虚無の使い魔ウルキオラ (零番隊)
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プロローグ ウルキオラ
消えていく・・・・
体が粒子状の霊子となって分解していく中、ウルキオラは思った
(・・・・俺はどうなるのだろうな?)
霊子に分解され、逝く中で、ウルキオラは考えていた
(・・・・やっと、心というものが分かり始めたのだがな)
掌に収まり始めたその答えは、己の掌から落ちてしまった
自分は、消える・・・・消滅する・・・・
「死」とは違う・・・・・完全なる消滅
自分が無に沈んでいく
恐怖は無かった
(・・・・なるほど、虚無にふさわしい最後だな)
『虚無』それはウルキオラの十刃としての死の形であり、ウルキオラを表す言葉
虚無とは何も持たぬこと
それ以上何も失う余地の無いこと
通常、死神の手に掛かった虚は斬魄刀によってその魂を浄化されて、あるべき場所へ帰る。
しかし、ウルキオラの場合は分からない。
数多の虚が喰らい合い、進化した存在である大虚。そしてその大虚から、虚という種の枠を超えた存在が破面だ
破面が死神に斬られた場合、地獄に落ちることはあっても、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に逝けたという話は聞いたことがない
生前の記憶などないが自分はどうなるのだろうか?
尸魂界に送られるのか?地獄に落ちるのか?それともこのまま消滅し、文字どおり虚無となるのか?
(・・・・考えるだけ無駄か)
ウルキオラに残された意識も、その身と同様に、完全に消失する・・・・
はずだった。
「・・・・誰よアンタ?」
消失を免れたウルキオラの意識、開けた視界の先に一人の少女がいた。
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第一話 使い魔召喚
トリステイン魔法学院。その学院を囲うように建つ城壁のすぐそばでは、この学院の一年生たちが進級試験をかねたサモン・サーヴァントと呼ばれる使い魔召喚の儀式を執り行っている。
生徒たちは自分たちの召喚した使い魔と交流を試みてみたり、お互いに自慢しあっていた。
そのなか、また新たに使い魔が召喚され、ついに最後の一人となった。
「では次はミス・ヴァリエール」
教員のコルベールに呼ばれた少女は、一目で緊張していると分かるほど手足に余分な力を加えながらもその一歩を踏み出した。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
周囲で談笑していた生徒達は呼ばれた名前を聞くと面白そうな目をさせながら少女へと視線を集中させた。
その中の一人がルイズに向かって声をかける。
「おい、ゼロのルイズ! 魔法も使えないのにどうやって召喚するんだ!」
それを聞いて周囲から笑い声が上がる。コルベールが注意したものの小さな笑い声は人ごみに紛れながらも決して途切れることなく続いてた。
ルイズはその声の主を鋭く睨み付けたものの、その視線を正面へと向け直し杖を取り出してゆっくりと振り上げた。
そして呪文を滑らかに紡いだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
唱え終わると同時に杖を振り下ろす。
直後に巻き起こる爆発。
思わず目をつぶったルイズが恐る恐る目を開くが、そこには何も無かった。
召喚は失敗した。
周囲の生徒達もそれを理解し始めると先ほどより大きな声でルイズを馬鹿にし始める。
「ルイズ! 召喚もまともにできないのかよ!」
「しかたないさ。だってゼロのルイズだもの。」
「どうせ成功なんてしないんだから。早く終わらせてよ。」
口々に少女を馬鹿にする生徒たちに囲まれる中で、その場に立ち尽くしていたルイズは再び杖を握る手に力をこめて、振り上げた。
もう一度杖を振り上げ呪文を唱える。再び爆発が起こる。だが何も現れない。
ルイズはひたすら呪文を唱え続けた。
周囲の嘲笑は既にコルベールでは止められないほど強くなり、それ以外の静観している生徒達の中からは哀れみと同情、その裏に隠れた優越感の視線が投げられる。
ルイズは貴族だ。しかも名門公爵家の息女だった。そしてこの世界では魔法が使えるメイジこそが貴族だった。貴族の証は魔法であり、魔法は支配者の力だ。
だがルイズは一度たりとも呪文を成功させたことは無かった。
何度やっても成果は爆発という結果で返ってくる。
「はあ・・・・はあ・・・・何で出て来てくれないのよ・・・」
召喚の疲労で、肩で息をしながらそう呟く。
「ははっ!ゼロのルイズは使い魔も呼べないみたいだな!」
「無駄なんだからもう止めろよな~!」
同級生達は、ルイズに向かって罵声を浴びせる。
「ま、まだよ!次こそは!」
それでもルイズは諦めない。
そこへ、教師であるコルベールが声をかけた。
「ミス・ヴァリエール、今日はもう止めておきたまえ」
「な!?何でですか!?私はまだ出来ます!!」
コルベールの言葉に必死で反論するルイズ。
「君は気付いていないようだが、君は召喚呪文の連続で思った以上に疲労している。これ以上続けると、身体を壊してしまう。今日はここまでにして、後日、召喚を行ないましょう」
コルベールの言葉に、ルイズは俯く。
だが、ルイズは顔を上げると、
「な、ならせめて、もう一度召喚させてください!それで召喚できなければ今日は止めます!」
ルイズはラストチャンスを願った。
コルベールはルイズの真剣な眼差しを見た。
「・・・・わかりました。もう一度召喚を許します。ただし、それで召喚できなければ・・・・」
「はい!ありがとうございます!」
ルイズは礼を言うと、再び杖を構えた。
(どうせこれが最後のチャンス!だったら!!)
ルイズは自分が思ったとおりに言葉を紡ぐ。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」
そして、杖を振り下ろす。
――ドゴォォォォン
今までより派手な爆発を起こした。
周りの生徒は、「また失敗か」などと呟いていたが、爆煙が晴れてくると、煙の中に何かがいるのが分かった。
(やったわ!成功よ!一体何が・・・・って、え?)
煙が完全に晴れると、そこにいたのは一人の黒髪の青年であった。
ウルキオラは驚いていた。
(・・・・なぜ生きている?)
ウルキオラは完全虚化した黒崎一護によって再生不可能なほどのダメージを負っていたはずだ。それなのに、今のウルキオラの体は元通りに再生されていた。
(・・・・どういう事だ?)
自分の状態を確認したウルキオラは、困惑した。
それに・・・
(ここはどこだ?)
辺りの霊質から、ここが虚圏および現世でもない事が分かる。
そして周りには、黒のマントをつけて杖を持った少年少女たちが、たくさんいて、ウルキオラを物珍しそうに見ていた。
(こいつら、明らかに俺の姿を認識している・・・死神? いや、こいつらの体は霊体ではなく生身、霊力の素養をもった人間か?)
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出して如何するの?」
そう誰かが言った。
すると、周りで笑いが巻き起こる。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
ルイズが怒鳴る。
「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「流石はゼロのルイズだ!」
誰かがそう言うと、周りの笑いが爆笑と化す。
ルイズはコルベールに駆け寄った。
「ミスタ・コルベール! もう一度召喚させてください!」
そう希望する。だが、
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
即、却下された。
「どうしてですか!?」
「春の使い魔召喚は、神聖な儀式だからだ。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」
「でも!平民を使い魔にするなんて、聞いたことがありません!」
ルイズがそう言うと、再び周りが笑いだす。
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は・・・」
コルベールはウルキオラを指差す。
「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなければならない。過去、人を使い魔にした話は聞いた事はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールより優先する。彼には、君の使い魔になってもらわなくてはな」
「そんな・・・」
ルイズはガックリと肩を落した。
「さて、では儀式を続けなさい」
「えー、彼と?」
「そうだ。早くしないと次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚に、一体どれだけの時間をかけたの思っているんだね?何十回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
ルイズはウルキオラの顔を見つめると、一度、溜息をつく。
「感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」
そう言うと、ルイズは真剣な顔で杖を振り上げ呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
そうコントラクト・サーヴァントの呪文を紡ぐと、ウルキオラに唇を近づけていくが・・・・
「・・・・ゴミが俺に触れるな」
次の瞬間、ルイズは吹き飛ばされた。
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第二話 ルイズ
(・・・・・予想以上に力が落ちているな)
ウルキオラは近づいてきたルイズを手で振り払った。それだけの動作でルイズは数メートルも吹っ飛んだ。
しかし、力を込めたつもりはないとはいえ、本来のウルキオラなら振り払うだけで生身の人間などバラバラになるはずだ。
「なっ、何すんのよアンタ!」
それなのにルイズは吹っ飛ぶだけで、意識も失っておらず、骨一つ折れていない。
それはルイズが日々の爆発のおかげで普通よりタフで頑丈なのも理由だが・・・
(それに・・・・さっきのは何だ?)
ウルキオラがルイズを振り払ったのは、ルイズに触れられるのを嫌がっただけではない。
ルイズが唇を近づけた瞬間に、ウルキオラは本能的に身の危険を感じた。
それは恐怖よりは嫌悪に近い感覚。
直前の動作からして自分に何か術をかけようとしたのだろう。
なにをしようとしたのかは知らないが、不用意に得体の知れない術をかけようとした相手を生かしておく理由もない。
しかし、ウルキオラは踏みとどまり考える。
(・・・こいつらが黒崎一護の仲間で、俺を治療した可能性もある)
井上織姫など、破面を助ける変わった奴もいるので、絶対ないとはいえない。
「ちょっと聞いてるの!?返事くらいしなさいよ!」
ルイズが額に青筋浮かべている。
(・・・まずは、現状を把握するか)
ウルキオラはさしあたっての情報源であるルイズに目を向ける。
「俺の質問に答えろ、ここはどこだ?」
「・・・ここはトリステイン魔法学院よ。そんなことよりご主人様に向かってその口の利き方はやめなさい」
「トリステイン?なんだそれは?」
「はあ!?トリステインを知らないなんて・・・・どこの田舎ものよ」
(・・・駄目だな、今一つ情報が手に入らん)
「そんなことはどうでもいいわ。さっさと契約の儀を済ませてこの話は終わりよ」
「何なんだ貴様は?」
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!あんたのご主人様よ!さっさと契約して私の使い魔になりなさい!」
憤慨しているルイズをコルベールが仲裁に入る。
「落ち着きなさいミス・ヴァリエール。さて、あなたはこの魔法学院の召喚儀式で呼び出されたのです。使い魔召喚は神聖なる儀式でいかなるルールよりも優先されます。突然で申し訳ありませんが、掟に従って貴方には使い魔になってもらいたいのですが」
「なるほど」
ようやく少しはまともな情報が入ってきた。
目の前の人間が自分を使い魔にしようとしていたのは理解した。さっきの術は使い魔の契約というやつなのだろう。
「断る」
「なっ!?アンタ!たかが平民が貴族の使い魔になれるなんて名誉なことないんだから黙って言うこと聞きなさいよ」
「だまれ。何故俺が貴様のようなゴミの使い魔になどならなければならない」
「ご、ご、ゴミ!?このヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに向かってゴミ!?」
これ以上の会話は無駄と判断したウルキオラは周囲に目を向ける。
周りには魔法学院の生徒達と、召喚された使い魔達が自分を囲むように並んでいる。
(丁度いい。全員そこそこ霊圧を持っている。霊力回復の足しにはなるだろう)
本当ならもっと情報を集めてから喰うつもりだったが、せっかく周りに沢山の獲物がいる。この機会を逃すつもりはない。
『魂吸』
ウルキオラは周囲の生き物の魂を吸い取る。
「えっ・・・・?」
「うぁ・・・っ!?」
「なっ、何が・・・」
生徒たちが次々と倒れていき、使い魔たちも苦しみの叫びを上げる。
だが、
(何!?)
ウルキオラは驚愕した。
生徒たちは顔色を青くしていたり、気絶したりしているが、誰一人死んでいない。
ウルキオラは一瞬自分の魂吸に耐えきったのかと錯覚した。
ウルキオラが吸い取れた魂は予想以上に少なかった。というより、ウルキオラの体が一定以上の魂を吸収できなかった。
霊圧も僅かに回復したが、未だに最下大虚(ギリアン)程度の霊圧しかない。
(・・・霊力の消耗とは別に、体に何か異常があるのか?)
本来なら塵となったはずの体が元に戻っているのだから全く異常がない方がおかしい。
(ともかく、この体については後で詳しく調べる必要があるな)
ウルキオラは一旦思考を中断した。
自分に対して殺気が向けられている。
次の瞬間特大の火球がウルキオラを襲ってきた。それは並みの赤火砲を超える火力でウルキオラを包み込む。
「私の生徒に何をした!」
怒りの形相を浮かべ、杖を強く握りしめウルキオラのいた場所を睨みつける。
コルベールの放った炎によって 発生した煙幕によって姿は見えない。
周りの生徒たちはコルベールの攻撃で使い魔は完全に死んだと思った。
それはルイズも同じだった。
(そ、そんな・・・私の使い魔。召喚したばっかなのに死んじゃった。ってことは私留年!?)
しかし、
「思ったよりは、強力な攻撃だ」
煙幕の向こうから声がした。
ウルキオラは変わらずそこに存在している。
『炎蛇』と『虚無』
『メイジ』と『破面』が対峙する。
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第三話 破面の力
炎の中からの声に、誰もが目を見開き、硬直する。
無傷。
ウルキオラは燃え盛る業火の中で、火傷一つ負った様子もない。
ありえない、と誰かが呟いた。
甲冑の騎士ですらまともに受ければ数秒で焼け死ぬ灼熱から、何事もなかったかのように、そこに存在している。
「うっとおしいな」
次の瞬間。ウルキオラが右手を振るうと、周りの炎が全て消し飛んだ。
コルベールが放った炎は大きく、力強かった。それをローソクの火を消すかのように軽く消されてしまった。
人だかりの中誰かが言った。
エルフ。
コルベールが冷徹な視線を敵に向け、警戒する。
トライアングルメイジである自分の攻撃を、魔法を使った様子もなく全くの無傷。
だとすれば、目の前の男は生身の身体で炎を受け止めるほどの強度があるのか?
未知の相手に手が震えるものの、そばにいるのは自分が守るべき自分の生徒たちだ。
コルベールは、周りの生徒たちを見回す。
あれを召喚したルイズは、さっきの謎の攻撃で気絶しているようだ。自分の使い魔に攻撃された痛みとショックの上、一番近くから謎の攻撃を受けたのだから仕方がない。
「ミス・タバサ」
「・・・はい」
「君は使い魔に乗って学院へ飛びなさい。オールド・オスマンに救援を」
「・・・はい」
「ミス・ツェルプストー」
「は、はい?」
「気絶した生徒達を保健室へ先導してくれ。他の生徒も手伝って。ここからすぐ避難しなさい」
手短に指示を飛ばし、生徒たちが学院へと飛んでいくのを確認する。
コルベールは荒くなった呼吸を整え、得体の知れない男に鋭い視線を向けた。
「・・・貴様が何者かは知らないが、これ以上私の生徒達に手は出させはしない。私が相手だ!」
震える手を黙らせて、杖を構える。コルベールは自分からは動かない。
相手がどれほどの強者か分からない上、未知の存在だからだ。
ある程度の実力者ならば、対峙するだけである程度の力量が読める。しかし目の前の存在は、今まで感じた事のない得体の知れない何かだ。圧倒的な強者だというのは、経験から直感できる。だが勝算が何パーセントあるのか、どれだけ時間を稼ぐことが出来るのかまったく分からない。しかし、目の前の男は杖を持っていないし魔力も感じない。だが、それではコルベールの魔法を防げた原因が分からない。
ここで考えの一つとなるのは先ほどの攻撃だ。目に見える何かをされたわけではないが、目の前の男からの放たれる何か異様な感覚があった。次の瞬間、体から力が抜け落ちていき、魔力や体力や生命力。言葉に出来ない何かが吸い取られていった。これはかなりの知識をもつコルベールをして、未知の魔法だった
(どうすれば・・・・)
(さて、どうするか)
ウルキオラは考える。
どうやらこの男は時間を稼いで援軍が来るのを待つつもりらしい。
さきほどの炎を見たところ、単純な火力だけなら、死神で言えば席官の赤火砲を超える程度の威力はあった。
死神でもない人間にしては強いと言えるだろう。
だが席官以上程度なら、ウルキオラから見れば雑魚のように思えるが、今のウルキオラは霊圧だけならギリアン程度。
それに目の前の相手の攻撃は霊圧によるものとは違った。井上織姫のような人間とも違うようだ。
未知の力を使う相手に不安要素は大きい。
ここで戦って勝ったとしても、援軍が来るからには目の前の男以上の力を持つ者が何人も来るはずだとウルキオラは考えた。
だが、逃げるつもりもない。
逆にいい機会だと考えた。
今の自分の力、そしてこの世界の人間の実力を測ることが出来る。
「簡単には死ぬなよ?」
ウルキオラは指先に霊圧を収束させていく。
「――
魔法学院生徒達。
皆持てる最大の速度で空を駆けていった。
キュルケは皆をまとめ、学院を目指している。
生徒達も少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「何だったんだ、さっきの?」
「危なく気を失うとこだったよ」
「うぅっ、めまいがする」
「あいつは何だったんだ?エルフか?」
「ゼロもとんでもない奴を呼び出してくれたもんだぜ」
緊張が解れてきたのか、おのおのが喋り出す。
「皆そろいもそろって情けないな。よし、僕がコルベール先生の援護に・・・」
「きゃあああああっ!!!」
金髪美少年ギーシュ・ド・グラモンは勇敢さを披露しようとしたが、
その言葉は背後からやってきた翠色の閃光が襲い。生徒の悲鳴に掻き消された。
「なっ、何よ今の!!危なく私たちに直撃するところだったわよ!!!」
「・・・今の、使い魔召喚儀式の場所からじゃなかったか?」
「・・・結構距離があるはずなんだけど」
空気が凍りついた。
この距離から攻撃できる使い魔に恐怖が蔓延していった。
「そういえばギーシュ。さっき何か言いかけてたみたいだけど、どうしたの?」
「・・・あぁ、何でもないよミス・ツェルプストー。さっ、先を急ごうか」
生徒達は皆、コルベール先生の命を諦め、冥福を祈りながら学院へと急いだ。
(あっ、危なかった!!)
ウルキオラの指先が光るのを見て、何らかの遠距離攻撃が来ると予測したコルベールは、即座に「フライ」の魔法を使い、全力で空に逃げた。
翠色の閃光がコルベールの近くを通過していった。
(速度が桁外れな上、効果範囲も広い。間一髪よけられたが、何度も撃たれたら厳しいな。だが、あんな出鱈目な魔法をそう何度も撃てるはずがない)
コルベールは冷や汗を流し、杖を手が食い込むほど強く握りしめる。
ウルキオラは
手刀がコルベールめがけて振り下ろされた。
「うおっ!!」
コルベールは後ろへ飛び、どうにか回避する。
しかし、今回避できた理由は、コルベールの本能と経験からの危険察知だけではなく、先ほどの様に攻撃を読んだわけでもない。
今のはウルキオラの攻撃が若干遅かったのだ。
正確には、ウルキオラが響転で距離を詰めてから攻撃に入るまでの時間が遅かった。
(・・・何だ今のは?)
響転を使った時、一瞬身体に走った痛み。たいした痛みではなかったが、理由が分からない。一瞬相手からの攻撃かと思ったほどだ。
一瞬の戸惑いがウルキオラの攻撃を遅らせた。
(・・・やはり身体に何らかの異常があるようだな)
響転を使ったのが原因なのは分かるが、理由が全く思い浮かばなかった。
(それに、さっきの虚閃もおかしい)
虚閃の収束が思うようにいかなかった。
おかげで普段より発射までの時間がかかってしまった。
(これは俺の身体ではなく、周囲の霊子、霊質や環境そのものが原因か?)
単に霊質が低い悪いの問題ではなく、環境が現世とも
(やはり詳しく調べてみないことには分からんな。こいつらから詳しく聞き出せば何か分かるか?)
ウルキオラが本気になれば簡単に殺せる。それをしないのは今の自分の力と身体、そしてこの世界の人間の力を正確に測るためだ。
(まあ、殺してしまっても援軍で試せばいいだけだがな)
ウルキオラは相手の様子を見る。
そしてコルベールも改めて疑問を持っていた。
(なぜ浮いている!?)
人間が宙に浮くのは珍しいことではない。
あくまで魔法を使うことが前提だが。
しかし目の前の相手からは全く魔力を感じない。
先程の瞬間移動もそうだ。杖もなく詠唱もした様子もないのに平然と理解不能な力を行使している。最初は先住魔法かと思ったが、それとは違った異質さを感じる。
今は考えても仕方ないと、コルベールは攻撃を決断する。
二度と破壊の為に炎を使う事はしないという誓いを破ることを改めて決意した。
コルベールは距離をとって地面に降り立ち、杖を掲げる。
その先に宿るのは蒼い炎。不要なものをそぎ落とした純炎。
コルベールの炎が密度を高くし、逆巻くようにして大きくなる。
己の最大の魔力を込めて、最強の魔法を展開させる。
コルベールの杖から、青い波動が放たれて暴風の様に炎が吹き荒れる。
「・・・・ほう?」
ウルキオラは相手の切り札であろう攻撃を観察する。
炎が収束していき、ウルキオラめがけて放たれる。
「これで、終わりだ!!」
炎がウルキオラの全身を包み込む。
とぐろを巻き、大気を貪りながら燃え盛る蒼い炎は、球形のドーム状に渦巻いている。
灼熱といっても過言ではなく、ひとたび触れれば焼け焦げる。広がり、燃えて、待つのは死。
(仕留めた!!)
コルベールがそう思ったまさにその瞬間。
「それが全力か?」
炎の中から聞こえてきた声に、コルベールは凍りついた。
ウルキオラが炎の牢獄から歩み出る。
ありえない。この数時間で何度そう思ったことか。
一部では神の裁きとも地獄の業火とも言われる炎から、まるで何事もなかったかのように平然とそこに存在している。
「中々の攻撃だ。破面が相手でも弱いギリアン相手ならこれで終わっていただろうな」
まるで退屈しのぎのパフォーマンスを見たかのような気軽な感想。
自分とは格が違うのだと思い知らされた。
更新が遅れてすいません。
遅れた割にご指摘いただいた文章量が4000程度な上、前話等の地の文やプロローグから2話までまとめるのもまだでした。
これから先は文章量を増やし、地の文や心理描写を取り入れ、更新速度も上げていきたいです。
あくまで目標なので思うようにいかないかもしれませんが、頑張っていきます。
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第四話 人類の危機!?
コルベールの渾身の魔法を受けても平然と存在するウルキオラに背筋が震える。
火属性の魔法に対する絶対的な耐性があるのか、それとも火属性による魔法を無効化する魔法でもあるのかは分からないが、自分では目の前の存在に勝てないと思い知らされる。
ウルキオラが自分を見る目、そこからは全く感情を読むことが出来ない。まるで心のないゴーレム相手の戦いを連想するほど無機質な目だ。
おそらく今まで知られていないどこか辺境の、もしかしたらロバ・アル・カリイエの亜人を呼び出してしまったのかと推測する。
さらに問題なのは男の腰にある物だ。
(・・・あの細身の剣らしき物がおそらく本来の武器なのだろうな。威嚇や観賞用の剣という可能性もないではないが、限りなく低いだろうな)
ウルキオラにとって威嚇の必要性などないだろうし、剣には華美な装飾も施されてはいない。
この国の常識として剣より魔法の方が強い。よって魔法衛士隊のような者たちは別だが、剣を持つ者は魔法の使えない平民や傭兵などがほとんどだ。よって剣を持つ人間は、貴族にとっては何の脅威にもならない存在に見られ、侮蔑や嘲笑を浴びせる者さえいる。
しかし、ウルキオラを相手にすれば、そんな常識は通じない。
さっきから、あの剣を抜かしてはならない。あの剣を抜かせば自分は終わってしまう。と、コルベールの本能が叫んでいる。
(・・・これは命がけになるな)
時間を稼ぐだけでも、オスマンが来るころには死んでしまうかもしれないとさえ思う。
「・・・来ないのか? それならこちらから行かせてもらうぞ」
そう言うと、ウルキオラは再び指先をコルベールに向ける。
コルベールが自分の命を諦めかけたその瞬間。
「待ちなさい」
その声はコルベールには救いの声に聞こえた。
トリステイン魔法学院校長オールド・オスマン。
ウルキオラもその接近には気づいてはいた。
援軍が来る前にコルベールを仕留めてしまおうかとも考えていたが、ウルキオラにとって予想外なことに一人しか援軍がこなかったので、行動の方針を改めて考えていた。
「・・・何だ貴様は?」
ウルキオラは目の前の老人に尋ねる、というよりは命令した。
「わしはこのトリステイン魔法学院校長のオールド・オスマンじゃ。君はいったい何者かね?」
トリステイン魔法学院。先ほども出た言葉。どうやら目の前の男がこの場所のトップらしいという事は理解した。
「・・・ウルキオラ・シファーだ」
「フム。ウルキオラ君か、よかったら事情を説明してくれんかね?」
大まかな事情はキュルケが説明してくれたが、本人に確認をとって事情を把握しようとする。
コルベールの方はオスマンが来た安堵から今にも倒れてしまいそうだった。
「一緒に学院長室に来て話を聞かせてもらえんかね?」
ウルキオラは少しの間考える。
得体の知れない連中の本拠地にわざわざ行ってやる必要があるか?話なら今この場で行えばいい。自分たちの敷地内に呼び出すという事は罠の可能性もある。
しかし、今のウルキオラには情報がほとんどない。危険なリスクを伴うが、ここは譲歩してやるべきかもしれない。
ウルキオラは学院長室に行くことを承諾した。無論、全く警戒は解かなかった。妙な行動を起こせば容赦はしない。
「わしの生徒が迷惑をかけたようじゃの」
学院長室にいるには椅子に座るオスマンと、その後ろにいるコルベールと秘書のロングビル。その三人と対面する椅子に座るウルキオラの四人だ。
ウルキオラは円滑に話を進めるため、相手に合わせて椅子に座っている。あらかじめ
もちろん椅子に座った程度で隙ができるウルキオラではない。
「・・・・それで、何故俺を呼び出した?」
「そう言われてもの。使い魔の召喚は相性によって決まると言われておるが、何が呼ばれるかは召喚者も召喚してみるまでは分からんのじゃ」
つまりウルキオラが呼ばれたのは単なる偶然という事か、もしかしたらウルキオラがこうして生きているのはルイズのおかげかもしれないが、相手が勝手にやったことであるし、感謝するウルキオラでもない。
「それで、君は内の生徒たちに一体何をしたのかね?」
オスマンの目が鋭くウルキオラを見る。
「別に、ただ食事をしただけだ」
何でもないことの様にウルキオラは答えた。
実際、ウルキオラにとっては何でもないことだ。
「・・・・食事?」
あまりに予想外の答えにオスマンは困惑する。
ウルキオラは自分の存在について、自分なりに説明した。
自分は異世界から来たこと。虚、破面、十刃、そして藍染や死神について。
「フム・・・・つまり、君は十刃という魔法衛士隊の隊長の様なもので、藍染様という王の元で死神という存在相手に戦っていたというのかね?」
「ああ。魔法衛士隊とやらが何か知らんが、そんなところだ」
下手に隠して怪しまれるより自分から話した方がいいと考え、ウルキオラの主観だが異世界から来たことや自分の正体についてあっさり話した。
ちなみにオスマンは確認の際、藍染を様付けしている。トリステインでも自国の王を呼び捨てにしたら怒るだろう。オスマンは得体の知れない相手に対しても配慮できる思考は持っている。
「なるほど。疑うわけではないが、君の正体を証明できる手段はないかね?」
ウルキオラは嘘を言っていない様に感じるが、あまりにこの世界の常識では信じられないので確認したかった。
「・・・・そうだな。手っ取り早く、実際に見せてやろう」
ウルキオラはそう言うと、右手で自分の右目を抉り出す。
突然何をし出すのかと、見ていたオスマン、コルベール、ロングビルの三人はギョッとする。
ウルキオラは目玉を取り出すと、三人の目の前で目玉を握り潰す。
それを見た者たちは嫌悪感に震えたが、次の瞬間に驚きに変わる。
突然部屋が消えたような錯覚を感じた。
流れ出る映像。それはグリムジョーに勝利した黒崎一護がウルキオラの元にやってくる所からだった。
そして驚きは恐怖に変わる。
黒と白。二人の刃が交差する。
一瞬にも永遠にも感じる時間が流れる。
やがて二人は異形へと変化する。
それは今まで見たどんな戦いよりも凄まじい。
一対一の戦いとは思えない。
それは戦闘と言うよりも戦争。
自分たちの常識を微塵に破壊していく。
そしてウルキオラの消滅で映像は終わる。
これを見た三人は心の底から恐怖する。
目の前の化け物は絶対敵にまわしてはいけない。
コルベールは気が遠くなる。
自分はなんてものと戦っていたんだ。
生きているのは奇跡に思える。
「なるほど。君の存在はよく分かった。さて、話は変わるが、よかったら君はミス・ヴァリエールの使い魔になってくれんかね?」
「「オールド・オスマン!!!」」
コルベールとロングビルの叫びが重なった。
何を言い出してるんだこいつは!?とうとうボケたか!!?
そんな言葉が顔に出ている。
「断る。俺はゴミに仕えるつもりなどない」
「フム。やはりのう・・・」
コルベールとロングビルはあからさまにほっとしている。
「しかし使い魔がいないと彼女は留年になってしまうのじゃよ」
「俺の知ったことではないな」
心の底からどうでもいいように答えるウルキオラ。
「ほっほ、そこでじゃ。わしらが君を元の世界に戻す手段を探す間に彼女のそばにいてくれんかね?召喚した使い魔を送り返すことなど今まで前例がないことじゃからの、どうしても時間がかかるんじゃ。契約するかどうかは君に任せる。言わば仮契約期間と言う事で大目に見てはくれんかね?その間君はこの学校で暮らしてもらってかまわんよ?」
勝手に話しを進められている気がするが、ウルキオラにとっても悪い話ではない。一旦どこかに落ち着いた方が情報収集もはかどる。それにここは魔法学院。ウルキオラから見れば家畜場に等しい。魔力と霊力は別物だろうが、魔力と霊力は比例している可能性もある。
それに学校なら図書室もあるだろう。
必要な情報は自分で探る。
「いいだろう。その話を受けよう」
「おお!感謝するウルキオラ君。それと、ここにいる者たちはほとんどが貴族じゃ。危害を加えないでもらいたいんじゃが・・・・」
「それは相手次第だな」
ウルキオラは人を苦しめて喜ぶという趣味は無い。
わざわざ自分から人を殺すことは基本的にしない。
道を歩いていて少し離れたところにいる蟻を、わざわざ踏み潰しに行くようなことはしないだろう。
進路上にいても気が向けば歩幅を変えて助けることもあるだろう。
だが、踏み潰す必要があったり、歩幅を変えるのが面倒な時、踏み潰すことに哀れみや戸惑いを感じることがないだけだ。
「・・・・最悪、国が総力を挙げて殲滅にやってくるぞい?」
「できるのか?それが」
「・・・・」
ウルキオラの言葉にオスマンは黙り込んでしまう。
その反応を見てウルキオラは確信した。
この世界には強い存在はあまりいない。
援軍がオスマンしか来なかった時から予想はついていた。
未知の相手に危険な賭けであったが、予想は当たっていたと確信する。
ひとまず話は終わり、ウルキオラはロングビルに案内されて部屋から退室する。
「一体何を考えてるのですかオールド・オスマン!!」
コルベールがオスマンに詰め寄る。
「この国を滅ぼす!!・・・いえ、周辺国家まとめて滅ぼせる存在を学校に置いておくなど!!」
「彼によると人間の魂が主食の様じゃからのう、下手すれば国どころか人間という種の存続すら危ういかもしれんのう」
オスマンがさらにとんでもないことを言い出す。
「のんきなこと言ってる場合ですか!どうにか対処しないと!!」
「対処?できるかの?」
その言葉にコルベールは冷静を取り戻す。
確かに下手なちょっかいを出す方が危険だろう。
「国には知らせん方がいいのう。知られて軍事利用しようとする馬鹿共が現れたらそれこそ惨劇になるぞい」
コルベールはその光景を想像し戦慄する。
「しかし、彼は人間の食物は食べないのでしょう?私たちが食べられてしまうのでは?」
「別に食べるのは人間である必要はないらしいからの、最近近くの森に出没するようになったオーク鬼を退治させたらどうじゃ?オーク鬼も駆除できていいじゃろ?腹さえ満たせばわしらに危害を加える危険性も低くなる」
オスマンの言葉に、コルベールは尊敬の念を覚えた。
餌を与えておけば大人しくなるかもしれない。問題の先送りな気もするが精神が安定してきた。
「とてつもなく危険な使い魔など、過去に何度か例はある。規模は違うがようは主さえしっかりしていれば何も問題はないのじゃ」
「もし、契約がうまくいかず、主がだめだったら?」
「・・・・・」
部屋に沈黙が流れる。
「世界の命運は彼女次第なのかもしれんのう」
こうしてルイズは知らぬ間に人類の危機を押し付けられた。
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第五話 栄養補給
「んん~っ・・・・うん?」
朝になってようやくルイズは目が覚めた。
周りを見ると、見慣れた自室ではなく医務室のベットに寝ていたことに気付いた。
ルイズは自分の記憶を手繰り、自分の使い魔のことを思い出す。
「あ、あんのバカ使い魔あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
自分が何をされたか、おぼろげながら覚えている。
使い魔の分際でご主人様に暴力をふるい、挙句の果てに契約を拒否してきた。
そこから先は頭に靄がかかったようにあいまいだ。
ベットから息を荒げて立ち上がるが、周りを見渡しても使い魔は見当たらない。
「ご主人様ほっぽりだしてどこ行ったのよアイツ!!」
ストレス解消の相手が見つからず、ルイズの怒りはどんどん上がっていく。
さっきまで気絶していたとは思えないほど元気なようだ。
「ふっ、ふふふふ・・・・どうやら躾が必要なようね」
怪しげな笑みを浮かべ、保健室を飛び出していく。
使い魔へのお仕置き内容を考えながら。
走り回ったルイズは、一向にウルキオラを見つけられない。
疲れたルイズは自分の部屋に戻ることにした。
やり場のない怒りも時間と共に散っていき、ふらふらとした足取りで部屋のドアを開く。
「あっ」
部屋の中を見ると、今まで自分がさんざん探し回っていた使い魔がベットに腰かけて、自分の本を読んでいる。
ルイズの怒りは再び蘇ってきた。
「アンタねえ!私がさんざん探し回ったっていうのに何で私の部屋でくつろいでるのよ!!使い魔の自覚あるの!?それに、その本もベットも私の物よ!ご主人様の許可なく勝手に触らないで!!」
ルイズは顔を怒りで真っ赤にして怒鳴り散らす
「・・・うるさいな」
煩わしそうにルイズを見もせずに呟く。
ウルキオラはルイズの言葉など聞くつもりはない。
「耳障りだ。黙っていろ」
冷たく言い放つウルキオラに、ルイズは額に青筋を浮かべる。
「あんた!ご主人様に向かってなんて態度とってるのよ!自分の立場分かってんの!?私はヴァリエール公爵家の人間なのよ!アンタごとき平民が逆らっていい人間じゃないの!分かる!?」
ウルキオラはルイズを無視して本を読んでいる。
「あーもうっ!黙ってないでなんか喋りなさいよっ!」
「喚くな、やかましい。話し相手が欲しいならその辺の虫とでも戯れていろ。貴様の使い魔にもちょうどいいだろう」
ルイズの頭の中でブチッ!と何かが切れた気がした。
ここまでの侮蔑を受けた事はいまだかって無かった。
貴族の威厳が通じないと気づいたルイズは魔法で痛めつけようとする。
魔法を行使しようと、杖を振り上げたその瞬間。
「ぐべっ!!」
淑女らしからぬ声があがる。
呪文を唱えようとしたルイズは、ウルキオラの振るった腕に吹き飛ばされ、顔面から壁にぶちこまれた。
ウルキオラは静かになったルイズを無視して本を読む。
いや、読んでいるというのは正確ではない。ウルキオラにはこの世界の文字を読むことが出来ない。本を見ながら考え事をしているだけだ。
(・・・言葉が通じるのに文字が読めないとはどういうことだ?)
言葉が同じなのに字が違っている?
得体の知れない不自然さを感じる。
調べることはまだまだありそうだ。
ルイズが鼻血を垂らしながらギャーギャー騒いでいる。
生身の人間があれだけの衝撃を受けたのに鼻血ですんでいるのはおかしくないか?
そういえば、いくら弱くなっているとはいえ、『魂吸』を受けて一日でこれだけ元気なのもおかしい。
(本当に調べることは多そうだな)
「ああ!もういい、とりあえず朝食に行きましょう。騒いだらお腹がすいたわ」
勝手に騒いで自己完結する。
「それじゃあ、食堂に行くから早く着替えさせて」
「自分でやれ」
当然のごとく命令するルイズに、考えるまでもなく即答する。
「はぁ!?使い魔の分際で主に逆らうつもり!!そもそも使い魔は主の面倒を見るのが当然でしょ!口答えするなら朝食は抜きよ!早く着替えさせなさい!」
ウルキオラはルイズの言葉を聞き流した。
ルイズは懲りずに杖を振り上げ、ウルキオラの腕がルイズを床に沈めた。
(・・・・もういい加減殺すか?)
元々、ウルキオラは自分が認めた者以外の命などどうでもいい。
自分を召喚したというルイズに関しては、調べたいことがあったので手加減していたが、この女に調べるだけの価値があるのか疑問に思ってしまう。
(一応この女は重要な手がかりだが、行動に支障が出そうなら殺すか)
しぶとく立ち上がったルイズは、怒っているのか泣いているのかよく分からない顔して着替えはじめる。
部屋から出た二人は食堂に向かうことになった。
本来破面に食事は必要ないが、霊力を消耗している場合は食事や睡眠によって、ある程度霊力を貯めることが出来る。
分かりやすい例が十刃の一人であるヤミー・リヤルゴだ。彼は普段は10の数字を持つ十刃だが、食べて寝て霊力を貯めることで巨大化し、刀剣解放(レスレクシオン)することで第0十刃となることが出来る。
よって今のウルキオラにとっても食事は重要だ。魂吸も今の状態でどこまで吸えるか分からない以上出来る限り霊力を貯めたほうがいいだろう。
二人が部屋から出たとき、一つのドアから一人の女生徒が出てきた。
「あら、ルイズおはよう」
背が高く褐色肌の少女だった。
身長、スタイルや肌の色まで、性別以外がルイズと対極な少女だ。
「・・・・おはようキュルケ」
ルイズは疲れきったように答える。
「あらあら、よっぽど疲れてるみたいね。昨夜はお楽しみだったのかしら」
キュルケが微笑しルイズをからかうが、ルイズは無反応だ。リストラされた直後のサラリーマンのような気配を漂わせている。
「・・・・本当に疲れてるみたいね」
ルイズの雰囲気から何かを察したのかそれ以上は突っ込まない。
そしてキュルケは視線をルイズからウルキオラに移す。
「・・・あなたがルイズの使い魔よね?」
「違う」
キュルケの質問にウルキオラは即答した。
「ちょっと!アンタは私の使い魔でしょうが!!」
その答えが気に入らなかったのか、げんなりしていたルイズがウルキオラに食って掛かる。
本当にタフな奴だと、ウルキオラは半ば呆れも感心する。
「使い魔の契約をしてないの?」
「当たり前だ。何故俺がこんなゴミの使い魔にならなくてはならない」
ウルキオラは心外だと顔を不快気に歪めて冷たく吐き捨てる。
返答を期待しての言葉ではなかったが、キュルケは答える。
「何故って、召喚された者が召喚した人間に従うのは当たり前でしょう?」
キュルケは何を言ってるの?という顔をしている。
実際この世界の常識で考えれば当たり前のことなのだろう。
召喚された者は召喚者に従うのが当然だ。
しかしウルキオラにしてみればそんなことは知ったことではない。
こんな惰弱でうるさいゴミに仕える理由などない。
ウルキオラを使い魔にしたければ愛染クラスの力を示さなければならない。
ウルキオラは興味が消えたようにキュルケから視線を外す。
ウルキオラは普段のキュルケであれば即座に手を付けるほどの美形である。
しかし、使い魔召喚の儀式でキュルケはウルキオラの危険の一旦を知っている。
それでもキュルケの『微熱』はウルキオラに反応してしまうのだが、キュルケもさすがにそこまで命知らずではない。
(さすがに危ない橋を渡りたくはないわね)
下手に手を出せば自分の命が危ないことは何となく分かる。
「じゃあルイズ。また後でね」
キュルケはウルキオラに愛想笑いをし、その場を立ち去って行った。
ルイズとウルキオラの二人は、アルヴィーズ食堂にたどり着いた。 食堂の中はとても広くて豪華、というより成金趣味だった。
「どう、凄いでしょ?トリステイン魔法学院は貴族の為の学院なのよ。『貴族は魔法を持ってその精神となす』をモットーに貴族たるべき教育を受けるのよ」
ルイズが自慢げに話すが、ウルキオラが抱いた感想は無駄に派手、の一言だった。
テーブルの上には肉料理を中心とした随分朝から重そうな料理が並んでいた。
「ああ、言っとくけど、あんたはソレよ」
ルイズはテーブルの下にある一枚の皿を指差した。小さな肉のかけらの浮いたスープだ。すみっこには硬そうなパンが二切れある。
「あんたは床よ。本来平民が来ていい場所じゃないんだから味わって食べなさい」
ウルキオラはルイズの言葉を無視して近くの椅子に座り、テーブルの料理を食べ始める。
ルイズは何か言いたそうにしているが、言っても無駄と悟り、黙って椅子に座った。
(何でこんな奴が私の使い魔なのよ!もっとドラゴンとか私にふさわしいのにしなさいよ!)
やり場のない怒りを抱えたルイズは、朝食の祈りで生まれて初めて始祖ブリミルを呪った。
食事で霊力が回復するかは作者の独自解釈です。
実際の所どうなんでしょうね。ヤミーが食べて寝て怒りで力貯めてたからあながち間違ってないと思うけど。
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