつ、唯一彼女が分かった事があった。

 それは、以下に自分が彼等にとって小さな存在だと言うことを。




新稲結城さんとISファンの皆様、お許し下さい!



タスクマスターとかデストロン軍団、ニムバスを出そうかと思ったけど、多すぎて没に。
ヒーロー側も登場させようかと思ったけどな・・・こちらも没に。

本当はサブ・ゼロや相良宗介、一条輝も出る予定でした。

次話はどうなる?まぁ、キンクリしますわ・・・


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