似て非なるもの (裏方さん)
しおりを挟む

第1章 あいつへの想いと決心
彼女たち


初めての投稿です。

原作を紹介してもらって、やっと今11巻読んでます。

DVDは最後まで観たのですが、やっぱり続きが気になります。

三年生編ってないでしょうか。

誤字や脱字、変な文章など、読みにくいこともたくさんあると思いますが、

長~い目で読んでいただけたらありがたいです。

原作が四人にとってハッピーエンドで終わりますように。




「綺麗だな~」

 

やっばっ! 思わず声に出っちゃった。 

だってね、今わたしの目の前に女神さまが・・・それは言い過ぎか。

とにかく、同性のわたしから見てもうっとりするような女の子が

横たわっているの。

 

マラソン大会のゴールである海浜公園。

そこに設けられた救護テントに運び込まれた彼女。

・・・確か去年も

ま、まぁ、それはいいとして。

我が総武高生徒で彼女を知らない人なんていない。

ほんと綺麗だなぁ。

漆黒の艶やかな髪、透き通るような白い肌、

見つめられたらなに人であろうと虜にする瞳、

麗しい唇、それでいて学年トップの才女。

さらになんと! 正真正銘のお嬢様。  

しっかり天は二物も三物も与えているじゃん!

あ~あ、それに引き換え、このわたしの手鏡の中に映っているのは、

ショートカットに眼鏡の地味で平凡な女の子。

わたしも髪切らなければよかったかなぁ~ 

先輩方に憧れたけど、この眼鏡もやめようかな。

 

で、でもさ、わたし聞いたんだ。

修学旅行の時、彼が告白したって。

そしてその相手が・・・・・・

だからわたしも髪切ったのに・・・

くそ、わ、わ、わたしだって、この眼鏡をはずせば結構いけるはず!

ほ、ほら見てみ!

・・・・・・うううううっ、平凡な女の子でした。

ちくしょー!

 

「・・・かしら」

 

あ~ぁ、雪ノ下さんの1/10でも、その美貌をわけてもらえたらな~

そうしたら、わたしの人生も少しは変えられたのかも。

 

「はぁ、ほんと綺麗だなぁ」

 

そう、その瞳でそんなに見つめられたらもう・・・・・・

えっ 見つめられたらって?

う、うそー!

 

「あまり、耳元でぶつぶつと呟かないでくれるかしら。 

 よく、休めないのだけど」

 

ひぇー、やっぱり起きてたんだ!

 

「ごごご ごめんなさい。

 つい心の声が・・・

 って、あの~いつ頃から起きていらっしゃいました?」

 

「ここに来てからず~と起きてたわ」

 

ここに来てから? 

ひぇ~あんなこともこんなんことも、すべて聞かれてたの~

は、は、恥ずかしい。

ううう、わたしの黒歴史がまたひとつ。

 

「くっしゅん!」

 

うっ、めっちゃかわいい!

あ、じゃなくて。

 

「あの雪ノ下さん、気分はどう?」

 

「もともと何ともないわ! 

 少し休んでいただけだもの。

 そうしたら平塚先生に強引に車に乗せられたのよ。

 必ず完走するつもりだったのに」

 

うわぁー、評判通りの負けず嫌い。 

た、確か去年も同じこと言ってたような。

それにこの救護テントに運ばれてきた時なんて、

ほんと顔が真っ青だったのに。

でもさ、少しは元気戻ったみたいだね。

これなら大丈夫かな。

 

「あのさ、学校まで歩けそう? 

 ほら、このテントって風が吹き抜けるからめっちゃ寒いでしょ?

 汗かいてると思うから風邪ひくとね」

 

「えぇ、大丈夫よ歩けるわ」

 

「じゃあ、学校まで送ってくね。

 立てる? はい、肩使って」

 

うん? なにこの香り。

やばっ、抱きつきたくなるようないい香り。

わたし、そんな趣味なかったはずだよね。 

恐らく、自信ないけど。

う~ん、でもいい香りだなぁ~

は、だ、駄目だ、我慢できない!

なんか、”ぎゅっ”って抱きしめたい。 

とうちゃん、ごめんね。

あっちの世界に旅立つ娘をお許しください。 

 

「ゆ、ゆきのし 」

 

「ゆきのん! 大丈夫?」

 

へぇ ゆきのん? 新しいアイスノンの種類? 

違うよね ”ゆきのん”だよね。

わかってる。

この前の体育祭とかクリスマスのイベントの時そう呼んでたもんね。

でもあっぶなかった~、危うく道を踏み外すとこだった。

雪ノ・・・・・・ゆきのん恐るべし。

 

雪ノ下さんと由比ヶ浜さん。

あのさ、わたしはあなた達のこと知っているよ。

トップカーストだからってことじゃなくてさ。

だってあなた達は彼の・・・・・・彼の何なんだろう。

いつも彼の周りにはあなた達がいて。

・・・すこし羨ましい。

こんな二人に囲まれていたんじゃ、わたしのことなんて憶えてなくても

当然か。

それにきっと雪ノ下さん達もわたしのことなんて憶えてないよね。

わたしってさ、影薄いからなぁ~ 

 

「えぇ、由比ヶ浜さん大丈夫よ。

 もともとなんともないの。

 おおげさよ」

 

「でも優美子からさ、ゆきのんがカエルみたいに道にぶっ倒れてたって

 聞いたから」

 

「カ、カエル!

 ちっ、あの女」

 

ゆっ、雪ノ下さん、こわ!

今本性がみえたような。 

抱き着かないでよかった~

抱きついていたら今頃・・・・・・

 

「ゆきのん、それより休んでなくて大丈夫?」

 

「由比ヶ浜さん、あのね、このテントの中ってめちゃ寒いでしょ。

 ほら風がビュ~ビュ~吹き抜けるから。 

 それでね、風邪ひくといけないから雪ノ下さんを学校に連れて行く

 ところなの」

 

「へっ あっ了解。

 じゃあさ、行こゆきのん」

 

へ、了解って由比ヶ浜さん、そっちの肩を担ぐの。

 

「由比ヶ浜さん、やめてくれるかしら」

 

そうだよね、両方から担がれると少し大げさすぎかも。

それにあまり注目されると、二人と比較されるわたしもその~

 

”うるうる”

 

うっ 由比ヶ浜さん、なにその目。

うるうるって、なんかワンちゃんみたいでめっちゃ可愛い!

 

「だって、こんなときじゃないと、ゆきのんに頼ってもらえないじゃん。

 あたしはいつも頼っているのに!」

 

「そんなことはないわ。

 あなたは知らないのかもしれないけど、私も比企谷君も

 あなたに頼っているのよ。

 由比ヶ浜さんがいなければ、奉仕部は機能しないわ!」

 

「ゆきのん!」

 

”だき!”

 

「暑くるしい。由比ヶ浜さん、すこし離れてくれないかしら」

 

ほんと仲いいよね。

はぁ~、仕方ない。

他の保険委員の子もいないし、ここはお願いしよう。

 

「あのね、なんか男子で怪我した子がいるらしいの。

 由比ヶ浜さん、悪いけど、雪ノ下さんを学校まで送って

 行ってくれない? 

 保健室に先生がいるから」

 

「うん! えへへ、任せておいて! 

 さぁいくよ、ゆきのん。

 しっかりあたしを頼りなさい」

 

やれやれ。

あっでもさ、

 

「ねぇ、由比ヶ浜さん、もうそろそろ男子がゴールするけど大丈夫?」

 

「へっ? うん大丈夫だよ。

 じゃ送ってくね」

 

”スタスタ”

 

「由比ヶ浜さん、もう少し離れてくれるかしら?

 歩きにくい」

 

由比ヶ浜さんもあの香りに引き寄せられてるのかなぁ? 

雪ノ下さん、どんなシャンプーとか香水使ってんだろ?

いい香りだったなぁ~

 

・・・・・・でもね、由比ヶ浜さん。 

あなたホントにいいの、行っちゃって。

彼を待ってなくてもいいの?

わたしは、わたしは知っている。

比企谷君、スタートしてからずっと葉山君にくっついてトップグループで

走ってたじゃん。

あれっていつもの比企谷君じゃない。 

授業の時とかもっとやる気のなさそうに後ろの方で走ってる。

・・・だっていつも自然と彼の姿を探しているから知ってるもん。

それにさ、比企谷君達の後ろを戸塚君達テニス部が横一列に走ってたじゃん。

他のみんなからひんしゅくかって。

戸塚君ってそんなことする子じゃないよ。

比企谷君と戸塚君の不可解な行動。

つまりそれってなにかあったからじゃない? 

おそらく奉仕部がらみの。

比企谷君はそのためにまた何かした。

それなのに怪我して帰ってくる比企谷君を待ってなくていいのかなぁ?

まぁ、比企谷君が怪我してるって言わなかったから知らないだろうけど。

でもさ、わたしなら怪我とかしてなくてもゴールするの待っている。

だって奉仕部のため頑張ってくれたんだから。

それで、それでご苦労様って・・・・・・

ま、まぁ、いいか。

それはわたしの意見だから。

・・・・・・う、うん、わたしは奉仕部じゃない。

それに、どうせわたしなんか彼に憶えてもらってないし。

 

”スタスタ、ピタ”

 

「三ヶ木さん」

 

「え、あっ!

 え、え~と~、どうしたの雪ノ下さん」

 

「看病ありがとう」

 

「え、あ、う、うん」

 

ゆ、雪ノ下さん、わたしのこと憶えててくれたんだ。

へへ、少しうれしい。

そ、そっか憶えててくれたんだ。

あ、ありがと。

 

「気を付けてね、雪ノ下さん」




最後まで読んでくれたありがとうございます。

すこしでも、俺ガイルの世界が広がればいいなと思います。

もう少しでも読みやすいよう気を付けていきますので、次回も

読んでもらえたら幸いです。


追記

すみません。
行の間隔を詰めてみました。

行間が開きすぎて読みにかったかもです。
後の話も時間見ながら直してみようと思います。

追記の追記

すみません。
完結後、内容見直ました。
文章一部変更しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼・・・・・・達(?)

ありがとうございます。

こうして読んでくれる人がいると、原作の力、やっぱりすごいと

改めて実感します。

今回は彼と彼の戦友と彼女(オリヒロ)との話です。

これからもっと彼女の物語を広げられたらと思います。

原作の力に頼らず、少しでも内容で読んでいただけるよう

頑張りたいと思います。




「もははは。 我が戦友であり、宿命のライバル、比企谷八幡!

 どうやら、貴様とのこの長き死闘に終止符をうつ時が来たようだな!」

 

えっ、なに、材木座、まさかここで裏切るつもりか。

まずい、恐らく、俺たちが最後尾のはず。

こいつを引き留めなければ、悲惨なことになる。

あの忌まわしき黒歴史が俺の中で蘇る。

 

あれは、中学初めてのマラソン大会。

少しばかり足に自信のあった俺は、

あの娘の前でいい恰好を見せるべく、先頭のほうでスタートの合図を待っていた。

だが、そう、スタートの合図とともに、全女子が見守る中、そうあの娘も見守る中、

前の生徒のコケるのに巻き込まれて、派手にこけたのだ。

足ひっかけられたわけじゃないからね! 前の生徒がこけただけだから。

そう、お前、お前だ、サッカー部のさわやか少年”永山”。

俺の絶対に許さないリスト、No.4

おかげで俺は足を捻ってしまい、結果、最後尾。

つまりビリで走っていたのである。

 

傷つき、足を引きずりながらも必死でゴールを目指す姿。

なに、もしかして、俺、悲劇の主人公じゃない? 

巻き込まれたとこ、みんな見てたし。

もしかしたら、この姿にあの娘も惚れたりして。 ぐふふふ。

そんな純朴少年(?)のあま~い気持ちは、ゴール地点である校庭に

着いた途端、はかなく飛散したのだ。

 

『え~なにぃ、まだ走ってる人いたの。 さっさとゴールしてよ』

 

『後始末できないんですけど。 体育委員なめてない?』

 

『足、怪我してるんなら棄権すればいいのにー』

 

あれ? おかしい、おかしいな。

少し前(後ろから二人目)を走ってたサッカー部の”永山”。

 

そう、この悲劇を引き起こした張本人。

あいつ、確かみんな(主に女子)から”頑張って”って

励まされてたような気が?

 

その瞬間、純朴少年は社会の不公平に涙し、立派なぼっちマスターに

なるべく道を歩み始めたのであった。

 

もう絶対に先頭に並ばないから! それと人込みは嫌いだ。

と、そんなことを言ってる場合ではない。

このまま一人で走って、残っている生徒の注目をあびるのは、

何としても避けたい。

ぼっち道には反するのではない。

ぼっち道とは目立つことを避けることからである。

なっ、なんとかこの生贄、いや材木座を引き止めなくては。

 

「そ、そうだ 材木座、そろそろ新作できたんじゃないか?

 いやぁ~ 読むの楽しみにしてたんだよな~、読みたいな。

 このまま走りながらでも読みたいレベル」

 

「ぬほほん。 八幡、いやわが信者よ。

 それほど我の教本を待ち侘びていたか。

 うむ、そうなのだ。  教本はもうじき完成するぞ。

 それまで首をながくしてまっておれ。 

 もははは! では、さらばだ、八幡。

 この勝負、我の勝ちだ!」

 

「まて! 材木座、じっ、実は素晴らしいアイディアが~」        

 

くそ~いっちまいやがった。

まずいまずい、さっきみた中学の時の光景が蘇ってきた。

このまま棄権するか。

今更だけど膝痛いし。

 

『比企谷、必ずゴールしろよ。 私がゴールで待ってるからな。

 今年は私がマラソン大会の担当なんだ。

 こういう係は若手にお鉢が回ってくるんでな。

 若手に! わ・か・て・に!

 もし、ゴールに来なければ抹殺の・・・  』

 

はぁ~ ゴールさせていただきます。 なんか体育の点数がなんとかって

いってたし、仕方ねーな、いくか。

 

     ・

     ・

     ・

 

この角を曲がるとゴールとなる海浜公園だ。 ここは百八の特技の一つ、

ステルスヒッキーを発動してって、無理だな。

さっさとゴールしてマッ缶で魂の補充を、

 

ん、誰もいねぇ、なんでだ。

いや一人、ゴールに結構かわいめの女子が、じょ・・・  じょし?

あっ あのジャージ姿、平塚先生か?

新鮮というかなんかかわいい。

まぁ、この場合、白衣はないもんな。

まじでもう十年早く生まれて、そして出会えてたら、俺は・・・

 

「うむ、比企谷、ご苦労! 膝は大丈夫か?」

 

「大丈夫っす。 それより、先生、ジャージ姿、割と似合いますね。

 そこらのアイドル顔負けですよ!」

 

「ば 馬鹿者、それよりさっさと救護テント行って来い。

 救護班には連絡済みだから待ってるはずだ。

 それと体育の厚木先生にはちゃんと

 ゴールしたこと伝えとおくからな。

 ご苦労」

 

「どうもっす」

 

「・・・これから、ジャージにしょうかな。

 見合いの時も、もしかしたら・・・」

 

いや、先生、見合いの時はよしましょう。

せめて学校の内だけで。

救護テントか。 そういや、中学の時はカットバンもらっただけだったな。

足捻ったんだけど。

 

「優勝者の葉山隼人さん、壇上に・・・ 」

 

はぁ、なにやってんだ あいつ。

って、生徒全員ここにいたのか。

 

「・・・、優美子といろは、ありがとう」

 

って、おい葉山、

 

『そのことについてなら心配ない。・・・』

 

お前の答えはそれか。

三浦はいいとして、一色は振ったばかりだろ。

結局、三浦と一色を女よけに使ってるだけじゃないか。

 

「葉山、やっぱり俺はお前が嫌いだ」

 

それにしても、一色、そんなに照れて。

まぁ、あいつ葉山狙いだからな。

 

”ズキッ” えっ何、いってぇなぁ、膝が。

膝だよね。 うん膝。

なんなら全身膝!

 

「すみませ~ん、カットバンありますか?   

 ・・・て、だれもいね~や。 

 やっぱり保険委員、葉山のところいってんのか。 

 ちっ、お前ら仕事しろ!」

 

はぁ、学校もどるか。

 

「どこ行くの? それに、し、仕事してるわよ」

 

おぅ、びっくりした、どこにいたんだ。

ってお前、よだれ。

完全に寝てただろ。

 

「なに、その疑いで満ちた腐った眼は!

 ずっとここにいたんですけど!

 はぁ、まぁいいわ。

 比企谷君、さぁ、そこに座って」

 

「いや、カットバンもらえるか?

 えっ何、おれの名前知ってるの?」

 

「当たり前でしょ、初対面でもないでしょうに。

 さぁ、早くそこ座って」

 

「いや、たいしたことないから、カットバンもらえればそれで」

 

「私ね、平塚先生から連絡もらってね、ずっとこの寒~いテントの中で

 ひとりで待機していたんですけど(嘘だけど。 雪ノ下さんごめん)。

 なに、カットバンだけくれ? ふ~んカットバンの箱だけ置いて

 さっさと帰ってればよかったなぁ~」

 

うぇ~、なんかしらんけど”ぎろり”と思いっきり睨まれてる。

えっ、今、眼鏡の奥、光った。

氷の女王まではいかないがコェって。

 

「いや、あの、すまん、お願いします」

 

「よろしい。 そこに座って~♬」

  

破れたほうのジャージを膝まで引き上げられると、

ふぇ~結構派手にこけてたのね。 八幡ショック!

いやそんなことより、

 

「あの、どこかでお会いしましたでしょうか?

 同じ学年のようだけど」

 

”ピキッ” えっ何、なんか割れた?

 

「うぇ~ 染みるー

 もう少しやさしくっ・・・ はっ、いぇ、何でもないです」

 

こえ~ 何、また睨まれてる。

 

「まったく、やっぱり私って覚えられてないのねー。

 影薄いっていわれるもん。

 でもさー、文化祭以来、何回も会ってるのに。

 くっそー 腹立ってきた、もう一回」

 

こいつ、今なんかぶつぶつ言ってた?

いてっ~ 染みる、染みるって。 

 

「すっ、すまん。なんか知らんけど、俺が悪かった。 

 だからもう少しやさしくお願いします」

 

「あっ、ごめんなさい、消毒しすぎて骨が見えてきた」

 

「うっ、うそ・・・・」

 

「冗談よ、改心すればよろしい。

 どれどれ優しくしてあげよう。

 ほれほれっと。 

 でも、比企谷君、あなたM男ね」

  

「いや、ち、違うから。

 極めてノーマル、ノーマルすぎて認識されないレベル。

 へぇ~ だけど、なんか本当は手際いいんだな」

  

「二年も続けてね、救護班担当やってればなれるわよ。

 去年はなぜか三年生の怪我が多かったのよね。

 ほんとはね、保険委員の子がいるはずなんだけどね」

 

「何、お前二年続けてやってんの。

 そんなに人の傷口に消毒液塗り付けるの好きなのか?

 やっぱりSだな。 お前、S子だろ」 

 

 ”ピキッピキッ” 

 

 え、何、またなんか割れた?

 

「ぐぇ~ いてぇ~ 染みる。 本当、染みるから!」

 

「まったく、好きでやってんじゃないわよ。

 私の上司(ボス)にね、

 

 『ほぇ~三ヶ木先輩、去年も救護班担当だったんですか~ 

  それじゃ、ベテランさんですね。 

  今年もよろしくです! えへっ♡ 』

 

 って押し付けられたの」

 

なに、それ。 どこかで聞いたことがあるような。 あっ

 

「お前の上司って、一色か?」

 

「わかった? 似てたでしょ」

 

「いや、ちぃ~とも似てなかったけど、”えへっ♡”でわかった」

 

なに、こいつ、生徒会? いやクリスマスの時はいなかったはずだ。 

たしか女子はあと書記ちゃんだけだったが?

 

「ところで、奉仕部の依頼はうまくいきそう」

 

「何で知ってるだ?

 まぁ、なんとかなったと思う。自信はないけど。

 そろそろいくわ。

 なんかいろいろとすまなかったな、それと、手当ありがとう」

 

「えっ、何、聞こえないけど」

 

「いや、なんだ、手当ありがとう」

 

「あれ~おかしいな。

 なんも聞こえない、もう一回」

 

いや、お前、絶対聞こえてるだろ。

 

「S子」

 

「なによ、M男」

 

「やっぱ、聞こえてるじゃねか、もう行くわ」

 

「あぁ、面白かった。

 じゃあ、義輝君、ちゃんと送ってってね」

 

”義輝?” いや、なんで材木座、お前そこにいるの。

隠れてるつもりだろうけど腹がはみでてるぞ、腹が。

いきなり、名前呼ばれてきょどってるけど、キモイ。

 

「けふん、けふん。

 よかろう、古来より勝者は敗者をいたわってやるもの。

 さあ八幡、我の腕につかまれ」

 

「いらん」

 

「へぇ、八幡。 いや遠慮せず、さぁさぁ。

 は、八幡、怒ってる?

 おぬしが読みたがってた、我の新作を一番に読ませてやろう。

 いや、読んでください・・・  お~い、はちま~ん」

 

「いや、いい 自分で行く。

 お前の力は借りん!」

 

「あっそうだ。

 比企谷君、学校戻ったら保健室によってもらえない? 

 先生にこっちはもう引き上げるって伝えてもらいたいの? 

 先生とは入れ違いになるかもしれないけど、その時は保健室にいる人

 でいいから伝えてくれない?

 わたし、これから、ステージとか音響とかの片付けあるから」

 

「おう、わかった。 保健室によって伝えておく」

 

「はぁ、わたしもお節介だね。

 まあ、雪ノ下さんには名前覚えててもらったからね。

 さぁ片付け片付け。

 本当、あのジャリ、いらない仕事を引き受けて。

 生徒会が個人的な依頼で活動すんじゃないって。

 ちょっとしめといたろか!」

 

なに、なに怒りながら歩いてんだあいつ。

途中で性格変わってない?

しかし全く思い出せん、誰だっけ?

 

「はちま~ん。 我の腕に、さぁ我の腕につかまって~」

 

「いらん!」




最後まで、ありがとうございます。

材木座って、やっぱり八幡の親友ですよね。

八幡のことを一番理解しているのかと思います。

次回はオリヒロ(彼女)の本領発揮させたいと思います。

読んでもらえるよう、知恵を絞りつくしますので、よろしく

お願いします。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

わたし

いつも、読んでいただきありがとうございます。

ついに三回目の投稿。

今回は一応、オリヒロメインのつもりです。

ぼっちぼっちと美佳ワールドを広げていきます。

文章の区切りができなく、6000文字超となってしまいました。

これからは、分割して3000文字ぐらいになるよう構成を考えます。

読みにくくてごめんなさい。 よろしくお願いします。

※文の中ででてくる、オリヒロの大好物、チロロチョコ。

 ずばり、あのチョコのことです。 念のため。





「わかったから、もう頭あげな。 

 仕方ね~な、こんなかわいいお嬢ちゃんにそこまでされたら、

 待つしかね~だろ」

 

えっ 社長さん、いまなんと。

聞いたことのない言葉が。

 

「いっ、今の本当ですか。

 あの~もう一回、お願いします」

 

「ああ、待ってやるよ。

 もう少しだけな」

 

「いぇ、そこじゃなくて、もぅちょっこっと前の」

 

「ん? 頭あげなっか?」

 

「いぇ、その後の、ほら、こんななんとかって」

 

「こんなかわいいお・・、」

 

「えへへ。

 ありがとうございます!」

 

「そこかい!、全く変なお嬢ちゃんだな。

 突然、土下座するかと思ったら」

 

「だって、かわいいなんて生まれてから一度も言われたことないんだもん。

 だから、もう一回お願いします」

 

「ったく、そんなことより、はやく原稿書いている奴のケツ

 けっとばしてこい。

 俺もいつまでも待ってやれんぞ」

 

「は、は~い。

 ありがとうございます、それじゃ、ちょっとすみません」

 

ちぇ、残念。もう一回いってほしかったなぁ。

へへへ、かわいいって。

そうなんだよね、わたしの魅力は見る人が見ればわかるよね。

へっ、そんなの言葉の何とかだって? なに信じてるんだって?

わかってるわよ。

でも少しだけこの気分にひたらせてくれたって!

まぁ、いいわ。 

え~と、由比ヶ浜さんのアドレスは、

 

「あ、由比ヶ浜さん。

 うん、いまね・・・・」

 

わたしいまね、印刷所にいるの。 

そう、印刷所の入り口で土下座してたの。

へん、目的を果たすためなら、土下座なんて何万回でもできるわよ。

お安い御用よ! おでこの汚れは勲章よ。

だって、誰か言ってだじゃん。 ”プライドじゃ、飯食えねぇ”って。 誰だっけ?

なんでそんなことしてたかって? それはね・・・・・

 

 

 

 

‐‐‐ 話は数日前の生徒会室 ‐‐‐ 

 

 

 

 

るん、るん、るん♬。

さぁ~て、一日のお勤め(授業)も終わったし、

いまから始まるよ~ わたしの至福の時間。 

さぁ、でておいで、わたしのかわいいチロロちゃん達。

と、生徒会室で私に充てられた机の引き出しを開ける。

そこには、崇高な光を放つ茶色の箱。

そして箱には私を夢の世界に導くおまじない、チ・ロ・ロの文字。

大切に箱を取り出し、そ~とふたを開けるとそこには、

きゃ~、かわいいチロロちゃん。

今日はどれにしょうかなぁ~

イチゴ、きな粉、う~ん、ここは大人の女性らしくビターもいいかな。

よし、ここは、きみに決めた! そう、メロン味のチロロちゃん。

やっぱ、チロロちゃんて、箱買いよね。

バラエティパック最高。

いろいろな味が入ってるんだもん。

さぁ、わたしを夢の世界につれてって”あ~ん”

 

「えぇ~! こんなにあまってるじゃないですか!」

 

びくっ!

 

”ぽろ”

 

えぇ、なになに?

あっチロロちゃんが。

だ、大丈夫よね、確か三秒以内だったらって。

あまってる? 冗談。

この箱のチロロちゃんは全部わたしのもの。

 

「もったいないですね」

 

いや、もったいなくないから。

全部、わたし食べるから。

 

「まぁ、最終的に残った分は、たぶん減らされると思うよ」

 

減らされる? いや~食べないで。

これはわたしのかわいい・・・

 

「三ヶ木先輩、なんかうっさいんですけど」

 

「三ヶ木、さっきからなにぶつぶついってんだ?

 三秒がなんだかんだとか」

 

へっ、違うの? わたしのチロロちゃんの話じゃないの?

よ、よかった。

ぱくっと・・・あ、食べちゃった。

 

「ひなむらきょん、なんにょ、はなししちょるんでしゅか?」

 

「ちゃんと食べてからいえよ。

 だれだよ、ひなむらきょんって」

 

だって、ゆっくり味わいたいじゃないの。

もう!

 

”もぐもぐ”

 

「ご、ごほん。

 稲村君、あなた、なにをいってるのかわからないのだけど」

 

「誰のもの真似だそれ? まぁいいけど、いや年度末の決算をしてたんだけど、

 生徒会の予算がすこしあまっててね」

 

「ふぅ~ん。

 よかったね、足りないんじゃなくて」

 

なぁんだそんなこと。

あ~あ、私の至福の時間が。

 

「う~ん。

 でも、年度末であまってたら、次年度から減らされるんですよねぇ~

 もった、いえ問題ですね。

 ・・・ん、あっ! んふ♡ 」

 

えっ、なんか問題あるのって、なにその笑顔。

くそ~、かわいいじゃない。

いんにゃ、かわいくない、断じてかわいくない。

わたしは騙されないよ。

あんたのその笑顔、なんか企んでる時のやつよね。

 

「ちょっと、行ってきますね。♬」

 

えっ、どこ行ったの? って、まぁ行くとこ決まってるけど。

 

     ・

     ・

     ・

 

”こんこん”

 

「どうぞ」

 

「お疲れ様です!」

 

「おー、いろはちゃん。 やっはろー」

 

     ・

     ・

     ・

 

さてと、わたしの資料の整理はこんなもんかなぁ。

あと入力は明日にしてっと。 会長、戻らないのかな。

なんか、さっき、いっぱい資料もって走っていったけど。

・・・・・・ころばないでね、危ないから。

ま、いいか。さっさと帰ろ。

最後にチロロちゃんをもう一個。

あ~ん。

 

「三ヶ木先輩!、ちょっといいですか?」 

 

びくっ!

 

”ぽろ”

 

あ~、またしてもチロロちゃんが。 

このジャリ、一度ならず二度までも。

 

     ・

     ・

     ・

 

え~と、両手ふさがってるから、いいよね。

 

”ドン! ドン!”

 

「えっ、なに。 

 何かしら、ほら、比企谷君」

 

「お前、顎で命令すんなよ。

 はぁ、わ~た」

 

”ゴト、ゴト”

 

「何だ、誰かいるのかって、おわ! あ、あたま?

 お前、あたまでドア開けんなよ。

 初めて見たわ」

 

「だって、両手ふさがってるんだもん」

 

「ほれ」

 

「あ、ありがと」

 

えっ、なに、持ってくれるの。 

以外だけど、自然だ。

なんかちょっとドキッとした。 

それにしてもおでこ痛かった。

ちょっとノック強すぎたよ。

って、あれ、会長いないね。

 

「雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、ごめんなさい。

 またうちの会長がご無理をお掛けします」

 

「おい、俺もいるんだが」

 

「比企谷君、いつからいたの?」

 

「いただろ。 今、荷物もったよね?」

 

「三ヶ木さん、あなたこそいろいろと大変じゃない?

 この前も、海浜高校にいってきたんでしょ?」

 

「うん。 向こうの生徒会にね。

 なんか最後、険悪ムードだったって書記ちゃんから聞いて。

 ちょっとご機嫌伺いにね。

 ほら、学校近いでしょ。 

 またイベントとか一緒にすることがあるかもしれないから。 

 ってなんで雪ノ下さん、知ってるの?」

 

「あなた、駅前のケーキ屋さんから出てきたでしょ。

 海浜高校がどうのこうのって、地図見ながら。

 あのケーキ屋さん、わたしもよく行くのよ」

 

「あっ あん時」

 

えっ、ちょっと待って。

あの後、わたし、会長の悪口でめっちゃ盛り上がって・・・

 

「あの~、そのあとで、わたしなんか言ってました?

 た、例えば、会長のこととか」

 

「一色さんのこと? 何も言ってなかったわ。

 確か、砂利がどうだこうだとかしきりにいってたけど?

 砂利がどうかしたの?

 必要なら手配しましょうか?」

 

「あの~、そ、そう、家の庭にね、砂利を敷こうかなって

 思ったんだけど、わたしんちアパートだったから。

 えへへへ」

 

「そう?」

 

なによ、比企谷君、肩震えすぎ。

笑いすぎだから! 覚えてらっしゃい。

 

「へぇ~、美佳っちも見られてないところでね、いろいろ苦労してるんだ。

 なんかヒッキーみたい」

 

「由比ヶ浜さん! そこのM男と一緒にしないで!」

 

「えっ、ヒッキー、やっぱ、Mなんだ。

 ゆきのんとの会話聞いててそうじゃないかって思ってた。

 それにね、この前も・・・」

 

「いや、俺、ノーマルだから。 超ノーマルだろって。 

 お~い、君たち、盛り上がってないで、

 人の話はちゃんと聞きなさいって習わなかった? 

 ねぇ話、聞いて」

 

”ガラガラ”

 

「へっ、何でこんなにドアへこんでんだろ? 

 あっ三ヶ木先輩。 ご苦労様です。

 ちゃんと持ってきてくれました?」

 

なに、どこいってたのあんた。

いきなり、『フリペ作るから、必要なもの準備してもって来い』って

いっといて。

 

「え~と、原稿用紙とデジカメ2個に、ボイスレコーダー、ノートパソコン、

 あとは、はい! チロロチョコ」

 

「いや、三ヶ木、最後、おかしくない? なんで、チョコなんだ」

 

「わ~い。 あたしもチロロ大好き」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん!」

 

「美佳っち!」

 

「お~わが友よ」

 

だきっ。 う~ん、雪ノ下さんと違ってこの肉感。

 

”むにむに、すりすり”

 

う~、なんか癒される~

 

「もう話を進めてもよろしいかしら」

 

「てへへ、ゆきのんごめん」

 

「あっ、すみません、つい、うれしくて。

 あの~、わたしもここにいていいですか?

 なんか申し訳けないので」

 

「えぇ、いいわ。

 でも、あなた年度末の準備は大丈夫? 

 それと紅茶でいい?

 あっ、そうそう、いてもいいけど、”ぶつぶつ”って独り言は

 絶対やめてね!」

 

「はい。

 あのおりは、申し訳ございませんでした」

 

「そうなんですよ。

 三ヶ木先輩、今日も生徒会室でぇ・・・」

 

くっそう、 このジャリ、だまりなさい。

 

        

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

グラビア?

由比ヶ浜さんの水着写真? ぐふふ、なんかエロい。

絶対、即、完売するよね。 私も参考までにいただきます。

えっ雪ノ下さん、なんか溜息ついる? あっ、なるほどね。

ふぅ、いい雰囲気だなぁ。 

なんか、前の生徒会みたい。

  

「と、いったところでいいかしら?」

 

「あっ、雪ノ下さん、それじゃ、わたしのほうでも、早速、各部の部長 

 に連絡いれますね。

 生徒会からの要請ってことで。

 あと都合のよいインタビューの時間帯とかチェックしときます。

 それと、印刷所は一月二十九日で手配しておけばいいんですね?」

 

「えぇ、お願いするわ。一週間ぐらいは修正とかあるでしょうから。

 ほんと、生徒会の庶務さんは働き者ね。

 どこかの庶務さんにも見習ってほしいわ」

 

「ちょ、ちょっとまて、なんで俺を見たんだ。

 俺は庶務じゃないぞ。

 おれは副部長だろ副部長。

 庶務は由比ヶ浜だろ」

 

「えぇ~ あたし会計だよ。

 ねぇ、ゆきのん」

 

「そうよ。

 第一、三人しかいない部で副部長はいらないわ。

 庶務ヶ谷くん」

 

「・・・」

 

「はい、はい、先輩、じゃあいきますよ! 平塚先生のとこ」

 

「いや、一人で行けよ」

 

「あっじゃあ、あたしも行く」

 

「資料の説明をするなら行ったほうがいいのよね」

 

「よし、みんなで行こう」

 

「じゃぁ、三ヶ木さん、留守番、頼めるかしら?」

 

「・・・・・・はい、今のうちに印刷会社に連絡しておきます。

 みんなでいってらっしゃい」

 

み・ん・な  でだね。

        

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 

はぁ、はぁ、はぁ。

急がなくっちゃね、やっと書かせたよ。 

今日が早割のための締め切り日。

早くこの原稿、もっていかなくちゃ。

ノックいいよね、おでこまだ痛いし。

 

 ”ガラガラ”

 

「ご苦労様です」

 

「はぁ~、三ヶ木さん入室の時はノックを」

 

「で、でも、まだ、おでこ痛くて」

 

「ノックは、普通、手でしなさい」

 

「はい、そうでした。

 あの雪ノ下さん、遊戯部のコメント取ってきました。」

 

「ありがとう。

 よく取れたわね、比企谷くんでも苦労してたのに」

 

「わたしの魅力にかかれば、おやすい・・・・・」

 

”ジー”

 

「ご、ごめんなさい嘘です。

 四六時中、張り付いていました。

 必ず彼らの視界の中で」

 

「ふっ、あなたらしいわ」

 

あぁ~怖かった。

あの目はたしかあのマラソン大会の時の目よね。

”ちっ、あの女”って時の。

あっそんなことより、

 

「今日締め切りだけど、なんとかなりそうですか?」

 

「あと、比企谷君のコラムだけなのだけど。

 すこし難しいかもしれないわ。

 最悪のことも考えておいたほうがよさそうね」

 

えっ、比企谷君の分?

だって、彼、余裕こいて、会長や雪ノ下さん達の手伝いやってたよね。

おとといも会長と長い間話してたけど? 主に会長が。

なんか写真の映り方がどうだとかで延々と捕まってたような。

 

「雪ノ下さん、わたしちょっと見てきます!」

 

”ドン!”

いったー、おでこいった~。

 

「あっ、三ヶ木さん、いま由比ヶ浜さんが様子見に行ってるのだけどって、

 彼女、足早いのね。

 えっ、またドアへこんでるわ。」

 

     ・

 

「はぁ、やばいな、やばいよな。

 まだ七割ぐらいしか書けてね」

 

「ヒッキー、ヒッキーならできる。 

 頑張れ~ ヒッキーはできる子だよ!」

 

「お前、近いって、顔近い。

 よけい書けねえだろう」

 

ドアの向こう側から聞こえる比企谷君と由比ヶ浜さんの声。

ちょっと様子見に来たけど、中に入りずらいなぁ。

なんか、いい雰囲気だし。

どうしょう、このマッ缶。

でもね、やっぱり、締め切りむずかしそう。

彼は彼なりに頑張った・・・っよね。

彼にしては、おそらく。

だっていつも社畜にはならんっていってたもんね。

しかたない、やっぱいってくるか。

ここからはわたしの仕事。

あと、よろしくね、由比ヶ浜さん。

 

 

 

 

‐‐‐ そして現在 ‐‐‐ 

 

 

 

 

「あの~三ヶ木先輩、ごめんなさい。

 確認に時間かかって。

 いまデーターの送信終わりました。 

 ちょっと遅れちゃったけど、大丈夫ですか?」

 

「あ、会長? うん、なんとか、社長待っててくれてる。 

 奥さんの愚痴、ず~と聞かされてたけど。

 そんで、早割でいいって、追加料金はいらないって」

 

「よかった。

 じゃあ、あとお願いしますね。

 ではよろしくです!」

 

・・・・おい、あとよろしくってなんなん。

 

まったく、仕方ないわね。

 

「社長さん、データー大丈夫でした? なんか修正とかありました?」

 

「いや、そんなすぐ確認できねって。

 また、電話するから今日は帰んな。

 ん、ちっと待った。

 これ、このままでいいのか?」

 

「へぇ?」

 

 ”コラム担当者 Mがや M男” 

 

 雪ノ下さん、ナイス!

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

ふぅ、先週は嵐のような一週間だった。

だって週末も印刷所通いだったんだもん。

社長さん、昼飯ごちそうさまでした・・・ただ飯、最高!

あぁ、でもさすがに昨日は爆睡したわ。 

くっそ、サザエさん見逃した。

あとは刷り上がってくるのを待って、最終チェックするだけ。

今日こそは年度末の資料を入力してっと。

 

「ご苦労様です。

 へっ、稲村君、なにいきなり難しい顔してるの?」

 

「あぁ、三ヶ木。

 これって、経費精算の申請通るかなぁ」

 

「どれどれ。

 えっ 稲村君、これって」

 

なによ、この領収書。

ボウリングにラーメン屋、カフェ?

あっ、このカフェ、確か会長と比企谷君が写ってたとこじゃん。 

わかった! この領収書、あのジャリのよね。

ふふふ、決定的な弱みを手に入れたよ。

よし、今日はこれでチクチク問い詰めていままでの鬱憤を・・・

 

「あっ、三ヶ木先輩、週末はご苦労様でした。

 これ、昨日、近くのコンビニで見つけたのでぇ、三ヶ木先輩のために

 買ってきました。

 はい!どうぞ♡」

 

「こ、これは、期間限定のチロロ。

 会長、私のためにこれを」

 

「えっ限定?

 そ、そうなんですよぉ~

 昨日一日かけて、わたし千葉県中を探し回ったんですよ。 

 ほんと、三ヶ木先輩に喜んでもらおうと思って」

 

いや、あんた、いま近くのコンビニで買ったって。

まぁ、いいか。

 

「ありがとうございます。

 大事にとっておきます」

 

「え~、今食べてほしいな。

 三ヶ木先輩のチョコ食べてるとこって、かわいくて

 結構わたし好きなんですよ」

 

かわいい?

あんたにもわたしの魅力がわかってきたのね。

よ、よろしい。 

では、見せてあげるわ、よくみなさいこの大人の魅力。

 

「あ、ありがとう。

 じゃあ、いただくね」

 

「はい、どうぞ」

 

「おいしい。

 なにこの口の中であま~くとろけていく感じ。

 う~ん幸せ」

 

「あっ、稲村先輩。

 この領収書も清算よろしくで~す、うふ♡」

 

「え、チロロチョコ代 30円?」

 

「へぇっ? チョコの領収書? か、会長、それって。

 稲村君、ちょっと見せて。

 え~」

 

「三ヶ木先輩! おいしかったですか?」

 

「・・・・・・ ぐっ、とても、おいしゅうございました」




最後まで、ありがとうございます。

すこしは、オリヒロ、三ヶ木 美佳(みかげ みか)の個性確立できてたでしょうか?

個性がぶれない様、もう一回、整理して次回作成いたします。

それと、もう少し読みやすくなるよう気をつけますので、またよろしくお願いします。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘

いつも本当にありがとうございます。
(この言葉しか浮かばず、ごめんなさい)

今回は、とうとう、オリヒロと上司の意見が合わず・・・

オリヒロは上司に勝てるかというお話です。

一応、バレンタイン編の序章です。

よろしくお願いします。

※字数が整理できず、またまた5000字越えに。

 次回こそは。












「う~ん、おかしいな。

 何かが違う、何が違うんだろう。

 ちゃんと書いてある通りにやってるのになぁ」

 

そう、何かが違う。

何回つくっても、あの一杯には遠く及ばないのだ。

もう一回、やってみようかな。

でもさすがに五杯目はきついよね。

 

「お疲れ!」

 

「ご苦労様です」

 

ちっ、今日も二人で来やがった。

同伴出勤か、このバ、バカップルめ。

 

「ご苦労様。

 いつも一緒ね。

 おかしいな~、ちょっとこの部屋の暖房ききすぎかな」

 

「いや、生徒会室の前で偶然会ったんだよ、偶然に。

 な、なあ」

 

「う、うん、偶然です」

 

あ、そう、もういいわ。

ちくしょ~ わたしも恋したい。

恋人ちょ~募集中。

今なら2割、3割引き当たり前、もってけ、泥棒!

って、わたしいきなり原価割れするんじゃない? もう!

ん! そうだ。

むふふふ。

 

     ・

     ・

     ・

 

できた、今度こそ自信作。

 

「本牧君、いつもご苦労様、うふ。

 はい、これどうぞ」

 

「えっ、な、なに、三ヶ木さん。

 あ、紅茶淹れてくれたの、ありがとう。

 あっ、でも俺だけ?」

 

む、なによ、書記ちゃんのはあんたが味見してからよ。

 

「あ、今淹れてるとこよ。

 慣れないから、ちょっとづつしかできなくて」

 

「へぇ~そうなんだ。

 ありがとう、いただきま~す」

 

「どうぞ。」

 

”ゴクゴク”

 

「うっ・・・・・・・・・・」

 

「ど、どう?」

 

「あの~ お、おいしい・・・・・かな? あははは」

 

えっ、どっちよ?

どれ、わたしも・・・・・・にっが。

ふ、ふん。

甘々のあなたにはちょうどいい薬よ。

ほら、良薬何とかっていうじゃない。

 

「書記ちゃん」

 

「は、はい」

 

「ウーロン茶でもいい?」

 

「はい! 是非、ウーロン茶でお願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

ん、誰?

なに、この忙しいのに。

 

「邪魔するぞ~」

 

「邪魔するなら帰ってんか~」

 

「ほ、ほう。

 いい度胸だな、三ヶ木」

 

「へぇ?」

 

〝ベシ!”

 

「ぐへぇ、いった~」

 

げっ、平塚先生だったのね。 

 

「おや、一色はいないのか?」

 

「そういや、今日は会長まだみてないな。

 三ヶ木さん、今日、会長来てた?」

 

「・・・うん。 

 生徒会室の前で偶然会いましたけど、

 誰かさん達みたいに、ぐ・う・ぜ・んに。

 でも、

 

 『美味しい紅茶が飲みたいんで、ちょっと行ってきます、えへ♡』

 

 って行っちゃいましたけど、今日も。

 ・・・・・・いつからそんなに紅茶好きに、まったく。(ボソボソ)」

 

「あっ、それで」

 

「だから紅茶を」

 

えっ、なに? みんなのその生暖かい目、わたしなんか言った?

 

「なんだ、一色はまた奉仕部か? 

 困ったもんだな。

 ところでどうだ、年度末の資料の準備は進んでるかね?」

 

「はい、何とか、ぎりぎり間に合いそうです。

 やっぱ、去年経験している人がいるので助かります」

 

「うむ、そうか。 

 じゃあな、本牧、あまり帰りが遅くならないようにしてくれ。

 邪魔したな、み・か・げ」

 

”ぼき、ぼき、ぼき”

 

な、先生、わたしをみて指鳴らすのやめて~

もう言いませんから、いつでもウェルカム。 

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、いいじゃないですか―、それー

 依頼に来た人まとめてイベント的なことやって

 教え合うっていうかー

 で、雪ノ下先輩に教えてもらえばいいんですもんね?」

 

「え、ええ、それは構わないけれど」

 

「それでは、え~と副会長はっと」

 

”ブ~、ブ~”

ん、本牧くんのスマホ? 

書記ちゃんなに反応してるの。

たかが電話でそんなにそわそわしないの。

 

「ああ、会長? うん、みんないるよ」

 

ん、会長から? なんだろう。

年度末に向けての資料作成でいっそがしいんだから、

早く帰ってきやがれ!

・・・はっ! 確か奉仕部にいってたんだよね。

なんか、いや~な予感が。

 

「副会長、企画書の提出を命じます。

 お料理教室イベントー!みたいなの」

 

えっ なに? いま、お料理教室とかイベントっていった?

ムリムリムリ。 

本牧君、ちょっと待ってよ、まだ返事しちゃだめよ。 

いらない紙、いらない紙っと。

 

”カキカキ”

 

本牧君、これ見て! これ

 

”年度末の資料作成ギリよギリ。

 だから、無理、無理、無理。

 絶対に受けちゃダメだかんね!

 受けたらもう一杯紅茶飲ますわよ”

 

「ん? そ、そ、そうだよね。

 会長、いまは無理です。

 そんな余裕ありません。

 え? 箱おさえて、告知打つだけ?

 ・・・ん~まぁ それぐらいな」

 

”ゴン!”

 

「いってぇ!」

 

あっぶな~ なに受けそうになるの、こいつ!

思わず、むこう脛けっちゃったじゃない。

書記ちゃん、ひぇ~青筋たってる。 

に、睨まないで~

わたしはみんなのために。

あ、そうだ。

 

「い、稲村君、会長なんかイベントやるって言ってるけど

 予算ないよね。

 この前のフリペで全部使っちゃたよね」

 

「あぁ、卒業式関係の予算以外は無いよ。

 またなんか経費精算するのかな・・・・はぁ」

 

す、すまんでござる稲村君。

もう自腹以外のチョコ食べないから。

くそ、あのジャリっ娘め。

あ、そんなことより、

 

”カキカキ”

 

本牧君もう一回これ見てこれ! 

 

”バレンタインまで日程も無いし、予算も無し!

 仕事はいっぱいあるけど。

 ほんと君、紅茶もう一杯飲みたい?”

 

「う、うん そうだよね。

 会長やっぱりのこイベントは無しで・・・」

 

「とにかく! 詳しくはそっちいって説明するから。

 企画書作成よろしくで~す」

 

「ちょっ、ちょっとまって、会長、会長~」

 

はぁ、あんた、きっぱり断れなかったのね。

まったく、あの会長を止められるのはわたしだけ?

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぱたぱた” 

 

ん、この足音、”やつ”だ。

不幸を背負って”やつ”が来た。

 

「お疲れさまで~す。

 それじゃ料理教室の件、取り掛かりましょ。

 まず、早急に決めないといけないことは・・・」

 

おいおい、お~い、本牧君、稲村君、なにだまってるの。

どんだけ会長に弱いの。

初めは年下の女の子に遠慮してるのかなって思ってたけど 。

まったく、全然変わってないじゃん、クリパから。

 

「会長、すみません。

 その前に、このイベントを突然ご提案された理由は何ですか?

 年度末の資料の作成で、みんな余裕がないのですが?

 まさかとは思いますが、マラソン大会の時のように、

 なんかわけのわからない”個人的な理由”というわけでは

 ないですよね~」

 

ふん。どう、ぐうの音も出まい。

絶対なんか奉仕部に依頼があったんだよね。

生徒会が一部の生徒のためだけのイベントなんて、

わたし、絶対認めないんだからね! 

ほれ、何とか言ってみ。

 

「え~と、あの~ え~とですね。 

 バレンタインでしょ、だからその~」

 

で、なに、早よ答えてみ。 

あと10秒ね、5、4、3、2、 ふふ、わたしの勝ち。

どれ、引導をわた

 

「あ! そうそう公約。 

 選挙での私の公約って、憶えてます?

 

 ”生徒会はもっと生徒の身近にあるべきだ”

 

 というやつ。

 四月になると新入生も入ってくることだし、

 ・・・・・・あの人達も受験だし。

 誰もが気軽に生徒会に相談に来れるような、

 もっと開かれた生徒会にしたいと思うんですよ、わたし的に。

 今回のイベントは、そのスタートとして取り組みたいんですよね。

 ほら、チョコつくりなら気軽に参加できるじゃないですか~

 まぁ、選挙で当選したわたしの公約ですから、これは全校生徒への

 お・や・く・そ・くですよね。 えへ♡」

 

「開かれた生徒会か 俺もその意見に賛成!」

 

げ、稲村の奴、もう裏切りやがった。 はや~。

そりゃあんた、会長に惚れてるからね。

いつもジロ見しやがって。

そんなのとっさに出たでっち上げじゃん。

絶対そんなん考えてなかったからね。

 

「そうだな。 会長がそんなに真剣に考えているのなら

 いいんじゃないか、やっても」

 

だから、違うって本牧君。

これはいま思いついただけだって。

もう、”えへ♡”の力、恐るべし。

こんどわたしもやってみようかな。

”えへ♡” 

 

「三ヶ木先輩、なんか顔がキモイんですけど。

 まぁ、ほっといて。

 それじゃ、決定ということで」

 

「ちょっとまったぁ。

 稲村君、予算ないでしょ。

 それに、もう三月の卒業式まで時間がないですよ。

 ただでさえ、年度末の資料作りもギリなのに。

 会長も送辞考えないといけないんでしょ?」

 

「さっき平塚先生ともお話してたんですけど、

 『まだ一か月あるから大丈夫だ』

 ってお墨付きもらっちゃいました」

 

え~、平塚先生なんたることを!

 

「じゃあ、三ヶ木先輩だけ反対なんですね。

 三ヶ木先輩 ”だけ”。

 それじゃ、仕方ないですね。

 公平に生徒会式多数決で決めましょ、公平に!」

 

”生徒会式多数決” そう、生徒会に関することで

役員の一人でも反対意見があった時、

その一人の意見を尊重し、みんなで議論し多数決によって決める。

この会長が決めたやり方だ。

へぇ~、民主的。

一人の意見を大事にするなんてやるじゃん、いろはす。

・・・なんて、あなた思った? 思ったでしょう?

あまい!!

もう一度言う。

あ・ま・いわよ、あんた。

 

『あのぉ、わたし的に最後は責任取らされ・・・取らなければ

 ならないじゃないですか~。

 だから、わたしは三票持たせてもらいますね。 えへ♡』

 

でたよ、”えへ♡”。

会長、あんた三票もってるんでしょ。

わたし達四人だから、全員が団結しないと会長に勝てないじゃん。

なんか公平そうで公平じゃないというか、 ん~

それに、いままでも会長の意見が覆ったことない。

 

・・・・ 稲村君、会長にホの字だし。

まぁ、とにかく何とか説得しなくちゃ。

 

「あっ、そうだ。 言い忘れてました。

 このイベントは奉仕部さんと合同でやりたいと思います。

 なんか~、雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩が、

 『誰か、私のチョコを味見してくれないかなぁ』

 っていってたような気が。

 あっ、わたしも美味しいチョコの作り方を教えてもらえそうだから、

 味見してほしいなぁ。

 誰かいないかなぁ? 

 誰か・・・・・・ぽっ♡」

 

きったな~。 雪ノ下さんに由比ヶ浜さんの手作りチョコ。

それに、なに最後のやつ。 

上目使いで、ほほを赤らめて”ぽっ”って。

おい、稲村はともかく、本牧まで赤くなるな。

お前、目の前に彼女いるだろ!

ふん、まあいいわ。

会長、あんた自滅したね。 

そんなこといったら書記ちゃん絶対に反対するよね。

一番難しいと思った書記ちゃん、クリアだぜ。

よし、残るはこの色ボケ二人組。

 

「本牧君、ちょっといい。

 ちょっと耳かして」

 

「ん?」

 

「あんた大丈夫? 書記ちゃんとバレンタイン過ごしたくないの? 

 たしか、書記ちゃん言ってよ。  

 バレンタインは、二人であんなことやこんなことしたいって。

 ぐふふふ、このスケベ」

 

「な、なにいってんだ。 ははははは。」

 

引っかかった!

馬鹿だね、男って。

書記ちゃんがそんなこというわけないじゃん。

書記ちゃんごめんね。

みんなのためなの、許して。

 

よし、次はこいつ。

 

「ね、ねぇ、稲村君。 

 この前、会計の資料確認してくれった言ってたじゃない?

 あの後、確認したんだけどなんか計算合わないのよね」

 

「えっ、マジ。 いくら合わなかった?」

 

「1円」

 

「いや、1円ぐらい何とかなるんじゃない」

 

「いるのよね、毎年必ず。

 なんか総会って暇らしく、ねっちょりと決算みるの。

 そんでね、

 

 『あら、会計さん、この計算が合ってないのだけど。

  1円足りないわ。

  こんな資料を公に平気で出すなんて信じられない。

  あなたの目、それはただの穴?

  納得いくまで説明してもらえるかしら?』

 

 なんて全校生徒の前で問い詰められるの。

 ほんと凍りつくから」

 

「わ、わっかった。

 す、すぐ見直すよ。

 イベントやってる暇ないよな」

 

な、なによ。

すべてはみんなのためよ、みんなの!

これは必要悪。

 

「三ヶ木先輩。 なにやってんですか? なんかごちゃごちゃと」

 

「い、いぇ会長殿、何でもないであります。

 さぁ、決取りましょ、ケツ。

 なんなら胸でもいいです」

 

「三ヶ木先輩、とるほど胸ないですけど」

 

こ、こ、このジャリ、人の気にしてるとこを。

ちょこっとはあるんだからね、ちょこっとは。

背中とは区別がつくんだから。

まぁいいわ。

いまわたし、勝利の余韻にひたってるから。

えっ、まだケツ、いえ、決を取ってないって。

この二人の顔見りゃやるまえから完勝でしょ、余裕よ。

 

「それじゃケツ・・・もぅ、三ヶ木先輩うつっちゃったじゃないですか!

 もとい、決を取ります。

 このイベントをやることに賛成の人、挙手してください」

 

本牧! 稲村! よし、よし。

お前ら反対だな。

偉かったほめて遣わす・・・・・って、何、会長?

その笑顔、否決されてうれしかった?

え、なにその指。

なにを見ろと・・・

 

「しょ、書記ちゃん。

 あんたなんで!」

 

「あっ、三ヶ木先輩、ごめんなさい。

 わたしもチョコつくるのうまくなりたくて。

 その、喜んでもらいたいから」

 

「うふふふ。

 恋愛中の乙女心がわからないなんて、三ヶ木先輩まだまだですね」

 

わたしに乙女心? そんなの無理! 

だって、恋愛経験ないし・・・・って、 

は、会長、あんたわかってたのね。

だから、わたしの工作を見ないふりして。

 

うぇ~ん。

だ、誰が付き合って。

いまなら、五割、六割引き・・・・

 

「ふ、ふ、ふ~ん♬。

 あ~面白か、いぇ、イベント決まってよかったで~す、てへ♡。

 なんか喉、乾いちゃったなぁ。

 あっ、紅茶。

 どうしたの? 

 折角だからいただきま~す。

 ・・・・・・げっ、にっが!」




す、すみません。

八幡だせませんでした。

次回、バレンタイン本編で活躍予定です。

それまでご勘弁を。

※そろそろオリヒロにも恋愛させたいですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

亀裂

毎度、ありがとうございます。

またしてもみてくれて感謝です。

前回で、いろはの完勝で終結したはず

のバレンタインイベント。

またしても・・・・・

八幡とオリヒロ、少しだけ近づけさせたく、

ご了承のほど、よろしくお願いいたします。

 


”カチャ、カチャ、カチャ”

 

ふう、こんなもんかな。

1個当たり、結構費用かかるんだよね。

え~と、あとは雑誌の切り抜きをまとめてっと。

明日は、放課後までに家庭科の先生のとこ行かなくっちゃね。

あの先生、少し苦手なんだよ。

まぁ、苦手じゃない先生いないけど。

 

「ふぁぁ~あ、ねむ~。

 えっ、もうこんな時間」

 

時刻はとっくに今日になってるじゃん。

そりゃ眠いわよね。

突然ふってわいた”お料理教室”のイベント。

当然、学校では年度末の資料の作成に追われて

なにもできないから、

家にパソコンを持って帰ってきたの。

もう少しだけだけど、眠い。

よし、ここは

 

「じゃじゃじゃーん! 美佳ちゃん特製スーパーウルトラ

 デラックススペシャル眠気すっきり・・・、もういいや。

 はい、美佳ちゃん特製紅茶」

 

・・・くぅ~、にっが~。

 

これって、受験生に売れるんじゃない。

どこか取り扱ってくれるとこ探そうかな。

 

”バサバサ”

 

もう、ばかやってたら雑誌散らばったじゃない。

え~と、”あなたにもできるチョコ入門編”

”必勝!Valentine大作戦”・・・、こんなによく買ったもんね。

でも、読むだけで幸せになっちゃって、結局作ってないのよね。

 

”パラ”

 

「えっ、この写真。

 そっか、ここに挟まってたんだ。

 へへへ、楽しかったなぁ」

 

それは今年の夏休みに、前生徒会のみんなで最後に行った、

わたしの”夏の日の大切な思い出”。

この1枚だけなかったんだ。

あのね、すっごいんだよ、みんな。 

だって、ほとんど推薦決定なんだって。

みんなできるんだよね。

 

ふふ、めぐねぇ、やっぱ一番かわいい。

きゃ~、水着大胆! ぐへへへ。

 

「なつかしいなぁ。

 前の生徒会って、二年生はわたし一人だけだったから、

 すっごくかわいがられたな~」

 

『ほれ、これコピー10枚。 急いで!』

 

『資料、先生のとこに持って行った?

 これもついでに持っていってね』

 

『みんな、頑張っていこ。

 おー』

 

・・・・・・かわいがってもらってたよね。

 

ふふ。

明日、ちょっと覗きにいってこ。

誰か学校に来てないかなぁ。 

 

”ガチャ、ドタン”

 

「あ、帰ってきた。

 お帰りって、うわ~酒くさ」

 

でもね、わたしはね、

 

『あんた、またお酒飲んできて! 毎日毎日・・・・』

 

な~んて言わないよ。

いつもいつも働いてくれてありがと。

働いてれば、嫌なことの一つや二つ、ううん百ぐらい?

あるもんね。

とうちゃん、ご苦労さま。 

そして、わたしの我儘を聞いてくれてありがとう。

あとちょっとだけ、よろしくお願いします。 "ペコ”

 

「と~ちゃん、そんなとこで寝てると風邪ひくよ。

 ほら寝室いくよ。

 うんしょっと、う~おもた~い」

 

「うぃ。

 おう、わが愛娘。

 出迎えご苦労」

 

”ちゅ!”

 

「て、てめぇ、今なにしやがった。

 このくそおやじ!」

 

わ、わたしのほっぺの純潔が!

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

う~、さぶ。

今日も教室の窓はガタガタと音を立てて震えている。

そう、教室の外は真冬。

なんでも雪が降るかもしれないらしい。

 

俺は、この時期が一番嫌いだ。

なぜだって。

・・・昼休み。

そう、冬は教室で昼食を食べなければならない。

それにこんなに寒かったら、

ベストプレイスでの戸塚の天使の舞が見られない。

だから、

ふ、冬なんて、大嫌いだ!

明日にでも、体育館にいってみるか。

戸塚がいるかもしれん。 

とか何とか言いながら、今日も購買でパンを帰ってきた俺は、

俺の席がリヤ中どもに荷物置き場として侵略されていないことに、

ほっと胸を撫でおろすのだ。

さぁ、さっさとメシ食ってしまおう。

その後は俺の百八の特技、ステルスヒッキーでこの風景と同化するのだ。

だれからも認識されず、来るべく放課後に向けて体力を回復する。

・・・って、放課後といっても読書以外何の予定もないのだが。

よし、今日も完璧に同化した。

ほら、誰からも認知されてない。

もしかして俺ってすっげー暗殺者とか向いてない?

職業、暗殺者。

なんかよさげ。

 

「先輩」

 

「・・・・・・・」

 

「先輩」

 

「・・・・・・・・」

 

「先輩、責任、取ってくださいね。

 うふ♡」

 

「どわあ」

 

いってぇ、椅子からこけた。

なぜ、なぜだ。 ステルスヒッキーは完璧だったはずだ。

それを破るとは、この娘は何者だ。

そ、それにいまなんか言った?

 

「お、おま、な、なんてことを」

 

「あ~、やっぱり寝たふりでしたか。

 でもぉ、ホントのことじゃないですかぁ。

 責任取ってくださいね、うふ♡」

 

「おま、その”うふ”はやめろ、”うふ”は。

 みろ、周りから変な目で見られてるじゃね~か。

 ったく、ほらこっちこい」

 

と、俺は一色の手を取って廊下へ連れ出す。

 

「うへぇ~、ひきたに君、チョー大胆」

 

「あれ、あの娘、生徒会会長じゃねぇ?」

 

「責任っていってた?」

 

ほらみろ、周りが騒ぎ始めたじゃないか。

俺はいいが、お前のスティタスが傷つくだろう。

 

「お前、いきなり人の教室はいってきてなんだあれは」

 

「だってぇ~、寝たふりしている先輩が悪いんです。

 今度、わたしが来た時に寝たふりしてたら、

 恋人宣言しますからね」

 

「お、おま、またそんなと言って。

 葉山がいたらどうする」

 

「はぁ、・・・・・・そうですか。

 ふぅ、先輩ですもんね。

 あぁ、ちょ~めんどくさい」

 

え、何、何でそんなにじと~て見られてるの。

わかりました、もう寝たふりしません。

死んだふりしてます。

そんなに見つめられると、マジ心臓に悪いから。

 

「あっ、そんなことより先輩。

 今日の放課後、時間あります?

 昨日のイベントの件で、早速、準備始めたいんですけど、

 その前に一度、生徒会と奉仕部で打ち合わせをしておきたくて。

 奉仕部の皆さん、生徒会室に来てもらえますか?」

 

「お、おう。

 まぁ、もともと奉仕部に来た依頼だ。

 必ず行く」

 

「ありがとうございます。 

 それじゃ、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩にもよろしくです」

 

「お、おう、わかった」

 

「じゃぁ、名残惜しいでしょうけどもう行きますね。

 放課後、よろしくです」

 

「いや、別に名残惜しくはないがわかった」

 

って、なに行かないの? 

じっと見つめられてると、

八幡、勘違いしそうなんだけど。

 

「はやく、教室入ってください先輩!」

 

はいはい。

催促されて俺は教室のドアを開ける。

はぁ~、あいつがいらんこと言ったせいで、

また好奇の目にさらされるんだろうな。

まぁ、俺はぼっちマスター八幡だからいいが、

あいつの陰口を聞くのは、正直応える。

 

「それじゃ先輩。

 そういうことで、イベントの件、責任よろしくです」

 

えっ

 

「な~んだ、イベントの打ち合わせか」

 

「そうだよな、それじゃなきゃ生徒会会長がな」

 

「いやぁ、責任取ってって、俺てっきり」

 

ふっ、やるな一色。 

・・・・でも、恋人宣言した時はどうすんだ?

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「やっはろ~。

 いろはちゃん、来たよ」

 

「だから由比ヶ浜さん、ノックしてから開けなさい。

 ごめんなさい、失礼します」

 

「ちーす」

 

「あっ、お疲れ様です。

 よろしくお願いします。

 そちらに座ってください」

 

俺たちは、一色に指示された席に着く。

反対側には、一色いろは率いる生徒会の面々。

って、あれ、三ヶ木どこ行った?

やっぱりあいつ、生徒会じゃないんじゃね。

なんか幽霊役員とか? 

だってクリパの時、いなかったよね。

 

”ガラガラ”

 

「ごめんなさい。

 遅れました?

 すぐ、準備しますのでもう少し待ってください」

 

「あっ、三ヶ木先輩、わたし資料配りますね」

 

「うん、書記ちゃんお願い」

 

あ~コピーにいってたのか。

でもさすが書記ちゃんだな、気が利く。 

い、一色さん。 あなたは手伝わないの?

えっ、なに、いま顎で”くぃっ”て。

 

”ガタガタ”

 

「あ、あぁ、藤沢さん俺も手伝うよ」

 

「書記ちゃん、おれも手伝わせて。 

 お願い、あとで怖いから」

 

うむ、一色会長、成長したな~。

なんか違う方向に。

 

「はい、雪ノ下さん。

 紙コップしかなくて、熱いかもしれないので、

 気を付けてください」

 

「ありがとう、三ヶ木さん」

 

”ガタン” 

 

えっ、一色、なに立ち上がって、

いや生徒会全員、なに青ざめてるの!

 

「はい、由比ヶ浜さん」

 

「ありがとう、美佳っち」

 

「雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。

 紅茶の淹れかたね、教えてもらった通り練習したつもり

 なんだけど、全然美味しくできなくて。

 わたし、才能ないのかな。

 その~、インスタントでごめんね」

 

「全然平気だよ。

 美佳っち、ありがと」

 

「そう、それじゃ放課後、時間があるときに部室に来なさい。

 もう一回、教えてあげるわ」

 

「うん、ありがとう雪ノ下さん。

 比企谷君、・・・これ飲めば」

 

「お、おう。 なんか俺だけ扱いが?」

 

なに、俺なんかしたっけ?

あ、そうか、コラム書き上げるの遅かったからな。

こいつ、印刷所で待機してたって由比ヶ浜が言ってたな。

あとで、謝っておくか。

 

・・・・・ ん、まてよ。

この色、この香り。

 

”ゴクゴク”

 

あちぃ。

けど、うまっ!

まさにこれはマ、マッ缶ではないか。

み、三ヶ木、これって。

 

”ニコ”

 

えっ、なにその笑顔、それとそれVサイン?

よし俺も勝利のVサインと、特別に親愛をこめて

 

”ニコ”

 

「う~」

 

おい、吐くな、もどすな、・・・・くっそ。

 

「それでは打ち合わせを始めますね。

 三ヶ木先輩、説明をお願いします」

 

「はい、それではお手元の資料に沿って・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで、日時は2月10日(金)ということで、

 場所は、調理室ということでよろしいでしょうか?」

 

「三ヶ木さん、調理室のほうは大丈夫だったのかしら?」

 

「はい、お昼休みに家庭科の広川先生の了解いただきました。

 ・・・・・・条件付きでしたけど」

 

「そう、さすがね。

 それじゃあ、あとはどんなチョコをつくるかだけど」

 

「一応、雑誌とか切り抜きとかは準備したのですが。

 それによって予算とかも変わりますし」

 

「そうね。

 あと、参加者のレベルも考慮する必要があるわね」

 

「そうですね。 由比ヶ浜先輩でも大丈夫なような~ 

 そこは、生徒会のほうでもう一度、チョコの種類を絞らせて

 もらいますね」

 

「いろはちゃん、ひど。

 ゆきのんも、うなずかない!」 

 

「あの~、ポスターとか告知の関係がありますので、

 なるべく早く決めたいのですが」

 

「美佳っち、告知って?」

 

「うん、生徒会のイベントですから、全生徒にお知らせする義務が

 ありますので」

 

「えっ、でも告知すると参加希望者がいっぱいになるかも

 しれないじゃないですか~」

 

「ゆきのん、そうなると隼人君は来てくれるかな」

 

「葉山君の性格からすると来ない可能性が高いわね。

 誰かのを食べて、誰かのは食べないなんて彼できないから」

 

「それじゃ、イベントやる意味ないじゃないですか~」

 

「隼人君が出されたチョコ、全部食べるしかないよね。

 でも、やっぱちょっと無理だよね」

 

「三ヶ木先輩、告知はやめません? 

 それかわかりにくいところに、そ~と貼っておくとか」

 

「会長、生徒会の活動ですから絶対無理です。

 会長も”開かれた生徒会”っていったじゃないですか」

 

「むぅ、三ヶ木先輩、強情!

 いいじゃやないですか、そんなにこだわらなくたって!」

 

「これは奉仕部でなく、生徒会の主催のイベントです。

 生徒会の活動である以上、一部の生徒のためだけに

 活動はできません!」

 

「むっか~! 

 いっ、一部であっても生徒のために活動することは、

 生徒会として大事なことじゃないですか!」 

 

「それが、全生徒のためになるのなら。

 でも、今回はそう思えません!

 会長は一部の生徒に関わり過ぎです!」

 

「な、なんですと!」

 

「おいおい、会長も三ヶ木さんもムキになんなって。

 なんかいい方法ないかな、なぁ比企谷」

 

おい本牧、なんでそこで俺に振る。 

はぁ、仕方ね~な。マッ缶もらってっし。

あんま、こじれると生徒会がな。

 

「それじゃ、なんだ、先着順ってどうだ。

 三ヶ木の言う通り仮にも生徒会イベントだ。

 やはり告知はするべきだろ。

 それでも、葉山を来させるには先着順にして

 人数絞るしかねんじゃないの?」

 

「そうね。

 少人数、それなら大丈夫かしら。

 それに人数が決まってれば予算も立てやすいわね」

 

「まあな。

 それにどっちにしろ、葉山の周りには三浦やお前がいるんだろ。

 こえ~からだれも近寄らねって」

 

あーしさん、マジこえ~から。

それとお前もな、一色。

 

「ひどっ!

 むぅ、仕方ないですね。

 それでいきましょ、なるべく少人数に絞って」

 

「三ヶ木はそれでいいか?」

 

「はい、告知さえするのであれば。

 早速、ポスターの準備しますね」

 

「おう、ただしなんだ。

 何でもかんでも生徒会にばっかり押し付けては申し訳ない。

 もともと、この件は奉仕部への依頼だ。

 受け付けは奉仕部でやる。

 いいな、三ヶ木」

 

そうだ。 受け付けは奉仕部でやる。

三浦、海老名、川崎、それに由比ヶ浜。

由比ヶ浜は奉仕部だが、少しでも他の参加人数を減らすため

名簿に入れる。

それと戸塚。ぜひ戸塚。絶対戸塚。

なんなら、参加者全員が戸塚でいい。

こいつらは既に先着受付済みにして残りの人数を絞る。

なるべく葉山とは無関係そうなやつ優先だ。

まぁ、チケットの販売なんかでもよくあることだ。

ようやく電話がつながったと思ったらもう完売だったとか。

それはまだしも、受け付け開始から1分もたってないのに

すでに完売。

おい、1分で完売ってなんだよ。

受け付け開始の何時間も前から、スマホ片手に待機してたのに。

ま、まぁ、すんだことはいい。

俺は意外と心が広いのだ、多分。

今回はこの手で行く。

 

「ひ、比企谷君、もしかしてそれって」

 

気付いたか、三ヶ木。

だが、

 

「三ヶ木、受け付けは奉仕部でやる。

 ・・・すまん」

 

「・・・・・・」

 

「あ、それじゃそろそろいい時間だから、今日はこれで締めようか。

 沙和・・・い、いや書記、議事録よろしくね」

 

「三ヶ木さん、この本と切り抜き資料を少しお借りしていいかしら?」

 

「へぇ、これ美佳っちのだったの。

 ゆきのん、何でわかったの?」

 

「だって、本の裏にほら、”♡みかげ みか♡”って書いてあるでしょ」

 

「お前、小学生か。

 しかも全部ひらがなって。

 それにこのハートはなんだ」

 

「比企谷君、ほ、ほっといて。

 ・・・かわいいじゃん」

 

     ・

 

「書記ちゃんホワイトボード消していいか?」

 

「は~い、OKです」

 

”がやがや”

 

「あの、比企谷君、さっきはありがと。

 ごめん、ついムキになっちゃって」

 

「おう、いやなんだ、誰にでも譲れないとこは

 あるってことだな。

 こっちこそすまん、お前気付いたんだろ。

 ゆるせ」

 

「・・・・・・・・・・ゆるさない」

 

「え!」

 

「って冗談よ冗談。

 それよりマッ缶なんともなかった? 四日前のだから。

 でも、あんな甘いのよく飲めるね」

 

「俺の人生は苦いことばかりだからな。

 これくらいの甘さがちょうどいい。

 ん、四日前?」

 

「だって、生徒会室にコラムの様子見に行ったら由比ヶ浜さんと

 いい感じで入り辛かったから。

 ほら、邪魔すると悪いしね。

 だからそのまま帰ったの。

 っで、どこまでいったの? キスした?」

 

「いや、なんもないからね。

 な~んも」

 

「ふ~ん、まぁ、そうしとく。

 まぁ、わたし口軽いから泥船に乗ったつもりで安心して」

 

「いや、お前、それ安心できね~だろ。」

 

”三ヶ木 美佳”

 

ふっ、なんだろな。

こいつもやっぱり不器用なんだろう。

 

不器用でなんでも自分がって、一人で背負い込んじまう。

今日の資料だって、お前が全部準備したんだろ。

資料の説明を聞いてたらわかるって。

それにお前、目の下にクマ2匹も飼ってるし。

おれはこいつによく似たやつを知っている。

自分でなんでも背負い込んで、勝手に満足してるやつ。

周りにいてくれる人のことも考えず。

もっと、楽に生きる方法もあるのに。

でも、このままでは、いつかこいつは・・・・・

だから俺は、

 

「あ、あのな、三ヶ木。

 お前な、 」

 

「なに、いちゃついてんですか?

 早く鍵閉めたいんですけど!」

 

え、一色のほっぺ、いつもの二倍膨れてない?

いまにも割れそうなんだけど。

そんなに早く帰りたいの?

 

「さぁ帰りますよ先輩!

 あっ、三ヶ木さん。

 生徒会室の鍵、返却しておいてください!」

 

「お、おい。 

 一色、お前まださっきの 」

 

「いいよ、比企谷君。

 ちょうどね、ちょっと寄りたいとこあったから。

 それじゃ、会長、比企谷君、ご苦労様でした」

 

「お、おう。

 じゃ、また明日な。

 一色それじゃ 」

 

「ぷぃ!」

 

おい、一色そんなに引っ張るなって、袖が伸びちまう。

それに”ぷぃ”てお前、口で言うな。

ちょっとかわいいじゃねぇか。

 

「ぷぃ、ぷぃ!」

 

「先輩、何やってんですか。

 それ、ちょ~キモイんですけど」

 

「・・・・・・」




自分の文才のなさに・・・・

今回こそはと思ったのですが、

気が付けば6000字越え。

自信ないですが、次回こそ

もう少し読み切りやすい事態にしたいと思います。

尚、バレンタイン編、全3話と思ってたのですが、

4話になってしまいそう。

オリヒロは、本当は会長が・・・・

次回、何とか関係修復したく、無い知恵絞ります。

※ごめんなさい。
 
 料理教室の日、修正させてください。

 2月14日は、こまっちゃんの受験&三人デート
 
 ということは少なくとも前の日は平日。

 ということで、2月11日(金)でなく、2月10日(金)

 でお願いします。  すんません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼とわたし・・・・と、うざいやつ

今回もありがとうございます。

深く感謝です。

前回、オリヒロと上司が本格的に対立することになってしまいました。

何とか関係の修復と思いますが。

すみません。 ひとりキャラ投入しました。

うざいキャラと思いますが、少しご辛抱ください。

では、よろしくお願いいたします。









「三ヶ木さん、このクリアファイルでいいのか?」

 

「えぇ、人数分コピーしてあるからお願いします」

 

「でも、やっぱり三ヶ木さんのほうから会長に 」

 

「お願いします副会長」

 

「う、うん、わかった。

 あ、あの~会長、これ今日の資料です。

 ここに置いておきますね」

 

「副会長、ありがとうございます。

 じゃあ、ちょっと奉仕部に行ってきま~すです♡。

 あっ、それと明日は土曜日ですけど、

 時間余裕ないので奉仕部さんとの打ち合わせやりますのでよろしくです」

 

「うん、わかってるよ会長」

 

「了解! ご苦労様」

 

「お願いします。

 いろはちゃん」

 

「・・・いってらっ 」

 

「ぷぃ!」

 

・・・・な、なによ。 

こっちも”ぷぃ”よ、ふん。

あっそうだ、わたしもそろそろ行かなくちゃ。

 

「あ、あのな三ヶ木さん、やっぱり会長と一度 」

 

「あっ、ごめん本牧君。

 わたし、用事あるからちょっと行ってくるね。

 もし遅くなったら、わたしが鍵閉めて帰るから、

 このまま開けといて」

 

「う、うん、わかった」

 

そう、今日は広川先生との約束があるの。

えっ、広川先生って誰?

家庭科の先生よ、家庭科の。

昨日ね、ほら調理室を貸してもらいにいったの。

そしたらね、

 

『ああ、いいよ。 だけどその代わり頼みがあるんだ。

 片付け手伝って調理室。 

 明日ね、はい決定ありがとう』

 

『いや、あの~、先生? ・・・ふぅ、わかりました。

 手伝います、手伝いますよ。

 もう、いっつも』

 

『やったね。 

 だって急に今週末、先生たちの懇親会やるっていうから、

 どうしょうかなぁって思ってたんだ。

 調理室でやらなくてもいいのにね。

 でもやり~、助かった。

 サンキュ、三ヶ木』

 

わたし、あの先生、苦手。

だっていつも勝手に決めるんだもん、それにちょ~軽いし。

だけど、嫌いじゃないけどね・・・・・腐れ縁だし。

さて、行きますか。

 

”ガラガラ”

 

「先生、さぁ頑張りましょうって・・・これ全部?」

 

「うん、ちょっと材料とかいろいろ買いすぎてね。

 頑張って! じゃあね」

 

「どこいくんですか!

 ったく、ほれ始めますよ。

 そのかわり、2月10日と11日は調理室、お願いしますね」

 

「おう、泥船に乗ったつもりでまかせとけ!」

 

「へっ?」

 

な、なに、わたしと広川先生は同レベル? ショック!

 

「だけどいいなぁ~、バレンタインにチョコか。

 青春してるなぁ」

 

「なんですかいきなり。

 うんしょっと」

 

「”うんしょ”って、お前は年寄りくさい」

 

「ほっといて!」

 

「先生、もらったことないよ。

 生まれて20年、バレンタインにチョコなんて。

 いいなぁ~、ほしいなぁ~。

 やっぱ、調理室どうしょうかな~」

 

「きったなぁ~、それに年ごまかさない。

 はぁ、わかりました。

 当日はわたしも参加できると思うから、先生の分も作りますよ。

 まったく、生徒にチョコねだる教師なんて聞いたことない」

 

「おぉ、サンキュー。

 初めてのチョコ楽しみにしてるよ」

 

ここまできたらわかるよね。

この変な家庭科の教師は、お・と・こ。

なんで男で家庭科なのよ、まったく。

でもね、この三十路男、針仕事とかすごく手先器用なのよ。

それに料理うまいし、知識豊富だし。

あの弁当美味しそうだったなぁ。

あんた、ほんとに男?って感じだよ。

まぁ、悪い人ではないのよね。

誰かお嫁、いえお婿にもらってくれる人いないかな?

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、本牧から電話?」

 

「もしもし比企谷か?

 すまん、ちょっといいか?」

 

「おう、なんだ?」

 

「比企谷、会長と三ヶ木さんのことだが、 

 なんとかならないかな?

 本当はこんなこと、生徒会内で片付けることなんだが、

 なかなかうまくいかなくてな」

 

「結構深刻なのか?」

 

「ああ。

 昨日のあれ以来、二人は一言も会話していないんだ。

 三ヶ木さんは声はかけようとしてたみたいだが」

 

「なんかきっかけがあればっか?」

 

「頼めるか? こっちでも努力するが」

 

「まぁ、やるだけやってみるわ。

 原因が原因だからな。

 おっと一色が来たみたいだし、じゃあな」

 

「すまない」

 

’トン、トン”

 

「お待たせしました!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・とりあえず予算額を教えてもらえるかしら。

 その上でこの中から候補を絞って・・・」

 

「なぁ雪ノ下、これは提案だが。

 女子だけで試作会みたいなのやってみないか?

 実際につくってみると所要時間とか、由比ヶ、初心者のレベル

 とか、あとみんなで話することでなんか”理解”できることも

 あるんじゃね~か」

 

「ヒッキー、ひどくない。

 なんか最近みんなからの扱いが」

 

「理解? ・・・・・・・そう、そうね。

 チョコの候補を絞るにあたって、

 どのくらい時間かかるかも重要ね。 

 あと由比ヶ浜さんのレベルも確認しておきたいわ」

 

「ゆ、ゆきのんまでひどい」

 

「由比ヶ浜さんごめんなさい、冗談よ。

 どうかしら一色さん、時間もないことだから、

 これから女子で試作してみない」

 

「そうですね、でも場所が」

 

「一色さん、明日の打ち合わせは朝10時からだったわね。

 よかったら、今からでも私の家に来ない?

 先日からいろいろ試作してるから、

 材料もある程度そろってるわ」

 

「えぇ~いいんですか?

 じゃあ早速、準備してきますね」

 

「あ、ゆきのん、今日もお泊りしてもいい?」

 

「ふぇ、由比ヶ浜先輩お泊りするんですか?

 わ、わたしもいいですか~」

 

「えぇ、構わないわ。 

 じゃあ、一色さん。

 打ち合わせはこれくらいにしましょうか。

 私たちは先にいってるわ。

 比企谷君、生徒会の女子の案内よろしくね」

 

「いや、実は今日はラノベの新刊が 」

 

「比企谷君、お願いね」

 

「・・・はい、送らせていただきます」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「どりゃ~、それ!」

 

うん、うん。 先生も頑張ってるね。

で、でも、どこにいるんだろ、声はするんだけど。

 

「なんの!

 くっそ~、やるぅ!」

 

ん、くっそ~?

あ、いた・・・・・・って、おい!

 

「・・・・お、おっさん、なにしてんねん」

 

「ひ、ひぇ~、 いや、これはだな。

 ほ、ほら、みろ三ヶ木。 

 レアキャラ、レアキャラが仲間になったぞ!」

 

「ほ、ほう、生徒に片付けさせといて自分はゲームねぇ~

 ん?

 あ”ー! それわたしのスマホ」

 

「うん、そこに落ちてた」

 

「いや、そこに置いておいたの!

 ・・・・・・もう、この人は。

 でも、なんでパスワードわかったの!」

 

「三ヶ木、お前が悪い。

 パスワードに誕生日はよしとけ。

 先生心配だよ、すご~く心配」

 

「はいはい。

 でっ、どれ、レアキャラって」

 

”プッツン”

 

「あ、充電きれた」

 

「・・・・・み、三ヶ木、ご愁傷様」

 

「お、お前!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「おい本牧、三ヶ木いないのか?」

 

「いや、ちょっと用事があるって出て行ったけど、

 まだ戻ってこないんだ。

 あ、ちょっと待って電話してみる」

 

”プー、プー”

 

「う~ん、なんか繋がらないな」

 

”ガヤガヤ”

 

「え~、書記ちゃんお泊りできないの

 残念、仕方ないか」

 

「う、うん、ごめんねいろはちゃん」

 

「本当に残念。

 ・・・って、まだですか先輩!」

 

「お、おう。

 なぁ本牧、三ヶ木は帰ってはいないんだよな。

 いまから、雪ノ下の家で女子がチョコの試作をすることに

 なったんだ。

 これは俺のアドレスと雪ノ下の家の地図だが、三ヶ木に渡してくれないか」

 

「うん、わかった。 

 後でおれももう一回、電話かけてみるよ」

 

「先輩! おっそ~い」

 

「おう、いま行く。

 じゃ頼む」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”どさっ”

 

「はい、これで終わりですか? 先生、もう無い?」

 

「いやぁ、すっかり片付いた。

 助かったよ。

 さすが三ヶ木、よっ力持ち、男前!」

 

こ、こいつ、さんざん働かせた上、”男前”って。

しかもあんた、途中から腰が痛いって。

 

「はぁ~、それ褒めてんですか? もう。 

 じゃあ、わたし行きますね」

 

「おう、気を付けてな。

 ありがとう」

 

ふぅ、やっと終わった。

げ、三時間もかかったの。

もう、みんな帰ったかな。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「三ヶ木、帰ってこないな。

 本牧、やっぱり電話でないのか?」

 

「うん、三ヶ木さんの電話繋がらない」

 

「もう下校時間とっくに過ぎてるぞ」

 

「そうだなぁ。

 でも、もうちょっとだけ待つか」

 

”ガラガラ”

 

「おい、生徒会。

 お前らまだ残ってるのか。

 下校時間はとっくに過ぎてるんだ。 

 さっさと帰れ」

 

「はっ、はい。

 厚木先生すみません」

 

「どうしょうか?」

 

「鞄あるから、戻ってくるんじゃないか。

 鞄のとこにメモを置いておいたらどうだ?」

 

「そ、そうだな」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

”タッタッタッ”

 

はぁ、はぁ、はぁ。

まずい、まずい。

今日、珍しくとうちゃん、早く帰ってくるんだった。

すっかり忘れてた。

やっばー、もうこんな時間じゃん。

いっそげ~。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です! ってもう誰もいないよね。

 じゃあ、さらだバー!」

 

”ガチャガチャ”

 

さっさと鍵返却してこ。

晩飯なんにしょうかな~

すぐできるもの・・・う~ん。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「お休みのところ、ご苦労様です。

 それでは~、お料理教室の打ち合わせを行います。

 課題であったチョコの種類ですが、

 昨日、女子でいろいろ試作してみました。

 作り易さとか所要時間とか、あと予算的なもの。

 それらから、初心者向けと中級者及び上級者向けという

 感じで決めてみました」

 

「あとこっちの資料は、一人分の材料の目安と見積もりを

 出してみたの。

 これなら参加費は、一人五百円くらいでできそうね」

 

へぇ、女子で試作?

昨日、みんなでチョコを試作してしたの?

わ、わたし聞いていない

ふ~ん。

 

「あっ、それから、女子だけではなんなので、

 はい、男子にも作ってきました。

 試食してみてくださいね、えへぇ♡」

 

「えっ、いろはちゃん、あれ男子の分もつくってたの?

 すごっ」

 

「言ったじゃないですか~。

 わたし、お菓子つくり結構得意なんですよ」

 

”ぱく”

 

「うっま~、まじで会長得意なんだ。

 なぁ本牧」

 

「うん。

 どれも美味しいね」

 

「そ、そうですか~♬。 

 でも、雪ノ下先輩のチョコはもっと美味しかったですよ」

 

「いろはちゃん、あ、あたしのはどうだったかな?」

 

「そ、それは、その、ねぇ書記ちゃん」

 

「えっ、あ、あの、すっごい個性的なお味でした」

 

「個性的? えへへ、そう」

 

へぇ~、美味しそうだね。 

それに何、そのみんなの笑顔。

昨日、楽しかったんだろうな~。

なんか試作してる雰囲気、想像しちゃった。

えへへへ。

 

・・・・・・・ふぅ。

また、はじかれちゃったんだ。

そっか。

ま、まぁ慣れてっから、こんなの。

小学校の時からずっとわたしは・・・

あ~あ、早く打ち合わせ終わらないかな~

え?

なんか、なんか わたし変。

・・・・・・早く、この場所から出たい。

ここにいたくない。

 

「それじゃ、このチョコで手配しますね。

 それと当日の集合ですが・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・・ということで、

 あとは時間がありませんが、とにかくよろしくです。

 では以上で」

 

えへへへ。

終わったね、みんな楽しそうでよかったね。

それじゃね。

・・・・・・・邪魔者は消えよっか。

 

「あっ、すみません。

 わたし、今日用事あるので先帰ります。

 ポスターは参加費のとこを追記して、

 告示版に貼って帰りま~す。

 それと材料のほうは、業者さんに手配しておきますね。

 それじゃぁ。

 ・・・えへへへ」

 

”ガラガラ”

 

「お、おい、三ヶ木・・・

 な、なぁ、書記ちゃん。

 昨日あの後、三ヶ木は試作会に間に合ったのか?」

 

「わたし、お母さんが迎えに来てくれたので、

 最後まではいませんでしたけど。

 わたしがいる間は、三ヶ木先輩来てませんでしたよ」

 

「本牧、昨日渡したメモって 」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

えへへへへへ。

平気だよ、うん、全然平気。

わたしこんなの小さいときから慣れてるじゃん。

あの時だって。

わたしは・・・・・・・なんも期待していない。

こんなもんだよ。

わたしは、わたしの仕事をするだけ。

・・・・・・・なにも望んじゃいけない。

望まない。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、さてっと、あとはここの告示板で終わり。

早くポスター貼って帰ろ。

帰り、駅前のケーキ屋さん寄ろうっと。

何食べよっか?

今日の美佳ちゃん太っ腹だよ。

有り金、全部使っちゃうからね。

・・・って、なによ、この告示版!

残ってる貼れるスペースのとこって高い! 届かないじゃん。

なに、わたしにケンカ売ってんの。

こんの~、食らえ抹殺のラストブリット!

 

”ゴン”

 

いったぁ~。  

あいたたた、はぁ~馬鹿やってないでっと。

えっと~なんか台になるものない?

 

”キョロキョロ”

 

あっ、机あった。

でも、なんでこんなとこに机出してあるんだ?

ま、まぁ、いっか。

うんしょっと。

 

『女子で試作しました』

 

『うっま~ 』

 

『えっ、いろはちゃん、あれ 』

 

『そうですか~。でも雪ノ下先輩の 』

 

『えっ、あ、あの、すっごい大人の味 』

 

   ・

   ・

   ・

 

『むっか~!』 

 

『な、なんですと!』

 

『ぷぃ!』

 

・・・会長。

はぁ~、なにやってんだろうね、わたし。

ばっかみたい。

 

”う、ううう”

 

・・・・・・あ、あれ~ おかしいな。

なんで告示版ぼやけてるのよ。

よく見えないじゃない! まったく。

わたし、また視力落ちたのかなぁ。

 

”ポロ”

 

あっ、画鋲落ちた。

うんしょっと。

 

”グラ”

 

あっ、

 

”ガタガタ、ガタッ” 

 

やば、落ちる。

・・・でも、もういいや。

 

”どたっ”

 

     ・

 

あ、あれ?

い、痛くない?

な、なんで?

 

「いってぇ~、お前あぶねぇぞ。 

 この机、脚折れてるぞ。

 ・・・それにお前、思ったより重い」

 

えっ、わたし比企谷君に抱き絞められて。

なに、助けられたの?

でも、なんでここにあなたがいるの。

 

「ひ、比企谷君、ありがと。

 ・・・それと」

 

”べしっ”

 

「ぐふぇ、お前何を」

 

「お、重いっていうなし。 

 それと、もう、十分、感触楽しんだ?

 そ、その、そろそろ離してくれる・・・かなぁ」

 

「えっ、おわっ、す、すまん。

 なんてことを。

 不可抗力だ、お願い通報しないで」

 

”ぎゅ”

 

「比企谷君・・・・、いま最後にぎゅってしたでしょ、ぎゅーって」

 

「あ、い、いや、そ、その・・・・

 ご、ご誤解だ!

 な、何かの間違い、そ、そうだ何かの間違いだ」

 

なによ、この展開。

まさか、ほんとにこの世の中に、ラブコメ定番の

ラッキースケベってあったのね。

比企谷君、あんたやっぱもってるわ。

えっ、わたしと比企谷君のラブコメ?

はは、ありえないね。

それにさ、

 

「ふ、いいよ。

 どうせ、わたしだもん」

 

「そ、そうか。

 い、いや、なんか本当にすまん。

 ・・・あ、あのな、三ヶ木、すこし座らないか?」

 

比企谷君。

だめだよ、わたしなんか気にしないでいいの。

大丈夫だから、こんなの慣れてるから。

それよりさ、早くみんなのところに戻って。

いまね、いまわたし一人になりたいの。

 

「え~、サービスはここまで。

 これ以上のサービスは有料だよ、めっちゃ高いよ~

 ・・・・・・だからさ、もういいよ」

 

「ちげ~って。

 あのな、ほれこれ持ってってくれ。

 おわっ、すまん。

 お前の重さでつぶれちまった。

 ほら、重いから」

 

”べしっ、べしっ”

 

「重いっていうな!  

 50Kgちょっとしかないから。

 ・・・って貴様!」

 

”べしっ”

 

まったく! 女子に体重聞くな。

差し出された袋の中。

それ、もしかしてさっきのチョコ?

みんなで作ったってやつ

 

「ぐはっ、いててて。

 ま、まぁなんだ、お前チョコ大好きだろ。

 いつも食べてる感じだし。

 それにな、俺だけ食べて恨まれたら、

 なんかお前って夢に出てきそうだから」

 

「ひど!」

 

ふん、夢の中に化けて出てやるわよ。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・出たい。 

えっ、なにいってんのわたし。

 

「ふ~ん。

 あっ、それってわたしの間接キッス狙ってるのね」

 

「ばっか、そんなもん狙ってねぇつぅの。

 ちゃんと半分に分けてきた。

 いらんならいいけど、絶対夢に出んなよ」

 

「・・・・いらない」

 

「えっ」

 

「うそよ。

 ありがとう比企谷君」

 

「・・・あのな、このチョコって実はお詫びの意味もあってな」

 

「えっ、お詫び?」

 

「ああ。

 あのな昨日の女子達の試作会、急遽打ち合わせで決まってな。

 お前にも伝えようと思ったんだが、お前いなかっただろ。

 連絡とれなくてメモを残したんだが。

 なんかうまく伝わらなかったようで本当に申し訳ない」

 

「えっ、メモ?

 う~ん、昨日の帰りはとうちゃんの晩ご飯のことで頭いっぱい

 だったから気が付かなかったのかも」

 

「へぇ、お前、とうちゃんて言ってるのか? 

 とうちゃん、くくく、今の時代にとうちゃんだって」

 

「な、なによ。

 とうちゃんはとうちゃんじゃんか!

 あ、そうか。 

 さてはあんた、パパ~、ママ~って言ってんだ。

 みなさ~ん、比企谷君はこんな目して、パパ、ママって

 呼んでるんだって」

 

「おいやめろ、そんなでかい声で言うな。

 や、やめてください三ヶ木様」

 

「きゃ~、比企谷君に襲われる」

 

「マジやめて、冗談にならないって。

 ほらあの娘、通報してるんじゃね?」 

 

「ごめんごめん。

 調子にのりすぎた」

 

「ったく」

 

「うふふ」

 

「はははは。

 ・・・まぁなんだ。

 やっぱ、お前そうやって笑ってるほうがいいじゃねーか

 かわいいし」

 

か、か、か、かわいい!

ば、ばっか何言うだこいつ。

・・・それにわたしって今笑ってるの?

なんで?

さっきまでわたしとっても変で・・・いやな奴だったのに。

比企谷君、あんたといるといつもこうやって、

・・・・・・わたし笑っていられるのかなぁ。

 

「じゃあな、いくわ。

 あっ、そうだ。

 あ、あの、お前のアドレス教えてくんね~か?

 今度みたいにな、また連絡できないとあれがあれだから。 

 そのなんだ、嫌ならいいけど」

 

嫌なわけないじゃん、ばっか。

でも、比企谷君連絡してくれるの?

アドレスってほんと?

へへ、な、なんかうれしい。

 

「えぇ~なに、わたしをあの比企谷ハーレムに引きずり込むつもり?

 ちょ~嫌なんだけど。

 ・・・はいスマホ」

 

「なんだよ、比企谷ハーレムって?

 ちぇ、言わなきゃよかったって、おいスマホいいのか?」

 

「いろいろ助けてもらったからサービス。

 今日だけ特別の。

 でも、由比ヶ浜さんに聞けばいいのに」

 

「いや、知らん番号からかかったら、お前絶対電話にでないだろ。

 ん~と」

 

“カシャカシャ”

 

「こ、これでよかったかなぁ。

 ほれ、サンキュ。

 じゃあ、またな」

 

「うん、バイバイ。

 また月曜日」

 

・・・・・は、はっ、そうだ!

ちょ、ちょっと待って~

お~いポスター貼ってってくれよ~

頼むよ~、届かないんだよ~

もう!

 

「あれって、今いたのって先輩だったよね。

 なんで先輩が三ヶ木先輩と?」

 

”ドサ”

 

「まったく、人の気も知らないで。

 ふん!」

 

”グシャ”

 

「いろはちゃ~ん。三ヶ木先輩いた?

 えっ、それ三ヶ木先輩の分のチョコ。

 なんで?」




最後まで、ありがとうございます。

関係修復しようと思ったのですが、

さらに亀裂を深めてしまいました。

一度、狂った歯車はなかなか・・・・

次回、一応、バレンタイン編最終の予定です。

何とか、修復・・・・できるかなぁ。

もう、3000字、あきらめました。

字数多くても、ご勘弁ください。

※すみません。
 誤字(削除忘れ)訂正します。

 パパ様、ママ様 → お父様、お母様の様を消すの忘れてました。
 修正お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

近しい人たち。

見に来ていただいてありがとうございます。

バレンタインの完結編です。

前の話までに、いろんなことですれ違って、

上司との亀裂がさらに深くなってしまいました。

ほんとはお互いに・・・・

では、よろしくお願いします。


なんだろう。

もうこんな時間なのに、あれからず~と顔が熱い。

風邪ひいちゃったかな?

なんか動悸が激しいし。

やっばいかなぁ。

・・・・・・・・これも比企谷菌のせい?

 

”ぐぅ~”

 

お腹すいた~。

早く晩御飯つくらなきゃ。

あっそうだ、チョコもらってたんだった。

その前に食べようかな?

 

『むっか~!』

 

『ぷぃ!』

 

そうか、これ会長がつくったんだよね。

いま、食べたくないかなぁ。

まだ、もう少し・・・・・

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「え~、これって生徒会のイベントでしょ?

 なんで受付してないの?」

 

「奉仕部にいったら、もう受け付け終わったって言うし。

 なんか信じらんない!」

 

「ねぇ、私達だけいいでしょ?」

 

「いや、その~、生徒会では受付してないので」

 

「おかしいでしょ。

 受付してないってありない」

 

「おい、どうする本牧。

 これ収まらないぞ」

 

「会長はどうした?」

 

「なんか、卒業式の件で平塚先生、城廻先輩と打ち合わせだって」

 

「そうだ三ヶ木!

 なぁ書記ちゃん、三ヶ木はいたか?」

 

「あの、電話かからないんで教室に行ってきたんですけど。

 体調不良で、今日お休みでした」

 

「ねぇ、なにしてんのよ!

 いつまで待たすのさ」

 

「いい加減にしてくんない!

 さっさと受付しなさいよ」

 

「信じられない!」

 

”ガヤガヤ”

 

「なぁ本牧、この人達だけだったら何とかなるんじゃないか」

 

「どうだろう? う~ん」

 

「早くしなさいよ!」

 

「わ、わかりました。

 何とかしてみます」

 

「お、おい稲村」

 

「ありがと。

 初めからそうすればいいのに」

 

「やったね、じゃよろしく」

 

「え、こっちはまだ受付してるの。

 じゃあ、私達もお願い」

 

「あっ、私も」

 

「えっ、いや、その・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「おい稲村、どうすんだ」

 

「どうすっかな。

 まさかこんなに参加者がくるなんて」

 

”ガラガラ”

 

「ごめんなさい遅くなりました、えへ♡」

 

「か、会長、じつは・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「な、なんですと! なんでそうなるんですか?

 受け付けは奉仕部さんがやるっていってたじゃないですか~」

 

「会長、すまない」

 

「でっ、結局何人受け付けたんですか?」

 

「・・・・20名」

 

「げ、奉仕部さんの分と合わせて40名以上になるじゃないですか。

 それだと調理室では無理だし、材料もかなり追加しないと。

 予算的なこともあるし、どうしょう・・・・」

 

「お、おれ、今から名簿の人に電話して断るよ」

 

「稲村、おれも電話する。

 名簿くれ。」

 

「なにいってるんですか! そんなことできるわけないじゃやないですか」

 

「どうしょう」

 

「う~ん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごめん。

 俺が受け付けたばかりに」

 

「稲村先輩、すんだことは忘れましょう。

 それより、なんかできることいっしょに考えましょ」

 

「書記ちゃんやさしい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、やっぱ三ヶ木さんに電話してみないか?」

 

「そうだな。

 三ヶ木ならなんかアイデアが 」

 

”ドン!”

 

「何言ってんすか」

 

「へぇ?」

 

「何言ってんですかっていったんですよ! 副会長、稲村先輩」

 

「いや、三ヶ木ならなんかいい方法あるんじゃんないかと思って」

 

”ドン!”

 

「本気ですか?、本気で言ってるんですか!」

 

「い、いや、何そんなに怒って?」

 

「あの人に連絡したら、あの人のことだから、

 絶対に学校に来るじゃないですか!

 それこそ、這ってでも・・・・・・あの人馬鹿だから。

 副会長も稲村先輩も、いったい何カ月一緒にやってるんですか!」

 

「・・・会長すまない」

 

「・・・ごめん」

 

「いろはちゃん」

 

「まったく、もう。 

 ・・・・でも実はわたしも電話しようかなぁって、てへ♡」

 

「会長~」

 

「ゴホン。

 というわけで、副会長、稲村先輩、書記ちゃん。

 ここは、生徒会の底力みせましょう。

 三ヶ木さん、・・・・・これ以上、あの人にでかい顔を

 されたくないですから。

 ・・・まぁ、いろいろあるので」

 

「いろはちゃん、まず問題点を整理してみよ」

 

「うん。

 じゃ、ホワイトボードに書くから問題点挙げてみて。

 はい、副会長」

 

「う、うん。

 まずは・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「はぁ~、わたしの皆勤賞が」

 

全く、さんざんな目にあった。

くっそ、比企谷菌め。

ただ、単に免疫がなかっただけだからね。

あの女たらしの手にかかるなんて、まだまだ未熟。

もう、熱おさまったからね。

ふん、チョコの1個や2個で、この美佳姫さまの心を

つかもうなんて甘いのよ。

マッ缶ぐらいに甘い! 何ならすべて練乳でできてるぐらい。

ん、すべて練乳、ちょっとやらしい?

馬鹿言ってないで、休んだ分は取り返さないとねって。

わたしはわたしのやることをやるだけ。

ほんとわたしは社畜ね。 たはは。

めぐねぇ、少し力もらうね。

頑張るぞ! おー

よ、よし。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。 

 すみません、昨日休んでしまって。

 って、あれ?」

 

なに、なんで誰もいないの。

生徒会室、鍵開いてるのに?

 

     ・

     ・

     ・

 

ん~、それにしても、お・そ・い。

もう、下校時間になっちゃうよ。

うん? これってお料理教室の参加者名簿?

・・・・4、40人いるじゃん!

えっ、わたしポスターに参加者数を書き間違えたのかも。

ちょっと待ってよ。

 

”カチ”

 

ん~、早く立ち上がってパソコンちゃん。

 

”ガラガラ”

 

「あっ、三ヶ木先輩ご苦労様です。

 もうお身体は大丈夫ですか?」

 

「うん、書記ちゃんありがと。

 ごめんね、なんか悪い菌にあたっちゃったみたいで」

 

「悪い菌?

 あっ、三ヶ木先輩。

 みんなが来る前に少しいいですか?

 じつは二人だけでお話したいことが」

 

えっ、なに?

放課後、二人っきりの生徒会室・・・・・もしかして告白?

ごめんなさい書記ちゃん、わたしそんな趣味無いの。

・・・で、でも、書記ちゃんかわいいし。

お姉さん、少しだけならいいかも。

ぐふふふ。

 

「み、三ヶ木先輩、どっか別の世界行ってません?

 いま、なんかぼそぼそと。

 それにぐふふって」

 

「へっ、いや、べ、別に。

 どこにも行ってないよ」

 

「まぁいいですけど。

 あの、これ見てくれます?」

 

ん? なに、そのつぶれた箱。

なんか思いっきり足跡がついてるんだけど。

あと、そのはみだしてるのチョコ?

 

「いろはちゃんが試作会の時に、間に合わなかった三ヶ木先輩の分って

 これ作ってたんです」

 

えっ、あのジャリが。

でも、どうせ男子の分を作った時のあまりでしょ。

 

「内緒ですけど、男子のチョコはこれつくった時の

 余ったやつなんですよ」

 

うん? 確かに男子のよりでかいかも。

でも残念、ぐちゃぐちゃで原型とどめてないから。

 

「三ヶ木先輩、いろはちゃんと仲直りしてください。

 いろはちゃんも仲直りしたいんです、絶対に」

 

・・・書記ちゃん。 

元はといえば、比企谷君のメモを確認しなかったわたしが悪いんだよね。

なんか、わたしの独り相撲だったみたいな。

 

「ごめんね書記ちゃん、心配させちゃったね。 

 このチョコらしきもの? 折角だからいただくね」

 

”ぱく”

 

ん、めっちゃ美味しい。

ほんとあのジャリ・・・ジャリっ娘、お菓子作り得意だったんだね。

でも、この靴のあとがなんとも・・・・。

 

「三ヶ木先輩、いろはちゃんよろしくお願いしますね。

 あっ、それとこのチョコのことは絶対誰にも秘密ですよ。

 だって、いろはちゃん『このこといったら泣かす!』って

 すっごく怖かったんだもん」

 

書記ちゃん、ほんとに怖かったんだね。

いまも顔が青ざめてる。

もしかして”裏いろは”がでた?

 

”どたどた”

 

「あっ、三ヶ木先輩、いろはちゃんだ。 

 はやく、はやく食べてください」

 

「え?

 あ、い、いや、あの」

 

”パクッ”

 

「ほらほら」

 

「もが、もがもが」

 

しょ、書記ちゃん待って、口に押し込まないで~。

あの足音は会長と違うから。

ちょ、ちょっと待って。

もう口いっぱいで入らないって。

それにこの足跡のついたとこは食べたくない。

いや~やめて、う~。

 

「お疲れさま。

 あ、三ヶ木さん、もうだいじょ・・・・

 あははは、なにその顔。

 それにすっごい涙目じゃん」

 

「ふが、ふがが、ふがっが」

 

「ご苦労様。

 みんないるのか? 

 お、三ヶ木もう身体は・・・ぷっ! あはははは。

 なんだその顔」

 

しょ、書記ちゃん!

なんてことすんの。

うぇ~ん、もうお嫁にいけない。

書記ちゃん責任とってね。

・・・ぐふふ。

 

「ご、ごめんなさい、三ヶ木先輩。

 だって、バレたら怖いんだもん」

 

「もご、もご」

 

”ごくっ”

 

・・・はあ、ひどい目にあった。

書記ちゃん、わりと暴力的だ!

ふぅ~

 

”ぱたぱた”

 

ん、やつだ、やつが来た。

この足音は間違いない。

 

「お待たせしました! みんないます?

 あっ・・・・・・

 そ、それでは緊急役員会を始めま~す。

 さっさと座ってくださいね」

 

おい、いきなり目逸らされた。

でも緊急役員会って参加者のことだよね。

それってさ、わたしのミスだからいわなきゃ。

 

「みんな、ごめんなさい。

 なんかわたしポスターを間違えたみたいで・・・」

 

「いや、違うんだ三ヶ木さん。

 じつは、昨日お料理教室の参加申し込み者が

 生徒会に押し寄せて・・・・」

 

「ごめん、三ヶ木。

 受け付けたのは俺だ」

 

えっ、そうだったの。

確かにこの二人、押しに弱いからなぁ。

でも参加者40人か、実際ちょっときついなぁ。

 

「まぁ、済んでしまったことなので。

 お二人には今度それ相応の償いしてもらいますけど、えへ♡」

 

会長、笑顔だけど、目が笑ってないし声も低い。

これが書記ちゃんを震え上がらした”裏いろは”?

二人ともどんな償いさせられるんだろ。

神様、彼らを見捨てないで。

くわばら、くわばら。

まぁ、それはそうと、

 

「まずは会場ですね。

 参加者40人に生徒会と奉仕部の人数ではちょっと調理室は狭いかも」

 

”ビシ!”

 

「はい、本牧君」

 

えっ、も、本牧君?

 

「あっ、はい、コミュニティセンター押さえられました。

 予定はいってたみたいだけど、なんか他の部屋と場所を

 変更してくれたんだ。

 前日はホールだけでしたが、当日は調理室もOKもらえました」

 

「了解です。

 あ、後片付けもあるので、できたら翌日の午前中も押さえておいて

 下さい。

 三ヶ木先輩、次は?」

 

「え、え~と予算ですね。

 材料追加しないといけないし、

 いまから参加費の値上げはできないから」

 

”ビシ!”

 

「はい、稲村君」

 

い、稲村君?

 

「えっ、稲村君って俺も君呼び?

 あ、あの予算の方についてだけど、昨日会長とも相談して他校と

 合同ですることで解消しようと思ったんだ。

 だけど、すまない俺のほうは全部断られた。

 会長はどうだった?」

 

そりゃそうよね。

だって今日が火曜日でしょ。

んで、料理教室が金曜日。

まあ普通は無理でしょうね。 

えっ、会長その満面の笑みはなに?

 

「仕方ないですね~。

 やっぱりわたしの出番ですね。

 じゃじゃ~ん♬、海浜総合高校から共同開催の了解頂きました、えへ♡

 まぁ実際のところ、了解取れたらラッキーかなって感じだったんです

 けど。

 ほらクリパのこととかあったから。

 でも~、やっぱりわたしの魅力っていうか、なんかすっごいフレンドリー

 な感じで了解頂きました」

 

や、やるわねあんた。

あの轆轤使いを手玉に取るなんて。

でも、そんなに胸逸らしても、わたしとあんまり変わらないからね。

そのでっぱり。 

 

「はい、次は?」

 

ん、なんかすごく挑発されてるような気が。

気のせい?

 

「あとは告知ですね。

 場所変更することを十分徹底しないと」

 

”ビシ!”

 

「はい、書記ちゃん」

 

えっ、書記ちゃんは”書記ちゃん”のままなんだ。

あの二人は一応先輩なんだけど、確か。

 

「はい、放送部と調整してきました。

 早速、明日と金曜日の昼休みですが会長お願いします。

 それと三ヶ木先輩は貼り出してあるポスターの修正お願いしますね」

 

「了解です。

 お昼休みの放送は任せてくださいね。

 ふふん、三ヶ木先輩、あ・と・は、なんかあります?」

 

な、なに、その顔、くそ~、腹の立つ。

あと、あとは・・・・

 

「コミュニティセンターの飾りつけとか」

 

”ビシ!”

 

「はい、本牧君、稲村君」

 

「はい、がんばります」

 

「ポスター、作ってます」

 

「よろしい。

 あ・と・は? ほれ、ほれ」

 

ぐ~、ちょ~むかつく!

ん~と、あっそうだ。 

 

「あと、講師ですね。

 さすがに40人もいると雪ノ下さん一人では」

 

「ふふ~ん♬ 大丈夫ですよ。

 わたしがちゃんと講師さん追加で手配しました。

 それで、あ・と・は? さあ、さあ。」

 

「・・・・・・ありません。」

 

くっそー、何かすっごい屈辱感が。

 

「はい、わたしの勝ちですね~

 では、コミュニティセンターの飾りつけとか、材料の

 搬送とか当日しかできないので、SHRの後は全員

 なるべく早く現地に集合ということで、よろしくです♡」

 

ま、負け? なんかわたし負けたの。

なにその満面の笑み めっちゃくやし~。

・・・すこしかわいいけど。

まあ、いいか。

ほんとはもう一つ重要なことがあるけど、

それはわたしの仕事だし、それにチョコももらったことだし。

ここはジャリっ娘の勝ちにしといてあげる。

 

「はい、じゃあ、そろそろ下校時間なので、

 今日はこれくらいにしましょう。

 それと三ヶ木せ、さん、口の周りチョコだらけですよ。

 書記ちゃん、このあとちょっといいかな。

 理由、わかってるよね、ニコ♡」

 

「ごめんなさい。

 いろはちゃん、許して~」

 

書記ちゃん、明日また会えるよね?  アーメン。

 

 

 

 

ーーーーーーーー‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

ん~と、いるかな。 あ、いた。

 

「広川先生、今お時間いいですか?

 じつは手違いで、お料理教室の参加人数が増えちゃいまして。

 調理室でおさまらないので、場所をコミュニティセンターに

 変更することになりました。

 お騒がせしてすみません」

 

「おう。

 そういえば、さっき校内放送で一色がなんかそんなこと言ってたな。

 そんなこと気にしなくていい。

 それよりまた掃除手伝ってな」

 

「あんの、それと当日は無理ですが、必ずチョコ持ってきますね。」

 

「期待をしてるから。

 すっごいゴージャスなやつな。

 あっ、それと参考までに、料理教室で準備した材料のリストあるか?」

 

「へぇ、あ、はい。

 えっと、これですけど」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

さてと、SHRも終わったし、いよいよ今日は本番ね。

さあ、いざわが戦場へ出発。

 

”スタスタスタ”

 

あっ、書記ちゃんみっけ。

 

「三ヶ木先輩、こんにちは。

 いまからコミュニティセンターですね。 

 一緒に行きましょ。」

 

うううん、ごめんね書記ちゃん。

わたしにはやることがあるの。

だからいっしょに行けないんだ。

 

「ごめん、書記ちゃん。

 一緒にいけないの。

 わたしね・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ~あ、書記ちゃん怒っていっちゃった。

 まぁ、仕方ないか。

 さぁ行こうか、お仕事お仕事」

 

”スタスタスタ”

 

ん? 不審者。

って、あのコート男は言わずと知れた義輝君ね。

奉仕部の前でなにしてるんだろう?

あっ、ドアに手かけた。

ふふふ、無理よ、今日はそこ開かないよ。

はは~ん、お料理教室で奉仕部いないの知らないのね。

どれ、そ~と近寄って。

 

「わ!」

 

「ひゃあ!」

 

「やった~。

 驚いた、驚いた大成功」

 

「ぬ、ぷふ。

 おぬしは三ヶ木女子。

 少しひどいではないか」

 

「あはは、ごめんごめん。

 で、どしたん?

 こんなところで変質者ごっこ?」

 

「げふっ!

 ち、違う、我はこれを八幡に」

 

ん、なんか紙、いっぱい手に持ってるね。

あ~、この前言ってた新作というやつ。

確かなんか教本って言ってたけど。

中二病の教本?

いつも奉仕部に読んでくれって持ってくるんだって、由比ヶ浜さん

唸ってたっけ。

仕方ない。

 

「ん!」

 

「その手は何であろうか?」

 

「ん!」

 

「・・・・」

 

「ん、ん、んー!」

 

ほれ、早よよこせ。 

いつも奉仕部にはお世話なってるからね。

今日は忙しいだろうから、わたしに貸しなさい。

 

「今日ね、奉仕部さんはお料理教室でいないから、

 今回は代わりにわたしが読んであげる」

 

「いや、けっ、結構。

 我は八幡に 」 

 

「あのね、そりゃ学年三位の人に読んでもらいたいのはわかるけど。

 でもね、こういうラノベ? 買ってくれる人って圧倒的に普通の人

 じゃない?

 わたし、こう見えても国語、学年平均だから、平均。

 だから、たまには平均的な感想を聞いてみたら?」

 

「ふむふむ。

 それもそうであるが・・・・・・

 さ、さ、最初に言っておく!

 も、もし酷評されたら我はもたぬ」

 

”ドサ”

 

へぇ、結構書いたわね。

ん~と、これ一日で読みきれるかな。

でも毎回さ、比企谷君はこれ読んでるだよね。

 

「うん、わかってる。

 あっ、そうだ。

 ほれ、これあげる」

 

「ぬぅ? これはなんであろうか」

 

「チョコ。

 もうすぐバレンタインでしょ。

 同小のよしみ。

 さみしい義輝君にあげる。

 大事なチロロだから、よく味わってね」

 

えっ、お~い、義輝君?

な、なに動かない。

 

「あ、あの~、いらなかったらかえ  」

 

「けぷこん、けぷこん。

 仕方なかろう。

 折角の心付け、もらってやろうではないか!

 安心せい。

 ぬはははは。

 ではさらだば」

 

”ダー”

 

「ぬほほ!」

 

お、おい!

ま、まあいいけどさ、それに義理チョコ一つで大げさ。

ほら老化は知ると危ないって。

 

”ズデン”

 

あ、ほらやっぱりこけた。

まったく昔っから変わらないね。 

あ、そんな場合じゃない。

さてと急がないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「え~、なに場所が変わったの?」

 

「うっそ、聞いてないんだけど」

 

「バレンタインあてにしてたのよ

 もう間に合わないじゃない」

 

「そうよ! どうしてくれるのよ」

 

「急に変わったって勝手すぎ!」

 

ん、やっぱりこうなったか。

やっぱり、ひとりひとり電話するべきだったな~

 

「ごめんなさい。

 ポスタ―や校内放送で場所が変わったことはお知らせはしたのですが。

 あっ、今からでもまだ間に合うように連絡しますので、

 コミュニティセンターにいかれませんか?」

 

「なによ、お知らせしたって。

 じゃあ、私たちが悪いって言うの」

 

「ひっど~い、信じられない」

 

「いまからコミュニティセンター行けって?」

 

どうしょう。

でも、仕方ないよねみんなが怒るの。

わたしが逆の立場だったらやっぱり怒るかも。

・・・・・・今できるのは、謝ることぐらいしかできない。

ここは土下座しないとね。

でもゆるしてれくれるかなぁ。

 

「みなさん。 あの、今日は場所が 」

 

「お~い、みんなごめんな。

 職員会議で遅くなった。

 さて、今、調理室の鍵を開けるからまってね」

 

えっ、ひ、広川先生。

 

「さぁ、チョコレート教室  

 ・・・・お料理教室を始めるから好きな席に座って」

 

「はぁ~い」

 

     ・

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし。

 あ、うん、俺俺。

 いや、サギじゃないから。

 俺どっちかというとタカ派だし。

 あの首捻るとこかっこよくない? 

 いや、そんなことより、今コミュニティセンターだろ?

 すまない、大至急お願いしたい。

 理由は後で話すから、今からいうものをそこから学校の調理室まで

 もって来てくれないか。

 うん、ちゃんと説明する。

 ・・・・・・いけるか? すまない頼む」

 

広川先生? あの~、なんか話が読めない。

どうなってんの?

 

「おい、三ヶ木、まずは調理室にある材料でなんとか時間つなぐ。

 この前の懇親会用の材料がまだ少しあるから。

 今、コミュニティセンターの材料を学校に運んでるから、

 届き次第すぐに調理室に運べ。

 急げよ」

 

「はい!」

 

「さぁ、みんな座ったか? 

 まずは基本編からだからね。

 できる人も初めからやるよ、何事も基本が大事だからな。

 基本ができてないと、全然口触りとか変わってくるんだからね」

 

「はぁ~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先生、できましたよ。

 どう? 会心の出来栄えよ」

 

「どれ、おぉ、さすがだね」

 

「わたしも出来た」

 

「先生、次は?」

 

     ・

     ・

     ・

 

材料まだかな。

お願い、早く来て・・・・・・お願い。

 

”キキー バタン!”

 

「ふっ、待たせたな三ヶ木。

 おっ、台車準備してるのか」

 

「せ、先生!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ザワザワ”

 

「やばいな、そろそろ時間待たないな。

 どうすっか。

 やっぱりここは俺のサイン会でも」

 

「せ、先生、ざ、材料届きました」

 

「グッジョブ! 三ヶ木。

 さぁ、みんな、次は中級編だ。

 これができれば野郎どもはメロメロだぞ!

 バレンタインは頂きだ」

 

「よっしゃ。 

 頂くぞ!」

 

「やだ~、先生」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「さぁ三ヶ木、お前も座れ。

 あとは任せろ」

 

ふぇ~、何とか間に合った?

よ、よかったよ~。

でも、腕がパンパン。

よくこんだけの荷物持てたな~。

広川先生、お願いします。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「先生、さようなら」

 

「先生、頑張るね」

 

「おう、気をつけてな。

 みんな頑張れよ!」

 

”ガヤガヤ”

 

みんな、笑顔で帰ってく。

・・・よかった。

わたしの土下座じゃこうならない。

 

「せ、先生、ありがどうごじゃいました。

 ううう、う゛ぇ~ん」

 

涙、止まらないよ。

ありがとう。

また助けてもらった。

先生、先生、先生。

 

「ばっか、泣くな。

 全く変わってないなお前は」

 

「だってぇ~」

 

「いいか、三ヶ木。

 お前、簡単に土下座しようと思うなよ。

 少なくともお前の近しい人がそんな姿みたらすごく悲しむんだぞ。

 わかったな」

 

「はい」

 

「おう、それよりそのチョコもらっていいか?」

 

「へぇ、でもあんまり上手にできなかったよ、これ。

 腕がパンパンでさ」

 

「お前、真剣に作ってたじゃん。

 俺のために! 

 それで十分だ。

 くれ!」

 

「いぇ、自分で食べたくて、先生のことはこれっぽっちも。

 1μgも考えてませんでした。

 まぁ、仕方ないな~ 

 特別に美佳ちゃんの特製チョコあげます。

 ・・・・・・先生、ありがとうね」

 

「おう。

 いや、普通チョコもらった俺がありがとうだろ」

 

「だって、先生・・・・・・普通じゃないもん。

 あっ、それと平塚先生が『ギトギトだぞ』って伝えてくれって」

 

「うぇ~、俺はあっさりのほうがいいんだが。

 ま、いっか。

 それと三ヶ木、もう帰るのか」

 

「いぇ、このあと生徒会室で少しやってから帰ります。」

 

「ご苦労さん。

 だが、もう遅いから帰る時、声かけろ。

 送っていくから」

 

「・・・・・・」

 

「お、おい!

 な、何警戒してんだ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「葉山先輩こっちも食べてみてくださいよ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぅ~。 これでひと段落。

 ・・・でも、なんか足りないような?」

 

「なぁ、一色。

 今日、三ヶ木来ていないのか?」

 

「へぇ?

 三ヶ木さんなら、どっかに転がってるんじゃないですか?

 いつもこういうイベントの時はどこかに。

 そうだ、そのごみ箱の裏は?」

 

「おま、それひどいだろ」

 

「冗談ですよ。

 でもそういえば・・・・いないですね。

 書記ちゃ~ん」

 

「うん?

 どうしたの、いろはちゃん」

 

「ねぇ、三ヶ木さん知らない?」

 

「あ、あの、じ、じつは三ヶ木先輩は・・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「じゃ、先輩、お疲れさまでした。

 副会長、稲村先輩、書記ちゃんもご苦労様」

 

「会長、みんなお疲れ様」

 

「お疲れ」

 

「い、いろはちゃん。

 あんまり怒らないでね」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ノシノシノシ”

 

「・・・・まったく、あの人は!

 本当に勝手なことばっかりして!

 一度痛い目にあわせないと、ぷぃ!」

 

”ガラガラ、ドン!”

 

えっ、な、なに?

うしらからなんかものすごい音が。

 

「なにやってんですかぁ!

 なんで来なかったんですか!」

 

えっ、か、会長。

ひぇ~、目が吊り上がってる。

声もちょ~低い。

なんかものすご~く怒ってらっしゃる。

 

「い、いぇ、あの~間違ってこっちに来る人がいるといけないから。

 それから、年度末の資料も少しだけって」

 

「ふぅ~!」

 

あ、あのう会長、お気を静めなさって。

書記ちゃん、こわいよ~。

 

「んで、いつ終わるんですか? それ。」

 

「へぇ、あ、あと十分ぐらい・・・かな?」

 

「あっ、そう!

 どっこいしょっと」

 

”カシャカシャ”

 

え、どっこいしょって、いきなりそんなとこでスマホいじってる。

う~プレッシャーが。

さっさと帰ればいいのに。

 

     ・

 

”カチャカチャ・・・・・・カチャカチャ”

 

ふぅ~、あとちょっとかな。

 

「くぅ~、くぅ~」

 

へ?

って、おい寝てんのかい!

仕事してる人の目の前でまったくこのジャリっ娘は!

・・・・風邪ひくでしょ。 

仕方ない、これかしてあげる。

このブランケット高かったんだからね。

さてっと。

 

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

よし出来た、保存完了っと。

 

「会長、一応終わりました」

 

「ふぇ~。

 は、はぁ~い」

 

なにこれ、ふぇ~ってかわいい。

ジャリっ娘、あんた素でもかわいいじゃない。

もう、素で行きなさい素で。

 

「じゃあ、行きますよ、三ヶ木先輩」

 

「へぇ、ど、どこへいくの?」

 

「海浜さんから聞いたんですけど~

 なんか、ものすご~く美味しいケーキ屋さんが

 あるそうじゃないですかぁ・・・駅前に」

 

「あっ、え、えっと~なんか海浜さん言ってました?」

 

「えぇ、いろいろと」

 

ふぇ~あの轆轤使い、変なこと言ってないよね。

 

「さぁ、鍵閉めますよ」

 

「は、はい」

 

「・・・・・三ヶ木先輩。

 その、きょ、今日はわたしのおごりです。

 打ち上げですし、一応わたしが会長ですから。

 やっぱり部下には奢らないとじゃないですか~」

 

「・・・・・費用、請求しない?」

 

「しません!」

 

「でも、そこのケーキ屋さんめっちゃ高いよ」

 

「えぇ~、高いのはだめですよ!

 あと、先週の金曜日、比企谷先輩とイチャイチャしてたじゃないですか~

 いろいろ聞かせてくださいね、ニコ♡」

 

「あ、あの、わたしのおごりで結構です。

 い、いえおごらせて下さい、お願いします」

 

あのね、会長。

・・・・・・わたし変われるかなぁ。

少し、ほんの少しでもいいから変わりたい。

この生徒会で。

 

”スタスタスタ”

 

・・・・・・・ん、なんか忘れているような?

ん~、なんだったけ?

まぁ、いいか。

 

「三ヶ木先輩、お・そ・い」

 

「あ、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「へっくしょん!

 ふぅ~、三ヶ木まだ頑張ってんのかな?」

 

 

 




ありがとうございました。

更新が遅くなってしまいすみません。

書きながら、寝てしまいました。

気がついたら、お昼まわってました。

おかしいな。 わー〇んぐまでは起きてたのに。

なんか、わー〇んぐも、チョコでした。

なんとか、書記ちゃんに仲直りさせてもらいました。

強引な話ですみません。

十二巻なかなかでませんね。

次話以降、どうしょうかな?

頭ひねって頑張ります。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一番のバカは・・・・わたし。

今回も、見に来てくれてありがとございます。

12巻が出る前に、ゲームのほうが発売。

早速買いに回ったんだけど、どこにもありませんでした。 く~

ゆきのんの依頼って何だろう、4人の幸せを考えながら、

今回以降、進めたいなと思います。

※オリヒロも絡めさせてください。

では、よろしくお願いします。








「ふ~ん。それじゃ、本当に先輩とはなんもないんですかぁ?」

 

な、なに。 顔近いよ~。 そんなにじ~と見つめないで。

なんかあるはずないじゃん。

でもちょっとだけ意地悪したいな。

 

「うん。なんもないよ。 ただ、ちょっと比企谷君にぎゅって

 

 抱き絞められただけ。」

 

「な、なんですと!」

 

いや、会長、ちょっ、ちょっと声大きいって。

ほら、みんな見てるじゃん。 でも、もう少しだけ。 ぐふふ

 

「んで、彼、なかなか離してくれなくて。 

 

 もう、困っちゃった。えへ♡」

 

できた。 今の完璧よね ”えへ♡”。

 

「ぐ。・・・・」

 

へ、か、会長。 下向いて、えっ、ちょっと震えてる?

もしかして、な、泣いてるの。

しまった。ちょっとやりすぎた。 

 

「か、会長、嘘です。 ごめんなさい。 調子に乗りすぎました。

 

 じつは、机の上から落ちそうになったわたしを助けてくれただけで・・・ん?」

 

「ぐ、ぐ、ぐ、あははははは! わたし見てましたよ、あの場面。

 

 く、くるしぃ~。」

 

ぐ、このジャリ、やっぱ超きらい。  ちくしょ~

 

「あ~、苦しかった。 それにあの人にはそんな度胸はありませんよ。

 

 地球がひっくり返っても。 

 

 そうですね、例えば目をそらせて頭かきながら、

 

 『すまん。割と好きだったりする。』 

 

 とかいうぐらいですよ、おもいっきり頑張って。

 

 まあ、そのことはもういいとして。

 

 それより、いいですか! 今日は本当に少し怒ってたんですよ。

 

 今後、絶対、勝手はだめですよ~。 

 

 い・い・で・す・ね。 ほれ返事は?」

 

ん~、わたしのほうが1個上よね? なんかこの扱いが・・・・

まぁ、これがうちの会長か。

 

「はい、会長。」

 

「それと、」

 

えっ、まだあんの?

 

「もし、もしもの時ですよ。 その時は絶対、わたしの応援してくださいね。

 

 ・・・敵はすっごい強敵ですから。ボソ 」

 

もしもの時? 会長もしもって、とうとう・・・

 

「さて、いろいろ聞かせてもらったし、そろそろ帰りましょうか。

 

 それでは、また月曜日です。 美佳先輩!」

 

「うん、また月曜日ね。  ・・・えっ、美佳先輩?」

 

美佳先輩か、ふふふ。 なんかへんな感じ。

『応援してくださいね』っか。

 

でもね、会長。 今までみたいに、葉山君をダシに使ってる間は無理ね。 

だって、それは本物じゃない。

それで比企谷君をつれ出したって、それはいつまでたっても・・・偽物。

それじゃあ、比企谷君のこころ掴めないと思うよ。

後悔しないためにも、素のあなたで全力でぶつんなきゃ。なんどでも。 

 

なんてね。 恋愛経験ゼロのわたしがなにいってんのかね。

・・・・・・ それにわたしは、

 

”ドン”

 

「あ、ご、ごめんなさい。」

 

「いぇ、あたしも考え事してって、美佳っちじゃん。」

 

え、なにこの肉感と香りどこかでって思ったら、

由比ヶ浜さんじゃん。

 

由比ヶ浜さんってバスじゃなかったっけ。 なんで駅にいるの?

うん、 目が少し赤いし。

 

「あ、由比ヶ浜さん。 なに、どうしたのこんな遅くまで。

 

 お料理教室とっくに終わったんじゃ?」

 

「う、うん。 お料理教室の後、三人でゆきのん家にいったの。」

 

えっ、三人で雪ノ下さんの家。 三人ってあの三人よね。

で、雪ノ下さんの部屋で三人? 密室で三人。

ぐふふふ ・・・・あ、やべ、鼻血が。

 

「美佳っち、どうしたの。 はな、鼻血でてるよ。 

 

 はい、ティッシュ。 大丈夫?」

 

だって、三人でイチャイチャ。  ん~、it's 比企谷ハーレム。

 

「なんか、変なこと考えてない?」

 

「ん、違う。 違います。 けっして、わたしもハーレムに

 

 入れてなんて思ってませんから。」

 

あっ、墓穴ほった。

由比ヶ浜さん、そんなあとずさりしないで。

お願いひとりにしないで。 

 

「ち、違うの。 さっきまで、会長とチョコケーキ食べてたから。

 

 この鼻血はそれが原因だから。たぶん。

 

 ・・・信じて由比ヶ浜さん。」

 

「えっ、いろはちゃんと一緒にケーキ? 

 

 よかった。  もう、心配してたんだよ。

 

 ・・・でも、二人は仲直りできたんだね。」

 

うん? なんか由比ヶ浜さん。なんかいつもと違う。

おかしいな、三人っていったけどなんかあった?

ふむ。 あるとしたら、今日のお料理教室。

お料理教室、チョコ、バレンタイン、三人。

もしかしたら、お料理教室でなんか進展があった?

でも、あのジャリっ娘、なんもいってなかったけど。

はっ、もしかしてさっきの”もしもの時”って。

 

「はぁ~。」

 

げ、なに、その深いため息。 ほんと大丈夫?

ため息を一回すると幸せが1個なくなるって言ってたよ。 だれか。

・・・仕方ないね。 

 

”ポチ、ポチ”

 

「ん? 美佳っち、電話?」

 

「あっ、と~ちゃん? 今日も遅い? 

 

 ん、了解。

 

 あんま、無理しないでね。じゃあ」

 

よし、今日も、と~ちゃんは午前様。

ほんと社畜だね。 やっぱりあんたはわたしのとうちゃんだよ。

そんじゃ、

 

「ねっ、由比ヶ浜さん。 よかったら、ほんとよかったらでいいんだけど、

 

 今日、わたしの家、寄ってかない? お、お泊りしてもいいよ。」

 

「えっ、美佳っちの家? で、でも美佳っちなんもしない?」

 

な、なんでわかったのって、冗談よ。 何もしないよ。

わたし、ほんとにそんな趣味ないって。 ちょっとだけしか。

 

「いや、何をするっていうの? 

 

 あのさ、今日もと~ちゃん帰ってくるの遅くなりそうで。

 

 ほら、最近物騒じゃん。 心細くて。」

 

 ・・・それに、なんかあったんでしょ? あなた達。 

 わたしでよかったら話ぐらい聞くよ。

 

「心細い? うん、それじゃ仕方ないなね。

 

 心細い美佳っちを助けてあげるね。

 

 ・・・・・美佳っち。 ありがとう。」

 

「うん。 わたし、とっても心細いの~。

 

 助けて、由比ヶ浜さん。えへ♡」

 

「えっ、美佳っち、そんなキャラだった?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ギィ、バダン”

 

「ごめんね。 わたしの家、アパートだから狭くて。

 

 どっか、腰下ろしといて。」

 

だって、初めてだよ。 と~ちゃんとわたし以外で家に人がはいるの。

クッションでいいかな?

なんか変なもんないよね。

 

「ううん。 知ってたよ。 この前、部室で言ってたじゃん。

 

 やっぱり庭ないから、砂利は無理だね。」

 

”ぐぅ~”

 

 し、しまった。 わたしとしたことが。  はずかし。

 

「あ、あの由比ヶ浜さん、お腹はすいてない?」

 

「うん、ちょこっとすいた感じ。

 

 本当は三人でご飯食べるとこだったから。」

 

「よ~し、ちょっと待ってね。」

 

「あっ、わたしも手伝うよ。」

 

「うん、家にあるものだけで作るから、期待しないでね。」

 

なにあったっけ? たしか野菜とウィンナーと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ちょっとまった~。 それまだ入れないで。」

 

「へっくちょん。 あっ、美佳っちごめん。」

 

「うぁ~、小麦粉が。」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん、み、味噌をマヨネーズと混ぜてて。

 

 それだけお願い。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、できた。 家にあるものだけで作った女子会料理。」

 

「やったね。 あたし初めてこんなの作った。」

 

いぇ、あなたは味噌とマヨネーズを混ぜてただけ・・・・

まぁ、いいか。

一緒に作れて楽しかったし。すこし疲れたけど。

 

「うん。 できたね。 小麦粉でつくったかんたんピザ&スティック春巻き

 

 そして、由比ヶ浜さん特製、味噌マヨ野菜ディップ。」

 

「美味しそう。ねぇ、早くいただこう。」

 

「うん。 いっただきま~す。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~、小麦粉ピザおいしい。 ぱりぱりして。」

 

「由比ヶ浜さんの味噌マヨも美味しいよ。 よく混ぜてある。」

 

「うん。 愛情込めて混ぜました。 

 

 でも食べ過ぎて、明日から少しダイェットだね。」

 

たはは。 それ言わない。 これ出しづらいじゃん。

 

「さらなる追い打ち、じゃじゃじゃ~ん、このケーキ食べる?」

 

仕方ないね。 と~ちゃんと食べよっと思ったけど、

特別にご馳走してあげよう。

 

「ケーキ?、あっ、いろはちゃんと行ってたんだっけ。 うん、いただく。」

 

「じゃあ飲み物とってくるね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うっま~。 このケーキ、マジ美味しいね。 どこで買ったの?」

 

「うん、駅前のケーキ屋さん。 めぐねぇに教えてもらったんだ。」

 

「めぐねぇ?」

 

「あっ、城廻先輩。 わたし同中で、昔は家が近所だったの。」

 

「ふ~ん。 あっ、だから前の生徒会に入ってたの?」

 

「うん、めぐねぇはわたしの憧れの人だよ。

 

 げっ、恥ずかしい。 絶対内緒ね。 しゃべったらな泣かすよ!えへ♡」

 

「あっははは。 なんかいろはちゃんみたい。

 

 ・・・・・あ、あのね。 美佳っち。」

 

「うん。な~に。」

 

「い、いろはちゃんとどうやって仲戻ったの?

 

 あんなにケンカしてたのに。

 

 もしよかったらでいいんだけど、教えてくれない?」

 

「なに? 雪ノ下さんとケンカした?」

 

「違うよ。 そういえばあたしたち、ケンカしたことない。」

 

えっ、雪ノ下さんと由比ヶ浜さん、一度もケンカしたことないの?

由比ヶ浜さん、奉仕部に入って十ヵ月ぐらいたってるよね。

 

わたしなんか、あのジャリっ娘と何回言い争いしたことか。

すべてわたしの負けだけど。 くやしい、なんで勝てないの。

 

「わたしもよくわからないだけど、わたしは生徒会のため、

 

 ・・・・・それに今は少しあの娘のため。

 

 わたしが思うことを言うの、やろうと思うの。 

 

 それで、あの娘に嫌われてもいいし、憎まれても

 

 絶交されても・・・・・かまわないかな。

 

 仕方ないね。 はじめは、なにこのジャリ。 

 

 少しはめぐねぇの爪の垢でも煎じて飲みやがれって

 

 何度も思ったけど。 

 

 あの娘はあの娘で、結構頑張ってるからね。

 

 おねぇさんとしても、面倒見てあげなくちゃ。

 

 ・・・な~んてね。」

 

「美佳っち、すっごくいろはちゃんのこと好きなんだね」

 

「えっ、違うよ。 わたしそんな趣味ないから。 少ししか」

 

「少しはあるんだ。 えへへへ」

 

「うん、少し。 嘘だよ~、あ、ケーキなくなっちゃたね。

 

 それでは、とっておきのと~ちゃんのおつまみを。

 

 ごめん、由比ヶ浜さん、冷蔵庫に飲み物入ってるから、

 

 適当にもってきてもらっていい?」

 

「うん。了解!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、あたしね。 ゆきのんの気持ちわかってんだ。

 

 でも、あたしの気持ちも同じ。 

 

 だから、もし、もしもだよ。

 

 あたしがこ、こ、こ、告ったら、ゆきのんのことだから、

 

 絶対、自分の気持ちを伝えない。 仕舞い込んじゃう。

 

 あたしは、それが嫌・・・・・・だけど、そうなったらいいなぁ

 

 って期待するあたしもいる。

 

 あたし、汚いよね。 わかってんだ。

 

 だって、ゆきのんが告ったら、絶対、あたしかなわないもん。

 

 そんな、あたしのことが、・・・・一番嫌い。」

 

そんなら、わたしはどうなるの。 わたしなんてもっともっと

会長じゃないけど、地球がひっくり返ってもあなた達にはかなわないじゃん。

くっそ~。 

 

「おい、由比ヶ浜! 貴様、飲みが足りん。

 

 もっと飲め!」

 

えっ、なに、わたし変。 なんか気持ちが”ひっく”

 

「お~。 もっと飲むぞ! 次は美佳っちの番!

 

 美佳っちは誰が好きなの! 質問は絶対答える決まりだよね~。」

 

な、なに、それを聞くのか。

今ここで、わたしの気持ちいえるわけないでしょ。 

 

「わ、わたしは好きな人はいないよ。 本当だよ。

 

 あの、き、気になる人はいるけど。」

 

「え~、だれ? さぁ吐け、吐かないとくすぐっちゃうぞ。」

 

えっ、なに、由比ヶ浜さん。 それやめて、くすぐったい。

だ、だめ。 そこは苦手。 いや~。

 

「わ、わかりました。 吐きます。そこはやめて~。」

 

「うん。 さぁ、だれ?」

 

「・・・・・・ひ、き」

 

「えっ、うっそ。 ヒッキー?」

 

あ、やばっ。 まずいじゃん。

 

「ち、ちがうよ。 広川比呂紀先生。」

 

ご、ごめん。 広川先生。 また利用しちゃった。

でも、気になる男の人No.3だから。 嘘じゃないよね。

 

「えっ、美佳っち。先生と生徒、なんかやばくない?」

 

「だ、大丈夫。 操は守るから。 それじゃ、由比ヶ浜さん、」

 

「結衣でいいよ。 結衣で」

 

「うん、ゆいゆい」

 

「それはだめ。 絶対!」

 

「へぇ? じゃあ。無難に結衣ちゃん。 比企谷君のどこに惚れたの」

 

「うぇっ、まじ、何で知ってんの。 」

 

「あのう、恐らく比企谷君以外、周りのみんな知ってると思うよ。」

 

「うへぇ~。 

 

 ・・・あのね、あたしがこの高校に入って一番最初に話をした男子

 

 ってヒッキーなんだ。

 

 前に言ったよね、入学式の朝にあたしがサブレ、犬だけど散歩

 

 に行ったとき、サブレが道路に飛び出して轢かれそうになったの。

 

 それをヒッキーが助けてくれたの。」

 

「うん。 そんで比企谷君が轢かれて入院したんだよね。」

 

「うん、そん時ね、救急車まってるとき、ヒッキーが言ってくれたの。

 

 『犬は無事か?』

 

 『うん、ありがとうございます。 ごめんなさい』

 

 『いや、犬が大丈夫だったらそんでいい。 怪我は治るから。』

 

 って。 そのあと、ヒッキー気絶しちゃったんだけど。」

 

「へぇー。 比企谷君、カッコいい。 

 

 そんで結衣ちゃん、ハートを鷲掴みにされたの。」

 

「うんって、なに言ってんだろあたし。 めちゃ顔が熱い。 ”ヒック”」

 

うん、なんかやたら体が熱い。 それに頭がぽわ~って。

まぁ、いいや。

 

「よし、よく言った。 ゆいしゃん。 もっと飲め。」

 

「お~、飲むぞ。」

 

「ゆいしゃん、比企谷君に対する気持ちは本物なんでしょ?

 

 ほんで、ゆきのん、雪ノ下さんのことも好きなんでしょ。

 

 多分、雪ノ下さんもゆいしゃんのこと大事に思ってる。 

 

 だったら、ゆいしゃんがその気持ちを押しつぶしてたら

 

 雪ノ下さんが一番悲しむよ。

 

 雪ノ下さんが自分の気持ちを隠したら、ゆいしゃんが一番悲しむように。」

 

「えっ。」

 

「でも~、一番悪いのは、”ヒ・キ・ガ・ヤ”。

 

 あの女たらしやろ~。 許さん。」

 

「そうだ。 ヒッキーが一番悪い。」

 

「よし、四人も女の子を泣かしてる天罰だ。 

 

 え~と今、十二時半? よし、行動開始。」

 

「へぇ?  ・・・・・ ん、四人?」

 

”ポチ、ポチ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブー,ブー”

 

「・・・おい、三ヶ木、今何時だと思ってんだ。」

 

「比企谷君、あのね。・・・」

 

”プー、プー、プー”

 

「おい、三ヶ木、三ヶ木? 切れやがった。」

 

”ポチ、ポチ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、でねぇ。 なんだったんだ。 くっそ、眠れねぇだろ。」

 

 

「へ、へ、へ。 大成功。」 

 

「美佳っち、知能犯。 あたしも今度やってみよう。

 

 でも、美佳っち、ヒッキーの電話番号知ってたんだね。」

 

やっばー、つい初めて電話しちゃった。

へへへ、、あいつ電話でてくれんだ。 ってまずい。

 

「ゆいしゃん、飲もー」

 

「おー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま~。 うぃ。 美佳ちゃん、今帰ったぞ~。

 

 あっれ、美佳ちゃんがかわいくなってる。

 

 いやこっちで寝てる、ふつ~のが、美佳ちゃんか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「だれ? この娘。

 

 なんで酔っぱらってるの?」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

ん~、あったまがいた~。

 

なんか変なもん飲んでたみたい。

と~ちゃん。 朝からなんか泣いてたし。

そういえば、なんか見たことのないラベルだったな~。

 

「う~ん。 頭痛~いよ~」

 

「あ、結衣ちゃん、大丈夫?」

 

「うん、なんとか。 それじゃ、そろそろ帰るね。」

 

「うん。駅まで送ってく。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「じゃね。 美佳っち、また月曜日。」

 

「うん。 月曜日。」

 

「あ、あのね。 昨日はありがとう。

 

 あたし、少し整理できた気がする。

 

 そ、それでね。

 

 もし、もしもだよ。

 

 あたし頑張ったとき、また話聞いてくれる?

 

 美佳っち、応援しくれる?」

 

「へっ。 ・・・うん、任せておいて。」

 

いつでも、聞いてあげる。

 

わたしごときでいいのなら、いつでも付き合うよ。

 

「うん、じゃあね。」

 

「うん、また。」

 

えっ、あ、しまった。 会長からもなんか同じこと言われてた。

 

ど、どうしょう。

 

・・・・・どうしょうかね。 わたしの気持ち。

 

えらそうなことばっかいって。 わたしが一番、ばか。 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「あれ、電気ついてる。

 

 あつ、広川先生。 徹夜されてました?」

 

「へっくしょん。 あっ、おはようございます。

 

 も、もう帰ります。 ぐす。」




今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

これから、オリヒロの過去少しずつ出せたらと思います。

※興味なくてもごめんなさい。

もう、12巻でないのかな。

その場合、話どう進めよう。

三人とも魅力的過ぎだから、なやんでます。

あっ、サキサキも・・・・・どうしょうか。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大雪(嵐?)の降る前のひととき

いつも見にきていただいて、本当にありがとうございます。

今回でとうとう、水族館デート直前まできてしまいました。

原作ベースの最後になります。

以降の話をどうしょう。(12巻早く出してぇ。 ネタがなくなる)

そんなことを考えながら、そろそろオリヒロなりに行動させたいと思います。

それでは、よろしくお願いいたします。






「比企谷くん、話があるの。

 ちょっといい?」

 

昼休みの購買前、俺はこいつに呼びかけられた。

・・・とても顔色が悪いように見えるが。

なんか思い詰めているようにも思える。

どうしたんだろう。

今日のこいつはすごくつらそうだな。

 

「ん、お前、そんな顔してどうした? 

 なんかあったのか?」

 

そういえば、金曜日、いや、あれは日付け変更線をこえてたようだが。

そんな深夜にこいつから電話があったんだった。

 

『比企谷君、あのね・・・・』

 

なにかを言いかけて、すぐ切られた。

そのあと俺から何回かかけたんだが、結局こいつが電話に出ることはなかった。

いま思えば、声がかすれてたような気がする。

俺の周りの人間の中では、戸塚についてまともな部類に属するこいつのことだ。

そんな時間に電話するんだから、よっぽどのことがあったに違いない。

そうだ、確か料理教室にもきてなかったはずだ。

一色が書記ちゃんと話した後、こいつのことすげぇ~怒ってたし。

ふむ、一色となんかあったのか。

 

「な、なぁ、三ヶ木。

 一色になんかいわれたのか?」

 

「・・・・・違う」

 

えっ、違うの。

ん、体育館の裏にいくのか?

もしかして、俺、こいつに焼きいれられるんじゃない?

そ、そうか。

この前、抱きついたからか。

あれは不可抗力・・・だよな?。

だが、それ以外には思い浮かばないのだが。

こいつを助けるためとはいえ、抱きしめたことには間違いない。

・・・なんか、気持ちが落ち着くようないい香りだったな。 

なんで女子っていい香りするの?

血液が香水でできているとか。

は、そうだ。そんなことを考えてる場合ではない。

なにせ、こいつのチョップはあの抹殺のラストブリット(by アラサー)

に匹敵する痛さである。

へたすると俺死んじゃうレベル。

 

「すまん、そんなにつらかったのか俺に抱きつかれたこと。

 悪気はなかったんだ。 

 そ、そのチョップだけは勘弁してくれ」

 

「へ? なにを言ってるの?」

 

ち、違うのか? そうか、慰謝料の請求か!

いくら請求されるんだ。 

ちくしょ~、俺の専業主婦の夢が。

い、いやまて、とぼけるって手がある。

何ら物証はないはずだ。

・・・くっ、確かあの時、数人の生徒に見られていた。

通報もされてたし。

 

「比企谷君、わたしあれはね、少しうれしかったよ。

 助けてもらったんだもん。

 そんなことより、もっと大事なこと」

 

なんだ、違うのか。

よかった俺の夢は無事だ。 

だが、もっと大事なこと?

なんのことだろう?

フリペのコラムか、それとも料理教室の受付の件か?

 

「わたしね、もう限界なの。

 自分の気持ちに耐えられない」

 

なに、も、もしかして、もしかするのか。

これって、この雰囲気ってあれだよな。

こ・く・は・つ 違う、告白。

 

「ここよ。

 さぁ、入って」

 

え、体育館の裏のドア、これって開いてたのか。

たしか体育館の2F観客席に行くはずだ。

 

「比企谷君・・・・好きでしょ」

 

えっ、なに、ちょっと聞こえなかったんだが、今”好き”っていったのか? 

ちょ、ちょっと待て、心の準備が。

 

”ジー”

 

はっ、だ、だから、そんなに見つめないで。

 

「比企谷君・・・・・・お願いがあるの。

 わたしの話、聞いて?」

 

”ごくり”

 

やっぱ、告白されるのか。

そうか、こいつはそれほど俺のことを。

ふむ。

確かに俺にだけマッ缶くれたりとか、思い当たる節がある。

だが、マジか。

いよいよ俺の黒歴史に終止符が打たれるのか。

だが三ヶ木すまん、俺はまだ・・・

 

「比企谷君、もっとこっちに来て」

 

「いや、三ヶ木、お前のき 」

 

「ほら、ここならよく見えるでしょ戸塚君」

 

「へぇ?」

 

「比企谷君、戸塚君のこと大好きでしょ」

 

お、おう。・・・・・だよな。

聞こえてなかったよね。

危うく、黒歴史がまた一ページ増えるとこだった。

だがあれは確かに、わが愛しのマイエンジェル戸塚。

そっか、ここで自主トレしてたのか。

か、華憐だ。

やっぱり、とつかわいい。

そうか、この世の楽園はここにあったのか。

 

”ベシ”

 

「いてててっ。

 な、おま、なにを」

 

「ふん、なんかその顔すご~く腹立つんだけど。

 あのね、比企谷君、このベストプライスを紹介したんだから、

 次はわたしのお願いを聞いてもらう番」

 

「・・・お、おう、わかった。

 いくらだ。いくらほしいんだ」

 

「一億円」

 

「く、い、一億円だと。

 わ、わかった、確かにこの場所にはそれだけの価値がある。

 だが、分割にしてくれ」

 

「な、どんだけ戸塚君のこと好きなのよ」

 

「俺の一生かけて守りたい」

 

「はぁ、あのね、そういうのもういいから。

 わたしもう限界だから。

 比企谷君、わたしのお願い。

 昼休み終わる前に起こして」

 

「へぇ?」

 

「もうだめなの。 

 義輝君のラノベ? 読んで感想言わないといけないから

 昨日寝てないの。

 徹夜して読み切ったの!

 だから、もう眠たくて限界。

 お願いね、それにさ午後の授業数学だし」

 

「材木座のラノベ? あぁ、なんか新作ができるとか言ってたな。

 だが、なんでお前が読んでんだ?」

 

「金曜日に奉仕部に持って来てたんだけど、

 ほら料理教室でいなかったでしょ。

 だから、わたしが代わりに引き受けたの。

 ・・・わたしほんとにもうだめ、お休み」

 

確かにあれを読み切るには、相当の忍耐と根気と我慢と

辛抱、それに若干のあきらめが必要だ。

徹夜か、それであんな顔してたのか。

しかしなぁ、三ヶ木。

俺も一応男子だよ、男子だからね。

いたって健康(?)な男子。 

 

「おい、男子の前で寝るなんて、お前不用心すぎるぞ。

 なんかされたらどうするんだ」

 

「なんかするの? 

 ・・・・キスぐらいならいいよ」

 

「おま、」

 

”ぐぅ、ぐぅ。”

 

ってもう寝てるじゃん、はや。

まったくこいつは・・・

ふっ、幸せそうな顔しやがって。

仕方ないな。

この場所教えてもらったし。

どれ天使の舞を堪能しながら飯にするか。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぐぅ、ぐぅ、すか~”

 

しっかし、こいつよく寝てるな。

ふっ、本当におかしなやつ。

少しは警戒してもいいだろう。

なに、こいつ、もしかして俺のこと男子って思ってなくない?

 

「う~ん」

 

”ごろり”

 

ん、こ、これは。

寝返りをうったことで、俺の目に飛び込んだ”小さな二つのふくらみ”。

見るからに柔らかそう。

いかん、触れたい欲望が抑えきれん。

いや待て、これは罠じゃないのか?

そうだ、一色!

あいつがどっかで見てるんじゃないのか。

それでこのふくらみに触れた途端、

 

『せんぱ~い、写真撮っちゃいました。

 通報しますからね』

 

って、出てくんじゃないの?

く、駄目だ。

わかってっていても俺の目はこのふくらみから離れられない。

・・・・・ちょっとならいいよね、ちょっとだけ。

く~、ええぃ。

 

”ぷに”

 

うへぇ~、柔らかい。

何ともいえない感触。

だめだ、やめられん、まさに悪魔の誘惑。

も、もう一回だけ。

 

”ぷに、ぷに”

 

お、おおう!

 

”ぷに、ぷに”

 

ふむ、これはけ~ちゃんに匹敵する・・・ほっぺだ。

ほっぺ鑑定一級(自称)の俺が言うのだから間違いない。

 

”ぷに、ぷに”

 

「う、う~ん。

 ぐう、ぐう、す~」

 

は、いま、おれは何をしてたんだ。

恐るべきこのほっぺの魔力。

俺の理性を壊すとは。

で、でも、最後にもう一回だけ。

 

「・・・かあちゃん。」

 

へ? かあちゃんって。

なみだ? こいつ泣いてるのか。 

はっ、そういえばこいつのお母さんって確か・・・・・・

ふぅ~。

まったく俺は。

 

”がさ”

 

ほれ、風邪ひくぞ。 

う~、さぶ。

さすがに制服を脱ぐと寒い。

明日は何でも雪が積もるらしいし。

ん、と、戸塚。

戸塚見てたの? 見てないよね。 

なに、なんで親指立ててるの。

なんのポーズかなぁ~、八幡わからない。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぐが~”

 

お、おい、それ女子じゃね~だろう。

まったく。

ん?、あれ戸塚がいない。

もう自主練終わったのか?

え、あっ、や、やばい。

 

「おい、三ヶ木! 起きろ。

 やば、昼休みもう終わるぞ」

 

「ふぇ~、ふぁ~い」

 

「ほれ、しっかり起きろ。

 教室に戻るぞ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ドタバタドタバタ”

 

やばい、やばい、やばい。

何がやばいって?

今、気がついた。

俺、こいつの手握って校舎の中走ってる。

何人か生徒とすれ違ったが。

こいつずっと下向いてるから、三ヶ木ってわかんないよね。

なんか、こいつさっきからぶつぶつ独り言(?)いってるけど。

ふぅ、ま、間に合った、授業まであと1分ある。

 

「ほれ、大丈夫か三ヶ木。

 すまん」

 

「・・・なんだろう、なんか頬が痛い。

 あ、でも比企谷君ありがと」

 

「おう、じゃあな」

 

三ヶ木が教室に入るのを見送って、俺は教室に入る。

でも、あいつってあんな小さかったっけ?

なんか制服が? まあいいか。

何とか間に合ったな。

うん、なに? なんか注目されているんだが。

俺のステレスヒッキーが作動しない?

由比ヶ浜、なに指差してるんだ?

川ごえ? いや、川なんとかさんは睨んでるし。 

もしかして、手をつないで走ってたとこを見られてたのか?

 

”ガラガラ”

 

「起立」

 

「礼」

 

「着席」

 

「ん? 比企谷、元気だな。

 寒くないのか?」

 

へ、寒くないかって? ・・・ん、あっ、制服。

 

「いや、寒くないです。 

 先生と違って、俺、若いから」

 

「ぐ、比企谷! 授業終わったら職員室へ来い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「抹殺のラストブリット!」

 

「ぐへぇ~」

 

「馬鹿者が、さっさと風邪ひく前に制服とって来い」

 

「へ~い」

 

”タッタッタッ””

 

確か体育館にあるはずだよな。

さぶ~。

休み時間もあまりないし、このままでは次の授業が厳しい。

なんなら授業中に凍死するレベル。

千葉の寒さ恐るべし。

時間ないし走るか。

 

”ドン”

 

「お、すまない。

 えっ、三ヶ木」

 

「あっ、よかった。

 比企谷君」

 

「す、すまない。

 ちょっと急いでてな。」

 

「もしかして、これ探してたんじゃない?」

 

これは俺の制服か。

あっそうか、こいつにかけてやってたんだ。

 

「おう、そうだ。

 わりい助かった」

 

「わたしこそごめんね。

 授業中寒かったでしょ?」

 

”どきっ”

 

う、上目遣いで見つめないで。

い、意識しちゃうじゃねえか。

・・・・・・そのほっぺ。

ぐへへへ、あ、あの感触きもちよかったなぁ。

は、い、いや、ご、ごほん。

 

「平気だ、寒さには慣れている。

 なんせ、部活には氷の女王がいるからな」

 

「ありがと。 

 ついでにね、袖のボタン取れてたからつけといたね」

 

「ん、これお前のボタンじゃないのか? 

 お前のが一個取れてるぞ」

 

「変わりがなかったから。

 そのボタンは制服貸してもらったお礼。

 じゃあね、そろそろ行くから。

 ・・・・・あ、あのさ、だから壁ドンもういい?」

 

「あっ、・・・すまん」

 

「じゃあね」

 

「おう」

 

やばい、無意識に壁ドンしてた。

確かにこれはやばい、心臓が飛び出る破壊力だ。

はっ、だれも見てなかったよな。

あ!

 

「比企谷先輩、こんにちわ」

 

「あっ、書記ちゃん。

 あ、あの、これは違うんだ、そのつまりだな」

 

「えっ、何がですか? 私なにも見てませんよ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

はぁ、SHR終わった。

部活に行くか。

なんかすごく疲れた一日だった。

特に昼休み以降。

”手繋ぎダッシュ”に”壁ドン”っか。

なんて日だ今日は。

もう、八幡のライフポイントはゼロ寸前。

今日は、雪ノ下の毒舌に耐えられるような気がしない。

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木女子、ど、どうであった? 忌憚なく、感想を述べてみよ」

 

ん、材木座?  

あれは材木座と、またしても三ヶ木。

なに、今日は三ヶ木祭り? 

なんかどこにいっても三ヶ木に当たるような。

は、もしかしたらあいつ本当は五つ子とかじゃね?

感想っていうとあれか。

徹夜したってやつ。

んでどんな感じだったんだ。

 

「三十点」

 

「げふっ、百点満点中三十点とは。

 ちと厳しいのではないか」

 

「違うよ。

 一万点満点中、三十点!」

 

「ぬお~」

 

お、おい。

一万点満点中で三十点って、どんなんだよ。

 

「だってね、義輝君。 

 何の力もなかった主人公が、ヒーローから能力を引き続ぐ力を

 継承して、んで強くなって敵を倒すって・・・・・・

 あんたこれパクリだね!」

 

「・・・・」

 

「あのね、義輝君。

 どんなにくっだらなくても、どんなにへったくそでもいいの。

 わたしは、絶対最後まで読むし、書いた人を尊敬するよ。

 でも、パクリはだめ、パ・ク・リは!」

 

「いや、それはたまたま」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・すまぬ」

 

「ふぅ、でもね、最終章はよかった。

 すっごく良かった。

 わたし五回も読み直しちゃった。」

 

「へ、そ、そうであらん。

 最終章こそラノベの命。

 終わりよければすべてよし」

 

「おい」

 

「す、すみません。

 調子乗りました。

 参考までにどこら辺がよかったであろうか?」

 

「ん、最後ね主人公とヒロインが傷つきながら、お互いを支えて

 ラスボスを倒すんだよね。

 でも、ラスボスの呪いによって、主人公の彼女が意識不明になって。

 そんで主人公はず~と病室で彼女の手を握りながら、

 ひたすら意識が回復することを祈ってるの。

 泣きながら俺のせいだって。

 『俺が世界のために、彼女を犠牲にした』

 って。」

 

「さもあらん、あの場面は 」

 

「黙りなさい!」

 

「ひゃい」

 

「主人公にほのかな想いを抱いていたヒロインも、そんな主人公をみて悲しんで。

 そこに、ラスボスを裏切った将軍がきてヒロインに言うのよね。

 『呪いには呪いで、お前か主人公が悪魔の呪いによって石像になれば、

  ラスボスの呪いが解け、彼女の意識が戻る。』

 って。」

 

「そ、そうで 」

 

「おい!」

 

「すみません」

 

「そこで、ヒロインがすんごく悩むの。

 『このままでいたい。

  もしかして、このまま彼女の意識が戻らなければ、

  主人公がわたしのことも見てくれるかも』

 とかいろいろ葛藤するんだよね。

 でも、決心したヒロインが悪魔に言うの。

 『私を石像に変えて。 それで彼女を助けて』

 って。

 もうわたしダメ~。 思い出しても泣いちゃう」

 

「そう、そこは我が一番 」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「そんで、石像に変えられながら、悪魔に言うんだよね。

 『最後に、主人公の顔を見せてください』

 って。

 そんで悪魔が病室を映し出すんだよね。

 ヒロインの意識が霞むのに合わせて、意識を取り戻す彼女。

 なんも知らない主人公はすんごく喜んで。

 それを見て、完全に石像になる前にヒロインが言うの、

 『最後に、あなたの笑顔が見れてよかった。』

 うぇ~ん、良かったよ、泣いちゃったよ」

 

「そうでござろう。 我が本気を 」

 

 ”ベシ、ベシ”

 

「な、なんで?」

 

「義輝君! よくもヒロインを石像にしたわね。

 これはヒロインの代わり!」

 

「ひど!」

 

「だからお願い。

 次回作でヒロインを元に戻してあげて。

 ほれ、チロロチョコあげるから」

 

「い、いやこの話はもう完結で」

 

「ううう、ぐす。

 義輝君、お・ね・が・い」

 

「う、うむ、よかろう。

 女子のお願いを聞かぬは男子にあらず。 

 安心して任せておくがよかろう」

 

「うん、次回作が出来たらまた読ませてね。

 でもパクリはだめだよ、パクリは!」

 

「わ、わかりました」

 

「はいラノベ、ありがとう。

 じゃあ、またね。

 それから、三ヶ木女子はやめて。 

 昔のとおり、美佳っぺでいいよ」

 

「む、そ、それはチ~とばかり我にはハードルが・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふむ。 誤字とかいっぱい赤線が引いてあるのう。

 ん、写真?

 これは小学校の時の写真ではないか。

 裏になんか書いてある?

 

 ”頑張れ、義輝君。

 あの時話してくれた義輝君の夢をかなえてね。

文豪 義輝先生のファン第一号 美佳っぺ”

 

 ・・・ぬほほん、我は文豪将軍 材木座義輝なり。

 よかろう、我の本気を見せて進ぜよう・・・・・・美佳っぺ」

 

おい、材木座、なんだ、あいつ泣きながら走っていきやがった。

 

「ちっ。」

 

・・・・・なんか、胸がいたい。

でも、あの最終章、俺も読んでみたい、いや読ませて。

あいつにしては上出来だ。

 

「ふぅ~ん。

 なぁ~んか、いい雰囲気でしたねあの二人。

 美佳先輩、あんな感じが趣味なんですかね」

 

「お、おい、一色いつからそこに」

 

「先輩が気持ち悪くイラついているときからですよ」

 

「いや、いらついてね~し。

 それにな、一色。

 あれはそんなのじゃない。

 幼馴染が醸し出す独特の雰囲気だ」

 

そう、同じ過去を共有しあえる二人だから作り上げられる関係。

そこに他人が立ち入ることは許されない。

 

「へぇ~、でも先輩『ちっ』って言ってませんでした?

 それに幼馴染のいない、ましてや友達さえもいない先輩に

 わかるんですか? 独特の雰囲気って」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、それより先輩聞きました?」

 

「なにをだ?」

 

「なんか~、昼休みに目の腐った男が嫌がる女子の手をつかんで、

 無理やり校舎内を引きずりまわしてたそうですよ。

 それだけでは飽き足らず、五限目の休み時間に

 その女子を壁際に押し込んで、脅迫してたらしいですよ。

 先輩知りません?」

 

「い、いや、知らない、絶対知らない」

 

知ってても知らない。

心の奥底に五重のカギをかけて仕舞い込んだ黒歴史。

うっ、なに、その疑いで満ち満ちた目は。 

 

「そうですか~

 本当に知らないんですか~?

 まぁ、いいですけど。

 だけど、目の腐った男ってこの学校にそんなにいませんから。 

 あ、そうだ、今日の生徒会で会議の議題にしょうかなぁ~」

 

「お、おい一色さん? 噂話のそんなことを議題には」

 

「うそですよ~。

 生徒会もそんなに暇ではありません。

 もうすぐ、卒業式ですからいろいろ忙しくなるんです。

 こ、個人的には追及しますけど」

 

「お、おう。

 そっかお前送辞すんだよな。

 ま、頑張れよ」

 

「は~い。

 それでは行きますね。

 ではではです」

 

”ビシッ”

 

「おう」

 

ねぇ、その敬礼ポーズいらなくない?

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

あ~あ、やっと生徒会終わったよ。

今日のジャリっ娘がわたしのを見る目、なんか生暖かったなぁ。

どうしたんだろう。

書記ちゃんは、全然目を合わせてくれなかったし。

まっ、いいか。

さあ、家帰っていっぺん寝よ。

 

「お、三ヶ木ちゃんじゃん」

 

げぇ、あれは、

 

「お、お、お久しぶりです、雪ノ下さん」

 

「そうだよ。

 お料理教室(?)で、久しぶりに三ヶ木ちゃんにも会えると

 思ったのに。

 やっぱり君は来てなかったね。

 またいつもの居残り?」

 

いっつもそうなの。 

この人にはわたしのやることを見透かされてるんだよね。

 

「は、はい」

 

わたし、この人なんか苦手なんだ。

 

「ふ~、変わらないね。

 でも、おねぇさん好きだぞ、三ヶ木ちゃんのそういうところ。

 そ・れ・で、どう、決心ついた?」

 

「い、いえ。

 ・・・・・・まだ」

 

「決心ついたら、ちゃんとおねぇさんに連絡してね。

 期待して待ってるからね」

 

「は、はい。

 それじゃ失礼します」

 

「うん、バイバイ」

 

ふぅ~

・・・・・でもなんだろう。

雪ノ下さん、校門の前でなにしてんだろう。

 




読んでいただき、ありがとうございました。

今回、少しだけオリヒロと八幡の距離を詰めさせてもらいました。

でも、材木座とのエンドもありかなって思い始めてしまいました。

さて、ネタが尽きるまでに12巻の発行を願いながら次の話を頑張ります。

※すみません。

 作中で没ネタにした話の一部を、材木座の小説としてしまいました。

 関係のない話に字数をいただきすみません。

 これでこの没ネタも成仏させてやれます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兆し

ありがとうございます。

今回は、第一章のケツです。 違った”結”です。

11巻末の奉仕部三人の水族館デートのことを聞いたオリヒロ

その心に変化が・・・

よろしくおねがいします。






”ブ~、ブ~”

 

「ん、結衣ちゃんからメール?」

 

『美佳っち、やっはろ!

 あのね、あたし今日ね

 ・・・・・ヒッキーに想いを伝えることができた。(^o^)/

 そんでね、いま三人でサイゼにいるの。

 ほんと、頑張って良かった。

 また、いっぱい話聞いてね』

 

     ・

     ・

     ・

 

その日、結衣ちゃんから届いたメール。

わたし決心した。

・・・・・もう、戻らない。

 

 

 

 

ーーーー 数時間前 ーーーー

 

 

 

 

”ガタン、ガタン”

 

どうしょう。

やっぱり変かな? 変だよね。

いきなり、チョコどうぞなんて。

そんな親密な関係でもないのに。

やっぱ、帰ろうかな。

でも、もう電車に乗っちゃったし。

ちょ、ちょっと、化粧もしてきちゃった。

それに今日渡さないと、明日渡すのもなおさら変だし。

 

そう、今日はバレンタイン。

広川先生に教えてもらったチョコ、作ってみたんだ。

それがなんと、めっちゃうまくできた。

われながらチョ~自信作。

自分で食べようと思ったんだけど、一人で家で食べるのも

なんか寂しくて。

折角うまくできたんだもん。

やっぱ、誰かにあげたいじゃん。

そんで、いつもお世話になってるあいつにあげようと思ったんだけど。

もちろん、ギリだよ。ギリ。

・・・・・ でも、あいつ、なんていうかな。

受け取ってくれるかな。 

 

『まぁ、なんだ、義理だし折角だからもらっておく』

 

て、言いそう。

だって、甘いもの大好きなはずだもん。

ふふ、そん時の顔、思い浮かべたら、なんか笑っちゃうよね。

あいつ、いるかなぁ。

いる!

絶対、コタツだよ?

休日、ましてこんな寒い日には、あいつはコタツに入って

ゴロゴロしているはず。

 

『人が働いているときに、家でだらだらできることほど、

 有意義なことはない。』

 

とかいって。 

あっ、もし、もしだよ。 

 

『おぅ、まぁ、なんだ、外寒かったろう。

 よかったら温まっていくか。

 いやならいいけど』

 

って、家の中に誘われたらどうしょう。

家に入る? たぶん二人っきりだよね。

どうしょう。

そんでさ、コタツの中で足と足が触れたりしてさ。

 

『おぅ、すまん』

 

『あっ、ごめん』

 

とか言っちゃたりして。

 

「えへへへ、どうしょう」

 

     ・

     ・

     ・

 

そんなことあるはずないね。

それにね、この前言われたじゃん。

 

『美佳先輩、応援してくださいね』

 

『美佳っち、応援してね』

 

わかってるよ、わかってるって。

わたしなんかを信用して打ち明けてくれたんだよ。

わたしなんかに。

結衣ちゃんに偉そうなこと言ったけど、

大切な二人のことを裏切れるわけないじゃん。

だから、これはギリチョコ。

そう、これがわたしのギリギリライン。

このラインより先は越えない。

絶対、越えちゃいけない。

膝の上に乗せたチョコの箱。

そのチョコに込められているわたしの初めての想い。

知ってるのはわたしだけでいい。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

うんと、確かこの辺だよね、結衣ちゃんが言ってたの。

どこだろう。

 

”キョロキョロ”

 

比企谷、比企谷ッと。

あ、ここだ!

ほら、いつもの自転車があるじゃん。

へぇ~、ここがあいつの家か。

いいな~、なんか温かそうな家。

どうしょう、呼び鈴押す?

で、でもさ、気持ち悪がられるかなぁ。

 

『え~、何でお前、俺んち知ってるの。 

 こぇー、もしかしてストーカー?

 やめてくれる』

 

って言われたらどうしょう?

たはは、立ち直れないね。

だけど、普通そう思われるよね。

教えてもいないのに家知ってるってコワイよね。

それもチョコ持ってきたなんて。

きっと嫌われるよね。

こんなことで嫌われて、学校でも避けられたら嫌だよ。

だったら、だったらこのまま・・・帰ろう。

で、でも。

 

「はぁ~・・・・・・どうしょう」

 

     ・

     ・

     ・

 

あっ、そうだ。

近くに来る用事あったから、ついでに来たって

言えばいいじゃん。

ついでだから、あくまでもついで。

チョコ渡すだけでわざわざ来るわけないじゃんって。

んで、いつも世話になってるからって渡せば大丈夫。

大丈夫、大丈夫・・・・大丈夫。

よしっ、気合入れていくか!

 

「うらぁ!」

 

”ぴんぽ~ん”

 

げ、押しちゃった。

 

     ・

     ・

     ・

 

“シ~ン”

 

「い、いないのかなぁ」 

 

もうお昼だから起きてるよね。

めずらしいや、どっかいってるのか。

こんな寒いのにご苦労なこって。

・・・・・・わたしがそれをいう?

へへ、ちょっとだけ待ってあげるよ。

感謝しなさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

おっそいなぁ~。

どっか遠くに行ったのかな?

う~、さびぃ。

早く帰ってこないかな。

このわたしを待たせるなんてゆるさん。

なんてね。

う~ん、そうだ! 雪だるまでも作ってよ~と。

 

「ふふふ~♬」

 

     ・

     ・

     ・

 

「出来た! へへ、あいつにそっくり」

 

苦心したよ、この目の感じ。

めっちゃ似てんじゃない?

うんうん。

そんで、ほい、これわたし。

へへ、抜群のスタイル。

えっ、出っ張りすぎ? 

いいじゃん、雪だるまぐらい。

ゆ、夢見させて!

どうせすぐに溶けちゃうんだから。

うんしょっと、あいつの隣においてっと。

へへへ、はやく帰ってこないかなぁ。

 

”プー、プー”

 

やっぱ、電話でないね。

なんか電波の届かないとこにいってるんかな~。

 

     ・

     ・

     ・

 

あっ、もうこんな時間。

晩ご飯作らないと。

はぁ~、帰ってこないのかなぁ。

仕方ない。

あのね比企谷君、チョコさドアにかけさせておいてね。

そっだ、メモ残しとこ。

 

『比企谷君、いつもありがとう。 

追記 義理ね義理。  三ヶ木』

 

さて、じゃあ帰るね比企谷君。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「ぶぇっくしょん!」

 

う~、さむいな~。

 

”ブップー”

 

げ、車!

 

”バシャ!”

 

「ひっど! おい、こら待て。」

 

なんて運転すんの! ひっどいな。

うぁ~ びちゃびちゃ。

あの車、絶対許さん。

帰ったら美佳ちゃんの絶対許さんリストに書いてやる。

えっと、ナンバーなんだったけ? あの青いやつ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ドシャ”

 

「うぁ、冷た~い!」

 

げっ! 電線から雪落ちてきたよ~。

はぁ~、なんだろう今日いいことなんもなかったなぁ~

・・・バチ当たったんだよね。

最近調子乗ってたし。

自分ではできないくせに、偉そうなこと言ってたし。

・・・・・・それに、本当は今日すこし期待しちゃったし。

馬鹿だな~

ほんと馬鹿、身の程知らず。

・・・わたしなんか本気で相手してもらえないのわかってるのに。

 

「くしゅん。」

 

やば!

ほんと寒くなってきた。

さっさと帰って風呂入ろ。

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、あっ結衣ちゃんからメール?」

 

 

 

 

ーーーー そして今 ーーーー

 

 

 

 

もう、いいよ。

髪はびちゃびちゃだし、ズボンはドロドロ。

・・・・・化粧はぐちゃぐちゃ。

すれ違う人、みんな変な顔してわたしを見てる。

なにさ、好きでこんなになってんじゃないよ。

もう、誰もわたしを見ないで。

・・・・・もう誰も見ないで。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「たっだいまー

 ん? 玄関になんか置いてある?

 お、これお兄ちゃんに。

 これは、もしかしてチョコかな。

 へへ、お兄ちゃんやるじゃん。

 小町、ちょ~うれしいよ。

 でも、何で玄関に?

 お兄ちゃんいないのかな。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「たで~ま」

 

”ドタドタドタドタ”

 

「お、お兄ちゃん、どこ行ってたの!」

 

「いや、ちょっと水族館にな。

 ほれ、小町これ見ろ。このペンギンかわいいだろ」

 

「ふぇ、何で水族館? 

 どれどれ、ひゃ~かわいいって、ちが~う。

 違うよお兄ちゃん。

 ほらこれ見て!

 チョコ、これ絶対チョコだよね。

 この、このぉ~お兄ちゃんいつの間に。

 およよ、小町うれしくて涙出るよ」

 

「ん?どれ見せてみろ」

 

「ほい」

 

「なんだ、三ヶ木来てたのか?」

 

「それがさ、わたしが返ってきたとき、玄関に置いてあったよ」

 

「毒、入ってないよな」

 

「お兄ちゃん、それどうかな~ 

 あっ、それと三ヶ木さんだっけ?

 ちゃんとお礼の連絡すること!」

 

「めんどくさいんだが、しなくちゃダメか?

 ほら見ろ小町、ここに義理て書いてある。

 これは気をつかうなってことだ。 

 だから、電話は 」

 

「お兄ちゃん」

 

「はい、電話します」

 

「うん、ちゃんと食べてからね。

 しっかり感想とお礼いうんだよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

『・・・おかけになった電話番号への通話は、お客さまの申し

 出により、現在お断りしております』

 

「え~と、これってあれだよな。

 ・・・・・着信拒否。

 だがなんで」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『ヒッキー、やっと聞いてもらえるね。

 ず~と前から、ヒッキーのことが好きでした。

 いまも大好きです』

 

『おぅ。

 まぁなんだ、ありがとな。

 俺も由比ヶ浜のことが好きだ』

 

『ヒッキー』

 

な、なによ。あんたたち。

わたしの目の前で抱き着かないでよ。

 

『ヒッキー、キスして』

 

な、ちょっと結衣ちゃん。

ここ、どこだと思うの、が、学校だよ。 

えっ、ちゅ~してる。

いや~。

 

『誰もお前のことは見てない』

 

へぇ? なに、なんなの。

 

『お前なんか誰も見てね~んだよ』

 

なんで、あんた誰?

 

『お前が望んだんだろ。

 この勘違い女!』

 

”がばっ”

 

はっ、なに、夢?

夢だったの、なんなんだよ。

ひどい、昨日から嫌なことばっかだなぁ~

はぁ~、今日どうしょう?

外に行って誰かにあったら嫌だし。

そうだ、この前まとめ買いしたマンガあったよね。

古本屋さんで値切ったやつ。

でもあの親父なかなかやるんだ。

結局、50円しか安くしてくれなかった。

 

”ブ~, ブ~”

 

あ、広川先生から?

 

「もしもし、三ヶ木。

 いま、暇か? 暇だろ、絶対暇!」

 

「だから、決めつけないの。 

 まったく。

 でもこの前はどうも、えへへへ。

 ・・・・・ごめんなさい」

 

「あのさ~、ちぃとばかり頼みがあるんだけど。 

 今日、お前暇だもんな?」

 

「もう!

 まぁ確かに暇だけど。 

 もしかして先生、デートのお誘い?」

 

「いや、それはない。

 絶対に」

 

「ひど!

 まぁいいけどさ。

 で、なんですか?」

 

「あのな、今日学校行ってくれない。

 俺さぁ、今日入試の受付しないといけないんだけど、

 ちょっと風邪気味で。 

 ゴホン、ゴホン」

 

「・・・しらじらしい」

 

「いや、本当だよ。

 この前、職員室でなぜか徹夜しちゃってさ~」

 

「・・・・・・」

 

「ゴホン、ゴホン。

 というわけで、よろしく」

 

「・・・いいよ。

 今日、一人でいたくないから。

 でも先生行かなくても大丈夫?

 怒られない?」

 

「おう、受付にもう一人の先生いるから

 風邪って言っておいて。

 それじゃ」

 

「ちょ、ちょっとまって。

 せんせ~」

 

切りやがった。

まぁ、ちょうどよかった。

今日さ、一人きりはなんか・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

とは言ったけど、昨日はあんまり寝た気がしなくて。

ふぁ~あ、眠たい。

ん、あれは平塚先生。

あぁ、もう一人の先生って平塚先生か。

先生もいろんな役押し付けられて大変だね。

 

「おはようございま~す」

 

「ん、三ヶ木じゃないか。

 今日は入試試験で学校は休みのはずだが?

 どうした、もう一回入学しなおすのか?」

 

「いぇ、もうあの地獄は結構です。

 あの、なんか広川先生は風邪ひいたそうで、代わりに来ました」

 

「なっ、あのバカは生徒を代わりにしたのか。

 まったく」

 

「あ、先生、いいですよ。

 ちょうど広川先生には借りがありましたから」

 

「すまんな。

 あいつには後からきつ~く言っておくから」

 

「は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、受験会場はこちらですよ」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「トイレはここにあります。

 試験の前には必ずいっておいてくださいね」

 

「おう、三ヶ木。

 こっちも誘導してくれ」

 

「は~い」

 

ん、あの子、どうしたんだろ。

さっきから玄関にいるけど。

 

「ねぇ、君どうしたの?

 なんで教室に入らないの?」

 

「あ、あの~、ごめんなさい。 

 内ズック忘れました。

 ど、どうしよう」

 

「なぁ~んだ、そんなこと。

 ちょっと待ってて」

 

えっと~確かここに

マジックあったよね。

 

”カキカキ”

 

よしっと。

 

「はい、このスリッパ使って。

 お、君、このスリッパの番号、No. 7じゃん。

 ラッキーセブン。

 君ついてるよ、試験頑張ってね」

 

「あ、はい。

 ありがとうございます。

 俺、刈宿狩也っていいます。

 絶対合格してみせます」

 

「うん、頑張ってね」

 

「お~い、三ヶ木。

 ちょっといいか?」

 

「は~い、じゃあね」

 

「・・・三ヶ木先輩か」

 

「三ヶ木、お前勝手にスリッパに番号を書くな。

 まったく。

 少しイケメンだったな、好みか?」

 

「えっ、そうですね。

 わりとわたし、メンクイかもです」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、ひと段落だね。

うんしょっと。

 

”どさっ”

 

静かだね~。

みんな試験中っか。

あ、この場所であいつ助けてくれたんだっけ。

この告示板のところ。

それで・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~、なんかだいぶ前のことみたい。

・・・もう思い出したくない。

 

「なぁ、三ヶ木。 ちょっといいか」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「お前、なんかあったのか?」

 

「いえ、なんもないですよわたしは」

 

「そうか。

 そうだ、お前進路希望は就職なんだってな」

 

あぁ、そのこと。

そうだよ、わたしは卒業したら働くつもり。

 

「はい、ここに入学する前から決めてました」

 

「ふむ。

 だったらなぜ総武でなく、ほかの職業系の高校を

 選ばなかったんだ?」

 

「・・・・・先生。 あのね、総武高校はわたしのかあちゃんが

 通った高校。 

 かあちゃんが通った高校にいけば、かあちゃんのこと

 少しでも感じることできるかなぁって。

 へへ、なんか馬鹿でしょ?」

 

「ふ、あぁ、そうだな。

 この馬鹿者」

 

”なぜなぜ”

 

せ、先生、頭はなぜないで。

なんか、なんか今日は・・・・・・駄目なんだ。

 

「なぁ、三ヶ木。 終わったら飯食いに行くぞ。

 ラーメンでいいか、ラーメンで。

 お前、面食いだから」

 

「はい、わたしメンクイです」

 

     ・

     ・

     ・

 

「さようなら」

 

「また、明日な」

 

「おう。お前もがんばれよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふ~ん。 

でもあんたさ、彼が頑張ったら、あんた落ちるかもよ。

へっ? ひど、わたし何言ってんの。

わたし最低だ。

 

「三ヶ木、そろそろ行くか」

 

「は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふふふ~ん♬

 やったぞ、並んだかいがあった。

 ついに手に入れたアカ俺の初回限定版フィギュア付き

 ブルーレイセット。

 このカエルちゃん、いいよな~、めっちゃかわいい」

 

「あっ、あれ、広川先生。 

 えっ、なんで?

 やっぱり風邪って 」

 

「ちっ、やっぱりあのバカは」

 

「るんるん♬

 早く帰って観よ」

 

「ふ~ん、何を観るのかなぁ~」

 

「え~、なにをって、この・・・・・・」

 

「おい、お前風邪じゃなかったか」

 

「せ、先生、ひど~い。

 わたしすごく心配してたのに」

 

「いや、その、だって今日並ばないと手に入らなかったから」

 

「はぁ~、お前な」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「すまんな三ヶ木、こんなやつで。

 まったく、大学からち~とも変わらん、このバカ」

 

「いや、俺先輩だから先輩。

 すこしは敬意を 」

 

「抹殺のラストブリット!」

 

「ぐへぇ~」

 

「全くこいつは。

 ほれ行くぞお前も一緒にこい」

 

「行くってどこへ?」

 

「ギトギトだ。

 おごりの約束だったろ。

 それと三ヶ木の分も。

 お前の代わりに働いたんだから」

 

「広川先生、わたしは塩でいいよ。

 ふつうの」

 

「・・・・・あ、あの、今日はブルーレイを観たいな~って」

 

「おい」

 

「す、すみません」

 

「それから、これはわたしが借りておこう」

 

「あっ平塚先生、わたしもそれ観た~い。

 そのシリーズ大好きなの」

 

「おう。

 じゃあ、休み明けに職員室まで取りに来い」

 

「はい、でも職員室で大丈夫?」

 

「あぁ、万一没収されても大丈夫だ。

 どうせこいつのだから」

 

「ひぇ~、勘弁してよ。

 今日、五時間もならんだんだから」

 

「えへへ。

 さぁ、広川先生いこ。

 なんかうれしい、先生とラーメン屋さん行くの」

 

「ブルーレイ、早く返して」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どうだ、うまいか?」

 

「うん、だっておごりだもん。

 広川先生、ご馳走様」

 

「お、おう」

 

「でも、ちょっとしょっぱいね」

 

「三ヶ木、お前・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご馳走様」

 

「おいしかったぁ~

 また連れてきてね、広川先生」

 

「いやだ」

 

「それではな、車を取ってくるからここで

 待っててくれ。

 おい、お前も送っていくから、三ヶ木をみててくれ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・なぁ、三ヶ木。

 なんかあったのか?」

 

「へぇ、なんもないよ、なんも」

 

わたしにはなんもない、初めから。

そう何もなかったんだ。

だのに勘違いして・・・

 

「じゃあ、何で目赤いんだ」

 

「あ~、昨日ゲームのやり過ぎで眠たくて」

 

「そうか。

 ・・・ならな、その瞳からこぼれているのはなんだ?」

 

「えっ?」

 

いつからわたし泣いて・・・

だ、だめだ、とまらない。

なんで。

 

「しず、

 ごほん、平塚先生が言ってたぞ。

 入試終わってから、ず~と泣いてるって」

 

「・・・・・あのね、先生。

 お願いがあるんだ、十秒だけ胸かして」

 

「・・・あぁ」

 

「ぐすん。 う、う、ううううう」

 

「十秒でも十分でも気のすむまで貸してやる」

 

「う、う、うぇ~ん、うぇ~ん・・・・・・なんか、もうやだ。

 わたし、なんでこんなに馬鹿なんだろう」

 

「三ヶ木」

 

「・・・先生ごめんなさい。

 服汚しちゃた」

 

「そんくらい洗えば済むことだ、気にすんな」

 

「先生、先生はいつも助けてくれたね。

 小学校の時からず~と」

 

「小学校?」

 

「ほら、ノート事件の時」

 

「あ~、あんなもん助けたうちにならんだろう」

 

「助けてもらったもん。

 わやたしね、すごくうれしかった」

 

”だき”

 

先生、やっぱりあったかいや。

あの時とちっとも変わらない。

もう少しだけ。

 

「待たせた・・・

 な、お、お前ら、何やってんだ」

 

「平塚先生!

 急に広川先生が抱き着いてきて。

 助けて!」

 

「え、うそ! いや、お、おれは何も」

 

「貴様、フィギュアでは物足りず、とうとう生徒にまで手を」

 

「いや、ち、違う」

 

「抹殺のラストブリット!」

 

「ぐはぁ」

 

「やった!大成功。

 仮病つかった罰だからね、先生」

 

「・・・・・・おんなって怖い」




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今回、ヒッキーに対する気持ちに、無理やりひと段落付けてしまいました。

でも、オリヒロの心になにかが。

※ゲーム入手できました。
 
 次章もあるけど、ゲームにのめりこみそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 大事なもの
わたしの大事なもの


ありがとうございます。

当初の予定の10話超えることができました。

前回、ちょっとオリヒロ壊れかけてしまい・・・

第2章からは、オリヒロの大事なものを探す旅、描けていけたらと思います。 


※先日、ゲームが手に入ったんですが、結衣ルートにはまってしまいました。

 おかげで投稿する時間がだんだん遅く・・・・。 






「それじゃ、サッカー部さんは、参加ということでよろしいですか?」

 

「あぁ、是非参加させていただくよ。

 先輩たちには、いろいろお世話になってるからね。

 お祝いさせてもらうよ」

 

「はい。

 では、内容とかは後日改めて打ち合わせさせて頂きますね」

 

「ああ、よろしく頼む。

 それといつも頑張ってるね、三ヶ木さん」

 

「へ、葉山君、わたしのこと知ってるの?」

 

「いや、当たり前だと思うが?

 なにを驚いてるんだい」

 

「うううん、な、何でもない」

 

だって、今まで雪ノ下さんからしか名前呼んでもらえなかったもん。

あの男からは、『お前生徒会にいたっけ』って言われたし。

 

「お~い、隼人君、そろそろ紅白戦はじめんべ。 

 って、誰ちゃん?」

 

「あ、生徒会の三ヶ木です。

 ちょっと卒業生を送る会の件で部長さんお借りしてました」

 

「生徒会の三ヶ木さん? 

 ちょうどよかった。

 いろはすに行っといてくんねえ。

 みんな寂しがるから、たまには部活にも顔出してほしいんだわって」

 

「戸部、それはこの前も行っただろ。

 いろはは生徒会だから仕方ないって」

 

「だけどよ~、このところ全然顔出さないじゃん。 

 やめたわけじゃないしよ。

 他のマネージャーの手前、しめしがつかないって」

 

「戸部君、ごめんなさい。

 わたしからもお願いします。

 当たり前だけど、生徒会に会長の代わりはいなくて、

 会長がいないと生徒会が機能しないの。

 それに一色さんも最近ようやく会長らしくなってきたとこだし。

 だから、任期の間は生徒会に専念させてほしいの。

 お願いします」

 

「戸部、この前のバレンタインでもいろは頑張ってただろ。

 俺たちもいろはを応援してやろう」

 

「隼人君がそういうんじゃしゃないわ。

 そんだな、いろはす、結構頑張ってるもんな。

 いろはすって妹ポジじゃん。 

 俺も心配なとこあっからよ。

 えっと、三ヶ木さんだっけ?

 しっかりサポートしてやってくんない。

 まじ頼むんだわ。

 んじゃ隼人君、先いってんべ」

 

「三ヶ木さん、すまない。 

 いろはには、サッカー部は気にしないように言ってあるから。

 生徒会に専念してもらって構わないよ」

 

「・・・・・はい。

 人気あるんですね、会長」

 

「そうみたいだね。

 じゃあ、出し物の内容は詰めておくので、

 また連絡もらえるかな」

 

「あ、はい、よろしくお願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・それじゃ、野球部さんも参加ということで

 よろしくお願いします」

 

「うん。

 あ、そうそう、次は会長さんに来てほいいなぁ~

 なんちゃって。」

 

「詳細な打ち合わせの時には会長も出席しますので、

 その時までのお楽しみってことで、よろしくお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・バスケ部さんよろしくお願いしますね。」

 

「了解。

 ねぇねぇ、一色さんの連絡先教えてくれる?

 いろいろ相談したいから」

 

「あっ、それは会長に伝えておきますね。

 ほら、お互いに交換したほうがいいかなぁって」

 

はぁ~、やっぱジャリっ娘って人気あるんだね。

かわいいもんね。

ふん、わたしの魅力は大人しかわからないのよ。

でもさ、みんなして『会長さん、頑張ってるね』って。

わたし、葉山君からしか言ってもらえなかった。

・・・・・まぁ、いっか。

遅くなっちゃったし、急ごっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「すみません、遅れました」

 

あれ、ジャリっ娘いないね。

 

「ねぇ、稲村君。

 会長、帰っちゃった?」

 

「いや、まだ来てない。

 またいつものとこだろ、まったく」

 

げ、また奉仕部いってんの。

しかも稲村君のこの態度。

なんか本牧君も書記ちゃんもいつもと違うね。

ちょっとやばい雰囲気。

そうだ、ちょっと待っててよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、みんな、ご苦労様。

 寒いからこれ飲んで温まってくださいね」

 

じゃじゃ~ん、ここで登場、美佳ちゃんオリジナルスーパーブレンド・・・・。

なんでもないっす。

さぁさぁ、飲んでみそ。

 

「え~、何の罰ゲームだよ」

 

「今日は寒くないからいらないかなぁ~」

 

ひっど~、な、何さ二人して!

・・・まぁ、仕方ないか。 

まずは、わたしから。

 

「いっただきま~す」

 

”ごくごく”

 

「お、おい、平気なのか?」

 

「わ、わたしもいただきますね。

 ・・・ あっ、うそ、美味しい。

 み、三ヶ木先輩、飲めます」

 

ひっど、ちょ~ひど。

飲めますって書記ちゃん、ひどいよ~。

 

「ほんとか? どれ。

 ・・・おおう、これは飲める」

 

いや、だからひどいって。

くそ稲村! 覚えてろ。

 

「ほんとだ、三ヶ木さん飲めるよ」

 

も、本牧君まで!

もう、いいです・・・はぁ。

 

「はいはい、ありがとうございます、もう!」

 

「ごめんなさい」

 

「お代わりいただくよ」

 

「わりぃ、冗談だよ」

 

ふぅ、なんとか雰囲気和んだ、よかった。

雪ノ下さんみたいな紅茶入れようと思っても無理だかんね。

気張らず、普通の紅茶でいいんだよね。

 

「よし、今日は出欠大サービス。

 はい、チロロチョコデラックス詰め合わせ。

 よかったら食べて」

 

「よ、三ヶ木、今日は太っ腹。

 いや! 太っ腹飛び越して三段腹」

 

「・・・・褒めてるのよね、い・な・む・ら! 

 まぁいいわ、みんなどうぞ」

 

”パタパタ”

 

ん、あの足音、やっと奴が来た。

まったく、さっき会長らしくなったって褒めたばっかりなのに。

 

「すみませ~ん、遅くなりました。

 えっ、なに飲んでるんですか~」

 

「会長もどうぞ」

 

「げ、美佳先輩の紅茶。

 き、今日は罰ゲーム大会ですか?」

 

はい、もう慣れました。

まったく、どいつもこいつも~

 

「みんな、飲んでるんですか?

 じゃあ、私もいただきまぁ~す」

 

”ゴクゴク”

 

「・・・えっ、飲める。

 なんで?

 まぁ~、特別に美味いわけじゃないけどなんか安心するような」

 

いや、なんでってなに。 

そんなことよりみんなの手前、ちゃんと言っとかなくちゃ。

まぁ、紅茶が目的で奉仕部にいってるんでは無いんだろうけど。

ほんとは本牧君、副会長のあんたが言いなさいよ。

 

「会長、こんなんでよかったら毎日淹れますので、

 あまり寄り道をしないでください」

 

「は~い。

 そうですね、なんか奉仕部さん微妙な雰囲気だったし」

 

微妙な雰囲気?

あっ、そうだ、そうだよ結衣ちゃんが・・・・

奉仕部にはしばらく会長行かせないほうがいいよね。

これからは少し距離を取らせたほうが、この娘のためにも。

 

「え~と、それでは始めましょうか。

 じゃあ美佳先輩どうぞ」

 

「あ、はい。

 それでは始めますね。

 まず最初に年度末資料の件についてですが、なんとか

 みんなの分も出来上がってきたのでまとめました。

 あとは卒業式関係の分を追加でき次第、先生に提出したい

 と思いますので、会長あとでチェックお願いします」

 

「了解で~す」

 

「次は卒業生を送る会についてですが、これはここ5年分の

 資料のコピーです。

 配りますので確認してください」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・んで、以上の部活さんからは参加のご連絡を頂いてます。

 あとは例年通りですと、スライドショーと先生方の出し物

 の確認になりますね。

 以上です」

 

「う~ん、やっぱり当日だけを考えても、

 生徒会だけでは人数足りそうもないじゃないですか」

 

「そうだな。

 三ヶ木さん、音響とか照明とかも生徒会でやるのか」

 

「いえ、音響や照明は放送部さんや演劇部さんにお願いしてますから、

 実際には進行とが調整・雑用的なものがメインですよ」

 

「え~、でも人数的に余裕はほしいじゃないですか。

 ここは奉仕部さんに協力していただきましょうね」

 

会長、あなたはしばらくは奉仕部に関わらないほうがいいって。

だって、あの男は結衣ちゃんと・・・

それに、いつまでも奉仕部に頼るのやめようよ。

 

「去年もですが、いままでもず~と生徒会でやりましたよ。

 それにクリパからずっと、生徒会の行事に奉仕部が絡んでた

 じゃないですか。

 卒業式関係ぐらい、生徒会だけでやらないと」

 

「でも、ほら人数が少ないと万一ってこともあるじゃないですか?

 美佳先輩が追試になるとか、美佳先輩が病気になるとか、

 美佳先輩がふられて落ち込んじゃうとか、美佳先輩が馬鹿 」

 

「いや、もういいから!」

 

なんで、わたしばっかり。

それに、もう何もない前からふられたし。

くしょ~。

・・・追試はやばいかもだけど。

ん? 馬鹿ってなに!

まぁ、馬鹿だからいいけどさ。

 

「それに、もう奉仕部さんに協力を頼んできちゃいました。 えへ♡」

 

「な、なんということを」

 

「まぁ、三ヶ木さん。

 時間もあまりないし、この際は人数は多いほうが」

 

「そうだよ、三ヶ木。

 三ヶ木の分も少しは楽になるじゃん」

 

「あのね、本牧君も稲村君も知ってる?

 他の生徒から今年度の生徒会は頼りならないって言われてるの。

 会長以外、ほとんど名前も顔も覚えられていないし。

 書記ちゃんは知ってるんでしょ」

 

「ほんとか書記ちゃん?」

 

「・・・うん。

 稲村先輩、実はわたしも生徒会役員って知られてなかったんですよ」

 

そうなんだ。

去年も名前は知らなくても、あ、あのメガネの人って感じで

役員の顔はある程度知られていた。

・・・わたしは別格・・・だけど。

だって当時はわたし眼鏡してなかったから。

恐らくそのせいだ、絶対に!

それに比べ今の生徒会は存在感が薄すぎてさ、ほんとにやばい状態なの。

 

「でも、そんな気にしないでいいじゃないですか~

 わたしのことはよく知られてるみたいですし。

 それに、なんか一色いろはの陰の軍団ってみたいで、

 なんかカッコいいじゃないですか」

 

「いや、だから、その陰の軍団が頼りなさすぎて、いっつも奉仕部頼み

 って思われてるんです」

 

特にさ、あの二人目立つから。

綺麗だし、可愛いし。

それに、あともう一人も違う意味で目立ってるから。

 

「え~、思いたい人には思わせとけばいいじゃないですか」

 

「そうはいかないの。

 これから各部活さんとの部費の調整や前期生徒総会とかあるんだから。

 ある程度、生徒会としての存在感と威厳がないと」

 

「大丈夫ですよ。

 何とかなりますって。

 それに、明日打ち合わせっていうことで、奉仕部さん呼んでますので」

 

「三ヶ木さん、どうだろう。

 今回だけは万一の時の保険って感じで協力してもらおう」

 

「そうだよ。

 っで、三ヶ木お前ふられたの?」

 

「いや、ふられてはないから。

 それ以前の・・・・

 ご、ごほん!

 保険でいいのね、保険で」

 

「な、会長いいだろう」

 

「まぁ、いいですけど。

 それじゃ、基本的な内容は例年の線に沿ってということで、

 でも私的には、なにかパァッとしたものがほしいんですが。

 まぁ、明日詳細な担当の割り振りとスケジュールを詰めましょう。

 では、卒業生を送る会の件はこれまでっということで」

 

「ご苦労様」

 

ん、なに、なんかジャリっ娘そわそわしてる?

 

「あの~みなさん、ちょっといいですか~」

 

げ、この上目使い。

それにそのあざとさいっぱいの笑顔。

絶対になんかあるの間違いないよね。

嫌な予感が・・・

 

「会長、なんでしょう」

 

「みなさん、もう一つ忘れてません?」

 

なに? なんか他にあったっけ?

ん、本牧君、稲村君、何下向いてるの?

書記ちゃん、あ、目そらした。

 

「え~、忘れてないですよね?

 ね、稲村先輩。えへ♡」

 

「あ、いや、その~」

 

な、なに、なんかあったの。

 

「ひど~い。

 稲村先輩ひどいです。

 ぐす、ううう」

 

「あ、ご、ごめん。

 覚えてる、覚えてます会長」

 

でた、うそ泣き。

涙出てないんですけど!

お、おい稲村、おまえ動揺しすぎ。

くそ、な、何があったんだ?

 

「あの~ちょっと稲村君。

 こっち来てくれるかなぁ~ えへ♡」

 

「うわ、キモ」

 

おい、てめぇ、さんざん練習したのに。

何時間も鏡見て。

ううううう、こ、この野郎!

 

「いいからこっち来い!」

 

”ギュ”

 

「いたたた!

 わかった、わかったから耳つまむな」

 

まったく。

 

”ガラガラ”

 

「で、なに、なにがあったの?」

 

「実はな、お料理教室の後、・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

な、なに! またあのジャリっ娘は何ということを。

 

「んで、その場には本牧もあんたもいたんだろ!

 なんで止めねぇんだよ!」

 

「いや、三ヶ木怖いから。

 それ地?」

 

「え~、違いますよ~ 

 そんなわけないじゃないですか~ えへ♡」

 

「・・・・似合わん、やっぱキモイ」

 

くっそ、天は不平等だ。 

いや、そんなことより。

 

”ガラガラ”

 

「あ~、やっと帰ってきた。

 二人で仲良くどこ行ってたんですか?

 もしかしてお二人は付き合ってるとか?」

 

「ない、絶対ない」

 

即答かよ!

稲村、すこしは間をあけろ、間を。

しかも”絶対”っていったね。

いいけどさ、あんた最近、書記ちゃんに気があるようだから。

でも生徒会室での修羅場はごめんだよ、お願いね。

あ、そんなことより

 

「会長、マジでスキー合宿を主催するっていったんですか?」

 

「はい、ついノリで言っちゃいました」

 

ノ、ノリでってあんた。

 

「で、いつ行くんですか?」

 

「え~と、美佳先輩は知りませんでしたっけ。

 あ~、そうそう、料理教室来てませんでしたもんね。

 なんか勝手にどこか行ってたみたいで。

 まぁ、いいですけど。

 日程は、明後日です」

 

「はぁ!」

 

「だから今度の月曜日、学校の創立記念日のお休みを利用して、

 二泊三日で行いま~す。

 場所は、学校がお借りしていましたロッジを生徒会で押さえられ

 ましたので格安でいけますよ」

 

「参加者はどうすんですか?」

 

「え~と料理教室に来てたメンバーで、奉仕部の皆さんと、

 葉山先輩のグループ、はるのん先輩、城廻先輩、それと川ごえ先輩?

 あ、それと小町ちゃん」

 

「・・・どこが、生徒会行事なんですか?」

 

このジャリっ娘いや、このジャリ、なに考えてんの!

これは生徒会主催じゃなくて、あんたの仲良しグループの

スキー旅行じゃない。

はぁ、少しは成長したんだと思ったんだけど、

わたしの勘違いだったのかなぁ。

 

「会長、これのどこが生徒会行事なんでしょうか?」

 

「え~、ほらみんなでスキー練習して、親睦深めたり協調性

 を高めたりって」

 

「だから、何で一部の生徒だけの参加なんでしょう?

 ・・・・それと、生徒じゃない人もいるんですが」

 

「まぁ、それは成り行きってことで」

 

「別に、スキー合宿がダメだっていってるじゃないんですよ。

 するのだったら、全生徒に参加を呼びかけてやるべきです」

 

「そんなのめんどくさいじゃないですか、時間もないし」

 

「会長!

 それなら、個人的に行ってください。

 ただでさえ、卒業式を迎えて時間ないのに」

 

「まぁ、三ヶ木さん落ち着いて」

 

「本牧君、いえ副会長。

 副会長は生徒会行事と思うんですか?」

 

「いや、ち、違うと思うんだが。

 だけど会長が宣言してしまったし」

 

「稲村君、経費の申請通ると思う」

 

「このままで通すのはちょっと難しいんだ」

 

「そうよね。

 というわけで、会長の個人的な集いということでお願いします。

 くれぐれも生徒会の主催ではないということで」

 

「な、なんですか!

 そ、それじゃ、多数決で決めましょ」

 

「いろはちゃん、今回はやめといたほうがいいよ」

 

「ぐぬぬ、書記ちゃんまで。

 ・・・だって明後日なんですよスキー合宿。

 もう、ロッジも押さえたし。

 美佳先輩、ほんと頑固!」

 

「会長、もし、もしもですよ。

 スキー合宿をこのまま生徒会主催でやったとしますよ。

 それが、ほかの生徒に知れ渡って生徒総会で質問でもされたら

 どう答えます?

 全校生徒の前で、最悪生徒会が締め上げられますよ」

 

「そ、それは。

 でも・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

ん~、あれからみんなして下向いてる。 

空気が重いよ。

だって、わたしの言ってること間違いないでしょ。

・・・・・・もう、仕方ない。

それしかないっか。

確かこの引き出しに入ってたよね。

 

”ガサガサ”

 

あ、あった。

 

「会長、大至急これに名前書いて」

 

「ふぇ~、これって」

 

「そう、部活動・同好会申請書。 

 さっさとスキー同好会の申請してください。

 まだ平塚先生いるでしょうから、すぐ印鑑もらってきます」

 

「えっ、平塚先生?」

 

「平塚先生も参加するんでしょ。

 責任とってもらって顧問になってもらいます」

 

「そうか、スキー同好会主催にするんだな三ヶ木」

 

「それしかないじゃん。

 スキー同好会の依頼でロッジを生徒会が借りましたってことで」

 

「美佳先輩!」

 

”だき”

 

げぇ、抱き着かないで、くるし~。

でも、なんかいい香り。

結衣ちゃんとは違って華奢。

い、いいよね、わたしも抱きしめて。

ぐふふふ

 

「はっ、なんか急に悪寒が。

 いま、美佳先輩変なこと考えてたでしょう?」

 

「いや、考えてないから。

 ・・・あの、す、少ししか」

 

「まぁ、いいですけど」

 

”カキカキ”

 

「はい、名前書きました」

 

「代表は会長で、あととりあえず葉山君らのグループが会員と

 いうことにしておきますので、会長から話しておいてくださいね。

 それと、生徒会から費用はでませんから」

 

「かしこまり」

 

「まったく。

 で、みんな参加するの?」

 

「いや、ちょっと週末は用事あるんだ」

 

「あのう、わたしもちょっと無理かなぁって」

 

「・・・俺もちょっと無理」

 

なに、生徒会から会長一人だけいくことになるんだったの。

生徒会主催だったんでしょ。

 

「え~、皆さん行きましょうよ」

 

会長、あんた一人だけだよ。

わたし? わたし呼ばれてないっし。

今日初めて聞いたんだもん。

それにロッジが借りられたとしても、交通費は個人負担でしょ。

ち~と厳しい。

 

「そ、そうですか・・・

 いいです、私一人で行ってきます。

 あの、お土産期待してくださいね」

 

・・・・・まったく、そんな顔して見つめないで。

交通費きついのよ。

それにわたし、スキーなんて行ったこともないし。

・・・・・もう

 

「わかりました、わたしも行きます」

 

「ほ、本当ですか。 

 ・・・仕方ないですね。連れて行ってあげます。えへ♡

 それでは今日はこれでお開きってことで。

 ご苦労様でした」

 

     ・

     ・

     ・

 

とはいったものの、きっついな。

いくらかかるんだろう。

交通費だけで二万円ぐらいかなぁ。

それとどうしょう、わたしウェアなんて持ってないし。

スキーってあと板となんか刺すやついるんだっけ。

どうしょうかなぁ。

 

「たっだいま~」

 

って誰もいないよね。 

はぁ、考えてても仕方ないよね。

ミ~ちゃん、ごめんなさい。

成仏してね。

 

「せ~の!」

 

”ガチャン”

 

うぇ~ん、ミ~ちゃん、わたしはあなたを忘れないよ。

・・・はぁ、みんなとの卒業旅行用に貯めてたんだけど、

仕方ないよね。

え~と

 

『とうちゃん、ちょっとららぽまで行ってきます。

 仕事中だと思うので、終わったら返信してね』

 

っと、よし行ってくるか。

 

     ・

     ・

 

ついたけど、あんまり時間ないね。

え~とスポーツ店はどこだっけ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「え~、こんなに高いの」

 

うっそ、どうしょう。

安いやつで、さ、三万円。

なんでこんな高いの。

・・・無理だよ。

はぁ~、もうジーパンとかでいいや。

ロッジからでなければいいんだよね。

やっぱりスキーなんて身の丈に合ってないや。

・・・・・・帰ろう。

 

「ママ、わたしこれがいい」

 

「うん、似合ってる。

 これにしよ」

 

「パパ、ママ、ありがとう」

 

・・・・・いいなぁ。

わたしがいけないんだよね。

わたしが悪い子だったから。

 

『そうだ、お前が悪いんだ。

 すべてお前が悪い』

 

えっ、なに? だれ。

なんなの、あんときの夢の中の声?

あはは、なんか、なんだろう。

・・・はぁ~、帰ろう。

 

”だき”

 

えっ?

 

「だ~れだ」

 

え?

こ、この声、それにこの匂い。

 

「め、めぐねぇ!」

 

「うん正解。

 久しぶり美佳。

 こんなところでどしたのかな~」

 

だめ、めぐねぇに心配かけちゃだめなの。

だれか知らないけど、すこし消えてて。

 

「あ、あのね、明後日スキー合宿って聞いて。

 わ、わたしウェアとかないから。

 で、でも思ったより高くて」

 

「お~美佳も行くの。

 やった~。

 どれどれ、わたしが選んであげる。

 さぁ、おいで」

 

「いや、でも、わたし・・・」

 

「ほらほら」

 

”スタスタスタ”

 

ん、そっちは出口。

どこ行くの?

でもめぐねぇの手、やっぱ温かい。

大好き。

 

     ・

     ・

     ・

 

どこに行くんだろう。

確かこの先って。

 

「ね、ねぇめぐねぇ。

 ここってさ」

 

「うん?

 いいからいいから」

 

”スタスタスタ”

 

「ほら着いた

 さぁ、上がって」

 

やっぱりそうだ。

ここってめぐねぇの家。

なつかしい、あまり変わってない。

あ、当たり前か。

まだ3年ぐらいしかたってないや。

 

「ただいまー

 おかあさん、ほら美佳連れてきたよ」

 

「え、美佳ちゃん?

 まぁ、きれいになって」

 

「あっ、ご無沙汰してます。 

 ・・・きれいになった?」

 

「う~ん、社交辞令」

 

「ひど!」

 

「あはは、ほら上がって。

 ご飯食べていきなさい」

 

「あ、でも、とうちゃん帰ってくるから」

 

「心配ないって。

 お持ち帰りも作るから食べていきなさい」

 

「うん」

 

「じゃあ、先にウェア選んであげる。

 ほらおいで」

 

えっ、でもここめぐねぇの家でしょ。

 

「美佳、こっちこっち」

 

めぐねぇの部屋? もしかして・・・

 

「う~ん、どれが似合うかな?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うん、やっぱこれ。

 これが一番かわいい」

 

「めぐねぇ」

 

「馬鹿、なに泣いてんだこの~。

 あっ、わたしが着たのはいや?」

 

「わ、わたしめぐねぇのお古がいい。

 うううん、お古じゃなきゃいや」

 

”だき”

 

「美佳ごめんね、生徒会押し付けちゃって。

 つらくない?」

 

「うん、だいじょぶ」

 

「無理しちゃだめだよ。

 美佳は何でも一人やろうとしちゃうから。

 いい、人に任せられるところは我慢して任せること。

 わかった?」

 

「うん」

 

「それと、もう一つ。

 私に遠慮してるんでしょうけど、気にしないでなんでも話すること。

 わかった?」

 

「うん」

 

「めぐり、美佳ちゃん、ご飯よ~」

 

「は~い。

 ほら行くよ」

 

「うん」

 

めぐねぇ、めぐねぇのお母さん。

ありがと。

わたし、やっぱり、めぐねぇ大好き♡




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

徐々に、オリヒロの過去もいれていきたいと思います。

オリヒロの大事なものを探す旅、ゴールにたどり着けたらなぁと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自立

ありがとうございます。

いつも同じ始まりですみません。

今回からスキー合宿編です。

まだゲーム完全にクリアーできてないから

つじつまが合わないところがあったらご容赦ください。

※今回、特にこれは違うんじゃないかって思われるところが

 あると思いますが、お許しいただきたく、お願いいたします。


はぁ~、まだ面と向かうの辛いな~

だってまだあの日から三日しかたっていないんだもん。

で、でも仕方ないよね。

なるべく目を合わせないようにっと。

 

「はい比企谷君、飲みものと今日の資料です」

 

「おうご苦労さん。

 ・・・・・うん?」

 

はっ、な、なに?

なんでわたしを見つめてるの?

・・・あぁ、飲み物ね。

それはわたしが淹れた紅茶。

比企谷君、紙コップをいくら眺めても無駄。

残念でした、もうマッ缶はなし、特別扱いはしないんだ。

 

”ジー”

 

う、うう、そ、そんなに恨めしそうに見ないで。

・・・わー、わかったわよ、わかった、くそ~

き、今日だけだからね。

確かまだ冷蔵庫に一本あったはず・・・

 

”ガチャ”

 

あ、あった。

 

「はい、冷たいけどいい?」

 

「おぅ、サンキュ」

 

「三ヶ木さん、その男をあまり甘やかさないでくれるかしら」

 

「す、すみません」

 

「はい、それでは飲み物と資料行きわたったようですので、

 打ち合わせを始めたいと思いま~す。

 では美佳先輩、よろしくです」

 

「あ、はい。

 それでは、お手元の資料をもとに、状況等説明させて頂きます」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・ということで、出し物的にはこれから各部活さんと

 具体的な内容を詰めていくことになります。

 あと、それ以外にはスライドショーと先生方からの出し物を

 予定しています」

 

「そう、照明や音響のほうも調整済みなのね。

 それなら会場設営や案内なんかの配布物、準備物の確認、

 それと進行スケジュールの調整といったところね」

 

「それにつきましては、こちらの資料を見てください。

 過去、五年間の資料を基に必要と思われる準備物の一覧表と、

 当日までの進行状況などの資料をまとめてみました」

 

「ふむ、なるほど。

 相変わらずね三ヶ木さん。

 ねぇ庶務谷君、本当に三ヶ木さんの爪の垢を頂いたらどう?」

 

「えっ、爪の垢?

 ヒッキー、美佳っちの爪の垢でなにするの?

 なんかキモイ」

 

「いや、俺まだ何もしてないだろう。

 これからも何もするつもりはない。

 ・・・って、やっぱり俺が庶務なのか」

 

     ・

     ・

     ・

 

「その他は・・・あっ、そうでした。

 あの、司会はわたしと先輩ということで」

 

「お前、会長だから挨拶とか他にやることいろいろあるんじゃねえか。

 それに俺が司会なんて、当日はお通夜になるがいいのか」

 

「え~、でも先輩の横でしたらわたしすっごく可愛く見えるはず

 じゃないですか。

 まぁ仕方ないですけど。

 それじゃ代わりは誰かに・・・美佳先輩は地味ですからね、却下で」

 

おい! 地味で悪かったな。

これでも親父たちには人気あんだぞ。

例えば、印刷屋の社長とか。

いま、もうすっかりメル友だから。

今日も奥さんがって。

 

「ここはやっぱり、雪ノ下先輩と結衣先輩でお願いできます?

 お二人に司会していただいたらすっごい華やかですし」

 

・・・・・だめだ。

やっぱり、思ってた通りなんだ。

料理教室の打ち合わせの時からまったく変わってない。

打ち合わせといっても、奉仕部さんのペースで勝手に会長と決めてくの。

クリパの時もこんな感じだったって聞いてるし。

このままじゃいけない。

だってこれは生徒会の行事。

やっぱりわたしが・・・やるしかないか。

 

「会長、ちょっとすみません」

 

「えっ、あ~美佳先輩、お手洗いですね。

 なるべく早くして下さいね」

 

ぐぬ~、このジャリ

少しはデリバリ、じゃないデリカシーをもちなさい!

 

”ガラガラ”

 

ふぅ~

やっぱあの雰囲気やだ。

部屋を出ていくわたしを見るすがるような目。

まったく、みんなもっと自信持ってよ。

はぁ~、えっと確かいつもこのリュックのポッケに。

 

”ガサガサ”

 

「あ、あった」

 

へへ、この箱。

この箱はわたしの宝物入れ。

この箱の中には

 

”パコ”

 

ハナキリンのブローチ。

これはね、前生徒会の最後の活動日に、みんなからプレゼントされた

わたしの大事なお守り。

生徒会頼むぞって、みんなの想いが込められた大切なもの。

うん、わたし頑張る。

だからみんな、少しだけわたしに力貸してください。

・・・・・・うし、いくか! 戦闘モード全開だぜ。

 

”ガラガラ”

 

「美佳先輩遅いです~ もしかして大きいほうの 」

 

「い、いろはちゃん、それはだめ」

 

おい、この麗らかな女子に向かってお前なんてことを。

・・・・くっそ。

 

「すみません、少し頑固だったもので。

 わたしに似て」

 

どうよ、この返しは。

座布団五枚は頂けるよねって・・・・・・え、なんでみんな引いてるの? 

いや、そんなことより

 

「会長すみません、少しいいですか」

 

「えっ、あ、はい」

 

「奉仕部の皆さん、いつもありがとうございます。

 ほんとに、わたし感謝してます。

 ありがとうございました」

 

”ペコ”

 

「えっ、急にどうしたの? 

 美佳っち、頭あげてよ」

 

「奉仕部の皆さん、一つだけわたしの依頼を受けてもらいたいの」

 

「なにかしら、あなたの依頼って」

 

”ジー”

 

・・・みんな。

うん、わたしにはこのブローチがあるから大丈夫。

んで、副会長、稲村君、書記ちゃん、そして会長、ごめんね。

わたし、こんなんだからあきらめて。

それと・・・ごめんね雪ノ下さん、結衣ちゃん・・・・・・・比企谷君。

 

「今回の卒業生を送る会、奉仕部さんは手を出さないでください」

 

「えっ、美佳っちどういう意味?」

 

「どういうことかしら。

 もう少しわかるように話してくれるとありがたいのだけど」

 

ごめん。

 

「はっきり言います。

 わからないんですか~、邪魔なんですよ奉仕部さん」

 

言っちゃた。

怒るだろうな~

ご、ごめんなさい、で、でも。

 

「え~、わからないですか?

 勘弁してもらいたいんですよ。

 クリパにしろ、料理教室にしろ、フリペにしろ、

 奉仕部さんが手を出してくるから、生徒会の存在感がなくて。

 迷惑なんですって、実際。

 特に奉仕部さんは、お二人とも目立つんですよね。

 ・・・あ、あと、もうお一人もいろんな意味で目立って」

 

二人とも綺麗だもん。

みんなそっち見ちゃうよ。 

雪ノ下さんは女子にも人気だし。

生徒会、霞んじゃうって、会長以外。

 

「み、美佳先輩!

 なんてこと言うんですか!」

 

「美佳っちひどいよ。

 どうしたの?

 なんでそんなこと言うの?」

 

く、ごめんなさい、会長、結衣ちゃん。

もう、わたし嫌われたよね、とほほ。

・・・まぁ、独りぼっちは慣れてる。

それに

 

”ジー”

 

これがわたしの役目。

わたしは、わたしは守りたいんだ生徒会。

だって、みんなから頼まれたんだもん。

だから嫌われ者になっても大丈夫。

うん、このブローチがあればわたしは大丈夫・・・大丈夫なんだ。

 

「・・・・・おい、雪ノ下」

 

”さっ”

 

「なにかしら、メモ?

 ・・・・・・三ヶ木さんのブローチ?、花言葉?

 あれハナキリンのブローチね。

 ハナキリンの花言葉って確か・・・・・・そう、そういうこと」

 

「ねぇ、美佳っち。

 どうしたの? なんかあったんなら、あたし 」

 

「三ヶ木さん、ほざきたいことはそれだけかしら?

 つまり、私達がいなくてもそちらだけでやれるということなのね」 

 

”ギロッ”

 

こ、怖い、ちょ~こわ。

氷の女王様ってほんとだ。

いつもはすんごく温かい瞳なのに。

お、思わず謝るとこだった、それも土下座して。

やば、怒らせちゃった。

・・・だけど、だけどね、ここは退けない。

退くわけにはいかないんだ。

 

「やっとわかってくれたのね。

 はぁ~、これだから奉仕部さんは。

 それじゃどうぞお引き取りを」

 

さぁ、雪ノ下さん、いぇ奉仕部のみんな。

こんなわたしに怒って引き上げて。

その後は、わたしが生徒会のみんなに土下座して謝って。

・・・って?

 

「あら、でも生徒会さんだけで何ができるのかしら?

 クリスマスパ―ティやフリーペーパー、それにこの前の料理教室だって

 結局、私達の助けがなければ何もできなかったじゃない。

 あなた達だけで何ができたのかしら」

 

「ゆ、ゆきのん」

 

え、雪ノ下さん、怒って帰らないの?

それにひど!

あ、あの、結衣ちゃんと比企谷君を連れて退席して。

・・・お願い。

 

「三ヶ木さん、クリスマスパーティの時の海浜高校との打ち合わせ。

 確かあなたは居残りでいなかったわね。

 だから知らないでしょうけど、すごく大変だったのよ。

 海浜高校に振り回されて、結局何にも決められない会議ばかり。

 それに海浜高校に言われるがままに、総武側は雑用ばかりやらされて。

 私達がいなかったら、どうなってたかしら?

 ね、 副会長さん」

 

「・・・・・・は、はい、その通り・・・です」

 

雪ノ下さん、そんなこと言わないでいいから。

そんなこといったらあなたがみんなから嫌われちゃう。

だからもう

 

「あ、あの雪ノ下さん・・・」

 

「それにフリーペーパーの時だって、そちらの会長さんが

 奉仕部に持ち込んできたのに。

 それなのに生徒会は忙しいからって、結局奉仕部がつくったん

 じゃない。

 そうでしょ、会計さん」

 

「・・・そうです」

 

や、やめて。

もういいから、引き上げてくれるだけでいいんだよ。

嫌われるのはわたしの役目のはずなんだ。

 

「お料理教室の時は少しは成長したみたいだったから期待したのだけど。

 結局、今日もあなた達は話を聞いているだけで、何一つ意見言ってない

 じゃない。

 うんうんって頷くばかりで、全て他人任せ。

 そんな生徒会さんに何ができるというのかしら。

 大事な卒業生を送る会なの。

 あなた達は今まで通り、私達の言う通り動いていればいいのよ。

 会長さんもそう思ったから、こんな生徒会が頼りなかったから

 私達、奉仕部に依頼に来たのではなくて?」

 

「い、いえ、それはちょっとちがうんですけど・・・・」

 

なっ!

雪ノ下さん、それは言い過ぎ。

なんでそこまで。

ど、ど、どうしょう、このままじゃ雪ノ下さんが。

 

「雪ノ下さん、もうやめ・・・・・・えっ」

 

その瞳、わたしに紅茶の淹れかた教えてくれてる時の、

やさしく見守ってくれる瞳。

なんでそんなやさしい瞳・・・はっ! もしかして雪ノ下さん。

 

「雪ノ 」

 

”コク”

 

頷いた。

や、やっぱりそうなんだ。 

・・・・・・やっぱかなわないや。

ごめん、ありがと。

 

「確かにその通りですよ、雪ノ下さん」

 

「え、美佳先輩、何で認めるんですか。

 私たちだって・・・」

 

「おい、三ヶ木さん・・・」

 

「雪ノ下さん、確かにあなたの言う通り。

 奉仕部さんの協力がなければ、わたし達は何もできてなかったと思う。

 クリパの時も奉仕部さんが参加してくれたから、あんな素晴らしい

 イベントができたんだと思う」

 

「そう、認めるのね。

 だったら 」

 

「うううん、わたしは間違ってたと思うの。

 もしクリパが最悪な結果、まぁ失敗に終わったとしても、

 それはそれでいいじゃないかって。

 ちょ~くさいこと言ってるってわかってる。

 だけど、大事なのは結果じゃなくて、もし失敗に終わってもそれを

 認めることだったんじゃないかって。

 そしてなにがいけなかったのか、どうすればよかったのかを

 みんなで話し合って反省すること。

 そうやって、いつか自分達のやり方を見つけて、自分達が納得のいく

 活動ができるようになること。

 形だけ成功することより、そっちのほうが大事だったんじゃなかったの

 かなぁって思うの」

 

「あなた、あれは形だけの成功って言いたいのね」

 

「そう、わたしたちは形だけの成功を得たことで、そのことに気が付かない

 ふりをして、あの時から今日まで来てしまったの。

 そして今日も奉仕部さんに頼ってる」

 

はぁ、言っちまった。

なにえらそうなこと言ってんだろう。

はぁ、みんなの顔みれないよ。

 

「三ヶ木、お前の理想はわかった。 

 だが、お前達にできるのか?

 そんなこと考えてるの、生徒会でお前だけだろ。

 こいつらにそんな気なんてこれっぽっちもないんじゃないか。

 無理だって。

 お前らなんかに何もできないって。

 なぁ片意地張らず、奉仕部に頼れよ。

 今迄みたいに」

 

ひど、やっぱりあんた最低だよ。

・・・・・でも、最低だけど最高、ありがとう。

だってほらみんなの様子が。

 

”ガタッ”

 

「出来ます!

 雪ノ下先輩も比企谷先輩もひどい」

 

「沙和・・・藤沢さん落ち着いて。

 雪ノ下さん、こちらからお願いしておいて申し訳ない。

 確かに、奉仕部さんから見たら俺達は頼りないと思われても仕方ない。

 さっき三ヶ木さんが言ったように、俺達は少し間違ってたのかもしれない。

 いつの間にか、また君達にこと頼ろうとしていたと思う、今回も。

 ・・・すまない、今回は少し見ててくれないか?

 俺達は俺達のやり方でやってみたい。

 ただ、三ヶ木さんはああいったけど、雪ノ下さんの言う通り卒業生の方に

 とっては一生に一回のことだ。

 やはり、失敗はしたくない。

 卒業する先輩達にはいい思い出にしてもらいたい。

 だから、俺達の力が足りない時は力を貸してほしい。

 勝手な言い方だが、お願いできないだろうか」

 

本牧君・・・・ごめん、すこし君を見誤ってた。

そういえばクリパの時も最後のほう頑張ってたもんね。

良かった、これなら。

後は・・・ほれ、次、あんただよ稲村君。 

 

”ぎゅ”

 

「ふげぇ、いってぇ、なにすんだ三ヶ木」

 

”ギロ”

 

「へ、あ、そ、そうだ。

 比企谷、俺らを見くびるなよな」

 

「・・・・仕方ないわね。

 三ヶ木さん、あなたの依頼、奉仕部として受けさせて頂きます」

 

「な、なんですか、みんな勝手ですよ。

 私的にはしょぼいのも、失敗するのも嫌なんですけど。

 それに責任を問われるのは私じゃないですか~」

 

「いや、そん時は・・・・・三ヶ木さんが悪いってことで」

 

「そ、そうだな」

 

「みんなちょっとひどい」

 

「まぁ、そういうことなら仕方ないですね。

 それじゃ、書記ちゃん司会よろしくです」

 

「えぇ~、無理、無理ですよ」

 

「駄目です。

 今、出来ますって言ったでしょ」

 

「今日はもう私達引き上げましょう、由比ヶ浜さん、比企谷君」

 

”ガラガラ”

 

「ふふふ」

 

「えっ、ゆきのん笑ってる?」

 

「・・・それにしてもスト谷君、あのブローチによく気が付いたわね。

 それに意外だわ、あなた花言葉って言葉知ってたの?」

 

「お、おい。

 まぁ、俺はこれでも細かいところまでよく気が付く男だ」

 

「この前あたしが髪切っても、ヒッキー気が付かなかったじゃん」

 

「・・・・・・」

 

「でも、これでよかったのかしら。

 彼女達、大丈夫だと思う?」

 

「わからん。

 だが、後はあいつら次第だ」

 

     ・

     ・

     ・

 

やっぱり、駄目だよ。

みんなの顔みて話しができない。

だって、このままじゃ雪ノ下さんや比企谷君を悪者にしたまま。

そ、そんなのやっぱり・・・・

 

「会長、みんな、ごめんなさい。 

 わたし・・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

これでよしっと。

 

『とうちゃん、ごめんね。

 みそ汁とだし巻き卵、冷たくなっちゃうけど温めて食べてね。

 それと、煮物もつくってあるからね。

 

 追伸  わたしがいないからって、飲みすぎないこと。

     ・・・わがまま許してくれてありがとう。

     行って参ります。

 

                      旅立つ娘より』

 

ってこれでいいかな。

へへ、最後のとこ、とうちゃん泣くかな、泣くって絶対。

なんか嫁に行くみたいだもん。

さて、それじゃ起こさないように。

 

「とうちゃん、行ってきます」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

げ、なんで電車の席、奉仕部のとこなのー!

目の前は雪ノ下さん、その隣は結衣ちゃん。

そして、わたしの隣はあの男。

昨日の今日だよ!、こんなの無理!

ふぇ~、雪ノ下さん睨んでいらっしゃる。

怖いよ、寒いよ、さすが氷の女王様。

 

「あ、あの~、昨日はごめんなさい!

 お詫びと言っては何ですが、飲み物とクッキーいかがですか?」

 

どうか、怒りを収めて女王様。

なんで、こんなに卑屈なのわたし。

 

「美佳っち、ありがと。

 いただくね」

 

「折角だから、いただくわ」

 

「・・・・・・マッ缶、無いのか」

 

よ、よかったよ。

雪ノ下さんも結衣ちゃんもあんまり怒ってなさそう。

って、なにこいつは。

マ、マッ缶だと!

昨日だけって言ったのに・・・・あっ、言ってはないか。

ん~と、まだ発車まで間に合うね。 

確かホームの自動販売機に。

 

「ちょっと待ってて」

 

「よしなさい三ヶ木さん。

 ほんとにこの男は。

 ところで三ヶ木さん、昨日はあんな感じでよかったかしら」

 

「へっ? やっぱりわかってたの」

 

「あなたのやり方は、誰かさんがよくやるやり方だから。

 私達はもう、一人だけにそんな真似はさせたくないの」

 

「すみません、いやな思いさせちゃって」

 

「あなたの本当の依頼は、そう、あの黄色と橙色とピンクの

 ハナキリンのブローチでしょう。 

 ハナキリンの花言葉は”自立”

 そして黄色は”希望”、橙色は”仲間”、ピンクは”優しさ”

 あなたは、生徒会のみんなに自立を促したかったのね。

 そして、きっとその想いに応えてくれるって信じたいって」

 

「ゆきのん、そこまでわかってたんだ、すごい。

 でもよかった。

 美佳ッちもゆきのんも本心で言ってたんじゃなかったんだ」

 

「本心よ。・・・・半分ぐらい。

 つい、三ヶ木さんの言葉にむかついたから」

 

げ、やっぱり怒ってらっしゃった。

この紅茶クッキーでゆるして。

 

「ごめんなさい、嫌な役させちゃったね」

 

「いいのよ。

 それにお礼を言うのは私達のほうよ。

 奉仕部はもともと魚をあげるのでなく、魚の取り方を教えるのが方針。

 それを、その男が一色さんをあまりにも甘やかすから」

 

「へっ、お、俺か。

 ・・・・・・反論できないか。

 まぁなんだ、甘いといったら、三ヶ木チョコありがとうな。

 なんか電話繋がらないから、お礼まだ言ってなかったな」

 

「えー! 美佳っち、ヒッキーにチョコあげたの」

 

「いや、その、ぎ、義理だから、義理」

 

な、なんていうことをいいだすのよ、この馬鹿。

雰囲気考えろ。・・・・最低。

ほ、ほら女王様再び、お、お怒りモードに。

 

「三ヶ木さん、もう少し詳しく話してくれるかしら」

 

「そうだよ。

 目的の駅に着くまで時間は十分あるから、じっくり教えてもらう

 からね。

 あ、それに昨日もヒッキーにマッ缶あげてたし」

 

ふぇ~、新幹線にすればよかったのに・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

や、やっと解放された。

ひどい目にあったよ~

だから義理だって何度も言ってるのに。

ふぅ~、さてとロッジに行く前にわたしは。

 

「じゃあ、会長、わたしはこっちで」

 

「はい、了解です。

 皆さん、全員います?

 それじゃ行きますよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

え~と、会長からもらったお買い物リスト・・・・・

おい、これ全部わたし一人で持ってくの?

なになに、お使いのお駄賃?

えっ、チロロチョコ買ってもいいの。

会長、買い出し任せなさい。

よし、ちゃっちゃと済ませよう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「う、ううううう」

 

お、重たい。指がちぎれそう。

こ、ここだよね。

確かこの駐車場で待ってると素敵なお迎えがって書いてあったよね。

素敵なお迎え、誰だろう?

ドラマなんかでは、ここでイケメンの王子様が迎えに来てくれて

そのあと・・・ぐふふふ。

出来たら、アカ俺の何?イレギュラーヘッドみたいな人が

来てくれないかなぁ。

もろ好みなんだけど。

 

”ブッブー”

 

え、もしかしてわたし、目つきの悪い人が好み?

 

”三ヶ木”

 

ち、違うよね。 わたしはいたってノーマルだよね。

自信ないけど。

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、こ、このチョップは。

 ・・・・・平塚先生、ご苦労様です」

 

「まったく、なにをぶつぶついってるんだ君は。

 ほら、荷物を運ぶぞ」

 

「は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、やっと荷物片付いた。

えっ、もうこんな時間。

さっさと晩ご飯の準備しなくちゃ。

 

「お~、三ヶ木ちゃんご苦労。

 うん? 手伝ってくれるの。

 じゃ、つくろっか。

 めぐり、そのフライパンとって」

 

「は~い。

 よっ、美佳、ご苦労様。

 今日の晩ご飯は、はるさんとわたしが当番だよ」

 

えっ登板? そうなんだ、そうなの知らなかった。

あ、なんか貼り出してある。

これ食事の当番表?

へぇ~、こんなん決めてたんだ、感心感心。

荷物の件といい、やることやってたんだねジャリっ娘。

わたしは、あ、明日ジャリっ娘と朝食だ。

だけど、まぁ今日はなにもすることないから。

 

「わたしもお手伝いしますね」

 

「美佳、ゆっくりしてていいんだよ」

 

めぐねぇ、エプロン姿も可愛い。

写真いいよね、撮っちゃおう。

ぐふふ、わたしのコレクションがまた一枚。

 

「美佳、邪魔はよしてね」

 

す、すんません。

 

     ・

     ・

     ・

 

さて、洗い物も済んだし、朝食の準備もOK。

なぜ、わたしが洗い物当番なの?

あの当番表、一番下にちっちゃな文字で書いてありやがった。

くっそ~、感心して損した。

 

「お~い、三ヶ木ちゃん。

 終わったらこっちおいで」

 

げ、雪ノ下さん いや、雪ノ下さんのお姉さん。

ん~、言い難い。

えっと、なんか酔っぱらってる?

 

「そら、一杯飲め」

 

ジュース・・・だよね。

頂きます。

 

     ・

     ・

     ・

 

「っで、誰に振られたの?」

 

”ぶ~”

 

「汚いな~、もう」

 

だ、誰に聞いたんだ、誰に。

 

「さぁ、白状しちゃいな」

 

「い、言いません」

 

「やっぱり、振られたんだ」

 

し、しまった。

 

「ほれほれ、言ってみ。 

 三ヶ木ちゃんを振るなんて、そんな不届きな奴はお姉さんが成敗して

 あげる」

 

「言いませんって、もう!」

 

”ごく”

 

「美佳、それ違う、ジュースじゃ、」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うぃ~、だから、わたしはめぐねぇが大好きなんですよ。

 だから、いっつもめぐねぇを独り占めするあなたが

 大嫌いなんですよ。

 わかりました、ひっく!」

 

「あははは、やっぱこの娘面白いね」

 

「はるさん、だめじゃないですか、お酒なんて」

 

「だってぇ、勝手に飲んだんだよ」

 

「うぃ、めぐねぇを独り占めできるのは、

 めぐねぇが好きになった人だけなんです!」

 

”ぐぁ~”

 

「ほんと、めぐり、慕われてるね」

 

「はい。

 家も近所同士だったから、美佳は妹みたいなもんです」

 

「いい、お姉さんだね」

 

「はるさんもですよ」

 

「さぁ、めぐり飲むよ。

 静ちゃん戻ってこないし」

 

「わたしも未成年ですよ」

 

「いいじゃん」

 

「あ~、美佳先輩、ここにいたんだ。 

 なかなか戻ってこないと思ったら」

 

「一色さん、いらっしゃい」

 

「へっ、美佳先輩どうしたんですか?」

 

「いや、その、ちょっと飲んじゃったかなぁ~」

 

「これはチャンスですね~」

 

”カシャ、カシャ”

 

「えっ、一色さん写真撮ってんの?」

 

「えっ、はい。

 美佳先輩が構ってくれないときの材料ですよ」

 

「一色ちゃんも悪どいねぇ~ どれどれ見せて見せて。

 お~。 ほれ、めぐりも見てみ」

 

「だめですよ、そんな写真撮ってたらって、

 えっ、これかわいい」

 

「ねぇ一色ちゃん、この鹿の着ぐるみは何?」

 

「あっ、それトナカイですよ。

 美佳先輩、クリパの時にそれ着て受付してたんです」

 

「え、なんで」

 

「冗談で言ったらほんとに作って来たんですよ。

 それに私の分も」

 

「美佳らしいね」

 

「一色ちゃん、これじゃ材料にならないじゃない?

 なんかかわいい写真ばっかりで」

 

「え~そうでか~

 あっ、でもどうしょうかな。

 美佳先輩と、一緒にお風呂行こうと思ったのに。

 ほら、明日の確認とか相談とかあるじゃないですか」

 

「起こそうか」

 

「いえ、いいです。

 せっかくぐっすり寝てるのでかわいそうじゃないですか。 

 一人で行ってきます」

 

「一色さん、じゃ一緒に行こうか?」

 

「ふむ、城廻先輩ならお風呂でも引けは取りませんね。

 わたしのほうが勝ってるかも」

 

「え?」

 

「いぇ、じゃあお願いできます?」

 

「はるさんはどうします?」

 

「私は三ヶ木ちゃんを部屋に連れてっとくよ」

 

「それじゃはるさん、また後で」

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、はっ、ここどこ?

 

”キョロキョロ”

 

ベ、ベッド?

そうか、わたし寝ちゃったのか。

今何時、え、一時。

う~ん、なんだろう、まだ頭がふらふらする。

もう遅いけどお風呂入ってから寝よ。

 

     ・

     ・

     ・

 

う~、寒い。

はやく温まろうっと。

でも、お風呂に入る前は体を洗ってから。

入浴マナーの基本よ基本。

 

「ルンルンルン♬」

 

へへ、綺麗にゴシゴシっと。

う~ん、やっぱりいい女。

なんでモテないんだろう。

よっ、後ろ姿だけ美人。

・・・はぁ~、さっさと入ろう。

うんしょっと。

 

 

”ちゃぽ~ん”

 

「う~、きく~。

 うへぇ~、いい気持ち。

 やっぱ、露天風呂は最高だね」

 

ふぅ、思いっきり手足のばしてお風呂に入れるこの開放感。

こんな姿、だれにも見せられないよね。

ちょっと泳いじゃおう。

 

”バチャバチャ”

 

・・・あ、やばっ、誰か入ってた。

 

「あ、あの~、ご、ごめんなさい。

 つい、はしゃぎすぎちゃいました。

 ・・・・・・・・って!」

 

「お、おう。 

 い、いや、なんというか」

 

「・・・・・・は、はぁ!

 いやぁ~、変態、スケベ、痴漢

 バカ八幡! だ、だれか~」

 

「いや、ちょ、ちょっと待て、落ち着けって。

 こ、ここは男湯だ」

 

「うそ! そんな手に乗らないわよ。

 このド変態」

 

「いや、ホントだって」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・ほんと?」

 

「あぁ。」

 

「・・・い、いつからいたの」

 

「ず~と前からここにいました」

 

「・・・見た?」

 

「いや、あの・・・・ほらこの湯気で・・・・

 ・・・・・す、少しだけ」

 

「・・・もう、わたし死ぬ!」

 

「いや、まて、湯気でマジで見えてないって」

 

「ほんと?」

 

「おう、本当だ」

 

「よかった、わたしの豊満な胸も見てないのね」

 

「いや、三ヶ木、嘘はいかん」

 

「やっぱり見たんだー、このド変態!」

 

”ベシ、ベシ”

 

「いたた、ばか、男湯に入ってくるお前が悪い。

 それにお前、タオル、タオル」

 

「へっ?

 あ、み、見るな~、ばかぁ!」

 

”ベシ、ベシ、ベシ”

 

「ま、まて、こうしてるうちに他の奴がきたらもっとマズイ。

 と、とにかく、お前、さっさと女湯にいけ」

 

「・・・う、うん。

 え、比企谷君、あれ」

 

”バシャ”

 

「うそ、他に誰かいたのか。

 おい、お前、俺の背中のほうにいけ。

 幸いこの湯気だ。

 見つからないように端まで移動するぞ」

 

「う、うん。

 じぇったい、うしろ見ないでね」

 

だって、わたし、かろうじて前を隠せるタオル1枚しかもってない。

絶対に振り向かないでよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷君、熱いよ~

 もうだめ~」

 

「が、我慢しろ。

 あいつとの根比べだ。

 いま出たら、あいつに丸見えだぞ、いろいろと」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「も、もう、ほんとだめ」

 

「くそ、仕方がない。

 三ヶ木、ここに隠れてろ。

 大事なとこは隠しとけよ。

 俺がいまバスタオルとってきてやる。

 それで強行突破しろ」

 

「うん、お願い」

 

「おう」

 

「はやくきてね、比企谷君」

 

”バシャ”

 

「任せろ」

 

’ガラガラ”

 

早く戻ってきてね。

あ、ほぇ~なんか影が増えてる。

一人、二人・・・三人?

 

”ガラガラ”

 

「み、三ヶ木バスタオルだ、あっ!」

 

”ズデン”

 

「いって~

 ・・・・・・げ、あ、あの~三ヶ木さん。

 ・・・見た?」

 

「い、いえ、わたし眼鏡してないので・・・」

 

「「・・・」」

 

「・・・もう、お婿さんにいけない」

 

だ、大丈夫よ。

ぼやけてなんも見えてない、見えてない。

見えてないからね。

うぇ~ん、もうやだ、変なもん見せるな。

 

”バシャ”

 

「あ、比企谷君、あいつこっちに来る」

 

「お前、なるべく下がってろ。

 おい、葉山か戸部か、今こっちに来るな。

 ん、葉山や戸部にしては小柄だな。

 戸塚か?」

 

「・・・」

 

「戸塚、すまん。

 今こっちに来ないでくれ。

 ・・・おい、聞こえないのか?」

 

「キ~」

 

「ん?」

 

「キキ~」

 

”バシャ”

 

「うわっ」

 

「あははは、さ、サルだ。

 比企谷君、おサルさんだったよ、う~ん」

 

「おい、三ヶ木しっかりしろ、おわっ」

 

「貴様、こっち見るなってんだろ」

 

”ゴス”

 

「うお、目が・・・。

 三ヶ木さん、ぐ~はやめてね、ぐはぁ!」

 




最後まで、ありがとうございます。

1話ごとの文字数が多くてなりすぎて申し訳ありません。

今回、生徒会の自立ってことで、強引に話を進めてしまいました。

作者のほうが反省必要です。

お約束の混浴してしまいました。

これからオリヒロと八幡の関係が・・・

どうしょうかな。

※投稿早々、誤字脱字で改定してしまいました。
 
 すみません。 次からは五回以上、読み直します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揺れる思い

今回もありがとうございます。

いつも励みにしています。

今回はスキー合宿二日目。

スキー合宿と言いながら、オリヒロ全然滑ってないのですが?

今回はどうでしょう。(話が滑らなければいいんですが。 その時はご容赦を)

よろしくお願いします。


「う~ん、よく寝た。

 今何時? 六時三十分・・・・六時三十分!

 げ、やば、 今日は朝食当番だった!」

 

”ダダダダ”

 

「ご、ごめんなさい、寝坊しました。

 ・・・・・・えっ、朝食出来てる。

 会長、これ全部一人で作ったんですか?」

 

「当然じゃないですか~

 わりとお料理得意なんですよ。

 これぐらい朝飯前で~す。

 って、本当に朝飯前ですけど。

 あっ、そうだ。

 はい、美佳先輩。

 ちょっとこのトマトスープの味を確認してください」

 

「はい」

 

わ、わたしの評価は厳しいわよ。

見かけがよくても中身が・・・・

げっ、めっちゃうまい。

へ~、こんど家で作ってみよ。

でも、ほんとに料理が得意だったんだ。 

 

「どうですか?」

 

「・・・参りました。

 美味しゅうございます」

 

「じゃあ、後片付けはよろしくです」

 

     ・

     ・

     ・

 

「っで、なんで、ここにいるの」

 

「しかたね~だろ、他に空いてないんだから」

 

「ぐぬぬ」

 

朝から最悪だ。

なんであんた当然のように横座ってるのよ。

昨日あんなんだったから、いろいろ思い出しちゃって・・・・

普通、遠慮しなさい。

恥ずかしくって、顔合わせられないでしょ。

 

”パタパタ”

 

ん、ジャリっ娘、 なんか用?

あぁ、お隣さんにだね。

 

「先輩、今日の朝ご飯は、わたしが腕によりをかけて

 作ったんですよ。

 誰かさんはお寝坊さんでしたから。

 どうですか~、お・あ・じ」

 

「おぅ、うまい・・・んじゃないか」

 

「絶対、残さないで下さいね。 えへ♡」

 

「お、おう」

 

「あっ、残したらゆるしませんからね」

 

こわ~、声低い。

あと、その目。 ・・・出たよ、裏いろはが出た。

比企谷君、もし残したらあんた・・・・

 

「ところで、何で二人して顔赤いんですか?

 お互いに目逸らしたままですし。

 なんか変に意識していません?

 それに先輩、その目のアザどうしたんですか?」

 

「な、なんでもない。

 ちょっと目の保養をした反動だ。

 ほれ、しっ、しっ」

 

「ふぇ、なんですか、もう」

 

”スタスタスタ”

 

・・・ほ、保養にはなってたのね、一応。

良かった。

って、良くない!

 

”ベシ”

 

「いたっ、なんだいきなり」

 

「ふん!」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ~美味しかった。

やるなジャリっ娘、余は満足じゃ。

って馬鹿言ってないで、さっさと洗い物するかなぁ。

 

「はぁ~」

 

は、なに、どうしたの比企谷君。

顔色悪いし、すんごいため息。

・・・ん、トマト。 

なに、トマトをじっと見つめて。

はは~ん、トマトが嫌いなんだ。

ん、なに、なにこっち見てんの。

 

「三ヶ木、ちょっとその塩とってくれないか」

 

「あ、うん」

 

”コト”

 

「ん? 比企谷君、今わたしの皿にトマト入れたでしょ」

 

「いや、知らん。

 気のせいだろ?

 大丈夫か、お前」

 

「そう? おかしいなぁ」

 

確か、ご飯食べ終わったはずだけど。

トマトも全部。

っかしいな。

 

”もぐもぐ”

 

さてと。

 

「三ヶ木、塩返しといてくれないか」

 

「うん、うんしょっと」

 

”コト”

 

「比企谷君、なにしてんのかなぁ~」

 

「あっ。

 い、いやなんだ、お前トマト好きだろう、多分。

 だから仕方なくだな。

 それに、このトマトも好きなやつに食べられたほうが幸せだろう。

 ほれ、もう一個やる」

 

「はぁ、よくもそんな言い訳を思いつくもんだね。

 なに、そんなに嫌いなの。

 しゃ~ないな。

 ほらはやく、会長に見つかる前に」

 

「おう、す、すまん。

 恩にきる」

 

まったく、今日だけだからね。

ん?なんか前にも同じセリフを・・・

わたし、基本的にこいつに弱くない? くそ。

いや違う、違うの!。

こ、これは今度こいつを利用するための布石。

今のうちに借りをつくってんの。

 

「あれ、先輩トマト食べれたじゃないですか~」

 

「おう、美味しかったぞ」

 

「えっ、なんですか、今まで食べれなかったトマトも

 お前の愛情があれば食べることができる。

 一生、俺に飯を作ってくれってくどいているんですか、

 わたし的にたまにはご飯作ってほしいので、

 今度わたしに手作りのご飯ご馳走してからにして下さい。

 ごめんなさい」

 

「なんか知らんが、また振られてるの俺」

 

・・・・・か、会長。

今のなに? どうしたの?

あんな会長初めて見た。

比企谷君、また振られたって慣れてるみたいだけど。

でも、最後のあれは振ってるようには聞こえなかったけど。

 

「えへへ、仕方ないですね。

 たっぷり愛情こもってますからね。

 それじゃ、この際だからいつも食べれない分食べて下さいね。

 はい、いまお代わり持ってきますね、トマト増量で。

 るん、るん♬」

 

”パタパタパタ”

 

「・・・・」

 

「ばっか」

 

「み、三ヶ木」

 

「自業自得」

 

”パタパタパタ”

 

「はい先輩。

 いっぱい食べてくださいね♡」

 

”コト”

 

ん? あれわたしの皿にトマトまだ残ってる?

確か全部食べたと思ったんだけど。

まぁ、いいか。

 

”もぐもぐ”

 

どれ、比企谷君はっと。

 

「う~ん」

 

「もう観念して、早く食べなよ」

 

「三ヶ木・・・」

 

「却下」

 

”コト”

 

さてと、後片付け、後片付けっと。

へっ、トマト・・・・・なんで?

さ、さっき食べたよね。

さては!

 

「ちょっと比企谷君! わたしの皿に勝手にトマト入れないでよ」

 

「いや、俺のトマトはここにあるが」

 

あれ、減ってないね。

やばっ、もしかしてわたしマジでこの年で・・・・・

 

”コト”

 

ん? ちっちゃい手、あっトマト!

 

「見~つけた」

 

「わ~見つかっちゃった。

 今度はおねぇちゃんの番ね」

 

えっ、あ、そうか、比企谷君とのやり取り見てて遊んでると思ったの。

えへへ、なに、やだ、かわいい。

この子、川崎さんとこの妹さん、えっと京華ちゃんだっけ?

ほんとのお子さんじゃないよね。

はは、それはないか。

それじゃ、京華ちゃんがあっち向いてるまに、そ~と。

 

「あんた、何やってんのさ」

 

「へ?」

 

「いくらトマトが嫌いだからって、こんなちっちゃい子の皿に入れて。

 なに考えてるの!」

 

「い、いや、ちが 」

 

「いくよ、けーちゃん」

 

ち、違うよ川崎さん、ちょっと待って~

 

”コト”

 

ん、またトマト。

・・・・・こ、こいつはどさくさにまぎれて。

 

「貴様、いい加減にしろ」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「会長、比企谷君がわたしの皿にさっきからずっとトマトを」

 

「先輩、な、なんですか! ひどいです。

 食べていたんじゃなかったんですね!

 こんな純真なわたしを騙して弄んでたんですか」

 

「み、三ヶ木、おまえ裏切ったのか」

 

「先輩、そこに正座!」

 

純真? まぁ、聞かなかったことに。

それより、ふふ~ん、比企谷君そこで正座してなさい。

だって一昨日、わたしも奉仕部さん帰った後、

書記ちゃんに二時間も正座させられたんだもん。

しかもその間、ず~と書記ちゃんにお説教されたし。

まじ、怒った書記ちゃん怖かった。

あの会長がビビってたし。

 

「だいたい、先輩はですね、いつもいつも 」

 

お~こわ、くわばらくわばら。

ここはとばっちりを避けないと。

さらだば~比企谷君。

 

「それから美佳先輩。

 美佳先輩も正座!」

 

「へ、なんでわたしまで?」

 

「昨日、チロロチョコ全部一人で食べたでしょう」

 

「あっ、で、でもあれはお駄賃だって」

 

「一箱全部、食べないでください」

 

「ご、ごめんなさい。

 ・・・つい」

 

だって、食べ始めたら、やめられないんだもん。

わたしは悪くない。

悪いのは、美味しいチロロちゃん。

それにチロロちゃんはわたしの大事な思い出のアイテム。

 

「まったく、二人して。

 やってることがお子ちゃまです。

 もう少し、葉山先輩達を見習ってください」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、じゃあ次は先輩引いてください」

 

くじ引き? 何をしてるのかと思ったら。

くじ引きで掃除場所を決めてたの。

うん? 雪かきに部屋、お風呂・・・

今日はお風呂はきっついなぁ。 

昨日のことが頭の中によみがえって。

あっ、でもそれ大事な掃除場所が抜けてるよ。

しゃ~ないな、わたしがいってくるか。

 

「会長、あそこやってきますね」

 

「えっ、美佳先輩?」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「きったな~」

 

く~、男子のトイレは何で汚いの。

はぁ、2階の女子用トイレに比べると、

男子トイレってもう!

もっときれいに使いなさい。

まったく、とうちゃんと一緒。

ふ~、まあトイレを掃除すると、綺麗になるっていうから。

よし頑張るぞ!

女神様みててね。 

 

”ゴシゴシ”

 

あ~あ、冗談でも綺麗だっていわれたいなぁ。

 

「くっさ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

うへぇ~、お、終わった。

どう、少しは綺麗になった?

 

「はぁ~」

 

あんなに頑張ったのに。

か、変わらん!

 

「やっはろ~、美佳っち。

 ん、ため息ついてどうしたの?」

 

「少しもきれ・・・ 

 いや、なんでもない、なんでもない」

 

くそ~女神様、ふ、不公平だよ。

 

「美佳っち、掃除終わった?」

 

「うん、今終わったとこ。 

 結衣ちゃんは?」 

 

「掃き掃除終わったら、後は男子がやるからいいよって

 言われて」

 

・・・い、いいなぁ~。

かわいい子はお得よね。

 

「美佳っち、みんな終わるまであっちで休息しょう」

 

「うん。

 あっちょっと待って、手洗ってくるから」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・でね、ヒッキーたらひどいんだよ」

 

「さすがに気付けよって感じだね」

 

「うん、それでね・・・・」

 

ちっともひどい話に思えないのわたしだけ?

イチャイチャ話だよね。

・・・いいなぁ。

あっ、そうだ。

昨日、比企谷君と一緒にお風呂入ったこと言っちゃおうかな?

ないね、だって、あれはわたしの一生の恥。

 

・・・・・でも、ちょっと聞いてもいいかなぁ。

聞けば辛くなるだけかもしれないけど。

やっぱ知っておきたい、認識しておきたい。

 

「あ、あのさ、結衣ちゃん・・・・」

 

「ん? どしたん」

 

「結衣ちゃん。

 あのね、嫌なら言わなくていいからね。

 ほらこの前のメールの件」

 

「ん、メール?」

 

「ほら、この前。

 あ、あの、告ったって」

 

「あ~、・・・・・・う、うん。  

 あのね、今度さ、ゆっくり時間作って、

 聞いてもらおうと思ってたんだ。

 ・・・あのね、あの日水族館にいったの。

 そんでね・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳っちがいう通り、あたしねゆきのんの

 気持ちわかってたから。

 それに、ゆきのんもあたしの気持ちわかってくれてた。

 だからね、お互いの正直な気持ちをヒッキーに伝えたの」

 

「えっ、二人一緒に?」

 

「うん、三人揃って奉仕部だもん」

 

え、そう、そうなんだ。

たははは、そん時の比企谷君の顔が浮かぶよ。

・・・ほんとに頑張ったんだね。

結衣ちゃん、やっぱあんた偉いよ。

すこし、雪ノ下さんにやきもち。

わたしたちも、そんなつながりもてるかな。

 

「・・そっか。 

 うん、頑張ったんだね、二人とも。

 んで、比企谷君の返事は?」

 

「あのね、ヒッキーのことじゃん。

 その時に返事してっていっても、

 『俺は、今はまだ信じることができない』

 とか、言い出しそうじゃん。

 だから、一年後の同じ日、同じ時間、同じあの場所で、

 もう一回告るから、その時に必ず答えを出してっていったの」

 

「一年後?」

 

「うん。

 そんでね、それまであたしもゆきのんも

 頑張って告ったんだから、何も気にせず、

 ドンドンいく権利あるから覚悟しておいてって

 宣言しちゃった。

 えへへ」

 

「そ、そんで比企谷君は?」

 

「ヒッキーたらキョどってさ、

 『お、お手やわらかにお願いします』って」

 

そう、一年後に。

それは、まだわたしにもチャンスがあるってことでいいの?

いまさら、そんなこといわないでよ。

すごく辛かったんだよ。

あんなに辛かったの、あの時以来・・・

や、やっとあなたを応援するって決めたのに。

こころが揺らいじゃうじゃん!

もう振りまわさないでよ。

 

「か、勝手だよ」

 

「へ?」

 

「あ、いや、頑張ってだよ結衣ちゃん」

 

「うん、ありがとう。

 えへへ」

 

そう、一年後。

ははは、わたしじゃ何の勝ち目もないけど。

・・・・・まだ、振られたわけじゃないんだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「行ってきまーす」

 

はぁ、みんな行っちゃった。

いいなぁ、わたし滑れないからお留守番。

今日、晩ご飯の準備までなにしてようかなぁ。

さみしいな

だってめぐねぇ、取られちゃったんだもん。

くそ~、あの魔王め。

あっ、そうだ参考書持ってきてたんだ。

だって、ほんとにこのままだと追試になりそう。

よし、今日は勉強だ・・・・・はぁ~。

 

”キョロキョロ”

 

って、あれ、川崎さん?

なにしてるんだろう、きょろきょろっと何か探し物?

あ~、京華ちゃんいないんだ。

まじ。

 

「ねっ、川崎さん、京華ちゃんいないの?」

 

「う、うん。

 どこいったんだろう、ちゃんとトイレの前で待ってて行ったのに。

 もしもなんかあったら。

 ・・・・・・どうしょう」

 

「じゃ、じゃあさ、わたし、こっちのほう探すから、

 川崎さんはゲレンデのほう探してみて」

 

「え、あ、うん、ありがとう」

 

「その前に、川崎さん、京華ちゃんの写真送ってくれない?

 あ、これわたしのアドレス」

 

「う、うん」

 

「了解。

 じゃあ、見つけたらすぐ返信するね」

 

「ごめん、お願い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お楽しみのところ、すみません。

 この子探しているのですが、見かけていないでしょうか?」

 

「いや見てないね」

 

「ありがとうございます。

 すみません、もし見かけましたら探しているからそこを動かない様に

 伝えてもらえませんか?」

 

いないね。 ほんと、どこ行ったんだろう。

駐車場まで来ちゃった。

戻ってみよう。

 

「こら! しっかり手を握ってなきゃだめ」

 

えっ? あ~びっくりした。

 

「ごめんなさい、おねぇちゃん」

 

そうだよ、おねぇちゃんしっかり手を握ってあげてね。

離しちゃだめだよ、絶対!

後で後悔しても・・・・・・

 

「ねぇ、きみ。

 誰か探してるの?」

 

「えっ、あ、あの、この子を探しているんです。

 どこかで見ませんでした?」

 

ちょっとイケメン。

あの目、アカ俺のイレギュラーヘッドに少し似てる。

へへ、わたしのタイプ。

 

「見てないな。

 ねぇ一緒に探してあげるから、

 見つかったらそのあと一緒にすべらない?」

 

「あ、あの~」

 

”ブ~、ブ~”

 

「おう、どうした?

 えっ本当か? もろ俺好みじゃん。

 ん、今? ああ、ちょっと保険のな。

 あ~、全然、ふつう、ふつう」

 

ぎっ、この野郎、全部聞こえてるんですけど。

ほ、保険だと、この野郎ゆるさん。

 

”ちょんちょん”

 

「え?」

 

「師匠直伝、抹殺のラストブリット!」

 

”ドコ”

 

「ぐはぁ」

 

「お、おい、どうした?

 お~い」

 

くっそ、やっぱ人は見かけじゃないよね。

全く。

あ、そうだ。そんなことしてらんない。

京華ちゃん、どこいったのかなぁ。

 

”ブ~、ブ~”

 

あっ、川崎さんから。

 

「もしもし、えっ、見つかった。

 比企谷君が?

 良かったね。

 うん、わたしも戻る」

 

比企谷君が遊んでくれてたのか。

ほんと、何もなくてよかった。

 

     ・

     ・

     ・

 

「よかったね川崎さん。

 京華ちゃん何ともない?」

 

「うん・・・・・・ごめん。

 迷惑かけたね。

 あの、朝も遊んでくれてたんだね。

 さっき、けーちゃんに聞いた。

 併せてごめん」

 

「全然、気にしていないよ。

 あ、それより、はいこれどうぞ。

 京華ちゃん温かいのどっちがいい?」

 

「あ、けーか、お汁粉がいい」

 

「けーちゃん、ありがとうは?」

 

「ありがとうございます、みーちゃん。」

 

”ペコ”

 

「へぇ、みーちゃん?」

 

「うん、みーちゃん。

 けーかもけーちゃんでいいよ。

 それと、さーちゃんだよ」

 

「さーちゃん、ミルクティーでいい?」

 

「いや、沙希でいいから」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うんしょ、うんしょ」

 

”ゴロゴロ”

 

「うわ~、おっきい」

 

「よし、この頭をくっつけてっと」

 

「あっ、この雪だるま、はーちゃんに似てるね」

 

「えっ、はーちゃんって?」

 

「さーちゃんと、けーかのお友達だよ」

 

さーちゃんのお友達・・・はーで始まるというのは、

葉山君じゃないだろうし、あっ、比企谷君か。

たしか、比企谷ハチ公って名前だったけ。

いえ八幡です、たしか。  

し、しまった、つい夢中で作ってたから。

 

「みーちゃん、はーちゃんのこと好きなの?」

 

そ、そんな純真な目で見ないで。

会長、純真って京華ちゃんみたいなのを言うんだよ。

 

「みーちゃん、はーちゃんのこと好き?」

 

二回も聞き直さないで。

ぐ、・・・・・・・そんな目で見られたら。

嘘つけないじゃん。

 

「好き、大好き。  

 で、でも、けーちゃん、絶対内緒だよ。

 人に言ったらだめだよ。

 けーちゃんと二人だけの秘密」

 

「えっ、なんで?

 さーちゃんが言ってたよ。

 人を好きになるのはいいことだって」

 

「あ、あのね。 

 ほ、ほらはーちゃんは、恥ずかしがり屋さんだから。

 もし好きって言って、気にしてお話しをしてくれなく

 なると悲しいから」

 

「うん、わかった。

 あのね、さーちゃんもはーちゃんのことが大好きなんだよ」

 

えっ、うそ。

なんで、あいつそんなにもてるの?

ほんとハーレム作る気じゃない?

 

「けーちゃん、そろそろ晩ご飯作らないといけないから帰るよ。

 ・・・えっ、これ比企谷?」

 

「あ、あの~」

 

     ・

     ・

     ・ 

 

”バシャ、バシャ”

 

ふぅ、沙希ちゃんのお料理美味しかった。

なんか、会長といい、沙希ちゃんといい、

みんな料理うまいんだね。

わたしももっといろんな料理勉強しょうっと。

 

”とん、とん”

 

ん、けーちゃん、どうしたのかな?

 

「みーちゃん、けーか、お手伝いするね」

 

「けーちゃん、ありがとう。

 けーちゃん、家でもお手伝いするの?」

 

「うん、さーちゃんのお手伝いするよ。

 さーちゃん、褒めてくれるのうれしいから」

 

「えらいね。

 じゃあ、お願いします。

 はい、スプーン」

 

「うん、よいしょっと」

 

”ゴシゴシ”

 

かわいい~

へぇ~、沙希ちゃん、いいお母さんだね。

いいなぁ、妹か。

・・・・・・ちょっと辛い。

はぁ~封印してたのに、思い出しちゃうよ。

 

「お、けーちゃん、お手伝いしてるのか。

 えらいなぁ」

 

「あっ、はーちゃん。

 けーか、いい子?」

 

「おう、とってもいい子だ」

 

”なぜなぜ”

 

「えへへ。

 あのね、けーか、はーちゃんのこと大好き」

 

な、なに。 比企谷君、こんな小さい子まで手だしてるの。

この鬼畜め。

 

「は~ちゃんもけーちゃんのこと大好きだぞ」

 

「はーちゃん、恥ずかしい?」

 

「おう、めっちゃ恥ずかしいけど、

 とってもうれしいぞ」 

 

えっ、けーちゃん? ちょ、ちょっと待って。

 

「みーちゃん、はーちゃん恥ずかしくてもお話ししてくれるよ。

 あのね、みーちゃんもはーちゃんのこと大好きなんだって」

 

いやぁ~、やめてけーちゃん。

け、け、けーちゃん、なんてことを。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「まぁ、なんだ、ありがとな」

 

「・・・・・う、う、うっさい」

 

”ゴシゴシ”

 

「あっ」

 

”ガッチャーン”

 

げ、や、やっちまった。

 

     ・

 

「けーちゃん、どこにいるの?」

 

「あっ、さーちゃん。

 あのね、みーちゃんのお手伝いしていた」

 

「そう、えらかったね。 

 えっ、比企谷もお手伝い?」

 

「お、おう」

 

・・・・・けーちゃん、お手伝い、いろいろとありがと。

く、くそ、おかげでこいつの顔が見れん。

それに皿何枚も。

はぁ~どうしょう、弁償かなぁ。

 

「じゃあね、はーちゃん、みーちゃん」

 

「う、うん、ありがと、けーちゃん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃあ、俺も行くわ」

 

「あ、あのね、勘違いしないでよね。

 あんな小っちゃい子の前で、きらいなんて言えなかったからだから」

 

「お、おうわかってる。

 ・・・・・嫌われてるのか」

 

「あったりまえでしょ。

 この前から、抱き着かれたり、は、裸見られたりしてるんだから。

 このド変態!」

 

「いや、まて。

 それはなんか違うような気が・・・・」

 

「ばぁか、べ~っだ。

 ・・・・・・・・・・・・で、でもお手伝いありがと」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、洗い物やっと終わった。

なんか、めっちゃ疲れた。

 

”わいわい”

 

え、みんな何見てんの?

スマホ?

楽しそう、ちょっとわたしにも見せて。

 

「あはは、ほんと比企谷君そっくり」

 

「でしょう。

 私、先輩かと思って声かけちゃいました」

 

「ん? 何見てんだ?」 

 

「あら、比企谷君。

 ほら、ここにあなたのご兄弟が」

 

「おい、これ雪だるまだろ。

 まったく誰がつくったんだ」

 

「この目の腐り具合い最高。

 まんま、先輩じゃないですか~」

 

「いや、さすがこれはひどいだろ」

 

「あ~、これけーかとみーちゃんで作ったんだよ」

 

「・・・お、おい、三ヶ木。

 ちゃんと説明してもらおうか!」

 

「あ、いや、ははは。

 あっ、そうだ、お、お風呂はいってこようかな~。

 ご、ごめんなさ~い」

 

”ビュ~”

 

「三ヶ木!」

 




最後までありがとうございます。

十一巻のあのあと、勝手に想像してしまいました。

二人からの告白と、ゆきのんの自立、奉仕部の本物のつきあい。

渡先生、十二巻早くお願いします。(もうむりかなぁ)

次回、スキー合宿、最終日。

オリヒロ、スキーできるかな。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去とこれからの時間

今回もありがとうございます。

よろしくお願いします。

スキー合宿も最終日。

スキーは滑れても、話が滑りませんように。

では、よろしくお願いします。


「ふぁ~」

 

手足伸ばして入れるなんて、やっぱおっきいお風呂は最高。

 

う~、極楽、極楽。

今日一日の疲れが吹っ飛ぶね~。

ほんと、今日はけーちゃんに振り回されたよ。

 

『好き。 大好きなの』

 

・・・ぐはぁ。

なんであんなこと言っちゃたの。

は、恥ずかしい。

馬鹿だねぇ、わたし。

 

”ぶくぶく”

 

うん、気をつけないと。

だって、わたしが選ばれることないんだから。

 

わかってる。

 

期待するほど辛くなるから。

でもさ、なんであいつこんなにもてるんだろう。

結衣ちゃん、雪ノ下さん、ジャリっ娘に、なに、沙希ちゃんって。

数といい、質といい。

どこがぼっちなの。

やっぱりぼっち王の称号は、わたしのものだね。

わたしはチロロちゃんと甘ーい人生を生きるの。

 

うん、決めた。

 

それにね、わたしは・・・・・

幸せになれる資格ないから。

はぁ、けーちゃんと一緒にいたら思い出しちゃった。

ぐすっ。 封印してたのに。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

はっ、誰か入ってきた。

大丈夫だったよね。

ここ女湯だったよね。

う~ん、トラウマだよ。

 

"バシャ”

 

「ふぅ~」

 

あ、ジャリっ娘。 

やばっ、こんな顔を見られたら何を言われるか。

 

”バシャバシャ”

 

うん、よし。

 

「あ、美佳先輩、 お邪魔しますね」

 

”ドボン”

 

「う~ん、やっぱり、露天風呂っていいですね」

 

「そ、そうだね」

 

大丈夫よね、泣いてたってわからないよね。

 

「美佳先輩、あ、あの~」

 

えっ、なに、ばれた?

目赤かったかなぁ。

 

「美佳先輩、あのですね・・・ス、スキー・・、

 いえ、美佳先輩! わたしの勝ちですね、えへ♡」

 

な、なに。わたしなんか負けたの?

ん、どこみてんの?

・・・はっ!

ま、負けてないから、よし。

 

”ぎゅ”

 

「いえ、会長、わたしのほうが勝ってます。

 ほら」

 

「むぅ、美佳先輩、卑怯です。

 余分なお肉よせてるじゃないですか。

 なんか背中のお肉まで持ってきてるし。

 えぃ!」

 

”ビシャ”

 

「きゃ」

 

くそ このジャリっ娘、よくも。

 

”ビシャ”

 

「な、なんですか、もう!」

 

”ビシャ、ビシャ”

 

や、やる気?

わたし小さいころから手水鉄砲は得意なんだからね。

ず~とお風呂に入ってる間やってたんだから。

・・・何回のぼせたことか。

 

「ふん!」

 

”ビシャ、ビシャ、ビシャ”

 

「や、やりましたね」

 

”ビシャ、ビシャ、ビシャ、ビシャ”

 

あまい、数を撃てばいいってもんじゃないのよ。

みよ、この的確なコントロール。

 

”ビシャ、ビシャ、ビシャ、ビシャ、ビシャ”

 

「きゃっ」

 

ふ、ふ、ふん。

年季が違うのだよ、年季が。

 

「こうなったら、奥の手です」

 

”バシャ”

 

ん、奥の手?

えっ、どこ行くの?

 

「いきますよ~」

 

「えっ、か、会長、ま、待って。

 湯桶もOK? や、やめて~」

 

’どばぁ”

 

「ふぇ~、ま、参りました」

 

「美佳先輩、まだまだですね」

 

「いや、会長、湯桶は・・・・」

 

「えへへ♡」

 

「ふふふ」

 

ふぅ、ありがと会長。

少し気が晴れました。

へへ、楽しかった。

 

”ガラガラ”

 

「あっ、美佳っち、いろはちゃん」

 

「げ、・・・結衣先輩、反則です」

 

「反則だね」

 

「ん、反則って?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ゴク、ゴク”

 

「ぷはぁ」

 

風呂上がりの牛乳最高。

しっかし、くっそ~

結衣ちゃん、あんた反則だからね。

ほんとに・・・・・いいなぁ、あれ。

何を食べればあんなになれるんだろう。

 

”スタスタ”

 

あ、雪ノ下さん。

ん~、雪ノ下妹さんだね。

めんど。

もう、魔王と女王で区別していい?

 

「雪ノ下さん、今からお風呂?」

 

「ええ」

 

あ、でも、いま結衣ちゃんが入ってるんだよね。

 

「ご愁傷さまです」

 

「えっ?」

 

だってぇ、ねぇ。 

 

「あっ、いや、なんでもない。

 ごゆっくりね」

 

今、少しだけ優越感にしたってるわたし。

よかった、牛乳好きで。 

さて、歯磨いて寝よっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳先輩、お帰りなさい」

 

「うん、ただいま。

 今日は少し寒いね」

 

今夜は冷えるのかな?

なんか昨日より寒いや。

 

「あ、美佳先輩。

 なんか、暖房の調子悪いみたいですよ」

 

え、そう。 

そんな日は、さっさと寝るに限る。

寝よ寝よ。

 

「会長、おやすみなさい」

 

「おやすみです、美佳先輩」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・やっぱり、少し寒いですね」

 

うん?

 

”ばさ”

 

え、な、なに、何でわたしのベッドに入ってくるの?

もしかして、えっ、うそ。

 

「あ、あの~、会長?」

 

「寒いから仕方ないです。

 美佳先輩、変なことしないで下さいね」

 

・・・・はい、少しだけ変なこと考えてました。

ごめんなさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳先輩、もう寝ました?

 ん~、寝たのかなぁ、どれどれ」

 

”コチョ、コチョ”

 

な、なに?

会長こそ変なことしないで。

も、もう、わたしは寝たの。

く、くすぐったい、我慢、我慢。

 

「うん、寝たみたいですね。

 ふぅ。 

 え~と、美佳先輩、スキー合宿に一緒に来てくれて

 ありがとうございます。

 とってもうれしかったです」

 

ジャ、ジャリっ娘。

 

「うん♡」

 

「な、なんですか!

 ひど、起きてたんですか。

 寝たふりなんて人として最低です。 

 まったくもう。

 ふん!」

 

えっ、なんで? だ、だってあんたがくすぐるから・・・・

 

”ばさっ”

 

「まったく、美佳先輩は~ 」

 

ん、どこへ行くの、会長?

 

「会長、なにを」

 

「え、暖房の設定、もどしてるんですよ」

 

えっ、設定って、暖房故障してたんじゃないの?

 

「会長、暖房、調子悪いって言ってなかった?」

 

「え、そんなこといいました?

 美佳先輩、お耳悪いんじゃないですか~

 さ、さっき聞いたことも空耳ですからね。

 おやすみで~す」

 

お、おい。

空耳って・・・

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ゴシゴシ”

 

「よしっと、最後のトイレ掃除終了」

 

今日も頑張ったからね。

ほら見て見て、ピッカピカ。

もう、汚したら承知しないんだからね、男子ども!

でもさ、これだけ頑張ったんだから、女神さまも見ててくれたよね。

どれどれ、鏡、鏡っと

・・・・・女神さまの嘘つき!

ちっとも綺麗になってない。

な~んてね。

そんなんで綺麗になるんなら、世界中、美人だらけだもんね。

さてと、馬鹿やってないで後片付けしなくっちゃ。

うんしょっと。

 

”どさ”

 

ふぅ~、結構余った。

あっ、平塚先生、いいところに。

 

「先生、すみません。

 この食材とか持って帰るものを、お車に積んでもいいですか?」

 

「あぁ、三ヶ木か、ご苦労。 

 ほらカギだ、場所は覚えてるな」

 

「は~い、ありがとうございます。

 あの、ちなみに生ごみもいいですか?」

 

「おい!」

 

「すんません」

 

     ・

     ・

     ・

 

うんしょ、うんしょっと。 結構重いね。

あ、あれ、結衣ちゃん?

へぇ~、かっこいい。

あ、あの前を滑ってるの、比企谷君の妹さん。 

たしかお米ちゃんだっけ。

いえ小町ちゃんです、はいお約束。

みんな上手だね、楽しそうだなぁ~

 

「みーちゃん!」

 

えっ、あ、あれ、けーちゃんだ。

す、すごい、ちゃんと滑ってる。

あっ、こけた。

 

「えへへ」

 

かわいい。

はぁ~、さっさと荷物もってこ。

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、うでが筋肉痛だよ。

みんな楽しそうだな~。

わたしもやってみようかな。

いくらすんだろう。

ちょっと見てこよっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふ~ん、レンタルで4,000円か。

どうしょうかなぁ。

今日は二時に集合だったね。

あと、四時間か。

う~ん・・・うん決めた。

だって折角、ここまで来たんだもん。

今月、あと苦しいけど、な、なんとかなるよね。

 

     ・

     ・

     ・

 

えへへ、か、借りちゃった。

でも、どうやって履くんだろう?

え~と、動画は観てきたんだけど。

たしかこの金具に足先からっと。

そして、うんしょっと。

 

”カチ”

 

は、履けた、う~ん感激。

よ、よし、もう片方も。

 

”カチ”

 

やったぁ、これで滑れる。

へへ、ぼっちの観察力をなめんなよ。

よ、よし、いくよ。

ついに白銀の世界にデビュー。

えっ、え~、足が広がる~。

 

”どでん”

 

「いったぁ~」

 

「ははぁ、これは立派なしり型がとれたね。

 う~ん、推測で86、7ぐらいかな?」

 

「へ? め、めぐねぇ」

 

「よ、美佳。

 ほれ、立ってみそ」

 

「う、うん。

 うんしょっと」

 

”スー”

 

えっ、うそ~

 

「ひゃ~。」

 

”どでん”

 

「あはは、美佳のしり型二個めの出来上がり。

 う~ん、でっかいねぇ」

 

「ひど~い。 めぐねぇと一緒ぐらいだもん」

 

「あはは、ほら手を出して」

 

「うん」

 

「それじゃ、ゆっくり立って。

 立てたら、まずは足をハの字にして」

 

「うん、うわ~」

 

”どでん”

 

「それはVの字でしょ、反対。

 美佳から見てハの字だよ。

 これじゃスキー場が美佳のしり型だらけになっちゃうよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「よし、いいよ美佳。

 それでね、止まるときは足のハの字をゆっくり広げて」

 

「と、止まれた」

 

「さっ、うまくなるまで徹底的にしごくよ。

 覚悟しな」

 

「うん。

 頑張るぞ、お~」

 

「それ、わたしのセリフ。

 もう、お~」

 

へへへ。

だって一度やりたかったんだもん。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの、あのさ、めぐねぇ。

 やっぱり、4月になったら東京に行っちゃうの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「さみしいなぁ」

 

「ばっか、すぐ近くじゃん。

 それにゴールデンウィークには帰ってくるよ」

 

「うん、連絡してね」

 

「了解。

 ・・・・・それより美佳、やっぱり卒業したら働くの」

 

「うん。

 とうちゃんに負担ばっかりかけられないもん」

 

「でも、美佳、保母さんになるのが夢だったんでしょ」

 

「ち、ち、ち、めぐねぇ、現実はあまくないのだよ。

 わはははは」

 

「美佳」

 

『ねぇ、めぐねぇ。 めぐねぇは大きくなったら何なるの?』

 

『わたしは、学校の先生になりたいなぁ』

 

『めぐねぇ、あたまいいから絶対なれるよ。

 あのね、うちのクラスの義輝君も先生になるんだって。

 なんかお話を書く先生だって』

 

『ふ~ん。

 ね、義輝君って美佳の彼氏? やるね』

 

『ち、違うよ。

 あのね、いっつも愚図だから美佳が守ってあげてるの』

 

『んで、美佳は何になりたいの?』

 

『美佳は・・・保母さん』

 

『そっか、美佳は妹ちゃんの面倒よく看てたもんね』

 

『・・・うん。

 美佳、小さい子と遊ぶの大好き』

 

「そう、美佳は一度決めたら頑固だもんね。

 よし、頑張ってね」

 

”バシ”

 

あっ、うそ~、押しちゃダメ~

いや、誰か止めて~

 

”どでん”

 

め、めぐねぇ~ ひどい。

 

「あちゃ~、またでっかいしり型が」

 

     ・

     ・

     ・

 

「な、なんですか、あの雰囲気は。

 あれじゃ、ちょっと声かけられないじゃないですか」

 

「あれ、一色ちゃんじゃん。

 なに見てんのかなぁ」

 

「あ、陽さん先輩。

 いぇ、なにも見てませんよ」

 

「あぁ、めぐりと三ヶ木ちゃんか。

 相変わらず仲いいね」

 

「陽さん先輩、お二人のこと知ってるんですか?」

 

「あの二人は小っちゃい頃からの幼馴染みだよ。

 なんかほんとの姉妹みたいだね」

 

「むぅ、そうですか。

 でも、普通じゃないですか、普通」

 

「なに? 一色ちゃんやきもち?」

 

「嫌だなぁ~

 そ、そんなんじゃないですよ」

 

「それじゃ、足元のストックの跡は何なのかなぁ~

 ほら、そんなにいっぱい刺した跡」

 

「・・・あっ、そうだ。

 わたし先輩を探してたの忘れてました。

 それでは、し、失礼しますです、えへ」

 

「一色ちゃん、積み重ねられてきた時間で育まれてきた関係は、

 誰にも替えられない本物。

 だけど、これから積み重ねていく時間で育んでいくもの、

 それもいずれ本物になるんだよ」

 

「なんのことですか?

 美佳先輩は、わたしにとって生徒会活動をスムーズに進行するための

 ただの駒ですよ、駒。

 わたしが、やきもちなんか妬くはずないじゃないですか~」

 

”どでん”

 

「あいた~」

 

「えっ、美佳先輩」

 

「あちゃ~」

 

「折角、かっこよく滑っているところを見せようと思ったのに」

 

「美佳、急に滑ったら、危ないじゃないの」

 

「ご、ごめんなさい。

 会長たちの姿が見えたから、つい」

 

またこけちゃった。

こけただけだからね。

 

「ほら美佳先輩、大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがと、会長。 

 ははは、わたし何やってんだか」

 

「美佳、もう急に滑ったらだめだよ」

 

「うん、じゃぁ、めぐねぇ、あっち滑ってみる」

 

「よし、行くよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「会長、全員揃ってます」

 

「はい、それでは。

 皆さん、今回はご苦労様でした。

 電車を降りる場所がそれぞれなので、ここで解散しますね。

 よく言われますが、家に着くまでが合宿ですので、

 最後まで気を付けてくださいね、よろしくです」

 

”ガタンガタン”

 

あっ、電車入ってきた。

んじゃ、みんな気を付けて帰ってね。

わたしは、ちょっとね。

 

「あれ、美佳っち、乗らないの?」

 

「うん、生徒会のみんなのお土産を買うの忘れちゃった。

 今から、買ってくるから先帰ってて。

 わたし、次の電車で帰るよ」

 

「あたしも一緒に行こうか?」

 

「いいよ。

 ほら、比企谷君待ってるよ」

 

「えっ、うそ。

 じゃぁ、また学校でね」

 

「うん、またね」

 

     ・

     ・

     ・

 

うん、これ美味しい。

やっぱ、味見って最高。

タダだよ、タダ。

今月厳しいから、今のうち一杯食べちゃおう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「どこにいるんだろう?」

 

「ん、一色、誰か探してるのか?」

 

「あっ、先輩。

 美佳先輩見てません?

 どこいったんだろう」

 

「あっ、いろはちゃん。

 美佳っちなら、生徒会のみんなへのお土産忘れたって、

 一本後の電車で帰るっていってたよ」

 

「げ、お土産・・・・・やば。

 でも、どうしょう。」

 

「ん、お前もお土産忘れたのか?

 んなら、三ヶ木に電話して買ってきてもらえばいいんじゃないか?」

 

「えっ、お土産なんて、わたしの思い出話で十分じゃないですか~

 それに、ほら、この雪だるまの写真もありますし」

 

「おま、それはやめて、削除して」

 

「だめです。

 それに、美佳先輩、バッテリー切れてるみたいで連絡つかないんですよ~」

 

「一色、それは嫌わてるんじゃないか。 

 『ごめんなさい。もう寝てたから』って、明日メールくるんじゃないか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・おい、一色?」

 

「やっぱり、嫌われたのかなぁ。

 わたし、ひどいこと言ったから。

 聞こえてなければいいんだけど。

 せ、先輩、聞こえてたらどうしょう?」

 

「何を言ったのか知らんけど、由比ヶ浜、ちょっと電話してみてくれ」

 

「えっ、ヒッキーも番号知ってなかった?」

 

「着信拒否中だ」

 

「比企谷君、あなたのほうが問題じゃない?」

 

「理由はわからんが。

 まぁそういうわけだ由比ヶ浜頼む」

 

「うん」

 

”プー、プー”

 

「やっぱり繋がらない」

 

「だっそうだ。

 一色、安心しただろう。

 お前が嫌われて 」

 

「逆です! 先輩、馬鹿じゃないですか。

 わたしの電話に出てくれないほうがましです。

 結衣先輩の電話にまで出ないって、何かあったかも

 しれないじゃないですか」

 

「あっ」

 

「もう。

 結衣先輩、一本あとで帰るって言いってたんですね。

 ありがとうございます」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

よし、やっぱこのクッキーが一番美味しい。

君に決めた。

書記ちゃん、機嫌直してくれるかなぁ。

このスキーのキーホルダーもいいかなぁって思ったけど、

あの二人、受験生になるからね。

さてっと帰ろうか。

 

     ・

     ・

     ・     

 

”ガタンガタン”

 

ふぅ、良かった座れたよ。

混んでたからどうかと思ったけど。

あとは駅に着くまで、一休みだね。

 

『ただの駒ですよ、駒』

 

・・・・・駒っか。

 

『なんだ、もしかして友達になれるって思ってたのか』

 

な、なによ、思ってないわよ。

どこにいるの。

どっから聞こえてくるの。

 

『しょせん、お前なんかいい様に利用されてるだけなんだよ』

 

し、知ってるもん。

 

『だれもお前のやってることなんて見てないんだよ』

 

・・・・・そうだね。

みんな、会長、頑張ってるねっていうもんね。

わたしのことなんて誰も見てない。

ははは、駒っか。 

もともとわたしが望んでたものじゃん。

最近、図に乗りすぎだったんだよ。

ばっかみたい。

 

     ・

     ・

     ・

 

”プシュー”

 

ついた。

あ~疲れた。

さぁ電車降りて帰ろう。

もう、真っ暗だね。

 

”ビュ~”

 

う~さぶ~。

はぁ~明日から学校か。

・・・・行きたくないな。

このまま、どっか行こうかなぁ。

 

”チャリ”

 

ふっ、あと五百円ちょっとしかないや。

どこにも行けないね。

 

「美佳先輩!」

 

「へぇ?」

 

”パン!”

 

いっ、いったー

いたい、いたい、いたい、あいた~。

右のほっぺが・・・

 

「な、なにすんのよ!」

 

「馬鹿ですか、美佳先輩は。

 あんだけ勝手なことはしないでって言ったのに」

 

「い、いいじゃない。

 わたしは、お土産を買いに・・・・・

 会長?」

 

「勝手にいなくなるから、勝手にいなくなるから 

 心配したじゃないですか!

 わたしが、わたしがあの時ひどいこと言ったから」

 

「えっ、なにもひどいこと言ってないよ。

 会をまとめる会長にとって、わたしはただの駒でいいんだよ。

 それで生徒会活動がスムーズに進行できるならわたしは本望」

 

”パン!”

 

いったー

今度は左のほっぺ。

 

「城廻先輩にもそんなこと言ったんですか!」

 

「めぐねぇは・・・・・」

 

「わたしは、美佳先輩を駒だって本気で思ってません。

 わたしの大切な仲間です。

 だ、だからひどいこと言って、ご、ごめんなさい。

 う、う、ううう」

 

「会長・・・・・」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ 」

 

「会長、もういいって。

 本当に気にしていないから。

 わたしのほうこそ、勝手な行動をしてすみませんでした」

 

「美佳先輩」

 

「会長」

 

”だき”

 

「う、う、う~、美佳先輩の馬鹿」

 

「うぇ~ん 会長こそ」

 

”ジー”

 

「ふふ、どうやら、会えたようね」

 

「あぁ、そのようだな」

 

「よかった。

 よかったね、美佳っち」

 

「それじゃ、帰りましょう。

 邪魔にならないうちに」

 

     ・

 

「ご、ごほん。

 もう、勝手な行動はご免ですよ。

 そこは反省してくださいね」

 

「はい、会長。

 すみませんでした」

 

「勝手な行動した罰です。

 生徒会へのお土産は、二人からのってことでお願いします」

 

「へぇ?」

 

「はい、五百円」

 

「いや、あの~足りないんですが」

 

「えぇ~、それは、その分は、

 美佳先輩がわたしを心配させたことでチャラということで、

 よろしくで~す」

 

え~、なんで。

もとはあんたが・・・しゃ~ないか。

これがわたしの会長だもん。

 

「はい、わかりました」

 

「えへっ、それじゃまた明日、学校で」

 

「うん、学校で。

 会長、気を付けて」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま~、とうちゃん」

 

「お帰りって、おい、美佳?」

 

なによ。そんなにじ~と見つめて?

は、もしかしてわたしの顔、忘れちゃったとか。

 

「なに、も、もしかして、

 ほんとにわたしの顔を忘れちゃった?」

 

「いや、お前、またおたふくになったのか?」

 

「へぇ?」




最後まで、ありがとうございます。

やっと、オリヒロにスキーをさせることができました。

スキー合宿も終わり、いよいよ卒業生を送る会。

二年生での、最後の生徒会イベント。

でも、追試が・・・・

次話も読んでいただけるよう頑張ります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

横恋慕

今回もありがとうございます。

スキー合宿も終わっていよいよ卒業生を送る会も本番に。

でも、そんな生徒会に・・・

オリヒロにも危機が。

では、よろしくお願いします。


「三ヶ木、授業が終わったら職員室へ来い!」

 

「へぇ? あっ、はい」

 

えっ、な、なに。

入生田先生、なんかすんごく怒ってらっしゃる。

なにがばれたんだろう。

あのことかな? いや、あれは誰にも見られてないはず。

だって、授業中、無性にチロロ食べたくなったんだもん。

それとも、授業中に生徒会の資料書いてたの見つかってた?

あっ、わかった。 

この前、トイレの後に手を洗わなかったからって、

おい、小学生か。

まぁ、今はとにかくまじめに授業受けとこ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「失礼します。」

 

あっ、平塚先生。

今日もきれいだなぁ~

わたしもあんな風になりたいなぁ~

 

・・・ おい広川、仕事しろ仕事。

なにマンガ読んでんだ。

難しそうな顔してもバレバレだっての。

 

”ボコ” 

 

ほら、平塚先生に殴られた。

 

「ん、三ヶ木どうした?

 何か生徒会の用事か?」

 

「あっ、平塚先生。

 今日はちょっと・・・」

 

「おい、三ヶ木」

 

「は、はい」

 

なんだろう。

なにがばれたんだろう?

すんごいしかめっ面だよ。

元々から怖いのに。

 

「そこ、座れ」

 

「はい」

 

”ひらひら”

 

「なんだこれは」

 

げっ、これは先週の数学の小テスト。

 

「この点数はなんだ。

 それになんで二問目の回答を、三問目の回答欄に

 書いているんだ。

 答えも解き方も間違ってるけど。

 それに最後の証明問題、”・・・かもしれない”ってなんだ。

 なにがかもしれないんだ」

 

「そ、それは・・・」

 

だって、あの小テストの前の昼休み、あいつにいきなり手繋がれて、

校舎内を連れまわされたんだもん。

それに、あいつ自分の上着をわたしに掛けてくれてて・・・

だからわたし、・・・・かもしれないって。

 

「す、すみません。

 ちょっと、答えに自信がなくて。

 正解じゃないかもしれないと思ったもので」

 

「お前、最近、すこし浮ついていないか?

 次の期末考査、成績次第ではわかってるな。

 生徒会だからって容赦しないぞ」

 

「はい、すみません」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「はぁ~」

 

特別棟へ向かう廊下に響き渡る、わたしのため息。

手に握りしめられた一枚の紙。

そう、これがわたしの現実なんだなぁ。

 

「どうしよう」

 

数学って苦手だもん。

だってあんな公式とかって、日常生活で使うときある?

まったく。

 

”スタスタ”

 

ん?

ほんと禍々しいね。

この黄色と黒色のデザイン。

なかなか他の飲み物と入れ替わらないってことは、

やっぱ、ここで買う人いるんだね。

それとも、あいつ一人の力とか?

まったく、こうなったのも全てあいつのせい。

あいつがほんと、すけこましだから。

・・・こんな辛い時は、この馬鹿げたほど甘いコーヒーだよね?

その甘さでわたしを癒して。

 

”ガタ”

 

「よっ、お疲れ」

 

「あっ、稲村君。

 今から?」

 

「今からだ。

 なに、お前それ飲むの?」

 

「えっ、あの・・・そんな訳ないじゃん。

 押し間違えたの」

 

「ふ~ん、まぁいいけど。

 行くか」

 

「うん」

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様! ってまだ誰も来てないか」

 

「うん。

 でも鍵は開いてたのに」

 

うんしょっと。

さて荷物を置いたら、お仕事お仕事。

 

「稲村君、いま紅茶淹れるけど、どう?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「ルン、ルン、ルン♬」

 

ん、なんか痛い視線が・・・

 

「あ、あの~稲村君。

 なにか?」

 

「いや、そうやってるとこ見ると、

 お前も女子だったんだなって」

 

”ベシ”

 

「いって~」

 

ふん。

どうせ会長や書記ちゃんと比べられたら。

くそ、毒でも入れたろか。

・・・・あ、そうだ、稲村君って確か数学得意だったよね。

会計は伊達じゃないっていってたし。

 

「はい、どうぞ。 

 どこからどう見ても女子の淹れた紅茶です」

 

「・・・すみません」

 

「あ、あのさ稲村君」

 

「ん、どうした。 

 大丈夫だ、飲めるぞ、この女子の淹れてくれた紅茶」

 

「ありがとう。

 じゃなくて、あのさ少し数学教えてくれてもいい?」

 

「ん、どうした」

 

「誰にも言わないでね、絶対よ」

 

”ぱさ”

 

「うへぇ、なにこの点数。

 お前、マジやばいぞ」

 

「う、うん、だからお願い。

 数学、教えて。

 生徒会役員の追試第一号はヤダ」

 

「まったく、どうすればこんな点数とれるんだ。

 しかも、”かもしれない”ってなんだ。

 ほら、教科書出してみろ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほらここ、ここがだな・・・」

 

「うん。 あっ、そうか」

 

     ・

     ・

     ・

 

「と、解けた。

 ねぇ、あってるでしょ?」

 

「うん、あってる。

 な、難しくないだろう」

 

「うん、でも稲村君の教え方が上手なのかも。

 すっごくわかりやすい」

 

「そ、そうか。 

 ごほん。

 あのな三ヶ木、数学ってのは恋愛と違ってな、

 解き方さえ間違わなければ、必ず正しい答えに

 たどり着くんだ」

 

「へぇ~、稲村君、かっこいい」

 

「な、なんだよ。

 ・・・最近、俺も分かったんだ」

 

「少し見直した。

 いい男だねあんた」

 

「おい、もう教えてやらない」

 

「いや~、冗談だよ。

 見捨てないでお願い、えへ♡」

 

「きも!」

 

「ひどい。

 ・・・・で、でさ、どっち?」

 

「ん? 何がだ」

 

「会長と書記ちゃん、どっち狙ってんの?」

 

「ぶふぁ! な、なにいってんだ。

 お前には関係のないことだ。

 そんなことより、お前のほうこそどうなんだ」

 

「ん、どうって?」

 

「先週の月曜日、比企谷を連れて体育館の裏に行ったろ。

 なんか、二人して思い詰めた顔して。

 告ったのか?」

 

「あ~、あれ。

 あれはそんなんじゃないよ。

 あんね、絶対秘密だよ。

 ちょっと耳かして」

 

「うん?」

 

「ふぅ~」

 

「おい、三ヶ木」

 

”ボコ”

 

「いった~ 女子に手を出すなんて。

 最低だよ。

 実はさ、あんとき体育館に戸塚君がいてさ。

 比企谷君は戸塚君の・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うそ、それやばくないか? 

 へぇ~、比企谷はそっち系か。

 こわ~

 それで由比ヶ浜さんや会長に対してあんな感じなんだ。

 やっと解が出た」

 

「結衣先輩とわたしがなんです?」

 

「げぇ、会長」

 

「いや、何でもない。

 なぁ三ヶ木」

 

「稲村君が、お二人の電話番号教えろってしつこいんです」

 

「稲村先輩・・・・・・キモ」

 

「いや、違う。違うよ会長。 

 三ヶ木、もう勉強教えてやらないから」

 

「ご、ごめんなさい。

 冗談だよ、見捨てないで~」

 

「前々から思ってたんですけど、

 お二人って、仲いいんですね。

 やっぱりつきあ 」

 

「ない! 絶対ない。

 厳密にない」

 

おい、稲村、前よりも否定するの早いじゃない。

しかも、今回は厳密付きだし。

厳密って・・・

まぁ、いいけど。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様」

 

「お疲れ様です」

 

また同伴出勤?

相変わらず仲いいね。 このバカップル!

 

「ちっ」

 

えっ、稲村君、いま”ちっ”って言った?

・・・う~ん、空耳? 

そうか空耳だよね。

どうもスキー合宿から空耳が多くて。

 

「それじゃ、さっそく始めましょ。

 あっ、その前に。

 美佳先輩、ほれほれ」

 

ん? なにその手は。

はいはい、わかってますよ。

いま出します。

 

”がさがさ”

 

「はい、会長」

 

「うん、はい皆さん、これわたし達からのお土産で~す。

 おひとり一箱づつどうぞ」

 

「うわぁ、三ヶ木先輩ありがとうございます」

 

「ありがとう。三ヶ木さん」

 

「三ヶ木、サンキュ」

 

「はぁ! な、なんですか。

 これはわたし達二人からですよ」

 

「いや、だってなぁ」

 

「あぁ、そうだよな」

 

「あの、いろはちゃん。

 ほら、昨日、三ヶ木先輩からメールで」

 

『書記ちゃん、あんね、いまお土産屋さんの試食食べまくり中。 

 味見最高だね~、タダだもん。

 そんでね、美味しそうなクッキー見つけたんだけど買って帰るね。

 あ、でもなにかアレルギーとかあった?』

 

「・・・・美佳先輩」

 

「あっ・・・その~、あっ、会長も後からお金だしてくれましたから。

 五百円」

 

「五百円? 会長」

 

「いろはちゃん、五百円はちょっと・・・」

 

「三ヶ木、お前不憫だな」

 

「な、なんですか! いろいろとあったんです。

 ・・・・もう、始めますよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「それでは、各自、スケジュールに沿って

 早速、準備お願いします。

 期末考査も近いので、前倒しでよろしくで~す」

 

じゃあ、わたしも早速、先生方の出し物確認してこよっと。

あつ、その前に。

 

「本牧君、稲村君、これ各部長の連絡先ね。

 それと各部長の趣味や好みも記載しておいたから」

 

「み、三ヶ木さん、なんで趣味まで知ってるんだ?」

 

ふふふ、ジゃジャジャーン。 ”三ヶ木レポート”

この手帳には、生徒会に入ってからこの約一年半の情報収集の

成果が書いてあるの。

ぼっち力をいかして気付かれないよう、みんなの会話を

収集してまとめたのよ。

一応、多方向からの情報と、できる範囲内で実際に確認して

いるから、かなり正確よ。

 

「美佳先輩これなんですか~」

 

「ひゃ~、か、返して」

 

「なになに、三ヶ木レポートって。

 どれどれ・・・・」

 

「あ、あの~会長、手帳を」

 

「稲村君、数字オタク。

 いつも数字パズルばっかりやっている。

 キモ!」

 

「おい、三ヶ木。

 お前、俺のことキモって思ってたのか」

 

「本牧君、すっごい保守人。

 優柔不断でちょ~頼りない。

 追記・・・でもね、最近すこし頼りがいがでてきた。

 少し期待」

 

「なんだろう、三ヶ木さん喜んでいいのか?」

 

「へぇ~、よく観察してますね。 

 うん? 一色いろは・・・・・」

 

”ボキボキ”

 

えっ、シャーペン折れてるよ。

か、会長。 げ、目、目がマジだ。

 

「美佳先輩、書いてある内容はさておき、

 なんですか、スリーサイズまで書いてあるじゃないですか!

 しかもなんですか、この横のわたしの勝ちって」

 

「わたしの目測値です。 

 会長のは最新版に更新しました」

 

「なんですか、まったくもう。

 あっ、書記ちゃんのも書いてある」

 

「どれ見せて。

 え~、三ヶ木先輩、何でサイズを知ってるんですか?」

 

「えっ、書記ちゃん合ってるの?

 わたしより・・・

 と、兎に角、わたしの分は誤記ですから、

 修正要請しますって、いぇ、これは没収です」

 

「わ、わたしの努力が~」

 

「書記ちゃん、シュレッダーかけてきて」

 

「はい」

 

物事がスムーズにいくように、いろいろ調べるのって

社会の常識じゃない。

書記ちゃん、持ってかないで~

くそ~ それならば。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ドサ”

 

「はい、会長」

 

「ふぇ~、な、なんですか?」

 

「そろそろまずいでしょう。

 送辞の原稿」

 

ふん、どうよ。

さっきのお返しよ。

さっさと書きなさい。

 

「送辞、あ~送辞の資料ですか。

 そこ置いておいてください」

 

な、なにその余裕。

確かまだ全然手を付けてなかったはずだけど。

 

「会長、ちなみに城廻先輩の時も、

 平塚先生に3回も書き直させられてるのだけど」

 

「大丈夫ですよ~

 え~と、あっ、そろそろですね」

 

「へぇ?」

 

”ガラガラ”

 

「チース」

 

なんで、あんたが来るのよ。

はっ、まさか、また会長が。

げ、その笑顔、やっぱり。

 

「はぁ~、聞くのも疲れるけど、

 比企谷君、何の用でしょうか?」

 

「いや、あのな、一色から送辞のことで、

 相談にのってくれって頼まれてだな」

 

「先輩、遅いですよ。

 ほれ、こっちこっち。」

 

「と、いうことだ」

 

あんた、よく奉仕部の二人が許したわね。

はっ、そうか、あの二人余裕あるんだね。

あの三人の関係には誰も入ってこれないって。

まぁ、これで送辞が出来上がるんなら

仕方ないか。

 

「せんぱ~い、これでどうです~」

 

おい、近い、近いって会長。

ぐぬぬ。なんだろう、もやもやする。

 

”とん”

 

「はい、どうぞ」

 

「お、おう」

 

な、なに?また紙コップ見つめて

もう、だめだからね。

そう何回も同じ手はきかないからね。

紅茶で我慢しなさい。

それに、このカバンの中のマッ缶はわたしのだから。

 

「はぁ~」

 

もう、わかった、わかったわよ。

ちくしょ~。

なんで知ってんだ、ここにマッ缶があることを。

 

”ゴン”

 

「はい、どうぞ」

 

「お、おう、いつもすまない」

 

「何で知ってたのよ」

 

「へぇ?」

 

「いぇ、その、送辞の件、よろしくお願いします。

 絶対、書きあげてね」

 

「おう。

 いや、だがこれは一色が 」

 

「先輩、よろしくで~す。 えへ♡」

 

「・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「せんぱ~い、もう少しわたし的なものがあったほうがいいかなぁって」

 

「いや、お前、少しは自分で 」

 

「先輩、頑張ってくださいね」

 

「・・・」

 

くそ、結局、この二人が気になって職員室にいけない。

もう、くす玉の花作り終わっちゃうじゃん。

 

「あっ、明日から、本格的に進めるとして、

 必要なものの買い出しをしておかないとですね?

 ねぇ、先輩」

 

「あっ、いろはちゃん、わたしも今日は予定大丈夫だよ。

 なんなら一緒に 」

 

「買い出しとか、重たいじゃないですか?

 先輩、いつも時間は空いてますよね」

 

「ダメです! 会長は送辞が書き上がるまで

 監禁です」

 

「えぇ~」

 

あっぶな~。

少しでも油断すると逃げ出すんだから。

今日こそは仕上げてよ。

わたしのマッ缶、提供しているんだから。

 

「いろはちゃん、わたしが行ってくるよ」

 

「じゃあ、藤沢さん、一緒に行こうか」

 

おい、本牧、公私混同かよ。

全く最近の若い者は・・・

 

「いや、買い出しだったら、俺が一緒に行こう。

 俺、会計だから」

 

「ん?」

 

「ん!」

 

な、なに? いや~、やめて。

二人とも落ち着いて。

ちょ、ちょっと会長、なに楽しんでるんですか。

仲裁しなさい。

 

「会長」

 

「わたしは送辞を書いてるとこで~す。

 わくわく」

 

いや、わくわくじゃねぇって。

声に出てるから。

 

「本牧、お前公私混同すんなよ」

 

「そんなつもりはないが」

 

「あ、あの~」

 

ほら、書記ちゃん困ってるじゃない。

もう、モテる娘はいいわね。

ほっておこうか、うらやましいから

・・・ってそんなわけいかないよね。

え~といらない紙を丸めてっと。

 

”ぱこぱこ”

 

「何やってんの二人して、ば~か」

 

「いや、そ、その」

 

「・・・」

 

この場合、買い出しは会計が行くもんだって。

稲村君のほうが正しい。

本牧君のは少し公私混同かな。

まぁ、好きな子が他の男と一緒にって嫌だろうけど。

しゃ~ないな。

 

「まったく、なにやってんだか。

 ほら、稲村君、買い出し行くよ。

 書記ちゃんごめん、くす玉仕上げといてくれるかな」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

なによ、こいつ。

さっきからすごっく機嫌悪いの。

まったく。

 

「ねぇ、稲村君、二人っきりでお出かけって初めてだね。

 もしかして、デートにみえるかなぁ」

 

「ない。絶対ない! 地球がひっくり返ってもない」

 

おい、地球ひっくり返っちゃうのかい。

くっそ~、こいつは。

 

「ほれほれ、女子と二人っきりだよ。

 もっと嬉しい顔しなよ、我慢せずに。

 なんなら手繋ぐ?」

 

「いや、だってお前とだからな。

 やめとく」

 

ひど。

 

     ・

     ・

     ・

 

「大体こんなもんかな。

 三ヶ木、他に必要なものあるか?」

 

「う~ん、そうだね。 あとチロロチョコ」

 

「却下。

 全くお前は。

 あっ・・・」

 

ん、どした、稲村君。

なに固まってんの?

あっ、書記ちゃんと本牧君。

ん、書記ちゃん今こっち見た?

 

「ねぇ、牧人君、これ似合うかなぁ」

 

「牧人君?・・・・あぁ、すごくよく似合うと思うよ」

 

「ほんと? 牧人君はこっちが似合うよ」

 

な、なに、あのアツアツ度。

いつもの2倍は熱いんだけど。

はっ、い、稲村君?

 

「あ、そうだ。 デジカメのメモリーいるんだよ。

 ねぇ、行こう稲村君」

 

「あぁ、わかった」

 

あ~ビビった。

何だろう、書記ちゃん絶対気付いてたよね。

あっ!

 

「ヒッキー、これ可愛くなくない? 

 ほらほら」

 

「可愛くなくないって、可愛いのか可愛くないのかどっちだ」

 

「もう、ヒッキーは。

 ど、どう似合う・・・かな?」

 

「まぁ、似合うと思うぞ。

 いいんじゃないか」

 

「えへへ、じゃあさあ、ホワイトデーにお願いね」

 

「断る!

 断じて断る。

 チョコと帽子じゃ、俺の割りが合わん」

 

「え~、いいじゃん。

 折角、ヒッキーが似合うって言ってくれたのに。

 ・・・・ヒッキー、だめ?」

 

な、なに結衣ちゃん、その上目遣い。

そんなに言われたら、そりゃ、いちころだよ。

 

「・・・それまで売れ残ってたらな」

 

「うん。

 もし、なかったら違うのにする」

 

「チョコと割りが合うやつな」

 

ね、やっぱり。

わたしも勉強しょうっと

えっと上目遣いで”ダメ”だね。

 

「・・・・ねぇヒッキー、美佳っちにもちゃんとお返しあげてね」

 

「あぁ、三ヶ木の分ならもう買ったぞ」

 

え、わたしの分、準備してくれてるの?

な、なにかな。

結衣ちゃんが帽子なら、わたしは・・・なんでもいいよ。

だって、もう、袖のボタンもらってるもん。

内緒だけど。

 

「はや。

 もう買ったの? で、なに買ったの」

 

「ふふん、あいつの好きそうなものはわかりやすいからな」

 

なんだろう? そんなにわたしのことも見てくれてたんだね。

なんかすごい期待。

そうだよね、わたし抱き着かれてるし、

お互いに肌を見せあった仲だし。

 

「ん~なんか複雑。

 で、なに買ったの?」

 

「バレンタイン限定、絶対義理チロロチョコ詰め合わせセットだ」

 

お、おい、それって、売れ残ってたやつだろう。

わたしでも買わなかったやつだ。

ははは、結衣ちゃんは帽子で、わたしは売れ残り。

これが現実だよね。

大丈夫、わかってるって。

 

「な、なんか微妙な感じだね。

 ・・・・あのさ、ヒッキー。

 美佳っちのチョコって本当に義理チョコだと思う?」

 

「絶対義理チョコだろ。

 メモに義理だ義理だって書いてあったぞ」

 

「で、でもさ。小町ちゃんに写真見せてもらったけど、

 あれ絶対手作りだよね。

 しかも結構な手間暇かかってたみたいだし」

 

「義理だ。

 その証拠に俺の番号はいまだ着信拒否だ」

 

「そ、そうなんだ」

 

そ、そうよ。ぎりチョコよ。

でもね、ぎりはぎりでもギリギリのギリ。

結衣ちゃん、大丈夫だよ。

わ、わたしは応援団だから。義理チョコで十分。

・・・チロロチョコ大好きだから。

 

「三ヶ木、大丈夫か?」

 

「へぇ、なんのこと?」

 

「いや、何でもない。  

 なぁ、ちょっと喫茶店でもよっていくか?」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「コーヒーでいいか?」

 

「うん」

 

「すみません、コーヒーを二つ」

 

     ・

     ・

     ・

 

げ、空気が重い。

さっきから稲村君、難しい顔して黙りこくってるよ。

何とかしなくちゃだね。

 

「あ、あんね、なんかごめんね稲村君」

 

「ん? あ~、さっきのことか。

 大丈夫だ、俺のほうは気にするな。

 わかってたんだ。

 あのな、この前の土曜日、書記と映画に行ったんだ」

 

「えっ、ふたりで?」

 

「あぁ ふたりで。

 それでな、なんか感じで分かった。

 ああ、これは違うなぁって。

 なんか、無理してるのわかったんだ。

 ほら、書記って生徒会の雰囲気とか気にするだろう。

 だから、付き合ってくれたんだなぁって」

 

・・・稲村君。

 

スキー合宿いってた時にそんなことがあったんだね。

大丈夫かなぁ。

 

仕方ない、ここはわたしが一肌脱ごう。

え~脱いじゃうの。 また脱ぐの。

違うって、なんだかほっとけないじゃん。

・・・多分、わたし、自分のこと重ねてるのかなぁ。

 

「あ、あんね 稲村君。

 わたしでよかったら、書記ちゃんの代わりにならないと思うけど、

 しばらく付き合ってあげようか?」

 

「げ、三ヶ木、俺のこと好きなのか?

 ってバカ。

 無理すんな、大丈夫だよ。

 それに、お前こそ大丈夫か?」

 

「へぇ? 何のことかなぁ~」

 

「ふっ、まあいいさ。

 ・・・・・それにさ、

 もし、なんかの間違いでお前と付き合うなら、

 書記の代わりとしてでなく、俺はちゃんと誠心誠意、

 お前だけに向きあうつもりだ。

 ・・・そんな時が来たら、

 お前には、お前だからかもしれんが、

 俺だけをみていてほしいと思う。

 だから、偽物とわかっていてお前とは付き合えない。

 まぁ、そんなときは地球が滅亡するぐらい無いけど」

 

「地球滅亡しちゃうの!

 それ複雑なんだけど。

 まぁいいわ」

 

稲村君、少し見直したよ。

ちょっといい男だね。

 

「・・・・・今はな」

 

「へぇ? なんか言った」

 

「いや、そろそろ帰るか」

 

「うん」

 

「じゃあ、350円」

 

「はぁ?」

 

「はぁじゃねぇ、コーヒー代」

 

「稲村君、普通、男の人が奢ってくれるんじゃないの?」

 

「何で奢らなならん」

 

「セコ! じょ、女子と喫茶店トークできたんだから、

 稲村君、おごりなさい」

 

「断る! 絶対嫌だ」

 

そ、そうだ、こんな時は。

 

「・・・稲村く~ん、だめ?」

 

ど、どうよこの上目遣い。

完璧だろ、ほれいちころだろ。

 

「絶対、断る」

 

「げぇ・・・ケ、ケチ!」

 

くしょ~。 あと500円しかないじゃない。

さっきの言葉やっぱなし、いい男じゃない。

ケチは嫌い。

 

「いや、ケチじゃないぞ。

 消費税分はおごってやる」

「・・・・・ありがとうございます」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま!」

 

って、とうちゃん残業だよね。

ほんと、毎日ご苦労様。

よし、腕によりをかけて美味しいもの作るからね。

って、その前に、

 

”ごそごそ”

 

ふふふ、会長甘いよ。

これが裏三ヶ木レポート。

このUSBのほうが本物だよ~。

え~と、稲村君っと。

 

追記

 

ほんとはやさしいやつ。

すこしいい男だね♡

・・・でも、めっちゃくちゃケチ!

コーヒーぐらいおごれよ~




最後までありがとうございました。

生徒会の貴重なメンバーの稲村君。

原作でも稲村君の活躍があまりなくて・・・

卒業生を送る会に向け、結束できるかな。

※最近、なかなか、八幡編が書けなく、

 オリヒロ編ばっかりに。

 なんとかしなければ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの想い

す、すみません。

投稿、めっちゃ遅くなりました。

この年末なんやかんやで・・・・

卒業生を送る会まであとすこし。

生徒会は一丸に・・・・なれるかな。

では、よろしくお願いします。


”じゃら”

 

ふぅ~、お財布の中は百円玉が5枚と・・・

 

冬の寒さが懐に直撃だね。

う~ん、どうしょうかなぁ。

で、でもさ、あいつ、ほんと美味しそうに飲むんだよね。

あの顔みてたら、なんか幸せになるんだ。

重症だね、吹っ切れたと思ってたのに。

 

・・・・・ よ、よし、しゃないか。

 

会長が世話になってるから。

うん、会長が世話になってるからだよ、なんか悪い?

え~と、100円玉と・・

 

”ガチャ”

 

ん、なに、人が買おうとしてるのに、割り込み?

し、しっつれいな奴って、えっ。

 

「ミルクティーでいいか?」

 

げ、比企谷君。

ミ、ミルクティーって、わたしに?

 

「えっ? お、おごってくれるの?」

 

「まぁな。

 いつもご馳走になってるからな。

 たまにはだ。

 いらんのならいいが」

 

「ミルクティー頂戴、絶対頂戴。

 くれ!」

 

「お、おう」

 

へへへ、奢ってもらった。

比企谷君に奢ってもらった。

 

”ガタン”

 

「ほれ」

 

「うん、ありがとう。

 じゃあ、比企谷君の分」

 

”ガチャ”

 

「いや、それじゃ奢った意味ないだろう」

 

「うううん、だってうれしいんだもん」

 

「そ、そうか」

 

「そうなのだ。 

 はい、比企谷君にはマッ缶」

 

「おう、すまない。

 今から生徒会か?」

 

「うん、今からだよ。

 もしかして呼び出し?」

 

「ああ、呼び出しだ。

 なんでも書き直しだそうだ」

 

やっぱり。

世の中、マッ缶ほど甘くないのだよ。

だって、めぐねぇでさえ、去年は三回も書き直しだったんだから。

・・・って、あんたが書いてどうすんの。

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・そうか、小町さん合格してるといいね」

 

「小町なら絶対合格だ。 

 ただ、その後がな」

 

「ん、その後って?」

 

「いや、小町可愛いだろ。 

 入学したら、絶対男どもに人気が出るからな」

 

「・・・・・し、心配だね」

 

ほんと、妹さん大好きなんだね。

戸塚君とどっちが好きか聞いてみようかな。

へへ、なにいってんだか。

 

なんかね、いつもと同じ廊下なのに、

なんだろう、違う廊下をあるいているみたい。

あっ、もう生徒会室ついちゃう。

比企谷君、歩くの早いよ。

なんか、もっと会話したいな。

 

”ドン”

 

「いたっ、なに? 急に立ち止まんないでよ」

 

「あのな、三ヶ木。

 なんで、俺、着信拒否になってるんだ。

 すまん、なんか理由があるんだろう。

 教えてくれないか?」

 

え、だって・・・わたし結衣ちゃん大事だもん。

わたしのほんと数少ない友人。

わたしは、あの二人みたいに頑張れないもん。

そんなに強くない。

それに、いま着信拒否解除したら、わたし・・・・・

わたし、本気になっちゃうよ!

そんで、はっきり比企谷君にふられて。

そしたら、もう、あなたの顔みれなくなって・・・・

だから、

 

「だって、比企谷君のこと嫌いだもん。

 エッチだから」

 

「や、やっぱりそうか」

 

「冗談だよ。

 あんね、なんか間違って設定しちゃったみたいでさ、

 解除の仕方わかんないんだよ。

 こんどの休みにでも、時間をみてショップにいってくるね」

 

「あ、ああ。

 そうだったのか」

 

「うん、そうだよ。 

 なに? 気にしてくれてたんだ」

 

「まぁ、そのなんだ、やっぱり少しな」

 

えへへ、そっか。

それだけで十分だよ。

ごめんね、やっぱ着信拒否だよ。

わたしは、まだふられたくない。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「チース」

 

「ご苦労様です」

 

「ああ、ご苦労さん。

 三ヶ木、ほらさっさと座れ」

 

「う、うん」

 

「今日の問題だ。

 さぁ、やってみろ」

 

稲村君、問題作ってきてくれたんだ。

よ~し、任せなさい。

 

”カキカキ”

 

「なぁ、稲村、何してんだ?」

 

「ちょっと三ヶ木がやばくてな。

 このままだと追試だ」

 

「へぇ~。

 お前馬鹿だったんだ」

 

「うっさい。 

 数学ならあんたも一緒でしょ」

 

「・・・・・、追試は受けたことがない」

 

「くっそ~」

 

ん~と、この問題は確かこの公式を使って・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

で、できた。

ほれ完璧じゃん。

 

「稲村君、できました」

 

「だめ。

 全問間違い」

 

「ん?」

 

「やっぱ、お前この公式を間違えて憶えてたな。

 この前の小テストでも同じ間違いしてたぞ。

 ほら、この公式のここが違うんだ」

 

「へぇ、そこ2乗じゃないの」

 

「いいか三ヶ木、数学はまず公式を正確に憶えろ。

 次に、基本問題をとにかく解きまくれ。

 なんだかんだいってもそれが一番の近道だ」

 

「うん。

 稲村君流に言うと、恋愛と同じで地道な努力が一番の近道って

 ことだね」

 

「ぶふぇ、い、稲村、いつもそんなこと言ってんのか?」

 

「み、三ヶ木!」

 

「ん?」

 

「まぁいい。

 ほれ、みんな来るまでにもう一回やってみろ」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・なぁ、三ヶ木」

 

「うん? なんか間違ってた?」

 

「いや、あってるぞ。

 あんな、生徒会ってなんだろうな?」

 

「う~ん、その答えはないと思うよ」

 

「そうか」

 

「うん。

 だって、生徒会役員になったのだって、

 だれかさんに乗せられてなった人や、やりたくてなった人、

 ・・・人の想いに応えたくてなった人。

 みんな、いらんな思いがあると思うもん。

 だから、その答えはいろいろ」

 

「三ヶ木にとっての答えはなんだ?」

 

「・・・あのね、わたし、生徒会が終わっても、高校を卒業しても

 みんなとのつながりをもっていられる関係でいたいなぁって。

 た、例えばね、ピーって笛一つでみんなが集合するような」

 

「三ヶ木、それはないだろう。 笛一つでって。

 えっ、あるの?」

 

「あったんだ、稲村。 

 めぐり先輩が笛を吹くと集まってくんだよ、前の生徒会って」

 

「まじ? 三ヶ木マジか」

 

「ははは。

 いや、何となく呼んでるかなって気がして」

 

「すごい。

 そんな繋がり出来んのかな」

 

「出来ると思うよ。 

 だって、身近にお手本があるじゃん。

 ね、比企谷君」

 

「ん、なんのことだ?」

 

「とても強くてね、他の人は入りこめる隙間がないの。

 完全に出来上がった三人の空間」

 

「そうか。

 ・・・やっぱりそうだったんだな、三ヶ木」

 

「そうなんだよ、へへへ」

 

「おい、比企谷。

 そのマッ缶、少しくれ」

 

「お、おう、いいぞ。

 お前もマッ缶愛好家なのか?

 ほれ」

 

”ごくごく”

 

「・・・やっぱ、このマッ缶苦いな」

 

「ん? 稲村、お前病院行ったほうがいいんじゃないか?」

 

「そうだよ。 稲村君、病院いこ」

 

「いや、いい。

 ・・・甘いから」

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様」

 

「ご苦労様です」

 

「あっ先輩、もう来てたんですか」

 

今日も同伴バカップルかと思ったら、会長も一緒なのね。

 

”とんとん”

 

ん? なに会長机叩いて。

えっ、比企谷君・・・・・えっ、そこの席に座るの。

もうすっかり飼いならされてる。

 

「はい先輩、ここのところの修正よろしくです」

 

「お前、すこしは・・・

 いや、いい。

 はぁ~」

 

「それでは、さっそく準備しましょう。

 まずは、ビデオレターの件ですが、 」

 

「会長、今日はサッカー部とバスケ部、野球部

 の調整がとれてます」

 

「んじゃぁ、え~と副会長と・・・」

 

「会長、俺と副会長で行ってくるよ」

 

「稲村先輩?」

 

「さぁ行くか副会長」

 

「あぁ、わかった」

 

「あの、わたしも一緒に行くね」

 

「いや、いい。

 大丈夫だ、三ヶ木」

 

”ガラガラ”

 

「じゃあ、こっちは女子しかいないので

 女子会で盛り上がりましょう!」

 

「いや、俺もいるんだが」

 

「げ、先輩、なんでいるんですか。 

 え、変態?」

 

「もう、帰ってもいい?」

 

「さっさと修正しちゃってください。

 もっと、わたしらしくでお願いしますね。 えへ♡」

 

「・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あぁ、三ヶ木さんから連絡もらってるよ。

 じゃ、早速、始めようか」

 

「うん、頼むよ葉山君。

 稲村、カメラどうだ?」

 

「いけるぞ」

 

「みんな、集合~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご苦労さん、会長によろしくね」

 

「あぁ、協力ありがとう」

 

「ふぅ、今日の予定分おわったな」

 

「あぁ、このバスケ部が最後だ。

 ・・・・・なぁ本牧」

 

「ん?」

 

「すまなかった。

 ・・・なんかいろいろ」

 

「俺のほうこそ、すまん」

 

「おれさぁ、惚れやすいから。

 あんとき、優しく声かけてもらって勘違いしちまった」

 

「そ、そうか、そうしておこうか」

 

「あぁ、そういうことにしておいてくれ。

 それでな、またちょっと惚れかかっててな」

 

「またか?」

 

「あっ、書記ちゃんじゃないから」

 

「お、おう。

 ・・・そうか頑張れよ」

 

「まだわからない。

 なんせ地球滅亡してないから」

 

「へ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あっ、これいいじゃないですか。

  美佳先輩、マラソン大会のスライドはこれにしましょう?」

 

「却下!」

 

「えぇ~、何でですか。

 この写真が一番よく映ってるじゃないですか」

 

「だから、それは葉山君がゴールした場面じゃないですか。

 いくら一着だとしても、主役は三年生ですから。 

 三年生の頑張ってるところがよく撮れているのにして下さい」

 

「正直、葉山先輩じゃないと華がないんですよね。

 美佳先輩、そっちの写真だけのやつはなんかありました?」

 

「はい、これどうでしょう?」

 

「あ、結構いいじゃない。

 ほら、いろはちゃん」

 

「はいはい、なんでもいいです。

 それスキャンしておいてください」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、球技大会はこれにしましょう。

 ほら、葉山先輩がゴール決めてるとこ」

 

「却下! 会長同じことを言わせないでください」

 

あんた、比企谷君もいるんだから、もう葉山君ネタはやめときなよ。

そんなんしてると、ほんとに手遅れになっちゃうよ。

少なくとも結衣ちゃんや雪ノ下さんは素直に告ったんだよ。

あんたどうすんの。

・・・ほんとにどうすんの?

 

「葉山先輩が映ってるだけで、女子生徒票は手がたいんですよ。

 はっ、もしかして美佳先輩、葉山先輩にときめかないなんて

 やっぱあっち系ですか?」

 

いや、違うから。 

そりゃ、葉山君は格好いいし、ほんといい人と思うけど。

好みは個人個人で違うから。

あっ、この写真は・・・

 

「ねぇ、書記ちゃん、これでいく?」

 

「うん、いいじゃない。

 三年生がんばってるし」

 

なつかしいなぁ。

これ確かはじめて前生徒会の役員がそろった時の写真だね。

記念にって撮ったんだよね。

へへ、みんな若いねぇ。 

って一年ちょっとしかたってないのに。

 

「美佳先輩」

 

この後、みんなでどんな生徒会にしようかって話したんだよね。

楽しかったな~

 

「美佳先輩」

 

あっ、そうか。

卒業式が終わったら、みんなバラバラになっちゃうんだね。

めぐねぇも遠く行っちゃうんだ。

もう、簡単にあえないね、さみしいな。

ほんとにさみしい。

 

”バン”

 

「美佳先輩!」

 

「はっ、あ、なに会長?」

 

「何じゃないです! 

 まったく、なんですかその写真、見せてください」

 

「いぇ、これは、」

 

「いいから、えぃ!」

 

”ビり!”

 

「み、美佳先輩が手を離さないから、破れたじゃないですか!」

 

「・・・・」

 

「美佳先輩?」

 

「・・・・」

 

「なんですか。

 ヘ、返事をしてください!」

 

「・・・・帰る」

 

「へ、なんですか?」

 

「今日はもう帰ります!」

 

”ガラガラ”

 

「えっ、なんで?」

 

「三ヶ木先輩、待って」

 

「書記ちゃん、すまん追いかけてくれるか」

 

「は、はい」

 

「な、なんですか、写真一枚破れたぐらいで」

 

「一色、それって前生徒会の写真じゃないか?

 ちょっと見せてみろ」

 

「そうみたいですね。 

 でも美佳先輩、前生徒会のことになると変ですよ。

 写真一枚破れたぐらいで」

 

「一色、よりによって、めぐり先輩と三ヶ木の間で破れてる。

 これが原因じゃないか?」

 

「それこそ、変ですよ。

 ほんとに城廻先輩のことになると美佳先輩は変です。

 それに、いつもいつも前生徒会のことばっかり考えてて。

 そんなに過去のことばっかり思ってるような人は、

 はっきり言って目障りですよ」

 

「一色、少し落ち着けって」

 

「だってそうじゃないですか。

 どんなに頑張っても、

 過去のいい思い出にはかなわないじゃないですか」

 

「一色、あのな 」

 

「もういいですよ、先輩。

 美佳先輩は、もう城廻先輩に引き取ってもらいます。

 もともと、城廻先輩が連れてきたんですから無理矢理に」

 

「なぁ、ちょっと聞いてくれ。

 確かに一色の言う通り、過去のいい思い出は年月を経るにつれ

 美化されるからな。

 だけどな、これからの時間は必ず過去の思い出の上に

 積み重ねられていくんだ。

 だから、相手の過去をもう少し理解してやることから

 考えてみたらどうだ。

 まぁ、それになんだ、これからの思い出もいつかいい過去の思い出に

 なるんじゃないか。 

 いま、こうして一色と話してる瞬間もな」

 

「な、なんですか先輩。

 もしかしてこれからも二人でいい思い出作っていこうって口説いてません?

 残念ながらそんなことは、もっとまともなデートに連れてってからにして

 ください、ごめんなさい。

 あっ、先輩にいい思い出なんてないから、わかんないじゃないですか。

 危うく騙されるとこでしたよ」

 

「ぐ、過去を思い出せば、もっともっと暗くなる・・・」

 

「先輩冗談ですよ、そんなに落ち込まないでください。

 それに、わたしと出会ってからの楽しい思い出があるじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「なんで、もっと落ち込んでるんですか。

 まったく・・・わかりました、先輩に免じてもう少し我慢してあげます」

 

「いや、だから、今日のことは一応謝っとけって」

 

「なんでですか、お断りします。 

 だって美佳先輩が手を離さなかったから、

 破れたんじゃないですか。

 わたしが破ったわけじゃないですよ、ぷい!」

 

「一色・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木先輩、待ってください」

 

「ごめん 書記ちゃん。

 今日ちょっと用事があったの思い出しちゃって。

 ・・・ごめんね。

 あ、あしたは元にもどってるから。

 今日はごめんね」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「会長、今日の分のビデオレター、無事終了しました。

 あれ、書記と三ヶ木さんは?」

 

「今日は、ちょっと早く終わるそうだ。

 なぁ、一色」

 

「はい・・・送辞も書き終わったみたいですし、

 今日はちょっと早いけど終わりましょ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

会長、早く来ないかな。

昨日、大人げなかったから、

はやく謝らないとね。

 

”ガラガラ”

 

「か、なんだ稲村君か、お疲れ様」

 

「なんだってなんだよ。

 まあいいけど、ご苦労さん」

 

「稲村君、今日もよろしくお願いします」

 

「ああ、ほれ、これやってみろ」

 

「任せなさい。

 今日のわたしはちょっと違うよ」

 

”カキカキ”

 

「ふ~ん、へ~」

 

「な、なに? さっきからうっさい。

 なんか間違ってる?」

 

「いや、すまない」 

 

     ・

     ・

     ・

「ほれ、できた。

 はい、稲村先生、お願いします」

 

「うん、全問正解だ」

 

「へへへ、昨日、頑張って勉強したんだもん」

 

「三ヶ木、 ほれ、満点のご褒美にこれやるよ」

 

「え、これ何?」

 

「塾でもらったやつだ。

 二年に習った公式と例題とかがまとめてある。

 参考になるぞ」

 

「いいの、これ大事なんじゃない?」

 

「問題ない。

 その内容はもう完璧だ」

 

「すご」

 

”ガラガラ”

 

会長、じゃなかった。

いつもの同伴バカップルか。

 

「お疲れさま」

 

「あっ三ヶ木先輩、ご苦労様です」

 

「うん、書記ちゃんも」

 

「今日、会長は平塚先生のところへ送辞もっていってからだから

 遅れるって」

 

会長遅れるのか。

一番で謝ろうと思ったのに。

早く来ないかな。

 

「それじゃ、待っててもあれだからさっそく始めよう」

 

「おう、副会長、ビデオレターいこうか」

 

「ああ、いこう。 三ヶ木さん今日はどこだっけ」

 

「えっ、ん、なに?」

 

「あ、いや、ビデオレター今日どこ行こうかなぁって」

 

「あ、ごめんなさい。

 今日は美術部と書道部、卓球部さんをお願いします」

 

「了解。

 それじゃ行ってきます」

 

”ガラガラ”

 

さて、わたしたちも始めなくちゃね。

昨日の続きっと。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん?

 

「はい三ヶ木です。

 あ、はいはい、ありがとうございます。

 はい、では早速伺いますのでお願いします」

 

”ガサガサ”

 

え~と、確かもう一台はここにあったよね。

あ、あった。

 

「三ヶ木先輩?」

 

「あ、書記ちゃん。

 いまね、海浜総合に転任された上町先生の予定がとれたので、

 ビデオレター頂きに行ってきますね」

 

「えっ、あ、はい。

 あ、三ヶ木先輩、わたしもいっしょに 」

 

「ひとりで大丈夫だよ、書記ちゃん。

 ほら、生徒会室にだれもいないの良くないじゃん。

 それより、スライドショーの続き、お願いしてもいい?」

 

「はい、気を付けてくださいね」

 

「うん、あ、そんでもし遅くなりそうだったら直帰するね」

 

”ガラガラ”

 

「えっと、たしか牧人君に番号教えてもらってたはず」

 

     ・

     ・

     ・

 

えへへ、昨日、とうちゃんにお小遣いを前借りしておいてよかった。

自分の分のケーキも買っちゃったよ。

ふふふ、とうちゃんは娘に弱いのだ。

ちょっとお酌してあげただけなのに。

わたしも悪よのう。

あ、そうそう、そんなことしてる暇なかった。

電車きちゃうね。

えっと、パスどこだったけ。

 

”ドン”

 

あっ。

ひどいなあのおっさん。

謝れよもう。

 

「ほれ、パス落ちたぞ」

 

「あ、ありがとうございま・・・って比企谷君!」

 

「ほら、ビデオと三脚貸してみろ」

 

「いい、大丈夫だよ」

 

「いいから。

 で、どこいくんだ」

 

「うん、あのね、海浜高校に。

 転任された上町先生のビデオレターを頂きにいくの」

 

「そうか」

 

「あの、比企谷君?」

 

「おれもラノベの新刊を買いに行こうと思ってな。

 ついでだから途中まで送っていく」

 

     ・

     ・

     ・

 

なによ、途中までって海浜高校に着いちゃったじゃない。

まったく・・・・・参るよね。

 

「比企谷君、大丈夫、重くない?」

 

「ん? なにがだ。

 あ、お前か?」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

ぶ、ぶれいなやつ。

 

「あれ~、 比企谷じゃん」

 

「お、おう」

 

「なに? また新しい彼女?」

 

「いや、ちがう、そんなんじゃない。

 それに俺は彼女がいたことがない」

 

また? なにまたって。

この人だれだったけ、たしかクリパの時にいたね。

ほんと、あんたの周りかわいい娘ばっかりだね。

 

「あはは、なにそれウケる。

 今日は一色ちゃんじゃないんだ」

 

「いや、一色も彼女ではない」

 

「こんにちは。

 私、折本かおり、比企谷の元カノで~す」

 

え! ひ、比企谷君の元カノ?

な、なにがぼっちよ、この詐欺師。

 

「いや、ちがう、おい折本」

 

「ははは、ウケる、比企谷マジだ。

 冗談です、比企谷とは同中だよ」

 

「あ、三ヶ木美佳といいます。

 比企谷君とは、あの、え~と、なんだろう?」

 

「おい」

 

「あ、ただの知り合いです」

 

「あはは、ただの知り合いってウケる。

 よろしくね、美佳ちゃん」

 

「あ、はい、よろしくお願いします」

 

な、なに、この人、こんなことでウケるの?

それとも、わたしなんか変なこと言ったかなぁ。

 

「っで、今日は何? 

 なんでうちでデートしてんの」

 

「デート? ち、違います。

 あの上町先生に用事が」

 

「あ、そう、案内しようか?」

 

「いいえ、何回かお伺いしてるので大丈夫です」

 

「ふ~ん。

 じゃ、またね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ふ~、なんか苦手だなぁ。

いい人っぽいんだけど。

わたしと正反対のような。

げ、戻ってきた。

 

「あ、比企谷、ちょっといい」

 

「ん?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇ、比企谷、あの娘はやめときな。

 あの娘、重いよ。

 恋愛経験なさそうだし」

 

「いや、あいつとはそんな関係じゃない。

 なんというか、やっぱ知り合いか。

 まぁなんだ、いろいろあってな」

 

「比企谷はそう思ってるかもしれないけど、

 あの娘はどう思ってるかな」

 

「どうも思ってないだろう。

 さっきいっただろ、ただの知り合いだって」

 

「あはは、なんかウケる。

 でも、それマジで言ってるんならウケないよ。

 ・・・ほんと、もしその気がないなら、

 あまり、気を持たせるようなことはしないほうがいいよ。

 じゃあね」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・これから、人生の荒波へ航海を始める君たちが

 もし迷ったり、悩んだりしたときは、総武高校で仲間たちと

 笑い、泣き、励ましあったこの三年間の時間を思い出して

 ください。

 それがあなた達の原点です。

 そして何年か経た後、またみんなが元気で笑いあえるような時を

 願って、卒業するあなた達へのわたしの贈る言葉とします。

 頑張ってね」

 

”カチャ”

 

「はい、ありがとうございました」

 

「なんか緊張しちゃったね。

 うまく話せてたかな?」

 

「ばっちりです、三年生のみんな感動しますよ」

 

「あら、お上手。

 ありがとう」

 

「はい、それでは失礼します」

 

「気を付けてね、それとケーキありがとう」

 

”ガラガラ”

 

ふぅ、やっぱ上町先生、人気あったはずだよ。

美人だし、やさしいし、なんか大人の女の魅力?

そんなあったな。

どこかの少年漫画オタクとは違うね、美人なんだけどな。

さぁ、帰ろう。

 

「お、おい、俺を置いていくな」

 

「えっ、いたの?」

 

「ひど! まぁ、いい。 

 勝手についてきたんだしな、ほれ」

 

えっ、なに、その手?

もしかして、し、仕方ないな。

まぁ、手ぐらいいいか。

 

「あっ、・・・うん」

 

「えっ、いや、手つなぐんじゃね。

 ビデオと三脚」

 

え、手じゃないの?

はずかし~、くそ、この野郎、純真な乙女を

もて遊びやがって。

 

”ベシ!”

 

「うぉっ、な、なんで」

 

「ふん、なんでもない!

 いくよ」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・ 

 

「なぁ、三ヶ木、一色のこと許してやってくんないか。

 悪気はなかったと思うんだ」

 

ふ、そういうことだと思った。

あんたは相変わらずだね。

ちょっとからかいたくなっちゃうじゃん。

 

「許してほしい?」

 

「ああ、許してやってくれないか」

 

「じゃあ、わたしもヒッキーって呼んでいい?」

 

な、何を言い出すのわたし。

 

「い、いや、それは勘弁してくれ」

 

「えへへ、冗談だよ。

 許すも何もないよ。

 あのね、四月からめぐ、城廻先輩が東京にいっちゃうんだ。

 あの写真見ててね。

 ついそのことを思い出しちゃって。

 そしたら、写真があんな風になっちゃったから、つい。

 わたしのほうこそ、謝ろうと思ってたんだ」

 

「そうか」

 

「うん、そうだよ」

 

・・・ヒッキー。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ガタン、ゴトン”

 

「ぐふぁ」

 

「だ、大丈夫、比企谷君?」

 

「おう。

 しっかし混んでんな」

 

「うん、仕事帰りの時間帯かもね」

 

”ガタン”

 

「ぐぇっ」

 

うひゃ~二回目の壁ドンだよ。

それも、すんごく、ち、近い。 

ひえ~ 比企谷君の顔が。

わ、わたし化粧おかしくなってない?

馬鹿だね、この状況でなに考えてんの。

あっ、比企谷君、腕がプルプル震えてる。

ごめんね、ありがとう。

 

「比企谷君・・・」

 

「大丈夫だ。

 すまん、嫌だろうが少し我慢してくれ」

 

馬鹿、あんたほんとに馬鹿だね。

嫌なはずないじゃん。

どんだけあんたに助けられてんのよ、今までも今日も。

比企谷君、わたし電車が混んでることより、

あなたとこの距離でいるほうが辛いよ。

このまま、抱き着いてもいい?

 

”ガタン”

 

「きゃっ!」

 

「す、すまん」

 

い、いま、わたし比企谷君の胸のなかに・・・

あっ、心臓の鼓動が聞こえる。

これが比企谷君の心臓の音。

・・・・・・・・・・・・・もうだめ。

比企谷君・・・キスしても・・・いい?

 

「三ヶ木、目にゴミでもはいったのか。

 もう少しで駅だ、我慢してくれ」

 

はっ、わたし何をしょうと。

なんで目瞑ってたんだ

 

「あ、う、うん」

 

”プシュ~”

 

「ふぇ~、ついたね」

 

「あぁ、ひでぇ混み具合だったな。

 大丈夫だったか」

 

「うん、比企谷君のおかげで大丈夫だったよ」

 

「・・・いや、お前じゃない。

 ケーキのほうだ」

 

「はぁ!」

 

「そのケーキ、結構高いんだろう。

 雪ノ下が言ってたぞ」

 

なに? わ、わたしじゃなくて、ケーキが心配だったの。

もう、この男は・・・

あははは、やっぱ比企谷君だね。

 

「はい、比企谷君にあげる」

 

「えっ、いや、それお前のだろう」

 

「いいよ、ビデオ持ってもらったのと今も電車で助けてもらってた

 から、すこしだけどそのお礼」

 

「い、いいのか」

 

「うん、ありがと。

 それじゃ、わたし帰るね」

 

「いや、もう暗いから家まで送るつもりだ」

 

「え、比企谷君、わたしの家までついてきて

 なにをする気?

 まさか、家に上がりこんであんなことやこんなことを」

 

「いや、絶対ないから」

 

「えへへ、冗談よ、ここで大丈夫。

 比企谷君のほうこそ気を付けてね」

 

「おう、ケーキすまない。

 じゃあな」

 

「うん、また明日」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「おい、早くいけよ」

 

「えっ、比企谷君のほうこそ早くいってよ」

 

「いや、お前だろ」

 

「あんただよ」

 

「まったく、そんじゃせ~ので行くぞ」

 

「うん」

 

「せ~の」

 

”スタスタ”

 

比企谷君、ごめんだましちゃった。

気を付けて帰ってね。

バイバイ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ごめんね、結衣ちゃん。

わたし、やっぱりもう・・・・駄目だ。

 

着信拒否解除。




今回も最後までありがとうございます。

オリヒロに一歩踏み出させてしまいました。

どうしょう、なんか関係ごちゃごちゃしてきちゃいました。

さらに、次話ではあの男が・・・・

※今年もおわりですね。
 
 ありがとうございました。

 来年こそは、締め切り守るぞ。 お~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いま大事にしたいもの。

明けましておめでとうございます。

今年も読んでいただけたらありがたいです。

オリヒロ、前話でとうとう着信拒否解除。

スタートライン・・・たてるかな。

でも、その前にもう一つの大事なものが・・・

では、よろしくお願いいたします。



「一色、書き直しだ」

 

「ふぇ~、なんでですか」

 

「自分の言葉で書けといっただろう。

 まったく、比企谷はお前に甘いな」

 

”ガラガラ”

 

「失礼します。

 先生よろしいですか」

 

「城廻、答辞の原稿できたのか」

 

「はい、先生お願いします」

 

「ご苦労、預かっておこう」

 

「平塚先生、原稿チェックしないんですか?」

 

「一色、これは清書したやつだ。

 すでにチェックは終わっている。

 それより、城廻、東京に引っ越す日は決まったのか?」

 

「えっ、城廻先輩、東京に引っ越されるんですか?」

 

「うん、そうだよ。

 先生、日にち決まったら連絡しますね」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「それでは、失礼します」

 

「うむ、ご苦労さん」

 

     ・

     ・

     ・

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、し、城廻先輩、ちょっといいですか?」

 

「うん、一色さん、どうしたの」

 

「あの、城廻先輩。

 美佳先輩と城廻先輩ってどんな関係なんですか?」

 

「えっ、う~ん、美佳とは子供のころ家がご近所さんだったから、

 よくいう幼馴染ってことになるかなぁ」

 

「それ以外に、なんかあったんじゃないですか?

 スキー合宿の時もそうでしたけど、 

 なんかお二人には特別なものを感じます」

 

「・・・一色さん、それを知ってどうするの?」

 

「わたしは、そ、その、会長として部下のことを

 知っておくのは当然じゃないですか」

 

「そういうことなら教えられない。

 でも、本当は違うんでしょ」

 

「えっ、あの~」

 

「・・・じゃあ、行くね」

 

「わたしは知りたい! 知りたいんです。

 うまくいえないけど、

 美佳先輩は、わたしの生徒会の大事な仲間なんです。

 うううん、美佳先輩だけじゃなく、副会長や稲村先輩、書記ちゃんも。

 いまもこれからも、一緒に少しづつ時間を積み重ねて

 わたしたちの本物を育んでいきたいんです。

 そのためには、そのためにも、

 わたしは知っておかなければいけないって思うんです」

 

「あのね、やっぱり私からは言えない。

 でも、一色さん・・・・・・いろはちゃん、

 美佳のことそう思ってくれてありがとう。

 多分、いろはちゃんにならあの子の方から打ち明けると思うよ。

 もう少し、待ってあげてくれるかな?」

 

「城廻先輩」

 

「一色会長、お願いがあります。

 あの子は、過去を引きずっているの。

 小っちゃいころから今も。

 私はその過去を知ってる、近くで見てたから。

 だから、私ではあの子を変えられない。

 知りすぎているの。

 変えられるのは、過去のしがらみのないあなた。

 ごめんね、やっかいなことお願いするけど、

 もう少し、あの子を見ててくれないかな?」

 

「・・・正直いって、なんかよくわからないです。

 でも、仕方ないですね、城廻先輩の頼みですもん。

 城廻先輩、了解です」

 

「うん、ありがとう」

 

「あっ、そうでした。

 城廻先輩、わたしからもお願いがあります。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ふぅ、今日のお勤め終わった。

さぁ、生徒会頑張るぞ。

あ、でもその前に会長にあやまらなくちゃ。

昨日、会えなかったから。

さてと。

 

”ボコ”

 

「あいた。

 えっ、なに? カバン?」

 

「もう、美佳先輩、教室から出てくるの遅いです。

 はい、これ」

 

「えっ、あれ、どうして、これ破れたんじゃ?」

 

「ごめんなさい」

 

「ちが、会長、わたしのほうが大人げ無かったから」

 

「そうですよ、大人げないんです。

 まったく仕方ないですね。

 ・・・・・ふたりして」

 

「会長、ごめんなさい」

 

「さぁ、行きますよ。

 お仕事いっぱいありますから、しっかり働いてもらいます」

 

「うへぇ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「「会長、お疲れ様です」 」

 

「あ、みんな揃ってますね。

 それじゃ、早速はじめましょう。

 まずは、現状確認です。

 美佳先輩。」

 

「はい、え~とまず出し物のほうですが・・・」

 

「本牧、何ともなさそうだな」

 

「ああ、そのようだ」

 

「そこ!、副会長と稲村先輩、うるさいです」

 

「す、すみません、会長」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、来週月曜日の各部活さんとの打ち合わせで

 最終、段取り詰めましょう。

 美佳先輩、手配よろしくです」

 

「会長、お願いしてました先生方の出し物はどうですか?」

 

「あ、あの~、まだです。

 だってぇ、先生方の窓口はあの厚木なんですよ。

 わたし的にちょっと苦手なんですよ~」

 

「仕方ないですね。

 打ち合わせ終わったら一緒に行きましょう。

 え~と、厚木の弱点は・・」

 

「は~い、よろしくです。

 って、そのメモ、この前シュレッダーにかけたはずじゃ。」

 

「あ! やばっ」

 

「あ、あの~、いろはちゃん、やっぱりわたし司会?」

 

「美佳先輩、メモ渡しなさいって!

 あ、うん、書記ちゃん頑張ってね」

 

「・・・」

 

「はぁ、はぁ、美佳先輩、これはシュレッダーです。

 それじゃ、副会長、稲村先輩、引き続きビデオレターお願いしますね。

 編集もあるので、遅くても来週火曜日までにはお願いします」

 

「うへぇ、おい、稲村行くぞ」

 

「お、おう」

 

”ガラガラ”

 

「それじゃ、わたしたちは会場の飾りつけの準備しましょうか」

 

「・・・会長、厚木のとこいきますよ」

 

「や、やっぱり。

 はぁ、書記ちゃん、先に看板用の花つくってて」

 

「うん」

 

「ほれ、いきますよ会長」

 

「ふぁ~い」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「う~さぶ」

 

こんな寒い日の休日は、炬燵でアカ俺のDVD観てたいなぁ~。

やっぱ、イレギュラーヘッド先生、最高だね。

あ、でも、マイティオールのトゥルー状態時の目も最高。

よし、今日は早く帰ってDVDを観よっと。

 

「やっはろー、美佳っち」

 

「ん? こんにちは、結衣ちゃん」

 

「・・・」

 

わ、わかったわよ。 

恥ずかしいんだからね、もうやけくそ。 

 

「やっはろー! 結衣ちゃん」

 

「やっはろー」

 

う~、これでわたしもやっはろ族になっちまった。

 

「どこ行くの、美佳っち」

 

「うん、学校。 

 今日ね、副会長と稲村君がビデオレター撮ってるから、

 差し入れ持ってくとこ」

 

「ふ~ん、どれどれ。

 お~、サンドウィッチだ。

 美味しそうだね」

 

「結衣ちゃんは?」

 

「うん、ヒッキーと待ち合わせ。

 ほら、今日ね小町ちゃんの合格発表じゃん。

 一緒に行こうかなって」

 

えっ、比企谷君と待ち合わせ。

 

いいなぁ。

わたしもやっぱり比企谷君が・・・

黙ってるなんて卑怯だよね。

でも結衣ちゃん、わかってくれるかな。

 

「あ、そうだ、今日合格発表だったね。

 受かってるといいね」

 

「うん、じゃあね」

 

「ゆ、結衣ちゃん・・・ あのね、わたし、あのね」

 

「ん、どしたん?」

 

頑張れ、わたし。

わたしもスタートラインに立ちたい。

 

「わたし、ひ・・・・好き」

 

「へ?」

 

「わたしね、ひ、ひき・・・好き」

 

「ひき? 好き?」

 

「わたし、ひ、ひき・・・ひき肉大好き」

 

「んん、ひき肉?」

 

「だって、ハンバーグとか美味しいじゃん」

 

「そ、そだね。

 たははは・・・・・・ん~?」

 

「じゃあね」

 

”た、た、た、た”

 

ひぇ~、言えないよ、やっぱ言えない。

だめだ、わたしって。

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、どこにいるのかなぁ。

今日は文化部中心に廻ってるんだったと思うけど。

合唱部か演劇部あたりかな。

 

”スタスタスタ”

 

ん? あれは書記ちゃん。

どこ行くんだろう?

あ、あの手に持ってるのはもしかして・・・

ちょっとついていこ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご苦労様です」

 

「あ、書記ちゃん、どうしたんだ?」

 

「藤沢さん、ご苦労様」

 

「うん、みんなでお昼食べようと思って。

 はい、お弁当」

 

「えっ、俺の分もあるの?」

 

「うん、三人で食べよ」

 

やっぱり、お弁当だった。

あちゃ~、かぶっちゃったね。

どうしょうかな。

 

”わいわい”

 

しゃない、あの雰囲気壊したくないもんね。

なんかいい雰囲気だよ、いいなぁ。

・・・体育館でも行こう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、みんな集合。

 じゃあ、今日はここまでにしておこう」

 

「はい、ご苦労様でした」

 

「つかれた~

 戸塚先輩、厳しい~」

 

ふ~ん、戸塚君、頑張ってるね。

いつも昼休みの時間も練習してるし。

 

”ぱく”

 

ふぅ、もうお腹いっぱい。

ちょっと作りすぎちゃったかなぁ。

あとは、晩ご飯にしよっと。

ふふふ、とうちゃん、今日の晩御飯は

サンドウィッチだよ。

 

”がやがや”

 

ん? なんか外が騒がしくなってきたね。

どれどれ。

あ~、そろそろ集まってきてる。

あ、あれは比企谷君だ、それと隣にいるのは結衣ちゃん。

え~と小町ちゃんはっと。

あっ、いたいた。

でも何でそんなに離れてるの比企谷君。

はは~、さては小町ちゃんには内緒で来てるね。

小町ちゃんの隣で喋ってるのは、誰だろうあの男の子。

 

はっ、沙希ちゃん。

沙希ちゃんまでなに隠れてんの。

あ、あの男の子にみつかった。

はは、怒られてるみたい。

おそらく弟さんだね。

まったく、あの二人シスコン、ブラコンってほんとだね。

へへ、みてて面白い。

いいなぁ~、兄妹って。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

あっ、平塚先生。

大変だね、また役押し付けられたのかな。

ん? 後からついてくるのは・・・広川先生だ。

うわぁ、眠そう。

あれ、平塚先生にたたき起こされたんだね。

おい、寝ぐせぐらいなおしてこいよ。

あっ、こけた。

ふふふ、ほんといいコンビだね。

もう、はっきりしてあげればいいのに。

って、いよいよ発表だ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ごく”

 

が、頑張って小町ちゃん。

勇気出して結果を確認して。

ど、どうありそう?

へ、小町ちゃん・・・・

だめだったのかなぁ。

なんかうつむいては知りだした。

あっ、比企谷君、小町ちゃんそっち行ったから。

抱きしめてあげてしっかりと。

 

     ・

 

沙希ちゃんのほうは。

あれ、あの男の子どこ行った?

あ、いた。 

なんか走ってる。

な、なにどうしたのそんなに慌てて。

ああ、小町ちゃん探してんの。

うん、そこ、もう少し先だよ。

あっ、見つけた。

でもどうしたんだろあの男の子。

えっ、小町ちゃん男の子に抱き着いた。

ゆ、結衣ちゃん、比企谷君とめなきゃ危ないよ

だって超シスコンだから。

・・・・・て、二人抱き合って喜んでる。

比企谷君も結衣ちゃんもうれしそうだね。

もしかして、小町ちゃん、受かってたのかな?

いいなぁ。 わたしも隣にいたかったよ。

 

『なに、ショック受けてんだよ。

 わかりきってたことだろう。 バ~カ!』

 

な、なによ、わかっていたわよ。

わかっていたけど・・・

 

『お前が由比ヶ浜に勝てるわけないだろう、何一つ。』

 

うっさい。

 

『さっさと失せろよ、このストーカー女』

 

わかってるわよ。

もう、帰るわよ。

でも、もうちょっとだけ、ここにいさせてよ。

だって、こんな顔でどこにも行けないじゃん。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、しゃ~ないね、うん。

さ、帰ろっと。

げ、もう三時じゃん、めっちゃ遅くなっちゃた。

帰ってイレギュラーヘッド先生観るんだ。

 

「おっ、三ヶ木、いいとこにいた」

 

げ、厚木。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「今日は一色は一緒じゃないんだな」

 

なによ、何でそんなにがっかりしてんのよ。

まぁ、知ってるけど。

あんたわりとうちの会長に気があるでしょ。

ふふふ、三ヶ木レポートをなめるなよ。

 

「残念ですね、先生」

 

「はぁ?、なに言ってんだ。 

 そんなことより、ちょっと手伝え」

 

「え、手伝えってなにを」

 

「これと同じ段ボールが職員室にあるから、

 体育館倉庫まで運んでくれ」

 

「え~」

 

「生徒が先生の手伝いをするのは当たり前だろ。

 さっさと運べ、いいな」

 

「ふぁ~い」

 

まったく、今日は何という日なんだろう。

くそ、厚木め、憶えてろ。

 

”ガラガラ”

 

「失礼します」

 

ん、二個もあるって聞いてないよ。

わたし、これでも女の子なんだよ。

まったく、広川先生といい、なんでこんなかわいい女子に

重たいもの運ばせるんだろう。

かわいい? うん、かわいいんだよ、いいじゃん。

 

「うんしょっと」

 

げぇ、前見えないよ、もう。

扉、いいよね、手塞がってるもん。

 

     ・

     ・

     ・

 

ひぇ~、結構重いよ。

ひどい、ひどすぎる。

腕、腕しびれてきた。

指がちぎれそうだよ~。

 

「よいしょっと」

 

へぇ、なに厚木?

 

「三ヶ木先輩、もちますよ」

 

ん、だれこいつ?

 

「あ、あの~」

 

「入試依頼ですね、あの時はありがとうございました」

 

ん~と、入試入試と。

あっ、

 

「あっ、もしかしてあんときのスリッパ君」

 

「いや、三ヶ木先輩、スリッパ君はちょっと」

 

「あはは、ごめんごめん。

 えっと、ヤドカリ君だね」

 

「ひどい!

 刈宿です、刈宿」

 

「わかってるよ、刈宿狩也君。 

 おひさ」

 

「あ、はい。 おひさです。

 あ、あの、めっちゃうれしいです。

 名前憶えてもらってて」

 

ん? 確か三ヶ木先輩って。

 

「ヤドカリ君、受かったんだ」

 

「刈宿です、まったく。

 はい、三ヶ木先輩のおかげで受かりました。

 あのラッキースリッパ、効果絶大です」

 

「ヤドカリ君の実力だよ」

 

「刈宿です。

 もういいや、ヤドカリで」

 

「えへへ、ごめんなさい刈宿くん」

 

「へへへ」

 

なに、なんかいいなぁ。

弟がいたらこんな感じなのかなぁ。

この子と話してるとなんか心が暖かくなる。

 

「ありがとね、刈宿君」

 

「ええ、なんでもないですよ。

 で、どこまで運びます?」

 

「うんと、体育館倉庫まで」

 

「お安い御用です」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「・・へぇ、テニスやってんだ」

 

「はい、高校でもやろうかなって」

 

「部長さん、きついわよ」

 

「えっ、そうなんですか」

 

「あっ、厚木先生、ここでいいですか?」

 

「おう、そこにおいといてくれ」

 

「はい」

 

「ありがとね、刈宿君」

 

「全然いいですよ。 

 俺、三ヶ木先輩のためなら何でも手伝いますよ。

 なんかあったら呼んでください。

 これ、俺のアドレスです」

 

「えっ、あ、ありがとう」

 

「それじゃ、俺帰りますね」

 

「うん、気を付けてね」

 

え、あ、アドレスもらっちゃった。

ど、どうしょ。

別に何でもないよね。 

いまどき普通だよね、普通。

登録しておこう。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、結衣ちゃんからだ。

 

「あっ、美佳っち、いま大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「あのね、小町ちゃん合格したの。 

 そんでね、ゆきのん家で合格のお祝いするんだけど、

 美佳っちもこない?」

 

結衣ちゃん、ごめんいけないよ。

わたし、わたしもそこにいたかったの。

あなたのその場所に。

だから、いま、二人が一緒にいる姿見たくない。

・・・あきらめたくないから。

 

「ごめんね、今からとうちゃんとご飯食べに行くの」

 

「あ、そうなんだ。

 残念だけど仕方ないね。 

 じゃあ、また今度ご飯食べにいこ!」

 

「うんまた今度。

 じゃあね」

 

・・・わかってる。 

いまのわたしって最低。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「稲村君、あれ会長さんだよね。

 なんか呼んでるよ」

 

「えっ、あ、会長。

 なんだろう、ありがとう」

 

「かわいいね会長さん」

 

「外見はね」

 

”スタスタ”

 

「何か御用ですか会長?」

 

「稲村先輩、聞こえてんですけど。

 まあいいですけど。

 それより、今日のお昼休み時間になりましたら、

 生徒会室に集合よろしくです、えへ♡」

 

「へ、あ、はい、了解です」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です」

 

「あぁ、お疲れ」

 

「みんないますね」

 

「いや、三ヶ木さんがいないけど」

 

「いいんです。

 今日はみんなに相談したいことがあります」

 

     ・

     ・

     ・

 

”きょろきょろ”

 

よし、今日は会長いないね。

ふぅ~、やっぱこの前のいきなりカバンは

きつかったよ。

心臓飛び出るかと思ったって大げさだね。

・・・・・・でも、ほんとは少し期待してたりして。

馬鹿言ってないで、生徒会いこ。

いよいよ、明日卒業生を送る会か。

今日中に、会場の飾りつけ終わらせないとね。

よし、頑張ろう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「会長、ここでいいか」

 

「は~い、稲村先輩、おまけの先輩、看板そこでいいですよ」

 

「いや、何で俺が手伝わされてんの。

 それに俺、おまけ?」

 

「すまん、比企谷」

 

「いいんですよ、稲村先輩。

 先輩は基本、いつも暇ですから」

 

「おい!

 まぁ今日は暇だからいいが」

 

「藤沢さん、真ん中の椅子もう少し間を開けようか。

 三年生通りやすいように」

 

「うん、そうだね」

 

「ご苦労様です」

 

「あっ、吹奏楽部さん、ご苦労様です。

 明日はよろしくです」

 

「はい。

 あ、会長さん、吹奏楽部の場所はここでいいですか」

 

「はい。

 どうです、スペース行けます?」

 

「大丈夫です」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、大体こんな感じかな。

くす玉も吊れたし、スポットや音響もOKっと。

わりと早く終わったね、それじゃ飲み物っと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、それでは集合してください」

 

「ご苦労様でした。 

 本牧君、冷たいのと温かいのどっちがいい?」

 

「あ、じゃ三ヶ木さん、冷たいのもらうよ」

 

「おれ、この微糖のやつもらうよ」

 

「わたし、ミルクテーにしとこ」

 

「はい比企谷君、マッ缶」

 

「おう、俺のもあるのか。

 サンキュ」

 

「みんな、ご苦労様でした。

 なんとか会場の準備できたようですね」

 

「あとは明日だね、会長」

 

「あの~いろはちゃん、やっぱりわたしが司会?」

 

「頑張ってくださいね。

 ん~、でもなんかちょっと飾り付けさみしいですね。

 あ、そうだ」

 

”ごそごそ”

 

ん、なに、なに探してんの会長?

 

「あった。

 三ヶ木先輩、このスライドショーの準備に使った写真なんですが、

 折角、学校行事と部活動にわけていいやつ選んだんですよ~

 なので、使わなかった写真もこの模造紙に貼って

 会場に飾っておいてください。

 よろしくです」

 

「え~、今から?」

 

「はい、明日までに」

 

「・・・」

 

「じゃあ、よろしくです」

 

「あ、三ヶ木わりい、俺これから塾なんだ」

 

「三ヶ木さん、すまない。

 僕も今から演劇部さんとこで、明日の打ち合わせがあるんだ」

 

「三ヶ木先輩、ごめんなさい。

 今日、お母さん調子悪くて」

 

はぁ? な、なに、みんな帰っちゃうの。

わたし一人?

一人でこれやるの?

あ、比企谷君。

 

「しゃね~な、三ヶ木さっさとやっちまおう」

 

「うん」

 

えへへへ、比企谷君と一緒ならいいかなぁ。

 

「先輩! 大変です。

 送辞、今から書き直しだそうです。

 すぐ来てください」

 

「いや、それはお前が自分で、いててて」

 

「ほれ、もう時間ないんです」

 

「耳を引っ張るな。

 い、いや引っ張らないでください、一色さん。

 痛い痛い」

 

な、なんで。

わたし一人でやるの。

無理だよこんなの、終わらないよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「おい、一色、これはどういうことだ

 送辞の書き直しじゃないのか」

 

「いいんです、先輩は黙っててください」

 

「お前、この前の写真のこと、まだ怒ってんのか?」

 

「それも少しあるんですけど・・・別の意味で」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~。

さむいよ~ 誰もいなし。

な、なんかわたしみんなに悪いことしたのかなぁ。

げぇ、まだ写真こんなにある。

 

     ・

     ・

     ・

 

こんなの、終わるわけないじゃん!

みんな自分勝手!

なにさ・・・・

ふぅ、馬鹿だね。

わたし、知らないうちにみんなのこと頼りすぎてたのかな。

やっぱ、わたしは一人があってるよ。

だって、この前も、あの三人のなかに入って行けなかったじゃん。

同じ生徒会なのに。

わかってるよわたしなんて。

ううう・・・

おかしいな。

なんでだろう、わたしっていつも・・・こんなんだ。

 

「う、ううううう」

 

     ・

 

「おい、一色、もう無理だ。

 三ヶ木泣き出しちまったじゃないか。

 俺はいくぞ」

 

「だめです。

 絶対、行かせません」

 

「はぁ? 一色、おれはお前を見損なった。

 そこどけ!」

 

「先輩、絶対どきません。 

 もう少しだけ 」

 

”ピー”

 

「へ?」

 

「おう、美佳ご苦労」

 

「め、めぐねぇ!

 それに前の生徒会のみんな。

 な、なんで? どうしたの?」

 

「ほれ、三ヶ木ハンカチ。

 涙拭け」

 

「副会長、ありがと」

 

”ち~ん”

 

「お前、人のハンカチで鼻かむな」

 

「あ、つい」

 

「まったく、ドジは変わらないね」

 

「はぁ、眼鏡して少しは変わるかなって思ったのに」

 

「ははは、眼鏡じゃ性格まで変わらんって」

 

「みんなひど!

 えへへへ」

 

「よ~し、みんな、さっさと片付けて

 カラオケ行くよ~

 頑張るぞ! お~!」

 

「「「お~!」」」

 

「ひ、久しぶり♡

 おー!」

 

”わいわい、がやがや”

 

「い、一色、これってお前が」

 

「ふぅ、よかった、間に合った。

 会場の準備がわりと早く終わったので、ちょっと心配だっだんですよ」

 

「すまない。

 てっきり俺はお前の意趣返しかと」

 

「はぁ、先輩、わたしのことそんな風に思ってたんですか。

 なんかものすご~くショックです」

 

「すまん」

 

「もう立ち直れません。

 先輩、責任とってください」

 

「お、おう」

 

「それじゃ、ちょっと手握っててくれますか」

 

「はぁ? なんで、いや、なんの裏があるんだ」

 

「裏なんてありません。

 すこし、やきもちかもです、美佳先輩たちに。

 なんか・・・・・・

 いいですから、はい、手!」

 

「お、おう。

 ほれ、一色」

 

”にぎ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「よし、終わったかな。 

 あれ?

 ね、美佳、ここ真ん中のとこあいてるよ?」

 

「めぐねぇ、わたしその場所にこの写真を貼りたいの」

 

「え、これいろはちゃんが言ってた破れた写真じゃない? 

 たしか、わたし同じなの持ってたから渡したけど」

 

「うん、これね、あとで会長がセロテープで直しておいてくれたの。

 わたし、この写真大事なの。 

 だからこの真ん中に貼りたい。

 めぐねぇ、いい?」

 

「当たり前でしょ。

 うん、この写真のほうがいいね」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんか、なんか、やっぱりなんかです先輩!」

 

「ど、どうしたんだ一色」

 

「城廻先輩、今日だけですからね!

 美佳先輩は、わたしの庶務なんですから、ぷい!」

 

「一色、お前・・・・・」

 

「・・・先輩、わたしいい会長になれると思いますか?」

 

「いまでもいい会長だと思うぞ」

 

「そうですか。 

 そういってもらえると・・・正直少しうれしいです」

 

「おう」

 

「でも先輩、手、湿っぽくてチョ~キモいんですけど!」

 

「・・・すまん」

 

”にぎ”

 

「ん?」

 

「でも、嫌いじゃないですよ。

 ・・・だからもう少しこのままで」

 

「おう」




ありがとうございました。

次話ではいよいよ卒業式です。

三年生だけでなく、オリヒロも。

※お正月、今まで投稿した話を見直してます。

 誤字脱字の多さに申し訳なく。

 随時、誤字脱字の修正しまくります。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

卒業

今回も見に来ていただき、ありがとうございます。

いよいよ、三年生の卒業。

前生徒会、オリヒロの卒業と出発です。

よろしくお願いします。


”ガラガラ”

 

「はい、みんな揃ってますか?

 えっ、なに?

 なんでみんな正座してるんですか?」

 

「会長!」

 

「は、はい」

 

”バン、バン”

 

「ほれ、そこ せ・い・ざ」

 

「・・・は、はい」

 

”とん、とん、とん、とん・・・”

 

「まったく、みんなしてなに考えてるんですか!

 手の込んだことして。

 ほんとに・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・ほんとにありがとうございました」

 

”ぺこ”

 

「・・・もう、びっくりしたじゃないですか。

 もういいですか、せ・い・ざ」

 

「えへへ。

 だって一度やってみたかったんだもん」

 

「ひど~い、三ヶ木先輩、もう」

 

「まったく、それじゃ本番前の最後の確認しますよ。

 ほれ、美佳先輩」

 

「えへへ、はい。

 一応、もう一回、今日のタイムスケジュールを渡しておきます。

 それでは確認しますね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは、各自抜かりなくよろしくです。 えへ♡」

 

「う~ん、やっぱり調子悪いな。

 会長、ちょっとパソコン貸してもらっていいか。

 昨日の予行の時から画面がちらついて」

 

「仕方ないですね、時間もないですしいいですよ。

 でも余計なフォルダー開かないでくださいね。

 絶対ですよ!」

 

「は、はい。

 ちょっとスライドショーのコピー保存させてもらいます」

 

「三ヶ木先輩、カンペンよろしくお願いしますね」

 

「はい、ステージ横に置いとくね」

 

「では、準備出来次第、体育館集合お願いしますね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、いよいよだな。

 だ、だいじょうぶだからね、沙和子。

 できる。できるよ・・・絶対。

 奉仕部さんが言ってくれたように、気張らず楽しもう」

 

 

 

 

ーーーー 話は三日前 ----

 

 

 

 

”とんとん”

 

「どうぞ!」

 

”ガラガラ”

 

「す、すみません。

 今、よろしいですか?」

 

「やっはろー、ふ・・ふじ・・・書記ちゃん。

 ようこそ、奉仕部へ。

 まぁ、そこに座って」

 

「ごほん、藤沢さん、どうしたのかしら。

 紅茶でよろしくて?」

 

「はい、あ、ありがとうございます。

 いただきます」

 

”コト”

 

「どうぞ。

 それで?」

 

「あの、わたし、卒業生を送る会で司会をすることになって、

 でも、いままで人前でそんなことしたことないから、

 ・・・その、うまくできるかなって」

 

「そう」

 

「そだね、緊張しちゃうよね。

 わかるわかる」

 

「はい、なにか緊張せずにうまく司会ができる方法はないでしょうか?」

 

「卒業生を送る会って今週末じゃん。

 あまり時間がないよね。

 ゆきのん、なんかいい方法ってあるかな?」

 

「そうね、短期間で解決するには・・・

 藤沢さん、司会の台本は準備できてるのかしら?」

 

「はい、三ヶ木先輩から去年や一昨年のものを頂いて、

 いろはちゃんと一緒につくりました」

 

「そう、それで台本はもう憶えたかしら?」

 

「はい、一応、内容は憶えました。

 わりかし、憶えるのは得意ですから。

 それに、三ヶ木先輩がカンペン作ってくれたので、

 当日は、いろはちゃんに持っててもらう予定です」

 

「そう、あとは本来ならば予行練習とかで慣れるのが一番なんだけど、

 そんな時間はないわね。

 それでは足りない分、場面を想定してイメージトレーニングを繰り返す

 のはどうかしら。

 あとは本番前には大きく深呼吸をして、

 最初の言葉は意識して大きな声をだすよう心がけることね」

 

「最初の言葉を?」

 

「ええ、まずは第一声。 

 それを意識して大きな声を出して言うの。

 初めが小さい声だと、なかなか途中から大きな声は出せないのよ。

 それができれば、あとは楽しむことよ。

 基本的に喋ることは台本で決まってるのだから」

 

「大きい声? 

 あ、ヒーロ―ショーなんかで司会の人がやってるやつじゃん。

 みんなー、こんにちは!ってやつ。

 あれって、絶対もう一回っていうんだよね。

 つかみはOKってみたいな感じ。

 それとあたしも、書記ちゃん自身が楽しむことが大事だと思うよ」

 

「は、はい・・・」

 

「・・・あとな、観客、この場合は生徒だが、書記ちゃんが思うほど

 だれもそんなに期待していないってことだ。

 まぁ、授業がつぶれてラッキーってことぐらいしか思ってないから。

 そんなんだから、あまり真剣に気にしないことだな」

 

「えっ、び、びっくりしました。

 比企谷先輩、そこにいたんですね」

 

「いや、初めからここにいただろう」

 

「いえ、その~、気がつきませんでした」

 

「生徒が全て、そこのかぼちゃ谷君だったらよかったのだけど」

 

「おい、かぼちゃ谷ってなんだ、かなり無理があるだろうが」

 

「ヒッキー、それって引くよ。

 まぁ、確かに去年なんかもみんなそんな感じだったけどさ」

 

「比企谷先輩、つまり必要以上に意識するなってことを言われたんですね。

 あんまり期待されてないってのは癪ですが」

 

「そういうことだ。 

 だれだって、人前で喋るのは多かれ少なかれ上がるもんだ。

 ましてプロの司会でもないんだから、別に気負うこともないん

 じゃないか」

 

「はい」

 

「まぁなんだ、当日は俺がステージの袖にいるから。

 もしもの時はマイクが故障しましたって、一色にマイク持たせて

 書記ちゃんのとこにいかすわ。

 一色なら何とかすんだろう。

 だから、もっと楽に考えればいいんじゃないか」

 

「は、はい、わかりました。

 あまり気張らず、できるだけ楽しみます」

 

「そうね。 

 それはそうと、一色さんには都度聞いているんだけど。

 どう、準備とか問題はない?」

 

「はい、いろはちゃんが締めてくれてますから、

 何とか、間に合いそうです。

 あと残ってるのは、会場の飾りつけぐらいですね」

 

「そう、生徒会だけで大丈夫のようね」

 

「おまえ、すげー心配してたもんな」

 

「ええ、当たり前でしょう。

 一応、一色さんの依頼があったから。

 それに手は出さないって言ったけど、口は出そうと思ってたから」

 

「大丈夫ですよ雪ノ下先輩。

 みんな、奉仕部さんに発破かけられて、滅茶苦茶頑張ってますから」

 

「そだよ、ゆきのん。

 この前の土曜日も美佳っち、みんなへの差し入れだってお弁当もって

 いってたし。

 美味しそうだったなぁ、あのサンドウィッチ」

 

「え、差し入れ? 土曜日ってこの前の土曜日ですか由比ヶ浜先輩」

 

「うん、ヒッキーと小町ちゃんの合格見に行くときに会ってね、

 いまから学校行くのって言ってたから」

 

「あら比企谷君、確か一人で行くって言ってたわね」

 

「あ、いや、その・・・」

 

「あっ、ゆきのんごめん」

 

「・・・土曜日、三ヶ木先輩も来てたんだ。

 でも、なんで会えなかったんだろう?」

 

「ゆきのん、期限直して」

 

「べ、別に気にしてないわ、由比ヶ浜さん。

 ・・・法螺谷君、わかってるわよね」

 

”ぎろ”

 

「す、すみません」

 

 

 

 

ーーーー そして今 ----

 

 

 

 

「さて、書記ちゃんどんなもんかな」

 

「なんで先輩こんなとこにいるんですか?

 はっ、もしかしてまた私と手を繋ぎたくなったんですか?

 今、仕事中ですから、終わるまで待っててください。

 ほんとう甘えん坊さんですね」

 

「ば、ばか、違う。

 な、なにいってんだ。 

 いや、ちょっとな」

 

「はっ、もしかしてクラスからはぶられて、座ってるところ

 もないんですか?」

 

「いや、俺はそれほど認識されてないから。

 居ても居なくても気付かれないのは、自信があるから大丈夫だ」

 

「それ、ちょっと悲しいですけど」

 

「会長、準備OKですよ」

 

「はい、美佳先輩了解です。

 先輩、あんまり邪魔しないでくださいね。

 書記ちゃん、いくよ」

 

「は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「み・・さ・、こ・に・・・で・・」

 

ん~まずいわね。

書記ちゃん、舞い上がっててなに言ってるのかわからないよ。

マイクのスイッチ入っていないんじゃない?

どうしょう、と、とにかく何とかしないと。

 

”スタスタスタ”

 

「もしもし、稲村君、聞こえる?」

 

「ああ、三ヶ木、聞こえてるぞ」

 

「予備で作ってたスライドあったよね」

 

「ああ、一応パソコンに落としてきたが」

 

「わたし、いま、書記ちゃんのとこ向かってるから、

 とりあえず、それ映して時間稼ぎして」

 

「お、おう、わかった」

 

「頼むわね」

 

「え~と、どのファイルだったかな。

 急いでコピーしたからな。

 たしか予備ファイルって名前だったな。

 ん、二つあるけど、コピー二つもしたっけ?

 副会長、今からスライド映すからちょっとステージの照明暗くしてくれ」

 

「うん、わかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

「まずいな。 

 書記ちゃん、やっぱり意識しちゃったか。

 おい、一色、書記ちゃんのマイクが調子悪いようだ。

 このマイクを持って書記ちゃんの横にって、

 ん、スライドすんのか?」

 

「「わっははは」」

 

はぁ、はぁ、はぁ、ん?

なに、なんか会場からすんごい笑い声が?

なんだろう。

ま、いっか。

はぁはぁ、ふぅ、やっとステージについたよ。 

 

「しょ、書記ちゃん、落ち着いてマイクのスイッチがって、 

 ん? え~」

 

”あははは”

 

「だれだよ、あの鹿女。

 受ける。」

 

げ!

な、なに、何でわたしのドアップが

しかもクリパの時のコス着てた時のやつ。

 

「うふふ、あははは」

 

へっ、書記ちゃんまでそんなお腹抱えて。

 

「ふ~

 はい、皆さんこんにちは。

 えっと、つかみはOKでしたか?」

 

「「OK!」」

 

「えっと、ちなみに今のは生徒会のマスコット、鹿ムスメさんです。

 それでは、いまから卒業生を送る会を始めます。

 みなさん、三年生が入場してきたら、拍手お願いしますね。

 一回、練習してみましょう」

 

”ぱちぱち”

 

ひぇ~、やば!

ちょ、ちょっと待って~

今、扉のとこに戻るから。

・・・でもさ、書記ちゃん、緊張とれたみたいだね。

よかった。

・・・・・ん? よくな~い!

 

「お、おい、稲村!

 て、てめぇなんてことを」

 

「いや、すまない。

 ちょっと焦って違うスライドを開いたみたいだ」

 

「焦ってって、よりによってあの写真。

 もう、お嫁にいけないじゃん」

 

「そんなことないぞ。

 俺はかわいくていいと思うぞ。

 わりかし、好きだけど」

 

「えっ、か、かわいい? 好き?・・・」

 

「ん?」

 

「ば、ばか、なにいってんのよ」

 

「あの、美佳先輩、稲村先輩。

 そんな会話はあとでお二人でしてください」

 

「は、会長、す、すみません。

 いま、扉のとこ戻りましたから」

 

「じゃあ、始めますよ。

 書記ちゃん」

 

「それでは本番です。 

 はい、三年生の入場です」

 

”ガラガラ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・ということで三年生の先輩方、今日は楽しんでくださいね」

 

「はい、それでは会長の挨拶に引き続き、各部活さんからの出し物です。

 まずは軽音部さんからです。

 準備よろしくお願いします」

 

「い、稲村君、音響OK?」

 

「大丈夫だ、三ヶ木」

 

「本牧君、照明は?」

 

「三ヶ木さんいつでも」

 

「うん、会長、準備OKです」

 

「了解で~す。 

 書記ちゃん、GOです」

 

「それでは、軽音部さんお願いします」

 

「こんにちは、軽音部です。

 三年生の先輩、ご卒業おめでとうございます。

 今迄の感謝を込めて演奏します。

 いくよ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「えっ、どうしたの?

 ダンス部さん?

 野球部さんの次だよ。

 うん、会長、ダンス部さんはそこで待っててもらってください」

 

     ・

     ・

     ・

 

「サッカー部さん来てないの? 

 うん、わかった。

 会長、ちょっと探してきます。

 ひぇ~、どこにいるのよ、もう!」

 

     ・

     ・

     ・  

 

「えっ、女子マネ、一人休みで足りない?

 わかった、わかったわよ。

 バスケ部さんの踊ってるうしろで、ポンポン振ってればいいのね?

 ・・・えっ、こんなの着るの。

 やだよ。

 だって、超ミニじゃん。

 これじゃ、わ〇めちゃんだよ、アンスコ丸見えじゃん。

 会長やめて~、いや~脱がさないで」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳先輩、ご苦労さまでした。

 なかなかの太ももでしたよ、くくく」

 

「バスケ部~、絶対許さん。

 生まれて初めて、あんなミニ穿いたよ」

 

「まぁまぁ、お疲れさまでした。

 次はビデオレターですので、ステージの横で休んでてください。 

 はい、椅子」

 

「ステージの横?」

 

「そこから三年生の反応、観ててくださいね」

 

「うん、わかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・先輩、ありがとうございました」

 

「はい、以上が各部活さんからビデオレターでした。

 最後に生徒会からです。

 あの、ビデオレターといいながら、生徒会からは直接ステージからです。

 三ヶ木先輩、よろしくです」

 

「えっ!」

 

「行ってらっしゃい、美佳先輩」

 

”ドン”

 

「ちょ、ちょっと会長?」

 

「三ヶ木先輩、わたしたちからの最後のドッキリです。

 よろしくお願いします。

 はいマイク」

 

え、書記ちゃんマイクって、なにも聞いてないよ。

な、なに喋ればいいのよ。

 

「あ、あの~・・・」

 

「よ、頑張れ、鹿ムスちゃん」

 

へ、鹿ムス? あれはトナカイだって。

ふぅ~、まったく。

会長、最後まであんたたちは・・・ありがとね。

よしっ。

 

「えっと、生徒会庶務の三ヶ木です。

 前生徒会のみなさん。

 本当にありがとうございました。

 わたしは、前生徒でも庶務をさせて頂いたんですが、

 初めての生徒会活動で、なにもわからなかったから

 みんなにいっぱい教えてもらって。

 時には怒られたり、またあるときは怒られて・・・

 あれ、怒られてばっかりだったような。

 でも、いつも最後はみんな優しくて。

 わたしがドジしても温かく包んでくれて。

 わたし、とってもしあわせでした。  

 みんなのことが本当に大好きです。

 できれば、卒業してほしくない。

 ・・・・・いつまでも一緒にいてほしいよ。

 で、でも、

 とっても、とってもさみしくて辛いけど、わたしもみんなから

 卒業します。

 そして今の仲間と一緒に、みんなとの生徒会に負けないよう、

 もっともっと頑張ります。

 そんで、みんなに胸張ってこれがわたしたちの生徒会ですって、

 自慢できるように頑張ります。

 だから、・・・・みんな、ご卒業おめでとうございます」

 

”パチパチパチ”

 

「美佳・・・」

 

「城廻会長、もう心配いらないみたいだね」

 

「うん、ありがとう副会長。

 頑張ってね美佳」

 

「はい、それでは、続いて先生方からの出し物です。

 出し物は演劇です。

 では厚木先生、よろしくおねがいします。

 えっ、厚木先生泣いてるの?」

 

     ・

 

「美佳先輩、ご苦労様」

 

”だき”

 

「ううう、やっぱりさみしいよ」

 

「はいそうですね。

 ・・・って、先輩、なに見てんですか。

 のぞき見なんてキモイんですけど」

 

「え、比企谷君なんでここに。

 やっぱりクラスからはぶられてた?」

 

「・・・いや大丈夫だから。はぶられていないから。

 なんだ、やっぱりって。

 まぁ、なんだ、椅子のとこ戻るのがちょっとな。

 すまん、もうしばらくここにいさせてくれ」

 

「やっぱ、はぶられてんだ」

 

「い、いや、違うって」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは、いよいよ最後です。

 三年生の各クラス委員の先輩、前に出ていただけますか」

 

”わいわい、がやがや”

 

「それでは、せ~のの合図で、くす玉のひもをひっぱって下さい。

 ま、まだですよ。 

 いいですか、せ~の」

 

”祝!ご卒業 TO the next Stage”

 

「ご卒業おめでとうございま~す」

 

よ、よかった。 去年はくす玉取れちゃったから。

とれて、三年生の頭で割れたんだよ。

大爆笑だったからよかったけど。

今年はなにごともなかった。

 

「それでは、三年生の退場です。

 一年、二年生の皆さん、ご起立して拍手お願いします」

 

”ぱちぱち”

 

「美佳先輩、さぁ、先導よろしくです。

 急いでくださいね」

 

「あ、は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご苦労様でした。

 書記ちゃん、ばっちりだったよ。

 それでは、後片付けちゃちゃとやっちゃいましょう。

 あっ、先輩、どこいくんですか?」

 

「えっ、いや、俺は関係ないだろう?」

 

「え~、はぶられてる先輩に居場所を提供してあげてたんですけど。

 それとも、昨日みたいに手を握ってあげなかったからですか?」

 

「ば、ばか、おまえ・・・

 はい、よろこんで片付けさせていただきます」

 

はは、比企谷君さっさと帰ればよかったのに。

ん? 昨日手を握ってたって。

この男は、ほんとにすけこましじゃないの?

くっそ~、なんでこんな男にわたし・・・・

まぁ、いいわ。

えっと、まずこの看板だね。

え~と、男子、男子っと。

あれ~、稲村どこいった。

スライドの仕返しにこき使ってやろうと思ったのに。

 

「三ヶ木先輩、持ちますよ」

 

「あ、書記ちゃん。

 でも重たいよ、大丈夫?」

 

「わたしこう見えても力持ちなんですよ、せ~の」

 

「うんしょっと」

 

     ・

 

ふぇ~、重たかった。

 

「大丈夫、書記ちゃん?」

 

「はい。

 あっそうだ、三ヶ木先輩。

 明日の卒業式終わったら、生徒会室で軽く打ち上げしませんか?」

 

「打ち上げ?」

 

「はい。

 明日は卒業式だけだから、女子で簡単になにか作ってもってきません?」

 

「う、うん、いいよ」

 

「やったぁ、それじゃいろはちゃんにも言っておきますね。

 えっと、わたし的にはサンドウィッチが食べたいなぁ。

 三ヶ木先輩、お願いします」

 

「へ? あ、う、うん」

 

「さぁ、まだお仕事残ってますよ」

 

「ふぁ~い」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「よ、鹿ムスちゃん、おはよ~」

 

ぐ、朝からこればっかしだよ。

まったく稲村の野郎、昨日はまんまと逃げやがって。

今日こそは、後でとっちめてやるからな。

絶対、コーヒー奢らせてやる。

 

「三ヶ木先輩? 

 顔チョ~怖いんですけど」

 

「はっ、ご、ごめんなさい」

 

「ほれ、また三年生来ましたよ。

 お仕事お仕事」

 

「うん」

 

「ご卒業、おめでとうございます。

 リボン徽章付けさせてもらいますね」

 

”スタスタスタ”

 

「美佳、おはよ。

 前生徒会のみんな来たよ」

 

「三ヶ木先輩、そっちの団体さんお願いしますね。

 他の卒業生の皆さん、こちらにお願いします」

 

書記ちゃん、ありがとう。

 

「よ、三ヶ木」

 

「副会長、おめでとうございます。

 あ、あの時のハンカチ、ちゃんと洗ってお返ししますね」

 

「いいよ、三ヶ木が持っててくれるか?」

 

「うん」

 

「まったく、美佳はね・・・って、もう怒れないね」

 

「三増先輩さみしいです。

 三増先輩のおしかりのあとの笑顔が好きでした」

 

「馬鹿だね、ありがと」

 

「うん」

 

「三ヶ木、いいか、お前、使った費用は必ず申請しろよ。

 前みたいに自腹はすんなよ。

 今の会計にもよく言っておいたから」

 

「えっ稲村君に。 

 あ、ありがとうございます。」

 

「うん。

 あ、だけどなんかマッ缶は絶対ダメですって言ってたぞ。

 お前、あんな甘いもの飲んでるのか?」

 

「いえ、あの、それは・・・」

 

「三ヶ木ちゃん、チョコも大好きなんだろう?

 チョコとマッ缶二つはやめときな。

 昨日のあの太もも見たら・・・」

 

「げぇ、庶務先輩、見てらっしゃたの」

 

「目の前で、ばっちり」

 

「き、今日から控えます」

 

「はいはい、そんなにいじめない。

 そんじゃみんな行こうか。

 会長、あとどうぞ」

 

「うん、ありがとう副会長」

 

「めぐねぇ、ご卒業おめでとうございます」

 

「うん、ありがとう。

 美佳・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・うん、わかった」

 

「よし」

 

「えっ、いまので分かるの?

 三ヶ木先輩と城廻先輩、

 な、なにを話していたんですか?」

 

「えへへ、書記ちゃん内緒だよ、ね、めぐねぇ」

 

「内緒だね。

 あっ、美佳、これ渡しとくよ」

 

「うん? えっ、このホィッスルいいんですか?」

 

「あのね、どこかの飛行機乗りさんが言ってたんだけど、

 大切なものは目には見えないって。

 このホイッスルは、私たち前生徒会の大切な絆。

 このホイッスルには、目に見えないものがたくさん詰まってる。

 これ、美佳に預けるね」

 

「めぐねぇ。

 うん、預かります」

 

「じゃあ、いくね」

 

「うん、めぐねぇ答辞がんばってね」

 

「おう、任せなさ~い」

 

”スタスタスタ”

    

「ご苦労様です。

 今のは城廻先輩ですね。

 うぇ!

 な、なんですか美佳先輩、その顔」

 

「へぇ?」

 

「まるでピエロですよ、ほら鏡を見てください」

 

「え、えー!」

 

「ほら、しばらく代わりますから、さっさと直してきてください」

 

「は、はい」

 

「まったく、美佳先輩ってホント泣き虫だから困っちゃうね」

 

「でも、いろはちゃんもすごく嬉しそうだよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・最後に、ここ総武高校はみなさんの母校です。

 いつでも、気軽にお顔を見せてくださいね。

 それに今年の文化祭は、去年以上のものになるよう頑張るつもりです。

 ぜひ、観に来てくださいね、えへ♡

 在校生代表、一色いろは」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・

 最後に、先ほど一色会長からご招待頂きましたので、

 文化祭、楽しみにしています。

 その時には、先生方、在校生の皆様に成長した姿を見せられるように

 頑張ります。

 では、その時を楽しみに。

 だから、さよならとはいいません。

 また会いましょう。

 卒業生代表、城廻めぐり」

 

「ううう」

 

「ちょ、ちょっと三ヶ木さん大丈夫?」

 

「うん、ごめんなさい」

 

だ、駄目だ。

めぐねぇの答辞聞いてたら、

な、涙が・・・・止まんない。

もう体中の水分なくなっちゃうよ~

 

「卒業生、退場」

 

「めぐねぇ、おめでとう」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぇ~、もう運ぶものないよね。

片付けしてたらめっちゃ遅くなったよ。

みんな、もう帰っちゃったかな。

 

”キョロキョロ”

 

あ、みんな校門の前にいた。

校門でたら、それぞれの道に分かれて行っちゃうんだね。

またいつか会おうね。

・・・よし、わたしこれからもっともっと頑張るよ。

みんな、めぐねぇ、行ってらっしゃい。

 

「美佳先輩、見送り行かなくていいんですか?

 まだ間に合いますよ」

 

「うううん、いいの。

 みんなとはまた会える気がするから・・・絶対」

 

「そうですか。

 それじゃ、先に生徒会室行ってますね」

 

「うん」

 

さて、いまから改めてわたしのスタートだよ。

生徒会頑張ろう。

めぐねぇ、わたし頑張って、このホイッスルに新しい音色いっぱい

加えていくね。

せ~の

 

”ピ~♬”

 

ふぅ、さて打ち上げ行こう。

 

”ばさ”

 

「呼んだか、三ヶ木」

 

えっ?

 

「何の用、美佳」

 

「どうした、三ヶ木」

 

「三ヶ木ちゃん、なんかあった?」

 

え、え~、なに、ど、どして?

みんな、さっき校門でて別れてそれぞれの・・・え゛ー!

 

「美佳、呼んだ?」

 

うえ、めぐねぇまで。

 

「な、なんでもないです。

 ちょ、ちょっとこのホィッスル、吹いてみたかったかな~って。

 ・・・・・ご、ご、ごめんなさい」




ありがとうございました。

なんとか卒業式まで書ききることできました。

オリヒロの大事なものを探す旅、一つ見つけることができました。

そして、いよいよ二つ目・・・・

※、すみません。

  また八幡編書けませんでした。

  いましばらくお時間を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現実と魔法

今回もありがとうございます。

前話で改めて前生徒会から卒業したオリヒロ。

卒業式の後は、期末考査。

オリヒロ、追試の危機が。

ではよろしくお願いします。


「うん、わかった。

でも、あんまり無理しないでね」

 

とうちゃん、今日も残業か。

晩ご飯いらないって、大分遅いのかなぁ。

最近、かぜ気味だっていってたから、ち~と心配。

 

・・・ 

 

ふぅ、心配しててもしょうがないね。

そのかわり、明日はなんか美味しいものつくってあげよ。

ほんじゃ、スーパーよってから帰ろうか。

しまった、チラシ持ってないや。

ん~、主婦として失格だね。

今日は何の特売やってんだろ。

しゃ~ない、いってみてから勝負だ。

 

”ぐぅ~”

 

たはは、その前に今日なに食べよかなぁ。

ひとりだからね。

 

ん~と、昨日の残り物はっと・・・・

あ、そうだ、全部お弁当にしちゃったんだ。

やば、なんもないや。

 

よ、よし、今日は奮発してリッチになんか食べて帰ろ。

し、仕方ないよね。 だって明日から期末考査だもん。

手抜きじゃないからね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの~、待ち時間ってどれくらいですか?」

 

「そうですね、あと1時間ぐらいだと」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

うへ、なんだろう、今日に限ってどこもいっぱいだよ。

あ、あのスパゲッティ美味しそうだね。

いや、まてよ、あのピザもいいかなぁ。

 

”ぐぅ~”

 

うへ~、腹減った、も、もう待ちきれん。

いっそ、コンビニで肉まんでも買って帰ろっか。

 

ん? ん、ん、ん~ ふむ。 

 

”どさ”

 

「うんしょっと」

 

はぁ~よかった、待たずに座れた。

ラッキー。

 

やっぱ日ごろの行いだね、いや~まったく。

それじゃ早速、お~い店員さんっと、

 

「あの~、すみません。

 追加お願いします」

 

「おい」

 

「えっと、ドリンクバーとハンバーグステーキとライスお願いします」

 

「お、おい」

 

「あ~よかった、もうお腹ペコペコ。

 で、何食べてんの?」

 

「おう、ミラノ風ドリアだって違うだろ!

 お前、なに勝手に俺の席に座ってんだ」

 

「俺の席・・・・ほほう、いつからここは君のものになったのかね。

 それに、いいじゃん混んでんだから。

 だいたいね、こんなに混んでるのに、たった一人で席を独占するなんて、

 人間として恥ずかしくない?

 まったく、どういう躾されてんだか」

 

「はい、すみません。

 いや、ん~、俺が悪いのか?」

 

「うん、わかればよろしい。

 んで、それ美味しい?」

 

「おう、このミラノ風ドリアは何回食べてもうまい。

 この値段でこのうまさは文句の言いようがない」

 

「一口、ちょ~だい」

 

「はぁ? 断る」

 

「いいじゃん、一口だけ」

 

「そんなに食べたければ、自分で注文するんだな」

 

ほんと、最近の男どもはまったくどいつもケチなんだね。

それじゃ、

 

「あっ、雪ノ下さん」

 

「へぇ?」

 

”ぱく”

 

「あ、おま、なんてことを」

 

「うま~、今度はこれ頼もうっと。

 馬鹿だね~、雪ノ下さんがこんなとこ来るわけないじゃん」

 

「ぐっ、た、確かに」

 

「もう、一口」

 

「やらん」

 

「あ、結衣ちゃん、こっちだよ」

 

「へ?」

 

”ぱく”

 

「うお、三ヶ木、お前!」

 

「まぁ、まぁ、いいじゃん、そんなケチってると

 女子にもてないよ。

 どっかの会計さんみたいに」

 

「くっそ、まったく、お前は。

 それに、おれはケチらなくても、もてたことがない。

 中学の時なんか・・・・」

 

「いや、それはいいから」

 

で、でた、比企谷君の黒歴史。

でもいいじゃん。 そういうのあったから今のあんたなんでしょ。

いまじゃ、モテモテじゃん。

 

「お待ちどうさまでした、ハンバーグステーキとライスでございます。

 えっ、お客様、どうかされました?」

 

「あ、ありがとう。

 こっちの人? いつものことなんで、ほっといて大丈夫です」

 

ひゃ~、待ってました。

美味しそう、では早速。

 

”ぱく”

 

うん、美味しい、幸せだなぁ~。

この牛肉の味、最高。

 

「・・・結局、料金払うときの”よろしくねって”それ以外

 口きかなかったじゃねぇ~か」

 

「まだ言ってたの?

 仕方ないな、はい」

 

”ぱく”

 

「うぐ、おま、なにを」

 

「どう?、美味しい?」

 

「う、うまいが・・・」

 

「よかった、美味しいね」

 

「いやお前、それ一度、口に入れたフォークじゃ・・・」

 

「な、なに? もうひと口ほしいの? 

 仕方ないわね、ほれ」

 

「いや、ちげって」

 

”ぱく”

 

「うぐ」

 

「ん、美味しくないの?」

 

「・・・・・とても美味しいです」

 

「うん」

 

なに、こいつ赤くなって下向いてんの。

ん? 

・・・はっ、やっちまった。

しまった、つい、とうちゃんのときのノリで。

ど、どうしょ、よ、よく考えたら間接キスじゃない。

気にしたら動悸が、お、落ち着かなくっちゃね。

たかが間接キスぐらいで。

そうだ、ド、ドリンクをとってこよ。

 

”がた”

 

”がた”

 

「へぇ?」

 

「はっ」

 

「あ、あのドリンクとってこようかな~て」

 

「お、おう、偶然だな、俺もだ。

 ミルクティーでよかったか」

 

「えっ、うん。

 あ、ありがと」

 

「おう」

 

ふぅ、い、今のうち、なんとかしなくては。

あ、そうだ。

 

”ガサガサ”

 

「ほれ、ここに置いておくぞ」

 

「うん、ありがと」

 

「何、お前、勉強してんのか?」

 

「明日から期末考査なんだもん、当たり前でしょ」

 

「そうか、気にせず続けてくれ」

 

「うん」

 

ふぅ、まずは何とかごまかせたかな。

 

”がつがつ”

 

ん、美味しそうに食べるね。

なんか見てるだけで幸せ。

わたしの料理もこんな風に食べてくれたらなぁ~

 

『どう?、美味しい?』

 

『あぁ、美佳の作ってくれたものは、何でも美味しいぞ」

 

『え~、何でもってうれしい。

 で、でも一番何が美味しかった?」

 

『それは、美佳だ』

 

いや~、わたし食べられちゃうの。

ど、どうしょう。

えへ、えへへへへ。

 

「お、おい、大丈夫か」

 

「へぇ?」

 

「いや、なんか急に笑い出したから。

 問題、そんなに難しいのか?」

 

「はっ、そ、そうなの。

 ちょっと難しくて」

 

「お前ほんとに頑張ってんのな」

 

「あったりまでしょ。

 総武高校生徒会の歴史の中で、追試を受けた役員はいまだかって

 いないんだから。」

 

「そうか。 

 ドリンクバーお代わり持ってくるか?」

 

「あ、うん。

 ん~、次は紅茶お願いしていい?」

 

「おう、わかった」

 

やさしいね、比企谷君。

だから、わたし勘違いしちゃうんだよ。

比企谷君は基本やさしいんだ、自分以外には。

・・・さびしい。

あと何分、こうやっていられんだろう。

もう比企谷君、食べ終わってるし。

大分お客さん減ったけど、あんまり長くいたらお店の人にも

迷惑だよね。

・・・・・でも、もう少し、少しだけ。

 

「ほれ、ここ置いておく。

 もうできたのか、そのプリント?」

 

「あ、ありがとう。

 あ、これね、稲村君が作ってくれた数学の期末考査予想問題。

 比企谷君、答え合わせしてみて」

 

「おい、俺に数学を聞くな」

 

”ガサガサ”

 

「わかってるって。 

 ほら、これ回答。

 ね、採点してみて」

 

「いいのか」

 

「うん。

 結果待ってるのって、ドキドキしてなんかいいじゃん」

 

比企谷君、それ読むだけでも結構ヒントになるよ。

付き合わせてごめんね、すこしでも役に立つかな。

 

「おっ・・・おう、これは・・・・ほう」

 

「な、なに? どうなのよ」

 

「満点だ」

 

「やったー、へへへ」

 

「お前すごいな、この問題全部解けたのか。

 この調子だと、ほかの教科とかも結構いけるんじゃないか」

 

「まかせなさ・・・・、あ゛~」

 

「ど、どうした?」

 

「ほかの教科、勉強すんの忘れてた!」

 

「はぁ?」

 

「ひ、比企谷君、国語どこでるの?

 ね、ね、どこがでる?」

 

「いや、俺は基本ヤマなんてはらないぞ。

 毎日コツコツとだな 」

 

「いや~、そんなことはいいから、どこ、どこでそう。

 はよ、教えて」

 

「・・・・・ヤマはずれてもしらんぞ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ありがとうございました」

 

「あ~美味しかった。

 余は満足じゃ。」

 

「いや、おまえ何時代の人?

 まあ、なんだ、

 もう暗いし、送ってくわ」

 

どうしょうかな。

わたしのアパートって結構あれだし、見られたらちょっと恥ずかしい。

だって、比企谷君や結衣ちゃん家と比べられると。

・・・で、でもさ。

 

「うん、ありがと。

 お願いします」

 

やっぱ、もう少し一緒にいたいから。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの、あのさ。

 うちここなんだ、ぼろいでしょ。

 はは、幻滅したよね」

 

「はぁ?

 何で幻滅すんだ」

 

「いや、だってぼろいし、アパートだし。

 比企谷君の家なんかと比べるとね」

 

「なんか関係あるのか?

 あのな、お前、友達選ぶのに家で選ぶのか?」

 

「うううん、そんなことしない。

 まぁ、友達少ないけど」

 

「お前さ、おとうさ・・・とうちゃんのこと大好きなんだろう」

 

「うん、大好きだよ。

 こんなわたしの我儘聞いてくれたり、めっちゃやさしいし。

 それにここまで育ててくれたんだもん」

 

「だろ。

 そんなお前ととうちゃんが暮らしている場所だ。

 そこには何にも替えられない価値があるんじゃないのか?

 自分でその価値を落とすようなことは言うもんじゃねぇと思うが」

 

「うん、比企谷君ありがとう。

 ・・・ごめんなさい」

 

「だけど、やっぱりぼろだな。

 はっ、もしかしてトイレとか共同なのか?」

 

て、てめぇ、

 

”ベシ”

 

「いてて。

 いや冗談だ、冗談」

 

「ふん。

 ・・・あ、あのさ、ちょっとよってく」

 

「い、いや、それはやめとく」

 

そ、そだよね。

こんなぼろや入るの嫌だよね。

ごめんごめん。

 

「あんな、また、こんど明るいうちに来た時によせてもらう。

 まぁ、今度があればだが」

 

あっ、そうだ、もう九時すぎてるんだった。

こんな時間に誘っちゃった。

 

「・・・・うん、また今度ね」

 

「おう」

 

あ~あ、行っちゃった。

また明日ね。

・・・ん、なんかまた忘れてるような。

最近多いんだよ。

え~と、あ、スーパー忘れた。

とうちゃん、明日も冷凍食品ね・・・ごめん。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふぁぁ~」

 

まだ、期末考査の疲れが取れないよ。

昨日、あんだけ熟睡したのに。

よりによって、今日の午後一の授業は数学だよ。

眠らないように気をつけよ。

 

”ガラガラ”

 

「起立、礼、着席。」

 

げ、今日も入生田先生、機嫌悪そうな顔してる。

いや、今日もじゃなくて、期限のよさそうな顔みたことないよ。

 

「三ヶ木、授業終わったら職員室に来い」

 

「は、はい!」

 

え、なに、もしかして声でてた?

また説教かな。

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、なに怒られんだろう。

追試かな、やっぱりそれしかないよね。

気が重いな。

 

”ガラガラ”

 

「失礼します。 入生田先生、何か御用でしょうか?」

 

「三ヶ木、まだ浮ついているようだな」

 

「あ、あのやっぱり追試ですか?」

 

「ほら、期末テストの結果だ」

 

「うへぇ、す、すみません。

 これでも一生懸命・・・ん? 8、5 え~ 85点!

 こ、こんな点数採ったことないよ、やった!」

 

「いや、零点だ」

 

「へ、い、いや、ほら、ここに85って。

 へ? もしかして0.5点?」

 

”ベンベン”

 

「ここ」

 

「ん? あ゛~、なまえ・・・・ない。

 れ、零点だ~」

 

や、やっちまった。

うぇ~ん、あの苦労が。

それに稲村君、ごめん。 

 

「ほれ、さっさと名前書け、できるだけ小さい字でな」

 

「せ、先生」

 

「最近老眼でな、小さい字が見えんもんでな。

 ・・・ よく頑張ったな、三ヶ木。

 今回だけは努力を認めてやる、今回だけだぞ」

 

「は、はい。

 ありがとうございます」

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

よ、よかった、追試免れたよ。

しかも、85点。 

それに、入生田先生の笑顔、初めて見た。

なんか、ちょ~ラッキーな感じ。

 

”ガラガラ”

 

ん、おっと平塚先生。

 

「ん、おう、三ヶ木、ちょうどよかった。

 今いいかね」

 

「は、はい、平塚先生」

 

「三ヶ木、明日の火曜日、放課後は時間はあいてるか?」

 

「え~と、生徒会はなかったと思いますから大丈夫です」

 

「そうか、じゃ火曜日に追試だ」

 

「はい。

 ・・・・・・え゛ー」

 

総武高校 生徒会役員 追試第一号 三ヶ木美佳。

生徒会の歴史にわたしの名が。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

う、ううう、眠たい。

昨日は、全然眠れなかったよ。

 

「やっはろー、美佳っち」

 

「あぁ結衣ちゃん、おはよ」

 

「・・・」

 

「や、やっはろーさんです」

 

「うん、やっはろー。

 どしたん、すごっく眠たそうだね」

 

「たはは、だって今日追試なんだもん。

 ん、結衣ちゃん、いつものお団子は?」

 

「えっ、やっぱりわかる?

 わかるよね」

 

「うん。

 でもこっちもかわいいかな」

 

いいなぁ、ほんと、なにしてもかわいい。

このまま抱き着いてもいい? 

 

「へぇ? そ、そう。

 ありがとう。

 あのね、今日の朝忙しかったから時間なくって」

 

「も、もしかして、結衣ちゃんも追試とか?」

 

「うううん。

 あたし追試なかったよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、終わった。

 先生、ど、どうでしょ」

 

「まぁ、大丈夫だ。

 君の場合、今までの成績から問題ないだろう。

 これは、まぁいってみれば建前みたいなものだ。

 それに今日は・・・・

 も、もう遅くなったから、送っていこう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「そうだ、ついでなんだが飯はどうだ?

 新しい、ラーメン屋を見つけたのでな。

 是非行かないか、今日なら私が奢ってやろう」

 

「え、マジ? いいですよ」

 

「そうか、それでは校門で待っててくれたまえ」

 

「は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先生、ごちそうさまでした」

 

「うむ、それはそうと、君のお父さんはもう帰ってくるかね」

 

「いえ、たぶん今日も残業かと。

 はやく帰れる時は必ずメールあるから」

 

「そうか」

 

「え、もしかして追試のことですか?」

 

「いや、違う。

 君の将来のことでな」

 

「わたしの将来? それって進学のことですか。

 それでしたら、このまえ言ったようにもう決めてますから」

 

「それは、君のお父さんもご存じなのかね?」

 

「・・・」

 

「そうか。

 そうであればだな、 」

 

「もう決めたんです。

 ですから、余計ななことはしないでください!」

 

「三ヶ木、まだ時間は十分ある。

 一度、お父さんと話をしたまえ」

 

「・・・」

 

「それではな」

 

”ブロロン”

 

相談・・・できるわけないじゃん。

これ以上、迷惑かけられない。

大学なんて、大学なんて、うちにそんなお金ないよ。

なんも知らないくせに。

はぁ、むかついた!

今日はもう寝よう。

とうちゃんの晩ご飯なし。

・・・・・・そんなわけいかないよね。

 

”スタスタスタ”

 

ん、ポストになんか紙袋が。

あっ、これって売れ残り”限定義理チョコ詰め合わせセット”

って、今日来たんだ比企谷君。

ん、メモ?

 

『三ヶ木へ。

 義理チョコありがとな。

 これは義理のお返した。

 他に意味はないから。

         比企谷』

 

あ、そうか、今日ホワイトデーだったんだ。

は、も、もしかして、だから今日、平塚先生・・・・

まぁ、お互い、さみしいからね。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、結衣ちゃんからライン?

 

「やっはろー! 

 美佳っち、どう? 似合うかな~」

 

えっ、あ、これ、この写真ってあんときの帽子。

そっか、だから結衣ちゃん今日お団子してなかったんだ。

ちゃんと比企谷君にもらえたんだね。

・・・よ、よかったね。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「お、おう、どうした?」

 

「あ、あのね比企谷君、義理チョコありがとう。

 ・・・そんでね、あの、あのさ今度の月曜日って祝日じゃん。

 よかったらお出かけしない」

 

「しない」

 

「げ、即答!

 なんかもう少し考えるふりでいいからしてよ」

 

「休日は忙しい、無理なものは無理」

 

「わたしさ、期末考査、85点だったんだ数学」

 

「おう、そりゃよかった。

 じゃあな」

 

「ちょ、ちょっと待って。

 もう、ひどいよ。 

 それでね、そのご褒美にさ、」

 

「まて。

 その時点でおかしいだろう。

 俺と出かけるのがご褒美って、それは罰ゲームの間違いじゃないのか」

 

「ち、ちがうもん。

 あ、あのね、観たい映画があるんだけど、ひとりで行きにくいから。

 一緒にいってくれないかなぁって。

 それに、国語、赤点だったし」

 

「いや、それはヤマをはるのがおかしいだろう。

 ・・・まぁ、なんだ、何の映画だ」

 

「笑わないでね? 絶対だよ」

 

「おう」

 

「魔法使いプリキラーのキラキラ大作戦」

 

「何時だ!

 何時集合だ!

 なんなら今から行くか。

 行くよな、さぁ準備しろ!」

 

「いえ、あの~、月曜日で結構です。

 朝の11時に千葉駅前でお願いします」

 

「おう」

 

な、なに、プリキラ―って言った瞬間のこのテンションは。

そりゃ、結衣ちゃんから聞いてはいたけど。

まぁ、作戦成功ってとこだね。

・・・・・・・・・・・

結衣ちゃん、ごめんね。

一日、この一日だけでいいから。

わたし、裏切るね。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ルンルン、ルンルンルン♬」

 

ど、どうかな。

このクマさんのパーカー

比企谷君、いもうと系キャラが好きなはずだから。

でも、もう少し胸元せめてみてもいいかな。

よし、完成。

 

「えへ♡」

 

あとは、上目使いで

 

「・・・だめかな♡」

 

よ、よし、これはいちころだね。

も、もしかしたら、今日はとうとう・・・・・・

 

「きゃ~、どうしょう」

 

はっ、なんか悪寒が

 

「げっ、とうちゃん。

 いつからそこにいるの!」

 

「ん、お前の鼻歌が聞こえてきたからな。

 今日は、すごくかわいいな。

 なんだ、デートか?」

 

「ち、ちがうよ。

 ただ、友達と映画に行くだけだよ」

 

「ほほう、ただの映画に行くのに、二時間の化粧って

 ほほ~」

 

「な、なによ、べ~っだ」

 

「ほれ、これもってけ」

 

「えっ、いいよ、お小遣いまだあるから」

 

「いいから。

 いつも家事とか頑張ってるおまえにボーナスだ」

 

「う、うん。

 ありがと、とうちゃん」

 

「おう。 頑張って来いよ。

 あと、あとな、美佳。

 大切なことだが、ちゃんと、こんど・・・しなさい」

 

「へ、なに? はっきり言って。

 えっと、大切、ちゃんと、こんど、しなさい?

 こんどしなさい?

 ん? あっ、」

 

”ベシ”

 

「あいた!

 こら、おまえ親になにを 」

 

「貴様、親のくせして娘になってこと言うんだ。

 まったく、もう。 ・・・とうちゃん、いってくるね」

 

”ばたん”

 

「いや、大切なことだから、ちゃんと今度紹介しなさいって

 言っただけなのに?

 はぁ、あいつがデートか・・・・

 なんかさみしいもんだなぁ」

 

     ・

     ・

     ・

 

まったく、あのバカ親は・・・

コ、コンドしなさいって。

・・・・・・い、意識しちまうだろうが。

ふう、まだ待ち合わせまで30分はあるね。

待ち合わせだって。

へへ、彼が来るのをひたすら待つ女の子。

そ、そんで彼が来たらさ、

 

『遅いなぁ~、あっ、来た。

 もう、お・そ・い、

 ずっと待ってたんだからね。』

 

えへ、えへへへ、一度やりたかったんだ。

楽しみだなぁ、比企谷君どんな顔するかなぁ。

・・・・はぁ? な、なんでそこにいるの!

いや、ちょっと待って。

待ち合わせ十一時だよね。

なんでだよ~。

 

”ダー”

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 ご、ごめんなさい、待った?」

 

「おう、一時間は待った」

 

「いや、あれ、おかしいなぁ。 

 だって、まだ十時半前だよ。

 ほら、駅の時計も」

 

「プリキラ―の待ち合わせは、二時間前集合が当たり前だ。

 そんなもの常識だ」

 

「え、ほんと?

 ご、ごめんなさい」

 

「おう、わかればいい。

 それじゃいくぞ、時間がもったいない」

 

ほんとかな、二時間前集合って??

知らないことがいっぱいだね。 

って、おい、早い、歩くの早いよ。

 

「比企谷君、ちょ、ちょっと待って」

 

「はやく来い」

 

「はぁ、はぁ、うん」

 

”ぎゅ”

 

「おま、なにを」

 

「だって、歩くの早いんだもん」

 

まったく、こいつは、そんなにプリキラ―が観たいのかよ。

でも、手つないじゃった。 

 

「へへ」

 

「な、なんだ」

 

「うううん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、比企谷君、チケット売り場こっちだよ」

 

「ほれ、昨日買っておいた」

 

「え、映画のチケット、前日に買えるの?

 じゃあ、お金払うね」

 

「まぁ、なんだ。

 今日は奢っておくわ」

 

「へ、なんで?」

 

「いや、なんだ、小町がな」

 

「え、小町ちゃん?

 そ、そう。 じゃあ、先行ってて。

 わたし、飲み物とかポップコーンとか買ってくる」

 

「・・・・・・」

 

「ん? あ、あの~、比企谷君。

 手、離してもいいよ。

 もう映画館入ったし」

 

「いや、その、なんだ。

 俺一人だと通報されかねない」

 

う、た、確かに。

へへ、これはラッキー。

 

「じゃあ、一緒にいこ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「おい、三ヶ木、これから映画終わるまで一切話しかけるな。

 わかったな」

 

「はいはい、わかりました」

 

まったく、所詮子供だましよね。

第一、魔法なんて、へっ、非現実的な。

比企谷君もまだまだお子ちゃまね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「うえ~ん、よがった、よかったよ~」

 

「おまえ、ガン泣きじゃね~か。

 ほれハンカチ」

 

「うん、ありがと。

 だって、だってミラちゃんが・・・」

 

「はぁ、まったく。

 まぁ、俺もすこし半泣きだが」 

 

「それ、キモイから」

 

「・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「あ~、面白かった」

 

「お前、立ち直るの早いな」

 

”ぐう~”

 

や、やば。 こんな時に。

 

「ひ、比企谷君、お腹すいたの?」

 

「いや、今のはお前の」

 

「ひど、わ、わたしのお腹の音だといいうの」

 

”ぐう~”

 

「お前のだな」

 

「・・・・・・はい、わたしのです。

 あ、あのお昼ご飯にしません?」

 

「まったく、サイゼでいいか」

 

「おう。

 今日はわたしもミラノ風ドリアにしょっと」

 

     ・

     ・

     ・

 

「は、満腹満腹。」

 

「おう、それじゃな。

 今日はご苦労さん」

 

”ぎゅ”

 

「え?」

 

「比企谷君、どこ行くの」

 

「お前服引っ張るな。  

 いや、映画も観たし、家に帰るんだが」

 

「スケート行こ」

 

「はぁ? 断る、断じて断る! 

 こんな寒い時期に、そんなさらに寒いとこ行くやつの気がしれん」

 

”がさがさ”

 

へへへ、そういうと思ったもん。

 

「じゃじゃ~ん。

 映画館限定、プリキラ―フィギュア」

 

「おお、お前、それいつの間に」

 

「ふふ~ん。

 ちょっとお花を摘みに行ったときに」

 

「へ、お前、映画館を抜けて花壇に行ってたのか?」

 

「トイレだよ、トイレ。

 まったくわかりなさい。

 まぁ、それはそれとして。

 スケート行きたいなぁ~

 あ、もしスケート行けたらこのフィギュアもういらないかな」

 

「ぐ、本当か、本当だな」

 

「えっ、う、うん」

 

「ほれ行くぞ!

 なにしてる。さっさと行くぞ」

 

「いや、だからちょっと待ってって」

 

”ぎゅ”

 

「へ、手?」

 

「ほれ、行くぞ」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「わたしね、子供のころ、スケート結構得意だったのよ」

 

「そ、そうか」

 

「あ~、疑ってるでしょ?

 まぁ、見てなさい。

 それ!」

 

”ずで~ん”

 

「あいた。

 お、おっかしいな。

 もい一度!」

 

”ずで~ん”

 

「得意じゃね~じゃねえか」

 

「あれ、でも小学校のときは、めっちゃうまかったんだよ。

 まぁ、スケートなんてそれ以来だけど」

 

「小学校の頃と今じゃ、いろいろ違うだろ。

 ほら、た、体形とか」

 

「へ? こ、このすけべ。」

 

”ずで~ん”

 

「おい、氷割れるぞ」

 

「ひっど!

 なによ、えい」

 

「うお、ばっかやめろ、腕を引っ張るな」

 

”ずで~ん”

 

「比企谷君、氷割れちゃうよ」

 

「お、お前なぁ~」

 

「ごめんごめん。

 はい、手」

 

”チラッ”

 

「お、おまえ 胸もと ぶ、ブラが」

 

「ん、どうしたの?」

 

「いや、な、なんでもない。」

 

「そんなに前かがみだと、また転ぶよ」

 

「いや、ちょ、ちょっとな。

 え、あ、おわ~」

 

「いや、そんなにひっぱらないで~」

 

”ずで~ん”

 

「あいた」

 

「あたた、・・・えへへ」

 

「まぁなんだ、大丈夫か?」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほら、比企谷君手を出して。

 わたしが引いてってあげる」

 

「おう」

 

”スィ~”

 

「お前、本当にスケートうまかったんだな」

 

「うん、やっと思い出してきたかな」

 

「うへ、ち、ちょっと早いって。

 真ん中行くのやめてくれ~」

 

「えへへへ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うはぁ、つ、疲れた。

 なんか足首いたくなってきた」

 

「うん、それじゃ、そこで待ってて。

 あの、もう一周だけいい?」

 

「おう、行ってこい」

 

「うん♬」

 

へへ、やっぱりスケートって好きだな。

この風を切って滑る感じ。

いえ~い、サイコー。

 

「へぇ~、うまいな。

 あいつ、なんか妖精みたいだ。

 なんかいつもと違ってすげぇ笑顔で。

 ・・・あいつ、あんな顔できるんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

あぁ、もう家ついちゃうね。

シンデレラじゃないけど、もうすぐ、魔法消えちゃうね。

なんで楽しい時間って、こんなに過ぎるのが早いんだろう。

ううう、つ、辛いよ。

時間、止まって。

お願い、他には何もいらないから。

お願い、お願いだよ神様。

 

「おう、今日はまぁなんだ、いろいろ楽しかった。

 正直、こんなに楽しかったのは久しぶりだ」

 

「うん、わたしも」

 

「明日はきっと体中、筋肉痛だわ」

 

「・・・」

 

「ん、どうした?」

 

「あ、あのね。

 比企谷君にご報告があります。

 ・・・・・・わたし、今日、17歳になりました」

 

「な、お前、今日誕生日だったのか。

 すまん、なにも準備してね~わ」

 

「うううん、いっぱいもらったよ。

 今日すっごく楽しかった」

 

「そ、そうか、それならいいが」

 

「あのね、比企谷君。

 ちょっと、大きい声で言えないから耳かして」

 

「ん? お、おう、ほれ」

 

「ありがと」

 

”ちゅ”

 

「お、おま、な、なにを」

 

「えへへ、お礼だよ」

 

”てってってっ”

 

「じゃあね。

 あっ、比企谷君、結衣ちゃんをよろしくね。

 泣かしたら、わたしが承知しないからね」

 

「お、おい、三ヶ木」

 

”ガチャ”

 

「バイバイ」

 

「お、おう、じゃあな」

 

”バタン”

 

・・・・・じゃあねっか。

ううう。 

もう、魔法は終わり。

わたしの魔法は解けちゃった。

さぁ、明日から頑張らなくちゃ。

がんばらなぐじゃ・・・頑張れ、頑張れってわたし。

決めたでしょ、17歳になったらもう泣かないって。

よ、よし。 もう泣かないんだから。

 

「とうちゃん、ただいま」

 

あれ? とうちゃん、どうしたのかな?

電気もつけないで。

 

「と、とうちゃん?」

 

な、なに? テレビの前で正座して何観てんの?

げ、げぇ~、それは、うっそ~

 

『以上、今日はあくりんスケート場から、お天気お伝えしました。

 スタジオさんに戻します』

 

『いや、あの後ろのカップル、なかなかほのぼのしてましたね』

 

『え、すごくいい感じでしたね。

 なんかうらやましいです』

 

『それでは、また明日お会いしましょう』

 

「・・・と、とうちゃん。

 こ、これって ほ、放送されてたの?」

 

「お、お帰り。

 この~、やるな美佳。

 へ~、これが美佳の彼氏か。

 ほれ、もう一回観るか? 

 ちゃんと録画、間に合ったぞ」

 

う、うっそ~

まずい、まずい。

絶対、他にも誰か見てるよね。

ど、どうしょう、なんてことをこのテレビ局は。

 

「な、なぁ美佳」

 

げ、会長からメールはいってた。

 

『美佳先輩、ちょっとお話があるので、必ず連絡ください。

 ・・・絶対ですよ』

 

「なぁ、美佳って」

 

あ゛、結衣ちゃんからも。

 

『美佳っち、ちょっと話があるかな~

 明日、お昼休みいい?』

 

い、いつもの”やっはろー”がない。

こ、こわいよ~

 

「なぁ、美佳」

 

「なに、今忙しいんだけど。」

 

「大事なことだから、今度ちゃんと 」

 

「まだいうか、このスケベ親父!」

 

”ベシ”

 

「いや、紹介してって ぐふ」

 

”バタン”

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

今回、いつも以上に長くなってしまいました。
八幡との密会(?)、バレてしまいました。
次話、どうしょうかなぁ。
ちょっと調子に乗りすぎて予定よりはやく・・・
次話もよろしくお願いします。

※”ちゅ”は、まだ、ほっぺです。
  ほっぺでお願いします。

ごめんなさい。
春分の日、忘れてました。
日曜日を月曜日にお願いします。
申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別な関係

す、すみません。

投稿、遅れてしまいました。

前回、八幡と念願のデートにこぎつけたオリヒロですが・・・

オリヒロの決断は。

よ、よろしくお願いします。




「あの、会長、三ヶ木です。

 お疲れ様です」

 

「もう、美佳先輩、遅いです。

 どこに行ってたんですか?

 ちゃんと電話には出てください。

 ・・・あの、あのですね、お誕生日おめでとうございます」

 

「あ、ありがとう」

 

ん、声の感じからは怒りは感じられないね。

ち、違うのかな。

 

「え~と、なにか御用でしたか」

 

「美佳先輩、明日の放課後は暇ですか?」

 

「いや、あの、明日はちょっと野暮用が 」

 

「暇ですよね、暇」

 

「は、はい、・・・ごめんなさい、暇です」

 

「それじゃ、明日、放課後、生徒会室集合よろしくです。

 たまには、書記ちゃんと三人で女子会ってことで」

 

「は、はい、わかりました」

 

「それじゃ、また明日です」

 

「は、はい」

 

書記ちゃんもって言ったもんね。

よかった。バレてなかったんだ。

まあ、地方番組だったからね、みんなが観ているわけじゃないよ。

ふぅ、よかった。

いや、まてよ、ジャリっ娘のことだ。

油断させといてってこともある。

一応、書記ちゃんになんか聞いてみようかな。

 

「お~い美佳、ご飯にしないか?」

 

「あ、は~い。

 いまご飯作るね。

 ちょっとまってて」

 

”どたどた”

 

「ごめんなさい。

 急いでつくるねって?

 ど、どしたの、このお寿司」

 

「美佳、お誕生日おめでとう。

 ほれ、ケーキもあるぞ」

 

「とうちゃん、ありがとう。 

 奮発したね」

 

「おう、ほれ、ケーキにロウソク立てな」

 

「うん。

 へへ、1本、2本、3本・・・・

 17本、ん? とうちゃん、ケーキが見えくなっちゃった」

 

「ん? そうか、ちょっと小さかったかな」

 

「まぁ、二人だけだからね。

 余ったらもったいないもん」

 

「お、おう、じゃあ、火つけるぞ」

 

「うん。

 ・・・とうちゃん、ケーキが燃えてるね」

 

「おう、電気消すからな。

 蝋が垂れるから一気に吹けよ」

 

”ぱち”

 

「とうちゃん、消したら歌。

 定番の奴ね」

 

「やっぱ歌うのか、しかたね~な。

 えっと、ハッピーバースデートゥーユー♬、

 ハッピーバースデートゥーユー♬

 ハッピーバースデー 〇△□× 美佳♬

 ハッピーバースデートゥーユー♬」

 

「あ~、ごまかした。

 もう一回」

 

「何だったけ?」

 

「とうちゃん、仕方ないねよく聞いといて。

 自分で自分のこと歌うの、めっちゃ恥ずかしいんだからね。

 せ~の、ハッピーバースデートゥーユー♬、

 ハッピーバースデートゥーユー♬

 ハッピーバースデー 〇△□× 」

 

「お前も知らないんじゃないか」

 

「ん~とにかく、

 ハッピーバースデートゥーミー♬」

 

”ふぅ~”

 

「おう、おめでとう、美佳。

 じゃあ、電気つけるぞ」

 

”ぱち”

 

「と、とうちゃん!

 ・・・ケーキ蝋だらけだ」

 

「お前が、しつこいからだぞ。

 ほら、蝋取れ」

 

「うん。

 えへへへ」

 

「わははは。

 しかたね~な」

 

「うん。 

 んじゃ、頂きま~す」

 

「おう、くえ」

 

”ぱく”

 

「げ~、とうちゃん、この寿司ワサビはいってる~」

 

「ははは、もう17なんだから、大人の味になれろ。

 そのため仕方なくだからな」

 

「うそだね、ワサビ抜きっていうの忘れたろ」

 

「・・・・・・・わかる?」

 

「もう。

 よし、く、くうぞ、大人の味

 ・・・・・くぅ~、大人ってつらいね」

 

うへぇ~辛え、涙目だよ。

わたしもまだまだ子供だね。

 

”ピンポ~ン”

 

ん、お客さん、だれだろうこんな時間に?

 

「は~い、今行きま~す」

 

うんと、

 

”がちゃ”

 

「はい、どなたさまで、

 あ、めぐねぇ、ど、どうしたの」

 

「美佳、お誕生日おめでとさん」

 

「うん、ありがとう」

 

「美佳も17だね。 

 ほれ、お誕生日のプレゼント」

 

「ほんと? ありがとう。

 えへへへ、めっちゃうれしい。

 めぐねぇに会えただけで十分なのに」

 

「ほれほれ、あけてみ」

 

「うん、でもよかったら上がって」

 

「いま東京からの帰りなんだ。

 お父さん、外で待ってるからごめんね」

 

「う~残念。

 泊まってってほしかったのに」 

 

「あはは、美佳こそ泊りにおいで」

 

「え、いいの」

 

「あったりまえでしょ。

 さ、おいで」

 

「うん、あ、やっぱ今日はいいや。

 とうちゃん、泣いちゃうから。

 春休み、いってもいい?」

 

「いいよ。

 一応、3月末まではこっちにいるからね」

 

「うううう・・・、やっぱ行っちゃうの」

 

「まったく、東京にも来ていいから」

 

「うん、やったぁ。

 絶対行く」

 

「ほれほれ、そんなことよりあけて東京土産だよ」

 

「うん、あっ、エトボンのメイクセット。

 こ、これ、ちょー高かったんじゃない?

 わたし、高くて通販で買えなかったんだ」

 

「ふふふ、かわいい妹のためだ、奮発したんだよ」

 

「めぐねぇ」

 

「美佳、あんた化粧品って、口紅以外は試供品ばかりでしょ。

 これからは、少しは気を使いなさい」

 

「う、うん。

 えへへ、どうしよう、めっちゃうれしい」

 

「うん、じゃあね、お父さん待ってるからそろそろ行くね」

 

「うん。

 ほんと、ほんとにありがとう」

 

「おう、じゃあね」

 

「うん、おやすみなさい」

 

”がちゃ”

 

「あ、それと、美佳。

 さっきも言ったけど、もう17なんだからね、

 少しは大人の女を意識しなさい。

 デートにクマさんのパーカーはやめときな」

 

「へぇ?」

 

「それと、比企谷君によろしくね」

 

「うっそ、見てた?」

 

「うん、車の中からばっちり。

 じゃあね」

 

「いや、ち、ちがうの、まって、まってめぐねぇ~」

 

「照れない、照れない」

 

ど、どないしょう・・・・・

まずいまずい、めぐねぇに見られてた。

も、もしかして”ちゅ”も。

ど、どないしょう・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ちゃっぽん”

 

「ふあぁ~」

 

温まるね。 やっぱお風呂最高。

参ったね、めぐねぇに見られてたとは。

・・・比企谷君か~

確か、最初に意識したのは、文化祭だったなぁ。

比企谷君、すんごく真面目で。

ぶつぶつ文句いいながらさ、結局、一日も欠かさず、

実行委員に来てくれたの。

それに終わった後も、最後まで会場の後片付け手伝ってくれてさ。

うれしかったな。

体育館、最後は、あなたとわたしの二人だけだったんだよ。

だから、わたし、わたし的にとびっきり笑顔で、

 

『ありがとう。 遅くまでごめんね』

 

って言ったのに、なにさ、

 

『おう』

 

って、そっけなくてさ、さっさと行っちゃうんだもん。

文化祭の後、嫌な噂聞いたけどさ。

わたしめぐねぇから聞いたよ。

ごめんね、ほんとはわたし達がしっかりサポートしなけりゃいけなかったのに。

だからさ、だから、マラソン大会で怪我したあなたを待ってる時、

いろいろお話しできるかなぁって、すんごくうれしくてさ。

へへ、保健委員の子、追い出して・・・・・

いや、ち、違うもん。

あれは、あの子たちが葉山君のとこ行きたがってたからだよ。

だから、

 

『いいよ。 後は任せて行ってきな』

 

っていっただけだもん。

はぁ、それなのに、あんた、完全、完璧にわたしのこと、

憶えていなかったでしょ?

いや、確かに髪切って眼鏡もしたけど、

二人で、一緒に椅子とか運んだ仲じゃん。

くそ、だから、あの消毒は罰だからね、罰。

わたしのこと、二度と忘れないように。

でもね、フリペの時、思い知らされたんだ。

あなたには、あなたの隣には、もういたんだね。

わたし、あの部屋、入れなかった。

はじめて、マッ缶買ったのに。

わたしは、あの扉が開けられなかった。

あの時から、わかってたんだ。

だから、頑張ってあきらめよって。

折角、折角、決心したのに。

結衣ちゃんが悪いんだからね。

なによ、勝手すぎるよ、返事は一年後って。

それまで、わたしにどうしろっていうの。

こんなわたしだって、すこし期待したくなるじゃん。

もしかしたらって。

だって、わたしは、わたしは、やっぱりあいつが・・・・・・好き。

・・・結衣ちゃん、つらいんだ。

わたしね、あんまり賢くないから、つらくてあたまおかしくなりそう。

だって、結衣ちゃん、あなたは大事な友達。

それに約束したんだもん、応援するって。

どうすればいい? 

明日、話したら、教えてくれる?

 

「お~い美佳、生きてるか~」

 

「あ、ごめん、とうちゃんいまあがる」

 

”ばしゃ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴクゴクゴク”

 

「ぷふぁ~、やっぱ風呂上がりの牛乳はチョ~うま」

 

ふふふ、ちょっと成長したかな。

ほら、気持ち的、大きくなったような。

へへん、会長、絶対わたしの勝ちだからね。

よ、よし、今日は牛乳、もう一本。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、はっ、比企谷君からメールだ。

どれどれ

 

”カシャカシャ”

 

『すまん、言うの忘れてたわ。

 誕生日、おめでとさん』

 

えへへ、ありがと。

 

『あと、お前、なんてことしてくれんだ。

 おかげで、小町にさんざん問い詰められたじゃね~か。

 この、ビッチめ』

 

げ、ひど!

ビ、ビッチだとー

な、なんてことを。

あの野郎、人のことビッチって。

・・・比企谷君、わたしのことどう思ってるのかな。

この前はただの知り合いって。

今日だって、プリキラ―じゃなかったらわたしとなんか・・・

知りたいな。

よ、よし、まだそんなに遅くないよね。

とうちゃんも風呂入ってるし。

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし、比企谷君」

 

「お、おう、なんだ真夜中に。

 お前、もう少し常識があると思ったんだが」

 

「な、こんな真夜中に人のことビッチ呼ばわりするよりましだし」

 

「いや、ビッチをビッチといって何が悪い」

 

「な、なんでビッチなのよ。

 あんなの欧米じゃ普通でしょ。

 あ、挨拶よ、あ・い・さ・つ」

 

「ばっか、あれは頬を付けているだけでキスはしていね~ぞ。

 口で”ちゅ”って言ってるだけだ」

 

「うっそ・・・・・知らんかった」

 

「お前、みんなにあんなのしてたんじゃねえだろうな。

 やっぱ、ビッチだ」

 

「ひど!

 ・・・忘れなさい。 

 今日のことは忘れなさい、今すぐ忘れなさい。

 分かった?

 じゃないと、警察に訴えるから」

 

「いや、あれは、お前が・・・・」

 

「今日のこと、結衣ちゃんに行っちゃおうかな」

 

「わ、わかりましゅた。

 な、なにも憶えてない」

 

「よろしい。

 それに、わたしビッチじゃないからね。

 ・・・・・初めてだからね、あんなことしたの」

 

ばか、これでも一生懸命だったんだよ。

必死だったんだよ。

だ、だって今日は特別な日、誕生日だったんだもん。

 

「ま、まぁ、なんだ。

 この場合、なんていうんだ。

 あ、ありがとうなのか?」

 

「ぷぷぷ、ありがとうだって」

 

「くそ~、も、もう切るからな」

 

「あ、ちょ、ちょっとまって。

 あ、あのさ、一つだけ聞いていい?」

 

「一つだけだからな」

 

「けち。

 あ、あのさ、もし、もしだよ。

 わたしがね、比企谷君の前から突然消えたらどう思う・・・かな」

 

「はぁ? お前、転校するのか?」

 

「いや、違うんだけど。

 ほ、ほら、めぐ・・・城廻先輩、東京行っちゃうんだなって思ったら」

 

「・・・どこにも行かないでほしい」

 

えっ、な、なんて言ったの?

わたしの聞き違い?

 

「なに?」

 

「いや、お前にはどこにも行ってほしくない。

 俺もそばにいてほしい」

 

な、比企谷君、ほんと?

わたしにそばにいてって・・・

うそ!

はは、うそだよね。

ははぁ~、またわたしのことからかってるんだ。

 

「本気で言ってんの」

 

「ああ、本気だ。

 チョ~本気だ。

 お前どこにも行くな」

 

し、信じていいの。

いま、どこにも行くなって。

な、なに身体が熱い、めっちゃ熱い。

ど、どうしょ、え~。

 

「ほんとにわたしでいいの? 結衣ちゃんとか雪ノ下さんとかじゃなくて」

 

「お前じゃないとダメなんだ」

 

わたしじゃないとって、それって

あ、ありがとう。

 

「ひ、比企谷君、あ、あの、わ、わたしも 」

 

「だから、絶対、夏休みまではどこにも行かないでくれ」

 

「うん。・・・・・・・・え?」

 

なんか、こいつ、いま変なこと言わなかった?

聞き違いかなぁ?

なんだろう、なんか意味不明なこと言ったような。

 

「あ、あの~、もう一回言ってくれるかなぁ?」

 

「はぁ?

 だから、夏休みまではどこにもいかないでくれ」

 

「夏休み・・・まで?」

 

「おう、そうだ。

 ほら、今日予告編でやってたろ。

 夏休み劇場公開決定って。

 しかも、また映画館限定のフィギュア発売するんだぞ。

 今回は臨海学校バージョンだ」

 

「あの、あのさ、なんでわたしじゃないとダメなの?

 結衣ちゃんでも雪ノ下さんでも、誘えばいいじゃん」

 

「よく考えてみろ。

 由比ヶ浜や雪ノ下にプリキラ―の映画行かないかって

 誘ったらどうなるか。

 あいつらの嘲笑に、俺は耐えられる自信がない」

 

「あはは、だからわたしなんだ。

 わたしなら平気なんだね。

 ・・・だから何だね」

 

「まぁ、なんだ、あいつらは、俺にとって特別なんだ。

 友達とは違う特別な。

 おまえは違う。

 なんかこ、もっとみじ 」

 

「もういい」

 

「え、」

 

「もういいよ」

 

これ以上、言わないで。

あなたにとって、あの二人は特別なんだね。

わたしはいくら頑張っても、あの二人のような存在にはなれない。

わかっってた。

 

「ん、いや、まて、お前なんか勘違いしてないか?」

 

「・・・わかった。 

 大丈夫だよ、わたし夏休みまではどこにも行かない」

 

「いや、ちょっと待てって」

 

「もう、とうちゃん、お風呂から上がるから切るね。

 今日は、ホントにありがとう。

 へへ、一生、忘れられない誕生日になったよ。

 あのさ・・・さようなら」

 

「お、おう」

 

”ぷー、ぷー”

 

ははは、笑っちゃうね。

わたし、なに考えてたんだろう。

でも、よかった。

比企谷君に必要だっていわれたんだよね。

夏休み、映画に付き合うまでは。

うん、よかったよかった。

よかった、比企谷君の気持ち聞けて。

ははは。

・・・・・・も、もうやだ、つかれたよ。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「お~い、美佳、遅れるぞ」

 

”ガバッ”

 

へ、うそ、もう朝、げ、六時半。

 

「と、とうちゃん、ごめん。

 いま、なんか作るから」

 

「いいぞ、ケーキの残り食った。

 お前も準備しろって、どうした、その顔」

 

「へぇ?」

 

えっと、鏡、鏡。

あ、あなたはだれ?

なに、この鏡にうつった顔、うへぇ、ひで~。

ま、瞼が腫れあがってる。

 

「美佳、なんかあったのか?」

 

「うううん、心配ないよ。 

 ちょっと漫画読みすぎて寝不足になっただけ」

 

「そ、そうか。

 じゃ、行ってくる」

 

「と、とうちゃん、ごめんね弁当は?」

 

「ん、なんか買って食べる」

 

「うん、気を付けてね」

 

「おう、ほれ」

 

「ん?」

 

「行ってらっしゃいのキス」

 

「とうちゃん」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、いって~

 はは、眼覚めた。

 じゃあな」

 

「ばかもの。

 ・・・で、でもさ、あんまり無理しないでね、とうちゃん」

 

”ガチャ”

 

ふう、どうしょう、この顔?

なんとかごまかさなくては。

めぐねぇ、さっそく使わせてもらうね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、この問題は明日の授業までにやってくるように」

 

ふぅ~、な、なんとか午前中もった。

えらい、よく寝なかった。

でも、授業の中身、ぜんぜん憶えてない。

げ、なにこのノート、なに書いてあるの?

 

”ブ~、ブ~”

 

あ、結衣ちゃんからだ。

 

「あ、美佳っち、いま教室?」

 

「うん、教室だよ。

 今そっち行くね」

 

「うん、待ってる」

 

     ・

     ・

     ・

 

い、いた。

あのお団子は結衣ちゃんだ。

 

「やっはろー、結衣ちゃん」

 

「へぇ? あ、やっはろー、美佳っち」

 

「お待たせ、じゃあ行こ」

 

「そ、そだね」

 

”スタスタスタ”

 

ん、これって屋上にむかってるの?

でも、鍵掛かってなかったっけ。

 

”ガチャン”

 

あ、ここのカギ壊れてるんだ。

へぇ~、次から利用しようかな。

 

「あのね、美佳っち・・・・・」

 

「うん」

 

「お、おたんこなす」

 

「・・・まぁ、そだね」

 

「あ、ち、ちがう、お誕生日おめでとう。

 これプレゼント」

 

「へっ、あ、ありがと、憶えててくれたんだ。

 で、でももらっていいの?」

 

「うん、一日遅れだけどごめんね」

 

「ありがと」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・、あのね、美佳っち。

 言いたいことわかる?」

 

「ん、分かってる。

 あのね、結衣ちゃん、聞いてくれる?」

 

「美佳っち、話してくれるの?」

 

「結衣ちゃん、ごめんなさい。

 昨日、わたし、比企谷君とデートしちゃいました。

 でも、でもね、はっきりわかったんだ。

 わたしと比企谷君は、恋愛っていう関係じゃない。

 関係にもなれない。

 ほんとだよ。

 わたしと比企谷君は恋愛じゃなくて、親愛なんだと思う」

 

そうなんだよ、比企谷君にとって、特別なのはあなたと雪ノ下さん。

わたしは、いくら頑張ってもだめなんだよ。

だから、わたし、もういいの。

 

「親愛?」

 

「うん、彼にとって特別なのは、結衣ちゃんと雪ノ下さんだって

 はっきり言われちゃった。

 へへ、結衣ちゃん、うらやましい。」

 

「み、美佳っち、でも 」

 

「だからね、わたし、結衣ちゃん応援するね。

 頑張ってね、結衣ちゃん」

 

「美佳っち。ほんとにそれでいいの?

 平気なの?」

 

「・・・・平気じゃないよ、そんなの当たり前じゃん。 

 わたし、これでも頑張ってんだよ。

 頑張ってなっきゃ、わたし、わたし・・・」

 

”だき”

 

「美佳っち、ご、ごめん」

 

「なんで結衣ちゃんが謝るのさ。

 誰も悪くないもん。

 わたし、大丈夫だよ。

 それよりさ、結衣ちゃんって、なんかおかあちゃんみたい。

 温かくて、こうしているとなんか落ち着く」

 

「うん、いつまでもこうしていていいよ。

 美佳っちが落ち着くな  」

 

”ぐうぅ~”

 

「へぇ? み、美佳っち?」

 

「だ、だって、今日、朝ごはん食べてないんだもん」

 

「あはは、美佳っちらしい。

 それじゃ、部室で一緒にご飯食べよ。

 ゆきのん、美味しい紅茶淹れてくれるよ」

 

「うん、美味しい紅茶飲みたい」

 

「おう、いこ~」

 

「うん」

 

「・・・美佳っち、いつまでも友達でいてくれる?」

 

「え~、いやだ」

 

「え、うそ」

 

「でも・・・親友ならいいよ」

 

「あはは、了解。

 うん、ありがとう」

 

     ・

     ・

     ・

 

ひえ~、遅くなっちゃった。

だって、お腹いっぱいなったから、午後の授業寝ちゃったんだもん。

そんで平塚先生にチョー怒られた。

なんか、いびきうるさいって。

 

”スタスタスタ”

 

あれ、放課後に生徒会室っていったのに、なんか静かだな。

まだ、会長も書記ちゃんも来ていないのかな。

ん、でも鍵あいてそう。

 

”ガラガラ”

 

「美佳先輩、お誕生日おめでとうございます」

 

「三ヶ木先輩、おめでとうございます」

 

「三ヶ木さん、おめでとう」

 

「三ヶ木、以下同文略します」

 

「おい稲村、略すんな!」

 

「ははは、おめでとさん」

 

「うん、みんなありがと」

 

「じゃじゃじゃ~ん、昨日、書記ちゃんと一緒に作ったケーキですよ。

 どう、ほらどうです?

 はやく感想を述べてください」

 

「うわぁ、美味しそう。 

 なんか、ほんとお店で売ってるのみたい。

 会長、ほんとすご~い」

 

「実は、お店で買ってきました」

 

「げ、や、やっぱり」

 

「違います、うそですよ」

 

「三ヶ木先輩、昨日、いろはちゃんといろいろ相談しながら

 作ったんです。

 本当は、三ヶ木先輩の好みも聞きたかったんですけど」

 

「ご、ごめんね、電話気付かなくって。

 ほんとすご~い、写真撮ってもいい?」

 

「どうぞ、美佳先輩なら1枚500円でいいですよ」

 

「ひど、お金とるの!

 まぁ、でもそれぐらい価値があるよ。

 はい500円」

 

「いや、美佳先輩、冗談です。

 本当に払わないでください」

 

「えへへへ、じゃ写真撮るね」

 

”カシャ、カシャ”

 

「あ、そうだ、紅茶淹れるね。」

 

うんしょっと。

へへ、うれしいな。

こんなに祝ってもらえるなんて、生まれて初めてだよ。

えへへ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木さん、これ、俺から」

 

「え、本牧君ありがとう。

 開けてもいい?」

 

げ、チロロチョコ詰め合わせ。

ま、まただ。

 

「おい、本牧、お前いつそんなもん準備してたんだ」

 

「いや、昨日、藤沢さんから聞いたから」

 

「きったなぁ~、俺だけじゃん。

 ちょっと待てよ、三ヶ木」

 

「いや、いいよ。 

 気持ちだけで十分だって」

 

”がさがさ”

 

「あった! ほれ、数学パズル。

 これ結構はまるぞ」

 

「いえ、数学はもう結構です。

 って、これ答え書いてあるじゃん。

 一度使ったやつでしょ」

 

「そ、それはサービスだ」

 

「まったく、でもありがとう。 

 でも、頂いて大丈夫?」

 

「おう大丈夫だ、もう全部といたから」

 

「さぁ、ケーキ食べましょ。

 美佳先輩、切り分けてもらえますか」

 

「うん。」

 

へへへ、

わたし、ほんと幸せだよ、みんなありがとう。

わたし、わたしにもあったんだね、特別な関係。

・・・わたし、頑張るね。

 

「あっ、そうだ。

 しばらく、生徒会、暇じゃないですか~

 春休み、みんなでどこか行きません?」

 

「いろはちゃん、それいい。

 どこ行こうか?」

 

「そうだ、スケートってどうですか?

 わたしやったことないんですよ」

 

「ぶはぁー」

 

「な、なんですか、美佳先輩。

 吹き出さないでください、もう」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「どうだろう、東京ディスティニーランドというのは」

 

「う~ん、ディスティニーですか。

 わたし的にはあんまりいい思い出がないんですが。

 まぁ、とにかくどこかに行くってことで、よろしくです♡」




最後までありがとうございました。

今回、どうしようかなって悩んでるうちに、
とうとう水曜日に。
何通りかあったんですが、このルートにしました。
二年生もあとわずか。
クラス替えどうしよう・・・また眠れない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 新学期
春愁


今回もありがと様です。

今回、やっと八幡サイドです。

なかなか生徒会主体だと・・・

今回から、第三章。

新学年いろいろ書けたらなぁと思います。


「はい、折角なのでこちらは気にせずに、しっかり楽しんできてください」

 

「うん、ありがとう」

 

「あ、そうだ。

 来週のどこかで、部費折衝会の対策について打ち合わせしたいので、

 帰られましたら、連絡よろしくです。 

 ではでは」

 

ん、今、一色が電話してたのは、三ヶ木じゃないのか?

そういや、まだ顔見てなかったよな。

 

「なぁ、一色、今の電話、三ヶ木じゃねえか?

 今日は三ヶ木、来ないのか?」

 

「な、なんですか。

 女子の会話に聞き耳立ててるって、変態じゃないですか!

 先輩、すごくキモいです」

 

「いや、隣で話していたら聞こえてくるだろう」

 

「まったく、しょうがないですね。

 女子が電話しているときは、少し離れるとかデリカシーを持ってください。

 減点10点です」

 

「え、なに、また点数付けるのか」

 

「そうですよ。 

 あ、そうだ、今日80点以上でしたらご褒美上げますよ」

 

「いらん。

 ・・・参考までにいま何点だ」

 

「まだ、―20点ですよ」

 

「な、なに、何でそんなに低いの?」

 

「えっと、さっきので―10点、それにやっぱり葉山先輩で

 ないので-10点です」

 

「なに、それ。

 まぁ、いいけど」

 

「頑張ってくださいね♡」

 

「いや、頑張らない」

 

「な、なんなんですか、まったく。

 ・・・あのですね、今日は城廻先輩のとこの卒業旅行と

 かぶっちゃったんですよ。

 ですから、美佳先輩は今日はあちらです。

 ということで、先輩、今日は美佳先輩の代わりですので

 美佳先輩っぽくお願いしますね」

 

「なんだ、三ヶ木らしくって。

 無理だ、俺はあんなひねくれものじゃない」

 

「先輩も結構ひねくれてますけど。

 あ、そうだ、美佳先輩の代わりなので、これかけてみてください」

 

「おわ、おまえなにすんだ」

 

「ほえ~、やっぱ、思った通り(・・・・・すごくカッコいい)。

 あ、いえこれですね、昨日生徒会に置き忘れていったんですよ」

 

「思ったより度はきつく無いな。

 でもどうしたんだこの眼鏡」

 

「なんか、最近、美佳先輩すっごく疲れてるみたいで、

 昨日生徒会室で寝ちゃたんですよ。

 だから、ちょっといたずらで眼鏡外したら、そのまま気が付かずに

 帰っちゃったんです。

 でも、先輩、その眼鏡結構似合いますよ」

 

”テッテッテッ”

 

「いろはちゃん、ごめん待った?

 え、い、いろはちゃん、このかっこいい人だれ?」

 

「あのね、書記ちゃん。

 ほら、眼鏡を取ると、じゃじゃじゃーん」

 

「あ、比企谷先輩。

 うそ!」

 

「何だうそって、書記ちゃんまでひどくない?

 普通の俺ってどうなの」

 

「いえ、ホント別人でした」

 

「それをいうなら、三ヶ木のほうもじゃねえか。

 あいつ、眼鏡外したらほんと誰かわからないんじゃね。

 眼鏡してても地味なんだが、眼鏡がなかったらメリハリなくて

 もっと地味になるんじゃね。

 なんならいるのもわからないんじゃないか、地味すぎて。

 ジミ子だ、うん、やっぱりジミ子だな、うん」

 

”べし”

 

「ぐへぇ!」

 

「ジミ子で悪かったわね。

 わたしのことそんな風にみてるの。

 よくわかった」

 

「へ、お、おまえなんでいるの?

 めぐり先輩といっしょじゃ?

 い、一色!」

 

「ふん、いいから眼鏡返して」

 

「お、おう」

 

「じゃあ、会長、行ってきます。

 あの、会長も気を付けて」

 

「はい、あ、お土産は食べ物以外でお願いしますね、えへ♡」

 

「了解、書記ちゃんもまたね」

 

「はい」

 

「・・・・・比企谷君、さよなら」

 

「へ、お、おう」

 

”テ、テ、テ”

 

「い、一色、なんだったんだ。

 あいつどこ行ったんだ」

 

「え、美佳先輩ですか?

 向こうのホームですよ。

 ほら、前生徒会の人もいるでしょう」

 

「あ、そ、そう、そうだったのね」

 

「会長、書記、お待たせ。

 はい、飲み物です」

 

「あ、副会長、ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

「うん。

 あ、比企谷、すまん、コーヒーでよかったか?」

 

「あ、ああ、サンキュ」

 

・・・マッ缶じゃないのか。

まぁ、三ヶ木じゃないからな。

 

「あれ、稲村先輩は一緒じゃなかったんですか?」

 

「ああ、稲村なら、ちょっと三ヶ木さんとこ寄ってくるって。

 ほら、あそこ」

 

「あ、飲み物もっていってあげたんですか?

 へぇ~。

 ・・・ねぇ、副会長。

 本当にあの二人、付き合ってないんですか?」

 

「そうみたいだよ。

 なんか稲村が言うには、付き合うには地球がどうのこうのって

 言うんだけど」

 

な、なにそれ? 二人が付き合うと地球がどうかなっちゃうの?

あっ、なに二人で笑ってんだあいつら・・・

 

「地球? なんかわけわからない関係ですね。

 いつも生徒会室で仲良くしてるんだから、もう付き合えばいいのに。

 ねぇ、先輩。

 ん? 先輩、どうかしました?」

 

「あ、すまん。

 なんか言ったか?」

 

「なんですか、もう」

 

「なぁ、一色、やっぱり、俺も一緒に行くっておかしくないか?

 今日は卒業生を送る会の打ち上げって聞いたが、

 俺が一緒でいいのか?」

 

三ヶ木になんか誤解させちまったままだから、

ついでに誤解を解いておこうと思ったんだが。

三ヶ木が行かないのなら、今日おれが行く理由がない。

 

「あ、先輩には送辞や、書記ちゃんの件でいろいろお世話に

 なりましたから。

 だから、問題ないですよ。

 は、まさか、いまさら帰るなんていいだして、わたしの気を

 引きたいんですか?」

 

「いや、いい、わかったから」

 

「あ、向こう、電車来たみたいですね。

 なんか稲村先輩と美佳先輩、遠距離恋愛の恋人さんみたいですね。

 ほら、よくあるじゃないですか、電車を見送るやつ」

 

「ほんとだ。

 もしかして、稲村、電車追いかけたりして」

 

「まさか、ねぇ、いろはちゃん」

 

「う~ん、でもそんな雰囲気じゃないですか

 あ、ほら、やっぱり追いかけた」

 

「う、うそ~。

 稲村先輩ほんとに追いかけてる」

 

「副会長、ほんと、あの二人つきあってないんですか。

 ね、ねえ、先輩」

 

「しらん。

 ・・・別にどうでもいいんじゃね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごめん、遅くなった」

 

「稲村先輩、大丈夫ですよ。

 電車まだですから。

 それより、稲村先輩のほうこそ大丈夫ですか?

 息、切れてません?」

 

「え、あ、見てたのか。 

 いや、話してたら、三ヶ木に紅茶渡すの忘れて」

 

「えっ、折角買ったの。」

 

「まぁ、あいつはミルクティだろう」

 

「え?

 おう比企谷、きてたのか」

 

「きてちゃ、悪いか。

 何なら今すぐ帰るが」

 

「なんか、機嫌悪くないか」

 

「すまん。

 いつも休日はこんな感じだ、気にするな」

 

「お、おう」

 

「あ、電車来ましたよ。

 皆さんいますか、いきますよ」

 

”くいくい”

 

「ん?」

 

「先輩、本当になんか機嫌悪くないですか?

 ごめんなさい、お誘いしてご迷惑でした?」

 

「いや、そんなことはない。

 すまん、なんか悪かった」

 

「先輩、夢の国では、楽しまないとダメですよ」

 

「おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタン、ガタン”

 

     ・

     ・

     ・

 

「つきましたね。

 あ、書記ちゃん、ほら、白亜の城、見えますよ」

 

「あ、ほんとだ、きれいだね」

 

「はい、みなさん、集合です。

 写真撮りますよ。

 ほら先輩、こっちですよ」

 

いや、お前いきなり手を握るなって、

え、なに? なんで俺、お前の横なの。

後ろでいいんだが、

何なら少し離れていようか。

 

「いや、一色、俺が写真撮ってやるわ。

 ほら、俺は生徒会じゃないし」

 

「いいんですよ。

 ほらスタッフの人がとってくれますから。

 あ、あとで先輩の顔、美佳先輩といれ変えますので。

 ね、副会長」

 

「え、なに? 本牧、お前そんなことできんの?

 いや、まてその前にその写真、すげ~怖くならないか。

 俺の体に三ヶ木の顔って」

 

「ぷぷぷ、あ、すまない。

 ちょっと最近はまっててな。

 なんなら犬の顔にしておこうか」

 

「いや、いい」

 

「だから、先輩、美佳先輩はもっとこっちですよ。

 わたしのすぐ横」

 

え、な、なに。 チョ~近いんだけど。

すごく、密着してるんだが、ホラ腕とか、その、いろんなとこが。

 

「先輩、なにキョどってるんですか?

 それと、もっと美佳先輩っぽいポーズでお願いします。

 すいません、じゃあ、お願いしま~す」

 

「はい、じゃ、写しますよ。

 1、2のパン!

 もう1枚いきま~す。

 1、2、のメリー」

 

「あ、ありがとうございました」

 

「な、なぁ、一色、これほんとに三ヶ木の顔になるんだよな」

 

「どうしょうかな。 

 あ、そうだ雪ノ下先輩に一度、見てもらってからにしましょう」

 

「おい!」

 

     ・

     ・

     ・

 

よ、よし。 この順番なら俺は一人で乗れる。

あんまりコースター系は好きじゃないからな。

一色に引きつった顔でも見られたら、後でなにを言いふらされるかわからん。

 

「副会長、書記ちゃん、行ってらっしゃい」

 

「は~い」

 

「え~と、次は私と稲村せ、ん?」

 

「あ、会長すまん、三ヶ木から電話だ。

 先行ってて」

 

「あ、はいはい。

 ほれ、先輩行きますよ」

 

「・・・・・うそ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ぐわ! うへぇ」

 

     ・

     ・

     ・

 

お、終わった。

はぁ、気持ち悪い。

高速でグルグルと、なんで、人はこんなものに乗って喜ぶんだ。

体に良くねぇだろう。

 

”ふら”

 

体が重たい、あ、足が。

 

”だき”

 

「きゃ、せ、先輩、いきなりなんですか、まったく。

 抱き着くのなら、断ってからにしてください」

 

「す、すまん」

 

え、でも、断ってからならいいの。

 

「あははは。

 でも、せ、先輩のあの時の引きつった顔、サイコーでした」

 

「さいこ? あ、サイコね、ああ、おれもDVD観たけど

 怖くてよかった」

 

「はぁ、なにいってんですか。意味わかんないんですけど。 

 あ、稲村先輩、こっちです」

 

     ・

     ・

     ・

 

え、パンさんのやつに乗るの?

雪ノ下いないから、別にいいんじゃね。

こいつ、あんまりパンさんに興味なかったような。

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、一色、折角、生徒会で来てるだ。

 四人で乗ったらどうだ?」

 

「はい? なにいってんですか」

 

「じゃあ、会長、いってくる」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

「な、なに、またお前と乗るの。

 おれ、本牧とでも」

 

「あの三人は、この前ちょっとあったので。

 先輩、わたしと乗るのって、そんなに嫌ですか?」

 

「いや、ちが、嫌じゃない。

 パンさんなら・・・」

 

「そ、そうですか、良かったです。

 ほら、いきますよ。

 あ、わたし、パンさん怖いので手を握っててくださいね」

 

「パンさんが怖いって、雪ノ下に知れたらお前生きていられないぞ」

 

「はぁ、まあいいです。

 はい、手」

 

「お、おう」

 

「相変わらず、湿っぽいですね」

 

「うぐ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、来た来た。

 いろはちゃ~んこっち」

 

「お待たせ」

 

「え、何で手握ってるの?」

 

「先輩が怖がって離してくれなかったんですよ」

 

「え、比企谷先輩、ほんとですか?

 少し引きますけど」

 

「いや、一色、お前が 」

 

「あ、パンさんのぬいぐるみ、かわいい」

 

”スタタタ”

 

「あ、お、おい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先輩、わたし的に、パンさんよりおしゃまキャットメリーちゃんの

 ほうが好きなんですよ」

 

「お前、絶対それ、雪ノ下の前で言うなよ。 

 ぜって、パンさんのいいとこ、二時間くらいは聞かされるぞ」

 

「うわ~、マジですか。

 わかりました気を付けます。

 それはそうと行きますよ」

 

「おう、わかった。

 おい、本牧、おしゃまキャットのほう行くぞ」

 

「ああ、わかっ 」

 

”ぎゅ”

 

「いた!」

 

「比企谷先輩、私たちもう少し見てから行きますので、

 先に行っててください」

 

「わかった」

 

「ごめんなさい、牧人君痛かった?」

 

「だ、大丈夫だ。

 あの~少しだけ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先輩、遅いですよ」

 

「おう、わかった」

 

あいつ、そんなにおしゃまキャットメリーちゃんが好きなのか。

そんなにはしゃいでいると、ほら、結構風あるから、

 

”ビュー”

 

「きゃあ」

 

ほらみろって、お、おい。

 

「黒、黒なのか」

 

なに、女子の間では、黒が流行ってるの。

でも・・・・・・風さん、ぐっジョブ。

 

「せ、先輩、見たでしょ」

 

「な、なにをだ。

 なんのことかわからん」

 

いえ、ばっちり見えちゃいました。

ごちそうさまでした。

 

「先輩、どこ見ていってるんですか。

 ちゃんとこっち見ていってください。

 それに顔も真っ赤ですし」

 

「いや、これは、すこし熱いかなぁ~って」

 

「ひ、ひどい、先輩にスカートの中覗かれた」

 

「お前、変なこと言うな。

 それだと、なんか俺が無理やり覗いたみて~じゃないか。

 偶然だ、偶然」

 

「やっぱ、見たんじゃないですか。

 ひどい、ひどいです・・・・・・うううう」

 

やば、泣き出しちまった。

いや、それなら、お前ズボン履いて来いよ。

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「あんなかわいい子泣かして、酷いやつだな」

 

「なんか、スカートめくったって」

 

「なにそれ、スタッフどこ?」

 

え、なに、やば、なんかマジ通報されかねないんだけど。

 

「わ、わかった。 

 一色、俺が悪かった、すまん機嫌直してくれ」

 

「じゃあ、なんか買ってください」

 

「へ、何で買わないといけないんだ」

 

「ううううう・・・・」

 

「わかった、わかった。

 もう泣くな、買ってやるからもう泣くな」

 

ほら、あの女の人、マジでスタッフ探してるじゃね~か。

 

「ほんとですか、やったー

 ほら行きますよ、早く、早く」

 

「へ、お前、やっぱウソ泣きじゃね~か」

 

「ウソ泣きは、女の武器ですよ~」

 

「ひどい」

 

     ・

     ・

     ・ 

 

「なににしょうかなぁ」

 

「あの、一色さん、なるべく安いのね、安いの」

 

いや、聞いてるの、一色さん。

そこら辺は結構高いのよ。

 

「あ、これだ。 これがいい。

 先輩、このメリーちゃんのピアスにしておきます」

 

「げ、あ、あの~、こちらのクッキーでどうでしょう」

 

「これがいいです。

 ・・・・・先輩、駄目ですか?」

 

な、なにその上目使い、結構グッとくるんだけど、ぐっと。

 

「し、仕方ねぇな」

 

「やった~」

 

     ・

 

「ありがとうございました」

 

け、結構するのね。

今月、俺の財布、すっごくダイエットしてるんだが。

 

「先輩、ありがとうございます。

 それと、はい」

 

「ん、なんだ。

 ああ、荷物になるからか」

 

「違いますよ。

 先輩、このピアスは先輩から美佳先輩に渡してください」

 

「え、なんでだ」

 

「最近、先輩と美佳先輩、ケンカしたんじゃないんですか。

 そんなのなんか見てればわかりますよ。

 これは、先輩からのお土産ってことで、美佳先輩に渡して

 あげてください」

 

「いや、別に喧嘩なんかしてないんだが。

 そもそもケンカするほど親しくね~し」

 

「マジで言ってんですか、親しくないって」

 

「・・・・」

 

「まぁ、先輩ですからいいですけど。

 それより、ちゃんと渡してくださいね。

 美佳先輩に似合うの選んだんですから」

 

「・・・わかった。

 なんかすまん」

 

「いいんですよ。

 お二人には、これからもしっかり働いてもらいますので、

 ギクシャクしていると、わたし的に困るんです。

 あ、それと、ほら」

 

おま、なに、なんでスカートまくりあげるの?

もしかして、ち、痴女・・・

 

「え、パンツじゃないの?」

 

「先輩、残念でした。

 スカートの下、アンスコって常識じゃないですか。

 履いてないのって美佳先輩ぐらいですよ」

 

「ぐ、だ、だまされた」

 

「えへへ、ほら、そんなとこで固まってないでいきますよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふう、まぁ、どこにいっても混んでるよな。

そういえば、あいつ卒業旅行ってどこ行ったんだろう。

 

『あ、あのさ、もし、もしだよ。

 わたしがね、比企谷君の前から消えたらどう思う』

 

はは、ホントいなくなっちまいやがって。

・・・ばっか、いねぇと静かじゃねえか。

 

『いっぱいもらったよ。

 今日すっごく楽しかった』

 

そういえば、俺、誕生日のプレゼント渡してね~わ。

 

『ありがとう』

 

”ちゅ”

 

あのバカ、俺気付かず電車乗って帰ったじゃね~か。

ジロジロ見られたんだからな。

あと、小町にも散々に・・・

 

「比企谷、おつかれ。

 ほれ、マッ缶」

 

「おう、稲村、サンキュ」

 

「なぁ、比企谷。

 おまえ三ヶ木のことどう思ってるんだ」

 

「なんだいきなり。

 どうってなんのことだ」

 

「あのな、おれ、三ヶ木にアタックしてもいいか・・・」

 

「いや、だからなんで俺に聞くんだ」

 

「いいんだな」

 

「・・・・いいんじゃね~か。

 ほら、駅でもなんかいい感じだったし」

 

「・・・余裕か。

 いいか、必ず俺のほうを向かせるからな」

 

「いや、だから、別に俺に断る必要はない」

 

「そうか、わかった。 

 すまん、じゃあな」

 

     ・

     ・

     ・

 

まったく、あいつらどこ行ったんだ。

ん、電話繋がったのか?

 

「え、わかりました。

 ・・・ ありがと、書記ちゃん」

 

「一色、あいつらどこにいるって?」

 

「あ、あの~、い、稲村先輩、稲村先輩がトイレから 

 なかなか出てこないそうです。

 だから、その~、後で合流するそうなので先行きますよ」

 

「いや、待ってなくていいのか?

 それに一色、トイレじゃない、花を摘みに行くって言うんだ」

 

「はぁ? なんですかそれ。

 すごくキモいんですけど。

 待ってなくてもいいんです、ほら、次行きますよ」

 

「は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほらほら、先輩。

 ここ、ここが一番、パレードよく見えるんですよ」

 

「だけど、まだ、ちょっと時間早くね」

 

「すぐ混んじゃうんです。 

 だから、今から場所取りしておかないと」

 

”くしゅん”

 

「ほらみろ、そんな寒そうな格好してくるからだ」

 

「なんですか、さっきはスカートの中見えたって、

 すんごく喜んでたじゃないですか」

 

「もう、それ言わないで」

 

くそ~、なんだよアンスコって。

やっぱ卑怯だ、めっちゃ喜んで損した。

 

「ほれ」

 

「え、ジャンパー?

 でも、先輩、先輩のほうが寒くなるじゃないですか」

 

「ふふふ、見ろ。

 こんなこともあろうかと、さっき、マッ缶買ってきた。

 めっちゃ熱いぞ」

 

「そ、そうですか。

 ありがとうございます」

 

”ぴた”

 

え、な、なに?

一色さんそんなにくっつくと腕に当たるんですけど。

そ、その柔らかいものが

 

「先輩、なにまたキョッどてるんですか?

 サービスです、サービス。

 温かいですか?」

 

「・・・温かいです」

 

「ほう、それはよかったですね」

 

     ・

     ・

     ・

 

ん、やっぱりそうか。

最後はこの広場なんだな。

 

「どうですか 先輩。

 少しは元気でましたか?」

 

「へ、なんで?

 俺はいつも元気はないんだが。

 ほら無駄にエネルギー使わないタイプ、省エネだ」

 

「もう。

 最近、すごくイライラしてたじゃないですか。 

 美佳先輩とは会話もしてなかったし。

 わたし的に先輩がふられたのかと思いましたよ」

 

「はぁ? ばっか、俺とあいつはそんな関係じゃない。

 なんか恋愛とかいうんじゃなくてだな。

 なんていうんだ?

 ん~、まぁ他の奴に比べると一緒にいても楽というか、 

 よくわからんが、なんか別のものだと思う、たぶん」

 

「・・・はぁ、そ、そうですか。

 あ、パレード始まりましたよ」

 

”ひゅ~、どーん。”

 

「わぁ、花火とれも綺麗です」

 

「な、なぁ、一色。

 今日、回ったコースっていうのは」

 

「ああ、やっぱり憶えてました?」

 

「そりゃ、まあな」

 

「ここで、わたし、葉山先輩に振られたんですよ。

 先輩のせいですからね」

 

「はぁ、何で俺のせいなんだ」

 

「また言わせるんですか。

 しっかり自覚してください。

 『本物がほしい。』

 もう一回言います?」

 

「いや、やめて、もう忘れろ。

 二度と口にしないで~」

 

「だからですよ。

 わたしもう一度、始めるためにここに来たんです」

 

「お、おう、頑張れ」

 

「まったく、このバカ八幡は。

 先輩、覚悟してくださいね」

 

「はぁ?」

 

「それと、今日は81点です。

 だから・・・・」

 

”だき”

 

「いや、い、一色さん?」

 

「ご褒美です。

 花火終わるまで、こうしていてあげます」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ピンポーン”

 

ん、いね~のか?

確か、昨日、一色からもう帰って来たって聞いたんだが。

 

”ガチャ”

 

「ふぇ~、どなた様ですか?

 新聞ならいらない」

 

な、なに、こいつ。

あたま爆発してるぞ。

それに、ほれ、肩からブラのひもが。

 

「げ、比企谷君!

 な、なにしにきたのよ、ばっか。

 ち、ちょっと待ってなさい」

 

”バタン”

 

おい、いきなりバカはないだろう。

まったく。

 

”ガチャ”

 

「はい、なんでしょう?」

 

「いや、今更なんだが」

 

「うっさい、何のよう?」

 

「ほれ、これこの前一色たちとディステニー行った時のお土産だ」

 

「へ、わ、わざわざ?

 あ、ありがとう。

 ま、まぁ、あがって・・・・・・

 あ、今日はだめ、家の中、ごちゃごちゃ」

 

「お、おう、まぁ、女子一人の家に入るのはな。

 じゃあな」

 

「あ、まって」

 

”ドタドタ”

 

「あれ~、どれだったけ?

 え~と・・・」

 

「なぁ、昨日遅かったのか?」

 

「うん、ちょっとね。

 あっ、”は”って書いてある。

 これだ」

 

”ドタドタ”

 

「ほい、これお土産。

 絶対、比企谷君が喜ぶもの」

 

「な、なんだ? 

 あけていいのか?」

 

「いや~、ここではやめといたほうが。

 家に帰ってから、部屋でこっそりあけてみたほうが」

 

な、なんだ。

何が入ってんだ。

まぁ、いいか。

 

「おう、わかった。

 じゃあな」

 

「あ、比企谷君。

 わ、わたし、最近・・・・」

 

「すまん、俺のほうがなんか悪かった」

 

「うううん。 

 ・・・また、学校でね」

 

「おう、またな」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「会長、わがまま聞いてくださってありがとうございました」

 

「美佳先輩、楽しかったですか?」

 

「はい、すんごく。

 あ、そんでこれお土産です」

 

「ありがとうございます。

 あけていいですか?」

 

「はい。

 絶対喜んでくれると思います」

 

”ばさばさ”

 

「・・・・・・・・」

 

「へ、 か、会長?」

 

「・・・あの~、美佳先輩。

 わたし、こういうのはあんまり趣味じゃなくて」

 

「へ、結構おしゃれなアロマランプだとって、

 え~、プリキラ―浪速バージョンフィギュア!

 あ、・・・・・間違えた」

 

「まぁ、いいです。

 折角ですからもらっておきますね」




最後まで、読んでいただきありがとうございました。

新学期にむけ、いろいろと動き出し始めました。

あと、もう少し奉仕部サイドから書けたらと思います。

では、またよろしくお願いいたします。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗躍

またまた、ありがとうございます。

インフルエンザ流行ってますが、皆さん気を付けてください。

春休みも終わり、新学期もいよいよ始まります。

恋愛に進路、下手なりに描けていけたらなぁと思います。

では、よろしくお願いします。



”ガラガラ”

 

「おつかれっす。

 あ、三ヶ木久しぶり。

 旅行は楽しかったか?」

 

「おひさ! うん、めっちゃ楽しかったよ。 

 はいこれ、お土産、ビリオンクッキー」

 

こ、今度は間違ってないよね。

ほら、包装紙に”い”って書いてあるし。

ん、 ”い”って一色の”い”

 

「あ、あの~、ちょっと開けてみて?」

 

「ん、もしかして食いたいのか?」

 

”びりびり”

 

「ほらこれでいいか?」

 

「あ、ありがと。

 ごめん、もうしまっていいから」

 

「ん?なんだ食いたかったんじゃないのか?

 まあいいか。

 ほれこれ、俺のお土産」

 

「あ、ありがとう、開けてもいい?」

 

「おう、気にいってくれるといいが」

 

”がさがさ”

 

「あ、人魚姫のペンダント。 

 これって高かったんじゃない?」

 

「まぁ、普通だ」

 

「ケチの稲村君がどうしたの?

 もしかして、明日、地球の最後とか」

 

「ひでぇ、お前なぁ。

 ・・・・・・まぁそうだったらいいんだけどな」

 

「へへ、ありがとう、大事にするね」

 

「ごほん。

 あの~、もう始めてもいいですか?」

 

「あっ」

 

「は、始めましょう、会長」

 

「では、稲村先輩、各部活さんからの予算の申請状況はどうですか?」

 

「全部出そろったんだ。 

 ほら、これがまとめた結果。

 三ヶ木、どう思う?」

 

「ふむ、まぁ大体、例年通りの申請額と内容だね。

 一部を除いては」

 

「一部?」

 

「うん、そうなんだ。 

 ほら、野球部とバドミントン部、それとテニス部」

 

「ほぇ、た、確かに。 

 この部って大会とかの成績よかったりします?」

 

「いや、いずれも初戦敗退だ」

 

「じゃあ、部員が増えたとか?」

 

「いえ、逆に減ってるぐらいですね」

 

「じゃあ、なんでこんなに予算の申請増えてるんですかね?」

 

「会長、わたし、一度確認してみますね」

 

「はい。

 じゃあとりあえず、稲村先輩、大会の成績や部員数から

 仮の予算組めます?」

 

「ああ、ちょっとやってみるわ。

 あ、そうだ、三ヶ木、相談したいとこあったら連絡していいか?」

 

「うん、わかった」

 

「稲村先輩、それって来週中に間に合いそうですか?」

 

「なんとか組んでみる」

 

「では、来週の生徒会で改めて検討しましょう。

 と、いうことで、わたし、今日、サッカー部の練習あるので、

 お先に失礼しますね。

 あとは、お二人よろしくで~す。  

 あ、問題になるようなことはしないでくださいね。 生徒会室ですから」 

 

「え、いや、な、なに言ってんだ、会長!」

 

「ではでは。

 ・・・ごゆっくり、えへ」

 

”ガラガラ”

 

「は、はは、な、なに言ってんだろうな会長は。

 な、なぁ三ヶ木、このあと喫茶店でもって、・・・三ヶ木?」

 

「ぶつぶつ・・・・・・、やっぱおかしい。

 今日、やってるよね。・・・」

 

「お、おい三ヶ木。

 お~い三ヶ木もどってこ~い」

 

「あ、な、なに稲村君。

 なんか言った?」

 

「いや、いい。

 なんでもないです」

 

「じゃあ、わたしちょっと用事あるからいくね。

 あ、カギよろしく。えへ♡」

 

「おう」

 

あれ? 稲村君、今日はキモいって言わないのね?

まぁいいか。

 

     ・

     ・

     ・

 

”がさがさ”

 

どれどれ。

 

野球部はと、お~やってる。

でもなんかやってるやってるって感じじゃないね。

まぁ、いつもこうだけど。

ほら、二年生もだけど、一年生もだべってるよ。

たしか部長は、大岡君だったね。

どれどれ、三ヶ木レポートによると、人に合わせたがる性格。

ふ~ん、とても引っ張っていくタイプじゃないね。

無理矢理、部長、やらされたって感じ?

・・・だからか。

 

「あんまり、厳しそうじゃないな」

 

「うぇ、あんたいつからここに?

 帰ったんじゃないの」

 

「さっきからいたぞ。 

 まぁ、今日はちょっと時間あるから」

 

「じゃ、じゃあ次はっと」

 

「次どこ行くんだ」

 

「え、次はバドミントン部だけど」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの~、稲村君、近いんだけど」

 

「仕方ないだろう、狭いんだから」

 

「そ、そうだけど・・・」

 

まぁ、換気口から覗いてるから、仕方ないか。

ふ~ん、一応、ちゃんと練習してるのね。

 

”コトン”

 

あ、シャトル飛んできた。

そ、そうだ。

 

「ねぇ、稲村君。 あのシャトルとって」

 

「はぁ、なにすんだ」

 

「お・ね・が・い・・・ね♡」

 

「お、おう、任せとけ」

 

へ、なんだ? 

さっきもだけどなんか稲村君、今日変だね。

ん~、まぁいいか。

 

「ほれ、取れたぞ」

 

「ありがと、えっとスマホでっと」

 

”カシャ”

 

これでよしっと。

さぁ、次はっと。

 

「OK、じゃ、行くね」

 

「次、どこ行くんだ。

 やっぱテニス部か?」

 

「へ、まだついてくるの」

 

「ああ、今日暇だから。

 それになんか楽しい」

 

「そ、そう?」

 

楽しいかな? なんかほんと今日の稲村君、いつもと違う。

 

     ・

     ・

     ・

 

うん、やってるやってる、一番まともだね。

さすが戸塚君、部長らしいね。

でも、わからないな。 

あんな申請、戸塚君が考えたとは思えないし。

だって、去年の1.5倍ってありえない。

だとすると、

・・・・厚木か、うん、きっと厚木だね。 

 

「三ヶ木? なにまたぶつぶつと」

 

「あ、三ヶ木先輩!」

 

「え? あ、刈宿君」

 

えっと、一緒にいるのは、あ、そうだあの男の子。

 

「じゃあな、川崎。

 また、遊びに行こう」

 

「ああ、テニス部頑張れな」

 

「おう」

 

”テッテッテッ”

 

「三ヶ木先輩、おひさ!」

 

「おう、おひさ。 

 今日はどうしたの?」

 

「はい、今日はテニス部の練習を見に」

 

「で、どうだった?」

 

「う~ん、そうですね。部長さんは頑張ってるし、

 そこそこだと思いますよ」

 

「そう。

 戸塚君は昼休みも部活終わってからも練習してるからね」

 

「戸塚君?  

 え、あの人、男子だったんですか。」

 

「そ、そだよ。

 わからなかった?」

 

「は、はい、すっかり女子だと」

 

「ははぁ、もしかして惚れちゃったとか?」

 

「いえ、それは絶対ないです。

 俺は一筋ですから」

 

「そ、そう。

 いや、そんな力まなくても」

 

「な、なぁ三ヶ木、誰?」

 

「ああ、あのね、新入生の刈宿君。

 あ、こっちね、同じ生徒会の稲村君だよ」

 

「ちわ~す、刈宿です。 

 先輩、よろしくお願いします」

 

「お、おう。

 稲村だ、よろしく」

 

”ぎゅ”

 

「ん?」

 

「ん?」

 

「・・・先輩、力強いっすね」

 

「き、君もな」

 

「な、なにやっての。

 ふたりして青筋立てて、いい加減手を離したら。

 はっ! も、もしかして二人ともともそっち?」

 

「「ち、ちが~う!!」」

 

なんだ!

な、なんかめっちゃ否定された。

じょ、冗談なのに。

ま、まぁいいけどさ。

んっ、戸塚君。

こんなことしていられない。

 

「戸塚く~ん、ちょっと待って~

 じゃあね、稲村君も刈宿君も気を付けて帰ってね。

 バイバイ」

 

「お、おう。

 へ、いや、あ、あの三ヶ木?」

 

「三ヶ木先輩・・・」

 

「帰るか」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

やっぱそうか。

厚木の差し金か、でもなんで今年に限って?

 

「ごめんね、三ヶ木さん。 

 なんでも今年、結構、中学で有名だった生徒が入ってくるから

 どんどん、遠征行くっていうんだ。

 いままで、あんまり練習も来なかったのにね」

 

「戸塚君、大変だね」

 

「でも、僕も楽しみなんだよ。

 どんな子なんだろう」

 

「中学校でも有名だったんでしょ。

 きっと結構天狗じゃない?

 それに性格も悪そう」

 

・・・テニス、刈宿君? はは、そりゃないね。

だって、内ズック忘れてくるようなおっちょこちょいだもん。

それに優しそうだし、勝負事に向いてない。

 

「じゃあね、三ヶ木さん」

 

「うん、バイバイ。

 またね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

え~と、三ヶ木、三ヶ木っと。

あ、あった。 またC組だ。

あ、義輝君も同じクラスだ。

まったく腐れ縁だね。

ほかは・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ、うんしょっと。

この場所でいいよね。

はぁ、よかった、教室の隅っこだよ。

あ、義輝君、一番前じゃん、しかもセンター。

先生の目の前だね。

やるね、なかなか選挙でもセンターにはなれないんだよ。

ほほほ、うらやましい。

ご愁傷様。

 

「ねぇ、あなた生徒会の鹿さんでしょ?」

 

「あ、そうだ、鹿さんだ」

 

ん、なに?

誰だよあんたら。

 

「あんときゃ、大爆笑だったよ」

 

「ね、ねぇ、何であんなの着てたのさ、バッカみたい」

 

こいつら、どっかで見たことが。

しかし、なんだよ、うっさいわね。

 

「ねぇ、今日はしないのあんなかっこ」

 

「生徒会室では着てるんでしょ?

 クラスでも着なよ」

 

「うける、うける」

 

「いや、あれはクリスマスパーティで。

 ほら、小さい子も来たから・・・」

 

「へ、何でクリスマスに鹿なのさ」

 

「あんた馬鹿?」

 

”ドン”

 

「ひゃ!」

 

「あんたらさぁ、なんかあたしのダチに用なわけ?」

 

「あ、あの・・・」

 

「なんか、さっきから好き勝手言ってるけどさ、

 すっげーうっさいんだけど。」

 

「あ、も、もういくから、い、いこ、ゆっこ。」

 

そうだ、思い出した。

確かこいつらはあの時の・・・

 

「あ、あのさ、ゆっこさん、二宮店長だっけ?

 店長さんによろしくね。

 でもバイト無許可だよね。

 それと、遥さん、花見川高校の中原君だっけ?  

 バスケ部の宮前君、そのこと知ってるのかなぁ」

 

「あ、あなた、なんでそんなこと!」

 

「い、いこ、遥」 

 

     ・

 

「あんた、なんだったのあれ?」

 

「へ、あ~、あれね。

 ゆっこって娘は、無許可でバイトしてんだよ。

 あと、遥って娘は二股」

 

「なんで、そんなこと知ってんのさ」

 

「うん、去年の体育際の時、ちょっとね。

 いざっというときのために」

 

「あんた、こわ~」

 

「ふふん。

 生徒会を守るためだもん」

 

「まったく、変わってるね、あんたは」

 

「うん、よく言われる。

 でも、ありがと、沙希ちゃん」

 

「あ、そうだ。

 京華がさ、また会いたいって。

 今度、会いに来てくれる?」

 

「うん。

 わたしもけーちゃん大好きだもん」

 

”ガラガラ”

 

「お~い、さっさと席につけ」

 

「じゃあね」

 

「今日から、このクラスの担任になった平塚だ。

 今年は、君たちにとって大事な年だ。

 いろいろ気持ちが焦ったりとか、落ち着かなかったりとかするだろう。

 そんな時はいつでも相談になるから職員室に来たまえ。

 それでは、出欠を確認するぞ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「おはよう、書記ちゃん。

 今日もかわいいね」

 

「あ、三ヶ木先輩おはようございます」

 

「美佳先輩、おはようございます」

 

「あ、会長、おはよ」

 

「・・・」

 

「ん、会長? 」

 

「な、なんですか! わたしにはないんですか」

 

”ぷく”

 

「え、会長、何怒って・・・あ、はいはい。

 会長、今日はいつも以上にすっばらしくかわいいです」

 

「なんか嘘くさ~いです。

 まぁいいですけど」

 

いや、ほんと、あんたの膨れた顔、めっちゃ可愛いって。

つんつんしていい?

 

「ほら、いろはちゃんも三ヶ木先輩も馬鹿やってないで。

 新入生、来ましたよ」

 

「は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

「おめでとうごさいます」

 

「ありがとうございます」

 

     ・

 

「なんか、一年前を思い出すね、いろはちゃん」

 

「そうだね。

 そっか、もう一年か」

 

”タッタッタッ”

 

「み、三ヶ木先輩、おはようございます」

 

「おう、刈宿君、おはよ。

 入学、おめでとう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ほれ、胸出して」

 

「はい、へへ」

 

「な、なに。 どした?」

 

「こうやって、三ヶ木先輩にコサージュ付けてもらえるの、

 すんごく楽しみでって、いって!」

 

「ほ、ほら、ばかなこと言ってるから刺しちゃったじゃない。

 だ、大丈夫?」

 

「ちくっとしただけですよ。

 大丈夫です」

 

「もう、ほら付けたよ。

 行ってらっしゃい」

 

「はい、行ってきます」

 

”スタスタスタ”

 

「み、美佳先輩、今のだれ? ねぇ、だれ」

 

「いまの刈宿君。

 入試の時に知り合ったの」

 

「いつのまに、美佳先輩、手早いです。 

 ねぇ、書記ちゃん」

 

「ええ、しかも結構イケメン。

 稲村先輩、かわいそう」

 

「え、な、なに言ってんの? 

 なんで稲村君?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

う~ん、なんかいい方法ないかな。

戸塚君も頑張ってるしね。

だけどテニス部の申請認めちゃうと、他の部もだまってないだろうし。

 

「はぁ~」

 

「三ヶ木先輩、何やってんすか?」

 

「ああ、刈宿君」

 

「も、もしかして、俺に会いに来てくれたとか?」

 

「いや、それない」

 

「・・・そうですか。

 俺、もしかして嫌われてたりとか?」

 

「いや、違うから。

 あ、あのね、こんなこと刈宿君に言ってもなんだけど、

 ちょっと部費申請の関係でね。

 申請額、調整したいんだけどなかなかいい方法がなくてね」

 

「そ、そうなんですか。

 三ヶ木先輩いろいろやってるんですね」

 

「あ、そうだ。

 刈宿君、今年の新入生でなんかすっごいテニスうまい子が

 入るって聞いたんだけど、知らない?

 なんか、その子が入るからって厚木先生が盛り上がってるんだって」

 

「そ、そうですか。

 誰だろう、あんまり聞かないなぁ」

 

「そう、まぁ、いいか。

 え~い当たって砕けろだ。

 ちょっと、厚木先生のとこ行ってくるね。

 じゃあね」

 

「はい、あの・・また明日」

 

「うん、また明日」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「何の用だよ。

 えっと、生徒会の人」

 

「あの、三ヶ木です。

 大岡君、同じクラスなんだけど」

 

「あ、そうだっけ、わりぃ。

 んで、なに? 練習あんだけど」

 

「うん、この部費申請の件、ごめんね、これ認められない」

 

「なんでだよ。 いろいろ掛かるんだよ。

 ボールとかすぐ痛むし、なんか減るの早いし」

 

「はい、これ」

 

”どさ”

 

「な、なんだこれ、ボール?」

 

「あのさ、昨日、練習終わった後、グランドの周りまわったんだよ。

 そしたら、こんなにボール落ちてた」

 

「いや、ほら、見てみろ、結構痛むんだよ。

 だから、他校との練習試合の度に新しいのいるんだよ」

 

「あのさ、野球部って父兄の会ってあるじゃん。

 協力してもらえないの?」

 

「ほら、俺たち、あんまり強くないだろう。

 だからあんまり・・・・」

 

「そう。

 大岡君も大変なんだね。

 じゃあさぁ、はいこれ」

 

「なに、なんの名刺? バッティングセンター?」

 

「ここ、野球部のOBがやってるから。

 悪いけど、相談にいったらさ、古いボールあるでしょ?

 割りといい値段で引き取ってくれるって」

 

「え、まじ」

 

「うん、でも、あんまりひどいのはだめだよ。

 わかってると思うけどOBだからね」

 

「お、おう」

 

「あ、それと、なんか暇なとき? 手伝ってくれたら、

 終わった後に練習させてくれるっていってたよ」

 

「え、ほ、ほんとか! じつはピッチングマシーンも調子悪いんだ」

 

「だから、大岡君からちゃんと連絡してお願いしてね」

 

「おう、わかった。 なんかありがとう」

 

「あのさ、じゃあ、ここサインして」

 

「ん、部費の了承?」

 

「そ、ここにサインして」

 

「わかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、来た来た。

 

「なに、呼んだのお前か?」

 

「うん、生徒会の三ヶ木です」

 

「おう、で、なに?」

 

「あのさ、この部費の申請、認められないよ」

 

「え、なんでさ。 お前バドミントン知らないからだろうけど、

 結構、シャトルの消耗が激しいんだよ。

 あ、わかる? シャトルって」

 

「うん、宇宙いって帰ってくるやつ」

 

「・・・」

 

おい、ここ突っ込めよ。

恥ずかしいじゃん。 

 

「冗談よ、冗談。  

 あのさ、練習で使ってるシャトルって、公式用のシャトルだね」

 

「え、なんで」

 

「あのさ、公式の奴って練習用の奴の二倍も高いじゃん。

 この申請している金額も公式で計算してるね」

 

「お、おう、だけどほら、やっぱ公式の奴使わないと

 試合で勝てないじゃん」

 

「昨年度の成績は?」

 

「・・・」

 

「わかったよね」

 

「はい。」

 

「じゃあ、ここにサインして」

 

ふう、あとはテニス部だね。

今日こそは厚木のやつを。

会長、生写真使わせてもらうね。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ねぇ、どうしても入ってくれないのかな」

 

「はい、俺、テニス部には入りません」

 

「理由を聞かせてもらえない?」

 

「俺がテニス部に入ると、大事な人に迷惑がかかるので」

 

「え、どうして迷惑がかかるの?」

 

「それは言えません」

 

「それじゃ、僕も納得できないよ」

 

「すみません」

 

「じゃ、じゃあさ、勝負しよう。

 僕が勝ったらテニス部に入る、もし負けたら

 きっぱりあきらめるってのはどうかな?」

 

「いいですよ。

 でも、俺うまいですよ」

 

「僕もなかなかうまいよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、だめだった。

くっそ、厚木の奴、会長の写真でもだめだったか。

こりゃ、本気だね。

どうしょうかなぁ。

 

”ワー、ワー”

 

「すっげぇ~、あれほんと一年か?」

 

「ああ、そうみたいだ。 

 しかも、制服に、あれ、外ズックだろ?」

 

ん? なにやってるの。

なんかいつもよりギャラリー多いね。

 

「40-30」

 

「ふう、戸塚先輩、やっぱなかなかやりますね。

 でも、このゲームとれば俺の勝ちですよ」

 

「まだだよ。

 まだ、あきらめないよ」

 

「それじゃ・・・ん?

 あ、あれ三ヶ木先輩。

 見ててくれたんだ。

 よ、よし、いきますよ 戸塚先輩」

 

”バシ”

 

「ふん」

 

”バシ”

 

「あ、しまった」

 

「チャンス! 戸塚先輩俺の勝ちっず」

 

”ビュー”

 

「きゃっ」

 

「え、三ヶ木先輩、・・・・しろ」

 

”スカ”

 

「デュース」

 

「え、三ヶ木先輩、白。

 やっぱ白だったんだ。

 想像した通り」

 

「どうしたの刈宿君?

 サーブ?」

 

「あ、戸塚先輩、すみません。

 いきます」

 

”バシ”

 

「あ、しまった」

 

”バシ”

 

「アドバンテージ 戸塚」

 

「やば。 ちょ、ちょっとすみません。

 落ち着け、落ち着け。

 ふぅ~、治まった。

 三ヶ木先輩 ごちそうさまでした。

 よし。

 戸塚先輩、いきますよ!」

 

”バシ”

 

「うっ」

 

「お~、すげサーブ。

 なんだあいつ隠してたのか」

 

「ああ、あんなサーブ打てるんだ」

 

「デュース」

 

「よし。

 次、いきます」

 

”バシ”

 

「うわぁ」

 

     ・

 

「ゲーム、刈宿。

 6-3で刈宿君の勝ち」

 

「やっぱりうまいや。 

 もしかして、本気なのはあのサーブだけだった?」

 

「違いますよ。

 戸塚先輩もなかなかです」

 

「うん、ありがとう。

 でも残念だな~」

 

「すみません」

 

「でも、本気なのわかった。 

 大事な人によろしくね」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、あんなにうまいのに、なんでテニス部入らないの?

 は、もしかして、厚木先生が言ってた新入生って」

 

「ああ、俺のことかもしれませんね。

 でも、これで部費アップの口実は 」

 

「刈宿く~ん、ちょっとちょっと」

 

「はい」

 

”ゴン”

 

「いった~。

 な、なんでげんこつが」

 

「刈宿君、いますぐテニス部入ってきなさい」

 

「え、でも」

 

「戸塚君には、わたしからもお願いするから」

 

「いやです。俺は入りません」

 

「刈宿君、入んないと絶交だよ」

 

「ぜ、絶交・・・・わかりました。 

 入りますよ、テニス部入ればいいんでしょ、もう!

 じゃあ、俺、自分で言ってきます」

 

「よろしい、頑張ってね」

 

「でも、その代わり条件があります」

 

「ん、条件?」

 

「三ヶ木先輩のアドレス、教えてください」

 

「あれ、教えてなかったけ? はい、これ」

 

「あ、ちょっとかけてみますね」

 

”テッテッテッ”

 

いや、あんたどこ行くの。

電話するっていわなかった?

 

”ブ~、ブ~”

 

あ、きた。 

 

「はい三ヶ木です。

 なにしてんの?」

 

「み、美佳先輩。

 また明日です」

 

「へ、美佳先輩?

 うん、また明日ね」

 

はは、美佳先輩か。

・・・・・・まあ、許してあげる。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「あ、三ヶ木さん、おはよ」

 

「あ、戸塚君、おはよ」

 

「三ヶ木さん、はいこれ」

 

「へ、部費申請書? 

 あ、これって、この金額でいいの?」

 

「うん。

 刈宿君、総会終わってからじゃないと入部できないって。

 三ヶ木さん、それってこの件が絡んでるんじゃない?」

 

「え、あ、あの~、ごめんなさい」

 

「あはは、やっぱりそうなんだ。

 厚木先生には、刈宿君は入部しないって言っておいたから。

 じゃあね」

 

「あ、ありがとう戸塚君」

 

「僕じゃないよ。

 それは彼にね」

 

「あ、う、うん」

 

「じゃあ」

 

”タッタッタッ”

 

ふん、あのガキんちょめ、とっちめてやらないと。

へんな気を使って。

 

「あ、八幡、おはよ」

 

「おう、戸塚、毎朝俺のみそ汁作ってくれ」

 

「え?」




最後まで、ありがとうございます。

今回、オリキャラばっかりですみません。

三年生、クラス替えでサキサキとオリヒロ一緒なクラスに。

サキサキは原作でも割と好きなキャラなので

これからもいろいろと・・・

では、次話もみていただけたらありがたいです。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

わたしの進路

毎度さんです。

いつもありがとうございます。

ほんと、寒くなりましたが、お体気を付けてください。

4月といえば・・・そう、会長様の誕生日。

いえ、それもありますが三年生にとってはそろそろ進路を。

それでは、よろしくお願いします。




”バサ”

 

「稲村先輩、予算ご苦労様でした。

 

 これで行きましょう♡。

 

 ・・・んで、なにをしたんですか! 美佳先輩。」

 

「え、な、なにもしてませんよ。」

 

「・・・・・」

 

「あの~、会長??」

 

な、なにそのジト目。

やば、み、みんなフォローし、 な、なに目逸らさないで~

 

「はけ。」

 

「いえ、わたしは、な、なにも…」

 

「ほほう、はかないんですね? わかりました。 書記ちゃん!」

 

”がし”

 

え、な、なに? 書記ちゃん、いきなり。

 

「はかないのなら。」

 

”ごきごき”

 

え、指ならして、な、なにされるの?

顔はやめて。 わたし女優だから・・・

 

”こちょこちょ、こちょこちょ”

 

「ひぇ~、や、やめて、会長~、こ、こちょばい。 

 

 きゃははははは。」

 

「さッさと、はきなさい。」

 

「あははは、いや~、やめて。 わ、わかりました、は、はきます。」

 

あ、あんた、なにすんのよ。

だ、男子もいるんだからね。

ほ、ほら、本牧君まで口開けて固まってるじゃん。

 

「まったく、世話焼かせないでください」

 

「あ、あのう、わたし、一応上級生なんですけど・・・」

 

「え~、だって誕生日、わたしと一カ月しか変わらないじゃないですか~」

 

「そ、そだけど。」

 

「んで、なにをしたんですか?」

 

「ほんと、経費の削減の方法を話しただけです。

 

 古いボールの使い方とか、シャトルの選び方とか。」

 

「ほんとですか? 例の三ヶ木レポート使って変なことしてません?」

 

「はい。 

 

 ・・・あ、あのう、会長の生写真は使いました。」

 

厚木には利かなかったけど、他の奴にはそこそこ。

 

やっぱ、人気あんだよね、ジャリっ娘って。

たしか、去年の人気投票、一年生で唯一の上位組だもんね。

 

「げ、やっぱりそんなことしてたんですか。

 

 で、どんな写真使ったんです。」

 

「はい、これと同じやつ使いました。」

 

「う、これ使ったんですか。 

 

 これじゃ、わたしの魅力伝わらないじゃないですか。

 

 まったく。」

 

”がさがさ”

 

な、なに探してるの?

 

「はい、今度からこれを使ってください。」

 

「え?」

 

「え? い、いろはちゃん、写真いいの。」

 

「ほら、これだったら、わたしの魅力伝わるじゃないですか~

 

 変な写真使われるよりましです。

 

 わかりましたか、美佳先輩。」

 

「あ、は、はい。 写真、使わせていただきます。」

 

でもこの娘、なんで、こんな写真もって歩いてんの?

この横ピース、めっちゃあざとい。・・・今度やってみようかなぁ。

 

「まったく美佳先輩は。

 

 あれだけ勝手なことはだめって言っても治らないんですから。

 

 病気です、病気。」

 

「・・・すみません。」

 

「じゃあ、稲村先輩、ん?

 

 な、なに赤くなってんですか。」

 

「百合百合。 い、いや、別になにも。」

 

「そ、そうですか? まあいいですけど。

 

 来週の部費折衝会までに準備お願いしますね。

 

 よろしくです。」

 

「うん、わかった。」

 

「じゃあ、今日はお開きってことで。」

 

「ご苦労様でした。」

 

「あ、いろはちゃん、どこ行くの?」

 

「え、あっ、ちょっと奉仕部さんに用事があるので。

 

 それではです♡」

 

”ガラガラ”

 

「え~と、いった?」

 

「うん、いないね。」

 

「じゃあ、みんな、来週の月曜日ってことで。」

 

「あ、書記ちゃん、今度は私がケーキ作ってくるね。」

 

「え、いいんですか?」

 

「うん、この前作ってもらったからお返し。」

 

「はい、じゃお願いします。」

 

      ・

 

「なぁ、三ヶ木、大岡から聞いたけど、今度から俺も一緒に行くから。」

 

「え~、いいよ。 それよりさ、わたし大勢の前で話するのちょっと苦手なんだ。

 

 だから、その時はお願いね。」

 

これは、わたしの仕事。

だって、土下座とか、みんながいたらやりづらいこともあるから。

 

「あ、そうだ、今度の土曜日、空いてないか?」

 

「え、なに、なんかよう?」

 

「ああ、会長のプレゼントだけど、何がいいかわからなくて、

 

 一緒に選んでくれないか?」

 

「へ~、わたしには数学パズルだったのに。 ぷん!」

 

「いや、悪かったって。 でも面白かったろ。」

 

「全部答え書いてあったじゃん!」

 

「いや、それはサービスってことで。」

 

「まったく、で、どこいけばいいの?」

 

「え、いいのか。 じゃ、じゃあさ、ららぽに十時でどうだ。」

 

「えっと、ららぽに十時っと。 

 

 ねぇ、当然、バイト代でるんでしょうね?」

 

「バイト代? わ、わかった。 特別だ、コーヒー奢ってやる。」

 

「え~、コーヒーだけ?

 

 女の子ってさ、出かけるのにいろいろ準備するんだよ。

 

 それなのにコーヒーだけ?

 

 わたし的にコーヒーよりパフエ食べたいなぁ~」

 

「わ、わかったよ。パフエ奢ってやる。」

 

「やったー、言ってみるもんだね。」 

 

「おまえ、なんか変なやつにもついて行きそうで怖い。」

 

「ばっか。 だれにでも奢ってなんて言わないよ。」

 

「そ、そうか、そうなのか。」

 

”ぶ~、ぶ~”

 

え、魔王さんのほうの雪ノ下さん? 

 

「は、はい。」

 

「ひゃっはろー 三ヶ木ちゃん。

 

 三ヶ木ちゃんの大嫌いな陽乃だよ。」

 

「いや、その、嫌いじゃないですよ。

 

 ・・・めぐねぇさえ独り占めしなければ。」

 

「あはは。全く変わらないね。

 

 あのさ、お話があるんだけれど、今日時間ある?」

 

「え、あ、はい、大丈夫ですけど。」

 

「じゃあ、学校、迎えに行こうか?」

 

「いえ、確かいまは雪乃さんのマンションでよかったんですよね。」

 

「そうだよ。 え、場所わかるの?」

 

「はい、以前、教えてもらったことがありますから。」

 

「それじゃ、待ってるね。」

 

「はい。」

 

はぁ、魔王から呼び出しだよ。

まぁ、話の内容は想像つくけどね。

 

「だれから? なんか顔色悪いけど。」

 

「魔王から呼び出し。」

 

「へ?」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「はい、どなた。」

 

「あ、三ヶ木です。

 

 あの~、陽乃さん、いらっしゃいますか?」

 

「え、三ヶ木さん? まってて今解除するから。 

 

 迎えにいくわ。」

 

「あ、いいよ。 大丈夫だよ部屋まで行くね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピンポーン”

 

「いらっしゃい、三ヶ木さん。」

 

「おじゃま、ふぇ~、な、なにこの広い部屋。 わたしの家の三倍はある。」

 

「おおげさよ。

 

 適当に座ってて、いま紅茶淹れるから。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「いらっしゃい、三ヶ木ちゃん。」

 

「あ、お邪魔してます。

 

 あの、わたし陽乃さんのこと、きらいではないですよ。」

 

「え~、うっそ~

 

 だってスキー合宿の時、大きらいって言われたよ。」

 

「うそ? 全く覚えてない。」

 

「まあ、三ヶ木ちゃん、だいぶ飲んでたけど。」

 

「え、三ヶ木さん、あなたお酒飲んでたの。」

 

「あ、あれは、陽乃さんが・・・」

 

「え、何のことかな?

 

 それにさ、三ヶ木ちゃん、酔っぱらって

 

 急に脱ぎだしたから、大変だったんだよ。」

 

「え、わ、わたし何をしたの?」

 

「姉さん、からかうのはおよしなさい。

 

 三ヶ木さん、うそよ。

 

 はい、どうぞ。」

 

”カチャ”

 

「あ、ありがとう。」

 

「ははは、わかっちゃった? さっすが雪乃ちゃん。

 

 お姉ちゃんのことよくわかってるね。」

 

う、うそだったのね、あ~よかった。

あの時、知らないうちにベッドにいたから。

 

「早速本題だよ、三ヶ木ちゃん。

 

 そろそろ学校のほうでも進路相談あるんじゃない?

 

 どう、気持ち決まったかな。

 

 わたしはこれでも三ヶ木ちゃんのことかってるんだよ。

 

 わたしの力になってほしいな。」

 

「あ、あの わたし・・・」

 

「まぁ、今日返事をしなさいとは言わない。

 

 でもね、三ヶ木ちゃん、夢を見るのはいいことだけど、

 

 そろそろ、現実をみなきゃいけない時期だよ。

 

 悪いこと言わない。雪ノ下建設(うち)に入りなさい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、固いお話はここまで。

 

 ね、雪乃ちゃんの手料理でも食べていかない?」

 

「姉さん、今日は姉さんの当番の日よ。」

 

「え、わたし、雪乃ちゃんの手料理食べたいな~」

 

「だめよ。」

 

「ひどーい、どう、三ヶ木ちゃんも食べていく?」

 

「いいえ、わたし、とうちゃんのご飯つくらないといけないから。」

 

「そう、じゃよく考えておいてね。」

 

「はい、では失礼します。」

 

「三ヶ木さん、送っていくわ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木さん、ごめんなさい、姉さんが勝手なこと言って。

 

 気にしないで。」

 

「でも、そうだね、陽乃さんのいうとおり現実みなくちゃね。」

 

進学か・・・

 

うちには、そんなお金ないもんね。

答えは決まってるんだよ。

 

へへ、なに悩んでるんだろうね。

 

雪ノ下建設に入れるなんて、ホント贅沢だよ。

お給料もいっぱいもらえそうだし。

そしたら、美味しいものいっぱい食べて、いっぱいおしゃれして

そして、とうちゃん、とうちゃんにも無理させなくて済むもん。

 

・・・・で、でも わたし、わたしは

 

「三ヶ木さん、大丈夫?」

 

「あ、ごめん、ちょっと考えてて。

 

 じゃあね、雪ノ下さん。」

 

「ねぇ、三ヶ木さん。

 

 よかったら今度の土曜日、由比ヶ浜さん泊りに来るんだけど、あなたも来ない?」

 

 ちなみに姉さんはいないわ。」

 

「え、いいの?」

 

「当たり前でしょう。

 

 わたしはあなたのことを、と、友達と思ってるんだけど。」

 

「ありがとう、雪ノ下さん。

 

 あ、あのさ、今度の日曜日って会長の誕生日なんだ。

 

 んで、月曜日に誕生会するんだけれど、

 

 ケーキのつくりかた、教えてもらってもいい?」

 

「え、そう、一色さんの誕生日なの。

 

 ええ、いいわ。 一緒に作りましょう。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「先週、連絡した通り、明日から進路相談を行う。

 

 まぁ、今はまだ意思を確認するだけだが、

 

 親御さんとはよく話をしておくように。

 

 わかったな、ちゃんと話をしておくんだぞ。」

 

な、なんよ、二回も言わなくてもわかるわよ。

しかも、わたしのこと睨んでいわなくてもいいじゃん。

・・・今日、とうちゃん、早かったっけ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”とんとん”

 

「おう、どうした美佳? 石鹸ならまだあるぞ。」

 

「あ、あのさ、とうちゃん、背中ながそうか。」

 

「お、ど、どうした。 なんかあったか?」

 

「いや、なんもないけど、あのさ、たまには・・・ね。」

 

「そうか、じゃ頼む。」

 

「うん。」

 

”ごしごし“

 

とうちゃんの背中、こんな小さかったっけ?

は、とうちゃん、結構白髪が増えたな。 よし。

 

”ぷち”

 

ん?

 

”ぷち、ぷち”

 

ん、ん?

 

”ぷち、ぷち、ブチ!”

 

「いったぁ、おい、最後のそれ、白髪じゃないだろう。」

 

「え、あ~、ごめん。」

 

「あいたたた。・・・・それでどうした、なんかあるんだろう?

 

 あ、そうか、彼氏とケンカしたのか?」

 

「いや、いないから。

 

 そんな人いないよ、ほんとだよ。」

 

「そうか。」

 

「とうちゃん、あんまり仕事無理しないでね。」

 

「おう、ありがとう。」

 

”ばしゃ”

 

「はい、おわり。 五千円。」

 

「うへ、やっぱりそうか。」

 

「えへへ、うそだよ。 

 

 いつもありがと、じゃ、先寝るね。

 

 お風呂の掃除お願い。」

 

「わかった、お休み。」

 

「うん、おやすみなさい。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

はぁ、沙希ちゃん、進路相談長いな。

 

沙希ちゃん、まじめだからなぁ、いろいろ聞いてんだろうね。

ん~、たいくつ。

あ、今日雨降ってんだ。 傘もってきたっけ。

 

”じゃら”

 

ふ~ん、人魚姫のペンダントか

 

稲村君、人魚姫の物語、知っててこれ選んだのかな?

人魚姫か~。

 

「なぜ出会ったんだろう、あなたに♬

 

 いつもそばにいたい、あなたの♬

 

 だからわたしは全てを捨てて薬を飲むの♬

 

 想いを伝えるこの声さえも捨てて♬

 

 ナイフでえぐられるようなこの足の痛みに耐えて

 

 あなたのそばにいるの♬

 

 でもあなたの心は、会えない彼女を思っている。

 

 わかってる。わたしは彼女の代わり♬

 

 でもいいの、あなたのそばにいられるだけでわたしは幸せだから♬

 

 お願い、この幸せが永遠に続きますように♬

 

 決して結ばれないとわかっていても。

 

 微かな、微かな希望に願いを込めて♬」

 

へへ、即席で歌作っちゃった。

 

結局、人魚姫って王子様に捨てられちゃうんだよね。

うまいこと言われてさ、利用だけされて。

王子様の心臓、刺しちゃえばよかったのに。

 

・・・できないよね。 だって愛してたんだもん。

 

自分が泡になって消えてしまっても、

好きな人の幸せ祈っちゃうよね。

 

「やっぱ、切ないよ・・・八幡。」

 

”ガタ”

 

「へ、あ、あんたいつから、な、なんでそこにいるの!

 

 変態、ストーカー」

 

「いや、進路相談の順番だから。 ほら、俺F組の次。」

 

「黙って聞くことないじゃん。」

 

「まぁ、なんだ、うまかったからな。

 

 その、つい聞き惚れてた。」

 

「ほ、惚れた? ・・・ごほん、今度だけ許してあげる。」

 

「いや、なんか知らんが、サンキュ。

 

 お前も次か。」

 

「そう、沙希ちゃん、結構長そうなんだ。」

 

「お前はもう決めてんのか、進路?」

 

「うん。わたしは・・・就職だよ。」

 

「え、お前、進学しないのか?」

 

「うん。 うちね、進学できるほど余裕ないよ。

 

 これ以上、とうちゃんに負担かけられない。」

 

「そうか。奨学金とかは調べたのか?」

 

「はは、ありがと。 でもわたしそんなに頭良くないし。

 

 結構返していくの大変そうじゃん ・・・いいよ。

 

 まぁ、みんなより先に社会に出て、先輩面してあげるからね。

 

 んでね、いっぱいお給料もらってさ、奢ってあげる。」

 

「そ、そうか。

 

 ・・・ お前、それって、親にはもう話ししたのか?」

 

「まだだよ。でも、いいの、もう決めたの。」

 

「あのな、このこと親とは相談しておいたほうがいいぞ。

 

 まぁ、よく言うことだが、子供は親に苦労をかけるものだって。

 

 親もそのほうが嬉しいということもあるそうだ。

 

 子供のためなら苦労も苦労じゃないとか。」

 

「・・・あんたになにがわかるの。」

 

「へ、あ、いや、そういうこともあるぞってことだ。」

 

「あんたもそうなんだね。

 

 あのさ、わたし小さいころから学校から帰っても、ず~と一人だったんだよ。

 

 ひとりで、とうちゃん帰ってくるの待ってんの。

 

 晩御飯? お料理頑張って憶えたよ。

 

 でもね、わたしはとうちゃん帰ってくるの待ってるの。

 

 ひとりで食べたって美味しくないじゃん。

 

 とうちゃんもきっと美味しくないじゃん。

 

 だから一緒に食べたくて、いつもず~と待ってたの。

 

 たまにはそのまま寝ちゃってね。

 

 ほんと、わたしのせいでこんなになっちゃったのに。

 

 それでも、とうちゃんは、わたしのこと嫌いにならないでいてくれるんだ。

 

 わたしのこと大好きって言ってくれる。

 

 あんた、親が子供のため苦労するの当たり前っていったね。

 

 だったらさ、子供は親のため苦労しちゃいけないの。

 

 わたしは、とうちゃんが大好き。

 

 だから、頑張って働いて、とうちゃんを幸せにすんの。

 

 とうちゃんまでいなくなったら、わたし、わたしほんと独りぼっちじゃん。」

 

「お前のとうちゃん、それで喜ぶのか?

 

 それにお前のせいでこんなになっちゃったって、なにがあったんだ?」

 

「なんで、言わなきゃいけないの! もういいよ。」

 

“ガラガラ”

 

「ん、比企谷? あ、三ヶ木、ごめん、お待たせ。」

 

「あんたは、あんただけは違うと思ってたのに。

 

 わかってくれてると思ってたのに。

 

 だって、何にも替えられない価値って言ってくれたから。

 

 ・・・・他の人と変わらないんだね。

 

 もういいや。」

 

”ガタ! ダダダ”

 

「み、三ヶ木?

 

 比企谷、あんた何したんだ。」

 

「いや、わからん。」

 

「何したのさ。なにもないわけないじゃん」

 

「いや、おれはただ 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふう、そっか、やっぱ、あんたが謝んな。」

 

「・・・そうか。」

 

「あんたは、三ヶ木のことを思って言った。

 

 でもさ、人にはやっぱり触れられてほしくないとこもあるじゃん。

 

 あんたも、中学校のこととかあんまり触れられたくないだろう?

 

 あ、あんたMだから、違うか。」

 

「ちが、おれはノーマルだ。」

 

「まぁ、とにかく、あんたも三ヶ木も悪くない。

 

 どっちも悪くないよ。

 

 だけど、あんたは男だ、ここはあんたが謝んな。」

 

「ああ、そうだな。 わかった。」

 

「だけど珍しいね、あんたが他人のそんなことまで干渉するのって。」

 

「そ、そうか。 なんかわからんが、ついほっとけなくてな。」

 

「ふ~ん、そうなんだ。 

 

 まぁ、このことは雪ノ下や由比ヶ浜には黙っててやるから、さっさと謝んなよ。

 

 あたしからも言っておいてやるからさ。」

 

「すまん、だがなんで雪ノ下や由比ヶ浜が関係してくるんだ。」

 

「はぁ~ まあ、いいけどさ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ダダダ”

 

ぐすん。 はぁ、どうしてだろう。

 

そんなムキにならなくても、やり過ごせたはずなのに。

どうして、あいつといるとわたしは、わたしは・・・

ううう、馬鹿だね、ほんと馬鹿だ・・・もうどうでもいいや、帰る。

 

”ギュ”

 

へ、腕? なに、だれ? あっ。

 

「三ヶ木、かわいい女の子が、そんな顔して走ってるんじゃない。

 

 ちょっとこい、俺が魔法かけてやる。」

 

「な、なにを言ってんの広川先生、魔法って」

 

「いいからこい。」

 

     ・

 

「いいの? ほんとにいいの先生。」

 

「ああ。お前なら。」

 

「知らないよ、後悔しても遅いからね。」

 

「おれの辞書に後悔なんて言葉はない。」

 

「ほ、ほんとだね。わたし真剣だよ。」

 

「ああ、きっとお前を幸せにしてやる。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うっま!」

 

「だろう。」

 

「なんておいしいの。このケーキ

 

 ん~、ほんと幸せ。」

 

「ははは、やっとこの味にたどり着いたんだ。

 

 苦労したんだぞ。」

 

「先生って何もの?」

 

「まあな、大学のころは授業そっちのけでケーキ屋でバイトしてたからな。

 

 マジ、パティシエになろうと思ってた。」

 

「ふぇ~、このイチゴのクリームが何とも美味しい。」

 

「どうだ、結果は合格か。

 

 お前の判定厳しいからな。」

 

「・・・・」

 

「ど、どうした、後悔しないから感想を言え。」

 

「・・・・聞かないの?」

 

「ん、なにをだ。」

 

「・・・何があったか。」

 

「言いたくないことは言わなくていい。

 

 そんな時は、だまって美味しいものをいっぱい食べて、

 

 笑ってればいいんだ。

 

 それで、言いたくなったら、俺はここにいるから

 

 いつでも聞いてやる。」

 

「先生、ありがとう。 

 

 先生ってほんとに・・・

 

 あのね、わたしいつも思い出すんだ。

 

 あの日のこと。」

 

「ん? あの日って」

 

「あの日だよ」

 

・・・

 

『どうしたの愛菜ちゃん。』

 

『わ、わたしのノートが・・・』

 

『ひど~い、だれ愛菜ちゃんのノート、こんなボロボロにしたの?』

 

『男子でしょ。』

 

『ち、ちがうぞ。』

 

『じゃ、だれよ。』

 

『三ヶ木じゃね?』

 

『愛菜ちゃん家、金持ちだから、あいつがやったんじゃね。』

 

『あ、おれ三ヶ木が愛菜ちゃんの机の近くにいたの見た。』

 

『違うよ。 わたしじゃないよ。』

 

『おまえだろ、謝れよ。』

 

『そうだ、そうだ』

 

『違うって。』

 

『『うそつき。』』

 

”ガラガラ”

 

『ん、どうした、ほら授業はじまるぞ、席に着け。』

 

『先生、三ヶ木が愛菜ちゃんのノート破りました。』

 

『違うもん。 わたしじゃない。』

 

『うそつけ、みんな見てたんだぞ!』

 

『違うもん。』 

 

なんで、いつもわたし。 わたしなにもしてないよ。

 

『三ヶ木、早く謝れ。』

 

『せ、先生、わたしじゃない。』

 

『まだそんなこと言ってんのか!』

 

『違うってのに。』

 

『ん?』

 

『違うっていってんじゃん。』

 

『なんだ、その口の利き方は!

 

 やっぱり、親に来てもらうか。』

 

とうちゃんに? とうちゃん知ったら心配しちゃう。

 

『・・・わ、わたしが 』

 

『は~い、先生、僕も犯人見ました。』

 

『はぁ? ひ、広川君なにを 』

 

『いえ、僕も犯人見ました。 先生が真鶴君のノート破るとこ見ました。』

 

『何を言うんだ君は。』

 

『あれ、先生、子供の言うことと大人の言うこと、どっち信じるんですか?』

 

『ふざけてるのかね。』

 

『ふざけてるのはどっちですか。』

 

『な、なに。』

 

『ちょっと真鶴君、ノート見せてくれるかなぁ。』

 

『はい。』

 

『ふむ。 おい、三ヶ木、お前のズックかせ。』

 

『え、におい嗅ぐの? 変態。』

 

『ばか、ホラ早く。』

 

『はい。』

 

『ほら、見てください。

 

 どう見てもノートに残ってるズックの跡って、

 

 三ヶ木のよりでかいですよ。

 

 三ヶ木は割と身体小さいほうだから。

 

 これは、男の子だな。

 

 おそらく、昼休み男の子がケンカかプロレスでもして遊んでたんだろう。』

 

『あ、先生、昼休み、隣のクラスの子が来て、追い駆けっこしてました。』

 

『そうか。 多分その時に気付かず踏んでしまったんじゃないか。

 

 なぁ、みんな、推測や思い込みで人を判断するな。

 

 お前たちは、暴力をふるったんだぞ、一番最低の言葉の暴力。

 

 いいか、言葉の暴力は一生その人の傷となってず~と残るんだ。

 

 そのことをよく考えるんだ、わかったな。』

 

『はい。』

 

『あ、先生すみませ~ん、授業邪魔しました。』

 

『ひ、広川君、あとで話がある。』

 

『は~い。』

 

・・・

 

「先生、ありがとね。

 

 でもあの後の実習、大変だったんじゃない?」

 

「もう忘れた お前もいい加減忘れろ。」

 

「忘れないもん。 わたし先生のこと大好きだよ。」

 

「ばっか。 そんなこといってもこのケーキは俺の分だ。

 

 絶対やらない。」

 

「へへへ、残念。」

 

「そう、お前には笑顔が似合ってるよ。」

 

「先生、ありがと。 元気の魔法掛かっちゃった。

 

 あのね、わたし進路相談だったから戻るね。」

 

「おう、いつでもまた来い。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「失礼します。

 

 平塚先生、遅れてすみません。」

 

「やっと来たか、もういいのか。」

 

「はい、お騒がせしました。」

 

「うむ、それで進路についてお父さんとは話をしたのかね。」

 

「・・・」

 

「君は。」

 

「平塚先生。

 

 ・・・・わたしは雪ノ下建設を受けます。」

 

「ふむ、そうか、陽乃か。

 

 ・・・・・決意は固そうだな。

 

 だが、君は優しすぎる。

 

 その優しさが君を苦しめなければいいんだが。」

 

「わたし、結構、汚いですよ。」 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「三ヶ木、おまたせ。」

 

「もう、お・そ・い、

 

 ずっと待ってたんだからね。」

 

「え、まだ五分前だけど。」

 

「え、あ、そ、そう?

 

 まあいいじゃん、さあ行くよ。」

 

えへへ、一度やってみたかったんだ。

この前はできなかったから。

稲村君、もう少し遅れて来てもよかったのに。

 

「三ヶ木、その荷物どうしたんだ。」

 

「え、お泊りセットだよ」

 

「お泊りって、今日か。」

 

「うん、そだよ。」

 

「いや、俺そんなとこまで。 え、いいのか?」

 

「はい? なにがいいの? 

 

 あのさ、今日、夕方、雪ノ下さん家にお泊りに行くの。」

 

「は? あ、そう。 雪ノ下さんとこ。

 

 ほれ、荷物もつよ。」

 

へぇ~、結構優しいじゃん。

この前の時といい、少し見直した。

 

「え、いいよ。」

 

「いいから。 今日は俺が付き合ってもらってんだから。」

 

「うん、ありがと。 じゃ、どこから行こうか?」

 

「どこから行こう?」

 

「稲村君、どんなものにしようか少しは考えてきたの?

 

 ほら予算とかも。」

 

「いや、まったく。」

 

「・・・」

 

「ご、ごめん。」

 

「まぁいいわ。 んじゃ一階から適当に見て回りましょ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、三ヶ木これどうだ? かわいくないか?」

 

「ハンカチ? かわいいけどさ、知ってる?

 

 ハンカチってさ“手切れ”って意味あんだよ。」

 

     ・

 

「これはどうだ。」

 

「時計? あんた、会長と同じ時を歩んでいきたいの?

 

 会長受け取るかな。 それにちょっと高くない?」

 

「そ、そんな意味が・・・」

 

「じゃや、香水とか・・・・」

 

「会長と親密になりたいの?

 

 やっぱ、あんた会長に未練あんだね。

 

 応援してあげようか?」

 

「いや、全然無い。

 

 じゃあさ、これ、これならいいだろう。

 

 ほら、アクセサリー」

 

「それ、独り占めしたいって意味が。

 

 は、そういえば、わたしペンダントもらっちゃった。

 

 も、もしかして稲村君・・・」

 

「いや、そんな意味あるって知らなかったから。

 

 いまなら・・・  あっ、あれは。」

 

 まぁ、知ってるぐらいなら、わたしに人魚姫なんて選ばないよね。

 

「なにがいいかなぁ~。

 

 あれ、稲村君どこいった?

 

 ・・・・・おい、なにしてんだ。」

 

「あ、いや、そのガチャガチャがちょっと。 いててて。」

 

「ほれ、いくよ。」

 

まったく、男子ってお子ちゃまばっかだね。 

高校生のくせしてガンダンのガチャガチャって、あ!

 

「う~、耳痛かった。 お前もう少し手加減してくれ。 あれ?」

 

「う、美味しそう。 このオムライスやっばー。

 

 めっちゃ美味そう、思わず生唾が。」

 

「おい、プレゼントそれにするか。」

 

「あ、い、いえ、いいですって、いたた。」

 

「ほれ行くぞ。」

 

「わかった、わかったから、耳離して~」

 

「ほれ。」

 

「も、もう、女子に暴力ふるうって最低だよ。」

 

”ぐううう”

 

「は、ご、ごめんなさい。 あんまり美味しそうだったから。」

 

「まあ、もうお昼だし、なんか食べるか。」

 

「うん。じゃあ、パフェ食べたい。」

 

「いや、パフェ奢るのわかってるからその前にだな。」

 

「うううん、パフェにしておく。

 

 だって夕食、雪ノ下さんの手料理だよ、お腹あけとかなきゃ。」

 

「わかった、わかった。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「稲村君もそんな軽いのでよかったの?」

 

「ああ、おれはいつもお昼は軽めだ。」

 

「だめだよ、稲村君。 男の子はいっぱい食べなきゃ。」

 

「そうか。なんかお母さんみたいだな。」 

 

「そう? はい、一口上げるね、あ~ん。」

 

「あ、いいのか? さ、サンキュ。」

 

”ぱく”

 

「ど、どう、ここのパフェ美味しいでしょ。」

 

「う、うん、美味しいな。 いろんな意味で。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃあ、いくか。」

 

「うん、それじゃ、はいこれ。」

 

“ジャラ”

 

「え、いや、パフエは奢るって。」

 

「うううん、これは稲村君の分。」

 

「え?」

 

「稲村君の分は、わたしの奢り。

 

 だって、わたしだけ奢ってもらうより、お互い奢ったほうがなんかいいじゃん。」

 

「そ、そうか。」 

 

「そだよ、なんか親密的じゃん。だからはい。 」

 

「しまった! それならもっと高いのにしておけばよかった。」

 

「・・・・・おい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、かわいい。 ほら、この猫のマスキングテープ。

 

 あ、こっちはワンちゃん。

 

 いいなぁ、わたしこう言うのほしかったな。

 

 ね、これにしとかない。」

 

「え、こんなのでいいのか?」

 

「うん、会長ってさぁ、こういうの結構好きだと思うよ。

 

 ほら、この前プレゼントもらった時も結構凝ってたもん。」

 

「そうか。 でもそれ安くない?」

 

「ふふふ、あまい! ほれこれ見てみ。」

 

「げ、三千円。 結構するんだな。」

 

「ね、ちょうどいい金額でしょ。」

 

「そうだな、よしこれに決めよう。 じゃ買ってくる。」

 

     ・

 

「ありがとうございました。」

 

「おまたせ、三ヶ木って、おい何食ってんだ。」

 

「おう、まったぞ、ひなむらひょん。 どひょーなっちゅ。」

 

「なつかしい、まったくお前食べながら話すな。 二回目だな。

 

 ほれこれやる。」

 

「え、わたしに?」

 

「ああ、まあ今日はありがとう。 それと、誕生日プレゼントだ。」

 

「え~もう、四月だよ。 それにわたし数学パズルもらったし。」

 

「す、すまない」

 

「うっそだよ、ありがとう。 稲村君。」

 

「ああ。じゃ送ってくよ。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、ねぇ、最後にあれやらない。」

 

「ん? あれって。」

 

「いいから、はやく、はやく。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いくよ、はい横ピース! 」

 

「え~、俺もかよ。」

 

「そうだよ、ほら早く。」 

 

     ・

     ・

     ・

 

「へへへ、上出来上出来。 はいこれ稲村君のプリクラ。

 

 今度、メールで送っておくね。」

 

 このネタでコーヒー十杯は固いね。

 

「サンキュ、もらっておく。  

 

 ・・・は、お前これ変なことに使うなよ。」

 

「ばれた。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「じゃあ、ここで。」

 

「あ、今日はありがとう三ヶ木。」

 

「うん、楽しかったよ。」

 

「ああ、俺もだ。」

 

「じゃあね、また学校で。」

 

「あ、あのな、三ヶ木。」

 

「うん?」

 

「あ、あのさ、よかったら」

 

「よかったら?」

 

「よかったら、おれと、つ 」

 

「やっはろー美佳っち。 あ、稲村君もやっはろー」

 

「おう、やっはろー結衣ちゃん!」

 

”だき”

 

「な、なに、いきなり美佳っちは、もう。」

 

「えへへへ。

 

 あ、稲村君、なんだったけ。 確か俺がなんとかって。」

 

「あ、いや、おれと・・・

 

 あっそうだ、おれ、戸塚の生写真ほしいから今度もらってくれないか?」

 

「げ、あんたまで。 戸塚君、ちょ~恐ろしい。」

 

「まぁ、さいちゃんかわいいからね。」

 

「いいよ、今度生写真もらってきてあげる。」

 

「じ、じゃあな。」

 

「うん、またね。」

 

「へへ、美佳っち、デートだったのかなぁ~」

 

「残念でした。 会長のプレゼント買いに行っただけだよ。」

 

「そ、そうなんだ。

 

 えっと、ゆきのんの番号は。」

 

「あ、結衣ちゃん、ちょっといい?」

 

“ごちょごちょ”

 

「はい、どなた?」

 

「ゆきのん、来たよ。」

 

「いらっしゃい、いまあ 」

 

「「せ~の、いらっしゃいました。横ピース!」」

 

「な、仲がいいのね。」

 




最後までありがとうございました。

今回も文才がなく、だらだらと。

もう少し才能があれば。

次話もお付き合いいただければ幸いです。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

依頼

またまた見に来ていただいてありがとうございます。

まだまだ寒さが続きますが、お体気を付けてください。

今回、ひさびさに奉仕部に来た依頼のお話です。

セリフばかりとなってしまいましたが、ご辛抱いただければ幸いです。

では、よろしくお願いします。


”ガラガラ”

 

「起立、礼、着席。」

 

「おはよう、授業の前に先週の実力テスト返すぞ。」

 

「「うぇ~」」

 

「伊勢原、海老名、・・・・」

 

     ・

 

「・・・比企谷、どうした、君らしくないな。」

 

「え、あ、どうも。」

 

     ・

 

「ヒッキー、ど、どうだったの。」

 

「まじ、やばい。」

 

”スッ”

 

「どれどれ、どんな点数だったのかな。

 

 もしかしてあたしと同じだったりして。」

 

「お、おい、返せって。」

 

「え~、81点・・・・ヒッキー、これで、落ち込んでるっていつもどんなの。」

 

「90点以下は小学校以来取ったことがない。

 

 今回はなんかいろいろあってな・・・はぁ。」

 

「90点、あは、あはははは。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「えーと、バスケはバレーの横っと。」

 

ここは決定だね。 あそこはいつも張り合ってるもんね。

あとは、サッカー部か。

葉山君は敵いないからね、う~ん。

あ、奉仕部。 雪ノ下さんの横にしよ。

 

「あんた、何してんのさ。」

 

「あ、沙希ちゃん、明日さ、部費折衝会があってね。

 

 その対策のひとつ。」

 

「対策?」

 

「うん、当日の席ね、なるべくいつも仲の悪い部を隣同士にするの。

 

 ほら、例えばバスケとバレー、いつも体育館の使用のことでもめてるから。」

 

「あんた、・・・・まぁ、あんただもんね。」

 

「え、これでも会議がスムーズに進行するように考えてるんだよ。」

 

基本、折衝会って生徒会対各部活だから、できるだけ連携させないようにしないと。

各個撃破よ各個撃破。

 

「まぁ、いろいろ大変だね。

 

 あ、それよりさ、比企谷のことだけどさ。」

 

「あ、沙希ちゃん、もうそれいい。」

 

「え?」

 

「もういいの。」

 

「いや、話ぐらい聞いてやったらどう?

 

 多分、あいつ、悪気があったわけじゃないと思うんだ。」

 

「うん、そうだと思う、わかってる。

 

 わたしさ、なんであの時に”心配してくれてありがとう”って言えなかったんだろう。

 

 ・・・でも、もういいの。

 

 なんかさ、最近、一緒にいるといつも嫌な思いさせちゃうんだ。 

 

 今年受験だしさ、そんなのでもし勉強の邪魔とかになったらと思うと。

 

 だから、わたし近くにいないほうがいいの。

 

 ありがとね、沙希ちゃん。」

 

「あ、う、うん。 あんたがそれで良いっていうなら。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”トントン”

 

「はい、どうぞ。」

 

「あの~、奉仕部さんはこちらで・・・え、綺麗、さすが一位。」

 

「ええ、そうよ。 で、どういった御用かしら。」

 

「やっはろー、ゆきのん。

 

 あ、もしかして依頼の人? やっはろー。」

 

「え、あ、はい、こんにちわ。」 

 

「やっはろー。」

 

”ジ―”

 

「はい? あ、 ・・・や、やはろー?」

 

「うん、ちょっと違うけどいいかも。」

 

「由比ヶ浜さん、それ押し付けるのはおやめなさい。

 

 どうぞ、座って。」

 

「あの~、二年の蒔田 舞といいます。」

 

「それで、何の用かしら。」

 

「あの、わたし毎年、新聞部がやってます女子の人気投票をやめさせたいんです。

 

 協力していただけませんか。」

 

「え、あ、そうか、そろそろ人気投票の時期だね。

 

 でも、何でやめさせたいの?

 

 だってみんな盛り上がるじゃん。」

 

”バン”

 

「はぁ、あれは、女性蔑視です。

 

 女子を馬鹿にしてます。」

 

「そ、そうかな?」

 

「なぁ、そういうのは生徒会に依頼したらどうだ。」

 

「げ、男。 いつからそこにいたんですか、キモ。

 

 男子は口を挟まないでくれますか。

 

 それに、あの、一応生徒会には行ってきました。」

 

「やっぱり俺、キモいのね。 まあ、おれも奉仕部だから。」

 

「そうね、彼は奉仕部の大切? 大事な備品なの。」

 

「備品? 備品なら仕方ないですね。」

 

「備品ならいいのかよ。」

 

「それで、いろはちゃん達は何て言ったの?」

 

「それがなんですよ、聞いてください!

 

 なんか一色さんの誕生会ってことで、みんなでケーキ食べてて。

 

 わたしにケーキくれなかったんですよ。

 

 酷いと思いませんか。」

 

「あ、あの、そ、そうだね、少し酷いかもね。」

 

「それより、人気投票のことはどうだったの。」

 

「あ、はい、それが一色さん、

 

 『え~、別にいいじゃないですか~

 

  人気投票って女子のステータスですよステータス。

 

  わたし的に楽しみにしてるんですよ~』

 

 って言って取り扱ってくれないんですよ。」

 

「まぁ、想像通りだな。」

 

「そうだね。

 

 あ、でも美佳っちもいるじゃない。

 

 美佳っちは何て言ってたの?」

 

「美佳っち?」

 

「ああ、ほら眼鏡してて。」

 

「ああ、藤沢さんですか?

 

 でも藤沢さんは確か沙和子だったはずですけど。」

 

「いや、もう一人、眼鏡女子いたと思うが。

 

 ほら三年の女子で、三つ編みじゃなくてショートの眼鏡。

 

 スゲ~地味そうなやつ。 いや、地味そのもの、ジミ子だ。」

 

「ヒッキー、ひど。」

 

「ジミ子先輩? ああ、いました確かに。

 

 でもなんかわたしがこの話を始めたら、パソコンの席にいっちゃいまして。

 

 なんか”ブヒブヒ”とか”殺生”とかいってパソコンしてましたけど?

 

 もしかして畜産関係の人ですか?」

 

「そ、そうか、まぁ明日あれだから。」

 

「あ、そうね、明日だったわね。」

 

「へ?」

 

「わかったわ、それで奉仕部に来たのね。」

 

「ええ、あ、それから一色さんが、この件なら雪ノ下先輩が適任ですって言ったから。」

 

「まぁ、そうだよな。」

 

「あら、それはどういう意味かしら、備品谷君。」

 

「いや、それ無理矢理だろ。

 

 まぁ、人気投票をやめろって言うんだろ。

 

 おまえ去年は一位だから。」

 

「ヒッキー違うよ。 ゆきのんは去年はでなくて、二年連続一位だよ。」

 

「はぁ、お前二年連続なのか、すげぇ~んだな。」

 

「別にわたしがなにかしたわけじゃないから、特に気にならないわ。」

 

「やっぱり、お前が適任だわ。

 

 他のやつだとぜってぇ、ひがみだとか言われるからな。」

 

「ひがみ? ・・・そういうことね。」

 

「あの~、それで相談乗ってくれるんでしょうか?」

 

「蒔田さん、その前に今一度、確認させて頂いていいかしら。」

 

「はい。」

 

「どうして人気投票をやめさせたいのかしら?」

 

「あの、わたし、なにも知らない人に自分をランク付けされるのは許せないです。

 

 人気投票って、男子が自分の女子に対する外見のイメージを押し付けてるだけじゃないですか。

 

 わたし、他人の勝手な意見でランキングされて、それを学校新聞で公開されるのは

 

 絶対許せないんです。」

 

「そう、あなたのいうことも一理あるわね。」

 

「ありがとうございます、それじゃ。」

 

「わかったわ。」 

 

「それじゃ、やめさせていただけるんですね。」

 

「違うわ。 

 

 奉仕部は、飢えた人に魚を与えるのではなくて、魚の獲り方を教えてあげるの。

 

 わたし達は、あなたが依頼をかなえられるようなやり方を教えてあげる部なの。」

 

「え、そ、そうなんですか。

 

 まぁいいです。 じゃあどうすればいいんですか?」

 

「そうね。まず新聞部との話し合いをしましよう。」

 

「でも、わたしが新聞部に行っても、話さえ聞いてくれなかったんですよ。」

 

「そこはわたし達がお膳立てするわ。」

 

「あの、それなら一緒に出席してもらえますか。

 

 だって向こうは上級生の男子ばっかりなので少し・・・」

 

「ええ、いいわ。 

 

 あとは、ちょっと待ってて。」

 

”カチャ、カチャ”

 

「な、なにしてるの、ゆきのん?」

 

「ええ、アンケートのひな型があったから。

 

 そうね、ここを書き直して。」

 

”ガ~、ガ~”

 

「はい、このアンケートを採ってきてもらえるかしら?」

 

「アンケートですか?」

 

「そうよ、ただやめて下さいっていっても、はい、ぞうですかって聞いてくれないでしょう。

 

 まずは女子の意見をまとめてみましょう。

 

 アンケートの結果、女子の意見の多数が廃止賛成ってことだったら、

 

 新聞部もムゲにはできないでしょう。」

 

「そうですね、わかりました。」

 

「それと新聞部との話し合いは、明日は部費折衝会があるから水曜日なんてどうかしら。

 

 あまり遅いと投票箱とか設置されてしまうから。

 

 それでよかったら、新聞部にはわたしのほうから連絡しておくけど。」

 

「なぁ、雪ノ下、それだとアンケートを採るのが厳しくないか。」

 

「そうかしら。 なにも全校生徒のアンケートが必要ではないのよ。」

 

「あ、いいです、やってみます。

 

 その代わり水曜日はよろしくお願いします。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「やっはろー、美佳っち。」

 

「ああ、結衣ちゃん、やはっろ―。

 

 ふわぁ~、元気だね、相変わらず。」

 

「美佳っち眠そうだね。」

 

「うん、昨日ね、部費折衝会のシュミレーションとか、質問の模擬回答案を棟ってたら

 

 眠くて眠くて。」

 

「あ、そうだ、美佳っち、実力テストどうだった。」

 

「ああ、先週のね、もうさんざん。」

 

「そう、あたしも。」

 

「これからは毎月のように試験だね。」

 

「うん、そうだね。 あ、そうだヒッキーがね、国語で成績下がっちゃって。」

 

「へ?」

 

「すんごく落ち込んでてさ。 それでさぁ、あたし・・・」

 

何やってんのばか。

 

あんた国語が悪かったら、どうしょうもないじゃん。

まったく、人のこととか考える前に、もっと自分のこと大事にしなさい。

 

「・・・ヒッキーと一緒に勉強・・・・」

 

ちがう・・・わたしのせいだ。

わたしが散々、比企谷君のこと振り回したから。

 

「・・・て、ねぇ、美佳っち聞いてる?」

 

「え、あ、う、うんいいんじゃない。」

 

なんだったけ、やば聞いてなかったけど、まぁ大丈夫よね。

 

「うん、あたし頑張るね。」

 

「う、うん、頑張ってね結衣ちゃん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「えっと、蒔田さんだったけ、アンケートいまからか?」

 

「あ、はい、これからアンケート採りに行こうと思います。」

 

「それじゃ始めるか。」

 

「え、備品先輩も手伝ってくれるんですか?」

 

「いや、比企谷だ。  まあ、これは由比ヶ浜や雪ノ下がいるとやりにくい。

 

 あのな、なにも正直にアンケートを採る必要はない。

 

 ここだけの話だ、ほんとに廃止にしたいのなら、

 

 人気投票に否定的な女子っているだろう、まぁ、いろんな意味で。

 

 その子たちを中心にアンケートを採るんだ。

 

 ただし、報告はランダムに不特定の女子にアンケートしましたっていうんだぞ。」

 

「それって騙すってことじゃないですか?」

 

「ばか、アンケートていうのは大体そんなもんだ。

 

 大抵、アンケートを採る方の意思のベクトルが働いているものだぞ。」

 

「え、そうなんですか。」

 

「まぁ、雪ノ下、あいつなんやかんやいって、廃止のほうでフォローするから、

 

 多分、大丈夫だと思うが。

 

 ただ、これは新聞部の目玉行事だろ。

 

 あいつらもそう簡単にはおれないだろう。

 

 念のためだ。」

 

「わ、わかりました。」

 

「さっそく始めようか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの、すみません、アンケートお願いできますか?」

 

「はい、あっ、ごめんね急いでるから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの、アンケ― 」

 

「うわ。」

 

「ね、い、いこ。」

 

「なにあの眼つき、やばくない。」

 

     ・

 

「あのう、備品先輩、やっぱり一人で十分です。

 

 なんか備品先輩って結構嫌われてません?」

 

「だから比企谷だ。 まぁ、そうだな、すまない頼むわ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あんた何やってるの。

 

 アンケート?

 

 え、なになに、人気投票の是非?

 

 なんでこんなのやってるの。」

 

「あの、人気投票って、なんか女子を馬鹿にしてるみたいでやだな~って。

 

 ほら、男子なんかに勝手にランク付けされるのってやっぱり。」

 

「へぇ~、そう。

 

 そういうことなら、うちも手伝ってあげる。

 

 これに記入してもらえばいいんだね。」

 

「あ、あの~、アンケートしてもらう女子なんですが・・・」

 

     ・

 

「そういう女子にアンケートすればいいんだよね。

 

 でも、それあんたが考えたの?

 

 そんなの考えるってうち一人しか思いつかないよ。」

 

「え、いえ、わたしじゃなくて、実は、」

 

「あ、待って、せ~のでいうよ。 せ~の、」

 

「比企谷!」 

 

「奉仕部の備品さん」

 

「へ、備品さん?」

 

「は、はい。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「以上、ほかに質問がなければ終わりとします。」

 

「えっと、みなさん、よろしいですかか~、えへ♡

 

 では質問無いようですので、お開きです。 

 

 ご苦労様でした。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふう、終わりましたね。 稲村先輩、ご苦労様でした。」

 

「ああ、ど~と疲れた。」

 

「でも、たいした質問とか無かったのでよかったですね。」

 

「そうだね。なんか会話も少なかったような。」

 

ふふふ、作戦成功。 質問も想定内だったし、うまくいったよ。

だけど、くやしいけど、一番はジャリっ娘ね。

男子の質問、ジャリっ娘が、

 

『ですよね~、でも、これでお願いできます~、えへ♡』

 

というだけで、お願いされちゃうんだもん。

くそ、わたしの努力より”えへ”のほうが・・・・・

わたしも練習したんだけどな えへ♡

 

”ドキ”

 

あ、そうだ! 結衣ちゃんの上目使いとジャリっ娘のこれミックスしたら。

えっと、まず上目使いで、それから、えへ♡

 

”ドキ,ドキ”

 

「美佳先輩、なにキモいことやってんですか? さっきからえへえへって。」

 

「え、み、見てたの? いやな、なにも。」

 

「まったく、それに稲村先輩、なにいちいち反応してるんですか!

 

 もう、よそでやってください。」

 

「い、いやしてないから。」

 

「稲村先輩、顔真っ赤。」

 

「あの~、生徒会のみなさん、相談したいことがあるんですが。」

 

「はい?」

 

「あ、自分、新聞部部長の瀬谷ですが、実は明日、奉仕部から呼び出し食らってまして。」

 

「奉仕部? 呼び出し?」

 

「ええ、なんか毎年やってる人気投票をやめろということらしいです。

 

 人気投票は新聞部の学校新聞の目玉の一つなので、今年もやりたいんですが。」

 

「ああ、人気投票っていえば、会長、昨日、二年の女子が相談しに来てましたね。

 

 会長が追い返しましたけど。」

 

「あ、そうだ。 会長が奉仕部を紹介したんだ。」

 

「え、なんですか、副会長も稲村先輩も。

 

 それで、生徒会にどうしろと。」

 

「一緒に出席してもらえないでしょうか?

 

 新聞部としても、外部からの圧力に屈することは報道の精神に反しますので、

 

 断じて受け入れられないです。

 

 お願いします、協力してください。」

 

「でもなんで反対してたんだっけ?、毎年の恒例でしょう?」

 

「えっとなんか女性蔑視だって言ってるんです。

 

 そんな意思は全くないんですが。」

 

「そうですね、わたし的にも楽しみにしてるんですよ。

 

 わかりました、生徒会も出席しましょう。」

 

「おい、三ヶ木、会長あんなこと言ってるけどいいのか。」

 

「う~ん、そうだね、次の生徒総会に支障がなければ、

 

 部活間のことだし、生徒会の仕事と思うけど。

 

 ただ、あくまでも中立でね。」

 

「じゃあ、明日なんだけど、放課後に新聞部の部室で。」

 

     ・

     ・

     ・

 

げ、なに、なんで校門にいるの。

 

さっさと帰らないかな。 

何してんだろう? 結衣ちゃんでも待ってんのかな?

ん~、早く帰れ~

 

「どうしたんですか、美佳先輩。」

 

「え、あ、刈宿君、いま帰り?」

 

「はい、いま帰りです。」

 

「あ、そうだ。

 

 ごめん、一緒に帰ってくれないかなぁ。」

 

「え、いいっす、全然いいっす。

 

 早く行きましょう、いやゆっくり行きましょう。」

 

「あ、はいはい。」

 

     ・

 

「あ、三ヶ木、すこし話が、 」

 

やば、話しかけてきた。

 

えっと目を合わせないようにして。

刈宿君、ちょっとごめんね。

 

「それでですね美佳先輩、え?」

 

”ぎゅ”

 

「美佳先輩、腕にその柔らかい物とかいろいろと当たって・・・その弾力がなんとも。 」

 

「え、どうしたの? お腹でもいたいの、急に前かがみで。」

 

「い、いえ、大丈夫です。」

 

「この前すごかったね、刈宿君。 戸塚君に勝つんだもん。」

 

「え? あ、はい。 美佳先輩が応援してくれてましたから。」

 

「そんなことないよ、実力だよ。」

 

「美佳先輩が応援してくれれば、百倍の力が出ます。」

 

ふ~、なんとかやりすごしたね。

ごめんね、これが一番いいの。

 

「ありがと、刈宿君。」

 

「美佳先輩、どうしたんですか?

 

 もしかしてあいつストーカーとかですか、なんか目つき悪いし。」

 

「え、あ、違うの。 ちょっとね。」

 

「ちょっと行ってきます。」

 

「へ?」

 

”タッタッタッ”

 

な、なに? なに話してんの?

あ、戻ってきた。

 

”タッタッタッ”

 

「お待たせっす。」

 

「どうしたの?」

 

「はい、あいつに”俺の女に手を出すな”って言ってきました。」

 

「え、俺の女? あ、あ、あんたなんてことを。」

 

「これくらい言わないとダメなんですよ。

 

 じゃないと、これからも美佳先輩につきまとうかもしれないから。」

 

「いや、でもね、俺の女って・・・」 

 

ま、いいか。 

 

ちょうどよかったかもね。これで少し距離とってくれるんじゃない。

わたし、それ望んでたじゃない。

 

「でも、俺的にすこし本気かなぁ、なんちゃって。」

 

”べし”

 

「いってぇ。」

 

「あんまりお姉さんをからかうもんじゃないよ。

 

 それより、お礼にケーキご馳走してあげる。

 

 とっても美味しいお店知ってるんだけど行かない?」

 

「え、行く、行きます。」

 

「うん。 じゃあ行こうか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの~、美佳先輩。

 

 もうすぐGW(ゴールデンウィーク)ですけど、なんか予定あったります?」

 

「そうね、去年もだったけど、GW明けに生徒総会あるからその準備かな。」

 

「そ、そうすか。」

 

「刈宿君は?」

 

「あ、俺まだ本格的に入部してないから、結構暇です。」

 

「ごめんね、申し訳ない!」

 

「あ、いいっす、ちゃんと練習はしてますから。」

 

「クラブかなんか入ってるの?」

 

「俺入ってないっす。

 

 まぁ、いつでも相手にしてくれる相棒がいますから。」

 

「へー、いつでも相手してくれるんだ。 どんな人?」

 

「へへ、結構無口なやつです。」

 

「ふ~ん。 あ、ついたよ。」 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「え、なんで相模もいるんだ。」

 

「あ、そのアンケート手伝ってもらって。」

 

「それでは、この場は生徒会が仕切らせてもらいますね。

 

 ではまず、蒔田さん意見をどうぞ。」

 

「はい、新聞部がやってる男子による女子の人気投票といのは女子を貶めています。

 

 どうして男子なんかに女子をランク付けをされないといけないのでしょうか?

 

 女性蔑視です。

 

 どうせ、外見だけで選んでるんでしょう。」

 

「いや違う、女子の外見だけでなく、日頃の学校生活の中での活躍とかも評価して

 

 投票しているんだ。」

 

「え~、そんなのわかるはずないでしょう。 一年だっていたのに。」

 

「兎に角、女子の素晴らしさを称えるのが目的で、蔑視しているんじゃない。

 

 去年の結果も学業で秀でている雪ノ下さんが選ばれたのはそういうことだ。」

 

「あら、別に他人に評価してもらわなくても結構よ。

 

 そんなことより、一人一人の個性とか頑張ってることとか、

 

 いろんな価値をどう比較するのかしら?

 

 納得する説明をしてもらえないかしら。」

 

「雪ノ下さんも廃止に賛成なのか?」

 

「賛成ではないわ、特に気にしていないだけ。

 

 でも、それで傷つく女子がいるのであれば、それはやめるべきではないかしら。」

 

”がさがさ”

 

「はい、これ女子へのアンケート結果です。

 

 あまり時間がなかったので、時間内にランダムにとった結果ですが。

 

 ほら、アンケートの結果でも、女子の7割が廃止に賛成です。」

 

「う・・・7割も廃止に賛成なのか。」

 

「あ、そのアンケートちょっと見せて。」

 

ふむ、・・・・・ふ~ん。 

 

「あの~な、なにか?」

 

比企谷君のやり方ね。

 

この名前の女子たちって確か去年のランキングには入ってなかったよね。

なぜか、わたし一票入ってたから、うれしくてめっちゃ見てたから憶えてる。

 

前の生徒会のみんなからは、買収したとか散々からかわれたけど。

結局、誰だったんだろう・・・わたし買収してないからね。

 

「どう、廃止してもらえるかしら。」

 

「え~、でもこの人気投票って、さっき新聞部さんも言ってたけど、

 

 ほらいつも学校行事に頑張ってる人が、割と選ばれてるじゃないですか~。

 

 雪ノ下先輩も勉強頑張ってるのも確かだし、それに二位の城廻先輩も生徒会で頑張ってたし。

 

 その他にも部活とかで頑張ってる人とかランキングされているから、

 

 励みになっている側面もあるんですよ。

 

 わたし的にはやってもらいたいなぁって。」

 

「会長、生徒会は中立で。」

 

あんたはもてるからね。 

今年は絶対一位狙いますって言ってたし。

 

”バン”

 

「え~、それじゃ、強制的に人気投票させないですけどいいですか?」

 

「さ、相模さんなにを。」

 

「だって、こいつらいくら言っても絶対やめないじゃん。

 

 だったらこっちも引けないよ。」

 

「でも~、それって自分の思い通りにならないことは、力で言い聞かせるって

 

 ことじゃないですか~」

 

「俺たちは圧力には屈しないからな。」

 

「まぁ、まて。

 

 それならこういうのはどうだ。

 

 つまりだな、男子による女子の人気投票が女性蔑視というなら、

 

 一緒に女子による男子の人気投票もやればいいじゃねぇか。

 

 これなら女性蔑視ってわけじゃないからいいだろう。

 

 新聞部の手間は増えるが、今年の学校新聞の目玉っていうことでどうだ。」

 

「別に人気投票さえできれば、新聞部としては問題ない。」

 

「だ、駄目ですよ、そんなの認めません。

 

 とにかくわたしは人気投票をやめてほしいんです。」

 

「蒔田さん。」

 

「え、もう奉仕部さんはいいです。」

 

「そうだよ蒔田さん、がんばりな。 

 

 うちらがついてるからさ。

 

 さっき言った通り、新聞部がうちらの意見聞かないんだったら

 

 うちらも投票させないから。」

 

「そんな脅しに屈するわけにはいかない。

 

 新聞部は自分の信念に沿って活動する。

 

 これまでのようだな。」

 

「これまでね。」

 

「まぁ、まって蒔田さんも瀬谷君も、それにさがみんも。

 

 あのさ、お互いにもう少し頭冷やして話しよ。

 

 あ、そうだ、今度の金曜日にもう一回改めてお話しないかなぁ。

 

 ね、ねぇ、いろはちゃん。」

 

「そ、そうですね、それじゃ一度冷静になってからってことで。

 

 金曜日に、そうですね生徒会室に集合ってことでよろしくです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どうすんですか~

 

 先輩のせいで決裂しちゃったじゃないですか~」

 

”つん、つん”

 

「え、俺のせい?」

 

「そうですよ、先輩が悪いんです~。」

 

’つん、つん”

 

「いや、そのつんつんって突っつくのやめて。」

 

「まぁ、まぁ、いろはちゃん。 ヒッキーも頑張ったから。」

 

まずいね。

あんまり長引くと生徒総会に響くよ。

生徒総会で揉められるのは阻止しないと。

こんなことで生徒会の邪魔はさせないよ。

 

でも、なんであの娘、比企谷君の提案、あんなに拒否したんだろう。

女性蔑視とか言ってたのに。

ふむ、あの娘なんかあるね。

まずはそこからか。

 

”つん、つん”

 

「おい、由比ヶ浜、お前まで突っつくのやめてくれる。」

 

ちょ~ウザ! このリア充野郎。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「投票箱の設置は学校に認められているんだ。」

 

「え~、うちら、ここにいるだけなんですけど。」

 

「そこどいてもらおうか、投票箱やポスター貼り出すから。

 

 これはちゃんと学校に許可をとってある。」

 

「知らないわよ、うちらはここで喋ってるだけなんですけど。

 

 それにこの件は、いま話あってるとこじゃん。

 

 もしどうしてもってなら、うちらか弱い女子を押しのけてやってみたら。」

 

「ち、どいてくれ。」

 

”ドン”

 

「いった~、ひど~い新聞部、暴力振るうんだ。」

 

「え~信じられない、相模さん大丈夫。」

 

「腕痛~い、折れたかも。」

 

”ガヤガヤ”

 

「えど、どうしたの。」

 

「新聞部の暴力で怪我したの。」

 

「うそ~、ちょっと新聞部、最低。」

 

「ひど~い。」

 

「お。おい、瀬谷、今日はやめとこ。」

 

「くっそ。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

”ガヤガヤ”

 

「へー、こんなことあったんだ。」

 

「これ昨日の放課後の件に関係してるのかなぁ。」

 

「こいつの目つきやばくねぇ~ 」

 

「あ、これほらあいつじゃん。」

 

ふぁ~、ねむ。 

 

最近、不眠症気味だなぁ。

昨日のことが気になって、なんかよく寝れなかった。

え、なに? 何か朝から騒がしいね。

 

「はい、どうぞ。」

 

今の新聞部だよね。 あ、号外配ってんだ。

 

”いま、人気投票の危機!

 

 新聞部に圧力が。

 

 毎年恒例の女子生徒の人気投票をやめろとの圧力。

 

 やめなければ強制的にでもと、一方的に意見を押し付けれられる。

 

 我々はこんな一方的な圧力には屈しない。”

 

ふ~ん。

あ、この写真いつの間に・・・・・比企谷君めっちゃメインで写ってるじゃん。

後ろの蒔田さんや相模さん隠れて写ってないし。

 

これ、わざとだね。

 

ちょっと急いだほうがいいかも。

書記ちゃん、確か蒔田さんと同じクラスだよね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「書記ちゃん、ちょっといい?」

 

「あ、三ヶ木先輩、どうしたんですか?

 

 用事ならわたしの方が行きますのに。」

 

「うん、ありがと。

 

 だからわたし書記ちゃん大好き。

 

 ねぇ、書記ちゃん、蒔田さんどこ?」

 

「あ、ほら窓側です。」

 

「あ、いた。 どれどれ。」

 

「え、三ヶ木先輩? 」

 

「し~。」

 

     ・

 

「ふむふむ。 ねぇ、書記ちゃん、あの三人が蒔田さんのグループね。」

 

「はい。 大体いつもあの四人でいますね。」

 

     ・

 

「え、それ違うでしょ。

 

 ねぇ、みんなもそう思ってるんでしょ?」

 

「そうね、で、でもほら舞ちゃんがそういうのなら。」

 

「ち、だけどさ、あんたがいつも勝手に決めてるし。」

 

「え、だってこっちのほうがいいじゃん。

 

 ね、みんなもそうでしょう。」

 

「そうだね、舞ちゃんが言うのなら。」

 

「うん、そうだねやっぱりランク高いと違うね。」

 

「それ去年の話じゃん。」

 

「そうだけど・・・」

 

     ・

 

ふ~ん、そういうこと。

 

「ねぇ、書記ちゃん、だいたいいつもあんな感じ?」

 

「一応、蒔田さんのグループなんですけど、最近ちょっと言い争いが多いかなって。」

 

「そう。

 

 ちなみに、あのグループの女子の名前、教えてくれる?」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

なるほどね。

蒔田さんが24位で、あの茶髪のきつめの娘、あの娘が29位か。

これが原因ね。

 

あとは、あいつか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「相模さんこんにちは。」

 

「えっと、あんた誰だっけ?」

 

「あはは。 あのね相模さんってすごいね。」

 

「え、うちが。」

 

「だってさ、文実の委員長でしょ、それに体育祭の運営委員長だもん。

 

 それに今回、人気投票で女子のために頑張ってくれてるし。

 

 めっちゃすごい。」

 

「え、あ、当たり前だし。 女子のためだし。

 

 でも、うちそんなにすごい?」

 

「うん。 だって文実の委員長、体育祭の運営委員長

 

 ・・・・・だったんだよね、あの。

 

 そして今回もまた。

 

 新聞部が喜ぶだろうなぁ~、文化祭から体育祭に繋がるあの真実を知ったら。

 

 とてもわたしにはできないよ、そんな危険をおかしてまで、わたしたち女子のために

 

 頑張ってくれてるんでしょう、偉いね。 くくく。」

 

”パン”

 

「あんた最低!

 

 うち、うちはただ一人で、アンケート採ってたあの娘の力になってやりたかった

 

 だけなのに。

 

 一人の辛さはわかるから。」

 

「気がすんだ?

 

 わかるよね、わたしの言いたいこと。

 

 ・・・・・ あ、あのさ、知ってるよ、わたし最低って。」

 

     ・

     ・

     ・

 

いった~。 めっちゃ痛い。

 

わたしがあのこというわけないのに。

だってそれこそ比企谷君のやさしさ台無しにしちゃう。

 

さて、あとは蒔田さんだね。

 

あの娘、今度の人気投票での順位が、自分のグループ内の立場に影響するのが

怖かったんだよね。

もしかしたらハブられるんじゃないかって。

 

あ、いた。

 

ははぁ、相模さん待ってんだね。

 

「蒔田さん、ちょっといい?」

 

「あ、ジミ子先輩、はい。」

 

「それやめて。」

 

ジミ子? あいつがいってたんだろ。

いつもいつもジミ子、ジミ子って、くそ~。

ぐ、ぐれてやる。 髪染めてやろうかな?

 

「あのさ、相模さん達なら、待ってても来ないわよ。」

 

「え、何でですか。」

 

「ちょっとおいで。」

 

「え、どこへ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ほら、いた。

ここたまり場にしてるよね、ちゃんとチェック済み。

 

「ねぇ、さがみ~、今日は新聞部となんかあったんじゃなかったっけ?」

 

「え、も、もう、うちいいかなぁって。

 

 だってこんな騒ぎになってさ、

 

 ほら、一応狙えるんだったら、推薦狙いたいじゃん。

 

 だから学校への印象あまり悪くしたくないじゃん。」

 

「そうだね。」

 

「ここまでやってあげたんだから、後は自分で何とかすんじゃない。

 

 わたしたち受験生だよ、受験生。

 

 受験生は勉強しなくっちゃ。」

 

「そうだね、帰ろ。」

 

「ねぇ、帰りどっかよる?」

 

「今、勉強って。」

 

「あははは。」

 

     ・

 

「・・・ひどい。」

 

「どうする。 今日、あんた一人だよ。」

 

「い、いまから奉仕部さんに行ってきます。」

 

「無理よ。」

 

「え?」

 

「奉仕部さんには、生徒会から保護者会の会場準備を依頼しているから、今日はいないわ。」

 

「そ、そんな。」

 

「ねぇ、この件、あなた引く気は無いのね。」

 

「いまさら引けないじゃないですか。」

 

「今日の話し合い、あなた一人よ。」

 

「い、いいです、やります。」

 

はぁ、ムキになっても、あなたに分はないよ。

 

ここは、わたしがあなたを守ってあげるから。

あなたみたいな娘、割と好きだから。

 

「ねぇ、舞ちゃん、相談なんだけど。

 

 あなたのグループ内のランク、トップでいられるようにしてあげる。」

 

「舞ちゃん? へ、なんでそのこと・・・

 

 あの~どうすれば。」

 

「この件、生徒会に任せてくれる? あなたに悪いようにはしないわ。」

 

「・・・はい、わかりました、ジミ子先輩。」

 

「おい、それやめろ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「新聞部さん、女子人気投票は生徒会が預からせて頂きます。」

 

「え、なんだって。」

 

「いま言った通りよ、生徒会が預かります。

 

 改めて、文化祭にミスター&ミス総武校としてやらせてもらいます。」

 

「そ、そんな。 あれは新聞部の目玉のイベントなんだ。」

 

「今回の号外、比企谷君はなにも圧力かけてないよね。

 

 比企谷君は逆に何とか収めようとしていただけじゃない。

 

 圧力をかけた相模さんや蒔田さんじゃなくて、

 

 写真に比企谷君を使ったのって故意よね。

 

 女子じゃ印象が弱いからって、すごっく酷いよね。

 

 これって生徒総会で問題にしょうと思ってるんだけど。」

 

まったく、比企谷君をこんなことに使うのは絶対許さない。

 

彼のこと・・・・彼のやさしさを知らないくせに。

ほんとは、ここでこいつら罵倒したいけど。

 

「いや、それは・・・

 

 だけど人気投票がないと、学校新聞ってだれも興味持ってくれないから。」

 

「その代わり提案があるの。

 

 学校新聞にこの娘のコーナー作ってくれない。

 

 ほら、入って。」

 

「はい。」

 

”ガラガラ”

 

「あ、お前。」

 

「ほら、この娘、結構かわいいと思うんだ。

 

 去年の人気投票、一年で24位だし。

 

 だから、学校新聞のマスコットみたいな感じにすれば、

 

 結構目玉になると思うよ。

 

 ね、舞ちゃん。」

 

「あ、あの~ わたし、部活紹介みたいなの出来ないかなって。」

 

「今まで新聞部って男子しかいなかったから、

 

 記事が偏っててあんまり読む気しなかったんだけど。

 

 ほら、舞ちゃんの写真とか乗せれば絶対目玉コーナーになるって。」

 

「そ、そうだな。

 

 確かに、俺ら男子しかいないから。」

 

「じゃあ、決まりね。

 

 あ、くれぐれもセクハラしないでね、水着とか駄目よ。

 

 舞ちゃん、もしセクハラされたらすぐ言ってね。

 

 新聞部無くしてあげるから。

 

 ・・・ わかってるよね、あんた達。」 

 

「ひぇ~、は、はい。」

 

「それともうふたつ・・・」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「じゃあ、そういうことで、この件、生徒会に任せてくださいね。」

 

「わかったわ、三ヶ木さん。」

 

「うん、じゃあね、美佳っち。」

 

”ドン”

 

「あ、すまん。」

 

「あ、」

 

「な、なぁ、三ヶ木。」

 

「なによ!」

 

「いや、何でいきなり怒ってんだ。 

 

 まぁ、なんだ、いま生徒会に行ったら新聞部の件は、

 

 もう解決したって言われたんだが。」

 

「比企谷君、気が付かなかったんだね。」

 

「へ?」

 

「あの娘がさ、ほんとはなにに怯えていたか。」

 

「怯えてた?」

 

「はぁ、どうしたの比企谷君。

 

 あなたの提案断ったときにわかったじゃない。

 

 あの娘は、別に女性蔑視とかを問題にしたかったんじゃないって。

 

 自分のグループ内のバランス、まぁ、ボスの座を追われて、ハブられるのが怖かったのよ。

 

 人気投票で、グループの他の子に負けたら、ボスじゃいられなくなるんじゃないかって。

 

 だから人気投票をやめさせたかったの。」

 

「そ、そうだったのか。」

 

「だから、人気投票は生徒会主催で文化祭に”ミスター&ミス総武校コンテスト”ってことで

 

 やることにしたの。

 

 その間にね、あの娘には学校新聞にコーナー持たせて、認知度を高めさせてあげるの。

 

 ほらあの娘、結構かわいいから、学校新聞に写真とか載れば人気でるって。

 

 結果、実際にやるのは生徒会になるけど、新聞部は人気投票の特集ができて、

 

 且つ、かわいいマスコットガールで学校新聞の目玉を手に入れるし、

 

 あの娘はあの娘で、学校新聞にコーナーを設けることで認知度が高まり、

 

 グループ内ランキング上位も維持できる。」

 

「そ、そうか、お前すげえのな。」

 

「ねぇ、すくなくとも去年までの比企谷君なら、すぐ見抜けたんじゃない。

 

 やっぱリア充になったから、もう弱い人の気持ちなんてわからないんだよ。」

 

「いや、おれはリア充じゃない。

 

 それにお前だって、この前校門で・・・」

 

「・・・わたしは、あなたと違う。

 

 わたしの根幹にあるものは変わらない、絶対かえられないわたしには。

 

 あ、それとこの件、一色会長率いる生徒会が丸く収めたってことで、

 

 次の学校新聞に載せてもらうから。

 

 記事が出れば奉仕部さんにきていた依頼って、これからは生徒会にくるんじゃない。」

 

「お前、そんなことまで。」

 

「一つ依頼があるの。

 

 悪いけどもう話しかけないでくれる? 迷惑なの。

 

 あなたは、奉仕部というぬるま湯におとなしく浸かってればいいんじゃない。」

 

「な、・・・そ、そうか。 

 

 わかった。 じゃあな、もう声かけないようにするわ。」

 

そう、それでいいんだ。

 

わたしといるとあなた絶対いらない心配するし、

それにあなたにいつも嫌な思いさせちゃう。

 

それにね、比企谷君、うううん、雪ノ下さんたちも受験生なんだから。

こんな依頼とかで掻きまわされたらだめだよ。

しっかり受験勉強に集中して、もう三年生なんだよ。

 

あとは、わたしに任せてね。

あ、それと号外の写真、あれは別人の誤りでしたって、学校新聞で訂正させたからね。

 

いろいろごめんね、嫌なこと言って。

いままでやさしくしてくれてありがと。

 

合格願ってるね。・・・八幡。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今回、とうとう八幡からさよなら言わせてしまいました。

この後どうしょうかな・・・・・

登場人物多くなるとセリフが多くなってしまって

難しいです。

そういえば、あいつしばらくだしてないな・・・・

では、また次話よろしくお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マッ缶

ありがとうございます。

前話で八幡と距離を置くことにしたオリヒロがマッ缶に手を染めて・・・

またグダグダになりそうですがよろしくお願いします。


「相模さん、ありがと。」

 

「あんたのためにやったんじゃない。

 

 勘違いしないでくれる。

 

 うちは、比企谷に借りを返したかっただけ。

 

 あくまでも、うち自身のためにやったことだから。」

 

「うん♡」

 

「な、なにその顔、もう一回ひっぱたくから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

『あんた最低!

 

 うち、うちはただ一人で、アンケート採ってたあの娘の力になってやりたかった

 

 だけなのに。

 

 一人の辛さはわかるから。』

 

『気がすんだ?

 

 わかるよね、わたしの言いたいこと。

 

 ・・・・・ あ、あのさ、知ってるよ、わたし最低って。』

 

『・・・なんなのあんた。』

 

『この件から手を引いてほしい。

 

 いえ、絶対引いてもらう、どんな手を使っても。

 

 これ見て。

 

 今日の朝、新聞部が配ってた。』

 

『な、なにこの紙・・・・えっ、これ比企谷。

 

 はあ! なにこれ。』

 

『新聞部、自分たちへの支持を集めるため、比企谷君を利用した。

 

 このままでは、文化祭の二の舞になっちゃう。

 

 わたしは、わたしは絶対いや。

 

 比企谷君を守るためなら、・・・・・ごめん、わたしどんな最低なことでも平気でする。』

 

『・・・・・・・・うちが手を引けばいいの。

 

 そ、その、手を引けば比企谷、助けられるの。』

 

『うん。 この件、生徒総会までにはって思ってたけど、手遅れにならないうちに終わらせる。

 

 必ずわたしが終わらせる。』

 

『・・・あのさ、新聞部との話し合いの前に、蒔田さんうちらのたまり場連れてきて。』

 

『え、』

 

『言っとくけど、うち、あんた大嫌いだから。 

 

 じゃあ。』

 

”テッテッテッ”

 

『あ、相模さん、待って、たまり場って?』

 

行っちゃた。

どこだよたまり場、たしか三ヶ木レポートにチェックしてたと思うけど。

なんたって前科者だから。

えっと、出現場所、出現場所っと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、うまくいったんでしょうね。」

 

「うん♡、この件、解決した。」

 

「だから、その顔やめろって。

 

 なんか腹立つ!

 

 ・・・ね、一つ聞いていい?」

 

「うん、なに?」

 

「あんた、比企谷のこと・・・・・好きなの。」

 

「・・・」

 

「ごめん、馬鹿なこと聞いた、忘れて。

 

 それより、ちょっとスマホ貸して。」

 

「え、スマホ狩り?」

 

「いや、違うから、ほら早く。」

 

「うん。」

 

     ・

 

「はい、じゃあね。」

 

「うん。 ほんとにごめんなさい、そしてありがと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~,ブ~”

 

え、相模さんからメール?

 

『うち、あんたなんか大嫌い。』

 

な、大嫌い大嫌いって。

だったら勝手にアド登録しないで。

まったく、そっちがそれなら、

 

『わたしも、さがみんのことめっちゃ大嫌い♡』

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、また?

 

『さがみんっていうな! ・・・またひっぱたくから。 o(^ε^)/~☆ 』

 

うん、またね。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐ 

 

 

 

 

さて、生徒会行こうか。

 

はぁ~気が重いんなぁ。

一応さ、反省文書いてきたけど、めっちゃジャリっ娘怒ってたもんなぁ。

ふぅ。  あっ!

 

「ヒッキー、今度のGW(ゴールディンウィーク)は一緒に勉強だからね!」

 

え、ゆ、結衣ちゃん。

 

げ、こっち来る。

どこかない? う~、せっま!

 

「いや、俺がお前と勉強するって、俺に何のメリットもないんだが。」

 

「ひど。 ・・・あるじゃん、い、一緒にいられるとか。」

 

「・・・・・」

 

「何で沈黙するし。」

 

”ベシ”

 

「いて、お前、最近誰かの影響受けてきてない?」

 

「だ、だれだし。 もういい! ヒッキーのバ~カ。」

 

「お前、子供か。 ・・・わかった。」

 

「え、本当。 えへへ、約束だよ。」

 

「お、おう。」

 

”スタスタ”

 

い、行った?

うへぇ、蜘蛛の巣だらけじゃん。

 

ふぅ。

 

これでいいんだよね。 うん、これでいいんだ!

・・・・・でも、ごめんね、結衣ちゃん。

まだ良かったねって言えない。

もう少しだけ待ってね、頑張るから。

 

     ・

 

はぁ、ちょっと寄り道していこうかなぁ。

少しだけ遅れてもいいよね。

だって、たぶんわたし・・・いま、へんな顔してると思うから。

 

     ・

     ・

     ・

 

なに、ほんと禍々しいねあんた。

 

でも、わかってるよ。

あんたの中身は、人の心を癒してくれる甘~いものでいっぱいだって。

 

”ガタン”

 

買っちゃった。

 

でもなんかさぁ、見慣れるとこういうのもありかなぁ。

うん、見かけじゃないよね、中身だよ、中身。

うんしょっと。

 

”カチャ”

 

はぁ、今日はいい天気だね。

 

”ごくごく”

 

ん~あま!

 

でも、いまなんかもっと甘くてもいいかな。

なんか苦くてさ。

 

     ・

     ・

     ・

 

えっと、あれはあんパン。

う~ん、これはたいやきだ。

それとこっちの雲はお団子。

へへ、あまい物ばっかり。

 

     ・

 

「ん? あれなるは、我が旧友であり信者第二号の三ヶ木女子。

 

 早速、われの新作を施して・・・ん?」

 

     ・

 

「はぁ、わたしも人魚姫みたいにさ、

 

 人を想って悩むことも、夢を見ることもなく

 

 このまま泡になって・・・・」

 

     ・

 

「・・・三ヶ木女子。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”パン、パン”

 

よ、よし、気合入れてっと。

さぁ、入るよ。

 

”ガラガラ”

 

「ごめんなさい! 遅くなりました。」

 

「あ、三ヶ木先輩、ご苦労様です。」

 

「三ヶ木さん、お疲れさま。」

 

「・・・ぷい。」

 

「・・・」

 

な、なに? ジャリっ娘だけでなく、稲村君まで機嫌悪いの。

なんかやだなぁ。

もう、反省してるって。

 

「あの、会長。 反省文書いてきました。」

 

「ん。 本当に反省したんですか。」

 

「はい、反省しています。」

 

「今度という今度は、本当に怒ってるんですからね!」

 

「はい、ごめんなさい。」

 

「い、いろはちゃん、それぐらいでね、ね。」

 

「会長、三ヶ木さんも悪気があってやったんじゃ 」

 

「わかってます。 だから腹立つんじゃないですか!」

 

ひぇ~、今回はちょっとやばそう。

い、稲村君も助けて。

はよ、フォローして。

 

「三ヶ木、今度は俺も腹立ってる。

 

 なんで一言、話してくれなかったんだ。」

 

え~、あんたまで。

こ、ここはね、結衣ちゃん直伝の上目遣いで。

 

「ごめんなさい、稲村君ゆるして。

 

 もうしないから・・・ね。 ぐすん。」

 

「え、あ、いや、その・・・わかってくれればいいんだ。」

 

ちょろ! 稲村君ちょろい、へへへ

 

「あ、お前今ちょろいとか思ったろ。」

 

「へ、何で分かったの?」

 

「やっぱりか。」

 

やば、しまった。

くそ、引っかかった。

 

「そこ! 夫婦漫才はいいですから。

 

 稲村先輩、三ヶ木対策本部長に任じます。

 

 しっかり、監視してください。

 

 今度同じことしたら、稲村先輩も同罪ですからね。」

 

「同罪? うそ、お、おい三ヶ木頼むから俺に一言くれ。」

 

     ・

 

”カチャカチャ”

 

ふぅ~

 

あとは、各部活の部長さんと・・・・・・・・

 

”ジ~”

 

いや、ちょっと、あんた。

 

”カチャ、カチャ”

 

”ジ~”

 

「おい!、いいに加減しろ。」

 

「ははは。 いや、仕事だから。」

 

「い・な・む・らくん。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ~」

 

「さっさと仕事しろし。」

 

”がた”

 

「ん、どこいくんだ?」

 

「トイレ。

 

 一緒に来る?」

 

「ああ。」

 

「ばか!」

 

”ガラガラ”

 

「稲村先輩、やりすぎです。」

 

「はは、つい。 でも、これぐらい見てるぞ~って植え付けとかないと。」

 

「ちゃんと見ててあげてくださいね。

 

 わたしも気を付けますから。

 

 今回はなんとかなりましたけど、このままだといずれ・・

 

 心配なんですよ~。

 

 美佳先輩、いっつも一人で何とかしようとするから。」

 

「うん、そうだな、気を付ける。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

あま~。

 

でも、なんか、比企谷君がこれ飲んでる気持ちが、少しだけだけどわかったような

気がする。

はは、今更ながらだけどね。

甘いのが好きだからじゃなくて、苦さを紛らわせるためなんだろうね。

 

     ・

 

ふぅ、今日もいい天気だ。

 

あ、あの雲とあの雲、ず~と一緒に流れてる。

このまま空の果てまでいっしょなのかなぁ。

仲いいなぁ~

 

「あれ、三ヶ木何やってんのさ。」

 

「へ? あ、沙希ちゃん。 今帰り?」

 

「そうだけど、あんた大分前に教室出たんじゃ無かったけ?

 

 今日は生徒会無いの?」

 

「え、生徒会って、あ、もうこんな時間。やば~

 

 ごめん。行ってくる。」

 

「あんたどうしたのさ。」

 

     ・

 

「ふむ、新作は、明日に。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

やばいやばい。

ひぇ~、間に合うかな。

 

”ゴン!”

 

いったぁ~、久しぶりにおでこ打った~。

 

”ガラガラ”

 

「す、すみません、遅くなりました。 」

 

「遅いです。 なにしてたんですか美佳先輩。」

 

「あ、あの~、ちょ、ちょっと野暮用で・・・」

 

「もう、そろそろ片付けて帰るとこですよ。」

 

「あちゃ、ごめんなさい。

 

 これ、持って帰ってやってくるね。」

 

「はら、三ヶ木、少しかせ。」

 

「あ、いいよ、大丈夫。 ありがとストーカー稲村君。」

 

「おい。」

 

「はい、じゃあ、もう鍵閉めますよ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガタン”

 

はぁ、また買っちゃった。

今日はあんまり遅くならないようにしなくちゃ。

ふぅ~、あ!

 

「何でヒッキー、ゆきのんも誘うし。」

 

「いや、お前、あいつにも教わったほうがいいぞ。

 

 ほら、俺、数学はむりだからな。」

 

「まったく、ヒッキーはヒッキーだね、い~だ。」

 

「なんだ、お前勉強したかったんじゃねぇのか」

 

「もういい。 でも土曜日は二人だけだよ。」

 

「わかった。それなら現代文と古典中心だな。」

 

「もう、ばか!」

 

・・・ははは、もうわかってやってんじゃないの。

 

まぁ、雪ノ下さんいたほうが勉強になるもんね。

いいなぁ、楽しそう。

 

”ごくごく”

 

ふぅ~、なんだろう。

今日のなんかちっとも甘くない。

はぁ、・・・・・・

 

「はぁはっはっはー。

 

 我こそは文豪将軍、材木座義輝なり! 」

 

「はぁ? もうそれやめなよ義輝君。

 

 まぁ、慣れたけど。」

 

「え、いや、その、これやめると・・決まり事だから、我の。」

 

「で、書けたの?」

 

「へ?」

 

「続き、書けたんでしょ。」

 

「い、いやまだ・・・

 

 そ、そのことで頼みがあるのだ。

 

 新作はラブコメ中心でいきたいのだが、なかなか捗らぬ。

 

 よく考えてみたんだが、我には恋愛というものがよくわからぬ。

 

 そういえば、じょ、女子とは出かけたことすらないのに気が付いた。

 

 そこで頼みなのだが、わ、我とその~

 

 ・・・・我と出かけてもらえぬであろうか?」

 

「・・・・・」

 

はぁ、義輝君何言ってんの。

 

小さいころは一緒によく出掛けたじゃない。

忘れてるのかよ。 

 

材木座探検隊。

 

おもしろくってさ、真っ暗になるまでいろいろ探検したじゃん。

そんで、よく怒られたね。

義輝君、そのころから太ってたから、よく隠れさせてもらったっけ。

 

「や、やはりだめであろうか。

 

 ふむ~、続きが書けぬ。 このままではヒロインはず~と石像のまま。

 

 あ、石像だから何かの拍子にばらばらに。」

 

「いや~、ばらばらはやめて、むごい。

 

 わかった、 一緒に出かけてあげる。

 

 でも絶対だよ、絶対ヒロインは元の人間に戻してあげてね。」

 

「ふふふ、我に任せておくがよかろう。」

 

・・・あのね、義輝君。

 

こんなことしなくてもいつでも一緒に出かけるって。

 

だって幼馴染じゃん、馬鹿だね。

もっと遊びに行こうよ。

 

「で、どこ行けばいいの。」 

 

「そ、それでは土曜日、九時に千葉駅でいかがであろうか?」

 

「わかった、九時に千葉駅っと

 

 ん、そういえば今何時?

 

 げぇ、しまった。

 

 じ、じゃあ、土曜日ね義輝君。」

 

「うむ。」

 

”ばたばた”

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ドタドタ”

 

「み、三ヶ木女子、すまぬ、我の守護神の召喚に手間取って。」

 

「もぅ、遅いよ~。

 

 わたし、ずっと待ってたんだからね。

 

 もしかして来てくれないのかと思った。

 

 義輝君のばか、えへ♡ 」

 

「え、三ヶ木女子、わ、我のことそこまで。」

 

「こんな感じでいい?」

 

「げふっ、い、いまのは。」

 

「練習。」

 

「い、いえ。いつもと同じで、普通でお願いします。」

 

「え~、なぁんだ。 で、どこ行くの。」

 

「けぷこん、けぷこん、ついてくるがよい。」

 

「ふぁ~い。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタン、ガタン”

 

「ねぇ、マジどこまで行くの?」

 

「もはははは、つくまでの秘密である。」

 

「わかった、わかった。 それより、はいこれあげる。」

 

「こ、これは、マッ缶。」

 

「うん、美味しいよ。 わたし病み付き。」

 

「いや、このような凶暴なもの。」

 

「え、ならいい、わたし二つ飲む。」

 

”カチャ”

 

「あげないからね。 メッチャ美味しいのに。」

 

’ごくごく

 

ぷふぁ、美味しい。 

いやぁ、脳みそに染みわたるね。

 

”ごくごく”

 

「あ、あの、三ヶ木女子、本気でそれ二つも飲むつもりで。」

 

「うん。」

 

「それは体に悪いのでは。 ひ、一つ我が引き受けよう。」

 

「はい、どうぞ。」

 

「へ?」

 

「なに、いらないの?」

 

「いや、な、なんでも・・・しかしこ、これは。」

 

”カチャ”

 

「うっま~、ね、飲んで飲んで。

 

 え、新しいのがほしかった?」

 

「いや、こちらで。」

 

”ごくごく”

 

「あま~。」

 

「へへへ、義輝君、・・・間接キッス。」

 

「ひぎぃ、 か、確信犯。」

 

へへ、小さい頃さ、ほら、みんなでお小遣い出し合ってジュース買ったね。

そんで、みんなで飲みまわししてさ。

楽しかったなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、まだぁ~。 少し足疲れたし。」

 

「いや、ほらもう少しで。」

 

ん、なんか人増えてきたね。なんかみんな楽しそう。

 

「ゴラムゴラム

 

 ここが本日の我の魂の終着地点。」

 

「あ、ちょ、ちょっとまって義輝君。」

 

え、なに?コスプレフエスタ?。

あ、ちょ、ちょっとまってって義輝君。こ、ここはいるの?

 

     ・

     ・

     ・

 

「義輝君? わ、わたしなんにも持ってきてないよ。」

 

”がさがさ”

 

「ね、ね、義輝君って。」

 

「もはははは、ほれ、三ヶ木女子、これが今回の神器だ。

 

 これを纏われよ。

 

 今日のため、我が遠くアマゾンのジャングルよりひそかに入手しておいたのだ。

 

 ボフンボフン、では三ヶ木女子参ろうか。」

 

「え? はぁ、なにこれ着るの?

 

 あ、これ無重力少女 あ茶子ちゃんのコスじゃない。

 

 まさかこれ着ろというの?

 

 やだやだ、ほら見ただけでわかるじゃん。

 

 ちょ、小っちゃいよ、絶対ぱつぱつだよ。」

 

「いや、これしかないのだ。

 

 ほれ、見てみるがよい、今日はオープンステージでアカ俺のトークショーがあるのだ。」

 

「へ、うっそ。

 

 あ、イレギュラーヘッドの諏訪山さんも来るんだ。

 

 で、でもこれ着るの? 着なきゃいけない?」

 

「うむ。神器を纏ったものしか入れぬ。」

 

「じゃあさ、義輝君のは何?」

 

「我はこれだ。」

 

「あ、イレギュラーヘッドだ。

 

 わたしそれがいい。 ね、交換して。」

 

「ま、待て冷静に考えて。

 

 我のあ茶子のコスプレを纏った姿。」

 

「え? あ、ぶぶ、わっははははは。

 

 や、やめておかしい、腹痛い。

 

 や、やめて~」

 

「で、あろう、とても耐えられるものでなかろう。

 

 ほら、更衣室はあっちである。 それでは。」

 

「あ、ちょ、ちょっとまって義輝君。」

 

うっそ、ホントにこれ着るの。

絶対着れないと思うよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

うわ、ほらやっぱ、小っちゃいって

 

む、胸は何とかなるけど、お尻が。

・・・入るかなぁ。

 

う~んマッ缶、飲み過ぎかなぁ。

うんしょ。

 

ひえ~

 

     ・

     ・

     ・

 

「よ、義輝君、着たよ。」

 

「ぶふぁ! こ、これは。」 

 

「おい、はな、鼻血でてる。」

 

「けふこん、けふこん。」

 

「なに、嬉しそうに。

 

 ね、義輝君、わたしの後ろに立ってって。」

 

「後ろに?」

 

「だって、お尻パツパツじゃん。

 

 ほら、パンツの線でちゃってるよ。」

 

「ぴゃあ、ぶぶ!」

 

「だから鼻血。

 

 もう、ほら行くよ。 しっかり後ろフォローしてね。」

 

もう、あんまりジロジロ見んな!

ほんと帰りたいよ~、後で覚えてろよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、イレギュラーヘッドのフィギュア。

 

いいなぁ、かっこいいなぁ、ほしいな

げ、こんなにすんの、はあ、無理だ。

でもポスターぐらいは。

くっそ、でく邪魔。 イレギュラーヘッドを中心に持ってこいよ。

 

「三ヶ木女子、ほれ契約の時間である。 我についてこられよ。」

 

「ん、なに義輝君、ちょ、どこつれてくの?

 

 わたしポスターが・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「初めて会った時からず~と好きでした。」

 

「そう、君の名前は?」

 

「美佳です。」

 

「美佳ちゃん、ありがとう。」

 

”ぎゅ”

 

「ふぇ~、幸せ。」

 

「これからも応援よろしくね。」

 

「は、はい! ず~と応援します。」

 

へへ、握手してもらったよ。

ほんと、もう手洗わない。 いや、なにも触りたくない。

ほらサインに、”美佳ちゃんへ”って書いてある。

ちょ~うれしい。

 

「ありがとう。

 

 間に合ってよかった。」

 

「ぬほん。」

 

「ねぇ、君、写真いいかな?」

 

「へ? いや写真は 」

 

「ほら、こっち見て。」

 

よ、義輝く~ん助けて。

 

「す、すこし待たれよ。」 

 

「なに、だめなのかよ。」

 

「だめってコスプレフェスタだろ。」

 

「なに、あいつが言ってんのかよ。」

 

「もははは、よかろう、写真を撮りたかったら、

 

 順番にならばれるがよい。」

 

うそ こいつ裏切りやがった。

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、やっと終わった。

 

なんか顔から下ばっかり撮られてたような気がする。

後ろからの写真多かったし。

もうやだ、帰る。

 

「おい、そろそろ時間だぜ。」

 

「あ、そうだ、オープンステージ行こうぜ。」 

 

あ、アカ俺のトークショーだよ。

これだけ見てから帰ろ。

 

     ・

     ・

     ・

 

うへ~ 人いっぱいだ。

全然見えないよ。

え、義輝君、手?

 

「いいからついてこられよ。」

 

「えっ?」

 

「ふむふむ、ふ~」

 

こ、これは棒倒しで見せたあの突進力。

でもそんな強引に。

 

「なんだよこいつ。」

 

「お、押すな。」

 

”どん”

 

「ほれ。」

 

へ、一番前。

義輝君、え、あれ義輝君?

 

「さ、さらばだ、ぶふえ。

 

 我が生涯に一片の悔いなし、ひでぶ~」

 

あ、義輝くん、 あ、押し戻されてる。

どこいったんだろ、見えなくなっちゃった。

 

「義輝君、未来で待ってるね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは、トークショーの最後に、新シリーズの主題歌をみんなで歌おう!

 

 みんな盛り上がれV(ビクトリー)サイン!」

 

やった~ 生だ。生で歌ってくれるんだ。

いやっほ~

 

”びり”

 

「ひゃあ!」

 

「おお~! 」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ガタン、ガタン”

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、み、三ヶ木女子、す、すまない。」

 

「そだよ。 義輝君があんなパツパツの着させるから。」

 

「三ヶ木女子。」

 

「な~んてね。うっそだよ~ん。

 

 すっごい楽しかったよ、ありがと。」

 

「よ、よかった。」

 

”ガタン、ガタン”

 

「ところで、み、三ヶ木女子・・・・

 

 眠ってしまわれたか。」

 

”とん”

 

「ん、三ヶ木女子の頭が・・・

 

 ん~いい香り。」

 

「へ・ん・た・い。」

 

「ぶへぇ、お、おきてた、ひ、卑怯。」

 

「へへ、もう少しこのままでいい?」

 

「は、はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「のう、最近なにかあったのではないか?」

 

「わ、わかる。」

 

「ふむ、これでも長い付き合いではないか。」

 

「あ、あのね、わたし初めて本気で人を好きになったの。」

 

「・・・そうで。」

 

「それでね、その人のため、わたしある女の子を傷つけてしまったの。

 

 その娘はね、何でもないよって言ってくれたけど、

 

 わたしねその娘のやさしい気持ちを傷つけちゃった。

 

 わたしって汚いよね。

 

 そんな汚いわたしが、その人の横にいちゃいけないって。

 

 こんな汚いわたしが横にいたら、いろいろ苦労かけちゃうし

 

 いやな思いばっかりさせちゃう。

 

 だから、だからねわたし・・・・・離れることにしたの。」

 

「そうか、そんなことが。」

 

「今日さ、義輝くんとお出かけしてね、ちっちゃい頃よく遊びに行ったなぁって

 

 思い出しちゃった。」

 

「・・・・・」

 

「あの頃、楽しかったね。

 

 戻りたい・・・・・あの頃に。

 

 そしたら、わたしこんなに汚くならずに済んだかな。」

 

「み、美佳っぺ。」

 

「へ、いま美佳っぺって。」

 

「美佳っぺは何も変わっていない。

 

 あの頃のように、やさしい泣き虫の女の子だ。」

 

「うそ。 いいよわかってるから。」

 

「ほんとうだ。 その証拠に、その女子を傷つけたことに

 

 後悔して、ほらいまも泣いてるではないか。」

 

「だ、だって、だって、うあ~ん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「義輝君、今日はその~、いろいろありがと。

 

 ごめんね、コス破っちゃって。」

 

「構わぬ、あれはもともと美佳っぺにプレゼントするものだった。」

 

「えへ、あのね、ちゃんと直すね。

 

 そんでわたし少しダイエットする。

 

 ・・・もう、マッ缶やめるね。」

 

「ふむ、今でも魅力的だと思うが。」

 

「え?」

 

「い、いや、その~また誘ってもいいであろうか。」

 

「うん、行こ。 

 

 でもね あ茶子はダイエットするまで待ってね。」

 

「ふむ、次回は”やおもも”で。」

 

”ベシ”

 

「おい!」

 




最後まで読んでいただき感謝です。

材木座のセリフむずかしい。・・・時代劇調になってしまう。

反省です。 原作読み直そう。

聞いたところによると、12巻でるって。

うれしい反面、原作とつじつま合わせられるかなって心配が。

12巻出るまでおさえようかなぁ。

・・・また夜寝れない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会いたい

見に来ていただいて感謝です。

前話でオリヒロが材木座とデート(?)

同じ時、八幡は一線を・・・

まぁ、予想された通りかと

すみません。 今回もグタグタ展開ですがよろしくお願いします。




アロマランプ

 

これ三ヶ木からもらったんだ。

この暖かいあかりと香りでなんか落ち着くというか、気持ちがやわらかくなって、

いつのまにか寝いってしまう。

おかげでこの前のテストはさんざんな出来だった。

 

・・・そういえば、あいつといるときも、なんか自然でいられてすごく楽だった。

 

隣にいるのが当たり前のように思ってた。

だから、俺は踏み込んじゃいけないとこまで踏み込んでしまったんだろうか。

そういえば、まだ謝っていなかったな。

 

謝らないと、  あやま  ら  な

 

・・・あ~、だめだ。 思考力が働かん、眠い。

 

ぐ~

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

〝ピンポーン”

 

「は~い!」 

 

”ガチャ”

 

「あ、結衣さん、どうしたんですか?」

 

「小町ちゃん、やっはろー。

 

 あのね、今日、ヒッキーと一緒に勉強する約束してたんだけど。

 

 えへへ、ヒッキーいるかなぁ?」

 

「え、うそ。

 

 ちょ、ちょっと待っててください。

 

 お兄ちゃ~ん、起きて!」

 

”ドッドッドッ”

 

「たはは、寝てたんだ。」

 

「お兄ちゃん! ほら、はやく着替えて。

 

 結衣さん待ってるよ。

 

 うわー、何で小町の前で脱ぐかなぁ~

 

 もう、隅っこで着替えて。

 

 え、これ、はぁ~お兄ちゃんだもんね。」

 

「あっ、小町、朝メシ。」

 

「めし無し。」

 

”ドタドタドタ!

 

「ご、ごめんなさい結衣さん。

 

 あの~、しばらくリビングで待っててください。

 

 さ、ささ、遠慮なさらず。」

 

「ありがとう 小町ちゃん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、本当に来たのなお前。」

 

「ひど! ちゃんと朝もメールしたし。」

 

「すみません、結衣さん。 うちの愚兄が・・・

 

 あの~、コーヒーでよかったですか?」

 

”カチャ”

 

「あ、ありがとう。」

 

     ・

 

「さて、なにからするんだ、現国か?」

 

「ちょっと待って、お兄ちゃん。

 

 小町は今からここで録画しておいたドラマを観るのです。

 

 お勉強はお兄ちゃんのお部屋でやってください。」

 

な、なに言うの、この娘は。

うわ~、その笑顔なに?

いや、その目怖いんですけど。

最近お前、一色さんと付き合ってない?

 

「いや、さすがに俺の部屋は 」

 

「ね、結衣さん。」

 

「うん、ヒッキーの部屋行きたいなぁ。」

 

げぇ、こいつら結託しやがった。

まずい、ベッドの下には・・・

 

「おお、これは結衣さん、小町が誘っておきながらですが大胆。」

 

「小町ちゃん!」

 

「さ、ささ、こっちですよ結衣さん。 どうぞどうぞ。」

 

いや、ちょっと待って小町ちゃん。

先行かないで、お兄ちゃんに少し時間を。

 

「お、おい勝手に俺の部屋に 」

 

”ガチャ”

 

「それではです。

 

 あ、お兄ちゃん、ちょっとちょっと。」

 

「おい小町、お前なんてことを。」

 

「プリキラ―のフィギュアは小町が預かってるから。

 

 お兄ちゃん、しっかりね。」

 

へ、み、見られたのね。

はぁ、しっかり勉強するか。

 

「へぇ~、ヒッキーの部屋、割と片付いてるね。」

 

「あたりまえだ、俺は専業主婦希望だからなって、おい由比ヶ浜!」

 

な、なにこの娘、いきなりベッドの下見ないで。

あっぶな~、小町様様だ。

 

・・・あの~由比ヶ浜さん、あなたスカートなの忘れてない?

 

ちょ、ちょっと見えそうなんだが、見ちゃおうかな。

 

「う~ん、ヒッキー、ベッドの下何もないね。」

 

「お前は俺のかぁちゃんか。

 

 当たり前だ、何かあるはずがない。

 

 俺を誰だと思っているんだ。」

 

「ん? ヒッキーはヒッキーじゃない。

 

 あ、あれ、アロマランプ、どうしたの?」

 

「いや、この前、三ヶ木から旅行のお土産ってもらったんだ。」

 

「あ~、城廻先輩達と行ったって時のやつ?

 

 あたしもおみくじの綿棒もらったけど、ヒッキーにはアロマランプ?」

 

「あいつのセンスは俺にもよくわからん。

 

 ほれ、もういいか、勉強始めるぞ。」

 

「う、うん。」

 

な、なにその嫌そうな顔。

君、今日勉強しに来たんだよね、たしか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ここは?」

 

「これはだな、主人公の気持ちの表現になるんだが・・・・」

 

     ・

 

「え、そうなるの。

 

 なんかすごいひねくれた表現だね。」

 

「まあな。」

 

「さすがヒッキー。」

 

・・・それ褒めてるんだよね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「お兄ちゃ~ん、小町ちょっと出かけてくるね~

 

 結衣さんごゆっくり。

 

 ・・・あつ、お兄ちゃん頑張ってね。」

 

「お、おい小町!」

 

いや、なにを頑張るんだ。

べ、勉強だよね、勉強。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、結構頑張った。」

 

ゆ、由比ヶ浜さん。

そうやって背伸びするとその自己主張しているものが

ますます自己主張して、

はっ、なにその目。

 

「お、お前、いまのわざとだろ。」

 

「え、何のことかな。 あ~、ヒッキーやらしい。」

 

くっそ、さっさと勉強しろ。

だけど、自然と目が・・・・・・

恐るべし、万乳引力。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぐぅ~”

 

「あ、あははは、ごめん。」

 

「おう、もうこんな時間か。

 

 ちょっと待ってろ。」

 

「へ?」

 

”ガチャ”

 

「へへ、チャンス。

 

 ちょっとつけてみたかったんだ。」

 

”カチ”

 

「ふあ~、いい香り。

 

 落ち着くね~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「おーい、由比ヶ浜、メシだって、おい。」

 

なに、お前ベッドで寝てるの。

 

この香りは、あ、あいつこれつけたのか。

おそるべし、アロマの力。

 

は! こ、これはパ・・・・

いや、み、見てはいけない。

俺は理性の塊。

・・・・・のはずだよね。

 

「お、おい由比ヶ浜。」

 

「う~ん、ヒッキー、むにゃむにゃ、そんなとこ駄目だよ。」

 

はぁ、なに、どんな夢見てんの?

まったく、由比ヶ浜といい、三ヶ木といい、俺の前で平気で寝るけど

俺って警戒感無し?

 

しかたない、ここは少し教育してやらねばならない。

お年頃の男子、しかも二人っきりの部屋で寝込むとどうなるか。

これは由比ヶ浜のためだ。

由比ヶ浜のためだからね。

う~、やわらかそうな唇。

 

”そ~”

 

『比企谷君。』

 

・・・・・何でお前が。

そんな悲しい顔するなよ。

 

「うん? あ、ヒッキー。 え?」

 

「あ、い、いやすまん。

 

 ほら、ご、ゴミがあって 」

 

「・・・いいよ、ヒッキー。」

 

え、いいって、お前何で目を閉じて。

 

「ゆ、由比ヶ浜、いいのか。」

 

「うん。」

 

「由比ヶ浜。」

 

「お兄ちゃん、ただいま!」

 

”タッタツタッ”

 

こ、小町・・・・

 

”ガチャ”

 

「お兄ちゃん、アイス・・・・

 

 は! ご、ごめんなさい。

 

 お邪魔しました。

 

 ご、ごゆっくり。」

 

「いや、いいから。

 

 ほ、ほれ由比ヶ浜、昼飯できてるぞ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ、パスタだ。

 

 これヒッキー作ったの? 美味しそう。」

 

「まぁ、あるもので作ったんだ。 味は保証しねぇ。

 

 ほら、小町も食べろ。」

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい。」

 

「いや、いいから。」

 

「えへへ、頂きま~す。」

 

「美味しい。 ヒッキーといい、美佳っちといい、本当にお料理上手だね。」

 

「ん、三ヶ木の料理食ったことあるのか?」

 

「うん、ちょっと前にね、美佳っちの家で女子会したんだよ。

 

 急だったんだけど、美佳っち、家にあるものでって作ってくれたんだ。

 

 なんだったけ、あ、そうそう小麦粉のピザとスティック春巻き。

 

 美味しかったよ。」

 

「えっと、三ヶ木さんって、あ、あの義理チョコさん?」

 

「まぁ、あいつ、主婦力すごそうだもんな。」

 

「だって主婦してんじゃん。

 

 すっごい頑張ってるよ。

 

 小学校のころから食事作って、洗濯して、掃除とかもしてるっていうし。

 

 この前もチラシ見ながら悩んでた。」

 

そうだな、そうなんだ。

 

あいつはそうやっていままで暮らしてきたんだ。

親子二人だけで。

 

おれはそんなことも考えずにあいつの大切なとこに・・・

 

「ん、どうしたのヒッキー?」

 

「ん、いや、なんでもない。

 

 さ、食ったら続きやるぞ。」

 

「え~やっぱり。

 

 あ、ヒッキー、ちょっと待った。」

 

”ス~”

 

ん、お前何を。

 

「ほら、ケチャップついてたよ。」

 

「お、おう。」

 

”ぱく”

 

「お、お前・・・」

 

「え?」

 

「あ、あの~、後は小町やっておくね。

 

 ささ、続きはお兄ちゃんお部屋で。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え~、結衣さん晩御飯食べていかないんですか?

 

 父も母もそろそろ帰ってくると思いますし。

 

 ぜひご挨拶を。」

 

「い、あははは。

 

 あ、明日も勉強会だから今日は帰るね。」

 

「ち、残念。」

 

「小町ちゃん、いま地が。」

 

「え、いや~あははは。

 

 そ、そうだ、結衣さん、今度はお泊りで来て下さい。

 

 小町大歓迎しますよ。」

 

「ありがとう、小町ちゃん、じゃあ、今度はお泊りセット持ってくるね。」

 

「はい、是非是非。

 

 兄はいつでも暇ですから。」

 

ね、ねぇ君たち、なに勝手に決めてるの。

いや、日曜の午前中はやめてね。

 

「じゃ、行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」

 

へ?

 

「ちゃんと駅まで送らないと、家に入れてあげないからね。」

 

「お、おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇ、ヒッキー。」

 

「なんだ。」

 

「ヒッキー、最近美佳っちのこと避けてない?」

 

「い、いや、そんなことない。」

 

「そ、そう。

 

 ・・・あのね、美佳っち、優しい娘だよ。

 

 だから、仲良くしてあげてね。」

 

「・・・」

 

「あははは、あたし何言ってんだろう。

 

 ヒッキー、送ってくれてありがとう。」

 

「おう、じゃあ、気を付けてな。」

 

”だき”

 

お、おい由比ヶ浜、こんな人ごみの中でお前。

他の生徒に見られるとまずい。

 

「お、おい。」

 

「ヒッキー、あたしは、あたしはヒッキーのこと好きだよ。

 

 どこにも行かないでね。」

 

「ゆ、由比ヶ浜。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「う~ん。」

 

は、何時だ。 やば、九時半じゃねぇか。

だめだ、やっぱこのアロマランプ、マジやばいわ。

いや、昨日はそれだけじゃなかったけど。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「やっはろー、ゆきのん。」

 

「おはよう、由比ヶ浜さん。」

 

「あれ? ヒッキーまだ来てないの。」

 

「ええ、もう時間なのだけど。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「由比ヶ浜さん、あの男はほっておいて、先に図書館に行きましょう。」

 

「あはは、ちょっと待ってね。

 

 今電話してみるね、あ!」

 

「す、すまん、寝過ごした。」

 

「あら、重役出勤ね。

 

 私たちを散々待たせるなんていい度胸してるわね、寝起き谷君。」

 

「いや、悪い。」

 

「ヒッキー、最近よく寝坊するね。 やっぱあのアロマランプ?」

 

「お、おう。」

 

「アロマランプ?」

 

「ああ、三ヶ木からもらったんだが、すごく心が安らいでな。

 

 つい寝過ごしちまう。」

 

「あら、そのまま永眠してもよくてよ。」

 

「・・・・・」

 

「あははは、ま、まぁそれぐらいで、さぁ、行こ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

「なぁ、雪ノ下、ここの訳はこれで合ってるか?」

 

「そうね、この英文は”fall between two stools”と訳するのが正解ではないかしら。」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうよ、あなたのことだから間違いないわ。」

 

「・・・」

 

「もう、ゆきのんもヒッキーも、あたしだっているんだからね。

 

 あたしもヒッキーの隣に行く。 

 

 ヒッキー、席横にずれて。」

 

「いや、お前がくるといろいろと狭いんだが。」

 

「あら、今の言葉、少し引っかかるのだけど。」

 

「いや、あまり意味はねえぞって、由比ヶ浜強引な・・・」

 

”ぐいぐい”

 

「だめ、ヒッキー横にずれて。」

 

せまっ、ほら肘とかその柔らかいものに当たるだろうが。

まぁ、いいけど。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、ここはどうなるの?」

 

「おい、俺に数学を聞くな。」 

 

「じゃ、ゆきのん。」

 

「由比ヶ浜、お前、雪ノ下の横にいけ。

 

 だから、俺の前に体出すな。」

 

「へへへ。」

 

「お前、わかってやってるだろ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すまん、すこし休憩してくるわ。」

 

ふう、少しのぼせたか。

 

まったく、集中できん、いろいろあって。

ま、まぁなんだ、悪くはないが。

少し頭冷やすか。

 

     ・

     ・

     ・

 

”す~”

 

ん、マッ缶?

 

「冷たいけどいい?」

 

え、三ヶ木、何でお前がここにいる?

 

「み、三ヶ木?」

 

「あら、とうとう本当に目が腐ったのかしら。」

 

「は、あ、雪ノ下。」

 

「ねぇ、どうかしたのかしら? 

 

 あまり集中できてなさそうだけど。」

 

「いや、お前、それは由比ヶ浜のせいだ。」

 

「あ、そう。

 

 でも他にも理由があるんじゃない?」

 

な、なに、雪ノ下さん、もしかしてエスパー?

ははは。

 

『俺の女に手を出すな!』

 

『悪いけどもう話しかけないでくれる? 迷惑なの。』

 

そ、そうなのか、三ヶ木お前あいつともう・・・

 

だめだ、考えないようにしてるんだが。

だからつい、あのアロマランプ使っちまう。

はぁ、どうしたんだろうな、いやどうしたいんだろう俺は。

 

「な、なぁ、雪ノ下。

 

 少しだけ話を聞いてもらっていいか?」

 

「ええ、少しだけならいいわ。」

 

「あのな、 」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「うそつき、長かったわ。」

 

「いや、すまん。」

 

「比企谷君、彼女は少なくとも、なにも意味なく人を罵倒するようなことはしないわ。」

 

「ああ、お前と違ってな。」

 

「な、何か言ったかしら。

 

 まったくこの男は。

 

 あなたからの情報だけでは、なぜ彼女がそんなことを言ったのかわからない。

 

 だけど、これは何の根拠もないんだけど、なにか裏があると思うの。」

 

「そ、そうか。」

 

「あ~ 遅いと思ったら二人でなにしてるんだし。」

 

「ちょうどいいわ、由比ヶ浜さん。」

 

「へ?」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「・・・ということなんだけど、由比ヶ浜さん、あなたはどう思う。」

 

「・・・そっか、そんなことがあったの。

 

 なんでヒッキー、そんな大事なこと言わなかったし。」

 

「・・・」

 

「ヒッキー、ヒッキーは美佳っちがそんなこと平気で言うような娘だと思う?

 

 そんなの、わざとに決まってんじゃん。

 

 無理してヒッキーに嫌われようとしてるのバレバレじゃん。」

 

「な、なんでそんなこと。

 

 俺があいつの進路のことで余計なこと言ったからか?」

 

「うううん、違うと思う。

 

 ヒッキーの気持ちは美佳っちわかってた。

 

 多分原因はあたし。」

 

「なにか言ったのかしら?」

 

「うん、この前、実力テストあったじゃん。

 

 ヒッキー国語めっちゃ悪かったって言ったとき、美佳っちの様子おかしかった。

 

 進路の件もそうだけど、誕生日の件とかヒッキーと美佳っちいろいろあったから。

 

 たぶんね、それで美佳っち、成績下がったの全部自分のせいって感じになったんだと思う。」

 

「いや、お前何でそんないろいろと知ってるんだ。」

 

「だって、美佳っちに聞いたもん。」

 

「だだ漏れなのね。」

 

「ヒッキー、誕生日の件、ほんとひどいからね。

 

 なんで誕生日にあんなこと言うし、夏休みまでって。」

 

「そ、そんなことまで。

 

 あ、すまん、やっぱ俺行くわ。」

 

「待ちなさい。

 

 あの娘がそこまで言ったんだから、今行っても無駄よ。」

 

「そ、そうか、どうすればいいんだ。」

 

「そうね、次の実力テスト、国語だけでいいから学年トップを取ってみなさい。」

 

「いや無理だろう。

 

 お前と葉山以上ってことだろうが。」

 

「当たり前でしょう、私も全力でお相手するわ。

 

 それでもトップを取りなさい。」

 

「そうか。」

 

「そうよ、それしかないわ。」

 

「わかった。 俺、先に戻ってるわ。

 

 雪ノ下、お前もう少し休んでろ。」

 

「そうね、少しくらいハンデをあげる。」

 

”スタスタ”

 

「由比ヶ浜さん、あなた良かったのかしら?」

 

「あたしね、負けないよ美佳っちにも・・・ゆきのんにも。

 

 でも、二人ともあたしの大切な親友だから。

 

 うん、だからこれでいいの。

 

 ゆきのんは?」

 

「私もよ。」

 

「ゆきのん。」

 

”だき”

 

「仕方ないわね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、う~、頑張れ、頑張れ美佳。

 

 君なら出来る。」

 

あと、10mだよ。

 

”ギ~コ、ギ~コ”

 

「や、やったー」

 

へへへ、やったぜ、この坂クリヤーだ。

 

ふ~、やっぱり大分体力落ちてる。

こんな坂ごときに手こずるとは。

でもさ、大分遠くまで来たね。

 

これでダイエットばっちし。

すこしは体重減ったかなぁ。

よ、よし、もうひと漕ぎするぞ!

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、だれ、あっ、刈宿君?

 

「ほ~い、三ヶ木だよ。」

 

「え、か、かわいい。」

 

「あ、いや、ごめん、ちょっとハイだった。

 

 な、なに? 刈宿君。」

 

「あ、美佳先輩、突然なんですが、今日晩飯いっしょに食べませんか?」

 

「ははは、たしかに突然だね。 どした。」

 

「す、すみません。

 

 あの、いまどこですか? やっぱ学校とか。」

 

わたしどれだけ学校好きって思われてんの。

家のほうが好きだから。 なんならずっと家にこもりたいぐらい。

 

「いや、今日、日曜日だから。

 

 いまね、稲毛浅間神社の近くかな。」

 

「え、何でそんなとこに?

 

 あ、俺、いま稲毛小学校にいるんです。」

 

「え、なにしてんの?」

 

「良かったら来ます?

 

 おれのパートナー紹介します。」

 

「うん、じゃちょっと寄ってみるね。」

 

えっと、ナビナビっと。

パートナー紹介するって言ってたね。

どんな子かな?

なんか無口な子って言ってたけど。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふっ、ついた。

えっと、どこにいるんだろう?

 

「美佳先輩、こっちですよ!」

 

「あ、練習してたの。」

 

「はい、あ、紹介します。 

 

 俺のベストパートナー壁君です。」

 

「え、は、はじめまして・・・・って壁じゃん。

 

 そのまんま壁。」

 

「へへ、俺のパートナー壁君2号です。

 

 どんな球を打っても無言で打ち返してくんすよ。」

 

「・・・・頭大丈夫?

 

 2号・・・・1号は?」

 

「え、あ、いや、その。」

 

「1号はどうしたの?」

 

「すみません、ノリで2号って。

 

 俺、小っちゃいころから鍵っ子だったから、いつも壁君と練習してたっす。」

 

「ご両親は?」

 

「帰り遅いから、暗くなるまでここで。」

 

「そ、そう。」

 

「あ、そうだ、美佳先輩、すこしやりませんか?」

 

「あ、いや、わたし球技苦手かなぁって。」

 

「大丈夫ですよ。

 

 ただ、ボールを打ち返せばいいです。」

 

「うん、じゃちっとやってみる。」

 

「うっす。 いきますよ。」

 

”ぼ~ん”

 

”ぽ~ん”

 

     ・

 

「結構うまいじゃないすか。」

 

「そ、そう?

 

 あ、ごめん。」

 

「ほい。」

 

”ぽ~ん”

 

「え、すご。

 

 そ、そういえば、わたし全然動いてない。」

 

”ぽ~ん”

 

「うそ。 

 

 ま、まぐれよね、じゃあ、こっちは?」

 

”ぽ~ん”

 

「ほい。 へへ、美佳先輩、楽勝っす。」

 

く、くそ~、後輩の分際で。

ふ~ん、負けないよ、絶対ミスさせてやる。

 

「えい!」

 

「ほい。」

 

”ぽ~ん”

 

なにこいつ、マジうめ~。

どこに打っても、ちゃんとわたしの右手のとこに返ってくる。

 

「刈宿君、ホントうまいのね。」

 

「へへ、余裕っす。」

 

「それじゃ、これ。」

 

あ、しまった、ちょっと遠い。

 

「なんの、ダーっと。」

 

”ぽ~ん”

 

うへぇ、また同じとこに。

 

     ・

     ・

     ・

 

く、くそー、だ、駄目だ勝てない。

はは、ほんとマジうまいや。

 

「ちょ、ちょっと休憩しよ。」

 

「はい。」

 

「ほんと、うまいのね。わたし一歩も動いてないじゃん。」

 

「これも壁君のおかげです。」

 

「2号ね、壁君2号。」

 

「はい。 っで、今日どうしたんすか?

 

 美佳先輩の家ってここら辺でしたっけ? 」

 

「うううん。 最近運動不足だったし、ちょっとダイエットかねてね。」

 

「へぇ~、でも別にダイエットするほどでもなさそうですけど?

 

 あ、もしかして脱いだらすごいってやつ。

 

 ぼん、ぼん、ど~んって。」

 

”ベシ”

 

「うへ、美佳先輩、最近容赦ないっす。」

 

いや、あんた、ぼん、ぼん、ど~んって、ひど!

 

ちょっとぼん、ふつう、ど~んだからね。

 

「へへ。」

 

はぁ、こいつの笑顔いいよね。

まあ、いいか

 

「あははは、パワーアップしてるから。

 

 あ、そうだ、ちょっと待てって。」

 

「ん?」

 

”がさがさ”

 

「はい、いろはす。 さっきそこで買ったけど、温くなっちゃったかな?」

 

「あ、サンキュっす。 でもいろはすって、大丈夫? 確か会長さんが。」

 

「ふふん、いつもいじられてるから、その仕返し。」

 

”ごくごく”

 

「へへへ、じゃ、俺もっす。」

 

”ごくごく”

 

「ぷふぁ。

 

 あ、そうだ、美佳先輩、大学どこ行くんすか?」

 

「へ、なんで?」

 

「いや、俺も一緒の大学にしょうかなぁって。」

 

「・・・わたしは大学行かないよ。

 

 卒業したら働くつもり。」

 

「そうすか。

 

 じゃあ、職場の近くの大学にすっかなぁ。」

 

おい、あんたそれストーカーかよ。

はは、もっとまじめに考えな。

でも。

 

「ねぇ、・・・・なぜ大学行かないのかって聞かないの?」

 

「なんで?」

 

「あ、そ、そだね、べつに関係ないよね。」

 

「違いますよ。 メッチャ関係あります。

 

 そりゃ、一緒の大学行けたらなぁって思ったし。

 

 ただ、俺は美佳先輩のことだから、一所懸命考えての答えだと思うから。

 

 だから、俺は美佳先輩の考えを尊重するっす。」

 

「あ、ありがと。」

 

「あ、でも希望ならひとつあるかなぁ。」

 

「ん、希望?」

 

「はい、自分のやりたい仕事、目指してください。」

 

「自分のやりたい仕事。」

 

「へへ、偉そうなこと言ってすみません。

 

 でも、自分がやりたいと思うことなら、べつに4年後でも今でも関係ないと思いますし、

 

 俺は全力で応援します。

 

 でも、自分がやりたくない仕事を選ぶんなら、俺、応援できないっす。」

 

「う、うん。 ・・・・えへへ、どっちが先輩かわからないね。

 

 刈宿君、ありがと。」

 

「へへへ。

 

 あ、あの美佳先輩。」

 

「うん?」

 

「この前の奴、大丈夫ですか?

 

 ほらあの校門の前にいた奴、ストーカーなら俺が 」

 

「違うの!」

 

「へっ?」

 

「あ、ごめん、ごめんね。 

 

 ・・・比企谷君は、そんな人じゃないの。」

 

「そ、そうすか。」

 

「あ、もうこんな時間、ごめんね、わたし帰らなきゃ。

 

 晩ご飯作らないと。」

 

「あ、それなら俺送りますよ。」

 

「えっ、で、でもここから遠いよ。」

 

「よっと。」

 

”ベンベン”

 

「ほれ、美佳先輩、乗った乗った。

 

 あ、これって。」

 

「ん、な、なに?」

 

「美佳先輩、”ママちゃり8号”って書いてある。」

 

「あ、いや、そ、それは・・・・」

 

「7号はどこ行ったんすか。」

 

「ごめんなさい。 ノリです、乗り物だけに。」

 

「ぷっ、ほ、ほら、美佳先輩、乗ってください。」

 

「ありがと、よっと。」

 

「いいすっか、しっかり俺に掴まって下さいね。」

 

「うん。」

 

”ぎゅっ”

 

「うへ~、サービスありがとっす。」

 

うわぁ、刈宿君、腹筋すごい。

やっぱ、おとこだね~♬

すこしだけ

 

”さわさわ”

 

「み、美佳先輩、それやめて~、漕げないっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ん、これってVサイン?

も、もしかして刈宿君も。

 

「刈宿君、それってアニメの。」

 

「あ、やば、つい声に・・・

 

 へへ、俺、”アカ俺”大好きなんです。

 

 ガキっぽくてすみません。」

 

「へへ、わたしも大好きなの。」

 

「へ、美佳先輩、もう一回。」

 

「あ、わたしもね、大好きなんだ。」

 

「しまった、録音しておくべきだった。 もう一回だけ。」

 

”ベシ”

 

「しつこい。」

 

こ、こいつは何恥ずかしいこと言わせんだ。

全く油断できん。

 

「おれ、あ茶子ちゃん好きなんです。

 

 なんか、すごくいじらしいとことか。」

 

あ茶子ちゃん・・・・う、トラウマが。

はやいとこ直さなくちゃ。

 

「美佳先輩は好きなキャラとかいます?」

 

なに、そんな愚問をするとは。

 

「決まってんじゃん、イレギュラーヘッド!」

 

「しぶ・・・」

 

「そ、そう? だってあの大人のやさしさ大好き。」

 

それといえないけど、・・・あの目ね、なんかゾクゾクしちゃう。

 

「そうか、大人のやさしさか。 俺頑張るっす。」

 

「ね、一緒に唄おう。」

 

「はい。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「あ、そこら辺でいいよ。」

 

「え、いいすよ、家まで送りますよ。」

 

「で、でも・・・・」

 

「あ、すみません。 俺なんかに家知られるの嫌ですよね。」

 

「ち、ちがう! 

 

 あのね、・・・・・・わたしアパートだから、それもちょっとぼろいかな。」

 

「どこっすか。」

 

「そ、そこ曲がったとこ。」

 

いや、刈宿君、なに怒ってるの。

急に黙り込んで。

だって、ホントにぼろいんだよ。

 

”キ~コ、キ~コ”

 

「あ、ここなんだ。

 

 ど、どう? ぼろいでしょう。 へへ、これが現実。」

 

「何号室っすか?」

 

「202だけど。

 

”タッタッタッ”

 

「ちょ、刈宿君、ま、待って。」

 

”コンコン”

 

「お~い。」

 

”ガチャ”

 

「ん、どなた?」 

 

「あ、お休みのとこすみません。

 

 俺、総武高校一年の刈宿狩也っていいます。

 

 今日は大事なお嬢さんに遅くまでテニスの練習を付き合ってもらって、

 

 ご心配をおかけしすみませんでした。」

 

「お、おう? いや別に心配してねっけど。」

 

「ちょっ、ちょっと刈宿君。」

 

「ああ、美佳を送って来てくれたのか。

 

 ありがとう、まぁ寄ってくか。」

 

「はい。」

 

「お、おい、とうちゃん。」

 

「あ、試合、まだやってたんすね。」

 

「おう、なんか今日はボカボカ打ちやがってよ。」

 

「どっち勝ってます?」

 

「もちマリーンズだ。」

 

「くっそ ライオンズ負けてんのか。」

 

「なに、貴様、ライオンズファンか、千葉県民のくせして。」

 

「これだけは、お父さんでも譲れませんよ。

 

 それで、今日は今から絶対逆転します。」

 

「なに!

 

 よし、お、おい美佳、ちょっとお茶出してやれ。」

 

「いま準備してるわよ。」

 

「こいつにマリーンズの強さ見せつけてやる。」

 

「はぁ? なんなの二人して。

 

 刈宿君しっかり上がり込んでるし。」

 

それに、さっき、お父さんって。

 

”カチャ”

 

「刈宿君、紅茶でよかった?」

 

「あ、ありがとうございます。

 

 あ、やった 逆転ホームラン、さすがおかわり君。」 

 

「く、まだだ、試合はゲームセットまでわからない。」

 

「いや、もう決まりっすよ。」

 

ん、おさわり君? なんてキャラなの。

まったく、この野球バカ二人は。

でも、とうちゃん、楽しそうだね、へへへ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”とんとんとん”

 

「やったー、ライオンズの勝ちだ。」

 

「くそ~。 おれのマリーンズが。」

 

「あ、すみません、すっかりお邪魔しちゃいました。

 

 そろそろ帰ります。」

 

「構わんぞ。 そうだ、晩ご飯食っていったらどうだ。

 

 お~い、美佳!」

 

「へ、いやそれは悪いです。」

 

「あ、いいよ。

 

 もう準備してるから、よかったら食べてって。」

 

「え、いいですか。美佳先輩。」

 

「うん、残ってもあれだから。

 

 あ、でも時間とか大丈夫? おうちの人心配していない?」

 

「あ、うちの親、今日も遅いんで、どっか食べに行こうと思ってたんです。」

 

「ああ、それで電話くれたの。」

 

「はい、できるなら美佳先輩とって思って。」

 

「おう、それなら食ってけ。」

 

「す、すみません、お父さん。」

 

「おい! お前にお父さん呼ばれる筋合いはない。」

 

「あ、すみません、三ヶ木さん。」

 

「ライオンズファンにお父さんとは呼ばせん。

 

 今日からマリーンズファンになれ、それなら許す。」

 

”ベシ”

 

「いてっ。」

 

「とうちゃん、バカ言ってないの。

 

 ほら、ご飯できたよ、こっち座って。」

 

「うわ、美味しそう。」

 

「たはは、こんなことならなんか買っておくんだった。

 

 冷蔵庫にあるものでしか作れなかったからごめんね。」

 

「いや、美味しそうです、頂きま~す。」

 

「うん、どうぞ。 いっぱい食べてね。」

 

「うっま~ この竜田揚げめっちゃ美味いっす。」

 

「おう、美佳は竜田揚げだけは美味い。」

 

「とうちゃん、それあまりうれしくないんだが。」

 

「このジャガイモと玉ねぎの味噌汁もうまいっすよ。」

 

「そう、味の濃さが心配だったんだけどよかった。

 

 あ、鮭のホイル焼きはどう? 焼けてる?」

 

「美佳先輩、毎日ご飯食べに来ていいですか?」

 

「いや、いいよ、そんな言わなくても。」

 

「本当ですよ。

 

 俺、美佳先輩でも、まずいものはまずいって言います。」

 

「そ、そう? お世辞でもうれしい。」

 

「・・・で、お前らどこまでいったんだ。 ちゅ~したのか?」

 

「ぶふぁ、き、貴様なんてことを。」

 

”ベシ、ベシ”

 

「いてぇ、これ、親に向かって。」

 

「親なら少し考えろ。 

 

 それに刈宿君はおとう 」

 

「そうです、お父さん!

 

 これからっす。」

 

「お前、くそ親父に合わせて調子のるんじゃねぇ。」

 

「は、はい。 美佳先輩こぇ~す。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「本当にご馳走さまでした。」

 

「駅まで送らなくて大丈夫?」

 

「大丈夫っす、 美佳先輩に送ってもらったら、俺心配でまた家まで

 

 美佳先輩を送りますよ。」

 

「ははは、ありがと。」

 

「・・・美佳先輩、もう、あんなこと言わないでくださいね。」

 

「へ、あんなこと? 」

 

「おれ、とってもうらやましかったっす。

 

 いっつもお父さんとあんな感じですか?」

 

「あんな感じ?」

 

「はい、お互い冗談言い合ったりとか、なんかめっちゃ温かかったです。」

 

「ははは、とうちゃんはとうちゃんだから。」

 

「そんな温かい家庭なのに、ぼろいとかアパートだからって蔑まないでください。

 

 俺、本当にうらやましかったんすから。」

 

「あ、ありがと。 なんかごめんなさい。」

 

「ん、わかればよろしい。」

 

「お、おい。」

 

「へへ、じゃ帰ります。 また明日。」

 

「ん、また学校でね。」

 

「ああ、明日早く来ないかな。

 

 あ、そうだ、美佳先輩、今度は俺に晩ご飯奢らせてください。」

 

「え、いいよ。」

 

「ダメです。 なにか食べたいものとか行きたいとこあったら教えてくださいね。」

 

「・・・うん、あのね、サイゼ。 

 

 わたし、サイゼのミラノ風ドリア食べたいな。 」

 

「サイゼでいいんですか?」

 

「うん。」

 

「了解です。 それじゃおやすみなさい。」

 

「うん、おやすみ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”蔑まないでください!”っか。

 

刈宿君がそんなこというから、少し思い出しちゃったじゃない。

あいつも言ってくれたんだよね、この部屋のこと。

 

『何にも替えられない価値があるんじゃないのか』

 

うれしかったなぁ。

 

はぁ、比企谷君、ちゃんと勉強してるかなぁ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・会いたいな。




長文、最後までありがとうございました。

連載当初思ってたより、各話が長くなってしまいすみません。

八幡とオリヒロ、なんとか関係修復したいのですが・・・

こんな時はやっぱり。

次話、また見て頂けたらありがたいです。

よろしくお願いします。

訂正

すみません。

延長戦・・・ありえない、削除しました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

届かない想い

毎回、同じですが、やっぱり

見に来てくれてありがとうございます。

すみません。

今回、急遽、一部の内容を差し替えました。

もう少し後の話の内容だったので、無理あったらごめんなさい。

よろしくお願いいたします。


「だから、そんなんじゃないって。」

 

「いや、お前のことだから、生徒総会に向けて水面下で動いてるんだろう?」

 

「何にも動いてないって。

 

 あのね、さっきから言ってる通り、舞ちゃんと部活紹介の取材のお願いに行くんだって。」

 

「あやしい。 三ヶ木、俺の目はごまかせないぞ。

 

 あのな、お前に嫌な役を押し付けて、それでうまくいっても俺達はうれしくないんだからな。

 

 この前の新聞部の時は、後から話聞いてほんと辛かったんだ。

 

 もう少し、俺を・・・いや俺たちを信用しろ。」

 

「・・・ごめん、ありがと。

 

 でもほんとだよ。

 

 いま舞ちゃんと体育館で待ち合わせしてるの。

 

 ちゃんと、会長にも了解とってあるから。」

 

「そうか、じゃ一緒に行こう。

 

 俺、三ヶ木対策本部長だから。」

 

「それやっぱマジ?

 

 まぁ、いいわ。 早くしないと昼休み終わっちゃうし。

 

 ほら、急ぐ・・・・

 

 あっ!」

 

「ん?」

 

”ぎゅ”

 

「お、おい、三ヶ木、なにを。」

 

「静かにしろ!」

 

”ぎゅ~”

 

「ん~、ん、ん。」

 

”どたばた”

 

     ・

 

「え~と、わたし、生徒会の会長してるじゃないですか~

 

 生徒会の役員のみなさん、結構頼りないんですよ~。

 

 勝手に暴走する危ない奴とかいるし。

 

 だから、わたしがいないとだめなんですよ。」

 

な、なに! あのジャリっ娘め。

 

あんたがいなくても大丈夫だわい。

 

くっそ、人のこと危ない奴って。

 

憶えてなさい。  ぷん!

 

まぁ、・・・・あんたがいないと締まらないこと確かにあるけどさ。

 

”もがもが”

 

「うるさい!」

 

”べし”

 

「それに、サッカー部のマネージャーもしてるんですよ。

 

 だから、いま、恋愛とかやってる時間ないんです。

 

 ですから、ごめんなさい。

 

 それではです。」

 

ふぇ~、目撃しちゃった。

 

やっぱ、ジャリっ娘人気あんだよね。

 

まぁ、実際、外面かわいいし、内面は別として。

 

あ、やば、ジャリっ娘、こっち来る。

 

か、隠れないと。

 

”ぎゅ、ぎゅ”

 

「・・・・」

 

”タッタッタッ”

 

「あ! 葉山先輩、どこいくんですか?」

 

「やぁ、いろは。 ちょっと部室までね。」

 

「あ、わたしも部室に用事あったんですよ。

 

 ほら、GWの部活予定とか~

 

 チェックしないとです。

 

 あの、一緒に行ってもいいですか~♡」 

 

「ああ、いいよ。」

 

     ・

 

ふぅ、行ったね。

 

でも、あの男の子、どこかで見たんだよね。

 

誰だったけ?

 

”スタスタスタ”

 

「あっ、いた。 ジミ子先輩、遅いです・・・・え?」

 

「ん、あ、舞ちゃんごめんね。」

 

「い、いえ、・・・そ、その~、すみませんでした。

 

 ご、ごめんなさい。

 

 あの、ごゆっくり。」

 

”タッタッタッ”

 

「へ?」

 

あれ、舞ちゃん、どこいくの?

 

ん、なんだっけこれ? ・・・あたま?

 

あ、稲村君。

 

「ご、ごめん、稲村君、大丈夫?」

 

「ほわぁ~・・・・大福もち?、マシュマロ?。

 

 やわらか~。」

 

”べし”

 

「おわぁ。 いてぇ~。

 

 は、ここはどこだ。」

 

し、しまった、つい稲村君の頭抱きしめてた。

 

おい、なに鼻血だしてんだ。

 

あ、やば、舞ちゃん、絶対勘違いしてる。

 

「ま、舞ちゃん、待って~ ち、違うの。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「昨日はびっくりしましたよ。ジミ子先輩。」

 

「いや、あれはほんと違うんだからね。

 

 そんなんじゃないから。

 

 それと、いいかげん、その呼び名やめなさい。」

 

「え~、だってあんなにしっかり抱き合ってたじゃないですか。

 

 あれはどうみても・・・うわ! やらしい校内で。」

 

「もう、いい。 まったく、ぷん!」

 

「あ、ごめんなさい。

 

 冗談です、いまの冗談ですって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぽ~ん”

 

”ぽ~ん”

 

「あ、戸塚く~ん、練習中ごめん、ちょっといい?」

 

「あ、三ヶ木さん。 うん、いまそっち行くね。」

 

”タッタツタッ”

 

「よっす! 三ヶ木さんどうしたの。」

 

「よっす! あのね、学校新聞で部活動の紹介をすることになったの。

 

 その一番目にテニス部を取材させてもらいたいんだけど、お願いできるかなぁ?」

 

「うん、いいよ。 僕もテニス部紹介してもらって、いっぱい入部してくれるとうれしいし。」

 

”くい、くい”

 

「な、なに、舞ちゃん?」

 

「戸塚さんって、女子?」

 

「違うよ、僕、男子だよ。」

 

「うっそ~、だってわたしよりかわいいじゃないですか。」

 

「・・・・」

 

「あ、戸塚君、でも最近さ、ほんと部長って感じしてるね。

 

 なんかみんなをまとめてて、すっごい男っぽいと思うよ。」

 

「本当? ありがとう、三ヶ木さん。」

 

「本当だよ。わたし危なく惚れちゃうとこだった。」

 

「え、三ヶ木先輩、あの会計さんとアツアツじゃないですか?」

 

「おい!」

 

「三ヶ木さん、浮気はだめだよ。」

 

「え、浮気? 戸塚君なんのこと?

 

 あ、それで取材はいつ頃お願いできるかな?」

 

「それじゃ、ん~早速だけど明日はどう?

 

 明日は午前中、練習なんだけど。」

 

「うん、ありがとう。 舞ちゃん大丈夫だよね。」

 

「はい。 それじゃ、明日お邪魔します。」

 

「戸塚君、練習は邪魔しないようにするからね。

 

 練習中は、部活の雰囲気とか写真撮らせてもらって、

 

 終わってから部長さんインタビューみたいな感じでお願いします。」

 

「うん。 じゃあ、明日待ってるね。」

 

「はい、戸塚先輩、お願いします。」

 

”タッタッタッ”

 

「ジミ子先輩、戸塚先輩ってめっちゃ可愛いじゃないですか。」

 

「舞ちゃん、戸塚君にそれ禁句だからね。

 

 結構気にしてんだから。」

 

「え、なんでです?」

 

「戸塚君は男ぽいって言ってもらいたいんだよ。

 

 それに部長だからさ、いろいろ部員への抑えとか大変なんだよ。

 

 だから、絶対部員さんの前で可愛いとかは禁句だからね。」

 

「は~い。」

 

「でも、実際可愛いよね、うらやましい。

 

 去年、男子なのに、女子人気投票のランキングに入ってたから。

 

 それも20票。」

 

「へ~、まぁ、わたしより下ですね。」

 

「あんた、戸塚君、男子だからね、もし女子だったら。」

 

「そ、そうですね、やばいかも。

 

 ちなみにジミ子先輩は?」

 

「1票。」

 

「うそ! 買収した、あ、昨日の会計さんか。」

 

「いや、違うから。 買収もしてないからね。

 

 それから、何で二人の時はジミ子なの。」

 

「へへへ。」

 

まったく。

 

でもだれだろう一票?

 

稲村君は生徒会なるまで知らんかったし。

 

う~ん。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”にやにや”

 

「ん、三ヶ木、何見てんの?」

 

”すー”

 

「あ、だめ~」

 

「これ、人気投票の時の号外じゃない。

 

 これ、まだ持ってたのあんた。」

 

「返して、沙希ちゃん。」

 

「はいはい。 ねぇ、あんたまだ比企谷と仲直りしてないの?」

 

「う、うん。 だって・・・」

 

できるわけないじゃん。

 

わ、わたしのほうから話しかけないでって言ったのに。

 

比企谷君、成績が上がってるといいなぁ。

 

だって、わたしこんなに我慢してるんだもん。

 

「そんな写真みてて、ニヤニヤしてるんならさっさと仲直りしちゃいな。」

 

「ぐっ。 ニヤニヤなんかしてないもん。」

 

だって、悔しいけどこの写真、一番彼らしいんだもん。

 

瀬谷君、データーくれないかなぁ。

 

へへへ。

 

「ほら、やっぱりニヤニヤしてんじゃん。

 

 ほんと、あんた面倒くさいね。

 

 ・・・仕方ないね。 

 

 三ヶ木、7日ってさ、なんか用事あったりする?」

 

「へ、7日なら大丈夫だよ。」

 

 7日なら家の掃除とか部屋の模様替えしようかなって思ってたぐらいだから。

 

 でも、なんだろう?

 

 まさか沙希ちゃんからデートのお誘い? 久しぶりにぐへへへ。

 

「な、なにその顔? なんか背筋が寒かったんだけど。

 

 じゃあさ、頼みがあるんだ。

 

 実はさぁ、7日、町内の運動会があってね。

 

 京華が駆けっこに出るんだけど、あたし午前中バイトでさ。

 

 ねぇ、午前中、京華みててくれない。」

 

「けーちゃん、駆けっこ出るんだ。

 

 うん、行く行く。

 

 沙希ちゃんちに行けばいいの?」

 

「あ、また詳しいことは連絡するよ。

 

 じゃ、頼んでいいかい?」

 

「ラジャー、任せといて。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様で~す。」

 

「あっ、三ヶ木先輩、稲村先輩、どうかしたんですか?」

 

「へ?」

 

「昨日、三ヶ木先輩、部活回りしてたから見てないでしょうけど、

 

 稲村先輩、あんな感じでぼ~ってしてるんですよ。」

 

「えっ。」

 

げ、昨日からあんな感じなの?

 

ふふふ、わたしも捨てたもんじゃないねって。

 

でも、ちょっとまずいかも。

 

”ベシ”

 

「へへ。」

 

なに? 利かないの。

 

ならば、師匠直伝の。

 

「抹殺のラストブリット!」

 

”ぼこ”

 

「ぐはぁ! ・・・・は、お、俺は何を?

 

 なんか、めっちゃお腹いたい。」

 

ふ~、やっとこの世に戻ってきたか。

 

感謝しなさい。

 

「お疲れ様で~す♡

 

 みんないます?」

 

「いろはちゃん、お疲れさま。」

 

「ご苦労さまです、会長。」

 

「会長、遅い! ぷい。」

 

「・・・」

 

「何ですと、美佳先輩、そんなに遅くないじゃないですか。

 

 え~と、い、稲村先輩、どうしたんです?」

 

「いや、なぜか気がついたら急に横腹に激痛が。」

 

「そ、そうですか。 ・・・お大事に。

 

 それはそうと副会長、生徒総会の資料、どんな感じですか?」

 

「うん、残ってた部活報告は、昨日三ヶ木さん集めてきてくれたから

 

 今日中に終わると思うよ。

 

 あとは、予算関係のほうが残ってたみたいだけど、稲村どうだ?

 

 ・・・お、おい大丈夫か?」

 

「お、おう俺は大丈夫だ。」

 

「いや、予算のほう・・・・」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「おはよう、舞ちゃん。」

 

「おはようございます、ジミ子先輩。」

 

「もういいわ、そんで。

 

 じゃ行こうか。」

 

「はい」

 

「でもさ、瀬谷君達は来てくれないの?」

 

「あの、まだ、ちょっとなじめなくて。

 

 それにあの狭い部屋に男子ばっかいるんですもん。

 

 話ししにくいです。」

 

「そうか。」

 

「あ、美佳先輩、おはようございます。」

 

「あ、おう刈宿君おはよ。」

 

「え、かり・・・誰? 結構いい感じじゃないですか。」

 

「今日はどうしたんすか?」

 

「うん、今日ねテニス部の取材にいくんだよ。」

 

「へぇ~、俺頑張ります。 

 

 いいとこ見せないと。」

 

「あ、あの~、三ヶ木先輩。」

 

「あ、紹介するね、二年生の蒔田舞ちゃん。

 

 こっちは、一年の刈宿狩也君。」

 

「あ、刈宿です。

 

 いつも美佳先輩がお世話なってます。」

 

「おい、わたし世話になってないから。

 

 今日も世話してるほうだから。」

 

「へへへ、じゃ一緒に行きましょう。」

 

「刈宿君、テニス部入ったんだ。」

 

「まだですよ、正式な入部は総会終わってからです。

 

 いまは見学ってことで。」

 

「そ、そう、ごめんね。

 

 あまり練習できないんじゃない?」

 

「全然大丈夫っす。 おれには壁君いますっから。」

 

「2号ね、2号。」

 

「うっす。」

 

「あのー、わたしも会話に入れて。」

 

「え、ああ、ごめん。」

 

     ・

 

「じゃあ、美佳先輩、行ってきます。」

 

「うん、練習の邪魔をしないようにするからね。

 

 行ってらっしゃい。」

 

「はい、行ってきます。

 

 あ、今日、この前の約束どうですか?」

 

「うん、いいよ。」

 

「うっす。」

 

「・・・ジミ子先輩。」

 

「ん?」

 

「どっち狙いなんですか?」

 

「はぁ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、戸塚先輩、こっちに顔、お願いします。」

 

”カシャ”

 

「はい、OKです。 戸塚先輩、どこからとっても絵になるからばっちりです。」

 

「あ、ありがとう。

 

 ふう、インタビューって慣れないね。」

 

「うん、ご苦労様。 はい、いろはすどうぞ。」

 

 どう、舞ちゃん、もう取材は大丈夫?」

 

「あ、はい。 ありがとうございました。」

 

「戸塚君、今度は地区大会での勝利インタビューに来るからね。」

 

「うん、ありがとう、三ヶ木さん。」

 

「あ、そうだ!

 

 戸塚先輩、折角なのでテニス教えてくれませんか?

 

 わたしテニスやったことないので、記事を書く上で是非経験してみたいです。」

 

「そうだね、いいよ。

 

 じゃあちょっとやってみよう。」

 

「あ、折角だから、刈宿君も入れて四人でやりましょうよ。

 

 ね、三ヶ木先輩。」

 

「わたしもやったことないから下手だよ。」

 

「・・・ついでですからどうでもいいです。

 

 ねぇ、そこの刈宿君、ちょっといい?」

 

「え、あ、はい。 そこの刈宿です。」

 

     ・

 

「じゃあ、ペア決めね。

 

 ペアは折角ですから三年生は三年生同士ってことで。

 

 わたしは刈宿君ということで。」

 

「あ、俺、美佳先輩と  」

 

「いいから、はいこっち。」

 

”にぎ”

 

「いや、その・・はぁ。」

 

「ねぇ、刈宿君、ラケットってどう持つの?」

 

「あ、そうですね。 はい、えっと蒔田さん? 握手っす。」

 

「え、あ、はい。」

 

”ぎゅ”

 

「いや、手じゃなくてラケット。」

 

「は~い♡」

 

「そう、ラケットと握手するような感じでいいです。」

 

「ふ~ん、ねぇ、戸塚君、なんかいい感じだね。」

 

「え、三ヶ木さんいいの?」

 

「うん?」

 

ほら舞ちゃんも可愛いし、美男美女って感じで。

 

うんうん、お姉さんうれしいよ。

 

頑張るんだぞ、刈宿君。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぽ~ん”

 

「刈宿君、任せといて。 エイ!」

 

”スカ”

 

「へ? あ。」

 

”ずで~ん”

 

「いた~い。」

 

「はい、蒔田さん大丈夫ですか? はい手。」

 

”にぎ”

 

「あ、ありがとう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぽ~ん”

 

”ぽ~ん”

 

”バシ!”

 

”すか”

 

「あ、もう! あのさ、刈宿君。

 

 何で三ヶ木先輩のとこにばっかり打つのさ。

 

 しかも、めっちゃ打ちやすそうなのばっかりじゃん。」

 

「え、そうでした?」

 

「そうです、も~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい刈宿君、タオル。」

 

「あ、ありがとうございます、蒔田さん。

 

 あっ、このカバの刺繍、かわいいすね。」

 

「そ、それ犬だけど。」

 

「・・・」

 

 

よしよし、いい感じ。

 

ここはわたしが一肌脱いてあげようかな。

 

あとで刈宿君に舞ちゃんのアド教えちゃおう。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

あ~お腹すいた。

 

なんか一年分、スポーツしたような感じ。

 

明日筋肉痛かな。

 

”ぐぅ~”

 

「げ。」

 

「ははは、美佳先輩のお腹の音、かわいいすっね。」

 

「いや、今の刈宿君だから。 わたし、基本的にお腹の音ならない構造だから。」

 

「え、なんすかそれ? 

 

 はいはい、俺っす。 俺の腹でいいです。」

 

「えへへ、ありがと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、わたし、ミラノ風ドリアお願いします。」

 

「俺も同じもので。」

 

「はい、畏まりました。 少々お待ちください。」

 

「え、刈宿君、一緒なのでよかったの?」

 

「美佳先輩の一押しでしょう。

 

 俺、一緒なの食べてみたいっす。 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇねぇ、刈宿君、高校入って好きな人出来た?

 

 あの、今日とか?」

 

「ぶはぁ、な、なんすかいきなり。

 

 ・・・はい、出来ました。」

 

「へ~、どんな感じの娘?」

 

「へへ、絶対内緒ですよ。

 

 俺の一目惚れなんですけど。

 

 その人は、とってもやさしくて、そんで家庭的なんです。

 

 あ、それでドジなんだけど、かわいいんです。」

 

ん~と、確か・・・

 

『いや、手じゃなくてラケット。』

 

『は~い♡』

 

『刈宿君、任せといて。 エイ!』

 

”ずで~ん”

 

『いた~い。』

     

『はい刈宿君、タオル。』

 

『あ、ありがとうございます、蒔田さん。

 

 あっ、このカバの刺繍、かわいいすね。』

 

『そ、それ犬だけど。』

 

へへへ、お姉さん、わかっちゃった。

 

でも、ちょっと意地悪しよ。

 

「へ~、ね、ね、だれ? だれよ お姉さんに言いなさい。」

 

「へ? ・・・・・・・嫌ですよ。」

 

「ねぇ、イニシャルでいいから。」

 

「・・・・・MMっす。」

 

「へ、へ~やっぱそうなんだ。

 

 確かにかわいいもんね。

 

 そうかよし、お姉さんに任せなさい!」

 

「はい? あの~、美佳先輩?」

 

「お待ちどうさまです、ミラノ風ドリアです。」

 

「あ、はい。 ありがとうございます。」

 

「それではごゆっくり。」

 

「いたっだきま~」

 

「い、いっただきま~」

 

「いや、真似せんでいいから。」

 

「お、う、うまいっす。 へ~。」

 

”ぱくぱく”

 

「そんなに慌てないで。 よく噛んで食べなさい。」

 

「は~い。」

 

へへ、美味しそうに食べるね。

 

あいつも美味しそうに食べてたなぁ。

 

     ・

 

『おう、このミラノ風ドリアは何回食べてもうまい。

 

 この値段でこのうまさは文句の言いようがない。』

 

『一口、ちょ~だい。』

 

”ぱく”

 

『あ、おま、なんてことを。』

 

     ・

 

なんか、ず~とず~と昔のことみたい。

 

あの時、楽しかったなぁ。

 

「み、美佳先輩、どうしたんすか?」

 

「え?」

 

「いや、その。」

 

「あ、ごめんごめん、何でもない。

 

 めちゃ美味しくてね、つい。

 

 ははは、年取ると涙もろくなるんだよ。

 

 やだね~年はとりたくないや。」

 

「・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ~食った食った。 それじゃあ帰ろうか、じゃあね。」

 

「美佳先輩、俺が奢るって言ったのに。

 

 なんで先払っちゃうんですか。

 

 それに駄目ですよ! 家まで送ります。」

 

「いいよ。 だって今日は家の中が・・・・

 

 だって明日片付けようと思ってたんだもん。」

 

「ははは、今日は部屋にはあがりませんよ。

 

 送るだけです。

 

 さぁ、行きますよ。

 

 鞄持ちますね。」

 

「あ、ちょ、ちょっとまって。」

 

まったく、こいつは・・・・・こいつもやさしいね。

 

ありがと。

 

「あっ!」

 

 

「だから、大変だったんだよ、ゆきのん。」

 

「そ、そうか。」

 

「もう、ヒッキーが悪いんだからね。」

 

「それで、お前本当に泊まるのか?」

 

「あったりまえだし。

 

 この前ヒッキーの家でした時、約束したじゃん。

 

 ・・・今日はしっかりお泊りセット持ってきたし。」

 

え、結衣ちゃん、お泊り・・・・・そ、そんな。

 

この前、比企谷君ちでしたって、な、なにをしたの。

 

「きょ、今日は、ヒッキーの全てを見せてもらうんだからね。」

 

「俺は早く寝たいんだが。」

 

「ヒッキーは寝てていいよ。」

 

「いや、そんなわけいかないだろ。」

 

 

・・・なんで? いつの間にそんな関係にまで。

 

返事は一年後って言ってたじゃん。

 

こんなことなら、こんな苦しい想いするのなら、あん時、あきらめたのに。

 

「み、美佳先輩、あの人は校門の。」

 

「うん。」

 

 

「今日は親もいるんだ、あまり大きな声は出さないでくれ。」

 

「ひど、あたしそんなに大きな声出さないから。」

 

うそ、うそだよね。

 

いや、いやだよ。 なんで・・・

 

比企谷君のバカ!

 

ゆ、結衣ちゃんもキライ!

 

”タッタッタッ”

 

「み、美佳先輩? あ、鞄。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「ただいま。小町帰ったぞ。」

 

「やっはろー、小町ちゃん。」

 

「あ、結衣さん、お待ちしてましたよ。」

 

「小町ちゃん、例のものは?」

 

「はい、ばっちり、用意してますよ。

 

 お兄ちゃんの赤ちゃんの頃からのアルバム

 

 ぜ~んぶ、用意しました。」

 

「ありがと、小町ちゃん。

 

 今日はヒッキーで盛り上がろ~」

 

「はいです。」

 

「ね、俺の写真で盛り上がるのやめてくれない。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

いや、いやだよ。

 

やめてよ。 なんで・・・・・そんな。 

 

”つんつん”

 

「へ?」

 

”ぷにゅ”

 

「わ~い、ひっかかった。」

 

「刈宿君。」

 

「美佳先輩、もう暗くなりますから、送りますよ。」

 

「・・・」

 

「ほら、立って。」

 

「・・・たくない。」

 

「へ?」

 

「帰りたくない。」

 

「・・・」

 

「刈宿君、わたし・・・・帰りたくない。」

 

「・・・・・・・・わかりました。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは103号室になります。

 

 時間は2時間でよかったですか?」

 

「はい。 

 

 あ、美佳先輩、103号室です。

 

 どうします?

 

 行きますか、それとも、もう帰りますか?」

 

「・・・うううん、行く。」

 

「じゃあ、先に行って準備しておいてください。」

 

”スタスタ”

 

「 さてと。」

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

「ビクトリーサイン! いぇ~い。」

 

「あ、ひど。 それ俺の持ち歌なのに。」

 

「へへ、早いもの勝ちだよ~」

 

「くっそ、じゃ俺は、え、美佳先輩、スゲ~いっぱい予約してるじゃないですか。

 

 しかもアニソンばっかり。」

 

「早いもの勝ちだもん。

 

 今日は、アニソン祭りだよ。」

 

「もう、今日は美佳先輩のコンサートでいいっす。

 

 はい、オレンジジュースでよかったですか?」

 

「え~、わたしミルクティ―がいい。」

 

「はいはい、次はミルクティ―にしますね。

 

 さぁ、今日はいっぱい歌いましょう。」

 

「よし、よく言った、歌うぞ~ エイ、エイ、オー!」

 

「へ?」

 

「ノリ悪~。 ほれ、エイ、エイ、オ-!」

 

「もうやけくそ、オー!」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「いや~、歌った歌った。」

 

「ほんとっすよ。 2時間も一人で歌い続けるなんて。」

 

「ごめん、ごめん。」

 

「いいですよ。 俺も楽しかったっす。

 

 それにデュエットできたし。」

 

「あ、ちょっと待てて。」

 

”ガチャ”

 

「えっと、コーヒーだったけ?」

 

「え、あ~、それじゃミルクティーで。」

 

「え、そんな甘いの飲んだっけ?」

 

「誰かさんと一緒がいいんです。」

 

”ガタン”

 

「まったく、ほれ。」

 

「はい、ありがとうっす。 はい。」

 

”ガチャ”

 

「え?」

 

「何にします? 一応。」

 

「ミ、ミルクティーで。」

 

”ガタン”

 

「はい」

 

「ありがと。 座ろ。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・刈宿君、今日はごめんなさい。」

 

「いいっすよ。 

 

 前から言ってるでしょ。 俺は美佳先輩のためなら何でもするって。」

 

「あのさ、なんで? なんで、わたしなんかにそんなこと言ってくれるの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん?」

 

「あ、お、・・・・・・・」

 

「なに? 言いたいことあんならはっきり言いな。」

 

「お、おれ・・・、その・・・・・」

 

「わかった。 ご飯でしょ、いいよ作ってあげるからいつでもおいで。」

 

「違うっす! 俺、俺、美佳先輩が・・・・・・・す。」

 

「は?」

 

「くっそ!」

 

「なによ、なんで怒られなきゃいけないの。」

 

「あ、いや、違くて、もう、いいや、美佳先輩、月がとっても綺麗ですねっす。」

 

「へ、月が?」

 

「いや、あの、その・・・漱石が・・・」

 

「刈宿君。」

 

「はい。」

 

「今日曇ってるよ。 ほら、月なんて見えないじゃん。

 

 うそつき。」

 

「へ? あ、いや、そういう意味じゃなくてですね。

 

 あの、夏目そ 」

 

「ん、夏みかん?」

 

「・・・・・いえ、もういいです。

 

 とにかく帰りますよ。

 

 ほら送ります。 はぁ~。」

 

「な、何で溜息?」

 

・・・・・ありがと、刈宿君。

 

うそつきはわたしだよ。

 

でもまだわたしは・・・・・・

 

い、いま、わたしができることはこれくらいしか。

 

ごめんね。

 

「ね、刈宿君、手つなごっか。」

 

「うっす。」

 

”ぎゅ”




最後まで、ありがとうございました。

なんとか、投稿間に合ったって感じです。

今回の話書いてた時に、ふとテレビを見ると

・・・なんで小林さんが運動会に。

前の話で、コスプレ撮影会もダブってしまったし・・・・

そんなわけですみません、急遽今回の話と入れ替えになりました。

あの目といい、小林さん、要チェックです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後悔

すみません。

投稿、遅くなりました。
(本当、週刊誌連載のマンガ家さんはすごい)

今回、オリヒロの誕生日ということでもないですが、
ちょっと長文になってしまいました。

ごめんなさい、飽きずに最後まで読んでいただけたら
ありがたいです。

それではよろしくお願いいたします。



「ごめんね、美佳ちゃん、少し重たいけどお願いね。」

 

「うん。 お母さん、ちゃんと渡してきます。」

 

「あ、それと美佳ちゃん、たまには家に遊びにおいで。

 

 めぐりいなくなってから、旦那と二人だけだから寂しくてね。」

 

「はい、ありがとうございます。 

 

 今度絶対いきますね。 

 

 お母さんの作ってくれるオムライス、めっちゃ美味しいもん。」

 

「そう、じゃあ来るとき連絡してね、ご馳走してあげるから。

 

 それはそうと、美佳ちゃん彼氏できたの?」

 

へ? 何でいきなり。

 

「いえ、彼氏なんていませんよ。」

 

「そう? なんか最近綺麗になったから。」

 

「え、そ、そうですか。 へへへ、ありがとうございます。」

 

「あ、社交辞令だから。」

 

げ、またしても、この人は。

 

「でも、彼氏いなかったかしら?」

 

「い、いませんよ。 この17年間ただの一人として。」

 

「そ、そうなの。 でも、たしか うちの旦那が・・・・・」

 

やば、めぐねぇに見られてたってことは、あれ見られてたかも。

 

「あ、そろそろ電車の時間なので行きますね。」

 

「あ、はいはい。 美佳ちゃん気を付けてね。」

 

「はい。 行って参りますです。」

 

”スタスタ”

 

は、危なかった、さっさとこの場を退散、退散っと。

 

「あ、そうだ、思い出した。

 

 美佳ちゃん、路上でチューしたらだめだよ!」

 

げ、いや~、めぐねぇのお母さん、そんな大きな声で言わないで。

やっぱ、見られてたんだ。

そ、それにこんな人ごみの中でなんということを。

ひえ、ほら周りの人の視線つめたー

 

”ガタン、ガタン”

 

へへ、めぐねぇの大学か、楽しみだな。

あ、そうだ、連絡入れとかなきゃ。

え~と、

 

『めぐねぇ、今、総武線に乗ったよ。

 

 東京駅に着いたら、また連絡します。』

 

っと、よし送信開始。

 

”ブ~,ブ~”

 

はや、返信はや! なになに。

 

『いま学校だよ。 あ、時間だ、ごめんまたあとでね。 』

 

え、大学ってGW中でも授業あるんだ。

やっぱ違うね。

それじゃあ、ちょっと荷物重いけど、頑張って学校まで行ってみよっと。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

うは、やっぱ高校とは違うね。

広いな~。

 

どうしょう、めぐねぇの教室なんてどこかわからないや。

それと、あんまり人いないね。

授業中だからかな。

 

しゃ~ない、授業おわるまで校門で待ってよっと。

きっとチャイムがなるとか、生徒さんが出てくるとかでわかるんじゃないかな。

そしたら、もう一回連絡してみようっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

るんるん♬

早く授業、終わらないかなぁ~

 

「ねぇ、君、待ち合わせ?

 

 さっきから見てるけど、なかなか彼氏こないね。」

 

「え、あ、彼氏待ってるんじゃないです。」

 

「あ、そう、じゃあ、ほらそこの喫茶店に入って待ってない?

 

 あそこなら、窓側の席からここよく見えるよ。」

 

「え、いや、いいです。」

 

「まぁまぁ、遠慮しないで。

 

 あの喫茶店の紅茶美味しいよ。 奢らせてよ。」

 

「いや、本当にいいです。

 

 わたし、他人様に奢ってもらう気は全くありませんので。」

 

「ちぇ、なんだい。 じみ~なくせに気取ってんなよ! バ~カ。」

 

ひど、なんで知らない人から馬鹿呼ばわりされないといけないの。

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、なんだよ、ノリ悪いの。」

 

「おい、こんなやつ、ほっといていこ~ぜ。」

 

     ・

     ・

     ・  

 

「ね、ミステリー研究サークルなんだけど入んない?

 

 良かったらお茶でもしながら話さない?」

 

「いえ、いいです。 わたし高校生なので。」

 

「気にしないよ。」

 

「気にします!」

 

 

何なの! 

なんで見ず知らずのあんたらに奢ってもらわないといけないの。

ば、馬鹿にしないでよね。

 

でも、わたし、そんなに奢ってほしそうな顔してるのかなぁ。

誰にでも奢ってもらってるわけじゃないのに。

 

はぁ~、なんなん、大学生ってこんな人ばっかなのかなぁ。

なんか少し幻滅。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹へった、なんか幻滅したら急に腹減った。

今何時? え、もうこんな時間か。

めぐねぇ遅いな。

 

”ブ~,ブ~”

 

あれ、めぐねぇから電話?

 

「お~い、美佳いまどこにいるの?」

 

「え、学校だよ、校門だと思うけど。

 

 めぐねぇ、授業終わった?」

 

「授業? ああ、講義のこと?

 

 私、いま自動車学校にいるんだよ。

 

 待たせてごめんね。

 

 今日の学科は終わったから、どこで待ち合わせしようか。」

 

「自動車学校? 大学じゃないの。

 

 めぐねぇ、腹へった。 もう一歩も動けな~い。」

 

「わかったわかった。 

 

 今そっちに行くから、ついたら昼ご飯にしょう。」

 

「うん、ご馳走様です。」

 

「おい、苦学生なめんな、奢らないから。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

「おばちゃん、私いつもの定食ね。」

 

「あいよ。 かわいい妹さんはなんにする?

 

 今日、いい海老はいったから、天丼がお勧めだよ。

 

 ちょっと高いけど。」

 

う~ん、どれにしょうかなぁ。

悩むな~

え、かわいい妹さん? えへへ、かわいい。

 

「おし、おばちゃん、天丼で。」

 

「あいよ。」

 

「美佳、あんたね・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どう、美佳、結構美味しんだよこのお店。」

 

「うっま~、ほら海老でっかいし。」

 

「美佳、その海老、本当に美味しそうだね。

 

 ひとつちょう~だい。」

 

「い、いやだよ。 あ!」

 

”ぱく”

 

「う~ん、おいしい♡」

 

「ひど、うううう・・・・・・」

 

「な、泣かないで。 もう、ほれ、カツ一切れあげるから。」

 

「う~、もう一切れ。」

 

「え~、しゃ~ない、ほら。」

 

「えへへ、よかろう。 勘弁してあげよう。」

 

「まったく、うふふふ。」

 

「えへへへ。」

 

     ・

 

「美味しかった。 やっぱ、ただ飯サイコー。」

 

「おい、奢らないから。」

 

「え~、すご~く待ったのに。 荷物重たかったなぁ~

 

 それに、何人も男の人に声かけられて怖かったし。」

 

「わかった、わかった。奢ってあげるわよ。」

 

「へへ、ごっつあんです。」

 

「そんでさ、美佳、どこか行きたいとこある?」

 

「あ、わたし、めぐねぇの大学行きたい。 あとそれと浅草寺。」

 

「浅草寺? 何見たいの?」

 

「うん、あのでっかい提灯と、寅ちゃんのお団子食べたい。」

 

「美佳、食べることばっかだね。」

 

「だって、食べたいんだもん。」

 

「食いしん坊だね。 じゃあ、今日は大学行こうか。

 

 でも、休みだけどいいの?」

 

「うん。 めぐねぇがどういうとこで頑張ってんのか見たいの。」

 

「おし、じゃあ行こうか。 エイ、エイ、オー。」

 

「え、それやんの? オー。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

     

「美佳、今日は疲れたでしょう。 

 

 ベッド使っていいよ。」

 

「え、でもめぐねぇは?」

 

「クッションあるから大丈夫。」

 

「だめだよ、わたしもクッションで寝る。」

 

「じゃあ、一緒にベッドで寝ようか。」

 

「うん。」

 

      ・

      ・

      ・

 

「ね、大学、休みだからあまり面白くなかったでしょ?」

 

「うううん、楽しかった。 

 

 やっぱ、すごく広くて迷子なっちゃうね。」

 

「ははは、慣れれば大丈夫。」

 

「ね、ね、ねぐねぇ、そんでさ、大学ってどう?

 

 なんかさ、授業もそうだけど、サ、サークルとかもあるんでしょ?

 

 なんだっけ、あ、ミステリーサークルとか?」

 

「いや、ないから。 ミステリーサークルってそれイギリスだから。

 

 そうだね、やっぱり高校とは違うね。」

 

「どんなとこ、どんなとこ、教えて。」

 

「うん、基本は自由だから、しっかり自分のことを管理しないとね。

 

 流されないように、何のために大学に進学したのか。

 

 自分のやりたいことや夢を実現するために、より専門的な勉強や資格を取っていかないと。」

 

「へぇ~ めぐねぇ、やっぱすごい。」

 

「え、やっと気付いたの。 遅~い。

 

 だってね、本当はすっごく大学行きたいのに、あきらめなくちゃいけない娘もいるからね。

 

 その娘も分も頑張るんだ。」

 

「めぐねぇ、大好き。」

 

”だき”

 

「ちょ、こら、美佳、変なとこさわらないの。」

 

「えへへへ。」

 

「もう。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”もぐもぐ”

 

「美佳、あんたそれ何本目?

 

 さっきから食べてばっかじゃん。」

 

「まだ5本目だよ。 だって美味しんだもん。

 

 わたしは育ちざかりなんだよ。」

 

「後悔しても知らないよ。

 

 もっとしっかり自分を管理しなさい。」

 

「でも、・・・・・・甘いもん食べたいんだもん。」

 

なんかさ、なんか食べてないと、変なことばっか考えちゃいそうで。

マッ缶はやめたんだから、大丈夫だよね。

 

「まったく。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「Excuse me.」

 

へ、な、なに? げ、外人さん

えくすきゅーずみ? 

げ、ど、どうしょう、あ、そうだ、死んだふり。

わたし、死んでるから・・・・

 

「what”s」

 

「Could you tell me the way to Sensoji

 temple?」

 

「I’ll take you there. Please follow me.

 

 Let’s go together.」

 

「Oh,Thank you。」

 

め、めぐねぇが英語で話してる

すごい、伊達に英語の先生目指してないね。

でも、そうやって外人さんと話してるのみると、

なんだか・・・・遠くに行っちゃたみたいでやだ。

 

”だき”

 

「へ、美佳?」

 

「オー、ジャパニーズ、”ユリユリ”」

 

「オー、ユリユリ。」

 

「え、いや違うから、こら美佳、はな、離しなさい。」

 

「いやだ。 だってめぐねぇどっか行っちゃうもん。」

 

「どこも行かないから。」

 

「やだ!」

 

「もう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ココガ、センソウジデスヨ。」

 

「オー、サンキュー。 サンキューユリユリ。」

 

「いや、違うから。

 

 ほら、美佳が抱きついてるから、完全に勘違いされたじゃやない。」

 

「だって・・・・」

 

「全く、この娘は。

 

 ふぅ~、さ、私たちもいこ。」

 

”なぜなぜ”

 

「うん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ガタン、ガタン”

 

めぐねぇ、頑張ってるね。

 

『わたしは、学校の先生になりたいなぁ。』

 

絶対、いい先生になれるよね。

あ、それに義輝君も頑張ってるんだった。

でもこっちのほうは・・・・

ははは、みんなすごいや。 

わ、わたしもほんとは、ほんとは・・・・・・・

 

『んで、美佳は何になりたいの?』

 

『美佳は・・・保母さん。』

 

『そっか、美佳は妹ちゃんの面倒よくみてるもんね。』

 

『うん。 美佳、小さい子と遊ぶの大好き。』

 

・・・・・・保母さんか。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

う~ん、美味しい。 いいでき。

今日の紅茶はめずらしく完璧だ。

 

さてと、会長と書記ちゃん達、今日遅いなぁ。

早く来ないかなぁ。

た・い・く・つ

あ、へへ、いいこと思いついた。

 

”カシャ、カシャ”

 

「さてと、一応、念のため上書き保存しておくか。

 

 ん、三ヶ木?」

 

”カチャ”

 

「お仕事ご苦労様、あ・な・た。 えへ♡」

 

「え、え゛~」

 

”カチッ”

 

「あ゛ー、 し、しまった、消してしまった。

 

 お、お前なんてことを。」

 

「ははは、元に戻すをクリックすれば大丈夫じゃん。」

 

「馬鹿、保存する前に消してしまったじゃねえか。」

 

「ご、ごめん・・・・これあげるから、ね。」

 

「ん? 雷おこし、どうしたんだこれ?」

 

「うん、昨日ね、めぐ、城廻先輩と浅草寺に行ってきたの。」

 

「お、うまい。

 

 ち、仕方ないな。 まぁ、途中までは保存してたからもう一回作り直すか。」

 

「ほれほれ、頑張れ。」

 

「ひで、おい、もう一袋もらっていいか。」

 

「しゃ~ないな。 はい、どうぞ あ・な・た。」

 

「お前、それやめろ。 冗談にとれるほど余裕ないから。」

 

”ガラガラ”

 

「ね、大丈夫だった?」

 

「うん、いろはちゃん、大丈夫だよ。」

 

「そ、そう。」

 

「おまたせ。」

 

「副会長どうでした?」

 

「大丈夫だったよ会長。 誰もいなかった。」

 

「ふぅ。 やっぱり気のせいだったかもです。」

 

「会長、どうしたの?」

 

「え、なんか、最近誰かにつけられてるような気がするんですよ。」

 

「あ、わたしもつけられてるよ。」

 

「え、美佳先輩もですか。 大丈夫?」

 

「うん、つけまわしてるのこいつだから。」

 

「え、うそ・・・稲村先輩キモい。」

 

「ん? な、なに、え、俺!」

 

「そうだよ。

 

 この前も昼休み、ずっとついてきたじゃん。

 

 それに抱きついてきたし」

 

「稲村先輩、そんな人だったんですか。」

 

「いや、あれは三ヶ木が怪しかったから。

 

 またなんか一人でするんじゃないかって。

 

 それに抱きしめてきたのお前だから。

 

 会長に見つかるからって。」

 

「わたしに見つかる? 昼休み・・・・・あっ!

 

 美佳先輩、もう少し詳しく話してもらいましょうか。」

 

「馬鹿村!」 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「ふう、なんとかできたかな。

 

 ね、馬鹿村君そっちは?」

 

「うん、予算のほうも大丈夫だと思うって、おい、馬鹿村ってなんだ。」

 

「べ~だ。」

 

「はいはい、そこ夫婦喧嘩はやめてくれます、覗き見夫婦。

 

 副会長、そっちのほうはどうですか。」

 

「はい、こっちのほうも大丈夫です。」

 

それじゃ、あとはテスト明けの水曜日に、みんなでもう一回見直ししてから

 

平塚先生に確認していただきますね。

 

それでは今日はお開きということで。」

 

「「はい。」」

 

えっと念のため、誤字ないか家でもう一回確認しておこ。

保存保存っと。

 

「うん? 三ヶ木、それ持って帰るのか?」

 

「うん、家でもう一回確認してみる。」

 

「あ、じゃ俺も。」

 

「会長、一緒に帰りますか?」

 

「え、あ、大丈夫ですよ、お迎えが来てますので。」

 

「そ、そう。」

 

誰だろう、親かな? 

いや、親だと学校に話すだろうから大問題になっちゃう。

 

”ウェーイ、いろはす~”

 

あ、いた、戸部君だわ。うん、戸部君だね。

確か、今日ってサッカー部練習してたから。

 

じゃあ、安心だ。

 

「三ヶ木、駅まで一緒に帰ろうか。」

 

「え~」

 

「何で、え~なんだよ。 思いっ切り嫌そうな顔してるじゃん。」

 

「だって、身の危険が。」

 

「おい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「だからさ、お前公式をちゃんと覚えろって。」

 

「う~、ねぇ、そんなことより、どこがテストに出そうか教えてよ。」

 

「お前なぁ・・・あっ会長。」

 

「ん? どうしたの。」

 

「すまん、USBを生徒会室忘れた。 ほれ取りに戻るぞ。」

 

「え、一人で行きなよ。」

 

「いいから、こい。」

 

”ぐい”

 

ひど、なにこいつ、は、もしかして

 

「稲村君、誰もいない生徒会室でなにするつもり。」

 

「・・・・ なにもしないから。」

 

 

「すみませ~ん、お待たせしました?」

 

「ああ、すげ~まった。」

 

「むか~、なんですか、そこは今来たとこだって言うんですって、

 

 何度も言ってるじゃないですか、まったく。」

 

「ああ、今来たとこ。 じゃ帰るわ。」

 

「なんですか。 あ~待ってくださいよ~」

 

「お前、くっつくな、歩き難いだろう。」

 

「なんですか、折角、迎えに来てくれたからサービスしてあげてるのに。

 

 こんなかわいい後輩と腕を組めるなんて、先輩にはもうないかもですよ。」

 

「はいはい、ありがとさん。」

 

 

まったくドジなんだから。

 

生徒会室に入るのには、職員室まで鍵取りに行かなきゃいけないんだからね。

 

って、なにしてんの。

 

「あ、あった。すまんすまん、ポケットに入ってたわ。」

 

「はあ?」

 

まったくこいつは人騒がせな。

 

「ホラ、USB貸しなさい。」

 

「あん? ほれ。」

 

うんしょっと、

 

「お前何してんだ。」

 

”チリン”

 

「はい、これで大丈夫でしょ。」

 

「な、なんだこれ?」

 

「美佳えもん、ほら首のとこに鈴ついてるからね。」

 

「美佳えもん? お前これ無理ありすぎだろ。

 

 あのキャラの胴体に、これお前か?

 

 ぷぷぷ、似てる。」

 

「なによ、ひど、いらないなら返して。」

 

「いや、ありがとう、もらっとくよ。」

 

「うん、さっきデータ消しちゃったのチャラね。」

 

「ああ。 お前こういうの作るの好きなのか?」

 

「うん、子供のころぬいぐるみほしくてね、良く作ってたんだ。」

 

「へぇ~」

 

”チリン、チリン”

 

「うん、気に入った。 美佳えもん。」

 

「大事にしてね。」

 

「おう。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

なんで、何で、比企谷君がいるの?

え、わたし聞いてないよ。

それに、化粧してないから、あんまり顔見ないでね。

 

「お前、どうしたんだ?」

 

いや、比企谷君こそどうしたのだよ。

わたしは、沙希ちゃんに頼まれて・・・・・・・

 

「・・・」

 

「あ、そうだった悪い。 すまん、気を付ける。

 

 俺は、今日川崎が塾だから、けーちゃんをみててくれって頼まれたんだが。」

 

いや、それわたしのほうもだけど。

塾? バイトって言ってたじゃん。

はぁ! 沙希ちゃん、あんた仕組んだね。

 

「お前いるなら、俺帰るわ。」

 

そうだよ、さみしいけど、つらいけど、

・・・・・一緒にいたいけど、

うん、けーちゃんはわたしが面倒みてるから大丈夫。

比企谷君帰って、勉強頑張って。

 

「はーちゃん帰っちゃうの?」

 

「あ、ほら、みーちゃんいるから大丈夫だろ。」

 

”くいくい”

 

「みーちゃん、はーちゃん、帰っちゃうの?」 

 

え、な、なにその目・・・・、そっか、けーちゃん、はーちゃん大好きだもんね。

どうしよう。

ごめんね、けーちゃん、ここは我慢して。

 

「あのね、けーちゃん、 」

 

「おう、けーちゃん大丈夫だ、はーちゃんも一緒に行くぞ。」

 

「はぁ?」

 

「息抜きだ、このGWは毎日、勉強ばっかりだったからな。

 

 俺史上、かつてないほどに。

 

 たまにはだ。 ・・・・心配するな。」

 

「えっ。」

 

よかった。 いっぱい勉強してたんだね。

でも、結衣ちゃんとだよね。

ず~とず~と一緒だったんだよね。

・・・・・へ? し、心配って?

 

「さぁ、けーちゃん、一緒に学校行こうか。」

 

「うん、はい、はーちゃん、みーちゃん。」

 

ん? かわいい手だね。

ほら、手の中にすっぽりと収まっちゃう。

 

”ぎゅ”

 

「へへ、はーちゃんとみーちゃんと一緒。」

 

「な、なぁ、けーちゃんいる時は依頼解除できないか?」

 

「け、けーちゃんのいる時だけだからね。 ぷい。」

 

「おう。」

 

へへへ、今日、来てよかった。

けーちゃん、ありがと。

 

「ねぇねぇ、みーちゃん、はーちゃんとケンカしてるの?」

 

え、あ、今の見てたの。

違うのよ、ケンカなんかにもならないよ。

だって、わたし、ほんとはもっともっと一緒にいたいんだもん。

だから、

 

「け、けーちゃん、大丈夫だよ。

 

 前も言ったじゃん。 みーちゃんは、はーちゃん大好きだって。」

 

うへぇ~、言っちゃった。

もう顔見れないよ。

この馬鹿、ぼけなす、八幡!

 

「うん、言った。

 

 それじゃ、はい、仲直りの握手。」

 

え? え~、けーちゃん、な、なにを

えへへへ

 

「仲直りだよ、はーちゃん、みーちゃん。」

 

「す、すまん。」

 

「けーちゃんの前だから、許してあげる。」

 

「お、おう。」

 

”すたすた”

 

「ふぅ、やっと行ったね。

 

 まったく面倒くさいやつら。

 

 ・・・って、あたし、なに隠れてんだろう。」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 

「あ、けーちゃんだ、お~い。」

 

「あ、みんな、なにしてるの~」

 

”タッタッタッ”

 

あ、けーちゃんのお友達?

へへ、みんな小っちゃくてかわいいね。

 

「ねぇけーちゃん、けーちゃんのお父さんとお母さん、すごく仲良しさんだね。

 

 ずっと手つないでるね。」

 

ん、手って

あ、えへへ、じゃない。

 

「いつまで手を握ってるのよ。」

 

「あ、す、すまん。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・ぷい!」

 

”すたすた”

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、はぁ、大丈夫よね。 誰もいないよね

 

”ぎゅ”

 

はぁ~、うれしい。

うれしいよ~、やっと話できた。

あれ、なんでだろう、涙出てきた。

バッカじゃないわたしって。

・・・でも、うれしいんだもん。

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・」

 

”スー”

 

「お、おう、サンキュ。」

 

「あ、はーちゃん、それなあに?」

 

「これは、はーちゃんの魂の源だ。」

 

いや、比企谷君、あなたの頭どんだけ甘いの。

まぁ、いいけど。

 

「はい、けーちゃん、リンゴジュースでもよかった?」

 

「うん、ありがとうみーちゃん。」

 

「うううん、こっちこそありがと、けーちゃん。」

 

「うん?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「つぎは幼稚園児のかけっこでーす。

 

 出場されるお子さんは集まってくださ~い。」

 

あ、けーちゃんの出番だ。

えっとけーちゃんは、はぁ?

 

”ぷにゅ、ぷにゅ”

 

”ぷにゅ、ぷにゅ”

 

え、二人して何してんの?

ほっぺつっつきあって

 

「おい、変態野郎、純真なけーちゃんになにしてる。」

 

「い、いや、なんだ。 挨拶だ」

 

”べし”

 

「ぐはぁ、久しぶり。」

 

な、この変態野郎が、なに喜んでんだ。

やっぱ、M男だね。

 

「さ、けーちゃん、こんな変態ほっといて、かけっこ出る子集合だよ。」

 

「うん、みーちゃん。

 

 あ、はーちゃん、あのね、けいか、かけっこ得意だよ。」

 

「おう、応援してるぞ。」

 

「みーちゃんも見ててね。」

 

「うん、けーちゃん、ガンバだよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、ほら、次はけーちゃんの番だ。」

 

「・・・」

 

「・・・す、すまん。」

 

    ・

 

「よ~い、どん!」

 

「けーちゃん、頑張れ!」

 

「けーちゃん、ガンバ~」

 

「お、けーちゃん、早いぞ。」

 

「う、うん。 早い早い。」

 

”どた”

 

「「あ!」」

 

”ダッー”

 

「けーちゃん! 」

 

「けーちゃん、大丈夫か?」

 

「うん。 えへへ、転んじゃった。」

 

「痛いところない?

 

 あ、膝擦りむいちゃったね。 大丈夫?」

 

「うん、はーちゃん、みーちゃん大丈夫だよ。」

 

「ほれ、けーちゃん。」

 

「うわ~い、高い高い。」

 

え、比企谷君、すご。

けーちゃんを軽々と肩車した。

ふぇ~、やっぱ男子だね。

あ、でもけーちゃん、あんまり暴れると危ないよ。

 

「けーちゃん、あんまり暴れると危ないから。

 

 比企谷君、絶対落とさないでね。」

 

     ・

 

「あら、若いご夫婦さんね。」

 

「まぁ、うらやましい。」

 

「本当ね。」

 

     ・

 

「す、すまん。」

 

「べ、別に・・・・」

 

へへへ、夫婦だってすごくうれしい。

もうちょっとだけ近く寄ろう。

は、けーちゃん、なに?

 

「はーちゃんとみーちゃん、ご夫婦さんなの?」

 

「いや、ち、違うから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「けーちゃん、ちょっと染みるけど我慢してね。」

 

「う~」

 

あ、やば、けーちゃん泣きそう。

 

「さぁ、お薬さんがばい菌大魔王をやっつけちゃうぞ。

 

 ホップ、ステップ、アタック。 えい!、えい!

 

 けーちゃんも応援して。」

 

「うん、お薬さん、頑張れ。」

 

”チョイ、チョイ”

 

「はい、よく我慢できました。 えらいね、けーちゃん。」

 

「お前、俺ん時と全然ちげーじゃねえか。」

 

「あったりまえでしょ。 あんときは比企谷君が悪かったんだから。」

 

「いや、そうか。 えっでも俺・・・」

 

「そうだよ。 べぇ~だ。

 

 あっ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・けーちゃんの前だけだからね。」

 

「おう。」

 

     ・

 

「救急箱すみませんでした。」

 

「あ、そこに置いといて。

 

 あ、そうだ、ねぇ、次の競技のメンバーが足りないの

 

 お二人出てくれない? ねぇ、お願い。」

 

「え、でもわたし達、町内の人じゃなくて。」

 

「大丈夫だよ、ねぇ、旦那さんもいいでしょう?」

 

だ、旦那? 

比企谷君が旦那様。

 

『旦那様。』

 

『おう、美佳』

 

な~んてね。 えへえへ。

 

「みーちゃん、こわい。」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ~い、はーちゃん、みーちゃん頑張れ。」

 

「は~い、次の組のみなさん、女性は目隠ししてください。」

 

「三ヶ木、目隠しするぞ。」

 

”ぎゅ”

 

な、なにも見えん。

目隠ししてるから、当たり前か。

ちょっと不安だな。

変なことされないよね。

ぷにゅ、ぷにゅって、比企谷君、変態だから。

 

「こ、これは独り言だ。

 

 い、いいか、み、三ヶ木って呼ぶから、俺の声のほうに来るんだぞ。」

 

「・・・」

 

”こく”

 

わかった。 大丈夫、比企谷君の声のほうに行くよ。

わたしが聞き分けられないはずないじゃない。

へへ、それに三ヶ木って名前めったに無いはずだし。

 

「それではこの組スタートしますので、スタート位置についてください。」

 

「ほれ、こっちだ三ヶ木。」

 

「・・・」

 

ひぇ~、何も見えないよ~

比企谷君、お願いね。

 

「準備いいですか? 

 

 それでは位置について、よ~い、ドン!」

 

「樋掛(ひがけ)さん、こっち!」

 

「三宅さん、三宅さん!」

 

え、ちょっと待って、

 

お隣、樋掛さんと三宅さん?

 

えっと、三ヶ木って。

 

「いや、三ヶ木こっちだ、もっと左。」

 

「ちが、こっちだ。 そっちは三宅さん。」

 

どっちなの~

え、右からも、左からも三ヶ木って聞こえるような?

 

「くっそ聞き取りにくいか・・・・・

 

 ええい、美佳! こっちだ。 こっちこい美佳!」

 

「え。」

 

美佳、美佳って比企谷君。

名前呼んでくれた。

えへへ、うれしい、それにこっち来いって。

は、そんな場合じゃないって。

 

「うん、八幡。」

 

「こっちだ美佳。」

 

 

「わぁ~、はーちゃん、みーちゃん早い。

 

 頑張れ~」

 

”どさ”

 

「けーちゃん、膝大丈夫だった?」

 

「あ、さーちゃん。大丈夫だよ。

 

 あのね、みーちゃんがばい菌やっつけてくれた。

 

 あ、ほら、はーちゃんたち早いよ。」

 

「ほんとだね。

 

 え、比企谷、美佳って呼び捨てじゃん。

 

 はは、うまくやってそうだ。」

 

     ・

 

「もう少しだ、美佳。」

 

「う、うん。」

 

比企谷君の声、良く聞こえる。

でもゴールしたくないな。

もっともっと聞いていたい。

美佳って呼ばれたい。

あんなこといわなけりゃよかった。

でも、もう・・・・・遅いんだよね。

 

「やった~、はーちゃん、みーちゃん一着だ。」

 

”タッタッタッ”

 

「あっ、けーちゃん待って。」

 

     ・

 

「はーちゃん、一着だ。 すごーい。」

 

「おう、けーちゃん、早かったろ。」

 

はぁ、はぁ、はぁ。

あ~あ、終わっちゃった。

また、もとに戻らなきゃね。

でも、いま目隠し取ると・・・

 

”ドン”

 

「すみません。」

 

あっ

 

”だき”

 

「は、八幡、ありがとう。」

 

へへ、もう少しだけ抱き着かせて。

・・・比企谷君、さすが男だね。胸の筋肉厚いや。

筋肉? いや筋肉にしては。

 

”むにゅむにゅ”

 

「あんた、なに人の胸揉んでるんだい。」

 

ふぇ、沙希ちゃん? でも、あ、目隠しとって。

 

「さ、沙希ちゃん。」

 

「まったく、心配して損した。」

 

「え?」

 

「八幡ありがとう、だってさ。」

 

「・・・」

 

「それに比企谷も美佳、美佳って連呼してたし。

 

 うわー、暑い暑いねぇー」

 

「いや、違うから。」

 

「何が違うのさ、まぁいいや。

 

 ほら、テントに戻るよ。

 

 怪我なかったかい。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷、ご苦労さん。 助かったよ。」

 

「おう、塾終わったのか?」

 

沙希ちゃん、バイトって言ってたくせに。

やっぱ仕組んだんだね。

でも、ありがと。

とっても楽しかった。

忘れられない思い出になったよ。

 

「え、塾、あ、あははは。 心配だったから早引きしてきたんだ。」

 

「そ、そうか。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「おう、由比ヶ浜か、どうした?」

 

「ヒッキー、今どこ? ゆきのん機嫌悪いよ。」

 

「へ? あっ、もうこんな時間か!」

 

「もう、早く来てね。 先に図書館行ってるから。」

 

「お、おう、すまない。 いまから行くわ。」

 

あ、結衣ちゃんからの電話だ。

なんか約束あったのかな。

 

「わりぃ、由比ヶ浜達との約束の時間だ。

 

 じゃあ行くわ。」

 

「え、そうかい。

 

 悪かったねえ、ありがとう比企谷。」

 

そ、そうか。 今から結衣ちゃんに会いに行くんだね。

もう結衣ちゃんに取られちゃうんだ。

いいじゃん、今日一日くらい。

だってずっと一緒だったんでしょ。

 

・・・ははは、馬鹿だね。

なに言ってんだろわたし。

これじゃ、愛人にもなれないや。

しかも自分で望んだんだろうし馬鹿。

 

いってらっしゃい、比企谷君。

でも、しっかり勉強してね。

 

「じゃあな、けーちゃん。」

 

「はーちゃん、またね。」

 

「・・・・独り言だ、また学校でな。」

 

「・・・」

 

”こく”

   

     ・

     ・

     ・

 

「あれ、旦那さん帰ったの?」

 

「ん、旦那さん?」

 

「あ、あの、用事あったみたいで。」

 

「若奥さん、これ旦那さんと奥さんの分のお弁当。」

 

「え、あ、はい。 でもいいんですか?」

 

「ええ、ご苦労様。

 

 やっぱ若いっていいねぇ。」

 

「ね、ねぇ、三ヶ木いつから奥様になったの?」

 

「い、あはははは。」

 

「まぁ、そんなことより、早く比企谷に持って行ってやんなよ。

 

 まだ間に合うだろ。」

 

「沙希ちゃん。」

 

「それとも、お弁当2個も食べる? ほら、早く。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁはぁはぁ。

ど、どこ行ったのかなぁ~

駅のほうで間違いないとも思うけど。

いないなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、はぁ~、ふぅ。

駅まで来ちゃった。

電車じゃなかったのかなぁ~

どこ行ったんだろう、追い抜いていないはずだけど。

もう一回、小学校のほう行ってみよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

どこ、ねぇどこにいるのさ。

いないいないよ~。

そ、そうだ、電話しよう。

 

『話しかけないで、迷惑なの』

 

出来ないよね。

馬鹿、バ~カ、馬鹿、何であんなこと言ったの。

ほんと馬鹿。

仕方ない、もうちょっと探してみよ。

 

「あっ!」

 

「キャン、キャン。」

 

”どた”

 

あいた! いた、痛たたたた。

 

「お、お前、大丈夫だったか?

 

 こら、急に飛び出したら危ないぞ。

 

 でも、なんともなくて良かったね。」

 

「クゥ~ン。」

 

へへ、お前ご主人はどうしんだ?

ふむ、首輪ないね。

そっか、お前も一人なんだね。

さてと、うんしょっと。

 

「痛い。」

 

やば、捻っちゃったかな。

と、取り合えずあのブロックまで。

う~、いった~。

 

「ク~ン。」

 

なに、心配してくれるの?

ありがと。

 

「ワンワン、クンクン。」

 

へ、あ、これか。 お前これが狙いだったのか。

ほら、ちょっと待ちな。

 

「うんしょっと。」

 

お前も一人だから仲間だ、喰え!

 

「キャン、キャン。」

 

え、お前、子供いたの?

くっそ、この裏切りもの。

へへ、まぁいいや、一緒に食べよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ク~ン。」

 

え、ああこれはだめだよ。

これは比企谷君のだから、絶対あげられないの。

ごめんね。

 

さてと、どうしょうかな~

もう、今頃は結衣ちゃんと一緒だよね。

 

     ・

 

・・・よし、家に持って行ってあげよ。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

”ピンポ~ン”

 

「は~い、あ、義理チョコさ、いえ三ヶ木さん。

 

 ど、どうしたんですか?

 

 ごめんなさい、兄はいま不在ですが?」

 

「うん、知ってる。

 

 あのね、今日、川崎さんの地区の運動会があってね。

 

 比企谷君も出てくれたんだけど、お弁当を渡せなかったから。」

 

「え、それはそれは。

 

 わざわざ家までありがとうございます。

 

 必ず渡しておきますね。」

 

「うん。 それじゃ。」

 

「はい・・・・ん? 三ヶ木さん足どうしたんですか?」

 

「え、あ、大丈夫、ちょっと捻っただけだから。」

 

「ちょ、ちょっと 待っててください。」

 

「え?」

 

”どたどた”

 

「はい、足出して下さい。 さ、ささ、遠慮なさらずに。」

 

「あ、いいよ、そんなに痛くないから。」

 

「だめです。 はい、足出してください。」

 

「う、うん。」

 

”きゅ”

 

「三ヶ木さん、テーピング、きつくないですか?」

 

「ありがと、小町ちゃん。」

 

「いえいえ、そんなたいそうな。

 

 でも、念のため、お医者さんに診てもらってくださいね。

 

 ・・・え、ど、どうしたんですか?」

 

「え、あ、ごめん、小町ちゃんがやさしいから。

 

 ほんと、最近、涙腺が弱くてさ、だめだねこりゃ。

 

 小町ちゃん、お兄さんに似て優しいね。

 

 テーピングありがと、じゃあね。」

 

「は、はい。

 

 え、兄が優しい?」

 

「うん、とっても優しいんだよ。

 

 あ、でもこれ比企谷君には内緒ね。」

 

「はて? 内緒にする理由が・・・」

 

「まぁ、いろいろあるから。

 

 それじゃ、ほんとにありがと。」

 

「あ、あの~、三ヶ木さん、

 

 よかったらまた来てくださいね。

 

 この前、結衣さんと女子会やったんですけど、

 

 今度は三ヶ木さんも一緒にどうですか?」

 

「あ、ありがと。

 

 ・・・・・・ へ、女子会?、結衣ちゃんと。」

 

「ええ、兄の赤ちゃんのころからのアルバムで盛り上がって。

 

 結衣さんなんて、兄のすべてをみせてもらうぞ~って。」

 

「え、小町ちゃん、もう少し詳しく教えてもらっていい?」

 

「え? いいですよ。 実は・・・・」

 




最後まで、感謝です。

書きながら、やばいと思いながらもこんな長文に。
書き始めた時は、3000字ぐらいを目標にしてたのに。

次回、実力テスト。

八幡の成績どうしょうか迷ってます。

では、また次話、読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

和解

すみません。

最近スランプで、今回もセリフばっかりになってしまってすみません。

読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。

※12巻も、もう少しででるし、内容も見直して整理したいなと思います。






「あれ、ヒッキーもういない?」

 

「結衣どうしたん?」

 

「あ、何でもない何でもない。

 

 じゃ、今日は部活あるから行くね。」

 

「結衣、また明日。」

 

「ぐふふ、明日いろいろ教えてね結衣。」

 

「え、いろいろって。」

 

「決まってるじゃん。とつはちだよ、とつはち。」

 

「たはは、じゃあね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”どん”

 

「きゃぁ。」

 

「あ、すまん。」

 

しまった、つい条件反射で謝ってしまった。

ぶつかってきたのは相手のほうだが、俺って史上最強の平和主義者じゃね。

ガンジーも真っ青

いや、なんだよ、最強の平和主義者って。

 

「気を付けてください、備品先輩。」

 

気を付けてって、ぶつかってきたのは、

・・・・・ん? 備品先輩って

 

「あ、蒔田か、お前廊下は走るなって、小学校の時に習わなかったのか?」

 

「なに言ってんですか!

 

 備品先輩のほうこそ、レディーファーストって知らないんですか?

 

 ふつう女子が走ってきたら、道を開けてください。」

 

え、いや、レディーファーストってそういう意味じゃないだろう。

まぁ、いいか、こいつも面倒くさいから。

 

「それで、何をそんなに急いでいるんだ。」

 

「え、ああ、学校新聞の原稿をもって行くところなんですよ。」

 

学校新聞? ああ三ヶ木が言ってたっけ、こいつの知名度アップ作戦だったな。

真面目にやってんだな。

しかし、まさかこいつが新聞部なんてな。

 

「ああ、お前、部活紹介やるんだったな。」

 

「はい、ほら、これがその第一回目の原稿なんですよ。」

 

「お、おー、こ、これは・・・」

 

おお、て、天使だ、 天使がいる。

この笑顔、守りたい。いや、守らなければならない。

 

「あの~、備品先輩? 顔がすごくキモイんですけど。」

 

「え、あ、いや、そのなんだ、お前この写真のデータもらえないか?」

 

「え、なにするんですか・・・・は、備品先輩そっち系?」

 

「ばか、戸塚は男女の性別を超越した存在だ。

 

 なぜなら戸塚は天使だからだ。」

 

「はぁ? ほんとうにすげぇ~キモイんですけど。

 

 まぁ、いいですよ、その代わり質問に答えてください。」

 

「ま、まじか、よしなんでも聞いてみろ。」

 

「備品先輩とジミ子先輩はどんな関係なんですか?」

 

「はぁ? 俺と三ヶ木は別になんでもないぞ。」

 

「嘘ですね。だってほらあの時の号外あったじゃないですか。

 

 先輩がメッチャドアップで写ってた時のやつ。」

 

「お、おう。」

 

「あの時、ジミ子先輩、新聞部に怒鳴り込んだんですよ。

 

 すぐ写真を撤回しないと、お前ら生徒総会で吊るし上げるぞって。

 

 新聞部の部室の前で聞いてて、すごく怖かったんですから。」

 

「そ、そうだったのか。」

 

あいつ、そんなこと、なんも言わなかったじゃねえか。

そんなことまでしてたのか。

まったくなんだろう、このいらつきは。

 

「で、どんな関係なんですか?」

 

「・・・知り合いだ、おそらく。」

 

いや、単なる知り合いのためにこんなに苛立ったりするものか。

 

なんなんだろうな、あいつは。

 

「・・ぱい? 備品先輩、聞こえてます?」

 

”スタスタ”

 

「え、部品先輩データーは? あれ、行っちゃった。

 

 ち、いいですけど。

 

 このデータって、備品先輩への取引の材料になりそうですね。

 

 さてっ、新聞部行かなくちゃ。」

 

”どたどた”

 

「へ、な、なに?」

 

「お、おい!」

 

「は、はい。」

 

「戸塚のデーターくれ。」

 

「・・・・あの先輩、廊下は走るなって、さっき言いませんでした?」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~、なんだあの女、結局データーくれなかったじゃねぇーか。

くっそ、遅くなっちまった。

 

”どん”

 

「うっ。」

 

「なんで先行くし。」

 

「いや、お前、三浦たちとなんか話してたんじゃないのか

 

 今日は俺には大事な使命があるんだ。」

 

「待っててくれたっていいじゃん。

 

 ヒッキーなんか異常にはりきりすぎだし。」

 

「はぁ、お前何言ってんだ。 今日は何の日か知ってるだろう。

 

 本来ならば今日は世界の祝日になる日だろう。

 

 この怠惰した世界に、希望の天使が舞い降りた記念日だ。」

 

「ヒッキー・・・・」

 

「は、もうこんな時間だ、こんなことはしてられない。」 

 

”タッタッタッ”

 

「あ、ヒッキー、待ってよ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「八幡!」

 

「おう、戸塚、こっちだ。」

 

「こんにちは、雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。」

 

「やっはろー、彩ちゃん。 おめでとう。」

 

「こんにちわ、戸塚君。お誕生日おめでとう。」

 

「あは、ありがとう。 」

 

「おう、今日は部活早かったんだな。」

 

「うん、テスト終わったばっかりだからね。

 

 怪我しないように、練習は軽めにしたんだ。」

 

「彩ちゃん、頑張ってるね。」

 

「地区予選は勝てそうかしら。」

 

「うん、今年が少し自信があるんだ。」

 

「へ~、じゃ、絶対に応援行くね。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「で、そちらの男の子はどなたかしら?」

 

「あ、紹介するね、今度テニス部に入ってくれる刈宿君。」

 

「・・・あ、ヤドカリ君だ。」

 

「ヤドカリ君? 変わった名前なのね。」

 

「美佳っちから聞いてるよ。 宿刈 狩也君。」

 

「ち、違います。 刈宿狩也っす。」

 

「え、うそ。」

 

「いや、嘘じゃないっす。」

 

「ごめんごめん。 あたしは 」

 

「あ、知ってます。 ユイユイさんですね。 

 

 美佳先輩から聞いてます。」

 

「それ無しだから。 由比ヶ浜結衣だから。

 

 もう、美佳っち、裏でユイユイって言ってるの?」

 

「私は雪ノ下雪乃です。 よろしくね。」

 

「は、はい。 よろしくお願いします。」

 

「それで、こっちの目つきの悪いのが 」

 

「あ、知ってますよ、こっちの人は初めてじゃないです。」

 

「あ、そう?」

 

「え、ヒッキー、やど、違った、刈宿君のこと知ってるの?」

 

「あ、ああ。」

 

「なんか、ヒッキー機嫌悪くない?」

 

「気のせいだ。」

 

「そ、そうかなぁ。」

 

「・・・・・」

 

「あのう、戸塚先輩、俺やっぱり帰ります。」

 

「え、そ、そう。 後で三ヶ木さんも来るからいいかなっと思ったんだけど。」

 

「え? あ、じょ、冗談ですよ。

 

 俺が戸塚先輩のお祝いなのに帰るわけないじゃないですか。

 

 ははは、いやだなぁ、どこに座ればいいです?

 

 あ、できれば美佳先輩の横がいいです。」

 

「あ、あの~、刈宿君、ごめんね、とりあえずヒッキーの横座って。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「ね、なにかあったの?」

 

「「いや、別になにも」」

 

「「おい」」

 

「すご、息ぴったりじゃん。 本当は仲いいんじゃないの?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あたしはパルマ風スパゲティーをお願いします。

 

 ヒッキー、刈宿君はなににするの?」

 

「「ミラノ風ドリアで。」」

 

「どこまで仲いいの。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、彩ちゃん、プレゼント。

 

 改めて、誕生日おめでとう。」

 

「ありがとう。 由比ヶ浜さん。」

 

「おめでとう。 戸塚君。」

 

「雪ノ下さんまで。 ありがとう。」

 

「ヒッキーは? もしかして忘れてないよね?」

 

「ばっか、俺が忘れるわけないだろう。

 

 戸塚、誕生日おめでとうさん。」

 

「うわぁ、八幡まで。 ありがとう、八幡。

 

 開けていい?」

 

「おう。」

 

「うわぁ、ヨネダスのサポーターだ、八幡ありがとう。

 

 ・・・・・で、でもこれ左手用だね。」

 

「な、なに。」

 

「ヒッキー。」

 

「さすが粗忽谷君ね。確かめもしないなんて。」

 

「・・・・・」

 

「ど、どうしたの? 刈宿君。

 

 あ、それプレゼント?」

 

「え、刈宿君まで? ありがとう。」

 

「・・・・・はい。」

 

「ありがとう、刈宿君。

 

 あ、ヨネダスのサポーター。

 

 これは右手用だ。」

 

「なんで、こんなやつと・・・・・・

 

 戸塚先輩、それ返してください。

 

 もう一回買ってきます。」

 

「え、いいよ。 ほら、右と左揃った。

 

 二つとも使わせてもらうよ。

 

 ありがとう、八幡、刈宿君。」

 

「おう。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お待ちどう様でした。

 

 ミラノ風ドリアです。」

 

「ヒッキー先に食べてていいよ。」

 

「うん、八幡、お先にどうぞ。」

 

「おう、じゃあな、あっち!」

 

「ははは、なさけな~、こんなのが熱いなんて。」

 

「あん。」

 

「いただきま~。  あち・・・くないっす。」

 

いや、お前いま間違いなく熱いって言っただろう。

 

”もぐもぐ”

 

「き、鍛え方が違いますからね。」

 

「どこの鍛え方だよ。 なにお前、毎日、熱いもので舌でも鍛えてるの?」

 

「ぐ、ふん、ミラノ風ドリアに対する想いは、あんたより俺のほうが強いっす。」

 

「なに、馬鹿いえ、この千葉県内で俺よりミラノ風ドリアを愛しているものはいない。」

 

「俺がいるっす。 ほれ、完食っす。」

 

「お、俺もだ。 すみません、ミラノ風ドリアもう一皿お願いします。」

 

「あ、すみません、こっちはもう二皿お願いしまっす。」

 

「はぁん、 あ、すみません、こっちも二皿で。」

 

「ヒッキー。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷君、それ本当に食べれるのかしら?」

 

「おう、楽勝だ。」

 

「年なんだから無理しないでくださいね。」

 

「な、お前二つしか違うわねーだろうが。」

 

「その差は大きいっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「へへへ、無理いしなくていいっすよ、ほら、俺完食っす。」

 

「な、くっそ!」

 

”がつがつ”

 

「は、俺も完食だ。」

 

「もう限界じゃないっすか? 俺まだまだいけるっすよ。

 

 やっぱ俺のほうがミラノ風ドリアへの想い強かったみたいっすね。」

 

「バッカいえ、俺もまだいける。 す、すみません、ミラノ風ドリアもう一皿。」

 

「ヒッキー、もうやめなよ。 いいじゃん、引き分けで。」

 

「刈宿君も、もうやめといたほうがいいよ。」

 

「と、戸塚先輩。この勝負だけは絶対負けられないっす。すみません、俺ももう一皿。」

 

     ・

     ・

     ・

「うぇっぷ。」

 

”もぐもぐ”

 

ふふふ、まだまだだな。

お前はさっきから水を飲み過ぎているんだ。

こういう場合、水の飲み過ぎは致命的だ。

それに俺は噛まずに飲み込んでいる。

噛めば満腹中枢が刺激されるから、食べれなくなるんだ。

お前はまだまだ若いな。

 

「ど、どうだ。 やっぱり俺のほうがミラノ風ドリアを愛してる。」

 

「っく、くそ~、せめてあとひとくち。」

 

「刈宿君、大丈夫? もう、ヒッキーのバカ、大人げない。」

 

「ごめんなさ~い、遅くなりました。」

 

「あ、美佳っち。」

 

「雪ノ下さん、ごめんね、急にお願いして。」

 

「構わないわ。 戸塚君の誕生日ですもの。

 

 三ヶ木さんに頼まれなくてもお祝いしてたわ。」

 

「ありがと、ゆきのん。」

 

「それ、やめなさい。

 

 それはそうと、三ヶ木さん、足どうしたの?」

 

「あ、本当だ。 テーピングしてるね。」

 

「うん、ちょっと捻っちゃったみたいで。」

 

「そう、気をつけなさい。」

 

「へへへ。 うん?」

 

「美佳先輩、うぇっぷ。」

 

「ど、どしたの、刈宿君。 え、そっちも。」

 

「この馬鹿二人、ミラノ風ドリアの大食い勝負してたのよ。」

 

「はぁ? なに馬鹿やっての。」 

 

”べし”

 

「あ、だめっす、美佳先輩。 いまやばいっす。」

 

「まったく、ごめんね戸塚君。

 

 これ、誕生日、おめでとう。」

 

「うううん、おもしろかったよ。

 

 ありがとう、頂くね三ヶ木さん。」

 

「うん、気に入ってくれるといいんだけど。」

 

”がさがさ”

 

「あ、テニスキャップ。 それも錦織モデル。」

 

「えへへ、ほらこれから日差しとかもきつくなるからね。

 

 気に入ってもらえたかなぁ。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「美佳先輩、うらやましいっす。」

 

「わかった、わかった。 テニス部入部したらお祝いにね。」

 

「やったー、うぇっぷ。」

 

「おい、まったく。」

 

「あ、美佳っち、何か注文する?」

 

「あ、いい。 これもらっとく。

 

 刈宿君、注文しておいて食べられないって、お店の人やお百姓さんに失礼だよ。」

 

「ご、ごめんなさい。 お願いします。」

 

「いただきま~」

 

「あ、あの、比企谷君。

 

 今の三ヶ木さんのお言葉聞いたかしら。

 

 それ、最後まで残さず食べなさい。」

 

「いや、しかし。」

 

「も、もしどうしても食べられないというのなら、わ 」

「ヒッキー、食べらないならあたしが食べてあげるね。」

 

”もぐもぐ”

 

「お、お前、それ俺のスプーン。」

 

「・・・由比ヶ浜さん。」

 

「あ、ゆきのん、はい。」

 

「え?」

 

「いいから、はい。」

 

”ぱく”

 

「由比ヶ浜さんなんてことを、比企谷菌がうつったらどうするの。」

 

「あはは、もうゆきのんもあたしも免疫ついてんじゃん。」

 

「そ、そうね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほら、ヒッキー大丈夫?」

 

「まったく、この男は。 ほら肩につかまりなさい。」

 

ふぅ~、あっちは大丈夫だもんね。

あの中にははいれないや。

 

「ほら、しっかりしなさい。」

 

「すみません。」

 

「じゃあね、結衣ちゃん、ゆきのん。」

 

「三ヶ木さん、あなたその呼び方は 」

 

「まぁまぁ、じゃあね、美佳っち。」

 

「うん、戸塚君もまた明日ね。」

 

「うん、今日はありがとう。 みんな。」

 

「「またね~」」

 

     ・

 

「ほら、しっかりしなさい。比企谷君。」

 

「ヒッキー、大丈夫?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「まったく、何であんな馬鹿やったの。」

 

「・・・・・俺、あいつには負けたくなかったっす。」

 

「はぁ、大食いなんかで勝っても仕方ないでしょう。」

 

「ミラノ風ドリアだけは特別っす。」

 

「ばっか。」

 

「うっす。」

 

「・・・もっと身体を大事にしなさい。」

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「この駅でよかったの。」

 

「はい、駅を降りて少し行ったとこです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どこ? まだ着かないの?」

 

「いえ、もう着いてるっす。」

 

「え、だってここって。」

 

「俺んちっす。」

 

「はぁ? お姉さんをからかうのはよしなさい。」

 

「ここっす。」

 

「え、マジ。 でか~、豪邸じゃん。」

 

「狩也、やっと帰ってきた。

 

 今何時だと思ってるの!」

 

「晩飯、食べて帰るって言ってただろ。」

 

「なに、その答えは。

 

 あら、あなたは?」

 

「あ、狩也君と同じ総武高校に通ってます、三ヶ木美佳といます。」

 

「三ヶ木さん?

 

 あなたが狩也を連れまわしてたの?」

 

「違うだろ、俺を送ってくれたんだ。」

 

「どうして男のあなたが女の子に送ってもらうの?」

 

「それは・・・」

 

「えっと三ヶ木さん、あなたのご両親は何のお仕事をされてるの?」

 

「えっ。」

 

「母さん、何も関係ないだろう。 なんでそんなこと聞くんだ。」

 

「あら、聞いちゃいけないのかしら?」

 

「あ、わたしのとうちゃんは 」

 

「とうちゃん?」

 

「・・・・・はい、とうちゃんです。

 

 とうちゃんはN電工業という会社で働いています。」

 

「あら、そう。 あんまり聞かない会社ね。

 

 お母様は?」

 

「・・・・・」

 

「やめろ。 美佳先輩、もういいから。」

 

「・・・かあちゃんは、かあちゃんはわたしが小さいころ、交通事故で

 

 亡くなりました。」

 

「美佳先輩。」

 

「あ、もう電車の時間なので、失礼しますね。

 

 あの、遅くまで狩也君を連れまわしてすみませんでした。

 

 ごめんなさい。

  

 それでは失礼します。」

 

「美佳先輩。」

 

”スタスタ”

 

「母さん、何であんなこと聞くんだ。

 

 それに今日はテニス部の先輩の誕生日をお祝いをしてただけだ。

 

 まったく。」

 

”タッタッタッ”

 

「狩也、こんなに遅くなってからどこいくの、戻りなさい。」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

かあちゃんか。

 

『かあちゃん、お腹すいた』

 

『さっきチロロチョコ食べたでしょう5個も』

 

『だってぇ、あ、お手伝いするから、もっと頂戴。』

 

『仕方ないわね、じゃあ、買い物行ってくれる?』

 

『うん、じゃあ、前渡し。』

 

『ほら、あ~ん。』

 

『へへ、あ~ん うん、美味しい。

 

 かあちゃん、大好き。』

 

はぁ、そうだ今日チロロ買って帰ろ。

もうなかったもんね。

かあちゃん、もう一度だけでいいから会いたいな~

 

・・・・・・・・・・会いたいよ。

 

”ブ~ブ~”

 

は、刈宿君から?

 

ごめん今出れない。

 

”ブ~、ブ~、ブ~‥‥・ブ~”

 

もうしつこい。

 

「はい、なに。」

 

「美佳先輩、今どこにいるんすか?

 

 駅中探したけどいないじゃないすっか。」

 

「教えない。」

 

「なんでですか、今行きますから教えてください。」

 

「いや、絶対教えない。」

 

「いいすよ。だったら美佳先輩のフルネーム、でっかい声で叫びながら探しますから。」

 

「はぁ?」

 

「本気っすよ。 せ~の、み 」

 

「トイレよ、トイレ。 言わせるな、ばか!」

 

「す、すみません。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳先輩、さっきは母がすみません。」

 

「え、何で謝るの?

 

 さっきのこと?

 

 全然何でもないよ。 だってほんとのことだもん。」

 

「美佳先輩!」

 

「あははは、ホント平気だって。

 

 それより、もう早く帰って休みなさい。

 

 もう、無理しちゃだめだよ。

 

 それに、帰ったら、お母さんに謝りな。」

 

「なんで。」

 

「なんでって、煩わしいと思うかもしれないけど、お母さんはあなたのこと

 

 心配していうのよ。

 

 謝れるときに謝っておきなさい。

 

 謝れなくなってから後悔しても、もう後戻りできなんだから。」

 

「うっす。」

 

「ほんとだよ。あ、電車来たし帰るわ。」

 

「美佳先輩、おれ、俺は 」

 

”プシュ~”

 

「え、なに?」

 

「あ、いや、その、今日も月がとっても綺麗です。」

 

「いや、それもういいからって、あ、ほんとだ。

 

 今日はきれいな月だね。」

 

「うっす。 美佳先輩、また明日。」

 

「おう、また明日ね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

"すたたたた”

 

「あ、ヒッキーいた!」

 

”どん”

 

「おうあ。」

 

「ひっきーなんでいつも先に行っちゃうし。」

 

「お前こそ、その鞄で”どん”はやめてくれない?

 

 それいじめてんの?」

 

「え、あ、ごめん、ちが、ちがうから。

 

 あ、あのさ、愛情表現かなって、えへへ。」

 

「いや、そんなのいらないから。」

 

「い、いいじゃん、もう。 それより早く入るよ。」

 

"ガラガラ”

 

「やっはろー、ゆきのん。」

 

「おう。」

 

「こんにちわ、由比ヶ浜さん。

 

 それと・・・・・どなた?」

 

「お前、名前忘れてんじゃね。」

 

「それより、お腹のほうは大丈夫なの?」

 

「おう、もう完璧だ。 すまなかったな。」

 

「あはは、ヒッキーもまだまだ子供だね。」

 

「ばっか、サイゼに対する想いだけはゆずれない。」

 

「あら、本当にそれだけだったのかしら?」

 

「な。」

 

”ブ~ブ~”

 

うん、一色から?

 

「せ、先輩、なんてことしてくれたんですか!」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

‐‐‐話は放課後の生徒会室‐‐‐

 

 

 

 

「お疲れ様で~す。」

 

「美佳先輩、早いですね。 どうしたんですか?」

 

「あ、会長ご苦労さまです。

 

 うん、総会の資料、誤字があったので修正してたとこですよ。」

 

”カチャカチャ”

 

よし、これでokだね。

うん、気が付いてよかった。

 

「お疲れ様です。」

 

「ご苦労様。」

 

ち、ほんといっつも一緒に来やがって。

このば、バカップルめ。

ま、もう慣れたからいいけど。

 

「ご苦労様です。

 

 さて、あとは稲村先輩だけですね。

 

 もう少し待ちましょうか。」

 

”カチャ、カチャ”

 

「あ、先輩からメール?

 

 でもなんで生徒会のホームページに?

 

 えっと、

 

『いろは、大事な話があるから、添付のファイル確認してくれないか。』

 

 ん、いろは? 先輩、メールだと素直なんですね。

 

 どれどれ。」

 

”カチャ”

 

「え? な、なに」

 

「あれ? 資料が消えてる。」

 

「あ、こっちのパソコンもです。」

 

な、なにが起きたの?

は、もしかしてウィルス?

なんで?

 

「だ、だれか、へんなファイル開かなかった? 」

 

「あ、あの副会長、これ開いたんですが。」

 

「あ、これだ。」

 

「うそ、だってこれ先輩から。」

 

 

 

 

‐‐‐そして現在‐‐‐

 

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「一色どうした?」

 

「いろはちゃん、どうしたの?」

 

「先輩、なんてメール送ってくるんですか!」

 

「はぁ?」

 

「だ、だって先輩がメールで大事な話があるからファイル見ろって言うから。」

 

「はぁ、俺は一色にメールなんかしてないぞ。」

 

「うそ。」

 

「会長、比企谷君からメールでもなんでもいいから、いろはって呼ばれることあった?」

 

「いえ、ないです。」

 

「比企谷の名をかたってウイルスを送ってきたんだね。」

 

”ガラガラ”

 

「ごめん、遅くなった。」

 

「あ、稲村君、お疲れ。」

 

「ん? どうしたんだみんな。 さてっと。」

 

”チリンチリン”

 

「うん? あ、稲村君、ちょっと待って。」

 

「うわぁ!」

 

”ドサ”

 

「は、しろ。」

 

「あいたた、なんだいきなり飛び掛かってくるな三ヶ木。」

 

「それに、はやく起きろ。

 

 ス、スカートが捲くれ上がってるぞ。」

 

「ひぇ~、み、みるな馬鹿者。」

 

「三ヶ木先輩、副会長の目はふさいでますから。

 

 あ、でも、比企谷先輩が。」

 

「へ、いや、お、おれはなにも見てないぞ。

 

 そ、そんな白いものとか。」

 

「・・・・」

 

     ・

 

「副会長、資料全く無いんですか?」

 

「ああ、すべて消されてる。」

 

「ひどい。」

 

「どうする? 今日平塚先生に確認してもらうんだろう。」

 

「どうしょう。」

 

「誰だよ、こんなことするやつ。」

 

「ごめんなさい、わたしが変なファイル開いたから・。」

 

「いろはちゃん。」

 

「わたし、わたし、どうしょう。 ごめんなさい。」

 

「会長、ま、まぁ、座って。」

 

「すみません、稲村先輩。」

 

”チリン”

 

・・・は、美佳えもん。 

そうだ、そうだね、こんなことしてる場合じゃない。

 

”書き書き”っと

 

うん、今はこれでいくしかないよね。

あとは、このジャリっ娘を。

 

「ほい、会長。」

 

「え、・・・・・・」

 

「これでいこ。」

 

「え、あ、う、うん。」

 

”どん”

 

「いた。 なにすんですか美佳先輩!

 

 なんでいきなり背中を。」

 

「ガンバ。」

 

「・・・・・ありがとうございます。」

 

「さぁ、みんな、座って、紅茶でも淹れるわ。」

 

「いや、こんな時に紅茶なんて。」

 

「そうだよ、犯人探してとっちめないと。」

 

”ドン”

 

「いまから、緊急役員会を始めます。

 

 それと奉仕部の皆さん、すみませんが同席していただいてよろしいですか?」

 

「ええ、なにかこの男の菌がご迷惑おかけしたようだから。」

 

「いや、俺の菌ってなに? 比企谷菌は人にしか効果ないから。」

 

「先輩、うっさいです。

 

 まったく誰のせいでこうなったと思ってるんですか。」

 

「え、なんで俺のせい?」

 

     ・

 

「それでは、よろしいですか

 

 現状において、まずは最優先は総会資料の作成とします。

 

 犯人には滅茶苦茶腹立ちますけど、今は後回しで。

 

 副会長、現時点で、ネットに繋がっていないパソコンは?」

 

「はい、貸し出し用の1台だけです。」

 

「それを準備してください。 ネットには繋がらないように。

 

 稲村先輩、会計用の資料はできてますか?」

 

「一部、修正が必要だが、このUSBに落としてある。」

 

「それでは、副会長のパソコンの準備ができ次第、修正してください。」

 

「おう。」

 

「それと美佳先輩、美佳先輩は大至急帰ってください。」

 

「はい。」

 

「え、帰っちゃうのか三ヶ木。」

 

「それでパソコンが一台しかないので、ご自宅のパソコンをもってきてきくれますか。」

 

「はい、了解です。」

 

「ご自宅のパソコンには、どのくらいまでの資料を保存してます?」

 

「わたしの分は、ほぼ出来てるけど、他の資料は連休前の状態かと。」

 

「わかりました。 美佳先輩が戻り次第、手分けして仕上げましょう。」

 

「あとは、書記ちゃん、ごめん、念のため、新しいUSB準備してくれる。

 

 それと、みんなの分の飲み物とお菓子も買ってきてもらっていい?」

 

「うん、了解。」

 

「わたしはこれから平塚先生のとこに、状況説明にいってきます。

 

 雪ノ下先輩、あとなにか足りないことありますか?」

 

「そうね、それでいいと思うわ。

 

 由比ヶ浜さん、予算関係の資料の確認お願いね。

 

 1円単位で計算が合ってるか確認して頂戴。」

 

「うん、ゆきのん了解。」

 

「あとは、奉仕部のパソコンも持ってくるわ。

 

 残りの資料も手分けしてやりましょう。」

 

「はい、それでは、各々がた、よろしくお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

いった~、まだちょっと痛むね。

でも急がないと

え、あれって

 

「駅まで送る。」

 

「・・・」

 

「まったく、いいから乗れって、足痛いんだろう。

 

 めんどくさい奴だな。」

 

「はぁ、なによ、悪かったわねめんど、うぷ。」

 

「ほら、これ見ろ。」

 

”ぐいぐい”

 

いや、そんなに顔に押し付けられたら見えないって。

やめ、やめ、やめろって、もう

 

「おい、いい加減にしろ。」

 

もう、なによこの紙。

え、解答用紙?

 

「げぇ、国語、ひゃ、百点。」

 

「おう、学年トップだ。 おそらく。

 

 これで問題ないだろう、わかったらさっさと乗れ。」

 

「え、何で知って・・・・うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ゆきのん、ヒッキー知らない?」

 

「比企谷君なら特別任務を与えたわ。」

 

「特別任務?」

 

「ええ、彼、国語百点だったから。」

 

「え、じゃあ、学年トップ。」

 

「まぁ、トップといえばトップね。

 

 でも私のクラスだけでも百点は3人いるのだけれど」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「なぁ、新聞部の件、蒔田から聞いた。

 

 お前、あんまり無理すんな。

 

 いくらなんでも新聞部の奴らの胸ぐら掴んで、

 

 生徒総会で吊るし上げたろうかはやりすぎだろう。

 

 お前一応、女子なんだから。」

 

「う、うん・・・・・・え。」

 

”べし”

 

「いてぇ、お前後頭部はやめろ、くらくらするから。」

 

「なによ一応って、これでもちゃんと女子なんだからね。」

 

くっそ、舞の奴め、なんてこと言いやがったんだ。

胸ぐらなんて掴んでないだろうが。

今度とっちめてやるからね。

 

「まぁ、でもなんだ、すまん、ありがとう。」

 

「うううん、わたしね、文化祭の時何もできなかった。

 

 比企谷君がそんなことするわけないってわかっていながら。

 

 なにか裏があるはずって探ってたら、もう止められなくなっちゃって。

 

 だから、今回は手遅れになる前に少し強引にね。」

 

「それなんだが、文化祭の時、お前と会ってたっけ。」

 

”べしべし”

 

「ばっか、もういい。 ふん。」

 

やっぱ忘れてやがる。

わたしも生徒会にいたんだから。

一緒に資料作ったり、後片付けとかしたじゃん。

この野郎、今度はきちんと思い出させてやる。

は、それよりも。

 

「ね、そんなことより、いつから知ってたの?」

 

「ん、ああ、お前の依頼のことか?

 

 お前の浅はかな考えなんて最初からわかってた。

 (ほんとうは由比ヶ浜に教えてもらったんだが・・・)

 

 俺がちょっと実力出せばこんなもんだ。

 

 お前ごときが何をしようと俺の成績には何の影響もない。」

 

「ぐ、な、なによ滅茶苦茶腹の立つ奴。

 

 ・・・・でも、ほんとだね。本当に迷惑になってないんだね。」

 

「ったりまえだ。」

 

「じゃあさ、だったら、なんでこの前のテストは悪かったのよ。」

 

「あのな、言い難いんだが、アロマランプだ。」

 

「え、アロマランプ?」

 

「おう、あれなんか落ち着いてな、それでそのままつい眠ってしまうんだ。

 

 やばいと思うんだが、つい誘惑に負けてな。

 

 それであんまり勉強できなかったからだ。

 

 だから、お前のせいじゃない。」

 

「う、よかった。 わたし、てっきりわたしのせいだと。」

 

「お前ごとき、屁でもないっていっただろ。 」

 

屁でもないってなんかほんと腹立つ。

ま、まあよかった。

でもアロマランプが原因だったとしたら。

 

「アロマランプが原因だとしたら、やっぱりわたしが原因。」

 

「そ、そうだな、そういうことならお前が悪い。

 

 だったら俺の依頼を聞いてもらうぞ。」

 

「え、な、なに、まさか脱げって。

 

 それとも〇□△×や〇□△×

 

 ひどい、スケベ、ムッツリ、変態、エロ八幡。」

 

「いや、そんなこと言ってないから。

 

 おまえ、女子の口からそんな言葉吐くんじゃない。

 

 それになんだエロ八幡って。

 

 まったく、お前の頭のどうなってんだ

 

 あのな・・・俺の依頼は、お前の依頼取り下げてほしい。」

 

へ、依頼ってそんなこと。

 

「あのな、気が付かなかったんだ。

 

 お前とは普通に何でも話せて、いまみたいに馬鹿な会話も平気でしてたことを。

 

 なんだろな、なんかなにも気にしなくてもいい存在。

 

 うまく言えないが、俺はお前に普通にそばにいてほしいんだなって。

 

 だから、依頼を取り下げてほしい。」

 

「・・・なにも気にしない存在? それって複雑なんだけど。」

 

「すまん。」

 

「いやよ。」

 

「へ、しかしお前。」

 

「い・や・よ。 べ~だ。」

 

「な、お前。」

 

「・・・どうしてもそばにいてほしいの? だったらわたしの条件聞いてくれる?」

 

「なんだその条件って。」

 

「あのね、わたしの条件は、来年の春休みのプリキラ―の映画、一緒に観に行くこと。

 

 わかった?」

 

「・・・おう、わかった。」

 

「よし、じゃあご褒美だ。」

 

「へ?」

 

”ぎゅ”

 

「ばっか、お前やめろ、おい離れろ。

 

 あぶないだろ。」

 

”がちゃん”

 

「「いった」」

 




最後までありがとうございます。

一応、ラストは決まってたんですが、最近ちょっと迷いがあって

今回もグダグダな内容に。

どうもすみません。

次章に入る前に一度整理しなおします。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宣戦布告

今回もありがとうございます。

またしても遅くなりました。

だめだ、だんだんペースが遅くなる。

第三章の最終話です。

次章に向けてあの男も。

最後まで我慢して読んでいただけたらありがたいです。

よろしくお願いいたします。



"ギ~ゴ~、ギ~ゴ~”

 

「比企谷君、その階段の下で止めて。」

 

”キキ―”

 

「なぁ、これ少し油さしたほうがいいぞ。

 

 じゃ、俺ここで待ってるから。」

 

"トン、トン、トン、・・・、トン”

 

大丈夫よね。

そんなに散らかってなかったはず。

わたしの部屋にさえ入られなければ。

よ、よし、頑張れ美佳。

 

”ガチャ”

 

「さ、どうぞ。」

 

「いや、ここで待ってるって。

 

 マズイだろ。 今、家に誰もいないんだろ。」

 

ふふふ、そう言うと思った。

だからね、ちゃんと考えてんだよ。

 

「うん、だけどさ、そんなとこに立ってられると、

 

 絶対、ストーカーに間違われそうなんだけど。」

 

「は、そ、そうか。」

 

「うん、通報なんかされたら、なんか面倒くさい。」

 

「わ、わかった。 すまん、失礼する。」

 

”トントントン・・・トン”

 

やった! 作戦大成功、比企谷君がとうとう我が家に。

へへ、緊張するなぁ。

 

「どうぞ。 狭いけど我慢してね。」

 

「だから、それは言うなって。

 

 そんなことより、な、なぁ、三ヶ木。

 

 あんな一人の時は、その、なんだ、男は部屋に入れないほうがいいぞ。」

 

「へ、あったりまえじゃん。」

 

「いや、だけど俺は部屋入ってるんだが。」

 

「比企谷君だけだよ。」

 

「あんだよ。 それは、あんに俺は小心者の安全パイだとか言ってんのか?」

 

「うううん、そんなんじゃないよ。

 

 まぁ、そうだね。 比企谷君に襲われたら、嬉しいかなぁって。」

 

「お、おい。 馬鹿、いま現実に二人だけなんだぞ。」

 

「だってさ、比企谷君ってなんか理性の化け物って言われてるでしょ。

 

 比企谷君に襲われるってことは、わたしの魅力が比企谷君の理性に勝ったって

 

 ことだから。

 

 わたしって結構いい女ってことになるじゃん、へへへ。」

 

「お前、そんなことのために俺に襲われていいの? 」

 

「うん。 ・・・・・・・・・・・・・ねぇ、襲う?」

 

「ばっか、襲わねぇ。 俺の理性をなめんな。」

 

「はいはい、そう言うと思った。

 

 じゃあ、パソコン持ってくるから、ここでちょっと待ってて。

 

 あ、絶対この襖、開けちゃだめだからね!」

 

「お、おう。」

 

”スゥー”

 

ふぅ、なにをはしゃいでるんだろうねわたしは。

ばっかだね~、恥ずかしい。

 

・・・・・ま、そんなことよりパソコンパソコン。

えーと、コードは机の下だね。

あ~もう、こんがらがってる。

は、ごきちゃん!

 

”どん”

 

「あいたた!  あ、消しゴムじゃん。」

 

”スゥー”

 

「おい、三ヶ木どうした、大丈夫か?

 

 うぷ、なんだこの白い布は?

 

 これ、どこかで見たような気が。

 

 ふむ、収縮性があって、なんかすべすべしてて・・・

 

 こ、これは、パ、パン 」

 

は、比企谷君、なに、何で入ってくるの。

ばか、その手に持ってるのわたしのパンツ。

いや、見ないで、触らないで。

 

「こ、この野郎、なにすんだ、衝撃のファーストブリット!」

 

”ボコ”

 

「ぐはぁ!」

 

「なんで部屋に入ってくるし、この変態 馬鹿、エロ八幡、出てけ~」

 

”バタン”

 

「いや、おい機嫌直せって。」

 

見られた、見られた。

いや、それだけじゃなくてあのバカ、なに触ってんだよ。

で、でも触られたの、高かったやつだからよかった。

 

「変態。」

 

「いや、だってまさか部屋にパン 」

 

「い、言うな。 仕方ないじゃん、外に干せないんだから。

 

 外になんて干したら、すぐ無くなるんだ。」

 

「そ、そうなのか。」

 

なんで男って、そんなもんほしがるんだ。

そんな布切れでなにがうれしいんだよ。

おかげで、出費きつくてきつくて。

今だから言うけど、1回だけノーパンだったんだからね。

・・・まぁ、ジャージはいてたけど。

 

「うんしょっと、はい、お待たせ。」

 

「おい、お前、パソコンってデスクトップか。」

 

「そうだよ。」

 

「お前これどうやって学校に持ってくる気だったんだ。」

 

「これぐらい頑張ればなんとか。」

 

「まったく、付いてきて良かったわ。 ほら行くぞ。」

 

「うん、お願いします。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、稲村君?

なんだろう、もう予算のほう終わったのかぁ。

 

「この電話は現在使われて・・・・おりま~す。 って、どしたん?」

 

「なんだそれ? まぁいいや、いまどこだ、もう駅ついたか?」

 

「うん。 いま改札出たとこ。」

 

「わかった。」

 

「ふぅ、重たかった。 お前これひとりでなんて絶対無理だったろ。」

 

”拭き拭き”

 

「ふぅ~、いいか、何でも一人でやろうとするな。」

 

「いや、それあんたが言う? まぁいいけどって、あ、おい!」

 

「どうしたんだ?」

 

「お、お、お前、その手に持ってるものはなんだ。

 

 な、なにで汗拭いてるんだ!」

 

「なにでって、ハンカチ あ、いや、これはちがう。

 

 あ、あのとき、手に持ったままだから 」

 

「死ね、撃滅のセカンドブリット!」

 

”ボグ”

 

「ぐふあ」

 

「こ、この下着泥棒、変態馬鹿。」

 

いつの間にこの変態野郎は。

それ、わたしのお気に入りだったんだからね。

すごく高かったんだから。

もう使えないじゃん。

でも、男の子ってその~、ほしいのかなぁ。

 

「・・・・・・・あ、あのさ、そんなに、ほ、ほしいんなら言えばあげるのに。」

 

「い、いや、違う、違うから。 そんなんじゃないって。」

 

「あ、いたいた。お~い三ヶ木。」

 

「あ、稲村君。」

 

「おう、え、比企谷もいたのか ん?

 

 ど、どうしたんだ、二人とも顔真っ赤だぞ。」

 

「い、いや、稲村、なんでもない。」

 

「そ、そうか、ほら三ヶ木パソコン貸せ。 持って行ってやる。」

 

「あ、うん。 ・・・でも。」

 

「あ、比企谷、後は俺が持っていくわ。」

 

「いや一人では危ないだろう。 ディスプレィ頼む。」

 

「あとは、生徒会でやるから、部外者はいいって。」

 

「いい、気にすんな。 折角ここまで俺が持ってきたんだ。

 

 最後まで持ってくわ。」

 

え、なに? 比企谷君も稲村君もそんなにパソコン持ちたいの?

ね、そんなことより早くいこうよ。

どっちでもいいんだけど。

 

「それじゃ行くぞ、三ヶ木。」

 

「いや、比企谷君、お前パソコン重たそうだろ。 三ヶ木、こっち乗ってけ。」

 

え、な、なに。今度はわたし?

二人してこっち睨まないで~

ど、どうしよ。 パソコンみたいにわたし分割できないし。

あ、そうだ二台並んでもらって、横になって乗れば

・・・・落ちて死ぬわ、どないしょ。

 

「あ、ジミ子先輩だ。 どうしたんですか~

 

 え、あ、しゅ、修羅場だ、お邪魔しました。」

 

「待てぃ!」

 

「ぐへぇ。」

 

「いいとこに来たね舞ちゃん、悪いけど学校までよろしくね。」

 

「な、なにすんですか、急に制服を引っ張らないでください!

 

 嫌ですよ、やっと駅まで着いたのに、なんでまた学校に戻らなきゃいけないん

 

 ですか。」

 

「ま~いちゃん、なんか聞いたんだけど、わたし瀬谷君の胸ぐら掴んだんだってねぇ~

 

 んで、吊し上げたろうかって脅したらしいんだけど、なんか知らない?」

 

「あ、いや、そ、それは、その~」

 

「うんしょっと、ほら、学校行くよ。」

 

「ふぇ~、マジっすか。」

 

「うん、マジ。 よろしくね、えへ♡」

 

「ううう、かわいくない。」

 

「それ、しゅっぱーつ。」

 

「ふぇ~、ちょ、ジミ子先輩、変なとこ触らないでください。

 

 駄目だって、いや~。」

 

     ・

 

「・・・・行こうか。」

 

「ああ、行こう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、ご苦労さん。 もう行っていいよ。」

 

「ひど、ひどすぎ。

 

 ジミ子先輩、借しですからね借し。 

 

 絶対、忘れないでくださいよ!」

 

「わかった、わかった。

 

 舞ちゃん、ほんとにありがと いろいろと助かった。」

 

「ジミ子先輩、ほんと気を付けてくださいね、いろいろと。

 

 じゃ、帰ります。」

 

「うん。 またね。」

 

ありがと、舞ちゃん。

また一緒に部活の取材行こうね。

あとさ、ごめんね、刈宿君のアドまだ教えてないね。

舞ちゃん、本気だったら、今度、今度ね。

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

「ふう、大分できた。 そっちはどう? ごめんね、協力させて。」

 

「ああ、もう一息だな。 気にすんな。」

 

     ・

 

「あ、稲村君、帰ってきてた。

 

 ねぇ、ここ計算違ってるよ。」

 

「え、あ、ごめん、今見直すよ。」

 

     ・

 

”カタ”

 

「比企谷先輩、ありがとございます。

 

 コーヒー、ここおいて置きますね。」

 

「お、おう。 ありがとう、書記ちゃん。」

 

”ゴク”

 

「にっがー。 これ無糖じゃないよね。・・・微糖っか。」

 

”カタ”

 

「ん? お、こ、これはマッ缶。」

 

「ほれ、交換してあげる。」

 

「あ、いや、それ飲みさし。」

 

”ゴクゴク”

 

「はぁ~、もう慣れたからいいけど。」

 

へへへ、確信犯だよ。

比企谷君の関節キッスゲット。

 

は、な、なにか寒気が。

なんだろう、げ、雪ノ下さん睨んでいらっしゃる。

目、絶対合わさないように。

自然体、自然体っと。

いや~、怖い。

 

     ・

 

「あ、稲村君、これ一桁打ち間違えてるよ。」

 

「え、うそ。 あ、ごめん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「はい、皆さん、ご苦労様でした。

 

 内容、問題ないので、今から平塚先生のところ持って行ってきますね。」

 

「うへぇ~、もうしばらく数字みたくな~い。」

 

「由比ヶ浜さん、ご苦労様。」

 

「うん、ゆきのんもね。」

 

 

「なぁ、稲村、今日はどうしたんだ?

 

 やけにミスが多かったようだが。」

 

「あ、いや、何でもない。 すまなかったな。」

 

「副会長、稲村先輩、三ヶ木先輩どこに行ったか知りませんか?」

 

「いや、あれ、どこいったんだろ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~、つっかれた、脳内の糖質、全部使い果たしたわ。

 

 こんな時は、やっぱりマッ缶だな。」

 

”ガチャン”

 

「へ?」

 

「お疲れ。 これタクシー代ね、ありがと。」

 

「お、おう。 じゃ、ご馳走になっておく。」

 

”ガチャン”

 

「ふぅ、なんとかできたね、ありがと。

 

 わたしね、文化祭の時のこと思い出しちゃった。」

 

「ああ俺もだ。 もう二度と思い出したくなかったんだが。

 

 あの時はいくら処理しても次から次へと仕事増えたからな。」

 

「そうだったね。」

 

「だが、お前いたのか?」

 

「ひど、ちゃんと文実と学校との調整やってたじゃん。

 

 知ってんだからね、スローガンのこと、人と書いてって

 

 あれめっちゃうけたんだから。」

 

そうだよ、比企谷君らしいって思った。

それでね、その時のさがみんの顔見たらもうおかしくって

でも、さがみんほんと変わったよね。

でもカラオケ誘ってくるのに、”嫌いだからね”はないよ。

いつまで嫌われ続けるのわたし。

 

「うけてたのか、それはどうも。

 

 ・・・なぁ、三ヶ木、今回の件、どう思う。」

 

「今回の件って、ウィルス送ったやつ?

 

 まぁ、わたし犯人は大体わかってるけどね。」

 

「本当か、お前すごいな。

 

 もしかしてお前、ボクっ子女子高生探偵?」

 

「はあ? なにそれ、キモ。」

 

「いや、あの探偵アニメにでてくる、え、なに知らない?

 

 ほら、見ためは大人、頭脳は小学生って。 」

 

「知らん、それに比企谷君、それまずいでしょ。

 

 あのね、まずこの学校の生徒だね。

 

 だって比企谷君の名前を知ってるから間違いない。」

 

「おい、それひどくないか? まぁ、その通りだが。」

 

「だしょう、それで比企谷と会長が仲がいいことを知ってて、

 

 でも、比企谷君が女子のこと名字でしか呼べない小心物ってことを知らないこと。

 

 この根性なし。」

 

へへ、わたしこの前、思いっきり美佳って呼ばれた。

結衣ちゃんでも呼ばれてないのに。

わたしだけ、へへへなんか優越感。

は、寒気が、い、いないよね。

 

「待て、俺と一色は仲良くないぞ、俺が一方的にこき使われているだけだ。

 

 それに今、なんかどさくさにまぎれて罵ってない?」

 

「あとは、多分、このGWぐらいに会長となんかあった奴で、最後にパソコンに

 

 詳しいこと。」

 

「何でGWっていえるんだ。 一色なら年中、なんか揉め事ありそうだけど。

 

 あいつあざといから。」

 

「うん、会長が言ってたんだ。 

 

 GWのころから誰かにつけられてる気がするって。」

 

「そ、そうか。」

 

「そんでね、それらが当てはまる奴は一人しかいないんだけど・・・」

 

「証拠がないっか。」

 

「うん。」

 

「三ヶ木、証拠がなければ、」

 

「「つくればいい 」」

 

は、はもった。

やっぱ考えることは比企谷君らしいね。

って、わたしも同じ考えか。

そうだよね。

おそらく、メールとかアドレスとか消去してるよね。

証拠はむずかしいからそれしかないよね。

 

「まったくお前は。」

 

「へへへ、まったく比企谷君だね。

 

 で、どうすればいい?」 

 

「あん?」

 

「比企谷君のことだから、なんか、もう方法があるんでしょ。

 

 いってみ。 お姉さんが聞いてあげる。」

 

「まて、いつからお前お姉さんになったんだ。」

 

は、しまった。 最近、刈宿君と話してることが多いからつい。

だって毎日電話してくんだもん。

電話代だって馬鹿にならんだろうが。

 

「まあまあ、いいから。 ほら聞いてあげる。」

 

「何で上から目線。 まぁお前ぐらいにしか言えないけどな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どうだ。」

 

「さすが比企谷ね。 うん、いいかも。」

 

「はは、そんなこといってくれるのお前ぐらいだ。

 

 こんなこと雪ノ下に言ってみろ。

 

 絶対罵詈雑言の雨を浴びせられてる。」

 

「結衣ちゃんに言ったら、絶対悲しむね。 泣いちゃうんじゃない。」

 

仕方ないじゃん。

彼女たちはあなたのこと、その、・・・・す、心配してるからね。

わたしは、どうなんだろう。

心配よりもおもしろいと思ってしまう。

心配してないわけじゃないんだけど、なんか同じこと考えてるんだって

嬉しくなってしまう。

 

「だがこの方法にはだな、 」

 

「一つ課題があるんでしょう、この方法は。」

 

「そうだな。」

 

「いいよ、それわたしがやる。 まあ、わたししかいないけど。」

 

「無理だ。 お前可愛くない。」

 

「ひど・・・・・確かに会長や書記ちゃんに比べると可愛くないけど、

 

 面と向かって言われるほどじゃないと思ってんだけど。」

 

「すまん、無理だ。

 

 一色や書記ちゃんなら成功する確率は高いんだが、お前では。」

 

「ひど、ほんとにひど。

 

 こうなったら意地でもわたしがやるよ。

 

 まぁ、こんなことあの二人にさせるわけにはいかないもん。

 

 大丈夫、可愛くない分は・・・・・なんか腹立つけど、根性みせるから。」

 

「いや、根性って。  なぁ、一つ聞いていいか?

 

なんでそこまでするんだ。 生徒会ってそんなに大事か?」

 

「あのね、わたし託されたんだよ、めぐ、城廻先輩に。

 

 だから、わたしは生徒会を守るためなら、泥水だってすすってみせる。」

 

「おまえ、何でそんなにめぐり先輩のことが大切なんだ。」

 

「城廻先輩は、わたしの憧れ、それに大事なお姉ちゃんだもん。」

 

「え、いや、顔全然似てないぞ。

 

 似てればもう少し可愛いくなるはず。  なに腹違いとか?」

 

なによ、さっきから可愛くない可愛くないって。

わかってるってんだよそんなこと。

・・・比企谷君に言われると、余計に傷つくじゃんか。

まったく、何でこんなやつのことが・・・・くっそ。

 

”べし”

 

「て、てめぇ、さっきから可愛くない可愛くないって。」

 

「ぐはぁ。 ・・・わかった、だが絶対無理すんな。」 

 

「うん。 でもいざといいうときは助けてくれるんでしょ?

 

 比企谷君がいるから心配していないよ。」

 

「おう。 あ、それとこのこと一応、生徒会には話しておけ。

 

 絶対だぞ。 お前にあんときの俺のようになってほしくない。」

 

「・・・・・う、うん。」

 

だめだよ、話したら絶対止められるよ。

わたしでもね、こんなわたしでも、ジャリっ娘、心配してくれるんだ。

でも、これはわたしの役目。

 

生徒会はわたしが守るんだ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

始めるよ。

頑張れ美佳。 生徒会を守るためだ。

根性出せ。

 

”ガラガラ”

 

「あ、あの、パソコン同好会はこちらでよかったですか?」

 

「そうだけど何か用か。」

 

しめた。比企谷君の言う通り一人だね。

へへ、あの掃除用具入れの中にいるんだ。

頑張ってね。

 

「あ、あの、わたし、生徒会の三ヶ木美佳って言います。」

 

「生徒会?」

 

「突然でごめんなさい、助けてほしいんです。

 

 もう頼れるのパソコン同好会しかなくて。」

 

「いや、話が分からないんだけど、なにを助ければいいんだ?」

 

「じつは昨日メールが届いて、その添付ファイルにウィルスが入ってたんです。

 

 うちの会長、可愛いんだけど、頭も可愛くてファイル開いちゃったんです。」

 

会長、ごめんなさい。

でも可愛いのはほんとだし。あ、顔のほうね。

ファイル開いたのもほんとだからね。

 

「それで、今度の生徒総会の資料が全部消えちゃって。

 

 昨日は徹夜して資料作ったんだけど・・・・もう眠くて眠くて限界。」

 

「そ、そうだったんだ、大変だったんだな。」

 

「うん、ありがと。

 

 でもね、その後もメールが何回も届いて、今日も届いてたの。

 

 それでね、もし会長がまたファイル開いちゃったらと思うと。

 

 お願い、助けてくれませんか?」

 

”にぎ”

 

「え、手? あ、あのさ、メールが送られてくるんだね、今も。」

 

「うん、さっきも届いていたから怖くて、だからお願いに来たの。」

 

「ファイル開かなければいいじゃないか?」

 

「そうなんだよ。 ふつう絶対開かないよね。

 

 だけどあの会長、比企谷君にべた惚れだから、駄目だっていっても開いちゃうの。

 

 ねぇ、お願いです、助けてくれない。」

 

”にぎにぎ”

 

「わ、わかった、見てあげるよ。 ちょっと待って」

 

「ほんと、ありがと。 じゃあ、早く来て、早く。

 

 今日、会長たち遅いって言ってたから、今のうちに。 」

 

「わ、わかった。」

 

よし、比企谷君、あとお願いね。

スクリーンセーバーの前に。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「生徒会の人、誰もいないんだな。」

 

「うん、どうぞ座って。 あ、ほらメールがまた来た。」

 

「どれ ・・・・ はぁ、な、なるほどな。」

 

「ね、いつも同じメールが届くんだよ。

 

 なんとかならない?  絶対、会長またファイル開きそうで。」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれるか? 

 

 なにか方法ないか調べてくるから。」

 

「うん、お願いします。」

 

”ガラガラ”

 

「比企谷君、そっちいったよ。」

 

「す、すまん、添付されてたウイルスファイルを見つけたんだ。

 

 コピーしてるから、もう少しだけ引き留められないか?」

 

「え、わ、わかったやってみる。」

 

で、でもどうやって引き留めれば。

どうしょう。

ええ~い、根性見せろ、三ヶ木美佳。

 

”ガラガラ”

 

「あの、ちょっと待って。」

 

「え、えっと三ヶ木さんだっけ、な、なにか?」

 

”にぎ”

 

「あ、あの、本当に助けてもらえますか?」

 

「まぁ、できるかどうかわからないがやってみるよ。」

 

「やった! ありがとうございます、うれしいなぁ。」

 

”だき”

 

「え、えへへへへ、いや~やってみないとわからないけど。」

 

「うううん、話聞いてくれただけでもうれしい。

 

 なんか心細くて。」

 

「そ、そうか」

 

”ぎゅ~”

 

げ、こいつ、調子に乗りやがって。

く、くそ~、やだよ、キモいよ。

が、我慢だ、ちくしょ~。

 

 

「うん、あれ三ヶ木じゃないか?

 

 あんなとこでなにを。

 

 え、抱き着いた。 はぁ? なにやってんだあいつは!」

 

 

「じ、じゃ、生徒会室でちょっと待っててくれるかな。

 

 それと、今日、部活終わったら、ららぽでも行かないか?」

 

「うん、行く行く。 じゃあ、後で校門でね。」

 

「わかった。」

 

うへぇ、キモかったよ。

は、まだこっち見てる。 笑顔笑顔。

頑張れ、わたしは女優。

 

「何してんだあいつ。

 

 何であんなやつと・・・・・・」

 

「稲村君じゃね、生徒会の。」

 

「え、あ、戸部君か。」

 

「ちょ~ど良かったわ~

 

 わりいけど、これいろはすに渡してくんない。」

 

「ん、これは?」

 

「あんよ、いろはすに頼まれて、いろはすを付けてるやつみつけてたんだわ。

 

 ばっちり写真撮ってから。 

 

 じゃあ よろしく頼むわ。」

 

「あ、ああ、わかった。 ありがとう。」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「おかしいな、あの生徒会に送ったメールは消去したし、アドレスも。」

 

”カチャカチャ”

 

「げ、なんでこのメールがあるんだ、これ、ちゃんと消去したはずだ。

 

 あ、さっきのメールもある。

 

 だ、だれが俺のパソコン使って、ウィルスのメール送ったんだ。

 

 くっそ、俺しか知らないはず。」

 

”ガラガラ”

 

「ね、生徒会に送ったメールって何のメールのことかしら?」

 

「は!、三ヶ木さん、どうしたの、生徒会室で待ってていたのに。」

 

「あ、ちょってどいて。」

 

”がさがさ”

 

「はい、これボイスレコーダ。 えっと再生っと。

 

 『おかしいな、あの生徒会に送ったメールは消去したし、アドレスも。』

 

 うん、ばっちりだね。」

 

「おまえ、最初から、じゃあ、このメールも。」

 

     

 

「あら、スト谷君、こんなとこでなにしてるのかしら?

 

 部室を覗くって本当にストーカーにでもなったのかしら。」

 

「あ、いや何でもない。」

 

     

 

「そうだよ。 それにそのパソコンに保存されてたウィルスの添付ファイルも

 

 コピーしたわ。

 

 ねぇ、比企谷君、もういいよ。入ってきて。」

 

   ・

 

「え、 あれ?」

 

「・・・誰も来ないじゃないか。

 

 おい、このメールはお前が俺を犯人にでっちあげるため、お前が俺のパソコンから

 

 送ったんだ。

 

 お前が犯人だ、だからそのボイスレコーダよこせ!」

 

「いやー!渡さない。」

 

いやよ、絶対渡さないんだから。

比企谷君、早く、早く来て。

くっそこの野郎、じょ、女子に対してなにすんだ。

か、髪引っ張んな。

 

「よこせってんだ、このくそ女!」

 

”ガラガラ”

 

「おい、俺の三ヶ木に何するんだ!」

 

「い、稲村君。」

 

”ガラガラ”

 

「・・・遅い、比企谷君。」

 

「す、すまん。」

 

「おい、お前がメール送ったやつだろ。

 

 それにほれ、この写真にお前がうちの会長を付け回してるところが

 

 バッチリ映ってるぞ。」

 

”バサ”

 

「破っても無駄だぞ。 データーに残ってるからな。」

 

「・・・だって、あの女が悪いんだ。

 

 なにが生徒会とマネージャーで忙しいだ。

 

 嘘ばっかじゃね~か。

 

 この前も、そこの目つきの悪いやつとデートしてたじゃね~か。」

 

「え、ほんと? 比企谷君、後で話があるから。

 

 まぁ、それはおいといて、あのさ、清川君、会長は無理だよ、あきらめな。

 

 だって、会長ああ見えて割と一途だもん。

 

 それに本命って・・・・・あの葉山君だよ。

 

 君、葉山君に勝てる?」

 

ごめん、葉山君。 また利用させてもらった。

君はほんといいやつだよ。

知らないだろうけど。

 

「また、葉山かよ。 なんだよどいつも葉山、葉山って。

 

 くそ、お前もかよ。」

 

「う~ん、葉山君はいい人だけど、わたしはちょっと違うかな。」

 

”ちら”

 

「まぁ、なんだ、そんなことよりどうすんだ。」

 

「まずは会長に報告してからだね。

 

 それと、このパソコンは没収しておくからね。 学校のものだし。」

 

「・・・・・くっそ、横暴だ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「痛い、痛いって稲村君、腕はなしてよ。」

 

”ガラガラ”

 

「あ、ご苦労様です、稲村せんぱ  え。」

 

「ど、どうしたんだ稲村。」

 

”パシッ”

 

「痛~い。」

 

「お、おい、稲村、何やってんだ。」

 

「三ヶ木先輩大丈夫ですか?」

 

「うぇ~ん、痛い、痛い、痛い。」

 

「三ヶ木、なにやってんだ。

 

 そんなに俺たちが信用できないのかよ。」

 

「・・・」

 

「お前、俺が聞いた時に言ったよな。

 

 生徒会が終わっても、高校を卒業しても

 

 みんなとのつながりをもっていられる関係でいたいって。

 

 これがそうなのか。」

 

「わ、わたしは生徒会のこと思って。」

 

「こんなのお前の自己満足じゃね~か。

 

 なんともなかったから良かったけど、なんかあってからじゃ遅いんだぞ。

 

 俺はこんなやり方、絶対認めないからな!」

 

「なによ、なによ、馬鹿。

 

 じょ、女子に暴力ふるうなんて最低なんだからね。 とうちゃん言ってたもん。

 

 馬鹿村、あんたなんか大嫌いだ、ばかばかば~か!」

 

”ガラガラ”

 

「み、三ヶ木先輩待って! 眼鏡ここに。」

 

「おい、稲村、やりすぎだろ。 」

 

「うるさい。 俺は絶対認めないんだ。」

 

「お疲れ様で~す。 え、ど、どうしたんですか?」

 

「いろはちゃん、おそ~い。 じつは今 」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「ふ~ん、また美佳先輩やっちゃったんですか。

 

 まったくあの人は。」

 

「会長、すまない。 でも俺はあいつのやり方が許せなくて。」

 

「・・・稲村先輩、本当にそれだけが理由ですか?

 

 勝手にやったことだけが理由ではないんでしょう。」

 

「・・・」

 

「昨日も変にいら立ってませんでした? 

 

 勝手に駅まで迎えに行ってしまうし、それにいつもはしないミスばっかりして。」

 

「会長、おれ・・・」

 

「まぁ、わたしも時々思うんですよ~

 

 なんでもっとわたしのことみてくれないんだって。

 

 いっつも、あざといあざといって誤魔化して。

 

 すっごいむかつくから、あのアホ毛引っこ抜いてやろうかって。」

 

「アホ毛?」

 

「でも、手を出したら駄目です。

 

 わかりますよね。」

 

「ああ、そうだと思う。 俺が悪かった。」

 

「はい、それじゃ、この忘れ物届けてあげてください。

 

 これは美佳先輩が前の生徒会の先輩からもらった大事な眼鏡なんですよ。

 

 早く持って行ってあげてください。

 

 それに眼鏡が無いと、美佳先輩怪我するかもですよ。」

 

「あ、ああ。 ありがとう会長、すまない。」

 

「ど~もです、えへ♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ジャー”

 

うへぇ、痛い。 あの馬鹿村、思いっきり引っ叩きやがって。

 

ほっぺ腫れてるの見られたら、とうちゃんすげぇー気にするだろうが。

 

さましたら腫れひくかな。

 

「三ヶ木!」

 

げ、なにしに来やがったこの暴力男。

 

「なによ、また引っ叩きに来たの。」

 

「いや、違うんだ。 俺、俺な。」

 

「何よ、痛いんだからね。 見てみ、真っ赤じゃん。」

 

「す、すまん。」

 

「もう、絶交だから。 

 

 とうちゃんが女子に暴力振るう奴とだけは付き合うなって言ってたんだから。」

 

「三ヶ木、話を聞いてくれ。」 

 

「いやだ。」

 

「俺、俺やっぱりお前のことが好きなんだ!」

 

「へ?」

 

「俺は、お前が好きだ。」

 

「ばっか、なに言ってんのよ。 そんなことで騙されないんだからね。」

 

「だから、俺、あんな奴に抱き着いたお前が許せなかった。

 

 それにお前と比企谷が話してるの見て、すごくイライラして。

 

 なんか、頭が爆発しそうで。」

 

「な、なに言ってんかわからないし!」

 

「こうなったら何回でもわかるまで言ってやる。  お前が好きだ。」

 

「・・・本気?」

 

「ああ、本気だ。」

 

「あのね、生徒会内で恋愛は禁止なの。」

 

「いやでも本牧と書記ちゃんだって。」

 

「その本牧君と書記ちゃんを廻っていがみ合ってたのだ~れ。」

 

「いや、あれは。」

 

「だから、生徒会役員同士の恋愛は禁止。」

 

「生徒会が終わったら?」

 

「あのね、わたし・・・・・多分、まだ。」

 

「わかってるつもりだったんだ。

 

 でも、いや、だから俺の気持ち伝えたくて。

 

 返事は生徒会終わった時でいいから。」

 

「わかった。

 

 ・・・あのね、それと今日のこと、わたしのほうこそごめんなさい。」

 

「いや、今日のことは暴力をふるった俺が悪い。」

 

「ほんとはね、稲村君が心配してくれて、だから本気で怒ってくれたってわかってたんだ。

 

 とってもうれしかった。

 

 ・・・だからね、目を閉じてくれる?」

 

「目? え、うそ。 ああわかった。」

 

「あの・・・もう少し背を低くして。」

 

「背? こ、このくらいか。 え、でもいいのか?」

 

「うん、あのね、稲村君・・・・・・・とりゃあ!」

 

”パシッ”

 

「ぐはぁ! いってぇ。」

 

「あ~すっとした。 これでチャラね。」

 

「チャラって、期待した俺が馬鹿だった。 いって~。」




すみません。

今回もお付き合いいただきありがとうございます。

ほんと、文がまとまらなくて、つい長々と。

次章に向けて、決意表明した二人。

またグダグダな展開が続きますが、読んでいただけたらありがたいです。


※最近、夜が眠たくて、油断すると寝てしまう。

 何とかしなくては。

 もう少しで12巻発売。

 内容にあわせて以降の展開見直しいたしたく、ちょっと次話過去に戻ります。

※※すみません。
  一部修正出来てませんでした。
   希望(ひかり)→憧れに修正しています。
 




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3.5章 きっかけ
encounter


今回も見に来ていただいてありがたいです。

今回は、次章の前にちょっと過去に戻ってみました。

オリヒロと八幡の出会い編です。

よろしくお願いいたします。

次章は・・・だって12巻が。




「お疲れ様で~す、みんないます。

 今日の生徒総会、よろしくお願いしますね」

 

「い、いろはちゃん、大変、大変だよ」

 

「え、なに? ま、まさかまた資料が・・・

 いえ、ちゃんと昨日コピーしたからそれはないはず。

 書記ちゃん、ど、どうしたの?」

 

「ほ、ほら見て」

 

「げ、な、なんですか、二人ともその顔は!

 すっごく真っ赤に膨れてるじゃないですか」

 

「だって、馬鹿村が思いっ切り」

 

「いや、もともとお前が」

 

「なによ、この暴力男!」

 

「はぁ、それはこっちのセリフだ!」

 

”ばこ、ばこ”

 

「いったぁ!」

 

「か、会長、どこからそんなスリッパを」

 

「まったく、夫婦喧嘩は他人に迷惑のかからないようにやってください」

 

「いや、違うから」

 

「誰がこんなチョー怪力理不尽引っ叩き女なんか」

 

「え、いいの?  そうなんだ、いいけどわたし」

 

「あ、い、いや、三ヶ木、その・・・」

 

”ばこ、ばこ”

 

「ふぇ~」

 

「いたっ、会長、俺たち一応上級生」

 

「全くこの馬鹿先輩たちは。

 兎に角、頬にこんなに真っ赤な紅葉マークをつけた二人を人前には出せませんね」

 

「会長、ごめんなさい」

 

「悪い」

 

「ということで、副会長、総会よろしくです」

 

「え、俺が? か、会長は」

 

「え~、会長は何かあったときに”ビシっ”てのが定番じゃないですか。

 だから、お願いしますね。

 あ、でも、初めと終わりの挨拶は任せてください」

 

「はぁ~」

 

「書記ちゃん、フォローお願いね」

 

「はい、任せていろはちゃん」

 

「あ、そろそろ時間じゃないですか。

 じゃあ、行きますよ、みんな総会頑張りましょう。

 あ、美佳先輩、打ち上げのカラオケ予約よろしくです。

 えへ♡」

 

「了解!」

 

”ガラガラ”

 

「なぁ、稲村、ちょっとさわってもいいか?」

 

「やめろ、本牧、触るな。

 あんな、お前も気をつけろよ、女は怒るとこぇーぞ」

 

ははは、よかった。

話しにくかったらどうしょうと思ったけど、大丈夫そう。

まぁ、馬鹿村だもんね。

 

『お前が好きだ』

 

はぁ、あのバカ急に何言いだすかと思ったら。

でも、心配してくれてるってわかってたからかなぁ。

引っ叩かれてめっちゃ痛かったけど・・・痛かったけど、なんかうれしかった。

 

『美佳先輩、月がとっても綺麗ですねっす』

 

刈宿君までそんなこと言ってくれてたっけ。

わたしのためなら何でもできるとか。

馬鹿だね、こんなわたしのどこがいいんだか。

よっぽど舞ちゃんのほうがかわいいよ。

 

どうしたんだろう、わたし、人生で最初で最後のもてきなのかなぁ。

この機会を逃したら、一生恋人できなかったりして。

 

でもどうしよう、わたし、まだ・・・やっぱりそうなんだと思う。

比企谷君はわたしのことどう思ってるんだ。

 

『俺はお前に普通にそばにいてほしいんだ』

 

・・・・ふつう、それってプロポーズぽくない?

まぁ、比企谷君のことだからなんも考えてないんだろうけど。

ほんと友達って思ってる可能性大だもんな。

 

だって、彼の周りには結衣ちゃん、雪ノ下さん・・・・・それにジャリっ娘もだよね。

うらやましいなぁ、彼女達はわたしと違って特別な存在。

へへへ、わたしなんて勝てっこない。

くっそ、何であいつのこと好きになっちゃたんだろう。

初めて会った時なんて、印象は最悪だったのにさ。

えへ、なつかしいなぁ。

あれは二学期の始まったころだったね。

 

 

 

 

---- 三ヶ木美佳 二年生の二学期 ----

 

 

 

 

 

「三増先輩、確認お願いします」

 

「どれどれ。

 誤字確認したよね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うん、いいよ。

 会長、資料OKだと思います、確認お願いできますか」

 

「おーご苦労。

 うん、どれどれ」

 

     ・

「ふむふむ」

 

     ・

 

「よし、OK!

 じゃあ、美佳、これコピーしてきてくれる。

 あ、それとコピーしたら、厚木先生と平塚先生に渡しておいてね」

 

「はい、めぐ・・・会長」

 

「美佳、厚木先生と平塚先生にはちゃんと手渡しすんだよ。

 明日の文実の資料です、ご確認お願いしますって」

 

「三増先輩、大丈夫ですよ。

 わかってます」

 

「そ、そう?」

 

「そうです。

 行ってきま~す」

 

”ガラガラ”

 

「ようやく一人前の庶務になってきましたね、会長」

 

「うん、これも美麻の指導の成果かな。

 ありがとう」

 

「は、はい。

 大事な会長の妹分だったから、結構きつく当たりましたけど」

 

「そうだよ~、美佳、結構、陰で泣いてたんだよ~」

 

「え、本当ですか」

 

「ははは、でもそのおかげだね。

 わたしじゃどうしてもあの娘に甘くなっちゃうから。

 本当にありがとう」

 

「会長、光栄です」

 

     ・

     ・

     ・

 

へへへ、めっずらしい。

一発で三増先輩にOKもらっちゃったよ。

いっつもどっかケチつけるんだから。

三増先輩の、い・け・ず。

は、もしかしたら明日雪降るかも。

 

”ビユ~”

 

うわぁ、風つよ。

あ、あそこの窓開けっぱなしじゃん。

窓絞めとけよ、しゃ~ないな。

あ、そういえば雪どころじゃなくて、今日は台風くるんだった。

今日は早めに帰りたいな。

家飛んでかないか心配だもん。 

 

”どん!”

 

「きゃっ」

 

「うわっ」

 

”どさ”

 

「すまん。

 あっ」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、いえ、こちらこそって・・・・」

 

お、おい、ひど!

なんだあのアホ毛、さっさと行っちまいやがった。

くそ、散らばった資料集めるの手伝えよ。

まったく、ほんと、最近常識を知らないやつばっか!

絶対、あんなやつとは口を聞かないからな!

 

「べ~だ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「失礼しまし~す。

 コピー機を拝借します」

 

さてと、さっさとコピーしちゃおう。

えっと、ページ揃えて両面コピーっと。

 

「うっそ」

 

     ・

 

「・・・・・・・・やっぱり、い、一枚足りない!」

 

げ、どこで落としたんだ。

きっとあの時だ、あの時しかないもん。

全部拾い切れてなかったんだ。

やっば!

まだあるかな、無くなっていなければいいけど。

 

     ・

     ・

     ・

 

”キョロキョロ”

 

う~ない、ない。

どこいったんだろう。

 

「ね、どうしたの、落とし物?」

 

は、え、なにこのメロン、うらやましい。

あ、このお団子、由比ヶ浜さんだ。

やばー、こんなに近くで。

やっぱりかわいいな~、えへへ.

 

「あ、あの~大丈夫?」

 

「あ、ごめんなさい。

 あの、文化祭の資料を落としてしまって」

 

「どんなの? 大きさとかさ」

 

「うん、A4サイズで文化祭の各役割書いてあるの」

 

”キョロキョロ”

 

「う~ん、見当たらないね。

 あたしもうちょっとあっちのほうまで探してみるね」

 

「あ、ありがとう」

 

うへ、かわいくてメロン持ってて、そのうえ性格まで。

こりゃモテるわ、友達でなくてよかった。

だって、横に並んだらわたし・・・・・・

くっそ、今日からお風呂上がりの牛乳、二倍、二倍飲んでやる!

は、そんなことより、資料、資料。

どこいったんだろう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごめん、やっぱりなかった」

 

「うん、ありがとう由比ヶ浜さん。

 あのね、もう一回印刷してもらってくる」

 

「あ、あたしの名前知ってんだ」

 

「うん。

 あ、わたし生徒会の三ヶ木っていいます」

 

「三ヶ木さん、力になれなくてごめんね」

 

「うううん、ありがとう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”そー”

 

「えっと、庶務先輩いるかな~

 ほかの生徒会のみんなに気付かれないように、

 失くした資料をもう一回印刷してもらわないと」

 

そう、生徒会、特に三増先輩に気付かれてはマズイ

だって、わたしまだ死にたくないし。

と、とにかく庶務先輩、庶務先輩は・・・

げ! 庶務先輩、三増先輩につかまってる。

なんか必死に言い訳してるみたい。

あ、これってやばい雰囲気。

 

”べし”

 

でたー、三増先輩のチョップ!

あ、庶務先輩ぶっ倒れた。

三増先輩、小っちゃい頃、空手やってたから痛いんだよアレ。

でも、そうか手と指を伸ばして、まっすぐ手刀を振り下ろす感じなんだね。

ふう~ん、べしべしって感じだね。

 

「すまん、ちょっといいか?」

 

”びく!”

 

「あ、ごめんなさい、わたし怪しい者じゃなくて生徒会の・・・

 え、あ、あなた。」

 

「・・・地味」

 

「はぁ?」

 

「い、いや何でも・・・」

 

こいつ、あのぶつかってきた男じゃんか。

そんで、何も言わず逃げて行った奴!

それになに今!

た、たしか人のこと地味って。

くそ、た、確かに地味だけどさ!

いきなり人のことを、こ、こいつ絶対許せん。

 

「あ、これお前のだろ」

 

「うん、そうだよ」

 

え、なに、なんでこいつこの資料を持ってんの。

メッチャ探したんだからねこれ。

 

「あ、いやな、あんとき一枚窓の外へ落ちたのが見えたんだ。

 急いで探しに行ったんだが、ほら、今日風が強いだろ、結構飛ばされて。

 すまん、なかなか見つからず、大分遅くなっちまった」

 

え、窓の外に?

うそ。

あ、だからあの時、急いで行っちゃったんだ。

風で資料が亡くならないようにって。

だのにわたし・・・・・

やば、謝んなきゃ。

あ、髪の毛に木の葉ついてるし。

 

「あ、ありがとう。

 ごめんなさい、なんかわたし」

 

「じゃあな」

 

「あ、待って」

 

”ちょいちょい”

 

「よっと」

 

”ひょい”

 

「うん? お、お前何を」

 

「はい、木の葉ついてたよ」

 

「お、おう、あ、ありがとうさん、じゃあ」

 

「うううん、こっちこそ、ありがと」

 

”にこ”

 

「じ、じゃ、じゃあ」

 

へへへ、な~んだ、割りといい奴じゃん。

ありがとさんだって、顔真っ赤にして。

あ、名前聞くの忘れた。

 

”ガラガラ”

 

「あ、三ヶ木ちゃん、どこ行ってたのさ。

 もうコピー終わった?」

 

「え、あ、庶務先輩、ごめんなさい今行ってきます」

 

「うそ!

 わ、わかった、もうちょっと三増の相手してみるから。

 なるべく急いでね。

 で、でないと俺・・・ぐふ」

 

「あ、先輩、気を確かに。

 ごめんなさい、死なないで~」

 

     ・

     ・

     ・

 

よし、厚木先生はOKっと。

あと、平塚先生はっと、あ、いたいた。 

ん、男子生徒にお説教中?

邪魔かな?

まぁ、資料もってくぐらいいいでしょう。

 

「まったく、君という奴は変わらんな」

 

「そんなに簡単に変わるものは主義とはいわないでしょう。

 先生だって独身主義を貫いて 」

 

「抹殺のラスト・ブリット!」

 

「おわ」

 

”ふらふら”

 

え?

なんかふらふらってこっちに。

う、うそ。

 

’どん”

 

「きゃー」

 

な、なに、この男子はひとの胸に顔を。

この野郎、なんてことを!

 

”べし”

 

「ぐはぁ」

 

「な、何すんだこの変態野郎」

 

「ほほう、なかなかいいチョップをしてるな。

 確か城廻のとこの三ヶ木だったかな」

 

「は、はい。

 あ、平塚先生、これ明日の文実の資料です」

 

「おう、そこに置いておいてくれたまえ。

 それで、君はいつまでそこでうずくまってるのかね。

 それともその女子のスカートの中でも覗いているのか」

 

「はぁ! なにこの人、最低」

 

「いや、ちが、決して覗いていない。

 平塚先生、あんたなんてこと言うんだ。

 お、俺は決して白いものなんか見ていない」

 

「「あっ!」」

 

き、貴様!

し、白ってやっぱ覗いてたんじゃんか!

く、くそ、さっきちょっとでもいい人って思ったわたしが馬鹿だった。

こ、この野郎!

 

”べし”

 

”どさ”

 

お、思い知ったか。

この女子の敵。

ふん!

 

「ひ、平塚先生、失礼します」

 

「おう、ご苦労だった」

 

”ガラガラ”

 

危ない危ない、あんな奴だと思わなかった。

ちょっと優しくされたぐらいで気を付けないとね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「みんな、明日の文実の準備はOK?」

 

「「はい」」

 

「それじゃ、今日は風強くなってきてるから終わりましょう。

 みんな、明日はよろしくね。

 頑張るぞ、オー」

 

「「オー」」

 

わ~い、早く終わった。

今日は、めぐねぇと一緒に帰ろっと。

久しぶりだ、いろいろ話したいなぁ。

あれ、めぐねぇ、どこか行くの?

 

「会長、資料を持たれてどちらへ」

 

「あ、矢指くん、平塚先生のとこに明日の打ち合わせに行ってきますね」

 

「会長、自分もいきます」

 

「あ、わたしも行きます」

 

「え~、大丈夫だよ。

 任せなさい」

 

「会長、俺も行きますよ。

 予算関係とか自分じゃないとわからないところがあるかと」

 

「あ、じゃぁ、資料の説明とか庶務長の自分も」

 

「あ、あの~、わたしもいっていい?」

 

「あはは、あのね、大丈夫だから。

 ちょっと確認しに行くだけだから」

 

「「会長、是非ご一緒に」」

 

「あ、あの、わたしも」

 

「じゃあ、矢指君、美麻。

 副会長と書記の二人に来てもらおうかなぁ」

 

「はい」

 

「よろこんで」

 

「「・・・・・・」」

 

「みんな、ごめんね。

 あんまり大勢でいっても迷惑になるといけないから」

 

「「はい」」

 

ぶ~、ぷんぷんだ。

いっつもわたしだけ置いてきぼりにされるんだ。

副会長さんはいつもだし。

この前は庶務先輩と会計さんも連れて行ったし。

 

”ぐしゃぐしゃ”

 

わ、なに、誰よ髪の毛かき回すの。

あ、めぐねぇ。

 

「こら美佳、そんな顔してるんじゃないの。

 今日はね、風が強くなるからはやく家に帰りなさい。 

 気をつけてね」

 

「・・・うん」

 

仕方ないや、今日は帰ってあげる。

でも今度は、わたしも連れてってね。

あのさ、わたしもみんなと一緒で少しでも力になりたいから。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふんふんふんふ~ん♬」

 

今日の晩ご飯は何にしようかなぁ。

よし、雨が降る前にスーパー寄って帰ろ。

さてっと

 

”ザー”

 

はぁ? いきなり雨、なんで。

た、退却、いったん玄関まで。

 

”ダー”

 

何でいきなり雨?

も儒ちょっと持ちそうだったのに。

ふぅ、傘持ってきてよかった。

うんしょっと。

 

”パサ”

 

さ、帰ろ・・・・・・え、あれ?

雨あがってる。

なんなんだ、もう。

今のうちに帰ろ。

 

”ザー”

 

はぁ?、な、なにわたしの個性、雨降らし?

わたしが玄関出ると雨が降る。

へん、わたしには傘があるんだよ。

うんしょっと。

 

”パサ”

 

さ、帰ろ帰ろ。

 

”スタスタスタ”

 

今日、父ちゃん早いかなぁ。

確か今日はひき肉安かったはずだから、父ちゃんの好きなハンバーグでも

作ろっかなぁ。

 

”ビュー”

 

「うわっ」

 

”バキバキ、グシャ”

 

うひゃあー、わ、わたしの傘が~

うへ、て、撤収!

 

はぁ、はぁ、ふ~

うはぁ、びしょ濡れだよ。

ひどい、ね、なんでわたしが外に出た瞬間に豪雨なのよ。

それにとびっきりの強風も。

あ~あ、どうしょかな~

傘がこの状態じゃ、帰れないよ。

・・・めぐねぇが来るまで待ってよっか。

ぐふふ、相合傘だよね。

 

”スタスタ”

 

「はぁ~、雨降ってるのか」

 

「あ!」

 

「お、おうっ。

 は! お前・・・・」

 

くそ、

またこいつか。

な、なに、なにわたしを見て固まってんのよ。

えっと、なんかついてるんかなぁ。

でも、やっぱ失礼な奴。

 

「なに、なんか用?」

 

「いや、その、なんだ・・・透けてるぞ」

 

「はぁ?」

 

「じゃあな」

 

”タッタッタッ”

 

え、透けてる?

 

「げっ!」

 

あー、シャツ透けて、うわぁ、ブラ丸見えじゃん。

あ、あのスケベ野郎見やがったな。

見物料よこせ。

いや、ち、ちが~う。

あ、最悪。

 

     ・

 

くっそ~どうしょうかなぁ。

雨やんだけど、シャツこの状態じゃ帰りにくいなぁ。

それにほらまた雨降りそうじゃん、あの雲。

 

”ゾクゾク”

 

あ、でも少し寒くなってきた。

はぁ~、めぐねぇ早く来ないかなぁ。

 

”ぐぅ~”

 

は、お腹すいた。

しゃ~ない、このまま待ってても雨風どんどん強くなるから

走って帰ろ。

 

「おい」

 

「へっ?」

 

”ばさ”

 

「そんな格好じゃ風邪引くぞ。

 あ、あのな、これ買ったばっかりだから。

 まだ一度も着てねぇ~から。

 なんだ、嫌でなかったらこれでも着ろ。

 ・・・貸してやる」

 

「え、あ、合羽。

 でも、あなたはどうするの?

 合羽ってことはあなた自転車でしょ?」

 

「ははん、問題ない。

 俺には傘があるからな。

 お前の傘のような根性のない傘とは違うぞ。

 すげぇ高かったから。

 大事なことだからもう一回言う、すげ~高いやつだから」

 

「な、なによ、いいじゃん別にやすくたってさ。 

 無くなったって気にならないじゃん」

 

「そ、そうか。

 まぁ、だから俺のことは気にするな」

 

「あ、でも自転車で傘って危ないって」

 

「ふふふ、俺のテクニックを甘くみるな。

 じゃあな」

 

「あ、ありがと」

 

”にこ”

 

「お、お、おう」

 

”タッタッタッ”

 

大丈夫かな、自転車で傘って警察さんに怒られるんじゃ。

それに風強いけど。

 

”ズキ”

 

は、な、なに、痛い。

何だろう。

胸が痛い、・・・・えっと成長期? 

あ、しまった。

あの人、名前聞くの忘れた。

 

「ふはははは。

 そこにいるのは、わが古き戦友、三ヶ木女子」

 

「お、おう義輝君。

 あのさ、三ヶ木女子はやめてって」

 

「で、どうしたのだ。

 まだ帰らぬのか」

 

「あ、義輝君、ね、ねぇ、あの人知ってる?」

 

「ん? あの人とは」

 

「あのね、あの人、ほら、自転車小屋のほう向かってる男の人」

 

「お、おう、あれはわが僕、比企谷八幡!」

 

「しもべ? まぁいいや。

 で、何組の子?」

 

「F組だがどうしたのだ」

 

「うん、この合羽借りたから」

 

「ほう、その神衣を」

 

「ねぇ、義輝君、一緒に帰ろっか」

 

「ぬほほん、よ、よかろう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”びゅ~”

 

「あ、あの~三ヶ木女子、

 気のせいか、なんか我を風よけに使ってない?」

 

「あ、わかった?

 うん、風よけだよ」

 

「ひどー」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

う~ん三ヶ木レポートもまだまだ完成には程遠いね。

えっと

2年F組、比企谷八幡っと。

 

”カキカキ”

 

やさしい、ちょ~やさしい。

へへ、まだこれくらいしか書けないや。

もっと彼のこと知りたいなぁ。

へへ、わたし、ちょっとドキッとしちゃった。

あの目もなんかイレギュラーヘッドみたいでカッコいいし。

早く、合羽乾かないかなぁ。




ありがとうございました。

今回も更新が遅れてすみません。

なんかドンドン自分に甘くなっていくような。

今回は過去編です。

12巻読んでから次章以降のストーリー見直ししようと思ったのんですが・・・

いつになるんだろう。

※すみません。

 三増 美麻・・・書記でした。 申し訳ないです。
 
 ちなみに矢指 久・・・副会長でお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文実

いつもありがとうございます。

今回も文化祭編です。

12巻が出るまでと思っていたのですが、

すみません。

もうすこしお付き合いください。






「はぁ~」

 

ね、眠れないよ。 

なんなんだろう、すごく胸が痛い。

すごくなんか不安で不安で・・・・イラつく。

こんなの初めてだ。

げ、もう三時だよ。

 

・・・・・くっそ眠れない。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「あの~、すみません。」

 

「おや、どうしたの? もう授業は始まってるわよ。」

 

「あの、なんだか変なんです。

 

 胸がギュ~って締め付けられて、それで不安になったりイラついたり。

 

 結局、昨日は一睡もできなかったんです。」

 

「そ、そう。 どれちょっとみせてみて。

 

 そうね、ちょっと脈が早いかな。

 

 めまいとかしびれとかないの?」

 

「はい、ないです。 

 

 先生、わたしなんかの病気でしょうか?」

 

「ねぇ、いつ頃から自覚症状があるの?」

 

「昨日の夕方ぐらいからです、帰りの電車の中で急に。」

 

”トントン”

 

「あ、はいどうぞ。 

 

 おやおや、静ちゃんのとこの子だね。」

 

「なんか風邪っぽくて。」

 

え、あ、この声、比企谷君。

は、恥ずかしい。 え、でもなんで恥ずかしいんだろう?

後ろ振りかえろうかなぁ。 で、でもなんて声かければいいの

『おはよう』 ちがう、今何時だと思ってんの。

えっと、『元気?』 いや違うだろう。

元気ならここに来ないよ。

えっと、えっと・・・・

 

え、風邪っぽい? あ、もしかして昨日、ほんとは傘持ってなかったんじゃ。

 

「どうする、ここで休んでいくかい?」

 

「あ、じゃあ。」

 

”シャー”

 

「奥のベッドね。」

 

「うっす。」

 

”シャー”

 

え、比企谷君奥のベッドに?

なんか聞かれたら恥ずかしい。

どうしょう、教室に戻ろうかなぁ。

 

「え、どうしたの、大丈夫? なんかモジモジしてるけど。」

 

「いえ、あの、そ、その~別になんでも・・・ないです。」

 

”ちら”

 

はぁ、何でそこにいるんだよ。

 

”ちら”

 

気になるじゃん。

 

「ね、顔、真っ赤だよ。

 

 どれ、脈は・・・・な、なに、すごく早い。

 

 それにさっきからちらちらって。

 

 はっは~、そういことか。」

 

「せ、先生、やっぱりわたし変。

 

 心臓いたい、足も震えだしたし。 なんか悪い病気じゃないですか?」

 

「そうね、これは不治の病だね。」

 

「え、不治の病? せ、先生、わたし、死にたくないです。

 

 まだ、いっぱいやりたいことある。

 

 ど、どうしたらいいんですか?」

 

「う~ん、この病気じゃ死ぬことはないけど、ちょっと厄介な病気かな。」

 

「厄介? どうしょう。 わたしの家お金無いから入院とかはできないし。」

 

「この病気にね、すっごく効果があかもしれない治療があるの。

 

 タダだから、一度試してみる?」

 

「タダ? お、お願いします。」

 

「その代わり、ちょっと勇気がいるけど。

 

 頑張ってみる?」

 

「はい、お願いします。

 

 でも、あの~痛くないですか?」

 

「う~ん、失敗するとすっごく胸が痛くなるかな。

 

 今の何倍も。」

 

「え、今の何倍もって、わたし死んじゃうじゃないですか。」

 

「でもね、成功したらもしかしたらすごく幸せな気持ちになるかもよ。」

 

「あの~すみません、 先生なに言ってるのかわからなくて。

 

 つまりどうすればいいんでしょう?」

 

「よし、じゃあ治療初めるよ。

 

 さ、こっちに来て。」

 

”シャー”

 

へ、先生、ここ比企谷君いるんだよ?

いやだ、恥ずかしい。

もしかして治療してるときって、胸とか見られちゃうじゃない?

 

”ガラガラ”

 

「せ、先生? あのどちらへ?」

 

「それじゃ、治療、頑張ってね。」

 

な、なに、治療ってなに? わけわかんない。

 

「ぐぅ~」

 

は、あ、比企谷君。

うへへへ、良く寝てるね。

 

     ・

     ・

     ・

 

比企谷君、あ、あのさ、昨日、ありがとうね。

資料探してくれたり、カッパも。

もしかしてカッパ貸してくれたから、風邪ひいたんじゃない?

傘持ってるて言ってたけどほんと?

 

熱とかないのかなぁ。

 

”きょろきょろ”

 

だ、誰もいないよね。

う~、熱ありそうだね、いや絶対あるよ。

あ、あのさ、熱あるか心配だからだよ。

心配だから、その・・・

 

”ぴた”

 

はぁ、熱はなさそうだね、よかった。

なんだろう、こうやって比企谷君の額に手を当ててるとなんかすっごく落ち着く。 

ずっとこうしていたいなぁ。

この時間が永遠ならいいのに。

 

だって、おちつ・・・・く・・ん・だ。

 

”すー、すー”

 

「むにゃむにゃ、比企谷君。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「おやおや、静かだと思ったら。

 

 いいねぇ若いって。

 

 次の休み時間まで寝かしておいてあげるね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「みんなご苦労様。

 

 今日は第一回の文実、よろしくね。

 

 副会長、資料は大丈夫?」

 

「会長、チェック済みです。」

 

「うん。 それじゃ、各担当もう一回言っておくね。

 

 副会長は物品管理、美麻は保健衛生・・・・

 

 美佳は、宣伝広報ね。」

 

「「了解です。」」

 

「よし、それじゃ、みんな頑張ろう。 お~」

 

「「お~」」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

ん? あ、比企谷君、文実なんだ。

へ~、こういうのやるほうなんだ。

 

比企谷君、宣伝広報やらないかなぁ。

そうしたらいろいろ話できるじゃん。

 

「三ヶ木ちゃん、三ヶ木ちゃん。」

 

「は、あ、はい。 庶務先輩。」

 

「そっちのほう資料配ってね。」

 

「は、は~い。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、誰か立候補いますか?」

 

う~ん、予想通りだ、誰も立候補いない。

なかなか、わたしやりますって言い難いよね。

よっぽどの意識高い系?ぐらいだよね。

 

「誰かいませんかー?」

 

めぐねぇ、困ってるよ~。

くそ、実行委員の名前さえわかっていたら、どんな手を使っても調整しておくのに。

ごめんなさい、めぐねぇ。

 

「お、お前、雪ノ下の妹か?」

 

え、あ、そうだ。

比企谷君が気になってて気が付かなったけど、あの綺麗な女子、雪ノ下雪乃さんだ。

はぁ、やっぱり、いつみても綺麗だねぇ。

うらやましい、うっとりしちゃうよ。

なんかず~と眺めていたいな。

 

「実行委員として善処します。」

 

雪ノ下さんが実行委員長すると、雪ノ下さんが・・・・・陽乃さんが顔出してきそう。

いやだなぁ だっていっつもあの人、めぐねぇ独占しちゃうんだもん。

 

くそ~、今度ははっきり言ってやるんだ。

めぐねぇを独り占めするな!って。

い、言ってやるんだからね、自信ないけど。 

・・・・・いつかきっかけがあれば。

だって、苦手なんだもん。

 

「えーっと、どう?」

 

めぐねぇ、雪ノ下さんじっと見てる。

雪ノ下さんに実行委員長やってもらいたいんだ。

こんなことなら、なんか策を講じておくべきだった。

 

ん? あ、雪ノ下さんちょっと反応した。

なんか見つめられて気まずそう。

これいけるよ、いける。

ほら頑張れめぐねぇ。

よしわたしも協力しよう。

 

”ジー”

 

「あの・・・」

 

お、とうとう雪ノ下さん、陥落?

ん、なんか違う?

 

「みんながやりたがらないのなら、うち、やってもいいですけど。」

 

は、はぁ! なに出しゃばってんだ。

あんた雰囲気を読めよ。

もう少しで雪ノ下さん陥落してたのに。

で、誰?

 

「二年F組の相模南です。 こういうの少し興味あったし・・・

 

     ・

 

 ・・・チャンスだと思うんで頑張りたいです。」

 

ち、いらんことを。

えっと、二年F組の相模南っと。

確か三ヶ木レポートにあったよね。

 

”パラパラ”

 

一年の時、体育同じだったんだ。

なんか思い出してきた。

ふむふむ、

そ、そうだ、なんか人を見下してたやつだ。

たしか、由比ヶ浜さんとかとつるんでたけど、なんか嫌な感じだったな。

 

”カキカキ”

 

ふ~ん、実行委員長、相撲さんか、え、相撲?

あ、め、めぐねぇ それ相模さんじゃなくて相撲さん。

 

やば、ど、どうしょう。

でもみんな気が付いてないね。

あとでそ~と、へ、比企谷君笑ってる。

お願い黙っててね。

 

「みんななんとなく決めたかな。それじゃ、相模さんここからよろしくっ。」

 

よ、よし、今のうちに。

 

”ふきふき”

 

実行委員長:相模

 

宣伝広報、有志統制、物品管理、保健衛生、会計監査、記録雑務っと。

さて、ふん、実行委員長、お手並み拝見。

 

「そ、それじゃあ、決めていきます・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

大丈夫かな、まぁ、今日初日だもんね。

これからだ。

 

はぁ~、そんなことより、比企谷君は記録雑務だって。

あ~、雪ノ下さん、なに横に座ってんのよ。

なんだろう、なんかいやな感じ!

こ、こら、もっと離れなさい。

 

あ、そうだ、宣伝広報、宣伝広報。

いまはこっちに集中。

 

「・・・三年の乙舳 朋です。」

 

「それじゃ、自己紹介終わったことだし、担当部長決めよっか。

 

 といっても三年生は三人だけだからどうする?」

 

「俺、やってもいいけど。」

 

「そうか? じゃあ頼むわ。」

 

「おう。 じゃあ早速なんだけどホームページとかポスターとかの製作班と、

 

 掲示班に分けたいんだ。」

 

「あ、俺、製作側にまわるわ、割りそういうの好きだし。」

 

「サンキュ、じゃあ、乙舳さん、掲示班のほう頼むよ。」

 

「あ、は、はい。」

 

「よし、じゃあ、今日はここまでにしておこうか。

 

 早速、明日から頼むね。

 

 それと、あ、生徒会さん? パソコンとか必要なものは生徒会で用意してくれるでいいかな?」

 

「あ、はい。 それじゃあ必要なもの書き出しておいてください。

 

 あ、それと乙舳先輩? これは去年の掲示先リストです。

 

 コピーお渡ししておきますね。」

 

「OKじゃあ、今日はここまで。 ご苦労様でした。」

 

「「ご苦労様。」」

 

ふう、上出来上出来。

宣伝広報の部長さんさっさと決まってよかった。

 

「最初はグー、じゃんけんぽい。」

 

え、な、記録雑務、じゃんけんで決めてるの。

うわー、またなんかやる気のなさそうな人に決まった。

だ、大丈夫かなぁ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

えっと比企谷君、確か奉仕部っていう部活に入ってんだよね。

確か特別棟のこの先の教室だ。

雪ノ下さんと同じ部活か。

だから昨日、あんなに親しげだったのかなぁ。

あたたた。

なんかまた胸が痛くなってきた。

 

     ・

     ・

     ・

 

「私としてはあなたが実行委員会にいたほうが意外だけど。」

 

「あ、だよねー。超似合わない。」

 

「おい・・・ 俺は半ば強制なんだよ。・・・・ 」

 

は、比企谷君いる。

あと雪ノ下さんと、もう一人。

だれだろう、どっかで聞いたような声だね。

う~ん、どうしょう。

返せると思ったんだけどな、このカッパ。

なんだかこの雰囲気って入りにくいや。

・・・・・そ、そうだ、自転車の籠に入れておこう。

ありがとさん。比企谷君。

じゃあ先行ってるね。

 

”スタスタ”

 

「あ、生徒会の人。」

 

「え、ああ、相模さん。」

 

「ね、雪ノ下さん達いる?」

 

「あ、はい、中にいるみたいです。」

 

「あ、そう。 行こ、ゆっこ、遥。」

 

なんだろう、なんか奉仕部に用事かなぁ。

そういえば昨日、めぐねぇと平塚先生となんか話してたけど。

・・・・・まぁ、いいか。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「スローガン、なにかありませんか?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

だれも手あがらない。

まぁ、よっぽど意識高い系じゃないと発言しにくいよね

まずいな。このままじゃ決まらないや。

 

”ちら”

 

「ん? どうした三ヶ木。」

 

「副会長、ごめんなさい。」

 

「え?」

 

「は~い。 委員長いいですか?」

「え、あ、ど、どうぞ。」

 

「はい、それじゃ、わたしから順番に行きますね。

 

 えっと、”一期一会、いま最高の仲間たちと出会えて築く総武際!”

 

 ってどうでしょう。」

 

「はい。書記さんお願いします。」

 

”カキカキ”

 

「それじゃ、次、隣の副会長。」

 

「え、あ、ああわかった。 それじゃ・・・・・」

 

ご、ごめんなさい、副会長。

でもこうしないとみんな意見言わないから。

 

「はい、じゃあ次の人」

 

「あ、はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、多数決を取りますね。どれか一つ手を挙げてください。」

 

     ・

 

「はい、それでは今年のスローガンは、

 

 ”面白い! 面白すぎる! ~潮風の音が聞こえます 総武高校文化祭~

 

 に決定します。」

 

ん~、それなんか聞いたことがあるんだよね。

なんだったっけ。

思い出せないけど、なっか似てたんだよね。

まぁ、決まってよかった。

 

”ぐしゃぐしゃ”

 

ひえ~、な、なに?

はっ、副会長殿。

 

「み・か・げ、お前なぁ。 」

 

「副会長、ごめんなさい。」

 

「はぁ~、いや悪くはない方法だった。

 

 でも先に話しておいてくれると助かる。

 

 いきなりだからなんも浮かばなかった。」

 

「でも、いいと思いますよ

 

 ”FOR ONE PURPOSE! 総武高一つになって” くくく。」

 

「おい、最後のくくくはなんだ。」

 

”ぽか”

 

「いった~い。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「こほん、三ヶ木女子、ちっといいか?」

 

「うん、なんだ義輝君。 今から文実だからあんまし時間なし。」

 

「ぬふ、ならば早速だが、これを読んでもらえぬであろうか?」

 

なにこれ、えっと黒メイド?

ラノベ?そっか小説家になるのが夢だったよね。

でも、今読んでるような時間はないな。

 

「ごめん、いまラノベ? 読んでる時間なくて。」

 

「これは、我のクラスの脚本ではないか。」

 

「え、義輝君が脚本書くんだっけ? どれどれ。」

 

ふむふむ。

 

・・・・・・・・・・・

 

「おい、この時間のないときに。」

 

「へ? な、なにか」

 

「思いっ切りパクリじゃねぇ~か、この野郎。」

 

”ベシ”

 

お、なんかいい感じ。 もう一回。

 

”ベシ”

 

「ぐふぁ! な、なぜ二回も。」

 

「あのな、主人公が貴族の子供で、その子供と契約を結んだ悪魔のメイド。

 

 で、このメイドが主人公の命令でいろんな事件を解決すんだろ。」

 

「ぬほほん、面白そうであろう。 我のオリジナル脚本。」

 

”べし”

 

「書き直し!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すみません、遅くなりました。」

 

あれ、掲示班はもう行っちゃたのかなぁ。

乙舳先輩だったけ、それと一年生何人かいないね。

 

「あの、すみません。 乙舳先輩はどうしました?」

 

「ああ、掲示班連れて交渉に出掛けたけど。」

 

「あ、そうですか。」

 

えっと、製作班のほうは部長さんもいるし、まぁ、任せておいて大丈夫かなぁ。

 

「部長さん、わたし掲示班の様子を見に行ってきますね。」

 

「了解、気を付けて。」

 

     ・

     ・

     ・

 

昨日の話では学校の近くからって言ってたから、ここらへんだと思うけど。

どこだろう?

えっとリストの順からいっておそらく・・・

 

あ、いたいた。

あれ? 乙舳先輩一人しかいない?

え、声ちっさー。

なにいってんだろう?

あ、あきらめちゃった。

 

”スタスタ”

 

「ご苦労さまです。 あの、乙舳先輩一人ですか?」

 

「うううん、遅くなっちゃったから、先に一年生の子は返したの。」

 

「あ、そうですか。 で、今日どうでした?」

 

「あ、ごめんね。 時間帯が悪かったのかな。

 

 あんまりお店の人に話聞いてもらえなくて。

 

 あの、あのね、まだ1件だけ・・・」

 

げ、今日一日まわって、い、1件。

何やってんだこの人は

さっき見てたけど、声小さいし、あきらめ早いし。

だめだこりゃ。

 

 

『三ヶ木、人はみな自分と同じだと思っちゃいけないよ。』

 

はっ、そうだ。 

わたし何様だ、えっらそー。

あんとき副会長に教えてもらったじゃん。

 

     ・

 

くっそ、あの先輩、絶対、これいじめだからね。

 

『三ヶ木じゃないか?

 

 こんなとこでなにしてるんだ?』

 

『あ、副会長。 な、何でもないです。』

 

『なんだ、また泣いてたのか。

 

 ほれ、涙拭け。 こんどはなにして三増に怒られたんだ。』

 

『副会長、わたしあの人キライです。

 

 だって、部費折衝会の申請の締め切りを7時って書いたんですよ。

 

 7時ていったら普通午後7時じゃないですか。

 

 それなのに、19時て書かないとダメだから全部回収してこいっていうんですよ。

 

 そんなの誰が間違うんですか?』

 

『三ヶ木、今日俺はいつもの通り六時に起きた。

 

 さて起きてから何をしたかわかるか』

 

『へ、あ、あの~、ト、トイレとか?』

 

だって、ふつうトイレだよね。 だってとうちゃんの後、臭くて30分は入れないんだよ。

先に入らないと学校遅れちゃうもん。

 

『ブー、ハズレ。 起きたら眼鏡の手入れをしてました、20分間。』

 

『はぁー、副会長、20分も何やってんですか!』

 

『いやなぁ、これは俺のルーチンだ。 ねじ外したり、レンズ磨いたり20分なんて

 

 あっという間だ。』

 

『そんなもん、わからないじゃないですか』

 

『そ、そういうことだ。 

 

 いいか、ちょっと強引だがな。 人ってもんはそんなもんだ。

  

 その人にはその人の経験から得た基準がある。

 

 自分がそうだからと言って自分の基準で判断したら駄目だ。』

 

『う、うん。』

 

『それに三増だが、俺たちと話してる時、いつもお前のことばっかだぞ。』

 

『う、またわたしの悪口を。』

 

『逆だ。あいつどんだけ三ヶ木のこと好きなんだってぐらいだぞ。

 

 あ、やば、このこと三増には内緒だからな! 絶対言うなよ俺まだ死にたくない。』

 

『うそ。 ・・・・み、三増先輩~』

 

『あ、ちょ、ちょっと待って、今のこと言ったら駄目だからな。 お~い。』

 

     ・

 

そうだ、何でも自分の基準で判断しちゃいけない

わたしはわたし。乙舳先輩は乙舳先輩。

こんなこと、あんまりやったことないんだろうなぁ。

それでも、一人で頑張ってやってるんだ。

 

よし!

 

「乙舳先輩、もう1件行きましょう。」

 

「え、ふふふ、なんかサラリーマンさんみたい。」

 

「え、あ、ははは。 よし今日は思いっ切り飲むぞ!」

 

「ふふふ、了解。 いきましよう三ヶ木さん。」

 

「うん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

うへぇ、あっち~。

今日は、夕方になっても熱いや。

くっそ、女子の敵だね。こんだけ太陽の光浴びてると、シミになっちゃうよ。

 

「今日特に熱いね。 みんな何か飲む?」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「わたし、いろはすで。」

 

「あ、三ヶ木さんは?」

 

「わたしもいいんですか?

 

 ありがとうございます。 じゃ、ミルクティお願いします。」

 

「うん。」

 

「熱いけど、みんなもう少し頑張ろうね。」

 

「「はい。」」

 

乙舳先輩、やっさしー、ミルクティ奢ってくれたし。

ほんといいひとだなぁ、ミルクティ奢ってくれたし。

いやぁ、頑張ってるよ、ミルクティ奢ってくれたし。

ちが~う! まったくどんだけタダに弱いんだわたし。

 

乙舳先輩、今日はほんと声大きくなってたし。

一年の子たちも結構いい子みたいだし。

初日に断られたとこもOKもらってこれたし。

あとはこれからだね。

 

「ね、文実、やってみてどう?」

 

「え、どうって、ん~、あの思ってたより掲示班? 面白です。 なっ。」

 

「うん、初めはお店の人もなかなか話聞いてくれなくて、やだなぁ~って思ってたんですけど。

 

 最近、話聞いてもらえるようになって、それでOKて言われたときはやった!て感じで。 」

 

「あ、それにほら、この前のあのパン屋さん。」

 

「あ、そうそう。この前お願いにいったパン屋さんに帰り寄ったんですよ。

 

 そしたらあんパンおまけしてくれました。

 

 なんか頑張れって。」

 

「あのパン屋さん、総武高のOBさんだったんだよな。」

 

「そうそう」

 

「え、どこのパン屋さん? 昨日いたっとこ?」

 

「三ヶ木先輩、目がマジです。」

 

「だって、わたしもあんパンほしい。」

 

「あははは、あ、それとなんか今まで学校に来るまで見てきたはずなんだけど、

 

 なんか、風景が違って見えます。 お店の人声かけてくれるし。」

 

「あ、俺も声かけられた。」

 

うんうん、よかった。

これも乙舳先輩の人柄だね。

頼りなさそうなのは今も変わらないんだけど、やさしいもんね。

 

「あ、でも俺、テレビ局行ってみたい。」

 

「テレビ局?」

 

「ほら、生徒会長さん言ってたじゃないですか、テレビに出れるかもって。」

 

「ああ、そうだ、夕方のお店とか紹介してるやつ、あれ出てみたいね。」

 

「う~ん、でもあれって申し込みとか応募してたかな。」

 

「そうか、残念、わたしスカウトされるかもって思ってたのに。」

 

「むりむり。」

 

「ひど~い」

 

良かった。みんな楽しんでくれる。

それにどんどんみんな積極的になってるし。

なんかうれしい。

よし、がんばるぞ。

ちょっと予定より遅れてるけど、この調子なら挽回できる。

 

「頑張るぞー おー」

 

「え、三ヶ木先輩、いきなりなでんすか?」

 

「え、いや、ここは”おー”って言って。 さみしいから。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「いっつもの鬼の三増先輩がいうんですよ。」

 

「そう、三ヶ木さんも大変ね。」

 

「わかってくれます、乙舳先輩。」

 

こうやって乙舳先輩と話をするようになって

何日目だろう。

結構、先輩からも話しかけてくれるようになった。

一年生の子たちも、毎日頑張ってくれてるし。

なんかいい文化祭になりそう。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。」

 

「お疲れ様。」

 

あ、もうみんな集まってるね。

えっと時間は午後4時、ギリギリセーフだ。

 

「それでは、定例ミーティング始めます。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そうですか、いい感じですね。」

 

「いいえ。 少し遅い。」

 

は、雪ノ下さん。

そうだ確か副委員長になったって言ってたっけ。

 

「文化祭は三週間後。 来客がスケジュール調整する時間を考慮すればこの時点

 

 で既に完了していないといけないはずです。 

 

 掲示箇所の交渉、ホームページへのアップは既にすんでますか?」

 

な、なんだと。 今頑張ってるじゃん。

すげーえらそう。

 

「急いでください。 

 

 社会人はともかく、受験志望の中学生やその保護者はホームぺージを結構こまめに

 

 チェックしてますから。」

 

くっそ、好き勝手いいやがって

あ、ほら一年の子たち、下向いてるじゃん。

なんか申し訳なさそうに。

 

     ・

     ・

     ・

 

おい、さっから我慢して聞いてたら、なんだこいつ言いたい放題じゃん。

なんかマジむかつく。

それになに、委員長のこと無視してんじゃん。

そんなに仕切りたいのなら、お前が委員長やればよかったんじゃん。

 

わたしこいつのことはゆるせない。

 

”がた”

 

「ちょっと、雪ノ 」

 

”ぎゅ”

 

へ、あ、乙舳先輩

 

「座って、ね? それと後でちょっといい?」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あのさ、三ヶ木さん、今度の土曜日時間ないかな?」

 

「え、う~ん、大丈夫、空けます。」

 

「あ、ありがとう。 あのね、一年生の子たち、昨日も頑張ってたんだよ。」

 

「そうだと思います。」

 

「今日、雪ノ下さんに遅いって言われたのは、私の段取りとか説明とかが悪かった

 

 からだと思うの。

 

 だからね、一年生の子たちの頑張りになにか報いたくて、私、テレビ局に行って

 

 みようと思うの。」

 

「でも、まずは出れるかもだけど、文化祭までに間に合うかどうか。」

 

「うん、でも行ってみたい。 ごめんね無理言ってるのわかってんだけど。」

 

「了解! 行きましょう乙舳先輩。 だめもとです。」

 

「うん、ありがとう三ヶ木さん。 あ、それと、朋でいいよ。」

 

「あ、あのう、朋先輩。」

 

「はい、三ヶ木さんお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いやぁ、さすが雪ノ下さんだね。なんかすごかったね。」

 

「いつもの定例会とは違って、なんか中身が濃かった。」

 

「そうだな、雪ノ下さん次期生徒会長にいいんじゃないか?」

 

”バン”

 

「え、 ど、どうした三ヶ木」

 

「べ・つ・に。」

 

「美佳、美佳はどう思った。 雪ノ下さん、すごいと思った?」

 

「美麻先輩、ごめんなさい、わたしはあの人が生徒会長なんて絶対嫌です。

 

 少なくともあの人と一緒に生徒会はしたくないです。」

 

「どうしてそう思ったんだい。」

 

「美麻先輩、あんな責めるような言い方はないです。

 

 この前、一緒に掲示班やってる一年生の子たちが言ってくれたんですよ。

 

 掲示班面白いって。

 

 始めはお願いにいっても話を聞いてくれなかったのに、ようやく話聞いてくれる

 

 ようになって。

 

 それでOKもらえた時は”やったーっ”て思ったって。

 

 でも、あの子達、今日すっごくがっかりして帰っていったんですよ。

 

 わたしは絶対あの人のやり方間違ってると思います。

 

 城廻先輩は、あんな言い方絶対しないです。必ずまずは褒めてくれるもん。」

 

”なせなぜ”

 

へ、み、美麻先輩、なにを、なぜ頭を。

ぶ、不気味だ。

 

「なにキョドってるの。

 

 あのね、美佳、雪ノ下さんにもいいところはあると思うんだ。

 

 もうすこし様子見てみようか。」

 

「はい。 美麻先輩が言うのなら。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

やばいな。やっぱ一年の子たち、今日元気なかったよ。

どうしょう、何とかしなくちゃね。

 

”ガラガラ”

 

「ただいま戻りました。」

 

「ああ、ご苦労様。」

 

ん、記録雑務、比企谷君だけ?

どうしたんだろう。

 

「あの、他の人はどうしたの?」

 

「あ、今日はみんな帰った。」

 

チャンスだ。 ここは頑張れだよ。

ちょっと手伝って何とかいろいろお話したいなぁ。

 

「あ、あのさ、少し手伝うね。」

 

「いらん。」

 

「へ? いや、そのてつだ 」

 

「いらん。」

 

き、貴様、このわたしが折角手伝ってあげるっていうのに。

こんなことで負けないもん。

 

「いいから貸して。」

 

「いい。 これは記録雑務の仕事だ。

 

 手伝われて広報の仕事まで手伝わされたらかなわん。」

 

「いや、そんなこと言わないから。

 

 あ、あのさ、カッパ貸してくれたお礼だよ、すっごく助かったから。」

 

「そ、そうか。」

 

「うん、だから頂戴。」

 

「すまん頼む。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、これで最後?」

 

「ああ、助かったわ三ノ下。」

 

「はぁ 今なんと?」

 

「いや、助かったって三ノ下。」

 

「だれ?」

 

「お前だが。 お前、三ノ下だろ。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、なんだいってぇ。」

 

「三ヶ木だよ、み・か・げ。」

 

「いや、ちょっと待て。

 

 ほ、ほら見みろ。 カッパについてたメモに三ノ下って書いてあるだろう。」

 

「どれ、あ、いやこれ自転車の荷台で書いてたから書きにくくて。」

 

「そ、そうか。 まぁ、三ノ下でいいだろ。」

 

「よくな~い。」

 

”ベシベシ”

 

「わ、わかった。 あとな雪ノ下のことだけど。」

 

「え、なに。 なんで雪ノ下さんがでてくるの?」 

 

「いやこの前、お前怒ってたろ。」

 

「だってこの前のあの言い方ないじゃん。

 

 みんな頑張ってんだよ、会社とかじゃないんだよ。

 

 なんか結果ばっかり責められて。

 

 文化祭って、そりゃ結果も大事だけど、その過程のほうが大事じゃない。」

 

「まあな。 今回、奉仕部が依頼受けたのも、本来は相模のフォローだったんだが。

 

 すまん、悪気はないんだ。」

 

え、そんな依頼があったの?

ところで 奉仕部って何する部なんだ?

でもさ、フォローするっていうのならあれじゃ。

・・・なんで比企谷君が謝るの。

 

「比企谷君、もしそんな依頼があったとしたら、フォローになってないよ。

 

 だってどっちが会長かわからないって意見もあったじゃん。

 

 相模さんのやる気がなくならなければいいんだけど。」

 

「あ、その相模だがな、今日・・・いや、いい。」

 

「え、な、なに。」

 

「いや、いい。 何でもない。

 

 それより、本当に助かったわ。 じゃこれ提出してくる。」

 

「うん、ご苦労様。」

 

「おう。」

 

やった。今日はいっぱいお話しできた。

へへへ、今日は最後にいい日だったな。

よし、明日も頑張ろう。

 

”スタスタ”

 

「ほれ、今日の分の記録だ。」

 

「あら、雑務谷くん、まだいたの。存在感がなかったからわからなかったわ。」

 

「まあな、ステルスヒッキーはおれの特技の一つだ。」

 

「ステルス? なにを言ってるのかわからないのだけれど。」

 

「ま、提出したからな、じゃあな。」

 

「比企谷君、遅くまでご苦労様。」

 

”ニコ”

 

「お、おう」

 

な、なに比企谷君、照れて赤くなってんのよ。

あ、ニヤついてる。

き~、やっぱりわたしあの人キライ!

 




今回も最後までありがとうございます。

すみません。

文化祭編、ゆきのんと少し衝突(直接絡んではいませんが)しています。

なんとか第一話に繋がりますようにしなければ。

また次話読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王襲来

見に来ていただいてありがとうございます。

12巻出るまでのつなぎと思ってたんですが、あきらめです。

あきらめたらゲームは終わりだそうですが。

気を取り直して、2年生文化祭編も中盤。

魔王襲来です。






「比企谷君、ご苦労様。」

 

”にこ”

 

違う!

 

”にこにこ”

 

ちが~う、くっそ、やっぱ基が違うか~。

でも比企谷君、あんなにニヤつかなくてもいいじゃん。

まぁ、あんな綺麗な娘に微笑まれたら仕方ないか。

 

・・・・・いいなぁ。

 

「おい、美佳なにしてんだ? さっきから鏡の前で気持ちワル~」

 

ん、とうちゃん。

 

”ジ~”

 

「うん、なんだ?」

 

はぁ、やっぱりそういうことだよね。

改めて納得だ、現実は厳しいなぁ。

 

「何でもな~い。

 

 とうちゃん、やっぱわたしとうちゃんの子だね。」

 

「あったりまえだ、お前は間違いなく俺の子だ。」

 

「はぁ~しゃ~ない、いってきま~す。」

 

”ガラガラ”

 

「お、おい、なんだそのしゃ~ないって。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

あれ、いつもよりなんか集まりが悪いね。

あ、比企谷君いた。

へへ、今日もやる気なさそ~

周り誰もいないよね、よし!

 

「比企谷君、ご苦労様。」

 

”にこ”

 

「おう。」

 

お、おい、なによ、反応うす~。

 

「比企谷君、ご苦労様。」

 

”にこにこ・・・・・・にこにこ”

 

「三ノ下、何か用か? それになんかキモイんだが。」

 

”ベシ”

 

「うはぁ、な、なにをするんだ、いきなり。」

 

もういい! ふ~んだ。

今後絶対、あんたに微笑んでやんない。

 

「ねぇ、今日さ、なんか人が少ないようね。」

 

「ん? あ、ああ、昨日ちょっとあってな。」

 

「何があったの? 教えてもらってもいい?」

 

「・・・はぁ、忙しいんだが、まあいいか。

 

 あのな、昨日はこの会議室に魔王が降臨したんだ。」

 

「はぁ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

な、なんでそんなことが。

でもおかしい。

あの人、実行委員長だったんだよね。

だったら、意味もなくそんなこと言うとは思わないんだけど。

それに妹さん、副委員長やってるんだし。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。」

 

「朋先輩、ご苦労様です。」

 

「「お疲れ様です。」」

 

あぁよかった。 掲示班、全員来た。

よし、この変な雰囲気に毒されないうちに出発したほうがいいかも。

 

「朋先輩、 みんなそ 」

 

「あ、乙舳さん、ポスター上がってきたから貼り出しよろしくね。」

 

「あ、はい。」

 

そ、そうだ、ポスター貼り出してこないといけないんだ。

でも、ポスターの製作終わった人は手空くよね。

こっち手伝ってもらえないかな。

 

「部長さん、ポスター制作した人の手が空くでしょう。

 

 こっちのほうに回して下さい。」

 

「いや、それなんだけど、ほら昨日、委員長がクラスのほうも大事だって言ったから、

 

 ポスター作ってたやつら、クラスのほう行って今日休みなんだ。」

 

「は?」

 

「あ~あ、俺も製作班のほうに回ればよかったなぁ。」

 

「あ、俺も。」

 

やば。 聞かなきゃよかった。

あ~あ、雰囲気更に悪くなっちゃったよ。

どうしょうか。

 

「あ、あの朋先輩、わたし決まった掲示箇所に片っ端からポスター貼ってきます。

 

 今日、お任せしていいですか?」

 

「ええ、わかった。 三ヶ木さん、悪いけどお願いね。

 

 じゃ、みんな行きましょう。」

 

「・・・」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「ただいま戻りました。」

 

ふぅ、掲示班の子、みんなもう帰ったのかな。 

おう、比企谷君。

まだ残ってたんだ。

少しお話できるかなぁ。

 

「お疲れ様。 うんしょっと。」

 

”どさ” 

 

「おばん。」

 

へ、おばん?

おばんですのことかな。

まぁ、確かにもう時間遅いからね。 

・・・・・んなわけねぇ。

 

「ひど! なによ、おばんって。 このピチピチの女子に向かって。」

 

「いや、うんしょって、お前やっぱおばんだ。」

 

「く~、もういい。

 

 大変そうだから手伝おうと思ったのに。 ぷい!」

 

「え、そうなの。 仕事持ってきたんじゃないの?

 

 いや、すまん。 一向に仕事が減らないんでな。

 

 いいんじゃないか、うんしょって。

 

 なんか、すげ~可愛いと思うぞ。」

 

か、かわいい? へへへ。 

なんかうれしい。

でも騙されてるような・・・いいや。

 

「し、仕方ないなぁ。 どれ手伝えばいいの?」

 

「ちょろい奴。」

 

「え、何か言った?」

 

「いや、ちょ、ちょろっと待ってくれ。 振り分けるから。」

 

”どん”

 

「ほれ、こっち頼む。」

 

「うん、頑張ろうね。」

 

”にこ”

 

「う、ちょっと罪悪感が・・・・・・」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「お待たせしたね。 たしか電話もらった総武高の子だね。

 

 それで?」

 

「はい、あの今度総武高の文化祭がありまして、ぜひ夕方のコミ町の情報紹介

 

 コーナーで、宣伝させて頂きたいんです。」

 

「う~ん、で、いつ宣伝したいの。」

 

「来週の中でお願いできないでしょうか?」

 

「ダメだね。」

 

「あの、少しだけでもいいんです。」

 

「あのね、いきなり来週の番組に出させろってそりゃ無理だよ、わかるよね。

 

 来週はどんな企画で行くか、何日も前から念入りに打ち合わせして決めているんだよ。

 

 僕たちもね、地元のことだから協力したいと思うけど、せめて1か月前には

 

 連絡もらわなくちゃ。」

 

「あの、30秒とかでも駄目ですか?」

 

「ダメだね。 悪いけど忙しんだ、帰ってくれる?」

 

”しくしく”

 

「朋先輩。」

 

「全くこれだから。 最近の子は泣けばなんとかなるって思ってるから。

 

 全く根性も何もない。」

 

”スタスタ”

 

「朋先輩、帰ろ。」

 

「うん。」

 

やっぱそんなに簡単じゃないか。

やっぱ仕事だもん、そんなに甘くはないよ

でもさ、根性なしって言いすぎじゃん。

ここにきてお願いするのにもどんだけ根性がいることか。

ん~、どうしょうかなぁ。

 

「三ヶ木さん、どうしょう。やっぱり駄目だったね。」

 

「朋先輩、まぁまた来週なにか考えましょう。 今日はご苦労様でした。」

 

「う、うん。 じゃあね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なに、また来たの。 帰ったんじゃないの?」

 

「あの、後ろのほうでこのポスター持ってるだけでも駄目ですか?」

 

「ダメダメ。 おじさん忙し、へ?」

 

「お願いします。 ほんとに少しの時間だけでいいんです、お願いしいます。」

 

「き、君、土下座してもだめなんだよ。

 

 特に来週はスポンサーさんの会社紹介の週なんだ。

 

 だから絶対無理。 さ、帰った帰った。」

 

「お願いします。」

 

「わからない子だなぁ。 いくら土下座してても無理だからね。

 

 会議の時間になるから行くけど、さっさと帰ってね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、お待ちしていました。  さ、どうぞどうぞ。」

 

「今日はよろしくお願いしますね。」

 

「はい。 こちらこそよろしくお願いします。」

 

”スタスタ”

 

「ん? ねぇ、あれ総武高の子じゃない? あの制服はそうだよね。」

 

「え、あ、まだいた。 

 

 すみません、なんか文化祭の宣伝に出させろってしつこくて。

 

 いま、守衛に連絡しますので。」

 

「ふ~ん。 あ、そうだ。 ねぇ、プロデューサーさん、ちょっといい?」

 

「あ、はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あちぃ。」

 

ふう、気のせいかなぁ、なんかどんどん熱くなってきた。

冷房、聞いてないのかなぁ。

あ、照明消えた。

 

そ、そうか節約してんだ。 あんまり儲かってないのか、大変だね。

そういえば、なんか人の通りも少なくなってきたような。

 

今何時だろう。 

あ、とうちゃんの昼飯作ってなかった。

なんか食べたかなぁ。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹減った。 サイゼのハンバーグ食べたいなぁ~

そんでドリンクバー、全制覇してやるんだ。

うへへ、だって、ちょ~熱いんだもん。

 

”ぶる”

 

は、やばい、飲み物のこと考えてたら、ト、トイレ行きたくなった。

くっそ~、我慢、我慢。

 

     ・

     ・

     ・

 

やっぱダメなのかなぁ。 仕事だもん、そんなに甘くないよね。

 

でもさ、お金はないけど、根性はあるからね、タダだもん。

 

”ぶるぶる”

 

は、やばい、やばい、やばい、くそ~、こ、根性で我慢するから!

 

     ・

 

”スタスタ”

 

「それでは、お父様にもよろしくお伝えください。」

 

「ん? へぇ~、面白い子だね。」

 

「え、面白い?  あ、まだいた。」

 

「プロデューサーさん、来週の会社紹介の件、折角打ち合わせしたけど、

 

 その時間、あの子にあげてくれない?」

 

「え、でもそれは。」

 

「あら、私のお願いでもだめかしら?」

 

「は、はいわかりました。 ただ、上のほうになんと説明していいか。」

 

「いいわ、私のほうから言っておいてあげる。」

 

「あ、はい。ありがとうございます。

 

 でも、なんでそんなことを?」

 

「あのさ、面白じゃんあの子。

 

 それに、文化祭の副委員長、私の妹だよ。」

 

「え、そ、それを先に行って下されば。」

 

「それじゃ、面白くないじゃん。 

 

 ま、そういうことだからよろしくね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「君、いい加減に頭をあげなさい。

 

 驚いたよ、ずっとその姿勢でいたのかい? 

 

 さぁ、来週、時間を調整してあげるから。」

 

「え、本当ですか。 やった! ありがとうございます。」

 

「月曜日にでも学校に連絡しておくから。」

 

「は、はい。 おじさん大好き。」

 

”だき”

 

「き、君、駄目だよ、えへへへ。」

 

”カシャ”

 

「は、な、なにを。」

 

「あんまりうれしかったので、ツーショット頂きました。

 

 お約束よろしくお願いします。」

 

「・・・まったく、あの人が言った通り面白い子だ。

 

 わかったから、もう暗くなるから早く帰りなさい。」

 

「あの~」

 

「ん、まだ何かあるのか?」

 

「ト、トイレどこ! もうだめ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、危なかった。

漏らすとこだった、もう一分遅かったら。

この年でおもらしって嫌だよ。

 

それにしてもよかった。

うれしいな、朋先輩、めっちゃ喜ぶだろうな。

 

「ねぇ、君、生徒会の子だよね。」

 

げ、雪ノ下さん。

なんでこんなんところで。

わたしこの人嫌いなんだよ。 いっつもめぐねぇ連れてっちゃうし。

それに、今回のこともあるし。

 

「ねぇ、もう遅いから送って行ってあげる。」

 

「いえ、いいです。」

 

「遠慮しなくていいよ。」

 

「わたし、あなたのこと嫌いですから。」

 

「え、はっきり言うね君。 ん~、理由聞かせてくれるかな。」

 

「あの、今回のこと、姉妹喧嘩にしては度が過ぎます。」

 

「姉妹喧嘩?」

 

「この前、文実のみんなの前で言ったそうじゃないですか。

 

 ”委員もクラスのほうを頑張ってた”って。」

 

「あれ、あのとき君もいたの?」

 

「いいえ、比企谷君に聞きました。」

 

「あ、比企谷君のこと知ってるんだ。

 

 そっか、彼が言ったの姉妹喧嘩って?」

 

「いいえ、わかりますよ。

 

 あなたは文実の委員長を務められた方です。

 

 そんな人が何の理由もなしで、文実の足を引っ張るようなこと言うわけないじゃないですか。

 

 何か理由があるとしたら、一つだけ。」

 

「その一つが姉妹喧嘩ってこと?」

 

「雪ノ下さん、いえ妹さん以外に理由ありますか?

 

 姉妹喧嘩は周りに迷惑をかけないようにしてください。

 

 おかげで今、文実がすっごく大変なんですよ。」

 

「あら、それは相模って子だっけ、委員長が勝手に言ったことではなかった?

 

 それにそれを止めずに肯定したのは、あなた達じゃなくて。」

 

「そ、そうですけど。」

 

「ね、君、おもしろいね、名前教えてよ。」

 

「・・・三ヶ木、 三ヶ木美佳です。」

 

「三ヶ木ちゃん、ますます送って行きたくなった。

 

 ほら乗ってきなさい。」

 

「いいです。」

 

「だめ、私が良くないから。」

 

”ぐい”

 

「ちょ、ちょっと待って。」

 

”バタン”

 

「三ヶ木ちゃん、お姉さん君みたいな子って大好きだよ。」

 

「え、ゆ、雪ノ下さんって、もしかしてそっち系? いや~」

 

「あははは、ほんとおもしろ~い。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ドタドタ”

 

「三ヶ木さん、三ヶ木さん。

 

 聞いて、今ね先生から連絡があって、テレビ局から出演OKの連絡あったって。」

 

「やりましたね。 これも朋先輩の涙が利いたんですよ。 良かったですね。」

 

「え、そうかなぁ~、うれしい。」

 

「ね、朋先輩、早速一年の子たちに知らせましょう。」

 

「うん、そうだね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、うそ。」

 

「やった、テレビに出られる。」

 

「俺、何着て行こうかな。」

 

「ばっか、制服に決まってるだろう。」

 

「え~あたし、新しい服買おうと思ったのに。」

 

「「わいわい」」

 

「みんな良かったね。

 

 よしじゃ、さっさと掲示の残り終わらせちゃおう。」

 

「「はい!」」

 

”ガラガラ”

 

「チース。」

 

あ、比企谷君。 今日は一段とやる気なさそ。

でもさ、それでも頑張るんだよね

わたし、そんなとこにひかれてるのかな。

それに優しいし。

えへへ

 

”ばし”

 

「うへぁ、いった。」

 

「美佳ごめん、ちょっといい?」

 

「あ、美麻先輩なんですか、いきなり。」

 

「いや、いま美佳どこか遠くに行ってたから。

 

 それより生徒会室の当番のことなんだけど、みんな手が離せなくなっちゃってね。

 

  美佳いけないかなぁ。」

 

「でも、わたしも今から掲示箇所のお願いとポスター貼りに行くとこ。」

 

「は、そうか。 そうだよね。」

 

「あの三ヶ木先輩? 俺らだけで大丈夫ですよ。」

 

「そうです。 任せておいてください。」

 

「あ、そうだ。今日戻ってきたら、生徒会室でテレビ宣伝の打ち合わせしませんか?」

 

「え、わたしはいいけど、みんなは?」

 

「三ヶ木さん、大丈夫よ。」

 

「よし、それならさっさと終わらせようぜ。」

 

「おう。」

 

「朋先輩、みんな、お願いします。 いってらっしゃい。」

 

さて、わたしは生徒会室へっと。

あ、そうだ。

 

「うんしょっと」

 

”どさ”

 

なに、無反応?

なによ、かわいいて言ってなかった?

 

「ねぇ、比企谷君、うんしょっと」

 

「なんだ、なんか用か?

 

 用がないのなら邪魔しないでくれる。」

 

いや、あんた、やっぱり騙したのね。

はぁ、ちょろいわたし。

まぁいいか。

 

「あのさ、わたし今日生徒会室に詰めてるんだ。

 

 なにか手伝うことないかなぁ。」

 

「おまえ広報だろ、そっちの仕事やったほうがいいんじゃないか。」

 

「生徒会室じゃやれることないんだよ。」

 

「そうか、すまん、それならこれ頼むわ。

 

 あ、うんしょって可愛いな。」

 

「もういいわ! 了解、これ持っていくね。」

 

くそ、こいつ確信犯だね。

乙女心もて遊びやがって。

 

「なぁ、お前、テレビ出るのか?」

 

「げ、きも 盗みぎき?」

 

「いや、気にしなくても聞こえるだろう。

 

 あんだけ騒いでいたら。」

 

「え、そんなに騒いでた?」

 

「あのな、ジャガーさんに会ったらサインもらってきてくれないか。」

 

「ジャガーさんのサイン? 

 

 ・・・・あ、あのさサインもらってきあげたら、わたしのお願いも聞いてもらっていい?」

 

「ん、できる範囲で頼む。」

 

「ぶ、文化祭、一緒に回ってくれないかなぁ。」

 

「無理!」

 

「即答!」

 

「一日目はクラスのほうを手伝わないとな。 文実で全然手伝ってないから。」

 

「そうだね。わたしもだよ。 ふ、二日目は。」

 

「二日目は仕事だ、写真撮らないといけない。 

 

 記録雑務なめんな!」

 

いや、全然なめてないんだけど

しゃ~ないか。

お仕事だもんね。

 

「まぁ、いいか。 わかったジャガーさんに会ったらサインもらってみる。

 

 でも、会えなかったらごめんね。」

 

「お、おう。」

 

「じゃぁ。」

 

”ガラガラ”

 

「・・・あいつらテレビ出るのか。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”プシュ~”

 

はぁ~よかった、電車間に合った。

つい、テレビの件で盛り上がって帰るの遅くなったよ。

えっと、どこか席が空いてないかな。

 

”きょろきょろ”

 

ありゃ、座れるとこないや。

くそ、この親父、席を独り占めしやがって。

しかも熟睡かよ、うわぁ酒くさ~

はぁ、仕方ないか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

あ、あれは。

 

”プシュ~”

げ、間に合わない。

どうしょう、くそ~。

ドア閉まるのちょっとまった!

 

”ボコ”

 

ぐはぁ。

 

”プシュ~”

 

開いたけどあいたたた。

とほほ、ドアで体挟まれた。

 

「あの~、大丈夫かしら?」

 

「へ、あ、何でもない。 ちょっと今日はドアに挟まれたかっただけだから。」

 

「はぁ? おかしな趣味ね。

 

 ・・・・ふぅ~」

 

なにそのバッグ、すんごく重たそう。

それに、すっごく辛そうじゃん、顔いろ悪いよ。

しゃ~ないな。

 

うわ~、ホント酒くさ~、爆睡してるじゃん。

せ~の。

 

「あんた、また今日もお酒飲んできて!

 

 いい加減にしな!」

 

「ひゃい、かぁちゃんごめんなさい。

 

 え、あれ。」

 

「「くすくす」」

 

「は、ひえー」

 

”タッタッタッ”

 

よし、作戦成功。

隣のおじさん、いっつも奥さんに叱られてるもんね。

どこも一緒だねぇ。

うんしょっと。

 

”ぽんぽん”

 

「はい、ここ座って雪ノ下さん。」

 

「え、いえ、それは少し。」

 

「遠慮しない。」

 

”ぐい”

 

「げ、なにこのバッグ、なに入ってるの。」

 

「はぁ、強引ね。 隣、失礼するわ。

 

 文実の資料よ、少し持って帰ろうと思って。」

 

「いや、だって今日も一番最後まで。」

 

「ちょっと遅れてるから。 その分だけね。」

 

「そう。 ね、どこまで?」

 

「2つ先の駅よ。 ふふふ。」

 

「な、なに?」

 

「だって、さっきのドアに挟まれたあなたを思い出したら。」

 

「へ? ひど。 仕方ないじゃん、雪ノ下さんの姿見えたから。」

 

「そう。やっぱりそうだったの。」

 

「げ、しまった。

 

 ま、まぁ、それよりそっちのほうこそ、大丈夫なの?

 

 顔色悪そうだよ。」

 

「ええ、大丈夫よ。 少し走ったからじゃないかしら。」

 

ちっとも大丈夫そうじゃないよ。

雪ノ下さん、他人にも厳しいけど、自分にはもっと厳しいんだね

だけど、それじゃいつか潰れちゃうよ。

 

「ん、ねぇ雪ノ下さん。 あ、寝ちゃったの?」

 

へへ、やっぱ綺麗だね。

ずっと見ていてもあきないよ。

でも、すこし目の下にくまでてるかなぁ。

こんなに綺麗なのにもったいない。

 

「あのね、雪ノ下さん、あんまり無理しないでね。

 

 あなたが責任感強いのすっごくわかったから。

 

 い、一緒に文化祭頑張ろうね。」

 

「・・・わたし、負けられないの。」

 

「へ、 起きてたの?」

 

”すー、すー”

 

ね、寝言かぁ。 でもな何だろう、何に負けられないんだろう。

ん~、気になる、気になって・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの~、お客さん、終点ですよ。」

 

「「えっ」」

 




最後までありがとうございます。

今回もグダグダですみません。

なんか最近、ほんとにスランプで。

GW、何とか挽回すべく頑張ります・・・多分。

すみません。また次話読んで頂けたらありがたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

足りた想いと足りなかったもの

遅くなりすみません。

ドンドン更新が遅くなってます。

やばい、このGWで何とか挽回しなくては。

すみません。 今回もありがとうございます。

原作読んでて、文実、何が問題だったのかなぁって。

最初はそれなりに委員長頑張ってたんじゃないかなぁっと思ってたのでこのような感じに。

またしてもセリフ多いですが、我慢していただければ。

よろしくお願いします。



"カキ、カキ・・・・カキ”

 

で、できた。

機材申請の追加もうないよね。

次は生徒会役員の当日のタイムスケジュールだ。

えっと、当日は生徒会室が案内所になるから、みんなの時間調整しないとね。

 

『記録雑務なめんな。』

 

・・・いや、なめてないけど。

 

わたし去年一人で回ってたから、一緒に回れたらなぁって思っただけなのに。

まぁ、いいや、比企谷君も忙しいようだし。

 

えっと、クラスの出し物、確かなんか演劇やるって言ってたね。

なんか義輝君張り切ってたけど。

わたしいつもすぐ文実にきちゃうからわからないや。

 

演劇終わったら、ずっとわたしが生徒会室当番にしておこうっと。

だって、みんな高校最後の文化祭だもんね。

 

”ガラガラ”

 

「すまん。 え~と、み、三ノ下。」

 

みのげって、こいつぜってぇ、人の名前憶える気ないだろ。

いまも適当に言ったんだ。

くそ~、もう手伝ってやんない。

 

”カタ”

 

え、これって、わたしに?

 

「ミルクティーでもよかったか?」

 

「あ、う、うん。」

 

「いや、なにがいいのかわからなかったから適当だ。」

 

「ありがとう。

 

 うん、ミルクティ―大好きだよ。

 

 はいこれ、当日の機材申請の追加分できたけど、もう他にない?」

 

「おう、サンキュー。 いつもすまない。」

 

あま~、わたしあま~。

 

だって、ミルクティ―くれたんだもん。

比企谷君、こういった気使いもできるんだ。

えへへ、見直した。

あ、そ、そうだ。、も、もう一回だけお願いしてみよう。

 

「ね、ねぇ、ジャガーさんのサインの件なんだけど。」

 

「え、駄目なのか。」

 

「うううん、頑張ってみる。

 

 あのさ、それでね、もしもらえたらなんだけど。」

 

「文化祭は無理だ。」

 

「あのね、休日にどこか行lかない?」

 

「な、お、俺とか。」

 

「だめ・・・・・・・・・・・・・・・かなぁ。」

 

「わかった。 近場ならな。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「じゃ、こ、これもらっていくわ。」

 

”ガラガラ”

 

へへ、やったぁ。

まさかいいって言ってくれるとは思ってなかった。

どこいこうかな。

あ、それより、絶対サインもらわなきゃ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

はぁやってもやっても減らないね。

まぁ、いいか。

今日は会議室だから、みんなと一緒・・・・・・・、

でも二十人もいないね。

 

掲示班のみんな今日も頑張ってたね。

集まり次第、また掲示箇所のお願いにいったもんね。

すっごい頑張ってる。

 

よし、わたしもみんなと一緒にいけない分、頑張ろう。

それで、戻ってきてたら、テレビでの宣伝の件の打ち合わせしようっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「えっと、み、三ヶ木さんだよね。

 

 2-Cのクラスの出店の申請にきました。ここでよかった?」

 

「え、うん。 ごめんね、あまりクラスのほう協力できなくて。」

 

「あ、大丈夫。 初めから頭数に入っていないから。」

 

ぐ、ひ、ひどい。

いいよ、どうせわたしクラスであんまり認知されていないのわかってるから。

 

「え、あ、いや、そういう意味でなくて、

 

 ほら、生徒会で忙しいだろうなって。」

 

「いいって。 それで申請書は?」

 

「はい、これ。」

 

「え、演劇するんじゃなかった?」

 

「そうだったんだが脚本が。」

 

「そ、そっ、やっぱり。

 

 ん~と、うん、不備ないと思うから保健衛生部に渡しておくね。」

 

「ありがとう。 あ、当日はクラスのほうにもこれる?」

 

「うん、1日目は大丈夫だと思う。 料理は自信があるから任せておいて。」

 

「わかった。 じゃあ、シフトに入れておくから頼むね。」

 

「うん。」

 

えっと保健衛生部は・・・・・・

あ、あれ保健衛生部いない。

 

なに、部長までいないの。

ここまでやばいとは。

いない分、残ってるみんなにしわ寄せいってるよ。

 

どうしょう。

何が問題だったんだろう。

 

     ・

     ・

     ・

 

やっぱ、そこからだよね、この状態が始まったのは。

それを解決する一番いい方法。

・・・やっぱりそれしかないかなぁ。

 

”どさ”

 

はぁ、なにいきなり積まれたこの書類?

これっていったい。

 

「今日の分だ。」

 

な、こ、こいつは。

すこしばかし甘やかした。

 

”べし”

 

「ぐはぁ。」

 

「おい、何の真似だこれは。」

 

「いや、なんだ、あ、うんしょってかわいいなぁ。」

 

”べしべし”

 

この野郎、今日は、うんしょって言ってないし。

わたしのことなんだと思ってんだ。

いつまでもちょろくないよ。

そ、そんなんでもう騙されないんだから。

 

・・・・・でも。

 

「全く、ここはお願いしますでしょ。」

 

「お願いします。」

 

「いいよ。 そこに置いておいて。」

 

「え、いいのか?」

 

「うん。 あ、そうだ、ね、ねぇ比企谷君。」

 

「なんだ、忙しいんだが。」

 

「ちょっと相談乗ってもらっていい?」

 

「金はない。」

 

「いや、違うから。 そりゃ、わたしお金ないけど。」

 

「いや、マジに受けるなって。 冗談だから。」

 

「あのね、ちょっとあっちいい?」

 

「え、俺、恐喝されるのか。」 

 

「もういいから。」

 

”ガラガラ”

 

「ごめんね、忙しいところ。」

 

「おう、どうした?」

 

「あのね、文実のことなんだけど、いま非常にやばくない?」

 

「そうだな。いまは真面目にやってるやつが馬鹿を見ている。

 

 この状態は俺もあまり面白くない。」

 

「それでね、どうすればいいと思う。 何か方法ない?」

 

「無いことはないが。」

 

「え、どんな方法? ねぇ、教えて。」

 

「組織が内に問題を抱えるなら、外に敵を作ればいい。

 

 昔から偽善者がよく使うやり方だ。」

 

「え、つまり文実をまとめるために、誰かを敵に祭り上げるってこと?」

 

「そうだ。 それが一番手っ取り早い。」

 

「だめだよ。 文実のために犠牲者を作るなんて。」

 

「だめ・・・・か。」

 

うん、わたしがその敵になるのならいいけど。

絶対、めぐねぇが阻止する。

生徒会のみんなも。

 

他の誰かを犠牲にするのはだめだよ。

やっぱ、これしかないかな。

 

「あのね、わたし思うんだ。 この組織を立て直すには

 

 やっぱり委員長からじゃないと駄目かなって。」

 

「まぁ、リーダーがみんなをまとめ上げられるのがいいんだが、

 

 今回の原因はそのリーダーだからな。」

 

「なんとか、文実のメンバーを集められたとしても、リーダーが

 

 変わってなければ、また同じ状態になっちゃうじゃん。」

 

「まぁ、相模がそう簡単に変わるとは思わんが。」

 

「それでね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・こんど掲示班のみんなとテレビで宣伝するじゃん。

 

 その時に相模さんにも出てもらって、一緒に宣伝してもらうの。

 

 テレビで文化祭しますって、それでわたしが実行委員長ですってことになれば、

 

 相模さんのモチべ―ションも上がって変わるんじゃない?」

 

そう、文実の初めのころ、相模さんなりに委員長頑張ってたと思う。

まぁ、あんまりこういうの経験なさそうだったけどそれなりに。

 

それが変わったのは、あの定例ミーテイングから。

 

雪ノ下さん、悪気はないのはわかるけど、あれでは委員長の尊厳を踏みにじってるから。

相模さんじゃなくても、なにこいつって感じで面白くないよ。

 

そして雪ノ下さんの評判が上がるのとともに相模さんが軽んじられて。

だから雪ノ下さんに張り合って、その結果が・・・今。

 

「いいのか? 確かにその方法なら相模も少しは変わるかもしれんが、

 

 なにせ、テレビで文化祭の委員長は私ですって宣言しちまうんだからな。

 

 だが、掲示班のやつら楽しみにしてるんじゃないのか?」

 

「う、うん。 いつも文実終わってから生徒会室で打ち合わせしてるんだ。」

 

「だろう。 お前みんなに言えるのかそんなこと。 それにお前もいいのか?」

 

「わたしも嫌だよ。わたしも掲示班のみんなとやりたい。

 

 たぶん、相模さんが入ってきたら相模さんのペースで引っ掻きまわされて。

 

 でも、文実を立て直すにはこれしかないんだよ。

 

 掲示班のみんなもわかってくれると思う・・・・たぶん。」

 

「お前、なんでそこまで。」

 

「だって、わたしこれでも生徒会なんだよ、そう見えないかもしれないけど。

 

 だから、掲示班だけでなく、文実全体のこと考えないといけないんだ。」

 

「・・・お前は生徒会だ。 俺にはどこから見ても生徒会役員にしか見えない。」

 

「うん、ありがとう。 で、どう、比企谷君、賛成してくれる。」

 

「反対。」

 

「え、なんで。」

 

「お前、いっただろ、文実のために犠牲者を作るのはだめだって。

 

 その方法だと犠牲者出ちまうじゃねえか。」

 

「・・・・犠牲者なんて出ないよ。」

 

「お前が掲示班のみんなの楽しみを奪っちゃうんだぞ。」

 

「それで文実がうまくいくのなら、みんなに恨まれても。

 

 それに、もしかしたら相模さんと掲示班のみんな案外うまくいくかもしれないじゃん。」

 

「俺はやっぱり反対だ。 テレビへは掲示班だけで出るべきだ。

 

 まぁ、俺も考えてることがある。 だから、お前は無理、いや、邪魔するな。」

 

「反対。」

 

「はぁ、何でだ。 俺は何も言ってないぞ。」

 

「なんとなく。」

 

「なんとなくかよ。」

 

「そうだ。なんとなくだ。」

 

「まったく。」

 

だって、なんかいい感じしないんだもん。

絶対ろくなこと考えていない。

だから

 

「絶対反対。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木先輩は朋先輩と真ん中で。」

 

「い、いやわたしは端っこでいいよ。

 

 やっぱ、真ん中は掲示班のみんなで、ね。」

 

「はぁ? なに言ってるんですか。

 

 三ヶ木先輩は掲示班ですよ。 なぁ」

 

「そうですよ。」

 

「あは、ありがとう。

 

 でも、ほらやっぱりここは若い君たちが前面に出たほうが絶対いいって。」

 

「じゃあ、わたしも端っこで。」

 

「いや、朋先輩、そんな意味じゃ。」

 

「「あははは」」

 

どうしょう、言い出せないよ。

みんな楽しみにしてるんだね。 

相模さんとやるようになったら、きっとあの二人、えっと誰だっけ?

誰でもいいけど連れてくるよね。

そうしたら、絶対この企画乗っ取られて。

 

朋先輩はおとなしい人だし、あとは一年生だし、絶対相模さんたちの言いなり

になっちゃうよね。

今みたいな雰囲気もなくなって。

どうしょう。

 

「三ヶ木先輩?」

 

「え、あ、ご、ごめん。 ちょっと考え事しちゃって。」

 

「え~もしかして彼氏さんのこととか?」

 

「彼氏なんていないよ。」

 

「だってね~」

 

「そうだよな。」

 

「え、なになに?」

 

「みちゃったもんな、会議室の外ですっごい嬉しそうに男子と話してるとこ。」

 

「そう、あれって彼氏さんでしょ。」

 

「え、いや、ち、違うって。」

 

わたし嬉しそうだったの?

なんで? あんな話してたのに。

 

・・・だって、なんかわたしの思ってること、彼理解してくれるんだ。

あんなこと生徒会のみんなにも相談できないのに。

それに彼の考えてることも、なんかねぼんやりだけどわかる気がして。

 

だから話していて、なんかすごく親近感があって。

えへへ、楽しかった。

 

「え~、三ヶ木さんでも彼氏がいたの。」

 

朋先輩、なんでそんなに落ち込むの。

いや、そんな暗くなって。

 

「なんでそんなショック受けてるんですか! それになんですか”でも”って。」

 

「あ、ご、ごめんなさい、でも。」

 

「いや、もういいから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「「お先です。朋先輩、三ヶ木先輩。」」

 

「うん、気を付けてね。

 

 じゃ、朋先輩、わたし鍵返してきますので。」

 

「ええ、また明日ね。」

 

「は、はい。」

 

どうしょう、やっぱ言えなかったよ。

だってあんないい雰囲気壊せないよ。

でも・・・・・・文実が駄目になったら掲示班も。

 

よし、明日、明日こそみんなにお願いしよう。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

えっと、各部の出店の申請はこれでよかったかな。

あと漏れはなかったっけ。

あ、部活の出店でこれだけパイプ椅子使ったら、体育館足りるかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

「三ヶ木さんいる?」

 

「あ、朋先輩、どうしたんですか?」

 

「うん、これね、テレビでの宣伝の件、昨日までの内容まとめてみたんだ。

 

 どう、こんな感じでいけるかなぁ。」

 

「あ、はい。

 

 ん~、ん、朋先輩、もっと前に出ても。」

 

「うううん、やっぱりここは一年の子達をメインでいきたいの。

 

 だって、すっごい頑張ってくれてるから。

 

 いまもね、ホームページにテレビのことアップするんだってやってるの。」

 

委員長のこと言い出しにくいなぁ。

どうしょう。

でも今、朋先輩と二人っきりだし。

朋先輩ならわかってくれるはず。

 

「あ、あの、朋先輩、少し相談があります。」

 

「ん、なに三ヶ木さん。」

 

「あの、今度のテレビ出演ですが、

 

 ・・・・・・委員長も一緒に出演させたいんです。」

 

「え、ごめんなさい。 言ってることわかんない。」

 

「朋先輩も気付いているように、今、文実が危ないんですよ。

 

 欠席する人が多くて、残ってくれてる人に負担がかかり過ぎてる。

 

 この状態を立て直すためにはどうしても、委員長にしっかりしてもらわないと。

 

 そのために、そのためにはどうしても 」

 

「私は反対よ。

 

 あの人、委員長なのに全然文実にも出てこないじゃない。

 

 みんなこんなに頑張ってるのに。

 

 それに、元はといえばあの人がこの状態を引き起こしたんじゃない。

 

 わたしは、一緒に頑張ってきた掲示班のみんなだけで出たい。」

 

「わたしも掲示班だけで出たい、でもこのままじゃ文実自体が。

 

 わたし、生徒会だもん、だから文実を立て直さないといけないの。」

 

「三ヶ木さん、絶対に断るわ。」

 

”ガラガラ”

 

「いやっはろー、三ヶ木ちゃんいる。」

 

げ、何でこんな時に魔王が。

最悪な時に。

こんな時は無視だよ。

わたしには何も見えない、見えない。

 

”どっか”

 

な、何で横に座るんの。

いっぱい席開いてるのに。

ほ、ほら美麻先輩の席なんかクッションふかふかだよ。

 

”つんつん”

 

「ひゃ~、な、なにを。

 

 あ、あの~、何か用ですか?」

 

「冷たいなぁ。 暇だから三ヶ木ちゃんに会いに来ただけだよ。

 

 で、なにしてんの? 何か深刻なお話?」

 

「はい、そうなんです。 だから帰ってください。」

 

「三ヶ木ちゃん、ひっど~い。

 

 あのね、テレビの出演だっけ。

 

 それって三ヶ木ちゃんがテレビ局で朝から夕方まで粘ったから出演できるように

 

 なったんじゃなかったっけ?」

 

「はぁ、何で話の中身知ってんですか。 盗み聞きしてたんですか。」

 

「まぁ、まぁ。 だったら三ヶ木ちゃんに決める権利があるんじゃない?

 

 一番の功労者なんだから。」

 

「え、わたし聞いてない。 ほんとうなの三ヶ木さん。

 

 あの時、一緒に帰ったんじゃないの。」

 

「あ、いえ、その・・・」

 

「あちゃ、三ヶ木ちゃん話してなかったの?」

 

「ひどい、三ヶ木さん。 それなのに私が泣いたからとか言って。

 

 ずっと陰で笑ってたんでしょう。」

 

「いえ、そんなことない。」

 

「もういい、わたし絶対反対だから。」

 

「と、朋先輩。」

 

”ガラガラ”

 

「なんで知ってるんですか。」

 

「テレビ局で見かけたよ。 すごいね、あんなとこで土下座し続けるなんて。

 

 だって、あそこ、冷房も照明も切ったのに。」

 

「はっ、もしかしてスポンサーさんの会社紹介って、雪ノ下さんの会社。」

 

「ひゃ~、やっぱり鋭いね、 三ヶ木ちゃん。」

 

「じゃ、わたしの土下座で出演できたのではないじゃないですか。

 

 雪ノ下さんの一声でしょう。」

 

「うううん、わたしの気持ちが変わったのはあの土下座を見たからだよ。

 

 三ヶ木ちゃんの誠意が、わたしの心を動かしたってことで間違いない。」

 

「・・・」

 

「あのね、三ヶ木ちゃん、いいよく聞いて。

 

 大を守るためには、小は時には捨てなきゃいけない。

 

 いい、どちらかを選ばなければならないのなら、まよわず大をとりなさい。

 

 小に構いすぎたらだめ。

 

 だから文実を選んだあなたは間違っていない。」

 

「ちが 」

「ますます君が気に入ったよ。

 

 車の中でのこと、よく考えておいてね。」

 

「で、でも わたしは、わたしは 」

 

「わたしはなに?」

 

”ガラガラ”

 

「おい、城廻はいるか?』

 

「え、いえ、こちらには。 たぶん文実のほうだと思いますが。」

 

「文化祭のスローガンの件で問い合わせがきたんだ。

 

 何か先方さんが学校に来るらしい。

 

 すぐ、城廻に応接室まで来るように伝えてくれ。 

 

 あ、それと実行委員長、たしか相模だったな。相模も連れてきてくれ。」

 

「へ、あ、はい。」

 

やばいやばい、そうなんだ。

昨日、通販で届いたとうちゃんのお饅頭、勝手に食べてたら見つけたんだ。

どっかで見たことがあると思ったら。このお饅頭だったんだ。

・・・・とうちゃん、ごめん。 美味しかったから全部食べちゃった。

また買ってくれないかなぁ。

 

あ、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

”ガラガラ”

 

「めぐねぇ、いえ、会長、実はスローガンの件でお問い合わせんが来てまして、

 

 厚木先生がすぐ職員室に来るようにって。」

 

「うわぁ、こんな時に。」

 

え、こんな時?

なんかあったの?

 

”どたどた”

 

「あ、めぐねぇ、厚木先生が相模さんも連れてくるようにって。」

 

「美佳、おそらくクラスにいると思うよ。 お願いできる?」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

えっとどこにいるんだろう。

 

「男子、ちゃんとやってよ。セット間に合わないよ。」

 

あ、いた。

まだクラスにいたのかよ。

わたしこの人のために朋先輩と・・・・

だめ、ここは我慢。

 

『三ヶ木、人はみな自分と同じだと思っちゃいけないよ。』

 

副会長、わかるけど。

 

「あの、相模さん。」

 

「え、あのだれ? うちに何の用? 」

 

「生徒会庶務の三ヶ木です。

 

 文化祭のスローガンの件で問い合わせがあったらしく、至急応接室に来て下さい。」

 

「問い合わせ? でもスローガンってみんなで決めたんだから。」

 

「相模さん、実行委員長だから。」

 

「なによ、こんな時だけ。

 

 いつもみんなが求めてるのは雪ノ下さんじゃない。

 

 それに実際、文実は全部雪ノ下さんが仕切っているんだから、雪ノ下さんに行って

 

 もらえばいいじゃない。

 

 なんで責任だけうちが取らされるの。」

 

それが相模さんの本音なんだね。

わたし、少しわかる気がする。

あの人、優秀すぎるんだよ。

でもね、相模さんこのままじゃ。

 

「でも、これからどうするの。

 

 このままでいいの? あのさ、雪ノ下さん見返してやろうよ。

 

 ここでさ、この問題解決してさ。

 

 みんなにどっちが委員長かはっきりさせよう。

 

 いざっていうときに頼りになるのは委員長だって。」

 

「・・・・・一緒に行くだけだからね。 うちは、うちだけが悪いんじゃないからね」

 

「うん、わかってるって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トントン”

 

「すみません、失礼します。」

 

「あ、この娘が今話をしてました実行委員長です。

 

 ほれ相模、ちゃんとお詫びしろ。」

 

え、なに、厚木いきなりなんだよ。

こっちの話も聞けよ。

ちょっと、待ってよ。

 

「ちょっとまって。」

 

「ほら、こっち来ないか!」

 

「え、で、でも、う、うちだけが」

 

「ほら、相模さん一緒に謝ろう。」

 

「・・・」

 

「おい、相模。」

 

「うちじゃない。うちが悪いんじゃ」

 

だめだ、なんで話聞いてもくれないの。

少しぐらい話聞いてもらってもいいじゃない。

え~い、

 

「すみません!」

 

「「え?」」

 

「あの、すみません。 スローガン提出したのわたしなんです。

 

 わたし、あのお饅頭のあんこがとっても大好きで。

 

 あれってやっぱり小豆へのこだわりがないと出せない味ですよね。

 

 あの上品な甘さでそれでいて後味がすっきりしていて、

 

 スローガンを書いているときもあの美味しさが忘れられなくて。

 

 だから、スローガン書いてるときに無意識にあのコピーが。

 

 本当にすみませんでした。

 

 それに先生方、会長・・・・・委員長、本当に申し訳ありませんでした。」

 

「君が本当にあのスローガンを考えたのかい?」

 

「はい、わたしです。 ごめんなさい。」

 

「・・・頭をあげなさい。 

 

 わざわざうちのお饅頭を埼玉まで買いに来てくれるお客様に、いつまでも頭を

 

 下げさせておくわけにもいくまい。」

 

「あ、とうちゃんが通信販売で。」

 

「あ、そ、そうなのかい。 じゃあ、今度は西洋菓子のほうも食べてみてくれないか。

 

 こっちもおいしいから。」

 

「はい、今度はあのチョコのケーキ頼んでみます。」

 

「そうかい頼むよ。 先生方、邪魔したね。」

 

「あ、いえ、本当にすみませんでした。 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「めぐねぇ、勝手なことしてごめんなさい。

 

 この件は委員長に相談して決めたの。

 

 ねぇ、相模さん。

 

 だから、この件を解決したのは委員長だから。

 

 委員長がことを収めたんだからね。」

 

「え、美佳。それって。」

 

「それと委員長、至急、スローガンを決めなおさなきゃいけないと思うのですが、

 

 緊急に全員参加厳守のミーティングを行ってもよろしいでしょうか?」

 

「え、あ、は、はい。」

 

「ありがとうございます、委員長。それじゃ、早速、手配します。」

 

「あ、は、はい。・・・・お願いします。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

『人 ~よく見たら片方楽してる文化祭~』っか。

これがあなたが言ってた方法なのね。

駄目だって言ったじゃん。

だって、だって、なんだか心が苦しい。

あなた何も悪いこと言ってないのに。

あんなに一生懸命、人一倍仕事してたのに。

 

だから、ガツンといってやるんだ。

ありがとうって。

 

”ガラガラ”

 

あ、比企谷君、出てきた。

 

「ひ、え?」

 

比企谷君と雪ノ下さん、なによその雰囲気。

あ~、また笑った。

その笑顔、卑怯だって言ったじゃん。

 

げ、雪ノ下さん、な、なにそのバイバイって

なんかなんか、も~!

 

「お、おう。」

 

「あ、雪ノ下さん振り返って、こっち見てる。」

 

「え、おい、いねぇじゃねぇか」

 

「むっか~、なにそのがっかりした顔、折角お礼言おうと思ったのに!」

 

「いや、なに怒ってんだ。 それにお前にお礼を言われる筋合いはない。」

 

「だって、比企谷君、わざとあんなことを。」

 

「おれは、俺が思ったことを言ったまでだ。

 

 実際、思わず声に出ちまった。 他に何もない。」

 

「そう、比企谷君がそういうのならそうしておく。

 

 でも、もうこれっきりにしてね。

 

 文実で誰かが傷つくのってもう見たくないよ。」

 

「お、おう。」

 

よ、よしわたしもやってやる。

負けないんだから。

 

「比企谷君。」

 

バイバイってどう、ね、どう?

 

”すたすた”

 

おい、無視かよ。 この野郎。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「じゃあ、三ヶ木先輩行ってきますね。

 

 あ、テレビ局の記念品、ちゃんともらってきますから。」

 

「あ、あの、会えたらでいいんだけどね、ジャガーさんのサインもらってくれないかなぁ?」

 

色紙買っておいたんだ。

今日、ポスターの貼り替えで行けなくなっちゃったけど。

もらえるといいなぁ。

そしたら比企谷君と。

 

「え、三ヶ木先輩、ジャガーさんのフアンなんですか?

 

 了解。 ジャガーさん見つけたらもらってみます。」

 

 それじゃ、ポスターの貼り替えよろしくです。」

 

「うん、テレビ頑張ってね。

 

 こっちは大丈夫だよ、ポスターの製作さんの人も一緒に行ってくれるから。

 

 ・・・・・・・あ、あの、朋先輩、よろしくお願いします。」

 

「・・・」

 

「み、みんな、テレビ見てるからね。」

 

「「はい。」」

 

”スタスタ”

 

はぁ、あれ以来、朋先輩一言も話をしてくれないや。

はは、自業自得だもん仕方ないか。

ごめんなさい、朋先輩。

テレビ見てます。

頑張ってくださいね。

 

「三ヶ木さん、ポスター行くよ。」

 

「はぁ~い。」

 

よし、切り替え切り替え、みんなの分も頑張るよ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「すみません、今日はよろしくお願いします。」

 

「ああ、いらっしゃい

 

 待ってたよ。  あれ、今日はあのへんな娘はいないのかい?」

 

「え、変な娘? あ、三ヶ木さんですか?

 

 彼女は文化祭の準備でどうしても時間取れなくて、今日は来れなかったんです。」

 

「そうか、残念だな。」

 

「プロデューサーさんが残念がってたって伝えておきますね。」

 

「いや、ちがうよ、残念と思ったのは彼女のほうだと思うよ。」

 

「え?」

 

「いやね、あの娘、どうしてもテレビ出させてくれって粘るから、

 

 なんでそんなに頑張るのって聞いたんだよ。」

 

「あ、それはみんなが、あ、あの一年の子達なんですけど、すごく頑張ってるから

 

 みんなに報いたくて。」

 

「いや、違うよ。 君が頑張ってるからだよ。

 

 君は三年生なんだろう、あの娘が言ってたよ。

 

 『最後の文化祭だもん、頑張ってる先輩に一生の思い出になるような文化祭に

 

  なってほしいなって。

 

  それでね、その思い出の一部にわたしも残れたらめっちゃうれしいって思うんです。

 

  だから、わたし頑張れるんです。 へへ♡』  

 

 だって。」

 

「・・・・・・・・・・・・プロデューサーさん、いまの物真似、キモかったです。」

 

「そこかい!」

 

「あ、ごめんなさい、つい本音が。

 

 あの、ごめんなさいついでに、一つお願いあるんですが、聞いてくれませんか?」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「あ、みてみて、掲示班の子出てるよ。」

 

「あ、本当だ、いいなぁ。 わたしも掲示班に回ればよかった。」

 

「うわー、噛みっぱなしじゃん。」

 

「でも、そこが初々しくていいかもね。 これ一年の子達でしょ。」

 

「いや、ほら、後ろの人は三年の人だよ。」

 

へへへ、みんな緊張してる。けど楽しそうだなぁ。

よかった、朋先輩も笑ってる。

一緒に出たかったなぁ。

でも、わたしがいると朋先輩、笑ってくれなかったかも。

・・・これでよかったんだ、これで。

よし、次はホームペ―ジのほう手伝おうかな。

 

「あ、最後にいいですか。 せ~の。」

 

「「三ヶ木先輩、観てる~、 いつもありがとうございます。」」

 

「へ、な、なに。・・・・・馬鹿、ば~か、恥ずかしいじゃん。」

 

「ね、誰、三ヶ木さんって?」

 

「さぁ?」

 

へへへ、こっちこそありがとう、みんな。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

だめだよ、比企谷君。

確かに文実は当初の賑わいを見せているけど。

だけど、このやり方じゃ問題は解決できない。

違うんだ、いびつなんだよ。

 

「副委員長、ホムペ、テストアップ完了です。」

 

「雪ノ下さん、有志のほう機材足りない。」

 

「有志のリハーサルが長引いているから・・・・・」

 

やっぱり問題なのはあの娘なんだよ。

真面目で優秀で・・・・すんごく綺麗で。

はぁ、うっとりしちゃう。ず~と見ていたい。

い、いけないいけない、綺麗なのは関係ない。

 

”ガラガラ”

 

ん? あ、副会長。

 

「会長、当日の生徒会のシフトの件でご相談が。」

 

「え、あ、うん。 どうしたの副会長。」

 

「じつは、」

 

     ・

 

「そうだね、副会長はどっちがいいと思う?」

 

「はい、自分的にはこちらのほうがよろしいかと。」

 

「うん、私もそれがいいと思う。 じゃあ、それでいこ、お願いできる?」

 

「はい、早速。」

 

”タッタッタッ”

 

はや、副会長は早い。 

それに走ってない、早歩きなのになんであんなに早いの?

廊下は走るなだよね。

この前めっちゃ怒られた。

 

いや、でもおかしい。 めぐねぇも一緒に走ってたじゃん!

 

まぁ、いい。

うん、こ、これなんだよ。

このめぐねぇと副会長の関係なんだ。

 

副会長、ほんとに優秀なんだよ。

多分、計画立案とか実務とかの能力は、めぐねぇより上。

それでも最後に決めるのはあくまでもめぐねぇ。

めぐねぇが間違った判断しても、文句を言わず最善の策を考えてくれる。

 

めぐねぇもね、わたしたちがミスをしてもいつもあの笑顔で、

 

『頑張ったね、ありがとう。 あとは任せて。』

 

って褒めてくれるんだ。

 

だからめぐねぇも副会長を信頼してるし、副会長も、うううん生徒会のみんながめぐねぇを信頼してる。

 

いまやっとはっきりした。

 

文実はその信頼がないんだよ。

 

だから変えなきゃいけなかったのは、あの娘たちのほうだったんだ。

もう少し、二人で話し合いの場をもたないと行けなかったんだ。

どんな文化祭にしたいとかどんなふうに進めようかとか。

あまりにも雪ノ下さんが優秀すぎたから。

みんなが雪ノ下さんばっかり頼ってしまったから。

 

もう、遅いのかなぁ。

でもこれじゃ、委員長が・・・

せめてわたしは。

 

”カチャ”

 

「委員長、ご苦労様です、熱いから気を付けてくださいね。

 

 ・・・・・・・あ、あの、明日も一緒に頑張ろう。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、いたいた、三ヶ木先輩!」

 

「え、三ヶ木? あ、あの子か。」

 

「どれどれ、え、あんな子いたっけ?」

 

「あ~、あれが三ヶ木。」

 

いや~、大きな声で呼ばないで。

もう、君たちが最後にあんなこと言うから。

 

でもさ、わたしずっと文実に来てたじゃない。

そりゃ、外回りや生徒会室の当番とかで、会議室にあまり長くはいなかったけど。

 

「三ヶ木先輩、これ乙舳先輩から預かってきました。」

 

「え、あ、ありがとうって、これジャガーさんのサイン?」

 

「はい、三ヶ木先輩、ジャガーさんのフアンだからって、

 

 乙舳先輩がプロデューサーさんに頼んでくれて。」

 

「え、朋先輩が。 ありがとう、うれしいなぁ。」

 

「あ、それと、いい思い出ありがとうって伝えておいてって。」

 

「え、う、うん。」

 

”びく”

 

は、なんか後ろから熱い視線が。

もうわたしが三ヶ木ってわかったよね。

もうそんなに見なくてもいいじゃん。

だれだよ、しつこいのは。

 

「はぁ? 朋先輩、そんなとこでなに隠れて見てるんですか!」

 

「だって。」

 

「だってじゃない、もう。」

 

”すたすた”

 

「あのね、三ヶ木さん、そ、その~、プロデューサーさんから聞いたの。」

 

”ぎゅ~”

 

「ありがとう、三ヶ木さん。」

 

「朋先輩。

 

 うううん、こちらこそ、ありがとうございます。」

 

”がやがや”

 

へ?

 

「おい、女子同士で抱き合ってるぞ。」

 

「あれ、三ヶ木じゃん、三ヶ木ってそっち系?」

 

「百合百合してるぞ、やばくね。」

 

いや、ち、違うから、わたしノーマルだから。

あ、比企谷君みてる。

な、なにニヤニヤして。

あ~絶対勘違いしてる。 まって行かないで、ち、違うんだから。

と、朋先輩離して~

 




今回もほんとに最後まで読んでいただきありがとうございます。

内容、相変わらずグタグタですが、辛抱いただいてありがたいです。

12巻が出るまでのつなぎと思って、思いつきのまま書いていた3.5章ですが、

次話でラストです。(予定)

新章に向けてGW中に話整理できたらなぁと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やっぱり・・・好き

こんにちは(こんばんわ)

見に来てくれてありがとうございます。

12巻がでるまでと思ってた3.5章ですが、今回で文化祭編の最終話です。

最後まで読んでいただけたらありがたいです。

すみません。それではよろしくお願いします。




「お帰りなさいませご主人様。」

 

「は、はい。えっとただいま。」

 

「ご注文はいかがなされますか?」

 

「あ、じゃあ、コーヒーとホットケーキで。」

 

「はい、ご主人様。 畏まりました。」

 

     ・

 

はい、畏まりました・・・か。

あ~あ、わたしもあのメイド服着てみたいなぁ。

黒のワンピース、フリフリのついた白いエプロンとカチューシャ、そして白の二―ソックス。

あ、あの娘、ネコ耳つけてる。 あれ自前だね。

いいなぁ、めっちゃかわいい。

ほら、あの男子なんか見惚れて口開いたまんまだよ。

 

あ、あのね、わが2-Cの文化祭の出し物は、

 

”黒メイド喫茶”

 

ほんとはね、演劇のはずだったんだけど、やっぱり脚本がみんなから総すかんされて。

だってあれまんまパクリだもんね。

ただね、衣装班はもう動き始めてたし、うちのクラスのカースト上位組がさ、メイドにノリノリだから。

結局、黒メイド喫茶ってことに。

 

たしかにみんなカースト上位だてじゃないね、可愛いや。

え、わたし? わたしはこの教室でいまね。

 

「おばちゃん、ホットケーキ焼けた?」

 

「はいよ、焼けたよ。 ちが~う。」

 

この割烹着はなんだ!

なぜ厨房担当は割烹着なんだ。

くそ~、これじゃ確かに給食のおばちゃんじゃないか。

はずかしい。絶対比企谷君には見られたくない。

 

しっかしこの男子達は、さっきから人のことおばちゃんおばちゃんって。

それにさ、働いてるの女子ばっかじゃん。

ふふふ、よ、よしちょっと待ってろ。

 

「あの、焼き具合、ちょっと見てもらっていい?」

 

「あん、おばちゃん、たこ焼きぐらい焼けないのかよ、仕方ないな。」

 

「はい、どうぞ。」

 

”ぱく”

 

「ぐへぇ、か、辛い、み、水くれ~」

 

「わっははは、何やってんだお前。」

 

へへへ、どうよ、ワサビたっぷりいれてやったからな。

この麗しき乙女に向かって暴言はいた報いよ。

 

「あ、三ヶ木さん、ホットケーキ追加お願いしま~す。」

 

「あ、はい。ただいま。」

 

「三ヶ木さん、ご注文頂きました、アイスコーヒーとロシアンたこ焼きお願いします。」

 

「あ、はいはい。」

 

う~、忙しい、男子も働け~。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごめんね、ちょっといい。」

 

「うん、三ヶ木さん大丈夫だよ。」

 

”ガラガラ”

 

はぁ、一服一服。

さて、さっさとおトイレすましちゃおうっと。

 

”どん”

 

おわぁ、なにこの肉の壁は。

はっ、義輝君じゃん。

何やってんだ、扉の前で。

 

「あっ、変質者だ! だれか~」

 

「ひぎぃ、変質者ではないです、ごめんなさい。

 

 ・・・・み、三ヶ木女子ひどい。」

 

「あはは、ごめんごめん。

 

 で、なにしてんの? 教室入ればいいじゃん。」

 

「ぬほん、なんと、我の使命を知らぬとは。

 

 しばらく姿が見えなかったゆえのことであろうが。

 

 異空間にでも飛ばされていたのであろう。

 

 けふこん、我の使命は、この楽園を腹をすかした亡者から守護すること。

 

 我の命に代えてもこの天上界へと繋がるゲートは死守いたすゆえ、安心して作業に励むがよい。」

 

「いや、お客さんのことを亡者はないでしょう。

 それにわたしちゃんと文実いってたから。

 

 まぁ、クラスのほうは顔出せなかったけど。

 

 んで、朝からずっとここにいるの? 」

 

「ふむ。」

 

「ご苦労様、じゃあね。」

 

「え、もう行っちゃうの。 もう少し我と話を。」

 

「うん、また後でね。」

 

やっぱ、たいくつだったのね。

まぁ、後で遊んであげよっか。

ちょっと待ってね、いまわたしもやばいから。

 

”タッタッタッ”

 

トイレトイレッと、あ、比企谷君。

比企谷君も門番?

ん? なんか教室覗いてる。

たしか2-Fはミュージカルって書いてあったね。

よし、わたしもそ~と。

 

「ぼくたちはずっと一緒だ・・・」

 

あ、あれは葉山君か。

こっちの王子様は、え、かわいい、だれ?

 

「ね、王子様だれやってるの、かわいいね女子?」

 

「ああ、あれは戸塚だって、おぃ!」

 

「ん?」

 

「ん?じゃね、ち、近いだろう。 どっから覗いてんだ。」

 

「比企谷君の顔の下。」

 

「いや、お前、そうだけど」

 

「し~、今いいとこ。」

 

「お、おう。」

 

あ~なかなかよかったよ。 

初めからみたかったなぁ。

よ、よし、シフト終わったらって、

あ、やば!

 

「比企谷君、また後から見に来るね。 サラダバー。」

 

     ・

 

はぁ~、すっきりした。

さてと、あんまり休憩長くなったら悪いから戻ろう。

 

     ・

 

げ、入口の前に黒いオーラの塊が。

律儀に立ってるんだね。

でもそのオーラは。

まぁ、こっちは厨房専用の入り口だからいいけど。

 

「よ、衛士殿、ご苦労様。」

 

「またれい、ここを通りたかったら、通行証を見せられよ。」

 

「おい、うざい。」

 

”ぐぅ~”

 

「こ、これはしたり。 まだまだ鍛錬が足りぬ。」

 

「ね、もしかして朝からここ一歩も離れずにいたの?」

 

「ふむ。 大事な役だからって、他にやれる人いないからって頼まれては仕方なかろう。」

 

いや、それって。

まぁ、本人がそれでいいのならだまっていよう。

それより。

 

「それじゃ、お腹すくよね。 ちょっと待ってて。」

 

「いや、これは、その・・鍛錬がね。」

 

”ガラガラ”

 

「お待たせ、ありがとう。

 

 ごめんね、遅くなっちゃった。」

 

「うん、じゃあ、三ヶ木さんわたしもいい?」

 

「うん、ごめんね先行かせてもらって。」

 

”ガラガラ”

 

さてっと、それじゃこの余った粉使って。

 

     ・

 

できた、美佳ちゃん特製ホットケーキ。

いい色に焼けたねぇ。

よしサービスだ、我さんの似顔絵書いちゃおうっと。

チョコペンチョコペンっと。

 

”カキカキ”

 

へへへん、出来た。

我ながら傑作。

昔から、結構うまいんだよね。

これって、絶対、かぁちゃんの血だね。

 

・・・かぁち

 

よ、よし、早速我さんにあげよう。

 

”ガラガラ”

 

「よ、衛士さん、はい通行証。」

 

「お、おう、これは我ではないか・・・・・でもいいの?」

 

「いいから、余った材料で作ったから。

 

 お役目ご苦労様。」

 

「うう。」

 

いや、泣かなくていいから。 そんなに腹減ってたの。

 

「はい、コーヒー。

 

 ゆっくりそこの椅子に座って食べてね、んじゃ。」

 

”ガラ”

 

「あ、そうだ、ねぇ午後も衛士さんすんの?」

 

「いや、いつまでかは聞いていないのだが。

 

 ただここにいてくれとだけしか。」

 

え、そこまで・・・・

ううう、なんか涙が出てきた。

 

「それじゃさ、午後から一緒に回らない。」

 

「ほ、本当?

 

 いや、むはははは、 まぁ、貴殿が是非にというのであればいたしかたない。

 

 ホットケーキの借りもあるのでな、あくまでも仕方なく 」

 

「な、いいよ 一人で回るから。」

 

「いや、一緒に回らせて~」

 

うわぁ、ほんとめんどくさい。

まぁ、わたしも今日生徒会の予定無くなっちゃったから暇なんだけどね。

去年みたいに一人で回るのもなんかさ。

ほら小学校の時みたいに一緒に探検しよう。

 

「けふこん? よかろう、そこまで言うのならついてまいれ。」

 

「へ、三ヶ木女子、キモい。」

 

「お、お前が言うな!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご苦労さまでした。 交代しま~す。」

 

「あ、ありがとう。お願いします。」

 

はぁ~疲れた。

もうホットケーキはしばらく見たくない。

結構、お客さん来るもんだね。

そんなに男子ってメイドによわいのかなぁ。

今度あの服つくってみようかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

「義輝君、お待たせ。 じゃあ行こう。」

 

「うむ。」

 

「よし、材木座探検隊出発。

 

 まず何かお昼ご飯食べよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ありがとうございます。」

 

え、それも買ったの。

さっきたこ焼き食べたじゃん。

た、食べすぎじゃない。

 

「すまぬがこれを一つ。」

 

いや、ハニトーはやめろ。

いいかげんカロリー取りすぎだって

 

「義輝君、もうやめな、 食べ過ぎだよ。」

 

「むはははは、我の胃袋を甘く見てるのではないか?

 

 これぐらいは腹三分目。」

 

げ、これで三分目って。

こいつと一緒になったら、食費いくらあっても足りない。

む、無理だ。

でも、作った食事、いっぱい食べてくれたらうれしいかも。

 

     ・

 

「ひぎゃ。」

 

「ぐぇ。 や、やめ、シャツ引っ張るな。」

 

まったく、義輝君がお化け屋敷入ろうっていったのに。

こ、こら背中に隠れるんじゃない。

男だったら前歩きなさいって。

わたしも怖いんだよ。

お、押すなぁ~

 

”ベシ”

 

「げふ。」

 

まったく、こいつは。

 

     ・

 

「はい、あと二人だよ。 参加者いないか~」

 

なんだろう、あ、椅子取りゲームやってんだ。

え、優勝賞品出るの

優勝賞品はっと、あ、アカ俺のポスター。

あれって非売品の奴だよね。

確か雑誌の抽選の奴だ、いいなぁ。

 

「・・・・あれほしいなぁ。」

 

「ふむ。」

 

”ぐぃ”

 

お、おい何? 義輝君ちょっと引っ張らないで。

 

「我らも参加したいのだが。」

 

「はい。 人数揃ったので締め切ります。」

 

「のう、三ヶ木女子、我が優勝してあのポスターを取ってやろう。 」

 

「ほんと、義輝君。 よ、よし頑張って優勝しょう。」

 

えっと、どんな人が参加するのかなぁ。

あ、比企谷君と・・・・・由比ヶ浜さん。

一緒に参加してるの?

だって比企谷君、今日クラスのほうで回れないって。

・・・うそつき。

 

「ひ、比企谷君もでるの?」

 

「おう、お前、材木座と回ってるのか。」

 

「え、あ、う、うん。 義輝君、幼馴染だから。」

 

「そ、そうなのか。」

 

「比企谷君は由比ヶ浜さんと?」

 

「あ、三ヶ木さん。うん、休憩時間合ったから一緒に回ってるんだよ。」  

 

「あ、そ、そうなんだ。比企谷君もしかしてアカ俺好き?」

 

「あ、ちがうよ。 ヒッキーはあの横のやつだと思う。」

 

「え、横のやつってプリキラ―じゃん。」

 

「うん、なんかあれ非売品なんだって。

 

 ヒッキー、プリキラ―大好きだから。

 

 日曜日は絶対午前中は外出しないって小町ちゃんが言ってたよ。」

 

「小町ちゃん?」

 

「あ、ヒッキーの妹さんだよ。」

 

「由比ヶ浜さん、比企谷君のこといっぱい知ってるんだね。」

 

「え、あ、そ、そうかなぁ。 ほ、ほら部活同じだから。」

 

「部活って奉仕部?」

 

「うん、そうだよ。 ヒッキーと、あたしとゆきのんの三人の部活なの。」

 

ゆきのん? ああ、雪ノ下さんね。

いいなぁ。

わたしも生徒会終わったら奉仕部いれてもらおうかなぁ。

 

「はい、それでは説明しますので、参加者の方集まってください。」

 

は、そ、そうだ、いくら比企谷君とはいえ負けられん。

だって、あのポスター、ほらイレギュラーヘッド包帯男バージョンなんだもん。

なかなかないんだよ、包帯男バージョン。

包帯の中から光るあの瞳、うう、しびれる~、絶対ほしい。

 

「えっとルールを説明します。

 

 基本は通常の椅子取りゲームです。

 

 違う点は、椅子のクッションのなかにブ~ブ~クッションが入ってるものがあります。

 

 椅子に座れても、ブ~ってやってしまった人も失格になりますので気を付けてください。

 

 えっと何か質問はありますか? 

 

 無いようですのでスタートします。 位置についてください。」

 

ぜ、絶対負けないからね。

 

     ・

 

チャチャチャラ♬

 

「ピー」

 

”ブ~”

 

「由比ヶ浜。」

 

「いや、ち、違うからね、ヒッキー。

 

 ほ、ほ、ほらブ~ブ~クッションだからね、あたししてないから。」

 

「わかった、わかったって。 そんなに必死にならなくてもいいから。」

 

「ほ、ほんとだからね。」

 

「わ、わかったから。」

 

     ・

 

チャチャチャラ♬

 

「ピー」

 

”ブー。”

 

げ、いまの、義輝君もしかして

そ、それに、く、くさ~い。

 

「お、おい材木座!」

 

「ひぎぃ、ち、ちがう、今のはブ~ブ~クッションで 」

 

「おい、ちげ~だろう。」

 

「中ニ、最低だ。」

 

「義輝君、退場!」

 

「そ、そんな。」

 

まったく、やっぱここは自分だけが頼りだね。

くっそ、負けんからね。

 

チャチャチャラ♬

 

まずはゆっくり椅子の周りを歩いて、ほら前の子との距離が開くでしょ。

そしてわたしの後ろは渋滞。

 

そこで音楽が止まるとね、

 

チャチャチャラ♬

 

「ピー」

 

ほら、目の前の椅子が空いてる。

そんで後ろ詰まってるから、後ろは椅子の取り合い。

へへへん、ほら座れた。

あとはブ~ブ~クッションだけ怖いんだよね。

・・・・だって比企谷君の前でブ~はいやだ。

 

チャチャチャラ♬

 

「ピー」

 

よし、後は、ひ、比企谷君一人。

イレギュラーヘッド、もう少しだよ、もう少し待っててね。

 

「さぁ、残りはあと二人です。

 

 ではお二人に、決勝の意気込みを聞いてみましよう。」

 

「三ノ下、いっとくが絶対負けない。」

 

ひど、まだ名前間違えてる。

は、もしかしてもう勝負始まってる?

これも駆け引きなのかも。

 

「八幡、こういう時は女子に勝利を譲るのか本当の戦士であろう。」

 

「材木座、それは過去の話だ。 

 

 今は男女平等社会、いや女尊男卑の社会。 この勝負は絶対譲れん。

 

 それに、あんな目の腐ったやつのポスターがほしいなんて言うやつに負けるわけにはいかん。」

 

「え、それヒッキーが言う?」

 

「えっと、お取込み中すみません。 こっちの女子、意気込みを。」

 

「き、貴様、わたしのイレギュラーヘッドを馬鹿にしたな。

 

 絶対許せん。 こ、このロリコン変態。」

 

「ばっか、俺はロリコンじゃない。」

 

ロリコンじゃん、どう見たって。

わたし、そっち系の服持ってたかなぁ。

 

「それでは、お二人さん、後ろを向いてください。

 

 さ、さぁ、最後の勝負です。

 

 二つの椅子のどちらかが、ブ~ブ~クッションになってます。」

 

ごめんね。窓ガラスに映ったの見っちゃった。

左のほうがブ~ブ~ね。

 

げ、なに比企谷君その笑みは。

は、もしかして比企谷君も見てたの。

これは瞬発力の勝負だ、集中しないと。

 

それではお音楽スタート。

 

チャチャチャラ♬

 

よ、よし仕掛けてやる

ほらフェイント!

ぐ、引っかからんな。 さすが比企谷君。

 

この環境ではゆっくり歩きも使えないし。

とにかく、音楽に集中するしかない。

 

「イレギュラー・・・結婚・・・なんだ。」

 

ん、独り言? でもイレギュラーヘッドが何とかって?

き、気になる。

なんだ、なに言ってんだ。

 

「イレギュラーヘッドって、結婚して子供もいるんだよな。」

 

「え、うそ。」

 

チャチャチャラ♬

 

「ピー」

 

あ、し、しまった。

く、くそ~、こっちはブ~ブ~さんの椅子。

は、もしかしてブ~さえならなければ、もう一回やり直しってことに。

よし、気付かれないようにお尻を椅子から浮かして。

スカートだから気付かれないよね。

ぐうう、きつ~、足震えてきた。

 

「あれ? おっかしいなぁ、音ならないよね。」

 

ふふふ。さぁやり直すんだ、今度は負けないから。

 

「ははは、三ノ下、勝負あったな。」

 

いや、三ノ下じゃないって。

え、なに? こ、こっちこないで比企谷君。

 

「ご苦労さん。」

 

「いや~、触らないで、変態。」

 

”ぽん”

 

触っちゃだめだって。

 

あ~

 

”ブ~”

 

ま、負けた。 しかも比企谷君の目の前でブ~て聞かれた。

はずかしい。

 

「八幡、貴様血も涙もないのか。」

 

「い、いいよ、義輝君、勝者の当然の権利だよ。

 

 さ、敗者は消え去るのみ。

 

 あ、比企谷君、最後に、さっき呟いていたけど、イレギュラーヘッドって

 

 ほんとに結婚してるの?」

 

「お、おう、本当だ。 だけどよく知ってたなあんな不気味なモノクロ映画。」

 

「へ? な、なんのこと?」

 

「イレイザーヘッドていうモノクロ映画のことだが。」

 

「ひ、ひど。 まぁ、いいや。 おめでと比企谷君。

 

 いこ、義輝君。」

 

くそ、比企谷君卑怯だよ。

まぁ、わたしもフェイントとか使ったけど。

勝負の最中に敵の言葉に惑わされたわたしが未熟だってことだ。

 

     ・

 

「はい、優勝おめでとうございます。

 

 それでは優勝商品をどうぞ。」

 

「・・・・・あ、じゃあこれを。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ううう、負けた~

くやしい、なんかドンドン悔しくなってきた。

わたしのイレギュラーヘッドが。

 

「義輝君、くやしいよ~」

 

「三ヶ木女子、元気だすのだ。

 

 そうだ我が何か奢ってやろう。」

 

「え、ほんと。 

 

 じゃあ、まずあのクレープ。」

 

「え、あ、あのぉ、三ヶ木女子、いま、まずって言わなかった?

 

 まずって。」

 

「ほら行くよ。 そんな小さいこと気にしない。」

 

     ・

 

「はい、まいどありぃ。」

 

「み、三ヶ木女子、それも食べるの?」

 

「おう、義輝君、奢ってくれるって言ったもん。」

 

「い、いや、しかしすこし食べ過ぎでは?」

 

「はぁ? まだ腹二分目だよ。 

 

 そんで明日の分も食べとくの、文句ある?」

 

「いや、あ、ありません。 あのぉ、我にも少し頂戴。」

 

     ・

     ・

     ・

 

いや、食った食った。

う~、でも、くそー気が晴れない。

さっさと帰って録画したやつ見よう。

あ、その前に、明日のお弁当の買い物、義輝君の分と三人分

・・・・いや五人分か、買ってこなくちゃ。

奢ってもらいっぱなしじゃ悪いからね。

うんと美味しいの作ってあげよう。

でも、三人分で足りるかなぁ。

 

”ぱこ”

 

い、だ、だれあたま小突いたの

 

「あ、比企谷君。」

 

「ほれ。」

 

「あ、はい。

 

 ・・・・え! こ、これって、でもなんで。」

 

「まぁなんだ、よく見たらあのポスターだが、俺持ってたわ。

 

 二つあっても仕方ないからな。」

 

「ほんと、うれしい、ありがとう。」

 

”だき”

 

「お、おい、ばっかやめろ。」

 

「あ、ごめん。」

 

「いや、もう少しいいけど。」

 

「はぁ?」

 

「いや、なんでもない。 じゃ、じゃあな。」

 

「うん、比企谷君、ありがとう。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

う~ん暇だ。

二日目は朝から生徒会室詰め。

副会長、今日も交代のシフト組んでくれてたけど、今日は絶対わたしがやるんだって

破棄しちゃった。

だって、今日はみんなの高校生最後の文化祭だもん、楽しんでほしいなぁ。

 

     ・

 

しかし暇だな。

あ、そうだ、おトイレの場所わかるように地図書いておこう。

小さい子にもわかるようにっと。

 

・・・

 

”ガラガラ”

 

「お~い、美佳いる?」

 

「あ、めぐねぇ。」 

 

「おう、当番ご苦労様。」

 

”どさ”

 

「あ、ハニトーだ。」

 

「ふふん、差し入れ。 今日ごめんね。でも本当にいいの?」

 

「うん。 折角、副会長がシフト考えてくれたんだけど、今日はわたし一人で大丈夫。

 

 ・・・あんね、だって最後だもん。 みんなが楽しんでくれたほうがうれしい。」

 

「そう。 よし、ほれこれもあげる。」

 

”カタ”

 

「あ、ミルクティ―。」

 

「他に何かほしいもんない?」

 

「え、奢り? じゃあ、焼きそばとたこ焼きとそれに・・・」

 

「ちょっとまった! まったく、タダだと容赦ないね。」

 

「だって育ちざかりなんだもん。」

 

「うん、確かにまだまだだね。」

 

「あ、いまどこ見って言ったの! めぐねぇよりあるんだからね。」

 

「あはは、そうしておいてあげる。 じゃあ、また後から来るね。」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

くっそ、本当は電話なんかしたくなかったのに。

ご、ごめんね。

 

「めぐねぇ、行けそう?」

 

「うん、大丈夫。 2-Cの近くにいるからすぐ行くね。」

 

「うん、あ、でもなんか他校の男子生徒らしいんだけど、めぐねぇ大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。ちょっと待ってね。」

 

”ピーー”

 

「みんな、いる?」

 

「は、ここに。」

 

「美佳、生徒会のみんな一緒だから大丈夫だよ。」

 

「うん、お願いします。」

 

ふう、みんながいるのなら大丈夫だ。 

でも、ごめんね折角楽しんでるところ。

 

「あ、あのう。」

 

「あ、連絡ありがとう。もう大丈夫だよ、生徒会のみんな向かってくれたから。」

 

「ああ、よかった。 だってクラスの男子ビビッて何もできないんだもの。」

 

「そうだよね。 だけどほんとしつこい男だったもんね。」

 

”ガラガラ”

 

「じゃあ、ありがとう三ヶ木さん。」

 

「うん、今日クラスのほういけないけど頑張ってね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

あれ、どうしたんだろう? 幼稚園ぐらいかなぁ

 

「なにか御用?」

 

「うぇ~ん。」

 

「泣いてばかりじゃわからないよ。」

 

「お姉ちゃんが犬に追いかけられてるの。」

 

え、犬? どっかから紛れ込んだの?

ちゃんと校門前でチェックしてるのかなぁ。

えっと保健衛生の部長に連絡しなくちゃ。

 

「早く、早く来て、おねぇちゃんが追いかけられてるの。」

 

「う、え~い。 わかった、一緒に行こうね。」

 

えっと、だれか総武高の生徒いないかな。

あ、いた、いた!

 

「あ、あのすみません、この子のお姉さんが犬に追いかけられてるみたいなの。

 

 ちょっとだけ生徒会室の留守番お願いできませんか?」

 

「え?」

 

「すぐ戻りますので、お願いしますね。」

 

「え、あ、ちょっと待って。」

 

「お願いします。」

 

”タッタッタッ”

 

「なんなんですか、もう~」

 

     ・

 

「ね、どこ?」

 

「あのね、そこ曲がったとこ。」

 

「わかった。 ね、ここにいてね。

 

 絶対きちゃだめだよ、危ないから。」

 

ふー、はぁー。

よ、よしいくよ。

顔だけはよしてね。

せ~の。

 

「こら! ・・・・・・・へ?」

 

「きゃん!」

 

「え、いや、きゃんって。」

 

「きゃん、きゃん。」

 

「きゃ~ こっちきた。」

 

「あ、こっちだよ。こっちおいで」

 

あ、あの、あのさこれってチワワっていうやつだよね?

じゃれてるだけ・・・・だよね。

 

「きゃん、きゃん」

 

はぁ~、いや、確かに追いかけられてるけどさ。

まぁ、でもよかった。

だけどさ、どこの犬だろう?

 

「こっちおいで。」

 

うんしょっと。

 

「きゃん、きゃん。」

 

ん、首輪してるね。

まぁ、チワワだもん飼い犬だね。

でも、犬の持ち込みは禁止してるはずだから。

 

「ねぇ、この犬はあなた達の?」

 

「うううん、ここにいたの。」

 

「そう、遊んでるとこごめんね。

 

 他の人の迷惑になるといけないから連れていくね。」

 

「は~い。 じゃ、あっち行こ。」

 

「あ、妹さんそこの角にいるから」

 

「は~い。」

 

「きゃん、きゃん。」

 

”べろべろ”

 

おい、やめろ、顔はやめて。 だってわたし女優だから。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「ごめんなさい、お待たせしました。

 

 あの~、誰も来ませんでした?」

 

「あ、トイレ探してる人来たので、この地図渡しておきましたよ。」

 

「あ、ありがとうございます。

 

 あの~、ごめんね。」

 

「本当ですよ、これから葉山先輩のバンド見に行くとこだったのに。

 

 いい席取られちゃったかもです。

 

 でも、これが言ってたワンちゃんですか。」

 

「うん、なんかじゃれてただけだったみたい。」

 

”べろべろ”

 

「あはは、かわいいですね~。」

 

’なぜなぜ”

 

「まぁ、よかったです、なんともなくて。

 

 それじゃ、もう行きますね。」

 

「あ、ほんとにありがとうね。」

 

「はい。 それではです えへ♡ 」

 

な、なに、かわいい。 めっちゃかわいい。

あんな娘もいるんだね。

多分一年の娘だと思うけど。

雪ノ下さんといい、由比ヶ浜さんといい、この学校レベル高すぎない?

はぁ、いいなぁ。

 

”べろべろ”

 

ひゃぁ、お前、わたしのファーストキッスを。

あ、そんなことしていられないや。

会議室、だれがいたっけ。

 

はぁ! ちょっと待った。

わたしのハニトーが、まだ半分残ってたはずなのに。

 

あ、あのジャリ、くそ~食べやがった。

 

     ・

     ・

     ・

 

"モミモミ”

 

「あ~楽になった。 ありがとねお嬢ちゃん。」

 

「おばぁちゃん、もう大丈夫ですか?」

 

「ええ、お嬢ちゃん、腰だけじゃなく肩を揉むのも上手だね。

 

 すごく楽になったよ。」

 

「ほんと? あのね、いつもとうちゃんの肩とか揉んでるから。」

 

「そう、お父様の肩を揉んであげてるの?」

 

「うん、だってね、とうちゃんのおかげで高校通えてるんだもん、感謝しなきゃ罰が当たるよ。」

 

「お嬢ちゃん、お父様好きかい?」

 

「うん、大好き。」

 

「そうかい、それじゃ、そろそろ行くかね。

 

 ごめんなさいね、すっかり長居しちゃって。」

 

「歩ける? あ、校門まで送るね。」

 

えっと大丈夫だよね。 もうご来場者の方帰られてる時間だから。

誰も来ないよね。

えっと鍵だけかけてっと。

 

”ガチャ”

 

はい、お待たせしました。

 

あ、あれ? あそこにいるの庶務先輩?

なんかきょろきょろっと。

誰か探してるのかなぁ

 

そういえば、なんかめぐねぇが呼んでたような気がする。

あとで、電話して聞いてみようっと。

 

     ・

 

げ、なにあれ?

校門の前に黒塗りの車。

あれってあの関係の車じゃないよね。

 

「あ、お嬢ちゃん、ここまででいいよ。」

 

「会長、お帰りなさい。」

 

「ああ、黒岩、待たせたね。」

 

”バダン”

 

「じゃあね、お嬢ちゃん。 あ、そうだ、孫が入学出来たらよろしくね。」

 

「え、あ~、お孫さんの志望校を見に来たんですか?

 

 入学できるといいですね。」

 

「それじゃあね。」

 

”ブー”

 

は、お孫さんって、名前聞くの忘れた。

ま、まぁいいや。

そうだ、そろそろエンディングセレモニーの時間だ。

体育館行かなくっちゃ。

 

     ・

     ・

     ・

 

え、なにこの雰囲気。

なんか噂話してるけど。

なんか、小学校の時に感じてた雰囲気に似てる。

なんで。

 

あっ比企谷君、椅子運んでるんだ。

わたしも運ぼうっと。

 

「比企谷君ご苦労様。ステージ裏に運ぶんだよね。」

 

「いや、いい。」

 

「え、あ、大丈夫だよ。 わたしこれでも結構、力あるんだよ。」

 

「いらんていってんだろう!」

 

「はっ、ご、ごめんなさい。 う、う、うわぁ~ん、ごめんなさい。

 

 ごめんなさい。ごめんなさい・・・・」

 

「あ、いや、す、すまん。」

 

「うわぁ~ん。」

 

「な、なぁ、悪かった、泣きやんでくれ。」

 

「嫌だ、ゆるさないもん、びっくりしたんだもん。」

 

「怒鳴って悪かった、ゆるしてくれ。」

 

「う、う、んじゃあ、一緒に椅子片付けてもいいなら許してあげる。」

 

「わ、わかった。 そのかわり俺と喋るな、絶対だ。」

 

「え? なんで。 ・・・・わからないけど、わかった。」

 

なんで話したらいけないの。

なんかわけわからないよ。

比企谷君が怒鳴るなんて初めてだ。

ちょっとびっくりしちゃった。

それで、それでね、なんかものすごく悲しくなっちゃって。

でも、でも一緒に椅子運べるから、わたし我慢するね。

 

うんしょうんしょっと。

えっと、あ、この運搬台車に乗せるんだね。

 

む~、もうこれ以上乗らないかなぁ。

あ、上のほう乗せられそう。

うんしょっと。

 

あ゛っ!

 

”ガラガラ、ガシャーン”

 

いったぁ~・・・・くないよ。

なんで?

ん、なんか重たいけど。

 

はっ!

 

「ひ、比企谷君、だ、大丈夫。」

 

「三ヶ木、け、ケガないか? どこか打ってないか?」

 

「大丈夫だよ。 だって比企谷君がかぶさってくれてるから。

 

 ・・・・・え、い、いま三ヶ木って。」

 

「え、あ、いや。

 

 まぁ、お前に怪我がなくてよかった。」

 

「うん。」

 

”きゅん”

 

はぁ、な、なにこの胸の鼓動。

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい

 

・・・・・やば~い、心臓が飛び出ちゃう。

 

「ひ、ひ、ひ、比企谷君こそ、け、怪我しなかった?」

 

「ああ、大丈夫だ。 こう見えて結構打たれ強いんだ俺は。」

 

「比企谷君♡」

 

「あ、い、いや、なんだ、椅子、も一回積み直さないとな。」

 

「ごめんなさい。」

 

「バッカ気にすんな。 ふ、二人でやればすぐ終わるだろう。」

 

「うん。

 

 ・・・・・あ、あのね。わたし信じてるよ。

 

 何があったかわからないけど、わたしは比企谷君を信じてる。」

 

「はぁ? お前、なんでそんなに俺のこと信じられるんだ。」

 

「だって。」

 

馬鹿、何でそんなこと聞くのよ。

何でって決まってるじゃん。

 

『これお前のだろ。

 

 ・・・今日風が強いだろ、結構飛ばされて。

 

 すまん、なかなか見つからず、大分遅くなっちまった。』

 

『あ、あのな、これ買ったばっかりだから。

 

 まだ一度も着てねぇ~から。

 

 なんだ、嫌でなかったら、これ着ていけ。 』

 

『・・・まぁ、だから俺のことは気にするな。』

 

『・・・お前は生徒会だ。 俺にはどこから見ても生徒会役員にしか見えない。』

 

『その方法だと犠牲者出ちまうじゃねえか。

 

 ・・・お前が掲示班のみんなの楽しみを奪っちゃうんだぞ。俺はやっぱり反対だ。 

 

 まぁ、俺も考えてることがある。 だから、お前は無理、いや、邪魔するな。』

 

『まぁ、お前に怪我がなくてよかった。』

 

へへへ、わたしはもうあなたの優しさを知っている。

わたしが泣いただけでオロオロして。

それで自分のことよりわたしのこと心配してくれて。

 

わたしね、もうわかったの、あなたに・・・・・・・惚れちゃったんだって。

だから、だからね、これからももっとお話ししたい。

もっといっぱいお話して、比企谷君のこと知りたい。

わたしのことも少しでいいからわかってほしい。

だからね、

 

「あのさ、何で信じられるかって? 

 

 決まってるじゃん、その目、目だよ。

 

 イレギュラーヘッドにそっくりなんだもん。

 

 そんな人に悪い人いないじゃんか。」

 

「そ、そんなことでか。」

 

「そ、そうだ、あったりまえじゃん。

 

 だから、頑張って椅子片付けよ。」

 

「あ、ああ。 ・・・・そうだな。」

 

 

 

 

‐‐‐‐そして現在 生徒総会‐‐‐‐

 

 

 

 

はぁ、結局無理ばっかりしてあのバカは。

もう、自分を傷つけないでね。

ってわたしが言っても聞いてくれないよね。

 

でも、ごめんね。

わたしがあのとき、そんなはずないって。

相模さんに委員長の職を全うさせるためだって、もっと強く早めにあの噂を潰せたら。

うううん、原因となったあの二人を口留めできてたら。

いまなら百倍にしてやっつけてやるのに。

 

ちがうちがうそんなんじゃない。

わたしが、わたしたち生徒会がほんとは相模さんをもっとサポートできてたら。

・・・・・ごめんね比企谷君。

あなた一人に押し付けちゃって。

 

わたし、わたしはやっぱり

 

”がた”

 

比企谷君が大好きなんだ。

 

「み、三ヶ木先輩、どうしたんですか?

 

 急に立ち上がって?」

 

「え、あ、あ~ ご、ごめんなさい。

 

 なんでもないです。」

 

”がやがや”

 

「あ、すみません。 他に質問等ないようでしたら生徒総会を終わります。

 

 では会長お願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、みんな、ご苦労様でした。」

 

えっとなんか忘れているんだよね。

なんだったけ。

ん~、なにかなにかっと。

 

「あ゛ー」

 

「へ、な、なんですか美佳先輩、またしても。」

 

「あ、いえ、な、なんでも。」

 

忘れてた。 そうだあの脇机の中

ず~っと入れっぱなしだった。

つい文化祭忙しくて。

まだあったよね。

 

「会長、さき生徒会室戻ってます。」

 

「あ、はい、じゃ、カギよろしくです。」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

急げ、走らない程度に急げ。

たしか、入れっぱなしだったんだよ間違いない。

 

”ガラガラ”

えっと脇机の中っと。

 

”がさがさ”

 

ほ、ほらあった。

 

へへへ。

 

「あれ、三ヶ木どこ行くんだ?」

 

「あ、あの、ごめん、ちょっとね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

今日は総会終わったら下校だったから、まだ帰ってなければいいんだけど。

えっと2-Fの自転車置き場はここだよね。

あ、あった。 自転車まだあった。

えっとカラオケまではまだ時間あるから、ちょっと待ってよ~と。

 

     ・

     ・

     ・

 

まだ来ないかなぁ、今日、部活に行ってるのかなぁ。

う~ん、ちょっと奉仕部まで見にいこうかな。

よし行ってみよう。

 

あ、来た。 

えっとどっか隠れてっと、ぐへへへ。

 

     ・

 

”どん”

 

「うはぁ、お前あぶね~じゃねえか、後ろから急にはやめろ。」

 

「へへへ。」

 

「な、なに、なんでにこにこ笑ってんだ?」

 

「へへへ、あのさ、あのね、これな~んだ。」

 

「お、おう、それジャガーさんのサインじゃねえか。」

 

「うん、はいあげる。」

 

「え、いいのか。 なんだどうしたんだ。」

 

「受け取ったね、もう返品利かないんだからね。」

 

「お、おう、クーリングオフもないのかよ。

 

 は、まさか金よこせって。」

 

「ちが~う。 まったくわたしのこと金の亡者みたいに思ってない?

 

 あのね、憶えてるでしょ、約束守ってね。」

 

「約束?」

 

「あ~完全に忘れてるじゃん。 ほら、あの文化祭の時の約束。」

 

「ん~? なんだったか。」

 

「一緒に、お・で・か・け してくれるんでしょ。」

 

「はぁ? なにそれ。」

 

「え~約束したじゃん。 ジャガーさんのサインあげたら一緒にお出かけしてくれるって。」

 

「いや、え、そんな約束してたっけ。」

 

「うん、した。絶対、厳密に。」

 

「いや、ほら、たしかお前の誕生日の時、一緒に映画とか。」

 

「あれはあれ。 まだ、サインあげる前じゃん。

 

 ね、どこか行こ。 や・く・そ・く えへ♡」

 

「いや、お前今日どうかしたのか? なんか変なもん食ったんじゃね?

 

 まぁ、約束なら仕方ねぇな。 で、どこでもいいのか?」

 

「うん、あのね、・・・・・・・・比企谷君と一緒ならどこでもいい。」

 

「お、おい、勘違いするようなこと言うんじゃねぇ。

 

 なに奢ってもらいたいんだ。」

 

「ばっか!」 

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「あのね、時間とか待ち合わせ場所とかどこでも合わせるから連絡してね。

 

 じゃあ、待ってる。」

 

「お、おう。」

 

やった! 比企谷君、お出かけいいって。

へへ、さっそく服買いに行こう。

だって、折角のお出かけなんだもん。

えへ、その日がいい日になりますように。




今回も最後まで、ありがとうございました。

字数が12000字と話を詰め込み過ぎて読みにくかったものと反省しています。

次話より新章となりますが、もう少し読みやすくできたらと。

今回、改めて八幡への想いを確かめたオリヒロですが・・・・

また、見に来ていただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章 加速する想い
希望と迷い


またまた、ありがとうございます。

文化祭編終わって、今回から現在に戻ります。

ちょうど、総会終わって、母の日に。

相変わらず、セリフ多いですがよろしくお願いします。


”ブ~,ブ~”

 

うん、誰だよ~。 

今何時? げ、まだ7時前じゃん。

土曜日の朝はゆっくり寝かせてくれよ。

 

「あい、美佳だよ~。」

 

「あ、ごめん。 まだ寝てた?」

 

「うん。 昨日さ、総会の打ち上げに生徒会のみんなでカラオケ行ってたの。

 

 つい盛り上がっちゃって。

 

 んで、沙希ちゃんどうしたの?」

 

「あ、あのさ、今日けーちゃんの保育参観あるんだ。

 

 あんたさ、今日何か予定とかあったりする?」

 

「うううん、今日は家の掃除ぐらいだよ。」

 

「ごめん、ちょっと体の調子悪くてさ、もしよかったらだけど、

 

 代わりに行ってくれないかなって?」

 

「・・・・・仕組んでないよね。」

 

「はぁ?」

 

「だってこの前の運動会。」

 

「あ、いや、こ、今度は本当だから。

 

 うち、共働きでさ、今日も仕事なんだ。 だからあたしが行く予定だったんだけど。」

 

「大丈夫? 熱とか出てない?」

 

「うん、熱はないみたいなんだけど頭痛がひどくて。」

 

「わかった、任せといて。 

 

 で、どうすればいいの? けーちゃん迎えに行く?」

 

「うううん、大志が部活行く時に、けーちゃんを幼稚園まで送っていくから。」

 

「じゃあ、幼稚園に行けばいいのね。

 

 たしか、なのはな幼稚園だったね。」

 

「うん。 ごめん頼めるかな。」

 

「任せといて。」

 

「あ、写真送ってね。 あのさ、合唱とかあるらしいから。」

 

「はいはい。 でもさ、しっかり休んでてね。

 

 ちゃんと体治さなきゃ。」

 

「うん。」

 

さてと、それじゃ起きて準備しようっと。

 

”スー”

 

え~と、とうちゃんはまだ寝てるね。

うわぁ~酒臭い。

昨日も飲んできたんだ。

とうちゃん、とうちゃんも体大事にしてね。

ん~、二日酔いには何がよかったかな。

 

     ・

     ・

     ・

 

んっと、困ったなぁ、何着ていこう。

保育参観ってさ、多分一緒に運動とかするよね?

まぁ、いいか、動きやすい様にジーンズにしておこう。

だけど、あんま着るものないね。

最近、服とか買ってないからなぁ。

 

あ、比企谷君とのお出かけ、何着ていこう。

って、まだいつになるかわからないんだけど。

でもさ、いつになってもいい様に、明日なんか服を見に行こうっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

とうちゃん、じゃあ行ってくるね。

ご飯と味噌汁とか、温めて食べてね。

じゃあ、行ってきます。

あ、やば、急がなきゃ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

えっと、確かこの小学校の隣だよね。

あ、あった。

一年ぶりかぁ、なっつかしいなぁ~。

園長先生、元気かなぁ。

 

うわぁ、お母さん方服装気合入ってるね。

なんかじろじろ見られてるけど、ジーンズっておかしかったかなぁ?

なんかいずらい。

 

「美佳ちゃん?」

 

「え、あ、園長先生。 ご無沙汰しています。」

 

「髪切ったのね。それに眼鏡してるからわからなかった。

 

 どうしたの? あ、失恋でもした?」

 

「い、いえ、あの~ちょっといろいろありまして。」

 

「で、今日はどうしたの?」

 

「あ、あの、友達の 」

 

「あ、みーちゃんだ!」

 

”タッタッタッ”

 

「みーちゃん。」

 

”だき”

 

「あ、あの友達の代わりにってことで。」

 

「あらあら、相変わらず子供さんにだけは好かれるのね。」

 

「いや、その、その言い方なんか変。」

 

「あらそう?」

 

「そうです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「おかあさん なあに おかあさんって♬」

 

うわぁ、振りつきだ。 けーちゃんお歌、上手だね。

あ、しまった! 写真撮らなきゃ。

えっと、ほかのお母さんも撮っているし、いいんだよね。

 

”カシャ”

 

よし、まず一枚目ゲット。

 

「はい、じゃ次のお歌は 」

 

     ・

     ・

     ・

 

よし、まずはこれだけ写真撮ったら沙希ちゃんも満足してくれるよね。

 

”ブ~、ブ~”

 

え、あ、沙希ちゃん。

ちょ、ちょっと待って~

今まずいって。

 

「す、すみません。」

 

ひゃ~、お母さんたちの目怖い。

駄目だって電話してきたら。

 

”ガラガラ”

 

「さ、沙希ちゃんどうしたの?

 

 気分悪くなった? お医者さんに電話しようか?

 

 それとも生まれた?」

 

「いや、生まれたってなに?

 

 あ、あのさ、写真撮れたかなぁって。」

 

「ちゃん撮ってるから。 

 

 もう、心配しないでゆっくり休みなよ。」

 

「だって、あ、写真送ってくれない。」

 

もう、どんだけけーちゃん好きなの。

しゃ~ないな。

早速取れた分だけ送っておこうか。

 

”ちょんちょん”

 

え、あ、け-ちゃん。

 

「みーちゃん、先生がゲームするからお遊戯室行きましょうって。」

 

「え、うん、わかった。

 

 あ、そうだ、けーちゃん、さーちゃんが、みーちゃんの言うこと聞いてくれないの。

 

 ちゃんとお休みしなさいって言ってるのに。

 

 けーちゃんも怒ってあげて。」

 

「ちょ、あ、あんた」

 

「さーちゃん、ちゃんと休んでなきゃダメ。」

 

「けーちゃん、言うこと聞かないと口聞いてあげないって。」

 

「さーちゃん、言うこと聞かないと口聞いてあげないから。」

 

「・・・・・はい。」

 

「じゃあ、電話切るね。」

 

「あんた、けーちゃん使うなんて汚いよ。」

 

「ふふふ、いいから寝てな。」

 

「もう。」

 

さて可愛そうだから、写真は送ってあげよう。

えっと”あきらめて寝てなさい”っと。

よし沙希ちゃんに送信完了。

 

あ、遊戯室に行くんだったね。

あ、やばい、みんな行っちゃった。

教室に誰も・・・ん、あの子どうしたんだろう?

 

「ね、けーちゃん、あの子知ってる? 」

 

「あ、大ちゃんだよ。 いつも女の子に意地悪すんの。

 

 けーちゃんキライ。」

 

「ふ~ん。」

 

さっきから窓の外覗いてキョロキョロしてるね。

はは~ん、まだお父さんかお母さん来てないんだね。

わたしも経験あるよ。

もっとも、二年生からはあきらめたけどね。

 

ん~、教室に一人残すわけにもいかないもんね。

 

「大ちゃん、遊戯室行かないの?」

 

「行かない。」

 

「なんで?」

 

「教えない。」

 

「ふふふん、お姉ちゃんの個性は人の心を読み取るんだよ。

 

 大ちゃんの心の中見ちゃおう。」

 

「うそだ。」

 

や、なに可愛い。

へへ、手で胸隠して見えないようにしてるんだね。

ちょっと意地悪かなぁ。

 

「手で隠しても無駄だよ。 よし大ちゃんの心スキャン!」

 

「うわ~」

 

「逃げても無駄だよ。

 

 ほら見えた。 そっか、大ちゃんの親御さんが来るの待ってるんだね。」

 

「すごい。 お姉ちゃん本当に個性あるんだ。

 

 あのね、お母さん来てくれた時、誰もいないと帰っちゃうといけないから待ってるんだ。」

 

「そうか。 よし、じゃあ、ちょっと待っててね。」

 

”タッタッタッ”

 

誰かいるかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

あ、園長先生いた。

 

「園長先生、すみません。 

 

 何か紙と書くもの貸してください。」

 

「え? ああいいよ。 これ持っていって。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それと、廊下は走らないように!」

 

「はい。」

 

”タッタッタッ”

 

「全然聞いてない! もう、まったく変わらないね。」

 

”ガラガラ”

 

「お待たせ。 大ちゃん、これ貼っておこうね。」

 

”カキカキ”

 

えっと”大ちゃんのご父兄様、みんなは遊戯室に行ってます。”っと、これでよし。

 

「あ、この字知ってる。 こっちはお父さんで、これはお兄さんだろ。」

 

「へぇ~、大ちゃんすご~い。 良く知ってるね。」

 

「へん! だってお父さんに教えてもらったもん。

 

 でも、お兄ちゃんは来ないよ。」

 

「え、あ、そうだね、じゃ、じゃあ、ここ直して保護者の方っと。

 

 よし、これで大丈夫っと。

 

 じゃあ、大ちゃん、みんな待ってるから遊戯室行こ。」

 

「うん。」

 

「でも大ちゃん、漢字読めるなんてすごいね。」

 

「あ、当たり前だい。」

 

「みーちゃん、けーちゃんもいっぱい知ってるよ。」

 

「うん、こんどみーちゃんにも教えてね。」

 

”ガラガラ”

 

「すみません、遅くなりました。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「せんせー、さようなら。」

 

「けーちゃん、さようなら。

 

 あ、美佳ちゃん、またおいでね。」

 

「はい、お邪魔でなければまた寄せて頂きますね。」

 

”タッタッタッ”

 

「個性のお姉ちゃん。」

 

「あ、大ちゃん、お母さん来てくれたんだね。」

 

「うん、あのね、僕が大きくなったら、お嫁さんにもらってあげる。」

 

「え、ほんと?」

 

「うん、だってお姉ちゃんモテそうにないもん。」

 

が~ん、な、なんてことを。

まぁ、あってるからいいけどさ。

子供は正直だね。

でも、少しうれしいな。

 

「よし、じゃあ、指切りげんまん、お約束。」

 

「だめ~、みーちゃんは、けーちゃんと結婚するの。」

 

いや、あ、あのけーちゃん、ありがたいけどそれ無理だから。

多分無理だよね。

 

「それじゃさ、お前も入れてやる。 三人で結婚だ。」

 

「うん、それならいいよ。」

 

えっと、それって・・・・まぁいいか。

三人で結婚か。

はは、まいったね。

ほんとみんなで結婚できたらいいのにね。

は、な、なに馬鹿なことを。

 

「じゃあ、お姉ちゃん、バイバイ。

 

 えっと、川崎もバイバイ。」

 

「「バイバイ」」

 

「あらあら、あのいじめっ子の大ちゃんがねぇ。

 

 ねぇ、美佳ちゃん、保母さんになりたいって言ってたけど。

 

 あなたやっぱりこの仕事に向いてるよ。」

 

「え、あ、ありがとうございます。

 

 それで十分です。

 

 では、お邪魔しますね。」

 

「え? ええ、またね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「あ、たーちゃんだ。 

 

 お~い、たーちゃん。」

 

ん、たーちゃん?

あ、沙希ちゃんの弟さんね。

確かよく刈宿君とよく一緒にいる子だね。

 

「けーちゃん、お帰り。

 

 あ、狩也の彼女さん、こんにちは。」

 

「え、いや違うから。 彼女じゃないから。」

 

「え、ほんとっすか。 俺てっきりそうかと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、さーちゃん。」

 

「え、あ、ほんとだ。 もう、寝てなさいって言ったのに。」

 

まったく、確かにもう着くよってメールいれたけど。

ずっと待ってたの?

どこまでけーちゃんのこと好きなの。

 

「こら、沙希ちゃん!」

 

「うへぇ。」

 

「うへぇじゃない、ほらさっさと家に入りなよ。

 

 それじゃさ、帰るからちゃんと休むんだよ。」

 

さて、家帰って掃除しなくちゃ。

とうちゃんもう起きたかなぁ。

また二日酔いだぁ~って頭押さえてるんだろうなぁ。

さぁ、介抱してあげなきゃ。 

 

「あ、あのさ、三ヶ木お昼食べていかない?」

 

ん? お昼。

もうそんな時間だよね。

あ、そうか、たーちゃんだっけ? なんか料理できそうにはないよね。

すぐ沙希ちゃんが作っちゃいそうで。

しゃあない、沙希ちゃんに作らせるわけにはいかないから。

 

「わかった、わかった。 なんか作ってあげる。

 

 とにかく、家の中に入ろう。」

 

「あ、いやちが 」

 

”ガラガラ”

 

え、いい匂い。

ま、まさか。

 

「沙希ちゃん、台所はどこ?」

 

「あ、あっち。」

 

げ、やっぱり。

アスパラの肉巻きと里芋の煮っころがしに味噌汁って。

それにしてもこの量って。

いつもこんなに作るの?

あ、そうか。たーちゃんだっけ育ち盛りだもんね。

たしか部活やってるし、いっぱい食べるんだ。

 

でもさ、沙希ちゃん、あんた休まないで何してたんだ。

 

「あのね、沙希ちゃん。」

 

「あ、いや、あのさ、味噌汁は朝の残りだから。

 

 ・・・・だ、だって何もしてないと、なんか落ち着かなくてさ。」

 

「まったく。」

 

”ぴた”

 

「ひゃい。」

 

ん~、熱は本当にないようね。

顔色はちょっと青いかなぁ。

 

「ね、頭痛はもうないの?」

 

「朝、あったんだけど、もう無い。」

 

「そう、じゃあ過労気味だったのかなぁ。

 

 まぁ、いいや。 早速だからご飯いただくね。」

 

「あ、ああ。気にしないでいっぱい食べてね。

 

 ほら、大志、お茶碗とか準備して。

 

 けーちゃん、部屋にいってご飯だよって呼んできて。」

 

「へ? ご両親いるの?」

 

「うううん、妹と弟。」

 

まだ兄妹いるの?

えっと沙希ちゃん、大志君にけーちゃんっと、ご、五人兄弟。

お父さん、頑張ったんだね。

 

     ・

 

「「いただきま~す。」」

 

”ぱくぱく”

 

ひぇ~、せ、戦場だ。

うわぁ、みるみるうちに無くなっていく。

あ、それわたしの分。

 

「こら、大志、ちゃんと噛みなさい。」

 

「けーちゃん、アスパラだけ残さないの。」

 

沙希ちゃん、大変だね。

いつもこうなの。

へへ、でも楽しい。

よし、わたしも負けないよ。

お肉ゲット。

 

「こら! 美佳、一度に二個取らない。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「「せ~の、ご馳走さまでした。」」

 

あ~、楽しかった。

それに沙希ちゃんの料理美味しい。

特にあの里芋の煮っころがし、めっちゃおいしい。

十分お店とかできるんじゃない?

 

「ごめんね、あんまりゆっくり食べられなかったでしょう?」

 

「戦場だね。 でもすっごく楽しかった。」

 

「そ、そうかい。 よかった。」

 

”ガチャガチャ”

 

「ね、後片付けやっておくから、沙希ちゃんゆっくり休みなって。」

 

「う、うん。 でも悪いから。」

 

まったく、いうこと聞かないね。

よし、それならば。

 

「けーちゃん、さーちゃんが言うこと聞いてくれない。

 

 怒ってあげて。」

 

”どたどた”

 

「さーちゃん、みーちゃんの言うこと聞かないと、口聞いてあげないからね。」

 

「あ、あんた、そのやり方汚いって。」

 

「はいはい、汚くて結構。 あ、そうだ、ついでに晩御飯作っておくね。

 

 また沙希ちゃん作っちゃうから。」

 

「え、いいって。」

 

「けー 」

 

「わ、わかった。 冷蔵庫のものとか勝手に使っていいから。

 

 お願いします。」

 

「うん、よろしい。 けーちゃん、今日何食べたい?」

 

”どたどた”

 

「みーちゃんが作るの? けーちゃんカレーライスが食べたい。」

 

ん~と、材料材料っと。

ジャガイモ、お肉、玉ねぎ、にんじん・・・・・

ん、いけるね。

 

「沙希ちゃん、カレーにしてもいい?」

 

「う、うん。 ご、ごめん。」

 

「気にしない気にしない。 あ、人数、もう増えないよね。

 

 隠し子とか?」

 

「いや、いないから。 うん七人家族だよ。 あ、あんたも食べていかない?」

 

「うううん、とうちゃん待ってるから。」

 

「そ、そう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふふふ~ん、 ふんふんふんふ~ん♬」

 

は、な、なんか熱い視線が。

なに、後ろから? もしかしてまた沙希ちゃんが。

 

「こら沙希ちゃん。 へ? あ、大志君。」

 

「あ、ごめんなさい。 つい。」

 

「もしかして見惚れた? な~んちゃって。」

 

「はい、見惚れてました。

 

 狩也が好きになったのって、先輩のこういうところなんだなぁって。」

 

「ばっか、なに言ってんの、もう。」

 

「へへ、ごめんなさい。

 

 あ、あいつ本当にいいやつなんで、俺が保証します。

 

 それで、絶対、先輩のことは真剣に考えているので、よろしくお願いします。」

 

「へ、い、あ、あの~ 」

 

「よろしくお願いしますっす。 それじゃ。」

 

「・・・・・」

 

それは、わかってるんだよ。

刈宿君はいい子だよ。 

やさしくて、正直で、それでちょっとおっちょこちょいで。

一緒にいて楽しい。

でも、でもわたしね・・・・

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

ふう、できた。 どれどれお味は

ん~OK、我ながら上出来上出来。

 

あ、もうこんな時間だ。

長居しちゃったね。

えっと沙希ちゃんはっと。

 

「すぅ~、すぅ~」

 

あは、よく寝てる。

へへ、妹さんと三人で川の字だ。

それじゃ起こさないようにっと。

 

”ガチャ”

 

「それじゃあね、沙希ちゃん。

 

 ありがとう、楽しかった。」

 

「また来てくださいっす。 あ、これどうぞ。」

 

「ひゃ、た、大志君。 あ、ミルクティ―、買ってきてくれたんだ。」

 

「狩也に聞いたっす。

 

先輩、今日はありがとうございました。」

 

「うん、じゃあまたね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

う~ん、よく寝た。

昨日は楽しかったなぁ。

あ、沙希ちゃんからメール入ってる。

 

『今日はありがとうね。 

 

 カレーとっても美味しかった。

 

 今度作り方、教えてね。

 

 あ、そうだ、大志とけーちゃんがまた来てっていってたから。

 

 またカレーつくりに来てね。(冗談)

 

 ・・・・・本当にありがとう。

 

                    あたしの大事な親友へ』

 

さ、沙希ちゃん、親友って。

ありがとう。

 

『こっちこそありがとう。

 

 とても楽しかったよ。

 

 でもカレーのレシピは、一子相伝のため秘密なの。

 

 だから食べたくなったときは作りに行くからまた呼んでね。

 

                    わたしの大好きな親友へ』

 

へへ、送信っと。

さて、それじゃ準備しなくちゃ。

とうちゃんを起こさないようにっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

                       

とうちゃん二日続けてごめんね。

お昼作っておいたからね。

 

それじゃ、先に行ってきます。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

かあちゃん、お誕生日おめでとう。

それと今日は母の日だね。

はい、かあちゃんの大好きなアヤメだよ。

それとカーネーション。

ごめんね、高かったからいっぱい買えなかったの。

 

かあちゃん、わたしね、初めて本気で好きな人ができたの。

ほら、この前言ってたあの人。

 

とってもひねくれててさ、ロリコンでさ、そんでめっちゃスケベ。

わたし、何度も抱き着かれたり、そ、それで、は、裸も見られたし。

 

でも、でもね、わたし彼には何でも言えるんだ。

 

とても生徒会のみんなにも言えないこととかもさ。

だって、彼はわかってくれるだよ。

わたしのやること理解してくれるんだ。

 

でもね、彼にはね、結衣ちゃんや雪ノ下さん、会長、

・・・・・・・沙希ちゃんって、やさしくて、綺麗で、可愛くて、家庭的な素敵な女子がいてね、わたしなんて全然及ばない。

 

わかってるんだ、そんなこと。

だからわたしは、わたしは彼の横にいれたらそれだけでいい。

恋人になんて・・・・・

 

かあちゃん、わたしおかしいかな。

へへ、なに言ってんだろう、やっぱ頭おかしいいや。

 

あ、そうだ、遅くなってごめん、美紀。

美紀の分も持ってきたよ。

はい、イチゴ味のチロロチョコ。

いっぱい持ってきたからね。

お姉ちゃん、取らないからゆっくり食べてね。

 

・・・・・・・もう、取り合いっこもできないね。

 

『はぁ、なに言ってんだお前。

 

 こうなったのも全てお前のせいじゃないか。

 

 それに横にいるだけでいい?

 

 お前がそれで満足するのか?

 

 今度も比企谷を独り占めしたくなって、由比ヶ浜や川崎達を蹴落とす気だろう。

 

 あの時、かあちゃんを独り占めしようとしたみたいに。」

 

ちがう、そんなことない。

わたしは、わたしはほんとに横に入れればいい。

同じ過ちは繰り返さないもん。

 

もう誰も失いたくない。

だから、だからわたしは夢もあきらめて・・・・

 

でも、ほんと? ほんとにわたしそれでいいの?

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

はっ、あ、とうちゃんからメールだ。

えっと、

 

『今から家出るよ。

 

 大丈夫か?』

 

え、もうそんな時間?

あ、ほんとだ。 

 

『ありがとう、とうちゃん。

 

 ごめんなさい。』

 

返信完了っと。

 

ごめんね、かあちゃん、美紀。

わたしまだとうちゃんと一緒に来れないの。

 

だってとうちゃんが手を合わせてるとこみると、

また倒れちゃうと思う。

迷惑ばっかりかけられないからね。

 

でも、いつか必ず一緒に来れるようにわたし頑張るから。

絶対頑張るから。

もうちょっと時間頂戴ね。

んじゃ、また来るからね。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

ん~やっぱ、わたし的には右のジレンチとデニムワイドパンツかな。

でも、比企谷君、ロリだもんな。

きっとこの左のかわいい系がいいんだろうな。

悩む~、どうしょう。

 

「うん、やっぱりこっちの花ガラのワンピースにしようかなぁ。

 

 結構かわいいし、ロリの比企谷君喜びそう。

 

 それに、ほら、結構ミニだし。」

 

「いや、やっぱ右のほうが似合うんじゃねえか。

 

 それに俺ロリじゃねえし。」

 

「そう? でもどうみてもロリなんだよね。

 

 自分では気付いてないんだよ、あのロリスケベ。」

 

「おい、ロリスケベってなんだ。 誰のことだ!」

 

「うっさいな。 だれのことってそりゃ、ひき

 

 へ?

 

 うぎゃー、比企谷君、なんでここにいるのよ。」

 

「ああん、ちょっとな。

 

 それで、だれがロリスケベなんだって。」

 

「だ、だってほんとじゃない。

 

 プリキラ―めっちゃ好きだし、小町ちゃんにめっちゃ弱いし。

 

 そ、それに会長に聞いたけど、クリパの時、小学生にも手出してたって。」

 

「いや、まて、それは誤解だ、小学生には手出してない。」

 

「ほんと? まぁそういうことにしておいてあげる。」

 

「先輩、お待たせしました。 

 

 え、あ、美佳先輩、こんなとこでなにしてるんですか?」

 

「え、あ、会長。 いえ、ちょっと服を見に。」

 

会長こそなんで?

え、もしかして比企谷君と一緒だったの。

それってデートってこと?

 

「え~、そうですか。 あ、かわいいワンピース。

 

 美佳先輩、絶対こっちのほうがいいですよ。

 

 先輩もこっちが好きですよね、ロリだから。」

 

「いや、俺は右のほうがいいかなぁって。」

 

「先輩、いまさらなにいってるんですか。」

 

「・・・・・・はい、左のワンピースのほうがよろしいかと。」

 

や、やっぱりそうだよね。

 

「あ、あの~、会長、ところで今日はどうしたの?」

 

「え、あ、その先輩がデートの練習に付き合ってくれって、しつこいから仕方なくです。」

 

「いや、まて、これはお前の依頼で 」

 

”ぼこ”

 

「ぐえ。」

 

「やだな~先輩、先輩がデートの練習に付き合ってくれって言ったんじゃないですか。

 

 で・す・よね。」

 

「あ、は、はい。」

 

え、それってもしかしてわたしとのお出かけのため?

そうだったらうれしいなぁ。

比企谷君、ちょっと期待してもいい?

 

「あ、じゃあ、邪魔したらいけないので、失礼しますね。」

 

「はい、それではまた明日です。

 

 ほれ、先輩、何お腹押さえているんですか?

 

 行きますよ。」

 

「いや、お、お前が。」

 

”スタスタスタ”

 

い、行ったよね。

えへへ、やっぱりこの可愛い系のワンピースにしょうかなぁ。

比企谷君もこっちがって言ってくれたし。

 

「お客様お決まりですか?」

 

「あ、は、はい、えっとこのワンピー 」

 

え、えーー い、一万五千円!

あははは、はぁ~

 

「こ、このワンピース可愛いですね。

 

 ま、また今度にしまーす。 ごめんなさ~い。」 

 

やば、バイト探さなきゃ。

 




最後までありがとうございます。

今章から少し関係を進展(加速?)させていけたらと。

ジャガーさんのサインとの引き換えに、おでかけ(デート?)の約束を取り付けた

オリヒロですが・・・・・

また次話よんでいただけたらありがたいです。

※す、すみません。
 
 さーちゃんとけーちゃんとか間違いがいろいろと。
 訂正お願いします。

 ごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会室の長い放課後

今回も見に来ていただきありがとうございます。

この駄作も折り返し点を過ぎ、いろいろ動きが・・・・

読みにくく申し訳ありませんが、

今回も最後までお付き合いいただければありがたいです。



"ドン”

 

「いた。 おい、急に背後から鞄はやめろ。

 

 むち打ちになるだろうが。」

 

「いつなのよ。」

 

「はぁ? 何のことだ。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ!」

 

「どこか出かけようって言ったじゃん。」

 

「まて、俺は言ってない。 お前が言ってきたんだろうが。」

 

「約束したもん。」

 

「また、いつかそのうちにな。」

 

「酷い、わたしジャガーさんのサイン巻上げられたんだ。

 

 比企谷君に騙されたんだ。」

 

「おい、やめろ、冗談でなくなるから、通報されるから。

 

 わかってるって、絶対連れていくからちょっと待てって。」

 

「じゃあ、今度の土曜日。」

 

「だめだ。」

 

「え~何か用事あるの。」

 

「用事? まぁ兎に角、今度の土曜日はまだ駄目だ。

 

 まぁ、また連絡するから。 じゃあな。」

 

「う、うん。」

 

”スタスタ”

 

「どこか行く約束か?」

 

「う、うん。 ん? あ、い、稲村君。」

 

「ご苦労さん、三ヶ木。」

 

「あ、あのさ、今の聞いてたの。」

 

「いや、だってほら、生徒会室そこだろ。」

 

「・・・ごめんなさい。」

 

「何で謝る。 生徒会室行くぞ。」

 

”ガラガラ”

 

やば、どこから聞かれてたんだろう。

まさかいるなんて思ってなかった。

 

’ガタ”

 

うんしょっと。

 

「・・・・」

 

稲村君機嫌悪そう。

なんか生徒会室入ったら、ノート広げて勉強始めちゃったよ。

いつもだったら、なんか今日の授業はなんだかんだって、

うるさいほど話しかけてくるのに。

 

で、でもいいじゃん、別に付き合ってるわけじゃないんだから。

わたしがだれと出かけようと勝手じゃん。

 

・・・・だめかなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ん~、いつもの通り話しかけてくれない。

なんかこっちからも話しかけにくい雰囲気だし。

そ、そんなに怒んなくてもいいと思うんだけど。

 

     ・

     ・

     ・

 

”カタ”

 

はっ、あ~びっくりした。

シャーペン置いただけか。

う~、でも何で誰も来ないの。

ジャリっ娘、書記ちゃん、本牧君、誰でもいいから早く来て。

い、胃が痛くなってきた。

 

     ・

     ・

     ・

 

ん~、空気が重いよ~。

稲村君、一言も口きいてくれないし。

なんかず~と勉強ばっかりしてる。

どうしょうかなぁ。

やっぱ、謝ろうかなぁ。

で、でもさ、わたし謝るのもなんかおかしいと思うし。

 

・・・・・あ、そ、そうだ。

 

「あ、あのさ、稲村君。」

 

「ん?」

 

「あ、あの、そ、その~、こ、紅茶淹れようと思うんだけど、飲まない?」

 

「ん? ああ、頂く。 頼む。」

 

「うん。」

 

ふぅ~。

や、やっと口聞いてくれた。

よ、よし、めっちゃ美味しいの淹れてびっくりさせてやる。

 

”ガチャ”

 

うわぁ、相変わらず、会長のものばっかりだねこの冷蔵庫。

えっと、おいしい水、おいしい水っと。

あ、そうだ。今日は特別奮発だ。

雪ノ下さんにもらった紅茶使ってみよう。

この前、奉仕部でご馳走になったやつ、あれめっちゃ美味しかったなぁ。

よ、よしあの味を超えてやる。

 

「えいえい、おー!」

 

「ど、どうしたんだ急に?」

 

「え、あ、いや、その~、な、何でもない!」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふふふっふふ~ん♬ ふんふんふ~ん♬」

 

へへ、でっきた♡

ん~、いい色だね、琥珀色の宝石。

どれどれ、あ・じ・み。

 

”ゴク”

 

ん~、美味しい。 

やっぱり紅茶の基本は水と温度だね。

あとは茶葉の量と蒸らし時間。

 

やったね、我ながらよくぞここまで。

って、まだまだ、雪ノ下さんの淹れてくれた紅茶には及ばないや。

こんどまた奉仕部に修行に行ってこようっと。

 

でも、今日みんな遅いね。

どうしたんだろう。

ずっと稲村君と二人っきりだよ。

は! な、なに? なんか視線感じるんだけど、も、もしかして。

 

「やっぱ、三ヶ木のその姿良いなぁ~」

 

は、な、なに急に何言ってんだ。

びっくりした。

やっぱりさっきからずっと見てたのかよ、こいつ。

 

「な、なにジロ見してんのよ。 な~んかキモ。」

 

「だってな、そんな風にティーポットとにらめっこしてる三ヶ木って、

 

 いつ見てもなんかいいなぁって思うんだ。

 

 ほんと、その姿、俺は好きなんだ。」

 

「ば、ばっか、 あ!」

 

”ガチャーン”

 

「あちぃ!」

 

「大丈夫か三ヶ木、火傷しなかったか?」

 

「あ、大丈夫だよ、ちょっと熱かっただけだから。」

 

「いや、ほらすぐ冷やすぞ。」

 

「あ、ちょ、ちょっと稲村君?」

 

”ガラガラ”

 

な、ちょ、ちょっと稲村君、大げさだって。

だ、大丈夫だから。

ちょっと指にかかって熱かっただけだから

それに廊下は走ったらダメだって!

わたし達、一応生徒会なんだから。

 

”ジャ~~~”

 

「火傷の時は、念のためよく冷やさないと、跡が残ったりして後悔するぞ。」

 

「うん、だけどほんと大丈夫だよ。 ほら。」

 

「うん、どれ良く見せてみろ。」

 

へへ、そんなに真剣に見つめないでよ。

心配してくれてありがとう。

でも、ほんと大丈夫だよ。

 

”スタスタ”

 

「あ、美佳っち、やっはろ~、あのね今日奉仕部休みだから駅前のケーキ屋さんって、

 

 あ、あっ美佳っち、ご、ごめん。」

 

”タッタッタッ”

 

「え、結衣ちゃん?

 

 あっ、おい、いつまで手握ってんだ、馬鹿もの。

 

 結衣ちゃん、ま、待って~

 

 ち、違うんだよ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、はぁ、はぁ。

結衣ちゃんってこんなに走るの早かったっけ?

あんなに重たそうなものついてるのに。

仕方ない、電話しようっと。

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、あ、結衣ちゃんからメール?

 

『美佳っち、頑張ってね。(∩˃o˂∩)♡ 』

 

絶対、勘違いしてるよ。

もう。

 

”ガラガラ”

 

あ、稲村君掃除してくれてる。

やばいやばい。

 

「あ、稲村君、ごめん、わたしが片付けるよ。」

 

「もう終わった。 指が切れるといけないから任せとけ。

 

 それより本当に指の火傷は大丈夫か?」

 

「うん、心配してくれてありがとう。

 

 ごめんね、いつも心配かけてばっかりだ。」

 

「もう慣れた。」

 

「ひど、そんなに心配かけてないじゃん。」

 

まったく、そんなに心配かけてないはずだよね。

ってどの口が言ってんだか。

でもさ、わたしはあんなやり方しかできないからさ。

これからも心配かけるけどごめんね。

 

「それよりさ、みんな遅いね。」

 

「みんなって、2年生は職場見学だから会長と書記ちゃんは今日来ないぞ。

 

 本牧はなんか先生に呼ばれてたから遅れると思う。」

 

「え、そ、そうなんだ。」

 

げ、うそ~、これってまずくない。

そ、そうだったんだよ。

職場見学の後は自由解散だったんだ。

 

本牧君がくるまで稲村君と二人っきりだ、だ、大丈夫だよね。

変な感じにならないよね。

そうだ、わたしが変に意識をしちゃいけないんだ。

平常心、平常心っと。

 

「えっと紅茶。 あ、稲村君のコップ割っちゃったんだ。

 

 ごめん、弁償するね。」

 

「ああ、安もんだからいいって。 学校にいいもの持ってくるわけない。」

 

「あ、ありがとう。 でも紅茶どうしょっか?」

 

「うん? ああ、じゃあこれでもらうからいいよ。」

 

「え、でもそれわたしのじゃん。

 

 だめ、絶対ダメ。 全く何考えてんだこのど変態。 」

 

ありえないだろう。

何考えてんだこいつ。

ば、ばっかじゃないの。

え、えっとでもどうしょうか、コップ割ったのはわたしだけどさ。

 

「いや、まてよく考えろ。

 

 この場合、取れる手段は3つしかないんだ。」

 

「3つ?」

 

「そうだ、一つは会長のコップを使うこと。

 

 だがその場合、それが会長にバレた時のことを考えたら。」

 

「う、た、確かに。 絶対に稲村君死ぬね、社会的にも肉体的にも。」

 

「だろ、二つ目は書記ちゃんのコップを使うこと。

 

 この場合、飲んでる時に本牧が来てみろ。」

 

「う、た、確かに。 生徒会室が血に染まるね。」

 

「だろ。 だから仕方なく3つ目の方法、三ヶ木のコップで飲むことにしたんだ。

 

 あくまでも仕方なくだ。 」

 

「そ、そうだね。 それが一番被害が少ないかも。

 

 それにわたしがコップ割っちゃったんだもんね。」

 

「そうだ。 それにもうすでに、か、間接キスはすんでるだろ。」

 

「う、うん。 なんか腑に落ちないんだけど、まぁ仕方ないんだよね・・・おそらく。

 

 いま紅茶、もう一回淹れ直すね。 

 

 あ、あんまり見つめないように。」

 

「あ、わ、わかった。」

 

まったく、そういえば元はといえば、こいつが変なこと言うから。

もう、大人しく勉強してろってんだ。

 

”ガサガサ”

 

ん、何か探してる?

 

あ!

 

「それとスマホもだめだからね。」

 

「わ、わかった。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、どうぞ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

んっとわたしはどうしょうかなぁ。

書記ちゃんの貸してもらおうかな。

でも、書記ちゃんのコップで飲んでる時に本牧君来たら。

ん? 本牧君、来・た・ら。

 

・・・・・・・・・・あ゛!

 

「おい、貴様、はめやがったな!

 

 本牧のコップ使え、本牧の。

 

 わたしのコップ返せ。」

 

「断る。 なんで男と間接キスしなければならん。

 

 絶対嫌だ、そんな選択肢は無い。

 

 それにもう遅い。」

 

「くそ~、貴様、絶対わかっててやったろ。

 

 まったく・・・・・・・・・・馬鹿。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇ、さっきからずっと勉強してるの。」

 

そうなんだよ。

機嫌悪かっただけかと思ったら、ず~と勉強してんだよ。

こんなに勉強好きだったけ?

そりゃ受験生だし、時間が惜しいかもしれないけどさ。

わたしのこと放置?

 

「ああ、だって来週末から中間テストだからな。」

 

はぁ、ちょっと待て、いまこいつ、なんか不気味なことをいってなかったか。

空耳だよね。

ほんと最近、空耳が多くてさ。

・・・・・・嘘だよね、お願い嘘といって~

 

「え、ち、中間テスト。」

 

「三ヶ木、まさかとは思うが、忘れてないよな。」

 

「だ、だって、この前、テストしたばっかしじゃん。」

 

「あれは実力テストだろ。 今度は中間テストだ。

 

 なぁ、三ヶ木、俺たち三年は受験生だぞ、これからはテストばっかりだぞ。」

 

「うへ~。」

 

「まったく。 で、お前どこ狙ってんだ。」

 

きた。またこの質問だ。

どこの大学って、進学する子ばかりじゃないんだよ。

ま、まあ、総武高じゃ珍しいんだろうけどさ。

また理由とかいろいろ聞かれるんだろうなぁ。

 

「わたしは大学に行かないよ。」

 

「え、・・・・あ、す、すまない、あと4年待ってくれ。」

 

「ん、あと4年って?」

 

「いや、やっぱ、ほら結婚は大学卒業してから、働いて稼げるようになってからにしたい。」

 

「はぁ? ば、ばっかなにいってんのよ。」

 

「え、ちがうのか?」

 

「あったりまえだ。 

 

 どんだけ頭の中お花畑なんだ。

 

 わたしは働くんだよ、就職すんの。」

 

「そうか、頑張れよ。」

 

「え、り、理由聞かないの?」

 

「ああ、お前のことだ、なんか理由あるんだろう。

 

 それに俺がなんか言っても、お前俺のいうことなんか聞かないだろ。

 

 それに、いざというときは俺が養ってやる。」

 

「え、や、養うって・・・・・・・」

 

「俺な、一応理数系でもできるほうだ。 

 

 だから大学卒業したら、一流な企業に入ってだな、そんでお前を養ってやる。」

 

「ははは、できるほうって自分でそれ言う?

 

 そんなこと自分で言うの一人しか知らないよ、学年三位とかいうやつ。

 

 で、一流の企業ってどこ狙ってるの?」

 

「そうだなぁ、地元でいえば雪ノ下建設かなぁ。」

 

「わたし、そこ受ける予定だけど。」

 

「うそ、雪ノ下建設は高校生は募集してないはずだが。」

 

「あのね、雪ノ下さん、あ、お姉さんのほうね。

 

 雪ノ下さんから誘われてるの。」

 

「あの~、俺受ける時、口きいてもらえない ?」

 

「・・・・・ 」

 

     ・

     ・

     ・

 

それにしても、本牧君遅いね。

どうしたんだろう。

暇だなぁ。

稲村君、また勉強始めちゃって、構ってくれないや。

う~、暇だ。 よしさっきの仕返ししてやれ。

 

”ジ―――”

 

ほれほれ、この熱い視線、どうだ。

 

「おい、三ヶ木、そんなに暇なんなら、お前も勉強したらどうだ。 」

 

「え~、だって、大丈夫だよ。

 

 わたし実力出せば赤点なんて取らないもん。」

 

「じゃあ、試しにこれやってみろ。 おそらくこんな感じの問題が出るはずだ。」

 

「ふふふん、任せなさい。」

 

     ・

     ・

     ・

ふふふん、どうよ。こんな数学の問題なんてちょろいちょろい。

この前、教えてくれたじゃん。

数学なんて公式を覚えておけば、ちょろいもんだって。

え、なんか違ったっけ? でもまぁ完璧でしょう。

 

「どうよ、楽勝,楽勝でしょ。」

 

「三ヶ木、悪いこと言わん、すぐ勉強しろ。 ほれ」

 

「げ、0点。 なんでまた。」

 

「だから、ちゃんと公式覚えろって言ってんだろ。

 

 ほれ、ここ、+とー間違えてるだろう。」

 

「い、いいじゃん。ちょっとした間違え。

 

 公式なんてさ、試験までにはちゃんと覚えるからね、えへ♡」

 

「三ヶ木、そこ机寄せろ。 我慢できん、やるぞ!」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

 

「はぁ、日直で大分遅くなった。

 

 今日は沙和子と会長は職場体験でいないから、三ヶ木さんと稲村の二人っきりなんだよな。

 

 ・・・ま、まぁ、あの二人に限ってそんなことないだろうけど。

 

 でもな、生徒総会の時の二人の雰囲気とか、三ヶ木さん、割りと押しに弱いからなぁ~」

 

”スタスタ”

 

「さてっと。」

 

「あ~ん、稲村君、だめだってそこ。」

 

「え、稲村君って?」

 

「ふふふ、三ヶ木、そんなこと言ってもだめだ。」

 

「もう、ばか。 わたし、初めてなんだからね、もっと優しくしてよ。」

 

「はぁ? 何を言ってんだ三ヶ木さん。」

 

「じゃあ、三ヶ木こっちは?」

 

「あ、そこもだめ。 ひ、ひどい。 ううう~」

 

「わ、わかった、すまん。 三ヶ木泣くなって。」

 

「じゃあ、もっと優しくしてくれる?」

 

「う、わかった。」

 

”ガラガラ”

 

「お、おい、お前ら、生徒会室でなにふしだらなことしてんだ。」

 

「「へ?」」

 

「あれ? え? あ、あの~、何してたの?」

 

「ああ、これか、本牧、これは公式神経衰弱だ。」

 

「公式神経衰弱?」

 

「そうだ、例えばこれ。

 

 こっちが”微分係数の定義”と札に書いてあったら、答えはこの札の公式。

 

 つまり、公式の名前と式があってれば札を得ることができるんだ。」

 

「本牧君、稲村君酷いんだよ。

 

 わたしやったことないのに容赦なくて。

 

 それでやっと覚えた公式のとこに限って取っちゃうんだ。」

 

「稲村、お前数学は学年十傑なんだから、それって少しひどいぞ。」

 

「すまん。ついムキになった。」

 

「わかればいいの。

 

 だけど本牧君、さっき生徒会室で何とかって言ってなかった?」

 

「え、あ、い、いや、何でもない。

 

 いや~今日は暑いね。はっはっは・・・・・・・・はあ~。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

「じゃあ、お先に。」

 

「うん、書記ちゃんによろしくね、」

 

「え、何で知ってんの。」

 

いや、わかるから。

ずっと時計ばっかり気にしてたじゃん。

こ、このバカップルめ。

さて、わたしも帰ろっと。

今日の夕飯何にしようかなぁ。

はは、勉強よりまず夕飯だよ。

 

「三ヶ木、鍵返してくるんだろう? 俺行ってくるよ。」

 

「うううん、いいよ。 わたし行ってくる。」

 

「じゃあ、俺自転車だから先帰るわ。」

 

「うん、またね。」

 

「あ、ああ、またな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん、あれって雪ノ下さん? あ、それに比企谷。」

 

「すまん、雪ノ下、待たせた。」

 

「あら、このわたしを待たせるなんて、いつからそんな大物になったのかしら。 うぬぼれ谷君。」

 

「いや、だから無理矢理すぎんだろそれって。

 

 それに今一緒に部室から出てきたんだろう。」

 

「そうね。 それでさっきの件の続きだけど。」

 

”スタスタ”

 

あれ、稲村君、まだいたの。

何してんだろ?

んっと何か覗いてるね。

 

「お~い、稲村君、なにしてんの?」

 

「あ、い、いや三ヶ木、あ、そうだ、すまん俺生徒会室に忘れ物したんだ。

 

 一緒に来てくれ。」

 

「・・・・・いいよ。 

 

 大丈夫だよ、あれ、雪ノ下さんと比企谷君でしょう。

 

 へ~、あんな雪ノ下さんの顔、普段見れないよ。」

 

「三ヶ木。」

 

「し~」

 

     ・

 

「それじゃ、比企谷君、今度の土曜日に一緒に行かない?」

 

「ああ、土曜日は何も用事は無いからな、わかった。」

 

「あら、あなたに用事なんてある訳ないじゃない。」

 

「ぐ、ま、まぁそうだが。」

 

     ・

 

うそつき

比企谷君のうそつき。

 

用事ないって、土曜日用事ないって。

わたしが誘ったらだめって言ったじゃない。

なによ、雪ノ下さんならいいの。

・・・・当たり前か。

 

「・・・・・三ヶ木、お前、本当にあいつでいいのか。

 

 あいつはお前にふさわしくない。

 

 お、俺のほうがお前を大事にしてやれる。」

 

「・・・・・・」

 

「な、なぁ、三ヶ木、もうあいつのこと忘れろよ。」

 

「忘れようとしたこともあんだよ。 でも、でも・・・・・

 

 それにさ、雪ノ下さんや由比ヶ浜さん、わたしなんて勝てるわけないってわかってんだよ。」

 

「三ヶ木。」

 

「ごめん、稲村君、わたしそれでも、それでも・・・近くにいるだけでいいんだよ。

 

 別に好きだって言ってもらえなくても、わたしはそれでもいいんだ。」

 

「三ヶ木、俺は絶対認めない。

 

 そんなのおかしいって。

 

 お前逃げてるだけじゃんか、告って振られるのが嫌で。」

 

「わかってるよ、だって嫌なんだもん。

 

 告ってそばにいられなくなるの嫌なんだもん。」

 

”だき”

 

「へ、い、稲村君、やめて。 お願いだから。」

 

「三ヶ木、あのな、俺、そんなお前の気持ちを全部ひっくるめて、やっぱりお前が好きだ。

 

 そんなお前が傷ついていくの見たくない。

 

 だから、本当はお前を、力尽くでもお前を俺のほうに・・・・

 

 でもな、お前が、お前がそれを望むのなら、俺はお前の気持ちを大事にしたい。

 

 俺は近くにいて見守ってやる、いつもできるだけ近くにいてやるから。

 

 それでな、どうしようもなくなって、本当にどうしょうもなくなった時は、

 

 俺が元気になるまでずっと一緒にいてやる。」

 

「い、稲村君。」

 

「三ヶ木。」

 

「・・・・・それってストーカーだよ。」

 

「ちがう、違うから何もしないから。 あれ?」

 

ありがとう稲村君。

稲村君はいつもわたしのこと本気で心配してくれる。

いまも自分の気持ち後回しにして、わたしのことを見守ってくれるって。

 

わたし迷惑かけてばっかりだね。

ごめんね。

もし、もしね、比企谷君より先に出会えてたら、わたし、多分。

 

「あ、いっておくぞ三ヶ木、俺あきらめたわけじゃないからな。

 

 明日からもどんどん行くから。」

 

「へ? だっていま見守ってるって」

 

「それはお前のこと。 俺は三ヶ木が俺のこと好きになるようにドンドン行くんだ。」

 

「・・・・・・・おい、意味わからん。 わたしの感動返せ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”ブ~、ブ~”

ん、なんなんだれだよ、こんな時間に。

もう十一時だよ。あ~ねむ。

 

ん、ひ、比企谷君?

なんだ?

 

『中間テスト終わった週の土曜日、空いてるか?

 

 空いてたら予定入れといてくれ。』

 

は、うそ、おでかけ? やったー。

へへへ。

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までありがとうございます。

今回は、生徒会室の長い一日でした。

稲村君、あきらめていないので、まだまだ頑張ります。(予定)

次話、八幡とのお出かけ。

またしてもグダグダな展開になると思いますが、読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

朧気な光

毎度同じですが、今回も見に来ていただいて

ありがとうございます。

とても励みになってます。(感謝、感謝っす)

前回、八幡とおでかけ(デート?)にこぎつけたオリヒロ。

さてどうなるでしょう


※誤字脱字すみません。

 都度見直しいたします。



ん~、できた!

 

へへ、ポニーできた。

一度、やってみたかったんだ。

うん、キュート。

苦労した甲斐があったよ、よしっと。

 

     ・

 

ほらほら見て見て、アイシャドウ完璧だ。

ん~と、チークちょっとピンクきつすぎたかなぁ。

大丈夫だよね、いけるいける。

 

     ・

 

どうしょう、ラメ塗ろうかなぁ。

口紅だけのほうがいいかなぁ。

いつもよりちっと頑張るんだから、塗っちゃおう。

 

へへへ、プルプル、キラキラ。

もしかして比企谷君、意識してくれるかも。

そしたら、そしたら、もしかして・・・・・。

きゃ~、どうしょう。

 

えへへへ、馬鹿やってないで早く準備しちゃおうっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、できた。

メイク、この前しっかりめぐねぇに教わってきたもんね。

それとこの服どうかなぁ、似合うかなぁ。

やっぱ、あのワンピースは高くて買えなかったけど、

このジレンチとデニムのワイドも結構いいなぁと思うんだ。

ほら、比企谷君も最初はこっちのほうがいいって言ったし。

 

     ・

 

・・・・眼鏡、服に合わないかも。

う~ん、でも外すと少しぼやけるなぁ

でも、今日は特別なんだ。

よし、眼鏡なしでいこう。

三増先輩、今日はお留守番よろしくです。

 

”コト”

 

よし、完成、今日の三ヶ木美佳、完成です。

待っててね比企谷君。

 

さて、何時だ、げ、もう8時。

やば、待ち合わせまであと2時間しかない。

 

”スー”

 

あ、とうちゃん、珍しい今日休みなのに起きてた。

驚かしてやろう。

そ~と、

 

「とう 」

 

「ん? み、美緒! 美緒、美緒なのか。 美緒、会いたかったよ~。」

 

”だき”

 

「と、とうちゃん、ぐ、ぐるしい~。

 

 わたしだよ、わたし 美佳。」

 

「え、美佳? あ、美佳か。

 

 すまん、美緒かと思って、つい。」

 

「かあちゃんに似てた?」

 

「ああ、改めてみると目もととか鼻とかそっくりだな。

 

 あとは、全部俺似。」

 

「ぐ、くそ~、全部かあちゃん似だったら。

 

 ま、まあいいか。 それよりいつまで抱き着いてんだ。」

 

「もう少しだけ。」

 

「馬鹿者! さっさと離れろ。」

 

”べし”

 

「お前、ほんと親を親と思っていないな。」

 

「娘に抱き着いてる親はどうなんだ、まったく。

 

 は、そ、そうだ、あんま時間ないんだ。

 

 とうちゃん、行ってくるね。」

 

「おう、今日はデートか。

 

 しっかりたらしこんでくるんだぞ。」

 

「おい、娘になんてことを。

 

 もう、それよりちゃんと朝ご飯食べてね。

 

 野菜も残したら駄目だよ。」

 

「わかった。 あ、あのな、美佳、・・・頑張れよ。」

 

「へ、う、うん。」

 

”ガチャ”

 

「行ってきま~す。」

 

「はぁ、本当に美緒にそっくりになって来たなぁ。

 

 なぁ、美緒、美佳がデートだって。

 

 この前聞いたときは、お友達と出かけるだけって言ってたのに。

 

 今日はデート否定しなかった。

 

 もう、そんな年なんだよな。

 

 あと何年一緒にいられるんだろう。

 

 なぁ、美緒、それと美紀も、今日のデートがうまくいくように見守ってやってくれないか。

 

 俺はもう、美佳の泣いてる姿見たくないんだ。

 

 ・・・・・・はぁ、なに言ってんだか。

 

 さぁ鬼の居ぬ間に一杯やるか。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

着いた。

えっと比企谷君まだ来てないね。

 

あ~よかった。

だって映画行ったときは、二時間前集合が原則だとか、わけのわからんこと言ってたから。

 

は、まてよ、千葉駅じゃないよね、今日は海浜幕張駅でよかったよね。

違ったらどうしょう。

電話してみようかなぁ。

でもなんて聞こうか?

 

     ・

     ・

     ・

 

今日はどこに連れて行ってくれるんだろう。

へへ、楽しみ。

やっぱりディステニーかなぁ、定番だもん。

ディステニーだったら、一緒にコースター系乗りたいなぁ。

そうしたら、

 

『きゃ~、こわい!』

 

って、ぎゅ~って思いっ切り抱き着いてやるんだ。

へへへ、どんな顔するかなぁ。

ありがたく思えよ。

た・の・し・み。

早く来ないかなぁ。 ふん、ふん、ふ~ん♬~

 

     ・

     ・

     ・

 

「おっす、早いな三ヶ木。」

 

あ、き、来た。

なに早いなって、君、十分も遅刻なんですけど。 ぷんぷん!

でも、いいや、来てくれたから。

それだけでいい。

だから、

 

「もう、お・そ・い。

 

 ずっと待ってたんだからね。 えへ♡」

 

やった、やってみたかったんだ。

どうよ、比企谷君。

グッときた?

 

「お、おう? お前なんか悪いんもん食ったのか。」

 

「・・・」

 

はぁ、まぁ、わかってたけどね、この反応。

でも、どうなんだろう、服とかメイクとか。

似合ってるかなぁ。

結構頑張ったんだけど。

なんも言ってくれないね。

やっぱ、あの可愛いワンピースのほうがよかったのかなぁ。

むむ、何か言ってほしい。

 

「ね、ひき 」

 

”タッタッタッ”

 

「お兄ちゃん、お待たせ。

 

 え? お、お兄ちゃん、あのこちらの方はどなた? お知り合い?」

 

「はぁ? なに言ってんだ。 こいつ三ヶ木じゃねぇか。」

 

「はい? うそ、美佳さん。」

 

「こんにちわ。 小町ちゃん。」

 

ん、でもなんで小町ちゃんがいるの?

あれ、おっかしいなぁ。

今日二人っきりでじゃなかったの?

えっと、違ったっけ?

 

「じゃあ行くか。」

 

「お、お兄ちゃん。 ちょっとこっち来て!」

 

”ぎゅ~”

 

「いてて、お、おい耳引っ張るなって。」

 

”スタスタ”

 

「お兄ちゃん、何で美佳さんも一緒に行くって言わなかったの!」

 

「ん? ああ、三ヶ木からどこか行かないかって言われててな。

 

 それでお前と出かけからちょうどいいかと思って。

 

 え、なに、お前三ヶ木嫌いだったのか。」

 

「ばか! そんなわけないじゃん。

 

 お兄ちゃん、美佳さんにも小町が一緒って言ってなかったの?」

 

「え、ああ、別に言う必要ないだろう、小町はお兄ちゃんの自慢の妹だ。」

 

「お兄ちゃん。

 

 ねぇ、気が付いてないの。

 

 今日いつもの美佳さんと違うじゃん。」

 

「はぁ、いつもと一緒だろう? 眼鏡してないぐらい。」

 

「もう! お兄ちゃんのバカ。」

 

”スタスタ”

 

「あの、美佳さん、わたし友達と待ち合わせしてるの忘れてました。

 

 今日は兄をよろしくです。」

 

あのさ、小町ちゃん、そういうことはもう少し小さい声で話そうね。

全部聞こえてるんだけど。

 

はぁ、そういことか。

へへ、そういうことなんだ。

だよね~、わたしと二人でお出かけなんてしないよね。

 

・・・・・・・・・・・・・・そっか。

 

「ね、小町ちゃん、もし嫌でなかったら、今日わたしに付き合ってくれないかなぁ?」

 

「へぇ?」

 

「ね、今日は三人で一緒に行こう。」

 

「美佳さん、いいの?」

 

「うううん、こっちこそ、折角のご兄弟の楽しみを邪魔しちゃってごめんなさい。

 

 わたしも一緒に言っていいかなぁ。」

 

「も、もちろんです。 

 

 あんな馬鹿兄ほっといて、楽しみましょう。」

 

「うん、で、今日どこに行くの?」

 

「えっ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

と、東京わんにゃんショー、東京わんにゃんショー。

大事なことなので二回言いました。

 

はははは、わ~い入場無料だって。

こ、コースター系なんかないよね。

あはははははははは・・・・・・・・・

 

「み、美佳さん、大丈夫ですか?。」

 

「はっ、あ、大丈夫だよ。 どんなわんちゃんいるのかなぁ。」

 

「もう、お兄ちゃんのバカ!」

 

「はぁ? なんでさっきから怒られてばっかりなんだ?

 

 三ヶ木はどこでもいいて言ったんだが。」

 

「あははは、小町ちゃん、そうだよ、わたし動物好きだし、全然うれしいよ。」

 

「み、美佳さん。」

 

「さぁ、小町ちゃんはやく行こう。 

 

 あ、でも結構人いるね。

 

 ほら比企谷君、こういうところでは、離れ離れにならないように

 

 お兄ちゃんは妹の手を握って。 」

 

「お、おう。」

 

「あ、美佳さんも 手を 」

 

「あ、ペンギンさんだ。」 

 

”タッタッタッ!

 

「あ、美佳さん、はや! 

 

 ね、ねぇお兄ちゃん。

 

 美佳さんがペンギン可愛いて言っても、へんな無駄知識言わないでね。

 

 それより憶えているよね、そんな時はなんて返すか。」

 

「いや、待て 小町、あんな頭の悪そうなこと本当に言うのか?」

 

「言わないと、今日、小町口聞いてあげない。」

 

「はぁ~。」

 

     ・

 

か、可愛い。

ペンギンさんてよちよちって、ほんと可愛いなぁ。

ちょっと酔っぱらってるみたい。

足短いし、なんかとうちゃんみたい。

 

「可愛いですね、ペンギンって。」

 

「あ、小町ちゃん。 うん、かわいい。

 

 あ、でも知ってる? ペンギンってさ、ラテン語で肥満さんって意味だって。

 

 なんかそう考えるとさ、お腹の大きなメタボさんが酔っぱらってふらふら歩いて

 

 いるみたいだね。」

 

「こ、こいつらは・・・・・う~、小町、もう絶対ペンギン可愛く見えない。」

 

”すたすた”

 

「あ、比企谷君、ペンギンさんってやっぱ可愛いね。」

 

「み、み、三ヶ木、お、お、お、俺、俺の彼女のほうが可愛いけどな。」

 

「え、あ、そうだね。 ・・・・・・結衣ちゃん可愛いもんね。」

 

「へ、あ、ま、まぁ、あいつはトップカーストだからな。」

 

「うん。」

 

「え、え~、あれ、み、美佳さん?」

 

そんなこと言わなくてもわかってるよ。

結衣ちゃんのかわいさに比べたら。

わたしだって、つい抱きしめたくなるもん。

いいなぁ、俺の彼女だって。

わたしも冗談でもいいから、言ってもらいたいなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅ~”

 

「いたたた、いてって小町、なんだ。」

 

「お兄ちゃん、なんで最初に美佳さんの名前言うの。

 

 あれじゃ美佳さんに彼女を自慢してることになるじゃん。

 

 本当にお兄ちゃん、国語学年三位?」

 

「いや、まて、その前に何で俺がそんなこと言わないといけないんだ。」

 

「お兄ちゃん、もう口聞かないから。」

 

「ま、まて小町。」

 

「仕方ないなぁ、じゃあ最後の一回だけだよ。 はぁ、小町心広いなぁ

 

 小町的にポイントすごく高い。」

 

「・・・・・・」

 

「ほら、美佳さんあの白い鳥にくぎづけだよ。

 

 なんか綺麗って言ってるし。

 

 チャンスだよお兄ちゃん、いい?

 

 『お前の雪のように白い肌のほうがきれいだよ。』

 

 ってどう?どう?」

 

「いや、それさっきより頭悪くなってるぞ。

 

 わが妹ながら、頭の中がかわいすぎる。」

 

「も、もういいから。 さっさと行って。

 

 最後のチャンスだからね。」

 

「お、おう。」

 

”スタスタ”

 

「あ、比企谷君、ねぇ、この鳥、綺麗だね。

 

 わたし白色大好きなんだ。」

 

「お、おう、あの、まぁ、なんだが。」

 

「ん?」

 

「ぉま・・雪の・・・肌のほうが綺麗だ!   ふぅ。」

 

「・・・・・」

 

「え、あ、いや、今のは、」

 

「比企谷君、あのね、わかってるって。

 

 そうだよ、雪ノ下さんの肌って、ほんと透き通るように綺麗だもんね。

 

 ほんとうらやましいよ。」

 

比企谷君、雪ノ下さんのこと雪乃って呼んでるんだ。

いいなぁ。

わたしも美佳って呼んでほしい。

一度だけ呼んでもらったけどさ、あの時だけだもん。

 

でもさ、結衣ちゃんと雪ノ下さん、どっちなんだろう。

まぁ、わたしどっちにも勝てないけどさ。

 

「え、あ、そうだな。まあ、なんだ、パレオ巻きつけてたが、透き通るように白かった。」

 

「え、パレオって、プールとか言ったの?」

 

「え、あ、いや、部活でな、小学生の林間学校のサポートにいってだな。

 

 近くに川があったんだ。」

 

「林間学校? と、泊りがけとか。」

 

「まぁ、普通泊りがけだろう。」

 

「部活で行ったって、男一人に女子二人じゃん、それもとびっきりの。

 

 どこまでハーレム王なの。」

 

「ば、ばっか、葉山とか三浦とかもいたんだ、ハーレムじゃねぇ。」

 

「そ、そう。」

 

いいなぁ、お泊りか。

わたしも行きたかったなぁ。

そうやって三人でいろいろ経験してきたんだろうなぁ。

だってジャリっ娘も言ってたもん。

あの三人の関係は特別だって。

わたしなんかじゃとても割り込めない・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

「おお、鷲だ鷲。 かっこいいなぁ。」

 

わしだわしって、なんかおじいちゃんみたい。

比企谷君、鷲好きだったんだ。

あんなに必死に見てる。

子供みたい。

あんな一面もあるんだね。

 

「ばか兄ちゃん、もう行くよ。

 

 ね、美佳さん行こう。 つぎは可愛いのいっぱいだから。」

 

”ぐい”

 

え、小町ちゃん強引。

なんか、比企谷君を見る目が冷たい。

へへ、でも、小町ちゃんの手ってあったかいなぁ。

は、柔らかい。

ずっと握っていたい感触。

 

「あ、あの~美佳さん、もう着いたんですけど。」

 

「へ、あ、ごめん。 きゃ~かわいい。」

 

「でしょう、小町、うさちゃんには目がないのです。

 

 ひゃ~ん。」

 

「うん、うさちゃん可愛いね。」

 

いや、そうやってうさちゃんと触れ合ってる小町ちゃんもなかなかかわいいよ。

う~ん、比企谷君とどっちかが違う親なのかなぁ?

でも、そのアホ毛は絶対兄妹ってあかしだね。

あ、そうだ。

 

「ねぇ、小町ちゃん。」

 

「はーん、あ、はいはい美佳さん、何の御用で?」

 

「御用? あ、あのね、いつも兄弟でここに来るの?」

 

「え、ええ。 わが兄妹の年中行事なのです。」

 

「仲いいんだね。 うらやましい。」

 

「そうでもないですよ。 いっつも喧嘩ばっかしです。」

 

「へぇ~、ケンカするんだ。」

 

「ええ、最後はいつもなんか有耶無耶になってしまうんですけど。」

 

「仲のいい証拠だね。 うらやましいなぁ。」

 

「はい。」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

うわ~、やっぱり犬ゾーンって人多いなぁ。

 

犬は人気が高いね。

あ、豆柴だ、テレビに出てるやつとそっくり。

他には、プードル、チワワ、ミニュチュアダックスフンド、シー・ズー、

いっぱいいるね。

全部子犬ばっかりだからめっちゃ可愛いや。

 

ん?この犬どうしたんだろう。

えっとフレンチ・ブルドッグ?

なんか、怯えてるね。

そうか、こんなにいっぱい人がいるから、びっくりしてるんだね。

 

”なでなで”

 

ごめんね、びっくりさせて。

 

”ぱく”

 

い、痛! うううん、本気で噛んでない。

あんときの犬と一緒だ。

あの公園に捨てられてた犬。

あの犬も怯えてた。

きっと人間にいじめられたんだろうなぁ。

わたしんち、アパートだから飼ってやれなかったんだ。

どうなったんだろう、あの犬。

 

お前もびっくりしてるんだよね。

本気だったら、もっと痛いと思うもん。

ごめんね、いいよ噛んでて。

 

”なでなで”

 

ごめんね。ほんとは嫌なんでしょう。

それにもっとお母さんと一緒にいたかったよね。

 

「くぅ~ん。」

 

「は、放してくれるの。 ありがとう。」

 

”べろべろ”

は、駄目だって、顔はやめて。

メイク、時間かかったんだよ、やめて~

 

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳さん、犬も可愛かったけど、ネコもよかったですね。

 

 美佳さんはどっち派です?」

 

「あ、わたしどっちかっていうと犬派。」

 

「予想通りです。 あ、兄はどっちも好きですから。

 

 無所属です無所属。」

 

「比企谷君だもん。」

 

「はい、兄ですから。」

 

「お、おい、なんかそれはぼっちってことを揶揄してない。」

 

「「ねぇ~」」

 

「ちっ、まぁいいわ。 それゃじゃ、昼飯食って帰るか。」

 

え、も、もう帰るの。

そ、そうか、もう終わりなんだね。

終わりなんだ。

今日はありがとうね、比企谷君、小町ちゃん。

 

”ポロ”

 

へ、あ、あれ?

 

”ポロポロ”

 

な、なんでわたし。

だめ、だめだ。それは絶対ダメ。

比企谷君と小町ちゃんの前だけはだめ。

 

”クルリ”

 

「あ!そうだ、ごめん忘れてた。 今日用事あったんだ。

 

 わ、わだじ、さ、先帰るね。 

 

 比企谷君、小町ちゃん、ぎょうはとっでも楽しかったよ。

 

 ありがどう、待たね。」

 

”ダー”

 

「え、あ、美佳さん。」

 

「ん、なんだあいつ、今日は何も用事ないって言ってたのに。」

 

「・・・・・・お兄ちゃん、ちょっと話があります。

 

 ちょっと、あそこの椅子に座って。」

 

「え、あ、いや、小町ちゃん、なんかお顔が怖いんだが。」

 

「いいから、座れ!」

 

「は、はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ボロボロボロ”

 

うううううううう、なんで涙出るんだろう。

朝、小町ちゃんの顔見たとき、

理解したじゃん、

納得したじゃん、

それでいいって言い聞かせたじゃん。

 

それなのに、なに泣いてんだ、馬鹿者!

 

わかってんだよ、わかってんだ。

でも、でも涙が止まらないんだよ。

いいじゃん、二人の前では我慢したじゃん。

一生懸命、我慢したじゃん。

 

だから少しぐらい褒めてくれてもいいじゃん。

 

     ・

     ・

     ・

 

「お兄ちゃん、なんで美佳さんだけを誘ってあげなかったの。」

 

「いや、三ヶ木がどこでもいいからって。」

 

「美佳さんはどこでもよかったんだよ、お兄ちゃんと一緒に二人だけなら。」

 

「いやだけど、小町と楽しそうにしてたじゃないか。」

 

「あれは、小町のこと気にかけてくれたからじゃん。

 

 小町と話してても、ちらちらってお兄ちゃんのことばっか見てたんだから。」

 

「・・・・・・・」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんは美佳さんのことどう思ってるの。

 

 もし美佳さんのことをどうも思ってないっていうのなら、なるべく早く美佳さんに

 

 話してあげて。

 

 このままじゃ、美佳さんかわいそうだよ。」

 

「いや、ち、ちがうんだ、小町。 

 

 どうでもいいっていうわけじゃないんだ。

 

 俺はあいつの前では普通でいたいんだ。

 

 まぁ、なんだ、女子にどこか連れて行ってって言いわれれば、

 

 俺だってその意味は少しは気付く。

 

 普通、ディステニーとか連れて行くもんなんだろうな。

 

 でも俺は、三ヶ木なら、三ヶ木だからあえてここに連れてきたかったんだと思う。

 

 毎年、東京わんにゃんショーに妹と一緒に行く、これが普通の俺なんだ。

 

 なんかうまく言えねぇけど、そんな普通の俺のことを理解してほしかったんだと思う。」

 

「お兄ちゃん、それって普通じゃないよ、特別なことなんだよ。

 

 いままでさ、そんな風にお兄ちゃんが自分のこと理解してほしいって思った人

 

 いなかったじゃん。」

 

「そ、そうだが。」

 

「お兄ちゃん、言葉にも出さないで理解してもらおうなんて思ったらだめだからね。

 

 さ、早く美佳さん追いかけて。

 

 それで今のこと、そのまま小町に言ったそのままでいいから美佳さんに話してあげて。」

 

「いや、だが、あいつ用事があるって。」

 

「ボケナス、馬鹿、八幡、早く行け~、美佳さんに話せなかったら絶交だからね。」

 

「お、おう。」

 

”タッタッタッ”

 

「頑張ってお兄ちゃん、手遅れになったら一生後悔するよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、よく泣いた。

泣きすぎてお腹すいたよ。

 

ふぅ~、げ! な、なんだこの顔は。

ひど。

はぁ~、メイク落とさないとね。

 

”ゴシゴシ”

 

ふぅ~、ばかだね なに浮かれてたんだろ。

わかってたことじゃん。

わかってたはずなのに、こんな服なんか買っちゃってさ。

 

ほんとばか。

 

さってと、今日の晩御飯何にしようかなぁ。

めそめそなんかしてらんない。

 

・・・・・と、とうちゃんになんて言おう。

 

はぁ、もう何かどっかに消えたい。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガタン、ガタン”

 

『俺の彼女のほうがかわいい』

 

俺の彼女か、いいなぁ、結衣ちゃん。

うらやましい。

きっと結衣ちゃんとならディステニーとか行くんだろうなぁ。

は、だめだ何も考えたくなかったのに。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹減った。 ららぽよって何か食べよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、どこ行ったんだ?

 

 参ったな、どこにもいねぇ。

 

 もう幕張メッセを出ちゃまったんじゃないのか?

 

 このまま戻ったら小町こぇ~し。

 

 やっぱり電話するか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~、何食べよ。

馬鹿だね、もう少し我慢していれば、比企谷君とご飯食べられたのにね。

でも、なんだろう。

なんか、なんか変なんだよ。

なんか気が抜けたというか、心にぽっかりと穴が開いたっていうか、

そんなことより、自分のことがめっちゃ嫌いで。

 

はぁ、お腹空いてるからかなぁ。

あ、そうだ、あのお店のオムライス食べたかったんだぁ。

今日行ってみよう。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、あ、電話?

なんだよ、今誰とも話したくないんだよ。

 

”ブ~、ブ~”

 

しっつこいなぁ。

 

「はい、もしもし。」

 

「美佳先輩、今日会えませんか?」

 

え、あ、刈宿君。

今日は、まだ電話してなかったね。

ほんと毎日よくかけてくるね。

こんなわたしなんかと話して楽しいのかなぁ。

 

「よかったら一緒にご飯食べませんか?」

 

「・・・・・あ、あのさ。」

 

「何かあったんですか。」

 

「う、うううん、何でもない。」

 

「俺、美佳先輩になんかあったんなら、地球の裏側からでもすぐ行きますよ。」

 

刈宿君までそんなこと言うんだ。

そんなことできるわけないじゃん

みんなうそつきだ。

みんなしていいことばっか言って、そんなにわたしを馬鹿にして面白いの。

 

「うっさいわね! それなら、すぐ来てみてよ。

 

 み、みんなして期待だけさせといて、できもしないこといわないで!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

は、わたしなにいってんだろう。

刈宿わたしのこと心配してくれてただけなのに。

それなのに、それなのにわたし刈宿君になんてことを。

・・・・・最低だ、ほんとわたしって最低。

 

「ご、ごめんなさい、わたしどうかしてた、最低だ。

 

 ね、ねぇ、刈宿君?」

 

「・・・」

 

「ごめん、怒ったよね。 あったりまえだ。

 

 だめだ、わたし。」

 

「・・・」

 

「刈宿君、ごめん。 ね、ねぇ、刈宿君?」

 

「お待たせしました!」

 

「え、え~、な、何でここにいんのよ。」

 

「言ったでしょ、美佳先輩のためなら地球の裏側からでもすぐに来るって。

 

 でもやっぱり地球の裏側だとすぐには無理っすけど。

 

 あ、やっぱり今日ポニーじゃないですか。

 

 美佳先輩はめっちゃ似合ってるっす。

 

 あ、そうだ。」

 

”ごそごそ”

 

え、なに似合ってる?

えへへへ、頑張ったんだもん。

くせ付けるの大変だったんだよ。

でも、褒めてくれてうれしい。

ん、待てよ。

こんなにすぐ来たってことは。

 

「あー、刈宿君、どっか近くにいたのね。

 

 ひど、それならそう言ってよ。

 

 マジでびっくりしたんだから。」

 

「はは、ごめんなさい。

 

 そこの喫茶店に。

 

 でもコーヒー、一口しか飲んでこなかったんすよ。」

 

「え、あ、ごめん。」

 

「いいです。 その代わり、美佳先輩、1+1は?」

 

「ば、馬鹿にしてんの。 1+1は2!」

 

”カシャ”

 

え、な、あ~ ばっか、いまメイクしてないのに。

だめだよこんな顔見せられないよ。

・・・・あ、いま見せてんだ。

 

「刈宿君、だめ。 いま、すっぴんなの、写真消して。」

 

「美佳先輩はすっぴんですよ。だから大丈夫です。」

 

「はぁ? 意味わかんないんだけど。」

 

「そういう意味ですよ~

 

 だめっす、俺の宝物ですから消さないです。」

 

「ひど! もう、絶対に他の人には見せないでよね。」

 

「あったりまえじゃないですか、これ以上ライバル増やしたくないですよ。」

 

「もう。」

 

「よかった。美佳先輩笑ってくれた。」

 

え、わたし、笑ってる?

そっか、いまわたし、笑ってんだ。

ありがとう刈宿君。

ごめんね、わたし年上なのに甘えちゃって。

 

「ね、美佳先輩、よかったら買い物付き合ってくれませんか?」

 

「ん、買い物? 何買うの?」

 

「ラケット見に来たんです。

 

 ほら、もうすぐ、県予選なんですけど、予備のラケットほしいなぁって。

 

 美佳先輩、一緒に選んでくれませんか?」

 

「わたし、テニスのことあんまりよくわからないよ。」

 

「いいんです。さ、行きますよ。」

 

”ぐ~”

 

「え、あ、う、うう、だ、だってお昼まだなんだもん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「小町、三ヶ木どこにもいねぇんだ、もう帰ったんじゃねかな。

 

 電話繋がんねぇし、今日はもう帰ろう。」

 

「う、うん。 わかった。 

 

 あ、でも最後にもう一回だけかけてみて。

 

 それでもかからなかったら、仕方ないよね。」

 

「わかった、かけてみる。

 

 で、お前いまどこにいるんだ?」

 

「あ、いまネコちゃんのゾーン出たとこだよ。」

 

「おう、わかった。」

 

「じゃあね、お兄ちゃん。」

 

「さて、もう一回だけかけてみるか。」

 

「あ、ヒッキー! やっはろー」

 

「え、あ、由比ヶ浜。」

 

「ヒッキーなにしてんの?」

 

「何してるって、東京わんにゃんショーを見に来た以外にここにいる理由あるか?

 

 お前こそどうしたんだ。」

 

「うん? あ、あたしもゆきのんと待ち合わせしてんの。

 

 だけど、ゆきのん、どうしたんだろう、待ち合わせ時間遅れたことないのに。」

 

「今度は雪ノ下か。」

 

「え、今度って?」

 

「いや、何でもない。

 

 あ、おい、ほらあれあのキョロキョロしてるの雪ノ下じゃねのか。」

 

「あ、そうだ、お~いゆきのん。

 

 ほら、ヒッキーいくよ。」

 

”ぐい”

 

「お、おい、お前あたってるんだが、そのなにが腕に。」 

 

「へ? あ、ヒッキーのスケべ。」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

「うひゃ~、美味しかった。

 

 ここのオムライス、前から食べたかったんだよ。」

 

「美佳先輩、本当に美味しそうに食べるんすね。」

 

「チチチ、違うよ刈宿君。 

 

 美味しそうじゃなくてほんとに美味しいんだよ。」

 

「そ、そうすか。」

 

「さて、お腹いっぱいになったし、帰ろっか。」

 

「あの、美佳先輩、それマジっすか。」

 

「あ、いや、じょ、冗談だよ~、さ、行こう。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

へぇ、ラケットっていっぱいあるんだね。

どこが違うんだろう。

色とか違うのはわかるんだけど。

えっと、うわ、重いんだ。

こんなの振り回すんだね。

 

「えい!」

 

「美佳先輩、危ないっす。」

 

「あ、ご、ごめん。 ねぇ、刈宿君、ラケットってどうやって選ぶの?」

 

「そうすね、みんないろいろだと思うけど、俺の場合、重さとほらここの大きさ。」

 

「え、あ、大きさ違うんだ。

 

 でも大きいほうがボールに当たりやすくて有利じゃないの?」

 

「俺の場合はこの小さめの奴ですね。

 

 こっちのほうがボールをコントロールしやすいんです。」

 

「へぇ~、刈宿君すごい。」

 

「え、そ、そうすか。」

 

「あ、わたしこっちの可愛いのがいい。」

 

「美佳先輩、マジ? それバドミントンのラケットっす。」

 

「へ、し、知ってたもん。 前見たことあるもん。」

 

くそ、あんときもうちょっとよく見ておけばよかった。

そ、そうだ、あんときこんなの振ってた。

ついシャトルの値段ばっかり気になったから。

 

「・・・あ、そうだ。 美佳先輩、入部のお祝いまだもらってないっす。」

 

「げ、覚えてたの。 いいからもう忘れなさい。」

 

「ひど、ひどいっす。」

 

「わかったわよ、もう、そんなことで泣かない。

 

 で、なにがいいの?」

 

「じゃあ、このラケットを。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ!」

 

「馬鹿者、一桁多いわ!」

 

「じょ、冗談ですよ。 

 

 もう決めてます。」

 

「え、なに。安いのね、安いの。」

 

「めっちゃ高価なものです。」

 

「無理無理無理無理・・・・・・・・・・高価なもの=高いもの、絶対無理!」

 

「どんだけ無理なんすか!

 

 俺がお願いしたもの、それは

 

 美佳先輩、今度の俺の試合、応援に来てください。」

 

「へ? そ、そんなことでいいの?」

 

「俺にとって一番のお願いです。

 

 高校に入って最初の試合、俺、美佳先輩に見てもらいたいっす。

 

 お願いします。」

 

「了解、任せといて、絶対応援に行くね。」

 

「やった! 俺、めっちゃ頑張るっす。」

 

「大げさだよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「さて、そろそろ帰るね。 晩御飯の準備しないと。

 

 ありがとう、刈宿君。」

 

「美佳先輩、駅まで送りますよ。」

 

「うん。」

 

”スタスタ”

 

「・・・今日、なんかあったんすか。

 

 あんな美佳先輩初めてだから、俺すっごく心配だったっす。」

 

「え、あ、何でもない、もう何でもないの。

  

 ちょっとお腹空いてたから機嫌悪かっただけ。」

 

「・・・・美佳先輩、今日の服、めっちゃ似合ってますね。

 

 ポニーもめっちゃ可愛いっす。」

 

「え、な、なに言ってのバカ。」

 

「それなのに、そんだけ気合入ってるのに、化粧してなかったっすね。

 

 学校の時ですら、ちょ~控え目ですけど化粧してるのに。

 

 それって、化粧を落とさなければならないことあったんでしょう。」

 

「・・・・化粧って、刈宿君いつもそんなとこまで観てるの?」

 

「ええ、美佳先輩検定あったら、絶対満点合格ですよ。」

 

「うそだ、じゃあさ、わたしの誕生日知ってる?」

 

「楽勝っす。 3月20日!」

 

「わたしの好きな色は?」

 

「白!」

 

な、何で知ってるの?

わたし刈宿君のことそこまで知らないのに。

えっと、やさしいとか、頑張り屋とか、結構筋肉あるとか。

あ、そうだ家がでっかいの。

・・・・お母さん怖かった。

あ、そ、そんなことより。

 

「じゃ、じゃあ、血液型は?」

 

「血液型・・・・」

 

「知らないでしょ、たいしたことないな~」

 

「し、知ってますよ、大雑把な性格だからO型です絶対。」

 

「ひど! わたしそんなに大雑把じゃないよ。

 

 もう、外れ。 わたしは芸術家肌のAB型でした。」

 

「うそ。」

 

「いや、嘘言ってどうすんの。」

 

「だって、俺もAB型っす。」

 

「え、ほんと。」 

 

「早速、美佳さんレポートに記録するっす。」

 

”がさがさ”

 

え、なに、なんか美佳さんレポートっていった?

何か探してるね。

え、日記?

 

「な、なに、美佳さんレポートって。

 

 なんか嫌な予感がするんだけど。

 

 わたしのスリーサイズとか書いてないよね。」

 

「俺が、美佳先輩と出会ってからのこと書き記してるんです。

 

 ほら、これ、この写真見てください。」

 

「あ、これあの時のスリッパじゃん。」

 

「へへへ、大事に部屋に飾ってあるんですよ。」

 

「持って帰っちゃたの?

 

 駄目だって、あれ学校の備品だよ。」

 

「だって、俺と美佳先輩にできた初めてのつながり、俺の宝物っす。」

 

「で、でもさ。」

 

「おれ、ほんとは高校なんてどこでもよくて、総武高もばあちゃんに受けろって

 

 言われたから受けたんだけど。

 

 でも、あの時から、美佳先輩に会ってから絶対受かりたくて、

 

 受かったときはほんとにうれしかったっす。

 

 合格発表の帰りに美佳先輩に会えたし。

 

 だから、そんな思い出を書き記したこの美佳さんレポートは、俺のとっても

 

 大事な宝箱っす。」

 

あ、ありがとう、刈宿君。

うれしいよ。

そうだね、刈宿君と出会ってからいろいろあったね。

でも、写真とかいつの間に撮ってたの。

はは、懐かしいや。

でも、でもさ、美佳さんレポートってネーミングはどうかなぁ。

 

はっ、顔近!めっちゃ近い。

ふ~ん、結構いい男なんだよね、刈宿君。

え、な、なに言ってんのわたし。

 

「さ、さぁ、もう帰ろっか。 あっ!」

 

「危ないっす。」

 

”ぐき”

 

「あいた! いたたた。」

 

「大丈夫っすか。」

 

「ごめん、ちょっと捻ったみたい。」

 

「あ、無理したらだめですって。 はい。」

 

え、な、なにおんぶ?

いやだよ、恥ずかしいよ

こんなに人のいる中で。

そりゃスカートじゃないけどさ。

 

「いいですから、どうぞ。」

 

「え、いえ、その、だってぇ。」

 

「ほら、無理したらもっとひどくなりますよ。」

 

「・・・はい。」

 

うんしょっと。

へぇ~、結構背中広いんだね。

それにやっぱ筋肉質。

やっぱ刈宿君も男子だね。

 

「さて、帰りましょうか。」

 

「うん、ごめんね。」

 

”スタスタ”

 

「あ、あの、美佳先輩、美佳先輩ってわりと 」 

 

”ベシ”

 

「それ以上言うな! 重くないからね、50kgちょっとしかないんだから 。」

 

「いってぇ~、違いますよ。 軽いっす、その~羽毛みたいに軽いっす。」

 

「じゃ、じゃあなによ。」

 

「わりと、大きいっすね。」

 

「き、貴様、やっぱそれが狙いだったか! 」

 

”ベシ、ベシ”

 

「ぐはぁ、ち、違いますよ。 違うけど・・・・・」

 

「もういい、降ろしなさい。」

 

「美佳先輩、前もこっちの足、捻挫してたでしょう。

 

 ちゃんと医者いったんすか?

 

「うううん。」

 

「だめじゃないですか! まったく何してんすか!

 

 捻挫ってくせになるんですからちゃんと医者行かないと。」

 

「はい、ごめんなさい。」

 

「今日は、安静にしていてくださいね。

 

 明日、俺が行ってたお医者さんに連れて行ってあげます。」

 

「え~、でも日曜だよ。」

 

「そこは日曜大丈夫っす。 迎えに行きますからね。」

 

「うん。」

 

ううう、怒られてしまった。

なによ、年下のくせして。

ま、まぁ、心配してくれてんだろうけど、な・ま・い・き。

よ、よし、仕返しだ。

 

”ぐい、ぐい”

 

「え、あ、だ、駄目ですよ美佳先輩、な、なに押し付けてるんすか」

 

「お仕置き。」

 

「ダメですって、歩けないっす。」

 

へへへ、刈宿君、ありがと。

少しだけお礼だよ。

ほれ

 

”ぐい、ぐい”

 

「だめですって!」




今回も最後までありがとうございます。

またしても12000字超えと長くなってしまいすみません。

最近、オリキャラが好きになってしまい、元々の話とルートが・・・

次回もまだまだグダグダ続きますが、読んでいただけたらありがたいです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3秒だけ

ありがとうございます。

今回、まずすみません。

セリフばっかです。

めっちゃくちゃ読みにくいと思います。

我慢していただけたら幸いです。

よろしくお願いします。


はぁ~、なんて馬鹿なことしたんだろう。

何考えてるのわたし。

 

うううう、穴があったら入りたいってこういうことなんだ。

バカバカバカ。

 

でもさ。

ほんと、うれしかったんだ。

だってわたしとの思い出、あんなに大事にしてくれて。

そんなこと、そんなことされたらわたし、・・・・・・・・・もう弟って言い訳できないじゃん。

 

はぁ~、でも明日、どんな顔して会えばいいんだ。

ぐ、あかん、ね、眠れん。

と、とにかくカレンダーに17日の予定書いておこう。

 

”キュッ、キュッ”

 

初試合だよっと。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「お~い、美佳、まだ寝てるのか?」

 

う~ん、今何時? 

 

はぁ! 8時じゃん。 さっき寝たばっかりなのに。

 

やばいやばい、朝ごはん作らなきゃ。

それと顔洗って、歯磨いて、髪の毛梳いてって・・・・・

うわ~ん、やばいよ、刈宿君来ちゃうじゃん。

 

     ・

     ・

     ・

 

「と、とうちゃん、はやく朝ごはん食べちゃってよ!

 

 食べたら食器つけておいてね。

 

 わ、わたし洗濯物、干してくるからね。」

 

「お、おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ピンポ~ン。」

 

「ん、誰だ?」

 

”ガチャ”

 

「あ、おはようございまっす、お父さん。」

 

”バタン”

 

「ちょ、ちょっと何で閉めるんっすか!」

 

「お前、マリーンズフアンになったんだろうな?」

 

「俺は生涯ライオンズフアンっす。 たとえお父さんに何といわれても変わらないっす!」

 

「帰れ!」

 

”べし”

 

「いったぁ~」

 

「何やってんだ、この馬鹿親父。 

 

 ごめん、今開けるね。」

 

”ガチャ”

 

「あ、おはようっす、美佳先輩。 あっ!」

 

「うん、おはよう。

 

 あ、あの~、ちょっと上がって待ってて。

 

 すぐ準備してくるから。」

 

「あの~、ピンクのパジャマ可愛いっす。

 

 写真いいっすか。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、」

 

「まったく、この男どもは! ちょっとそこでおとなしく待ってろ。」

 

「うぇ~い。」

 

「はは、怒られてやんの。」

 

”ベシ、ベシ”

 

「いたぁ、 おい、親に対して。」

 

「もとはといえば、とうちゃんが悪いんじゃん、もう!」

 

”バタバタ”

 

「おう、昨日はありがとうな。」

 

「あ、い、いえすみません。

 

 美佳先輩にケガさせちゃって。」

 

「ああ、聞いた。

 

 あいつが勝手にこけたんだろう、馬鹿が眼鏡忘れていくから。

 

 それよりも、ただいまって帰ってきた時のあんなうれしそうな顔、久しぶりに見た。

 

 朝、デートに行くって聞いたときは心配だったんだ。

 

 ほら、あいつあんなんだから。

 

 でも帰ってきたときの顔を見たら、昨日は楽しかったんだなぁってな。

 

 本当にありがとうな。」

 

「えっ、デート?」

 

「えっ、違ったのか?」

 

「あ、いえ、なんでも。 俺も楽しかったっす。」

 

「そ、そうか。

 

 あんな子だが根はいい子なんだ。

 

 これからも大事にしてやってくれないか。」

 

「え、は、はい、お父さん。

 

 絶対大事にします、任せてください。」

 

「えっと、それはまだ早いんだが。 

 

 まぁ、頼む。」

 

「うっす。」

 

”ガシ”

 

「お待たせって、え、なに握手してんの?」

 

「え、あ、いや、なんでもない。 なぁ」

 

「あ、はい。 なんでもないっす。」

 

「変なの。」 

 

「あ、それより美佳先輩、行きますよ。」

 

「う、うん。 とうちゃん、ごめんね、ちょっと病院行ってくる。」

 

「おう、今度はお金なんて気にせず、しっかり診てもらえよ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「あはは、先生にめっちゃ怒られた。」

 

「当たり前です、捻挫を甘く見たらだめです。

 

 でも重度でなくてよかったっすね。

 

 これにこりたら、ちゃんと医者行かないとダメっすよ。」

 

「ほほう、狩也いいこというじゃないか、散々嫌がってたお前が。

 

 どれ、お前も診てやるからちょっとこい。」

 

「え、あ、先生、いいっす、大丈夫っす。」

 

「ほら、さっさとこい。」

 

「は、は~い。」

 

「へへ、行ってらっしゃい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

痛みは無いし、運動はだめって言われたけど、歩くのは大丈夫だよね。

ちょっと飲み物買ってこようっと。

 

うんしょっと。

 

え~と、どこかに自販機ないかなぁ。

 

     ・

 

「あ、美佳先輩じゃないですか?

 

 どうしたんですか?」

 

「え、あ、会長。

 

 あ、えへへ、ちょっとしくじっちゃって。」

 

「え、しくじったって、は、産婦人科。

 

 うそ。

 

 み、美佳先輩、何やってんですか。

 

 あ、そういえば昨日、ららぽで親密に。

 

 もう、なにやってんですか!

 

 美佳先輩がそんなふしだらだとは思いませんでした。」

 

え、ららぽ? ふしだら?

あ、もしかして、昨日のあれ見られてたの。

だ、だってあれは・・・

 

「あの~、ちょ、ちょっとした気の迷いです。」

 

「気の迷いでってどうすんですか!

 

 で、で、何カ月なんですか?」

 

「あ、う~んとたしか一カ月ぐらいって。

 

 絶対安静にしなさいって。」

 

「ま、マジなんですね、本当にマジなんですね。」

 

「うん、走ったりしたら駄目だって。」

 

「当たり前じゃないですか。

 

 もっと体を大事にしてください。」

 

「え、あ、ありがとう。」

 

「で、相手はあの一年の男子ですか?」

 

「いや、自分でしたことだから、彼は関係ない。」

 

「馬鹿ですか、自分一人で背負いきれるものじゃないでしょうが。

 

 あの子はしらないんですか?

 

 どうやって暮らしていくんですか?

 

 学校はどうするんですか?」

 

「あ、そんな心配ないって。

 

 彼も知ってることだし、それに家事とかも普通にできるし、学校も普段通り通える。

 

 まぁ、体育はしばらく見学だけど。」

 

「た、体育なんて絶対に駄目ですよ。

 

 心配ないって今のうちはそうですけど、大きくなって目立ってきたらどうするんですか!」

 

「う~ん、ちゃんと包帯とかして圧迫しておけば大丈夫だって。」

 

「だ、駄目ですよ。 そんな圧迫なんてしたら駄目。」

 

「え、でも、せん 」

 

”だき”

 

「え、か、会長?」

 

「美佳先輩は馬鹿です、大バカ者です。

 

 やっと美佳先輩のこと少しづつわかってきて、これからもっともっと仲良くなれる

 

 と思ったのに。

 

 これじゃ、生徒会だって、うううん、学校だってやめないといけなくなるかも

 

 しれないじゃないですか。

 

 美佳先輩のバカ! うううう。」

 

「え、会長、わたしのことそこまで思って。

 

 でも大げさだって、ちょっと捻挫しただけなんだから。

 

 捻挫で生徒会や学校やめるとかないって。」

 

「へ、捻挫?」

 

「うん、ちょっとしくじっちゃって、また捻挫しちゃった。

 

 さっき、めっちゃ先生に怒られ 」

 

「こ、この大馬鹿!

 

 も、もう、知らないです。 ば、ばか!」

 

へ、な、なんで怒られてるのわたし?

え、何? 後ろ? 後ろ見ろって?

後ろってなに。

 

「はぁ! 産婦人科?

 

 ち、違うから、そんなの絶対ないから。

 

 わたしまだしょ、いやぁ、なに言わせるの会長。」

 

「美佳先輩、本当に心配したんですよ。

 

 まったく人騒がせな。

 

 あ、さっきのあれ、ぜ~んぶ嘘ですからね、びっくりしただけですから。」

 

「あ、美佳先輩ここにいたんすか。 

 

 お待たせっす。 あっ会長さん、ちわっす。」

 

「え、あ、こんにちは。

 

 美佳先輩、わたし友達のお見舞いでしたので失礼しますね。

 

 お邪魔するのもなんですし。」

 

”すたすた”

 

「あ、そうだ。」

 

”くるり”

 

「美佳先輩、絶対避妊してくださいね。」

 

「ば、ばっか、なんてことを。

 

 ち、違うから、そんなんじゃないから。」

 

「いいですって。稲村先輩には黙ってますから。

 

 ではではです。えへ♡」

 

げ、あの笑顔、何か企んでる時の笑顔だ。

うへ、明日学校いきたくな~い。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

朝ご飯、食べれなかったからお腹すいたなぁ~

早く何か食べたいなぁ。

何で病院っていつも会計遅いんだろう。

まぁ、今日はほかに用事ないからいいけどさ。

 

「遅いね、会計終わるの。」

 

「え、まぁ、いつもこんなもんでしょう。」

 

”ブ~,ブ~”

 

あ、比企谷君。

 

「もしもし、三ヶ木だぞ。」

 

「お、おう? お前そんなんだったけ?」

 

「ふふ~ん、比企谷君、女子がいつまでも同じと思うなよ。」

 

”そ~”

 

「刈宿君、どこ行くの。」

 

「え、あ、ほら電話だから。・・・・あいつと。」

 

”ぎゅ”

 

「へ、美佳先輩、手。」

 

「いいからここにいて。」

 

「あ、は、はい。」

 

「あ、ごめん。 で、なにか用?」

 

「ああ、ほらもうすぐ由比ヶ浜の誕生日だろ。

 

 雪ノ下と誕生会やろうってことになってな。

 

 まだ由比ヶ浜には内緒だが。

 

 それで、三ヶ木、6月17日は予定開いてるか?」

 

「え、結衣ちゃんの誕生日は18日じゃ?」

 

「ああ、18日は俺も雪ノ下もちょっと用事があるんでな。

 

 それで前日の土曜日と思ってるんだが。」

 

「あ、そう。」

 

「で、どうだ、空いてるか?」

 

「あ、ごめん、17日は大事な予定があるから。」

 

「そ、そうか。」

 

「うん、ごめんね。 結衣ちゃんにはまた別の日に何かするよ。」

 

「おう、あ、それと昨日は 」

 

”ガチャ”

 

「ふぅ~、あ、ごめんね、なんか結衣ちゃんの誕生会するって。」

 

「美佳先輩、行かなくていいんですか?」

 

「え、だってその日はとても大事な日なんでしょう。」

 

「う、うっす。  そ、そのありがとうございます。」

 

”ぐぅ~”

 

「は、刈宿くんお腹すいたのかなぁ~」

 

「いや、いまの美佳せんぱ 」

 

「刈宿君だよね!」

 

「う、うっす。 俺っす、ごめんなさい。」

 

「よ、よろしい。

 

 ね、病院終わったら何か食べに行こ。 ほらもうお昼だし。」

 

「そうすね。あ、近くにおいしいサイゼあるんですよ。」

 

「サイゼならどこでもいっしょじゃん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「それじゃ、俺帰ります。

 

 あ、帰りの自転車、気を付けてくださいね。」

 

”ぎゅ”

 

「え、あ、あの~美佳先輩、シャツ。」

 

「・・・・・あ、あのさ、刈宿君。 今日今から何か用事あるの?」

 

「今から無二の親友とテニスの練習っす。

 

 美佳先輩の前で無様な試合できないっすから。」

 

「あ、あのさ、わたしも行っていい?

 

 あ、邪魔だったらいいよ。」

 

「邪魔なんてないっす。

 

 ただ、練習してる時、美佳先輩は見てるだけだからつまんないかも。」

 

「わたしね、部活ってやったことないんだ。

 

 スポーツ苦手だし。

 

 刈宿君とか戸塚君とか見てると、なんかすごいなぁって。

 

 邪魔しないようにするからいい?」

 

「うっす。 あったりまえじゃないですか。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”バシ”

 

”ドン”

 

”バシ”

 

へ~、やっぱすごいな。

あの壁に書かれた〇とか△とか×のとこに順番に返してる。

なんかテニスって面白そうだね。

わたしも少しやってみようかなぁ

 

あ、そうだ、昨日買ってきた本、そのままリュックにいれたまま。

 

”ガサガサ”

 

あ、あった。

ふむふむ、へぇ~ラケットの持ち方にもいろいろあるんだね~。

どれがいいんだ?

 

え、サーブって200Km超えるの?

野球のピッチャーよりはやいじゃん。

 

へぇ~

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふう~、今日はこれぐらいにしておこうかなぁ。

 

 あ、美佳先輩、まだいたんだ。

 

 美佳先輩、そろそろ帰り・・・・・ん?」

 

”すやすや”

 

「あ、寝てる、どうりで静かだと思った。

 

 へへ、チャンス!」

 

”カシャ”

 

「へへ、寝顔ゲットっす。

 

 待ち受けにしようかなぁ、あ、でもみつかったら怒られる。

 

 ん、何読んでたんだろう?」

 

”そ~”

 

「どれどれ、え、”小学生でもよくわかるテニス入門”?

 

 いつの間にこんなの買ってたんだ。

 

 へへ、美佳先輩、これ読んでたんだ。」

 

「ん、う~ん。」

 

「は、やば! かわいいなぁ。

 

 えっと、もうちょっと近くで。」

 

「ん、ん~、もう食べらんないよ。」

 

「は、どんな夢みてんっすか? さっき食べたばっかりでしょ。

 

 美佳先輩、夢の中まで食いしん坊っすね。」

 

「もうだめだって・・・・・・・・・・企谷君。」

 

「えっ」

 

「う~ん。」

 

「・・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぅ~、美佳先輩、ほら風邪ひきますよ。」

 

”ばさ”

 

「さてと、もう少し付き合ってくれる? 壁君。」

 

”バン”

 

「くっそ! 負けないっす。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

たはは、昨日、最後のほう寝ちゃったよ

 

刈宿君あきれてたね、『どこでも寝ちゃダメっす、不用心ですよ!』って。

 

だって、だってさ、小学生でもって書いてあるのに字が多すぎだよあの本。

 

「ジミ子先輩。」

 

「お、おい、いい加減、その呼び方やめろ。」

 

「え、だっていいじゃ無いですか~

 

 あ、それにこの呼び名、備品先輩が呼んでたんですよ。」

 

「だから何?」

 

「だから、備品先輩が呼んでたんだからいいじゃないですか?」

 

「・・・・・まったく。 で、何のよう?」

 

「あ、そうだった。 ジミ子先輩、今週どっか空いてませんか?」

 

「え? まぁ、普通に生徒会だけど。 ちょっと気になることもあるし。」

 

「ふ~ん、あの、部活紹介ですけど、手伝ってくれますよね~

 

 この前、学校まで送ってあげたし。」

 

「ぐ、で、でもいい加減、瀬谷君たちに手伝ってもらいなって。」

 

「え~新聞部の男子、ちょっとキモいんですよ。

 

 なんか私のこと変な目で見てるし。 

 

 部室も狭いし、身の危険感じてるんですよ。

 

 ジミ子先輩、駄目なんですか? うるうる。」

 

「いや、うるうるって口で言うな。

 

 わかった。 で、どこの部活にアポ取ればいいの?」

 

「あ、手伝ってくれるんですか?

 

 えっとサッカー部でお願いします。」

 

「そ、そう、サッカー部ね。」

 

「部長さんって、葉山先輩じゃないですか。 めっちゃかっこいいし。」

 

「あ、そ、そう。 でも舞ちゃん、刈宿君は?」

 

「だって、いくら電話してもすぐ切られちゃうし、頑張って誘っても全然のって

 

 くれないんですよ。

 

 それに、わたしやっぱり年上がいいかなぁ~て。」

 

「はいはい。 じゃあ、アポ取れたら連絡するね。」

 

「はい、お願いします。」

 

ふぅ、なんだかんだ言って頑張ってるのね。

しゃ~ない、もう少し手伝ってあげるか。

あ、でも、あれどうなってんだろう?

 

”スタスタ”

 

「それに、刈宿君の待ち受け、ジミ子先輩じゃないですか。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「あ、みんなお疲れ様で~す。」

 

「お疲れさま。」

 

「おう。」

 

「三ヶ木先輩、ご苦労様です。」

 

「美佳先輩、遅いですよ~

 

 どこで油売ってたんです? 

 

 まぁ、いいですけど~、うふ。」

 

お、おい、そのうふってなんだよ、うふって。

 

「あ、あの会長、違うから。

 

 いま蒔田さんと部活紹介の件で話ししてただけだから。」

 

「そうしておきましょうね。」

 

「そ、そんなことより会長、あの、学校のほうからボランティアの話って来てませんか?」

 

「え、ボランティア?」

 

「はい、毎年6月の第3日曜日に地元の商店街の祭りがあって、

 

 学校としても協力するってことで、生徒会が模擬店出してたんです。 」

 

「え、な、なんですかそれ?

 

 全くそんなお話聞いてませんけど。」

 

「おっかっしいなぁ。 それでその売り上げを福祉団体に寄付してるんですけど。」

 

「う~ん、副会長、みんな聞いてません?」

 

「いや、なにも。 稲村は?」

 

「俺も何も聞いてない。」 

 

「三ヶ木先輩、そのお祭りって今年もあるんですか?」

 

「うん、学校来るとき、ポスター貼ってあったから、今年もお祭りやるはずなんだけど。」

 

「う~ん、あ、美佳先輩、去年なんかやらかしたんじゃないですか~

 

 それで、もう生徒会は出入り禁止とか。」

 

「え、いや、なんもしてないよ。 また来年もお願いしますって言われたし。」

 

「う~ん、おかしいですね。」

 

「あ、わたしちょっと商店街の人に聞いて来てみます。」

 

「あ、じゃあおれも一緒に 」

 

「美佳先輩、なにしてるんですか、行きますよ。

 

 みんなはここで待機お願いします。」

 

「「えっ」」

 

「ほら行きますよ。」

 

「あ、はいはい。」

 

”がらがら”

 

「ほらほら、美佳先輩急いで。」

 

いや、わたしほら足が

だから、手、引っ張らないで

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「じゃあ今年もよろしくお願いします。」

 

「ええ、こちらこそクレープ屋さんお願いします。」

 

「はい、任せてください。 それではです。」

 

     ・

 

「おかしいですね。」

 

「うん、おかしいね、先生伝え忘れてるのかなぁ。

 

 でも男の先生に話したってことだけで、誰かわからないし。」

 

「うん、まぁ兎に角、商店街の人から今年も参加してほしいって言われたんだし準備しましょう。

 

 美佳先輩、去年の資料とかありますか?」

 

「えっと、クレープ焼き機のほうは毎年レンタルしていて、去年もお返しする

 

 ときに今年もお願いしてるので大丈夫だと思いますけど、

 

 一応確認しておきますね。

 

 あと材料の準備と飾りつけ、それと作り方の練習。」

 

「う~ん、そうですね、多分、男子はあてにならないと思うし。

 

 じゃあ、男子には飾りつけと売り子やってもらいましようか。」

 

「あ、でも、売り子さんは女子でやったほうがいいかも。

 

 去年もめぐ、城廻先輩にかわったら売り上げ倍増でしたもん。」

 

「そ、そうなんですか。

 

 それなら男子にも作り方、練習してもらいましよう。

 

 そうだ、美佳先輩、明日からしばらく調理室を押さえてくださいね。」

 

「は、はい。」

 

げ、また調理室掃除するのか。

うへ~

 

「で、それはそうとしてですけど。」

 

”ドン”

 

ぐはぁ、な、なに?

 

「美佳先輩! 昨日はどこまでいったんですか?」

 

げ、なにその悪魔的な笑顔は。

 

”ぐい、ぐい”

 

「ほれ、ほれ白状しちゃいなさい。」

 

や、その肘で突っつくやめて、まじ、痛いから

 

「な、何もないですって。

 

 刈宿君がテニスの練習してるの見てただけだから。」

 

「ほほう、愛しい人がスポーツに打ち込んでる姿にうっとりしてたんですね。」

 

「え、い、いや違うから。 うっとりなんかしてないから。」

 

「じゃあ、どうしてたんですか?」

 

「あの~、居眠りしてました。」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「はい、広川先生の了解いただきました。

 

 それとなんか使えそうな材料あるそうで、勝手に使っていいよって。」

 

 そ、そのかわり土曜日掃除なんだけど。

 折角の休みが、とほほほ。

 

「了解です。

 

 副会長、稲村先輩、聞いてました?」

 

「う、はい。」

 

「やっぱやるの」

 

「でも、いくら安いからってそこちょっと遠くないですか?

 

 足で大丈夫ですか?」

 

「あ、稲村君に自転車借りたし大丈夫です。

 

 ここは結構いい食材そろってるんです。

 

 それに、配送もしてくれるので明日学校に届けてもらいますね。

 

 手配終わったらすぐ戻りますね。」

 

「了解です。 車には気を付けてくださいね。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

えーとあとはチョコホイップだけっと。

あ、あった。

 

「・・・かしら。」

 

「お、おう、そうじゃないか。」

 

え、あれって比企谷君と雪ノ下さん?

二人で買い物?

結衣ちゃんいないね。

あ、誕生日のもの?

でもここに売ってるの食材だし???

あ、もういっちゃう。

 

     ・

     ・

     ・

 

どこに行くんだろう?

でも、なんかこうやって見てるとなんかいい雰囲気だね。

雪ノ下さんもいつもと違う。

いいなぁ。

でもどこ行くんだろう?

ここって、雪ノ下さんち近いけど、まさか。

 

あ、やっぱりマンション入っていった。

今から二人でご飯作ったりとかするの

そんで、その後って

・・・・・・。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「なんでまたついてくるのよ。」

 

「なんでって、俺三ヶ木対策本部長だから。」

 

「まだそれ続いてるの?

 

 もう、ほら、あそこ、ちゃんといたでしょ。

 

 お~い、舞ちゃん。」

 

「あ、ジミ、三ヶ木先輩。」

 

「お待たせ。ごめんね遅かったかなぁ。」

 

「いえ、時間通りですよって、なんで会計さんが付いてくるんですか?」

 

「ごめんなさい。 この人ストーカーなの。」

 

「お、おい、え、いや違いうからな、おい、蒔田、引くなって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ありがとうございました。

 

 部活、頑張ってくださいね、葉山先輩。」

 

「いや、こちらこそ。

 

 サッカー部の応援よろしくね。」

 

「あ、葉山君、12月にもう一回、インタビューさせてね。」

 

「え、三ヶ木さん、ありがとう。

 

 ぜひ、取材に来てもらえるよう頑張るよ。」

 

「うん。」

 

「お~い、隼人くん、紅白戦始めるってよ。」

 

「ああ、わかった、いま行くよ。  それじゃあ。」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

「ありがとう。」

 

「ふぅ、やっぱりカッコいいですね葉山先輩って。」

 

「そうだね~、頭良いし、スポーツマンだし・・・お金持ちだし、うへへ。」

 

「や、三ヶ木先輩、なんですかその最後のうへへって。」

 

「え、だって。」

 

「あ、ほら紅白戦始まりましたよ。

 

 うわぁーいきなり葉山先輩ゴールだ。」

 

「あれ、頭でやるのって、ヘディングって言うんだよね。」

 

「うん、葉山先輩って背も高いから。」

 

「かっこいいねぇ~、数字の相手しかできない誰かさんと大違い。」

 

「そうですね。」

 

「お、お前ら、聞こえてるんだからなぁ。」

 

「あ、わりぃ! そこボール行ったよ。」 

 

「ん、あ、蒔田、危ない。」

 

「え、きゃー」

 

「ヘディング!」

 

”バシ”

 

え、う、うそ、いや~

こっちこないで。

 

”バン”

 

「ぐはぁ!」

 

「げ、だ、大丈夫か、三ヶ木。」

 

「い、いた~い。

 

 お、おい、いま狙ったろ。」

 

「いや、違うから、そんな技術ないから。 

 

 たまたまそこにお前がだな。」

 

「ゆるさん!」

 

「ひゃ~」

 

”ダー”

 

「ま、待て、この数学野郎!」

 

「あ、待て、お前走るなって。」

 

「う、い、痛い。」

 

「馬鹿、走るなっていったろ。

 

 だ、大丈夫か?」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ!」

 

「ははは、お返し。」

 

「ま、またしても騙された。」

 

「へんだ! あ、舞ちゃんごめんね。

 

 え、ま、舞ちゃん、どうかした?」

 

「あ、え? いや、その~ い、稲村先輩、ありがとうございます。」

 

「あ、ああ。間に合ってよかった。」

 

「・・・・うん。」

 

え、もしかして舞ちゃん、その顔。

よ、よしお姉さんに任せろ。

 

「あ、わたし、ちょ、ちょっとトイレ行ってくる。

 

 先、帰っててね。」

 

「え、あ、三ヶ木先輩。」

 

”タッタッタッ”

 

「三ヶ木、走るなって。 まったくあいつは。」

 

「稲村先輩、よかったら何か飲んでいきませんか?

 

 その~、お礼させてください。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

いくよ~、せ~の、ぺたっと。

よし、あとはもうちょっとだけ焼いたらっと。

 

へへへ、イチゴをのせたらくるっと巻いて出来上がり。

腕は落ちてないね、美味しそうにできた。

 

「お、できたのか三ヶ木。」

 

「あ、広川先生、ばっちりです。」

 

「ん? 結構いっぱい作ったんだな。

 

 どれどれ。」

 

”ぱく”

 

「ん、うまい。

 

 この生地がいいんだな、これ強力粉つかったのか?

 

 う~ん、モチモチ感がいいな。」

 

「えへへ、広川先生に褒めてもらえたらバッチリだね。」

 

「おう、だが、あの男達のはちょっとな。

 

 あれ売れんぞ。」

 

「はは。まだ来週あるので。

 

 じゃあ、先生、今日は帰りますね。」

 

「おう、掃除ありがとうな。

 

 なぁ、お前それ一人で食べるの?」

 

「ひ・み・つで~す。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ビシッ!”

 

”パァン”

 

”パシ”

 

あ、やってる、やってる。

うんしょっと。

 

どれどれ、あ、いた! 戸塚君だ。

あれ? 刈宿君どこ行ったんだろう。

確か、朝はいたよ。

 

「はい、じゃあ、休憩にしよう。

 

 みんな、水分の補給、忘れずににね。」

 

「「はい!」」

 

「戸塚君、ご苦労様。」

 

「あ、三ヶ木さん、来てたの?」

 

「うん、いま来たとこ。 あ、あのさ 」

 

「刈宿君なら学校の外周走ってるよ。

  

 一年生はまだ体力作りメインだから。」

 

「あ、そうなんだ。

 

 あのさ、戸塚君、これよかったらみんなでどうぞ。」

 

「え、わぁ~クレープだ。 どうしたの?」

 

「うん、こんどね生徒会でクレープの模擬店だすの。

 

 今日、調理室で練習してたんだ。」

 

「へ~、美味しそうだね。 ありがとう、いただくね。」

 

「うん、保冷材が入ってるから大丈夫だと思うけど、なるべく早く食べてね。」

 

「あ、美佳先輩、来てたんすか。

 

 もっと早く走ってくるんだった。」

 

「刈宿君、君も水分補給とストレッチしてからだよ。」

 

「うっす。 じゃあ、ちょっと行ってきます。」

 

「ごめんね三ヶ木さん、地区予選も近いし、ケガとか気を付けないといけないから。」

 

「うううん、戸塚君、さすが部長さんだって感心した。

 

 じゃあ、ここ置いてくね。」

 

「うん、ありがとう。

 

 みんな~、差し入れもらったよ。」

 

「「アシタァー」」

 

「ひゃ~、あ、はい、また明日。」

 

”ペコ”

 

「じゃ、じゃあね、戸塚君。」

 

「あ、み、三ヶ木さん? 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタン、ガタン”

 

あ~、びっくりした。

だって、あんなに大勢から挨拶されるなんて。

あ、刈宿君に挨拶するの忘れた。

後で電話しておこう。

 

”プシュ~”

 

「あ!」

 

「あ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

ここって雪ノ下さんの降りる駅だね。

はぁ、そうか、今日も雪ノ下さんとこ行ってたのか。

結衣ちゃん・・・に言ったほうがいいのかなぁ。

 

「な、なぁ、あ、あのな、ちょっと話したいことがあるんだがって、

 

 おい、三ヶ木、またねん挫したのか?」

 

「え、あはは、ちょっとドジちゃってさ。」

 

「ばっか、お前、気をつけろよ。」

 

「う、うん。」

 

「あ、それであのな 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、ごめんちょっといい?」

 

「おう。」

 

”スタスタ”

 

「もしもし。」

 

「美佳先輩、なんで先帰っちゃうんすか。」

 

「え、だって、びっくりしたんだもん。

 

 それにみんなからまた明日って言われるし。

 

 そんな言われたら帰るしかないじゃん。」

 

「また明日?」

 

「うん、あした!って。」

 

「ぶっ、あはははは、お、お腹痛い。」

 

「な、なによ、何かわたし変なこと言った?」

 

「だ、だって、あ、あれは”ありがとうございました”って言ったんすよ。

 

 は、腹いた~」

 

「え、アシター・・・ア りがとうございま シター?

 

 そ、そうだったの。」

 

「そうっす。」

 

「あ、でも笑いすぎだからね! もう電話切るから。」

 

「あ、ちょ、ちょっと待って。

 

 ごめんなさい、笑いすぎました。

 

 あの、クレープありがとうございました。

 

 めっちゃ美味しかったっす、模擬店、俺買いに行きますね。」

 

「うん、了解。

 

 ごめんね、電車の中だから。」

 

「了解っす、それじゃ、また。」

 

「うん。」

 

”スタスタ”

 

「ご、ごめんね、お待たせ。」

 

「あ、ああ。 あのな、」

 

”プシュ~”

 

「あ、ご、ごめん。駅ついちゃった。

 

 どうする?」

 

「少しだけいいか?」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、話って何?」

 

「あ、そこのベンチいいか?」

 

「うん。」

 

     ・

 

「ほれ。」

 

「うん、ありがと。」

 

”カチャ”

 

「相変わらず、マッ缶だね。」

 

「おう、俺のソウルドリンクだ。」

 

なんだろう、お話って。

この前のことかなぁ。

わたし涙見せたくなくって先帰っちゃったけど。

ちゃんとお礼言ってなかったんだ。

 

「「あ、あの」」

 

え、か、かぶっちゃった。

えっと、どうしょう。

 

「あ、ごめん。 お先どうぞ。」

 

「あ、いや、お前からでいい。」

 

「う、うん。 あ、あの先週はごめんね。」

 

「ん? なんだ、何で謝るんだ?」

 

「ほ、ほら、先帰っちゃったから。」

 

「え、用事あったんだろ、何も謝ることないが。」

 

「ありがとう。 

 

 それと、とても楽しかったよ、ありがとね、比企谷君。」

 

「お、おう、そうか? 

 

 ・・・・・まぁ、なんだが、また今度、どこか行かないか?」

 

「・・・・・、うううん、もういいよ。 無理しなくていいって。」

 

「そ、そうか。 だがたまには、」

 

「もういいから。」

 

「え、」

 

「無理しなくっていいって言ってるの。

 

 あのさ、わたし、わかってるから。」

 

「・・・・・・・・」

 

「だから、今まで通りでいいって。」

 

「いや、だが俺はやっぱり 」

 

「う~ん、じゃあさ、それほど言ってくれるんなら、

 

 比企谷君、今から遊園地行こ。」

 

「はぁ、遊園地? 今からか?」

 

「うん、そうだ。 ほらいくよ。」

 

「お、おう?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、着いた。』

 

「いや、着いたってお前ここ、ただの公園じゃねぇか」

 

「うううん、ちがうよ。

 

 わたしの遊園地にようこそ。

 

 ほら、いくよ。

 

 最初からジェットコースターだ。」

 

「いやちょっと待てって。」

 

「ほら、はやく。」

 

「お、おうって、それ滑り台?」

 

「それー、へへ、ほら比企谷君も早く」

 

「おう。」

 

     ・

 

「よし、次はスターフライヤー。

 

 ほら比企谷君はそっち。」

 

「おう。」

 

あれ、シーソー動かない。

なんで?

わたしこんなに重くなったのかなぁ

やば、たべすぎだ。

比企谷君より重いなんてって

ん?

 

「おい、何の真似だ。 貴様、足ついてんだろう!」

 

「あ、いや、まぁ、え、や、やめて、こないで。」

 

”べし”

 

「次は、ジャンボバイキングだよ。

 

 ね、二人で乗ろう。」

 

「いや、これ二人は無理だろう。」

 

「比企谷君は立ってるの。

 

 うんしょっと、ほら漕いで。」

 

「げ、そ、そういうことか。

 

 お前、座ってるだけなんだな。」

 

「そういうことだ、ほれ、漕げ漕げ。」

 

「お前、よ~し、後悔するなよ、泣いても知らんからな。」

 

「うひゃー、すごーい。 へへ、もっともっと。」

 

「お、おう。」

 

     ・

 

「よし、最後はスペースシャトルだ。」

 

「いや、三ヶ木、これどう見ても鉄棒だろう。」

 

「うんしょっと、ほら、わたし割と鉄棒は得意なんだよ、それ前回り。」

 

”くるり”

 

「よし、次は逆上がり」

 

「お、お前逆上がりはやめろ、ス、スカートが。」

 

     ・

 

「あ~、面白かった。

 

 花火が無いのがちょっと残念だけど、めっちゃ面白かった。

 

 ん? さっきからどうしたの比企谷君。

 

 あんまりおもしろくなかった?」

 

「いや、三ヶ木、気付いてないのかも知らんが、お前制服だろう。

 

 さっきから、その~白いのがチラチラと。」

 

「げ、てめー先にいえ。 この変態。」

 

”ベシ”

 

「い、言わなければよかった。」

 

「まったく。 比企谷君は比企谷君だね。」

 

「あたりまえだ。俺は俺だ。」

 

「へへ、そうなんだよ、比企谷君は比企谷君。

 

 わたしね、あの後一所懸命考えたんだ。

 

 なんで東京わんにゃんショーなのかって。

 

 だって、ディステニーとか行きたかったんだもん。 ぷんぷん!」

 

「あ、そ、それなんだ。

 

 三ヶ木、俺はな、」

 

「ああ、言わなくてもいいよ。

 

 よく考えれば比企谷君の考えそうなことだもん。

 

 そんでね、その答えがこの遊園地。」

 

「この遊園地が答え?

 

 いやよくわからないんだが。」

 

「わたしめっちゃ考えたんだから、比企谷君の捻くれもの。」

 

「す、すまん。」

 

「わたしね、子供のころにいろいろあってね、こっちに引っ越してきたんだ。

 

 それからここがわたしの居場所。

 

 その時は家に居場所なかった。

 

 それでね、ここで救われたの、あの二人に。

 

 だから、わたしはここに、この遊園地のこと、比企谷君に知っててもらいたかった。

 

 これがわたしの答え。」

 

「そ、そうか。」

 

「そうなのだ。 

 

 だからさ、わたしはいいの。

 

 慣れてるからさ。

 

 比企谷君の邪魔じゃなかったら、あなたのそばにいてあげる。

 

 それであなたのその捻くれた考え聞いてあげる、理解してあげる。

 

 結衣ちゃんや雪ノ下さんにも言えないこと、聞いてあげる。

 

 あ、プリキラ―も忘れてないからね、一緒に行ってあげる。

 

 ・・・・・で、でも。」

 

比企谷君、今日も雪ノ下さんのマンション行ってたんだよね。

この前も二人でお買い物して、その後・・・・

それに結衣ちゃんには、奉仕部休みだって言ってたのに二人だけで。

わたしは慣れてるの、いつもそうだったから。

でも、彼女は。

 

「ねぇ、比企谷君、比企谷君が誰を選んでもいいの。」

 

「はぁ、な、なに言ってんだ。」

 

「いいから聞いて。

 

 でも、結衣ちゃん、・・・・・わたしの親友にだけはちゃんと話してあげてね。

 

 結衣ちゃんは優しい娘だよ。

 

 絶対、ちゃんと比企谷君の言うこと受け止めてくれるから。

 

 だから、ちゃんと話してあげてね。」

 

「なんかよくわからんのだが。」

 

「わからくてもわかれ!」

 

「なんだそれ。」

 

「えへへ、あ、ごめん、もう帰るね。

 

 早く晩ご飯作らないと。

 

 家で大きな子供がお腹すかして待ってるんだよ。

 

 じゃあ、またね。

 

 あのさ、今日遊園地、付き合ってくれてありがとう。」

 

「お、おう、またな。」

 

さてっと、うんしょっと。

 

”ぐき”

 

「あ、いた!」

 

”だき”

 

「お、おい大丈夫か?」

 

「う、うん。 ・・・・・・・ごめん、あと3秒だけこのままでお願い。」

 

「お、おう。 」

 

”ガタ”

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「とうちゃん、ただいま! 

 

 いま晩ご飯つくるね。

 

 え、あれ? クーラーボックス。」

 

「おう、それ、あいつ持ってきたぞ。

 

 え、会わなかったのか?」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、ちょっとあんた。」

 

「ん、あ、お前。」

 

「話があるんだ、ちょっといいか。」




最後までありがとうございます。

すみません、安易にセリフに逃げてしまったかも。

物語は、オリキャラ、より積極的に。

元々のルートと大分変ってきてしまい、グダグダ続きますが

また読んでもらえたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

求めたいものとそこにあったもの

ありがとうございます。
(いつも同じ入りですみません。)

でもこれしかないです。

えっと、今回はちょっと説明が多くて。

いつもに増して読みにくいかと。

オリキャラの問いに八幡は・・・・・

すみません、最後まで読んでいただけたらありがたいです。




はぁ、あいつ今日、あま~いいい香りしてたなぁ。

それに、やっぱり想ったより華奢なんだよ。

はは、しきりに50kg、50kgって言ってたっけ。

それにまぁなんだ、3秒ってきっちり数えてやがって。

まぁ、あいつらしいわ。

あいつらしいっか。

 

「おい、聞いてんのか!」

 

「あ、すまん、ちょっと考えごとしてた。」

 

「あんた、なめてんのか!」

 

「お前、刈宿とか言ったな。

 

 それが人にものを聞く態度か。 一応、俺、先輩な。」

 

「関係ない。

 

 もう一回聞くぞ、先週の土曜日、美佳先輩と一緒にいたのか?」

 

「そんなこと聞いてどうすんだ。 それにお前に答えなければならない理由はないだろう。」

 

「あるんだよ。」

 

「どんな理由があるんだ、俺はお前のこと知らん。

 

 まぁ、大食いで俺のサイゼ愛に惨敗したことぐらいしかな。」

 

「な、人の気にしてることを。 

 

 ・・・・・・・・・お、俺は、美佳先輩が好きだ。

 

 世界で一番、笑顔でいてほしい人だと思ってる。

 

 それ以上の理由はいらないだろう。」

 

「・・・・・っそ、そうか。 

 

 出かけたが、どうかしたのか?」

 

「やっぱりあんたか、あんたが美佳先輩を泣かせたのか。」

 

「はぁ、あいつ泣いてたって何のことだ?」

 

「気付かなかったのか!

 

 おい、あんた、美佳先輩のこと、どう思ってるんだ。」

 

「お、俺は・・・・・多分大事なやつだと思ってる。」

 

「あんたのことはいろいろ聞いた。

 

 文化祭のこと、修学旅行のこと、俺は人のうわさを全ては信じない。

 

 それに、美佳先輩、美佳先輩がそんな奴をす・・・・・くっそ! 好きになるわけねえからな。

 

 けど火のないところに煙は立たないんだ。

 

 俺はぜってぇに、あんたに負けないからな!」

 

”ビシ”

 

「あとな、今度、美佳先輩を泣かせたら、思いっ切りぶん殴ってやる。

 

 わかったな! くそ、くそ、くそ・・・・・・・くそ!」

 

     ・

 

あいつくそくそって言いながら行きやがった。

はぁ~、たしか前も似たようなことがあった。

ああ、あれは稲村か。

稲村といい刈宿だったけ、三ヶ木結構リア充じゃねぇか。

 

はは、文化祭、修学旅行か、悪名はなかなか消えないもんだな。

 

『よく頑張ったね』っか、あいつぐらいだそんなこと言ってくれたの。

やっぱりあいつ変なやつだ。

 

 

 

 

‐‐‐‐話は生徒総会の前に‐‐‐

 

 

 

 

”ガタン、ガタン”

 

『ごめんねパソコン、重たくない? 比企谷君、わたしも持つよ。』

 

『大丈夫だ、気にするな。 お前はキーボードだけ持ってろ。』

 

『う、うん。 ありがと。 比企谷君、やさしいね。』

 

『ばっかお前、今日、今日だけだ。』

 

『うん。 えっとうんしょっと。』

 

”ピタ”

 

『お前何くっついてんだ。』

 

『いいじゃん、心ばかりのお礼。』

 

『どうせなら、お礼は形のあるものがいいんだが。』

 

『・・・』

 

『へ? いや、なに急に下向いて黙り込んで。』

 

『スケベ、この体がほしいのね。』

 

『はぁ? ばっか、ち、違う。 どこをどう考えればそうなるんだ。

 

 俺が言ってるのはマ、マッ缶とかだ。』

 

『わ、わかってたわよ。 冗談、冗談に決まってるじゃん・・・・・チッ』

 

『なんだ、そのチッって。』

 

全くこいつは。

なんでこいつとなら、こんなに何でも話せるんだ。

俺はこいつのこと信じれてるのか?

・・・・・こいつならあの時のやり方、どう思うかなぁ。

まだ、俺の中で咀嚼出来ていないこと。

それで奉仕部がおかしくなっちまった原因。

 

『な、なぁ三ヶ木、ちょっと聞いてもらってもいいか?』

 

『ん? なんだ、スケが谷君。」

 

『お前までそれ言うのやめろ、結構それいつも無理があるから。

 

 あのな、嫌な話になるかもしれないが、聞いてもらっていいか?』

 

『嫌な話? じゃあやだ。』

 

『あのな、修学旅行でのことなんだが。』

 

『いやだって言っても話すんじゃん、もう。』

 

『あのな、俺の友達に、』

 

『それ、もういいって間に合ってるから。

 

 修学旅行って、あの告白事件の件でしょう。

 

 で、ほんとは何があったの?』

 

『まぁ、簡単に言うとだな、奉仕部に男子生徒Tから依頼があってな。

 

 女子Eさんに告白するんだが、振られたくないから協力してくれっていうんだ。』

 

『ふ~ん、戸部君が海老名さんに告白って話ね。』

 

『いや、お前実名は 』

 

『みんなこのこと、えっと戸部君と海老名さんのことって知ってるし。

 

 その恋路を邪魔した君はちょ~悪人。』

 

『・・・・・・ま、まぁ、その海老名さんだが、戸部の気持ち知っててな、

 

 でも今は誰とも付き合う気がなくて、それでグループの雰囲気がおかしくならないように、

 

 告白させないようにしてくれって言うんだ。』

 

『はぁ、なにそんなことがあったの? わたし頭痛くなてきたんだけど。

 

 そんな依頼、雪ノ下さん受けたの?』

 

『いや、海老名さんの依頼に気付いたのは俺だけだ。』

 

『そう。それで比企谷君は戸部君が振られることと、葉山君のグループがおかしくなるのを

 

 防ぐために、海老名さんに告って振られてあげったってわけね。』

 

『まぁ、そういうことだ。 あまり策を考える時間がなくてな、ああなった。 

 

 で、三ヶ木はどう思う。』

 

『ね、それ雪ノ下さんも結衣ちゃんも見てたの? 海老名さんに告ったとこ。』

 

『ま、まぁな。』

 

『そう。だったら大変だったろうね、まずはご苦労様。』

 

”なでなで”

 

『ばっか、お前やめろ。』

 

『あ~、パソコン落としたら弁償だからね。 即、現金でお願いしま~す。』

 

『くっそ、お前、後で覚えてろよ。』

 

”なでなで”

 

『はいはい、いい子いい子。

 

 比企谷君、マジでとてもよく頑張ったねって思った。

 

 話してくれてありがとう。

 

 でもやっぱ比企谷君だわ、馬鹿だなぁって思った。

 

 そんなことがあったんだ。 やっぱ信じててよかった。』

 

『そ、そうか。』

 

『でも、なんでそんな依頼受けたの? 振られたくないから協力しろなんておかしいじゃん。

 

 は! 結衣ちゃんだね、そういうの好きそうだから。』

 

『まぁな。』

 

『あのさ、修学旅行で気持ちが盛り上がるのはわかるけど。

 

 告るってことは、うまく言えないけど、相手のことが好きで好きで大好きで、

 

 相手のことを思うだけで、好きな人と話してる今のわたしみたいに、

 

 こう胸が”きゅん”って締め付けられて、痛くて痛くてどうしょうもなくて。

 

 振られたらどうしょうとか、もう会えなくなるんじゃないかって悩んで苦しんで、

 

 それでも自分の気持ちをどうしても伝えたい気持ちを押さえられなくて、

 

 覚悟して頑張るもんじゃない?

 

 振られたくないから、ほかの人に協力してもらうなんておかしいじゃん。

 

 それってさ、振られたら奉仕部のせいにするって、

 

 自分の気持ちの逃げ道作っておきたいだけじゃない。』

 

そ、そうなのか?

なんかすごく熱弁振るわれたわけだが、途中でなんか変なこと言ってなかった?

まぁ、俺の聞き違いだよね。

・・・・あの、わかったけど、その頭撫でるのもうよくない?

まだなでるの?

 

”なでなで”

 

『そ、それにさ海老名さんもおかしいよ。

 

 そんなに告られるのが嫌なら、ずっと逃げ回ってればいいじゃん。

 

 三浦さんとか沙希ちゃんとかとべったりくっついて隙を見せないとか。』

 

まぁ、修学旅行中ずっと一緒にいるってわけにもいくまい。

まして同じグループに属してんだ。

それにそれだと戸部の依頼がな。

 

『・・・・結果、比企谷君に悪名着せちゃったんだね、

 

 ごめんなさい。』

 

『はぁ、何で三ヶ木が謝るんだ?』

 

『うん、わたしがその時に近くにいてあげられなくてごめんなさい。

 

 わたしが近くにいれば比企谷君に辛い思いさせなくても済んだのに。』

 

『はぁ、お前がいても無理だろう?こんな相反する依頼、他に解決する方法なんてないだろう。』

 

『比企谷君が協力してくれるのなら簡単だよ。

 

 わたしと海老名さんが話してるから、比企谷君がそこに戸部君を連れてきてもらうの。

 

 そんで、二人が近づいたところで、戸部君に聞こえるようにわたしが言うの。

 

 ”海老名さん、わたし戸部君のこと好きなの。

 

   でもなんか戸部君は海老名さんが好きじゃないかって聞いて。

 

   ねぇ、海老名さんは戸部君のことどう思ってるの?”って』

 

『まて、それじゃ戸部振られることになるんじゃねぇか?』

 

『そこでね海老名さんに言ってもらうの、

 

 ”私、今誰とも付き合う気持ちがないの。

 

  たとえ、葉山君に告られても、今は絶対断る”って。

 

 それでおしまい。』

 

『え、それでいいのか?』

 

『だって、葉山君だよ、葉山君でも断るっていうのに、戸部君告ると思う?』

 

『ま、まぁそうだな、告るのやめるか。

 

 だが待て、それじゃ戸部、お前に興味持つんじゃないか?

 

 やっぱり好きって言ってくれる相手って結構気になるものだと思うが。』

 

『う~ん、そん時はわたしと比企谷君が付き合っちゃえばいいんだ。よくある話じゃん。』

 

『はぁ? なんでそうなるんだ。 よくねえしな。』

 

『え、だめなの?

 

 まぁいいや、ね、これだったら誰も傷つかないでしょ?

 

 でもさ、これは女子同士だからできるの。

 

 だからわたしがその時近くにいてあげられなくてごめんなさい。

 

 やっぱ、生徒会終わったあと、奉仕部に入るんだったなぁ。』

 

『お前奉仕部に入りたかったのか?

 

 は、うまくいかないものだな。』

 

『そだね。 

 

 でもさ、話してくれてありがと。』

 

”なでなで”

 

『ばっか、お前それやめろって。』

 

『やだ。 だって、そんなことなら、わたしショートにする必要なかったんだからね。』

 

『ん、なんか関係あるのか?』

 

『だって比企谷君、ショートで眼鏡が・・・・・教えてやらんわ!』

 

”ベシ”

 

『うはぁ!』

 

『でもさ、何でこんなこと話してくれたの?』

 

『いてて。 わからん、なんとなくだな。』

 

『そっか。

 

 ね、わたしごときでいいなら、比企谷君が話したいこと聞いてあげる。

 

 それで少しでも気が楽になるならいつでも話して。

 

 だ・か・ら、これからもそばにいてあげるね。』

 

 

 

 

‐‐‐‐そして現在‐ー‐‐

 

 

 

 

『お前、美佳先輩のこと、どう思ってるんだ。』っか。

 

そうだな。

 

雪ノ下、由比ヶ浜、彼女たちは俺にとって特別な関係。

俺は、あいつ等のことを知りたい、理解したいと願った。

上辺だけじゃない、本当のあいつらを理解したかったんだ。

・・・・俺の、俺のこんなに悍ましくも浅ましい、我儘な願望を許容してもらいたいと。

 

彼女たちに勝手に期待して、理想を押し付け、思い込んで・・・・それで勝手に失望して。

そんなことで彼女たちとの関係を壊したくないと、俺は足掻いて願って追い求めていた。

俺は理解したい、”本物がほしい”っと。

 

     ・

     ・

     ・

 

三ヶ木はどうだったんだろう。

三ヶ木は俺のことを、見つめて、思ってくれて、心配してくれた。

それで俺のこと馬鹿だなぁっていいながら、信じてくれてたんだ。

あの時からずっと。

 

『・・・・・あ、あのね。わたし信じてるよ。

 

 何があったかわからないけど、わたしは比企谷君を信じてる。』

 

こんな俺のことを理解したい、わかりたいって。

 

『わたしごときでいいなら、比企谷君が話したいこと聞いてあげる。』

 

ばっか、わたしごときって言うな。

お前だから、俺のやること馬鹿だなぁって理解してくれるお前だから。

 

そして俺のこと信じて疑わないお前だから。

だから、俺のそばにいてほしいんだ。

 

そっか、やっぱり俺はあいつにそばにいてほしいんだ。

 

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、由比ヶ浜?

 

「おう。」

 

「あ、ヒッキー、今いい?」

 

「ああ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「あの~由比ヶ浜さん、ね、そこはどうかなぁ~

 

 ほ、ほらこっちのほうが。」

 

「え~、いいじゃん。

 

 ほ、ほら、綺麗だよ。

 

 いいなぁ~あたしこういうのがいいなぁ。」

 

そこ、まじのやつだろうが。

ね、ねぇ、一桁、いや二桁違うだろう。

 

「あははは、ヒッキー、大丈夫だって。

 

 見てるだけだよ。」

 

「そ、そう。 そうしてもらえるととてもうれしい。」

 

「でもさ、将来、こういうの貰えたらなぁ~って。

 

 あ、あははは、何でもない何でもない。

 

 なに言ってんだろうあたし。」

 

いや、そんなにジーって見つめないで。

熱い、今日の千葉はめっちゃ熱い。

なんだろなぁ~。

 

「あ、あのね、ヒッキー。」

 

「だめだぞ、ぜってぇ駄目だから。

 

 そんなの買えないから。

 

 誕生日プレゼントは他にしてくれ。」

 

「わかってるし、そんなんじゃないし。」

 

「じゃあなんだ。」

 

「あのね・・・・・・いつもゆきのんと何してるの?」

 

「えっ」

 

「最近、奉仕部終わるの早いじゃん。

 

 ゆきのんは受験に備えて、職員室で先生にわからないとこ聞いて帰るっていってるけど。

 

 あたし、いつも校門で待ってたんだよ。

 

 そうしたら・・・・」

 

「お前、いつもいたのか。」

 

「ヒッキー、あのね、あたし、ヒッキーもゆきのんも大好きだよ。

 

 ゆきのんがヒッキーを好きなのも知ってる。

 

 だから、別にバレンタイン待たなくても、その、し、仕方ないと思ってる。

 

 でもさ、秘密は嫌だよ。あたしだけ知らないのって嫌だよ。

 

 ヒッキーもゆきのんもひどいよ。」

 

「由比ヶ浜、いや、その、なんだ、えっと。」

 

「話してくれないの。やっぱりあたしだけのけ者なの。

 

 あたし、覚悟決めてるって言ってるじゃん。」

 

「く、あ、あのな 」

 

「ごめん、結衣ちゃん! わたしのせいなんだ。」

 

「「えっ」」

 

「あ、つけてたわけじゃないよ。

 

 ほ、ほら、わたしこれ買いに来たんだから。

 

 とうちゃんのポロシャツ。

 

 ぐ、偶然だからね。」

 

「う、うん。」

 

「あのね、実は日曜日さ、ほら18日、学校の近くの商店街でお祭りがあってね。

 

 それでクレープの模擬店出すんだけど、わたし足を捻挫しちゃって。

 

 それで雪ノ下さんと比企谷君にクレープつくるお手伝いをお願いしてるの。

 

 比企谷君、下手だから売り物にならなくって、雪ノ下さんに練習してもらってるの。

 

 それでさ、18日って結衣ちゃん誕生日じゃん。

 

 だから、わたしから二人に結衣ちゃんに内緒にしてって。

 

 ごめん。」

 

「え、なんだ、じゃあ、ヒッキー、ゆきのんとクレープの練習してたの。」

 

「お、おう。」

 

「あはは、そ、そうなんだ。」

 

「ごめんね、結衣ちゃん。」

 

「うううん、あ、ごめん、泣いちゃったからちょっと。」

 

”スタスタ”

 

「お前、クレープ作るのと捻挫って何も関係なくね?」

 

「なによ、折角助けてあげたのに。

 

 あのさ、さすがに誕生日前に言えないよね。

 

 ね、誕生日終わってから、ちゃんと話してあげてね。」

 

「は? いや、話すも何も今お前が言った通りなんだが?」

 

「へ? クレープの練習て? え、なんで、ん?。」

 

「いやクレープ練習してんだ。 祭りに模擬店するから。」

 

「はぁ?」




最後までありがとうございます。

今回、久しぶりに八幡サイドでした。

しばらく奉仕部の出番が少なかったので増やしていけたらと。

次話、キャラ多くなりそうで、タダでも書き分け難しいのにどうしょうかと。

また読んでいただけたらありがたいです。

※奉仕部とオリヒロに対する八幡の気持ちの違い、わかりにくいと思ってます。
 今後の展開の中で、補足していきたく、お願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別な人

やっと復活できました。

更新が大変遅くなりごめんなさい。

それでも見に来ていただけ、ありがとうございます。

物語の季節も6月中旬。

これから、夏休みに向けいろいろありますが、またよろしくお願いします。

※誤字都度見直しします。
 ごめんなさい。


「つまりあれだな、本来生徒会に行くはずの依頼が、奉仕部に来ちまったってことか。」

 

「う、うん。」

 

「そうか、そう言えば確か雪ノ下が厚木から      」

 

やば、つい、口を挟んじゃったけど。

ストーカーしてたんじゃないからね。

とうちゃんと結衣ちゃん、それにさがみんのプレゼント探してたんだから。

う~、今月超ピンチだよ。

 

で、でもまさか、ほんとにクレープを作ってたなんてね。

これやばいよ。 

だって材料とかもう買っちゃってるもん。

奉仕部さんだって準備してるよね。

交渉しなくちゃね。

 

『あははは、ヒッキー、大丈夫だって。

 

 見てるだけだよ。』

 

『将来、こういうの貰えたらなぁ~って。』

 

・・・・・いいなぁ、デートか。

なんかすごくいい感じだった。

 

”ズキン”

 

なんか、なんか胸が痛いよ。

 

一緒にくっついていこうかなぁ。

 

げ、わたしって最低だ、ちょ~最低女。

 

「お、おい、聞いてるのか? 」

 

「え、あ、ごめん、ごめん。 

 

 考え事しててなんも聞いてなかった。』

 

「おま、あ、あのな。」

 

「はは、冗談だよ冗談。

 

 わかってるって。

 

 まずは明日さ、学校で厚木問い詰めてみるね。

 

 そんで、平塚先生に費用のこと相談して。」

 

「あ、あとあれな。」

 

「うん、わかってるって。 

 

 じゃあ、明日の放課後、生徒会室に来れる?」

 

「え、ああ、雪ノ下には俺のほうから言っておくわ。」

 

「うん。

 

 ・・・・・・あのね、結衣ちゃんとは二人っきりなんだね。」

 

「ん?」

 

「わたしの時は二人っきりじゃなかったのに。」

 

「あ、いや、だからそれは昨日の夜に三ヶ木が言った通り  」

 

な、なに言ってんだわたし。

なんでこんなこと。

わかってるじゃん、比企谷君がなんでそうしたのか。

わかってるよ、でもわからないもん。

やっぱ心のどっかでわかれない。

でも、でも。

 

「あ、ごめん、冗談だよ冗談。

 

 ね、焦った?」

 

「おま、まぁ、今日は由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買うためだ。

 

 昨日電話があってな、本人が選んでくれたほうが俺も楽だからな。

 

 あと、渡すとき趣味悪いとか言われたくないしな。」

 

「・・・・・・・」

 

「ん、どうした?」

 

昨日電話あったからって、結衣ちゃんなら、電話があっただけですぐ出かけるの?

わたしなんかいろいろ苦労して、やっと出かけてもらったのに。

まぁ、仕方ないよね。

結衣ちゃんと雪ノ下さんは特別だもん。

 

特別か。

 

わたしも特別っていわれたい・・・・・高望みだね。

 

「お待たせ、ごめんねヒッキー、美佳っち。」

 

「おう。」

 

「あ、ごめんね、折角のデート邪魔しちゃって。

 

 じゃ行くね。 あとはごゆっくり。」

 

「は、で、で、デートじゃないし。 ひ、ヒッキーが誕生日のプレゼント選ぶからって。」

 

「いや、まて、それ、お前が昨日電話しきて。」

 

「う、うるさい。」

 

「あははは、じゃあね。 

 

 わたし、まだ馬にけられて死にたくないから。」

 

「へ、馬?」

 

「お、おう。」

 

”すたたたた”

 

「ヒッキー、馬って?」

 

「馬って言えば馬だ。

 

 あ、すまん、お前には難しすぎたか。」

 

「あ、ヒッキーひどい。」

 

     ・

 

結衣ちゃん、うれしそうだったなぁ。 

そうか、誕生日のプレゼントか。

あ、そういえばホワイトデーの時も二人で選んでたっけ。

結衣ちゃんうらやましい。

 

”ポロ”

 

は、さ、さて、こんなとこでゆっくりしてられないや。

お仕事お仕事。

ほ、ほら、商店街行くよ、厚木問い詰める前に確認してこなきゃ。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「え~と、この男から聞いたんだけど、どういうことかしら一色さん。

 

 詳しく話してもらえるかしら。」

 

「え~と、なにか手違いがあったみたいなんです~

 

 この商店街の模擬店は毎年生徒会が担当していて、

 

 地域への協力活動と、その売り上げを福祉団体に寄付しているんですよ。

 

 ですから、今年も生徒会に任せてくださいね。」

 

「そ、そう。」

 

「それに結衣先輩が来れないじゃ、奉仕部さんには無理じゃないですか~」

 

”ピキ”

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「だって、お二人しかいないんですよ。

 

 雪ノ下先輩がクレープ作ったとして、販売担当が先輩ではちょっと。」

 

「あら、大丈夫よ、この男もみっちり鍛え直したわ。

 

 そこそこのクレープはつくれる・・・はずよ。」

 

「え~、先輩が作るんですか?

 

 あの、それ売ってもいいレベルです?

 

 無理なさらなくもいいですよ。

 

 ほら私たちは可愛い販売担当が二人もいますし、

 

 調理のほうは美佳先輩が仕切ってくれますから、全然余裕なんですよ。

 

 奉仕部さんよりうまく出来ますので。」

 

「あら、無理かどうか試してみる?」

 

「な、なぁ、雪ノ下、いいじゃねえか、生徒会がやるって言うんだから、生徒会に任せれば。」

 

「あなたは黙ってなさい、ダマ谷君!」

 

「ほらほら、先輩もそういってるじゃないですか~ 

 

 ここは生徒会に任せてください。」

 

”ガラガラ”

 

「すみません、遅くなりました。 厚木落とすのに時間かかりましてって、え?」

 

「断るわ。 この依頼は奉仕部が受けた依頼よ。

 

 一度受けた依頼は途中で投げ出さないわ。」

 

「む~、強情ですね。 さすがに雪ノ下先輩、ムカ~です。」

 

「ね、ねぇ、本牧君、どうしたの?」

 

「あ、三ヶ木さんお帰り。 見ての通りなんだ。

 

 奉仕部と生徒会どっちが模擬店をするかで揉めてるんだ。」

 

「あ、あの~、会長、雪ノ下さん、い、一緒にやるのってどうかなぁ?」

 

「「お断り」」

 

「はぁ~、なんでこうなったの。」

 

「いいわ、一色さん、どちらが売上あげられるか勝負しましよう。」

 

「え~いいんですか? そんなの勝負する前から決まってるじゃないですか?」

 

「ええ、奉仕部の勝ちよ。」

 

「む~、そんなこと絶対ないですよ。」

 

ねぇ、もめないで、一緒にやろうよ。

だってそのほうが楽できるもん。

 

「あ、あのさ、やっぱ一緒に。」

 

「そ、そうだ、雪ノ下、冷静にだな。 」

 

「なに言ってるの比企谷君、戻ってダマがなくなるまで特訓よ。」

 

「ま、マジか。」

 

”ガラガラ”

 

「美佳先輩、ほら副会長と稲村先輩つれて練習に行ってください。

 

 書記ちゃん、衣装とか販売の打ち合わせしょ。」

 

「会長、もう一度やっぱ奉仕部さんと話を。」

 

「お断りです。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

えっと、でもなんで30の後、40なんだ?

ふつう15,30ときたら45じゃん?

 

「三ヶ木、なに読んでるのさ。」

 

「あ、沙希ちゃん。」

 

「え、テニス入門の本、あんたテニスでも始めるの?」

 

「いや、そういうわけじゃなくて。

 

 今度の土曜日、刈宿君のテニスの試合あって、応援に行くんだけど、

 

 ほら、わたしルールとか全然知らないから。」

 

「刈宿? あ、大志の同級生だっけ。 あんたそいつとどんな関係?」

 

「え、関係?

 

 あ、刈宿君は弟みたいなものだったから。」

 

いままでさ、やっぱり弟としてしか見てこなかったから。

これからも弟だよって、そう思いたかった。

でも、もうそれは駄目だよね。

誤魔化してたら彼に失礼だもん。

わたしの気持ちは・・・・・・

ちゃんと向き合わなきゃ。

で、でもさ、美佳さんレポート? やっぱそのネーミングはちょっとね。

 

「弟? まぁ、いい。 ほら、あんたにお客さんだよ。」

 

「え、あ、戸塚君。」

 

”スタスタ”

 

「戸塚君、どうしたの?」

 

「あ、ごめんね。

 

 あのさ、最近刈宿君の様子がちょっとおかしいんだ。

 

 何かすっごくイラついているみたいで。

 

 三ヶ木さん、何か心当たりないかと思って。」

 

「へ~、刈宿君がいらついてるなんて想像つかないね。

 

 で、いつからなの?」

 

「今週の月曜日からなんだ。」

 

「う~ん、なんだろう。 あまり心当たりない。

 

 あ、でもここ数日、電話の時間は短くなった。

 

 いつもの半分ぐらい。」

 

「何か気が付いたら教えてくれない。

 

 僕でも協力できることがあるかもしれないから。」

 

「うん。 あ、そうだ、今日部活に様子見に行くね。」

 

「うん、待ってるね じゃあ。」

 

「うん、じゃあ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「戸塚先輩、もう一箱ノックお願いします。」

 

「いや、だめだよ刈宿君。 少し休憩とって。」

 

「大丈夫っす。」

 

「だめだよ。 これは部長命令。」

 

「う、うっす。」

 

”ガシャーン”

 

「くそ! 何が大事なやつだ、ちっとも大事にしてないだろうが。」 

 

”ガシャーン”

 

「何であんな奴と。」

 

”ガシャーン”

 

「くそ! くそ! くそ!」

 

”ぴた”

 

「ひゃ~つ、冷たい。 誰っすか! な、なにするんすか!」

 

「ほれ、ポカリだよ。 さっきからフェンスにあたってどうした?」

 

「え、み、美佳先輩。」

 

「そんなイライラしてるのって似合わないぞ。」

 

「なんでもないっす。」

 

「そう? でも水分はしっかりとってね。」

 

「うっす。」

 

「うんしょっと、はぁ、みんなよく動けるね。

 

 あ、そうだ、土曜日クーラーボックスありがと。」

 

「持って行かなきゃよかった。」

 

「え?」

 

「なんでもないっす。 

 

 美佳先輩、なんか用っすか?」

 

「え、あ、別に。 ちょっと様子を見にね。」

 

「・・・・・どう思ってるんすか。」

 

「え?」

 

「ち、もういいっす。 俺に構わないでください。

 

 今度の試合も、べ、別に見に来なくてもいいっす。」

 

「え?」

 

「辛いっす。」

 

”ごくごく”

 

「くっそ、戸塚先輩、もう十分休憩したっす。」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、刈宿君・・・・・

 

 なんか怒られちゃった。

 

 試合前で気が立ってるのかなぁ。

 

 でも無理して怪我しないでね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

「なぁ、三ヶ木。 今日は本牧と書記ちゃん来ないのか?」

 

「あ、今、三人で追加の材料買い出しに行ってもらってる。」

 

「そ、そうか。 じゃあ、今二人っきりだな。」

 

「馬鹿言ってないで、ほらちゃんと混ぜて。」

 

「いや、こんな感じでよくないか?」

 

「だめだよ、ほら見てみ、ダマ残ってるじゃん。

 

 ダマが残ってると食感が粉っぽくて駄目なんだよ。

 

 面倒くさくてもここはしっかりとね。」

 

「ああ、そうか。

 

 なぁ、三ヶ木、やっぱお前いいお母さんになるわ。」

 

「はぁ! ば、ば、馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと混ぜろって。」

 

「了解。

 

 あれ、三ヶ木のそのクレープ色違う。」

 

「ああ、これ、ココアパウダー入れて作ってみたの。」

 

「美味しそうだな。」

 

「うん、美味しかったよ。 味見してみる?

 

 はい、あ~ん。」

 

「あ~ん。」

 

”ぱく”

 

「お、美味しい。」

 

「へへ、いけるでしょう。 これも売ってみようかな。

 

 よし、あ、稲村君、そっちの粉とって。」

 

「これか? 三ヶ木、でもお前のそんな姿、やっぱりいいなぁ。」

 

「ば、馬鹿、なに言ってるのさっきから。

 

 え、ちょ、ちょっとやめてよ。

 

 それ、だめ、駄目だからね。

 

 今日わたし時間がないんだから。

 

 だめ~、あっちいって。」

 

「ぶぇっくしょん!!」

 

「い、稲村、駄目だって言ったろ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”きょろきょろ”

 

「はぁ、来てくれるわけないか。

 

 見に来なくていいって言ったもんな。

 

 なんであんなこと言っちゃったんだろう。

 

 俺って馬鹿だ、くっそ!」

 

「刈宿君、次の試合いける?」

 

「あ、戸塚先輩・・・・・うっす。」

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ 。」

 

くっそ、稲村の奴、人の顔の前で思いっ切りくしゃみしやがって。

後片付け大変だったじゃん。

試合、もうはじまっちゃったかなぁ。

刈宿君はどこだ?

あ、いた。

 

”タッタッタッ”

 

「ご、ご、ごめん。 明日の下準備してたら遅くなちゃって。

 

 し、試合まだ?」

 

「あ、ありが・・・・な、何で来たんすか。」

 

「え?」

 

「別に来なくていいって言ったすよね。」

 

「うん。 でもさ。」

 

「美佳先輩は、え・・・・・・・

 

 ぶっはははは、

 

 ど、どうしたんすかその顔。」

 

「え、顔どうかした?」

 

「まったく、美佳先輩は。

 

 へへへ、いってくるっす。

 

 あの、すみませんでした。」

 

「え? うん、いってらっしゃい。」

 

「くくく、う、うっす。」

 

「?」

 

「み、三ヶ木さん、はい。」

 

「え、なに戸塚君、鏡?

 

 ・・・・・・・・・ひぇー ま、真っ白。」

 

は、わたしこの顔で校舎走ってきたの?

うへぇ~、あ、そういえば本牧君も書記ちゃんも

へんな顔してた。

い、言ってくれればいいじゃん。

それにしても、稲村の野郎、ゆるさん。

 

「三ヶ木さん、はい、タオル。」

 

「あ、ご、ごめん。ありがと戸塚君。」

 

”ゴシゴシ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”パシ”

 

あ、また負けた。

これでこのゲーム、海浜高校の人の勝ちなんだよね。

3-1だ。

 

「ね、ねぇ、戸塚君、今日の刈宿君、調子悪いの?」

 

「え、三ヶ木さんにはそう見える?

 

 今日は最近で一番調子よさそうだよ。」

 

「え、でも負けてるよ。」

 

「そう? ほらよく見て刈宿君と相手、どっちが苦しそう?」

 

「あ、刈宿君は全然平気な顔してる。 海浜の人、すごく苦しそうだけど。」

 

「刈宿君はどこに打っても必ず打ち返してくるんだよ。 まるで壁みたい。」

 

「あ、何となくわかる。」

 

「それに、ほらコートの4隅に打ち返してるでしょ。」

 

「うん、そうだ。 隅っこばっかりだ。」

 

「いまは負けてるけど、まぁ見てて。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”パシ”

 

「ゲームセット。 ゲームウォンバイ刈宿君、6-4。」

 

すご~い、戸塚君の言った通りだ。

相手の人、最後へとへとだよ。

 

「ね、言ったとおりでしょう。 僕も最初に刈宿君と試合した時、最後はへとへとだったよ。」

 

「へ~」

 

”すたすた”

 

「戸塚先輩、あと頼んまっス。」

 

「うん、任せておいて。」

 

”どさ”

 

「ふぅ~」

 

「お疲れさま。」

 

「美佳先輩、卑怯すよ。」

 

「え、」

 

「だって、くくく。」

 

”べし”

 

「いてぇ~」

 

「ふんだ。」

 

「へへ。 美佳先輩、何とか勝ったっす。」

 

はぁ、よかった。

いつもの刈宿君に戻ってる。

へへ、やっぱこのほうがいいよ。

イライラしてる刈宿君、なんかあんときの自分みてるようで嫌だった。

わたしもあんなだったんだろうなぁ。

 

「うん、すごかった。

 

 逆転勝ちだね。」

 

「美佳先輩、ありがとうございました。」

 

「え、お、おう。」

 

「俺、負けないっす。 絶対、あきらめないっす。」

 

「うん、そうだ。

 

 あきらめたらそこで試合終了ですよって、太った人が言ってた。」

 

「俺、今度の地区大会も頑張るっす。」

 

「おう、頑張れ。」

 

「俺の試合全部勝つっす。」

 

「おう、そうだ、頑張れ。」

 

「地区大会、俺、優勝目指すっす。」

 

「おう、そうだ、頑張れ、その意気込みだ。」

 

「優勝して、県大会に美佳先輩を連れていくっす。」

 

「お、おう、そうだ、頑張れ。 ね、それタダだよね。」

 

「その時は俺の彼女になってほしいっす。」

 

「お、おう、そうだ、頑張れ。」

 

「う、うっす。 ほ、本当っすっか! 

 

 俺頑張るっす、あ、走ってくるっす。」

 

「おう・・・・・・・え?

 

 ち、ちょっと待っていまなんか?

 

 えっと、県大会がなんとかって・・・・・・あ゛!」

 

や、やば、わ、わたしなんてことを。

か、刈宿君、ど、どこ?

あ、あんなとこ走ってる。

ちょ、ちょっと待って。

ち、違うんだ、つい調子にのって、お~い待って~

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ~」

 

「え、どうしたの三ヶ木さん?」

 

「あ、なんでもない。」

 

「そう?」

 

なんでもなくないよ。

やってしまった。

訂正できなかったよ~

だ、だって周りに他の部員さんいるんだもん、話せないよ。

どうしょう。

帰りだって、なんか走って帰るってどっかいっちゃうし。

電話出てくれないし。

 

「はぁ~」

 

「ほら、また溜息だ。」

 

「あ、あのね、戸塚君、地区大会勝てそう?」

 

「どうかなぁ、僕たち公式戦、まだ一回も勝ったことないから。」

 

「そ、そう。 ふ~」

 

そうだよ。

自慢じゃないけど、うちのテニス部、公式戦未勝利なんだ。

まぁ、自慢じゃないけど。

だったら、心配することないか。

あはは、そうだ。

 

「あ、でもさ、今年は刈宿君が入ってくれたから、実は県大会狙ってるんだ。」

 

はぁ? ちょっと待って。

刈宿君一人入っただけで、未勝利のテニス部が県大会ってないでしょ。

と、戸塚君、夢だよね、夢だっていって。

 

「えっ、で、でもさ、一人入ったくらいで。」

 

「地区大会はダブルス1つとシングル2つだから、可能性はあるかなぁって。

 

 僕も最後の大会だから絶対勝つよ。」

 

「う、うん。 が、頑張ってね。」

 

「あ、あのさ、三ヶ木さん、刈宿君のことどう思ってるの?」

 

「は、はぁ、な、なにをいきなり。」

 

「彼は三ヶ木さんのこと特別な人だと思ってる。」

 

「え、わたしが特別な人?」

 

「三ヶ木さん、気付いてないはずないよね。

 

 今回、彼がイライラしてたのって、三ヶ木さんのことが原因じゃない?」

 

「そ、そうかなぁ?」

 

「先週の土曜日の部活終わってからだから、

 

 夕方以降から日曜日になにかなかった? ケンカしたとか。」

 

「土曜日の夕方以降? 刈宿君とは会ってないよ。

 

 あ、なんかクーラーボックスもってきてくれたって。

 

 あっ!」

 

「なんかあったみたいだね。」

 

「う、うん。」

 

も、もしかしたら、あの公園で・・・・・見られた。

とうちゃん、会わなかったかって言ってたし。

 

「三ヶ木さん、これは僕がどうこう言うべきことじゃないのはわかってるんだ。

 

 だけど、だけどちゃんと彼のことも向き合ってあげてほしい。」

 

「う、うん。」

 

「彼にとって三ヶ木さんは特別な人なんだから。」

 

わたしが特別な人・・・・・か。




最後まで、ありがとうございます。

今回も更新が大変遅くなり、一人反省しています。

物語のほうはとうとうオリキャラが・・・

もうほんとにグダグダが続きますが、

また次話も見に来ていただければありがたいです。

※テニスの大会、架空の大会です。

 一応、三年生の最後の大会ということでお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奉仕部と生徒会

はぁ、また遅れてしまった。

ほんとに、週刊誌の先生ってすごい。

あ、すみません、今回も見に来ていただいてありがとうございます。

今回はvs奉仕部(というほどでもありませんが)

よろしくお願いします。


”ズキッ”

 

まだ痛い、やっぱこの前走ったのがいけなかったのかなぁ。

安静にしなさいって言われたのに全然守れてないや。

こりゃ長引くかなぁ。

 

「三ヶ木!」

 

ん? 今の声はたしか、えっとどこだ?

 

「ここだ。 ほらこっち。」

 

「あ、稲村君、へ、待っててくれたの?」

 

「ああ、高校まで送るから後ろ乗れ。」

 

「うん、ありがと。 はっ、待てよ、い、いくらなの。」

 

「いや、お金とらないって。

 

 まだ、足痛いんだろう。」

 

「うん。 じゃぁ、お願いします。

 

 うんしょっと。」

 

「しっかり掴まってろよ。」

 

「了解! 稲村君、出発しんこ~、なすのおし 」

 

「それ、まずいからやめろ。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

ん~、稲村君、来てくれて助かった。

あ、ちゃんと段差避けてくれてるんだ。

へぇ~感心感心。

 

「なぁ、三ヶ木。」

 

「ん?」

 

「お前太ったろ。」

 

げ、そうなんだ、最近クレープの試作ばっかりやってたから。

ちょっとお腹周りやばいかも。

どうしよう、夏近いのに。

 

「・・・・・・・・・やっぱり、わかる?」

 

「いや、適当に言っただけだが。」

 

”ベシ”

 

「いたぁ。」

 

「くそ、少しでも気を許したわたしが馬鹿だった。」

 

「ははは。 まぁ、話は変わるけどさ、ちゃんと勉強してるか?」

 

「はぁ、なに? し、してるわよ・・・たぶん。」

 

「そうか。 進学しないからっといっても、ちゃんと勉強はしておけよ。

 

 絶対自分のためになるから。」

 

「う、うん、そうだね。 もう赤点取りたくないもんね。

 

 それはそうと、稲村君はもう志望校決めてるの?」

 

「ああ、俺は千葉工大だ。 あ、みんなには内緒だぞ。 二人だけの秘密だ。」

 

「え、秘密? わたし口軽いよ。」

 

「おい。 まぁ、いいけどさ。

 

 あ~あ、夏休みはずっと塾通いだ。」

 

「ね、塾ってどんなの? 学校の授業みたいなの?」

 

「三ヶ木、塾行ったことないのか?」

 

「うん。 だからどんなのかなぁ~って思って。」

 

「そっか。 なぁ、今度見に来ないか? 

 

 見学は無料だから。」

 

「え、無料? でも塾行かないんだよ?」

 

「まぁ、ほら、知っておいても損はないだろう。

 

 そうだ、その時、帰りにコーヒーでも奢ってやるよ。」

 

「ほんと? め、珍しい。

 

 じゃあ、行ってみようかなぁ。」

 

「ああ、じゃあ都合のいい日、連絡な。」

 

「うん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

"どさっ”

 

「これで最後か?」

 

「えっと、そうだね、それで最後だ。

 

 広川先生、お待たせしました。」

 

「もう積み残しはないか?」

 

「はい。」

 

「じゃあ、三ヶ木、後でな。」

 

「え?」

 

「稲村、一緒に乗って行ったらどうだ?」

 

「先生、軽トラって三人は無理でしょう?」

 

「いや、これ軽トラじゃないから。

 

 まぁ、ちょっと狭いかもしれんが三人乗りだぞ。」

 

「稲村君、一緒に行こ。

 

 自転車、荷台に乗るじゃん?」

 

「ああ、じゃ、お願いします。」

 

 

     ・

 

”キュルキュルキュル”

 

「きゃっ。」

 

”ギュ~”

 

「あ、ごめん稲村君。

 

 広川先生、も、もう少し安全運転で。」

 

「お、おう。」

 

”キュルキュルキュル”

 

「うぉっ。」

 

”ギュ~”

 

「あ、すまん三ヶ木。」

 

「う、うううん。 せ、狭いからね。

 

 き、気にしてないよ。」

 

”キュルキュルキュル”

 

「ひぇ~。」

 

”ギュ~、ギュ~”

 

「い、稲村君、ご、ごめんね。

 

 ひ、広川先生、もしかして運転久しぶり?」

 

「あ、ああ、大学以来。」

 

「せ、広川先生、と、止めて、降ろして~」

 

”キュルキュルキュル”

 

「うわぁ~」

 

”ギュ~”

 

「す、すまん、三ヶ木。」

 

「だ、大丈夫だから。 き、気にしてないから。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”ばたん”

 

はぁ、やっと着いた。

うぇ~なんか酔ったみたい。

げ、稲村君、固まってる。 あっ 

 

「ね、ねぇ、稲村君、大丈夫? 

 

 あのさ、鼻血出てるよ。 はいティッシュ。」

 

「え、あ、す、すまん。」

 

「さ、先に荷物運んでるね。」

 

「あ、ああ。 ごめん、今行くから。」

 

「稲村、ちょっといいか?」

 

「へ? あ、はい。」

 

「三ヶ木からいろいろ聞いてる。

 

 いつも悪いな、またあいつがなにか仕出かしそうだったら、叱ってやってくれないか?」

 

「え、あ、わかってます。 

 

 まぁ、俺は俺なりのやり方であいつと向き合っていきます。」

 

「すまんな。 あいつはすぐ一人で暴走しちまうからな。」

 

「わかってます。 あ、でも先生には負けるかと。」

 

「す、すまん。」

 

「お~い、なにしてんの? 行くよ~」

 

「あ、いま行く。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、おはようございます。

 

 今日はよろしくお願いします。」

 

「ああ、おはよう。

 

 えっと三ヶ木さんだっけ?

 

 今日はよろしくね。」

 

「はい。」

 

「あ、でも、本当にテントの位置、あれでよかったのかい?」

 

「ええ、ご無理言ってすみませんでした。」

 

「いいよ、クレープの差し入れ貰ったし。

 

 あれ、美味しかったよ。

 

 じゃあ、頑張ってね。」

 

「は~い。」

 

「三ヶ木、お前テントの位置ってなにしたんだ?」

 

「行けばわかるって。 さ、ちゃっちゃっと運んじゃうよ。」

 

     ・

 

「げ、三ヶ木、これマズイって。」

 

「こんでいいんだよ。」

 

「いや、だめだろう、ステージ挟んで隣同士って、嫌でも張り合うことになるって。」

 

「迷ったんだけど、はっきり言ってさ、奉仕部さんとこやばいじゃん。

 

 そりゃ雪ノ下さんが作ったクレープなら絶対美味しいけど、

 

 今日は二人だけだからね。」

 

「だったら、なおさら。」

 

「だから最悪の場合、わたし奉仕部のフォローに入るね。

 

 そのためにも見えるとこにいてほしかったの。」

 

「でもそれじゃ会長が黙ってないし、それに奉仕部さんも素直に受け入れないだろう。」

 

「そうだろうね。 でもさ、こんなの嫌だからさ。」

 

「・・・、まぁ、そうだな。 奉仕部さんにはいつも世話になってたし。

 

 だけど三ヶ木。」

 

”ゴン”

 

「いったぁ。」

 

「だから、一人で勝ってに動くな、相談しろ。

 

 まぁ、その時は協力するから、こっちは任せとけ。」

 

「う、うん。 へへ、稲村君ならそう言ってくれると思ってた。」

 

「さっさと運ぶぞ。  ほら、あそこ、本牧が待ってるぞ。」

 

「あ、いた。 お~い、本牧君。」

 

     ・

     ・

     ・

 

よしっと、準備は完了っと。

後は焼き始めるだけ。

それにしても、会長と書記ちゃん、遅いね。

 

”ボン、ボン”

 

「え~本日は総武商店街ふれあい祭りにようこそ。」

 

あ、始まった。 

会長来ないけど始めないと。

 

「ね、本牧君、そろそろ始めよっか。

 

 お客さん来ちゃうとね。」

 

「そ、そうだね。 じゃあ、始めよう。」

 

「うん、本牧君、稲村君、練習した通りの作業の分担でお願いね。」

 

「了解だ、三ヶ木さん。」

 

「ああ。」

 

”スタタタタ”

 

「お待たせです♡」

 

「ごめんなさい、遅くなりました。」

 

え、会長、書記ちゃん、それはメイドさん。

その準備してたの?

わ、わたしのは、ないんだよね。

ひど、わたしも着たかった。

文化祭の時からあこがれてたのに。

で、でも、悔しいけど・・・・

 

「可愛い。」

 

「ああ、そうだな。 かわいい。」

 

「・・・」

 

「お、おい本牧?」

 

「あ、本牧君、何か変かなぁ」

 

「い、いや、沙和、いや、書記ちゃんすごくいい。」

 

「副会長、わ、わたしはどうです?」

 

「え?、あ、いいですね。」

 

「な、すごくいい加減じゃないですか~

 

 もういいです。

 

 さぁみんな、ガンガン作ってくださいね。

 

 書記ちゃん、売りまくるよ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「「いらっしゃいませ。」」

 

「あの、いちごクリーム2つ。」

 

「はい、ご主人様。 

 

 美佳先輩、いちご2つお願いします。」

 

「あ、こっちはチョコクリーム一つ。」

 

「はい、畏まりです、えへ♡」

 

う、やっぱりジャリっ娘、適役だね。

ふ~混んできた。

急がないと間に合わないや。

昨日のうちに生地だけでも準備しておいてよかった。

しっかりなじんでるし。

 

「稲村君、本牧君、焦らないようにね。

 

 いい、丁寧に、品質のグレードを落とさないようにね。

 

 時間は気にしないで、そのために会長達いるんだから。」

 

「「お、おう」」

 

だけど、こっちがこれだけ混んでるってことは奉仕部のほうが。

げ、やっぱそうだ。

奉仕部さんのほうお客さんいないじゃん。

ま、まぁ、販売担当が比企谷君とうちの会長じゃこうなるよね。

 

     ・

 

「比企谷君、しっかり売りなさい。」

 

「いや、売れって客いないから。」

 

「いなければ、呼び込みしなさい。」

 

「俺が呼び込みして客来ると思うか?」

 

「はぁ、仕方ないわ。

 

 あなたが作りなさい

 

 そこにさっき準備した生地あるから、それを使って焼きなさい。」

 

「あ、おう、これか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっと、なんかお客さん減ったような気が。

あ、奉仕部さんのほう、お客さん並んでる。

 

「なぁ、あっちのクレープ屋のひと、すごく綺麗だぞ。」

 

「え、あ、本当だ。」

 

ん? あ、雪ノ下さんが販売担当に替わったのか。

さすがだね。

はぁ、ここから見てても綺麗だわ~。

げ、ジャリっ娘、機嫌悪そ~。

 

「む~、雪ノ下先輩、さすがですね。

 

 このままじゃまずいですね。

 

 やっぱり水着とかじゃないと。」

 

お、おい、いま水着って言わなかった?

そ、そこまでしなくてもいいって。

ほ、ほら、本牧君、顔青ざめてるし

あ!

 

”ゴン”

 

「いってぇ。」

 

「なに嬉しそうにしてるの。」

 

「え、い、いやしてない・・・・・・・・ごめんなさい、ちょっと期待してました。」

 

「全く、この馬鹿村は。

 

 まって会長、水着って何でそこまでするの?」

 

「だって、この売上げって福祉団体に寄付するじゃないですか~。

 

 ほら、その時、新聞に写真載りますよね。

 

 毎年、会長だけですけど、今年は生徒会役員全員の写真にしたいんですよ。

 

 みんなを載せるんだったら、しょぼい金額では嫌じゃないですか~」

 

「「会長。」」

 

「会長、大丈夫だって。

 

 水着になんかならなくても、客足は戻ってくるって。」

 

「え、なんでそんなことわかるんですか。」

 

「あのさ、雪ノ下さんが、お客様に愛想ふるえると思う?

 

 例えばさ、”写真いいですか?”とかいわれても、”ここはクレープを売る店よ。

 

 クレープいらないのなら帰って頂戴。”とか言いそうじゃん。

 

 それに、今クレープ作ってるの比企谷くんじゃん。

 

 雪ノ下さんにはかなわないけど、クレープの美味しさじゃ負けないから。

 

 だから、今のままで大丈夫だって。」

 

「そ、そう?」

 

「そう。 それよりさ、ちょっと早いけど、交代でお昼とかとっておこう。

 

 えっとね。」

 

”がさがさ”

 

「はい、おにぎりと漬物だけど、良かったらみんなの分作ってきたから。」

 

「あ、わたしもみんなのお弁当作ってきたよ。」

 

「げ、書記ちゃんまで。 

 

 わ、わたしは、ほ、ほら、あんまり沢山お弁当持ってきて残したらと思って。

 

 だから、我慢して作ってこなかったんですよ。

 

 あ、なんですか、美佳先輩、その目は。

 

 さ、早速ですから、交代で頂きましょう。」

 

「「頂きま~す。 会長、留守番よろしくです。」」

 

「えー、な、なんでですか、みんなして。」

 

 

     ・

     ・

     ・

 

 

”がやがや”

 

「なぁ、雪ノ下、生地なくなりそうだから、ちょっと作るわ。」

 

「ええ。 できるわよね。」

 

「まぁ、やってみる。」

 

     ・

 

「すみません、写真いいですか?」

 

「お断り。  ここはクレープを売ってるの。

 

 クレープいらないのなら帰っていただけるかしら。」

 

「え、あ、じゃあ、バナナクレープ一つください。」

 

「比企谷君、バナナクレープ一つ。」

 

「お、おう。」

 

「はい、どうぞ。」

 

「あ、はい。」

 

”ぱく”

 

「げ、なんか粉っぽい、生地焦げてるし。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、あっちのクレープ、なんか美味しくないって。」

 

「え、本当?」

 

「なんか焦げてたり、破けてたり、それに待ってる時間チョー長いんだって。

 

 あ、それと、店の人綺麗だけど、愛想悪いって」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すみません。 チョコクリーム二つお願いします。」

 

「はい、畏まりです。 ありがとうございます、えへ♡」

 

「か、かわいい~、ね、ねぇ、写真いい?」

 

「え~、いいですよ。 でも可愛くとってくださいね。」

 

「は、はい。」

 

げ、やば、チョー忙しい。

やっぱり客足戻ってきたね。

生地はいっぱい準備してあるから大丈夫っと。

あっ、奉仕部さんのほうは・・・・やっぱりね。

悪いけど、今の奉仕部さんにこの生徒会が負けるはずがない。

 

だって今日はピースが足りないんだ。

だから絶対生徒会が負けることはないんだ。

だけどこのままじゃ、あっちやばいよね。

 

「ねぇ、稲村君。」

 

「ああ、わかってる。 行って来いよ。」

 

「ごめんね。」

 

「会長に見つかったら何とかごまかしとくわ。

 

 え~と、大きいほうとか。」

 

”べし”

 

「いたっ、じょ、冗談だって。」

 

「馬鹿者。 まぁ、ありがと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「まったく、あれだけ練習したのになぜこうなるのかしら。」

 

「いや、あれだけお客が並んでたら、さすがに焦るだろう。

 

 それに、時間つなぐのはお前の役目だろう。

 

 写真ぐらい撮らせてもいいんじゃないか。」

 

「あら、私たちはクレープを売ってるのよ。」

 

「いや、しかしだなぁ。」

 

あ、やっぱ雰囲気悪くなってた。

ここはやっぱ断られるかもしれないけどさ、いやだもん、こんなの。

 

「あ、あの 」

 

「ヒッキー、ゆきのん、ほら、お客さま待たせてるよ。

 

 いらっしゃいませ。

 

 えっと、なににします?」

 

「あ、あの~、バナナチョコを一つ。」

 

「はい、ありがとうございます。

 

 あ、少し時間がかかるかもしれないんですけどいいですか?」

 

「え、あ、はい。」

 

     ・

 

「へぇ~、すごいんだ。」

 

「そ、そう?」

 

「由比ヶ浜さん、お待たせ。」

 

「あ、はい。 すみません、お待たせしました。」

 

「ありがとう。 あ、楽しかったです。」

 

「ありがとうございます。 また来てくださいね。」

 

「はい。」

 

「もう、ヒッキーもゆきのんも、お客さま待たせて何やってんだ~

 

 ほら、ゆきのんは次の準備して。 

 

 ヒッキーは・・・・・・・えっと、そう雑務担当。」

 

「俺、雑務かよ。 

 

 でも、お前、今日は昼から三浦たちと出かけるんじゃなかったのか?

 

 たしかカラオケ行くとか。」

 

「え、ああ、えへへ、来週に変更。  

 

 だって、あたしだけのけ者は、やっぱりやだ。

 

 あたしも奉仕部だからね。」

 

「そ、そうか。」

 

「そうだ、そうなのだ。」

 

「由比ヶ浜さん、ありがとう。」

 

「ゆきのん、ヒッキー、さぁ、頑張るよ。

 

 でもさ、なんで生徒会と別々なの?」

 

「まぁ、いろいろとあってだなぁ。 なぁ、雪ノ下。」

 

「・・・・・・・」

 

ゆ、結衣ちゃん、さすがだ。

やっぱり結衣ちゃんがいると奉仕部ちがうね。

はぁ~、やっぱりこの三人の間には入り込めないや。

比企谷君が大事にしてるものってこの雰囲気なんだ。

やっぱ、特別なんだね、比企谷君にとって。

 

げ、まてよ、やば、ピースが揃っちゃったじゃん。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あれ、三ヶ木、もういいのか?」

 

「あ、う、うん。

 

 やっぱりあの中には入れなかった。」

 

「そ、そうか。

 

 なぁ、三ヶ木。」

 

「うん?」

 

「おかえり。」

 

「え、あ、た、ただいま。」

 

そうだ、わたしには生徒会のみんなが。

ここがわたしの居場所。

わたしにとって特別な場所。

ありがと、稲村君。

 

「むむむ、あれは結衣先輩じゃないですか。」

 

「えっと、なんかお客さん減ったね。」

 

「Tシャツにあの胸は卑怯ですって。

 

 ほら、奉仕部さんのほうのお客様、男の人ばっかりじゃないですか。」

 

「まぁまぁ、会長、次のステージはちびっ子ダンスとキャラクターショーですから。

 

 そこで挽回しましよう。」

 

「ふむ、次は幼児向けのステージが続くんですね。」

 

「ええ。 あ、会長、ほら、ちびっこ向けのハーフサイズ作ってみました。

 

 え、会長、聞いてる?」

 

「・・・・・・・・・・ふむ、書記ちゃん、最終兵器の出番みたいです。」

 

「いろはちゃん、いつでも準備OK。」

 

え、最終兵器?

さっき水着っていってたから、え、もしかして最終兵器っては、はだか?

じゃ、ジャリっ娘、それはだめだって。

 

「会長、も、もっと自分を大事に。 へ?」

 

”がし”

 

え、なに? ジャリっ娘、書記ちゃん、へ、な、なにするの?

 

「行くよ、書記ちゃん。」

 

「はい、いろはちゃん。」

 

”ダー”

 

え、な、なに? どこ連れてかれるの?

 

「ちょ、ちょっと会長、ど、どこに行くの?」

 

「いいからです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

な、なんでこ、こうなった。

 

「あ、鹿ちゃんだ。」

 

「鹿ちゃん。」

 

”わいわい”

 

ち、違うから。

鹿じゃなくてトナカイだから。

なんでトナカイのコスを。

ジャリっ娘、わざわざ学校から持ってきてたの。

く、くそ~、これ暑いんだからね。

だってクリパの時のだもん。

 

「いらっしゃ~い、鹿ムスメのクレープ屋さんだよ。

 

 鹿ムスメがクレープ作るよ。

 

 さ、美佳先輩。」

 

くそ~、このジャリめ、お、覚えてろよ。

え~い、やけくそだ!

 

「し、鹿ちゃんだよ、美味しいクレープ焼いてるよ。

 

 よかったら食べていってね。

 

 ほら、ちびっこサイズもあるからね。」

 

「あ、鹿ちゃんクレープ焼いてる。」

 

「鹿ちゃんかわいい。」

 

「お母さん、一個買って。」

 

「すみません、ちびっこサイズのイチゴ1つください。」

 

「は~い、鹿ちゃん、ちびっこサイズのイチゴ一つお願いします。」

 

「は、はい。」

 

     ・

 

「な、あれ三ヶ木か。」

 

「あ、あの着ぐるみ、ほらクリパ―の時のじゃん。」

 

「暑そうね。」

 

「ダンス終わった子たちでいっぱいだね。

 

 へへ、美佳っち嬉しそう。」

 

「そうね。 三ヶ木さんってああいうの向いてそうね。」

 

「うん。 あのね、美佳っち、保母さんになるのが小さいころからの夢だったんだって。

 

 職場体験の話した時もさ、すっごく嬉しそうだった。」

 

「やっぱり、あいつそうなんだよな。」

 

”わいわい”

 

「でも、あれは反則だろ。 

 

 クレープ買う買わないにしろ、子供ほとんどあっちいったじゃねぇか。」

 

「仕方ないわね。

 

 比企谷君、あなた、ランニングシャツに半ズボンになりなさい。」

 

「お前マジで行ってるのか?

 

 それって、某千葉のゆるキャラだろう。

 

 あれ、かわいくねぇぞ。 この場合、逆効果だ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

暑い、暑い、暑いよ~

も、もうすぐキャラクターショーだ。

そ、そこまでは。

で、でもさ、なんか、なんかさ。

 

「は~い、ほらチョコクレープできた。」

 

「うわぁ、鹿ちゃん上手。」

 

「わたしもほしい。」

 

「ちゃんと並んでね。」

 

「「は~い」」

 

へへ、やっぱ小っちゃい子ってかわいい。

職場体験、思い出すな~

あんときもいっぱい遊べてたのしかったなぁ。

わたし、小っちゃい子大好き。

 

あ、あの子、よそ見して走ったら危ないよ。

 

”ずでん”

 

げ、転んだ、大丈夫?

 

「うぇ~ん。」

 

「やば、い、稲村君、あと頼んだ。」

 

「へ、お、おい。」

 

”ダ―”

 

「だ、大丈夫?」

 

「うぇーん、痛いよ。」

 

「どれ、あ、足ちょっと擦りむいたね。 

 

 ほかに痛いとこない?」

 

「うん、うぇ~ん」

 

「男の子がこのくらいで泣いてちゃ駄目だぞ。

 

 ほら、医務室までおんぶしてあげる。」

 

「う、うん。」

 

「うんしょっと。

 

 よし、えらいぞ。 もう少し頑張ってね。」

 

「うん。鹿ねぇちゃん、ありがとう。」

 

いや、トナカイだから

ふぅ~、まぁいいか。

 

「よし、鹿ねぇちゃんにちゃんと掴まっててね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「鹿ねぇちゃん、バイバイ」

 

「うん、もうよそ見して走ったら駄目だぞ。」

 

「うん。」

 

膝擦りむいただけだった。

やれやれ、たいしたことなくてよかった。

さ、仕事に戻らなきゃ。

 

「あ、こんなとこにいた。」

 

「へ?」

 

「さ、急いで、何やってたの。」

 

「え? あの~」

 

「ほら、時間ないよ。 すみません、いました。」

 

「?」

 

      ・

 

「ほら、出番です。」

 

”ドン”

 

「でたな、怪人。」

 

「え、あ、あの~わたし、怪人?」

 

「な、なにをとぼけてるんだ。

 

 いくぞ、商店街の平和を守る商店街マンのキックを受けてみろ。

 

 とりゃ。」

 

「きゃっ」

 

”ひょい”

 

あ、あぶな。

なにこの人、いきなりキックって。

 

”ズデーン”

 

「「わははは」」

 

「な、何でかわすの?」

 

「え、だって痛そうだもん。」

 

「ちゃ、ちゃんとやって。 

 

 くそ、よくもよけたな怪人、ほら商店街マンチョップ!」

 

”べし”

 

「いた~い。」

 

     ・

 

「あの~、すみません。 トイレ行ってたら遅くなっちゃって。」

 

「え、あれ? 怪人役の人?」

 

「あ、はい。」

 

「え、じゃあ、あれは?」

 

     ・

 

「よし、とどめだ。 いくぞ商店街マンキックだ。」

 

痛いよ。

あの人本気でぶつんだもん。

やだよ、キックってめっちゃ痛そうじゃん。

 

「鹿ねぇちゃん、がんばって!」

 

え、あ、あの声はさっきの男の子。

 

「鹿ちゃんがんばれ。」

 

「鹿ちゃんをいじめないで。」

 

「鹿ちゃ~ん。」

 

「商店街マンのバカ~」

 

「え、いや、あっち怪人だよ。

 

 俺、ヒーローのはずだけど。」

 

「「鹿ちゃん、鹿ちゃん、鹿ちゃん」」

 

みんな、ありがと。

よ、よし、もう怒ったからね。

よくもさっきから何発も。

 

「いくぞ、偽物ヒーロー、よくもいじめてくれたわね。」

 

「え、ちょ、ちょっとまって。」

 

「もう、ゆるさん。 抹殺のラストブリット!」

 

”ボコ!”

 

「ぐはぁ、いてぇ」

 

”どさ”

 

「「やったー、 鹿ちゃんが勝った」」

 

「正義は必ず勝つ! みんなありがと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「くくく、三ヶ木、ご苦労さん。」

 

「あ、稲村君、散々だったよ。 」

 

「怪人がヒーローに勝ってしまうなんて前代未聞だぞ。

 

 大丈夫だったのか?」

 

「なんか、来年も出てくれって。 

 

 商店街のゆるキャラにするって。」

 

「へ、出るのか?」

 

「もう勘弁。 それにこのトナカイさんは生徒会のキャラだって断ってきた。」

 

「そ、そうか、残念。」

 

「へ?」

 

「前もいったろ、俺はあのコスプレかわいいっと思ってたから、来年も見たいなぁって。」

 

「かわいい? 馬鹿、もう、汗だくで大変だったんだよ。」

 

「ほれ、ポカリ。 でもやせたんじゃないか?」

 

「え、そそうかな。 へへ、ありがと。」

 

「いや、冗談だ。そんなに簡単にやせるか」

 

「き、貴様。」

 

「ははは、テント戻るか。」

 

「うん、そうだね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ~」

 

え、ジャリっ娘、なんかすごく落ち込んでる。

えっと、あ、集計してたのか。

で、売上げどうだったのかなぁ。

 

「会長、どうでした?」

 

「美佳先輩、どうしよう。」

 

「え?」

 

「売上げ、材料費の分も出ないんです~」

 

「やっぱりね。」

 

「やばいです、やばいです。 とても寄付どころじゃないですよ。」

 

「ね、いろはちゃん、赤字だった分、みんなで補填しよう。」

 

「そうだね。みんなで割ろう。 おい稲村、計算。」

 

「あ、ああ。」

 

「あの、それ大丈夫だよ。」

 

「「え?」」

 

「美佳先輩、大丈夫ってどういうことですか?」

 

「あれ、言ってなかったっけ。

 

 ほらこの件は厚木の伝達ミスでしょ。

 

 だから平塚先生の前で厚木問い詰めて、学校で材料費は全部持ってもらうことにしたの。」

 

「え、き、聞いてませんよ。

 

 でも、じゃあ、これって売り上げ全部寄付に回せるってことなんですか?

 

 し、心配して損したじゃないですか~」

 

「す、すみません。

 

 あ、余った材料は広川先生が預かるそうなので。」

 

その代わり、平塚先生に個人的に条件付けられたけどね。

 

『この件は、確かに教師側の伝達ミスだ、

 

 しかしな、三ヶ木、この行事は決まっていたのだろう。

 

 確認を怠っていた生徒会にも責任があるんじゃないか。』

 

『そ、そうですけど、でもこのままじゃ多分、寄付なんて。』

 

『ふむ、そうだな。 ではこうしよう、材料費のかかった分は学校側でもとう。

 

 その代わり君にはだな 』

 

はぁ、あの条件、気が重いや。

まぁ、今は考えないようにしようっと。

 

「あ、三ヶ木先輩、だとしたら奉仕部さんの分もですか?」

 

「うん。 ちゃんと比企谷君に伝えてあるよ。」

 

「あ、いろはちゃん、奉仕部っていえば勝負はどう?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「一色さん、なにか大きなこと言ってなかったかしら。」

 

「ぐ、結衣先輩、反則です。」

 

「え、あたし?」

 

「だって、Tシャツにその胸、男の人みんなそっち行っちゃったじゃないですか。」

 

「あら、そこの鹿なんとかさんはどうかしら?

 

 なにかすごく子供に人気だったみたいだけど。」

 

「ガキ、いえ、子供と大人じゃ、購入単価が違いますよ。」

 

「まぁ、それぐらいにしとけって。

 

 それにこっちも由比ヶ浜が来てくれなかったら、やばかったんだから。」

 

「まぁ、そうね。

 

 じゃあ、一色さん、これ今日の売上げよ。」

 

「え、これは?」

 

「福祉団体へ寄付するのでしょ。

 

 もともとこの活動は生徒会の活動だから。

 

 私たちは自主的に協力しただけ。」

 

「雪ノ下先輩。」

 

「さ、いろはちゃん、後片付けは一緒にしよう。」

 

「はい、結衣先輩。 じゃあ、みんなよろしくです。」

 

     

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「はい、皆さん、新聞に乗せる写真撮りますので、集まってください。」

 

「先輩、先輩はこっちです。」

 

「いや、俺は端でいいって。」

 

「ダメです、わたしの横です。」

 

「なんでだよ。」

 

「決まってるじゃないですか~、わたしが引き立つからです。」

 

「おま、はぁ~、まぁいいわ。」

 

「スケベ谷君、鼻の下伸ばすのやめなさい。」

 

「いや、伸びてねぇって。」

 

「ヒッキー、後で話があるから。」

 

「はは、比企谷、モテるんだな。」

 

「本牧、お前に言われたくない。」

 

”がやがや”

 

「なぁ、三ヶ木、お前は隣行かなくていいのか?」

 

「うん、わたしは端っこが好きだよ。」

 

「そうか、じゃあ、今日は俺の横で我慢しろ。」

 

「うん、今日だけ我慢してあげる。」

 

「ああ、我慢しろ。」

 

「みなさん、もういいですか?」

 

「あ、すみません。」

 

撮りますよ、はい、チーズ!

 

”カシャ”

 

「あ、カメラマンさん、見せてもらっていいですか? えへ。」

 

「あ、どうぞ、会長さん。」

 

「・・・・・・先輩、やっぱりキモいです。」

 

「おい!」




最後までありがとうございました。

最近原作を読む時間がなくて、原作の感じがうすれてきたような。

(もともとですけど)

Blu-ray 早送りで確認したいかと。

第4章もそろそろ終盤。

また見て頂けたらありがたいです。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前夜祭

ほんといつもありがとうございます。
(毎回、同じ言葉でごめんなさい。 でもこの言葉しか浮かばないです。)

梅雨ですね。
むわ~とした空気が。
でも、時折、夏の雰囲気を感じます。

物語のほうはず~と梅雨のような雰囲気しか描けなく。

今回もすみません、梅雨です。
いつになったら夏空になるのか。

ご辛抱いただけたら、ありがたいです。 



「えっと、みなさん行き渡りました?

 

 今回は奉仕部、生徒会のみなさん、ご苦労様でした。

 

 ではでは、乾杯です。」

 

「「乾杯。」」

 

「「ご苦労様。」」

 

     ・

 

「ヒッキー、またそれだね。」

 

「おう、ミラノ風ドリアは俺のソウルフードだ。」

 

「まったく、いつになっても進歩のないことね。」

 

「ほっとけ。」

 

「まぁまぁ、ヒッキーもゆきのんも。」

 

「あ、結衣先輩、そのブレスレットいいですね。」

 

「あ、これ?

 

 うん、この胡蝶蘭のブレスレット、あたしもとっても気に入ったの。

 

 えへへ、誕生日のプレゼントってヒッキーが買ってくれて。」

 

「いや、買わされたんだが。」 

 

「え。」

 

「はぁ、なんですと!

 

 先輩、どういうことですか」

 

「はぁ? 仕方ねぇだろう、もうひとつのはめっちゃくちゃ高かったんだ。」

 

「いえ、そういうことではなくて、一緒に選びに行ったんですか?」

 

「あ、ああ、まぁ、呼び出されてな。」

 

「どういうことかしら、由比ヶ浜さん。」

 

「結衣先輩。」

 

「え、だっていいじゃん。 一年に一回だけだから。

 

 それに、ほ、ほら、ヒッキーに任せたら・・・・・趣味悪いし。」

 

「そ、そうね。」

 

「そうですね。」

 

「え、俺そんなに趣味悪いの」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、ちょっとごめんね。」

 

”スタスタ”

 

「もしもし。」

 

「あ、美佳先輩。 すみません電話大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫だよ。 いま部活終わったの?」

 

「うっす。 いまから帰るとこっす。」

 

「ご苦労様。

 

 ねぇ、あのさ、お母さんとは仲直りできた?」

 

「・・・・・」

 

「そっか。」

 

「勝手に俺の進路を決めてもらいたくないっす。

 

 俺の進路は俺が考えます。

 

 あ~あ、おかげでクレープ食べ損なったっす。」

 

「あは、そうだね。」

 

「美佳先輩、俺、絶対地区大会勝ち抜きますから。」

 

「・・・・・・う、うん。

 

 あ、そろそろ戻るね、みんな待たしてるから。」

 

「うっす、また明日っす。」

 

「うん。じゃあね。」

 

はぁ、どうしよう。 

・・・・・・・・・・・・・・・どうしょう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、また明日ね。

 

 行こ、ゆきのん。」

 

「また雪ノ下のとこに泊まるのか? まぁお前ら気を付けてな。」

 

「うん、ヒッキーも車に気を付けてね。」

 

「え、あ、おう。」

 

「先輩、お待たせです。 帰りましょう。」

 

「いや、待ってないし、一緒に帰らない。」

 

「はぁ~、なんでですか?」

 

「家の方向、別々だろう。 俺はまっすぐ小町の待つ家に帰りたい。」 

 

「ちぇ、なんですか、もう。

 

 いいです、小町ちゃんには敵わないですから。

 

 それより先輩、来月はよろしくです。」

 

「え、やっぱりマジなの?」

 

「当たり前じゃないですか~

 

 結衣先輩と抜け駆けした罰です。

 

 それにどうしても男子足りないんですよ。」

 

「俺、一応、受験生なんだが。」

 

「あ、それと、わたしと先輩が出会ってもうすぐ一年目ですね。」

 

「ね、聞こえてない? 俺、受験生。

 

 いや、まて、一年目って生徒会選挙の時期はまだまだだろ。」 

 

「違いますよ。

 

 初めて出会ったのは、えっとS1グランプリ? じゃないですか~」

 

「あれ、お前気が付いてたのか。」

 

「あ、えっと、葉山先輩を隠し撮りした写真の隅っこにみつけました。」

 

「それって出会ったことになるのか?」

 

「なるんです。 ですから、一年目のプレゼントよろしくです。」

 

「待て、それ俺だけじゃないだろう、雪ノ下や由比ヶ浜もだろう。」

 

「こんなこと、雪ノ下先輩や結衣先輩に言えるはずないじゃないですか~

 

 ・・・・・それに先輩からほしいんです。

 

 それではよろしくです。 えへ♡」

 

「お、おう。 ・・・・あ、え、それおかしくないって、行っちまいやがった。

 

 さて帰るか。

 

 ん?」

 

はぁ~どうしよう。 

謝るにしてもあんまり遅くなったら。

 

彼にとってわたしは特別か。

わたしにとっての比企谷君のような。

比企谷君にとって結衣ちゃん達のような存在ってこと?

 

素直にさ、彼の気持ちはうれしい。

こんなわたしなんかを好きだって。

 

で、でもわたしは、わたしはやっぱり・・・・・比企谷君が。

でもどう話すればいいのかなぁ。

 

「三ヶ木、どうした?」

 

「えっ! あ、ひ、ひき、比企谷君。

 

 帰ったんじゃないの?」

 

「まぁ、お前が見えたんでな。

 

 で、どうしたんだ?」

 

「あのさ・・・・・あの、うううん、何でもない。」

 

「そ、そうか。 まだ帰らないのか? 」

 

「う、うん。 もうちょっと。」

 

「そ、そうか? じゃあな。」

 

「うん。」

 

はぁ~、言えないよ、言えるわけない。

でも、もしわたしが刈宿君からって言ったら。

比企谷君はどう思ってくれるんだろう。

やきもち・・・・・やいてくれないかなぁ。

はぁ~、あるわけないか。

 

「ほれ、ミルクティ―。」

 

「え、あ、あれ? 比企谷君、帰ったんじゃ。」

 

「ん? ま、まぁ、ちょっとマッ缶飲みたくなってな。」

 

”どさ”

 

「それで、なにがあったんだ?」

 

「う、うん・・・・・あ、あのね・・・あのさ、

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 あ、あのね、7月にさ、・・・・・会があってさ。

 

 それでね・・・そ、そん時、その時ね、もし県大いけたら、わたしね・・・・・・

 

 どうしょう、ね、比企谷君はどう思う?

 

 比企谷君、比企谷君はわたしにどうしてもらいたい?」

 

「いや、どう思うって、ところどころ聞き取れにくかったんだが、お前、県大って。

 

 そうか、そうだな、もうすぐ7月だし、そろそろはっきりしないといけないな。」

 

え、はっきりって。

わたしのことはっきりするってこと?

ふられるのかなぁ。

でも、もしかしたら。

 

「ただな、このことは、俺がどう思うってことが大事じゃない。

 

 いいか、お前の人生を左右することだ、お前が決めないと後悔するぞ。

 

 大切なのはお前の気持ちだと思う。

 

 このことにつては、自分の想いを通したらどうだ。」

 

「う、それはそうだけどさ。」

 

「な、前みたいに切れるなよ。

 

 お父さんには相談したのか?

 

 きっとお父さんも理解してくれると思うぞ。」

 

「へ? こんなこと相談できるわけないじゃん。」

 

「いや、絶対相談しないとダメだろう。」

 

「こんなこと、ひ、比企谷君もご両親に相談するの?」

 

「たまにはな。

 

 まぁ、俺の想いはもう決めているが。」

 

「え、もう決めてる・・・・あ、あのさ、それっていつ決めたの?」

 

「まぁ、以前から思っていたのだが、まぁ職場見学のあたりだな。」

 

「職場見学のあたりって、そんなに前から決めてたの。

 

 なら、さっさとはっきりしてくれればいいじゃん!

 

 もう帰る。」

 

「いや、何で怒ってんだお前。

 

 あ、送ってくわ。」

 

「いい。 一人で帰る。

 

 ・・・・・・・・比企谷君のバ~カ。」

 

”スタスタスタ”

 

「なんだ、なに怒ってんだ?

 

 まあ、あいつ、県大行きたかったのか

 

 へ、県大ってどこだ? 千葉大学は国立だし、千葉県立保健医療大学か?

 

 あいつ看護師とかなるのか

 

 まぁ、奨学金とか調べてみるか。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

あのバカ、気持ち決めてるんならはっきりしろってんだ。

 

・・・・・いや、はっきりしてたよね。

そうだよ。

わたしもわかってたじゃん。

はぁ~、どっちなんだろう。

どっちでも敵わないんだけどさ。

 

大切なのは自分の気持ちか。

卑怯だよ比企谷君。

わたしの気持ち知ってるくせに。

もう決めてるからお前とは付き合う気はないとか、ちゃんと言ってくれればいいじゃん。

 

はぁ~、くっそあの野郎。

絶対、今度の女子会でとっちめてやる。

まぁ、欠席裁判だけど。

 

ごめんね刈宿君。

それでもさ、決してこっち見てくれないってわかっててもさ、わたし比企谷君のこと好きなんだ。

わたしのほうこそはっきりしてなくてごめんね。

今日、ちゃんと謝るね。

ゆるしてくれるかなぁ。

 

えっと、どこにいるんだろう。

あ、いたいた。

いつもさ、部活終わったらすぐいなくなっちゃうから、

今日は絶対つかまえるよ

 

”ブゥン”

 

”ダー”

 

”ブゥン”

 

へぇ~、よくあんなに左右に動けるね。

さっきからずっとフォア―とバックハンドの素振りしてる。

 

結構きつそうだね。

もう5分ぐらいずっとやってるよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

ええ、また素振りするの?

今日はずっとあの練習してる。

やっぱり結構ハードなんだ。

すごいや。

 

「美佳先輩、なにしてるんですか~」

 

「あ、いえ、あの~別になにも。」

 

「え~と、あ、あの子、へぇ~」

 

”にやにや”

 

「え、な、なに?」

 

「いえいえ、美佳先輩も女子してるなぁ~って。」

 

「はぁ? あ、いや違うから、そんなんじゃないから。」

 

「まぁまぁ、いいですって、内緒にしておきます。

 

 特に、稲村先輩には。」

 

「いや、ほんと違うんだけど。」

 

「それよりも7月の林間学校の件で相談したいんですよ。」

 

「え? あの~、林間学校って、なに?」

 

「あれ、言ってませんでしたっけ。

 

 なんでも7月に小学校の林間学校があって、平塚先生からそのお手伝いを頼まれてるんですよ。

 

 なにか、おもしろそうなので受けちゃいました。えへ♡」

 

「いや、えへって、あの、本牧君も稲村君も受験生だから、

 

 夏休みって塾とかで忙しくない?」

 

「あ、その二人ならもう了解とってますよ。

 

 まぁ、たまには息抜きも必要じゃないですか~

 

 それに・・・・・・ほら夏休み終わったら文化祭とか体育祭とかあって、

 

 あっという間に生徒会選挙じゃないですか。

 

 忙しくなる前に、もっとみんなと一緒に思い出作っておきたいなぁ~って。

 

 あ、これ会長命令ですからよろしくです。」

 

げ、こ、断れないのね。

もう決定事項なのね。

本牧君、稲村君大丈夫かなぁ

 

「あ、でも美佳先輩は受験勉強はいいんですか?」

 

「あ、う、うん。 わたしはいいんだよ。」

 

「へぇ~、美佳先輩そんなにできましたっけ。」

 

「おい。」

 

「あ、ま、まぁいいです。

 

 それでは、来週から生徒会室集合よろしくです。」

 

”しゅぱっ”

 

いや、その敬礼もういいから。

まぁ、可愛いからいいけど。

 

はぁ~、まったくあのジャリっ娘は。

あ、来週からってことは、今週のうちに刈宿君に謝らないと。

 

はっ、ぶ、部活終わってる。

あれ、刈宿君は・・・・・げ、もういないじゃん。

 

はぁ~、やっぱ、電話にしょうかなぁ、

でも、こんなことはやっぱりちゃんと会って言わなくちゃ。

うん、明日こそだ、うん。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

今日こそは絶対に謝らないと。

あ、今日はコートにいる。

あ、今からノックだったけ、ラケットなんとかだったけ?

それやるんだ。

 

あっ、刈宿君、なんかコートにコーン置いてる?

 

「いくよ、刈宿君。」

 

「うっす、戸塚先輩お願いします。」

 

 

”バシ”

 

”ボコ”

 

え、あ、あのコーンめがけて打ち返してるんだ。

す、すご。

 

「けふこん、けふこん。

 

 そこにいるのは三ヶ木女子ではないか。」

 

「うん? あ、義輝君。」

 

「ふむ、ちょうどよかった。」

 

”がさがさ”

 

「はぁはっはっはー、ほれ、とうとう我の新作ができたのだ。

 

 約束通り、まっさきに貴殿に読ませて進ぜよう。」

 

「え、あ、了解。

 

 ね、ヒロイン助けてくれたんでしょうね。

 

 じゃないと、抹殺の 」

 

「ひぎぃ、それは読んでからの楽しみではないか。」

 

「まぁ、それはそうね。 うん、じゃあ読ませてもらうね。」

 

「もはははは、大作故、心して読まれよ。

 

 あ、それと、夏休みにまた集会があるのだが。」

 

「もう行かん。 めっちゃ恥ずかしかったんだから。

 

 あのコス、パツパツでお尻のとこ破れちゃったじゃん。」

 

「あれ、この前行くって? それにあれは三ヶ木女子がすこし太って 」

 

”ベシ”

 

「げふ。」

 

「絶対行かないから。」

 

「仕方ない、折角のアカ俺の集会だったから誘ったのだが。」

 

「行く、絶対行くから、連絡頂戴。

 

 絶対だよ。 連絡なかったら承知しないからね。」

 

「ゴラムゴラム。よかろう、それほど頼まれては連れて行かないわけにはいくまい。」

 

「あ、でも。コスはチェックするからね。」

 

「ふむ、ならば準備ができたら連絡する ではさらばじゃ。」

 

「おう、サラダバー」

 

へへ、諏訪山さんにまた会えるかなぁ。

 

うん? あー、練習終わってる。

刈宿・・・・・・・・いない。

ぐぅ、やばい

あ、明日こそ。絶対

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”きょろきょろ”

 

き、今日は誰も来ないよね。

は、でも見つかるといけないから、あの物陰に隠れてよ。

 

あ、今日は試合してるんだ。

でも二対一なんて卑怯だよ。

 

「ほらほら、狩也、へばったのか」

 

「まだまだっすよ。」

 

”バシ”

 

”パン”

 

「はっ!」

 

”スパーン”

 

「ナイス、狩也。」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、う、うっす。」

 

はっ、なによ、うっすって。

サアムズアップカッコいいじゃん。

思わず見とれちゃったじゃんか。

 

「ふむふむ、やっぱりやりますね。刈宿君。」

 

え?

 

「あ、舞ちゃん。何でこんなとこに。」

 

「ジミ子先輩こそ、こんな物陰でなにしてるんですか?

 

 もしかしてストーカー?」

 

「い、いや違うから。」

 

「でも、ずっと刈宿君見てたじゃないですか?」

 

「いや、あの、いろいろあってね。」

 

「まぁ、わたし的にはもういいですけど。」

 

「え、もういいの?」

 

「だっていくら頑張って追いかけても、全然こっち見てくれないだもん。

 

 そんなのって、追いかけても辛いだけじゃないですか。

 

 まったく、誰かさんのせいですからね。

 

 だから、来月も部活紹介、付き合ってもらいますからね。」

 

「え、来月も。

 

 そうです。 来月は野球部さんですからアポお願いします。」

 

「うへぇ、了解。

 

 でも、そろそろ瀬谷君達と一緒にやったらどう?」

 

「だめです、わたしこれでもできる女子ってことになってるんですから。

 

 あ、カメラマンもお願いしたいので、稲村先輩もお願いしますね。」

 

「いや、彼受験とか生徒会とかあるから。」

 

「あ~あ、誰かさんのせいで失恋しちゃったなぁ~

 

 ね、ジミ子先輩。」

 

「う、うっす。」

 

「なんですかそれ。 まぁ、いいです。 お願いしますね。」

 

く、くそ~、よ、よし瀬谷君にチクってやる。

は、そ、そんなことより

げ、やっぱ部活終わってる。

刈宿君いないじゃん。

 

くそ、舞の野郎、今度泣かしてやるから。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「そうですか、美佳がそんなことを。」

 

「はい、ただ、美佳さんの担任としても、本当にこれでいいのかと思い、

 

 お父さんにお時間を頂いたわけです。」

 

「ありがとうございます。

 

 ここに引っ越してきたときのわたしは、ご存じのとおり妻も次女も失った後で、

 

 それに仕事もうまくいかなくて。

 

 あの子にはつらい思いばっかりさせてきました。

 

 あの子が悪いんじゃないってわかっていながら、つい辛く当たることも。

 

 それでもあの子、いつもわたしの前では明るく笑ってくれて、とうちゃん、とうちゃんって。」

 

     ・

 

『とうちゃん、美佳ね、大きくなったら保育所の先生になるの。』

 

『とうちゃん、あのね、今日公園でね、えっと、木材屋君ってお友達できたの。

 

 いろんなんとこ探検したんだよ。』

 

『あ、とうちゃんおかえり。

 

 ご飯できてるよ。 あんまり美味しくないかもしれないけど、ちゃんと食べてね。』

 

『とうちゃん、ちゃんと洗濯物だしといてっていったでしょ。 もう!』

 

『とうちゃん、今月も残業ご苦労様。 ありがとね。』

 

『とうちゃん、背中流してあげる。』

 

     ・

 

「でも、見ちゃったんです。

 

 たまたま出張から早く帰れて、そして玄関開けたら、

 

 美佳、仏壇の前で泣いてたんです。

 

 わたしの顔見るなり、とうちゃん、ごめんなさい、ごめんなさいって

 

 もう顔ぐちゃぐちゃにして。」

 

「そんなことが。」

 

「無理してたんだなぁって。この子なりに必死で我慢してきたんだなぁって。

 

 小学校のころから家のことは全部自分がって、でもそうやって何かしてないと

 

 この家で一人きりは耐えられなかったんだろうなぁって気が付いたんです。」

 

「そうですか。」

 

「美佳はあの事故は自分が原因と決めつけていて、いまでも自分を責め続けてるんです。

 

 だから、進学の件も心のどこかでそのことが影響してるのかもしれません。

 

 あ、でも、そんなあの子がひとつだけわがまま言ったんですよ。 

 

 総武高に行かせてくれって。」

 

     ・

 

『とうちゃん、ごめんなさい。

 

 わたし、やっぱり総武高にいきたい。

 

 かあちゃんの行ってた学校に行ってみたい。』

 

     ・

 

「今思えば総武高、行かしてよかったと思います。

 

 高校に行きだしてから、めぐりちゃんもいたから、あの子すごく楽しそうで。

 

 特に去年の秋ごろからは、家でも学校のことばっかり話して。

 

 あの子もすこしづつ変わってくれてるのかと思います。

 

 すみません、学校側としてもあまりお時間ないのはわかっていますが、

 

 もう少しだけ待っていたけないでしょうか?

 

 必ず、美佳と納得いく結論出します。」

 

「お父さん、美佳さんはわたしの大事な生徒です。

 

 お二人が十分に納得されるまで、お待ちしています。」

 

「ありがとうございます先生。」

 

「それでは。」

 

「あ、はい。 今日はありがとうございました。」

 

”ガチャ”

 

「ねぇちゃん、そっちいったぞ。」

 

「おう、任せとけ。 

 

 ん~と。」

 

”パシ”

 

「ほら捕ったぞ、アウト~」

 

「こら美佳、お前、なにしてるんだ。 捻挫してるんだぞ。」

 

「あ、だって~、メンバー足りなかったんだもん。」

 

「まったく。」

 

「ははは、よし、三ヶ木、私が代わってやろう。」

 

「え~おばちゃん、野球できるの。」

 

「お、おば、おばちゃん! このガキゆるさん。

 

 衝撃の 」

 

「せ、先生まって、相手、しょ、小学生だから!」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

う~、やばい。

もう大会明後日だよ。

土曜は平塚先生、日曜はさがみんにつかまったし。

くそ、プレゼントだけ渡して帰ろうと思たのに。

 

けど、さがみん喜んでくれてよかった。

あ、こんど女子会に誘ってみようかなぁ。

今のさがみんなら、結衣ちゃんも雪ノ下さんも受け入れてくれると思うんだ。

 

議題は、もちろん”比企谷八幡を糾弾する”だね。

そうだ、沙希ちゃんの”愛してるぜ事件”を追及してやろう。

 

は、そんなことしてる場合じゃない。

 

生徒会で終わってからすぐ来ても、もう刈宿君いないから、今日、早引きしたんだ。

会長、なんかニヤニヤしてたけど。

 

けど、今日しかないよね。

もう時間ない。

えっとどこだ刈宿君?

 

あ、みんなコートに集まってる。

 

「えっと、いよいよ明後日から地区予選が始まります。

 

 今回は団体戦だけだから、僕達三年生の3人と部内対抗戦で優勝した刈宿君の4人で挑みます。

 

 僕たち三年生の3人にとっては最後の大会になるけど、後悔のない試合をしたいと思います。

 

 残りの1、2年生のみんなの分も頑張るからね。

 

 応援、よろしくお願いします。」

 

「「はい」」

 

「じゃ、今日も声出していこう。」

 

戸塚君、しっかり部長してるね。

努力家だもんね。

いつも間にか、昼休みもみんな練習に参加してたし。

背中で引っ張るタイプなんだろうな。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご苦労様でした。」

 

「また明日。」

 

「あ、美佳先輩。」

 

「今日は走って帰らないの?」

 

「うっす、明後日、試合ですから。

 

 俺、頑張るっすね。」

 

「え、あ、う、うん。  あ、あのさ・・・」

 

「美佳先輩、俺少しでも戸塚先輩たちと一緒にテニスしたいっす。」

 

「え?」

 

「だってこの大会で負けたら、即、戸塚先輩達、部活引退なんすよ。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

「俺、戸塚先輩達、結構好きなんです。

 

 練習とか厳しいけど、でもよく見ててくれて。

 

 ちょっと無茶しようと思ったら、めっちゃ心配して怒ってくれるんですよ。

 

 だから少しでも長く一緒にテニスしたいっす。」

 

「そっか、戸塚君達、三年生もずっと頑張ってきて最後の最後なんだもんね。」

 

「うっす。 だから俺絶対負けないっす。

 

 あ、でも負けたくない一番の理由は美佳先輩っすから。」

 

「あ、」

 

「俺、死ぬ気で頑張ります。」

 

「だめ!」 

 

「え?」

 

「死んだら駄目。」 

 

「いや、そ、それくらいの気持ちでって。」

 

「そんな簡単に死ぬなんていったら駄目。

 

 死んだら、死んだらなんにもできないんだよ。

 

 もう、一緒に遊ぶことも、ケンカすることも、て、手を握ってあげることもできなんだ。

 

 わたしは、わたしの周りにいてくれる人、もう誰もいなくならないでほしい。

 

 だから、簡単に死ぬなんてこと言わないで。」

 

「美佳先輩、すみません。」

 

「え、あ、ごめん。 わたしなに言ってんだ。

 

 いや、そのつもりでってことだよね。

 

 はは、馬鹿だ、馬鹿だわたし。

 

 ごめん、忘れて、お願い。」

 

「俺、約束します。

 

 俺は何があっても美佳先輩の近くにいます。

 

 絶対いなくならないから、安心してください。」

 

「え、あ、あれ? ちが、そんなつもりじゃ。

 

 いや、その、・・・・・・・

 

 はぁ、くそ、よし頑張れ! 県大会連れてけるもんなら連れてってみろ、この野郎!」

 

「え、なんで切れてんすか?」




今話も最後まで読んでいただき、ありがとうです。

いよいよ次話は地区大会。

さて、優勝できるか・・・・・できるかなぁ。

次話、また、読んでいただけたらありがたいです。

※すみません。

 次話ですが、故あって更新遅れます。

 こんな駄作でも読みにきていただき感謝です。

 物語は完結させます。

 すみません、少しお時間頂きます。

 お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ、地区大会

お久しぶりです。
大分、投稿間隔あいてすみません。

定期的に毎週投稿って思ってたんですが、ご指摘ただいたように
ただでさえ文才ないのにさらに・・・・・

今回は地区大会編です。
さて、オリヒロの運命は。

今回も駄作ですが、辛抱して読んでいただけたらありがたいです。

ではよろしくお願いします。



”ぴよぴよ,ぴよぴよ,ぴよぴよ・・・・”

 

ふぁ~い、 う~ん、今日は土曜日だから学校休みだよ~

なんで目覚ましなんか?

おやすみ・・・・・・・・・・

は!

そ、そうだ、今日は地区大会だ。

やば、早く起きないと。

 

”ガバッ”

 

「ふ~。」

 

昨日の天気予報では快晴だったけどどうかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

う~ん、いい天気になりそうだね。

さてっといつものご挨拶。

 

お早うございます、イレギュラーヘッド。

 

”ちゅっ”

 

えへへへ、やっぱかっこいいなぁ。

このポスターのイレギュラーヘッドってサイコー。

包帯だらけの顔から覗く目がす・て・き。

ちょっと、デクが邪魔だけど。

さぁって始めよっか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふん、ふん、ふ~ん♬」

 

やっぱ、こんな時のお弁当はおにぎりだね。

えっと、こっちのは梅干しで、こっちがおかか、そしてこれは鮭。

へへへ、三大おにぎり完成だ。

 

えっとでも6個は作りすぎたかなぁ。

でもさ、ちょっと小ぶりに作ったから、試合の合間にも食べれるよね。

 

あとは、サバの塩焼きと甘~い卵焼き。

それとあいつの好きなミニトマトを入れて、デザートはグレープフルーツっと。

 

あ、あとさ、練習、よく頑張ってたからさ、ご褒美に飴玉入れておいてあげよっと。

よし、完璧,完璧♬。

 

まったく、手のかかるおとうと・・・・・・・・手のかかる奴だね。

 

「ん、なんだ、今日学校か?」

 

「あ、とうちゃん、おはよ。

 

 昨日言ったじゃん、今日はテニス部の地区大会があるんだって。」

 

「ああ、あのテニス小僧出るんだったな。」

 

「うん。」

 

「そうか、しっかり応援しやれよ。」

 

「そうしたいけど、そうするとさ・・・・・・」

 

「ん?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃ、行ってくるね。

 

 とうちゃん、ちゃんとご飯食べてね。」

 

「ああ、いってらっしゃい、車に気を付けてな。」

 

     ・

     ・ 

     ・

 

「あ、戸塚君 おはよ!」

 

「ああ、三ヶ木さん、お早う。

 

 今日ごめんね、マネージャーみたいなことさせちゃって。」

 

「うううん。大丈夫だよ。

 

 マラソン大会とかで手当するの慣れてるからね。

 

 しっかり学校から救急セット借りてきたし。

 

 どんといらっしゃい。」

 

「あ、いや、できればあんまり手を煩わせない様にしたいけど。」

 

「あ、そ、そうだよね。 

 

 それよりさ、いよいよだね。」

 

「うん。」

 

「調子はどう?」

 

「うん、みんな調子いいよ。」

 

「ずばり、県大会への自信は?」

 

「え~とね、ほら、これ今日の組み合わせ。

 

 客観的にみて、三回戦までは何とかなると思うんだ。

 

 問題は準決勝で当たると思う海浜総合だね。」

 

「え、でも練習試合、戸塚君と刈宿君勝ったんじゃ?」

 

「あの時は、レギュラーの人、誰も来てなかったからね。」

 

「え、戸塚君と刈宿君以外は全試合負けたんじゃなかった?」

 

「うん、全敗。」 

 

「そっか、強敵だね。」

 

「僕たちは負けたら引退だからね。

 

 一試合、一試合、後悔しないように、三年間の思いをぶつけていくよ。」

 

「うん。」

 

そうだね。

戸塚君達、三年生にとってみたら三年間頑張ってきたことの総決算なんだよね。

特に戸塚君、一年の時から朝、昼もずっと練習してきたもん。

部活終わってからもテニススクール通ってたんだっけ。

その全てを賭けて挑むんだよね。

 

それに比べたら、わたしが賭けているものなんて・・・・・・

 

「戸塚君、頑張ってね。」

 

「ありがとう。」

 

「あ、おはよっす! 美佳先輩、戸塚先輩。」

 

「刈宿君、おはよう。」

 

「おい、先に戸塚先輩だろ、やり直し。」

 

「あ、いいよ、三ヶ木さん。」

 

「うっす、おはようございます、戸塚先輩、美佳先輩。」

 

「うん、よろしい。」

 

「あははは、ほんとう仲いいね。三ヶ木さんと刈宿君。」

 

「へへ、まだ仮カノですが、今日は県大会決めて本カノになってもらうっす。」

 

「お、おい、狩カノってなんだ。」

 

「え? あ、いやその仮の彼女って意味で。」

 

「仮りの彼女? 仮カノ・・・あ、そっか、なぁ~んだ。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「おい、いつから仮カノになったんだ、馬鹿者。」

 

「いたた、で、でも今日絶対優勝して県大会にいくっす。

 

 そして、美佳先輩に俺の彼女になってもらいます。」

 

「ば、馬鹿、戸塚君の前で言うな。」

 

「あ、三ヶ木さん、刈宿君から聞いたよ。」

 

”ベシ、ベシ”

 

「うへえ。」

 

「お前、戸塚君に喋ったのか。」

 

「いたたた、つ、つい。」

 

「全く、まだ、仮カノでもなんでもないからね。

 

 調子になるな。 ぷん!」

 

”しゅん”

 

「う、うっす。」 

 

「か、刈宿君、今日は頑張ろうね。」

 

「と、戸塚先輩。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「集合! 全員揃ってるね。

 

 選手のみんな、今日は自分に悔いのないよう頑張ろう。

 

 それと他のみんな、今日は試合出してあげられなくてごめんね。

 

 みんなの声援を力に変えて頑張るから、よろしくお願いいします。」

 

「「はい!」」

 

「よし、じゃあ行こう。」

 

「「おう。」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ゲーム高津君、2-0」

 

え、刈宿君、負けてる。

なんか調子悪そうだね。

あ、でも練習試合の時も始めはこんな風だったっけ。

 

「ねぇ、戸塚君、刈宿君っていつも始めはこうなんだよね」

 

「うううん、今日は緊張してるみたい。

 

 動きが硬いし、妙に力んでるから、思ったようにボールをコントロールできていないね。」

 

「え、それってまずくない。」

 

「う、うん。」

 

「ゲーム高津君、3-0」

 

あ、こっち戻ってきた。

えっとポカリ、ポカリっと。

あ、その前に。

 

「ふぅ~」

 

「刈宿君、力が入りすぎだよ。 リラックス、リラックス。」

 

「うっす、戸塚先輩。」

 

「はい、ポカリ。」

 

「あ、ありがとっす、美佳せんぱ・・・・

 

 ぶっ、はははは、な、なにしてんすか。」

 

「うん、飴玉食べてんの。」

 

「いや2個も一度に食べなくてもいいでしょ、ほっぺパンパンじゃないすっか。

 

 まったく。」

 

”ひょい”

 

「あ、そっちわたしのポカリ。」

 

”ごくごく”

 

「ぷはぁ~。 

 

 よし、行ってきます。」

 

    ・

 

”パシッ”

 

”スパァン”

 

    ・

’パシィ”

 

「ゲーム セット アンド マッチ 刈宿君 6-3。」

 

やった~、勝った。

まったく、ひやひやしたんじゃん。

え、わたし勝ってほしいの?

ま、まぁ、一回戦ぐらい勝ってもらわないとね。

 

「美佳先輩、勝ったっす。 

 

 戸塚先輩、次、頼みます。」

 

「うん、行ってくるね。」

 

「戸塚君、頑張って。」

 

     ・

     ・

     ・

”バシッ”

 

「ゲーム セット アンド マッチ 刈宿君 6-1。」

 

ふぇ~、やっぱうまいんだ。

ち、ちょっとやばくない?

このまま勝っちゃったら。

でも、戸塚君には負けてもらいたくなし。

 

「勝ったね刈宿君。」

 

「あ、戸塚君。」

 

「コントロールと観察眼、刈宿君のいいところが出た試合だね。」

 

「え、観察眼?」

 

「うん、相手をよく見てるよ。 苦手なとこに的確に打ち返してる。」

 

「へぇ~」

 

”スタスタ”

 

「おう、刈宿、久しぶり。」

 

「あ、菅、久しぶりだな。」

 

「へぇ~、総武頑張ってんじゃん。 いつも一回戦負けなのに。

 

 それにお前がレギュラーなの?」

 

だ、誰だろう?

中学校の同級生っぽいね。

ちょっとチャラそう。

なんかやな感じ。

 

     ・

 

「ゲーム セット アンド マッチ 戸塚君 6-4。」

 

「よし、戸塚先輩勝った。

 

 二回戦突破だ。

 

 菅、今年の総武は強いからな。」

 

「そうか? まぁ、次はうちとだから、残念だけど夢はここまでだな。

 

 じゃあな。」

 

”スタスタ”

 

「くっそ。」

 

「ねぇ、どうしたの、知り合い?

 

 ごめん、すっごくムカついたんだけど。」

 

「うっす、中学時代のまぁ、ライバルっす。」

 

「ふ~ん、うまいのテニス?」

 

「一回も勝ったことないっす。」

 

「でもライバル? 勝てるよね。」

 

「え、あ、う~ん。」

 

「勝て!」

 

「う、うっす。」

 

はぁ? なにいってるのわたし。

だ、だってチョ~ムカついたんだもん、あのチャラ男。

あのチャラ男だけには、刈宿君負けてもらいたくない。

 

     ・

 

「さぁ、みんな、ちょっと早いけど、三回戦の始まる前にお昼とっておこう。」

 

「「はい。」」

 

”がさがさ”

 

はぁ~、やっぱりコンビニのパンだったね。

まったくこいつの食生活どうなってんだ。

まぁ、思った通りだけど。

まだお母さんと仲直りできていないのかなぁ。

 

「刈宿君、またコンビニ?」

 

「え、い、いいじゃないっすか。

 

 俺、このメロンパン好きなんですから。」

 

「ほれ。」

 

「え、こ、これ、俺にっすか。」

 

「うん。 ほら、そのパンと交換。」

 

「み、美佳先輩、ありがとっす。

 

 か、感激っす。」

 

「お、大げさだよ弁当ぐらい。

 

 あの・・・あ、味は保証しないからね。

 

 そ、その疲労回復、第一で考えたから。」

 

「う、うっす。 うわぁ、美味しそう。

 

 あ、ミニトマト入ってる! やったー

 

 いっただきま~す。」

 

「うん。」

 

”ばくばく”

 

「ぐす、美佳先輩、うまいっす。」

 

「わ、わかったから、ゆっくり食べないと。

 

 それと泣くか食べるかどっちかにしたら。」

 

「んぐ!」

 

「ほ、ほら、馬鹿!」

 

”トン、トン、トン”

 

「ぷはぁ。」

 

「もう、びっくりした。

 

 慌てないで、お茶飲んでから食べなさい。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はは、この試合でうちの勝ち決まりだな。」

 

「・・・」

 

「無視かよ。」

 

「ザ、ベストオブ1セットマッチ 刈宿君サービス プレイ」

 

     ・

 

”バシ”

 

「ゲーム菅君、3-1。」

 

大丈夫かなぁ、なんかあいつのスマッシュ?

めっちゃ早い。

刈宿君、一生懸命拾ってるんだけど、いつもと違って振り回されてる。

 

「ね、戸塚君、どう?」

 

「うん、

 

 相手のボールの勢いに押されてるね。

 

 結構振り回されてる。」

 

「勝てそう?」

 

「わからないよ。」

 

     ・

 

「ゲーム菅君、4-2。」

 

やば、刈宿君、フラフラだよ。

立ってるのがやっとって感じ。

あ、でも、あいつも結構足にきてない?

 

「ね、と、戸塚君、相手結構足にきてない?」

 

「うん、でも刈宿君もきつそうだね。」

 

     ・

 

「ゲーム菅君、5-4。」

 

”スタスタ”

 

「はぁ、はぁ、やっぱり強いっす。」

 

「はいポカリ。」

 

「うっす。」

 

”ごくごく”

 

「戸塚先輩、もしかしたらすみませんっす。」

 

「刈宿君。」

 

”ベシ”

 

「おわぁ。」

 

「おい、何いってんだ、ここからだろ!

 

 とうちゃんが言ってたぞ、勝負は最後のゲームセットまでわからないって。

 

 勝て、絶対勝て。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・勝ってわたしを彼女にするんだろう。」

 

「う、うぉー!! 

 

 み、美佳先輩、行ってきます。」

 

 

     ・

 

”バシッ”

 

「や、やったー、勝ったっす!」

 

「ゲーム セット アンド マッチ 刈宿君 7-5。」

 

か、勝った。 あいつ勝っちゃった。

ははは、よ、よかった。

・・・・・あ、ヤバ。

 

「三ヶ木さん、刈宿君勝ったよ。

 

 僕も頑張らないとね、じゃあ。」

 

「み、美佳先輩、勝ったっす。」

 

「あ、あっそ。 良かったね。」

 

「げ、なんか冷たい。」

 

だって・・・・・・複雑なんだよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「みんな、さぁ、準決勝だ。

 

 海浜に勝って決勝行くよ。

 

 あと二つ、頑張ろう。 ダブルス、頼むよ。」

 

「「はい。」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ぐ、痛!」

 

え、ど、どうしたの刈宿君?

な、なんかふくらはぎ押さえてる。

すごく痛そう。

と、戸塚君。

 

「あ、すみません、タイムアウトお願いします。

 

 三ヶ木さん、来て。」

 

「うん。」

 

え、ど、どうしたんだろう?

ふくらはぎ、さっきから押さえてるけどつったのかなぁ。

マッサージしなくちゃ。

 

「ね、ちょっとふくらはぎ見せてみて。」

 

「うっす、戸塚先輩。」

 

「三ヶ木さん、ふくらはぎのこわばってるとこ指圧してくれる?

 

 そのあとテーピングで固定してくれるかなぁ。」

 

「うん、任せておいて。」

 

「刈宿君、歩くことはできるんだね、痛みは?」

 

「うっす。痛みは少しだけっす。」

 

「そう、肉離れではないと思うけど、筋膜炎かなぁ。

 

 仕方がない、この試合棄権しよう。」

 

「だめっす。

 

 ここで棄権したら負けじゃないですか。」

 

「なにいってんだ!

 

 ここで無理をして、肉離れにでもなったらどうするの!」

 

「でも、ここで棄権したら戸塚先輩たち引退・・・」

 

「狩也、すまない。 

 

 俺達ダブルスが一試合でも勝ててたら、少しは負担減らせたんだけど。

 

 ここまでこれたのも部長とお前のおかげだ。

 

 俺達はお前に感謝こそすれ、恨んだりするもんか。

 

 よっぽどお前が肉離れになったほうが後悔する。」

 

「ね、みんな同じ気持ちだよ、刈宿君、棄権しよう。」

 

そうだよ、刈宿君、みんなの言う通りだよ。

残念だけど、棄権するしかないよ。

みんな感謝してるっていってるよ。

 

”チラ”

 

えっ

 

「いやっす。 俺、棄権しないっす。

 

 ほ、ほら、歩けるじゃないっすか。」

 

「駄目だよ。無理したらひどくなる。」

 

「いけるっす。」

 

馬鹿、わたしのことがあるからだね。

まったく、こいつは・・・・・手のかかる奴だ。

仕方、ないね。

ありがとう、刈宿君。

 

「あの、戸塚君、ちょっと二人っきりにしてもらっていい?」

 

「え、あ、う、うん。」

 

”スタスタ”

 

「あ、あの~、美佳先輩?」

 

「あのさ、お前なんか勘違いしていない?

 

 わたしがお前の彼女になるって本気にしてたのかよ。

 

 頭悪いんじゃないの?

 

 そんなわけないじゃん。

 

 なんでこのわたしがお前みたいなガキの彼女にならないといけないんだよ。

 

 冗談に決まってるじゃん。

 

 まったく、わたしはガキは相手しないの。

 

 頼りない男なんて御免だよ。

 

 わたしはしっかりとした頼りがいのある男しか相手しないの。

 

 いままでもさ、退屈だったから適当に話合わせてただけだし。

 

 ね、悪いけど、もうわたしに近寄らないでくれる?

 

 すっごい迷惑なの。

 

 ・・・・・・・・だからさ、さっさと棄権しちまえ。

 

 み、みんな迷惑してるじゃん。

 

 じゃあ、わだじ帰るわ。

 

 あ~あ、どっかにいい男いないかな~」

 

”スタスタスタ”

 

「と、戸塚君、ごめんなさい。

 

 あと刈宿君のことお願いします。」

 

「三ヶ木さん、・・・・・うん、わかった。

 

 ありがとう。」

 

     ・

 

「ね、刈宿君、棄権でいいね。」

 

「いやっす。」

 

「え? い、いま三ヶ木さんと・・・」

 

「なんか痛み全然なくなったっす。

 

 ほんとっすよ、なんか急に力が抜けて、そしたら痛み全く無くなって。

 

 大丈夫っす、俺いけます。

 

 もし、戸塚先輩が見てて様子がおかしそうだったら、棄権にしてもらって結構です。」

 

「・・・刈宿君。

 

 うんわかった、じゃあ、本当に少しでもそんな気配が見えたら棄権するからね。」

 

「うっす。」

 

     ・

 

棄権したよね、大丈夫だよね。

 

”ひょい”

 

え~、何で試合再開すんの?

棄権するんじゃなかったの戸塚君。

 

神様、お願い、もう勝ち負けなんてどうでもいいから、ケガだけさせないで。

お母さん、美紀もお願い力貸して。

とうちゃんも・・・・・・あ、とうちゃん元気だった。

 

     ・

     ・

     ・

 

”バシッ”

 

「ゲーム セット アンド マッチ 刈宿君 6-3。」

 

”スタスタ”

 

「はぁ、はぁ、戸塚先輩、あと頼みます。」

 

「うん、だれか、刈宿君のマッサージお願い。」

 

「はい。」

 

か、勝った。

よかった、ケガも大丈夫だったみたい。

 

はぁ~、もうごめんだよ、苦しくて見てられない。

それにさ、あれだけ言っちゃったから、合わせる顔もないし。

 

次は決勝戦だね。

頑張ってね、でも絶対無理しないでお願いだから。

戸塚君、刈宿君のことお願いします。

 

さようなら、刈宿君。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ゲーム セット アンド マッチ 矢部君 6-4。」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ごめん刈宿君、君にまで回せなかった。」

 

「ナイスゲームでした。

 

 戸塚先輩、三年生の先輩方ご苦労様でした。

 

 短い時間でしたけど、ご指導ありがとうございました。

 

 俺、もっと鍛え直して強くなります。」

 

「うん、テニス部、お願いするね。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ちゃり~ん”

 

う~、なけなしの五百円。

先月、前借したから今月は厳しいや。

 

”ガラガラ”

 

神様、戸塚君たちが決勝戦に勝てますようにお願いします。

あ、一番はみんながケガしませんように。

お賽銭、奮発したんだからね。

お願いします。

 

これでよかったんだよね。

もう嫌われたから、戸塚君たちが県大会に行っても。

 

『もうわたしに近寄らないでくれる?』

 

嫌われちゃったよね。

あ、なんか前にも同じようなことが・・・・・・

 

ふぅ~、まあいいか。

 

刈宿君、やさしいんだよ。

それに顔もカッコいいし、スポーツマンだし、それにお金持ちだし。

勉強は・・・・・まぁ、総武高入れたぐらいだからね。

それにお母さん、めっちゃ怖いし。  あ、それはいいか。

わたしとなんか、始めっから釣り合わないんだよ。

 

最後、滅茶苦茶、嫌なこと言っちゃった。

 

君はガキじゃないよ。

ガキは・・・・・わたしのほうだ。

わたしは、わたしはこんなやり方しかできないんだもん。

 

”ポロ”

 

あれ?

 

”ポロ、ポロ”

 

え、なんで?

おかしいな、なんでだろう、なんか涙止まらないや。

やっぱつらいね、嫌われるって。

 

・・・・・ごめんね、刈宿君、酷いこと言ってごめんね。

ご、ごめんなさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

あ、戸塚君からメール?

 

『決勝戦の結果

 

 ダブルス 0-6 負け

 

 シングル 戸塚 4-6 負け

 

 ごめん、負けちゃった。

 

 (刈宿君、ケガ大丈夫だよ。)

 

 応援、ありがとう。

 

               戸塚』

 

そ、そっか、負けちゃったんだ。

連絡ありがとう、戸塚君。

えっとね、

 

『戸塚君。

 

 三年間、朝から夜までご苦労様でした。

 

 大学行っても、テニスするんでしょ。

 

 これからもガンバ!

 

 応援してるね。

               三ヶ木』

 

送信っと。

 

そっか、負けちゃったのか。

お祈り利かなかったね。

おい、神様、お賽銭返せ。

 

はぁ~、さてっと買い物して帰ろ。

今日、夕飯、何にしようかな。

 

”ぐすん”

 

その前に顔洗ってこなくちゃね。

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「ただいま~、とうちゃん遅くなってごめんね。

 

 いまご飯作るからね。」

 

「お帰りっす。」

 

「え? え゛ー

 

 な、なんであんたがうちにいるのよ!」

 

「あ、これ返しに来たらお父さんが中入れって。」

 

「え? あ、お弁当箱。」

 

「おう、美佳、お帰り。」

 

「あ、あのさ、ちょっといい。」

 

「うっす。」

 

”ガチャ”

 

「なんで来たのさ。

 

 わたしが言ったこと憶えてるでしょう。

 

 弁当箱なんてどうでもいいじゃん。」

 

「うっす。」

 

「だ、だったらなんで?」

 

「美佳先輩、俺知ってるっす。」

 

「え? な、なにを知ってるの。」

 

「美佳先輩は、嘘つくとき、必ず、目が右から左に泳ぐんです。

 

 そして、必ず、右手を握り絞めてるんですよ。

 

 今日、そうでしたよ。

 

 それに。」

 

「それになにさ。」

 

「美佳先輩、泣いてたじゃないっすか。」

 

「な、泣いてないもん。」

 

「泣いてたっす。 目にいっぱい涙たまってたっす。」

 

「ぐ。」

 

「まったく、本当は少し傷ついたんですからね。

 

 で、でも、俺、やっぱり美佳先輩が好きっす。

 

 今日は、県大会駄目でしたけど、絶対連れていきますから。

 

 それと、もっと男らしくなります。

 

 美佳せん・・・・・美佳さんに頼られるくらい。

 

 それまでは仮カノっす。 」

 

「仮カノもだめ。

 

 ふぅ~、まったく、手のかかる奴だな。

 

 ほら、行くよ、なにしてんの。」

 

「え?」

 

「晩ご飯食べていくんでしょ。

 

 作るの手伝ってもらうからね。」

 

「う、うっす、美佳さん。

 

 俺頑張るっす。」

 




最後まで、本当にありがとうございます。

前書きでも書いたんですが、ちょっと投稿に追われてたかなぁって
思い、勝手に間隔開けさせていただきました。

ごめんなさい。

ただ、以前のペースだとなかなか伝わらないことも多くて。
今後は、ある程度、まとめてから投稿したいと思います。

不定期になり、申し訳ありませんが、お願いいたします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七夕 わたしの願い

見にきていただき、ありがとうございます。

時期がずれてすみません。

今回は七夕編です。

最後まで辛抱いただき、お付き合いいただけたらありがたいです。

では、お願いします。




「こんにちわ~、 おじちゃん、今年もお願いします。」

 

「ああ、待ってたよ。

 

 どれでも好きなの持っていきな。」

 

「うん、あ、あのね、今年ちょっと多めにもらってもいい?」

 

「ん? 今年はどうしたんだい?」

 

「あ、うん。

 

 あのね、生徒会のみんなと一緒に作ることになって。」

 

「そうかい。 いいよ、好きなだけ持っていきな。」

 

「うん、ありがと。

 

 ほら稲村君、いくよ。」

 

「はぁ、はぁ、ち、ちょっと休ませて。

 

 あ、すみません、総武高生徒会の稲村です。

 

 すみません、よろしくお願いします。」

 

「おや、美佳ちゃんの彼氏かい?」

 

「ち、違うから。

 

 ただの運送屋だから。」

 

「おい、運送屋って。

 

 まぁ、たしかに学校からここまで誰かさんを運んできたけど。

 

 あ~、ちょ~重かった。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ~」

 

「そ、そんな重たくないっし。

 

 いい、選んでくるからそこで休んでて。」

 

「ああ、そうしておく。」

 

えっと、どの笹がいいかなぁ。

飾りとかいっぱいつけたいし。

あ、これがいいかも。

 

『おねえちゃん。』

 

え? 

うそ、み、美紀? ど、どこ? 

 

”きょろきょろ”

 

ふぅ~、いるわけないじゃん。

で、でも、もしかしてどこか・・・・・・・って。

馬鹿だね、わたし。

どうかしてるね。

さ、笹選ぼうっと。

どれにしようかなぁ~

 

     ・

 

『美紀、手洗った? はい、おやつ。』

 

『いたらきま~す。』

 

”ぱくぱく”

 

『あんね、おねえちゃん、今日、保育所でたなぼたした。』

 

『棚ぼた?』

 

『うん、とっても面白かったよ。 

 

 そんでね、先生にもじもじ教えてもらったの。』

 

”ぱくぱく”

 

『う~ん、棚ぼた? モジモジ?』

 

『あ、そんで、お願いごとをかけたよ。 えらい?』

 

『お願い? ああ、七夕さんか。 へぇ~どんなお願いこと書いたの?』

 

『うん、これだよ。』

 

『え、持ってきちゃったの? 笹の枝につけなくちゃいけないんだよ。』

 

”ぱくぱく”

 

『うん、おねえちゃんに見せたかったの。

 

 先生、もじもじ上手って褒めてくれたから。』

 

『そう。』

 

えっと、なんて書いたのかなぁ。

う~んわからん、さっぱり読めん。

あ、反対か。

 

”おねえちゃん、だいすき”

 

え、これお願いじゃないじゃん。

へへ、美紀のバカ。

 

『美紀、これお願いじゃないよ。』

 

『うん?』

 

『まぁいいか。 はい、おねえちゃんのおやつもあげる。』

 

『うん!』

 

『あ、そうだ美紀、おうちでも七夕さんつくろっか。 』

 

『うん、つくる。』

 

『よし、おやつ食べたら笹探しにいこ。』

 

『うん。』

 

”ぱくぱく”

 

     ・

 

美紀、今年もきたよ。

もう何年目だろう。

でも、なかなかお願い聞いてもらえないや。

でも、今年はかなえてもらえるかなぁ。

 

     ・

 

「稲村君っていったかな?」

 

「あ、はい。」

 

「麦茶でも飲むかい?」

 

「あ、いたただきます。」

 

”ごくごく”

 

「ぷはぁ、冷たくておいしい。

 

 あ、そういえば、さっき今年もっていってたけど、

 

 三ヶ木、毎年おじさんとこに笹の枝を頂きに来るんですか?」

 

「ああ、そうだよ。

 

 始めてきたのは確か小学生か幼稚園のときぐらいだったかな。

 

 もう十一年ぐらいになると思うが。」

 

「え、そんなに?」

 

「はじめて来た時はかわいかったよ。 こんなぐらいの背だったかなぁ。

 

 『おじちゃん、七夕するから笹ください。』

 

 ってオドオドしながらね。」

 

「へ~。」

 

「あ、そうだ、美佳ちゃんの後ろに妹さん隠れててな。

 

 なんかおねえちゃんって感じだったな。」

 

「え、三ヶ木に妹いたんですか?」

 

「あれ、知らなかったのかい?

 

 あ、ちょっと待ってな。」

 

「へ~、妹がいるなんて一言も言わなかったからな。」

 

「ほら、これだ。 これはその時に撮った写真。

 

 あんまり可愛かったもんでな。

 

 その美佳ちゃんの後ろに隠れてる子が妹さんだな。」

 

「へへ、ちっさ。 あいつこんなにかわいかったんだ。」

 

「そうだよ、あの頃はずっとニコニコしててね。

 

 あ、でも妹さんと一緒だったのはその時だけだったね。

 

 それからはずっと美佳ちゃんだけだな。」

 

     ・

 

よし、この笹でいいかなぁっと。

あとは選んだ笹を切って持って帰ろっと。

え~と、稲村君はっと。

なんだ、あの二人こっち見てニヤニヤして。

 

”スタスタスタ”

 

「お~い、のこぎり村君、出番だよ~。」

 

「おい、お前、雪ノ下さんの影響受けすぎだろ、なんだのこぎり村って。」

 

「ねぇ、何見てたの? 」

 

「な、なんでもない、ほら行くぞ。」

 

「う、うん。」

 

何見てたんだろう?

おじさん、すぐ片付けちゃったし。

は! この慌てようはスケベなやつだ、絶対。

だって、とうちゃんもそうだったし。

 

”べし”

 

「ぐはぁ、な、なんだいきなり。」

 

「このスケベ。」

 

「はぁ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「うぃーす、あれ、今日三ヶ木いないのか?」

 

「あ、先輩、ちょうど今呼びに行こうと思ってたとこなんですよ~。

 

 はい、こっちです。

 

 ここに座ってください。」

 

「え、あ、おい。」

 

”ドサ”

 

「はい、これ先輩の分で~す。 えへ♡」

 

「いや、えへってそんなあざといのいいから。

 

 なに、これ? 俺の割り当て分なの?」

 

「先輩、わりと手先器用じゃないですか~。

 

 この通りに折ってくださいね。

 

 ではよろしくです。」

 

「お、おい、これ何枚あるんだ。

 

 しかも結構手間かかるやつじゃねえか。

 

 一色、お前は何を作ってんだ。」

 

「ずばり、短冊です。」

 

「おい。」

 

「あ、先輩、短冊、馬鹿にしてません?

 

 短冊って一番重要じゃないですか。

 

 出来次第で願い事かなうかどうか決まってしまうんですよ。」

 

「いや、そんなので決まるのか。

 

 まぁ、いい。 なぁ、今日は三ヶ木いないのか?」

 

「え、なんですか、さっきから美佳先輩、美佳先輩って。

 

 美佳先輩なら、稲村先輩とデートです。」

 

「えっ!」

 

「なんですか、めっちゃ動揺してません?」

 

「い、いや、ど、動揺なんてしていない。」

 

「まぁまぁ会長、それくらいで。

 

 比企谷、なんか三ヶ木さんに用事があったのか?

 

 いま、稲村と笹の枝を取りに行ってるんだ。

 

 もう少しで帰ってくると思うけど。」

 

「あ、そ、そうか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ギコ、ギコ”

 

「ほれ、三ヶ木。」

 

「あ、うん。」

 

さすが男子だね。

やっぱこういう時って頼りになる。

手際いいし。

普段、数学オタクだからどうかと思ったけど、すこし見直した。

 

「もう切り出すやつないのか?」

 

「うん、これだけ切れば十分だよ。 あと学校まで待って帰らないといけないし。」

 

「そうか。」

 

     ・

 

「それじゃ、おじちゃん、これ頂くね。」

 

「ああ、美佳ちゃん、気を付けて帰りなよ。」

 

「うん、じゃあ、待たね。」

 

「ああ、またおいで。

 

 あ、稲村君、ちょっと。」

 

「え、あ、はいはい。」

 

”スタスタ”

 

「稲村君、この写真、持っていくかい?」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ、まだいっぱいあるからね。

 

 それより、これからも美佳ちゃんと仲良くしてやってくれないか。

 

 あの子、いい子だから。」

 

「え、あったりまえじゃないですか。

 

 俺、あいつのこと、結構好きですよ。」

 

ん、なんだ?

また二人でこそこそと。

あ、おじちゃん、なんか写真みたいなの渡した。

 

稲村君ニヤニヤして。

も、もしかしてまたしてもエッチな写真。

まったく男ってやつは。

 

「お~い、運送屋君、いくよ~。」

 

「ああ、じゃあ、失礼します。」

 

「ああ、気を付けてな。」

 

”べし”

 

「ぐはぁ、またしても。

 

 な、なんだいきなり。」

 

「このどスケベ。」

 

「はぁ~?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほれ、俺の分、ここに置いておくぞ。」

 

「あ、はい、ご苦労様です。」

 

「なぁ、一色、生徒会で七夕するのか?」

 

「え、ああ、これですか。

 

 えっとですね、昨日、美佳先輩が今日と明日、生徒会休みますっていうから

 

 どうしたんですかって、問い詰めたんですよ。

 

 ほら、えっとあのテニス部の子と最近仲いいっていうから。

 

 もしかしたらデートですかって。」

 

「テニス部? ああ、刈宿か。」

 

「あ、そうそう、その刈宿君。

 

 で、問い詰めて吐かせたら、子供のころに通っていた保育所で

 

 七夕の飾り付けをするっていうですよ~。

 

 ですから、どうせならみんなで行きましょうってことになって。」

 

「それで飾りを作ってるのか。」

 

「そうなんです。

 

 ですから、はいこれ先輩の分です。」

 

「いや、も、もういいから。

 

 今日は帰るわ。」

 

「え~、先輩、ひどいです。」

 

「じゃあな。」

 

”ガラガラ”

 

「うぉっぷ。」

 

ん? なんか当たった?

えっと、

 

”ガサガサ”

 

あ、比企谷君。

 

「ごめんなさい、比企谷君、来てたの? 大丈夫?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。

 

 ちょっとお前に用事があってな。」

 

”バサァ”

 

「うぉっぷ。」

 

「ただいまって、あ、比企谷すまん。」

 

「あ、ああ、だ、大丈夫だ。」

 

「そうか。 あ、三ヶ木、ちょっと。」

 

「ん?」

 

「ほれ、笹の葉が付いてたぞ。」

 

「あ、ありがと、稲村君。

 

 あ、稲村君も付いてるよ。」

 

「お、サンキュ。

 

 さぁ、さっさとこれ中に入れよう。」

 

「頭から葉っぱだらけって、お二人でなにしてきたんですか?

 

 は、まさかいやらしいこととか。」

 

「いや、な、なにもしてないから。」

 

「三ヶ木先輩、そんな人じゃないと思ってたのに。」

 

「しょ、書記ちゃん、なにもないから。」

 

まったく、なんてことを言うんだこのジャリっ娘め。

何もしてないからね。

え、書記ちゃんそんな目で見るのやめて~。

 

ほんと、笹の枝を持って自転車の後ろに乗ってただけだから。

た、大変だったんだからね。

こいつ、重たい重たいって言うし。

 

まぁ、でも面白かった。

そうだ、学校まで乗っけてもらったご褒美しなくちゃ。

何かご馳走してあげよ。

 

「会長、葉っぱ丸まっちゃうといけないんで、ちょっと水汲んできますね。

 

 ほれ、稲村君行くよ。」

 

「お前、人使い荒くないか?」

 

「いいから、来い。」

 

”ぐぃ”

 

「うへぇ~。 お前シャツ引っ張るな。」

 

”ガラガラ”

 

「ほれ、行くよ。」

 

”スタスタスタ”

 

「一色、今日は帰るわ。」

 

「え、そうですか。

 

 あ、先輩、夏休みの林間学校の件、よろしくです。」

 

「げ、やっぱ、マジなのか。」

 

「げって何ですか、げって。

 

 あったりまえじゃないですか。 先輩暇でしょうから。」

 

「いや、俺受験生なんだが。」

 

「ちゃんと考えてますよ。

 

 生徒会も三人、受験生いますから。

 

 それに、先輩、こんなかわいい後輩とお泊りなんてもう二度無いかもですよ、えへ♡」

 

「いや、それはいらん。 絶対、こき使われるだけだから。

 

 まぁ、いいわ、また詳しいことは連絡してくれ。

 

 じゃあな。」 

 

「はい、先輩、お願いしますね。」

 

     ・

 

”ガタン”

 

「はい、コーラー」

 

「おう、サンキュー。 じゃあ、お前の分、あ!」

 

”ガチャン”

 

「へへ、残念でした。

 

 今日はわたしの奢りだよ。」

 

「どうした、珍しいな。」

 

「なんでもない。  まぁ、ちょっと楽しかったから。」

 

「そうか。」

 

いつも一人で笹の枝切って、一人で家まで運んでたんだ。

なんか、いろんな人からジロジロ見られて。

 

でも、今日は楽しかった。

暑い中、自転車ご苦労様でした。

汗だくで笹の枝切ってくれたり、自転車漕いでくれたり。

少し男らしかった。

 

・・・・・・・・気になる。

絶対気になっちゃう。

だから、へへへ、早く飲め、飲むんだ。

 

”ゴクゴク”

 

「ぷはぁ! 最高。」

 

「飲んだね、もう飲んじゃったからね。」

 

「え? あ、あの~、三ヶ木さん?」

 

「はい、見せて。 おじちゃんからもらったもの。」

 

「え、いや、な、何のことかなぁ~」

 

「おい、わたしの奢ってあげたコーラー飲んだよね。」

 

「あ、はい。 飲みました。」

 

「わかってるだろう、ただより高い物はないって。

 

 ほれ、だしな。」

 

「お、お前・・・・・・・・はい。」

 

え、これってあん時の。

この後、一緒に七夕飾り作ったんだ。

美紀、字かけてうれしかったんだよね。

いっぱい短冊書いて。

全部同じ文字ばっかりで。

 

・・・・・馬鹿、思い出しちゃったじゃん。

 

「お前、妹いるんだな。」

 

「・・・・・・・」

 

”ぽろぽろ”

 

「え、ど、どうした三ヶ木?」

 

「うううううう。」

 

”ダ―”

 

「あ、み、三ヶ木。 」

 

    ・

    ・

    ・

 

”スタスタ”

 

「あ、用事。  まぁ今度でいいか。

 

 なんかいい雰囲気だったからな生徒会。

 

 前から感じてたんだが、一色中心で良くまとまってるんじゃねぇか。

 

 どうりで最近奉仕部に来ないわけだ。

 

 え? さみしいの俺。」

 

”ドン”

 

「いて!」

 

「あ、比企谷君、ご、ごめんなさい。 大丈夫?」

 

「お、おう、大丈夫だが。

 

 生徒会が廊下走ったらだめなんじゃねぇのか。」

 

「う、うん。」

 

「どうした? 目赤いぞ。

 

 何かあったのか?」

 

「え、あ、な、何でもない。

 

 あ、そう、あのね、コーラー飲もうと思ったんだけど、ミルクティーと間違えて

 

 開ける前に思いっ切り振っちゃったの。

 

 そしたら、プシューって。」

 

「それが目に入ったのか?」

 

「う、うん。」

 

げ、我ながらなんていう言い訳だ。

そんなの、誰も信じないよ。

えっと、どうしょう?

嘘だってわかるよね。

 

でも妹の写真見て泣いたなんて、そんなこと知られたくない。

比企谷君に同情の目でみられたくないから。

 

「そうか、気を付けないとな。

 

 俺もマッ缶とコーラーを間違えたことあるからな。」

 

え、うそだ。

あの禍々しいマッ缶とコーラーを間違えるなんてありえないじゃん。

第一、比企谷君、コーラー飲んでるの見たことないし。

 

「ま、まぁ、なにかあるならいつでも相談乗るぞ。

 

 俺でよかったらできる範囲で力なってやる。

 

 できる範囲でな、自慢じゃないが俺はできない範囲のほうが圧倒的に広い。

 

 ・・・・・・それでもよかったらな。」

 

そ、そっか。

えへへ、やっぱわかってたんだ。

まぁ、コーラーが目に入ってなんて嘘バレバレだもんね。

はぁ~、いつもやさしいんだ。

うん、比企谷君と話してたら落ち着いた。

 

「う、うん・・・・ありがと。

 

 あ、そうだ、ねぇ、わたしに何か用だったの?」

 

「あ、いや、忙しそうなんでな。

 

 また今度にしておくわ。」

 

「え、そ、そう。 

 

 あ、じゃあ、後で電話す 」

 

「あー、ヒッキーいた!

 

 話があるっていうからずっと待ってたんだからね。

 

 あ、美佳っち、やっはろー。」

 

「うん、やっはろ―。」

 

「あら、部活さぼり谷君、もう帰ったのかと思ったわ。」

 

「おう、ちょっと一色につかまっててな。 

 

 あ、三ヶ木、悪い、また後で連絡する。」

 

「あ、う、うん。 ・・・・じゃあね。」

 

”スタスタスタ”

 

「実は相談があるんだが。」

 

「うん、ヒッキーなぁに?」

 

「廊下ではなんだから、部室戻りましょう。」

 

「ああ。」

 

「あ、そういえばゆきのん、この前ヒッキーさ~、ゆきのんのことを、」

 

「お、おいやめろ! それは言わない約束だ。」

 

「じっくり聞かせてもらうわ、由比ヶ浜さん。」

 

いいなぁ、あの雰囲気。

なんか比企谷君、すごく気許してるのわかる。

やっぱ、特別な関係・・・・なんだもんね。

わたしごときが侵してはならない領域。

 

あ、わたしも生徒会戻らなきゃ。

そんで稲村君に謝らないとだね。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「園長先生、ただいま、今年も来たよ。

 

 あ、電話した通り、今年は生徒会のみんなも来てくれたんだけどよかったですか?」

 

「ああ、美佳ちゃん、今年もお帰り。

 

 うううん、子供たちも喜ぶと思うわ。

 

 生徒会のみなさん、よろしくお願いします。」

 

「あ、生徒会会長の一色です。

 

 こちらこそ、よろしくです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「は~い、みんな、今日は高校生のおねえちゃん、おにいちゃんが七夕の飾りを持ってきて

 

 くれました。

 

 みんなで飾りつけしましょうね。」

 

「「はぁ~い。」」

 

”わいわい”

 

えっとみんなのとこ、飾り行き渡ったかなぁ。

それとセロテープっと。

 

     ・

 

へぇ~、わりと書記ちゃん、子供に教えるの上手だ。

あ、そうだ、クリパの時も子供にセリフとか教えるの美味かったっていってた。

むむ、ライバル出現かも。

 

えっと、本牧君はへへ手こずってるね。

だめだよ、そこは、ビシっと言わなくちゃね。

 

・・・・・稲村君、なにしてんだ。

飾りつけに没頭して、子供そっちのけじゃん。

 

”ぱこ”

 

「へ?」

 

「へっじゃない、なに飾りつけに夢中になってるの。

 

 それは子供たちがやるの。」

 

「あ、すまん。 つい夢中になって。」

 

まったく。

さて、わたしも入ろうっと。

どこがいいかなぁ。

 

「ねぇ、おねえちゃんも混ぜてくれる?」

 

「うん。」

 

うんしょっと。

ほほ~さすが女の子だね。

可愛くできてる。

 

「上手だね。 あ、はいセロテープ。」

 

「ありがと。」

 

「あ、後でおねえちゃんが短冊にお願い書いてあげるね。」

 

「うん。」

 

”チョン、チョン”

 

え、あ、ジャリっ娘、な、なにその笑顔?

いや、そんなに顔をのぞき込まないで。

わたし相手にあぞとくしなくてもいいから。

・・・・・でも、くそ、やっぱりかわいい。 

 

「美佳先輩、毎年、これやってたんですか? 」

 

「え、あ、うん。」

 

「ふ~ん。」

 

「え、どうして?」

 

「なんか似合ってるなぁって、一瞬思っちゃいました。

 

 あ、一瞬だけですから。」

 

”ブファ”

 

「ひゃい。」

 

げ、見えた。 

以外、黒。 ピンクかと思ってた。

まぁ、内面はやっぱり黒ってこと?

あ、でもちょっと違ったような。

 

「わ~い、パーンツ見えた。」

 

「は、はぁっ?

 

 ち、違います。 これはアンスコって言って。」

 

「パーンツ、パーンツ。」

 

「も、もう、なんなんですか! こら~。」

 

「わ~い。」

 

”ダ―”

 

「だ、大丈夫、いろはちゃん?」

 

「会長、だからジャージだっていったでしょ。」

 

「ス、スカートめくりって、近頃のガキ、いえ子供はどんだけませてるんですか。 もう!」

 

「あ、あれはね、小っちゃい子の好きっていう表現の一つだから。

 

 何とかして会長の気を引きたいの。」

 

「え~、そんなの逆効果じゃないですか。」

 

「あ~、なんでもあの頃の子供って、嫌われるほうが相手にされないほうより嫌なんだって。

 

 だから、気を引こうと思ってね。」

 

「そ、そうなんですか。」

 

そうなんだよ。

相手にされないのが一番つらいんだよ。

だって、いくら頑張っても、いくら想っても・・・・・所詮、わたしは特別になれないもんね。

はぁ、辛いね、辛いや。

 

     ・

     ・

     ・

 

「会長さん、今日はありがとうございます。」

 

「え、あ、いえこちらこそ。

 

 大勢で押しかけてすみませんです。」

 

「いいえ、子供たちみんなよろこんでますよ。」

 

「あの~、美佳先輩っていつも一人で来てたんですか?」

 

「ええ、美佳ちゃんの妹さん、美紀ちゃんて言ったんだけどね、

 

 この保育所に通ってて。

 あ、美佳ちゃんもこの保育所ね。

 

 えっといつだったかな、妹さんと七夕飾り持ってきてね。

 

 いっしょに川に流してくださいって。

 

 それからだね、毎年笹の枝と折り紙を持ってきてくれてね。」

 

「え、美佳先輩に妹いたんですか?」

 

「ええ、美佳ちゃん、とても妹の面倒見のいい子でね。

 

 ご両親は共働きだったから、いつも保育所にお迎えに来てて。

 

 明るくて、いつもケラケラ笑ってて、かわいい子だったわ。」

 

「へぇ~。」

 

「それが、あんなことさえなければね。」

 

「あんなこと?」

 

「ええ、お母さんと妹さん、交通事故で亡くなったの。

 

 あっ、会長さん何も聞いてなかった?」

 

「は、はい。」

 

「ご、ごめんね。 事故のこと私から聞いたって美佳ちゃんには内緒ね。

 

 み、みんな~できたかなぁ。」

 

「「はぁ~い。」」

 

     ・

     ・

     ・

 

この笹の枝でいいかなぁ。

うんしょっと。

 

”ぎゅ”

 

今年こそ、お願いが叶いますように。

 

「三ヶ木先輩、短冊を結ぶ紐ってあまってませんか?」

 

「あ、書記ちゃん、入口のほうに置いてあったから、いま取ってくるね。」

 

「あ、お願いします。」

 

     ・

 

「あれ、美佳先輩どこに行ったんだろう?」

 

”ダ―”

 

「あっ、走ったら危ないよ。」

 

”ドン”

 

「うわぁ。」

 

「大丈夫だった?」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「やれやれ、七夕の飾り倒れちゃった。

 

 よいしょっと。」

 

”ひらひら”

 

「ん、あ、短冊。

 

 ・・・え、これって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、みんな、おねえちゃん、おにいちゃんにお礼を言いましょうね。」

 

「「おねえちゃん、おにいちゃん、ありがとう。」」

 

「どういたしまして。

 

 みんなのお願い事がかなうといいですね。えへ♡」

 

「「は~い。」」

 

「園長先生、それじゃ失礼しますです。」

 

「あ、今日は本当にありがとうございました。」

 

”スタスタ”

 

「あ、あの、園長先生、ちょっといいですか?」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すみませ~ん、お待たせでした。

 

 今日はご苦労様でした。

 

 明日から期末考査が終わるまで、生徒会はお休みです。

 

 期末考査終わったら、林間学校の準備がありますからよろしくです。

 

 それじゃ、解散です。

 

 帰り、気を付けて下さいね。」

 

「稲村、またな。」

 

「また、二人で帰るのかよ。」

 

「あ、ほら、帰る方向たまたまいっしょだから。」

 

「う、うん。 たまたまだよ。」

 

「はいはい。 三ヶ木、一緒に帰るか?」

 

「え~。」

 

「な、なんだよ。」

 

「だって、身の危険が。」

 

「おい!」

 

「あ、美佳先輩、今日は一緒に帰りましょう。」

 

「え、あ、う、うん。」

 

「それではです、稲村先輩。」

 

「あ、は、はい、会長、 じ、じゃあな三ヶ木。」

 

「あ、うん、じゃあね稲村君。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え~と、アールグレイとチーズケーキを二つお願いします。」

 

「はい、畏まりました。」

 

「あ、わたしはミルクティーが・・・・・よかったんだけど。」

 

「美佳先輩、ここの紅茶美味しいんですよ。」

 

「あ、う、うん。」

 

へぇ~、こんな洒落た喫茶店知ってるんだ。

なんか、ほかのお客さんも落ち着いた感じの人ばっかりだね。

あ、ほら、あの人なんて何とかっていう女優さんみたい。

うひゃ~、とてもわたし一人じゃ入れないや。

 

ジャリっ娘、紅茶とチーズケーキっていったね。

えっといくらなんだろう。

あれ、メニュー無いね、どこだ?

 

「美佳先輩、子供の相手慣れてるんですね。」

 

「えっとね、わたし保育所の保母さんになるのが夢だったから。

 

 あ、職場体験とかも幼稚園に行ったんだ。

 

 ほんとは保育所に行きたかったんだけどね。」

 

「へぇ~、それじゃ大学もそっち系ですか?」

 

「あ、うううん、わたしは進学は・・・・しないから。」

 

「え、なんでですか?」

 

「え、う、うん、うちお金もないし、それにわたしはそんな 」

 

「そんな?」

 

「あれ~、一色ちゃんと三ヶ木ちゃんじゃん。」

 

「あ、陽さん先輩。」

 

「二人で今度はなに企んでるのかな~。」

 

「ひっど~い、なにも企んでないですよ。」

 

「あ、そうそう、三ヶ木ちゃん、はいこれ。

 

 8月に会社説明会あるからその資料ね。

 

 この前、家の近くまで行ったんだよ~。

 

 ちょっと渡せなかったけどね。

 

 あ、それと入社試験は9月だからよろしくね。」

 

「え、あ、はい。」

 

「三ヶ木ちゃんの場合、わたしの特別枠だから試験とか別にいいんだけど。

 

 一応、建前的に必要らしいから。」

 

「・・・・・はい。」

 

「あのさ、三ヶ木ちゃん、わたし君に期待しているから。

 

 それじゃ、よろしくね。

 

 あ、そうだ、三ヶ木ちゃん、この前、公園で比企谷君と抱き合ってたでしょう。

 

 だめだよ、比企谷君は雪乃ちゃんのものだから。」

 

「げ、あ、いや、あれはそんなんじゃなくて。」

 

「そう? まぁいいか。 じゃあね。」

 

     ・

 

”とんとんとんとん”

 

く、空気が重い。

くそ、あの大魔王め、なんて爆弾落としていくんだ。

ほ、ほら、じゃ、ジャリっ娘、頬杖してめっちゃにらんでるじゃん。

さっきから机をとんとんって。

ど、どうしょう。

えっと、何か会話を。

 

「美佳先輩、どういうことですか?」

 

「え、あの、ぐ、偶然、比企谷君に学校の帰りに電車であって、そんでちょっと。」

 

「そのことじゃなくて。

 

 本当に進学しないんですね、なんでですか。

 

 それに陽さんの家の会社に入社するって、さっきも保母さんになるのが夢だって

 

 言ったじゃないですか。」

 

「え、ま、まぁ。」

 

「ぶっちゃけ、お金なんて奨学金とか学費免除とか何とかなるんじゃないんですか?

 

 本当の理由は違うんですよね。」

 

「・・・・・・いえ、そ、それだけだから。」

 

「はぁ~、まったく。

 

 これ、美佳先輩のですね、落ちてましたから。」

 

「え、この短冊。」

 

「馬鹿じゃないですか、夢や希望あきらめても死んだ人は帰ってきませんよ。

 

 それに、なんですか謝らせてくださいって。

 

 そんなのだれも望んじゃいませんって。

 

 聞きましたよ、わき見運転が原因だっていうじゃないですか。

 

 なんで美佳先輩がずっと責任感じていないといけないんですか。」

 

”ガタ”

 

「うっさい!! 

 

 なんにも知らないくせに、好き勝手言って!

 

 わたしは、わたしはただ・・・・・」

 

”ざわざわ”

 

「あ。」

 

「まだまだですね美佳先輩。

 

 わたしがなぜこの喫茶店を選んだか気が付かなかった様ですね。

 

 こんな落ち着いた喫茶店で、そんな大声出したら駄目ですよ。」

 

「か、帰る。」

 

「紅茶とチーズケーキの代金置いてかないですか?

 

 それに、ここのチーズケーキ、千葉県一美味しいんですよ。」

 

「あれ、レシートは?」

 

”ひらひら”

 

「いくらなの?」

 

「さぁ?」

 

「ぐ、卑怯者。」

 

「卑怯者でいいです。

 

 美佳先輩、座ってください。

 

 なにも知らないくせにって当たり前じゃないですか。

 

 わたしは城廻先輩じゃありませんから。

 

 美佳先輩がなにも話してくれなかったら、知りようがないじゃないですか。

 

 でも、だからこそ、だからこそ言えるんです。

 

 美佳先輩はわたしの大切な、とっても大切な仲間なんですから。

 

 嫌われても言わないといけないんです。」

 

「聞きたくない、絶対聞かない。」

 

「いいです。 これはわたしの独り言です。

 

 何があったかわかりませんが、もし亡くなられた方のことを気にして、

 

 それで進学をあきらめるって思ってるのならそれはただの自己満足です。

 

 そんなことしても亡くなられた方は絶対喜びません。」

 

「う、うるさい。」

 

「亡くなられた方は、美佳先輩が頑張って自分の夢をかなえて幸せになってくれることを

 

 望んでるんじゃないですか。

 

 いつまでもいつまでも自分を責めてばっかりで、そんな美佳先輩をみて悲しんでると

 

 思います。」

 

「・・・・・」

 

”ガタッ”

 

「よいしょっと。」

 

”だき”

 

「美佳先輩、そんなに自分を責めないでください。

 

 もう何年もおなじ短冊書いているそうじゃないですか。

 

 美佳先輩の気持ち、お二人に絶対届いてますよ。

 

 だから、少しだけ、少しだけでいいですから、自分を許してください。」

 

「会長。」

 

はぁ~、ジャり、うううん、会長いい匂い。

それに、あったかい。

あ、会長の心臓の音、すごく早い。

・・・・・ありがとう、こんなわたしなんかにここまで。

 

わかってるんだ、わかってるんだよ、会長。

こんなの自己満足だって。

会長の言うこと正しいよ。

わたしもわかってる、こんなことしても何にもならないって。

 

でも、でもこうでもしないと、わたしおかしくなっちゃうんだ。

 

わたしは保母さんになりたい。

でも美紀も絶対なりたいものができたはずなんだ。

かあちゃんも、もっともっとやりたいことがあったはずなんだ。

とうちゃんも、かあちゃんともっと一緒にいたかったはずなんだ。

 

わたしがすべて奪っちゃったの。

だからわたしが、わたしだけが夢を見ちゃいけない。

 

・・・・・会長、ありがとう。

わたし、会長のこと好きだよ。

だから

 

”ぎゅ”

 

「え、美佳先輩?」

 

「ありがとう。

 

 でもわたしはこれでいいの。」

 

「美佳先輩。 

 

 わかりました、美佳先輩の人生は美佳先輩しか決められませんから。

 

 でも、辛いときはわたしに頼ってください、話してくださいね。」

 

「う、うん。」

 

「まったく、仕方ないですね。 わたしの庶務ちゃんは。」

 

「うん。」

 

「ご、ごほん。 あ、あの~、紅茶よろしいですか?」

 

「・・・ あ、は、はい。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

げ、今のウェイターさん、絶対誤解してる。

わたし百合百合じゃないからね。

まぁ、少しはいいかもって思うけど、いえ、ないない。

わたしは正常、ノーマルだから~

え、あ、周りのお客さん、みんな変な目で見てる。

ち、違うから~。

 

「美佳先輩の所為ですからね。」

 

「いや、会長から抱き着いて。」

 

「いいえ、美佳先輩がギュって。

 

 どうするんですか、ほら、みんな変な目で見てるじゃないですか~」

 

「と、とりあえず、ケーキ食べよ。」

 

「はい。」

 

「うっま~。」

 

「でしょう、千葉一美味しいんですって。

 

 あ、そんなことより、美佳先輩は稲村先輩とか、かり何とか君とかいるのに、

 

 先輩にまで手だしてるんですか?

 

 公園で抱き合ってたってどういうことなんですか?

 

 ちゃんとした説明を要求します。」

 

「いや、ち、違うから。 ほんとだから。

 

 あ、あの、ちょっとよろけたところを助けてもらっただけだから。」

 

「本当ですか?」

 

「ほ、ほんとです。」

 

「まぁ、いいんですけど。

 

 わたし的にあのお二人に比べたら、美佳先輩なんて全然敵じゃありませんし。」

 

「ひど。 で、でもわたしのほうがスタイル良いし。」

 

「はぁ? いつのこといってるんですか?

 

 わたしのほうが若いですから、どんどん成長してますよ。

 

 それにお肌もピチピチですし。」

 

「誕生日、一ヵ月しか変わらないじゃん。」

 

「その一ヵ月の差が大きんです。

 

 わかりました、それなら今度の林間学校で勝負しましょう。」

 

「え、勝負って?」

 

「ずばり水着勝負です。

 

 今度の林間学校って、川で遊べるそうじゃないですか。

 

 生徒会でだれが一番スタイルいいか、水着で勝負しましょう。」

 

「え、え~

 

 だ、だってわたし水着ってスクール水着しか。」

 

「ふふふ、ちなみにわたしはバッチリセクシーなやつですから。」

 

「ひ、卑怯もの~」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「園長先生、ただいま!」

 

「あ、美佳ちゃん、おかえり。

 

 今日はどうしたの? なにか忘れ物?」

 

「あのね、この短冊つけてもいい?」

 

「短冊? いいわよ、どうぞ。」

 

「うん。」

 

うんしょっと。

 

”ぎゅ”

 

これでよし。

今年こそ、お願いが神様に届きますように。

 

さて、帰ろうっと。

 

晩ご飯、何にしようかなぁ~

 

・ ・ ・ ・ ・

 

『生徒会のみんなと、いつまでも一緒にいられますように。

 

                         みか』




最後まで、ご辛抱ありがとうございます。

次回、いよいよ夏休み突入。

投稿、不定期となり申し訳ありませんが、

また読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章 夏物語
夏のはじまり -林間学校 前編-


すみません。

見直し前に投稿になってしまいました。
な、なんとか見直ししましたが、誤字があったらすみません。
(都度見直しいたします)
反省です。 なに触ったんだろう。

見にきていただき、ありがとうございます。
(毎回同じですみません。)

今回から新章です。
時期、ちょっとずれててすみません。

物語はいよいよ夏本番へ。
今回、またしてもセリフばっかりでごめんなさい。

最後まで読んでいただけたらありがたいです。




「取材、ありがとうございました。

 

 部活、頑張ってくださいね。」

 

”にぎ”

 

「あ、ありがとう。 えっと~。」

 

「新聞部の蒔田舞です。

 

 あの、キャプテンさんに名前を憶えて貰えるとうれしいです。 にこ♡

 

 あ、一年生の皆さんも来月の一年生大会、頑張ってくださいね~」

 

「「あざーす。」」

 

     ・

 

「へへへ、これでバスケさんの7割ぐらいの票は堅いですね。」

 

「いや、野球部の時もそれやってたでしょ、にぎにぎって。

 

 あんたほんとあざといから。」

 

いや、ほんと、うちの会長並みあざとい。

いや、それ以上かも。

だって、部員一人一人に笑顔振りまくわ、握手しまくるわって、あんた政治家か。

大岡君もメロメロだったもん。

絶対、バスケ部の何人かも勘違いしてるよね。

 

「え~、だって文化祭まであと二カ月ぐらいしかないですよ。

 

 わたし、人気投票、必死ですから。」

 

「いや、でもさ、あんた・・・・・・・まぁ、いいけどね。

 

 それより記事間に合うの?

 

 前回も大変だったでしょ

 

 今回は夏休み前だし、締め切り大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ、今週末まで待ってもらってますから。」

 

「え、よく待ってもらえたね。」

 

「はい、ジミ子先輩の名前だしたら、いちころでした。」

 

「お、おい。」

 

瀬谷君、ごめん。

また徹夜になりそうかも。

ごめんね、こんど差し入れもっていくから。

はぁ、全く手のかかるやつ、紹介しちゃったよ。

 

「いいじゃないですか、使えるものは使えですよ。

 

 それより、この後行くんでしょ。」

 

「う、うん。」

 

「それじゃ、レッツゴーです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ジミ子先輩、こんなのどうです?」

 

「ぶへぇ、だ、駄目に決まってんじゃん、馬鹿~」

 

「え~、大丈夫ですよ、顔とか結構地味なんですから、これぐらいしないと。」

 

「ば、馬鹿者、ほとんど生地ないじゃん。なにこのちっちゃな三角形は。」

 

「もう、折角選んだのに。」

 

「お願い、ちゃんとしたの選んで。」

 

「じゃあ、これは。」

 

”ベシ”

 

「いた~い。」

 

「紐しかないだろう、それ。

 

 もういい、あんたに頼んだわたしが馬鹿だった。

 

 自分で選ぶ。」

 

「だってジミ子先輩が悪いんですよ、セクシーなのっていうから。

 

 どうせ、刈宿君とプールか海に行くんでしょ。

 

 いいなぁ、自分だけ。」

 

「ち、ちがうから。 生徒会でさ、林間学校のサポートに行くことになって。」

 

「え、なんですかそれ。 林間学校でなんで水着なんですか。」

 

「あ、ちょうど近くに河原があってね、水遊びできるんだって。

 

 そんでうちの会長が、生徒会で誰がスタイル良いか、水着で決着つけようっていうから。」

 

「な、なんていう企画なんですかそれ。

 

 あ、もちろん、稲村先輩も行くんですよね。」

 

「う、うん。」

 

「ジミ子先輩、このワンピースにしなさい。 これがいいです絶対。」

 

「そうこのワンピース似合うかなぁ

 

 ・・・・・・・おい、これどうみてもアラフィフ向けだろう。」

 

「ジミ子先輩はそれでいいんです、ぷぃ。」

 

「いや、何で怒ってるの?

 

 あっ」

 

     ・

 

「せんぱ~い、これなんてどうです。」

 

「い、いや、もう何でもいいから。 俺あっち行っててよくない?

 

 ここにいるだけで、さっきから通報されそうなんだが。」

 

「え~だめですよ、ちゃんと意見聞かせてください。」

 

「もうそれでいんじゃないの。」

 

「なんですか、もう。

 

 ほれ、ほれこれなんてどうですか~。」

 

え、な、何で会長と比企谷君が。

会長セクシーな水着持ってるって言わなかったっけ。

げ、さっきの極小水着。

あ、比企谷君、照れてる。

くそ~、うらやまし。

ま、負けないからね。

 

「いや、それ、小さすぎじゃね。」

 

「え~そうですか、これぐらいふつう・・・・

 

 は、もしかして、俺以外にはそんな水着姿見せたくない、俺と二人きりの時だけ

 にしてくれっていうことですか。

 残念ですがそういうことはちゃんと告ってからにしてしてください、ごめんなさい。

 

 でも、まぁ、先輩がそう懇願するのなら仕方ないですね。」

 

「い、いや、懇願してないから。」

 

「それじゃあ、やっぱりいま持っている水着にしておきます。

 

 期待してくださいね。 えへ♡」

 

「いや、だったら何しに来たの。」

 

「いいんです。 ほら、次行きますよ。」

 

”ぎゅ”

 

「くっつくな、歩き難いだろうが。」

 

「なんですか、もう。」

 

”スタスタスタ”

 

「はぁ~。 」

 

「ジミ子先輩?

 

 あれ、生徒会の会長さんと備品先輩じゃないですか。」

 

「う、うん。」

 

「え、でも備品先輩ってジミ子先輩と・・・・ふふ~ん、そういうこと。

 

 修羅場、またしても修羅場。

 

 生徒会会長と庶務の血で血を洗う地獄絵。」

 

「お、おい、ちょっとまて、地獄絵ってなんだ地獄絵って。」

 

「これは、ぐふふふ。」

 

「な、なに、その笑顔、はっ! ま、まて、それはやめろ。」

 

「かいちょ 」

 

「待て。」

 

「ふぐふぐ、んー 」

 

”どたばた”

 

は、危なかった。 やっぱこいつ危険だ。

なに会長に声かけようとしてんだ。

い、行ったよね、会長と比企谷君。

もう、大丈夫だ。

 

「ぷはぁ。

 

 な、なにするんですか、危なく窒息死するとこじゃないですか!」

 

「うっさい、いま何しようとしてた、お前。」

 

「な、なにって、べ、別に。 ちょっとおもしろいかなぁって。」

 

「お、おい。」

 

「はぁ~、あの会長が相手か、これは厳しいですね。

 

 水着で決着って、そういうことならそうと言ってくれればいいもの。」

 

「え?」

 

「ほい、ちょっと失敬。」

 

”にぎにぎ”

 

「え、うぇー、あんたなにを。」

 

「ふむふむ。

 

 えっとこっちのほうはどうかなぁ。」

 

”もみもみ”

 

「ひゃっ。」

 

「ふ~ん、そうですか。 それならば、え~とですね。

 

 うん、これがいい。

 

 これにしましょう、ジミ子先輩。」

 

「え、で、でもこれも結構きわどい。」

 

「大丈夫ですよ、ジミ子先輩。 先輩はスタイルはまぁそこそこいけてますから。

 

 あ、それから、この水着を着る時は。」

 

”ひょい”

 

「えっと眼鏡外して、そしてこのぼさぼさの髪をこんな感じでアップにすれば。

 

 ほらね、ちょっとそこの鏡、見てください。」

 

「う、うん。 あっ。」

 

「まぁ、顔は仕方ないから、あきらめて。」

 

「お、おい、そこあきらめるの?」

 

「大丈夫、身体で勝負です。

 

 ジミ、うううん、三ヶ木先輩、会長さんに負けたらだめですよ。」

 

「いや、あんた身体で勝負って。

 

 まぁ、うん、ありがと、舞舞。」

 

「な、なんですかそれ、絶対やめてください。」

 

「ジミ子より、いいじゃん。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「ヒッキー♡」

 

「う~ん。」

 

「ヒッキー、ヒッキー♡」

 

「由比ヶ浜、なんだ、どうした。」

 

「ヒッキー、ヒッキー、ヒッキー♡」

 

「お、おう? いや、わかったから、そんなに何回も呼ばなくていいから。」

 

「比企谷君♡」

 

「え、あ、雪ノ下。」

 

「比企谷君、比企谷君、比企谷君♡」

 

「いや、なにお前まで。」

 

「ヒッキー、ヒッキー・・・・・・ヒッキー。」

 

「比企谷君、比企谷君・・・・・・比企谷君。」

 

「な、なに、え、やめて。 そんなに頭揺らすのやめて、そんなに揺らすともげちゃうから。」

 

”ぼき”

 

「ぐわぁー!」

 

”ばさっ”

 

「あ、やっと起きた。 ヒッキー、今何時だと思ってるの?」

 

「え、な、あれ?」

 

「もう永眠したのかと思ったわ。」

 

「・・・・・・あ、あの~、何で君たちが俺の部屋にいるの?」

 

「ヒッキーが遅いからじゃん。」

 

「予想通りね、まだ寝てると思ってたわ。」

 

「遅いってなに? 何んかあったの今日。」

 

「げ、ヒッキー、マジ?

 

 き、今日は林間学校の日だよ。」

 

「林間学校? あ!」

 

「やっと思い出したようね。」

 

「や、やばい、こんな時間じゃねぇか。

 

 お、おい、着替えるから出て行ってくれ。」

 

「うん、早くね。」

 

”ばたん”

 

「はぁ~、すっかり忘れてた。 急がねぇとな。」

 

”ぬぎぬぎ”

 

「ん、最近、筋肉ついてきたんじゃねぇか。

 

 ふん、ふん、ふんっと。

 

 我が上腕二頭筋にかけて負けはせん!ってな。」

 

”ガチャ”

 

「あっ、ヒッキー、それとね、・・・・キモ!」

 

「え、あっ、そ、その・・・・・・由比ヶ浜さん、ノックぐらいしようね。」

 

「・・・そだね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、来た! 先輩、遅いです~。」

 

”タッタッタッ”

 

「・・・え、あれ? なんで。」

 

「お早う、一色さん。」

 

「やっはろー、いろはちゃん。」

 

「あ、お、おはようございます、雪ノ下先輩、結衣先輩。

 

 こ、今回もよろしくです。」

 

「うん、よろしくね、いろはちゃん。」

 

「ごめんね、遅くなって。

 

 もう、ヒッキーがいけないんだからね。

 

 迎えに行くまで寝てるなんて信じられない。」

 

「まったく、常識がない男ね。」

 

「いや、勝手に俺の部屋まで入ってくるお前たちはどうなんだ。」

 

え、結衣ちゃん達、比企谷君の部屋に入ったの。

しかも寝起き突撃?

な、なんていう・・・・・

わたしも今度行こうかなぁ。

 

「あ、でも、ちゃんと小町ちゃんの了解とったし。」

 

「いや、俺の了解は。」

 

「小町さんの了解を取れた以上、あなたの了解がいると思うの?」

 

「いや、まぁ、そうなんだが。」

 

「えっと~、

 

 まぁ、それはそうと、せんぱーい、ちょ、ちょっといいですか?」

 

”ぐぃ”

 

「え、あ、お、おい。」

 

「あの、なんで雪ノ下先輩や結衣先輩もいるんですか?」

 

「い、いや、お前、その目怖いんだが。

 

 この前、人手足りないって言ったろ。」

 

「だからといって、お、お二人とも受験生じゃないですか!」

 

「いや、俺も受験生なんだが。」

 

「先輩はいいんです。」

 

「え、いいのか俺。 あ、だが、平塚先生の了解はとってあるぞ。」

 

「え、そ、そうなんですか。

 

 ・・・・・まったく、なんであのお二人なんですか、もう。

 

 あの、美佳先輩、ちょっといいですか!」

 

「え、なに? 何で怒られてるのわたし。」

 

「林間学校での担当の割り当ての件ですが・・・・」

 

     ・

 

「お早う、みんな集まったかね?」

 

「あ、いえ、すみません、もう一人。」

 

「え、美佳先輩、他にまだいましたっけ?」

 

遅いなぁ。

昨日ちゃんと確認したのに。

ちょっと電話してみようか。

えっと、スマホ、スマホっと。

ん? あ、あのコート。

暑くないのか、おい! ま、マジでその格好で行くの?

 

「けふこん、待たせたの。」

 

「げっ。」

 

「あ、中二だ。」

 

「材木座、お前、どうしたんだ?」

 

「へ、い、いや、我はだな、あれ?」

 

「あ、あの~、ほ、ほら男手足りないかなぁって思って、わたしが声を・・・・

 

 だって、なんかキャンプは任せておけって。」

 

「ふむ、我が来たからには安心するがよい。

 

 三ヶ木女子に頼まれては、我が手助けしないわけにはいくまい。

 

 ほれ、八幡、これを見るがよい。

 

 ちゃんとキャンプについてはシュミレーション済みである。 任せておかれい。」

 

「お前、このアプリ、キャンプ場を経営するやつじゃねえか。

 

 キャンプ場を発展させてどうすんだ。」

 

「え、違うの?」

 

「材木座、ご苦労だった。 もう帰っていいぞ。」

 

「ひぎぃ、八幡、せ、折角来たのだ、家族も我を置いて旅行に行って誰もおらぬ。

 

 い、一緒に連れて行って~」

 

”だき”

 

「くっつくな、わかった、わかったから。 冗談だ、冗談だから離せ。」

 

「もう、いいかね。」

 

「うぃっす。 あ、でも先生、これだけの人数、そのワンボックスだけでは無理でしょう。

 

 どうやって行くんですか?」

 

「ん、いや、もう来ると思うんだが。」

 

”ブ、ブー”

 

「ああ、噂をすればだ。」

 

「「え゛ー」」

 

「ん? どうした稲村、三ヶ木。」

 

「ひ、平塚先生、来たって。

 

 待ってたの、ひ、広川先生のことですか?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「「・・・・・」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは広川先生も来たので、そろそろ出発するとしよう。

 

 私の車と広川先生の車に分かれてくれたまえ。」

 

”スタスタスタ”

 

「え、どうした私の車に全員は乗れないぞ。

 

 すまんが、あと二人は広川先生のほうに乗ってくれ。」

 

「だって、広川先生の車ってトラックじゃないですか~」

 

「そうね、どうみてもトラックね。」

 

「なんかお尻痛くなりそう。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「美佳先輩? 稲村先輩? どうしたんですか~。

 

 なんか顔色、すっごく悪いですよ。」

 

「だ、大丈夫だから。 ね、ねぇ。」

 

「あ、ああ。 大丈夫だ、会長。」

 

「そ、そうですか?

 

 それじゃあ、公平にジャンケンで決めましょう。」

 

「「ジャンケン、ポン。」」

 

は、う、うそ。

 

「げ、い、いやだ~」

 

”ダー”

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ、まだ死にたくないよ~。

だれか嘘だといって、嘘だと~

 

「み、三ヶ木、帰ってこ~い。」

 

「絶対いや~」

 

     ・

 

「よし決まったようだな。

 

 それでは出発しようか。 広川先生、向こうまでよろしくお願いします。」

 

「ああ、しず、平塚先生、向こうでまた。

 

 さぁ行くぞ、乗った、乗った。」

 

ううう、なんでわたしジャンケン、弱いんだろう。

し、仕方ないね。

こうなる運命だったんだ。

あ、その前に、昨日準備していたんだ。

 

「書記ちゃん、これ車の中のお菓子とか飲み物。

 

 みんなの分あるから、中で分けてね。

 

 あ、あとUNOとかも入れておいたからよかったら使ってね。」

 

「あ、はい。 三ヶ木先輩、いつもご苦労様です。」

 

「書記ちゃん、短い間でしたけど、お世話になりました。」

 

「え? あ、あの~三ヶ木先輩?」

 

「さようなら~」

 

     ・

 

”カキカキ”

 

はぁ、これでいいかなぁ。

 

「なに書いてんだ三ヶ木。」

 

「遺書。」

 

「お、おい。」

 

「稲村君、ジャンケン勝ったんだから、無理しなくてもよかったんだよ。」

 

「いや、お前がこっちなら、俺もこっちに乗るさ。」

 

「そ、そう。」

 

「た、ただな、こ、今回は高速を使うんだよな。」

 

「高速、使うんだよね。」

 

「「・・・・・」」

 

「よし、稲村、三ヶ木行くぞ。

 

 シートベルトしろって、あ、もうしてるんだ。」

 

”キュルルル、ブー”

 

「せ、広川先生、安全第一で行きましょう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「せ、先生? もう少しゆっくり行きません?

 

「稲村、ここは高速だ。 高速でゆっくり走ったら危ない。」

 

「で、でも広川先生、ちょ、ちょっと飛ばし過ぎじゃ、きゃー。」

 

「せ、先生、トンネルだから、ライト、ライトつけて。」

 

「お、おう。」

 

”ビュッ“

 

「いっ! そ、それウィンドウウォッシャー!」

 

「み、三ヶ木、し、死ぬときは一緒だからな。」

 

「いやだ、死ぬなんて言わないで~、馬鹿ー!」

 

「あ、す、すまん。

 

 すまんついでに、な、なぁ、手、握っててくれないか?」

 

「う、うん。 い、今だけだからね。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”バタン”

 

「う~ん、結構景色良いいね。」

 

「うん、空気美味しいね、いろはちゃん。」

 

「ゆきのん、なんか去年のこと思い出すね。」

 

「そうね、もう一年も前のことなのね。」

 

「いや、あまり思い出したくはないのだが。

 

 それはそうと、先生今年はなぜ、前のりなんですか?」

 

「うむ、去年も誰かさんが遅かったこともあって、割とギリギリだったんでな。

 

 今年は安全を考えて余裕のある日程にしたんだ。

 

 それと一色から聞いていると思うが、三年生は今日と明日の夜は勉強会だ。」

 

「え~、あたし聞いてないよ。」

 

「いや、しっかり伝えただろう。」

 

「だって。 ・・・・・あたし勉強道具持ってこなかったし。」

 

「由比ヶ浜さん、私の貸してあげるわ。」

 

「由比ヶ浜よかったじゃねえか。

 

 お前の場合、平塚先生にマンツーマンで教えてもらえ。」

 

「ヒッキー、酷い。」

 

「平塚先生、勉強会は何かやること決まってるんですか?」

 

「いや、雪ノ下、基本的に自習だ。

 

 わからないとこは、私と広川先生に聞いてくれ。

 

 ああみえても、大学の成績は私より上なんだ。」

 

”キュル、キュル、キキ―”

 

「あ、来たか、思ったより早かったなぁ。」

 

”ガチャ”

 

つ、着いたよ。

こ、怖かった~、寿命50年は縮んだからね。

 

「み、三ヶ木、生きてるか?」

 

「い、稲村君こそ生きてる?」

 

「ああ、なんとかな。」

 

「美佳先輩、お疲れで~す。

 

 ど、どうしたんですか二人とも。

 

 顔真っ青じゃないですか~、はっ、手繋いでる。」

 

「あ、い、いやこれは、違う、怖かったの。

 

 おい、馬鹿離せ、いつまで握ってるんだ。」

 

「いや、お前が離してないんだろう、ほら。」

 

「あ、そうか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは荷物を本館に置いたら食堂に集合だ。

 

 明日からのスケジュールと役割の確認をする。」

 

「「は~い。」」

 

はぁ、まだくらくらするよ。

なんか足が地についてないって感じ。

あ、みんな行っちゃう。

早く行かないとね。

 

”ひょい”

 

え、それわたしの荷物。

 

「大丈夫か? なんかフラフラしてるぞ。」

 

「あ、比企谷君、ありがと。

 

 うん、少し休めば大丈夫・・・・だと思う。」

 

「そっか。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それなんですか? 美佳先輩。」

 

「あ、これ、蚊取り線香だよ。」

 

「いや、それはわかりますけど。」

 

「へへ、便利だよ、携帯できるんだ。

 

 とうちゃんが山は蚊が多いからって持たせてくれたの。」

 

「え~、虫除けスプレーがあるじゃないですか~」

 

「絶対こっちのほうが経済的だから。」

 

「でもそれ臭いが結構きつくないですか~。」

 

「え、いい匂いじゃん。」

 

「あの、部屋では使わないでくださいね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「えっと、先生、基本的には去年と同じスケジュールということですね。」

 

「ああ、そうだ。

 

 ただ、すまん、連絡が遅れたんだが、今年は肝試しは中止になった。」

 

「平塚先生、それは去年のことが。」

 

「いや、今年の生徒の保護者からな、暗い中、驚いて走ったりしたら危ないんじゃないかとの

 

 意見があったらしい。」

 

「いや、みんな、笑っていたような。」

 

「まぁ、そういうことだ。 その代わり広川先生が何か考えているらしい。」

 

「え~、でも折角いろいろ準備したんですよ~

 

 なんか、去年はしょぼかったって聞いてたので。

 

 ん~、あ、そうだ。 わたしたちだけでもやりましょう。

 

 平塚先生、よろしいですか~」

 

「まぁ、キャンプファイヤーまでは自由時間だ。

 

 キャンプファイヤーに間に合えばいいだろう。」

 

「はい。 それでは肝試し決定です。」

 

雪ノ下さん、去年のことって何かあったのかなぁ。

そういえば戸部君が何か言ってたような。

まぁ、いいや。

 

えっとそれじゃ、まずは明日のオリエンテーリングか。

後で危険な場所ないか下見してこよう。

それと他には・・・・

あ、そうだ。

 

「先生、オリエンテーリングの時なんですが、

 

 オリエンテーリングの班と昼食の準備班に分けてもいいですか?」

 

「ああ、そうだな、いいだろう。」

 

「会長、どうします?」

 

「そうですね、それでは昼食の準備班はわたしがやりますので。

 

 ・・・・・まぁ、マジ暑いですから。

 

 副会長、副会長はオリエンテーリング班のリーダーをお願いしますね。

 

 その他の皆さんの振り分けは、明日までに考えておきますのでよろしくです。」

 

なんか、いま暑いからとか言わなかった?

まぁいいや、それが終わったらカレーか

カレーの材料は各班ごとに分けておかなくちゃね。

よし、今のうちに分けておこうっと。

 

     ・

     ・

     ・

「ご馳走様でした。」

 

ふう、ご飯美味しかった。

この晩ご飯、あの値段でどうやって作ってるんだろう。

満腹満腹。

思わず、おかわりしちゃった。

 

あれ? みんなどこに行ったんだろう。

 

”がやがや”

 

あ、戻ってきた。

勉強道具持ってきたんだ。

まじ勉強するんだね。

 

「美佳っち、やっと食べ終わった。」

 

「三ヶ木、お前食べ過ぎだろう。」

 

「さて、始めるか。」

 

「あら、始めるってあなた読書?」

 

「ああ、今から集中するから話しかけないでくれ。」

 

「ヒッキー、それってラノベだよね。」

 

「比企谷、それは没収だ。」

 

「い、いや、俺の勉強道具ってこれだけなんだが。」

 

「衝撃のファーストブリット!」

 

「ぐはぁ。」

 

「ね、比企谷君、マジで他に持ってきてないの?」

 

「お、おう。」

 

「じゃあ、ちょっと待ってて。」

 

”ダ―”

 

「お、おい、三ヶ木。

 

 なにか嫌な予感がするのだが。」

 

     ・

 

”ダ―”

 

「はい、これ、読んで。」

 

「はぁ?」

 

「む、それは我の新作ではないか。」

 

「これの添削と感想よろしく。 いいですか平塚先生。」

 

「お、おい。」

 

「ふむ、そうだな、これならよかろう。 ちゃんと感想文提出するように。」

 

「み、三ヶ木。」

 

ふふん、比企谷君、あとよろしく。

まぁ、一応最後まで読んじゃったからね。

でも、なんだヒロインのあの扱いは!

確かに、石像から人間に戻ったけどさ。

あの野郎、ゆるさん。

 

「よ・し・て・る君、後で話があるから。」

 

”ぼきぼき”

 

「ひぎぃ。」

 

     ・

 

「広川先生、ここの問題ちょっとわかりにくいんですが。」

 

「ああ、物理やってのか稲村。 どれだ。」

 

「ヒッキー、なに勉強しようかな~ 」

 

「全部だ。」

 

「ううう。」

 

「雪ノ下さん、この英文、この訳し方であってるかなぁ。」

 

「そうね、ここの訳し方が少し違うわ。 ここはこう訳するのよ。」

 

”ぎゅ~”

 

「い、痛い!

 

 え、な、なに沙和、書記ちゃん。」

 

「え、別に。」

 

へぇ~、みんな頑張ってるね。

いいなぁ。

みんな志望校、受かるといいね。

頑張れ!

 

わたしはっと。

・・・・あ、そうだ、オリエンテーリングの下見するの忘れてた。

 

「あ、広川先生。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先生、ご無理言ってすみませんでした。」

 

「いや、こういうのもいいと思う。

 

 そうだな、こいつらはもう来年はいないんだな。」

 

「はい。 正直、そのことを考えるとすこし寂しいです。」

 

「そうか。

 

 ん、三ヶ木はどこだ?」

 

「え、あれ?

 

 ね、ねぇっ書記ちゃん、美佳先輩知らない?」

 

「あ、さっき、外のほうに行きましたけど。」

 

「外? どこいったんだろう?」

 

「あ、先輩、美佳先輩どこにいったか知りません?」

 

「え、いないのか?」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっとやっぱりここは危ないかもね。

明日、ロープ引っ張っておこう。

 

えっとこっちの道に行っちゃうと違うとこ出ちゃうから、コーンとか貼り紙とかしておこうっと。

あ、ここいくと河原に出るんだ。

ちょっと行ってみようかなぁ。

 

”がさ”

 

「おい、三ヶ木。」

 

「あ、比企谷君。 どうしたの?」

 

「どうしたのじゃねぇ、お前いなくなるから心配したんじゃなぇか。」

 

「え、あ、ごめん。

 

 あのね、ちょっと明日のオリエンテーリングの下見に。」

 

「全く、ちゃんと言ってから行けよ。」

 

「え、言ったよ、広川先生に。」

 

「そ、そうか。」

 

「ね、ちょっと河原行ってみない?」

 

「ああ。」

 

     ・

 

「あ、蛍。

 

 ほ、ほら、比企谷君、みてみて蛍。

 

 うわぁ~、蛍がいっぱいだ。」

 

「お、おお。 綺麗だなぁ、なんか癒される。」

 

「へへへへ。」

 

「ん、どうした? なんか変なこと言ったか俺?」

 

「うううん。 あのさ、今ね、わたしが会長だったら、

 

 なんですか先輩、そこは蛍も綺麗だが一色のほうがもっと綺麗だっていうとこですよ!

 

 って言いそうかなぁって思ったら。」

 

「く、はははは。 そ、そうだな、言いそうだ。

 

 それにお前、今の似てるぞ。」

 

「えへ♡」

 

「あ、それは似てないわ。」

 

「あ、そう。 ふん。」

 

「あ、いや、お前のほうが蛍より・・・・・」

 

「いいよ、比企谷君、わたしは自分のことわかってるから。

 

 そんなこと言ったら、蛍に悪いもん。」

 

「お前。」

 

     ・

 

「なぁ、知ってるか?」

 

「なに?」

 

「蛍のあの光って、コミニケーションの一つでな、求愛の光なんだと。

 

 蛍ってすげー寿命短くてな。

 

 オスが3日ぐらいで、メスが6日ぐらいしか生きられないんだ。

 

 だからその間に相手を見つけないといけないんで、必死なんだそうだ。」

 

「へぇ~、だからあんなに綺麗なんだね。 

 

 短い時間しか生きられないから、あんなに一所懸命に求愛してるんだ。

 

 そっか。

 

 人もね、蛍みたいになにもとらわれないで、ただ純粋に愛してますって言えればいいのに。」

 

「まぁ、それが人の人たるゆえんだな。

 

 それに人がそんなことになったら、葉山とかモテる奴だけモテることになるだろうな。

 

 俺や材木座なんか一生一人で終わるじゃねぇか。」

 

「・・・・・それマジで言ってるの?」

 

「え?」

 

まったく、人がこんなに苦しんでるってのに。

このハーレム王が。

 

蛍、一生懸命なんだね。

大好きだ、大好きだってあんなに。

だから綺麗なんだね。

 

「わたしも蛍になりたい。」

 

「え?」

 

「あ、い、いや何でもない。」

 

「なぁ、ちょっと調べてみたんだがな。

 

 お前、保母さんなりたいって言ったよな。

 

 ほら、これ、保育士の取れて自宅通学できる千葉の大学だ。

 

 それとその大学でやってる減免処置制度と、利用できる奨学金制度の一覧表だ。

 

 この大学ならうまくいけば、入学金や授業料がかなり免除できるかもしれん。

 

 まぁ、あとはバイトすれば何とかなりそうだぞ。」

 

「え、比企谷君、調べてくれたの?」

 

「ああ、折角調べたんだ。 一度目だけでも通してくれないか。」

 

「う、うん、ありがと。」

 

わたしのためにわざわざ調べてくれたんだ。

うれしい。

ありがと、比企谷君。

で、でもわたしね、やっぱいけない、いくわけにはいかないんだ。

 

・・・・・ごめんね。

 

「比企谷君、あのね、」

 

”ドバァー”

 

「「え?」」

 

「うわー、お、おい三ヶ木、いくぞ、どっか雨宿りだ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

 

”ガチャ、ガチャ”

 

「だめだ、やっぱ鍵開かないか。

 

 なぁ、雨はしのげるが、大丈夫か?」

 

「う、うん。 でもちょっと寒い。」

 

「ああ、山の夜は冷えるからなっていう・・・・・ピンク。」

 

「はぁ? ピンクって? え、あー!」

 

”ベシ”

 

「このスケベ。」

 

「いや、透けてるんだから仕方ねえだろう。

 

 悪いのはこの雨だ。」

 

「うう、あんまりジロ見すんな。」

 

「あ、ああ、すまん、つい。」

 

「・・・・・・・・・見たいの?」

 

「・・・・・。」

 

「どスケベ。」

 

「お、おい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「雨、やまないね。」

 

「そうだなぁ。」

 

”ブルブル”

 

「お前大丈夫か?」

 

「さ、寒いね。 

 

 あ、ほら、これ触ってみて。 少し温かいから。」

 

「蚊取り線香か、まだ消えてなかったんだな。」

 

「へへ、やっぱいいでしょ、蚊取り線香。」

 

「ま、そうだな。」

 

「ふ~。

 

 ほら、赤くなった。」

 

「ああ、なんかほっとする。」

 

「ふ~」

 

へへ、なにやってんだか。

でも、なんか蛍みたい。

好きだよって。

このあかり、わたしの気持ちだよ、気持ち届くかなぁ。

 

「ふぅ~」

 

”ジ~”

 

は、な、なに? なんか、し、視線が。

げ、比企谷君になんか見つめられてる。

えっと・・・

 

「あの~、比企谷君。」

 

「あ、い、いや、すまん。 つ、つい。」

 

「え?」

 

「ほ、ほら、その息吹きかけてる顔って、まぁなんだキス顔だから。

 

 す、すまん。

 

 気持ち悪いこと言った、本当にすまん。

 

 忘れてくれると助かる。」

 

え、キス顔。

そ、そっか。

・・・・・・・そっか、見とれてくれたんだ。

うれしい。

もしかして気持ち届いたのかなぁ。

 

「あのね・・・・・・はい。」

 

「はぁ? お、お前何やってんだ。 いや、その顔やめろって勘違いすんだろう。

 

 お、おい目を開けろ。

 

 わ、わかった、俺をからかってんだな。 ど、どこかに、い、一色が隠れてんだろう。」

 

「・・・・・・キスしていいよ。」

 

「は、はぁ? な、な、な、なに言ってんだ。」

 

「うれしかった。

 

 こんなわたしなんかに見とれてくれたんだもん。

 

 あのね、わたしわかってる。

 

 わたしなんかじゃ、結衣ちゃん達の足元にも及ばないって。

 

 だから、本命じゃなくていいんだ。

 

 あ、あ、遊びでもいい、全然気にしないから。

 

 た、たまにね、わたしのほうを見てくれるだけでいいんだ、それで十分。

 

 でも、うううん、だからかも。

 

 わたしね、わたしのファーストは、わたしの一番好きな人にもらってほしい。

 

 だ、だから、そ、そのね、・・・・・いいよ。」

 

「な、お、おい三ヶ木。お前この寒さで頭どうかしたのか?」

 

「・・・・・」

 

「お、おい、三ヶ木?」

 

「だ、だめかな。 やっぱり、わたしなんかじゃ。」

 

「いや、その、なんだ・・・・・」

 

「・・・・そ、そうだよね。

 

 へへ、なにやってんだかわたし。

 

 馬鹿だ。」

 

「いや、まぁ、あ、あのな。」

 

「ちゅっ」

 

「へ、お前、それって。」

 

「ははははは、なによ比企谷君が教えてくれたんじゃない。

 

 えっと欧米では、と、友達同士のあいさつはほっぺ同士をくっつけて、

 

 口でチュッて言うんだって。

 

 と、友達・・・・だもんね。」

 

「え、あ、い、いや 」

 

「へ、変なこと言ってごめんね。

 

 わたしのほうこそ忘れてくれるとありがたいっす。」

 

「お、お前。」

 

「馬鹿、 きらい!」

 

”ダ―”

 

「お、おい、待てって三ヶ木。

 

 雨降って地面滑るから、走ったらあぶねぇって。」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

馬鹿だ、わたし、なんてことを。

馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、ほんと馬鹿。

 

も、もう比企谷君の顔みられないじゃん。

わかってたはずなのに。

あんなこと言うつもりなかったのに。

わたしは、そばにいるだけでいいって思ってたのに。

なんで、なんで、なんで。

 

もうやだ。

 

”ギュッ”

 

「ちょっと待てって。」

 

「いや、手離してよ。 もうほっといて。」

 

「いや、走ったら危ないって。」 

 

「離せっていってんだろ! 馬鹿、変態、すけべ、離せー」

 

「お、おい、落ち着けって。」

 

「離せ、離せ、離せ、離せって、馬鹿! もういやだ、離してよ。」

 

”だき”

 

「お願い、離して。もう嫌なの・・・・・・」

 

「三ヶ木。」

 

「あんなこと言うつもりなかったのに。

 

 自分のこと、わかってたはずなのに。

 

 あの蛍、あの蛍の光の点滅一つ一つが、一生懸命好きだって頑張ってんだなぁって思ったら。

 

 何考えてんだろう、わたし馬鹿だ。」

 

「なぁ、三ヶ木。

 

 すまん、もう少しだけ待ってくれないか。」

 

「も、もういいから、大丈夫だから。

 

 ご、ごめんね。 受験勉強で大変なのに。

 

 もう忘れて。」

 

「まぁ、待てって。

 

 少しだけ、少しだけ聞いてくれ。

 

 俺な、俺は人の言うことって、絶対なにか裏あるんじゃねえかって思ってしまうんだ。

 

 まぁ、今までいろいろあってな。

 

 だけど、お前は、お前の言うことは、なぜか素直に信じられたんだ。

 

 まるで自分の言葉のように。

 

 だから、お前には、本当に自分でも信じられないんだが、

 

 俺のこと、普通の俺のこと少しでも知ってもらいたいって思った。

 

 三ヶ木、俺はお前にそばにいてほしい。

 

 でもそれが友としてなのか、それとも別のものなのかわからないんだ。

 

 ただ、お前と刈宿、お前と稲村が話しているところを見たり、いろいろ聞いたりするたび、

 

 なんだろう、こうなんか胸が締め付けられて、その場から逃げ出したくなっちまう。

 

 こんなの初めてなんだ。

 

 さっきお前に好きって言われて、素直にうれしかった。

 

 だから、いや、だからこそこんな気持ちのままでお前に・・・・

 

 キ、キ、キスできない。

 

 ましてや、お前の大事なファーストなんだろう。

 

 うわ~、なに言ってんだろう。 俺、キモイよな。

 

 だが、すまん、多分、これが俺の本心なんだ。

 

 だから、もう少し時間をくれないか。

 

 一度、しっかり気持ちを整理して考えて、そして答えを見つけてお前に向き合いたい。

 

 もしかしたら、お前の気持ちに答えられないかもしれないが。

 

 それでも、それでもこの中途半端な気持ちのままじゃ駄目なんだ。

 

 三ヶ木、それまで待ってもらえないか?」

 

「・・・・・蛍みたいにいかないね。」

 

「すまん。」

 

「うううん、ありがと・・・・ごめんなさい。」

 

”ブルブル”

 

「あ、おい、お前ふるえてるじゃないか。

 

 おい、屋根の下に戻るぞ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

 

「大丈夫か?」

 

「はは、天罰だね。 ちょっと寒いかも。」

 

「三ヶ木、服脱げ。」

 

”ベシ”

 

「お、お前、な、なんてことを。

 

 い、いくら好きって言ったからって、そこまで要求するのか。」

 

「いや、ばっか、ち、違うから。

 

 そんなびしょぬれの服じゃ体温を奪われるだけだ。

 

 なにもしねえから。」

 

「う、うううう。

 

 こっち見ないでよって、げ、なんであんたも服脱いでるの。」

 

「まったく、本当に、お前が悪いんだからな。

 

 こんな雨の中、駆け出すからびしょ濡れだろうが。

 

 ほら、後ろ向いて体操座り。」

 

「へ? 体操座りって。

 

 ほんと、変なことしない・・・・・でね。」

 

うんしょっと。

なんだ、体操座りって、なにするつもりなんだ。

でも、ちょっとやばい。

マジ寒くなってきた。

 

”だき”

 

「え、ひ、比企谷君。」

 

「すまん、目はつむってるから、しばらく我慢しろ。」

 

え、いや、そういう問題じゃ・・・・・まぁ、いいか。

あのままじゃ、と、凍死しちゃうからね。

 

えへ、温かいや、比企谷君の温もり。

 

「比企谷君、目、開けたら殺すからね。 えへ♡」

 

「お、おう。 そ、それ怖いんだが。」

 

「あのね・・・・・ありがとう、あったかい。」

 

「そ、そうか。」

 

「うん。」

 

     ・

 

は、よく考えたらわたし達、上半身ほぼ裸で抱き合ってんだ。

ま、まぁ、ブラはしてるけど。

 

さっきはなんか時間くれって言ったけど、も、もし、比企谷君、変な気になって

はっ、このまま押し倒されたりしたら・・・・

 

ど、どうしよう。

い、一応、処理はしてきたけどさ。

 

やばい、心臓ドキドキしてきた

そ、その時は、す、少しは抵抗しないとね。 形だけでも。

 

で、でも、もしここで既成事実つくっちゃったら・・・・ひ、卑怯だよね、そんなの。

比企谷君が一番嫌うやつだ。

 

で、でも、わたし・・・・・

 

”ス~、ス~”

 

へ、ひ、比企谷君?

は、寝てるのか。

この状況で寝れるのかお前。

 

ふふ、比企谷君らしいや。

 

へへ、寝顔ゲット。

しあわせだ、この時間が永遠ならいいのに。

お願い、このまま雨やまないで

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふん、ふん、ふふふ~ん♬」

 

あ、雨やんできた。

もうやんじゃうんだ。

神様の馬鹿~

延長お願いします。

 

「う~ん、雨やんできたな。」

 

”ベシ”

 

「目を開けるんじゃない。」

 

「いや、違う、ほら音だ、雨音。

 

 雨音でわかるだろうが。

 

 それに目つむってるほうがいろいろ想像してやばいんだが。」

 

「おい。」

 

「あ、いや、あ、開けてないからな。

 

 それより帰るか。 門限マジやばいぞ。」

 

「うん。 服着るから、まだ目開けちゃだめだよ。」

 

「お、おう。

 

 な、三ヶ木、あ、あのな、8月の花火大会、一緒に行かないか?」

 

「え、いいの?」

 

「ああ、あのな、その時、ちゃんと答えるから。」

 

「う、うん。 怖いけどわたし待ってる。」

 

「帰るか。」

 

「うん。」

 

”にぎ”

 

「おま、手。」

 

「いいじゃん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「げ、やば。

 

 あれ、ロビーにいるの会長だよね。」

 

「ああ。一色だな。」

 

「ひ、比企谷君、先行って。」

 

「いや、お前が先に行ったほうがいいんじゃないか。

 

 風邪ひかないように、早いとこ風呂入れ。」

 

「あ、う、うん。 比企谷君も早くお風呂入ってね。」

 

「ああ。」

 

「じゃあ、また明日。」

 

「おう、じゃあまた明日な。」

 

”タッタッタッ”

 

「あ~、美佳先輩帰ってきた。

 

 どこにいってたんですか~、すっごく心配してたんですよ。」

 

「ごめん、ちょっとオリエンテーリングの下見してたら、急に雨降ってきちゃって。」

 

「本当に心配したんですよ。」

 

「ごめんなさい。」

 

「びしょ濡れじゃないですか。 さっさとお風呂入ってくださいね。」

 

「うん。」

 

     ・

 

「あ、先輩戻ってきた。 もう門限ですよ、なにしてたんですか。

 

 は、まさか女子風呂の覗きとか。 最低です。」

 

「おい。

 

 三ヶ木いないから探しに行くって言ってたろ。

 

 三ヶ木帰ってきたのか?」

 

「え?・・・・・・・あ、は、はい。

 

 あの~、美佳先輩に会わなかったんですか?」

 

「ああ、どこに行ってたんだろうな。」

 

「そ、そうですか。」

 

「ん、どうした?」

 

「え、あ、な、なんでもないです。

 

 さ、さっさと寝てください。

 

 明日はいっぱい働いてもらいますからね。」

 

「マジか。 じゃあな。」

 

「はい、お休みです。」

 

”スタスタスタ”

 

「先輩、お二人でなにしてたんですか。

 

 先輩、蚊取り線香の臭い染みついてるじゃないですか。

 

 ・・・・・・・・先輩の嘘つき。」




最後までありがとうございます

すみません、見直し前に投稿になりご迷惑おかけしました。

次話、林間学校の続きです。
会長に気付かれて・・・・・・

すみません。
また見て頂けたらありがたいです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のはじまり -林間学校 中編(上)-

見に来ていただいてありがとうございます。

すみません。
投稿、大変遅くなりました。

中編書いてるうちにすごく長くなってしまって。
上、下になってしまいました。

相変わらず、セリフばかりで申し訳ありません。
最後まで読んでいただけたらありがたいです。




「・・・比企谷君。」

 

ん? 三ヶ木どうしたんだ、そんな思い詰めた顔して。

何か話があるのか?

え、お、おい、シャツに手をかけて何をする気だ。

 

”ばさ”

 

「み、三ヶ木、なに服脱いでるんだ。」

 

ば、ばっか、俺は昨日で一年分の我慢を使い果たしてるんだ。

お前に気付かれないように、寝たふりするの大変だったんだからな。

こ、これ以上は本当にやばいからやめろって。

 

「お、おい、み、三ヶ木、や、やめ 」

 

「比企谷君、召し上がって♡」

 

ぶはぁ~、お、おい、ちょっと待て。

し、下着姿で、め、召し上がれって。

え、これってつまりあれってことだよな。

な、なに、とうとう俺も。

 

い、いや、まて、こういうものはそこに至るまでの童貞が。

童貞? いや道程だ。

 

「比企谷君♡」

 

「お、落ち着け三ヶ木。

 

 こ、こういうものはだな。 その、なんだ、手順というものがあってだな。」

 

「もう、待てない。 来てくれないのなら、こっちから行くもん。」

 

”どさ”

 

「み、三ヶ木。」

 

「へへ、もう逃げられないよ。」

 

え、う、馬乗り?

そんな姿で馬乗りされると、そ、そのなにとなにが当たって。

え、顔、そんなに顔近づけてきて。

はっ、ちゅ~なの、ちゅ~しちゃうの。

 

「み、三ヶ木ちょっと待てって、早まるな。」

 

”ずっしり”

 

ん、おも。 こいつなんか急に重たくなってきた。

重い、うそ、つ、潰れそうだ。

胸が苦しい。

 

「み、三ヶ木、お前太っただろう。」

 

「ふふふ。」

 

「へ?」

 

「八幡! 我だ。 ちゅ~」

 

「ぐへぇ、材木座、何でお前が。 や、やめろ! 」

 

”バサ”

 

は、ゆ、夢か、なんていう夢を。

昨日は頭もげるし、二日続けてなんていう夢を見るんだ。

 

”ス~、ス~”

 

ざ、材木座、てめえ、人の眠りを妨げておいて幸せそうに寝てるんじゃねぇ。

 

”ポカ”

 

「う、う~ん、はちま~ん。 そこはだめ~」

 

は、な、なんだ、なにがそこはだめなんだ。

お前の夢の中でなにしてんの俺。

うげぇ、想像しただけで悍ましい。

海老名さんでもこれは引くぞ。

 

”ゆさゆさ”

 

「げ、起きろ、おい材木座起きろ! どんな夢見てやがる。」

 

「う~ん、は、八幡。・・・・・・おはよ。」

 

”ボカ”

 

「は、恥じらうんじゃない!」

 

     ・

     ・

     ・

 

くそ、なんという寝起きだ。

まったく、材木座の野郎、人の夢の中に勝手に入ってきやがって。

 

『比企谷君♡』

 

材木座が出てこなかったら・・・・・出てこなかったら俺と三ヶ木はあの後。

つまり、俺はそれを望んでるのだろうか。

はぁ~

 

”ドン”

 

「きゃっ」

 

「あ、わりぃ、ちょっと考え事してって、おわっ三ヶ木。」

 

え、う、うそ、なんでお前夢の中と同じ服装してるんだ。

もしかして、これって正夢。

そ、そうか正夢なのか。

だとしたら、

 

「比企谷君。」

 

や、やっぱりそうだ。 

と、とうとう俺もその時が。

だが、こんなところで人が来たら。

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、な、なんで。」

 

「なんでじゃない。 なによ、いきなりぶつかってきたと思ったら、おわっ三ヶ木って。」

 

「あ、い、いや あれ? ・・・・・・・・すまん、おはようさん。」

 

「え、あ、う、うん、おはよ。

 

 今から食事?」

 

「ああ、三ヶ木はもう済んだのか? 早いな。」

 

「うん、ミーティングまでにね、林間学校の分担表を修正して持って行かないと。」

 

「おう、そうか。 ご苦労さん。」

 

「ありがと。 じゃあね。」

 

”スタスタ”

 

「あのね、昨日、ありがとう。 暖かかった、えへ。」

 

”タッタッタッ”

 

ば、ばっか。

すれ違いになんてことを言うんだ。

俺もお前の感触思い出しちまうだろうが。

暖かくて、柔らかくて。

何言ってんだ俺。 はぁ~。

 

”ポン”

 

「ヒッキー、おは げっ」

 

「おい、なんだおはげって。」 

 

まぁ、確かに前髪のあたりは少し気になっているが、だ、大丈夫だよね。

親父も大丈夫だし、遺伝的な要因ははないはずだ。

はぁっ、まてよ。 確か爺さんが・・・・

 

「おはげ? あ、いや~違う違う。

 

 えっとね、ヒッキー顔キモかったから。

 

 なんか鼻の下がびろ~んって。」

 

「・・・」

 

「あ、朝ごはん、今からだよね。

 

 あのさ、一緒に食べよ。」

 

「ん、いや俺は一人で食べたい。」

 

どうしてリア充どもは一緒に食べたがるんだ。

ご飯というものは、作る者と食する者の真剣勝負なんだ。

一口一口、味を噛みしめて、作り手の技量を推し量るものだ。

喋りながらご飯を食べるなんてことは、作り手に対して失礼だろう。

 

「え~、いいじゃん。 ほら行くよ。」

 

”ぎゅ”

 

「お、おい、腕に抱き着くな、歩き難いだろう。」

 

そんなに腕に抱き着かれたら、ほ、ほらその柔らかいものが。

 

”にこ”

 

何その笑顔。 は、わかってて押し当てやがったな。

はぁ、まったく・・・・・まぁ今日は試合放棄でいいか。

 

「ヒッキー、行こ。」

 

「ああ。」

 

     ・

 

「うわ~美味しい。 あ、それでねヒッキー 」

 

「由比ヶ浜、メシを食うか喋るかどちらかにしろ。」

 

「え~、お喋りながら食べたほうが絶対美味しいんだけど。

 

 あ、それでヒッキー、昨日さ自習のとき途中からいなかったじゃん。

 

 どこ行ってたの?」

 

「え、あ、まぁ、ちょ、ちょっとな。

 

 ほ、ほら材木座の小説もどき、読まないといけなかったからな。

 

 静かなところで読んでた。」

 

「ふ~ん、探したけど、どこにもいなかったんだけどな~

 

 じゃあさ、今日の自習の時間、現代文教えてくれない?」

 

「現代文なら平塚先生がいるだろう。」

 

「あのね、あたしヒッキーに教えてもらいたい。 だめかなぁ。」

 

”ドクン、ドクン”

 

は、な、なんだこ、この胸の動悸は。

そ、その上目遣い、反則だろうが。

そんな目で見つめらたら、断れねえじゃねえか。

由比ヶ浜の場合、これが自然だから始末が悪い。

一色みたいにあざとければ対処できるんだが。

く、くそー、仕方ねえな。

 

「ヒッキー、だめ?」

 

「わ、わかった。 だが少しだけだ。

 

 俺はあの小説もどきを添削しなければいけないからな。」

 

「やったー、ありがとう、ヒッキー♬」

 

”だき”

 

いや、お、お前だき付くな。

や、やめてくれ。 只でも昨日からのダメージで、俺の理性の耐久力はつきかけてるんだ。

このままではやばい。

何か話題で気をそらさないと。

話題、話題、話題、女子との話題・・・・・ハードル高すぎんだろ。

は、そ、そうだ。

 

「そ、そうだ由比ヶ浜、お前大学どこ狙ってんだ。」

 

「え、そ、そだね。 あたし・・・・あ、ヒッキーはどうするの?」

 

「俺は一応、早応大を狙ってるが。」

 

「じゃあ、あたしもそこにする。」

 

「・・・・・進学、あきらめてるのか。」

 

「え、あきらめてないよ。 だってヒッキーと同じ大学行きたいかなぁって。」

 

「由比ヶ浜、現実から逃げるな。 絶対無理だ。」

 

「で、でも総武高、受ける時もそう言われた。 だからもしかしたら。」

 

「もう一度言う、あ・き・ら・め・ろ。

 

 あのな、由比ヶ浜、大学というのは自分が将来なりたい姿、それを実現するために行くものだ。

 

 もう少し真面目に自分の将来を考えろ。」

 

「じゃ、じゃあヒッキーは将来何になりたいの?」

 

「専業主夫だ!」

 

「専業主夫になるため早応大行くんだ!」

 

「おう、専業主夫になるためには、それなりの収入のある相手を見つける必要がある。

 

 一流の企業に就職する女子に出会うため早応大に行くんだ。」

 

「だから、あたしも早応大に行きたいんじゃん。

 

 あたし頑張るんだからね。

 

 じゃ、じゃあさ、もし受かったら一つお願い聞いてもらうからね。」

 

「お、おい、マジ受ける気か。」

 

「うん、マジ。 約束だからね、絶対聞いてもらうからね。

 

 あ、ゆきのん、やっはろ―。

 

 こっちこっち。」

 

「由比ヶ浜さん、あんまり大きな声で呼ばないで。

 

 他の人もいるのよ、恥ずかしい。」

 

「あはは、ごめん。」

 

「おう、おはようさん。」

 

「え、あなたは誰? あまり知らない人に話しかけてもらいたくないのだけど。」

 

「おい。」

 

「ふふ、冗談よ。 お早う、比企谷君。」

 

由比ヶ浜、雪ノ下。

こいつらとこうしていられるのも、もう半年ちょっとなんだな。

 

俺はこいつらとのこともちゃんと整理しないといけないんだ。

こいつらは、いや三ヶ木もだが自分の気持ちを伝えてくれた。

いくら俺でもその気持ちを疑うことはない。

俺はその気持ちにちゃんと向かい合わないといけない。

来年のバレンタインの時にって言ってくれたけど。

次の花火大会までに、三ヶ木に返事するまでに、俺は・・・・・

 

「比企谷君、どうしたの。

 

 ず~とぶつぶつ言ってて、全然ご飯食べてないんだけど。」

 

「あ、いや、何でもない。」

 

「あのさ、あたし達、掃除とかあるから先行くね。」

 

「お、おう。 またな。」

 

”ゾクゾク”

 

はっ、な、なに、急に悪寒が。

昨日、雨に当たってたから風邪でも。

いや、ち、違う。

後ろの席からなにか黒いオーラのようなものが。

嫌な予感がする。

 

”そ~”

 

はっ!

 

「あ、あの~、い、一色さん、いつからその席に。」

 

「先輩が結衣先輩とラブラブで食堂に入ってくる前からいましたよ。」

 

「み、見てらっしゃいました?」

 

「先輩、受験生なのにお盛んなんですね。

 

 そんなに活力にあふれてるのなら、今日はいっぱい働いてもらいますからね。

 

 行こう、書記ちゃん。」

 

”ガタ”

 

「え、あ、うん。 それじゃ比企谷先輩。」

 

”プンスカ、プンスカ”

 

なんか一色、すげ~機嫌悪くない?

なんか変なこと言ってなかった。

いやだなぁ~、働きたくないなぁ~。

・・・・・まぁ、早いとこ飯食っておくか。

げ、トマト。

 

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、会長、これ林間学校の役割分担、修正したやつです。

 

 遅くなってごめんなさい。

 

 これでよろしかったら、コピーしてきますね。

 

 あ、それと昨日オリエンテーリングの下見して気になるとこがあったんですけど、

 

 始まる前にコーンとかロープとか、張ってきてもいいですか?」

 

”バッ”

 

「え?」

 

「分担表の提出、遅いんじゃないんですか。」

 

「あ、ごめんなさい。 でも引っ手繰らなくても。」

 

「あと、コーンとかロープとかそんなことは、オリエンテーリング担当の

 

 副会長に言ってください。

 

 それと、これ、コピーはわたしがやりますので結構です。」

 

「会長? わ、わかりました。

 

 さっきの本牧君に相談してみますね。

 

 あ、あと、コピーお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

やばい、遅くなっちまった。

だから、なんでオムレツにミニトマトが入ってんだ。

しかも、サラダにミニじゃないトマトまでたっぷりと。

それにあの食堂のおばちゃん、お残しは許しまへんでって

激高するし。

ここはどっかの忍者学校かよ。

三ヶ木がいてくれたら、食ってもらうんだけどな。

 

”ガラガラ”

 

「悪い、遅くなったって、あれ本牧、まだ始まってなかったのか。」

 

「ああ、資料のコピーがまだなんだ。」

 

「え、コピーって三ヶ木はそこにいるが。」

 

”ガラガラ”

 

「すみませ~ん、コピー機の調子悪くて遅くなりました。

 

 えっと、今日もよろしくです。

 

 み、いえ、書記ちゃん、これ配って。」

 

「あ、はい。」

 

「それでは早速始めますね。

 

 今日はオリエンテーリングと野外炊飯のお手伝いです。

 

 まずオリエンテーリングですが、同行班は、副会長、稲村先輩、結衣先輩

 

 ・・・・・美佳先輩でお願いします。」

 

「え? わたし、昼食準備班になってたはずだけど。」 

 

「えっと昼食準備のほうは、わたしと他の方でお願いしますね。

 

 あとは、その後の野外炊飯ですが、ここに書いてある内容の分担で準備お願いしますね。」

 

「よし、この後、昼食準備班はロビーのところに集まってくれ。 

 

 私の車に弁当とか皿とか運びたいのでな。

 

 それとオリエンテーリングの同行班は、集いの広場のほうへ行ってくれたまえ。

 

 そこにいる先生の指示に従って準備を頼む。

 

 では以上だ。」

 

「じゃあ、稲村、由比ヶ浜さん、三ヶ木さん、すまないが集いの広場のほうに移動しょう。」

 

「おう。」

 

「じゃあね、ゆきのん。」

 

「・・・やっぱ、なんか避けられてるのかなぁ。

 

 分担表遅かったから怒ってるのかも。

 

 ミーティングの直前になっちゃたもん。

 

 調整とかできなかったからわたしが勝手に決めたみたいだもんね。

 

 うん、あとで謝ろう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、男子のみなさん、これの搬入よろしくです。」

 

な、なんだこの段ボールのヤマは。

これを俺と材木座の二人で運ぶの。

ま、マジか~

男子少なすぎない? 

 

「ちょっと待て一色、これ俺と材木座だけで運ぶのか?」

 

「はぁ? あの、もしかしてか弱い女子にも運べというんですか。

 

 最低です。」

 

「え、あい、いや、しかしだな。 せめて本牧か稲村かどっちかこっちに回してくれないか。」

 

「却下です。

 

 先輩、いろいろお盛んなようですから、これぐらい平気なんじゃないんですか?」

 

「いや、これ全部は無理だろう。」

 

「比企谷、ほれ男手連れてきたぞ。」

 

「いててて、し、静ちゃん、耳引っ張るのやめて。

 

 お、俺先輩だからね、一応。」

 

「まったくなにが先輩だ。 目を離すとすぐさぼるのは全然変わらないな。

 

 ほら、弁当運ぶの手伝いたまえ。」

 

「いや、俺肉体労働不向きだから。

 

 俺より、しず、平塚先生のほうが向いて 」

 

”ボキボキ”

 

「ほ、ほう、か弱い私に運べというのかね。」

 

「か、か弱い? くくくく、は、腹が、腹がい、いたい~」

 

「撃滅のセカンドブリット。」

 

「ぐはぁ。」

 

「さっさと運べ、馬鹿者が。」

 

「うへぇ~、お、お、おい比企谷、材木座行くぞ。」

 

”スタスタスタ”

 

「平塚先生、広川先生が先輩ということは大学がご一緒だったのですか?」

 

「ああ。 雪ノ下、年は一つ上だが、卒業した年は同じだぞ。

 

 まぁ、ついでだが同じサークルに入ってたんだ。」

 

「へぇ~、どんなんだったんですか広川先生。」

 

「まぁ、始めはなんだこいつはって感じでな。

 

 キャンプとか言っても何も準備とかしないで食うだけだし。

 

 それにあの通り、目を離すとすぐさぼるしな。

 

 はじめは最低だなと思ってたんだ。

 

 でもな、教育実習でな、ちょっとやらかしてな。

 

 まぁ、やらかした理由を聞いてからか、ちょっといいかなぁって。

 

 は、な、なにを言わせるんだ君たちは。」

 

「いえ、ご自分からいろいろと。」

 

「平塚先生、で、広川先生はなにやらかしたんですか?」

 

「いや、こればかりは内緒だ。

 

 ・・・・・・まぁ、不思議な縁というものもあるんだな。

 

 まさかその子が私の教え子になるとはな。」

 

「え、先生?」

 

「あ、い、いやなんでもない、さぁ調理器具とか運ぶぞ。

 

 できるだけ軽いやつをな。

 

 私達、か弱いからな。」

 

「「・・・」」

 

     ・

 

「ご苦労さま。 それじゃ悪いがこれ各チェックポイントに貼ってきて下さい。

 

 あと、生徒の並ぶ位置の白線、引き直してくれるかなぁ。

 

 昨日の雨で消えてしまってね。」

 

「はい、わかりました。

 

 それじゃ、稲村、由比ヶ浜さん、悪いが白線引き頼めるか。

 

 俺と三ヶ木さんでこのなぞなぞをチェックポイントに貼ってくるから。」

 

「うん、いいよ。 白線引き任せておいて。」

 

「なぁ、それなら俺と三ヶ木で行こうか?」

 

「いや、二人で山行かせたら、三ヶ木さんの身が危険だから。」

 

「お、おい、本牧。」

 

「はは、冗談だ冗談。 すまん、頼めるか?」

 

「うん? まぁ、わかった。こっちは任せとけ。」

 

「うん、任せた。 それじゃ三ヶ木さん行こうか。」

 

「え、あ、うん。」

 

     ・

 

「ねぇ、三ヶ木さん。 会長と何かあったのかい?」

 

「う~ん、わからないんだけど、多分、林間学校の分担表の提出が遅かったからかなぁ。

 

 ちゃんと蚊取り線香、部屋では消してたし。」

 

「それぐらいのこと会長は何とも思わないよ。

 

 う~ん、昨日の夕食までは普通だっただろう。

 

 昨日、勉強会の時に何かあったんじゃないのかい?

 

 ずっと三ヶ木さんがいないって、会長心配していたみたいだし。」

 

「勉強会の時? わたしはオリエンテーリングの下見してたから。

 

 ・・・・・あっ。」

 

「なにか心当たりがありそう?

 

 なんなら僕から会長に聞いてみようか?」

 

「うううん、自分で聞いてみる。 ごめんね本牧君、心配かけて。」

 

「いや、いいんだ。

 

 いつも三ヶ木さんにはお世話になっているからね。

 

 だから、なんかあったら力になるから、絶対相談してね。」

 

「うん。 本牧君、やさしいね。 書記ちゃんが惚れるわけだ。」

 

「ば、な、なに言ってんだ三ヶ木さん。

 

 ほ、ほら、さっさと終わらせよう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ザワザワ”

 

うへぇ、去年もそうだったが、これだけの小学生の群れをみると、

ドン引きだな。

この騒々しさには圧倒されえるわ。 すげぇ、うっさい。

は、あ、あれは伝説の・・・・・

 

”シ~ン”

 

「はい、みんなが静かになるまで、三分かかりました。」

 

で、でた。 去年に引き続き、このセリフを聞くことになろうとは。

確か、去年も三分だったような。

定番とはいえ、これだけ続いているということは、効果はあるんだろう。

 

「では、最後に皆さんのお手伝いをしてくれるお姉さん、お兄さんを紹介します。

 

 まずは、挨拶をしましょう。 よろしくお願いします。」

 

「「よろしくお願いします。」」

 

「皆さん、こんにちは。

 

 総武高、生徒会会長の一色です。

 

 三日間の短い間ですが、皆さんと楽しい思い出を作りたいと思います。

 

 皆さん、仲良くしてくださいね。

 

 では、よろしくです。 えへ♡」

 

「かわいい~」

 

「一色さんだって。」

 

「わたし総武高に行こうかなぇ。」

 

「あ、わたしも。」

 

おいおい、去年の葉山より人気あるんじゃねえか。

げ、なに引率の先生まで、なに浮ついてるんだ。

まぁ、外見はあいつはかわいいからな。

中身はさて置き。

やっぱ、こういう場は似合ってる。

 

「はい、静かに。

 

 それではオリエンテーリングを始めます。

 

 ちゃんと班毎でまとまって行動するように。

 

 それではスタートです。」

 

”ガヤガヤ”

 

「それでは、副会長、オリエンテーリングよろしくお願いしますね。」

 

「了解だ、会長。」

 

「あ、会長。 あの~」

 

「さぁ、昼食準備班の行きますよ。 集まってくださ~い。」

 

やぱりあの二人おかしい。

コピーの件もそうだが

今も故意に三ヶ木との接触を避けてるみたいだ。

何かあったのか?

そういえば、一色今日は朝から機嫌悪かったな。

 

「スト谷君、なに一色さんを見つめてるのかしら。 

 

「ばっか、見つめてねぇって。」

 

「あら、そう? それなら昼食準備班は駐車場集合よ。」

 

「お、おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、二人一組で行こう。

 

 由比ヶ浜さん、すまないが俺と一緒に頼みます。」

 

「うん。いいよ」

 

「稲村、三ヶ木さん、俺たち先に出るから、列の後方から頼む。」

 

「おう、任せとけ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、三ヶ木、チェックポイントこの辺か?」

 

「うん、そこの道を曲がったとこ。」

 

「「きゃー」」

 

「どうした?」

 

「ね、どうしたの?」

 

「あ、お兄さん、お姉さん、チェックポイントのとこ。」

 

「あー蛙じゃん。」

 

”ひょい”

 

「はい、どうぞ。」

 

「お姉さんすご~い。 気持ち悪くないの?」

 

「三ヶ木、お前、蛙平気なのか?」

 

「え~かわいいじゃん。 ゲコゲコって。」

 

「そ、そうか。」

 

「え、なに?」

 

「いや、ふつう蛙平気な女子っていないから。」

 

「きゃ~、蛙こわ~い。」

 

「お前わざとっぽい。」

 

「へへ。」

 

”もさもさ”

 

「お、ちょっと待った。」

 

「ん? どうしたの稲村君。」

 

「ほれ、みろ三ヶ木、クワガタだ。」

 

「げ、く、クワガタ! いやー」

 

”ダー”

 

「お、おい、三ヶ木。」

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あ~怖かった。

 

 クワガタは嫌いだ。

 

 何であんなものこの世の中にいるんだ。」

 

”ガヤガヤ”

 

「ん? なんだ。 あの男の子達何してるんだ?」

 

「なぁ、お前持ってきた?」

 

「ああ、ばっちりだ、ほらすげぇぞ。」

 

「お、おい、高校生いるっぞ。」

 

「オリエンテ―リング終わってからゆっくり見ようぜ。」

 

”スタスタスタ”

 

「まぁ、男の子だもんね。

 

 そういう年頃だ。 お姉さんは見ないふりっと。」

 

「はぁ、はぁ、あ、いた。

 

 三ヶ木、蛙平気なのにクワガタ駄目なんかよ。」

 

「うっさい。」

 

「ほほう、俺にそういう態度とるんだ。

 

 ほれ。」

 

「ぎゃー、やだー。」

 

「ほれ、ほれ。 へへ、なんか気持ちいい。」

 

”ぶちっ”

 

「・・・・・」

 

「えっ?」

 

”ブン、ブン。”

 

「お、おい、や、やめろ、三ヶ木。

 

 み、三ヶ木さん、コーンを振り回したら危ないよ。

 

 な、な、コーンそこにおけ。」

 

「・・・・・」

 

”ボコッ”

 

「ぐはぁ。」

 

”ボコッ、ボコッ、ボコッ”

 

「いた、いたた、わ、悪かった、み、三ヶ木。」

 

「・・・・・」

 

「ひぇー」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、本牧君、稲村君達来たよ。

 

 おーい、昼食いくよ・・・・・え?」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「・・・・・」

 

”トボ、トボ、トボ”

 

「・・・・・」

 

「お、おい、稲村? ど、どうした?」

 

「美佳っち、ど、どうしたの?」

 

「だって、馬鹿村が。」

 

「・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、これでいいわよ、稲村君。

 

 まったく、三ヶ木さんらしくもない。」

 

「だってゆきのん、稲村が。」

 

「それやめなさい。」

 

「ぬははは、三ヶ木女子はクワガタ恐怖症なのだ。

 

 小っちゃい頃にクワガタに低い鼻を挟まれ、ぷ、ぷぷぷ。」

 

「おい、義輝君、あれ、君のクワガタだったよね。

 

 それに鼻、低くて悪かったね。」

 

”ボキボキ”

 

「い、いや、も、もう時効で、それに三ヶ木女子がもっと近くで見せてって 」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「よしなさい、三ヶ木さん。」

 

「だって、めっちゃ痛かったんだよ。 義輝君、横で笑ってるだけだったし。

 

 ほら、結衣ちゃん、ここその時の痕が残ってる。」

 

「え、あ、本当だ。 中二最低。」

 

「おい、お前ら早く席について弁当食べちまえ。

 

 後が片付かん。 なんか知らんが俺の仕事らしいからな。」

 

「あら、比企谷君、ようやく天職が見つかったのかしら。」

 

「ばっか、俺の天職は専業主夫だ。」

 

「すまない比企谷、いま食べるよ。」

 

     ・

 

「えっと、どこで食べよっかなぁ。

 

 あ、会長ここ良いですか?」

 

”ガタ”

 

「へ?」

 

「副会長、今日のこの後の予定確認したいのですが、食べながらいいですか?」

 

「あ、は、はい会長、ここどうぞ。」

 

「・・・・」

 

なんだ、何かあったのかこいつら。

なんか一色が三ヶ木を避けてるみたいだが。

こいつらの間がうまくいかないと、仕事がスムーズに回らない。

仕方ない、ちょっと。

ん、本牧、いいのか?

 

「あ、三ヶ木さん、会長がこの後の予定確認するっていうから、

 

 こっち座ってくれないか?

 

 書記ちゃん、ごめん、一つ席ズレてくれない?」

 

「うん、いいよ。」

 

「さ、三ヶ木さんも座って。」

 

「うん。」

 

本牧、お前も何か感じてたんだな。

ここは生徒会に任せるか。

げ、一色の奴、まだ膨れてる。

本当、なにがあったの?

 

     ・

     ・

     ・

 

「うんしょっと。」

 

”ドサ”

 

「ふ~、結構重たかった。」

 

「三ヶ木さん、この材料はこちらでよろしいでしょうか?」

 

「・・・・・わかった、ごめんなさい。

 

 稲村君、もう期限直してよ。」

 

「へへ、冗談だ。 俺のほうこそな。

 

 それより、これで材料終わりか?」

 

「うん、あと比企谷君が持ってくる分で最後だよ。」

 

     ・

 

重たい、暑い、今日は朝から肉体労働ばっかりだ。

くっそ、俺の分だけなんかじゃがいもの量多くないか

いや、絶対多い、俺が言うんだから間違いない。

 

”ころ”

 

ん? しまった、ジャガイモ落ちた。

拾わないとな。

 

”ころ、ころ”

 

おわ~これ、そこに穴開いてんじゃねえか。

ま、まじか。

げ、あっちにも落ちてるじゃねえか。

くそ、どこで破れたんだ。

引き返すか。

 

「あの~、すみません、ジャガイモ落ちてました。」

 

”にこ”

 

え、と、戸塚?

い、いや戸塚にしては小さすぎる。

この林間学校に来ている小学生か

でも、なにこの子、すげーかわいい。

まるで天使だ

え、なに? もしかして俺ロリだったの。

 

「あの~、お兄さん?」

 

「あ、す、すまん。 ありがとう。」

 

「あ、僕この落ちてたやつ持っていきます。」

 

「お、おう。 頼めるか。」

 

「うん。」

 

な、なんて謙虚な、この笑顔、まさしく天使。

戸塚、そうだ戸塚ジュニアと呼ぼう。

お、俺が17だろ、この子が小学6年ってことは12

だ、大丈夫だよな。

俺はこの子のためなら働ける。

お兄さん、道を踏み外しても・・・・ぼ、僕?

 

「あ、俺は比企谷 八幡。 男だ。

 

 君は?」

 

「僕、甘草塚 颯 です えっと、あの~、男です。」

 

やっぱり、お、男なのね。

はぁ、戸塚といいこの子といい、天使は両性具有というが。

 

「はぁ~」

 

「え、お兄さん、どうしたの?」

 

     ・

 

”ガヤガヤ”

 

「な、すげ~だろう。」

 

ん? なにしてんだあいつら。

 

”ぐいぐい”

 

「ん?」

 

「あ、あの子達にはあまり関わらないほうがいいよ。

 

 お兄さん、行こう。」

 

「ん? そうなのか。」

 

まぁ、今は戸塚ジュニアと一緒だからな。

ここで何か言ってこの天使に害があるといけない。

ここは見過ごしてやるか。

 

”スタスタスタ”

 

「おい、あれ甘草塚じゃね。」

 

「またいい子ぶってるじゃん。」

 

「いま見てたんじゃねえか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お~い、三ヶ木、これどこに置いておけばいいんだ。」

 

「あ、比企谷君、ご苦労様。

 

 え、と、戸塚君、ど、どうしたのこんなに小っちゃくなっちゃって。」

 

「あの~」

 

「はぁ、わかった、ピラフね、ピラフに小さくなれって願い事されたのね。」

 

「え、ピラフ? いえ、ぼ、僕は 」

 

”ぽこ”

 

「あいた。」

 

「・・・・お前、途中で気付いたんだろう。

 

 いきなりピラフって言われてもわからないだろうが。」

 

「えへへへ、でも似てるね。

 

 戸塚君、小っちゃいころこんな感じだったんだろうね。」

 

「あの~、お兄さん。」

 

「お、すまん。三ヶ木、ここでよかったか?」

 

「うん、そこおいておいて」

 

「お兄さん戸塚さんてどんな人なんですか?」

 

「戸塚は人じゃない、天使だ。 この世に舞い降りた天使なんだ。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「ごめんね。 このお兄ちゃん、あれだから。

 

 あのさ戸塚君ってさ、わたしたちの同級生で、テニス部の部長さんだったの。」

 

「すげーかわいいんだぞ。」

 

”ベシ、ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「あのね、確かに外見はかわいいんだけどさ、わたしなんか足元にも及ばないぐらい。

 

 でもね、すっごく努力家で頼りがいのある男子だよ。

 

 このお兄さんと違って。」

 

「へぇ、そうなんですか。

 

 あ、このお野菜、班の数ごとに分けていけばいいんですよね

 

 ぼく時間あるから手伝います。」

 

「え、ほんとありがと。」

 

「うん、任せておいてくださいお姉さん。」

 

「お姉さん、えへへへ。」

 

なんだ三ヶ木急にデレデレになった。

は、そうかこいつお姉さんていう言葉に弱いのか。

よし、そうとわかったら。

 

「お姉さん、僕疲れたから向こうで休んでくるね。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「なんのつもりだお前。」

 

「え、い、いや、あの~お姉さん?」

 

「誰がお姉さんだ、働け、うりゃ!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「まったく、少しはあの子を見習いなさい。

 

 いい子だね、あの子。」

 

「いててて、あ、ああ、そうだな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お~、これ、やばいよな。」

 

「お、おう。」

 

「おい、お前ら何見てんだ。」

 

「あ、」

 

「なんだこれは。

 

 これは、誰が持ってきたんだ。」

 

「あ、あの~この本はここにあったんです。」

 

「嘘をつきなさい。」

 

「あ、俺、甘草塚がここらへんにいたの見ました。」

 

「ん? 甘草塚が。」

 

「あ、おれもあいつが持ってたの見ました。」

 

「俺も。」

 

「そうなんですよ、先生。」

 

「あいつが持ってきてここに置いたの俺が拾ったんです。」

 

「これは甘草塚が持ってきたというのか?」

 

「そうです。」

 

「俺も見ました。」

 

「ふむ。 わかった。

 

 とにかくこれは没収だ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、これ俺たちの分の材料だが、ここに置いておけばいいか?」

 

「あ、ご苦労様。」

 

「全員いるかね。」

 

「「はい。」」

 

「それではすまんができるだけ、各自小学生の班にはいって

 

 危なくないか様子を見回ってくれないか。」

 

「え、でも自分達の分は、自分達で作らないといけないじゃないですか。」

 

「ああ、そうだ。 だからできるだけでいい。」

 

「平塚先生、何かあったんですか?」

 

「ああ、ちょっと厄介ごとが起きてな。

 

 先生達の何人かが会議で抜けなくてはならないんだ。

 

 それでその抜けた分、危なくないようにみてほしいんだ。」

 

「わかりました。 それじゃ見廻り班とカレー作る班に手分けしましょう。

 

 あの、カレー作る班は雪ノ下せんぱ 」

 

「あ、あたしがみんなの分作る。

 

 うううん、あたしに作らせて。」

 

「「だめだ!」」

 

「げ、みんなしてひど。」

 

「由比ヶ浜、俺はちゃんとご飯が食べたい。

 

 ただでさえ、今日は肉体労働で腹が減ってるんだ。

 

 晩飯抜きは絶対断る。」

 

「由比ヶ浜さん、料理をしたいのなら、こんど一緒に作りましょう。

 

 だから、今日はね。」

 

「あたし、作りたい。

 

 絶対ちゃんとしたの作るから任せて。 お願い。」

 

「しかしなぁ。」

 

「そ、そうね、やっぱり今日は 」

 

「あ、じゃあ、わたしも一緒に作る。

 

 以前も一緒に作ったことあるし、ね、結衣ちゃん。」

 

「う、うん。」

 

「そう、三ヶ木さんが一緒なら。」

 

「いろはちゃんもみんなもお願い。」

 

「わかりました。 でもちゃんと食べれるものにしてくださいね。

 

 それでは、他の皆さんは小学生の見回りお願いします。」

 

「「了解、会長」」

 

     ・

 

「えっと、ありがとね美佳っち。」

 

「うううん。 でもどうしたの?」

 

「うん。・・・・あのね、あたし、ほら料理って少し苦手じゃん。

 

 本当、ゆきのんとか美佳っちとかうらやましくてさ。

 

 やっぱりね、あたしも手料理食べてほしいなぁって思って、自分なりに練習してたんだ。

 

 で、でもあんまり機会がなくてね。

 

 手料理食べてもらうのって、今日ぐらいしかないかなぁって。

 

 こんなときじゃないと、食べてもらえないじゃん。

 

 ・・・・・あたしね、ヒッキーに手料理食べてほしいの。」

 

「結衣ちゃん。

 

 うん、わかった。じゃあ、わたしはなるべく見てるだけにするからね。

 

 しっかり特訓の成果を見せてね。」

 

「うん、任せて。」

 

”ガタ”

 

「へ?」

 

「あ、い、一応、俺火おこし担当だから。

 

 火は起こしたからな。」

 

「ひ、ヒッキー! いつからそこにいたの?」

 

「さっきからいただろ。

 

 なに気付かなかったのかよ。

 

 ここでパタパタやってたじゃねえか。」

 

は、そ、そうかステルスヒッキーって自動発動するのか。

こんなの聞かされたら、食わないわけ行かないだろうなぁ。

今のうちに胃薬もらってきておこう。

 

「ヒッキー、盗み聞きなんてキモイ、ばか。」

 

「お、おい、ジャガイモ投げるな。大事な食材だろ。

 

 まあいいい、俺も小学生のとこ行くから。

 

 三ヶ木、後頼むわ。 絶対食べれるものにしてくれ。」

 

「え、あ、うん。

 

 あ、これ持って行って。」

 

「ん、ウェットティッシュ?」

 

「顔、真っ黒だから。」

 

「お、おう、サンキュ。」

 

ふぅ~、まぁ、三ヶ木が監視しているなら、何とか食えるだろう。

さてと、どこにはいるかなぁ。

 

そうだ戸塚、戸塚ジュニアのとこにしよう。

えっとどこだ

あ、いた。

うん、やっぱり天使だ。あの子だけなんかオーラ―が違う。

 

え、あれ? 戸塚ジュニア。

ん? なんだ先生に連れられてどこいくんだ?

 

     ・

     ・

     ・

 

「いた!」

 

「ゆ、結衣ちゃん大丈夫? ほ、ほら指だして。」

 

「うん。」

 

「はぁ、よかった。 たいしたことないね。 今、絆創膏貼るから。」

 

「たはは、あたしやっぱ不器用だね。」

 

「よし、OKっと。

 

 それと、はい結衣ちゃん、これ使って。」

 

「え、これってピース?」

 

「うん、横ピースって違~う。

 

 これはピーラー。

 

 あのねニンジンの皮向くのはこれが一番。

 

 ほら、シュルシュルってすっごく楽だよ。」

 

”シュル、シュル”

 

「えへへ、いいではないか、いいではないか。」

 

「み、美佳っちが変だぁ~」

 

「えへへ、はい結衣ちゃんもピーラー。」

 

「え、あ、あたしもやるの。」

 

「うん。」

 

”シュル、シュル”

 

「い、いいではないか、う~、やっぱりやだ~」

 

「あははは。」

 

「もう、美佳っち。」

 

「お料理は楽しくが一番だよ、結衣ちゃん。」

 

「うん。」

 

     ・

 

「よしよし、あとは辛抱強くアクを取りながら煮込むだけだ。

 

 結衣ちゃんもう大丈夫だよね。」

 

”ガサガサ”

 

「ん? 結衣ちゃん、なにしてるの?」

 

「あった。 えへへ、隠し味にね、このチョコを入れようかなぁって。

 

 この前ね、ママがいれるの見てたんだ。」

 

「待てーい、絶対ダメ。 それチロロのきな粉味じゃん。

 

 あ、こっちはメロン味。」

 

「だって、ママが言ってたよ。 隠し味にチョコ入れるとコクが出るって。

 

 それにヒッキー甘いの好きだし。 あと、あたしはメロン味がイチ押し。」

 

「あのね、それは普通の板チョコとかをいれるの。

 

 きな粉味とかメロン味はだめ。」

 

「え、そ、そうなんだ。」

 

”ガサガサ”

 

「えっと、あ、あったあった。

 

 はい、板チョコ。

 

 わたしも一応持ってきてたんだ。

 

 入れるの少しでいからね。」

 

「うん、了解。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、俺から食べるのか。」

 

「当たり前でしょ、毒み谷君。

 

 あなたなら大抵のことでは死なないわ。」

 

「なにそれ、比企谷菌って毒より強いってことなの。」

 

み、三ヶ木大丈夫か?

え、okのサイン? ほ、本当だな、お前味見したんだな。

よ、よし、胃薬は飲んできたし。

 

「分かった、由比ヶ浜頂く。」

 

「うん。」

 

”ぱく”

 

ん、こ、これは。

 

「ど、どう? ヒッキー。」

 

「うまい。 なぜだ、なにが起きたんだ。 こんなわけがない。

 

 は、そうか、三ヶ木か、三ヶ木本当はお前がつくったんだな。」

 

「ヒッキー酷い。」

 

「違うよ。 わたしは見てただけ。

 

 このカレーには結衣ちゃんの想いがたっぷり入ってるから美味しいよ。

 

 ね、比企谷君。」

 

え、い、いやなんか、その言い方、すごく怖いんだが。

なんて答えればいいんだ。

い、胃薬、足りるかなぁ。

だが、マジ美味い。

 

「あら、ほんとうね。 すごく美味しいわ。」

 

「本当だ。」

 

「「頂きま~す。」」

 

”ぱくぱく、ぱくぱく”

 

「良かったね、結衣ちゃん。」

 

「うん、美佳っち。」

 

「なぁ、由比ヶ浜、お代わりあるか?」

 

「うん、ヒッキーいっぱいあるからどんどん食べてね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「洗い物は男子がするぞ。」

 

「そうだよ、雪ノ下さんも三ヶ木さんも、あとはいいから向こうで休んでて。」

 

「え、ほんと? ラッキーありがと。 さすがも本牧君、いい旦那になるよ。」

 

「み、三ヶ木、俺も手伝うぞ、ほら皿かせ。」

 

「えっ。」

 

”ガチャーン”

 

「馬鹿村!」

 

     ・

 

「美佳っち、今日ありがとうね。」

 

「あ、う、うん。」

 

「えへへ、ヒッキーに美味しいて言われた。

 

 それにお代わりもしてくれたよ。」

 

「よ、よかったね。」

 

「あのさ、また手伝ってもらえるかなぁ。」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ね。」

 

「う、う、うん。」

 

「・・・・」

 

「え、結衣ちゃん?」

 

「本当にいいの、それで。」

 

「い、いい・・・・・・・・・いやだ。

 

 さっき結衣ちゃんの笑顔みて、ほんとうれしかったんだよ。

 

 結衣ちゃんの努力が認められて。

 

 ・・・でも、でも・・・・やっぱり、いやだ!

 

 比企谷君が美味しそうに食べてるとこ見て、ほんとは苦しくて、うらやましくて。」

 

「美佳っち、応援してくれるって言ったじゃん。」

 

「で、でも。」

 

「応援してくれるって言ったよね。」

 

「ご、ごめん 結衣ちゃん。 

 

 わたし応援するって言ってたけど。

 

 でもやっぱりわたしも比企谷君に手料理食べてもらいたい。」

 

「・・・」

 

「ゆ、結衣ちゃん。」

 

「はぁ~、やっと素直な気持ち聞かせてくれた。

 

 意地悪してごめんね、美佳っち。」

 

「え、ゆ、結衣ちゃん?」

 

「もう、特別だとか、わたしなんてとかで自分を誤魔化してたら駄目だよ。

 

 これからはちゃんと自分の気持ちに正直になること。

 

 美佳っち言ってくれたじゃん。

 

 あたしはね、美佳っちのことも大事に思ってる。

 

 大事な人が好きだって気持ち押しつぶしてたら、あたしが一番悲しむんだからね。」

 

「うん。」

 

「よし、でも美佳っち、あたしも負けないからね。」

 

「うん。 結衣ちゃん、ごめん。」

 

”ぽこ”

 

「え?」

 

「あはは、やっぱ美佳っちみたいにうまくできないや。

 

 なんかこう、ベシって感じだよね、ベシって。」

 

「あ、いや、もうちょっと手と指を伸ばして、まっすぐ手刀を振り下ろす感じで。」

 

「いや、いいから。 美佳っち、ごめんはもう禁止だからね。」

 

「うん。 ゆ、結衣ちゃん、これからも友達でいてくれる? 」

 

「い・や・だ!」

 

「えー 」

 

「だって、あたしたち親友じゃん。」

 

「うん。 ごめんね。」

 

”ベシ”

 

「あ、できた。」

 

「ぐはぁ。」




最後までありがとうございます。
やたらセリフばかりとなり、自分の文才のなさを実感してます。
思ったより中編が長くなってしまいました。
次回 中編(下)また見に来ていただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のはじまり -林間学校 中編(下)-

今回も見に来ていただき、感謝です。

林間学校中編、思ってたより長くなってしまい、その続きです。
前回、ガハマさんに気持ち打ち明けたオリヒロですが、
今回、またしてもグダグダ展開になる気配が。

なかなか、進展せずすみません。
最後まで読んでいただけたらありがたいです。


う~痛い、痛いよ~。

あ、ほら赤くなってる。

結衣ちゃんのチョップ強力だよ。

コツ掴むの早すぎ。

しばらく結衣ちゃんには逆らわないようにしないと。

 

さてと、もう後片付け終わったかなぁ~

あ、まだいた。

 

”タッタッタッ”

 

「お疲れ様!」

 

「三ヶ木さん、お疲れ様。 もうこっちの片付けは終わったよ。

 

 比企谷、そっちはどうだ。」

 

「おう、こっちも終わった。」

 

「みんなありがと。

 

 あ、本牧君、よかったらこれどうぞ。」

 

「ん? あ、チョコ。 ありがとう。」

 

「は、はい、比企谷君も。」

 

「おう。 ありがとな。」

 

「う、うん。 

 

 あ、義輝君もどうぞ。」

 

「ぬお、わ、我もいいのか。」

 

「あったりまえじゃん。

 

 みんな、ありがとさまでした。」

 

「・・・・・お、おい。 俺は。」

 

「へ? もう無いよ。」

 

「お、俺にないのか。 ガーン。」

 

「ガーンって声で言うんじゃない。 

 

 へへ、冗談だよ、いつもいっぱいありがとね、稲村君。」

 

「え、あ、お、おう。」

 

「それじゃみんなログハウスまでもどろうか。

 

 自習の準備しないといけないからね。

 

 今日は三ヶ木さんも自習に参加するんだよ。」

 

「うへ~。」

 

はあ、何の勉強しようかなぁ。

家庭科じゃだめだよね。

うう、仕方ない、数学しようかなぁ。

最近さ、稲村君のおかげで、数学結構得意になってきたんだよね。

一人公式神経衰弱しようっと。

 

「お、いたいた。

 

 お~い、三ヶ木。 ちょっといいか?」

 

「え、広川先生、な~に?」

 

「すまん、ちょっと食堂のおばちゃんとこに行って来てくれないか?

 

 広川がお願いしたものっていえばわかるからもらってきてくれ。」

 

「え~、広川先生、人使い荒いよ~

 

 あ、そうだ、わたし自習しないと、残念だなぁ~、行ってあげたいのに。

 

 う~ん、すっごく残念。」

 

「今度また新作のケーキ、食わせてやるから。」

 

「ケーキ? ほんと? やった~了解っす。

 

 じゃ、ちょっと行ってくるであります。」

 

「おう、急いでな。」

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん、あれは戸塚ジュニアじゃねえか。

 

 一人でなにしてるんだ。」

 

”スタスタスタ”

 

「どうしたんだ。 一人か? 

 

 まぁ、よかったら、ほれチョコでも食うか?」

 

「え、あ、お、お兄さん。 ありがとうございます。」

 

「おま、な、泣いてたのか? なんだ、どうした。」

 

「え、あ、な、何でもないです。」

 

「そ、そうか。 」

 

”もぐもぐ”

 

「ぐ、ぐはっー」

 

「え、お、お兄さん?」

 

「な、なんだこれは! げ、ワサビ味。」

 

「え、でも結構おいしいですよ。」

 

「え、マジ?」

 

「はい、結構好きです。」

 

「好き? お、俺も好きだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「男子は全員揃っているようだな。

 

 今から持ち物検査をする。

 

 各自、自分の荷物をここに出してくれたまえ。」

 

「はぁ、先生、今頃になって持ち物検査ってどうしたんですか?」

 

「うむ。 実はな、小学生で、まぁ、その、ス、スケベな本を持ってきた子がいたんだ。

 

 それで明日の朝食後、急遽一斉に持ち物検査をすることになってな。

 

 君達も例外ではないから、何事もなきよう事前にチェックする。」

 

”ガサガサ”

 

「う~、やっぱり真面目ですね副会長。

 

 平塚先生、勉強道具以外なにもありません。

 

 ちぇっ。」

 

「・・・・ん? ちょっと待て!

 

 い、一色。 何でお前が検査してるんだ。

 

 いやその前に、なんで女子がここにいるんだ。」

 

「え、決まってるじゃないですか。 お仕事です、お・し・ご・と。

 

 だから仕方なくですよ、仕方なく。」

 

「いや、仕事って何でそんな嬉しそうな顔してんだ。

 

 絶対、楽しんでるだろう、お前。

 

 雪ノ下、お前はなんでいるんだ。」

 

「部員の管理をするのは私の役目よ。

 

 今から部員が不祥事を仕出かすから、管理者としてその尻ぬぐいしないといけないじゃない。

 

 まったく、これは私の管理不十分ということになるのかしら。」

 

「なに、その俺が何か変なもの持ってきてるって前提。

 

 俺何も仕出かさないから。

 

 なぁ、由比ヶ浜や書記ちゃんはなんでいるんだ?」

 

「あ、あはは、だって何か気になるじゃん。 ね、藤沢さん。」

 

「は、はい。」

 

「女子のチェックの時は男子いなかっただろう。 不公平だ。」

 

「先輩、うっさいです。 そんなに女子の持ち物みたいんですか?」

 

「そうだ。 俺達にお前らの持ち物見せてからにしろ。」

 

「比企谷君、いいからさっさとあなたのものを見せなさい。」

 

「・・・・・雪ノ下、今のもう一回言ってもらっていいか?」 

 

「え? あなたのものを見せなさい?」

 

「先輩、最低です。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「広川先生、頼まれたもの持ってきたよ。

 

 あ~重たかった。 ケーキ2個は貰わないとですよ~」

 

って、あれいないや? どこ行ったんだろう。

もう急いで持ってきてくれっていったから、頑張って持ってきたのに。

まぁいいや、暇だし少しここで待ってよっと。

へへ、自習さぼりだね。

うんしょっと。

 

”どさ”

 

ふ~、疲れた。

うひゃ~、先生の机の上ぐちゃぐちゃ。

まったく、少しは片付けろって。

まぁ、待ってる間、ちょっと整理してあげよっか。

 

”がさがさ”

 

「ふん、ふん、ふ~ん、ケーキ、ケーキ♬ ショートにモンブラン、チーズにティラミス♬」

 

ん、なんだこの本? 

 

”ペラ、ペラ”

 

げ、げげげ、なにこれ ふぇ~すごいエッチ。

おお!

ひ、広川先生、あんな顔してこんな本読んでんだ、以外。

やっぱ男だねって、うわ~大胆なポーズ。

ふむふむ、男子ってこんな感じのがいいのか。

ちょっとマジやせないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

ふむふむ。

お、おお、これは。

ぐふ、ぐふ、ぐふふふ。

うそ~すご。

 

”ガラガラ”

 

「お、三ヶ木ご苦労さん。 すまんちょっとトイレにいってた。」

 

「は、」

 

”ガタ”

 

「え、いや、なに? なんで後ずさりしてんの?」

 

「広川先生のけだもの。」

 

「はぁ?」

 

「け・だ・も・の。」

 

「な、なに言ってんだ三ヶ木。」

 

「こんなエッチな本見てて何喜んでんだ。 このスケベ、変態、エロ親父。」

 

「・・・・・お前、鼻血でてるぞ。

 

 ほれティッシュ。

 

 なんだ、これ見てたんのか。

 

 これは俺の本じゃないぞ、まったく。

 

 それに親父じゃねぇ、まだ若いから。

 

 あんな、これは小学生が持ってきたんだとよ。

 

 だから他の先生は今その件で緊急会議とかやっててな。

 

 なんでも明日の朝食後に全員の持ち物検査するんだってさ。」

 

「え、広川先生のじゃないの?」

 

「当たり前だ。 俺はあか俺のケロッピーちゃん一筋だ。」

 

「お、おい、それって胸を張って言うことじゃない!」

 

まったく、これがなかったらいい男なんだけどな~

ケロッピーか、平塚先生に教えてあげようかな。

あ、でも、もし

 

『仕方がない、お前のためにコスプレしたぞ、

 

 ケロケロ、しずちゃんと呼んで。』

 

ってことになったら、うへ~、だ、だめだ怖い。

三十路のケロッピー。

  

「広川先生、じゃあ、もう行くね。

 

 なんか頭痛くなってきたから。」

 

「ああ。 助かった、ありがとうな三ヶ木。」

 

「うん、ケーキ2個ね。」

 

「・・・・・・わかった。」

 

あの本持ってきたのってあの子達だね。

オリエンテーリングの時、ワイワイ騒いでいたもん。

そっか、みつかっちゃったのか。

あ、明日持ち物検査って言ってた。

チロロチョコ、没収されちゃうかな。

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ~んだ、結局何もないじゃないですか。

 

 あれだけ拒否してたのに、期待して損しました。」

 

「お前何期待してたの?」

 

「いや、ほら、いろいろあるじゃないですか~」

 

「あきれた。 参考書とか問題集とか勉強するための類、本当に持ってきてなかったのね。」

 

「俺の参考書はラノベだ。」

 

「なんですかそれ。 はぁ、もういいです、先輩あっち行っててください。」

 

「ほら次、えっと材木さん。」

 

「材木? いや我は天下の文豪初軍、」

 

「それいいですから。

 

 うわ~、キモ、なんですかこれ。」

 

「あ、いや、それは、アニメのヒロインイラスト集・・・・

 

 しょ、小説の参考にとかで、やましいことは。」

 

「もういいです。 林間学校終わるまで没収です。」

 

「ひでぶ~」

 

「はい次、稲村先輩、お願いします。

 

 あれ? 稲村先輩?」

 

”ガサッ”

 

「は、はい、こ、これです。」

 

「稲村先輩、いま何か隠しましたね。」

 

「え、、いや、な、なにも隠してしてないから。」

 

「結衣先輩、書記ちゃん。」

 

「「あ、はい」」

 

”ギュ”

 

「え、なにするのかなぁ。 腕、離してくれないかなぁ。」

 

”サッ”

 

「あ、か、会長。」

 

「げ、小学生の女の子の写真。 稲村先輩、犯罪です。」

 

「い、いや違う。 よ、よく見てくれ、それ三ヶ木だ。

 

 三ヶ木と妹さんだ。」

 

「え? ん~ そう言われるとそのような、でも違うような気も。」

 

「そうね、どうしても眼鏡の印象もあるし、判断つきかねるわね。」

 

”ごそごそ”

 

「雪ノ下、眼鏡取った時の画像ならあるぞ。 ほら、このスマホ見てみろ。」

 

「え、そうね確かにこの写真の子は三ヶ木さんね。」

 

「だ、だろ、雪ノ下さん。 会長も由比ヶ浜さんもよく見てくれ。」

 

「どれどれ、あ、本当だ美佳っちだ。

 

 え、あ、ヒッキー、こっちのスマホの子は彩ちゃん・・・じゃないよね。

 

 ヒッキー、この美佳っちの眼鏡してる子って、彩ちゃんの妹さん?」

 

「いや違う、この子は天使だ。 見ろ純真無垢なこの可愛らしさを。

 

 俺には背中に羽が見える。

 

 くっそ、な、なんでこれで男なんだ。」

 

「ヒッキー・・・・」

 

「ん、比企谷、この子のこと知ってるのか?」

 

「え、あ、今日、野外炊飯の準備をしているとき、材料の運搬とかいろいろ手伝って

 

 くれたんですよ。」

 

「そうか。  なぁ比企谷、スケベな本、持ってきたのはこの子だそうだ。」

 

「はぁ? なに言ってんすか先生。

 

 俺スケベな本を見てたやつら知ってますけど、甘草塚じゃないですよ。」

 

「甘草塚というのかその子。

 

 君は本を持ってきた子達を知ってるのかね。」

 

「ええ、材料を運んでる時に4、5人の小学生が読んでるのを見ましたよ。」

 

「そうか。 だがな比企谷。

 

 この子は自分が持ってきたと認めているそうだ。」

 

「そんなわけないでしょう。」

 

「なぜそんなことが言い切れるんだね。」

 

「決まってるじゃないですか 天使がそんな本を読むわけがない。」

 

「比企谷。」

 

     ・

 

ひぇ~、遅くなった。

結衣ちゃんから女子全員男子の部屋にいるよってメールあったけど、

男子の部屋でなにしてるのかなぁ。

は、もしかしてあんなことやこんなことを。

いや~うらやま、いや、いやらしい。

 

・・・・・ま、そんなことないか。

 

さて馬鹿言ってないで、わたしも中に入ろうっと。

 

「・・・違うんだ。」

 

ん?

なんだ、比企谷君、なに叫んでんだ。

 

「だから、違うんだ。

 

 俺は、別のやつらが読んでるとこを目撃してる。」

 

「だがな、比企谷。 君の話では実際何の本を見てたのか確認したわけではないのだろう。

 

 それではあのスケベな本を、甘草塚といったかな、その子が持ってきたんじゃないって

 

 いう証拠にはならないんだ。

 

 その子が既に自分の本だと認めている以上、それを覆すには何か確実な証拠がいるんだ。

 

 君もわかっているのだろう。」

 

スケベな本? あ~、あの本か。

あれ甘草塚君が持ってきたってことになってるの?

だってあれ、あの子達が持ってきたんじゃ。

 

でも確かに平塚先生の言う通り、わたしもはっきり確認したわけじゃない。

だから今となっては証拠にならないかもしれない。

こんなことになるんなら、あの時注意しておけばよかった。

今となっては遅いよね。

 

・・・・・・・・そっか、甘草塚君は自分のって認めちゃったんだ。

一度認めちゃうとずっと何かある度にいっつも疑われるんだ。

わたしもそうだった、広川先生に出会うまで。

そう、広川先生が助け出してくれるまで。

あんな先生、そういないよ。

 

「なぁ、雪ノ下。」

 

「だめよ。 これは私達の役割じゃない。」

 

「だがな、このままでは甘草塚が冤罪になってしまうんだ。」

 

「平塚先生の言う通りよ。

 

 確かな証拠がない以上、あなたの不確かな証言だけではどうにもならない。」

 

「・・・」

 

「それにあなたの言葉を信じてないわけじゃないけど、私達はその子のことを全く知らない。

 

 比企谷君。あなたも今日知り合ったばかりの子のこと、どこまで知っているつもりなのかしら。」

 

「先輩、わたしも反対です。

 

 雪ノ下先輩の言う通り、この件に関してわたし達にはあまりにも情報がありません。

 

 万一、その子が本当に持ってきたということになれば、先輩の言う他の子達を冤罪に

 

 してしまうことになるかもです。

 

 もしそうなった場合のことを考えたら、生徒会としてもそんな危険を侵すことは

 

 出来ないですよ。」

 

「・・・・・そ、そうか。」

 

「そうよ。」

 

「・・・」

 

「ヒッキー。」

 

「まぁ、そうだな。 確かに証拠もないしな。

 

 お前らの言う通り、俺も甘草塚のことよく知ってるわけじゃない。

 

 わかった、この話はこれまでにしよう。

 

 すまなかった。」

 

「わかってくれればいいわ。

 

 あなたの気持ちはわかるけど、やはりここは先生方に任せましょう。

 

 平塚先生、今一度、事実を確認して頂くことはできないでしょうか?」

 

「うむ、私ももう一度小学校の先生方に聞いてみよう。」

 

 

うん、そうだよ。

確かに雪ノ下さんや会長の言ってることが正しい、正解だ。

冷たいけど、これは小学校の問題。

わたし達が深く関わるべき問題じゃない。

小学校の先生方に任せるという判断は正解だ。

 

でも、でもひとつ違うよ。

わたしにはわかる。

だから、わたし・・・・・仕方ないよね、馬鹿だもん。

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、ここの要約ってこれでいいかなぁ?

 

 ね、ちゃんと聞いてる?」

 

「・・・」

 

「ね、ヒッキー。」

 

「・・・ 」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、な、なんだ? い、いまの由比ヶ浜か?

 

 あ、ああ、何でもいいんじゃねえの。」

 

「ひど。 ちゃんと教えてよ。」

 

「わ、わかった。 まずその手を下ろせ。

 

 由比ヶ浜、これ字数超えてるじゃねえか。

 

 まず、文章の中で具体例とか説明的な文章があるだろう。 

 

 まずはそこを無視してだな、 」

 

「副会長、美佳先輩知りませんか?」

 

「あ、さっき広川先生に何か用事頼まれて、食堂までいったみたいだよ。

 

 まだ、広川先生のところかも。」

 

「あ、そ、そうですか。」

 

「会長、気になるんですか?」

 

「べ、別に気になりません。

 

 な、なに言ってるんですか、さっさと勉強してください。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「さ、それではそろそろ持ち物検査に行きましょうか。」

 

「そうですね。」

 

”ガラガラ”

 

「おはようございます。」

 

「ああ、おはよう。 どうしたのかね。」

 

「すみません、俺の本を返してもらいに来ました。

 

 昨日どっかに置き忘れてしまったんですが、なんかここにあるって聞いて。」

 

「君の本?」

 

「あ、そ、それ、それ店員の目を気にしながらやっと買えたんです。

 

 苦労したんですよ、返して下さい。」

 

「ん、ひ、比企谷。」

 

「平塚先生、これはどういうことですか?」

 

「あ、いや。」

 

「どういうことも何も、さっきからいってるようにそれ俺の本なんですよ。」

 

「君、高校生がこんな本、しかも林間学校に持ってきていいと思うのか。」

 

「すみません。 つい。」

 

「先生、確かこの本は甘草塚が持ってきたんじゃ。」

 

「そ、そうだ。君、なにを言ってるのかね。これは甘草塚という生徒が持ってきたんだ。

 

 本人が認めているんだ。」

 

「平塚先生、困りますな。」

 

”ガラガラ”

 

「おはようございます。」

 

「おお、甘草塚、いいとこに来た。

 

 この本は君のだな。」

 

「先生。」

 

 

 

 

ーーーー 昨日の自習時間 ーーーー

 

 

 

 

あ、いた。

やっぱり外にいたね。

さっきすれ違った男の子たちが君のこと噂してたもん。

もしかして誰かが意図的に流してるのかも。

これじゃログハウスにいづらいよね。

ほんとは慰めてあげたいけど、ごめんね。

 

「君、一人?」

 

「え、あ、お姉さん。」

 

「やめてくれる、エッチな本を持ってくるようなスケベくんに

 

 お姉さん呼ばわりされたくないわ。」

 

「え、ち、違うんです。 僕は全然知らないです。」

 

「でも、君は先生に自分の本だって認めたっていうじゃない。」

 

「あ、あれは、だってそうしないと先生いつまでも離してくれなくて。

 

 僕のだろう、見た人がいるぞ、って何回も。

 

 僕が違うって言っても全然信じてくれないんだ。」

 

「それで認めちゃったの。」

 

「う、うん。」

 

「ねぇ、知ってる? 明日の朝食の後、全員の持ち物検査するんだって。

 

 みんな思うだろうね

 

 なんで急にって、それで君のこと噂になるの。

 

 君がすごいエッチな本持ってきてたって。

 

 それで、持ち物検査になったんだって」

 

「そんなわけない。

 

 僕がそんな本持ってきたって誰もわからないでしょ。

 

 先生、名前言うわけないし。」

 

「じゃあさ、君がそんな本持ってきた犯人って、なんでそういうことになったの?」

 

「そ、それは、多分、あいつらが。」

 

「ね、それと一緒だよ。

 

 はい、君はスケベ大王決定だ。」

 

「・・・」

 

「それでね、明日のキャンプファイヤー、君はエアーオクラホマ決定だね。

 

 だって女子ってそいうの敏感だから、スケベ大王とは絶対手なんか握ってくれないからね。

 

 そんなのが、これから毎日続くの。」

 

そうなんだ。

わたしなんか運動会でもずっと手握ってもらえなかった。

なんか貧乏が移るとか言われて。

子供って結構平気でそんな残酷なことするんだよ。

本人は何の罪の意識もなしに。

 

「い、いやだよ。なんで、僕が何したんだよ。」

 

「何をしたのじゃない、することをあきらめちゃったからだよ。」

 

「ぼ、僕やだ、やだよ。

 

 た、助けてお姉さん。」

 

「わたしには君を助けられない、君を助けられるのは君だけだ。

 

 君はどうする?」

 

そうなんだ。

今だけ君を助けることはできる。

でも、これからずっとわたしは、ううん、わたし達は君のこと見てて上げられない。

だから、君は君自身で頑張らないといけないんだ。

 

「ぼ、僕、スケベ大王は嫌だ、先生に言ってくる。

 

 今度は絶対違うって言ってくる。」

 

「わかった。 

 

 それならね・・・」 

 

 

 

 

ーーーー そして今 ーーーー

 

 

 

 

「先生、僕、やっぱりそんな本持ってきてません。

 

 僕のじゃないです。」

 

「はぁ、なに言ってんだ甘草塚! お前は昨日自分の本だって認めただろう。」

 

「怖かったから、でもやっぱり僕のじゃない。 僕のじゃないです。」

 

「先生、だから言ったでしょう。 それは俺 」

 

「先生、すみません。 それわたしのです。」

 

「え、は、はぁ? み、三ヶ木?」

 

「な、なに言ってるのかね。 これは今この男子生徒が自分のだと。

 

 ひ、平塚先生、どうなってるのかね。」

 

「あ、それは、比企谷くんがわたしを庇ってるだけですよ。

 

 甘草塚君だっけ、ごめんね君にまで迷惑かけて。

 

 もう帰っていいよ。」

 

「え、あ、は、はい。」

 

「あ、待ちたまえ甘草塚。」

 

「先生、犯人はわたしなので、彼もういいですよね。

 

 ほら行った行った。」

 

「う、うん。」

 

”ガラガラ”

 

「三ヶ木、お前こそ俺を庇って。」

 

「え、比企谷君、なに、もしかして庇ってくれたんじゃなくてあの本がほしかったの?

 

 あくまで自分の本だって言うのならさ、本の内容言ってみ。

 

 そうね、今回の特集は何?」

 

「え、あ、あのな、そうだ人妻の奴だ。」

 

「残念でした。 先生確認してください。

 

 特集は、ひと夏の経験、ビーチのビッチゲット大作戦です。」

 

「はぁ、な、なにその見出し。

 

 そんな特集があるわけないだろうが。」

 

「ふむ、確かにビーチのビッチゲット大作戦だ。」

 

「うそ。」

 

比企谷君、ごめんね。

わたしは全部わかってるから。

あの本見ちゃったし、それに君の考えそうなことも。

この場合さ、確実な証拠も無い状態で、仮にわたし達の証言であの子達を先生方が問い詰めたら、

あの子達は甘草塚君のことを逆恨みするからね。

証拠があれば言い逃れできないから観念するかもだけど。

林間学校中はわたしたちの目が届いても、学校に戻ったら間違いなくいじめられるよね。

比企谷君だったらそんなことになるのわかってるから、絶対こうすると思った。

 

わたし知ってるんだ。

君は誰にでも優しいってこと。

だから今回も絶対放っておかない。

そう、誰にでも優しいんだよ。

 

文化祭の時も修学旅行の時も、それにわたしの時も。

 

だからわたしは、わたしはそんなあなたが好きだから・・・・・・守りたい。

 

「惜しかったね、比企谷君。 ちなみに人妻はグラビアだよ。

 

 確か近所の奥様って見出しで、わたしは2番目のショートカットの奥様がいいかなぁって。

 

 先生はどの奥様が好みですか?」

 

「私は1番目のロングのって、何を言ってんだ君は。

 

 確かに本の内容は間違いない、この本はこの女子が持ってきたようだ。」

 

「はい、それはわたしの本です。」

 

「君はこんな如何わしい本を見ていいと思ってるのかね。」

 

「すみません。

 

 林間学校来る前に家の掃除してた時にその本を見つけてしまって。

 

 え、男の人ってこんなの読んでるのって思ってつい。

 

 あの、先生方もこんな本読むんですか?」

 

「あ、い、いや、読むはずがないじゃないか。 ね、ねぇ。」

 

「そ、そうだ。」

 

「よかった。 

 

 もしかして男の人ってみんなこんなの読んでるのかと思って幻滅しちゃってました。

 

 あ、それでとうちゃんが急に帰ってきたから、慌ててバッグに入れちゃって、

 

 そのまま持ってきちゃいました。

 

 そしたらどこかで落としたらしく、本当にお騒がせしてすみませんでした。」

 

「そ、そうなのか。」

 

「まぁ、女子がこんな本持ってるわけもないか。」

 

「君駄目だよ、気を付けないと。」

 

はぁ、よかった。

何とか収まりそうだ。

げ、平塚先生、思いっきり睨んでる。

で、でも平塚先生ならわかってくれるよね。

 

「今一度聞く。

 

 三ヶ木、これはお前の本で間違いないのだな。」

 

「はい、平塚先生。わたしので間違いないです。

 

 ご迷惑をお掛けいたしすみません。」

 

「そうか。」

 

「いや、違うって平塚先生それは 」

 

”ペコ”

 

「先生方、わが校の生徒が大変ご迷惑をお掛けいたしました。

 

 本当に申し訳ない。

 

 三ヶ木美佳! 林間学校にこんな如何わしい本を持ってきたこと、

 

 またそれにより小学生に多大な悪影響を与えたこと。

 

 これを見逃すわけにはいかない。

 

 したがって、只今より謹慎を命ずる。

 

 今日はこの教員控室から一歩も出ず、反省文を提出するように。

 

 先生方、学校へ戻り次第、この生徒の親を交えて話し合いを行います。

 

 林間学校の間はここで謹慎処分としますので、

 

 後はわたしに任せていただけないでしょうか。」

 

「ま、まぁ、平塚先生がそこまで言うのなら。

 

 それに、この子も意図してもってきたのではなさそうだし。

 

 わかりました、あとはしっかり頼みますよ。

 

 二度とこんなことがない様に。」

 

「はい、申し訳ありません。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木、なんでお前。」

 

「ごめんなさい。

 

 だって、男の比企谷君じゃ、洒落ならないじゃん。

 

 それこそ謹慎なんかですまないよ。」

 

「お前、わかってたのか俺のすること。」

 

「わかるよ、ずっと比企谷君を見てきたんだよ。」

 

「だけどお前、俺はこんなこと望んでない。」

 

「わたしが望んだんだ。」

 

「お前、 」

 

「あ、それよりさ、ごめんお願いがあるんだ。

 

 この後のフォローお願いできないかなぁ。

 

 ほら、わたし謹慎の身だから。」

 

「フォロー?・・・ああわかった。

 

 あいつらには俺から話する。」

 

「うん、じゃあ。」

 

「三ヶ木、俺はいま素直にお前に感謝できない、すまん。」

 

「いいよ感謝されることしてないもん。

 

 これはわたしがわたしの為にやりたくてやったこと。

 

 やりたいと思ってやらないことのほうがすごく後悔するよ。

 

 ・・・・・・・・もう、文化祭の時のようなの嫌なんだ。」

 

「だ、だが。」

 

「へへへ、これがわたしなんだ。 じゃ、後よろしく!」

 

「お、おう。」

 

”ガラガラ”

 

あ~あ、行っちゃった。

ちょっと怒らせちゃったかなぁ。

で、でもさ、嫌なんだ、もう比企谷君が傷つくの見たくない。

だから、君に嫌われたとしても、今わたし少し幸せなの。

ごめんね、勝手なことしちゃって。

 

”トントン”

 

「はっ!」

 

「もういいかね三ヶ木。

 

 まったくなんて馬鹿なことをしてくれたんだ。」

 

「う、すみません先生。」

 

「はぁ~ うちの学校には問題児が二人いたのを忘れてた。

 

 まったく、お前は比企谷と同じだな。そんなやり方しかできないのかね。」

 

「先生、わたしと比企谷君は違うよ。 全然似てない。」

 

「ん? わたしには全くそっくりにしか見えないが。」

 

「違うよ。 比企谷君はみんなに優しいんだ。

 

 頼ってくる人は誰かれ構わず放っておけない。

 

 まったく、何の関係もなかった人にも自分を犠牲にして。

 

 わたしは違う。

 

 わたしはわたしの大切なもののためにしか動かない。」

 

「それからいうと比企谷は君にとって大切なものということか。」

 

「うん、とっても大切な・・・・・・

 

 だ、だからさ、前にも言ったでしょ、わたしは汚いって。」

 

「まったく君は。

 

 三ヶ木、筆記用具持ってきてやるが、他に必要なものはないか?」

 

「必要なものはないです。

 

 ただ、先生、とうちゃんに言うのだけは勘弁して貰えませんか?

 

 お願いします。」

 

「三ヶ木、だめだな。 小学校の先生方と約束したんでな。」

 

「先生。」

 

「あきらめろ。 君は、君達はか。

 

 自分を簡単に傷つけて、そんな君達をみて誰も悲しむ人がいないと思っているのかね。

 

 それをわからせるために、このことはお父さんに話しさせてもらう。」

 

「先生、お願いやめて。」

 

「それでな、最後にこういうつもりだ。

 

 あなたのお嬢さんは私の自慢の生徒ですってな。」




最後まで辛抱いただきありがたいです。

いよいよ次話は林間学校最終編。
今回ちょっとずれが生じた八幡とオリヒロ、修復できるかなぁ。
あ、会長との間も。

すみません。
また見に来ていただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のはじまり -林間学校 後編-

また見に来ていただき、感謝です。
ほんとありがとございます。

えっともう季節は秋ですね。
すっかり季節感のない更新になりすみません。

今回は林間学校編の最後です。
またしてもセリフばかりです。
しかも16000字に(上下にしたほうがよかったかも)

読みにくいと思いますがご辛抱いただければ。

よろしくお願いします。


『ごめんお願いがあるんだ。

 

 この後のフォローお願いできないかなぁ。』

 

フォローお願いっか。

あいつが望んでいること。

なぜ、真犯人を知っている三ヶ木や俺が、自分が犯人という解決の道を望んだのか。

いや、選ばなければならなかったのか。

そういうことなんだよな、三ヶ木。

 

わかった、お前の依頼引き受けた。

 

”ガラガラ”

 

「お早うございま~す。

 

 今日もよろしくです。」

 

「お早う、会長。」

 

「あ、いろはちゃん、やっはろ―」

 

「え、あ、あの~」

 

「やっはろー、いろはちゃん。」

 

「や、やっはろーです、結衣先輩。 はぁ~」

 

「な、いきなりため息つかれたー」

 

「一色さん、ごめんなさい。 早速だけど始めていただけるかしら。」

 

「は、はい。 それでは今日の段取りの打ち合わせをって、

 

 あれ、美佳先輩はまだですか?」

 

”ガタ”

 

「そのことなんだが、みんなに話がある。

 

 一色、少し時間いいか?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ? な、なんですと!」

 

「今言った通りだ。 甘草塚を、いや俺も含めて助けるため、

 

 三ヶ木は自分が犯人だと名乗り出ることを選んだんだ。」

 

「比企谷君、この件はあなた昨日はわかったって言ったのではなくて。」

 

「す、すまん。」

 

確かに昨日、俺はわかったと嘘をついた。

だが、なぜだろう。

なぜ昨日会ったばかりの甘草塚を助けたかったのか。

 

それは多分、甘草塚に昔の俺のことを重ね合わせてしまったのだと思う。

誰にも信じてもらえず裏切られ続けたことで、人を信じるということの意味を

信じれなくなった俺と。

 

雪ノ下や由比ヶ浜、それと三ヶ木。

俺はこいつらと出会えたことで、人を信じるという意味をすこしは信じたいって

そう思うことができた。

そんな俺だから、甘草塚のこと何とかしたくなったんだと思う。

 

”ガタン!”

 

「なぁ、比企谷。

 

 お前、その本を持ってきたやつらの顔見てるって言ったよな。

 

 だったら、ちょっと俺と来い。」

 

「何をするつもりだ、稲村。」

 

「決まってるだろう、真犯人を探し出して三ヶ木の無罪を証明する。」

 

「稲村、それはできない。」

 

「なんだと! おい、来いよ、探すんだよ!」

 

”ぐぃ”

 

「出来ない、三ヶ木はそれを望んでいない。」

 

「望んでいようがいまいが、どっちでもいいんだよ。

 

 真犯人とっつかまえて、三ヶ木の無罪を証明すんだよ。

 

 ぶん殴っても連れていくぞ、おら!」

 

「殴りたければ殴るんだな、だが俺は協力しない。」

 

「て、てめぇ!」

 

「ま、待て稲村。」

 

「止めるな本牧、俺は前々からこいつが許せなかったんだ。

 

 こいつが、こいつがいると三ヶ木がいつも辛い想いをする。

 

 俺はあいつに辛い想いをさせる奴を絶対許さない。

 

 俺は、あいつにいつも笑っていてほしいんだ。」

 

「待てって。

 

 なぁ比企谷、真犯人を探さないって、何か理由があるんだろ。

 

 さっき、三ヶ木さんが望んでないとか言ってけど、わかるように話してくれないか?」

 

「昨日、雪ノ下が言った通り、俺達には確実な証拠がない。

 

 直接、見ていた本を確認したわけではないからな。

 

 確実な証拠がない以上、違う本だと言い逃れされれば俺達には否定できない。

 

 それに俺や三ヶ木は既に自分が持ってきたって偽証してるんだ。

 

 俺たちの証言に信憑性はない。

 

 その後はどうなる?

 

 甘草塚はそのことを根に持ったあいつらのいじめの標的になるんじゃないか。

 

 林間学校にいる間は俺達が庇ってやれても、学校に戻れば庇うことはできない。

 

 だから、三ヶ木は真犯人を探すことを望んでないと俺は思う。」

 

「だが、だがな、だけど。」

 

「稲村、俺は真犯人を探さない。」

 

俺は真犯人を探さない。

お前が俺に依頼したフォローってこのことだよな。

この問題はここで終息する。いや、終息させる。

 

「一色さん、奉仕部はこの件に関してこれ以上何もしないわ。

 

 いえ、何もできないって言うことが正しいかしら。

 

 比企谷君の証言がなければ犯人はわからない。

 

 あなたは、生徒会はどうするの?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。

 

 この件、美佳先輩の無実が証明できないというのなら、

 

 ・・・・・・・・美佳先輩には現時点をもって生徒会をやめてもらいます。」

 

「はぁ? いやちょっと待ってくれ、一色。

 

 今言った通りなんだ、三ヶ木は俺達を庇って 」

 

「関係ないです、そんなこと。

 

 結果として美佳先輩は生徒会に、いえ総武高の名に泥を塗ったことになります。

 

 そんな人を生徒会に置いておくわけにはいきません。

 

 庶務解任です。」

 

「いや、しかし 」

 

「それとも先輩、真犯人を探しますか?

 

 美佳先輩が犯人じゃないということにならない限り、やめてもらいます。

 

 どうしますか、先輩。」

 

生徒会は三ヶ木にとって一番大事なものなんだ。

そんな大事なものを。

三ヶ木、俺はどうすればいいんだ。

 

『わたしが望んだんだ。』

 

『これはわたしがわたしの為にやりたくてやったこと。

 

 やりたいと思ってやらないことのほうがすごく後悔するよ。

 

 ・・・・・・・・もう、文化祭の時のようなの嫌なんだ。』

 

『へへへ、これがわたしなんだ。 じゃ、後よろしく!』

 

そうだな、三ヶ木。

お前が俺だとしてもこうするよな。

俺もお前を守りたい。

だからこんなことぐらい何でもない。

 

”どさ”

 

「え、せ、先輩?」

 

「一色、俺は真犯人を捜さない。

 

 だが、三ヶ木のことは許してやってくれ。

 

 勝手なことばっかり言ってるのはわかってる。

 

 頼む、この通りだ。」

 

「ひ、ヒッキー、土下座なんて。」

 

「お、おい比企谷。」

 

「・・・・・先輩、頭を上げてください。」

 

「い、一色、それじゃ 」

 

「お断りします。

 

 さ、この件はこれで終わりにしましょう。

 

 副会長、今日の段取りの説明、お願いします。」

 

”バン!”

 

「待ってくれ会長、

 

 三ヶ木が庶務を解任されるなら、俺も会計を解任してくれ。」

 

「はぁ? な、なに言ってんですか稲村先輩。」

 

「俺は三ヶ木対策本部長だったよな。

 

 三ヶ木が何か仕出かしたら、俺も同罪だって会長言ったよな。

 

 だったら、俺も同罪だ、会計を解任してくれ。

 

 解任しないなら辞任する。」

 

「はぁ~、稲村先輩、あなた馬鹿ですか。」

 

「な、」

 

「そんなことをして、美佳先輩をさらに苦しめたいんですか?

 

 いいですか、会計は庶務と違って会長が決められないです。

 

 会計に欠員が出た場合、まぁ前代未聞のことですが、新しい会計を選出するため

 

 選挙をしなければいけないんです。

 

 そうしたら今回の件が学校中に知れ渡ってしまうじゃないですか。」

 

「あ、」

 

「それに、稲村先輩が会計やめるって、それ美佳先輩が一番悲しむことじゃないんですか。」

 

「・・・・」

 

”ドン!”

 

「まったく、わたしが平気でこんなこと言ってると思ってんですか?

 

 わたしは会長なんです、生徒会会長なんです!

 

 わたしの気持ちもわかってください、もう!」

 

”ガラガラ、ガタン”

 

「沙和子、頼む。」

 

「うん。」

 

”ガラガラ”

 

「まって、いろはちゃん。」

 

一色、お前、お前なりに三ヶ木のこと思って。

だが、このままではまずい。

なにか方法はないのか。

あの本が三ヶ木のじゃないって証明すれば。

・・・・くそ、だめだ。

なんで三ヶ木、本の内容知ってたんだ。

そのことが決定的じゃねえか。

 

「稲村、少し落ち着け。

 

 まったくお前は三ヶ木さんのことになると冷静さが無くなるんだな。

 

 奉仕部の皆さん、それに材木座君、こんな状況になってすまない。

 

 すまないついでだが、今日の段取りについて打ち合わせさせてくれないだろうか?

 

 正直、もうあまり時間がないんだ。」

 

「ええ、本牧君わかったわ。

 

 元はといえば奉仕部の部員が元凶、こちらこそごめんなさい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「お~い謹慎中の三ヶ木、暇か?」

 

「げ、なんですか広川先生。

 

 暇なわけないでしょ、ちゃんと反省文書いてます。」

 

「そっか、謹慎中の三ヶ木、それもう終わりそうか?」

 

「・・・・まだです。」

 

「謹慎中の三ヶ木、反省文書くの慣れてんだろう。

 

 稲村から聞いてるぞ。

 

 いままでも3、4回は書いてるそうだな。

 

 さっさと書いちゃえよ。」

 

「く、あのバカ、なにいらんことを。」

 

     ・

 

「できたか? 謹慎中の三ヶ木。」

 

「あ~謹慎謹慎ってうっさい。 な、なに、何か用?」

 

「おう、それ終わったらこっち手伝ってほしいなぁ~って。」

 

「わかったから、もう、ちょっと待って下さい。」

 

”カキカキ”

 

「終わった?」

 

「いや、まだだって。」

 

”カキカキ”

 

「終わったか?」

 

「まだ。」

 

”カキカキ”

 

「ねぇ、まだ~?」

 

「も、もう。 あんたは子供か!

 

 もういいや、ほれ終わった。」

 

「ほほう、どれどれ見せてみろ。」

 

「はい。」

 

「ふむふむ・・・・・・・・

 

 は~、よくもこんな出任せの反省文を書けたもんだな。

 

 却下。」

 

「なんでですか!」

 

「誰がこんな嘘の反省文を書けって言った?

 

 エッチな本持ってきてごめんなさい?

 

 静ちゃんが言ってた反省文ていうのは、違うことについてだろ。

 

 お前はわかっているはずだ。 だめ、書き直し。」

 

「だってぇ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

一色、戻ってこないか。

まじ怒ってたもんな。

俺が勝手なことしたせいで、あいつにまで迷惑かけちまった。

それに三ヶ木の無罪、証明してほしかったんだろうな。

だが、それはできない。

戻ってきたら謝らないとな。 そしてもう一度三ヶ木のこと・・・・

 

「ということで、今から男子はキャンプファイアーの会場準備を、

 

 女子はフォークダンスについて、先生方との打ち合わせお願いします。」

 

「わかったわ。

 

 あとは、そう、一色さんが言ってた肝試しはどうするのかしら?」

 

「それは、こんな状況だから、ちゅ 」

 

”ガラガラ”

 

「やるに決まってるじゃないですか。

 

 全て予定通りに行います。」

 

「「会長。」」

 

「これは会長命令ですから絶対です。

 

 こんな状況ですからこそ予定通りに行います。

 

 ではでは皆さんよろしくです。」

 

「「了解です。会長」」

 

「会長!

 

 会長すまない、俺。」

 

「稲村先輩、わ・た・し絶対ゆるしませんよ~。 ニコ♡」

 

「えっ。」

 

「会長に楯突いた罰です、稲村先輩、会計と庶務との兼任を命じます。

 

 これからは、コピーとか雑用とかもよろしくです。」

 

「うそー」

 

「あ、ついでに、ちゃんと紅茶の淹れ方、勉強しておいてくださいね。」

 

「い、一色、あのな、」

 

「先輩、却下です。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「広川先生殿、お願いします。」

 

「どれどれ、ふむふむ。 ん~、お前な、もうちょっと・・・・・

 

 まぁ、どうでもいいや。」

 

「どうでもいいのかよ!」

 

「だって時間ないんだもん。

 

 ほれ、三ヶ木これ頼むわ。」

 

「え、クレヨン? 先生、これなにするの?」

 

「これ粉々に潰してくれ。 お前潰すの得意だろ。

 

 あ、色ごとにわけてな、絶対混ぜるなよ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あちぃ」

 

つい声に出ちまった。

だけどほんとに暑い。

こんな暑い中での肉体労働なんぞ、俺が本来一番嫌うものだ。

だが、今は何もかも忘れられていいかもな。

ずっとこの木を積み上げていくことだけ考えていられたら。

 

「比企谷、薪はここに積んでおけばいいかなぁ?」

 

「おう本牧、去年もそこらに積んでたからいいと思うぞ。」

 

「八幡よ、こうやって木材を積んでるとジェンガのようだの。」

 

「木材座、あ、違った材木座、ジェンガは一人でやるものじゃないって知ってたか?」

 

「な、なにを言ってる八幡、ジェンガは一人で行う精神修行ではないか。」

 

違うんだ、材木座。

ジェンガとはいろいろ駆け引きを使って相手を陥れるゲームなのだ。

ふふふ、なんど小町を泣かしてきたことか。

由比ヶ浜とも勉強の合間にやってみたが。

まぁ、なんだ、あのテーブルの上のメロン、ぜってぇ反則だろう。

安定感バッチリじゃんか。

それに俺の目のやり場が・・・・

 

「材木座、そこの薪をちょっと貸してみろ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ぬほほん、八幡あきらめろ! もう抜けるとこはあるまい。

 

 我の勝ちのようだな。」

 

ぐ、くっそ、いやどこか、どこかにまだ抜ける薪があるはずだ。

材木座にだけは負けるわけには。

は、こ、ここだ。

この薪にすべてをかける。

 

「材木座、俺があきらめることをあきらめろ。」

 

す~、は~

あと、5cm、これさえ抜けば。

あと1cm、ざ、材木座、俺の勝ちだ。

 

”ガシャ”

 

「お、おわぁ! な、なにするんだ。

 

 げ、雪ノ下!」

 

「あら、サボり谷君、みんなが頑張って働いているのに、なに一人で遊んでいるのかしら?」

 

「え、あ、材木座、いつも間に。

 

 ま、まて雪ノ下、ちゃんと仕事は終わってるぞ。

 

 ほら見てみろ、ちゃんと井桁組んであるだろう。」

 

「あら、そうね。

 

 まぁ、仕事はしてたみたいね。

 

 はい、ご苦労様、マッ缶。」

 

「お~、ここでも売ってたのか。

 

 あきらめていたんだが、どこの自動販売機だ。」

 

「それは、三ヶ木さんが準備してくれてたの。

 

 持ってきたクーラーボックス、他の飲み物とは分けてあったから気が付かなかったけど。」

 

「・・・そ、そっか。」

 

まったく、あいつはどこまで気が付くんだ。

 

そうなんだ、あいつは気が付きすぎて、それで勝手なことばっかするんだ。

今回ばかりじゃない。

人気投票の時も、俺の成績が下がったってときもあいつは勝手に。

 

俺のせいでお前が傷ついて、それで俺が平気だと思ってるのか。

しかも今回はお前の一番大事にしてたものまで犠牲に。

 

くっそ! それなのに俺は何もできないのか。

 

「比企谷君、どうかしたのかしら。」

 

「い、いや、なんでもない。」

 

「そうかしら。 いつも以上にあなたの目が腐ってるのだけど。」

 

「お、おい。 いつもと一緒だ。

 

 ・・・・・あのな、雪ノ下、聞いてくれるか?」

 

「そろそろなにか聞いてほしくなるんじゃないかって思ってた。

 

 私も、あなたを見てきたのよ。

 

 これでも少しはあなたの気持ちわかるつもり。」

 

「そ、そうか。 すまん。

 

 俺は、俺の目の前であいつが・・・・

 

 大切な人が俺のために自分を傷つけるのを見てとても悲しかった。

 

 それなのに、何もできない自分が悔しかった。

 

 しかもあいつが一番大事にしていたもの、俺は守ることができなかった。

 

 お、俺はなにやってんだろうな。」

 

「比企谷君。」

 

「雪ノ下。

 

 俺の勝手な思い込みかもしれんが、いまならわかるような気がする。

 

 お前らもこんな感じだったんじゃなかったのか。」

 

「比企谷君、ハンカチ。

 

 涙拭きなさい。 

 

 まったくよく泣く男だこと。」

 

「俺、いつから。」

 

「私は、私も何もできなかった、見てることしかできなかった。

 

 そんな無力な自分に苛立ってたのかもしれない。

 

 それでいつのまにかあなたに依存して・・・・」

 

「雪ノ下。」

 

「比企谷君、今のあなたのその痛み、三ヶ木さんに伝えなさい。

 

 彼女が傷つくことで傷つく人がいるのだということを伝えなさい。

 

 これはあなたにしか出来ないことよ。」

 

「そっか。」

 

「そうよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、終わった。 クレヨン粉々にするの終わったよ先生。

 

 あ~疲れた。」

 

「ご苦労、謹慎中の三ヶ木。」

 

「いや、もうそれやめて。」

 

「ほれ、次は青色だ。」

 

「げ、まだあるの?」

 

「赤色の次は青色、そして緑色。 これは常識だ。」

 

「そんな常識知らない! ふぇ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”バシャ、バシャ”

 

「きゃ、冷たい。 由比ヶ浜先輩やめてください。」

 

「ほれほれ。」

 

「も、もう、反撃です。」

 

”バシャ、バシャ”

 

「きゃ~」

 

「書記ちゃん、割とスタイル良いな~

 

 まあ、由比ヶ浜さんにはかなわないが。」

 

「おい稲村、ジロ見するんじゃない。」

 

「あ! ちょ、ちょっと待て本牧。

 

 お前、それ書記ちゃんとペアじゃないか。」

 

「は、いや、たまたまだ。 偶然かなぁ~ あははは」

 

「くそ~」

 

く~熱かった。

お、おう、いや~いい風景だ。

川辺で戯れる女子二人。

由比ヶ浜はわかっていたが、書記ちゃんもなかなか。

まさに今の俺の心の癒しオアシス。

ん、二人?

一色はどこ行ったんだ?

あ、いた。

・・・・・あいつやっぱり気にしてるのか。

 

”スタスタスタ”

 

「一色どうした、川入らないのか?」

 

「ちょっとお腹痛いんです、ほっておいてください。

 

 なんですか、それともわたしの水着姿をみていやらしいこと想像したいんですか。」

 

「い、いや、それはない。」

 

「なんですか、それ。 もういいです、あっち行ってください。」

 

「あ、あのな一色、けさ 」

 

”プルン、プルン”

 

「ヒッキー、バレーボールやるよ。」

 

お、おお、ゆ、由比ヶ浜。

いや、今は一色に・・・・・だめだ! 目、目が自然に。

 

「ヒッキー?」

 

「由比ヶ浜、ど、どれがボールだ。」

 

「へ? ひ、ヒッキーのスケベ!」

 

    ・

 

「一色さん、ここいいかしら?」

 

「え、あ、どうぞ。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「あの、雪ノ下先輩。

 

 わたしの判断って、間違っていたでしょうか?

 

 美佳先輩は、甘草塚君って子を庇っただけで、それを考えると。」

 

「後悔してるのかしら?」

 

「いえ、あの、雪ノ下先輩ならどうされたかと。」

 

「一色さん、私もあなたと同じ判断をしたと思うわ。

 

 あなたの判断は生徒会会長として間違っていない。」

 

「ありがとうございます。」

 

「一色さん、あなたもう立派な生徒会会長だわ。」

 

「そ、そうですか。」

 

「そうよ。」

 

「で、でも・・・・・・・・・・・正直、辛いです。」

 

”だき”

 

「雪ノ下先輩、辛いです。

 

 辛いです、辛いです、辛いです・・・・・・わたし辛いんです。」

 

”なでなで”

 

「あなたは強いわ。 大丈夫よ。」

 

「う、は、はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「広川先生、あきた、腹減った。」

 

「ばかもの、これも罰なんだからしっかり作れ。

 

 もうあんまり時間ないんだからな。」

 

「だって、さっきからクレヨンの潰すのばっかだもん。

 

 もうこんだけあればいいじゃん。」

 

「いま、コーヒーでも淹れてきてやるから。」

 

「美味しいやつね。」

 

「わかった。 わかったからほれ緑色。」

 

「う~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは、今から肝試し始めますね。

 

 えっと、これから二人一組でこのコースを1周してきてもらいます。

 

 それで中間地点にある神社に、このお札の入った箱を置いてきましたので、

 

 このお札を取って来てください。

 

 各組は前の組が出発してから5分間隔で出発して、ここに戻ってくるまでの

 

 時間を競います。

 

 えっと、先輩、ズルはだめですよ、ズルは。」

 

「そうだよ、ヒッキー、ズルはだめだよ。」

 

「ズル谷君、だめよ。」

 

「お、おいちょっと待て。 なんで俺がズルすることが前提なの。」

 

ま、まぁ、ズルしようと思ってたんだが。

え、なに、俺の行動読めるの三ヶ木だけじゃないの?

まぁしかし、ペアが由比ヶ浜か書記ちゃんなら誤魔化せそうだが、雪ノ下や一色は無理だな。

 

一色、少しは吹っ切れたようだ。

なんか雪ノ下と抱き合ってたようだが、あれ以来、急に仲が緊密になったようで何か怖いんだが。

 

「はい、それではペアを決めますね。

 

 この箱の中に数字が書いてあるカードが入ってますので、同じ数字の人同士がペアです。

 

 副会長、男子の分お願いしますね、

 

 女子はわたしの箱から引いてください。」

 

     ・

 

「比企谷で最後だな。」

 

「ああ。」

 

ふふふ、余り物には福があるというからな。

え、俺が余りものって意味じゃないよ。

今回はちゃんと人数あってるから、あぶれないよね。

 

「はい、それじゃ、番号見せてくださいね。

 

 えっと、1番は稲村先輩と結衣先輩、2番は材木さんと書記ちゃん。

 

 3番・・・・・・・・副会長と雪ノ下先輩。

 

 4番はわたしと先輩です。」

 

「な、なになんでそんな嫌な顔してるの一色さん。」

 

「・・・・」

 

「いや、何で無言。」

 

「まぁ、いいです。

 

 じゃあ、稲村先輩、結衣先輩、準備はいいですか?」

 

「うん。」

 

「それではスタートよろしくです♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木。」

 

「いや~、もうクレヨンいらない。」

 

「いや違うから。 ほらコーヒー飲むか?」

 

「え、あ、コーヒー。 ありがとうございます。」

 

「おう、ご苦労さん。」

 

”ごくごく”

 

「ふ~、美味しい。」

 

「ふふふん、当たり前だ。俺が淹れたんだからな。」

 

「先生って何者?  へへ、気持ち休まるね。」

 

「休まったか? じゃあ、はい次これ。

 

 タコ糸、これと同じ長さに切ってくれ。」

 

「・・・・・鬼!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「仕方ない、ほら先輩行きますよ。」

 

「お、おう。」

 

”スタ、スタ”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「な、なあ、一色。」

 

”サッ”

 

「はい。」

 

「え、なにこの手。」

 

「ふつう、こういう場合、男子が女子を引っ張っていってくれる決まりじゃないですか~

 

 だからですよ、はい。」

 

「え、そ、そうなの。」

 

”にぎ”

 

「ひゃい。」

 

「な、なに?」

 

「いえ、な、何でもないです。

 

 湿っぽいからキモかったんです!」

 

「そ、そう。」

 

湿っぽくてごめんね。

いきなりキモイって俺泣きそうなんだが。

ま、まぁいい。

ん、一色の手って、こんなに華奢なんだな。

 

”ぎゅ”

 

へ、い、一色?

ま、まぁ、暗くなってきたし女子には怖いか。

まぁ、一色も一応女子だからな。

 

”ぎゅ”

 

「先輩、なに力入れてるんですか、すっごくキモイんですけど。」

 

「へ、いや、お前が」

 

「はぁ?」

 

な、なにその顔。ほんと嫌なの?

 

”ニコ”

 

か、可愛い。

は、くそ、はめやがったな。

・・・こいつらしいわ。

まぁ、なんだ、二人切りになれたんだ。

折を見て三ヶ木のこと、もう一度話してみるか。

 

     ・

 

”ガサガサ”

 

「きゃ~、先輩、怖いです~」

 

”だき”

 

「あざとい、あざとすぎる。」

 

「なんですかそれ。

 

 ここは俺が守ってやるから大丈夫とかいうところじゃないですか。

 

 折角チャンス上げたのに、信じられないです。」

 

「何のチャンスだ。

 

 そんなのいらん。 後が怖いわ。」

 

「ひど、後が怖いってなんですか。

 

 まったく先輩は、わたしのことどう思ってるんですか。」

 

「一色はあざとさとあざとさ、そしてあざとさ、それに少しの可愛さでできている。」

 

「な、あざとくなんかないですよ、これは全て素です・・・・・え、かわいい?

 

 な、な、な、なんなんですかいきなり。

 

 は、もしかしてこの肝試しという追い詰められた雰囲気で、吊り橋効果を狙ってるんですか。

 わたし的にも嬉しいんですが、可愛いじゃなくてもっとはっきりした言葉で告ってください。

 ごめんなさい。」

 

「え、また俺振られたの?

 

 まぁ、なんだ。 俺はかわいい後輩だと思ってるぞ。」

 

「先輩、それ微妙なんですけど。 

 

 後輩ってとこは余計じゃないですか、もう。」

 

「ん? いや、お前後輩だろう。」

 

「もう、いいです! この唐変木。」

 

「へっ?」

 

「・・・・」

 

”スタスタ”

 

「それで、唐変木先輩、一昨日は美佳先輩と何してたんですか。」

 

「は? いや、何のことだ。 俺は三ヶ木とは会っていないぞ。」

 

「・・・・・先輩、蚊取り線香のにおいプンプンでしたよ。」

 

「はっ。」

 

「まったく、なんで嘘ついたんですか。」

 

「え、あ、いや」

 

「も、もしかして後ろめたいことしてたんですか?

 

 はっ、まさか嫌がる美佳先輩にエッチなことしてたとか。」

 

「ば、馬鹿。 エッチなことなんてしてないから。

 

 ただ雨宿りしてただけだ。

 

 服がびしょ濡れだったんで、風邪ひかない様に温めてただけだから。」

 

「はぁ? 参考までにどういう風にです?」

 

「いや、ほらお互いの体温でだな、はっ!」

 

「お互いの体温、ほほう、じっくり聞かせてもらいましょうか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「せ、先輩、なんていうことしてたんですか!

 

 この変態。」

 

「いや、これは生きるためだ。 あのままでは二人とも凍え死んでたかもしれん。

 

 か、風邪は間違いなくひいてた。 そ、そうだ、それは間違いない。」

 

「言い訳なんて聞きません。 このエロ八幡。」

 

「いや、あの、あ、雨がだな。 そ、そうだ雨が悪い。」

 

「先輩、美佳先輩じゃなくて、わたしでも同じことしてました?」

 

「・・・・・」

 

「美佳先輩だからなんですね。

 

 先輩は、先輩は美佳先輩のことどう思ってるんですか。」

 

「どう思ってるって。」

 

「先輩は、美佳先輩のこと・・・・・好きなんですか。」

 

「お、俺は 」

 

「本当のこと言ってくれないと、美佳先輩と裸で抱き合ってたって、

 

 雪ノ下先輩達に話しちゃうかもです。」

 

「お、お前、それ卑怯だぞ。」

 

「いいんです。 で、どうなんですか?」

 

「お、俺は・・・・・・・

 

 俺は多分、あいつのことが好きなんだと思う。」

 

「うそ。」

 

「だ、だが、それがどんな意味で好きなのか、まだわからないんだ。

 

 ただ、そばにいてほしいと思ってた。」

 

「思ってた・・・・ですか?」

 

「今日のことで思ったんだ。

 

 あいつは俺のために自分が辛い思いをすることを厭わない。

 

 今回も俺なんかのために、あいつは一番大事にしていたものを犠牲にしちまった。

 

 あ、お前を責めているわけじゃないからな。

 

 お前の判断は会長としては正しいと思ってる。

 

 稲村の言う通り、俺といるとこれからもあいつに辛い思いばっかさせて

 

 しまうんじゃないかと思うんだ。

 

 そんな時、多分あいつは笑いながら俺に言うんだ、わたしが望んで勝手にやったんだよって。

 

 今日もそうだった。

 

 俺はその笑顔が辛かった。

 

 俺はあいつがしてくれること以上のものを返せるんだろうか。

 

 ・・・・・・・・・・・・俺は自信がない。

 

 だから俺はあいつのそばにいないほうがいいんじゃないかって思ってる。」

 

「先輩、それマジ言ってるんですか!」

 

「あ、お、おう。」

 

「好きな人のためなら何かしてあげたい、それって当たり前のことじゃないですか。

 

 それでもなんかいろいろ迷って行動できない人が多いのに。

 

 相手を傷つけることが怖がっていては、人なんて好きになれないじゃないですか!」

 

「いや、だが、俺は傷つけたくない。

 

 大切に思う人が傷つく姿を、俺は耐えられないんだ。」

 

「先輩がそれを言うんですか。

 

 先輩は勝手すぎます。

 

 それで、それが原因で遠ざかれていったら、美佳先輩、もっともっと傷つくじゃないですか!

 

 だったら、せ、先輩なんてずっとぼっちでいればいいです!」

 

「・・・・・」

 

「もういいです、そんなに一人がいいなら、ここからは先輩なんて一人で行ってください。」

 

”タッタッタッ”

 

「お、おい、一色。」

 

駄目なんだ。

俺にはできないんだ。

人を好きなることがその人を傷つける覚悟をするぐらいなら、俺は人を好きにならない。

俺は誰も傷つけたくない。

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんですかあの唐変木は。

 

 どれだけ捻くれてるんですか。

 

 もう、一生、ぼっちでいればいいんです。

 

 ・・・・・・・・・まったく優しすぎるんです、馬鹿。」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「ん? えっとどっちでしたっけ。

 

 あ、地図、先輩が持ってたんだ。

 

 まぁ、こっちの道だよね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、稲村君、書記ちゃん達来たみたいだよ。」

 

「おい、材木座、どうしたんだ? 顔色悪くないか。」

 

「じょ、女子は怖い。」

 

「え? しょ、書記ちゃんなにを。」

 

「だ、だって、材木座先輩、ずっとなんかわけのわからないこと言ってるから、つい。」

 

「怒ったの?」

 

「はい。 あの~、少しだけですよね、材木座先輩。」

 

「あ、は、はい。 少しだけです、決して殴られてません。」

 

「たはは、殴ったんだ。」

 

「ちょ、ちょっとだけですよ。」

 

「・・・、あ、ゆきのん達も来た。」

 

「結構早くないか。」

 

「ゴール。 雪ノ下さん、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫よ。 さすがね、頼もしかったわ。

 

 それに割と早かったんじゃないかしら。」

 

「ああ、昨日オリエンテーリングで一度回ってるからね。」

 

「お、おい、本牧。」

 

「え?」

 

「ほら、書記ちゃん機嫌悪いぞ。」

 

「ふん!」

 

「あ、いや、沙和、しょ、書記ちゃん、違うんだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、ヒッキー、こっちだよ。」

 

「おう。」

 

「あれ、いろはちゃんは?」

 

「え、一色来ていないのか?」

 

「ヒッキーと一緒だったんじゃないかったの?」

 

「ああ、途中で一人で先にいったはずなんだが。

 

 まだ来てないのか?」

 

「まだ来てないよ。」

 

「追い越したはずはないんだが、一度戻ってみるわ。」

 

「ヒッキー、あたしらも行くよ。」

 

「待ってくれ、由比ヶ浜さん。

 

 雪ノ下さんすまない。

 

 女子はキャンプファイヤーでのフォークダンスがある。

 

 万一のことを考えて、女子はそっちのほうに行ってほしいんだがいいかな?

 

 幸い、男子は準備以外予定がない。

 

 ここは男子で探してみようと思う。」

 

「そうね。 わかったわ由比ヶ浜さん、藤沢さん、ここは男子に任せて

 

 私達はキャンプファイヤーのほうに行きましょう。」

 

「すまない、頼みます。

 

 書記ちゃん、会長の代役、いけるか?」

 

「うん、やってみる。」

 

「稲村、俺はスタートしたほうから探してみる。

 

 稲村はもしかしてのことがあるからログハウスとか、野外炊事場のほうを

 

 探してくれないか?」

 

「ああ、わかった。」

 

「材木座君、君はここで待機していてくれないか?

 

 もしかしたら会長帰ってくるかもしれないし、ここは電波がよく届くから

 

 ここで基地の役目をしてほしいのだが。」

 

「我は待機なのか。」

 

「ああ、君がここにいてくれると助かる。 都度、ここにいる君に連絡するようにするから

 

 司令塔の役目をしてほしい。 君が頼りだ。」

 

「ぬほほほ、任せられい! 我がここにでんと構えているから安心して探してくるがよい。」

 

「うん、頼む。 いくぞ稲村。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あれ、おかしいな。

 

 こっちの道であってたと思うんだけど。

 

 もうそろそろ神社だったはず。

 

 おかしいな。

 

 えっと、副会長に連絡連絡っと。

 

 え、うそ、ここ圏外。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先生、もう準備するものない?」

 

「ああ、三ヶ木、助かった。今から体育館に持っていく。」

 

「あの、先生。 この準備してたのってもしかして。」

 

「ああ、廃油キャンドルを作ろうと思ってな。 ほら、これ試作品。」

 

「だから、さっきから油こしてたんだね。

 

 でも広川先生、この試作品の色は趣味悪い。」

 

「う、うるさい、いろいろ色を混ぜてたらそうなったんだ。」

 

”ガラガラ”

 

「あ、すみません、こっち会長来てませんよね。」

 

「あ、稲村君、会長? こっちには来てないよ。

 

 なにかあったの?」

 

「あ、いや、オリエンテーリングのコースで肝試しをしてたんだが、 

 

 会長が戻ってこないんだ。

 

 それで手分けして探してるんだが。」

 

「電話は?」

 

「つながらないんだ。」

 

「だったら、まだオリエンテーリングのコースにいるはずだよ。

 

 だって他のところはちゃんと圏内だったもん。」

 

「お前確認したのか?」

 

「うん。オリエンテーリングのコースだけ圏外だよ。」

 

「オリエンテーリングのコースは、本牧と比企谷が探してるんだが。」

 

「う~ん、あ、そうだ。

 

 あのね、オリエンテーリングのコースで何か所か、他のとこに出ちゃう場所があるんだ。

 

 昨日、ロープ張ってこようと思ったんだけど、張りきりれていないとこが何か所かあるんだ。

 

 もしかしたら、そこからコース外れて迷ってるかも。」

 

「場所どこだ、俺がいってくる。」

 

「急がないと、もう外暗いよ。 手分けしないと。

 

 せ、先生、広川先生、

 

 お願い、一緒に探しに行かせて下さい。」

 

「三ヶ木、お前は謹慎中の身だ。」

 

「だ、だけど、 」

 

「ほれ、このキャンドルの材料を体育館に運ぶぞ、稲村も手伝え。」

 

「せ、先生。」

 

「途中でオリエンテーリングの入り口のところ通るから、それまでおとなしくついてこい。」

 

「広川先生。」

 

「それとこの試作品持っていけ。

 

 三ヶ木、稲村、暗いから注意するんだぞ。」

 

「うん。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガサガサ”

 

「ひゃ。 もう、どこなのここ。

 

 早くしないとキャンプファイヤー始まってしまうのに。

 

 あ、こっちは行き止まりだ。

 

 もう、なんなんですか!」

 

”ガサガサ”

 

「へ、今度は何?

 

 は、せ、先輩じゃないですか?

 

 心配になって探しに来てくれたんですね。

 

 仕方ないです、今回だけ許してあげますから、早く出て来てください。

 

 せ、先輩?」

 

「ウー」

 

「は、い、いや、うそ。」

 

「ウー、ワン!」

 

「うそうそうそ、な、なんで。」

 

「ワン、ワン、ワン」

 

「い、こ、怖いです、先輩、た、助けて下さい。 せんぱ~い。」

 

「ガゥ!」

 

「いやー、噛まないで!」

 

「うりやー、こらーあっち行け! 」

 

”ブン、ブン、ブン”

 

「ウー」

 

ボコ、

 

「うりゃ、うりゃ、うりゃ!」

 

”ボコボコボコ”

 

「キャン、キャン、キャン。」

 

「ばかー、もうくんな! このコーンでも食らえ、えい!」

 

”ボコ!”

 

「ギャン」

 

「み、美佳先輩。」

 

「ぐぁいぢょう~、こわかったよ~」

 

「う~、美佳先輩、わたしもです。」

 

”だき”

 

「「うわ~ん!」」

 

     ・

 

「「うぇ、うぇ~ん」」

 

「ぐす、美佳先輩、そろそろもどろ。」

 

「うん。」

 

「で、どっち行けばいいんですか?」

 

「あっ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、みんな廃油固まったかなぁ。」

 

「「は~い。」」

 

「それじゃ固まったら、集いの広場までいくよ。

 

 みんなキャンドルもってクラス毎に集合だ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんですか、何で助けに来たくせに道忘れるんですか!」

 

「だ、だって、犬の吠える声してたから、慌てたんです。」

 

”ガサガサ”

 

「きゃー」

 

「か、風です風、美佳先輩。」

 

「暗いからよくわからないよ。」

 

「美佳先輩、その腰のビニール袋のものなんですか?」

 

「え、あ、これあったんだ。

 

 ちょっと待ってください。」

 

”ぼっ”

 

「あ、キャンドル。」

 

「うん、これでちょっと明るくなったね。」

 

「でも、その色、趣味悪いです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、それじゃ、キャンドルもって白線の位置に並んで座ってください。」

 

「「は~い。」」

 

「それじゃ、順々にキャンドルに火をつけるから。

 

 火傷しないように気を付けてください。」

 

「「は~い。」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳先輩、本当にこっちですか?」

 

「・・・・おそらく。」

 

「なんかさっきもここ通ったような。」

 

「気のせいです。」

 

”ボッ、ボッ、ボッ・・・・ボッ”

 

「あ、会長あれ!」

 

「あ、あかり。 あれってハート? あ、ハートが二つ繋がってる。」

 

「うん。 あれ考えたの広川先生なんだろうね。」

 

「ハートが二つ横に繋がってるってそれって。」

 

「よかった、やっぱりこっちでよかったみたいです会長。」

 

「・・・・・あ、あの、美佳先輩。 あのですね、美佳先輩、実は今日、」

 

「あのさ会長、初めて会った時のこと憶えてる?」

 

「え? 確か、わたしが会長になって生徒会室にいろいろ運んでる時ですね。

 

 城廻先輩と一緒だったはずですね、それで庶務させてくださいって。」

 

「うん。わたしね、初めて会長にあったとき、なにこの娘、何でこんなのが会長? 

 

 って思ったの。」

 

「ひど、そんなこと思ってたんですか!」

 

「うん。 でもね、今日ね稲村君に話聞いて、わたし嬉しかった。」

 

「えっ、嬉しかったって。」

 

「会長、誰が何と言おうと、一色いろははりっぱな生徒会会長です。

 

 わたしは、一色会長の下で働くことができて、ほんとよかったと思います。」

 

「美佳先輩。」

 

「今回、わたしね、こんな事したら学校に、うううん、生徒会に迷惑かけることに

 

 なるってわかってた。

 

 そんでね、もしかしたらこうなるんじゃないかって思ってた。

 

 でも、ごめんなさい。

 

 それでもわたしは、わたしはあの人が・・・・・・あの人が傷つくの嫌だったの。

 

 ぐすん。 会長、ご迷惑お掛けしてすみませんでした。」

 

「で、でもそんなことまでしても、その人が美佳先輩を好きになってくれるって

 

 保証ないじゃないですか?」

 

「うん、わかってる。 でもそれでもいいんだ。

 

 わたしは、わたしはなにもしないで後悔するよりも、わたしなりに精一杯やってみたい。

 

 ・・・・・それでも駄目な時は仕方ないじゃん、へへへ。」

 

「美佳先輩。」

 

「会長、三ヶ木美佳、会長のご判断を受け入れます。

 

 今まで生徒会、とっても楽しかったです、ありがとうございました。

 

 それと、いつもご迷惑をお掛けしてばかりですみませんでした。」

 

「美佳先輩、ま、待って。」

 

「で、でも、もう一つだけ、お願いあります。」

 

「な、なんです、あ、も、もし、あのもう今後絶対に 」

 

「会長、せめて学校に帰るまで生徒会でいさせてください。 お願いします。」

 

「美佳先輩。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「藤沢さん、もう時間引き延ばせがないわ。

 

 そろそろお願いしていいかしら。」

 

「そ、そうですね。 わかりました、始めましょう。」

 

「大丈夫?」

 

「はい、卒業生を送る会の時に比べたら何でもないです。」

 

「そう。」

 

「はい。 それじゃ始めましょう。」

 

「すみませ~ん、道に迷って遅くなっちゃいました。」

 

「いろはちゃん!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「一色、ご苦労さんだったな。」

 

「あ、平塚先生、どうもです。」

 

「うむ、これで林間学校のイベントも無事全て終了だ。

 

 あとは明日帰るだけだな。」

 

「平塚先生、わたし頑張りました。」

 

「うむ。 そうだな、いろいろとよく頑張った。」

 

「だ・か・ら、ご褒美がほしいです。」

 

「ご褒美?」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

「な、何でだ。 本牧、なんでまた川辺に集合なんだ。

 

 もう帰るんじゃなかったのか?」

 

「会長命令なんだ。 

 

 ほら、会長、昨日お腹痛くて水遊びできなかっただろう。」

 

マジか。

マジそんな理由だけで帰る時間変更されるのか。

一色、恐るべし。

 

「本牧、全員いるか?」

 

「ああ、稲村。 男子は全員いるが、女子はまだ雪ノ下さんだけだ。」

 

「由比ヶ浜さんは、ちょっと遅れるそうよ。」

 

「そ、そうか。 じゃあ始めるか。」

 

「始める?」

 

「会長、始めますよ。

 

 それじゃ、いまから生徒会水着コンテストを始めます。

 

 男子は生徒会の女子のだれが一番水着が似合ったか、この紙に名前を記載してくれ。

 

 まずは、一番はその控えめな優しさは生徒会のオアシス、

 

 そう例えるなら椿の花、藤沢沙和子さん。」

 

「お、おい、稲村。 その前振りなんだ。」

 

「いや、だって会長がこれを言えって。」

 

”スタスタスタ”

 

「おお、書記ちゃん可愛い。

 

 昨日も見てるが、それでもやっぱ可愛い。」

 

 な、なぁ、稲村。」

 

「お、おう。」

 

「お前ら、あんまりジロジロ見るんじゃない。

 

 比企谷、稲村、お前ら仲悪かったんじゃないのか。」

 

「「それとこれは別だ!」」

 

「そ、そうか。 

 

 ・・・・材木座君、なに震えてるんだ。」

 

「はい、次は知る人ぞ知る、いや誰もが知っている生徒会の黒幕。

 

 その腹黒さはまさに闇!」

 

「ひど、馬鹿村、書記ちゃんの時と全然違うじゃん。」

 

「いや、三ヶ木、だって書いてあるんだ。」

 

「く、くそー、あのジャリ。」

 

「花に例えるなら、え? あ、生徒会のアサガオ、三ヶ木美佳。」

 

「お、おー」

 

「み、みか、三ヶ木、エロ。」

 

「三ヶ木さん、だ、大胆。」

 

「美佳っペ。」

 

「あ、あんまりジロジロ見るな!」

 

な、なんて大胆な水着だ。

それ横から、む、胸見えるんじゃねえのか。

よ、横は紐だけじゃねえか!

ちょっと横から見ようかなぁ、いいよな。

 

”どん”

 

は、こいつ鼻血だして倒れてるのか。

 

「ざ、材木座、し、しっかりしろ。」

 

「も、もういいよね。 恥ずかしい。」

 

「三ヶ木、今写真撮るから待って。」

 

「うっさい、馬鹿村!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、で、でもなんだかいい感じ。」

 

「変態。」

 

「さ、最後は・・・・・・・・・」

 

「ど、どうしたんだ稲村。」

 

「最後はわが生徒会の太陽、いや、女神様、そう、まさにその可愛さは奇跡。

 

 生徒会のユリの花、わが生徒会会長、一色いろは。」

 

「ジャジャーン。」

 

「ごめんなさ~い、遅くなりました。」

 

”プルン、プルン”

 

「「オー」」

 

な、なに、自然と目がひきつけられる。

 

恐るべき万乳引力!

 

「ゆ、由比ヶ浜、またバレーするのか?」

 

「え、バレー? 今日はボール持ってきてないよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「な、なんですか、みんなどこ見てるんですか!

 

 わ、わたしの方見てください!」

 

「いや、でもな。なぁ」

 

「お、おう」

 

「・・・・・」

 

     ・

 

「全員書いたか? 

 

 まだ出してない奴いないよなそれじゃ発表するぞ。

 

 えっと・・・・・・・・・・あっ。」

 

「どうしたんですか、稲村先輩。」

 

「いや、あ、あの~」

 

「なんですか、ちょっと見せてください。」

 

「えっと、結衣先輩、結衣先輩、結衣先輩・・・・・・・・・書記ちゃん。」

 

「な、なんですと! 結衣先輩は生徒会じゃないじゃないですか!

 

 まったく、このスケベども。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「全員乗ったか?  じゃ、帰るぞ。」

 

「広川先生、安全運転で頼む。」

 

「ああ、静ちゃん、あ、いや平塚先生も気を付けて。」

 

「ほれいくぞ、三ヶ木、稲村。」

 

「な、なんで、わたしはジャンケン弱いんだ。」

 

「仕方ないだろ、ほら行くぞ三ヶ木。」

 

「うん、稲村君。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ああ、いまパーキング出るとこだ。

 

 予定通り、もう少しで学校につくと思うよ。

 

 うん、じゃ後で。

 

 お待たせ、それじゃ行こうか。」

 

”ブー、キュルルル”

 

「稲村君、あんね、お願いがあるの。」

 

「ん、なんだ?」

 

「ちょっとだけ、胸かして・・・・くれる?」

 

「ああ、こんな胸でよかったら。」

 

「ありがと。

 

 うううううううう、うわーん。」

 

”なでなで”

 

「うわーん、嫌だよ、わたし、生徒会やめたくないよ。」

 

「三ヶ木。」

 

「あ、静ちゃん? 俺。

 

 ごめん、道間違えたみたいだ。

 

 ちょっと遅れるから学校ついたら先に解散しててくれ。

 

 ああ、稲村と三ヶ木は俺が家まで送るわ。」

 

「せ、先生?」

 

「すまん稲村、ちょっと遠回りすっから。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「広川先生、あの~、ここ千葉村だよね。」

 

「・・・・・・」

 

「おい!」

 

「す、すまん、道間違えた。」




最後までありがとうございます。

オリヒロ、生徒会やめさせてしまいました・・・・・・どうしよう。

次回、夏物語、夏真っ盛り ‐花火大会編‐です。
ほんと季節感ないです。
このままだと夏物語終わるの真冬かも。

更新遅くてすみません。
また次話、読んでいただけたらありがたいです。
  


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏まっさかり -花火大会 前編-

更新遅くなりすみません。

花火大会編の始まりです。
今回もセリフ多めです。(ほとんどセリフっす)

読みにくいかもしれませんが、文才のなさは自覚してますので、
ご容赦ください。

それでは、お願いします。




”ペコ”

 

「先生、この馬鹿娘が大変ご迷惑をお掛けいたしすみません。

 

 ほら、この馬鹿、お前も謝れ。」

 

”ゴン”

 

「いた! せ、先生すみませんでした。」

 

「あ、お父さん、違うんです。

 

 そのことで謝らないといけないのは、私達教師のほうです。

 

 私達の力のなさで美佳さんに辛い思いをさせてしまいました。

 

 すみません。」

 

”ペコ”

 

「あ、先生、頭を上げてください。

 

 どんな理由であれ、この馬鹿が学校の名を汚したのは事実ですから。」

 

「子供達を守るためなら、学校の名なんてごみ箱に捨てても構わないと私は思っています。

 

 今日、お忙しい中おいで頂いたのは、その方法なんです。

 

 美佳さんは、ご自身のことを軽く見過ぎています。

 

 簡単に自分を傷つける方法を選んでしまう。

 

 今まではなんとかなりましたが、これから美佳さんも社会に出て行きます。

 

 学校とは違って社会で同じような方法を選ぶことによって、いずれ取り返しのつかないことに

 

 なるのではないかと。

 

 美佳さんは私にとっても大事なかわいい生徒です。

 

 そんな目には遭ってほしくない。

 

 少しでも戒めたいと思い、一番の効果のあるお父さんに来て頂いたんです。」

 

「ありがとうございます先生。 こんな馬鹿のことをそこまで言っていただいて。」

 

「バカバカ言うなし。」

 

”ゴン”

 

「いた~い!」

 

「この馬鹿、先生のおっしゃって下さってることわかってるのか。」

 

「だって、あの場合は時間もなかったからああするしか。」

 

”ゴン”

 

「いた~、そんなに叩くと頭割れちゃうじゃん。」

 

「すみません、まったくこの馬鹿は。

 

 先生、帰ってからもきつく叱っておきます。」

 

「よろしくお願いします、お父さん。

 

 よし、それじゃ、三ヶ木、君はもう帰っていいぞ。」

 

「は~い。 とうちゃん帰るよ。」

 

「いや三ヶ木、お父さんとはこれから別の話があるんだ。」

 

「へ、とうちゃんと二人で?」

 

「そうだ。」

 

「と、とうちゃん、いつも間に先生とそんな関係に。

 

 広川先生がかわいそう。」

 

「ばかもの!」

 

”ゴン”

 

「いた! とうちゃん痛いよ。 もうほんと馬鹿になっちゃうからね。」

 

「ほら、さっさと帰れ。」

 

「だってとうちゃん、今朝、平塚先生と会えるって嬉しそうだったじゃん。」

 

「ば、な、なにを言ってんだ。」

 

「浮気駄目だからね。 かあちゃん見てるからね。」

 

「もういいから帰れ。」

 

「もう、ほんとだからね。 平塚先生綺麗だから心配だよ。」

 

”ガラガラ”

 

「まったく、すみません先生。

 

 へ、せ、先生なぜパーティションのうしろに?」

 

「は、い、いえなんとなく。 

 

 ゴホン、それではお父さん、本題を。」

 

「シー」

 

”ガラガラ”

 

「ひゃっ」

 

「さっさと帰れ、この馬鹿娘。」

 

「ちぇっ」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~あ、とうちゃん何話してるんだろ。

なんだよ、どうせわたしのことなんだから、一緒に聞かせてくれたっていいじゃん。

 

え、あ、ここ、無意識に来ちゃった。

誰もいないか、そうだよね、今日夏休みだもん。

 

・・・・・・・・そっか、もうわたしこの部屋に入れないんだ。

 

一年の時、めぐねぇの生徒会に入ってからずっとここに来て、いろんな思い出がいっぱい

詰まってて。

でも、もうこの部屋に入れないんだ。

 

ごめんね、めぐねぇ。

生徒会、守っていくって約束守れなかった。

期待にこたえたかったのに。

へへ、呆れられるかなぁ。

 

”ガヤガヤ”

 

「だから、いいじゃないですか~」

 

「だめ。」

 

へ? あ、あの声、やば。

ど、どっか隠れないと。

 

「ねぇ、稲村先輩、行きましょうよ。」

 

「だめだ。

 

 さっきから言ってるだろ、二学期始まったらすぐ文化祭の実行委員会を参集しないと

 

 いけないんだ。

 

 だからその準備で忙しいんだ。

 

 それに・・・・・・・・紅茶の淹れ方も勉強しなけりゃならない。」

 

「へ、紅茶って? なんで稲村先輩が?」

 

「あ、いや、何でもない。」

 

「わかりました。 

 

 それじゃ、わたしもお手伝いしますから、ね、プールいきましょうよ。

 

 ほら、今ならこのかわいい女子高生のドッキリ水着見放題ですよ。」

 

「い、行こうかなぁ・・・・・あ、いいや、行かない。」

 

「な、なんで。 今どこ見たんですか! 

 

 わ、わたし着やせするほうなんです。

 

 脱いだらボンボンって、あ、稲村先輩、待ってください。」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

舞ちゃん、そうなんだ。

そういえば水着選んでもらった時も。

そうか、うん、舞ちゃん頑張れ。

 

紅茶の淹れ方か、やっぱりわたしの居場所ないんだね。

 

・・・帰ろ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「今日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございました。」

 

「いや、こちらこそ。

 

 期待してますよ。 ぜひ、我が社を受けて下さい。

 

 お待ちしてます。」

 

「あ、ありがとうございます。

 

 それでは失礼いたします。」

 

”ガチャ”

 

あ~、緊張した。

陽乃さん会社説明会って言ったのに、なんでわたし一人だけなの。

それに出てこられたの役員さんばっかりだし。

 

頭ん中パニックで質問とかとんじゃったよ。

あと、ちゃんと答えられたかな。

 

”ブル”

 

ほっとしたら、トイレしたくなっちゃった。

えっと、トイレトイレ、トイレどこだ?

 

     ・

 

う~、すっきりした。

さて帰ろっと。

 

「しかし、ジミな子でしたね。」

 

「ええ。」

 

え、あ、この声さっきの役員さん?

げ、あんまりいい印象なかったのかなぁ。

 

「でもなんで陽乃お嬢さまは、あんな子を我が社に入れたがるんでしょうね。」

 

「またいつもの気まぐれじゃないか。」

 

「まったく、あの我儘には困ったもんですな。」

 

「それももう少しで。」

 

「はは、専務、よろしくお願いしますよ。

 

 会社を正常な状態にするために、やっぱり我々が実権を握らないと。

 

 女なんかに任せておけませんよ。」

 

「そうですな。」

 

「まぁ、会社の実権を握った後、あのお嬢さんと専務のご子息がご結婚なされれば。」

 

「ですが、陽乃お嬢さんは手ごわいですぞ。」

 

「まぁ、陽乃お嬢さんが駄目なら、もう一人いますから。

 

 あの世間知らずの妹のほうなら軽いもんでしょう。」

 

「そうそう。」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

な、なに、今のなに?

会社の実権? 陽乃さんと結婚って。

世間知らず妹って雪乃さんのこと?

 

「あれがあいつらの本性だよ。」

 

「え、あ、陽乃さん。」

 

「表面はお母さんに従順なふりをして、本心は会社の実権を握ろうと暗躍してるんだよね。

 

 まぁ、私にはバレバレだけど。

 

 会社の実権を握った後は、私とあいつの息子を無理矢理結婚させて名実ともに

 

 自分の会社にする。

 

 それがあいつらの狙いなんだ。」

 

「陽乃さん。」

 

「あいつらも私が薄々気付いてるんじゃないかって思ってる節があってね。

 

 雪乃ちゃんまで狙いだしたってとこ。

 

 だから、わたしは雪乃ちゃんにはもっと強くなってもらいたいんだけど。

 

 雪乃ちゃんには嫌われちゃって、うまくいかないね。」

 

「陽乃さん、やっぱりお姉ちゃんですね。」

 

「まぁ、お姉ちゃんとしては、さっさと比企谷君とできちゃってほしいんだけどね。

 

 そうすれば、将来、比企谷君もこっちの陣営じゃん。

 

 私はね、三ヶ木ちゃんと比企谷君、二人を手に入れたい。

 

 で、どう? 今日ここに来たってことはもう決心したのかなぁ?」

 

「あ、・・・・・・う、うん。 わたしには就職以外に他の道ないから。」

 

「そう。 

 

 三ヶ木ちゃん、私は去年の文化祭から、そうあのテレビ局の時からずっと

 

 君を見てきたんだよ。

 

 私は認めているんだ、君のこと。」

 

「陽乃さん。」

 

「入社してくれるの期待してるよ。

 

 じゃ、また今度ね。

 

 今度はゆっくり話したいな。

 

 あ、ねぇ、ほらお盆にめぐり帰ってくるでしょ、一緒に飲みにいかない?」

 

「わたしは未成年です。」

 

「え~、いいじゃん。 前科あるし。」

 

「う、だ、だってあれは・・・・・・ま、まぁ、めぐねぇと一緒なら。」

 

「うん、約束だよ。 じゃあね。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタ、スタ、スタ”

 

陽乃さん、やっぱりあの時力貸してくれてたんだ。

おかしいと思ったんだ。

いくら土下座してても、そんなことぐらいで宣伝させてくれないよね、ふつう。

今度はわたしが陽乃さんの力に・・・・・ならないとだめだよね。

 

「右、右だよ。」

 

「あ、もっと前。」

 

え? あ、この保育所、スイカ割りしてるんだ。

へへ、かわいいな。 

あ、もうちょっと前だよ。

 

「そこだよ、力いっぱいね。」

 

「えい!」

 

やった! あ、でも割れないね。 へへ、頑張れ。

いいなぁ・・・・・・・・なりたかったなぁ~、保母さん。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふんふんふんふ~ん♬」

 

出来た!

へへ、どれどれ味見。

う~ん美味しい、我ながら完璧だ。

広川先生にもらったレシピ通り作ったからね。

それにちょっぴりわたしの想いを込めて。

 

だって林間学校の時、ちょっと怒らせちゃったもん。

 

これ食べて仲直りしてくれるかなぁ。

大丈夫だよね。

だって比企谷君、甘い物大好きだもん。

絶対美味しいって言ってくれる自信あるから。

それでちゃんと仲直りできたら、一緒に花火大会にいって。

そして、そしたらもしかして花火大会の後、二人であんなことやこんなことなんて。

ぐふふふ。

 

よ、よしお出かけの準備しよ。

なに着ていこうかな~

 

     ・

 

へへ、このプリッツスカートにしよっと。

でもちょっと短いかなぁ。

まぁいいか、プレゼント持っていくだけだし。

でも念のため、ペチパン、ペチパンっと。

 

あ、もうこんな時間、先に電話しておこうっと。

 

”ブ~、ブ~”

 

「なんだ、三ヶ木。」

 

「え、あ、ごめん、今まずかった?」

 

「今忙しい。 切るぞ。」

 

「あ、ちょっとまって。

 

 あのね、今日さ、後から家にいっていいかなぁ。

 

 渡したいものがあるんだけど。」

 

「断る!」

 

「え、な、即答! なんでさ?

 

 あのさ、玄関だけでいいだけど、だめ?」

 

「何人たりとも俺の聖域に立ち入ることを拒む。」

 

「だって、結衣ちゃんや雪ノ下さん、比企谷君の部屋まで行ったって言ったじゃん。

 

 やっぱり二人は特別だからいいの?」

 

「あれはアクシデントだ。」

 

「でも、別の時も結衣ちゃん比企谷君の家に・・・・」

 

「切るぞ、とにかく断る。」

 

「あ、まって。」

 

”プー、プー”

 

き、切りやがった、あの野郎。

そうかよ、そっちがその気なら、こっちにも考えあるからな。

 

     ・

     ・

     ・

 

つ、着いた、家きちゃった。

えっとドアホン、ドアホンっと。

ん~、緊張する。 やっぱり帰ろうかなぁ。

でも、せ、折角ここまで来たんだから。

 

”ピンポ~ン”

 

「は~い。」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん。 お待ちしてました。

 

 さ、ささ、どうぞどうぞ。」

 

「あ、ありがと、小町ちゃん。」

 

ふふふ、作戦成功。

甘いよ比企谷君。 ここは君の聖域ではない。

この聖域の食物連鎖の頂点はこの小町ちゃんなのだ。

ここでは小町ちゃんが絶対であり、君はただの住人でしかないことを思い知るのだ。

ふはははは!

 

「え、美佳さん、どうかしました?」

 

「あ、いえ、なんでも。 失礼します。」

 

     ・

 

「さ、こっちですよ。」

 

「あ、いいの小町ちゃん、すぐ帰るから。

 

 あのね、これ比企谷君に渡してもらえるかなぁ。」

 

「まぁまぁ、折角いらっしゃったんですから、上がってください。」

 

 ”ぎゅ”

 

「あ、こ、小町ちゃん。」

 

「さ、こっちですよ。 入ってください。」

 

「あ、はい。」

 

”トントントン”

 

え、比企谷君家って二階にリビングあるの?

小町ちゃんの部屋行くのかなぁ?

 

”ガチャ”

 

失礼しま~す。

小町ちゃんの部屋にしてはかわいくない。

こ、ここってもしかして。

 

「あ、あの~、こ、この部屋って。」

 

「あ、はい、兄の部屋ですよ。

 

 さ、どこでもいいから座っててください。

 

 いま飲み物もってきますね。」

 

「あ、うん。ありがとう。」

 

こ、ここが比企谷君の部屋。

うわ~、部屋入っちゃった。

 

”きょろきょろ”

 

比企谷君、結構部屋片付けてるんだ。

わたしの部屋と大違い。

あ、あれってアロマランプ、へへちゃんと使てくれてるんだね。

なんかうれしい。

それと、へぇ~、本がいっぱいだ。

夏目漱石に、芥川龍之介、石川啄木、すっご、有名どころ揃ってるや。

ちょっとした図書館並みだね。すごいや。

わたしの家なんて、マンガ本しかないもんな。

 

ん、なんでここの棚だけ作者がバラバラになってるんだ?

あ、これ上下逆だよ。

どれどれ。

よいしょと。

 

”ばさ”

 

「あっ!」

 

こ、これ、中身とカバーが違うじゃん。

なにこれ、うわーエッチ本だ。

むふ、むふ、むふふふふ。

 

すご。

 

林間学校の時といい、男の子はみんな一緒だね。

そっか、比企谷君、こんなのが好きなんだ。

わたし、もう少しロリっぽいの着ようかなぁ。

 

”ガチャ”

 

「え、美佳さん、だ、大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

「いや、あの~鼻血が。

 

 あ、それみつけちゃいました?」

 

「ご、ごめんなさい。 え? あ、小町ちゃん知ってたの?」

 

「まぁ、兄も男の子ですから。」

 

「そ、そうだね。 あははは、はぁ~」

 

”カタ”

 

「はい、どうぞ。 オレンジジュースでもよかったですか?」

 

「ありがと。」

 

「で、美佳さん、プレゼントってそれケーキですか?」

 

「うん。 へへ結構うまくできたんだ。 ほら。」

 

「うわぁ、美味しそう。 ちょっと味見を。」

 

”バシ”

 

「ご、ごめん、小町ちゃん。 で、でも最初に比企谷君に食べてもらいたくて。」

 

「あまりに美味しそうだったのでごめんなさい。」

 

「うううん、ごめん手痛かった?」

 

「美佳さん、ずばり、兄のこと好きですね。」

 

「は、い、な、なに言ってんの小町ちゃん。」

 

「どうなんですか? バレンタインのチョコも結構手間かかってたじゃないですか。

 

 あれ、義理のレベルじゃないですよね。

 

 このケーキもただの友達へのものとは思えないんですけど。

 

 さ、ど、どうなんです。 白状しないと、味見しちゃいますよ。」

 

「だめ!・・・・・・・す、好きです。 わたしは比企谷君が大好き。」

 

げっ、い、言ってしまった。

だって、小町ちゃん卑怯だよ。

せっかく作ったケーキなんだもん、比企谷君に最初に食べてもらいたい。

少しだけどわたしの想いも込めてるの。

だからごめん小町ちゃん、味見はまって。

あとで、分けてもらってね。

え、な、なに小町ちゃんその顔、は! 何か企んでそう。

 

「ほほう、それはそれは。

 

 それではここで恒例の嫁度チェックです。」

 

「へ? 嫁、い、いや、まだそんなことまで。」

 

「はいはい、いいですからちょっと来てください。」

 

「う、うん。」

 

”トン、トン、トン”

 

「そうですか、兄のことが好きですか。」

 

「小町ちゃん、他の人には内緒だよ、絶対にだよ。」

 

「はいはい、でも美佳さん、兄にはたくさんの嫁候補がいるのです。」

 

「え? あ、う、うん、わかってる。」

 

「小町としてもどなたを応援するか迷っているのです。

 

 そこで嫁度チェックさせていただきます。」

 

’ガチャ”

 

「さ、この冷蔵庫にある食材で兄の誕生日の料理を作ってもらいます。

 

 時間は兄が返ってくるまでですよ。

 

 あ、調味料とか調理器具とか何でも使ってください。

 

 それではスタートです。

 

 ちなみに兄はいつも塾からまっすぐに帰ってくるので、6時前には帰ってきますよ。」

 

「え、あ、は、はい。」

 

えっとなに作ろうかなぁ。

食材はっと、うわぁいっぱい入ってる。

これで冷蔵庫冷えるのかなぁ。

うちの冷蔵庫とは大違いだ。 うちのはよく冷えるからなぁ~

は、そんなこと言ってらんない。

えっと6時に帰ってくるの?

もう、あんまり時間ないじゃん。

 

「あ、小町ちゃん、これいつ買ったの?」

 

「あ、それ今日のお昼ですよ。」

 

「そ、そう。 だったら。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳さんどんな感じ、あ、ちらし寿司ですか?」

 

「うん、誕生日だしお刺身あったから。 それとお野菜と卵焼きと。」

 

「どれどれ、この卵焼きのお味は。

 

 う~ん甘くておいしい。」

 

「うん、しょっぱいのと甘いのどっちにしようか迷ったんだけど、

 

 やっぱり甘いほうが好きかなって思って。」

 

「お、それと唐揚げですか。

 

 見た目は合格。 どれお味は。」

 

「ど、どうでしょう?」

 

「う~ん、この唐揚げ、外はサクサクで中はジュ―シー。 

 

 美味しい。」

 

「あのね、唐揚げで大事なのは温度と時間。

 

 一度にいっぱい入れると油の温度下がっちゃうから少しずつね。

 

 それで一度取り出しておいて、最後にもう一回揚げるの。」

 

「ふむふむ、勉強なります。 

 

 あ、このお野菜、捨てておきますね。」

 

「あ、だめ。 違うの、それも立派な食材だよ。

 

 それでね、野菜スープ作るの。」

 

「な、なるほど。」

 

「あとはね、このサラダ。」

 

「あ、これはだめですよ美佳さん、トマト入ってます。

 

 兄はトマト大嫌いですから。」

 

「うん、わかってる。 でもね、トマトって栄養あるでしょ。

 

 少しでも食べられるようになってくれたらなぁって思って。

 

 あのね、皮を向いて中のジュルっての取ってみたの。

 

 ほんとはジュルってしたとこにも食べてほしいんだけど。

 

 ごめん、駄目だったらわたし全部食べるから残しておいて。」

 

「いや、大丈夫です。

 

 美佳さんがそこまで手間かけてくれたんですから、無理矢理でも食べさせます。」

 

「あ、あの~、小町ちゃん、お嫁さん合格かなぁ。」

 

「それでは結果発表です。どこどこどこ。」

 

うへぇ~緊張する。

それにしても小町ちゃんかわいい。

どこどこどこってえへへ。

それ、ドラムの真似かなぁ。

 

「結果発表! 結果はモチ、嫁候補合格です。」

 

「ありがと、小町ちゃん。」

 

”ガチャ”

 

「ただいまー、お~い小町帰ったぞ。」

 

「あ、お兄ちゃん、ほら美佳さん行きますよ。」

 

”ぎゅっ”

 

え、小町ちゃん、ま、まってまだ気持ちが、気持ちの整理させて。

ひぇ~

 

”タッタッタッ”

 

「はい、美佳さん。」

 

”ドン”

 

え、あ、いや、な、なに あっ。

 

「あ、あの、おかえりなさい。」

 

「ん? おわ、お、おま、三ヶ木。 なんでお前がいるんだ。」

 

あわわ、やっぱり怒られた。

さっさと帰ればよかった。

ど、どうしょう。

 

「お兄ちゃん、ただいまは。」

 

「お、ああ、ただいま。」

 

「おかえりなさい、比企谷君。

 

 ごめんね、もうかえ 」

 

「お兄ちゃん、美佳さんは小町のお客様だよ。」

 

「小町のお客様? お前小町使ったな。」

 

「だって、電話切っちゃうんだもん。」

 

「お兄ちゃん、何か問題ある?」

 

「え、あ、いや、何でもない。」

 

「それならよろしい。 

 

 ほら、ご飯だよお兄ちゃん、さっさと荷物置いてきて。

 

 美佳さんも行きますよ。」

 

「おう。」

 

「え、あ、はい。」

 

あ、ちょっと待った。

比企谷君の部屋にプレゼント置いたままだ。

やば、急げ~

 

「ちょ、ちょっとまって比企谷君。」

 

”トントントン”

 

「な、なんだ、三ヶ木、階段駆け上がるとあぶな・・・・・

 

 お、お前。」

 

ん? なんか下から比企谷君の視線が。

はっ、そうか、今日ミニだから、へへ比企谷君意識してるんだ。

どれどれ。

さっきのお返し。

怒られて少し焦ったんだからね。

 

「何見てんの。」

 

「はぁ、いや、だってお前、先階段上がるから、その、スカート短いし。」

 

「うわ~いやらしい。 変態。」

 

「ちょ、ま、まて、これは不可抗力だ。」

 

「へへ、残念でした。 これはペチパンといって見えてもいいので~す。

 

 ほら。」

 

”ばさ”

 

「・・・・・・」

 

「え、どうしたのがっかりした?」

 

「・・・・・・白。」

 

「ん、白? いやペチパン黒だよ、目悪くなったの?

 

 ・・・・・・・はっ う、う、うそだー、いやー、み、見るなー」 

 

”ベシ、ベシ、ベシ”

 

「いたた、や、やめろ、も、もう見てないから。」

 

なんで、なんで、確か穿いてきたはずなのに。

あ、電話。 電話したから忘れたんだ。

だって断られたから。

は、はずかしい。

ほらだって思いっ切りパンツ見せて。

ど、どうしょう。 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・あ、あの~」

 

「ご、ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。」

 

「ん? 二人でなにしてるの?

 

 ほら、お兄ちゃん、美佳さんもさっさと手、洗ってくる。」

 

「わたしも晩ご飯いいの?」

 

「モチの論です。」

 

     ・

 

「お、今日はご馳走じゃないか。」

 

「美佳さんがお兄ちゃんのために作ってくれたんだよ。」

 

「・・・・・小町、お前今朝今日の晩御飯は期待してって言ってたよな。」

 

「はっ、憶えてた?」

 

「小町・・・・・・・わが妹ながら恐ろしい。」

 

「お待たせしました。 え、な、なに? どうしたの?」

 

え、な、なにこの兄妹の間に漂う緊迫感。

何があったの?

なに? 比企谷君、なんでその憐れむような眼でわたしを見てるの?

なんだろう。

 

     ・

 

「「頂きまーす。」」

 

「ん? お、おい小町、三ヶ木が使ってるの俺の箸じゃないか。」

 

「え、うそ。」

 

「あ、あちゃ、間違えちゃいました、てへ。」

 

「小町、お前確信犯だろう。」

 

「いや~何のことかなぁ~。」

 

「ひ、比企谷君、お味、どうかなぁ?」

 

「ん、おう、美味いぞ。 なんかすまんな。」

 

「え? あ、あのね、いつも一人で作ってるからさ。

 

 今日ね、小町ちゃんと一緒に作れてとっても楽しかった。

 

 あ、お父さんとお母さんの分、別に分けてあるから全部食べてもいいよ。」

 

「そ、そうか。 それならいいが。」

 

「うん、楽しかった。」

 

「すまん、お代わりもらえるか。」

 

「うん。

 

 はい、比企谷君、どうぞ。 いっぱい食べてね。」

 

「お、おう。」

 

     ・

 

「や、やっぱり無理ならいいよ。」

 

「お兄ちゃん、食べなかったらもう口きいてあげないからね。」

 

「だ、だめなのか、やっぱり食べないとダメなのか。」

 

「い、いいから、大丈夫だから、ね、また今度にしよう。」

 

「お・に・い・ちゃ・ん。」

 

「ぐ、」

 

”ぱく”

 

「ん? 食えるぞ。これなら大丈夫だ。」

 

「やっぱりこのジュルってしたとこが駄目だったんだね。

 

 あ、でも、む、無理しないで、そんなにいっぱい食べなくていいから。」

 

「おう、大丈夫だ。」

 

「うん、よかった。 あ、今度お砂糖につけた料理作ってあげるね。」

 

「おう。 でもトマトの入ってないやつを頼む。」

 

「それ砂糖しかないから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、食った食った。」

 

「あ、比企谷君、あのね、お誕生日おめでと。

 

 これね、ケーキ作ってきたんだけど、もうお腹いっぱいだよね。

 

 よかったら後からでも。」

 

「お、美味そうなケーキだな。

 

 ケーキは別腹だ。 いただいていいか。」

 

「う、うん。いま切りわけるね。」

 

「小町、ちょっとコーヒー淹れてきますね。」

 

「はい、どうぞ比企谷君。

 

 でも、ほんとお腹大丈夫?」

 

”パク”

 

「お、う、美味い。」

 

「へへ、広川先生にレシピ貰ったんだ。」

 

「前から思っていたんだが、あの先生、何者なんだ。」

 

「あのね、ほんとはパティシエになりたかったんだって。

 

 資金貯めたらケーキ屋さんするって言ってたよ。」

 

”パク”

 

うん、我ながら上出来。

確かにケーキは別腹だよ。

でもちょっと食べ過ぎかなぁ。

明日からダイエットしよう。

ん?

 

「あ、比企谷君。」

 

”チョイ”

 

「ほら、口元にクリームついてたよ。」

 

「お、おう。」

 

”ぱく”

 

「お、お、お前、いまなにを。」

 

「ん?」

 

「い、いや、何でもない。」

 

「へ? あっ!」

 

「ば、馬鹿気付くんじゃない。」

 

「う、うん。」

 

「あ、あの~、お二人さん、もうそろそろコーヒーいいですか?」

 

「「はい。」」

 

げ、いつから見られてたんだ。

いやー恥ずかしい。

で、でもし、幸せ。

今日、来てよかった。

この幸せ、ずっと続きますように。

えへ。

 

「あちっ!」

 

     ・

 

さて洗い物しようかなぁ。

うんしょっと。

 

「あ、美佳さん、いいですよ。 小町がやります。」

 

「あ、うん、ありがと。」

 

ありがと小町ちゃん。

あ、忘れてた。

えっと、確かここに入れてきたはず。

う~んと、あ、あった。

 

「比企谷君、はい、これ、渡すの忘れてた。

 

 もう一つのプレゼント。」

 

「は、こ、これは、プリキラ―の映画チケットじゃないか。

 

 憶えてくれてたのか。」

 

「うん、夏休み一緒に行くって約束だったから。

 

 あ、それとこれは前売り券の特典、ミラクルスィーツ。」

 

「こ、これもくれるのか。

 

 よ、よし、三ヶ木準備しろ。

 

 今から行くぞ。」

 

「え、いや、今からは。」

 

「そっか、もう遅いからな。

 

 じゃ俺一人でいってくる。」

 

「お兄ちゃん、小町本当に縁切るよ。」

 

「は、い、いや、じょ、冗談だ。 当たり前だろ小町。

 

 あははは。」

 

「いや、お兄ちゃんマジだったから。」

 

「三ヶ木、明日空いてるだろ。

 

 いや、お前に用事があるはずがない。

 

 明日、十時に千葉駅前集合だ、いいな。」

 

「あ、あの、え~と。」

 

「嫌なのか。」

 

「うううん、いいよ。全然大丈夫。 うん、十時だね。」

 

「ううう、美佳さん、ごめんなさい。こんな兄で。

 

 お兄ちゃん、小町申し訳なくて肩身が狭いよ。」

 

「小町ちゃん、いいから。 こうなるのわかってたから。

 

 あ、ごめん。、ちょ、ちょっとおトイレかしてもらっていい?」

 

「お、おう、花摘みだな。」

 

「馬鹿。」

 

”ガタン”

 

へへ、やったー、明日比企谷君とデートだ。

うれしい、比企谷君のほうから誘ってくれた。

えへへ、明日何着ていこうかなぁ。

ふふふ~ん、デートだデート。

ルンルンルンルン♬

 

「はぁ~、全くこの馬鹿兄ちゃんは。

 

 ね、お兄ちゃん、お兄ちゃんは美佳さんのことどう思ってるの?」

 

「な、なんだいきなり。」

 

「あんな誘い方ないじゃん。

 

 ふつうだったら怒っちゃうよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「そうだよ。

 

 今日さ、美佳さん、お兄ちゃんのために一生懸命料理作ってくれて。

 

 それにケーキや映画のチケットまで。

 

 美佳さん、お兄ちゃんのこと本当に好きだと思うよ。

 

 お兄ちゃんはどう思ってるの?」

 

「あいつは、そうだな、あいつと俺はよく似てるんだ考え方とか。

 

 俺の考えを理解して、認めてくれるのはあいつぐらいだ。

 

 多分、あいつにとっても俺はそうなんだと思う。

 

 だから一緒にいても楽だし、変な気を使わなくて済む。

 

 それになんだ、顔も俺から言えばそれなりに可愛いと思う。」

 

ふ~、落ち着いた。

顔の赤いのとれたかなぁ。

あ、もうそろそろいい時間だね。

あんまりお邪魔したら悪いや。

 

「それにな、小町、三ヶ木って割とスタイル良いんだぞ。」

 

な、なにいってんだ比企谷君。

くそ、スキー合宿の時とか林間学校の時のとか見られてるからなぁ。

ま、まぁ、スタイルはそこそこだ思うけど。

えへへへ。

なんか今日、変な日。

 

「ほほう、あ、それにほら料理も上手じゃん。

 

 小町的に嫁度高いと思うよ。」

 

「ああ、料理だけじゃないぞ。

 

 あいつは小学校のころから家事全般やってきたから、掃除、洗濯何でもこいだ。

 

 いつでも嫁にいけると思う。」

 

よ、嫁にいけるって、な、なにこの展開。

もしかして比企谷君、わたしのことお嫁さんに。

・・・うそ!

えへ、えへへへ、ど、どうしょう、入りづらいなぁ。

 

「お、お兄ちゃん、お兄ちゃんがそこまで褒めるの珍しい。

 

 じゃ、じゃあ、お兄ちゃんも美佳さんのこと。」

 

「ああ、あいつは俺にとって、とっとも大事なやつだと思う。」

 

わわわ、ひ、比企谷君。

うれしい、ありがと。

わ、わたしいつでも嫁に来るよ。

なんなら、明日でも。

よ、よし中に入って。

 

「お兄ちゃん、小町うれしいよ。

 

 だったら小町も全面的に応援するからね。

 

 そっか、お兄ちゃんがとうとう。」

 

「だがな、小町、おれはあいつと付き合わない。」

 

え、あ、あれ?

なんか聞き間違いかなぁ。

 

「お、お兄ちゃん、いまなんと。」

 

「俺は、三ヶ木と付き合わない。」

 

「お兄ちゃん!」

 

つ、付き合わない?

付き合わない、わたしとは付き合えない・・・・・・・わたし、振られたの。

振られた・・・・・・の。

振られたんだ。

 

「お兄ちゃん、な、なんで。

 

 あんなに美佳さんのこと褒めていおいて、なんでなんでなの。」

 

「お、俺はな、」

 

”ガチャ”

 

「あ、み、美佳さん。」

 

「おトイレありがとう。

 

 あ、あのね、とうちゃんから電話あって、めっちゃ腹減ったっていうからもう帰るね。」

 

「お、おう。 料理すまなかったな、美味かったぞ。」

 

「ありがと。

 

 そう言ってもらえると作った甲斐があったよ。

 

 あ、小町ちゃん、今日はありがと。」

 

”ペコ”

 

「み、美佳さん。

 

 お兄ちゃん、駅まで送ってあげて。」

 

「あ、ここでいいよ、まだ明るいし。

 

 じゃあね、バイバイ。」

 

”ガチャ”

 

「お、お兄ちゃん!」 

 

「小町、俺は三ヶ木だけじゃない。 誰とも付き合わない。」

 

「え、な、なんで。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「まったく、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。

 

 少しは変わったかと思ったのに。

 

 あのね、そんなんじゃ、これからもずっとぼっちのままだよ。

 

 はぁ~、小町いつまでたってもお嫁さんに行けないじゃん。」

 

「小町、小町はいつまでもこの家にいればいいんだぞ。」

 

「やだよ、小町はお兄ちゃんとは結婚できないんだよ。

 

 まったく。」

 

”ガチャ”

 

「ん、どこ行くんだ?」

 

「ちょっと。」

 

「ああ、花摘みか。」

 

「最低だよ、お兄ちゃん。

 

 あ、これ美佳さんのハンカチ。」

 

「はは、あいつらしいや、みかってひらがなで縫ってある、小学生か。

 

 まぁ、明日持って行ってやるか。」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん美佳さんの家知ってるんでしょ。

 

 さっさと持っていきなさい。」

 

「いや、明日でいいだろう。」

 

「いいから、早く。

 

 持って行かないならもう本気で絶交だよ。

 

 二度とお兄ちゃんって呼んであげない。」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ~あ、振られちゃった。

もう、わたしにはもう何も残ってないや。

もうなんにもない。

 

へへ、何やってんだわたし・・・・・・・ほんと馬鹿。

とうちゃんの言う通りだね。

 

う、ううううううう。

もうやだ、もうやだよ。

なんか生きてるの辛いよ。

嫌なことばっか。

もう、こんなのやだ。

かあちゃん、何でいないんだよ。

話聞いてよ、わたし、わたし疲れたよ。

会いたい、会いたいよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ、とうちゃん、もう帰ってるかなぁ。

今日も残業っていってたけど、こんな顔見せられないよ。

頑張れ、頑張るんだ美佳。

とうちゃん、一生懸命働いてくれて、お腹すかして帰ってくるんだ。

え、笑顔で迎えなくちゃね。

それと、何か美味しい物作らなきゃ。

はぁ~

 

”スー”

 

「だ~れだ。」

 

「へ、いやー、変質者!」

 

「いや、ちが、違うっす。

 

 おれ、俺っす。」

 

「あ、あ~、刈宿君。」

 

「美佳さん、おかえりっす。

 

 変質者はひどいっすよ。 

 

 あ、ほら、ご近所の人出てきたじゃないですか。」

 

「す、すみません、何でもないです。

 

 でもどうしたの?」

 

「どうしたのじゃないです。

 

 美佳さん、林間学校に行ってから全然電話でてくれないから、

 

 心配できちゃったじゃないっすか。」

 

「か、刈宿君。」

 

「でも、よかった、美佳さん何ともなくて。

 

 あ、じゃ、もしかして俺って嫌われてるとか?」

 

「ばっか、嫌いなわけないよ。」

 

「ほ、ほんとっすか。 ううう、うれしっす。」

 

「こら、泣くんじゃない、大げさだろ。」

 

「いや、だって、もしかしたら、本当はあの地区大会の時の言葉は本当で、

 

 本当は俺、嫌われてたんじゃないかって心配で心配で。

 

 よ、よかったっす。」

 

”だき”

 

「え、み、美佳さん?」

 

「えっと、確かここだったよな、三ヶ木ん家、あのアパートだっけ。

 

 はっ!」

 

「ありがと、刈宿君。」

 

「えっと、なんかわからないけど、うっす。」

 

「わたしね、わたしもうなんにも無くなっちゃったんだ。」

 

「なにかあったんですね。」

 

「うん、ちっとね。

 

 もう、疲れちゃって。 ごめん、ちょっとだけこのままでいい?」

 

「美佳さん、俺は美佳さんのこと大好きっす。

 

 だからおれは美佳さんが望んでくれる限り、いつでも美佳さんのそばにいます。

 

 いなくなったりしませんよ。」

 

「ありがと、ストーカー君。」

 

「うっす。 え、ひど。」

 

「えへへ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、今日はごめんね。」

 

「いや、俺、美佳さんに会えて本当にうれしかったっす。

 

 美佳さん、今度はちゃんと電話出てくださいね。

 

 じゃないと、また自転車すっ飛ばして会いに来ますから。」

 

「う、うん。

 

 あ、刈宿君、電話くれてたって何か用だったの?」

 

「あ、忘れてた。

 

 美佳さん、明日空いてませんか?」

 

「え? あ、あの~」

 

「明日、海行きませんか。」

 

「え、海?」

 

「ええ、俺、海の家でバイトしてたっす。

 

 それで無料券貰えたから、よかったら一緒に行きませんか?」

 

「明日。」

 

明日は比企谷君と映画だったね。

 

『いや、お前に用事があるはずがない。

 

 明日、十時に千葉駅前集合だ、いいな。」

 

『俺は、三ヶ木と付き合わない。』

 

そっか、付き合わない・・・・・か。

 

「いいよ。 行こ、海!」

 

「え、ホントっすか。 や、やった。

 

 じゃ、じゃあ、俺、迎えに来るっす。」

 

「いいよ、千葉駅に9時でどう?」

 

「了解っす。

 

 じゃあ、美佳さん、明日っす。」

 

「うん、明日ね。

 

 あ、危ないから、前向いて。」

 

”ガシャーン”

 

「ほ、ほら、言わんこっちゃない。 ね、大丈夫?」

 

「う、うっす、大丈夫っす。 また明日。」

 

「うん、また明日ね。」

 

これでいいんだ。

もうこれでいいんだ。

だって・・・・・

あ、そうだ、電話しなくちゃ。

 

「あ、もしもし。」




最後までありがとうございます。

またしてもグタグタと指摘されそうな展開ですみません。
大事なものって無くなってから気が付くことあるもので・・・・

次話、花火大会 中編です。
なかなか花火大会になりませんが、また読んでいただけたら
ありがたいです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏まっさかり -花火大会 中編-

見に来ていただき、ありがとうございます。

すみません、更新遅れ気味です。
花火大会編の中編、よろしくお願いします。

またしても字数が1万字超えてしまい、読みにくいと思いますが、
最後まであきずに読んでくれたらありがたいです。

では、お願いいたします。



”ひゅるるる~ どーん、ばらばらばら”

 

「うわぁ、きれい。 きれいだね比企谷君。」

 

「ああ、綺麗だ。」

 

真っ暗な夜空に眩く広がる光の花。

打ち上げられてから、ほんの一瞬に己の全てをかけて煌き、そして暗闇へと消えていく命。

人はそのはかなさに美しさを感じるのだろうか。

これが延々と煌き続けるものだとしたら、人はこのような美しさを感じることがなく、

逆にうっとうしさを感じるのではないだろうか。

なぜなら夜は闇のものである。

 

「ほんときれいだなぁ、見に来てよかった。」

 

俺の隣で花火の美しさに感動している女子。

花火の煌きにより映し出される笑顔。

かわいい。

俺は素直にかわいいと思う。

どこがというとこはないのだが、その笑顔は眩くすさんだ俺の心を照らしてくれる。

 

この笑顔をずっと見ていられたら、いや見ていたい。

だが、それももうすぐ見れなくなるんだ。

俺の手によって。

 

この花火が終わるとき、俺はこいつに俺の結論を告げなければならない。

あの林間学校での答えを。

その時、この笑顔は終わりを遂げるんだ。

 

こいつのことだ、笑顔を崩すことはないだろう。

気丈に、きっと俺の前ではこの笑顔を振舞い続けるに違いない。

でも、そこには、もうそこには今のこの笑顔のような眩さは・・・・・もう無いんだ。

 

俺って馬鹿じゃないの。

結論なんて適当に誤魔化せばいいじゃないか。

何度も、何度もそう考えたんだ。

誤魔化せば、今までのようにこいつとの関係を続けられるんじゃないかって。

 

俺はこの関係を続けたい。

いつも俺のそばにいてくれて、俺の馬鹿馬鹿しい考えを理解してくれて。

そして、いつも自分のことより俺のことを考えてくれて。

だからこのままこの関係を続けたい。

 

でも、だめなんだ。

こいつは勇気を奮って俺に自分の気持ちを伝えてくれたんだ。

その気持ちを誤魔化すことはこいつを裏切ることなんだ。

だから、だから俺は告げなければならない。

それがたとえ、たとえこいつからこの笑顔を奪うことになっても。

 

くそ、なんで時間が止まらないんだ。

今この時間を止められるのなら、俺は悪魔にでも魂を売り渡すって言ってんだろう。

くそ。

頼むから、花火、終わらないでくれ。

 

「あ、比企谷君。次で花火フィナーレだって。

 

 フィナーレは7000発のスターマインだって。

 

 なんかすごそ。」

 

「ああ、店じまい在庫一斉セールみたいだな。」

 

「いや、新年初売りセールだよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「えへへへ、そうだよ。 あ、始まるよ。」

 

”ひゅるるる~ どーん、ひゅるるる~、ひゅるるる~ どーん、どーん

 

 ひゅるるる~ どーん”

 

「ね、すご~いね。」

 

「あん? 花火の音でよく聞こえないんだが。」

 

”ちょいちょい”

 

ん、なんだ。

ああ、聞こえるように少ししゃがめっていうのか。

そらこれでいいか。

 

「す・ご・い・ね。」

 

「うひゃ、お、おう。」

 

ば、ばっか、耳元でいうな。

なんか、感じちまうだろうが。

俺は耳が弱いんだからね。

 

”ひゅるるる~、どどーん!、ばらばらばらばら”

 

お、おう、最後の奴めっちゃでかかったじゃないか。

 

”ぎゅ”

 

え、な、なんだ。

こいつなに俺の腕にしがみついてんだ。

Tシャツだから、う、腕にその柔らかい二つの山がギュって。

 

「あ~、怖かった。 最後のすっごく大きかったね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

”し~ん”

 

最後の花火が終わって、夜空が闇に飲み込まれていく。

それに伴い、人々の移動が始まった。

 

いつも間にか、俺たちの周りには誰もいなくなり、静かな闇の世界へと

変わっている。

もう花火が終わってしまったんだ。

 

”どく、どく、どく、どく”

 

な、腕から伝わる鼓動? これこいつの心臓の音なのか。

すごく早い。

え、震えてるのか?

 

「どうした、寒いのか?」

 

「うううん、あのね、もう、花火終わっちゃったね。」

 

お、おい、そんな潤んだ目で俺を見るな。

笑顔、引きつってるじゃねえか。

 

答え・・・・告げなきゃいけないんだよな。

最後にもう一度だけ、お前の笑顔見せてくれないか。

 

”ジー”

 

「あ、あの、なにかついてるかなぁ? にこ♡」

 

「い、いや、すまん。」

 

もう、心残りはない。

俺はお前に答えを告げる。

 

「三ヶ木、お前が俺のこと好きって言ってくれて心の底からうれしかった。

 

 これは間違いようのない俺の本心だ。

 

 俺の答えを言う。

 

 俺は、俺はお前とは 」

 

「あっ 刈宿君、もう遅いじゃん!

 

 花火終わっちゃったよ。」

 

「は? え? か、刈宿?」

 

「美佳先輩、無理っすよ、めっちゃ人いたじゃないすっか。」

 

「馬鹿者! 愛情が足りないんだ。」

 

「うっす。」

 

「仕方ないな~、もう。

 

 あ、比企谷君、ごめんね。 わたし、刈宿君と付き合うことにしたの。

 

 だから、もうそばにはいられない。」

 

「え、あの~、はぁ?」

 

「じゃ、そういうことだから。 

 

 行こ、刈宿君。」

 

「うっす。 

 

 美佳先輩、花火間に合わなかったお詫びに、今日のホテル代は俺がもつっす。」

 

「ば、馬鹿、こんなとこで言うな。」

 

「うっす。」

 

「えへへへ、優しくしてね。」

 

「当たり前っす。 やさしく、激しくっす。」

 

「馬鹿。」

 

はぁ? な、なんだ、なにが、え?

い、いや、ちょ、ちょっと待て三ヶ木。

ホ、ホテルって、お、おい。

お前らホテルで何を。

 

「み、三ヶ木、ちょ、ちょっと待て、待てって。」

 

お、おい。

なに嬉しそうに腕組んでんだ。

くそ、お前ら足早すぎだろ。

何で追いつかないんだ。

 

”ガチャ”

 

へぇ? な、何で扉が? 

 

”パン!”

 

「美佳先輩、おめでとう。」

 

”パン!”

 

「三ヶ木先輩、おめでとうございます。」

 

「な、泣くなって稲村。 仕方ないだろう。」

 

「だ、だけど本牧、お、俺は三ヶ木が。」

 

”カラ~ン、カラ~ン”

 

「美佳っち、本当におめでとうね。

 

 刈宿君、美佳っちを頼むからね。 泣かしたら承知しないからね。」

 

「任せといてくださいっす。 絶対幸せにするっす。」

 

「美佳先輩、キッス、キッス、キッス。」

 

「え、やだよ~、恥ずかしいよ。」

 

「美佳先輩、キスいいですか。」

 

「う、うん・・・いいよ。」

 

はぁ? な、なんだこれ、おかしいだろ。

三ヶ木、お前何でウェディングドレス着てんだよ。

お、おい、や、やめろ。

ほんとにキスするつもりか。

なに見つめあってんだ。

 

「三ヶ木、馬鹿、やめろ、やめろって! あ、ああ~」

 

”ばさ”

 

は、え? な、なに?

 

”きょろきょろ”

 

こ、ここ・・・・・・俺の部屋?

はっ! ゆ、夢だったのか?

 

な、なんていう夢なんだ。

ま、まだ心臓がバクバクいってる。

ほ、本当に夢なんだよな。

えっとスマホ、スマホっと。

8月9日 3時42分・・・・・・・はぁ~夢だったか。

 

くっそ、なんなんだ、まったくなんなんだ。

何であんな夢を。

俺はあいつと付き合わないんじゃなかったのか。

それなのに。

 

付き合えないが、ずっと一緒にそばにいてほしい。

 

・・・おぞましい、そんなの気持ち悪い自分勝手な願望じゃねえか。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、よ、良かった、まだ来てないっすね。

 

 えっと、8時30分か。

 

 ふ~、まにあ  おわぁ!」

 

”ぼこ”

 

「な、浮輪?」

 

「おそ~い、刈宿君。」

 

「え、いや、まだ30分前じゃないすっか」」

 

「海に行くときは2時間前集合が当たり前じゃん。」

 

「いや、2時間前って7時じゃないですか、無理っす。」

 

「へへ、冗談だよ。

 

 おはよ刈宿君。

 

 あのね、海に行くって思ったら、なんかあんまりよく眠れなくってさ。

 

 目が覚めちゃったんで、ちょっと早く来ちゃいました。 えへ。」

 

「そうなんすか。 まぁ、それはそうとして・・・・・・

 

 あの~美佳さん、なんで浮輪膨らまして持ってきたんすか?

 

 めっちゃ邪魔っすよ。」

 

「だって、早く来すぎたから何もすることなくて、つい待ってる間に。」

 

「仕方ないっすね、はい。」

 

「え?」

 

「俺が持ってくっす、歩き難いでしょう。 ほら。」

 

「あ、うん、ありがとさん。」

 

「うっす。 じゃ、バス乗り場までいきましょうか。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふあ~、あ、お兄ちゃんおはよ。

 

 ふむ、感心感心。

 

 ちゃんと起きれたんだね。」

 

「・・・まぁ、いろいろあってな、目が覚めた。」

 

そうなんだ。

あの後、すっかり目が覚めちまって一睡もできなかった。

本当にそうか? 目が覚めたからだけなのか?

 

怖かったんじぇねえのか、また同じ夢を見るんじゃないかって。

 

「ん? お兄ちゃん、どうしたんのその目の下のクマ。

 

 それに今日は一段と眼が腐ってるような。」

 

「お、おい、朝から喧嘩うってんのか。

 

 目はいつもの通りだ、これ以上は腐りようがない。」

 

「ふ~ん、まあどうでもいいや。

 

 それよりさ、これアイロンかけておいたから、ちゃんと美佳さんに渡してね。」

 

「お、小町、洗濯してくれたのか。」

 

「当たり前じゃん。 少しでもお兄ちゃんの好感度がアップするように小町願ってるんだよ。

 

 あ、今の小町的にめっちゃポイント高い。」

 

「まぁ、ありがとうな。

 

 じゃ、行ってくるわ。」

 

「いってらっしゃい、美佳さんによろしくね。

 

 あ、晩ご飯抜きだからなにか食べてきてね。

 

 なんなら、今日帰ってこなくてもいいから。」

 

「いや、映画行くだけだから。」

 

”ガチャ”

 

ふう~、いい天気だ。

空は雲一つなく晴れわたっているが、時折、心地よい風が吹いている。

俺の脳裏に浮かぶあの悪夢を振り払ってくれるように。

 

今日は、はやくあいつに会いたい。

あってこの悪夢を完全に消し去りたい。

 

”スタ、スタ、スタスタ、スタスタスタ、タッタッタッ”

 

自然と歩くスピードが速くなっていくのを感じる。

どうしたんだ俺。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、ほら、海だよ海、海見えてきた。

 

 うわ~、綺麗だな~、キラキラ光ってる。

 

 あ、そうだ、どこかでスイカ買っていこ。」

 

「へ、スイカって?」

 

「だって、海といったらスイカ割りじゃん。

 

 これ日本の夏の定番だよ。」

 

「重たいから無理っす。」

 

「ぶ~。」

 

「美佳さん、それよりカニ、カニ捕まえましょう。 おれチョ~得意っす。」

 

「いや! 絶対いや。」

 

「な、そんなに力んで言わなくても。」

 

「わたし、カニとかクワガタムシとか挟むやつ大嫌いなの!」

 

「そ、そっすか。」

 

「刈宿君は何か苦手なものあるの? あ、お母さんは抜きで。」

 

「いや、別に苦手じゃないっすから。

 

 俺の一番苦手なのは美佳さんの泣き顔っす。」

 

「キモ! 今のめっちゃキモイ。」

 

「え? だ、だって。」

 

「えへへ、でもありがと。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっと、まだ三ヶ木は来てないな。

はぁ~、でもどんな顔して会えばいいんだ。

夢は夢だとしても、昨日あいつのアパートの前で・・・・・

あれって夢じゃないんだよな。

 

「あっ、ヒッキー!」

 

は、由比ヶ浜と三浦達じゃねえか。

ば、馬鹿、よせ。

この人込みの中で、そんな大きな声でヒッキーって呼ぶな。

お、俺は引きこもりじゃねぁ。

今日だってほら、ちゃんと家の外にいるだろう。

ちなみに昨日も塾にいってたぞ。

 

「ねぇ、聞いた? ヒッキーだってさ。」

 

「はは、うける。 きっとちょ~暗い奴じゃないのか。

 

 どいつがヒッキーか、当てようぜ。」

 

ほら見ろ、ヒッキー探しが始まったじゃねえか。

幸いまだ誰も俺に気付いていない。

ここは知らんふり、俺はあいつのことなんて知らん。

 

「お~い、ヒッキ~!」

 

さ、さぁ、なんのことかなぁ~

知らん、知らん、知らん、他人だ他人。

この人込みを利用して、視界から消えなければ。

 

「ヒッキー、ねぇ、ヒッキーってば!」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

や、やめてくて由比ヶ浜。

そんな大きな声で何度もヒッキーって呼ばないでくれ。

この世の中にヒッキーなんて名前の奴はいない、いないんだ。

や、やばい、何人かこっち見てるような気がする。

あ、あの娘、クスクス笑ってるじゃねえか。

 

「ヒッキー、もう、何で無視すんだし!」

 

”タッタッタッ”

 

や、やばい、あいつ走ってきやがった

ここで、駄目押しであの挨拶なんかされたら。

 

「ヒッキー、やっは 」

 

”スタスタスタ”

 

「ちょ、どこ行くし。」

 

”スタスタスタ”

 

つ、ついてくるな。

由比ヶ浜、こっちに来ないでくれ~。

げ、ほらあの娘、スマホで撮影してるじゃねえか。

 

”タッタッタッ”

 

「ねぇ、ヒッキー!」

 

”タッタッタッ”

 

おわ、知らん、知らん、知らん。

俺はこいつのことなんて知らん。

 

”ダ―”

 

「え、ヒッキー?」

 

”ダ―”

 

や、やめろー、追いかけてくるんじゃない。

 

”ドン!”

 

「ぐはぁ。」

 

「もう、何で逃げるし。」

 

「お、お前、リュックはやめろ、中になに入ってんだマジ痛かったぞ。」

 

「だってヒッキーが悪いんじゃん。」

 

「お前、人込みの中でヒッキーって呼ぶな。

 

 それにやっはろ―もやめろ。」

 

「な、何でさ、いいじゃん。

 

 ヒッキーはヒッキ―じゃん。」

 

「いいから、それは学校の中だけにしろ。

 

 本当は学校の中でも嫌なんだが。

 

 で、なんか用事か。」

 

「あ、え~と、なんだったっけ?

 

 ねぇ、なんだったと思う?」

 

「知るか! もう行くぞ。 

 

 由比ヶ浜、一緒に行くと恥ずかしいから、あとから来い。」

 

「む、恥ずかしいって何だし。

 

 あ、そ、そうだ思い出した。 ちょっと待ってて。」

 

”ガサガサ”

 

「あった。 ヒッキー、はいこれ。」

 

「ん? な、なんだこれ?」

 

「あのね、誕生日のプレゼント。

 

 本当はさ、昨日渡そうと思ったんだけど、塾の強化合宿終わるの遅くなってさ。」

 

「え、お、お前、塾いってるのか、しかも強化合宿って。」

 

「当たり前だし、あたしも早応大狙ってんだからね。」

 

「お前人生諦めたのか。」

 

「な、なんでだ。 あたし、絶対早応大にいくんだからね。」

 

「由比ヶ浜、行くのと入学するのは違うからな。」

 

「ひど、ヒッキー馬鹿にし過ぎだ。」

 

”ぽかぽか”

 

え、な、なにこれかわいい。

なんか頭なでなでしたくなっちまう。

ふふふ、三ヶ木のチョップに比べればなんも利かん。

ほ、ほらもっとたた、えっ何で涙目なんだ。

 

「ヒッキーのバカ!

 

 も、もういい。」

 

「由比ヶ浜、いいか、もう少し自分の実力を見つめ直してだな。」

 

「絶対合格するからね。

 

 合格したら願い事聞いてもらうって約束、守ってもらうからね。」

 

えっ、そんな約束したっけ?

まぁいい、それで少しでも由比ヶ浜のやる気になるのならな。

だけど、高価なものはやめてね。

俺の小遣いの範囲内にしてくれ。

ま、まぁ、早応大受ける気で勉強すれば、それなりの大学いけるだろうからな。

 

「おう、合格したら何でも聞いてやる。 合格したらだがな。」

 

「ヒッキー、絶対合格できないって思ってるんだ。」

 

「お、おいそんなことより、三浦達待たせてるんじゃないのか?」

 

「あ、そうだった。

 

 でもヒッキーは何してたの?」

 

「今から映画行くところだ。」

 

「あ、あたしも行こうかなぁ。 なんの映画?」

 

「プリ・・・・・」

 

「え、プリ? プリってプリキラー?」

 

は、なにその目、やっぱり引いてるのか。

まぁ、これが普通の反応だろう。

プリキラ―の良さをわかってくれる三ヶ木は特別なんだ。

あいつ、この前ガン泣きしてたもんな。

 

「知らんのか? プリチュール・ノーブルだ。」

 

「プリチュアの? ブル?」

 

「いやプリチュアのブルじゃねぇから、プリチュール・ノーブル。

 

 小説の映画化だ。」

 

「そんな映画やってたかなぁ。

 

 なんか難しそう。」

 

「ああ、期間限定だ。 難しいぞ、だからやめとけ。」

 

上映してるはずがない。

俺も読んでみたいと思いながらいまだ未読の小説だ。

まったくよく思い出せたものだ。 

は、な、なにか鋭い視線とラスボス並みの気を感じるんだが。

 

「お、おい、三浦こっち来るぞ。

 

 あれ結構機嫌悪そうじゃないか。

 

 俺はとばっちりはごめんだ。」

 

「あ、マジやばそう。

 

 じゃあ、行くね。」

 

「おう、プレゼントありがとうな。

 

 ちなみに中はなんだ。」

 

「あ、プリキラ―の湯飲みだよ。」

 

「お、おい。」

 

知ってるんじゃねえか。

それに湯飲みって、お前さっきこれ入ってたリュック、俺に思い切りぶつけたろ。

くそ、湯飲み大丈夫か?

 

「ヒッキーちゃん。」

 

由比ヶ浜、いい加減にしろ。

それになんだヒッキーちゃんって。

 

「おい、由比ヶ浜って、あれ?」

 

「おはよ~、ヒッキーちゃん!」

 

え、けー、けーちゃん。?

な、なにヒッキーちゃんって。

まぁ、こっちならいいか、けーちゃんかわいいし。

 

「おー、けーちゃん、おはよ。」

 

「おはよー。

 

 あのね、はーちゃん。 はーちゃんははーちゃんなのに、なぜヒッキーちゃんなの?」

 

え、いや、それは。

引きこもりのヒッキー、じゃないからね。

ほら今日も外出してるし。

くそ、由比ヶ浜の野郎、いや女郎。

こんな幼気な子にそんな言葉覚えさせやがって。

 

「あ、けーちゃん、それはだな。」

 

「はーちゃんは比企谷八幡って名前だから、比企谷のヒッキーだよ、けーちゃん。」

 

「ふ~ん、それでヒッキーちゃんか。 わかったさーちゃん。」

 

「はーちゃんは、はーちゃんって呼んでほしそうだから、はーちゃんって呼んであげな。

 

 お早う、比企谷。」

 

「ああ。お おはようさん 川越。」

 

”ボコ”

 

「あんた、わざと間違えてるだろう。

 

 いい加減にしないと殴るよ。」

 

い、いや、川崎さん、もう殴ってんだけど。

三ヶ木といい、最近なんか暴力的な女子増えてない?

 

「いたたた。

 

 ところで、けーちゃん、今日はさーちゃんとお出かけか?

 

 どこに行くんだ?」

 

「え、けーか、はーちゃんと映画を観に行くんだよ。」

 

え? 俺と映画?

俺、けーちゃんと約束してたのか。

いや、そんな記憶は・・・・・

げ、なにその笑顔、約束してないって言えないじゃないか。

ど、どうする。

もうすぐ三ヶ木来ちゃうんじゃないか。

 

「ねぇ比企谷、その様子だと三ヶ木から聞いてないのかい?

 

 三ヶ木、急用出来たから、代わりにけーちゃんとあたしに映画行ってくれないかって。

 

 ほら、このチケット、昨日の夜持ってきたんだ。」

 

「そ、そうか。」

 

三ヶ木急用できたのか。

なにほっとしてんだ俺。

だが、その急用ってなんだ。 

だったら、何でおれに電話してこないんだ。

 

”チョイチョイ”

 

「はーちゃん?」

 

「よし、じゃぁ映画行くかけーちゃん。」

 

「うん、はーちゃん。 はい、おてて。」

 

「おう。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、比企谷、ちょっとごめん。

 

 先行っててくれるかい。」

 

「おう。 行こう、けーちゃん」

 

”スタスタスタ”

 

「もしもし、どうしたの三ヶ木。」

 

「沙希ちゃん、比企谷君に会えた?」

 

「ああ、今から映画館に行くところだよ。」

 

「あのね、急に無理言ってごめんね。

 

 わたしがプリキラ―の映画観たくて、比企谷君に無理矢理お願いしたから

 

 なんか断り難くてさ。」

 

「あ、いいよ、ちょうどけーちゃんもこの映画行きたがってたし。

  

 でもあんた、プリキラ―好きなの。 」

 

「あ、う、うん。 わたしがプリキラ―大好きなの。

 

 けして比企谷君がじゃ無いからね。」

 

「ん? わかったけど。

 

 それよりさ、急用ってなんかあったのかい。」

 

「あ、あのね・・・・」

 

「美佳さん、お待たせっす。」

 

「え、あ、あんた、今の。」

 

「あ、う、うん。」

 

「あんた、本当にこれでいいの?」

 

「わからない。 でも今は会いたくないの。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ついた、海だ!

 

 ひゃ~、綺麗だね。 よし刈宿君、泳ぐよ!」

 

”ぬぎぬぎ”

 

「美佳さん、ますは海の家に荷物置いてから、

 

 おわ、な、なにこんなとこで脱いでるんすか!」

 

「え? いや早く泳ぎたいから。」

 

「い、いや、こんなとこで、え?

 

 な、水着きてきたんすか。

 

 はぁ~、ほらまずは荷物置きに行きますよ。」

 

「うん。 あ、その前に。

 

 ね、刈宿君、どう?」

 

”くるり”

 

「うっ、美佳さん、水着すごくいいです。

 

 このまま泳がずにずっと見ていたいくらいっす。」

 

「へへ、ありがと。

 

 さ、行こ。」

 

「うっす。」

 

”ぷりっ、ぷりっ”

 

「み、美佳さん、後ろ姿とってもセクシーっす。」

 

「ん? ば、馬鹿~、どこ見てんだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「待たせたな。

 

 アイスコーヒーで良かったか。」

 

「あ、ありがとう。」

 

「おう。

 

 けーちゃん大丈夫か。」

 

「うん、さーちゃん、はーちゃんにポップコーン買ってもらった。」

 

「比企谷、なんかすまない。」 

 

「いや、気にすんな。 お互い様だ。」

 

「え? お互い様?」

 

へへ、ゲットできたぜ。

プリキラ―臨海学校バージョンフィギュア!

 

けーちゃんには感謝の二文字しかない。

ポップコーンなんか安いもんだ。

心から礼を言う、ありがとうけーちゃん。

いや~、マジで三ヶ木いないからどうしょうかと思った。

川崎には言えないもんな。

 

「あ、あのねさーちゃん、はーちゃんもお人形さ 」

 

「け、けーちゃん、ほら映画始まるぞ!

 

 暗くなる前に座席座ろう、な、ほ、ほら早く。

 

 あ、ジュースも飲むか。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、刈宿君、ビーチパラソル持ってきたの?」

 

「あ、海の家にあるの借りてきました。

 

 えっとここらでいいですか?」

 

「うん。 じゃあ、レジャーシート敷くね。」

 

「あ、アカ俺のシートじゃないっすか。」

 

”どさ”

 

「へへ、特別のお気に入り持ってきちゃったって・・・・・・おい、お前どこ座ってんだ!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「貴様、イレギュラーヘッド様の顔、踏むんじゃねぇ!」

 

「う、うっす。 美佳さん怖いっす。」

 

「わかればいいんだわかれば。

 

 うんしょっと。

 

 あ、そうだサンオイル塗っておかなくちゃ。

 

 ふふふ~ん、ふふふ~ん♬」

 

「み、美佳さん、背中塗りましょうか?」

 

「・・・・・それベタねただろ、スケベ。」

 

「え、い、いや 違うっす。 背中、ぬ、塗りにくいっかな~って。」

 

”ジ―”

 

「す、すみません。 あの~、少しだけエッチなことを。」

 

”ジー”

 

「ごめんなさい、100%スケベ心でした!」

 

「へへへ、はい、お願い。」

 

「え、い、いいんすか。」

 

「うん、お願いするね。」

 

”ペタ”

 

「美佳さん肌きれいっす。」

 

「うっさい、いいからはよ塗れ!」

 

「うっす。」

 

     ・

 

「よしokと。 さぁ刈宿君泳ごう。」

 

「あ、ちょ、ちょっと今は・・・・」

 

「え? ほら行くよ。」

 

「あ、あの~先に行っててください、すぐ追いつきますから。」

 

「ん? じゃあ先行ってるね。」

 

「うっす。」

 

     ・

 

「お~い、刈宿く~ん。こっちだよ~」

 

「はぁ~おさまった。 あ、今いくっす。」

 

”バシャバシャバシャ”

 

「はや!

 

 刈宿君って水泳選手でもいけるんじゃないの。」

 

”ザブン”

 

「え? ん、刈宿君? お~い刈谷君?」

 

”バシャ!”

 

「うわっ」

 

「へへ、お待たせっす。」

 

「ひど、びっくりしたんだからね。」

 

「すいませんす。

 

 あ、それより、ちょっと待っててください。」

 

”ザブン”

 

「え? か、刈宿君、お~い刈宿く~ん?」

 

”し~ん”

 

「も、潜ったきり出てこない。

 

 は、も、もしかしたら足つったんじゃ

 

 大変だ、いまいくからね。」

 

”バシャ!”

 

「うわ、ま、またしてもこの馬鹿!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ。」

 

「な、何やってんだ、めっちゃ心配したんだぞ。」

 

「え? あ、す、すみませんっす。

 

 あの~、これどうぞっす。」

 

「え? うわぁ~綺麗。 綺麗な貝殻。」

 

「さっき潜ったとき、ちょっと見えたような気がして。」

 

「馬鹿、無茶したら駄目だよ。 心配したんだからね。」

 

「うっす。」

 

「でもありがと、すんごく綺麗。

 

 でも、えっとどうしようかなぁ。

 

 あ、水着の胸のとこ入れとこ。」

 

”ぐぃ”

 

「うんしょっと。」

 

「うぉっ!」

 

”ぶくぶくぶく”

 

「え、か、刈宿君!」

 

     ・

     ・

     ・

 

おかしい。

なぜだ、あれほど期待していた映画なのに。

面白くない。

ただ、目の前を淡々と映像が流れていくだけだ。

 

「うわぁ、頑張れ、キラホィップ!」

 

けーちゃんすげぇー夢中になっている。

この反応みると映画自体は面白いはずだ。

 

・・・・・なんだろうな急用って。

 

昨日は、特にそんなこと言ってなかったよな。

帰ってからって・・・・・・・そ、そうなのか。

 

「な、なぁ、川崎、み 」

 

「うるさい! 今いいところなんだから、話しかけるとぶつよ。」

 

「す、すまん。」

 

こぇ~、なにこいつマジ夢中になってるじゃねえか。

映画、終わってからにしょう。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぐぅ~”

 

「は、や、やっぱ、泳ぐとお腹すくね。」

 

「いつ聞いても美佳さんのお腹の音ってかわいいすね。」

 

「いや、違うから、今の刈宿君だから。」

 

「え、いや、今のは。」

 

「刈宿君だからね。」

 

「う、うっす。 お、俺っす。」

 

「そ、それよりさ、ほんとおにぎりだけでよかったの?」

 

「美佳さんのおにぎりめっちゃ美味しかったっす。」

 

「でもさ、昨日も言ったけど、ほら食中毒とか怖いから梅干しだけだよ。」

 

「へへ、任せておいてください。」

 

”スタスタ”

 

「おやっさん、できてます?」

 

「おう、いま持ってくぞ。」

 

「ありがとっす。」

 

”スタスタ”

 

「ほら、お待ちどうさん。」

 

「うわ~美味しそう。」

 

「お嬢ちゃん、美味しそうじゃねぇ、美味しんだ。」

 

「あ、はい。 わたしイカ焼き大好き!」

 

”ぱく”

 

「う~ん美味しい。

 

 この醤油とバターが合うんだよ。」

 

「おう、よかった。 ほらあとこれだ。」

 

「え、お、おやっさん、これ頼んでないっすよ。」

 

「おう、俺からのサービスだ。

 

 お嬢ちゃん、これは今日取れたての蛤だ、これも美味しいぞ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「おう、まぁ、なんだ、この坊主は、最近のガキに比べると結構マシのほうだ。

 

 真面目で根性あるからな。

 

 お嬢ちゃん、いい彼氏つかまえたな。

 

 すまねえがよろしくしてやってくれ。」

 

「お、おやっさん。」

 

「あ、はい。 ありがとうございます。」

 

「じゃあな。」

 

”スタスタ”

 

「・・・・・・・」

 

「ごほん。 誰が彼氏だって?」

 

「す、すみません。 あ、な、殴らないで~」

 

「まぁ、このイカと蛤に免じて、今日は彼女ってことでいいよ。」

 

「ほんとっすか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「けーちゃん、とうとう寝ちゃったか。」

 

「すまないね比企谷、重くないかい。」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「あ、その荷物持つよ。」

 

「ん、おう頼むわ。」

 

「けーちゃん、昨夜からあんたと映画行けるって張り切っててさ、

 

 なんだかよく眠れなかったみたい。」

 

「そうか。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・ね、さっき、映画でなに言おうとしたのさ。」

 

「ん、あ、いや・・・・・・あのな、三ヶ木の急用ってなんだ?

 

 お前、何か知らないか?」

 

「男とデート。」

 

「はぁっ・・・・・そ、そうか。」

 

「うそだよ。」

 

「お、おい!」

 

「なにムキになってるのさ。 あんた三ヶ木と付き合ってるのかい?」

 

「い、いや。」

 

「悪かった。 なんの用事かまでは聞いてないよ。」

 

「そ、そっか。」

 

「ね、あんた今度はいったい何をやらかしたのさ。」

 

「え、俺が何かしたって前提なのか? い、いやなにもしていないはずだ。」

 

「三ヶ木言ってたよ、今はあんたに会いたくないって。

 

 いいから話しな、ここ最近あったこと全て包み隠さず。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「できましたよ、美佳さん。」

 

「あ、ありがと。 えへへ、一度やってみたかったんだ。

 

 面白そうだったんだもん、海岸で砂に埋めてもらうの。」

 

「パラソル、この位置でいいすか?」

 

「うん。」

 

「あ、そうだ。 もう少し砂を。」

 

「え、お、おい、貴様、それ何の真似だ。」

 

「え、いや、あははは。」

 

「悪かったね、結衣ちゃんみたいに巨乳でなくて。 ふん!」

 

「あ、い、いや冗談っす。 すぐ取ります。

 

 あ、すみません、俺ちょっとトイレ。」

 

「あ、うん。 はやく戻って来てね。」

 

「うっす。」

 

”タッタッタッ”

 

「ふ~、海、来ちゃったなぁ~。

 

 ・・・・・今頃もう映画終わってるよね。

 

 なにしてるんだろう。

 

 は、馬鹿、なに考えてんだわたし。

 

 そんなこと言ってるとバチが。」

 

”こそこそ”

 

「ん、なんだ?」

 

”サッサッサッ”

 

「はっ! い、いやだ。 こ、こっち来るな!」

 

”サッサッサッ、ピタ”

 

「お、おい、そこで止まるな、あっち行け! ペッ、ペッ。」 

 

”チョキ”

 

「い、いや~」

 

     ・

 

「美佳さん、お待たせ。 すみません、混んでて・・・・・・え!」

 

「鼻、痛いよ~、カニ取って。」

 

「は、はい。」

 

”ポイ”

 

「み、美佳さん、大丈夫で・・・・・ぷっ」

 

「あ、貴様、笑っただろう、絶対笑った。」

 

「い、いえ、笑ってません。 今、砂から出しますね。」

 

”どさ、どさ”

 

「はい、大丈夫っすか?」

 

”ベシ、ベシ、ベシ”

 

「いたた、痛いっす、美佳さん。」

 

「お前、プッって笑っただろう。 もう嫌い。」

 

「あ、いや、笑ってないす。  笑って、くくくくく。」

 

「貴様~」

 

”ベシ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ~、まったくあんたは。」

 

「は、まて、おれが悪いのか?」

 

「あったりまえでしょう。

 

 まったく、あんたはどうしょうもないね。」

 

「というと、やっぱり林間学校のことか?

 

 あれは俺もすまないと思ってる。」

 

「まぁ、それも多少はあるだろうけど違うと思うよ。

 

 それはあの娘が自分で納得してやったことだろ。

 

 あんたに会いたくない理由にならないと思うよ。」

 

「すまん、教えてくれ。」

 

「多分、昨日のあんたと妹との会話、聞こえてたんじゃない?

 

 あんたのそのバカげた答えを。

 

 だってその後だろ、三ヶ木急に帰るって言ったの。

 

 それに昨日の夜、あたしの家に来た時、お父さんまた残業だって言ってたからね。」

 

「だが、もしそうだとしても、俺はそう思ってる。

 

 俺といるとあいつは傷つくんだ。

 

 誰かを大切にするってことは、そのことを覚悟するってことだよな。

 

 だけど俺は、俺はあいつを傷つける覚悟は・・・・・・出来ない。」

 

「はぁ~、まったく。

 

 あのさ比企谷、あんたはあの娘を傷つけてるっていうけど、

 

 傷つけてることばっかじゃないだろう。

 

 あの娘にとって楽しいこと、うれしいこともあったんだよ。

 

 あんたのこと話してる時のあの娘、本当嬉しそうなんだよ。

 

 人の気も知らないでさ。

 

 遊園地行った話とか、クレープの競争したとか本当嬉しそうに喋るんだよ。

 

 あんたはもっと自信を持ちな。

 

 傷つけることが怖い? 覚悟できない? 

 

 傷つけたっていいじゃん。

 

 それ以上に大事にしてやろうと思えばそれでいいんだよ。

 

 あの娘も馬鹿じゃない。

 

 あんたのやさしさは、わかる娘だよ。」

 

「川崎。」

 

「あんたがさ、本当にあの娘のこと大事だと思うのなら、

 

 ちゃんと、自分の正直な想いを話してあげな。」

 

「だ、だがな、あ、あいつは今日おそらく。」

 

「あんた知ってたのかい?

 

 でもまだ間に合うはずだよ。

 

 あのね、あの娘があなたから飛び立ってしまってからじゃ遅いんだよ。

 

 もう、戻ってきてくれないよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ザブ~ン、ザザ~”

 

「はぁ、夕陽、きれいだ~

 

 比企谷君、もう家帰ったかなぁ。

 

 映画、楽しかったかなぁ。

 

 あ、フィギュア、ちゃんと買えたかなぁ。

 

 それから、それから・・・・

 

 馬鹿、なんで比企谷君のことなんか。

 

 わたし会いたくないって言ってたじゃん。」

 

”ツー”

 

「ほ、ほら、涙でてきちゃったじゃんか。」

 

”スタスタ”

 

「美佳さん、ラムネお待ちどうさまっす。

 

 え、ど、どうしたんすか?

 

 何で泣いてるんすか。」

 

「あ、ち、違うの。

 

 あのさ、ほ、ほら夕陽がとっても綺麗だから。」

 

「そうすっか。

 

 ・・・・・美佳さん、寒くないっすか?」

 

「うん、もうちょっとだけこの夕陽をみててもいい? 

 

 すっごく綺麗なんだもん。」

 

「そうすね、綺麗っす。

 

 じゃあ、バスは次の時間に遅らせましょう。」

 

「うん、ありがと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「けーちゃん、お家ついたよ。」

 

「ふぁ~、あれ? はーちゃんは?」

 

「はーちゃんはもう帰ったよ。」

 

「あ、ね、ねぇさーちゃん、さーちゃんなんで泣いてるの?」

 

「うん? あ、ちょっと目にゴミが入ってね。」

 

「さーちゃん、けーかが取ってあげる。」

 

「ありがとう、けーちゃん。 もう大丈夫だよ。」

 

”ガサ”

 

「あ、さーちゃん、それはーちゃんのだよ。」

 

「え、あ、あー、返すの忘れてた。

 

 何入ってるのかなぁ。

 

 えっ、これって。」

 

「うん、あのね、はーちゃんお人形さん好きなの。」

 

「・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「バス遅いっすね。

 

 それに他にベンチ座ってる人いないっすね。

 

 もうみんな帰っちゃったんすかね。」

 

”ちょん”

 

「え? あ、美佳さん寝ちゃったんすか。

 

 そういえば、あんまり寝られなかったって言ってたっすね。

 

 へへ、寝顔可愛いっす。

 

 か、肩ぐらいいいすね。」

 

”だき”

 

「ふ~。」

 

「今日はありがとね、刈宿君。」

 

「へ、あ、お、起きてたんすか。」

 

”ぱっ”

 

「あ、いいよこのままで。

 

 今日は彼女でいいって言ったじゃん。」

 

「う、うっす。」

 

「あのね、わたし嫌なことばっか続いててね、ちょっと落ち込んでたんだ。

 

 だから、少しパァッてはっちゃけてさ、嫌なことなんかすっかり忘れたかったの。」

 

「少しは忘れられました?」

 

「うん。 明日からさ、もう少し頑張ってみる。」

 

「そっすか、良かったす。

 

 でもあんまり無理はダメっすよ。」

 

「うん。」

 

「俺でよかったらいつでも連絡して下さい。

 

 いつでもそばにいますよ。

 

 俺ストーカーですから。」

 

「馬鹿・・・・・・・・でもありがと。」

 

「うっす。

 

 あ、美佳さんバス来たみたいっす。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「刈宿君、今日はありがと。

 

 それと家まで送ってくれてありがとね。

 

 とってもたのし 」

 

”だき”

 

「え、か、刈宿君?」

 

「美佳さん、俺、俺、美佳さんが。」

 

「刈宿君。」

 

「あ、すみません。」

 

「うううん。」

 

「あの、あのですね美佳さん。

 

 今度、新人戦地区大会があるっす。

 

 俺、絶対優勝して美佳さん県大会に連れていくっす。

 

 優勝したら、約束通り俺の彼女になってもらえますか?」

 

「ちょっと待った! あれはもう時効。

 

 時効だからね!」

 

「え~、時効あるって言ってなかったじゃないすか。」

 

「あんの!」

 

「美佳さん、俺、夢があるっす。

 

 今度の大会、県大会も優勝して絶対全国大会に行きます。

 

 それで強化選手になってテニスの専門学校にも入って、将来はプロの選手になるっす。

 

 それでいつかなんかの大会で優勝して、優勝して

 

 ・・・・・・・・・・・・美佳さんを嫁にもらいに行きます。」

 

「はぁっ、な、なに言ってんだお前。

 

 ちょ、ちょっと待って、少し冷静になって。

 

 よ、嫁なんて重いって、重すぎだって。」

 

「はっ、お、俺何言ってんだ。

 

 すみません、なんか途中でわけわからなくなって。

 

 で、でも俺、それくらい真剣っす。」

 

「う、うん、わかってる。 ありがと。

 

 こんなわたしなんかをそんな風に思ってくれてうれしい。」

 

「俺、美佳さんのこと絶対大事にするっす。

 

 絶対泣かせるようなことはしません。

 

 だから俺と、俺と付き合って下さい。」

 

「・・・・・ごめん、少しだけ時間貰っていい?

 

 ちょっとだけ気持ち整理させてほしいの。」

 

「了解っす。

 

 気持ち整理して、それで結論でたら電話してください。

 

 それまで、俺からは電話しません。

 

 俺、電話待ってます。」

 

「う、うん。」

 

「じゃ、俺帰るっす。

 

「今日はありがと、刈宿君。

 

 帰り道、気を付けてね。」

 

「うっす。」




最後までありがとうございます。

次話はようやく花火大会に。
オリヒロが誰と行くことになるかは・・・・・・

季節感、ホントなく申し訳ないですが、また読んでいただけたら
ありがたいです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏まっさかり -花火大会 後編-

見に来ていただいてありがとうございます。

更新遅くなりすみません。
(次週、試験なので、また遅くなるかもです。)

夏物語 夏まっさかり編 最終話です。

またしても(特に後半)セリフばかりですみません。
大変読みにくいとは思いますが、最後までお付き合いいただけたら
ありがたいです。

また、今回、めちゃ長くなってしまい申し訳ありません。
2話に分けようかと思ったのですが・・・・

ご辛抱いただけたらありがたいです。
ではよろしくお願いいたします。


「ただいま。」

 

「おかえり美佳。 海楽しかったか?」

 

「うん、楽しかったよ。

 

 とうちゃん今日早かったんだ。

 

 良かった、一緒にご飯食べれるね。

 

 いま作るからちょっと待ってて。」

 

「おう。 

 

 あ、そうだ、ちょっと前になんといったかなぁ~

 

 藤なんとかさんって、ほら同じように眼鏡しててもお前と違ってかわいい娘。

 

 そのお前と違ってかわいい娘がこれ持ってきたぞ。」

 

「おい、実の娘のことをそこまで貶めたいのか、まぁほんとだからいいけど。

 

 で、なんか言ってた?」

 

「まだ帰ってないって言ったら、メモ書いてったぞ。

 

 あ、これも渡してくれって。」

 

「え、USB?

 

 ありがと。 ちょっと荷物置いてくる。」

 

”スー”

 

書記ちゃん来てたのか。

あっぶなかった。

あんなとこ見られてたら大変だったよ。

あ、そんなことより、書記ちゃん、なんの用事だったんだろうね。

えっと、メモメモっと

 

”ペラ”

 

『三ヶ木先輩、こんにちは。

 会いたかったんですけど、お留守なのでメモ書きますね。

 

 このUSBには、生徒会の記録を保存しています。

 わたし、林間学校の写真整理しながらこれ見てて思ったんです。

 生徒会には三ヶ木先輩が必要だって。

 

 あの、わたしもう一度、いろはちゃんと話をするつもりです。

 えっとうまく話せるかわからないけど。

 でもわたしは、

 

 ”生徒会、みんな一緒がいいです。”

 

 また、連絡しますね。

                         藤沢 』

 

書記ちゃん、ありがと。

無くしてみてほんとにわかった。

そこがわたしにとって、何にも代えられない特別な場所だったんだって。

わたしも、わたしもみんなと一緒にいたい。

・・・・・・・もどりたい、あの場所に。

 

     ・

     ・

     ・

 

「お兄ちゃんいるの~、ご飯だよ。」

 

”ガチャ”

 

「えっ、どうしたの? 電気もつけないで。」

 

「あ、ああ、ちょっとな。」

 

”どっか”

 

「ふ~ん。

 

 そんで、なにがあったのお兄ちゃん。 小町に話てみそ。」

 

「あ、い、いやなんでもない。」

 

「お兄ちゃん。」

 

「小町・・・・・笑うなよ、絶対だぞ。

 

 あのな、人を好きになるってどういうことなんだろう。」

 

「げ、あっはははは、なに言ってんだこの人。

 

 なにいきなりその質問。」

 

「お、おい、笑うなって言っただろ。」

 

「ごめんなさい。

 

 だ、だってお兄ちゃんがマジな顔で言うから。

 

 あ、今日、何かあったんだね。」

 

「いや、何もない。 

 

 ちょっと小説読んでてだな。」

 

「小説? まぁいいけど。

 

 ね、お兄ちゃん、人を嫌いになるには理由があると思うんだ。

 

 信用できないとか、軽蔑したりとか、危害を加えられたとか。

 

 あ、それとややこしいとか、屁理屈ばっかり言うとか、面倒くさいとか、ロリコンとか。

 

 それとマッ缶ばっかり飲んでるとか。」

 

「おい、最後のほう、全部俺じゃないか。

 

 そ、そっか、俺は小町に嫌われてるのか・・・・お兄ちゃん辛い、もう立ち直れない。」

 

「い、いや冗談だから。

 

 これだけ長く一緒に過ごしてるんだもん、小町はそれほど嫌いじゃないよ。

 

 でもねお兄ちゃん、人を好きになるのに理由はいらないんだよ。

 

 必要なのは理由じゃなくて、その人とずっと一緒にいたいって、

 

 ずっと会っていたいって気持ちだよ。

 

 それでね、その人と二人で一緒に歩んでいきたいって思ったら、それにはもう好きって

 

 ことだよお兄ちゃん。

 

 そんな人、なかなか出会えないよ。」

 

「小町、お前すごいな。

 

 はっ! 小町まさか、だ、誰かそんな奴いるのか。

 

 教えろ、教えるんだ!

 

 お兄ちゃんが今すぐ抹殺してやる。」

 

「あー、そこはうまくいくよう見守ってやるとかでしょ、この馬鹿兄は。

 

 まぁ、雑誌の恋愛相談コーナーにそう書いてあった。」

 

「そ、そうか。」

 

「お兄ちゃん、自分の気持ちに正直が一番。

 

 好きと思ったら好きなんだよ。

 

 これはBy小町だよ。」

 

「お前の簡単だな。」

 

「それでいいだよ、お兄ちゃん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴクゴク”

 

ふ~、やっぱりお風呂あがりの牛乳は最高だね。

どれどれ、鏡、鏡っと。

へへ、毎日成長してるね、うんうん。

目標、結衣ちゃん!

なんてね。絶対無理だ。 

あ、でもほ、ほらギュって寄せたら。

お、おう。

・・・・・わたし何やってんだろ。

 

さてっ馬鹿やってないで、勉強する前に書記ちゃんのUSB、見せてもらおっと。

うんしょっと

 

”カチカチ”

 

うわ、懐かしい。

これクリパの時の写真。

生徒会の初めての大きなイベントだったよね。

なんかみんな初々しい。

あっ、ほ、ほら見てみ、ちゃんとわたし受付してたの映ってるじゃん。

あのバカ、いなかったって。

ほら、このかわいいトナカイさんが、わ・た・し。

ちゃんと気が付けってんだ、わたしずっと見つめてたのに。

 

”カチ”

 

これは、んっと、あっマラソン大会の後の表彰式だ。

わたしは救護テントにいたから映ってないや。

あっ、ここ。

ほら、この後ろのほう横切ってるの比企谷君だ。

へへ、この後、文化祭の時以来、やっと話できたんだ。

でもさ、あのバカ、完璧にわたしのこと忘れていやがって。

あんだけ文化祭でラブラブだったのに。

え、ラブラブじゃないって、だって一緒に椅子とか運んだんだもん。

あん時からわたしは・・・・・

 

まぁまぁ、わたしも髪切って眼鏡かけたからね。

だって、あいつが海老名さんみたいなのタイプだと思ったから。

・・・・・仕方ない、許してあげる。

 

”カチ”

 

あ、これフリペの時のだ。

みんなで出来上がったの印刷所に取りに行ったんだよね。

その時の写真だ。

あ、あのバカ拗ねてる。

そうだ、コラムのペンネームめっちゃ嫌がってたもんな。

えへへ、でも君は絶対M男だよ。 ぐふふ。

 

”カチ”

 

えっとこれはバレンタインのだ。

へぇ~、みんな楽しそうだね。

ここにはわたしいないや。

でもね、ポスター貼ってる時、試作のチョコ持ってきてくれたんだ。

わざわざ、落ち込んでるわたしを探してくれて。

へんなとこ気が利くんだ・・・・・うううん違う、優しいんだよあいつ。

そう誰にでも。

 

”カチ”

 

あ、これみんなでスキー教室のお土産、食べてるとこだ。

思い出した、痛かったなぁ~ほっぺ。

あのジャリっ娘め、思いっきり引っ叩いて。

・・・でもうれしかった、なんか急にジャリっ娘のことが身近に感じられて。

 

はっ、そうだ、あいつ絶対見たよね。

湯気がなんかとか言ってたけど、絶対見た。

くそ~、あのスケベにわたしの全てを。

まぁ、まぁ~わたしも見ちゃ・・・・・・・・

ばか~

 

”カチ”

 

卒業生を送る会か、あ、書記ちゃんばっかし。

だれ、だれこれ撮ってるの。

・・・・本牧、ちゃんと仕事してたんだろうな。

あ、このステージの横、あいつ何してたんだこんなとこで。

うん? 何か笑ってる。

おい、それわたしのドアップが映ってるとこじゃん。

お前、笑いすぎだろうが。

ふん。

 

”カチ”

 

送る会の次は、やっぱ卒業式。

あ、めぐねぇ。 えへへ、やっぱかわいいなぁ。

お盆に帰ってくるっていってたね。

あ、そうだ、めぐねぇ、あいつとの仲、勘違いしたままなんだ。

まさか、誕生日の時のあの場面、見られてるとは思ってなかったもん。

なんかいろいろ聞かれそう。

陽乃さんとの飲み会、やめようかなぁ。

 

”カチ”

 

げ、何でこんな写真まで。

これ生徒総会の時の写真じゃん。

稲村君とふたりで頬に真っ赤な紅葉つけてる。

 

この時あいつに家に送ってもらって・・・

あ、あいつにパンツ部屋干ししてるの見られたんだ。

うへぇ~恥ずかしい。

ん、ちょっと待てよ。

 

”ガサガサ”

 

やっぱりない、ない。・・・・・おい! パンツ返せー。

くそ、お気に入りだったのに。

 

”カチ”

 

あ、これ新聞載ったやつだ。

クレープ売り上げ勝負か、やっぱ完全体の奉仕部には勝てないや。

くそ、あいつ何で鼻の下伸ばしてんだ。

まぁ、会長可愛いもんね。 

反対側はゆきのんと結衣ちゃんだし。

わたしも横に座りたかったなぁ。

 

”カチ”

 

林間学校。

これ千葉村に着いたときに撮ったんだよね。

うわぁ、稲村君もわたしも顔色悪~

 

・・・・・この時は、こんなことになるなんて思ってなかった。

やり直したいなぁ、この時に戻って。

そしたら、そしたらわたし蛍なんて川辺なんて絶対行かないのに。

あいつにあんなこと言わないのに。

そしたら、そしたらこんなことに。

 

 

あれ、おかしいな、こ、これ生徒会の記録なのに。

比企谷君のことばかり思い出しちゃうよ。

こんなにたくさんの時間、過ごせていたんだ。

いっぱいいっぱい思い出ありがと、比企谷君。

それと、今日はごめんね。

一緒に映画にいく約束だったのに。

 

あのね、わたしね、わたし・・・・・もう決めたんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スー”

 

「お~い、美佳、まだ起きてるのか?

 

 ん、なんだパソコン見ながら寝ちまったのか。

 

 どれ、うんしょっと。

 

 お~、結構重たくなったなこいつ。」

 

”どさ”

 

「ん、なんだこいつ泣いてたのか。」

 

「・・・がや君。」

 

「がや君? 確かテニス小僧って刈宿とか言ったんじゃねぇのか?」

 

「・・・めんね。」

 

「・・・・・まぁ、いろいろあるんだよな。

 

 ほら、風邪引くなよ。」

 

”バサ”

 

「おやすみ、美佳。

 

 いつもありがとうな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カタ”

 

「・・・・・よかった、まだ有った。」

 

”ゴクゴクゴク”

 

「ふ~、もう朝か。」

 

”ゴクゴクゴク”

 

「あれから何回も計算してしつくして、出した答えを消去して、やっぱりこれしか残らない。

 

 ・・・・・・・俺は、三ヶ木美佳が好きらしい。

 

 これが解なんだ。

 

 だったら、俺が選択できる答えは限られている。

 

 その中で最適な答えを選べばいいんだ。

 

 そしてそれは決まっている。」

 

”ゴクゴク”

 

「なんかこのマッ缶、苦くないか。 

 

 それとも、もうこの甘さに慣れちまったか。

 

 ふぅ~、さて寝る前に。」

 

”カチカチ”

 

「はい、もしもし。」

 

「あ、すまない、まだ寝てたか?」

 

「うううん、いまランニング中だよ。」

 

「ランニング?」

 

「うん、体なまらないように朝のランニング。

 

 で、どうしたの?」

 

「あ、ああ、ちょっと頼みがあるんだ。」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「ご馳走さん。」

 

「お粗末様でした。 あ、洗濯干すの終わったら一緒に洗うから流しに浸けといてね。」

 

「ああ。

 

 な、なぁ美佳。」

 

「うん?」

 

「お前何か悩み事あるのか? 」

 

「悩み事?」

 

「あ、ほ、ほら、例えば、れ、れ、恋愛事とかな。」

 

「え、あ・・・・でもいいよ。」

 

「こう見えてもとうちゃんは学生の頃はモテモテだったんだぞ。

 

 だから悩み事があったら。」

 

「チ、チ、チ、うそだね。

 

 かあちゃんに聞いたことあるもん。

 

 文化祭かなんかのダンスパーティでさ、とうちゃんずっと踊ってもらえる相手いなくてさ。

 

 一人で体育館の隅っこにいたって。」

 

「あ、いや、そ、それはだな。」

 

「そんで可愛そうだから、同じ学級委員のよしみでかあちゃんが声かけてあげたって。」

 

「いや、そ、そ、そうだけど。」

 

「へへ、ありがとねとうちゃん、でも大丈夫だよ自分でなんとかできる。」

 

「そ、そうか。 でもちゃんと相談しろよ。」

 

「うん。 あ、そ、それよりとうちゃん時間。」

 

「え? あ、やば! じゃあな、行ってくる。」

 

”ガチャ”

 

「うん、行ってらっしゃい。 今日も早く帰ってきてね。」

 

「おう。」

 

”タッタッタッ”

 

へへ、とうちゃんありがと。

知ってる? その話って続きがあるんだよ。

 

かあちゃんはずっととうちゃんが好きだったんだって。

だからとうちゃんが学級委員になったとき、かあちゃんも学級委員に立候補したんだって。

でもなかなかとうちゃんとの仲、進展できなくて。

だから最後の文化祭のダンスパーティで、かあちゃん勇気振り絞って

とうちゃんを誘ったんだって。

でもこれかあちゃんと美佳の秘密の約束だから教えてあげないよ~。

 

さてと、さっさと洗濯物干しちゃってさ、今日は買い物行かなくちゃ。

お弁当作ったら、冷蔵庫空っぽだよって、え?

・・・・・・お弁当

こ、これって、お弁当だよね。

 

”ガチャ”

 

「とうちゃ~ん、待って、お弁当、お弁当忘れてるって!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はいよ、美佳ちゃん牛肩ロース300g、700円だ、負けとくよ。」

 

「おじちゃん、おじちゃんてよく見たら、ほら大河ドラマ出てたあの人、

 

 各々方、抜かりなくって人、あの人にそっくりだね。」

 

「え? そ、そうかい。」

 

「やっぱカッコいいっと思ってたんだ。 ね、モテるんでしょ。」

 

「そ、そりゃな、若い時はこの商店街で一番モテたからな。

 

 よ、よし、ちょっとおまけしちゃおうかな~」

 

「やった!」

 

「美佳ちゃんには負けるよ、ほら600円でいいよ。」

 

「ありがと、おじちゃん。 おじちゃん大好き。」

 

「お、おう。 内のには内緒だぞ。」

 

「あんた、何が内緒だって!」

 

「あ、おじちゃん、おばちゃんまたね~」

 

「あんたちょっと来な。 あ、美佳ちゃんまたおいでね。」

 

「うん。」

 

へへ、やった。 今日も負けてもらった。

あ、でもおじちゃん大丈夫かなぁ。

ごめんね、おじちゃん。

今度、肩でも揉んであげるね。

 

「三ヶ木、お前すげぇな。」

 

「へ? あ、い、稲村君。 見てたの?」

 

「ああ。バッチリ。」

 

「だ、だってさ、我が家の家計を預かる身としては、これぐらいしないと厳しいんだよ。

 

 そ、それよりどうしたの? 

 

 稲村君の家この近くだったけ?」

 

「あ、い、いやちょ、ちょっと買い物にな。」

 

「あ~、もしかして舞ちゃんへのプレゼント? 

 

 いや~この色男。 憎いね~」

 

「馬鹿、違う。 絶対違うからな。」

 

「そ、そんなムキにならなくても。 冗談だから冗談。」

 

「まったく、俺の気持ち知ってるだろうが。

 

 ほら、これ買ってきたんだ。」

 

「へ? あ、紅茶。」

 

「お前に聞いてた店に行ってきたんだ。

 

 銘柄ってこれでよかったんだろ。」

 

「どれどれ何買ってきたんだ?

 

 えっとダージリンだね、これでいいよ。

 

 そっか、稲村君が紅茶淹れることになったんだね。

 

 ・・・・・・あ、あのさ、頑張ってね。」

 

紅茶、稲村君が淹れるんだ。

そっか、文化祭に向けて生徒会も動き始めるんだ。

それなのにわたしはそこには行けない。

どんどん、あの場所が遠くなっていく気がする。

わたし、もう必要ないのか。

 

「・・・・・な、なぁ三ヶ木、あんな、今度紅茶の淹れ方教えてくれないか?」

 

「え?」

 

「やっぱりうまく淹れられないんだ、お前みたいに。

 

 だから、今度生徒会室に教えに来てくれ。」

 

「で、でもわたしもう生徒会じゃ。」

 

「総武高の生徒までやめたわけじゃないんだろ。

 

 だったら生徒会室、来ても全然問題ないよな。」

 

「稲村君。」

 

「それに会長の選挙の時の公約だろ、開かれた生徒会にするって。

 

 だから生徒が生徒会室に来ても文句はないはずだ。

 

 ということで、三ヶ木頼むわ。」

 

「う、うん。

 

 仕方ないな~、そこまで言われたら教えてあげてもいいよ。

 

 か、感謝しなさいよ、そ、それと厳しいからね。

 

 ・・・・・・・・・・・・・あとね、あのね、ありがと稲村君。」

 

”ペコ”

 

「あ、ああ、お前いないとさみしいからな。

 

 それと来週から文化祭実行委員会の準備あるんだけど、

 

 俺、お前の分までやらされるから大変なんだ。

 

 手伝ってくれ。」

 

「う、うん。

 

 でも表立ってはできないよ。

 

 裏で稲村君を手伝うぐらいだよ。」

 

「ああ、頼むな。」

 

ありがと、稲村君。

うれしい、少しでも必要とされたらそれだけで。

よ、よし、裏の汚い仕事はわたしが引き受けるよ。

任せなさい。

こういうこともあろうかと、三ヶ木レポートはいつも更新してるからね。

やっぱりそういうのはわたしのお仕事。

 

「あ、だけど変なことすんなよ。

 

 裏といってもコピーとかだからな!

 

 絶対三ヶ木レポートとかいうの使うようなことはするなよ。」

 

「う、は、はい。」

 

ち、くそ、読まれてた。

折角逐次更新してるのに。

えっと、あ、そうだ、そんなことより。

 

「あのね去年の文実ね、各クラスの実行委員の提出が遅くて大変だったんだ。」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん、だからほんとはねめぐね・・・城廻先輩は、ゆきの・・・雪ノ下さんに

 

 実行委員長やってほしかったようだけど、事前調整できなくてね。

 

 結局、さがみん・・・相模さんに。」

 

「面倒くさいから、俺との会話はめぐねぇとゆきのんとかでいいぞ、それでわかるから。 

 

 去年、なんか文実ごたごたして大変だったんだってな。」

 

「うん、だから今年はね、なるべく早く学級の実行委員提出してもらって、

 

 誰にやってもらうか事前に会長と調整したいなって思ってたの。

 

 あっ!」

 

「ん、どうした?」

 

「今年の実行委員長どうすんだろうね?」

 

「え、いや、いま事前に調整とか言ってなかったっけ?」

 

「あ、いや、ほら今年の生徒会会長は2年生だから。」

 

「あっ!」

 

「やるかなぁ。」

 

「やらないだろ。 生徒会だって文実のフォローとか大変だろ。」

 

「うん、でもほら割と目立つの好きだから。

 

 それに人気投票の件もあるし。」

 

「・・・・そうだな。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、わたしだ。 えっと誰から? あ、」

 

”ブ~、ブ~”

 

「三ヶ木、出ないのか?」

 

「・・・・・」

 

「あ、俺あっち行ってるわ。」

 

”スタスタスタ”

 

「ごめんね。 あの、もしもし?」

 

「あ、俺だが。」

 

「あ、うん。 どうしたの比企谷君。

 

 あ、昨日はごめんね。」

 

「いや、昨日のことはいい。

 

 それよりな、あのな、明日デートしないか。」

 

「デート・・・・・・・ん? えー、デ、デート!」

 

な、なんで、どうして、え、な、なに、ウソ、え、だって。

え、明日地球終わっちゃうの?

は、お、落ち着け。

”スー、ハー、スー、ハー”

き、聞き間違いでないよね。

 

「どうなんだ。」

 

「あ、う、うん、いいよ。 する、する、デートする。

 

 よ、よろしくお願いいたします。」

 

「そうか。 じゃあ明日十時に千葉駅な。」

 

「うん♡」

 

なんで、どうして、デートって比企谷君、なんで?

だって今まで一度もデートって誘われたことないのに。

一緒に出掛けるのだって理由付けるの大変だったのに。

なんでだろう。

 

・・・・・何かある、なんだ、なんだ。

 

     ・

 

・・・・・そっか。

 

わかった。

明後日、花火大会だからか。

でもさ、それってさちょっと辛いよ。

 

・・・・・・でも、いい。

だって初めて比企谷君がデートしようって誘ってくれたんだもん。

うん、明日、わたし思いっきり楽しむね。

 

「もういいか? 三ヶ木。」

 

「え、あ、ご、ごめん。 

 

 なんかちょっと考えゴトしちゃって。

 

 お待たせ稲村君。」

 

「なんかあったのか? なんかすごく考え込んでたじゃないか。」

 

「うううん、なんもない。 大丈夫だよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「うん。」

 

「なぁ、買い物途中なんだろ。

 

 俺、荷物持ってやるよ。」

 

「あ、ありがと稲村君。」

 

「じゃ行くか。」

 

「うん。 よし今日は荷物気にしなくていいからいっぱい買うぞ!」

 

「お、おい。」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

どうかな、ノースリーブにホットパンツって、ちょっと肌見せ過ぎかなぁ。

でもさ、夏だからいいよね。

見よ、この美脚を! な~んちゃって。

へへ、比企谷君の反応楽しみだ。

も、もう来るかなぁ。

 

     ・

 

ん~と、今日どこ連れて行ってくれるんだろう。

比企谷君と行くのなら、どこでもいいんだけど。

なんなら東京わんにゃんショーでもいい。

へへ、はやく来ないかなぁ~

比企谷君や~い。

 

     ・

     ・

     ・

 

「これだけ遅れていけば、あいつでも怒るだろうな。

 

 なんなら怒って帰ってくれるとありがたい。」

 

”スタスタスタ”

 

「ん、やっぱりいないか。

 

 そりゃそうだ。1時間も黙って遅れたんだ、普通怒って帰るか。

 

 よかった、これで 」

 

「比企谷く~ん、ご、ごめん。」

 

”タッタッタッ”

 

「え?」

 

「はぁ、はぁ、ご、ごめん。

 

 ま、迷子の子がいてね、一緒にお母さん探してたら遅くなっちゃって。

 

 ごめんね。」

 

「あ、い、いや、お、俺も今来たところだ。」

 

「うそ!」

 

「おい、うそって。」

 

「だって比企谷君が今来たとこって、いつもだったらスゲ~待ったとかいうのに。」

 

「いや、本当に今来たとこだから。」

 

「ありがと。」

 

「だから・・・・まあいいいか、じゃ行くか。」

 

「うん。」

 

”ぎゅ”

 

「え あ、あれ? 

 

 腕離してくれない? すごく歩き難いんだが。」

 

「だめ。

 

 比企谷君がデートしようって言ったんだから。

 

 これは義務。」

 

「・・・・」

 

よかった。

ほんとに来てくれたんだ。

待ってる間、ずっと不安だったんだ。

だからついうろうろとしちゃって。

よ、よし、今日は楽しむぞ。

あ、でもその前にさ。

 

「あ、あのさ、明日の花火大会だけど、どこで待ち合わせする?

 

 やっぱり千葉駅?」

 

「現地でいいんじゃねえか。 日本庭園側の入り口でどうだ。」

 

「うん、了解。」

 

よし、先行って場所取りしておこ。

トイレ・・・・・遠くないとこがいいかなぁ。

明日なんか来なければいいのに。

できればずっとこのままで。

 

「なぁ、やっぱ歩き難いんだが。」

 

”バッ”

 

「あっ」

 

「ほら行くぞ。」

 

”スタスタスタ”

 

「ちょ、ちょっと待ってよ比企谷君。

 

 義務だからね、義務!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、どこいくの?」

 

「あ、腹減ったから、メシ行くぞ。

 

 ほら、あそこだ。」

 

「え、比企谷君、ここって。」

 

「なんだ、文句あるのか? 文句あるのなら 」

 

「へへ、一度行きたかったんだ、吉野家。」

 

「え、う、そ、そっか。 こ、ここでい、いいんだな」

 

「うん。

 

 だって、牛丼つゆだく? なんか美味しそうじゃん。

 

 行こ行こ、お肉お肉♬」

 

「・・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

 

「う~、お腹いっぱい。

 

 こんだけ満足してあのお値段。 ふふふ、余は満足じゃ~。

 

 今度は頭の大盛り? 比企谷君の言ってたので注文してみようっと。」

 

「す、すまん、ちょっとトイレ。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、うん。」

 

はぁ~美味しかった。

なんていっても席が横並びだったから、なんかいつもより近く感じて。

それにあれだけガツガツ食べてくれるのっていいなぁ。

また料理食べてほしくなっちゃった。

・・・・・・

はぁ~、駄目だ。しっかりしなくちゃ。

今度から一人で来るんだし。

 

     ・

 

「おかしい。 確か戸塚はデートに吉野家は絶対だめって言ってたんだが。」

 

”カシャカシャ”

 

「くそ、つ、次はだな。」

 

      ・

 

”スタスタスタ”

 

「な、あのな、いい加減腕組むのやめない?

 

 ひ、人通りも多くなって来たんだが。」

 

「う~ん、わかった。」

 

”にぎ”

 

「え、いや、あの~三ヶ木さん?」

 

「うん、腕やめて手にした。えへ♡」

 

「うっ・・・・・・お、本屋だ。 ちょっと寄っていくぞ。」

 

「うん。」

 

     ・

 

「え、あ、あの比企谷君、このコーナーって。」

 

「おい、ほら見てみろ三ヶ木、このモデル乳でかい。

 

 いいなぁこの胸、たまらない。 

 

 お前のとは大違いだな。」

 

「ん? どれどれ。」

 

”ぐぃ”

 

「あ、いや、あの三ヶ木さん?

 

 おこら 」

 

「お、おう、確かに。

 

 え? ぷっ、あはははは。

 

 お、お腹痛い。」

 

「え? な、なに? どうした三ヶ木。」

 

「だ、だって、こ、この人、お、男の人だもん。

 

 いわゆるニューハーフ。」

 

「え、そ、そうなのか。 うそ。」

 

「ひー、ひひひひ、比企谷君、たまらないって。

 

 もしかして、そ、そっち系?」 

 

「ば、馬鹿違う。 俺はノーマルだ!

 

 お、おい、そんな目で見るんじゃない。」

 

「あの~、お客様、もう少しお静かに。」

 

「「ご、ごめんなさい。」」

 

     ・

 

あ~苦しかった。

あ、でも比企谷君もやっぱ巨乳が好きなのか。

毎日、頑張って牛乳いっぱい飲んでるんだけど、

なかなか思ったより大きくならないや。

わたしの胸より結衣ちゃんのほうがいいんだろうなぁ~。

 

「す、すまん。 ちょっと。」

 

「え、大丈夫? お腹痛いの?」

 

「あ、いや、大丈夫だ。」

 

”スタスタスタ”

 

「な、なんでだ、あれ間違いなく女性だろ。

 

 く、くそ、つ、次は、あ、そうか、ちょっとハードルが。」

 

     ・

 

「ほんとにお腹大丈夫? 何だったら今日はもう・・・・」

 

「いや、大丈夫だ。 ほら行くぞ。」

 

”スタスタスタ”

 

「う、うん。 あ、待って。」

 

”スカ”

 

「あっ。」

 

「ふふふ、甘い。 もう手は握らせん。」

 

”にぎ”

 

「なら、こっち。」

 

「あっ、お、お前、Tシャツの裾、引っ張るんじゃない。

 

 伸びるだろう。」

 

「じゃ、手。」

 

「ぐ、ほ、ほれ。」

 

 ”にぎ”

 

「ね、次どこ行くの?」

 

「そうだな、お、おい、あそこ行くぞ。

 

 一度いってみたかったんだ。

 

 男だけじゃいけないからな。」

 

「え、でもあそこは。」

 

「いいからいくぞ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

 

「うほ~、男と違っていろんなのあるんだな、女の下着って。

 

 おお、これなんてほとんど隠してないだろう。

 

 これって下着の役目果たしてるのか?

 

 なぁ、これお前一度・・・・・・・・・・」

 

「え?」

 

「お、おおおおい、お前なに下着付けてんだ。」

 

「服の上からだからいいじゃん。」

 

「そ、そうだがって、お、おい、パンツまで。」

 

「ど、どう、似合う?」

 

「い、いや、いいと思うぞ。 そのスケスケ感がなんとも。

 

 は、ばか、それは試着室でやれ。」

 

「比企谷君のスケベ~。 えへへへ、ありがと。」

 

”ぬぎぬぎ”

 

「あ、そうだ、ひ・き・た・に・君、わたしのパンツ持っていったよね。」

 

「え? あ゛ー、す、すまん、すぐ返すから。 」

 

「変なシミとかつけてない?」 

 

「い、いや、大丈夫だ・・・・・・多分。」

 

「ふぅ~、まあいいや、あのパンツあげる。

 

 わたしのお気に入りだったんだからね、大事にしてね。

 

 あ、でも絶対、他の人に見せたら嫌だよ。」

 

「あ、いや・・・・・・・・・・・わかった。」

 

「よろしい。 じゃ、これ買ってくるね。」

 

「え、それ買うの?」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おかしい。 戸塚への聞き方がおかしかったのか?

 

 いや普通に考えてデートに下着売り場って、絶対ありえないんじゃないのか。

 

 なぜだ、なぜなんだ。

 

 くそ、もう最後しかないじゃないか。

 

 念のため、戸塚にもう一度確認しておくか。」

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし」

 

「あ、俺だけど、今どこだ?」

 

「うん、もうちょっとで着くよ。

 

 で、でもどういうことなの八幡。」

 

「後で必ず説明する。

 

 すまんが頼む。」

 

「う、うん。」

 

     ・

 

へへ、買っちゃった。

だって、ドッキリさせてやろうと思ったんだけど、比企谷君、いいっていうから。

・・・・・・・馬鹿だね、買っても見せることなんてないのに。

まぁいいや、記念にとっておこ。

わたしの宝物だ。

 

”スタスタスタ”

 

「お待たせ。」

 

「あれ、買ったのか?」

 

「うん、買ってきた、えへ♡。

 

 ちょ、ちょっと恥ずかしかった。

 

 あ、見たい?」

 

「ば、ばっか。 い、行くぞ。」

 

「あ、う、うん。 行こ♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっと、今度はどこ行くんだろう。

だって、なんだか繁華街から離れていくような。

そ、それになんかピンクのネオンのホテルが並んでるんだけど。

気、気のせいかなぁ。

 

「ね、ねぇ、比企谷君、ここってさ。」

 

「どうした行くぞ。」

 

「う、うん。」

 

多分ここは近道かなんかなんだ・・・・・おそらく。

 

”きょろきょろ”

 

ん? なんか探してるのかなぁ。

でもここラブホ以外に何もないと思うけど。

 

「何か探してるの? わたしも探すよ」

 

「い、いやいい。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、もしもし。」

 

え、誰と電話してんだろう。

いやだなぁ、早くここから出たいなぁ。

だって、さっきからすれ違う人、みんなカップルばっかりなんだもん。

チラチラこっち見ていくし。

 

「おい、三ヶ木。」

 

「あ、は、はい。」

 

「お、おい、ここ入るぞ。」

 

「え?」

 

はぁ? な、なにいってんだ、こいつ。

ば、ばか、ここラブホだぞ、ラブホ。

あ、頭どうかしたんじゃない。

 

「あ、あのね、こ、ここって、ラ、ラブホだよね。」

 

「おう、なんか問題あるか?」

 

「あるあるあるある。

 

 ラブホだよ、何でそう平気でさらっと。

 

 あ、ト、トイレ、トイレだね。

 

 あ~びっくりした。」

 

「違うだろ。

 

 ラブホに入ってやることといったら決まってるだろ。」

 

「・・・・・・・」

 

「ほらいくぞ。」

 

”ぐぃ”

 

うそ。

ほ、本気なの?

だってわたしは明日、あなたに振られんだよ。

それなのに。

違う。 

比企谷君はそんな人じゃない。

じゃ、もしかして振られないの?

付き合ってくれるってことなの。

 

「どうした。」

 

「いいの、比企谷君?」

 

「はぁ? なにがだ。」

 

「わたしでいいの?」

 

「・・・・・・・ああん、なに言ってんだ。

 

 お前、俺のこと好きなんだろ。

 

 だったらいいだろ、付き合うとか関係なくて、や、やらせろよ。」

 

「・・・・・・・」

 

「ははぁ~ん、そっかお前もあれなんだろ。

 

 なんか口先だけで気のあるようなこと言って、本当はそんな気は全然無いんだろ。

 

 好きなんだったら、や、やらせろよ。」

 

「・・・・・・・」

 

「な~んだ、駄目なのか。

 

 やっぱりお前も 」

 

「いいよ。」

 

「え?」

 

「前にも言ったじゃん。

 

 わたし比企谷君がほしいのなら・・・・・・・・・・・・・あげる。 いこ。」

 

”ぐぃ”

 

「え、ちょ、」

 

口先だけじゃないよ。

あの時も、ほんとに覚悟してたんだから。

理性がとか魅力がとかなんだかんだ言ったけど、もしそうなったらいいって覚悟してたんだ。

そうじゃないと、誰もいない家に入れたりしない。

うん、付き合えなくてもいい。

比企谷君が望んでくれるなら。

 

「さぁ、いくよ。

 

 あのさ、わたし決心したから。

 

 でも・・・・やさしくしてね。 は、初めてだから。」

 

「三ヶ木、お前。」

 

「・・・・・こ、これでも恥ずかしいの頑張ってんだから。

 

 早く行こ。」

 

「いや、ちょっと待てって、決心早くない?

 

 お前もう少し自分を大事にしろ。

 

 軽々しく、こんなとこ行くんじゃない。

 

 初めてだったら尚更だろうが。」

 

「え?」

 

「比企谷!てめぇ何してんだ!」

 

”ダ―”

 

「てめぇ、手離せ。 み、美佳さんをどこ連れこもうってしてんだ!」

 

”バッ”

 

「ふっ。」

 

え、刈宿君?

何で君がここにいるの?

ひ、比企谷君もなんか今笑った?

 

「なんだ、あんときの一年坊じゃないか。 お前、何か用か?」

 

「なんか用かじゃねぇ、美佳さんになにやってんだ。」

 

「何やってるって、俺たち今日デートしてるんだ。

 

 なぁ、三ヶ木。」

 

”だき”

 

「ひゃい。」

 

「その二人がラブホに入ってやることっていったら決まってんだろう。」

 

「てめぇ!」

 

「ガキは邪魔すんなよ、折角今からお楽しみだってのによ。」

 

え、なんかよくわからない。

比企谷君、自分から誘っておいたくせに自分を大事にしろって。

それなのに今また違うことを。

なんで?

それになんで刈宿君がこんなラブホ街にいるの?

あ、あれ戸塚君。

ラブホ街に戸塚君と刈宿君が二人でいるって・・・

え、うそ、二人ってそんな関係?

いや、前々からちょっと怪しいなって思ってたんだけど。

んなわけない!

 

戸塚君たちがいるのは偶然じゃなく必然。

そして比企谷君の今日の行動。

そこから導かれることは。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くそ、そういうこと、そういうことかよ。

 

わたしをそんな風に思ってたのかよ。

ひど、ひどいよ。

わたしそんな女じゃない。

 

「ね、ねぇ、比企谷君。」

 

「あ、お、おう。」

 

”バシ!”

 

「ぐっ、いて。」

 

「なんでなの、なんでこんなことするの?

 

 わたし、付きまとわない、そんな嫌な女じゃない。

 

 ちゃんとあきらめて近寄らないようにするもん。」

 

「はぁ? 付きまとう?」

 

「わたし比企谷君に振られるって知ってる、この前聞いちゃったから。

 

 だから今日は、最後に、最後だからいっぱい楽しもうと思ってただけなのに。

 

 こんなことしなくても、わたし大丈夫だよ、もう付きまとわないよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・比企谷君のバカ、大嫌い。」

 

”ダ-”

 

「み、三ヶ木、違う、俺はそんな風に思っていない。

 

 俺は、俺はただ・・・・・・・」

 

     ・

 

バカバカバカ。

わたしが比企谷君のこと嫌いになれるわけないじゃん。

無理に決まってんじゃん。

そんなのできれば、できればこんなに苦しい想いなんてしていない。

大丈夫だよ、こんなことして無理に嫌われようとしなくても。

わたしは、わたしはね、ちゃんと受け入れるつもりだったんだよ。

今日の思い出を力にして。

 

「み、美佳さん! 美佳さん待って。」

 

「来ないで。

 

 今、だれとも話したくない、一人になりたいの。

 

 だから、来ないで。

 

 お願い。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、俺振られたよな。

 

 これでいい、これでいいんだ三ヶ木。

 

 お前が俺なんかに振られるってことは絶対あってはいけないんだ。

 

 お前は俺ごときが振っていい女の子じゃない。

 

 だから振られるのは、お前じゃない。 

 

 それは俺の役目だ。」 

 

”ピタ”

 

「ひゃ! つ、冷た。」

 

「ご苦労様。 はいマッ缶。

 

 そういうことだったの八幡。」

 

「と、戸塚。」

 

「電話の八幡の様子が変だったから何かあったとは思ってたんだ。

 

 そんなこと思ってたんだ。」

 

「はぁ? 何のことだ。」

 

「もういいよ。 今の聞こえてたから。」

 

「・・・・・」

 

「さ、飲もう。

 

 ぼくマッ缶って初めて飲むんだ。」

 

”ゴクゴク”

 

「うわ~あま~い。」

 

「そ、そうか。」

 

「今ならね、八幡がマッ缶が好きな理由、少しだけわかった気がする。

 

 でもね八幡、今のは間違ってる。」 

 

「は? いやなにも間違ってないだろ。」

 

「間違ってる。

 

 八幡、八幡は逃げてるだけだよ。」

 

「い、いや 俺は 」

 

「八幡、ちゃんと付き合えない理由を話して振ってあげるってことも優しさだよ。

 

 そうじゃないと始められないこともあると思うよ。」

 

「・・・・」

 

「八幡。 八幡の想い、ちゃんと三ヶ木さんに話してあげて。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「あ、お兄ちゃんおかえり。」

 

「・・・・・あ、ああ。」

 

「ん、どうしたん? 何か悪い物拾って食べた?」

 

「おい。

 

 あ、小町、もう寝るから、晩ご飯いらない。」

 

「え? ま、まだ7時前だよ。」

 

「ああ。」

 

     ・

 

「おれは間違ったのか。

 

 いや、間違ってない。これが一番の最適な方法だったんだ。

 

 ほ、本当はもっと早い段階で振られるはずだったんだ。

 

 俺は間違ってない。

 

 に、逃げてなんかない。」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

『わたし比企谷君がほしいのなら・・・・・あげる。 いこ。』

 

「ば、ばっか。 何でお前はそんなに俺なんかのこと。

 

 まったく馬鹿げてるだろう。」

 

『わたし、付きまとわない、そんな嫌な女じゃない。』

 

「あったりまえだ。 お前はそんな奴じゃない。

 

 俺が一番知ってる。

 

 ・・・・・・そんなこと思わせちまったのか俺。

 

 やっぱり俺が間違ってたのか。」

 

『明日の花火大会だけど、どこで待ち合わせする?』

 

「ばかだな、俺。」

 

”ガチャ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”トントン”

 

「おはよ~ お兄ちゃん、起きてる? 朝ごはんだよ食べるでしょ。

 

 あのさ、雨すごいね、今日、花火大会中止かなぁ。」

 

”ガチャ”

 

「ん、お、お兄ちゃん?  あれ、どこいったん?」

 

     ・

     ・

     ・ 

 

”ピンポ~ン”

 

「お~い。  誰だこんな早く。」

 

”ガチャ”

 

「お早うございます、お父さん。

 

 朝早くすみません。」

 

「帰れ。」

 

「い、いや、ちょっと待って。」

 

「お前にお父さん呼ばれる筋合いはねえ。」

 

「あ、すみません。

 

 あの、美佳さんお願いできませんか。」

 

「ああ、ちょっと待ってな。」

 

     ・

 

「すまないな、今誰とも会いたくないそうだ。」

 

「お父さん、すみません。 失礼します。」

 

「お、おい。 靴ぐらい脱げ。」

 

「あっ す、すみません。」

 

”トントン”

 

「美佳さん、俺っす。失礼します。」

 

”ぐい”

 

「だめ!」

 

「み、美佳さん、襖開けてください。」

 

「だめ、絶対いや。」

 

「な、なんでですか。

 

 開けますよ。」

 

「だめ、部屋の中パンツ干してあんの。

 

 それにわたしいま、恰好が・・・・・・寝起きだから。」

 

「え、あっ! す、すみません。」

 

「・・・・・なんのよう。」

 

「美佳さん、電話出てくれないから来たっす。

 

 言ったでしょ、電話出てくれなかったら自転車吹っ飛ばしてくるって。

 

 まぁ、いいっす。

 

 はい、これ。」

 

”ストン”

 

「え、これって?」

 

「今日の花火大会の特別有料席のチケットっす。

 

 俺、美佳さんと花火大会行きたくてバイトしてたっす。

 

 一緒に行ってくれませんか?」

 

「え、このためにバイト。

 

 だ、だって今日大雨じゃん。

 

 絶対花火大会、中止だよ。」

 

「じゃあ、こうしましよう。

 

 もし花火大会が中止にならなかったら、俺夕方迎えに来ます。

 

 いいっすね、約束ですよ。

 

 じゃ、俺帰ります。」

 

「え、ちょ、ちょっと。」

 

「あ、お父さん、いきなりすみませんでした。

 

 失礼します。」

 

”ガチャ”

 

「おう。気付けてな。

 

 いや、待てお父さんじゃねえ。」

 

”ガラ”

 

「ちょ、ちょっと待って刈宿君、わたしまだ返事して・・・

 

 あれ?」

 

「もう行っちまったぞ。」

 

「もう、とうちゃん止めてよ。」

 

”ガチャ”

 

「え!」

 

”ザザザー”

 

「あいつ、この大雨の中、自転車を漕いで来たんだよ。

 

 なぁ、美佳、あいつ真剣だぞ。

 

 真剣な想いには、真心で答えなきゃいけない。

 

 わかったな。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「おお、すごい事故だったんだなぁ。」

 

”スー”

 

「と、とうちゃん。」

 

「え? み、美緒、美緒じゃないか。」

 

”だき”

 

「ぐわ、や、やめろ、ぐ、ぐるし~。

 

 この変態親父、娘に何すんだ!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、あ、み 美佳。

 

 お、俺は何を。」

 

「まったく。この馬鹿親父。

 

 で、とうちゃん。 浴衣どうかなぁ。」

 

「おう、すごく似合ってるぞ。

 

 マジで美緒かと思った。

 

 そっか、花火大会いくんだな。」

 

「うん。 もうすこしで着くって電話あった。」

 

「そうか今日で美佳も大人になるのか。」

 

「ならんわ!」

 

”ピンポ~ン”

 

「あ、じゃ、じゃ行ってくるね。

 

 ちゃんとご飯食べてね。

 

 野菜残しちゃだめだよ。」

 

「おう、わかったわかった、早く行ってこい。」

 

”ガチャ”

 

「とうちゃん、行ってきます。」

 

「おう。」

 

「刈宿君、お待たせ。 行こ。」

 

「うっす。

 

 あ、ゆ、浴衣。

 

 美佳さん、浴衣すっごく似合うっす。」

 

「そ、そうかなぁ。

 

 でも刈宿君も似合ってるよ浴衣。」

 

「そ、そうすか。

 

 なんか落ち着かないっす。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、なんかすごい交通事故あったってニュースで言ってたね。」

 

「そ、そっすね。

 

 あの大雨が原因らしいけど、結構、怪我人出たって言ってたっす。」

 

「やっぱ電車だね。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ、屋台だ。ね、ね、なにする。」

 

「え、美佳先輩テンション高いっす。」

 

「よし、まずは金魚すくいだね。

 

 刈宿君、勝負だ。」

 

「はぁ? いきなり金魚っすか。」

 

     ・

 

「くそーあの出目金、こ、今度こそ。

 

 おじちゃんもう一回。」

 

「あいよ。」

 

     ・

 

”ペロ”

 

「ぐはぁ、まただ。」

 

「美佳さん、追いかけすぎですよ。

 

 おじさん1回お願いします。」

 

「あいよ。」

 

「え~と、こいつだな。」

 

”スパ”

 

「ふぇー、すご、刈宿君。 一発で。」

 

「はい、どうぞ。」

 

「ありがと。 大事に育てるね。」

 

”がさがさ”

 

「ん?」

 

「どうしたの刈宿君?」

 

「あ、いやなんでも。」

 

     ・

 

「はい、美佳さん。リンゴ飴。」

 

「あ、ありがと。

 

 うわ~美味しい、わたしリンゴ飴大好き。

 

 はい、刈宿君ご要望のチョコバナナ。」

 

「うっす。 ありがとっす。」

 

「屋台も人一杯だね。」

 

「そっすね。 行列すごいっす。」

 

「あ、すこしチョコバナナもらっていい?」

 

「え、いいす。どうぞ。」

 

”ぱく”

 

「あ、こっちも美味しい。

 

 はい、刈宿君もどうぞ。」

 

「え、いいっすか。」

 

”ぱく”

 

「どう? おいしい?」

 

「う、うっす、美味しいっす。 いろいろと。」

 

「うん。」

 

”がさがさ”

 

「あっ、やっぱり。」

 

「え、どうしたの?」

 

「あ、なんでもないっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すごいね、刈宿君、射的も得意だったんだ。」

 

「子供のころはずっとほしい景品が取れなくていろいろ研究したっす。」

 

「イレギュラーヘッドのグッズありがとね。」

 

「あ、でもそれバッタもんです。」

 

「いいの、大事にするね。」

 

「うっす。

 

 あ、すみません、ちょっとトイレいいすか。」

 

「うん、ここで待ってるね。」

 

「美佳さん、ナンパ気を付けてくださいっす。」

 

「あはは、大丈夫だよ、わたしなんかに声かける物好きいないって」

 

「そんなことないっす! すぐ戻りますから。」

 

「うん。」

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「あーすっきりした。

 

 さ、さっさと戻らなくちゃ。」

 

「お母ちゃん、あの人変、ずぶぬれだよ。」

 

「し、目を合わせたらだめよ。」

 

「へ、あ、あいつ・・・・・なんで、なにしてるんだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳さん、待たせてすみません。」

 

「あ、う、ううん、大丈夫だよ。」

 

「ナンパされませんでした?」

 

「大丈夫だって。」

 

「そろそろ花火始まるっす。」

 

「そだね、じゃ行こ。」

 

「うっす。」

 

     ・

 

「ここっすよ、この席っす。」

 

「ありがと、刈宿君。」

 

”パサ”

 

「へへ、うっす。 さぁ座りましょう美佳さん。」

 

「あ、ハンカチいいの? ありがと。」

 

”ひゅるる~ん、どーん”

 

「ひゃ、」

 

”だき”

 

「びっくりした。

 

 近いから、お、お腹に響くね。 すごい迫力。」

 

「そうっすね。うなじの威力、予想以上っす。」

 

「え? ばか花火見ろ!」

 

「うっす。」

 

「あ、うわー、ほらほら、空いっぱい花火。すごくきれい。」

 

「ほんとっすね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・・」

 

「ん、どうかした?

 

 花火、見ないの?」

 

「花火より、美佳さんほうがずっと綺麗っす。」

 

「ば、馬鹿、な、なに言ってるの。

 

 そんなわけないじゃん。 わたしなんか、わたしなんか。」

 

「ほんとっす。 美佳さんすごく綺麗っす。

 

 俺、美佳さんと花火見れてすごく幸せっす。」

 

「大げさだよ、刈宿君。」

 

「み、美佳さん、・・・・・答え聞かせてもらっていいっすか。」

 

「・・・・・」

 

「昨日、なにがあったのか俺まだ理解できてないっす。

 

 でも俺、どんな答えでもしっかり受け止めるっす。

 

 だから、大丈夫っす、美佳さんの気持ち聞かせてください。」

 

「うん。

 

 ・・・・・・・わたしね、昨日、あの後考えた。

 

 あのね、ほんとは今日、この花火大会で比企谷君に振られる予定だったんだ。

 

 だから昨日、ほんとは思いっ切り比企谷君とデート楽しんで、

 

 最後の、最後の楽しい思い出にして。

 

 そして今日できっぱりあきらめようって思ってたの。

 

 だのにさ、折角最後に思いっきり楽しもうと思ったのに、あいつわたしに嫌われようとして。

 

 もう最悪じゃん。

 

 でもわかったの。

 

 あれってね、わたしに付きまとわれたくないとかじゃなくてさ。

 

 わたしが比企谷君に振られる前に、わたしに比企谷君を振らせようとしていたんだって。

 

 だって、そうじゃないと、急にデートしようなんて言うわけないもん。

 

 付きまとわれるのが嫌だったら、花火大会の時にこれ以上付きまとうなって、

 

 迷惑だってはっきり言えばいいだけだもん。」

 

”ぽろぽろ”

 

「ばかだよ、あいつ。

 

 自分が振られれば、わたしが傷つかないとでも思ってるんだよ。

 

 わたしを傷つけないようにって、また自分を傷つけて。

 

 最後までわたしがそんなことに気が付かないと思ったのかって。

 

 まぁ、わかったの今朝方だけどさ。」

 

「・・・」

 

「ごめんね、刈宿君。

 

 振られるってわかってから、これでも一生懸命、比企谷君のこと忘れよ忘れようとしたんだよ。

 

 でも、でも駄目なの。

 

 忘れられないの。

 

 刈宿君と付き合えば、絶対幸せだろうなぁってわかってる。

 

 でも、でもわたし馬鹿だから、やっぱり比企谷君が好きなの。

 

 ご、ごめんなさい。

 

 ううううう、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」

 

「美佳さん。」

 

”だき”

 

「ごめんね、ごめんね刈宿君。ごめんね。」

 

「も、もう謝んなくてもいいですよ。」

 

「だからね、だから刈宿君、こんな気持ちのままで君と付き合えない。

 

 付き合っちゃいけないんだ。

 

 だからわたし決めたの。」

 

「何を決めたんです? 」

 

「うん、わたしは誰とも付き合わない。」

 

「・・・・」

 

「・・・・・刈宿君?」

 

「・・・・・・誰とも付き合わないっすか。」

 

「うん、決めたの。

 

 誰とも付き合わないって。」

 

「・・・・・美佳さん、こっち向いて。」

 

「うん?」

 

”ビシ”

 

「い、いったー

 

 な、なにすんだ。」

 

「デコピンっす。」

 

「い、いやデコピンわかってるけど。

 

 な、なんで?」

 

「美佳さ、美佳先輩、そんなの美佳先輩らしくないですよ。

 

 あいつのこと忘れられないからもう誰とも付き合わない?

 

 俺を振ったから、俺に悪いから誰とも付き合わない?

 

 なんすかそれ。

 

 俺の知ってる美佳先輩はそんな聞き分けのいい人じゃないっす。

 

 俺の知ってる美佳先輩は、正面から行って駄目だったら、どこか隙間探して

 

 その隙間を無理やりこじ開けて、中に入ってしまう人です。

 

 あ、裏口のカギ壊してでも入ってくるような。」

 

「お、おい。わたしのことそんな風に思ってたのか。」

 

「振られたからって、簡単にあきらめるような人じゃないっすよ。

 

 そんなこと言ってるんなら、もう一発デコピンを。」

 

「いや、やめて~ 痛かったんだからほんとに。」

 

「あいつ、日本庭園のとこの入り口で待ってましたよ。美佳先輩が来るの。

 

 忘れられないなら、忘れる必要ないじゃないっすか。

 

 それこそ美佳先輩らしく、どんな手を使ってでも、あいつを振り向かせてみせてください。

 

 それに、本当はあいつも美佳先輩のこと・・・・・」

 

「え、」

 

「と、とにかく、あいつも馬鹿ですよ。

 

 ずぶぬれになって、あれ、朝から待ってたっすよ。

 

 美佳先輩来るの信じて。」

 

「え、う、うそ。」

 

「ほら、あいつが風邪ひかないうちに行ってあげてください。」

 

「か、刈宿君。」

 

”だき”

 

「み、美佳先輩。」

 

「ありがと、刈宿君。」

 

「いいすよ。

 

 言ったでしょ。俺は美佳先輩のことが大好きだって。

 

 だから、俺は振られても美佳先輩が幸せになるのなら、それで大丈夫っす。

 

 それよりもう簡単にあきらめたらダメっすよ。」

 

”ばっ”

 

「さ、急ぐっす。

 

 花火終わっちゃいますよ。

 

 美佳先輩立って。 はい回れ右。」

 

”クル”

 

「ひゃ。」

 

「ほら、早く行った行った。

 

 おれは一人でゆっくり花火見たいんですから。」

 

「刈宿君。」

 

「あ、一つだけお願いっす。

 

 俺、美佳先輩の笑顔大好きっす。

 

 笑顔の美佳先輩を送らせてください。」

 

「うん。 刈宿君、行ってきます ニコ♡」

 

「行ってらっしゃい、美佳先輩。」

 

”タッタッタッ”

 

「ふぅ~。 で、いつまで覗き見してんすか、お二人さん。」

 

「え、」

 

「あ、ご、ごめんなさい。」

 

「いや~偶然だな。」

 

「金魚すくいの時からいましたよね。」

 

「あ、いや~、つい刈宿君達を見かけちゃったから。」

 

「しかし刈宿、お前いい奴だな、俺とアド交換してくれ。」

 

「はぁ? いやっす。

 

 うっさいから、もうあっち行ってください。」

 

「な、そんなこと言わないでさ。

 

 ほれ、これ俺のアド。」

 

”カシャカシャ”

 

「まったく。」

 

「おう、サンキュ。

 

 ん、もう帰るのか?」

 

「この後一人で花火見れるほど、俺強くないっす。

 

 それに明日から新人戦地区大会っすから帰るっす。

 

 お二人でこの席使ってください。 じゃあ 」

 

”ぎゅ”

 

「え?」

 

「さ、稲村先輩、刈宿君、金魚すくいいくよ。」

 

「え?」

 

「さっき刈宿君すごかったじゃん。

 

 わたしにも出目金とって。」

 

「いや、蒔田先輩、もう俺帰りたいっす。

 

 明日試合が。」

 

「さぁ、いくよ。 」

 

     ・

     ・

     ・

 

比企谷君、まだいてくれるかなぁ。

ずぶぬれって馬鹿だよ。

花火大会、夕方じゃん。

そりゃ待ち合わせの時間言ってなかったけど。

ほんと風邪引いちゃうよ。

あ~もう、浴衣って走りにくい。

 

「あ、みーちゃんだ。 

 

 ね、ねぇ、さーちゃん、みーちゃんいたよ。

 

 ほら道路の向こう側。」

 

「え、けーちゃん、待って。 手離したら駄目って。」

 

”ダー”

 

「みーちゃん。」

 

「え? あ、けーちゃん、来たらだめ、危ない!」

 

「きゃっ」

 

”すてん”

 

「けーちゃん!」

 

”ダ―”

 

「けーちゃん立てる? 早く立ち上がって。」

 

「う、うん。」

 

”ブ、ブー”

 

「あ! け、けーちゃん、ごめん。」

 

”とん”

 

「きゃっ、あ、みーちゃん。」

 

ごめん、怪我しなかったかな?

よ、よし。

はっ!

 

”キキキー”

 

う、うそ。 い、いや、いやー。

 

”ドン!!”




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

特に今回、長文ダラダラですみません。

また八幡フアンの方、すみません。
絶対八幡なら、やらせろなんて言いません。
今回、オリヒロに嫌われるため、使わせてもらいました。(ごめんなさい)

次回、夏物語の最終編 夏の終わり編です。

ちょっと更新遅くなると思いますが、また見て頂けたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のおわり -終わりと始まりと 前編-

見に来ていただきありがとうございます。

更新が大変遅くなりすみません。

今回より夏のおわり編です。
八幡とオリヒロの二人の関係の終わりと始まりは・・・・・

最後までご辛抱いただき、読んでいただけたらありがたいです。
では、よろしくお願いいたします。





”ガヤガヤ”

 

ん、なんか騒がしい。

なんだろう、何かあったのかなぁ~

 

「・・・・・くっす。」

 

「・・・・・くれ、頼む。」

 

あ、刈宿君と稲村君の声だ。

なに話してるんだろ?

 

あれ、おかしいな。

なんか頭のなかがぼんやりしてきた。

なんか・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

う、う~ん。

 

”ズキン”

 

頭痛い。

ん、ここどこだ?

どっかで見たような、なんか懐かしい。

 

「やっと起きた。 お寝坊さん。」

 

え、あれ、うそ、かあちゃん。

かあちゃん、かあちゃん、かあちゃんだ。

そっか、ここ引っ越す前の家なんだ。

え、でもなんで?

 

”かあちゃん。”

 

あれ、おかしい。 な、なんで声がでないの。

 

「う~ん。 かあちゃん、晩ご飯まだ~」

 

ち、違う。 そんなことじゃなくて。

ほら、他に言うことあるんだって。

会いたかったんだよ。

会っていっぱいお話したかったんだ。

だから、あ、あれ? なんか頭がぼわ~んって。

 

「ちょっと待ってね、美佳。」

 

「やだ~、お腹空いた。」

 

「あれあれ、美佳はもうすぐお姉ちゃんになるのに。 」

 

「だってお腹空いたんだもん。」

 

「はい、あ~ん」

 

「あ~ん。」

 

”パク”

 

「う~ん、美味しい。 美佳、チロロチョコ大好き♡」

 

「あ!」

 

「え、どうしたのかあちゃん。」

 

「いまね、赤ちゃん動いたの。」

 

「み、美佳もさわっていい?」

 

”さわさわ”

 

「お~い、お姉ちゃんだぞ。

 

 早く生まれておいで。」

 

「あかちゃん、生まれたらいっぱい遊んであげてね、お姉ちゃん。」

 

”なでなで”

 

「うん。 へへ、かあちゃんいいにおい。」

 

”すやすや”

 

「あら、また寝ちゃった。 本当にお寝坊さん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「すみません。

 

 よろしくお願いします。」

 

「遠慮しないの、お隣さんなんだから。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ほら、美佳ちゃんおいで。

 

 おばちゃん家で待ってようね。」

 

「う、うん。」

 

「そうか、いい子だな美佳ちゃん。

 

 どうだ、本当におじちゃん家の子になるか?」

 

「う、ううううう、とうちゃん、美佳も行く。 うわぁ~ん。」

 

「あんた! もう、いらないこと言うから。」

 

「す、すまん。

 

 美佳ちゃん冗談だよ。 ごめんね。

 

 ほ、ほらおいで。 おやつあげるから。」

 

「いや、とうちゃんと行く。」

 

「美佳ちゃん、めぐりお姉ちゃんとプリキラ―ごっこしょう。」

 

「プリキラ―ごっこ?」

 

「うん、闇の力のしもべ達よ!」

 

「えっと、とっととお家に帰りなさい!」

 

「よし。 さ、美佳ちゃん、わたしのお部屋行って遊ぼ。

 

 あ、変身セットあるから、貸してあげるね。」

 

「うん、めぐねぇちゃん。」

 

”ドタドタ、ドタドタ”

 

「ふ~、よかった。

 

 さ、今のうち、早く病院行ってあげて。」

 

「すみません、お願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ほぎゃ~、ほぎゃ~」

 

「う~、かわいくな~い。 なんかしわしわ。」

 

「はは、美佳の赤ちゃんの時もこうだったぞ。」

 

「ほんと?

 

 あ、あかちゃん、美佳のこと見て笑ったよ。

 

 お姉ちゃんってわかったのかな。」

 

「まだお目々は見えないけど、もしかしたらわかったのかもな。」

 

「ね、ね、とうちゃん、お名前決めた?」

 

「まだだよ。 これからお母さんとお話して決めるよ。

 

 美佳も一緒に考えてくれるか?」

 

「あ、あのね、美佳考えてたの。

 

 かあちゃんととうちゃんの名前をくっつけて、みきってどう?」

 

「みきか。 よし、お母さんにお話しようか?」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

 

「かあちゃん、わたしがやる。」

 

「大丈夫?」

 

「うん、かあちゃんやってるのずっと見てたもん。

 

 うんしょっと。

 

 今、お姉ちゃんが綺麗にしてあげるね。」

 

”ふきふき”

 

「きゃっきゃっ」

 

「あら、美紀、気持ち良さそう。

 

 美佳は上手ね。」

 

「えへへ。」

 

”ジャー”

 

「うわっ、きゃー

 

 うわぁ~ん、美紀におしっこかけられた。」

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、あれ? かあちゃんととうちゃんまだ起きてる。

なに話してるのかなぁ。

 

「やっぱり、わたし働きに出るわ。」

 

「そうか、すまないな。」

 

「うううん。 今まで我儘を聞いてくれてありがとう、あなた。」

 

「お前の夢だったろ、当たり前だ。」

 

「ありがとう。」

 

「だけど美紀はどうしょうかなぁ。」

 

「うん、なんとか保育所に迎えに行けるようなお仕事探してみる。」

 

”バッ”

 

「かあちゃん、わたしが美紀迎えに行く。」

 

「え、あ、美佳まだ起きてたの?」

 

「わたしが学校終わったら美紀迎えに行くね。」

 

「ありがとう、美佳。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はっはっはっ。」

 

ふ~、つ、着いた。

当番だったから、学校出るの遅くなっちゃった。

大丈夫かなぁ。

 

「す、すみませ~ん、美紀迎えに来ました。」

 

「え、あ、美佳ちゃん、おかえり。

 

 美紀ちゃんはお二階のお遊戯ルームにいるわよ。」

 

「は~い。」

 

”トントントン”

 

よっと、え~と美紀どこかなぁ~

よかった。 まだいっぱい同じくらいの子がいる。

みんなDVD観てるんだ。

 

”ガラガラ”

 

「美紀~」

 

「あ、おねえちゃんだ。」

 

”ダー”

 

「おねえちゃん。」

 

”だき”

 

「美紀、ごめんね遅くなっちゃって。

 

 さ、帰ろ。」

 

「うん。」

 

「先生、ありがとございました。」

 

「はい、気を付けてね。」

 

「「は~い。」」

 

”スタスタスタ”

 

「先生、子供達だけで帰してよろしかったんですか?」

 

「大丈夫よ、あの子達の家は、ほらあの郵便ポストのところよ。」

 

「あ、あそこ。 ご近所さんなんですね。」

 

「私が家に入るまで隠れてついていくから大丈夫。」

 

     ・

     ・

     ・

 

良かった、七夕の飾り、一緒に流してくれるって。

美紀もうれしそうだったし。

あれ、どうしたんだろ?

なんか元気がない?

 

「おねえちゃん、明日、晴れるかなぁ。」

 

「ん?」

 

「だって、雨降ると七夕さん達が会えないって先生言ってた。」

 

「大丈夫。 明日も晴れるよ、多分。」

 

「うん。」

 

「おねえちゃん、また七夕作りたい。」

 

「うん、また作ろうね。」

 

「明日作る。」

 

「いや、一年に一回だから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳ちゃん、遊ぼ。」

 

「あ、ごめんね、今から妹迎えに行かないといけないから。」

 

「美佳ちゃんって、いつも遊べないんだね。」

 

「美佳ちゃん感じ悪い。 行こう。」

 

「うん。」

 

あ、・・・・・だって。

わたしも遊びたいなぁ。

 

     ・

 

”とぼとぼ”

 

「おねえちゃん! 」

 

「あ、美紀。

 

 保育所から出てきたらだめじゃない。」

 

「だって、おねえちゃん、来ないんだもん。」

 

「ごめんね。 さ、保育所もどろ。」

 

”ぐい”

 

「ん? どうしたの美紀?」

 

「足痛い。」

 

「え、あ、美紀、裸足じゃん。 なにやってんの馬鹿!」

 

「だって、おねえちゃんが、おねえちゃんが・・・うわぁ~ん。」

 

”なでなで”

 

「ごめんごめん。 ほら、もう泣かない。

 

 はい、おんぶしてあげる。」

 

「うん。」

 

「うんしょっと。」

 

ぐうぉ~、お、重い。

美紀のおデブちゃんめ。

また隠れてチョコ食べてたな。

 

「おねえちゃん。」

 

「ん?」

 

「美紀ね、おねえちゃん大好き。」

 

「お姉ちゃんもだよ。 今日ごめんね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お客さん乗りまちたか?」

 

「は~い。」

 

「出発しま~す。」

 

「うん。 出発しんこ~なすの・・・・なんだったっけ?」

 

「プシュー、ガタンガタン、ガタンゴトン。」

 

「あ、美佳ちゃんだ。」

 

「美佳ちゃん、遊ぼう。」

 

「あ、で、でも・・・」

 

”チラ”

 

「ごめん、遊べないの。」

 

「あ~やっぱりだ。 前も遊ばないって言ってた。」

 

「ね、もうあっち行こう。」

 

「「うん。」」

 

「ね、なにして遊ぶ。」

 

”きゃ、きゃ”

 

・・・・・だ、だって。

 

”ぎゅ”

 

「おねえちゃん。」

 

「あ、ごめんごめん。

 

 さ、出発しよ。」

 

「うん。」

 

「ちょっと待って!」

 

「え?」

 

”タッタッタッ”

 

「ふぅ~、間に合った。 私も電車乗せてね。」

 

「めぐねえちゃん。」

 

「あっ、おっきいおねえちゃんだ。」

 

「ね、乗せてもらってもいい?」

 

「「うん。」」

 

”ごそごそ”

 

「あ~よかった。 はいこれ電車代ね。」

 

「あ、チロロチョコだ。」

 

「ありがと。おっきいおねえちゃん。」

 

”パク”

 

”パク”

 

「「美味しい!」」

 

「よし、美佳、美紀ちゃん、お家に向かって出発だ、いくぞ!」

 

「「おー」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳! 何で今日美紀を迎えに行かなかったの!

 

 先生から電話あったのよ。」

 

「だ、だって友達が。」

 

「だめじゃない。 美紀、お母さんが行くまでずっと保育所で待ってたのよ。」

 

「・・・・・」

 

「美佳!」

 

「わたしも、友達と遊びたかったんだもん!

 

 かあちゃんのバカ。」

 

”ダ―”

 

「美佳。」

 

     ・

 

かあちゃんのバカ。

いつも美紀、美紀って。

 

きっとわたしより美紀のほうが大事なんだ。

絶対そうだ。

だって美紀が生まれてから、わたしだけ一緒にお布団に入れてくれないもん。

 

かあちゃんなんて嫌いだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんで、何で来てくれなかったのさ、かあちゃん!」

 

「ごめんね、美紀がお熱出しちゃって。」

 

「だって、前も授業参観来てくれなかったじゃん。

 

 折角頑張って作文書いたのに。

 

 きょ、今日だっていっぱい予習したのに。

 

 先生の質問、全部わかったのに。」

 

「前はお仕事休めなくなっちゃたの。

 

 わがまま言わないの。」

 

「もういい! かあちゃんなんて大嫌い。」

 

”ダ―”

 

「美佳、待って。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふんだ、もうかあちゃんとなんか口聞いてやらないんだ。

絶対、許さないんだからね。

も、もう怒ったんだから。

ぷんぷん。

 

「美佳、またお母さんとケンカしたの?」

 

「あっ、・・・・・」

 

「全く仕方ないな。」

 

「だ、だってめぐねぇちゃん、かあちゃんが。」

 

「あのね、河原の近くでお花いっぱい咲いてるとこ見つけたんだ。

 

 明日ね、友達とお花摘みに行くんだけど美佳も来る?」

 

「うん、行く。」

 

「じゃあ、公園に集合ね。

 

 明日、母の日でしょう。

 

 お花、お母さんにプレゼントしてちゃんと謝りなさい。

 

 わかった美佳。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ソ~”

 

ふ~、やっと美紀から離れられた。

いっつもくっついてくるんだもん。

えっと、見つからないように公園行こっと。

 

”ガチャ”

 

「おう、美佳お出かけか?」

 

「あ、とうちゃん、し~」

 

”ドタドタ”

 

「おねえちゃん、どこ行くの? 美紀も行く。」

 

「だめ、今日は連れて行かないの。」

 

”ダー”

 

ふ~、河原って結構遠いからね。

美紀のことだから絶対途中で『疲れた~』っていうに決まってる。

 

それに今日はいっぱいお花摘んで、かあちゃんにあげるんだ。

かあちゃん、喜んでくれるかなぁ。

お花いっぱいプレゼントして、そんでね、そんで・・・・・

 

かあちゃんにごめんなさいって謝りたい。

 

だから今日は美紀連れていかない。

 

あ、急がないと。

めぐねえちゃん、待ってるかも。

 

”スタスタスタ”

 

あ、やば、やっぱり待ってた。

まずい、急がないと。

えっと、

 

”キョロキョロ”

 

よし大丈夫だね、それー

 

”ダ―”

 

セーフ。

へへ、だって横断歩道遠いんだもん。

 

「めぐ 」

 

「おねえちゃん。」

 

”ギ~コ、ギ~コ”

 

げ、美紀。

自転車乗ってきたの。

補助輪ついててもあんまりうまく乗れないくせに。

 

「来んな! 今日は遊ばないの!」

 

「やだ、おねえちゃんと一緒に行く。」

 

「ぜったい来ちゃダメ!」

 

「あっ」

 

”ガタン”

 

「うわ~ん、痛いよ~」

 

そんなとこで泣いてないで

車来たら危ないじゃん。

 

「おねえちゃん、痛いよ~」

 

「だから車来たらって危ないから、早く立ちなさいって。

 

 も~、しようがない。」

 

”ブー”

 

「あっ、美紀危ない。」

 

”とん”

 

「きゃ!」

 

あいたたた、へ? かあちゃん。

 

「そこにいて!」

 

”ダー”

 

「あっ、かあちゃんだ。 お~い、かあちゃん。」

 

「美紀!、早く立って。」

 

”ドン!!”

 

「い、いやー! かあちゃん!、美紀!」

 

     ・

     ・

     ・

 

うううううう。

いやだ、こんなの思い出したくなかったよ。

 

美紀のバカ!

だからついてきちゃダメっていったじゃん。

なんで言うこと聞かないの。

だからだから。

 

違う、違うの。

ごめん、ごめんなさい、かあちゃん、美紀。

わたしが、わたしが意地悪したから。

最初から美紀も一緒に連れて行ってたら。

うわ~ん、ごめんなさい。

 

『おねえちゃん。』

 

「み、美紀?」

 

『何で泣いてんだ、おねえちゃん。』

 

「だ、だって美紀が、かあちゃんが。」

 

『おねえちゃん、美紀はおねえちゃん大好きだよ。』

 

”ぎゅ”

 

『おねえちゃん。』

 

「美紀。」

 

『二人ともいい子ね。』

 

”なでなで”

 

「か、かあちゃん。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。 美佳が意地悪したから。」

 

『美佳は、わたしにお花をプレゼントしてくれようと思ったのよね。』

 

「う、うん。 かあちゃんと仲直りしたかったの。

 

 でも、どうして? 秘密にしてたのに。」

 

『めぐりちゃんが教えてくれたの。

 

 前の日にね、こっそりお家に来て仲直りしてくださいって。』

 

「かあちゃん、嫌いって言ってごめんなさい。

 

 ほんとは、ほんとは大好き。

 

 ねぇ、美佳のこと嫌いになってない?」

 

”ぎゅ”

 

『美佳も美紀もとってもいい子よ。 お母さん、二人とも大好き。』

 

「かあちゃん。」

 

『美佳、もう自分を責めるのはやめなさい。

 

 美佳は悪くないの。

 

 美佳はやさしい子ってお母さん知ってる。

 

 それにね、美佳は今まで一生懸命、お母さんの代わりしてくれたでしょ。

 

 お母さん、ちゃんと見てたのよ。

 

 いっぱいいっぱい感謝してるの。

 

 ありがとう、美佳。』

 

”なでなで”

 

「で、でもわたし、わたしが意地悪したから。」

 

『美佳はお母さんことを思ってくれて。

 

 美紀は大好きなおねえちゃんと一緒にいたくて。

 

 それでああなったの。

 

 美佳も美紀も悪くない、みんないい子なの。

 

 だから、もう自分を責めないの。

 

 これからはもっともっと自分を大切にしなさい。

 

 自分のために、自分のやりたいことを頑張りなさい。

 

 お母さんも美紀も、美佳が幸せになってくれるのが一番うれしいの。』

 

「かあちゃん。

 

 あ、かあちゃん、かあちゃんだんだん薄くなってる。

 

 あ、美紀も薄くなってる。」

 

『もう時間なのね。

 

 ごめんね美佳。

 

 いつまでもこうやっていたいけど、もう戻らないといけないの。』

 

「いやだ、美佳も行く。

 

 美佳も連れてって。

 

 もっともっといっぱいお話したいの。

 

 一緒にいたいの。

 

 もう寂しいのやだよ。」

 

『美佳、美佳には美佳のことをとっても大事に思ってくれてる人がいるでしょ。』

 

「え?」

 

『ほらおねえちゃん、ずっと聞こえているよ。』

 

「・・かげ、 三ヶ木戻って来いよ。

 

 何してんだ。 さっさと目開けろよ。」

 

え、この声って、ひ、比企谷君。

比企谷君の声が聞こえてるの?

 

『あんね、おねえちゃんがこっちに来てからずっと呼んでるよ。』

 

「三ヶ木、何やってんだよ。

 

 俺、お前に謝らないといけないんだ。

 

 さっさと目を開けろよ。」

 

「え、謝る?」

 

「俺、お前が大切な人だってことに気付いてたんだ。

 

 友達としてじゃない。

 

 でも、俺にはお前を傷つける勇気がなくて。

 

 大切に想うってことは、お前を傷つけることを覚悟するってことだろ。

 

 俺にはお前を傷つけて平気でいることなんてできないんだ。

 

 もう、林間学校の時のようなのは嫌なんだ。

 

 俺は、俺は俺の所為でお前が傷つく姿を見たくない。

 

 だからお前と付き合わないって。

 

 お前と付き合わなければ、そんなことにならなくて済むんじゃないかって。

 

 だけど、だけど俺は、やっぱりお前のことが・・・・・。

 

 ずっとお前に一緒にいてほしいんだ。

 

 もっともっとお前と同じ時間を過ごしたいんだ。

 

 だから目を開けてくれ。

 

 俺に謝らせてくれ。 頼む。」

 

「・・・・・比企谷君。」

 

『おねえちゃん、良かったね。』

 

「ば、ばっか。 そういうことはちゃんとわたしの目を見て言えってんだ。

 

 そしたらわたし、きっと・・・・・・・・・・・・・・もう、このヘタレ。

 

 ヘタレ、ヘタレ、ヘタレ、へタ・・・う、うううう、うわぁ~ん。」

 

「あ、それと露天風呂な、あれほんとは全部見えちゃったんだ。

 

 だって仕方ないだろう、お前、俺の目の前で体洗うから。」

 

「ん?」

 

「あ、それとバレンタインの準備の時、お前机から落ちたの助けるため抱きしめたろ。

 

 あれやっぱり最後にお前のことギュって抱きしめた。

 

 すまん、確信犯だ。

 

 なんか柔らかくていい匂いがして気持ちよかったから、つい。」

 

「・・・おい。」

 

「それと、俺、陰でお前のことジミ子って呼んでた。

 

 まぁ、実際地味なんだからいいだろ。

 

 あ、生徒会の黒幕ってあれも名付け親は俺だ。

 

 それと腹黒いとかもな。

 

 い、一色も言ってるんだからな。

 

 えっと、あとはお前見るたび、まぁなんだ、もう少し胸でかかったらなぁとか、

 

 まぁ、由比ヶ浜みたいにとは言わないが。

 

 それとそれと、お前、お尻でかいだろとか思ったりした。」

 

「ぐぐぐ、この野郎、言いたいこと言いやがって。」

 

『お、おねえちゃん、顔怖い。』

 

「さっきのわたしの気持ち返せ! ぜったいぶん殴ってやる。」

 

「それとあのな、これは絶対言わないでおこうと思ったんだが、

 

 スケートしてる時のお前、本当に妖精のようだった。

 

 まぁ、実際妖精なんて見たことないんだが。

 

 すっかり見惚れちまった。

 

 なぁ、もう一回スケート行かないか。いや、行ってくれ。

 

 だから、頼むから目開けてくれ。」

 

「比企谷君。・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿♡」

 

『美佳、もう戻ってあげなさい。』

 

「う、うん、かあちゃん。」

 

『お母さんも美紀も、ずっと美佳と一緒にいるの。

 

 美佳の心の中に。

 

 だから美佳は一人じゃない。』

 

「うん。」

 

『元気でね。

 

 あと、あの人のことお願いね。』

 

「うん。」

 

『おねえちゃん、またね。』

 

「うん、待たね。 バイバイ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

はっ、ここどこだ。

頭ん中がボ~としてて。

なんか体が重い。

瞼が重くて。

でも、なんだかだんだんハッキリしてきた。

 

「・・・・・すね。」

 

あ、舞ちゃんの声だ。

 

”がちゃ”

 

「それでは、あとよろしくです。」

 

あ、もう帰るの?

やっと瞼が開いて・・・・えっ!

 

はぁっ! な、なんで比企谷君の顔が目の前に?

な、なに、なんであんた目つぶってるの?

 

いや、近いから。 すごく近いから。

ほら息、息がかかってる。

ひ、比企谷君の鼻息が荒くて・・・こしょばい。

 

なに、なに、まだ近づいてくるの?

い、いや、くっつくって、ほら唇くっついちゃうって。

 

う、うそ、ほんとなの?

 

えー

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回、八幡への想いを告げさせる前に、オリヒロを過去からの束縛を解放したく
またしても事故にあわせてしまいました。

次話、八幡サイドです。
また読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のおわり -終わりと始まりと 中編-

すみません。 更新が大変遅くなりました。

見に来ていただいて感謝感謝です。

今回は前話の交通事故の八幡サイドです。
オリヒロが事故にあった直後からになります。

き、気が付けば17000字越え。
しかも今回もセリフばかり。
すみません、大変読みにくいと思いますがご容赦頂きたくお願いいたします。

ではよろしくお願いいいたします。


”パク”

 

「ん~、この人形焼きサイコー。 こし餡があっさりしてて超美味しい。

 

 もう一つ。」

 

”パシッ”

 

「いった~い。」

 

「蒔田、一人二個までだ。」

 

「む~、稲村先輩のけち。」

 

「ほれ、刈宿。」

 

「うっす。」

 

”ガヤガヤ”

 

「ん、なんかあったのか? あっ!」

 

「隙あり。」

 

”パク”

 

「蒔田! お前、それ俺の食べ掛け。」

 

「もぐもぐ。 あ、そんなことより、ほらあれあれ。」

 

「なんか人だかりできてるっすね。

 

 あ、救急車きてるっす。」

 

「あの~、なにかあったんですか?」 

 

「え、あ、なんか浴衣の女の子が飛び出して、車に撥ねられたんだって。」

 

「お、おい浴衣って。」

 

「ちょ、ちょっとすみま、み、美佳先輩!」

 

「三ヶ木!」

 

「う、うそ。 腕が、腕が変な向きに・・・・」

 

「み、美佳先輩!」

 

「よせ刈宿、さわるな!

 

 頭を打ってるかもしれん。 揺らすんじゃない。」

 

「君たち、この子のお知り合いですか?」

 

「「はい。」」

 

「今から、総武総合病院まで搬送します。

 

 どなたか一緒に来てもらえませんか?」

 

「俺が行くっす。」

 

「刈宿、病院着いたら連絡してくれ、頼む。」

 

「うっす。」

 

”バタン”

 

「稲村先輩、三ヶ木先輩大丈夫かな? 意識なかったみたいだし。」

 

「・・・・・・わからん。」

 

”ピーポー、ピーポー”

 

「ん、川崎さん?

 

 川崎さんどうしたんだ、そんなところに座り込んで?」

 

「あたしが、あたしがけーちゃんの手をしっかり握ってなかったから。」

 

「けーちゃん?」

 

「けーちゃんが、けーちゃんが飛び出したから、三ヶ木が、三ヶ木が。

 

 どうしょう、どうしょう、あたし、あたしが・・・あたしの所為だ。」

 

「大丈夫。 きっと三ヶ木は助かる、助かるから。

 

 ほ、ほら、あいつ結構しぶといっていうか、生命力強いっていうか。

 

 大丈夫、絶対大丈夫なんだ。

 

 だから川崎さんもしっかりして。」

 

「う、うん。」

 

「蒔田、すまん。

 

 こっち来て川崎さん達と一緒にいてやってくれないか。」

 

「は、はい。 えっと、稲村先輩は?」

 

「俺は・・・・・・・行くところがある。」

 

”ダー”

 

     ・

 

”ざわざわ”

 

「・・・・・」

 

”ドン”

 

「おわぁ、お前、そんなところで突っ立てんじゃねぇ。

 

 邪魔だろ。」

 

「・・・・・」

 

「ねぇ、大丈夫? 構わないで帰ろう。 」

 

”スタスタスタ”

 

「ちっ、なんだあいつ。」

 

「ね、あれってほらあいつじゃない?」

 

「あいつ?」

 

「ほら同じクラスだった。」

 

「あ、ああそうだ、比企なんとかってやつだ。」

 

「一人でなにしてるんだろうね?」

 

「あんなとこでボーと立ってるって、あれって振られたんじゃないか?

 

 あ、そういえばあいつ修学旅行でも振られてただろ。」

 

「あ、そうだった。 きゃは、うける。」

 

”ガヤガヤ”

 

人、増えてきたと思ったら、もう花火終わったのか。

やっぱり来なかった・・・・・か。

 

さっきの確か二年の時、同じクラスだった奴だな。

 

・・・・・・くくくくく、ふふふ、はははははは。

 

みろ、俺の図った通りの結末になったじゃないか。

これで誰が何と言おうと、俺がお前に振られたってことで決まりだ。

ちゃんと証人もいる。

まぁ、あいつらは俺が誰に振られたかまではわからないだろうが。

だが、

 

”俺はお前に振られた。”

 

三ヶ木、お前がどんな手を使おうとこの事実を変えることはできない。

ふふふ、今度ばっかりは俺の勝ちだ三ヶ木。

 

俺がいるからお前が傷つく。

それなら俺とお前の関係を壊してしまえばいい。

そうなれば、これ以上お前が傷つくことは無くなる。

これが一番の答えだったんだ。

 

なんのことはない、元々俺はぼっちだ。

いやまて、見くびってもらっては困る。

ただのぼっちではない。

ぼっち道を極めたぼっちの中のぼっち。

いわばキングオブぼっちなんだ。

 

ぼっち故に誰にも迷惑をかけず、必要以上に他人と関わらない。

人畜無害!

それがぼっち、俺だったんだ。

 

まぁなんだ、これで明日からあいつとすれ違っても、俺は平気ですれ違うことができる。

もともと何もなかったかのように。

例え、あいつが他のだれかと一緒にいても、俺は平気で、え、会釈くらいできるはずだ。

 

『比企谷君♡』

 

はっ、三ヶ木!

 

”クルッ”

 

「み、三ヶ木、お前遅かったじゃないか、ばっか、もう花火おわ・・・・・・」

 

”キョロキョロ”

 

え? 違う誰もいない、空耳? 空耳だったのか。

ははは、何やってんだ俺。

あいつが来るわけがない・・・・もう終わったんだ。

 

「比企谷!」

 

いや、空耳はもういいから。

 

”ボゴッ”

 

「ゲホッ、な、なっ、稲村。」

 

「なんでだ、お前あいつの気持ち知ってたんだろう。

 

 だったら、だったら何であいつのこともっとしっかり摑まえていてやらないんだ。

 

 だからあいつは、 」

 

「いきなり、何のことだ。」

 

「馬鹿野郎、三ヶ木が、三ヶ木が撥ねられたんだ!

 

 お前に会いにここに来る途中で車に撥ねられたんだよ!」

 

「は、はぁ? な、なに言ってんだ稲村。

 

 あいつがここに来るわけないだろう。

 

 俺はあいつに振られて 」

 

”ぐい”

 

「お前いい加減にしろよ!」

 

「ほ、本当なのか、稲村。」

 

「俺は今から病院に行く。 お前どうすんだ。」

 

「な、本当、本当なんだな。

 

 み、三ヶ木はどんな状態なんだ、無事だよな。

 

 どこだ、どこの病院だ。」

 

「状態はわからん。 とにかく俺は行く。 お前も来るなら来い。」

 

「頼む。」

 

     ・

 

”バタン”

 

「総武総合病院までお願いします。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

”ぐぅ~”

 

「わ、悪い。」

 

「比企谷、これやる。 ちょっと冷めてるけど我慢しろ。」

 

「いや、いい。」

 

「さっきは殴ってすまなかった。

 

 これはその詫びだ。 全部やるからもらってくれ。」

 

「そっか、それならもらっておく。」

 

「比企谷、刈宿が言ってたけど、お前朝からあそこで待ってたのか?」

 

「・・・・ああ、今日は朝から何も用事がなかったからな。」

 

「嘘つけ。」

 

「・・・本当だ、あの場所にいる以上に大事な用事はなかった。」

 

「そうか。」

 

「そうだ。」

 

「だが比企谷、俺はお前を認めない。

 

 あいつは、三ヶ木はお前といると辛い思いばっかりする。

 

 今日だってお前がちゃんと向き合っていればこんなことに。

 

 ・・・・・俺はやっぱりお前を認めない。」

 

「・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「刈宿、ど、どうだ。」

 

「あ、稲村先輩、電話した時のままっす。

 

 まだ手術室に入ったまま出てこないっす。」

 

「そうか。 すまない、ちょっと電話してくる。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、あんたも来たっすか。」

 

「ああ、稲村が連れてきてくれた。」

 

     ・

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし。」

 

「うぉ~い、もしもし。

 

 花火大会、誰からもお誘いなくて一人寂しく家にいる平塚で~す。

 

 ちくしょ~あの野郎、うぃっ。」

 

「先生、飲んでるんですか。」

 

「ん、稲村か、どうした?

 

 君がこんな夜中に電話って、何かあったのかね、うぃっ。

 

 あっ、ゴ、ゴホン、の、飲んでないぞ・・・・・ちょっとしか。」

 

「先生、三ヶ木が車に撥ねられたんです。」

 

「はっ、三ヶ木か? で、どんな状態なんだね。 いま病院にいるのか?」

 

「今、総武総合病院です。

 

 まだ手術室に入ったままで状態までは。」

 

「わかった。 三ヶ木の家の方には私から連絡しておく。

 

 私もそっちに向かうが、なにかあったらすぐ電話してくれたまえ。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ。 

 

 か、刈宿君、美佳、美佳はどうなんだ?」

 

「あ、まだ手術室から出てこないっす。

 

 お父さんすみません、俺が一緒にいながら。」

 

「落ち着いてからでいいから、なにがあったのか話を聞かせてくれないか。」

 

「うっす。」

 

”バタバタ”

 

「すみません、患者さんのご家族の方と、どなたかAB型の人いませんか?」

 

「美佳の父です。 どうしたんですか?」

 

「出血がひどかったので輸血しないといけないのですが、今朝の事故でAB型の輸血用

 

 血液のストックが心細いので。

 

 血液センターや近隣の病院には連絡しているんですが、まだ混乱が続いてるようなんです。

 

 幸い放射線等の設備は準備できてますので、至急院内採血をお願いしたいのですが、

 

 どなたかいらっしゃいませんか?」

 

「俺いけます。 美佳先輩と同じAB型っす。

 

 俺の血ぐらいで美佳先輩が助かるなら、一滴残らず美佳先輩に輸血して下さい。

 

 お願いっす。」

 

「そ、それではお父様とあなた、採血と輸血について説明と検査がありますので、

 

 こちらに来てください。」

 

「「はい。」」

 

     ・

     ・

     ・

 

「刈宿、大丈夫か? 顔色、すごく悪いぞ。」

 

「大丈夫っす。」

 

「明日大会なんだろ、いやもう今日じゃないか。

 

 後は俺と比企谷が残るから先帰って休め。」

 

「大丈夫っすよ。

 

 ちょっとお腹空いてるだけっす。

 

 俺、若いっすから、何か食べればすぐ元気になるっすよ。

 

 あ、手術終わったみたいっす。」

 

”プシュー”

 

「先生、美佳は、娘はどうなんですか?」

 

「左腕の上腕骨の骨折がありましたので、プレートで固定処置させて頂きました。

 

 あと、骨折の際に動脈を傷つけてますね。

 

 それと脳震盪を起こしたようですが、脳のほうは損傷はなさそうです。

 

 まぁ、場所が場所だけに精密な検査が必要ですので、

 

 お嬢さんが気が付かれたら再度検査いたしましょう。」

 

「あ、ありがとうございました。」

 

”スタスタスタ”

 

「ふぅ~」

 

”どさ”

 

「お父さん、大丈夫っすか。」

 

「あ、ああ、ありがとう、助かったよ刈宿君。

 

 でも、お父さん言うな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「は、君まだ帰らなかったのかね。」

 

「あ、あの三ヶ木、お嬢さんの様態はどうですか?」

 

「ふむ、まだ眠ったままだよ。

 

 まぁ、廊下ではなんだ、よかったら中に入りなさい。」

 

「あ、は、はい。 失礼します。」

 

「なにか飲み物を買ってこようと思ったんだが、君も何か飲むかい?」

 

「はい。」

 

”スタスタスタ”

 

馬鹿だな、お前。

なんで俺なんかに会いに来ようとしたんだ。

そんな気にならなければ、お前はこんなことにならなかったんだろうが。

馬鹿だ馬鹿、お前は馬鹿だよ。

 

・・・・・だけど、一番の馬鹿は俺だ。

俺はぼっちだとか勝手なこと言ってたけど、本当は心のどこかでお前が来てくれると思って、

いや願っていたんだと思う。

 

”ガチャ”

 

「どうだ、良く寝てるだろう。

 

 全く何もなかったように。」

 

「あ、は、はい。」

 

「コーヒーでよかったかな?」

 

「・・・は、はい。 ありがとうございます。」

 

げ、ブラック、すなわち無糖。

微糖でもなく、砂糖が無いと書いて無糖。

そしてこの闇のような黒色に彩られた色調。

う~、よ、よりによって。

 

「あ、ほら、遠慮しないで。」

 

「あ、は、はい。」

 

”ゴク”

 

ぐはぁ、に、苦い。

こ、これは飲み物なのか。

ま、まぁ日本ではその昔コーヒーは薬用として用いられていたから、これは薬だと考えれば

苦いのは当たり前なのかもしれんが。

・・・・俺の人生並みに苦い。

飲むほど脳裏に俺の黒歴史がよみがえる。

す、捨てようかな~

は、お父さん見てる。

これって飲まないとまずいよな。

 

”ゴクゴク”

 

「ふぅ~」

 

「おお、その飲みっぷり、君もコーヒーはブラック派だね。

 

 やっぱりコーヒーはブラックだよな。

 

 本当は缶でなく、紙コップの自販機探したんだが見つからなくてね。

 

 ブラック派の君には失礼だが、缶で我慢してくれ。

 

 美佳はブラックなんて苦いし薬みたいで嫌だって、たっぷりミルクと砂糖いれるんだ。

 

 まったく、甘ったるいコーヒーなんてコーヒーじゃないよな。」

 

う、否定しにくい。

そんなににこやかな顔で言われたら、マッ缶がいいとは言えん。

まぁ、マッ缶はコーヒー入り練乳だからコーヒーではない。

だから決してマッ缶を否定するものではないから。

 

「そ、そうですね。

 

 やっぱりコーヒーはブラックに限ります。」

 

「おお、よ、よし。」

 

”ごそごそ”

 

「ほらもう一本あげよう。

 

 さっき君の分買った時に当たりが出てな、さ、遠慮せずに。」

 

「あ、は、はい。 ありがとうございます。」

 

うへぇ~、

お帰りなさい無糖さん。

お願い無糖さん、佐藤、いや砂糖さんと仲良くして。

お願いします。

 

「さ、さ遠慮しないで。」

 

「は、はい。 頂きます。」

 

”カシャ”

 

う、いや~こっち見てないで。

一気だ、一気に飲み干さなければならない。

な、なるべく美味しそうに。

 

”ゴクゴクゴク”

 

「お、美味しいですね」

 

「そうか。 よし、今度我が家の近くに来た時はよりなさい。

 

 いい豆が手に入ってね。 ご馳走してあげよう。

 

 ・・・・・・えっと、ところで君は美佳の友達とかかね?」

 

「あ、すみません。

 

 総武高三年の比企谷八幡といいます。

 

 み、三ヶ木さんとは・・・」

 

なんて言えばいいんだ。

お嬢さんに振られたものです。 いや違うだろ。

それだとこんな時間までいるってストーカーじゃないか。

友達・・・・・友達といっていいんだろうか。

もし今日あいつが来てくれて、それで俺が振ることになってしまったとしても、

あいつは、三ヶ木はまだ俺のこと友達と思ってくれるのだろうか?

 

「三ヶ木さんは俺の大切な友達です。」

 

「そうか、友達か。」

 

”ペコ”

 

「ありがとう。」

 

「え? あ、は、はい。」

 

「いや、美佳は小学校の時に引っ越してから、ずっと友達がいなくてな。

 

 まぁ、私が美佳に家事とか家のこと任せてしまってたからな。

 

 友達と遊ぶ時間なんて。

 

 ん、あっ一人いた。

 

 えっと、木材屋君だったかな、友達って彼一人だったんだ。

 

 すまないが、これからもずっとこいつの友達でいてやってくれないか?」

 

「・・・・・・」

 

「ん? だめかね。」

 

「い、いえ、三ヶ木さんが望むなら、俺は友達でいます。」

 

そうだ。

俺はあいつが望んでくれるなら友達でいよう。

あいつが望んでくれる限りずっとこれからも。

だが、もしそれであいつが傷つくことになるのなら、俺は・・・。

 

「そうか、ありがとう。

 

 は、それよりもうこんな時間だ。

 

 家の人には連絡したのかね。」

 

「はい、先ほど。」

 

小町が起きててくれてよかった。

多分、親父達もう寝てるだろうからな。

だが。

 

『・・・み、美佳さん大丈夫かなぁ?』

 

『まだわからん。 すまんが親父達には 』

 

『大丈夫だよ。 

 

 お父さん達には、お兄ちゃん今日友達のところ勉強しに行ってるって言ってあるから。』

 

『そ、そうなのか、友達ってそれで納得したのか?

 

 まぁいい、ありがとうな小町。』

 

『うん。 お礼は現物でね、お兄ちゃん。』

 

『お、おう。』

 

はぁ~、なにねだられるだろ。

今月厳しいんだよなぁ。

フィギュア、結構高かったからなぁ。

あとラノベの新刊出るし。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スー、スー”

 

「ん、比企谷君、寝てしまったのか。

 

 なにか掛けるもの掛けるものっと。」

 

”バサ”

 

「ん~、しかしこの顔、どこかで見た覚えがあるんだが。

 

 どこかどこかで、ん~。

 

 ・・・・・あっ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ん、はっ、朝。

しまった寝てしまった。

み、三ヶ木は?

 

「・・・・」

 

まだ、目を覚まさないのか。

もうとっくに麻酔きれているよな。

 

”ガチャ”

 

「ああ、起きたかね比企谷君。 お早う。」

 

「あ、お、お早うございます。

 

 すみません、俺。」

 

「いや、それよりお腹空いただろう、パンとコーヒーどうだ?」

 

「あ、い、いただきます。」

 

げ、ま、また無糖。

パンは、サンドウィッチか。

あんパンじゃないのか。

う、甘いものがほしい。

 

”ゴク”

 

ぐ~、に、苦い。

またしても脳裏にトラウマが。

俺、数時間で何回人生繰り返してんだ。

 

「比企谷君、それを食べたら、お家に帰りなさい。」

 

「あ、いや、俺は 」

 

「ありがとう。 その気持ちだけで十分だよ。

 

 ご両親も心配するといけない。

 

 一度家に帰りなさい。」

 

「は、はい。」

 

”パクパク”

 

「ところで、比企谷君。」

 

「はい。」

 

「君、少しはスケートうまくなったかね。」

 

「え、スケート?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あっ、お兄ちゃん、もう病院行くの? 」

 

「まぁ、俺にできることってこれぐらいなもんだからな。

 

 三ヶ木はいつも俺のそばにいてくれるって言ってくれてたんだ。

 

 こんなときぐらい、俺はあいつのそばにいてやりたい。」

 

「そっか。 あ、あとから小町も行くからね。」

 

「おう、待ってる。」

 

”ガチャ”

 

ん~、だけど気が重い。

あの後、さんざんお父さんに聞かれたからなぁ。

 

『君、さっきは美佳と友達と言ったね。

 

 本当はどうなんだ。』

 

『え、あ、い、いや、その』

 

『パンとコーヒー美味しかったかい?』

 

『は、はい。』

 

『そうか。 で、どうなんだ。』

 

『す、すみません、し、親しくさせて頂いてます。』

 

『ほう~親しくね。

 

 で、キスとかしたのか?』

 

『い、いえ、う、腕を組んだりとか、その・・・・・』

 

『貴様! 親の了解も取らずに人の娘と腕を組んだというのか!』

 

『あ、いえ、す、すみません、あ、あとからまた来ます。

 

 し、失礼します。』

 

”ガチャ”

 

ふ~、三ヶ木、早く目覚ましてくれないかなぁ。

もし、腕組んだ以外のこと知られたら・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

「あんまりお邪魔したらご迷惑よ。

 

 そろそろお暇しましょう由比ヶ浜さん。」

 

「う、うん。

 

 美佳っち、早く目を覚まして。

 

 また、女子会やるんだからね。

 

 今度こそ、あたしがお料理作る番だからね。

 

 それで、またみんなでヒッキーの悪行追求しようね。」

 

「おい、お前らどんな話してるんだ。」

 

「それは秘密。

 

 ヒッキー、ヒッキーはどうするの? 一緒に帰らない?」

 

「あ、ああ、俺はもう少し残ろうと思う。

 

 こうなったことに俺も責任があるんだ。

 

 まぁ、あとから小町も来るっていうしな。」

 

「ねぇ、ヒッキー、ヒッキーは・・・・・・

 

 うううん、何でもない。

 

 それじゃ、今日は先帰るね。

 

 美佳っち、また明日来るからね。

 

 明日はいっぱいおしゃべりしようね。」

 

「それでは比企谷君、お父様戻られたらよろしく言っておいていただけるかしら。」

 

「ああ、わかった。 

 

 お前らも気をつけてな。」

 

”ガチャ”

 

「ええ。 それじゃあね、三ヶ木さん。」

 

「じゃあね、ヒッキー、美佳っち。」

 

「おう。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木さん、大丈夫かしら。」

 

「あ、う、うん。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「由比ヶ浜さん、どうしたのさっきから。」

 

「え、あ、うううん。 何でもない。」

 

「そう。」

 

「あ、あのさ、ゆきのん。

 

 ヒッキー残ってるの、責任感じてるからだけなのかなぁ。」

 

「少なくとも、彼はそう言ったわ。

 

 まぁ、あと小町さんが来るからって。」

 

「う、うん。 でもなんか違うの。

 

 病室でさ、ヒッキーが美佳っちを見つめてる時の目って、

 

 なにかこう、う~ん、うまく言えないんだけど今までと何か違う。」

 

「つまり、比企谷君がまだ残っているのは責任を感じてるだけでなく、

 

 他の感情、つまり三ヶ木さんに何か思ってるところがあるんじゃないかって言いたいのかしら?

 

 でもそれは今までも時折 」

 

「違うの! 何か今までと違うの。

 

 あたしわかる。」

 

「だったら、すぐ戻らないといけないわ。」

 

「え?」

 

「あの男が劣情して、動けない三ヶ木さんの身になにかあったら大変だもの。」

 

「ち、違うからゆきのん。」

 

「え? そ、そう。

 

 そうね、あの男にはそんな度胸はないわね。」

 

「あのね、もしかしたらヒッキー、美佳っちのことが 」

 

「え?」

 

「美佳っちのことを好きになっちゃったんじゃないかって。」

 

「・・・・友達としてではなく?」

 

「うん。

 

 あのね、あたし思ったの。

 

 あたしね、ヒッキーが入院した時、一度病室の前まで行ったことがあるんだ。

 

 でもなんでだろう、病室に入ることができなかった。

 

 結局頭の中でいろいろ考えちゃって、もう一歩が踏み出せなかったの。

 

 それは文化祭の時も修学旅行の時もそう。

 

 そしてね、この前の林間学校の時もそうだった。

 

 あの時、あたしはヒッキーがゆきのんやいろはちゃんの言うことに納得したと思った。

 

 ああ良かったヒッキー納得してくれたって思っちゃたの。

 

 うううん、思い込みたかったのかもしれない。

 

 でも、違ってた。

 

 結局、ヒッキーの思いわかってたのは美佳っちだけだった。

 

 うううん、わかってただけじゃない、ヒッキーのために自分を犠牲にして。

 

 美佳っちはすごいよ。

 

 一歩どころか 十歩もニ十歩も踏み出しちゃうんだよ。

 

 だからヒッキーもそんな美佳っちのことが・・・・・好きになっちゃたんじゃないかって。」

 

「そう。 

 

 それであなたはどうしたいの?

 

 あきらめるの?」

 

「うううん、あたしは、あたしもヒッキーが好き。

 

 でもいまのままじゃ美佳っちに勝てない。

 

 あたし、変われたつもりでいたのに、ちっとも変わっていなかった。

 

 だからあたし変わる。

 

 もっとヒッキーのこと理解して、考えてることわかるように努力して、

 

 そして自分のことよりヒッキーのことを 」

 

「よしなさい、由比ヶ浜さん。」

 

「え? だって。」

 

「あなたがそんなことをしても三ヶ木さんには勝てないわ。

 

 それに、そんなあなたを比企谷君は好きになるのかしら?

 

 あなたが三ヶ木さんの真似をしたって、それは所詮偽物でしかないわ。

 

 それこそ比企谷君が最も嫌うものでなくて。」

 

「で、でも、ゆきのん。」

 

「あなたはあなたのままでいいの。

 

 あなたは相手のことを思いやれる優しさと強さを持っている。

 

 それは私も三ヶ木さんも持っていないもの。

 

 私はそんなあなたに憧れてたの。

 

 恐らく比企谷君もそんなあなたに惹かれていると思うの。

 

 だから、あなたはあなたのままで、比企谷君にあなたの想いをぶつけていきなさい。」

 

「ゆきのん。

 

 はっ、ゆ、ゆきのんは?

 

 ゆきのんはどうするの?」

 

「私は、私はもう一度、自分自身の気持ちを確かめてみたい。

 

 彼に対する気持ちがそういう気持ちから来てるものなのか、それとも別の他のものなのか。」

 

「ゆきのん。」

 

「勘違いしないで。 これはハンディよ、ハンディキャップ。

 

 そうでないと勝負にならないのではなくて?」

 

「ひど~い、ゆきのん。」

 

”だき”

 

「由比ヶ浜さん、暑苦しいわ。 離れてくれないかしら。」

 

「えへへ、ゆきのん。」

 

「でも、でもね由比ヶ浜さん。」

 

”なでなで”

 

「今はおよしなさい。

 

 今の比企谷君は三ヶ木さんの怪我のこととでいっぱいいっぱいだから。

 

 きっと取り付く暇もないわ。

 

 それにそんなの卑怯でしょう。

 

 だから、今は三ヶ木さんが元気になることを願いましょう。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「失礼しまっすって、あんたいたのか。」

 

「ああ。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・なぁ、美佳先輩、あれからも目覚まさないのか?」

 

「・・・・・そうみたいだ。

 

 医者は検査しても何も異常はないって言うんだがな。」

 

「そっか。」

 

「それよりお前、今日テニスの大会だったよな、もう試合終わったのか?」

 

「・・・・・優勝した。」

 

「お前すごいな。」

 

「・・・・・うそだ。 一回戦で負けた。」

 

「そ、そうか。」

 

「美佳先輩には絶対言うなよ。

 

 俺の実力がなかっただけだから。

 

 美佳先輩のことだ、負けたのは採血した所為だって決めつけちゃうからな。

 

 一度決めつけると頑固だし。」

 

「そうだな。」

 

そうだ、三ヶ木なら絶対そう思い込む。

こいつもこいつなりに三ヶ木のことよく見てたんだな。

こいつが三ヶ木と過ごした時間。

こいつしか知らない三ヶ木もいるんだろうな。

 

・・・・・イラつく。

なんだこのイライラする気持ちは。

俺は知りたいのか、三ヶ木のこと全て知り尽くしてそれで安心したいのか。

・・・・・気持ち悪い。

 

「俺はもっと強くなる。 テニスも他のことも全て。

 

 いつか頼ってもらえるように。」

 

「頼ってもらう?」

 

「何でもない。」

 

”ガチャ”

 

「あ、刈宿君、来てくれてたのか。 」

 

「あ、はい、お父さん。」

 

「お父さん言うな!」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「すみません。

 

 それじゃ俺も飯食べてきます。」

 

「ああ。 気にせずゆっくりしてきなさい。」

 

「は、はい。」

 

「あ、俺も行くっす。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・なぁ、あんたあの時のあれって、本気じゃなかったんだよな。」

 

「あのとき?」

 

「ラブホテルの時だ。 

 

 本気で美佳先輩を連れ込もうと思ってなかったんだろ。

 

 あんた何であんなことしたんだ。」

 

「三ヶ木は俺なんかが傷つけていい女の子じゃないんだ。」

 

「だから無理矢理に嫌われて振られようとしたってことか。」

 

「お、お前、なんで。」

 

「ち、まったく、美佳先輩言う通りじゃないか。」

 

「え?」

 

「あんたの考えてることなんて、美佳先輩は全てお見通しなんだよ。

 

 花火大会の時に美佳先輩言ってたよ、あんたのことだから自分が振られれば

 

 美佳先輩が傷つかないって思ってんだって。

 

 それでまた自分を傷つけるようなことしたんだって。」

 

「あ、いや、それはだな 」

 

「それとな、言いたくねぇけどな。

 

 美佳先輩、あんたに振られることわかってから、あんたのこと一生懸命忘れよう

 

 としたんだとさ。

 

 でもあんたのことがどうしても忘れられなかったってさ。

 

 だから、俺だけじゃない、もう誰とも付き合わないってさ。

 

 あんたを忘れられるまで。」

 

「・・・・誰とも付き合わない。」

 

「全く世話にかかる人たちだよ。

 

 周りの迷惑なにも考えなくてさ。

 

 で、あんたはどうするんだ?」

 

「俺は・・・わからない。」

 

「あんた、あんた何で朝からあの場所で待ってたんだ。

 

 わからないってもうそれが答えじゃないか。」

 

”ぐぃ”

 

「おい、言っておくぞ!

 

 もし、また美佳先輩を泣かすようなことがあったら、

 

 今度は絶対に俺が美佳先輩をもらうからな。

 

 美佳先輩が嫌がろうが、力ずくでもお前から奪ってみせる。

 

 わかったな。

 

 だから・・・・・・・・・美佳先輩を頼む。」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”プシュー”

 

これでよかったかなぁ

小町、俺にはハードルが高すぎるんだが。

 

『お兄ちゃん、お見舞いって何も持たないで行ったの!

 

 もう、何やってるだろうこの人は。

 

 小町恥ずかしくてもう行けないよ。

 

 明日は絶対花束ぐらい持って行くこと、わかったお兄ちゃん!』

 

昨日家に帰ってから、散々、小町になじられた。

いやまて、俺にも言い分がある。

三ヶ木はまだ目覚まさないし、俺が入院した時なんか誰もお見舞いにきてくれなかったろ。

だからそこまで気が回らなかったんだけど。

でも、まぁ小町の言う通りだろう。

しっかし、花なんて買ったの小学校以来だ。

 

”ドン”

 

「おわっ」

 

「あ、す、すみませんって、比企谷。」

 

「かわご、川崎じゃないか。」

 

あぶなかった。

この前くぎ刺されたからな。

いい加減にしないと殴るよって殴られてから。

また調子に乗って川越とかいったら、即殴られるから。 

 

「お前、お見舞いに・・・・・なんだ病室わからなかったのか?」

 

「あ、うううん、病室はわかってるけど。」

 

「昨日も来たよな。」

 

「え、あ、でもなんで。」

 

「後ろ姿見かけた。」

 

「そ、そう。」 

 

「何で病室に入らないんだ。」

 

「入らないじゃなくて入れない。

 

 看護師さんに聞いたんだけど、三ヶ木、まだ目を覚まさないって。

 

 あたし、あたし、どんな顔して三ヶ木に、三ヶ木のお父さんに会えばいいのさ。

 

 ううううう。」

 

「来い、いくぞ。」

 

”ぐぃ”

 

「え? あ、ちょ、ちょっと比企谷。」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ねぇ比企谷。」

 

「今行かないとお前絶対後悔するぞ。

 

 それだけじゃねぇ、お前三ヶ木と友達でいれなくなる。

 

 それでもいいのか。」

 

「あたし、あたしは嫌だ。

 

 三ヶ木と友達でいたい。」

 

「それでいい。」

 

     ・

 

「ちょ、ちょっと待ってね比企谷。

 

 深呼吸するから。」

 

「どうしてですか!

 

 なんでそうなるんですか!」

 

「「え?」」

 

今のお父さんの声だよな。

あのおとなしそうなお父さんが。

いったいどうしたんだ?

誰に怒鳴ってるんだ?

 

「何で昏睡状態からもどらないんだ。

 

 それに植物人間ってなんだ!

 

 あんた、どこも異常ないって言ったじゃないか。」

 

「お父さん、落ち着いて。

 

 も、もう少し詳細な検査しましょう。」

 

「はっ、す、すみません先生。

 

 この子しか、私にはもうこの子しかいないんです。

 

 お願いします、お願いします。」

 

「いえ、いいんですよ。

 

 わたしの言い方も悪かったのですから。

 

 あとから、今後の検査についてご説明させていただきます。

 

 お父さん、一緒に頑張りましょう。」

 

「は、はい。」

 

”ガチャ”

 

「あ、君か。 お父さんをよろしくね。」

 

「先生、植物人間って。」

 

「あ、やっぱり聞こえていたかね。

 

 最悪の可能性の一つとしてだよ。

 

 私の説明の仕方が悪かったようだ。」

 

「先生、三ヶ木をよろしくお願いします。」

 

”ペコ”

 

「ひ、比企谷、三ヶ木が植物人間って、あたし、あたし。」

 

「大丈夫だ、あいつは絶対大丈夫だ。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

三ヶ木なんで目覚まさないんだ。

お前寝ている間に、今日も由比ヶ浜や雪ノ下、一色とかみんなお見舞いに来てくれたぞ。

みんな心配してたぞ。

ほら見てくれ、俺が持ってきた花束だ。

花屋で花買うのなんて、小学生の母の日以来だぞ。

 

なぁ、医者は異常はないって言ってたじゃないか。

それなのに何で目覚まさないんだ。

頼む、頼むから目覚ましてくれ。

俺、お前と話したい。 いっぱいいっぱい話したいんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「また明日来させてもらいます。」

 

「あ、ああ。ありがとう比企谷君。

 

 君も受験生なんだから、あまり無理しないようにね。」

 

「はい。

 

 三ヶ木、また明日な。」

 

”スタスタスタ”

 

「先輩。」

 

「おわっ、な、なんだお前まだいたのか。」

 

「なんですか、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!

 

 そんなことより美佳先輩どうでした? 目を覚まされました?」

 

「いや、まだだ。」

 

「そうですか。 先輩、美佳先輩大丈夫かなぁ。」

 

「医者は何も異常はないって言ってんだ。 絶対大丈夫だ。」

 

「じゃあ、何で目覚まさないんですか!

 

 ずっと目を覚まさないじゃないですか!」

 

「いや、俺にもわからん。」

 

「ご、ごめんなさい。

 

 わたし、こんなの、こんなの嫌なんです。

 

 折角、書記ちゃんと相談してこれからのことちゃんと考えたのに。」

 

「・・・・一色、それ、その手に握ってるのって。」

 

「これ美佳先輩に渡そうと思って、思いっ切り嫌味言って渡そうと思ったのに。」

 

「それじゃ、一色。」

 

「は、はい。

 

 それなのに、それなのになんで・・・・・・・・

 

 先輩、美佳先輩、もしかして目を覚ましたくないのかぁ。」

 

「なぜそう思うんだ。」

 

「美佳先輩、ずっと亡くなったお母さんと妹さんに会いたがってたから。」

 

「お前にそんなこと言ってたのか?」

 

「いえ、園長院生に聞いたんですよ。

 

 ほら、この前の七夕に保育所にみんなで行ったじゃないですか。

 

 その時聞いたんですよ。

 

 美佳先輩、何年も七夕の短冊にお願いしてたって。」

 

「七夕? ああ、この前の保育所のか。 そ、そうか。」

 

「だからもしかして美佳先輩、お母さんと妹さんに会ってるんじゃないかって。

 

 そしたら、もしそうだったら美佳先輩もう戻ってこないんじゃないかって。」

 

「一色!」

 

「は、ご、ごめんなさい。

 

 でも、でもわたし、わたし、ずっとそんなことばっかり・・・・・・・

 

 先輩、わたし怖い、怖いです。」

 

”だき”

 

「い、一色。泣いているのか?」

 

”なでなで”

 

「大丈夫だ一色。

 

 あいつは絶対戻ってくる。

 

 一色や書記ちゃん、本牧、稲村、それにみんながこれだけ心配してるんだ。

 

 必ず戻ってくる。」

 

”キュン”

 

「せ・ん・ぱ・い♡」

 

「さ、帰ろう。

 

 家まで送ってやる。」

 

「は、はい。」

 

「あれ?」

 

「え、ど、どうしたんですか?」

 

「いや、お前、いつもなら俺振られてるはずなんだが。」

 

「こんな時に、そんな余裕あるはずないじゃないですか!

 

 わたしを何だと思ってるんですか!」

 

「す、すまん。」

 

「はい、罰です。」

 

「え、手?」

 

「わたしを傷つけた罰です。

 

 家まで手を繋いで頂きます。」

 

「い、いや断る。 そんな恥ずかしいことでき 」

 

”にぎ”

 

「お、お前。」

 

「ほら行きますよ♬」

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

「あ、比企谷。」

 

「お、おう。」

 

「お前今日も来たのか?

 

 受験勉強のほうは大丈夫なのか。」

 

「いや、それならお前もだろう。

 

 お前の場合、文化祭の準備とかもあるんじゃねえか。」

 

「なめんな、俺は数学学年十傑だ。」

 

「そうか、それならいい。

 

 ちなみに俺は国語学年3位だ。」

 

「・・・・・お、俺はお前が嫌いだ。」

 

ふふん。勝った。

ま、他の教科も含めるとお前のほうが上だろうけどな。

す、数学なんて俺捨ててるから。

 

「お、おい、稲村。」

 

「ん? あ、あれお父さんじゃないか。」

 

「ううううう、何でなんであの子が。 なんでなんだ。

 

 あの子が何をしたっていうんだ。

 

 一生懸命、美緒の代わりに俺を支えてくれて。

 

 本当にいい子なんだ。

 

 神さん、いるんなら答えてみろ。

 

 なんであの子をこんな目に合わせるんだ。

 

 くそ、くそ、くそ。

 

 なあ、美緒、俺もう疲れたよ。

 

 このまま美佳と一緒にお前のとこ行ってもいいか・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「な、なぁ、比企谷、お父さん励ましに行くぞ。」

 

励ましか。

・・・・なぁ稲村、お前どんな言葉で励まそうというんだ。

お前にお父さんの気持ちわかるのか?

俺にはわからない、わかりようがない。

 

三ヶ木とお父さんは同じ悲しみを分かち合って、いままでずっと一緒に歩いてきたんだ。

それほど、お父さんと三ヶ木の絆は固いんだ。

それなのに、さも気持ちがわかるような気で慰めの言葉を繕ってもそれは欺瞞だ。

自己満足じゃないのか。

 

そんな言葉では一瞬の気休めになるかもしれんが、それではお父さんの悲しみは救えない。

 

・・・・・・

 

そうなんだ。

今お父さんに必要なものは慰めの言葉なんかじゃない、怒りだ、怒りの矛先だ。

人は誰かを恨むことによって、生きる気力が湧いてくるんだ。

今の辛さ悲しみを、誰かへの恨みに変えることにより、お父さんは救われるんだ。

 

今回の場合に問題なのは、その恨みを向けられる相手がいないことなんだ。

誰が悪い、誰を恨めばいい。

 

車の運転手か?

いや、今回は三ヶ木が飛び出したことが原因だ。

正直お父さんには悪いが、避けようにも避けられなかったのじゃないかと思う。 

それに民事、刑事罰を負わされることになるはずだ。

だからこれ以上怒りの矛先にできない。

 

ならその飛び出す原因となったけーちゃんか。

川崎によると、けーちゃんはあれ以来塞ぎこんで、一日中部屋に閉じこもっているようだ。

もう、これ以上、なにを責めようというんだ。

 

ならけーちゃんの手をしっかりつないでいなかった川崎が悪いというのか。

川崎もずっと手をつなぎっぱなしでいられるものでもなかろう。

あの時も、弟と妹へのお土産で手がいっぱいだったらしい。

それに自分のせいで親友が事故にあったと思い込んで苦しんでいる。

川崎も十分苦しんでいるんだ。

 

なら、だれをうらめばいい。

花火大会の主催者か? 車を作った会社か? は、花火を発明したやつか?

 

・・・・・・いや、いるじゃないか。

 

当事者の一人でありながら、なんの罰も受けずのうのうとしてる奴。

それだけじゃない、勝手に被害者側の人間ですってぬけぬけと三ヶ木のそばにいる奴。

 

そうだ、そいつにすべての恨みを罪を負わせればいい。

いや、そいつが負うべきだ。

だから。

 

「おい、稲村。

 

 すまん、一生の頼みがある。

 

 嫌とは言わせん。聞いてくれないのなら俺を殴ったことを一生許さない。」

 

「いや待て、お前人形焼き食ったじゃないか。

 

 まぁいい、なんだ言ってみろ。 」

 

     ・

 

”ガチャ”

 

「お早うございます。」

 

「あ、ああ、今日も来てくれたのかね、比企谷君。」

 

「はい。」

 

「あ、それと稲村君だったね。」

 

「・・・・・はい。」

 

「ありがとう。 でも君たち受験生だろう、勉強のほうは大丈夫かね。」

 

「・・・・そ、そうなんですよ実際。

 

 俺なんて、たまたま一人で花火見てただけなのに、こいつになんかわけのわからないまま

 

 病院に連れてこられて。

 

 それだけでも迷惑なのに、俺が三ヶ木と親しかったからって、

 

 三ヶ木が目を覚ますまでずっといろって参っちゃいますよ。

 

 おい稲村、お父さんが言った通り俺も受験生なんだから、そんなに付き合ってられねえんだ。

 

 悪いけど、今日限りにしてもらうからな。」

 

「・・・・・お、お前が三ヶ木に会いたいって言ったんだろ。」

 

「いや確かにだな、俺は日本庭園のところで待ってるって言ったけどよ。

 

 三ヶ木にいますぐ会いたいって言ったけど。

 

 誰も事故に遭えなんていってないからな。

 

 まぁ俺が呼ばなければあの場所にはいかなかったけどさ。

 

 俺が呼ばなければ事故にも遭わなかった・・・けどさ。

 

 だから俺のせいにされてもこまるんだよな、稲村。」

 

「・・・・・」

 

「稲村。」

 

「・・・・・・・・そ、そうだ。」

 

「お、おい、はっきり言ってくれよ。

 

 俺が三ヶ木を呼びつけた。 だからって俺のせいじゃないって。」

 

「・・・・・・」

 

「ちっ!  お、お父さん、そういう訳なんで。

 

 俺が三ヶ木に会いたいって呼んだからって、それであいつが慌ててあの場所に行ったからって、

 

 別に俺の所為でこうなったんじゃないんで。

 

 だから 」

 

「もうやめてくれ比企谷!」

 

「稲村。」

 

”ガチャ”

 

「まったく、あんたらなにやってんだ。

 

 あっ、お父さんブラックでよかったすね。」

 

「あ、ああ、刈宿君ありがとう。

 

 だけど刈宿君、君の言った通りだね。」

 

「そうっすよ。

 

 まったく、こんなことばっかりやってるそうなんですよこの人。

 

 俺、さんざん美佳先輩にのろけられましたから。」

 

「え? か、刈宿、いや刈宿君なんのこと言ってるのかなぁ~」

 

「まったく、稲村先輩もなにやってんすか。

 

 事故のあらましは全て俺が話したっす。

 

 それとお父さんに聞かれてあんたのことも洗いざらい。

 

 美佳先輩ののろけ話付きで。」

 

「比企谷君! 君は大人をなめてるのかね。

 

 君はまだまだ人生の苦さの経験が足りんようだ。

 

 大人を騙そうとした罰だ、これを飲みなさい今すぐ全部。」

 

「げ、む、無糖さん。」

 

無糖さん、今日も砂糖さんと一緒じゃないのね。

し、しかもボトル缶、大きくなられて。

 

”ぐぃ”

 

「さ、さぁ。」

 

「あ、い、いや、お、お父さん、人生少しは甘いほうが。」

 

「稲村先輩。」

 

「おう。」

 

”ギュ”

 

「は、離せ稲村。 馬鹿やめろ!」

 

「あんたは往生際が悪いっす。」

 

”ゴクゴク”

 

「ぐはぁ、に、苦げぇ。」

 

「「あははは。」」

 

「すまんな比企谷君、稲村君も。

 

 なんか気を使わせてしまったようだ。

 

 私は大丈夫だよ。

 

 ありがとう。」

 

「は、はい。」

 

「あ、でもみんな、お父さんって言うな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いくら検査しても脳には異常ないんです。

 

 う~ん、兎に角、もうしばらく様子を見ましょう。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「あ、お父様、下に保険会社の方が見えてらっしゃいますがどうされますか?」

 

「わかりました。」

 

”ガチャ”

 

なぁ、三ヶ木、三ヶ木戻って来いよ。

何してんだ。 さっさと目開けろよ。

お父さんも結構無理してるぞ。

俺達には大丈夫だって言ってるけど、今朝見かけた姿はとても見ていられなかった。

それに、目の下めっちゃくちゃクマ出てる。

全然寝てないんじゃないか。

 

なぁ、一色が言ってた通りなのか?

お前、そっちでお母さんと妹さんにあってるのか

もう帰ってこないなんて言わないよな。

帰らないなんて、そんなの俺が絶対に許さないからな。

 

三ヶ木、何やってんだよ。

 

俺、お前に謝らないといけないんだ。

さっさと目を開けろよ。

 

俺、お前が大切な人だってことに気付いたんだ。

友達としてじゃない。

 

でも、俺には傷つける勇気がなくて。

 

大切に想うってことはお前を傷つけることを覚悟するってことだろ。

俺にはお前を傷つけて平気でいることなんてできないんだ。

林間学校の時のようなのはもう嫌なんだ。

 

俺は、俺は俺の所為でお前が傷ついている姿を見たくない。

 

だからお前と付き合わないって。

お前と付き合わなけば、そんなことにならなくて済むんじゃないかって。

 

俺は、お前のことが・・・・・

 

ずっとお前に一緒にいてほしんだ。

もっともっとお前と同じ時間を過ごしたいんだ。

 

だから目を開けてくれよ。

俺に謝らせてくれ。 頼む。

 

     ・

 

なぁ、俺は決めたんだ。

 

お前が目を覚まさしてくれたら、俺はお前の想い全て受け止める。

もう絶対逃げない・・・・・・ようにする。

あの~努力するから。

 

言っておくが、この決心の有効期限はちょ~短いからな。

だから早く目を覚まさないと、期限切れちまうんだからな。

 

”にぎ”

 

ふふ、なぁ、前から思ってたんだが。

お前の手、相変わらずガサガサだな。

まったく、女の子なんだからハンドクリームつけるとかもっとケアしろよ。

 

でもな、俺この手がわりと好きなんだ。

お前の手握る度にな、ああ、お前のこの手で毎日家事してるんだよなって実感する。

お前は頑張ってんだなって。

ご飯作って、洗濯して、掃除して、裁縫してるんだって思うんだ。

あ、多分勉強もしてるよな。 恐らく。

 

本当に働き者の手だ。

だからこうやって握ってるとなんか優しい気持ちになれる。

俺はこの手が好きだ。

はっ、もしかして。

 

”すりすり”

 

・・・・・やっぱりだ。 こうやって頬にすりすりするとなんとも。

 

”ガチャ”

 

「失礼しま~す。 三ヶ木先輩?

 

 はっ、変態だ。」

 

「あ、い、いや、ち、違うんだ、蒔田。

 

 こ、これはなんでもないぞ。

 

 た、頼む、ナースコール鳴らさないで。」

 

”ジトー”

 

「いや、そんな目で見ないで。」

 

「ま、まあ、いいですけど、知ってましたから。」

 

「いや、な、なにをだ?」

 

「まぁ、いろいろとです。

 

 そんなことより、どうですかジミ子先輩?」

 

「まだ、目を覚まさないんだ。」

 

「え、そうなんですか。

 

 でも、もう三日目ですよね。 心配ですね。」

 

”ぴく”

 

「ん?・・・・・あっ。」

 

「どうした? 蒔田。」

 

「あ、いえ。

 

 ん~・・・・・・・・そうだ、えへ。」

 

「お、おい?」

 

「ねぇ、備品先輩知ってます?

 

 女の子って不思議なんですよ。

 

 とっても大好きな人にキスされると、なんか不思議な力が湧いてくるんですよ。

 

 もしかしたらその不思議な力で、ジミ子先輩が目を覚ますかもですよ。」

 

「お前それ眠れる森の美女からもってきてるだろ。

 

 それにあれは不思議な力じゃない。

 

 ちょうど呪いの有効期限が切れたからお姫様は目を覚ましたんだ。

 

 王子がキスしたからでは断じてない。

 

 たまたまだ。」

 

「ちっ、知ってたのか。

 

 でもそれって確か民話かなんかでしょ。

 

 何か元ネタにあったんじゃないかとわたし的に思うんですよ。

 

 だから、もしかしたらもしかするかもですよ。」

 

「いや、もしかしないって。」

 

「備品、いえ比企谷先輩。

 

 先輩は三ヶ木先輩がこのままでもいいんですか。

 

 このままず~と目を覚まさなくてもいいって思ってるんですか!

 

 はっ、目覚まさなければさっきみたいなことできるからって、この変態。

 

 この際、例えデマでも噂話でもいいじゃないですか。

 

 本当に三ヶ木先輩が大切って思うのなら、出来ることは何でもするのが

 

 当たり前じゃないですか!

 

 本当に、本当に大切に思ってるんですか!」

 

「お、おい。 そんなに興奮するなって。

 

 それに変態って言わなかった?」

 

「あっ、備品先輩、わたし大事な、とっても大事な用事を思い出しました。

 

 じゃ、わたし忙しいので帰りますね。」

 

”ガチャ”

 

「それでは、あとよろしくです。」

 

”スタスタスタ”

 

「良かった、良かった、良かったよ。

 

 本当に心配してたんだから。

 

 ジミ子先輩、今日は邪魔しないように帰りますね。

 

 あ、でも貸し一つですから、そこんところよろしくです。

 

 さてと、学校行って稲村先輩でもからかってこよっと。 ルンルン♬」

 

     ・

 

な、なんなんだったんだ、あいつ。

今来たと思ったらすぐ帰りやがって。

お、俺変態じゃないからな。

ちょっとした気の迷いだ。

 

それにしてもキスをすれば目を覚ますか・・・そんなわけないだろう。

そんな都合よくいくかっての。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも。

 

で、でも、もし俺ができることでお前が目覚ましてくれるんなら。

俺はデマでも噂話でも何でもすがりたい。

だから、俺は・・・・・・・・・

 

俺はお前にキスをする!

 

はっ、その前に。

 

”ガチャ”

 

蒔田いないよな。

あいつ、なんか最近三ヶ木に似てきて怖いからな。

よ、よし。

 

三ヶ木、覚悟しろ。 俺は今からお前に、キ、キスをする。

で、でも勘違いするな。

これは好きとか好きとか好きとかじゃなくてだな。

 

俺は、お前ともう一度話したいんだ、いっぱいいっぱい話があるんだ。

ちゃんと謝りたいんだ。

だからだ。

 

”そ~”

 

やば、三ヶ木の唇、ぷるるんって柔らかそう。

はっ、ばっかなに言ってんだ俺。

 

はぁ、はぁ、はぁ。

落ち着け、落ち着け俺。

あ、そうか顔見てるから余計なこと考えるんだ。

これだけ近づけば目を瞑っても。

よ、よし、す、するぞ。

 

・・・三ヶ木。

 

”そ~”

 

本当は俺、お前が・・・・す

 

”ガチャ”

 

「美佳、大丈夫! 

 

 え? あ゛ー! ご、ごめん比企谷君、美佳。

 

 お邪魔しました!  ごゆっくり。」

 

”ガチャ”

 

「「え!!」」

 

「は! はぁ~、お、お前、目覚ましてたのか!

 

 いつから、いつからだ。」

 

「い、いや、ちが、違うから。 いま目開けたら比企谷君が。

 

 あ、あんたこそ、なにしようとしたのよ!

 

 この変態、どスケベ、エロ八幡!」

 

「い、いや、エロ八幡はやめろ、変態も。

 

 こ、これには、深~い訳があるんだ。

 

 け、決してやましい気持ちは・・・・・・これぽっちしか。

 

 は、そ、そんなことより、今のめぐり先輩。

 

 め、めぐり先輩、ち、違う、ご、誤解だ、待ってください。」

 

”ダ―”

 

「お、おい、誤解なのかよ、今の何かの誤解なの?

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、めぐねぇのばか。」

 




最後までありがとうございます。

こんな長文、ダラダラとなりすみません。
大変読みにくかったと思います。(反省です)
来年はもう少し読みやすく書ければと思います。

少し早いですが、今年も一年、こんな駄作にお付き合いいただき
ありがとうございました。

いろんなご感想いただき、ありがたかったです。
頂いたご意見を無駄にしない様、生かしていきたいと思います。

また来年、よろしくお願いいたします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のおわり -終わりと始まりと 後編-

見に来て頂き、ありがとうございます。

今更ながら、新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
(す、すみません、もう1月・・・・・・・)

更新、大変遅くなりました。
今回夏物語編最終話ってことで、いろいろ書いてて気が付いたら、
ごめんなさい、25000字って。
2回分にわければよかったと猛反省しています。

長文ダラダラで大変読みにくく、またお時間おかけいたすと思いますが、
お付き合いいただけたらありがたいです。

ではよろしくお願いいたします。



”ドタドタドタ”

 

「廊下を走らないで下さい!」

 

「す、すみません。」

 

な、なに?

どんどん足音が近づいてくる。

でも、あの声は。

 

”ガチャ ドン”

 

ひゃ、ド、ドアが。

 

「み、美佳!」

 

「あ、と、とうちゃ 」

 

”ギュ~”

 

「ぐぅぇー、ぐ、ぐるじぃー。 と、とうちゃんぐるじぃー、ギブ、ギブ、ばなじで。」

 

とうちゃん、いきなり抱き着くんじゃない。

ぐ、ぐるしい、力、緩めて。

 

「美佳、美佳、美佳、美佳、馬鹿、美佳。」

 

”すりすりすり”

 

「いたっ、痛い、痛い、痛い、髭痛い! 刺さってる、とうちゃん髭刺さってるって。

 

 それに、いま馬鹿って言ったろ。」

 

とうちゃん、髭剃ってないじゃん。

そんな頬を擦りつけるんじゃない。

痛いよ~、チクチクってちょ~痛い。

 

「心配したんだぞ、よかった、よかった~

 

 はっ、でもこれって夢でないよな。

 

 念のため。」

 

”ギュッ”

 

「い、いた~、とうちゃん痛い、抓るなら自分のほっぺにしろ!」

 

「夢じゃないんだな、よかった、よかった。

 

 心配したんだぞ、この馬鹿娘。」

 

”なでなで”

 

「とうちゃん、ごめんなさい。」

 

とうちゃんの顔、やっぱり無精髭だらけじゃん。

へへ、こんな髭面のとうちゃんって初めてみた。

もう何日も剃ってないんだ。

ごめんなさい、それだけ心配かけてたんだね。

あ、そうだ。

 

「・・・・・あ、あのねとうちゃん、わたしかあちゃんと美紀に会ってきたの。」

 

「そうか。 どうだったかあちゃんやっぱり綺麗だったろ。」

 

「うん、とっても綺麗だった。 それに温かかった。」

 

「そうか。」

 

「美紀はね、やっぱりおデブちゃんだった。」

 

「あいつ隠れてチョコばっか食べてたもんな。

 

 よくかあちゃんに怒られてたっけ。」

 

「とうちゃん、わたしね・・・・・・・・とうちゃんとかあちゃんの子で、美紀のお姉ちゃんで

 

 ほんとによかった。

 

 産んでくれてありがと。」

 

「生まれてきてくれてありがとう、美佳。

 

 あ、でもとうちゃんは産めないから。」

 

「・・・・・・前言撤回、馬鹿。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お父さん、大丈夫ですよ。

 

 脳の検査も異常なし、記憶もしっかりしてるようですし。

 

 それに今のところ輸血の副作用もないようですね。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「後はしっかり腕の骨折を直しましょうね、美佳さん。」

 

「はい先生。」

 

「それではお父さん、今後の予定についてお話したいので少しよろしいですか?」

 

「は、はい。」

 

”ガチャ”

 

今出て行った人が主治医の先生か。

優しそうな人でよかった。

どのくらいで退院できるのかなぁ。

後でとうちゃんに聞いてみようっと。

 

ふ~ん、そっかわたし三日間も眠ってたんだ。

なんか浦島太郎にでもなったみたい。

えっと、眠ってるうちになにかあったかなぁ、

えっとわたしのスマホ、スマホどこだ。

あ、あった、テレビの横だ。

うんしょっと。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい。

 

あは、あは、あははははは。

割れてる、画面が割れてるよ~。

は、も、もしかしたら割れてても動くって可能性が。

 

”ごし、ごし”

 

「・・・・・」

 

”しーん”

 

く、くそー、駄目か~。

いや、気だ、気が足りないんだ。

指先に気を集めてもう一回。

 

”ごし、ごし”

 

「・・・・・」

 

”しーん”

 

く、だ、だめ? あは、あは、あは。

はぁ~修理っていくらくらいかかるんだろ。

がっくり。

 

”ドタドタドタ”

 

はっ、また足音が近づいてくる。

そんなに走るとあの看護師さんに。

 

「ろ、廊下走らないでください! もう。」

 

「ごめんなさい。」

 

「すみません。」

 

ほら怒られたって、あれ? でもあの声って。

 

”ガチャ!”

 

「三ヶ木!」

 

「三ヶ木先輩!」

 

「三ヶ木さん!」

 

「・・・・」

 

「あ、み、みんな。」

 

やっぱりそうだ。

生徒会のみんな来てくれたんだ。

え、い、稲村君?

 

「三ヶ木、三ヶ木、はは、ほんとだ、三ヶ木が目開けてる。 開けてる、開けてるよ~」

 

”へなへなへな”

 

「三ヶ木が、三ヶ木が・・・・くうっ、うっ、うっ、うっ、うっ。」

 

「い、稲村泣くな。 しっかりしろ。」

 

「良かったです三ヶ木先輩、本当に良かったです。」

 

「稲村君、本牧君、書記ちゃん、ありがとう・・・・・・あっ」

 

な、なにドアから顔半分出して覗いてる。

マジこわ~、怖いよ会長。

今日から夜眠れないじゃん。

 

「あ、ほらいろはちゃん、早く早く。」

 

「会長。」

 

「ううう、かいぴょう~」

 

”スタスタスタ””

 

「稲村先輩、かいぴょう~ってなんですか、かいぴょう~って。

 

 人を太巻き寿司の具みたいに。

 

 ゴ、ゴホン。

 

 まったく、美佳先輩はどれだけ人に迷惑をかけるんですか。

 

 ちゃんと反省してるんですか、どれだけみんなが心配したと思ってるんですか。」

 

「は、はい、ごめんなさい。」

 

「ま、まぁ、今回は事情が事情ですから。

 

 で、でも・・・・・・・・・・・・・・・こんなのもう嫌ですからね!

 

 もう!」

 

”ガバッ”

 

「か、会長?」

 

「まったく、まったく、まったくです。

 

 いつもいつも美佳先輩は、ぐす・・・・・・・・うわぁ~ん。」

 

「会長、ごめんなさい。」

 

     ・

 

「うえ、うえ、ぐすん。」

 

「ね、いろはちゃん、あれ。」

 

「ぐす。 え、あ、う、うん。」

 

”ゴソゴソ”

 

うん、なんだ?

会長、ポケットから何取り出そうとしてるんだ?

 

「ゴ、ゴホン!  み、美佳先輩。

 

 最初に言っておきますけど、これはみんなが言うから、し、仕方なくだからですからね。」

 

「いいから、会長。」

 

「そうだよ、いろはちゃん。」

 

「かんぴょう。」

 

「稲村先輩、いま完全に干瓢って言った。

 

 も、もう。 はい美佳先輩、これ。」

 

”サッ”

 

「え、あ、はい。

 

 ん? これって、か、会長。」

 

「いや、違うから、違うから。 

 

 書記ちゃんが、書記ちゃんがだからね。」

 

 

 

 

----話は花火大会の前日 いろはの部屋----

 

 

 

 

「・・・だからね、いろはちゃん。」

 

「だめ。 絶対に駄目。

 

 林間学校の時にも言ったでしょ。」

 

「絶対に駄目?」

 

「絶対に駄目。

 

 それよりほらケーキ食べよ。

 

 総武駅前のケーキ屋さん、とっても美味しんだよ。」

 

”ドン!”

 

「えっ、しょ、書記ちゃん。」

 

「・・・・・いろはちゃん、生徒会役員の管理は会長の責任だよね。」

 

「え、あ、う、うん。」

 

「だったら、役員の不祥事は会長にも責任あるよね。

 

 わたしは役員だけが一方的に処罰されて、管理者である会長か処罰されないのは

 

 おかしいと思います。」

 

「わ、わたしは 」

 

「会長、総武高生徒会会長!」

 

「あ、は、はい。」

 

「会長が決められた一色いろは生徒会条例に基づき上程します。

 

 三ヶ木庶務に対する処罰は重すぎると思います。

 

 わたしは処罰の妥当性について、生徒会式多数決による決議を上程します。」

 

「え、そ、そんな。」

 

「いいですね!」

 

「で、でもわたしには会長票で3票あるから。」

 

「ふふん、あまい!

 

 牧人君、いえ副会長がわたしの意向に逆らうとでも?

 

 稲村先輩は言わずもがなですよね。

 

 だから処罰に対する反対票は3票。」

 

「で、でもそれなら同数じゃない。 はっ!」

 

「そう、同数なら決議にはいたらない。

 

 なら処罰もできないよね。 決議が出るまでは審議継続中ってことになるよね。」

 

「え、で、でも 」

 

「まぁ、三ヶ木先輩がいれば、三ヶ木先輩のことだから会長に賛成するでしょうけど。

 

 今回の案件はご本人の処罰に対する案件ですから議決権は無いよね。

 

 だからこの案件はずっと審議継続中。」

 

「書記ちゃん。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ね、いろはちゃん。

 

 いろはちゃんの想い、みんなわかってるよ。

 

 一番辛かったのはいろはちゃんだってことも。

 

 えっとなんだたっけ、ほら”泣いて馬謖をぶった切る”とかいうやつでしょ。

 

 みんなわかってる。」

 

「で、でも何も無しってできない、なにも処罰しないってできないよ。

 

 それじゃ、会の規律が。」

 

「それなんだけどさ、あのね 」

 

”ごちょごちょ”

 

 

 

 

----そして今 美佳の病室----

 

 

 

 

これって腕章だよね。

生徒会に腕章なんてあったっけ?

それになんか手づくりっぽい。

えっとなんて書いてあるの?

 

「み・な・ら・い♡・・・・・・・見習い?」

 

「そうです。 見習いです。

 

 美佳先輩には役員見習いから始めてもらいます。

 

 いいですか、見習い期間中に何か問題起こしたら、即一発で退場ですからね。」

 

「え? あ、あのう話が見えてこない。」

 

「も、もう馬鹿ですか。 

 

 美佳先輩を、もう一回生徒会庶務に任命しますってことです。

 

 但し、見習いからですけど。」

 

「は、う、うそ、い、いいの。 

 

 わたし生徒会でいいの。」

 

「今回だけですからね。

 

 だから、もう絶対に駄目ですからね。」

 

「う、うん。」

 

「よかった。

 

 みんなで、みんながいるから一色いろは生徒会。

 

 だよね、いろはちゃん、副会長、稲村先輩・・・・・それと三ヶ木先輩。」

 

「仕方ないです。」

 

「ああ。」

 

「そうだ。」

 

「ありがと、ありがとみんな。」

 

     ・

 

「ひぇ~こわ。」

 

「もうやめてよ、いろはちゃん。

 

 ま、牧人君違うから、ひ、必死だっただけだから。」

 

「ほんとうなんですよ。

 

 もう、めっちゃ怖かったんですから。」

 

「なによ、いろはちゃんだって腕章つくってる時、すごく嬉しそうだったじゃない。

 

 るんるん♬って鼻歌歌って。」

 

「げ、ち、違うから。」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「見習いか。

 

 まぁなんだ、お前のいるべき場所に戻れて良かったな三ヶ木。

 

 今日はこのまま会わずに帰るわ、また明日な。」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「とうちゃんもう大丈夫だから。

 

 心配しないでお仕事頑張って。」

 

「そ、そうか。」

 

「あっ、今日早く帰ってこれる?」

 

「ん、なんだ、なにか用か?」

 

「あ、あのね、あのさ・・・・・・・

 

 うううん、何でもない。

 

 そうだ、ごめんとうちゃん、下着の替えを持ってきて。

 

 パジャマは借りられたけど下着が。」

 

「ああわかった。 じゃあ行ってくるな。」

 

”ガチャ”

 

「うん、行ってらっしゃい。」

 

たははは、やっぱあのこと言えなかった。

どうしょう。

くそ、このわたしの根性なし。

 

あっ、でも下着を持ってきてほしいのは確かだよ。

だって今日のわたしはパジャマの下、ノーブラ、ノーパンだもん。

とうちゃん、風邪ひく前にお願いっす。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トントントントン”

 

「ほほう、それじゃ、わたしの顔についたゴミを取ろうと思ってただけだと。」

 

「そ、そうだ。 別にやましいことを考えていたわけではない。」

 

「はぁ~」

 

あ~頭いた。

あのさもう少し何かいい言い訳なかったの?

例えば、あ、ほらよくあるじゃん、額と額合わせてて熱を測ろうとしたとかさ。

・・・・・つ、つ、ついムラムラしたとかでもいいけど。

そのほうがわたし的には。

はぁ~、よりによってゴミときたか。

思いっ切りウソってわかるんだけど。

 

「え、あ、あの~三ヶ木さん、頭かかえられてどうなされ 」

 

”ドン”

 

「正座!」

 

「は、はい。」

 

「あのさ、一晩考えてやっとそんな言い訳?

 

 言っておくけど、わたし昨日一晩中眠れなかったんだからね。

 

 眠ろうとすると、ひ、ひ、比企谷君のキス顔が迫ってきて・・・・・」

 

そうなんだ。

瞼を閉じるたび比企谷君のキス顔を思い出しちゃって。

もう、心臓がドキドキして全然眠れなかったんだから。

せ、責任とってよね。

 

「ま、待て、違う、キスしようと思ったわけじゃない。

 

 さっきも言った通りゴミを取ろうと思っただけだ。

 

 冤罪だ。」

 

「・・・・・・あのさ、目、瞑ってたよね。」

 

「はっ。」

 

「しっかり目を瞑ってたよね。

 

 君は目を瞑っててもゴミ取れるのかなぁ~」

 

「ぐっ。」

 

「それにあんなに顔を近づける必要あったのかなぁ~

 

 口は蛸の口みたいだったし。」

 

「お、お前間違ってるぞ。

 

 蛸の口はだな、足の 」

 

「えーいうっさい! ほんとのこと言う!」

 

「蒔田だ、蒔田。 あいつが悪いんだ。

 

 蒔田がキスすればお前が目を覚ますっていうからだな 」

 

「キスをすれば目を覚ます?

 

 あのさ、眠れる森の美女じゃないんだから。

 

 ・・・それにわたし美女じゃないし。」

 

「い、いやそれはわかってる。」

 

「おい、今のどっちがわかってるって言ったんだ。」

 

”ガチャ”

 

「こんちわ、ジミ子先輩。 げっ、修羅場!」

 

「あ、舞ちゃん、いいとこに。

 

 あのね比企谷君がさ、 」

 

     ・

 

「はぁ~? わたしそんなこと言ってませんよ。

 

 それって眠れる森の美女のお話でしょ。

 

 そんな子供でも童話のお話ってわかるようなこと言うはずないじゃないですか。」

 

「お、おい、蒔田。」

 

「あっ、それにジミ子先輩、わたしお見舞いに来た時に見ちゃったんですよ。

 

 この変態が先輩の手を握って、自分の頬にスリスリってやってたんですよ。

 

 こうスリスリって感じで。

 

 わたしキモくてびっくりしました。」

 

「はぁ? はぁっー! お、お前わたしの手で何やってたんだ!」

 

「い、いや、それは、ちょっと気の迷いってことで。」

 

「はけ! やったんだな。」

 

「は、はい。 すみません、やりました。」

 

「もしかしたらジミ子先輩が眠ってるのをいいことに、もっとイヤらしいことしてたかも。」

 

「おい! 貴様、わたしに何したんだ。 いいから正直に言ってみろ!」

 

「蒔田、お前!」

 

「ジ、ジミ子先輩、わたし大切な用事を思い出したので失礼しますね。

 

 あ、これジミ子先輩の大好きな駅前のケーキです。

 

 よかったら食べてください。」

 

”ガチャ”

 

「それではです。

 

 備品先輩、生きてたらまた会いましょうね。

 

 くわばら、くわばら。」

 

”ダ―”

 

「お、おい。」

 

「ひ・き・た・に君、納得いく説明してもらおうかなぁ~。」

 

「あ、あの~、怒らない?」

 

「無理!」

 

”べし”

 

「ぐはぁ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ~頭いた。 まぁいい、信じてあげる。」

 

「お、おう。」

 

「でもキスしようしたのは認めるんだね。」

 

「・・・・・はい。」

 

「わたしの大事なファーストを、わたしが寝ている間に奪おうとしたんだよね。」

 

「・・・・・はい、すみません。」

 

「あ、あのね、ほんとに、す、少しもやましい気持ちなかったの。」

 

「おう、少しもない!」

 

「頬スリスリしただけで、他に何もしなかったの?」

 

「おう! 断じてない! そんなこと思うはずがない。 俺の理性を舐めるな!」

 

いや、あんたそこは胸張らなくても。

でも・・・・・・わたしってやっぱり魅力無いのかなぁ。

キ、キスぐらいさ、ドバッてしちゃえばいいのに。

そ、それに手のス、スリスリだけでなく、あんなことやこんなことも。

はっ、なに考えてるんだわたし。

 

でも、わたしじゃなくて結衣ちゃんとかゆきのんだったらもしかして・・・・

 

く、くそー、なんかくそー

 

「ゆるさん!」

 

「す、すみません。 な、なんでもさせて頂きますから、つ、通報だけは。」

 

「ほんと?」

 

「は、はい、できる範囲でお願いします。

 

 慰謝料はできるなら、50年分割でお願いできたらと。」

 

「じゃあさ、・・・・・・・・・・は、ハグして。」

 

へへ、出来ないよね。

ヘタレの比企谷君が出来るはずない。

ちょ、ちょっと傷ついたんだからね。

 

『おう、少しもない!』

 

『おう! 断じてない! そんなこと思うはずがない。 俺の理性を舐めるな!』

 

くそ、胸張って言いきりやがって。

どうせわたしは魅力ないですよ~、べ~だ!

わかってても悔しい。

 

・・・・・い、いじめてやる。

どうせハグなんてできないのわかってるから、次はなんて言って困らせようかなぁ。

あ、そうだ美佳って呼ばせよう、百回くらい。

 

「ハ、ハグ出来ないんなら、み 」

 

”だき”

 

「は、え? あ、あれ?

 

 ひ、比企谷君。」

 

う、うそ。

ちょ、ちょっと待って。

あれ? ち、違う、こんなはずが・・・・・

あのヘタレ君にハグされてる。

 

”ドクドクドクドク”

 

や、やばいやばい、心臓が、心臓が爆発する!

ど、どうしょう、こんなはずじゃ。

 

「なぁ、三ヶ木。」

 

「え、な、な、な、なに?」

 

「・・・・・あのな。」

 

「・・・・・うん。」

 

「おかえり。」

 

「あ、う、うん・・・・・ただいま、比企谷君。」

 

     ・

 

くそ~卑怯もの。

ヘタレのくせに生意気。

ほんとはもっともっと困らせたかったのに。

だ、だめだ、なんにも考えられないや。

このまま、ずっとこのまま抱きしめてくれてたら。

 

「・・・・・・・あの。」

 

「うん?」

 

「・・・・な、なぁ三ヶ木。」

 

「な、なぁに。」

 

「お前、ノーブラなのか。」

 

「はぁ?・・・・はぁ!」

 

「いや、さっきからだな、む、胸があたってだな。 そのツンって・・・・・」

 

はっ、し、しまった。

今日のわたしは・・・・・

しっかしこの野郎、べ、別に口に出して言わなくてもいいじゃん。

そ、そこはだまって堪能しろ。

だ、だって仕方ないじゃんか、替えの下着ないんだもん。

く、くそ~

 

”ボロ”

 

へ、へぇ?

あれ、何で?

 

”ポロ、ポロ、ポロ”

 

「はっ、み、三ヶ木、お前 」

 

え、わたし何で泣いてるの?

こんなことぐらいでなんで涙が。

ほ、ほら、いつもみたいに”べし”って・・・

”べし”って・・・・

 

”ポロ、ポロ、ポロポロポロポロ”

 

「あれ、おかしいな、なんでだろう。

 

 ご、ごめんね、な、何でもないから、すぐ止まるから。」

 

「三ヶ木、す、すまん。」

 

「だ、大丈夫。 ごめん、気にしない・・・・で。

 

 うううううう。」

 

何だろうこの気持ち、何か変だ。

いつもと違ってなんかすごく恥ずかしくて、とっても悲しくて。

もう、なんだかわからないけど・・・・とってもやだ。

 

”コンコン”

 

「あ、はい。」

 

’ガチャ”

 

「三ヶ木さん、検査の時間ですよ。」

 

”バッ”

 

「はい、い、今行きます。

 

 あ、ごめんね、検査行ってくる。

 

 ・・・・・ほんと何でもないから気にしないで。」

 

「お、おう。」

 

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「この電話は現在も未来も使われておりません。 では。」

 

”プー、プー”

 

「これでよし。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「この電話は 」

 

「なに言ってるんですか、先輩!

 

 いきなり切らないでください。」

 

「いや、だからこの電話は 」

 

「もうそれいいです。

 

 まったく、可愛い後輩からの電話なんですから、そこはちゃんと喜んでください。

 

 やり直し。」

 

「わーい、うれしいな。」

 

「な、なんですかその棒読みは!

 

 も、もういいです。」

 

「で、何の用だ?」

 

「あのですね、美佳先輩近くにいます?」

 

「三ヶ木に用事だったのか? なんで俺に電話してんだ。」

 

「だって、先輩ずっと美佳先輩の病室に入り浸ってるっていうから。」

 

「いや入り浸ってるわけでないんだが、まぁ責任とかあるしな。

 

 三ヶ木ならさっき検査に行ったぞ。」

 

「責任? そうですか。

 

 美佳先輩、近くにいないんですか。

 

 ・・・・・それなら。

 

 先輩、わたし折り入ってお話があるんです。

 

 少しいいですか?」

 

「なんだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、気持ちおさまった。

なんだったんだろう、なんであんなになっちゃったのかなぁ。

どうかしてたわたし。

比企谷君に悪いことしちゃった。

よし、ちゃんと謝ろう。

 

”ガチャ”

 

「お待たせ! えっと比企谷君あのさ・・・・・・比企谷君?」

 

あれ、いない。

はっ、ベッドの下。

 

「ん~と。」

 

いない、まぁ、いるわけないか。

もう帰ったのかなぁ。

あっメモだ、なになに?

 

『用事できた。

 俺帰る。

          比企谷』

 

みじか! 電報でももっと長いだろうが。 

・・・・・そっか、帰ったんだ。

ちゃんと謝りたかったのになぁ。

 

”ツー”

 

ぐす、あれ、おかしい。

なんでまた涙出てくるんだ。

ほんと、わたし変だよ。

どうしたんだろう。

わたしなんでこんなに弱くなっちゃったんだろう。

・・・・・だめだこんなんじゃ。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

8月17日

突然ですまぬ、すまぬでござる。

へへ、今日から日記つけるね、名付けて三ヶ木闘病日記”MFDD”

うん、なんかかっこいい。

 

え、なんで突然日記なんだって。

だって暇なんだもん。

個室っていいなぁって思ったけどそれは最初だけ。

誰もいなくて暇、暇、暇、暇なんだよ。

いつもだったら今頃は、晩ご飯作って、お風呂沸かして、洗濯して、ちょっと勉強して。

んで、とうちゃんとテレビ観ながら馬鹿話して。

でも今は。

 

”し~ん”

 

だから日記書くことにしたの。

え、テレビでも観てろって?

だってお金かかるんだよ、16時間ぐらいで1000円。

1000円だよ、1000円!

チロロちゃんが箱買いできるんだよ。

それにわたしスマホ直さないといけないから節約節約なんだ。

だから時間潰しに日記なの、退院するまで書き続けるの!

 

でも、でもね、ほんとの理由は・・・・・・・・

 

まぁいいや。

えっと前置きはこれぐらいにしてっと。

あのね、今日沙希ちゃんが来てくれたの。

そんでさ・・・・・

 

 

-・-・-・-・-・-

 

 

「ごめんなさい。」

 

”ペコ”

 

「もう、だからほんと気にしないでって。

 

 わたしが勝手にやったこと、ね、沙希ちゃん頭上げて。」

 

「本当にごめんなさい。」

 

さっきからずっとごめんごめんって。

ごめん以外の言葉、何も聞いていない。

このままだとずっと沙希ちゃんはこのこと引きずるんだろうなぁ。

やだな~

会うたびにごめんって言われそう。

これじゃ以前みたいな関係に戻れないよ。

 

もともとね、わたしが勝手にやったことなんだ。

一瞬、けーちゃんに美紀の姿が重なって。

あの時できなかったこと、ずっと後悔してたこと。

それは・・・・・助けに行けなかったこと。

 

だからわたしは、わたし自分のためにやったことなの。

わたしがケガしたことで、沙希ちゃんに謝られる筋合いは無いんだ。

けーちゃんが無事だった。

それだけでいいんだよ。

 

「あたし、あたしが悪かったんだ。

 

 けーちゃんの手しっかり握ってなかったから。

 

 あたし何でもします。 ごめんなさい。」

 

”ピキッ!”

 

何でもしますだと。

いま何でもしますって言ったの。

何だそれは!

そんなの、そんなのやだ、絶対に嫌だ!

そっちがその気なら。

 

「だめ! 絶対許してあげない!」

 

「み、三ヶ木。」

 

「あ~腕痛いな~

 

 頭も痛い、痛い、痛い、全部痛いな~」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「まだしばらく退院出来そうもないし。」

 

「ごめんなさい。」

 

「病院のご飯って美味しくないんだよな~」

 

「そ、そうなんだ。」

 

「あ~あ、カレーライス食べたい。」

 

「わ、わかった、あたしが作ってきてあげる。」

 

「だめ。」

 

「え?」

 

「さっきさ、何でもするって言ったよね。」

 

「う、うん。」

 

「・・・・・だったら、一緒にカレー作ろ。」

 

「え!」

 

「ほら、わたし腕こんなじゃん。

 

 まだしばらく一人じゃカレー作れそうにないから、だから、一緒にカレー作って。」

 

「み、三ヶ木。」

 

「何でもするって言ったよね。

 

 あ、もちろん退院してからだけど沙希ちゃん家でね。」

 

「あたしの家?」

 

「そんでさ、けーちゃんと大志君とみんなで一緒に食べよう。

 

 あの時みたいに。」

 

「三ヶ木。」

 

”べし”

 

「あいた!」

 

「わたし、これでも沙希ちゃんの親友のつもりだよ。

 

 だのに、なにささっきの”何でもします”って。

 

 親友に言うことじゃないじゃん、めっちゃ腹立った。」

 

「ご、ごめん。」

 

「もう、無しだよ。」

 

「う、うん。」

 

「へへ、カレー楽しみ。」

 

「・・・・・三ヶ木、よだれ垂れてる。」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

8月18日

 

今日さ、うううん。

今日も刈宿君来てくれた。

 

なんか部活行く前だって言ってたね。

ジャージにポロシャツ、白い帽子にラケット肩かけて、そんで日焼けした顔に白い歯。

うん、やっぱ、彼にはこの姿がよく似合う。

根っからのスポーツマンだもんね。

 

あのさ、なんか最近、刈宿君見ると変なんだ。

いや、その好きとかそんなんじゃなくて。

なんか似てるんだけど違うの。

親近感っぽいのかなぁ。

なんだろう、なんかおかしいっす・・・・・・・あれ?

 

あ、そうそう、義輝君も来てくれたんだ。

頼んでたもの持ってきてくれて、それはいま枕元に。

えへへ、ちょっと幸せ。

 

でも今日も彼は・・・・・・・・・・・どうしたんだろう。

やっぱりあの時、わたし変だったから嫌になっちゃったのかなぁ。

 

 

-・-・-・-・-・-

 

 

”ガチャ”

 

「美佳先輩、おはよっす。」

 

「あ、刈宿君おはよ。 いつもありがと。」

 

「部活行くついでっすよ。」

 

部活行く途中か。

へへ、でもこの前はラケット持ってなかったよね。

ありがと。

だって、あいつなんかあれ以来・・・・・・

ま、まぁ、彼も受験生だから、塾とかいそがしいんだ、きっと。

 

「あ、美佳先輩、はいこれ。」

 

「え、あ! わたしの眼鏡。」

 

「うっす。 あの後、現場行って見つけたんですけど、レンズ割れてたんで遅くなったっす。」

 

「え、直してくれてたの?

 

 いくらだった? お金払うよ。」

 

「いいっす。 勝手にやったことっす。」

 

「だめ!

 

 あのね、こういうことはちゃんとしないといけないの。」

 

「じゃ、今度また試合に応援に来てくださいっす。」

 

「でも、そんなんじゃ足りないよ。」

 

「俺にはそれで十分っす。」

 

「うん、わかった。

 

 あ、お弁当作って持っていくね。

 

 でもよかった。 あのね、この眼鏡わたしの宝物なの。」

 

「へー、誰かにプレゼントされたとか?」

 

「うん、前の生徒会の先輩にもらったの。」

 

「そっすか。 ち、ちなみに男子っすか?」

 

「うううん、女子だよ。 へへ、なんかいろいろ思い出しちゃった。」

 

「どんな先輩だったんすか?」

 

「めっちゃ怖くてね、いっつも怒られてた。

 

 でもね、ほんとはすっごく優しい人だったんだよ。」

 

そうなんだ。

文実の時とか何回も資料作り直させられて。

でもOKって言ってもらった時はめっちゃうれしくて。

褒めてくれた時の三増先輩の笑顔は忘れられないや。

 

はっ、そういえばもうすぐ文化祭だね。

えっとある程度の資料は整理してパソコンの中に入れてあるけど。

くそ、早く退院して準備しなくちゃ。

で、でも、なつかしいな。

もうすぐ一年になるんだね。

あの時、わたしは初めて彼のこと意識して。

それからわたしはずっと・・・・

 

「ふふ、ふふふふ♡」

 

「な、なんすかその笑い、それにその腑抜けた顔!」

 

「え、あ、ちょ、ちょっとね。」

 

「まぁいいすよ。 どうせあいつのこと考えてたんでしょうから。」

 

「あ、い、いや、その・・・ごめんなさい。」

 

「・・・・・美佳先輩。

 

 もし、もしもですけど、俺が2年早く生まれてて、あいつより早く美佳先輩に会えてたら 」

 

「刈宿君。」

 

「あ、す、すみません。」

 

”ガチャ”

 

「ぬほほん、三ヶ木女子、我が忙しいのを無理して見舞いに参上したのだ。

 

 ありがたくひれ伏せ~い。」

 

「いや、忙しいのなら無理して来なくていいけど。

 

 それにひれ伏さないといけないの?」

 

「なんすか、この人。」

 

「げ、きゃ、客人。 す、すみません、我は、いえ、僕は材木座といいます。

 

 失礼いたしました。」

 

「ごめんね刈宿君。 これ、わたしの幼馴染なんだ。」

 

「そっすか。 

 

 あっ、美佳先輩、俺そろそろ行くっす。」

 

「あ、うん。

 

 部活、頑張ってね。」

 

「あ、あの、美佳先輩。」

 

「ん?」

 

「あ、あの・・・・」

 

「ん、どうしたの?」

 

「あ、い、いえ何でもないっす。

 

 じゃ部活、行ってくるっす。」

 

「うん、行ってらっしゃい。」

 

”ガチャ”

 

「ふむ、かの御仁が刈宿殿か?」

 

「あ、うん。」

 

「ふむ。」

 

「な、なに?」

 

「我もAB・・・・・

 

 いや、な、なんでもない。

 

 ほれ、お主が我に懇願してたものだ。」

 

「え! あ、ありがとイレギュラーヘッドのイベント限定下敷き。

 

 やば! ちょ~素敵。」

 

”ちゅっ”

 

へへ、イレギュラーヘッド様とキスしちゃった。

めっちゃほしかったんだ。

だって、なかなか単独のポスターとか手に入らないんだもん。

へへ、ここに立てかけてっと。

ふぇ~、幸せ~。

 

”デレデレ”

 

「あ、あの~三ヶ木女子・・・・」

 

「あ、ごめんね義輝君、つい嬉しくて。」

 

「いやもう慣れたからいいが、本当に三ヶ木女子はイレギュラーヘッドが好きなのだな。」

 

「えへ、この目に見つめられるだけでもうだめ。

 

 あ、ごめんねイベント一緒に行けなくて。」

 

「まあ、秋にもイベントあるのでな。」

 

「うん、今度こそ一緒に行こうね。」

 

「なれば今回のコスは我が保管しておくとしよう。」

 

「え、またコス準備してたの?

 

 ち、ちなみにどんなコスを準備してくれてたの?」

 

”ゴソゴソ”

 

「ほれ、このスマホの画像を見よ! 今回のはこのやおもも桃子女子だ!」

 

”ドゴッ”

 

「ぐぅお~」

 

「行かん、絶対行かん。

 

 やおももはだめって言っただろ。

 

 なんだそのコスは、胸のとこ開きすぎだろ!

 

 み、見えちゃうじゃんか!」

 

「けふこん、それはサービスということで。」

 

「するか!」

 

「仕方ない、それでは葉隠 」

 

”ボゴッ”

 

「げふっ」

 

「お、おい、彼女は透明人間だろ。

 

 義輝君、わたしに何を期待しているんだ。」

 

「ゴホン、じょ、冗談に決まっておろう。

 

 まぁ、それはそうと三ヶ木女子、入院生活はさぞかし暇であろうな。」

 

”ギクッ”

 

「え、あ、い、いや、結構忙しいかなぁ~

 

 ほ、ほら検査とかあるし。」

 

”ゴソゴソ”

 

「むははははは! 遠慮は無用だ、我とお主の中ではないか。

 

 ほれ我の新作だ。

 

 喜ばれい! 暇で退屈な三ヶ木女子のために徹夜で書きあげたのだ。

 

 一番最初に読ませてやろうではないか。」

 

「あ、だから暇じゃなくて。

 

 あ、そうだ!

 

 ひ、比企谷君、ほら彼なんか読みたそうなこと言ってたよ。」

 

ごめん、比企谷君。

だってお見舞い来てくれないんだもん。

だから意地悪。

これぐらいいいよね。

 

「ふむ、だがあやつは最近忙しいらしくての。

 

 なんど電話してもすぐ切られてしまうのだ。

 

 メールは返ってこないし。

 

 まぁ、三ヶ木女子は暇であろう、感想も聞かせてもらおうではないか。

 

 ちなみに我はその下敷きを入手するのに1時間は並んだのだが。

 

 おかげで魔法少女くるくるくるみのステージ見逃した。

 

 ふむ、ちょ~楽しみにしていたのだがな、魔法少女くるくるくみのステージ。」

 

「わ、わかった。

 

 もう、そこに置いてけこの野郎。

 

 神に誓って粛清してやる!」

 

「げ、マジ切れ。」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

8月19日

 

えっといつからだろう。

そうだ一昨日からだ。

わたしの病室には二つの花瓶置かれてるんだ。

 

一つの花瓶には比企谷君がもって来てくれたらしい花が生けられている。

わたしが眠っている間のことだからよくわからない。

とうちゃんもはっきりとは憶えていないらしい。

今度聞いてみよう。

・・・・・彼が来てくれた時にでも。

 

もう一つの花瓶は一昨日から置かれてるんだ。

そこには毎日違う花が数本づつ加えられている。

今日の花はガーベラだ。

花っていいね、なんか元気が出てくる。

やっぱり看護師さんかなぁ。

なんかすごく優しそうな人だった。

とってもうれしい。

 

あ、あのね、今日はさがみんが来てくれたんだ。

誰も連絡してなかったみたいで。

なんか結衣ちゃんから今日聞いたんだって。

何で連絡しないって散々怒られた。

だって、わたしのスマホ・・・・・

それにわたし撥ねられちゃったなんていえないじゃん。

あっ、それでね、さがみん帰るときに。

 

 

-・-・-・-・-・-

 

 

「じゃあ帰る。」

 

「あ、うん。 ありがとさがみん♡」

 

「さがみん言うな!

 

 ・・・・・あ、あのさ、うち・・・・文実やってみようと思う。」

 

「え?」

 

「あんたどう思う。

 

 やっぱりやめたほうがいいと思う?」

 

めっちゃ思いつめた表情。

そっか、さがみんは逃げずにちゃんと向き合いたいんだ。

強くなったねさがみん。

お姉さん泣けてくるよ、よよよ。

って茶化してる場合じゃない。

第一わたしのほうが年下だし半年ほど。

 

「マジなんだね。」

 

「・・・・・うち、やってみたい。

 

 うううん、やらないといけない。」

 

そっか。

それならわたしは。

 

「わかった、さがみん。

 

 わたしも一緒にやりたい。

 

 ね、一緒に文実やろう。」

 

「・・・・・

 

 ま、まぁ、あんたがそれほど一緒にやってほしいって頼むんなら仕方ない。

 

 一緒にやってあげる。

 

 か、感謝しなさい。」

 

え、いや、お、おい、あんたが。

それはちょっと引くよ。

まぁ、さがみんだから・・・・いっか。

 

「あ、でもそれはあんたが退院出来ればだけどね。

 

 だから、早く退院してよね。」

 

「おう、頑張る。」

 

「まぁ、せいぜい頑張れば。

 

 ・・・・・・・・・待っててあげるから。」 

 

”ガチャ”

 

「あ、あのさ。」

 

「うん?」

 

”ひらひら”

 

「またね。」

 

「あ、うん、さがみん、またね。」

 

さがみんのこと、すこしうらやましい。

わたしも、わたしも強くなりたい、見習いたい。

あ~あ、だめだ。

入院してるとだんだん気持ちが弱くなっちゃうよ。

はやく退院したいなぁ。

 

”ガチャ”

 

「やっほー、美佳!」

 

「めぐねぇ! 座って座って。」

 

「お、元気そうでよかった。

 

 ほれこれ差し入れ。」

 

「わ、わ~い、ケ、ケーキだ、う、うれしいな~」

 

げ、やば。

またケーキだ、今日2個め。

なんかみんなして、ケーキ持ってきてくれる。

好きだからうれしんだけどさ。

ちょ、ちょっとこのお腹が・・・・・・

 

「おや、今日は彼氏来てないのかなぁ~」

 

「ち、違うから。」

 

「病室でキスしてたくせに。 きゃ~、美佳大胆。」

 

「ちが~う、し、してないから、まだしてないから。

 

 あれは、み、未遂だし。」

 

「まぁ いいや。」

 

いいのかよ。

あの後大変だったんだからね。

あれから夜は眠っれないし、ハグされるし、えへへへ。

まったくあん時さ、めぐねぇが来なければ、わたし・・・・・きゃ~、美佳大胆。

 

”パコッ”

 

「あいた!」

 

「なにその腑抜けた顔。

 

 まぁ、それより今の相模さんだよね。」

 

「あ、うん。」

 

「へ~、美佳って相模さんと仲良かったっけ?」

 

「まぁ、いろいろありまして。

 

 あ、めぐねぇ、さがみん文実やりたいんだって。」

 

「え? さがみん、さがみんって呼んでる!」

 

「いや、そこじゃなくて。」

 

「あはは、わかってるって。

 

 そっか、でも去年の文実の人いると辛いよ。

 

 たぶんそっからいろいろ話広がると思うから。」

 

「うん、でもわたしも一緒にやりたい、応援したい。

 

 さがみん、たぶんちゃんと自分に向き合いたいんだと思う。」

 

「わかった。 美佳がそういう気持ちなら頑張ってフォローしてあげて。」

 

「うん。」

 

「それで、どこまでいったの比企谷君と。」

 

「・・・・・・・」

 

”こちょこちょ”

 

「ほら、はけはけ。」

 

「ぎゃは、こ、こしょばいって、や、やめて~

 

 あ、う、腕痛い。」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

8月23日

 

げ、いきなり飛んでる!

なに三日坊主。

うううん違うよ。

ちゃんと書いているよ。

結衣ちゃんとかゆきのんがケーキ持って来てくれたこととか、

広川先生がケーキ持ってきてくれたこととか。

いや、またケーキ。

どうしよう、このお腹、マジやばい。

 

・・・・・だけど。

 

比企谷君、なんか忙しいのかなぁ。

とうちゃんにスマホ借りて電話してみようかなぁ。

なんか知らないうちにアド交換してたし。

何があったんだ二人の間に。

あ、でも義輝君もなかなか話できないって言ってた。

まぁ、じゅ、受験生だもんね、受験生だからだね。

 

とうちゃんから聞いたんだけど、わたしが目を覚ますまでずっと付き添っててくれたって。

ほんとにうれしい。

十分すぎる。

それ以上、わたし何を期待してるんだ。、何を欲してるんだ。

 

・・・・・彼女でもないくせに。

 

ちゃんと現実をみなくちゃ。

比企谷君は、事故に対する責任を感じてただけ。

元々何の責任もないのに。

ただそれだけのこと。

それ以上でもそれ以下でもない。

だって、ほんとはあの日わたしは比企谷君に・・・・・

 

あっ、今日も花変わってる。

これって確か百日草だ。

色とりどりで綺麗だね。

ちゃんと看護師さんにお礼言わなくちゃ。

ほんと、毎日元気もらってる。

 

・・・・比企谷君の持ってきてくれたと思われる花、もう枯れちゃったね。

結局聞けなかった。

 

今日はもう寝るね。

なんか疲れちゃって。

 

おやすみなさい。

 

明日は彼・・・・・うううん、いい。 なんでもない。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

8月27日

 

またとんだ。

ごめんなさい、今度はほんとにとびました。

 

あの日から何も書けなくて。

日記に書いてあるのは日付だけ。

 

えっと突然ですが今から退院です。

だから、今日でこの日記も終わりです。

 

わたし、退院します。

病院からも・・・・・わたしのこの気持ちからも。

 

刈宿君に知られたら、またデコピンされちゃうね。

で、でもごめん。

やっぱりだめなんだ。

わたしは彼にとって、ただの、ただの・・・・なんだろう、友達?

振られても友達でいてくれるのかなぁ。

退院、する前にもう一度、会いたかったなぁ。

ずっと待ってたのに。

 

うううん。

わたしね、もうこれ以上、自分勝手な期待抱かないんだ。

そんなの辛いだけだから。

 

わたしもっと強くならないと。

でも今はごめんなさい、ちょっと無理みたい。

 

だけど、もう今日は泣きません。

だって、昨日いっぱいいっぱい涙流したから。

もう泣きません。

いつか、いつの日かちゃんと今のわたしに向き合えると思うから・・・・・

 

あ、とうちゃん呼んでる。

それではお別れです。

今までありがと。

わたし、頑張るから。

 

”パタ”

 

「ふぅ~」

 

「美佳、忘れ物ないか?」

 

「う、うん。とうちゃん。」

 

”キョロキョロ”

 

「ん、どうした?」

 

「・・・・・・うううん、なんでもない。

 

 もう忘れもの無い。

 

 さ、帰ろとうちゃん。」

 

「ああ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

もうすぐ家に着くや。

久しぶりの家だ。

電車の窓から見える景色がなんか懐かしい。

 

”ツー”

 

げ、ち、違うからね。

こ、この涙は景色が、景色が懐かしかったからだからね。

わたしは、わたしは・・・・・・・・・

ほんと、何でこんなに弱くなっちゃったんだろ。

 

「美佳、どうした?」

 

「あ、うん、なんか懐かしくなっちゃって。」

 

「そうか。 そろそろ着くからな。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

つ、ついた! 

久しぶりの我が家だ。

う~ん、ボロ。

どっから見てもボロ。

 

「うんしょっと。」

 

へへ、股の下から逆さに見ても・・・・・やっぱりボロだ。

間違いない、ここは掛け替えのないとうちゃんとわたしの家。

 

「何やってんだ美佳?」

 

「へ? あ、な、なんでもない。」

 

「ほら行くぞ。」

 

「うん。」

 

”ガチャガチャ”

 

「ただいま!  あっ!」

 

”バタン”

 

「お、おい、美佳どうした?

 

 なんでドアを閉めるんだ?」

 

いやだ、見たくない、信じたくない、忘れたい。

こ、これは夢、夢なんだ。

は、今のは目の錯覚、何かの間違い。

ほ、ほら、久しぶりの家だったたから。

落ち着いてよく見ればいつもの我が家・・・のはず。

 

”ガチャ”

 

「・・・・・」

 

”ドワァ~ン”

 

見間違いじゃないのね。

な、なんだこのごみの山は。

はは、はははは。

こ、この野郎!

ちょっと目を離した隙になんてことを。

 

「・・・・・・・・・・・お、おい。」

 

「ど、どうした美佳?」

 

「なんだこれは!」

 

「は、い、いや、その。」

 

「ばかもの! 何で家の中がごみ屋敷になってんだ!」

 

「いや、つ、ついな。」

 

「はぁ~。 もう、ちゃんと手伝ってね。」

 

「す、すまん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、掃除終わった。

何でこうもごみ散らかすのかなぁ。

いらないものは捨てればいいのに。

かあちゃん、ちゃんと躾をしておいてよ。

今度会ったら、思いっ切り文句言うからね。

・・・・・。

次は、

 

「とうちゃん、もう洗濯物無い?」

 

「ああ。」

 

「よし、それじゃスタートっと。」

 

”ガタンガタン”

 

はい、洗濯機okっと。

 

さてとそれじゃ・・・・・頑張るぞ、美佳。

その前に

 

”バシッ”

 

いったぁ~、ほっぺいたぁ。

よ、よし、張り手で気合注入完了!

じゃ、じゃあさがみん、わたしも頑張るね。

決めたんだ、ちゃんと向き合う。

さがみんなんかに負けないよ。

 

”ちょこん”

 

「ね、と、とうちゃん、ちょっといい?」

 

「ん、なんだ正座して」

 

「・・・・・」

 

「ん、どうしたんだ?」

 

”ペコ”

 

「と、とうちゃん、わたし進学したい。

 

 いっぱいいっぱいもっと勉強して、わたし保母さんになりたい、なりたいんだ。」

 

「美佳。」

 

「うちの家計知ってる。

 

 だからいっぱいバイトする、勉強も頑張って奨学金とか補助金とか貰えるようにする。

 

 家事ももっと頑張る。

 

 お小遣いもいらない・・・・・・・チロロも我慢する。

 

 だから、だからお願いします、大学行かせてください。」

 

「・・・・・」

 

「だ、駄目かなぁ。」

 

「・・・・・」

 

「と、とうちゃん。」

 

「美佳。」

 

「は、はい。」

 

”パタッ”

 

「ん、これって?」

 

「お前の預金通帳だ、まぁ見てみろ。」

 

「うん・・・・・・・・・・・・え、一、十、百、千、万 じゅうま・・・ん、ひゃ 

 

 な、なにこのお金? どうしたの?」

 

「お前の事故の相手から分捕ってやった。」

 

「と、とうちゃん、馬鹿、馬鹿、馬鹿。大馬鹿者!

 

 返して来なさい、すぐ返して来なさい! 一緒に行って謝ってあげるから。

 

 じゃないと、もう親子の縁切るからね!」

 

「じょ、冗談だ。

 

 これは、美緒の生命保険のお金だ。

 

 お前になにかあった時のために取っておいたんだ。

 

 け、結婚資金とかな。

 

 これを使いなさい。

 

 美緒も喜ぶだろう。」

 

「と、とうちゃん。」

 

”なでなで”

 

「お前がそう言ってくれるのずっと待ってたんだ。

 

 いいか、頑張れよ。」

 

「うん。」

 

「だけどお前、勉強大丈夫か? とうちゃんの子だからな。」

 

「が、頑張る。 半分はかあちゃんの子だから。」

 

 

 

 

--------

 

 

 

「よしっと材料はこれでOK。」

 

「ねぇ、三ヶ木、あんまり普通のカレーと変わらないんだね。

 

 なんか、一子相伝とかいってたから。」

 

「沙希ちゃん、普通が一番なんだよ。

 

 わたしの知ってる娘なんて、カレーにチロロのきな粉味入れるとこだったんだから。」

 

「なんとなく誰のことかわかるような気がする。」

 

「入れるのは、この板チョコ。」

 

ん、なんか背中のほうから視線が。

また大志君かな~

よし、いきなり振り返って脅かしてやれ

せ~の!

 

”バッ”

 

は、けー、けーちゃん、けーちゃんだ。

 

「あっ!」

 

”ダー”

 

げ、けーちゃん逃げた。

 

「け、けーちゃん待って。

 

 沙希ちゃんごめん、ちょっとお願い。」

 

”ダ―”

 

「けーちゃん!」

 

”ビクッ”

 

「つっかまえた~

 

 あのね、けーちゃん。

 

 ありがと。」

 

「え?」

 

「みーちゃんはね、実は何とかボールのスーパーヤサイ人なんだ。」

 

「え、スーパーヤサイ人?」

 

「うん。

 

 復活する度に強くなるんだぞ~。」

 

「うそ!」

 

「うそじゃないよ、ほら、この力こぶを見よ。」

 

”グイッ”

 

「うわ~、すごーい!」

 

へへ、怪我したのは左腕なんだけどね。

この際いいか。

ふふん、そうなんだ、なんか右腕ばっかり使ってたら筋肉ついたんだよ。

ほらお肉がこんもり。

この分だと空手チョップの威力も。

 

「ね、だから大丈夫。

 

 逆にけーちゃんにお礼言いたいぐらいなんだ、パワーアップできたから。」

 

「もう、痛くない?」

 

「全然。 ほんとはこっちのお手ても何ともないんだけど、筋肉が付きすぎてね。

 

 みんながびっくりするといけないからこうやってるの。

 

 あ、それよりさ、けーちゃん。

 

 お手伝いしてくれる?」

 

「お手伝い?」

 

「うん、お野菜の皮むいてくれるかなぁ~」

 

「う、うん、お手伝いする。」

 

     ・

 

”シュル、シュル”

 

「よいしょ。よいしょっと。」

 

「けーちゃん、ピーラー使うの上手だよ。

 

 美味しいカレー出来そうだ。」

 

「さーちゃん、本当?」

 

「うん。」

 

「チッチッチッ、沙希ちゃんあまい!

 

 けーちゃん、これからみーちゃんがお野菜がもっと美味しくなるおまじないを教えてあげる。」

 

「おまじない?」

 

「うん、もっと美味しくなるよ。

 

 じゃあけーちゃん、皮むいて。」

 

「うん。」

 

”シュル、シュル”

 

「いいではないか、いいではないか、あれ~」

 

”パコッ”

 

「いた、さーちゃんスリッパで。」

 

”パコッパコッ”

 

「さーちゃん言うな!

 

 三ヶ木、けーちゃんに変なこと教えないで。」

 

「は~い。」

 

”シュル、シュル”

 

「いいではないか、いいではないか。」

 

「け、けーちゃん駄目!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”パクパク”

 

「美味しい。」

 

「うん、みーちゃん美味しい。 おまじない利いたね。」

 

「いや、けーちゃん違うから。 三ヶ木!」

 

「ねぇちゃん、お代わり!」

 

「あ、はいはい。」

 

「「お代わり」」

 

「沙希ちゃん、わたしもお代わり。」

 

「あ、ごめん三ヶ木、もうご飯ない。」

 

「・・・・・・カレーだけでもお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「「ご馳走様。」」

 

「けーちゃん、一緒に食器洗おう。」

 

「うん。」

 

”カチャカチャ”

 

「三ヶ木、ありがとうね。」

 

「うううん、こっちこそご馳走様でした。」

 

「ねぇねぇ、みーちゃん、今日お泊りしないの?

 

 けーかと一緒に寝よう。」

 

「ありがと、けーちゃん。 どうしょうかなぁ」

 

「泊まっていきなよ、あ、あたしも話したいから。」

 

「うん。 じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかなぁ。」

 

「あ、そういえば比企谷には退院したこと言ったのかい?」

 

「え?」

 

「あ、いやね、今日も比企谷、花屋で花買ってたから。」

 

「え、花って?」

 

「比企谷、毎日予備校の帰りに花買ってたけど、あれってお見舞いじゃなかったのかい?」

 

「比企谷君が?」

 

「そうだよ、花屋の前でずっと腕組んで考え込んでてさ。

 

 あれ? ち、違ったのかい?」

 

「うそ。

 

 じゃあ、あの花って。」

 

”そわそわ”

 

「あ、あの、さ、沙希ちゃん。」

 

「うん?」

 

「あの、あのね、わたしね。」

 

「ふ~、行ってきな。

 

 けーちゃん、みーちゃんなんかお約束あったんだって。

 

 また今度にしようね。」

 

「うん。 また今度ね。」

 

「う、うん、また今度絶対にね。

 

 ありがと 沙希ちゃん。」

 

「三ヶ木、なんかわからないけど頑張りな。」

 

「うん。」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

”キョロキョロ”

 

えっとあの看護師さん、今日まだいるかなぁ。

このナースステーションにいるはずなんだけど。

あ、いた。

 

「看護師さん!」

 

「あれ美佳ちゃん、どうしたの何か忘れもの?」

 

「あ、う、うん。 すみません一つ聞いていいですか?」

 

「え、ええ。 どうしたの?」

 

「入院してた時に毎日新しい花が花瓶に生けてあったんですが、あれは看護師さんじゃなかったん

 

 ですね。

 

 だれが、だれがあの花をくれたんですか?」

 

「え、あ、あの~」

 

”ペコ”

 

「お願いします、教えて、教えてください。」

 

「あ、いや、ほ、ほら頭あげてお願い。

 

 もう仕方ないよね、ほら美佳ちゃん昏睡状態の時にずっと付き添っててくれてた

 

 男の子いたでしょ。」

 

「えっと、目つきの悪いほう?」

 

「そ、そうそう死んだお魚のような眼、あ、ごめん。

 

 あの男の子が毎日お花持ってきたの。

 

 なんかいつも忙しそうで、お花だけ渡して帰っちゃうんだけど。

 

 ごめんね、絶対秘密にしてくれって頼まれてたから。」

 

「うううん。 ありがとございます。」

 

”ペコ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

う、う~ん、走りにくい。

あの花、比企谷君だったんだ。

毎日、病院来てくれてたんだ。

だったらなんで? なんで病室に顔だしてくれなかったの?

もう、わけわかんない!

 

”ピンポ~ン”

 

「は~い。」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん。 退院されたんですね、おめでとうございます。」

 

「あ、ありがとう小町ちゃん。

 

 あ、あのね、突然でごめんなさい。

 

 比企谷君、いらっしゃいますか?」

 

「え、えっと~、兄はいつもならもう帰っている時間なんですが。」

 

「小町ちゃんお願い。

 

 どこに行ってるか知ってるのなら教えて。

 

 どうしても、どうしても会わないといけないの。」

 

「む~、どうしょうかなぁ。」

 

”どさ”

 

「お願いします。」

 

「え? み、美佳さん、土下座なんてやめてください。」

 

「だ、だって、会わないといけないの。

 

 うううん、会いたいの。」

 

「わ、わかりました。

 

 兄からは美佳さんには内緒にしてくれって言われてたんですけど、実は 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

つ、着いた。

もうこんな時間だ。

まだここにいるのかなぁ。

彼、自転車だっていうから、もしかしたら入れ違いになったかも。

 

えっと自転車、自転車置いてあるかなぁ? 

 

”キョロキョロ”

 

あ、あった。

比企谷君、やっぱりまだ学校にいるんだ。

でもどこにいるんだろう。

こんな時間まで何やってんだろう。

小町ちゃん最後まで教えてくれなかった。

 

もしかして奉仕部にいるのかなぁ。

奉仕部にいるのなら、結衣ちゃんとゆきのん三人一緒だね。

・・・・・無理だ。

わたしはあの結界、いや雰囲気には入り込めないや。

どうしよう、終わるまで待っていようかなぁ。

 

”スタスタスタ”

 

えっと、あっあれ?

照明ついていないし、だれもいないのか。

 

”ガタ、ガタ”

 

やっぱり鍵掛かってるや、ここじゃないんだ。

じゃあどこだろう。

・・・・・まさか。

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

あ、やっぱり照明ついてる。

ここにいるの?

でもここでなにやってるんだろう?

 

「一色、ここでいいのか?」

 

あ、比企谷君の声だ。

間違いない、彼ここにいるんだ。

それと会長?

ふたりなのかなぁ。

何してるんだろう?

文実の準備は、稲村君が2学期からって言ってたし。

 

「ああん、先輩もっと左です。

 

 あ、そこ、そこがいいです。」

 

え、な、なになに?

えっと、い、今のああんって声って何?

 

「あ、先輩、そこは駄目、駄目です~」

 

お、おい、な、なにしてるんだ。

な、なにが駄目です~なんだ?

はっ、うそ、まさか。

でもそんなことしたら、こ、ここは生徒会室だよ。

とっちめてやる、この~エロ八幡!

はっ、でももしその最中だったら・・・・どうしよう。

 

「おい、なんかさっきからわざとやってないか。」

 

え?

ち、違うの? あんなことやこんなことやってるんじゃないの?

 

「え~、なんのことですか。

 

 そこは例年バスケ部さんの屋台の場所なんです。

 

 ほら、美佳先輩の事前確認で今年も屋台をする予定って書いてあるじゃないですか。

 

 だからそこの場所は駄目なんです。

 

 はっ、先輩、何か変なこと考えてません?

 

 うわ~やらしい、わたしを視姦しないでください。」

 

「おい!

 

 ま、まぁいい。

 

 なぁ、稲村、会計監査の方はわかるか?

 

 もう問題はないか?」

 

「ああ、助かった。

 

 でもなんでお前、こんなに文実の資料に詳しいんだ?」

 

「記録雑務をなめるな。」

 

「いや、会計監査の資料に記録雑務に関係ないだろ?」 

 

「会計監査だけでないぞ、なぜか他の担当の係の資料作りを手つだわ・・・・・任せられたんだ。

 

 お、お茶くみまでも。」

 

「そ、そっか。

 

 なんか大変だったんだな。」

 

「先輩が記録雑務で助かりました。

 

 これからもよろしくです。」

 

「いや、待て。 あくまでも代理だ。

 

 三ヶ木が復帰するまでの代理だからな。」

 

「え~、いいじゃないですか~ケチ!」

 

「お、おい。 

 

 まぁ、でも大分準備できたんじゃないのか?」

 

「そうですね、文実の資料の事前準備はもう大丈夫かと。

 

 あとはあれをどうするかですね。」

 

「あれって人気投票か。」

 

「それ、それなんですよ。」

 

みんなで文実の準備してたんだ。

あれ? 稲村君、この前お見舞い来てくれた時、準備は2学期からって言ってたのに。

あいつ騙したな。

でもよかった、ファイルの保管場所わかったみたい。

 

そっか、比企谷君、わたしの代わりに手伝ってくれてたんだ。

それなのにわたしは勝手に思い込んで。

一人で落ち込んで。

一人で結論つけて。

なんにも彼のことわかっていなかった。

うううん、それだけじゃない。

こんなにやさしい彼に、比企谷君に不満なんか持って。

まったく、なにやってんだこの馬鹿が!

 

「そうだな、まぁ投票結果を発表するだけならそんなに手間ではないと思うが。

 

 そうとしても投票期間の関係もあるし、ある程度のことは文実の前には決めておかないとな。」

 

「まぁ、それは三ヶ木さんの意見聞いてからでもいいんじゃないか?

 

 もしかしたら何か考えているかもしれないから。」

 

「本牧、そのことだが、」

 

「わかってる。

 

 三ヶ木さんに無理かけちゃいけないからな。

 

 ちゃんと元気になってから、身体に負担にならないようになってからだろ。

 

 だから比企谷が代わりに協力してくれてるんだろう。

 

 やさしいんだな。」

 

「い、いや、ほ、ほら仕方なくだ。

 

 せ、責任があるからな。」

 

「責任ですか・・・・・まぁ、いいですけど。

 

 ということで、先輩、わたしミルクティ―でお願いしますね。

 

 ご馳走様で~す♡」

 

「は、ま、まて、なんだそれは? なにがということでなんだ。」

 

「え~、先輩さっきジャンケンでわたしに負けたじゃないですか~」

 

「え、あれ、そうだったの?

 

 まて、お前最初はグーて言ったのにパーだしたんじゃねえか。」

 

「それは戦略、お宅テイクスです。」

 

「いやお前それ戦術、tacticsだろ! お宅じゃねぇ。

 

 くそ、まあいいわ。

 

 書記ちゃん、書記ちゃんは何がいい?」

 

「え、あ、ありがとうございます。 

 

 わたしもミルクティ―で。」

 

「じゃあ行ってくるわ。」

 

「比企谷、俺は紅茶頼む。」

 

「あ、同じものを。」

 

「稲村、本牧、お前ら・・・・今回だけだぞ。」

 

”ガラ”

 

「「あ、」」

 

「・・・・・」

 

「お、お前何でここに?」

 

「あ、う・・・・」

 

”ダ―”

 

「あ、み、三ヶ木。」

 

だめ、今のわたしは比企谷君に会う資格ない!

比企谷君は、やっぱり比企谷君だった。

わたし比企谷君のことなんでもわかってる気になって、ほんとは何もわかっていなかったんだ。

こんなわたしは比企谷君に会う資格なんてない!

 

”ぐり”

 

あっ、やばっ! 足がからんだ。

 

「きゃっ」

 

”ぐぃ”

 

え? 誰が助けてくれ・・・ひ、比企谷君。

 

「馬鹿! 危ないだろ。

 

 ギブスしてるから、今転んだら受け身取れないんだろうがお前。」

 

「・・・・・」

 

「なぁ、もう身体大丈夫なのか? まだ走ったりしたら駄目じゃないのか。」

 

「・・・・・」

 

「お、おい、三ヶ木?」

 

「ごめんなさい、比企谷君。」

 

”ペコッ”

 

「いや、わかればいいんだ。

 

 わかったらもう走るんじゃないぞ。」

 

「あ、そ、そうじゃなくて。

 

 ・・・・・な、何でもない、何でない。 だけどごめん。」

 

「はぁ? なんだそりゃ。 

 

 ま、まあいいけどな。

 

 そ、それよりどうした、何で後ろ向いてるんだ?

 

 こっち向いてくれると話しやすいんだが。」

 

「べ、別に。」

 

だって、ここまでいっぱい走ってきたから、きっと髪とかぼさぼさだし、

それに汗とかで化粧崩れてるから、絶対顔見せない。

 

「ん、なんだ?

 

 なんか怒ってるのか?」

 

お、おい、だから人の顔を覗き込むんじゃない。

いやだ、見るな。

 

”くる”

 

絶対、見せない。

わ、わたしの後頭部でもみてなさい。

 

「む!」

 

”さっ”

 

げ、こいつ、なに人の正面に回り込もうとしてんだ。

このやろう、やめろっていってんだろ。

絶対顔見せないんだからな。

 

”くる”

 

「むむっ!」

 

”ささっ

 

いや、むむっじゃないから。

こいつなんとしても人の顔見るつもりか!

こ、この野郎!

 

「しつこいわ!」

 

”べし”

 

「ぐはぁ!」

 

「しつこいぞお前。

 

 今わたし髪ぼさぼさで、化粧ボロボロだから見られたくないんだ!」

 

「あたたたた。 お前、化粧なんていつもしてないだろう。」

 

”ぐぐぐぐぐ”

 

お、お前、なんてことを。

目立たないようにだけど、ちゃんと努力してるのに。

くそ~ゆるさん、これでもくらえ!

 

「抹殺のラストブリット!」

 

”ぼごぉ”

 

「ぐはぁ」

 

「してるわ、化粧してるわ! 少しは気付け、この唐変木!」

 

「くくくくく、はははは。」

 

はぁ? な、なに殴られて笑ってるの?

だ、大丈夫?

お、お腹だよねラストブリット。

どこか変なとこ殴った?

 

「ひ、比企谷君?」

 

「やっといつもの三ヶ木だ、安心した。」

 

「え、あっ

 

 もしかしてそのために?」

 

「ふぅ~、まぁそんなことよりお前退院する日ぐらい教えろ。

 

 昨日病院行ったらいきなりもう退院しましたって言われたぞ。」

 

「ご、ごめんなさい。

 

 だ、だってスマホ壊れてんだもん。」

 

「そっか。」

 

「そうだ。

 

 ・・・・・あのね、毎日お花ありがとう。」

 

「は、い、いや、何のことかなぁ~」

 

へへ、誤魔化そうとしてもだめだよ。

顔が真っ赤っかだよ。

それにもうネタは上がってんだ。

 

「看護師さんゲロった。

 

 それに予備校の帰りに花買ってくれてるとこ、沙希ちゃんが目撃してる。」

 

「げ、そ、そっか。」

 

「いつも綺麗なお花ありがと。

 

 毎日、楽しみだったんだ。」

 

「お、おう。」

 

へへ、照れて頭かいてるや。

ほんとお花ありがとね。

いつも元気貰っててた。

でも、あの花が比企谷君からだとわかってたら、変な勘違いしなくても済んだのに。

それに、やっぱ顔見たかった。

 

「でもさ、なんで病室来てくれなかったの。」

 

「いや、あのな・・・・・・・・病室よったら多分長居しちゃうだろう。」

 

「・・・・・そ、そう?

 

 え、えっと長居できないのって、もしかして生徒会を手伝ってくれるため?」

 

「ああ、本牧も稲村も塾あるからな。

 

 基本、塾が終わってからになるから、あんまり時間取れないんだ。」

 

「でも何で文実の準備してるって言ってくれなかったの?

 

 言ってくれればさっさと追い返したのに。」

 

「え、追い返されるの。

 

 ま、まぁ言わなかったのはお前だからだな。」

 

「わたしだから?」

 

「もし俺が生徒会手伝いに行くって言ったら、絶対お前気にするだろう。

 

 いや気にするだけでなく、お前のことだ病院抜け出すことさえありうる。」

 

「ぐっ」

 

う、あたってるだけに何も言えん。

だってやっぱり気になるし、それに暇だったんだもん。

ちなみに義輝君の小説もどき、それすら2回も読んでしまった。

くそ、あの野郎、またヒロインを悲惨な目に。

あ、やばっ、まだ感想書いてないや。

 

「なぁ、お前もう生徒会クビになりたくないだろう。

 

 だったらみんなに心配かけるようなことはするな。」

 

「え、あ、うん。」

 

「だけどどうする? ここまで来たんだ、今日は生徒会室に顔出すか?」

 

「うううん、クビなりたくないから帰る。

 

 比企谷君の気持ち、それにみんなの気持ちを無駄にしたくない。」

 

「そ、そっか、じゃあちょっと待ってろ。」

 

「え?」

 

”タッタッタッ”

 

あ、走って行っちゃったけど。

えっと、ここで待ってればいいのかな。

うんしょっと。

ちょっと階段に腰かけて待ってよっと。

そっか、ずっと生徒会の手伝いしてくれてたんだ。

ありがと。

 

     ・

 

”パコ”

 

うひゃ~、コンパクトに写ってるのって、やっぱりこれわたしだよね。

やっぱ予想通り、髪はぼさぼさだし化粧はボロボロ。

げ、こんな顔見られてたのか。

恥ずかしい、めっちゃ恥ずかしい。

で、でも・・・・・この前みたいじゃない。

恥ずかしいけど、悲しくない。

 

”ピタッ”

 

「ひゃ、冷た!」

 

な、なに? 急にほっぺたに冷たいものが。

 

「待たせたな、ほれミルクティ―でよかったか?」

 

「あ、ありがと。」

 

「さっ、帰るか?」

 

「え? あ、う、うん。

 

 で、でもいいの?」

 

「ああ。

 

 今日はもう終わるらしい。

 

 ほら、立てるか。」

 

「あ、ありがと。」

 

”にぎ”

 

へへ、差し出された比企谷君の手、握っちゃった。

このまま握ったまま帰りたいなぁ。

 

「うんしょっと。」

 

「おばん。」

 

「うっさい! 馬鹿。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「げ、何でそんなに詳しいの。」

 

「なめるな! お前のようなにわかではないぞ。

 

 年季が違う、違うのだよ。

 

 まぁ、その俺がイチ押しなのが  」

 

へへ、ほんとプリキラ―好きなんだね。

もうさっきから話しっぱなしじゃん。

しかも何でそんな裏設定まで知ってるんだ。

ほんと、楽しそう。

 

”てくてくてく”

 

あっ!

 

”ピタ”

 

「ん、どうしたんだ、急に立ち止まって。」

 

「うううん、何でもない。」

 

もうこの曲がり角まで来ちゃったんだ。

この角曲がったら、もう家ついちゃうね。

いつもと同じ距離のはずなのに、なんか今日はすごく近かったような気がする。

もうちょっと一緒に歩きたいな。

 

「おい、行くぞ。」

 

「う、うん。

 

 あっ、でもごめんね。 自転車大丈夫?」

 

「ああ、明日か明後日にでも塾の帰りに取ってくる。

 

 文実のほうは今日で最後って言ってたからな。」

 

「塾、みんな行ってるんだよね。

 

 あ、家の電気ついてる。

 

 そっか、とうちゃんもう帰ってんだ。

 

 ね、ちょっとよっていく?

 

 コーヒーぐらい出すよ。」

 

「ああ、そうだな、じゃあちょっとよって・・・・・

 

 いや待て、お父さん帰ってるんだよな。

 

 や、やっぱりやめておく。」

 

「へ? あ、そ、そう。 

 

 それじゃ、送ってくれてありがとね、比企谷君。」

 

「あ、あのな。」

 

”ゴソゴソ”

 

え、なに?

急にバッグあけて、なに探してるの?

 

「これ、貰ってくれるか?

 

 まぁ、退院した時に渡そうと決めてた花だ。」

 

「え、花?」

 

比企谷君、ずっとバッグの中に花入れてたの?

これってペチュニアじゃん。

かわいい、結構好きなんだ。

あ、そっか、今日買ってた花ってペチュニアだったんだ。

ペチュニア、確か花言葉は。

 

「・・・・・これがあの時、林間学校の時のお前の問いに対する俺の答えだ。」

 

「え、答え?」

 

「あのな、俺は俺の所為でお前を傷つけることを覚悟できない。

 

 お前が傷つく姿は二度と見たくない、もう懲り懲りなんだ。

 

 だからお前とは付き合えない。」

 

「ひ、比企谷君。」

 

「と、花火大会までそう思ってた。

 

 だけどな、病室で眠ってるお前を見てて思ったんだ。

 

 俺はお前がいなくなることのほうがもっと何倍も何十倍も辛くて・・・・・嫌なんだって。

 

 お前がいなくなるくらいなら、俺はお前とちゃんと向かい合いたい。

 

 友達とか仲間とかそんなんじゃなくて、とっても大切なやつだと思うから。

 

 いなくなったら困るんだ。

 

 あー、くそ、何言ってんだ俺。

 

 ええ~い、つまりだな! お前が何か仕出かしそうな時は俺が止めてやる。

 

 それでもお前がなんかやっちまった時は俺が一緒に謝ってやる。

 

 お前が泣いた時は・・・・い、一緒に泣いてやる。

 

 それでな、お前が笑った時は・・・できるなら一緒に笑いたい。

 

 だから俺がいつも見ていてやれるように、俺のそばにいろ、ずっとそばにいろ。

 

 いや、いてください、いてくれるとありがたい、いてくれるかなぁ~。

 

 すまん! いてほしい。」

 

「・・・・・」

 

「み、三ヶ木さん、あの~ 」

 

「60点。」

 

「はぁ?」

 

なにさ、やっぱりそれがわたしの振られる理由だったんだ。

まったく比企谷君らしいというか、この男は。

 

そばにいてほしいかぁ~

微妙だなぁ、それって付き合ってくれるってことなのかなぁ?

う~ん、はっきりしろ。

 

えっと彼女って基本一人だよね。

とっても大切なやつってことは、一人なのかなぁ。

あ、でもきっとご両親や小町ちゃんなんかも、とっても大切な人だよね。

多分、あの二人も。

だとしたら、彼女のほうが順位って上?

友達や仲間以上、彼女未満ってことでいいのかなぁ?

 

あ、でもずっとそばにいてほしいって。

これってプロポーズの時に言うんじゃなかったっけ。

プロポーズ・・・・・へへ、えへへへ。

って、そんなことは無いか。

 

う~ん、はっきりしないよ~

付き合うの?付き合わないの? まったくこの男は!

・・・・・・・・・ま、まぁいいっか、今はこれでいいや。

だって比企谷君だもん。

 

「まったく・・・・・わかった、そばにいてあげる、ずっとそばにいてあげる。

 

 でも、ほんとは赤点の50点だったんだからね。」

 

「げ、あ、赤点なのか?」

 

「でも大切なやつって言ってくれたからおまけして60点。

 

 感謝してよね。」

 

「お、おう・・・・・まぁなんだ、これからもよろしく頼む。」

 

「う、うん。 こちらこそ不束者ですが、末永くお願いします。」

 

”ペコリ”

 

「いや、まて、それ何かおかしくない?

 

 それって 」

 

「だって、いつまでもそばにいてほしかったんじゃなかったっけ?」

 

「そ、そうだが。

 

 う~ん、おかしくないのか?

 

 いや、でもなにか・・・・・」

 

「なに、もう一回言ってほしいの?

 

 不束者ですが、末永くお願いします。 幸せにしてね♡」

 

「おい、それやっぱり違うだろ!

 

 なんだ幸せにしてねって。

 

 まぁいいや、じゃそろそろ帰るわ。

 

 またな。」

 

「うん、またね。」

 

”スタスタスタ”

 

ふふふ、このまま帰すと思うのか。

甘いぞ、甘いぞ比企谷君!

付き合うのか付き合わないのか、これだけ悩まされているんだ。

このまま帰すわけがないだろ。

 

「比企谷君。」

 

「お、おう、なんだ?」

 

”す~”

 

「いや、お前息吸いこんでなにしてんの?

 

 は、ま、まさか、や、やめろ!」

 

「大好き!!」

 

「ば、ばっかお前、そんな大声で。」

 

”ダー”

 

けけ、顔真っ赤にして、逃げていきやがった。

はぁ~気がすんだ。

これからもよろしね、比企谷君。

さてと、ご飯つくらなきゃ

 

”ガチャ”

 

「美佳。」

 

げ、と、とうちゃん。

しまった、とうちゃん帰ってたんだ。

も、もしかしてドアの向こうにいたの?

 

「あ、あのう~、何か聞こえました?」

 

「まだ嫁にはやらんからな!

 

 とうちゃん許さないからな!

 

 ちゃんと学校卒業して、それからそれから、くぅ~」

 

「・・・・・とうちゃん、いいからご飯食べよ。」

 

 

8月28日

 

やっぱり、日記続けることにしました。

え、昨日退院するからやめるって書いてたって?

だってわたしはまだ闘病中なんだもん。

 

でもこの病は長引きそう。

お医者さんでも直せないし。

そう、この病を治せるのは君だけだよ。

おやすみ、比企谷君。 おや・・・・・

 

でもさ、なんか忘れてる。

えっとなんか忘れているぞ。

なんだ、なんだ、なんだ、とっても大切なことのような・・・・・・・

 

あ゛っ!

 

”ドタバタ”

 

「美佳、騒がしいいぞ。」

 

”バン!”

 

「お、おい、襖壊れるぞ。」

 

「と、どうぢゃ~ん、ズ、ズマボ貸じで。

 

 早く、早く!」

 

「お、おう? ほ、ほれ。」

 

「ううううう。」

 

”カシャカシャ”

 

「は、はい比企谷です。

 

 お、お父さん、ご機嫌麗しく」

 

「お父さん言うな! あ、いや違う。

 

 わたし、わたしだよ。」

 

「三ヶ木か。 

 

 あのな、お前、あんなこと大声で言うな。

 

 あれ絶対お隣さんとかに聞かれてるぞ。」

 

「ううううう。」

 

「ど、どうした?」

 

「比企谷君・・・・・・・・・・・宿題教えて~」

 

「は、はぁ?」

 




最後までありがとうございました。
お疲れ様でした。

ほんとにごめんなさい。
次回から多くても1万字以内には抑えたいかと。

次話からは文化祭編。
2回目の文化祭になりますが、高校最後の文化祭。
またいろいろと・・・・・

また読んでいただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章 秋物語
文化祭編① 起


今回も見にきていただき、感謝です。
すみません、更新、また遅くなりました。
(やばい、だんだん遅くなっていく。)

今回から秋物語編の始まりです。
最初は高校最後の文化祭。

今回も読みにくいと思いますが、最後まで読んでいただけたら
ありがたいです。
ではよろしくお願いします。


”プシュ~”

 

ま、まだ人乗せるの?

勢いよく開いた電車のドアの向こう側には通勤のおじ様達がいっぱい。

うへ~暑苦しそ~

あ、いや、おじ様達だから暑苦しそ~っていうわけじゃないからね。

自称、おじ様達のアイドル、このわたしがそんなこと思うはずがない・・・・少ししか。

そういえば、印刷所の社長さんとこ、しばらく顔出してないや。

文化祭の件もあるから今度行って来ないと。

 

”ぎゅ~”

 

ぐはぁ~、そ、そんなこと考えてる場合じゃない。

もう無理、お、押さないで~

は、今また誰かお尻触ったろ!

 

「すみません、お客様もう少し中の方にお詰め下さい。」

 

い、いやもう無理だって。

駅員さん、そんなに押し込むんじゃない。

 

くそ、し、失敗した。

今日から新学期。

ちょっと混むかもと思って一本早めの電車にしたのに、めっちゃ混んでるじゃんか。

ちゃんと降りられるようにドアの近くにいたのに、いつの間にか連結部の壁のとこまで。

このままじゃ目の前の壁にめり込んじゃうって。

 

”トン”

 

え? な、なに後ろから腕が壁に。

さっきの痴漢やろうじゃない?

くそ~顔の横に腕って、腕と壁で囲い込んで逃げられなくするつもりか!

痴漢やろうめ、どんな顔してるのか見てやる。

怖がって振り向かないとでも思っってんだろ。

この野郎!

 

「いいかげんにし あっ!」

 

「おう、腕、大丈夫か?」

 

「後ろにいたの比企谷君だったの。」

 

「あ、ああ。

 

 なんとかお前を見つけたんでな、やっとここまで移動できたわ。

 

 それよりできるだけ腕と壁でスペース作ったけど、これ以上のスペースの確保は無理だ。

 

 すまんが、後は自分で腕に負担掛からないように気をつけてくれ。」

 

「う、うん。 ありがと。

 

 あ、でも今日は自転車じゃないの?」

 

「ん、あ、えっと、そうだ、学校に取りに行くの忘れたんだ。

 

 それで、ほらお前が昨日この電車で行くって言ってたんでな。」

 

「そうなんだ。

 

 えっと、ありがと。」

 

「お、おう。」

 

う~ん、確かにスペース作ってくれてありがたいんだけど・・・・・なんか恥ずかしい。

この距離で後ろにずっと立ってられるのも。

えっと、汗の臭いとか嗅がれていないよね。

あ、そ、そうだ。

 

「うんしょ、うんしょっと。」

 

「いやお前何してんの? この狭い中で動かれるときついんだが。」

 

「まぁまぁ。」

 

ふふふ、ちょっと我慢しなさい。

 

”ぐぃぐぃ”

 

よ、よしあとちょっとで。

 

「お、おい?」

 

「じゃ~ん、これでよしっと。

 

 はい、方向転換終了。

 

 へへ、これで壁ドン完成だね。」

 

「ば、ばっか、なに、言ってんだ。」

 

「へへ、顔、真っ赤。」

 

「お、お前もだろ。」

 

はっ、しまった。

壁ドンなんて言ったら、変に意識しちゃった。

冷静になれば、すぐ目の前に比企谷君の顔が。

顔の距離近すぎてめっちゃやばい。

やばいやばいやばい、もっと恥ずかしくなった。

な、なんか会話して誤魔化さないと。

え~と、え~と。

 

「あ、あの、改めまして。 おはよ、比企谷君。」

 

「お、おう、おはようさん。」

 

「あ、あの、本日はお日柄もよく  」

 

「は、はぁ?」

 

”ガタン”

 

「おわぁっ!」

 

は、はっ、今の揺れでわたしの顔の横に比企谷君の顔が。

よ、横向いたら比企谷君のほっぺに、チ、チュ~しちゃう。

・・・・・しちゃおうかなあ、朝チュ~。

いいかなぁ~、いいよね、こ、これは事故だから事故。

ほら、あの、ラッキースケベとかいうやつ。

たまたま横向いたらそこに頬があっただけだから。

せ~の。

 

「す、すまん、三ヶ木大丈夫だったか?」

 

「は、はっ、はい。 ごめんなさい、もうしません、許してください。」

 

「はぁ? なに謝ってんだ?」

 

「あ、いえ・・・・・・・・」

 

朝から何考えてんだわたし。

頭冷やさないと。

 

     ・

 

は、はは、さっきからこの姿勢のまま。

な、なんとか腕のところは、比企谷君頑張ってお腹引っ込めてくれてるから大丈夫だけど。

比企谷君、”く”の字の姿勢続けてるから結構きつそうだよ、ごめんね。

あと、顔はずっとわたしの横にあるんだ。

やばいよ、わたし緊張してなんか変な汗かいてそう。

も、もうやだ。

比企谷君、お願い息止めて。

はぁ、早く駅に着かないかな。

・・・・・でももう少しだけこのままでいたい気も。

う~ん。

 

”キキ~”

 

「おわっ。」

 

「きゃっ」

 

”ギュ~”

 

「大丈夫か? 駅着いたみたいだが、もう少し優しく止まれってんだ。

 

 なぁ三ヶ木。」

 

”ぽわ~ん”

 

「お、おい、三ヶ木?」

 

「えへ、えへえへへ、比企谷君がギュ~て抱き着いてきた。」

 

「・・・・・・・」

 

”プシュ~”

 

「お、おい、ドア開いたぞ、降りるぞ。」

 

「あ、は、はい。」

 

でも、こんなに中のほうに押し込まれたから、出れるかなぁ。

ぎゅうぎゅう詰めだもん。

腕とか大丈夫かなぁ。

 

「すみません、降ります。

 

 ちょっとこいつ酔ったみたいなので開けて下さい。」

 

え、比企谷君、わたし平気だけど・・・・・はっ、酔った、酔ったんだわたし。

え、えっと、

 

「う、き、気分悪い、吐きそう!」

 

     ・

 

「なぁ、スゲ~混んでんだな、いつもこうなのか?」

 

”だきっ”

 

「お、おい馬鹿、お前何やってんだ、腕離せ! 他の奴らに見られるだろう。」

 

「いや、ちょっと吐きそうだから。」

 

「え、ほ、本当に酔ったのか?」

 

「へへへ、冗談、冗談。

 

 あのね、電車の中で必死で腕庇ってくれたから。

 

 だ・か・ら、ご褒美。」

 

「い、いらん。 これは褒美じゃない罰だ、罰ゲームだ!」

 

「ば、罰ゲーム?

 

 うっさい! ほら行くよ。」

 

「だから、腕離せって。

 

 いや、お願いします、離してください。

 

 他の奴らの視線に耐えらえれるほど、俺メンタル強くないから。

 

 み、三ヶ木さん、ゆるして。」

 

「だめ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「つまり、それが君の答えなんだな。」

 

「はい。

 

 わたし、少しだけ前を向いてみたいです。

 

 自分がなりたい姿に少しでも近づけるよう頑張ってみたいです。

 

 かあちゃんや美紀に、わたし頑張ってるよってそんな姿を見てもらいたい。」

 

「そう、そこなんだよ三ヶ木。

 

 亡くなられた方に対して我々ができることは、ずっと思い続けることだけじゃないんだ。

 

 その人の分も今この一瞬を精いっぱい生きる、そしてその人の分も頑張って幸せになる。

 

 それも我々生きているものが亡くなられた方の想いに対する答えなんだ。」

 

「先生、あのね、わたしはかあちゃんのことも美紀のこともこれからもずっと想っていく。

 

 そんで一生懸命努力して、いつかかあちゃんによく頑張ったねって褒めてもらいたい。

 

 それとね、ずっと美紀の自慢のお姉ちゃんでいたい。」

 

”なでなで”

 

「ふふ、教え子の成長ほど、教師冥利に尽きることはない。

 

 成長したな、三ヶ木。

 

 よし、そんな三ヶ木に心ばかりの贈り物をあげよう。」

 

「え、ほんとですか。」

 

”ガサガサ”

 

やった、なに貰えんだろう。

チョコかなぁ、チョコがいいなぁ。

でも先生、机の引き出しの中、もう少し整理しようよ。

あ、それラーメン屋のチラシじゃん。

あと飲み屋の割引き?

あと、なに入ってんのかなぁ~

あ、ほらそこそこ、そこにチョコあった。

 

「こら三ヶ木、あまり引き出しの中を覗き込むんじゃない。

 

 別にここにはタイムマシーンはないぞ。

 

 お、あった、これだこれ。」 

 

”バサッ”

 

「え、こ、これ。」

 

「夏休みの補習授業で使ったプリント集だ。

 

 特別に君のため取って置いたんだ。

 

 来週までに全部やってきたまえ。」

 

「ら、来週。」

 

「これから文化祭の準備が本格的になるだろうからな。

 

 それまでに提出したまえ。

 

 あ、それと夏休みの宿題みたいに比企谷に手伝ってもらおうとはするなよ。」

 

「げ、わかりました?」

 

「なんだ、君はこの宿題の回答見ていないのかね。

 

 こんなに捻くれた答えを書くのはあいつぐらいしかいないぞ。

 

 至るところであいつの捻くれ感が滲みでている。

 

 例えば、ほれここだ。

 

 この登場人物の心情を述べよってところの回答を読んでみたまえ。」

 

「あ、はい。えっと。」

 

不安定な経済環境にあった彼女にとって、ようやく得た安定した収入源である。

これで将来安心だと思った矢先、そんな収入源を何の前触れもなく、

突然失なったことを知った彼女。

いつまでもダンサーで収入を得られるわけでもなく、

ましてやこれからの生活を考えた場合、彼女が絶望で発狂してもおかしくないのである。

専業主夫を志す者としては、このことはまさに身につまされる思いである。

 

教訓、汝、信じることなかれ。 常に疑うベし。

 

お、おい、何という内容を。

単に、主人公への怒りとかでいいだろう。

なんだこの教訓って・・・・・・頭いた。

 

そ、それに、主夫って書いてあるし主夫って。

 

「・・・・・申し訳ありません。

 

 あいつにはよく言って聞かせて、何とか改心させるよう努力します。」

 

「いや、宿題は自分でやれ。 

 

 努力の方向が違うだろ、努力する方向が。

 

 まったく君たちは。」

 

     ・

 

「失礼しました。」

 

”ガラガラ”

 

「はぁ~」

 

「どうしたいきなりため息か?」

 

「ひゃっ、あ、稲村君。

 

 うわっびっくりした。 なに? ストーカー?」

 

「いや違うから。

 

 今から生徒会に行くところだ。

 

 お前も行くんだろう。」

 

「うん。」

 

”スタスタスタ”

 

「なぁ、腕どんな感じだ?」

 

「あ、うん。 ちょっとまだ痛いかな。」

 

「そっか、あんまり無理するなよ。

 

 重たい物とか俺が持ってやるからちゃんと言えよ。」

 

「あ、ありがと。」

 

「で、どうしたんだ、さっきはため息ついて。」

 

「え、ああ。

 

 ・・・・・あ、あのさ、わたし進学しようと思うの。

 

 それで平塚先生に 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そうか、それでそのプリント集か。

 

 ちょっと見せてみろ。」

 

「ほい。

 

 あのさ、このプリント集を来週までにやらないといけないんだよ。

 

 ひどくない? どうせならチョコのほうがよかったなぁ~」

 

”パラパラ”

 

「これ、夏休みの補習でやったプリントだな。」

 

「稲村君、ちょっと手伝ってくれな 」

 

「だめだ! 

 

 お前、進学することに決めたんだろう、こういうのは自分でやらないと意味がない。

 

 来週までに全部できなくても、やれたところまで提出しろ。」

 

「ふぁ~い。」

 

”スタスタスタ“

 

「・・・・・な、なぁ三ヶ木。

 

 前に言ってたろ、一度俺の行っている塾、見学に来ないかって。」

 

「え、塾?

 

 そんなこと言ってたっけ? なんかコーヒー奢ってくれるってことは言ってたような。」

 

「塾のほうは忘れてんのかよ。 まぁ、確かにコーヒー奢るって言ったけどな。

 

 それでどうする?

 

 三ヶ木、進学することに決めたんだろ。

 

 だったら一度見ておいても損ではないと思う。」

 

「そっか。 うん、そうだね。

 

 わかった、ありがと稲村君。

 

 ちょうど近くに行きたい喫茶店あったんだ。

 

 あのパフェ、すっごく美味しそうだったもん。

 

 んじゃ、パフェよろしくってことで。」

 

「三ヶ木、あくまでも塾がメインだからな、塾が。

 

 あ、ちょっと待て、パフェじゃない、コーヒーだコーヒー。」

 

「へへ、ごっつあんです。」

 

「まったく。

 

 コーヒーだからなコーヒー。 ほら入るぞ。」

 

”ガラガラ”

 

「お疲れっす。」

 

「ご苦労様です。」

 

「・・・・・」

 

へ、な、なに、この生徒会室に漂う重い雰囲気。

え、書記ちゃんなに?

あっちあっちって、あっちになにか・・・・・・げっ

 

”トントントントン”

 

「稲村先輩、美佳先輩、遅い、遅い、遅い!

 

 お二人で何してたんですか。」

 

げ、やばい。

頬杖ついて机をトントンって。

これ、会長めっちゃ機嫌悪い時のしぐさじゃん。

ほら、ほっぺめっちゃ膨らませてる。

なにそれ、ちょっとかわいいんだけど。

へへ、ツンツンしたいなぁ。

 

は、まてよ。

こんな時はいつもなにか面倒を押し付けられるんだ。

えっと、

 

「ぐすん、会長、わたし早く来たかったんだけど、

 

 稲村君に無理矢理引き留められて、あんなことやこんなことを。」

 

「はぁ? ば、馬鹿三ヶ木! 

 

 か、会長、違う、違うから。

 

 勉強の話してただけだから。」

 

「夫婦漫才はもういいですから。

 

 役員会始めますよ、さっさと座ってください。」

 

「は、はい。」

 

ふ~、何とかごまかせたかなぁ。

へへ、稲村君ごめん。

げ、睨んでる。

 

「それじゃ、早速役員会を始めますね。

 

 そこの見習いさん、議事進めてください。」

 

「?」

 

「見習いさん。」

 

「は、あ、わたし?」

 

「見習いって、美佳先輩しかいないじゃないですか。

 

 あっ、生徒会中はちゃんと腕章付けてください。

 

 それは戒めですからね。」

 

「あ、はいはい。」

 

戒めか。

この腕章って孫悟空の頭の輪みたいなものだったりして。

会長がお経唱えると締め付けられたりするかも。

なんてね。

これはみんなのやさしさ。

わたしとわたしの居たい場所をつないでくれる大事なもの。

・・・・・で、でも文実の時もつけてないといけないのかなぁ。

早く見習い卒業したい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで文実委員の提出については、既に一週間前倒しでお願い済みです。

 

 昨年は当日になっても決まってないところがあったので。

 

 それで、委員の名簿上がり次第、事前に委員長の選考をしたいのでお願いします。」

 

「三ヶ木先輩、やっぱり選考するんですか。」

 

「うん、やっぱり委員長大事だから。

 

 まぁ形式的には文実で決めることになるんだけど根回しをね。

 

 どうせだれも立候補しないから。

 

 去年は本当は雪ノ下さんにやってほしかったんだけど、事前に調整できなくて。」

 

そう、あとちょっとだったんだよ、根回しができてればいけたと思うんだよな。

だから今年は候補者選んだら、会長達に説得してもらって。

わたしは裏に回ってあの手この手を駆使して既成路線に。

まずは周りから落としていこうではないか。

ぐふふ、そういうことは任せなさい。

 

「まぁ、本当はそんな面倒くさいことしたくないんですけど。

 

 会議で無駄な時間掛けるのも嫌ですし。

 

 っというわけで、美佳先輩、候補者の説得よろしくです。」

 

「げ、わ、わたし?

 

 あ、いやそこは会長が。」

 

「あ~あ、今日はすごく待たされたなぁ~

 

 いや~まさか30分も机と睨めっこすることになるとは思ってもみませんでした。

 

 待ってるのって結構疲れるもんですね、美佳先輩。 えへ♡」

 

げ、やっぱり誤魔化せてなかった。

はぁ~、まぁ委員長候補が女子かもしれないもんね。

会長、女子には結構敵いるから。

だって男子の前だとやたらあざといって、女子が結構陰口叩いていたりしてるんだ。

あ、そういえば、以前一人でお弁当食べてたの見たことがあるような。

 

「それに、会長はど~んと構えていないといけないじゃないですか。

 

 まぁ、なんならそこの稲村先輩使っていいですから。」

 

「お、俺かよ。 しかもそこのって。」

 

「・・・・・わかりました。

 

 そ、それじゃ、次は各担当の割り振りですが。」

 

「会計監査は稲村先輩で決まりですね。

 

 あとは、宣伝広報と有志統制、物品管理、保健衛生、記録雑務か。

 

 面倒なので、どれか担当したのあります?」

 

「あ、有志統制は任せてくれないか。」

 

「わたしは記録雑務やります。」

 

「むぅ~、残りは物品管理と宣伝広報。

 

 それじゃ美佳先輩、物品管理よろしくです。」

 

「え、物品管理? わたし広報のほうが。

 

 ほら去年もやってたから。」

 

「え~、だって宣伝広報ってテレビに出てたじゃないですか。

 

 今年もテレビに出るんですよね。」

 

「あ、はい。 一応、既にテレビ局とは交渉済みです。

 

 詳細は後日ってことになってますけど。」

 

「えっと、それってやっぱり華やかさが必要じゃないですか~

 

 うん、仕方ないですね。

 

 仕方ないです、ここはわたしが宣伝広報やるしかないですね。

 

 っというわけで、美佳先輩、物品管理お願いします。」

 

ぐ、た、確かに、わたしが出るよりは会長のほうが。

う~納得してしまう自分がつらい。

物品管理か。

まあそういうのわりと好きだからいいか。

 

「じゃあ、各部門の担当は、

 

 有志統制は副会長、記録雑務、書記ちゃん、会計監査は稲村先輩。

 

 それで宣伝広報がわたしで。

 

 美佳先輩、物品管理と保健衛生よろしくです。」

 

「はい。・・・・・・・お、おい増えてる、増えてるって。」

 

「え、気のせいですよ。」

 

「いや、気のせいじゃないから。

 

 ・・・・まぁ、いいですけど。

 

 でもその代わり、会長、実行委員長のフォローをお願いしますね。

 

 去年の反省なんです、よろしくお願いします。」

 

”ペコ”

 

「え、あ、はい、了解です。」

 

「えっと、あとは人気投票についてですが。

 

 4位までは当日のお昼に貼りだしでよろしかったですね。

 

 あと1位から3位はステージで、プロジェクタ―を使って顔写真投影して発表ってことで

 

 よかったですね。」

 

「そこ、生バンドほしいです。 

 

 あとそれと1位はなにかこう華やかな衣装がいいかなぁ。

 

 あ、わたしドレスでいいです。

 

 ほら、あのスカートがパァって広がってて、あとティアラとかも。

 

 なんかゴージャスにしましょう。」

 

「いや会長、予算の関係もあって 」

 

「あ、そこは男子の分はしょぼくて結構ですので、その分をっていうことでよろしくです。」

 

「「・・・・・」」

 

1位とるの前提!

会長やるき満々だ。

でも、ゆきのんいるから。

2年連続一位だもんね。今年も最有力候補だもん。

 

んと、生バンドは当日の出演予定のバンドに頼むとして、あとは衣装か。

そういえば会長、よく海外ドラマ観てたっけ。

おい、仕事しろって思ったけど夢中で見てた。

あんなのに憧れてるんだろうなぁ。

ぐふふ、かわいい。

 

「な、なんですか美佳先輩、ニヤニヤしてなんか気持ち悪いです。

 

 あ、それとあと結果発表だけじゃしょぼいじゃないですか。

 

 えっと、過去の文化祭の資料見ていたんですけど、何年か前までは文化祭で

 

 ダンスパーティみたいなのやってたみたいなんですよ。

 

 ほら、ここ、ここのページ。」

 

”パサッ”

 

「へぇ~、昔はこんなのやってたんだ。

 

 この資料、三ヶ木さんが準備してくれてたんだ。」

 

「みんな楽しそうだね、いろはちゃん。」

 

「ん? あ、お、おい三ヶ木、これお父さんじゃないか?

 

 ほら、なんか面影ある。

 

 すごく綺麗な人と踊ってるぞ。」

 

「え、どこ? 気が付かなかった。」

 

「ほらこの隅のほうで踊ってるの。」

 

「ほんとだ。 

 

 あっ! これ一緒に踊ってるのかあちゃんだ。

 

 学生頃の写真、アルバムでみたことあるから。」

 

「へぇ~、この人が美佳先輩のお母さん。

 

 なるほど、なるほど。」

 

え、な、なに?

会長、なに人の顔じろじろと。

なんかついてる?

は、なにそのにやけた顔。

 

「あ、あの~なにか?」

 

「美佳先輩、やっぱりお父さん似なんですね。」

 

「・・・・・」

 

ほっとけ。 気にしてんだそこは。

小っちゃいころからよく言われたんだよ、美佳ちゃんお父さん似ねって。

その度、どれだけ傷ついたことか。

くそ、もう少しかあちゃんに似てたら、わたしの人生も。

 

「わたし考えてたんですけど、人気投票の結果発表とダンスパーティを

 

 組み合わせちゃいましょう。」

 

「いろはちゃん、面白そうだけど、それ準備とか人と予算とかどうするの?」

 

「もちろん人気投票は生徒会でやります。

 

 だってそこの見習いさんがそう宣言しちゃったじゃないですか。」

 

「す、すみません。

 

 でも会長、実際にそこまでやろうとすると生徒会だけじゃ。」

 

「ごほん、そこは有志を募集します。

 

 ほ、ほらそういう部活あったじゃないですか。

 

 なんか困ったときのお助け部みたいな。」

 

いやいやお助け部って。

まぁそれ、あの部のことだろうけど。

会長、なんかうれしそう。

はぁ、あんまり頼りたくないけど、ここは仕方ないか。

 

「あ、そうだ結果発表の後、チークダンスしましょう。

 

 えっとそれで1位の人は踊れる相手を指名できるってどうですか。

 

 もち、指名された方の拒否権は無しってことで。」

 

「「チ、チーク!」」

 

「いろはちゃん、チークダンスってあのチーク?」

 

「えっと、会長、あんまり個人的なご希望は。」

 

「な、何ですか美佳先輩。

 

 ち、違いますよ。

 

 ほ、ほらそのほうがなんか盛り上がりそうじゃないですか。」

 

「・・・・・」

 

チークはさすがにちょっと無理だよ。

さすがに先生もそこまでは黙ってないって。

 

で、でもできるなら一度踊ってみたい。

だって、あと半年後には卒業。

卒業したら東京行っちゃうんだ比企谷君。

そしたら離れ離れになって、いつか・・・・・

はぁ~、一位になりたいなぁ。

 

「まぁ、そこはダメもとでってことで。

 

 あ、もうこんな時間。

 

 それじゃ今日はここまでっていうことで。

 

 わたしちょっと用事がありますのでお先です、では。」

 

”シュパッ”

 

げ、いつもの敬礼。

な、なにそのにこやかな笑顔。

は、この笑顔は何か企んでる時の笑顔。

なんかいやな悪寒が、いや予感が。

 

「あ、忘れてました。

 

 えっと、今月はあいさつ運動強化月間ですので。

 

 みなさん、毎週月、金曜日の朝は全員校門前集合ってことでよろしくです。 えへ♡」

 

「「は、はぁ?」」

 

”ガラガラ”

 

い、いや、そんな月間いつ決まったの?

もしかして夏休み中?

聞いてないよ、朝はいろいろ忙しいんだ。

 

「あのさ、本牧君、稲村君。 

 

 あいさつ運動強化月間って知ってた?」

 

「いや、今初めて聞いたよ。」

 

「ああ、俺も。」

 

「三ヶ木先輩、もしかしてほら人気投票あるから。」

 

「「あっ」」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

んっと、比企谷君、もう帰ったかなぁ。

自転車自転車っと。

 

”キョロキョロ”

 

やっぱり無いか、もう帰ったんだ。

わたしの帰ろうかなぁ。

でも、まぁちょっと一休み、久しぶりの学校でちょっと疲れた。

えっと自販機っと、ん~なに飲もうかなぁ。

 

     ・

 

”ゴクゴクゴク”

 

ふぅ~、やっぱミルクティーだね、うまい!

 

”ゴクゴク”

 

・・・・・文化祭か。

 

いよいよリベンジだね。

前の生徒会活動の中で唯一の心残り。

 

みんな卒業しちゃったけど、わたしはリベンジできるチャンスをもらえた。

みんなの分も頑張らないと。

 

優秀すぎるNo.2っか。

 

組織の強さはNo.2によって決まるって何かで読んだことある。

確かNo.2に求められるもの、まずトップの考えを理解して、トップが何を

したいのかちゃんと部下に伝えられること。

次にトップの目の及ばないところ、至らないところをフォローできること、

そんでNo.2はトップより目立たない、でしゃばらないこと。

つまり、No.2は会長を影で支える存在じゃないといけないってことだったよね。

 

あ、ゆきのんが悪かったっていうんじゃないよ。

ゆきのんは優秀すぎるんだ。

なんでもてきぱきと処理しちゃう。

 

でもそれはNo.2としての優秀さじゃない。

やっぱりトップになるべきだったんだと思う。

それじゃなきゃ、No.2になんかなっちゃいけない。

そんなNo.2と比較されるトップがかわいそうだよ。

 

で、でもそれをさせてしまったのが生徒会なんだ。

さがみん、始めはそれなりに頑張ってたんだ。

でもわたしたちがうまくフォローできなかったから、知らないうちに奉仕部に相談に行ってて。

んで、いつの間にかゆきのんが副実行委員長って決まってた。

それからだね、組織がうまくいかなくなったのは。

 

だから今年は、今年こそはちゃんと生徒会が委員長をフォローできるようにしないと。

優秀なNo.2はいらない。

そんな人なかなかいないから。

だったらみんなで委員長を支える組織にしないと。

 

”カキカキ”

 

文実組織改革案㊙っと。

 

     ・

 

ふむ、こんな感じかな。

実行委員長の下に各部長さんからなる部長連絡会を設けて、定期的な進行状況の確認や

連絡・調整なんかはこの連絡会で話して決めてっと。

あとは委員長直属の機関として生徒会があってと。

まぁ、生徒会役員は各部会に割り振られてるから、裏の情報も入手できるだろうし。

文実全員集まるのはスローガンとか決める時だけでいいよね。

わざわざ定例ミーティングなんかで作業の時間割くの勿体無いし。

それにこの人数なら密接に連携とってできるはず。

ふ~できた、これでいいかなぁ。

よし、一度比企谷君に相談してみようっと。

 

”ゴクゴクゴク”

 

ん~、でもさ、さがみん、どこで奉仕部なんて知ったんだろう。

奉仕部の存在なんてあんまり知ってる人っていなかったと思うけど。

それに個人的に雪ノ下さんに伝手があった感じじゃないし。

 

”スッ”

 

「あっ」

 

「なに書いてるんですか、ジミ子先輩。」

 

「舞ちゃん、それ返しなさい!」

 

「なになに、文実組織改革案?

 

 なんすかこれ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~ん、そんなことがあったんですか。

 

 でもそれって結局のところ、単なるコミュ障ってことじゃないですか。

 

 委員長と副委員長がしっかりコミニケーションとってればよかっただけじゃないですか。」

 

「そ、そうなんだけど。

 

 ま、まぁゆきのんだから。」

 

「で、この組織案だと生徒会は実行委員長直轄ということになりますね。」

 

 だったら、実行委員長は生徒会の上司。」

 

「え、まぁそういうことになるね、形式的には。」

 

「つまり、稲村先輩もジミ子先輩も部下・・・・・うふふふ。」

 

「は、はぁ? な、なにその笑顔。」

 

「何でもない何でもないですよ。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、はいはい、三ヶ木だよ。」

 

「あ、俺、稲村。」

 

「ああ、どうしたの? なんならそこの稲村君。」

 

「おい。 ちぇ、まあいいや。

 

 あのな塾の件だけど、明日の9時に千葉駅前でいいか?」

 

「あ、うん、了解! じゃあ、明日よろしくね。」

 

「ああ、じゃあ明日な。」

 

”カシャ”

 

「今の稲村先輩ですか?」

 

「あ、う、うん。

 

 明日の土曜日に稲村君と塾に行く約束してたから。」

 

「へー、稲村先輩とデート。

 

 デートしちゃうんだ、ジミ子先輩。

 

 ふ・た・ま・た。 うわ~魔性の女って本当にいたんだ。」

 

あ、しまった、舞ちゃん稲村君のこと。

やばっ!

ほ、ほら目つきがこわ~

 

「ち、違う、デートじゃないから。

 

 塾の見学に連れて行ってもらうだけだから。

 

 断じてデートなんかじゃないよ。」

 

「女子の敵。」

 

「いや、ほんと違うから。

 

 あ、そうだ。 よかったら、舞ちゃんも一緒に来ない?」

 

「はぁっ? なんでわたしが行かないといけないんですか!

 

 わたし、もう帰ります。」

 

「あ、わたしももう帰るところなんだ、舞ちゃん一緒に帰ろ。」

 

「お断り。」

 

「そんなこと言わないで、一緒に帰ろ。」

 

「いやです。」

 

「舞ちゃんってば。」

 

「もう、しつこい!」

 

「舞ちゃん。」

 

「・・・・・すぐそこまでですよ。」

 

「うん。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ウイーン”

 

は、はぁ、疲れた。

なんだあの教室の雰囲気は。

あの教室にいるだけでなにかすごい疲労感が。

まるでエナジードレインされたかのような。

あれが受験生というものなのか。

無駄口一つたたかないで、必死というかすごく気合が入ってるっていうか。

なんかもうピリピリしてて。

 

ふぅ~、建物の外に一歩出た時の解放感、半端ない。

自由がこんなにも素晴らしいものだということを改めて実感したよ。

 

でもさ、みんな必死に勉強してるんだ、わたしもちゃんと勉強しないとやばい。

 

「どうだ、受験生の雰囲気わかったか?

 

 学校とは全然違うだろ。

 

 あれが俺たちの戦うライバルの姿だ。」

 

「う、うん。」

 

「わかったら、ちゃんとプリント自分でやれよ。」

 

「わたしが甘かった。

 

 学校の雰囲気とは全然違うや。

 

 よし、頑張らないとね。」

 

「わかったんならよかった。

 

 連れてきたかいがあった。

 

 それじゃ、ほら喫茶店行くぞ。」

 

「え、あ、パフェだパフェ。」

 

「お、おい、コーヒーだからな、奢るのコーヒーだから。」

 

「けち、女子と一緒にお茶できるんだけら、パフエぐらい奢りなさい。」

 

「断る。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん~、美味しかった。

 

 前から一度ここのフルーツパフェ食べたかったんだ。

 

 ご馳走様でした。」

 

「・・・・・」

 

「もう、期限直してよ。

 

 いいじゃん、パフエぐらい。」

 

「・・・・・お前、俺の分の代金払うなよ。」

 

「え、あ、そっち。

 

 でも、わたしそっちのほうが好きなんだもん。

 

 お互いに奢りあったほうがやっぱりいいじゃん。

 

 でも、稲村君、イチゴショートケーキが好きなんだね、意外だ。」

 

「なんでだ。 ケーキといえばまずイチゴショートだろ。

 

 イチゴショートこそ基本中の基本。

 

 何事も基本が大事。それが俺の基本だ。

 

 全く、お前が代金払うっていうのならコーヒーだけにしたのに。

 

 それより今日は今から・・・・

 

 えっ!」

 

「ん? どうしたの。」

 

「あ、あれ、お父さんじゃないか?」

 

「あ、うそ、なんで。」

 

「一緒に腕組んでる女の人、お前知ってるのか?」

 

「う、うううん、知らない。」

 

なに? 誰あの人?

それに今日お仕事って言ってたのに。

とうちゃん、何でそんなにうれしそうに笑ってんだ。

あ、女の人も笑ってる。

な、なんだその距離感、近すぎるんだろう。

腕なんて組むんじゃない。

か、かあちゃんかわいそうだろう。

 

でも、どこに行くんだ。

え? そこ焼き肉屋。

二人で焼き肉食べるってそんな関係なの?

わたしなんて焼き肉屋さん連れて行ってもらったことないのに。

いや違う、そんなことじゃなくてつまりそんな関係なの?

 

「み、三ヶ木。 どうする? 俺たちも焼き肉屋はいるか?」

 

「うううん、いい。

 

 ごめん、今日はもう帰るね。」

 

「そ、そっか、家まで送るか?」

 

「だ、大丈夫。 一人で帰れる。

 

 うううん、一人で帰りたい。 ごめんね。」

 

「そ、そうか。」

 

「稲村君、今日もありがと。」

 

「ああ、また月曜日な。

 

 気をつけて帰れよ。」

 

「うん。」

 

「あっ、三ヶ木、やっぱりい、いっしょ 」

 

「ん?」

 

「あ、いや、やっぱりイチゴショート美味しかった。」

 

「うん? じゃあ、また一緒に行こ。

 

 今度わたしも食べてみたいから。」

 

「あ、ああ。  じゃあな。」

 

「うん。 じゃあ。」

 

”トボトボトボ”

 

「追っかけなくていいんですか? 稲村先輩。」

 

「え、はぁ? 何でお前がここにいるの?」

 

「あ、え、えっと、たまたまです。

 

 決して塾とか喫茶店とかついて行ってませんから。

 

 パフェ、美味しそうだったけど。」

 

「お、おい・・・・ついてきてたんだな。」

 

「それより、本当にいいんですか一人で帰して。」

 

「三ヶ木が一人で帰りたいって言ってるからな。」

 

「・・・本当に押しが弱いんですから。

 

 今世紀最大のチャンスかもしれないのに。」

 

「はぁ?」

 

「何でもないですよ。

 

 わたし的にはそのほうがいいですから。

 

 ・・・・・あ、あの、稲村先輩。

 

 ぶっちゃけ、稲村先輩は三ヶ木先輩のどこが好きなんですか?」

 

「は、はぁ?」

 

「いやだって、そんなに可愛いほうじゃないですし、性格はあんなんですし。

 

 どこかいいとこあります?」

 

「あるぞ! いいとこいっぱいある。

 

 あいつはすごく家庭的で、頑張り屋で、いろいろ気遣ってくれたり。

 

 あと危なっかしくて、放っておくと何するかわからなくて・・・・・・だから守ってやりたい。

 

 あ、それに一緒にいると楽しいんだ。」

 

「だから好きなんですね。」

 

「はっ、い、いや、な、なに言ってんだ。

 

 違うぞ、ほら俺たち生徒会の仲間だから、仲間。」

 

「もうバレてますから。

 

 まぁいいです。

 

 そうですか、頑張り屋さんで、危なっかしくてか。

 

 ん~」

 

「お。おい蒔田。」

 

「三ヶ木先輩に言っちゃおうかなぁ~

 

 俺、守ってやりたい。 きゃ~」

 

「ば、馬鹿やめろ。」

 

「じゃあ、わたしもパフェ食べたいです。

 

 三ヶ木先輩と一緒のパフェ。」

 

「お、おい。」

 

「ほら行きますよ。」

 

「い、いや、俺ちょっと用事が。」

 

「えっとスマホ、スマホ。」

 

「わ、わかった。 くそ、パフェでもイチゴショートでもなんでも奢ってやる。」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、もうこんな時間だ。

とうちゃん遅いなぁ、夕食どうするんだろ。

せっかく作ったのに冷めちゃうよ。

あの人とまだ一緒なのかなぁ。

・・・・・とうちゃん。

 

え~い、こんな時は!

 

”カシャカシャ”

 

いるかな、なにしてるかな。

 

「おう、俺だ。」

 

「おう、わたしだ。 ね、今何してたの。」

 

「あ、い、いや何も。」

 

「あのさ、ちょっと相談していい?」

 

「い、今じゃないとダメなのか? あ。あとで 」

 

「あ、ごめん、何か用事あったんだ。 それじゃ 」

 

「お兄ちゃん、ご飯だよ~」

 

あ、今家にいるんだ。

今からご飯なんだ。

 

「ヒッキー、早く来ないとご飯食べちゃうよ。 

 

 すごく美味しそうだよ。」

 

「えっ」

 

「あ、いや違うんだ三ヶ木。」

 

「・・・・・」

 

「み、三ヶ木聞いているか? 今日はゆき 」

 

”プツ、プー、プー”




最後までありがとうございます。

ようやく、次話より文実スタートです。
また読んでいただけたらありがたいです。

※今年の冬も我が家に4本足の魔物が。
 この魔物の中に引きづり込まれたら、いつの間にか意識が遠ざかって。

 す、すみません。 
 更新遅くなってる言い訳です、ごめんなさい。

 次話、更新遅くならないよう、気をつけなければ。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編② 罅

見に来ていただいてありがたいです。
もうすっかり忘れられたかと。(自業自得っす)

すみません、今回から文実っと思ったんですが、気がついたときには
15000字を超えてて・・・・
まだ文実までいけてないです。

長々とまたしても読みにくいとは思いますが、我慢いただけたらと。
ではよろしくお願いいたします。
(なかなか文章力進歩しなくてすみません。)



「会長、それじゃ林間学校の時の写真でよろしいですね。」

 

「う~ん、商店街の時の写真も捨てがたいんですけど。

 

 でもほら、わたし的にやっぱりこのちょっと左側からのほうが可愛く見えるじゃないですか~

 

 ですからやっぱり林間学校の時の写真でお願いします。」

 

や、やっと決まった。

げぇ、もう九時なの。

朝ご飯食べてからだから、あれから一時間も悩んでたのかよ、たった一枚の写真に!

もう変更ないよね。

まったく、挨拶運動のポスターなんだかジャリっ娘の選挙ポスターなのかわからないじゃん。

それにさ、どっちの写真もそう変わらないし。

くそ~、どっちもかわいいなぁ~ジャリっ娘。

とくにこの髪をかきあげてるとこなんか、ぐふふふ。

は、いや、そんな趣味ないからね、あの~ちょっとしか。

 

それに比べてわたしの写真ってなんでこんなのしか・・・・・

え~い、わたしは写真写りが悪いんだ。

ふん、もういいや早く直しちゃおう。

 

”カチャカチャ”

 

でもさ、ほんと書記ちゃん記録とっておいてくれて大助かりだわ。

こんなにたくさんの写真撮っておいてくれたんだ。

ありがと、書記ちゃん。

 

”カチッ”

 

「えっと写真貼り替えましたけど、その他は修正無しでよろしかったですね?」

 

「そうですね、まぁこんなもんでしょう。」

 

こ、こんなもんだと。

ちくしょ~

このポスター、て、徹夜して作ったというのに。

徹夜はお肌の敵なんだからね。

あっ、ほら目の下にクマいるし、二頭も。

ふぅ~

まったく、これというのもあんたが急に挨拶運動するっていうからだからね。

 

「そ、それではこれでいきますね。

 

 早速、ホームページにアップしておきます。

 

 あ、それと明日の朝、学校の掲示板に貼りだしておきますね。」

 

「はい、よろしくです。

 

 あっ、美佳先輩。」

 

「え? あ、はい。」

 

な、なに? もしかしてまた修正?

たは~写真選ぶだけで一時間もかかったのに。

今度は何?

 

「いつもありがとうございます。

 

 でも、あまりお身体無理したらだめですよ。」

 

「え、あ、あ、その、ほ、ほら、し、仕事だから。」

 

う、うそ、あのジャリっ娘がこんなやさしい言葉を。

うううう、成長したんだ。

お姉さん嬉しい、素直に嬉しいよ。

頑張ってよかった。

 

「もう若くないんですからね。

 

 では明日はよろしくです、えへ♡」

 

「は、はい、会長。

 

 また明日です。」

 

・・・・・ん? お、おい一ヵ月しか変わらないだろ!

なんだ若くないって。

くそー、気を許したわたしが馬鹿だった。

 

はぁ~、さっさとポスター終わらせちゃおうっと。

あと幟のほうも直しておかないとね。

あ、そうそう、その前に電話しておかなくちゃ。

い、忙しい。

え~と、電話出てくれるかなぁ。

 

”カシャ、カシャ”

 

う~、ね、眠いけど、お仕事だからお仕事。

わたしゃ、社畜の鑑だね。

 

「あ、もしもし、三ヶ木だけど今電話大丈夫?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”セッセ、セッセ”

 

できた、これでよしっと。

どれどれ、しっかり縫えたかな。

 

”ビシビシ”

 

うん、いい出来。

これでちょっとやそっとの風が吹いても大丈夫だ。

ね、ねぇ、知ってる?

この幟の帯のことチチっていうんだよ、チチって。

左側にある場合が左チチ、右側にある場合が右チチなんだって。

きゃ~なんかやらしい、チチだってチチ。

・・・・・な、誰と話してんだわたし。

 

でもさ、この挨拶運動強化月間の幟、倉庫にあったのは知ってたけど

そんなに汚れてなくてよかった。

挨拶運動って前の生徒会の時はやらなかったからちょっと楽しみ。

明日、天気どうかなぁ~。

折角準備したんだし、晴れるといいなぁ~

 

「ふぁ~あ。」

 

ねむ、めっちゃ眠い、もう限界っす。

プリント集、ちょっとひと眠りしてからにしよ。

おやすみ、イレギュラーヘッド様。

 

”ちゅっ”

 

へへ、幸せ。

 

”ピンポ~ン”

 

・・・・・やだ。

 

”ピンポ~ン”

 

も、もう誰だよ、ちょっと眠らせて。

 

”ピンポ~ン”

 

く、くっそ!

 

”ガバッ”

 

ねむ、眠いよ~

 

”ピンポ~ン、ピンポ~ン”

 

はいはい、いま行きます、行きますよ~

 

”ビンボ~ン”

 

おい、貧乏ってなんだ貧乏って・・・・・んなわけないか。

 

”ガチャ

 

「よう。」

 

「あ!」

 

”バタン!”

 

「え、お、おい?」

 

「し、新聞なんかいらない。」

 

「いや、お前いましっかり目が合っただろう。」

 

な、なんで比企谷君が?

やば、髪ぼさぼさだし目の下のクマ見られちゃったかなぁ。

何でいきなり来るの、もう!

 

「な、何の用なのさ。

 

 連絡もしないでいきなり女子の家に来ないでよ。

 

 い、いろいろ準備あるんだからね。」

 

「いや朝から何度も電話したんだが、全然繋がらなかったんでな。

 

 ほら昨日、お前なんか相談したいことあるって言ってたろ。

 

 ちょっと心配で来てみたんだが。」

 

あ、ずっとジャリっ娘と電話してたから。

心配してわざわざ来てくれたの?

えへ、えへへへ、仕方ない許してあげる。

うううん、違う。

ありがと。

 

「あ、あの! ちょっと待ってて、厳密に!」

 

「お、おう? いや厳密にって。」

 

”ドタバタ、ガタガタ、ゴトゴト・・・・・・ガラガラ、シャー”

 

はぁ、はぁ、と、とにかく今はこれでよしっと。

あと、変なもの出てないよね、とうちゃんの本とか。

 

”キョロキョロ”

 

よしok。

あっ、あとは目の下のクマ!

・・・・・・・・・・無理!

 

”ドタバタ”

 

「お、お待たせ。」

 

”ガチャ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうぞ。

 

 いらっしゃいませ。」

 

「お、おう。

 

 すごく息切らしてるけど、大丈夫か。」

 

「だ、大丈夫だから、気にしないで。」

 

「んじゃ、失礼します。」

 

”スタスタ”

 

「それで相談ってなんだ?

 

 へ、どこ行くんだ? ダイニングじゃ 」

 

”スー”

 

「はい、狭いけど。」

 

「お、おい、お前の部屋に入るのか?」

 

「なに、文句ある?」

 

「え、あ、いや、しかしお前の部屋パ、パンツほし・・・てないか。

 

 ま、まぁな、ダイニングにいたらお父さんも気を遣うだろうからな。」

 

「ん? とうちゃん今日いないよ。 

 

 ・・・・・今日もね、休日出勤だって会社に・・・会社に行ったよ。」

 

「そうか休日出勤か忙しいんだな・・・・・って、おい! この前も言っただろ、

 

 お前一人の時には男を簡単に家に入れるなって。」

 

「おい! この前も言っただろう、わたし一人の時に家に上げるのは

 

 比企谷君だけだって。」

 

「あ、い、いや、その、お前、俺も一応男だからな、健全な男子。

 

 そのもう少し警戒というか、」

 

「だからなに? ヘタレのくせして。」

 

「な、お、お前、ヘタレって。」

 

「なによ、なんなら病院の時みたいに、ハ、ハグしてみる?」

 

「え、あ、あの、そ、それは 」

 

「ほれほれ。」

 

”ぐぃ”

 

今日はちゃんとブラしてるからね。

さぁ、ド~ンと来なさいド~ンと。

この豊満なチチに、ほれこのチチに。

やばい、なんかチチが頭にしみこんで。

 

「い、いやヘタレで、ヘタレで結構です。」

 

「チッ!」

 

「いや、お前、チッってなんだチッって。」

 

「まぁいいや。

 

 そこのクッションに座ってて、いま飲み物持ってくるね。」

 

「おう、お構いなく。」

 

”スー”

 

あ、ちょっと待てよ。

飲み物用意している間に部屋物色されないようにしないと。

まぁ、比企谷君のように本棚に何も隠してないけどね。

あのエッチ本はえぐかった、このロリコンめ。

 

「あ、言っておくけど、今座ったそのクッションから1μm、うううん1nmでも離れたら、

 

 そくぶっ殺すからね!」

 

「お前、目マジじゃねえか。 わ、わかった離れない。」

 

「よろしい。」

 

”スタスタスタ”

 

えっと何か飲み物飲み物っと。

あ、たしか十万石饅頭もあったよね、とうちゃんの。

頂いちゃおうっと。

 

”キョロキョロ”

 

「この前この部屋入った時はパンツだらけでよく見てなかったが、いや実際にパンツしか

 

 見てなかったんだが。

 

 ふぅ、ポスターとかフィギュアとかイレギュラーヘッドだらけだなこの部屋。

 

 あいつどんだけイレギュラーヘッド好きなんだ。

 

 どこがいいんだ、あんな目したやつ。

 

 ・・・・・・いや、まぁなんだ。

 

 うん? お、おおっ、あれは激レアのイベント限定下敷き。」

 

”ズズ、ズズ”

 

「ふふふ、甘いぞ三ヶ木! 

 

 お前、クッションを動かしてはいけないとは言ってないからな。

 

 よっと、おー間違いない限定版だ。

 

 ん、なんだこのノート?

 

 三ヶ木闘病日記?」

 

”ス―”

 

「お待たせ。

 

 へへ、十万石饅頭たべ・・・・お、お、おい、な、何見てんだお前!!」

 

”ダッ”

 

「え?」

 

「返せ、馬鹿者!」

 

”バッ”

 

はぁはぁはぁ、うそこれ読まれたの?

よりによって比企谷君に。

はっ、そうだ机の上に出しっぱなしになってたから。

でもなんで気が付かなかったんだ、さっき見回した時に。

 

”カァ~”

 

いや~はずかしい~。

もうわたし生きていけない。

だってあんなことやこんなこと、とっても口に出して言えないことがいっぱい書いてあんだよ。

ぐぞ~

 

「貴様、読んだのか!」

 

「は?」

 

「こ、これ読んだのかって言ってんだ!」

 

「い、いや、よ、読んでないぞ、表紙を見ただけだ。

 

 そ、それにほらクッションからは1nmも離れて 」

 

「ゆるさん、抹殺のラストブリット!」

 

”ボゴォ”

 

「ぐうぉ~

 

 い、いやだから読んでないって。」

 

「ほんと? ねぇ、ほんと読んでない?」

 

「お、おう。 

 

 なぁ、闘病日記って、お前やっぱりまだどこか身体悪いのか?」

 

え? あ、読んでない。

良かった~、読まれてないんだ。

あっぶなかった、もう少し遅かったら。

ほんと読まれてたら、わたしもう無理だから。

もう一生、比企谷君の顔を見れないから。

 

「・・・・・実は不治の病なんだ。」

 

「お、おいマジか、どこだ、どこが悪いんだ。」

 

「性格。」

 

「・・・・・すまん、手遅れだ。」

 

「うっさい。

 

 ありがと、でもほんとどこも悪くないよ。

 

 あとは骨が完全にくっつくのを待つだけ。

 

 これは入院してた時に気晴らしに書いていただけだから。」

 

「そ、そうか。」

 

「それよりアイスコーヒーでよかった?」

 

「おう、サンキュ。 あ、シロップ貰えるか?」

 

     ・

 

え、うそ、それ飲むの?

いや違った、それ飲めるの。

どれだけシロップ入れたんだ。

それってもうアイスコーヒーじゃないシロップじゃん。

 

”ゴクゴク”

 

「ふぅ~、うま。」

 

・・・・・あ、あのさ。

比企谷君、気をつけないとほんと依存症になっちゃうんじゃない。

 

「えっと、比企谷君。」

 

「あっ、すまん。 ついあまりにも美味しかったんでな。

 

 で、相談って何だったんだ?」

 

あ、まぁいいか。

今度、別の日に改めて注意してあげよう。

それよりわたし謝らなくちゃ。

 

”ペコ”

 

「どうした? なにいきなり頭下げてんだ?」

 

「昨日は電話切っちゃってごめんなさい。

 

 なんだかわからないんだけど、気が付いたら電話切っちゃってた。

 

 ほんとごめんなさい。」

 

「あ、いや、俺がお前に言っておけばよかったんだ。

 

 あのな、一昨日、部活で試験の話になってな。

 

 ほら、もう少しで模試あるだろう、マーク模試。

 

 それで急に勉強会することになっちまったんだ。」

 

「勉強会? でも比企谷君の家で?」

 

「ああ、雪ノ下か由比ヶ浜の家、それか俺の家の三択だからな。」

 

「そ、そう。」

 

図書館とかの選択は無いのね。

まぁ確かにその三択じゃ比企谷君の家になるよね。

でもいいなぁ。

わたしも一緒に勉強したかったなぁ。

 

「だから、決して二人っきりとかじゃなかったからな。

 

 小町も入れて四人だ。」

 

あは、小町ちゃんもいたんだ。

何かいろいろ企んでたんじゃない。

なんかまた嫁度チェックとか言って。

うん、後でいろいろ聞いてみようっと。

 

「それでな、遅くなったんで小町が晩ご飯でもってなってな。

 

 その後、みんなで晩ご飯つくってたんだ。

 

 まぁなんだ、お前にも知らせておくべきだった。

 

 すまん。」

 

「あ、わたしも。

 

 わたしも昨日ね、あのさ稲村君と進学塾の体験入学に行ってきたの。

 

 ごめんなさい。

 

 だけど、三人だったから。

 

 ちゃんと舞ちゃんついてきてたから。」

 

「体験入学? ああ、この前進学することにしたって言ってたもんな。

 

 それで志望校決めたのか?」

 

「うん。 奨学金とかいろいろ調べてくれてありがとね。

 

 わたし頑張る。」

 

「そっか。 それで相談ってなんだ。」

 

「あのね、とうちゃ・・・・・・うううん、あのさ文実のことなんだけど、

 

 ちょっと考えてることがあって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そうか、だがそれだと一つ課題がある。

 

 まぁお前のことだ、わかっているとは思うが。」

 

「まぁね、課題は実行委員長が2年生。」

 

「そうだ。

 

 部長連中は全員3年だろうから、3年の連中を2年が仕切れるか?

 

 今までのように文実全員がいる場ならまだしも、部長だけなら3年同士結託する可能性がある。

 

 結託とまではいかないまでも協調することは十分考えられる。

 

 まあどんな奴らが部長になるかはわからんが、ヘタすると部長連中が好き勝手する

 

 可能性があるぞ。」

 

「う、うん。 そこは気にはしてたんだ。」

 

「3年生を平気でこき使えそうな奴って一色以外にだれか・・・・・・・あ!」

 

「え、こき使えるやつ?・・・・・・あ!」

 

「もしあいつが委員長になったら。

 

 しかも組織上、生徒会は委員長直轄の下部組織だ。

 

 お前、こき使われるぞ。」

 

「げ、いや、やめて。」

 

「ま、まぁ、あいつ文実、しかも委員長なんてやりそうにないから大丈夫だろうけど。

 

 兎に角、去年以上に生徒会のフォローが重要だな。

 

 まぁ、頑張れ。」

 

「あ、うん。 ありがと。

 

 あ、あのね、比企谷君は文実やらない?」

 

「断る! なにがあっても絶対に断る。」

 

「いや、そんなに力まなくても。」

 

そっか。

そうだよね。

去年あんなことあったからもう懲り懲りだよね。

はぁ~、馬鹿なこと聞いた。

でも一緒にやりたかったなぁ。

 

「まぁなんだ、外からしかできない協力っていうのも必要だろ。

 

 なんかあったら連絡しろ。

 

 必ず俺が助けてやる。」

 

”キュン”

 

ひ、比企谷君。

 

卑怯者!また惚れちゃうじゃん。

あかん、心臓がバクバクしてきた。

こ、この女たらし。

でもね、へへ、うれしい。

 

「ありがと。」

 

「おう、任せとけ。 

 

 土下座は俺の百八の特技の一つだ。」

 

「はぁ?」

 

な、なに、任せろって土下座のことかよ。

おい、わたしのときめき返せ! すぐ返せ、今すぐ利子付けて返せ!

はぁ~、まったく。

あのね、比企谷君に土下座なんてさせるわけないじゃん。

絶対させない。

それぐらいなら、

 

「ふふん、土下座ならわたしの十八番だ。

 

 比企谷君のは百八の特技のうちのたかが一つ。

 

 わたしのは十八番。

 

 わたしの勝ちだね。」

 

「はぁ? なに言ってんだ。

 

 俺の土下座はそんじょそこらの土下座とはわけが違う。

 

 みろ、この完璧な土下座を。

 

 申し訳ない!」

 

”ペタッ”

 

「ふふふふふ、違うね、まだまだだね。」

 

「はぁ? 何が違うって言うんだ。」

 

「いいかね比企谷君。

 

 ほんとの土下座は額を床に着けてはいけないのだよ。

 

 みよ、これが正式な土下座の姿勢だ!

 

 申し訳ございません!」

 

”サッ”

 

「額の位置は床から約1cm。

 

 この位置で固定するのだよ。 わっはははは~」

 

「う、うそ。 ま、負けた俺の土下座が。」

 

「「・・・・・・」」

 

「くくくく。」

 

「あははは、何やってんだわたし達。」

 

「まったくだ。」

 

「ありがとね比企谷君。

 

 わたし頑張るね。」

 

「おう。 でもあんまり無理すんな。」

 

「うん。」

 

”ぐるるるる~”

 

「あっ、ごめん。」

 

いや~恥ずかしい。

何でこんな時にお腹の音が。

しかも特大の音で。

た、確かにお腹すいたけど、わたしの馬鹿。

 

「おっ、もうお昼すぎてんじゃねえか。

 

 俺そろそろ帰るわ。」

 

「あのさ、よかったらお昼食べていかない?

 

 今日何もないから大したもの出せないけど。」

 

「あ、いや悪いから。」

 

「あのね、そんでね、もし時間あったら・・・時間あったらでいいんだけど、

 

 勉強見てもらってもいい?」

 

「勉強?」

 

”バサッ”

 

「このプリント集、明日までにやっていかないといけないから。」

 

「・・・・・現国か。

 

 わかった、やってやるからプリントかしてみろ。」

 

「あ、違う。 自分でやる。

 

 これぐらい自分でやらないと進学するなんて言えない。

 

 あ、あのね、わからないところとか教えてくれる?」 

 

「そっか、わかった。」

 

「あ、ありがと。

 

 お昼ご飯、すぐ作るから待っててね。」

 

     ・

 

”トントントン”

 

へへへ、やった。

比企谷君と勉強会だ。

うううん、それよりお昼からも一緒にいられるのがほんとうれしい。

えへへ、は、だめだ、自然とニヤついちゃう。

 

”ジ―”

 

え、な、なに?

なんかうしろからすごく視線感じるんだけど。

まさか。

 

”くる”

 

げ、いつの間にダイニングに?

わたしの部屋にいたんじゃないの。

しかもじっと見つめてるし。

 

「あ、あのさ、何か用?」

 

「いや、お前エプロン姿、本当に似合うんだよなって思ってな。」

 

「は、な、なに言ってんだ馬鹿。

 

 エプロン姿って・・・・・・・・

 

 えっと、よしわかった。

 

 あのね、ちょっと待って。」

 

”ぬぎぬぎ”

 

「お、おい、お前何する気だ。」

 

「え? 裸エプロンしてほしかったんじゃ無かったの?」

 

「ち、違う! そのままでいいから。

 

 やめろ、いいから脱ぐんじゃない。」

 

「へへへ、冗談、冗談だよ。

 

 ほんとにするわけないじゃん。

 

 もうちょっと待っててね。」

 

「いや、お前、いま俺が止めなかったらどうする気だったんだ。」

 

「その時はその時。

 

 わたし結構お尻自信あるから。」

 

「いや、お前・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うまっ!

 

 この胡麻ダレ、鶏肉にすごくあうんだな。」

 

「鶏のもも肉余ってたから使ってみたの。

 

 でもごめんね、冷やし中華しかなくて。」

 

「いや、満足だ。

 

 なぁ、この胡麻ダレ自分で作ったのか?」

 

「うん、美佳特製ゴマダレ、略して美佳ダレ。」

 

わたし的に冷やし中華は胡麻ダレかなぁって思ってさ、いろいろ作ってみたんだ。

それでたどり着いたのがこのレシピ。

これこそ一子相伝秘伝の味。

いま美佳をお求め頂ければもれなくついてくるよ、お得だよ。

 

「ご馳走様でした。」

 

「うん、お粗末様でした。」

 

「あ、洗い物俺やるから、お前プリント集始めろ。」

 

「え、ありがと。

 

 じゃあ、お言葉に甘えてプリント集やってくるね。」

 

「おう」

 

     ・

 

”スー”

 

「三ヶ木、どんな感じだ?」

 

”すやすや”

 

「って、お、おい寝てるのか。

 

 まったく何でこいつこんなに不用心なんだ。

 

 マジ、俺も男なんだがな。」

 

「ぐへへ、比企谷君。」

 

「え?」

 

「むにゃ、そこはだめ。」

 

「お、おい!

 

 ど、どんな夢みてんだ。」

 

”すやすや”

 

「はぁ~、まったくこいつは。

 

 しかし暑いな~、扇風機だけではさすがにきつい。

 

 ん、カーテンと窓閉め切ってるのか?

 

 何で締め切ってるんだ。」

 

”シャー、ガラガラ”

 

「・・・・・えっと、今日、なんかの祭日だったけ。

 

 なんか目の前に万国旗が。

 

 いや~、白いのやらピンクのやら。

 

 ぜ、絶景だ。

 

 げ、この赤いのはあの時買ったやつ。」

 

「ん、ん~、あ、ごめん寝ちゃった。

 

 昨日、ほとんど徹夜だったから。

 

 ・・・・・・・・・・・・・お、うぉい、何見てんだ!」

 

「あ、い、いや、ば、万国旗が。」

 

「馬鹿者、すぐ閉めろ!」

 

”ドグォ”

 

「こ、今回は正拳突きなのね、ぐふぇ。」

 

”シャー”

 

「馬鹿、何でカーテン開けるの。 もう!

 

 急に来たから外に干したのに。 エッチ!」

 

「まさかそんなところに下着が干してあるとは。

 

 いや、そんなことよりお前、普段からあの下着穿いているのか? ほらあの赤いやつ。」

 

「え、あの赤い下着?」

 

「そうだ、あのほとんど下着の役目果たしてないやつ。」

 

「・・・・・この前の木曜日の1回だけだよ。

 

 普段穿けないよ、こんなパンツ。」

 

「木曜日? げ、お前こんなの穿いて俺の家来てたの?」

 

「だ、だって、なにがあるかわからないじゃん。

 

 それにさ、これ買うときにこのスケスケ感がいいって言ったじゃん。」

 

「ば、ばっか、なにもあるはずないだろう。

 

 夏休みの宿題片付けに来ただけだろうが。」

 

「だって。」

 

「だってじゃない、さ、さっさとプリントしろ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、できた。」

 

「おう、ご苦労さん、どれ見せてみろ。」

 

「はい。 比企谷先生、よろしくお願いします。」

 

     ・

 

”カキカキ”

 

え、なんかいっぱい書き加えられてる。

そんなに間違ってるのかな。

 

「ど、どうでしょうか比企谷先生?」

 

「まぁ、入試まではまだ時間あるからな。

 

 ほれ、ここら見直ししておけ。」

 

「げ、修正ばっかり。」

 

「お、もうこんな時間か。

 

 じゃあ、今度こそ帰るわ。」

 

「あ、う、うん。

 

 じゃあ、わたしも買い物に行くから駅まで一緒に行こ。」

 

「おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

「それでな、基本的な流れは妖精と出会ってだな 」

 

ほんとプリキラーのことになるとよく話つきないね。

でもそんなに夢中で話してくれる比企谷君が好き。

う~ん、手握りたいな。

よ、よし折角だもん握っちゃえ。

それ!

 

”ソ~”

 

”サッ”

 

げ、かわされた。

もう一度、それ!

 

”ソ~”

 

”サッ”

 

く、くそ、またしても。

ムキ―、もう一度、それ。

 

”ソ~”

 

”サッ”

 

「お、おい、なぜ逃げる。」

 

「おい、なぜ握る。」

 

「いや、だって折角だから。」

 

「何が折角だ。 よく考えてみろ。

 

 手をつないで買い物だなんて、そんなこっぱずかしいことできるか。

 

 そんなことはリア充なやつらに任せておけ。」

 

いや比企谷君、まだ認めないの?

君はもう十分にリア充じゃん。

ゆきのんに結衣ちゃん、ジャリっ娘って。

い、一応、わたしもその~端っこに。

くそ、そ、そんなら、そっちがその気なら。

 

「あっ、結衣ちゃん。 やっはろー」

 

「え? 由比ヶ浜?」

 

”にぎ”

 

「へへ、比企谷君の手ゲット。」

 

「お前、離せ。」

 

「やだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

比企谷君、観念したみたい。

さっきから顔真っ赤にして黙り込んでる。

ほれ、何で黙り込んでんだ、プリキラーはどうした。

な~んてね、今日はめっちゃいい日だなぁ。

 

「あのね、比企谷君。 今日はありがと。」

 

「おう。

 

 ・・・・・なぁお前、塾とか行く気はないのか?

 

 ほら体験行ったとか言ってたろ。」

 

「うん、行かない。

 

 まぁ、お金のこともあるけど、それより時間がさ。」

 

「時間? あ、そ、そっか。」

 

「へへ、大丈夫。

 

 家事さっさと終わらせて、もっと頑張って勉強するから。

 

 あ、それでね、また勉強教えてもらってもいい?」

 

「ん、あ、ああ。 文系ならな。」

 

「うん♡  へへ、ルンルンルルルルン♬」

 

”ぐぃ”

 

「へ?」

 

「馬鹿、ほら信号見ろ、赤だぞ赤! 

 

 また事故に遭いたいのか。」

 

あっぶなかった、

つい嬉しくて周り見てなかった。

反省反省っと。

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「まったくお前は・・・・・・あっ。」

 

「だって。」

 

「み、三ヶ木、先に買い物行くぞ買い物。

 

 一緒に行ってやる。

 

 ほれ行くぞ。」

 

「あ、い、いいよ。 遅くなるといけないから先に駅まで 」

 

「いいから来いって。」

 

”ぐぃ”

 

「あ、違う、買い物はこっち、駅の左側。 こっち反対だよ。」

 

”ぐぃ”

 

「お、いや、そっちは。」

 

「あ!」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・み、三ヶ木。」

 

「とうちゃん、また今日もあの人と。」

 

「今日も? お前あの女の人知ってるのか?」

 

「・・・うん。 昨日もとうちゃんあの人と。

 

 でもわたしには休日出勤って言ったのに。

 

 また嘘だったの? 

 

 ひどい! と、とう 」

 

”ぎゅ”

 

「まて三ヶ木。」

 

「やだ。」

 

「いいから待てって。 ちょっとこっち来い。

 

 あ、ほらあそこの喫茶店入るぞ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そっか、昨日もお父さんあの人に会ってたのか。」

 

「・・・・・」

 

なんでだよ、なんでだとうちゃん。

あの人に会うなら会うっていえばいいじゃん。

また嘘つかれたの。

わたしは嫌だ、こんなの。

 

「な、なぁ三ヶ木。

 

 もうお母さん亡くなられてから十年近くになるんだろ。

 

 その間、お父さんずっと一人だったんだろ。

 

 お父さんはお前のことを第一に思って、今までずっと一人でいたんだと思う。

 

 でもな、お父さんにも幸せになる権利はあると思うぞ。

 

 お前もお父さんのことが好きだったら、あの女の人とそのなんだ、そういった関係になっても

 

 許してやったらどうだ。

 

 それにお前、いつまでもずっとお父さんと一緒にいられるわけじゃないんだぞ。

 

 いずれは 」

 

「んなことわかってるよ。

 

 頭でわかってても、それでもなんか嫌なんだ!

 

 じゃなに? 比企谷君もそうなの?

 

 も、もしさ、将来わた・・・・・誰かと結婚してもさ、それで奥さんがいなくなっちゃったら、

 

 また平気で他の人と付き合うの?」

 

「いや、だけど残された人はずっと亡くなった人のことを思っていないといけないのか?

 

 そんなの亡くなった人が望んでると思うのか。」

 

「・・・・わかってるよ。 平塚先生にも同じこと言われたもん。

 

 わかってる、わかってる、わかってるけど、わたしはそんなの嫌。

 

 わたしはずっとその人のこと思って生きてくもん。

 

 その人との想い出を大事にしておばあちゃんになるもん。

 

 比企谷君ならわかってくれると思ったのに。」

 

「三ヶ木、それは間違っている。

 

 お前の勝手な思いでお父さんを縛るな。

 

 いい加減、父離れしろ。」

 

”バンッ”

 

「乳離れ?

 

 はん! わたしはなんでもちゃんと自分でやってきたつもりなんだけど。

 

 家事だってちゃんと頑張って。

 

 小学校の時なんかも相談したいこともいっぱいあったけど、

 

 家に帰っても誰もいないから自分で。

 

 できるならわたしも甘えたかった。

 

 いっぱいいっぱい甘えたかった。

 

 ずっと我慢してきたのに。

 

 それでも、それでもわたし乳離れできてないって言われるの?」

 

「え? あ、いや違う。」

 

「もういい! 比企谷君の馬鹿!!」

 

”ダッ”

 

「お、おい、三ヶ木。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ペタッ”

 

ふぅ~、これで最後の掲示板だっと。

いろいろあるけど、今は生徒会に集中。

文実、もうすぐだから。

 

『お早うございます♡』っか。

へへ、なにこのポスターの写真、やっぱりめっちゃかわいいよねジャリっ娘。

あ、もしかしてこのポスター、文化祭で販売すれば結構売れるかも。

そしたら生徒会の予算も・・・・・なに言ってんだか。

あ、やば! もうこんな時間だ。

急がないと。

 

”タッタッタッ”

 

     ・

 

「あ、来た来た。 美佳先輩、遅い、遅いです。」

 

「ごめんなさい。」

 

「美佳先輩、時間がないです。

 

 ほら挨拶の練習しますよ。」

 

「え、練習?」

 

「みんなもう終わりました。

 

 さ、早く挨拶してみてください。」

 

「お早うございます。」

 

”ペコ”

 

「駄目、やり直し。

 

 なんか違うんですよね。

 

 書記ちゃん、やってみて。」

 

「あ、うん。 おはようございます。」

 

「そ、ほらこんな感じでかわいらしくです。

 

 もっと表情筋を使ってください。

 

 さ、もう一回。」

 

「お、おはようございます。」

 

「美佳先輩なんか逆に怖くなったんですけど。

 

 もういいです、一番後ろで幟持っててください。」

 

「い、いやもう一回。」

 

”ポンポン”

 

「へ? なに稲村君。」

 

「なぁ、三ヶ木。 人には向き不向きがあるんだ、あきらめろ。」

 

ぐ、き、貴様~

くそ、いいよ、わたしは後ろで幟持ってるよ~

ふんだ!

 

「あの、お早うございます。

 

 新聞部です

 

 挨拶運動の取材に来させられました。

 

 あ、三ヶ木先輩、来させられました。」

 

うわ~、舞ちゃん超ご機嫌斜め。

何でこんなに機嫌悪いの。

 

「いや、二回も言わなくていいから。

 

 なに来させられたって。」

 

「だって朝早いの苦手なんですよ、ちょ~低血圧なんですから。

 

 え、なに、その腕章?  みならい?

 

 ぷっ、くくくく、三ヶ木先輩、なんすかその見習いって。

 

 あははは、お腹痛い。」

 

くそ~、人が気にしてることを。

まったくこいつは上級生を何とも思ってないんだから。

もっと敬いなさい!

はぁ、はやく見習い卒業したいよ~

 

「う、うっさい。

 

 なに、瀬谷君が来るんじゃなかったの?」

 

「部長は三ヶ木先輩を怖がっててきませんよ。

 

 三ヶ木先輩、ビビらせすぎなんですよ。

 

 それで、昨日突然電話かかってきて取材行けって。

 

 これは部長命令だって、ちょっと横暴すぎません? 

 

 まぁ適当に写真撮ってますので気にしないでください。」

 

「美佳先輩、新聞部さん呼んでたんですか?」

 

「あ、はい。 折角だから生徒会のPRにと。」

 

「全くそういうことは事前に行ってください。

 

 ちゃんと準備があるんですから。

 

 えっと蒔田さんでしたっけ、記事は事前に確認しますから。

 

 あ、あと掲載する写真はこちらで指定しますからよろしくです。

 

 ちなみにわたしはなるべく左側から撮ってくださいね。」

 

「はぁ? いえそれは新聞部に任せてください。

 

 まぁ、写真はそれなりに撮ってあげますから。」

 

「でも、ほら肖像権とかあるじゃないですか~」

 

「あ、じゃあ、会長さんってわからないように撮ります。

 

 まぁぼやかすとか目線入れたりとか。」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

え、な、なに?

やめて~、もう生徒来ちゃうから。

この二人こんなに相性悪かったっけ?

やばいやばい、引き離さないと。

 

”チョンチョン”

 

「ん?」

 

い、稲村、おい気付け。

お前舞ちゃん何とかしろ。

 

「あ、い、い、いや会長、ほ、ほらそろそろみんな登校してくるから。

 

 ほら、いつものちょ~かわいいお顔で。

 

 よ、われらが自慢の生徒会会長。」

 

「な、何ですか美佳先輩、キモ。

 

 いいですか写真はこっちで指定しますからね。」

 

「蒔田、お、お前も写真撮らないといけないだろ、ほれあっち行け。」

 

「な、何ですか稲村先輩、あっち行けって、もう!」 

 

「さぁさぁ、いろはちゃんも機嫌直して。

 

 あ、ほら生徒さん来たよ。」

 

「え、あっ。」

 

”クルリ”

 

「おはようございま~す ニコ♡」

 

「「お早うございます。」」

 

”スタスタ”

 

「な、誰だあれ、めっちゃ可愛いじゃん。」

 

「あれ二年生の一色さんだろ。やっぱりいいなぁ~」

 

う、なんという変わり身。

でも、腹立つけどうちの会長はかわいいや。

あ、生徒続々来るね。

ほれこっちにも来た。

 

「お早うございます。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・」

 

いい、挨拶は自分にするものなんだ。

めげない!

あ、ほら次来た。

 

「お早うございます。」

 

「・・・なぁ、一色さんて生徒会なのか?」

 

「何も知らないんだな。 会長だぞ。」

 

「俺、文実やろうかなぁ。」

 

「あ、あのおはようご・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

無視か~、やっぱり無視か~。

わたしには挨拶なしかい!

ま、まぁいいけど。

・・・・・・・・・・うわ~ん。

 

     ・

 

「お早うございま~す。ニコ♡」

 

「お早う、一色さん。」

 

「一色さん、お早うございます。」

 

「あれ~いろはすじゃん。 あ、生徒会?

 

 ほぇ~、マジ会長してるんだわ~」 

 

あれ、会長のところで流れが悪くなってきた。

あ、戸部君。あれが流れさえぎってるのか、

う~ん邪魔、排除しないと。

 

「戸部先輩、うっさいで~す、消えてくれませんか?」

 

あ、ひど。 戸部君悪気はないのにね。

まぁ邪魔だけど。

 

”ざわざわ”

 

え、後ろ?

あ、こっちも何か生徒の流れ詰まってる。

なんで?

 

「お早うございます、新聞部の蒔田です。

 

 皆さん、今日も頑張ってくださ~い。 にこ♡ 」

 

「あ、お、お早うございます。」

 

はぁ? こっちは舞ちゃんか~

何やってるの。

写真はどうなったの写真は!

げ、会長にらんでる。

わっ、こっち来た。

 

「ちょ、何やってんですか蒔田さん。」

 

「え? いや挨拶してるだけですよ。」

 

「あなた生徒会じゃないですから。」

 

「記事書くための体験取材ですよ。

 

 へぇ~、生徒会じゃないと挨拶しちゃいけないんですか? 

 

 なんか横暴。

 

 記事にしちゃおうっと。」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

いや~、また始まった、やめて~

やばい、と、止めないと。

ほら他の生徒見てるから。

 

「ま、まあ、会長。こ、こちらへ。」

 

”ぐぃぐぃ”

 

「み、美佳先輩、あいつ除去してください。」

 

「いや除去って。

 

 おい、稲村君。」

 

「ああ、どうしたんだ?」

 

「会長が、あれ何とかしてって。」

 

「いや何とかしてって言われても、蒔田は挨拶してるだけだから。」

 

「ですよね、稲村先輩。」

 

「まったくなんなんですかあの人は!

 

 わたしが目立たないじゃないですか、もう!」

 

げ、やっぱりそれが目的だったのね。

ま、まぁ予想ついてたけど。

それより、なんとか二人を引き離して。

 

「ささっ、会長、あちらにい 」

 

「あっ、せんぱ~い♡」

 

「え?」

 

”タッタッタッ”

 

「・・・・・本牧君、わたしちょっと生徒会室まで行ってくるね。」

 

「え? ああわかった。

 

 三ヶ木さん何か手伝おうか?」

 

「うううん、大丈夫。」 

 

”ダッ”

 

「先輩、おはようございます。ニコ♡」

 

「おう、じゃあな。」

 

「なんですか、可愛い後輩が挨拶してるのに。

 

 そこはちゃんと挨拶してください。」

 

「あん? ああ、お早うさん一色。」

 

「お早うございます。

 

 今日も先輩、目腐ってますね。」

 

「ほっとけ。

 

 ん? なぁ、今日は三ヶ木いないのか?」

 

「え、あれ? さっきまでそこにいたんですけど。

 

 稲村先輩、美佳先輩知りませんか?

 

 って、稲村先輩?」

 

「おい、だからなんで俺ばっかり撮ってるんだ。」

 

「はぁ? キ、キモ!

 

 もしかして自意識過剰系ですか。

 

 稲村先輩なんか撮るわけないでしょう。」

 

「なら、そのデジカメ見せてみろ。」

 

「嫌ですよ~」

 

”パコッ”

 

「いた! か、会長、なんでスリッパ持っているんですか。」

 

「まったくなにしてるんですか!

 

 あの、さっきから聞いてるんですけど。

 

 美佳先輩知りませんか?」

 

「え、あれ? あいつどこ行ったんだ?」

 

「あ、会長、三ヶ木さんなら生徒会室まで行ったよ。」

 

「え、あ、そうですか。」

 

     ・

 

”トボトボ”

 

はぁ、ちょっとクーラーボックス重い。

だけど急がないとね。

みんな暑い中頑張ってるから。

 

・・・・・でもまだいるかなぁ、いそうだなぁ。

会長、絶対引き留めてるよね。

今は顔合わせたくないんだ、またなんだか喧嘩になりそうだから。

だっていやなものはいやなんだ。

・・・・・わたし間違ってるのかなぁ。

 

「はぁ~」

 

仕方ない急ごう。

あんまりみんな待たせられないし。

 

”ひょい”

 

え? あれクーラーボックスが。

え、誰? 

まさか比企谷君?

 

”くる”

 

「ありがと、ひき・・・」

 

「お早う、三ヶ木さん。

 

 どうしたんだい、ため息なんかついて。」

 

「あ、葉山君。

 

 あ、いや別に。」

 

「このクーラーボックス、校門のところまで持っていけばいいのかい?」

 

「あ、いいよ、大丈夫。

 

 それぐらい持てるから。

 

 ほら、わたし結構力あるんだよ。」

 

”ぐぃ”

 

どうだ、見ろこの右腕の力こぶを!

げ、マジ力こぶすごっ!

こりゃかわいい女子の腕じゃないね、どんだけ鍛えてんだ。

さすがに引いただろ葉山君。

 

「はははは、本当だ。

 

 でも気にしなくて大丈夫だよ、ちょうど朝練終わって部室に行くところだったから。

 

 ついでだよ。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。

 

 実際、ちょっと重かったんだ。

 

 ありがと。」

 

へへ、葉山君やさしいなぁ。

それにいつもさわやかでさ、スポーツマンだし。

あ、それにお金持ち。

こりゃもてるわ。

人気投票の一位間違いないよね。

 

”テクテクテク”

 

「三ヶ木さん、いつも生徒会ご苦労様。

 

 文化祭とか体育祭とか大変だけど、これからもいろはのこと支えてやってくれないか。

 

 よろしくお願いするね。」

 

「あ、うん、任せといて。

 

 ほんと、葉山君っていい人だね。」

 

「俺は君が思っているようないい人なんかじゃない。」

 

「えっ。」

 

な、なに? なんか葉山君にすごく睨まれた。

い、一瞬だけだったけど。

今わたし、何か変なこと言ったかなぁ。

 

「あ、すまない。」

 

「うううん、でも葉山君でもそういう顔するんだ。」

 

「らしくないかい?」

 

「らしくない? うううん、らしくなくないよ。

 

 だってそういうのも含めて葉山君じゃん。

 

 第一、らしくないってなんなのさ。

 

 そんなの他人の勝手な思い込みの押し付けじゃん。

 

 そんなの勝手な思い込み押し付けられたって・・・・・・・・そんなの押し付けられたって。」

 

「ん? どうしたんだい。」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木さん?」

 

「・・・勝手な想い、押し付けられたらいやだよね。」

 

「三ヶ木さん、何かあったのかい?」

 

「うん、ちょっと。

 

 ね、葉山君、少し寄り道していい?」

 

「ああ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、雪ノ下先輩、お早うございます。」

 

「お早うございます、一色さん。」

 

「お早うございます。」

 

「お早う藤沢さん。」

 

”スタスタ”

 

「よう、おはようさん」

 

「え? 何の落ちかしら、落ち谷君。」

 

「いや、落ちてないだろう。」

 

「なぜ、あなたがここに並んでるのかしら。

 

 それも幟をもって。

 

 折角、一色さんをはじめ生徒会の人と気持ちのいい挨拶したのに、

 

 最後のあなたで台無しだわ。」

 

「うっせ。

 

 仕方ないだろう。急に三ヶ木がいなくなったから、一色にこの幟を持たされたんだ。」

 

「あら、そう?」

 

”スタスタ”

 

「お、おい、何でおれの横に並ぶんだ。」

 

「部員の仕出かしたことは部長の責任よ。」

 

「いや、俺何か仕出かしたの?

 

 ただ立ってるだけで罪ってどんなんだ。」

 

”スタスタスタ”

 

「おはようございま、おわっ」

 

「・・・・・」

 

「ほら、みんなに迷惑かけているじゃない。

 

 少し下がっていなさい。」

 

「くっ、お手並み見せてもらおうか。」

 

「お早うございます。」

 

「「お、お早うございます。」」

 

”スタスタ”

 

「お、おい、今のあれ雪ノ下さんだろ、3年の。

 

 なんか朝から一色さんと雪ノ下さんに挨拶できるなんてなんか得した気持ちだな。」

 

「ああ、今日はいいことありそうだ。」

 

「・・・・・」

 

「何か感想あるかしら。」

 

「ちょ、な、なんで雪ノ下先輩まで並んでるんですか。」

 

「え? うちの部員がご迷惑おかけしているようなので。

 

 それよりあまり勝手にうちの備品を使わないでくれるかしら。」

 

「す、すみません。

 

 はぁ~、でもこれじゃわたしの計画が本当に台無しじゃないですか~」

 

「え、計画?」

 

「あ、い、いえ何でもないです。 もう!」

 

”テクテクテク”

 

「すみません、遅くなりました。」

 

「美佳先輩、どこ行ってたんですか。

 

 あ、葉山先輩、朝練ご苦労様です。」

 

「やぁ、いろは。 お早う。」

 

「会長すみません、ちょっとクーラーボックス取りに行ってて。

 

 葉山君ありがと。」

 

「どういたしまして三ヶ木さん。

 

 え~と雪ノ下さん、君まで挨拶運動かい?」

 

「ええ、部員の責任を取ってるのよ。」

 

「そうなのか、大変なんだね。

 

 でもなんだかうれしそうに見えるけど。」

 

「何を言ってるのかしら。

 

 やめて頂けるかしら。

 

 こんな手のかかる部員でも部員だから仕方ないのよ。」

 

「なんか俺本当にすまなくなってきたんだが。

 

 もう帰っていいか?」

 

「ははは、それじゃ。」

 

「葉山先輩、県予選頑張ってください。

 

 応援行きますから。」

 

「ああ、いろはが戻ってくるまでサッカー部にいられるよう頑張るよ。」

 

「え、あ、はい。」

 

よしよし、おしぼりとポカリ十分冷えてる。

ばっちりだ。

登校してくる生徒減ってきたし、そろそろいいかなぁ。

 

「えっと、みんなご苦労様。

 

 おしぼりと飲み物どうぞ。

 

 あ、書記ちゃんこれそっちまわして。」

 

「三ヶ木先輩、ありがとうございます。」

 

「ひゃ~気持ちいい。 サンキュ三ヶ木。」

 

”ゴクゴク”

 

「ふぅ~生き返った。 ありがとう三ヶ木さん。」

 

「はい会長。」

 

「あ、ありがとうございますって、何でわたしはいろはすなんですか!

 

 しかも天然水。

 

 せめて桃とかリンゴにして下さい。」

 

「へへ、冗談、冗談です。 

 

 はいポカリ。」

 

「まったくです。

 

 結構気にしてるんですからね! 戸部先輩はうるさいし。」

 

あはは、やっぱ気にしてるんだ。

確かに戸部君うるさそう。

それよりなに、なんでそんな離れたとこにいるのさ。

あんたらしくないよ。

まぁ、今日は朝からご苦労様。

 

「はい舞ちゃん、今日は取材ありがと。

 

 ごめんね、朝早くから付き合わせて。」

 

「え? わたしの分もあるんですか?」

 

「あたりまえじゃん。」

 

「はい、ゆきのんも。」

 

「あら、これあなたの分じゃないの?

 

 わたしは何もしてないから頂く理由はないわ。」

 

「わたしはこれこれ、いろはす天然水。」

 

「え、それでいいの?」

 

「うん。 日頃の恨みを飲みほしてやるんだから。」

 

「そ、そう。」

 

「あ、あのう、そういうことはわたしのいないところで言ってくれませんか。」

 

「げ、会長いたの。」

 

「今話してたじゃないですか、もう!」

 

”スタスタスタ”

 

え? あ、行っちゃった。

どうしよう。

やっぱり比企谷君だけあげないのも嫌だし。

でも話しかけにくい。

 

あ、ほんと行っちゃう。

あのさ、ほら買っちゃったんだし。

うん、買っちゃったから仕方ないし。

 

「書記ちゃん、ちょっとクーラ―ボックス見ててもらっていい?」

 

「え、あ、はい。」

 

”ダー”

 

     ・

 

はぁ、はぁ、はぁ。

ちょ、歩くの早くない?

まったく、どこまで行っちゃったんだ。

 

「あっ!」

 

”ピタッ”

 

「ヒッキー、本当にゆきのんのお料理美味しかったね。」

 

「あ、ああ。 あれは家庭料理の域を超えている。

 

 すごく美味しかった。

 

 まぁ、機会があればまた食べてみたいもんだ。」

 

「あたしもあんな料理作りたいなぁ~

 

 あ、ねぇヒッキー、あたしもゆきのんみたいな料理作れるようになったら食べてくれる?」

 

「断る!  厳密に断る。」

 

「即答だ~。 ヒッキー酷い! しかも厳密ってなんか変だし。」

 

”ポカポカ”

 

「お、おい、やめろ。」

 

・・・・・はぁ、わたしなにやってんだか。

折角買ってきたのになぁ。

 

”カチャ”

 

ふん、わたしは、わたしはどうせ冷やし中華だよ!

 

”ゴクゴクゴク”

 

・・・・・甘い。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「それではまずは実行委員を決めたいと思いますが、どなたかやりたい人いませんか?」

 

”シュバッ”

 

「はい! わたし実行委員に立候補します。」

 

「えっ? 蒔田さん実行委員してくれるの?

 

 え、えっと他に立候補する人いますか?」

 

     ・

 

「ねぇねぇ舞ちゃん、これで良かった?」

 

「うん、ありがとうみんな。」

 

”ペコ”

 

「あんた変わったね。」

 

「当たり前だよ。

 

 恋する女子は変わるんだよ。」

 

「我らがリーダーも恋する女子だったってことか。」

 

「じゃあ次は他のクラスの文実の子の調査ね。」

 

「みんな、よろしくお願いします。」

 

「仕方がない、全ては我らがリーダーのために。」

 

「「おう!」」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

おかしい。

各クラスの文実委員の名簿でてから、委員長候補の子に感触あたってるんだけど。

こちらから委員長の話をする前に断わられる。

しかも

 

『委員長は、D組の蒔田さんがいいと思いますよ。』

 

って、判で押したようにみんな言うし。

舞ちゃんそんなに人徳あったかなぁ。

いやその前に他のクラスの文実の子なんて名前知らないんじゃ。

 

”テクテクテク”

 

「あ、おい、三ヶ木、女子の方どうだった?」

 

「あ、なんならそこの稲村君。

 

 それがさ、みんなに舞ちゃんがいいんじゃないかって断られて。」

 

「おい、そのなんならはやめろ。 

 

 え、女子もか?」

 

「女子もかってことはもしかして。」

 

「そうなんだ。

 

 男子も蒔田がいいんじゃないかって言うんだ。

 

 なぁ、これって。」

 

「うん、おそらく。」

 

「あっ、稲村先輩、三ヶ木先輩何やってるんですか~

 

 2年生の教室の前で。」

 

「え、あ、いや何も。」

 

「あ、わたしクラスの文実委員なりましたから。

 

 文実、楽しみですね。」

 

「「・・・・・」」

 




お疲れ様でした。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

やってしまった、またしても二人の仲を・・・

次回からやっと文実・・・・のはず。
進展遅くてすみません。

また見に来ていただけたらありがたいです。

※暖かくなり、冬の魔物の影響も少なくなったのですが、
 ス、スランプに。
 更新大変遅れ気味ですみません、次話こそは!







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編③ 想

見に来て頂き、ほんとありがとうございます。

更新遅くてすみません。 何とかギリ3月。
もう忘れられるんじゃないかと。

今回、ちょっと個人的な思い込みで書いてるところがあって。
すみません、この作品もどきの中でのことってことで、
勘弁頂いたらありがたいです。

今回もセリフ多く文才なくすみません。
よろしくお願いいたします。




”パラパラパラ”

 

うん、資料の準備OKっと。

 

”トン、トン”

 

誤字脱字無かったし、あとは明日学校で人数分コピーして準備完了!

 

ふぅ~。

ん? あ、もうこんな時間。

とうちゃん、今日も遅い。

早く帰ってこないかなぁ~

 

「ふぁ~あ。」

 

ねむっ。

明日も学校だし先に寝よう。

えっとメモメモっと。

 

”カキ、カキ”

 

『とうちゃん、毎日ありがとう。

 

 ご飯、ちゃんと温めて食べてね。

 あ、野菜も残さないこと。

 

 ごめんなさい、先に休むね。

 おやすみなさい。

 また明日。

 

             みか♡』

 

とうちゃん、おやすみなさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~ん、う~ん。」

 

 

 

 

ーーーー美佳の夢の中ーーーー

 

 

 

 

『るんるん♬』

 

わ~い、やった!

今日行ったお肉屋さん、とっても安くしてくれた。

お使い偉いねって褒めてくれて、そんでめっちゃ負けてくれた。

ちょっと家から遠いけど、今度からあのおじさんのお店で買おう。

またサービスしてくれるかなぁ。

 

へへ、今日の晩ご飯はハンバーグとお味噌汁。

頑張ってハンバーグ作るんだ。

ちゃんとかあちゃんのレシピ通りに作ろう。

この前は真っ黒こげになっちゃったから、今度は絶対失敗しないぞ。

 

とうちゃん、今日は早く帰ってくるかなぁ~

たまには一緒にご飯食べたいなぁ~

いつも晩ご飯は一人だから・・・・・さみしい。

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

ん、あ、こんなところに公園あったんだ。

普段この道って通らないから知らなかった。

 

『愛菜ちゃんの泥だんご、すごくきれい。』

 

『あ、これ使って。 この色こな使ってみたの。』

 

『うわぁ、ありがとう。』

 

あ、泥だんご作ってるんだ。

わたしチョ~得意なんだ。

引っ越す前、よく庭で作ってた。

 

・・・・・荷物置いたら来てみようかなぁ。

もしかしたら一緒に遊んでくれるかも。

うん♬

 

     ・

 

『はぁ、はぁ、はぁ。』

 

よ、よかった。

まだみんな泥だんご作ってる。

 

へへ、ちゃんとふるい持ってきたんだ。

それとビニール袋とズボンの補修布。

どうしょう、混ぜてほしいなぁ。

で、でもいきなりは、いきなりは無理だよね。

 

い、いいや、わたしこっちで作ってよ。

もしかしたら声かけてくれるかも。

そしたらうれしいなぁ。

うんしょっと。

 

”ちょこん”

 

ふむふむ、この砂、よく乾いていていいねぇ~

へへ、自称一級泥だんご鑑定士のわたしが言うんだ間違いなし。

まずはふるいで砂利を取り除いてっと。

 

”さらさら”

 

     ・

 

”そ~”

 

そ~とそ~と、優しく優しくっと。

へへ、つやが出てきた。

上出来上出来。

 

『なっ、それちょっと見せて。』

 

『えっ、あ、う、うん。』

 

や、やったー。

声かけてきてくれた。

あ、他の子も来てくれた。

へへ、うれしい。

こっち引っ越してきて、やっと、やっと友達出来るかも。

 

『こ、こんにちわ。 あ、あのわたし、み 』

 

『あ、この子、転校してきた子じゃない?』

 

『そうだ。 いつも教室でじっとしてるやつだ。』

 

『なにそれ、ちょっとキモい。』

 

『ね、なにそのズボン、継ぎ接ぎだらけじゃない。』

 

『あ、あの、破れちゃったから、縫って・・・』

 

『うわ~、貧乏くさい!

 

 新しいの買えばいいじゃん。』

 

『だ、だってうちは 』

 

『知ってるか、こいつあのぼろアパートに住んでるんだぞ。』

 

『え~、あのボロボロの?

 

 あそこには碌な人が住んでないから近づくなって言われてなかった?』

 

『あ、そういえば、こいつ母親いないんだってさ。

 

 なんか逃げられたんじゃないかってお母さん言ってた。』

 

『やっぱり。』

 

『ち、違うもん! か、かあちゃんは、かあちゃんは 』

 

『プ~、かあちゃんだって、なにそれ? ウケるんだけど。』

 

”ボゴッ”

 

『い、痛い!』

 

あ、わたしのど、泥だんご。

ひどい、一生懸命作ってたのに。

な、なにすんだ。

 

『あっち行けよ、貧乏がうつる。』

 

”ボコッ”

 

『や、やめてよ~ 泥だんごぶつけないで。』

 

『『や~い、貧乏、貧乏。』』

 

”ボコッ、ボコッ”

 

『い、痛い、痛いよ~ う、うううう、うわ~ん。』

 

『やった、泣いたぞ。』

 

『や~い、貧乏が泣いた、貧乏が泣いた。』

 

『うわ~ん。』

 

『ねぇねぇ、こんなの放っておいてさ、わたし家でゲームでもしない?

 

 お母さんに新しいゲーム買ってもらったの。』

 

『賛成! 愛菜ちゃん家行こうぜ。』

 

『あのね、愛菜のお母さんが今日のおやつにってケーキ作ってた。』

 

『『やったー』』

 

”ワイワイ”

 

うううううう、なんでだよ。

何でこんなことするの。 

わたし、わたしは一緒に遊びたかっただけなのに。

顔、痛いよ。

こんな思いするのなら、も、もう友達なんていらない。

 

 

 

 

ーーーそしてーーー

 

 

 

 

う、ううううう、はっ。

 

”ガバッ”

 

な、ゆ、夢・・・・か。

な、なんで、なんでまたこの夢を。

あれからもう8年も経っているのに。

まだこの夢を。

 

あの時のあいつらの細く狭められた目、わたしへの侮辱と嘲笑で満たされていて。

思い出すだけでもぞっとする。

それなのにわたしの脳みそにこびりついていて。

くそ、何度も何度も夢の中にでてくる。

もう二度と思い出したくないのに。

 

わたし知ってるんだ。

うううん、わかったんだ。

あの目は、あれは孤立を恐れていつも群れてないと怖くて、他人と同調することを第一とする

愚か者の目。

それで集団の中での自分の位置に神経質で、その位置を保とうと藻掻き足掻いている

愚か者の目。

そのために常に生贄を欲していて、その生贄を自分より劣る憐れな生き物と蔑み踏みにじる

ことで心の安寧を求める愚か者の目。

 

そんなことまでして、そんなに誰かを踏み台にしてまで自分の立ち位置を守りたいのか!

そんなもの、そんな関係・・・・・・・ぶっ壊してやる!!

 

「・・・・・・・・」

 

はぁ~わたしなに言ってんだか。

もう終わったこと、終わったことなんだから忘れなきゃ。

今何時? まだ3時じゃん。

水でも飲んで、気持ち落ちつけよう。

 

”スー”

 

あ、とうちゃん帰ってる。

よかった、ちゃんとご飯食べてある。

今日のはサバの味噌煮だったんだ。

昨日はかぼちゃの煮物。

明日はハンバーグを作る予定だよ。

 

”キュッ ジャー”

 

とうちゃん、気が付いてくれるかなぁ。

 

”ゴクゴクゴク”

 

ごめんねとうちゃん、やっぱりわたしは・・・・・・嫌なの。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

”ふらふら”

 

う~、ね、眠たい。

なんとか授業中はもったけど、もう限界。

結局、あの後は目が覚めちゃって、ちっとも眠れなかったんだもん。

最近、なんか睡眠不足が続いてお肌ボロボロ。

でも、明日から文実だし頑張らないと。

 

”パシッ、パシッ”

 

よ、よし、気合注入完了!

今日も生徒会頑張るぞ!

 

・・・・・い、いた~い、涙出てきた。

うううう、次はもう少しやさしくしようっと。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です」

 

「ま、まったくあの小娘!」

 

え? な、なに? なんかジャリっ娘めっちゃ怒っていらっしゃる。

それに小娘って誰?

 

”チョイチョイ”

 

へ、な、なに書記ちゃん。

へ、あ、それ学校新聞?

ん? この記事見ろって。

どれどれこの学校新聞がどうしたんだ?

ふむふむ、ちゃんと挨拶運動のこと書いてある。

特に記事の内容は問題なしだけど。

じゃあなんで・・・・・あっ!

 

「ぐははははは! あ、お、おかしい。 

 

 な、なにこれ、お、お腹痛い、ぐるしぃ~ あはははは!」

 

「み、美佳ぜんぱ~い!」

 

「ご、ごめんなさい。 だ、だって。」

 

だってこのジャリっ娘のインタビューの写真、め、目線入っている。

し、しかもAさんだって、せめてIさんにしてあげて。

これじゃまるで、よ、容疑者!

はっ、ジャリっ娘、に、睨んでる。

わ、笑っちゃダメ。

 

”ぶるぶる”

 

くくくくく、っだ、だめ。

 

「ぶっ! わははははは。」

 

”パコーン”

 

「笑いすぎです、美佳先輩!」

 

いた~、は、またそのスリッパ。

なんかジャリっ娘そのスリッパ気に入って常に携帯しているけど、結構痛いんだよ。

それにわたし一応先輩なのに。

は、そうだ、わたしこんなことしてられなかった。

文実の資料、コピーしてこなくちゃ。

何とかこの場から逃げ出さないと。

 

「はぁ~、それに他の写真もなんかわたし端ばっかりで、ほらこれなんか顔半分しか。」

 

「そだね、稲村君中心ばっかり。」

 

「そうなんですよ。 稲村先輩ばっかり中心で写ってるんですけど!」

 

よしチャンス!

ここを脱出するのは今しかない。

 

「稲村君、ここはちゃんと説明して。」

 

「え、あ、い、いやそれは 」

 

へへへ、後は任せた稲村君。

わたしは退散退散っと。

 

「わたし文実の資料をコピーしないといけないので行ってきます。」

 

「あっ、三ヶ木卑怯。 お、俺もコピー手伝って 」

 

”ビシィ”

 

「コピーは一人で大丈夫! ではサラダバー!」

 

”ガラガラ”

 

「お、おい、み、三ヶ木~ 」

 

稲村君、君を連れて行くわけにはいかない。

ふふん、君にはわたしのために尊い犠牲になってもらおう。

くわばらくわばら、退散退散。

 

     ・

 

 

”ビユ~”

 

うわぁ、風つよ。台風かと思うぐらいだ。

この窓なんて今にも壊れそう。

夕方から雨が降るって天気予報で言ってたけど、あんまり降らなければいいんだけどなぁ。

 

そういえば、去年の今頃も風強かったなぁ~。

そうだ、台風が来てたんだ。

それで資料が風で飛ばされて窓から。 そしたら彼が・・・・・

それで次の日、雨だったんだ。

帰るときずぶ濡れなっちゃって。 そしたら彼が・・・・・

懐かしいなぁ~

そして、そんでね、わたしは彼にひかれていった。

 

はぁ~、なんでいつもケンカになっちゃうんだろう。

理由はわかってるんだ。

わたしが甘えているだけ。

彼ならわたしが何を言ってもわかってくれる。

そう思うからいつも甘えて。

だからつい言わなくてもいいことを。

彼はいつもわたしのことを思って言ってくれてるだけなのに。

 

ちゃんと謝らないと。

さっき結衣ちゃんと並んで歩いていたから、今頃きっと部活中。

部活終わった後にでも会えないかなぁ。

メールしようかなぁ。

 

”ガサガサ”

 

えっと、スマホスマホっと

 

”ピュ~”

 

「ひゃっ」

 

”パサパサ”

 

あ、しまった資料が。

誰だよ、窓開けたらちゃんと閉めておけって!

やばいやばい、風強いから急いで拾わないと。

 

”ピュ~”

 

あ、し、資料が窓の外にいっちゃう。

 

”ダッー”

 

へ?

 

”パシッ”

 

「セーフ! 危なかったすね、美佳先輩。」

 

「あ、か、刈宿君。」

 

お、思わず見惚れてしまった。

ほんとかっこよかった。

なに? あんたほんとはなんかのヒーロー?

だってどっかから飛んできて、資料をパシって掴んでそんでスタッって着地して。

 

・・・・・ん~ でも最後そこで、”私が来た!”っていってくれたら完璧なんだけど。

 

は、なに言ってんだわたし。

 

「おひさっす! はいこれ。」

 

「うん、おひさ! ありがと刈宿君。」

 

あ、でもほんと久しぶりだね。

そういえば新学期始まってから初めて顔合わせるね。

まぁ、毎日メールはくるけど。

なんかいつも忙しそうで。

 

「ね、刈宿君、どこ行くところだったの?」

 

「え?」

 

「あ、ほら下駄箱とは反対だから。」

 

「あ、ちょっと職員室に。」

 

「わたしも職員室行くとこだったんだ、ほれこれコピーしに。

 

 ね、一緒に行こ。」

 

「うっす。」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「あはは、戸塚君らしいや。 新部長さんも大変だね。 

 

 あ、それで職員室って何か用事?

 

 は、もしかして何か仕出かした?

 

 言ってみなさい、お姉さんが一緒に謝ってあげる。」

 

「いや何もしてないっす。・・・・・・・・・・・・・・・・お姉さんすっか。」

 

「あ、い、いや、そんなつもりじゃ。

 

 ご、ごめんなさい。」

 

「大丈夫っすよ美佳先輩。

 

 ちょっと先生に用事があって。」

 

「あ、そ、そう。」

 

「それより美佳先輩、それ文化祭の資料っすね。」

 

「うん、明日から文実だから。」

 

「そっか、俺、高校初めての文化祭だから楽しみっす。

 

 いろいろ婆ちゃんから聞いたけど、めっちゃ楽しそうで。」

 

「そう、お婆ちゃんから・・・・・ん、お婆ちゃん?」

 

”ガラガラ”

 

「美佳先輩、楽しい思い出にしましょうね。

 

 それじゃっす。

 

 先生、失礼しまっす!」

 

「あ、う、うん。

 

 失礼します。 コピー機お借りします。」

 

刈宿君も文実だったらよかったのになぁ。

でもそうだね、わたしも高校最後だし楽しい思い出にしたいな~

あ、そうだコピー、コピー。

えっと資料の順番合ってるかなぁ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「ただいま美佳。」

 

”し~ん”

 

「なんだ美佳寝てるのか?

 

 今日はちょっと早く帰ってきたんだが。

 

 ん? おう、今日はハンバーグと味噌汁か。

 

 美味しそうだ。」

 

     ・

 

”ズズッ”

 

「う、うまい。

 

 やっぱり味噌汁はジャガイモと玉ねぎだな。

 

 はぁ、美緒が作ってくれた味噌汁思い出すなぁ。

 

 どれこのハンバーグは?」

 

”パク”

 

「おう、肉汁が。 う~ん、ジューシーで美味しい。

 

 美佳の奴、腕上げたなぁ。

 

 ははは、あの真っ黒なハンバーグがなつかしい。

 

 いや~、あれは苦かった、中まで。

 

 ん? そういえば最近、美緒の得意だった料理ばっかりのような。

 

 昨日はサバの味噌煮だったし、一昨日はかぼちゃの煮物、その前はロールキャベツ。

 

 どれも美味しかったなぁ、本当に美佳はいい嫁になる。

 

 くそー比企谷だったけ、絶対に簡単に美佳はやらんからな。」

 

”パクパク”

 

「うん、美味しい。」

 

     ・

 

”スー”

 

「美佳、ご馳走様。

 

 今日もご飯美味しかったよ。

 

 ・・・・・な、なぁ今度話があるんだ。

 

 ゆっくり時間取れるといいなぁ。

 

 おやすみ。」

 

”スー”

 

・・・・・とうちゃんのバカ。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ふぁ~、今日もお勤め終わった。

さてっと、生徒会行こう。

今日から文実だ、頑張らないと。

 

”テクテクテク””

 

「ふんふんふん♬」

 

はっ! ひ、比企谷君。

廊下でなにしてんだろう。

誰か待ってるのかなぁ。

もしかしてわたしを待っててくれたりして。

そうだよね、だってあれからずっと会ってないし。

電話もなんかわたしからはしづらいから。

 

・・・・・よ、よし今日こそちゃんと謝ろう。

 

「ひ、」

 

”ポコッ”

 

「ヒッキー、なんで先に行くし。」

 

「いや、だからちゃんと待ってただろうが。」

 

”にかっ”

 

「お前、それわかってやってんだろ。」

 

「うん。」

 

”にこにこ”

 

「う、ま、まぁいっか。 じゃ行くか。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、待ってよヒッキー」

 

「ヒッキー言うな。

 

 あ、俺、今日ちょっと先に帰るから。」

 

「え~、なんでだし。」

 

「一色の依頼だ。

 

 ほら、前に部室に来て言ってたろ、テレビ局に打ち合わせに行く時は一緒に来てくれって。」

 

「そうだったっけ。」

 

なぁ~んだ、結衣ちゃん待ってたのか。

そうだよね、わたしなんか待っててくれるわけないよね。

結衣ちゃん、可愛かったなぁ。

比企谷君、ちょっと照れてた。

 

”にかっ”

 

なにやってんだわたし。

ほ、ほらあの男子、すごく引いてるし。

馬鹿だ、ほんと馬鹿だわたし。

 

”トボトボ”

 

     ・

 

こんな気持ちじゃいけない。

いまから文実だもん。

わたしみんなといい思い出作るんだ。

気を引き締めないと。

 

”パシッ”

 

う~痛い。

でもやっぱりこのぐらいじゃないと。

よし!

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。」

 

「あ、美佳先輩、遅いです。」

 

「ごめんなさい、今準備しますね。」

 

「・・・・・美佳先輩、何かあったんですか? 目が赤いですよ。」

 

「え? あ、何でもないです、大丈夫。

 

 ちょっとお腹が空いたぐらい。」

 

「そ、そうですか。 

 

 じゃあ、みんな先に行ってるのでわたしも行きますね。

 

 あと戸締りよろしくです。」

 

「あ、はい。」

 

”ガラガラ”

 

やば、心配かけちゃった。

気持ち切り替えて頑張らないと。

えっと資料資料っと。

 

”トントン”

 

あとは・・・・・やっぱりこの腕章しないといけないかなぁ~

”み・な・ら・い♡”

え~い、もうやけくそ。

 

”スッ”

 

みならい腕章装着完了!

よしあのアニメ風に。

 

「三ヶ木美佳、行きま~す!」

 

「あっ」

 

「えっ、しょ、書記ちゃん。」

 

「あ、あの~、あ、ほらこれ忘れ物したから。

 

 ど、ドアも開いてたから。

 

 わ、わたしなにも見てません、見てませんから~。

 

 ご、ごめんなさ~い。」

 

”ダ―”

 

い、いや違うの書記ちゃん、まって~。

 

     ・

 

”テクテクテク”

 

うううう、今日は最低の日だ。

書記ちゃん、なにこの人って顔してた。

・・・・・だってこの腕章が~

 

”うろうろ”

 

ん、誰だ?

あっ、さがみんだ。

会議室の前で行ったり来たりってなにしてんだろ。

 

・・・・・そっか、そだよね。

よし、頑張れの気をこの手に集めて。

 

”バシッ”

 

「よ! さがみん。」

 

「ひゃ、み、三ヶ木。

 

 ちょっといきなりなにするのよ!

 

 信じられない。

 

 背中すごく痛かったんだけど。」

 

「はい。」

 

”ばさ”

 

「あ、はい・・・・・・・え、なにこの資料?」

 

「ほら行くよ。」

 

「はぁ? いや、あの 」

 

”ガラガラ”

 

「すみません、遅くなりました。

 

 あ、相模さん資料持ってきてくれてありがと。」

 

「え? あ、は、はい。」

 

えへへ、さがみんまた後でね。

えっとまだ全員来てないね。

良かった間に合った。

さて資料配らないと。

 

「ね、あれ相模じゃん。」

 

「え、マジ。」

 

わかってたけど、去年の文実とか体育祭の子とか結構いるね。

さがみん、ガンバだよ。

 

「三ヶ木、半分よこせ。

 

 こっちの列は俺がわけるから。」

 

「おう、稲村君ありがとさん。

 

 じゃあお願い。」

 

     ・

 

「それでは先生方もみえられたようですので、みなら・・・・

 

 ごほん、美佳先輩始めてください。」

 

「は、はい、会長。

 

 文化祭実行委員のみなさん、ご苦労様です。

 

 それでは今から委員会を始めたいと思います。

 

 ではまず生徒会会長から挨拶を。」

 

”スタッ”

 

「皆さんご苦労様です。

 

 生徒会会長の一色いろはです。

 

 えっと、今年は例年に負けない素敵な文化祭にしたいと思います。

 

 みなさん、一緒につくりあげましょうね。

 

 よろしくです。 えへ♡」

 

”パチパチパチ”

 

え、なに? 会議室中にすごい拍手の音。

は、な、なによ、男子共め。

ん? あ、厚木!

な、何やってんだ、お前一番拍手してるじゃん。

も、もういいわ。

会議進めるからね!

 

「それではまず最初に実行委員長を選出したいと思います。

 

 どなたか立候補される方いらっしゃいませんか?」

 

ほ、ほれ、舞ちゃん立候補すんだろ、早く手を挙げろ。

ネタは上がってんだ。

 

”し~ん”

 

え、あれ、手挙げないの?

だって実行委員長やりたかったんじゃ。

それでみんなに根回しして。

 

「えっと、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

”し~ん”

 

舞ちゃんなんで?

はっ、な、なにその勝ち誇った顔は。

そ、そっか、主導権を握りたいんだ。

だから立候補じゃなくて、こちらからお願いさせようという気だな。

 

「ど、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

は、みんなが舞ちゃんを見つめてる。

いいから手を上げてよ~

くそ~やっぱり手をあげないつもりだ!

し、仕方ない、わたしがお願いして。 

 

「あの~、2年の 」

 

「えっと、立候補する人いないですか~

 

 ん~仕方ないですね、それじゃあわたし2年生ですから、

 

 わたしが生徒会会長と兼任で実行委員長を 」

 

「はぁ!」

 

”ガタッ”

 

「ん、なにかありました? えっと確か蒔田さんでしたっけ?

 

 は、もしかして、本当は実行委員長やりたいとか。

 

 どうしようかなぁ~

 

 まぁ、そんなにやりたいのならやらしてあげてもいいんですけど~

 

 すみませんが、手を挙げて頂けます?」

 

「べ、別にわたし 」

 

「あ、そうですか。 

 

 それじゃ、立候補される方もいないようですので、わたしが 」

 

「や、やります。

 

 わたし実行委員長に立候補します!」

 

「ふん!

 

 では美佳先輩、先に進めてください。」

 

「は、はい会長。」

 

げ、ジャ、ジャリっ娘こわ~

な、なにその勝ち誇った顔。

なんかジャリっ娘の闇の一面を垣間見たような。

あは、舞ちゃんすっかり小さくなってる。

 

仕方ない、ここは助け船ださないとね。

バランスが大事ってどっかのイロハ、違ったアロハのおじ様が言ってた。

 

「えっと、他に立候補される方いらっしゃいませんか?」

 

”し~ん”

 

「それでは皆さんの信任をとります。

 

 蒔田さんに実行委員長をお願いすることに賛成の方、挙手をお願いします。」

 

”シュパッ”

 

お、おう。全会一致だ。。

ま、まぁ、わかってはいたけどね。

 

「えっと、全員賛成ですね。

 

 それでは蒔田さん、実行委員長お願いしてもいいですか?」

 

「あ、は、はい。」

 

”ガタッ”

 

「えっと謹んで引き受けさせていただきますです。」

 

”パチパチパチ”

 

「あ、えへへ みなさん蒔田 舞です。

 

 よろしくです。」

 

ふ~良かった。

・・・・・良かったのか? 舞ちゃんが委員長か~。

う~、ま、まぁ、気取り直して。

 

「はい、それでは続いて各担当を決めたいと思います。

 

 えっとお手元の資料に文実の組織体系と各部会の役割、それと昨年度の活動記録をまとめて

 

 ありますので、一度目を通してください。

 

 しばらくしてから皆さんの希望とりますね。

 

 あ、担当は早い者勝ちですので。」

 

えっとあとは、舞ちゃん舞ちゃんっと。

 

「蒔田さん、ちょっと。」

 

”スタスタスタ”

 

「何ですか三ヶ木先輩。

 

 あっ!」

 

「んっ!」

 

「ふん!」

 

げ、また会長とにらみ合ってる。

いや~やめて。

間に入らないとやばい。

 

「ま、舞ちゃん。 委員長はこ、こっちの席に。」

 

はぁ~胃が痛くなってきた。

先が思いやられるよ~

 

「あのね、この後からは委員長さんの仕事になるから。

 

 みんなの担当の割り振りお願いね。」

 

「・・・・・」

 

「えっと舞ちゃん?」

 

「えっと、わたしもう実行委員長ですよね。」

 

「あ、はい。」

 

「それじゃ、三ヶ木先輩、各担当の希望を取ってくださいね。」

 

「へ?」

 

「あの、聞こえなかったんですか?」

 

「あ、いや、そ、それは委員長の 」

 

「え? ほら委員長はドンと構えてないと。

 

 こういう会議の進行は生徒会でお願いします。

 

 ほらほらこの組織図でいうと、生徒会って実行委員長直属の組織ですよね。

 

 直属の下部組織。」

 

な、なに! こ、こいつ。

はっ、な、なに?

後ろから背中のほうからなんかすごいオーラが。

 

”ガタッ”

 

あ、やばいジャリっ娘が。

げ、誰か止めて。 い、稲村・・・・む、無理か~

し、仕方ない、ここで修羅場は。

 

「は、はい。 わたしが希望取りますね。

 

 いや~実は取りたかったんだ希望。

 

 わたし希望取るの大好き。

 

 わ、わ~い、うれしいなぁ。」

 

「はい、じゃあお願いします。」

 

「う~。」

 

     ・

 

はぁ、右と左からすごく圧迫感が。

ね、ね~仲良くしようよ~

もう、やけくそ!

 

”ガタッ”

 

「えっと、み、みなさんそろそろ決まりました?

 

 それでは希望取りますね。

 

 まずは文実の花形! 有志統制やりたい人!

 

 あ、さっきも言ったけど早いもの勝ちだよ。」

 

「あ、はい。」

 

「はい。」

 

「あ、俺も。」

 

「「はい、はい。」」

 

「はい、ここまで。

 

 人数になりましたからここまでです。

 

 いいですか、さっきも言ったけど早いもの勝ちですからね。

 

 はい、次は去年はテレビにも出たよ、宣伝広報。

 

 あのジャガーさんにも会えたよ。」

 

「え、ジャガーさんに? あ、俺やる。」

 

「わたしもジャガーさんに会いたい。」

 

お、おい、そんなにジャガーさんって人気なの?

 

     ・

     ・

     ・

 

ふ、ふ~、担当決め終わった。

疲れたよ~、こんなハイなのわたしじゃない。

だってハイじゃないとなかなか決まらないんだもん。

ふぇ~

 

”トントン”

 

え、なに? なに書記ちゃん。

あ、そっか、まだそれ決めないと。

うんしょっと、もうひと働き。

 

「それじゃ、各部会で集まってもらって、代表の部長さんを決めてください。

 

 えっと今年から部長連絡会を設けてます。

 

 各部長さんには代表として部長連絡会に出て頂きますから、そのつもりでよろしくです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっと、全員自己紹介終わったね。

そんじゃ。

 

「はい、部長立候補する人!」

 

「お前やれよ。」

 

「はぁ、いやだよ、お前がやれよ。」

 

はいはい謙虚な譲り合い想定済みだよ。

残念ながらわたしには時間がないの。

だって~、物品管理もやらないといけないんだ。

保健衛生だけに時間かけてられないんだい。

 

”パンパン”

 

こっち注目してね。

 

「はい、3年生立って。」

 

「「ん?」」

 

「ほら早く早く。」

 

”ガタッ、ガタッ”

 

「はい、いくよ、前振りなしでジャンケンポン!」

 

「「え、」」

 

「はい、君の負け。 君が保健衛生の部長ね。」

 

「うわ、俺か~」

 

「部長、ご苦労様です。」

 

「よかった。」

 

「じゃあ部長さん、ほらあの前の席に座ってる眼鏡の娘、あの娘にクラスと名前伝えてきて。」

 

「あ、生徒会のメガネのかわいいほうの子だ。 一度話したかったんだ。」

 

「あ、本当だ、かわいいほうの子だ。 なぁ、お、俺も一緒に行こうか。」

 

・・・・・い、いいもん。

わ、わたし忙しいもん、気にしないもん。

うううう、うわ~ん。

 

くそ、次は物品管理、物品管理。

確かさがみんもこっちに。

あ、いたいた。

へへ、さがみんの横座ろっと。

 

「ごめんなさい、遅くなりました。」

 

”ドサッ”

 

へ? なにこの雰囲気。

さがみん、どうしたの?

なんかずっと下向いて手握りしめて。

ん?

 

”コソコソ”

 

「なぁ、あれ相模だろ」

 

「相模だ。」

 

「え、相模って?」

 

「お前知らないのか去年のな  」

 

「うわ~マジ?」

 

「なんで今年もいるんだ?」

 

「最低。」

 

なんだよこいつら、コソコソって気持ち悪い。

は、この目、この細く狭められた目、あの時の目だ。

くそ~こいつらも一緒なのか。

みんなで一人を生贄にして。

なんだよ、みんなでそうやって楽しいのかよ。

折角さがみんやり直したいって、見つめ直したいって。

頑張ろうとしてるのにあんたら。

 

ゆ、ゆるさない。

 

3年C組の谷津、お前去年有志統制の受付担当だったろ。

お前、文実来てたの最初のほう少しと最後だけだったろうが。

ほとんど部外者の葉山君に任せやがって。

ちゃんと三ヶ木レポートにチェックしてあるんだからな。

まず、お前からだ。

 

”ガタッ”

 

「お 」

 

”ぎゅ”

 

え、さがみん?

手? なんで手握って、いやちょっと離して。

わたしそんな趣味ないから・・・少しだけだよ。

あ、いやそんなこと言ってる場合じゃない!

わたしこいつらのこと  

 

「・・・・・あ、あのさ、うちの自己紹介まだだったよね。

 

 ほら、途中で止まってたから。」

 

さがみん?

 

”にこっ”

 

え? その顔。

 

「ありがとう。」

 

え、なに? なんか小さい声だったからうまく聞き取れなかったけど。

さがみん、ありがとって言ったの?

 

「えっと、うちは3年A組の相模 南っていいます。

 

 あの、去年一緒だった人いるからあれだけど、

 

 去年の文化祭と体育祭の委員長をやらせていただきました。

 

 少し長くなるけどごめんなさい。

 

 うちね、委員長って肩書に憧れて、ほら委員長になったらみんなが一目置いてくれてるような、

 

 なんか自分が認められてるって感じがして、それで調子に乗って委員長に立候補したの。

 

 でもね、あんまり自信なくて、それで雪ノ下さんに副委員長お願いして。

 

 でもほら雪ノ下さんすごいから。

 

 本当はうちが引き立つように利用しようと思ってたんだけど、みんなが副委員長ばっかり

 

 褒め称えてさ。

 

 雪ノ下さんだけが頼られて、うちなんて・・・・・存在感無くて。

 

 だから面白くなくて、困らせたくなって、うちのほうが上って思いたくて。

 

 そうしたら、なんか文実滅茶苦茶になっちゃって。

 

 うち怖くなって、どうしたらいいかわからなくてクラスに逃げ込んで。

 

 でも、何とかしなくちゃいけないって思って文実行ったの。

 

 ・・・・・・・・でももうそこにはうちの居場所はなかった。

 

 うち思った、何やってんだろって。

 

 こんなはずじゃなかったのに何を間違っちゃたのって。

 

 でも文化祭はそんなこと関係なくちゃんと行われててね。

 

 なぁ~んだ、うちなんて居ても居なくてもいいんじゃんって思って。

 

 それでね、なんか気が付いたら屋上にいたの。

 

 全く馬鹿だね。

 

 それでも誰かがうちを必要としてくれてて、探してくれるんじゃないかって期待して。

 

 それでやっぱりうちが必要なんだって言ってもらいたかった。

 

 そうしたらあいつが来たの。

 

 まぁ、こいつでも仕方ないかって少しは思ったのに。

 

 なんか素直になれなくて、うちなんて必要ないじゃんって言っちゃたの。

 

 そうしたら、あいつなんて言ったと思う?

 

 うちがもってた集計結果が必要だって言うんだよ。

 

 ・・・・・うちじゃなくて。

 

 その後はもうなにがなんだかわからなくなって。

 

 気が付いたらもう引けなくなっちゃって。

 

 あの時、もしうちのことが、うちが必要だから迎えに来たって言ってくれてたら。

 

 ・・・・・なに勝手なこと言ってんだろう。

 

 まぁ、結局その後、葉山君とかゆっことかに連れられて戻ったんだけどね。

 

 立派な職場放棄!

 

 まぁ、体育祭の時も同じかなぁ。

 

 あの雪ノ下さんや葉山君から委員長やってくれって頼まれて。

 

 何もしてないのに、うちが認められたんだって舞い上がっちゃって。

 

 馬鹿だね、うちが文実の後やったことって、ただ被害者面していただけなのに。

 

 それでも少しは変わろうと思ったんだ。

 

 だけど・・・・自業自得だね、文実のことが尾を引いててさ、

 

 また委員会滅茶苦茶にしちゃって。

 

 結局、あの時認めたくれたのは城廻先輩だけだった。

 

 挙句の果てにうち委員会で泣いちゃって。

 

 たはは、全く何やってんだろうね。

 

 あ、ごめんなさい、くだらないことを長々と。

   

 あのね、うちは肩書がほしくて、認められてるって感じがほしくて。

 

 本当に馬鹿だった。

 

 でも、でもそんな自分も含めて今のうちがいると思う。

 

 うちはちゃんと自分自身に向き合いたい。

 

 去年の馬鹿な自分にも、今の自分にも全部ちゃんと向き合いたい。

 

 それで他の人とかにじゃなくて、自分自身に認められたい、認めてあげたい。

 

 うち、この文化祭を通して少しでも成長したいです。

 

 だから 」

 

”ガタッ”

 

「3年A組 相模 南です。 文実頑張りますのでよろしくお願いします。」

 

”ペコ”

 

さ、さがみん。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

”パチ”

 

あ、

 

”パチ・パチ・・・パチパチパチパチパチパチパチ”

 

「相模さん、こちらこそよろしく。」

 

「一緒にやろう。」

 

「相模さん。」

 

よ、よかった。

よかった~、み、みんないいやつだ。

ほら一番大きな拍手しているやつ、3年C組の谷津。

君はいいやつだと思ってた。

うんうん、ほらいいやつって目してるもん。

 

「俺、相模さんが部長がいい。」

 

「わたしも。」

 

「相模さん部長やって。」

 

「う、うちでいいの。 また滅茶苦茶にするかも。」

 

「「相模、相模、相模、相模」」

 

「ちょ、や、やめてよ、わ、わかった! うちが部長やるから!

 

 ・・・・・あのさ、みんな力貸してね。」

 

”パチパチパチパチパチ”

 

「やった。」

 

「頑張ろう。」

 

よかったねさがみん。

部長おめでと。

一緒に頑張ろうね。

・・・・・でも、いい加減、手離してもらっていい?

わたしだけ拍手していないから、ほらみんなからなんだこいつって見られてる。

ち、ちがう、わたしも拍手したいの~

 

     ・

     ・

     ・

 

「みなさんご苦労様でした。

 

 それでは第一回部長連絡会終わります。

 

 明日から文実よろしくお願いします。」

 

ふ~、終わった終わった。

ほんと今日は大変な日だった。

あとはゆっくり明日からの準備しようっと。

 

「ちょっと蒔田さん、あまりうちの庶務を勝手に使わないでもらいたいんですけど。」

 

「はぁ? 文化祭の間は関係ないじゃん。

 

 ほら、ほら、この資料にも生徒会は委員長直属になってるし。」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

いや~また始まった。

やめて~

今にもつかみ合い始まりそうだよ~

ほら、まだ部長さん達いるんだから。

なんとかしなくちゃ。

あ、そういえば比企谷君言ってたっけ。

 

「か、会長、今日はテレビ局と打ち合わせがあったんじゃ。

 

 ほ、ほら時間、時間遅れちゃうから。」

 

「む~」

 

いや、そのほっぺ可愛いから。

ほんとツンツンしたいから。

あ、嫌そんな場合じゃない。

あ、それと

 

”ガサガサ”

 

「ほらほら、急いで急いで。

 

 あ、それとこれ、ぴーなっつ最中。

 

 これプロデューサーさんの好物ですから、よろしくって渡してくださいね。」

 

「もう、美佳先輩そんなに押さないでください。」

 

”ガラガラ”

 

「会長殿、いってらっしゃいませ。

 

 よろしくお願いします。」

 

「もう!」

 

”テクテクテク”

 

ふ~、これでよしっと。

あとは、この調子に乗ったガキにお灸を。

 

”ぎゅ~”

 

「あ、いた、痛い痛いですって、耳引っ張らないで。」

 

「まったく、あんまり調子乗らないで舞ちゃん。」

 

「だって、一色さんが 」

 

「あのさ・・・・・

 

 まあ今日だけだからね。

 

 明日から部長会とかちゃんと仕切ってね。 」

 

「まぁ、よろしくですジミ子先輩。」

 

「もうその呼び名、やめない?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

えっと、ポットとお茶のパックはここに置いておいてっと。

あと麦茶どうしょうかなぁ~

ポットの横に置いておこう。

あとは紙コップっと。

他何か忘れてないか?

あ、ごみ袋、ごみ袋。

 

”ガラガラ”

 

「あ、ジミ子先輩、ご苦労様です。

 

 飲み物の準備ですか。

 

 あ、そうだ。」

 

”ごそごそ”

 

「はい、わたしこれでお願いします。」

 

な、自前のコップかよ。

あ、おしゃまキャットメリーちゃんのコップか。

可愛いなぁ。

は、いや、そんなの置いておく場所はない!

一人が置いたら次から次へと。

 

「こんなもの置いておけないの、ほら持って帰った。」

 

「え~、折角昨日買ってきたのに。」

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様で~す。 げっ」

 

「はぁ!」

 

”スタスタスタ”

 

は、な、なにやめて。

顔合わせたらいきなりバトル?

 

「ふふふふ。」

 

え、ジャリっ娘?

なにその勝ち誇った笑顔。

 

”ごそごそ”

 

は、も、もしかして、あ、あんたも。

 

”カチャ”

 

「勝った。」

 

「な、なに、なにが勝ったのよ!」

 

「蒔田さんなにそのコップ? 

 

 どこでも売ってる大量生産の市販品ね。

 

 ほら、わたしのはおしゃまキャットメリーちゃん夏休み期間限定品。」

 

「げ、限定品。」

 

「ふふん。」

 

「はぁ! なに言ってるのかなぁ。

 

 そんな限定品よりこっちのデザインのほうが可愛いじゃない!」

 

「ご冗談。」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

”パコッ、パコッ”

 

「い、いた!」

 

「何すんですか! 会長に対して。」

 

「何人であろうと文実にはマイコップの持ち込み禁止!

 

 全員紙コップ!」

 

「「ちぇ~」」

 

まったく、勝手なことばかり。

文実の子みんなが持ってきたらどうするのよ。

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様。」

 

「あ、稲村先輩待ってたんですよ。

 

 あの~、昨日貰った資料がよくわからなくて。」

 

”ダ―”

 

お、おい、このコップどうすんだ。

ふ~、仕方ないか。

お茶でも淹れてあげよっか。

 

「ほら、ここの経費のところなんですけど。」

 

「ああ、ここか、ここはだな。」

 

”コト”

 

「はい、どうぞ。 麦茶でよかった?」

 

「ああ、ありがとう三ヶ木。」

 

「ジミ、三ヶ木先輩、わたしは紅茶でお願いします。」

 

「はぁ? そんなものはない!」

 

「ぶ~、じゃあ麦茶でいいです。」

 

「美佳先輩、わたしには紅茶お願いしま~す。」

 

「あんたも麦茶!」

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様。」

 

「お疲れ様です。」

 

げ、また同伴出勤か、このバカップルめ!

うらやましい。

 

「ちわーっす。」

 

そろそろみんな集まってきた。

今日はみんなにお茶配ってる時間ないからごめんね。

 

「ここにお茶置いておきますから、自由に飲んでね。

 

 それより、会長、奉仕部さん行きますよ。」

 

「え、あ、そうですね。」

 

「舞ちゃ・・・・実行委員長、ちょっと文化祭の件で奉仕部さんに行ってきます。」

 

「あ、はいはい。」

 

「副会長、ちょっとだけよろしくです。」

 

「あ、はい会長。 いってらっしゃい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでなんか海浜高校さんからも文化祭の宣伝の申し込みがあったらしくて、

 

 テレビ局さんのほうで何か企画されているようなんですよ。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

海浜さんっていうとあの轆轤使いさん来るのかなぁ。

あ、そういえば比企谷君の同中の子もいたっけ。

 

「あ、一色、ちょっといいか。」

 

「げ、厚木。」

 

「会長聞こえてるって。」

 

「あ、ご、ゴホン。

 

 あの~厚木先生、何かご用ですか~?」

 

「お、おう、文化祭のことで確認したいことがあってだな、ちょっと来い。」

 

「あ、あの~」

 

「あ、大丈夫だよ会長。

 

 先に行って奉仕部さんに話しています。」

 

「あ、お願いしますね。

 

 すぐ追いかけますから。」 

 

「了解。」

 

     ・

 

”スタスタスタ ピタ”

 

はぁ、着いちゃった。

会長にはああいったけど、入りにくいなぁ~

なかにいるんだろうな比企谷君。

ちゃんと顔見られるかなぁ。

 

「まったく、あなたらしいわ。」

 

「ほっとけ。」

 

「あははは、ヒッキーウケる。」

 

あ、やっぱりいた。

楽しそうだなぁ~、やっぱり比企谷君にとってここは特別な場所。

この雰囲気、邪魔するのやだなぁ。

なにしに来たんだんだって思われたら、わたし・・・・・

 

「それで由比ヶ浜さん、さっき何か言いたそうだったけど。」

 

「あ、うん。

 

 あのね、ゆきのん。 あ、ヒッキーも聞いて。

 

 あたし達、うううん奉仕部にとっても最後の文化祭じゃん。

 

 新入部員も入りそうにもないし、来年にはもうみんな卒業して。

 

 それで奉仕部もなくなっちゃって。」

 

「いや、お前はいるかもしれんぞ。」

 

「はぁ? なんでだし。

 

 ちゃんと卒業するんだから。

 

 ・・・・・・・・・・・それであたしはヒッキーと同じ大学に。」

 

「お茶谷君、茶化さないでちゃんと聞きなさい。

 

 由比ヶ浜さん、続けて。」

 

「あ、うん。 それでね、奉仕部の三人で文化祭になにかやれないかなぁって。

 

 うううん、あたし三人で何かやりたい。」

 

「由比ヶ浜さん。」

 

”こくり”

 

「まぁいいんじゃないの。」

 

「ほんとう? いいの? ありがとうゆきのん、あっヒッキーも。」

 

”だきっ”

 

「あつい。」

 

「で、何をやるつもりだ。」

 

「あ、えっと、なにしよう。 えへへへ。」

 

「なにも考えてないのかよ。」

 

「えっと、じゃあクレープ屋さん。」

 

「由比ヶ浜さん、折角だから奉仕部らしいことをやりましょう。」

 

「ん~、なにしょっか。」

 

「そうね。」

 

     ・

 

「じゃあ、的当てゲームとか。

 

 ヒッキーが鬼の格好してお腹に的書いて。」

 

「断る! それ絶対いじめになるからね。

 

 それに奉仕部らしくないだろうが。」

 

「う~んこれもだめか~ なかなか三人だけでできるものってない。」

 

「そうね、いざというとなかなかこれというのが無いわね。」

 

”ビシッ”

 

「はい、こういう時こそヒッキーどうぞ。」

 

「おい! 無茶ぶりはやめろ。

 

 そうだな、俺達らしいもので、三人でできるもの・・・・・

 

 例えばお悩み相談室とか。」

 

「あ、それいい。 えっと出張お悩み相談室。」

 

「そうね、それだったらいつもやっていることだから。」

 

「なんかこう、バーンって看板とか作っちゃって。」

 

「では出張お悩み相談室ってことにしましょう。

 

 でもあなた達、クラスのほうはいいの?」

 

「クラス? おい由比ヶ浜、俺達のクラス何やるんだ?」

 

「ヒッキー、今日のLHで決めたばっかりじゃん。」

 

「熟睡してた。」

 

「はぁ~、あのね変顔喫茶。」

 

「は、はぁ? なんだそれは。」

 

「もう、多数決で決まっちゃたんだからね。

 

 一票差だったんだから。ヒッキーがちゃんと反対していれば。」

 

”ポカポカ”

 

「お、おいやめろ。 具体的に何をするんだ。」

 

「普通の喫茶店だけど、教室の中にみんなの変顔の写真貼りだすの。

 

 それで誰が一番変顔かって人気投票みたいなのするんだって。」

 

「な、なんだそれ。」

 

「ただの受け狙い。

 

 喫茶店だと準備とかあんまり手間が掛からないんじゃないかって。

 

 でも普通だと面白くないからって。」

 

「比企谷君、一位おめでとう。」

 

「お、おい。

 

 くそ、否定できねぇ。」

 

・・・・・そっか。

 

”スタスタスタ”

 

だったらわたしは、わたしはね・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタン”

 

でたな禍々しい黄色いやつ。

ふふふん、今からわたしが退治してやる。

 

”カチャ”

 

苦しい。

なんかこう胸が痛くて痛くて。

は、もしかしたら成長期。

な~んてね。

 

”ゴクゴクゴク”

 

ふぅ~・・・・・仕方ないよね。

だって。

 

「あれ、美佳先輩、奉仕部さんは?」

 

「あ、も、もう終わったよ。」

 

「え、あ、ごめんなさい遅くなっちゃって。

 

 あの~、何か問題とかありました?」

 

「うううん、何もない、何も問題ないよ。」

 

「そうですか?」

 

「会長、文実戻りましょう。」

 

「あ、はい。」

 

”テクテクテク”

 

「あの会長。

 

 人気投票、わたしに任せてくれませんか?」

 

「え? あ、はい。」

 

「ありがとうございます。 えへ♡」

 

「なんですかそれ、チッとも可愛くないですよ~」

 

「あはは、やっぱり。 

 

 あのね会長、わたし頑張りますね。」




最後までありがとうございます。

更新どんどん遅くなってすみません。
個人的なことですが試験が・・・・・はぁ~

気、気を取り直して、次話文化祭の準備真っ盛り。

また見に来ていただけたらありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編④ 裂

見に来ていただき、ありがとうございます。

すみません、やってしまいました。
気が付いたら27,000字越え。

長々駄文でめっちゃ読みにくいかと。

あの、文化祭の準備の最終話です。
無理せず読んでいただけたらありがたいです。

では、よろしくお願いいたします。


「あの三ヶ木さん、保険所からの資料ってこれで良かった?」

 

「うん、それだよ。 

 あ、模擬店の注意事項の資料作るんだよね。

 えっとこれ去年配布したのあるから参考にして。」

 

「ジミ・・・三ヶ木先輩、去年のオープニングの資料どこでした?」

 

「んと、文化祭のフォルダーの中にオープングのフォルダーあるでしょう。

 委員長、そこ見れます?」

 

「は~い。

 えっとオープニングのフォルダーですね、了解です。

 あ、あとお茶お願いしま~す。」

 

「うぉい!」

 

う~忙しい。

文実も本格的に活動を開始してはや数日。

毎日が忙しいよ~

家に帰ってまでやることがあって。

おかげで最近寝不足ぎみっす。

家事のほうも手抜きしてるし。

あ、でもお料理だけは頑張ってるから。

だってお料理だけは・・・・・

 

「三ヶ木さん、当日の健康状態・身だしなみチェックシート知らない?」

 

「あ、待って、それ作ってあるからいま打ち出すね。」

 

良かった。

昨日家で作っておいたやつだ。

えっと確かこっちフォルダーに保存したから。

あっ、あったあった。

印刷開始っと。

 

"カチャ、カチャ”

 

「三ヶ木さん、来賓予定者の名簿ってもうできてる?」

 

「あ、ごめん。 

 まだなんだ、急いで作るからちょっと待ってて。」

 

「三ヶ木先輩、それわたしのほうで作ってるから大丈夫ですよ。」

 

「う~、書記ちゃんありがと。」

 

しょ、書記ちゃん。

いい娘だね~

いつもフォローしてくれるんだ。

今日も三つ編み、かわいいよ。

で、でもあの日以来、わたしを見る目が少し憐れみを含んでるような気が。

い、いや、気の所為、気の所為っす。

さてと次はこれ、この資料。

よし、三ヶ木美佳行きまーす。

 

「あの~三ヶ木先輩?」

 

「はっ、何でもないです。

 書記ちゃん、今日もかわいいね。」

 

「はぁ?」

 

ふ~、あっぶなかった。

声に出てなかったよね。

さてお仕事お仕事。

えっとこの資料はどこ直すんだっけ。

 

”トントン”

 

え、なに?

ジャリっ娘なに机を小突いてこっち見てるの。

・・・・・はいはい、わかりました。

 

「会長、会長も可愛いです。」

 

「はぁ? 当たり前じゃないですか~」

 

だったらそんな嬉しそうな顔しない。

まったくもう。

 

「あ、それと美佳先輩、紅茶よろしくです。」

 

「んなもんなし、はい麦茶!」

 

まったく、ジャリっ娘め、書記ちゃんの爪の垢を煎じて飲めってんだ。

この忙しいのに。

いつもいつもお茶お茶って。

ってなんやかんや言ってお茶持って行っちゃうんだけどさ。

 

”どさ”

 

ふ~、さ、こ、今度こそ集中集中!

急がないと今日の分終わらないや。

 

「ね、三ヶ木。」

 

「あん!」

 

「あ、ごめん。」

 

あ、さがみん。

しまった、またあの娘達かと。

あ、行っちゃう。

ま、待って。

 

「さ、さがみん、ごめん違うの待って。

 何か用?」

 

「そ、そう?

 あのさ、貸し出し用の机の数が足りないんだけど、体育館倉庫以外にあるとこ知らない?」

 

「えっと、体育館倉庫以外は無いはずだけど。」

 

ん~机、机、どっか他に置いてあったかなぁ~

あ、そういえば、卒業生を送る会の時に使ってそのままだったんじゃ。

 

「もしてかしてステージの裏にも積んであるかも。」

 

「わかった、確認してくる。」

 

「あ、さがみん、わたしも行くね。」

 

「いい、大丈夫。

 そっち忙しそうだから、うちらで見てくる。

 みんなステージ裏見に行くよ。」

 

「は~い。」

 

「さがみん、お願いね。」

 

「いいって、それより」

 

”ぐぃ”

 

え、な、なに?

近い近い、顔近い。

も、もしかして、ち、ちゅ~?

 

「さがみん言うな。」

 

”に~”

 

か、かわいい。

その笑顔、かわいい。

ね、ちゅ~しよう。

 

”ぶるぶる”

 

「ん? 風邪かな。

 なんか今急に悪寒が。

 まあいいや、じゃあ三ヶ木、行ってくる。」

 

「う、う、うん、いってらっしゃいませ。」

 

はぁ~、危なかった。

あやうく道外すとこだった。

あ、それより仕事仕事。

集中しなくちゃ。

 

「三ヶ木先輩、肩凝った~」

 

「あ~、うっさい。」

 

く、くそ、こ、この小娘は!

折角、人が集中して仕事しようと思ってるのに。

いっつも邪魔しやがって。

 

”スタスタスタ”

 

「え? うそ。

 肩もんでくれるんですか?

 あ、ありがとうございま~す。」

 

「あ゛ー、み、美佳先輩こっちもよろしくで~す。」

 

”ブチッ”

 

ぐっ、じゃ、ジャリっ娘まで!

調子に乗りやがってこのクソガキ1号、2号。

ゆ、ゆるさん、ゆるさんぞ~

 

”ボキボキ”

 

「え? あ、あの三ヶ木先輩、や、やっぱりいいかな~

 指ボキボキって、それに、か、顔怖い。」

 

「もともとこんな顔なの。

 気にしないで委員長さん。

 い・つ・も、ご苦労さん!」

 

”ギュ~”

 

「ぎゃ~、い、痛~い。」

 

”プシュ~”

 

ふふふ、まず一人目、抹殺完了。

つぎはジャリっ娘!

 

「会長、お・ま・た・せ。」

 

「あ、あれ~、わたし急に肩軽くなっちゃっいました。

 ほ、ほら、わ~い肩軽いなぁ~

 だから、も、もう肩は 」

 

「遠慮なさらず。

 いまもっと楽にして差し上げます・・・・・ねっ!」

 

”ギュ~”

 

「い、痛い痛い痛い。 み、美佳先輩、ギブ、ギブです。」

 

”プシュ~”

 

フゥ、フゥ、フゥ!

まったく、こいつらは忙しいのにごちゃごちゃと。

し、仕事させろ!

 

”コト”

 

え、あ、ミルクティー。

 

「ご苦労さん、あんまり根詰めるなよ。」

 

「あ、稲村君。 ありがと。

 えっとタダ?」

 

「・・・・・タダだ。」

 

”カチャ”

 

「えへへ、いっただきま~すっす。」

 

”ゴクゴクゴク”

 

「ふぅ~、生き返った。」

 

「なぁ、文化祭も大事だけどちゃんと受験勉強やってるか?」

 

「え、あ~全然ダメ。

 いっつも教科書開いたら寝ちゃう。」

 

「まったく。

 塾で使った模擬試験集あるから持っていってやる。

 結構試験問題のツボ抑えてあったから。」

 

「うん、ありがと。

 いつもすまないね~」

 

「おい、お前お婆ちゃんか。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

ふ~、着いた、やっと、い、家に着いた。

長かった、なんとか一週間終わったよ~

か、身体が重たい。

 

”ドタ”

 

少しだけ横になってもいいかな~

あ、だめ、絶対寝ちゃう。

とうちゃん帰ってくるまでに、ご、ご飯作らなきゃ。

 

つ・く・ら・な・きゃ・・・・・だ・め。

 

「ぐぅ~、ぐぅ~I

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「美佳ただいま~、 おわぁ! な、なんだ。

 なんでこいつ玄関で寝てるんだ。」

 

「ぐわー、ぐわー」

 

「お、おい、それ年頃の女の子がするイビキか。

 やれやれ、ほら風邪ひくぞ。

 うんしょっと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、はっ!

し、しまった、わたし寝ちゃったんだ。

今何時?

げ、2、2時か~ 

ん?・・・・・・あれ、ここわたしの部屋だよね。

なんで?

わたしいつの間に部屋まで?

ん~記憶がない。

あ、そんなことより、やばいやばい、晩ご飯つくってない。

と、とうちゃんもう帰ってるよね。

 

”ガタ”

 

ん~この襖、最近開けにくくなってきて。

うんしょっと

 

”スー”

 

”きょろきょろ”

 

「あの~、とうちゃん。」

 

あれ、リビングにいない。

もう寝たのかなぁ?

あ、机の上にサンドウィッチある。

ん、メモ?

 

『もし起きたのなら食べなさい。

 それとあまり無理しないように。

 

 それと話があるから少し時間ないか?

 

               とうちゃん♡」

 

・・・・・おい! ハートはやめろハートは。

 

そっか。 とうちゃんが部屋まで運んでくれたんだ、多分。

ありがと、とうちゃん。

 

”ぎゅるる~”

 

ふぇ~サンドウィッチみたら激烈にお腹すいた。

明日はちゃんとご飯つくるからね。

頂きま~す。

 

”パク”

 

美味しい。

とうちゃんありがと、大好き。

 

・・・・・時間ないかっか。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

よし、メイク完了。

今日も可愛いよ美佳ちゃん。

・・・・・だ、だって、わたしには誰も言ってくれないんだもん。

 

さて、んなことしてないで学校行こうっと。

あ、その前にメモメモ。

ん~と、

 

”カキカキ”

 

『とうちゃん、昨日はサンドウィッチありがと。

 美味しかった。

 

 あのね、今日文化祭の準備あるから学校行ってくるね。

 

 朝ごはん、温めて食べてください。

 お昼は酢豚つくったの。

 冷蔵庫にあるから食べて。

 (ごめんね、出来立てじゃなくて。)

 

 夕方には帰る予定です。

 晩ご飯待っててね、一緒に食べよ。

 

                       みか♡』

 

とうちゃん。

・・・・・わたしやっぱり話聞きたくない。

ごめんなさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガダン”

 

「えっと、商品はこれだけでよろしかったですか?

 それと校内まで運びますよ?」

 

「んっと、ベニヤと垂木とペンキ、ペンキ。

 えっと全部あります。

 それとここからは台車使って運びますから大丈夫です。」

 

「そうですか。

 それでは失礼します。

 本日はお買い上げありがとうございました。」

 

「あ、はい。

 わたしまで配送車に乗せて頂いて、ありがとうございました。」

 

”ペコ”

 

へへ、感じのいい店員さんだった。

結構イケメンだったし。

おっしいな~もうちょっと目がね~

さてと、材料運んで始めようと。 

台車、台車。

うしっ! 今日が勝負だ頑張るぞ!

 

”タッタッタッ”

 

     ・

 

「ルンルンルン♬」

 

比企谷君、もう起きてるかなぁ。

土曜日だからまだ寝てるかなぁ。

・・・・・声、聞きたいなぁ。

あ、そうだメールしておこ。

 

『三ヶ木です。

 まだ寝てたらごめんね。

 

 あのさ、ちょっとだけ声聞きたい。

 なんちゃって (⌒-⌒)ノ

 時間取れたら電話してね。

                 三ヶ木だよ』

 

これでいいかなぁ。

比企谷君、ラインしないのかなぁ。

だって既読とかでるとなんかうれしいじゃん。

繋がってるって実感できて。

 

・・・この前のこと、まだちゃんと謝ってない。

というか他にもいろいろ話したい。

電話くれるかなぁ~

よし、それじゃ送

 

「ヒッキー、ちゃんと前向いて抑えててよ。」

 

えっ、今の結衣ちゃんの声?

その校舎の角を曲がったとこ?

 

”ダー”

 

「ば、馬鹿、前見れないんだ。

 いろいろあってだな。」

 

「いろいろってなんだし。」

 

「い、いや、前向くとだな。

 スカートの中でうごめくピンクのものが見えてだな。」

 

「え、ピンク? 

 あ! ヒ、ヒッキーのスケベ、変態、最低!」

 

「比企谷君、あなたとうとう犯罪を。」

 

「ま、待て、冤罪だ。 俺は無実だ。

 いや、ちょっと待って雪ノ下さん、スマホから手を放して。」

 

あ、比企谷君いた!

学校にいたんだ。

あれ看板作ってんだね。

そうか、奉仕部のみんなで文化祭の準備してるんだ。

えへへ、ラッキー、比企谷君の顔見れた。

楽しそうだなぁ~

比企谷君、頑張ってね♡

 

で、でも、何やってんだ結衣ちゃんのパンツ覗いて。

そんなに見たかったらわたしに言えばいいのに。

わたしので良かったらいつでも・・・・・・わたしのじゃダメなのかなぁ。

はっ、なに言ってんだ馬鹿! は、恥ずかしい。

 

「だ、大体だな、何でお前ミニスカートなんだ。

 そんなスカートで目の前に座られたら、絶対見ちゃうじゃないか。」

 

「う~、だ、だってこれ可愛いし。」

 

「あら、出歯亀谷くん、開き直りなのかしら。」

 

「男の本能のことを言ってるんだ。

 って、だから待って雪ノ下さん、どこに電話していらっしゃるの。」

 

・・・・・そっか、男の本能か。

よし、今度からわたし比企谷と会う時は必ずミニスカートに決めた!

 

「なぁ由比ヶ浜、お前ジャージとか持ってきてないのか。

 頼むから何か穿いてくれ。」

 

「む~なんだしその言い方、なんか微妙だし。

 じゃいい、アンスコ穿いてくる。」

 

「・・・・・お、おい、初めから穿いてこい。」

 

あ、やば、結衣ちゃんこっち来る。

どっか隠れないと。

ぐぇ~、やっぱ蜘蛛の巣!

 

”テッテッテッ”

 

ふぅ~行った。

危なかった、危うく見つかるとこだった。

ぐわぁ~だけど蜘蛛の巣が。

 

「痛い。」

 

え、今のゆきのん?。

どしたの、怪我でもしたのかなぁ?

 

”そ~”

 

「棘刺さったのか? 雪ノ下、指見せてみろ。」

 

「大丈夫よ、自分で取れるわ。」

 

「いいから。」

 

”にぎ”

 

「あ、あの、比企谷君。」

 

「おう、ちょっと待ってろ。」

 

”ガサガサ”

 

「え、5円玉?」

 

「ああ、これでこう刺さったところを抑えてだな、ギュってやると。

 よし、これなら指でも取れる。」

 

「痛い。」

 

「すまない。

 もう少しだ、もう少しで。」

 

「なるべく痛くしないで・・・くれるかしら。」

 

「お、おう。」

 

”スッ”

 

「ほれ、取れたぞ。」

 

「あ、ありがとう。

 でも、あの、その・・・・近い。」

 

「ん? あっ。」

 

お、お~い、二人とも顔が近い近いよ。

いつまで見つめ合ってんだ。

もう棘取れたんだから離れてもいいじゃん。

・・・・・もう離れてよ。

わたしここで見てるんだよ、比企谷君の馬鹿。

 

”テッテッテッ”

 

あ、結衣ちゃん帰ってきた。

やばいやばい隠れないと。

うぇ~、また蜘蛛の巣。

 

「お待た・・・・あ、あの二人でなにやってんだし。」

 

「いや、こ、これはだな 」

 

「誤解しないで由比ヶ浜さん。

 指に棘が刺さったのを抜いてくれただけよ。」

 

「む~、だって見つめ合ってたし。」

 

「違うわ、睨み合ってたのよ。」

 

「睨み合ってたのかよ。」

 

はぁ、わたし何やってんだろ。

わたしの方こそ出刃亀だ。

・・・・・さぁ、人気投票の準備しなくちゃ。

わたしは忙しい、忙しいんだ。

 

”ダ―”

 

「あ、痛い!

 ヒッキー、あたしも棘刺さっちゃったみたい。」

 

「由比ヶ浜さん、はいとげ抜き。」

 

「ゆ、ゆきのん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トントントン”

 

「・・・・・」

 

”トントントン”

 

「・・・・・」

 

”トン”

 

比企谷君、ゆきのんと見つめ合ってた。

なにさ、頬なんか赤くしてさ。

あのまま結衣ちゃん帰ってこなかったら、どうなってたんだろう。

・・・もしかしたら二人は。

 

”トン”

 

なにがそばにいてくれだ!

この浮気者、馬鹿八幡!

 

”ドン!”

 

はぁ、はぁ、はぁ。

 

な、何やってんだわたし。

ほら、釘曲がっちゃったじゃん。

それに浮気者ってなに言ってんだ。

 

わたしが望んだことだ、わたしが望んだことじゃん馬鹿。

奉仕部、比企谷君にとって、とっても大切な場所。

やっと見つけた陽だまり。

 

そんな大切なものだから、それに最後の文化祭だから、

・・・・・思いっきり楽しい想い出つくってほしい。

 

それがわたしの望みなんだ。

・・・・・だからこれでいいんだ、絶対いいんだ、うん間違いないこれが正解なんだ。

 

”トントントン”

 

「・・・・・」

 

”トントン”

 

でも、でもさ、少しだけ寂しい。

少しだけ。

はは、弱くなったねあたしゃ。

昔から一人は慣れてんのに。

さ、気を取り直して、次の垂木垂木っと。

 

”チクッ”

 

「あいた! げ、棘刺さっちゃった。」

 

えっと、ポーチポーチっと。

確か中にピンセットが・・・あったあった。

うんしょっと。

 

”スッ”

 

よし取れた。

 

『ほれ、取れたぞ。』

 

『あ、ありがとう。

 でも、あの、その・・・・近い。』

 

『ん? あっ。』

 

・・・・・ううううう、やっぱり寂しい。

 

     ・

 

「ぐすん、ぐす。」

 

はぁ~、よし一通り泣いたら気がすんだ。

頑張るんだわたし。

急がないと間に合わない。

 

”トントントン”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ジリジリ”

 

うぇ~、あっついなぁ。

汗が止まらないや。

わたしもワンピースとか涼しいものにすればよかったかなぁ。

は、なに言ってんだ。

生徒会役員は全生徒の見本。

だから制服が当たり前。

 

で、でももう限界、あっついよ~

えっとあのね、

 

”きょろきょろ”

 

ん、誰もいない。

よし。

 

”脱ぎ脱ぎ”

 

ふぅ~、へへ制服なんて着てられないや。

でもタンクトップ、ちょっと大胆かなぁ。

だってあっついんだもん!

それにブ、ブラはしてるから。

ふぅ~、涼しくなった。

よし、再開再開。

 

”トントントン”

 

あ、そういえば去年の体育祭の時もこんな感じだった。

あの時も暑くて暑くて死にそうだった。

でもさ、えへへへ。

 

あのね、もう暑くてほんと限界ってときに比企谷君が来てくれたんだ、わたしを助けに。

大事なとこだからもう一回言うね。

 

”わたしを助けに”

 

うれしかったなぁ。

 

『大丈夫か美佳。

 お前が心配で駆けつけてきた。

 さぁ後は俺に任せて、お前は日陰で休んでいろ。』

 

って、作業替わってくれて。

 

・・・・・お、おい嘘つくな嘘を!

たまたま顔見知りのわたしのとこに来てくれて、

ただ無言で手を差し出されただけだろうが!

 

だ、だって~あの目はそう話しかけてくれたんだもん。

お、おそらく・・・・・多分・・・・・だよね。

へへ、懐かしいな。

 

いま頃、三人で仲良くやってるかなぁ。

・・・・・わたしも比企谷君と一緒にできたら。

は、ダメだダメだ。

集中集中。

集中してないと余計なことばっか考えちゃう。

よ、よし。

 

”ピタッ”

 

「ひゃ~、冷たい!」

 

「三ヶ木何やってんだ。」

 

「え、あ、い、稲村君。」

 

「まったく電話にも出ないし、刈宿に聞いて家にいったらお父さんに学校行ったって言われるし。

 ほれ、ミルクティ―と模擬試験集。」

 

「電話って? あ、ご、ごめん。」

 

げ、あ、そういえば塾の模擬試験がどうだとかいってた。

そっか、家まで行ってくれたんだ。

・・・・・あのアパート見られたんだ、はぁ~

 

「なぁ、これって人気投票のだろ。」

 

「う、うん。」

 

「人気投票の件は奉仕部に協力依頼したんじゃないのか。

 なんで一人でやってんだ。」

 

「あ、その、いや、あのね 」

 

「向こうに奉仕部いたけど、あれ人気投票の準備じゃないよな。

 なんか看板に相談室とか書いてあったし。」

 

「・・・・・」

 

「おい、奉仕部に人気投票のこと依頼してないだろ。」

 

”こく”

 

「やっぱりか。

 なんで依頼しなかったんだ。

 ここで待ってろ、俺が言ってきてやる。」

 

「ま、待って稲村君!

 お願い、お願いだからそれだけはやめて。」

 

「なんでだ?」

 

「わたし、わたしは比企谷君に奉仕部の想い出を作ってもらいたい。

 だって最後の文化祭なんだもん。

 だからお願い、あの三人の邪魔しないで。」

 

「はぁ~、全くお前は。」

 

「だ、だって。」

 

「朝からずっとか?」

 

「う、うん。」

 

「馬鹿だな。

 お前は本当に馬鹿だわ、あ~馬鹿だ。」

 

「うっさい、馬鹿馬鹿言うな!

 自分でもわかってるよ、わたし馬鹿だもん。

 勉強だってそれほどできないし、頭悪いもん。

 だけど、だけどこれがわたしなんだ。」

 

「まったくこの大馬鹿が。

 ・・・・・・・・・・でもな三ヶ木。」

 

「うん?」

 

「俺は、お前のそんなところが大好きなんだ。」

 

「ば、ばっか、なに言ってんだ馬鹿者!」

 

な、なにを真顔で言ってんだこいつは。

全く油断も隙もありゃしない。

でも、でもね・・・・・少しうれしい。

 

「はは、馬鹿と馬鹿同士だな。

 ほれ、金槌と釘貸せ。」

 

「え、」

 

「ほら。」

 

「う、うん。」

 

”トントントン”

 

「へぇ~稲村君上手。」

 

「これぐらい普通だろ。 ほら次。」

 

”トントントン”

 

男の子ってこんなの得意なのかなぁ。

比企谷君もだったけど、稲村君もなんか慣れてる。

わたしなんかよりずっと早い。

 

「ほれ次。」

 

「うん、はい釘。」

 

あ、稲村君、汗が目に入りそう。

 

”ふきふき”

 

「おわ、お前なにを。」

 

「なにをって汗が目に。

 あ、それよりさ・・・・あのね、稲村君ありがと。ニコ♡」

 

「はっ、か、かわい 」

 

”ゴン”

 

「い、いってぇ~」

 

「い、稲村君、大丈夫? えっと保冷剤保冷剤。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

はぁ~すっかり遅くなっちゃった。

とうちゃん晩ご飯待っててくれるかなぁ。

でも稲村君が手伝ってくれたおかげで大分予定を前倒しできた。

・・・時間ないかっか。

明日も学校来て準備しよう。

 

「なぁ三ヶ木、明日もやるつもりか? 」

 

「う、うん。

 あ、でも大丈夫、今日いっぱい手伝ってもらえたから。

 明日は一人で十分。」

 

「昼ご飯。」

 

「え?」

 

「昼ご飯ご馳走してくれ。

 お、おにぎりでいいから。」

 

「あ、う、うん。

 へへ、ありがと。

 じゃあ、塩にぎりで。」

 

「お、おい、せめて梅干し入れてくれ。」

 

「「あっははは」」

 

「仕方ない、塩にぎりでいいや。

 なぁ他の準備とかどうなんだ。」

 

「あ、うんとね。」

 

”ゴソゴソ”

 

えっとどこに入れてたっけ。

確かここに入れて持ってきてたと思ったんだけど。

あ、あった。

 

「これ、一応ね準備物とか段取りとか考えてあるんだ。

 一番困ってるのが司会者かなぁ。

 ね、稲村君、司会 」

 

「無理! 

 まぁちょっとそれ借してみろ?」

 

「チッ!」

 

「チッ!ってなんだ。

 な、なあ、それより明日の昼ご飯のこと考えてたらお腹空いてきた。

 よかったらそこのサイゼで晩ご飯でも食べていかないか?」

 

「おごり?」

 

「まったく。

 どうせ奢られる気ないくせに。」

 

「へへ、でも今日はごめん。

 とうちゃんお腹空かして待ってんだ。」

 

「そ、そっか。」

 

「ごめん、また今度ね。」

 

「ああ、また今度な。」

 

”プシュ~”

 

あは、ちょどサイゼのドア開いたよ。

でも残念でした、今日は帰るの・・・・あ、あれ?

 

「ありがとうございました。」

 

「あ、比企谷君。」

 

「え、あっ比企谷。」

 

「お、おう。

 なんだ今日も二人か?

 仲いいんだな。」 

 

比企谷君、サイゼでご飯食べてたんだ。

はは、サイゼ好きだね。

えっ今日も二人って?

あ、ち、違う、違う。

 

「あ、あの、あのさ比企谷君、あのきょ、今日は、あの 」

 

なんて言おう、なんて言ったらいんだろう。

で、でも。

 

「おい比企谷、勘違いするなよ。

 今まで生徒会で文化祭の準備してたんだ。

 断じてデートとかじゃないぞ。

 それに大体いつも二人の時は生徒会の仕事をしているだけだ。」

 

「あ、いや、俺は別に。」

 

「なんだよ、デートしてもいいのかよ。」

 

「え?」

 

「あ、いや、なんでもない。

 比企谷帰るところか。」

 

「あ、ああ。」

 

”チラ”

 

どうしよう。

なんて話しかければいいのかなぁ。

わぁ~偶然だねとか、いま暇~とかかなぁ。

で、でもこの前のことがあったから、どうしょう、どうしょう。

 

「・・・ふぅ、まったく。

 な、比企谷、俺めっちゃ腹減っててな、晩ご飯食べて帰りたいんだ。

 すまんが、三ヶ木を家まで送ってくれないか?」

 

「え?」

 

「ほらもう暗いだろ。 

 三ヶ木これでも女子だから、すまんが送ってやってくれ。」

 

「稲村君。」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、な、なんで。」

 

「これでもってなんだし。 

 ちゃんと女子だ!」

 

「あ、いや、それはだな。

 ・・・まぁいいや、じゃあな三ヶ木。」

 

”プシュ~”

 

「いらっしゃいませ。」

 

「・・・・・三ヶ木帰るか。

 まぁ家まで送っていくわ。」

 

「うん。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「あ、あのね比企谷君。」

 

「ん?」

 

「この前はごめんなさい。」

 

「あ、いや、俺のほうこそお前の気持ち考えずにすまなかった。」

 

「あ、それでね 」

 

”スタスタスタ”

 

「はは、馬鹿なのは俺の方か。

 頑張れよ三ヶ木。

 あ、そうだ会長に電話しておかないとな。」

 

「あの~、お客様。

 お一人様でいらっしゃいますか?」

 

「あ、すみません。

 いま入ります。

 あ、俺一人です。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ペタペタ”

 

ふ~、大分完成してきたね。

あとは細かいところとか色を重ね塗りしてっと。

 

”ぎゅるる”

 

は、腹減った。

 

「お~い、稲村君、お昼にしよう。

 ここ座って。」

 

「あ、ああ。」

 

”スタスタスタ”

 

へへ、来た来た。

いくよ、わたしのチョ~自信作。

名付けて美佳ちゃんの特製スーパーデラックススペシャル・・・・ひ、昼飯!

 

「じゃじゃ~ん。」

 

「お、おう、おにぎりだけじゃない。

 に、肉だ肉、肉巻き!

 それにハムに唐揚げ、卵焼きにシューマイ、なにこれおかずがいっぱい。

 え、スープもつくの?」

 

「あ、当たり前だ。

 気合入れて作ったんだから。

 ・・・・・・・・・あのさ稲村君、昨日はありがと。

 あ、今日も。」

 

「はて、なんのことだか。

 それより、いっただきま~す。」

 

「うん。」

 

”ブ~、ブ~”

 

あ、電話。だれからだ?

ん、ジャリっ娘?

 

”カシャカシャ”

 

「はい、三ヶ木です。」

 

「まったく!なにしてるんですか!」

 

げ、やばいジャリっ娘にバレた。

わたし見習いだから、ど、どうしょう。

で、でもなんでバレたんだ。

 

「なんで奉仕部さんに断られたこと黙ってたんですか。」

 

え?

えっと奉仕部に断られた?

 

「あ、あの~」

 

「断られたのならそう言えばいいのに。

 まぁ、雪ノ下先輩に断られたら仕方ないですね。

 先輩なら何とかなるのに。

 

 あ、司会者の件ですが、わたしに心当たりがあるので任せておいてください。

 それと明日、文実の前に生徒会室集合です。

 人気投票の件、みんなで立て直しますから、みんなで。

 稲村先輩にも伝えておいてくださいね。」

 

「あ、か、会長。」

 

”プ~、プ~!

 

き、切りやがった。

でもなんでバレた?

え、奉仕部に断られたって?

あ、い、稲村か!

こいつチクったな。

 

「い、稲村君、ちょ、ちょっといいかなぁ~」

 

「は、い、いや、あ~、このお肉美味しいな~

 せ、鮮度が違うんだ。」

 

「いや、それ賞味期限切れてるから。」

 

「うそ。」

 

「嘘だよ・・・・・まったく、ほらご飯ついてるよ。」

 

”ひょい”

 

「あ、ああ、すまない。」

 

「はい。」

 

「え、三ヶ木さん。」

 

「ほらちゃんと食べないと勿体無い。

 あ~ん。」

 

「は、はい、頂きます。

 あ~ん。」

 

”パク”

 

「さ、お弁当食べたね、食べたよね。

 ぐふふ、さぁお昼からもしっかり働いてもらおうか。」

 

「お、お前。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「じゃあ、瀬谷君、投票箱貸してもらうね。

 あ、それとごめんね人気投票の号外お願いしちゃって。」

 

「あ、大丈夫だよ。

 もともと投票呼びかける号外だそうと思ってたから。

 それよりいつも締め切り前の差し入れありがとう、三ヶ木さん。」

 

「うううん、こっちこそいつも舞ちゃんがお世話になってます。

 まぁなんていうか、至らぬ妹ですがよろしくお願いします。」

 

「いや似てないんだが、その設定は無理がある。」

 

はぁ、くそ、いいじゃん!

そりゃ舞ちゃんはかわいいけどさ、たぶん校内でも上の方。

わかってるけど、言葉のあれじゃん。

 

「・・・・・い、いや、ほ、ほら父親似とか母親似っとかあるから。」

 

「あ、それと腹違いとか。」

 

「・・・・・」

 

腹違いか

はは、腹黒いじゃないんだよね。

今は腹黒いのほうがいいかなぁ。

 

「あ、あの三ヶ木さん?」

 

「あ、何でもない。

 あのね、基本いい娘なの。

 よろしくお願いします。」

 

”ペコ”

 

「あ、いやこっちこそ。」

 

「んじゃ。」

 

”ガラガラ”

 

さて、あとは投票用紙のコピーしてクラス毎に分けてっと。

えっと今何時?

げ、やば文実始まっちゃうじゃん。

 

”ダ―”

 

「あ、あぶな 」

 

「きゃっ」

 

”ドン”

 

「いたたた。」

 

ん? なにこのふくらみ。

 

”ムニュムニュ”

 

この厚みといい柔らかさといいこの感触はたしか・・・

 

「あんた殴るよ!」

 

「でへへへ、やっぱり沙希ちゃん。」

 

「ほら眼鏡。

 まったく、生徒会が廊下走ってもいいの。」

 

「ううう、ごめんなさい。」

 

「それに、腕まだ完治してないんだから、何かあったらどうするの。」

 

「う、うん。」

 

「で、なにそんなに急いでたのさ。」

 

「あ、あのさ、これ文実までにコピーしてクラス毎に分けないといけないから。」

 

「わかった、ほら行くよ。」

 

「え、沙希ちゃん。

 ・・・・・ありがと。」

 

「ね、ほかに手伝うことない?」

 

えっと実は沙希ちゃんにお願いしようと思ってたことあるんだ。

多分、沙希ちゃんにしかお願いできない。

だってわたしよりセンスいいし、丁寧だし。

でも悪いかな。

 

「ほら、なんかあるんでしょ。

 顔見ればわかるよ。」

 

「あ、あのね 」

 

     ・

     ・

     ・

 

よかった。

沙希ちゃんに任せれば心配なしだ。

衣装のほうは演劇部に貸してもらえたんだけど、

サイズ微調整しないとね。

 

「今年は出ないのかなぁ。」

 

「すごく良かったのにね。」

 

「俺見たかったなぁ。」

 

”ガヤガヤ”

 

ん、有志統制なんか騒がしいね。

どうしたんだろう。

本牧君に聞いてみよう。

 

「本牧君、どうしたの?

 何か問題あった?」

 

「うん、雪ノ下さんのお姉さんのバンドなんだけどさ。

 ほら去年すごい人気だったろ。

 アンケートでも、もう一度見たいランキング一位だったし。

 でも今年はまだ申し込みがなくてね、今年は出ないのかなって。」

 

そっか、わたしはちょっと見れなかったけど、何かすごくよかったってみんな言ってた。

ん? あっ陽乃さん。

そうだ、陽乃さんに会わないといけないんだ。

 

「あ、あのね、わたしちょっと陽乃さんにあう用事あるからついでに聞いてみようか?」

 

「え、いいの?

 そうしてもらえると助かるよ三ヶ木さん。

 アンケートの件もあるから、今年も出てもらえるといいんだけど。」

 

”ガラ”

 

え?な、なに。

みんな急に静かになって。

誰がはいって・・・・・ゆきのんだ。

みんな手を止めて見てるや。

まぁ、綺麗だもんね。

比企谷君も見惚れちゃうよ。

だってこうやって改めてみるとやっぱり溜息出るほど綺麗だもん。

やっぱり頭一つ、うううん4つ、5つぐらいは飛びぬけているよね。

 

”スタスタスタ”

 

「三ヶ木さん、部活の参加申し込み書はこれでよかったかしら。」

 

「ゆきのん、ご苦労様。

 どれどれ拝見。」

 

ふむふむ。

うん、さすがだね抜けはない。

そっか、やっぱり相談室やるんだ。

わたしも相談してみようかなぁ。

でも二人に比企谷君のこと相談したらなんて言ってくれるんだろう。

 

「三ヶ木さん何か?」 

 

「あ、ごめんごめん。

 うん、大丈夫、抜けとか無いし確かに受領します。」

 

「そう、それじゃ。」

 

あ、そうだ、聞いてみよう。

本人に直接聞いてもいいけど、折角だから。

 

「あ、あのね、ゆきのん。」

 

「それやめなさい。」

 

「えへへ、あのさ、陽乃さんっていつも何時ごろだったら家にいそう?」

 

「姉さん? そうね早ければ8時頃には家にいると思うけど。」

 

「あのさ、ちょっと陽乃さんに話があるんだ。」

 

「そう、それじゃ都合聞いてみるわ。

 ちょっと待っててくれるかしら。」

 

「え、聞いてくれるの?

 ありがとゆきのん。」

 

「だからそれやめなさい。

 あ、もしもし姉さん。」

 

そうなんだ。

わたし大事なこと忘れてたんだ。

わたしは陽乃さんにちゃんと話しないと行けない。

でも許してくれるかなぁ。

陽乃さん、なんか怒ると怖そうだし、会社のこといろいろわかっちゃったしなぁ。

 

「三ヶ木さん、姉さん今実家に行ってるみたい。

 何の用って言ってるわ。」

 

「あ、ちょっとお話が。」

 

「姉さん、三ヶ木さんが何か相談したいことがあるそうよ。

 え、ええ、わかったわ、伝えておく。

 姉さん、今日は7時には家にいるそうよ。」

 

「あ、ありがと。

 じゃあ今日の夜にお伺いさせてもらうね。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

あ、ゆきのん、ゆびに絆創膏してる。

あの中指ってこのまえ棘が刺さった指だよね。

もしかしてばい菌入って化膿したとか。

はっ、ひ、比企谷菌、比企谷菌だ!

 

「ゆきのん、指どうしたの?

 大丈夫?」

 

「え、あ、ちょ、ちょっと、お料理してて。」

 

”ぽっ”

 

え? ゆきのんの顔真っ赤。

それにお料理でってそれは棘じゃ。

・・・・・・・・・・そ、そっか。

 

「へへ、ゆきのんそそっかしい。」

 

「あなたに言われたくないわ。

 それじゃ後でね。」

 

「う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「はい。」

 

「あ、ゆきのん、三ヶ木だよ。

 今、下に着いたよ。」

 

「あ、じゃそこで待っててくれるかしら。

 今行くわ」

 

はぁ、いつ来てもすごい。

うちのボロアパートとは大違いだ。

これなら地震きても大丈夫だね。

うちのアパートなんかマツコが転んでも危ないかも。

 

「お待たせ。」

 

「ありがと。」

 

エレベータだ、確か15階だったけ。

へへ、うちもエレベータほしいな。

だってあの階段急なんだもん。

 

「三ヶ木さん、始めに謝っておくわ。

 ごめんなさい。」

 

「え? あの~ゆきのん。」

 

     ・

 

”ガチャガチャ”

 

「三ヶ木さんどうぞ入って。」

 

「遅くにごめんね。」

 

”スタスタスタ”

 

「お~三ヶ木ちゃんいらっしゃ~い。 ヒック。」

 

うわぁ~陽乃さん飲んでるんだ。

なんか大分酔ってるみたい。

大丈夫かなぁ。

 

”ベンベン”

 

え、ここ座れって。

 

「ごめんなさい。

 わたしも今帰ってきたんだけど。

 姉さん実家から帰ってきてからずっと飲んでるみたいなの。

 話があるのなら、別の日にしたほうがいいと思うけど。」

 

「ひどいな~雪乃ちゃん。

 お姉ちゃんはしらふだよ、しらふ。」

 

「どの口がそんなこというのかしら。」

 

「ほら三ヶ木ちゃん、ここ、ここ座って。」

 

「あ、はい。

 うんしょっと。」

 

”ぷにゅ”

 

へ? あ、あの陽乃さん?

いきなり何を。

 

”ぷにゅぷにゅ”

 

いや、あのひとのほっぺで遊ばないように。

ジャリっ娘ほど柔らかくないから。

 

「あ、あにょ~、はりゅのしゃん。」

 

「姉さん、いい加減三ヶ木さんの頬から手をはな・・・・ぷっ、くくくく。」

 

ひ、ひどい、ゆきのん。

わたしの顔見て爆笑してる。

こ、この姉妹は!

 

”ぷにゅ”

 

陽乃さん、い、いい加減にして~

 

「ご、ごほん、姉さんいい加減にしなさい。」

 

「あ~、雪乃ちゃんに怒られちゃった。

 じゃあ、頬はやめてこっちのほう。」

 

”ムニュ”

 

「ひゃっ!」

 

「ね、姉さん!」

 

「だっていつもの雪乃ちゃんのつつましいのと比べると。」

 

「姉さん!」

 

「は~い。」

 

はっはっ、あ~びっくりした。

いきなり胸をムニュって。

何てことすんだ陽乃さん。

あ、わたしも人のこと言えないか。

ん? いつものって言ったよ。

この姉妹、二人っきりの時何してんだ?

もしかしてあんなことやこんなこと。

・・・ぐへへへ

 

「三ヶ木さんそのにやけた顔、下種な勘繰りやめてくれないかしら。」

 

「え、あ、いや、わたしは別に・・・・・ごめんなさい。」

 

「で、三ヶ木ちゃんなんかお話あるんだっけ。

 大丈夫だよ~、頭の中はシャキン!ってしてるから。」

 

あ、そうだ。

ちゃんと言わないと。

わたしは決めたんだ、だから。

 

「陽乃さん、入院してた時のお見舞いありがとうございました。

 なんかすごい果物頂いて。」

 

「ああ、気にしない気にしない。

 会社の必要経費で落としてるから。」

 

へ、そ、そうなの、そんなのできるの?

だって陽乃さんまだ大学生。

ま、いっか。

 

「あ、あのそれで話というのは、

 あ、あの・・・・・・・・・・わたし進学することに決めました。

 ほ、保母さんになります。」

 

「えっ? み、三ヶ木ちゃん。」

 

「わたしなんかを雪ノ下建設に誘っていただいて、

 ほんとに身に余る光栄でした。

 でも、やっぱりわたしは保母さんになりたい、なりたいです。

 夢を諦められないです。」

 

「・・・・・」

 

「は、陽乃さん、わたしは 」

 

”グビ”

 

「ぷはぁ~」

 

”グビグビ”

 

「姉さん、それぐらいでよしなさい。

 本当に飲み過ぎよ。

 そのコップかしなさい。」

 

「やだ、まだ飲むの。」

 

「姉さん!」

 

「まったく、どいつもこいつも好き勝手なことばっかり。」

 

「陽乃さん?」

 

「そっか、君もわたしを裏切るんだ。

 いいよ、別に。

 保母さんなれるものだったらなればいいんじゃない。

 君に期待したわたしが馬鹿だっただけだから。」

 

”グビグビ”

 

「陽乃さん、ご、ごめんなさい。

 で、でもわたしは 」

 

「ね、話はそれだけ?

 だったらさっさと帰ってくれるかなあ。

 わたしは一人でゆっくり飲みたいんだけど。」

 

「あ、あの、それと今年の文化祭なんですけど。

 ・・・陽乃さんのバンド出て頂けないでしょうか?

 去年の演奏がすごく良くて、もう一度聞きたいってリクエストがものすごくて。」

 

「へ~、わたし見誤ってたなぁ。

 君はわたしからの話は断っておいて、自分の願望だけは平気で要求する娘だったんだ。

 へぇ~、そうなんだ。」

 

「あ、す、すみません。」

 

そ、そだよね。

こんなのって虫が良すぎだよね。

ごめん、本牧君。

わたしじゃなかったらもしかして受けてくれたかも。

いらないことしちゃった。

 

”グビグビ”

 

「別に謝らなくてもいいよ~

 いいじゃん、みんな自分勝手で。

 あのさ・・・・・・絶対出てあげない! べ~だ。」

 

「姉さん!」

 

”ビシッ”

 

「ゆ、雪乃ちゃん。」

 

「姉さん、そんなの姉さんらしくない。

 あまり、あまりがっかりさせてほしくないのだけど。

 姉さんにはそんなの似合わない。」

 

「ゆ、ゆきのん違うの。

 陽乃さんが言う通り、わたしがわたしの虫がよすぎたんだ。

 わたしが悪いの。

 だからケンカしないで。

 陽乃さん、ほんとにすみませんでした。」

 

”ペコ”

 

「でも、わたし保母さんになりたい、なりたいんです。

 だって子供のころからの夢だったから。

 それとバンドの件、無理言ってすみませんでした。

 ほんとごめんなさいです。

 し、失礼します。」

 

「み、三ヶ木さん。」

 

”ガタッ”

 

「ふ~、ちょっと待ちなさい三ヶ木ちゃん。

 1分、いいえ30秒でいいわ。」

 

「え、あ、はい。」

 

”ガチャ”

 

え、どこ行ったの陽乃さん?

フラフラで危ないよ。

 

”シャー”

 

え? シャワーの音。

 

「ふぅ、馬鹿ねわたし。」

 

”ガチャ”

 

あ、出てきたけど、え、その格好って。

でもきっちり30秒、さすがだ。

なに時間測ってんだわたし。

 

「え、ね、姉さん、服着たままシャワーを。

 はやく着替えなさい。

 部屋中が 」

 

「だまりなさい!

 ね、三ヶ木ちゃんいい?

 こんなこと言うのもなんだけど、うちは千葉県内、うううん関東でもそこそこの会社だよ。

 当然、給料も福利厚生もしっかりしている。

 入社したら一生安泰と思ってもらっていい。

 それでもうちを蹴るということでいいんだね。」

 

「は、はい。」

 

「わかった。

 三ヶ木ちゃん、君が大学落ちても保母さんなれなくても、わたしはもう二度と雪ノ下建設に

 誘わない。

 ・・・だから、絶対大学受かりなさい。」

 

「陽乃さん。

 ・・・・・はい、絶対合格してみせます。」

 

「よし、話はこれまで。

 さてと、雪乃ちゃん後よろしくね。

 お姉ちゃんは温かいお風呂入ってくるから。」

 

”ガチャ”

 

「まったく、部屋中がびしょ濡れじゃない。」

 

”ガチャ”

 

「あ、それと雪乃ちゃん。

 明日、有志団体の参加申込書もらってきて。」

 

「は、陽乃さん。」

 

「かわいい妹の最後の文化祭、盛り上げてあ・げ・る。」

 

「ね、姉さん。」

 

「それと雪乃ちゃん。

 三ヶ木ちゃんがダメだったから、絶対、比企谷君落としなさい!

 以上!」

 

”ガチャ”

 

「ね、姉さん!」

 

「・・・・・」

 

げ、なんか気まずい。

ゆきのんさっきから横目で見てるし。

は、また絆創膏見てる。

 

「ゆ、ゆきのん、そろそろ帰るね。」

 

「三ヶ木さん、下まで送るわ。」

 

「うううん。

 玄関までで大丈夫。」

 

だってそんないじらしいゆきのん見てたら、わたし・・・・

 

”スタスタ”

 

「あ、あのさ、ゆきのん。」

 

「え、なにかしら?」

 

「あ、うううん、なんでもない。

 指の怪我早く治るといいね。

 それじゃ失礼するね。」

 

”ガチャ”

 

「ええ、ありがとう。

 おやすみなさい。」

 

「うん、お休み。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「今のところ機材の準備は完了しています。

 あとは有志団体さんの追加参加ですが、雪ノ下さんのバンド以外に

 もう他に追加はありませんか?

 あったら、すぐにうちまで教えてください。

 もしかしたら機材の調整必要になるかもだから。

 物品管理のほうは以上です。」

 

「あ、はい。

 さが、相模さんご苦労様。

 じゃあ、次は宣伝広報お願いします。」

 

「あ、はい。

 すでにポスターの掲示完了しています。」

 

「わぁ~すごいです。」

 

”パチパチ”

 

い、いや舞ちゃん、さっきから報告の度にいちいち拍手いいから。

で、でも部長さん達うれしそう。

 

「え、あ、そ、そう、えへへ。

 それと、あとHPのアップが遅れているので、そちらを優先で片付けます。」

 

「はい、よろしくお願いしますね。」

 

”にぎ”

 

「あ、は、はい、頑張ります。

 今週中、いや明日中にアップします。」

 

でた、舞ちゃんのニギニギ大作戦。

まったく、男子共は。

みんなあのにぎにぎと笑顔に騙されるんだよ。

あの笑顔の裏に隠された素顔も知らないで。

 

でもさ、これさがみん以外の部長、全員男子だから効果抜群なんだよな。

この効果かどうかわからないけど、今のとこスケジュールの遅れないんだもん。

ほらほら、宣伝広報部長なんか鼻の下長~くしてデレデレって。

 

いいなぁ、舞ちゃん可愛いいからね。

部活紹介の時も結構あのにぎにぎ大作戦好評だったし。

今年はもしかして人気投票、いいとこ行くんじゃない。

あ、もしかしてジャリっ娘より上とか。

 

”ゾクッ”

 

はっ、な、なに?

なにやら背中から寒気が。

じゃ、ジャリっ娘、ご機嫌悪そうで。

 

「チッ」

 

は、いま”チッ”って言ったよ”チッ”って。

かなり苛立ってらっしゃる様子。

やばい、か、会議進めないと。

 

「以上で各部会からの連絡終わりますが、他に何か議題ありませんか?」

 

えっと他に議題は無いみたいだね。

っというか、みんな舞ちゃんの方ばっかり見て。

今話してるのは、わ・た・し。

くそ~、こっち見ろ~

 

「ゴ、ゴホン!

 あのね、これ去年までと今年の文実の進行状況を比較した表です。

 今のところは例年と比べると遅れはないみたいだけど、これからがピークだから

 気を抜かないでくださいね。

 ちゃんと自分の部会の進行状況を把握しておいてください。

 あ、あと先日配布した人気投票の投票は、文化祭前の火曜日が締め切りなので、

 徹底よろしくお願いします、えへ♡」

 

”シーン”

 

だ、だめか~

くそ、いいもん。

へへ~ん、冗談だもん・・・・・・うぇ~ん。

 

「ぐす。

 えっと何か他に連絡事項ないようですか?

 それじゃこれで部長連絡会をおわ 」

 

”ガタッ”

 

へ? あ、あの会長?

 

「それでは各部長の皆さん、今日はご苦労様でした。

 暑い日が続きますけど、お身体に気をつけて頑張ってくださいね。 えへ♡」

 

「「は、は~い。」」

 

「ではではよろしくです。 にこ♡」

 

「おお! 」

 

お、お~い、なんだよこの反応の違い!

で、でもジャリっ娘、そこは委員長の締めのとこだろうが。

しかもなに最後の”えへ♡”と”にこ♡”の二段攻撃。

・・・か、可愛いじゃない。

は、そんな場合じゃない、わたしは仕事たまってんだ。

 

「さぁ、パッパッって片付けようぜ。」

 

「ああ。」

 

”スタスタスタ”

 

「いや~、でも一色ってやっぱりかわいいよな。」

 

「俺は蒔田だな。」

 

「おい、相模さんも結構かわいいぞ。」

 

「はぁ! あんたばっかじゃないの。

 そんなことばっかり言ってないで、有志団体の追加あったらちゃんとうちに連絡してよね!」

 

「おう相模さん了解。

 な、このツンツン感がなんとも。」

 

「キモ! やめてくれる。」

 

”スタスタスタ”

 

へへ、部長さん達いい雰囲気。

さがみんも頑張ってる。

よし、さがみんに負けないようわたしも仕事を。

 

「ちょっと一色さん、何わたしの仕事取ってるんですか!」

 

「仕事? ああ、絞めの挨拶のこと? 

 あら、ごめんなさい。

 ついいつもの生徒会の癖で。」

 

「うそ、確信犯のくせに!」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

はぁ~、また始まった。

もう、疲れたよ~。

このまま放っておこうかなぁ。

残ってるの生徒会のメンバーしかいないし。

あ、でも書記ちゃんのあの心配顔。

はぁ、わかったわかった。

 

「かい、 」

 

”ドンドンドンドン”

 

ん、なんだこの地響きは。

な、なんかこっちに近づいてくる。

 

”ガラ”

 

ん? あれ宣伝広報の部長さん?

はは、肩で息してる、ちょっと太り過ぎだよ。

どうしたん、なにだれか探してるの?

 

「あ~、やっぱりまだいた!

 会長さん、さっき言ったでしょ。

 ほらテレビ局行く時間だよ。」

 

「え? あ、そ、そうだ。

 じゃあ、美佳先輩、テレビ局行ってきますね。」

 

「はい、ご苦労様です。」

 

助かり。

そうだよ、今日はテレビ局の放送日じゃん。

へへ、平塚先生にテレビの許可取ってこなくちゃ。

 

”ちょんちょん”

 

「三ヶ木先輩、テレビ局って?」

 

いや、さっき部長連絡会で言ってたじゃん。

やっぱ何も聞いてないねこの娘も。

 

「ほら文化祭の宣伝の件。

 今日の夕方の番組でするんだって。

 あ、会長、プロデューサーさんによろしく言っておいてくださいね。」

 

”テクテクテク”

 

さてっと、ここ片付けてわたしも仕事しなくちゃ。

もう文化祭まで時間あまりないし。

 

「じゃあ、舞ちゃんこっちの会議室閉め・・・・・

 あれ、舞ちゃん?」

 

あれどこ行ったんだろ?

トイレでも行ったのかなぁ。

ま、とにかく忘れ物は無いみたいだし、戸締りしておこうっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「もう! 部長さん歩くの遅いです。

 太りすぎです、少しやせてください。

 ほら、集合時間ギリギリじゃないですか~

 

「ま、待って。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 いや、だって会長さんのメイクの時間が長いから。」

 

「だってテレビ出るんですよテレビに。

 千葉県中の人に見られるわけじゃないですか~

 はっ、もしかしたらスカウトされるかも。

 い、いえ、学校代表として出るんですから当然です。

 が、学校のためですからね、学校の。」

 

「はん! いつもと大して変わらないじゃん。」

 

「はぁ! あの~部長さん、いまなんとおっしゃられたんですか~

 いまなんと!」

 

”ボキボキ”

 

「い、いや、ぼ、僕じゃないよ。

 僕の後ろから声が。」

 

「え、部長さんの後ろ?

 いやちょっと太っててよく見え

 はぁ! なんであなたまで付いて来てるんですか!」

 

「わたし文実の委員長なんだから、テレビに出るの当たり前です!」

 

「な、なにいってるの、信じられない。

 ちょっとあなた帰りなさい。」

 

「ここは委員長権限でわたしが仕切るから、あなたこそとっとと帰りなさい!」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

「あの~、総武高校さん。

 今日の放送の簡単な説明しますから、そろそろ控室の中に入って

 いただけませんか?」

 

「「は、はい。」」

 

     ・

 

「と、言うわけでゲームの内容はまだ秘密ですが、告知時間は勝った方が3分間、

 負けた方は30秒しかないので、みなさん頑張ってくださいね。

 それでは係の者が呼びに来るまで、こで待機していてください。

 あ、それとゲームへの参加者は3人ですから決めておいてくださいね。」

 

「「はい。」」

 

”スタスタスタ”

 

「やぁ、久しぶりだね。

 君も生徒会会長と実行委員長の兼任なのかい?

 実は僕もそうなんだ。

 いや~みんなから是非にとアサインされてね。」

 

「え? あ、えっと、た、たま・・・・・お久しぶりです。

 あっ、違うんですよ~、

 こっちのが文実の委員長で~す。

 ほら、挨拶してください。」

 

「え、あ、委員長の蒔田、蒔田 舞です。」

 

「よろしく蒔田さん。

 総武高さんとはクリパ以来、フレンドリーで友好的な関係なんだ。

 今回偶然にも文化祭が同じ日だから、シナジー効果によるベネフィットで

 センセーショナルに盛り上がるといいね。

 それじゃあ。」

 

「あ、それではです。」

 

”スタスタスタ”

 

「う~、い、一色さん、あの手は何?

 なんかあの手見てたら目が回って気持ち悪くなってきたんだけど。

 あ、あいつ誰?」

 

「えっと、あの人は確か、た、た、たか、たな、たま・・・

 あ、そうそう海浜総合高校の生徒会会長 玉袋さん・・・・・たしか。」

 

”ガヤガヤ”

 

「うわ~30秒しかないのか。」

 

「部長、みんなで考えたやつだと無理じゃないすか。」

 

「そうだね、いやでも早口で喋ったら 」

 

「無理! それに早口じゃ告知ならないじゃないですか。」

 

「あの~、何で負けるの前提なんですか~」

 

「だっで一色さん、海浜の人達ってなんかやりそうじゃないですか。

 ほら、あの人のあの手の動き、すごくキレがよくて。」

 

「なんですか!

 そんなのやってみないとわからないじゃないですか。

 そんなんならわたしと部長さんと・・・・蒔田さんいけるよね。」

 

「ね、何秒なら告知いけるの?」

 

「あ、委員長。

 そうですねせめて1分ぐらいほしいです。」

 

「そう。

 えっとこんな時、ジミ子先輩ならきっと。

 ね、一色さん、あの意識高い系って玉袋さんだったね。」

 

「え、あ、う、うん。」

 

「じゃ、ちょっとお願い。」

 

「え、あ、蒔田さん!」

 

”タッタッタッ”

 

「あの~、玉袋さん。」

 

「は? た、玉袋って。

 

 ・・・・・な、何かな蒔田さん。」

 

「あの、今日は告知時間をかけて対決というスキームじゃないですか。

 折角文化祭をプロパガンダ、告知するオポチュニティなチャンスなんですけど。

 わたし達じゃ海浜さんに勝てるわけないじゃないですか~

 だから全然モチベーション上がらなくて、やる気が出ないというか。

 でもそうするとスキーム的にセンセーショナルできないというか、

 視聴率的にもイシューだと思うんですよ。

 そうなると十分なアウトプットをあげられないじゃないですか。

 そこでソリューションのためのジャストアイディアなんですが、

 わたし達のインセンティブのため、それと海浜総合高校と総武高校のアライアンスのためにも

 少しだけハンデいただけませんか?」

 

”にぎ”

 

「お・ね・が・い。 ニコ♡」

 

「え? 手、手が。

 い、いや、あははは、どう、どうしょうかなぁ。

 みんなのコンセンサスを得ないとね。」

 

「え~大丈夫ですよ。

 インフルエンサーの玉袋さんがアグリーしてくれれば全然イシュー無いですよ。」

 

”にぎにぎ”

 

「そ、そうだね。

 でもどんなハンデを上げればいいのかなぁ

 ゲームの内容もわからないし。」

 

「そうですね~

 確かにゲームの内容がわからないので、ハンデというよりも告知時間を少し分けて

 頂けませんか?

 ね、玉様。」

 

「た、玉様。

 よ、よし、それじゃ僕たちの告知時間から20秒を君達に譲ろう。」

 

「待って玉繩委員長!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか

 ここはフレキシブルな発想で、総武高さんと良好なパートナーシップを築こうじゃないか。

 どうせ僕達が勝つんだから20秒ぐらい。」

 

「ありがとうございます。

 さすが海浜総合のリーダー 玉袋さん。

 それじゃこの件はフィックスですね。

 約束よろしくです。 にこ♡」

 

「あ、ああよろしく。

 ・・・・あ、あの、玉繩なんだけど。

 あとでアドレスを 」

 

”スタスタスタ”

 

「ふぅ~」

 

「蒔田さん、なに言ってたんだかわからなかったんだけど。

 それになにあの手の振りは。

 それにあいつの手、握りすぎじゃない?」

 

「わたしもなに言ってたのかわからん。 

 それにこっちのペースに持ち込むためにはあの手邪魔だったし。

 まぁ知ってる横文字フルに使って、何とか20秒分捕ってやったわ。

 あ、部長さん、そこの濡れティッシュとって。」

 

「あ、はいはい。

 でも委員長さすがだ。

 これでなんとか50秒は告知できるね。」

 

「はぁ? なに言ってんですか部長さん。」

 

「え、あの会長さん?」

 

「わたし達の告知時間は3分20秒ですよ。」

 

「そゆこと。

 なんだ、わかってるじゃん一色さん。」

 

「蒔田さん、あなたも気合入れなさいよ。

 絶対勝つんだから。」

 

「当たり前!」

 

「・・・・・こわ。

 ヤッパリ女子って怖い。」

 

「「はぁ!」」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カシャカシャ”

 

ふぅ~、何とか今日の分のお仕事完了っと。

あ、そろそろ放送時間だ。

えっとテレビテレビ、スイッチオン。

 

”プチッ”

 

へへ、ちゃんと平塚先生の許可とってあるもん。

 

「なんだ?」

 

「え、テレビ?」

 

「どうしたの三ヶ木、テレビなんかつけて。

 あ、そっか。」

 

「ふふふ、さがみんそういうこと。」

 

「今日のイチオシお知らせコーナーには、総武高校と海浜総合高校の生徒さん達が

 来ています。」

 

お、映った映った。

どれどれ、はは、部長画面からはみ出てる。

だから少しやせないと・・・・・・・・・

 

「あ゛ー、舞ちゃん!」

 

「え、委員長? あ、会長さんとか広報の子達と一緒に映ってる。」

 

「「どれどれ」」

 

はぁ~、舞ちゃんいないと思ったらテレビ局について行ったんだ。

え、な、なんで?

あの二人がスクラム組んでる。

不、不気味だ、なにがあったんだ。

パソコン、セーブしないと。

 

「それでは文化祭の告知時間をかけてゲーム対決です。

 対決していただくゲームは、ずばり飴玉探し。

 3人の選手の方に順番にこの片栗粉の中に埋まってる飴玉を探して頂き、

 このパレットに入れて頂きます。

 たくさん探し出した方が勝ちですよ。

 あ、探す前にこのボールの水に顔を付けて下さいね。

 勝った高校には3分間、負けた高校は30秒の告知時間になりますよ。

 はい、それでは出場する選手の方、順番に並んでください。

 まずは一番目の方、テーブルのほうへ。」

 

「部長さん頑張ってね。」

 

「部長さん、わかってるよね、にこ。」

 

「あ、はい。」

 

「二番手は、わたしが行く。

 一色さん、最後任せるから。

 あんな轆轤使いに負けないでね。」

 

「当たり前です。」

 

「制限時間は30秒

 では最初の方、ボールに顔を付けて下さい。

 いいですか、ちゃんと付けました?

 それでは、よ~いスタート!」

 

”ブォー”

 

「な、なにするんですか部長。

 いきなり息拭きかけたら、それに部長眼鏡外してない!」

 

「うひゃ~、な、なにも見えん。」

 

げ、部長さん、眼鏡真っ白で何も見えてないよ。

いやそこは片栗粉の入ったパレットじゃないし。

あ、そっか他の人は手出せないんだ。

で、でも時間が。

 

「はいそれまで。

 次の選手の人、顔を水に浸けてください。」

 

「な、なにやってるんですか!

 結局、一個も探してないじゃないですか。」

 

「す、すみませ~ん。

 な、何も見えない。」

 

”カタ、カタ、カタ”

 

「げ、蒔田さん、向こう3個。

 ちょ、が、頑張ってよ。」

 

「任せといて。」

 

「次の人、よ~い、スタート! 」

 

「え~い!」

 

”ブワサッ”

 

「お~総武高さん片栗粉の中に思いっ切り顔をつっこんだ~」

 

「ぷわぁー。」

 

”カタ、カタ、カタ”

 

す、すごい舞ちゃん一気に3個。

な、なにが彼女をそこまで駆り立てているんだ。

あ、またいった!

 

”ブワサッ”

 

ほ、ほらチャンス。

海浜の選手、唖然としてる。

 

”カタ、カタ”

 

や、やった、2個追加

よ、よ逆点だ、4個と5個!

舞ちゃん、さすが・・・・・・・

 

”げらげら”

 

「み、みんなダメだって笑ったら。

 文化祭のために頑張って・・・・・ぶふぁはははは、舞ちゃん顔真っ白!

 バカ殿、バカ殿だ。」

 

「いや、三ヶ木、あんたが一番笑ってる。」

 

「だ、だって、さがみん~」

 

「はい、それでは最後の選手です。

 準備いいですか?

 それではよ~いスタート!」

 

「一色さん任せたよ。」

 

「も、もう! 折角メイクしたのに!

 えいっ!」

 

”ブワサッ”

 

あ、ジャリっ娘も思っきりいった~

げ、向こうは玉繩君か

でもこういうゲームはあの意識高い系には

 

”ブー、ブー”

 

な、なに、はな、鼻息で片栗粉吹き飛ばしてる。

す、すごい。

容器の中の片栗粉がほとんど飛んでった。

 

”カタ、カタ、カタ、カタ、カタ”

 

げ、い、一気に5個。

ジャリっ娘大丈夫?

 

「ピー、はいここまでです。

 いや~最後の委員長さん、鼻息すごかったですね。

 えっと最後の追い込みで海浜総合高校さんは全部で9個、

 それに対し総武さんは5個ということで 」

 

「ひょっとまっで!」

 

「はい?」

 

「ぷはぁ~」

 

”カタ、カタ、カタ、カタ、カタ”

 

「はい、これでお願いします。」

 

「おお、総武高校さんも5個、5個だー!

 この可愛いお顔のどこにそんなに飴玉が入っていたんだ!

 合計10個、10個で総武高校さんの勝ちです。

 それではCMの後、告知タイムです。」

 

えらいジャリっ娘!

さすがだ!

いや~あのほっぺは良く膨らむからね。

・・・・・で、でも。

 

「くくく、ぷっあははははは。」

 

「三ヶ木、本当に笑いすぎ。」

 

「だ、だってさがみん、会長と舞ちゃんのあの顔。

 バカ殿が二人並んで、くくく。

 だ、だめだ、今日わたしご飯3杯食べれる。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なので、皆さん是非総武高文化祭に来てくださいね。

 せ~の。」

 

「「お待ちしてま~す。」 」

 

げ、ジャリっ娘、舞ちゃん恐るべし。

このCMの短時間にメイク直しやがった。

あのままの顔でやっても面白かったのに。

 

「はい次は海浜総合高校さんの告知タイムです。

 えっと時間は10秒です。

 頑張ってね。

 はい告知スタート。」

 

「あ、か。海浜総合高校です。

 ふー、ふー、えっとイノベーションでドラスティックな文化祭を

 スキームしてセンシティヴなプロセスでマジョリティやマイノリティまで  」

 

「はい、ここまで。」 

 

玉繩君、なに言ってのかわからん。

でもなんで海浜さんの告知時間10秒なんだ?

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「それでは、最後に委員長、お願いします。」

 

「えっと、いよいよ明後日、金曜日からは文化祭です。

 

 楽しみにしてた部長連絡会もこれで最後です。

 

 わたしはみんなと最高の文化祭を楽しみたいです。

 

 あと2日間、悔いの残らないように頑張りましょう。」

 

”にぎ、にぎ、にぎ、にぎ、にぎ”

 

「相模先輩。」

 

「あ、う、うん。」

 

”にぎ”

 

「それでは、みなさんよろしくお願いします。」

 

”ぺこ”

 

「お、おう。」

 

「いくぞ、お前ら気抜くなよ。」

 

「お前こそ。」

 

「まったく、あんたらは。

 

 ・・・・・うちもそれやればよかったのかな。

 

 あ、三ヶ木、先行ってるから。」

 

「あ、うん。」

 

”テクテクテク”

 

「ジミ子先輩、わたしすこし相模先輩見直しました。」

 

「え?」

 

「だってほら前の人気投票の件あったじゃないですか。

 だから最初はあまり信用してなかったんですよ。

 また最後は投げ出されちゃうんじゃないかって。

 でも、今回は最後まで頑張ってくれそうで。」

 

あ、違う、それ違うんだ。

あの時もさがみんは最後まで一緒に頑張ろうってしてたんだ。

それをわたしが、わたしが最低な手を使って。

謝らないといけない。

さがみんは悪くない、悪いのはわたしだ。

 

「・・・・・舞ちゃん。

 ちょっと話聞いてくれる?」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「つまり、わたしより備品先輩を助けるために仕組んだってことなんですね。」

 

「あ、い、いやそれだけじゃなくて 」

 

「最低。」

 

「あ、ご、ごめん。」

 

「本当に最低。」

 

「ま、舞ちゃん。」

 

「あの、すみませんが舞ちゃんなんて、気安く呼ばないでくれますか、三ヶ木さん。」

 

「え。」

 

「それと、これからあまりわたしに話しかけないでください。

 正直、これでも怒り我慢してるんですから。

 他に用事ないですか、それでは失礼します。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、舞ち、蒔田さん。」

 

・・・ごめんなさい。

でも違う。

生徒会や比企谷君のためだけじゃなくて。

言い訳だよね。

わたし最低だもん。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「な、なんですかあのバカ。」

 

”タッタッタッ”

 

「やば、やば、もう部長会終わっちゃったかなぁ。

 でも急いで美佳先輩に伝えないと。」

 

「きゃっ、あぶな 」

 

「あ、蒔田さん。

 ごめん、もう部長会終わった?」

 

「終わった!」

 

「は、な、なに?

 あ、美佳先輩はまだ会議室?」

 

「し、知りませんあんな人。」

 

「ちょ、な、なにがあったの?」

 

     ・

 

「ね、一色さん、酷いでしょあの人。

 いくら比企谷先輩のためだって。」

 

「ね、蒔田さん、本当にそのためだけだったと思う?」

 

「え?」

 

「確かに美佳先輩は比企谷先輩のためにも早く騒ぎを収めたかったと思うけど、 

 でもそれだけだったらもっと他の方法あったんじゃない?

 単に新聞部に間違いを訂正させるだけでよかったんだから。

 なんで相模先輩にまでそんなことしたんだろうね。」

 

「そ、それは・・・し、知らない!」

 

「じゃあさ、もしあの騒ぎが続いててさ、生徒総会の議題に上がったらどうなってたと思う?

 蒔田さん、全校生徒の前で新聞部の人たちとディベートして勝てるつもりだった?

 たぶん、玉袋さんのようにはいかないよ。」

 

「で、でも、わたし嘘つかれてたんだよずっと。

 ・・・・・目標だったんだあの人。

 こんなの酷いじゃない。」

 

「違う、守られたってそう思わない?

 あの時、生徒総会までに何とか解決できたから、それもあなたの願いもかなえて。

 それに知ってる?

 美佳先輩、新聞部にあなたをお願いしますって、いつも締め切り前に差し入れ

 持って行ってんだよ。」

 

「う、うそ。」

 

「まぁ、蒔田さんのいないとき見計らって行ってたみたいだから知らなかったと思うけど。

 嘘と思うのなら、部長さんに聞いてみたら。」

 

「で、でもわたし。」

 

「ね、今すぐでなくていいから、もう一回ちゃんと美佳先輩と話してあげて。」

 

「・・・・・」

 

「あ、そうだ、わたしこんなことしてられないんだ。

 美佳先輩はまだ 」

 

「うん、会議室。」

 

「じゃ、また後で。」

 

”タッタッタッ”

 

「み、美佳先輩~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラ!”

 

「あ、いた!」

 

え? どうしたの会長。

なんかすごく息を切らしてるんだけど。

そういえば、部長連絡会の前になんか厚木に呼ばれてたね。

 

「ふぅ~大変です、大変なんです。

 いままで厚木に呼ばれてたんですけど。

 人気投票、中止にしろって言うんですよ!」

 

「え、えー、な、なんで今頃 」

 

「なんでも、チークダンスをするなら絶対ダメだって。

 一般の人もくるから学校の風紀のこと問われるって。」

 

な、なんだ。

それなら簡単、問題ないじゃん。

わたしも前から思ってたんだ。

 

「それならチークをやめれば。」

 

「絶対ダメです!

 それじゃ意味ないじゃないですか。

 これが最後だから絶対わたしが1位になって、それで先輩とチ・・・」

 

「え?」

 

「あ、いえ何でもないです。

 チークは絶対やります、これは決定事項です。」

 

「で、でも厚木が。」

 

「だから~、わたし言ってやったんですよ~ えへ♡」

 

「え、なんて。」

 

な、なんかいやな予感。

ジャリっ娘がこの笑顔の時っていいことが起きたこと一回もないんだよ~。

お願い、変なこと言わないで。

 

「あのですね、人気投票の発表は金曜日にやっちゃいますって。」

 

「は、はぁっ」

 

「ほ、ほら金曜日は内輪だけじゃないですか~

 だから変な噂立ちませんよって説得してきました。 えへ。」

 

「い、いや、ちょっとまって、き、金曜って明後日じゃない。」

 

「1日ぐらい大丈夫ですよね。」

 

「無理無理無理無理!

 い、いやまずいから。

 明日中に衣装合わせして、あと金曜日までにいろいろ調整しないと。」

 

「え~わたし的に明日でも大丈夫ですよ衣装合わせ。」

 

え、ジャリっ娘1位決定?

いやまだ開票していないから。

投票箱はそこにあるけど、あれを今日中に開票して集計しないといけないんだよ。

重たかったから結構入っていそう。

 

「会長、衣装合わせの前に開票しないと。」

 

「だったら今日中に開票すませればいいじゃないですか?

 さ、ちゃっちゃってやっちゃいましょう。」

 

はぁ~、今日帰るの何時になるんだろう。

本牧君たちオープニングのチェックやってるし、仕方ないジャリっ娘と二人でやるか。

ほんとはダメなんだけど。

ジャリっ娘やる気満々だし仕方ないか。

 

「じゃあ、会長、投票券の通し番号チェックしてください。

 まあそんなことはないと思うけど、投票券のコピーとかないか確認してください。

 わたしは集計していきますので。」

 

「了解です。」

 

”ガラ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 そ、そんなことしていいと思っているんですか。」

 

あ、ま、舞ちゃん。

げ、やば、やっぱり気付いた?

でも仕方ないじゃん、時間ないんだもん。

わたし絶対不正しないから見逃して。

 

「まぁそこの三年生の女子は関係ないですけど、一色さん、あなたは上位候補でしょ。

 密室でしかも二人だけで開票したら、あとあと変に勘繰られるんじゃないですか?」

 

そ、そうなんだ。

問題はそこなんだよ。

わたしと違ってジャリっ娘はもしかしたら1位。

だからほんとはジャリっ娘抜きで。

 

「む~ じゃ蒔田さん、あなたがやりなさいよ。」

 

「一色さん、絶対にいや。」

 

「ま、舞ちゃん。」

 

「まったく、わたしも上位狙ってんですから。

 できたら1位になって稲村先輩と・・・・・

 ゴホン!

 いいですか、三ヶ木先輩のこと許したわけじゃないですから。」

 

「ごめんなさい、舞ちゃん。」

 

「いいですよ、出てきてください。」

 

えっ、出てきてって?

 

”ガラガラ”

 

「やあ三ヶ木さん、手伝いに来たよ。」

 

「せ、瀬谷君!

 それに新聞部のみんな。」

 

「蒔田に聞いてね、僕達も手伝わせてもらっていいかな。」

 

「あ、ありがと。

 お願いします瀬谷君、新聞部のみんな。」

 

「了解、三ヶ木さん。

 おい、みんな集計するぞ。」

 

「「おー」」

 

「さっ三ヶ木さん、頑張ろう。」

 

「うん。」

 

「蒔田さん、あなた。」

 

「なによ一色さん、別に三ヶ木先輩のこと 」

 

「この~」

 

”ぐりぐり”

 

「ちょ、ちょっとやめ 」

 

「そこの二人うっさい!

 みんなにお茶。」

 

「あ、はい。

 ・・・・・美佳先輩!」

 

「えへへ、お茶お願いします。」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

そろそろかな。

もう1回電話しようかなぁ。

急だったから来てくれるかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

「なにかしら三ヶ木さん。」

 

「やぁ、雪ノ下さん、君も呼ばれたのかい?」

 

「あ、ゆきのん、葉山君、ご苦労様。

 ごめんね、ありがと。

 そこで待ってて。」

 

「「?」」

 

「沙希ちゃん、お願いっす。」

 

「はいはい。

 雪ノ下から採寸するね。」

 

「なんの真似かしら三ヶ木さん。」

 

「あ、ごめん。 

 まだ他の人には言わないでほしいんだけど、二人とも人気投票1位だったから。

 そんでね、明日の発表の時に演劇部に借りてきたこの王子様とお姫様の衣装来て

 もらいたいんだ。

 着れるとは思うけど、一応調整必要か確認お願いしたいんだ。

 ごめんね、人気投票が金曜日になっちゃったから。」

 

「そう。」

 

「あ、それと、ふたりともチークダンスって踊れる?」

 

「ええ、踊れるわ。」

 

「大丈夫だけど、俺と雪ノ下さんが踊るのかい?」

 

「あ、あのね、明日までに誰と踊りたいか決めておいてほしいの。

 このことは一応、ポスターとか号外とかでも事前に説明しておいたんだけど。」

 

「そ、そう。」

 

「あ、そうだったね。」

 

「雪ノ下、そろそろいいかい? 採寸始めたいんだけど。」

 

「ええ。」

 

「あ、それじゃ俺は廊下で待ってるよ。

 三ヶ木さん、終わったら呼んでくれるかい?」

 

「うん。」

 

”ガラガラ”

 

     ・

 

うわぁ~ゆきのん綺麗だな~

ほんとのお姫様みたい。

似合うな~。

 

「もういいよ雪ノ下、ご苦労様。」

 

「あ、じゃ、葉山君呼んでくるね。」

 

”ガラガラ”

 

「葉山君、お待たせ。」

 

「ああ。」

 

”ガラガラ”

 

「あ、あの三ヶ木さん、ちょっといいかしら?」

 

「え? あ、うん。」

 

「あ、あの、三ヶ木さん。」

 

「ん?」

 

「わ、わた、わたしは、そ、その・・・・・」

 

なに、へへ、モジモジしているゆきのんってちょ~かわいい。

なにその指の絆創膏見つめて

・・・・・絆創膏、まだしてたんだ。

 

「三ヶ木さん、わたしは比企谷君を指名したいんだけど。

 そ、その、いいかしら。」

 

「・・・・・」

 

わかっていたんだ。わかってた。

人気投票の結果、うううん集計なんかしなくても1位はゆきのんが本命って思ってたし。

それで1位になったら、絶対に比企谷君を指名するだろうなってわかってた。

わかってたんだ。

それにわたしなんてゆきのんの足元、うううん足の裏にも及ばないって。

・・・・・でも、でも。

 

「み、三ヶ木さん?」

 

「あったりまえだよ、ゆきのん。

 それはミス総武高の特権だよ。」

 

「そう、ありがとう。

 でも指名したら比企谷君がまた何か言われないかが心配。」

 

「そ、それは・・・・」

 

また絆創膏見てる。

そうだよね。ゆきのんも比企谷君のこと好きなんだもんね。

ゆきのん、そんなこと気にしちゃダメ。

人がなんて言うかなんて気にしてたら何もできないよ。

大丈夫、比企谷君なら絶対大丈夫だよ。

もしもの時は、わたしが何とかして見せる。

わたしが彼を守るから、どんな最低な手段使っても。

だから、

 

「わたしは大丈夫だと思う。」

 

「そ、そう。

 あなたがそう言ってくれるのなら。

 それじゃ。」

 

「うん、またね。」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~。

でもどうしょう。

去年のことがあるから大丈夫かなぁ。

なんか対策考えないと。

あ、葉山君終わったかな。

 

”ガラガラ”

 

「えっ、葉山君!

 え、えっともしかして聞こえてた?」

 

「ああ、すまない。

 なかなか扉を開けにくかったのでね。

 そっか、彼女は比企谷を選ぶのか。」

 

「え、えっと、他の人には内緒にしててね。

 あ、葉山君と雪ノ下さんが1位だったことも。」

 

「わかってるよ。」

 

「葉山君も踊りたい相手が決まったら連絡してね。

 あ、わたしのアドレス教えておくね。」

 

「もう決まってるよ。」

 

「え、はや! えっと誰? やっぱり三浦さんとか?」

 

「君だ。」

 

「は、はい?

 ・・・・・いや、冗談はいいから。」

 

へへ、葉山君でも冗談言うんだ。

でもそんな真顔で言わないで。

思わずドキッとしちゃったじゃん。

 

「で、誰?」

 

「冗談じゃないよ、君にお願いしたい。

 いいかな。」

 

「いや、あの えっとでも、わたしなの? 」

 

「ミスター総武高の特権だったよね。」

 

「は、はい。

 で、でもわたしなんかでどうするの?」

 

「・・・・・

 じゃあ、お願いするね。」

 

”スタスタスタ”

 

あ、あの葉山君?

ほんとマジかよ。

なんでわたしなんだ。

なんかある、なんかあるぞ、なぜわたしなんだ。

そこには絶対理由がある。

 

あ、やばい チ、チークなんて踊ったことないよ。

どうしょう。

第一、チークってなんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ひゃっはろー。

 よ、三ヶ木ちゃん、有志団体の申し込み持ってきたよ。

 遅くなってごめんね、まだ大丈夫?」

 

「陽乃さん。

 は、はいまだ大丈夫です。

 わたしのほうで仮申込書を提出しておきましたから。

 ・・・・・あ、あの、陽乃さんほんとに大丈夫ですか?

 急に出演、明日にしてもらって。」

 

「ん~、なんとかなるでしょ。」

 

「ごめんなさい。」

 

「おやまぁ。

 それじゃ、おっきな貸しにしておいてあげる。

 あとチークだったね。」

 

「あ、し~。

 よ、よろしくお願いします。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふ、ふ~、チークダンスってなんて恥ずかしいんだ。

聞いてはいたけど、あれはやばい。

明日、あれやるのか。

マジやばい。

でも、ぐへへ、陽乃さんいい匂いだったなぁ~

・・・・・比企谷君もゆきのんと踊るんだよね。

はぁ~

あ、家、電気ついてる。

もしかして、

 

”タッタッタッ”

 

ん、テレビの音。

やっぱり。

 

”ガチャ”

 

「ただいま、とうちゃん今日早かったんだ。

 良かった、晩ご飯一緒に食べれるね。

 いまつくるからちょっと待ってて。」

 

「おう、おかえり。

 腹ペコだ、美味しいの頼む。」

 

「いっつも美味しいよ~だ。

 るんるん♬」

 

へへとうちゃんと一緒の晩ご飯なんて久しぶり。

最近ずっと待ってられなくて、とうちゃん帰ってくるまでに寝ちゃうから。

よ、よし今日は張り切って特別美味しいやつを作るぞ。

 

「な、なぁ、美佳。」

 

「うん? な~にとうちゃん。」

 

「後でちょっと話があるんだ。

 実はお前にあわ 」

 

「ご、ごめん。

 明日から文化際だから準備とかあって今日あまりゆっくりできないんだ。」

 

「そ、そうか。

 じゃあ明日は?」

 

「明日もダメ。

 ほ、ほら文化祭だから。」

 

「それじゃ、明後日。」

 

「・・・明後日も! それから明々後日もずっとずっと時間ないの!」

 

「み、美佳! いつなら時間取れるんだ?」

 

「やだ聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない!

 わたし何も聞きたくない!

 と、とうちゃんの馬鹿!」

 

”ダッ”

 

「み、美佳、待ちなさい!」

 

”ガチャ”

 

「とうちゃんなんて大嫌い!」

 

「美佳!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「とうちゃんの馬鹿。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「とうちゃんの馬鹿、馬鹿、大馬鹿。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピンポ~ン”

 

「お兄ちゃん、小町いま手が離せないの。

 出て。」

 

「お、おう。

 誰だこんな時間に。」

 

”ガチャ”

 

「こ、こんばんわ。」

 

「お、おう、どうしたんだ三ヶ木。」

 

「あ、あの、・・・・・今日泊めて・・・・お願い。」

 

「おう・・・・・・え?」




長々ダラダラとすみませんでした。

最後まで読んでいた方、ほんとすみませんでした。
今度こそは2話に分割します。

えっと、次話やっと文化祭です。
(な、長かった。)
その前に・・・・・・

すみません、あきられずにまた読んでいただけたらありがたいです。

※す、すみません。
 途中、片栗粉が小麦粉に。
 修正します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編⑤ 疑

GWでお疲れのとこ、見に来ていただいてほんとありがとうございます。

前話にてとうちゃんとケンカして家を飛び出したオリヒロは
八幡の家に。
さて二人の関係に進展は。

またいよいよ文化祭です。
オリヒロは八幡を守れるのか。

す、すみません、前話で2話に分けるといったのにまたしても2万字越え。

長くてお時間いただいてしまうと思います。
無理なさらず読んでいただけるとありがたいです。
(あの、ほんと見に来ていただけるだけでありがたいです。)

ではよろしくお願いいたします。



「あ、あの、ひ、比企谷君?」

 

「断る。

 俺の目が腐っているうちは、何人たりとも俺の聖域へ立ち入ることは許されない。」

 

「いや、目が腐ってるうちって。

 ・・・・・そ、そっか。

 ごめんねいきなり。」

 

そうだよね。

こんな夜遅くなってから突然家に来るなんて、ほんと常識ないよね。

断られて当たり前だ。

なんでわたし比企谷君の家、来ちゃったんだろ。

気がついたら電車乗っててさ。

会いたかったんだ、一目だけでもいいから会いたくなって。

比企谷君ならわかってくれると思ったから。

だから・・・・・来ちゃったんだ。

 

「三ヶ木、何かあったのか?」

 

「・・・・・」

 

「おい、三ヶ木?」

 

”ブルブル”

 

駄目だ駄目だ。

わたしなに考えてんだろう。

ほんと比企谷君に心配させてばっかり。

ほら、めっちゃ心配そうな顔してるじゃん。

わたし、しっかりしないと。

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

「お、おい、三ヶ木?」

 

う、うし、少しだけ落ち着いたから。

 

”バシバシ”

 

「いたた、お、お前、いきなり背中叩くな。」

 

「あははは、冗談だよ、冗談。

 なんかあるわけないじゃん。」

 

「はぁ?」

 

「あ、ごめんごめん。

 あのね、比企谷君に伝えておかないといけないことがあったの。

 だから学校の帰りに寄ったんだ。

 ・・・・・ただそれだけ。

 ゴホン、実は人気投票で、なんと比企谷君にミス総武高から是非チークダンスの相手にとの

 ご指名がありました。

 いぇ~い、ドンドンパフパフ。」

 

「は、はぁ!」

 

「ど、どう、うれしい?」

 

「うれしいわけねえ。」

 

「なんでさ、ミス総武高からのご指名だよ、ミス総武高からの、ご・指・名。」

 

「いや、そのミス総武高だが、明日はいつも以上に辛辣な言葉を浴びせられる気が

 するんだが。

 それにもし足を踏んだりでもしてみろ。 

 はぁ~、考えただけでもぞっとする。」

 

「・・・・・は、はて何のことかなぁ~」

 

ば、バレてる。

まぁ予想通りだもんね。

でも、そっか~、そっちの対策も必要だったか。

う~ん、そこは比企谷君のメンタルに期待するしかないっす。

 

「まぁいいわ、断ったら断ったで後が怖いしな。

 ・・・・・で、三ヶ木、本当はお父さんと何があったんだ。」

 

げ、比企谷君、なんでわかっちゃうんだ。

あ、でもこれはわたしの問題なんだ。

・・・・・そう、わたし自身の。

これ以上、比企谷君に心配かけさせるわけにはいけない。

だから、

 

「え? ほんとに何もないよ。

 それだけだよ。

 えっと、あとはそうだね。

 あ、そ、そうだ。

 あのね、比企谷君の顔が見たかったんだよ~、えへ♡」

 

「あざとい。

 まぁ何もないのならいいが。」

 

「そだよ、何もないよ。

 じゃあ、顔も見れたことだしそろそろ帰るね。」

 

「あ、ちょっと待て。

 さすがにもう遅いし、家まで送ってくわ。」

 

「いらない!!」

 

「え?」

 

「あ、あ、あの、ほ、ほらほら、一緒にいる時間が長くなるほど寂しくなるかなぁ~って。

 だからここでいいよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「そうだ。 

 じゃあね、比企谷君。」

 

「ああ、また明日な。

 気をつけて帰れよ。」

 

「うん。」

 

また明日なっか。

明日はさ、明日は比企谷君はゆきのんと・・・・・

わたしは、わたしは・・・・

あ、いけない。

ここは笑顔、笑顔で。

 

「バイバイ。」

 

「おう。」

 

”トボトボトボ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、お父さんお疲れ様です。」

 

「お父さん言うな。

 あ、それより比企谷君、すまんがそっちに美佳行ってないか?」

 

「え? あ、さっき学校の帰りに寄ったって来ましたが。

 もうとっくに帰ったはずですけど、もしかしてまだ帰ってないんですか。」

 

「どこかに行くって言ってなかったかね。」

 

「いえ、やっぱり家に帰ってないんですね。

 な、なにかあったんですか?」

 

「あ、い、いやちょっとな。」

 

「お父さん!」

 

「すまん、美佳とケンカしてだな。

 あいつ飛び出して行ったきり帰ってこないんだ。

 それで今探しているんだが。

 どこにもいなくてな。」

 

「はぁっ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”キィコ、キィコ”

 

ふぅ~、比企谷君に嘘ついちゃった。

なんか胸が痛い。

でも心配かけさせたくないから。

 

”キィコ、キィコ”

 

おっ、今日はお月様メッチャ綺麗だ。

へへ、ブランコに合わせて近づいたり遠ざかったり。

行ってみたいなぁ、お月様。

 

「ふぇ、ふぇ、ふぇっくしょん!」

 

やば、やっぱり夜になると少し寒むいや。

ほんと今日はどこで寝ようかなぁ~

今からでも沙希ちゃんに電話してみようかなぁ。

でも、どうしたのとか、なにがあったのっていろいろ聞かれるだろうし、

きっといっぱいお説教されるだろうな~

沙希ちゃん怒ると怖いからな~

どうしよう。

そっだ、今日はそこの土管の中で寝よう。

新聞紙とか段ボールとかに包まれば大丈夫・・・だよね?

 

”ポカッ!”

 

「い、いた~、な、なに?」

 

「おい!」

 

「あっ、」

 

「帰ったんじゃねえのか!」

 

「え、えっと~、あ、ちょ、ちょっと疲れたから一休みしてただけだよ。

 さ、そろそろ帰ろ~っと。

 じゃあね。」

 

”ポカッ”

 

「まったく。

 何やってんだお前。」

 

「い、いた~、また叩いた。

 女子に暴力振るうなんて最低。

 とうちゃんが・・・・・・・とうちゃんが、あのね、とう・・・・ちゃんが言ってたんだ。」

 

「ほら。」

 

「え、あ、紅茶?」

 

「本当はミルクティーにしようと思ったんだがな。

 温かいのが紅茶しかなかったんだ。

 これで叩いたのはチャラだ。」

 

「よ、よしこれでチャラにしてやる。

 ありがたく思え。

 なんちゃって、えへ、ありがと。」

 

”カチャ”

 

「この馬鹿が。」

 

”ゴクゴクゴク”

 

「ほら、冷めないうちにな。」

 

「う、うん。」

 

”カチャ”

 

比企谷君、汗すっごくかいてる。

めちゃ探し回ってくれたんだ。

はぁ~、結局心配かけちゃったよ。

 

「いっただきます。」

 

「おう。」

 

”ゴクゴク”

 

ふぅ~温まる。

なんか心の奥からあったまる。

ほんとにあったかい。

 

「お前、スマホの電源ぐらい入れておけ。」

 

「あ、ごめん、電話出たくなくて。」

 

「そっか。

 で、何でケンカしたんだ。

 やっぱりあの女の人のことか。」

 

「あ、あの・・・・・う、うん。」

 

「そっか。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ごめんなさい。」

 

「・・・逃げてても仕方ない。」

 

「あ、う、うん。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「月、綺麗だな。」

 

「とっても綺麗。

 ・・・わたし行ってみたいなぁ、お月様に。」

 

「行けるんじゃねえの。」

 

「え、ほんと。

 連れてってくれるの?」

 

「いや、そんな金もコネもねえ。

 あのな、A4のコピー用紙あるだろ。

 あれを42回二つに折ってみろ。

 それができれば月にまでたどり着くぞ。」

 

「うそ、たった42回でいいの?」

 

「ああ。

 なんでも1回折ることに厚みが2倍になって、次に折ったらその2倍で、

 まぁ、なんやかんやで42回も折れば月にまでいけるらしい。

 なんかよく知らんがテレビかなにかでやってたような気がする。

 詳しいことは稲村にでも聞いてみろ。」

 

「そっか。

 よし、今度折ってみよう。」

 

「三ヶ木、お前そんなに月に行ってみたいのか?」

 

「うん。

 だってね、月って地球の6分の1しか重力無いんだよ。

 だったらなんかいろんなものから解き放されそうじゃん。」

 

「そ、そっか。

 そうだな、地球の重力に魂を縛られてるって言ってた奴もいるしな。

 月ではいろんなものから解放されるかもしれないな。

 まぁ、頑張って折ってみろ。」

 

「うん。

 でももし月にだどりついたら、わたしそのまま月に帰っちゃうかも。」

 

「お前はかぐや姫か。」

 

「えへへ、実はそうなんだ。」

 

「うそつけ。」

 

「あはは。

 あ、えっとね、あのね比企谷君。

 

 ・・・・・お月様がとっても綺麗ですね。」

 

「ぶふぉ~」

 

「きゃ、きたないな~

 マッ缶吹き出さないでよ、もう!」

 

「馬鹿、お前がいきなり変なこと言うからだ。」

 

「いいじゃん、今さら。」

 

「・・・・・まぁ、いいけど。」

 

「えへへ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”キィコ、キィコ”

 

「・・・・ほんと綺麗だね。」

 

「ああ。」

 

二人してさっきからずっとお月様見てるんだ。

あ~あ、ずっとこうしていたい。

もし神様に一つだけお願いごと出来るんなら、このまま時間止めてほしい。

明日なんて来なければいいのに。

そしたらずっと比企谷君と一緒にいられる。

 

”ちら”

 

「ん? どうした三ヶ木。」

 

「あ、うううん。

 なんでもな~い。」

 

ブランコじゃなかったらもっとくっつけるだけどなぁ。

ほら、ベンチなんかで肩に頭乗せたりして。

もっと近寄りたいなぁ。

あ、そうだ。

 

”スクッ”

 

「ん、どうした?」

 

「ね、比企谷君・・・・・踊ろ。」

 

「は、はぁ? なに言い出すんだお前。

 今日ちょっとおかしいんじゃないの?

 さっきは月に帰るとか言い出すし。」

 

「だってそんな気分なんだもん。

 ほ、ほらそれに明日さ、比企谷君チーク踊らなきゃいけないんでしょ。

 比企谷君は踊ったことあるの?」

 

「ふふふ、馬鹿にするな。」

 

うそ、比企谷君踊ったことあるんだ。

え、誰と、誰とだ。

もしかしてゆきのんとか結衣ちゃんとかともう。

 

「俺はフォークダンスすらエアーだ。

 チークなんぞ踊ったことがあるわけない。」

 

そっちかよ!

ま、まぁ安心したけどさ。

もしかしたら小町ちゃんととか思ったけど。

じゃあいいよね、練習、練習ってことで。

 

「だったら、明日ゆきのんに恥かかさないためにも練習しなくちゃ。

 恥かかせたら大変だよ~

 ほら、わたしがビシビシ鍛えてあげるから。」

 

「おまえ、いま完璧にばらしちゃっただろ、ミス総武高。」

 

「あっ!

 も、もう、いいから! 

 さ、はやく立って。」

 

「仕方ねぇな。

 うんしょっと。」

 

「お、おい、それわたしの。」

 

「いやなに、一度言ってみたかったんだ。

 でも、お前は踊ったことあるのか?

 そ、そのチークダンス。」

 

「チッチッチッ、今どきの女子にとってチークなんて当たり前だよ。」

 

「・・・そうか、お前もビッチなんだな。」

 

「う、うそだよ、ごめん違うって、ほんとだよ信じて。

 きょ、今日陽乃さんと踊っただけだよ。」

 

「は、もしかしてお前そっち系?」

 

「いやそっち系じゃないから。」

 

えっと多分違う・・・・・と思うんだけど。

でも、時々自信なくなる時あるんだ。

さがみんの時はマジやばかったなぁ~

わたし大丈夫・・・だよね。

 

「でもなんでお前チークを踊ったんだ?」

 

「あ、あの、えっと、あ、そうそう、明日の予行練習。

 ほら照明とかの確認。

 それより踊ろ。

 はい、手組んで。」

 

「お、おう。」

 

”ガシッ”

 

「そうそう、両手をガシッて、う~負けるか、この野郎!

 って、おい違う、違うだろう!

 力比べじゃないから。

 ほら、手を組むのはこっちの方の手だけ。」

 

「あ、ああ。」

 

「それで、比企谷君のそっちの手はわたしの腰において。」

 

「え、こ、腰にっていいのか?」

 

「いいの。」

 

”さわ”

 

「きゃっ、そこはお尻。

 馬鹿! 腰はもちっと上。」

 

「お、おう。」

 

「そんでわたしの手は比企谷君の肩において。

 それでね。」

 

”ぐぃ”

 

「お、おい、お前それは。」

 

「なに? ほらもっと密着して。」

 

「あ、い、いや、あの~、ほら俺汗かいてっから。」

 

”ぐぃぐぃ”

 

「お、おい、三ヶ木。」

 

「なに?

 それでね、音楽に合わせてこうやって左右に揺れながら時計回りでね。」

 

「・・・・・」

 

「ラン、ラララン、ラン~♬」

 

”ドクン、ドクン、ドクン”

 

あ、比企谷君の心臓の音が聞こえる。

少しだけ早くない?

わたしのこと一応意識してくれてるのかなぁ。

ごめんね、こんなに汗かかせちゃって。

一生懸命、探してくれたんだね。

 

”ぐぃ”

 

「お、おい。」

 

だってうれしいんだ。

こんなわたしを探してくれたんだもん。

できたらさ、ほんとこのまま、このままずっと。

 

「・・・・・な、なぁ三ヶ木。」

 

「あ、うん?」

 

「お前、いい匂いだな。」

 

ば、馬鹿!

急に何言いだすんだこいつは。

し、心臓、バクバクじゃんか。 

このすけこまし・・・えへへ。

 

「遅~い、今頃気が付いたの?」

 

「あ、ああ。」

 

「へへ、ば~か。」

 

「おい。」

 

「あのさ、明日チーク踊ってる時は絶対ゆきのんだけ見ててね。

 他のものは絶対見ちゃだめだよ。」

 

「は? なんでだ。」

 

「い、いいから。

 あ、それと音楽以外なにも気にしちゃだめだよ。

 周りの雑音とかもさ。」

 

「まぁ、雪ノ下と踊るんだ、いろいろと言われるだろうからな。」

 

それもあるけどさ、それだけじゃないんだ。

ほんとは嫌だけど、そんなの嫌だけど。

でもわたし頑張る、明日頑張るね。

だから少しだけごめん。

 

”ぎゅ~”

 

「お、お前くっつきすぎだろ。」

 

「いいじゃん。」

 

「いや踊りにくいんだが。」

 

・・・・・キスしたい。

は、なにいってんだわたしは。

ほんと馬鹿だな

チ、チークなんて踊ってるからかな。

なんかドンドン気持ちがおかしくなって。

でも、もしかしたら。

 

「比企谷君、あのね。」

 

「ん?」

 

「比企谷君、キ、キ 」

 

”ぎゅるる、ぐるるるる!!”

 

「は、はぁ?」

 

「ご、ごめん、お腹が。」

 

な、なんでだ。

肝心な時にいつもわたしのお腹は!

はぁ~恥ずかしい、めっちゃ恥ずかしいよ~

 

「まぁ自然現象だからな。

 で、なに言おうとしたんだ。」

 

「あ、あの、えっとね、ひ、比企谷君、今日晩ご飯まだなんだ。

 お腹空いたなぁ~」

 

「まったく・・・・・ほら帰るぞ。

 なんか作ってやる。

 あのな、今日だけだぞ。」

 

「え、いいの。」

 

「ああ、お父さんには今日は黙認してもらったしな。」

 

「え、お父さんに黙認って。

 ・・・・ね、もしかして今日するの?

 わたしなにも準備してきてないけど。

 それにもしかしたらわたし声大きいかも・・・小町ちゃんいるよね、聞こえたらどうしよう。」

 

「ば、馬鹿、お前何考えてるんだ。

 黙認ってお前を泊めることだけだ。

 お前は小町のところで寝ろ。」

 

「そ、そだよね。」

 

はは、わたしの馬鹿。

キスとかエッチなこととか、なに考えてんだ。

いや、違う、チークがチークが悪いんだい。

ずっとくっついてゆらゆらしてたから、わたしおかしくなって。

もうチークなんて大嫌い。

 

     ・

     ・

     ・

 

”カタ”

 

「ほれ、できたぞ。

 八幡特製焼き豚チャーハンだ。」

 

「うわ~美味しそう。

 八豚チャーハン。」

 

「違う、焼き豚だ焼き豚、その八豚ってのやめてくれる。」

 

「へへ、いただきま~す。」

 

”パクパク”

 

「お、うっま~い。」

 

「おう、そりゃよかった。」

 

     ・

 

”モグモグ”

 

へ~、比企谷君、さすが専業主夫希望だけあって美味しかった。

ちゃんとお米が一粒一粒パラパラで。

味付けも薄くなく濃くなく。

これ最後の醤油が聞いてるね。

う~ん、満腹満腹。

 

「あ~美味しかった。

 ご馳走様でした。」

 

「おう、皿はそこ置いてくれ。

 あ、風呂沸いてるから先に入ってくれ。

 親父たちはまだ帰ってこないだろうからな。」

 

「え、ひ、比企谷君は?」

 

「あ、後から入る。」

 

「あ、わたしが後でいいよ。

 悪いよ。」

 

「いや、さ、先に入ってくれたほうが何かとありがたいかなぁ~。

 あ、ほら掃除、掃除しないといけないから。

 ほらほら、入った入った。」

 

でもそれって悪いよ、いきなり押しかけたんだもん。

それに比企谷君も汗かいて・・・・・

でもなんでそんなに先に入らせたいんだ?

え、なんでそんなにやけた顔?

掃除、掃除・・・・・はは~ん。

 

「おい、なんか探す気だろ?」

 

「はぁ? な、何のことだ。

 何を探すって言うんだ、お、俺はだな、」

 

「黒くて細くて長いもの。」

 

「黒くて細くて長いもの?

 ば、ばっか! そんなもん探すか。」

 

「ほんと?」

 

”ジー”

 

「あ、い、いや、探すわけ・・・探さないかなぁ・・・さが・・ごめんなさい。」

 

「まったく。

 ・・・・・ほ、ほしいの?」

 

「う、い、いや、その 」

 

「ほしいならあげる。

 ちょっと待って。」

 

「お、おい、まてこんなところで。

 い、いませめて後ろ向くからちょっと待て。」

 

”クル”

 

「え、別に後ろ向かなくても。」

 

「い、いやそんなわけには。」

 

”プチッ”

 

「いたっ!」

 

「だ、大丈夫か?

 そ、その、す、すまん。」

 

「はい、抜けたよ。」

 

「お、おう。」

 

”クル”

 

「はい。」

 

「お、おお、い、いや、別に俺は。」

 

「でも髪の毛なんてどうするの?」

 

「え、か、髪の毛? あれ?」

 

「はっ、そっか食べるんだ。

 DNA採取するんだね。

 でもわたしワン・フォー・オールの継承者じゃないから、DNA採取しても

 何も譲渡できないよ。

 それにちょっとキモいかも。」

 

「た、食べねぇ、そんな趣味はない。

 それに俺はヒーロー志望じゃない。」

 

「え、違うんだ。」

 

「俺はヒーローごっこの時はいつも悪役だったんだ。

 ヒーロー役なんか一度ったりともやったことはない。

 だから悪役のほうにこそ親近感を感じる。」

 

「そ、そうなんだ。

 でもさ、何で髪の毛なんか欲しがったの?

 何かのおまじないに使うつもりだったとか?

 ね、なんで、なんで?」

 

「う、い、いやそれはだな、その~」

 

へへへ、マジ困ってる。

さぁさぁ、なんて言い訳すんだ?

ほれほれ。

げ、もしかしてわたしやっぱりS? S子なのかなぁ。

まぁいいや、比企谷君、M男だから。

 

”ジー”

 

「う、うぐ。」

 

「えへへ、比企谷君のエッチ。」

 

「あー、お前知ってたな、知ってて髪の毛を渡したな。」

 

「さぁ~、なんのことかなぁ。」

 

「ええい、さっさと風呂入ってこい!」

 

「ほ~い。」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、でもさ・・・わたしの中ではね、比企谷君はいつも最高のヒーローだよ。」

 

「ば、馬鹿。

 早く行け!」

 

「ほい、行って参るであります。」

 

”ガチャ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”チャポ~ン”

 

へへ。

比企谷君の家のお風呂に入ってんだ。

信じられない、こんなことになるなんて。

でも、なんかうれしい・・・な。

うれし・く・・て・・・ね。

 

”ぶくぶくぶく”

 

     ・

 

”ばしゃ!”

 

はぁ、はぁ、はぁ、やば、めっちゃやばかった。

なんかすごっくリラックスして思わず寝ちゃってた。

あっぶなかった。

ずっと忙しかったからなぁ~

 

”トントン”

 

へ?

 

「お~い、生きてっか~」

 

「あ、う、うん、かろうじて。」

 

「ここに、バスタオルと歯ブラシ置いておくから使ってくれ。

 あ、それと今日は小町の部屋で寝てくれ。

 小町には言ってあるから。」

 

「あ、うん。

 あのね、比企谷君。」

 

「ん?」

 

「今日はごめんなさい。

 それとほんとにありがと。」

 

「言っておく。

 礼は形のあるもの以外受け付けない。」

 

「あははは。」

 

「なぁ、明日はちゃんと帰るんだぞ。」

 

「・・・・・う、うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「駄目です。」

 

「え? でも比企谷君が小町ちゃんの部屋でって。」

 

「はい、確かに兄から承りました。

 しかしですね、しかしですよ、折角のチャン・・・・

 あ、いえ、よくよく考えますと、小町は文化祭の演劇で主役をやらないといけなかった

 のです。

 そのため何としてもセリフを完璧に覚えないといけないのです。

 小町的に美佳さんと一緒のベッドで朝までガールズトークというのも、

 すごく魅力的なお誘いなのですが。

 残念、う~ん残念だな~、いや~残念。

 ということですので。」

 

”ぐいぐい”

 

「え、あ、あの小町ちゃん、そんなに押さないで。」

 

”ガチャ”

 

「美佳さんには、今日はこの部屋で寝て頂きます。」

 

「あ、い、いや、だってここはまずいって。

 まだ心の準備が。」

 

「大丈夫ですよ。

 兄はチキ、いえああ見えても紳士ですから。

 そこは美佳さんのペースに合わせると思いますので。

 あ、それと小町はほらイヤホンしますので、もう何も聞こえませんよなにも、ぐふふ。

 ほぇ~、これ小町的にポイントちょ~高い!

 ではでは、ごゆっくり。

 お・ね・え・ちゃ・ん。

 きゃ~」

 

”ドタドタドタ”

 

「あ、まって小町ちゃん。」

 

はは、参ったな。

ど、どうしよう。

あ、そ、そうだリビングで。

・・・・・いやいやご両親帰ってきたらなんて言えばいいんだ。

し、仕方ないよね。

う、うん、仕方ないもん。

 

”キョロキョロ”

 

へへへ、それにしても二度目の比企谷君のお部屋だよ。

変わってないなぁ~

すごくきれいに片付いてる。

お料理といい、さすが専業主夫希望。

ん?

あっ、しまった着替え。

小町ちゃんに何か借りようと思ってたんだ。

やば、急がないと比企谷君戻ってきちゃう。

 

”ガチャ”

 

小町ちゃんジャージとかしてくれないかなぁ。

ちゃんと洗って返すから。

 

”トントン”

 

「・・・・・」

 

あれ?

返事がない。

いないのかなぁ?

 

”トントン”

 

「・・・・・」

 

えっとほんとにいないの?

 

「・・・殲滅だ、一機残らず殲滅だ!」

 

あ、声聞こえる。

やっぱ部屋にいるんだ。

イヤホンしてるから気付かないのかなぁ。

あの~小町ちゃん、ド、ドア開けるね。

あのさ、

 

”ガチャ”

 

ん?

 

”ガチャガチャ”

 

あ、鍵掛かってる。

お~い、小町ちゃん。

 

”トントントン”

 

「・・・・・」

 

ううう、どうしよう。

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

このまま制服のままで寝ようかなぁ。

や、やっぱやだ。

だってシワシワの制服なんてやだもん。

仕方ない、比企谷君戻ってきたら何か貸してもらおう。

 

     ・

 

う~ん、まだ戻ってこない。

結構長風呂なんだ。

早く戻ってこないかなぁ~

 

     ・

 

”こく、こく”

 

はっ、やば、熟睡してしまうとこだった。

あ、駄目だ駄目だ、このまま寝ちゃったらいろいろとまずい。

なんか起きてる方法ないか、う~ん。

 

「あっ、そうだ!」

 

ふふふ、そうだ、そうなのだ。

わたしは知っている。

あの本棚にはお宝が眠っているのだ。

 

”スタスタスタ”

 

うんしょと。

えっとね、確かこの作者名ごとにきちんと整理されている本棚の中で

唯一バラバラに収納されているとこ。

そう、ここだ!

 

ふふ、もう秘密はバレているんだよ比企谷君。

この本の中身はカバーと違ってだね、ほらあった。

お、新作だ。

この前のロリロリと違う。

えっ、なにこれ、このタイトル。

 ”お持ち帰りシリーズ! 図書館で見つけた黒髪美少女とあんなことこんなこと”って。

女優さん、黒くて長い髪にスレンダー美人。

まんまじゃん。

比企谷君、これ見てるんだいつも。

それってやっぱり・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ペラ”

 

うぉー、こ、これは。

ふむふむ。

ぐはぁ、なんだこれは!

こ、こんなことまでされるのか。

だけどこんな恰好絶対に無理だよ。

え、これ痛くないの。

うひゃ!

 

     ・

 

”ガチャ”

 

「ふぅ~、いい風呂だった。

 くそ、あいつちゃんとチェックしていきやがった。

 しっかし明日は雪ノ下とチークかよ。

 これ絶対ひんしゅく買いまくりじゃねえか。

 はぁ~、明日に備えて心の防御壁、補修しておかないとな。

 今日ボロボロになったからな。

 さてもう寝よ・・・・・え?」

 

「スー、スー」

 

「お、おい、何でお前俺の部屋で寝てんだって。

 小町の部屋に行け、お、おい。」

 

”ゆさゆさ”

 

「ぐぁあー、むにゃむにゃ。」

 

”ゴロン”

 

「い、いやむにゃむにゃじゃない。

 えっ・・・・・お、おい! お前なんでこの本を。

 はっ、まて、まてよ。

 いや、やめてくれ、それだけは!」

 

”ゴトゴト”

 

「あ、あった~、良かったこれは見つかってなかった。

 ふぅ、この本だけは見つかるとやばかったんだ。

 

 ”お持ち帰りシリーズ! 街で見かけた眼鏡の地味っ娘とぐふふふ。”

 

 タイトルみて、思わず買ってしまったじゃねえか。

 よく見りゃ女優さんの顔って全然似てねえのに。

 でも、これが見つかってたら、さすがにすげ~やばかった。」

 

「スー、スー」

 

「はぁ、まったくよく寝てんな。」

 

「むにゃ、むにゃ」

 

「・・・はぁ、普通、男子の部屋で爆睡なんてしないだろう。

 何でこいつこんなに俺のこと信頼してんだ。

 なんかされると思わないのかよ。」

 

「ぐうぁ~」

 

「いやお前、ぐうぁ~はやめろ。

 まったく、おまえ女子なんだからな。

 は、待て、そんな場合ではない。

 お、おい三ヶ木、いい加減起きろ!」

 

”ゆさゆさ”

 

「ふぁ、ふぁ~い、とうちゃん。」

 

「いや、とうちゃんじゃないから。

 いい加減に目を 」

 

”すくっ”

 

「お、起きたのか。

 いいか小町の部屋にだな。」

 

”バサ”

 

「は、お、お前何やってんだ。

 なんで服脱いだんだ。

 ブ、ブラ見えてるって。」

 

”もぞもぞ”

 

「い、いや待て、スカートはまずいって、おい!」

 

”ストッ”

 

「うぉー、こ、これは。」

 

「おやしゅみなしゃい。」

 

”ドサ”

 

「ぐぅぁー、ぐぅぁー」

 

「・・・・・・・ご、ご馳走さまでした。

 まったくいいものを見せて頂いてって違~う。

 た、確かにご馳走様だったが、お、おいお前そんな恰好で俺のベッドに。」

 

「スー、スー」

 

「はぁ~まったく、どうすんだこれ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~ん、眠れん。

 む、無理だろ、俺のベッドに下着姿の三ヶ木がいると思うと。」

 

”ガバ”

 

「はぁ~まったくこいつは。

 ほら三ヶ木、布団がめくれてだな、パンツが見え・・・・・」

 

”ゴクッ”

 

「う~ん。」

 

「・・・・・パンツが・・・・・パン・・・」

 

”ドク、ドク、ドク、ドク”

 

「み、三ヶ木。」

 

”そ~”

 

『わたしの中ではね、比企谷君はいつも最高のヒーローだよ。』

 

「はっ!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「むにゃ、むにゃ」

 

「・・・まったく、こいつは。

 ほら、風邪ひくぞ。

 ちゃんと布団かけて寝ろ。」

 

”バサッ”

 

「俺がヒーローか。

 ま、たまにはヒーロー役もいいかもな。」

 

「・・・・・・いっちゃ・・・・やだ。」

 

「え?」

 

「う~ん、う~ん、やだ。」

 

”なでなで”

 

「どこにも行かない、安心しろ。」

 

「スー、スー」

 

「おやすみ。

 はぁ、で、でも俺今日寝れるのか?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”チュンチュン”

 

ん、ん~、あれここどこ?

えっと~

そ、そっだ、比企谷君の部屋に来てたんだ。

え? なんで、なんでわたし下着なの?

しかも比企谷君のベッドで寝てるって。

ちょっ、ちょっと待った、ま、まさか!

 

”そ~”

 

はぁ~、な、なにもない、なにもなかった・・・んだ。

そっか、なにもなかったのか。

やっぱりわたしなんか。

あ、そんなことより、比企谷君どこ行ったんだ?

あ、床で寝てる。

 

     ・

     ・

     ・

 

よし、えっと準備OK。

ふぅ、比企谷君の部屋、十分目に焼き付けたし、名残惜しいけどそろそろ行かないとね。

一度家に寄ってから行かないといけないし。

あ、でもその前に何か書くものないかな、書くものっと。

ごめん、ちょっとノート貸してね。

えっと、

 

”カキカキ”

 

     ・

 

これでいいかなぁ、もう書き残したことないかなぁ。

 

”ちら”

 

へへ、比企谷君、良く寝てる。

チャンス!

 

”なでなで”

 

比企谷君、ありがと。

いままでもたくさんたくさん、ほんとにありがと。

あのね・・・・・ほんとに大好き。

 

”ちゅっ”

 

今日、頑張ってね。

わたしも頑張る。

んじゃ、行ってきま~す。

 

”ガチャ”

 

あ、そうだ、小町ちゃんまだ寝てるかなぁ~

 

”トントン”

 

「は~い。」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん。

 昨日は眠れました?」

 

「うん、熟睡しちゃった。」

 

「へ?」

 

「あ、小町ちゃん、ありがとね。」

 

「いえいえ、また来てくださいね。

 今度はちゃんと両親に挨拶を。」

 

「あ、あははは。

 それじゃ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お兄ちゃん、学校遅れるよ~

 早く降りてきて。」

 

「お、おう。」

 

”トントントン”

 

「やっと起きてきた。」

 

「なぁ、三ヶ木知らないか?」

 

「美佳さんならもう・・・・・・・あの~お兄ちゃん。」

 

「ん、どうした小町?」

 

「お兄ちゃん、昨日はお盛んだったようで。」

 

「は、はぁ? なに言ってんだ。」

 

「はい、鏡。」

 

「ん? お、おう!」

 

「学校行く前にちゃんと頬のキスマーク消していってね。

 お兄ちゃんけだもの。」

 

「・・・・・・うっせ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、最終チェックはいります。

 会長、聞こえますか?」

 

「OKで~す。」

 

「バカップ、い、いえ本牧君、書記ちゃんそっちは?」

 

「い、いまなんか言わなかった三ヶ木さん、こっちも準備okだよ。」

 

「三ヶ木先輩、後で話がありますから。」

 

「は、はい、りょ、了解です。」

 

げ、し、しまった。

つい、口が滑っちゃった。

書記ちゃん怒ると怖いんだよ、沙希ちゃん並みに。

はぁ~、また正座させられるのかなぁ~

どうしょう。

 

「お~い、三ヶ木~」

 

は、気を取り直さないと。

 

「えっと稲村君。」

 

「こっちも問題なしだ。」

 

「はい、了解です。

 続いて音声さん聞こえますか?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、皆さん準備いいですね。

 オープニング10分前です。

 各自なにか問題発生したら、即連絡お願いしますね。」

 

「「了解」」

 

「それではスケジュール通り、よろしくお願いします。」

 

ふぅ、できることはことはやった。

あとは出たとこ勝負だ。

 

「ぶつぶつ。」

 

ん?

あ、舞ちゃん。

なにぶつぶつ言いながら、うろついてんだ。

挙動不審って、さすがにすごく緊張してんだね。

 

「舞ちゃん、準備いい?」

 

「は、はい、い、いえ、そ、その 」

 

ふふふ、ここはだね。

わたしの頑張れって気をすべてこの手に集めて。

あ、それと日頃の恨み辛みも込めて、さがみんのときの1.5倍でせ~の。

 

”バシッ”

 

「い、いった~

 な、なにすんですかジミ子先輩!」

 

「えへへ、ガンバ♬」

 

「え、あ、はい。

 って、もうめっちゃ背中痛かったんですからね。

 痕ついてたら、責任取ってお嫁さんに貰ってもらいますから。」

 

「いや、それ無理、一応これでもわたし女子だから。

 あのさ、舞ちゃんには文実のみんながついてるよ。

 だから頑張って、委員長さん。」

 

「そうですね、はいわかりました!」

 

”バシッ”

 

「い、いったー、ま、舞ちゃん。」

 

「おっかえしで~す。 ふふふ~ん♬」

 

「いたたた、あ、やば。

 開始1分前です。

 会長、お願いします。」

 

「了解、じゃあ、みんな行きますよ~」

 

「「はい!」」

 

「10秒前・・・5、4、3。」

 

2、1、ジャリっ娘、Go!

 

「は~い、みんなやっはろーさんです。」

 

「「やっはろー」」

 

げ、あれ、みんなに一気に感染した。

おそるべしジャリっ娘。

でも、こういうのってやっぱすごく似合ってるね。

めぐねぇもなかなかだったけど、正直それ以上のノリだ。

特に男子・・・お前らノリすぎだろ。

おっと、そんなこと言ってられない。

 

「書記ちゃん、スタンバイ大丈夫?」

 

「大丈夫です。」

 

よしっと。

ジャリっ娘の宣言に合わせて行くよ。

 

「それではいまから総武高文化祭、”自分を認めて明日を見つめて。 ちょっとした希望を胸に

 目指せプルスウルトラ!”始まりです。」

 

「本牧君、ミュージック!」

 

「了解!」

 

「書記ちゃん、Go!」

 

「はい! ダンス同好会さん、チァリーディング部さん、お願いします。」

 

「「イェ~イ」」

 

へへ、始まった、いよいよ始まった。

みんなノリノリだ。

いいなぁ、わたしもあんな風に踊れたら楽しいだろうなぁ~

えっと、ダンスが終わったら委員長委員長っと。

 

「やっぱりこのスローガン、長いです~」

 

えっ、あ、馬鹿ジャリっ娘!

みんなに聞こえてるって。

 

「か、会長マイク、マイク入ってる。」

 

「あ!」

 

「・・・・・・会長、ダンス同好会さんがはけたら、委員長挨拶お願いしますね。」

 

はぁ、まったく。

えっと舞ちゃん、大丈夫かな。

どれどれ様子は?

 

「ふんふふふ~ん♬」

 

あ、なんか鼻歌口ずさんでる。

よし、いけそうだね。

 

”とんとん”

 

「舞ちゃん、そろそろ。」

 

「え、あ、はい。

 ジミジミ子先輩、では行ってきます。」

 

「うん。」

 

お、おい、ジミジミ子ってなんだ、一個増えてるだろ。

もう・・・・・頑張れ、わたし達の委員長。

 

「ご、ごほん、えっとそれでは続いて文化祭実行委員長から開始の挨拶です。」

 

”スタスタスタ”

 

「みなさんこんにちは!」

 

「「こんにちは。」」

 

「舞ちゃんかわいい。」

 

「え、あ、ありがとうございます。

 えっと・・・・もう、なにを言うか忘れちゃったじゃないですか。

 と、とにかく、みんなが楽しめる文化祭を目指して文実全員で取り組んできました。

 文実以外の人も、部活やクラスの出し物で頑張ってくれたと思います。

 だ・か・ら、今日と明日、みなさん文化祭を一緒に楽しみましょう。」

 

「「おお!」 」

 

「これは楽しむしかないっしょ!」

 

「戸部、うっさい。」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「は、お、終わった。

 ジミ子先輩、終わったです。」

 

いや、舞ちゃん今始まったばかりだから。

でもこの文化祭通して成長したね。

なんか、お姉さん嬉しい。

 

「な、なんすか、何で泣いてるんですかジミ子先輩。」

 

「年を取ると涙腺弱くてね~

 いや~ご苦労様、舞ちゃん。」

 

「はい、頑張りましたわたし。

 

 そんなわたしにご褒美お願いします。」

 

「え、あ、飲み物? いま、何か持ってくるね。」

 

「違いますよ、ジミ子先輩。

 

 ご褒美は 」

 

     ・

 

あとは各クラスの出し物と文化部、同好会の発表か。

確か小町ちゃんのクラスは明日だっけ。

じゃあ、そろそろいいかなぁ。

 

「会長、えっと三ヶ木です。

 人気投票の準備もあるので、今から生徒会室にこもります。」

 

「はい、生徒会室の当番、よろしくです。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

生徒会室戻ったら、人気投票の準備しなくちゃね。

貼りだし用のプレート作成があと少し残ってるのと、昨日作ったスクリーン用の写真、

あれ確認しておかなくちゃ。

あとはお昼になったら4位までの結果貼りだしっと。

うぇ~忙し、忙し。

 

ん? あ、ゆきのんだ。

パソコン持ってどこに?

重たそう。

ゆきのん、力とか持久力は全くだからね。

よし手伝ってあげよ。

 

「お~い、ゆき・・・・・」

 

「雪ノ下、ほれ貸してみろ。」

 

あ、比企谷君。

やばっ!

って、なんで隠れてんだわたし。

比企谷君待ってたんだ、ゆきのんが来るの。

やっぱりそうなんだよね。

 

”ジ―”

 

「お、おい? なにその目。」

 

「なにが狙いなのかしら。」

 

「いや、なにも狙ってないから。

 ほら。」

 

「え、あ、あの、ありがとう。」

 

「おう。

 ん? お前まだ指に絆創膏してるのか?」

 

「え? あ、ええ。」

 

「しかし珍しいよな、お前が料理で怪我するなんて。」

 

「・・・わたしも初めて。

 こんなのは。」

 

「まぁなんだ、猫も木からずり落ちるだな。」

 

「それは猿も木からじゃなくて。」

 

「まあな。」

 

「全くあなたは。

 ・・・・・・ひ、比企谷君、今日はよろしく・・・お願いします。」

 

「ん?」

 

「いえ、ほら人気投票の件だけど。」

 

「あ、ああ。 三ヶ木から聞いた。

 やっぱりマジか。」

 

「ありがたく思いなさい。」

 

「まぁ、お前がこんなこと頼めそうな男子というと葉山ぐらいだろうけど、

 そうするとお前も葉山も大変だろうからな、いろいろと。

 まぁ、任せろ。」

 

「ちが・・・・・そんな理由じゃない。」

 

「はぁ?」

 

「いえ、なんでもないわ。

 さ、急ぎましょう。」

 

「ああ。」

 

「重たくないかしら?」

 

「おう、大丈夫だ。」

 

”スタスタスタ”

 

はぁ、やっぱりいい雰囲気だなぁ。

比企谷君もゆきのんも頬赤くして。

ゆきのん、まだ絆創膏してるんだ。

ほんといじらしい。

それに比べてわたしは不純の塊だ。

 

あの時、わたし見惚れちゃったんだ。

棘を抜いてる時の二人の姿、抜いた後の見つめあう二人の姿に。

そしてなにより、指の絆創膏をじっと見つめてるゆきのんの姿に。

 

比企谷君には、比企谷君の隣には、わたしなんかよりゆきのんのほうが似合ってる。

そう思っちゃたんだ。

それにね、わたしなんてきっと彼にとって・・・・友達なんだろうな、やっぱり。

だって昨日、わたし比企谷君になにも・・・

 

さ、もう行こ。

わたしはわたしのやることがあるんだ。

そう、わたしにしかできないことが。

 

「はぁ~。」

 

「君は平気なのか?」

 

「え? あ、葉山君。」

 

「ずっとあの二人を見つめていたようだけど。

 君も比企谷のことが。」

 

「え、あ、ち、違う違う。

 ほ、ほら、いい雰囲気だなぁって思ってただけ。」

 

「そうなのか?」

 

「そ、そうだよ。

 比企谷君にとってわたしはただの友達。

 きっとそれ以上でもそれ以下でもないんだ。

 わたし・・・なんか。」

 

「そうだったのか。

 すまない、余計なこと聞いてしまったみたいだ。」

 

「あ、全然大丈夫、気にしないで。

 あ、えっと、わたしまだいろいろすることあるからもう行くね。」

 

「ああ。」

 

”トボトボトボ”

 

「あ、葉山君、今日は後からよろしくお願いっす。」

 

「こちらこそよろしく。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピタ”

 

よし、ネームプレート準備できたっす。

・・・なんか最近つい刈宿君の口調になっちゃうんだ。

どうしたんだろ。

ま、いっか。

 

あとは時間になったら集計の結果を貼りだしてっと。

あ、集計表、集計表どこだっけ。

あったあった。

 

えっとだけどすごいね舞ちゃん、去年24位だったのに、今年は6位だよ6位。

大躍進じゃん。

さっきのオープニングの時も思ったけど、ジャリっ娘もうかうかしてられないかも。

 

それと、結衣ちゃん安定の4位だ。

でも3位ぐらいはいくと思ったんだけどなぁ。

3年生には男女問わず人気だもん。

 

あと男子のほうは、お、そうだそうだ刈宿君、なんと一年生で7位なんてすごいや。

だって、一年女子の支持、圧倒的だもんな。

・・・・・勿体無かったかなぁ~、家はお金持ちだしスポーツマン。

それに優しいし。

な~んちゃって。

 

ふふふん、えへへへ、3票。

今年は3票もわたしに入ってた。

やっぱあの三人が入れてくれたのかなぁ。

 

ブー、ブー、ブー

 

あ、そろそろ時間だ。

よしまずは4位までの結果を貼りだしてこよっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「あっ、美佳先輩! うっす。」

 

「あ、刈宿君、うっす。

 あ、戸塚君も。」

 

「こんにちは三ヶ木さん。」

 

”クンクン、クンクン”

 

「うわ~いい匂い、そうだったテニス部の屋台ってたこ焼きだったね。

 美味しそう。」

 

はぁ~ソースと鰹節のいい匂い。

お腹すいた~

 

”ぎゅるるる”

 

な、何でわたしのお腹は、もういや。

は、はずかし~

 

「あ、あは、あははは。

 たこ焼き一つください、はぁ~。

 ん、こ、このテニスボール焼きってなに?」

 

「あ、これっす。」

 

「げ、で、でか。

 10cmぐらいなくない?」

 

「このタコ焼き機で作ったっすよ。

 1回に2個しか作れないすけど。」

 

「うえ~1個でお腹膨れそう。

 ・・・・・・あ、そうだ。

 ね、戸塚君、これ出前ってできる?」

 

「え、あ、校内なら大丈夫だよ。」

 

「じゃあさ。 」

 

     ・

 

「ヒ・マ・ダ。」

 

「そ、そだねヒッキー。

 誰も相談来ないね。」

 

「そんなことないわ、午前中に一人来たじゃない。」

 

「おい、あれカウントするのか。

 あれは単に新作読んでくれって来ただけじゃねえか。

 相談じゃない。」

 

「いえ、ちゃんと作家はあきらめなさいという答えを出したわ。」

 

「いや、そうだが。」

 

「うえ~ゆきのん負けず嫌い。」

 

「こんにちは。」

 

「お、と、戸塚~

 さ、なにしてる、そんな入り口にいないで中に入ってくれ。」

 

「あ、う、うん。」

 

「何だ何の相談なんだ。

 遠慮するな、俺と一緒に答えを探そう。

 いや、なんなら二人で答えを探す旅に出よう。

 そうだ、それがいい。」

 

”ポカ”

 

「ヒッキー、いい加減にしろし。」

 

「まったくあなたは。」

 

「は、八幡、大丈夫?」

 

「ごめんね彩ちゃん。

 で、どしたん、何か相談?」

 

「あ、いや、これ三ヶ木さんから頼まれたんだ。

 なんでも奉仕部に差し入れだって。」

 

「え? あ、たこ焼き。

 ありがとう彩ちゃん。」

 

「戸塚君、ありがとう。」

 

「戸塚、俺のは、俺のはないのか?

 戸塚の手作りのたこ焼き。」

 

「八幡には三ヶ木さんから頼まれて特別に作ったよ。

 はい、テニスボール焼き。」

 

「でかっ、彩ちゃんそれ作ったの?」

 

「そ、それはたこ焼きなのかしら?」

 

「うん、僕達の屋台の目玉商品なんだ。」

 

「な、これ、戸塚、戸塚が俺のために特別に作ってくれたのか?」

 

「え、あ、うん。」

 

「おお、ではさっそく。」

 

「あ、八幡。」

 

「なんだ?」

 

「あ、い、いや、なんでも。」

 

「そ、そうか?

 それじゃあ、いただきます。」

 

”パク”

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ぐわぁ~ か、からい、み、水ー!」

 

”ゴクゴクゴク”

 

「どうしたのヒッキー?」

 

「まぁ、これ、このタコ焼きの中って。」

 

「うん、わさび。」

 

「「え?」」

 

「あの、三ヶ木さんの依頼で。」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、

 み、三ヶ木の奴、昨日の泊めた恩を仇で返したのか。」

 

「「はぁっ?」」

 

「はい、八幡マッ缶だよ。」

 

「お、おう、サンキュ戸塚。」

 

「あ、いやそれも三ヶ木さんから。

 あとこれは普通のたこ焼き。」 

 

「そ、そうか。」

 

「ねぇヒッキー。」

 

「比企谷君。」

 

「は、な、なんだ?」

 

「ヒッキーさっき何か変なこと言ってなかった?」

 

「はっ! い、いやなんのことかなぁ~」

 

「スケベ谷君、白状しなさい。」

 

「い、いや、な、何のことだ。」

 

「由比ヶ浜さん。」

 

「うん、ゆきのん。」

 

”ガシ”

 

「お、おい、由比ヶ浜何をするんだ、離せ。」

 

「比企谷君、昨日の夜はなにをしてたのかしら?」

 

「や、やめろ雪ノ下、ち、違うんだ、や、やめてくれ~」

 

「比企谷君、口を開けなさい。

 開けないのなら。」

 

「う、や、やめろ。

 雪ノ下、目はやめろ。」

 

”パク”

 

「ぐわー、か、からー」

 

プシュ~

 

「は、はちま~ん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

よし、貼りだし完了。

えっと、もう一回チェック。

うん間違いないね。

 

「お、人気投票、貼りだしてあるぞ。」

 

「あ、ほんとだ。」

 

「どうなった、な、誰が一位だ。」

 

「いや3位以上はステージでだろ。」

 

”ガヤガヤ、ワイワイ”

 

さてとまだやることあるんだ。

急がないと時間がない。

 

”スタスタスタ”

 

へへ、いま頃比企谷君、あのたこ焼き、違ったテニスボール焼き食べたかなぁ。

昨日のお返しだよ、べ~だ。

まったくなんにもしないなんて、少しだけ傷ついてんだからね。

でも、ぷぅ、くくくく。

比企谷君の涙目顔、想像しちゃった。

 

     ・

     ・

     ・

 

”バン”

 

「はぁ! なに言ってるの!

 うち、絶対嫌だからね。」

 

「お願い、さがみん。

 こんなことお願いできるのさがみんしかいない。」

 

「三ヶ木、あんたうちが平気でそんなことできる人間だと思ってたんだ。」

 

「違う、平気でなんて思ってない。

 ごめんね、ごめん。

 でも、こんなこと頼めるのって、わたしの最低なとこ知ってるさがみんしかいなくて。」

 

「だからって。」

 

「比企谷君、ゆきのんに指名されたんだよ人気投票で。

 ただでさえ、ゆきのんの相手というだけで僻まれるに決まってる。

 それなに加えて比企谷君、去年の文化祭とか修学旅行の時のこととか、いろいろあるから

 絶対またみんなから妬まれてさ、比企谷憎しってなるに決まってる。

 それを防ぐにはこれしかないんだよ。

 

 葉山君から指名されたわたしが、すごく高慢ちき、嫌な女演じてみんなからのヒンシュクを

 買うんだ。

 みんなが比企谷君のことなんて忘れるぐらいの嫌な女演じて。

 どうよ、わたしはあの葉山君に選ばれたの、あなた達と違うのよって感じで。

 こんな地味なわたしだからきっと効果は抜群。

 ぜったいみんな比企谷君のことなんか忘れてくれるから。

 お願い、さがみん。

 さがみんが口火きってわたしを非難して。

 誰かが口火を切ってくれれば、こんなの一気に燃え上がるから。

 わたし、さがみんにならなに言われても平気だから。」

 

「あんたさ、そんなことしたら比企谷絶対怒るよ。

 あいつは自分では平気でするくせに。

 もしかしたらこのことが原因であんたと比企谷。

 それでもいいの?」

 

「それでもいい。

 わたしは比企谷君が傷つくのをみるのが一番嫌なんだ。

 それに、わたしは、わたしなんか・・・・・」

 

「み、三ヶ木。

 あんた馬鹿だよ。

 なんであいつのこと、そんなに想えるの。」

 

「だって、仕方ないじゃん。」

 

「はぁ~、ほんと馬鹿。」

 

「さがみん、じゃあ。」

 

「絶対に嫌!」

 

「さ、さがみん。」

 

「あんたが比企谷が傷つくのを見るのが嫌なように、

 うちもあんたが傷つくとこなんて見たくない。

 しかもその口火をうちにやれだって、ふざけるな!」

 

「さ、さがみん。」

 

「今度、そんなこといったら引っ叩くからね。

 話はそれだけ?

 もう行くから。」

 

「いい、じゃ、何とか他の人にお願いして 」

 

”バシッ”

 

「い、いた!」

 

「やってみなよ、絶対うちが阻止してやるから。

 そんな奴いたら、うちがぶん殴ってやる。

 それでみんながあんたのことなんか忘れるぐらいの騒ぎ起こして、それで人気投票自体

 ぶっ壊してやるから。

 あんまりうちをなめないでよね。

 ・・・・・うち本気だから。」

 

「・・・・・」

 

「ね、三ヶ木、文化祭終わったらカラオケ行くよ。

 ・・・・・二人でさ。」

 

”スタスタスタ”

 

ありがと、さがみん。

で、でももうこの方法しかないんだよ。

時間ないんだよ。

じゃあ、どうしろっていうんだ、さがみん。

どうすれば彼を守れるってんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

もうこれしかない。

でもうまくいくかなぁ。

はぁ~。

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

あ、体育館、ダンス同好会のダンスでノリノリ。

みんな楽しそうに踊ってる。

やっぱミラーボール一つあるだけでも雰囲気全然違うね。

へへ、ミニダンスパーティ大成功だ。

あ、陽乃さんのバンドもスタンバってくれてる。

 

「・・・・・」

 

「ご苦労様、比企谷君。」

 

げ、やっぱご機嫌悪そ。

え、えっと比企谷君はスタンバイokっと。

みんなは準備できてるかなぁ。

えっとインカムインカムっと

 

「遅くなってごめんなさい。」

 

「三ヶ木、どこ行ってたんだ。

 大丈夫か?」

 

「ごめんね。

 稲村君、照明の準備できてる?」

 

「おう、準備OKだ。

 合図あり次第、照明落とすから。」

 

「うん。

 会長、司会の方は大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫、ちょ、ちょっと戸部先輩!」

 

「いろはす、これで話してるの?

 ちょ~格好いいじゃん

 よ、三ヶ木ちゃんだっけ、こっちは準備OKだわ~

 いつでもいいっしょ。」

 

「あ、は、はいはい。

 今日はよろしくお願いします。」

 

はは、戸部君はしゃぎすぎ。

ジャリっ娘、ちゃんと調整してね。

 

「本牧君、プロジェクター大丈夫?」

 

「OKだよ、三ヶ木さん。」

 

「書記ちゃん、葉山君とゆきのん、雪ノ下さんのスタンバイは?」

 

「大丈夫ですよ、三ヶ木先輩。」

 

「OK、会長オールクリアーです。」

 

「OK、任せてよ~、俺頑張るから」

 

「戸部先輩、いい加減に返してください。

 

 もう、みんなそれじゃ行きます、よろしくです。

 

 稲村先輩!」

 

「了解、会長。」

 

照明消えた。

よしそれじゃスポットライトを戸部君に。

 

「いえ~い

 みんなもうノリノリじゃん。」

 

戸部君、スポットいくまで待って~

スポット早く早く。

 

「それじゃこのノリに乗っかかって人気投票の発表いっちゃうからよ。

 あ、司会は俺、戸部翔 よろしく頼んます。

 それと人気投票4位ありがとさんだわー

 めっちゃうれしんよ。

 それじゃさっそく発表すっからスクリーン注目してっちょ。」

 

本牧君、打ち合わせした通りお願いね。

でもちゃんと映るかなぁ。

あ、映りそう。

 

「まずは男子の部いくっしょ。

 えっと第4位までは張り出してあっからもうわかってると思うけど、

 まだの人は後から見てくれっかな。

 俺4位だから、4位。」

 

はいはい。わかったから。

でも戸部君も人気あんだね。

男子も女子も均等に支持あったもん。

結構好かれてるんだ。

さすがトップカーストだわ~。

え、あれ?

 

「んじゃま、第3位

 ・・・・・・う、うそ。

 第3位、広川比呂紀。

 っておい、これ先生だべ、いいの?

 な、いろはす~いいのかこれ?」

 

「うっさいです、いいんです。

 続けてください。」

 

”ざわざわ”

 

やっぱまずかったかなぁ。

みんななんかどうしたらいいのって顔してる。

 

「なぁ三ヶ木、あれいいのか?」

 

「あはは、やっぱまずかったかな比企谷君。」

 

まぁ、確かに生徒だけって書いてなかったから。

だれも先生なんて書く人いないと思ったんだよ~

 

でも広川先生、人気あるんだ。

まぁ、親身になって相談乗ってくれるからね

話しやすいし、それにいつもケーキとか出してくれるし。

結構女子に人気なんだよ、放課後の喫茶”調理室”。

 

「あのケーキ美味しいからなぁ~」

 

「え、ケーキ?」

 

「あ、何でもない。」

 

うん、あのケーキおいしいから。

問題なし。

 

「そんじゃ続けて第2位の発表だわ~

 えっと、第2位は部ができていらい公式戦未勝利のあのよわちい弱小テニス部を

 見事地区大会準優勝に導いた、そう外見からは想像のできないリーダーシップの持ち主、

 3年F組 戸塚彩加!」

 

「きゃ~、戸塚く 」

 

「「せ~の、彩加ー」」

 

げ、な、なに、なぜに男子の声援が。

女子の声援がかき消された

うひゃ~、やっぱ戸塚君、男子に人気なんだわ。

投票結果もめっちゃ男子票多かったし。

 

「そんじゃ、いよいよ第1位の発表だわ。」

 

「葉山く~ん」

 

「「隼人、隼人、隼人」」

 

「ちょ、ま、まった、まだ発表してないっしょ。

 ま、まぁ、わかりきってるけどよ。

 今年のミスター総武高は、3年F組 葉山 隼人く~ん。」

 

「稲村君、照明。」

 

「了解三ヶ木。

 スポット、体育館後方の葉山をお願います。」

 

「はい。」

 

「おお、スポットライトに注目、まじ隼人君王子様の登場だわ。」

 

「「キャー、キャー」」

 

はは、やっぱ絵になるね葉山君。

やっぱ格好いい。

中央のレッドカーペットを歩く姿もマジ王子様だよ。

 

うわ~フラッシュすごい。

ロープ張っておいてよかった。

文実のみんな、押されない様踏ん張って。

 

「はいはい隼人君、大変なことになってるから早くステージに上がってくれっかなぁ。

 じゃ次は女子の部、発表すっペ。

 えっと第三位、3年F組 三浦優美子。」

 

三浦さん、下級生の票すごかったんだ。

結構面倒見いいから慕われてるんだよね。

比企谷君も”あいつはおかんだ”って言ってたし。

えっと、どこかにいるかな。

あ、いたいた。

なんか髪の毛クルクルしてなんか機嫌悪そうなんだけど。

 

「次々いくからよ、次は第2位。

 2年C組、一色いろは。

 いろはすマジすごくね。

 1位との差が10票もないじゃん。

 いろはす、2位おめでとさん。」

 

”ぼご”

 

「いたた、な、なんで?」

 

「まったく、あの飴玉探しさえなければ。

 絶対あのバカ殿が利いてるんだから。」

 

「いや、いろはすってなんか女子票が少なくない?」

 

”ぼご”

 

「戸部先輩うっさいです。」

 

「いたたた。

 い、いよいよ1位の発表、

 まぁ、もうわかってるっしょ。

 そうミス総武高は、三年連続1位、3年J組、雪ノ下雪乃。

 男子、女子満遍なく票をあつめての堂々の1位だべ。

 さあ、みんな、体育館後方を注視してくれっかな。

 

 今年のミス総武高で3年連続1位、雪ノ下ゆ・・・・・はぁ~すごく、き、綺麗しょ。

 まさに本物、本物のお姫様の登場だわ~」

 

「「おおっ!」」

 

「うわ~綺麗。」

 

「あ、写メ写メ、写メ撮らないと。」

 

へh、綺麗だな~ゆきのん。

わたしでもうっとりしちゃうよ。

はぁ~、あんなの反則だよ。

 

ん? あっ、そ、そうだ。

 

「ひ、比企谷君、そろそろステージの袖にいかないと。」

 

「あ、ああ。」

 

やっぱり比企谷君も見惚れてたんだ。

仕方ないよ、あれだけ綺麗なんだもん。

よ、よかったね比企谷君。

あ、そうそう。

 

「比企谷君、ちょっとこっち向いて。」

 

「ん?」

 

「はい、これ。」

 

”すく”

 

「え、眼鏡? 」

 

「うん、あのね、わたしの眼鏡あんまり度入ってないから大丈夫だよね。」

 

「あ、ああ。

 でもなんで眼鏡なんだ。」

 

「あのね、結衣ちゃんが前に言ってたんだ。

 比企谷君は眼鏡するとすごくカッコよかったって。」

 

「そうか。

 お前もそう思うのか?」

 

「うううん、わたしは普通の比企谷君のほうが好き。」

 

「そっか。

 じゃあ、これは要らない。」

 

「え?」

 

「まぁ、なんだ、お前はこっちのほうがいいんだろ。

 じゃ、眼鏡はいらない。」

 

「比企谷君。」

 

「じゃ、行ってくるわ。」

 

「う、うん。

 行ってらっしゃい。」

 

”スタスタスタ”

 

比企谷君、しっかりゆきのんリードしてね。

絶対、ゆきのん以外見たら駄目だよ。

できるなら耳も塞いでて。

 

「比企谷君、ステージの袖にスタンバイOKです。」

 

「了解です。」

 

バイバイ比企谷君。

さて、わたしも準備しなくちゃ

 

     ・

     ・

     ・

 

「さぁ、インタビューの後は、お待ちかねのチークダンスのお相手を指名してもらう

 しかないっしょ。

 まずはミス総武高、はぁ~近くで見るともっと綺麗だわ。」

 

「戸部先輩。」

 

「あ、ごほん。

 雪ノ下さん、ご指名聞かせてくれっかなぁ。」

 

「誰だよ。」

 

「うらやましい、あんな綺麗な女子と踊れるんだぜ。」

 

「ああ、それもチークな。」

 

「でも、きっと葉山君じゃない?」

 

「それありなの。」

 

「めっちゃお似合いじゃん。」

 

”ざわざわ”

 

「わたしは、わたしは・・・・

 3年F組の比企谷君、お願いします。」

 

「比企谷君?」

 

「誰だ、それ?」

 

「いや知らね。」

 

「あ、ほら去年の文化祭の時の。」

 

「あ~あいつ、うそ、だってあいつ修学旅行でも、なぁ。」

 

「雪ノ下さん脅されてるんじゃねぇか?」

 

”ざわざわ”

 

「え、えっと、ひ、比企谷君、出てきてくれっかな。」

 

”スタスタスタ”

 

「やっぱりあいつだ。」

 

「うへ、なんであいつなんだ。」

 

「おい、やめろ。」

 

「代われ、代われ。」

 

はは、やっぱこうなったか。

予想通り。

さ、次はわたしの出番。

頑張らなくちゃ。

 

「はは、やっぱりなんかすげえわお前。」

 

「あなたも人気者なのね。」

 

「うっせ。

 俺完全にヒールじゃねえか。」

 

「いや、やっぱヒキタニいや、比企谷君だわ~

 でもどうすんのこの雰囲気。」

 

「戸部先輩、次いかないと。」

 

「あ、そ、そうだわ

 はいみんな、葉山君に注目だっぺ!

 隼人君、チークダンスの相手教えてくれっかなぁ。

 ねぇ、誰? やっぱ優美子?」

 

「3年C組、三ヶ木美佳さん、お相手お願いします。」

 

「はっ! 葉山、お前。」

 

「何か問題あるのかい比企谷。」

 

「・・・・・」

 

「は、葉山君、あなた。」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「誰だ三ヶ木って?」

 

「お前知ってるか?」

 

「いや、知らん。」

 

「えっと確か生徒会にいなかったっけ?

 ほら眼鏡の。」

 

「え? あれは藤沢さんだろ。」

 

「えっと三ヶ木さん、ステージによろしくお願いっす。」

 

よし、行くよ。

三ヶ木美佳、レインディア改行きま~す。

 

「は~い。」

 

「「は、はぁ?」」

 

「あ、鹿ムスメ、じゃないのか?」

 

「え、あ、そうそう、鹿ムスメ。」

 

むっ、違うって。

これはトナカイ。

チッチッチッ、ちゃんと改造してきたからね、トナカイってわからせてやる。

 

「あ、なんか指振ってる。」

 

「なんか出してきたぞ。」

 

ふふふ、見て驚け。

こんな日のために準備してきたのだ。

 

「じゃじゃ~ん。」

 

見よ、赤いスポンジボールで作ったこの鼻を装着。

どうだ、どこからみてもトナカイだろ~

 

”シーン”

 

あれ、あれ、なんか雰囲気微妙。

 

「・・・・・」

 

「ね、葉山君なんであんなの選んだの?」

 

”ガヤガヤ”

 

「み、三ヶ木・・・・も、もうほんと馬鹿。

 ごめん、みんなちょっとうちに協力して。」

 

「え、どうしたの相模。」

 

「ね、あれ最近あんたと仲のいい子じゃない?」

 

「あのね、ちょっと協力して。」

 

     ・

 

やばいやばい、なんかやばい雰囲気。

ひえ、変な汗が。

ど、どうしょう。

だ、だってこれしか思いつかなかったんだもん。

 

「あははは、なに、あのかっこ、うちチョ~受けるんだけど。」

 

「そうだよ、あははは。」

 

「バッカみたい。」

 

「ね、あれ、赤いのって鼻?

 でもシカって鼻赤くないじゃん、げらげら。」

 

え、あ、さがみん。

あ、ありがと。

よ、よし!

 

「あ、なんか背中指さしてるよ。」

 

「じゃじゃ~ん」

 

「あ、背中になんか書いてある、ト・ナ・ヤ・イ。

 トナヤイだって。

 あれ、書き間違えたんだよ、あははは、うちチョ~うけんだけど。

 お、お腹痛~い。」

 

「「わっはははは」」

 

へ、うそ、間違えたの。

うんしょうんしょ、げ、見えない。

 

”ポロ、コロコロコロ”

 

あ、鼻が。

 

”ひょい”

 

「はい、三ヶ木さん。」

 

「あ、葉山君、ありがと。」

 

”ピタ”

 

「あの~、そこおでこ。」

 

「「あははははは。」」

 

”あ、ごめんごめん”

 

”ピタ”

 

「いや、そこほっぺ。」

 

「わっはははは。」

 

よ、よかった。

なんとか会場盛り上がった。

さがみん、ありがと。

それと葉山君も。

 

「まったく三ヶ木ちゃんは三ヶ木ちゃんだね。

 それじゃ、お姉さん達も始めよっか。

 みんな準備いい。

 それじゃ演奏いくよ。」

 

     ・

 

”ポン、ポロロンポン、ポンポロロン♬”

 

あっ、陽乃さん。

よかった演奏始まった。

 

「三ヶ木さん、いいかい?」

 

「あ、はい。 

 お願いします、葉山君。」

 

”にぎ”

 

はぁ、すごく自然に手と腰を。

なんかいい感じ。

やっぱ踊り慣れてるんだ葉山君。

あ、それとこれ昨日チークの練習していた時に陽乃さんが口ずさんでた曲。

 

「ポン、ポロロロン♬」

 

「ん、三ヶ木さん、口ずさん出るけどこの曲知ってるのかい?」

 

「あ、ちょ、ちょとだけ。」

 

「そう。

 それとダンス結構上手だね。」

 

「え、ほんと。

 ありがと。」

 

へへ、葉山君に褒められちゃった。

昨日、陽乃さんと練習してよかった。

 

”ぎゅっ”

 

「い、痛い。」

 

「あ、すまん雪ノ下。」

 

「大丈夫よ、気にしないで。」

 

なんか後ろのほうで比企谷君の声聞こえたけど、大丈夫かなぁ。

もう、昨日あれだけ練習したんだから頑張って。

 

”チラッ”

 

え、葉山君いま”チラッ”て。

 

”ぐぃ”

 

「あ、は、葉山君?」

 

「ん、どうかしたのかい?」

 

「あ、い、いやなんでも。」

 

いや、なんかさっきよりもくっついて。

気、気のせいかなぁ。

 

”ぎゅっ”

 

「い、痛い。」

 

「あ、す、すまん。」

 

「大丈夫、大丈夫だから。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、みなさん、この後はこのまま演奏をお楽しみください。

 陽さん、いえ雪ノ下さん、OB,OGの皆さん、演奏よろしくで~す。」

 

”スタスタスタ”

 

お、終わった。

えっとわたし達はステージの左側でよかったよね。

やっぱこの着ぐるみ、めっちゃ暑い。

それになんかゆらゆら揺れて変な気持ち。

 

「三ヶ木さん、はいポカリ。」

 

「あ、葉山君、ありがと。

 ご苦労様でした。」

 

     ・

 

「雪ノ下、すまなかった。

 足大丈夫か?」

 

「ええ、覚悟はしてたわ、足踏みが谷君。」

 

「いや、もうそれやめない?」

 

「そんなことより早く行きなさい。」

 

「はぁ? 行きなさいってどこへだ。」

 

「向こう側の控室よ。

 気になるのでしょう。」

 

「あ、いや、だが 」

 

「あら、わたしは今から着替えをしたいのだけど。

 それとも着替え見ていたいのかしら、ゲスヶ谷君。」

 

「わ、わかった。」

 

     ・

 

「葉山君、今日はありがと。

 おかげで助かった。」

 

「えっと、何のことかなぁ。」

 

「へへ、わかってる

 葉山君がわたしを選んでくれた理由。」

 

「君を選んだ理由?」

 

「葉山君は誰も選べないもん。

 だって選ばれた娘は大変だもんね。

 他の女子からの嫉妬とか嫌がらせとかされそうで。

 三浦さんならそんなの大丈夫かもしれないけど、でもそうするとグループの雰囲気が

 微妙に変わっちゃうかもしれないしさ。

 だからだね、わたしを選んだのって。

 わたしこんなんだからさ、誰も葉山君に本気で選ばれたなんて思わないし。

 生徒会だからとか何か理由をつければ納得すると思うし。

 それにもし何かあったとしても、人気投票を企画した側のそれもその張本人。

 だからわたしもね、わたしが引き受けるべきだと思った。

 それがわたしを選んでくれた理由。」

 

「はは、すごいね君は。

 なんでもわかってしまうんだね。」

 

「あとさ、ほらゆきのんとの会話聞こえてたじゃん。

 だから比企谷君を守るために、葉山君はそれも考えてわたしにチャンスを

 与えてくれたんだ。」

 

「・・・・・」

 

「ありがと。

 おかげで何とかなったと思う。

 えへへ、結局道化師になっちゃったけど。

 あ、葉山君もナイスアシスト、ありがとっす。

 ほんとはね、めっちゃいやな女演じてみんなに嫌われてやろうと思ってたの。」

 

「三ヶ木さん、それは違う。

 俺はそんな理由で君を選んだわけじゃない。

 それでは去年の比企谷と同じになるじゃないか。

 それにそんなことしたら君はきっと 」

 

「あ、う、うん。

 そんな嫌な女はもう彼の横には立てないね。

 うううん、いたらいけない。」

 

「それでも良かったのかい。

 君は比企谷のことが好きなんじゃないのか。」

 

「あ、うん、やっぱわかっちゃってた?

 でもさ、わたしなんかよりもっとお似合いな人がいるんだもん。

 くやしいよ、くやしいけどさ、わたしが認めちゃったんだ。

 だからもしそうなっても、それで比企谷君を守れるのならそれでもいいかなって。」

 

「三ヶ木さん、君って人は。」

 

”スタスタスタ”

 

「でも三ヶ木なんであんなことしたんだ。

 あれってもともと企画してたのか?」

 

”スタスタスタ”

 

「ん、あ、いた。

 お、おい、み、みか 」

 

”だき”

 

「え、は、葉山君?」

 

「・・・・・」

 

「あ、あの、あれ? は、葉山君?」

 

「すまない。

 しばらくこのままでいてくれないか。」

 

「え?」

 

どうしたの葉山君。

えっとなんで急に抱きしめて。

あれ?

 

「葉山、お前。」

 

”くる”

 

「・・・・・」

 

”タッタッタッ”

 

「君はまたそうやって。」

 

え、なに?

何か葉山君呟いた。

誰か後ろの人に向かって言ったような?

誰かいたのかなぁ。

 

「あ、あのさ、葉山君。」

 

「すまない、三ヶ木さん。」

 

”ガバッ”

 

ふう、やっと離してくれた。

え、どこ見てるの。

えっと後ろに誰かいるのかなぁ

 

”クル”

 

ん、誰もいないよね?

 

「あのさ、何でこんなんことしたの。」

 

「・・・・・」

 

「葉山君?」

 

「三ヶ木さん、前にも言ったけど俺は君が思っているようないい奴じゃない。

 ただそれだけだよ。」

 

「は、葉山君。」

 

”スタスタスタ”

 

えっと、なんだったんだ?

なんで急に葉山君わたしを抱きしめたんだ?

チークのせい?

まさかほんとにわたしのことが好きだったりして。

ないない、絶対ないって。

・・・でも、まさかね。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「またそうやって逃げるのか君は。」

 

「葉山。」

 

「比企谷、少しいいか話がある。」




最後までお付き合いありがとうございます。
お疲れ様でした。

いろいろあった文化祭編もいよい次話最後です。
文化祭最終日、さて二人の関係はどうなるのか
またとうちゃんとの関係は修復できるのか。

また次話も見に来ていただけたらありがたいです。
それではです。

※またグダグダな展開ごめんなさいです。

※※すみません、誤字修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編⑥ 告

今回も見に来ていただき、ありがとうございます。
更新、大変遅くなり申し訳ないっす。

今回、葉山ファンの方、気を悪くしたらごめんなさい。
それと、す、すみません!
思ってたより長くなって、文化祭編まだ終わらないっす。
(次話こそです。)

なんか申し訳ないことばかりですが、最後まで我慢して
読んでいただけたらありがたいです。
(あ、でも今回も2万字越え、無理なさらずお願いします。)

ではよろしくお願いします。


”ワイワイガヤガヤ”

 

遠くでリア充たちの文化祭を謳歌する賑やかな声が聞こえる。

あの場所にはいくつもの笑顔が溢れているのだろう。

斯く言う俺もさっきまであの場所のしかも中心にいたんだ。

目の前で葉山とチークを踊る三ヶ木を複雑な想いで見つめていながら。

そして今、

 

”スタスタスタ”

 

リア充の権化、葉山隼人。

俺は今こいつの後ろを歩いている。

お互いに一言も発せず。

 

『比企谷、少しいいか話がある。』

 

そう、本来ならあの笑顔の輪の中心にいるべきはずの

この男の問いかけに応じて。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

へぇ~、学校にもこんな静かなところがあったのか。

さっきまで聞こえていた賑やかな声が嘘のように、ここは静寂さに

包まれている。

普段でもあまり人の寄り付かなさそうな場所だ。

葉山はなぜこんな場所を知っているのだろう。

ここでいつもなにをしているんだ。

そんな思いが頭をよぎる。

 

”ピタ”

 

おっと、目的の場所に着いたのか?

あぶねぇ。

急に立ち止まるんじゃない!

あやうくラッキースケベになるとこだったじゃねえか。

 

「・・・・・」

 

「葉山。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

振り返った葉山は苦虫を噛みしめたような顔をして、あいかわらず

黙りこんでいる。

はっ!

俺を見つめる葉山の眼、何でこんなに悲しそうな眼をしてるんだ。

待てよ、この哀しそうな眼どこかで見たことがある。

どこだ、どこで見たことがあるんだ。

この眼を見ていると、なぜか苛立ちと怒りと・・・・・悲しみが

込み上げてくる。

この雰囲気はあまり好き時じゃない。

ここから一刻も早く立ち去りたい。

 

「・・・・・葉山、用がないなら帰るぞ。」

 

「君はなぜ逃げたんだ。」

 

「・・・・・なんのことだ。」

 

「そうやってまた誤魔化すつもりなのか。

 君は見ていたはずだ。」

 

「・・・・・」

 

「もう一度聞く。

 なぜ逃げだしたんだあの場所から。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・君が答えられないのなら、俺が代わりに言ってやろう。

 君は三ヶ木さんをその程度の存在としてしか見てこなかったんだ。」

 

「はぁっ!

 いきなり何を言ってるんだ葉山。」

 

「いろいろと聞いている。

 今まで三ヶ木さんが君のために何をしてきたのか。

 ・・・林間学校の時のこともだ。

 いろはもリーダーとしていろいろ悩んでいたからな。

 もちろん他言する気なんてない。

 そして今日も三ヶ木さんは君のために自ら道化師になることを望んだ。

 彼女はいつも君のことを思っていてくれていた。

 そんな三ヶ木さんの気持ちを知っていて、君はただ利用してきただけ

 じゃないのか。

 自分を守るため、単に利用するだけの存在として。

 だからそばに置いておき 」

 

”ぐぃ”

 

「もう一度言ってみろ葉山!」

 

「ならばあの時、なぜ君は逃げ出したんだ。」

 

「お、俺は 」

 

「君が本当に大事にしたいものなら、失いたくないと思うものなら、

 何に変えても守るはずじゃないのか。

 それこそ今じゃなく、あの時にこうやって俺に掴みかかるべき

 じゃなかったのか。

 だが、君は逃げ出した。

 つまり君にとって彼女なんて、三ヶ木美佳なんてその程度の

 存在でしかないんだ。」

 

「葉山!」

 

『比企谷君。』

 

”ピタッ”

 

三ヶ木。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・違う、違うんだよな、わかってる。

俺が本当に怒っているのは葉山に対してじゃない。

怒っているのは、葉山の問いにちゃんと反論できない俺自身に対してだろう。

なぜなら俺は。

 

「・・・・・どうしたんだ、殴らないのか。」

 

”バッ”

 

「すまん。

 ・・・・・違うんだ。」

 

「違う?」

 

そうなんだ。

控室で葉山に抱きしめられた三ヶ木を見た時、俺は認めてしまったんだ。

これでいいんだと。

 

葉山が三ヶ木と付き合いたいと思うのなら、俺は去るべきなんだ。

あいつは、三ヶ木は俺といるといつも勝手に馬鹿をして自分を傷つける。

今日だってそうだ。

俺に一言も言わず勝手にあんなことを。

俺が平気だと思うのか、目の前でお前が傷つくところ見せられて。

全ては俺がしてきたことが原因だというのに。

 

葉山は、葉山なら三ヶ木が傷つくようなことは絶対にしない。

なんだ俺はあいつが嫌いじゃないのか?

ああ、大嫌いだけど・・・・それだけは間違いない。

ちっ、くそ!

もし葉山が本当に三ヶ木のことを好きだっていうのなら、俺はきっと安心して

任せられるのだろう。

だから、

 

「葉山、もしお前が本当に三ヶ木と付き合いたいのなら、俺は  」

 

”ぐぃ”

 

「比企谷! 君はそれでいいのか。

 それが本当に君の答えなのか。」

 

「は、葉山。」

 

な、何でこいつはこんなに怒るんだ。

俺は喜んでお前なら、なのになんで?

何でお前はそんな眼で俺を睨むんだ。

その哀しそうな眼で。

俺は何か間違ってるのか?

なんだ、なにが違うんだ。

 

『あのさ、明日チーク踊ってる時は絶対ゆきのんだけ見ててね。

 他のものは絶対見ちゃだめだよ。』

 

『は? なんでだ。』

 

『い、いいから。

 あ、それと音楽以外なにも気にしちゃだめだよ。

 周りの雑音とかもさ。』

 

ち、違う。

あいつは、三ヶ木はちゃんと俺に伝えていたんだ。

なんで気が付かなかったんだ。

それに俺が雪ノ下のチークダンスの相手に選ばれた時点でどうなるのか、

それに対し三ヶ木が何をするのかって考えなくてもわかるだろう。

なのに俺は、俺はあんなに近くにいたのに気づかなかった。

なんで俺は気づいてやれなかったんだ。

 

「比企谷・・・・・・失ってしまったものは簡単には戻らないんだ。

 本当に大事だと思うのなら、それを失わない為の努力をするべきだ。」

 

「・・・・・葉山。」

 

そうだ思い出した。

お前のその眼、それは修学旅行の時に一瞬だけ俺に見せた眼だ。

俺が本当に大事だと思うもの、失いたくないと思うもの。

 

『あ、えっとね、あのね比企谷君。

 

 ・・・・・お月様がとっても綺麗ですね。』

 

そうなんだ。

俺にとってあいつは、あいつの存在は。

 

「もう一度だけ聞く。

 比企谷、本当に君の答えはそれでいいんだな。」

 

「よくねぇ。」

 

「え?」

 

「よくねぇ、よくねぇ、よくねぇ、よくねぇ、いいわけねえだろう。

 葉山! お前が本当は何を問いたかったのかわかった。

 いや、わかったと思う。

 俺は、三ヶ木とは本物の関係であり続けたいと願っている。

 あいつとなら、俺はそれができると思う。

 これが答えだ。」

 

「そうか。」

 

「そうだ。

 だが一つだけわからないことがある。

 葉山、お前はなぜこんなことをしたんだ。

 このことを問うのなら、こんなことをしなくても。

 これはお前らしくないやり方じゃねえか。

 お前ならもっと他に 」

 

「嫉妬だよ。」

 

「は、はぁ?」

 

「冗談だ。

 買い被るな。

 俺にはこの方法しか思い浮かばなかったんだ。

 ただそれだけだ。」

 

「そうか。」

 

「そうだ。

 比企谷、話はこれまでだ。

 俺はもう少しここにいたいんだが、君はどうする?」

 

「お前とは一緒にいたくねぇ。」

 

「そっか。」

 

「じゃあ行くわ。

 ・・・・・すまん葉山。」

 

「・・・・・ああ。」

 

”スタスタスタ”

 

「比企谷、君は知らないのだろう。

 挨拶運動の日、君のためにマッ缶を買っていた三ヶ木さんの幸せそうな顔を。

 出てきたマッ缶を握りしめて彼女は俺に言ったんだ、とびっきりの笑顔で。

 

 『比企谷君の分準備していなかったから、し、仕方なしだから。』

 

 比企谷、俺は知っているんだ。

 今日、君が雪乃ちゃんと楽しそうに話しているのを見つめていた時の、

 三ヶ木さんのとても哀しそうな顔を。

 そして彼女は言ったんだ、自分を慰めるように。 

 

 『比企谷君にとってわたしはただの友達。

  きっとそれ以上でもそれ以下でもないんだ。』

 

 そんな彼女が自分を貶めてさえ君を守ろうとしたんだ。

 周りの全てを敵に回すことさえ覚悟して。

 

 俺は彼女に本物を見つけた。

 遠い昔に俺ができなかったことを、三ヶ木さんは俺にやって見せてくれた。

 俺は彼女の本物を守りたい。

 比企谷、だから俺は君にちゃんと三ヶ木さんと向かい合ってほしかったんだ。

 君に気付いてほしかったんだ、失ってはいけないものを。

 彼女との本物の関係。

 それが三ヶ木さんにとって辛い結果になろうとも、彼女ならきっと

 ・・・・・受け入れるはずだ。

 三ヶ木さんはきっと本心でそれを望んでいるはずだから。

 

 ふっ、俺らしくない。

 まったく君の言う通りだな。

 ・・・・・比企谷、俺も本物がほしくなったんだ。

 雪乃ちゃんが君を選んだとき俺に生じた嫉妬の気持ち、あれは間違いなく

 本物だと思うから。

 止まってしまったままの彼女との関係をもう一度動かしてみたい。

 俺にはもうあまり時間がないんだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”パクッ”

 

「あ、あの~会長、それわたしのハニトー。」

 

「もぐもぐ。

 美佳先輩、ちゃんと正座しててください!

 それで美佳先輩は自分の身を守るために必要な措置だったと言うんですね。」

 

”パクッ”

 

「は、はい。

 だって相手はあの葉山君だから仕方なく。

 ・・・・・あ~また食べた。」

 

”パクッ”

 

「もぐもぐ。

 三ヶ木先輩はわたし達のことをいつもバカップルって言ってたんですね!」

 

「ご、ごめんなさい書記ちゃん。

 ついうらやましくて。

 ね、ね、それわたしのハニ 」

 

”パクッ”

 

「もぐもぐ。

 で、いつから準備してたんですか鹿娘。

 あの赤い鼻とか、背中の落書きとか。」

 

「今日の午後からです。

 他に方法がなくて。

 あ、あの~、クリームのところ一口だけでも。」

 

”パクッ”

 

「もぐもぐ。

 それでいつ頃からバカップルって言ってたんですか!」

 

「お、お二人がご同伴出勤され始めたころから。

 あ、あー、クリーム。

 せ、せめてパンの耳のとこだけでも。」

 

「な、なんですか同伴出勤って!

 酷いです! 」

 

”パクッ”

 

「いや~、最後の一口が。」

 

「あー美味しかった。」

 

「うん、お腹いっぱい。」

 

「う、ううう、わたしのハニトーちゃんが。」

 

「仕方ないですね、今回の件はハニトーに免じて不問にしてあげます。

 ね、書記ちゃん。」

 

「はい、許してあげます三ヶ木先輩。」

 

「・・・・・あ、ありがとごじゃいます。

  うううううう。」

 

「も、もういいんじゃない、いろはちゃん。」

 

「仕方ないですね。」

 

”がさがさ”

 

「はい、美佳先輩。」

 

「え? あ、ハニトー♡」

 

「今日一段落したらプチ女子会やろうと思って買ってきてたんですよ。

 でも美佳先輩もハニトー買ってくるからどうしょうと思ったんですけど、

 今日のことがあったから意地悪しちゃいました。」

 

「うわ~ん、ハニトーちゃん遭いたかったよ~」

 

「「大袈裟です!」」

 

”ガラガラ”

 

「会長、雪ノ下さん達がそろそろ帰られるそうです。」

 

「ひゃはろー、一色ちゃん。

 そろそろ帰るね。

 うん? おやおや今日の主役の三ヶ木ちゃん、なに正座してるのかなぁ~」

 

「あ、い、いえ、ちょっといろいろありまして。」

 

「ふ~ん?」

 

”チョン”

 

「ぐわ~、や、やめて陽乃さん、あ、足、痺れてるから触らないで。」

 

「ほほう、ほれ!」

 

”チョン、チョン”

 

「うひゃ~」

 

「あははは、じゃあね三ヶ木ちゃん。」

 

「あ、陽のん先輩、玄関まで送ります。

 ほら美佳先輩も行きますよ。」

 

「ま、まってモチっとだけ待って。」

 

「ダメです、はい立って。」

 

「い、いや、ちょ、ちょっと 」

 

”ピリピリ”

 

「ひゃ~、駄目だって~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「おー雪乃ちゃん、待っててくれたんだ。」

 

「違うわ。」

 

「またまた。」

 

「私は三ヶ木さんを待ってるの。」

 

「三ヶ木ちゃん?

 三ヶ木ちゃんなら生徒会で、まだまだ帰れそうになかったけど。」

 

「え、そ、そう?」

 

「雪乃ちゃんはなぜ三ヶ木ちゃんを待ってるのかな。」

 

「わ、私はただ。」

 

「ただ、なに?」

 

「・・・・・あや 」

 

「謝りたい?」

 

「・・・・・私は、」

 

「もしそうだとしたらやめときなさい。」

 

「え?」

 

「雪乃ちゃん、本気で人を好きになるということは知らず知らずに

 誰かを傷つけることなの。

 でもそれを覚悟できないのなら、本気で人を好きにならないこと。

 

 確かに今日のことについていうと、雪乃ちゃんは自分の願望のため、

 比企谷君に辛い思いをさせた。

 雪乃ちゃんはわかってたはずだよ、比企谷君を選んだらああなる

 ことは。

 それでも比企谷君を選んだ。

 それは雪乃ちゃんの我儘。

 

 それに対し三ヶ木ちゃんは自分の身を挺して比企谷君を守った。

 最初はヒヤヒヤしたけどね。

 それでもちゃんと守った。

 雪乃ちゃんもどこかで三ヶ木ちゃんなら何とかしてくれるって

 思っていたんじゃない?

 結果だけをいえば、どっちが比企谷君のことを想っていたかは

 明らかだよね。」

 

「わたしは、わたしはただ 」

 

「でもね雪乃ちゃん。

 お姉ちゃんはそれでいいと思うよ。

 今までの雪乃ちゃんからは大分成長したと思う。

 

 だから、誰かを傷つけたとかそんなこと気にしないで、

 もっと我儘に人を好きになりなさい。

 それこそ他には何も見えなくなるくらい猛進しなさい。

 それで雪乃ちゃんの想いが通じればそれでよし。

 もし彼が他の人を選んだとしたら、その時は思いっきり泣けばいいんだよ。

 お姉ちゃんが慰めてあげる。

 でもね、一生懸命恋したからこそ人は成長できるものなんだよ。

 想いがかなってもかなわなくても成長できるものなの。

 だからもっと我儘に恋しなさい。

 ・・・大丈夫、雪乃ちゃんには時間がいっぱいあるのだから。」

 

「・・・・・いいたいことはそれだけかしら?」

 

「ん?」

 

「随分と勝手なことをほざいてくれたようだけど。

 姉さん、姉さんは失恋なんてしたことないじゃない。

 そんな人にえらそうに言われても何も心に響かないのだけど。

 それに勘違いしてるわ。

 私が比企谷君を選んだのは・・・そ、そうボランティアよ。

 だって彼は女子となんてフォークダンスすら踊ったことがないはずだから。

 部長としてそんな部員をほっとけないじゃない。

 それが彼を選んだ理由。

 それと私が三ヶ木さんを待ってたのは誤りを正すためよ。」

 

「えっと、それは三ヶ木ちゃんがとった行動のこと?」

 

「違うわ、姉さんも気が付かなかったの?」

 

「え? えっと何に気が付かなかったっていうのかな?」

 

「トナカイの鼻は赤くないわ!

 あれはあのトナカイだけが特別で、それは恐らくしもやけだったのよ。」

 

「え、そっち?」

 

「そうよ。

 勝手に人のこと決めつけてもらいたくないわ。」 

 

「・・・ふぅ~、まぁいっか。

 そういうことにしておいてあげる。

 それじゃお姉ちゃんは帰るけど、雪乃ちゃんはどうする?」

 

「・・・・・今日は・・・・・一緒に帰ってあげてもいいわ。」

 

「ふふ、それじゃ帰ろうか。」

 

”にぎ”

 

「ね、姉さん、手を離して。」

 

「え~、いいじゃん。

 ん~、何年ぶりだっけこうやって帰るの?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガサガサ”

 

「ふ~、ここはこれで良しっと。

 もうごみ箱無かったよね。」

 

「お~い三ヶ木、体育館のごみ回収してきたぞ。」

 

「おう稲村君、ありがと。

 じゃあこれで最後だ。」

 

「さっさと片付けて帰ろうぜ。」

 

「あ、うん。

 じゃあ、ちょっと会長に連絡しておくね。」

 

”カシャカシャ”

 

「・・・・・お、おいマジか。

 とうちゃん、30分おきにラインしてくるんじゃねぇ!

 何やってんだ、し、仕事しろし。

 それになんだ、風邪ひいてないかとかご飯ちゃんと食べてるかとか、

 元気に暮らしているかって、昨日の夜だけだろうがいなかったの!

 まったく!

 ・・・・・・・・・・・・・・あのね、今日はちゃんと帰るね。」

 

”ぎゅっ”

 

「ん、どうした三ヶ木、スマホなんか抱きしめて?」

 

「い、いやなんでも。

 ちょっと待ってね、いま会長に電話するね。」

 

”ライン”

 

「げ、またとうちゃんから・・・・・そうなんだ。」

 

「ん、何かあったのか?」

 

「あ、う、うん。

 な、なんでもない。」

 

「そっか。

 あ、そうだ、明日の校内見廻りだけどどうする?

 来賓の出迎えの後は時間空いてるのか?」

 

「あ、出迎えの後はクラスの方に出ようかなって。

 11時ごろまでの当番になってたから。」

 

「確か喫茶店やるんだったな。

 それじゃ時間になったら教室に迎えに行こうか。」

 

「あ、あ、あのさ、生徒会室で待っててもらってもいい?」

 

「生徒会室?

 ああ、わかった。

 あとな、今日のあれって事前に葉山と打ち合わせしてたのか?」

 

「え?」

 

「ほらあの鼻のコント。」

 

「あ、あれ。

 あれは葉山君のアドリブだよ。

 びっくりした。」

 

「息ぴったりだったな。」

 

「そう?」

 

「でも、もう本当にやめておけ、ああいうの。」

 

「・・・・・」

 

「俺は滅茶苦茶辛かった。

 俺だけじゃない。

 会長も書記ちゃんも本牧も、それから刈宿も滅茶苦茶辛かったと思う。

 それに一番辛かったのは比企谷じゃないか。」

 

「・・・・・」

 

「あいつにも言ってなかったんだろ。」

 

「う、うん。」

 

「ちゃんと謝っておけよ。」

 

「うん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、いい風呂だった。

さてっと後はマッ缶飲んで寝るか。

ふふふ、風呂上がりにこのよく冷えたマッ缶をきゅっと。

これに勝る喜びはない!

 

『比企谷君。』

 

え? あ、あれ三ヶ木?

何でお前がここに?

いつから俺の部屋にいたんだ?

えっと今日は金曜日だよな?

 

”ダ―”

 

『比企谷君!』

 

『は、はい。』

 

”だき”

 

『あのね、好き♡』

 

い、いやちょっと待て。

何だ? 何がどうしたんだ?

 

『ね、比企谷君。』

 

『は、はい。』

 

『しよ。』

 

『は、はぁっ!』

 

いやお前そんな真剣な目でじっと見ないで。

いきなりなんてこと言うのお前。

は、はっ、そこに落ちてる本は、お持ち帰りシリーズ!の地味っ子の奴。

そ、そっか、お前あれを見て欲情して・・・・・・

 

”ごく”

 

お、落ち着け、お、俺は理性の化け物と言われた男だ。

い、一時の感情に流されてはいけない。

・・・・でもたまにはいいかな~、せ、折角・・・・

だ、だめだ、俺は三ヶ木とはちゃんと。

 

『ま、まて、落ち着け。

 いいか三ヶ木。

 い、一時の気のまよいでだなそんなことをしたら』

 

『わたしのこと嫌い?』

 

『いや、違う。

 その、なんだ、ほ、ほらいきなりだから。

 こういうのはだな、手順というのがあってだな。

 まずは 』

 

『またそうやって逃げるの?』

 

『え?』

 

『・・・また逃げ出すのかい?』

 

『な、なんのことだ? 』

 

あれ、三ヶ木声変わってない?

それになんだか身体でかくなって。

 

『・・・・・君はまたそうやって誤魔化すつもりか。』

 

『は? は、葉山!

 な、え? おま、な、なんでお前が抱き着いてんだ。』

 

”かぷっ”

 

お、おいやめろ!

耳を噛むんじゃない。

俺は、俺は耳が弱いんだ~

 

”ガバッ”

 

「うわ~」

 

は、は、は、ゆ、ゆ、夢か。

げ、なんて夢見るんだ。

よりによって葉山と抱き合う夢なんて。

・・・ぐっ、最悪だ!

葉山に耳噛まれることになるとは。

はぁ~、気のせいか耳に噛まれた感触が残っているんだが。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、三ヶ木から電話?

今何時だと思ってるんだ。

いや、待て。

あいつがこんな時間に電話をしてくるはずがない。

は、もしかしてこれも夢?

夢の続きじゃないのか。

 

”ブ~、ブ~”

 

「もしもし。」

 

「あ、夜分ごめんね。

 三ヶ木だよ。」

 

「・・・・・お前本当に三ヶ木か!」

 

「え、いや、あれ?

 その~、わたし三ヶ木のはずだけど。」

 

「嘘をつけ。」

 

「いや、嘘っていわれても。」

 

ん~、怪しい。

これはやっぱり夢じゃないのか?

話しているうちに、このスマホから葉山が出てくるんじゃねえのか。

それでまた”かぷっ”て。

い、いやだ、耳はやめてくれ~

は、そ、そうだ。

本物なら答えられるはずだ。

 

「それならスリーサイズ言ってみろ。」

 

「え?」

 

「言えないだろ。

 やっぱりお前三ヶ木じゃない!

 電話切るぞ!」

 

「い、いや、あの、えええっと上から8・・・・・・・

 おい! お前知らないだろうが、わたしのスリーサイズ!」

 

「ちっ、本物か。」

 

「ちっじゃない。」

 

「で、何の用だ三ヶ木。

 こんな時間に電話してくるんだ、よっぽど重要な用事なんだろうな。」

 

今の俺は機嫌が悪い。

くそ、これも葉山のせいだ。

そ、それと話をしてると、あの夢の中の三ヶ木の顔が頭に浮かんで。

 

『しよ。』

 

・・・・・。

 

「あ、あのさ、用はなかったんだけど。

 ちょっと声が聞きたいかなぁ~って。」

 

「用がないんだな。」

 

「あ、う、うん。

 ・・・でも用がなかったら電話しちゃいけないの。」

 

い、いや、いけなくはないのだが。

なにせ、さっきの夢がリアルで。

声を聴いてると思い出してしまって、俺のメンタルがちょっとマズイ。

はぁ~、あのまま抱きしめていたら・・・・・

な、なにを言ってんだ。

と、とにかく今は早く電話を切らないと。

 

「三ヶ木よく聞け。

 電話の存在意義というのは、遠隔地にいる者同士が必要な情報を

 送り送られることにあるんだ。

 そう、大事なのは必要な情報のやり取りだ。

 人はその情報の価値に対し対価を払うものなんだ。

 無駄な情報に対価を払うのは馬鹿げている。

 だから 」

 

「うううん、それは違うよ。

 あのね、電話っていうものは、離れている人と人の心を結びつけて

 くれるもんだよ。

 なんの取り留めのない内容の会話だとしても、大事な人と同じ時間を

 共有できるの。

 なんかつながってるって思えるの。

 それって何にも替えられないとても価値のあるものだよ。

 わたしはそう思う。

 電話は単なる情報のやり取りだけの道具じゃない。」

 

「そ、それはだな 」

 

「・・・・・・な~んちゃって、ごめんね。

 夜遅く電話かけてきて、なに言ってんだろこの馬鹿は。

 迷惑だったよね。

 今日さ、とうちゃん急な出張でいないんだ。

 いま家で一人っぼっち。

 だからちょっと小さかった頃のこと思い出して少しだけ怖くなって。

 あ、ごめんもう充電切れそうだ。

 変なんことばっかり言ってごめんなさい。

 あと、あのね・・・・・人気投票の件、勝手なことしてごめんなさいです。

 それとわたしに投票してくれてありがと。

 わたしも比企谷君に投票したよ。

 それじゃ、おやすみなさい。」

 

「あ、ああ。」

 

プー、プー、プー

 

き、切れたのか?

なんだ、電話かけてくるのならしっかり充電しろ。

会話、短かいじゃないか。

どうしよう、電話しようかなぁ。

も、もう充電終わったよな。

・・・・・はぁ~馬鹿だ、あれだけ切ろうとしてたのに。

 

三ヶ木、ごめんなさいってなに謝ってんだ。

あれは俺に原因があるだろうが。

謝るのは俺のほうだ。

明日、ちゃんと話しないとな。

電話じゃなくて、ちゃんと顔を見て。

 

ん? ちょっと待てよ。

投票って、俺は三ヶ木には投票していないんだが。

俺は葉山と雪ノ下に投票したんだけど。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「お早うございます。

 いらっしゃいませ。

 応接室までご案内します。

 三ヶ木先輩、あとお願いします。」

 

「うん、お願い書記ちゃん。」

 

”キキキー”

 

「あ、この黒塗りの車って確か。」

 

”バダン!”

 

「黒岩、じゃあ行ってくるわね。」

 

「はい、こちらでお待ちしております。

 会長、お気をつけて。」

 

「はいはい。」

 

”スタスタスタ”

 

「おばあちゃん、お早うございます。

 今年も文化祭に来てくれたんですね。」

 

「今年も楽しみでね、よさせてもらったよ。」

 

「ありがとございます。

 でもおばあちゃん、来賓さんだったんだ。」

 

「まぁそんなに大それたものじゃないよ。

 それと、孫ともよくしてくれてありがとうね。」

 

「お孫さん? 総武高に入ったんだ。

 よかったです。」

 

”パタパタパタ”

 

「後援会会長、いつもご支援ありがとうございます。」

 

「ああ、雪ノ下さん

 また選挙が近づいてきたね。

 今度も旦那出馬するのかい。」

 

「あ、はい

 またその折はどうぞよろしくお願いします。」

 

「まったく。

 そんな道楽してる場合でもなかろうに。

 まぁ、あんたがしっかりしすぎてるからかねぇ。」

 

「いえ、わたしなんぞ。

 さ、ご案内いたします。」

 

「はいはい。

 じゃあね、三ヶ木さん。」

 

「え、あ、はい、おばあちゃん。」

 

”スタスタスタ”

 

「ほぇ~、あの人って雪ノ下ママさんだよね。

 あのおばあちゃんって何者?

 なんか偉い人なのかなぁ。

 あれ、でもなんでわたしの名前知ってるの?

 んと、お孫さんて誰?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「城廻先輩、お待ちしてましたです。」

 

「おー、一色さんご招待ありがとう。」

 

「どうですか、久しぶりの母校は?」

 

「ははは、半年ぐらいしかたってないけどやっぱり懐かしいね。

 う~ん感傷的になっちゃう。

 あ、そうだ。

 一色さん、えっと美佳は生徒会室?

 いきなり行ってびっくりさせてやりたくて、今日来ること言ってないんだ。」

 

「美佳先輩はえっと確か教室だと。」

 

”ブロロロン キキ―、ドッドッドッ”

 

「うわーサイドカー。

 わたし初めて見ました。」

 

「うん、わたしもだよ。」

 

”カパッ”

 

「ふぅ~、やっぱりフルフェイスだと暑いわね。」

 

「あ、女性?

 城廻先輩、女性が運転してたみたいですね。」

 

「本当だ。

 え、あの人って・・・・・

 一色さんごめんね、ちょっと行ってくるね。

 あ、あとから生徒会室行くね。」

 

「は、はい。」

 

「すっかり変わったね。

 わたしがいたころの面影、全然ないわ。

 さてとあの子はどこだろう。

 あの馬鹿、3年C組ってことしか教えないで。

 教室にいなかったらどうするの。

 全くそういうところは、昔から全然変わらないんだから。

 えっと、どこから入ればいいんだろう?」

 

”きょろきょろ”

 

「あ、あの~、なにかお探しですか?」

 

「え、あ、3年C組の教室に行こうと思うんだけど、

 どこから入ればいいのか教えてくれる?」

 

「3年C組だったらわたしも今から行くところです。

 よかったらご案内します。」

 

「あ、ほんと?

 じゃあ、お言葉に甘えてお願いできるかしら。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ひえ~、沙希ちゃんカッコいい。

 すごく似合う。」

 

「よ、よしな三ヶ木。」

 

「だってほんとだもん。

 沙希ちゃんの執事姿、ス・テ・キ♡

 うっとりしちゃった。

 でもこれ胸どうしてんの?

 沙希ちゃんの場合、窮屈じゃない?」

 

「ああ、さらし巻いてるんだ。」

 

「へ~、どれどれ沙希ちゃ~ん。」

 

”ピタッ”

 

「あ、馬鹿、く、くっつくな。

 胸から顔どけな。」

 

「いいじゃん。

 いいなぁ、執事姿ほんと似合ってる。

 わたしも着たい。

 こんなの着てさ、ご主人様紅茶でございますとかさ。」

 

「あ、三ヶ木さんなにしてるの。

 やっぱり君がいないとダメなんだ。

 さぁ早く着替えて着替えて。」

 

「え?」

 

「ほら早くあっちに君の分準備してあるから着替えて。」

 

「え、わたしの分もあるの。

 でへへ、似合うかなぁ。」

 

     ・

 

「お~、やっぱり似合うな。」

 

「な、去年もそうだったんだぜ。」

 

「・・・・・お、おい。

 や、やっぱり、やっぱりわたしは割烹着かい!」

 

「だってな、やっぱ似合うよな。」

 

「おう、

 割烹着を来たら三ヶ木さんの右に出る人はいない。

 よ、ミス給食のおばちゃん!」

 

「え~い、うれしくないわ!

 もうやけだ。

 何でもつくってやる。

 さっさと注文とってこい、おらぁ!」

 

     ・

 

「ヒッキー、これお願い。

 2番のテーブルね。」

 

「お、おう。」

 

”テクテクテク”

 

「コーヒーお待ちどうさまっす。」

 

「ぷっ! あはははは、写真とそっくり。」

 

「あ、本当だ。

 あの、写メいいですか?」

 

「いえ、そういうのは。」

 

「何を言ってるんだ比企谷君。

 いいですよ~、遠慮しないでじゃんじゃん撮ってください。」

 

ちっ! ルーム長の野郎余計なことを。

そう、わが3年F組の出し物は変顔喫茶。

なんでも各テーブルに置かれた写真集の中で誰かをご指名して

写真を撮れるらしい。

その写真集にはクラス全員の変顔が。

だがおかしい、おかしいのだ。

なぜなら俺の写真は、自分史上最高に普通の顔写真のはずなんだが。

なぜこうも指名が多いんだ。

 

「あ、今の顔サイコー、そのまま。」

 

”カシャ”

 

「撮れた? ねぇ見せて。」

 

”きゃっきゃっ”

 

「あッははは、変な顔!」

 

「でも魔除けにはなりそうじゃない?

 う、うける―」

 

く、くっそ。

魔除けなんかになるはずがないじゃないか。

俺自身そんなご利益にあったことがない。

 

「ヒ、ヒッキーご苦労様。

 まぁ、そういうコンセントだから

 でもさすがヒッキーだね、ご指名No.2だもん。」

 

「うっせ。

 それにコンセントじゃない、コンセプトだ。」

 

「う~、よく似てんじゃん。」

 

「似てねぇ。

 お前も受験生なんだからもっと勉強しろいろいろとな。」

 

「なんだし、ちゃんといろいろ勉強してるし。

 煮っころがしも作れるようになったし。

 それとあたしヒッキーと一緒の大学行くんだからね。

 受かったらちゃんと約束守ってもらうからね。」

 

「しらん。」

 

「ひど!」

 

「葉山君! ご指名だよ。

 1番のテーブルお願いします。」

 

「了解。」

 

ふふふ、そうなんだ。

指名の数、この俺を差し置いてこいつが1位なんだ。

何だよくわかってるじゃないか。

普段イケメンのほうが不細工に見えるものだ。

ほれ、葉山お前も笑われてこい。

 

「はい、アイスコーヒーでよかったかな。

 お待ちどう様。」

 

「葉山君、変顔でもカッコいいです。」

 

「そ、そうかい?

 ありがとう。」

 

「あ、一緒に写メお願いしてもいいですか?」

 

「え、ああ、いいよ。」

 

「きゃ~、やった~」

 

「あ~、ずる~い。

 わたしも、わたしもお願いします。」

 

「えっと、それじゃ並んでくれるかなぁ。」

 

な、なぜだ。

あいつのは同じ変顔じゃないのか。

 

「葉山君、ユーモラスでとても素敵。」

 

ち、違うのか、俺のとは違うのか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、比企谷君、もう上がりなの?」

 

「え、あ、ああ。」

 

「ほんと、やった~

 あ、じゃあ、ね、ねぇ、ちょっと待っててくれる?

 急いで準備してくるからそこで待ってて。 にこ♡」

 

「お、おう。」

 

な、なに、こんな娘同じクラスにいたっけ?

結構かわいい。

一緒に文化祭回ろってお誘いか?

はぁ~、なんか俺頑張ってよかった。

 

「比企谷く~ん。」

 

「お、おう。」

 

「はい、これお願いね。」

 

「ん?」

 

「さっさとゴミ捨ててきてね。」

 

「・・・・・」

 

ま、まぁ、おれは自由人だから。

縛られるの合ってないから。

ひ、一人で文化祭回るから。

 

”スタスタスタ”

 

ん、あれは材木座。

あいつ教室の入り口に一人で何やってんだ。

は、新種のいじめ、いじめなのか?

 

「おう!」

 

「ぬほほほん、見下げ果てたぞ八幡!

 貴様ゴミ出し当番か!」

 

「お前は何してんだよ。」

 

「我はこの勝手口の衛士だ。」

 

「そっか、まぁご苦労さん。」

 

「い、いや待て。

 もう行っちゃうの?

 ね、ちょっと寄ってかない。」

 

「お前本当は客引きなのか?」

 

「馬鹿にするでない。

 我に客引きなんぞ出来るわけがなかろう。」

 

「やけにC組のほうは繁盛してるんだな。

 なにやってんだ?」

 

「聞いて驚け、見て膝跪け!

 みせてやろう、黒執事喫茶だ!」

 

「お、おお、あれはあの黒執事は川越か。

 スゲ~似合ってるじゃないか。

 バーテンダーもなかなかだったけど、

 あいつプロポーションいいからな。」

 

「ん?」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、やば、みつかった。」

 

「ひ、比企谷、い、いらっしゃいませ。」

 

「すまん、客じゃないんだ。 」

 

「そ、そうかい。」

 

「お前、すげー似合ってるな。

 この客のほとんどがお前目当てじゃねえのか?」

 

「そ、そんなことはないって。

 え、えっと三ヶ木に用事なんだろ。

 ちょっと待ってて。」

 

「い、いや、ちが 」

 

「三ヶ木ー」

 

「な~に、沙希ちゃん。

 あっ!」

 

「お、おう。」

 

「あ、あの~比企谷君。

 何か用・・・かなぁ。 」

 

”モジモジ”

 

に、似合ってる。

ふるき時代の日本のおかあちゃん。

川越とは別の意味ですごく似合ってる。

 

「あ、い、いや、お、お前もスゲ~似合ってるな。

 そ、その割烹着。」

 

「う、う、うわ~ん、馬鹿!」

 

”ダー”

 

え、あ、あれ?

 

「馬鹿、三ヶ木結構気にしてるの。

 みんなから給食のおばちゃんて言われてて。」

 

「そ、そうなのか。」

 

「まったく、あんたはデリカシーがないから。

 いいよ、あとで何とかごまかしておいてあげる。」

 

「川崎さんちょっといい?」

 

「あ、は、はい。

 じゃあね。」

 

「おう。」

 

それじゃ、俺もさっさとごみ捨ててくるか。

 

「もう行くのか八幡。」

 

「俺はお前と違って忙しい。

 ほら仕事あるから。」

 

「げふっ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ”

 

「ほい! ホットケーキできたよ。

 お願いしま~す。」

 

「はいはい。」

 

「ふぅ~、とりあえず一段落かなぁ。

 えっと、あ、もうこんな時間。

 舞ちゃん、ちゃんと誘えたかなぁ。」

 

”バッ”

 

「だ~れだ!」

 

「え、うそ、この声、めぐねぇ!」

 

「あったり。」

 

「うわ~ん、めぐねぇ。」

 

”だき”

 

「めぐねぇ、めぐねぇ、めぐねぇ、」

 

「ただいま、美佳。」

 

     ・

 

「三ヶ木遅いな。

 結構忙しいのかなぁ、クラスの方。」

 

「お待たせしました、稲村先輩♡」

 

「・・・・・いや待ってない。」

 

「な、なんすか!

 まぁいいです

 さ、見回り行きましょ?」

 

「え、あ、いや見回りは三ヶ木と。」

 

「三ヶ木先輩、急用でこれなくなったんですよ。」

 

「そ、そっか。」

 

「だからわたしが一緒に行ってあげます。」

 

「いや、一人でいく。」

 

”ぎゅ”

 

「ほら、行きますよ。」

 

「行かない。

 勝手に腕組むんじゃない。」

 

”ばっ!”

 

「あっ、もう!

 ほら腕組むと胸があたってお得ですよ。」

 

”ジー”

 

「いらない。」

 

「は、なんですか!

 いまなに見たんですか!

 だから、わたしは脱いだらすごいんですって。」

 

「はいはい。」

 

「あ、信じてないじゃないですか。」

 

「はいはい。」

 

「ああん、もう!」

 

     ・

 

「めぐねえ、はいスペシャルデラックスホットケーキ美佳スペシャルバージョン。」

 

「いや、美佳、スペシャル2回入ってるから。

 で、これ何段重ねてるの?

 5枚はあるじゃない。

 クリームもたっぷり。

 これ一人で食べるのって結構やばいと思うけど。」

 

「一緒に食べるの!」

 

「やれやれこの馬鹿妹は。

 はいはい、じゃあ食べよっか。」

 

「うん♡」

 

”スタスタスタ”

 

えっと三ヶ木まだいるかな。

なんか昨日からいろいろと悪かったからな。

もう交代できるんなら、一緒に文化祭回ってなにか奢ってやるか。

えっとどこだ?

お、いたいた。

ん、なんか食って。

あ、めぐり先輩じゃないか。

何だあいつデレデレしやがって。

はは、恋人同士みたいだな。

・・・・・仕方ない、あんな幸せそうな顔見せられたら。

さてっと、マッ缶買って屋上にでも行ってるか。

 

「あれって城廻先輩だね。」

 

「ん? 由比ヶ浜か。」

 

「さすがのヒッキーも城廻先輩には勝てないか。」

 

「なにいってんだ由比ヶ浜。」

 

「えへへ。

 さ、ヒッキー一緒に回ろ。にこ♡」

 

でた、こいつの上目使い。

やっぱりこれすごくかわいいんだけど。

これって反則だろ。

だがこいつと二人で回ると大変なことになる。

雪ノ下ほどではないが、こいつもトップカーストだからな。

すれ違うやつに殺されそうになる。

ほらこうしているだけでも何人からか睨まれてるんだが。

だから、

 

「断る!

 俺は独立心の塊だ。

 行きたいところに一人で行く。

 他人の影響は受けない。

 だからひとりで回る。」

 

「む~、またそんなこと言ってるし。

 昨日はゆきのんとチークダンス踊ったんだから、今日はあたしと文化祭回る

 義務があるの!

 ちゃんとゆきのんの了解も取ってあるんだから、ヒッキー逆らえないの。

 ほらいくよ。」

 

「な、なんだ、何の義務だ。

 それになんで雪ノ下の了解が 」

 

「いいから行くよ!」

 

”だき”

 

「お、おい離せ! 腕に抱き着くんじゃない。」

 

「いいじゃん。」

 

馬鹿、お前と腕を組むとだな・・・・・・

 

     ・

 

ううう、こいつわざとなのか、いや絶対わざとだろ。

さっきからおっぱいが、ほら俺の腕にジャブを繰り返している。

おお、ほらまた。

 

「ヒッキー、顔赤いよ熱でもあるの?」

 

「い、いや、ほ、ほら歩く度に胸がだな、俺の腕に当たって。

 ま、まぁなんだ、結構なお手前で。」

 

「あ、い、いえ、どういたしましてって。

 な、なんだし! ヒッキーのスケベ。」

 

お、おい、嫌なら腕を離しなさい。

 

”ぎゅっ”

 

いや、だからなんでさらにくっついてくるの!

 

「ふんふんふん♬」

 

「お、おい、いい加減に腕を 」

 

「ヒッキーの、ス・ケ・べ。 にか♡」

 

「お、おま 」

 

く、くそー。

なんだよこいつ、かわいい。

それにしても、めっちゃ機嫌いいのな由比ヶ浜。

ま、しばらくこのままでいいか。

 

「お、おいあれ見ろよ。」

 

「チッ、なんだあいつ。」

 

い、いや早いとこなんとかしないとやばい。

俺、無事に帰れるのか、今日。

 

「あ、ヒッキーお化け屋敷だ。

 ね、入ろ!」

 

「やめとけ、由比ヶ浜。」

 

「え、なんでし。」

 

「文化祭でああいうものはだな、大概女子にむにょむにょすることが目的なんだ。」

 

「え、むにょむにょ?」

 

「決まって壁に穴の開いているところがあってだな。

 そこを通ろうとすると、穴から手が出てくるんだ。

 それは脅かすということを隠れ蓑にして、そこを通る女子にむにょむにょ

 するのが目的なんだ。」

 

「うそ。

 ね、でもなんでヒッキー知ってるの?

 もしかしてヒッキーもやったことがあるの、むにょむにょて。」

 

「俺がそんなことをするはずがない。

 俺はされたほうだ、中学校の時に。」

 

「ヒ、ヒッキーされたんだ!」

 

そうなんだ。

あれは俺の中学での黒歴史の一つ。

いくら中が暗かったとはいえ、男子と気付け。

くそー、俺の純朴をかえせ!

 

「で、でももしかしたら違うかも。

 ほ、ほら、さすがに高校生にもなってそんなこと。」

 

「いや、絶対違わない。」

 

「いいからいってみよ。」

 

「お、おい。」

 

     ・

 

「うわ~、なんか本格的だね。

 あ、ほら生首だ。」

 

「ん、ああ、マネキンな。」

 

「きゃ、なにか首筋に。」

 

「ああ、コンニャクだ。」

 

「も、もう、ヒッキームードないじゃん。」

 

「お、ほら、あそこ見てみろ。

 あの壁にいっぱい穴が開いているだろう。」

 

「あはは、やっぱりあるんだ。

 でもどうしょう、あそこ通らないと出口にいけないよ。」

 

「ち、仕方ねぇ。

 由比ヶ浜、幸い壁に穴が開いているのは右側だけだ。

 俺が右を歩くから、その間に駆け抜けろ。

 いくぞ、それ!」

 

「う、うん。」

 

”ダー”

 

「ぐわ、や、やめろ、俺は男だ。

 おい、どこ触ってんだ男だって。」

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

「ヒッキー大丈夫?」

 

まったく男も女も見境なしなのか。

いや、絶対男と知っててやってた手があったぞ。

 

「ありがとうヒッキー。」

 

「おう。」

 

はぁ~疲れた

まぁ、由比ヶ浜に何もなくてよかったけどな。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「はい、あと四人だよ。 他に参加者いませんか~」

 

ん、なにしてんだ?

ああ今年は尻相撲大会やってるのか?

確か去年は椅子取りゲームやってたな。

今年も優勝賞品出るのか優勝賞品は。

おおっ!

これってプリキラ―のイベント限定の缶バッジ。

体操服、しかも今は珍しいブルマバージョン5点セット。

これって超レアだよな。

 

「お、おい由比ヶ浜、尻相撲でるぞ。」

 

「え、で、でも、あ、あたしも参加するの。」

 

「当たり前だ。

 見ろ、優勝賞品はプリキラ―の缶バッジだ。

 優勝する可能性は少しでも高いほうがいい。

 だが、もし俺と対戦するときは必ず負けろ。」

 

「な、どんだけだし。

 まぁヒッキーが言うなら参加するけどさ。」

 

”スタスタスタ”

 

「ん、ここは尻相撲か。

 ちょっと待て、男女混合じゃないか。

 確か事前の企画書では別々だったはずだ。」

 

「え、別にいいんじゃないですか稲村先輩、尻相撲ぐらい。

 なんなら個人的にわたしが相手してあげます。」

 

「駄目だ!

 今日は来賓の方もいらっしゃるんだ。

 こんなのは見逃せない。

 ここは男女別々でやるように注意・・・・・・・」

 

「え、どうしたんですか稲村先輩。」

 

「優勝賞品はイレギュラーヘッド限定缶バッジだと。」

 

「プリキラ―とどっちか選べるみたいですね。

 あっ、どこ行くんですか稲村先輩。」

 

「参加する。」

 

「はぁ?」

 

     ・

 

「はい、それじゃ参加者の人数そろったので、今から尻相撲大会始めます。

 大会はトーナメント方式です。

 ルールはこの円形の台から落ちたほうが負けというシンプルなものです。

 あ、でもお尻以外使ってはダメですから。

 それでは組み合わせ抽選しますから参加者の方集まってください。」

 

「おい稲村、お前も参加するのか。」

 

「当たり前だ。

 比企谷、優勝賞品は渡さんからな。」

 

「お前もあれ狙いか。

 絶対負けないからな。」

 

そ、そっか、稲村もプリキラ―狙いなのか。

知らなかった。

だがこいつの目は本気だ。

これは気を引き締めてかからないとな。

 

「「はぁ~」」

 

「ん? あ、蒔田さん。」

 

「こんちです、由比ヶ浜先輩。

 まったく男どもは馬鹿ですね。」

 

「たはは、そだね。」

 

     ・

 

「それじゃ、一回戦始めます。

 えっと座間君と、ひき・・・・・んっと。」

 

「比企谷だ。」

 

「ああ、比企谷君、台に上がってください。」

 

「ヒッキー頑張って。」

 

「おう!」

 

「よ~い、ピー!」

 

「おら!」

 

ふふふ、馬鹿め。

ゲームで鍛えた俺の尻相撲の必勝法。

相手の攻撃が伸び切ったところをめがけて、

つまり今だ!

 

”ボン!”

 

「おうぁ!」

 

”スタ”

 

「座間君場外! 比企谷君の勝ち。」

 

「ヒッキーすごい。」

 

「次は由比ヶ浜さんと松田君。」

 

「あちゃ、あたしだ。

 行ってくるね蒔田さん。」

 

「頑張ってください、由比ヶ浜先輩。」

 

「はい、それでは台に上がってください。」

 

「あの、松田さん、よろしくお願いします。」

 

「は、はい。 さすが4位かわいい。」

 

「え?」

 

「よ~い、ピー」

 

「えい!」

 

”ポン”

 

「は~、しあわせ~」

 

”スタ”

 

「松田君場外、由比ヶ浜さんの勝ち。」

 

お、おい、あれでいいのか?

でも松田って言ったけ?

あいつ幸せそうだな。

だったら、まぁいいか。

 

     ・

 

「稲村先輩、なに計算しているんですか?」

 

「よし、間違いない。」

 

「えっ?」

 

「・・・・と稲村君、台に上がってください。」

 

「あ、はい。

 蒔田、まあ見てろ。」

 

「よ~い、ピー」

 

「はっ!」

 

”ボン”

 

「うわぁ」

 

「稲村君の勝ち。」

 

「おし。」

 

「え、稲村先輩すごい。」

 

「いいか蒔田、合図とともに腰を落として下から押し上げろ。

 この角度だ、これが重要だ。」

 

”くぃ”

 

「計算したんだ。

 そのほうが勝つ可能性が高い。

 やってみろ。」

 

「え、あ、は、はい。」

 

”くぃ”

 

「蒔田角度が違う、こうだ!」

 

”くぃ”

 

「あ、は、はい。」

 

いや君たちなにしてるの

何か真剣にやっているのだが、こっちからみてると

すごくやらしいんだが。

 

”くぃ”

 

「稲村せんぱ~い、めっちゃ恥ずかしいです。」

 

     ・

 

「えっと次は、おおっ、実行委員長。

 我らが実行委員長のご参加です。

 あの~、握手してください。」

 

「え? あ、はい。」

 

”にぎ”

 

「い、委員長、一言お願いします。」

 

「あ、あの、が、頑張ります。」

 

「委員長、すべて私に任せてください。

 それでは台に上がってください。

 ほら、そこの君もさっさと上がる。

 それでは委員長いきますよ、よ~い、ピー」

 

”ボン”

 

「きゃ。」

 

”スタ”

 

「あ~負けちゃった。」

 

「ピ、ピー!

 今のはフライング、やり直し!」

 

「え、いや、ちゃんと笛がなってから。」

 

「はい、やりますよ。

 よ~い、ピー」

 

     ・

 

「きゃ。」

 

”スタ”

 

「ピ、ピー! フライング。」

 

「あの~、俺もう負けでいいです。」

 

「うし! 我らが実行委員長の勝ち。」

 

「あ、なんか、ごめんなさい。

 もうやだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい、いよいよ準決勝です。

 こっちヒキタニ。」

 

「いや違うから、比企谷。」

 

こいつやる気なさすぎだろう。

蒔田とか由比ヶ浜の時とは全然やる気違うだんだが。

 

「はい、こっち、えっと君は誰だっけ。」

 

「稲村だ。

 比企谷、ぜってぇ負けないからな。」

 

「ハイハイ、さっさと台に上がって。

 よ~い、ピッ。」

 

「いやまて、はや 」

 

”ボン”

 

「あまい比企谷、そんなんで落ちるか。

 それいまだ! この下側からの突き上げで 」

 

「あ、三ヶ木!」

 

「え?」

 

”ボン”

 

「うわぁ!」

 

”スタ”

 

「ひ、比企谷、お前卑怯だそ!」

 

「ふふふ、だまされるほうが悪いんだ稲村。」

 

許せとは言わん。

おれはあのプリキラーを手に入れるためになら

どんな手でも使うぞ。

 

     ・

 

「えぃ!」

 

”ぼよ~ん”

 

「なんの!」

 

”ぷるん”

 

「うへぇ~、いい眺めだな稲村。」

 

「そうだなぁ~、比企谷。」

 

”ぼよ~ん”

 

「ん? あ! ヒッキー、なんかいやらしい目で見てる。

 もう最低!」

 

「ちゃ~んす!」

 

”ぼん!”

 

「ひゃ~」

 

”スタ”

 

「由比ヶ浜さん場外。

 勝者、我らが実行委員長!」

 

「いいかげん蒔田って呼んで。」

 

     ・

 

「さぁ、いよいよ決勝戦です。 

 こちらは、我らが実行委員長、蒔田さん♡

 そっち誰だっけ、ああ、ヒキ何とか君。」

 

「おい!」

 

ま、まあいい。

だが問題なのはこの司会者のフライングループ。

蒔田が勝つまで延々とフライング判定を続けるつもりだ。

このループを何とかしないと。

 

「さぁ、始めますよ。

 台に上がってください。

 蒔田さん準備いいですか。」

 

「はい。」

 

「よ~い 」

 

「いや、俺は? 俺にも聞いて。」

 

「ピー」

 

「おい!」

 

「比企谷先輩覚悟、えぃ!」

 

     ・

 

「えぃ!」

 

「なんの。」

 

そろそろいいだろう。

これだけやった後なら、もうフライングループはつかえまい。

フフフ、ようやくあのプリキラ―の缶バッジが俺の手に。

さらばだ蒔田!

 

「あ、比企谷先輩、ほら三ヶ木先輩。

 三ヶ木先輩が誰かと腕組んでうれしそうに歩いてる。」

 

「ふん、甘いぞ蒔田!

 そんな手に引っかかるか!」

 

「舞ちゃん頑張って!」

 

え? あ、み、三ヶ木。

誰かと腕組んでって、あれはめぐり先輩じゃ

 

”ぼん!”

 

「うわぁ~」

 

”スタ”

 

「ヒキ何とか君場外! 勝者実行委員長蒔田さん、やったー!」

 

「やりました!

 三ヶ木先輩勝ちましたよ~、ピース!」

 

「舞ちゃんナイス!

 じゃあね・・・・・あっ、頑張ってね。

 めぐねぇ、次はたこ焼き、たこ焼き行こ。

 戸塚君たちがやってるの。

 あのね、テニスボール焼きっていって 」

 

”スタスタスタ”

 

「お、俺のプ、プリキラ―が・・・」

 

「比企谷、お前イレギュラーの缶バッチ狙いじゃなかったのか?」

 

「はぁ? なに言ってんだ稲村。

 あんな目の腐ったような奴の缶バッチなんかいらん。

 俺が狙っていたのはプリキラーに決まってるだろう。

 あれは二度と手に入らないんだ。」

 

「・・・・・・そ、そうなのか?」

 

「蒔田さんおめでとうございます。

 優勝賞品はどれにしますか?」

 

「あ、イレギュラーヘッドの缶バッジでお願います。」

 

「うううう。」

 

「ヒッキーもう泣かないの。」

 

く、くそ俺のプリキラ―が。

こんなことがあってもいいのか。

いや、あってはならない。

ならば俺の取る行動は決まっている。

 

「由比ヶ浜もう一回だ、もう一回参加するぞ!」

 

「ヒッキー、マジ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「由比ヶ浜ちょっとそこで休憩するか?」

 

ちっ、結局あのあと3回も参加しちまった。

最後なんて司会の奴、顔引きつってたなぁ。

てこずったが、わはははは! プリキラーゲットだぜ。

はぁ~、なんていい日なんだ今日は。

 

「ヒッキー、あたし喉乾いちゃった。

 何か飲まない?」

 

「お、おう。

 任せろ、何でも奢ってやる。

 まぁ~何度も付き合わせてしまってすまなかった。」

 

「うううん。

 あたしも楽しかった。

 ヒッキーめっちゃ悔しがるんだもん。

 でもよかったね、最後に缶バッジ手に入って。」

 

「いらっしゃいませ。

 こちらメニューです。」

 

「マッ缶はないのか。」

 

「あたしオレンジジュース。」

 

「じゃ俺はアイスコーヒーで。」

 

「はい、畏まりました。」

 

     ・

 

「お、これ結構うまいぞ。」

 

「ヒッキー、シロップ入れ過ぎだって。」

 

「これぐらい普通だろ。」

 

「本当? どれちょっと味見。」

 

”ごく”

 

「お、おまえ俺のアイスコーヒーにストロー突っ込むんじゃない!」

 

「別にいいじゃん。

 やっぱり甘すぎ。

 これコーヒーじゃなくて、シロップじゃん。

 シロップのコーヒー味。」

 

”ゴクゴク”

 

「うん、やっぱりシロップ。」

 

「い、いや、お前そう言いながらまだ飲むの?」

 

「へへ、早く飲まないと全部飲んじゃうよ。」

 

「おま、くそ」

 

”ゴク”

 

「ヒッキー」

 

「ん?」

 

”カシャ”

 

「お、お前なにを 」

 

「ツーショットゲットだぜ。

 なんちゃって。」

 

「お、おい、削除しろ。

 悪いこと言わん、すぐ削除しろ。

 おい何してんだ!

 待ち受けはやめろ、いや、やめてください由比ヶ浜さん。」

 

     ・

 

”カラン、カラン”

 

「ルンルンルンルン♬」

 

くそ~、うれしそうに、氷を弄びながらスマホ見てやがる。

こいつあくまでも削除しない気だな。

まずいぞ、あれがもし雪ノ下や一色・・・・・三ヶ木に見られたら

俺の心が弄ばれる。

何とかしないと。

 

「ルン、ルン、ル‥・・・・・・ン。」

 

ん、どうしたんだ?

急に表情が。

 

「どうした由比ヶ浜?

 もしかして自分の行った行為に自己嫌悪か?

 だったらさっさとスマホのデーターを削除するんだ。」

 

「削除しないし。

 ちゃんとコピーも保存したし。

 違うの、あのねヒッキー。

 最近サブレ元気がなくて、いつも寝てばっかりなんだ。」

 

「いつも寝てて、それでちゃんと三食当たるのか?

 しかも寝床付きで。」

 

「え、そ、そうだけど。」

 

「うらやましい、何たる理想の生活。」

 

「ヒッキー。」

 

「あ、いや、その、と、年じゃねえのか?

 サブローいくつだ。」

 

「サブレだし。

 えっと大体12歳ぐらいだったかなぁ。」

 

「だったら人間でいうと65歳ぐらいじゃねえか。

 まぁ、後は余生をって年だな。

 まぁ、あんまり無理させるな

 あと食事な。

 ほらシニア用のドッグフードってあるから。」

 

「え、そんなのあるんだ。

 早速買ってくるね。」

 

「お、おう。

 まあ気遣ってやってくれ。」

 

「あ、そうだ! ね、ヒッキー、今度サブレに会いに来てくれない?

 ほら、サブレってヒッキ―大好きだし。」

 

「断る。」 

 

「即答!

 い、いいのかなぁ~、ま・ち・う・け」

 

「あれ、き、君はそんな悪い子だったかなぁ~

 わ、わかった、絶対に行く。

 何があっても必ず会いに行く。

 いや~、実は今すぐにでもサブちゃんに会いたかったんだ。

 う、うれしいな~

 だから、その待ち受けを 」

 

「え、本当? 絶対だよ。

 絶対約束その②」

 

「なんだその絶対約束その②って。

 お、おい、いいから削除しろ!」

 

「えへへ、じゃあ次どこに行こうか?」

 

ぐっ!こいつ削除する気なんてまったくねぇ~

ん、今何時だ?

あ、やば。

そろそろ行かないと。

 

「ちょっと待て。

 そろそろ小町の演劇が始まる時間だ。

 俺は体育館に行くぞ。」

 

「あ、あたしも行く。

 ね、ヒッキー小町ちゃん何の演劇やるの?」

 

「たしか童女戦記とかいってたな。

 なんかいつも物騒なことを口走ってるんだが。」

 

     ・

     ・

     ・

 

な、なんだと!

た、大志の野郎、なんてことしてくれてるんだ。

 

「戦争は勝ってるうちに楽しむものだからな。

 さて諸君、不法入国者を叩き返せ!!

 行くぞ!」

 

”ぶるぶる”

 

「なんかいつもの小町ちゃんと雰囲気違うね。

 でも軍服姿の小町ちゃんもなかなかって、

 え、ヒ、ヒッキー、なんで震えてるの?」

 

「小町をおんぶだと!

 大志の野郎、許さんぞ、絶対に許さんぞ!

 小町から離れろ!」

 

「ひ、ヒッキー、落ち着いて。

 ほ、ほら、あれで空飛んでるって感じ出しているんだから。

 ワイヤーとか絶対無理だし。

 大志君、黒子役だから仕方ないじゃん。

 結構きつそうだよ。」

 

「ゆ、ゆるさん。

 小町をおんぶできる権利は、兄であるこの俺以外にありえない。

 殲滅だ殲滅してやる!」

 

「ヒッキーが主人公になってるし。

 もう、ほら。」

 

”にぎ”

 

「は、ゆ、由比ヶ浜?

 何で手を。」

 

「ヒッキー、今は演劇楽しもう。

 ねっ♡」

 

”ドキ”

 

「お、お、おう。」

 

「あ、ほら、小町ちゃんにピンスポだよ。」

 

「あ、そ、そだな。」

 

ステージでただ一人。

ピンスポを浴びて立っている小町。

わが妹ながら、すごく凛々しいではないか。

まさに天使、天使以外当てはまる言葉がない。

だ、だれだ悪魔といったのは。

 

「信じることは大切かもしれません。

 でも、思い出してください。

 希望的観測は徹底して排除しなくてはならないと。

 経験的なアプローチは常に有益です。

 でも、思い出してください。

 いつでも、貴方の失敗は、貴方に原因がある場合が多いのだと。

 気が付いた時には、もう手遅れになっていることが多々あると。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「そっか、城廻先輩が来てたのか。

 それじゃ仕方ない。

 うんうん。」

 

「なんすか、さっきから稲村先輩一人で納得して。

 仕方ない仕方ないってばっかり。

 なんかキモいです。

 それよりも、はいイレギュラーヘッドの缶バッジ。」

 

「蒔田、これ欲しかったんじゃないのか?」

 

「えっ? わたし、正直アカ俺ってあんまり知らないんですよ。」

 

「でもあんなに必死だったじゃないか?」

 

「・・・・・だって、稲村先輩が欲しそうだったから。」

 

「いや、俺もあんまりアカ俺って観てないんだ。」

 

「え?」

 

「あ、そうだ。

 俺もうすぐ本牧とステージの当番、交代しないとい行けないんだ。

 蒔田からこれ渡してやってくれないか、三ヶ木に。」

 

「あ、あの、三ヶ木先輩にですか?」

 

「三ヶ木、イレギュラーヘッド大好きだからな。

 知ってるか? あいつ市販のでは物足りないって、自分でぬいぐるみ

 作って、それリュックにつけてんだ。

 なんかあの目と包帯姿がたまらないんだってさ。

 変わってるよな。」

 

「そんなの・・・・・知らない。」

 

「え?」

 

「そんなの知らないです!」

 

「ま、蒔田?」

 

”ガシャ!”

 

「そんなバッジなんか、稲村先輩が渡せばいいじゃないですか!

 馬鹿!」

 

”ダー”

 

「お、おい蒔田。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガバッ”

 

テントに設けられた扉、いや単なるシートだが。

これをめくると・・・・雪女さん。

い、いや、そんな冷え切った眼で俺を見ないで。

な、なに、俺凍っちゃうの?

 

「ゆ、雪ノ下さん、ご苦労さまです。」

 

「ゆきのん、ごめんね遅くなっちゃって。」

 

「あら、二人でこんな時間までどこ行ってたのかしら?

 職場放棄?」

 

「たははは、ごめんごめんゆきの~ん。」

 

”ぎゅ~”

 

「くっつかないで、そんなことで誤魔化されないわ。」

 

「ゆきの~ん。」

 

「あ、暑苦しいのだけど。」

 

「いいじゃん。

 それよりさ、はいこれお土産。

 ほら、マシュマロを焼いてあるんだよ。」

 

「あら、それは普通よ。

 キャンプとかバーベキューとかでよくしていたわ。」

 

「へ~、そうなんだ。」

 

”パクッ”

 

「えへへ、とっても美味しい。

 このトロトロ感が何とも。」

 

「ええ、そうね。

 私はクラッカーではさんで食べるのが好きよ。」

 

「へ~、ね、今度女子会でやってみよ。」

 

”パクッ”

 

「そうね。」

 

「うん、楽しみ。」

 

ふ~、さすがだ由比ヶ浜。

相変わらず由比ヶ浜に抱き着かれると、すぐ氷が解けるんだな。

もし、俺が抱き着いたら・・・お、俺は永眠しちゃうよな。

さてと、俺はいつもの位置に座ってと。

 

”ガタ”

 

「で、雪ノ下、今日は相談あったのか?」

 

「ええ、一応そこのノートに相談の内容は記録してあるわ。」

 

「ん、あ、これか。

 えっと一人目は、

 ・・・・・・・おい、なんで結婚出来ないんだって、これ。」

 

「ええ。」

 

「こんなの俺たちに相談しても無理だろ。」

 

そうだ、広川先生にでも相談しろ。

まぁ三ヶ木に聞いたけど、広川先生はケーキショップ開くのが夢だって

いうから、まだしばらく結婚は無理だろうな。

 

「ええ。

 さんざん愚痴を聞かされたわ。

 でも、それで気がすんだみたい。」

 

「そ、そっか。ご苦労さん。

 で、次は・・・・・・クラスのH・HくんとH・Hくんの仲が

 なかなか進展しないの。

 どうすれば”ぐふふ”の中に進展するのでしょうかって。」

 

お、おい。

あの腐女子、なに相談してやがる。

いい加減、葉山と俺で変な妄想しないで・・・・・・

 

『は? は、葉山!

 な、え?おま、な、なんでお前が抱き着いてんだ。』

 

”かぷっ”

 

『お、おいやめろ!

 耳をかむんじゃない!』

 

ほ、ほらみろ、またあの悪夢を思い出してしまうじゃないか。

 

「・・・・・」

 

「え? ヒッキーなんで耳抑えて赤くなってるの?」

 

「い、いや、なんでもない。

 ぜ、絶対何でもないぞ!

 だ、だ、だから何でもないんだー」

 

「わ、わかったし。 

 そんな必死にならなくても。」

 

「つ、次だ。」

 

「次はないわ。

 ノートを返しなさい。」

 

「いや、なんか書いてあるぞ。

 えっと、妹の胸がなかなか大きくならないの。

 いつもチェックしてるんだけど。

 最近小さくなったような気も。

 どうしたら大きくなるでしょうか・・・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「なぁ、これって。」

 

「か、勝手にノートを奪って書いたのよ!」

 

「そ、そうなのか。

 それで、いつもチェックされてるのか?」

 

「・・・・・・い、いつもじゃないわ。

 ご、ご飯を作ってると後ろからいきなり 」

 

「ゆきのん、大丈夫、これからだよこれから。

 ほ、ほら20歳を超えてから大きくなったって人もいるって聞いたことあるから

 あ、それとマッサージ、マッサージするといいっていうから今度してあげる。」

 

マ、マッサージだと。

由比ヶ浜が雪ノ下にマッサージって。

つまり胸をあんなことやこんなことするんだよな。

 

『きゃ、やめて由比ヶ浜さん。』

 

『いいではないか、いいではないかゆきのん。』

 

『あれ~』

 

ぐふふふ。

 

「ゲスガ谷君、なにを想像してるのかしら?」

 

「ヒッキー、目が腐ってる。」

 

「あ、い、いや、な、なんでもない。

 目が腐ってるのはいつものことだ。

 それより由比ヶ浜、もしかしてお前もマッサージしたのか?」

 

「え、いや~あたしのは自然にって、ヒッキーなんかすごくうれしそうだし。」

 

「いや、大事なことだからだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ま、まあ待てって蒔田。」

 

「待ちません。

 来ないでください。」

 

”スタスタスタ”

 

「いや、なんか悪かった。

 すまん。」

 

”ピタ”

 

「稲村先輩。

 悪かったって、何が悪かったのかわかってるんですか?」

 

「あ、い、いや、その。」

 

”どさっ”

 

「ほら、稲村先輩もここ座ってください。」

 

「あ、ああ。」

 

”ちょこん”

 

「え、いや、なんで正座?

 ふ、普通でいいです、もう!」

 

”スー、ハー”

 

「稲村先輩。

 ・・・・・わ、わ、わたしは、わたしは稲村先輩のことが大好きです。」

 

「あ、あ、ありがとう。」

 

「だから、わたし稲村先輩と付き合いたい。

 わたしと付き合ってください。」

 

「・・・・・」

 

「・・・あ、あの。稲村先輩?」

 

「・・・すまん。」

 

「えっ。」

 

「俺は蒔田とは付き合えない。」

 

「なんでですか!」

 

「いや、なんでって。」

 

「稲村先輩、頑張ってる娘が好きって言ったじゃないですか!

 だからわたし文実で、稲村先輩の近くで頑張ってるところ見てもらいたくて。

 それでいっぱいいっぱい頑張って。

 頑張ってるうちにみんなと何か作り上げることが楽しくなって、

 もっともっと頑張れて。

 でもそれは稲村先輩が好きだから、もっとわたしを見てもらいたいから。」

 

「蒔田、お前よく頑張ってたと思う。

 こいつこんなに頑張り屋さんなんだって思った。」

 

「だったらなんで。」

 

「お前も知ってるだろう。

 俺は三ヶ木、三ヶ木美佳のことが好きなんだ。」

 

「だって、だって三ヶ木先輩は比企谷先輩が好きじゃないですか!

 稲村先輩のことなんか 」

 

「言うな、わかってる。

 だけどな、俺はあいつがテレビ見てゲラゲラ大笑いしてるとことか、

 会長と意見が合わなくてプンプン怒ってるとことか、

 お母さんとか妹さんのこと想いだしてメソメソ泣いているとことか、

 メッチャ機嫌良さそうに鼻唄を口ずさみながら紅茶入れてるとことか、

 

 ・・・・・比企谷のことを一途に好きなとことか。

 

 そんなの全てひっくるめて三ヶ木美佳のことが大好きなんだ。

 だからお前とは付き合えない。

 すまない。」

 

「そんなの嫌です。」

 

「嫌って蒔田。」

 

「だって稲村先輩振られるのわかってるじゃないですか!

 だったら三ヶ木先輩なんか諦めて、わたしと付き合ってくれったって

 いいじゃないですか!

 

 わた、わた、わたしも!

 稲村先輩が・・・・・・三ヶ木先輩のことが好きのままでもいいです。

 それでもいいから、わたしそんなんでもいいから、

 付き合いたい、付き合いたいんです。

 稲村先輩が大好きなんです!

 

 も、もし、天と地がひっくり返って、それに地球が反対周りに回るようになって、

 それでそれで、それこそ1000億分の1の確率で、神様の何かの間違いで、

 もし仮に、稲村先輩が三ヶ木先輩と、つ、つ、付き合いようになったら、

 そうなったら、そうなったら、わたしのことなんか捨ててくれればいいです。

 わたしそれでいいです。

 だから、わた 」

 

「できない!」

 

「な、なんで。」

 

「俺は好きな人を想いながら、他の女子と仲良くするなんてできない。

 俺は一人の人をずっと見ていたい、想っていたい、その人のこと以外

 考えたくない。

 それに、そんなの蒔田のこと馬鹿にしてるじゃないか。

 俺はお前のこと、文実を頑張って引っ張ってきたお前のことを尊敬さえ

 するけど、馬鹿になんてできない。

 だから、蒔田、お前とは付き合えない。」

 

「そ、そんなの、そんなのって。」

 

「すまない。

 俺は蒔田と出会う前に知ってしまったんだ、本当はとっても寂しがりの

 女の子のことを。

 寂しがりだから大事なもの失わないように無茶ばっかりする女の子のことを。

 俺はな、あいつのことを守りたい。」

 

「も、もういいです。

 あっち行ってください。」

 

「あ、ああ。

 蒔田、これ、この缶バッジ、やっぱり俺から三ヶ木に渡しておくわ。

 蒔田からだって。」

 

「・・・やです。」

 

「え?」

 

「いやです!

 わたしが直接渡して、そんで、そんで文句いっぱい言ってやるんです!

 だからそこに置いて、とっととどっかに行ってください。」

 

「蒔田。」

 

「いいから早くどっか行って!

 じゃないと、じゃないと、わたし、わたしは・・・・・」

 

「あ、ああ。

 それじゃまた後でな。」

 

「・・・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「ううううううう、うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん、ひっくひっく。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ヒ・マ・ダ!

相変わらず暇だ。

あれから客一人として来ないじゃないか。

ラノベ読もうとすると二人から睨まれるし。

ね、もう終わらない?

 

「あ、あの~、いいですか?」

 

「え、あ、はい、ほ、ほらお客さんだ。

 ん、だけどこの声って。」

 

「あ、ちょっとそのままテントの外で待っててくれるかしら。」

 

「はい、これヒッキーの。」

 

「やっぱりこれ着けるのか?」

 

「ええ、お互いのプライバシーを守るためよ。」

 

「だがこのマスク本当に必要なのか?

 まぁ、プリソナ5みたいなマスクで格好いいけど。」

 

「ヒッキー、ムードだよムード。

 でも、踊れカルメン! なんちゃって。」

 

「比企谷君、時には形から始めることも大事よ。」

 

「だが、由比ヶ浜、お前は特に意味ないだろう。」

 

「え、なんで?」

 

「なんでって、そのお団子・・・・・まあいいか。」

 

いや、まぁそうなんだけどな。

相談する側とされる側。

確かにプライバシーは守らないとな。

このマスクでどれだけ守れるかは知らんが。

特に由比ヶ浜。

 

「あ、あの~、入ってよろしいですか?」

 

「ええ、大丈夫よ

 そこの入り口のところに架けてあるマスクしてもらえたかしら。」

 

「マスク? あ、プリソナマスク、これプリソナ5のマスクだよね。

 かっこいい。

 踊れカルメンって。」

 

いや、かぶってるし。

さっきのこっちの人とセリフかぶってるし。

なにパンサーって人気なの?

由比ヶ浜も雪ノ下もパンサーのマスクだし。

は、ね、猫!

もしかして相談者のマスクもパンサーなのか?

 

「マスクを着けたら、中に入っていただけるかしら。」

 

「あ、はい失礼します。

 おわっ

 な、み、みんなもマスクしてるの。

 あ、イゴールだ、イゴールがいる。

 な、なに、ここはベルベットルーム?」

 

「イゴール違うわ!

 ちょ、ちょっと気にしてるんだからな。

 最近ちょっと・・・・・い、いや、だ、大丈夫だから。」

 

”ジ―”

 

「お、おい、お前ら三人どこみてる!」

 

「だって気になるもん。

 とうちゃんも最近やばくなってきたし。」

 

「う、うん、ちょっと気になるかも。」

 

「いいお医者さん紹介しようかしら。」

 

「うううう、俺捻くれるから。」

 

「まぁまぁヒッキー。

 もうそれ以上に捻くれるの無理じゃん。

 それでさ、美佳っち相談ってなぁに?」

 

「三ヶ木さん、どうぞそこに座って。」

 

「あ、うん、ゆきのん。」

 

「お、おい、お前らいきなり名前呼んでるじゃねえか!

 マスクの意味ないだろうが。」

 

「・・・・ご、ごほん。

 それで、相談って何かしら三ヶ木さん。」

 

「あ、あのね、ゆきのん。」

 

「いや、だからマスクの意味が 」




最後までありがと様です。

文化祭が予定より1話増えてしまって、
どうしょう、結衣りんとオリヒロでキャンプ行きたかったんだが。
なんかキャンプ慣れてそうだから。
でも食事はインスタントラーメンで、しかもそこでもう一人のお団子が・・・

す、すみません。
もう一人のお団子○○リンちゃんはでません。
調子にのってごめんなさい。

でもでも、どっかで結衣ちゃんとオリヒロでキャンプ行きたいなぁ~と
最近、ゆ○キャン△にはまっている今日この頃です。

は、気を取り直して。
次話、いよいよ文化祭最終話。

また読んでいただけるよう頑張ります。


※なんでもないですが、ハーメルンさん、こんな駄作でも投稿できる場を
 与えてくれてありがとうございます。
 チラシの裏、大好きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭編⑦ 宣

今回も見に来ていただきありがとうございます。

長かった文化祭編もようやく最終話っす。
オリヒロの相談とは。

また次章冬物語編に向けていろいろと。

はぁ~我ながら文才なく申し訳ないです。
読みにくいと思いますが、我慢頂ければありがたいです。

ではよろしくお願いいたします。




「三ヶ木さん、あなたのお母様を思う気持ちはわかるつもりよ。

 でもそれはお母様が望んでいることなのかしら。

 ごめんなさい、他人の私がこんなこと言うのは間違っているかもしれない。

 だけど、お母様はきっとお父様のこと許してあげると思うの。

 だからね   」

 

わたしは悪いやつだ。

ゆきのん、こんなに真剣にわたしのこと心配してくれているのに。

でもね、でもね。

わたしの目は、ゆきのんの指のパンさんに釘付け。

ごめんね。

わたしさっきから、それがそのパンさんの絆創膏がずっと気になって、

ゆきのんの言葉が耳に入らない。

ムフ、ムフフフフ、その凶悪な目、サイコー!

お主なかなかやるの~

なんちゃって・・・・・ほんとはね

どうしてもその絆創膏を見ると胸が苦しくなるんだ。

 

「・・・・・三ヶ木さん。」

 

「え、あ、はい。」

 

「ちゃんと聞いていてくれてたのかしら?

 これでも真剣にお話しているつもりなんだけど。

 もし、聞くつもりがないのなら 」

 

「あ、聞いてた、ちゃんと聞いてたよゆきのん。

 うん、あのね、ありがと。

 そ、そうだよね、かあちゃんなら絶対喜んでくれると思う。」

 

「そ、そう。

 ちゃんと聞いていたのね。

 それならいいわ。」

 

ごめんなさい。

うそです。

ちゃんと聞いていませんでした。

わたしのうそつき。

だ、だってゆきのんの目怖いんだもん。

いまの目、パンさんより怖かった。

 

「美佳っち、美佳っちのお父さんが選んだ人だよ。

 絶対にいい人に間違いないよ。」

 

「うん。」

 

ありがと結衣ちゃん。

わたしもそう思う。

きっとかあちゃんみたいに、やさしくて、清楚で、つつましくって、

そんで抱きしめられるといい匂いがするんだ。

だってとうちゃんが選んだ人なんだもん。

 

"ジー”

 

・・・・・えっと、左斜め前からすごいプレッシャーなんだけど。

 

”チラッ”

 

「ん、なんだ?」

 

「あ、う、うううん、な、なんでもない。」

 

そう、さっきからずっと訝しそうに睨まれてるんだ。

その目で見られると、なんか心の底まで見透かされているよう。

やっぱ、やっぱりやっぱ憶えてるよね。

ゆきのんと同じこと、比企谷君に言われたもんね。

そんでわたし言わなくてもいいこと言っちゃって喧嘩になって。

 

だって、いきなり街でとうちゃんがあの人といるところ見かけたから。

なんか頭ん中が混乱しちゃって。

それも二日連続だったから。

それにさ、とうちゃんに嘘つかれたんだもん。

ほんとショックで。

だからめっちゃ気が動転したんだ。

 

でも、わたしちゃんと考えたんだ。

かあちゃん、わたしに言ってくれたんだ。

 

『これからはもっともっと自分を大切にしなさい。

 自分のために、自分のやりたいことを頑張りなさい。

 お母さんも美紀も、美佳が幸せになってくれるのが一番うれしいの。』

 

だから、きっとかあちゃんなら、絶対とうちゃんが幸せになることを

喜んでくれるってわたしは確信した。

だからわたしは、わたしも頑張るつもりなんだ。

頑張らないといけないんだ。

 

”ぶるぶる”

 

でも怖い、怖くて怖くて自然と身体が震えて。

・・・・・もう戻りたくない、戻りたくないだ。

あんな思いするぐらいなら、それぐらいなら。

この大バカ者。

わたしはこんなわたしが嫌い、嫌い、嫌い、お前なんか消えてしまえ!

 

「三ヶ木さんどうしたの?

 顔色悪いけど大丈夫かしら?」

 

「あ、ごめんなさい。

 なんでもない。」

 

「そう、それなら今後のことだけど 」

 

「・・・・・あのさ、ゆきのん。

 もう大丈夫。

 うし!

 わたし頑張ってみる。」

 

「そ、そう。」

 

もういいんだ。

大事なものを守るためなら絶対できるはず。

こんなの相談することじゃない。

 

「な、なぁ、三ヶ木、お前 」

 

「それじゃ、わたし行くね。

 そろそろエンディングの準備しないといけないから。」

 

「三ヶ木さん、いつでも相談にのるわ。

 だから一人で悩まないで。」

 

「そうだよ美佳っち、一人で考えこんじゃだめだよ。」

 

「う、うん。」

 

「お、おい。」

 

”ペコ”

 

「奉仕部の皆さん、ほんとありがと。

 じゃあ。」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~、今年は林間学校行ったんだ。」

 

”ペラ”

 

「あ、奉仕部のみんなの写真もアルバムに貼ってある。

 そうか、奉仕部さん今年も駆り出されたんだ。」

 

「えっと、城廻先輩の時は行かなかったんですよね。」

 

「そうなんだよ。

 平塚先生から打診あったんだけどね、その前に生徒会役員で海に行くって

 約束してたから。

 ちょうど予定の日が重なっちゃっててね。」

 

「へぇ~、生徒会役員で海水浴に行ったんですか。」

 

「うん、そうだよ。

 みんなで文化祭ガンバローって感じでね。」

 

”ペラ”

 

「え! な、なにこれ。

 あの美佳がこんな水着着たの?

 へぇ~、あの子にしては頑張ったんだ。

 よしよし。」

 

「そうなんですよ。

 てっきりスクール水着だと思ってたのに。

 ほらこっちの写真みてください。

 横から見たらガバッて開いてて。」

 

「あははは、そうだね。

 うん、頑張った頑張った。

 成長したねあの娘。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのね一色さん。 」

 

「え? あ、はい。」

 

「ありがとう。」

 

”ペコ”

 

「え、な、なんです。

 いきなりどうしたんですか。」

 

「うううん、なんでもない。

 ちょっとね、うれしくて。」

 

「あの~城廻先輩、一つだけ聞いていいですか?」

 

「おう、一つだけだよ。」

 

「あ、あの~、それは言葉の綾で。」

 

「ふふふ、冗談だよ~

 なにかな?」

 

「城廻先輩が美佳先輩を連れてきてくれたじゃないですか。

 それって、美佳先輩をわたしの生徒会に残してくれたのって、

 やっぱりわたしが会長では頼りなさそうだったからですか?」

 

「そうだよ~

 もう心配で心配で。」

 

「ガ~ン、や、やっぱり。」

 

「あははは、ガ~ンって一色さんおもしろい。

 ごめんごめん。

 確かにちょっと心配だったけど、それは半分だけかな。」

 

「え、半分?」

 

「うん。

 あのね、後の半分は・・・・・美佳のため。」

 

「え?」

 

「あのね、あの子はとっても寂しがりやで。

 うううんちょっと違う。

 あれは寂しがってるんじゃなくて・・・怖がって。

 そう、ずっと怖がってるの。」

 

「怖がってる?」

 

「今ならもう言ってもいいか。

 でも他言しないでね。

 あのね、あの子は・・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタッ!”

 

「ん、ヒッキー?」

 

「すまん雪ノ下、俺ちょっと行ってくる。」

 

「そう、わかったわ。

 わたしもちょっと気にはなってたの。

 あの程度のこと彼女なら相談するまでもないはず。

 本当は別のなにか・・・・・

 比企谷君、お願いしてもいいかしら。」

 

「ああ、任せろ。」

 

”スタスタ”

 

「ヒッキー。」

 

「ん、なんだ?」

 

「ヒッキーは・・・・・うううん。

 ヒッキー、お願い。」

 

「行ってくる。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ~、後でもう一回、蒔田に謝ってこよう。

 もっと早いうちにちゃんと断っていれば、蒔田を傷つけずに済んだのかも。

 やっぱり俺が悪い。」

 

”とぼとぼとぼ”

 

「ん、あ、三ヶ木!

 あれ? 元気ないな。

 さっき城廻先輩とあんなに楽しそうにしてたのに。

 城廻先輩とケンカでもしたのか?

 み、」

 

「お~い三ヶ木。」

 

「はっ、比企谷!」

 

”サッ”

 

「いや、何で俺隠れてるんだ?」

 

”タッタッタッ”

 

「三ヶ木!」     

 

”とぼとぼとぼ”

 

「おい!」

 

”ぐぃ”

 

「うひゃ! あ、比企谷君。

 びっくりした~

 どうしたの? 奉仕部はいいの?」

 

「何度も呼んだんだが。

 まぁいい。

 あのな、ちょっと話がある。

 少しだけ時間いいか?」

 

「話?

 うん、いいよ。

 あ、じゃ、そこのベンチで。」

 

「いや、少し日差しきついしな。

 あの校舎の陰でいいか?」

 

「校舎の陰?

 人目に付きにくいところでなにする気?

 は、もしかして変なことするつもり?

 キ、キスするとか。」

 

「いやしないから。

 お、おいその目やめろ。

 そんな何か期待しているような目やめろ。

 な、なんもしないから。」

 

「ちっ!」

 

「おい!

 まぁいいか。

 ほら、ちょっと先行ってろ。

 あのな、ミルクティ―でいいか?」

 

「え、あ、うん。」

 

”スタスタスタ”

 

あ~びっくりした。

比企谷君、何の用なんだろう。

もしかしたら相談のことに気づいて、わざわざ追いかけてくれたのかなぁ。

まさかね。

でも、だったとしたら少しうれしいけどちょっと怖い。

だってわたしのほんとの相談のこと話ししたら、きっと幻滅されちゃう。

この臆病者って。

 

”ピタッ”

 

「ひゃ~つめたい!」

 

「ほれ、待たせた。

 ミルクティ―だ。」

 

「あ、ありがと比企谷君。

 でも。」

 

”ベシ”

 

「つめてぇ~だろうが!」

 

まったく、いきなり女子のうなじに何すんだ。

思わずゾクってしちゃっただろうが。

 

「いたたたた。

 よかった。

 元気あるみたいだな。」

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

「ふ~、やっぱり冷えたマッ缶は最高だ。」

 

「ふふふ、冬は温かいのが最高って言うくせに。」

 

”カチャ”

 

「頂きます。」

 

”ゴクゴク”

 

「ふ~、ね、ほんと今日は青空だね。」

 

「ん? ああ、そうだな。」

 

へへ、こうやってさ、校舎の壁に二人並んで寄りかかって一緒に空を見上げてるなんて、

なんかうれしい。

はっ、もしかして恋人同士に見えるかも。

でもさ、恋人同士に見てもらうには二人の距離は遠すぎる。

もちっと、近づかなくちゃ。

 

”そ~”

 

「ん?」

 

”ピタ”

 

「えへへへ。」

 

「?」

 

”そ~”

 

「んん?」

 

「いや~、いい天気だな~」

 

「??」

 

”ピタ”

 

「お、おい、近いんだが。

 いや、すでに腕と腕がくっついてるんだけど。」

 

げ、なにその嫌そうな目!

くそ、ここは結衣ちゃん直伝の上目遣いで。

こうやって、不安そうにチョット下のほうから見上げる感じでっと。

それでさ、

 

「あの~、三ヶ木さん聞こえてる?」

 

「もっと近づきたい比企谷君に。

 だめ・・・かなぁ。」

 

「うっ!

 い、い、いや、駄目ってことは・・・ないです、はい。」

 

「うん♡」

 

えへへ、やった~

めっちゃ恥ずかしかったけど良かった♡

この上目遣いさ、万が一に備えて鏡見で練習してたんだ。

とうちゃんの冷たい視線に耐えながら。

 

えへへ、ずっとずっとこうしていたいなぁ~

あ、腕を通して比企谷君のぬくもりが伝わってくる。

わたし、いま幸せ。

 

「あ、あのな三ヶ木、さっきの相談の件だが。」

 

「あ、う、うん。」

 

あ、そ、そうだよね。

このままずっとこうして青空見ていたいけど、彼がわざわざ追いかけて来てくれたのは

そのためだもんね。

ちゃんと話しないと。

 

でもそれってさ、やっぱり話さないといけなくなるよね、わたしの中にある暗く深いもの

について。

知られたら嫌われちゃうかも。

だったら、やっぱり比企谷君には知られたくない。

どうしょう。

 

「・・・・・あ、あのな 」

 

「・・・・・う、うん。」

 

「・・・・・え、えっとな。」

 

「・・・・・うん。」

 

「・・・・・あ、すまんその前にこれ返しておく。」

 

”ごそごそ”

 

ズコ!

あやうく”ズコ!”って口に出すとこだっただろ。

ま、まぁいいけどさ。

なに、なにを返してくれるの?

 

「ほれ。」

 

「え、あ、制服のボタン。

 ありがと。

 いつ取れたのかなぁって思ってたんだ。」

 

「ほら、一昨日、お前俺の部屋で服脱いだろ。

 あの時取れたんだと思うぞ。」

 

「あ、あの無理矢理脱がされたときか。

 その時にボタンが取れたんだ。

 きゃ~、比企谷君のけ・だ・も・の。」

 

「ば、ばっか!

 お、お前が自分で服脱いだんじゃんねえか。」

 

「えへへ。」

 

いや、でも実際わからないんだよ。

なんかさ、朝目覚ましたらいきなり下着姿で、しかも比企谷君のベッドで

寝てたんだもん。

たはは、今更ながらすっごく無防備。

でもさ、ほんとに服脱いだこと記憶にないんだ。

もしかしてもしかしたら比企谷君が・・・・・

そんなわけないか。

 

”ガタッ”

 

え、何の音?

 

”きょろきょろ”

 

んっと、何もないね。

何の音だったんだろう?

 

「ん、どうした三ヶ木。」

 

「あ、何でもない。」

 

「ゴホン、本題に入るが。

 あのな、今日のお前の相談だがあれでよかったのか?

 もっと違う相談があったんじゃないのか?」

 

やっぱり気付かれてた?

で、でも。

 

「え、あ、い、いや、そ、そんなことない。

 すご~く参考になったよ、ありがと。」

 

「うそつけ。

 お前、雪ノ下の話の時、ずっと別のこと考えてただろうが。

 それにあの雪ノ下の答えは既に俺がしている。」

 

「あ、う、うん。

 ・・・・・・・・・・ご、ごめんなさい。」

 

「やっぱりか。」

 

”こく”

 

「・・・・・で、本当の相談したかったことってなんだ?」

 

「・・・・・」

 

「言えないのか?」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木、お前が相談したかったのは、お母さんとお父さんのことじゃない。

 お前自身のことじゃないのか?」

 

「・・・・・あっ、う、うん。」

 

え、比企谷君、なんでわかったの?

うれしい。

なにも言わなくてもわかってくれてるんだわたしのこと。

比企谷君、相談したかったのは

 

「あのな、お前が帰った後もずっと考えていたんだ。

 なぜお前が相談に来たのかって。

 お母さんのことは、お前の中ではもう解決していたはずだ。

 進学することを選ぶことができたお前なら。

 それならわざわざ相談に来るはずがない。

 だから本当は他に相談したかったことがあるんじゃないかってな。」

 

「う、うん。」

 

「お前の相談。

 それはお前とお父さんのことだ。

 今までのお前の行動を思い返していたらすぐ思い当たった。

 お前はお父さんのことになると、決まって冷静でいられなくなる。

 ほら、進路相談の時もそうだったろ。

 お前はお父さんが大好きなんだ。

 

 そんな大好きなお父さんが再婚する。

 お前は大好きなお父さんとの関係が壊れるのが嫌だったんだ。

 お父さんが再婚したら、どうしても今の関係は維持できないからな。

 お父さんにとってお前のウエートは減らざるをえない。

 お前だけのお父さんではなくなる。

 

 だがそれだけじゃない。

 お父さんにとって血のつながりがある特別な関係はお前だけだ。

 今はな。

 だがいずれ新しい命が誕生したら、それもお前だけものじゃなくなる。

 つまり、お前はお父さんの特別な存在じゃなくなる。

 お前はそれが嫌だったんだ。

 お前の相談したいこと

 それはどうしたらお父さんとの関係を壊さなくていられるかだ。」

 

「あ、あ・・・・・・・・」

 

「だがな三ヶ木、前も言ったけど、お前はずっと一緒にお父さんといられる

 ものじゃないんだ。

 遅かれ早かれ、いずれはお前はお父さんから自立しなければいけない。

 そんなことお前もわかっていたはずだ。

 それがお父さんの再婚によって少し早まっただけだ。

 この問いの解はお前の父ばな・・・・・・・”自立”しかない。」

 

わかってるよ、そんなの、わかってる!

わたしは自立しないといけないんだ。

もうとうちゃんをわたしから解放してあげないといけないんだ。

だから違う、違うよ。

わたしの相談したかったことは違う。

そんなの、そんなのはわかってるんだ。

 

わたしは怖い、怖いんだ。

またあの暗闇の中に戻るのが。

でも、頑張ろうって、頑張ってとうちゃんのこと祝福してあげようと思ってるの。

 

”ぶるぶるぶる”

 

だけどやっぱり怖い。

 

「み、三ヶ木?

 どうした、大丈夫か?」

 

「な、なんでもない、なんでもないよ!

 そうだよね、そうなんだよね。

 わたし自立しないといけないんだ。

 一人でちゃんと生きていかないといけない。

 ちゃんとするから。

 ちゃんとできるから。」

 

「い、いや、三ヶ木?」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、会長から。

 やば! も、もう行くね。

 ほんと、エンディングの準備しないと。

 あの・・・・・心配かけてごめんね、比企谷君。

 ごめんありがと。」

 

「あ、お、おう。」

 

”タッタッタッ”

 

やっぱりわかってもらえてなかった。

当たり前だろうが。

ちゃんと言葉にしなけりゃ伝わらないって。

心配して追いかけてきてくれた。

わたしは果報者なんだ。

 

     ・

 

「ふぅ、ま、あいつなら大丈夫だろう。

 ちゃんと自立できるはずだ。」

 

「比企谷。」

 

「おわ、な、なんだ稲村、お前そこにいたのか。

 おい、今の話、聞いてたのか?

 いつからだ、どこから聞いてたんだ。」

 

「・・・・・ボタン

 いや、そんなことはどうでもいい

 お前、本当にあれが解だと思うのか?」

 

「な、なに?」

 

「自立するべきだと言うのが解だと思うのか。」

 

「ああ。

 俺はちょうどいい機会だと思う。

 それにあいつとお父さんの関係はそんな薄っぺらいものじゃないだろう。

 三ヶ木が心配す 」

 

「お前、なにも知らないんだな。」

 

「は、はぁ?」

 

「俺は比企谷ならわかっていると思ってた。

 あいつが何を相談したかったのか。」

 

「は?

 稲村、いったい何を言いたいんだ。

 あいつの相談はだな 」

 

「あ、お兄ちゃん。」

 

”タッタッタッ!

 

「お、おう小町。」

 

「お兄さんこんにちわっス。」

 

「大志、お前小町から離れろ!

 いいか、100Km以内に近くんじゃない。

 じゃないと俺がお前を殲滅してやる!」

 

”にぎ”

 

「お兄ちゃん!

 もう行こう、大志君。」

 

「う、うん。」

 

”スタスタスタ””

 

「おい、こ、小町!

 手を、手を放せ!

 く、くそ、大志の野郎。」

 

「比企谷、あれってお前の妹か?」

 

「ああ。」

 

「そっか、お前妹いたんだな。」

 

「さっきの続きだが、稲村、俺は何がわかっていないって言うんだ。」

 

「言わない。」

 

「お、おい。」

 

「お前にはわからないよ。

 あいつがお前になにを相談したかったかなんて。

 お前は三ヶ木のこと何もわかっていない。」

 

 

 

 

 

・・・・・あの林間学校からの帰り 車の中で・・・・・

 

 

 

 

 

『稲村君、あんね、お願いがあるの。』

 

『ん、なんだ?』

 

『ちょっとだけ、胸かして・・・・くれる?』

 

『ああ、こんな胸でよかったら。』

 

『ありがと。

 

 うううううううう、うわーん。』

 

”なでなで”

 

『うわーん、嫌だよ、わたし、生徒会やめたくないよ。』

 

『三ヶ木。』

 

     ・

     ・

     ・

 

『スー、スー』

 

『はぁ、寝たのか三ヶ木。

 こんなに涙流して。」

 

”なでなで”

 

『三ヶ木。』

 

”ぎゅ”

 

『寝たのか?』

 

『あ、はい。

 ひ、広川先生すみません。

 い、いま離れます。』

 

『いやいい。

 こいつの家に着くまで、そうやって抱きしめていてやってくれ。

 あ、でもそれ以上はだめだからな。

 一応、俺教師だから。』

 

『はい。』

 

『意外だな、三ヶ木、君には甘えるんだ。』

 

『え、甘える? 俺に?

 そ、そうですか。』

 

『こいつ、小さい頃はずっとひとりぼっちでな。

 学校でも・・・・・家でも。』

 

『え、で、でも家ではお父さんが。』

 

『こいつが小学校の頃は、お父さんあまり家に帰ってこなかったそうだ。

 三ヶ木はとうちゃんは仕事が忙しいからって言ってたけどな。

 お父さんは家に帰りたくなかったんじゃないかと思うんだ。

 家に帰ったら、いやでも奥さんと娘さんがいないって現実を

 感じちまうからな。

 仕事に没頭することで忘れたかったんじゃないかって、まぁ俺の勝手な

 思い込みだ。』

 

『で、でも、そんなことしたら、ずっと三ヶ木は一人であの家に。』

 

『ああ、ずっと一人でお父さんが返ってくるのを待ってたらしい。

 わたしが悪いんだってずっと自分を責めながら。』

 

『・・・・・・』

 

『小学校でもこいついじめにあっててな。

 あ、言ってなかったっけ、俺こいつの学校に教育実習にいってたんだ。』

 

『そ、そうだったんですか。』

 

『ある日、こいつが学校の校門で泣いててな。

 どうしたんだって聞いたら、靴を隠されたらしくてな。

 ずっと探してたんだが見つからないって。

 しばらく俺も探したんだが見つからなくて、俺がお父さんに話してやろうって

 いったら、泣きじゃくりながら言うんだ。

 

 ”とうちゃんに言わないで。

  靴買うためにとうちゃんもっとお仕事しちゃう。

  そしたら、とうちゃんもっと帰ってこなくなって、帰ってこなくなって。

  わたしずっと一人になっちゃうもん、もっと一人になっちゃうもん。

  うわ~ん、うわ~ん、やだよ、やだよ。

  それぐらいなら靴なんかいらない。

  ずっと裸足でいる。”

 

 まったく靴一つ買うぐらいで変わらないと思うんだがな。

 こいつにとっては必死だったんだろうな、寂しくて。

 って、お、おい稲村、泣いてるのか?』

 

『うううううう、だ、だって。

 それで、く、靴、どうしたんですか?』

 

『ああ、その後な、もう一回一緒に探し回ってやっとごみ箱から見つけたよ。

 見つけた時の三ヶ木の笑顔がすごっくかわいくてな、いまでも脳裏に

 やきついてる。

 

 ”ありがと先生。

  先生、大好き♡”

 

 はぁ~、かわいかったなぁ~。』

 

『先生、なにもしなかったでしょうね。』

 

『ば、ばっか、相手は10歳だ。

 するわけないだろう。』

 

”ジー”

 

『い、いや本当だって。

 本当に何もしてないって。』

 

『だって、広川先生ロリだって噂が。』

 

『・・・・・・』

 

『スー、スー、むにゃむにゃ。』

 

”ぎゅ”

 

『こいつ、寂しかったんだろうな。

 いや違う、きっと怖かったんだ。

 お母さんと妹さんがいなくなって、お父さんも帰ってこなくて

 ずっとあの家で一人きりで。

 すごく心細かったんだ。

 先生、俺カギっ子だったんです。

 家に帰っても誰もいなくて。

 そんなの三ヶ木と比べる全然マシなんだけど。

 それでも親が帰ってくるまで心細かった、怖かった。』

 

『そうか。

 なぁ、稲村、今回三ヶ木は生徒会やめることになったが、

 お前らはずっと友達でいてやってくれないか。』

 

『・・・・・無理です。』

 

『お、おい稲村。』

 

『・・・・・広川先生、俺はこいつを、三ヶ木を守りたい。

 友達としてじゃなく。』

 

 

 

 

 

・・・・・そして今・・・・・・

 

 

 

 

 

「比企谷、お前妹さんと仲よさそうじゃないか。」

 

「稲村、それは違うぞ。

 仲がいいんじゃない。

 おれは小町を愛している。」

 

「・・・・・お、おい。

 ちっ、まあどうでいい。

 いいか、俺は三ヶ木がどう思っていようとお前を認めない。

 お前なんかに三ヶ木の気持ちがわかってたまるか!」

 

「な、なんだと。」

 

「自立しろか。

 いいか比企谷、お前この件にもう関わるな。

 この件は俺が解決する。」

 

「稲村。」

 

「一度はお前なら仕方ないと勘違いしたが、

 やっぱりお前に三ヶ木は渡さない。」

 

「おい、ちょ 」

 

「話は終わりだ。

 俺も今からエンディングの準備あるからな。

 三ヶ木が待っている。」

 

”スタスタスタ”

 

「な、なんだ、

 なにがわかってないって言うんだ。

 この件の解は三ヶ木の自立しかありえない。

 違うのか?

 他に解があるのに俺が気がつけていないのか?

 俺が三ヶ木のこと何もわかっていない?

 何がわかっていないって言うんだ?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 わからない。

 そ、そうだ、めぐり先輩。

 めぐり先輩がいたじゃないか。

 えっとめぐり先輩に電話してっと、

 ・・・・・連絡先しらねぇ。

 えっと連作先知ってそうな人っていうと・・・・は、陽乃さんか~

 きっと昨日のチークのことなんか言われそうだよな。

 はぁ~気が重い。

 ・・・・・あっ、そうだ。」

 

”カシャカシャ”

 

「我だ。」

 

「いや、お前はえ~よ。

 まだ呼び出し音もなってないだろ。

 なにずっとスマホ見てたのか?」

 

「ぬほほん、違うぞ八幡。

 お主の我を呼ぶ声がしたのだ。

 助けて~材木座く~んという 」

 

”プー、プー”

 

「えっと他に誰かいなかったっか。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「もしもし。」

 

「なぜ切るのだ!

 ひどいではないか八幡!」

 

「うっせぇ。

 仕方ねぇ、もう一回だけチャンスをやる。

 な、材木座、お前三ヶ木と幼馴染だよな。」

 

「なんだ藪からステッキに。」

 

「き、切るぞ。

 いいから教えろ!

 お前は三ヶ木の何を知っている。」

 

「む? 三ヶ木女子に何かあったのか?

 八幡、お主が何かしたのか。

 場合によっては、我は貴様のこと抹殺する。」

 

「なにもねぇ。

 ただな、お父さんの再婚の件で三ヶ木が奉仕部に相談に来てな。

 その相談の真意を知りたい。

 そのために情報がほしい。」

 

「ふむふむ。

 よかろう、そういことであればだな、我と三ヶ木女子の恋物語を聞かせて 」

 

”プー、プー”

 

「マジ他に誰かいないか。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「はちま~ん。」

 

「いいか、もうこれで最後だ。

 これ以上、貴様の戯言に付き合ってる暇はない。」

 

「ひゃい。

 だ、だが本当に三ヶ木女子のためになるのだな。」

 

「三ヶ木のためになるかはわからん。

 兎に角情報がほしい。」

 

「ふむ、少し長くなるかもしれんが 」

 

「いや、なるべく手短に頼む。

 時間がねぇ。」

 

「ならば語ってやろう、心して聞かれい!

 初めて我と三ヶ木女子が出会ったのは、我が小学生のころに学習塾からの帰り道でだ。」

 

「お前学習塾行ってたのか?」

 

「馬鹿にするではない。

 これでもいま現に総武高にいるのだぞ。」

 

「あ、ああ、すまない。

 続けてくれ。」

 

「あの日も学習塾が終わって、そうだな夜7時は過ぎていたと思うが。 

 帰り道の公園に通りかかった時にブランコの音がしたのだ。

 こんな時間に誰がと思ってな、公園を見てみるとそこにいたのだ三ヶ木女子が。

 顔や服やズボン、髪の毛から、お腹、背中まで泥だらけになっての。」

 

「い、いじめか。」

 

「周りに泥の塊がおちていたからの。

 恐らく間違いなかろう。」

 

「そっか。」

 

「我は、我らしくないのだが、なぜか無性にほっとけなくなっての。

 気が付いたら話しかけていた。

 それが我と三ヶ木女子の出会いと始まりだ。

 それから我は学習塾のある日は、帰りに公園で話をするようになったのだ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”さらさら”

 

「最優秀地域賞っと。」

 

「ひぇ~、書記ちゃん字うま~」

 

「え~、そんなことないですよ。」

 

「ほんとだって。

 さすが書記って肩書は伊達じゃないよね。

 ね、習字習ってたの?」

 

「いえ全然です。」

 

「それでそのうまさ、いいなぁ~」

 

「み、美佳先輩、これどうですか、ほれ。」

 

な、なにジャリっ娘、書記ちゃんと張り合ってるの?

どれどれちょっと見してみそ。

・・・・・え、えっと。

 

「・・・・・あの~、会長お元気な字体で。」

 

「はぁ、綺麗じゃないですか! わたし一応習字やってたんですから。」

 

「そ、そう。

 習字を習っててこの字。」

 

「な、なんですか!」

 

「あははは。

 いろはちゃん、わたしはいろはちゃんの字好きだよ。

 ね、さっさと書いちゃおう。」

 

「うん書記ちゃん。

 わたしの字の良さは美佳先輩なんかにわかりませんよ~だ。」

 

ははは、ここは二人に任せておいてっと。

ステージの方大丈夫かなぁ。

本牧君からは特に連絡ないから大丈夫だと思うけど。

 

「はいはい。

 じゃあわたしステージの状況見てきますね。

 あ、会長、このトロフィーとかステージまで運んでおきます。」

 

「はい、お願いしますです。

 でも大丈夫ですか?」

 

「ふふふ、みよこの上腕筋を。」

 

「「おお!」」

 

い、いや、驚きすぎ。

え、そんなに太いかなぁ~

くそ、ま、いいや。

 

”スタスタスタ”

 

んと、でもめぐねぇどこ行ったんだろう。

まだ帰っていないと思うんだけど。

まぁいいや、ひと段落したら電話してみようっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ふ~、さすがにちょっと重たかったかなぁ。」

 

「そら重いだろ。

 よくここまで持ってこれた。」

 

「え? あ、稲村君。」

 

「ほらかしてみろ。」

 

「あ、う、うん。ありがと。」

 

「なぁ、まだ腕の金具取れてないんだろ。

 いつ頃取れるんだ?」

 

「あ、今月末って言ってた。」

 

「そっか。」

 

「でも、ちょっと痕残っちゃうんだ。

 水着、もう着れないや。」

 

「命があったんだ、我慢しろ。」

 

「あ、うん、わかってる。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、本牧君、舞ちゃんまだ来てないの?

 でも次の葉山君たちの演奏が最後だよね。」

 

「うん、電話してるんだけど、全然繋がらないんだ。」

 

「本牧、三ヶ木、どうしたんだ?」

 

「は! もしかして。」

 

そうだ。

舞ちゃんは今日、稲村君と一緒に見回りしてたはず。

尻相撲で一緒だったし。

もしかしてその時に何かあったんじゃ。

 

「い、稲村君、ちょっとおいで。」

 

”ぐぃ”

 

「あたたた。

 お、おい耳引っ張るな。」

 

     ・

 

「で、舞ちゃんに何したの?」

 

「え、あ、い、いや。」

 

あ、目逸らした。

なんかあったの間違いない。

あんま時間ないんだ、急がないと。

 

「今日は舞ちゃんと一緒に校内見回りしたよね。

 それに尻相撲にもいたし。

 おら、はけ!」

 

「あ、あのな、告られたんだ、蒔田に。」

 

「え?、えー!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、断ったんだ。」

 

ま、まさか舞ちゃんがそこまでやっちゃうなんて。

計算違いだ。

それに断ったって。

あんないい娘、めったにいないのに。

 

「ああ。

 あたりまえだろ。

 俺が付き合いたいのは一人だけだ。」

 

「べ、別につ、付き合うぐらいいいじゃん。」

 

「三ヶ木!」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

稲村君に怒られた。

稲村君がそんなことできるわけないもんな。

どうしょう、期限直してくれるかなぁ。

・・・いや、そんなの後回しだ。

今しないといけないことは。

 

「もう時間ない。

 舞ちゃん探さなきゃ。」

 

「俺探してくる。」

 

「う、うん、わたしも。」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、本牧君、今から稲村君と舞ちゃん探しに行ってくる。」

 

「ああ、頼んだよ三ヶ木さん。」

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・・」

 

「・・・・本当にそうするつもりなの?」

 

「は、はい。

 部長、俺このままじゃ駄目っす。

 もっと強くなりたいテニスも・・・・・男としても。

 だから決めたっす。」

 

「もう僕は部長じゃないよ。

 でもご両親は許してくれたの?」

 

「父さんは励ましてくれたっす。

 でも母さんは・・・・・」

 

「そう。

 でもちゃんとお母さんにもご了承してもらわないとね。」

 

「うっす。」

 

「僕は応援するよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「でもそのこと三ヶ木さんには言ったの?」

 

「あ、え、えっと、まだ。」

 

「お~い、戸塚君、刈宿君。」

 

「げぇ、美佳先輩。」

 

”べし”

 

「いたたた。」

 

「刈宿君! いきなり、げぇってなんだし。」

 

「あ、いや、そ、その、そういう意味じゃ。」

 

まったく。

人の顔見るなり、いきなり。

そりゃ戸塚君見てたあとじゃ仕方ないけどさ。

ん? 待てよ、いま二人なんかいい雰囲気だったね。

も、もしかして刈宿君そっちの道へ

・・・・・そんなわけないよね、た、多分。

 

「まぁまぁ。

 で、どうかしたの三ヶ木さん?」

 

「あ、そうだ

 あのね舞ちゃん見なかった?」

 

「え、見てないけどいないの?」

 

「う、ううん、なんでもない。」

 

しまった。

迂闊だった。

委員長がいないなんて話が広がったらマズイ。

ごめん、戸塚君。

 

「・・・・・そっか。

 よし刈宿君、蒔田さん探すよ。」

 

「あ、あの。」

 

「わかってる。

 他の人には気づかれない様に探すから大丈夫。」

 

「う、うん、ごめん。

 ありがと戸塚君、刈宿君。」

 

「うん。

 さ、刈宿君行くよ。」

 

「うっす。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

はぁ、はぁ、はぁ、ほんと、どこいったんだろ。

 

”ブ~、ブ~”

 

え、あ、本牧君から。

舞ちゃん見つかったのかなぁ。

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし三ヶ木だよ。

 ま、舞ちゃん見つかった?」

 

「あ、本牧です。

 うううん、まだなんだ。

 それじゃ三ヶ木さんのほうもだね。」

 

「う、うん。

 保健室とかトイレとかいろいろ探してるんだけど、どこにもいなくて。」

 

ほんとどこ行ったんだろう。

はっ、もしかして帰った?

可能性ある。

だってわたしがもし舞ちゃんだったら他の人に会いたくない。

帰っちゃったらどうしよう。

 

「わかった。

 だけど、そろそろエンディング始めないとまずい。

 後は稲村に任せて、三ヶ木さんは持ち場に戻ってくれないか?」

 

「あ、う、うん。」

 

「あ、それとこの件に関しての連絡はスマホで頼むね。

 インカムは使わないで。

 話しが広がらないようにしたいから。」

 

「あ、うん、わかってる。

 いま戻るね。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ざわざわ”

 

「いろはちゃん、これ以上待たせられないよ。」

 

「そうだよね。」

 

「会長、先に地域賞とかの発表やりましょう。

 集計結果もわかってますし。

 最悪、挨拶も会長にお願いできますか?」

 

「副会長、わたしもそう思ってました。

 それじゃ美佳先輩が照明のほうに戻ったら始めましょう。

 副会長はすぐ音響の方に戻ってください。

 あと書記ちゃん、ここでカンペお願い。

 蒔田さんが来たらすぐカンペで教えて。

 それと副会長。

 なるべく表彰式を長引かせるけど、最悪わたしが終わりの挨拶します。

 会場の雰囲気からもう駄目だと思ったら・・・書記ちゃんに指示して下さい。

 判断は副会長に任せます。 

 それじゃ各自よろしくです。」

 

「「はい。」」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、こちら三ヶ木、照明の持ち場にスタンバイしました。」

 

「了解です。

 副会長、書記ちゃん、エンディング始めましょう。」

 

「「はい。」」

 

     ・

 

「特別地域賞、ありがたくいただくね。」

 

「はい、雪ノ下先輩、バンド演奏ありがとうございました。

 えっと、ま、また来年も参加していただけますか?」

 

「一色ちゃん、それさっきも聞いたよ。

 そろそろ賞状、頂けるかなぁ。」

 

「あ、あははは。

 ・・・・・はいどうぞ。」

 

やばいなぁ、そろそろジャリっ娘も限界。

表彰式終わっちゃうよ。

舞ちゃんほんとにどこ行ったの。

まさか二年も続けてこんなことになるなんて。

 

”タッタッタッ”

 

「はぁはぁはぁ。

 み、三ヶ木、蒔田来たか?」

 

「稲村君、見つからなかったの?」

 

「だめだ、どこにもいないんだ。」

 

     ・

 

”ざわざわ”

 

「ど、どうしょう。

 も、もう表彰終わっちゃうよ。

 会場の雰囲気もなんか微妙だし。

 本当に蒔田さんどうしたのかなぁ。」

 

”ブ~、ブ~”

 

「沙和子。」

 

「あ、牧人君。」

 

「まだ蒔田さん来てないかな?」

 

「あ、う、うん。」

 

「そろそろ会場の雰囲気限界だ。

 すまない、会長への指示を頼む。」

 

「あ、う、うん、わかった。」

 

「嫌な役をさせてしまってごめんな。」 

 

「うううん、大丈夫だよ。

 牧人君の方こそ辛いよね。

 あ、あのね、今日ね一緒に帰ろ。」

 

「あ、うん。

 それじゃ生徒会室の前で。」

 

「うん。

 じゃあ、いろはちゃんに指示するね。」

 

”カキカキ”

 

「いろはちゃん、終わりの挨拶お願いしますっか。

 仕方ない、仕方ないよね。

 よ、よし。」

 

”とんとん”

 

「え?」

 

「ごめんね、藤沢さん。

 お待たせしちゃった。」

 

「ま、蒔田さん。

 大丈夫、大丈夫なの?

 目が真っ赤だよ。」

 

「あ、う、ううん、ちょっとね。

 いっぱい目にゴミが入っちゃって。

 それより、ねっ。」

 

「あ、う、うん。

 ちょっと待ってカンペ書き直すから。

 あ、それと。

 みんな聞こえてる?

 実行委員長、スタンバイOKです!

 よかった!」

 

     ・

 

「はい、それでは最後に実行委員長の挨拶です。

 実行委員長どうぞ。」

 

”スタスタスタ”

 

「蒔田さん、はいマイク。

 ね、大丈夫?」

 

「うん、ごめんね一色さん。」

 

「・・・頑張って。」

 

”スタスタスタ”

 

「じ、実行委員長の蒔田です。」

 

舞ちゃん、大丈夫かな?

まったくこの馬鹿村は。

 

”ベシ”

 

「い、いた。

 な、なんだ三ヶ木。」

 

「何でもない!」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

ま、舞ちゃん。

げ、やば!

下向いたまま黙り込んで、これって。

 

「うっ、ううっ、ううううううう、ひっく。」

 

やばいやばい、やっぱ無理だよ。

失恋したばっかりなんだもん。

挨拶なんて出来る心情じゃないって。

 

「じゃり、あ、いえ、会長。

 舞ちゃんやっぱり無理だよ。

 代わって挨拶を 」

 

「うっさいです。

 ここまで、このステージまで頑張って来たんです。

 もう少し待ってあげて下さい。」

 

「だ、だって。」

 

「うううううううう、ご、ごめんなさい。

 わたしってダメだ。

 絶対泣かないって決めて来たのに。」

 

”ざわざわ”

 

「絶対泣くもんかって思って来たのに。

 ・・・・・・・・・・あの! わたし今日振られちゃいました。」

 

「「えー!」」

 

「いま振られたって言ったの?」

 

「うそー」

 

ま、舞ちゃん、なんでそんなこと。

ほら、会場がすごくざわついて。

は、そうだ、きっとまだショックで混乱して。

 

「だ、だから、本当はここに来るの辛くて辛くて、ううううううう。

 我慢しても我慢しても勝手に涙が出てきちゃって。

 本当はここに来たくなかったんだけど、来たくなかったんだけど。

 でも文実のみんなや総武高生徒のみなさん、地域の皆さんと一緒に頑張って作り上げた

 文化祭だから、わたし一言だけでもお礼言いたくて来ました。

 

 文実のみんな、それといろんな出し物や模擬店で頑張ってくれた

 みなさん、それにOGの雪ノ下さんはじめ協力して盛り上げてくれた地域の皆さん。

 たくさん、たくさん、ありがとうございました!

 ううううう、うわ~ん。」

 

「舞ちゃん、頑張れ!」

 

「頑張れ!」

 

「だ、誰だ蒔田さんを振ったやつって。」

 

「お前知らないか」

 

「確か誰か男子と歩いているところみたけど。」

 

げ、稲村くん、ちょっとやばいかも。

二人で文化祭見回りしてたから、顔見られてるよね。

 

「あ、ありがとうございます。

 わ、わたし・・・・」

 

「舞ちゃん負けるな!」

 

「頑張って~」

 

「俺たちがついてるぞー」

 

「ぐすん。

 あ、ありがとうございます。

 

 わたし頑張って告ったんですけど、その人には好きな人がいて。

 その好きな人っていうのが、わたしの憧れの先輩で。

 その人と比べたら、今のわたしは全然歯が立たなくて。

 でもわたし負けません。

 今のわたしが全然だめなことちゃんと認めて、でも希望を捨てずに頑張ります。

 今日よりも明日、明日より明後日。

 少しづつでも近づいて、きっとわたしのほうに振り向かせて見せます。

 だから 」

 

は、この雰囲気ってもしかして舞ちゃん。

そ、それはまずいって。

 

「お、おい稲村君、

 これってちょっとやばいよ。」

 

「え?」

 

「舞ちゃん、稲村君の名前だしちゃうって。」

 

「ま、マジか。」

 

「今日はもう帰ったほうがいいかも。」

 

「だから、三ヶ木先輩、わたし負けませんからね。」

 

げ、わたし、わたしか!

何でそこでわたしの名前言うの!

 

「誰?」

 

「誰だよ三ヶ木って?」

 

「舞ちゃんよりかわいいのか?」

 

「昨日、葉山君と踊ってた人って確か 」

 

「あ、そうだ! あの鹿娘、三ヶ木っていってたぞ。」

 

やばい、やばいって。

くそ、なんてことしてくれたんだあのアマ!

げ、み、三ヶ木探しが始まったじゃん。

 

「い、稲村君、どうしよう・・・・・って、あいつ逃げやがった。」

 

     ・

     ・

     ・

 

げ、まただ。

くそ、さっきからすれ違う人、みんなサムズアップかガッツポーズしてくる。

わたしの隣を並んで歩くこの小娘に!

そうかと思うとわたしとこいつの顔見比べて、首傾げていくし。

 

”スタスタスタ”

 

え?

なんか男子近づいてきた。

 

「舞ちゃん、楽勝!」

 

う、うううう、うっさい!

もう勘弁ならんわ!

 

「あんたなんてことしてくれたんだ、もう!」

 

「え~、だってエンディング盛り上げるには女子の涙が必要じゃないですか。」

 

「だ、だったら普通にやれ、文化祭よかったですとか。」

 

「それじゃありきたりじゃないですか。

 全然面白くないです。

 ここはやっぱり傷心の美少女の涙っしょ。」

 

ぐぐぐ、た、確かに。

わたしなんかが泣いたってなんもないけど、舞ちゃんだったから。

自分で美少女って言ってるし。

まぁ確かにあのエンディング、男子の声援すごかった。

でも、でもさ!

 

「だったら、あの場合は流れからいって、稲村君だろうが。

 稲村先輩、あきらめませんとか。

 なんでわたしなんだ!」

 

「え~、だってそんなことしたら、稲村先輩に嫌われちゃうじゃないですか。

 そんなの嫌です。」

 

くそ~、こ、この小娘。

ぜ、絶対泣かしてやる。もう一回泣かしてやる。

 

「それに、わたし嘘ついてませんもん。

 ジミ子先輩はわたしの目標、憧れなんです。」

 

「え?」

 

”だき”

 

「ジミ子先輩、わたし、わたし頑張りました。

 ううううう、頑張りました!」

 

「舞ちゃん。

 う、うん、舞ちゃん頑張った。

 えらかったよ。

 さすがわたしの妹分だ。」

 

「ううう、は、はい。」

 

”なでなで”

 

うんうん、ほんとはとってもいい娘なんだ。

お姉さんは知ってるよ。

それとありがと。

わたしも頑張ってみるよ。

妹分に負けてられないからね。

頑張って、ちゃんととうちゃんの話・・・・聞かないとね。

 

「あ、ジミ子先輩、そこごみ落ちてます。」

 

「え、あ、はい。」

 

”ひょい”

 

「あ、あっちも。」

 

「はいはい。」

 

”ひょい”

 

「ジミ子先輩、ほらここにも落ちてますよ。」

 

「お、おい、お前も拾え!」

 

「う、うううううう。」

 

「あ、わかったわかった、わたし拾うから。

 お願い、泣かないで~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そうか、三ヶ木はずっといじめにあっていたんだな。」

 

「ああ、一時期収まった時もあったのだ一時期だけだったが。

 その後もまたいじめにあっていた。

 別クラスの我にも伝わるぐらいのな。」

 

「同じ・・・か」

 

「八幡、いま貴様は自分と同じと思ったのではあるまいな。」

 

「あ、そ、そうだが。」

 

「何も聞いておらなかったのだな八幡。」

 

「はぁ? いや、ちゃんと聞いていただろう。」

 

「我が三ヶ木女子と会っていたのは、いつも学習塾の帰りだといったであろう。

 それが意味するところが分からぬ貴様ではなかろう。」

 

「学習塾の帰り。」

 

「八幡、我にも貴様にも帰るべき場所があったのだ。

 待っててくれる人がいたのだ。」

 

「いやまて、三ヶ木にはお父さんが。」

 

「そんな時間に、小学生の女子が公園で一人でいるということがどういうことか、

 貴様わからぬのか。」

 

「・・・・・」

 

「八幡。」

 

「・・・そ、そうか。

 そういうことだったのか。

 すまん材木座、助かった。」

 

「八幡、もう一回だけ聞くぞ。

 この話は三ヶ木女子のためになるのだな。

 もし三ヶ木女子を傷つけることになったら、我は貴様を絶対許さない。」

 

「ざ、材木座、もしかしてお前三ヶ木のことが。」

 

「げふっ、ば、馬鹿なことを言うな!

 三ヶ木女子は我の大切なファン第1号であるからだ。

 ファンは大事にするものであろう。

 ・・・・・っで、任せていいのだな。」

 

「おう、任せろ。」

 

「ふむ、任せてやろう。

 ところで八幡、お主よかったのか?」

 

「ん、なにがだ?」

 

「もう下校の時間だが。」

 

「はぁっ! おわ、お、おい材木座!

 お前、話が長すぎだろうが!

 き、切るぞ!」

 

「うぬ、は、はち 」

 

”プー、プー”

 

「まずい、まずいぞ。」

 

”カシャカシャ”

 

「えっと、ゆ、由比ヶ浜さん、お片付けは終わられたでしょうか?」

 

「ヒッキー!

 もう、ヒッキー最低。

 ゆきのんと二人で片付けたんだからね。

 ゆきのん、体力ないから結局あたしが、もう!」

 

「す、すまん。」

 

「・・・・・それでさ、美佳っちの本当の相談ってわかった?」

 

「ああ、わかった。」

 

「よかった!

 ね、ヒッキーは助けてくれるよね。」

 

「ああ、そのつもりだ。」

 

「絶対だよ。」

 

「ああ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん~、牧人君遅いなぁ~。」

 

”タッタッタッ”

 

「え?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、しょ、書記ちゃん!」

 

「あ、はい。

 ひ、比企谷先輩、ど、どうされたんですか?」

 

「はぁ、はぁ、あ、あのな、み、三ヶ木、三ヶ木しらないか!」

 

「え、えっと、三ヶ木先輩ならちょっと前に帰りましたけど。

 今ならまだ追いつけるかも。」

 

「そ、そっか!

 ありがと書記ちゃん、愛してるぜ!」

 

”ダ―”

 

「え? え゛― 」

 

「ごめんね、遅くなった。」

 

「あわわわわ。

 ど、どうしょう牧人君。」

 

「え? 沙和子どうしたんだ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「でも馬鹿だね。

 あんなに可愛くて、明るくて、いい娘なのに。

 もう二度とないかもよこんなチャンス。」

 

「言うな。」

 

「でもまったくその気がなかったわけじゃないんでしょ。」

 

ほれほれ、白状しちまえ。

あんな娘に言い寄られたら、わたしなら、ぐふふふ。

 

「・・・お前マジで言ってるのか。」

 

「えっ。」

 

「マジで言ってるのか!」

 

「あ、・・・・・・・・・・ご、ごめんなさい。」

 

「まったくお前は。

 ・・・・・・・・・・仕方ないだろう。

 もっと素敵な、魅力的な娘がこうやって俺の目の前にいるんだから。

 地味で、可愛くなくて、馬鹿なことばっかりやって、心配ばっかりかけられるけど、

 でもとっても家庭的で、頑張り屋で。

 絶対にほっとけない女の子が。」

 

「え、あ、あの 」

 

”スタスタスタ”

 

やばいなぁ。

すっかり怒らしちゃったかな。

さっきから何も話してくれない。

なんかずっと前の方向いてて。

 

”ピタ”

 

「なぁ、三ヶ木。」

 

「あ、は、はい。」

 

「お前、今日奉仕部に行っただろ。」

 

「え、あ、う、うん。」

 

「なにか相談あったのか?」

 

「あ、あの、えっと・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「お前の相談、これが答えだ。」

 

”にぎ”

 

「え、い、稲村君?

 あの~、なんでいきなり手を握るの?」

 

”ぎゅ”

 

「三ヶ木、俺が見ててやる。

 お父さんの話、俺が一緒に聞いてやる。」

 

「・・・・・・稲村君。」

 

「お前が相談したかったこと。

 お前は怖かったんだろ、過去のトラウマに耐えられる自信がなかったんだ。

 だからもしお父さんに再婚のこと言われたとき、耐えられなくなったお前が嫌だって

 言ってしまうことが怖かったんだろ。」

 

「・・・・・あ、あ、あの」

 

「お前は大切なもの、大事なもののためなら自分を犠牲することを厭わないやつだ。

 そんなお前がお父さんの幸せを願わないわけがない。

 そりゃいきなり見かけたときはびっくりして反発しただろうがな。

 でもお前なら、きっと自分でそういう結論に至ることができる。 」

 

「・・・・・う。」

 

「それならなにを相談したかったんだって思ったんだ。

 お前は怖かったんだ。

 お前の小学生の頃のこと、俺は知ってる。

 あの一人ぼっちの世界に戻ってしまうんじゃないかってそれが怖くて。

 だからその恐怖に耐えきれなくなって、お父さんに嫌って言ってしまうのが

 怖かったんだ。」

 

「だって、だって怖かったんだよ。

 うん、小学校の時のこと怖いよ。

 いまでも時々夢に見るぐらい。

 でもそんなことより、とうちゃんの幸せを奪っちゃうことがもっともっと怖い。

 とうちゃんのことだもん、わたしが嫌って言ったら絶対再婚あきらめる。

 そうしたら、わたしの所為でまたとうちゃんの幸せ奪っちゃうんだ。

 ・・・・・ほんと、わたしなんていないほうがいいんだよ。

 いっそのこと 」

 

”だき”

 

「ちょ、ちょっと稲村君。」

 

「そんなこと言うな。

 そんなこと言うなよ、お前がいなくなったら俺どうかなっちゃうよ。」

 

「い、稲村君。」

 

「お前の相談したかったことの答え。

 お前の手、俺がずっと握っててやる。

 お前がトラウマに負けそうなときは負けない様に強く握りしめてやる。

 頑張れって。

 だから、安心してお父さんと話しろ。」

 

「で、でも稲村君。

 ・・・・・稲村君は他人だから、とうちゃん稲村君がいる時にその話はしないよ。」

 

「他人でなくなりゃいいんだろ。」

 

「はぁ?」

 

「あのな三ヶ木。

 もしお父さんが再婚して、それでお前があの家にいる場所がなくなったと感じたら

 ・・・・・・俺と一緒に住まないか。」

 

「お、おい!

 な、なに言ってんだかわかってるの!

 い、い、一緒に住むってことはだな、あんなことや、こんなこととか。

 と、とにかく馬鹿!」

 

「わかってるさ、一緒に住むってことの意味。

 その覚悟はしている、いやそうなりたいと願っている。

 俺は大学受かったら一人暮らしするつもりだ。

 だからもしお父さんが再婚の話をする前に、その前に俺がお父さんにそのこと

 話をするつもりだ。」

 

「い、稲村君。」

 

「だから、ほら行くぞ!」

 

「い! ちょ、ちょっと待って、待ってって。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、け、結局、三ヶ木の家にまで着いちゃったじゃねえか。

 くそ、材木座との話しでスマホの充電なくならなければ。

 途中で追い越していないだろうな。」

 

”タッタッタッ”

 

「確かこの角を曲がるとアパートが・・・・・・

 はぁ! 稲村。

 なんで稲村が三ヶ木と一緒に家の中に入って 」

 

     ・

 

”ガチャ”

 

「た、た、ただいま。」

 

”ダッダッダッ”

 

「お、み、美佳~、おかえり♡」

 

”ギュ~”

 

「ぐはぁ、や、やめろ、とうちゃん離せ。

 ぐるじー、髭いてー」

 

「し、心配してたんだぞ。

 ほ、ほら、早く中に入れ。

 今日は奮発してお肉買って来たんだ。

 めっちゃ高いお肉!

 今日はすき焼きだぞ。」

 

「うそ、とうちゃんが晩ご飯作ってくれたの?」

 

「え! あ、い、いや、作るのは美佳ちゃん。」

 

「お、おい・・・・まったく。

 ほらほら、準備するから離して。

 稲村君も呆れてるじゃんか。」

 

「え、あ、お前いたの?」

 

「・・・・す、すみません。」

 

「冗談だ、ほら折角来たんだ晩ご飯食べていけ。

 すき焼きだぞすき焼き。

 美佳の料理、すき焼きだけは美味しいぞ。」

 

「何でも美味しいわ!

 まったくこの馬鹿親父。

 ほら稲村君、遠慮しないで中入って。」

 

「そうだ。

 家の中に入るのは遠慮しなくていいぞ。

 お肉だけは遠慮しろ。

 高かったんだから。」

 

「は、はい。」

 

「とうちゃん!」

 

     ・

 

”うろうろ”

 

「は~、やっぱり家には入れないよな。

 くそ、電話さえできれば。

 稲村の奴、何話してんだ。

 さっさと出てこい。」

 

「君、こんなところでなにしてるんだね。

 ちょっと来なさい。」

 

「へ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぐつぐつぐつ”

 

これでよしっと。

へへ、いい匂い。

へー、ほんと高いお肉買ってきたんだ。

やっぱりなんか違うね、とっても美味しそう。

よし、そろそろ豆腐にも味染みたぞっと。

 

「お待たせ、できたよ。

 とうちゃん、ビールそれとも麦茶?」

 

「んっとまずは麦茶。」

 

「いま取ってくるね。」

 

「美佳、ご飯食べる前に話がある。

 ちょっとそこに座れ。」

 

え、い、稲村君いるのにその話しちゃうの?

と、とうちゃん、そんなに再婚したいのあの人と。

どうしょう、どうしょう。

稲村君、あんなこと言ってくれたけど、やっぱり自信が。

それにあの話をさせるわけにはいかん!

ど、ど、同棲しようなんて言われて、どうせいっていうんだ!

って、おいそんなこと言ってる場合か!

 

「あ、で、でも、ほら折角のお肉が。

 ね、ね、あ、後にしよ。」

 

「いいから座れ美佳。」

 

”にぎ”

 

「へ、い、稲村君。」

 

げ、腕掴まれた。

く、くそ逃げられん。

 

「いいから座れ三ヶ木。

 ちゃんとお父さんと話しよう。」

 

「あ、い、いやそっちの話はほんと待って。」

 

「お父さん、その話の前に俺の話を聞いてください。」

 

「いや、ちょっと稲村君!」

 

”ガチャ”

 

「おお、いい匂い。

 あ、すき焼き食べてるの!」

 

”ドタドタ”

 

「うひゃ~美味しそう。

 ほら、めぐりちゃんも上がって。」

 

「あ、し、失礼します。

 ご無沙汰してますお父さん。

 美佳、寄せてもらったよ。」

 

「お―、めぐりちゃん、いらっしゃい。

 いや~綺麗になったね。

 女子大生だね華の女子大生。

 うちの馬鹿娘とは大違いだ。」

 

「と、とうちゃん!」

 

くそ、いつも実の娘のことをそうやって。

でも、まぁ、めぐねぇならいいや。

って、なに、なんであの人がここに。

 

「へ~すき焼き、本当に美味しそう。

 わたしもご馳走なろうかなぁ。

 ほら、めぐりちゃんも座った座った。」

 

”どさ”

 

な、な、な、なに、こいつ!

なに勝手に上がり込んだだけでなく、勝手に座り込んで!

かあちゃんみたいに、やさしくても、清楚でも、つつましくもない!

こんなやつ、こんなやつ、絶対にイヤだ!

 

「あんた!

 勝手に他人の家に上がって、なにしてるんですか!」

 

「え?」

 

「なんで他人のくせに勝手に人の家に 」

 

”ぎゅ~”

 

「いにぁい、いにゃい、いにゃ、いにゃ、いにゃ!」

 

な、いきなり、ほ、ほっぺ抓られたー

いたいよ~、ほっぺ離して~

なんだよこの女!

 

「まったく。

 こら佳紀! お前娘にどんな躾してきたんだ。」

 

「あ、い、いや、その~」

 

「な、なにゅをー、あにゅたにいにゃれるしゅじあいはにゅい!」

 

「こ、この馬鹿姪っ子は!」

 

「ふにゅぇ?」

 

「あんだけ抱っこしてあげたのに、このお姉さんのことを忘れるなんて!」

 

「い、い、いや、お義姉さんは叔母だから。」

 

”ゴン!”

 

「い、いててて。」

 

「と、とうちゃん大丈夫? え、叔母さん?」

 

”ゴン!”

 

「いてててて、な、何でげんこつが。」

 

「お、ねぇ・さ・ん。」

 

いたたたた、ほ、本気で殴りやがったこの女。

いったい何者なんだよ。

もう訳わかんない!

 

「美佳、本当に覚えてないの?

 麻緒さんだよ。」

 

「う~痛かった。

 めぐねぇ、麻緒さんて?」

 

「美佳のお母さんのお姉さん。」

 

「え、かあちゃんの? 」

 

「まったく、薄情な子だよ。

 あれだけ可愛がって、いっぱい抱っこしてあげてたのに。」

 

「お義姉さん、それはこいつが赤ちゃんの頃の話だから。

 それからしばらくしてお義姉さん、アメリカ行っちゃったから。」

 

「でもお葬式の時は帰ってきたじゃない。」

 

「あ、でも麻緒さん。

 お葬式の時って、美佳、ずっと放心状態だったから。」

 

「でもねめぐりちゃん。

 お葬式の間、ずっと手握ってあげてたのよ。

 まったくね。

 まぁ、いっけど。

 ちょっと待てよ。

 おい佳紀! ということはまだ話してないのあのこと。」

 

「あ、あの~すみません、なかなか話す暇がなくて。

 ごほん。

 あのな美佳、お前大学の受験勉強大変だろ。

 今迄みたいに家事やりながらは勉強できない。

 最近いつも寝てたし。

 それでな、ちょうど麻緒さんから日本に戻ってきたって連絡あったから

 相談したんだ。

 そうしたら、お前が大学受かるまでの間、代わりに家事やってくれるっていうんだ。

 で、一応、お前に話してからと思ってな。」

 

「え、とうちゃん話ってそのこと?」

 

「そうだけど。」

 

「あは、あは、あははははははははは。」

 

そ、そうなんだ。

再婚するんじゃなかったんだ。

この女の人って、かあちゃんのお姉さんなんだって。

道理できれいだなって思ってたんだ。

そっか、そっか。

 

「ぐすん、ぐす。」

 

あれ、なんで? 

涙出てきた。

 

”ちょんちょん”

 

え?

 

「良かったな三ヶ木。」

 

「う、うん。」

 

「えっと、お前だれだっけ?

 何でそこにいるの?」

 

「お、お父さん、酷い!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ、失礼します。」

 

「ああ、気をつけてな。」

 

「はい、お父さん。

 あ、お肉本当に美味しかったです。」

 

「お前にお父さんって言われる筋合いはねぇ。」

 

”ゴン!”

 

「いたたた。」

 

「ひっく!

 なに言ってんだお前、しつこいと嫌われるぞ。

 ほら佳紀、こっちこい今日は飲むよ~」

 

「お義姉さん、酒癖悪い。」

 

「お、そんなこと言っていいのかなぁ~

 頼まれた美佳の写メ送ってあげな~い。

 ほら、この割烹着姿なんて可愛くてサイコーなのになぁ~」

 

「さ、ささ、お義姉さん飲みましょう。

 いや~お義姉さんとお酒飲めて嬉しいな~

 だから、写メ頂戴。」

 

”ガチャ”

 

「ふぅ~」

 

”スタスタスタ”

 

「良かったな三ヶ木。

 って俺何やってんだ。

 やば、急に恥ずかしくなった。

 明後日から三ヶ木にどんな顔して会えばいいんだ。」

 

”だき”

 

「え? だ、だれ後ろから抱き着いて。」

 

「普通の顔でいいよ。」

 

「み、三ヶ木!」

 

「あ、あのね、今日はありがと。」

 

「あ、ああ。

 でもなんかはずかしー」

 

「俺と住もう。」

 

「や、やめろ!

 い、いいから消去しろ、お前の頭の中からすべて消去しろ。」

 

無理だよ。

消せないよ。

ほんと嬉しかったんだ。

稲村君、わたしの過去知ってた。

何で知ってたのか知らないけど。

でも、でもそれでも一生懸命心配してくれたんだ。

ほんとにうれしい。

でも、

 

「うれしかった、ほんとにうれしかったよ稲村君。

 ・・・・・けど、わたしは 」

 

「あ、そうだ三ヶ木!

 明日さ、晩ご飯食べに行こう。」

 

「え?」

 

「ほ、ほら、この前の約束まだだったろ。」

 

「あ、う、うん。」

 

「な、明日行かないか?」

 

「・・・・・」

 

「すまん、調子に乗った。

 これも忘れてくれ。」

 

「・・・・・いいよ。」

 

「ほ、ほんとか!

 じゃ、じゃあさ、また明日連絡するな。」

 

「う、うん。」

 

「じゃ、明日。」

 

「うん明日。」

 

仕方ないか。

いっぱい稲村君に心配かけちゃったもん。

さてと、ああ~、あのばか騒ぎいつまで続くんだろ。

今日は疲れたから、はやく眠りたいのになぁ~

 

”ブ~、ブ~”

 

え、あれ電話?

 

「はい、もしもし?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どうもすみませんでした。」

 

”ペコ”

 

「まったくなにやってんの!

 なんで下着泥棒と間違われてるのさ。

 なんか間違われるようなことしてたの比企谷君?」

 

「あ、いや、なんでだろうな。」

 

「まったく。

 ほんとに心配したんだからね。

 いきなり警察から電話って。

 もしかしたらって。」

 

「す、すまん。」

 

「い、いいけどさ。」

 

「・・・・・あ、あのな。」

 

「ん?」

 

「明日、時間空いてないか?」

 

「明日・・・・・・・明日はごめん。

 ちょっと用事があるんだ。」

 

「そうか。」

 

「うん、ごめんね。」

 

”スタスタスタ”




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

感謝感謝です。

ようやく文化際も終わって、生徒会もあとわずか。
でもどうしょう。
文化祭長引いてしまったので、体育祭編・・・・・

ちょっと予定修正っす。

それではまた次話読んでいただけたらありがたいです。

おやすみなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人の休日

見にきていただき、ありがとうございます。
暑い日が続きますが、水分補給等お身体に気をつけてください。

さて、慌ただしかった文化祭も終わり、やっと訪れたささやかな休日。
きゅ、休日、人が木のように鋭気を蓄える日と書いて休日なのに・・・・・
二人にはどんな休日が。

それではよろしくお願いします。


「ねぇ、聞いた?

 比企谷さんところの息子さん、昨日警察に補導されたそうよ。」

 

「逮捕されたって聞いたわよ。

 下着泥棒だったんでしょ。」

 

「そうそう、捕まった時も女性用の下着を握りしめてたそうよ。」

 

「あらやだ、うちの下着もよく無くなるのよ。」

 

「あらお宅も? 実はうちも無くなるのよ。」

 

はぁ?

な、なに言ってんだ。

違う、おれは下着泥棒なんかじゃない。

昨日も交番でちゃんと違うってわかってもらえたんだ。

 

「お兄ちゃん、重要なお知らせがあります。

 本日ただいまをもって、兄妹の縁切らせてもらいます。

 いままでお世話になりました。

 さようなら。」

 

”スタスタスタ”

 

お、おい小町、な、なにを言うんだ。

まさかお前も疑ってるのか?

違うんだ俺はなにもしていない。

ちょ、ちょっと待て小町。

お、おい。

 

「八幡、ここに座れ。

 お前はなんてことをしてくれたんだ。

 このままでは可愛い小町にまで害が及ぶ。

 いいか、お前とは親子を縁を切る。

 さっさとこの家から出ていけ。」

 

「自分を息子を信じられないのか!

 俺は何もやってない。」

 

「出て行け!」

 

     ・

 

な、なんなんだ。

何で俺の言うことを聞いてくれない。

それでも親か。

くそ。

いつもの通り学校に来てしまったが、今日からどこに帰ればいいんだ。

 

「ひそひそ」

 

ん? なんだあいつら。

さっきからこっちを見てこそこそと。

 

「あんれ~ヒキタニ君じゃん。

 さすがに学校来たらちょっとまずいっしょ。」

 

「ヒキオ、最低。

 もう二度と結衣に近づくなし。」

 

「・・・・・比企谷、君ってやつは。

 正直、がっかりだ。」

 

下着泥棒の件、学校まで知れ渡ってるのか。

くそ、お前らなんだその目は。

や、やめろ、そんな目で見るんじゃない。

俺は何もやっていないんだ。

 

「見下げ果てたぞ八幡!」

 

「八幡、八幡って本当は変態だったんだ。」

 

「戸塚! ち、違うんだ。

 俺は下着泥棒なんかしていない。

 お前だけは信じてくれ。」

 

「うん、僕も八幡を信じたい。」

 

「と、戸塚。」

 

「でも八幡、その手に持ってるものは何?」

 

「え? なにって、この白くてすべすべしてて・・・・・・げぇ!」

 

「八幡の変態!」

 

”ダー”

 

い、いや、違うんだ戸塚!

これはもらった、もらったものなんだ。

 

「と、戸塚、待ってくれ。」

 

”ダー”

 

「あ、あの~、我は?」

 

     ・

 

「と、戸塚~」

 

「近寄らないで八幡。」

 

「うわっ、あいつパンツ持って走ってるぞ。」

 

「変態だ。」

 

「え?」

 

「「変態、変態、変態、変態」」

 

ち、違う、変態じゃない。

や、やめろ、やめてくれ。

おれは下着泥棒じゃない、変態でもない。

みんなそんな目で見ないでくれ。

 

「「変態、変態、変態、変態」」

 

ううううう、うわー!

 

”ダー”

 

やめろ、やめろ、やめろ

 

”ズボッ”

 

おわっ!

な、なんだここは? 沼、沼なのか。

何でこんなところに沼が。

 

”ズズッ”

 

や、やばい、身体が沈んでいく。

もしかしてここって、底なし沼なのか。

まずい、は、早く出ないと。

 

”ズズ、ズズズズズ”

 

ぬ、抜けられん、だ、誰か助けてくれ。

もがけばもがくほど身体が沈んでいく。

 

「だ、誰か!」

 

”ズズッ”

 

ぐは、口の中に泥が。

う、嘘だ、俺、俺このまま死ぬのか。

 

「比企谷君、掴まって。」

 

だ、誰だ?

手? ここから助け出してくれるのか?

 

”にぎ”

 

「だ、誰かわからないかが、引き上げてくれ。

 動くと沼に引き込まれるんだ。

 た、頼む、助けてくれ。」

 

「うんしょっと。」

 

”ぐぃ!”

 

「え?・・・・・うんしょって。」

 

「まったくなにやってんの!」

 

「三ヶ木、三ヶ木、三ヶ木ー!」

 

”ガバッ”

 

はっ! な、なんだ?

ここ俺の部屋・・・なのか?

 

はぁ、はぁ、はぁ、な、なんという夢なんだ。

なんか最近ろくな夢を見ない気がするんだが。

この前は葉山に耳噛まれたし。

 

・・・・・昨日、初めて交番にいったからか。

あれはマジビビった。

もし、三ヶ木が来てくれなかったら今頃俺は。

 

”びちゃ”

 

はぁ~、汗でパジャマびちゃびちゃじゃねえか。

えっと汗拭いて着替えるか。

 

”ドサ”

 

えっと、何か身体拭くもの拭くものっと。

あ、いいところにハンカチが。

 

”ふきふき”

 

ん? 

ハンカチにしては汗が拭けな・・・・・・・・・・げ、三ヶ木パンツ!

何でこんなとこにこんなものが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・い、いやそ、そんなことはどうでもいい。

すんだことだ。

男は小さなことは気にしないものだ。

はは、はははは・・・・・はぁ~

 

”トントン”

 

「お兄ちゃん、起きてる?

 朝ご飯食べないの。」

 

げ、こ、小町。

え、えっとこの状況どうする。

 

”ガチャ”

 

「お兄ちゃん?

 うへぇ~、上半身裸でなにしてるの?」

 

「ふん、ふん! みよ、この筋肉美!」

 

「は~、頭いた。

 朝っぱらからなにやってんだか、うちの愚兄は。

 はいはい、そんなことやってないで、早くご飯食べちゃって。」

 

「お、おう、すぐいく。」

 

”ガチャ”

 

ふ、ふ~、行った? 行ったよね。

やばかった。

見つからないように、ちゃんと保管しておこう。

 

・・・・・多分、何でもよかったんだ。

昨日、俺は三ヶ木を感じていたかったんだ。

ハンカチでもボタンでも、このベッドにかすかに残る残り香でもなんでも

よかったんだ。

 

材木座から子供のころの話を聞いて、稲村と二人で一緒にいるところを見て、

交番に迎えに来てくれた時の青ざめた三ヶ木の顔を見て、

なんだか、無性に三ヶ木のことを身近に感じていたかった。

 

”ガシガシ”

 

はぁ~、なに言ってんだか俺は。

さ、メシだメシ!

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャカチャ”

 

「ん~なんだ、食器の音?

 あれ? とうちゃん今日仕事だったけ。

 昨日はそんなこと言ってなかったんだけど。」

 

”ガタ、ガタ”

 

「う~ん、この襖、ほんと最近建付けが悪くなって。」

 

”スー”

 

「ふ~、やっと開いた、えっ!

 か、かあちゃん。

 な、なんでかあちゃんが台所に?

 そ、そんなことどうでもいい。

 かあちゃん!」

 

”ダー”

 

「かあちゃん、かあちゃん、かあちゃん。」

 

”だき”

 

「かあちゃん、会いたかった、会いたかったよ~」

 

「美佳。」

 

「えっ、かあちゃんこんな可愛くない声だったっけ?」

 

”ゴン!”

 

「いったぁ~」

 

「危ないだろうが!

 後ろから急に抱き着くんじゃない。

 いま包丁持ってたんだからね。」

 

「・・・・・な、なんだ、叔母さんか。」

 

”ゴン!”

 

「ぐはぁ~」

 

「お・ねぇ・さ・ん。」

 

「ムリ!」

 

”ぐりぐりぐりぐり”

 

「ぐはぁ~、いたたたたた。

 や、やめて~、こめかみ痛い痛い。」

 

「ふふふ、必殺梅干し攻撃。

 ほらそこに座ってて。

 もうちょっとで朝ご飯できるから。」

 

「あ、朝ご飯?」

 

「今日だけ特別だよ。

 言っておくけど、家事するのは平日の午前中だけだからね。

 土曜と日曜ぐらいは親子水入らずがいいでしょ。」

 

「あ、はい。」

 

「朝ご飯とお弁当、それと晩ご飯の下拵えぐらいはしておくから。

 あとは、そうそう洗濯物はちゃんと出しておくこと。

 それと買い物しておいてほしいものあったら、ちゃんとメモに書いて

 おくこと。」

 

「う、うん。」

 

「掃除は適当にね。

 見られてまずい物は本棚に隠しておくこと。」

 

「え! ほ、本棚って。」

 

「はは、昔よく佳紀がエッチな本隠してたから。」

 

「えっと・・・・ん?」

 

「よしっと朝ご飯できたっと。

 ほらほら、ボケっとしてないで運んで。」

 

「はいはい。」

 

”ガチャガチャ”

 

「佳紀はまだ起きてこないから、後で温め直してやって。」

 

「うん。」

 

「よし、それじゃ、頂きま~す。」

 

「頂きますっす。」

 

”ぱく”

 

「うっ!

 う、うまい。

 この卵焼きふわふわで美味しい。

 なぜ、なんでこんなにふわふわ?

 あ、マヨネーズだ。」

 

「ふふ、正解。」

 

”ず~”

 

「え、この味噌汁の味、かあちゃんの味にそっくり。

 焼き魚もジュシーだし、この大根のきんぴらもマジ美味いし。」

 

「ふふふん。

 一応聞くけど、どうよ?」

 

「え、あ、あのとても美味しいです。」

 

「ん? 聞こえないな~、もう一回。」

 

「へん、年取って耳が遠くなったんだ。」

 

”ゴン!”

 

「いてててて。」

 

「まったくこの子は!

 その大根のきんぴら、いっぱいつくって冷蔵庫に入れておいたからね。

 胡麻は健康にいいんだぞ、たくさん食べな。」

 

「あ、う、うん。

 ま、麻緒さんって見掛けによらず、お料理得意だったんですね。」

 

”ゴン!”

 

「ぐぅ~、いたたた。」

 

「一言余計。

 それに得意なのは料理だけじゃないわよ。

 伊達に16年間一人暮らししてないから。」

 

「え? 麻緒さん独身?」

 

「おうよ、なかなかいい男いなかったからなぁ~」

 

「美佳は?」

 

「え?」

 

「美佳はどっちが本命なの?」

 

「え、えっと~なんのことかなぁ~」

 

「昨日家に連れ込んだ男の子? それとも校舎の壁のとこでイチャイチャしてた男の子?」

 

「校舎?

 あ゛ー! み、見てたの。」

 

「うんばっちり。 ほら写メも取ったよ。

 佳紀に送ろうかなぁ~」

 

「や、やめ!」

 

「じゃあ、どっち?」

 

「・・・・・・」

 

「わたし的には家に連れ込んだ子かなぁ。

 だってほら、この校舎の子はなんかね。

 目が死んでるし、ややこしそうだし、全然いいとこなさそう。

 こりゃモテそうにもないわ。

 あんぱいあんぱい。」

 

「はぁ! な、な、なに言ってんだか!

 麻緒さんには比企谷君のいいとこなんてわかりませんよ~だ!」

 

「ふふふ、そっか、こっちが本命か。」

 

「え、あ、いや、今のは、その・・・・・・」

 

「いいよ、佳紀には内緒にしてあげる。

 で、どこまでいったの? もうエッチした?」

 

「は、はぁ! し、してません、もう!」

 

”ぱくぱく、ぱくぱく”

 

「美佳、そんなに急いで食べると。」 

 

「う、ううううう。」

 

「馬鹿、ほらお茶。」

 

”ごくごく”

 

「ふぁ~、し、死ぬかと思った。」

 

”ガタガタ、スー”

 

「ふぁ~、おはよ~」

 

「あ、とうちゃん、おはよ。」

 

「あ、佳紀、よかったね美佳まだ処女だって。」

 

「ぶふぁ! あ、あんたなんてことを!

 と、とうちゃん、そこで固まってるんじゃない!」

 

     ・

     ・

     ・

 

録画の確認、よしOK。

ふふふ、さぁ至福の時間の始まりだ。

俺の1週間の苦行が報われるこの時間。

そう、全てはこの30分間の至福のためにあるといっても過言ではない。

5、4、3、2、1

 

「何度でも起こすよ きらめく奇跡♬」

 

”ブ~、ブ~”

 

ち、誰だ、俺の至福の時間を邪魔する奴は!

俺は無視する、断固無視だ!

電源オフっと。

ふふふ、何人たりともこの時間の邪魔はさせん。

 

     ・

 

「輝く未来を抱きしめて! みんなを応援! 元気のプリキラ! キラエール!」

 

おお、その切りすぎた前髪、かわいいぜ。

今朝の悪夢に苛まれた俺の魂を癒してくれる。

 

「フラワーシュート!」

 

お、おお~

 

     ・

 

ふ~、あ~今回もよかった、感動した。

まったく途中はヒヤヒヤしたぜ。

満足満足。

さて、それじゃもうひと眠りするか。

 

”ガチャ"

 

「お兄ちゃん。」

 

「お、おう小町。

 おやすみ。」

 

「まだ寝るの?

 それより、ちゃんと電話出て。

 あのね、雪乃さんが13時にららぽの東の広場で待ってるって。」

 

「はぁ?

 いや、なにそれ?

 俺何も約束してないんだが。」

 

「そんなの小町知らないよ。

 ちゃんと伝えたからね。

 あ、行かないと小町がちゃんと伝えたか疑われちゃうから。

 もし行かなかったら後でひどいからね。」

 

「え? ひ、ひどいってなんだ。」

 

「もうお兄ちゃんの前では笑ってあげない。」

 

「わ、わかった。

 すぐ行く、今から行ってくる。」

 

「まだ早いから、ほらちゃんと着替えて。」

 

「お、おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うん、わかった。

 じゃあ、15時にららぽでね。」

 

「ああ、あとでな。」

 

「えっとなに着ていこうかなぁ~

 フンフンフ~ン♬

 げ、な、何で音楽口ずさんでんだわたし。

 わたし・・・・・うれしいの?」

 

『俺と住もう』

 

”ぽっ”

 

「わたし・・・・ば、馬鹿。

 ち、違う、違うわい!

 晩ご飯が楽しみなだけだい!

 な、何食べようかなぁ。

 なに・・・・・食べよう・・・かなぁ。」

 

『明日、時間空いてないか?』

 

「あっ、そうだ。

 比企谷君、時間空いてないかって、何か用だったのかなぁ

 ・・・・・・・会いたい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

あっついな~

雪ノ下の野郎、何の用事なんだ、まったく。

はっ、もしかして文化祭の後片付けサボったからか。

しかしあれは材木座が。

はぁ~気が重い。

 

”ブ~、ブ~”

 

「もしもし比企谷だが。」

 

「あ、三ヶ木だよ。」

 

「お、おう。

 で、なんだ?」

 

「あ、あのね、昨日ごめん。

 今日、お昼少しだったら時間あるんだ。

 も、もしよかったらどこかで 」

 

「すまん、急用ができたんだ。

 いま移動中だ。」

 

「え、あ、そ、そうなんだ。

 わ、わかった。

 じゃあまたね。」

 

「ああ。」

 

今、それどころじゃない。

どんな仕打ちを受けるか。

 

”ゾ~”

 

あれ、おかしいなぁ、急に寒気が。

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃあ、美佳行くね。」

 

「・・・・・う、うん。

 つ、次はいつ帰ってこれるの?」

 

「そだね。

 う~ん、少し先になるけど年末かなぁ。」

 

「そう・・・・か。」

 

”だき”

 

「み、美佳。」

 

「めぐねぇ、寂しい。」

 

”なでなで”

 

「美佳、美佳は大丈夫。

 一色さん、本牧君、藤沢さん、それに稲村君。

 ちゃんと心許せる仲間がいてくれてる。

 それに昨日のあの娘、えっと蒔田さんだっけ?

 美佳を慕ってくれる娘もいる。

 そしてお父さんと、麻緒さんもね。

 大丈夫だよ、もう美佳は一人っきりじゃない。」

 

「めぐねぇ~」

 

「美佳。」

 

”ぎゅ~”

 

「あ、そうだ、それに彼氏さんもいるんだ。

 うらやましいぞ~」

 

「彼氏?」

 

「またまたとぼけて。

 じゃ行くね。」

 

「うん・・・・・・いってらっしゃい、お、お、お姉ちゃん。」

 

「おう、行ってくるぜ、妹。」

 

”ビシッ”

 

「め、めぐねぇ、サムズアップかっこいい。」

 

「ふふふ、俺に惚れるとケガするぜ。

 なんちゃって。

 あ、美佳!

 ラインはちゃんと返しなさいよ、いい? 」

 

「うん。」

 

「じゃあね。

 比企谷君と仲良くね。

 それとキスする時は場所を選びなよ。

 病室はだめだよ病室は。」

 

「え?」

 

”プシュ~”

 

「いや、め、めぐねぇ、ち、違くて。」

 

”ガタン、ガタン、ガタンガタン”

 

「げ、やっぱりめぐねぇ勘違いしてる。

 キ、キスなんて・・・・・・し、したいけど。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ウィーン”

 

ふ~、やっぱりららぽの中は冷房が効いてて涼しい。

タダで快適な時間が過ごせるんだ。

はぁ、休みの時はずっとここにいようかなぁ。

いやいるべきだ。

この快適さは誰かが享受しなければエネルギーの浪費になる。

し、仕方がない、俺が引き受けてやろう。

し、仕方がないからだからね!

ふ~、馬鹿やってないでマッ缶でも飲むか。

第一、こんなに人ゴミ、いやこんなに人の込んでるところには

あまり長居はしたくねぇ。

 

”ガタン”

 

ふぅ~冷たい、よく冷えてる。

 

”ガチャ”

 

さてっと、雪ノ下はどこにいるんだ?

確か待ち合わせはこの東の広場だったはずだな。

 

”ゴクゴク”

 

ふ~、まぁ、まだ20分前だから、ちょっと早かったか。

そこのゲームセンターにでも・・・・・・い、いた。

ゲームセンターの左隣のペットショップに。

・・・いや、あなた何してるの?

 

「にゃ~にゃ~」

 

「うふふ、にゃ~、にゃ~」

 

「にゃ~」

 

あいつ、もしかしてネコと話しできるんじゃねえのか?

ガラス越しに子ネコと語り合ってやがる。

 

まぁ、こうやって見ていると、本当に可愛いんだよな。

さすがは3年連続ミス総武高。

まったく、あの口の悪ささえなければ、完璧な美少女キャラなんだけどな。

 

「はっ!」

 

げ、気が付きやがった。

 

”スタスタスタ”

 

「何か用かしら?

 その腐った目で視姦するのやめてくれるかしら。

 それともやっぱり変質者?」

 

「お、おい。

 くそ、可愛いって見惚れてた俺が馬鹿だったわ。」

 

「はっ、な、な、な、なに言ってるのかしら。

 目だけでなく、頭まで腐ったのかしら。」

 

「・・・・・」

 

「ご、ごほん。

 それにしても、10分も前に来るとは少しは更生したようね。」

 

「・・・・・で、今日は何の用だ。」

 

「あ、あの・・・・そ、そう!

 由比ヶ浜さんのところのペット、えっと、確か 」

 

「サブちゃんだ。」

 

「え、そう、そうだったかしら?」

 

「ああ、間違いない。」

 

「そのサブちゃん・・・・・・サブちゃんよね?

 最近元気ないっていうから、お見舞いに行こうと思うのだけど、

 なにを持っていこうか、よかったら一緒に考えてもらってもいいかしら?」

 

「ああ、そのことは俺も聞いた。

 なんでも、もう12歳ぐらいだっていうからな。

 そろそろ年なんだろう。」

 

「そう。」

 

「まぁ、とにかくペットショップ行ってみようぜ。」

 

「そうね。

 あ、あの、ありがとう。」

 

「おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うひゃぁ~、涼しい、ここは楽園だ~。

 お、自販機発見!」

 

”タッタッタッ”

 

「何にしようかなぁ~

 よ、よし、今日は、マ、マッ缶でいくぞ!」

 

”ガタン”

 

「ふふふ、お主は相変わらず禍々しいのう。

 覚悟しろ!」

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

「ぐわ~、あ、あま~

 久しぶりに飲んだけど、やっぱこの甘さは凶器だよ。

 これってカロリーめっちゃ高いよね。」

 

”ゴクゴク”

 

「ふ~でもさ、誰かさんと一緒で、飲めば飲むほど良さがわかるんだよね。

 えへへへ。」

 

     ・

 

「ドッグフードでも結構種類あるのね。」

 

「ああ。

 まあサブちゃんの場合 」

 

「ちょっと待って比企谷君。

 由比ヶ浜さんのペットって、本当にサブちゃんて言ったかしら?」

 

「えっと、サ、サボ、サビ、サバ・・・・・サブちゃんだ。

 間違いない。」

 

「そ、そう・・・・・サブちゃん、サブちゃん?」

 

「そ、それでだな、サブちゃんの場合、高齢だからな。

 成犬用じゃなくてシニア用にするべきだ。」

 

「どう違うのかしら?」

 

「シニア用は高タンパク・低脂肪で、さらに穀物が入っていなくて消化吸収しやすく

 なっているんだ。

 あ、でもな雪ノ下、ドッグフードなら昨日由比ヶ浜にも同じ話してるから、

 もしかしたらもう買っているかもしれんぞ。」

 

「そう、それなら他のものにしましょう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~ん、沙希ちゃんのプレゼントどんなものがいいかなぁ~

 小物とかだけでなく服でさえ自分で作っちゃうもんな。

 なにがいいんだろう。」

 

”うろうろ”

 

「あ、あれがいいかも。」

 

”スタタタタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「これなんかどう? 比企谷君。」

 

「げ、ド、ドッグカメラ。

 雪ノ下、これはとってもいい、いいと思うが、この値段を見てみろ。

 とてもありがとうって簡単に貰ってもらえるような値段ではないぞ。」

 

「え、あ、そ、そう?」

 

「まったく。

 ほらこういうのってどうだ?」

 

「えっと、ハーネス?」

 

「ああ。

 足腰が弱くなったとしてもやっぱり適当な散歩は必要だ。

 特にサブちゃんは散歩が好きだからな。」

 

「あらよく知ってるのね。」

 

「ああ。

 一度うちで預かったことがあるからな。

 このハーネスなら散歩もあまり足腰に負担にならねえだろう。」

 

「そうね。」

 

「まあ値段的にもそれなりだしな。」

 

「ちょっと待って。」

 

”ゴシゴシ、ビシビシ”

 

「ふむふむ。」

 

「えっと雪ノ下さん、なにをしてるのかなぁ?」

 

「強度とか縫製の状態は問題ないようね。

 いいわ、これにしましょう。」

 

     ・

 

「毎度ありがとうございました。」

 

「お待たせ。」

 

「おう、じゃ俺はこれで 」

 

「あ、あの、ひ、比企谷君。

 よ、よかったら・・・・」

 

「うん?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「えっと沙希ちゃんのって、このくらいだったかなぁ

 え~と、確かあの感触はDかなEかな。

 ぐへへ、こんなの似合いそう。

 は、こ、これは。

 このスケスケ具合、比企谷君のもろ好み。

 ほ、ほら、これこの前の本で女優さんが着けてたのとそっくり。

 

 ・・・・・あ、あの時さ、もしこんな下着を着けてたら、もしかしたら。

 きゃ~」

 

「あの~お客さま、どうかされました?」

 

「え、あ、い、いえなんでもないです、ごめんなさい。

 ひぇ~」

 

”ダ―”

 

     ・

 

お、おうカメレオンか。

このふれあい動物園、カメレオンもいるんだ。

カメレオンってその時の体調とか感情で色が変わるんだよな。

もし自由に身体の色変えられるんなら、俺カメレオンになりてぇ~わ。

そうすれば誰に気付かれることもなく、周りと同化してぼっちライフを

満喫できるんだが。

 

「にゃ~にゃ~」

 

はっ、あなたまたそこに掴まってるのね。

は~、もうネコ飼ったら?

いやもう飼うべきでしょう。

 

”むにゅむにゅ”

 

「うふふ、にゃ~、にゃ~」

 

”ジー”

 

「は、あ、あの~、そ、そんなに見つめないでいてくれるかしら。」

 

「あ、わ、わりぃ。

 ・・・・・の、喉かわいたな~

 俺、そこの自販機コーナーに行ってるわ。

 まぁなんだ、飲み物飲みたくなったら来てくれ。」

 

「え、ええ。」

 

     ・

 

「う~ん、なかなか決まらない。

 沙希ちゃんどんなもの喜んでくれるかなぁ。」

 

「ワンワン。」

 

「あ、わんちゃん。

 柴犬、めっちゃかわいい。

 あ、今日ふれあい動物園やってんだ。

 へへ、やっぱり子犬ってかわいい。

 昔から飼いたかったんだ。

 ほれほれこっちおいで。」

 

「ワンワン。」

 

”ぺろぺろ”

 

「き、貴様、わたしの大事なファーストをって。

 えへへ。」

 

「にゃ~にゃ~」

 

「へ、今のにゃ~にゃ~って声。

 も、もしかして。」

 

”きょろきょろ”

 

「はっ、やっぱりゆきのん。」

 

「にゃ~にゃ~、うふふふ。」

 

「う、ゆ、ゆきのんのイメージが。

 い、いけないものを見てしまった。

 これゆきのんに見つかったらやばいかも。

 ・・・・・でもこのゆきのんも可愛い。」

 

「はっ!」

 

「ヤバッ!」

 

”サッ”

 

「き、気のせいかしら?」

 

「あっぶなかった。

 大丈夫だったよね、み、見つかってなかったよね。

 くわばらくわばら。

 ここは退却、退却。」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「えっと隣に座ってもいいかしら?」

 

「あ、お、おう。」

 

”すとっ”

 

「もういいのか?」

 

「え、ええ。」

 

「なぁ、雪ノ下。

 今日、お前が俺を誘った本当の目的はなんだ。」

 

「えっ。

 ・・・・・そ、それは、あ、あなたのことが、き、気になったから。」

 

「気になる?

 ああ、そうか。

 昨日の三ヶ木の相談のことだな。」

 

「え? い、いえ、あ、あの 」

 

「まぁそれぐらいしか思い浮かばん。」

 

「はぁ~。

 そ、そうよ、この唐変木。

 ・・・・・で、三ヶ木さんの真の相談ってなんだったの?」

 

「唐変木? まぁいいか。

 三ヶ木の相談だが、あいつが相談したかったことって言うのはだな、

 あ、プライバシーにかかわることは省くぞ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いらっしゃいませ。

 ご注文、お決まりでしょうか?」」

 

「あ、アイスコーヒーお願いします。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

”スタスタスタ”

 

「ちょっと早すぎたかなぁ。」

 

”ガサガサ”

 

「へへ、三ヶ木、この映画のチケット見せたら喜ぶかなぁ。

 結局勘違いだったけど、三ヶ木結構辛かっただろうからな。

 ここらへんで元気つけてやらないと。

 ”アカ俺 The 二人のヒーロー”っか。

 あいつ、イレギュラーヘッドの大フアンだもんな。

 いっつもこの目で見つめられたら死にそうって言うけど、あの目のどこがいいんだ。

 ・・・・・に、似てるのかあいつに。

 ちっ、まぁいい。

 それより、三ヶ木早く来ないかなぁ。」

 

     ・

 

「そ、そう。

 そうだったの。」

 

「ああ。

 俺より稲村のほうが先に気付いていてな。

 だから結局のところ俺は何もしていない。」

 

「それであなた昨日・・・」

 

「昨日?」

 

「朝電話した時、小町さんから聞いたわ。

 昨日帰ってきた時のこと。」

 

「こ、小町、またいらないことを。」

 

「そんなこと言うべきじゃないわ。

 すごく心配してたわよ小町さん。」

 

「・・・・・」

 

「ね、今日この後、何か予定あるかしら?」

 

「はぁ? い、いや何もないが。」

 

「き、昨日、文化祭の後片付けサボった罰よ。

 ちょっと付き合いなさい。」

 

「いや、後片付けは由比ヶ浜がほとんどって 」

 

”ギロッ”

 

「なにか。」

 

「い、いえ何も、何もありましぇん。」

 

     ・ 

     ・

     ・

 

「お、お客様。

 あ、あの~」

 

「え? なにか?」

 

「ま、窓の外のお客様はお知り合いの方ですか?」

 

「は?

 おわっ! 三ヶ木何覗いてんだ!

 す、すみません、ちょっと呼んできます。」

 

”ダー”

 

「三ヶ木、お前何やってんだ!」

 

「え、あ、稲村君。

 えへへへ、ちょっと・・・・確認を。」

 

「馬鹿、そのガラス、中からは丸見えだぞ。」

 

「え? え゛ー。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「で、どこに行くつもりだ?」

 

「そうね、なにかスポーツしましょう。

 お互いモヤモヤしてる気持ちを発散させましょう。」

 

「え? お前もモヤモヤしてるの?

 あ、もしかしてまだ猫が 」

 

「い、いいから、なにをするかあなたが決めなさい。

 そ、そうね、勝負しましよう。

 も、もし私が負けたら、あなたの依頼一つだけきいてあげるわ。

 その代わりあなたが負けたら、私の依頼、一つだけきいてもらうわ。」

 

え、いいのか。

何かなんでも願いこときくって、あんなことやこんなこともいいのか。

そ、それなら白猫物語のコスプレでブラック雪ノ下なんかもありか。

いや、こいつ猫耳、似合うだろうな。

それであんな下着姿でにゃ~んって。

・・・・・お、おぉ!

 

「あ、あの比企谷君、なんか顔が変なんだけれども。

 ね、ねぇ、聞いているかしら?」

 

は、まてよ。

もし負けたら、俺が何か依頼を受けないといけないんんだ。

こ、こいつの依頼ってなんだ。

 

”ゾ~”

 

な、なんだかまた背筋が寒くなったんだが。

そうなんだ、こいつはあの雪ノ下雪乃なんだ。

も、もし負けたら・・・・・・

 

ぜ、絶対に負けられん。

しかしよく考えればこいつも完璧超人の一族。

冷静に考えて俺が勝てそうなのは体力しかねえ。

ならば競技は一つしかない。

 

「雪ノ下、勝負はボウリングだ。」

 

「ボウリング?

 いいわ、行きましょう。」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

 

「ううううう、は、恥ずかしい。」

 

「あはは、写メ取っておけばよかった、あのバカ面。」

 

”ベシ”

 

「うっさいわ!」

 

「ごめんごめん。

 もう機嫌直せって。

 ほら、これ行くか?」

 

「ん? え、これって。」

 

「ああ、ちょうどそろそろいい時間だ。」

 

「あ、ありがと。

 この映画行きたかったんだ。

 で、いくら?」

 

「は?」

 

「チケット代。

 自分の分、ちゃんと払うよ。」

 

「お、俺のおごりだ。」

 

「う、うそ、あのケチ村君が!」

 

「おい、何だケチ村って。」

 

「でも悪いよ。」

 

「いいって。

 それより早く行こうぜ。」

 

「じゃ、じゃあ、ポップコーンとか飲み物はわたしが買うね。」

 

「ああ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

げ、ま、またストライク。

こ、こいつ化け物か。

これで4フレームまで全部ストライクじゃねぇか。

マジでプロになれるんじゃねえか。

・・・・・体力さえあればだが。

今のうち、この世の春を謳歌するがよい。

最後に勝つのは俺だ。

 

”ゴロンゴロンゴロンゴロン、パタパタパタ”

 

「よ、よし!」

 

俺もここまで全てスペアー。

俺はストライクなんていらねえ。

手堅く全てスペアー狙いだ。

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

げ、またストライクかよ。

 

「な、ナイスストライク。」

 

「ええ、ありがとう。」

 

”ちょこん”

 

う~、こ、このハイタッチ、俺にはレベルが高すぎる。

 

     ・

 

おお、こ、これは。

見つけたぜベストポジション。

そう、ちょうどこの椅子。

雪ノ下、ボールを取るとき前かがみになるのだが、そうすると

おおっ!

大きく開いた胸元から微かに黒い布地が。

あ、あれってつまりあれだよな。

 

”スタスタスタ”

 

しかもこいつ今日のスカート短いから投げた時の後姿も。

お、おお~、こっちも黒。

・・・・・いや、なにしゃがんでるの、俺最低。

 

”ゴロゴロゴロ、パタパタ”

 

え、最後も7本なのか。

ふふふ、さすがにバテてきたようだな。

5フレーム以降、ストライクがでなくなった。

 

「どう、219対174、私の勝ちね。」

 

「まて雪ノ下。

 誰が1ゲームの勝負だと言った。」

 

「え?」

 

「勝負は2ゲームの合計だ。」

 

「・・・・・そ、そう。

 確かに確認してなかったわ。

 2ゲーム合計なのね。」

 

「おう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

 

”ゴロゴロゴロ、パタパタパタ”

よ、よし、このフレームもスペアーだ。

 

「比企谷君、少しいいかしら?」

 

「ん?」

 

「あ、あのちょっと。」

 

”チラ”

 

「ああ、花摘みか、花摘みって言うんだろ。

 ああ、気にするな花摘み行ってこい。」

 

「比企谷君、あなたって人は。」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「もしもし小町さん?」

 

「あ、雪乃さん、電話大丈夫でした?」

 

「ええ。」

 

「あの~、兄はどうでした?」

 

「そうね、やっぱり昨日ちょっとあったみたい。

 でも、もう大丈夫だと思うわ。」

 

「そ、そうですか

 ありがとうございます、雪乃さん。」

 

「わ、私は特になにも。」

 

「いえいえ、兄の相手してくれているだけで。

 それに小町のリクエストの服装までお願いしまして。」

 

「比企谷君、こんな感じの服装が好きなのね。」

 

「ええ、兄はムッツリですから。」

 

「ムッツリ?」

 

「ええ、雪乃さんのその格好みてるだけで兄は元気になります。

 あ~小町も見たいな。

 あ、そうだ。

 雪乃さん、小町、いま兄に元気を出してもらおうと、

 腕によりをかけて晩ご飯を作っているのです。

 今日のお礼もあります。

 ぜひ、我が家にお越しください。」

 

「い、いえ、それは。

 今日はご両親もいらっしゃるのでしょ?」

 

「あ、いえ、両親は今日も休日出勤で。

 全く社畜で困ったものです。」

 

「そ、そう? それなら 」

 

「お~い小町、アイス勝ってきたぞ~」

 

「げ、お、お父さん。」

 

「小町さん。」

 

「す、すみませ~ん。」

 

     ・

 

遅いな雪ノ下。

俺もちょっと花摘みに行ってくるか。

い、いや俺の場合は花摘みとは言わねえか。

 

”スタスタスタ”

 

「だから気にしないで小町さん。」

 

え? この声って。

それに小町?

 

「私は今まで何度も比企谷君に依存してしまったの。

 その結果、彼を幾度も傷付けてしまった。

 結局今回も。

 こんなことぐらいで私が彼のためになれるって言うのなら、

 私は、私は・・・・・・・・・うれしいと思う。」

 

ゆ、雪ノ下。

今日、俺を呼び出した本当の理由って。

 

だがな、違うぞ雪ノ下。

俺は俺がそうしたいからしてきただけであって、その結果による称賛も、

嘲笑も、侮りも、卑しめも、蔑みも当然俺に返ってくるべきものなんだ。

だからそのことについて、お前たちが気にするべきものではない。

全ては、俺の俺による俺のために選択した行動なんだ。

 

「ふ~」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「ごめんなさい、お待たせしたわね。」

 

「いや、ちょうどいい休憩になった。」

 

「そ、そう。」

 

「んじゃまぁ~お前の投げる番だ。

 10フレーム目だ。

 言っておく。

 9フレームまで終わって、323対325。

 2ピン俺が勝っている。

 さらに俺の場合、9フレーム目もスペアーだから、少なくても9フレームの10ピン

 がプラスされて12ピン差だ。」

 

「あら、もう勝った気でいるのかしら?」

 

「はぁ?

 もう俺の勝ちは決まっただろう。」

 

「まぁ見てなさい。」

 

「へっ?」

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

え? ストライク。

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

お、おい、またス、ストライクかよ。

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

・・・・・マジか。

こ、ここでターキーかよ。

 

「ふ~、どうかしら?

 私にもちょうどいい休息だったわ。」

 

いや休息って、マジかよこいつ。

くそ、こいつ今ので353。

18ピン負けてんじゃねえか。

ここで最悪スペアー取れないと負けだ。

ブラック雪ノ下が・・・・

ま、負けられん。

ここは、今まで以上にスペアー狙いに徹して。

 

”ゴロンゴロンゴロン、パタパタ・・・・パタ”

 

「げっ!」

 

「あら、ここで7-10のスプリット。

 あなたの悪運もここまでのようね。」

 

「う、うっせ。」

 

た、確かにこのスプリットはプロでも一番難しいやつじゃねえか。

これで9フレームまでの合計点数が343。

今のスプリットの8本をたして351。

1ピン倒せても352か。

くそ、俺の夢も消えた。

 

ふぅ~、でもこれで良かったのかもな。

さっきの雪ノ下の想い、素直にうれしかった。

だったら、こいつにあんな恰好させるわけにはいかないよな。

・・・・・だ、だが、いったい俺何やらされるのこいつに。

も、もしかして、ゆ、指、足の指舐めろとか。

はぁ~、最悪だ。

 

「ほれ。」

 

”ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、パタ”

 

あっ。

 

”クルクルクル”

 

う、うそ。

 

”コンッ、パタ”

 

「「えっ!」」

 

ス、ス、スペアーだと。

10番ピンに当たって、そのピンが7、7番ピンを。

おおっ~

お、俺ってプロ? いやプロ以上だろ!

これで353。

俺はあと1回、投げることができる。

すなわち、これで、この1投で1ピン以上倒せば俺の勝ち。

・・・だが。

 

『私は、私は・・・・・・・・・うれしいと思う。』

 

そ、そうだよな。

だったら俺は。

 

「雪ノ下! 言い残すことはないか。

 そこで敗北の瞬間を、しっかりとその目に焼き付けるんだな。」

 

”チラッ”

 

はは、そんなに心配すんなって。

さて、そんじゃ思いっ切りぶんなげてっと。

 

「待ちなさい比企谷君!

 ガターは絶対許さないわ。」

 

「えっ、あっ!」

 

”ゴロゴロゴロ、パカ~ン”

 

「う、うっそ、ここでストライクかよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「む~、ありえない!」

 

”パクパク”

 

「な、さっきからそればっかだな三ヶ木。

 いい加減、食べるか愚痴るかどっちかにしろ。」

 

「もぐもぐ。

 だ、だってだよ稲村君。

 折角のアカ俺の映画なのに、わたしの消ちゃん出番ないじゃん。

 なんで主役を外すかなぁ。」

 

”パクパク”

 

「いや、主役はデクだろう。

 イレギュラーヘッドは脇役。」

 

「む~、ミラノ風ドリアお代わり。」

 

「まだ食べるのか!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「それで、あなたの依頼って何かしら?」

 

「あ、いいわ、それ無しで。」

 

「そうはいかないわ。

 決りは決まりよ。

 ・・・・・わ、私、覚悟してるから。

 さぁ、あなたの依頼、言いなさい。」

 

え、な、何の覚悟?

いや、そんな目で見つめないで。

そんなに見つめられると、俺の豆腐でできた決意が崩れちゃうから。

・・・・ど、どうすっかなぁ。

あっ、そ、そうだ。

 

「なぁ、雪ノ下。

 お前、指定校の校内選考、もう推薦決まったんだよな。」

 

「ええ。」

 

「お前への依頼、三ヶ木に勉強教えてやってくれないか。」

 

「え?」

 

「あいつYさんとは違って、それほど成績悪くなかったと思うのだが、

 進学決めるのが遅かったし、生徒会とかもあるからな。

 ちょっと心配なんだ。」

 

「そ、そう。

 ・・・・・わかったわ。

 あなたの依頼、喜んで受けさせてもらうわ。」

 

「すまん、頼む。

 あ、そ、そうだ、メシ、晩飯食っていかないか?

 今日はお前にボウリングで勝てて気分がいいんだ。

 俺に奢らせろ。

 依頼の件もあるからな。」

 

「今日はやめておくわ。

 ちょっと疲れたし。

 それに小町さんが、腕によりをかけて晩ご飯を準備しているそうよ。」

 

「そうか。

 それじゃ、駅まで送ろ 」

 

「あ~美味しかった。

 余は満足じゃ。」

 

「あ、馬鹿、ちゃんと前見ろ三ヶ木。」

 

”ドン!”

 

「きゃっ!」

 

「す、すみま・・・・・み、三ヶ木。」

 

「あ、比企谷君。

 ・・・・・と、ゆきのん。」

 

「三ヶ木、大丈夫か?」

 

「あ、ありがと、稲村君。

 うんしょっと。」

 

み、三ヶ木、お前の用事ってこういうことだったのか。

また稲村と一緒に・・・・・

な、なんだ、何でいつまでも手を握ってんだ。

さっさと手を離せ。

それになんで笑顔で見つめあってんだ、くそ。

 

”イラ”

 

え、なんだこの気持ち。

すごく気持ち悪い。

 

「み、三ヶ木、き、今日用事があるって言ってたよな。」

 

「あ、あ、あの、」

 

「用事って言ったのは、こういうことだったんだな。」

 

「え? こういうことって?」

 

や、やめろ俺、なに言ってんだ。

き、きっと今日も生徒会の用事がなんかで。

くそ、なにがこういうことってだ!

なに惚けてやがる。

いや生徒会だって。

おいやめろ、もう喋るなって。

 

「な、なに惚けてんだ。

 お前の用事って言うのは、稲村との、デ、デ、デート!

 デートだったんだろ。」

 

「え、ち、違うよ、デートって。

 ほら文化祭の前にサイゼの前であったじゃん。

 あの時、文化祭の準備の帰りに晩ご飯食べよってなったんだけど、

 とうちゃん待たせてたから。

 そんで今度食べに行こうってことになって、それで、それで 」

 

「晩ご飯食べただけなのか!」

 

「あ、い、いや、その、え、映画に。」

 

「映画。

 お前、それって完全にデートっていうんだよ。」

 

「・・・ご、ごめんなさい。」

 

「それに、お前夏休みの時に、俺との映画の約束破って刈宿と海行ってたよな。

 俺とは映画行けないのに、稲村とはいくのか。」

 

「で、でもあん時は 」

 

な、なに言ってんだ俺。

そ、そんなことまで言うことないだろう。

それにあれは俺が馬鹿なことを言ったのを、あいつが三ヶ木が聞いていたから。

川越も言ってただろうが。

 

”イライライラ”

 

お、俺何言ってんだ。

違う、そんなこと言いたいんじゃない。

他にも言うことあるだろうが、べ、勉強のこととか。

だ、だけど、なんかなんか変なんだ。

き、気持ちが収まらない。

 

「はん! お前、誘われたら誰とでもどこにでも行くんだろ!」

 

「ち、違う。

 そんなんじゃない。」

 

や、やめろ。

もうそれ以上言うな。

何でこの口が止まらないんだ。

なんでそんなに必死になって三ヶ木を傷つけることばっかり。

 

「どうだか。

 この、し、尻軽女!」

 

「な、なにさ、自分だって!

 今日会えないかなって電話したら、急用ができたって言ったじゃん!

 急用って、ゆきのんとデートだったんだ。

 ふ~ん、デートしてたんだ! 

 自分だって、自分だって!」

 

「馬鹿、雪ノ下とはそんな 」

 

「そんなって何よ!」

 

”ちら”

 

な、何でそんな悲しい目で見てるんだ雪ノ下。

くそ、こいつと、三ヶ木とこんなところで会わなければ。

え? や、やめろ。

それは言うな!

 

「うっさい、この馬鹿女が。

 そんなデートなんかしてる暇があったら、受験勉強してろって言うんだ。

 この尻軽、ビッチ女!」

 

「ううううううう、うわ~ん、ビ、ビッチじゃないもん。

 わたしは、わたしは、ずっとずっと・・・ずっと!

 ひ、比企谷君にとってわたしってなんなのさ!

 ど、どうせ、彼女とかじゃないくせに!

 それなのに、なんでそんなことまで言われないといけないのさ!

 ば、馬鹿、阿保、間抜け、えっと、えっと・・・・このロリ八!

 あんたなんか大嫌い!

 うわ~ん。」

 

”ダ―”

 

な、なんだロリ八って!

俺はロリじゃねえ。

俺はお前のこと心配して・・・・

なのに、お前稲村なんかと。

昨日だって、こいつと家に入っていったじゃねえか。

家の中でなにしてたんだ。

く、くそ!

なんだよ俺。

小さいこと気にしないのが男だったんじゃないのか。

 

「比企谷君、なにしてるの追いかけなさい。

 そして謝りなさい。」

 

「はぁ?

 な、何で俺が謝らないといけないんだ。」

 

「比企谷君!」

 

「ほら、駅行くぞ。」

 

”ぐぃ”

 

「ちょっと待て比企谷!」

 

「なんだ。」

 

「比企谷、今度の体育祭、お前1万メートル走に出ろ。」

 

「はぁ? なに言ってんだお前。」

 

「俺も1万メートル走に出る。

 俺と勝負しろ。

 俺が負けたら、俺は三ヶ木のことをきっぱりあきらめる。

 生徒会終わったら、二度と近寄らない。

 俺が勝ったら、お前はもう二度と三ヶ木の前に現れるな!」

 

「はぁ? さっぱり意味が分からないだが。

 それにまだ色分けさえ決まってないだろうが。」

 

「1万メートル走は各色から2名でる。

 たとえ同じ色になったとしても大丈夫だ。

 それに1万メートル走は毎年誰も出たがらないからな。」

 

「断る。

 なんでそんなことしないといけないんだ。」

 

「理由か。

 お前は俺の掛け替えのない人を侮辱した。

 これ以上の理由があるか。

 本当は今ここでぶん殴ってやりたい、死ぬほどにな!

 だがそれじゃ俺の気が済まない。

 勝負しろ。

 俺がお前より三ヶ木のことを想っているってことを、

 お前にわからせてやる。」

 

「・・・・・断る。」

 

「やっぱりな、お前の三ヶ木に対する気持ちなんてレプリカじゃねえか。

 だから昨日もあいつの相談の意味がわからなかったんだろ。

 このレプリカ野郎が。」

 

「な、なんだと!」

 

「勝負、するんだな。」

 

「ち、勝手にしろ。」

 

「選手に登録しておく。

 逃げたらお前の負けだ、もう絶対に三ヶ木に近づくな!

 雪ノ下さん、君が証人だ。

 いいな、比企谷。」

 

”スタスタ、ピタ”

 

「じゃあな比企谷。

 俺は絶対お前を許さない。」

 

”スタスタスタ”

 

「雪ノ下、さっきの依頼は取り下げさせてくれ。

 この件を三ヶ木には言わないで欲しい。

 これが俺の依頼だ。」

 

「比企谷君。 」

 

「すまない、俺帰るわ。」

 

なんだこの気持ち、滅茶苦茶気持ち悪い。

・・・・・・・・くそ! 最低だな、俺。




最後までありがとうございます。

二人の休日のはずがこんなことに。

次回より嵐の体育祭編。
さて、三ヶ木への想いをかけたこの勝負。
勝つのは。

また次話読んでいただけたらありがたいです。

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

体育祭編 前編 ーなんのためにー 

今回も見に来ていただきありがとうございます。

えっと、8月8日、祝八幡誕生日!
こんな面白い作品を生み出して頂き、渡航先生に感謝っす。
そ、それとそんな記念日の忙しい中、お時間いただき感謝です。
(きっと今日はいっぱい投稿されるんだろうな~)

今話より体育祭です。
あ、ごめんなさい。
八幡と稲村の1万m走は、じ、次話で。
(す、すみません。今話では書ききれなかったす。)

で、ではよろしくお願いします。


ひ、羊が一億一匹、羊が・・・・・

ぐぐぐ。

だ、だめだ、眠れん。

ずっと目を閉じて羊の数を数えているんだが、とうとう羊が一億匹を

超えてしまった。

頭の中にはものすごい数の羊の群れが。

でも眠れない、眠れないんだ。

く、くそ、ひ、羊が一億二匹。

 

「メェ~」

 

え、あ、君違うから。

君ヤギだから。

数えているのは羊だから。

・・・・・はぁ~、なにやってんだ俺。

水、水でも飲んでくるか。

 

”ガチャ”

 

ふぅ、何であんなこと言ってしまったんだろうな。

ビッチ女か・・・・・本当最低だ。

 

”スタ、スタ、スタ”

 

あいつが稲村といるところを見て。

昨日、あいつが稲村と家に入っていくのが思い浮かんで。

そうしたら、一瞬、中学のころの記憶が蘇って。

はぁ~やっぱりこいつもなんだってそんな思いが頭をよぎって。

 

俺なんかが本当に好かれているわけがない、こいつもやっぱりなにか裏が

あるんじゃないかって。

・・・・・やっぱり裏切られた。

そう思ったら、もうなにがなんだかわからなくなって。

あいつにあんな酷いことを。

 

本当は、俺は、俺が・・・・・・・裏切ったんだ。

あいつを信じることができなかったんだ。

そんな俺があいつのそばにいていいはずがない。

 

「ふぅ~」

 

”キュッ、ジャー”

 

雪ノ下はそんな俺と三ヶ木のやり取りを”本物”と言った。

そんなわけないだろう。

 

『すまん、俺帰るわ。』

 

『待ちなさい。

 比企谷君、あなたどうするつもり?』

 

『あんなの稲村が勝手に言ってるだけだろうが。

 そんなのに付き合う必要はない。

 疲れるし、苦しいし、面倒だし、断固断る。

 そ、それにだな、え、えっと・・・

 そうだ、雪ノ下、お前勘違いいしているぞ。

 俺と三ヶ木はお前が思っているような関係じゃない。

 た、ただの友達だったんだ、さっきまでな。

 だ、だから・・・・・俺には走る理由がない。』

 

『比企谷君。

 今の言葉は本物なのかしら?

 私には、私にはさっきの三ヶ木さんとのやり取りのほうが、

 ・・・本物に思えたのだけど。』

 

雪ノ下お前は間違っている。

あんなもの、あんな何の理性の欠片もない、ただの感情のぶつけ合いが

本物のわけがない。

あれが本物だとしたら・・・・・・すげぇ気持ち悪い。

くそ!

 

”キュッ、ポタ、ポタ”

 

『あんたなんか大嫌い!

 うわ~ん。』

 

俺も嫌いだ

三ヶ木の泣き顔すごく嫌いだ、世界でいや宇宙で一番嫌いだ。

あの顔みると、なんかものすごく哀しくなっていたたまれなくなって。

だから、もう二度と見たくない。

 

”ゴクゴク”

 

「ふぅ~。」

 

だったらどうすればいい。

どうすれば、あの泣き顔見なくてすむ。

やっぱり稲村が言う通り、三ヶ木は俺といるといつも辛い思いをさせてしまう

のだとしたら、いつも泣かせてしまうのだとしたら、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり俺には走る理由なんてない。

 

だが、それでいいのか、本当にいいのか俺。

 

『比企谷・・・・・・失ってしまったものは簡単には戻らないんだ。

 本当に大事だと思うのなら、それを失わない為の努力をするべきだ。』

 

・・・・・葉山。

本物の関係ってなんなんだ。

雪ノ下が言ってたようにあれが本物なのか?

だとしたら俺は・・・・・くそ、頭ん中がぐちゃぐちゃしていて考えが

まとまらねぇ。

 

”ガチャ”

 

「ん? お兄ちゃんまだ寝てなかったの?」

 

「あ、ああ。

 ちょっと喉が渇いてな。」

 

「ふ~ん。」

 

”スタスタスタ”

 

「ふあ~あ、小町もなにか飲もうかなぁ。」

 

”ガチャ”

 

「あちゃ~マッ缶しかないよこの冷蔵庫。

 仕方ないなぁ~

 マッ缶と、えっと牛乳、牛乳、たしか少しだけ残っていたはずなんだけど。

 おっ、あった。

 どれどれ。」

 

”トクトクトク”

 

な、なんてことするんだこいつは!

神聖なマッ缶に、ぎゅ、牛乳を混ぜるだとー

い、いくら世界最強の妹だとしても断じて許せん。

 

「こ、小町さん、なにしてるのかな~」

 

「ん? マッ缶と牛乳混ぜてるんだよ。」

 

”ゴクゴク”

 

「ふ~、やっぱりこっちのほうが美味しい。」

 

「こ、小町それは邪道だ。

 マ、マッ缶を冒涜している。」

 

「ん? だけどまろやかになって、とっても美味しいよ。

 ほら。」

 

え、く、くれるの?

の、飲んでもいいのか。

 

”ゴク”

 

「う、美味い。」

 

おお、なんかすごく美味しい。

こ、これは牛乳によるものなのか、い、いや断じて違う!

これは、小町エキスによるものだ。

うむ、間違いない。

 

”ゴクゴク”

 

「ふぁー、美味しかった。」

 

「ん。」

 

「え、な、なに小町さん、その手は。」

 

「一万円。」

 

「な、か、金取るのか!」

 

「当たり前じゃん。

 可愛い小町との間接キッスを堪能できたんだよ。

 それぐらい安いものだよ。」

 

「ぐ、た、確かに。

 だ、だが一万円は 」

 

「仕方ないな~、出世払いにしておいてあげる。

 ちゃんと100倍にして返してね。

 あ、今の小町的にポイント高い。」

 

「・・・」

 

・・・・・100倍返しって、一杯100万円かよ。

この娘、怖い。

 

「で、雪乃さんとなにかあったの?」

 

「い、いや、雪ノ下とはなにもない。」

 

”ポンポン”

 

え、なにこの娘

ソファを”ポンポン”って、ここに座れってことか?

は、座ったらなんか料金取られない?

可愛い小町の横に座れただけでもって。

 

「い、いくらだ、小町。」

 

「100万円。」

 

や、やっぱりか。

またしても100万円。

お兄ちゃんもう破産しちゃいそうなんだが。

 

「今日は特別タダにしてあげる。

 ほら座って。」

 

「お、おう。」

 

「お兄ちゃん、今日は雪乃さんとずっと一緒じゃなかったの?」

 

「まぁそうだったんだが、いろいろあってな。」

 

「それで、こんなに遅くまで一人でなにグチャグチヤしてたの?

 いいから小町に言ってみそ。」

 

「い、いやいい。

 これは俺の問題だ。」

 

「お兄ちゃん。

 小町はなにがあってもお兄ちゃんの味方だよ。

 だから言ってみ。

 さっ、ささっ。」

 

「こ、小町~

 お、お兄ちゃんも、小町さえいれば世界中を敵にまわしても平気だぞ。」

 

「小町はヤダよ。」

 

「・・・・・あれ?」

 

「だって、世界中の人が敵になるってことは、間違いなくお兄ちゃんが

悪いんじゃん。」

 

「そ、そだな。」

 

「で、どうしたの?

 世界中の人が敵になるようなことしたの?」

 

「あ、あのな小町。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ~何やってんだこの人、最低だ。

 お兄ちゃん、本日ただいまをもって兄妹の縁を切らせてもらうから。」

 

「こ、小町!」

 

「お兄ちゃん、これまで大変お世話しました。」

 

”ペコ”

 

「あ、お世話なりました。」

 

”ペコ”

 

「じゃない!

 こ、小町、お兄ちゃんを見捨てないで。」

 

「まったく、何でそんなこと言ったの!」

 

「頭の中ではそんなこと言っちゃいけないってわかっていたのに。

 なにがなんだかわからなくなっちまって。

 俺、何であんなこと言ったんだ。

 まさか、何かの病気なんじゃないのか。

 ほら、考えていることと違うことを言ってしまう病気。

 きっとそうだ、そうなんだ。

 なんかこう胸の奥のほうがイリイリってしてるし。

 は、もしかして不治の病なんじゃ。」

 

「・・・お兄ちゃん。」

 

「はい。」

 

「兎に角、謝りなさい。」

 

「・・・・・」

 

「まったく、たかが映画と食事行ったぐらいなのに。

 なにやきもち妬いてるの!

 そんなの友達とだったら普通だよ、ふ・つ・う! 」

 

「ば、馬鹿小町。

 俺がやきもちなんか妬くはずがない。」

 

「あのさ、滅茶苦茶やきもちじゃん。

 それを世間一般ではやきもちって言うの。

 間違いなくお兄ちゃんが悪いんだよ。

 それなのに、美佳さんはちゃんと謝ってくれたんでしょ。」

 

「あ、ああ。」

 

「で、お兄ちゃんは謝ったの?」

 

「い、いや。」

 

「はぁ~

 全く自分のことは棚に上げて。

 小町、本当に美佳さんが不憫で不憫で、オヨヨ。

 いいから、いますぐ謝りなさい!」

 

「い、今すぐ謝らないといけないのか。

 こ、こんな時間に電話はまずいだろ。」

 

「お兄ちゃん。」

 

”ジー”

 

はっ、な、なにその目。

そのあきれ果てた目はやめて。

小町にそんな目されるとお兄ちゃん耐えられない。

 

「兄妹の縁。」

 

「わ、わかった、今から行ってくる。

 三ヶ木の家行って謝ってくる。」

 

「いや、それマジ迷惑だから。

 ラインしておくの。」

 

「ライン・・・・・め、メールでもいいか?」

 

「どっちでもいいから。」

 

「な、なんてメールすればいいんだ?」

 

「そんなの自分で考えて!

 小町、もう寝るけど、ちゃんとメールして謝っておくんだよ。

 わかった!」

 

「あ、ああ。

 そ、そうだな、小町がいう通り俺が悪いんだと思う。

 すまない小町。」

 

「小町はいつもお兄ちゃんの味方だよ。

 あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「・・・・・そ、そだな。」

 

     ・

     ・

     ・

 

ごめんなさい・・・・自分の罪を認めて相手に許しを請うこと。

すみません・・・・いくら謝っても謝り切れないこと。

申し訳ない・・・・弁解の余地がないこと。

 

ふむ、どの言葉で謝るのが正解なんだ。

なにかどれもちょっと違うような気がするんだが。

いっそ三つ全部使って。

いや待てよ他にも言葉が。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トントントン”

 

「ふぁ~あ。」

 

”ガチャ”

 

「え! お、お兄ちゃん。

 まだ起きてたの?」

 

「こ、小町、この場合だな、ごめんなさいがいいのか、すみませんがいいのか、

 それとも申し訳ないがいいのかどれがいいと思う?」

 

「はぁ? お兄ちゃんまさか朝までそれずっと悩んでたの?」

 

「あ、ああ。」

 

「お兄ちゃん、国語学年3位なんでしょ。

 まったくもう。

 ほらもうこの時間なら電話のほうがいいよ。

 まったく、こんなのは少しでもはやく謝ったほうがいいのに。」

 

「い、いや、だがもし電話出てくれなかったら。

 ほ、ほら、着信の時、誰からかわかるじゃねえか。

 も、もし俺ってわかったら電話出てくれないんじゃないか。

 た、たしか以前、俺着信拒否されていたし。

 そ、そうだ小町、お前から電話して謝っておいてくれ。」

 

「・・・最低だこの男。

 ほれちょっとスマホかして。」

 

「ん? ああ。」

 

”カシャカシャ”

 

「お、おい、俺のスマホでなにしてるんだ?」

 

「お兄ちゃん、美佳さんなら大丈夫だよ。

 きっとお兄ちゃんからの電話待ってるよ。

 もしかして徹夜でスマホ握りしめて待ってたかも。」

 

「な、何でそんなことわかるんだ。」

 

「そんなのわかるよ。

 美佳さん、お兄ちゃんのこと大好きなんだもん。」

 

「・・・・・」

 

「はい、もしもし?」

 

「はい、お兄ちゃん、あとよろしく。

 じゃあね~」

 

”タッタッタッ”

 

「お、おい、小町。」

 

げ、本当に行っちまいやがった。

ど、どうするんだ。

な、なんていえばいいんだ?

そ、そうだ、まずはお早うからだよな。

で、電話出てくれたってことは挨拶ぐらいはしてくれるんじゃねえか。

 

「あの~、もしもし?」

 

「あ、あ、お、お、俺だが。」

 

「俺? 俺じゃわからないよ。

 もしかして詐欺?」

 

「え? あ、あの比企谷だが。」

 

「比企谷って?」

 

「え? あ、あの、同じ学校の 」

 

「比企谷、比企谷、あっ!」

 

なにこれやっと思い出してくれたの。

忘れたくなるぐらい俺のこと怒ってたの。

 

「比企谷君、お早う。」

 

「あ、お、お早う。

 あ、あのな。」

 

「なにかなぁ~比企谷君。」

 

え? あれ?

なんかいつもと違う気が。

少し声の感じも落ち着いてないか?

若さがないというか。

えっとスマホの画面は確かに三ヶ木って表示されている。

間違いなく三ヶ木のはずなんだが。

 

「ね、ね、比企谷君、比企谷君ってわたしのこと好き?」

 

「は?」

 

な、なにを言い出すんだいきなり!

あ、あんまり怒りすぎて頭おかしくなったのか?

いや待て、そうだ!

あいつはいつも電話した時や電話してきた時は決まって・・・

 

「だ・か・ら、わたしのこと好き?」

 

「・・・・・あんた誰だ!」

 

「え~、美佳だよ。」

 

「ちが~う、三ヶ木はそんなんじゃない。

 あいつはいつも電話の時はだな、もっと馬鹿っぽく『三ヶ木だよ♡』って

 いうんだ!

 お前は誰だ!」

 

「げ、バレた?

 ふふふふふ、三ヶ木は預かった。

 返してほしければ、君の好きな人の名前を言うんだ。」

 

「い、いや、もういいから

 あんた誰?」

 

「もう、ノリが悪いな~

 私は美佳のおば・・・・お姉さん。」

 

「え、三ヶ木にお姉さんいたんですか?

 てっきり亡くなられた妹さんだけかと。」

 

「話せば長くなるんだよ

 聞きたい?」

 

「あ、それいいです。

 そ、それより美佳さんはいらっしゃいませんか?」

 

「ちっ。

 美佳はさっき学校に行ったけど。」

 

「え? でも今日は振替休日じゃ。」

 

「さぁ?

 あっ、スマホ忘れるくらい慌ててたから、もしかしたら学校デートかなぁ~

 なんていったっけ、ほら、稲何とか君と。

 私もよくやったなぁ~、誰もいない教室に二人っきりで、うふふふ。 」

 

「し、失礼します。」

 

「あはは、冗談だよ。

 でもなんか用事あるって学校に行ったのは本当だよ。

 ね、それよりちょっとだけいいかなぁ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”シャー”

 

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

くそ、いつも自転車で通ってるのに、今日は何でこんなにペダルが重たいんだ。

本当に体なまってる。

しかし、お前何で学校にいるんだ、なにしてるんだ。

学校デート、そんなことないよな。

だがスマホ忘れるぐらい慌てる用事って、生徒会でなにかやってるのか。

生徒会・・・・・稲村もいるんだよな。

なんだこの嫌な感じ、また胸の奥が痛くなってきやがった。

くそ!

 

     ・

     ・

     ・

 

”シャー”

 

『今朝、あの子の瞼、すごく腫れていたんだけど、

 君、なにかしらない?』

 

『え、あ、あの、そ、それは 』

 

『あれってさ、あの子一晩中泣いてたね。

 わたしね、昔同じ経験あるからわかる。

 女の子があんなに瞼腫らすのって、君が原因だね。』

 

『あ、あの 』

 

『今回はあんまり聞かないでおいてあげる。

 でもね、一つだけ教えてくれるかなぁ。

 あんな子だけど、わたしにとってはとってもかわいい姪っ子なの。

 あの子を泣かす奴は許さない。

 

 だから・・・・・

 君はどうしたいと思ってるの?

 うううん、どうありたいと思っているの?』

 

『・・・・』

 

俺は、あの人の問いに答えられなかった。

俺はどうしたい、どうなりたいと願うんだ。

・・・・・えっ、姪っ子? 確か姪っ子って言ったよね。

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキッ”

 

総武高。

ふぅ、やっと着いた。

ここに三ヶ木がいるんだ。

だけど会ってどうするつもりだ。

 

もしかしたら本当に稲村と一緒にいるかもしれない。

一緒に・・・・・か。

そうだったらちょっと辛いな。

辛い? 辛いのか俺。

 

だけど、いやだからこそ、俺は行かないといけない。

俺はどうしたいのか、答えはそこにあると思う。

だから探しに行くんだあいつを。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタ、スタ、スタ”

 

しかし我が母校ながら大丈夫か

校舎のカギ壊れてて、割とすんなり入ってこれたんだが。

確か、屋上に出る扉の鍵も壊れてたよな。

 

「・・・・・」

 

静かだ。

当たり前か、今日は振り替えの休日だから誰もいないが当然だ。

部活も休みのようだしな。

休日の学校ってこんなに静かなんだな。

 

”ガクガク”

 

は~、足がガタガタで、う、うまく歩けねぇ。

これ明日は筋肉痛決定だ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、やっとまともに歩けるようになった。

だが、あいつどこにいるんだ。

生徒会室には鍵がかかってたし。

もしかして校舎内にはいないのか。

だとしたらどこに・・・・・

 

『今朝、あの子の瞼、すごく腫れていたんだけど、

 君、なにかしらない?』

 

はっ! も、もしかして。

い、いやそんなはずはない、ないはずだ。

あってたまるか!

 

「あ、あの馬鹿!」

 

”ダ―”

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 

や、やっぱりこの扉、鍵壊れたままだ。

あいつはここから屋上に出れること知ってるはずだ。

 

”バタン!”

 

「み、三ヶ木!!」

 

”キョロキョロ”

 

い、いねぇ。

屋上、だ、誰も、誰もいないよな。

いない、いない、いない。

ま、まて、もしかしてもう。

 

”ダー”

 

いない、いない、いない、いない、いない、いない、む、向こう側!

 

”ダ―”

 

いない、いない、いない、いない、こ、こっちにもいない。

い、いない、いねえよ。

よかった、よかったじゃねえか、この馬鹿野郎!

 

”ヘナヘナヘナ”

 

く、くそ、安心したら足が。

さすがに屋上まで階段一気に登ったから足が限界だ。

学校まで自転車必死で漕いできたしな。

・・・・・ははは、まったく何してんだ俺。

で、でも、でもな、ぐす、ううううう、よ、よかった、よ゛か゛った゛。

は、な、なんだ俺、泣いてんのかよ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

はぁ~、でもどこにいるんだあいつ。

これだけ探してもいないっていうことは、もう帰ったのか?

 

「君、なにしてるのかね。」

 

「え、あ、いえ、あの 」

 

「ちょっと来たまえ。」

 

     ・

 

「いや~、度々お騒がせしてすみません。」

 

「いえ、仕事ですから。

 あ、お帰りになられる時は、ひと声お願いします。」

 

「はい。

 お仕事、ご苦労様です。」

 

”スタスタスタ”

 

「まったく。」

 

「すみませんっす。」

 

「で、君も何か用事があったのかね。」

 

「あ、あの・・・・・・え、君もって?」

 

     ・

     ・

     ・

 

い、いた。

体育館倉庫、平塚先生の言う通りあいつはここにいた。

 

「ん~と、これは大丈夫だ。

 得点板問題なし、OKっと。」

 

で、何やってんだあいつ。

何かチェックしてるのか?

 

「うんと、あ、これチバセンのコスか。

 大丈夫だね、でも今年もこれやるのかなぁ。」

 

”ガサガサ”

 

「玉入れの玉、あちゃ~綻びてるじゃん。

 しゃ~ない、これ持って帰って修繕しようっと。」

 

はは、はははは。

そっか、体育祭で使う備品、確認しているのか。

学校デートとかじゃなかったんだ。

本当にご苦労なこった。

文化祭終わったばっかりだっていうのに体育祭か。

しゃ~ない、ミルクティーでも買ってきてやるか。

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

おう、お疲れさん!

ミルクティ―飲まないか?

ってこんな感じでいいよな、自然だよな。

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

よ、よし!

 

”ガタガタ”

 

ん、まだ備品の確認やってたのか。

 

「なつかしいなぁ、入場門。

 去年、比企谷君と一緒に作ったんだ。」

 

ん? えっと~そうだったっけ?

確か暑いなか由比ヶ浜に無理矢理手伝わされたのは覚えているんだが。

三ヶ木いたっけ?

 

「へへ、わたしが暑くてへばりそうになった時、比企谷君助けてくれたんだ。

 嬉しかったなぁ~」

 

あ、思い出した。

あの時の生徒会の役員って、あれ三ヶ木だ。。

まぁ、文化祭の件もあったし、生徒会で一番話しかけやすかったからな。

 

「うん、入場門も大丈夫そうだ。」

 

”ツー”

 

「あ、あれ? お、おっかしいなぁ。

 また涙でてくるの?

 昨日あんだけ泣いたのに、まだ涙って出るんだ。

 こんなんじゃ、いまに体中の水分全部なくなってミイラになっちゃうよ。

 で、でも・・・・・・ぐす、涙とまらない。」

 

み、三ヶ木。

あ、そ、そうだハンカチ、ハンカチは 

 

「やり直したい。

 あの頃に戻ってやり直したい。

 それで、ちゃんとわたしの気持ち伝えたい。

 月が綺麗とか茶化してでなく、ちゃんと比企谷君の目を見てわたしの本物の

 気持ちを伝えたい。

 ・・・・比企谷君、好き。」

 

”ガタ”

 

「へ?」

 

「あっ 」

 

「・・・・・あ゛ー!!

 な、なんで、こ、こ、こ、ここにいるのよ!」

 

「いや、ちょっと 」

 

”グラッ”

 

「あ、あぶねぇ。」

 

「え?」

 

”ガッターン!”

 

「きゃぁ! 

 ・・・・・え? あれ? い、痛くない?

 でもなんか身体にかぶさってて重たいんだけど?

 えっと眼鏡眼鏡。」

 

「ほら眼鏡。」

 

「あ、ありが・・・・

 あ、あ゛ー!」

 

「よ、よぉ。」

 

げ、ちょっとやばい。

つい飛び出したけど、これって、この状態ってまずいよな。

入場門が重たいのもあるけど、そんなことより俺いま完全に三ヶ木の上に

覆い被さってる。

これちょっと見たら、俺が三ヶ木押し倒しているように見えなくない?

三ヶ木の顔、すごく近くて、ほ、ほら三ヶ木の吐く息が感じられて。

あ、あの時みたいに。

 

あの時はこいつこのまま目覚まさないじゃないかって、全く余裕なかったけど今は。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・こいつ、こんな顔してたんだ。

 

瞳、本当にきれいな茶色で、こうやってずっと見つめられると・・・・・

あの、その、い、いや、そんなに見つめないで。

なんかほんとやばいから。

あっ、瞼ぽってり腫れてる。

やっぱりこいつ昨日の夜はずっと・・・

 

鼻、ちょっと小さめで丸っこくて可愛くて。

こいつの顔の中で一番好きかもしれない。

あっ、ちょっと眼鏡の跡ついてんだ。

たしかシリコン製のやわらかいパッドがいいって聞いたことがある。

今度プレゼントしようか・・・でも、もらってくれるだろうか。

 

唇、なんかプルンって感じで、とても柔らかそうで艶があって。

これって天ぷら食べた後じゃないよな。  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キスしてぇ。

は、な、なに言ってんだ俺。

ばっかじゃないの。

こんなこと言ってる場合じゃないんだ。

もし今誰か来たら。

 

「比企谷君?」

 

「け、怪我してないか?」

 

「あ、う、うん。

 ひ、比企谷君のほうこそ大丈夫?」

 

「ああ。」

 

「あの! 昨日はごめんなさい。」

 

「いや、昨日は俺が悪かったんだ。

 全面的に俺が悪い。

 今日、謝りたくて。」

 

「で、でもわたしが悪くて 」

 

「い、いや、違うんだ。

 俺、何であんなこと言ったのかわからないんだ。

 なんか頭の中がわけわからなくなって。

 自分で何を言ってるのかわからなくなって。

 本当にすまない。」

 

「うううん。

 わたしの方こそごめんなさい。

 ロ、ロリ八だなんて。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・あ、す、すまん。

 い、いま入場門どかしてからどくから。」

 

”ぎゅっ”

 

「お、おい三ヶ木、なんで抱き着いて 」

 

「もうちょっとだけこのままで・・・いてください。

 お願い。」

 

「え?

 あ、ああ。」

 

はぁ~、なんかいい匂い。

女子って何でこんなにいい匂いするんだ。

これってシャンプーとか石鹸の匂いなんだろうか?

はっ、や、やばい。

この抱き着かれた状態だと、俺の何が何になってて・・・ちょっとやばいんだが。

 

「み、三ヶ木、あ、あの 」

 

「へへへ、去年の文化祭の時のこと思い出しちゃった。

 後片付けの時、あの時もこんな感じでわたしを助けてくれた。」

 

「・・・・・そ、そうだったか。」

 

い、いや、そ、そんなことより、今の俺は非常事態なんだ。

その俺の何が何の状態で、すごく元気よくて。

このまま抱き着かれてると、さすがに三ヶ木に気付かれて。

も、もし気付かれたら微妙な雰囲気になって、こ、こいつのことだ、

もしかしたらもしかしちゃって。

な、なに、俺たちの初体験は体育館倉庫って、この前読んでた小説と同じ

シチュエーション?。

この場合、あの小説と違ってすでに抱き着かれている状態であって・・・・・

これ、肩揉むぐらいじゃすまないよね。

ま、まずい、まずい、まずい、これマズイわ~、ど、どうすっぺ。

いやなんで戸部? 戸部はいいから。

何とかまずは気持ちを落ち着かせないと。

えっと、あ、そ、そうだ!

ひ、ひつまぶしが、ち、違う!

羊が1億二匹、羊が一億三匹、羊が一億・・・・・

 

「・・・・・あ、あのね比企谷君。」

 

「・・・・・」

 

「あ、あのさ・・・・・

 わ、た、わたしね、あの文化祭の時からあなたに恋しました。

 あれからわたしには比企谷君しか見えない。」

 

「・・・・・」

 

「ちゃんと言うから聞いてね。

 わたし・・・・・わたしは比企谷君が好きです。

 比企谷君のことが好き、好き、好き、大好き。

 今までも大好きでした。

 そんで、これからもずっとずっと比企谷君のことがだいす 」

 

「ぐぅ~」

 

「へ?」

 

「ぐぅ~、ぐぅ~。」

 

「って、おい!

 お前寝てるのかい!

 こんな状況で寝てるのかい!

 人の上に覆い被さった状態で寝れるのかい!

 林間学校の時といい、よくこんな状況で 」

 

「ぐぅ~、ぐぅ~」

 

「いや、ぐぅ~じゃないから。

 この、ば、馬鹿!

 ちゃんと伝えたくて、持ってる勇気、全部振り絞って、

 最後の一滴まで絞り切って告ったのに!

 もう!

 げ、寝やがったからめっちゃ重たくなってきた。

 お、おい、起きろ!」

 

「ぐぁ~」

 

「げ、ほんとマジ寝てる。

 重い、重い、重いって。

 ど、どいてくれ~

 あ、でも、もう少しこのままでもいたいかも。

 い、いや、でも重たい! もう限界。

 で、でももう少し・・・・・・

 やっぱり重た~い!

 だ、誰か、だずげで~」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「よしっと印刷スタート♡」

 

“ガ~、ガ~” 

 

「るんるんるん♬

 へへ、えへへへ、うふふふ。」

 

”つんつん”

 

「稲村先輩。」

 

「え? あ、会長なにか?」

 

「稲村先輩、あれどうしたんですか?」

 

「あれって?」

 

「あのプリンターのとこにいる超ご機嫌さん。」

 

「プリンター? あ、三ヶ木のことですか?

 あ、い、いや、俺にもちょっとわからなくて。

 てっきり落ち込んでるのかと思ったけど。」

 

「え?」

 

「あ、い、いや何でも。」

 

”ガ~、ガ~”

 

「よし、打ち出し完了。

 かいちょ~

 体育祭の資料、準備出来ました。」

 

「え、あ、はいはい。

 そ、それじゃ、体育祭運営委員会の対策会議始めましょう。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで、去年片付ける時、カバーとかラップとか結構気をつけて片付け

 ましたから、大抵のものはそのままでもいけそうです。

 た、た、ただ・・・・・あの~、にゅ、入場門だけはなんか倒れてたみたいで。

 な、なんでかなぁ~。

 ちょっと補修が必要です。」

 

「そうですか。

 でもなんで美佳先輩、顔赤らめてるんですか?」

 

「え、うそ!

 い、いやなんでもないです。」

 

「ふ~ん、まぁどうでもいいですけど。

 それじゃ、来週からの体育祭運営委員会は、企画進行の関係は副会長と

 書記ちゃん。

 製作物関係は稲村先輩と美佳先輩が担当ということでお願いしますね。」

 

「「はい。」」

 

「あ、会長、あと運営委員長の選出の件が。」

 

「あ、それなんですよ~

 誰かいい人いません?」

 

「・・・・・」

 

「えっとそれじゃ、明日はお休みにして、明後日までに一度検討してみて下さい。

 あ、蒔田はダメですよ!

 絶対ダメです!

 いいですか! 蒔田はダメ! 」

 

「「・・・・・」」

 

「わかりました?」

 

「「あ、はい。」」

 

「ね、ねね、書記ちゃん、会長どうしたの?

 なんか舞ちゃんとあったの?」

 

「あ、ほら、蒔田さん文化祭の件があって人気上がってるから、

 それでいろはちゃんちょっとナーバスに。」

 

「あ、ああ、そうなんだ。」

 

「ふ~。

 あ、あと、それとですね、副会長、書記ちゃん、稲村先輩、見習いさん、

 この生徒会にとって体育祭は最後の大きな行事です。

 だからあの、あのですね・・・・・・・・思いっきり、みんなで楽しみましょう。

 ではよろしくです。えへ♡」

 

「「は、はい!」」

 

「お、おい、わたしは名前じゃないのかよ。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”チラ”

 

そろそろいい時間か。

今日も誰も依頼に来ないしな。

俺にはやらないといけないことがある。

 

「ヒッキー、さっきから時計ばっかり見てるね。

 何か用事?」

 

「え、あ、ああ。

 雪ノ下、すまん今日先帰っていいか?」

 

「あら、何か用事があるのかしら?」

 

「あ、おれ今日、家まで走って帰るつもりなんだ。

 だから少し早めに帰りたい。

 まぁ、ほら俺1万メートル走に出ないといけないから。」

 

「え?」

 

「あ、いや、1万メートル走に出るから。

 だからちゃんと練習しないとな。」

 

「そ、そう。

 ・・・・・比企谷君、あなた走る理由が見つかったということかしら。」

 

「ああ。」

 

走る理由っか。

仕方ねえだろう、あいつにああまで言われちまったんだ。

走るしかねえ。

 

『わたし・・・・・わたしは比企谷君が好きです。

 比企谷君のことが好き、好き、好き、大好き。

 今までも大好きでした。

 そんで、これからもずっとずっと比企谷君のことがだいす 』

 

答えはみつかったんだ。

俺はどうしたい?

俺は・・・あいつを守りたい。

だからこの1万メートル走、絶対に負けるわけにはいかない。

まして逃げ出すことなんかできない。

だったら俺は、

 

「だから、ちゃんと練習したいんだ。」

 

「・・・・・わ、わかったわ。

 それじゃ今日はもう終わりましょう。

 私も今日は姉さんから食事に誘われていたから。」

 

「え、ヒッキーマジで走って帰るの?

 でも自転車どうするの?

 今日の朝も自転車だったよね。」

 

「まぁ、おいて帰るわ。

 明日朝はちょっと早起きして電車で来る。」

 

「あ、じゃあ、あたしが自転車で後ろからついて行ってあげる。

 ほらよくマンガなんかに出てくるじゃん。

 それにさ、朝ちょっと早くって大変じゃん。

 あ、ち、違うよ。

 ヒッキーがじゃなくて、早めに朝食の準備しないといけない小町ちゃんがだよ。」

 

「小町・・・そうだな。

 すまん頼むわ。」

 

「うん。

 ゆきのん、あとお願いしてもいい?」

 

「由比ヶ浜さん、あなた・・・・・

 いいわ、カギは返しておくから。」

 

「ありがとうゆきのん。

 ほら、ヒッキー行くよ。」

 

”ガラガラ”

 

「ね、ゆきのん。

 指、もう絆創膏してないんだね。

 傷、治ったの?」

 

「え、ええ。」

 

「・・・・・そっか。

 じゃ、また明日。」

 

「ええ、明日。」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・・」

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし、姉さん。

 今日、早く帰ってこれるかしら?

 少し、話しがしたいのだけれど。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「部長さん、運営委員の協力の件、よろしくお願いします。」

 

「しかし、県予選近いしな。

 うち部員少ないから、いま抜けられるときついんだよな。」

 

「あ、でもそこは、ほらほら来年の部費査定の件もあるから。

 よろしくお願いします。」

 

「ん~、でもなぁ。」

 

”にぎ”

 

「部長さん、よろしくお願いします、にこ♡」

 

「げ、あんたどこから?」

 

「お、おお、舞ちゃん任せとけ。

 生きのいい奴を行かせるから、思いっ切りこき使ってやって。」

 

「ありがとうございます。」

 

「あ、あの、舞ちゃん、よかったらアド交換しない?

 ほ、ほらいろいろと委員会の件とか連絡したいことが 」

 

「あ、それじゃ、連絡必要な時はこのアドに。」

 

「お、おい!

 それわたしのアドじゃん。

 なにすんだ!」

 

「え~、いいじゃないですか~」

 

「よ、よくない!

 ほ、ほら行くよ。」

 

「あ、じゃあ、部長さんよろしくです。」

 

「お、おう、舞ちゃん任せておいて。」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい! 何が狙いだ!」

 

「え~、狙いなんかないですよ。

 運営委員長候補としてあたりまえじゃないですか~」

 

「はぁ!

 あんたまた委員長やるつもり!」

 

「そうですよ。」

 

「なんで!」

 

「だ、だって・・・・・・・

 これが最後の大きなチャンスなんですもん。」

 

「え?」

 

「体育祭、生徒会にとって最後の行事じゃないですか。

 ・・・生徒会だから、稲村先輩相手してくれるんです。

 役員だから仕方なく。

 生徒会じゃなくなったら、稲村先輩にとってわたしなんか、その他大勢の

 生徒の一人で。

 ・・・わたし、ジミ子先輩と違うから!

 だからこれがわたしにとって最後の大チャンスなんです、頑張るんです。」

 

「生徒会じゃなくなったら・・・・か。」

 

「だけど、ほら体育祭の運営委員って運動部の人しか入れないじゃないですか。

 わたし新聞部だから委員になれない。

 だから委員長になるしかないんです。

 それで委員長になって稲村先輩と 」

 

「そっか。」

 

「そうです。

 ということなので、ジミ子先輩、協力よろしくです。

 いつもみたいに裏でこそこそ手まわして、わたしを委員長にしてください。」

 

「・・・・・おい!」

 

「も、もちろんタダでとは言いませんよ。

 はいこれ。」

 

「え?

 あ゛! イレギュラーヘッドの缶バッジ!

 し、しかも限定版じゃん。

 ど、ど、どうしたのこれ? 」

 

「ほらほら、いいんですか? 

 これいらないんですか?」

 

「で、でも会長がね。」

 

「え、一色さんがなにか?」

 

「舞ちゃんだけは委員長ダメって念押しされてるから。」

 

「ぐ、くそ、あのアマ!

 ジミ子せんぱーい、そこを何とか。」

 

「ん~ 」

 

「せんぱ~い。」

 

「あ、そうだ。

 舞ちゃん、クラスの後期委員会決めおわった?」

 

「え? あ、まだですけど。

 確か次のLHで決めるって。」

 

「よし!

 ぐふふふ、わたしにいい考えが。

 任せなさい。

 だからそれ頂戴。」

 

「ジミ子先輩、ではよろしくです。

 ぐふふふふ。」

 

「しかし蒔田屋、お前もワルよのう。」

 

「お代官様ほどでも。」

 

「「ぐふ、ぐふ、ぐふふふふ」」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「何やってんだわたし達。」

 

「ジミ子先輩が悪いんです。

 ちょ~恥ずかしかったじゃないですか」

 

「いや、あんたものってたから。」

 

「え~、無理矢理あわせただけですよ~

 ん? あっ、あれ、ほら学校の外周走ってるのって稲村先輩!」

 

「え? あ、ほんとだ。」

 

「稲村先輩って運動部入ってましたっけ?」

 

「いや、塾があるからって帰宅部だったはずだけど。」

 

「ですよね。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「平塚先生、色分けの名簿、コピー頂いていきます。

 ありがとうございました。」

 

「ああ、ご苦労。」

 

「それじゃ。」

 

「ちょっと待ちたまえ。」

 

「え?」

 

「ここに座れ。」

 

「あ、は、はい。」

 

「君はまじめに大学行く気があるのかね。」

 

「あ、はい。

 進学したいと。」

 

”ペラ”

 

「この前の模擬試験の結果だ。

 この点数をどう思うのかね。」

 

「げ、あ、は、はい。

 そ、その文化祭とかいろいろと忙しかったもので。」

 

「まったく。

 生徒会や家事も忙しいと思うが、もう少しだな。

 ・・・ふむ、三ヶ木、君は塾に通う気はないのだな。」

 

「えっと、さすがに家計的にちょっと。

 あ、あの、頑張ります。

 か、家事も叔母が手伝ってくれるようになったし。

 あ、あの、次の中間テスト、中間テストで巻き返します。」

 

「そうか。

 わかった、もう行っていいぞ。」

 

「え? あ、はい。」

 

「あ、そうだ三ヶ木。」

 

「はい?」

 

「あんまり学校で如何わしいことはしないようにな。」

 

「え? あ、は、はい。

 ご、ごめんなさいです。」

 

”ダ―”

 

「ふ~、まったく・・・・・う、うらやましい!

 は、さ、さてと、今日はまだ学校にいるはずだな。」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、わたしだが,一つ依頼したいことがあるのだが。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「会長、各色の振り分けもらってきました。」

 

「あ、美佳先輩、ご苦労さまです。

 それじゃ、会議始めますね。

 えっと、まずは運営委員長の件ですが、どなたか思い当たる人いらっしゃい

 ました?」

 

「・・・・」

 

「あ、あの会長、その件なんですが。」

 

「なんですか美佳先輩?

 あ、蒔田はダメですからね!」

 

「あ、いや去年の運営委員会でのことなんですが 」

 

「え?」

 

     ・

 

「そ、そうだったんですか。」

 

「はい、運動部の部員さんって基本お手伝いって感じだから、生徒会側との

 温度差が出来ちゃって。

 それに地区大会とかをもってこられるとあまり強制はできなくて。」

 

「そ、そうですか。」

 

「そこで提案なんですが、是非会長のお力を。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

”トントントン”

 

「ふぅ~、ここはこれでよしっと。

 三ヶ木入場門の補修できたぞ。」

 

「あ、うん、稲村君ご苦労さん。

 こっちも玉入れの玉の修繕終わったよ。」

 

「飾りつけとかはまだいいんだな?」

 

「それは委員会のみんなでやろうと思って。」

 

「そうか。

 じゃあ後片付けして引き上げるか。」

 

「うん。

 あっ!」

 

「ん、どうした?

 あ、あいつ!」

 

”タッタッタッ”

 

「ヒッキー、本当に1万メートル走にでるんだ?」

 

「はぁ、はぁ、あ、ああ。」

 

”タッタッタッ”

 

「でもまだ色分けとか教えてもらってないじゃん。」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、まぁな。

 だが、あれ一番人気のない種目だろ。

 なんか知らないうちにグラウンドを出発して、みんなが盛り上がってる中で、

 なんかすまなそうに戻ってくるんだろ。

 疲れるだけだし、あんなもの誰も出たい奴いないだろう。」

 

「そ、そだね。

 で、でもヒッキーその種目に出るんだ。」

 

「・・・・・お、おう。」

 

「それよりさ、あっ!」

 

”ドン”

 

「ぐはぁ!」

 

「ほ、ほらちゃんと走らないと轢いちゃうぞって。」

 

「お、お前、轢いてから言うんじゃない。」

 

「ご、ごめん、ブレーキ間に合わなかった。」

 

「いたたた。

 まったく、ほら行くぞ。」

 

「おう、頑張れヒッキー。」

 

”タッタッタッ”

 

「み、三ヶ木。」

 

「あ、大丈夫だよ稲村君。

 わたしは全然大丈夫。

 さ、片付けちゃおう。」

 

「な、なぁ。」

 

「ん? 」

 

「お前・・・・・・・・・・・

 い、いや何でもない。

 さ、片付けようぜ。」

 

「う、うん。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「な、なぜだ。」

 

「うん? さっきからなに言ってるのヒッキー?」

 

「い、いや、由比ヶ浜、俺いつから体育委員だったんだ。

 まったく知らないんだが。」

 

「この前のLHで後期の委員会決めたじゃん。

 ヒッキー寝てたから、あたしが決めておいてあげた。」

 

「な、なんてことするんだお前は。」

 

「いいじゃん。

 あとさ、体育委員だけだったけどなかなか決まらなかったから。

 ほら、駄々こねてないで、体育祭運営委員会いくよ。」

 

そこなんだ。

去年は体育祭に体育委員会からんでなかったはずだが。

だから戦力がたりなくて。

少なくとも生徒会側の体育委員会がいれば抑えも効いて。

だが、なぜなんだ?

 

「なぁ、なんで去年は運営委員会に体育委員いなかったんだ?

 いればあんなに苦労しなかったんだが。」

 

「う~ん何でだろう、総武高7不思議の一つだね。」

 

総武高7不思議。

君は知っているのだろうか。

そのひとつは君が入学できたことなのだが、ここではあえて黙っておいておこう。

 

「ん? ヒッキーなんか言った。」

 

「あ。い、いやなんでも。」

 

「あたしもなんか不思議だったんだけど。

 でも今年は体育委員会も一緒にするんだって委員会で決まって。」

 

「いや、俺知らないが。

 委員会っていつあったんだ?」

 

「委員会だよって言おうと思ったら、ヒッキ―走って行っちゃたし。」

 

「はぁ~、またなにかやらされるのか

 去年散々だったんだが。」

 

「あははは、そだね。

 大変だったね。」

 

「「はぁ~」」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「あ、せんぱ~い、ご苦労様で~す。」

 

「お、おう。」

 

「先輩、体育委員だったんですね。

 いろいろよろしくです。」

 

「こんちで~す。」

 

「げ、蒔田!」

 

「あん、なに一色!」

 

「なに!」

 

「なによ!」

 

え、なにこれちょ、ちょっと怖いんだけど。

え、ほ、ほら君たちやめないと後から来る生徒の邪魔だから。

 

「ちょ、ちょっとどいて~

 あ!」

 

”バサバサバサ”

 

「か、会長、入り口で立ち話してないでください。

 もう、資料散らばっちゃったじゃないですか。」

 

「だってこの蒔田が 」

 

「あん! 当たったのあんただろ一色。」

 

「なに!」

 

「なによ!」

 

ま、またはじまった。

こわいよ~、なんかメッチャ怖いこの二人。

何でこの二人こんなに仲悪いの?

文化祭の時、めっちゃ仲良くなかった?

 

「もう、会長も舞ちゃんもそのぐらいにしておいて。

 委員のみんな引いてるじゃん。

 ほら、資料拾うの手伝って 」

 

”ひょい”

 

「ほら三ヶ木。」

 

「あ、比企谷君、ありがと。」

 

「お、おう。」

 

「ヒッキー、何で赤くなってるし!」

 

「い、いや赤くなってないだろう。」

 

「美佳先輩、美佳先輩も顔真っ赤です!」

 

「い、いや、その 」

 

「あ、あの~いろはちゃん、中入れないんだけど。」

 

「あ、ご、ごめん書記ちゃん。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで、競技につきましては、棒倒しの取りやめとチバセンの一部変更

 それと色別対抗リレーの追加が大きな変更点になります。

 えっと、何かご質問ありませんか?」

 

「三ヶ木、去年やった棒倒しは取りやめってことでいいんだな。」

 

「あ、あの~比企谷君、その~」

 

”モジモジ”

 

「な、なにモジモジしてんですか美佳先輩。

 えっと、去年、棒倒しでまさかの反則をされた方がいたそうで。

 土壇場で結果が覆るという前代未聞の不祥事が発生したそうなんですよ。

 それでやむなく取りやめとなりました。

 その代わりに男子は色別対抗リレーを行うんです。

 ま、定番ぽいですけど。

 まったくどこのバカなんでしょうね、そんな反則をしたやつって。

 ねっ先輩。」

 

「あ、そ、そうだな。

 だ、誰だそんな不届きなやつは。」

 

「ヒッキー・・・・」

 

「あとはよろしかったですか?」

 

「・・・・・」

 

「では、今日決めました通り、各担当お願いしますね。

 あ、それと各組の団長決めと各種目の選手名の取り纏めも

 各色別の体育委員さん主体でお願いしますね。」

 

「「はい」」

 

「それでは、体育委員長、締めお願いしますです。」

 

「え、あ、はい、会長。 

 あの、体育委員の皆さん、それと各運動部の皆さん。

 体育祭まであまり時間ないですが、よろしくお願いします。」

 

「「はい」」

 

今年は運動部だけでなく体育委員会まで引っ張り込んだんで、

わりと楽できそうだな。

人数が倍ぐらいに増えてるし、委員会だからモラルも高そうだしな。

どうやら去年のようなことはなさそうだ。

さてっと、今日は仕事ないから帰るか。

えっと三ヶ木は・・・・

 

「お~い、一色、ちょっと体育祭の件で話があるんだが 」

 

「げ、あ、厚木。

 美佳先輩、一緒に来てください。」

 

「あ、でも。」

 

「一人で行ってセクハラされたらどうするんですか。

 言い出しっぺは美佳先輩なんだから責任取ってください。

 ほらはやく。」

 

「だって、一緒に行くと思いっ切り嫌な顔すんだもん、厚木。」

 

「お~い一色。」

 

「ほ、ほら美佳先輩、はやく行きますよ。」

 

「ふぇ~い。」

 

”スタスタスタ”

 

・・・・・体育委員会の件、なんか裏が見えてきたんだが。

厚木か、あいつが体育委員会の担当だったもんな。

たしか一色を気に入ってるって三ヶ木言ってたから。

はは、思いっ切りいやな顔されてやがる三ヶ木。

 

”ガタ”

 

さてっと、それじゃ俺は帰るか。

 

「ヒッキー、今日も走るの。」

 

「あ、ああ。」

 

「そっか。

 よし、じゃあ行こ。」

 

”だき”

 

「お、おい、腕離せ。」

 

「えー、いいじゃん。」

 

     ・

 

 

『いくよ、はい横ピース! 』

 

『え~、俺もかよ。』

 

『そうだよ、ほら早く。』 

 

「ふ~、はは、二人して横ピースかよ。

 三ヶ木と撮ったプリクラか。

 なんかすごく昔のようだな。

 ・・・・・運営委員会の後、由比ヶ浜さんと帰る比企谷を見てた顔。

 やっぱり三ヶ木は比企谷が好きなんだろうな。

 

 だったら、俺何してるんだろ。

 もう二度と三ヶ木に会うなっか。

 俺がやろうとしてることって、三ヶ木から好きな人を引き離すってことだろ。

 それで一番悲しむの三ヶ木じゃないのか。

 なんでそんなこと言ったんだ。

 

 俺、嫉妬したのか。

 目の前であんな痴話げんか見せつけられて。

 俺がああなりたくて。

 違う。

 俺は三ヶ木を悲しませたくないから、その元凶を取り除きたいだけなんだ。

 あいつが三ヶ木の前からいなくなれば、もう三ヶ木は辛い思いをしなくて済む。

 あいつがいるから三ヶ木はいつも辛いんだ。

 

 ほんとうにそうか。

 比企谷と会えなくなるほうが、三ヶ木にとって辛いんじゃないのか。

 だとしたら、

 ・・・・・・くそ、俺は何のために走るんだ。」

 

”ひょい”

 

「へ~、二人でプリクラ撮ってたんですね。」

 

「え! あ、蒔田。

 ば、馬鹿返せ!」

 

「お、激レア。

 稲村先輩が横ピースしてる。」

 

「いいから返せ!」

 

”バッ”

 

「え~いいじゃないですか~

 結構楽しそうに写ってましたよ。」

 

「うるさい。」

 

「稲村先輩、今日は走らないんですか?」

 

「・・・・・・・もう走らない。」

 

「俺、嫉妬したのか。」

 

「蒔田、お前聞いてたのか!」

 

「稲村先輩、あんなことは胸の中で言わないと。

 口に出してはだめですよ。」

 

「・・・・・・」

 

「諦めていいんですか?」

 

「・・・・仕方ないだろう。」

 

「仕方ないか。

 でもそれってわかってたことじゃないですか。

 わかっていても諦めたくなかったんじゃないですか?」

 

「うるさい。」

 

「へ~、稲村先輩の想いってそんなもんだったんだ。」

 

「・・・・・」

 

「そんな簡単にくずれるものだったんですか?

 そんな想いにわたし振られたんだ。」

 

「・・・・・」

 

「あなたは誰ですか?」

 

「え、な、なにいってんだ。」

 

「わたしの恋焦がれている稲村先輩はそんな人じゃないです。

 あんまりがっかりさせないでください。

 わたしは、わたしなら諦めませんよ。

 例え何回、何十回振られても。」

 

「蒔田。」

 

「ほら、立って。

 こんなところでグダグダしてるなんて似合わないです。

 いつもの稲村先輩に戻ってください。

 あ、そうだ!

 仕方ないから、今日はこの蒔田が一緒に走ってあげます。

 大サービスですよ、大サービス。」

 

「・・・・・いらない。

 一人で走る。」

 

「え~、なんでですか!

 こんなに可愛い女子が一緒に走ってあげるっていうのに。」

 

「お前、走ってる間もなんかうるさそうだから。」

 

「し、静かにしてます。」

 

「・・・・・ありがとうな、蒔田。」

 

「はい。」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ぐはぁ~」

 

「あ、ヒッキーごめん。」

 

「お前、もっと離れてくれ。

 こう何度も轢かれてはかなわん。」

 

「だって離れたら寂しいじゃん。」

 

いや、それより何度も自転車で惹かれるこっちの身にもなって。

まったく

ん? あの校門にいるのって。

 

「なぁ、あれ三浦じゃないか?」

 

「え? あ、そうだ。

 どうしたんだろ。」

 

「お前、一緒に帰る約束してたんじゃないのか?」

 

「うううん、しばらく一緒に帰れないって言ってあるから。

 でもどうしたんだろ。

 お~い、優美子。」

 

「あ、結衣。」

 

”スタスタスタ”

 

「俺、先行ってるわ。」

 

「あ、ちょっと待ったヒキオ。」

 

「ぐぇっ。

 いや、急に襟、引っ張らないでくれる。」

 

「ちょ、ちょっと話、あるんだけど。」

 

「話?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「続きまして、選手宣誓。

 紅組団長、雪ノ下雪乃さん、 白組団長、三浦優美子さん。」

 

”タッタッタッ”

 

「「宣誓、わたし達は総武高精神に恥じぬよう、正々堂々全力で

 戦うことを誓います。」」

 

「紅組団長、雪ノ下雪乃。」

 

「白組団長、三浦優美子。」

 

     ・

     ・

     ・

 

あの日の三浦の話、いやあれは依頼だな。

『勝ちたい』か。

まぁ、理由はどうあれ依頼受けちまったからな。

一応、それなりに選手は決めたつもりだが、こればっかりはやって

みないとわからない。

特に得点の高い、チバセンと色別対抗リレー、これをどうするかだ。

 

「きゃ~、刈宿君早~い。」

 

「やっぱりスポーツ万能だね。」

 

「いいなぁ、わたしも白組になりたかったぁ~」

 

刈宿か、確かに同じ組でよかった。

葉山に運動能力で勝てるとしたらあいつぐらいだろう。

 

あと、と、戸塚。

戸塚も同じ白組なんて、やっぱり俺たちは結ばれる運命にあったんだ。

隣で必死に応援している姿。

はぁ~、やっぱり天使だ。

い、癒される。

 

「1万メートル走の選手の方、集合場所に集まってください。」

 

げ、いよいよか。

まぁ、いろいろ考えるのは1万メートル終わってからだ。

今打てる手はない。

まずは俺にとって絶対負けられない勝負に集中だ。

行くか。

 

「あ、八幡、頑張ってね。」

 

「おう。」

 

”スタスタスタ”

 

「比企谷。」

 

「なんだ稲村。」

 

「約束、忘れんなよ、俺が勝ったら 」

 

「わかってる。」

 

「そ、そうか、ならいい。」

 

”スタスタスタ”

 

わかってる、だからこの勝負、絶対に負けられないんだ。

大事だと思うもの、それを失わないために。




お忙しい中、最後までありがとうございます。

次話、秋物語 体育祭編最終話。
二人の勝負の行方は。

秋物語が終わったら冬物語。(季節感全くないっす。)
さぁ、冬支度冬支度。

あ、今日はサイゼっす。
一人で八幡気分満喫してくるっす。

ではでは。

※す、すみません。
 関節 → 間接っす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

体育祭編 後編 ー戦い終わってー 

今回も見に来ていただき感謝です。
本当にありがとうございます。

すみませんです、更新大分遅くなりました。
(ちょっとスランプ気味かもです。
 いやスランプになるような内容書いてるのかってことですが・・・・)

えっと、今回は体育祭後編で秋物語最終話。

1万メートル走の決着はです。
またしても2万字越えで申し訳ないです。
お時間とらせてしまい申し訳ありませんが、
よろしくお願いします。

※すみません、字数は23000字越えでしたっす。
 字数多く申し訳ありません。
 ご面倒お掛けしますが、ご無理なさらずよろしくお願いします。




「えっと、それから消毒液と絆創膏、ピンセットに包帯、脱脂綿っと。

 あとはアイスノンが届けば準備OK。

 よし救護班準備完了!

 さぁどんとこいや!

 ・・・いやいやいや、ほんとは誰も来ないのが一番。

 今日は救護テントに誰も来ませんようにっと」

 

”タッタッタッ”

 

「美佳先輩、こんちっす。

 あの、傷絆創膏ありませんか?」

 

「げ、もう来やがった!」

 

「え? あ、なんかすみませんっす。」

 

「はは、冗談冗談、ごめん刈宿君。

 で、どしたん?」

 

「あ、100m走でゴールした時に、ちょっとコケて膝を擦りむいた

 みたいで。

 へへ、ちょ~恥ずかしかったっす」

 

「大丈夫?

 膝、ちょっと見せてみ」

 

「あ、はい」

 

「ふむふむ。

 うん、表面擦りむいただけだね。

 ちょっとそこの椅子に座って」

 

「うっす。

 うんしょっと」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「うんしょはやめろ!

 まったく。

 えっとペットボトルペットボトルっと、確かこのクーラーボックスの中に

 入れておいたはず。

 あ、あったあった。

 まずは砂とかちゃんと水で流さないとね」

 

「あ、いいっすよ、そんなに大したことじゃ 」

 

「だめ。

 ちゃんと砂とか取り除かないと膿んだりするんだから。

 いいからジッとしてる!」

 

「う、うっす」

 

”トポトポトポトポ”

 

「よし。

 それからっと・・・・・・・ぐふ、ぐふふふふ」

 

「あ、あの、美佳先輩、な、なにを?」

 

「消毒」

 

”チョン”

 

「ぐ、ぐぉ~、し、染みる~」

 

「男なら我慢我慢」

 

「う~。

 でも美佳先輩、なんか喜んでないっすか」

 

「え? よ、喜んでなんかいないよ、やだなぁ~」

 

”チョン、チョン”

 

「ぐぅお~」

 

「ぐふふふふ」

 

「やっぱり喜んでる!」

 

「あははは、ごめんごめん。

 はい、消毒完了、後は絆創膏を」

 

”ピタ”

 

「はい、完了」

 

「ありがとうございますっす。

 でもなんか慣れてますね」

 

「まぁ生徒会入ってから、体育祭とかマラソン大会とかずっと救護班

 担当だもん。

 そりゃ慣れるって」

 

「・・・あ、あの、美佳先輩」

 

「ん?」

 

「あの、あのっすね、俺 」

 

「ん、どしたん?」

 

「あ、あの俺、実は 」

 

「三ヶ木さん、アイスノン持ってきました」

 

「あ、ありがと。

 そこのクーラーボックスに入れておいてくれる?」

 

「は~い」

 

「んで、刈宿君なに?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・

 えっと、あ、ほらもうすぐ1万メートル走じゃないですか。

 確か稲村先輩と、比企・・・・あいつも出るんでしょ。

 俺、ここ代わりますから行って下さい」

 

「あ、うん。

 で、でも悪いからいいよ」

 

「大丈夫っすよ。

 俺、次の種目まで時間あるから任せてください。

 それに保健委員の人もいますから」

 

「で、でも、わたし赤組で比企谷君達と組違うから。」

 

「そんなの関係ないですよ。

 さ、ささっ、行った行った」

 

「うん、ありがと刈宿君。

 じゃ、ちょっとだけ行ってくる」

 

「うっす」

 

”タッタッタッ”

 

「・・・・はぁ~、今度はちゃんと話さないと。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”わ~、わ~”

 

「葉山君、はや~い」

 

「また1位だったね」

 

「あ、ほら、葉山君戻ってきたよ」

 

「きゃ~、葉山く~ん」

 

ち、相変わらずだな。

くそ、苦々しい。

特に今日は三浦が近くにいないからな、一段と騒がしいんじゃねえか。

まぁ、葉山の活躍は想定済みだし、それでも序盤戦の100m走、玉入れ、

障害物競争を終わって得点は40対30。

戸塚や刈宿達の奮闘もあって、赤組に何とか食らいついている。

葉山の活躍で、序盤から戦意喪失していた去年と比べるとよくやってる。

何とかこのまま終盤まで食らいついていければ。

 

「只今の後ろ向き走の第1レースは、1位紅組、2位白組、3位紅組の順でした。

 続きまして、第2レースのスタートです」

 

ん? そういえばこの声って書記ちゃんか?

どれどれ。

おお、間違いない書記ちゃんだ。

左右に体育委員を従えて、放送席の真ん中にドンと座っている。

その姿に卒業生を送る会の時に見せたような、あのおどおどしさはもうない。

成長したな書記ちゃん。

そういえば他の役員はどこだ?

 

確か三ヶ木は救護テントにいたな。

あいつ今回も救護班ってどんだけ消毒好きなんだ、このS子め。

 

「位置について、よ~い」

 

”パァーン”

 

ん? ああいたいた。

スタート係をしているのは本牧か。

普段は一色の陰に隠れて目立たないが、よく生徒会をまとめている。

あいつが生徒会のバランサーなんだろう。

一色という神輿を担いでよく頑張っていると思う。

 

えっと、そういえば一色はどこにいるんだ?

 

”きょろきょろ”

 

えっと、あ、いたいた、テントの奥の方・・・・

一色さん、扇風機の真ん前に座って涼んでいらっしゃる。

今日暑いもんな~、いや~暑い。

・・・・・はぁ~。

 

ん? 一色、誰か呼びつけて。

あれ体育委員長じゃね。

なんだ、なにか指示してるのか?

あ、でた! あのあざとい作り笑顔。

おお、体育委員長、何人か体育委員集めてどこかへ。

ああ、ゴール付近の人の整理に行ったのか。 

ほう、一色よく見てんな。

確かにゴールのところあんだけ混雑してると危ねえからな。

あいつああ見えてもちゃんと見てるのか。

だが、体育委員長、いや体育祭運営委員長を作り笑顔一つでこき使うとは。

・・・・・恐るべし一色。

 

さて、もう一人の役員、稲村純。

あいつはあそこにいる。

入場門の横、あの場所が1万メートル走の集合場所だ。

 

”スタスタスタ”

 

入場門か。

だめだ、入場門を見ると思い出してしまうあの体育館倉庫でのことを。

あの時、平塚先生が体育館倉庫に入って来なかったら、いやもう少し遅かったら

俺達は・・・

ん、ちょっと待てよ。

平塚先生、入ってくるタイミング微妙に良すぎない?

それにあの時の笑顔。

まるでいじめられっ子がいじめっ子の弱みを目撃した時のような

満面の笑顔。

・・・・・お、おい、まさかあの人、ずっと見ていたわけじゃないだろうな。

や、やばい、嘘だ、嘘だと言ってくれ~

 

「あ、ヒッキー」

 

お、おいやめろ由比ヶ浜。

ここ、1万メートル以外にも各種目の選手集まってんだからな。

そんなところで、でっかい声でヒッキーって呼ぶんじゃねぇ。

こ、ここは他人、他人のふりで。

 

”タッタッタッ”

 

「ヒッキー、何で無視するし」

 

「・・・・・ちっ、何か用か?」

 

「あ、あのね、これ作ってみたの。

 よかったらもらってもらえないかなぁ~って」

 

「はぁ? なにこれ?」

 

「え、え~と、あのね」

 

”もじもじ”

 

なんかの袋・・・だよな?

デコデコしてなんかいっぱい飾りがついてるんだが。

あ、そうか、うん、そうに違いない。

これは、そう、万が一のためのエチケット袋入れだ。

 

「エチケット袋入れか。

 折角だが 」

 

「エ、エチケットー

 ち、違うし、お守りだし!

 あ、あの、怪我とかしないようにって・・・・」

 

お守り袋って、お前こんなキラキラデコデコしいお守り見たことないぞ。

それになにこのへんなキノコの飾り、君これお守りにもつけたの。 

 

「ちゃ、ちゃんと頑張って作ったんだからね。

 ・・・ヒッキーが無茶して怪我しないようにって。

 もういい、いらないなら返して、馬鹿」

 

は、いや、お前、そんな涙ぐむことじゃねえだろう。

まぁ、こんなデコデコしたお守り、どこにも売ってねぇからな。

 

「ありがとさん。

 怪我しないよう、もらっとくわ。

 そんじゃ、そろそろだから」

 

「う、うん。

 あのねヒッキー、絶対無茶したら駄目だよ。

 だれもそんなの望んでいないんだから。

 約束だよ」

 

「ああ、わかってる」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・結衣ちゃん、比企谷君と何話してたんだろ。

 なんか渡したみたいだけど。

 声、かけにくいなぁ」

 

「ん、三ヶ木?」

 

「あ、稲村君」

 

「どうした何か用か?」

 

「い、いやなんでもなくて。

 あ、そうだ、今日ちょっと暑いからあんまり無理しないでね」

 

「なんだ三ヶ木、俺のこと心配してくれるのか?」

 

「あったりまえじゃん。

 だって役員一人減ったら、その分の準備とか後片付け大変なんだもん」

 

「そ、それでか!」

 

「おう、それでだ!」

 

「・・・・・ま、まぁいいけど。

 あ、もうスタートだから行ってくる」

 

「へへ、頑張ってね」

 

「ああ。

 ・・・・・な、なぁ」

 

「うん?」

 

「1万メートル走、もし俺が勝ったら少し時間くれないか?」

 

「え?」

 

「話しがあるんだ」

 

「・・・・・・」

 

「だめか」

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「1万メートル走、そろそろはスタートします。

 選手の方、集まってくださ~い」

 

「すまない、変なこと言った、忘れてくれ。

 じゃあ、行ってくる」

 

「・・・・・あ、あの、わかった」

 

「そ、そっか、じゃあ後でな三ヶ木」

 

”スタスタスタ”

 

「俺が勝ったらか。

 その時って・・・いや、今考えるのはやめておこう。

 全ては走ってからだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは1万メートル走スタートします。

 準備いいですか?」

 

長距離では体力も重要だが、それより駆け引き、戦略が大事だ。

勝負どころを掴み、それまでできるだけ体力を温存しないといけない。

まぁ、勝負は学校、それもグラウンドでの攻防だろう。

それまでの体力の温存が勝負の鍵だ。

ならば、まずは様子見だ。

 

「位置について、よ~い 」

 

”パァーン”

 

「さぁ、1万メートル走がスタートしました。

 グラウンドを1周した後、学校の周囲コースを回って戻ってきます。

 各組2名の選手、さて1着で戻ってくるのは何色の選手でしょうか。

 選手の皆さん、頑張ってください。」

 

”タッタッタッ”

 

よ、よし、まずは予定通り様子を見てだなって、お、おい!

 

”ダ―”

 

い、稲村、お、お前!

何で初めからそんなに飛ばしてるんだ。

これ短距離じゃねえんだぞ。

そんなペースで走ったら、最後まで体力もたないだろうが。

ちっ! 様子見どころじゃない。

あの馬鹿。

 

”ダ―”

 

     ・

 

「ただいま。

 刈宿くん、留守番ありがと。

 あのね、稲村君すごく早かった。

 あ、比企谷君も必死で追いかけてたっけ」

 

「ええ。

 ここから見てましたけど、あのペースじゃ二人とも最後までもたないっすよ」

 

「そ、そう? 大丈夫かな二人とも。

 怪我とかしなければいいけど」

 

     ・

 

”ダー”

 

く、くそ、学校まで体力温存するはずの計画が台無しだ。

こ、こんなペースで走っていたらゴールまでもたねぇ。

稲村、なに考えてるんだ?

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 お、おい稲村、お前もう少しスピード緩めろって。

 こんなペースじゃもたねえぞ」

 

「・・・・・・」

 

「な、なぁ」

 

「はぁ、はぁ、黙れ。

 比企谷、お前駆け引きとか体力温存とか考えていたのか?

 はぁ、はぁ、はぁ。

 余裕あるんだな。

 まぁ、お前はお前らしくグダグダ考えて走ってろ。

 それがお前にはお似合いだ」

 

「はぁ、はぁ、な、なに!」

 

「じゃあな、比企谷」

 

”ダー”

 

ち、あの野郎。

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

や、やべ、し、心臓が破裂しそうだ。

こ、こいつマジで最後までこのペースで走る気なのか。

無茶苦茶じゃねえか。

そ、そろそろ、げ、限界、あ、足が。

 

”ふら”

 

「ぐっ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 ひ、比企谷、もう限界か?

 まぁ、所詮そんなもんか」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「無理しないでさっさと棄権したらどうだ?

 じゃあな。」

 

”ダ―”

 

「ちっ、出来ればそうしたいんだけどな。

 出来ねえんだよ。」

 

”ダ―”

 

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

く、くそ、明らかなオーバーペースで、い、息が続かねぇ。

し、心臓がくるしい。

く、くそ、あ、足がでねぇ。

 

”ドタッ”

 

「はぁ、はぁ、ひ、比企谷、俺の勝ちだ。

 そこで最後まで寝てろ、このにせ 」 

 

”ドタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「はぁ、はぁ、い、稲村、お前も限界じゃねぇか。

 もう走れねえんだろうが」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、うっせ!」

 

”スクッ”

 

げ、た、立ち上がりやがった。

まだ走れるのか稲村。

お、俺はもう限界で・・・

 

「はぁ、はぁ、比企谷。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 俺は、俺はな、三ヶ木が好きなんだ。

 お前なんかよりずっとな!

 だのになんで・・・・・なんであいつはお前を。

 この馬鹿野郎!」

 

”タッ、タッ、タッ”

 

い、稲村、そんなことわかってるってんだ。

お前が本当に三ヶ木のこと好きなのわかってる。

だから、

 

”スクッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

だから、だから絶対負けられねえんだよ。

くっそ!

 

”タッ、タッ、タッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「稲村先輩、大丈夫かなぁ。

 あちゃ~、仕事ほったらかしてついこんなとこまで見に来ちゃったよ。

 あとで準備係のみんなに謝っておかないと。

 でも、もう少しだけ。

 うん、あの角まで見に行ってみよう。

 だって、あんなペースで走ったら最後までもたないよ」

 

”トボトボトボ”

 

「・・・・・稲村先輩、本当にジミ子先輩のこと好きなんだ」

 

”ズキッ”

 

「いやだ。

 わたし、わたしは稲村先輩に勝ってもらいたくない。

 ・・・・・負けてほしい。

 だって、だって勝っちゃったら・・・・・

 はぁ~、なに考えてんだろう、わたし」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「はぁ~、はぁ~、はぁ~」

 

「あ、い、稲村先輩!

 それとその後ろ、えっ、ゾンビ?

 あ、備品先輩か。

 二人ともフラフラ」

 

「はぁ~、はぁ~」

 

”フラ”

 

「あっ! 稲村先輩」

 

「はぁ~、はぁ~、く、苦しい。

 も、もう足が動かない。

 はぁ、はぁ、はぁ」

 

「・・・・・・もう!」

 

”タッタッタッ”

 

「稲村先輩、何やってるんですか!

 ふらついてる場合ですか!

 すぐ後ろに比企谷先輩来てますよ。

 ほら頑張ってください、学校はもうすぐそこです。

 頑張って、頑張って。

 ・・・・・絶対、絶対勝つんでしょ!」

 

「ま、蒔田か。

 ああ、そうだな

 よ、よし!」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「頑張って・・・・・ください。

 わ、わたし、うううううううう」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ん? あ、蒔田か。

こんなとこでなにやってんだ。

え、何で泣いてるんだこいつ?

 

「備品先輩!

 備品先輩、負けてあげてください。

 稲村先輩に勝たせてあげて。

 お願い、お願いします」

 

はん?

稲村に勝たせてくれって、蒔田お前なにか知ってるのか?

でも何で泣いてるんだ?

さっき稲村と話していたようだが、何かあったのか?

あ、そういえば文化祭の時、由比ヶ浜がこいつのことなんか言ってたな。

確かエンディング大変だったって。

それでこいつは稲村のことがって。

・・・・・ち、そういうことか。

そんな顔してなに言ってるんだ。

お前それでいいのか。

稲村が勝ったらお前・・・・ちっ、大馬鹿野郎。

 

「断る!」

 

くっそ、どいつもこいつも好き勝手言いやがって。

蒔田、お前の依頼、絶対受けない。

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「綱とりの綱、ここに片付けておきますね」

 

「あ、三ヶ木さんご苦労様」

 

「ふ~、でも舞ちゃんどこ行ったんだろう」

 

”わ~、わ~”

 

「おっと、入場門をご覧ください。

 1万メートル走の選手が戻ってきたようです。

 えっと1位は稲村せ、ごほん! 白組のようです。

 あ、2位の・・・・・ゾンビ?

 い、いえ、白組の選手です。

 二人ともなんだかすごくフラフラですね。

 ゴールはもう少しです、頑張ってください」

 

「あ、い、稲村君、それに比企谷君も戻ってきた。

 すごい1位と2位って。

 で、でも二人とも大丈夫かなぁ、なんかフラフラ。

 えっとなんか冷やすものと飲み物。

 頑張って、いまゴールのとこ持っていくからね」

 

”ダー”

 

     ・

 

「おっと、紅組の選手もグラウンドに戻ってきました。

 こちらはまだ余裕がありそうです」

 

「稲村、ゴールはすぐそこだぞ、頑張れ!」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「はぁ、はぁ、本牧か。

 あいつは、ひ、比企谷は?」

 

”チラッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「そっか。

 ちゃんとついてきてんだな」

 

”スタ、スタ・・・スタ”

 

な、何、後ろ見てんだ稲村。

よ、余裕かよ。

こ、こっちはもう心臓もたねぇってのに。

げ、限界だ。

走るどころか、もう、あ、歩けねぇ。

すまん三ヶ木、俺はも、もう。

 

『今までも大好きでした。

 そんで、これからもずっとずっと比企谷君のことがだいす 』

 

ぐ、何やってんだ。

大事なもの、失ってもいいのかよ。

 

”スタ・・・スタ・・スタ、スタ”

 

くそ、まだ負けねぇ。

 

”チラッ”

 

稲村、またこっちを。

まだだ、まだ負けてない、絶対諦めねぇ。

 

「比企谷・・・・・」

 

あん? な、なんだ、今なに言ったんだ?

 

”ドサッ”

 

はぁ!  い、稲村?

ど、どうしたんだ?

なんで急に倒れたんだ。

 

”スタ、スタ”

 

「はぁ、はぁ、お、おい、稲村」

 

「・・・・・」

 

「稲村大丈夫か!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、何でもない。

 ちょっと足を痛めただけだ。

 いいから先に行け、ハンデだ。

 すぐ追い越すからな」

 

「‥・・・」

 

「比企谷、急がねえと紅組の奴らに抜かれるぞ。

 ほら先行け」

 

「・・・・・」

 

”ぐぃ”

 

「お、おい、比企谷」

 

「立てよ稲村、ほら行くぞ。

 肩に掴まれ」

 

「や、やめろ、離せって」

 

「うっせ、紅組そこまで来てるんだ。

 いやならお姫様抱っこするからな」

 

「馬鹿、や、やめろ」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

・・・・・おいて行けっかよ。

だ、だが、明らかにペースダウンだ。

くそ、ゴールはそこだっていうのに、このままじゃ紅組の奴らに抜かれちまう。

だが足を怪我した稲村に、これ以上無理はさせられねぇ。

 

「比企谷」

 

「はぁ、はぁ、なんだ稲村?」

 

「行くぞ」

 

「え?」

 

”ダー”

 

「え?、え゛~」

 

い、いや、稲村、さっき足を怪我したって言ってなかった?

そ、そんなに早く走らないで、お、おい、俺の足がついていかねぇって。

 

”タッタッタッ”

 

「ゴール!

 1万メートル走、いまゴールしました。

 1位と2位は白組、白組の二人が仲良く肩を組んでのゴール」

 

”ドサッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

も、もう走れねぇ。

い、いや立ち上がることもできねぇ。

し、心臓いてぇ~、苦しい~

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 だ、大丈夫か比企谷」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 稲村、お前、足痛めたって嘘じゃねえか」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 お前の方こそ、なんで先に行かなかったんだ。

 先行けばお前の勝ちだったろうが」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「比企谷!」

 

「お、俺は守りたかっただけだ」

 

「はぁ?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 俺は、俺はあいつの、三ヶ木の大事なもの守りたかったんだ。

 一色、本牧、書記ちゃん・・・そして稲村。

 三ヶ木にとって、お前らとのつながりはとっても大事なものなんだ。

 なぁ稲村、お前とのつながりは、あいつにとってとても大事なのものなんだ。

 それを失なうわけにはいかない。

 失ってしまったものは簡単には戻らない。

 あいつにとって大事だと思うものを失わないために、俺は勝つわけにも負ける

 わけにもいかなかったんだ絶対に。

 1万メートル走、お前の問いに対する解、これが俺の解だ」

 

「・・・・・勝たないし、負けないっか」

 

「まぁ、負けてた俺が言っても締まらないけどな。

 稲村、お前こそなんだよアレ。

 足何ともなかったじゃねえか。

 何であんなことしたんだ。」

 

「・・・・・」

 

「稲村」

 

「‥・・・比企谷、俺は 」

 

「比企谷く~ん、稲村く~ん」

 

”タッタッタッ”

 

「ご苦労様。

 ほんと心配したよ大丈夫?

 はい、アイスノン。

 それとね、はい稲村君これ飲んで。

 ポカリの缶、縮めてポカ缶」

 

「・・・縮めなくていいから、なんだポカ缶って。

 まぁ、三ヶ木ありがとう」

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

「えへへ。

 それと、はい比企谷君」

 

「ありが・・・・・・お、おい、マッ缶、マッ缶かよ」

 

「え、違うの?」

 

「い、いま喉がカラカラなんだ。

 さ、さすがにマッ缶はきついんだが」

 

「うそ!」

 

「うそじゃねぇ、お、お、俺にもポカリくれないか」

 

「え、あ、あの~」

 

「な、無いのか?

 ポカリもう無いのか?」

 

「だ、だって、比企谷君の体の65%はマッ缶でできてるはずじゃ」

 

・・・・・お、おい、それだと俺の血や汗はマッ缶なのか。

そんな糖分いっぱいの血ってやばいだろう。

それに汗がマッ缶って、ヘタに汗かいたら汗腺詰まるんじゃねえか

は、そんなこと言ってる場合じゃない。

喉がカラカラで本当にやばいんだ。

 

「い、稲村、一口、一口でいいからポカリくれ。

 のどが渇いて干からびそうだ」

 

「ん? あ、すまない。

 いま全部飲んだところだ」

 

「ぜ、全部飲んだって、もう無いのか。

 ・・・・・俺、ここで死ぬのか。

 そうなんだ、ここで干からびて死ぬんだ。

 三ヶ木、稲村、世話になったな」

 

「お、大げさだし!

 も、もう、はいポカリ。

 ごめん、ちょっとからかってみたかっただけなの」 

 

「おお、ポカリ。

 い、いいのか? くれるのか?

 の、飲んでもいいんだよな。

 も、もう返さないからな!」

 

「わ、わかったから。

 それあげるから」

 

「おお、サンキュー、愛してるぜ!」

 

”ガチャ、ゴクゴク”

 

う~、生き返る、体中に水分が染み渡って細胞が生き返るようだ。

え? あ、あの~三ヶ木さん、ぽか~んて口開けてどうしたの?

ん、稲村まで馬鹿面してどうしたんだ?

 

「お、おい比企谷、お前いま 」

 

「ん?」

 

「ひ、比企谷君のバカ、いきなり何言うのさ」

 

え、なに?

俺なにか言ったのか?

えっと・・・・・・・・・・あっ!

 

「い、いや、ち、違う。

 あ、あの、ポ、ポカリがだ。

 このポカリのことだから、本当にポカリだから」

 

「・・・・・」

 

やばい、な、なに言ってんだ俺。

三ヶ木、赤くなって固まってるんじゃない。

い、いや、地面にのの字書くのもやめろ!

いや違う、違うんだ。

ポカリが、本当にポカリがだな。

 

「さてっと。

 比企谷、俺は準備係の仕事あるから行くわ。

 三ヶ木、ポカリありがとうな」

 

「あ、う、うん。

 また後でね、稲村君」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・比企谷、俺はわかってたんだ。

 あの時、お前と三ヶ木の痴話喧嘩を見せつけられて。

 あんな三ヶ木、俺見たことない。

 三ヶ木が俺に求めているものはそれとは違うんだよな。

 恋愛とは違う感情、なんかそういうものなんだ。

 

 だから俺は自分を納得させたくてこんな賭けをした。

 ・・・・・お前が三ヶ木のため真剣に走る姿を見たくて。

 だけどお前は三ヶ木のことを、三ヶ木の大事なものを守るために走った。

 

 初めから勝負ついてんじゃねえか。

 まったく。」

 

”スタスタ、ピタ”

 

「おい比企谷!」

 

「だからミカリが、いやポカリがだな 

 ん? なんだ稲村。」

 

「比企谷! 俺はお前を認める。」

 

「は?」

 

「じゃあな。」

 

「おう。」

 

認めるっか。

あのな稲村、俺もお前のこと認めてるんだよ。

お前、本当に三ヶ木のこと思ってくれてる。

だから俺はやきもち妬いたんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃお昼行ってきます。

 ちょっとお願いしますね。」

 

「は~い、三ヶ木さんごゆっくり。」

 

”スタスタスタ”

 

「う~んっと、比企谷君応援席にはいないね。

 購買行っちゃったのかなぁ。

 急がないとパン買っちゃう」

 

     ・

 

く、くそ、出遅れた。

足が震えてうまく歩けねぇ。

まだパン残ってるのかよ。

今日はウインナーロールとナポリタンロールって決めていたんだ。

ん? ロールといえば三浦。

三浦はなんであんなに勝ちにこだわっているんだ?

しかも自ら団長にまでなって。

 

 

‐‐‐‐ 体育祭前の放課後 ‐‐‐‐

 

 

「話ってなんだ三浦。」

 

「・・・・・」

 

「優美子、どしたん?」

 

「あ、あーし、白組の団長やることにしたから」

 

「そうか、ご苦労さん。

 じゃあな」

 

「ヒッキーちょっと待って。

 で、それで?」

 

「あ、あのさ、勝ちたい」

 

「勝ちたい?」

 

「今度の体育祭、絶対勝ちたい。

 あーしは白組で、隼人は赤組。

 最後の、最後の体育祭なのに、どうして、どうして同じ組じゃないのさ!

 それっておかしくない? 絶対おかしいし。

 敵同士だから、隼人の応援すら出来ないじゃん。

 ・・・・・そ、それに体育祭終わったら、もう受験受験ってことになるから。

 一緒にいられる時間なんて少なくなるから、最後の思い出にって思ってたのに。

 

 だから、だから勝ちたい。

 この体育祭、あーしは勝ちたい!

 結衣、ヒキオ・・・・・力貸してほしいんだけど」

 

いや、今の説明おかしいだろ。

だから同じ色になれなかったからって、なんで勝ちたいんだ?

そこがわからなければ、この依頼受けるわけにはいかない。

 

「三浦、だからなんでお前は勝ち 」

 

”だき”

 

「優美子・・・大丈夫だよ。

 うん、わかった。

 絶対勝とう、あたし達応援するよ。

 ね、ヒッキー。」

 

「え? いや、あのね 」

 

 

‐‐‐‐そして今‐‐‐‐

 

 

勝ちたいか

あの後、あいつら二人で盛り上がって、結局何で勝ちたいのかが

よくわからなかったんだが。

まぁ、葉山が絡んでるのは間違いないのだろうが、勝ちたい理由ってなんだ。

 

”ボリボリ”

 

まぁ、理由わからねえけど、仕方ねえか。

受けちまったもんな、由比ヶ浜が。

ここ大事だから。

受けちまったからな、由・比・ヶ・浜・が。

 

ふぅ~、まずは兎に角昼飯食ってからだな、昼飯っと。

 

「・・・・・お、おい」

 

パン、パン何も残ってねえじゃねえか。

は、だったらおにぎり、おにぎりは?

ツナおにぎり、い、いや、何でもいい。

 

「・・・・」

 

・・・・・・・なんもねぇ。

パンもおにぎりも何も残っていない。

 

”ぐぅ~”

 

はぁ~、腹減った。

 

     ・

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

「ふぅ~」

 

保健室横、購買の斜め後ろ、俺のベストプレイス。

やっぱりここはいい潮風が吹いている。

人の通りも少なく、昼休みは天使の舞が観られる。

戸塚、部活終わっても練習してるんだよな、勘が鈍らないようにって。

まぁ、さすがに今日は天使の舞は観られないか。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹減った。

せめて天使の舞で気を紛らせようと思ったのだが。

はぁ~、やっぱり三ヶ木にもらったマッ缶だけではもたないか。

仕方ない、もう一本買ってくるかって、やっぱり俺の体はマッ缶で

出来てるのかよ。

さてと。

 

「あ~、やっぱりここにいた」

 

「ん?」

 

「ゆきのん、やっぱりここにいたよ」

 

「そう」

 

”スタスタスタ”

 

「ヒッキー、ご飯一緒に食べよ」

 

「あ、い、いや俺は 」

 

「あら、あなたダイエットでもしてるのかしら。

 そういえばお腹の周りがなんだか」

 

「ば、馬鹿いえ、み、見ろダイエットなんか必要としねぇ」

 

”ガバッ”

 

みよ、この引き締まった腹直筋を。

って、実際1万メートル走の練習で結構絞れてんだよな。

 

「「・・・・・」」

 

えっと、雪ノ下、由比ヶ浜、なに固まって。

 

「お、おい?」

 

「・・・・あ、ご、ごめん。

 ひ、ヒッキー、結構いい身体してるんだなぁって」

 

「そ、そうね、思ったより」

 

いや、そんなに見つめないでくれる。

ちょ、ちょっと恥ずかしいんだが。

は、ムダ毛処理してきたかしら?

・・・・・・・おい!

 

「ごほん。

 まぁ、ちょっと出遅れてな。

 パン買えなかったんだ。

 だから昼食は 」

 

「ヒッキー、あ、あのね・・・・・・・

 はい、お弁当!」

 

「は?」

 

「お、お弁当作ってきたの・・・・・ヒッキーの分。

 よ、よかったら食べてくれな 」

 

「断る!」

 

「即答だ。

 なんでさ、頑張って作ったのに」

 

「俺はまだ死ぬわけにはいかない。

 俺には専業主夫になるという尊い夢がある」

 

「ひ、ひど!

 それに尊くなんかないし」

 

「比企谷君、大丈夫よ。

 わたしがちゃんとついて見てたから。

 そこそこには食べれるはずよ」

 

「そこそこなんだ!」

 

「雪ノ下、お前がちゃんと見張っていたんだな」

 

「ええ」

 

「仕方ねえ、貰ってやろう」

 

「うう、なんかあげたくなくなった」

 

「由比ヶ浜さん、いいわ、ここで二人で食べましょう」

 

「うん。

 ヒッキーなんかにあげない」

 

「え? く、くれないの?」

 

「いっただきま~す」

 

「頂きます」

 

”パク”

 

「う~美味しい」

 

「ええ、あなたにしては上出来よ。

 とてもよく出来てる」

 

「でしょ~

 このウインナー、タコの形にするの大変だったんだよ~」

 

”パク”

 

「え、あ、そ、そう? 

 あ、あのお味のほうも美味しいわ」

 

”ぎゅるるるる~”

 

やばい、腹が減って死にそうだ。

こ、ここは例え毒であるとわかっていても、何か腹に入れないともたん。

 

「あ、あの、ゆ、由比ヶ浜さん。

 一人でその量を食べるのは大変そうだから、よかったらお弁当頂いてあげても 」

 

「べ~っだ。

 ヒッキーになんかあげない」

 

「ガハマ大明神さま~、そこをなんとか」

 

「ガハマ大明神ってなんだし!

 し、し、仕方ないからだからね。

 あげないと、ヒッキーうるさいから。

 その代わりちゃんと食べてよね、最後まで」

 

「はは~」

 

「もう。

 はい、どうぞ」

 

「お、おお~、い、頂きま~す」

 

”パク”

 

ま、マジか。

食える、食えるぞこのハンバーグ。

これ本当に由比ヶ浜が作ったのか?

そうか、そういえばたしか料理勉強してるって言ってたもんな。

こ、こいつも成長してるんだ。

そういえば胸のあたりもまた少し成長・・・・・

ご、ごほん。

 

「美味しいじゃないかこのハンバーグ」

 

「えへへ、本当?」

 

”パクパク”

 

「おお、このチキンナゲットもなかなか。

 お前、本当に料理できるようになったんだなぁ」

 

「そ、そう?

 えへへ、ヒッキーじゃんじゃん食べて。

 あ、そうだ!

 このおにぎり自信作だよ」

 

「おう」

 

”パク”

 

「・・・・・・・・・・」

 

「え? ひ、ヒッキー?」

 

「お、おい」

 

「あ、はい」

 

「なんだこれは!

 このおにぎりに入っている具はなんなんだ!」

 

「え? これってチョコレートだよ」

 

「それは見ればわかる。

 おにぎりにチョコレート入れるんじゃない」

 

「だって、ヒッキー甘いの好きじゃん。 

 それにチョコレートは疲労回復にいいっていうから、ありかなぁ~って」

 

「雪ノ下!」

 

「由比ヶ浜さん、あなたいつのまにそんなものを。

 ごめんなさい。

 まさかおにぎりぐらいは大丈夫と思って、つい目を離した隙に。」

 

「ヒッキー、美味しくない・・・・・・・かなぁ」

 

ば、ばっかそんな目で見るんじゃねえ。

その上目遣い、ぜってぇ反則だからな。

くそ、今回だけだからな。

は、腹減ってるから何とか食えるだろう。

 

”パクパク”

 

「ヒ、ヒッキー」

 

「な、慣れてみれば、、け、結構いけるんじゃねえの。

 なんか洋風おはぎみたいで・・・・・」

 

「ヒッキー♡」

 

「う、うぇっぷ」

 

     ・

 

はぁ、はぁ、はぁ、あと少しだ。

もう少しでこの苦行から解放され

 

「うぐっ」

 

や、やばい吐き気が。

何か飲み物、飲み物で流し込まないと大変なことになる。

 

「す、すまん、雪ノ下お茶もらえないか?」

 

「ええ、ちょっと待ってくれるかしら」

 

う、ううう、やばい。

そ、そろそろ限界が。

 

「雪ノ下、このお茶もらうぞ」

 

”ひょい”

 

「あ、比企谷君、ちょっと待って。」

 

”ゴクゴク”

 

「ふ~、サンキュ、雪ノ下。

 え、雪ノ下?」

 

「・・・・・」

 

な、なに? 何で目逸らして?

 

「ヒッキー、そのコップのお茶、ゆきのん飲んでたやつだよ」

 

げ、ま、マジか。

か、間接キス、しかも飲んでたお茶って。

お茶の何%かは、雪ノ下の唇に触れてるよね。

 

「あ、い、いや、す、すまん。

 つ、つい」

 

「・・・・・・まったくあなたは」

 

「もう! ヒッキー、はいお茶」

 

「サンキュ・・・・・って、これはお前の飲みさしじゃねえよな」

 

「・・・・・」

 

「な、なぜ黙ってる由比ヶ浜」

 

「いいじゃん、こ、コップ1個しかないから」

 

「・・・・・由比ヶ浜」

 

「由比ヶ浜さん」

 

「い、いま、部室行って紙コップ持ってくる」

 

”ダー”

 

「あっ」

 

「え?」

 

”ドン”

 

「ご、ごめんなさ~いって、あ、美佳っち」

 

「あ、あの、ご、ごめん。

 ちょ、ちょっとお昼に行こうと思って通りかかっただけだから。

 ごめんね、今、あっち行くから。

 ・・・・ごめん」

 

”スタスタ”

 

「ちょっと待った!」

 

”にぎ”

 

「これ、この手に持ってるのお弁当だよね」

 

「あ、あの、これ・・・・」

 

「一人分にしたらすごく多いよね」

 

「あ、わ、わたし、こ、こう見えても大食いだから。

 も、もう、あっち行くから」

 

”ジー”

 

「あ、あの、結衣ちゃん手を離して、その~ 」

 

「・・・・・・・そっか。

 美佳っち、ほら行くよ」

 

”ぐぃ”

 

「え、あ、あの、ゆ、結衣ちゃん」

 

「それ、ヒッキーの分でしょ」

 

「・・・・・ごめん」

 

「なんで、何で謝んのさ」

 

「だって」

 

「美佳っち、前に言ったよね。

 あたしがヒッキー好きな気持ち押し潰してたら、ゆきのんが一番悲しむって。

 それと一緒じゃん、あたしはヒッキーが好き。

 そして 」

 

”だき”

 

「美佳っちも大好き。

 だからちゃんと勝負したい。

 だから・・・・・ね」

 

「結衣ちゃん」

 

「ほら行くよ」

 

”ぐぃ”

 

「あ、ちょ、ちょっと待って結衣ちゃん」

 

「待たない」

 

”ダー”

 

「お待たせ」

 

「あら」

 

「げぇ、み、三ヶ木」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「げぇってなんだ、げぇって」

 

「いててて、な、なんだ。

 何か用か」

 

「あ、あの、あの・・・」

 

「あのねヒッキー、美佳っちドジだから、お弁当作りすぎちゃったんだって。

 ヒッキーなら食べれるでしょ」

 

「あ、い、いや、そろそろお腹が 」

 

「あら、もう食べれないのかしら?

 そうだ、三ヶ木さん。

 この男、さっきわたしの飲みかけのお茶を 」

 

「わ、わかった。

 食べる、食べる、なんならそれ全部食べてやるこの野郎!」

 

「げ、なんか怒られた。」

 

「あははは、美佳っちよかったね。

 あ、そうだヒッキーにお茶!

 あたし紙コップ取ってくる」

 

「あ、お茶のペットボトルあるから。

 よかったらどうぞ」

 

「お、おうサンキュ」

 

”ゴクゴク”

 

「ぷはぁ~、生き返った。

 死ぬかと思った」

 

「ひど!

 ヒッキーちょ~ひどい」

 

「うふふ、それじゃ、お弁当みんなで食べましょう」

 

「あ、待って。

 わたし敷物持ってきてるから」

 

”ガサガサ”

 

ん? アカ俺のレジャーシートか。

相変わらず準備がいいな、三ヶ木。

でもそのシート、どうみても4,5人用じゃない?

1人でそれ座るつもりだったの。

ま、まあいいか。

さて、さすがにこのままじゃちょっと苦しい。

少しジャージの紐緩めてっと。

さぁ、昼飯食うか。

 

「どっこいしょっと」

 

”ベシ”

 

「い、いてぇ、な、なにすんだ三ヶ木」

 

「そこ、イレギュラーヘッド様の顔踏むんじゃない」

 

で、でも、どこ、どこ座ればいいの。

君たち座っているから、もうここしか空いてないんだけど。

え、俺だけ立って食うの?

 

     ・

 

「へぇ~、美佳っちの叔母さんってアメリカに住んでたんだ」

 

「うん」

 

「でもなんでアメリカ行ってたの?」

 

「う~ん、なんでだろ?」

 

「叔母さんがアメリカに。

 そう、それなら英語はお願いできそうね」

 

「ん?」

 

”ぱく”

 

美味い。

三ヶ木のお弁当、おにぎりと唐揚げと卵焼き、あとこれ肉巻きアスパラか。

どれも美味い。

まぁ、さすがに雪ノ下のサンドウィッチやローストビーフとかに比べるとあれだが。

なんていうか、まぁこれぞ家庭の味って感じでなんか美味い。

このおにぎり一つにとっても、塩加減とかちょうどよくて。

薄くもなく濃くもなくちょうどいい。

それにふっくらしてて、口に入れるとふわって崩れて。

これなら何個でも食べれそうだ。

・・・・由比ヶ浜、それに比べお前これ握りすぎだろ。

なんかお米が潰れて押し固められてて、塊のようになっているんだが。

まぁ、由比ヶ浜のことだ、一生懸命握ったんだろうけど・・・・・固い。

ウインナーとかゆで卵とか、チキンナゲットとかは、まぁそこそこ食べれる。

こいつにしては頑張ったんだろうな。

 

「ふ~、食った食った。

 ほんとご馳走さん」

 

「ね、ねぇ、ヒッキー、お弁当どうだった?」

 

「あ、いや、どれも美味かったっと思うぞ」

 

「・・・あのさ、誰のお弁当が一番美味しかった?」

 

ぐ、由比ヶ浜、お前がそれ聞くのか。

なにその顔、結構自信ありそうなんだが。

いや雪ノ下さん、そんなに睨んでプレッシャーかけないで。

ん? 三ヶ木そんな心配顔して何オロオロしてるんだ?

 

・・・・・大丈夫だ。

心配するな、わかってる。

 

「美味かった、本当にうまかった。

 どのお弁当にも、心? なんか美味しくなれってそんな心みたいなものが

 詰まってたような気がして。

 本当にどれも美味しかった。

 お弁当に込められていたそんな心にどうやって順番つければいいのか

 俺にはわからない。

 だから、雪ノ下、由比ヶ浜、三ヶ木、どれも美味かったご馳走さん」

 

”ペコ”

 

は、なに言ってんだ俺。

リア充?

は、恥ずかしい~、顔あげられねぇ~

どこか穴、穴開いてない?

 

「こころ。

 ふふふ、あなたにしては上出来よ」

 

「む~、なんか騙されてるような」

 

「まぁまぁ。

 あ、これトマトの砂糖付け持ってきたの。

 デザート代わりにどう?」

 

「あら、美味しそう」

 

「うん、美佳っちいただくね」

 

”パク”

 

「うわ~甘くて美味しい」

 

「ひ、比企谷君もどう?」

 

「い、いや、三ヶ木、俺のトマト嫌いなの、お前知ってるだろう」

 

「ああ、大丈夫だよ。

 ちゃんとなかのジュクジュクしたの取ってあるから。

 ちょっと食べてみて」

 

「そ、そっか」

 

”パク”

 

「え? あ、甘い。

 これなら食べれるな」

 

”パクパク”

 

「よかった。

 少しでもトマト食べれるようになればと思って」

 

”パクパク”

 

「おう、美味いぞ。

 これなら全然問題ない」

 

「む~、ヒッキー、食べ過ぎだし」

 

     ・

 

「ふ~、お腹いっぱい。

 あたしもみんなみたいにお料理上手になりたいなぁ」

 

「大丈夫よ、大分成長したわ」

 

「結衣ちゃん、比企谷君が言った通りお料理は心だよ。

 だからすぐ上手になるよ」

 

”テクテク”

 

「あ、いたいた。

 雪ノ下さん、ちょっといい?

 応援合戦の打ち合わせしたいんだけど」

 

「わかったわ。

 それじゃ、先に行くわね」

 

「ああ」

 

「ゆきのん、頑張って」

 

「ええ」

 

”スタスタスタ”

 

雪ノ下、団長だもんな、忙しそうだ。

ん、あ、そうだ由比ヶ浜に聞いておくことがあったんだ。

三ヶ木いるけど、まぁこいつならいいよな。

 

「な、なぁ、由比ヶ浜、三浦の依頼の件だが、何であいつそんなに

 勝ちたがってんだ?

 勝ったら何かあるのか?」

 

「ん? あれって隼人くんと同じ組になれなかったからで、そんで

 団長になって最後の想い出って・・・・・あれ?」

 

「お前、理由知らなかったのかよ。

 あんなに二人で盛り上がってたのによ」

 

「えっと、えへへ」

 

「まぁ、葉山絡みなのは間違いねえけどな」

 

「あのね、それ恐らくツーショットだよ」

 

「「え?」」

 

「三ヶ木、なんだそのツーショットって」

 

「毎年、学校新聞で体育祭の特集やってるでしょ。

 その中で、優勝した団長さんと最優秀選手のツーショットの写真が載るの。

 三浦さんが勝ちたい理由が葉山君なら、きっとそれが理由なんじゃない?」

 

「ま、まて、それだと葉山が最優秀選手になることが前提じゃねえか。 

 普通、優勝した組から選ばれるんじゃねえのか?」

 

「あ、でもさヒッキー、ほら隼人君って出てる種目全部1位じゃない。

 だから、このままだと紅組負けても最優秀選手になるんじゃない?

 問題なのは白組の方かも」

 

「ああ確かにな。

 去年ほどでもないが、午前の部終わって80点対60点で負けている。

 やっぱり葉山の活躍がきいている。

 後半どれだけ巻き返せるかか」

 

「うん、ヒッキー、美佳っち、優美子のためにも白組頑張ろう」

 

「まぁ依頼受けち待ったもんな」

 

「えっと、結衣ちゃんわたし紅組・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「フレー、フレー、紅組」

 

あ、あれ、センター雪ノ下か。

学ランに赤のハチマキって、あいつすげぇ似合っている。

 

”ドン、ドン”

 

紅組の応援合戦は空手の演舞か。

太鼓の拍子に合わせてメッチャカッコいいじゃねえか。

 

「キャ~、葉山くん格好いい!」

 

「葉山く~ん」

 

葉山?

はっ、太鼓。

上半身裸で太鼓叩いてるの葉山じゃねえか。

お、おい、それ反則だろ。

・・・・・くそ、すげぇ格好いい。

 

”ドン!”

 

うん? 列が左右に分かれて後ろから。

 

”ダ―”

 

お、おう、さらし!

学ランの上脱いで、上半身さらし姿の女子の列が!

は、今度のセンターは川越か。

お、おお~

 

”ぎゅ~”

 

ぐはぁ、い、いてぇ~

だれだ頬抓ったの。

は、由比ヶ浜、なんでここに。

 

「ゆきのんも沙希もかっこいいね。

 あ、やば、急がないと。

 ・・・・・ヒッキー、あたしもちゃんと見ててね」

 

「あ、ああ。」

 

「うん、じゃあ頑張ってくる」

 

”タッタッタッ”

 

ううう、ほ、頬がいてぇ。

あいつ思いっ切り抓りやがった。

 

”わいわい”

 

「雪ノ下さん、いいなぁ」

 

「うん、さすがミス総武だね」

 

「葉山君素敵」

 

「あのさらしの女子のセンター、誰?

 ね、誰か知らない?」

 

いや、わかるけどって、お、おい白組男子、い、いや女子まで

お前ら見惚れすぎだ。

これ、応援合戦もやばいな。

 

     ・

 

「Go Fight Win!」

 

お、おお、ミニ、ミニ、ミニスカート。

み、三浦、やっぱりスタイル良いよな。

学ランもいいけど、やっぱりチアダン、チアダンだよな。

は、あの三浦の横にいるのは由比ヶ浜か。

間に合ったようだな。

 

”ゆっさ、ゆっさ”

 

お、おおー

さすがガハマさん。

そ、その胸はもはや最終兵器。

ぐふ、ぐふふふ。

 

お、男子のピラミッド始まったな。

でも大丈夫か、練習であんまり成功してなかったようだが。

最後の一人、か、刈宿、落ちるなよ。

 

「ピー」

 

「はっ!」

 

「「おおー」」

 

よ、よかった。

え、ピラミッド?

いやいや、ピラミッドの横のチアダン女子によるタワー。

見せパンってわかっていてもなかなか。

えっと、ピラミッドは成功したの?

 

「八幡?」

 

「は、ち、違うぞ戸塚。

 ちゃ、ちゃんとポンポンもって踊ってたぞ。

 け、決して由比ヶ浜の、む、胸とか見せパンを凝視していたわけじゃないぞ」

 

「は、八幡、よだれ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~ん、ちょっと軽い熱射病かもしれない。

 そこで横になってて。

 あ、ごめん、誰かこのタオル濡らしてきてくれる?

 それと、一応、保険室の先生、呼んできて」

 

「「はい」」

 

「それでは借り人競争はじめまーす。

 最初の選手の人はスタート位置についてください」

 

「ふ~

 あ、あれ刈宿君だ。

 借り人競争にも出てんだね」

 

「よ~い、」

 

”パァーン”

 

「お~、やっぱ早い。

 あっという間に封筒のとこまで着いちゃった。

 ん?」

 

”タッタッタッ”

 

「んん? な、なんかこっち来た」

 

「美佳先輩、お手」

 

「ワン!

 って、お前~」

 

”にぎ”

 

「美佳先輩、ノリいいっす。

 さぁ、俺と一緒にきて」

 

「え、あ、ちょ、ちょっとまって~」

 

”タッタッタッ”

 

「な、なに? どうしたの?」

 

「大丈夫、俺にその身を任せて」

 

「え?・・・・・・な、なに言ってんだ」

 

”タッタッタッ”

 

「ゴール。

 やった~、美佳先輩、俺達一着っす」

 

「そ、そう」

 

「失格!」

 

「え? 審判の人、な、なんでですか!」

 

「だってほら君、紙にはとっても可愛い人って書いてあるだろ。

 だから 」

 

”ボゴォ”

 

「ぐぅぇ~、は、腹パン」

 

「うっさい、わかってるわ!

 もう、ふん!」

 

”プリプリ”

 

「な、なによ、あの審判!」

 

「み、美佳先輩?」

 

「刈宿君のバカー!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はい次の組の人、お互いの足を結んでください。

 途中で取れないようにしてくださいね」

 

「蒔田、いい、ちゃんと合わせなさいよ」

 

「はぁ? 一色の方こそ合わせな」

 

「な、合わせるのはあんた」

 

「か、会長、じゅ、準備いいですか?」

 

「あ、はい。

 副会長、準備できてますよ~」

 

”とん”

 

「あいた! 何肩ぶつけてるのさ」

 

「あんたが悪いから副会長に怒られたでしょ」

 

「あん!」

 

”ドン”

 

「い、いたぁ~

 こ、この~」

 

「何よ一色」

 

「か、会長、いい加減にしてください。

 え~い、よ~い 」

 

”パァーン”

 

「あ、ちょ、」

 

”ドタ”

 

「「いった~い」」

 

「あ、あんた馬鹿ですか! スタートは右足からっていったでしょ」

 

「だから右足からスタートしたじゃない。

 一色の方こそ、出す足間違えてるじゃん」

 

「いや、わたしが右足だから、あなたは左足。

 ばっかじゃない」

 

「はん、ちゃんと説明しないからでしょ」

 

「なによ」

 

「なに!」

 

「「う゛~」」

 

「あ、あの会長、蒔田さん、次の組を初めてもいいですか?」

 

「「え? あ、ご、ごめんなさい」」

 

”ビュ~”

 

「は、はや~、めっちゃはや」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふむ。

例年のごとく、葉山のすさまじい活躍があったが、

残りチバセンと色別リレーを残して130点対120点。

なんとか白組がリードしている。

だが残りの2競技、目玉競技ってことでそれぞれ30点入るんだよな。

まぁ、理想はチバセンで勝って、色別は赤組、葉山に勝たせるのが

一番いんだがな。

そうすれば白組が勝って、それで最優秀は赤組でも葉山だろう。

 

「ヒッキー、勝ってる、勝ってるね白組。

 優美子、このまま勝っちゃおうね」

 

「う、うん」

 

な、なに三浦さん、いつもと違ってしおらしい。

競技の最中も葉山のこと応援したいだろうにずっと我慢してたもんな。

戸部ぐらいいればいいんだが、野郎どもは全員紅組だからな。

まぁ、乙女のあーしさんもいいもんだ。

 

「ヒ、ヒキオ、あーしのこと見過ぎだし」

 

「あ、い、いや、す、すまん」

 

「ヒッキー、それでチバセンの作戦はどうするの?」

 

「ああ、それだが今回のルール改定の要点。

 大将は各組一人で、時間終了時に一方の大将だけが残ってる場合は、

 それで勝敗決まるんだったよな」

 

「うん。

 それで、もし両方とも大将が残ってるか、残っていない場合は、残ってる騎馬の

 数で勝敗が決まるんだよ」

 

「そこでだ」

 

     ・

 

ぐふ、ぐふふふ。

今回のチバセンのルール改定、もう一つ大きな改定があったのだよ。

ルール上、集中して狙われる大将を考慮して、大将の騎馬だけは体力のある男子が

務めることになったのだ。

白組の大将は三浦、そして騎馬は前衛が材木座、後ろが俺と稲村だ。

したがって俺の右肩には三浦の・・・ご、ごほん。

 

「お、おい比企谷、お前なんか変なこと考えていないか」

 

「ひ~、ヒキオ最低」

 

”ぼこぼこ”

 

「お、おい、三浦やめろ。

 殴るんじゃない

 ば、ばっか稲村!お、俺は勝つことしか考えていないぞ」

 

「八幡! ちゃんと我の手を握っているのだ。

 騎馬が崩れる故、決して離す出ないぞ」

 

「いや、材木座、お前、手ギトギト過ぎだろ」

 

さて、さて敵の様子はっと。

ふむ、体育委員の権限を使って確認した通りだ。

やっぱり大将の騎馬は葉山、大岡、大和か。

ほほう、あいつ予想通りの反応してやがる。

わかる、わかるぞ、その反応。

お前も下種だな。

くくく、勝負はもらった。

 

「各騎馬、準備いいですか~

 それでは、平塚先生、お願いします」

 

な、なにあの人、よっぽどそれやりたかったの?

本当にうれしそうにほら貝もって。

なぜだろう、ほら貝が一升瓶に見えるのは俺だけ? 

 

「いいか皆のもの、いくぞ、よ~い、」

 

”ぷおおおおお~”

 

いよいよ始まったか。

 

”わ~わ~”

 

まずは乱戦だな。

今回は大将以外の騎馬の生き残りも重要なポイントになる。

お互いの大将がハチマキ取られたり取られなければれば、生き残った騎馬の

数で決まるからな。

どれ敵の大将は。

 

”シュパッ”

 

おお、行く先行き先の騎馬から的確にハチマキを取っていきやがる。

まぁ予想通りだ。

それに相変わらず、あいつは単独でこっちに向かってくる。

だが、こっちはまだだ。

まだ早い、今は体力温存だ。

 

「ヒキオ」

 

「まて、まだだ三浦」

 

必勝のための布石、その一。

雪ノ下の体力を削ぐ、削ぎ落とす。

白組の騎馬は三浦の周りを固める騎馬以外、雪ノ下に波状攻撃を加えている。

繰り返し繰り返しの攻撃で、ここにくるまでにはかなりの体力を減らすだろう。

その分こっちも紅組の攻撃に耐えないといけないが。

 

”わ~”

 

うん? げ、ま、まずい。

こっちの守備陣の一角が崩れた。

 

”シュパッ”

 

また一騎やられた。

だ、誰だあの騎馬。

は、か、川越か!

 

「三浦、覚悟しな!」

 

「あん!」

 

”ギロ!”

 

「ひゃっ」

 

「あ、馬鹿、急に立ち止まったらバランスが 」

 

”グラッ”

 

「沙希、ハチマキ頂き~」

 

”シュパッ”

 

「あっ」

 

よ、よし、よくやった由比ヶ浜。

し、しかし、す、すげぇ。

あーしさん、あんた何者だ。

睨んだだけで、川越の騎馬の女子が竦み上がりやがった。

よ、よしなんとか持ちこたえた。

 

”わ~”

 

え、次は何?

げ、ゆ、雪ノ下、もう目の前まで。

やばい、まだちょっと早い。

 

「お、おい由比ヶ浜出番だ。

 雪ノ下を止めろ」

 

「う、うん」

 

そうだ、こっちには由比ヶ浜がいたんだ。

由比ヶ浜相手なら雪ノ下も攻撃を躊躇して時間稼ぎができるはずだ。

由比ヶ浜頼むぞ、すこしでも雪ノ下の体力を削いでくれ。

 

「ゆきのん、これ以上は、」

 

”シュパッ”

 

「きやっ」

 

「由比ヶ浜さん、あまいわ」 

 

お、おい、瞬殺かよ。

ちっ、仕方ねえ。

 

「三浦、くるぞ。

 必勝のための布石その二だ」

 

「わかった。

 雪ノ下、あんたお嬢様なんでしょう。

 お嬢様は怪我しないように後ろでおとなしくしてたらどう?

 あーしに負けてあとで泣いても知らないけど」

 

「葉山君行きなさい、前進よ」

 

「ゆ、雪ノ下さん、挑発に 」

 

「売られた喧嘩は買うわ。

 わたしたちで勝負を決める。

 いいから突っ込みなさい!」

 

「わ、わかった」

 

”ダ―”

 

よ、よし、突っ込んできやがった。

そうだ、もっと勢い付けてこい。

勢いがつくほど、俺たちの勝利が近づいてくるのだ。

 

「ヒ、ヒキオ、き、来たよ」

 

「ああ、任せておけ」

 

必勝のための布石、その三!

将を射んと欲すれば先ず馬を射よっだ。

そう、狙いは騎馬。

女子を肩に乗せて、その感触ににやけているあいつだ。

 

「材木座、稲村、前進だ!

 相手の騎馬の右横につけろ」

 

「「お、おう」」

 

”ダ―”

 

よし、そうだ。

出来るだけこいつに近づいて、それで騎馬の動揺を誘う必勝の矢を放つ!

よ、よし今だ!

 

「大岡、お前どうて 」

 

”ズルッ”

 

「きゃっ」

 

え? あ、ジャージが

う、うそ。

 

「雪ノ下、隙あり!」

 

”シュパッ”

 

「え、あ、」

 

”グシャ”

 

お、おい騎馬崩れたけど、雪ノ下大丈夫か?

な、何ともなさそうだよな。

 

「か、勝った! ヒ、ヒキオ、勝ったよって、あ、あんたなんて格好してるの!

 さ、さっさとジャージを穿きな!」

 

「お、お、おう」

 

く、くそ、飯食った時に緩めてたんだった。

マジ見られたよな。

ま、まぁ、八幡の八幡を見られたわけじゃないから。

パ、パンツだけだから。

 

”わ~、わ~”

 

は、そ、そうだそれより。

 

「三浦、油断するな。

 紅組は必死でお前のハチマキ取りに来るぞ。

 守備隊、予定通り壁だ、壁を作れ」

 

「・・・・・・・」

 

お、おい、あれ?

し、白組の皆さん、あの~予定通り壁つくってほしいな~って。

い、いや、みんなこっち向いて固まってる。

 

「白組のみんな、壁!」

 

「「はい!」」

 

あーしさん、本当あんたすごいわ。

あーしさんの一声で正気に戻りやがった。

 

「よ、よし、三浦、壁を利用して逃げ回るぞ」

 

「う、うん」

 

”タッタッタッ”

 

「まったく、比企谷、君っていうやつは。

 それより、雪乃ちゃ・・・・・雪ノ下さん、大丈夫だったかい」

 

「ええ、葉山君、大丈夫よ。

 あ、あの、ありがとう」

 

「怪我がなくてよかった」

 

     ・

 

ふふふ、やった。

これで優勝は決定だ。

次の色別リレー負けても白組が10点差で優勝だ。

まぁ、葉山のことだ、色別でも活躍して最優秀選手は決りだろうしな。

ふぅ~

あとはこの壁を利用して時間切れを狙えばいい。

 

ん? 一騎、壁の端を通り抜けてきたのか。

ほほう、やるな。

だが甘いな、ほら壁の後ろにはそのための予備戦力が。

え、あの紅組の騎馬って。

 

”グラ”

 

「あ、あぶねぇ!」

 

”ダー”

 

「ちょ、ちょっとヒキオ、急にどうして」

 

「比企谷、どこに行くんだ。

 あ、や、やばい騎馬が崩れる」

 

”グシャ”

 

「ヒ、ヒキオ!」

 

”ダ―”

 

ま、まってろ小町!

いまお兄ちゃんが行くからな。

もう少し持ちこたえろ。

 

”グシャ”

 

「きゃ・・・・あ、お、お兄ちゃん」

 

「小町大丈夫だったか、怪我していないか?」

 

「あ、いや、お兄ちゃん恥ずかしいからお姫様抱っこやめて」

 

「ヒ、ヒキオ―!」

 

「え? あ!」

 

”ぷおおおおお~”

 

「そこまで!

 各騎馬、スタート位置に戻れ。

 お互い、大将の騎馬は残らなかったようだな。

 それでは無事な騎馬の数を数えるぞ。

 1、2、・・・・・・」

 

・・・や、やばい。

ど、どっちだ、どっちの騎馬が

 

「勝者、紅組!」

 

「ヒキオ!」

 

「比企谷!」

 

「す、すまん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ゆ、由比ヶ浜」

 

「ム~」

 

あ、嫌そんな難しい顔しないで。

ね、ね、は~だめか。

 

「ゆ、雪ノ下」

 

”ギロ”

 

ひぇ~

 

「・・・まったく、あなたって人は。

 行きましょう、由比ヶ浜さん」

 

”スタスタスタ”

 

は~、やばい。

どうしよう、あとは色別リレーで勝つしかないよな。

 

「大丈夫だよ。

 八幡、任せておいて」

 

「と、戸塚~」

 

「色別リレー、頑張るからね。

 いくよ、刈宿君」

 

「うっす」

 

     ・

 

「三浦、す、すまん」

 

「うううん、いいよ。

 初めからこうなる運命だった。

 やっぱり、あーしと隼人は釣り合い取れないってわかってたから」

 

「三浦、まだだ、まだ負けたわけじゃねえ。

 色別リレー、これさえ勝てば。

 な、団長がそんなんじゃ、応援に力はいらないじゃねえか」

 

「・・・う、うん」

 

「そだよ、優美子。

 まだ負けたわけじゃない。

 応援しよ」

 

「結衣。

 ・・・う、うんわかった」

 

由比ヶ浜、戻って来てくれたのか。

すまん、助かる。

 

「あ、選手の人出てきた。

 ほら、ヒッキーも応援するよ」

 

「お、おう」

 

     ・

 

「それでは色別リレー始めます。

 第一走者の人、出てください」

 

頼むぞ、戸塚、刈宿、それと、えっと2年誰だっけ?

 

「ヒッキー、さいちゃん達、どんな順番で走るのかなぁ?」

 

「いや聞いてない」

 

そう、この色別リレーは各学年の男子で競われる。

第一走者が100m、第二走者が200m、第三走者は400mの距離で行われる。

走る順番は自由だから、どの順番で誰が走るのかが大きく勝敗に左右する。

 

「あ、第一走者でてきた。

 あれ2年生の子だね」

 

「おう。

 はぁ! あ、あれ紅組、大志じゃねえか」

 

「あ、ほんとだ、紅組は大志君だ」

 

「よ、よし負けるように言ってきてやる。

 いやだというのなら二度と小町には 」

 

「ヒッキー、それ駄目だよ、

 それにもう始まるし」

 

「位置について、よ~い、」

 

”パァーン”

 

「げ、」

 

「ひゃ~大志君早い。

 ね、白組2年生だよね」

 

ち、くそ、あいつ殲滅してやる。

くそ、あのサッカー小僧が、何であんなに早いんだ。

 

「大志く~ん頑張って」

 

「げ、こ、小町、お前お兄ちゃんより大志を選ぶんのか!」

 

「いや、ヒッキー、小町ちゃんも紅組だから。

 それにヒッキー走ってないから」

 

「し、しかし」

 

”わ~、わ~”

 

「あ、ほ、ほら第二走者でてきた。

 あっ、さいちゃん、さいちゃんだ」

 

「おお、戸塚、戸塚頼むぞ」

 

「うわ~、さいちゃんも早い。

 ほら、ヒッキー、追いつく、追いつくよ」

 

「と、戸塚頑張れ! おお抜いた!」

 

”わ~、わ~”

 

「第三走者、刈宿君出てきた。

 あ、赤組は隼人君だ」

 

は、葉山。

くそ、戸塚、なんとかもっと差を広げてくれ。

 

「よし、刈宿君行け! 頑張って~」

 

刈宿行け。

げ、葉山きた!

 

「きゃ~、葉山ク~ン」

 

「葉山ク~ン頑張って!」

 

な、やっぱり葉山はぇ~

それに紅組、葉山が出た途端に雰囲気変わりやがった。

すげぇ~応援だ。

 

「・・・は、や、と、頑張って」

 

え?

み、三浦。

お、お前・・・・・・・・・・

ま、まぁ、いっか。

乙女心には敵わねぇ~。

頑張って応援してやれ。

でも、小さい声でね。

 

「あ、隼人君が抜いた!」

 

な、か、刈宿でもだめなのか。

あいつ、本当、反則だろう。

 

”タッタッタッ””

 

「はぁ、はぁ、ち、くそ!

 葉山先輩、やっぱはぇ~」

 

「まだ、負けないよ」

 

”ズキッ!”

 

「くっ」

 

「え、は、葉山先輩?・・・・・お先っす」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、刈宿君が抜いた。

 刈宿君行け~」

 

刈宿抜きやがった。

あいつまだ余力あったのか?

はっ、いや違う、葉山、葉山どこか痛めたのか?

 

「なぁ、葉山足どうかしたのか?」

 

「え?」

 

「うん? 何ともなさそうだけど。

 あ、ほら刈宿君ゴールするよ。

 行け~刈宿君・・・・・・や、やったー。

 ヒッキー白組勝った、勝ったよ~」

 

”ぎゅ~”

 

い、いやわ、わかったから、抱き着くな。

その柔らかい物の感触が、あの、その~

ん?

三浦、どこ行ったんだ?

 

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、は、葉山先輩、足どうかしたっすか?」

 

「いや、何でもない。

 ははは、最後に負けてしまったね」

 

「う、うっす。

 で、でも早く救護テントに行くっす。

 あ、一緒に 」

 

「一人で行けるから大丈夫だ。

 ほら閉会式始まるから、君は行きたまえ」

 

「う、うっす」

 

     ・

     ・

     ・

 

「さてと、じゃあこれ保健室までお願いね」

 

「あ、はい三ヶ木先輩」

 

「よし、あとは救急箱とクーラーボックスを返してきてっと。

 はぁ~体育祭も終わったね。

 もう、生徒会も終わりか~」

 

「すまない、ちょっといいかい」

 

「え? あ、葉山君。

 どうしたの?」

 

「ちょっと足を捻ったみたいなんだ」

 

「どれどれ、ちょっと見せてみそ。

 あ~腫れてる。

 ちょっと触るね、これ痛い?」

 

”ぐぃ”

 

「うっ」

 

「ふむ、歩けることは歩けるんだね。

 歩くとき痛みとかない?」

 

「少し痛いぐらいだよ」

 

「そっか、ちょっとまって。

 いまテーピングするから」

 

”シュルシュル”

 

「へ~、三ヶ木さん、慣れてるんだね」

 

「へへ、伊達に毎回救護班やってないから。

 それにわたし何回も捻挫してるから。

 あ、いいお医者さん知ってるから、よかったら教えるよ」

 

「ああ、頼むよ」

 

”ガタ”

 

「ん?」

 

「どうかしたのかい三ヶ木さん」

 

「あ、ううん。

 はいテーピング終了っと。

 あとは、三浦さん!」

 

「へ、あ、は、はい」

 

「優美子!」

 

「ごめん、わたしこれから保険室行かないといけないの。

 申し訳ないけど、アイスノンでここらへん冷やしてくれない?」

 

「あ、う、うん」

 

「じゃあ、あとよろしくっす」

 

”スタスタスタ”

 

「すまない優美子」

 

「あ、あ、だ、大丈夫、大丈夫だから。

 あのね大丈夫だから、隼人」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ふ~、あ、みんなもう片付けしてるんだ。

 今年は白組の優勝か。

 最優秀選手はやっぱり刈宿君だった。

 へへ、へへへへへ。

 でも、よかった。

 三浦さん、頑張ってね」

 

”スタスタ”

 

「だから、蒔田一人で無理すんなって」

 

「稲村先輩、大丈夫ですよこれくらい。

 こう見えても、蒔田は力持ちなんですよ。

 脱いだら筋肉すごいですから、バンバンって。

 なんなら見ます?」

 

「いや・・・・・・・・・また今度な」

 

「え~なんで、本当にすごいんですからって・・・・・え、また今度って」

 

「い、いいから、ほらコーン半分よこせ」

 

「はい♡」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おお、舞ちゃん頑張ってる。

 よし、わたしも早くこれ保健室持って行って後片付け手伝おうっと」

 

「あ、あの稲村先輩、一万メートル残念だったですね。

 あんなに頑張ってたのに」

 

「お、おい! いいからもう言うな。」

 

「だって、あのまま比企谷先輩に勝っていれば、三ヶ木先輩は稲村先輩のものだった

 じゃないですか~

 あ、もしかしてわたしのこと思って 」

 

「蒔田!!」

 

「あ、ご、ごめんなさい。

 わ、わたし何か 」

 

「いいから運ぶぞ」

 

「はい」

 

”スタスタスタ”

 

「へ? な、なにいってるの舞ちゃん。

 え? 勝ってればわたし稲村君のもの?

 ・・・・・なにそれ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごめんね優美子」

 

「うううん、だって白組優勝したじゃん。

 それに、うふふふ」

 

「な、何かあったの優美子?

 そういえば閉会式いなかったよね」

 

「な、何でもない!

 あ、それとヒキオ、ヒキオもありがとね」

 

「あ、い、いや俺は何も」

 

「うううん、ヒキオが気づいてくれたから」

 

「ん?」

 

「い、いや、なんでもない。

 それより結衣、ほら祝勝会いくよ」

 

「おう。

 あ、ヒッキーも行くでしょ」

 

「ん? あ、いや今日はちょっと用事があるんだ。」

 

「そ、そっか。

 あ、でも用事がすんでからでもいいから、来てほしいかも」

 

「まぁなんだ、考えておく」

 

「うん。

 じゃあね、ヒッキー」

 

「お、おう。」

 

さてと、三ヶ木どこ行ったかなぁ。

まだ後片付けとかやってるのかもな。

少し手伝うか。

ん? あ、み、三ヶ木。

 

「お~い、三ヶ木」

 

「・・・・・」

 

”ダー”

 

はは、元気だな、体力余ってんのか。

そんなに走ってこなくても。

俺はもうクタクタで、それに足痛い。

 

「比企谷君!」

 

「お、おう。

 なぁ三ヶ木、今日 」

 

”パシッ!!”

 

「かはっ」

 

”ドサッ”

 

は、な、なんだ。

いきなり平手打ち?

いや、なんでだ?

 

「な、なんだ、なにするんだ三ヶ木!」

 

「わたしは、わたしはものじゃないよ!

 勝手に決めないでよ!

 1万メートル走、比企谷君が負けてたら、わたしは稲村君のものになってたって。

 なにそれ、それでもよかったの!

 わたしの、わたしの気持ちはどうなるのさ。

 この馬鹿、最低!」

 

”ダー”

 

「み、三ヶ木、ち、違う」

 

”ズキッ!”

 

「い、いて」




最後までありがとうございます。
お時間お掛けいたしすみませんです。
またしてもグダグダな展開になってすみません。

さてこの駄作、秋物語も終わって次話より冬物語編。
そろそろ終盤に。

また次話でお会いできたらありがたいです。
ではでは。

※ すみません誤字訂正っす。
  比企谷っていう・・・・ → 比企谷、君っていうやつは・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章 冬物語
修学旅行編 前編  ー冬季雷ー


見に来ていただき、ありがとうございます。
更新、遅くなりすみません。

今話より冬物語編です。
気が付けばもう66話。
オリヒロと八幡、二人の関係もそろそろはっきりしなくては。

あ、でも、もう少しグダグダな展開続きます。
すみません、ご勘弁ください。

では、よろしくお願いします。


”ペラ”

 

「ふぅ~」

 

ん、ジャリっ娘、さっきから何を読んでるんだろう。

生徒会室に来てからずっと真剣に読んでる。

ちょっと覗き見してみようかなぁ。

 

”ポコ、ポコポコポコ”

 

おっと、お湯沸いた!

ふふふ、今日こそ、今日こそはあの味を超えてみせるんだ。

まずこのお湯でティーポットとカップを温めてっと。

でも知らなかったなぁ~

お水ってペットボトルのものじゃダメだったんだ。

水道水のほうがいいなんて、なんと経済的でわたし向きなんだ。

さてポットに二人分の茶葉を入れたら、こうやってちょっと高い位置から

一気にお湯を注いで。

 

”トポトポトポ”

 

うん、茶葉ちゃん、踊ってる踊ってる。

あとは、蓋をしてしばらく蒸らしてっと。

 

     ・

 

「ふんふんふん♬」

 

んっと、そろそろいいかなぁ。

あとはちょっとポットを揺らして中身を均一にしたら、カップに注いで出来上がり。

おっと忘れちゃいけない、最後の一滴!

 

”ポト”

 

そう! この一滴こそがゴールデンドロップと呼ばれる一番濃いところ。

ジャリっ娘、いつも『美佳先輩、貧乏くさいです~』って言うけど、これが大事

なんだからね!

よし、これで完成!

う~んいい香り、上出来上出来。

ジャリっ娘、なんて言うかなぁ。

 

『美佳先輩、すごく美味しいです~♡』

 

とか、

 

『こんなおいしい紅茶飲んだことありませんよ~

 雪ノ下先輩のより美味しいです♡』

 

なんて言ったりして。

へへ、ちょっと楽しみ。

 

”カチャ”

 

「会長、紅茶いかがですか?」

 

「あ、美佳先輩、ありがとうございます」

 

”ゴクゴク”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

あれ?

おっかしいな~まったく反応ない。

えっと~

 

”ゴクゴク”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・あの~、美佳先輩何か?」

 

「え? 

 あ、いえ何でもないです」

 

おかしいいな、美味しくなかったのかなぁ。

わりと自信あったんだけど。

ゆきのんの味を超えるには、まだなにか足りないのかなぁ。

はぁ~、仕方ない。

さっさと席戻って引き継ぎの資料つくろ。

 

”トボトボ”

 

「今までで一番美味しいですよ」

 

「え?」

 

「な、なんでもないです」

 

「い、いや、いま美味しいって」

 

「はぁ? そんなこと言ってません。

 お歳で耳悪くなったんじゃありません? 

 そんなこと言ってる暇があったら仕事してください」

 

お、お歳って、ジャリっ娘とは誕生日一ヵ月しか違わないから。

それにあんた仕事してないし。

いまチラッと見たけど、雑誌読んでるだけだし。

・・・まぁいっか。

さて、お仕事お仕事。

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様です」

 

「あ、ご苦労様です副会長」

 

「お疲れ本牧君。

 あ、あのさ 」

 

「え? あ、書記は修学旅行の打ち合わせで少し遅くなるって」

 

「へ~、でもなにも書記ちゃんのこと聞いてないけど?

 本牧君も紅茶飲むって聞こうと思っただけだけど」

 

「あ、あははは。

 ・・・・・・・紅茶いただきます」

 

    ・

 

”カチャ”

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう三ヶ木さん」

 

「えっと会長、紅茶のおかわりどうですか?」

 

”パラパラ”

 

「え?

 あ、はい。 

 ありがとうございます」

 

”カチャ”

 

「はい、どうぞ。

 でも会長、さっきから何読んでるんですか?」

 

「えっと~、ほら修学旅行もうすぐじゃないですか。

 だからちょっと自由行動でどこに行こうかなぁって。」

 

あ、それでぶるる京都を見てたのか。

そっか、来週はもう修学旅行だからそれでぶるる見てたんだ。

修学旅行か~

・・・・・うううう。

わたしの黒歴史がよみがえる。

1日目は新幹線に酔っちゃって。

だって初めて乗ったんだもん。

うれしくてずっと一人で外の流れる景色見てたら。

 

2日目は、前の日の夜にあんまり寝れなかったからフラフラで。

だ、だって同じ部屋の子達が寝る前に怖い話するから。

怖くて怖くて、トイレいけなくて。

気を抜くと漏らしそうで。

 

3日目は、も、もう思い出すのやめよ。

・・・・・修学旅行が終わったら、もう生徒会選挙なんだ。

そんでもう生徒会、終わり。

生徒会終わったら、みんなとはもうこうやって・・・・・

 

「あ、そうだ。

 副会長は修学旅行の自由行動ってどこに行きました?」

 

「渡月橋とか東映太秦映画村とか行きましたよ。

 あ、そうそう、渡月橋のところで食べた抹茶パフェがすごく美味しくて、

 よかったら会長も行ってみてください」

 

「へ~、抹茶パフェですか~

 で、ついでに美佳先輩はどこ行きました?」

 

「つ、ついでって。

 ・・・愛宕念仏寺」

 

「はぁ?」

 

「あ、愛宕念仏寺!」

 

「な、なんですかそれ?」

 

「あ、あの、1000以上の阿羅漢? お地蔵さん? があって。

 それでみんな別々のお姿してて、とってもかわいいの。

 あ、そうだ写真写真」

 

”カシャカシャ”

 

「はい、このスマホの写真見てください。

 ほら、特にこのお地蔵さんなんかにっこり笑ってて可愛くて」

 

「あ~本当ですね。

 すごく可愛いです」

 

「でしょう」

 

「へ~、わたしも行ってみようかなぁ~」

 

「うん、平日だったからかもしれないけど、その時はわたしかいなくて。

 とっても静かでいいお寺でしたよ」

 

「え、一人でお寺ってそれちょっと怖いかも。

 でも美佳先輩、お一人で行動してたんですか?」

 

「あ、あの~、あはははは」

 

3日目、2日目の流れで同じ班の子と一緒に廻ってたんだけど。

くそ~、あいつら。

ちょっとトイレ行ってて集合場所に遅れただけなのに。

う~、気付かれずに置いて行かれたなんて言えない。

ホテルに戻ってからいないの気が付いたって、おい!

ま、まぁいいけど。

おかげで道に迷って偶然このお寺見つけられたから。

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様です」

 

「あ、稲村先輩、ご苦労様です」

 

「稲村、お疲れさん」

 

「・・・・・」

 

「え、三ヶ木?」

 

「・・・・・

 あ、会長、こっちのも可愛いですよ。

 ほらリーゼントしてるんですよ」

 

「え? なんですかそれ。

 げ、本当にリーゼントしてるじゃないですか」

 

「なにしてるんだ本牧」

 

「ほら来週から修学旅行だろ。

 会長がどんなところに行ったのかっていうから」

 

「そうなんだ。

 会長、えっと俺は轆轤体験に行って湯飲み作りましたよ。

 結構面白かったですよ」

 

「轆轤体験ですか、なんかおもしろ・・・・・

 はっ、なんか嫌なこと思い出しそうで、轆轤はやめときます。

 でも折角なので、わたしも何か体験してみたいです。

 何かないかなぁ」

 

”パラパラ”

 

「み、三ヶ木はどこに行ったんだ?」

 

「・・・・・」

 

「え、えっと三ヶ木?」

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。

 ごめんなさい、遅くなりました」

 

「あ、書記ちゃんお疲れさまです」

 

「お疲れ様」

 

「ご苦労様。 

 今日遅かったんだな書記ちゃん」

 

「あ、ごめんなさい。

 修学旅行で一緒に行くグループのみんなと自由行動の打ち合わせしてて」

 

”カチャ”

 

「書記ちゃん、ご苦労様」

 

「あ、紅茶。

 ありがとうございます、三ヶ木先輩」

 

「あ、み、三ヶ木、俺にも紅茶 」

 

”ギロ”

 

「え? あ、いや、やっぱりいいです・・・・・はい」

 

「・・・・・ふん!」

 

”スタスタスタ”

 

「「・・・・・」」

 

「そ、そういえば、さ、沙和・・・ごほん、書記は自由行動で

 どこに行くか決めたのか?」

 

「え? あ、うん。

 えっとわたし達のグループは、やっぱり竹林!

 ここは外せなくて

 だって、あ、いろはちゃんちょっと借りるね」

 

”ペラペラ”

 

「あ、ほらここ。

 なんかロマンチックでいいでしょう?

 こんなところで告白されたらどうしょうって盛り上がっちゃって」

 

「グ、グループって女子だけだよな。

 男子いないよな」

 

「え、あ、大丈夫だよ。

 一緒に行くの女子だけだから」

 

「あ、う、うん」

 

お、おい、そんなのどっかよそでやれ。

くそ~、うらやましい!

でも竹林で告白って。

まぁ、比企谷君から話聞いたけどいろいろ大変だったんだよね。

そっか、あれからもう一年になるんだ。

わたし髪伸ばそうかなぁ、それと眼鏡も。

・・・・・だって海老名さんじゃなかったから。

それに比企谷君の部屋にあったお宝。

あの女優さん、黒くて長い髪でスレンダー美人。

ゆきのんにそっくり。

やっぱりそっちのほうが好きなのかなぁ。

 

”ポコポコポコ”

 

おっと、お湯沸いた。

・・・・・・今日なんか紅茶ばっかり淹れてるんだけど。

あ、そういえばジャリっ娘、今日も早くから生徒会室に来てたけど、打ち合わせとか

いいのかなぁ?

 

     ・

 

「・・・・・」

 

”ガチャ!”

 

「え? あ、紅茶。

 ありがとう三ヶ木」

 

「・・・・・ふん」

 

「三ヶ木?」

 

い~だ、稲村君とは話してあげないんだ!

お、怒ってんだからね。

 

「・・・・・

 あ、会長、会長は打ち合わせとかよかったんですか?」

 

「え、あ、ほ、ほら、わたし生徒会会長じゃないですか~

 あの、その、いろいろ忙しいんです」

 

「そ、そう?」

 

さっき京都の話しているとき、ジャリっ娘すっごく嬉しそうだった。

それに生徒会、体育祭終わった今はそんなに忙しいはずないんだけど。

やることって引き続ぎの資料準備するぐらいだから。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん? もしかして。

・・・・・なんだ、違った刈宿君からのメールか。

どしたんだろ。

どれどれ

 

”カシャカシャ”

 

ふむふむ、なんか相談あるみたいだね。

今度時間くださいって。

ほいほい、了解っと。

 

”カシャカシャ”

 

ふ~。

比企谷君、あれから何も連絡くれない。

わたしのほうから連絡したほうがいいのかなぁ。

で、でも悪いのは比企谷君だし。

わたしからするのも変!

でもさ、話したいなぁ。

そうだ、明日の朝早く来て自転車置き場で待ってよう。 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「お、おいお前聞いてみろよ」

 

「やだよ、お前聞けよ」

 

”ひそひそ”

 

「ち、うっせな」

 

’カチャカチャ”

 

「清川氏、教室にまでパソコン持ち込んで何してるのだ?」

 

「ああん! 今度のプログラムコンテスト用のプログラム組んでんだろうが。

 これ持ち込むため、先公説得するの大変だったんだからな。

 何とか今度のコンテストで賞とって、同好会の活動再開と没収されたパソコン

 取り返すんだ。

 くっそ、あの地味メガネ野郎、純真な男心弄びやがって。

 おい、お前らも同好会のメンバ―なんだから手伝えよ」

 

「いやいや、同好会は名前だけ貸してくれってことだったではないか。

 そんなことより修学旅行の事前学習レポートの提出期限、明日までだがどうする?

 書いたのならちょっと見せてくれ」

 

「ちっ、明日までかよ、まだ書いてねぇ。

 面倒くさせ~な、ちょっと待ってろ」

 

”カチャカチャ”

 

     ・

 

「ね、ね、一色さん。

 修学旅行の班とか自由行動の予定とかってもう決まってるの?」

 

「え、あ、い、いいえ、まだ」

 

「わたし達もまだ決めていないんだ。

 ね、わたし達と一緒に行かない?」

 

「え?」

 

「あ、ほらわたし達、一年の時から同じクラスだったけど、

 あまり話とかしたことないでしょ。

 折角2年でも一緒のクラスになったんだから、話したいなぁ~って

 思ってたんだ。

 ほら一色さんでちょうど4人だし」

 

「ね、そうしようよ一色さん」

 

「一緒に行こう一色さん」

 

「そ、そうですね。

 じゃあ、一緒に行きましょうか」

 

「「やった~」」

 

「じゃ、じゃあさ、どこに行こうか?

 一色さん行ってみたいとこってある?」

 

「と、渡月橋とか」

 

「あ、それいい。 

 わたしも渡月橋って行ってみたかったんだ」

 

「へ~、一色さん達、渡月橋いくんだ」

 

「あ、あの 」

 

「あ、柄沢君♡

 そうだよ、渡月橋行こうと思うの。

 ねぇ~一色さん。

 柄沢君達は自由行動どこに行くの?」

 

「ああ、俺たち太秦映画村行こうと思ってるんだ」

 

「え~、うっそ~、わたし達もそこ行きたかったんだ。

 ね、一緒に行かない?」

 

「一色さんも一緒なの?」

 

「え、あ、そ、そうです」

 

「じゃあ、な、みんな一緒に行こうか」

 

「え、一色さん達と一緒にいけるの?

 よろしく」

 

「やった~

 ね、ね、柄沢君、他にどこに行こうか♡」

 

「一色さんは他にどこか行きたいとこある?」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ちっ」

 

「清川氏?」

 

「あん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「いやなんでもねぇ。

 ほら参考例探してやったから、これちょっとアレンジしろ。

 それでお前ら自由行動の行き先決めたのか?」

 

「おおう。

 俺たちは滋賀のほうまで足を延ばしてだな、聖地巡礼してくる」

 

「あと修学院駅は外せないよな」

 

「そうそう。

 なぁ、清川氏、同じ班なんだから一緒に行かないか?」

 

「いや、俺行くところあるから行かねえ」

 

     ・

 

はぁ~

比企谷君、今日自転車で来なかったんだ。

朝ずっと自転車置き場で待ってたんだけど、結局来なかった。

休み時間に戸塚君に聞いたら、いま教室にいないけど学校は来てるっていうし。

どこいったんだろ。

結局、今日も会えなくてもう放課後。

なんか会いたい時ってなかなか会えない。

やっぱり電話しようかなぁ。

あ、そうだ。

明日の昼休み、あの場所に行ってみよう。

 

”ガラガラ”

 

「おう、三ヶ木お疲れ」

 

「おつ・・・・・」

 

あ、危ねぇ~

危うく話するとこだった。

わたし、稲村君とはまだ話してあげないんだ。

 

「え、えっと、まだ誰も来てないんだな」

 

「・・・・・」

 

「・・・さ、さてと今日はぼちぼち引継ぎ資料でも作ろうかなぁ

 三ヶ木はもう作ってるのか?」

 

「・・・・・」

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様です」

 

「本牧君、ご苦労様」

 

「・・・お、おい三ヶ木」

 

「ん、どうした稲村?」

 

「い、いやなんでもない。

 本牧、お疲れ」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

む~。

比企谷君、お昼休みいつもの場所にいなかった。

おっかしいな。

雨とか天気悪くない限り、いつもあの場所で昼ご飯食べてたのに。

教室にもいなかったし。

なんだろう。

わたし避けられてるのかなぁ。

 

”チラ”

 

ん? 稲村君、さっきからチラチラってこっちばっかし見てるし。

さっさと仕事しろってんだ。

それより、やっぱり電話しようかなぁ。

でもなぁ、なんか嫌だし。

でも会いたい。

 

「・・・・・はぁ~」

 

”チラ”

 

「・・・・・はぁ~」

 

”チラ”

 

「副会長」

 

”ちょいちょい”

 

「会長何か?」

 

「副会長、あの二人何があったのか知りません?

 今日ずっとああなんですよ。

 美佳先輩は窓の外見てため息ばっかりで。

 紅茶、ちょ~苦かったし。

 稲村先輩は美佳先輩のことチラ見ばっかり。

 話しかけても上の空ですし」

 

「え、いやわからないです。

 そういえば、ここ最近の稲村と三ヶ木さん、なにかおかしかったですね。

 喧嘩でもしたのかなぁ」

 

「これは何か手を打たないとですね」

 

”ガラガラ”

 

「失礼するぞ。

 三ヶ木はいるか?」

 

「あ、は、はい!」

 

「おおいたか

 ちょっと来たまえ」

 

「え? あ、はい」

 

「一色、ちょっと三ヶ木借りていくぞ」

 

「あ、どうぞどうぞ。

 なんならそこの稲村先輩も一緒にどうぞ」

 

「ん? いや稲村はいらん。」

 

「ちっ」

 

「・・・あ、あの会長、俺って」

 

”スタスタスタ”

 

ん~どこに行くんだろう。

この先にあるのって特別棟。

ま、まさかと思うけどいくとこって奉仕部?

だったら比企谷君いるかも。

ちょ、ちょっと心の準備が。

 

「あ、あの、平塚先生。

 もしかして奉仕部に行くんですか?」

 

「ん? ああ、そうだ。

 ほら着いたぞ」

 

”ガラガラ”

 

「雪ノ下いるかね」

 

「先生、何度も言ってる通りドアを開ける前にノックしてください」

 

「ほほう、急に開けられると困るようなことしてたのかね。

 なぁ、三ヶ木」

 

「え、あ、は、あの、す、すみません。

 もうしません、許してください」

 

”ニカッ”

 

く、くそ、なんだその笑顔は!

これというのもあのスケベが!

って・・・・あれ?

 

”キョロキョロ”

 

スケベがいない?

あ、結衣ちゃんも。

なんでゆきのんしかいないの。

まだ来てないのかな?

 

「平塚先生、特に何も困るようなことはありませんがやはりマナーとして」

 

「ああ、すまんすまん。

 それでだ、これが今回の三ヶ木の中間テストの答案コピーだ」

 

”パサ”

 

え、あ、それ、わたしの中間テスト?

お、おい、平塚先生、わ、わたしのプライバシーが。

 

「平塚先生、あ、あ、あんた何を 」

 

「これで全部ですね」

 

え? 全部って。

 

「ああ、以前渡した成績表と合わせて、これで入学してからの成績全部だ。」

 

はぁ?

え、えっとなに言ってんだこの二人。

入学してからの試験の成績って。

い、意味わからん。

 

「ひ、平塚先生、あ、あんたなにすんだ!」

 

「ふふふ、それでは雪ノ下、あとはよろしくな」

 

”ガラガラ”

 

に、逃げんなー、おい、こら。

お、おい説明しろー

 

「あ、それと三ヶ木もよろしくな」

 

「え?」

 

「三ヶ木さん、まずはお座りなさい。

 ところであなたもう志望校は決めたのかしら?」

 

「え、志望校って大学の?」

 

「高校に入学してやり直すつまりなのかしら。

 まぁ、このテストの結果ならそれもありかも」

 

「あ、あの~、洋和女子大か厩戸大あたりを・・・・・」

 

「そう。

 ちょっと待って。」

 

「え、パソコン?

 何してるの?」

 

”カチャカチャ”

 

「そこだと偏差値55ぐらいね。

 ふむ・・・・・三ヶ木さん、あきらめなさい」

 

「ひぇ~」

 

”ズデン”

 

あいたたた、お尻痛い。

思わず椅子から落ちちゃった。

いきなり何言うんだゆきのん。

 

「な、なんで?」

 

「確かに2年までの成績なら問題は無いと思うのだけど、3年になって

 からがひどすぎるわ。

 急激に成績が落ちている」

 

「まぁいろいろありまして。

 あの、まぁほんといろいろと。

 それに、ほら3年になって結構難しくなったし」

 

「ふ~、仕方ないわね。

 それじゃ、3年の内容を集中的にやりましょう」

 

「え、やるって?」

 

「あら聞いてないの?」

 

「う、うん」

 

「ここであなたの勉強を見てあげるの」

 

「え? え゛ー

 ゆ、ゆきのん、ほ、ほんと?

 ゆきのんが勉強見てくれるの?」

 

「仕方がないわ、平塚先生からの依頼だもの」

 

「あ、あ、ありがと。

 で、でもゆきのんの勉強は?」

 

「わたしは推薦頂いたから」

 

「そ、そうなんだ」

 

「わたしは毎日、部室にいるから。

 あなたはまだしばらく生徒会活動あるでしょうから、それまでは

 終わってからここに寄るようにしなさい。

 それとこのプリント渡すから、来週生徒会室に行く前に提出しなさい」

 

「え、あ、う、うん。

 でも・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「あ、あのね、今日は結衣ちゃんとかどうしたの?」

 

「比企谷君と由比ヶ浜さん?

 彼女達は塾よ。

 彼らも受験生ですもの」

 

「じゃ、じゃあ、わたしが来るまでゆきのん一人なの?

 一人でここで待っててくれるの?」

 

「ええ。

 一応、部活動中ですもの。

 それに、まだ読みたい本がたくさんあるから」

 

それって、ゆきのんずっと一人でここに?

奉仕部は、奉仕部はどうなるんだろう?

大学入試終わるまで、ずっとゆきのん一人になっちゃうのかなぁ

でもそれじゃ。

 

「ゆきのん!

 わ、わたしすぐ来るね!

 生徒会終わったらすぐ来る、走ってくる。

 お、遅くなりそうだったら、ちゃんと早めに連絡する。

 だから・・・・・」

 

「だから?」

 

「あ、あのね、よろしくお願いします」

 

”ペコ”

 

「・・・え、ええ、三ヶ木さんよろしく。

 でも、生徒会役員自ら校則を破ることはよしなさい。

 走らなくてもいいから。

 来れないって連絡がない限り、ここでちゃんと待ってるから」

 

「う、うん。

 あ、ありがとゆきのん」

 

「それじゃ来週からでよろしかったかしら?」

 

「あ、はい。 お願いします。

 じゃ、生徒会戻るね」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「うん」

 

”ガラガラ”

 

「来週からよろしくお願いします」

 

「ええ」

 

”タッタッタッ”

 

「だから走らない。

 全く生徒会なのに。

 ・・・・・・・・・・ふふ、こちらこそよろしく三ヶ木さん」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”パサッ”

 

よしっと、洗濯完了。

さ、とうちゃんのいないうちにお掃除お掃除。

しかし今日も休日出勤ってとうちゃんほんとに社畜だ。

わたしは絶対社畜にならないから!

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、はい三ヶ木だよ」

 

「もしもし、業務連絡で~す♡」

 

「あ、ジャリ、か、会長」

 

「あのですね、今日体育祭の打ち上げやりま~す。

 そういうことで15時に千葉駅前のビッグアコーに集合よろしくです♡」

 

「え、あ、あの、なんで急に」

 

「ほら、わたしと書記ちゃん、来週修学旅行じゃないですか。

 だから修学旅行の前にやっておかないと、心配でゆっくり行けませんから。

 では、よろしくです♡」

 

「あ、あの~会長」

 

”プー、プー”

 

げ、切りやがった。

お、おい、何でいきなり打ち上げなんか。

あ、だったらとうちゃんの晩ご飯準備しておかなくちゃ。

やば、掃除急がないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

遅くなっちゃった。

でも時間ギリギリセーフだ。

さてっと、もうみんな来てるかなぁ。

 

”ブーン”

 

「すみませ・・・・・あれ?」

 

よかった、まだ誰も来てないや。

でも生徒会のみんなでカラオケって初めて。

何歌おうかな。

やっぱまずはアップデートかなぁ。

 

「あ~、あ~」

 

うん、声の調子はいいみたい。

よし今日は思いっ切り歌うぞ~

 

”ブーン”

 

「ふ~、間に合った。

 会長、いきなり打ち上げするって言うんだもんな。

 えっと、あ、三ヶ木」

 

げ、稲村君。

ふん、口きいてあげないんだから。

は、はやく他のみんな来ないかなぁ。

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木、みんなまだみたいだな」

 

「・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

えっとみんな遅いなぁ。

どうしたんだろう?

は、もしかしてお店違った?

で、でも稲村君も来てるし。

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木、俺ちょっと本牧に電話してみるわ。」

 

”ブ~、ブ~”

 

え、あ、ジャリっ娘から。

なにやってんだよ。

早く来てよ、もう場が、場が持たない。

 

「あ、はい三ヶ木だよ」

 

「美佳先輩、もう稲村先輩も来てます?」

 

「え? あ、はい来てますけど。

 会長はどうなさ 」

 

「それじゃぁ、稲村先輩にも聞こえるようにして下さい」

 

「あ、はい。

 ちょ、ちょっと、会長が呼んでるから」

 

「あ、ああ」

 

”スタスタ”

 

「あ、いや近いから。

 ちゃんとスピーカーにしたから」

 

「あ、悪い」

 

「会長、稲村君来ました」

 

「ごほん!

 あの、今日は副会長も書記ちゃんも行けなくなりました。

 あ、わたしもですよ、えへ♡

 仕方がないので、お二人でカラオケ楽しんでください」

 

「「はぁー!」」

 

な、なに言ってんだジャリっ娘。

そんなの無理、無理だって。

 

「え、い、いや、いやいや会長。

 会長、会長達が来ないのならわたしも帰り 」

 

「あ、それと会長命令です。

 デュエットで90点以上の採点を出さない限り帰ってはダメですからね。

 これ絶対ですから。

 守らなければ生徒会クビですからね。

 ちゃんとお二人の写ってる採点の画面を写メしてくださいね。

 それではです えへ♡」

 

「え? い、いやちょっと待って、か、会長!」

 

”プー、プー”

 

な、なに言ってんだあのジャリっ娘。

それに生徒会クビって横暴だろ。

は! あいつ謀りやがったな。

 

「三ヶ木」

 

「帰る」

 

「お、おい」

 

「どうせクビになんかできないから」

 

”スタスタスタ”

 

「おい、三ヶ木!」

 

「なによ」

 

あっ! 話しちゃった。

くそ、これもジャリっ娘が!

 

「約束あるだろ」

 

「え、約束って?」

 

「1万メートル走、俺が勝ったら時間くれるって言っただろ」

 

「あ、で、でも同着だから」

 

「いや、同着でも1位は1位だ。

 約束守るよな!

 ちゃんと話さないといけないことがあるんだ」

 

「うぐぐ」

 

「ほら行くぞ。

 すみません、学生2名でお願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そんなのおかしいよ。

 なんでそんな賭けしたのさ。

 わたしはものじゃないよ。

 わたしの気持ちなんてどうでもいいの?」

 

「悪い。

 でもどうしょうもなかったんだ。

 お前の気持ちわかっていて、それでもあきらめきれない自分がいて。

 だから俺は・・・・・俺は俺自身を納得させたかった。

 そうじゃないと俺は先に進めない。

 だからそのためには比企谷の気持ちを、あいつの心根を確かめたかったんだ」

 

「そんなの、そんなのって」

 

「わかってる。

 全ては俺の自己満足でしかない。

 あいつの気持ちさえわかれば、俺は負けるつもりだった」 

 

「そんなのひどいよ。

 それじゃ、生徒会終わった後、もうわたしとは会わないってこと?

 わたしは、わたしはいやだよ。

 わたしは生徒会終わってもずっとみんなと会いたい。

 うううん、生徒会だけじゃない、できれば学校卒業してもずっとずっと

 友達でいたい。

 稲村君はわたしにとって、とっても大事な人だよ。」

 

「み、三ヶ木」

 

「ずっと会いたいの・・・・・そ、そんなのないよ」

 

「・・・・・すまなかった。

 やっぱり俺、比企谷には敵わないわ。

 あいつはお前の大事なものを守るため、俺の安い挑発にのってくれたんだ。

 あいつの出した解、勝たないし、負けない。

 お前が何も失わないように。

 いやそれだけじゃない。

 納得したいっていう俺の自分勝手な想いにも答えてくれた。

 はぁ~、どっちがお前にふさわしいか、走る前に決まってたんだ」

 

「わ、わたしが何も失わないようにって、比企谷君そのために走ってくれたの」

 

「ああ。

 お前が好きになるはずだな。

 まぁ、もともと負けるのはわかってた。

 なにせお前と比企谷は、もう、その、ふ、深い関係だもんな」

 

「深い関係?」

 

「あ、い、いや、まあそういう関係なんだろ」

 

「えっと~、深い関係っていえば深い関係かも。

 あ、でも稲村君とも結構深い関係だよ」

 

「え! あ、いやそういう関係じゃなくて。

 ほ、ほら男と女のだな、なにが何っていうか」

 

「ん?」

 

「ああ、もう!

 つまり、もうやったってことだよ、男と女のアレを」

 

「やった? 男と女のアレ?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、はぁ!

 な、なに言ってんだこの馬鹿もの!」

 

”ベシ、ベシ” 

 

「い、いててて。

 や、だってお前違うのか?

 この前、比企谷の部屋で制服脱いだって、つまりその後あったんだろ。

 男の部屋で制服脱いで下着姿になったら、そしたらあとはすることっていったら」

 

「ち、違わい!

 あ、あれはとうちゃんとケンカしたから、い、行くとこなくて仕方なく

 比企谷君の家に泊めてもらったんだ。

 だ、だから着替えなくて、制服がシワになるの嫌だし。

 で、でも何もなかったんだから、ほんとだから。

 わたし、比企谷君がお風呂から上がる前に寝ちゃったし。

 ・・・・・・ちゃ、ちゃんと確認したし、へんな感触とかもなかったし」

 

「下着姿のお前に何もしなかったのか?

 信じられない。

 お前どんな下着してんだ?

 男が何もしたくなくなるような下着姿って・・・」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ」

 

「な、なに想像してんだ。

 ちゃ、ちゃんと普通の下着だから。

 それに・・・・・・わたしのほうがショックだったんだから」

 

「・・・ま、まぁ比企谷だから」

 

「・・・・・う、うん」

 

「そっか、処女なのか」

 

「・・・・・」

 

「処女だったんだ、処女」

 

「う、うっさ~い!

 処女処女って、どっかの狸囃子みたいに何度も言うな!

 そ、それより、ほら早く歌うよ」

 

「え、歌うって?」

 

「デュエットで90点以上出さないと帰れないんだから」

 

「ああ、そうだった。

 よし、何歌う」

 

「決まってんじゃん、アップデート!」

 

「い、いやそれデュエットじゃないだろ。

 それに俺もそれ歌うのかよ」

 

”ピッ”

 

「いいじゃん。

 もう送信しちゃた」

 

「・・・お、おい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「「二人、またあの夢の果てへ♬」」

 

「歩き出す つないだ♬」

 

「手を離さずに♬」

 

さ、ど、どうよ。

も、もう声枯れてきたんだからね。

いいかげん90点越えて~

 

”ピッピッピッピッピッ、ピッ!”

 

「「92点!!」」

 

「や、やったー

 写メ、写メ撮らないと

 ほ、ほら、稲村君、横ピース!」

 

「い、いや、お、俺は」

 

「いいから、はやくこっち来て。

 はいいくよ、3、2、1!」

 

「「ピ~ス!」」

 

「へへへ、ばっちり」

 

「やっぱそれ会長に送るのか?

 うわ~、ずっとなんか言われ続けそう。

 はぁ~、まあいいや。

 俺もう声枯れて限界だ。

 で、結局俺たち何曲歌ったんだ」

 

「連続12曲、わたしも限界。

 よし送信完了っと。

 さ、ミッションクリアしたし、帰ろっか」

 

はぁ、こんなに連続して歌ったの初めてだよ。

もうのどが痛くて声でない。

90点ってハードル高すぎだし、あのジャリっ娘!

さて、忘れ物はっと。

 

「・・・・・」

 

「い、稲村君?」

 

「な、なぁ三ヶ木

 俺、俺な・・・・・お前のことやっぱりす 」

 

”スクッ”

 

「み、三ヶ木?」

 

”ピッ”

 

「ま、まだ歌うのか?」

 

稲村君、もう一曲だけ聞いて。

声、出にくいけどちゃんと歌う。

 

「ありがとう♬

 君がいてくれて、本当よかったよ♬」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ずっと変わらないでしょ、わたし達ベストフレンド♬

 大好きだよ♬」

 

「み、三ヶ木」

 

「ありがと、稲村君。

 こんなわたしなんか好きになってくれて。

 ほんとにありがとう」

 

”ペコ”

 

「う、ううううう。

 で、でも、ごめん、ごめんなさい。

 わたし、わたしやっぱり比企谷君が 」

 

「馬鹿、泣くな」

 

「だって、だって。

 うううう、うわ~ん、うわ~ん」

 

”なでなで”

 

「ごめん、俺が悪かった」

 

「うううううう」

 

「・・・・・」

 

「う、うう、ぐすん」

 

「三ヶ木。

 ・・・・・これからも親友でいような」

 

「う、うん」

 

「よし、じゃあ帰ろっか」

 

「うん」

 

     ・

 

「ご利用ありがとうございました」

 

”ブ~ン”

 

「はぁ、もう外は薄暗くなってきたな」

  

「うん。

 少し寒くなってきたね」

 

「もうすぐ11月だもんな。

 なぁ三ヶ木、ちゃんと勉強してるか?」

 

「うん。

 あ、ゆきのんがね、放課後に勉強見てくれてるんだ。

 生徒会終わってから部室おいでって」

 

「そっか。

 受験、頑張ろうな」

 

「うん」

 

「じゃあまた月曜日、生徒会室でな三ヶ木」

 

「うん、生徒会室で」

 

「じゃあな」

 

「うん、じゃあ」

 

”スタスタスタ”

 

「み、三ヶ木! 帰り道気をつけてな」

 

「うん、稲村君も」

 

”スタスタスタ”

 

ありがと、稲村君。

 

はぁ~、勝たないけど、負けないっか。

わたしの大事なもの守るためって。

ほんと比企谷らしい。

・・・・あ! わたし、そんな比企谷君を思いっきり引っ叩いちゃったんだ。

ちゃんと謝らなくちゃ。

そ、そうだ電話! 電話してみなくちゃ。

 

”カシャカシャ”

 

出てくれるかなぁ。

もしかして引っ叩いたことを怒ってて、電話に出てくれなかったりして。

 

「はいもしもしです、美佳さん」

 

え、あれ?

この声、小町ちゃん?

比企谷君、どうしたんだろう、いないのかなぁ?

 

「あ、もしもし小町ちゃん。

 あの、比企谷君いる?」

 

「兄はいま近くまで小町の所用で出ています。

 スマホは忘れていったみたいです。

 あ、でもそんなにたいした用事じゃなにので、もう少しで帰ってくると

 思いますよ」

 

「うんわかった。

 ありがと」

 

やっぱり電話じゃ駄目だ、わたしが悪いんだし会って謝らないと。

家、行ってみよう。

もうすぐ帰ってくるっていうし。

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

やばい、もう真っ暗だ。

ほんと暗くなるの早くなった。

比企谷君、もう家にいるかなぁ。

 

「小町~、アイス買ってきたぞ」

 

あっ、比企谷君いた!

ちょうど家に帰ったとこだったんだ。

よかった。

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ちゃんと謝ろう。

うん、話も聞かないでいきなり引っ叩いたわたしが絶対的に悪い。

そんでちゃんとありがとって言おう。

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

よ、よしチャイム、押すよ、押すからね、押したりして、押す!

 

”ピンポーン♪”

 

やば、鏡見るの忘れた。

さっき泣いちゃったから、変な顔してないかなぁ。

えっと鏡、鏡。

 

「は~い」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん、いらっしゃい」

 

「あ、小町ちゃん。

 ごめんね、こんな時間に」

 

「いえいえ。

 まだ夕食前ですよ」

 

「あ、あの、比企谷君お願いできますか?」

 

「はいはい、ちょっと待っててください」

 

”どたどたどた”

 

い、今のうちにコンパクト。

へ、変な顔になっていないよね

 

”パコ”

 

ふ~、よかった大丈夫だ。

ちょっと目が赤いくらいだ。

 

”ガチャ”

 

「あ、あの、美佳さん。

 兄はまだ帰っていませんでした。

 あの後、帰ってきてすぐに友達の家に行っちゃったみたいです。

 ご、ごめんなさい」

 

「え?」

 

あれ? だってさっき家の中に。

確かアイスって。

 

”そわそわ”

 

小町ちゃん。

・・・・・そ、そっか。

比企谷君、やっぱり怒ってるんだ。

怒ってわたしなんかに会いたくないんだ。

それで小町ちゃんにこんな嘘を。

ごめんね小町ちゃん。

 

「あ、あの~、み、美佳さん」

 

「あ、う、うん、わかった。

 ありがと小町ちゃん。

 それじゃ、わたし帰るね」

  

「美佳さん!

 あ、あの、ご、ごめんなさい」

 

「うううん、わたしの方こそごめんなさい」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、あのね、小町ちゃん」

 

「あ、はい」

 

「比企谷君に、ごめんなさいって伝えてもらってもいい?」

 

「ごめんなさい?」

 

「うん、お願いします」

 

”ペコ”

 

「あ、はい。

 確かに兄に伝えます」

 

「じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

「はぁ~。

 ごめんなさい、美佳さん」

 

”ガチャ”

 

「お、お兄ちゃん、なんで出ないの!

 美佳さん、とっても悲しそうな顔してたよ。

 目も赤かったし。

 もう小町こんなのやだよ」

 

「・・・・・・」

 

「あっ。

 だから、な・に・が・あっ・た・の?」

 

「何もない。

 ただ、駄目なんだ。

 会いたくても、今あいつに会うわけにはいかないんだ。

 すまない、小町」

 

「お兄ちゃん」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

さてと今日から塾だ塾。

いろいろあったけど、ゆきのんが待っててくれる。

うん、頑張ろ!

あ、でももしかしたら比企谷君いるかも。

塾があるからいないって言ってたけど、もしかしたら今日は来てたりして。

でも、もし来てたらどうしょう。

今度はちゃんと話聞いてくれるかなぁ。

 

”ガラガラ”

 

「ひゃ!」

 

「あら三ヶ木さん。

 不審者かと思ったわ。」

 

「あ、ゆきのん。

 ご、ごめん。

 今、部室入ろうと思ってたとこ。

 今日からよろしくお願いします」

 

”ペコ”

 

「ええ、よろしく。」

 

あ~びっくりした。

えっともしかしてゆきのん、ずっと入口を見てたの?

・・・あ、やっぱり誰もいないんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”カリカリ、カリカリ”

 

ゆきのん、さっきからテストの採点してくれてるんだけどなんか赤線ばっかり。

ゆきのん、すごい表情険しいんだけど。

だってゆきのんが作ってくれたテスト、すごい難しかったんだよ。

折角だから紅茶淹れてみたんだけど機嫌直してくれるかなぁ。

 

”カチャ”

 

「あ、あの紅茶淹れてみたの。

 勝手に使ってごめんね。

 よかったらどうぞ」

 

「別に構わないわ。

 紅茶ありがとう、頂くわ」

 

”ゴクゴク”

 

「はぁ~」

 

げ、またため息つかれた。

でもあんなのいつ習ったんだ、全く覚えていない。

はっ、もしかしてわたしの休んでる日に習ったんじゃ。

そうだ、絶対にそうだ、そうにしておこうっと。

 

「三ヶ木さん」

 

「は、はい」

 

「合格よ」

 

「えー、ご、合格?」

 

「ええ、紅茶の淹れ方、本当に上手になったわ」

 

「あ、あ、ありがと」

 

そっちか~、テストの方じゃないのかよ。

ま、まあ、あんだけ直されてりゃそれはないか。

 

「テストのほうは・・・・・・頑張りなさい」

 

や、やっぱり。

 

「三ヶ木さん、あなたはできる子よ。

 頑張ればもっとできるはず」

 

で、でた~

こ、これって誉め言葉? 褒められてるんだよね。

なんかわたし小さいころから先生に言われてた。

そう、わたしはやればできる子なのだ!

 

「ゆきのんありがと、わたし頑張るね。

 えへへ、褒められちゃった」

 

「なにを言ってるのかしら?

 もっとしっかりしなさいってことよ!」

 

「は、はい」

 

誉め言葉じゃないのかよ~

叱られたのか、知らなかった。

げ、ゆきのんの目、ちょ~怖い。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

へ~こんなにいい天気なのに、やっぱり夜から雨降るのかなぁ

 

さてとそんなことより、今日も頑張るぞ。

へへ、生徒会、今日はいつもより早めに切り上げてきちゃった。

引き続ぎ資料は家でもできるもんね。

昨日も一昨日もテスト全然ダメだったんだ。

せっかくゆきのん付き合ってくれてるんだもん。

ちゃんと成績上げないと。

 

”ガラガラ”

 

あ、誰か奉仕部からでてきた。

あ、比企谷君と結衣ちゃん。

 

”サッ”

 

な、何で隠れるんだわたし。

 

「ごめんねゆきのん」

 

「気にしないで由比ヶ浜さん、比企谷君」

 

「・・・・・」

 

「比企谷君?」

 

「あ、あははは、じゃ行ってくるねゆきのん。

 ほらヒッキー行くよ」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

あ、そっか今から塾行くんだ。

いつも二人で一緒に?

結衣ちゃん、楽しそうだなぁ。

 

”スタスタスタ”

 

「由比ヶ浜」

 

’サッ’

 

「え? あ、うん。

 ちゃんと書いてあることわかった?」

 

「・・・・・」

 

「ちゃんとわかった?」

 

「あ、ああ、すまない」

 

「そっか、それなら良かった」

 

なんかノートみたいなのやり取りしてた。

なんだろう、は! もしかして交換日記。

きっと結衣ちゃんと交換日記してるんだ。

・・・・・・やだ!

わたしも会ってちゃんと話したい!

いやだよこのままは。

ごめん、ゆきのん。

 

”コンコン”

 

「はいどうぞ」

 

”ガラガラ”

 

「三ヶ木さん、いらっしゃい。

 今日は少し早かったのね」

 

「あ、あの、ご、ごめんゆきのん。

 今日、ちょっと用事があって帰らないといけないの。

 ごめんなさい」

 

「用事があるのなら仕方ないわ。

 それじゃ、また明日ね」

 

「う、うん。

 また明日お願いします」

 

”ダー”

 

ほんとごめん、ゆきのん。

 

     ・

 

”タッタッタッ”

 

どこいったんだろう、どこにもいないや。

比企谷君、今日も自転車で来てなかったから電車かと思ったんだけど。

もしかしてバスだったのかなぁ。

えっとどっちだろう。

いいや、とりあえず駅のほうに行ってみよう。

 

     ・

 

”コンコン”

 

「はいどうぞ」

 

”ガチャ”

 

「失礼しますっす。」

 

「あら刈宿君。

 今日はどうしたのかしら?」

 

「あ、あの美佳先輩こちらに来ていませんか?

 生徒会室に行ったら奉仕部に行ったって聞いたもので。」

 

「え、あ、三ヶ木さんは今日用事があるって先に帰ったわ?」

 

「そ、そっすか。

 じゃ俺帰るっす」

 

「あ、刈宿君、あなた三ヶ木さんの家知ってるかしら?」

 

「え? あ、知ってますよ」

 

「そう。

 もしよかったらこのプリント渡してもらえるかしら」

 

「プリント?」

 

「ええ、今日採点した分と宿題のプリントよ。

 彼女急いでたから渡せなくて」

 

「了解っす。

 それじゃ、お先に失礼しますっす」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ヒッキー

 あのさ、今度ね、一度家に来てくれない?」

 

「ん?」

 

「あ、えっと」

 

”ピタ”

 

「お、お前近い」

 

「仕方ないじゃん。

 あのね、今・度・家・に・き・て・く・れ・な・い?」

 

「はぁ? 

 なんでだ?」

 

「サ・ブ・レ・が・・・・・もう面倒くさい。

 ちょっと待って」

 

”ガサガサ”

 

「いまノートに書くね」

 

『ヒッキーが来るとサブレ喜ぶと思うから』

 

「ん? サブレやっぱり元気ないのか」

 

『うん』

 

「わかった。

 今度適当な時にな」

 

「本当!

 ヒッキーありがとう」

 

”だき”

 

「ば、ばっか離れろ。

 くっつくんじゃない」

 

”むにゅ”

 

「え?」

 

「え? あっ!」

 

「ヒ、ヒッキー、む、む、胸!

 胸さわっ 」

 

「あ、い、いや、違う。

 そ、そんなつもりじゃ。

 す、す、すまん」

 

「あ、い、いや、わ、わ、わかってるから。

 ・・・・・・・・・・・で、でもどうだったヒッキー?」

 

「・・・・・」

 

「あは、あはははは、な、なにいってんだあたし。

 じゃ、あたし塾行くね。

 ヒッキー、早く良くなるといいね。」

 

「?」

 

「もう!」

 

”ピタ”

 

「いや、近いって」

 

「は・や・く・よ・く・な・って・ね♡」

 

「お、おう。」

 

”タッタッタッ”

 

「すごくやわらかいんだなぁ。

 あいつの胸もこんな感じなのか。

 はっ! な、なに言ってんだ俺。

 さ、行くか」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

いないなぁ~

どこだろう駅まで来ちゃったよ。

もしかして追い越しちゃった?

それともやっぱり今日バスだったのかなぁ?

 

”きょろきょろ”

 

ん? あっ、いた!

やっぱり電車だったんだ。

あれ? 比企谷君一人だ。

結衣ちゃんいないけどどうしたんだろう?

あ、やばい、電車乗っちゃう。

 

”タッタッタッ””

 

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

隣の車両だから気付かれてないよね。

どれどこにいるかなぁ。

あ、いたいた。

塾ってこっちの方なのか。

結衣ちゃんいないから別の塾行ってたんだ、多分。

でもさっきから手をニギニギしてなにしてるんだろう?

握力鍛えてるのかなぁ。

げ、なんかにやけてる、キモ!

 

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

えっとどうしょう。

このまま塾まで行こうかなぁ。

でもそれってちょっと変だし。

あ、そうだ。

次の駅でいったん降りて、比企谷君のいる車両のドアから入って。

それでいかにも偶然って感じで。

よ、よし! それでいこう。

 

     ・

 

”プシュ~”

 

よ、よしいったん降りて。

前の車両に移動してっと。

 

”スタスタスタ”

 

よ、よし、じゃ入るよ。

 

”ザワザワ”

 

え? な、なにぃ! 

反対側の電車からいっぱいおじさん達降りて来た!

げ、こ、こっち来た。

こっちの電車に乗るの!

いや~、押さないで~

 

     ・

     ・

     ・

 

ぐ、ぐるしぃ~

いつもいつも、なんでこんなに人乗せるんだ。

定員制にしてくれ。

ぐそ~、同じ車両に乗れたけど流れに押されて反対側だよ。

う゛~、これじゃ話しかけられない。

どうしよう。

 

”キキキー”

 

え、駅だ。

さぁおじ様達、降りろ降りるんだ。

 

”プシュ~”

 

「あ、すみません降ります」

 

え、あ、比企谷君が降りちゃった。

やば、お、降りないと。

 

「ず、ずみまぜん、降ります、降ろして~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

比企谷君、どこに行くんだろ。

なんか塾のあるような雰囲気じゃないけど?

塾に行くんじゃないのかなぁ

あ、あの角曲がった。

 

”タッタッタッ”

 

えっと、あ、あれ?

あそこって耳鼻科?

な、何で比企谷君が耳鼻科に?

・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!

あ、あん時だ。

 

『比企谷君!』

 

『お、おう。

 なぁ三ヶ木、今日 』

 

”パシッ!!”

 

『かはっ』

 

”ドサッ”

 

わたし、思いっきり引っ叩いちゃったから。

比企谷君、痛そうに耳押さえてた。

あん時、比企谷君もしかして鼓膜を。

そういえば奉仕部のところでゆきのんと話しているときもおかしかった。

う、うそ。

 

”ヘナヘナヘナ”

 

ど、どうしょう、わたしが、わたしが比企谷君の鼓膜を。

わたし、比企谷君に怪我を・・・・・・・・・・・・・・いやぁ!

 

     ・

 

”ポツ、ポツ、ポツ、ポタ、ポタポタ”

 

わたしが、わたしが。

わたしのことを思ってくれた比企谷君の気持ちなんか全然考えずに。

なにが、わたしの気持ちもだよ。

馬鹿だ、どうしょうもない馬鹿だわたし。

 

”ザー、ザー”

 

「お母ちゃん、あの人ずぶ濡れだよ。」

 

「あら、どうしたのかしら病院の前に座り込んで」

 

”スク”

 

う、うううう。

少し考えればわかったはずなんだ。

比企谷君がそんなふうに思うはずないってこと。

きっと何か理由があったんだって。

それなのにわたしは。

 

”トボトボトボ”

 

ほんと、最低だ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

人にケガさせておいてわたし平気にしてていいの?

そんなはずがない。

謝らなくちゃ。

ちゃんと比企谷君に会って謝らなくちゃ。

で、でも今のわたしは彼に会う資格なんかない。

絶対にない。

だからわたしは、ちゃんとわたしは。

 

”スタ、スタ、スタ”

 

確かここにあったね

 

”ガタ”

 

あ、あった。

けじめつけなきゃ、けじめつけなきゃ、けじめつけなきゃ。

比企谷君に怪我させちゃったんだ。

だからわたしは。

 

”ソ~”

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

“ドクン、ドクン、ドクン、ドク、ドク、ドク”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

ちゃんと、ちゃんとしなくちゃ。

このまま、この耳かきを一気に押し込めば。

 

”ブルブルブル”

 

う~、こ、こわい、こわい、こわい、でもやらなきゃ!

 

「はぁ、はぁ」

 

”チク”

 

「い、痛い!」

 

ちょっと触れただけでも痛いよ。

あ、少しだけ耳かきに血ついた。

でもだめだ、まだ鼓膜破れてない。

もっと強く押し込まないと。

ひ、比企谷君ごめんね。

わたし、わたし、いまちゃんとやるからね。

ちゃんとできたら、そん時は・・・・・わたし比企谷君に会いたい。

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

”ソ~”

 

会いたい、会いたい!

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキ―”

 

「ふ~、着いた。

 自転車、合羽持ってきててよかった。

 いきなりすごい雨だったもんな。

 さて、美佳先輩いるかな」

 

”トントントン”

 

「こ、この階段、大丈夫かよ。

 前も思ったけどなんかすげ~錆びてるんだけど。

 いまにも壊れそう」

 

”スタスタスタ”

 

「さてっと」

 

”ピンポ~ン”

 

「・・・・・・・・」

 

「ん? 電気ついてないし、やっぱりまだ帰ってないのかなぁ?」

 

”ガチャ”

 

「あ、鍵開いたままだ。

 どうしたんだろ、美佳先輩不用心っすよ~」

 

”きょろきょろ”

 

「やっぱりいないみたいっすね。

 部屋の中真っ暗だし。

 げ、何で家の中こんな水浸しで・・・・・・・・み、美佳先輩!」

 

”ドタドタドタ”

 

「美佳先輩どうしたんすか

 なんでこんなにずぶ濡れで」

 

「・・・・・わ、わたしできなかった。

 怖くてできなかった。

 だめだ、だめだわたし。

 わたしはもう・・・・・・・会う資格ない」

 

「美佳先輩?

 え、資格ないって?」

 

「わたし、ほんとに彼のこと好きなのかなぁ。

 ほんとに好きなら、ほんとに会いたいのならこんなのできるはずなのに。

 わたし、そばにいる資格あるのかなぁ。

 もう、自信なくなっちゃった」

 

「み、美佳先輩、ほ、ほらハンカチっす。

 髪拭いて。

 風邪ひくっす!」

 

「自信、自信なくなったよ。

 ううううう」

 

「み、美佳先輩、な、なにがあったんですか!

 できなかったって、なにをしようと思ったんですか!」

 

「うっうっ、うううう、うわ~ん」

 

「・・・・・あいつと、あいつと何かあったんすね。

 まったく。」

 

”だき”

 

「ほら、身体こんなに冷たいじゃないすっか。

 はやく着替えないと本当に風邪ひきますよ」

 

「うわ~ん、うわ~ん」

 

”なでなで”

 

「美佳先輩、もう泣かないで」

 

「もう、やだよ。

 辛いよ。

 ずっとずっと頑張ってきたけど、もうほんとに辛いよ。

 刈宿君、人を好きになるってこんなに辛いの?」

 

「・・・・・・美佳先輩。

 そんなに辛いんなら、いっそのこと俺と行きませんかアメリカに」

 

「え?」

 

「俺、1月からアメリカにテニス留学するっす。

 予定は5月までだったすけど、美佳先輩が卒業して俺のとこに来てくれるのなら、

 俺はそのまま現地の高校に転入して、そのまま向こうで暮らしてもいいっす」

 

「・・・・・アメリカ」

 

「うっす。

 向こうに叔父夫婦が住んでるんで、そこに厄介なるつもりっす。

 メッチャでっかい家なんで、美佳先輩一人ぐらい問題ないっすよ」

 

「で、でもそんなご迷惑な」

 

「叔父さん達、今その件でちょうど日本に来てるっすけど、お手伝いさんを探して

 いるみたいなんすよ。

 向こうではなかなか安心して家任せられる人がいないみたいで。

 美佳先輩なら叔父さん達も絶対喜ぶっす」

 

「・・・・・」

 

「ずっとでなくてもいいっすよ。

 美佳先輩の気が済むまででいいっす。

 何があったのか俺知りません。

 聞かないっす。

 でも俺は、俺は絶対に美佳先輩・・・・・美佳さんを泣かさないっす。

 辛い思いなんかさせないっす。

 美佳さんが会いたいって言ってくれるのなら、地球の裏側からでも

 駆けつけるっす。

 絶対、絶対に美佳さんの笑顔、守って見せるっす。

 だから・・・・・だから何もかも忘れて、俺と一緒に行きませんかアメリカに」

 

「か、刈宿君」




最後までありがとうございます。

修学旅行、次話京都に向けて出発。
さていろはすの修学旅行はどうなるのか。
(あ、渡月橋、早く直るといいですね)
そしてオリヒロと八幡は。

じ、次話、また会えたらうれしいです。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

修学旅行編 後編  ―寒気―

いつもいつも見に来ていただきありがとうございます。
感謝感謝です。

えっと、季節の変わり目で体調崩しやすい時期ですが、お身体に
気をつけてください。
けっして大雨の中、道路に座り込んでびしょぬれにならないように。

さ、さて、今回修学旅行後編です。
それと、冬、ますます厳しく。

ではよろしくお願いします。


”ズキッ”

 

ぐぉ~、あ、頭痛た~

うううう、痛いよ~

 

”ゾクゾク”

 

そ、それに、さ、寒気も止まらない。

風邪だ、完璧風邪だね、風邪ひいちまった。

すごい豪雨だったもんな~、雷もなってたし。

それに・・・・・きっと天罰だよね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

はぁ~アイスノンが気持ちいい。

でもわたしいつの間にアイスノンなんて持ってきたんだろう。

それにパジャマに着替えてるし。

たしか、お風呂が沸くまでにってプリントしてたところまでは

憶えてるんだけど。

ん~、まっいいっか。

 

”ピピッ”

 

ん、どれどれお熱何度あんだ。

げげ、38℃もある。

わたし平熱が35℃ちょいだからめっちゃ熱あるじゃんか。

はぁ~、今日は学校行けないね。

ちゃんと寝てないと。

でもさ、ちょうどよかったかも。

いろんなことがあって、ありすぎて、少しゆっくり考えてみたかったんだ。

これからのこととか。

 

『俺と一緒に行きませんかアメリカに』

 

『返事、今すぐでなくていいっす。

 とっても大事なことっすから。

 俺、冬休みになったら出発します。

 それまでよく考えてください。』

 

『・・・・・もし、もし美佳さんが卒業してからアメリカに来てくれるのなら、

 俺、絶対美佳さんにふさわしい男に、美佳さんの笑顔を守れる男になるっす。』

 

”ぽっ”

 

はっ、な、なに赤くなってんだ。

い、いや、これは風邪、風邪だから。

ほ、ほら、お熱あるから。

 

・・・・・君は今でもわたしなんかにはもったいないくらいのいい男だよ。

誠実で、かっこよくて、スポーツマンで、そんでめっちゃやさしくて。

そ、それにお金持ちだし!

・・・・・ふぅ~、なにいってんだか。

 

でも、アメリカか~

こことは全く別世界なんだろうなぁ。

外人さんがいっぱいなんだろうなぁって当たり前か。

でも、わたしの知らないこといっぱいあるんだろうなぁ。

ちょっと行ってみたい。

は、で、でもわたし英語喋れない。

ジェ、ジェスチャーで、だ、大丈夫だよねおそらく。

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャカチャ”

 

「ふあ~あ。

 なんだ清川氏、こんなに朝早くからパソコンしてるのか?」

 

「おう、お早うさん。

 急がないとマジでコンテストに間に合わねえんだよ。

 ち、また固まりやがったこのパソコン。

 くそ、あの没収されたパソコンがあればこんなプログラムわけねえのに。

 これもあのジミ眼鏡の所為だ!

 え~い、思い出しただけでも腹が立つ。

 それより今から行くのか」

 

「おう、聖地巡礼の旅に行ってくる。

 なぁ、本当に一緒に行かないのか?」

 

「ああ。

 どっか適当なとこでプログラム組んでるわ。

 こっちは気にすんな、しっかり楽しんでこい。」

 

「ではな」

 

「おう。」

 

”スタスタ”

 

「行った、行ったよな。

 さて俺も準備するか。」

 

”ガサガサ”

 

「ふふふ、ふぁはははは!

 昨日はクラス行動だったから、表立った行動は控えてきたが、

 今日はいよいよこの高倍率ビデオカメラの出番だ。

 ううう、高かった、高かったんだ。

 今日この日のために夏休みバイト頑張ったんだ。

 ふへへへ、今日はこれで撮りまくるぞ!

 覚悟しろ! いっ・・・・・・・・・・」

 

「清川氏、なにをぶつぶつと」

 

「お、お前らまだいたのか」

 

「ちょっと忘れ物な。

 ・・・まぁ清川氏、貴殿の健闘を祈る」

 

「お、おう、サ、サンキュ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタ、ガタ”

 

「うーん、やっぱ建付け悪いねこの襖。

 お~い美佳、生きてる?」

 

「あ、おばさ・・・・・麻緒さん」

 

「風邪どんな感じ?」

 

「うん、頭痛い。

 それにゾクゾクって」

 

「どれどれ。

 うわ~すごい汗。

 ちょっと待ってな、いま身体拭くタオル持ってくるから」

 

「あ、ありがと」

 

     ・ 

 

「お待たせ。

 ほら身体拭くよ。

 はい、パジャマ脱いで

 ばんざ~い」

 

「ばんざ~い」

 

”プルン”

 

「ん? ほほう~、成長したね。

 生意気な」

 

”もみもみ”

 

「ちょ、な、なにすんだ!」

 

「なにって、かわいい姪っ子の成長具合を確かめただけ」

 

「んなもん確かめんな!」

 

「あはは、それだけ元気あれば大丈夫か。

 昨日はびっくりしたよ。

 佳紀から電話もらって来てみたら、本当に死にそうな顔してたからね。

 よし、ほら身体拭くよ」

 

”ゴシゴシ”

 

「え、麻緒さんもしかして昨日からずっといてくれてたの?

 あ、アイスノンとかも麻緒さんが?

 ありがと、麻緒さん」

 

「いいって、遠慮しないの。

 なんか思い出すね、あんたが赤ちゃんの頃はよくお風呂あがった後にこうやって

 身体拭いてあげたんだよ」

 

「へぇ~、そうだったんだ」

 

”もみ”

 

「ひゃ!」

 

「いや~本当に成長したね~」

 

「だ、だから触んなって!」

 

「いいじゃん減るもんじゃなし。

 はいはい、ほら新しいパジャマ。

 一人で着れる?」

 

「うん」

 

「さてと次は下のほうだね」

 

「え?

 い、いや、下はいいから、自分でやるから」

 

「今更遠慮しないの。

 それに洗濯するんだから、ほら脱がすよ」

 

「い、いや~、やめて~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇねぇ、みんな今日はお願いね」

 

「柄沢君のことでしょ。

 わかってるって」

 

「そうそう、わたし達に任せておいて」

 

「問題は一色よね」

 

「男子って何であんなのがいいんだろうね」

 

「あいつ男子の前だとめっちゃくちゃあざといから」

 

「うん、めっちゃあざとい」

 

”スタスタスタ”

 

「お早うございま~す」

 

「あ、お、お早う一色さん」

 

「いい天気になってよかったね、一色さん」

 

「そうですね。

 今日とっても楽しみです」

 

「やぁ、おはよう」

 

「あ、おはよう柄沢く~ん、今日はよろしくね」

 

”ピタッ”

 

「う、うん、よろしく。

 あ、一色さんもよろしくね。

 お~い、お前ら早くしろよ」

 

「おう、今行く」

 

”スタスタスタ”

 

「一色さんお早う」

 

「俺、今日一色さん達と一緒だって思ったら、昨日あんまり寝られなかったよ」

 

「嘘つけ、一番に寝てたじゃんか」

 

「お、おい、ばらすなよ~」

 

「「あははは」」

 

「じゃあそろそろ行こうか」

 

”わいわい、がやがや”

 

「くそ、おまえらどけよ、邪魔なんだよ。

 一色が映らねえじゃねえか。

 俺と一色の線上に入るんじゃねぇ。

 ちっ、柄沢の野郎一色からもっと離れろ」

 

     ・

     ・

     ・

 

うううううう。

た、大変な目に遭った。

わ、わたしの純潔が・・・・・・・

いや~、もうお嫁にいけない。

くそ、あのエロばばぁ。

 

あ、そうだスマホ。

ゆきのんやみんなに今日学校行けないってこと連絡しなくちゃ。

 

”カシャカシャ”

 

げ、ジャリっ娘から昨日いっぱいメール入ってたんだ。

そっか、無事京都に着いたんだね。

おっ写真、

ここ清水寺だ。

う~辛かったなぁ~。

新幹線に酔って、その後バスにも酔って、そして人ごみに酔って。

危うく清水の舞台で・・・・・・あぶなかったんだ。

あんなとこでやっちまったら、わたしの人生もう終わってたね。

あっ、恋占いの石だ。

これって目を閉じて片方の石から反対側の石まで歩けたら恋が叶うって

書いてあったんだ。

へへ、みんながいなくなるの待ってやってみたんだよね。

でもおかしいなぁ、一度でたどりついたから恋は早く叶うはずだったのに。

まぁいっか。

ジャリっ娘もやったのかなぁ

 

お、次は銀閣寺か。

まぁ修学旅行で行くところは決まってるからな。

でも、なんで銀閣寺って言うんだろう。

別に銀箔とか貼ってなかったのに。

へへ、ジャリっ娘、楽しそうだなぁ。

・・・・くそ、やっぱりかわいい。

帰ってきたらいっぱいお土産話聞かせてもらおうっと。

あ、やば、連絡! みんなに連絡しなきゃ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ~紅葉が綺麗」

 

「そうだね一色さん。

 うん、本当に橋と紅葉の風景がマッチしてて綺麗だ」

 

「なんか日本的でとってもいいです」

 

”スタスタスタ”

 

「な、なによ一色」

 

「そうそう、さっきから柄沢くんとべったりじゃん」

 

「何とか引き離さないとね。

 あ、そうだ。

 ねぇ男子! みんなで写真撮らない?」

 

「あ、いいね。

 お~い、こっち集合!」

 

「ん、どうした?」

 

”ゾロゾロ”

 

「ね、渡月橋をバックにみんなで写真撮らない?」

 

「いいね」

 

「写真撮ろうぜ」

 

「ほら柄沢君、真ん中真ん中」

 

「いや、端でいいよ」

 

「いいから、それと。

 はい、一色さんこれお願い」

 

「え、スマホ?」

 

「お願いね」

 

「あ、はい、いいですよ~

 じゃあ撮りますよ。

 みなさん、もっと中によって

 いきますよ、3、2、1、ピーナツ!」

 

”カシャ”

 

「あはは、なにそれピーナツって」

 

「い、一色さん面白い。」

 

「あ、これちょっと知ってる先輩がやってたもので。

 なんでも千葉の一部では結構はやってるって」

 

「そうなんだ。

 じゃあ次一色さん入りなよ。

 俺が撮ってあげる」

 

「え~柄沢君はここ、わたし達の間」

 

「いや、だけど

 ん! あ、じゃちょっと待ってて」

 

”ダー”

 

「清川君、ちょうどいいところに。

 すまない、写真撮ってほしいんだけどいいかなぁ」

 

「げ、あ、あ、あの、わ、わかった」

 

「ありがとう助かるよ

 お~い、彼が写真撮ってくれるって」

 

「ほんとう? じゃあ、わたしのスマホでもお願い」

 

「あ、わたしも」

 

「俺も頼むわ」

 

「俺も」

 

「い、いいですか、それじゃ撮りますよ。

 はい、チーズ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅるるるる”

 

はぁ、お腹すいたぁ~

そういえば昨日から何も食べてなかった。

麻緒さんに何か作って・・・・・い、いや、あの人に言ったらなにされるか。

が、我慢しよう。

 

”ガタ、ガタ”

 

「美佳、起きてる?」

 

げ、エロばばぁ来た!

こ、こっち来るな!

 

「がるるるるる!」

 

「な、なに警戒してるの。

 ほらほら、おかゆつくったけど食べれそう?」

 

「おかゆ? あ、うん、食べる!」

 

「よしよし。

 はい、あ~ん」

 

「あ、い、いや自分で食べれるから」

 

「遠慮しない、ほら」

 

”ぺちゃ”

 

「おい、そこおでこ。

 わたしゃ山姥か

 そんなとこに口ないわ

 あんた知っててやってんだろ。

 え~い、自分で食べるわ!」

 

「ち、ノリ悪~い」

 

”ぱく”

 

う、おいしい。

やっぱおかゆにはサケフレークだ。

かあちゃんのつくってくれたおかゆもそうだった。

はぁ~日本人に生まれてよかった~

 

”ぱくぱく”

 

「ほらそんなに慌てて食べると、身体がびっくりするよ。

 ゆっくり食べな」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「清川君、写真ありがとうな」

 

「いえ、どうも」

 

「じゃあ、次どこ行こうか?」

 

「柄沢君、何か食べない?」

 

「そうだね、一色さんはどう?」

 

「あ、そうですね、この近くに美味しい抹茶パフエのお店があるそうですよ」

 

「じゃあ、そこにしよっか」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ふぅ、あ~びっくりした。

 いきなり柄沢の奴走って来るんだもんな。

 てっきりバレたかと思ったぜ。

 へへへへへ。

 どさくさに紛れて、俺のスマホでも撮ってやったぜ。

 しかも一色だけのドアップ。

 どれどれ」

 

”カシャカシャ”

 

「おお、ばっちりだ

 ・・・・・・・・やっぱりかわいいんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぅ~、おかゆ美味しかった。」

 

「はい、お粗末様

 んで?」

 

「え?」

 

「なにか忘れてない?」

 

「・・・・

 大変美味しゅうございました。

 ありがとございました。

 この御恩は決して忘れません」

 

「ふふふ、よし。

 じゃあ後はちゃんと寝てなさい」

 

「うん」

 

そうだ、麻緒さんってずっとアメリカに行ってたんだ。

ちょっと聞いてみようかなぁ。

前々から気になってたし。

 

「あ、あの麻緒さん」

 

「ん?」

 

「あ、あのさ、麻緒さんは何でアメリカに行ったんですか?」

 

「え? なにいきなり」

 

「いや、その、な、なんでかなぁ~って」

 

「教えてほしい?」

 

「う、うん」

 

「あのね」

 

”だき”

 

ま、麻緒さん、なんでだきついて。

はぁ~、麻緒さんってやっぱりちょっとだけどかあちゃんの匂いがする。

ちょ、ちょっとだけだけど!

かあちゃん、こんなエロばばあじゃないし。

 

「あかちゃんの美佳がとっても可愛いかったからだよ」

 

「え、わたし?

 えっと麻緒さんがアメリカに行ったのとわたしとどんな関係が」

 

「・・・・・・」

 

「ま、麻緒さん?」

 

”さわさわ”

 

「ひゃ~、また~」

 

「ふむふむ、これは安産型だね。

 いっぱい子供産めそうだ」

 

「いや、ふむふむじゃない!

 お尻触んな!

 それより、な、なんで」

 

「あははは、

 あのねそれは・・・・・教えてあげない」

 

「な、」

 

「教えてほしかったら、はやくよくなること。

 さてと、じゃあちょっと買い物行ってくるから。

 ちゃんと寝てんだよ」

 

”スタスタスタ”

 

う~、あのエロばばぁ!

ちょっと油断すると触ってきやがって。

・・・・・で、でもなんでわたしが関係してるの?

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~美味しいねこの抹茶パフェ

 一色さん、よくこんなお店知ってたね」

 

「あ、うちの、生徒会の副会長に聞いたんですよ。

 去年とっても美味しかったって」

 

「そうなんだ。

 あ、でも一色さん生徒会頑張ってるね。

 いつも感心してるんだよ」

 

「え、あ、それほどでもないですよ。

 柄沢君こそ剣道部頑張ってるじゃないですか~

 それも部長さん」

 

「うううん、一色さんほどじゃないよ。

 生徒会の役員の人って先輩ばっかりなんだろ。

 やりにくくなかったの?」

 

「あ、初めのうちはそうでしたけでど、何とかなっちゃいました、えへ。」

 

「そっか~、すごいね」

 

”こそこそ”

 

「ち、なにあれ。

 一色のやつ柄沢君独占しちゃってさ」

 

「あなたも頑張って会話に割り込まないと。

 ほら行くよ」

 

「あ、う、うん」

 

「あ、でもさ、生徒会ってほら変な人とかいるでしょ

 なんか鹿のコス着てる人とか」

 

「そうそう、それ。

 あれ笑っちゃったね」

 

「あの人って何考えてんだろうね。

 あははは」

 

「いや~何も考えてないって

 ただの受け狙い!」

 

「あんな馬鹿な真似、わたしにはできないや

 やっぱり変な人だ」

 

”バン!”

 

「な、何も知らないくせにそんなこと言わないでくれますか!」

 

「え? な、なにさ!

 い、いやだって変じゃん、あの人。

 生徒会ってあんな変な人ばかりじゃないの!」

 

「みんないい人です!

 みんなとってもいい人です!

 わたしを会長って盛り立ててくれて。

 わたしが急にイベントとか勝手に決めても、一緒に頑張ってくれて。

 わたしがいけないときはちゃんと叱ってくれて。

 こ、こんなわたしでも会長務められたのはみんなのおかげなんです!

 だから!

 なにも生徒会のこと知らないのに、わたしの、わたしの大事な仲間を

 貶めないでください!」

 

「な、なによ、ねぇ」

 

「う、うん。

 そんなにムキにならなくてもね」

 

「そうそう」

 

「今のは君達が悪いよ。

 一色さんにとって生徒会は大事なものだから。

 ちゃんと謝ったほうがいいよ。

 ほらほら」

 

「あ、うん、柄沢君が言うのなら

 ご、ごめんなさい」

 

「ごめん」

 

「さ、一色さんも機嫌直して」

 

「あ、い、いえ、わたしの方こそムキになっちゃってごめんなさい」

 

「さ、仲直りだ。

 それより、ね、みんなであれ乗ってみない?」

 

「え、屋形船かよ!」

 

「一度乗ってみたかったんだ」

 

「で、でも柄沢、あれ高くないか?」

 

「俺が乗りたかったんだ。

 みんなの分、任せておけ」

 

「おお、さすがお坊ちゃま」

 

「お前だけ自腹な」

 

「うそ~」

 

「冗談だよ。

 さ、行こう」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「お、おい、あいつら船、船に乗るのかよ

 いくらだ、げ!たっけぇ~」

 

     ・

     ・

     ・

 

う~ん、いつのまにか寝ちゃってた。

ふ~、だいぶ身体楽になった。

熱も下がったみたいだし、寒気もしないや。

明日は学校いけるかなぁ

 

”ピンポ~ン”

 

ん、お客さん?

あ、確か麻緒さん買い物に行くって言ってた。

仕様がない、うんしょっと。

 

「は~い」

 

あ、麻緒さん帰ってたんだ。

 

”ガチャ”

 

「ん? えっとどなた?」

 

「あ、雪ノ下雪乃といいます。

 美佳さんとは親しくさせてもらっています。

 お加減、どうですか?」

 

「雪ノ下?

 ん~と、あ、ミス総武高!

 へ~、やっぱり違うね。

 まぁ狭い家だけど入って入って」

 

「はいそれでは失礼します」

 

あ、ゆきのん、来てくれたんだ。

・・・・・って狭くて悪かったな、くそ、人の家を!

襖があってもちゃんと聞こえるんだからね。

これでも親子二人で暮らすにはちょうどいい広さなんだ。

 

”トントン”

 

「あ、はい」

 

「雪ノ下だけど、開けてもよろしいかしら?」

 

「うん。

 あ、建付け悪いから、思いっきりね」

 

”ガタ,ガタ”

 

「こんにちは。

 お加減どうかしら三ヶ木さん」

 

「あ、うん、もう大丈夫。

 熱ももう無いみたいだし」

 

「そう、よかったわ。

 これお見舞い。

 よかったら後で食べて。」

 

「あ、アイス。

 ありがと。

 でもよく家わかったね?」

 

「ええ、刈宿君に聞いたの」

 

「あ、そうだゆきのん、机の上にプリント。

 昨日、刈宿君に持ってきてもらったプリント置いてあるの。

 2日間も休んでごめんね。

 明日からまたお願いしてもいい?」

 

「プリント?

 あら、プリントちゃんとやってあるのね」

 

「うん、そこまでは大丈夫だったんだけど。

 その後に急に熱が」

 

「あら、もしかして風邪じゃなくて知恵熱だったのかしら」

 

「ち、違うと思う、多分」

 

「冗談よ。

 ええ、もし学校に来れるのなら部室で待ってるわ。

 でも絶対無理はしないように。

 まずはしっかり治すことが先決よ」

 

「うん」

 

”ガタ、ガタ”

 

「お待たせ。

 わざわざこの馬鹿のお見舞いに来てくれてありがとうね。

 ジュースでよかったかしら?

 それとよかったら十万石万寿どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます。

 あまりお気を使わないでください」

 

「いいのいいの。

 へぇ~」

 

”じろじろ”

 

「あ、あの、な、なにか?」

 

「やっぱりうちのとは違うね。

 何で神様ってこんなに不公平なんだろ」

 

「お、おい、何が違うって言うんだ。

 あ~、比べたね、いまわたしとゆきのん比べてたね!

 そんなの勝負になるはずないじゃんか!」

 

「あはは、なんだ自覚してたんだ」

 

「う~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃあすまない、頼む」

 

「ああ、任せておけ。

 頑張れよ柄沢」

 

「ああ」

 

「ねぇねぇ女子~、なんかお腹空かない?

 この先に美味しいお団子のお店あるんだ。

 行かないか?」

 

「え、お団子?」

 

「そう、メッチャ美味しいんだって。

 ほら行こう」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、一色さん、ちょっといい?」

 

「え、あ、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カキカキ”

 

「ふぅ~」

 

げ、またため息。

さっきからプリント採点してくれてるんだけど、やっぱりため息ばっかりだ。

今日もあんまり結果よくなかったのかなぁ。

 

「三ヶ木さん」

 

「あ、はい」

 

「少しは出来るようになったわね」

 

「え、ほんと!」

 

「ええ、国語のほうはまぁまぁよ。

 後はもう少し英語のほうが」

 

ううううう

だって英語はほんと苦手なんだもん。

 

「まぁ、まだ時間はあるわ。

 頑張りましょう」

 

「う、うん」

 

「あらもうこんな時間。

 それじゃ、そろそろお暇するわ」

 

「あ、うん。

 お見舞いありがと、ゆきのん」

 

「本当にあまり無理しないように。

 身体は大切にしなさい」

 

「うん」

 

「それじゃ」

 

「うん、また学校で」

 

”ガタ、ガタ”

 

「あ、麻緒さんそろそろ失礼します」

 

「あら雪ノ下さん、もう帰るの?

 よかったら夕飯食べて行ったら?」

 

「あ、いえ、家で姉が待っているので」

 

「そう、残念」

 

「あ、あの」

 

「ん、なに?」

 

「三ヶ木さんから聞いたのですが、麻緒さんはアメリカに住まわれていたとか」

 

「ええ」

 

「折り入って相談が」

 

「ん、相談?」

 

ゆきのんが麻緒さんに相談?

 

”ひそひそ”

 

ん~何話してんだろう。

げ、麻緒さんこっち見て睨んでる!

い、いやな予感。

 

「それではお邪魔しました」

 

「またね、雪ノ下さん。

 さてっと、」

 

”ノシノシノシ”

 

げ、こ、こっちきた!

怖い怖い、顔ちょ~怖い。

か、隠れないと。

 

”ガバッ”

 

「美佳~、何布団かぶってんの!」

 

「ふぇ~」

 

「あんた受験めっちゃやばいんだって!」

 

「あ、い、あはは、だ、大丈夫だから、が、頑張るから」

 

「いい! これから学校から帰ったら、私がみっちり英語を教えるからそのつもりで!」

 

「あ、い、いや、ほ、ほらそんなに甘えちゃ 」

 

”ギロ”

 

「あん!」

 

「あ、お、お願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「あの~柄沢君、どこまで?」

 

「ほらついた。」

 

「え?

 うわ~綺麗、これ着物?

 柱に描かれた着物の模様が灯りで浮かび上がってて、なんかすごく幻想的です」

 

「よろこんでもらえってうれしいよ。

 ここね夕方になるとライトアップするって聞いていたから。

 ちょうど薄暗くなってきてよかったよ」

 

「へぇ~嵐山駅のすぐ近くにこんなところがあったんですね。

 素敵です。

 あ、折角なのでみんなも呼んで」

 

”にぎ”

 

「え、か、柄沢君、手?」

 

「一色さん、君も怒るんだね」

 

「え? あ、さっきのこと

 ごめんなさい、ついムキになっちゃって」

 

「好きなんだね」

 

「え?」

 

「生徒会の仲間」

 

「あっ・・・・・はい、大好きです」

 

「俺はもっと君のこと知りたい」

 

「え? あ、あの」

 

「俺は君のことをもっと知りたい。

 そしていろんな表情の君を見たい。

 一色さん、俺は君のことが好きなんだ。

 俺と付き合ってくれないか」

 

「あ、あの

 ほ、ほら柄沢君ならモテるから。

 わ、わたしじゃなくても」

 

「俺、告ったのって生まれて初めてなんだ。

 君と付き合いたくて。

 心臓バクバクして、今にも飛び出しそうだよ」

 

「か、柄沢君」

 

「今のって、俺振られたってことなのかなぁ」

 

「あ、そ、そうじゃなくて

 あ、あの、わたし、ほら生徒会のことで頭いっぱいで、」

 

「もうすぐ任期終わるんじゃない?

 終わってからでいいんだ。

 それとも次も生徒会がんばるのかい? 」

 

「・・・・・・」

 

「一色さん?」

 

「ま、まだわかりません。

 でも、わたしまだやり残したことがあるような気がして。

 それがなんだかわからないんですけど。

 自分がどうしたらいいのか、そのことで頭がいっぱいなんです。

 だから、だから今は」

 

「・・・・・・・・・・・そっか。

 うん、わかった」

 

「ごめんなさい」

 

「君がやり残したことが見つかったら、応援させてくれないか。

 それで、もしやり残したことが解決したら、その時に改めて告らせてもらっても

 いいかい?」

 

「あ、あの・・・・・・・・・

 わかりました!

 でも、その時もまた振っちゃうかもですよ」

 

「あははは、それはまた辛いな~

 でもそのときはちゃんと諦めるよ」

 

「えへ♡」

 

「あははは、じゃ、みんなのとこ行こうか」

 

「はい」

 

”スタスタスタ”

 

「ふふふふ、馬鹿め。

 柄沢、お前は甘い!

 一色はあの葉山に惚れてんだ。

 いくらお前でも葉山には敵わん。

 今のはお前を傷つけないように気を使ったんだ。

 俺も同じこと言われたぞ。

 わははは、お前も俺も同じだ。

 わは、わは、わはははは・・・・・・・・・・・・はぁ~

 今日はもう宿舎に帰ろっか」

 

”トボトボトボ”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「それではな、清川氏」

 

「ああ、行ってこい」

 

「なぁ清川氏、何か落ち込んでいるようだけど一緒に行かないか?」

 

「あ、いやいい。

 気にしないで楽しんで来いよ」

 

「ああ。 

 それではな」

 

”スタスタスタ”

 

「はぁ~、俺は京都に来てまで何やってんだろうな。

 昨日は一日中、一色の写真や動画ばっかり撮ってて。

 俺もあいつとしゃべりてぇ。

 あん時告白なんかしなけれやよかった。

 そうしたら、ただのクラスメートとして話ぐらいできたのかもな。

 くそ、何でおれ勘違いしたんだろうな。

 あいつのあれって、ただあざといだけで、誰にでもあざとくて。

 俺なんか葉山以外のその他大勢だったのにな。

 ・・・・・話してぇなぁ」

 

”ヒソヒソ”

 

「ん、誰か来やがった」

 

”スタスタスタ”

 

「本当、一色ってムカつくよね」

 

「男子、みんな一色一色って」

 

「そうそう、柄沢君達を誘うために仲間に入れてやっただけなのにね」

 

「マジむかつくよね」

 

「ね、あいつさ、ちょっと締めてやらない?」

 

「いいね。

 あ、そうだ。

 ほら今日は太秦行くじゃん。

 そこのお化け屋敷でさ、とっちめてやろうよ」

 

「あ、それで一色の恥ずかしい写真撮っちゃうとか」

 

「それいける

 それにお化け屋敷だったら、あいつ泣いても変じゃないしね」

 

「ね、やっちゃおう」

 

”スタスタスタ”

 

「い、一色の恥ずかしい写真だと、ぐへへへへへ。

 チャ、チャンス! 俺もばっちり撮って・・・・・・

 い、いや、違う。

 くそ、あいつら。

 まぁ、一色誘ったのはそんなことだろうと思ったけどな 

 なにせ、あいつら一年の時も一色の陰口たたいていたからな。

 どうする? 一色に教えてやるか?

 ・・・・・でも恥ずかしい写真か、ぐへへへ」

 

      ・

      ・

      ・

 

「ああ、面白かった。

 だけどなんだあの恐竜は。

 池からでて煙はいたら、何もしないでまた潜ってしまったぞ。

 なんてシュールなんだ」

 

「いや~ちょ~うけた」

 

「ねぇ、男子達。

 ほらあそこにお化け屋敷あるよ。

 ちょっと行ってみない?」

 

「お化け屋敷?」

 

「なんかメッチャ怖そう」

 

「いいとこ見せてよ男子」

 

「それとも、もしかしてビビってるとか?」

 

「こ、こんなの怖くねえぞ、なぁ」

 

「当たり前だ。

 柄沢、ここ行こうぜ」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

「へ~頼もしい。

 なんか見直した。

 じゃあさ、男子先入ってよ。

 女子、すぐ後から行くから」

 

「え、別々なの?」

 

「あ、やっぱりもしかして怖いの?」

 

「怖いはずないよな」

 

「お、おい行こうぜ」

 

     ・

 

「そろそろいいかな?」

 

「うん、男子たち入ってから時間たったからいいかも」

 

「じゃ女子チームも行こう。

 ほら一色さんも」

 

「え、あ、わ、わたしあんまりこういうのって」

 

「いいから行くよ」

 

”ぐぃ”

 

「え、あ、はい」

 

”タッタッタッ””

 

「はぁはぁ、い、今の一色達だよな

 ちょっと準備するのに手間取ったけど何とか間にあった。

 げ、なんかメッチャ怖そうだぞこのお化け屋敷。

 はぁ~、仕方ねえか

 すみません、高校生一枚お願いします」

 

「はいはい、1300円ね」

 

「げ、た、たけ~」

 

     ・

     ・

     ・

”カチャ”

 

「はい本牧君」

 

「ありがとう三ヶ木さん。

 いつも紅茶ありがとう。

 それより風邪ひいたんだって?

 もう大丈夫?」

 

「あ、うん、昨日一日休んだからもう大丈夫。

 本牧君ありがと。

 さて、うんしょっと」

 

”ドサ”

 

「三ヶ木さんその荷物どうしたの?」

 

「あ、これ。

 う、うん、ちょっとね。」

 

今日、ゆきのん塾終わったら行ってこないと。

う~、やっと集めたわたしのコレクション達。

辛いけど仕方ない、わたしにできることするって決めたんだ。

 

「・・・がいいんじゃないか」

 

ん、稲村君まだ電話してる。

結構長電話だね、紅茶冷めちゃったかなぁ?

でも誰と電話してんだろう?

どれどれ

 

”そ~”

 

「わかりました。

 じゃあ、今からオルゴール博物館行ってみますね。

 あ、それで稲村先輩、お土産どんなものがいいですか?

 もしかしてわたしとか?

 きゃ~稲村先輩のス・ケ・ベ

 仕方ないな~、帰ったら真っ先に家に会いに行ってあげます。

 だからご住所を」

 

「いや、いらない」

 

「ぶ~、なんでですか!

 ノリ悪いですよ。

 で、なに、なにすんの?

 ほれいってみ」

 

「いや、なにその言い方。

 まぁ、そうだな木刀」

 

「木刀? なんすかそれ」

 

「木でできた刀だけど」

 

「そういう意味じゃなくて。

 そんなのがいいんですか?」

 

「だって、ちょ~カッコいいだろう。

 欲しかったけど、買えなかったんだ去年。

 ちゃんとお金払うから買ってきてくれ」

 

「はいはい、あったら買ってきてあげます」

 

ほほう!舞ちゃんと電話してんだ。

・・・舞ちゃん達オルゴール館行くんだ。

はぁ~、わたしそこで置いて行かれたんだよ、トイレに入っているうちに!

トイレからでてきたら、誰もいないんだもんなぁ。

はぁ~、なんか腹立ってきた。

ふむ、ちょっといじわるしちゃえ。

 

「あ~ん、稲村君、そんなとこ触ったらだめだよ~

 稲村君のエッチ~」

 

「はぁ? み、三ヶ木?」

 

「え? ええ゛~

 稲村先輩、何やってんですか!

 い、いつの間に三ヶ木先輩とそんな関係に!

 それもわたしと電話している最中にいやらしいことを。

 こ、このドスケベ!」

 

「い、いや、何もやってないから」

 

「で、で、でも、いま三ヶ木先輩があ~んって」

 

「お、おい、三ヶ木!」

 

「でへへへ、ごめん冗談だよ舞ちゃん」

 

「はぁ? な、なんですか、もう!

 信じられない!

 三ヶ木先輩なんかにはお土産買ってあげませんから」

 

ひゃ~怖い、めっちゃ怒ってる。

へへ、退散退散。

でも・・・・・あ~面白かった。

 

「・・・三ヶ木さん」

 

あ、しまった本牧君いたんだ。

え、も、本牧君マジ呆れてる。

 

「あは、あははは。

 それより本牧君、昨日は何も変わったことなかった?」

 

「うん大丈夫。

 何も変わったことはなかったよ」

 

”ガラガラ”

 

「邪魔するぞ」

 

「邪魔するならかえっ、あ、ひ、平塚先生」

 

「邪魔するなら何だ三ヶ木」

 

”ボキボキボキ”

 

「あ、い、いや何でもないです」

 

「平塚先生、なにかご用でしょうか?」

 

「ん、ああ、本牧、少し確認したいことがあってな。

 ちょっといいかね」

 

「こちらの席、どうぞ」

 

「あ、先生も紅茶飲みますか?」

 

「ん、おお、気が付くな。

 いただこうか」

 

「あ、じゃ今淹れますね。

 本牧君、稲村君もおかわりどう?」

 

「ありがとう三ヶ木さん」

 

「おう、頼む」

 

「それで平塚先生、確認したいことというのは?」

 

「ああ。

 一色だが、あいつは次の生徒会選挙どうするつもりか知ってるかね?」

 

「次? えっと会長が立候補されるかってことですか?」

 

「ああそうだ。

 で、君たちは何か聞いているかね?」

 

「あ、いえ、今のところそんな話は聞いていませんが。

 稲村、三ヶ木さんはどうだ?」

 

「いや、俺は聴いてない」

 

”カチャ”

 

「先生どうぞ。

 わたしも聞いていませんけど」

 

「平塚先生、誰も会長からそのような話は聞いてないですね」

 

「そうか」

 

「でもそれがどうかなされたのですか?」

 

「ああ、今ちょっと選挙管理委員会に行ってきたのだがな」

 

”ゴクゴク”

 

「ふむ、美味いな」

 

「ありがとございます。

 あ、そういえば来週告示でしたね」

 

「そうなんだ。

 まあ本来はもう少し早い時期に行われていたのだがな。

 去年が遅かったからな、そのまま今年もこの時期になったんだ。

 いま必死でポスターとか作っているところだ」

 

「でも先生、わたし達は選挙のご協力は」

 

”ゴクゴク”

 

「ああ、わかっている。

 去年は生徒会役員からの立候補者がないってわかっていたこともあって、

 つい城廻に頼ってしまったが、あれは特別だ。

 ちゃんと選挙管理委員会でやるつもりだ。

 まぁ例年、会長の立候補がなかなかなくてな。

 で、一色はどうするのかと思ったんだ。

 君達に何も言ってないとしたら、まだ決めかねているってとこだろう」

 

「でも先生、2期連続で生徒会会長って過去ないですよね」

 

「ああその通りだ、さすが三ヶ木だな。

 まぁ一年で生徒会長っていうこと自体がなかったからな。

 初めは心配だったが、結構よくやってくれている。

 先生達の評判も上々だ。

 これも君達が後輩の会長をよく支えてくれていたからだろう。

 さてっと、邪魔したな。

 三ヶ木、紅茶ご馳走になった」

 

「1,000円っす」

 

「お、お金取るのか?」

 

「平塚先生、世の中そんなに甘くないですよ。

 お金がないのなら身体で 」

 

”ガタッ”

 

え、稲村君?

青ざめてどうしたの?

ん、財布?

 

「も、本牧、ちょっとお金貸してくれ。

 今月ちょっと厳しんだ」

 

「稲村、すまない。

 俺もちょっと」

 

「あ、い、稲村君、本牧君、違う、冗談だから」

 

「ふふ、それではな」

 

”スタスタスタ”

 

「なぁ、本牧、三ヶ木、会長どうするんだろうな?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そろそろいいんじゃない?」

 

「そうね」

 

「あっ、一色さん、こっちこっち」

 

「え? でも男子達あっちのほうに」

 

「うん、ここで経路が二つに分かれているみたいなの。

 こっちのほう行ってみよう」

 

「あ、う、うん」

 

”スタスタスタ”

 

「ち、あいつらそっちは関係者以外立ち入り禁止って書いてあるじゃねえか。

 ここでやるつもりか。

 それじゃこっちも準備すっか。

 しかし・・・・・一色の恥ずかしい姿かぁ。

 やば、鼻血出てきた」

 

”スタスタ”

 

「あれ?

 こっちの道、やっぱり行き止まりみたいですよ」

 

「・・・・・ね、あんたさ 」

 

”ヒュ~、ドロドロドロ~♬”

 

「「え?」」

 

「あ、あそこに誰かいる」

 

「な、なに、なんかこっち見てる」

 

「顔、血、血が出てるじゃない?」

 

「ううううううううう・・・ぐぅあー!!」

 

”ストン!”

 

「ぎゃ~、あ、頭が落ちた!!」

 

「「きゃ~」」

 

”ダ―”

 

「・・・・・・・・ふぅ~

 成功だ。

 急いで作ったにしては上出来だな。

 ハンガーと靴ベラとカッパで作った頭が落ちたように見えるトリックか。

 まぁ、動画のようにはうまくできなかったけど、あいつら結構びっくりしてたし。

 成功成功っと。

 さて、パソコンの音楽止めてっと」

 

”トントン”

 

「え、なに?」

 

”クル”

 

「げ、い、一色!」

 

「えっと~、何やってんですか~」

 

「あ、いい、いや、そ、その、ちょっと驚かせようかなぁ~って。

 あは、あは、あはははは」

 

「あの、昨日もずっとわたし達の後、つけてましたよね~」

 

「あ、い、いえ、そ、その」

 

「ちょっとキモいのでそういうのやめてくれます!

 それとも警察、呼びましょうか!」

 

「あ、い、いや、そ、それは・・・・・・ごめんなさい」

 

「えっと~、わかってくれればいいんですよ。

 それで~、もう二度とついてこないでくださいね。

 今度ついてきたら、警察そっこーで~す♡

 はぁキモ!」

 

”タッタッタッ”

 

「・・・・・・・・・、ま、こんなもんだわな。

 あ~あ、恥ずかしい姿、見ておけばよかった」

 

     ・

 

”ドタドタドタ”

 

「はぁはぁはぁ、な、なにあれ 」」

 

「な、なんか頭がストーンって」

 

「鼻、鼻から血が出てたし」

 

「し、仕掛けだよね」

 

「やぁ、やっと出てきたね。

 どう、怖かった?

 ん?・・・・・一色さんは?」

 

「あ、柄沢君。

 あ、あの一色さんは」

 

「あ、なんか一人で行きたいところがあったみたいで、お化け屋敷入らずに行っちゃった。

 ねっ」

 

「あ、うん」

 

「そ、そう、一色さん、他のとこに行ったんだ」

 

「ね、それより柄沢君、あっちの広場で忍者のイベントがあるんだって、行ってみようよ」

 

「え、忍者?」

 

「おもしろそうだな、行こうぜ柄沢」

 

「ああ、行こうか」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

     ・

 

「きゃ~」

 

”ダー”

 

「はぁはぁ、やっと出口。

 ちょ~怖かった、怖すぎですよ~このお化け屋敷。

 あ、あれ、みんないない。

 どこいったのかなぁ」

 

     ・

     ・

     ・

 

さて、そろそろゆきのん塾行こうかなぁ

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、ジャリっ娘からだ。

どうしたんだろ?

 

「はい、三ヶ木だよ」

 

「あ、美佳先輩。

 今どこにいるとと思います?」

 

「え? い、いやわからないけど」

 

「愛宕念仏寺、来ちゃいました。

 あのリーゼントのお地蔵さん、みつけましたよ~」

 

「あ、いや、まじ、そこに行ったの?

 よく他の人も一緒に来てくれたね」

 

「あ、いえ他の人はいなくて」

 

「え、もしかして一人?」

 

「えっと~、みんなとはぐれちゃいました、えへ」

 

「いや、会長、えへって」

 

「まぁいいじゃないですか。

 それより本当にいっぱいお地蔵さんあるんですね。

 それも全部違うお顔。

 あ、これなんか美佳先輩にそっくりですよ。

 いま写真送りますね」

 

「い、いやいい、いらない!」

 

「え~、なんでですか~」

 

「いいからいらない!」

 

な、なんか想像つくから。

どうせお多福さんみたいなのに決まってる。

わかってんだ、ふん!

 

「ねえ彼女、一人なの」

 

「え?」

 

「一人ならさ、俺達と少しお話しない?」

 

「あ、いえ、友達待ってるんですよ」

 

「うそだ~

 さっきからずっと一人じゃん」

 

「ねぇ、俺達と少し話しようよ」

 

「いえ、結構です」

 

「いいじゃん、ほらあっち行こうぜ」

 

「み、美佳先輩!」

 

「か、会長!」

 

”プー、プー”

 

げ、電話切れた。

やば、ジャ、ジャリっ娘が危ない。

へ、変なのに連れて行かれちゃう。

ど、どうしよう。

え、えっと、引率している先生に連絡!

平塚先生、平塚先生にお願いして先生に連絡してもらって。

で、でも間に合うかな、ど、どうしよう急がないと。

あ、そうだ!

 

”カシャカシャ”

 

「なんすかエロ先輩」

 

「・・・・・・いや、エロ先輩はやめろ」

 

げ、舞ちゃんまだ怒ってる。

声、ちょ~低いし。

 

「心配しなくてもちゃんとお土産買ってあげましたよ、高級油取り紙」

 

「うわぁ~ありがと、舞ちゃん。

 って、今それどこじゃない!

 ね、舞ちゃん、いまどこ?」

 

「え? あ、あの、嵐山のオルゴール博物館ですよ。

 あ、藤沢さんも一緒ですよ。

 偶然会っちゃいました。

 電話代わりましょうか?」

 

「あ、い、いやいいから。

 あのね 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇ、いいじゃん。

 ほらあっちのもっと静かなところでお話しようぜ」

 

「いやです、離してください。

 人、人呼びますよ!」

 

「面倒くせ。

 いいから連れてこうぜ」

 

「い、いや!」

 

”スタスタ”

 

「げ、あいつら何やってんだ、一色があぶねぇ。

 くそ、ど、どうすっかな。

 3人もいるしな、ちょっとこぇ~し。

 ・・・・・そ、そうだ、警察!

 警察に連絡してだな」

 

「やめてください!」

 

「し、仕方ねぇのかよ。

 もうつけてこないでくれって言われてんだけどなぁ~

 殴られると痛たいだろうなぁ~

 ・・・・・・・・はぁ~まったく。

 えっと、パソコンとビデカメラここに置いてだな。

 ポチっと。

 い、いやだなぁ~」

 

「や、やめてください

 手離してください。

 本当に、人呼びますよ」

 

「おい、お前口押えろ。

 うるせえわ、こいつ」

 

「おう」

 

「や、やめろ!」

 

「ああん?

 なんだお前」

 

「い、嫌がってんだろその娘。

 離してやれよ」

 

「なんだこの野郎、正義の味方か?

 うっせんだよ、この野郎!」

 

”ボコ”

 

「ぐはっ」

 

「おいおい、正義の味方なんだろどうした。

 ほらもう一発!」

 

”ボコ”

 

「い、いてぇ~

 も、もう、やめてください」

 

「ほら立てよ、正義の味方!」

 

”ボコボコ”

 

「ぐはぁ~」

 

「へ、よわっち~の。

 ざまあねえな。

 さ、行こうぜ。

 か~のじょ、お待たせ。

 あっちで楽しいお話しような」

 

「ん~、ん~」

 

”バタバタ”

 

「あんま暴れんなって。

 おい、ちゃんと口押さえてろよ」

 

「おう。

 さっさとあっち連れて行こうぜ」

 

「ん~、ん~」

 

”スタスタスタ”

 

「い、いってぇ~よ。

 くそ、どうだ、ちゃんと映ってんだろうな」

 

”カチャ”

 

「よ、よし映ってる。

 それじゃ、このパソコンに取り込んで」

 

”カチャカチャ”

 

「よし、正義の味方の登場だ」

 

     ・

 

「お、おいこのくそ野郎ども!!」

 

「ああん、なんだお前また殴られてえのか!」

 

「このパソコン見てみろ!」

 

”カチャ”

 

『なんだこの野郎、正義の味方か?

 うっせんだよ、この野郎!』

 

”ボコ”

 

『ぐはっ』

 

「わかるよな、お前らの暴行動画だ。

 今からこの動画、YouTubeに投稿してやるぞ!

 もちろん、ちゃんとお前らの制服と顔、映ってるからな!

 しかも超ドアップで」

 

「お、おい、やべえぞ」

 

「いや、あのパソコン壊して」

 

「おい、動くなよ。

 このリターンキー押せばそれまでだからな」

 

「ちっ!」

 

「わかったら、さっさと消えな!

 消え失せろこのゲス野郎!」

 

”プツン”

 

「あ、あれパソコンの画面が?

 げ、バッテリー切れ!」

 

「おい、あれ」

 

「ああ。

 おい、お前今なんか言ったか」

 

「あ、あははは、い、いや、な、なにも」

 

「この野郎、ぶっ殺してやる!」

 

「す、すみませ~ん」

 

”ドタドタドタ”

 

「い゛っじぎー!!」

 

「いろはちゃーん!」

 

”がぶっ”

 

「い、いってぇ~、この女噛みつきやがった」

 

「ま、蒔田ー!

 書記ちゃーん!」

 

「いっしきー!!

 て、てめぇらー一色に何しやがった!

 そこで待ってろ!!」

 

「お、おいあの女、木刀振り回してるぞ。

 それになんかあっちの眼鏡、どこかに電話してるって」

 

「ち、くそ、いくぞ」

 

「お、おう」

 

”ダー”

 

「た、助かった。

 しっかし肝心な時にバッテリー切れるってさすがにやばかった」

 

「うぉー!てめぇーこの野郎、変態ナンパ野郎が!!」

 

”バシ!”

 

「い、いてぇ~

 ち、違うって、お、俺は 」

 

”バシ、バシ、バシ”

 

「なにが違うだこの変態!、女の敵!

 え~い、これでもくらえ!」

 

”バシッ!!”

 

「ぐはぁ~」

 

”グタ~”

 

「はぁはぁはぁ、どうだ思い知ったかこの変態くそ野郎」

 

「いろはちゃん大丈夫?

 怖かったよね。

 本当、この変態!」

 

”ポカ”

 

「あ、い、いや、違うのこの人は助けてくれて」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うんうん、了解。

 ありがと、書記ちゃん。

 あ、書記ちゃん、電話借りてごめん。

 舞ちゃん、そこにいる?

 いたらちょっと代わってもらってもいい?」

 

「あ、はい、今代わりますね」

 

「は~い、もしもし蒔田だよ~」

 

「舞ちゃん、絶対無茶したら駄目って言ったでしょ。

 なんでそんな無茶したの!」

 

「え? 

 いや、そのなんだか無我夢中で、気が付いたら。

 あ、でも、そんなことエロ先輩に言われたくないです。

 エロ先輩だっていつも無茶ばっかりって聞いてますよ!」

 

「おい、だからエロ先輩はやめろ。

 今回は書記ちゃんがいてくれたからよかったけど、そんな無茶してもし舞ちゃんに

 まで何かあったら。

 舞ちゃん、舞ちゃんはかよわい女の子なんだから。

 ほんと、なにもなくてよかったよ」

 

「・・・・・三ヶ木先輩、ごめんなさい」

 

「わかってくれればいいの。

 でも、会長を助けてくれてほんとにありがと。

 それじゃね」

 

「はい」

 

ふぅ。 

ま、まぁ、みんなが何ともなくてとにかくよかった。

・・・・・清川君にもお礼言わないとね。

へぇ~、あのストーカー君がねぇ~

ん、あ、もうこんな時間。

ゆきのん塾行かないと。

 

”スタスタスタ”

 

今日こそはいい点数取りたいなぁ。

ゆきのんも国語はそこそこって言ってくれたし。

あっ。

 

「ヒッキー耳の様子どう?」

 

げ、比企谷君と結衣ちゃん。

やば、こっち歩いて来た。

 

”サッ”

 

い、いやなんで隠れるんだって。

うへ~ほらやっぱり蜘蛛の巣だらけじゃん。

ね、ちゃんと掃除しようよ。

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ちゃんと聞こえてるんだね」

 

「ああ、もう大丈夫だと思う。

 まぁ、明日もう一回病院行ってくるつもりだ。

 ずっとノートとってもらってすまなかった」

 

「えへへ、あたしもあれだけ集中して授業受けたの久しぶりかも。

 そっか、そうなんだ耳治ったんだ。

 でもちょっと残念」

 

「はぁ? なにが残念なんだ?」

 

「あ、い、いやなんでもない。

 あ、それよりもさ、ヒッキー明後日の日曜日って暇?

 あ、あのさ、よかったらあたしの家に来ない?」

 

「断る!

 何でお前の家に行かないといけないんだ」

 

「ヒッキーこの前今度サブレに会いに来てくれるって言ってたじゃん」

 

「げ、憶えてたのか

 残念だな、そんな昔のことはもう忘れた」

 

「ひど」

 

「・・・・・ま、まぁ日曜日、午前中は無理だが昼からなら。

 午前中は1週間の英気を養うための、何人たりとも邪魔することを許さない

 神聖な儀式がある」

 

「本当!

 うん、それじゃ明後日待ってるね」

 

「ああ」

 

”スタスタスタ”

 

なんかいい雰囲気だなぁ。

二人の距離ってあんなに近かったんだ。

もう少しで肩が触れあうぐらい。

手もちょっと伸ばせば握りあえるくらい。

 

”トボトボ”

 

そっか比企谷君、結衣ちゃんの家に行くんだ。

結衣ちゃん嬉しそうだったなぁ~

わたしは、まだ彼に会えないんだ、まだ会うわけにはいかない。

うん、まずは勉強頑張ろう。

 

”ガラガラ”

 

「ゆきのんお待たせ」

 

「だからノックしなさい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「店長、こんにちわ」

 

「ああ、美佳ちゃん、こんにちわ。

 で、今日はどうしたの?」 

 

「あの~、これお願いしたいんですけど」

 

「ん? そのアカ俺のグッズ売りたいのかい? 」

 

「うん。

 どうしてもお金がいることができて」

 

「ん~、本当は18歳未満は保護者同伴が決まりなんだが」

 

「だ、駄目ですか~」

 

「まぁ~仕方ない。

 じゃあこれは私が個人的に買うってことにしよう。

 でもどうしたんだい、これってお気に入りのグッズだったんじゃないのかい?

 よく聞かせてくれたグッズだと思うけど」

 

「うん、ちょっといろいろあって」

 

「そう。

 わかった、じゃあ査定するからちょって待ってて」

 

     ・

     ・

     ・

 

「美佳ちゃん、査定終わったよ。

 はいこれね」

 

・・・・げ、こ、これだけ。

査定厳しい~

治療費足りるかなぁ

よ、よしここは必殺の上目遣いで

ふふふ、いろいろ試したんだ。

こうやって上目遣いで、そんで人差し指を口に当てて。

 

「店長さ~ん、あの~もう少し何とかなりませんか~えへ♡」

 

「無理!」

 

そ、速答か~

ぐぞ~、現実は厳しい。

 

     ・

 

”トボトボトボ”

 

はぁ~、わたしのイレギュラーヘッドグッズ全部売り払ってもこれだけかぁ~

部屋にはもう、舞ちゃんにもらった缶バッジと義輝君に買ってきてもらった下敷き、

それと、比企谷君にもらったポスターしかない。

それでもこんだけか~、マジ現実は厳しい。

でも、わたしができること、ちゃんとけじめつけなくちゃね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、ご馳走さま」

 

「あ、あの~とうちゃん、ちょっといい?」

 

「ん、なんだ?

 お小遣いの前借りか?」

 

「あ、違くて。

 あの、あのねわたし 」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「もう大丈夫だ、ちゃんと鼓膜治ってるよ。

 でも、これからは耳掻きする時は気をつけてね」

 

「はい、ありがとうございました」

 

     ・

 

”ガチャ“

 

「ふ~、やっと鼓膜治った。

 ちゃんと聞こえるってやっぱりいいもんだな」

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、もしもし。

 どうした小町」

 

「お、お兄ちゃん!!」

 

「おわぁ、な、なんだでかい声で。

 また鼓膜破れるかと思っただろうが」

 

「いいから、今どこ? なにしてるの?」

 

「いま病院でたところだ。

 喜べ小町、鼓膜はもう完璧だ」

 

「そんなことどうでもいいから。

 それより早く帰ってきて」

 

「いや、そんなことってなんだ、お兄ちゃん的にポイント低~い」

 

「・・・・・」

 

「ご、ごほん、それでどうしたんだ?」

 

「み、美佳さんと美佳さんのお父さんがうちに来てて。

 それで、それで。

 いいから早く帰ってきて」

 

「あん? わかった。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「もし治療費が不足でしたらご連絡ください。

 誠心誠意、できるだけのことさせて頂きます」

 

「いえ、もう十分ですよ。

 これ以上は気になさらないでください」

 

「比企谷さん、大切なご子息にそれもこの大事な時期に怪我をさせてしまい、本当に

 申し訳ありませんでした」

 

「ほんとにごめんなさい」

 

”ペコ”

 

「それでは失礼いたします」

 

「あ、お待ちください三ヶ木さん」

 

「はい?」

 

「えっと、美佳さんだったわね」

 

「はい」

 

「美佳さん、悪いけどもう八幡に会わないでほしいの」

 

「えっ」

 

「比企谷さん、それは」

 

「いえ、三ヶ木さん。

 お宅の娘さんもそうだけど、八幡も今がとても大事な時期。

 お互い浮ついていられる時ではないと思います。

 ですから、美佳さんもう八幡に会わないようにしてほしいの」

 

「比企谷さん」

 

「美佳さん、いいかしら」

 

「・・・・・は、はい。

 わかりましたお母様。

 わたし、わたしからもう比企谷君に連絡はしません」

 

「そう。

 わかってくれてうれしいわ。

 それではね」

 

「はい。

 ほんとにすみませんでした」

 

     ・

 

「はぁはぁはぁ」

 

”ガチャ“

 

「お兄ちゃん!」

 

「こ、小町、三ヶ木は?」

 

「ちょっと前に帰ったよ。

 お兄ちゃん遅いよ。

 美佳さん、お母さんにもうお兄ちゃんとは会わないって約束させられて」

 

「はぁ?

 何でそんなことに。

 ちょっと前に帰ったとこなんだな小町」

 

「うん」

 

”ガチャ”

 

「待ちなさい八幡。

 あんた、鼓膜のことなぜ嘘ついてたの?」

 

「いや違う。

 前にも言った通り、これは俺が耳掻きしてて自分でやったことなんだ。

 あいつは関係ない。

 三ヶ木は勘違いしてるんだ」

 

”ガチャ”

 

「八幡!」

 

「あとで、ちゃんと説明する」

 

”ダー”

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「なぁ美佳、あれでよかったのか?」

 

「うん。

 とうちゃんほんとにごめんなさい」

 

「気にするな。

 子供が仕出かしたことの責任を取るのは親の役目だ。

 それにな、お前が理由もなしに暴力を振るう子じゃないってことは、

 とうちゃんが一番知ってる」

 

「とうちゃん」

 

「よし、それより久しぶりに昼ご飯なにか食べて帰るか」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”きょろきょろ”

 

「ち、もう電車乗ってしまったのか?

 駅のどこにもいない。

 電話、出てくれよ」

 

”カシャカシャ””

 

「はい、もしもし三ヶ木・・・・だよ。

 比企谷君、な、なにか用?」

 

「なにか用じゃねえ。

 三ヶ木違うんだ、どこで何を聞いたか知らんがお前勘違いをしている。

 これは俺が自分でやったことなんだ。

 俺が耳掻きをしていてだな 」

 

「もういいよ」

 

「もういいって、何がいいんだ。

 俺には何がどうなっているのかさっぱりわからない。

 話、ちゃんと話がしたい。

 会えないか?」

 

「今からとうちゃんとご飯食べに行くの」

 

「そ、それじゃ明日」

 

「明日?」

 

「ああ」

 

「・・・・・」

 

「み、三ヶ木?」

 

「・・・・・あのさ、それじゃ14時にあの公園来れる?」

 

はぁ、なに言ってんだわたし。

明日のお昼からは比企谷君、結衣ちゃんちにいくって約束してたじゃん。

結衣ちゃんあんなにうれしいそうな顔してたのに。

 

「公園ってお前の家の近く公園か?

 明日の14時だな」

 

「うん。

 わたし明日の午前中は掃除とか洗濯とかいろいろあるから。

 でもお昼からって無理・・・だよね」

 

こんなの汚い、わたし汚いよ。

何でこんなこと言っちゃったんだ。

お願い比企谷君、無理って断って。

 

「わかった。

 14時にあの公園でな」

 

「・・・・・う、うん」

 

だ、駄目だよ比企谷君。

だって、結衣ちゃん悲しむのわかってるじゃん。

わたし最低だ、最低の人間だ。

で、でもわたし・・・・・

 

      ・

 

「はぁ~、でもなんでこんなことになったんだ?

 あ、それより」

 

”カシャカシャ”

 

「ヒッキーどうしたの?」

 

「あ、由比ヶ浜か、すまない明日の約束だが」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ピンポ~ン”

 

「は~い」

 

”ガチャ”

 

「あ、ヒッキーいらっしゃい」

 

「おう」

 

”ワンワン”

 

「おわぁ!」

 

”ペロペロ”

 

「や、やめろサブレ。

 お、おい由比ヶ浜、どこが元気がないだ。

 めっちゃ元気いいだろうが」

 

「あ、でもさっきまでリビングで寝てたんだよ」

 

「そ、そうか」

 

”ペロペロ”

 

「わ、わかった、わかったからもうやめろサブレ」

 

”ワンワン”

 

「ふぅ~」

 

「さっ、ヒッキーに中入って」

 

「ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキーピザ焼けたの。

 食べていかない?

 ん、サブレ寝ちゃった?」

 

「ああ。

 俺の膝の上で寝ちまった」

 

「本当だ、さっきまでキャンキャン騒いでいたのに。

 えへへ、こんなに安心してるサブレの顔、見たことない」

 

”なでなで”

 

「よしよし、いい子だねサブレ♡」

 

「お、おい」

 

「ん?」

 

「い、いや近い、顔近い」

 

「え! あ、ご、ごめん」

 

「い、いや、まぁ、なんだ、その、い、いい香りだな髪」

 

「え? あ、う、うん、ありがとう」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ヒッキー」

 

”グ~”

 

「あ、ごめん、お腹空いたよね。

 いまピザ持ってくるね。

 ちょっと待ってて」

 

「お、おう」

 

「えへへ、でもあんなにはしゃいでたサブレ本当に久しぶり」

 

「そうなのか」

 

「うん。

 やっぱりヒッキーのことが、す、す、好き・・・・・なんだ。」

 

「そ、そっか」

 

「・・・うん。

 あ、ヒッキーも手洗ってきて」

 

「お、おい、ちょっと待て。

 そういえば、家の人はどうした?

 もしかしてピザってお前が作ったのか?」

 

「誰もいないよ。

 パパとママは昨日から旅行。

 今日の夕方には帰ってくると思うけど」

 

「お前一人なのか。

 い、いや昼飯は、よ、予定があってだな」

 

「そ、そっか。

 予定があったんじゃ仕方ないよね。

 結構上手に作れたんだけどなぁ」

 

「・・・・・」

 

”パク”

 

「ヒッキー」

 

「お、美味いぞこれ」

 

「ヒッキー♡

 い、いま飲み物、飲み物持ってくるね。

 ヒッキーも手洗ってきて」

 

「おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ご馳走さん。

 いや、本当に美味かったわ」

 

「本当! えへへへ、ありがとうヒッキー」

 

「すまない。

 午後から本当に予定があってだな」

 

「うん。

 お昼一緒に食べてくれてありがとうヒッキー」

 

「ああ」

 

”ガチャ”

 

「じゃあな」

 

「うん、また来てね」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「さて、まだ1時前だ。

 なんとか時間までに公園につけそうだな。

 三ヶ木とちゃんと話しな 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、由比ヶ浜から?」

 

”カシャカシャ”

 

「どうした?」

 

「ヒッキー、サブレがサブレがなんか変なの。

 ヒッキーどうしょう、どうしょう」

 

「落ち着け。

 サブレはどう変なんだ」

 

「息がとっても荒くて、すごく苦しそう」

 

「わ、わかった。

 いま戻る」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ヒュ~”

 

ひぇ~、風が冷たい。

もう4時か。

比企谷君遅いなぁ~

いま頃まだ結衣ちゃんと一緒なのかなぁ。

へへ、わかってたから来てくれるはずがないって。

変な期待したわたしが悪い、ほんと馬鹿だね。

わたしなんかが結衣ちゃんに敵うはずない。

・・・・・・でも、もう少しだけ待ちたい、待っていたい。

もう少しだけ待ってたら、きっと来てくれる・・・・・・と思いたいんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー君、本当にありがとうね。」

 

「いえ、大事にならなくてよかったです。

 疲れただけですんでよかったです」

 

「サブレ、ヒッキーに会えたから無理しちゃったんだね。

 すごく嬉しそうだったもん。

 あ、ヒッキーごめん、午後から何か用事あったんだよね」

 

「用事、あ!

 い、今何時だ、げ、6時過ぎてる。

 す、すみません。

 俺失礼します」

 

「あ、ヒッキー君、送っていくわ」

 

「すみません、駅までよろしいですか?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブルブル”

 

うう、寒くなってきた、

えっと今何時だろう、あ、もう7時過ぎてんだ。

すっかり暗くなっちゃった。

へへ、わたし何やってんだろう。

こんなに待ってても来てくれるわけないじゃん。

だって、結衣ちゃんと約束してたの知ってるもん。

きっと今頃、まだ結衣ちゃんと楽しいおしゃべりとかしててさ。

で、でもさ、もしかしたらさ、ほんとはもうすぐそこまで来てくれててさ。

そんで、お~い三ヶ木って呼んで・くれ・・て。

そ、それ・・・で、そし・・たら・・・わた・・し、わたし・・・きっと・・・

あ、あれ? お・か・し・いな。

なんか眠くな、って、き・・・・・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「くそ、やばいな。

 外、真っ暗じゃねえか。

 三ヶ木、待っててくれるわけねえよな。

 は、電話、なにしてんだ俺、電話!」

 

”カシャカシャ”

 

「頼む、出てくれ」

 

”プー、プー、プー”

 

「だ、駄目か。

 あいつ怒ってんだろうな。

 と、とにかく公園まで行かないと」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゆっさゆっさ”

 

ん、あれ? ここどこ?

え、背中?

あ!

 

「と、とうちゃん」

 

「おう、気がついたか」

 

「あれ、なんで?」

 

「馬鹿、あんなところで寝てたら折角治った風邪をぶり返すぞ」

 

あ、そっか。

わたしあのまま寝ちゃったんだ。

比企谷君、来てくれなかったんだね。

そっか。

 

「寒くないか?」

 

「うん」

 

とうちゃんの背中あったかい。

とってもあったかい。

う、うう、ううううううう。

 

「とうちゃん、ごめんね」

 

「ん、どうした?」

 

「心配ばかりかけてごめんなさい」

 

「馬鹿泣くやつがあるか。

 子供のこと心配出来るのは親の特権だぞ」

 

「とうちゃん」

 

「でもな、お前は俺の大事な大事な宝物なんだ。

 身体は大切にしてくれるとありがたい」

 

「とうちゃん、とうちゃん、とうちゃん。

 ごめん、ごめんなさい。

 うううう、うぐ、う、うわぁ~ん、うわぁ~ん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁはぁはぁ、み、三ヶ木!」

 

”きょろきょろ”

 

「やっぱりいないか。

 今何時だ。げ、8時かよ

 待ってるわけねえよな。

 俺があいつだったとしても待ってるわけねぇ」

 

”カシャカシャ”

 

「頼む、出てくれ。

 三ヶ木、電話出てくれ」

 

”プー、プー、プー”

 

「なんでだ、何で電話出てくれねえんだ。

 くそ、あの時電話しておけばよかった。

 なんでそんなこと気がつかなかったんだ。

 メール、メールなら見てくれるだろうか」

 

     ・

     ・

     ・

 

”チャポ~ン”

 

ふぅ~、温まる。

なんか、生き返ったみたい。

・・・・・わたし何してるんだろう。

わたしの所為で、とうちゃんにも麻緒さんにもゆきのんにも、

・・・・・比企谷君にもいっぱい迷惑かけた。

比企谷君のお母様にも。

わかってるんだわたし、このままじゃだめだってこと。

だから・・・ちゃんとしよう。

 

「美佳、パジャマここ置いておくぞ。

 ちゃんと温まるんだぞ」

 

「うん」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「比企谷君、話ってなに?

 わたし今から生徒会行かないといけないから時間あんまりないんだ。

 比企谷君も、塾あるんでしょ」

 

「あ、あの、まぁなんだ。

 あ、そうだ。

 その前にこれ返しておく」

 

「え?」

 

「この前も言ったろ、俺の鼓膜は耳掻きをしていて自分で破ったものなんだ。

 だからこの治療費はもらうわけにはいかない」

 

・・・・・そっか。

やっぱり比企谷君はそう言ってくれるんだ。

やさしいね。

わたし知ってる、知ってるんだ。

そのやさしさはわたしだけにじゃないって。

比企谷君は頼ってくる人、みんなにやさしいんだ。

口ではもっとも効率のいいやり方だとかそれらしいこというけど、わたしは知ってるんだ。

 

あのね、わたし気づいたの。

そのやさしさを独り占めにしたいって思うすごく強欲な自分がいることを。

だからあの時、結衣ちゃんとの約束あるの知ってて、それでもあんなこと言って

あなたのこと困らせたの。

ほんと、わたしは汚い。

 

来てくれるはずなんてないのに。

わたしなんかより結衣ちゃんのほうが比企谷君との繋がり深いし、それに大事な存在って

知ってたはずなのに。

それでももしかしたら来てくれるんじゃないかって勝手に思い込んで。

ほんと馬鹿だ、馬鹿で強欲で汚くて最低なんだわたしは。

 

わたしどうしたんだろ。

どんどん自分を抑えられなくなってる。

もっと自分の分をわきまえてたはずなのに。

 

このままじゃ今にまたきっと自分を抑えられなくて、比企谷君に迷惑をかけちゃう。

お母様が言ってた通り比企谷君にとって大事な時期なのに。

だから、だったらわたしは・・・・・

 

「もういいよ」

 

「いや、なにがいいんだ?」

 

「そんな嘘つかなくてもいい」

 

「嘘じゃない。

 鼓膜は俺が自分で 」

 

「自分で耳掻きしていて鼓膜を破るなんてできないよ。

 少し当たっただけでもすごく痛いんだ。

 絶対鼓膜が破れる前に気が付くよ」

 

「い、いや、あの 」

 

「それにずっとわたしのこと避けてたじゃん。

 あれ、わたしに鼓膜が破れたの気づかせないためだよね」

 

「いや、な、なんのことだ。

 俺は避けたりしてないぞ」

 

「・・・アイス美味しかった?

 居留守、すごく辛かったよ」

 

「あっ、い、いや」

 

「だから、もう嘘つかなくていい。

 ごめん、いっぱい嘘つかせちゃって」

 

「・・・・・・」

 

「じゃあ行くね」

 

「み、三ヶ木、昨日はすまなかった。

 じつは 」

 

「えっと~昨日ってなんのこと?」

 

「い、いや、公園で会おうって約束。

 じつは俺昨日 」

 

「え? わたし公園なんて行ってないよ。

 あ~、あれ本気にしてた?

 行くわけないじゃん。

 わたしも受験生だよ。

 そんな時間あったら勉強するよ。

 やだな~」

 

「お、おい」

 

「話はそれだけ?

 じゃあ、みんな待っているといけないから行くね。

 あ、比企谷君、わたしたち今とっても大事な時期なんだよ。

 しっかり勉強しないとだめだよ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・み、三ヶ木」

 

「・・・・・・・・・・・・・・あのさ、サブレ元気になるといいね」

 

”ダ―”

 

「え? 三ヶ木お前」




最後までありがとうございます。
今回も2万字超えてしまいすみません。
(お時間とらせました)

さて、次話から生徒会選挙編。
ジャリっ娘の去就は?

また次話読んでいただけたらありがたいです。
ではではっす。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会選挙編 前編 ー想いー

毎度ありがとうございます。

す、すみません、更新めっちゃ遅くなりました。
ごめんなさいです。

今回は生徒会選挙編。
選挙が終われば一色生徒会も任期終了。
さて選挙はどうなるか。

ではよろしくお願いします。
(・・・すみません、またまた2万字超えました。
 ご無理なさらずお願いします)


”ヒュ~”

 

う~さぶ。

二学期の最大のイベントである文化祭、体育祭も終わり幾日かが過ぎた。

このベストプレイスから見える木々の葉もその多くが落葉し、

その姿からはいよいよ季節は冬になるのだと無言で告げられているかのようだ。

あ、ちなみに校長先生のあた・・・・・・いや、それはやめておこう。

それでも今日はいくらかの陽光がさし、それほど気温は下がっていないはずなんだが、

まるでもう真冬にでもなったように俺の心は寒々しい。

 

『・・・・・サブレ、元気になるといいね』

 

あの日、あの屋上で俺の横を通り過ぎる時に残していったこの言葉と、

あの寂しそうな横顔が俺の脳裏にこびりついて離れない。

三ヶ木は知ってたんだ。

俺がずっと由比ヶ浜と一緒だったことを。

 

それでも三ヶ木は待っていてくれてたあの公園で。

話がしたいという俺の言葉に応じてくれるために。

それなのに俺は・・・・・

 

『わたし、公園になんか行ってないよ』

 

三ヶ木は一言の責めの言葉もなく、俺にそう言ってくれた。

公園なんか行っていないっか。

・・・・・公園のベンチに置き忘れられていたマッ缶とミルクティ―。

それがすべてを物語っている。

 

くそ!

 

なんで俺、病院からでも電話しなかったんだ。

なんでそれぐらいの気が回らなかったんだ。

・・・・・違うな。

気が回らなかったんじゃない、できなかったんだ。

由比ヶ浜と一緒にいることを知られたくなくて。

卑怯者・・・だな。

 

もうあの日から今日で3日目。

あいつが俺のことを避けるようになってもう3日。

あれ以来、俺達は一言も話をしていない。

もう戻れないんだろうか以前の俺達の様には。

 

今となってはあいつのあの滅茶苦茶痛い空手チョップが懐かしい。

あの何とも言えない痛さが。

想像しただけでゾクゾクっと・・・・・・い、いやそんなんじゃない。

俺、Mじゃないから。

た、ただ懐かしいだけだから。

 

「はぁ~」

 

”バシッ!”

 

「ぐはぁ~いってぇ~」

 

だ、誰だ思いっ切り背中叩いたのは!

は、もしかして三ヶ木、三ヶ木か?

 

「なにするんだ三ヶ・・・・・・

 なんだ一色か、はぁ~」

 

「な、なんですか、はぁ~って。

 こんなかわいい女子の顔見て”はぁ~”って。

 もう、信じられないです」

 

「すまん、ちょっとな」

 

「で、どうしたんですか、そんなに落ち込んで?」

 

「いやなんでもない。

 まぁ、ちょっといろいろあってな。

 で、何の用だ」

 

「あ、えっとですね」

 

”ちょこん”

 

いや、なに君、なに横座ってんの?

ちょっと近い、近いんだけど。

ほらお尻、お尻触れてるんだけど。

これがほんとのお尻合い・・・・・オ、オヤジか!

か、漢字も違うし。

しかしなんか甘くていい匂いだな。

由比ヶ浜も三ヶ木もそうだったが、なんで女子ってこんなにいい匂いがするんだ。

 

「ん~あれ?」

 

ん、なにやってんだ?

そのリュックの中に何か入ってるのか?

 

”ガサガサ”

 

「えっと、あれ確か持ってきたはずなんだけど」

 

お、おい、こんなに密着した状態で背中見せて。

お前不用心すぎるだろう。

絶対俺以外の男子勘違いするからな。

勘違いして押し倒しちゃうレベル。

俺は、ほ、ほら理性の塊だから。

ん? あ、肩のところに糸くずついてるじゃねえか。

仕方ねえな。

 

「あ、あった。

 はいお土産です、せん・・・・・ぱ・・・・い?

 うそ!」

 

「あ、い、いや違う。

 あの、ほ、ほらゴミ、い、糸くずがだな 」

 

「先輩、もしかして今わたしのこと抱きしめようとしたんですか?」

 

「ち、違う、ほ、本当にゴミがだな」

 

「あ、あのですね先輩。

 抱きしめてくれるのはとっても嬉しいのですが、こんなところではだめです。

 もっと人目の着かないところで、そう例えば体育館倉庫とか。

 ですからもう一度出直してください、ごめんなさい」

 

はぁ、また振られたのか俺。

え、体育館?

ま、まさかあれ見られてたのか?

い、いやそんなはずは

 

「・・・・・お、お前なにか知ってるのか?」

 

「はぁ?」

 

「い、いやなんでもない」

 

「あ、そんなことより、はいこれどうぞ。

 修学旅行のお土産です♡」

 

「いらない」

 

「はぁー! な、なんですか、何でいらないって言うんですか!」

 

「いやだってお前、なにか裏があるだろ。

 何か手伝わせようとしているんだろ」

 

「そ、そんなことないです。

 な、なにもないです」

 

いや、おかしい、絶対何もないはずがない。

こいつが何もなしでお土産など買ってくるわけがない。

それに俺の経験上、こういう場合に何もないといって

本当に何もなかったことがない。

 

「・・・・・嘘だ」

 

「ひど、酷いです先輩。

 わたし、折角いつもお世話になっている先輩に喜んでもらおうと思って

 買ってきただけなのに。

 う、ううううう、酷い酷いです~」

 

や、やべ。

一色泣かせてしまった。

マジか、マジでお土産を買ってきてくれただけだったのか。

 

”ヒソヒソ”

 

げ、やばい、あそこの男子こっち見て指さしてやがる。

このままでは。

 

「す、すまん一色。

 な、泣くな、泣かないでくれ。

 わかった、これはありがたく貰っておく。

 ありがとうな」

 

「食べてください」

 

「え?」

 

「それ、賞味期限短いですから、すぐ食べてください」

 

「いや、それならもっと早く持ってこない?

 修学旅行から帰って今日で 」

 

「ううううう」

 

「わ、わ、わかった。

 い、今食べる、食べるから、な、泣かないでくれ。

 生八ッ橋か、美味そうだな」

 

”ジー”

 

な、なにこの娘、そんなに見つめないでくれる。

わかったちゃんと食べるから。

ん~、ちょ、ちょっと緊張する。

 

「頂きます」

 

「はい、どうぞ、にこ♡」

 

”パク”

 

お~うまい、うまいな。

この米粉のもっちり感としっとりとした粒あんのバランスが何ともいい。

それにこのニッキの風味がなんとも。

 

「美味しいですか?」

 

「お、おう。

 めっちゃ美味いなこれ」

 

「それはそれはです。

 遠慮しないで全部食べてくださいね♡」

 

”パクパク”

 

「ふんふんふんふん♬」

 

一色なんかすごく機嫌良さそうなんだけど。

両手で頬杖ついて、足をブラブラさせてなにかハミングしてやがる。

さっきまで泣いていたのが信じられないほどニコニコしてやがる。

 

「ふんふんふん♬」

 

・・・・ま、まあいいか。

こんな姿みてると、本当に可愛いよな一色。

変にあざとくしなくても、地のままで十分可愛いと思うんだが。

ん? そういえば。

 

「なぁ、お前生徒会どうすんだ?」

 

「え?」

 

「あ、いやほら告示してあっただろ。

 たしか受付期間は2週間だから来週の金曜日までだろ」

 

「えっと今はまだ考え中なんですよ。

 あ、もし立候補するときは協力お願いしますね。

 よろしくです」

 

「ぷふぉー」

 

「ひゃ、汚い。

 顔についたじゃないですか! し、信じられない」

 

「お、おい、やっぱりそれが狙いだったんだろこの土産。

 ちくしょう、一瞬でもお前の好意を信じた俺が馬鹿だった。 

 俺は受験生だ、そんなことに関わっている時間はない。

 断じて断る!」

 

「先輩、生八ッ橋食べましたよね」

 

「い、いやだって、お前が食べろって言うから」

 

「食べましたよね」

 

「くそ!

 いくらだ、金、金払う」

 

「えっと~、ざっと見繕って1000万円で~す」

 

「は、はぁ! い、1000万だと!」

 

「そうですよ、先輩に食べてもらいたくて~

 頑張って京都の名店に並んで買ったんですよ~

 わ・た・し、頑張って並びました。

 頑張って並んだから足が棒になっちゃいました。

 だから慰謝料込みで1000万円です、えへ♡」

 

えへっじゃねえ。

じゃあこれ、この八ッ橋は1個100万円なの。

小町の時といい、お、俺の周りはインフレ、超インフレ状態じゃねぇか。

それに慰謝料ってなんだ。

 

「慰謝料って何ともなさそうじゃねえかその足」

 

「そんなことないです。

 ほらよく見てください、すこし太くなっちゃったんですよ~」

 

”チラッ”

 

お、おお~、こ、こいつスカートを。

だめだ見てはいけない、これは絶対に罠だ。

罠だ、罠だ、くそ、罠だとわかっていながら目が・・・・・

く~、これが生足、生足効果か~

生足とストッキング、俺の永遠のテーマだったんだが、

ついに今日決着がついた。

やっぱり生足、生足だ。

生足に勝るものはない!

 

”ジ―”

 

は、な、なにその満面の笑み、し、しまった。

 

「せんぱ~い、堪能されました?」

 

「・・・・・・は、はい。

 ありがとうございました」

 

「それでは、堪能料も含めて一億円、よろしくです」

 

「は、はぁー、い、一億だと」

 

「当たり前じゃないですか~

 こんなにかわいい女子の太ももを、それもこんなに間近で凝視できたんですから」

 

「・・・・・ぐっ、くそ。

 わかった、その時は協力する。

 だ、だが言っておくぞ。

 さっきも言った通り俺は受験生だ。

 放課後は塾に行かないといけない。

 だから、できる範囲内だ。

 できる範囲内での協力しかできねえからな」

 

「はい、それで十分です。

 その時はよろしくですせんぱい、えへ♡」

 

く、くそ、あざとすぎる。

舌をちょこっと出して、えへって。

ちょ~かわいいじゃねえか。

はぁ~今日は完敗だわ。

 

「・・・・・で、修学旅行は楽しかったか?

 どこに行ったんだ?」

 

「えっとですねー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃわたし新聞部もどります。

 稲村先輩、三ヶ木先輩、部活紹介の取材協力ありがとうございました」

 

「ああ、ご苦労さん」

 

「うん、ご苦労様。

 ・・・あ! 舞ちゃん、来月になるとわたし達もう生徒会じゃなくなるから。

 今までのような協力できないけど大丈夫?」

 

「あ、そうですね。

 う~ん、まぁなんとかなるっしょ。

 新聞部の男子共をこき使ってやりますから。

 それよりそっか最後か~。

 そうだ! 

 ね、三ヶ木先輩、最後の差し入れはチョ~ごーかーなやつで頼みますね」

 

「い、いや。

 あの~、今月はちょっといろいろあって、き、厳しいかなぁ~って。

 あっ稲村君、少しカンパしなさい!」

 

「はぁ? な、何で俺が」

 

「可愛い彼女のためでしょ。

 協力しなさい。」

 

「まて、蒔田は彼女なんかじゃねえ」

 

「え~、な、なんですか稲村先輩。

 や、やっぱりわたしとは遊びだったんですね。

 ひどい、わたしの身体が目的だったんだ」

 

「な、なにいってんだ蒔田!」

 

「稲村、それはひどいぞ。

 男ならちゃんと責任取れ」

 

「い、いや、本牧お前何を言って 」

 

「稲村先輩、稲村先輩がそんな人だとは思いませんでした。

 最低です」

 

「書記ちゃんまでもか~

 わ、わかった。

 カンパする、カンパすればいいんだろ。

 え~い、どうせならすっごい豪華な差し入れにしてやってくれ三ヶ木」

 

「やった~

 よ、稲村君太っ腹」

 

「稲村先輩だ~い好き」

 

「く、くそー

 さっさと部活行け、蒔田!」

 

「「あはははは」」

 

「それじゃ原稿頑張ってきます。

 それではで~す」

 

「あ、舞ちゃん待って。

 途中まで一緒に行こう。

 じゃ、わたしもそろそろゆきのん塾に行くね。

 あ、会長来たらよろしく言っておいて」

 

「ああ、わかった言っておく」

 

「三ヶ木さんまた明日」

 

「三ヶ木先輩、お疲れ様でした」

 

「うん、また明日ね」

 

”ガラガラ”

 

「じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

「いいなぁ~」

 

「ん、どうしたの舞ちゃん」

 

「生徒会って、いつもみんな仲いいんですね」

 

「そう?」

 

「そうですよ。

 文化際とか体育祭とか、隣で見ていてとても羨ましかったです。

 なんかみんながみんなのこと信頼してるって感じして」

 

「えへへ、そうかなぁ。

 でも最初のころは大変だったんだよ。

 みんな遠慮っていうか、疑心暗鬼っていうか、なんか言いたいことも言えない

 雰囲気でさ」

 

「そうなんですか?

 今の生徒会の雰囲気からは全然想像つかないです。

 稲村先輩なんか、三ヶ木・・・ジミ子・・・・エロ先輩!

 エロ先輩に振られたのに全然以前と変わらなくて。

 普通、グループの中でそんなことあったら、

 なんかギクシャクしておかしくなりますよ。

 でも今日もなんかみんなとってもいい雰囲気で」

 

「エロ先輩はいい加減やめろ!

 まだジミ子のほうがいいから。

 そっか、普通そうなるものだよね

 でも、わたしは稲村君のこと大好きだもん」

 

「えー!」

 

「あ、い、いや違った。

 稲村君のこと大事だもん」

 

「え゛ー」

 

「あ、ち、違う、そんなん意味じゃなくて。

 そ、そう、稲村君だけじゃなくて、本牧君も書記ちゃんも・・・会長も。

 みんなのことが大好きでとっても大事な仲間。

 きっとみんなも同じだと思う」

 

「いいなぁ~

 わたし、生徒会に入ればよかった」

 

「うぇ~」

 

「な、なんですか、そのめっちゃいやな顔!」

 

「だって、会長だけでも大変だったのに、舞ちゃんまでいたら」

 

「ひど!

 わたしを一色と同じにしないでください。

 絶対わたしのほうがちゃんとしていますから」

 

「そ、そう?」

 

「ひど!」

 

「あははは、冗談冗談」

 

「もう、ジミ子先輩は」

 

「あ、じゃわたしこっちだから」

 

「はい。

 ジミ子先輩、受験頑張ってくださいね」

 

「舞ちゃんも部活頑張ってね。

 じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

「生徒会か~

 はぁ~わたしもそんな仲間ほしいなぁ~」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「だって、もしそうなったらやばいじゃん。」

 

「そうだよ、柄沢君も生徒会に立候補してるんだから」

 

「ね、頑張って説得しよう」

 

「うん」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、来た来た」

 

「へ?」

 

「蒔田さん、ちょっとお話したいことがあって待ってたの。

 少しだけいい? 」

 

「え、何?

 あなた達、C組の子だったっけ。」

 

「あ、あのさ蒔田さん、今度の生徒会選挙で会長に立候補してほしいの」

 

「はぁ!

 な、なに突然。」

 

「ほら、うちのクラスの一色さん、いま生徒会の会長やってるんだけどね、

 本当はあれ、一年の時のクラスの子にはめられて立候補させられたの。

 わたし達同じクラスだったんだけど、つい悪乗りしちゃって」

 

「なんかみんなで一色さんを立候補させちゃえって雰囲気になってね」

 

「な、なにそれ。

 すごくひどくない?

 一色そんなんで会長になっちゃったの?」

 

「うん、わたし達も反省してね。

 それに一色さん会長になっちゃったから、サッカー部のマネージャーも

 できなくなっちゃって」

 

「そうそこなの。

 一色さん、葉山先輩に憧れてマネージャーになったのにね」

 

「それでさ、葉山先輩達も今の大会で負けたらもう引退でしょ。

 だからせめてその前にマネージャーに戻してあげたくて」

 

「他に誰も立候補する人いないと、一色さん責任感強いから

 マネージャー諦めてもう一回立候補すると思うの」

 

「だからお願い。

 今ならまだ最後の大会に間に合うと思うんだ。

 蒔田さん会長に立候補してくれない?

 推薦人なら必ずわたし達でなんとかするから」

 

「で、でもなんでわたしなの?」

 

「蒔田さんは、ほら2年生の中では人気投票2番目ですごく人気あるし。

 それに文実の子からも聞いたんだけど、委員長さんすごく頑張ってたって

 聞いてるし。

 ねっ、お願い!」

 

「一色、葉山先輩に憧れてたのかぁ。

 そういえば、ディスティニーで一緒にいるところ見たって聞いたことあるし、

 それにマラソン大会で葉山先輩も名前呼んでたし。

 ・・・・・生徒会かぁ~

 わたしやってみようかなぁ~」

 

「えっ、本当!

 ありがとう」

 

「ありがとう蒔田さん。

 これで一色さんもマネージャーに戻れるね」

 

「じゃあ、早速、推薦人集めてくる」

 

「ありがとう、蒔田さん」

 

「あ、う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「どうしょう。

 やっぱりわたしは先輩達をちゃんと送り出したい。

 想い出に残るような送別会もやりたいし、卒業式の送辞もしたい。

 でも、推薦人30人かぁ。

 ・・・それにわたしには今の生徒会以外に生徒会なんて」

 

”ワイワイ,ガヤガヤ”

 

「ん?」

 

「ね、ねぇ、聞いた?

 今度の生徒会選挙、蒔田さんが会長に立候補するんだって」

 

「へぇ~、蒔田さんならいいんじゃない。

 ほら文化祭の実行委員長頑張ってたじゃん」

 

「そうだね。

 あ、体育祭の時も一生懸命だったじゃん」

 

「俺、学校新聞の部活紹介コーナー結構好きなんだ」

 

「お前、記事の内容より蒔田さんの写真目当てだろ」

 

”ワイワイ,ガヤガヤ”

 

「え、蒔田が会長に立候補するんだ。

 そ、そうなんだ」

 

”トボトボトボ”

 

     ・

 

”ガラガラ”

 

「遅くなりま 」

 

「ほんと?」

 

「へぇ~、書記ちゃん立候補したんだ」

 

「あ、はい。

 あの、副会長やってみたいなぁって」

 

「「へぇ~副会長」」

 

”ニヤニヤ”

 

「な、なんですか!

 い、稲村先輩も三ヶ木先輩もお二人してそのいやらしい目は!」

 

「いや~、ね、稲村君」

 

「な、三ヶ木」

 

「も、もう。

 い、いいじゃないですか、ほっといてください」

 

「しょ、書記ちゃん、副会長に立候補したの?」

 

「あ、いろはちゃん。

 うん、立候補しちゃった。

 いろはちゃんも会長に立候補するんでしょ?」

 

「え? あ、あの 」

 

”ガラガラ”

 

「な、なぁ、みんな聞いたか!

 蒔田さん、会長に立候補したんだって」

 

「「はぁ!」」

 

「も、本牧、本当かそれ」

 

「い、いろはちゃん」

 

「あ、あの、わ、わたし・・・・・・・

 あっ、今日ちょっと用事があったの忘れてました。

 お先に失礼しますね」

 

”ダ―”

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「はぁ~、書記ちゃんも立候補したんだ。

 それに蒔田が会長に立候補したんなら、わたしは 」

 

「あっ、いろはちゃんだ。

 いろはちゃん、やっはろー」

 

「おう、一色」

 

「あ、結衣先輩、やっはろーさんです。

 今から塾ですか~

 ご苦労様です」

 

「うん、ありがとう」

 

「大変ですね結衣先輩。

 あ、それでですねこの前  」

 

”スタスタスタ”

 

あれ?

俺スルー、スルーなの?

いつの間にかステルスヒッキー発動してたっけ?

いや、絶対さっき目が合ってるよね。

しっかり俺のこと視認したよね君。

 

「お、おい」

 

「あ、先輩いたんですか?

 全然気がつかなかったです」

 

「・・・・・」

 

「え、えっと~、いろはちゃんお土産ありがとう」

 

「あ、いえいえ。

 結衣先輩にはいつもお世話になってますから」

 

「由比ヶ浜、おまえもなにか頼ま 」

 

”ぎゅ”

 

い、いてぇ。

一色の奴、思いっ切り尻を抓りやがった。

な、なにしやがるんだ。

 

「せんぱーい、美味しかったですか~生八ッ橋。

 にこ♡」

 

げ、こ、こえ~

顔は笑顔なのに、目だけマジ冷たい。

 

「は、はい、とっても美味しかったです」

 

「あはは、ヒッキーは八ッ橋貰ったんだ。

 あたしはこれ。

 ほらこの匂い袋、すごくリラックスできるいい匂いだよ。

 ほらほら」

 

「お、おう」

 

い、いや近い、そんなに押し付けなくても大丈夫だから。

胸、胸が腕に当たってるんだが。

ほら、むにゅむにゅって。

そ、それにお前ボタン外してるから、それだけ近寄られると

む、胸の谷間がだな、お、おおっ。

 

「ヒッキー、ね、いい感じでしょ」

 

「え、あ、お、おう、なかなかいい感じだ。

 そ、そのすごく柔らかそうで」

 

「え?」

 

「せ・ん・ぱ・い」

 

はっ、い、一色さん見てたの。

やめてそんな蔑ました目で見ないで。

お、男なら、し、仕方ないんだからね!

 

「ごほん!

 あ、そ、そうだ一色。

 そんなことよりお前、選挙 」

 

「あ、わ、わたし急いでいるのでお先に失礼します

 それではです。」

 

”シュパッ”

 

いや、その敬礼まだやってるの。

ま、まぁ、可愛いからいいんだけど。

今度俺もやってみようかなぁ

了解です♡とか

 

「ヒッキー、なんか顔キモい」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

「お疲れ様で~す」

 

”ガサガサ”

 

「あ、会長お疲れ様」

 

「美佳先輩、何やってんですか?」

 

「うん、ほら選挙終わったら、この机も空けないといけないから。

 それでちょっと綺麗にしておこうかなぁって。

 まぁ、なんだかんだいって、この机には1年の時からずっとお世話に

 なってたから」

 

「・・・わたし手伝いますね」

 

「あ、いいですよ。

 それより会長、引継ぎの資料できました?

 あと会長だけですよ」

 

「あっ・・・・・はい、今からやります」

 

「会長?

 ・・・・・会長は今度のせんき 」

 

「あ、美佳先輩これなんですこれ。

 ほらなんか綺麗にラッピングしてあるの」

 

「あ、これ?

 これは前の生徒会の副会長に返すはずだったハンカチ。

 つい返しそびれちゃって」

 

「どんな人だったんですか副会長さんって」

 

「うん、とっても優しい人でね。

 わたしが失敗して三増先輩に泣かされてると、いつも慰めてくれて。

 なんかお兄ちゃんみたいな人。

 なんか懐かしいなぁ~

 はぁ~、みんなに会いたくなっちゃった」

 

「美佳先輩、あの、前から聞きたかったんですけど」

 

「ん?」

 

「美佳先輩、美佳先輩は前の生徒会と今の生徒会を比べたりしますか?

 前の生徒会のほうがよかったな~とか」

 

「はい、それはいつも」

 

「え゛~、や、やっぱりそうだったんですか」

 

「あはは、冗談、冗談ですよ。

 あ、えっと~」

 

”ガサガサ”

 

「あ、あった。

 ほら、この写真憶えてます?」

 

「え? あ、これって」

 

「はい。

 前の生徒会の役員が初めて集まったときに撮った写真です。

 これはわたしにとって前の生徒会の大切な想い出。

 そしてね、この写真の裏。

 この会長が破れた写真を治してくれたセロテープ。

 これは会長との、うううん、今の生徒会での大切な想い出。

 前の生徒会の想い出に今の生徒会の想い出が加わって、わたしにとって

 二つの生徒会の大切な想い出になりました」

 

「美佳先輩」

 

「・・・・・あのね会長、正直比較したことはあるよ。

 なにこの会長、なんでこんなのがとか」

 

「・・・・や、やっぱりそんな風に」

 

「えへへ、ちいっとだけ。

 でも、それもこれも含めて今ではとっても大切な大切な想い出。

 わたしにとってどっちの生徒会も同じくらい大切なものだよ。

 今の生徒会、前の生徒会、それぞれにそれぞれの想い出がある。

 けして優劣つけられるものじゃない。」

 

「美佳先輩」

 

「ん゛ー! 

 でもやっぱ思い出したらムカつく。

 ほんと会長って自分勝手だったんだから!

 すごく振り回されたんだからね!」

 

「な、なんすか!

 美佳先輩だって。

 いつも自分勝手に暴走してたくせに」

 

「会長ほどじゃありませ~ん」

 

「わたしだって美佳先輩ほどじゃありませんよ~だ!」

 

「「む~」」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「「ぷ~、あはははは」」

 

「もう美佳先輩は」

 

「会長こそ」

 

”だき”

 

「か、会長?」

 

「美佳先輩、ありがとうござました」

 

「・・・・・・会長。

 寂しい、なんかとっても寂しいです。

 やっぱりこの場所はわたしにとって特別な場所」

 

”ぎゅ”

 

「わたしもですよ美佳先輩」

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労・・・さ・・・ま。

 す、すみませ~んお邪魔しました!」

 

”ダー”

 

「あ、ふ、副会長~」

 

「な、なにも見てませんからー

 ご、ご、ごゆっくり」

 

「い、いや違うんです副会長~

 はぁ、もう美佳先輩の所為ですからね!

 ど、どうすんですか、副会長完全に勘違いしてるじゃないですか」

 

「だ、だって~」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ビュ~、ビュ~

 

はぁ~、さすがにちょっと寒くなってきた。

今日はずっと鉛色の空で、すっかり冬って感じだ。

 

”パコ~ン、パコ~ン”

 

だが戸塚がいる限り、あの天使の舞が観れる限り俺がこの場所をはなれ

 

”ピタ”

 

「うぉー、あちー」

 

な、なに、なにが起こって・・・

頬に急に熱いものが。

 

「い、一色!

 またしてもお前か」

 

「な、なんですかまたしてもって。

 ま、まあいいです。

 あの先輩、はいこれどうぞ。

 先輩の大好きなマッ缶です。

 わたしみたいに温かくてあま~いですよ~」

 

「おお、サン・・・・・いらん」

 

「な、何でですか!」

 

「一応聞く。

 なんだ、なにが狙いだ」

 

「え? あ、あのですね。

 え~と、わたし会長に立候補することにしました。

 それで、約束通り手伝ってくださいね、先輩♡」

 

やっぱりか!

やっぱりこのマッ缶はそれが狙いか。

確かに前回、一色の誘惑に負けて協力すると言ってしまったが、

あの時とは状況が変わった。

聞けば蒔田が会長に立候補したっていうじゃねえか。

だとすれば間違いなく選挙戦になる。

そんな面倒なことに関わるわけにはいかない。

 

「断る、断じて断る!

 あの時とは状況が変わった。」

 

「一億円、生八ッ橋、生足、スケベ」

 

「・・・・・こ、こ、断る」

 

「あ、それと、この前は結衣先輩のどこみてたんですか~。

 はっ! ま、まさか結衣先輩の豊満な胸の谷間とか。

 うわ~最低、信じられないです~

 結衣先輩言っちゃおうかなぁ~

 ね、せ・ん・ぱい♡」

 

「ぐっ」

 

「さっ先輩、冷めないうちにどうぞです」

 

「はぁ~」

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

「・・・・・俺も受験生だ。

 前も言ったが、あんまり期待されてもムリだぞ」

 

「はい。

 ありがとうございます、せんぱ~い♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

「は、はぁ!

 お、お、お、おい、一色、今なんて言った?

 推薦人、俺一人だと!」

 

「えっと~、実はそうなんです」

 

「いつだ?」

 

「へ?」

 

「立候補の締め切りはいつだって聞いているんだ」

 

「えっと~、確か今週の金曜日の完全下校時間までだったと思いますよ」

 

いや、思いますよじゃねえ。

間違いなく金曜日だ。

こいつマジで立候補しようと思っているのか?

あと4日。

今日の放課後を入れて4日だ。

この4日で30人もの推薦人を集めろっというのか。

 

「よろしくです、先輩」

 

「い、いやよろしくってお前。

 な、クラスで推薦してくれそうな奴いないのか?」

 

「それがですね、クラスの子にその話をしようとすると、なぜかみんな離れて

 行っちゃうんです。」

 

「お前もしかしてクラスの嫌われ者なのか?」

 

「はぁ? ち、違いますよ、そんなわけないです。

 これでも一応人気投票、総武高女子2位なんですからね!」

 

まぁ確かにそうなんだが。

しっかしマズイな。

クラスの奴らの協力得られないのか?

それならこっちもそれなりの覚悟が必要だ。

だからはっきりしておかなければならない。

 

「な、一色、お前なんで会長に立候補したいって気になったんだ」

 

「・・・えっとですね、わたし先輩をはじめ結構3年生の先輩方に

 お世話になってきたじゃないですか。

 だから、卒業生を送る会とか卒業式とか、ちゃんとわたしの手で送らせて

 もらわなければいけないんです。

 わたしはそうしたいんです」 

 

「そ、そうか」

 

「・・・・・それとですね、あの人の居場所を守りたいんです。

 あの人すごく寂しがり屋ですから」

 

「お前、あいつにまた庶務やらせるのか?

 さすがにそれは」

 

「ち、違いますよ。

 庶務なんてやらせるわけないじゃないですか」

 

「まぁお前の想いはわかった。

 一色、とりあえず知り合いのやつを当たってみよう。

 放課後、放課後もう一度集合だ。

 塾行くまでの時間しかないがいいな。」

 

「はい、先輩。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「はぁ~義輝君しつこかった。

 もしかして隠してるのバレたかなぁ。

 どうしょう、あんまりぐずぐずしている時間はない。

 他の人に知られたら面倒だし」

 

「ジミ子先輩!」

 

「あ、舞ちゃん。」

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「え、あ、うん、いいよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いろはす~、また生徒会やんべ?

 マネージャに戻ってくるのかと思ってたのによ~」

 

「はは、まぁ、そういうな戸部。

 わかったよいろは。

 俺は推薦人になるよ。

 戸部、お前もいいよな」

 

「うぃーす。

 隼人君が言うのならそれでいいべ」

 

「ありがとうございます、葉山先輩、戸部先輩。

 あ、決勝トーナメント、必ず応援行きますね」

 

「いや、試合の日程と選挙期間は被るだろ、無理しなくていい。

 それよりこれは個人的なことだから、俺から他の部員のみんなには言えない。

 わかるよな比企谷」

 

確かに部長の葉山が言うと強制的と捉えられることになるかもしれない。

部員なかには、マネージャーでありながら少しも部活に顔を出さない一色のことを

快く思っていないやつもいるのだろう。

今度の大会はサッカー部にとって、いや葉山達3年生にとっては最後の大会だ。

今どんなささいなことあろうとも、部内の雰囲気を悪くするようなことは

避けたいということなのだろう。

 

「ああ、わかってる。

 勝手にあたらせてもらう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、おい、お前どれだけ人望ないんだ」

 

「仕方ないですよ。

 会長のお仕事忙しくて、マネージャーほとんどやれてないんですから」

 

・・・いや、忙しいってその割には、お前結構奉仕部に来てなかった?

そのまま居着いちゃうかと思うぐらい。

ま、まあそれはいいとして。

一色がマネージャーやっているところを知らない一年は仕方ないとして、

2年や3年から一人も推薦人を得られなかったのは痛い。

人気投票2位の一色ブランドがあれば、まぁ何とかなるんじゃねえかと

思った俺の考えは些か甘かったのかもしれない。

 

「仕方ねえ、それよりほら次行くぞ。」

 

     ・

 

”ガラガラ”

 

「チ~ス」

 

「比企谷君、入るときはノックをしなさい」

 

「ああ、すまん・・・・・・って、お、おい三ヶ木、お前何してるんだ?」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木?」

 

「・・・・・」

 

・・・・・そ、そっか。

やっぱりそうなんだよな。

三ヶ木は目の前のプリントをじっと見つめて、俺のほうを見てくれない。

わかっていたんだ。

あの日以来、俺はずっと避けられていることを。

それでも、俺は、俺は

 

「比企谷君、何か用があったのではなくて?

 それにあなた塾に行ったのではなかったのね」

 

「・・・・・まぁちょっとな」

 

「こんにちわです雪ノ下先輩。

 あ、先輩知らなかったんですか?

 美佳先輩は生徒会のあと、こうやって雪ノ下先輩に勉強を

 見て頂いているんですよ」

 

「そうか」

 

「比企谷君、一色さん、それで何の用かしら?」

 

「あ、ああ。

 実はな一色が会長に立候補することになってな。

 いま推薦人を集めているところなんだ。

 雪ノ下、それと・・・三ヶ木、お前たちも推薦人になってくれないか?」

 

「お願いします雪ノ下先輩、美佳先輩」

 

「あら、立候補の届け出の締め切りは金曜日でなかったかしら?

 まだ推薦人集めてるって、間に合うの?

 まぁいいわ、一色さんなら喜んで推薦人になるわ」

 

「ありがとうございます、雪ノ下先輩」

 

「三ヶ木、お前もお願いしていいか?」

 

「・・・・・」

 

「あ、あの~美佳先輩?」

 

「会長、ごめんなさい。

 わたしは推薦人になれない」

 

「「えっ」」

 

「ごめんね会長。

 わたし、舞ちゃんに応援演説頼まれてて。

 会長、立候補しないのかと思ってたから。

 だから 」

 

「・・・・・・そ、そうですか。

 それなら仕方ないですね。

 大丈夫です美佳先輩、気になさらないでください。

 ほら先輩、次に行きますよ」

 

「・・・・・あ、ああ。

 すまない、邪魔したな」

 

     ・

 

”ガタン”

 

それと確かあいつもこれだったな。

 

”ガタン”

 

あちっ。

ふぅ~、今日は塾に行くのやめておくか。

一色結構参ってるみたいだからな。

ああやって落ち込んでベンチに座っている一色を、このまま置いて行くわけ

にはいかない。

 

”スタスタ”

 

「結局生徒会、駄目だったな」

 

「仕方ないです。

 副会長は書記ちゃんの応援だし、稲村先輩は・・・・無理言えませんから」

 

「横、いいか?」

 

「あ、はい。」

 

”どさ”

 

「ミルクティーでよかったか?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「一億だ」

 

「ふぇ~、か、返します。

 まだ飲んでませんから」

 

「冗談だ、ほら温まるぞ」

 

「はい」

 

”カチャ、ゴクゴクゴク”

 

ふ~、よりによって相手が蒔田だからな。

これが他の奴なら、稲村も・・・三ヶ木も頼りになるのだが。

あいつらがいれば俺なんかいらないくらいだ。

それが今回、一色にとって頼れるべき生徒会の仲間が誰も頼れない。

まして三ヶ木においては敵か。

ダメージ大きいよな。

 

「大丈夫か一色?」

 

”ちょこん”

 

「お、おい」

 

「先輩、少しだけ肩貸してくれませんか?」

 

「・・・・・ああ」

 

「正直、ちょっと辛かったです今日。

 わたし、元気無くなっちゃいました。

 先輩、すこし力分けて下さい」

 

「一色」

 

”なでなで”

 

「まだ。時間はある。

 大丈夫だ、俺が何とかしてやる」

 

「・・・・・ありがとうございます先輩。

 なんだか先輩にこうやって頭撫でられてると、すごく気持ちが安らぎます」

 

「そっか」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・ということなんだ。

 由比ヶ浜、すまんがお前も推薦人になってくれないか?」

 

「それで今日は塾に来なかったんだ。

 ヒッキーらしいね。

 うんいいよ、あたし推薦人になる」

 

「サンキュ。

 あ、あとそれとだな 」

 

「わかってる。

 優美子とか姫菜にも聞いてみるね」

 

「ああ、すまん頼む」

 

「うん。

 ・・・・・ヒッキ―あのね、今度 」

 

「ん?」

 

「え、えっと、あのね・・・今度一緒に早応大行かない?

 あたし、まだ行ったことないから一度見ておきたいなぁって」

 

「ん、ああそうだな。

 まあなんだ、今度適当にな」

 

「本当! う、うん絶対にね。

 お、お休みヒッキー」

 

「お、おう、お休み。

 また明日な」

 

「うん、また明日学校でね」

 

ふぅ~、戸塚と由比ヶ浜はOKっと。

あと他には・・・・・・ち、しゃあねえな。

 

”カシャカシャ”

 

「我だ!」

 

「いやお前出るのはぇ~て。

 今何時だと思うんだ。

 もしかして一日中寝るまでずっとスマホの画面見てるのか?」

 

「し、失敬な。

 我はそれほど暇人ではない。

 お告げだ、お告げがあったのだ。

 ウトウトした時にどこからともなく地味な感じの眼鏡をかけた天使が現れて、

 まもなく貴様から我に助けを求める電話がかかってくると告げていったのだ。

 で、なにがあったのだ?

 貴様とは主従の間柄。

 主人として下僕の願い事の一つぐらい聞いてやろうではないか」

 

”プー、プー”

 

ち、やっぱりあいつはいい。

めんどくさい。

それに今の俺に、地味と眼鏡は禁止キーワードだ。

マジ答える。

 

”ブ~、ブ~”

 

げ、電話かけてきやがった。

無視だ無視!

 

ブ~、ブ~、ブ~、ブ~、ブ~

 

ええい、しつこい!

 

”カシャカシャ”

 

「酷い酷いではないか八幡!

 何ゆえ毎度毎度、いきなり電話を切るのだ」

 

「うっせ。

 お前ちょ~しつこいぞ。

 まあいい仕方ねぇ、電話出てしまったからな。

 材木座、お前の名前貸せ」

 

「は、なんだ藪からスティックに」

 

”プー、プー”

 

さてマジで他に誰かいないか。

 

”ブ~、ブ~”

 

ち、くそ。

 

”カシャカシャ”

 

「だ、だから何ゆえ電話を切るのだ」

 

「うっせ。

 一色が生徒会会長に立候補するんだが推薦人が足りねぇんだ。

 お前の名前、書いておくからな」

 

「なんだそんなことか。

 構わぬ、貴様と我は古き戦友、仲間ではないか」

 

「おい、主従の関係っていってたんじゃなぇか?

 まぁいい、すまんな」

 

「そんな小さいこと気にするな。

 なぁ、それよりも八幡。

 我も貴様に聞きたいことがあったのだが」

 

「ん、なんだ?」

 

「最近なんだが、毎日昼休みに我の魂の安息場に三ヶ木女子が来ててだな」

 

「安息場? ああ図書室な」

 

ぐっ、こいつ禁止キーワード通り越してマジ直じゃねえか。

なんだ三ヶ木、昼休みに教室に行ってもいないと思ったら図書室にいたのか。

俺を避けてずっと図書室に行ってたのか。

 

「ま、そ、そうともいう。

 それでだな、いつもアメリカの紹介本ばかり読んでおるのだ。

 同じ本ばかりをな。

 しかもため息をつきながら真剣なまなざしでの」

 

「アメリカ?」

 

「そう、アメリカだ。

 それで我がアメリカにでも行くのかと聞いてみたのだが、

 三ヶ木女子はニコニコ笑うだけで何も答えてくれぬ。

 貴様は何か知らぬか?」

 

「い、いや何も聞いてない」

 

俺が何か聞いているハズなどない

なぜならあの日以来話していないのだからな。

今日も結局のところ俺とは一言も話をしてくれなかった。

アメリカ?

なんだ三ヶ木はアメリカ旅行に行きたかったのか?

あいつからそんな話聞いたことがない。

そういえば、どこか行こうとかそんな話したことなかったな。

あいつのこと知っている気でいて何も知らなかったんだ俺。

 

「そうか。

 貴様になら何か話してるかと思ったのだがな。

 まぁ期待せずに待っておる故、何かわかったらよろしく頼む」

 

「ああ」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「ふあ~」

 

昨日は一色にはああいったが結構やばい。

考えれば考えるほどやばすぎて、全然眠れなかった。

元々、俺に人を集めるスキルは無い。

それでも一色のブランドならって思ってたんだがな。

結局、葉山、戸部、雪ノ下、川越、戸塚、材木座、戸塚

戸塚二人いる。

戸塚ならいいだろう、なんなら全員戸塚でもいい。

はぁ~戸塚に囲まれて暮らして~

 

「ヒッキーやっはろ~

 あ、また顔キモくなってる」

 

「あ、お、おう。

 まぁいつもの顔だ、気にするな。

 それよりどうだった?」

 

「うん、あのね。

 えっと優美子と姫菜、大和君は推薦人okだって」

 

「大岡は?」

 

「あ、なんか大岡君はなんか駄目だった。

 ごめんね」

 

「そ、そっか。

 いや、すまない面倒かけた」

 

「でもどう、人数何とかなりそう?」

 

「ちょっと厳しいな。

 ほらここに書き出した人数に俺とお前を入れて11人だ」

 

「そっか。

 あ、生徒会は?

 生徒会の人の名前って誰も書いてないじゃん」

 

「生徒会はダメだ」

 

「え、うそ!」

 

「本牧は書記ちゃんの推薦人、稲村は、まぁ中立を選んだ」

 

「美佳っち、美佳っちは?」

 

「・・・あいつは蒔田派だ」

 

「え、うそ。

 そ、そうなんだ」

 

正直、やっぱり戦力不足だ。

まぁないものは仕方がねぇ。

さてどうするか。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴクゴクゴク”

 

「ふぅ~」

 

マッ缶うめぇ~

脳みそに糖質が染み渡るようだ。

何でも糖質が不足すると脳細胞間のコミュニケーションが損なわれるという。

ならば俺はいつも糖質が不足しているのだろうか。

だから俺がマッ缶を飲み続けるのは間違っていない。

・・・・・さ、さてっと。

 

放課後、一色はもう一度クラスの連中に推薦人になってもらえないか頼みに行くと

言ってたな。

だが、昨日の今日で状況が変わるとは思えん。

 

だとすれば、味方がいないのだとすれば、敵の敵を味方にするしかない。

蒔田が会長になることによって不利益を被るもの。

そこに当たってみるか。

 

”パコ~ン、パコ~ン”

 

それにしても今日も天使の舞が観れて幸せだ。

マジ心が救われる。

戸塚は大学行ってもテニス続けるんだろうなぁ。

俺もあの時、戸塚の依頼に応えてテニス部に入っていれば、

今頃戸塚と二人で・・・

おお、戸塚がこっち見て手を振ってる。

天使! マジ天使だ戸塚~

・・・テニス部か、そうだな、あいつにも頼んでみるか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷、断る」

 

「な、なぜだ瀬谷。

 新聞部にとっても悪い話ではないはずだ。

 蒔田の部活紹介は学校新聞の目玉になってるんだろ。

 あいつが生徒会会長になって抜けられたら、新聞部としても痛手なはずだ。

 だから 」

 

「比企谷、確かに蒔田に抜けられるのはすごく痛い。

 だけど、蒔田はここまで一緒にやってきた仲間なんだ。

 初めは何だこの女はって思ってたけど、今では大事な仲間だ。

 仲間が会長をやりたいって言うのなら、俺たちは喜んで応援してやりたい。

 お前ならわかるはずだと思うが」

 

「・・・・・・・そうだな。

 すまん、悪かった忘れてくれるとありがたい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「断る!」

 

「は、な、なんでだ。

 推薦人に名前貸してくれるだけでいいんだ。

 お前ひとり分でもいい」

 

「お前に協力なんかしない。」

 

「な、なぜだ」

 

「・・・自分の胸に聞いてみるんだな」

 

「自分の胸にだと?」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい刈宿」

 

     ・

     ・

     ・

 

どうする。

新聞部もテニス部も協力得られなかった。

くそ、マジやばいな。

こうなったら一色が頼みだが。

 

”タッタッタッ“

 

「せんぱ~い」

 

「お、おう一色どうだった?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ。

 体育委員長さんと文実の時の広報部長さん、お二人にOKもらえました」

 

「お、おうそうか。

 で、クラスのほうはどうだったんだ」

 

「・・・・・」

 

「ダメだったのか」

 

「はい、おかしいんですよ~

 やっぱりその話をしようとするとなんか避けられて」

 

おかしい、どう考えてもおかしい。

まぁ女子の反応はわかるとして、一色は男子には結構人気があったはずだ。

それが推薦人になることを避けられているというのは何かあるのか?

 

「先輩?」

 

「あ、ああ。

 これで13人だな。

 あと残り17人」

 

どうする。

さすがに知り合いに頼むってのはそろそろ限界かもしれん。

俺、そんなに知り合いいねぇ~し。

だとすれば残る手は。

 

「なぁ一色、生徒会室に入れるか?

 まだほかの奴らいたりするのか?」

 

「え、あ、大丈夫だと思いますよ

 今はあまりやることもないですし、受験とかありますから

 早めに切り上げているはずですよ。

 書記ちゃんも選挙の準備とかありますし」

 

「そうか。

 それなら生徒会室行くぞ」

 

「あ、じゃあ、鍵借りてきますね」

 

     ・

 

”ペラペラ”

 

「先輩、なにしてるんですか?」

 

「利益誘導だ。

 一色の生徒会になって利益を享受したやつらを探してるんだ。

 そういえばお前、今年部費の全面見直ししたな

 それで恩恵をあずかったのは」

 

”パラパラ”

 

「柔道部とバスケ部と演劇部か。

 一色、明日の放課後はこいつらのとこ当たってみるぞ」

 

「あ、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま」

 

「あ、お兄ちゃんおかえり。

 ご飯できてるからさっさと食べちゃって」

 

「・・・・・」

 

「ん? どうしたんお兄ちゃん」

 

そうだ。

小町がいた。

俺には世界一の妹がいたんだ。

小町とそのコミュを頼れば、10人や20人は問題ではない。

なぜ気が付かなかったんだ。

全く灯台もと暗しとはこのことだ。

 

「な、なぁ小町。

 今度の生徒会選挙だがな」

 

「あ、お兄ちゃん。

 お兄ちゃんも小町の応援よろしくね」

 

「は、はぁ?

 何のことだ」

 

「え、マジ? 今のマジ?

 この前、小町生徒会書記に立候補したって言ったよね。

 うへぇ~忘れてんだ。

 小町的にポイントチョ~低い」

 

「・・・・・お前立候補してたの」

 

「お兄ちゃん、晩ご飯抜き」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

まずい、柔道部、バスケ部、演劇部の奴らに来年度の部費見直しの

脅しをかけて、なんとか合計20人まで推薦人を確保できたが、

まだあと10人も足りねぇ。

部活紹介の取材もあって、結構蒔田の支持者多いんだよな。

くそ、締め切り明日かぁ。

 

「先輩」

 

一色、そんな心配そうな顔するな。

・・・だがこんな感じの一色もいいもんだな。

この表情を見ていると是が非でも何とかしたくなる。

 

”なでなで”

 

「心配するな一色。

 お兄ちゃんが何とかしてやる」

 

「は、はぁ! な、なんですかそれ!」

 

「あ、い、いやすまん。

 ついお前見てたら頭を撫でたくなってな。

 それにほら、お前頭撫でられると安心するんだったろ」

 

やば、思わずまた一色の頭な撫でてしまった。

え、げ、一色、めっちゃ怒ってる。

だが、な、なぜだ、頭なぜたら落ち着くんじゃなかったのか?

やばい、いつもの時の2倍、いや3倍はほっぺが膨れてる。

 

「あ、あの、い、一色?」

 

「せ、先輩のバカー!!」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい、一色」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ゆきのん、今日も勉強見てくれてありがと。」

 

「最近、英語の方の成績も上がっているようね。

 これも麻緒さんのおかげかしら。

 この調子で頑張りなさい」

 

「だって、麻緒さん家では日本語禁止って言うんだよ。

 もし英語間違ったり日本語で喋ったりしたら、その都度百円も

 貯金させられるんだから。

 とうちゃんなんて麻緒さん帰るまで一言も喋らないし」

 

「そ、そう、大変そうね」

 

「大変だよ。

 でも頑張るね、折角ゆきのんや麻緒さんが勉強見てくれてるんだから。

 それじゃまた明日ね。」

 

「ええ、また明日」

 

”スタスタスタ”

 

「へへ、ゆきのんに褒められちゃった。

 この調子で頑張らないと。

 ・・・でもジャリっ娘大丈夫かなぁ。

 立候補の締め切り、もう明日だよね。

 推薦人集まったかなぁ。

 もちっとはやく教えてくれてたら、せめて推薦人集めるぐらい手伝えたのに」

 

「ね、聞いた?

 一色のやつやっぱり会長に立候補しようとしてるんだって」

 

”ヒソヒソ”

 

「うん? あの子達が話してるのジャリっ娘のことだよね。

 なんだろう?」

 

”ソ~”

 

「うん、聞いた聞いた。」

 

「ねぇ、絶対一色を会長にしたら駄目よ。

 折角、蒔田さん担ぎ出したんだから」

 

「そうそう、それに柄沢君も副会長に立候補してるんだから、同じ生徒会になったら

 絶対柄沢君とられちゃうよ」

 

「うん。

 みんな力貸してね」

 

「任せといて。

 明日投票の締め切りだから、みんな今まで通りちゃんと一色の周りキープね。

 絶対一人にしたら駄目だよ」

 

「そうそう、みんなで周りを囲んで、男子達が推薦人にならないように

 圧力かけなくちゃ。」

 

”スタスタスタ”

 

「は、はぁ!

 な、なに言ってるのあの人たち。

 推薦人、集めさせないようにしてるんだ。

 比企谷君‥・・・ジャリっ娘に伝えないと」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

「な、なぁ、一色機嫌直せって」

 

「知りません!」

 

「ほ、ほらミルクティー、ミルクティー買ってやるから」

 

「な! そ、そんなものでわたしが釣られるとと思ってるんですか?」

 

「だめか?」

 

「・・・反省しているようですし、仕方ないですね釣られてあげます。

 早く奢ってください、えへ♡」

 

「お、おう」

 

な、なにこの笑顔、ちょ~かわいい。

そんなにミルクティ―好きなのねこの娘。

まぁ機嫌治ってよかった。

 

”ガタン”

 

「ほら」

 

「ありがとうございま~す。」 

 

”ゴクゴク”

 

「ぷはぁ~、やっぱりミルクティ―ですね、先輩」

 

「いや、マッ缶だろ

 この甘さは他の追従を許さん」

 

「それ、甘すぎですから。

 先輩だけですよ、そんな甘いの好きなの。

 それより先輩、明日どうしましょう」

 

「そうだな」

 

あと十人か。

立候補の締め切りまで時間ねえし、実際打つ手がないんだよな。

・・・・・正攻法では。

 

「まぁ、明日はもう一度生徒会に関係したやつ片っ端から当たってみよう。」

 

「それで大丈夫でしょか?」

 

「心配するな。

 いざっていうときは俺に考えがある」

 

「考え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、どこにいるんだろう?

 自転車あったからまだ帰っていないと思うけど」

 

「はぁ!!」

 

「な、なに今の声、ジャリっ娘?

 えっと、あ、いた!

 でもなんか変な雰囲気。

 何かあったのかなぁ?」

 

”スタスタスタ”

 

「そんなの駄目ですよ」

 

「大丈夫だ一色。

 推薦人なんて誰も確認なんかしねえ。

 ちゃんと人数分あるかどうかを確認するだけだ。

 去年お前が会長に立候補させられた時も、お前が言うまで誰も気がつかなかった

 じゃねえか。

 立候補者に対してもそんなもんなんだ。

 推薦人ならなおさら気にするやつはいねえ」

 

「で、でも先輩。」

 

「まぁ、これは明日残りの10人が集められなかったときの方法だ。

 あとな、万一なんかあった時はお前は知らないことにしろ。

 これは俺が勝手にすることだ。

 いいな」

 

「先輩、明日絶対10人に集めますから」

 

無理だ一色。

常識的に明日一日で10人は集められない。

もしそんなに簡単に集められるものであるなら、今日までに集められてるはずだ。

なぁに一度受理されてしまえばこっちのもんだ。

選挙管理委員会も自らの不手際を公にはするまい。

だから締め切りギリギリに持ち込んでさっさと受理させてしまおう。

まあ万が一の時も一色は被害者だ。

こいつにダメージは絶対与えない。

そうこれでいい。

 

”スタスタスタ”

 

「10人、あと10人も集めなきゃいけないんだ。

 もし集められないと比企谷君が・・・・・」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

ダメだった、やっぱりそうは簡単にいかねえか。

まあこれでなんとかなるぐらいだったら、とっくになんとか

なっているってことだ。

締め切りまでもう30分もないじゃねえか。

やっぱり他に手はない。

 

「先輩、やっぱり駄目だったです。

 わたし本当に信用されてなかったんですね」

 

そんなことはない。

お前は立派な会長だ。

今まで生徒会はちゃんとお前を中心に機能してきたじゃねえか

今回は少し時間が足りなかっただけだ。

こいつなら次の会長も安心して任せられるはずだ。

それに俺はお前の想いかなえてやりたい。

だから

 

「なぁ一色、仕方ねぇ。

 やっぱり残り10人、誰でもいいから名前書いて提出するぞ」

 

「・・・・・」

 

「いいから推薦人名簿かせ。

 俺が書く」

 

「せ、先輩。

 ・・・・・・だ、駄目です、やっぱりそれはダメです。

 わたし、それくらいなら立候補は 」

 

”ガラガラ”

 

「比企谷、いいか?」

 

「瀬谷」

 

”バサ”

 

「推薦人の名簿だ。

 時間がなかったのでな、新聞部全員とまではいかないがもらえた部員の名前だ。

 8人分ある、これ使ってくれ」

 

「瀬谷。

 だがなんで、どうしてだ。」

 

「・・・選挙の協力はできないからな。

 急がないと締め切りまで時間ないんじゃないか?」

 

「あ、ああ、わかってる。

 すまない瀬谷。」

 

「じゃあ。」

 

”スタスタスタ”

 

「せ、先輩」

 

「ああ、あと二人だ。

 一色、あと二人何とかするぞ。

 電話だ電話。

 知ってるやつに電話して、少し強引でも推薦人になってもらうぞ」

 

「はい」

 

”ガラガラ”

 

「今から電話しても無理だろ。

 締め切りまであと何分あると思うんだ」

 

「か、刈宿!」

 

”バサ”

 

「テニス部で推薦人の了解をもらった部員の名前だ。

 全部で10人分ある。

 これで足りるんだろう」

 

「刈宿」

 

「じゃあな。」

 

「ま、まて刈宿!

 なんでだ、なんで急に」

 

「・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「一色、取り合えず推薦人名簿の提出の準備しろ」

 

「あ、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「これで良かったのかい三ヶ木さん」

 

「うん、ありがと瀬谷君」

 

「いいって。

 三ヶ木さんにはいつも差し入れとかお世話になってるからね。

 この前も豪華な差し入れ貰ったばかりだし。

 でもさっき言ってた件、蒔田には言っておかなくていいのか?」

 

「うううん、まだ言えない。

 だって証拠がないもん。

 わたしが聞いたってだけでは証拠にならない。

 あ、瀬谷君もこの件はまだ内緒にしてね」

 

「ああ、わかってる

 それじゃあ」

 

「うん、またね」

 

     ・

     ・

     ・

 

おかしい。

瀬谷にしろ刈宿にしろ、あれだけきっぱりと断られてたのに、

なんで急に手のひらを返したように協力してくれたんだ。

瀬谷と刈宿、あいつらを結ぶ何かが。

・・・・・・・はっ!

 

「すまん一色、その名簿一人で提出してきてくれ」

 

”ダー”

 

「え? あ、せ、先輩?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お~い刈宿~、今からみんなでららぽ行くけどお前どうする?」

 

「あ、俺今日疲れたから帰るわ」

 

「そっか、じゃあまたな」

 

「おう」

 

「あ、それと彼女さんによろしくな」

 

「ば、ばっか、うっせ」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「彼女っか」

 

    ・

 

”タッタッタッ”

 

確かあいつも自転車通学のはずだ。

一年の自転車置き場はこの奥だがまだ帰ってないか。

完全下校時間、過ぎてるからな。

・・・・・だけどいたらどうする気だ。

ただ確認したいんだ俺。

ん、あ、いた。

 

「おい、刈宿!」

 

「・・・・・ちっ!」

 

”スタスタスタ”

 

「はぁはぁはぁ、ちょ、ちょっと待て刈宿」

 

「・・・何の用だ」

 

「ひとつお前に聞きたいことがある。

 なぜだ、なぜ急に手伝ってくれたんだ」

 

「どうでもいいだろう」

 

「よくねぇ。

 協力できねぇって言ってたお前が、いやお前だけじゃない、

 瀬谷までも急に話を合わせたように推薦人の名簿持ってきた。

 なぜだ」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木だな」

 

「・・・・・」

 

「だがそれがわからない。

 おかしいだろ!

 俺はあいつに嫌われてて、ずっと避けられていたのに。

 だのになぜだ、なぜあいつは・・・・・

 そ、そうか一色、一色のためにあいつは 」

 

”ぐぃ”

 

「ぐ、く、くるしい。

 やめろ刈宿」

 

「俺はな、お前のそういうところが気に食わねえんだ」

 

「な、なんのことだ」

 

「あの人、美佳さんはな 」

 

『・・・刈宿君、人を好きになるってこんなに辛いの?』

 

「くそ!

 美佳さんがあんたのこと嫌いになるわけないだろうが。

 そんなこと出来るぐらいなら、あんなに辛い思いしなくてすんだんだ。

 あの名簿だってな、あんたのこと心配して美佳さんがテニス部の部員一人一人に

 頭下げてお願いして集めたんだよ」

 

「三ヶ木が頭下げて。

 お、俺のこと心配してだと」

 

「いいかよく聞け。

 前に言ったよな、今度美佳さんを泣かせるようなことがあったら、俺が美佳さんを

 奪うって。

 あんたのことなんか俺が忘れさせてやる。

 お前になんか美佳さんを渡さない」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はっくちょん!

 ふぇ~、やばいまた風邪ひいたかなぁ。

 それとも誰か噂してるのかも」

 

「Bless you。

 はい美佳」

 

「え? 麻緒さん何で貯金箱を」

 

「百円」

 

「な、何で!」

 

「くしゃみの時はAhchooっていいなさい!」

 

「い、いやだって~

 そんなの無理ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までありがとさまです。

何とかいろはす立候補できました。
修学旅行と今回といろはすフアンの方ごめんなさいです。
どうしてもテレビシリーズの昼食風景が頭をよぎり、いろはすぼっち疑惑が。
(原作では数人の友人といたはずなんだけど)

さて次話、蒔田との宿命の対決っす、勝者はどっちだ。

あ、そういえば13巻そろそろかと。
やばい、また更新遅れそう。
き、気をつけますっす。
ではでは、また次話読んでいただけたらです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会選挙編 中編 -つかの間の・・・ー

いつもありがとうございます。
前回ようやく選挙戦に立候補できたいろはす。
今話からいよいよ選挙戦開始です。
でもその前に・・・ちょっとだけ。

ではよろしくお願いします。


「う~ん、やっと塾終わった~」

 

”ぽよ~ん”

 

お、おお!

 

”ゴクッ”

 

こいつわかっててやってるんじゃないだろうな。

いや、こいつは無意識にやっているから一層たちが悪い。

そんな体のラインがわかるようなニット着て、俺の目の前で背伸びするん

じゃない。

いやでも胸に目が行くじゃねえか。

だ、だめだ、どうしても目が、目がその一点から離れない。

恐るべきガハマさんの万乳引力。

 

「あ、そうだ。

 ね、ヒッキー♡」

 

「あ、は、はい、ありがとうございました」

 

「え、ありがとうって?」

 

「あ、い、いやなんでもない。

 で、な、な、なんだ」

 

「ん?

 あ、あのね、ヒッキー今日午後からは塾無いよね。

 よかったらご飯、お昼ご飯一緒にどうかなぁ~って。

 それで、その後にららぽで買い物とかさ」

 

「あ、いや、すまん。

 今日は今から行くところがあるんだ」

 

「そっか。

 ・・・・・うんわかった。

 じゃまた今度ね。

 あ、早応大の件、忘れないでね」

 

「おう、わかってる。

 それじゃまたな」

 

”スタスタスタ”

 

今日は絶対に譲れない予定があるのだ。

今日は待ちに待ったあのラノベの最新刊発売日。

長い、長かった。

もう出ないのではないかと諦めていたんだ。

まさかこんな至福の日が訪れるとは。

こうしてはいられない、さっさと手に入れて暗唱できるぐらいに

熟読しなければ。

本屋だ、本屋へ急がないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ジミ子先輩、今日は朝からありがとうございました。

 大まか選挙期間中にやることはわかりました。

 でも先輩、選挙に出たことないのに、なんでこんなことまで

 知ってるんですか?」

 

「うん、一昨年にめぐ・・・し、城廻先輩が会長に立候補した時、

 少しでも力になりたくていろいろ勉強したから。

 まぁ、結局信任投票になったからあんまり力になれなかったんだけど。

 あ、あとこれね」

 

「え、あ、これって」

 

「へへ、昨日ちょっと作ってみた。

 よかったら使ってみて。

 でもごめん。

 やっぱり、その、表立っての応援はちょっと・・・」

 

「わかってますよ。

 わたしも一色が立候補するなんて思ってませんでしたから。

 もし知ってたらわたしだって」

 

「え、舞ちゃん?」

 

「あ、い、いえ何でもないです。

 それじゃそろそろ稲村先輩が塾終わる時間なので、出待ちしてきますね。

 今日こそは、絶対お昼ご馳走してもらうんだから」

 

「あはは、頑張ってね舞ちゃん」

 

「はい!」

 

”スタタタタ”

 

「さてと、わたしも」

 

     ・

     ・

     ・

 

”プシュ~”

 

「いらっしゃいませ」

 

く、くそ、これで3軒目だ。

どこに行っても売り切れって、どれだけみんなが心待ちしてたんだ最新刊。

こ、今度こそ、この本屋にはあるよな。

 

”キョロキョロ””

 

えっと、ラノベのコーナーはどこだ?

あ、あったあの奥か。

 

”スタスタスタ”

 

あれ?

無い! 無い無い無い無い・・・無い!

12巻までしか無い。

なぜだ、なぜ無いんだ。

ま、まさかまたしても売り切れなのか!

くそ、あの後の展開が非常に気になって仕方ないのに。

読めないとわかると、余計に続きが気になって勉強手につかないだろうが。

・・・はぁ~、仕方ない今日は諦めて帰るか。

あ、そうだ。

三ヶ木、アメリカ旅行に行きたがってるって言ってたな。

推薦人の件でも助けてもらったし。

何か旅行の参考になるような本を買ってお礼にするか。

べ、別にそれぐらいしてもおかしくないよな。

それぐらいならあいつも受け取ってくれるよな。

それで話ぐらい・・・

 

”スタスタスタ”

 

・・・・・でもアメリカってアメリカのどこに行く気だ

広い広すぎんだろ。

西海岸か? グランドキャニオンか? ラスベガスじゃないよな。

ハワイ、ハワイか!

くそ、材木座の野郎、もう少し詳しく教えろ。

何かいい本ないか?

ん、これならいいんじゃないか。

いろんな旅行先を幅広くカバーしてる。

その分それなりに値段が高そうなんだが。

まぁいいか、どれいくらだ。

 

「あっ、あった!」

 

「え?」

 

「あっ!」

 

「三ヶ木」

 

「比企谷君」

 

”クル”

 

「お、おい三ヶ木?」

 

”ダー”

 

「み、三ヶ木、まっ 」

 

「お客さん、本、本!

 お勘定!」

 

「え? あ、は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

はぁ~やっぱり三ヶ木電話出てくれない。

刈宿はああ言ったけど、やっぱり俺嫌われてるんじゃないのか。

あの推薦人の件だって一色のためにじゃないのか。

・・・・・最新刊も手に入らなかったし、今日はおとなしく部屋で勉強

してるか。

 

”ガチャ”

 

「ただいま~、帰ったぞ小町」

 

「お帰りなさい先輩」

 

「え! あ、す、すまん間違えた」

 

”バタン!”

 

あれ、俺なんで一色の家に?

え、えっと~。

 

”キョロキョロ”

 

いやここ俺の家だよな、うん俺の家だ。

それに今お帰りなさいって。

 

”ガ、チャ”

 

「先輩?」

 

め、目の錯覚じゃない。

間違いない、やっぱり一色だ。

一色が三つ指ついて座っている。

しかもちょっと顔傾けて。

・・・・・いや、君それめっちゃ可愛いんだけど。

で、でもなんで一色が俺の家に?

 

「何やってるんですか先輩?」

 

「お前こそ何やってんだ。

 何でお前が俺の家の玄関で、しかも三つ指ついて出迎えてるんだ」

 

「い、いえ、ちょっと練・・・やってみたかっただけです。

 そんなことより、ほらさっさと上がってください。

 いつまで玄関にいるつもりですか?」

 

「お、おう。

 だがお前なにしてるのマジで」

 

「なにって、ほら来週から本格的に選挙始まるじゃないですか~

 そこで作戦会議です、作戦会議!」

 

「・・・・・」

 

「ほら先輩何やってるんですか、遠慮しないで上がってください。

 あ、お昼ご飯もうすぐできますから。

 ちゃんと手を洗ってきて下さい、先輩♡」

 

「いや遠慮も何もここは俺の家だが。

 え、なにお前が昼飯作ってるの?」

 

「そうですよ、小町ちゃんに言われて。

 ほら早く手を洗ってきて下さい」

 

「お、おう」

 

     ・

 

”るんるんるんるん♬”

 

はぁ~、女子の料理してる姿ってやっぱりいいよな。

こいつ割りとエプロン姿が似合うじゃねえか。

いい奥さんなるんだろうな。

 

「はっ! な、なに見てるんですか先輩」

 

「い、いや、ちょっとな」

 

「もしかして裸エプロン期待していたとか。

 でもいきなりそれはちょっと・・・」

 

「しねえ~よ。

 まぁ、お前エプロン姿似合うなってな」

 

「は、は、はぁー!

 な、なに言ってるんですか。

 ほ、ほら手元が狂っちゃうじゃないですか。

 馬鹿!」

 

「す、すまん」

 

「もう、そこで見ていられると気が散るので、出来るまであっちに行ってて

 下さい。

 しっ、しっ!」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「え、これマジお前作ったの?」

 

「はい」

 

い、意外だ。

味噌汁に焼き魚、卵焼き、じゃこと大根のおろしたの。

もっとパスタとかサンドウィッチとかだと思ってたが、

和風、純和風じゃねえか

 

「あの、冷蔵庫にあった材料だからちょっと朝食風になっちゃいましたけど、

 よかったらどうぞ召し上がってください」

 

「お、おう。

 あ、でも小町の分は?」

 

「あ、小町ちゃんなら、ちょっと前になにか急用ができたって外出しましたよ」

 

「はぁ! じゃ、い、今お前と二人きりなのか?

 いやそんなことより、俺が帰るまでお前ひとりでこの家にいたのか?」

 

「はい」

 

「いや、はいってお前」

 

「なにか問題でも?」

 

問題だらけじゃねえか。

他人の家に一人でいるって、君平気なの?

いや、それより一人で置いていった小町も小町だ、不用心だろ。

まぁ、一色だからかもしれんが。

でもいったいどこに行ったんだ。

 

「先輩?」

 

あ、いや、そのことより今この家に俺と一色二人きりっていうほうが

問題じゃねえか。

今日の一色、いつもとちょっと違うっていうかなんていうか・・・

 

「冷めちゃいますよ?」

 

「お、おう。

 それよりお前、男の家のなかで二人きりってよく平気だな。

 やっぱりリア充ってそういうの平気なのか?」

 

「・・・平気じゃ、平気じゃありません。

 今だって心臓バクバクしているんですよ」

 

”にぎ”

 

「は、い、いやお前、な、なにを。

 なんで俺の手を」

 

「先輩、触ってみて下さい。

 すごくバクバクしているんですから」

 

え、うそ、触るって胸!

胸触っていいの。

いや、そ、それはまずくない?

ただでさえ二人きりなんだから、そんなことしたら・・・

まずいけど、で、でも折角だから。

 

”ピタ”

 

へ?

 

”ドクドクドク”

 

「ね、脈すごく早いでしょ、先輩」

 

「は、はい、手の脈、すごく早いです。」

 

ま、まぁそんなわけないよな。

確かに脈は早いよな。

・・・え、えっと一色さんそろそろ手を。

ん? なにしてるの君?

 

「先輩、先輩の脈もすごく早いですよ」

 

いやそうやってずっと手を握られているから。

そろそろ話してくれない?

脈が早くなるだけでなく、変な汗もかきそうなんだが。

 

”ジー”

 

え、な、なに一色さん?

やめてー、そんな上目遣いで俺を見つめないで。

勘違いするだろうが。

 

「せ・ん・ぱ・い♡」

 

お、おい、なぜ目瞑る。

ね、眠たいのかなぁ~

お願い! 目開けて、ね、い、一色さん。

この雰囲気はちょっとまずいんだが。

 

「・・・先輩。

 女子に恥かかせないでください。

 これでも精一杯頑張っているんですから」

 

「い、一色」

 

恥かかすなって、キス、キスってことだよな。

う、一色の唇、プルッとしてて艶やかで。

な、なに言ってんだ俺。

 

「先輩♡」

 

”ゴク”

 

・・・・・え、えっと~

い、一色。

 

”そ~”

 

『比企谷君♡』

 

『・・・・比企谷君、好き』

 

『今までも大好きでした。

 そんで、これからもずっと・・・』

 

あれ、おかしい。

な、なんでこんなに胸が痛いんだ俺。

・・・・・確かに、確かに俺はあいつに嫌われたのかもしれない。

だけど、それでも、それでも俺は三ヶ木のことが。

 

「い、一色、すまない俺は 」

 

「ちっ!」

 

「へ?」

 

「パコパコパコー!

 はい、そこまで」

 

「え? こ、小町?

 お前なにしてるの?

 確か外出したはずじゃ、あれ?」

 

「いろはさん、やっぱりわたしの勝ちですね。

 兄は理性の化け物の上に、チョ~ヘタレですから」

 

「あ、あの~、一色さん、小町。

 君たちいったい何を?」

 

「先輩が悪いんですよ!

 この前、先輩がわたしのこと妹扱いしたから!

 だから小町ちゃんと賭けをしたんです。

 でも信じられないです。

 普通、ああなったら絶対キスしようとするはずなのに。

 本当にヘタレ!」

 

「俺をなめるな。

 いやまて、ヘタレってお前、もし本当に俺がキスしようとしたら

 どうするつもりだったんだ?」

 

「その時は小町ちゃんが止めてくれる手筈だったんです」

 

「小町はちゃんとわかってましたから。

 お兄ちゃんは絶対キスしないこと」

 

「む~、先輩、そんなに魅力ないですかわたしって」

 

「い、いや、そ、そんなことは」

 

「もういいです、どうせ先輩なんか先輩なんですから。

 ほら、チャッチャッとご飯食べて下さい。

 食べたら選挙の作戦会議やりますからね!」

 

「いや、言われなくても俺は確かに先輩なんだけど。

 ま、まぁ頂くわ」

 

”もぐもぐ”

 

「ん? う、美味い」

 

「いいですよ、そんな社交辞令は」

 

「いや、マジだ、マジ美味い」

 

「そ、そ、そうですか。

 し、仕方ないです。

 仕方ないからまた作ってあげますね、えへ♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャガチャ”

 

「ふぅ~、洗い物よしっと。

 先輩、お待たせしました。

 作戦会議お願いします」

 

「おう。

 あ、ちょっと待ってろ一色。

 コーヒーぐらい淹れるわ」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ、昼飯ご馳走になったからな。

 これぐらいやらせろ。

 えっと豆はっと」

 

”カチャ”

 

「あ、はい。

 それではお願いします」

 

「おう」

 

”テクテクテク”

 

「・・・・・えっと、待ってろっていいましたけど~

 どこでとは言ってませんよね。

 それではです」

 

”テッテッテッ”

 

     ・

 

”ガチャ”

 

「どれどれ。

 へ~、結構綺麗にしているんですね」

 

”スタスタスタ”

 

「でも、先輩も男の子ですから」

 

”キョロキョロ”

 

「えっとー、机の上にはなにも無し。

 それでは本命のベッドの下!」

 

”サッ”

 

「む~、なにもない。

 では、クローゼットの中は・・・なし。

 引き出しの中!・・・・なし。

 ふぅ~、なにも無い。

 先輩、女の子に興味ないのかなぁ。

 さっきもキスしなかったし。

 はっ、そういえば先輩は戸塚さんのことが大好きって結衣先輩が言ってた。

 も、もしかしてそっち系?

 だったらどうしょうかなぁ」

 

”キョロキョロ”

 

「ふ~ん、でも本当に本いっぱいあるんだ。

 それもなんか教科書に出てくるようなのばっかり。

 先輩らしいとえばそうなんだけど、なんか詰まんない。

 ・・・っと言うことで、お決まりのベッドにダイブ!」

 

”ドサッ”

 

「ふぅ~。

 でも、ロリなのは間違いないから、全然女の子に興味が無いってことはないか。 

 ん?

 なにこの紙袋?

 なに入ってんだろ?」

 

”ガサガサ”

 

「えっと、ん、白い布?

 これってどこかでみたような・・・・・・はぁ!!」

 

     ・

 

「待たせたな、い・・・・・しき?」

 

あれ、あいつどこに?

トイレか?

・・・はっ、も、もしかして!

 

”ドタドタドタ”

 

げ、俺の部屋のドア開いてるじゃねえか!

ま、マジか!

ここにいるのか一色。

やばい、ベッドには返そうと思ってたあいつの。

 

「い、一色お前なにや・・・

 げー!」

 

「先輩、これなんですか」

 

”ヒラヒラ”

 

「あ、い、いやお前 」

 

「正座!

 そこに正座してください」

 

「え?

 い、いやあの~ 」

 

「さっさと正座する!!」

 

「はい!」

 

”チョコン”

 

「これ、女物のパンツですよね。

 どうしたんですかこれ?」

 

「あ、い、いや 」

 

「どうしたんですか!」

 

「そ、それはだな、その・・・・・」

 

「下着泥棒なんて最低です」

 

「いやち、違う、下着泥棒なんてしていない」

 

「それじゃこれどうしたんですか?

 はっ、もしかして自分で買って・・・頭から被っているんですか!

 変態!」

 

「ば、馬鹿をいえ。

 俺にそんな趣味はないぞ」

 

「じゃあ、これなんなんですか!

 もう信じられない、最低です!」

 

「いや、何でお前がそんなに怒って 」

 

「せんぱ~い、う、うううう」

 

「い、いやお前が泣かなくても。

 そ、それはだな・・・・・み 」

 

”ドタドタドタ”

 

「あー! やっぱりお兄ちゃんのところに交じってたんだ。

 いろはさん、それ、わたしの・・・パンツ」

 

「え? 小町ちゃんの?」

 

「いや~、うちの母はそそっかしいんですよ。

 この前も小町の下着の中にお兄ちゃんのパンツが混じってて。

 まぁ、共働きで時間がないってこともあるんですけど」

 

「そ、そうだったんだ」

 

「いろはさん、それいいですか?

 そんなに広げられてるとちょっと恥ずかしいです」

 

「あ、ご、ごめんなさい。

 はい、小町ちゃん」

 

「お騒がせしました」

 

「あ、いえこっちこそ

 ・・・あ、あの~、先輩ごめんなさい。」

 

「お、おう。

 わ、わかればいいんだ一色。

 あ、そ、そうだ、ほら選挙の作戦会議するんだろ。

 リビングに行くぞ、ほら」

 

”ぐぃぐぃ”

 

「も、もう、そんなに押さないでください、わかりました、わかりましたから。

 先輩の部屋の探索はまた次回にします」

 

「断る!

 次回なんてない。

 これ以上、この部屋の中を探しまわされてはたまらん」

 

「ちっ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・で、選挙公約はなんだ?」

 

「何にしましょう?」

 

「はぁ? お、お前公約考えてないのか」

 

「えっと、ほら推薦人の件でそれどころじゃなかったじゃないですか~

 何がいいと思います?」

 

「いや、それお前が考えろ。

 俺は今後の運動スケジュール考えるから」

 

「先輩のけち」

 

「・・・・・」

 

まったく、公約も考えてなかったのか。

まぁ実際のところ、一色の言う通り立候補できるか危なかったからな。

さてそれより、今後の活動どうするかだが。

 

”パラパラ”

 

ふむ、一色が選挙管理委員会からもらってきた資料を見ると、

再来週の水曜日、投票直前の最終演説、これが勝負のポイントだな。

それまでにやっておくことっていうと。

知名度の点では心配はない。

まぁ、これは蒔田にも言えることだが、伊達に1年間生徒会会長やってないからな。

それに人気投票は総武高女子2位だから。

課題はやっぱり女子票だな。

一色は男子票についていえば、蒔田より勝っている。

それは人気投票の集計結果にも表れていた。

そうなると課題はやっぱり女子票だ。

去年は葉山を応援演説に立てることによって対策することができたが、

今年はどうするかだなぁ。

 

「なぁ一色、応援演説はもう頼んだのか?

 できるなら、女子の受けがいいやつが 」

 

「先輩お願いしますね」

 

そうそう、先輩さんとか。

・・・・・お、おい、マジ、マジか!

無理だろう俺では応援にならんぞ、いやむしろ逆効果だ。

 

「一色、俺では 」

 

「わたしは先輩に応援演説してもらいたいんです。

 先輩でなければダメなんです」

 

「い、一色」

 

「よろしくお願いしますね、先輩」

 

「・・・わかった」

 

はは、これだけ頼られていたら断るわけにはいかないか。

そうか、まぁなんだかんだ言っても、こいつはかわいい後輩だからな。

任しておけとは言えないが、頑張ってそれなりの応援演説考えるか。

 

「内容とかは別にどうでもいいですよ。

 あ、出来るだけしょぼいのでいいです」

 

「え?」

 

「ほら、先輩のしょぼい演説の後だと、わたしが一層引き立つじゃないですか~

 よ! さすが引き立て谷先輩」

 

「・・・・・」

 

やっぱりそうか、それが狙いだったか!

少し感動した自分が腹立たしいわ!

それに引き立て谷って誰だ!

くそ、えっと、あと他に何かうつ手はなかったか。

一色が蒔田より有利な点・・・・・・・・実績、か。

 

「なぁ、一色、生徒会活動の記録の写真とか持ってないか?

 選挙に使いたいんだが、何かあればありがたい」

 

「えっと、それなら書記ちゃんがずっと活動の記録を撮ってますよ」

 

「撮ってる?

 写真あるのか、それ手に入るか?」

 

「あ、じゃあ、書記ちゃんにもらっておきますね」

 

「ああ、頼む」

 

生徒会会長としての実績、これを前面に立てて戦うしかない。

蒔田も文実委員長としての実績があるが、さすがに生徒会会長の実績の

前では霞んじまう。

後はそれを使うタイミングだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは先輩、月曜日からよろしくお願いします。

 小町ちゃん、今日はお邪魔しました」

 

「ああ。

 まぁ気をつけて帰れよ」

 

「いろはさん、また来てくださいね」

 

「ありがとうございます。

 それではです」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~やっと帰ったか。

くそ、人の部屋までズカズカと踏み込みやがって。

・・・まぁ、でもなんだろうな。

一色に頼られると、不思議と何とかしてやりたくなるんだよな。

由比ヶ浜に知られたら、また”いろはちゃんに甘すぎ”って

言われそうだな。

さてっと、すごく疲れたからリビングでマッ缶飲みながら

プリキラーの録画観るか。

 

「お兄ちゃん、ちょっと話があります。

 何の件かわかってるよね」

 

”ギロ”

 

「え? あ、」

 

忘れてた!

小町に没収されていたんだ。

げ、小町すごく怒ってる。

はぁ~まさしく一女去ってまた一女。

いや、それを言うなら一男去ってまた一男。

ち、違う、男じゃなくて難だ。

と、とにかく今の小町って滅茶苦茶コエ-。

これやばすぎだろ。

 

「ほらさっさと家に入る!」

 

「い、一色、やっぱり駅まで送るわ」

 

”ダー”

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「ふぅ、学校着いた。

 この自転車、ちょっと油差さないといけないなぁ。

 今度お父さんにやってもらおう。

 それはそうと、みんな来てるかなぁ。

 勝手に立候補してって結構怒ってたし。

 真希なんて、”なんで相談ひとつしないの!”って、めっちゃ怒ってたもんな。

 はぁ~誰も来てなかったらどうしょう。

 やっぱり、今からでもジミ子先輩に来てもらおうかなぁ。

 離れたところで見ていてくれててもいい。

 居てくれるってだけで心強いし」

 

”ギ~コ~”

 

「遅い!」

 

「え?」

 

「まったく、立候補した張本人のあんたが一番遅くてどうすんの」

 

「ま、真希、ちと、笑子!

 みんな来てくれたんだ」

 

「舞、ほらさっさと自転車片付けて」

 

「あ、う、うん」

 

「今日からのお昼休みのお菓子は、ぜ~んぶ舞ちゃんもちでよろしくね」

 

「げ、りょ、了解」

 

「舞、ほらさっさと準備する。

 他の生徒来ちゃうって」

 

「あんた、はやく自転車置いてきな」

 

「おいっす」

 

     ・

 

「みんなお待たせ」

 

「じゃ始めよっか、ちと、笑子準備いい?」

 

「あ、真希、ちょっと待って」

 

”ゴソゴソ”

 

「ん? なにしてるの舞ちゃん」

 

「えへへ、たすき装着完了!」

 

「お、おお~

 舞、それ自分で作ってきたの?」

 

「うううん、三ヶ木先輩が作ってくれたの」

 

「三ヶ木?

 あ、ああ、あんたが仲良くしている先輩だっけ?」

 

「うん。

 それと、ほら!」

 

”きゅっ”

 

「おお、ハチマキまで。

 舞、似合ってるよ」

 

「よし勇気百倍! みんなよろしく!」

 

「「おう」」

 

     ・

 

「先輩、遅い遅い遅いです~

 もう蒔田達は校門のところにいたじゃないですか」

 

「す、すまん。

 ちょっと寝坊した」

 

「はぁ~、ほら急いで下さい」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、ほら蒔田達始めてるじゃないですか~」

 

「生徒会会長候補の蒔田舞です。

 よろしお願いします」

 

「「お願いしま~す」」

 

げ、向こうは女子軍団か。

なんか華やかなんだよな。

こっちはまぁ一色は問題ないとして、横にいるのが

引き立て谷君。

大丈夫か。

 

「お、おい、やっぱり俺いないほうがいいんじゃないのか?

 向こうは女子ばっかりで、こっちもお前だけのほうが」

 

「い、今さらなんですか。

 先輩でいいですから、枯れ木も何とかです」

 

「・・・

 まぁいいか、それじゃ始めるか」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

”ばさっ”

 

「ん、どうしたんだ、そのたすき」

 

「へへ、美佳先輩が作ってくれたんですよ。

 似合います?」

 

「お、おう。

 まぁ、いいんじゃないか、それらしくて。

 それじゃ、始めるか」

 

「はい!

 生徒会会長候補の一色いろはです。

 よろしくお願いしま~す」

 

「・・・っす」

 

「先輩、ちゃんと声出してください!

 なんですか”っす”って

 も~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「蒔田舞です、よろしくお願いします」

 

「「お願いしま~す」」

 

「舞ちゃんがんばってね」

 

「応援してるよ」

 

ふむ。

やっぱり分が悪いな

向こうは蒔田はじめ、結構かわいい女子の4人組だもんな。

そういえば蒔田もトップカーストだったんだよな。

それに比べこっちは俺だからな。

一色の引き立て役にもなってないんじゃないか?

・・・・・ほ、ほんとうに向こうの女子かわいい。

特にあの茶髪の娘、ちょっとキツメで。

 

「へへへ」

 

「な、なんですか先輩。

 なにニヤケてるんですか!」

 

「い、いや、ニヤケてなんていないぞ」

 

「ヒッキーやっはろー!」

 

「お、おう」

 

「あ、結衣先輩やっはろーさんです」

 

「うん、いろはちゃんやっはろー

 生徒会選挙頑張ってるね。

 あたしも一緒に応援していい?」

 

「あ、ぜひぜひお願いします。

 先輩、向こうの女子見てニヤケてばかりで、全然戦力にならないんですよ~」

 

「い、いや、ニヤケてたのはちょっとだけだから」

 

「ニヤケてたんだ。

 まぁいろはちゃん、頑張ろう」

 

「はい、よろしくです」

 

「生徒会会長には、いろはちゃんをお願いしま~す」

 

     ・

 

「一色さん、選挙さん頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます♡」

 

さ、さすがだ由比ヶ浜。

由比ヶ浜が来てから一気に盛り返しやがった。

まぁ、一色と由比ヶ浜が並んでいれば、蒔田派にも全然引けを取らない。

いや、男子に限って言えばこっちのほうが勝ってるんじゃないか。

 

「頑張ってね一色さん、俺応援してるよ」

 

「はい、よろしくです♡」

 

「いろはちゃんをよろしくね」

 

「えへへへ、はい。

 おわ!」

 

「よろしくっす」

 

き、君、今俺の方見て驚いていなかった?

・・・・・ま、まぁ、すこし離れていようかなぁ~俺。

しっかし、一色はやっぱり男子に結構人気あるんだよな。

それなのに何でクラスで推薦人集められなかったんだ?

クラスでは何かあったのか?

 

「頑張ってね一色さ、うゎ!」

 

俺もっと離れてていいよね。

何ならお家に帰ろうかなぁ。

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ねぇあれって

 ちょっとまずいよね」

 

「そうね。

 ね、後でちょっといい?」

 

「ええ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「さて、今日も昼休みは我の魂の安息場で惰眠をむさぼるとしょう。

 む、あれは三ヶ木女子。

 ふむふむ、今日もまたあの本を読んでいるのだな。

 八幡は何も聞いていないとは言っていたが、やっぱりアメリカ旅行を

 考えておるのではないか。

 ・・・ここは我が聞くしかあるまい」

 

”スタスタスタ”

 

「今日こそはちゃんと言わないとね。

 わたしは・・・行くって決めたんだから。

 ちゃんと準備してきたんだから。

 勇気出して踏み出さないと。

 いつまでもこのままじゃいけない。

 よ、よし!」

 

「のう、三ヶ木女子」

 

”ガタ!”

 

「え、あの・・・三ヶ木女子?」

 

”スタスタスタ”

 

「三ヶ木女子どこへ」

 

”スタ、スタ”

 

「チャンス!

 今、図書委員はあの娘一人だ。

 あの頭に大きなシニヨンしている女の子しかいない」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、あの」

 

「はい、なにか?」

 

「ごめんなさい!

 この本汚しちゃいました。

 つ、つい爆睡しちゃって、そ、その‥・・・ヨダレが本に」

 

「げっ!」

 

「そ、それでちゃんと新しいの買ってきました。

 これで弁償させてください。

 ごめんなさい!」

 

「あ、はい。

 じゃここに学年と名前書いておいて下さい。

 後で先生に伝えておきますから」

 

「あ、あの、とにかくごめんなさい」

 

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「で、では、三ヶ木女子はあの汚した本を誰にも見つからないようにするため、

 ずっと昼休みに読んでいたのか?」

 

「う、うん。

 だって恥ずかしいじゃん・・・よだれって。

 ううう、自分のことながら情けない。

 なるべく早く本を買って返そうって思ってたんだけど、なかなか見つからなくて。

 ようやく土曜日に見つけたんだよ。

 ふぅ~これでやっと安心できる」

 

「そうか、そうだったのか

 我はてっきりだな、三ヶ木女子がアメリカへ旅行にでも行きたがってるのかと

 思っておった」

 

「・・・・・」

 

「ん? み、三ヶ木女子?」

 

「・・・義輝君、わたしアメリカ行ってみようかなぁ」

 

「ふむ、まぁ自分の視野を広げるっという意味で我はいいことだと思う。

 で、春休みにでも行くつもりなのか?」

 

「・・・あ、うん。

 でもそうしたら、しばらく会えないよね。

 さびしい?」

 

「まぁ日帰りで行けるものではないであろうからの。

 一緒に行ければいいが、ちょ、ちょっと金銭的にの。

 まぁ、その時はお土産をよろしく頼む」

 

「あ・・・・・・・・・・う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「よし舞ちゃん、ポスター出来たよ」

 

「へ~、やっぱり笑子って絵描くの美味いね」

 

「どれどれ、あ、本当だ、この似顔絵なんか舞にそっくり」

 

「ふ~、ひと仕事したらはお腹すいた~

 舞ちゃん、お菓子」

 

「はいはい、笑子画伯の好きなポッキー。

 その調子であと3枚お願いね」

 

「ぐぅえ~、人使い荒い~

 ブラック、ブラックだ!」

 

”ガラガラ”

 

「ただいま!

 ん、何見てんの?

 ああ、選挙用のポスターか」

 

「あ、真希お帰り。

 どうだった?」

 

「ああ、ちゃんと放送部と話してきたよ。

 選挙運動最終日の放送枠予約完了!」

 

「ご苦労様。

 ありがとう」

 

「へ~それにしてもこのポスター、あんたにそっくりじゃん。

 ん? あ~笑子、あんたポスターに自分の名前書いてる。

 ほら、作 荏子田笑子って。

 

「え~!」

 

「だって、折角の力作なんだもん。

 もったいない」

 

「い、いや、名前消しなさい。

 まぎらわしいから、ポスターにはわたしの名前だけでいいの」

 

「やーだ!」

 

「消せ~」

 

”ドタバタ、ドタバタ”

 

「ね、それぐらいならいいじゃない?

 あまり目立ってないし。

 それよりさ、あんた選挙公報の原稿できたの?

 確か今日までじゃなかったっけ」

 

「い、今書いてたとこ」

 

”ガラガラ”

 

「ん?」

 

「あ、あの、蒔田さん。

 わ、わたし達も何か手伝うことない?

 ほら、推薦した手前、なにもしないってことは」

 

「え、ああ大丈夫ですよ。

 ほらみんなと同じクラスの一色さんも立候補しちゃったから。

 こっちのほう手伝ってもらうとなにかと、ね!」

 

「あ、う、うん。

 そ、そうだね、それじゃ頑張ってね」

 

「ありがとうございます」

 

”スタスタスタ”

 

「ねぇ、舞。

 折角だからあの人達にもなにか手伝ってもらったら?」

 

「うううん。

 やっぱりやめておいたほうがいいと思う。

 ほらクラス違うから」

 

「そう。

 それじゃ、わたし早速このポスター張ってくるね」

 

「うん、ちと、お願いね」

 

「おう、任された。

 あ、真希も手伝って」

 

「あいよ」

 

”ガラガラ”

 

「ふぅ~。

 本当は人数は多いほうがいいんだけど、ジミ子先輩があの人達は

 絶対外しなさいって。

 ジミ子先輩が言うんだもん、なんかあるんだろうなぁ~」

 

”チョイチョイ”

 

「ん?」

 

「舞ちゃん、お腹すいた。

 ポッキーおかわり!」

 

「げ、笑子、もう一箱食べたの?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「せんぱ~い、ポスター出来ました?」

 

「ま、まだだ。

 もう名前だけでいいよな」

 

「え~、わたしの可愛らしさをアピールできるようなのにしてください」

 

「・・・・・」

 

いや、そんなに凝ってる時間はない。

あと3枚も書かないといけないんだが、もうあとはコピーでいいよね。

あと他にすること忘れていなかったか?

あ、そうだ。

 

「おい、放送部との打ち合わせはしたのか?

 できるだけ校内放送日は投票日に近いほうがいいぞ」

 

「先輩よろしくです」

 

「・・・」

 

”ガラガラ”

 

「一色さん、選挙公報の原稿頂きに来ました」

 

「え? 

 あ、せ、先輩できてます?」

 

「いや、俺ポスターしか頼まれてねえだろう」

 

「え、マジ!

 すみません、ちょっと待ってもらっていいですか?

 あの、明日までとか」

 

「なるべく早くお願いしますね」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「会長も舞ちゃんも、頑張ってるかなぁ~

 今回はどっちも手伝えないからちょっと心配だ。

 あ、でも応援演説!

 どうしょうかなぁ」

 

「美佳さん、今帰りっすか」

 

「あ、刈宿君。

 うん、刈宿君も部活終わったの?」

 

「うっす。

 駅まで一緒に帰りましょう」

 

「あ、うん」

 

「荷物、自転車のカゴに入れてください」

 

「うん、ありがと」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「それじゃぁな一色。

 俺、塾あるから」

 

「え~、駅まで送ってくださいよ~

 もう今日は疲れてクタクタなんですから。

 よいしょっと」

 

”ドサッ”

 

「お、おい、かってに荷物をカゴに入れるな。

 それに二人乗りは 」

 

「いいですから。

 ほら先輩しゅぱ~つ!」

 

「・・・ちゃんと掴まってろよ」

 

「はい、よろしくです」

 

”ぎゅっ”

 

あ、いや、君抱き着きすぎだから。

はぁ~、背中に感じる一色のぬくもり。

外が寒いから余計に暖かく感じる。

 

”もぞもぞ”

 

「ん、お、お前何やってんだ」

 

「先輩、割りと腹筋あるんですね。

 すごく硬いです」

 

「お、降りろ!

 いいからすぐ降りろ!」

 

「え~、な、なんでですか~

 そんなに・・・・ん、あれ美佳先輩と刈宿君」

 

「えっ」

 

”スタスタスタ”

 

「へ~、そうなんだ」

 

「うっす。

 最近、俺は肥満度ヒーロー、ファットさんに凝ってんでんがな。」

 

「あははは、でんがなって」

 

「へへ」

 

「あ、でもアメリカに行ったらアカ俺観れないんだ」

 

「ネットで観れるっす、大丈夫っす。

 心配ないっす」

 

「そっか。

 よかった、それならアメリカに行っても平気だね」

 

”スタスタスタ”

 

「へ~、なんか結構いい雰囲気ですね、あの二人。

 えっ! せ、先輩?」

 

「・・・」

 

「先輩?」

 

「一色、自転車貸してやる。

 駅にでも止めておいてくれ。

 鍵は明日学校でもらうから」

 

”スタスタスタ”

 

「せ、先輩?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま」

 

「あ、お兄ちゃんおかえり。

 パソコン借りてるね」

 

「げ、お、お前勝手に。

 でも、なんでパスワード知ってんだ」

 

「・・・お兄ちゃん、小町の誕生日をパスワードのするのやめてね」

 

「い、いや絶対忘れないのにしたから。

 それより変なファイル開けてないよな」

 

「うん、開けてないよ。

 まぁ、開けたら今までとは同じ関係でいられなくなるからね」

 

「お、お、おう。

 け、賢明な選択だ。

 で、小町何見てんだ」

 

「ん? あ、これ裏総武高のホームページ。

 今ちょうど生徒会選挙の仮想投票とかやってるみたいだよ。

 あ、それと結構古い書き込みも見れてさ、去年のとか。

 お兄ちゃんこっちの世界では結構有名人なんだね。

 すっごく沢山書き込みあったよ。

 妹としてちょ~うれしい。

 はぁ~」

 

「・・・・・よ、喜んでもらって光栄です。

 で、仮想投票のほうはどんな感じだ」

 

「ん、会長選以外は信任投票だからね、まぁ小町は当選確実かなぁ」

 

「そ、それより会長は、会長選のほうは?」

 

「ん~、だいぶ接戦だよ。

 ほら見て。

 仮想投票、今のところ6:4で蒔田さんだよ」

 

「6:4か、まぁ妥当なところだな。

 それで書き込みもあるっていったよな。

 なんか書いてあるのか?」

 

「い、いや見ないほうがいいと思うけど」

 

「え、何かまずいこと書いてあるのか?

 そんな風に言われると余計気になって仕方がない。

 いいから見せてみろ、どれどれ」

 

”カチャ、カチャ”

 

『あの一色の横に立ってたやつだれ?

 スゲ~キモかったんだけど』

 

『そうそう! なんか目つき超気持ち悪くない?』

 

『俺一色やめて、蒔田に投票するわ』

 

な、なんだと。

お、俺が思いっきり一色の足引っぱってるじゃねえか。

仮想選挙で蒔田に負けてる原因は俺、俺なのか。

 

「・・・・・」

 

「まぁ、お兄ちゃんだもんね」

 

「・・・・・そ、そっだな」

 

     ・

     ・

     ・

 

”チャポ~ン”

 

アメリカか。

あいつ本当にアメリカ旅行に行くつもりなんだろうか。

それに下校時の会話、もしかして刈宿と旅行に行くのか。

もちろん日帰り旅行じゃないよな。

つまり二人で行くってことは・・・

くそ!

 

”バシャ、バシャ”

 

「お兄ちゃん、まだお風呂入ってるの?

 小町まだだから早くしてね」

 

「ああ、わかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴクゴク”

 

ふぅ~やっぱり風呂上りのマッ缶は最高だ。

この甘さが嫌なことを全て忘れさせてくれる。

できればマッ缶の風呂に入りたいぐらいだ。

どっかにないかなぁ。

ん、小町パソコンそのままで風呂行きやがった。

 

”カチャ”

 

今のところ会長選は6:4か。

まぁ、こっちは準備とか全然不足しているからな。

特に運動員。

それなら早めに手を打つか。

なんか俺が一色の足を引っ張っているみたいだし。

 

”カシャカシャ”

 

「ふぁ~い、なんですかせんぱ~い。

 いったい何時だと思ってるんですか~」

 

「いや、まだ十時前だろ。

 お前もう寝てるのか 」

 

「今日はとっても疲れたんです。

 先輩に置いてけぼりにされたし。

 で、なんですか~

 は! もしかしてお前のことを考えると眠れなくて、

 お前の声が聞きたいとか、寝る前に甘い会話がしたいとか。

 わたしのこと想ってくれてるのはありがたいのですが、今はちょ~眠いので

 明日にしてください、ごめんなさい」

 

「い、いや、そんなのいいから」

 

「む~。

 で、なんですか、マジ眠たいんですけど?」

 

「一色、この前言ってた生徒会活動の記録、書記ちゃんからもらえたか?」

 

「はい、ちゃんとUSBに保存してもらいましたよ」

 

「そっか。

 それ貸してもらえるか?」

 

「え、今から持って来いと。

 つまりそれは選挙運動にかこつけて、わたしにお泊りをさせようとする

 魂胆ですか。

 ちょ、ちょっと強引すぎです先輩」

 

「い、いや違うから

 明日学校ででいいから」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「へぇ~、生徒会って結構活動してたんだ」

 

「な、なにどうしたの?」

 

「あ、いやほら生徒会の活動って写真張り出してあるんだ」

 

「こんな行事あったっけ?」

 

「あ、おい、ほらここに俺写ってる」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

ふふふ、成功だ。

この実績は本物だからな。

この実績を前面に押し出せば勝利は間違いない。

まぁ心配なのは一色の写真、あざといやつしかなかったことだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま~」

 

”ドタドタ”

 

「お、お兄ちゃん、大変大変だよ」

 

「どうした小町?」

 

「早くこっち来て、これを見て」

 

「おい、お前また俺のパソコンを勝手に」

 

「いいから早く」

 

「お、おう?」

 

なにを見ろって言うんだ小町。

ん? これは裏総武高のホームページ。

なんだ?

 

『わたしスキー合宿があったなんて全然知らなかった』

 

『みんな知らないよね。

 だってあれ一色の気分で勝手にやったことらしいよ』

 

『葉山君もいたんじゃなかった?

 いいなぁ~わたしも行きたかった』

 

『一色が葉山君を無理やり連れて行ったんだって』

 

『酷~い』

 

『あ、それになんか総武高生でない人もいたよね。

 あと小っちゃい子も。

 あれって一色の知り合いばっかり?』

 

『そうみたいだよ。

 あ、それにこのロッジも生徒会の権限を利用して借りたんだって。

 しかも格安で』

 

『生徒会の完全に私物化だよね、サイテー

 だからまた会長になりたいんだ』

 

『あ、そういえばこの前・・・』

 

お、おい、なんだこれ。

延々と一色に対する批判が書き込まれている。

 

「お兄ちゃんこれやばくない?」

 

「・・・」

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、あ、一色からか。

あいつもこれ見たのか。

 

”カシャ、カシャ”

 

「もしもし」

 

「先輩、大変大変大変なんです~」

 

「お、おう。

 裏総武高の件だな」

 

「そうです。

 これどうしましょう」

 

「すまん。

 俺のミスだ。

 明日掲示板にこれはスキー同好会の活動で、

 生徒会はそのお手伝いだって張り出しておく。

 幸い、スキー合宿の写真に生徒会で写ってるのお前だけだ。

 三ヶ木写ってないし、他の奴らは行ってもいないしな」

 

「うまくいくでしょうか?」

 

「わからん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

「ん~ダメだ

 反論書き込む度に袋叩きになっちゃう。

 どうしょう、ジャリっ娘の悪口で炎上しちゃって止められない。

 このままじゃ、選挙終わったあともジャリっ娘・・・・・

 何とか止める方法ないかなぁ」

 

「お~い、美佳、まだ起きてるのか?」

 

「あ、うん、もうちょっと」

 

「勉強もほどほどにな」

 

「・・・う、うん」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”うとうと”

 

「三ヶ木さん!」

 

「あ、は、はい!

 ご、ごめんなさい」

 

「あなたやる気があるのかしら?

 今日これで3回目よ」

 

「ご、ごめんゆきのん。

 昨日ちょっと夜更かししちゃって」

 

「それは勉強していたからということかしら?」

 

「・・・・あ、あの~」

 

「全くあなたは。

 ところで三ヶ木さん、あなたが行きたい大学って洋和女子大と厩戸大学だったわね」

 

「うん」

 

「なぜその大学に行きたいと思ったのかしら?」

 

「えっと、比企谷君が補助金とか授業料免除とかいろいろ探してくれて。

 この大学が一番お金かからないから」

 

「そ、そう。

 それであなたこの大学オープンキャンパスとかには行ったのかしら?」

 

「い、いえ。

 あ、でもネットでいろいろと確認は」

 

「呆れた。

 あなた一度も学校見に行っていないの?

 ちょっと待ってなさい」

 

”カシャ、カシャ”

 

「ふむ」

 

「あ、あの~ゆきのん、パソコンでなにを?」

 

「大人しく待っていなさい」

 

「あ、はい」

 

”カシャ、カシャ”

 

「三ヶ木さん」

 

「あ、はい!」

 

「来週の土曜日と次の日曜日、あなた空いているかしら」

 

「うん、別に何もないよ。

 勉強しないといけないし」

 

「だったら」

 

”ガ~、ガ~”

 

「はいこれ。

 大学までの行き方とオープンキャンパスのスケジュールよ。

 まず勉強の前にあなたのその目で見てきなさい。

 あなたが通うはずの学校を」

 

「う、うん。

 あ、でもゆきのん3枚あるよ。

 へへ、ゆきのんそそっかしい」

 

「もう1つは滑り止めの大学よ。

 最悪のことも考えなさい」

 

「う~」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「舞ちゃん応援してるよ」

 

「頑張って~」

 

「・・・・・はい」

 

「どうしたの舞」

 

「あ、う、うん。

 今日も一色来てないな~って」

 

「ああ、いつもあの目つきの悪い先輩といたのにね」

 

「あ、舞ちゃん、それ、多分ネットの所為だよ」

 

「ネット?」

 

「なんだ、あんた知らないの?

 ネットの裏総武高ってやつで、なんか一色すごく叩かれているから、

 出づらくなっちゃったんじゃない?」

 

「え、なにそれ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「う~ん、どうしょう。

 わたしじゃあの書き込みやめさせられない。

 一所懸命反論書き込んでるんだけど、逆に火に油を注いでいるみたいだし。

 やっぱり彼にお願いしてみるしかないよね。

 彼だったらなんか、方法あるような気がする」  

 

”キョロキョロ”

 

「えっと、どこにいるんだろう。

 お昼は教室以外で食べてるのかなぁ」

 

「おい、お前何してんだ人の教室覗きやがって。

 一色なら昼休みはどこかに行っていないぞ」

 

「あ、いた。

 ね、お願い、力貸してほしいの」




最後までありがとうございます。
今回もセリフばかで読みにくかったかと。
ごめんなさい。

次話ようやく生徒会選挙最終編。
投票結果は?
また八幡とオリヒロの関係が?

また読んでいただけたらありがたいです。
ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会選挙編 後編 ―寒波ー

今話も見に来ていただきありがとうございます。

生徒会選挙編最終編です。
それと八幡とオリヒロにとって・・・・・

毎度セリフが多く読みにくいと思いますが、
よろしくお願いいたします。

それではお願いします。



後悔なんかしていない。

俺があいつにしてやれることって、もうこれぐらいしかないのだと思う。

本当は優しい言葉の一つでもかけてやるものなんだろう。

だがそれは、きっともう俺の役目ではないんだ。

それだから俺は俺にしかできないことをしたんだ。

これでいい、これでよかったんだと思う。

だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さようならだ三ヶ木。

 

 

 

 

---- 話は選挙4日目(木曜日)の放課後に遡って ----

 

 

 

 

「あ、いた。

 ね、お願い、力貸してほしいの」

 

「断る!

 お前とか一色とかに関わると碌な目に合わない。

 修学旅行でもひどい目にあったし」

 

「あ、いや、修学旅行の件はごめんなさい。

 舞ちゃんの代わりに謝る、ほんとにごめん。

 でもジャリ・・・会長を助けてほしい。

 清川君も知ってると思うけど、今ネットで会長がすごく叩かれていて。

 あることないこと書き込まれてるの。

 ね、あの書き込みを止めることできない?」

 

「ああ、あの裏総武高のことか。

 でもお前、それは買い被りだ。

 書き込みやめさせるなんて、それこそホームページの管理者ぐらいしか

 できないだろう」

 

「でも連絡先とかわからないし。

 ・・・このままだと会長が」

 

「・・・・・」

 

「お願い、どんなことでもするから助けてくれない?」

 

「どんなことでもする?」

 

「あ、う、うん」

 

「どんなことでもいいんだな」

 

「は! も、もしかしてわたしの身体を差し出せと。

 いや、やめて~エッチ」

 

「ち、ちが~う。

 それにやめて~って、まだ何もしてねえだろう。

 パソコン、パソコンだ!

 お前らに没収されたあのパソコンを返せ。

 あのパソコンの改造に、いままでどれだけの資金と時間を注ぎ込んだと

 思うんだ。

 あれはそんじょそこらのパソコンとは違うんだからな」

 

「パソコン?

 あ、あのパソコン。

 でも確かに生徒会室に保管してあるけど、返却するのはわたしの一存

 じゃできないし」

 

「ならこの話はこれまでだ」

 

「わ、わかった。

 会長に何とかパソコンを使えるように話してみる」

 

「ほ、本当だな、もう騙さないぞ。

 そうだ、このボイスレコーダーに記録するから、

 今のもう一回言え。

 お前の名前も忘れるな」

 

「用心深~い」

 

「用心深くなるわ!

 純真な男心弄びやがって」

 

「えっと・・・・いい?

 な、なんか緊張するね。

 ごほん。

 こ、今回のネットの件を協力してもらう代わりに、没収した

 パソコン同好会のパソコンを清川君が使えるようにします。

 3年C組 三ヶ木美佳。

 はい、これでいい?

 その代わりお願いするね。」

 

「確約は出来ないが、やるだけのことはやってやる」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先輩、こんなのひどいです。

 あることないこと書かれているじゃないですか。

 なんか男子の前だけめっちゃあざといとか」

 

「いや、それはあたってるのだが」

 

「はぁ!」

 

「い、いや何でもない。

 とにかく、しばらく大人しくしてるしかねぇ。

 こんなの放っておけばいずれは 」

 

「いずれはって、選挙終わっちゃうじゃないですか」

 

ふむ、実際のところこれでは選挙戦どころじゃないよな。

だがこういうのは管理者に連絡して、書き込みできないようにしてもらうしかない

だろうが、肝心の連絡先が分からん。

後は専門の業者があるって聞いたことがあるから、そこを使って調査するしかない

だろうが、やっぱり無料って言うことはないだろうな。

・・・ここは学校に相談するしかない。

明日にでも平塚先生に相談するか。

 

”ガラガラ”

 

「チ、チース」

 

「あ、清川君」

 

「ん、お前確か生徒総会の時のウィルス野郎。

 何しに来たんだ」

 

「・・・・・ちっ!」

 

「まぁまぁ、先輩も比企谷菌ですから似たようなものかと」

 

「はぁ! 一色、それは違うぞ。

 ウィルスと菌は全然違う。

 いいか、菌は自分の力で増殖することができるんだ。

 誰にも頼らず、自分の力だけでひそかに増殖。

 まさに孤高の存在、ぼっちの鑑。

 宿主に頼らざるをえないウィルスなんかと一緒にしてもらっては困る。

 ・・・・・って一色さん聞いてる?

 あの~、腕をクロスしてなにしてるの?」

 

「無敵バリアです」

 

「いや、比企谷菌にバリア効かないから」

 

「げ、比企谷菌どんだけですか」

 

「あ、あの一色、パソコンの件だがいいか」

 

「あ、美佳先輩から聞いてますよ。

 ちゃんとそこに置いてあります。

 えっとパソコンのプログラムコンテストに応募するんでしたね。

 どうぞ使ってください。

 応援してますから、頑張ってくださいね、えへ」

 

「あ・・・・あ、あ、ありがとう」

 

「うへぇ~、あざと」

 

「な、なんですか、何か言いました先輩」

 

「い、いや別に」

 

”ゴソゴソ”

 

ん? こいつなにやってんだ。

なんかコードとか繋げてるけど。

 

”プチッ”

 

げ、電源入れやがった。

ま、まさかここでプログラム入力する気なのか?

ここは一応選挙用として借りている教室だ。

それに部外者のこいつがいるといろいろとやり辛い。

 

「おい、清川なにやってんだ。

 ここは一色の選挙用としてだな 」

 

”カチャ、カチャ”

 

「・・・・・ふん」

 

な、なんだと、俺は菌と言われたことはあるがフンと言われたことはない。

こ、こいつ、ウィルスの分際で。

 

「清川君、ここでプログラムするんですか?」

 

「あ、ああ。

 部室ねえし、パソコン持って帰るわけにもいかないんだろ。

 悪いがちょっとここ貸してくれ」

 

「そうですけど」

 

「邪魔しないし、絶対に選挙に関することは他言しない」

 

「そ、そうですか。

 仕方ないですね、わかりました。

 絶対内緒ですよ。

 で、先輩、明日からどうしましょう」

 

「まずは様子見るしかねえだろう。

 とにかく、お前は校内放送の準備しろ。

 俺はチラシを作る。 

 明日の登校時に配るぞ。」

 

「・・・・・はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ねぇ、今日の一色の顔見た?」

 

「見た見た。

 本当にざまあみろって感じだね。

 あいつ男子の前だとあざとくて気に食わなかったんだ」

 

「ね、絶対に当選させたせたら駄目だよ。

 いい、今日もしっかり一色の悪口書き込みするよ」

 

「あ、でも一色のことよく思ってない女子っていっぱいいるね。

 ほらさっき書き込んできたこの子も」

 

「どれどれ。

 え~、彼氏から一色のようなあざといの強要されているんだって」

 

「ひど~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

「う~ん、やっぱりこっちのほうが、放送を聞いている人の受けがいいかな~」

 

”ちら”

 

ん、まただ。

清川の奴、パソコンやりながら、一色のことチラ見してやがる。

げ、一瞬、ニッて笑いやがった。

なんかものすごくキモイ。

・・・・・そういえば俺も家でラノベ読んでた時、小町からキモって

言われた時あったな。

こんな感じだったのか。

・・・・・今度からラノベ読むときは誰もいないところで読もう。

 

「あ、先輩、そろそろ塾に行く時間じゃないですか?」

 

「ん、あ、もうこんな時間か。

 まぁ、チラシのほうはできたからな。

 んじゃ、俺は職員室よってチラシをコピーしてから帰るわ」

 

「あ、先輩、わたしもコピー手伝います。

 というわけで、清川君そろそろ帰りますよ」

 

「あ、お、俺もうちょっとやって帰るから、お先にどうぞ」

 

「え、そうなんですか。

 それじゃ頑張ってくださいね。

 あ、でも、あんまり無理したらダメですよ。

 それではです、にこ」

 

「あ、あ、は、はい」

 

”ガラガラ”

 

「一色、先行ってるわ」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、先輩待ってくださいよ~」

 

”ガラガラ、ピシャ”

 

「い、行ったよな

 へへ、さっきまで一色が座っていた椅子」

 

”すとん”

 

「はぁ~、い、一色の体温がまだ残ってる。

 一色のぬくもり・・・へへ」

 

”ガラガラ”

 

「清川君、この教室の・・・・か・・・・ぎ・・・・」

 

「あ゛ー、い、いや、ち、違うんだ!

 あ、あのこれは 」

 

「か、か、鍵、、こ、こ、ここに、置いておきま・・・・す」

 

”ガタッ”

 

「あ、じゃぁ鍵もらって 」

 

「きゃー、変態、キモ、こっち来ないでください!」

 

”ダー”

 

「・・・・・・・・も、戻ってくるなんて反則だ」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

「ジャリっ娘、昼休みどこに行ってるのかなぁ。

 清川君からお昼はどこか行ってるって聞いたから、授業終わってすぐ教室に

 行ったのにもういなかった。

 やっぱり教室に居づらいんだろうなぁ」

 

「ジミ子先輩!」

 

「え?」

 

”ぐぃ”

 

「ひゃ~、ちょ、ちょっと舞ちゃんどうしたの?

 え、ど、どこ連れて行くの?

 は、も、もしかして体育館裏でわたしに焼きを」

 

「い、いいですからそんなの。

 ちょっとお願いします」

 

     ・

 

「ジミ子先輩、わたし、こんなの、こんなのいやです。

 一色、今朝は登校時の呼びかけに来てましたけど、本当にすごく参ってた。

 わたし見っちゃたんですよ一人になった時の一色の顔。

 すごく落ち込んでて、あんな顔してる一色見るの初めて。

 ジミ子先輩、わたし、わたしね、一色の生徒会に憧れてた。

 わたしもあんな関係がほしくて立候補した。

 ・・・・・馬鹿ですね、わたしにも真希やちと、笑子がいてくれてたってのに。

 でも、わたしが立候補した所為で一色は一人になって、

 今の一色には備品先輩しかいなくて。

 それなのに、あのネットの所為でクラスのみんなから陰口叩かれて孤立して。

 ジミ子先輩!

 わたしこんなの嫌です。

 こんなになるんだったら、わたし立候補しなければよかった。

 今すぐにでも立候補やめたい。

 でもわたしを当選させようって、真希達が頑張ってくれてるから

 悪くてとてもやめるなんて言えないし。

 わたしどうすればいい?

 ジミ子先輩、教えてください、わたしどうすれば。

 もう、あいつの、一色のあんな顔見るのいや」

 

「舞ちゃん」

 

「・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”パコ~ン、パコ~ン”

 

今日も戸塚、頑張ってるな。

受験勉強で疲れているだろうに。

おっ、こっち向いて手を振っている。

はぁ~とつかわいい。

その穢れのない純粋無垢な笑顔は、この荒み切った世の中にあって、

俺の唯一無二の希望。

この天使の舞を見れるのなら、多少の寒さを耐え忍ぶことなどなんでもない。

くそ、と、戸塚は何で男なんだ。

戸塚が女子なら俺は・・・・・

は、まてよ。

最近の世界の流れは同性婚に対する理解が深まっているという。

ならば近い将来、この日本でも同性婚が認められる日が来るはずだ。

うむ、必ず来る。

もしそうなれば、お、俺は戸塚と。

 

『八幡、朝だよおはよう。

 ご飯できてるから起きて』

 

『あ、八幡、ご飯が頬についてるよ。

 仕方ないなぁ、もう~

 はい、あ~んして』

 

「あ~ん」

 

”パク”

 

「美味しいですか先輩」

 

「へ? い、い、一色!

 お前何してるんだ!」

 

「なにって、先輩がいきなり”あ~ん”て口開けるから,

 つい条件反射でご飯食べさせちゃったんじゃないですか。

 先輩、ちょっと大胆すぎです。

 そ、その~人目もありますし」

 

「い、いや、ち、違う。

 こ、これはだな、俺は戸塚と 」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、舞ちゃんの言う通り、ジャリっ娘ここにいたんだ。

 へへ、楽しそうだな。

 あ、あれなんでだろう、めっちゃ心配してたから喜ばないといけないはずなのに。

 何でこんなに、こんなふうに・・・・・・・・・・

 やっぱりこんなんじゃだめだ。

 わたしは変わらないと」

 

     ・

 

”ヒュ~”

 

「ひゃっ」

 

”ピタ”

 

うっ、またこいつくっついてきやがった。

ほんわかと一色の体の温もりが伝わってくる。

こいつらリア充にとって、これぐらいのスキンシップは普通なんだろうが、

ぼっち、いや普通の男子にとっては100人中99人が勘違いするレベル。

ふふふ、だがあまいぞ一色。

希望を持たず、心の隙を作らず、甘い話を持ち込ませず!

俺はこの3原則を心に刻んで生きているのだ。

だから俺にはこんなの通用しない、通用しないんだから!

 

「い、い、いや、なにお前く、く、くっつきすぎだから」

 

「だって仕方ないじゃないですか~

 やっぱりここってちょっと寒いです。

 せめてもう少し風を避けられるところに行きませんか先輩」

 

「断る!

 俺は戸塚がいる限り、このベストプレイスから離れるつもりは微塵もない!」

 

「ど、どんだけ戸塚さんが好きなんですか!

 もういいです。

 戸塚さんのことはあきらめてます。

 それより、今日のお弁当は美味しかったですか?」

 

「ああ、食えないことはないな」

 

「な、なんですか、頑張って早起きして作っているのに。

 まぁいいですけど、お弁当食べたんですから今日もちゃんと

 働いてくださいね」

 

「いや、お前が勝手に作ってきてるんだろうが。

 それにそんな労働契約を結んだ憶えはない」

 

「勝手にって・・・

 も、もういいです、もう作るのやめます」

 

「でも、まぁなんだ、ご馳走さん。

 滅茶苦茶美味しかった。

 お前マジで料理うまいんだな」

 

「あ、あ、あの・・・・・・さっき食えないことはないって言ったくせに。

 卑怯ですよ。

 し、仕方ないです。

 明日も作ってきますので、楽しみにしてくださいね♡」

 

「なぁ一色、お前目の下にクマ出てるじゃねえか。

 ちゃんと寝てるのか?

 昼飯はありがたいんだが、そのためにあまり無理するんじゃない」

 

「・・・わたしお弁当作ってる時がすごく楽しいんです。

 先輩どんな顔して食べてくれるかなぁとか、美味しいって言ってくれるかなぁとか

 いろいろ考えて。

 少なくともその間は嫌なことなんか全部忘れていられるから。

 だから、明日もお弁当作ってきます。

 明日だけじゃなくて、明後日も明々後日もその後もずっと」

 

「い、一色」

 

「先輩さえよければ、ご卒業してからもずっと毎日お弁当つくりたいです」

 

「えっ」

 

「あ、あ、あの・・・・・・・ちゃんとお代頂きますからね」

 

「お前、大学行かないで弁当屋する気なのか」

 

「・・・・・・・・・・・はぁ~。

 じゃわたし午後は体育なのでもう行きますね」

 

「おう」

 

「それではです」

 

”スタスタスタ” 

 

「あ、やば!

 ジャリっ娘こっちに来た。

 ど、どっか隠れないと」

 

”サッ”

 

「いや~、お決まりのクモの巣。

 もう、ちゃんと掃除して~

 あ、やば!」

 

”トボトボトボ”

 

「はぁ~。

 教室なんて、あんなところになんて戻りたくない。

 いやだな、このまま帰りたい。

 はぁ~、保健室行ってようかなぁ」

 

”トボトボトボ”

 

「ジャリっ娘、やっぱり・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「待たせた」

 

「うううん、わたしも今来たところだよ。

 で、なにかわかった清川君」

 

「ああ。

 ここではあれだ。

 ちょっとあっちいいか」

 

「うん」

 

”スタスタスタ”

 

「あの書き込み見直していたんだが、やっぱり煽り立ててる奴らがいる。

 ちょっと書き込みが下火になると、それとなくそいつらが次の話題を

 提供して煽り立てるんだ」

 

「でもそれって誰かわかる?」

 

「まあ今回の件、だいたい犯人グループの目星はつけていたんだ。

 それでな、書き込みでちょっとカマかけたら、あいつ等しか知らないこと

 書き込みやがった。

 あの書き込みが証拠になる」

 

「よかった。

 じゃあ、それでその人たちに書き込みやめさせれば、

 もうあんなの無くなるんだ」

 

「いや、そうは思わない」

 

「え?」

 

「一色の件、これだけ炎上しているんだ。

 確かに煽り立ててたやつらの書き込みは無くなるかもしれんが、

 他に今まで書き込んでた奴らがすぐにやめるとは思わない」

 

「じゃ、じゃあどうすればいいの?」

 

「・・・・・興味がなくなるまで放っておくしかない」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・あ、あのね清川君」

 

     ・

 

「はぁ! お、お前馬鹿か!」

 

「馬鹿っていうなし。

 これでも先輩なんだからね!

 ・・・実は馬鹿なんだと思う。

 でもわたしはこういうやり方しかできないから」

 

「いいのかよそれで」

 

「う、うん。

 こんなやり方でも理解してくれる人がいるんだ。

 その人がわかってくれれば、わたしはそれだけいい」

 

「・・・・・そうなのか」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ、ガチャ”

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

”ちら”

 

「あ、あ、あの、一色」

 

「話しかけないでください、変態、キモ川」

 

「い、いや、き、キモ川って」

 

     ・

 

”カチャ、カチャ、カチャ”

 

『・・・実は馬鹿なんだと思う』

 

「・・・ち、くそ!

 え~い、一色!」

 

「ひゃ!

 は、話しかけないでって言ってるでしょ、キモ川!」

 

「もうキモ川でもキモ夫でもいいから。

 一つだけ教えろ、お前にとってあの三ヶ木って人は何なんだ。」

 

「はっ? 美佳先輩がなにか?」

 

「いいから答えろ、お前にとって何なんだ」

 

「なんですかいきなり」

 

「とっても大事なことなんだ。

 頼む、教えてくれ」

 

「・・・・・・・・・・・

 えっと、まぁ、わたしにとって生徒会を運営するための一つの駒」

 

「あの人ってお前にとってただの駒なのか!」

 

「ってね、初めの頃はそう思ってたの。

 でもね、生徒会で一緒に活動してきて、喧嘩したり笑いあったり

 ・・・一緒に泣いたり。

 今ではとっても大切な、大切な人。

 大事な思い出を共有してる人。

 そしてとっても手のかかる・・・・・大切なお姉さん。」

 

「手のかかる大切なお姉ちゃんっか」

 

「そうなんですよ、上級生のくせして心配ばっかかけて。

 ちっとも目を離せないんですよ。

 でも、まぁ、いないととっても寂しくて。

 えへ、本当になんでしょう、あの人って」

 

「・・・わ、わかった」

 

「でもキモ川君、なんでそん 」

 

”ガラガラ”

 

「すまん、遅くなった一色」

 

「本当に遅いですよ先輩。

 罰です、今すぐわたしにミルクティーを 」

 

「ほら、ミルクティー」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

”カタ”

 

「ほれ、お前も」

 

「え、あ、ありが・・・・・な、なんだこの禍々しい物は」

 

「お前、千葉県民のくせにマッ缶も知らないのか。」

 

「いや、これ甘すぎるって有名なやつだろう。

 まったくよりによってなんでこんなもの」

 

こ、このウィルス野郎。

千葉県民のソウルドリンクをこんなものだと!

ま、まて、俺のほうが高位なんだ。

ここは大人の対応しないと。

短気は損気だ。

 

「なんだいらないのか、じゃあ俺が」

 

「いや、もらったものは俺のものだ。

 それに一度飲んでみたかった」

 

「・・・初めからそう言え」

 

く、くそ、やっぱり俺はこいつが嫌いだ。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ブ~、ブ~”

 

「もしもし、どうした三ヶ木?」

 

「あ、稲村君。

 ごめん、どうしても聞いてほしいお願いがあるの」

 

「か、金はないぞ!

 この前の差し入れで」

 

「いや違うから」

 

「ん?

 じゃなんだ? いいから言ってみろ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「もしもし」

 

「あ、わたし。

 ごめんね清川君、よろしくお願いします」

 

「その前に一つだけいいか」

 

「え? あ、うん」

 

「お前にとって一色って何なんだ。

 何でこんなことまでできるんだ」

 

「会長ってさ、ほんと我儘で、自分勝手で、自己中で」

 

「いやそれ同じことだろ」

 

「うん、ほんと振り回されっぱなしだった。

 でもさ、なんかほっとけなくてさ。

 あれで結構思いやりがあって、一生懸命で、可愛くて。

 ・・・そうだね、わたしにとってとっても大切な妹ってとこ。

 わたしは会長・・・・・あの娘を守ってあげたいんだ」

 

「・・・そっか。

 じゃ、書き込み始めるぞ」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

『・・・だよね。

 まったくあの一色ってあざといから。

 あ、でも知ってる?

 生徒会ってさ、ほんとは黒幕がいるんだよ』

 

『え~黒幕?』

 

『そうFIXER!

 あのスキー合宿も実はそのFIXERが仕組んだんだって』

 

『信じられな~い、サイテー

 でも誰、誰なのそのFIXERって?』

 

『あのトナカイ女だって。

 ほら文化祭のチークってあったでしょ、おかしいと思わなかった?

 文化際にチークなんておかしいし、それに葉山君があんな女選ぶ

 はずないじゃん。

 あれっても、あのトナカイ女が葉山君を狙って仕組んだんだって。』

 

『本当、ひど~い。

 サイテーな女だね』

 

『そうそう。

 それでね、他にも  』

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”タッタッタッ”

 

はぁはぁはぁ!

やった、やったぞ、ついに手に入れた!

長かった、長ったぞこの一週間。

ついに最新刊を手に入れることができた。

本屋から今日の午後に入ってくるとの連絡を受けて、プリキラ―も見ずに

すぐに出かけたんだ。

まぁプリキラーは毎回録画してるからいいけど。

さて食料も準備したし、晩飯抜きで今から部屋にこもって熟読しなければならない。

何人たりとも決して邪魔はさせない!

さ、愛しのわが家だ、至福の瞬間が俺を待っている。

 

”ガチャ”

 

「たっだいま~」

 

”ドタドタドタ”

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「は、はい」

 

”ぎゅ”

 

「な、なにいきなり手を握ってどうした。

 そんなにお兄ちゃんがいないのが寂しかったのか小町」

 

「そんなのどうでもいいから。

 早くこっち来て」

 

「お、おう?」

 

     ・

 

『酷いよなあの女。

 確か三ヶ木って言うんだろ』

 

『サイテ~だな。

 自分の顔、鏡で見ろって言うんだ』

 

『あ、知ってる?

 あいつ小学生の頃にさ~ 』

 

な、なんだこれは。

いつの間に書き込みの標的が一色から三ヶ木に移っているんだ?

しかも一色の時よりひどい。

言いたい放題じゃねぇか。

それに小学校のころの話なんか持ちだしやがって。

 

「こ、小町、これって」

 

「うん、土曜日の夜からこんな感じなんだよ」

 

「昨日からだと。

 そ、そうだ三ヶ木!」

 

”カシャ、カシャ”

 

三ヶ木、あいつ大丈夫か。

小学校の話はあいつのトラウマだぞ。

こ、こんなの読んでしまったら、あいつは。

 

”ブ~、ブ~”

 

くそ、何で出ないんだ三ヶ木。

 

「小町、俺ちょっと行ってくる」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁはぁはぁ。

しかしあいつ家にいるのかよ。

近道だ、この公園突っ切っていくか。

はぁ~、ちょっとトラウマになりそうなんだよなこの公園。

やっぱりあの時電話すればよかったんだろうな。

あいつ、あのベンチでずっと俺のこと待ってて・・・・・

えっ!

 

「わざわざありがと、刈宿君」

 

「本当に大丈夫? 美佳さん」

 

「うん、平気だよ」

 

か、刈宿。

そ、そうか、刈宿も書き込み見て。

なんだ二人でベンチに座って。

ちょっと近づきすぎだろう、三ヶ木、お前ビ、ビッチかよ。

それに、なんでそんなに笑顔で話してるんだ、三ヶ木。

・・・・・・・自業・・・自得っか。

一度、掛け違ってしまったボタン、もう掛け直せないんだ。

今、三ヶ木を笑顔にしてやれるのは、あいつしかいない。

だったら俺は・・・・・・・・・・・・あいつのそばにいるべきじゃない。

 

”トボトボトボ”

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”ヒソヒソ”

 

「あ、あいつでしょ」

 

「ああ。

 あいつ、学校よく来れるよな」

 

「本当」

 

”ヒソヒソ”

 

「みんなしてわたしのことを・・・

 でもこれでいい。

 これでジャリっ娘のことは 」

 

”スタスタ”

 

「あれ? わたしの内ズックがない。

 えっと、あれ?

 ・・・・・くそ、お前ら小学生かってんだ。

 こちとらこんなこと、こんなこと経験済みだってんだ」

 

”キョロキョロ””

 

「ほらあった、ごみ箱の中。

 小学校の時と一緒だ。

 げ~、くっさーゴミまみれだよ。

 におい取れるかなぁ~」

 

     ・

 

”ガラガラ”

 

「あ、来た来た」

 

「よく平気な顔してられるよね」

 

”スー”

 

「きゃっ」

 

”ドタ”

 

「あいたた」

 

「痛てえな」

 

「だ、だって急に足出したから」

 

「あん?

 なんだよ、お前、俺が急に足出し 」

 

”ドン!”

 

「ひぇっ」

 

「あのさ、あたしにもそう見えたんだけど」

 

「・・・・・・ちっ」

 

「あん! 違うって言うの」

 

「あ、い、いや」

 

「ほら三ヶ木立ちな。

 いくよ」

 

「あ、う、うん」

 

”ヒソヒソ”

 

「何、あんた達何か文句あるの!」

 

「「・・・・・」」

 

「まったく。

 ほら三ヶ木、さっさと席に座りな」

 

「う、うん」

 

「まったく、今度は何を仕出かしたの」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、あんたのことだから何か理由あんだろうけど。

 いい三ヶ木、学校にいる時はあたしから離れない。

 わかった!」

 

「う、うん。

 ごめん沙希ちゃん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”カチャ、カチャ”

 

この書き込みの内容からこいつら総武高の奴らだな。

卒業生を送る会や文化祭、体育祭とかこれだけのこと書き込めるのは

この学校の生徒しかいない。

なにかこいつらを特定できるようなヒントはないか。

なんとか見つけ出してやめさせないと。

・・・見つけ出して、やめさせて、それで俺はどうしたいんだ

そんなことしてどうなるってんだ。

俺はもうあいつとは・・・・・

でも、いやだからこそかもしれないが、俺はやっぱり放っておけない。

 

”ガラガラ”

 

「ご苦労様です。

 ん、先輩、なにやってるんですか?

 あ、それ、裏総武高の書き込み。

 まだわたしのこと何か書いてあるんですか」

 

「いや、お前への中傷はなくなった。

 だけど代わりに三ヶ木への中傷がひどい」

 

「えっ!

 わたしもう嫌で見てなかったんですけど、何で美佳先輩が?」

 

「土曜日ぐらいから急にな。

 くそ、昨日より書き込みの内容がひどくなってやがる」

 

”カチャ、カチャ”

 

     ・

 

くそ、どんどん書き込んでいる奴増えているじゃねえか。

後から書き込んでるやつの内容って、これ三ヶ木関係ないことだろうが。

きっと面白がって書いているんだろうが、三ヶ木のこと知らないものに

とっては、そんなのわからない。

このままでは全て三ヶ木がやったことになってしまう。

どうする、一応平塚先生には相談しているが。

何か手はないのか。

 

”カチャ、カチャ”

 

「あ、あの先輩、最終演説の原稿ですが 」

 

「すまん、ちょっと後にしてくれ」

 

「・・・は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

どいつが煽ってるんだ。

こういうのは必ず、中心で煽ってるやつがいるはずなんだ。

そいつを何とか探し出して。

だが一色の時とは何か違う。

 

「先輩、必死なんですね。

 わたしの時は放っておくしかないって言ってたのに」

 

「あ、い、いや。

 この書き込みの内容がちょっとひどすぎるんでな。

 そ、それに、ほらあいつには借りがあるんで、ここで返しおきたくて」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・・・それにな一色。

 あいつが、も、もしあいつがどっか行ってしまった時、

 このままでは俺はずっと後悔する。

 俺になにが出来るのかわからないが、何とかしてやりたい。

 救ってやりたい、助けたい。

 このまま放っておくなんてできない。

 あいつは、三ヶ木は・・・・・俺の特別なんだ」

 

「そ、そんなの、そんなのって。

 わたしは、わたしは先輩にとって・・・

 も、もういいです」

 

”ダー”

 

い、一色。

すまん、でも俺は三ヶ木を放っておくことなんてできない。

たとえ、あいつに望まれていなくても。

 

     ・

     ・

     ・

 

「なに、なんのようなの清川」

 

「わたし達忙しいんだけど。

 用事あるなら早くして」

 

「ね、なに後ろ向いてるの。

 ちょっとこっち向きなさいよ」

 

”ぐい”

 

「うげぇ~」

 

”ストン!”

 

「きゃ~、頭、頭が落ちた」

 

「「ぎゃ~」」

 

「こんなの簡単なトリックだよ。

 ハンガーと靴ベラがあればすぐできる。

 そんなことより、あのネットの一色に対する書き込みって

 あれ煽っていたのお前らだよな」

 

「は、はぁ、な、なんのこと」

 

「しらばっくれるなよ。

 書き込みに書いていたよな、あの太秦のお化け屋敷のこと。

 あの仕掛け、あれって俺なんだよ。

 そして、俺が脅かしたのはお前らだけだ。

 だからあのお化け屋敷のこと、あの仕掛けのことを書き込めるのは

 お前らだけだ」

 

「・・・・・」

 

「認めるよな」

 

「な、なに!

 清川、あんたなにがしたいの。

 あんたには何も関係ないじゃん」

 

「認めるのなら何もしない。

 だけど認めないのなら、お前らのことネットに書き込むからな。

 こっちには証拠がある」

 

「ね、ねぇ」

 

「・・・わ、わかったわよ、わたし達がやったのよ。

 認めればいいんでしょ!

 これで気が済んだ?」

 

「・・・ああ。

 あ、ちなみに今の会話、このボイスレコーダーに記録しあるから」

 

「・・・な、なによ、あんたは」

 

     ・

     ・

     ・

 

うん?

ちょっと待てよ、この書き込みって何かおかしくないか?

 

”カチャ、カチャ”

 

ま、まさか、これって。

しかしそれしかない。

ちっ、あ、あのバカ。

 

”ピタッ”

 

「あ、あちー」

 

「もうそろそろ完全下校時間ですよ、先輩」

 

「い、一色。

 ・・・す、すまん、選挙のほうもちゃんと 」

 

「はい、マッ缶。

 もういいです、本当はとっくにわかっていましたから。

 でも、もしかしたらってわたし・・・・・

 でも、でもですよ!

 先輩なんて、所詮先輩なんですから。

 こんなチョ~かわいい女子が、折角のチャンス与えてあげたのに、

 キス一つ出来ないチョ~ヘタレなんですから。

 だから・・・・・・・・・・・わたし、まだあきらめてませんよ、ねっ♡」

 

「お、おう」

 

「それよりも、書き込みの件なにかわかりました?」

 

「ん、あ、ちょっとな。

 なぁ、一色ここ見てほしいんだが」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「なぁ、あいつこれゴミ箱から見つけてきたんだぜ」

 

「おいおい、ちゃんと見つからないところに捨てて来いよ」

 

「そうだな、焼却炉にでも捨てておくか」

 

「ねっ、それうちの友達の内ズックだけど。

 それどうする気」

 

「げ、さ、相模さん」

 

「え、相模さんの友達って。

 あ、いや、な、なんでも」

 

「どうしたの相模?」

 

”ゾロゾロ”

 

「なになに?」

 

「あ、うん、こいつらがうちの友達の内ズック持ち出して、

 なんかする気みたい」

 

「はぁん? あっ!、もしかして匂い嗅ぐんじゃない?」

 

「うわ~最低、キモ!」

 

「いや、そ、そんな」

 

「まって、もしかしたらこいつらそのズックを舐めるんじゃない?」

 

「うぇ、マジ! 

 ね、ねぇ、こいつら女子の内ズックを舐めまわすんだって」

 

「え!」

 

「うそ」

 

”ザワザワ”

 

「い、いやちが、違うから」

 

「お、おい行くぞ」

 

”ぐい”

 

「ひぇ、あ、あの相模さん、く、くるしい」

 

「ね、今度うちの友達になんかしようと思ったら、ただじゃすまないから」

 

「あ、は、はい」

 

”ダー”

 

「ね、あいつらの顔見た?」

 

「きゃはは、青ざめてやんの」

 

「・・・・・・三ヶ木、あんた何やってんのさ」

 

「相模?」

 

「あ、うううんなんでもない。

 さ、教室行こう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ヒソヒソヒソ”

 

「なんかよう!」

 

「ひゃ、な、なんでも」

 

”タッタッタッ”

 

「まったく、相も変わらず」

 

「ごめんね沙希ちゃん。

 でも大丈夫だよ。

 わたし慣れてるから」

 

「そんなの慣れるな、馬鹿!

 そんなの自慢になんかならないから」

 

”ガラガラ”

 

「げ、机の上ゴミだらけ」

 

”クスクス”

 

「ちょっと、あんたらだね」

 

「はぁ、何のこと?

 わたし達何のことか知らないよ。

 ね、ゆっこ」

 

「そうよ。

 なんのことかわからな~い。

 言いがかりやめてくれる川崎さん」

 

”ビシッ”

 

「ひゃ」

 

”ズデン”

 

「今度は当てるよ」

 

「ひぃー」

 

「あ、あっち行こ、遥」

 

「まったく」

 

”ヒソヒソ”

 

「なに!」

 

「「・・・・・」」

 

「ちっ!」

 

「ごめん沙希ちゃん。」

 

     ・

     ・

     ・ 

 

”カシャ、カシャ”

 

やっぱりやっぱりそうだ。

間違いない。

きっかけとなったこの書き込み、これを書いたのはあいつだ。

どうする?

簡単なことだ、同じことをやればいい。

その点、俺はネタに事欠かない。

・・・だ、だけど、それでいいのか?

 

     ・

     ・

     ・

 

「笑子が言いなよ」

 

「やだよ、ちとちゃんが言いなよ」

 

「笑子が」

 

「ちとちゃん」

 

「ん、何やってんのあんたら。

 なんで教室の中入らないの?」

 

「あ、真希。

 あのさ、ほら応援演説のことでさ」

 

「・・・ああ、そのことか」

 

「あの人に応援演説してもらうのってまずくない?」

 

「応援にならないかも」

 

「わかった。

 あたしが舞に言うよ」

 

「真希、お願い」

 

「真希ちゃんファイト!」

 

”ガラガラ”

 

「舞、お疲れ」

 

「あ、真希もお疲れ」

 

「あのさ、あんたネットの件って知ってる?」

 

「ネットって一色の件?

 ごめん、辛いから見ないようにしてる」

 

「そっか」

 

”カシャ、カシャ”

 

「ね、これ見てみて」

 

「え?

 な、なにこれ、何で三ヶ木先輩への書き込みが。

 はぁ! これってひどい!」

 

「でさ、応援演説の件だけど

 この人に頼むのはまずくない?」

 

「こんなの、ここに書いてあるのって嘘ばっかりだし。

 真希、こんなの全然違うって」

 

「わかってる。

 こんなの書き込むヤツの言ってることなんか、わたしちっとも信じてない。

 でもさこの人、三ヶ木先輩のことも考えてあげなよ。

 こんなに言われてる中で、応援演説させる気なの?

 それって三ヶ木先輩が辛くない?」

 

「あ、う、うん。

 で、でも」

 

”ガラガラ”

 

「蒔田いるか?」

 

「あ、稲村先輩。

 ちょどよかった三ヶ木先輩が、三ヶ木先輩がネットで」

 

「ああ。

 あのバカ、またこんなことしやがって」

 

「えっ、こんなことって?

 稲村先輩なにか知ってるんですか?」

 

「土曜日な、三ヶ木から電話があった。

 応援演説を代わってくれって。

 何をするつもりだって問い質したんだが、答えずに電話切りやがったんだ。

 その後すぐだ、ネットで三ヶ木が叩かれだしたのは。

 こんな偶然はないだろう。

 これあいつがなにかしたんだ、恐らくな」

 

「はぁ? ちょっといいですか?

 舞、あたしわからないんだけど。

 何で三ヶ木先輩って人は、自分で自分を貶めるようなことを?」

 

「会長を救うため、そのためなんだ。

 君は知らないと思うけど、三ヶ木のやりそうなことなんだ」

 

「そ、そんな。

 わたしが三ヶ木先輩に一色のこと相談したから。

 稲村先輩、だから三ヶ木先輩はこんなことを」

 

「蒔田、応援演説‥・・・すまん、俺にやらせてくれないか。

 やらせてほしい、この通りだ」

 

”ペコ”

 

「稲村先輩、いえそれはこっちから・・・・・

 も、もしかして稲村先輩 」

 

「頼む、俺は三ヶ木を 」

 

「・・・・・そっか。

 ごめん、真希、ちと、笑子。

 ちょっと絶対に聞いてほしいお願いがあるの。

 お願い!」

 

”ペコ”

 

「あんた」

 

「舞」

 

「舞ちゃん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃゆきのん、先帰るね?」

 

「待ちなさい!

 今、鍵を返してくるから一緒に帰りましょう」

 

「ああ、大丈夫。

 書き込みの件なら心配しないで、わたしあんなの慣れてるから全然平気!

 じゃあね」

 

「み、三ヶ木さん」

 

”タッタッタッ”

 

「もうこの件でみんなを巻き込んじゃいけない。

 だってこんなになるってわかってて、わたしが勝手にしたことなんだもん。

 ふ~、よかった。

 今日はちゃんと下駄箱に靴あった。

 さ、さっさと帰ろっと。

 うんしょっと」

 

”ぐにゃ”

 

「え? な、なんか靴の中に。

 げ、ガム!

 こんなにいっぱい、あ、靴の裏まで。

 うわぁ、き、汚い」

 

”へなへなへな”

 

「う、うううううう」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

”スタスタスタ”

 

「先輩、いよいよ本番ですからね。

 応援演説お願いしますね。

 あの、できるだけしょぼく」

 

「・・・・・お、おう」

 

投票前の最終演説。

これが終われば、あとはその後の投票だけだ。

やっとこの選挙が終わる。

選挙が終わったら、三ヶ木に対する書き込みも下火になってくれないだろうか。

もし下火にならないのなら、そん時はやっぱり俺が。

そうするしかない。

俺が三ヶ木にしてやってやれること、それしかない。

だが・・・・・

 

”キョロキョロ”

 

ん? あれって川崎。

なにしてるんだ? 

なにかすごく焦っているようだが。

 

「もう! 

 本当にあの馬鹿どこに行ったんだろ?

 お昼休みになったらどこか行っちゃって。

 まったく、あれほどあたしから離れるなって言ってるのに」

 

「ん、川越、なにしてるんだ?」

 

”ぼこ!”

 

「ぐはぁ」

 

「あんたわかってて間違えてるんだろう。

 いい加減にしないと!」

 

「は、はい、ごめんなさい」

 

「そんなことより、比企谷、あんた三ヶ木見なかった?

 あの馬鹿、今日朝から様子が変で気になってたのに。

 どこ行ったんだろ」

 

「い、いや、見てない。

 どこにもいないのか?」

 

「ああ。

 昼休みになって、すぐ教室出て行って。

 ・・・あんたも知ってるだろ、ネットの件。

 三ヶ木、ネットの件があってからいろいろ嫌がらせにあっててね」

 

「・・・・・一色、すまん。

 先行っててくれ」

 

「え? あ、はい」

 

”ダー”

     ・

 

 

はぁ、はぁ、はぁ。

くそ、どこにいるんだ見つからない。

やばいなぁ、時間がない。

もう最終演説が始まってしまう。

・・・仕方ない。

 

”カシャ、カシャ”

 

「もしもし。

 何かしらこんな時に」

 

「すまん雪ノ下、頼みがある。」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ざわざわ”

 

「そろそろ最終演説会を始めますので、

 候補者の皆さん、準備のほどお願いします」

 

「美佳先輩、見つからないのかなぁ。

 でも、そろそろ演説が」

 

「一色さん」

 

「え? あ、雪ノ下先輩」

 

「比企谷君は来れないそうよ」

 

「え?

 で、で、でも、応援演説が」

 

「わたしが代わるわ」

 

「え、あ、は、はい。

 よろしくお願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁはぁはぁ。

屋上へのド、ドア開いている。

や、やっぱりここか、ここにいたんだあいつ。

 

”タッタッタッ”

 

い、いた。

え、あ、あいつフェンスのとこで何をしてんだ?

ま、まさか。

 

「・・・・・ごめんねとうちゃん。

 あ、あのね、わたしもう一回かあちゃんに、かあちゃんに会いたい」

 

ち、あのバカ、フェンスに手を。

 

”ダー”

 

「三ヶ木!」

 

”ぐぃ”

 

「え? あ、ひ、比企谷君。

 い、痛い。

 手、手痛いって」

 

「何をしようとしてた。」

 

「え、あ、あ・・・・・

 別に、なにも」

 

「何をしようとしていた!!」

 

「・・・・・」

 

「三ヶ木、少し話がある。

 いいからこっち来い」

 

「痛い痛い痛い。

 痛いから手、手を放して」

 

「絶対だめだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは生徒会選挙立候補者と推薦者の最終演説会を始めます。

 まず最初に書記に立候補した比企谷さんの推薦人、川崎君お願いします」

 

     ・

 

「三ヶ木、お前何やってんだ」

 

「な、何って、別に何も。

 ただ景色がきれいだなぁ~って」

 

「・・・・・

 ネットの件、あれお前が自分で書き込んだんだよな」

 

「はぁ?

 そ、そ、そんなことするわけないじゃん。

 な、なに言ってるのかなぁ~」

 

「鹿娘、あの鹿娘のことトナカイって言い張るのはお前ぐらいだ。

 お前知らないのか、トナカイと鹿では角の形が違うんだ。

 まぁ、その前にあれは鹿娘で広く認知されている。

 だが、あの書き込みには、しっかりトナカイ女って書いて

 あったじゃねえか」

 

「・・・・・で、でもさ、これが一番の方法だったの!

 ネットでの会長への書き込みをやめさせるにはこれしかなかったの!

 た、確かにわたしだよ。

 へへ、でもさ、これだけ一気に広がるって思わなかった。

 やっぱりわたしって嫌われてるんだ。

 まぁ、結果さ、ちゃんと会長への嫌がらせ無くなったじゃん。

 だからこの方法が正解」

 

「だが、お前が嫌がらせ受けてるじゃねえか」

 

「わたしなんか大丈夫だよ、慣れてるもん。

 小学校の頃なんてこんなもんじゃなかったし。

 それに、どうせ学校なんかあと2カ月ぐらいだから、

 わたしは全然平気!」

 

「・・・なら、お前何で泣いてるんだ。

 それに今何をしようとしたんだ」

 

「・・・わ、わたし泣いてない。

 なにもしてない」

 

「泣いてるじゃねえか。

 それじゃ、その目から流れてるのなんなんだ。

 ・・・お前はお前が思ってるほど強くないんだ」

 

「違う、泣いてなんかいない!

 もういいじゃんかぁ!

 ちゃんと、ちゃんと解決したんだから」

 

そうなんだよ、そうなんだ。

これがこいつのやり方なんだ。

大事なものを守るためには平気で自分を傷つける。

さもそれが当然のように。

そして言うんだ。

”わたしはわたしのしたいことをしたんだ”って。

でも、それって、そんなのって。

単なる自分への言い訳だ。

やっとわかった。

俺の心にずっと渦巻いていたもの。

俺がこいつにしてやれること。

・・・俺しか言ってやれないだ。

いや、俺が言ってやるべきなんだ。

いたわりや優しい言葉をかけるのは・・・俺じゃないんだ、もう今はきっと。

もっと早く言うべきだったんだ。

林間学校の時、気が付いていたじゃねえか、そう思ったんじゃないか。

雪ノ下にも指摘されていたんじゃないか。

あの時、ちゃんとこいつに言ってやれば、もしかしたらこんなこと。

・・・・・でも、俺自身まだこのやり方を認めていたんだと思う。

こんなやり方しか解決できないことがあるんだと。

自分が傷ついても大事なもの守れればいいんじゃないかって。

でも違うんだ、違ってたんだ。

俺はお前の涙を見て、お前が今やろうとしていたことがわかって。

俺はわかった、本当にわかった。

だから俺は・・・俺が言う!

 

「三ヶ木、お前のやり方は間違っている。

 俺は絶対に認めてやらない」

 

「え?」

 

「お前のやり方なんかじゃ誰も救えない」

 

「な、なに言ってんのさ。

 実際会長への書き込みは 」

 

「はん!

 お前、本当に一色を救えたと思ってるのか?

 救えていないだろう。

 お前が自分を犠牲にしてあの嫌がらせをやめさせた。

 そのことは一色も知っている。

 あの書き込み見れば、わかるやつはお前の自作自演だってわかる。

 そのことを知った一色の気持ち、お前考えたことあるのかよ。

 一色にとって大事な大事なお前を犠牲にして、それで自分が助かって、

 そんなの一色が喜ぶと思うのかよ!

 一色だけじゃない、稲村も、本牧も、書記ちゃんも、川崎も、材木座も、

 由比ヶ浜や雪ノ下、それに、か、刈宿、お前はみんなの気持ち考えたこと

 あるのかよ。

 ・・・・・お、俺の気持ち考えたことあるのかよ。

 なんでだ、お前はいろんなことわかってるのに、何でそこがわからない。

 だから言う。

 お前のやり方は絶対に間違っている。

 お前のやり方じゃ、本当に大事な人は救えない。

 俺は、俺は絶対に認めてやらない」

 

「そ、そんなの。

 だ、だって比企谷くんだって」

 

「・・・だからわかるんじゃねえか。

 俺辛いんだ。

 こんなやり方でお前が傷つく姿を見てると、俺はどうにかなりそうなんだ。

 自分が傷つくよりも辛いんだよ。

 辛くて辛くて、どうしょうもないんだ!

 ・・・三ヶ木、もうやめよう、俺達こんなやり方」

 

「か、勝手すぎるよ

 酷いよ、そんなの酷いよ。

 比企谷君だったらわかってくれると思ったのに!

 比企谷君だったら認めてくれて、そ、そんでやさしくわたしのことを・・・

 だのに!

 わたしのやり方間違ってるって、誰も救えないって。

 わたし、こ、こんな思いしてるのに。

 もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!

 比企谷君なんて・・・・・・ほんとに、ほんとにもう嫌いだから!

 二度と話しかけないで!」

 

”ダー”

 

「三ヶ木!」

 

 

 

 

---- そして今 ----

 

 

 

 

「・・・・・はぁ~」

 

”トボトボトボ”

 

「ヒッキー、どこに行ってたの?

 もう小町ちゃんの演説終わっちゃったよ。

 あ、でもヒッキー、いろはちゃんの応援演説するんじゃ」

 

「・・・・・」

 

「ヒ、ヒッキー?」

 

「由比ヶ浜、今度の土曜日、早応大行ってみるか?」

 

「え、あ、う、うん」

 

     ・

 

「・・・という生徒会を目指して頑張ります」

 副会長候補 藤沢・・・

 あ、それと一つ言い忘れていました」

 

”ドン!”

 

「わたしはネットでコソコソと人の悪口言ったり嘲笑をする人が

 大嫌いです。

 これは既に生活指導の平塚先生にご相談させて頂いているのですが、

 わたしは生徒会にネット取り締まり部を設置して、先生方と連携し

 どんどん取り締まります。

 総武高の生徒が同じ総武高の生徒を貶めるようなことは絶対許しません!

 以上です」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、はい、えっと副会長に立候補された藤沢さんでした。

 えっとマイク大丈夫だったかな。

 続いて、会長候補の蒔田舞さんの応援演説ですが、

 あ、あの~蒔田さん、応援演説の方は?」

 

「あ、応援演説をお願いしました稲村先輩はちょっと下痢気味でして。

 応援演説は無理みたいです」

 

「え、で、でも、それでは」

 

「ほら応援演説の時に力まれて大変なことになったりするかも。

 そうなったらどうします?」

 

「げ、あ、は、はい。

 あの蒔田さんがよろしいのであれば、それで。

 では、続いて生徒会会長に立候補された蒔田さんです」

 

”スタスタスタ”

 

「生徒会会長に立候補した蒔田舞です。

 みなさん、すみません少しわたしの話を聞いてください。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 以前お話ししましたように、わたしには目標とする先輩がいます。

 この先輩は自分勝手な人で、周りの人の迷惑なんて何も考えなくて。

 そして・・・・・本当に止めどもなく馬鹿で。

 その人は、皆さんも知っていると思いますけど、今ネットで炎上して

 いるあの人です。

 あの、あの人は馬鹿なんです。

 ある日、わたしは同じネットで親友がすごく陥れられてるのを知りました」

 

”ちら”

 

「ま、蒔田」

 

「親友のあることないこと書かれて。

 まぁ、あざといのは当たってましたけど。

 それでその親友がすごく傷ついて。

 外見は平気そうにしていましたけど、わたしわかりましたすごく落ち込んでるの。

 それにたまたま見たんです、普段の笑顔からは全く想像のつかないくらいの親友の顔を。

 その顔を見て、わたしすごく辛くなって先輩に話しました。

 誰かに言わないと辛くて辛くて。

 わたしは先輩に話聞いてもらうだけで、すごく気が楽になって。

 

 ・・・でもわたし今そのことを、ものすごく後悔しています。

 忘れていたんです、その先輩が馬鹿だったってこと。

 案の定、その先輩は親友への嫌がらせをやめさせるために、

 ネットに自分で自分を貶めることを書き込みました。

 それもうそばっかりを。

 全てが自分が悪いんだって思わせるために。

 

 その結果、親友への嫌がらせは止みました。

 でもそんなの、そんなのってわたしが望んでいたことじゃない。

 先輩を犠牲にして、それでわたしが平気でいられると思うんですか!

 そんなわけないじゃないですか、馬鹿先輩!

 わたし、わたしぜったい許しませんからね!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・ご、ごめんなさい先輩。 

 先輩、わたしは先輩のことが大好きです。

 

 だから、お願いします。

 みなさん、こんな大馬鹿者の後輩にとって、とってもとっても大事な

 先輩なんです。

 もう、もう嫌がらせは、や、やめでぐだざい。

 う、ううううううう、うわ~ん、うわ~ん、ひゃめでぐだざい、うっ、うっ」

 

”ざわざわ”

 

「あ、あの、蒔田さん」

 

”スタスタスタ”

 

「司会者の方、次は一色さんの番よね」

 

「あ、はい。」

 

”だき”

 

「さ、蒔田さん、早く席に戻りなさい」

 

「ば、ばい、ず、ずみまぜん、ううううう」

 

「一色さんの応援演説の雪ノ下です。

 一色さんはいい人です。

 以上」

 

”スタスタスタ”

 

「へ? あ、あの雪ノ下さん?」

 

「さ、あなたの番よ一色さん。

 これでよかったわね」

 

「はい。

 ありがとうございます、雪ノ下先輩」

 

”スタスタスタ”

 

「ごほん。

 えっと~生徒会会長に立候補した一色いろはです。

 わたしが会長に立候補した理由。

 ご存じのとおり、わたしは一年間生徒会会長を務めさせて頂きました。

 進学研究室の創設や部活動部費給付基準の緩和、それと開かれた生徒会作り。

 でもまだまだやり残したことがいっぱいあります。

 その中で特にやりたいことは、生徒一人一人がお互いのことを認めて、

 そして大切にする総武高にすることです。

 あの、わたしにも大事な先輩がいます。

 この先輩は本当に馬鹿で自分勝手で・・・・あれ? なんかどっかで聞いたような。

 わたしはこの先輩に沢山お世話になりました。

 それなのに全然お返しできていません。

 いっぱいいっぱいお返ししたいです。

 でも、もうあと数ヶ月しか先輩はいません

 だからお返ししきれない分は、総武高生のみんなにお返していきたいと思います。

 生徒一人一人がお互いを大切に大事にする総武高。

 わたしが会長になった暁には、そんな学校つくりを目指します。

 だから・・・・・みなさんよろしくです、えへ♡」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「いろはちゃ・・・・会長、そろそろ時間に」

 

「はい。

 それでは始めましょう。

 みなさん、ご苦労さまです。

 生徒会会長の一色いろはです。

 まずは、みなさん自己紹介よろしくです。

 あ、名前だけでいいですよ。

 面倒くさいんで」

 

「い、いろはちゃん。

 もう~、あ、あの副会長の藤沢沙和子です。

 よろしくお願いします。

 あ、2年です」

 

「おなじく2年の副会長、柄沢唐人です。

 みんなよろしくお願いするね」

 

「か、か、か、か、会計の煤ヶ谷鈴です。

 い、い、い、い、1年です。

 よ、よ、よ、よ、ろしくお願いしますです」

 

「書記の比企谷小町です。

 1年です。

 先輩方よろしくお願いします」

 

”ペコ”

 

「以上ですね~」

 

「おい、一色!」

 

「あ、えっと~忘れてました。

 そこに居るのが、泣きの蒔田です」

 

「はぁ! な、な、なに言って」

 

「本当のことじゃないですか~

 ほら、さっさと自己紹介してください」

 

「ぐぅ、く、くそ。

 えっと、庶務やることになりました2年の蒔田舞です。

 本当は、このちょ~頼りない会長を支えるのなんてご免ですけど。

 まぁ、一色がどうしてもってしつこく頼むので、

 仕方なく庶務をやってやることにしました。

 皆さんよろしくです」

 

「はぁ! な、なに言ってんの蒔田!」

 

「頼んだじゃん」

 

「・・・ぐぅ」

 

「はは、頼んだんだ、いろはちゃん」

 

”ガラガラ”

 

「いいか」

 

「え、あ、美佳先輩から聞いてますよ、清川君。

 中に入ってください。

 それと自己紹介を」

 

「ああ」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、そこの席はダメです。

 そこは絶対誰も座らないでくださいね」

 

「ん?

 ま、まあこっちでいけど。

 庶務の清川っす。

 あ、俺、あのパソコン使いたいだけなんであんまりお構いなく。

 ・・・くそ、あのジミ眼鏡、またはめやがって」

 

「なんですか清川君。

 なにか文句でも」

 

「あ、いや何でも」

 

「これで全員ですね。

 それではみなさん、生徒会一年間よろしくです」

 

「「はい」」




最後までありがとうございます。

今回いつもよりちょっと早めに投稿。
なぜなら・・・今から13巻読み始めたく。
あ、11巻からもう1回読み直そうかと。

っというわけで、年内の投稿はおそらく最後かと。

ほんと少し早いですが、今年一年ありがとうございました。
また、来年も完結までよろしくお願いいたします。

みなさんがよい新年をお迎えになられますように。

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オープンキャンパス編 -後悔と迷いとそして・・・-

今さらながら、

「明けましておめでとうございます」

更新遅くなってすみません。
今年もまたよろしくお願いいたします。

今話は生徒会選挙の演説の時に遡ってます。
八幡に認めないと言われた後、オリヒロは・・・

今回も2万字越えで、字数多くてすみません。
お時間お掛けすると思いますが、無理なさらず
よろしくお願いいたします。



”ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ”

 

・・・・・あ・・あれ・んっ・・わた・し・なん・か・揺れ・て・る?

ん?・か・りや・・ど・く・・・ん?

・・・な・んか・・すご・・く・・顔近・い・よ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

・・・んっ・と・なん・か・・刈宿・・・君・息・・・・荒い。

わた・し・なに・され・・て・・・るん・だ・ろ・・・う?

 

”ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ”

 

・・・・・まっ・・・いい・・・か。

 

『俺は絶対に認めない』

 

も・・・もう・・・どうでも・・・・・・いいや。

わた・し・・なん・て・・・ど・う・・なっ・て・・も・・・いいん・だ。

今・は・・とっ・て・も眠く・・・て・・・・・そ・れに・疲れ・・・た。

 

「ぐぅ~、ぐぅ~」

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「着いた~」

 

つ、ついに来ちゃったカルフォルニア。

ひぇ~、右も左も外人さん、外人さんがいっぱい。

んと、どこに行こうかなぁ、デイズニーにユニバーサル、それにビバリーヒルズ。

えっとハリウッドにも行きたいし、えっと後は・・・・・どこでもいいや。

とにかくいろんなところ見て回りたい。

ん~、でも刈宿君どこにいるのかなぁ。

 

”キョロキョロ”

 

確か空港の到着ロビーで待っててくれるって言ったんだけど。

どこだどこだ?

 

”ドン!”

 

「あ、ご、ごめんなさい」

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「い、いや、あの、その・・・」

 

え、やばい、このちっちゃいおじさん、なんか言ってる。

これ、英語かなぁ。

なんかあんまりよく聞き取れない。

う~、あんだけ勉強したのに。

どうしょう、なんて言ってんのかなぁ、なんて言えばいいんだろう?

 

「え、えっと、アイアムサム!

 あ、違った、Iam sorry for buming。」

 

あ、それと満面の笑みで。

見よ、自称おじ様キラーのこの笑顔!

 

「Sorryね、ニコ♡」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

ひ、ひぇ~、な、なんか怒り出した。

はっ、わたしの笑顔が悪かったの?。

おかしいなぁ、お肉屋さんのおじちゃんにはバッチリなのに。

でもなんで、なんで謝ってるのに怒ってるの?

なんか変なこと言ったかなぁ?

あ、もしかして逆だった?

 

「Buming、えっと、Buming for ・・えっと~」

 

な、なんだったっけ? Bum・・・あ、Bumpingだった。

げ、めっちゃ怒ってるよ~

ど、どうしょう、か、刈宿君どこ?

刈宿く~ん。

 

”キョロキョロ”

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

げ! な、なんで。

ふ、増えてるよ、ちっちゃいおじさん二人に増えてるって。

おじさんて双子だったの?

え、誰か呼んでる?

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!」

 

げ、また増えた!

い゛~、みんな同じ顔してるー!

は、あの人、服のポケットからなんか出そうとしてる。

もしかして、け、拳銃!

だ、だずげて、ごろざれるー!

だ、だれかー

 

”キョロキョロ”

 

あ、あのアホ毛! あの後ろ姿は、ひ、比企谷君。

比企谷君だ!

 

”ダー”

 

「ひ、比企谷君、た、助けて」

 

「僕はお前を助けない」

 

え? あ、あの~、比企谷君?

 

”クルッ”

 

あっ違う!

目が腐ってない。

似てると思ったけどなんかこの人違う。

よくみたらアホ毛以外は髪型も違うし。

で、でも日本人みたいだし、この際誰でもいいから。

 

「助けて。

 あのおじさんに、う、撃たれそうなの。

 お願い助けて下さい」

 

「お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい。

 お前が今日を生きてくれるのなら、僕もまた今日を生きていこう」

 

「・・・」

 

は、はぁー! な、何言ってるのこの人。

い、今にもわたし撃たれて死にそうなんだってのに。

わたしは今日も明日も行きたい!

 

「い、いや、あのね、」

 

「だけど、一緒に死ぬ相手を選べと言われたらお前を選ぶ」

 

「わたしはイヤー!」

 

も、もういい、だ、誰かだずげでー

 

”キョロキョロ”

 

「〇✖△□、〇✖△□!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!」

 

「〇✖△□、〇✖△□!!!!」

 

ぐぅえ! いつも間にか周りちっちゃいおじさんばっかり、それも

みんな同じ顔。

おじさんって、いったいいくつ子なの!

あ、いやー、みんな拳銃構えてる。

う、撃たないで、まだわだじ死にだぐない!

 

「Three, Two, One, Buming!」

 

”パン! パン! パン!”

 

「ギャー!!」

 

     ・

     ・

     ・

 

はっ!

え、あ、あれ?

わ、わたし生きてる、生きてるよね。

よ、よかった~、夢だったんだ。

はぁ~、もう死んだかと思った。

んっとでもさ、ここどこ?

見たことない部屋だし、わたしベッドで寝てる。

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

へへ、夢だったんだベッドで寝るの。

なんか寝心地いいな~、この弾力がいい。

いつも寝ている布団って薄いから、硬くて時々身体痛かったんだ。

このベッドなら身体痛くならなくてすむ。

 

「えへへ」

 

”ギシ、ギシ、ギシ”

 

いやいやいや、そ、そんなことやってる場合じゃないって!

ここどこだよ?

えっと、なんかヒントになりそうなものない?

 

”キョロキョロ”

 

あっ! 肥満度ヒーロー、ファットさんのぬいぐるみ。

ふふふ、なんかあの目とか体型とかみるとなんかホッとすんだよね。

イレギュラーヘッド様に次いで好きなキャラ。

でもさ、ファットさんって誰かに似てるんだよね。

ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ファットさん。

ファットさん、ファットさん、ファッ・・・

 

『俺は肥満度ヒーロー、ファットさんに凝ってんでんがな』

 

・・・・・・・・・・う、うそ。

い、いやちょっとまて、ちょっと冷静になれわたし。

そ、そうだ深呼吸。

 

”スーハ―、スーハ―”

 

え、えっとさ。

アメリカに行ったってのが夢だったんだよね。

だって撃たれてないもん。

そ、その前の記憶、えっとな何があったっけ?

・・・・・刈宿君。

刈宿君の顔がすごく近くにあって、何かすごく息が荒くてさ。

そんで・・・・わたしゆっさゆっさって揺れてて。

・・・・・・・・・・・う、うそだよね、ははは、なに考えてんだわたし。

 

”ガバッ”

 

えっ! な、何でわたし下着姿なんだ?

・・・下着だけ、パンツとブラだけ。

・・・・・・・うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うっそー!

わたしもしかして刈宿君と。

だってここ刈宿君の部屋だし、わたしは下着姿。

そ、そ、そ、それになんか下腹部も変な感じだし。

刈宿君息遣い荒かったし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしやっちゃたんだ。

わたし刈宿君と、あ、あのさ・・やっちゃ・・・・・・・・うそ。

ど、どうしょう、どうしよう。

こんなの、こんなのって。

ご、ごめんなさい、ひ

 

”ガチャ”

 

「あ、起きてたの美佳」

 

「ま、ま、麻緒さん、ど、ど、ど、どうしょう、わ、わ、わたし刈宿と。

 あ、あのさ、刈宿君と、や、やっちゃった。

 ど、ど、どうしょ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ん!

 な、何で麻緒さんが刈宿君の家に?」

 

「なに言ってんの? ここわたしの家だけど」

 

「はぁ?

 ・・・え、えっと~でも、ほらファットさんのぬいぐるみ」

 

「え、あ、これ。

 本当は痩せてる時のがほしかったんだけどね。

 ほら、痩せてる時のファットさんの顔ってさ、なんとなく雰囲気が

 佳紀に似てない?」

 

「ん~、あっそっか確かにとうちゃんに似てるかも。

 いや、そんなことじゃなくて。

 なんでわたしが麻緒さん家に?」

 

「美佳、なにも憶えてないの?

 あんたは学校で貧血で倒れたの。

 もうびっくりしたんだから、学校から電話あった時は。

 それで慌てて学校に行ったら、あんた保健室のベッドで

 ”ぐぅあー、ぐぅあー”っていびきかいて寝てるし。

 もう、心配して損した。

 後でタクシー代を請求するからね」

 

「え?

 あ、あの~」

 

「美佳、あんた生理中のくせに寝不足だったんでしょ。

 今週はずっと朝ご飯の時にすごく眠たそうだったし、目の下にクマも

 出てたし。

 勉強も大事だけど、もっと身体を大事にしなさい」

 

「あ、う、うん。

 え、えっとちょっと待ってね麻緒さん。

 頭の中が生理・・・じゃなくて整理できなくて。

 えっと~」

 

な、なにがあったんだ?

麻緒さん、わたしが学校で倒れてたって言ったけど。

ん~と、確か屋上で比企谷君と・・・・・・・・

その後どうしたんだろう、なにも憶えてない。

なんか走ってたのは覚えてるんだけど・・・その後どうしたんだろう?

 

「あ、あの~麻緒さん。

 わたし学校で倒れてたんだよね?」

 

「そう。

 えっとあの色黒の結構カッコいい男の子、確か刈宿君だったっけ?

 彼が倒れてるの見つけてくれて、美佳を保健室まで運んでくれたのよ。

 それにわたしが迎えに行くまで、ベッドの横にずっと付き添っていてくれて。

 ぐぅあー、ぐぅあーって、いびきをかいているあなたの横で。

 とっても心配そうにね」

 

げ、刈宿君の前でいびきかいてたんだわたし。

ひゃ~、はずかしい。

ヨダレは大丈夫だったかなぁ。

 

「その後もタクシーに一緒に乗って来てくれて。

 この部屋まで美佳を運んでくれたのも刈宿君だったんだから。 

 しかもお姫様抱っこで」

 

「お、お、お、お、お姫様抱っこー」

 

げ、なんかすごく恥ずかしい。

その間もずっと寝てたってわたし、どんだけ眠たかったんだ。

確かに、土曜日からずっとあんまり寝れなかったんだけど。

それにしてもお姫様抱っこって。

あ! それで顔近かったんだ。

 

「はぁ~うらやましい。

 お姫様抱っこ」

 

「・・・・・」

 

「お姫様だ 」

 

「も、もういいから、やめて~」

 

「ふふふ、大分顔色も戻ったみたいだし、もう大丈夫なようね。

 今度、刈宿君にはちゃんとお礼言っておきなさいよ」

 

「ふぁい」

 

「それと今日は一日ゆっくり休んでなさい。

 学校には連絡しておいたから。

 あ、それに明日は祭日だから泊っていきなさいね。

 佳紀には言っておくから」

 

「あ、う、うん」

 

「で、お昼ご飯食べれそう?」

 

「え、お昼ご飯って?

 あ、あの今何時?」

 

「12時過ぎたところよ。

 本当に昨日からよく寝れたもんね。

 お昼ご飯できたら呼んであげるから、それまで休んでなさい」

 

「う、うん、ありがと麻緒さん」

 

”ガチャ”

 

そ、そっか。

わたしやってなかったんだ。

よ、よかった。

だって初めては・・・・・・・

 

”ぽっ”

 

はっ、な、な、なに想像してんだ。

そ、そ、そ、そうだ、スマホ。

みんなに連絡しなくちゃ。

えっと~

 

”カシャ、カシャ”

 

げ、メールいっぱい。

どれどれ。

 

”カシャ、カシャ”

 

ふむふむ。

そっか、昨日の生徒会選挙はジャリっ娘が当選したんだ。

舞ちゃん大丈夫かなぁ、あんだけ頑張ってたのに。

う~ん、しかし恐るべしはジャリっ娘。

まさかあの差を逆転するとは。

あ、そうだジャリっ娘に電話するんだった。

えっと今日は新役員の顔合わせがあるはずだから、それまでに話して

おかないと。

・・・それから清川くんにも電話だね。

 

     ・

     ・

     ・

 

パコ~ン、パコ~ン

 

『・・もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!

 比企谷君なんて・・・・・・ほんとに、ほんとにもう嫌いだから!』

 

「はぁ~、やっぱり俺は間違っていたのか。

 いや、これでよかったはずだ、これが正解なんだ。

 ・・・だけど」

 

”ズキン!”

 

「ぐ、いてぇ」

 

「やっぱりここにいたんだ」

 

「ん? あ、川崎」

 

”ぼこ

 

「ぐはぁ、な、なんで」

 

「あ、ごめん、間違えた。

 だ、だっていつもあんたはあたしの名前を・・・

 あ、あんたが悪い」

 

「横暴だ!

 くそ、で、何か用か?」

 

「あんたさ、昨日あの後に三ヶ木に会った?」

 

「・・・ああ」

 

「そっか、やっぱりね」

 

「なんだやっぱりって?」

 

「で、あんた三ヶ木に何を言ったのさ。

 三ヶ木、昨日あの後、結局戻ってこなくて今日も学校休んでんだよ」

 

「・・・・・・な、なにも、なにも言ってない」

 

「あんたにはそのつもりはなくても、勘違いするようなことなんか言ったん

 じゃない?

 ・・・・去年の、ぶ、文化祭の時のように」

 

「文化祭?

 俺何か言ったか?」

 

『愛してるぜ川崎!』

 

「本当にあんたは!」

 

”ぼこ”

 

「ぐはぁ、い、いてぇ、なんだいきなり」

 

「・・・これでチャラにしてあげる」

 

「チャラ、チャラって何のことだ」

 

「な、なんでもいい!

 それよりさ、あんた三ヶ木の家知ってるんだろ。

 このプリント持って行ってくれない?」

 

「い、い、いや、そ、それはお前が」

 

「何で断るのさ。

 やっぱりあんた何かあったんだね。

 いいからあんたが持って行ってあげな。

 頼んだよ」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい、川越!」

 

”タッタッタッ”

 

「え!」

 

”ぼこ!”

 

「ぐはぁー」

 

「まったくあんたは!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁー!

 お、俺が庶務だって!

 何でそうなるんだ、生徒会なんてそんな面倒なことは絶対に嫌だ」

 

「まぁいいけど。

 だったらパソコンの件は無しね」

 

「な、何でそうなるんだ。

 お前ちゃんとパソコンを返すって約束を」

 

「え? わたしそんな約束してないよ」

 

「な、ちょ、ちょと待て、今ボイスレコーダーを」

 

”カチャ”

 

『・・・代わりに、没収したパソコンを清川君が使えるようにします。』

 

「はっ! お前、また騙したな!」

 

「え~、騙してないよ。

 残念だね~、庶務になればパソコンが自由に使えるんだけどな~

 あ、生徒会室の中での話だけど。

 それにさ、会長と話す機会も増えるんだけどなぁ~

 あ、それどころじゃなくて、庶務と会長は一心同体って言われる関係だから、

 もしかして、ぐふふふふ」

 

「・・・い、い、一心同体だと。

 それに、ぐふふふふって。

 し、仕方ねぇ、そんなに庶務やってくれって頼むのなら、やってやってもいいよ。

 あ、あくまでもパソコン、パソコンのためだからな」

 

「はいはい。

 えっと会長にはもう話してあるからさ、さっそく今日の放課後に生徒会室に

 行ってね。

 今日、新役員の顔合わせするって言ってたから。

 じゃあね。

 ・・・・・・あのさ、ほんとにありがと。

 助かった」

 

「・・・あのな、総会の時は暴力振るってすまなかった」

 

「ほんとだよ、めっちゃ痛かったんだからね」

 

「ご、ごめん」

 

「えへへ、でもね、清川君の気持ちはちょっとはわかるから。

 わたし全然気にしていないよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「それよりさ、これから会長のことお願いね」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ」

 

「じゃあ」

 

”プー、プー”

 

ふぅ~、これでよしっと。

まぁ、ストーカー君は野放しにするより目の届く範囲で監視するほうがいいもんね。

もうすぐ、わたし達いなくなっちゃうし。

 

”ぐぅ~”

 

は、腹減った~

お昼ご飯まだかなぁ~

 

「美佳~、お昼ご飯できたよ。

 自分でこっち来れる?」

 

「あ、う、うん、大丈夫」

 

うんしょっと。

 

”ふら”

 

はぁ、立ち上がるとまだ少しふらつく。

ふぅ~、お腹すいた。

お昼ご飯何かなぁ~

 

”ガチャ”

 

「へっ!」

 

はぁ~、すごい部屋。

ゆきのんのとこほどではないけど、広くて綺麗でいいなぁ~

あ、テレビでか!

ふぇ~、こんなんでアカ俺とか観れたらサイコーだろうなぁ。

 

「な、ねぇ麻緒さん、このテレビ100インチだよね、ね」

 

「うん、そうだよ、しかも4K」

 

「うわ~、いいなぁ~」

 

「いいよ~、女優さんのしわの一つ一つまではっきり見えるから。

 よし勝ったって!」

 

「・・・・・」

 

そこかー

麻緒さん勝ったって、女優さんのしわ見るために100インチ買ったかー

でも、一人でテレビ見て勝ち誇ってる麻緒さんの姿を想像したら、

なんか・・・・・う~、ふ、不憫だ。

 

「ん、どうした?

 ほらほらそんなとこで立ちすくんでないで、いい加減こっちに来て座んなさい」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

うわぁ~美味しそう。

豚レバーとひじきとほうれん草のスープだ。

 

「い、いっただきま~す」

 

”パクパクパク”

 

う、うま~

このレバー臭みもなくて、ほんでしっとりしてて。

くそ、麻緒さんって性格大雑把なくせに料理うっまいんだよな~

わたし頑張って作っても敵わないんだもん。

 

「ね、何で麻緒さんこんなに料理うまいの?」

 

「ふふん、伊達に長いこと海外で一人暮らししてないからね」

 

”もぐもぐ”

 

「海外で一人暮らしか~、なんか憧れる。

 ね、麻緒さんはアメリカでなにやってたの

 ほら、こんなすごいところにも住んでるし」

 

「ん、ああ、トレーダー。

 これでも結構腕利きのトレーダーだったんだからね」

 

”パクッ、もぐもぐ”

 

「ふ~ん、でもなんで日本に帰ってきたの?」

 

「美佳、食べるか喋るかのどっちかにしなさい。

 行儀の悪い。

 まぁ、そこそこ女一人が食っていける程度のお金はたまったからね。

 余生は日本でってね」

 

「余生って・・・

 でもすごいや、麻緒さん勝ち組だね」

 

「・・・勝ち組か

 まぁ、帰ってきたのはそれだけじゃないんだけどさ。

 ・・・・・・・・・ほら次の母の日でもう10年になるから。

 あの娘に今までずっと会いに来てあげられなかった、何もしてあげられ

 なかったからね。

 だから毎日会いに行ってあげたいの」

 

「えっと麻緒さん10年って、それに母の日って。

 もしかして麻緒さん、帰って来てから毎日かあちゃんのとこに?」

 

”こく”

 

「ふふふ、本当に馬鹿だね。

 そんなこと絶対にないってわかっているのに、どこかで美緒が見ていてくれる

 ような気がしてね。

 もし美緒に会えたら・・・生きているときに言えなかったこと伝えられるかなぁて」

 

「ま、麻緒さん?」

 

「あ、ほ、ほら、ちゃんと食べちゃいな。

 お代わりもあるんだからね。

 いっぱい作ったんだから」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ””

 

「はぁ、参ったな。

 この角曲がったら三ヶ木のアパートだよな。

 でもなんて言って会えばいいんだ

 

『比企谷君なんて・・・・・・ほんとに、ほんとにもう嫌いだから!

 二度と話しかけないで!』

 

「はぁ~、どうする。

 そうだ! 由比ヶ浜、由比ヶ浜に持っていってもらうか」

 

”キキキッ”

 

「おわっ、自転車!

 あぶねぇ」

 

「あ、す、すみません、大丈夫でした?

 ちょっと考え事してしまって。

 驚かせてすみま・・・比企谷!」

 

「か、刈宿か」

 

「お前何してるんだ」

 

「別になんでもない」

 

「何でもないって、この先は美佳さんのアパートだよな。

 お前美佳さんの家に」

 

「川崎に頼まれてな、学校のプリント持っていくだけだ」

 

「・・・」

 

「・・・刈宿」

 

「あん、なんだ」

 

「お前、なんで三ヶ木のそばにいてやらなかった」

 

「な、なんでって」

 

「日曜日、そこの公園でお前三ヶ木と一緒にいたよな」

 

「・・・」

 

「あれって、三ヶ木がネットで叩かれてるの知って会いに来たんだよな」

 

「・・・そうだ」

 

「なら、何でずっと近くにいてやらなかった。

 あいつが無理してるのわからなかったのか?

 公園であいつから大丈夫だとか言われて安心してたのか?」

 

「い、いや」

 

「これがあいつの自作自演って気がつかなかったのか?」

 

「・・・・・あ、あんたは気が付いていたのかよ」

 

「ああ。

 あの書き込み読み直していて気がついた」

 

「・・・・・な、なら、なんであんたが一緒にいてやらなかったんだ?」

 

「俺は・・・・・」

 

”バサッ”

 

「刈宿、このプリントはお前が持って行ってやってくれ」

 

「え?」

 

「頼んだ」

 

”スタスタ”

 

「お、おい比企谷、ちょっと待て」

 

”ぐぃ”

 

「なんだ?」

 

「俺は、美佳さんをアメリカへ連れて行く」

 

「・・・」

 

「俺は1月からアメリカに留学する。

 それで美佳さんには卒業したらアメリカに来てもらうつもりだ」

 

「・・・・・そっか」

 

「美、美佳さんとはもう話している。

 今度の冬休みに一度一緒にアメリカに行くつもりだ。

 だから、もうこれ以上美佳さんに会わないでくれ」

 

「俺は・・・・・

 俺はさっきも言っただろ、頼まれたプリント持ってきただけだ。

 ただそれだけだ。

 じゃあな」

 

”スタスタスタ”

 

「比企谷! 俺は美佳さんを泣かせない、絶対にだ」

 

「・・・関係ない」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ちゃぽ~ん”

 

ふぅ~、やっぱりお風呂って心が休まる。

ずっとこのまま浸かっていたいなぁ~

でもおっきいお風呂。

なんかテレビで見た有名なホテルのお風呂みたい。

ほら、ちゃんと足が伸ばせる。

うちのお風呂とは大違いだ。

 

『俺は、俺は絶対に認めてやらない』

 

な、なによ!

あの場合、短期間で解決しようと思ったら他に方法ないじゃん。

何とかしようと思ったんだよ、でも書き込みやめさせられなかった。

だからじゃんか。

あの方法しかなかったんだ。

わかってくれてるって思ってたのに。

・・・・・・・・・・・・・あの馬鹿!

 

”バシャバシャ”

 

ふぅ~。

 

”ガラ”

 

「美佳何やってんの?

 お風呂の中では暴れない」

 

”スタスタ”

 

「え? あ、い、いや別に・・・・・って!

 な、何で入ってくるの!

 

「いいじゃない、久しぶりに一緒にお風呂入ろ」

 

「い、いや、一緒に入った憶えないし!」

 

「この薄情者。

 赤ちゃんの頃、お風呂に入れてあげたの忘れたの!」

 

「忘れたわい!

 い、いやその前にそんなときの記憶なんてないから」

 

「え~、仕方ないな」

 

”バシャ、バシャ”

 

げ、マジ一緒に入る気なの?

はぁ~もう!

・・・・・でも麻緒さんいいスタイルしてるなぁ~。

まぁ、スキー合宿のときに見た結衣ちゃんのほどでもないけど。

それでもわたしのより大きい、それに張りもありそうだし。

それにお尻も全然垂れてないし、なんかプルンって感じで。

これでほんとに40過ぎ?

 

「なにじろじろ見てんの。

 どう、いい身体でしょ」

 

「・・・べ、別に」

 

「そう?

 ほらほら、こんなポーズはどう?

 あ、こっちが色っぽいかなぁ」

 

「わ、わかった、わかったから。

 そんなポージングしてないでいいから。

 もう、風邪ひくから入るなら早く入って」

 

「そう?

 それじゃ、ほらもうちょっとそっち行って」

 

う~、いくら大きいお風呂といっても二人で入るには狭い。

大丈夫かなぁ。

うんしょっと

 

「はい、麻緒さ 」

 

”ザバ~ン”

 

「あー!

 もう、そんなに勢いよく入らないで。

 ほら、お、お湯いっぱい溢れちゃったじゃん」

 

”ピタ”

 

「ひゃっ、く、くっつくな―」

 

”ぷにゅ~”

 

ほら、そんなにくっつくとなにかが背中で潰れてるから。

その弾力のあるものが。

ぐっ、せ、せまい。

 

”ぎゅ~”

 

「うひゃ~、な、なんで抱き着くの!」

 

「本当に大きくなったね美佳」

 

”なでなで”

 

「だんだん美緒に似てきたよ」

 

「え、ほ、ほんと!

 でへへへ」

 

「冗談だけど。

 美佳は100%、いや120%佳紀似だから」

 

「お、おい!」

 

くそ、やっぱりそうか~

いや、わかってた、わかってたんだよ~

とほほほ、とうちゃんのバカ。

 

「ふふ」

 

もう!

・・・・・で、でもさ麻緒さんてほんとスタイル良いし、顔もかあちゃんほどでは

ないけど綺麗だし。

男の人放っておかないと思うけど、麻緒さんは何で結婚しないのかなぁ~

 

「ね、ねぇ、麻緒さん。

 麻緒さんって結婚しないの」

 

「・・・・・」

 

「あ、ごめんなさい。

 もしかして結婚したことがあったりして」

 

「うううん。

 なかなかいい男がいなくてね。

 わたし、これでも面食いだから」

 

「そ、そっか。

 それで行き遅れて40過ぎ」

 

「み~か~

 そんなこと言うと~」

 

”もみもみ”

 

「いや~、や、やめろ!

 ど、どこ触ってんだ、この変態」

 

「ふふふふふ。

 ・・・それで、なんかあった?」

 

「え?」

 

「だって最近アメリカアメリカっていうから」

 

「あ、うん・・・・・・あのね・・・

 うううん、なんでもない。

 ちょっとだけ憧れただけ」

 

「そう?

 もしね、なにかあったら言いなさい。

 これでもわたしのほうが人生経験豊富なんだからね」

 

「う、うん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『か、勝手すぎるよ

 酷いよ、そんなの酷いよ。』

 

「・・・」

 

『比企谷君だったら認めてくれて、そ、そんでやさしくわたしのことを・・・』

 

「・・・くそ」

 

『もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!』

 

「え~い! だめだ、だめだ、だめだ。

 眠れない。

 眠ろうとすると三ヶ木の顔が浮かんで・・・・

 俺は間違っていたのか。

 違うやり方、あったんだろうか?

 もっとあいつを傷つけなくてすむやり方が。

 くそ!」

 

”カシャカシャ”

 

「我だ!」

 

「いや、お前本当はえって。

 今何時だと思ってんだ、2時だぞ2時。

 真夜中の2時」

 

「けふん。

 そのような時間に電話してくる輩にとやかく言われる筋合いはないと思うのだが」

 

「・・・すまん」

 

「まぁよかろう。

 で、どうしたのだ八幡」

 

「何でもない。

 まぁなんだ、ちょっとな。

 ・・・お前のくだらない戯言が聞きたくなってな」

 

「・・・何かあったのか八幡」

 

「・・・・・・・」

 

「ふむ。

 まあよかろう。

 それなら二人の未来について朝まで語ろうではないか。

 ぷふっ♡」

 

「切るぞ」

 

「じょ、冗談だ八幡、切らないで~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~あ、もう夜が明けてきたな。

 付き合わせてすまなかったな材木座」

 

「・・・」

 

「材木座?」

 

「・・・・ぐぅ」

 

「お、おい!」

 

「ん? は、お、おう、そうだな八幡」

 

「お前いま寝てたろ」

 

「な、なにを言う。

 わ、わ、我は眠ってなんていないぞ」

 

「まぁいい。

 ・・・・・・・付き合ってくれてありがとうな、材木座」

 

「なに、気にするな」

 

「じゃ、そろそろ切るわ」

 

「おう。

 こんなことでいいのなら、いつでも相手してやろう八幡」

 

「じゃあな材木座」

 

「ああ、またな・・・・・し、親友」

 

”プー、プー”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ヒッキー」

 

”タッタッタッ”

 

「はぁはぁ、ヒッキーごめんね遅れちゃった」

 

「あ、いや、いい。

 俺も今来たところだ」

 

「へ?」

 

「ん、どうした?」

 

「あ、い、いや別に。

 なんかヒッキー変わったな~って。

 あ、いい意味でだよ」

 

「ん、そ、そっか?」

 

「うん。

 あ、じゃ行こっか」

 

「ああ」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「それじゃとうちゃん行ってくるね」

 

「美佳、本当に身体はもう大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫だよ。

 心配かけてばっかりでごめんね。

 ちゃんと大学見てくる」

 

「ああ。

 気をつけてな」

 

「うん、行ってきま~す」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでね、出掛けにママにつかまっちゃってさ。

 ヒッキーと早応大行くって言ったら、ママも一緒に行くって聞かないから。

 もう、大変だったんだよ」

 

「別にいいんじゃねえの、一緒に来ても」

 

「え、い、いいの?

 ママも一緒で」

 

「まぁ、娘が進学しようとしている大学、親なら気になるもんじゃねぇのか?」

 

「あ、そ、そうだけど。

 ・・・・・・・・じゃ、じゃあさ、ママがヒッキーに会いたがってるから、

 またうち来てくれないかなぁって?」

 

「断る! 断じて断る!

 断ると言ったら絶対断る」

 

「そ、そっか、だよね。

 あははは、じょ、冗談だよ冗談、へへ」

 

「悪趣味な冗談だ」

 

「ごめん」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ま、まぁまたサブレの様子なら見にってもいい」

 

「う、うん♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ヒュ~”

 

ひゃ~、やっぱちょっと寒くなってきた。

もうほんと冬だね。

早く春にならないかなぁ~。

あ、そうだ、えっと~ゆきのんにもらった資料はっと。

確かこのリュックに入れたはずだけど。

 

”ガサガサ”

 

あった、あった。

ん、まずは洋和女子からだね。

あ、やば!

電車の時間ないよ、急がないと。

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「もうお腹いっぱい、えへへへ」

 

「お、おい由比ヶ浜、起きろ。

 次の駅で電車降りるぞ」

 

「え? あ、ご、ごめん、あたし寝てた?」

 

「ああ、ぐっすりな。

 ほらヨダレ拭け」

 

「え、う、うそ・・・・」

 

「ああ、嘘だ」

 

「ヒ、ヒッキー!

 もう馬鹿~」

 

”ポカポカ”

 

「や、やめろ由比ヶ浜」

 

「もうヒッキーの馬鹿!」

 

”ベシ!”

 

「ぐはぁ」

 

『比企谷君の馬鹿』

 

「み、」

 

「ヒッキー?」

 

「あ、いや、み、み、みっともないからやめろ」

 

「あ、う、うん」

 

”プシュ~”

 

「ほら降りるぞ」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

『お前のやり方じゃ、本当の大事な人は救えない』

 

・・・ふぅ~、今日はもう考えないでおこう。

ちゃんと大学の方針とか施設、それに雰囲気とか見てこないといけない。

よし! 気を引き締めて。

 

”プシュ~”

 

あ、やば、電車停まったけど、ここどこの駅だっけ。

ちょっと考えごとしてたから。

んっと京成八幡・・・・・京成・・八幡・・・・・・八幡。

ち、ちがうって、やわた、やわた駅だから!

 

     ・

     ・

     ・

 

「わぁ~、人、人、人、人でいっぱいだ。

 ヒッキー、すごい人だね」

 

「あ、ああ」

 

「ね、なんかみんな同じ紙袋持ってない?

 何かあるのかなぁ」

 

「ああ、ちょっとな」

 

”だき”

 

「お、おい、何でいきなり腕を組むんだ」

 

「あ、あのさ、人が多くて、は、はぐれそうだから。

 だ、だめかなぁ」

 

”ちら”

 

「ぐ、し、仕方ない。

 ほら行くぞ」

 

「うん♡」

 

「・・・お前その上目遣い反則だからな」

 

「ん?」

 

「な、何でもない」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ヒッキー、文化祭だ、文化祭やってるよ」

 

「ああ。

 昨日から明日まで早応祭をやってるんだ」

 

「へぇ~」

 

「本当ならオープンキャンパスにでも参加するのがいいんだが、

 早応大のはもう終わってるからな。

 まぁ学校の雰囲気を知るのならこういうのもありだな。

 それに構内も見て回れる」

 

「うん。

 あ、ヒッキーあれ、あれ」

 

「ん?」

 

「ほら」

 

”ぐぃ”

 

「お、おい、由比ヶ浜、どこに行くんだ?

 そんなに引っ張るな」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

ううう、も、もしだよ。

洋和女子に通うことになるんなら、この電車乗るからさ、

毎日あの駅を通るんだよね。

う~

 

「次は国府台、国府台」

 

あ、つ、着いた。

この駅で降りるんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”パクパク”

 

「う~ん、美味しい」

 

「いきなりどこに行くのかと思ったらカステラ焼きって。

 由比ヶ浜、今日はだな 」

 

「うん?

 あ、はい、あ~ん」

 

「い、いや」

 

「はい」

 

”ジー”

 

「い、いやわかった、わかったからそんなに見つめるな」

 

”パク”

 

「美味しい?」

 

「ま、まぁ美味いな・・・いろんな意味で。

 おい、それよりも構内とか見に行くぞ」

 

”スタスタ”

 

「あ、ちょっと待ってヒッキー。

 あれも美味しそう。

 買ってくるね」

 

”ダー”

 

「お、おい」

 

     ・

     ・

     ・

 

つ、着いた、やっと学校着いた。

へ~、でか、たか、ひろ!

やっぱ高校とは全然違う。

え、えっと受付、受付どこだったけ。

 

”キョロキョロ”

 

ひぇ~わからん、どこ、ね、どこ?

 

”テッテッテッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”もぐもぐ”

 

「お、おい」

 

「ん? ヒッキーもケバブ食べる?

 はい」

 

「い、いやいらんから

 それに、そこお前の食べかけのところだし」

 

「はい!」

 

「う・・・・」

 

”パク”

 

「へへ、ど、どう?」

 

「・・・美味いです」

 

「よし!

 ほらヒッキー次いくよ」

 

”ぐぃ”

 

「次、何食べるんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「以上、演劇部の紹介でした。

 みなさん、入学したら是非入部してくださいね。

 まってま~す」

 

「はい、それではみなさん、次はキャンパスの中を案内しますので、

 わたし達についてきて下さいね。

 構内は結構広いので、離れないようについてきて下さい」

 

「「はい」」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~、いろんなサークルとか同好会があるんだね。

 ね、ヒッキーは入学したら同好会とか入るの?」

 

「そんな暇はない。

 俺はこの大学生活で俺を養ってくれそうな女子を探さないといけないんだ。

 サークルや同好会なんぞに時間をかけている暇はない」

 

「そうなんだ」

 

「そうだ。

 ほら先に行くぞ」

 

”スタスタ”

 

「・・・・・あ、あたしじゃ駄目かなぁ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「あ、うううん、何でもない」

 

「そっか」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ちょっと待ってよヒッキー」

 

”タッタッタッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

うわ~景色良い!

あ、スカイツリーが見える。

え、ちょ、ちょっとまって、あれって富士山?

うそ~

へ~、こんなところで毎日ご飯食べられたら気持ちいいだろうな~

げ、カレーライス280円、それに海老カツ丼350円だと。

 

”ぐぅ~”

 

お、お腹すいた。

今日はここでお昼食べて帰ろうかなぁ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、ヒッキー、ほらアニメ愛好会の出し物の教室あるよ。

 ちょっと入ってみない?」

 

「ん、ああ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・お、おう! 

 な、なんだと、プ、プリキラ―のイベントもあるのか」

 

「へへ、ヒッキー必至だ。

 あ、ほらフィギュアとかもあるよ。

 この赤ちゃんのフィギュア可愛いね」

 

「それはハグたんちゃんというんだ。

 む、これ自作か、ここ間違ってるじゃねえか!」

 

「え?」

 

「ハグたんちゃんの涎掛けのハートは縁がないんだ。

 ほら見ろ、これ黒い縁がある。

 まったく、こんな初心者でもわかるようなミスをしてるようでは、

 プリキラ―愛好家の風上にも置けん!」

 

「ヒ、ヒッキー声大きい。

 ほ、ほらあの人睨んでるよ。

 あ、こっち来た」

 

「おい、き、貴様、よ、よくも恥かかせてくれたな!」

 

「は? なに言ってんだ間違っているものは間違ている」

 

「ぐ、き、貴様、勝負だ、勝負しろ!」

 

「勝負だと?」

 

「おう。 

 少しばかりの知識をひけらかしやがって。

 俺とどっちが本当にプリキラ―愛に溢れているかクイズで勝負だ」

 

「断る。

 そんな面倒くさいことやってられん」

 

「よ、よし、じゃあ俺に勝ったらだな 」

 

”ガサガサ”

 

「こ、この大阪限定版、プリキラ―浪速バージョンフィギュアをくれてやる」

 

「な、なに本当か?

 それ大阪、しかも数量限定販売だったため、俺が唯一手に入れていない

 フィギュア。

 い、いいんだな、それネットにも出てないんだぞ」

 

「俺が貴様に負けるわけがない。

 そのかわりお前はそうだな・・・・・よし、これを着てもらう」

 

「はぁ! そ、それはキラエールのコス!」

 

「ぐははは、どうする?

 それとも怖気ついて俺に謝るか?

 まぁ、俺の靴舐めれば許してやる」

 

「よ、よしやってやる」

 

「ヒ、ヒッキー」

 

”ザワザワ”

 

「な、あれ今日のステージイベントの時に会長が着るやつだろ。

 UNOの勝負に負けて」

 

「ああ。

 やっぱり嫌だったんだろうな」

 

「あれは恥ずかしいって」

 

「おい会員A、なにごちゃごちゃ言ってんだ。

 君がクイズを出したまえ」

 

「え、俺会員Aかよ、一応副会長なんだけど。

 いい加減名前覚えろよ。

 まぁいいけど。

 じゃあクイズは全部で10問な、1問10点。

 準備はいいか問題出すぞ。

 一問め。

 この秋の劇場版”HUGHUGプリキラ― 8時だよ全員集合”に出演した

 歴代プリキラ―の人数は?」

 

「はい!」

 

「はい、君」

 

「あ、俺比企谷っす。

 答えは55人」

 

「せ、正解」

 

「「おおー」」

 

「やるな貴様」

 

「初心者問題だろ」

 

「ぐ、つ、次だ次、会員えっとC君」

 

「いやさっき、会員Aって言ったろ。

 じゃ次、

 HUGHUGプリキラ―のキラエールの口癖はフ 」

 

「はい!」

 

「はい会長」

 

「フレーフレー〇〇だ!」

 

「ぶ~」

 

「な、なに!」

 

「会長、最後まで問題聞いて下さい。

 お手つきですから一回休みですよ。

 問題続けますね、フレーフレー〇〇ですが、自己陶酔を突っ込まれて落胆した

 ときの口癖は?」

 

「はい!

 めちょっくっす」

 

「はい、比企谷君正解」

 

「「おおー」」

 

「ぐっ、くそー」

 

「会長~」

 

     ・

     ・

     ・

 

へぇ~、いろいろ学校のこと張り出してある。

ふぇ、保母さん就職率100%なんだ。

それに幼稚園とかにも実習いってんだね、その時の写真貼ってある。

あ、この幼稚園って。

へへ、園長先生写ってる。

また太った?

あ、これけーちゃん、けーちゃんと大ちゃんだ。

みんな元気そうだなぁ~

ここに洋和女子に入ったら、またみんなに会えるかなぁ~

・・・・・いやけーちゃん達は卒園してるから。

へへ、でも懐かしい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「会長、もう諦めたら?

 これまで9問全部負けてますよ」

 

「お、おい、会員F君。

 君の出す問題が悪いんだ」

 

「Fって・・・・・もう突っ込むの疲れた」

 

「よし、最後の問題は俺が出す。

 俺の出した問題に応えられたらお前の勝ちだ」

 

「いや、俺9問答えてるから俺の勝ちだろ」

 

「馬鹿め、最後の問題はお約束の100万点だ」

 

「おい、確か一問10点って」

 

「な、な、なんのことだ、あれは副会長が間違ったんだ」

 

「副会長って、俺のこと知ってんじゃねえか会長」

 

「う、うるさい!

 問題言うぞ!

 そ、そ、そうだな、えっと・・・・・よ、よし。

 この浪速バージョンのプリキラー、キラホィップのパンツの色は!」

 

「な、なに!

 ス、スカートの下だと、ふ、普通はスパッツとかペチパンじゃないのか?

 そのフィギュアは、パ、パンツなのか。

 ・・・・・・・・し、白だ!」

 

「白でいいんだな」

 

「ああ、パンツは白しかない、絶対に白だ!」

 

「ぶ~、メッキが剥がれたな。

 見てみろ、このパンツを!」

 

”チラ”

 

「げ、黄色と黒色の縞模様のパンツだと!

 パンツは白じゃないとダメだろうが!」

 

「ぬはははは、馬鹿者め。

 大阪だぞ浪速だぞ、パンツは黄色と黒に決まっているではないか。

 はっははは、俺の勝ちだ。

 約束通り、お前ステージのイベントでこれを着ろ」

 

「こ、これを着るのか、いや、それでステージに出るのか?」

 

「ヒ、ヒッキ~」

 

「やった、やった。

 決りだからな! 今日のステージイベントには声優の坂引さんが来るんだ。

 よかった~」

 

「げ、マジか、あのひっきーさんが来るのか」

 

「え、ヒッキー。

 ヒッキーはヒッキーじゃないの?」

 

「違うんだ由比ヶ浜!

 ひっきーさんはひっきーさんなんだ。

 あのキラエールの声優をされているひっきーさんなんだー!」

 

「会長~、そろそろステージのほうに行かないと。

 準備とかあるでしょ」

 

「ああそうだな、ルンルン♬

 おい、お前ほらさっさと着替えろ」

 

「こ、この教室で着替えるのか?

 ステージの近くじゃないのか?」

 

「ここだここ、ほらほら」

 

「ぐ~。

 やばいやばい、こんなの着てステージまで行くのか。

 それよりこれ着てひっきーさんに会うのか。

 さ、最悪だー

 う、ううううううう」

 

「ヒ、ヒッキー。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ヒッキー、それあたしが着る!」

 

「え?」

 

「あたしがそれ着るから。

 ね、それでもいいでしょ、会長さん?」

 

「え、き、君がこれ着てくれるの?」

 

「お、おい、あの娘が着てくれるんだってよ」

 

「「おお!」」

 

”ざわざわ”

 

「も、も、問題なんてない、ぜ、ぜひお願いします」

 

「ほらヒッキー、それ貸して」

 

「由比ヶ浜」

 

「・・・だ、大丈夫だから。

 あ、あ、あ、あたしね、一度こういうの着たかったんだ。

 だから大丈夫だよ、ね。

 それより着替えるから教室から出ててくれる?」

 

「・・・・・・・す、すまない。

 おい、会員の奴ら外に出してくれ」

 

「あ、ああ。

 ほらお前ら教室から出ろ」

 

”ゾロゾロ”

 

     ・

     ・

     ・

 

みんな楽しそうだなぁ~

わたしもここに入れたらこんな風に。

・・・さてっと。

あ、あれ?

誰もいない!

 

”キョロキョロ”

 

げ、やばい、置いてかれた~

ど、どこ、みんなどこ?

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラ”

 

「ね、ねぇヒッキー」

 

”チョイチョイ”

 

「ん? どうした」

 

「あ、あのさ、ちょっと手伝って・・・くれない?」

 

「な、中に入るのか」

 

「うん。

 恥ずかしいから早く中に入って」

 

「ああ」

 

”ガラ、ピシャン”

 

「お、おおー

 す、すげぇ可愛い」

 

「えっと、そ、そうかなぁ。

 でへへへ」

 

「で、えっと、な、何をすればいいんだ?」

 

「あ、背中のホックがとめられなくて。

 ヒッキー、ホックしてくれる?」

 

「お、おう」

 

「あ、ちょっと待ってね

 今、髪上げるから」

 

”ふわぁ”

 

「う、うなじが 」

 

”ツー”

 

「ん? ヒッキー鼻血出てる!」

 

「す、すまん。

 い、今ホックするから」

 

”カチ”

 

「ありがとうヒッキー。

 えっと、あのね、ど、どうかなぁ」

 

”クルッ”

 

「おお、すげぇ~可愛い」

 

「本当! でへへへ、ありがとうヒッキー」

 

”コンコン”

 

「すみません、そろそろいいですか~」

 

「大丈夫か、由比ヶ浜?」

 

「うん、ヒッキーがね、手握っててくれたら大丈夫かなぁ~。

 なんちゃって」

 

「・・・・・」

 

”にぎ”

 

「ヒ、ヒッキー」

 

「すまない」

 

「うん♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テッテッテッ”

 

うえ~ん、どこにもいないよ。

やば、完全にまよっちゃった。

ここどこだよ、構内広すぎるよ~

あれ、体育館に出た。

もう、会議室ってどこ~

 

”ぎゅるるる”

 

は、腹減ったー

 

     ・

     ・

     ・

 

”ザワザワ、ザワザワ”

 

「うわ~お客さんいっぱい」

 

「すげぇ。

 これ早応大の学生だけじゃないな」

 

「あの~そろそろよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「えっと、司会の横に立っているだけでいいですからね」

 

「はい」

 

「じゃ始めますね」

 

「ヒ、ヒッキ~」

 

「由比ヶ浜、大丈夫か」

 

”ブルブル”

 

「・・・・・あたし」

 

「由比ヶ浜!

 やっぱり俺がやる、俺が着るからそのコス脱いで来てくれ」

 

「ヒッキー・・・・・・・あ、あのね、ちょっと抱きしめて。

 ちょっとだけでいいから」

 

「・・・・・」

 

”ぎゅ”

 

「ヒッキー♡」

 

「由比ヶ浜、すまない」

 

「・・・・・ふぅ、落ち着いた。

 でもずっとこうしていた 」

 

「あ、あの~お取込みのところすみません。

 そろそろ、ステージのほうにいいですか?

 司会者もうステージに出てるから」

 

「あ、す、すみません。

 じゃ、行ってくるねヒッキー。

 頑張るからちゃんと見ててね」

 

「ああ、頑張れ由比ヶ浜」

 

「お待たせしました。

 行けます」

 

”カチ”

 

「こちら副会長、音声聞こえてる?

 キラエール、ステージ入ります。

 君、ごめんね頑張ってね」

 

「あ、はい副会長さん」

 

「ゴー!」

 

”タッタッタッ”

 

「皆さ~ん、やっはろ―」

 

「「うぉーかわいい!」」

 

「だ、誰だあの娘、あんな娘うちの大学にいたか?」

 

「エールちゃん、こっち向いて~」

 

「あ、あの、え、えっと、やっはろーさんで~す」

 

”ペコ”

 

「「やっはろ―」」

 

「「うおー」」

 

「おお、みんながやっはろーって返してる。

 な、なんだこの熱気。

 お、おい、ヘタなアイドル以上の盛り上がりじゃねえか。

 ・・・まぁ、由比ヶ浜あいつ可愛いからな。

 もし入学できたらミス早応大確実だよな」

 

”スタスタ”

 

「ねぇ、なにこの盛り上がり。

 わたし、すごく出にくいんだけど」

 

「あ、す、すみません坂引さん。

 そろそろ出番お願いします」

 

”カチ”

 

「こちら副会長。

 司会聞こえてるか、坂引さん入ります」

 

「さぁ、それでは本日のゲスト、キラエールの声優でおなじみの坂引理絵さんです」

 

「みなさ~ん、こんにちはー」

 

「やっはろーちゃん、こっち向いて~」

 

「へっ?

 あ、あの~こんにちわ?」

 

「せ~の、やっはろ―」

 

「おい、誰かあの娘知らないのかよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、司会の人。

 あ、あのさ、誰もこっち見てくれないんだけど。

 あたし帰ってもいい?」

 

「す、すみません」

 

「もう!

 ね、ちょっとそこのコス着てるあなた」

 

「あ、はい」

 

「あなた、ちょっといい。

 えっと右手上げて、左手は腰、それで左足は曲げて右足の膝に」

 

「あ、はい。

 えっとこれでいいですか?」

 

「かがやく未来を抱きしめて!

 みんなを応援! 元気のプリキラ、キラエール!」

 

「「おお!」」

 

「しまった、写メ取れなかった。」

 

「「もう一回、もう一回、もう一回」」

 

「ほらあなた、もう一回行くわよ。

 せ~の」

 

「あ、はい」

 

”サッサッ”

 

「かがやく未来を抱きしめて!

 みんなを応援! 元気のプリキラ、キラエール!」

 

”カシャ、カシャ”

 

「お、おおー

 は、なに写メ撮ってんだ俺。

 ・・・・・・・動画にしておけばよかった」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラ”

 

「ヒ、ヒッキー、あのね背中のホック外してもらっていい?」

 

「ん? あ、お、おう」

 

”ガラ、ピシャン”

 

「いや~、しっかしお前すごい人気だったなぁ。

 ゲストの坂引さん、全然目立ってなかったぞ」

 

「・・・今、髪上げるね」

 

”ふわぁ”

 

「お、おう、そうだった、ホックだったな。

 今外すからそのまま髪上げていてくれ」

 

”カチ”

 

「じゃ、教室の外にいるから」

 

”だき”

 

「お、おい由比ヶ浜」

 

「ヒッキー、恥ずかしかったよ~」

 

「ゆ、由比ヶ浜。

 ・・・・・すまなかった」

 

”なでなで”

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅるるる~”

 

お、お腹すいた、も、もう限界だ。

広すぎるよ大学って。

結局構内の隅から隅まで歩き回っちゃった。

はぁ~、先生方とあんまりお話しできなかったよ。

ぐすん、学食にも行けなかった。

 

”トボトボトボ”

 

まぁ、とにかくこの喫茶店でケーキ食べよ。

えっと何食べようかなぁ~

 

”プシュ~”

 

「いらっしゃいませ。

 お好きな席にどうぞ」

 

     ・

 

「お待たせしました」

 

うわ~、モンブランちゃん美味しそ~

たっぷりクリームがのってて。

へへ、ではいただきま~す。

 

”パク”

 

「う~美味しい!」

 

”プシュ~”

 

「ぶふぉー!」

 

”スタスタ”

 

「ほらほら約束だよヒッキー。

 ちゃんとケーキとコーヒー奢ってね」

 

「お、おう。

 それぐらいは当然の権利だ」

 

えっ、ひ、比企谷君と結衣ちゃん。

な、な、な、何でここに?

それも二人で。

や、やば、み、見つからないようにしないと。

 

「お好きな席にどうぞ」

 

こ、こっち来んな来んな来んな来んな。

来ないで~

 

「あ、ヒッキーあっちの席空いてるよ」

 

「おう」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、あっち行った。

でも何で二人で?

・・・・・デート、デートしてたのかなぁ。

 

”チラ”

 

なんか楽しそうに話している。

なんかいい雰囲気だ。

やっぱりわたしなんかより結衣ちゃんのほうが・・・

でもさ、なんで、何でそんなに嬉しそうなのさ!

 

”グニャ”

 

げ、や、やばい、フォークが曲がっちゃった。

ど、どうしよう。

直るかなぁ、うんしょうんしょ。

はぁ~、こんなんじゃやっぱりだめだわたしって。

 

     ・

     ・

     ・

 

「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「うん」

 

”スタスタ”

 

あ、比企谷君、どっかいった。

トイレかなぁ。

 

”スクッ”

 

あ、結衣ちゃんもトイレ?

トイレまで一緒か~、どこまで仲いいんだ。

 

”スタスタスタ”

 

げ、違う。

結衣ちゃんこ、こっちの方に来た!

なんでなんでなんで?

やばい隠れないと。

なんかないか、なんかない?

なにもないー!

しゃ~ない、このテーブルの下にでも。

 

”どさ”

 

「さっきから何やってるの美佳っち」

 

え? あ、ゆ、結衣ちゃん横に座って・・・

き、気付かれていたのか!

 

「あ、い、いや、あの~

 えへへ」

 

「・・・・・」

 

「・・・・はっははは。

 き、今日はデートかなぁ~なんちゃって」

 

「・・・あのね、あたし隠してるのやだから言うね。

 あたし、今日ヒッキーと二人で早応大に行ってきた。

 一度見ておきたかったんだ」

 

「あ、う、うん。

 わたしも今日、洋和女子のオープンキャンパスに行ってきた」

 

「・・・・・あたし、絶対にヒッキーと同じ大学行ってみせる。

 みんな無理って、先生も難しいっていうけど絶対に行く」

 

「結衣ちゃん」

 

「あたしはヒッキーのことが大好き。

 好きで好きで、どうしょうもないくらい大好き。

 だから絶対合格してみせるんだ」

 

「・・・わ、わたし」

 

「あたしは、ゆきのんにも・・・・・美佳っちにも絶対に負けない。

 だって、あたしのほうが先に、あたしが一番最初にヒッキーと出会ったん

 だからね!

 だから絶対に負けない」

 

「・・・・・」

 

「じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

ゆ、結衣ちゃん。

そ、そんなの、そんなの・・・・・・・

 

     ・

 

「すまない、由比ヶ浜待たせた。

 じゃあ帰るか」

 

「うん、ヒッキー」

 

”だき”

 

「お、おい由比ヶ浜、なんでまた腕を」

 

「いいじゃん、ヒッキー」

 

「い、いや、そ、その」

 

「ほら、行こ」

 

「お、おう」

 

”スタスタスタ”

 

ゆ、結衣ちゃん。

わたしだって、わたしだってほんとは・・・

 

「ありがとうございました」

 

”プシュ~”

 

「うわ~寒い」

 

”ガバッ”

 

「え、ジャンバー?」

 

「まぁなんだ、外は寒いからな」

 

「あ、でもヒッキーが」

 

「ふふん、これぐらいの寒さなんて普段から世の中の冷たい人の目にさらされている

 俺にとってはなんでもない」

 

「ヒッキー♡」

 

「くしゅん!」

 

「ヒッキー、大丈夫?」

 

”ギュ”

 

「お、おい」

 

「じゃあさ、ヒッキーはあたしが温めてあげる」

 

「あ、い、いや由比ヶ浜」

 

「ね!」

 

「い、いや、あんまりくっつくと歩き難いんだが」

 

「いいじゃん、ヒッキー♡」

 

「・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「ありがとうございました。」

 

”プシュ~”

 

あっ!

・・・・・ゆ、結衣ちゃん・・・・・比企谷君。

 

”ヘナヘナヘナ”

 

そんなの、そんなのわたしだって大好きだもん。

好きで好きでどうしょうもないぐらい好きだもん。

自分でもどうしょうもないくらいに好きだもん。

だから、あの時結衣ちゃんに意地悪して、約束してるの知ってて意地悪して。

それにとうちゃんや麻緒さん、刈宿君・・・比企谷君にも迷惑かけて。

わたし、そんなんじゃいけないって、これじゃ駄目だって思ったから。

ちゃんと自分の心の整理をしないといけないって思ったから、わざと比企谷君と

距離をおいてたのに。

 

『二度と話しかけないで』

 

あんなこと、あんなこと言わなければよかった。

う、うううう。

こんなんだったら、こんなんだったらやっぱりわたしは・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブロロロン、キキキー”

 

「ふぅ~、やっぱりバイクは寒いわね。

 買うの車にしておけばよかった。

 ん、あれ?」

 

”スタスタスタ”

 

「なにしてんの美佳?」

 

「ま、麻緒さん

 あ、あのね、あのね

 ううううう、うぐ、うぐ、ひっく」

 

「・・・こんなとこじゃ寒いでしょ。

 ほら、いいから部屋に行くよ」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、美味しいこのスープ。

 へへ、少しお腹空いてたんだ」

 

「そう。

 どう少しは温まった?。

 もうすぐでご飯できるから食べていきなさい。

 佳紀にもこっち来てご飯食べなって連絡しておいたから」

 

「あ、うん」

 

「で、どうしたの美佳」

 

「・・・・・・・・・あ、あのさ、麻緒さんはなぜアメリカに行ったの?

 なんでなんで?」

 

「ん、なんか前も聞いてきたね。

 なに、美佳アメリカ行きたいの?」

 

「あ、あのさ、か、刈宿君がさ、3学期からテニス留学でアメリカに行くんだ。

 そ、それでね・・・・・・・それでわたしに一緒に来ないかって」

 

「へぇ~、あの子が」

 

「あ、ちゃんと卒業してからだよ」

 

「ふ~ん、それで美佳はアメリカ行きたいんだ」

 

「あのさ、いろいろあったんだ。

 わたしね・・・・・なんかやり直したい。

 全て無しにして初めからやり直したい。

 だから、だからアメリカ・・・・・行ってもいいかなぁ~って」

 

「そう」

 

「だからさ、麻緒さんは何でアメリカに行ったの?

 わたし聞いておきたい。

 やっぱり自立したいとか、自分の力を試してみたいとか?」

 

「・・・・・」

 

「ま、麻緒さん?」

 

「そんな恰好のいい理由じゃないよ。

 ・・・・・・・・・・・・はぁ~」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・あのね、わたしには本当に本当に大好きな人がいたの」

 

「え?」

 

「もうだいぶ昔の話よ。

 でもね、その人が選んだのはわたしじゃなかった。

 彼が選んだのは・・・・・・・わたしとは別の娘。

 わたしがとってもよく知っている娘」

 

「ま、麻緒さん」

 

「わたしね、生まれて初めて本気で人を・・・その娘を憎んだ。

 憎んで憎んで憎んで。

 なんであんたなの!って。

 それまでね、とっても仲がよかったのに。

 いっつもどこに行くのも一緒で。

 本当に大事に思ってた娘なのに。

 それなのにわたし願ったの、”あんたなんていなくなれ”って」

 

「・・・・・」

 

「でもね、願いはかなわなかった。

 彼はその娘と結婚して、二人の間には愛の結晶が生まれた。

 その赤ちゃんが本当に本当に可愛くてね。

 わたしに笑ってくれるんだよ、こんな汚いわたしなんかに。

 抱っこなんかしてあげると”きゃきゃ”って、本当に満面の愛おしい笑顔で。

 わたしはその天使のような笑顔を見てどうしょうもなく自分が嫌になった。

 自分の汚さが本当に嫌になった。

 でもどうしょうもなくて、どうしていいのかわからなくて。

 それであの娘に、あの娘に当たっちゃったの。

 頭ではわかっているのに。

 でも、でも・・・・・どうしようもなくて。

 それでつい言っちゃったの。

 

 『わたしのほうが先に彼と出会ったのに。

  わたしの幸せを横取りしたくせに、そんな幸せそうな顔見せないでよ!』

 

 ・・・・本当にわたしは最低だ。

 だから、だからね、わたしは日本を逃げ出した」

 

「・・・・・」

 

「ね、かっこ悪いでしょ。

 これがわたしがアメリカに行った理由。

 勝ち組なんかじゃないよ、本当の負け組、それも情けないほどの負け組」

 

「ま、麻緒さん」

 

「でもね、だめだったの。

 アメリカに行けば、うううん、少しでも遠くに行けばやり直せる。

 全てを忘れて初めからちゃんとやり直せるって思ったのに。

 やり直して、それでいつかあの娘にちゃんと謝りたいって思ってたのに。

 それなのに、それなのに!

 ・・・ちゃんと謝る前にあの娘は天国に行っちゃった。

 わたしが、わたしがあんなお願いしちゃったからなの。

 もう二度と謝れない、謝れないんだよ!

 うううううう」

 

「・・・・・」

 

「うっうっ、み、美佳。

 わたしはすごく後悔しているアメリカに行ったこと。

 もう二度とあの娘に会えない・・・・・もう謝れないんだ。

 大好きなとっても大事な娘だったのに、もう仲直りできないんだ。

 ね、美佳、あなたはアメリカに行って後悔しない?

 今までのこと全て忘れるってそんなことできるの?」

 

「わたし、わたしは」

 

「美佳、アメリカ行ってもいい。

 でもね、後悔だけはしないでね。

 絶対にわたしみたいにならないでね。

 逃げ出したいだけならやめなさい。

 本当に全てを捨てる勇気があるのなら、もう二度と日本には戻らないという覚悟が

 あるのなら行きなさい。

 わたしは応援してあげる」

 

「ま、麻緒さん。

 ・・・・・麻緒さんはもしかして今でもその人のこと好き?」

 

「大好き。

 わたしはやっぱり彼のことが大好き。

 この気持ちは・・・・・・・・・今も変わらない。

 距離も時間もなにもこの気持ちを変えることはできなかった。

 おかしいね、もう40過ぎてんだっていうのに。

 ・・・・・・・・でも、やっぱり駄目なの。

 わたしは、今までもこれからもずっと彼のことが大好き。

 本当馬鹿だね」

 

「麻緒さん」

 

「へへ、おかしいでしょ。

 いいよ笑っても」

 

”だき”

 

「全然、全然おかしくなんかないよ。

 おかしくなんかない!

 うううううう、うわ~ん、おかしくないよ~、うわ~ん」

 

「ば、ばか。

 なんで美佳が泣くの。

 ば、ばか、ううううううううう」

 

「うわ~ん、ううう、うぐっ、うぐっ、ぐすん。

 ・・・・・・で、でも麻緒さん、なんか焦げ臭い」

 

「ぐす。

 え? あ゛ー、ハンバーグ焦げてる!」

 

「うううう、ぐす。

 めっちゃ苦そう。

 ・・・そ、それとうちゃんの分ね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「お~い美佳、今日もオープンキャンパス行くんじゃなかったか」

 

「え! あ、う、うん」

 

ふぁ~、眠い。

えっと今何時?

げ、もうこんな時間!

・・・・・昨日、あれからとうちゃんも来てみんなでご飯食べて。

麻緒さん大丈夫かなぁ。

なんか、あのあとずっと変だった。

顔、なんか赤かったし風邪でも引いたのかなぁ。

あ、そんな場合じゃない。

急がないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

やばいやばいやばい。

この時間だと厩戸大に着いた頃にはオープンキャンパス終わっちゃう。

どうしよう。

はぁ~、仕方ない厩戸大は外から雰囲気見よう。

それより昼からは東地大学か。

あんまり奨学金とかでないんだよなぁ~、授業料も高いし交通の便も悪いし。

でも、折角ゆきのんが選んでくれたから行くだけ行ってみよう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

東地大、やっぱり駅から遠いよ。

早めに移動してきたから間に合うと思うけどさ。

はぁ~足イタ~。

 

”ブッブー”

 

げ、外車!

な、なによ、こんな狭い道なのに。

そんなバカでかい車で入ってくんなってんだ。

・・・あれ? でもこの黒塗りの車どこかで。

 

”キキキ―、バタン”

 

「三ヶ木さんじゃないかい?」

 

「あ、お、おばぁちゃん」

 

「どこに行くんだい?

 よかったら送っていくよ」

 

「あ、は、はい。

 お、お願いしてもいいですか」

 

「お乗りなさい」

 

「はい」

 

へへ、やっぱりあの文化祭にいつも来てくれるおばぁちゃんだ。

この角刈りグラサンの運転手さんにも見覚えがある。

 

”ギロ”

 

ひぇ~、相変わらず怖い。

 

「あ、あの~、すみません失礼します。

 うわ~、車の中めっちゃ広い。

 それになんかいい匂い」

 

広川先生の車とは大違いだ。

あれはどうみても軽トラだもんね。

めっちゃ狭かったし、お尻痛かったし。

それに比べるとこの車は。

 

「で、どこに行こうとしていたんだい?」

 

「あ、あの~東地大学に」

 

「あら、東地大に?

 でもどうしたの、東地大に何か用事?」

 

「あ、あの、オープンキャンパスで」

 

「三ヶ木さんは東地大学に来る気なのかい?」

 

「えっとね、一応滑り止めです。

 うんとね、わたし頭悪いから友達が最悪のことも考えなさいって」

 

「そう。

 最悪の場合ね」

 

「・・・でも、正直いま迷ってます。

 わたしは保母さんになりたいっていうのが夢だったはずなのに。

 なんかほんとにそれでいいのかなぁって。

 ちょっといろいろあって。

 ・・・あ、あのアメリカに行かないかって誘われてて、

 それもいいかなって思ったり。

 でも保母さんになる夢あきらめてもいいのかっていう自分でもいて。

 はぁ~、どうしたんだろ。

 ついこの前までは、絶対に保母さんになるって決めてたのに」

 

「そう。

 ・・・・・・・・黒岩、行き先変更よ。

 東地公民館に行って頂戴」

 

「はい」

 

「え? あ、あの、わたしは東地大学に」

 

「いいから」

 

「あ、でもオープンキャンパスにいかないと・・・・・・・・・」

 

”ギロ”

 

ひ~、黒岩さん目が光ったような、めっちゃ怖いよ~

それに、ちゃんと前向いて~

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキ―”

 

「はい着いたわ。

 さ、ついていらっしゃい」

 

「・・・・・ふぁい」

 

あ~あ、どうしょう、もう間に合わないよ。

でも黒岩さん怖いし。

 

”スタスタスタ”

 

「今日はここで福祉のイベントがあってね。

 東地大学の子達も参加してるのよ。

 いいから見ていきなさい」

 

「え、でも、あの~わたし、オープン 」

 

”ギロ”

 

・・・・・も、もういいや。

だ、だって黒岩さん絶対に怖いんだもん。

さからったらわたし何されるか。

は! もしかしておばぁちゃん達ってあっち系の人?

 

「三ヶ木さん」

 

「は、はい、今行きます。

 ついていきますどこまでも」

 

”スタスタスタ”

 

怖いよ~

後ろから黒岩さんついてくる。

もしかしてこのままわたし誘拐されて。

ど、どうしょう。

でもうちお金ないし。

は、わたしどっかに売られちゃうんじゃ。

 

「あ、三ヶ木さん?」

 

「え?

 あー、朋先輩。

 ひゃーお久ぶりです!」

 

「本当に三ヶ木さんだ。

 総武高の制服が見えたから誰かなって思ったんだ。

 お久しぶり。

 今日はどうしたの?

 あ、もしかしてイベントに来てくれたの?」

 

「あ、そ、その・・・」

 

どうしょう、黒岩さんずっとこっち睨んでるし、脅されてなんて言ったら。

え、えっと~

 

「あ、朋先輩って東地大だったんですね」

 

「うん。

 あ、そうだ、会場案内するわ」

 

「あ、え、えっと~」

 

ラッキー!

これで逃げられる。

あ、でも朋先輩まで誘拐されたら。

 

”ちら”

 

「いいからいってらっしゃい」

 

「あ、はい、おばぁちゃん」

 

”スタタタタ”

 

た、助かった。

後は何とか逃げ出さないと。

どこから逃げようか。

 

「ん~」

 

「どうしたんですか朋先輩?」

 

「うん、あのおばぁちゃんどっかで見たような?

 誰だったっけ?」

 

「あ、総武高の文化祭に 」

 

     ・

 

”スタスタ”

 

「へぇ~、いろんな福祉のイベントに参加してるんですか?」

 

「そうだよ。

 東地大っていろんな福祉の施設と提携しててね、体験授業とかさせて

 もらってるの。

 わたしね、サークルで耳とか話すのとかが不自由な子達との交流してるんだ。

 今日はねその活動の一環で、ここのイベントで一緒にコーラスに参加するの」

 

「コーラス?」

 

「うん」

 

「乙舳さ~ん」

 

「あ、はい先輩。

 ごめん、ちょっと行ってくるね」

 

「はい、ちょっとここら辺を見ています」

 

”スタスタ”

 

へ~、結構賑やかだ。

人もいっぱいいるし、いろんな模擬店でてる。

えっと~なんか食べよっかなぁ~

 

”タッタッタッタッ、ドン!”

 

「ひゃ~」

 

え、えっとなんだ、何かぶつかってきた?

あ、女の子?

へへ、かわいいなぁ~、幼稚園ぐらいかなぁ。

 

「ぐす」

 

え、なに? なにか泣き出しそ・・・・・

げぇ、ス、スカートに、制服のスカートにチョコが!

あ、この子チョコバナナ

そ、それが付いたんだ。

 

「う、う、う、うううううう」

 

や、やば、この子泣き出しそう。

ど、ど、ど、どうしょう。

 

「あ、あの、だ、だ、大丈夫だから。

 このスカートなんて安いから、安物だから。

 それにね洗濯すれば何ともないから。

 だからね、ね」

 

「うっ、うっ、う゛ば~ん、う゛ば~ん」

 

ぎゃー泣き出した!

やばい、やばい、やばい、ど、どうしょう。

え、えっと、えい!

 

”だき”

 

「ね、大丈夫だから。

 こんなの何ともないから」

 

”なでなで”

 

「う、う、う」

 

よ、よかった泣き止んだ。

あ、でも。

 

”キョロキョロ”

 

あった!

 

「ね、おいで」

 

”にぎ”

 

ひゃ~小っちゃくて、かわいいお手々。

ふふふ、やわらか~い。

あ、そんなこと言ってる場合じゃない。

 

”テッテッテッ”

 

「おじちゃん、チョコバナナちょ~だい」

 

「あいよ、1本100円だよ」

 

「やす!

 はい100円」

 

「まいどあり~」

 

え~とこの子、名前なんて言うんだろ?

でへへへ、なんかかわいいなぁ~

指くわえてチョコバナナみてる。

ま、名前なんていいや。

 

「はい、これあげるね」

 

「?」

 

「あ、だから、ほらさっき持ってたの落としちゃって食べれなくなったから。

 これ代わりにあげる」

 

「??」

 

「あ、いや、これね 」

 

「三ヶ木さん、もうすこしゆっくり話してみて」

 

「え? あ、はい。

 こ・れ・ど・う・ぞ」

 

”にこ”

 

あ、笑った。

笑った顔もめっちゃ可愛い。

 

”サッ、サッ、サッ”

 

「へ? えっと~」

 

”サッ、サッ、サッ”

 

「ん、えっと~」

 

「ありがとうって言ってるのよ」

 

「あ、そうなんだ。

 ど・う・い・た・し・ま・し・て」

 

”ぺこぺこ”

 

「うん、バイバイ」

 

”タッタッタッ”

 

「ふぅ~」

 

「ご苦労様。」

 

「あ、朋先輩」

 

「あの子、しょうこちゃんって言ってね、耳も話すのもちょっと不自由なの」

 

「そうなんだ。

 あ、でも朋先輩、手話できるんですね。

 すご~いです」

 

「わたしなんてまだまだだよ。

 もっともっと練習してうまくならなくちゃ」

 

「へぇ~」

 

「あのね、わたしは卒業したらあの子達の先生になりたいの。

 東地大ではそのために必要なことが学べる。

 わたし、なんとなくこの大学選んじゃったけど、いまはこの大学を選んで

 本当によかったと思う」

 

「すごい、すごいです朋先輩」

 

「うううん、全然すごくないよ。

 すごいのはあの子達。

 あの子達の中には、生まれつき音のない世界に生きてる子もいるの。

 でもみんなとっても元気。

 いっつも笑顔見せてくれてね、わたしいつも元気貰ってんだ。

 だから、わたしはもっともっと勉強していろんな経験して、

 あの子達と一緒に歩んでいける先生になりたい」

 

「朋先輩!

 朋先輩ならなれます、絶対!」

 

「そ、そっかなぁ~」

 

「乙舳さん、コーラス始まるわよ」

 

「あ、先輩今行きます。

 三ヶ木さん、今からコーラスなの。

 あ、しょうこちゃんも出るのよ。

 見に来ない?」

 

「あ、はい。

 でもコーラスって?」

 

     ・

     ・

     ・

 

あ、朋先輩出てきた、朋先輩ピアノやるんだ。

えっと、子供達と一緒にいるのは東地大の生徒さんかなぁ。

えっと~、あ、いたいたしょうこちゃんだ。

えへへ、手振ってる。

 

「頑張って~」

 

”ポロロン、ポロロン♬”

 

あ、えっとこれっておかあさんの歌?

でもコーラスって・・

 

”バッ、パッ、サッ”

 

あ、手話だ、手話でコーラスしてるんだ。

へぇ~みんな小っちゃいのに上手だなぁ。

朋先輩も楽しそう。

 

『わたしは卒業したらあの子達の先生になりたいの』

 

『わたしはもっともっと勉強していろんな経験して、あの子達と一緒に歩んで

 いける先生になりたい。』

 

”ポロ、ポロ、ポロポロポロ”

 

あれ、わたし泣いてる。

なんで、なんで、何で泣いてるんだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・なにやってんだ、わたし。

わたしは、わたしは・・・なにがしたいの。

 

     ・

     ・

     ・

 

”キキキー”

 

「おばぁちゃん、駅までありがとうございました」

 

「すまなかったね、オープンキャンパスに行けなくて」

 

「うううん、とっても勉強になりました。

 おばぁちゃん、あのね、わたしちゃんと考えてみる。

 遅いかもしれないけどちゃんと考えてみる。

 わたしはどうしたいのか、なにがしたいのかって。

 ちゃんと考えて答えを出してみる」

 

「そうかい。

 三ヶ木さん、それは大事なことだよ。

 焦らないで、ゆっくりじっくり考えて答えを出しなさい。

 大丈夫、遅いことなんてない」

 

「うん、じゃあ行くね。

 あ、黒岩さんも送ってくれてありがと、にこ♡」

 

「あ、い、いえ、仕事ですから」

 

「それではです」

 

”ペコ”

 

「ええ、また会えるといいわね、三ヶ木さん」

 

「うん、待たね」

 

”タッタッタッ”

 

「よろしかったのですか理事長」

 

「え?」

 

「あの娘さんは、確か狩也坊ちゃんが言われていた娘では?」

 

「いいんだよ。

 お昼にあの娘が言ってたこと聞いてたろ。

 あの娘が今のままの気持ちでアメリカに行っても必ず後悔する。

 それは狩也にとっても、あの娘にとっても不幸なこと。

 今はね、ちゃんと考えることが大事なんだよ。

 そうさね、ちゃんと考えて答えを出してそれがアメリカに行くことなら、

 それが一番いいんだけどね」

 

「そうなるでしょうか?」

 

「こればかりはわからない。

 さ、黒岩帰るよ」

 

「はい。

 でもまたお会いしたいですね」

 

「おや珍しいね、お前がそんなこというの」

 

「すみません、出過ぎました」

 

”ブロロン”

 




最後までありがとうございます。

この正月休み、原作1巻から読みなおしてたら、まだ11巻。
い、いまから13巻まで寝ずに読み切ります。

えっと、次回は嵐を呼ぶクリスマス編。(き、季節感全くなくすみません)
さてオリヒロの決意は。
八幡の決断は・・・・・

また見に来ていただけたらありがたいです。
ではではです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス編 -二人の決意-

毎度ありがとうございます。
ほんとすみません、更新めっちゃ遅くなりました。

・・・・・今年も出た4本足の冬の魔物の魔力に勝てなくて。
気がつくとまたもや朝。
え~い、なんとか魔物退治しないと。
え、えっと今回はクリスマス編。
オリヒロの決意は、八幡の決意は。

ではよろしくお願いします。
あ、でも今回2万・・・は、8千字越え。
ほ、本当にすみません、お時間お掛けしますのでご無理なさらず。
(う~、今回すみませんばっかり)

ではよろしくお願いします。


「決めたんだ。

 ちゃんと考えた、いっぱいいっぱい考えた。

 もう迷わない。

 だから、」

 

”パタ”

 

「三ヶ木闘病日記・・・完。

 今日でもう終わり。

 これ以上書き紡ぐことはない。

 今まで支えになってくれてありがと」

 

     ・

     ・

     ・

 

『二度と話しかけないで!』

 

あれからもう10日が過ぎた。

カレンダーもあと最後の一枚を残すのみとなって、街にはクリスマスを彩る

飾りつけが目立ち始めた。

・・・・・・・クリスマスか。

あいつ今年のクリスマスはいないんだな。

冬休みになったらアメリカに行くって言ってたはずだ、刈宿と一緒に。

それが何を意味するか、いくら俺でもわかる。

男子と女子、日帰りじゃない旅行に一緒に行くって意味ぐらい。

 

「はぁー」

 

最近気が付くとよくため息をついている。

なんでも一つため息をつくと、一つ幸せがなくなるという。

だとしたら、あれから俺はどれだけの幸せをなくしたんだろう。

だけどどうしょうもない。

俺の胸の奥に生まれた何かがそうさせるんだ。

あの時、胸の奥に生まれた何かが。

例えるなら黒く、深く、静かな沼。

その沼が生まれてから、なにをするにもすごく疲れるんだ。

まるで生気がその沼に引き込まれ、深く深く沈み込んでいくように。

 

「はぁー」

 

ため息をつくことで少しだけ心が安らぐ。

それが幸せをまた一つ失うこととわかっていても、それしか俺には術がない。

どうしたらこの深い沼から抜け出すことができるのだろう。

どうしたら生気を取り戻すことができるんだろう。

それともこのまま全てが沈み込んでしまうのだろうかこの沼に。

そしてもう二度と俺は・・・

 

「ヒッキー、お待たせ。

 ごめんねいつも待たせて」

 

「あ、ああ、別に問題ない」

 

「え!」

 

「ん、どうした?」

 

「うん。

 あ、あのねヒッキー、最近ちゃんと眠れてる?

 なんかすごく顔疲れてる」

 

「由比ヶ浜、俺達は受験生なんだ。

 十分な睡眠がとれないのは当たり前だ。

 まぁ、ちゃんと数学の授業中寝てるから大丈夫だ」

 

「いや、それもどうかなぁ」

 

「それより塾行くぞ」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「でさ、優美子ったらね 」

 

「はぁー」

 

俺、いつからこんなになってしまったんだ。

人と必要以上に接せず、人に期待せず、人を見たら泥棒と・・・・・

いや最後のはちょっと違う。

と、とにかく!

ぼっち道を極めたはずなのに。

・・・気が付いたら繋がりを求めていた。

はは、ぼっち失格じゃねえか。

 

「はぁー」

 

「ヒッキー?」

 

「ん、なんだ?」

 

「今の話聞いてな・・・・・・・・

 うううん、なんでもない。

 ほら急がいないと塾遅れるよ」

 

「ああ」

 

俺がしてやれることってなんだろう。

あいつのために俺ができることって。

 

”スタスタスタ”

 

「はぁー」

 

「・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あなたは本当にそれでいいの?」

 

「うん。

 ちゃんと考えて決めたんだ」

 

「そう、でもそれならもう 」

 

「うううん、ゆきのん塾は続けたい。

 ちゃんと勉強頑張りたい。

 特に英語はもっと頑張らないと。

 日常会話できないといろいろ大変なんだ。

 だからこれからも勉強教えて下さい。

 お願いします」

 

”ペコ”

 

「あ、あとね、オープンキャンパスありがと。

 ほんと行ってよかった」

 

「あなたがちゃんと自分で考えて決めたことならそれでいい。

 わたしは構わないわ、勉強続けましょう。

 そうねそれなら今日は英語にしましょう。

 このプリントをやってみなさい」

 

「うん、絶対今日は満点取って見せるね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”カチャカチャ”

 

「ん、何やってんの清川」

 

「・・・・・」

 

「ねっ」

 

「・・・・・」

 

”ぽか!”

 

「い、いてぇ、なにするんだ蒔田!」

 

「さっきから何してるのって聞いてんの」

 

「プログラムの修正だ。

 くそ、この前も初めからこのパソコン使えていれば。

 結局、中途半端なものになってコンテスト入賞逃したんだ。

 今度はこそ完璧なものに仕上げて入賞してやるんだ」

 

”カチャカチャ”

 

「ふ~ん、ま、どうでもいいけど」

 

「蒔田さん、そろそろ時間だよ。

 一色さん達、校門で待ってるって」

 

「あ、了解、副会長。

 じゃ清川、留守番よろしく」

 

「・・・・・」

 

「きよか 」

 

「わ、わかった。

 わかったから殴るな」

 

「じゃあね」

 

”ガラガラ、ピシャン”

 

「・・・・・行った、行ったよな。

 よ、よし!」

 

”スタスタ”

 

「へ、へへへ。

 これからが俺の時間。

 あいつらがクリスマス合同イベントの打ち合わせに行ったこの時から、

 俺の至高の時間が始まるのだー!

 くそくそくそ、なにが会長と庶務は一心同体だ、なにがぐふふふだ!

 あのジミ眼鏡め!

 一色の奴、蒔田とばっかりじゃないか。

 それに蒔田は蒔田で俺のことこき使いやがって、すぐ暴力振るうし。

 ふ、ふん!

 さてっと・・・

 えへへへへ、い、一色の机。

 はぁ~、さっきまでここにいたんだよな~、微かに温もりが。

 ん? あれって」

 

”ひょい”

 

「あ、これ一色の三色ボールペン」

 

”カキカキカキ”

 

「ふむ、壊れてはいないようだな。

 さっき何か書いてたようだし。

 落としていったのか?」

 

”ジ―”

 

「え、えっと」

 

”スリスリ”

 

「へ、へへへへ」

 

”ガラガラ”

 

「ボールペン忘れ・・・・・ちゃっ・・・・・・・・・・た」

 

「げ、い、一色!

 い、いや、これはだな、そ、その、そこに落ちてたから俺が拾って」

 

「・・・・・」

 

”ガサガサ”

 

「あ、あの~一色、き、聞いてる?

 え、えっと机の中、何を探して?

 ボールペンはこちらに」

 

「あった」

 

「え、なにが?」

 

「消毒スプレー」

 

”プシュー”

 

「ぐはぁ~、や、やめろ」

 

「ウィルス消滅、ウィルス消滅、ウィルス消滅」

 

”プシュー、プシュー、プシュー”

 

「や、やめてくれー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「遅いね、いろはちゃん」

 

「あ、来た来た。

 えっ、」

 

”プシュー”

 

「ぐはぁ~」

 

「ほらさっさと歩けこのウィルス!」

 

「あ、あれ、清川?」

 

「藤沢ちゃん、蒔田お待たせ」

 

「うん。

 え、でもいろはちゃん、なんで清川君が?

 留守番じゃ」

 

「蒔田、留守番代わって」

 

「え?」

 

「このキモ川が 」

 

”スタスタ”

 

「あ、いろはちゃん、やっはろー」

 

「あ、結衣先輩、やっはろーさんです。

 ついでの先輩も」

 

お、おい、俺はついでなのか。

まぁいいけど。

でも校門でこいつらに会うなんて珍しいな。

えっと一色に蒔田、藤沢ちゃんに小町にウィルス野郎。

それと・・・・・だれだっけあとの二人。

 

「おう、ご苦労さん。

 でもどうしたんだ、生徒会のみんな揃って?」

 

「今からクリスマス合同イベントの打ち合わせに行くところなんですよ。

 先輩達はお帰りですか?」

 

「あ、あのね今から塾に行くところだよ」

 

「そういえば最近よくお二人一緒にいますね」

 

「そうか?」

 

「あはは、たまたまだよいろはちゃん。

 ほら教室も同じだし、塾も同じだから」

 

「・・・そうですか」

 

は、いろはす、なにその目。

なにかすげ~疑いの眼差し。

この前の早応大からの帰り見られてないよね。

え、もしかして見られてた?

こ、ここは一刻も早く抜け出さないと。

 

「そ、それじゃな、塾遅れるからいくわ」

 

「いろはちゃん、みんなもクリスマス合同イベント頑張ってね」

 

「「はい」」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ヒッキー。

 明日さ、塾休みだよね」

 

「忙しい」

 

「まだ何も言ってないじゃん」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、一色」

 

「・・・・・・・小町ちゃん 」

 

「げ!

 あ、そ、そうだ、小町留守番!

 小町は清川先輩の代わりに、生徒会室の留守番に行ってくるであります。

 では!」

 

”ダ―”

 

「あ、逃げた」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

”テクテクテク”

 

「や、やばい、遅くなっちゃった。

 平塚先生、ちょっと手伝っていきたまえって、ちょっとじゃないじゃん。

 う~、散々こき使われた。

 少し相談に行っただけなのに」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「で、でもさ、相談しに行ってよかった。

 ほんとこれですっきりした。

 よし頑張らないと。

 あ、でも・・・今日の平塚先生と広川先生何か変だったなぁ~。

 席隣同士なのに、二人とも一言も話しなかったし、目も会わせようとしなかった。

 いつもだったらマンガ読んでる広川先生に注意するはずなのに。

 抹殺のラストブリットって感じで。

 ・・・・・・・・・・・・なんだろう、なんかいつもと雰囲気が。

 はっ、ゆきのん!

 まずい急がないと。

 あ、で、でも元生徒会役員であるからには廊下を走っては。

 早歩き早歩き」

 

”テクテクテク”

 

     ・

 

「え、えっと~

 ゆきのん怒ってるかなぁ。

 取りあえずノックを。

 ノックしないとゆきのんめっちゃ怒るから。

 ん?」

 

「でさ、ヒッキーたらムキになっちゃってさ。

 涎掛けのハートに縁はないんだ!

 ってさ」

 

「馬鹿、お前それは言わない約束だぞ」

 

「あっ、この声って結衣ちゃん?

 それに比企谷君も」

 

「まったく、あなたって人は」

 

「うっせ」

 

「やっぱり結衣ちゃんと比企谷君来てるんだ。

 いつもは挨拶だけして塾行っちゃうのに」

 

「えへへ、ゆきのん」

 

”ピタ”

 

「いきなり、く、くっつかないでくれるかしら由比ヶ浜さん」

 

「いいじゃん、少し寒いし」

 

「そ、そ、それなら今暖房の温度を。

 はっ、デバガメ谷君、いやらしい目で見ないでくれるかしら」

 

「い、いや見てないから。

 いつもと同じ目だし」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ふ~、これじゃ部室に入れないや。

 うんしょっと」

 

”ドサ”

 

「はぁ~、ゆきのんほんと楽しそうだなぁ。

 まぁ、わかっていたんだ。

 わたしはあくまでも二人の代役だもん。

 この三人の関係は特別なもの。

 どんなに頑張っても、わたしにはこの中には入れない、入っちゃいけない。

 目の前にあるのに、それはとても遠くにあって。

 わたしごときには手が届きようもないものなんだ」

 

”スク”

 

「いつまでここに座ってても仕方ない。

 今日はもう帰ろう」

 

”トボトボトボ”

 

「まったく、あなたはそうやって」

 

「いや、俺にも譲れないものがある」

 

「へへ、こうやってゆっくり話できるのって久しぶりだね」

 

「ん?

 由比ヶ浜、お前ら昼ご飯は一緒に食べているんじゃないのか?

 だったら久しぶりじゃ 」

 

「だって、ヒッキーいないじゃん。

 こうやってさ、三人が揃ってゆっくりってのが久しぶりって言ってるの」

 

「そういうことか」

 

「うん、そうだ、そういうこと。

 あっ、あのさ今度の土曜日ってさ、みんな何か用事あったりする?」

 

「今度の土曜日・・・ええ、特に用事はないわ」

 

「やったー。

 ね、ヒッキーは?」

 

「いや俺は勉強が 」

 

「だったらさ、みんなで図書館で勉強しない。

 あたし、ゆきのんとかヒッキーにいろいろ教えてほしいところあるし。

 それでさ、帰りにららぽにでもよってさ」

 

「俺は自宅で・・・・・ららぽっか」

 

”ガシガシ”

 

そうだな、ついでに見に行ってくるか。

ららぽならきっと売っていると思うんだが。

 

「ま、いっか。

 あ、ららぽでちょっと買いたいものがあるんだがいいか?」

 

「うん!

 じゃあ決まりね。

 えへへ、チョ~楽しみ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

「・・・・・あ、そうだ、一応ゆきのんに電話しておかなきゃ。

 えっと、うん?」

 

”パタパタパタ”

 

「へ、あ、か、会長」

 

「あ、美佳先輩。

 今お帰りですか?

 あれ? でも確か奉仕部さんで雪ノ下先輩とお勉強しているはずじゃ」

 

「あ、う、うん。

 ちょ、ちょっとね今日は・・・」

 

「ふ~ん。

 あ、雪ノ下先輩はまだ部室にいました?」

 

「あ、うん。

 あ、でも今は結衣ちゃんと比企谷君も来てるから、そ、その邪魔は 」

 

「え、本当ですか?

 ちゃんす!」

 

”ダ―”

 

「あ、か、会長~」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ちらっ”

 

「ふぅ~」

 

「今日は美佳っち遅いね」

 

「ええ。

 連絡もないし、どうしたのかしら?」

 

・・・ん?

三ヶ木ってまだ雪ノ下と勉強しているのか?

あいつはもう勉強しなくてもいいんじゃね。

 

「なぁ雪ノ下。

 三ヶ木ってまだお前と勉強会やっているのか?」

 

「え? ええ。

 三ヶ木さん、英語は日常会話程度ができるようになりたいっていうから、

 特に英語に絞ってやっているわ。

 それがどうかした?」

 

「い、いやなんでもない」

 

そ、そうか。

日常会話できるように勉強しているのか。

頑張っているんだなあいつ。

でもきっとそれだけじゃないんだろう。

俺達が塾に行った後、この部室には雪ノ下一人。

完全下校時間までの間、その場所でずっと本読んでいたんだろう。

三ヶ木は多分それを放っておけなかったんじゃねえのか。

さっきからずっと時計を見てため息をついてる雪ノ下を見れば、

二人がどういう時間を過ごしてたのかなんとなくわかる。

三ヶ木、早く来るといいな。

 

”ガラッ!”

 

「あ、来た!」

 

「三ヶ木さんノックを 」

 

「失礼しま~す」

 

「・・・・・・いろはちゃん・・・やはっろー」

 

「・・・・・・一色さん・・・ノックを・・しなさい」

 

「え?

 ・・・・・えっと~なんかすみません」

 

”トントン”

 

いや、中に入ってからノックしても意味ないのだが。

それより、うむ、わかるぞ一色その気持ち。

何もしていないのに、ただ部室に入って来ただけなのに。

なぜかいきなりの期待を裏切ってしまった感。

 

「うんうん」

 

・・・俺も何度中学の時に経験したことか。

そうなんだ、ただ教室に入っただけなのに。

くそ、サッカー部のさわやか少年、永山!

お前もっと早く登校しろよ。

何でいつも俺の後に教室に入ってくるんだ。

 

「な、なんですか先輩。

 なに一人でうんうんって納得しているんですか!

 それになんでそんな哀れなものを見るような目!」

 

「いつもと同じ目だ。

 で、一色何の用だ」

 

「えっと実はですね。

 あ、ちょっと座りますね」

 

”ガタ”

 

「ルンルン♬」

 

由比ヶ浜の真向かい。

さも当然のようにその場所に座って頬杖ついて何かを待っている。

だがなんの用事なんだ。

どうせ碌な用事じゃないんだよな。

 

”ガチャ”

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがというございます、雪ノ下先輩」

 

君、紅茶待ってたのね。

なにそのカップ、おしゃまキャットメリーちゃんのカップ

いつからここにあったのそのマイカップ。

・・・・・・まぁ、こいつがここに来るのもあと少し。

三学期になったら、すぐに三年生は自由登校。

俺達以外に部員のいない奉仕部は自然と・・・

 

「ね、一色さん。

 三ヶ木さん、見かけなかったかしら?」

 

「え、あれ?

 さっきここにくる途中の廊下で会いましたよ。

 先輩達が来てるって教えてもらいましたし。

 えっと~、美佳先輩、奉仕部に来てたんじゃ・・・」

 

「そ、そう」

 

「美佳っち来てたんだ」

 

「あの~、美佳先輩ここには来てなかったんですか?

 でもじゃなんで先輩達がいるの知って・・・・・・」

 

そっか。

俺達がここにいることを知ってるってことは、あのドアの外にいたんだ。

俺達が話しているのそこで聞いてて。

あいつまた変な気を使って。

さっき一色が入ってきた時のこいつらの顔。

歓喜から一気に落胆に変わった表情。

お前はちゃんと認められてんだよ、こいつらに。

だから変な気、使うんじゃない。

・・・・・全然気を使わない奴いるのに。

いつの間にかさも当然のように、ここに居座っていたやつ。

勝手にマイカップ置いてある奴。

 

「・・・で、お前は何の用だ」

 

「あ、えっとですね、ほら今度クリスマスのイベントやるじゃないですか~

 海浜さんと合同で」

 

「うん、昨日校門で会ったね」

 

「そこでちょっと奉仕部さんにお願いがあるんですよ」

 

お願い?

クリスマスイベントのお願いって。

そうか、海浜と合同でやるんだよな。

去年の玉繩達もあれだったが、今年も大変なのか?

そういえばこの前も小町、飯食いながらなんかぼやいていたっけ。

生徒会も新体制になって始めてのイベントだ。

一色も何かと気を使っているのかもしれん、そういうところは。

だけど、その依頼は受け入れられない。

少なくとも俺と由比ヶ浜は受験生だ。

センター試験までもう一ヵ月ちょっとしかない。

・・・・・・・それに三ヶ木、言ってたよな。

去年のやり方は間違っていたって。

だから俺は、

 

「一色、この依頼は受けられない。

 これは生徒会が自分達で何とかする問題だ。

 俺達に相談するよりもっと生徒会の中で話し合いを持つべきだ」

 

「そうね。

 ごめんなさい、一色さん。

 奉仕部は魚の捕り方を教えるのであって、魚を与えるのではないの。

 わたし達はあなた達が困った時に助言やサポートはできると思う。

 でも去年みたいに前面に立つことはできない。

 それに比企谷君達は受験生、センター試験が迫っているの。

 わかってくれるかしら」

 

「ヒッキー、ゆきのん」

 

「えっと~、皆さん何か勘違いされていません?

 別に去年みたいなことお願いしに来たわけじゃないですよ。

 そりゃ海浜さんは去年みたいにややこしいですけど。

 わたしも先輩達が受験生だってことわかってます。

 それにわたしには藤沢ちゃんや蒔田、それに小町ちゃんもいますから、

 去年みたいなことはないですよ」

 

「じゃ、な、なにを手伝ってくれって言うんだ一色」

 

「あのですね、いろいろ割り当てを考えているんですが、

 どうしても当日の人手が足りないんですよね~。

 それで、もし当日2、3時間だけでもお手伝い頂けたら助かるなぁ~って、

 それで来たんですよ」

 

「そ、そうなの」

 

「そうです。

 あ、先輩は受付お願いしますね」

 

「え、お、俺は受付決定してるの?」

 

「当たり前じゃないですか。

 先輩はわたしの推薦人、責任ありますからね」

 

「・・・・」

 

「雪ノ下先輩、結衣先輩も来て頂けるとありがたいです。

 奉仕部さんとはこれが最後になるかもしれないから。

 あ、でも本当に時間があればでいいですから。

 受験を優先して下さいね」

 

「いろはちゃん」

 

「一色さん、わたしは参加させていただくわ」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

「あ、あたしも」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”トボトボトボ”

 

「ううう。

 英語、もう少し何とかしないとなぁ。

 早く日常会話程度はできるようにしないと、このままだと

 ほんとやばいんだよ。

 うん、頑張って勉強しよう。 

 でも、昨日電話した時さ、ゆきのんなんかすごく怒ってたような。

 やっぱり昨日さぼっちゃったからかなぁ~

 はぁ~、だってさ、わたしは 」

 

”ドタドタドタ”

 

「え、な、なに?

 なにかが後ろから」

 

”クル”

 

「あ、小町ちゃん、それと・・・確か会計の鈴ちゃん!

 どうしたんだろ、なんかあったのかなぁ。

 すごい顔してこっちこっち向かってくる。

 あ、でも、

 小町ちゃん、鈴ちゃん、廊下は走っちゃダメ!

 二人とも生徒会役員なんだから、校則はちゃんと 」

 

”ガシ”

 

「へ?」

 

”ガシ”

 

「あ、あの~」

 

”カシャカシャ”

 

「こちら小町!

 美佳さんの身柄確保しました」

 

「し、しました!」

 

「これより生徒会室に連行します」

 

「し、します」

 

「い、いや、あの~お二人さん?

 わ、わたしこれから勉強が 」

 

「行くよ鈴ちゃん」

 

「は、はい小町ちゃん」

 

”ズル、ズルズルズル”

 

「え? あ、あの~、な、なに?

 どうしたの二人とも。

 歩くから、ちゃんと歩くから引きずらないで~」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「えっと、これって生徒会室に向かっているんだよね。

 いい加減に腕離してくれないかなぁ~

 あの~逃げないから」

 

「美佳さん、ダメなんです。

 ごめんなさい」

 

「ね、小町ちゃん何か生徒会に問題起きたの?

 あ、もしかしてクリスマスイベントの件とか?」

 

「黙秘します」

 

「・・・・・」

 

”トントン

 

「小町です、美佳先輩を連行してきしました。

 入ります」

 

”ガラガラ”

 

「さ、美佳さん、狭苦しいところですが、どうぞどうぞ」

 

「小町ちゃん、し、知ってるから狭いの。

 失礼しま~すって、なんか変だね。

 でも・・・・・なんか懐かしい。

 引き継ぎの時以来だ」

 

「お久しぶりです、三ヶ木先輩」

 

「おひさ! しょ・・・藤沢ちゃん。

 へぇ~、よく見るとやっぱり生徒会室の雰囲気違ってるね」

 

「あ、美佳先輩、そこの席に座っててください」

 

「あ、はい会長。

 え、これってわたしの使ってた机。

 あれ? この机だけ誰も使っていないんだ。

 うんしょっと」

 

”ドサ”

 

「三ヶ木先輩すみません。

 ご用事とか大丈夫でしたか」

 

「うん、今からゆきのん塾に行くとこだったの。

 ね、藤沢ちゃん何があったの?

 役員さんみんな難しい顔して座ってるけど」

 

「実は」

 

「蒔田!」

 

「なによ一色!

 三ヶ木先輩まで呼んでくることないじゃん!

 まったく!

 はい、三ヶ木先輩どうぞ」

 

”カチャ”

 

「へ? あ、あの~」

 

「美佳先輩、いいですから、まずはそれ飲んで下さい」

 

「え、会長、な、なに?

 あ、い、今は全然喉乾いてなくて。

 いや~、折角舞ちゃんが紅茶淹れてくれたのに残念だなぁ~」

 

「小町ちゃん、鈴ちゃん」

 

「「はい、会長」」

 

”ガシ”

 

「え、あの、小町ちゃん、鈴ちゃん?

 な、なんかいやな予感が。

 小町ちゃん、鈴ちゃんお願い腕離して!」

 

「さ、飲め!」

 

「い、いや、か、会長や、やめて~

 の、飲みたくない! いや~」

 

”ゴクゴク〝

 

「ぐわぁ~! に、にげぇ~」

 

”バタン”

 

「み、三ヶ木先輩、お気を確かに」

 

「ふ、藤沢ちゃん、もうだめ・・・」

 

「ほら、やっぱり不味いじゃない蒔田!」

 

「う、うそ、そ、そんなはずは。

 ちょっと貸してみて」

 

"ゴクゴク"

 

「うん、やっぱり美味いじゃん」

 

「「・・・・・はぁ~」」

 

「美佳先輩、これ何とかして下さい」

 

「わ、わ、わたしが連行されたのはこれが理由?

 こ、こんなことで」

 

「こんなことってなんですか!

 わたし達、毎日こんなの飲まされてるんですよ。

 これはちゃんと引き継ぎをしなかった美佳先輩が悪いんです!」

 

「い、いや、だって舞ちゃんの味覚までは」

 

「いいですか、これは美佳先輩の責任です。

 蒔田が美味しい紅茶を淹れられるようになるまでは、

 引き継ぎは終わってませんから」

 

「い、いやでも」

 

「・・・あの、時間がある時でいいんですよ。

 蒔田に紅茶の淹れ方を教えに来てやって下さい。

 それまでこの席は、美佳先輩のこの席はずっと空けておきますから」

 

「え?・・・・・う、うん」

 

「三ヶ木先輩。

 この三ヶ木先輩の机って、毎日いろはちゃんが拭き掃除してるんですよ。

 なんか寂しそうに。

 この前も清川君が座ろうとしたらめっちゃ怒られて」

 

「はっ! な、なに言ってんの藤沢ちゃん、ち、違うから。

 さ、寂しいとかないから。

 何を言ってるのかなぁ~

 わ、わたしは 」

 

「「会長」」

 

「な、なんですかみんなしてその目は!

 ち、違いますからね!

 え、えっと」

 

”キョロキョロ”

 

「あ、ほ、ほら」

 

”コト”

 

「ほら、花瓶!

 この美佳先輩の机の位置って、この花瓶を置くのに丁度いいかなぁって。

 う、うわ~、ベストポジションだなぁ~この机の位置」

 

「花瓶って、それなんかいやなんだけど」

 

「いろはちゃんそれはちょっと」

 

「と、とにかくです!

 この憶えの悪い蒔田にちゃんとした紅茶の淹れ方を教えに来て下さい。

 い、いつでもいいですから。

 ・・・ちゃんと、美佳先輩の机空けてますから」

 

「あ、う、うん。

 了解です会長。

 ありがと、また来るね」

 

「はい、よろしくです♡」

 

「・・・・・おっかしいな~、この紅茶こんなに美味しいのに」

 

”ゴクゴク”

 

「う~ん、美味い」

 

「「はぁ~」」

 

「会長、ちょっと無理かも」

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「あ、先輩。

 もしかしてわたしを待っててくれたんですか?」

 

「いや違う、断じて違う、厳密に違う」

 

「なんですかそれ、チョ~ひどすぎじゃないですか。

 で、誰を待っているんですか?」

 

「・・・由比ヶ浜だ。」

 

「この前もそうでしたけど、最近いつも結衣先輩と

 一緒なんですね」

 

「・・・た、たまたまだ」

 

「美佳先輩と何かあったんですか?」

 

「・・・・・」

 

「先輩、先輩はあの時 」

 

「ヒッキーごめんお待たせ。

 あ、いろはちゃんやっはろー」

 

「結衣先輩。

 やっはろーさんです。」

 

「ごめんね、ちょっと優美子につかまってて」

 

「いや、いい。

 じゃ、じゃあな一色」

 

「またね、いろはちゃん」

 

「え、あ、は、はい。

 それではです」

 

”スタスタスタ”

 

「ヒッキー、ららぽで何買いたいの?」

 

「ん? ああちょっとな」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・」

 

「いろはちゃん、お待たせ」

 

「あ、うん」

 

「えっと、どうかした?」

 

「え、あ、うううん、何でもないい

 行こっか藤沢ちゃん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「まったく海浜の奴らってさ、本当に自意識高すぎ、高杉君じゃん。

 ね、去年もあんな感じだったの」

 

「あ、まぁね。

 去年はもっとひどかったかも」

 

「ふ~ん、あ、そうだ。

 ねっ一色、お腹空いてない?」

 

「はぁ?

 蒔田、持っていったお菓子、ほとんど一人で食べたくせに」

 

「だってめっちゃムシャクシャしたからさ。

 ね、それよりそこの喫茶店でケーキを・・・・・・え!」

 

「ん、どうしたの」

 

「あ、あれ。

 あそこのベンチに座ってるのって三ヶ木先輩と 」

 

「あ、刈宿君」

 

「何かあの雰囲気ってさ。

 もしかしてって感じじゃない?」

 

「あ、う、うん」

 

”だき”

 

「「え゛ー!!」」

 

「な、なんで三ヶ木先輩と刈宿君が抱き合ってるの?

 ね、い、一色、三ヶ木先輩ってさ」

 

「・・・・・・・」

 

「い、一色?」

 

「・・・・やっぱりなにかあったんだ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”パクパク”

 

「どうですか先輩?

 久しぶりにちょっと頑張ってみたんですけど」

 

ふぅ~、急に一色から呼び出しを食らったから、

てっきり由比ヶ浜とのことかと思ったが、

どうやら違うようだな。

本当にお弁当の味をみてほしいのか。

ふむ、確かに以前のお弁当も美味しかったが、さらに腕を上げたようだな。

特にこの卵焼きの甘さが何とも言えん。

 

「素直に美味い。

 また腕上げたな一色」

 

「そうですか~、えへ♡」

 

「おう、これならこれからもずっと作ってもらいたいぐらいだ。

 いい嫁になれるぞ」

 

「は、な、なんですか

 この前振っておきながら俺の飯を作れって。

 それって愛人、愛人になれと?

 残念ながら本妻にしてもらわない限りお断りです。

 ずっと作ってほしいのなら本妻にしてください、ごめんなさい」

 

「ま、また振られたのか俺」

 

「・・・・まったくこの先輩は。

 本当に耳悪いんじゃないですか。

 もういいです!

 で、美佳先輩と何があったんですか?」

 

げ、や、やっぱりその話だったのね。

だが、これは俺の問題だ。

そして俺の中ではもう解決している。

解決した問題なんだ。

 

「はぁ?

 何もないぞ、断じて何もない」

 

「先輩、

 『あいつは俺にとって特別なんだ』

 あの時、そう言いましたよね先輩」

 

「・・・・・なんでもないんだ」

 

「わかりました。

 それじゃお弁当も食べ終わったようですし。

 はい、これ請求書です」

 

「え、請求書?」

 

「選挙の時の分と今日の分のお弁当代です。

 しめて10億円」

 

「じ、10億円!

 それ、ま、マジか!」

 

10億だとぉ。

サラリーマン生涯年収は確か3億いかなかったはずだ。

む、無理じゃねえか!

い、いや待て、確か選挙の時は手伝いの見返りのはずだ。

だとしたら対象は今日の分だけだ。

 

「一色、選挙の時はお前を手伝う代償にって」

 

「はぁ?

 わたし、そんな労働契約してませんよ。

 確か誰かさんもそう言ってませんでしたか?」

 

「ぐっ」

 

「それにあったりまえじゃないですか。

 このくそ寒いのに、朝頑張って早く起きて作ってたんですよ。

 このわたしが。

 これでも先輩にはお世話になっていますから、サービスしてるんですよ。

 だから10憶円よろしくです、えへ♡」

 

「かわいくねぇ」

 

「はぁ!

 絶対にびた一文たりとも負けませんから。

 耳を揃えて支払って下さい。

 さぁ、さぁ!」

 

「あ、あの~1000年ぐらいの分割で」

 

「なんですか、1000年って。

 ゾンビじゃないんですから、わたしそんなに長く生きてられるわけない

 じゃないですか。

 先輩なら生きてるかもしれませんけど」

 

「いや、しかし・・・」

 

ど、どうする。

10憶なんて絶対に払えないぞ。

げ、こいつマジ、マジな顔してる。

な、なんとか誤魔化さないと。

 

「あ、そ、そうだ。

 お前知ってるか?

 ゾンビといえばだな、佐賀のほうでなんか犬の 」

 

「先輩、誤魔化さないでください。

 ふむ、でも先輩に10憶円は無理か。

 仕方ないです。

 それなら美佳先輩と何があったのかちゃんと話してください。

 それで勘弁してあげます」

 

「・・・」

 

「なにがあったんですか!」

 

「・・・・・・ちっ、あのな」

 

     ・

     ・

     ・

 

「先輩、先輩は本当にそれでいいんですか?」

 

「あいつが決めたことなら俺はそれでいいと思う」

 

「本当に、本当にそう思うんですか?」

 

「ああ」

 

「馬鹿ですよ先輩」

 

「・・・」

 

わかってる、わかってるんだ一色。

俺も本当にそう思う。

もう少しうまくやれたんじゃないのかって、後悔ばっかりしているんだ。

だけどあいつがそう決めたのなら、俺は俺のやり方で

あいつを応援してやりたい。

だからきっとこれでいいんだ。

もう決めたんだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・・・やっぱりこのままじゃ」

 

「ん、どうしたの一色。

 それ食べないならも~らい」

 

”パク”

 

「あー!

 な、なにするの蒔田!」

 

「え、だってこのイチゴいらないのかと思って」

 

「違う、それ大好きだから最後まで残してたの!」

 

「残してるほうが悪い」

 

「はぁ!

 じゃこれもらい」

 

「あ、そ、それだめー」

 

”パク”

 

「残しているほうが悪い」

 

「よ、よくもわたしのケーキのメロンを・・・

 い、一色!」

 

「なに!」

 

「「あ、あの、お客様お静かに」」

 

「「す、すみません」」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・・ね、蒔田」

 

「ん、なに?」

 

「ちょっと相談があるんだけど」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガチャ”

 

「あ~、やっぱりまだ寝てる。

 お兄ちゃん、今日大丈夫?

 ちゃんと憶えているよね」

 

「ん、小町か。

 今日何かあったか?」

 

「マジ?

 それマジだったら小町的にすごくポイント低い」

 

「えっと・・・・・」

 

「クリスマス合同イベント。

 お兄ちゃん手伝いに来てくれるって聞いてるんだけど」

 

「げ、やっぱりあれマジだったのか」

 

「ちゃんと来てね。

 小町は先に行ってるから」

 

参ったな。

そういえば前に一色に約束させられていたような気がする。

受付やれって。

 

”ボリボリ”

 

はぁ~面倒くさい。

あ、そうだ、勉強!

勉強してて時間忘れたってことにしておけば。

念押ししていなかった一色が悪い。

ふふふ、決めた、そうしておこう。

そう決めたのなら・・・・・・・・寝よう。

 

”ガチャ”

 

「お兄ちゃん来てくれないと、小町は生徒会的にチョ~やばいんだからね。

 ただでもいろいろ聞かれてるんだから」

 

「お、おう」

 

仕方ねえ。

小町をやばい目には合わせられん。

支度するか。

はぁ~面倒くさい。

 

     ・

     ・

     ・

 

う~、暑い!

それに長靴蒸れる。

髭はこそばいし、喋ると口の中に入るし。

くそ、なんでこんなの着なければいけないんだ!

 

「先輩、結構お似合いですよ。

 いや~やっぱり先輩です。

 先輩ほどサンタさんの格好の似合う人っていませんよ。

 ふむ、サンタさんはやっぱり先輩じゃないと」

 

「・・・・・おい。

 似合うも何もこの髭と眉毛、かつら、そしてこの眼鏡!

 誰がやっても一緒だろ。

 どこから見ても俺って絶対わからない」

 

「あ、あははは。

 ・・・・・そんなことないですよ、わかる人には先輩だって

 すぐわかりますよ。

 それでは受付よろしくです。

 あ、雪ノ下先輩、結衣先輩、そろそろケーキ作りのほうお願いしま~す」

 

”パタパタパタ”

 

「・・・

 お、おい一色、他には誰か 」

 

くそ、行ってしまいやがった。

顔全然出てないんだ、喋らない限り俺ってわからないだろうが。

わかるとしたら小町ぐらいだろう。

それより、受け付けって俺一人でやるのか?

他に誰もいないんだが。

それにどうすればいいんだ?

何の説明もなし放置されたんだが。

ん~どうすっかな、さすがに一人ではきつい。

そ、そうだ、戸塚だ、戸塚。

戸塚と一緒ならこんな苦行も耐えられる、いや苦行じゃない至福の時間に。

電話・・・しよう。

 

”カシャカシャ”

 

「どうしたの八幡?」

 

「戸塚、今時間ないか?

 ちょっと人手が足りなくてな。

 もし時間あったら去年クリスマス合同イベントやった 」

 

「あ、ごめん。

 今、テニス部で刈宿君の送別会してるんだ。

 だからちょっと」

 

「そ、そっか。

 すまなかった。

 じゃあな。」

 

「あ、うん。

 ごめんね八幡」

 

”ブー、ブー”

 

はぁ~戸塚無理なのか。

いきなりやる気なくなった。

この衣装思ったより暑いし。

長靴チョ~蒸れ蒸れだし。

バ、バックレよっかなぁ。

ほ、ほら一色も時間あるだけでって言ってたような気がするし。

ん?

 

”タッタッタッ”

 

「会長、遅くなってすみません。

 って、あれ会長?

 えっと~」

 

”キョロキョロ”

 

「どこ行ったんだろ?」

 

み、三ヶ木!

なんでここに?

げ、こっち来た!

し、知らんふり、なんか知らんが知らんふり。

 

「あ、サンタさん

 受付、もう一人いるってサンタさんだったんですね。

 それじゃ今からやること説明しますので、隣失礼しますね。

 うんしょっと。

 えっと、海浜さんですか?

 一応、去年やったことをベースにマニュアル作ってみたんですよ。

 これどうぞ。

 えっ・・・・・・・・あっ」

 

ん?

どうしたんだ急に俯いて。

えっと、俺ってわかったのか?

いや、そんなはずはない。

鏡でチェックしたが、これだけ顔隠していれば俺とわかるはずがない。

それに一言も発していないし。

 

「・・・・・・」

 

えっと、わかるはずないよな。

でもどうすっかなぁ。

こいつずっと俯いてるし。

いつまでも話しないわけにもいかないし。

 

”スク”

 

ん、み、三ヶ木?

急に立ち上がって、お、おい。

 

”ダー”

 

え?

 

     ・

 

ふむ、あいつどこ行ったんだ?

戻ってこないんだが。

は、もしかして帰ったのか。

うん? これマニュアルって言ったよな。

どれどれ

 

”パラパラ”

 

ふむ、なるほどな。

しかしあいつ勉強もしないでこんなの作っていたのか。

勉強って、そ、そっかあいつは・・・

 

”カタ”

 

へ、マッ缶?

えっと~

 

「ここ、暖房効いてるから、その格好暑いでしょ。

 ・・・・・比企谷君」

 

「み、三ヶ木

 わかってたのか」

 

「うん」

 

「なぜだ、なぜわかったんだ」

 

「うん、なんとなくわかった」

 

「そ、そっか」

 

「うん、そうだ」

 

なんでだろう。

『なんとなくわかった』って何の理由にもなっていないんだが

納得してしまう。

納得してしまうんだこいつなら。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「「あ、あの」」

 

「あ、ごめん、比企谷君からどうぞ」

 

「い、いやお前から」

 

「うううん、わたしは後でいいよ」

 

「そうか。

 あのなこの前、すまんちょっと言いすぎた」

 

「え、この前って」

 

「屋上で」

 

「あ・・・う、うううん。

 わ、わたしのほうこそ変なこと言っちゃった。

 ごめんなさい。

 わ、忘れてくれると嬉しい」

 

「そっか」

 

「うん」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

そういえば今日は制服なんだな。

ん、最近、髪伸ばしてるのか?

そういえばこいつと最初に出会った時、ロングだったよな。

眼鏡もしていなかったし。

マラソン大会の時、ショートと眼鏡に変わってて。

だから初めは気が付かなかったんだ。

 

「え、えっと~比企谷君。

 あの、何か変?」

 

「あ、いや。

 き、今日はトナカイじゃないんだな」

 

「うん、もう生徒会じゃないから。

 今日はお手伝い、舞ちゃんから頼まれて。

 比企谷君、サンタさん似合ってるよ」

 

「いや、似合うとかほとんど顔出てないから」

 

「えへへ。

 あ、ほらお客さん、もう来たみたい」

 

「あ、そうだな。

 で、どうすんだ?」

 

「うん、まだ会場のほうは準備中だから、連絡があるまでロビーで待ってって

 もらわないと」

 

「そうか、じゃやるか」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ロビー混んできたな」

 

「わたし会場の様子をちょっと見てくるね」

 

”ちょんちょん”

 

「え?

 どうしたの僕?」

 

「サンタさんとお姉ちゃんって付き合ってるの?」

 

「え、あ、あの~」

 

「あのね、みんなが聞いて来いって言うんだ」

 

「え、えっと」

 

「サンタさんとお姉ちゃんは、大変仲の良い友達なんだぞ」

 

「友達なんだ。

 お~いみんな、サンタさんとお姉ちゃんは友達なんだって」

 

「友達か」

 

「な~んだ」

 

「はは、最近の園児はマセてるな。

 なぁ、三ヶ木。

 ん、三ヶ木?」

 

「・・・友達・・か」

 

「三ヶ木?」

 

「あ、うううん、なんでもない。

 会場見てくるね」

 

”テッテッテッ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~、ひと段落だな」

 

「うん、ご苦労様でした」

 

「いやお互いさん。

 あ、そうだ、ちょうどいい」

 

「え?」

 

「これ、お前に渡そうと思ってたんだ。

 生徒会の行事だから、もしかしてお前も来るかと思って持ってきた。

 それにほら来週の週末から冬休みだしな。

 もし渡せなかったらまずいからな」

 

「え、これって」

 

「音声翻訳機だ。

 お前、アメリカ行くんだろ。

 よかったら持っていってくれないか。

 まぁ、お前にはいろいろと世話になったからな。

 餞別っていうわけじゃないんだけど、これお前にやるよ」

 

「・・・・」

 

「これすごく使いやすくて便利なんだぞ。

 双方向対応だし、オフラインでも使えるし。

 雪ノ下に聞いたけど、お前スペルの間違いが多いっていうからな。

 貰ってもらえるとありがたい」

 

「あ、あのさ、わたしアメ・・・・・」

 

「ん?」

 

「・・・ね、教えて比企谷君、比企谷君は平気なの?」

 

「ん、なにがだ?」

 

「わたし、わたしがアメリカに行っても平気なの?」

 

「いやそれはお前の問題だ。

 お前が決めたのならそれでいいんじゃねぇのか」

 

「・・・」

 

「み、三ヶ木?」

 

「・・・そ、そっか。

 わたしの問題だもんね。

 うん、わかった」

 

「おう。

 しかしアメリカか、いいなぁ。

 俺も一度行ってみたかったんだ。

 いや~、うらやましい。

 まぁ向こうでも頑張れ」

 

「・・・・・・・・・・ばか!」

 

”ダー”

 

「え、お、おい三ヶ木。

 翻訳機忘れてるぞ」

 

     ・

 

「ふむ、まだ間に合うのか

 他ならぬ戸塚氏の頼みゆえ、結構急いで来たのだが。

 さすがにちょっと遅かったかも」

 

”ダー”

 

「え、み、三ヶ木女子?」

 

”どん”

 

「おわー」

 

「あ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 うううううう、うぐっ、うぐっ、ううう」

 

”ダー”

 

「み、三ヶ木女子。

 何があったのだ」

 

     ・

 

ち、あいつどこに行ったんだ。

翻訳機忘れやがって。

ん、あれ材木座じゃねえか。

 

「八幡!」

 

「材木座。

 なぜお前ここにいるんだ?」

 

「ふむ、戸塚氏に代役を頼まれてな。

 いや、そんなことより八幡、いま三ヶ木女子が泣いていたのだが。

 なにがあったのだ?」

 

「い、いや別に何も」

 

「何もないわけがなかろう!

 ちゃんと話せ八幡」

 

「い、いや、わからん。

 俺はただあいつがアメリカに行くって聞いていたから、頑張れみたいな励ましと

 この餞別の翻訳機をだな。

 見ろこれすげぇ便利なんだぞ」

 

「・・・八幡、貴様それマジで言ったのか?」

 

「なんだ、どうした?」

 

「マジで言ったのかと聞いておる」

 

「いや意味が分からねぇ。

 なに怒ってだ。

 それにあいつが決めたことなら、それを俺がとやかく言うもんじゃないだろう」

 

「八幡!」

 

”ボゴ!”

 

「ぐっ、な、なにするんだ材木座!」

 

「今のは貴様の親友としての一発だ!」

 

”ボカ!”

 

「ぐおー、な、なにをする八幡」

 

「なにをするじゃねえ。

 意味わからんだろうが。

 いきなり殴りやがって」

 

「き、貴様まだわからぬか!

 はちま~ん、この正義の鉄拳を食らえ!」

 

”スカ”

 

「食らうかそんなもの」

 

「あ、キラエールが」

 

「なに!」

 

”ボゴ!”

 

「ぐはぁ!

 ざ、材木座ー、てめぇ!」

 

「今のは、今のは 」

 

”ゴス!”

 

「けふっ、まだ我のターンではないか」

 

「わけのわからんこと言ってるんじゃねぇ材木座!」

 

「黙れ!

 これは不甲斐ない恋敵への一撃だ!」

 

”ボゴ!”

 

「かはぁ! ちっ、なに言ってんだ材木座。

 お前いい加減にしないと」

 

”ポカ!”

 

「ざ、材木座―」

 

「はちまーん!」

 

”ベシ!”

 

”ズゴ!”

 

”バキ!”

 

”ドゴ!”

 

「はぁ、はぁ、八幡、貴様本当は行ってほしくないのであろう!」

 

「そんなわけあるか!

 あいつが決めたことだ、それなら俺は応援する」

 

”ボゴ!”

 

「うぐぐぐぐ、は、八幡!

 あ、あれ、キラエールが歩いて」

 

「二度も騙されるか!」

 

”ボカ!、ボコ!”

 

「いたたた、ぐぅ~、は、八幡」

 

”どた”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ったく」

 

”どて”

 

「はぁ、はぁ、は、はち、まん。

 八幡よ、す、素直になれ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、うっせ、材木座」

 

「な、なぁ八幡。

 失ってからでは遅いのだぞ。

 後から後悔しても失ったものはもう戻らないのだぞ」

 

「わ、わかってないのはお前だ。

 俺にはあいつを止める資格がないんだ!

 あいつが選んだのは・・・

 だったら、それなら俺にはあいつを後押しをしてやるぐらいしか

 できねえだろうが」

 

”ボカ!”

 

「つっ~、材木座!」

 

「は、八幡。

 人を好きになるのに、資格なんて要らぬわ。

 もっと貴様の想いを素直にぶつければよかろう。

 今、本当に大事なのは三ヶ木女子の気持ちどうこうではない。

 貴様の想いを素直に伝えることではないのか。

 三ヶ木女子は迷っているはずだ。

 今ならまだ間に合う。

 必ず貴様の想いを受け止めてくれる。

 貴様わかっていたのであろう、三ヶ木女子の気持ちが」

 

「・・・・・遅いんだ」

 

「八幡。

 ・・・・・ずっと近くにいても、ずっと見続けていても、

 ずっと思い続けていても伝わらない、叶わない想いもあるのだ。

 貴様なら、貴様の想いなら三ヶ木女子に届くのだ。

 だから素直になれ、八幡!」

 

「ざ、材木座、お前もしかして三ヶ木のことが。

 だがもう遅いんだよ材木座。

 俺はもう・・・遅いんだ」

 

「あきらめたというのか?

 嘘をつくな八幡!

 ならば、貴様はスマホの三ヶ木女子のアドレス消せるのか?

 消せるわけがあるまい。

 口では資格がとかもう遅いとか戯言を言っておるが、

 本心は未練があるのだろう。

 まだあきらめてないのであろう。

 それが貴様の本 」

 

”カシャ”

 

「は、八幡!

 貴様、今なにを 」

 

「これでいいんだろ材木座。

 もうこのことに関わるな」

 

「八幡」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

今日から冬休みか。

いつもなら学校に行かなくてもよくて、一日中炬燵でゴロゴロできるから

最高の気分だったんだが。

さすがに受験生としてはそんな余裕はない。

さて、早速朝飯食ったら勉強を・・・・勉強しないとな。

 

「はぁ~」

 

くそ、駄目だまた気持ちが。

もうセンター試験は近いってのに何やってんだ俺。

くそ、まずはメシだ、メシ。

 

”ガチャ、トントントン”

 

階段になんかいい匂いが漂ている。

小町が朝飯作ってくれたのか。

ん? 

 

「るん、るるるんるん♬」

 

鼻歌?

そっか、今日は小町機嫌が良さそうだな。

 

”ガチャ”

 

「おう、お早う小町」

 

「・・・・ふん!」

 

こ、小町?

さっきまであんなに機嫌良さそうに鼻歌歌っていたのに。

スゲ~不機嫌そうな顔して睨んでいる。

 

「えっと、あ、サンドウィッチ。

 お兄ちゃんもそれ頂こうかなぁ~」

 

「これは小町のサンド!

 朝ご飯食べるなら自分で作れば。

 あ、それと、年末は予定あって忙しいから、今のうちにゴミとか出しておいて。

 はぁ~、このごみぃちゃんも引き取ってもらえないかなぁ」

 

”ギロ”

 

「・・・・・」

 

げ、小町チョ~機嫌悪い

クリスマスイベントで俺が三ヶ木を泣かしたってこと知られてから1週間。

小町の俺を見る目がチョ~冷たい。

いやマジ年末のゴミに出されそうなんだが。

 

「こ、こま 」

 

「ご馳走さま。

 ふん!」

 

”バダン!”

 

・・・はぁ、朝飯いいか。

 

     ・

 

ふ~、まず勉強の前にゴミ出しだな。

引き出しの中の整理から始めるか。

 

”がさがさ”

 

お、おう、百円!

百円見つけたぞ。

他にないか?

ん、この紙袋は・・・・・

 

”がさ”

 

はぁ~、結局返せなかったな。

あいつ冬休みに一度アメリカに行くって言ってたな。

今頃準備でもしてるんだろうか?

・・・パンツ足りるかなぁ。

持っていってやるか。

い、いや、何をいまさら。

 

『素直になれ八幡』

 

うっせ。

・・・・・・おっと、そんな暇はない。

掃除だ掃除。

早いところ片付けて勉強しないとな。

 

”ガタガタ”

 

ん、なんだこの手紙?

誰からだ?

こんなのいつ貰ったんだ?

ふむ、どれどれ。

 

”パサ”

 

『前略、 比企谷八幡様

 

 昨日は突然泊めてくれなんて言ってごめんなさい。

 きっと変な奴って、ビッチって思われたよね。

 あのね、昨日とうちゃんとケンカしたのって再婚のことでなんだ。

 とうちゃんきっとあの人と再婚したいって言おうとしたんだと思う。

 でもわたしはまだやっぱり・・・・』

 

ん、これって三ヶ木の手紙?

お父さんとケンカって、これ文化祭の前日に泊めてやったときに書いて

いったのか。

 

『それでね、家飛び出しちゃったんだけど、気が付いたら比企谷君の家の前に

 来ちゃってたの。

 おかしいね、沙希ちゃんやさがみんのところじゃなくて、比企谷君のとこに

 来ちゃった。

 ・・・とうちゃんの再婚。

 ほんとはちゃんと喜んであげないといけないってわかってるんだ。

 だけどわたし弱いから、今のわたしには無理。

 ・・・・・怖いんだ。

 今、そんなこと話しされても、きっととうちゃんに変なこと言っちゃいそうで。

 はは、駄目だねわたしって』

 

三ヶ木。

やっぱりお前そのことを相談したかったんだよな。

あの時、俺はそこまでお前をわかってやれていなかったんだ。

だからそれをわかっていた稲村に嫉妬して。

 

『あ、あのね、まだ絶対秘密だよ。

 今日のチークタイム、葉山君からパートナーに選ばられた。

 あ、でも勘違いしないで。

 わたしが選ばれるはずないもん。

 これは葉山君流の気遣いだよ。

 あのね、その前にゆきのんからチークの件、比企谷君をパートナーにって

 相談されてね。

 でもほらそんなことになったら、きっとまた比企谷君・・・

 みんなほんとの比企谷君知らないから。

 でもゆきのん、真剣だった。

 本当に比企谷君と踊りたがっていた。

 それでね、どうしょうって悩んでるわたしを見て、葉山君がパートナーにって

 言ってくれたの。

 多分、葉山君はわたしに何かするチャンスをくれたんだと思う。

 

 それでね、わたし決めたの。

 今日、わたしはめっちゃ嫌な女を演じる。

 高慢ちきで高飛車で、みんなを見下しているような女。

 わたしはあなた達と違って、あの葉山君に選ばれたのよって感じで。

 学校一の嫌われ者になるんだ。

 みんなの反感がわたしに向くように。

 

 だからお願い。

 チークの時はゆきのんだけ見てて。

 絶対こっちのほうは見ないでほしい。

 わたし比企谷君に見つめられたら、そんな女演じきる自信がない。

 きっとその場に泣き崩れて・・・・・

 だからお願い。

 チークの時はゆきのんの声と音楽だけ聞いてて。

 絶対にわたしへの非難の声は聞かないで。

 だってきっと比企谷君のことだから・・・・・

 でもそんなことになったら、二人が悪者になってしまう。

 それじゃ、わたしのやったことが意味のないことになってしまうから。

 

 ・・・そんでね、もう学校であってもわたしのこと無視して。

 だって悪者は一人で十分。

 わたしなんかに絶対話しかけないで。

 話しかけると比企谷君まで悪く言われちゃう』

 

み、三ヶ木、あいつ文化祭の時にもこんなことしようと思ってたのか。

あの馬鹿野郎。

そんなこと、無視なんてことできるかよ。

 

『でも大丈夫だよ。

 わたしは大丈夫。

 これがわたしのやり方、これはわたしがやりたくてやること。

 だからわたしは大丈夫。

 比企谷君ならわかってくれるよね、このやり方。

 多分・・・うううん、これしか解はないんだ。

 

 わたしね、もう去年の文化際みたいなこと絶対に嫌なんだ。

 わたしは、あの時比企谷君のためになにもできなかった。

 めぐねぇ問い詰めて、いろいろ調べて比企谷君が何をやったのかわかったのに。

 わたしは何もできなかった。

 だからわたしは頑張るんだ、去年の分も。

 

 あのね・・でもね、も、もしかして。

 もしかしてね、わたしが駄目になりそうな時、負けそうになった時、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・抱きしめてほしいんだ。

 い、一度だけでいいんだ。

 それだけでわたしは無敵モードになるの。

 

 あ、でもね、そうならないように頑張るつもり。

 だからしばらく寂しいけど学校では無視してね。

 シ・カ・ト、よろしく!

 

 じゃあ、文化祭の準備とかあるから先に学校行くね

 ほんとうにありがと。

 あのね、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛してます、八幡。

 

                           美佳♡ 』

 

み、三ヶ木。

 

”ポロ、ポロ、ポロポロ、ポロポロポロポロ”

 

ば、ばっか野郎!

何でこんな手紙、引き出しの奥に置いておくんだよ。

机の上に置いてけよ。

い、今頃になって。

あ、あのバカ!

 

”ガチャ、バダン!”

 

「お兄ちゃん!

 ドアは静かに締めて。

 え、お兄ちゃん」

 

”ドタドタドタ”

 

「お、お兄ちゃん。

 何で泣いて・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

あ、あのバカ、くそ馬鹿、大馬鹿野郎が

・・・・・・ちっ! 馬鹿なのは俺のほうだろうが。

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ドンドンドン!”

 

「あ、は~い」

 

”ガチャ”

 

「そんなに叩かないでくれるかなぁ。

 ドア壊れちゃうから・・・って比企谷君!

 どうしたの、そんなに息切らせて」

 

「み、美佳・・・・美佳さんはいらっしゃいませんか?」

 

「んん?

 ・・・・・・・・・美佳に何か用?」

 

「あ、あの、お、俺、俺は」

 

「俺は?」

 

「お、俺は、あ、あいつに、美佳さんに大事な話が」

 

「・・・・・ふ~ん、美佳にね~」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・あのね、美佳は空港に行ったよ。

 知らなかった?

 今日から刈宿君とアメリカ旅行に行くの。

 男と女、二人っきりでアメリカ旅行。

 君もこの意味わかるよね」

 

「お、俺は」

 

「それにちょっと調べたんだけど、

 刈宿君ってさ、あの東地グループの御曹司なんだよね。

 うわ~美佳ってチョ~玉の輿。

 まぁ、今まで貧乏してたからやっと報われたのかなぁ」

 

「・・・・・」

 

「・・・ね、比企谷君。

 この前の質問、もう一回聞くね。

 君はどうしたい? どうありたいと思うの?」

 

「お、俺は・・・・・」

 

「俺は?」

 

「・・・・・・・・あいつといつも一緒にいたい。

 誰にもあいつを渡したくない」

 

「それが美佳から幸せを奪うことになっても?」

 

「もしかして俺といることが、あいつから幸せを奪うことに

 なるかもしれません。

 俺はいつもあいつを泣かしてばかりで。

 ・・・・・だけど俺は、それでも俺はあいつを誰にも渡したくない!」

 

「そっか、それが君の答えか」

 

”スタスタスタ”

 

「ま、麻緒さん?」

 

”カキカキカキ”

 

「あ、あの~」

 

”スタスタスタ”

 

「はい、これ。

 これが美佳の乗る飛行機と出発時間。

 ロサンゼルス行きのAAN305便。

 でも電車だと間に合うかなぁ~」

 

「あ、ありがとうございます」

 

”ダー”

 

「あ、ちょ、ちょっと比企谷君。

 行っちゃった。

 『誰にも渡したくない!』っか。

 ふふふ、若いっていいなぁ。

 さてとそれじゃ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

で、電車の時間どうだった。

タクシーで行くか

・・・・・今月使いすぎた。

思ったより翻訳機って高かったしな~

小遣いまでまだまだだし。

え~い考えていても仕方がない。

まずは駅だ、駅に着いてから時効表を調べてだな。

それでだめだったらタクシーだ。

駅ならタクシーも。

 

”ブ、ブー”

 

え?

 

”キキキ―”

 

え、あ、あぶねぇ!

は、な、なにこれサイドカー。

えっとヘルメットから長い髪?

これ女の人?

 

”バサ”

 

「ふぅ~、やっぱりヘルメット嫌いなんだよね」

 

「ま、麻緒さん!」

 

「空港まで送ってくわ。

 いいから乗りなさい」

 

「え、えっと」

 

「早く!」

 

「は、はい。

 お願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ひぇ~」

 

こ、こぇー

と、隣の車すげぇ近い!

い、石とか飛んでこないよな。

それにさむ~、マジ寒いって。

麻緒さんの着ているのって、毛がモカモカでなんか温かそう。

 

”キキキキッ”

 

ぐわっ、う、浮いた!

い、いまこっちの車浮いたって。

 

「ま、麻緒さん、もう少し安全運転で」

 

「うっさい!」

 

「は、はいすみません」

 

こ、こぇ~。

なにこの人、ハンドル握ると人が変わるの?

で、でも道を曲がる度にこっち浮いてんだけど。

え? こ、高速!

マジ高速のるの?

 

     ・

     ・

     ・

 

「ちっ!」

 

「・・・・・・」

 

「混んでんね。

 ちょっと下道に降りるの早かったかなぁ」

 

「す、すみません

 メッチャ怖かったんで」

 

だって、本当に怖かったんだから。

あ、でもちょっとやばいかもな、すげえ渋滞だ。

事故でもあったのか?

さっきから少しも進まない。

看板出てたからもう空港は近いと思うんだが。

えっと確か麻緒さんからもらったこのメモの出発時間は・・・

 

「比企谷君、ごめんね。

 ちっとも動かない」

 

「麻緒さん、ここから空港までどのくらいっすか」

 

「えっとさっきの看板には確かあと10kmって書いてあったけど」

 

「10kmか」

 

”カパッ”

 

「へ、比企谷君?」

 

「ヘルメットここ置いておきます。

 麻緒さん、俺走っていきます」

 

”スタ”

 

「え、でもまだ空港まで10kmも」

 

「大丈夫っす。

 それくらいの距離、走ったことありますから。

 なんとかなります」

 

”ペコ”

 

「麻緒さん、ありがとうございました」

 

”ダー”

 

「ふ~、頑張れ比企谷君。

 でもごめんね嘘ついて。

 美佳は・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

く、くそ、まだ何百mも走っていないのに、足が痛くなってきた。

それに心臓もバクバクして張り裂けそうだ。

無理もねえか。

体育祭以来、運動らしい運動していない。

まぁ、受験を控えたこの時期に真剣に体育の授業を受けて

勉強の体力を削る奴なんてもいない。

あの厚木ですらそれくらいわかっていて、暗黙の了解事で見逃している。

運動といえるのはあの材木座との喧嘩ぐらいだ。

 

”ビュ~”

 

うへ~

それに時たますごい向かい風が吹いてくる。

その度に押し戻されそうで、すごく走りにくい。

 

・・・・・・風・・か。

そういえばあいつと初めて話した時もこんなふうに風が強かったよな。

確か次の日が台風だったはずだ。

 

あの日、あんなに風が強くなかったら、校舎の窓誰かが開けっ放しにしてなかったら、

俺が窓に気を取られてなかったら、俺はあいつと出会うことはなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

そうだ、あの風のおかげで俺はあいつに出会うことができたんだ。

初めてあった時から不思議となんだか話がしやすくて。

それで文実がやばかった時、あいつがやろうとしたこと聞いて、

すげぇ親近感がわいて。

それであの後、ステージ裏で。

 

『・・・・・あ、あのね、わたし信じてるよ。

 何があったかわからないけど、わたしは比企谷君を信じてる』

 

文化祭で二人で片付けしてる時、お前俺に言ってくれたよな。

あん時のお前の言葉で俺がどれだけ救われたか。

お前はあの時からずっと俺のことを信じてくれてたんだよな。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あっ!」

 

”ズデン”

 

いってぇ。

はぁ、はぁ、くそ、気持ちだけ先走って足がもつれやがった。

あっ、ズボンの膝破けてる。

うゎ、膝結構擦りむいている。

・・・そういえば、マラソン大会の時も結構派手にこけたっけ。

それで、介護テントに行ったら久しぶりにあいつに会って。

 

『そこに座って~♬』

 

『うぇ~、染みるー』

 

『あっ、ごめんなさい、消毒しすぎて骨が見えてきた』

 

『うっ、うそ・・・・』

 

あいつ、消毒してる時ってすげ~うれしそうだった。

はは、絶対S子だ。

うん、間違いない。

・・・・・文化祭の後、修学旅行や生徒会選挙とかいろいろあって、

すっかり忘れてた。

でも久しぶりに会ったのにやっぱりなんか話しやすくて。

 

『S子』

 

『なによⅯ男』

 

はは。

本当に、お前には何でも話できた。

由比ヶ浜や雪ノ下にも言えないことでも。

 

『な、なぁ三ヶ木、ちょっと聞いてもらってもいいか?』

 

『ん? なんだ、スケが谷君』

 

『あのな、修学旅行でのことなんだが』

 

だからあの修学旅行でのこと、お前に聞いてほしくなって。

お前なら俺のやり方どう思うのかどうしても知りたくて。

お前は俺の話を聞いて、それで俺の頭撫でてこう言ってくれたな。

 

『比企谷君、マジでとてもよく頑張ったねって思った』

 

『話ししてくれてありがと』

 

『やっぱ信じててよかった』

 

『ね、わたしごときでいいなら、比企谷君が話したいこと聞いてあげる。

 それで少しでも気が楽になるならいつでも話して。

 だ・か・ら、これからもそばにいてあげるね』

 

俺は、お前の言葉がうれしくて。

俺のやり方を理解して、認めてくれて、信じてくれるのがうれしくて。

だから、そのとき思ったんだ、俺はお前にそばにいてほしいって。

でもそれでついお前の気持ちに土足で踏み込んで。

・・・・・くそ、こんなところでモタモタしていられない。

こんな傷なんて俺が今まであいつを傷つけてきたことに比べたら。

 

”スク”

 

なんでもないだろうが!

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

俺の心の中でお前に対する想いがどんどん広がって強くなっていくのに、

俺はお前に心の中の痛みや辛さを知らなくて、それを知っていた

稲村に嫉妬してお前に・・・・

まったく俺は。

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、あ、赤信号か」

 

どこでボタン掛け間違ったんだろう。

いつから俺たちの想い変わってしまって。

いつも間にかお前は刈宿と・・・

 

『わたしが駄目になりそうな時、負けそうになった時、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・抱きしめてほしいんだ』

 

『もっとやさしくしてよ、わたしのこと、わたしのこと抱きしめてよ馬鹿!!」

 

いや、掛け間違えてなんかいなかったんだ。

少なくともお前はあの時と全然変わっていなかった。

 

そうなんだ、あの時、俺はお前のやり方は間違ってるって否定するんじゃなくて、

これがお前なんだって認めて、それで一緒に変わろうって言ってやるべきだったんだ。

あいつはあんとき本当に参っていたんだ。

なぜ気が付かなかった。

なんだよ、俺はあいつとこんなにも長い時間を共有していたのに、

なんで気が付かなかったんだ。

笑ったり、泣いたり、嫉妬したり、ケンカしたり、

少しずつ、少しずつ距離ちじめながら理解しあって。

いつもお前は俺のそばにいてくれて、俺を見ていてくれたのに。

それなのに俺は、俺は・・・

 

『わたしは比企谷君が好き、好き、好き、大好き。

 今までも大好きでした。

 そんで、これからもずっとずっと比企谷君のことがだいす 』

 

くそ!

 

”ダ―”

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、つ、着いた。」

 

ま、まだ時間は十分にあるはずだ。

 

”プシュ~”

 

どこだどこだ、どこにいるんだ?

 

”きょろきょろ”

 

あ、そうだ掲示板、発着の案内確認しておくか。

この時間なら、あいつの便はまだ搭乗手続きの時間ではないはずだ。

 

”スタスタスタ”

 

えっと、AANの305便だったよな

305、305・・・・ん?

305ってないぞ。

いや、でもこの麻緒さんのメモにはAAN305便って。

他の航空会社の間違いか?

カウンター、AANのカウンターで聞いてみるか。

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「あの、お客様、この便は午前中に出発している便になりますが」

 

「え、い、いや、そんなはずは。

 あ、もしかして麻緒さん間違って。

 あの、他にロサンゼルスに行く便はありませんか?」

 

「いえ、本日はロサンゼルス行きの便はこの305便が最後です」

 

「い、いやそんなはずは。

 あ、そ、そっか、他の航空会社の便だ。

 はは、麻緒さんそそっかしい」

 

「いえ、AAN305便は確かに我が社の 」

 

「そんなはずないですから!!」

 

”タッタッタッ””

 

     ・

     ・

     ・

 

な、なんでだ、なんでどこにもいないだ。

う、うそだ、嘘だろ三ヶ木。

お前、本当にもう行ってしまったのか?

だ、だってこの麻緒さんのメモじゃ、まだ時間は十分にあるはずなんだ。

お前に会えるはずだったんだ。

 

”どさ”

 

・・・なんだよ、午前の便って初めから間に合わなかったんじゃねえか。

 

”キーン”

 

この展望デッキから見える飛行機。

あ、あの飛行機のようにお前はもうアメリカに飛んで行ってしまったのかよ。

 

”ドン!”

 

「くそ、くそ!」

 

み、三ヶ木!

な、なんでだ。

お前、俺のそばにいてくれるって言ったじゃねえか。

ずっとずっと俺のそばに・・・・・・いてくれるって言ったじゃねぇか。

それなのに。

 

”ドン!”

 

「何で行ってしまったんだ!

 三ヶ木、馬鹿野郎帰って来い!

 俺はお前にずっと・・・・・そばにいてほしい。

 俺はお前のことが・・・

 お前を誰にも渡したくない!

 う、うううううう。

 くそ!」

 

”ドン!”

 

「お、お客さま、あんまりガラスを 」

 

”ドン、ドン!”

 

「お客様!」

 

「・・・・・す、すみません。」

 

”スク”

 

「お客様大丈夫ですか?」

 

「・・・・・はい」

 

”トボトボトボ”

 

     ・

     ・

     ・

 

・・・・・お、俺は

 

”トボトボトボ”

 

今頃、あいつ何してんだろう

まだ飛行機の中だよな。

刈宿と話とかしてるんだろうか。

それとも機内食でも食べてるんだろうか。

 

『う~、お腹いっぱい。

 これだけ満足してあのお値段。

 ふふふ、余は満足じゃ~』

 

へへ、そういえばあいつ牛丼、めっちゃ美味そうに食べてたなぁ。

・・・・・

あ、それとも寝てるのかもな。

あいつ良く寝るもんな。

俺の前でも平気で。

全く俺のことなんだと思ってんだ。

 

『お、おい三ヶ木、いい加減起きろ!』

 

『ふぁ、ふぁ~い、とうちゃん』

 

『いや、とうちゃんじゃないから』

 

あいつの寝顔はもう俺だけのものじゃないんだ

・・・・・三ヶ木。

 

『・・・・・愛してます、八幡』

 

く、くそー、俺は・・・

 

”ぎゅるるる~”

 

は、なんだよ、こんな状態でも腹減るのかよ。

そういえば朝から何も食ってなかったっけ。

なんだよ、お誂え向きにサイゼあるじゃないか。

・・・・・まったく俺ってどうしょうもない人間・・・なんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「いらっしゃいませ。

 ご注文はお決まりですか?」

 

「あ、ミラノ風ドリアとドリンクバーで」

 

「はい、畏まりました」

 

アメリカにもサイゼってあるのだろうか。

もしあるのなら行ってみようか、俺もアメリカに。

・・・・・はぁ~、なに考えてんだか。

 

     ・

     ・

     ・

 

「お待たせしました」

 

”カタ”

 

「あ、あの~」

 

「はい?」

 

「サイゼってアメ・・・・・い、いえ何でもないです」

 

「は、はい?」

 

”スタスタスタ”

 

なに聞こうとしてんだ俺。

ばっかじゃないの。

聞いてどうするんだ。

行くのか、行きたいのかアメリカに。

・・・・・はぁ~、食べるか。

 

”パク”

 

ん?

 

”パク”

 

あ、あれ? 

 

”パクパク、もぐもぐ”

 

「ん、なんだこれ!

 全然味がしない。

 ち、なんなんだこのドリアは。

 この店はどうなってんだ。

 お、俺を馬鹿にしてるのか!」

 

”パク”

 

「ん? そんなことないよ。

 いつもと一緒だよ」

 

「い、いやそんなはずはない!

 味なんかちっともしないだろう」

 

”パク、もぐもぐ”

 

「そうかなぁ~、普通に美味しいけど。

 そんじゃこれわたしが貰ってあげる」

 

”パクパク、もぐもぐ”

 

「ん~美味しい♡」

 

「そんなはず・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・え?

 え゛ー!!

 な、な、な、な、な、な、お、お前!」

 

「ん?

 ほら慌てないで、はいコーヒー入りシロップ」

 

”ゴクゴク”

 

「う~、美味い。

 じゃない!

 な、何でお前がここにいるんだ!

 お前はアメリカに 」

 

「ん、わたしアメリカ行かないよ」

 

い、いや、あれ?

え、えっと・・・・・

 

「何で行ってしまったんだ!」

 

「お、おい、お前見てた・・・・い、いつからだ!」

 

「はい?」

 

「いや、いつから見てたんだ。

 み、見てたんならなんであの時に 」

 

「いやだよ、あんなに大声で名前呼ばれて、

 は~い、なんて出ていけるわけないじゃんか」

 

「な、なぁ、いつから・・・・い、いた?」

 

「へへへへ」

 

な、なにその笑顔。

ま、まさか初めからずっと見てたんじゃないだろうな。

嘘だ、嘘だ! ね、嘘だと言って。

 

「お、おい!」

 

「教えてあげな~い」

 

「お、教えてください。

 お願いします」

 

「うん?

 へへ、麻緒さんから電話もらってさ。

 そしたら比企谷君、見つけることができて。

 そんなことより、はい、あ~ん」

 

「断る!」

 

「三ヶ木、馬鹿野郎帰って来い!」

 

「わー、だ、黙れ。

 わかった、わかったから、あーん」

 

「はい♡」

 

”パク”

 

「あ、あれ? 美味い。

 いつもの味だ。

 な、なんで 」

 

「ね、美味しいでしょ」

 

”もぐもぐ”

 

「お、おい待て!

 お前、なに勝手に俺のドリア食ってんだ。」

 

「いらないって言ったじゃん」

 

「言ってない。

 よこせ!」

 

「いいのかぁ~、俺はお前にずっと 」

 

「わ、わかった、黙れ。

 くれてやるこの野郎!

 すみません、ミラノ風ドリアもう一つ」

 

「あ、それとハンバーグステーキも一つ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「へへ、満腹満腹、余は満足じゃ~」

 

「ち、ハンバーグまで奢らせやがって。

 それにしてもお前食いすぎだろう」

 

「ご馳走様でした」

 

”ペコ”

 

「・・・ま、まぁいいけど」

 

「だってさ、今月もチョ~やばいんだよ。

 家では麻緒さんとの日常会話さ、英語でしなければいけないんだよ。

 そんで間違ったら、1回100円徴収されるんだもん。

 1回100円だよ、100円!」

 

「そ、そうなのか。

 それはちょっときついな」

 

「入試終わったらちゃんと埋め合わせするからね」

 

「期待せずに待ってる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・な、なぁ三ヶ木、お前ずっと聞いてたんだよな」

 

「え、あ、う、うん。

 初めからずっと」

 

「くそ!」

 

「だってぇ」

 

「・・・こ、答え、欲しいんだが」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・んと、な、なんのことかなぁ」

 

「おい!」

 

「忘れたなぁ~

 いや~最近ほんと忘れっぽくて、と、年かなぁ~

 だ・か・ら、もう一回言ってくれない?」

 

「断る」

 

「じゃ、やだ。

 答えてあげな~い」

 

「・・・・・・・三ヶ木」

 

「・・・・・・やだ」

 

「・・・・う~」

 

「へへ、ごめん。

 冗談だよ。

 あのね比企谷君、わたしはもうどこにも 」

 

「三ヶ木、俺と付き合ってほしい」

 

「え!」

 

「・・・いや、俺と付き合ってほしいんだが」

 

「あ、あれ?、そばにいてくれってことじゃなかった?

 付き合ってって、ほ、ほんとに?

 あ、あのさ、ほんとにわたしで・・・・・いいの?」

 

「ああ、お、お、お前だ」

 

「だ、だってわたしなんか。

 ゆ、ゆきのんみたいに綺麗でないし、結衣ちゃんみたいにスタイル良くないし。

 せ、性格だってこんなんだし。

 そ、そんでもいいの?」

 

「ああ。

 確かに世間一般的にそんなに可愛いいわけじゃない。

 まぁ、中の中ぐらいか。

 スタイルも・・・まぁ、雪ノ下には勝ってるけどな。

 性格は言わないでおいてやる。

 武士の情けだ」

 

「お、おい、なんだ武士の情けって!」

 

「だけどな、俺、お前にどこにも行ってほしくないんだ。

 ずっとずっとそばにいてほしい。

 ・・・・・・・・・・・お前を失いたくない。

 誰にも渡したくない、俺だけの人になってほしい。

 だから俺と付き合ってほしいんだが」

 

「ひ、比企谷君♡」

 

”だき”

 

「み、三ヶ木、こ、こんな場所で。

 い、いや、ほら人多いから」

 

「う、うううう、うぐ、うぐ、う、うれしい、わだじうれじい」

 

「三ヶ木」

 

”なでなで”

 

「三ヶ木、返事いいか?

 ちゃんと聞きたい」

 

「ぐす、あ、う、うん。

 えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい!」

 

「え?

 え゛ー!!

 ・・・・・・・な、なんで、なんでだ、あれ?」

 

「わたし比企谷君のこと大好き。

 好きで好きでほんとに大好き」

 

「え、えっと、だ、だったら 」

 

「だからね、付き合っちゃうともう比企谷君しか見えない、考えられない。

 頭の中が隅から隅まで比企谷君でいっぱいになっちゃって、

 絶対に勉強なんて手につかない。

 勉強してても今なにしてるのかなぁって思っちゃって、

 絶対に会いたくなっちゃう。

 うううん、きっと会いに行っちゃう。

 でもそれじゃ駄目。

 ・・・・・だから、ごめんなさい。

 返事は、入試が終わるまで待って下さい。

 入試が終わったらちゃんと返事する。

 それまで待って」

 

「三ヶ木」

 

「わたしね、決めたの。

 わたしは東地大に行く。

 あ、洋和女子受かりそうにないからとかじゃないから。

 東地大だから行きたい、東地大じゃないとできないこと見つけたの。

 だから絶対に東地大に入学して、いっぱい勉強して経験してちゃんと保母さんになる。

 わたしね、わたしが夢に向かって頑張ってる姿を見てもらいたい。

 比企谷君に見てもらいたい。

 いっぱいいっぱい頑張るから」

 

「三ヶ木」

 

「だからちょっとだけ、返事待っててほしいの。

 ・・・もう、絶対どこにも行かないから」

 

「ああ、わかった」

 

「・・・・・・・ごめんね」

 

「・・・・・・・いや、いいんだ。

 俺もお前が頑張ってる姿見てみたい。

 お前が保母さんになった姿見てみたい。

 だから入試頑張れ」

 

「・・・比企谷君♡」

 

「三ヶ木」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

そうなんだ。

俺はこの目を、この鼻を、この口を・・・この三ヶ木をずっと見ていたかったんだ。

 

『素直になれ八幡』

 

俺はこいつをずっとずっと見ていたい。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ひ、比企谷君、あ、あの」

 

「えっ」

 

”こく”

 

う、うそ。

え、いいの?

キスしてもいいのか?

お前、目を瞑ってうなづいてって。

 

”ゴクッ”

 

み、三ヶ木、お、俺は絶対お前のこと・・・

だから。

 

”そー”

 

「あー、おかあちゃん、あのお兄ちゃん達チュ~するよ」

 

「こ、こら静かにしてなさい。

 い、今いいとこなんだから」

 

「「へっ?」」

 

「いや~最近の若いのは大胆だね」

 

「ねぇねぇ、写メ取った?」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「いや~!」

 

”ダー”

 

「み、三ヶ木ー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う、うううううう」

 

「あ、あの~お客様、どうかされました?」

 

「あ、い、いえなんでもないっす」

 

「あの、よろしかったらお絞りどうぞ」

 

「あ、す、すみません」

 

     ・

 

『刈宿君、ご、ごめんね』

 

『美佳先輩、なに謝ってんすか。

 見送りに来てくれただけでもうれしいっす』

 

『あ、あの、ほんとにごめん』

 

『本当にもう謝らないでください。

 俺の方こそ、あの時急に抱き締めてすみませんでした』

 

『う、うん。

 へへ、あん時はちょっとびっくりしちゃった』

 

『す、すみませんっす。

 ・・・美佳先輩、美佳先輩はちゃんと自分のやりたいことに向かって頑張るっすよ。

 もう迷ったらだめですよ。

 俺は美佳先輩が自分の夢を叶えることが一番っすから。

 ずっと応援してるっす』

 

『わたしも!

 わたしも刈宿君がいつかプロの選手になって活躍することを祈ってる』

 

『うっす。

 俺も絶対夢叶えるっす』

 

『・・・・・』

 

『・・・・・』

 

『・・・・・』

 

『じゃ、行きます』

 

『あ、刈宿君。

 刈宿君、ちょっと、ちょっと』

 

『ん、なんすっか?』

 

『いいから耳かして』

 

『うっす』

 

”ちゅっ”

 

『み、美佳先輩』

 

『ほっぺでごめん。

 ・・・・・・・・・・・・あのね、いっぱいいっぱいありがと』

 

『う、うっす。

 ・・・俺の方こそ。

 じゃ、行ってきます』

 

『うん。

 行ってらっしゃい』

 

”スタスタスタ”

 

『美佳先輩、頑張るっすよ!』

 

『うん。

 刈宿君も頑張れ!』

 

     ・

 

「・・・・・う、うううう。

 お、俺頑張るっす。

 もっともっと強くなって帰ってくるっす」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ば、ばかー

 比企谷君の所為で、すごく恥ずかしかったじゃんか!」

 

「いや、お前が先に。

 それに目瞑って上向いてただろうが。

 口だって、ん~って感じで」

 

「だ、だって~

 ずっと見つめられていたから」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

「な、なぁ」

 

「うん?」

 

「今日、今から時間ないか?」

 

「え、あ、うん大丈夫だよ」

 

「これからカラオケでも行かないか?」

 

「カラオケ?」

 

「ほ、ほら、ク、クリスマスだから」

 

「あ、うん、行く♡」

 

「よ、よし、それじゃ戸塚戸塚っと」

 

「へ?」

 

「おう、戸塚か。

 なぁ、今からカラオケ行かないか?

 ほらクリスマスだから 」

 

”トントン”

 

「比企谷君」

 

「ん、なんだ三ヶ木?」

 

「比企谷君のバカ―!」

 

”ベシ”

 

「ぐ、ぐはぁー」

 

な、なんで空手チョップ?

でも・・・・・・・・・久しぶりの快感。




最後までありがとうございました。
長くて長くてすみません。

今話でやっと八幡とオリヒロが。
これにてこの駄作も完結・・・・・じゃない!

すみません、物語はまだ次話で1月、春までまだ少し。
もうちょっと続きます、ごめんなさい。

また次話見に来ていただけるとありがたいです。
ではではです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お正月編 -寒晴ー

見に来ていただきありがとうございます。
ただただ感謝です。
ほんと更新遅れてすみません。

今回は、次話、次次話の冬物語 最終編に向けて小休息。
冬の寒さの合間の寒晴です。
前回頑張った八幡に少しばかりのご褒美を・・・

では、よろしくお願いいたします。


”スタスタスタ””

 

『誰にもあいつを渡したくない』

 

『俺と付き合ってほしいんだが』

 

うへ~、なんてことを言ったんだ俺。

いや、きっとあの日の俺はどうかしてたんだ。

はっ、もしかして何かに憑依されていたとか。

そうじゃないとあんな恥ずかしいことを次から次と言うはずがない。

・・・・・・・ううううう。

お、俺の黒歴史がまた一ページ。

はぁ~

 

「ヒッキー」

 

だ、だがちょっと待てよ。

三ヶ木は返事ちょっと待ってくれって言ってたけど。

 

『わたしが夢に向かって頑張っている姿を見てもらいたい。

 比企谷君に見てもらいたい』

 

『もう、絶対どこにも行かないから』

 

確かそう言ったんだよな。

・・・・・そ、それってもう内定もらったってことじゃないのか。

その、あの、つまり、お、俺と・・・・・・

へ、へへ、へへへへへへ

そ、そういうことだよな。

 

「ヒッキー、ヒッキーってば」

 

そ、それにあと少しで・・・・・・キ、キスを。

うぉ~キスだぞ、キス!

それもほっぺじゃないやつ。

なに、お、俺ってもしかしてすげーリア充、リア充じゃないのか。

へへ、へへへへ

 

”ぽか!”

 

「い、いた!」

 

はっ、な、なんだ、なにが。

あ、ゆ、由比ヶ浜。

そっか忘れてた、一緒に塾から帰ってたんだった。

え、な、なに?

なんか怒っていらっしゃる?

 

「ヒッキー、さっきからなにいっても生返事ばっかりだし。

 ずっとニタニタ笑ってて、なんかめっちゃキモ!

 それにほらもう駅通りすぎちゃったし」

 

「あ、ああ、すまんちょっとな」

 

「なにかいいことあったの?」

 

「ん、い、いや何でもない。

 なんでもないぞ厳密に」

 

「む~なんか気になるし。

 まぁいいけどさ。

 それよりさ、あのね明日からほら塾って正月休みじゃん。

 ヒッキー正月って何か予定ある?」

 

「勉強するに決まってんだろ」

 

「塾は3日からじゃん。

 よかったら元旦か2日の日に一緒に初詣にい 」

 

「行かない」

 

「即答だ!

 いいじゃん、一緒に行こう。

 あのさ、ゆきのんも誘って三人で」

 

「断る!

 いいか由比ヶ浜、俺達は受験生なんだ。

 正月休みも休まず、塾で必死に特訓している奴らもいるんだぞ。

 それに年明けたら、すぐにセンター試験なんだ。

 初詣に行く時間があるなら勉強しろ。

 あとな、もしあんな人混みに行って、万一風邪を移されてでもしてみろ、

 最悪じゃねえか。

 そんなデメリットは断じて受けるわけにはいかない」

 

「そ、そうだけど。

 でも一日ぐらいいいかなぁって。

 ほら気分転換みたいな」

 

「その一日が命取りになるんだ。

 兎に角、俺は行かない」

 

「わかった、それならいい!

 ゆきのんと行ってくるから」

 

「おう、そうしてくれ。

 ついでに俺の合格を願ってきてくれると嬉しい」

 

「はぁ、なんか利用されてるし。

 まぁいいけどさ。

 わかった、一緒にお願いしてくるね」

 

「おう頼んだ。

 話はそれだけか、ほらさっさと駅戻るぞ。」

 

”スタスタスタ”

 

「ちょ、ちょっと待ってよヒッキー。

 あ、ほら募金してるよ。

 あたし、募金してくる」

 

”テッテッテッ”

 

「歳末助けあい募金お願いしま~す」

 

「お願いしま~す」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

う~さぶ。

寒いと思ったら、カマクラいないのか。

さっきまで足元で俺を暖めていてくれたのに。

どこ行ったんだ?

 

「お~い、かまくら~」

 

どこに行ったんだ俺の暖房機器。

 

”ギュルル~”

 

は、腹減った。

なんだもう9時過ぎてんのかよ。

道理で腹減るはずだ。

探すの朝飯食ってからにするか。

 

”トントントントン”

 

ん、そういえば昨日の元旦、俺お年玉貰ってないよな。

親父達、大晦日に騒ぎ過ぎて昨日はほとんど寝てたからな。

今日こそはゲットしないと。

 

”ガチャ”

 

「あ、お兄ちゃん、やっと起きてきた」

 

「お、おう小町、明けましておめでとさん」

 

「それ昨日聞いたから」

 

「ん? あれ親父達は?」

 

「二人とも出かけたよ。

 なんか仕事だってさ」

 

「そうか、よくはたら・・・・・・ちょ、ちょっと待て。

 今日は1月2日だぞ、2日。

 何で正月早々働いているんだ」

 

「あ~なんかさ、朝二人に電話かかって来てさ」

 

ど、どんだけ社畜なんだ。

や、やっぱり俺は働かないぞ、専業主夫を目指す。

親父達みたいには絶対にならん。

はっ、ちょ、ちょっと待てよ。

お年玉!

俺のお年玉はどうなったんだ。

俺はまだもらってないなずだ。

まてよ、この感じで明日も親父達仕事に行ったら、

俺は塾が始まるし、もしかして貰えないってことに。

・・・・・・お、おい!

は、ま、待てよ。

もしかして小町に預けているってことも。

 

「こ、小町、お前お年玉どうした?」

 

「ん? お父さん達が出かける前に貰ったよ」

 

「お、俺のは、俺の分は?」

 

「あー、えっと~、ほらお兄ちゃん寝てたから」

 

「・・・・・」

 

ま、マジか。

はっ! も、もしかして親父達、俺にお年玉やりたくなくて

それで仕事に行ったんじゃ。

 

「そ、それより、ほらちゃちゃと朝ご飯食べちゃって。

 小町もこれから出かけないといけないから」

 

「ん? どこに行くんだ、初詣か?」

 

「もう、ちゃんと言ってたじゃん

 今日は生徒会の新年会があるって。

 なにか出し物しないといけないから大変なんだよ」

 

「そっか、それで年末ずっと何か練習してたんだな。

 なんか”踏み潰せ踏み潰せ”とか、”殲滅だ!”とか歌ってたけど、

 物真似でもすんのか。

 まぁ、そこそこ声似てたんじゃねえのか。

 ご苦労さん。

 いっただきまーす」

 

”パクパク”

 

「・・・そこそこって

 お兄ちゃんポイント低い」

 

     ・

 

「ふ~、ごっそさん」

 

「あ、洗っておくから食器はシンクのとこに浸けておいて」

 

「お、サンキュー

 さて、それじゃ勉強すっか。

 その前にカマクラカマクラっと」

 

”キョロキョロ”

 

「なぁ小町、カマクラ知らねえか?」

 

「うん? カー君ならさっきまでソファのとこにいたよ。

 なんかものすごく眠たそうだったけど」

 

「そうか?」

 

”スタスタ”

 

「お、いたいた。

 お~い、カマクラ探したぞ~

 ほら仕事だぞ~」

 

”ぷぎー!”

 

「お、おいカマクラ!」

 

「シャー!」

 

”ガリガリ”

 

「い、いてぇ~」

 

「お兄ちゃん何やってるの」

 

「い、いや勉強すっからカマクラを暖房の代わりにだな」

 

「はぁ~、カー君嫌がってるじゃん。

 まったく何やってんだか。

 ね、それより本当に初詣にいかないの?」

 

「行かない」

 

「合格祈願は?」

 

「ふふふ、小町、お兄ちゃんは神になんぞ頼らない。

 自分の力でのし上がるのだ

 神に頼らないと合格できないような奴らと一緒にしてもらっては困る」

 

ま、まぁ本当は由比ヶ浜に頼んだんだが。

正直藁にも縋りたい心境だが、わざわざ寒い思いしてあんな人混み行きたく

ないしな。

 

「折角仲直りできたんだから、美佳さん誘って行ってくればいいのに」

 

「い、いや、あいつも受験勉強で忙しい・・・はずだ」

 

まぁ、あいつの場合、東地大なら余裕で合格するはずだ。

それにこっぱずかしくて会えない。

いったいどんな顔して会えばいいんだ。

新年のあいさつした時もなんか微妙だったし。

 

「ふ~ん。

 あ、もうこんな時間。

 じゃあ小町行ってくるね、留守番よろしく!」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ん~、ん~」

 

「こ、こ、小町ちゃんどうしたの?

 さっきからなんか難しい顔」

 

「鈴ちゃんちょっとごめんね」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、もしもし」

 

     ・

     ・

     ・

 

寒い、やっぱり寒い。

何でよりによってこの時期にエアコン故障するんだ。

電気ストーブだけでは足りん。

やっぱりここはカマクラを。

 

”トントントントン”

 

カマクラカマクラっと、確かまだソファにいたはずだ。

 

”ピンポ~ン”

 

ん、なんだ、正月早々。

 

「お~い小町」

 

あ、そっか、新年会に出掛けてていなかったっけ。

ちっ、くそ、面倒くさい。

隣のおばさんだったらどうすっかな。

あの人な話長いんだよな。

それに俺パジャマのままだし。

は、そうだ居留守、ここは居留守ってことで。

 

”ピンポ~ン,ピンポ~ン”

 

し、仕方ない。

 

”ガチャ”

 

「はい、なんすか?」

 

「ひ、比企谷君、け、怪我大丈夫?」

 

「げ、三ヶ木!」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁー、いてぇ~」

 

「だから、いつもなんで”げぇっ”なんだし、もう!」

 

「い、いや、その、な、なんだ、何の用だ!」

 

「あ、小町ちゃんから電話かかってきて、比企谷君が猛獣に襲われて

 すごい大けがをしたって。

 小町ちゃん外出してて、ご両親もいないから助けてって言われたから」

 

「大怪我?

 いや、この通り何ともないんだが?」

 

「よ、よかった」

 

”へなへなへな”

 

「お、おい大丈夫か三ヶ木」

 

「う、うん、だ、大丈夫。

 慌ててきたから、ちょっと安心して。

 はぁ~、でもほんと何ともなくてよかった」

 

ったく、小町の野郎やりやがったな。

・・・しかしこいつなんて恰好してんだ。

この寒空にそのスカート、しかも生足・・・生太ももじゃねえか。

 

”ジー”

 

「え? あ、あの比企谷君、やっぱりなんか服装変かな?

 慌ててたから、つい手に取ったの着てきたんだけど」

 

「い、いや変じゃない。

 まぁ、そのなんだ、ご馳走さん」

 

「へ?」

 

「あ、そ、それより、そんなとこに座っていないで、

 よかったら家に入ったらどうだ。

 折角来たんだ、コーヒーぐらい出すわ」

 

「え、あ、で、でも」

 

「まぁ、今誰もいないしな。

 遠慮するな」

 

「え、ご両親はほんとにいないの?」

 

「ああ、二人とも仕事だ」

 

「え! き、今日から?

 だ、だって今日はまだ2日」

 

「ああ、まったくだ。

 だから絶対俺は社畜にならないからな。

 やっぱり専業主夫、専業主夫こそ俺の天職だ」

 

「・・・・・・うん、わたし頑張る」

 

「え?」

 

「え?」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「ま、まぁ、とにかく入れ。」

 

「う、うん」

 

ん~、こいつ今なんか変なこと言ってなかったか?

聞き間違いだよな、そ、そうだ聞き間違いに違いない・・・多分。

 

     ・

     ・

     ・

 

「小町さん、煤ケ谷さん明けましておめでとう!」

 

「あ、藤沢先輩、あけおめです」

 

「です」

 

”スタスタスタ”

 

「ねぇ、ねぇ、柄沢君の家ってここでいいよね?

 なんかすごくでかいから」

 

「はい、確か頂いた地図だとこのお屋敷のはずですね」

 

「こ、ここ、ここでいいです」

 

「煤ケ谷さん、柄沢君の家知ってるの?」

 

「あ、は、はい。

 わ、わたし、か、柄沢先輩と清川先輩と同中なので」

 

「そうなんだ。

 ね、煤ケ谷さん、柄沢君のご両親って何してるの?」

 

「あ、あ、あの、た、確か雪ノ下建設のお偉いさんって聞きました」

 

「「へぇ~」」

 

「あ、会長、蒔田先輩」

 

”スタタタタ”

 

「あけおめです」

 

「です」

 

「あけおめ、小町ちゃん、鈴ちゃん。

 あ、藤沢ちゃんもあけおめ」

 

「いろはちゃん、蒔田さん、明けましておめでとうございます」

 

「あけおめ藤沢さん。

 金持ちって知ってたけど、それでも伊達にでかいよね柄沢んち。

 いや~さすが柄沢ボンボン」

 

「蒔田さん柄沢ボンボンって、くくくくく」

 

「じゃ、みんな揃ったことだしそろそろ行こっか」

 

「くくくく、あ、でもいろはちゃん、清川君がまだだよ」

 

「あ、あ、あの、わたし電話します」

 

「煤ケ谷ちゃん、清川のアド知ってんだ」

 

「は、はい、蒔田先輩。

 あ、あの、き、清川先輩と小、中と同じ・・・・なので」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お、おい三ヶ木。

 や、やっぱりするのか?」

 

「もう往生際が悪い!

 男なんだから覚悟決めなさい。

 それに、今・・・家に誰もいないんだし。

 そ、その二人だけなんだから」

 

「その、まぁなんだが。

 ・・・しないとダメか?」

 

「だめ。

 ここまで来たらやめられない。

 ほら出して」

 

「う・・・・・」

 

「ちゃんと出してよく見せて」

 

”にぎ”

 

「い、いやそんなに強く握られると」

 

「あ、ごめん。

 やさしくするね」

 

「・・・い、痛くしないでね」

 

「・・・・・女の子じゃないんだから。

 ほらするよ」

 

”ペタ、ペタペタ”

 

「ぐはぁー、し、染みるー」

 

「ぐふ、ぐふふふふふ」

 

「や、やっぱりお前めっちゃ嬉しそうだし。

 ぜ、絶対Sだ、このS子」

 

「ひど!

 でもさ、放っておいたら駄目なんだからね。

 手のひらを引っ掻かれただけだとしても、そこからばい菌でも入ったら

 大変なんだから。

 さて、あとは絆創膏っと」

 

”ピタ”

 

「はいOK。

 大したことじゃ無くてくてよかった。

 小町ちゃんから電話もらった時はほんとびっくりしたんだから。

 でも猛獣ってこの子だったんだ。

 へへ、可愛い」

 

”なでなで”

 

「ふにゃ~♬、ゴロゴロゴロ」

 

「す、すまん。

 あ、コーヒー冷めてしまったな。

 もう一回淹れ直すわ」

 

「あ、いいよ、もったいないもん。

 それよりさ、おコタ出してあるんだ」

 

「冬は炬燵が一番だ。

 まぁ、つい眠たくなってしまうのがネックだけどな」

 

「うん、そうだね。

 わたしもよく寝ちゃう」

 

ん?

だがおかしい。

炬燵あんまり暖かくない。

スィッチ弱だったかな?

 

「すまん、ちょっと炬燵の温度設定高くするわ」

 

”ガバ”

 

えっと・・・・・・・・・・・・

マ、マジか!!

こ、こ、こ、こ、これは!

炬燵の中の暗闇に浮かび上がるむっちりしっとりとした質感。

こ、これは太もも、い、いや生太もも。

 

”ゴク”

 

ま、待てよマジ、マジか!!

ぴったりと閉じられられている太もも。

その太ももと太ももの間、わずかな隙間の奥。

おお! あの禁断の三角地帯に朧気に白く見えるもの。

ま、まさか、あ、あれは・・・・・・パンツ、パンツなのか!

くそ、はっきり見えん。

も、もう少し近くで。

 

「あ、比企谷君、コンセントが抜けてるよ」

 

はっ!

 

”ガバ”

 

「あ、ほ、本当だな。

 はは、そうか、小町が出かける前に抜いていったんだな。

 ちっ!」

 

「え?」

 

「あ、い、いや何でもない。

 い、今コンセント差し込む」

 

「あ、う、うん。

 お願いします」

 

「おう、お願いされてやるこの野郎!」

 

「え、な、何か怒られてる」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それではみなさんゆっくりしていってね」

 

「あ、お正月早々押しかけてすみませんでした」

 

「いいのよ。

 でもごめんなさいね。

 他にもお客様がお見えになってるからこれで失礼するわね。

 あ、そうそう。

 会長さんてどなたかしら?」

 

「あ、はい、わたしです」

 

「えっ! あなたが会長さん?

 そう、あなたなの」

 

”ジロジロ”

 

「あ、あの~なにか?」

 

「母さん、保護者会役員の皆さん待ってるじゃなかった?」

 

「あ、そうそう、そうだったわね。

 それではね」

 

”スタスタスタ”

 

「すまない、一色さん。

 嫌な思いしただろう?」

 

「あ、うううん。

 それより、それじゃ新年会始めましょうか。

 まずは、みなさん、新年あけおめです」

 

「「あけおめ!」」

 

「おめでとう」

 

「明けましておめでとうございます、いろはちゃん」

 

「以下省略」

 

”パコッ”

 

「いて、新年早々スリッパで叩くな蒔田!」

 

     ・

     ・

     ・

 

く、くそ、頭の中、あの白いものがこびりついて離れない。

あれって絶対にパンツだよな。

へへへへ、新年早々なんて縁起がいいんだ。

これも日ごろの行いが・・・

い、いや待て、はっきり確認できたわけじゃない。

もしかしたらスカートの裏地だったのかもしれん。

そ、そうだとしたら・・・

く、くそ! ど、どっちだ、パンツなのか裏地なのか。

う~気になって仕方がない。

そ、そうだ。

ここはやっぱり確かめないと。

ちゃんと確かめないと今後の勉強にも差し障りがあるに違いない。

い、いや、もうすでに差し障っている。

よ、よし、ここは勉強のため。

そう、勉強のためだ。

 

「えっと、比企谷君さっきから何をぶつぶつと 」

 

「あ、い、いや、なんか炬燵がなかなか暖かくならないな~って思ってな」

 

「そう?

 ちゃんと暖かいけど」

 

「いや、寒い、寒いぞ、間違いない。

 そ、そうだ、もしかしたら温度調節が弱になってたのかもしれん。

 強、強にしないと」

 

「あ、う、うん」

 

”ガバ”

 

「えっと~、切り替えスイッチどこだったかなぁ~」

 

”ちら”

 

お、おお、やっぱり炬燵の中で見る生太ももって何とも言えない。

なんでだろう、この薄暗さがそそるのか?

い、いや、今大事なのは生太ももじゃない。

そ、その奥にみ、見えるこの白い物の正体を。

 

”ゴク”

 

う~、どっちだ、ここからはよくわからん。

も、もっと近づいて。

 

「比企谷君、もしかして切り替えスィッチこっちにあるの?

 あの、わたし見ようか」

 

”すり”

 

お、おお!

あ、足が、ぴったりと閉じられていた生太ももがズレて、

禁断の三角地帯が今俺の目の前に開かれた。

 

”ツー”

 

あ、やべ、鼻血が。

 

「比企谷君?」

 

「だ、大丈夫だ、スィッチあったから。

 い、いま強にするから、お前はもう少しそのままでいてくれ。

 絶対に動くな」

 

「え? あ、うん」

 

よ、よし。

ど、どれ、禁断の三角地帯の奥に見える白くて柔らかそうなもの。

今、その正体をあきらかに。

 

”ゴク” 

 

「ただいまー

 八幡、誰かお客さん来てるの?」

 

え! うそ母さん。

 

”ガチャ”

 

「あら」

 

「あ、お、お邪魔してますお母様」

 

げっ、な、なんで。

し、仕事に行ったんじゃなかったのか。

や、やばい。

 

”ゴツン”

 

「い、いたー」

 

「あ、あんた炬燵に頭突っ込んでなにして・・・・・・・・八幡」

 

「い、いや、ち、違う。

 母さん、そ、そんな悲しい顔して見ないでくれ。

 お、俺はただ。

 お、俺はただ炬燵の温度設定を強にしようとして」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・あ、あの~、母さん?」

 

「・・・・・あんた鼻血」

 

「えっ、なに、なに? 

 比企谷君?」

 

「・・・・・な、なんでもない。

 聞かないでくれ三ヶ木」

 

「まったくこの子は。

 ほらティシュ。

 それより美佳さん」

 

「はい」

 

「あなた、わたしとの約束憶えてる?」

 

「・・・・・・・はい。

 もう会わない・・・です」

 

「約束も守れないのかしら」

 

「ごめんなさい、お母様」

 

”ペコ”

 

「待ってくれ母さん。

 三ヶ木は約束破ってない。

 確か母さんと三ヶ木が交わした約束っていうのは、三ヶ木から俺に連絡をしないって

 ことだったはずだ。

 信じてくれないかもしれないが、あれから三ヶ木が俺に連絡してきたことはない。

 いやむしろ俺を避けていたぐらいだ。

 今日だって小町が三ヶ木に連絡したからで。

 だから三ヶ木は母さんとの約束を破ってない」

 

「・・・」

 

「・・・ち、違うの比企谷君。

 確かにそういう約束だったけど違うの。

 わたし達はお互いに大学受験を控えた身でしょう。

 お母様はそのことを心配されて、今はとっても大事な時期だから、

 後から後悔しないようにしっかり勉強に集中しなさいって意味で言われたの。

 だから、お母様ごめんなさい。

 もう帰ります。

 帰ってしっかり勉強します。

 比企谷君、勉強の邪魔してごめんね」

 

”ペコ”

 

「はぁ~、まったく何でこんなのがいいのかねぇ。

 こんなんじゃなくても、もっといいのいると思うんだけど」

 

「母さん言い過ぎだ!

 母さんは三ヶ木のこと知らないんだ。

 こ、こいつは母さんが思っているような 」 

 

「なに言ってるの?

 美佳さんに言ったのよ。

 親が言うのもなんだけど、この馬鹿のどこがいいんだか。

 捻くれてて、屁理屈ばかりで、それに引き籠りだし」

 

「・・・・親が言うな、それに引き籠ってないし」

 

「・・・・あ、あの。

 比企谷君はとっても優しくて。

 うううん、それだけじゃなくて、わたしが悪いときはちゃんと

 わたしが悪いっって言ってくれて。

 それに自分のことのようにわたしのために泣いてくれたり、

 そんで一緒に笑ってくれたり。

 こんなわたしなんかでもそばにいてくれって、そばにいてもいいって言ってくれて。

 わたしのこと・・・・・

 いつもわたしのことをちゃんと見ていてくれるんです。

 だからわたしは、あの、その・・・・」

 

「・・・三ヶ木」

 

「あ、ご、ごめんなさい。

 な、なに言ってんだわたし。

 も、もう帰ります。

 お邪魔しました」

 

「待ちなさい。

 八幡、あんたその格好だと今日もどこにも行ってない様ね」

 

「お、おう。

 当たり前だ、ちゃんと勉強してたぞ。

 それに俺は引き籠りらしいし」

 

「美佳さん。

 今日本当はね、この馬鹿を連れて合格祈願のお守り頂きに行く

 予定だったの。

 でもなんか仕事で疲れちゃって。

 悪いけど代わりにこの馬鹿を連れてもらってきてくれないかしら」

 

「え、あ、は、はい」

 

「はぁ?

 待て、俺は断るぞ。

 なんであんな人混みにわざわざ疲れに行かないといけないんだ。

 それに先立つものも 」

 

”ヒラヒラ”

 

「そ、それはお年玉、お年玉なのか」

 

「初詣、いってらっしゃい」

 

「わ、わかった。

 初詣行くからお年玉くれ」

 

「まったくこの子は。

 あ、それと美佳さん」

 

「あ、はい」

 

「はい、これお守り代。

 あなたのお守りの分もね。

 それと余ったら何かお昼食べてきなさい」

 

「え、お母様」

 

「あなたに渡しておくわ。

 悪いけどこの馬鹿よろしくね」

 

「あ、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは場も温まったことですので、

 そろそろ恒例の出し物の発表といきます」

 

「蒔田、恒例って今年初めてやったんだろ新年会」

 

「うっさい清川。

 じゃ、一発目は清川やって」

 

「はぁ! な、何で俺なんだよ」

 

「司会者の権限」

 

「くそ、ちょっと待ってろ準備してくるから」

 

     ・

 

「え~それじゃ、俺今から手品やります」

 

「あ、それって頭がストンて落ちるやつだ。

 ほら、ハンガーとかで仕掛け作って」

 

「い、一色、ネタバレすんじゃねえ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ざわざわ、がやがや”

 

はぁ~、やっぱりスゲ~込んでるじゃねえか。

さっきからちっとも前に進まない。

鳥居までもすごく遠い。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

そうなんだ。

これだけ待つ時間が長いと次第に話すことがなくなって、

自然と無口になるんだよな。

そしてだんだん雰囲気が悪くなって、ギクシャクして。

俗にいうディステニーの伝説。

俺達もさっきから会話が続かない。

三ヶ木はずっと俺に背を向けて黙りこんでいる。

背を向けられるっていうのは、なんかものすごく嫌な気分だ。

だけど何を話せばいいんだ。

あ~くそ、何か考えようとすると、頭の中にあの白いものが浮かんで

なにも考えられん。

だけど

 

「な、なぁ、三ヶ木。

 知ってるか佐賀のほうでだな、なんか犬の・・・・

 って、こっち向いて 」

 

”ぐぃ”

 

「げ!」

 

”もぐもぐ”

 

「お、お前口いっぱいになに詰め込んで・・・あ、それ、カ、カステラ焼き!

 いつも間にそんなもの買ってたんだ?

 は、そ、そっかさっき花摘みにいった時だな。

 そういえば帰ってからずっとお前、後ろ向いて黙ってたし」

 

”ムシャムシャ”

 

「だ、だっで、おなぎゃずいで。

 朝から何も食べてなかったんだもん」

 

”パク、ムシャムシャ”

 

「お、おい!

 俺にも一個くれ」

 

「やだ」

 

「く、くそ!

 お、俺も買ってくる」 

 

「へへ、冗談だよ、はいあげる」

 

「お、おう、サンキュ」

 

”パク”

 

「うん、美味い」

 

「だね。

 ・・・あのさ、大丈夫だよ」

 

「え、な、なにがだ?」

 

「ディステニーの伝説

 わたしはさ、好きな人のそばにいれたらそれだけで十分。

 ずっと何も会話なんてなくてもさ、それだけで幸せだよ」

 

「・・・・そ、そっか」

 

「比企谷君はそんなの嫌?」

 

「いや、お、俺もそのほうが助かる。

 まぁ、俺に気の利いた話題とか求められても無理だからな。

 なんなら一生何も話さなくてもいいぐらいだ」

 

「い、いやさすがに一生は・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なに拗ねてんの清川」

 

「拗ねてない」

 

「一色がネタバレしたから?

 あんなの同じネタするほうが悪い」

 

「う、うっせ」

 

”ポロロロン、ポロロン♬”

 

「それよりさ、柄沢ピアノ上手だね。

 なんでもさ、3歳のころから習ってんだってさ。

 いや~金持ちは違うね。

 ほら一色なんて聞き惚れてるし」

 

「ちっ!

 お、親が金持ちだからだろ。

 俺だってこんな家に生まれてたら」

 

「無理無理。

 自然と滲み出る気品? なんか違うんだよね」

 

「・・・」

 

”ペンペン”

 

「僻まない僻まない。

 でもさ清川、修学旅行の時にあんたがいなかったら、

 一色は今こうやっていられなかったかもしれない。

 一色もそれはわかっていると思うよ。

 だからさ、もっと自信持ちなって」

 

「・・・ま、蒔田」

 

「ほら飲め飲め」

 

「・・・お前本当はいい奴なんだな」

 

「え?」

 

”バシバシ”

 

「い、いてぇー」

 

「ダメダメ、わたしに惚れても。

 わたしの身も心も全て稲村先輩のものなんだから」

 

「ぜ、絶対に惚れん。

 いつもいつも、この暴力女!」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふ~、やっと境内までたどり着いた。

さ、さっさとお願いしてお守り買って帰るか。

えっとお賽銭お賽銭っと。

 

・・・・・・・・げっ!

 

こ、こ、小銭がない。

財布の中には数枚の野口さんとさっき貰ったお年玉しかない。

何で小銭が・・・・・・

 

『歳末助けあい募金・・・・』

 

そ、そうか、あの時に財布の中の小銭さらって募金したんだった。

ど、どうする。

いくら何でも正月早々に野口さんとサヨナラするのは辛い、辛すぎる。

そ、そうだ、三ヶ木に。

 

”チラ”

 

「ん、どうしたの?」

 

「い、いや」

 

お賽銭貸してくれ。

さすがにそれは無いよな。

くそ、サヨナラだ野口さん。

お、俺は、俺は君のこと忘れない。

う、ううううう、お釣り貰えないかなぁ。

 

”ヒラヒラ”

 

「げ、比企谷君、せ、千円もお賽銭!」

 

「お、おお。

 あ、あ、当たり前じゃないか。

 お、お、俺は一点豪華主義なんだ。

 ここ一番では、ここ一番では、うううううううう」

 

「なんで、なんで泣くの?」

 

「い、いいから、ほらさっさとお願いするぞ」

 

「う、うん」

 

”ガラガラガラ”

 

なに願おうか。

お賽銭、千円もしたんだから元は取らんとな。

まずはやっぱり大学合格だよな。

早応大、絶対合格出ますようにっと。

それと小遣いアップしますようにっと。

それと戸塚!

卒業してからも戸塚と会えますように。

出来れば週7日ぐらい。

あとは戸塚と卒業旅行に行きたいし。

それに戸塚と映画、ショッピング、あ、そうだディステニー。

それと、それとだな、

 

”ニタニタ”

 

戸塚と二人で・・・

 

”ジー”

 

「はっ!

 な、なに、何見てんだお前」

 

「なんでもない」

 

え、なに、なんか機嫌悪くないか?

もしかして今の声出てた?

い、いやそんな筈は。

 

「ど、どうかしたのか?

 なんでそんなに機嫌が」

 

「なんとなく!

 だって、その顔見れば何をお願いしてたか想像つくから!

 ふん!」

 

な、なに?

わ、わかったの俺の願い事。

え、顔に出るの俺。

 

「い、いや、はははは。

 そ、そうだ、お前、お前は何願い事したんだ?」

 

「教えない」

 

「お、おい」

 

「それより、ほらお守り頂きに行くよ」

 

「お、おう」

 

     ・

 

「すみません。

 合格祈願のお守り一つお願いします」

 

「はい」

 

「ん、なぁ、お守り一つって」

 

「あ、うん。

 わたしの分はね、昨日とうちゃん達と来た時に頂いてるからいいの。

 だからこれは比企谷君の分。

 はい、これお釣りね。

 あとそれと、すみませんこっちのもお願いします」

 

「お前それって」

 

「はい、これはお母様とお父様、それに小町ちゃんの分。

 健康祈願のお守り。

 お母様とお父様、今日もお仕事だったんでしょ。

 お仕事も大事だけどお身体も大事にしてほしいから」

 

「いや、しかし」

 

「いいのいいの。

 あのね、今日さお母様とお話しできて少しうれしかったから」

 

「しかしだな。

 ・・・・・あ、ちょっと待ってろ」

 

「え?」

 

”スタスタスタ”

 

まったく、いいのって言われて、はいそうですかって貰えると思うのかよ。

といっても一度言ったら聞かないだろうしな。

そういったところ頑固だし。

ま、あいつらしいけどな。

だったら俺は。

 

「すみません。

 これ2つ頂けませんか」

 

「あ、はい」

 

”スタスタスタ”

 

「どしたの?」

 

「ほれ、お守りのお返しだ」

 

「え、あ、絵馬」

 

「まぁなんだ、ありがとうなお守り」

 

「う、うん。

 絵馬ありがと」

 

「ほら、あそこにマジックとかあるから」

 

「うん」

 

     ・

 

”カキカキカキ”

 

よし、ま、これでいいだろう。

 

「三ヶ木書けたか?」

 

「あ、うん書けたよ」

 

「なに書いたんだ?」

 

「い、いや、ひ、比企谷君のほうこそ」

 

「内緒だ。

 いいかこういうものはあまり人に見せるものじゃない」

 

「比企谷君が聞いてきたくせに」

 

「ま、まあそこに吊っておくか」

 

「うん。

 み、見ないでよ」

 

「お、お前こそ」

 

     ・

 

”ガサガサ、ガサガサ”

 

「うー」

 

な、なにやってんのこいつ。

お御籤の箱に思いっきり手を突っ込んで掻き回してやがる。

い、いやすげー真剣なんだが、そ、それはさすがに。

 

「お、おい、三ヶ木、そんなに御籤の箱を掻き回すな」

 

「だって、ほらもしかしたら底の方にいいのが固まってるかも。

 う~ん、どれにしようかな」

 

「いや、いいのがってお前」

 

「よし、これだ!」

 

・・・・ふふふ、まだまだだな三ヶ木。

このお御籤初心者め。

そなに傍若無人にお御籤の箱を掻き回して、神様が許すわけないだろう。

お御籤というもはだな、こうやって心を落ち着かせて、

自然体で箱の中にすーっと手を入れて、そ、そう、無の境地!

無の境地で自分の運命を引き当てるものなのだ。

 

”ピクッ”

 

こ、これだ。

 

”ひょい”

 

これが、このお御籤こそが俺の運命なのだ。

ほらなんとなく後光がさしている気が。

 

「ね、何が出るか楽しみだね。

 それじゃ早速見てみよう。

 うんしょっと。

 えっ・・・・・・・・・」

 

「ど、どうした凶か、凶だったんだな、そっか凶か~

 まぁ、出たもんは仕方ないよな、それがお前の運勢なんだ。

 あきらめて全てを受け入れろ」

 

「大吉♡」

 

「だ、だい・・・・・はぁ!」

 

「へへ、大吉だった。

 わたし大吉引いたの初めて。

 ね、ね、ね比企谷君は?」

 

「お、俺はだな。

 ・・・・・・・・・・・・」

 

「え? ど、どうしたの?

 見せて」

 

「断る!」

 

「あ、ゆきのん」

 

「え?」

 

”ひょい”

 

「あ、お、お前」

 

「げ、大凶!

 ご、ごめん、か、返すね」

 

な、なぜだ、なぜ大凶なんだ。

うー。

くそ、何書いてあんだよまったく。

 

願望・・・望み薄し

仕事・・・周囲の協力なければ失敗する

健康・・・甘いものの取り過ぎに注意

学業・・・希望を捨てず努力せよ

金運・・・貯まらず、あきらめよ

旅行・・・控えるべし

 

げ、な、なんだこれは。

こ、今年の俺はどうなるんだ。

えっとあとは恋愛か。

・・・・・・・・・女難の気配あり、気をつけよ。

然もすれば大事なものを失う。

お、おおおおい!

 

「ね、何、何書いてあったの?

 何か気になること書いてあった?」

 

「・・・・・」

 

な、なんだ、その慈愛に満ちた目は。

そ、そんな目で俺を見るんじゃない。

く、くそ、よりによって大凶だと。

だ、だが、

 

「あ、あの比企谷君?」

 

「まて、お前何か勘違いしてるんじゃないか?」

 

「え?」

 

「もしかして大凶引いて俺が落ち込んでると思ったんじゃないだろうな」

 

「え、でも」

 

「は、はは、はは、はははは。

 ま、まったくこれだからお御籤初心者は困るというものだ。

 いいかよく考えろ。

 大凶というのはもうこれ以下のない運勢なんだ。

 いわば、運勢カーストの最下層。

 ということはだな、今がどん底ということでだな、これからの俺の運勢は

 良くなる一方しかないということじゃねえか。

 カースト最底辺の俺が言うんだ間違いない。

 いや~これは正月から縁起がいい、いいなぁ」

 

そ、そうなんだ。

こんなもの考え方次第なんだ。

今が最底辺なのだから、後は運勢は上昇するしかないのだ。

うんうん、きっとそうなんだ。

よ、よし。

 

「・・・・・大大凶」

 

「へ?

 み、三ヶ木?」

 

「大凶の下は大大凶」

 

「な、なんだそれは」

 

「さらに恐、大恐、白紙」

 

「い、いや、ちょ、ちょっと待て。

 恐だと!

 そ、それになんだ白紙って、おい!」

 

「そして」

 

「ま、まだあるの?

 も、もうやめ 」

 

「おっかない恐」

 

「・・・・・・・う、うわぁー」

 

”ガクガクガク”

 

し、知らなかった。

大凶の下にまだそ、そんなものが。

しかもなんだその極めつけは。

お、おっかない恐だと!

ど、どれだけなんだ。

もしかして、俺の運命はこれからそこまで転がり落ちていくのか。

お、おっかない、おっかなすぎる。

 

「ううううううううう」

 

”ひょい”

 

「お、おい」

 

え、三ヶ木?

俺の大凶のお御籤どうする気だ?

 

「ちょっと借りるね。

 うんしょっと。

 へへ、わたしのお御籤とこうやって重ねてね、そんで枝に結んじゃおう」

 

「・・・?」

 

「ね、こうすればわたしの大吉と足して2で割ることになるんじゃない?

 平均、平均だよ。

 そうすれば二人とも末吉位にはなるんじゃない?」

 

「三ヶ木」

 

「えへへへへ。

 だからあとは本人の努力次第ってことで。

 ね、それよりお腹空かない?

 もうペコペコ」

 

「お、おう。

 ・・・・・そうだな努力次第だ。

 サンキュな三ヶ木。

 それじゃ昼飯にするか。

 たしか近くにサイゼが」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「蒔田さん、そろそろ」

 

「え、あ、もうこんな時間。

 えっと! 宴たけなわではございますが、

 そろそろいい時間なので新年会を閉めたいと思います。

 最後に一色から・・・・・・ごほん!

 会長から締めのあいさつを」

 

「はい。

 今日はみんなご苦労様でした。

 出し物のほうも清川君の以外、すごく楽しかったです」

 

「お、お前と蒔田の漫才もだだ滑りだったじゃねえか!」

 

「はぁっー、な、なんですと!」

 

”ギロッ”

 

「清川、なんか文句あんの!」

 

”ボキボキ”

 

「い、いえ、なんでもないです」

 

「いろはちゃん、蒔田さん・・・」

 

「ごほん。

 えっと3学期に入ると、マラソン大会とかお料理教室とか

 いろいろ行事がありますけど、一致団結して頑張りましょう」

 

「「はい 」」

 

「あ、後ですね・・・

 ほらその後に卒業生を送る会ってあるじゃないですか。

 毎年同じようなことやってるので、今年はちょっと違うことやってみたいなぁ~

 って思うんですよ。

 それで、3学期入ったら役員会で話してみたいと思うのでよろしくです。

 では今年もよろしくです」

 

     ・

     ・

     ・

 

”プシュ~”

 

「ありがとうございました」

 

「ふう~、やっぱサイゼだな。

 美味かった」

 

「うん、もうお腹いっぱい。

 ご馳走様でした。

 お母様によろしく言っておいてね」

 

「おう。

 じゃ、そろそろ帰るか。

 まぁ、家まで送るわ」

 

「・・・・・・・あ、あのね、帰る前にもう一か所だけ寄りたいところがあるの」

 

「ん?

 どこか行きたいとこあったのか?」

 

「あ、う、うん。

 ちょっとね」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

「それでね、俺の分も合格を願って来てくれって、ヒッキーたら

 そんなこと言うんだよ」

 

「まぁ、彼らしいわ。

 でも、彼の言うことも一理あるのよ。

 由比ヶ浜さん、人混みの中ではちゃんとマスクしなさい」

 

「あ、う、うん。

 あ、そうだ、ゆきのん、絵馬、絵馬書かない?」

 

「ええ、比企谷君の合格も願ってあげましょう」

 

「うん」

 

「あ、すみませんこの絵馬を2つ下さい」

 

「あ、はいはい」

 

「えっとなに書こうかなぁ

 う~ん、やっぱりあたしは」

 

”カキカキ”

 

「えへへ、ヒッキーと同じ大学に行けますようにっと。

 ゆきのん書けた?」

 

「ええ」

 

「なんて書いたの見せて見せて」

 

「由比ヶ浜さんと比企谷君が志望校受かりますように」

 

「ありがとう、ゆきのん♡」

 

”だき”

 

「は、離れてくれるかしら由比ヶ浜さん。

 ほ、ほら、ほ、他の人の迷惑だから」

 

「あ、ごめん、つい嬉しくて。

 えっとどこに吊るそうかなぁ」

 

「奉納」

 

「え、オーノー?」

 

「奉納よ。

 絵馬を納めることを奉納するって言うのよ」

 

「そうなんだ。

 で、どこに吊るす?」

 

「だから奉納」

 

「まぁ、細かいこといいじゃん。

 あ、じゃあたしこの枝にしようっと。

 うわぁ、でもやっぱり受験関係の絵馬多いね」

 

「由比ヶ浜さん、あまり人の絵馬を覗くものじゃないわ」

 

「えへへ、えっ・・・・・・・・・」

 

「どうしたのかしら?」

 

「あ、あのねこの絵馬」

 

「え?」

 

『比企谷君が早応大に受かりますように

             三ヶ木美佳』

 

『三ヶ木が東地大合格しますように

             比企谷八幡』

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「あはは、ヒッキー初詣に来てたんだ。

 ・・・あたしには絶対初詣なんか行かないって言ってたのに」

 

「・・・・・」

 

「・・・なんか、やだなこういうの」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・由比ヶ浜さん、ひとついいかしら。

 あなたはどうしたい」

 

「どうしたい?」

 

「あ、あの、その・・・つまり、比企谷君と 」

 

「・・・・・あたし」

 

「・・・・・」

 

「あたしは・・・・・ヒッキー・・・が好き。

 この気持ちはずっと変わらない。

 でも何も失いたくない、ずっと今のわたしたちの関係も守りたい。

 そんなの無理ってわかってる。

 それは共存できる願いじゃないってこと。

 でも、それでもあたしは何も失いたくない。

 全て・・・・・ほしい」

 

「・・・・・由比ヶ浜さん」

 

「ゆきのん、ゆきのんはどうなの?」

 

「わ、わたしは・・・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、ここ最近来たんじゃないのか?

 お墓すげえ綺麗だし、花も全然萎れてない」

 

「あ、う、うん。

 昨日初詣の帰りにね、とうちゃんと麻緒さんと一緒に寄ったの」

 

「そうなのか」

 

「・・・わたしさ、事故の後に初めてここに来た時ね。

 お墓の前で手を合わせて泣いているとうちゃん見て、

 すごく胸が苦しくなった。

 そんで息ができなくなって、気を失って倒れちゃったんだ。

 だ、だってさ、わたしの所為でかあちゃんと美紀が・・・・・わたしの所為でって。

 それから後もとうちゃんとお墓参りに来る度、足が震えて動かなくなって。

 頑張って歩こうと思うんだけど、一歩踏み出すごとにどんどん胸が苦しくなって、

 それで倒れちゃうの。

 とうちゃん、わたしのために泣かないように無理して笑顔でいてくれてたのに。

 だからわたしね、お墓参りは今までずっと一人で来てたの」

 

「三ヶ木、でもあの事故は 」

 

「う、うん。

 でも昨日さ、やっととうちゃんと一緒に来ることができた。

 やっぱり、すこし胸が苦しかったけど。

 とうちゃんと麻緒さんがこの手をね、ギュって握っててくれて。

 そんでやっと来ることができた」

 

「三ヶ木」

 

「・・・比企谷君。

 わたしね、変わりたい。

 無理かもしれないけど頑張ってみる。

 選挙の時に比企谷君が言ってくれた言葉、あの後よく考えたんだ。

 何度も何度も考えた。

 そして思った・・・・・・比企谷君、ありがと。

 わたし変わらなくちゃってね。

 すぐには無理だけど、少しずつ少しずつ」

 

「三ヶ木」

 

「へへ、だからこれからも見捨てないでね。

 よろしくお願いします」

 

”ペコ”

 

「あ、い、いやこちらこそ。

 でも、あんまり無理しないようにな」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷君、送ってくれてありがと」

 

「お、おう。

 今日はなんか小町が悪かったな」

 

「うううん、とっても楽しかった。

 いい息抜きになった。

 お母様ともお話しできたし」

 

「そうか」

 

「あ、あのさ、もうすぐセンター試験だよね。

 頑張ってね」

 

「お前も入試って確か月末だったよな、頑張れ」

 

「うん。

 しばらくはお互い受験に集中だね」

 

「ああ、そうだな」

 

「じゃあ」

 

「ああ、じゃあ」

 

「比企谷君、健闘を祈る!」

 

「おう、健闘を祈る。

 ・・・・・・って、お、おい俺は今から決闘に行くのか?

 それにお前ノーパンなのかよ」

 

「実はノーパンなんだ」

 

「うそつけ。

 白だったじゃねえか」

 

「へ?」

 

「あ、い、いや」

 

「ひ・き・が・や・くん」

 

「は、はい」

 

”ベシ”

 

「ぐはぁ、いてぇー」

 

「このスケベ、やっぱり炬燵で覗いてたんだ。

 ・・・・馬鹿。

 じゃ、じゃあ行くね。

 比企谷君、また新学期で会おう!」

 

「おう、新学期でって、だからお前何物語なんだ!

 それに新学期じゃねえ、3学期だ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ねぇ一色」

 

「ん?」

 

「卒業生を送る会さ、何か違うことやってみたいって言ってたじゃん。

 何か考えてることあんの?」

 

「・・・・・・プロムやりたい」

 




最後までありがとうございます。
本当に更新遅れてすみません。

今回、これがエタるってことなのかって実感しました。
原作読み直しして、決めていたラストのところの修正考えていたら
あっという間に一ヵ月が・・・
初めはやばいと思いながら、つい流されてしまいました。
ここは気を入れ直さないと。

次話、冬物語の最終編 三人の願い前編です。
また読んでいただけたらありがたいです。

それではです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三人の願い編 前編 -二人の願いー

見に来ていただいて感謝感謝です。

す、すみません。
毎回毎回すみません。
またしても更新がこんなに遅く。
な、なんとか4月中に更新。

今回は、冬物語編の最終編、三人の願いの前編です。
あ、ネタバレ注意です。(今さらですが)
原作まだの人はご注意ください。

あ、あと、字、文字数約3万字・・・
す、すみません、お時間おかけします。


わたしは人魚姫のお話が大好き。

 

小学校のころ、ずっと図書館で読んでた。

他にも白雪姫やシンデレラ、眠り姫いろいろあったけど、

わたしは人魚姫のお話が大好きだった。

うううん、今でも大好き。

他の童話が大抵ハッピーエンドで終わるのに、人魚姫だけはとっても切なくて。

王子様に愛されるために、声を失い、足の激痛にも耐えた。

一度はお前と結婚するって言われたのに、結局裏切られて・・・・・・

それでも王子様の幸福を願って、人魚姫は誰にも気付かれず消えていく。

海の泡となって。

・・・・・・だからわたしは人魚姫が大好き。

 

 

 

 

ーーーー三学期の初日ーーーー

 

 

 

 

”ガタンゴトン、ガタンゴトン”

 

「クー、クー、スー、スー。

 へへ、お腹いっぱい、とうちゃんもう食べられないよ~」

 

”ビシ!”

 

「い゛だっ!」

 

え、な、なに、なにがおこったの?

うううう、なんかおでこがひどく痛い。

 

「いたたたたた」

 

「いい加減そろそろ起きろ。

 駅、乗り過ごすぞ」

 

へ? あ、比企谷君だ。

あれ、いつから隣に座って・・・

っていうことはこの痛みは、デコピン!

こ、この野郎、乙女のおでこになんてことすんだ!

 

「お前、電車の中で熟睡し過ぎだろ。

 全く女子なんだからもう少し 」

 

「う、おでこ痛い。

 ううううう、い、痛いよ~」

 

「え、そんなに痛かった?

 す、すまん大丈夫か?」

 

「ううううう、うわ~ん」

 

「すまん三ヶ木」

 

”ビシ!”

 

「い、いてぇ」

 

「へへへ、お返しだ」

 

ふふふ、目には目を、デコピンにはデコピンをだ。

乙女のおでこの恨み思い知れ。

あ、でもすごく赤くなってる。

ちょっとやりすぎたかなぁ。

 

「くそ、心配して損した。

 そんなことより、ほら降りるぞ。

 いてててて」

 

「あ、うん。

 ・・・ごめん」

 

     ・

 

「ふぁ~あ」

 

ね、眠たい。

今日から3学期かぁ。

でもさ、3学期ってセンター試験終わったらすぐ自由登校なんだ。

だから、こうやって比企谷君と登校できるのってあと何回あるんだろう。

・・・寂しいなぁ

 

”チリンチリン”

 

あ、来た来た。

比企谷君、学校終わったら塾行くから、自転車を駅に置いてんだよね。

へへ、それならここは定番の。

 

「おう、お待たせ」

 

「うんしょっと」

 

「お、おい!

 なに当たり前のように荷台に座ってんだ」

 

「だめ?」

 

「当たり前だ。

 いいか、自転車の二人乗りは禁止されているんだ。

 それに重たいし」

 

”べシ”

 

「ぐはぁー」

 

「うっさい、重たい言うな。

 最近、ほんと気にしてんだから・・・ちょ、ちょっと太ったの。

 もう! ほらさっさと行くよ」

 

「お、降りないのかよ」

 

「重たいって言った罰。

 ほら、学校に向けて出発シンコー! 茄子のおし 」

 

「や、やめろ、それ以上言うな!

 ・・・たく。

 ちゃんと掴まってろ」

 

「ほ~い」

 

”ぎゅ~”

 

「あ、い、いや、つ、掴まりすぎだから。

 もうちょっと離れてくれない?」

 

「やだ」

 

     ・

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「ね、もうすぐでセンター試験だね。

 調子どう?」

 

「ん、ああ、まぁ何とかなんじゃねえのか、多分。

 お前はセンター試験受けないんだよな」

 

「うん。

 一般入試一本で行くよ」

 

「そっか。

 まぁお前なら滑り止め考えなくても、東地大一本でいけるだろうからな。

 確か試験は28日だったな。

 あと20日ぐらいか。

 まぁなんだ、頑張れ」

 

「あ、うん、ありがと」

 

へへ、今とっても幸せ。

毎朝こんなんだったらいいのになぁ~

・・・でも学校終わったら比企谷君、いつも結衣ちゃんと一緒に帰ってんだ。

もしかして、やっぱりこうやって二人乗りして帰ってんかなぁ。

こうやって腰に手をまわしてさ。

・・・・不安・・・すごく。

だってわかってんだ。

わたしなんかより結衣ちゃんのほうが数倍、うううん数百倍も可愛い。

それに比企谷君にとって、とっても大切な人。

きっと・・・いつか・・・

わたしなんかがこうやっていられるのも今だけなのかもしれない。

もしかしたら、明日になったら比企谷君は・・・

やだ! 

そんなのやだよ。

 

”ぎゅ~”

 

「お、おい、なんだ、いきなりどうしたんた?」

 

「・・・・・う、うう」

 

「おわ! なんだ? 何でお前泣いてんだ?」

 

「な、なんでもない、何でもないもん馬鹿!」

 

「へ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ということで、わたしプロムをやりたいと思います」

 

「でもいろはちゃん、他の行事はどうするの?

 今年は卒業生を送る会とかしないの?」

 

「え、えっと~」

 

「それにさ一色、予算はどうするの?

 そんなの予定に入ってないから予算ないじゃん。

 どこから出すの?

 ね、煤ケ谷ちゃん、予備費とかそんな余裕あったっけ?」

 

「あ、あ、あの、今年度の、よ、予備費はあと少しだけ、の、残ってますけど。

 で、でも、今年もフリーペーパーとか、お料理教室やるんだったらちょっと。

 か、会長、プ、プロジェクター購入しちゃったし。

 ・・・・・・・ダメですって言ったのに」

 

「一色!」

 

「げっ。

 え、えっと~、フリーペーパーとお料理教室もやりたいんですけど~

 少し予算削っちゃいましょう。

 あ、そ、そうだ、卒業生を送る会!

 あれをプロムの中に組み込んじゃって、そうすればなんとかなるんじゃないかなぁ。

 うん、これで解決!

 他になにか無いですか?」

 

「「・・・」」

 

「・・・無いようでしたら 」

 

「俺反対。

 面倒くさい。

 ただでも学校裏サイトの監視で忙しいのに」

 

「えっと、それじゃ意見もないようですので」

 

「お、おい!

 無視すんなー」

 

「ちっ!」

 

「あ、あの~、は、はい」

 

「えっと~、煤ケ谷さんも反対?」

 

「あ、は、反対とかじゃなくて、プロムって何をするのかよくわからなくて」

 

「あ、実は小町もです」

 

「ね、一色さん、実をいうと俺もこの資料だけではあんまりよくわからないんだ。

 今日ここで決めてもちょっとあれだから、もう少し考える時間貰えないか?

 なにしろ初めてのことだし、いろいろ調べてみたいんだ」

 

「うん、わたしも柄沢君に賛成。

 そのほうがいいと思うよ、いろはちゃん」

 

「・・・仕方ないですね。

 それじゃ、今度の金曜日の役員会にもう一回やりますね。

 それまでによく考えておいてくださいね」

 

     ・

     ・

     ・

 

”かきかき、かきかき”

 

ふう、これでいいかなぁ。

へへ、今日のプリントは結構自信あるんだ。

今度こそは満点取れるかも。

 

「ゆきのん出来たよ、採点お願いします」

 

「ええ」

 

あ、そうだ。

来週末からのセンター試験終わったらすぐに自由登校になるけど、

ゆきのんはどうするのかなぁ?

やっぱり、ゆきのんも学校来ないのかなぁ。

そうなると、その後に会えるのは卒業式の前日かぁ。

寂しい。

 

「ね、ねぇゆきのん。

 ゆきのんは自由登校の時ってどうするの?」

 

”きゅ、きゅ”

 

「三ヶ木さん。

 東地大の受験って1月28日だったわね。

 それまでは学校に来るつもりよ」

 

「え、そ、それって」 

 

「ええ、当然あなたも来なさい。

 ・・・一緒に勉強しましょう」

 

「う、うん。

 ありがとゆきのん」

 

”ぱさ”

 

「はいプリント。

 まだまだ勉強必要ね。

 はぁ~、教え方が悪かったのかしら」

 

「げっ、60点」

 

「ほら、さっさとノート開きなさい。

 今日はみっちりやるわ。

 覚悟しなさい」

 

「は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、や、やっと解放された。

もう、頭の中何も入らないよ~

・・・でもさ、ほんとありがとゆきのん。

わたし、受験頑張るからね。

よし! 明日こそ満点取るんだ、絶対。

ん? あれ? 生徒会室まだ照明が点いてる。

まだ誰かいるのかなぁ。

 

”トントン”

 

「は~い」

 

あ、この声は舞ちゃんだ。

舞ちゃんまだ残っているんだ。

何やってんだろ?

 

”ガラガラ”

 

「舞ちゃんご苦労様」

 

「・・・・ふん!」

 

え?

ど、どうしたの? いきなり”ふん”って。

なんか舞ちゃんちょ~機嫌悪い。

な、なにがあったんだ。

 

「あ、あの~舞ちゃん何かあったの?」

 

「ジミ子先輩が悪いんです!」

 

えー! わ、わたし?

わたし何したの?

 

「え、えっと~」

 

「何でこんなにマジに議事録書いてるんですか。

 おかげで議事録まとめるの大変なんですよ!

 いっつも比較されるんですから!

 こんなのホワイトボードのコピーで十分じゃないですか!」

 

「え、あ、い、いやだって、後から見た時に・・・」

 

「もう!」

 

”カチャカチャ”

 

なんかごめんなさい。

あ、でも結構ちゃんとまとめてる。

なんだかんだ言っても頑張ってるじゃん舞ちゃん。

へへ

 

”なでなで”

 

「は、はぁー!

 なんですか、何でいきなり頭を」

 

「今、紅茶淹れるね」

 

「あ、わたしが 」

 

「いいから、議事録やっちゃって。

 それに・・・・・・」

 

「それに?」

 

「な、なんでもない」

 

だって、舞ちゃんの紅茶、メッチャ苦かったんだもん。

やっぱここはわたしが淹れるよ。

 

     ・

 

「ルンルンルン♬」

 

よし、出来た。

どれどれお味はどうかなぁ。

 

”ゴク”

 

ふふふ、我ながら上出来、上出来。

さてっと、議事録できたかなぁ。

 

”カチャ”

 

「はい、紅茶お待たせ」

 

「あ、頂きます」

 

”ゴク”

 

「お、美味しい。

 え、なんで?

 わたしと同じようにやってたと思うんだけど。

 あ、葉っぱ、葉っぱが違うんですね。

 この葉っぱ、どこに隠してるんですか」

 

「・・・葉っぱって。

 何も隠してなんかないよ。

 ここにあったので淹れたの」

 

「うそ。

 ううう、何でこんなに違うんだ。

 わたしの紅茶、みんな不味い不味いって」

 

「心だよ心。

 わたしも最初の時はうまく淹れられなくてさ、

 いろいろゆきのんに教えてもらった。

 だけどさ、やっぱり最後は気持ち、心だと思うんだ。

 みんなに美味しいの飲んでもらいたいって思いを込めてるから。

 ・・・なんちゃってね。

 あ、そうだった確かここに」

 

”ゴソゴソ”

 

「はい、これあげる。

 この前さ、会長から言われたからコツとか書いておいたんだ。

 今度さ、紅茶淹れる時にこれ参考にしてみて」

 

「ありがとうございます。

 ・・・心か。

 ジミ子先輩、あ、あのですね、少し相談したいことが」

 

「うん?

 あ、でもそろそろジミ子はやめってほしいなぁ~」

 

「じつは今日の役員会でですけど、ジミ子先輩」

 

「・・・」

 

     ・

 

「え、プロム?

 プロムってあのなんか高そうなドレスとか着て踊るやつ?

 よく海外ドラマでやってる」

 

「そうなんですよ。

 一色がどうしてもやりたいって言いだして」

 

「へぇ~

 あ、でもじゃあさ、今年は卒業生を送る会はやらないの?」

 

「プロムの中に組み込むそうですよ」

 

「へ~そうなんだ、卒業生を送る会はやらないんだ。

 代わりにプロムっか」

 

「あ、でもまだ生徒会でやるかどうか検討してるところで、

 まだ決まってないんですよ。

 今度の役員会までに各自考えてみるってことで。

 参考までにジミ子先輩はプロムどう思いますか?」

 

「わたし?

 わたしは・・・・・・・ 」

 

「やってみたいですか?

 みたいですよね。

 ほら、綺麗なドレス着て備品先輩とイチャイチャって」

 

「イチャイチャ・・・・・

 えへ、えへ、えへへへへ」

 

”ジー”

 

「ジミ子先輩ヨダレが」

 

「はっ、ご、ごほん!」

 

「やっぱりプロム賛成ですか」

 

「・・・・・・あのさ、わたしはできれば遠慮したいかなぁ」

 

「え?」

 

「さっきの話だと、やっぱあんな高そうなドレスで着飾ってって感じだよね。

 レンタルだとしても一式だと結構するんじゃない?

 ・・・もしさ、大学受かったらすごくお金かかるんだよね。

 入学料とか授業料とか、あと施設費になんか同窓会入会金とかも。

 大学入ってからも実習費とかいろいろ大変なんだ。

 もちろんバイトはするつもりだけどさ。

 それに、すぐに成人式もあるし。

 わたしは普段着でいいんだけど、とうちゃん振袖着せたがってるんだよ。

 なんかこの前もネットでいろいろ調べてて。

 前撮りがなんだとか・・・よく撮れてったら、お、お見合い写真にするとか。

 ま、まぁ、そんな風にこれからのこと考えるとさ、お金節約しなくちゃ。

 だから、わたしはあんまりとうちゃんに負担かけたくない」

 

「ジミ・・・三ヶ木先輩」

 

「あとね、プロムって男子が女子を誘うんだよね。

 でもそれってさ、きっと誘われない女子もいるんだよ」

 

「あ、ま、まぁそれは仕方ないかも」

 

「仕方ない・・・か。

 ね、多分ドレスってさ、親が準備してくれると思うんだ。

 娘のためにって。

 でもさ、結局誰からも誘われなくてプロムが終わるまで、

 ずっとみんなが踊っているのを体育館の隅っこで見てないといけないんだ。

 別になにか悪いことしたわけじゃないのに小っちゃくなって、みんなが楽しそうに

 踊っているのを見ていなくちゃいけない。

 そんで、時々、にこやかに送り出してくれた親の顔が想い浮かぶんだ。

 そんでね、ふと思うんだ。

 もし『楽しかった?』って、親に聞かれたらなんて答えたらいいんだろうって」

 

「・・・」

 

「うれしい卒業式のはずなのに。

 ・・・みんながリア充じゃないんだよ。

 きっと嫌な思いする人もいると思う。

 あ、でもこれってわたしの勝手な思い込み・・・・・・絶対偏見!

 三年生の中にはそういうのやってほしいって思う人もきっといると思う。

 だからね、わたし的にはできたら自由参加にしてもらうとありがたい」

 

「・・・自由参加。

 あ、で、でも三ヶ木先輩は比企谷先輩が」

 

「そんなのわからないよ。

 彼には大切に思う人、他にもいるから」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ヒッキー」

 

「あん、なんだ?」

 

「あのさ、もうあと少しだけだよね、学校来るの」

 

「ああ、そうだな。

 センター試験が終わって、次の日に学校行ったら翌日から自由登校だ。

 あとは卒業式の前日ぐらいに、予行と卒業生を送る会があるぐらいだからな。

 あ、但しもし留年しなければだがな、お前が」

 

「あたしー!

 だ、大丈夫だし、多分」

 

「冗談だ」

 

「ひど!

 でね、それでさ、そうなるとゆきのんともう会えないじゃん」

 

「いや、普通に会えばいいんじゃないの、家とかで」

 

「奉仕部としてって意味だし。

 ・・・そんなのちょっと寂しいなぁって。

 それでね、来週の火曜日って塾ないじゃん。

 だからさ、火曜日は部室で勉強しない?」

 

「三人でか?」

 

「違うし、四人でだし」

 

「・・・・・」

 

「最近さ、なんかあたし美佳っちに避けられている感じするんだ。

 ほらこの前も部室に入らないで帰っちゃったし」

 

「あれは、多分俺達に気を使ってだろう。

 由比ヶ浜を避けているわけじゃない」

 

「でも女子会も最近やってないし。

 それに初詣の時も誘ったのに。

 ・・・結局、誰か他の人と行ったみたいだし」

 

”チラ”

 

「・・・」

 

「ね、ヒッキー、あたし美佳っち好きだよ。

 あたしは大事な友達と思ってる」

 

「・・・・・・ゆ、由比ヶ浜、あのな 」

 

「ね、いいでしょヒッキー。

 いいよね、ね!」

 

「・・・あ、ああ」

 

「えへへ、やったー

 なんかちょ~楽しみ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「へぇ~、スマホの画面でも結構綺麗に映るんだね、いろはちゃん」

 

「でしょ、だからこれは購入して正解。

 これからどんどん活用して、ちゃんと元取りたいと思いま~す。

 それで~、プロムのことは大体わかったと思うんですけど、

 何か質問ある人いますか?」

 

「「・・・・・・・」」

 

「わたし的にも、なんかこう毎年いつも同じようなのじゃなくて、

 今年はわたし達のやり方で送り出してあげたいんですよ。

 だから、プロムやりましょう」

 

「あ、あのさ一色」

 

「何、蒔田?」

 

「これってさ、やっぱり強制参加になるのかなぁ」

 

「え?」

 

「あ、いや、卒業生を送る会の代わりってことになるからそうなるのかなぁって」

 

「まぁ、一応卒業生全員が対象のつもりだけど」

 

「でも!

 あ、あのさ、こういうのあんまり好きんじゃない人もいる・・・と思うんだ。

 わたし達らしいやり方で祝ってあげたいってのはわかるけどさ、

 肝心の三年生の人達の気持ちはどうかなぁって、ちゃんと喜んでくれると思う?」

 

「そ、そんなの喜んでくれるに決まってるじゃないですか」

 

「本当? 本当にそう思う?

 なかには、今までの卒業生を送る会のほうがいいって人もいるんじゃない?

 それにさ、プロムって本来自由参加のもんじゃない。

 男子が女子誘ってさ。

 ね、だからさ、卒業式の後で自由に参加してもらうってのどう?」

 

「えっと、だけど自由参加にして、あんまり参加者が少なくてもあれだし。

 やっぱり全員参加で行きたいと思います。

 ・・・自由参加にしたら、あの人達、絶対参加しないと思うし」

 

「え、あの人って?」

 

「あ、いえ、なんでもないです。

 とにかく、プロムは卒業生全員を対象にします」

 

「それなら、わたしは反対」

 

「はぁ!」

 

「なに!」

 

「む~」

 

「ふん」

 

「ま、まぁ蒔田さん。

 それなら、そういう人も楽しめるような企画も考えてみればいいんじゃないかなぁ。

 ほらビンゴとかさ。

 具体的なものはこれからなんだし。

 あと、ある程度の内容とか決まったら、HPで公開して意見聞いてみてもいいん

 じゃないか?

 強制にするか自由にするかは、そこで判断してみたらどうだろう?」

 

「ね、そうしよう蒔田さん」

 

「う、うん。

 柄沢君と藤沢さんが言うんなら」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ゾク”

 

へ、な、なに?

なんか急に悪寒が。

だ、誰かに見られてるような。

 

”キョロキョロ”

 

なんだろう、どっからか視線感じんだけど。

気、気の所為かなぁ。

それとも、お、オバ・・・・・・ケじゃないよね。

さ、さっさと奉仕部にいこ。

はっ!

 

”ピタ”

 

あの教室の扉の隙間!

誰か見てる、目、目がずっとこっち見てる。

も、戻ろかなぁ、う、うん戻ろ!

こ、怖い!

 

”くる”

 

お、落ち着いて。

う、うん、わたしは何も見てない、だ、大丈夫きっと気の所為。

ゆ、ゆっくり歩き出して。

 

”ガラガラ”

 

え、今の扉の開く音?

 

”ピタピタピタ”

 

ど、どうしょう、ち、近づいてきた!

で、でも、怖くて足が動かないよ。

 

”ぐぃ”

 

「ひゃー!」

 

「三ヶ木」

 

「え、あ、広川先生?

 な、なんだ、びっくりさせないでよ。

 なんで扉から覗いてたの?」

 

「三ヶ木、お前が来るのずっと待ってたんだ」

 俺はお前の素直な気持ちが知りたい。」

 

「え? えっと~」

 

「お前に選んでほしいんだ、どっちが好きかって。

 俺信じてるんだ。

 お前なら絶対俺を選んでくれるって」

 

え、えっと~わたしをずっと待ってた?

どっちが好き?

俺を選んでくれる?

 

「万一、お前が俺を選んでくれなくても、俺は後悔なんかしないから。

 だから頼む、お前の素直な気持ちを聞かせてくれ」

 

も、もしかして広川先生がわたしのことを・・・好き?

これって禁断の恋!

は、そ、そっか、わたしもうすぐ卒業だから。

卒業したら先生と生徒じゃなくなって。

 

”ジー”

 

ど、どうしょう、広川先生に真剣に見つめられてる。

た、確かに広川先生はわたしの憧れの人だけど。

で、でもそれは好きとかじゃなくて、わたしのヒーローってことだし。

はっ! でも平塚先生はどうするんだ。

も、もしもよ、わたしが広川先生と付き合ったら・・・

 

『き、貴様ー、撲滅のラストブリット!』

 

”ゾ~”

 

し、死ぬ、間違いなく死ぬ。

 

「先生!

 ご、ごめんなさい。

 わたし先生とは付き合えない。

 そ、そりゃ、先生はずっとわたしの憧れの人だけど。

 で、でも、そ、それはほんと憧れで、好きと愛してるじゃなくて。

 そ、それにわたしまだ死にたくない!」

 

「付き合う?

 はぁ、なに言ってんだ三ヶ木?

 ほら、いいからちょっとこい」

 

”ぐぃ”

 

「え? あ、あの~」

 

    ・

 

「・・・・・・」

 

「さぁ、この苺のショートケーキ、お前どっちが好きか選んでみてくれ」

 

「・・・えっと~、苺のショート」

 

「おお。

 これ自信作なんだ。

 さ、食べてみろ。

 それでお前の素直な気持ちを俺に教えてくれ」

 

「・・・・・・・・・先生」

 

「ん?

 遠慮しないでいいぞ。

 ほら食え、それでどっちが好きか言ってみろ」

 

「し、知るかそんなもん!

 帰る!

 これでもわたしゃ忙しいんだ」

 

「・・・そ、そっか~

 お前俺に憧れてたのか~

 へ~、ずっと俺に憧れていた」

 

”ニタニタ”

 

「は、な、なにそのいやらしい目」

 

「どうしょうかなぁ~、静ちゃ、平塚先生に言っちゃおうかなぁ~

 あ、そうだ稲村にラインしょっと。

 三ヶ木、俺にず~と憧れてたんだって~

 そういえばさっき愛してるとか言ってたような 」

 

「わー!

 わかった!

 食べればいいんでしょ食べれば。

 何も変なもん入ってないんでしょうね。

 もう、最近ちょっとやばいっていうのに。

 どれどれ」

 

”パク、パク”

 

「ん~」

 

「どうだ、どっちが美味しい?

 右か、左か?」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

”パクパク、パクパク”

 

ん~、どっちも美味しい。

これ選ぶの難しいよ。

生クリームもしつこくなくて、スポンジもふわふわで卵の味もしっかりしてて。

この苺も美味しい。

 

”パクパク”

 

う~ん。

あ、でもこうやって食べ比べると、右のほうがクリームと苺の酸味が絶妙な感じで。

それに生クリームの口溶けもいいような。

でもこれってほんとに食べ比べないとわからないよ。

どっちもほんとに美味しいから。

 

「ど、どっちだ?」

 

「あ、う、うん。

 でも、あくまでもわたしの個人的な感覚だからね。

 どっちもほんとに美味しいから。

 えっと、わたし的には右の方が美味しい」

 

「げ!

 や、やっぱりそうか」

 

”ガク”

 

へ、な、なに?

なんか広川先生、すごく落ち込んでる。

ひ、左が正解だったの?

そういえば俺のこと選んでくれるとか言ってた。

 

「せ、先生?」

 

「あ、す、すまない。

 お前が選んだのは駅前のケーキ屋さんのだ。

 左のが俺の作ったやつ」

 

「え、あ、ま、間違えた!

 こっちの先生のケーキのほうが美味しかった」

 

「無理しなくていい。

 実は俺もそう思っていたんだ。

 でも、一応な他の人の意見も聞いてみたいと思ってな。

 だが、これではっきりした。

 お前が言うんだから間違いない。

 やっぱり俺はまだまだ師匠には敵わないか~」

 

「え?

 駅前のケーキ屋さんが広川先生の師匠?」

 

「あ、ああ。

 大学の時、あそこでアルバイトさせてもらってたんだ。

 そっか~、まだまだか~

 すまんかったな三ヶ木。

 そうだ、俺のケーキでよかったら。まだ作ったのいっぱいあるから

 持っていってくれ」

 

「ほんと!

 やった、じゃあ・・・・・・・あ、二個もらっても」

 

「ああ、持っていけ」

 

「うん。

 あ、でもほんとにじっくり比較しないとわからないぐらいで、

 だからそんなに 」

 

「ああ、わかってる。

 ありがとうな三ヶ木」

 

「うん、じゃ行くね」

 

「おう、またな」

 

     ・

     ・

     ・

 

「いよいよ週末はセンター試験ね。

 比企谷君、由比ヶ浜さん、あ、あの頑張って」

 

「ああ」

 

「うん、ありがとうゆきのん。

 でもさ、センター試験の前にこうやってみんなで勉強会できてさ、

 なんかうれしい。

 あと、美佳っち早く来るといいね」

 

「そうね。

 いつもならとっくに来てるのに。

 あ、由比ヶ浜さん紅茶のお替わりどうかしら?」

 

「うん、ありがとうゆきのん」

 

「あなたは?」

 

「あー、俺も貰うわ」

 

「ね、ゆきのん」

 

「なにかしら?」

 

「受験、終わってからも、うううん、卒業してからも会えるよね」

 

「え、ええ。

 当たり前じゃない。

 そ、その、わ、わたしたちは・・・・・・友達なんだから」

 

「ゆきのん!」

 

”だき”

 

「ゆ、由比ヶ浜さん。

 あ、あの~、紅茶がこぼれて」

 

「あ、ご、ごめん。

 ・・・えへへ」

 

「うふふふ」

 

「あ、ヒッキーもだよ」

 

「そうよ」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「よかった」

 

「なにかお茶請けだしましょうね」

 

”トントン”

 

「どうぞ」

 

”ガラ”

 

「あ、いろはちゃん」

 

「失礼しまーす。

 ああよかった。

 小町ちゃんの言う通り、今日は先輩も結衣先輩もここにいたんですね。

 それはそうと、えっと~」

 

”キョロキョロ”

 

「んー」

 

「どうかしたのかしら一色さん」

 

「あのー、ここってパソコンってありましたよねー?」

 

「あるけど・・・・・・」

 

「それってDVD観れます?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

や、やばー、すごく遅くなっちゃった。

またゆきのんに怒られちゃうよ。

『三ヶ木さん!、あなたは自覚が足りないわ!』

なんちゃって。

ん、今のめっちゃ似てた!

・・・へへ、馬鹿やってないで急がないと。

東地大の入試まであと2週間。

気を引き締めて頑張るんだ。

だって折角ゆきのんに教えてもらってんだもん。

 

     ・

 

”スタスタ、スタ”

 

えっと~ゆきのん怒ってるかなぁ。

ちょっと遅くなったけど、まずは一緒にケーキ食べよっと。

ゆきのんの紅茶飲みながら。

さてノックを。

 

”ガヤガヤ”

 

ん、会長の声? あ、比企谷君と結衣ちゃんも来てるんだ。

えっと~、どうしょうケーキ2個しかないし。

広川先生にあと3個貰ってこようかなぁ。

まだいっぱい残ってたみたいだし。

 

「ちょっと待て。

 お前、本気でプロムやる気なの?」

 

え、プロム?

あ、舞ちゃんが言ってたやつだ。

あれほんとにやることになったんだ。

はぁ~、何とか自由参加にしてほしいなぁ~

でも、会長なんでここに?

奉仕部にプロムの依頼にきたの?

でも比企谷君も結衣ちゃんも受験生だし。

 

「ええ、わかってますよ。

 先輩達にも受験終わってからでも手伝ってもらえないかなぁ~って

 思ったんですけど。

 いいです。

 わたし達生徒会だけでやります」

 

会長。

生徒会だけでって、なんでそんなにムキなってるんだ?

なんでそうまでしてプロムやりたいんだろう?

 

「・・・・・・それは、何のために、誰のためにやるの?」

 

「もちろん、わたしのためですー

 だってこのままいつもの決り決まった送別会やって、

 それで終わったら、『はい、さようなら』ってなんかめっちゃつまらない

 じゃないですか~

 ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。

 それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。

 ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。

 ・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?」

 

「そう、答えてくれてありがとう。

 ではやりましょう」

 

「へ?

 あ、あの~、雪ノ下先輩?」

 

「まぁ、上の判断でそう決まったんならしょうがねえな。

 俺達は受験終わってからになるがそれでいいなら」

 

「うん、だね」

 

”ガタ”

 

「雪ノ下先輩、結衣先輩!」

 

”ガバ!”

 

「あ、暑苦しい」

 

「へへ、いいじゃん」

 

「お二人とも、ありがとうございます」

 

「あ、あの~、三人で抱き合ってるのはいいんだけど」

 

「え、先輩も混ぜてほしいんですか?

 それマジキモいんですけど」

 

「エロ谷君あなたって人は」

 

「ヒッキーそれはちょっと」

 

「い、いや、ち、違う。

 そ、そんなこと言ってないぞ。

 お、俺はだな、俺もプロムを 」

 

「冗談ですよ。

 よろしくです、先輩」

 

「お、おう」

 

・・・自分の心の区切りか。

そっか、ふぅ~。

はぁ~、やれやれ仕方ないかぁ。

どっか安く借りられるところないかなぁ、ドレス。

全部ひっくるめて1000円ぐらいで。

無いよね。

・・・・・・めぐねぇ、なんかそれなりの服を持ってないかなぁ。

 

「比企谷君、由比ヶ浜さん・・・・・・あの、ちょっといいかしら」

 

え?

 

    ・

 

一人で責任もってやり遂げるって、ゆきのん何でそんなこと?

あ、そっか。

比企谷君達、受験だから負担かけさせたくなくて。

・・・・・・違う。

だってさっき、比企谷君受験終わってからって言ってたもん。

じゃ、なんでそんなことを?

 

「ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね」

 

・・・自分の力でやってみたいっか。

そんなこと思ってたんだ。

わたし、全く気が付かなかった。

あんだけずっと放課後一緒にいたのに。

は、比企谷君、比企谷君も知ってたの?

 

「・・・・・・いや。

 いいんじゃないのそれで。

 知らんけど」

 

「適当なことばっかり」

 

知ってたんだ、やっぱり。

それになにこのやり取り。

まるで・・・・・・恋人同士みたいじゃん。

 

”ぐっ”

 

な、なんだろうこの胸の痛み。

すごく痛い。

やっぱり敵わない。

理解しあっているんだお互いのこと。

比企谷君にとって多分、この関係は、この三人の関係はとっても大切なもの。

きっと、わたしなんかよりも。

 

”スク”

 

帰ろ。

今のここには・・・わたしのいるべき場所は・・・無いよ。

 

「それじゃ、明日から生徒会室に来ていただいてもいいですか?」

 

「ええ、よろしくね。

 あ、でもごめんなさい。

 放課後は少し待ってほしいの。

 三ヶ木さんの受験が終わるまで待ってくれないかしら。

 わたしは三ヶ木さんに東地大受かってもらいたい。

 彼女はわたしにとって、とっても大切な友人なの。

 申し訳ないけど、それまでは放課後以外の時間で手伝わせてもらうつもり。

 それでもいいかしら?」

 

「はい、それで十分です。

 いえ、わたしの方こそそれでお願いします。

 わたしにとっても美佳先輩は大事な人ですから」

 

・・・ゆきのん、会長。

ありがと。

はぁー、馬鹿だわたし。

なにやってんだろ。

一人でうじうじって。

よし!

ゆきのん、ごめんね今日はゆきのん塾やめておくね。

三人の時間、ゆっくり楽しんで。

わたしは・・・

あとでメール入れとくね。

 

”スタスタスタ”

 

あ、会長もいたんだっけ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「ん?

 なんだ三ヶ木、まだ残っていたのか?」

 

「あ、平塚先生。

 ちょうどよかった。

 この問題わからないです、教えて頂けませんか?」

 

「ん? なんだ勉強していたのか?

 どれ、どの問題だね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”きゅきゅ”

 

ど、どうかな。

昨日あれからめっちゃ勉強して、いつも以上に勉強して。

ちょっと自信があるんだ。

今日こそは満点取りたい、うううん絶対に取らないといけない。

じゃないと。

 

「三ヶ木さん」

 

「え、あ、はい」

 

「連絡はラインでなく、ちゃんと電話しなさい」

 

「あ、は、はい」

 

「でも、プリントはよく頑張ったわね。

 満点よ」

 

「ほ、ほんとー

 や、やった」

 

”ぎゅ”

 

「暑苦しい。

 み、三ヶ木さんあなたまで。

 や、やめてくれるかしら」

 

「えへへ、今日だけもう少し」

 

「三ヶ木さん、どうしたの?」

 

「ゆきのん、今まで勉強見てくれてほんとにありがと。

 あのね、もうわたしは大丈夫。

 絶対、東地大合格して見せるよ。

 だから、明日からはわたし自分で勉強するね」

 

「え、あ、あの」

 

「だからさ、ゆきのん。

 ゆきのんはプロム頑張って」

 

「あ、あなた、もしかして昨日の話を聞いてたの?」

 

「あ、う、うん」

 

「だから盗み聞きはよしなさいってあれほど」

 

「だって、入り辛かったんだもん。

 ・・・それとね、わたしも受験終わったら手伝わせてもらってもいい?

 絶対手伝いたいの」

 

「三ヶ木さん」

 

「うん、ゆきのんが一人でやってみたいって言うのわかっているから。

 だから、わたしは邪魔しない。

 作り物とかみんなへの差し入れとかそういうの手伝いたい。

 だめ・・・かな」

 

「・・・ええ、わかったわ。

 お願いして、いいかしら」

 

「ほんと! やったー」

 

「でもあなたはその前に受験頑張りなさい

 くれぐれも油断しないように」

 

「うん。

 ゆきのん、ほんとにありがと。

 あのね、大好きだよ」

 

「み、三ヶ木さん。

 あ、あの、そ、その・・・あ、あなたとここで過ごした時間。

 わたし嫌いではなかったわ。

 いえ、嫌いというより、す 」

 

「ゆきの~ん♡」

 

”ぎゅ~”

 

「ぐ、ぐるじい」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「三ヶ木、お前本当に当たり前のように荷台に乗ってくるよな」

 

「え、いいじゃん。

 ルンルン、らくちんらくちん♬

 あ、明日からセンター試験、いよいよだね」

 

「ん、ああ。

 まぁ俺の本番は来月。

 それよりお前はあと10日だろ、そっちのほうこそ大丈夫か?」

 

「あ、う、うん、多分」

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「それでさ、来週の火曜日から自由通学でしょう。

 比企谷君はどうするの?」

 

「塾と家の往復ってとこだな。

 お前は?」

 

「家で頑張るつもり。

 インフルエンザとか怖いから、あんまり人混みには行きたくないし。

 そっか~、塾と家じゃしばらく会えないね。

 ・・・・・・

 ひ、比企谷君は寂しくない?」

 

「お、俺は寂しくなんてないぞ厳密に。

 電話とかメールとかいつでも 」

 

”バシ!”

 

「い、いて。

 後頭部叩くな」

 

「ここは例え思ってなくても寂しいっていうの、もう!

 ・・・・・・・わたし、すごく寂しいのに」

 

「三ヶ木、お前合格祈願のお守り持っているよな」

 

「あ、う、うん。

 ほら」

 

”キキキー”

 

「どらかしてみろ」

 

”ひょい”

 

「え?」

 

「これは俺が預かってる。

 代わりにお前に俺のお守り預けておく。

 ま、まぁなんだ、お守り見る度にお互いの合格願わないか?

 嫌ならいいが」

 

「う、うん、預かる!

 へへ、うれしい。

 比企谷君のお守り、お守り♬」

 

「・・・ほら、行くぞ」

 

「うん」

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「ルンルン、ルンルン♬」

 

「・・・・・・

 ま、まぁ、なんだ。

 受験終わったら、どこか旅行に行かないか?

 よ、よかったらでいいけど」

 

「えっ、ほ、ほんと!」

 

”ぎゅ~”

 

「うん、行く!

 絶対行こ!」

 

「わ、わかったからそんなにくっつくんじゃない。

 は、離れろ!」

 

「いいじゃん、サービスサービス♡」

 

「よ、よくない。

 う、運転しにくいだろうが。

 離れろ」

 

「やだよ」

 

”ぎゅ、ぎゅー”

 

「・・・・・・」

 

「あっ!」

 

「ん、どうした?」

 

「旅行ってさ・・・・・・お、温泉だよね!

 どこ? 嬉野温泉とか?

 そ、それって、お、お泊りだよね」

 

「お、お泊り!」

 

”ガシャーン”

 

「「い、いたー」」

 

「ば、ばっか、な、なに言ってんだお前。

 日帰り、日帰りだ。

 ほら鋸山とかあんだろ。

 それになんなんだ嬉野温泉って。

 それ佐賀だろ、行けるわけないだろうが」

 

「ちっ!」

 

「いやお前、”ちっ”って。

 ・・・・・・ま、まぁ、お泊りなら行けるかもな」

 

「え?」

 

「い、いや何でもない。

 ほら、さっさと乗れ。

 学校遅れるぞ」

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

えっと~平塚先生、職員室にいるかなぁ。

国語、ちょっとわからないとこあんだよね。

 

”ガラガラ”

 

「あ、美佳先輩」

 

「か、会長、それにゆきのん。

 どうしたの二人そろって?」

 

「美佳先輩♡

 聞いてください。

 えっと~プロムなんですけど・・・なんと学校の内諾頂けたんですよ。

 これで大々的に広報することができます♬

 美佳先輩もプロム、楽しみにしてくださいね」

 

「え、あ、うん。

 受験終わったらお手伝いに行くね、差し入れ持って」

 

「ええ、待ってるわ」

 

「本当ですか!

 是非お願いしますね」

 

「うん。

 頑張ってね、ゆきのん、会長」

 

「はい。

 じゃ、生徒会のみんな待ってるので行きましょう。

 雪乃・・・・・・下先輩」

 

「ええ。

 三ヶ木さん、帰りにわたしのところ寄ってくれるかしら」

 

「ん?」

 

「国語と英語、あなたの弱点をまとめてみたの。

 よかったら勉強の参考にしてくれるかしら」

 

「ほ、ほんと!

 あ、ありがと」

 

「それじゃあね三ヶ木さん」

 

「うん、また後で」

 

「雪乃先輩か。

 確か会長、今そう呼ぼうとしていたよね。

 へへ、頑張ってるんだねゆきのん、会長。

 でもちょっと二人に嫉妬。

 わたしも受験頑張ろ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ぐひ、ぐふふふふ

駄目だって、そんなとこさわっちゃ~

比企谷君の馬鹿~

 

”ガタ!”

 

「み、美佳!

 あんたまだ寝てたの!

 今日受験の日でしょ。

 今何時だと思ってるの!」

 

「ふにゃ、ふぁぁああ~

 な、なんだ夢だったのか

 何時って・・・・・・・げ、げぇ!

 うわー!」

 

「ほらさっさと準備しなさい」

 

「う、うん」

 

     ・

 

「美佳、準備できた?

 忘れ物ない? 受験票は?」

 

「う、うん、大丈夫」

 

「ほら行くよ。

 送って行ってあげる」

 

「あ、朝ご飯は?」

 

「そんな時間ないでしょう。

 ほら、おにぎりつくったから」

 

「あ、ありがと」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブロロローン、ドドドド”

 

「いや~、やっぱり怖い!

 ほ、ほら隣走ってる車近い、近いし!」

 

「うっさい。

 ほら今のうちにおにぎり食べちゃいな」

 

「うううう、こわいよ~」

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、あ、比企谷君からメール。

なんだ、こんな時に。

 

”カシャカシャ”

 

『今日受験だよな。

 まさかお前のことだ寝坊とかしてないだろうけど・・・

 まぁ、落ち着いて頑張れ。

 健闘を祈る』

 

げ、な、何で知ってんの。

もしかして麻緒さんチクった?

 

”ちら”

 

「ん、なに?」

 

「あ、い、いや何でも。

 あははは、お、美味しいなぁ、このおにぎり」

 

”パク”

 

ってことないよね。

ふぅ。

あ、そうだ返信返信。

 

『寝坊なんてするわけないじゃん。

 今、東地大に向かってるよ。

 受験終わったらゆっくり会おうね。

 受験明けの旅行、とっても楽しみ。

 じゃ、頑張ってくるね』

 

ん~、よしこれでいいかなぁ。

あ、そ、そうだ。

・・・・・・えへ、えへへへへ

 

”カシャカシャ”

 

『旅行、お泊りだよね。

 ・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』

 

きゃ~、馬鹿なこと書いちゃった。

それに旅行、お泊りって決まってないのに。

へへ、削除、削除っと。

 

”ガタン”

 

「ひゃ」

 

「あ、ごめんごめん。

 大丈夫だった美佳?

 ちょっと道路が悪いみたい」

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・・・う、うそ。

あわわわわわわわ、そ、送信しちゃった。

だ、だって急にガタンって。

お、終わった、すべて終わった。

 

「ま、麻緒さん!」

 

「ん、なに?」

 

「・・・あ、い、いやいいです、何でもないです」

 

ど、ど、ど、どうしょう。

いゃ-!

 

     ・

     ・

     ・

 

う、うううう

テ、テスト、あんまり出来なかった。

だって、あのメールが、メールが・・・・・・

あのメールのことが頭の中にこびりついて。

うわ~ん、きっと比企谷君めっちゃひいてる。

どうしょう、で、電話しようかな。

で、でも、は、恥ずかしいし。

はぁ~

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「こんちは!」

 

「あ、ジミ子先輩!」

 

”パタパタパタ”

 

「こんちです、ジミ子先輩」

 

「舞ちゃん、もうその名前で呼ぶのやめて。

 ほら、あの会計の娘、変な顔してるし」

 

「気にしない気にしない。

 で、今日はどうしたんですか~」

 

「ん、あ、あのね、受験も終わったから、ちょっと差し入れでもって思ってね。

 はい、これどうぞ」

 

「あ、クッキーじゃないですか」

 

「うん、いっぱい作ってきたからみんなで食べて」

 

「ありがとうございます。

 みんなー、差し入れもらったよ」

 

「「ありがとうございま~す」」

 

”スタスタスタ”

 

「三ヶ木先輩、お久しぶりです

 差し入れありがとうございます」

 

「うん書記ちゃ、ち、違った、今は副会長ちゃんだった」

 

「はい、そうですよ」

 

「美味しいです美佳さん」

 

「ありがと小町ちゃん」

 

「あ、そうだ、今紅茶でも淹れるね」

 

「ジミ子先輩、わたしが淹れます」

 

「あ、わ、わたし久しぶりに三ヶ木先輩の紅茶飲みたいなぁ~」

 

「あ、小町も美佳さんの紅茶飲んでみたいです」

 

「・・・・・・い、いや、わたしが」

 

「気付け、蒔田」

 

「う、うっさい清川」

 

「あはは、じゃあ舞ちゃん、一緒に淹れよう」

 

「うー」

 

”スタスタスタ”

 

「ね、舞ちゃん、今何作ってるの?」

 

「あ、今度、プロムの動画撮ってホームページにアップするんですよ。

 ほらプロムってどんなのかイメージ沸かない人って結構いると思うからって。

 それで会場の飾りつけとか作ってるんです」

 

「そうなんだ」

 

「あ、あのジミ子先輩、先輩はやっぱりプロムは 」

 

「あ、あのね」

 

ほんとはやっぱプロムって抵抗あんだけどさ。

会長のプロムへの想い聞いちゃったからね。

はぁ~、気が重いけどしかたない。

会場の隅っこでおとなしくしていよっと。

 

「ほら、ゆきのんとか生徒会のみんな頑張ってるから、

 ちょ、ちょっとだけ参加してもいいかなぁって思うようになってね。

 そんで、なんか家にいても落ち着かないから、

 わたしもプロム手伝わせてもらうね」

 

「ジミ子先輩!

 大歓迎です、よろしくお願いしますね。

 先輩、楽しいプロムにしましょう」

 

「う、うん。

 あ、ほらお湯沸いたよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「や、やだ、見たくない」

 

”ぐぃ”

 

「いたたたた、痛い。

 ま、麻緒さんそんなに耳引っ張らないで」

 

「え~い、往生際の悪い。

 ほらさっさと受験番号入力する」

 

「だ、だって、試験、あんまりできなかったんだもん」

 

あんなメール送っちゃったあとだから、全然試験に集中できなくて。

それにあれ以来、比企谷君から連絡ないし。

絶対ビッチって思われてる。

き、嫌われたかも。 

う~、でも恥ずかしいから、わたしから連絡できないし。

 

「今さらしょうがないでしょう。

 だめだったら諦めて、来年頑張ればいいじゃない」

 

「それって、ろ、浪人。

 ううう、浪人はヤダ」

 

「だから滑り止め受けときなさいって言ったのに」

 

「だって、東地大に行きたかったんだもん」

 

「はぁ~、ほら受験番号は何番?」

 

「・・・・・・」

 

「受験番号!」

 

「上から826386」

 

”ポカ”

 

「誰がスリーサイズ言えっていったの!」

 

「ち、違う、ぐ、偶然だし」

 

「まったく、えっと8、2、6、3、8、6っと」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「あとは美佳の誕生日っと、0、3、2、0」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「よしっと

 ・・・・・・・・・・・・美佳」

 

いや、見たくない、聞きたくない。

だ、だってぜったいに落ちてるもん。

とうちゃんになんて謝ろう。

あ、ゆきのんにも!

あんだけ一生懸命勉強教えてくれたのに。

 

”ぷにゅ~”

 

「ふぁい? 麻緒ひゃん、なんねぇほっぺにょ?」

 

”ぎゅ~”

 

「い゛ー、いっだぁー!」

 

「よし、夢じゃないね。

 おめでとう美佳、ほら合格だって」

 

「は、ほんとー!

 えっとどれどれ。

 『おめでとうございます』・・・・・・・おめでとうございますだ!

 麻緒さん、おめでとうございますだって、よ、よ、よがっだー」

 

「よかったね美佳」

 

「う、うん、ううう、よがった、よがったよー」

 

     ・

     ・

     ・

 

比企谷君、塾終わるのまだかなぁ

へへ、合格したの知らせたくて、つい塾まで来ちゃった。

・・・それにメールの件もあんから。

ちゃんと直接説明しないと。

早く終わらないかなぁ。

そろそろ時間だと思うけど。

 

”ガヤガヤ”

 

あ、終わったみたい。

え、いっぱい入口から出てきた。

えっと、どこだ?

目の腐ったの、腐ったのっと。

あ、出てきた!

へへ、相変わらず猫背なんだよなぁ~

 

”トボトボトボ"

 

「ぶつぶつぶつ・・・」

 

「ひ、ひきが 」

 

「ヒッキー」

 

”パシッ”

 

「姿勢悪いよ。

 ほら、しゃんとしないと駄目だぞ~

 なんちゃって」

 

「いってえ。

 ゆ、由比ヶ浜、いきなり背中を叩くな!

 憶えていた単語、全部忘れたじゃねえか。

 まったく」  

 

「え? あはは、ご、ごめん。

 ね、ヒッキー、あのね今日もサイゼでさ 」

 

「ああ、わかってる」

 

「えへへ、やった。

 あっ、美佳っち!

 やっはろー」

 

「あ、あの・・・やっはろー、結衣ちゃん、比企谷君」

 

「おう、どうした」

 

「あ、ごめん。

 あの、ちょ、ちょっと知らせたいことがあって来ちゃったんだけど。

 邪魔してごめん」

 

え、な、何で謝るの?

で、でもなんか邪魔しちゃいけないって思って。

なんかいい雰囲気だったし。

二人の距離なんか近くなってる気がする。

自由登校になってからもずっと塾で会ってるからかなぁ。

なんかやだな。

早く受験終わればいいのに。

 

「・・・あ、ヒッキー、あたしあそこの喫茶店に行ってるね。

 美佳っち、またね」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

「で、どうだったんだ東地大。

 今日発表だったんだろ」

 

「あ、う、うん。

 あ、あのね・・・・・・・・・へへへ、見事合格だぜこの野郎!」

 

「お、おう。

 そっか、やったな、おめでとさん」

 

「ありがと。

 次は比企谷君の番だね」

 

「ああ、そうだな」

 

「・・・あとね、メ、メールの件だけど」

 

「・・・・・」

 

「・・・ごめん、変なの送った。

 あ、あの~忘れてくれるとありがたくて。

 冗談で打っててさ、それで消そうと思ったら

 ちょっと手元が狂って送信・・・しちゃった」

 

「お、おうそうなのか。

 い、いや、まぁなんだ・・・・・・温泉もいいかもな。

 と、泊りがけで」

 

「えっ!

 あ、う、うん、温泉いいよね。

 ・・・泊りがけで」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・あ、結衣ちゃん待ってるんだよね」

 

「ん、ああ、今からサイゼで勉強会なんだ」

 

「そっか。

 ・・・うん、頑張ってね」

 

「あれだったら、お前も来ないか?」

 

「あ、わたしは・・・いいよ。

 えっとね、今から学校行ってくる。

 平塚先生とゆきのんに合格したの報告してくるから」

 

「そっか」

 

「うん、じゃまたね」

 

「おう、またな」

 

”スタスタスタ”

 

比企谷君行っちゃった。

そ、そっか、今から結衣ちゃんとサイゼっか。

で、でも勉強、勉強しに行くんだから。

大丈夫、大丈夫だ・・・・・・きっと。

そ、それに、受験終わったら二人で旅行に行くんだし。

・・・・・・お、お泊りで。

そしたら、わたし比企谷君と・・・・・・

は、な、なに考えてんだわたし。

さ、さぁ、が、学校行こ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ガラガラ”

 

「ゆきのん!」

 

「三ヶ木さん、ドアを開ける時は 」

 

”だき!”

 

「え? み、三ヶ木さん」

 

「ゆきのん、ゆきのん、ゆきのん。

 受かった、受験受かったよー」

 

「そう、よかったわね三ヶ木さん」

 

「うんうんうん」

 

”なでなで”

 

「よく頑張ったわ三ヶ木さん。

 おめでとう」

 

「ありがと、ゆきのん。

 ゆきのんのおかげだよ、ほんとにほんとにありがと」

 

「違うわ・・・自分の力よ、あなたは自分の力で勝ち取ったの」

 

「・・・ゆきのん。

 あのね、プロムこれからいっぱいお手伝いするね。

 作り物とか任せて、あと差し入れも」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「うん。

 ・・・・・・あのね、今度はゆきのんの番だね」

 

「え?

 ええ、そう、わたしの番」

 

「頑張ってね、ゆきのん」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「はい、OKで~す。

 今からチェックしますので、少し休憩しててください。

 清川、わたしにも画像見せて」

 

ふぇ~、やっぱりゆきのんメッチャかっこよかったー

ダンス踊ってるのすごく様になってて、つい見惚れちゃった。

文化祭のお姫様もよかったけど、今日の男装してるゆきのんもすごくす・て・き。

さっきさ、会長と二人で腕組んで出てきた時なんか、ほんと息をのんじゃった。

う~、どうしてくれんの、もう惚れてまうやろ!

で、でもあの時の会長の顔・・・ぷっ! ぷっぷっぷっ

な、なんかすごいどや顔だったし。

はぁ~すごく面白かった。

 

”キョロキョロ”

 

でもさ、ほんと会場のセット、動画の撮影までに間に合ってよかったよ。

昨日までさ、生徒会のみんな毎日遅くまで頑張ってたもんね。

ほんとよかった。

あの清川君まで文句言いながら頑張ってたもんね。

って、そういえば清川君どこだっけ?

たしか動画のチェックしてるはず、んっと~、あっ、いたいた!

 

”テッテッテッ”

 

「撮影、ご苦労様清川君」

 

「ん? あ、お前か」

 

「会長でなくて残念でした」

 

「うっさい」

 

「どう、うまく撮れてそう?」

 

「まあな」

 

「どれどれ?」

 

へ~うまく撮れてる。

やっぱ被写体がいいからね、ほんと会長可愛い。

あの橙色のドレスよく似合ってる。

でも・・・

 

「ね、ちょっと会長のアップ多すぎない?」

 

「そ、そんなことない、気のせいだ!」

 

「ま、いいけどね」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ん?

 ね、ね、あの柄沢君の周りにいる女子ってあの時の」

 

「ああ。

 何でもエキストラの女子が足りないって、柄沢と一色が連れてきた」

 

「清川君、選挙の時のことって会長には言ってないの?」

 

「・・・ま、まぁ、別に一色に嫌な思いさせなくてもいいだろう。

 世の中、知らなくて済むなら、それでいいことなんていっぱいあるからな」

 

「ふ~ん。

 ね、清川君って結構優しいんだね」

 

「べ、別にそんなんじゃない。

 め、面倒くさいだけだ」

 

「ふ~ん、面倒くさいねぇ~

 そっか。

 よし、そんな面倒くさがり屋の優しい子に、お姉さんがご褒美をあげよう。

 ね、なに飲む? 奢ってあげる」

 

「それじゃ・・・マッ缶」

 

「へ?」

 

「い、いやマッ缶を」

 

「へぇ~、清川君もマッ缶飲むんだ。

 了解、ちょっと待っててね」

 

「な、なぁ」

 

「ん?」

 

「あ、あの、合格おめでとう・・・・・・ございます」

 

”ぺこ”

 

「げ、今さら!

 へへ、でも、ありがとさん」

 

”スタスタスタ”

 

「きゃ~、大胆!」

 

「え~、それ胸見えちゃうよ」

 

「インスタに乗せるんだから、ちゃんとキレイにとってね」

 

「ねぇねぇ、だったら二人もっとくっついたほうが良くない?」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「あ、あの娘達、大丈夫かなぁ。

 ちっと心配」

 

”スタスタスタ”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ヒュ~”

 

ひゃ~、さ、寒い、めっちゃ寒い。

今年の冬の寒さは異常だよ。

でもこの寒いのに頑張ってるみんなに差し入れ。

へへ、今日はみんなにチョコ作ってきたんだ。

だってバレンタインだもん。

あ、ち、違うから。

比企谷君のついでじゃないから。

ちゃんとみんなのこと思って作ったからね。

・・・それと。

比企谷君にはこの後に家へ持っていくんだ。

今日は受験終わったら、家でため込んでた録画観るって言ってたから。

でも受験どうだったかなぁ~

合格、できるといいなぁ。

比企谷君、ちゃんと毎日お守りにお願いしてたからね。

 

"ドタドタドタ"

 

「ジ、ジミ子せんぱ~い」

 

「え? あ、舞ちゃん。

 だめだよ、生徒会役員が自ら校則やぶっちゃ。

 廊下は走っちゃダメ」

 

「大変、大変なんです」

 

「えっ、ど、どうしたの?」

 

「い、いま応接室に 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

げ、あの応接室からでてきたのって、確かゆきのんのお母さん。

 

「舞ちゃん、怒鳴り込んできたってあの人?」

 

「あの~、恐らくそうかと。

 一色からは、結構お偉いさんが怒鳴り込んできたって聞いただけだから。

 その~、誰かまでは。

 あ、応接室入ります?」

 

「ん、ちょっと待って。

 様子を確認してから」

 

”ピタ”

 

「ジミ子先輩、盗み聞き?」

 

「シー」

 

ん~どれどれ。

中の様子はどうなってんだ?

 

「あの・・・・・・、保護者会の一人って言ってましたけど、会長かなんかですか?」

 

え、あ、あれ?

比企谷君の声

な、なんで?

確か受験終わって、いま頃家で録画観てるはずじゃ?

 

「何をやってんだね三ヶ木、蒔田」

 

「え、あっ」

 

「まったく、ほらそんなところで盗み聞きしていないで、君たちも中に入りたまえ」

 

「あ、は、はい」

 

”ガチャ”

 

「いや、参ったな」

 

「し、失礼します」

 

「します」

 

「あ、三ヶ木ちゃん、久しぶり。

 どう、受験落ちた?」

 

い、いきなり!

陽乃さんあんたなんてことを。

しかも満面の笑みで。

 

「・・・・・・あ、あの受かりました」

 

「ち、それは残念」

 

げ、マ、マジで残念がっている。

 

「ね、ねぇさん」

 

「え~、だって駄目だったら、一応もう一回うちに来ないって誘ってみようと

 思ってたのに。

 本当に残念」

 

「・・・・・・あ、ありがとございます」

 

はぁ~、一応ありがたいけど。

えっとそんなことより、陽乃さんとゆきのん、それと会長、柄沢君。

あ、藤沢ちゃんはいないんだ。

生徒会室に残っているんかな。

あとは比企谷君と・・・結衣ちゃんもいる。

もしかして受験終わってから、二人一緒に来たのかなぁ。

なんかなんかずっと一緒って、ちょっとムー!

 

「・・・・・・学校側の対応としては、どうなりそうなんですか?」

 

そ、そうだ、今はプロム。

どうなったんだろ?

めっちゃまずいことになってるのかなぁ。

ゆきのんのお母さん、なに言いに来たんだろう?

えっと、

 

「えっと柄沢君。

 ね、ど、どうしたの?

 なにがあったの?」

 

「あ、えっとですね 」

 

     ・

 

そっか、やっぱりあの娘達か。

確かにインスタが何とか言ってたもんな。

くそ~、やっぱあんとき釘刺しておけばよかった。

でもこうなったら、ゆきのんが言う通りなんとか保護者側の理解を得られるように

しないとプロムできない。

それと本番でも同じことが起きないような手を考えないと。

 

「待って。

 そこから先はわたし達の仕事よ。

 ・・・・・・わたしがやるべきことなの」

 

え?

あ、あれ? 柄沢くんの話聞いているうちになんか雰囲気が。

えっと~?

 

     ・

 

・・・・・・依存かぁ。

そっか、ゆきのんそんな風に思ってたんだ。

全然知らなかった。

それにしても、比企谷君も結衣ちゃんもほんとゆきのんのこと大事に

思ってるんだね。

やっぱりちょっとうらやましいや。

でもさ、今回ばかりは陽乃さんの言う通りだと思うよ。

あの時、奉仕部の部室でさ、ゆきのんは言ってたじゃん。

わたしには依存しているかどうかなんてわからないけど。

でもあの時さ、確かにゆきのんは自分の力でやり遂げたいって言ってた。

だから、今回だけは手を出しちゃいけないと思う。

それではゆきのんの想いを潰しちゃうことになる。

大事だと思うんなら、ちゃんと見届けてあげなきゃいけないんだ。

それはとても辛いことだけど、それがゆきのんの願いなんだもん。

・・・・・・多分、比企谷君はわかってる。

だってわたしごときでもわかることだもん。

きっと頭ではわかっているんだよね。

でも、それでも比企谷君は放っておかない。

今は”わかった”って言ったけど、比企谷君はきっと放っておかない。

だって、比企谷君にとって・・・・・・ゆきのんは・・・

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ!

 

う~、比企谷君と話しょうと思ったのに。

でも陽乃さんにつかまってたけど大丈夫かなぁ。

なかなか二人で話できない。

ちゃんとチョコ渡せるかなぁ。

ん? 生徒会室なんかすごく静か?

みんないるはずなんだけど。

 

”ガラガラ”

 

「失礼しま~す・・・・へ?」

 

な、なにこの雰囲気。

生徒会のみんな下向いて黙りこんで座っててすごく暗い。

 

「あ、三ヶ木先輩。

 すみません、いま蒔田さんから応接室の話聞いてて」

 

「あ、うん。

 ね、藤沢ちゃん、会長達は?」

 

「あ、隣の教室で今後の対策相談してます」

 

「そ、そうなんだ」

 

そっか、舞ちゃん達から話聞いたからそれでこんな雰囲気に。

やばいな、ほら、あの娘、えっと確か会計の・・・・・鈴ちゃん。

鈴ちゃん泣いてるし。

 

「おい、柄沢。

 その保護者の何とかって、確かお前とこのかあちゃん保護者会の会長だよな」

 

「ああ」

 

「ちょっと清川」

 

「お前が何とかしろよ。

 かあちゃんにやめさせろよ」

 

「やめなって清川」

 

「なんだよ蒔田。

 みんなそう思ってんだろ

 こいつのかあちゃんが 」

 

「清川!」

 

「いや、いいんだ蒔田さん、清川の言う通りだ。

 俺が母さんに話してみるよ。

 でも、多分・・・」

 

「清川!」

 

「な、なんだよ」

 

ふぇ~、まずいまずい。

なんかみんなの雰囲気がすごく悪い。

えっと、ど、どうしよう。

でもこんな時って。

あ、そ、そうだ!

 

”ガサガサ”

 

「はい、藤沢ちゃん」

 

「え、これ」

 

「今日はバレンタインじゃん。

 だからチョコあげる」

 

「あ、は、はい、ありがとうございます」

 

「はい、えっと柄沢君」

 

「あ、すみません」

 

「はい、舞ちゃんも」

 

「あ、ありがとうです」

 

「はい鈴ちゃん。

 ほらもう泣かない」

 

「う、うう、あ、ありがとう、ご、ございます」

 

「はい、小町ちゃん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ほら清川君。

 へへ、人生初めてのチョコでしょ」

 

「ば、馬鹿にすんな。

 2、2個めだ」

 

「え、うそ!」

 

「うそじゃない、中学の時に1回だけもらったんだ」

 

「へぇ~、やるじゃん」

 

「あ、あの~ジミ子先輩、こんな時にチョコなんて」

 

「こんな時だからだよ舞ちゃん」

 

「え?」

 

「こんな時だから、わたし達は今まで通りがいいんじゃないかなぁ。

 だってさ、会長とゆきの・・・雪ノ下さんはまだ諦めていないんでしょ?

 だったらさ、保護者会への対応は二人に任せて、わたし達はわたし達のできる

 ことをするだけ。

 それがさ、まだ諦めずに頑張っている二人に対するわたし達からのエールに

 なるんじゃない?

 わたしはそう思うんだけど、違うかなぁ藤沢ちゃん?

 それとも藤沢ちゃんはもう諦めた?」

 

「・・・ふぅ~

 三ヶ木先輩、わたしもまだ諦めてませんよ。

 だっていろはちゃんが頑張ってるんだもの。

 わたしも諦めない。

 みんな、みんなはどう?

 わたしは、わたし達のできること頑張りたい」

 

「あ、ああ、そうだな藤沢さん」

 

「仕方ないな。

 ここで諦めたって言ったら、後から一色に何言われるかわからない」

 

「やりましょう、小町頑張ります」

 

「わ、わ、わたしも、や、やります」

 

「柄沢君、蒔田さん、比企谷さん、煤ケ谷さん」

 

”ガタ”

 

「清川君?」

 

「藤沢、時間ねえんだろ。

 俺、体育館倉庫の鍵貰ってくる」

 

「え、あ、はいお願いします。

 それじゃ、みんな体育館行きましょう」

 

「「はい」」

 

     ・

     ・

     ・

 

へへ、みんなの手伝いしてたら、帰るのめっちゃ遅くなっちゃった。

よかった、みんな頑張ってくれて。

生徒会のほうはまぁ大丈夫かな。

あとは保護者会か。

ゆきのん達大丈夫かなぁ。

でも、わたし達はわたし達のできること頑張るだけだ。

あ、それより、えっと比企谷君はもう家に帰ってるよね。

へへ、チョコ渡さないと。

あ、でも、もうこんな時間だから先に電話しておかないと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピンポ~ン”

 

「お、おう、遅かったな三ヶ木」

 

”ガチャ”

 

「え、あ、あれ?」

 

「や、やっはろーヒッキー」

 

「お、おう。

 ど、どうしたんだこんな時間に」

 

「美佳っちじゃなくてごめん」

 

「あ、い、いや、さっき三ヶ木から電話あったんでな。

 で、どうしたんだ、何の用だ?」

 

「ヒッキー、はいこれ」

 

「ん、これって」

 

「うん、チョコ。

 へへ、あのね結構うまく作れたんだ。

 本当はね、受験の帰りに渡そうと思ってたんだけど、

 いろはちゃんから電話かかってきちゃったし、そのあと大変だったし」

 

「・・・そ、そだな」

 

「それに・・・やっぱり今日渡したかったから」

 

「あ、す、すまん。

 なんか悪いな、サンキュ」

 

「・・・・・・ね、ヒッキー。

 去年のバレンタインのこと憶えてる?」

 

「え、あ、ああ」

 

「じゃ、いい。

 それじゃ帰るね、バイバイ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・由比ヶ浜。

 そうだな、あれからもう1年経ったんだな。

 返事、ちゃんとしないと」

 

「お兄ちゃん、ただいまー

 どうしたの玄関先で。

 えっと~今の結衣さん?」

 

「おう小町お帰り。

 すまん、ちょっと出てくるわ」

 

「え?」

 

「由比ヶ浜!」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ピンポ~ン」

 

「は~い」

 

”ガチャ”

 

「あ、美佳さん。

 先ほどはチョコありがとうございます」

 

”ペコ”

 

「あ、いえ、どういたしまして。

 それより夜分ごめんね、比企谷君いるかなぁ?」

 

「あ、え、えっと~兄は・・・・・・」

 

「ん?」

 

「あの、ちょ、ちょっと今出かけてて」

 

「え? あ、そうなんだ」

 

あれ、おかしいな?

ちゃんと待っててくれるって言ったはずなのに。

ん~、何のようなんだろう?

 

「あの~美佳さん、よろしかったら中に入って待ってて下さい。

 兄ももうすぐ帰ってくると思いますので。

 何か温かいもの淹れます」

 

「あ、うん。

 でもどうしょう、もうこんな時間だし」

 

「それにもうすぐ父と母も帰ってきますので、是非とも中に。

 さあ、是非是非」

 

「い゛っ! きょ、今日は帰るね、もう遅いから。

 またお母様に怒られるのやだし、怖いもん。

 ごめん小町ちゃん、これ比企谷君に渡してもらってもいい?」

 

「え、お、おお!

 これはガトーショコラですか!

 フルーツいっぱいのってて、小町達にくれたしょぼいのとは天と地の差が」

 

「え、あ、あははは。

 しょぼくてごめん。」

 

「いえいえ、小町的にはそのほうがチョ~ポイント高いですよ。

 しかしそれにしても、あの兄に対してチョコを持ってきてくれる人がお二人も」

 

「え、二人?」

 

「あ、い、いえ、あの・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・え、えっと~、あの~、み、美佳さん」

 

「あ、そうだった。

 確か結衣ちゃんもチョコ渡すって言ってた。

 そっか結衣ちゃん来たんだ。

 いや~先越されたなぁ~」

 

「え、あ、知ってたんですか美佳さん。

 ハラハラしたじゃないですか、もう人が悪いです」

 

やっぱりか。

ごめんね小町ちゃん、かまかけた。

結衣ちゃんとそんな話してないんだ。

ゆきのんや会長は、まだ学校にいたから多分そうだと思った。

・・・そっか結衣ちゃんもチョコ渡しに来たんだ。

だとしたら、いま比企谷君がいないのって・・・・・・

 

「あ、あの~、美佳さん?」

 

「あ、うううん、何でもない。

 あのさ、じゃあごめんねお願い。」

 

「あ、はい。

 確かに兄に渡しますね」

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

”ペコ”

 

「あ、はい、おやすみなさいです」

 

「・・・・・・小町ちゃん、ごめんね」

 

「え?

 あ、いえいえ、チョコを渡すのぐらいお安い御用ですよ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、ここでいいよ。

 駅まで送ってくれてありがとう」

 

「ああ」

 

「じゃ、またね

 お互い合格してるといいね」

 

「・・・・・な、なぁ由比ヶ浜。

 お、俺、俺は、 」

 

「ヒッキー!」

 

「ん?

 

「あのねヒッキー、あたしがさ、もし早応大合格したらさ・・・・・・

 デートしよう♡」

 

「は、はぁ?」

 

「約束。

 ちゃんと約束したじゃん。

 あたしが早応大合格したら、お願い絶対に一つ聞いてもらうって」

 

「あ、そ、そうだったかな」

 

「ひど。

 ちゃんと約束したんだからね!」

 

「なぁ、デ、デートって、二人でか?」

 

「当たり前だし」

 

「い、いや、しかし去年は三人で」

 

「あれは特別。

 ヒッキー、あたしちゃんとデートしたいんだ。

 ・・・一度でいいから」

 

「由比ヶ浜」

 

「駄目・・・かな」

 

「・・・・・・わかった」

 

「ありがとう、ヒッキー。

 それじゃまた連絡するね。

 バイバイ」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ふぁ~、いいお風呂だった。

やっぱ嬉野温泉サイコー、だってお肌つやつや。

いや~若返った、十歳は若返ったよ~

って、わたしゃ小学生か。

へへ、でもさ、入浴剤でこの効果だから本物の温泉に入れたら、

もっとお肌がつやつやに。

あ~ん、嬉野温泉行きたいなぁ~

 

”ガラ”

 

「とうちゃん、お風呂あがったよ~」

 

「おお、今入る」

 

あ~でもほんとなんかすごっくリラックスできた。

うん、気持ちが落ち着いたよ。

わたしが出来ることってさ、比企谷君を信じることしかない。

大丈夫、きっと大丈夫。

さて、それより髪乾かして寝ようっと。

う~ん、明日は何の差し入れ持っていこうかなぁ~

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、電話? こんな時間に誰だ?

 

”カシャ”

 

あっ、比企谷君。

 

「あ、あの、もしもし?」

 

「あ、すまない。

 もしかしてもう寝てたか?」

 

「うううん。

 今ちょうどお風呂あがったとこだよ。

 あのさ~、今わたしどんな格好してると思う?」

 

「はぁ? お、お前何を」

 

「あのね、スッポンポンだよスッポンポン。

 見たい?

 写メでも送ろうか?」

 

「ば、ばっか!

 服着ろ、なんか着ろ、早く着ろ!

 か、風邪ひくだろうが!」

 

「へへへ、ごめんごめん、嘘だよ。

 今から髪乾かして寝るとこ。

 で、どうしたの?」

 

「・・・・・・

 あ、あのな、チョコありがとうな。

 それと、すまなかった。

 わざわざ持って来てくれたのに家にいなくて。

 ちょっと急用ができてな」

 

「・・・急用っか」

 

「え?」

 

「あ、うううん何でもない。

 大丈夫だよ。

 わたしの方こそ遅い時間に家に行ってごめんね」

 

「生徒会、行ってたのか?」

 

「うん。

 みんな頑張ってるから。

 だから少しお手伝いと差し入れをね。

 ・・・わたしもゆきのんのこと大事に思っている、友達だもん。

 だから少しでもわたしのできることで応援したいんだ」

 

「すまない、助かる」

 

「・・・・・」

 

「どうした?」

 

「うううん、何でもない。

 わたしは自分のやりたいことをやっているだけだから」

 

「そっか。

 ・・・な、なぁ」

 

「うん?」

 

「早応大の合格発表、よかったら一緒に確認してくれないか?」

 

「え?」

 

「お前に一緒に確認してもらいたいんだ」

 

「わたしで・・・いいの?

 う、うん、わかった。

 じゃ、じゃあさ、発表の日に比企谷君の家に行くね」

 

「お、おう、待ってる」

 

「うん♡」

 

へへ、やっぱり信じてよかった。

どんな服着ていこうかなぁ。

やっぱ比企谷君の好きなミニスカートにしょうかなぁ~

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ピタっと。

よしこれでOKだ。

 

「舞ちゃん、こっちの飾り付け終わったよ。

 そっちはどう?」

 

「あ、こっちも終わりました」

 

「了解。

 お~い男子、看板出来上がったから運んでくれる?」

 

「あ、はい。

 おい清川行くぞ」

 

「うっせ。

 柄沢、お前が指図するな」

 

「はいはい、ケンカしない。

 じゃあ、体育館倉庫までお願いね」

 

「はい。

 清川そっちいいか?

 せ~の」

 

「だから指図すんなって。

 よいしょっと」

 

「いいか? いくぞ」

 

「だからお前。

 い、いや、ちょっと待て。

 歩くの早いって、お、おい!

 ちょ、ちょっと待って~」

 

うん、あの様子なら大丈夫だね。

清川君も柄沢君もほんとはいい子だからね。

ひゃ~思いっ切りお姉さん目線。

さてっと。

 

「舞ちゃん、ちょっと休憩しょっか」

 

「は~い」

 

うんしょっと。

うん、プロムの準備も着々と進んでる。

あとはゆきのんと会長次第だなぁ。

も、もしさ、プロムが駄目になっても、わたしはちゃんと最後まで

見届けたい。

それがゆきのんの願いだから。

それにさ、これまで取り組んできたこと決して無駄だとは思わない。

だって何かをやろうとしたんだもん。

変わろうとしたんだもん。

これで終わりじゃない。

まだこれからもきっとチャンスはいっぱいある。

大事なのはやろうって、変わろうって思う気持ちを持ち続けることだと思う。

だから、わたしはちゃんと最後まで見届けるね。

でも・・・・・・成功してほしいなぁ~プロム。

 

「はぁ~」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「え、ああ。

 え、えっと~、あ、ほんともう少しで卒業なんだなぁ~って思って」

 

「そうですね、あと一ヵ月もなくて」

 

「この体育館でもさ、ほんといろんなことがあったね」

 

「うううううう」

 

「え、どうしたの舞ちゃん?」

 

「だ、だって、この体育館ではあんまりいい思い出がなくて。

 全部、ジミ子先輩が悪いんですからね全部!」

 

「え~、いや、確かに生徒会選挙の件は反論できないけど、

 でも文化祭のことは自爆ってことで」

 

「あれもジミ子先輩が悪いんです」

 

「・・・・・・

 ね、それより稲村君一人暮らしするって、もう住むとことか決まったの?」

 

「それが決まってるみたいなんですけど、教えてくれないんですよ。

 いろいろ手を尽くしてるんですけど。

 そうだ! ジミ子先輩、聞いてみてくれます?

 ジミ子先輩になら話すかも」

 

”ジ―”

 

「ほんとに聞いていいの?」

 

「あ、やっぱダメ!

 だって焼きぼっくりに火がついたら嫌だし。

 今の話は無し、自分で聞き出して見せます。

 絶対聞きだしてやるんだから」

 

「へへ、舞ちゃん頑張れ。

 ・・・でもさ舞ちゃん、聞きだしてどうするの?」

 

「決まってるじゃないですか。

 押しかけるんです」

 

「舞ちゃん積極的」

 

「なに言ってるんですか。

 本当に好きな人にならこんなの当たり前ですよ。

 だってチャンスじゃないですか。

 それよりジミ子先輩のほうこそ、備品先輩とどこまでいったんですか?

 もうがっちりやっちゃいました?」

 

「は、はぁ!

 ば、ばっか、なんてことを。

 ・・・・・・・・ま、まだだけど」

 

「えー!

 もうあの体育祭からどれだけ経ってると思うんですか。

 も、もしかしてキスも」

 

「・・・まだ」

 

「なっ!

 全く何やってんですか!」

 

「いやなにをって。

 だって、いろいろあって。

 それに比企谷君、理性の化物だもん」

 

「はぁ~

 ジミ子先輩、いえ、三ヶ木先輩。

 そんなんじゃ、比企谷先輩、誰かに取られちゃいますよ。

 あの人のこと好きな人、他にもいるんですから。

 それでもいいんですか!」

 

「い、いや」

 

「いいですか、受け身ばっかりじゃ駄目ですよ。

 いざっていうときは、女子のほうから積極的に行かないと。

 なんなら押し倒すぐらい。

 わかりました?

 返事は?」

 

「は、はい。」

 

「ぶっちゃけ、やっちゃえば女子の勝ちですから。

 なんかあった時は、わたし初めてだったのにって泣けば男子は逆らえませんから」

 

「はい・・・・・・お、おい!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ほらほら、男らしく受験番号入力する。

 結果がわからないと、先に進めないでしょ。

 次に進むために、ちゃんと結果確認しよ」

 

「いや、お前、さっきから横でなにブツブツ言ってんの。

 今ちゃんと入力してんだろ」

 

「あ、い、いや~、へへへ」

 

「まったく、ほらいいか?」

 

「う、うん」

 

「じゃ、誕生日は0・8・0・8っと」

 

”カチャ、カチャ”

 

「・・・・・・ふぅ~。

 ん、お前何目瞑ってんだ」

 

「だ、だって怖くて」

 

「ほら見てみろ」

 

「え?

 あ、あ゛ー

 ご、合格、合格だ!

 比企谷君合格だよ、おめでと、すごい」

 

”だき”

 

「お、おわ!

 お前急に抱き着くな」

 

”どさ”

 

「いたたた」

 

「ご、ごめん」

 

「お、おう」

 

ど、どうしょう。

思わず比企谷君に抱きついたら、なんか覆い被さちゃって。

こ、これってわたしが押し倒したみたい。

いや事実、押し倒しちゃったんだけど。

 

『三ヶ木先輩、そんなんじゃ比企谷先輩、誰かに取られちゃいますよ』

 

や、やだ。

そんなのやだ。

 

『いいですか受け身ばっかりじゃ駄目ですよ。

 いざっていうときは、女子のほうから積極的に行かないと』

 

う、うん。

今日、もしかしたらって思ってたから、ちゃんと準備してきた。

下着も比企谷君が好きなあの赤いスケスケのパンツ履いてきたし。

だ、だから・・・

 

「な、なぁ三ヶ木」

 

「え、あ、は、はい」

 

「あのな・・・・・・ちょっと重 」

 

”ビシ!”

 

「ぐはぁ、いてぇ」

 

「シャラップ!

 いいか、それ以上言ってみろ、絶対殺す」

 

「は、はい」

 

くそ、最近気にしてんだって言ってんだろ!

い、一応、50Kg台維持してんだから。

ギ、ギリだけど。

は、そ、そんなことより。

 

「あ、あのさ、比企谷君。

 ・・・合格おめでと」

 

「あ、ああ、ありがとさん

 でもいつまで覆い被さって 」

 

「あのね、あの時の返事まだちゃんとしてなかったね」

 

”ピタ”

 

「お、おい三ヶ木、そ、そんなにくっつくと、あの、それに 」

 

”ドクドクドク”

 

比企谷君の胸から心臓の音が聞こえてくる。

すごく早い。

うれしいなぁ、ちゃんとわたしなんかでドキドキしてくれるんだ。

このままずっと胸に顔を埋めていたい。

・・・ずっとこうやって抱き合っていたい。

で、でも、その前にちゃんと返事しないと。

こんなわたしでもよかったら、よろしくお願いしますって。

そして・・・・・・その後・・・比企谷君が望むなら、わたし・・・

 

「比企谷君、わたしも比企谷君とつき 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あっ」

 

「え?」

 

”ブ~、ブ~”

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

あ、結衣ちゃんからか。

比企谷君、すごく気にしてる。

目、わたしの方じゃない、ずっとスマホの方ばっかり見てる。

ふぅ~。

 

「うんしょっと。

 いいよ、電話」

 

「あ、す、すまない」

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし、どうした?」

 

「あ、ヒッキー、あのね」

 

「なんだ、早応大駄目だったのか?

 まぁ、なんだ元々ダメもとだったんだ、受かればラッキーって感じで。

 だから、そうガッカリ 」

 

「違うし!

 ちゃんと受かったし。

 そんなことより、あのね、なんかプロム、やばいみたいなの。

 学校側がプロムを中止にするって判断したって」

 

「はぁ?

 ど、どういうことだ」

 

「あたしもラインで見ただけだからよくわからないんだけど。

 あ、ゆきのんに聞いてみる?」

 

「い、いやいい。

 こういうのは上と話したほうが早いしな。

 ちょっと平塚先生に電話するわ」

 

「う、うん。

 なにかわかったら、教えて」

 

「ああ」

 

”カシャカシャ”

 

「比企谷君?」

 

「あ、すまん。

 なんかプロムがやばいらしいんだ。

 ちょっと待ってくれ」

 

「う、うん」

 

「おう、比企谷か」

 

比企谷君、真剣だね。

ちょっと待ってくれっか。

はぁ~、ちゃんと返事しようと思たったのに。

そっか、そだよね。

・・・ゆきのん・・・・・・大事だよね。

比企谷君、さっきからほんと真剣に電話してる。

こっちからは背中しか見えないけど、漏れてくる言葉一つ一つでよくわかる。

そんなにプロム守りたいんだ。

・・・・・・違う・・・守りたいものってきっと違うんだよね。

それはプロムじゃなくて・・・

 

”カシャ”

 

「すまない、三ヶ木。

 あ、あのな 」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、あのな」

 

いいよ、言わなくてもわかるよ。

・・・・・・比企谷君、行っちゃうんだ。

わたしの返事なんかよりもっと大事なもの・・・なんだもんね。

・・・そっか。

 

”スク”

 

「み、三ヶ木」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おい、どこに 」

 

”ガチャ”

 

「今日、帰る」

 

「み、三ヶ木待ってくれ。

 あ、あのな 」

 

「来ないで!

 ・・・・・・いいから来ないで。

 大丈夫だよ、うん、大丈夫、大丈夫、わたしは大丈夫。

 わ、わかっているから。

 でもさ、今はダメ。

 きっと我慢できなくて嫌なこと言っちゃう。

 だから、ごめん。

 今日は帰るね。

 あ、送らなくてもここでいいから」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・・すまん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ブー、ブー、ブー、ブー”

 

え、あ、目覚まし。

もう朝になっちゃったんだ。

はぁ~、わたしってほんと駄目だ。

何でこんなことで朝まで落ち込まないといけないんだ。

馬鹿なことばっかり考えて。

そんなわかってたことじゃん。

それにさ、もしあそこでわたしのこと気にして何もしない彼だったら、

きっとわたしは好きになっていなかったと思う。

ああいう彼だからわたしは好きになった。

はぁー、このばかもの。

 

”ゴツン”

 

う~、いてててて。

よし! 電話して謝ろう。

昨日嫌な思いさせちゃってごめんって。

そんでプロムどうだったか聞いて。

えっとスマホ、スマホっと。

 

”ブ~、ブ~”

 

えっ、あ、電話。

だ、誰からだ?

あ! ひ、比企谷君。

へへ、なんというタイミング。

やっぱりわたし達って合うんだ。

 

「もしもし、三ヶ木だよ♡」

 

「お、おう。

 あ、あのな、今から時間ないか?

 ちょっと話があるんだ。

 出てこれないか?」

 

「うんいいよ。

 どこ、どこに行けばいいの?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”テクテクテク”

 

へへ、今日こそちゃんと返事しようっと。

あ、でもその前にきっとプロムの相談だよね。

かなり深刻なのかなぁ。

継続協議って言ってたのに。

昨日電話での比企谷君の言葉聞いてるとなんか中止とか言ってたけど。

あ、ここだここ、駅前のサイゼ。

ほんとサイゼ好きだよね。

まぁ、わたしも好きだけど。

えっと、どこにいるのかなぁ。

あ、いた!

 

「美佳っち! やっはろー」

 

え? あ、あれ結衣ちゃん。

い、いや、人の多いところでその挨拶やめて。

ほらあのお客さん変な顔して見てる。

は、そ、そんなことよりなんで結衣ちゃんが?

あ、戸塚君、それに沙希ちゃんもいる。

・・・・・義輝君なにしてんだ? 何をぶつぶつと?

 

「あ、美佳っち、こっちこっち」

 

「三ヶ木こっちだ」

 

「あ、う、うん」

 

「まずは、いきなり呼び出してすまん。

 来てくれてありがとう、感謝」

 

     ・

     ・

     ・

 

結衣ちゃん、さっきから比企谷君にくっつきすぎだし。

それにあっちの席でずっと二人だけで何か話してる。

・・・はぁ~、二人だけじゃなかったんだ。

わたしだけに相談してほしかったなぁ~

わたしに最初に。

はぁ~、なんかなんか・・・・・・

は、駄目駄目、こんなこと思ってたらまた前の時みたいになっちゃう。

やめやめ。

んで、えっと~アンチプロムとかゆきのん達と対立とかいってたね。

~あ、アンチプロムは義輝君が言ってたんだ。

え、えっと結局何をしたいんだ?

昨日、学校で何を話してきたんだろう?

きっと比企谷君のことだから何か企んでいると思うけど。

 

”ちら”

 

も、もう!

まだ結衣ちゃんと二人だけで話してるし。

あ、な、なんか結衣ちゃんに手を合わせて頭下げて。

な、なに、なんなのさ、ムー!

 

”スタスタスタ”

 

「えーここで残念なお知らせがあります」

 

     ・

     ・

     ・

 

そっか、プロム、学校から自粛しろって言われたんだ。

え、でもそれで新しいプロムの計画?

でも、プロムをやること自体を問題視されてるんじゃ?

それに、そんなことしたら。

 

「八幡はどうしたいの?」

 

「正直、プロム自体は割とどうでもいい」

 

プロムはどうでもいい、ゆきのんを助けたいっか。

でもね比企谷君、保護者側はプロムをやること自体を反対しているんだよ。

違う案を出したって、それだけじゃ覆らない。

・・・それにさ、もっと大事なこと間違っている。

それじゃゆきのんの願い、叶えられないじゃん。

あの時、奉仕部の部室で、ゆきのんは、ゆきのんは言ったよ。

自分の力でやり遂げたいって、ちゃんと見届けてほしいって。

だからわたしはこのやり方に賛成できない。

ゆきのんのためにも・・・・・・きっと比企谷君のためにも。

だから、ごめんわたしは・・・

 

「待て! 然して希望せよ!」

 

「お、おう。

 ・・・三ヶ木、お前はどうだ?」

 

「美佳っち?」

 

「うん、わたしも協力するね。

 一緒に頑張ろう」

 

ごめん、比企谷君。




最後までありがとうございます。
大変お時間お取しました。
(こんな駄作にすみません)

いつも夜中書いているんですが、最近すごく眠たくて。
なかなか更新できなくてごめんなさい。
以前は2時、3時なんて当たり前だったのに。
なんとかGWで挽回しないと・・・

えっと今回は奉仕部二人の願い。
次話は冬物語最終話、オリヒロの願い編です。

また見に来ていただけるとありがたいです。
ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三人の願い編 後編 -わたしの願いー

今回も見に来ていただいてありがとうございます。
いつもほんと同じ言葉しか思いつかず、ごめんなさいです。

さて今話は冬物語編の最終話。
八幡のダミープロム計画に対してオリヒロは。
そしてオリヒロのお願いとは。

今回も2万7千字越え。
ほんとグダグダと長くすみません。
ご無理をなさらない程度に、よろしくお願いします。


「ね、三ヶ木。

 あのさ、よかったら今から家に来ない?

 けーちゃんが、あんたに会いたがっててさ」

 

「あ、ごめん沙希ちゃん。

 今からちょっと行くとこあって」

 

「そ、そっか、ならいい。

 また今度ね。

 ・・・・・・さっきの比企谷の話だけど。

 ・・・あんたさ、馬鹿なこと考えていないよね。

 なんか様子変だったから」

 

「え、な、な、なんにも考えてない、考えてないよ。

 そ、それにさ、馬鹿なことって、さっき話していたダミープロムほど

 馬鹿なことないじゃん」

 

「まぁそうだけどさ。

 ・・・・・・ね、約束だよ。

 何かあったら・・・うううん、何かする前に必ずあたしに相談すること。

 一人で抱え込むんじゃないよ。

 わかった?」

 

「あ、う、うん。

 じゃあ行くね」

 

「・・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

沙希ちゃん、ごめん嘘ついた。

でもわたし馬鹿だから、馬鹿なことしかできないんだ。

・・・けーちゃん元気してるかな。

もう一回、みんなでカレーライス食べたかったなぁ。

・・・はぁ~

あっ、やば、急がないと。

 

”テッテッテッ”

 

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタ”

 

ふ~、やっと着いた、千葉ラッキーってここにあるんだ。

えっと、義輝君、義輝君と。

ん~、どこだどこだ?

いないなぁ~

あ、もしかして沼エースの方に行ったのかなぁ。

 

”キョロキョロ”

 

で、でもさ、なんて言おう。

ダミープロム潰すには、なんとしても義輝君はこっち側についてもらわないと。

戸塚君や結衣ちゃんなら何とかごまかせると思うけど、

義輝君には見抜かれる気がする。

だからなんとしても。

でもどうやって説得しようかなぁ。

う~ん。

 

「ん? お、おう三ヶ木女子ではないか」

 

「ひゃっ、よ、義輝君!

 あ、あ、あの今日はお日柄もよく」

 

「ぬ? お日柄?」

 

な、なに、お日柄って。

だ、だって背後からいきなりだったんだもん。

あ、そ、そんなことより、えっとどうしょう。

なんて言おう。

 

「ごらむごらむ。

 三ヶ木女子もよくここに来るのか?」

 

「あ、う、うん。

 こ、ここで、よく遊んでるんだ。

 さ、さて、今日は何やろうかなぁ~」

 

「お、おうそうか。

 ならば我と格ゲーでもしょうではないか」

 

「格ゲ? あ、うん、格ゲやろ格ゲ」

 

え、えっと格ゲって、あのアタタタタってやるやつ?

あんまりやったことないからよくわからんけど、

と、とにかくボタン押しまくればいいんだよね。

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ~、また負けたー」

 

ボタン押しまくってるのになんで勝てないの?

それに義輝君の方は手からかめはめ波みたいなのが、ドカーンって出てくるし。

なんかわけわからんうちに負けてる。

ようわからん!

 

「よ、弱い、マジ弱いすぎる。

 のう、三ヶ木女子本当にここでよく遊んでるのか?」

 

「う、あ、遊んでるもん。

 か、格ゲはちょっと苦手なだけなんだ。

 じゃあさ、ん~と、あ、あれだ!

 次はあれで勝負しよ」

 

「ぬ? おう、エアホッケーか。

 よかろう勝負してやろう」

 

こ、これなら小学生の時、とうちゃんとやったことある。

これ、時間が来てもゴールさえ入れられなければ、ずっと遊んでられたんだ。

ちょっとパック打ち返すの大変だったけど、とうちゃんとたくさん遊べて

楽しかったなぁ。

わたし結構上手だったからこれは勝つよ。

それに悪いけど、義輝君こういうのは苦手そうだし。 

 

「義輝君、覚悟しな。

 わたし結構強いよ、神レベル」

 

「・・・ふむ。

 よかろう、それではこうしようではないか。

 このゲーム、勝ったほうが負けたほうに一つ言うことを聞いてもらうことが

 できるというのはどうであろう?」

 

ん? 言うこと聞いてもらえる。

あ、チャンス。

わたしが勝てば、義輝君にダミープロム潰すの協力してもらうことができる。

実際、こっち側についてもらう自信、あんまりなかったんだ。

比企谷君とは親友だもんね。

だから、土下座してお願いしようと思ってた。

それでも五分五分かなぁって思ってたんだ。

それが、このゲームに勝てば言うこと聞いてもらえる。

だったら断る理由はない!

 

「いいよ!

 でも絶対言うこと聞いてもらうからね!」

 

「おう。

 我が勝てば、ぐふ、ぐふふふふ」

 

え? なにその下卑た笑みは。

義輝君が勝ったら、わたしに何をさせる気なんだ?

義輝君が言い出しそうなことっていうと・・・・・・

は! も、もしかして、やおもも!

い、いやー!

き、きっとやおもものコス着ろって言うつもりなんだ。

そ、それだけは絶対に嫌。

あ、あんなの着たら、絶対に胸見えちゃうって。

わ、わたし、あんなに胸大きくないから。

ちょ、ちょっと屈んだりしたら絶対に隙間出来てアウトだろ!

い、いやだ、ど、どうしょう。

 

「三ヶ木女子、嫌ならやめておくが」

 

や、やおももはいや、でも義輝君にこっち側についてもらおうとしたら。

ん~どうしよう。

・・・・・・う、うん、大丈夫。

これ自信ある、絶対負けないもん。

 

「い、いいよ。

 わかった」

 

「いいのだな。

 ぐふぐふふふふ」

 

だ、だからその不気味な笑みはやめて。

 

「よ、よし勝負だよ義輝君。

 絶対負けないから」

 

     ・

 

「てやー!」

 

”パコーン”

 

へへ、やっぱり思った通りだ。

義輝君、パックの速さについていけてない。

楽勝楽勝!

わたしの勝ちだよ、これ。

うん、わたしマジ神レベル!

 

「それ」

 

”パコーン”

 

よし、また決まった。

 

「義輝君、3対0だよ。

 もうギブする?」

 

「・・・ふふふふ、ではそろそろいいかの。

 ではいくぞ」

 

”カン”

 

え!

 

”パコーン”

 

は、はや!

パ、パックが見えなかった。

え、 ど、どういうこと?

 

「あ、あの~、義輝君?」

 

「けふこん、けふこん。

 三ヶ木女子! ハンデの時間はもう終わりだ。

 ここからは本気でいかせてもらうから覚悟せい。

 さぁ、さっさと打って参れ!」

 

う、うそ、今まで本気じゃなかったってこと?

そ、そんなことない。

きっと今のまぐれだ。

よ、よし。

 

「えい!」

 

”カン”

 

「あま~い」

 

”パシ!”

 

げ、パックをマレットで押えつけやがった。

すばやい。

さ、さっきまでの動きと全然違う。

マ、マジでハンデだったの?

 

「三ヶ木女子、まだまだよのう。

 パックが止まって見えるぞ。

 では、こちらから参る!

 神に代わって粛清だよ♡」

 

げ、キモ。

なにその決めポーズは。

 

「デスフリスビーセンセーション!」

 

”カーン、カコン、カコン、カコン”

 

げ、え、パックが壁に当たって、え、えっと、右、左、右・・・

 

「ひゃっ!」

 

”パコーン”

 

「もははははは、2対3だ三ヶ木女子。

 あまりの高速である故、パックの動きについてこれまい。

 さぁ、どんどん行くぞ。

 ほれ、覚悟して打って参れ!」

 

ど、どうしょう、つよ、つよいよ義輝君。

このままじゃ負けちゃう。

もし負けたら、きっとやおもものコス。

はっ、き、きっと着るだけじゃすまないんだ。

いろんなポーズ要求されるんだ。

あ、あんなポーズやこんなポーズとか・・・・・・・

い、いやー!

ぜ、絶対負けられん!

 

「え~い、どりゃー」

 

”カン”

 

「なんの」

 

”カン”

 

「くそ、はぁー!」

 

”カン”

 

「ん、お、おい、あれって剣豪さんじゃないか?」

 

「え、あ、剣豪さんだ。

 帰ったんじゃないんだ」

 

「お、おい女子とエアーホッケーやってるぞ。

 剣豪さん、すっげ楽しそう。

 あれ、剣豪さんの彼女さんか?」

 

「え、あ、あの人は確か」

 

「相模、知り合いか?」

 

「た、たしか姉の」

 

”カコン”

 

「ひゃ、あぶな。

 うりゃー!」

 

”カン”

 

「むはははは、まだまだよの。

 それ」

 

”カン”

 

「ぐぅおー、この野郎死ね、とりゃー!」

 

”カン”

 

「・・・・・・相模」

 

「い、いや、し、知らない。

 あんな人知らない」

 

「そ、そっか。

 ・・・帰ろっか」

 

”スタスタスタ”

 

「けふこん、隙あり!」

 

”カン!”

 

げ、や、やば。

反応が遅れた!

 

”パコーン”

 

「ぬほほほん」

 

げ、これで3対3、ど、同点。

ど、ど、ど、どうしょう。

まともにやっても勝てる気がしない。

ゲームの時間的にもそろそろだよね。

次、点取られたら負ける。

あ、でも逆に1点取れたら・・・

よ、よし絶対勝つんだ!

 

「とりゃ!」

 

”カン”

 

「むはははは!」

 

”パシ”

 

げ、ま、またパック押えやがった。

は、ということはまたあの技が。

 

「行くぞ三ヶ木女子!

 神に代わって粛清だよ♡」

 

い、いやキモいから、ほんと!

いちいちそれやらないとダメなの?

あ、いやそんなことより。

 

「デスフリスビーセンセーション!」

 

”カーン、カコン、カコン、カコン”

 

き、きた!

右、左、右、え、えっと。

え、えい

 

”パス”

 

と、止めた、パック止めたぞ・・・・・・手で。

いたたた、めっちゃ痛かった。

あ、で、でも故意じゃないから。

マレット持ってる手にパックが当たって偶然、偶然だから。

 

「ちょ、ちょっとまて~い!

 三ヶ木女子、今パックを手で止めたであろう!」

 

げ、やっぱ見てたのか。

・・・そ、そうだ、ここはしらばっくれてっと。

 

「は、はぁ? な、なんのこと?

 そんなことするわけないじゃん。

 ちゃんとマレットで止めたよ」

 

「い、いや、確かに我は見た」

 

「そ、そんなこと言うんなら、ほらこっちに来て手を見てよ。

 手で止めたんなら赤くなってると思うから。

 ほらこっち来て、よく手を見てみて。

 はいどうぞ」

 

「ふむ、どれ」

 

”スタスタ”

 

チャンス、かかった!。

もっとこっち歩いてこい。

よ、よし、今ならゴール前がら空き。

 

「馬鹿め、かかったな!

 乙女の純潔を汚すこの不埒者に聖なる鉄槌を!

 必殺エクスプロージョン!

 どりゃー!」

 

”カーン”

 

「あ、あわわわ、ひ、卑怯!」

 

”カコーン”

 

「あ!」

 

くそー、は、外れた!

ゴールの横の壁に。

 

”パシ”

 

「はぁ、はぁ、ふぅ~。

 あ、危なかった。

 三ヶ木女子、この卑怯なる企て、その報い受けてもらうぞ!」

 

やば、またパッド押えられた。

ま、またあれやるつもりだ。

えっとデスフリスビーなんとか。

 

「いざ、受けてみよ!

 天空より駆け下りし正義の破壊神!

 メテオストライクⅡ、材木座バージョン!」

 

え、メテオ何とか?

さっきの技と違うの?

ど、どんな技なんだ。

 

「そりゃ!」

 

”カーン、カコン、カコン、カコン”

 

「お、おい!

 デス何とかと一緒だろ!」

 

え、えっと右、左、こ、ここだ!

 

「メテオストライク返し!」

 

”スカ”

 

「あっ!」

 

”パコーン”

 

げ、げげ!

 

「けふけふ、見たか正義の破壊神の威力!

 逆転だ。

 どうやら我の勝ちのようだな」

 

な、ま、まだ!

も、もう一回・・・・・・

あ、あれパックがでてこない。

え、時間切れ?

 

「・・・・・・う、うそ」

 

ま、負け?・・・・・・・や、やだー!

 

「三ヶ木女子、4体3で我の勝ちだ。

 では我の言うこと聞いて貰うぞ。

 ぐふ、ぐふふふふ」

 

い、言うことって、やっぱりやおもものコスであんなポーズやこんなポーズを?

う、う~いやだ、恥ずかしい。

 

”ガタガタガタ”

 

「あ、そ、そうだ、今日、予定があったんだ。

 じゃ、じゃあまた今度ね、義輝君」

 

”ガシ”

 

「ふふふ、逃がしはぬ」

 

「よ、義輝君、あ、あの、や、やっぱなしってことで」

 

「いや、神の前で誓った神聖な約束。

 絶対に守ってもらうぞ!」

 

「いや、誓ってないし、神の前でなんて誓ってないし」

 

「ええい、往生際が悪い!

 ほれ行くぞ」

 

”ぐいぐい”

 

え、どこ、どこ連れていかれるの?

も、もしかして義輝君の部屋に連れ込まれて。

あ、そんで、目の前で着替えろとか。

 

「いやー、義輝君のエッチ!

 スケベ、ド変態、エロ中二!」

 

「ば、馬鹿者―

 でかい声で、な、なにを言い出すのだ。

 ほれ、さっさと我とプリクラを撮ってもらうぞ」

 

「うわ~ん、義輝君の馬鹿ー、もうお嫁にいけない。

 ・・・・・・え?

 えっと~、プリクラ?

 義輝君、プリクラでいいの?」 

 

「うむ、い、一度撮ってみたかったのだ。

 だがここにはカップルでないと近寄ることさえできぬ。

 すぐ店員がよってくるのだ。

 だ、だから今日こそは」

 

「ふぅ、な~んだそんなことか。

 そんなの言ってくれればいくらでも一緒に撮るのに。

 ほら、いこ、義輝君」

 

”にぎ”

 

「ぬおー、手、手。

 あ、あの~三ヶ木女子」

 

「ほら行くよ」

 

「お、おう」

 

     ・

 

「義輝君、顔でかいんだからもっとこっち来ないと入らないよ。

 ほら、はやく。」

 

「むおー

 そ、それは絶対に言ってはいけないこと」

 

「いいから、もっとこっち来て」

 

”ぐぃ”

 

「い、いや、近い、近い、近すぎでは。

 ほ、ほら髪の毛が顔に触れて、それに、はぁ~いい匂い。」

 

「なに言ってんの馬鹿!

 じゃいい? 撮るよ。

 はい、ピーナッツ!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お待たせしました。

 コーヒーとミルクティ―、それとチーズケーキです。

 ご注文はすべてお揃いですか?

 それではごゆっくり」

 

「義輝君、ほんとにいいの?」

 

「お、おう、遠慮せず召し上がるがよかろう。

 プ、プリクラのお礼・・・だから」

 

「えへ。

 じゃあ、遠慮なくいただきま~す」

 

”パク”

 

「ん~おいしい~」

 

”パクパク”

 

「ふむ、ふむ」

 

「な、なに?

 え、何か顔に付いてる?」

 

「や、や、やっぱり、み、三ヶ木女子は食べてる時の笑顔が一番だと」

 

「は、なに言ってんの・・・馬鹿。

 あ、でもなんか楽しかった。

 子供の頃、あの公園でいろいろ遊んだじゃん。

 あの頃のこと思い出しちゃった」

 

「そうだの。

 駆けっことか、ブランコでの靴飛ばしとか」

 

「あと、探検!

 いろんなとこ探検したね」

 

「ふむふむ。

 それで人の家に入り込んでしまってよく怒られたの」

 

「そうそう。

 あ、前から聞きたかったんだ。

 昔は美佳っペって言ってたじゃん。

 なんで今は三ヶ木女子なの?」

 

「そ、それは・・・・・・

 そ、そうだ三ヶ木女子、本当はなんの用事だったのだ?」

 

「え?」

 

「さっきのゲームの腕を見ていればわかる。

 いつもここでゲームをしてるというのは嘘であろう。

 ここに来るのも初めてなのではないのか?」

 

「う、うん」

 

「で、我に何の用事なのだ?」

 

「あ、あのね~、ちょっとお願いが 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「三ヶ木女子、マジでそのようなこと考えているのか?」

 

「うん」

 

「だがそんなことしたら、あやつは 」

 

「・・・わかってる。

 多分めっちゃ怒ると思う。

 きっともう今までのような感じではいられない。

 でもさ、こうするしかないんだ。

 だから、協力してほしい」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・義輝君」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・断る。

 我は協力できぬ」

 

「な、なんで?」

 

「三ヶ木女子・・・・・・我にはそれが一番いい方法とは思えぬ。

 他にも何か方法があるのではないか?」

 

「これしか・・・ないんだよ。

 わたしはゆきのんの願い叶えたい。

 でも、比企谷君と結衣ちゃんのゆきのんへの想いもわかる。

 だからこうするしかないんだ」

 

「・・・・・・」

 

「あのね、わたしね思うんだ。

 プロムが仮にできなくなっても、それに向けて精一杯頑張ったってことのほうが

 大事じゃないかって。

 それで、今回なにが悪かったのかとか、何が足りなかったのかとか反省してね、

 それを糧にして、次また頑張ればいいと思うんだ。

 そのやり遂げるって気持ちさえ持ち続ければ、これからまだまだ絶対に

 チャンスはある。

 でもさ、ここでダミープロムのおかげでプロムができるようになったら、

 ゆきのん、なんかすごく後悔するんじゃないかって思うんだ。

 また助けられたって。

 そうしたらきっとゆきのん達の関係がおかしくなって。

 だからわたしが悪者になってダミープロムを潰す。

 そうすればきっと・・・・・・

 だから、だからさ、」

 

”ぺこ”

 

「義輝君お願い、わたしに協力して。

 協力してくれたら、わたし・・・・・・な、なんでもする」

 

「・・・・・・・」

 

「お願いします」

 

「・・・・・・ふむ、それなら我と付き合ってもらおう」

 

「えっ」

 

「我の恋人になるっというのなら協力しよう」

 

「・・・・・・恋人に」

 

「・・・・・・そうだ」

 

「・・・・・・」

 

「できまい。

 だったらこの話はなかったこと 」

 

「・・・なる」

 

「へ?」

 

「いいよ。

 で、でも少しだけ時間下さい。

 少しだけ」

 

「本当なのだな」

 

”こく”

 

「・・・・・・三ヶ木女子」

 

「・・・・・・」

 

「ふぅ~

 やっぱり我は協力できん」

 

「な、なんで、なんでさ。

 わたし、恋人になる、義輝君の恋人になる。

 な、なんならやおもも、やおもものコス着てもいい。

 そ、そんであんなポーズやこんなポーズなんかも。

 義輝君の言うこと何でも聞くから」

 

”ガタン!”

 

「もういい!

 そんなつらそうな顔見せるでない。

 なぁ、 三ヶ木女子・・・・・・美佳っペ。

 我に美佳っペが傷つくとわかっていることに協力しろというのか。

 そんなことできるはずなんかないじゃないか。

 我は、我は、ずっと前から美佳っペのことが・・・・・・

 少しは、我の気持ちも考えてくれ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・す、すまぬ、大きな声を出した。

 それと変なことも。

 忘れてくれるとありがたい」

 

「・・・・・・わたしこそごめん」

 

「協力はできん、しかしこの件は他言は絶対せぬゆえ安心するがよかろう。

 では、我はそろそろ帰るとしよう」

 

”すく”

 

「よ、義輝君、あ、あのさ」

 

「サラダバー、三ヶ木女子!

 ・・・・・・また明日」

 

「あ、う、うん。

 また明日」

 

”スタスタスタ”

 

・・・・・義輝君。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”トボトボトボ””

 

放課後に特別棟の二階に集合っか。

はぁ~、義輝君も来てるかなぁ。

いや義輝君からの連絡だって比企谷君言ってたから絶対来てる。

・・・顔合わせにくいなぁ、な、なんか恥ずかしい。

ん?

あ、体育館倉庫、明かりが点いてる。

生徒会、誰かいるのかなぁ

でも確か昨日学校から自粛って言われたはずだけど?

 

”ガラガラガラ”

 

「あ、藤沢ちゃん」

 

「三ヶ木先輩!」

 

「どうしたの?

 確かプロム自粛って」

 

「え、あ、昨日、いろはちゃんから連絡があって 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふ~ん、ガイドラインにSNSアップ禁止、え、プロのカメラマン?

 ね、藤沢ちゃん、プロのカメラマンに写真撮ってもらうの?」

 

「はい、そうみたいですよ」

 

「そ、それって無料?」

 

「いえ、販売だそうです」

 

「あ、そう。

 無料じゃないのか~」

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、比企谷君。

 藤沢ちゃん、ちょっとごめん」

 

「はい。」

 

”スタスタスタ”

 

「もしもし、三ヶ木だよ♡」

 

「お、おう。

 今な、遊戯部の部室で打ち合わせしてるんだが、お前今日は来れるか?」

 

「あ!

 ご、ごめん、今ね生徒会のほうに来てるんだ。

 あと、後から行くね」

 

「そっか。

 あ、いやそれなら今日はそっち手伝ってやってくれ。

 今日決めたこととかは、後から連絡するから。

 あ、それに明日も放課後に遊戯部の部室に集合なんだが」

 

「う、うん、わかった。

 明日は必ず行くね。

 じゃ、また後で」

 

「おう」

 

しまった。

ダミープロムの件、すっかり忘れちゃった。

 

「三ヶ木先輩、もしかして何か用事が?」

 

「え、ああ、大丈夫、大丈夫。

 それより、これさっさと仕上げちゃおう」

 

「はい」

 

”タッタツタッ”

 

「こんち、遅くなり、 あ、ジミ子先輩!」

 

「・・・・・・舞ちゃん、もうその呼び名やめて」

 

「すみませ~ん、遅くなりました。

 あ、美佳・・・ジミ子先輩ご苦労様です」

 

「小町ちゃんまで

 しかも言い直したし」

 

「ご、ごめんなさい、に、日直で遅くなりました。

 あ、ジ、ジ、ジミ子先輩こんにちわ」

 

「げ、鈴ちゃんまで・・・・・・う~

 鈴ちゃん、ジミ子はやめて」

 

「え、ジミ子って、ほ、本名じゃないんですか?」

 

「ジミ子なんてそんな名前の人いないから!」

 

「で、でも、ま、蒔田先輩に聞いたら本名だって」

 

「舞ちゃん、お前か!」

 

「いや~、そのほうが親しみがわくというか~

 や、やば

 ご、ごめんなさ~い」

 

”ダー”

 

「ま、待てー」

 

”ダー”

 

「すまん、おそく 」

 

”ドン!”

 

「おわー

 な、なんだ?」

 

「あ、ご、ごめん清川君」

 

「まったく、なに騒いんでんだ。

 いい年なんだからいい加減に落ち着いた 」

 

”ベシ”

 

「いてぇ」

 

「いい年って言うな、い、一個しか変わらないんだから」

 

「清川君、ご苦労さま。

 ね、柄沢君知らない?」

 

「え、あれ、藤沢、こっちに来てなかったのか?

 教室にはいなかったぞ。

 だから俺はてっきり」

 

「そ、そう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「お疲れ様」

 

「ご苦労様でした」

 

「また明日です」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、もう比企谷君のほうは終わっちゃったよね

何か決まったのかなぁ。

確か後から連絡するって。

ん~とスマホにメールか何か?

 

”カシャカシャ”

 

ふむ、まだ連絡入ってないか。

じゃあ、ちょっと電話かけてみよっと。

 

”カシャ”

 

「駅前にあったよな」

 

「うん、あったあった」

 

え、あ、比企谷君・・・・・・と結衣ちゃん。

あ、比企谷君、今日は自転車じゃないんだ。

二人並んで歩きながら何話してるんだろう。

すごく楽しそう。

くやしいけど、お似合いだよ。

わたしなんかよりずっとずっとお似合い・・・誰がどう見ても。

う~、なんか、なんか!

比企谷君のお馬鹿。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ヒュ~”

 

う~さみー、めっちゃ寒くなってきた。

とっくに日も沈んでもう真っ暗。

カイロ持ってくればよかった。

なにやってんだろわたし。

なんでついてきちゃったんだろう。

ついてきてどうする気だったの?

わからない、でも、でも、でも!

 

”ポタ、ポタポタ、ポタポタポタ”

 

げ、雨降ってきた。

やば、ちっとこの入り口のとこで雨宿りさせてもらわないと。

・・・はぁ~、ネットカフェっか。

二人がこの中に消えて何時間経ったんだろう。

まだ出てこない。

何してるんだろう、二人っきりで。

きっと、きっとさ、手とか繋いだり見つめあったり、そんでキ、キスとか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最低!

最低、最低、最低、最低・・・・・・ほんと最低!!

何考えてんだわたし。

彼を誰だと思ってんだ。

彼は”理性の化け物”、あの比企谷八幡だよ。

こんなわたしなんかと一緒にするんじゃない!

きっと二人は、二人にとってとても大事な人を助けるため頑張ってるんだ。

それなのにわたしは・・・・・・キスとかそんなことばっかり考えて。

ほんと”欲求不満の塊”だよ、わたしは。

何考えてんだ、最低。

・・・そして、わたしはその二人の想いを潰す、潰さなきゃいけない。

・・・・・帰ろ。

わたしはここにいるべきじゃない。

 

”ダー”

 

「おわっ!」

 

”ドン”

 

「きゃっ。

 あ、ご、ごめんなさい」

 

「あたたた。

 ん、三ヶ木じゃないか。

 お前こんなところでなにしてんだ?

 傘も差さないで」

 

「へ? あ、広川先生。

 あ、あの、ほ、ほらここ、ネットカフェでちょっとDVD観てて」

 

「・・・そうか。

 あ、そうだ。

 なぁ、お前今からちょっと時間あるか?」

 

「え、あ、う、うん」

 

「だったら、ちょっと付き合え」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

”プシュー”

 

「あ、すみません、今日はもう終わって

 ん? あ~、広川君か」

 

「親父さん、ご苦労様です」

 

「ああ、ご苦労様。

 おや、今日は彼女連れかい?」

 

「あ、いえこいつは俺の学校の生徒で」

 

「あ、こんばんわです。

 あの、広川先生の愛人で三ヶ木美佳といいます」

 

”ペコ”

 

「お、おい!」

 

「ほほほ。

 そうか、お嬢ちゃんが美佳ちゃんかい。

 広川君に聞いてた通りの子だね」

 

「へ? あ、はい、どうもです」

 

え? なにそのおじさんの笑顔。

聞いてた通りでどんな風に聞いてたんだ。

きっと碌なこと言ってないはず。

くそ、後で問い詰めてやる。

それよりさ、広川先生って駅前のケーキ屋さんと知り合いだったんだ。

でもなんの用事だろ?

は、もしかしてケーキ奢ってくれるの?

やった、儲け儲け。

どれにしようかなぁ。

 

「親父さん、ようやく辞表受理して頂きました。

 実際には4月からになると思いますが宜しくお願いします」

 

「おお、そうかい。

 いや、こちらこそ無理を聞いてもらってありがとう。

 すまなかったね、よろしく頼むよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「辞表? あ、あの先生、辞表って」

 

”ぎゅるるるる”

 

「ふぇー、ご、ごめんなさい!」

 

な、なんでこんなときにお腹が。

広川先生が学校やめるって大事なお話なのに。

で、でも、お腹すいた。

だって、もうとっくに晩ご飯の時間過ぎてるから。

 

「ははは、いやいや。

 そうだ何か食べるかい?

 といってもケーキしかないけど。

 どれがいいいかね」

 

「え、ほんとですか!

 あ、どれでも。

 わたしここのお店のケーキどれも大好きです。

 とっても美味しいから」

 

「そうかいそうかい。

 ありがとうね。

 よし、じゃ当店自慢の隅っこ弁当食べるかい?」

 

「へ、ほ、ほんとですか~

 隅っこ弁当、食べたかったんです。

 で、でも何時も売り切れだったから」

 

「それじゃそこに座ってて待ってておくれ。

 今コーヒーでも淹れてこよう」

 

「あ、ありがとございま~す」

 

ぐへへ、や、やっとあの夢にまで見た隅っこ弁当が。

あれってさ、いろんなケーキの切り落としがいっぱい入ってんだよね。

それを生クリームとフルーツでデコデコされてて。

中身がなに入ってるかわからないからそれも楽しみで。

げへ、え~とケーキケースをよく見ておこっと。

何が入ってるかなぁ。

・・・・・ん?

えっと、でもその前になにか重要なことが?

あ、そ、そうだった。

 

「ね、ねぇ広川先生、さっき学校やめるって」

 

「ん、ああ。

 実はな、ずっと前から親父さんからそろそろ年だから店をやめるって聞いててな。

 親父さん頑張ってきたの知ってるからすごく残念でな。

 俺にとっても大学の頃バイトさせてもらってた想い出の店だし。

 このままこの店が無くなるのってとても寂しいから。

 でな、いろいろ考えていたんだが、俺が引き継ぐことにした。

 まぁ、しばらくは二人で共同経営だがな。

 その間に何とか親父さんの味を引き続ぐつもりだ」

 

「先生」

 

「そんな心配そうな顔するな。

 それに俺にその決断をさせたのはお前なんだからな」

 

「え、わたし?」

 

「憶えているか去年の4月ころだったかな。

 あの時もお前、泣いて学校走ってたろ」

 

「あ、進路相談の時」

 

「ああ。

 あの時な、俺のケーキをすごく美味しそうに食べてくれて、それで笑顔になった

 お前を見て思ったんだ。

 俺のケーキで人を笑顔にできるんだって。

 それで俺は決心した」

 

「せ、先生」

 

「まぁ、いずれはケーキ屋やろうと思ってたんだけどな。

 やっと学校も辞表受領してくれたんでな」

 

「で、でも先生、平塚先生は了解してくれたの?」

 

「はは、ちゃんと話しよと思ったんだけど、なかなか話できなくてな。

 だって怖いから。

 いや~それで話する前に辞表見つかってしまって、すげ~怒られた。

 それ以来一言も口きいてくれない」

 

「それでも先生ケーキ屋さんやるの?」

 

「ああ。

 自分の信じた道だ、俺は後悔したくない。

 それにいつかきっと静ちゃんもわかってくれると信じてる」

 

自分の信じた道。

いつかきっとわかってくれるっか。

・・・・・・そっか。

 

「うん、先生頑張ってね。

 わたしいっぱい買いに来るから」

 

「おお。

 この店をやっていけるかどうかはお前にかかっている。

 有り金残らずもってこい」

 

「・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、先生ここでいいよ。

 この角曲がったらアパートだから」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「な、なぁ三ヶ木。

 お前何かあったのか?」

 

「・・・・・・・」

 

「何かあったのか?」

 

「うううん、大丈夫。

 あのね、先生のお話聞いてたら解決した。

 めっちゃ元気貰った。

 先生、いつもありがと。

 学校やめても、先生はずっとわたしの先生だよ、わたしの憧れ」

 

「そ、そうか」

 

「うん。

 それじゃ、お休みなさい」

 

”ペコ”

 

「ああ、お休み」

 

先生、ありがと。

わたしも自分が信じたこと頑張るよ。

わたしにはこんなやり方しか出ないけど、それでもやっぱり後悔したくはない。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ここでいいんだよね。

えっと遊戯部の部室だって言ってはず。

なんか緊張する。

 

「す~、はぁ~、す~、は~」

 

よし、は、入ろ。

 

”ガラガラ”

 

「こ、こんちは」

 

「おう三ヶ木、やっはろー」

 

え、比企谷君がやっはろーって?

 

「ぬほほほ、やっはろー」

 

「や、やっはろー」

 

「やっはろーさんです」

 

「あ、さがみんの弟さん。

 こんにちわ、お久しぶり」

 

「ど、どうも」

 

あ、そ、そんなことより、なんでみんなやっはろーなの?

え、えっと~いつからみんなやっはろー教の信者に?

 

「ううううう、や、やっはろー」

 

結衣ちゃん、なんか下向いて赤くなってる。

なに、なにがあったの?

 

「あ、あの~」

 

「三ヶ木、今日からこの実行委員会でのあいさつはやっはろーに統一した」

 

「ヒ、ヒッキーの馬鹿!」

 

”ポカポカ”

 

「お、おいやめろ由比ヶ浜」

 

「「あはははは」」

 

そういうことか。

・・・気のせいかなぁ。

何か二人の距離がすごく近くなった気がする。

やっぱりネットカフェで何かあったの?

それに昨日は結局連絡なかった。

わたしずっとスマホの前で待ってたのに。

わたしのことなんてきっと忘れて・・・

 

「三ヶ木、どうかしたのか?」

 

「え、あ、うううん、なんでもない」

 

     ・

     ・

     ・

 

「つまり、このダミープロムの信憑性を高めるために、部長会の

 名前を貸してもらうってことだよね。

 わたし、部長会の事務局さんなら知ってるから当たってみるね」

 

「ああ、部長会の看板を借りられれば、このダミープロムの信憑性を

 かなり高めることができる。

 なんなら、俺も一緒に行くわ」

 

「あ、いいよ、わたし一人で大丈夫」

 

部長会の事務局って、確かサッカー部の子だったよね。

こんなダミーの計画に部長会の名前使わせるわけにはいかない。

ここは断られたってことにしないと。

なるべく他の人に迷惑をかけないようにしないといけない。

 

「そっか、じゃすまんが頼む。

 あと祝ってもらうほう、三年生の意見もほしいな」

 

「三年生でっていうとやっぱり隼人君だよね」

 

「そうだな、葉山の協力を得られることになったら大きい。

 あいつの影響力は半端ないからな。

 部長会のほうは三ヶ木に任せて、俺は葉山のとこ行ってくるか」

 

「あ、隼人君ならあたしもいくね」

 

「ああ、そうだな。

 由比ヶ浜がいたほうがいいかもしれん」

 

「じゃ、あたしから連絡しておくね」

 

「ちっ」

 

「え、み、美佳っち?」

 

あ、や、やば、つい声に出ちゃった。

ど、どうしよう

え、えっと

 

「ちっ、ちっくしょん!」

 

「おい、三ヶ木風邪か? 大丈夫か?」

 

「あ、う、うん、大丈夫。

 驚かせてごめんなさい」

 

ふ~、な、なんとかごまかせた。

でも、そっかー葉山君はまずいなぁ。

結衣ちゃん達と話す前になんとか手を打っておかないと。

 

「あのさ、部活終わっちゃうとマズイから、そろそろ部長会の方

 行ってくるね。

 それからその後、ちょっと生徒会の方顔出してくる」

 

「おう、吉報を待っているぞ三ヶ木」

 

「頑張って美佳っち」

 

「う、うん」

 

”ガラガラ”

 

「はぁ~」

 

さて、どうしょうかなぁ。

わたし葉山君の電話番号知らないし。

誰か知ってる人・・・・・・あ、ジャリっ娘!

ジャリっ娘なら知ってるはず。

でもな、なんかいろいろ聞かれそうだし。

それにゆきのんと一緒だろうしなぁ。

ん~どうしょう。

あ、そうだ。

部長会の事務局さん、サッカー部の部長だった。

彼ならきっと知ってるはず。

よし取り合えずグラウンドまで行ってみようっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ワー、ワー”

 

おーおーやってるやってる。

いや~元気だね、若いっていいなぁ~って、おい!

たははは、わたしゃ幾つだって言うの。

 

「あんれー三ヶ木ちゃんじゃね」

 

「やぁ、今日はどうしたんだい?」

 

え、あ、あれって葉山君と戸部君?

なんでグラウンドに?

 

「あ、あの、ちょ、ちょっと学校に用事があって。

 葉山君たちは部活?」

 

「この高校に来るのもあと少しだけだからね。

 いままでお世話になったお返しに練習の手伝いをね」

 

そっか、部活の練習手伝ってんだ。

結衣ちゃん、もう葉山君に連絡したかなぁ。

葉山君にダミープロムに協力されると非常にやばい。

だからちゃんとお願いしないと。

 

「へ~、感心感心。

 ・・・・・あ、そ、そうだ。

 あのさ葉山君、ちょっと話があるんだ。

 少しだけいい?」

 

「ん? どうしたんだい改まって」

 

「あ、あのできれば二人っきりで。

 あ、そ、そんな感じの話じゃないから」

 

「わかってるよ。

 戸部すまない、先行っててくれないか?」

 

「んじゃ先行ってるペ。

 三ヶ木ちゃん、またね」

 

「うん、ごめん戸部君」

 

”スタスタ”

 

「で、どうしたんだい?」

 

「あのね」

 

     ・

 

「そうか、さっきの結衣からの電話はそういうことか。

 ダミープロム、彼らしいといえば彼らしいが」

 

「うん。

 だから葉山君には絶対協力しないでほしいんだ」

 

「・・・君はそれでいいのかい?」

 

「え?」

 

「それは比企谷のやろうとしていることの足を引っ張ることになる。

 君はそれでいいのかい?

 それよりもなぜ、君はダミープロムを潰そうとしてるんだい?

 確かに確実な方法じゃない。

 だが、もし2つのプロムの内、どちらかを選ばせるような状況にもっていけたら、

 プロムがやれる可能性はあるんじゃないか?」

 

「・・・・・・理由は・・・言えない」

 

ゆきのんのため、ゆきのんの願いをかなえるため。

それと奉仕部の三人のあの雰囲気を守るため。

そのためわたしは・・・

でも、もしそのことがゆきのんや比企谷君に知られたら。

だから・・・・・・言えない。

 

「理由は言えないっか。

 そうか、わかった。

 今日、部活の後、比企谷に会うことにする。

 そこで、彼の話を聞いてそれから協力するかどうか判断する」

 

「は、葉山君」

 

「結衣と約束したからね。

 それに彼の話を聞けば、君がなぜ彼の邪魔をしようとするのかが

 わかるかもしれない」

 

「葉山君」

 

「心配しなくていいよ。

 君のことは比企谷達には言わない。

 じゃ、部活の途中だから行くね」

 

「・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

はぁ~葉山君、説得することできなかった。

話を聞いてから判断するっか。

もしダミープロムに協力されたら万事休すだよ。

はぁ~

あ、やば、もうこんな時間。

めっちゃ遅くなっちゃった。

完全下校時間まであんま時間ないじゃん。

 

”テッテッテッ”

 

あ、体育館倉庫の照明まだ点いてる。

よかった、まだみんないたんだ。

 

”ガラガラ”

 

「みんなやっはろー」

 

「え?」

 

「はぁ?」

 

「や、やっはろー?」

 

「・・・・・・・・・・・ご苦労様です、はい」

 

し、しまったー、つ、ついやっはろーって言っちゃった。

み、みんながなんか痛い子を見るような目で。

 

「あ、あのー、ジミ子先輩。

 やっはろーって」

 

「え、えっと、あは、あははは。

 い、いや~熱いね~。

 い、今飲み物買ってくるね」

 

”ダー”

 

も、もう、比企谷君のバカ!

はぁ~

・・・・・・え、えっと何人いたっけ。

会長とゆきのんはきっと生徒会室だよね。

藤沢ちゃん、舞ちゃん、清川君、小町ちゃん、鈴ちゃん・・・・

あれ、柄沢君いなかった。

どうしたんだろう?

確か昨日も来てなかったし。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「あ、もしもし玉繩君?」

 

     ・

 

「うん久しぶり。

 あのね、ちょっと話があるんだ。

 今、少しいい?」

 

     ・

 

「うん、ありがと。

 あのね」

 

昨日、あの後比企谷君から連絡があってこのダミープロムに、海浜総合高校を

巻き込むことを聞いた。

部長会のみならず、よその学校まで。

そんなことだめだよ、やり過ぎだよ。

・・・幸いさ、一昨年のクリスマスイベントの件があって、

玉繩君とは知り合いになれててよかった。

彼を通じて向こうの生徒会に話してもらわないと。

さて、それと今日は・・・

寒そうだなぁ~、今日はカイロ持っていこうっと。

 

     ・

     ・

     ・

 

”バシャバシャ!

 

「ひー、海老名やめ、冷たい!」

 

「ぐふふふ、それ結衣も」

 

「きゃ、ちょ、ひ、姫菜」

 

はぁー、やっぱ敵わないなぁ。

海で戯れる結衣ちゃん達。

やっぱすっごく絵になる。

ほんとかわいくて、綺麗で、腐女子で。

見惚れちゃう。

比企谷君もさっきから夢中で写真撮りまくってるし。

 

あ~あ、昨日あんだけいっぱいの”るてるて坊主”吊るしたのに。

さっきまでの雨空がウソみたいじゃん。

撮影始まったらすっかり青空。

さすがリア充、お天気まで変えちゃうんだ。

 

「三ヶ木、レフ版ずれてっぞ。

 ちゃんとモデルを照らしてくれ!」

 

「あ、う、うん、ごめん。

 これでいい?」

 

む、むー!

すげぇ、腹立つ!

これ、結構重たいんだよ。

撮影始まってからずっと持ってるのに。

もう少し労わってくれてもいいじゃんか。

実際、ほら、う、腕がプルプルって。

もう限界。

 

「三ヶ木!」

 

「あ、はい!

 ごめんなさい」

 

なんか、くやしい、くやしいよ~

 

「よしこれぐらいでいいだろう。

 由比ヶ浜、ご苦労さん」

 

お、終わった。

う~、疲れたー

 

腕は痛いわ、風で髪はぼさぼさだわ、さみいし、怒られるし、もう最悪ー

 

「三ヶ木、お前も写真撮ってやるよ」

 

「や、やめ、カメラ向けないで」

 

なに言ってんだこいつ。。

こんな状態で写真なんか撮るな。

せ、せめて、髪ぐらいとかせろ。

それに絶対めっちゃ疲れた顔してるはずだし。

 

「ほら、撮るぞ」

 

「や、やめてって」

 

「はい、3、2、1、ピーナッツ」

 

「う~、もう! ピーナッツ♡」

 

”ビュ~”

 

「きゃ~、スカートが」

 

”カシャ”

 

「あ、白、やっぱり白」

 

「お、おい、いまの撮ったんじゃないだろうな!」

 

「い、いや、何のことだ」

 

「貴様、見せてみろカメラ!

 げ、やっぱ、パンチラ撮ってんじゃん!

 け、消せ!、すぐこれ消せ!」

 

「断る!」

 

「は、はぁー!」

 

な、なにこいつ、開き直りやがった。

よしそれなら実力行使で。

まずは一発、ベシってチョップを。

 

「こんな素晴らしいもん消せるわけがない!

 これは我が家の家宝として子々孫々伝えていく」

 

「や、やめろー、それだけはやめろ」

 

「それに・・・」

 

「え?」

 

「俺、お前の写真、お前だけの写真持ってない」

 

「・・・・・・」

 

「だ、だから! これは絶対に消さない」

 

「ば、馬鹿!

 も、も、もう知らない」

 

”スタスタ”

 

「・・・あ、あとから、わたしの写真、メールするから」

 

「え、あ、お、おう」

 

「さ、先帰る、ば~か♡」

 

”スタスタスタ”

 

「あれ? 美佳っちどうしたの?」

 

「あ、あ、え、えっと、用事、なんか用事あるそうだ」

 

「ふ~ん。

 あ、ヒッキー、今日撮った写真見せて」

 

「あ、いや、今はちょっと」

 

「はぁ! いいからヒキオ見せろし」

 

「お、おい」

 

”カバッ”

 

「「・・・・・・」」

 

「ヒキオ、最低」

 

「いや~比企谷君もやっぱり男子だねぇ~」

 

「ヒッキ~、なに撮ってるの」

 

「・・・・・い、いや、偶然だ、偶然風が」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ば、ばっか、ほんと比企谷君の馬鹿。

へ、へへへへへ、でもちょっと嬉しい。

なんかいい写真あったかなぁ。

わたしでもそれなりに写ってるやつ。

早く帰って、パソコンに保存しているのチェックしなくちゃ。

・・・でも、やっぱ、パンチラ消してほしい。

しかも子々孫々って。

 

”ぶるぶる”

 

うぉ~さむ~

やっぱこの時期の海は寒いや。

よくこんな海に入れたもんだよ、結衣ちゃん達。

ん? あ、あれって。

 

”タッタッタッ”

 

やっぱりそうだ。 

あそこに座ってんの柄沢君。

でも、こんなところでなにしてんだろう?

いま頃ここにいるってことは、今日も生徒会行ってないのか。

ほんとどうしたんだろ?

 

「お~い、柄沢君」

 

「あっ!」

 

”ダー”

 

え?

あ、あれ、に、逃げられた?

なんで?

でも、逃がすか!

 

「ま、待ってー」

 

”ダー”

 

ひゃ~、柄沢君、走るの早い、早いよ。

もうあんなとこまで。

 

”ガシッ”

 

え、あ、やば、足が絡まって。

だ、だめ、それは絶対いやー

うー、ぐぐぐ、あ、だ、駄目~

 

「い、いやー!」

 

”バシャーン!!”

 

・・・・・・・お、終わった。

よりによって顔面から海に。

ち、ちめたい、しょっぱい。

 

”ザッブ~ン”

 

げ、追い打ちの波が。

はぁ~、終わったなぁ~、わたしの人生終わったなぁ~

このまま流されて、どこかに行っちゃうんだろうな~

 

「だ、大丈夫ですか!

 何やってんですか三ヶ木先輩。

 ほら、そんなところでうつ伏せで固まってないで、起きてください」

 

「・・・・・・だって」

 

”ビュ~”

 

「ひゃー、寒い!」

 

「もう、本当に何やってんですか」

 

”バサッ”

 

えっ、コート。

柄沢君、自分のコートを。

で、でも汚れちゃうよ。

 

「柄沢君」

 

「ほら、あっちのまだ風の来ないとこ行きますよ」

 

「あ、う、うん。

 でもコートが 」

 

「ほら行きますよ」

 

”トボトボトボ”

 

「う~、寒い」

 

「全く当たり前ですよ。

 こんな時期に海に入るなんて」

 

「い、いや、だって、好きで入ったわけじゃ。

 でもどうしょう、びしょ濡れ」

 

「あ、そうだ、ちょっと待てて下さい」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、秀じいちゃん?

 ん、俺。

 すまない、今迎えに来れるかい」

 

え、電話?

秀じいちゃんてって誰?

 

「うん、助かるよ。

 あ、学校じゃないんだ、学校の近くの海岸。

 じゃ、着きそうになったら連絡してくれるかい。

 よろしく」

 

「え、えっと~」

 

「あ、今車呼びました。

 家まで送っていきますよ。

 その格好で帰るのはちょっとあれでしょ?」

 

「あ、うん。

 ごめん、でも車も汚れちゃう」

 

「気にしないでいいですよ。

 あ、そうだ、なにか温かいもの買ってきます」

 

「あ、い、いや、大丈夫。

 そんな悪いから」

 

「いつも差し入れ貰ってたお礼です。

 いいから、そこで待っててくださいね。

 あ、これカイロ、使ってたやつだけどまだ温かいからどうぞ」

 

「は、はい。

 重ね重ねごめんなさい」

 

”タッタッタッ”

 

はぁ~、柄沢君優しいなぁ。

コートもすごく温かい。

あ、でも悪いことしちゃったなぁ~

ちゃんとクリーニングに出して返さないと。

ん?

あ、内ポケットに何か?

汚れちゃうといけない。

 

”がさがさ”

 

え、辞表?

何で辞表なんか・・・・・・・。

 

”タッタッタッ”

 

「お待たせです。

 すみません、お汁粉しかなかったんですけどいいですか?」

 

「あ、うん、ありがと。

 うわ~温かい

 ごめんね、ほんとに」

 

「本当に気にしないで下さい」

 

”カチャ”

 

「頂きます」

 

「はい、どうぞ」

 

”ゴクゴク”

 

「あま~い」

 

「本当にめっちゃ甘いっすね」

 

「「あははは」」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・生徒会、行かないの?」

 

「行けないです」

 

「なんで? みんな待ってるよ」

 

「・・・・・・」

 

「よかったら話してみそ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「俺・・・・・・聞いちゃったんです」

 

「聞いた?」

 

「俺、母さんにプロムの件、何とかやらせてほしいって頼もうと思ったんです。

 そしたらちょうど会社の人が来てて」

 

「会社の人?」

 

「今回の件、プロムがどうのこうのってより、雪ノ下さんのお母さんに対する

 嫌がらせだったんですよ」

 

「え、で、でもなんで雪ノ下さんに」

 

「俺の親、雪ノ下建設の専務なんですよ。

 なんかあんまり雪ノ下さんとうまく行ってないようで。

 今回の件は、その腹いせみたいなんです」

 

「雪ノ下建設の専務さん・・・・・・あっ!」

 

「え?」

 

「ごめん、なんでもない」

 

雪ノ下建設の専務・・・そういえば陽乃さんが言ってた。

なんか会社を乗っ取るつもりとか。

それに会社訪問した時、専務さん達が話しているの聞いたし。

そっか、柄沢君のお父さん、専務さんなんだ。

 

「だから、今一色さん達がプロムをやるために一生懸命対策とか考えているけど、

 どんな対策をしても何をしてもプロムはできない。

 だから、俺は 」

 

”がさがさ”

 

「このコートの内ポケットにはいってたこれって辞表だよね。

 それで生徒会、やめよって思ったの?」

 

「え、あ、見たんですか?」

 

「うん、ごめん」

 

「全て、俺の親の所為なんです。

 俺はみんなに申し訳なくて・・・・・・だから俺、責任取らないと」

 

「・・・・・・柄沢君は生徒会好き?」

 

「・・・好きです。

 一色さんや、藤沢さん、蒔田さん、比企谷さん、煤ケ谷さん、

 それに清川。

 みんなのいる生徒会、みんなとの活動、そしてあの下校までの生徒会室のひと時。

 俺は・・・・・・全部好きです」

 

「だったら、君はやめられない」

 

「え?

 で、でも」

 

「わたしが辞めさせない。

 ね、この辞表、わたしに預からせてほしい。

 絶対に悪いようにはしないから、預からせてもらっていい?」 

 

「え、あ、はい」

 

そっか。

この件には雪ノ下建設の派閥争いが絡んでたのか。

くそ! そんなもののせいで。

わたしは、わたしは柄沢君をやめさせない。

だから、絶対プロムやる、やらないといけない。

でもどうする? どうすればプロムやることができる?

・・・どうすれば。

 

「み、三ヶ木先輩?」

 

「ぶぇっくしょん!」

 

「うわ!」

 

「あ、柄沢君、ごめん顔に・・・・・・

 は、はい、ハンカチ。

 重ね重ねほんとに申し訳ないです」 

 

「・・・・・・い、いえ、大丈夫です。

 き、き、気にしないで下さい」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

やっぱこの手しか思いつかない。

でも・・・・・・辛い。

はぁ~、なんでわたしってこんなやり方しか考えつかないんだ。

・・・・・・仕方ない、ほんと仕方ない。

だってこれがわたしなんだもん。

わたしはそう簡単には変われない、彼みたいに。

わたしはわたしのやり方で・・・・・・

 

「な、なぁ、あの人さっきからずっとぶつぶつ言ってるぞ」

 

「あ、ああ、なに言ってんだろう? 

 ちょっと剣豪さんに聞いて・・・・・・お、おい」

 

「ん? うぇ、剣豪さんなんか、すげー彼女さんを凝視してんぞ」

 

「お、おう」

 

”ガラガラ”

 

「ただいまー

 あ、美佳っち、お疲れ様」

 

「やっは・・・お疲れ様」

 

「おう、三ヶ木も来てたのか。

 やっはろ―」

 

「あ、うん、あ、あの~」

 

「ヒ、ヒッキーのバカー。

 もうやっはろーはやめてって言ってるのに!」

 

「結衣ちゃん、帰ってくるの早かったけど海浜さんどうだったの?」

 

「あはは、えっとね、なんかこっちのことよく知っててね。

 この件がダミーだってバレちゃってたみたい。

 それで、早々に断られちゃった」

 

「そ、そう、駄目だったんだ」

 

よ、よし。

玉繩君ありがと。

これで部長会と葉山君に続いて、海浜さんも駄目ってことで、

このダミープロムに信憑性を持たす方法はなくなった。

だったら比企谷君のこの方法はもう実現性はない

だったら、今ならやめさせられるかも。

 

「ね、比企谷君、このダミープロムだけど、このまま進めても信憑性が 」

 

「くく、くくくくく」

 

「え、あ、あの比企谷君?」

 

「由比ヶ浜、三ヶ木、海浜との打ち合わせが失敗だと?

 何を言ってるんだ、結果は成功じゃないか」

 

「ヒッキー?」

 

「で、でも断られたんじゃ」

 

「海浜との打ち合わせ、相手が話しにのってくるかどうかなんて別にどうでもいい。

 大事なのはこの写真だ」

 

「え、あ、これ話し合いの時の写真。

 ヒッキー、ちゃんと撮る前に言ってよ。

 ほらあたし変なとこ見てるし」

 

「今回は、この写真さえ撮れればよかったんだ」

 

「えっと~、どういうことなの比企谷君?」

 

「今回、絶対に必要だったのは、海浜と話し合いをしたという証拠、実績だ。

 俺達は確かに海浜とプロムについて打ち合わせをした。

 その証拠の写真、これを俺達のサイトに載せる」

 

「そうなんだ、写真が撮れればよかったんだ」

 

「それに、海浜がもしこの話に乗って、次回の打ち合わせ予定とか言われても

 困るからな。

 そういう意味でも大成功だ。

 な、お前らすまんがこの写真、すぐ公式サイトにアップしてくれ。

 で、どうだ公式サイトの状況は?」

 

「あ、えっと何とか明日にはテストアップできると思いますよ」

 

・・・・・・写真。

そ、そっか-、比企谷君の狙いはそこだったか。

くそ、た、確かにそうだ。

しまった、それなら打ち合わせ自体をやめるように

言わなければいけなかったんだ。

どうしょう、もうすぐ公式サイト出来ちゃうし、このままじゃ駄目。

・・・・・・やっぱやるしかないんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「じゃあ、藤沢、蒔田、俺先帰るわ」

 

「ご苦労様でした清川君」

 

「また月曜日、清川」

 

「おう」

 

”スタスタスタ”

 

「う~肩いてぇ~、腕もパンパン。

 くそ、あいつら散々使いまわしやがって。

 都合のいい時だけ男子でしょって。

 俺は頭脳派担当だってんだ、力仕事なら柄沢に・・・いないんだよな。

 あいついつもSHR終わったら、そっこーでどこに行ってんだ。

 仕方ねえ、明日の休み、あいつん家まで行ってみるか。

 こう毎日こき使われたらたまらん」

 

”ピタ”

 

「あち!」

 

「大袈裟だ~。

 はい、マッ缶。

 今日もお仕事ご苦労様、にこ」

 

”ジー”

 

「え、ど、どうしたの?」

 

「何だ、何が目的だ」

 

「え、も、目的って?」

 

「いや、絶対何か目的あんだろう。

 何もなしでマッ缶奢ってくれるわけがない」

 

「ひ、ひど!

 この前も奢ってあげたじゃん。

 いらないなら上げない」

 

「なんにも無いんだよな。

 だったら折角だもらっておく」

 

”カチャ、ゴクゴク”

 

「ふぅ~、やっぱ仕事終わりに呑むマッ缶ってサイコーだな」

 

「・・・・・・でさ、ちょっとお願いしたいことあるんだけど~」

 

「ぶはぁ、ゴホゴホ。

 や、やっぱりじゃねえか!

 ち、くそ、もう飲んじまった。

 お前のお願いっていいことないんだよな、いつも。

 ・・・・・・で、なに?」

 

「ごめん。

 あ、あのさ」

 

     ・

 

「はぁ!

 本気でそんなこと考えてんのか?」

 

「うん。

 だからあん時みたいに協力してほしい」

 

「断る。

 あの時、お前に協力して、すげー嫌な思いした。

 今の話ってそん時以上じゃねえか。

 こんなことしたら、お前が言ってた一番大事なものが 」

 

「いいんだよ。

 わたしにはこのやり方しか考え浮かばない。

 それに、これはもっと大事なものを守るため。

 わたしのもんなんかよりもっと大事なもの。

 だから」

 

「・・・い、いや駄目だ。

 俺は協力しない」

 

「ふぅ、そう言うと思った。

 じゃあさ 」

 

”がさがさ”

 

「協力してくれたら、ほらこの会長の生写真あげる。

 これ以前、会長からもらった写真なんだけど」

 

「え、お、おー

 こ、これ私服、私服じゃないか。

 それにこっち向いて笑顔で。

 ・・・・・い、いや、、こ、こんなもの、い、いらない。

 お、俺別に一色のことなんとも思ってないし」

 

「そっか~いらないのか~。

 じゃこの水着の写真もいらないのか~」

 

「は、はぁ! み、み、水着だとぉ!」

 

「うん、林間学校行った時の水着コンテストの写真。

 すっごくセクシーな水着着てんだけどな~」

 

”ゴクリ”

 

「み、見せ 」

 

「え、会長のこと別に何とも思ってないんでしょ?」

 

「お、お願いします、見せてください。

 ひ、一目だけでも」

 

「はい」

 

「お、おー、こ、これは!」

 

”ひょい”

 

「あ゛ー、も、もうちょっと」

 

「協力してくれたらこれ上げる。

 他にも水着の写真、ほら3枚も。

 あ~、こっちのなんかめっちゃすごいポーズ」

 

「・・・・・・わ、わかった。

 協力する、協力するからそれくれー」

 

「ありがと、清川君。

 はいあげる」

 

「お、おー、すげ。

 ・・・だけど、だけど本当にお前はそれでいいのか?」

 

「ごめんね、いつも嫌な思いばっかさせて」

 

「気にするな」

 

「清川君、君ってさ 」

 

「・・・・・・お、俺はこの写真さえあれば。

 へへへへへ、すげー、こ、これちょっと何かが見えてないか?」

 

「・・・・・・君ってやっぱりゲス」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガラガラ”

 

ふぅ~、よかった、まだ誰も来ていない。

そりゃそっか、だってまだ7時ちょっと過ぎたくらいだもん。

それに今日は土曜日。

えっとたしか昨日帰る時に、比企谷君今日は9時集合って言ってたし。

それじゃ、始めよっか。

ノートパソコン、パソコンっと。

あった、あった。

そんで、電源スィッチON。

 

”カチ”

 

え~と確かパスワードは、

 

”カチャカチャカチャ”

 

よし、画面でた。

まずは清川君に言われた通りこのハードにプロム関連以外をコピーしてっと。

これだけは忘れちゃいけないって清川君にさんざん念押しされたもんな。

 

”カチャ”

 

・・・・・・・・・・静かだなあ~

休日の学校ってほんと静か。

当直の先生以外、誰も学校に来てないしね。

ふぅ~、卒業式まで今日を入れてあと10日か。

ほんといろいろあった。

 

『俺と付き合ってほしいんだが』

 

う、うん、それももう・・・・・・終わり。

あ、コピー終わった。

よし、それじゃUSBを差し込んで・・・・・・さ、差し込んで。

 

”カチ”

 

あとはUSBのこのファイルを・・・開けば。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・ひら・・・・・・開けば・・・開けばすべて終わり。

 

『三ヶ木』

 

比企谷・・・くん。

出来ない!

出来ないよこんなの。

このファイルを開いたら、わたしはもう比企谷君に会えない。

だって、だって・・・・・・やっぱそんなのやだもん。

 

”へなへなへな”

 

「うううううう、だってやだもん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「チース」

 

「は、ひ、比企谷君。

 え、あ、も。もうこんな時間」

 

「おう、三ヶ木早いな。

 職員室行ったら鍵もっていってるて言ってたから、まさかと思ったけど。

 ん、どうした?

 何でお前そんなところに座り込んでんだ?」

 

「ひ、比企谷君、あ、あの」

 

「ヒッキー、なんで先に言っちゃうのさ。

 ちょっと待っててって言ったのに」

 

「ば、馬鹿お前、トイレの前でなんか待ってられるか。

 今日は休日で人が少なくて、すげー静かなんだぞ。

 そんな状況でトイレの前で待っててみろ、なんかいろいろやばいから」

 

「え、あっ」

 

「わかればいい。

 で、三ヶ木どうしたんだっけ、なにかあったのか?」

 

「・・・・・・今日も一緒に来たんだ」

 

「へ? あ、ああ。

 由比ヶ浜とちょっといろいろ話もあったしな」

 

「・・・そう。

 わたしの話は聞いてくれないくせに」

 

「え?」

 

「あの時、ちゃんと返事しようと思ったのに。

 もういい、馬鹿!!」

 

”カチャ”

 

「ん? それ俺達のプロムのサイトだよな。

 なにして・・・・・・・お、おい!」

 

「え、どうしたのヒッキー?」

 

「が、画面が、俺達の公式サイトが消えていく。

 こ、これって、ウ、ウィルスか!

 三ヶ木、お前!!」

 

「・・・そうだよ。

 あの時の、生徒総会の時のウィルス。

 へへ、これでこの公式サイトだけじゃない、このパソコンに保存していたファイルも

 ぜ~んぶ消えちゃったね」

 

「お、おい」

 

”ぐぃ”

 

「答えろ三ヶ木、なんでだ、何でこんなこととしたんだ!」

 

ごめん比企谷君、結衣ちゃん。

でもわたしはこの計画を、このダミープロムを潰さなきゃいけない。

君にゆきのんを助けさせない。

そして、わたしの邪魔もさせない。

だから。

 

「決まってるじゃん。

 いつもいつも結衣ちゃんと一緒にいてさ。

 目の前でイチャイチャして」

 

「え、美佳っち?」

 

「み、三ヶ木」

 

「わたしがどんな思いで見てたと思うのさ。

 あ~せいせいした。

 ざま―見ろって感じ。

 へへ、自業じと 」

 

”バシ!!”

 

「きゃっ」

 

”ドガッ”

 

「ヒ、ヒッキー!

 何も引っ叩かなくても。

 み、美佳っち、大丈夫。

 あ、口から血が

 は、はいハンカチ」

 

「・・・うるさい・・うるさい・うるさい!」

 

「え?」

 

「どけよ、邪魔なんだよ。

 な、なにが美佳っちだ。

 お前なんかとわたしは、もともと住む世界が違うんだよ。

 こっちは我慢して付き合ってやってたんだ。

 いい加減に気が付けってーの。

 それより、おい、なにしやがんだ!

 いってぇーな、よくも人のことを引っ叩きやがったな」

 

「お前、自分が何やったかわかってんのか。

 わかってんのか!」

 

「なにがって、たかがプロムの公式サイト潰しただけだろうが」

 

「たかがだと」

 

”ぐぃ”

 

「ヒ、ヒッキー、もうやめて」

 

「離せよ、なにさ、また引っ叩くの」

 

「お前も雪ノ下を助けたかったんだろうが。

 だからお前もこの計画に協力してたんだろ。

 だったら、このサイトがどれほど大事なのかわかってんだろ」

 

「知るかそんなもん。

 なにさ、いつもいつもゆきの・・・したとか、ゆいち・・がはまってばっかり。

 わたしの気持ち考えたことあんのかよ。

 わたしの気持ち知ってるくせに。

 この前も二人で。

 だから、だからこんなの壊してやったんだ!」

 

「この前? 二人?

 な、なに言ってんだ?」

 

「二人でネットカフェ入っただろうが。

 ずっと出てこないで。

 二人っきりで何時間もあんなところでなにしてたのさ!」

 

「あ、い、いやそ、それは 」

 

「美佳っち違う。

 あれはDVD、プロムの参考にDVD観てたの」

 

”ガラガラ”

 

「やっはろーです」

 

「やっはろー・・・・え?」

 

「わたし、ずっと待ってたんだ、出てくるの。

 ・・・あん時だけじゃない、いつもいつもずっと待ってたんだ」

 

「・・・・・・三ヶ木」

 

「このぼっちもどき!

 お前なんかお前なんか!」

 

”ダー”

 

「み、三ヶ木!」

 

「くんな!」

 

”ガターン”

 

「お、おわ、ドアが外れた」

 

「あ、あの~、いったいなにが?」

 

     ・

 

”ダ―”

 

終わった。

もう終わった。

これでいいんだ、これで。

 

”スタスタスタ、スタ、スタ”

 

で、でも、結衣ちゃんや比企谷君にすごい酷いこと言っちゃった。

なんで、何であんなことまで言っちゃったんだろう。

もっとうまく言うはずだったのに。

ちゃんと練習もしたのに。

でも、比企谷君に叩かれて、そんでわけわからなくなって。

わたしは・・・やっぱり最低だ!

 

「う、うう、うううう、うぐ」

 

”ヘナヘナヘナ”

 

「う、うぐ、うぐ、ひっく、ううう」

 

だめ、こんなとこで泣いてなんかいられない。

わ、わたしにはまだすることがあんだ。

な、泣くのは、もうちょっと後から。

 

「うううう」

 

で、でも、ちょっとだけ。

ちょっとだけ泣かせて・・・・・・お願い。

 

「う、うう、うぐ、うぐ、うわーん、うわーん 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「やっはろ―・・・・え、ど、どうしたのだ?

 八幡、なにかあったのか?」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの剣豪さん、サイトが消された」

 

「消された?」

 

「三ヶ木さんがウィルスをノートパソコンに」

 

「ふむ」

 

「パソコンのデータが全部消されて」

 

「プロムだけじゃない、俺達の他のデータもな」

 

「ああ」

 

「そのウイルスは除去できるのか?」

 

「ウイルス自体は除去したけど、データが。

 また一から作らないと」

 

「・・・・・・ふむ。

 ちょっと待っておれ」

 

”ごそごそ”

 

「八幡、これを使うがよい」

 

「これって?」

 

「このUSBの中に、一応昨日までのデータを保存しておる。

 これでなんとかなるであろう」

 

「ざ、材木座、サンキュー、助かった。

 だが、何でお前 」

 

「いや、な、なんとなくな。

 そんなことより急がないと時間がないのであろう」

 

「お、おう」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「で、なんの用かなぁ、三ヶ木ちゃん」

 

「陽乃さん、お願いがあります。

 わたしにお母さんと話をさせる場を作ってもらえませんか?」

 

「え? それってもしかしてプロムの件?」

 

「はい」

 

「どうかなぁ~、あの人も忙しいから」

 

「これ知ってます?」

 

”カシャカシャ”

 

「ん、なに、スマホ?

 どれどれふ~ん裏総武高、こんなのあるんだ。

 で、これが何?」

 

「見て下さい」

 

”カシャ”

 

「・・・・・・・これって」

 

「はい、まだそんなに広がってはいませんけど、プロムが一部の保護者の

 圧力で中止になったって非難が」

 

「で、これがなに?」

 

「今なら炎上する前に何とかできます、わたしなら。

 こんなの炎上させたくないですよね」

 

「ふ~ん、わたしならっか」

 

「放っておくと、今に実名入りになって大変なことになりますよ。

 わたしそんな実例、よく知ってますから」

 

「へぇ~、三ヶ木ちゃん、わたしを脅すんだ。

 う~ん、でもちょっと迫力が足りないなぁ~

 三ヶ木ちゃんじゃ、まだ役不足かなぁ」

 

「・・・・・・名前出ると、ゆきのんも非難の的になりますよ」

 

「・・・君がそこまでできる?」

 

「えっ・・・・・・・・・・」

 

「んー、ちょっと計画が雑かなぁ。

 これ誰が広めてようとしているのかすぐわかるよ。

 この件を知ってるのって限定されるよね。

 そのなかでこんなことするのは二人しかいない。

 その内、一人とは昨日の夜に会っているから彼じゃないことはわかる。

 残りは三ヶ木ちゃんしかいない」

 

「・・・・・・」

 

「三ヶ木ちゃんが雪乃ちゃんを傷つけることできる?」 

 

「・・・・・・」

 

「出来ないよね」

 

「・・・・・・陽乃さん。

 陽乃さんが、もしまだわたしのことを少しでもかってくれているのなら」

 

「うん?」

 

「・・・・・・わたし大学行くのやめて、雪ノ下建設に入ります。

 そして陽乃さんの言うこと何でも聞きます。

 だからその代わり」

 

「ふ~ん。

 でもなんでそんなことまでするのかなぁ~

 別にいいじゃん、プロムなんてやらなくても」

 

「ゆきのん、ゆきのんはわたしの大事な友達。

 こんなわたしなんかに、真剣に勉強教えてくれた。

 それにわたしのこと・・・わたしのこと大事な友達って言ってくれたんです。

 だからわたしは 」

 

「友達っか」

 

「ゆきのんは自分の力でプロムをやり遂げたいといった。

 わたしはゆきのんの力になりたい。

 だからお母さんにあって、ゆきのんの話をちゃんと聞いてもらうように

 お願いするつもりです。

 ちゃんと話を聞いてもらえれば、ゆきのんなら絶対にお母さんを

 説得できると思うから。

 だから、 」

 

”ペコ”

 

「お願いします。

 わたしをお母さんに会わせてください」

 

「三ヶ木ちゃん。

 会わせることができても、この裏総武の件だけじゃ、あの人を説得するのは

 難しいよ」

 

「わかってます。

 ・・・・・・ちゃんと考えてます」

 

「そう」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「つまりお話ってプロムの件なのね。

 えっと、三ヶ木さんだったかしら。

 その件でしたら、先生方とお話させていただいてるの。

 今日も今からその件で学校のほうへお伺いするつもりなのよ。

 陽乃がどうしてもっていうからお会いしたけど、その件なら 」

 

「これ知ってますか?」

 

「え、これは?」

 

「裏総武高ってHPです。

 ここで今回の件が非難の的になりつつあります。

 一部の保護者の圧力で、プロムが潰されたって」

 

「・・・それで?」

 

「今なら炎上する前になんとかします。

 まだ、広がる前ですから」

 

「それで、見返りにプロムを認めろと要求する気かしら?」

 

「いえ、ゆきの、雪乃さんの話を聞いてあげて下さい」

 

「あら、あなたに言われなくても、ちゃんと聞いてるつもりよ」

 

「聞いてません!

 初めからプロムは中止って前提じゃないですか!

 ちゃんと聞いてください、このプロムに対する雪乃さんの想いを。

 それからプロムをやるかどうか考えてください」

 

「はいはい、じゃあそうしますね。

 それじゃ、あとから雪乃に電話しておくわ。

 それでいいわね。

 陽乃、話は終わったから帰ってもらいなさい」

 

「・・・・・・雪ノ下建設のみにくい派閥争い」

 

「え?」

 

「はぁー、折角雪ノ下建設の名前守ってあげようと思ったのに。

 こんな人が会社のトップにいるんじゃ、先が見えてんなー

 駄目だこの会社、入社しなくてよかったー」

 

「あなた、なにを」

 

「あ、わたし知ってるんですよ。

 このプロムの件、雪ノ下建設の派閥争いが絡んでるんですよね」

 

「な、なにを言ってるのかしら」

 

「保護者会の会長、柄沢さんって雪ノ下建設の専務さんですよね。

 その専務と社長である雪ノ下さんの中が悪いの知ってますよ。

 このプロム中止の件は、雪乃さんが企画しているのを知った柄沢さんが、

 雪ノ下家への嫌がらせで潰そうとしているって」

 

「あなた、妄想がひどいようね。

 なにを言ってるのかしら。

 陽乃、なにニヤついてるの?

 いいからさっさと帰ってもらいなさい」

 

「あ、うちの生徒会の副会長知ってますよね。

 そう柄沢君。

 彼からすべて聞きました。

 それとこれ」

 

”ぱさ”

 

「これは彼が書いた副会長をやめるって辞表です。

 これがどういう意味か分かりますよね。

 もしちゃんと話を聞いてもらえないのなら、ネットでこの話を拡散します。

 雪ノ下建設の派閥争いのせいでプロムが潰されたって。

 その証拠に柄沢君が責任とって副会長をやめたって。

 あ、知ってますよね?

 副会長が辞めたら、もう一回副会長を選出するため選挙やるんですよ。

 その時何でやめたんだろってことになって、一気に学校中に広がりますよ。 

 雪ノ下建設の恥が」

 

「・・・・・・」

 

「どうです、わたしの要求聞いてもらえますよね」

 

「はいはい、もう終わり。

 あなたの茶番はもうたくさんよ」

 

「茶番?」

 

「そう。

 その話の通りになったら、雪乃が学校で苦しい立場になるんじゃなくて?

 プロムを潰した原因なんだから。

 あなたは雪乃の話をちゃんと聞けといったわね。

 つまり、あなた雪乃のお友達でしょう?

 そのあなたがそんなことできるわけがない。

 だから茶番。

 まだまだね」

 

「え? そんなことどうでもいいですよ。

 別にこの件で雪乃さんが学校中の嫌われ者になっても全然構わないですよ。

 だって、わたしは生徒会が大事なんです。

 生徒会のみんなはわたしの大事な友達。

 そのみんなが頑張ってるプロムを守りたいだけで、

 別に雪乃さんのことなんてどうでもいいですよ。

 話を聞いてほしいって言ったのは、悔しいけど彼女のほうが説得力あるし、

 それにあなたの娘、血を分けた実の娘・・・だからですよ。

 つまり肉親の情にかけたってやつで。

 それに実際のところ、あの娘、頭いいし、綺麗だし、実家金持ち。

 ほんとチョ~嫌なやつだったから、これで学校中の嫌われ者になったら

 わたし的にサイコー、ざまあみろって感じ。

 あ、そのほうがスカッとしていいかも。

 あんなやつ嫌われちゃえば 」

 

”パシ!”

 

「い、いた

 な、なにするんですか!」

 

「・・・陽乃、さっさと連れていきなさい」

 

「はいはい。

 ほら、三ヶ木ちゃん立てる?

 さっさと帰るよ」

 

「・・・・・・」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

 

「はぁー、あそこまで言うかね~三ヶ木ちゃん。

 あの人が人を引っ叩くの久しぶりに見た」

 

「ごめんなさい。

 陽乃さんにも嫌な思いさせました」

 

「うん、少しだけムッときたかな。

 でも・・・それだけ真剣だったんだね」

 

「・・・うれしかった」

 

「え?」

 

「わたしね嬉しかったの。

 お母さんが怒ってくれて。

 自分の娘のことあんだけ言われて怒らなかったらどうしょうって思った。

 でもちゃんと怒ってくれた。

 陽乃さん、きっと、きっとお母さん、ゆきのんの話ちゃんと聞いてくれる思う」

 

「う~ん、どうだろうね」

 

「あ、あの陽乃さん、この件はゆきのんには」

 

「わかってる、内緒にしておく」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そうですね・・・・・・保護者の方たちとは私が話してみましょう。

 できれば先生にもご同席頂けると助かります」

 

「雪ノ下さん、日程の候補をいただければ調整します」

 

「あ、それと」

 

「はい?」

 

「その前に、生徒会の会長さんと・・・雪乃の話を聞きたいのですけど、

 呼んで頂いてもよろしいですか?

 保護者の方たちとのお話は、プロムが本当にやる価値があるのかちゃんと

 話を聞いて納得してからにしたいのですが」

 

「わかりました。

 比企谷。

 一つ、頼まれてくれるか」

 

「は、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

’スタスタスタ”

 

「ん、おう八幡ではないか」

 

「おう」

 

「で、プロムの件、どうであった?」

 

「ああ、サンキュな材木座。

 お前が公式サイトのコピー持っててくれて助かった」

 

「では」

 

「ああ。

 多分大丈夫だ。

 まあ、この後、雪ノ下達の話を聞いてってことにはなっているが」

 

「そ、そうか」

 

「じゃあな、俺雪ノ下達に伝えてこなければいけないから」

 

「は、八幡!」

 

「ん?

 どうした材木座」

 

「あ、い、いや。

 あ、あの、み、三ヶ木女子をあまり責めないでほしいのだが」

 

「・・・・・・わかってる。

 俺の方にも原因があったんだ」

 

「そ、そっか。

 な、なぁ、本当に三ヶ木女子を頼む」

 

”ドサ”

 

「こ、この通りだ」

 

”ペコ”

 

「お、おい、材木座、ど、土下座はやめろ。

 わかった、わかったから」

 

     ・

     ・

     ・

 

「プロムの件な、最終的にお前らの修正案が無事通りそうだ。

 反対していた一部保護者にはちゃんと説得して、納得してもらうそうだ。

 そのために、お前の母親、お前達とちゃんと話がしたいそうだ。

 ちゃんと話して納得したいそうだ」

 

「そ、そう」

 

「だからまぁ・・・・・・、俺の負けだな」

 

「ええ。

 ・・・・・・あなたの勝ちね」

 

「いや、プロムはお前の説得にかかっている。

 あとはお前が母親をちゃんと納得させられるかどうかだ。

 だから・・・・・・俺の負けだ」

 

「そう。

 ・・・・・・でも、ありがとう比企谷君」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「一色、三ヶ木来てるか?」

 

「え、あ、せんぱ~い。

 ええ、来てますよ。

 でも、なんか昨日から元気なくて。

 先輩、何かしました?」

 

「あ、い、いや、そ、その 」

 

「まぁいいです。

 でも何かしたのなら、ちゃんと謝ってくださいね。

 卒業式まであと1週間しかないんですから。

 じゃないと絶対後悔しますよ。

 それにわたしの計画も台無しですから」

 

「あ、ああ。

 ん、計画?」

 

「あ、な、何でもないです。

 え、え~と、あ、いたいた。

 本当地味だから気が付かない。

 お~い、美佳先輩!

 ちょっと来てください。

 え、先輩なにわたしの後ろに隠れてるんですか?」

 

「あ、い、いや、ちょっと」

 

”タッタッタッ”

 

「会長どうしたの?

 リハ、もう準備できてるよ」

 

「それじゃ~、あとはよろしくです先輩!」

 

「え、先輩?」

 

「みんな~リハ始めますよー

 柄沢君、音響大丈夫?」

 

”タッタッタッ”

 

「三ヶ木、ちょっといいか?」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、土曜日は暴力を振るってすまなかった。

 それとお前のこと、気にかけてやれなくて。

 ちょっとプロムのことばっかり考えててな」

 

「もういいよ」

 

「え?」

 

「もういいの。

 あれはわたしが悪い、絶対に悪い。

 引っ叩かれてるの、当たり前。

 だから、わたしのほうこそ、ごめんなさい」

 

”ペコ”

 

「い、いや俺の方こそすまない」

 

”ペコ”

 

「あ、あのな、お、俺 」

 

「比企谷君!

 あのさ、一つお願いがあるんだ。

 絶対に聞いてほしいお願い♡」

 

「ん、なんだ?

 絶対聞いてやる。

 あ、わかった温泉だな、おう旅行は温泉でいいぞ。

 確か嬉野温泉だったな。

 俺が連れて行ってやる、任せておけ」

 

「別れてください」

 

「え?」

 

「へへ、ちゃんと返事もしてないのにおかしいよね。

 でもごめんなさい。

 わたしと別れてください」

 

”ペコ”

 

「な、なんでだ。

 いや、本当に俺が悪かった。

 もう二度と暴力は振るわない。

 だから 」

 

「あのね、とうちゃんがさ、女子に暴力を振るうやつは絶対に許さないって

 言うんだ。

 だから、はい」

 

「え、手?」

 

「お別れの握手」

 

「・・・・・・・」

 

「もう、ほら!」

 

”にぎ”

 

「み、三ヶ木」

 

「今までありがとうございました。

 ではでは。

 ・・・・・・さようなら!」

 

「・・・・・・み 」

 

「あ、じゃ、みんな待ってるから」

 

”テッテッテッ”

 

「み、三ヶ木!」

 

はぁはぁはぁ

辛い、辛いよ。

なんで、なんでわたしってこんなんなんだろう。

あのまま仲直りしちゃえばいいのに。

・・・でも、わたしは比企谷君を裏切ったんだ。

比企谷君の気持ちを知ってて裏切った。

それにひどいこと言った、結衣ちゃんにも。

だから、ちゃんと、ちゃんと・・・けじめ・・つけないといけないんだ。

だから仲直りなんてできない。

比企谷君のやさしさに甘えたら駄目なんだ。

・・・ほんと馬鹿。

もうやだよ、こんなの。

わたしは、わたしは・・・・・・こんなわたしが大嫌い!

この世から消えてなくなっちゃえばいいんだ。

そしたら、そしたら、もうこんな辛い思い・・・・・・

 

 

人魚姫。

あの話は続きがある。

人魚姫は人知れず海の泡になって消えた。

・・・でも彼女の意識は空に昇って、風の精になった。

人に優しい風を届ける風の精に。

そしてその優しさで人々を幸せにして、いつか天国に行くために。

 

わたしは、今のわたしに届けられるのは深い悲しみの唱だけ。

わたしは天国になんか行けない。

だからわたしは、わたしは! 人魚姫の物語なんて大嫌い!




最後までほんとにありがとうございます。
お疲れ様でした。

冬物語最終話、ハッピーエンドとならずすみません。
だって冬ですから。

さて、この駄作も次話より最終章、春物語編。
オリヒロと八幡に春は訪れるのか、それとも。

また次話にてお会いできたらありがたいです。
ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8章 春物語
春雷


や、やってしまった。
・・・・・・ほんとにすみません。
気が付いたらもう7月。
更新、どんどん遅くなりごめんなさい。
八幡の誕生日もうすぐだっていうのに、なんとかしないと。

今話から春物語編です。
二人に春は訪れるのか、それとも。
そして八幡が選んだ答えは。

ではよろしくお願いします。


「よかった。

 じゃあ、プロムできるんだ」

 

「ああ。

 さっき平塚先生から連絡があった。

 やっと学校から正式な許可が下りたってたな」

 

そう、あの応接室での会談の後に行われた、雪ノ下の母親と雪ノ下、一色の話し合い。

そこで二人のプロムへの想い、提起された問題に対する対応策、新しいプロムの方向性に

ついて説明を受けた雪ノ下の母親は、少しだけ考えた後に納得して帰っていったらしい。

雪ノ下曰く、考えられないくらいあっさりと。

そして保護者会との話し合いの後、今日学校から正式にプロムを許可するとの

連絡を受けた。

そして俺はそのことを知らせるために由比ヶ浜に電話を。

本当は、本当に真っ先に知らせたかったのは・・・・・・あいつだったのに。

 

「本当にご苦労さま。

 でもよくゆきのんのお母さんを説得できたね。

 さすがヒッキー」

 

「いや違うんだ由比ヶ浜。

 あの人を説得できたのは雪ノ下達の頑張りによるものだ。

 俺は、俺達はその手助けをしただけにすぎない」

 

「そっか。

 うん、そうだね。

 ゆきのんもいろはちゃんも・・・ヒッキーもよく頑張った。

 偉い!」

 

「お前もな」

 

「でへへへ」

 

実際そうなんだ。

雪ノ下の母親、あの人を説得して味方にできたのは、雪ノ下と一色の頑張りが

あったからなんだ。

俺達のダミープロム計画なんて、あの人にはとっくに看破されていた。

とてもどちらかを選べなんて状況にもっていけるものではなかった。

公式サイト、アップ前の確認とかほとんどできていなかったから、

改めて観てみると結構突っ込みどころだらけで。

・・・・・・・だが、それならあの人が雪ノ下の話を聞くと言ってくれたのは

なぜなんだ?

交通事故で怪我をさせてしまったの俺への負い目からなのか。

それとも・・・・・・はっ! やっぱり俺のあのステップがよかったからなのか!

結構、俺の道化ぶりを気に入ってくれたとか。

・・・・・・違うな。

初めからあの人のなかでは結論があったような気がする。

プロムを認めること、雪ノ下達の話・・・想いをちゃん聞くって結論が。

だとしたら、なぜだ、なぜあの人はそういう結論に至ったんだ?

なにか腑に落ちない、釈然としない。

今度の件、俺は大事なことを見落としているんじゃないか?

なんだ、俺は何を・・・・・・

 

「ヒッキー?」

 

「ん、あ、す、すまない。

 ちょっとな」

 

「あのさ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・」

 

「どうした、急に黙り込んで?」

 

「・・・・・・」

 

「由比ヶ浜?」

 

「あ、あのさ!

 明日デートしょ!!」

 

「はぁ?

 デートだと」

 

「ヒッキー約束したじゃん」

 

「うっ、そ、そうだが」

 

「・・・じゃあさ、明日9時に千葉駅集合でいい?」

 

「・・・・・・あ、ああ、わかった」

 

「本当?

 えへへ、ありがとう」

 

「い、いや、約束だからな。

 で、どこにいくんだ?

 サイゼか?」

 

「サイゼでデートなんてありえないし!

 あ、あのね、あとから連絡する。

 じゃあ、明日ね」

 

「ああ」

 

・・・・・・デートっか。

そういえばあいつ、温泉行きたがってたよな。

へへ、嬉しそうに嬉野嬉野って。

・・・・・・でも、もう終わったんだよな。

もう少しあいつのことを思っていてやれてれば・・・もっとうまく。

はぁ~、だめだ、だめだ。

・・・・・・女々しいな俺、いつまでも。

飯!、飯でも食ってくるか。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、電話?

 

「もしもし」

 

「あ、先輩、今どこにいるんですか~」

 

「あん、今から飯食いに駅前のサイゼに行くところだ」

 

「了解です」

 

「え?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「お、おいあの娘」

 

「ん、お、おう」

 

”スタスタスタ”

 

「ち、ちょっと、これ大胆だったかなぁ。

 なんかさっきからジロジロ見られてる気がするし。

 ちょっと恥ずかしいかも。

 でも、あたしはもう待つのはやめた。

 だから、昨日これを、この水着を選んだんだ。

 あたしはヒッキーのことが好き。

 これは誰にも譲れない想い。

 だから・・・・・・・・・踏み出すんだ、今日」

 

     ・

 

あち~。

外はまだまだ寒いっていうのに、このドームの中は本当に夏のようだ。

都内でも屈指の大きさを誇る室内プール。

それを有するこのテーマパークは、一年中いつでも泳げることを謳い文句としている

だけあって、常にドーム内の室温を30℃に保っているらしい。

昨日、ググって調べたから。

しかし、

 

『ヒッキー約束したじゃん』

 

・・・約束か。

早応大に合格したら願い事をなんでも一つだけ聞くという約束。

了承したつもりはなかったんだが。

由比ヶ浜が勝手に言ってただけのはずなのに、いつの間にか既成の事実になっていた。

・・・まぁ確かに、明確に拒否したわけでないから仕方ないのか。

だ、だって~、由比ヶ浜が早応大に合格するなんて100%、いや10,000%、

絶対にありえないと思っていたんだもん。

くそ、あいつ本当何か持ってるんじゃないのか?

はぁ~、プロムの件も落ち着いて、今日こそはゆっくりと貯めに貯めこんだ

プリキラーの録画を観ようと思っていたんだがなぁ~

 

「キャ、キャ」

 

それにしても、うっさい。

右も左も水着のカップルばっかりだ。

くそ、他に行くとこないのか。

ふ、ふん!

この世の春を謳歌しているようにみえる彼ら。

だが、俺は知っている、知ってるぞ!

彼らは不安なのだ。

春になったら新しい出会いっていうのがあって。

彼らのうち、きっと何組かは別れることになる。

その不安を紛らわそうと無理に騒いでいるのだ。

だったら、今この時間を謳歌するがいい、このリア充どもめ!

春になれば・・・・・・・・・春になればか。

そういえば来週はもう卒業式なんだ。

卒業してしまえば、学校という俺たちをまとめるくくりが無くなって。

それに俺は早応大に通うために春休みになったら東京に。

千葉の大学に通うあいつとは・・・もう二度と会えなくなるんじゃないのか。

仮にどこかで偶然見かけたとしても、俺は声をかけられるのだろうか。

くそ、だったらどうしたらいい? どうしたい俺。

卒業までもう時間がない。

 

「ワイワイ、ガヤガヤ」

 

ん、なんだ?

なんかまた一段と騒がしく・・・・

 

「おお!」

 

「すげ、あの娘スタイルめっちゃいい」

 

「め、目の保養だ」

 

「いや、顔もめっちゃ可愛いって」

 

”タッタツタッ”

 

「はぁはぁはぁ、ヒッキー、お待たせ」

 

”ぷるん、ぷるん”

 

お、おおー、メロンが、二つのメロンが。

い、今にもその小っちゃな白い生地から零れ落ちそうなくらい揺れて。

は、いやそんなことより。

 

「由比ヶ浜、馬鹿、お前走るな!」

 

「へ?

 あ、う、うん。

 ごめんプールだもんね、走ったら危ないね」

 

「あ、ああ、そ、そうだ、走ったら危ないぞ。

 いろいろと」

 

た、確かにプールで走るのは、床が濡れているから危ないのは事実なのだが。

由比ヶ浜の場合、ちょっと危ないの意味が違うんだ。

 

「ん、いろいろと?」

 

え、本当に気が付いてないのか?

由比ヶ浜、君が走るとだな、その、む、胸のメロンが”ぷるん、ぷるん”って。

それを他のゲスな男どもが放っておくはずがないんだ。

いい加減、自覚しなさい。

 

”バシッ”

 

「なに見てるのさ、最低!」

 

「い、いて。

 あ、いや、待って~、ご、誤解だ」

 

ほ、ほらみろ。

あそこの男子、あれ君の犠牲者だからね。

はぁ~、春を待たずに一組のカップルが・・・ご愁傷様。

 

「ヒッキー?」

 

「ん? あ、いや何でもない」

 

しかし、本当、目のやり場がないんだよ。

他のところを見ようと思っても、万乳引力で自然とその胸に目が。

しかもその水着、小っちゃ過ぎない?。

たしかにメロンとか、大事なところは三角形の生地で覆ってはいるが、

側面はそれ、ほとんど紐だろう。

そんな細い紐で強度とか大丈夫なの?

由比ヶ浜のそれって重たそうだし。

 

「え、えっとさ、ヒッキー。

 あのさ、ど、どうかな?

 き、昨日、新しい水着買ったんだ」

 

「お、お、おう。

 あ、あの、な、なんだ、い、いいんじゃないのか、そ、そのいろいろと。

 その白い色も似合ってると思うし」

 

「あ、ありがとう。

 えへへ、なんかうれしい」

 

「じゃ、い、いくか

 取り合えず、荷物、あっちに置いて」

 

「うん」

 

”スタスタスタ”

 

「お、おお!」

 

「なんであの娘があんなやつと」

 

「もったいねぇ~」

 

くそ、すれ違う男どもめ、好きかって言いやがって。

そんなことはわかっているんだ。

俺の隣を歩いている由比ヶ浜はトップカースト。

カースト底辺で蠢いている俺となんかでは釣り合いなんて取れない。

由比ヶ浜は可愛くて、優しくて、スタイル良くて。

 

”ちら”

 

「ん?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

う、横からだと本当にそのスタイルがはっきりと。

げ、や、やば!

 

「ゆ、由比ヶ浜。

 もうそこら辺でいいんじゃないか、荷物置くの」

 

「え? あ、うん。

 でもヒッキー大丈夫?

 お腹でも痛い?

 なんかいつも以上に猫背だけど」

 

「あ、い、いや、なんでもない。

 大丈夫だ気にするな。

 ほ、ほら荷物置くぞ」

 

「う、うん」

 

だ、だって~、八幡の八幡が。

やばい、やばい、やばい。

・・・・・・・・・どうしょう。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぁ~、んっと今何時?

 あ、もうこんな時間だ。

 起きないと、今日こそは起きないと。

 うんしょっと」

 

”ふら”

 

「あ、だ、だめ。

 やっぱ、なんか体に力が入らない」

 

”どさっ”

 

「か、体がすごく重い。

 どうしちゃったんだろ、やっぱ起き上がれない。

 はぁ~

 えっと、鏡、鏡は?

 あ、あそこにあった」

 

”ズリ、ズリ”

 

「ふぅ~、さてっと。

 げっ、なにこの顔!

 瞼めっちゃ腫れてるし。

 それに目の下のクマ、めっちゃすごい。

 はは、この顔じゃどこにも行けないや。

 ・・・ほんと、わたしどうしちゃったんだろ。

 なんにもやる気が起きない。

 ・・・みんな今日もプロムの準備してるだろうなぁ。

 わたしも行って手伝いたんけど、でも身体がいうこと聞かないんだ。

 ずっと石になったみたいですごく重たくて、それになにをするにしてもおっくうで。

 こうやって鏡見てるだけでもすごく疲れる。

 はぁ、こんな時は甘いものでも食べて」

 

”がさがさ”

 

「げ、もうない。

 あ、そうだ、昨日、箱買いしたチロロ全部食べちゃったんだ。

 ・・・・・・・・もう、いいや。

 今は何も考えたくない。

 今日もこのまま、ずっと・・・・・・・おやすみ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「やっぱりドームの中は暑いね」

 

「そうだな、なんでも一年中30℃になるように設定しているそうだ」

 

「へぇ~。

 ヒッキー物知り」

 

「あ、あったりまえだ。

 これぐらい常識だ」

 

「ね、早くプールに入ろ」

 

「いや、ちょっと待って。

 もう少しだけ・・・」

 

「本当にお腹大丈夫?」

 

「お腹は何ともないから。

 本当に何ともないから」

 

「ふ~ん。

 じゃあ、ちょっと準備運動してるね。

 一、二、一、二」

 

”ぷるん、ぷるん”

 

や、やめて~

目の前で準備運動やめて~

やっと落ち着いてきたのに。

ま、またプールに入る時間遅くなるから。

もう八幡の八幡のバカー

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、なに? 電話?

 う~、めんどくさい。

 だ、誰だよ?

 あ、ジャリっ娘から」

 

”ブ~、ブ~”

 

「でも、今は出たくない。

 誰とも話したくないんだ。

 だから、ごめん」

 

     ・

     ・

     ・

 

ふぅ~、なんとか鎮まった。

もう、八幡の八幡は元気なんだから~

・・・って、こんなことしてる場合じゃなかった。

ん、由比ヶ浜、向こう向いてなにしてるんだ?

 

「ふぅー、ふぅー」

 

「由比ヶ浜、なにやってんだ?

 ん、何か膨らませてるのか?」

 

「あ、うん。

 あのね、浮輪持ってきたんだけど、空気入れ忘れちゃって。

 でもなかなか膨らまなくて」

 

「お、そ、そっか。

 ご苦労さん」

 

「うん。

 せ~の、ふぅ-」

 

お、俺は手伝わないぞ。

いや、だって手伝うってことは・・・・・・か、間接・・・

それチョ~やばいから。

それに、そんな大事なものを忘れたことを反省させるためにも、ここは心を鬼にして。

だ、だから君のためなんだからね!

 

「ふぅー、ふぅー

 はぁ~駄目だ。

 やっぱり浮輪、全然膨らまない。

 仕方ないや、諦めよう。

 折角買ったんだけど仕方ない、仕方ないなぁ~」

 

”チラ”

 

う、かわいい~

だ、だからその上目遣いやめて。

いや、本当、君それ反則だから。

く、くそー

 

「ほら貸してみろ。

 膨らませてやる」

 

「本当!

 ヒッキー、ありがとう。

 それじゃ」

 

”ふきふき、ふきふき”

 

あ、や、やっぱり一応、拭くのね。

しかも、スゲ念入り。

いやそこまで拭かなくても。

 

「はい、ヒッキーお願いね、にこ♡」

 

「お、おう。

 はぁ~、ふぅー」

 

”ぷく”

 

「あ、膨らんだ、すご~い」

 

いや、ただ浮輪膨らませてるだけだから。

誰でもできるから、そんなに喜ばないで。

・・・・・だ、だが、これ、この栓のところって、

さっきまで由比ヶ浜が咥えてたところなんだよな。

・・・その口で

いくらさっき拭いたからって、やっぱりあの・・・・

 

「ヒッキー、大丈夫?

 やっぱり疲れた?」

 

「あ、い、嫌なんでもない。

 大丈夫だ任せておけ」

 

危ない危ない。

変な妄想してるとまた八幡が・・・

さ、さっさと浮輪を膨らませないと。

 

”ふぅー、ふぅー”

 

「あ、ヒッキー膨らんできたよ。

 すごく大きくなってきた」

 

・・・・・・ふ、膨らまさないと。

 

”ふぅー、ふぅー”

 

「へへ、ヒッキーやっぱり男子だね

 膨らんだ膨らんだ。

 すご~い、大きい」

 

き、君、なに言ってるの?

馬鹿なの? やっぱり馬鹿なの?

はっ、もしかしてわかってて言ってないよね?

いや、こいつのことだ、きっとなにも考えて・・・・・・

く、くそー!

無視だ無視!

 

”ふぅー、ふー

 

よ、よし、これぐらいでいいだろう。

 

「由比ヶ浜、空気・・・・・・・・・

 えっ!

 ね、そ、その手に持ってるの何?」

 

「え、あ、イルカのやつとパイナップルのフロートとそれから 」

 

「お、おいちょっと待て!

 それ全部膨らませるつもりか!」

 

「だめ?」

 

「死ぬわ!

 この浮輪だけにしとけ!」

 

「う~、折角遊ぼうと思っていっぱい買ってきたのに」

 

まったく。

って、それにしてもなんかこの浮輪めっちゃ大きくないか?

確かに由比ヶ浜の胸の大きさを考えればこのくらいあったほうが。

いや、それにしても、でかい、でかいすぎる。

 

「な、なぁ、由比ヶ浜、これ、この浮輪でかくないか?」

 

「あ、だってこれぐらい大きかったら二人で入れそうじゃん」

 

「は? はぁ!

 ば、ばっか、二人で浮輪になんて、そんなのは入れるわけないだろう」

 

「え~、駄目かなぁ?

 入れそうだけど」

 

「う、う、う、だ、駄目」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~”

 

「んー、しつこい。

 わたしは今日はずっと一人でいたいんだ。

 あの頃のように。

 やっぱりわたしにはそのほうが・・・きっとわたしなんてそのほうが」

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

「し、しつこい!

 出ないった言ったら出ないの!」

 

”ブ~、ブ~、ブ~、ブ~”

 

「も、もう!」

 

”カシャカシャ”

 

「はい、もしもし!

 三ヶ木だよ!」

 

「あ、美佳先輩、大変大変大変なんですよ~」

 

「え、大変?

 会長、どうしたの、なにがあったの?

 もしかして、またプロムが」

 

「兎に角大変なんです!

 いいですから、大至急千葉駅前まで来てください。

 いいですか大至急ですからね!」

 

”プー、プー”

 

「あ、あの会長?

 あ、あれ?

 げ、ジャリっ娘! 言いたいことだけ言って切りやがった!

 知らん、わたしは行かない!

 今日は一人がいいの!」

 

『大変なんですよ~』

 

「でも、どうしたんだろう。

 すごく慌てて。

 なんだろう、大変なことって。

 ・・・・・・も、もう!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー」

 

”バシャ、バシャ”

 

「お、おい、やめろ由比ヶ浜」

 

「え~い♡」

 

”バシャー”

 

「こ、こ、この~」

 

”バシャ”

 

「きゃ。

 やったなぁ~、え~い」

 

”バシャ”

 

「うわぁ~」

 

な、なんだこれは、すげぇ楽しい。

これがリア充、リア充なのか。

あいつらいつもこんなことを。

 

『このぼっちもどき!』

 

はっ!

 

”キョロキョロ”

 

「どうしたのヒッキー?」

 

「あ、い、いや何でもない」

 

気のせい・・・か。

そうだよな、ここにいるはずないよな。

でも、あいついま頃なにしてんだろう。

今日も学校行ってるのか。

プロム、もうすぐだもんな。

頑張ってんだろうな、あいつ。

 

「ね、ヒッキー、あれ、あのスライダー行こう」

 

「え?

 あ、いや、でもお前、あれ大丈夫なのか?」

 

「え、でも、そんなに怖くないと思うけど」

 

「いや、その・・・そ、そうか」

 

違うんだ由比ヶ浜。

確かにあのスライダーはそれほど大きくないし、お前が言う通りそんなに怖くはない。

俺は別のほうが心配で。

だってその紐、本当に強度大丈夫?

 

「ほら行こ」

 

「お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「んっと~」

 

”キョロキョロ”

 

「ジャリっ娘どこだ? 確か千葉駅前って言ってたはずなんだけど」

 

”ガシッ”

 

「へ?」

 

「ジミ子先輩確保!」

 

「はい?」

 

”ガシッ”

 

「三ヶ木先輩確保です」

 

「あ、あの~、舞ちゃん、藤沢ちゃん?」

 

「ほら行きますよジミ子先輩」

 

「え? あ、あのどこへ?」

 

「いいですからほらほら」

 

”ズルズルズル”

 

「あ、あの~、引きずらないで。

 ちゃ、ちゃんと歩くから。

 だから引きずるのやめて~

 ト、トラウマがあるんだって。

 いや~」

 

     ・

     ・

     ・

 

「な、なぁやっぱりやめないか?」

 

「ははぁ~、ヒッキーくんもしかして怖いのかなぁ~

 へ~き、へ~き。

 ほら行くよ。

 それー」

 

”シャー”

 

「お、おい、ちょ、ちょっと待てって。

 え~い」

 

”シャー”

 

おわー、結構スピード出てるじゃねえか。

あいつ、これマズイぞ!

このままプールに飛び込んだら!

はっ、なんだ、プールあんなに男どもが。

ち、いつの間に、くそ!

 

”ザブ~ン”

 

「お、おい、由比ヶ浜、だ、だいじょ・・・・・・うぶみたいだな」

 

「え? あ、うん、面白かったね」

 

はぁ~

え、なに、何か俺ガッカリしていない?

ま、な、何事もなく良かった。

それなりの強度はあるようだな、あの紐。

紐なのに・・・・・紐なのに。

やっぱりガッカリしてんのか俺!

 

「ヒッキー、もう一回行こ」

 

「は、い、いやもうやめとけ」

 

「え~、もう一回だけ行こ。

 ねっ、ねっ」

 

「わ、わかった」

 

「へへ、やったー

 ほら」

 

”にぎ”

 

「あ、いやお前、手引っ張るな」

 

「えへへ、いいじゃん」

     ・

     ・

     ・

 

「あ、来た来た。

 美佳先輩、遅いですよ~」

 

「いろはちゃん、三ヶ木先輩連行しました!」

 

”ビシ!”

 

「藤沢ちゃん、蒔田、任務ご苦労」

 

”ビシ!”

 

「え、な、なにその敬礼、流行ってるの?

 ま、まぁ、可愛いからいいけど。

 で、会長、大変ってなにがあったの?」

 

「えっとですね~

 はい美佳先輩、回れ右!」

 

「え、はい」

 

”クル”

 

「あ、あの会長?」

 

”さっ”

 

「ひゃ、な、なに? なんで目隠し」

 

「さ、行きますよ」

 

「いや、行くってどこに?

 何も見えないから、これ怖い」

 

「ジミ子先輩、こっちですよ。

 わたしが連れて行ってあげます。

 はいお手」

 

「わん。

 って、お、おい」

 

「はいはい。

 ほら、こっちですよ」

 

”ゴン”

 

「い、いったー!」

 

「あ、そこ看板ありますから

 頭下げてください」

 

「い、いや、それは、当たる前に言って!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ちょっと待て、由比ヶ浜!

 今度は俺が先に滑る」

 

「え?

 あ、うん」

 

そうなんだ。

さっきは大丈夫だったが、あの細い紐がそう強度があるとは思えない。

だから俺が先に滑って、下で見ていてやらないと。

後から滑ると見逃すことも・・・・

は、な、なにを言ってるんだ。

違う!違うから。

お、俺はポロリを期待して先に滑るんじゃないからな。

万が一の時は俺の手で隠して・・・・・・えっと~隠しきれるだろうか?

ま、まぁいい。

 

「じゃ、じゃあ先滑るからな由比ヶ浜」

 

「うん。

 いってらっしゃい」

 

「あ、お、おう、行ってきます」

 

”シャー”

 

うぉ~、や、やっぱりこれ速くない?

んで、このままのこの勢いでプールにって。

 

”ザブ~ン”

 

ふぇ~、やっぱり結構やばいぞ。

とてもあの紐じゃ。

はっ! ゆ、由比ヶ浜は?

 

「ヒッキー危な~い」

 

「え? う、うそ、もう来たの」

 

”ザブ~ン”

 

「ぐはぁ」

 

「きゃっ」

 

”ぶくぶく”

 

ぐぇ、み、水飲んだ。

やばい、はやく水の上に、い、息が。

 

”むにゅ~”

 

な、なに?

顔が何か柔らかいものに挟まって。

それが邪魔で上にあがれない。

げ、や、やばい、い、息が。

この柔らかいもの何とかしないと。

 

”むにゅむにゅ”

 

や、やわらけぇ~

なんなんだこれ?

ん、えっと白い布? これってどこかで・・・・・・

はっ! う、そ。

 

”ザバッ”

 

「ぷはー」

 

「・・・・・・ヒッキ~、あ、あの~大丈夫だった?

 ごめん、ちょっと滑るの早すぎた。

 あと、そ、その、あのね・・・」

 

”モジモジ”

 

「・・・・・・い、いや、こ、こっちこそ、なんかその~

 す、すまん!」

 

”ツー”

 

「あ、ヒッキー鼻血」

 

「え? あっ」

 

      ・

      ・

      ・

 

「はい、もう目隠し取ってもいいですよ美佳先輩」

 

「え、あ、う、うん」

 

”ぱさ”

 

「え?

 か、会長ここって」

 

「はい。

 えっと~、今日はプロムで着るドレス選ぶんですよ。

 ほら美佳先輩もちゃんと選んでくださいね」

 

「あ、いや、あの、でもわたしは 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スー、スー”

 

ん、ここどこだ?

えっと~

 

”キョロキョロ”

 

どこかでみたような風景。

これって学校の・・・教室だよな。

ん、三ヶ木?

お、お~い三ヶ木何してるんだ?

 

『・・・・・・さ!』

 

ん? なんだよく聞こえない。

 

『・・・・・てくるの』

 

み、三ヶ木?

 

『いつもいつもずっと待ってたんだ』

 

”ダー”

 

「お、おい、み、三ヶ木!

 待ってくれ、行かないでくれ」

 

はっ

ここは・・・・・・そっか夢だったのか。

俺いつの間にか眠ってたのか。

ん、なんだ、目の前に白い山が二つ。

それに、なんか頭が柔らかくて温かいもの上に。

えっと~

 

”さわさわ”

 

「ひゃっ!

 あ、ヒッキー、目覚めた?」

 

はっ! ゆ、由比ヶ浜。

白い山の間から由比ヶ浜の顔が。

ってことは、こ、ここ、太ももの上?

 

「お、おい、な、何で俺、お前に膝枕されてんだ!」

 

「え? あ、だってほら床の上だと、タオルあってもちょっと硬いかなぁって思って。

 だから膝の上に・・・

 ヒッキーよく寝てたし」

 

いや、それ余計に鼻血が出そうなんだが。

・・・そっか、俺鼻血が出たから横になってて、それでいつの間にか。

 

「そ、そうか、ま、まぁなんだ、すまん。

 な、なぁ、俺、何か寝言言ってたか?」

 

「あ、う、うううん、何も言ってないよ、うん、何も言ってない。

 あのさ、よく寝てた」

 

「そうか。

 すまなかった」

 

「鼻血止まったみたいだね」

 

「ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわ~藤沢さん綺麗」

 

「蒔田さんこそ、すっごく似合ってますよ」

 

「ね、藤沢さんはもうプロム誘われたの?」

 

「あ、う、うん。

 昨日ね」

 

「いいなぁ~」

 

「蒔田さんはまだ?」

 

「そう。

 なんかさ、引っ越しの準備で忙しいって、なかなか会えないくて」

 

「大丈夫だよ。

 稲村先輩、きっと誘ってくれるよ」

 

「そう思う?

 えへへ、よしじゃ頑張ってドレス選ぼうっと。

 ん~、どれにしようかなぁ」

 

「「わいわい」」

 

「ふぅ~、・・・・・・プロムか」

 

「いいの見つかりました? 美佳先輩」

 

「え、あ、か、会長。

 あ、あの、わたしは」

 

「あ、こっちのほうが似合うんじゃないですか」

 

「か、会長、わたしプロムは」

 

「別れてください」

 

「へ?

 か、会長?」

 

「昨日、先輩から聞きました」

 

「・・・・・・」

 

「別れるって、お二人はいつの間にそんな関係になってたんですか?

 あ、それは今度ねっちょり聞かせてもらうとして。

 そのことより、別れるってなんでそんなことになったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

「先輩もそのことは何も言ってくれないし。

 でも多分、美佳先輩のことだからまた何か馬鹿なことをして・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「えっと最近の美佳先輩は・・・・・・

 それで先輩と関係してること・・・・・・

 はっ、もしかしてプロム!」

 

「・・・・・・」

 

「そうなんですね美佳先輩!

 プロムでまた何かしたんですね!」

 

「・・・・・・」

 

「な、なにをしたんですか!」

 

「・・・・・・・」

 

「黙ってちゃわからないじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「もう!

 ・・・・・・はぁ~、うまくいかないなぁ~

 なんで、なんでこううまくいかないんだろう」

 

「・・・会長」

 

「折角、先輩と美佳先輩に、高校最高の想い出をプレゼントしようと思ったのに」

 

「え、会長、もしかしてプロムやりたかった理由って」

 

「がんばろって思ったんだけどなぁ。

 お世話になってきた先輩や・・・・・・大好きな美佳先輩のためにって。

 でも、結局思ってたのと逆の結果になって」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ~、うまくいかない」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「本当にそう思っているんですか?」

 

「・・・・・・うん」

 

「・・・・・・本当に?」

 

「・・・・・・はい」

 

「だったら。

 ちゃんとドレス選んでください」

 

「え?」

 

「美佳先輩が何かしたって、わたしが気付くくらいですよ。

 先輩なら、美佳先輩がプロムで何をしたのかまで絶対気が付くはずです。

 あの人、そういうの結構鋭いですから。

 そうしたら、必ず美佳先輩のところに来ますよ。

 プロムに誘うために。

 その時、美佳先輩はどうするんですか?」

 

「わ・・・わたし・・・」

 

「美佳先輩、わたしにダンス見せてください。

 先輩との最高のダンスを。

 わたし、わたしがあきらめつくように。

 じゃないと、わたしも卒業できないじゃないですか」

 

「会長」

 

「困るんですよね~

 卒業できないと、わたし早応大目指さないといけなくなるんですよ。

 正直なとこ、結構厳しいんです早応大。

 わたし結衣先輩みたいに何か持ってるわけじゃないですし。

 だから、だからです!」

 

「会長、会長、わたしには資格が」

 

”だき”

 

「そんなの駄目ですよ。

 なにがあったのかわたしにはわかりません、話してくれないから。

 でも絶対絶対、美佳先輩後悔しちゃいます。

 そんなのわたし許しません」

 

「・・・で、でも」

 

「それに美佳先輩のことだから今度もまた自分を犠牲にしたんでしょ。

 お願いです、もっと自分を大事にしてください。

 じゃないとわたし心配で心配で・・・どうしょうもないじゃないですか」

 

「・・・会長」

 

「わたしを安心させてください。

 それでちゃんと卒業させてください、美佳先輩からも」

 

「・・・・・・う、うん」

 

”ガバッ”

 

「だったら・・・ほらさっさとドレス選びますよ。

 あ、このドレスなんかどうですか?」

 

「え、で、でもそれ結構派手すぎ。

 なんかキラキラ光ってて」

 

「美佳先輩はこれぐらいじゃないとダメなんです。

 だって、顔が地味なんだから、ドレスまで地味だったら、

 きっとどこにいるかわからないじゃないですか」

 

「う~、なんか納得するような、腹が立つような。

 あ、でもわたしあんまり予算が。

 レンタルだとしてもやっぱり結構するんじゃ」

 

「美佳先輩、蒔田の紅茶、めっちゃまずいんですよ、相変わらず」

 

「え?

 あの、なにを?」

 

「ね、藤沢ちゃん!

 蒔田の紅茶、飲めたもんじゃないよね、ね!」

 

「え?

 あ、そうそう。

 そうなんですよ三ヶ木先輩。

 とっても苦くて苦くて、まるでお薬飲んでるみたいです」

 

「へ、な、なに?

 いきなりなんでそんなこと?

 い、一色!」

 

「だって不味いじゃない蒔田!

 マ・ズ・イ・の、ねっ!」

 

「あっ、そ、そうだった。

 ジミ子先輩・・・不味いです、めっちゃ不味いですわたしの紅茶!」

 

「・・・・・・」

 

「美佳先輩、だからまだ引き続ぎ、終わってませんから。

 で・す・か・ら、美佳先輩は準生徒会役員なのです。

 当然、役員なのでプロム手伝ってもらいます。

 と、いうことでドレスのレンタル代は必要経費ってことで」

 

「え、えっと、それって?」

 

「つまりタダ、無料ですよ」

 

「え、タダ?」

 

「だって、ほら司会が制服着てやってたんじゃ、プロム盛り上がらないじゃ

 ないですか~

 それと同じで、当日の役員の女子は全員ドレスなんです。

 つまりこのレンタル代は衣装代ということで、必要経費で処理しま~す」

 

「で、でもそれで予算が赤字になったら」

 

「そこはちゃんと学校に補填してもらう手はずになってますからご心配なく。

 なので、美佳先輩も気にしないでドレス選んでください」

 

「・・・・・・会長」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ぎゅるるる”

 

今何時だ?

もうお昼とっくに過ぎてんじゃねえか。

道理で腹すくはずだ。

 

「なぁ、由比ヶ浜、そろそろ飯にしないか?

 売店で何か買ってくるけど、何かリクエストあるか?」

 

「あ、あのさ。

 ・・・・・・お弁当作ってきたんだ。

 よかったら」

 

「・・・・・・・」

 

「はぁ!! なんでそんな嫌な顔するし!」

 

「い、いや、その」

 

「この前ちゃんと食べれたじゃん」

 

え、あ、そ、そうだ。

体育祭の時の弁当、割とまともだったよな。

・・・あのおにぎりを除いて。

 

「よ、よし分かった。

 覚悟決めた。

 毒でもゲテモノでも何でも持ってこい」

 

「ひど!

 朝早く起きて作ったのに。

 ちゃんと作れてると思うんだけどなぁ~」

 

”がさがさ”

 

「はいどうぞ」

 

「お、おう」

 

ん? 普通だ。

見た目はちゃんとしてる。

おにぎりにチキンナゲット、焼き鮭、スパゲッティ、卵焼き。

だが、こいつの場合、問題は見えないところに。

確か体育祭の時は・・・

はっ!

 

「由比ヶ浜、おにぎりの具はなんだ!

 チョコとか入れてないだろうな」

 

「え、えっと~、梅干しとタラコ・・・・・とチョコ」

 

「お約束か!

 チョコはやめろっていっただろチョコは!」

 

「だって、甘いものも欲しくなるかなぁ~って思って」

 

「チョコ以外のおにぎりよこせ」

 

「はい」

 

「よし。

 いっただきま~す」

 

”パク”

 

お、美味い。

塩加減もちょうどいいし、体育祭の時の硬いのと違って、

食べた時にちゃんと口の中でほぐれて。

 

「美味いぞ由比ヶ浜」

 

「本当?

 えへへ、よかった。

 じゃ、あたしもいただきま~す」

 

”パク”

 

「ん~、やっぱり美味しいこのチョコにぎり」

 

・・・・・・・・ま、マジか。

 

      ・

      ・

      ・

 

やっぱりまだ日が暮れるのが早い。

もうすぐ3月も中旬だというのにもう暗くなってる。

ドームの外で待っているとやっぱり寒い。

春はまだまだだと感じる。

それでも時は歩むことをやめず、少しづつ春に近づいているのだろう。

そしてまた一日、俺達は卒業に近づいて・・・

卒業か、本当にいろいろあった。

入学早々の交通事故に始まって、わけのわからん部活に入れられて。

そこで雪ノ下や由比ヶ浜と出会って、文化祭、修学旅行、クリスマス・・・

俺が雪ノ下や由比ヶ浜と築いてきたもの、俺が守りたかったもの、求めたもの。

俺は彼女達に何を求めてきたのだろう。

そして今、彼女が願っているものは。

それはきっと・・・・・・違うものなんだ。

だとしたら俺は責任を取らなければならない。

ちゃんと話さなければならない。

それが俺の責任・・・けじめだ。

そして俺はもう一度・・・・・・始めたい。

 

『・・・それが大事なものだと、けして無くしちゃいけないものだと気付いたのなら、

 また始めればいいじゃないですか。

 今度は間違わないように』

 

・・・・・・一色、お前の言う通りだ。

 

 

 

 

ーーーー話は昨日の電話の後、サイゼでーーーー

 

 

 

 

「せんぱ~い、お待たせいたしました」

 

「ああ、スゲ~待った」

 

「な、なんですか!

 そこは今来たところだとか、君を待ってる時間も楽しいとか言うところ

 じゃないですか!」

 

「いや、楽しくないから。

 それに待ってる間のコーヒーの飲み過ぎでお腹タプタプだから。

 店員さんの視線もきついし」

 

「む~、ま、そんなことはどうでもいいです。

 ほら、席、もっとそっち詰めてください」

 

「え、な、なんで隣に座ろうとするんだ。

 向かい側座ればいいだろう」

 

「はぁ?

 なに言ってんですか?

 いいですからそっちにもっと詰めてください」

 

”ぐぃぐぃ”

 

「お、おい、無理やり座ろうとするな」

 

いや、だから、お、お尻で押すんじゃない。

・・・・いや、すげ身体密着してるんだが。

一色のお尻の感触とその温もりがその・・・

 

”ジー”

 

は! なに君のその目。

やば、俺にやけてなかったよな。

 

「わ、わかったから、今こっち詰めるからちょっと待て。

 くそ、まったく」

 

「ふふん」

 

え、な、なに、その勝ち誇った表情。

く、くそ、だ、だってあれだけお尻で押されたら。

それに

 

”ちら”

 

こいつのこのお尻のどこにそんな力が?

いやそれなりの大きさで・・・・・

く、くそ!何考えてんだ俺。

 

「あ、すみません、ドリンクバーお願いしま~す。

 それと~、あ、ティラミスもお願いします」

 

「はい、畏まりました。

 少々お待ちください」

 

「先輩、ご馳走様です」

 

「お、おう・・・・・・・ちょっと待て。

 奢るなんて言ってないぞ、何で俺がお前に奢ってやらないと 」

 

「はぁ?

 先輩、今このかわいい女子のお尻の感触楽しんでたじゃないですか~

 それにこんな間近で思いっ切り凝視してたし。

 タダでそんなの楽しめると思ってるんですか?

 甘いですよ、先輩」

 

「・・・・・・」

 

「ですから、ご馳走様です、先輩♡」

 

「ちっ!

 で、なんのようだ」

 

「あ、そうそう。

 先輩、プロム誰を誘うか決めました?」

 

「い、いや俺は」

 

「わたし~、先輩にいろいろとお世話になったじゃないですか~

 なので、先輩がどうしてもって言うのなら誘われてあげてもいいですよ」

 

「いやいらん」

 

「即答!」

 

「一色、俺はプロム、誰も誘うつもりはない」

 

「え、な、何でですか!

 誰も誘わないって。

 そんなこと許されると思ってるんですか」

 

「いや、そんなの俺だけじゃないだろう。

 葉山だって誰も誘わないだろう、きっと」

 

「葉山先輩と先輩は違います」

 

「同じだろ。

 誰も誘わないってことに違いはないだろう」

 

「違いますよ。

 葉山先輩が誰も誘わないのは、たとえそれが上辺だけの関係でも

 失いたくないという信念から来るものです。

 先輩は違うんじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「先輩はあの時、本物を欲していたんじゃないんですか。

 先輩のはただ逃げているだけじゃないんですか」

 

「・・・・・・」

 

「先輩達が築いてた本物って、そんなに脆くて簡単に崩れてしまうもの

 なんですか?」

 

「・・・・・・」

 

”ぐぃ”

 

「ぐぉ、お、おい、襟引っ張るな」

 

ぐ、ぐるしい。

それに顔近い、すげー近い。

え、なに? そ、そんなにじっと見つめないで。

 

「責任取ってください」

 

「え?」

 

「結衣先輩、雪乃先輩・・・・・・・そして美佳先輩に」

 

「・・・・・・も、もう遅いんだ。

 終わったんだ」

 

「えっ?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「なんですかそれ!

 別れてくださいって、なんなんですか」

 

「・・・・・・」

 

「お二人はいつの間にそんな関係に?

 いえ、それはこんど美佳先輩を問い詰めるネタとして。

 そんなことより、なんで別れようってことになったんですか?」

 

「・・・・・・」

 

「先輩!」

 

「一色、もう終わったことなんだ。

 俺は、俺は誰もプロムに誘わない、誘わないんだ!」

 

「はぁ~、まったく、この唐変木は。

 先輩、ほらちゃんとこっち向いて」

 

”ぐぃ”

 

「い、いたたたた。

 く、首が 」

 

「いいですか先輩。

 終わったものなら、うううん、終わってしまったものだとしても、

 それが大事なものだと、けして無くしちゃいけないものだと気付いたのなら、

 また始めればいいじゃないですか。

 今度は間違わないように」

 

「い、一色」

 

「まったく、そんなことでウジウジしているなんて、わたしの先輩らしくないです。

 わたしの先輩は、そんな物わかりのいい人じゃないはずです。

 わたしの・・・・・・す、好きな先輩は、もっと捻くれてて、姑息で・・・

 足掻いて、藻掻いて、悪あがきして。

 それで捻くれた答えを導き出して。

 本当にすごくあきらめの悪い人のはずです」

 

「・・・・・・」

 

「先輩、今しかないんですよ。

 卒業したらもう。

 ・・・・・・あとから後悔しても遅いんですよ」

 

「・・・一色」

 

「いいですね、ちゃんとお話 」

 

「なぁ、お前本当に一色か?」

 

「はぁ?

 いきなり何を」

 

「あの何かある度にいつも俺に頼ってきた、すげ~頼りない一色は

 どこに行ったんだ?」

 

「な、なんですか!

 なんでそんなことを」

 

「・・・お前、成長したな。

 もうどこからみても立派な生徒会会長様だ」

 

「・・・まったく。

 誰のせいだと思うでんすか。

 誰かさんがわたしを会長になんてしたからですよ。

 だから誰かさんもしっかりして下さい」

 

「ああ、そうだな。

 すまん、一色」

 

 

 

 

ーーーー そして今 ーーーー

 

 

 

 

また始めればいいっか。

一色の言う通りだ。

俺は、そんなに物わかりのいい人間じゃない。

だとしたら俺は・・・もう少し足掻いて藻掻いてみたい。

だから

 

”スタスタ”

 

「ヒッキーごめんね、お待たせ」

 

「お、おう。

 いや、今来たところだ」

 

「へ?」

 

「あ、い、いや何でもない」

 

「う、うん。

 じゃ行こっか」

 

”スタスタスタ”

 

俺は始めたい、もう一度。

今度は絶対に間違わない。

だから、

 

「な、なあ由比ヶ浜。

 ちょっと話が 」

 

「あ、そ、そっだヒッキー。

 あのね、あたしもう一ヵ所だけ、絶対に行ってみたいとこあるんだ。

 少し遅くなるかもだけどいいかなぁ?」

 

「ん、あ、ああ」

 

「ありがとう、ヒッキー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃ美佳先輩、また明日です。

 お手伝いよろしくです」

 

「う、うん」

 

「ジミ子先輩、プロム楽しみましょうね」

 

「あ、うん」

 

「おやすみなさいです、三ヶ木先輩」

 

「おやすみ、藤沢ちゃん。

 みんなも気をつけてね」

 

「「は~い」」

 

”スタスタスタ”

 

「プ・ロ・ム・・・・・か。

 比企谷君がほんとに誘ってくれたら、わたし、どうしょう。

 わたしは比企谷君の大事な思いを邪魔した、裏切った。

 そしてすごく酷いことをいった、比企谷君だけじゃない、結衣ちゃんにも。

 こんなわたしが誘われてもいいの?

 でも、でもわたしは・・・・・・」

 

”スタスタスタ、スタスタ、スタ”

 

「・・・・・謝ろう、ちゃんと謝ろう。

 明日、比企谷君と・・・・・・結衣ちゃんに。

 ちゃんと全部話して謝ろう。

 許してもらえるまで何度でも。

 だってわたしは、わたしは、・・・・ずっと比企谷君のそばにいたい」

 

”ぐるるるるる”

 

「へへ、覚悟決めたらなんかお腹すいてきちゃった。

 そういえば朝から何も食べてなかった。

 なんか買って帰ろう。

 あ、そうだ晩ご飯の材料も。

 えっと~、どこかスーパーに寄ってっと。

 ここのところさ、ずっと麻緒さんに甘えてきたから。

 まずはそこからちゃんとしないといけない。

 うん、頑張ろう!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うわぁ~、すごく綺麗」

 

「ああ、イルミネーションの光、すげぇ~綺麗だ」

 

赤、青、緑、一面に広がるLEDの光の海。

そうここは千葉県ドイツ村。

千葉県一の人気のイルミネーションのスポットと呼ばれるだけあって、

本当に綺麗だ。

あ、千葉県だからね、千葉県ドイツ村!

決して東京ドイツ村じゃないから。

くそ、ディステニーにしろ、何で千葉にあるのに東京なんだ。

千葉でいいじゃねえか千葉で。

 

「本当に幻想的で綺麗だね。

 あたしちょっとやばいかも」

 

「・・・・・・お、おう」

 

「あのね、あたしここ初めてなんだ。

 でね、前から一度ここに来たかったの」

 

「へ~、意外だな。

 トップカーストのお前らのことだ。

 もうここには来たことあると思ってた」

 

「・・・だってさ、こういうところってさ、好きな人と二人で来たいじゃん」

 

”ちら”

 

「・・・・・・」

 

「こんなところでさ、もし告られたらあたし絶対にOKしちゃうな。

 うん100%OKしちゃう。

 ・・・だからさ 」

 

”ちら、ちら””

 

「ゆ、由比ヶ浜、あ、あのな、お、俺は 」

 

「・・・・・へへ、冗談、冗談だよヒッキー。

 何言ってんだろあたし」

 

「・・・・・・」

 

「でも・・・本当に綺麗だなぁ~

 いつまでも・・・・・・このまま・・・」

 

そう言ってイルミネーションを見つめる彼女。

その表情はすごく悲しげで。

まるで俺が言おうとしたこと、全てわかっているように。

そんな顔見せられたら、俺はもうそれ以上何も言えない。

彼女は今を、この残り少なくなったデートの時間を、一分一秒でも

大事に大切にしたいのだろう。

できればこのまま、ずっとこのまま時間が止まればと願いながら。

・・・だが俺は心のどこかでこの時間を終わらせることを願っている。

俺は由比ヶ浜の気持ちに応えることはできない。

俺が彼女に思っている気持ち、これは彼女が俺に思っていてくれる気持ちとは

きっと違うものだから。

だけど彼女の儚なく、悲しげな横顔に俺は何も言えない、できない。

俺のこの気持ちが偽物だとしても、今少しだけはこの時間を大切にしたい。

 

     ・

     ・

     ・

 

「わ、わかった。

 醤油と味噌だな。

 通りの反対側にスーパーあるから買って帰る。

 じゃあな」

 

「えっと、今の小町ちゃん?」

 

「ああ」

 

「いろいろ連れまわしてごめんねヒッキー」

 

「いや、結構楽しかった。

 じゃあな由比ヶ浜。

 あ、そうだ、なぁ一度雪ノ下達の手伝いに」

 

「ヒッキー!

 あ、あのね」

 

「ん?」

 

「・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「あ、あのね、プ、プレゼントあ、あるんだ。

 受け取ってもらっていい?」

 

「プレゼント?」

 

「うん。

 ほら目瞑って」

 

「ん? ああ」

 

”ちゅ”

 

え、は、な、ゆ、ゆいが・・・はま。

こ、これって。

お、俺の唇と由比ヶ浜の唇が。

由比ヶ浜の唇、やわらかくて、甘くて、それだけじゃない、なんかこううまく言えないが、

心がすごく安らぐなにかが。

これがキスというものなのか。

すごく気持ちがいい。

このままずっとこうしていたい・・・・・・・・・・・だ、駄目だ!

これは、駄目、駄目なんだ。

 

”プシュ~”

 

「このスーパー結構品揃えいいや。

 思わず野菜とかお肉とかいっぱい買っちゃった。

 それに!

 なんたって新発売のチロロチョコ、完熟梅味があるとは。

 へへへ、思わず箱買い・・・しちゃ・・・・・た。

 えっ!」

 

”どさっ”

 

「う、うそ。

 ・・・・・・・・・・・やだ!

 も、もうやだ」

 

”ダ―”

 

み、み、三ヶ木!

な、なんでこ、ここにお前が。

はっ、い、いや違う、こ、これは違うんだ!

 

”ガバッ”

 

「ゆ、由比ヶ浜!

 な、なんで 」

 

「だって!

 ・・・あ、あ、あたし、あたしはヒッキーのことが」

 

「・・・・・・

 なぁ、聞いてくれ由比ヶ浜。

 俺は 」

 

”ブ~、ブ~”

 

「・・・・・・」

 

「あたしは」

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

「電話・・・だ」

 

「あ、う、うん。

 ごめん、ちょっと」

 

「ああ」

 

”スタスタ”

 

「もしもし

 あ、ママ、どうしたの?」

 

な、なんで三ヶ木がこんなとこに。

い、いや、そんなことより早く三ヶ木を追い駆けないと。

追い駆けて、ちゃんと、ちゃんと話しないと。

だが、その前に俺は由比ヶ浜に責任を取らないといけない。

由比ヶ浜をここまで追い込んでしまったのは俺のせいだ。

だから

 

「う、うそ!」

 

”ヘナヘナヘナ”

 

「由比ヶ浜、え、ど、どうしたんだ」

 

「サ、サブレが、サブレが死んじゃった」

 

「はぁ!」

 

「ヒッキー! サブレが死んじゃった。

 今朝、あんなに元気だったのに。

 あたしに抱き着いて来たのに。

 サブレが、サブレが!」

 

「ゆ、由比ヶ浜、しっかりしろ」

 

「やだ、やだ、やだ、そんなのやだ!」

 

”だき”

 

「由比ヶ浜」

 

「ヒ、ヒッキー、サブレが、サブレが」

 

「しっかりしろ由比ヶ浜。

 大丈夫だ、大丈夫だから。

 落ち着け落ち着くんだ」

 

”なでなで”

 

「ヒッキー、ヒッキー、ヒッキー、う、う、うぇ、うぇ~ん、う、う・・・」

 

「由比ヶ浜。

 大丈夫、俺が一緒にいてやるから。

 大丈夫だから。

 さぁ、立つんだ。

 サブレに、サブレに会いに行こう。

 一緒にサブレにお別れを言いに行こう」

 

「ヒッキー」

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”どか”

 

「おわ、いってぇなぁ、気をつけろ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・はぁ」

 

「おい、聞いてんのか

 お前、人にぶつかっておいてなにも無しか」

 

「・・・・・・」

 

「な、なんだその目は!」

 

”ボカッ、ボゴッ”

 

「このくそ女!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・サブレ」

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

寝ちゃったのか

相当ショックだったんだろうな。

頬に涙の痕が残ってる。

三ヶ木、すまん。

俺には今の由比ヶ浜を一人で帰らせることはできない。

この俺にしがみついて眠っている由比ヶ浜を放っておけない。

・・・・・すまない。

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「美佳!

 今何時だと思ってるの!

 佳紀はまだだからさっさと 」 

 

”どさ”

 

「み、美佳?

 きゃっ!

 ど、どうしたのその顔!」




今回も最後までありがとうございます。

最近書きたいことが書けなくて、更新がどんどん遅くなって申し訳ないです。

とうとう八幡のファーストキスが・・・ガハマちゃんと・・・
それを目撃したオリヒロは・・・・・

次話、卒業編です。
オリヒロはこのまま・・・・・・

原作のプロムがどうなるかわからないけど、なんとか次話7月中更新頑張ります。
また読んでいただいたらありがたいです。

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

卒業

祝 八幡生誕日!
誕生日おめでとうっす。
それと八幡を世に生み出してくれた渡先生に感謝っす。
ほんとにおもしろい作品をありがとうございました。
・・・あ、まだ終わってない。
早く14巻でることを願いながら、八幡の誕生日を祝って乾杯っす。
(マッ缶ないので、シロップ多めのアイスコーヒーで)


さてさて。
今回は卒業編。
オリヒロは無事卒業できるのか。
八幡との関係は。

それではよろしくお願いします。


”ドタドタドタ”

 

「廊下を走らないでください!

 って、あなたあの時の」

 

「す、すみません。

 あとでまた怒られに行きます」

 

     ・

 

「ずっとここにいるから、安心してゆっくりお休み美佳」

 

「・・・・・・・スー、スー」

 

「ふぅ~、やっと落ち着いたみたい」

 

”なでなで”

 

「可愛そうに。

 こんなに顔腫らしちゃって」

 

”ドタドタドタ”

 

「ん?

 な、なにこの足音、だんだん近づいて。

 は、もしかして」

 

”ガチャ ドン!”

 

「み 」

 

”ぼご!”

 

「ぐはぁ

 お、お義姉さん何で腹パン 」

 

「やっぱり佳紀だった。

 あのね、美佳やっと落ち着いて寝たんだから。

 起きちゃうでしょう、この馬鹿」

 

「す、すみません。

 あのう、それで美佳の容態は?」

 

「ね、いい、絶対静かにね。

 くれぐれも大声出さないでね。

 本当に寝かせるの大変だったんだから。

 さ、中に入って」

 

「は、はい」

 

”スタスタ、スタ、スタ”

 

「え! み、美佳!」

 

”ギュ~”

 

「ぐ、ぐぇ~、お、お義姉さん、く、くるしい。

 ちょ、チョーク、チョーク、首締まってる締まってる」

 

「し・ず・か・にって言ったでしょ」

 

”こくこく”

 

「まったく」

 

「す、すみません。

 で、でもこの顔、いったい何が」

 

「あのね、さっき婦警さんに話してるの聞いてたんだけど。

 どうやら道で男の人に顔を殴られたみたい、何回も何回も」

 

「えっ」

 

「それでね、お医者さんが言うには、殴られて顔がすごく腫れてて

 痣とかもできてるけど、幸い骨折とかヒビ入ってたりとかはないって」

 

「ほ、他には

 あ、あ、あの、お義姉さん、顔以外には、そ、その・・・・・・」

 

「・・・顔だけだから。

 大丈夫、他には何もない。

 着衣の乱れとかもなかったし、佳紀が思ったようなことはなかったから」

 

「あ、は、はい」

 

「でもね、何回も何回も顔を殴られてすごく怖い思いしたらしくてね、

 男に対する恐怖症になってるみたい。

 警察の人とかお医者さんとかでも、男性が近づくと悲鳴上げて頭から布団被って。

 ブルブル震えてるの。

 だからごめん、佳紀もしばらく美佳に近寄らないで。

 今は美佳を刺激したくない」

 

「で、でも・・・・・・お義姉さん、俺は美佳のそばに」

 

「気持ちは分かるけど、美佳が落ち着くまで我慢して」

 

「・・・・・・け、けど」

 

「佳紀、美佳はわたしにとっても掛け替えのない可愛い姪っ子。

 わたしに任せて、ね?」

 

「・・・・・・はい」

 

「あ、そうだ美佳の着替え持ってきてくれる。

 わたしも気が動転しちゃってたから何も持ってこなくて」

 

「・・・・・・」

 

”バシ”

 

「いた!

 お、お義姉さん?」

 

「ほら、こんな時こそあんたがしっかりしなさい。

 大事な娘なんでしょ」

 

「・・・お義姉さん」

 

”ペコ”

 

「お義姉さん、美佳を、美佳をお願いします」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブロロロ~ン”

 

「ごめんね遅くまで」

 

「いえ、それより送ってもらってすみません」

 

「全然大丈夫、気にしないで。

 それにゆきのんちゃんも来てくれて、結衣も落ち着いたみたいだし。

 それよりヒッキー君、本当に駅まででいいの?」

 

「ええ。

 まだ最終に間に合いますから」

 

車の窓から見える景色はもう漆黒の闇に包まれている。

この道は駅に向かう道なのに、さすがにこの時間になると人影はまばらだ。

三ヶ木、ちゃんと家に帰ったかな。

まさかあの時みたいに公園にいるってことないだろうな。

・・・大丈夫だよな。

 

「ヒッキー君、本当にありがとうね。

 今日のことだけじゃないわ。

 いつもあの子によくしてくれてありがとう」

 

「え?

 あ、い、いや別に俺は」

 

「あの子ね、学校から帰ってくるとずっとあなたのことばっかり話すの。

 今日はあなたが何をしたとか、こんなこと言ったとか、いろいろとね」

 

いろいろって、由比ヶ浜、何話してるんだ?

きっと碌なこと言って・・・・・・

も、もしかして教室で寝たふりしながら、いつも由比ヶ浜の胸をチラ見している

こととか言ってないだろうな!

い、いや、待て。

それは気付かれていないはずだ。

大丈夫だ、多分。

はっ! も、もしかしてこの前部室で勉強してた時のこと!

あ、あの時、落とした消しゴムを拾う時、思わず由比ヶ浜の太ももが目の前にあって

凝視してしまったんだ。

あの後、頭上げた時、由比ヶ浜と目があって、思いっきり目を逸らされた。

あれ、きっとバレてたよな。

だ、だが、あれは不可抗力だ。

あ、あんな短いスカート穿いているほうが悪い。

そ、そうだ、俺は悪くない。

ピンクのだってちょっとしか見えてなかったし。

 

「ねぇ、ヒッキー君」

 

「は、はい、すみません、ごめんなさい」

 

「え?」

 

「はっ?」

 

「え、えっと~大学のこと・・・だけど」

 

「あ、あは、あはははは」

 

「・・・・あのね大学のことなんだけど。

 まさかあの子が早応大に受かるなんて。

 本当にびっくりしたわ

 あの勉強嫌いの子が、あなたと同じ大学行きたいからって、

 本当に寝る間も惜しんで勉強するなんて」

 

「・・・・・・」

 

「これもヒッキー君のおかげね。

 ありがとう。

 でも、あの娘、東京で一人暮らしするって言ってね、どうしょうと思ってるの。

 ほらやっぱり心配で。

 女の子でしょう。

 近くにいてやれないから不安でね。

 でもすっごく頑張って早応大受かったの知ってるからダメとは言えないし。

 だれか近くに頼れる人いるといいんだけど」

 

「そ、そうですね」

 

「・・・・・・ヒッキー君が気にかけていてくれると安心なんだけどなぁ」

 

「・・・・・ま、まぁ、俺にできる範囲なら」

 

「本当!

 ありがとうヒッキー君。

 そう言ってもらえると本当に安心。

 それなら安心して東京に送り出せるわ」

 

「は、はぁ」

 

「それでねヒッキー君。

 ・・・・・・結衣とはどこまで行ったの?」

 

「はぁっ!」

 

「まさかと思うけど、最後まで」

 

「え、い、い、いや、な、なにも、なんにもしてません。

 お、俺達はそういう 」

 

「なにも?

 もしかして、キスとかも?」

 

「・・・・・・」

 

「キス・・・したんだ」

 

「す、すみません」

 

「うふふ、結衣をよろしくね」

 

「・・・・・・は、はい」

 

「ところでヒッキー君、東京で住むところは決まってるの?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ガラ”

 

「えっと~

 いないっか、今日来てないのかなぁ。

 あ、そうだ」

 

”スタスタ”

 

「ね、川崎さん。

 今日さ、三ヶ木学校に来てる?」

 

「え? あ、相模。

 いや三ヶ木なら今日は来てないけど」

 

「そうなんだ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・どうしたんだろう」

 

「あのさ、平塚先生には風邪ひいたって連絡があったらしいんだけど」

 

「風邪・・・か」

 

「ん?」

 

「いや、あのさ、うち、三ヶ木と3日前から連絡がつかなくて。

 ラインも既読にならないし」

 

「・・・あんたも」

 

「川崎さんも?」

 

「うん、どうしたんだろう。

 こんなこと今までなかったから」

 

「・・・・・・やっぱりあのことかなぁ」

 

「あのこと?

 ね、あんた何か知ってるの?」

 

「・・・・・・ちょっと向こういい?」

 

「え、ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「でさ、どっちがいいか決められなくて思わずケーキ2個食べちゃった」

 

「結衣、あんたそれちょっとやばくない?

 あのケーキって結構カロリーあるよ」

 

「でへへ、そ、そうだよね」

 

ふ~、由比ヶ浜のやつ大丈夫のようだな。

こうやってみている限り、今までと変わらない。

どうやら吹っ切れたようだな。

 

「でね優美子もさ 」

 

”ごくっ”

 

・・・・・・や、柔らかかったなぁ唇。

まだあの感触残ってる。

なんか甘くて、心が安らいで、すごく気持ちがよくて。

 

「あ、姫菜も 」

 

う~

だ、だめだ、くそ。

意識しないでおこうと思っても、ついあの唇に目がいってしまう。

この世にあの万乳引力以上のものがあったとは。

 

「はぁ~」

 

「ん? あ、ちょっとごめんね」

 

げ、やば、気がつかれた。

あ、こ、こっち来やがる。

まずいまずいまずいまずい、え、えっとそうだ自然体、自然体で。

 

”スタスタスタ”

 

「ね、ヒッキー

 今からさ、みんなでカラオケ行くんだけど。

 ・・・あのさ、一緒に行かない?」

 

「はぁー!

 なに、それ新種のいじめ?

 ちょっと考えてみろ、俺がお前らに交じって歌えると思うのか。

 浮くだろう、間違いなく。

 だから行くはずがない」

 

「そっか、そだよね。

 ・・・・・・あ、あのさヒッキー」

 

「ん?」

 

「さっきから見過ぎだから。

 それだけ見つめられると、ちょ、ちょっと意識しちゃって。

 う、うれしいけど、ちょっと恥ずかしい」

 

「い、いや、そ、その、すまん」

 

「それとさ・・・」

 

「ん?」

 

”すー”

 

いや、近い、近い、顔近いから。

ほら唇が、そのプルンとした唇が。

ま、まさかここでキス、キスなのか!

 

「あたし、初めてだったから」

 

「え?」

 

「ビ、ビッチじゃないから・・・ねっ♡」

 

「お、おう」

 

”ダー”

 

「お待たせ。

 じゃ行こ」

 

な、なんだ、なんだったんだ。

すごく可愛かったじゃないか。

 

”ザワザワ”

 

は! な、なんだこの視線。

げ、他の奴らの視線、すげ怖いんだけど。

いや、あいつ睨んでる睨んでる。

こ、ここは寝たふり、寝たふりだ。

 

『初めてだったから』

 

ち、あ、あのバカ。

 

     ・

     ・

     ・

 

「ダミープロムの時、そんなことが」

 

「昨日、弟から聞いてね。

 ほらうちの弟もなんか関係してたらしくて。

 それで、そのことが原因になってるんじゃないかって思うんだけど」

 

「・・・そうだね、ありえるかも」

 

「うち、今から三ヶ木の家行ってくる」

 

「あ、じゃあたしも一緒に」

 

「・・・・・・・川崎さん。

 川崎さんにはちょっと頼みたいことあるんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

『もう、やだ』

 

み、三ヶ木、違う、違うんだ。

ま、待ってくれ。

 

”ガバッ”

 

はっ、ゆ、夢か。

やば、マジ寝ちまった。

え~と、話し声とか聞こえないな。

どうやら他の奴らあらかた帰ったようだ。

それじゃ、そろそろいいよな。

 

「ふぁ~あ、よく寝た」

 

「お目覚めですか先輩」

 

「はっ! い、一色!

 な、何でお前が」

 

「とてもよく寝てたので、起こすのもなんでしたし」

 

「そ、そうか」

 

「ところでせんぱ~い」

 

”ゾクゾク”

 

ん、な、なんだ急に寒気が

な、なんだこの一色の笑顔は。

何か嫌な予感がする、ずげー嫌な予感がする。

逃げよう、うん逃げないと。

 

「い、一色、あのドアから清川がお前のこと見つめてる」

 

「え?」

 

”ガタ、ダー”

 

「あ、に、逃げた!

 先輩、ちょっと待ってください!」

 

「断る!」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「え~と、確かこの辺のアパートだったと思うけど。

 あっ」

 

「ごめんね、わざわざ来てもらったのに」

 

「いえ、それよりお身体を大切にとお伝えください。

 それでは」

 

「ええ。

 あ、そこ、階段ぼろくて急だから気をつけてね」

 

「はい」

 

「えっと、あれ蒔田さんだね。

 あの子も三ヶ木の様子を見に来たんだ。

 あ、こっち来た」

 

「蒔田さん」

 

「え? あっ」

 

”タッタッタッ”

 

「久しぶりです、相模先輩」

 

「久しぶり。

 ね、三ヶ木に会いに来たようだけど、どうだった?」

 

「あ、はい。

 あの~、三ヶ木先輩には会えませんでした。

 なんか、おたふくかぜになったらしくて、うつるといけないからって」

 

「そうなんだ」

 

「でも、昨日一色が来た時は、お父さんはインフルエンザって言ってたのに。

 インフルエンザこじらせておたふくかぜになったのかなぁ三ヶ木先輩」

 

「え? そ、そんなことあるの?」

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

「あ、すみません、ちょっと。」

 

「うん」

 

”カシャカシャ

 

「はい、もしもし蒔田だよ。

 え! あ、うんわかった。

 じゃ、今戻るから。

 相模先輩、あのわたし生徒会に行かないといけないので失礼します」

 

「あ、うん。

 じゃあ、また」

 

「はい」

 

”テッテッテッ”

 

「インフルエンザにおたふくかぜって・・・どうしたんだろ三ヶ木」

 

      ・

      ・

      ・

 

”キョロキョロ”

 

よ、よし、撒いたみたいだな。

このまま、一気に玄関まで。

それ!

 

”ダー”

 

げぇ!

あそこにいるのは藤沢ちゃんか。

くそ、玄関で見張ってるのか。

なんだもしかして生徒会総出で俺を探しているのか?

やばい、なんか知らんけどすごくやばいんじゃないか。

俺の危機センサーがギンギンに反応して、捕まると本当にやばいと教えている。

くそ、どうする。

どこか逃げ道はないか。

い、いったん戻るか。

 

”くる”

 

げ、あ、あれは小町と会計の娘じゃねえか。

あいつらもなんか探しながらこっち向かってくるぞ。

 

ブ~、ブ~

 

げ、小町から着信!

 

くそ、やっぱり俺を探しているんだよな。

なんだ、なんで生徒会が俺を探しているんだ?

ど、どうする。

前には小町達。

後ろは藤沢ちゃん。

一色もどこから来るかわからん。

ど、どうすれば。

 

”キョロキョロ”

 

はっ、こ、こっちっだ。

取り合えず、この物陰に

 

”スタスタスタ”

 

「あ、藤沢先輩」

 

「小町ちゃん、鈴ちゃん、比企谷先輩いた?」

 

「あ、いえこっちには。

 確かこっちのほうからスマホの着信音がしたと思ったんだけど」

 

「いろはちゃんからも連絡ないし。

 わたしもう少し玄関で見張ってるね」

 

「じゃ小町達、もう少し見廻ってきますです」

 

「うん、お願い」

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~、行ったか。

でもなんであいつら俺を探しているんだ?

 

”チョンチョン”

 

「へっ?」

 

「あんた女子トイレで何してるのさ」

 

「え、あ゛ー

 あ、い、いや、あ、あの」

 

「ね、警察行く?」

 

「あ、い、いや何でもします勘弁してください」

 

「まぁ、ちょうどよかった。

 あんたに用事があったんだ。

 通報されたくなかったら、ちょっといいかい?」

 

「・・・・・・はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「もうこんな時間。

 どうしょう、帰ろうかなぁ。

 やっぱり三ヶ木、ライン見てないし。

 でも川崎さんと約束したしなぁ。

 絶対三ヶ木の顔見てくるって。

 よ、よし、やっぱりチャイムを」

 

「美佳、じゃちょっと買い物行ってくるね。

 鍵かけて行くから」

 

”ビクッ”

 

「え、あ、やば!

 どうしょう、ひ、ひとまず下に降りて」

 

”ダー”

 

「あっ!」

 

”ドタドタドタ”

 

「い、いったぁー」

 

「だ、大丈夫?」

 

「あ、あの~」

 

「あなたその制服、総武高の子?」

 

「あ、は、はい」

 

”ズキッ”

 

「いたっ!」

 

「どうしたの?

 足、ちょっと見せてみなさい」

 

「うう、はい」

 

”ズキッ、ズキッ”

 

「ひゃ、い、痛い!」

 

「こりゃ捻挫かなぁ。

 ・・・・・・仕方ない。

 ちょっと家においで」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「えっ、3日前から三ヶ木と連絡がつかない?」

 

「ああ、それに今日学校休んだんだ。

 ね、相模から聞いたけど、あんたダミープロムの時、三ヶ木のこと殴ったんだってね」

 

「・・・・・・・」

 

「どうなんだい?」

 

「ああ、引っ叩いた」

 

「何でそんなことを」

 

「俺にもわからないんだ。

 なぜ、あんなことしてしまったのか。

 気が付いたら、俺は三ヶ木を引っ叩いていた」

 

「そっか、引っ叩いたんだ。

 三ヶ木やっぱりそれがショックで」

 

「・・・・・」

 

違う。

それが原因じゃないんだ。

3日前だとしたら・・・・・・あのことが原因だ。

俺はあの時見たんだ、俺と由比ヶ浜を見つめるあいつの顔を。

今まで生きてきて、俺はあんな悲しい顔を見たことがない。

・・・・・・また三ヶ木を傷つけた。

 

「比企谷?」

 

・・・だが、これでよかったのかもしれない。

俺はあいつに暴力をふるった。

だから振られた。

だったら、これでちゃんとあいつとの関係を終わらせることができるじゃねえか。

これでいい・・・・・・これでよかったんだ。

 

(本当にこれでよかったのか)

 

は、な、なに、な、なんなんだ?

 

(お前は三ヶ木とやり直したかったんじゃないのか?

 もう一度最初からちゃんと)

 

・・・・・・

 

(本当にこれでいいんだな)

 

お、俺はあの時、走り去る三ヶ木を追いかけなかった。

追いかけてちゃんと説明すればわかってもらえたと思う。

だけど、俺は三ヶ木じゃなく由比ヶ浜を選んだ。

あの時、由比ヶ浜のそばにいてやりたいと思ったんだ。

だから俺は

 

(それだけか?

 違うだろう?

 お前はあれからも三ヶ木に連絡をしようともしなかった。

 もしかしたらわかってくれるかもしれなかったのに。

 いや、ずっとそばにいてお前のこと見ていてくれていた三ヶ木なら、

 きっとわかってくれるって知ってたはずなのに。

 でもお前は連絡しなかった。

 それはなぜだ)

 

・・・・・・

 

(なぜだ?)

 

・・・・・・お、俺は由比ヶ浜の甘く柔らかい唇に触れた時、

すごく気持ちがよくて、もう少しこのままでいたいってそう思った。

何かこう、心が満たされていくそんな気がして。

もっとこのままキスしていたいって思った。

・・・・・・思ったんだ!

あの時、もう一回始めたいって、三ヶ木とやり直したいって思っていたのに。

俺は三ヶ木のことを・・・・・・・・・

それなのに、三ヶ木に会って、会えたとして俺はなんて言い訳をする?

どんな言葉で繕っても、それはきっと欺瞞でしかない。

・・・だから俺はあいつに会えない。

会ってはいけない。

会う資格がない。

 

「ね、比企谷聞いてるのかい?

 今から三ヶ木に会いに行こう。

 あたしが一緒に行ってあげる。

 それで、ちゃんと謝んな。

 あんたがそんなことしたの、三ヶ木にも原因があったと思う。

 だから謝りに行けば三ヶ木もきっと」

 

「川崎、すまない。

 ・・・俺は行けない」

 

”スタスタスタ”

 

「はぁっ!

 ちょ、ちょっと比企谷!」

 

「・・・・・・」

 

「ね、あ、あんた、行かないって。

 もう卒業式なんだよ、わかってるのかい」

 

「・・・・・・すまない」

 

「ひ、比企谷!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「これでよしっと。

 ね、一応応急処置はしておいたけど、ちゃんと病院に行ってみてもらってね」

 

「あ、はい。

 あ、あの~」

 

”キョロキョロ”

 

「三ヶ木、三ヶ木さんは?」

 

「え、あ、あの、え、えっと、あ、そうそう。

 今ちょっと買い物、買い物に行ってていないの。

 ごめんね。

 あ、そうだ、何か飲む?

 たしか冷蔵庫にオレンジジュースが」

 

”スタスタ”

 

「・・・嘘」

 

”すく”

 

「え、あっ、だ、だめ相模さん!

 その襖は開けないで」

 

”ガタ、ガタ”

 

「えい!」

 

”ガタ、スー”

 

「み、三ヶ木?」

 

「いゃー!」

 

”ブルブルブル”

 

「み、三ヶ木あんたどうしたのその顔!

 すみません、三ヶ木どうしたんですか!」

 

「はぁ~、仕方ないか。

 相模さん、ちょっと座って」

 

「・・・はい」

 

「これでも少しは腫れとか痣とかひいたんだけどね。

 あのね、警察から連絡があってね。

 ほら、今防犯カメラとかそこら中にあって・・・・・・そこに映ってたんだって。

 この娘、この前の土曜日に路上で肩がぶつかった男に散々殴られたの。

 引き倒されて、馬乗りになられて顔を何発も何発も」

 

「そ、そんな」

 

「それでこの娘、男性恐怖症になっちゃって。

 また殴られるんじゃないかて怖がって、ずっとこんな感じなの」

 

「三ヶ木」

 

「だから相模さん、せっかく来てもらったのに悪いんだけど 」

 

「いやです」

 

「え?」

 

「すみません。

 少しだけ、もう少しだけ、ここに、三ヶ木のそばにいさせてください」

 

「で、でも」

 

「こんなに震えてる三ヶ木を見たら、うちは放って帰るなんてできない。

 お願いします。

 うちは、うちはこれでも三ヶ木の親友のつもりだから一緒にいてやりたい。

 いさせてください。

 お願いします」

 

”ペコ”

 

「相模さん・・・・・・わかった。

 じゃ、わたし買い物してくるから、その間お願いしてもいい?」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ただいま~

 相模さん、ごめんねありがとう」

 

”ガタ、ガタ、スー”

 

「し~」

 

「え、あっ」

 

「はい、三ヶ木今よく寝てるから」

 

「・・・・・・本当、美佳よく眠ってる」

 

「あ、あの、すみません。

 もう少しだけこのままここにいてもいいですか?

 あ、家の方にはラインで連絡しておきましたので」

 

「でも」

 

「お願いします」

 

「・・・・・・ありがとう、相模さん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「い、いやー!」

 

「え、な、なに?

 ど、どうしたの三ヶ木」

 

「いや」

 

「え?」

 

「殴らないで。

 もう、殴らないで」

 

”ブルブルブル”

 

「み、三ヶ木?」

 

”だき”

 

「大丈夫、大丈夫だよ三ヶ木。

 うちが守ってあげる。

 ね、だから大丈夫」

 

”なでなで”

 

「・・・・・・スー、スー」

 

「よっぽど怖かったんだね三ヶ下」

 

”にぎ”

 

「三ヶ木、うちがずっとこの手を握っててあげる。

 だから安心して。

 文化祭の時、あんたがずっとうちの手を握っていてくれたように。

 あの時さ、うち本当にうれしかった。

 うちはあの時のあんたの手の温もりを一生忘れない。

 あの温もりのおかげで、うちは文化祭をやり直すことができた。

 だから、今度はうちがあんたの手を離さない。

 しっかりと握り締めててあげる。

 ね、三ヶ木」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタ、ガタ、スー”

 

「相模さんそろそろもう遅いから・・・・」

 

「スースー、スースー」

 

「あらあら、仲良く手をつないで。

 ・・・ありがとう相模さん。

 良かったね美佳。

 あ、風邪引かないように毛布もう一つもってこないと」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「それでは最後に

 ・・・君たち卒業おめでとう」

 

「起立!」

 

”ガタガタ”

 

「礼!」

 

「ありがとうございました」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「平塚先生、三ヶ木の卒業証書と記念品、あたしが持って行っていいですか?」

 

「ん、いや、川崎、これはわたしが」

 

「あたし、知ってます」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・知ってます」

 

「・・・・・・そうか、君は知っているのか。

 うむ、それなら君に頼もう。

 そのほうが三ヶ木も喜ぶだろう。

 頼めるか、川崎」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「えっと、確かこの公園曲がったとこだったね。

 ん、あ、あれベンチにいるのって三ヶ木の」

 

”タッタッタッ”

 

「こんにちわ、お父さん」

 

「え、あ、君は確か美佳の」

 

「あ、はい同じクラスの川崎です。

 あ、あの、これ卒業証書と記念品を預かって」

 

「そうか。

 今日は卒業式だったんだね。

 わざわざありがとう」

 

「美佳さんの容態はどうですか?」

 

「・・・まだ怖がって部屋から出てこれなくてね」

 

「そうですか」

 

「はは、だから美佳を怖がらせないようにね。

 なるべく顔を合わせないようにしてるんだ」

 

「お父さん」

 

「こんな時に美佳のそばにいてやれないなんて。

 だめだ俺は。

 あの時から、もう絶対に美佳を一人にしないって決めてたのに。

 いつもそばにいてやるって決めたのに」

 

「・・・・・・」

 

「あ、ご、ごめんね。

 えっと川崎さんだったね。

 もしよければ、これ家までもっていってくれないか?

 美佳に顔を見せてやってほしいんだが。

 今ね相模さんも来てるんだけど、川崎さんも顔見せてやってくれると

 きっと美佳も喜ぶと思うから」

 

「あ、はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃまた来ます。

 三ヶ木、またね」

 

「ありがとう相模さん、川崎さん。

 気を付けて帰ってね」

 

「「はい」」

 

”スタスタスタ”

 

「よかった、三ヶ木、少し元気になったみたい」

 

「ね、相模」

 

「え?」

 

「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

えっと、この本はいいか。

もう何回も読んだし。

えっと、あと持っていくものはとっと。

 

”ガサガサ”

 

あっ、これ

 

”ビロ~ン”

 

・・・・・・ふぅ~、結局返せなかったなこのパンツ。

どうすっかな。

ここに置いておくわけにもいかないっか。

小町のことだ、俺がいなくなったら絶対この部屋探索するに違いない。

それに・・・・・・

 

”ぎゅ”

 

ぐふ、ぐふふふ。

 

”ガチャ”

 

はっ!

 

「お兄ちゃんいる?」

 

「お、お、おう、ど、ど、ど、どうした小町?

 ノ、ノックぐらいしろ」

 

「あ、引っ越しの準備してた?」

 

「あ、ああ。

 まぁ、取り合えず必要な物だけに荷造りしておかないとな。

 えっと、こ、この、この本は持っていかないと」

 

ふぅ~、見つかってないよな。

とりあえずこの本に挟んでおいてっと。

小町が出て行ったらどこかに。

 

「で、どうしたんだ小町?」

 

「あのさ、お兄ちゃん、美佳さんのことだけど」

 

「・・・・・・」

 

「あのね、美佳さんと卒業式の前ぐらいからずっと連絡がつかなくて。

 いろはさんとか蒔田先輩とか、それに稲村先輩も心配して会いに行ったんだけど、

 なんかインフルエンザこじらせておたふくかぜになったとかで誰も会えなくて。

 お兄ちゃんは、最近美佳さんに会った?」

 

お、おい、インフルエンザこじらせておたふくかぜになるのか?

そっか、三ヶ木はまだ・・・・・・

だ、だけど、俺は。

 

「お兄ちゃん?」

 

「あ、い、いや何でもない。

 俺も三ヶ木には会えていない」

 

「ふ~ん、そっか。

 大丈夫かなぁ美佳さん。

 小町もお見舞い行って来ようかなぁ。

 お兄ちゃん、美佳さんの家知ってるよね、後で地図書いて」

 

「・・・あ、ああ」

 

「あ、そうだ。

 ね、お兄ちゃん、引っ越しの日ってさ、美佳さんにはちゃんと言った?」

 

「い、いや」

 

「何やってるのお兄ちゃん。

 仕方ないなぁ~、じゃあ小町がお見舞いのついでに伝えてきてあげるね」

 

「・・・・・・いらない」

 

「え、なんて?」

 

「いらないと言ったんだ」

 

「だってお兄ちゃんも連絡つかないんでしょ。

 だったら小町がお見舞いに行ったときに 」

 

「いらないって言ってんだろ!」

 

「な、なにさ、おこらなくてもいいじゃん!

 折角小町が」

 

「うるさい!」

 

「お、お兄ちゃんのバカ!

 何さ、ふん!」

 

「や、やめろ、そ、その本は投げるな!」

 

”ドサッ”

 

「い、いてぇ」

 

”ぱさっ”

 

「げ!」

 

「・・・・・・お兄ちゃん、これ」

 

「・・・・・・あ、い、いや」

 

「最低」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「えっとこんな感じか?

 難しいもんだな」

 

”ぼきっ”

 

「げ、やば口紅折れた。

 み、美佳に怒られっぞ。

 ど、どうする。

 えっとくっつくかなぁ」

 

”がちゃ”

 

「美佳、卒業おめでとう!

 でもなんで電話に・・・・え?」

 

「あっ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・お父さん、そんなご趣味があったんですね」

 

「い、いや違う、違うんだめぐりちゃん」

 

「だ、大丈夫です。

 ご趣味は人それぞれだから」

 

「ち、違うんだめぐりちゃん、これには深い訳が」

 

「し、失礼します」

 

「は、話しを聞いて」

 

”にぎ”

 

「いやー!

 誰にも言わないから手を放してー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「へぇ~、これはどっから見ても女の人だ。

 めぐりちゃんすごいね」

 

”パチッ”

 

「ちょ、ウ、ウィンクはやめてくださいお父さん」

 

「う~ん、でもなんか癖になりそう」

 

「や、やめてください!

 そんなことになったらわたし美佳に怒られますから!

 ね、ねぇ、お父さん聞いてます?

 お、お~い」

 

「あ、ごめんごめん」

 

「でも美佳にそんなことが。

 だから連絡全然つかなかったんだ」

 

「ずっと部屋にこもってたんだけどね。

 相模さんと川崎さんのおかげで、やっと外に出れるようになって。

 でも、やっぱり男の人がいるとダメみたいで」

 

「そうですか。

 ・・・・・・でもお父さん、わたしはこんなことしなくても大丈夫だと思いますよ」

 

「え?」

 

「だってあの娘、美佳は史上最強のファザコンですから」

 

「ファザ・・・

 そ、そうだといいんだけど。

 あ、もうこんな時間か。

 めぐりちゃん、そろそろ学校に行かないと」

 

「あ、そうですね。

 あ、その前にちょっとすみません」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、うん、城廻。

 久しぶりだね。

 あのさ、ちょっといい?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「平塚先生、無理を言ってすみませんでした」

 

「いや、いいんだ相模、気にするな。

 ちょうど今日は宿直だったからな。

 それより、そろそろ始めるとしょうか」

 

「はい。

 それでは卒業式を始めます。

 卒業証書授与。

 卒業生 3年C組 三ヶ木美佳」

 

「ほら、三ヶ木いくよ」

 

”ガタ”

 

「大丈夫かい?

 ほら、あたしに掴まんな」

 

「う、うん」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「卒業証書、3年C組 三ヶ木美佳

 ここに本校所定の全課程を修了したことを証する。

 代読 平塚静。

 三ヶ木、おめでとう」

 

「あ、ありがとございます先生。

 さ、さがみん、さ、沙希ちゃんもありがと」

 

「「おめでとう、三ヶ木」」

 

「うううううう」

 

「ね、ね、めぐりちゃん、その人どなた?」

 

「え、えっと~、あ、う、うちの母です麻緒さん」

 

「そう。

 でもどこかで 」

 

「あ、つ、次、送辞、送辞ですよね」

 

”キョロキョロ”

 

「え~と、間に合わなかったみたい。

 あ、わたしが送辞しますね」

 

”スタスタスタ”

 

「ごほん、送辞。

 美佳、卒業おめでとう」

 

”ガタン!”

 

「ちょっと待ったー!!」

 

”スタスタスタ”

 

「送辞は、はぁはぁ。

 送辞は在校生の特権ですよ城廻先輩!

 はぁ、はぁ、はぁ。

 だから、そ、送辞、送辞はわたしがするんです!」

 

「一色ちゃん」

 

「一色さん」

 

「一色」

 

「送辞、そ、送辞・・・・・・・・・・・」

 

「一色さん?」

 

「う、う、うううう、ぐす。

 ここに来るまでにちゃん考えたのに。

 全部、全部忘れちゃって・・・・

 うぐ、うぐ、う、う、

 美佳先輩の顔、やっと見えたと思ったら全部忘れちゃったじゃないですか。

 うううううう。

 美佳先輩、美佳先輩・・・・・・・

 卒業、おめでとうございます。

 そして・・・・・・

 ありがとうございました。

 うわぁ~ん、うわぁ~ん、み、美佳先輩!」

 

"だき"

 

「か、会長」

 

「わたし、わたし卒業式の時ずっと待ってたんですよ、受付で。

 このリボン徽章、わたしが先輩につけてあげたくて。

 それで、それで、卒業おめでとうございますって言いたかったのに。

 美佳先輩の馬鹿~

 ぐす、うっ、うっ、うううう」

 

「ごめんなさい、会長」

 

「ほらほら一色さん、泣いてないでリボン徽章つけてあげて」

 

「はい、城廻先輩」

 

「ううううううう」

 

「あ、あの~、めぐりちゃんのお母さん、よかったらハンカチどうぞ」

 

「ずみまぜん」

 

”ごしごし”

 

「え、その声本当にどこかで・・・

 あ、あんたその顔、佳紀!

 な、なにその恰好。

 馬鹿、あんた見たら美佳が怖がって」

 

「あ、三ヶ木のお父さん」

 

「あちゃ~、化粧が。

 お父さん泣き過ぎ」

 

「だ、だってお義姉さん。

 俺、俺も、み、美佳の卒業式が、卒業式が・・・・・・・」

 

「三ヶ木、あんた大丈夫かい?」

 

「三ヶ木」

 

「・・・・・・と、とうちゃん?

 と、とうちゃん!!」

 

”ダー”

 

「とうちゃん、とうちゃん、とうちゃん!」

 

「み、美佳!」

 

”だき”

 

「うわ~ん、とうちゃん、とうちゃん」

 

「美佳」

 

「とうちゃん、わたし、わたし・・・・・・怖かったよー」

 

”なでなで”

 

「ずっとそばにいてやれなくてごめんな美佳。

 それと・・・卒業おめでとう」

 

「うん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”キョロキョロ”

 

「どうしたの?」

 

「いや、な、何でもない」

 

「・・・・・・そう」

 

やっぱり来ないよな。

来るわけないか。

小町も伝えていないだろうし。

 

「ね、比企谷君。

 引っ越しのこと、三ヶ木さんには伝えてあるの?」

 

「いや、伝えていない」

 

「そう。

 ・・・・・・ね、あなたはそれでよかったの?」

 

「・・・・・・ああ」

 

これで良かったんだ。

小町から三ヶ木のこと聞いて何度も会いに行こうって思ったんだ。

でも、どうしても行けなかった。

それに、あいつは卒業式もプロムにも行けなかったんだ。

俺の所為で、全て俺の所為だ。

だとしたら、もう俺たちは・・・・

 

「これでよかったんだ、きっと」

 

「比企谷君、あ、あのね」

 

「ん?」

 

「あ、いえ、いいの、なんでもない」

 

「そっか」

 

「ええ。

 ・・・ね、こちらに帰ってくる時があったら連絡してくれるかしら」

 

「ああ、必ずするわ。

 ん、なんだ雪ノ下、もしかして俺のために泣いてくれてるのか?」

 

「は! な、な、なにを言ってるのかしら!

 そんなわけがあるはず・・・・・・ないじゃない。

 東京に出発というのに、誰も見送りに来てくれないあなたのことを憂いているのよ」

 

「そ、そうか。

 なんかすまん」

 

来るわけがない。

誰にも今日が東京に行く日だなんて伝えていない。

三ヶ木に知られるのが怖かったからな。

もしどこからか漏れて、三ヶ木が見送りに来てくれたとしても、

今の俺には何を話せばいいのかわからない。

だから誰にも伝えてなんていない。

知っているのは、小町から無理やり聞き出したお前ぐらいだ。

さて、そろそろ電車が出る時間だな。

 

「じゃ、そろそろ行くわ。

 雪ノ下、見送りありがとうな」

 

「ええ。

 由比ヶ浜さんによろしくね」

 

「ああ。

 じゃあな」

 

「ええ。

 いってらっしゃい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

東京・・・か。

この見慣れた風景もしばらくは見納めだな

 

”ツー”

 

え、な、なんだなんで涙が

俺、な、泣いてるのか?

へへ、俺の千葉愛どんだけなんだ。

度が過ぎんだろう。

さよならだ千葉。

さよなら・・・・・・・・・・・・・三ヶ木。

 

 

 

 




最後までありがとうございました。
今回、特にセリフばかりですみません。

さて、オリヒロたちも卒業し、八幡も東京に。
次話、この駄作もいよいよ最終話。

また見に来ていただけるとありがたいです。

ではでは。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

似て非なるもの

今回も見に来て頂いてありがとうございます。
いつも最初になんて書こうかなと思うのですが、結局この言葉しか思い浮かばないです。
ほんとにありがとうございます。

とうとう今回でこの駄作も最終回。
ありがとうございました。

前話にて八幡は進学のため東京に。
一方のオリヒロは少しずつ恐怖症を克服して・・・・・・
さて、東京と千葉でそれぞれの道を歩き始めた二人の結末は。

では、よろしくお願いします。

※すみません。
 今回も2万6000字越え。
 お時間お掛けします、ご無理をなさらないでください。


”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「なんかさ、すごく懐かしい感じがするね。

 まだ卒業してから半年ぐらいしかたってないのにさ」

 

「あ、ああ、そうだな。

 もう何年も経ったようだ」

 

今日は文化祭二日目、例年通り一般の人にも開放されていて校内はすごく賑やかだ。

 

『文化祭、よかったら一緒に行かないかしら?』

 

そう、雪ノ下に誘われて久しぶりに訪れた我が母校。

自転車置き場、生徒玄関、体育館、教室・・・・・・そして特別棟。

何もかもがすごく懐かしい。

そういえば、卒業してからも屡々メールとか電話があるから気にしていなかったが、

雪ノ下に会うのは春休み以来だな。

由比ヶ浜は毎日連絡取り合ってるみたいだし、頻繁に会ってるみたいだが。

確かこの前もディステニー行ったって言ってたし。

卒業してからも相変わらず仲のいいことだ。

まぁ、俺はGWや夏休みもバイトが忙しくて、結局一度も千葉には帰れなかったからな。

だ、だって一人暮らしって結構かかるんだ、いろいろと。

小町の塾代がかかるからとかで仕送りも減らされたし、とにかくバイトして稼がないと。

だから俺には帰ってる暇がない。

 

・・・・・暇がない・・・か。

そうやって理由をこじつけ、俺は・・・・・・避けているのだろう。

もしどこかで彼女と出会ってしまったら、きっと何かが終わってしまうそんな予感がして。

俺はそれが怖くて、それに耐えられる自信がなくて。

きっとそれは時間が解決してくれるものだと、時間が経てば砂浜につくった砂のお城のように

跡形もなく消え去って、初めから何もなかったかのように忘れることができるものだと。

・・・そう信じたかったから。

だから俺は帰りたくなかった。

でも本当は・・・・・・・・・・・・心の片隅でずっとあの笑顔を抱きしめているのに。

矛盾・・・だな・・・・・・すげぇ矛盾だ。

 

「ね、ね、どこから見て廻ろっか?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・どうかしたヒッキー?」

 

「はっ、い、いやなんでもない。

 それより雪ノ下と合流することが先だろう。

 で、待ち合わせ場所はどこなんだ?」

 

「へ?」

 

「いやだから待ち合わせ場所だ、雪ノ下との。

 確か決めておくから任せておいてって言ってたはずだが」

 

「あっ、あ、あの~、あはははは」

 

「おい、笑ってごまかすな!

 お前、まさか決めてなかったんじゃ 」

 

”こく”

 

「・・・・・・おい」

 

「いや~なんかさ、ゆきのんとヒッキーの話してたら盛り上がっちゃってさ、つい」

 

「ほほう~、どういう話をしてたんだ。

 ちゃんと説明をしてもらおうか、納得のいくまで」

 

「あ、い、いや~、その・・・・・・じょ、女子の会話の内容を知りたがるって、

 ヒッキーキモい、キモいから!」

 

「おい!

 ちっ、まったく。

 それより、いいからさっさと雪ノ下に電話してみろ」

 

「あ、うん。

 でもそれがさ、さっきから何回も電話してるんだけど繋がらない」

 

「そっか。

 まぁ、雪ノ下のことだ、きっと何か理由あるんだろう。

 それならそこの模擬店のカフェにいるってラインしておいてくれ。

 この人混みの中を闇雲に探すよりはマシだろう。

 疲れるし、ちょっと喉乾いたし」

 

「う、うん」

 

「じゃ、俺先行ってるわ」

 

”スタスタスタ”

 

「あ、待っててよヒッキー」

 

     ・

 

「いらっしゃいませ。

 ご注文は?」

 

「えっとアイスコーヒーを」

 

「はい」

 

”パタパタ”

 

「もう、待っててくれてもいいじゃん。

 あ、あたしは何にしようかなぁ。

 んと、じゃあタピオカ入り抹茶ミルクお願いします」

 

「はい、少々お待ちください」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん~、まだ足りないな」

 

「へ、ヒッキー、まだシロップ入れるの?」

 

「ああ」

 

え、まだっていつもとそんなに変わらねえだろう。

えっと、一つ、二つ、三・・・・・・・・

え、いつの間に俺こんなに。

 

”ゴクゴク”

 

だけど・・・・・・・・・まだ甘くない。

もう一つ入れよっか。

 

「え、まだ入れるの?

 そんなに甘いのばっかり飲んで大丈夫かなぁ。

 あ、それよりさ」

 

「ん、なんだどうした?」

 

「ヒッキーさ、この場所憶えてる?」

 

「ん?」

 

「ほら、ここってさ、この待ち受けと同じ場所。

 へへ、去年の文化祭でのツーショット」

 

「げ、あのときの写真。

 お、お前まだそれ持ってたのか!

 いい加減消去しろ」

 

「だめだめ。

 ずっと待ち受けにしておくんだから」

 

「やめて下さい。

 後生ですからやめて下さい。

 お願いします、ガハマ大明神様」

 

「だからガハマ大明神ってなんだし!

 もう怒った、絶対消さない」

 

「お、おい!

 いいからスマホよこせ」

 

「だ~め」

 

「よこせ」

 

「べ~だ」

 

「あれ~、比企谷君とガハマちゃんじゃん。

 久しぶり」

 

「え、あっ」

 

「陽乃さん、やっはろーです」

 

「ひゃっはろーガハマちゃん。

 比企谷君もひゃっはろー」

 

「ども」

 

「ひゃっはろー」

 

「ども」

 

「もうノリが悪いな~」

 

”スタスタスタ”

 

なんでこの人がここに?

え、な、なに、なんで俺の横座るの?

いや、ち、近い。

そんなに椅子近づけなくても。

あの~、腕と腕が密着して。

 

”ズズン!”

 

おわっ、か、顔近い。

それになんかすごく見つめられてんだけど。

 

「ふ~ん」

 

「あ、あの~、なにか?」

 

「いや~、相変わらず仲良さそうだね君達。

 で、二人はどこまでいったのかなぁ~?」

 

「あ、あの~、どこまでって・・・」

 

「どこまでって大学までですよ」

 

「あははは、相変わらず面白ね君は」

 

”ベシベシ”

 

「いたたた」

 

いや、マジ痛いから背中叩くのやめて。

はっ、顔は笑ってるのに眼が笑ってない。

なんかすごく睨まれてるんですけど。

 

「で、本当のところどうなの?」

 

「俺達はそういう感じじゃないんで」

 

「そうなの?」

 

「・・・・・・ヒッキー」

 

「おやおや、ガハマちゃんはそうでもなさそうだけど」

 

な、なに上目遣いでこっち向いてんだ由比ヶ浜。

・・・微妙に頬が赤いんですけど。

は、も、もしかしてキスのことばらすつもりじゃ。

やばい、もし陽乃さんに知られたら大変なことに。

雪ノ下にもバレるだろうし、きっとそれをネタに陽乃さんに・・・・・・

 

「どうなのかな~比企谷君?」

 

「い、いや、あ、あの、お、お、俺達は 」

 

「あ、あの! あ、あ、あたしたちは 」

 

や、やめろ由比ヶ浜!

い、言うんじゃない、や、やめて~

 

”ブ~、ブ~”

 

「あ、ゆきのんから電話。

 ちょっとすみません」

 

”スタスタスタ”

 

た、助かった~

マジあいつ、いま喋る気だったろ。

危ない、ちょ~危ない。

後できつく叱っておかないと。

 

「・・・君は変わらないね」

 

「えっ? あ、いやそこはブレない男と言ってほしいですけど」

 

「で、そうやっていつまでこの関係を続けていきたいの」

 

「・・・・・・この関係って」

 

「君とガハマちゃん。

 この中途半端なぬるま湯の関係。

 付き合ってるわけでもなく、かといって友人ってわけでもない。

 そして君はこの中途半端な関係に安らいでいる、口ではなんだかんだ言いながら。

 ねっ、これが君の求めていたもの?」

 

「・・・・・・」

 

「だとしたら・・・・・・君は本当に女性の敵だね」

 

「・・・俺は 」

 

「君は知ってる?

 この君達の関係、まぁ雪乃ちゃんとの関係も含めてだけど。

 それが一体何の上に成り立ってるかって」

 

「何の上?

 なんのことですか陽乃さん」

 

「君は 」

 

「ヒッキー」

 

”スタスタ”

 

「ヒッキー、あのね、ゆきのん猫カフェにいるって。

 3年J組の・・・教室・だけ・・・ど。

 あ、あの~」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

俺達の関係? 何の上?

陽乃さんは何を言ってるんだ。

さっきからずっと俺を睨みつけるように見つめているこの瞳は、いったい何を

問いかけているんだ?

 

”くぃくぃ”

 

「ヒ、ヒッキー!

 あ、あの、ゆきのん、待って・・・る・・から」

 

「あ、ああ。

 ・・・陽乃さん、それじゃ俺達は 」

 

「え~、もうちょっと待ってよ。

 今迎えが来るんだけどさ、それまで相手してほしいなぁ。

 ね、いいでしょ、ガハマちゃん。

 雪乃ちゃんには、わたしから連絡するから」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、雪乃ちゃん あのね 」

 

「あ、あの~」

 

「・・・・・・」

 

     ・

 

「へぇ~、同じサークル入ってるんだ」

 

「あ、はい」

 

「しかし比企谷君はまだしも、ガハマちゃんもアニメ愛好会とはね」

 

「まぁ、まぁ~いろいろと」

 

”ちらっ”

 

「ふ~ん。

 だって比企谷君」

 

”ムニムニ”

 

「・・・・・・」

 

いや、さっきから腕に陽乃さんの柔らかいものが押し付けられているんだけど。

なんか、すげ~柔らかくて弾力のあるものが、”ムニムニ”って。

この人、これって無意識なの?

 

”ムニ”

 

・・・・・・柔らかい。

 

”ジー”

 

はっ! こ、この目、くそ、やっぱり故意、故意なのかー!

こ、この人は。

 

「ム゛ー!」

 

え、な、なに?

なんか今変なうめき声が。

あっ、ガ、ガハマさん、なんか俺を睨んでる?

い、いや仕方ないだろう、だって、う、腕に・・・・・・ムニって。

く、くそ! こ、ここは無視、無視だ。

陽乃さんは俺の反応を見て楽しんでいるんだ。

だからムシ!!

 

「え、えっと由比ヶ浜 」

 

”つんつん”

 

「ひゃ~」

 

「こっち向かないと、もっと”つんつん”しちゃうぞ~」

 

いや、脇腹突っつくのやめてください。

本当にそこ弱いから、勘弁してください。

 

”つん”

 

「うひゃ~」

 

くぅ~、だ、駄目だ。

こ、これ以上は。

 

「は、陽 」

 

「あ、いたー!

 陽乃さん、ちゃんと電話出てください。

 すごく探したんです・・・・・・よ」

 

え、え、こ、この声って。

ま、まさか。

いや、俺がこの声を聞き間違えることはない。

忘れよう、忘れようと思ってもけして忘れられなかったんだ。

そうなのか、今俺の後ろにいるのって。

 

”くる”

 

「三ヶ木!」

 

「・・・美佳っち」

 

「あ、あのー 

 比企谷さん、由比ヶ浜さん、ご無沙汰しております」

 

”ペコ”

 

「遅いよ三ヶ木ちゃん。

 えっと、紹介するね。

 わたしの私設秘書兼お手伝いの三ヶ木ちゃん」

 

いた、彼女はそこにいた。

避けて避けて・・・・・・それでも会いたくて。

その彼女が笑顔で俺の後ろに立っていた。

・・・だけど何だこの違和感。

ここにいるのは間違いなく三ヶ木だ。

だけどこの笑顔は何か違う。

俺の心の片隅で微笑んでいてくれた笑顔とは何か違う。

髪型や服装が変わったからそう思うのか?

・・・・・・え? 服装。

なんでこいつビジネススーツ?

はっ、さっき陽乃さんが何か・・・

 

「な~に比企谷君、三ヶ木ちゃんジーって見つめちゃって。

 もしかして三ヶ木ちゃんに見惚れてたのかなぁ?

 そうなんだよね、馬子にも衣裳じゃないけど結構似合ってるんだよねビジネススーツ。

 特にこのお尻のラインとかね」

 

”さわ~”

 

「ひゃ、は、陽乃さん!」

 

「ひゃははは、いいじゃん減るものじゃないんだし」

 

「良くないです!

 セ、セクハラです」

 

た、確かにお尻とかパンツのラインがスカートと違ってくっきりと。

三ヶ木、後ろ姿は自信あるって言ってたもんな。

た、確かにこ、これはすごく・・・・・・

 

”ゴクッ”

 

はっ! い、い、いや、そ、そんな場合じゃない!

 

「三ヶ木!

 お前大学はどうしたんだ。

 なんだ秘書って」

 

「あ、え、えっと、いろいろとよく考えまして。

 大学というのは思ったよりお金が掛かりますので、やはりわたしには無理かなって。

 あんまり父に負担掛けるのも。

 それに調べたところによると、保母さんってあまりお給料良くないし、

 クレーマーさんもたくさんいてすごく大変だとか。

 だったらやっぱりやめておこうかなぁって思いまして、それで陽乃さんのお世話に

 なっています」

 

「はぁ!

 な、なに言ってんだお前。

 あんなに保母さんになりたいって言ってたんじゃないのか!

 それで受験勉強も必死で頑張って」

 

「・・・・・・げ、現実は結構厳しいので。

 あ、それより陽乃さん、次の予定のお時間が。

 車、正門の方に回しますので、早く来てください」

 

「はいはい、ご苦労様」

 

「それでは比企谷さん、由比ヶ浜さん失礼します」

 

”ペコ”

 

「「・・・・・・」」

 

”タッタッタッ”

 

「はっ! み、美佳っち、ちょっと待って」

 

”ダー”

 

「三ヶ木、ま、待って 」

 

”にぎ”

 

「えっ。

 あ、あの、手を離してくれませんか陽乃さん」 

 

「追いかけてどうするの?」

 

「どうするって話を、俺は三ヶ木と話を」

 

「大学、何でいかなかったんだって責めたいの?

 ・・・あのさ、三ヶ木ちゃんは今お仕事中なんだけど。

 お仕事の邪魔してほしくないな~」

 

「責める、責めるわけじゃ。

 た、ただ俺は話を 」

 

「・・・君は何も知らない。

 そんな君が何を話しようとするの」

 

何も知らない?

まただ。

さっきから”何の上に”とか”何も知らない”とか、いったい何なんだ。

陽乃さんは何を言ってるんだ。

くそ、わからないことばかりじゃないか。

 

「何を、俺は何を知らないって言うんですか陽乃さん!」

 

「それはね・・・・・・・・・・・・教えない、教えてあげない。

 チッチッチッ!

 世の中そんなに甘くないよ」

 

「・・・・・・・」

 

「でもさ・・・・・・君は気付いてたんじゃない?

 あの時、本当は何かがおかしいって」

 

「・・・あの時って」

 

「あの時起きたこと、もしそれが一連のものだとしたら・・・

 おっと、暇つぶしに付き合ってくれたご褒美はここまで。

 じゃあね比企谷君」

 

「陽乃さん!」

 

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「三ヶ木さん」

 

「あ、ゆきのん」

 

「どう、ちゃんとお話しできた?」

 

「あ、う、うん」

 

「そうよかった」

 

「あ、でもね、ほら手がすごく汗ばんじゃって。

 それに心臓もバクバクで。

 ・・・目、目も合わせることできなかった」

 

「そう」

 

「でも、ほんとありがと。

 おかげでわたし・・・・・・きっと」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あれ結衣ちゃん!

 追っかけてきたんだ。

 ごめんね、あと 」

 

「ええ、大丈夫よ、任せておいて。

 それより早く行きなさい」

 

「うん。

 また後でね」

 

”タッタッタッ”

 

「ふぅ~、さて」

 

”キョロキョロ”

 

「う~ん、どこ行ったんだろ。

 正門のほうに行ったと思うけど。

 あ、ゆきのん!」

 

「あら由比ヶ浜さん。

 あなた達、カフェにいたんじゃなかったのかしら?

 あまり遅いから来てみたのだけど」

 

「あ、うん。

 あのね、美佳っちこっちに来なかった?」

 

「三ヶ木さん?

 いえ、見なかったわ」

 

「そっか。

 どこ行ったんだろ」

 

「三ヶ木さんがどうかしたの?」

 

「え、あ、うん。

 あのね美佳っちが 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「うぃ~、沙希ちゃんもう一杯お代わり」

 

「三ヶ木、もうそれくらいでやめておきな」

 

「え~、もう一杯ちょ~だい、ひっく!」

 

「まったく。

 ジンジャエールで酔える人なんて初めて見た」

 

「へへ、ほっといて。

 なんあら、ムギ茶でも酔えるんだからねあたしゃ、うぃ~」

 

「・・・で、なにかあったの?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・三ヶ木」

 

「・・・・・・」

 

「三ヶ木、何かあったらちゃんとあたしに言うって約束したでしょ。

 あんた、あたしとの約束また破る気!」

 

「ご、ごめん。

 ・・・・・・あ、あのさ、今日ね総武高の文化祭行ったんだ。

 それでね、比企谷君と結衣ちゃんに会ったの」

 

「そうだったの」

 

「へへ、二人すごくお似合いだったよ。

 そんでね、とっても楽しそうだった」

 

「三ヶ木、あんた」

 

「あ、違うよ沙希ちゃん。

 わたし思ったんだ、これで良かったんだって。

 二人はやっぱりお似合いだもん。

 納得した。

 これでやっとわたしは次に踏み出せる」

 

「三ヶ木」

 

「へへ、だ・か・ら~、沙希ちゃんもう一杯お代わり」

 

「仕方ないね」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あ、いたー。

 三ヶ木ごめん、ちょっとサークルが長引いちゃってさ。

 ・・・ん、三ヶ木?」

 

「いらっしゃい相模。

 さっきまで起きてたんだけどね。

 いろいろあってさ、泣きながら寝ちゃったみたい」

 

「なにかあったの?」

 

     ・

 

「そう、あいつに会ったんだ。

 珍しく三ヶ木のほうから誘ってきたと思ったらそんなことがねぇ」

 

”こつん”

 

「ば~か、また無理しちゃって」

 

「く~、く~」

 

「よく寝てる」

 

”ぷにょぷにょ”

 

「相模、寝かしておいてやんな」

 

「へへ、でもこのほっぺの感触がね」

 

「・・・う~ん、やめてよ・・・・・・比企谷君の馬鹿♡」

 

「「・・・・・・」」

 

「はぁ~、ほんとうに馬鹿」

 

”なでなで”

 

「本当にね」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「へぇ~、由比ヶ浜ちゃんと比企谷君って同じ高校なんだ」

 

「あ、そうなんです」

 

「ね、ね、由比ヶ浜さん、アド交換しない」

 

「え、あ、はい」

 

「あ~、俺も俺も」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

由比ヶ浜、やっぱり人気あるんだよな。

入学式の時もすげえ騒がれていたし、

今や押しも押されぬ次期ミス早応大候補の一人だ。

現にこのアニメ愛好会も由比ヶ浜目当てのエセ会員多いからな。

あの由比ヶ浜の横に座っている奴なんか、プリキラーすら知らなかったからな。

 

『プリキラー?

 何か新しい殺虫剤?

 え、アニメ?

 あ、俺そういうのいいんで』

 

『・・・・・・』

 

はぁ~、それにこの飲み会も知らない顔のほうが多いんだが。

あいつらアニメ愛好会にいたっけ?

 

「ね、由比ヶ浜ちゃん。

 同じ高校ってさ、もしかして二人って付き合ってたりするの?」

 

は、はぁー!

あ、あの男何言いだすんだ。

 

「・・・・・・あ、あの~」

 

みろ、由比ヶ浜困ってるじゃねえか。

・・・・・・ん、なんだ、そういえばこんな感じ以前どこかで。

えっと、確か同じようなことが。

 

『・・・・・・いいなぁー、青春したいなー』

 

『・・・・・・。

 あはは! 何その水泳大会みたいな言い方!

 こっちだって全然そういうんじゃないよ~』

 

そっか、あの時か。

あの時、俺は俺と由比ヶ浜のカーストの違いを改めて認識させられて。

由比ヶ浜が相模達に嘲笑されるのが嫌で、マジ住む世界が違ったらと思った。

そうか、そうなんだ。

忘れていたが、俺と由比ヶ浜では・・・

だったら由比ヶ浜が嘲笑されないように俺は、

 

「いや、俺と 」

 

「はい!

 あたし達、付き合ってます」

 

はっ? はぁー!!

な、何、何言いだすんだ由比ヶ浜!

お、おおおおおい!

 

「比企谷!

 貴様、我らの由比ヶ浜ちゃんと付き合っているだと!

 貴様、貴様」

 

「あ、い、いや、あの 」

 

「会長、そんなこと去年の早応祭の時にわかっていたでしょう。

 ほらほら絡まない。

 あっ、あっちで呼んでますよ」

 

「う、ううううう、くそ~!」

 

”スタスタスタ”

 

「すまなかったな比企谷」 

 

「あ、いえ、副会長すみません」

 

”ざわざわ”

 

なんだ、一斉にみんなから見られてんだけど。

げ、な、なんだすごい殺気感じんだけど男どもから。

あ、あの女子達、何こっち見て笑ってんだ。

あいつらの顔、あの時の相模の顔とそっくりだ。

くそ、このままここにいたら由比ヶ浜が。

 

「すみません副会長。

 俺先帰ります」

 

「えっ。

 ・・・・・・あ、そうだね。

 うんわかった、ごめんね嫌な思いさせちゃって」

 

「あ、いえ。

 まぁ、なんかちょっと考えたいことがあったんで」

 

「そう?

 じゃ、また明日」

 

「うっす」

 

     ・

     ・

     ・

 

『君は何も知らない』

 

『でもさ・・・・・・君は気付いてたんじゃない?

 あの時、本当は何かがおかしいって』

 

俺は何を知らない?

俺は何かを見逃してたのか?

確かにあの時、あのプロムの時、俺は何か気になっていたんだ。

それなのに俺は見過ごした。

思い出せ、俺は何を見過ごした。

あの時、何かあったはずなんだ、何か変だと思ったことが。

なんだ、なんだ、なんだ。

う~

 

”ガシガシ”

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ! 雪ノ下の母親。

あの時、なぜ雪ノ下の母親がプロムを認めてくれて、それで雪ノ下の話を聞くって

ことになったんだ。

それまで反対していたのに、なんで急に?

ダミープロムや、俺の交通事故なんかで雪ノ下の母親が結論を変えるはずがない。

きっと俺に知らないところで何かがあったはずなんだ。

だが、それはどうすれば知ることができる?

おそらく知っているのは陽乃さんと雪ノ下の母親。

だとしたら俺に知る方法はないんじゃないか?

くそ、詰んでるだろう、これ。

・・・・・・いや待て陽乃さんは一連のものって言ってた。

それなら他にもなにか。

そうなんだ、他にもなんかあったはずなんだ変だと思ったことが。

 

”コンコン”

 

ん、誰だこんな時間?

某放送局の集金か?

 

”ガチャ”

 

「ヒッキー」

 

「由比ヶ浜!

 どうしたんだこんな時間に?」

 

「へへ、ちょっとね」

 

”フラフラ”

 

「お、お前、酔っぱらってるのか?」

 

「あのあとさ、ちょっと飲んじゃって」

 

”フラッ”

 

「あ、あぶねぇ。

 ちょっとじゃないだろう。

 足元フラフラじゃねえか。

 いいか由比ヶ浜、俺たちは未成年だから・・・」

 

「えへへ」

 

こいつ、聞いてない。

本当にどんだけ飲んだんだ。

こんな状態でよくここまでこれたな。

 

「ち、くそ。

 ほら、こんなとこじゃなんだから中に入れ」

 

「うん、失礼します」

 

”スタスタ”

 

「ちょっとここで待ってろ、いま水持ってくるから」

 

”だき”

 

「ゆ、由比ヶ浜?」

 

「・・・ヒッキーごめんね。

 さっきは勝手に付き合ってるって言っちゃって。

 それで怒って先に帰ったの?」

 

「い、いや、そんなんじゃない。

 それより離れ 」

 

「あたしじゃダメ?

 ・・・あたしヒッキーが望むなら 」

 

”ガバッ”

 

「そんなことは酔っぱらって言うもんじゃない。

 ほら、水だ」

 

「あ、う、うん。

 で、でもヒッキー、あたし、あたしは 」

 

”ガチャ”

 

「え、ヒッキー?」

 

「すまん。

 俺、材木座と徹ゲーする約束してたんだわ。

 ちょっと行ってくるけど、お前は酔いが醒めるまで休んでいけ。

 そんなフラフラじゃ危ないからな。

 布団とか勝手に使えばいいし、何なら泊って行ってもいいぞ。

 それと部屋のカギはここに置いておくから、帰る時に大家さんにでも預けて

 おいてくれ。

 大家さん、お前知ってるよな」

 

「あ、・・・・・・うん。

 何度か会ったことあるから」

 

「じゃあな」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・・ヒッキー

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿」

 

”ブ~、ブ~”

 

「え、あ、スマホ、ヒッキースマホ忘れて。

 どこだろう、どこで鳴ってるのかなぁ」

 

”ブ~・・・・・”

 

「あ、切れちゃった

 えっと~、確かこの辺で音が。

 もうヒッキー散らかしてるから。

 昔はさ、こんなんじゃなかったのに。

 あ、あった。

 へへ、ヒッキーのスマホゲット!

 えっと~」

 

”カチ、カシャ”

 

「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか、やっぱりヒッキーはずっと。

 でも、あたし、あたしだってずっと・・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

参ったなぁ。

どこ行こうかな、今から泊まれる所っていうと。

・・・やっぱり材木座か。

仕方ねえ、電話するか。

ん、あれ?

えっと~スマホ、スマホ。

げ、ない。

あ、そっか、アパートに置いてきたんだ。

やべ、どうすっかな。

 

「ハックション!」

 

マジやばいな。

風呂あがったとこだったし、このままじゃ風邪ひいて・・・・・・・

・・・・・・風邪・・・風邪・・・風邪か。

そ、そっか!

そうなんだ、あのウィルスなんだ。

母親の件もそうなんだけど、それよりもっとなにか腑に落ちなかったことがあったんだ。

あの俺達の公式サイトを消去したウィルス、あれ三ヶ木はどうやって手に入れたんだ。

三ヶ木が自分で作れるはずがない。

だとしたら、どうやってウィルスを手に入れられた?

どうやって。

もし雪ノ下の母親の件と、公式サイトを消した件が一連のものだとしたら、

そこから何かが・・・・・・

 

「ブェックション!」

 

うぇ~さむ~

マジどうしょう、このままじゃ確実に風邪ひくよな。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「はい、もしもし」

 

「あ、お、俺だが」

 

「俺じゃわかりませんよ

 それとも詐欺かなんかですか先輩」

 

「わかってんじゃねえか」

 

「・・・で、どうしたんですか?

 は、もしかしてこの前の文化祭で久しぶりに会ったわたしのことが忘れられなくて、

 俺の女になれってことですか。

 すみません、そういうことはちゃんと会いに来て告ってください。

 電話ではだめです、ごめんなさい」

 

「い、いや違うんだが、厳密に」

 

「厳密って!・・・・・・もうなんですか」

 

「あ、あのな 」

 

三ヶ木がウィルスを手に入れる方法。

そのことをずっと考えてた。

その行き着いた答えはこれしかない。

三ヶ木とウィルスの唯一の接点。

それは、

 

「ふ~ん、何かと思えば。

 そうですよ、先輩の言う通りあの時のウィルスに感染したパソコンは

 すぐに凍結しました。

 隔離して誰も触らないようにしましたよ。

 それで新しいパソコンを購入したんです。

 そしたらDVDついてなくて」

 

「で、そのパソコンは今でも凍結したままなのか?

 誰もそれから触っていないのか」

 

「え、いや、張本人が除去するからって言ったので除去させましたけど」

 

「張本人って清川が?」

 

「ええ」

 

「それはいつだ、いつのことだ?」

 

「確か卒業式の前ぐらいだと」

 

「・・・・・・そ、そっかわかった。

 すまない、助かった」

 

これですべて繋がった。

そうなんだ、三ヶ木があのパソコンに触れたとしても、

ウィルスを他のパソコンに感染する方法を知ってるとは思われない。

それと昨日材木座から聞いたんだが、消されていたプロム以外の遊戯部の

ファイルがいつの間にか復活されていたらしい。

 

「んで、どうしたんですか?

 よかったらわたしから清川君に」

 

「いや、な、なんでもない、大丈夫だ。

 昼休み時間にすまなかった」

 

「そうですか?

 じゃ、また連絡くださいね。

 あ、それと今度はちゃんと会いに来て告ってく 」

 

“プー、プー”

 

そっか、清川か。

そういえばあいつ、生徒会選挙の時も三ヶ木とつるんでいたよな。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん?

 

”カシャカシャ”

 

「何でいきなり切るんですか!

 もう信じられないです」

 

「い、いやすまん。

 ちょっとな」

 

「いいです、わたしは心が広いですから。

 でも先輩、先輩は・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・先輩、今度こそちゃんと始めてくださいね。

 もう間違ったらだめですよ」

 

「い、一色」

 

「それではです」

 

「ああ。

 ・・・・・・すまない」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、あれ」

 

「えっ、あ、目を合わせたらだめよ」

 

”ヒソヒソヒソ”

 

え、えっと~。

やっぱりここ目立つかな。

だけど清川の連絡先知らないしな。

やっぱりここで待っているしかない。

あのパンツ事件以来、小町は口聞いてくれないし。

 

”ザワザワザワ”

 

でもなんかすごく騒がしくなってきたんだが。

はぁ~、仕方ない。

もう一回、一色に電話してみるか。

 

「あんた何してんだ。

 生徒会に校門に変な人がいるって、苦情がきたから見に来たけど」

 

「き、清川。

 よかった、お前に用事があるんだ」

 

「俺に?

 俺はお前なんかに何の用事もない。

 じゃあな、さっさと帰れ」

 

「少しでいいんだ」

 

「断る!

 言っておく、俺はお前が嫌いだ、死ぬほどにな」

 

くそ、相変わらずこいつとは合わないんだよな。

でもこいつ俺のこと嫌い過ぎない?

ウ、ウィルスのくせして生意気な。

俺のほうが上位なのに。

だ、だが今日は・・・・・・

 

「すまん、本当に少しでいいんだ。

 三ヶ木のことで話がしたい」

 

「・・・・・・知らん」

 

「清川」

 

こいつしかいない。

あの時、何があったのか、こいつはきっと何か知っているはずなんだ。

だったら、なんでもしてやる。

 

”ドサッ”

 

「頼む。

 プロムの時、あいつは、三ヶ木はいったい何をしたんだ?

 俺の知らないところで何があったんだ?

 この通りだ、俺に教えてくれ」

 

”ペコ”

 

「・・・・・・は、はん、土下座はお前の百八の特技の一つだっていうじゃねえか。

 あの人に聞いたことがある。

 俺には通用しない。

 さっさと帰れ」

 

”スタスタスタ”

 

「頼む、この通りだ」

 

「あんたこの前の文化祭の時、由比ヶ浜って女と一緒だったろう。

 なんかいい感じだったじゃねぇか。

 だったらもうこれ以上あの人に関わるな!

 今度、あの人を苦しめたら俺が許さない」

 

「・・・・・・・」

 

俺が三ヶ木を苦しめた。

公式サイトを消したのは、やっぱり俺が三ヶ木のこと気にしてやれてなかったからなのか?

だとしたら、陽乃さんの言ってた一連のものとは関係ないのか?

だったら俺の知らないことってなんだ。

くそ、わからない。

 

     ・

 

”スタスタ”

 

「清川先輩!」

 

「おわっ、びっくりした。

 なんだ鈴、もしかしてお前見てたのか?」

 

「うん。

 清川先輩が生徒会室から出ていくところが見えたから」

 

「・・・・・・ほら、戻るぞ。

 今日は役員会あるだろう」

 

「清川先輩、先輩は何か知ってるんですね。

 だったら、なんであの人に話してあげないんですか?」

 

「お前には関係ない」

 

「わたし、わかるんです」

 

「なにがだ」

 

「中学校の時、清川先輩わたしを庇ってくれたじゃないですか。

 部活の先輩の万引き事件の時、みんながわたしが先生にチクっただろって言って。

 でもあの時、先輩が自分がチクったって。

 わたし何も知らなくて、本当に先輩がチクったんだって信じて。

 みんなと一緒に先輩のこと・・・・・・・

 後から嘘だってわかって、先輩はわたしを庇ってくれたんだって知った時、

 わたし自分がすごく嫌になって。

 ・・・すごく、すごく後悔したんです!

 あの人も、あの時のわたしと同じだと思うんです。

 何も知らなくて、でも何かがあったことがわかって。

 ・・・それってすごく苦しんです。

 清川先輩、きっとあの人は何があったのか知りたがってる、苦しんでる。

 だから先輩 」

 

「い・や・だ!」

 

「清川先輩の馬鹿!

 う、ううううう」

 

「な、なんでお前が泣くんだ」

 

「だ、だって、だって~、うううううう」

 

「ちっ、鈴!

 お前、ガキの頃からそうやって泣けば、いつも俺がお前の言うこと聞くって

 思ってんだろ!」

 

「うん」

 

「うんってお前・・・・・・」

 

「先輩、うううううう。

 ・・・バレンタイン、チョコあげたのに」

 

「わー!

 わかった。

 今度だけだからな、絶対に今度だけだからな!

 まったくお前は。

 ・・・チョコって中学の時の話じゃねえか。

 それと! なんでお前は俺と二人だけの時はあがらないんだ。

 いつもは、すげーあがり症のくせに!

 ちっ、鈴、一色にちょっと遅れるって言っておけ」

 

「はい」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

陽乃さん、まだ帰っていないのか。

雪ノ下もまだ大学だっていうし。

仕方ない、ここでしばらく待つか。

・・・あの後、清川から全てを聞いた。

清川は、ウィルスのことだけじゃなく全てを知っていた。

協力する代わりに聞いたらしい。

なぜ、三ヶ木がダミープロムを潰そうとしたのか。

なぜ、雪ノ下の母親がプロムを認めるように変わったのか。

あいつが、三ヶ木が何を守ろうとしてたのか。

陽乃さんの言う通り、俺は、いや俺達は何も知らなかった。

だから俺はあいつに、三ヶ木に会わないといけない。

だが、会って・・・・・・・会ってどうする。

わからない。

だけど、俺は三ヶ木に会いたい。

 

「よ、比企谷君じゃん。

 どうしたのわざわざマンションまで。

 なにかあったのかなぁ~」

 

「陽乃さん、あの時、何があったのかわかった。

 三ヶ木がやったこと、守りたかったもの。

 そして俺達の今の関係が何の上に成り立っていたのかも」

 

「ふ~ん。

 っで?」

 

「三ヶ木に合わせてほしい。

 三ヶ木の家に行ったら、ここに住み込みで働いているって聞いた。

 会って話をさせてほしい。

 俺はあいつと、三ヶ木とちゃんと話をしないといけない。

 お願いします」

 

”ぺこ”

 

「比企谷君。

 ・・・・・・お・こ・と・わ・り」

 

「陽乃さん」

 

「君に、今の君に三ヶ木ちゃんは会わせない」

 

「な、なんで」

 

「君は今の状態で三ヶ木ちゃんに会ってどうしたいの?

 また三ヶ木ちゃんを辛い目にあわせるの?」

 

「・・・」

 

「あのさ、君は気が付かなかったかもしれないけど。

 三ヶ木ちゃんやっとあの状態にまで回復したんだよ」

 

「回復?」

 

「そ、君はガハマちゃんとキスしてたんだって?

 それを目撃して自爆自棄になった三ヶ木ちゃんは、道で肩がぶつかった男に散々殴られた。

 何発も何発も顔がぼこぼこに腫れ上がるまで。

 それで三ヶ木ちゃんは対人恐怖症になった」

 

「そ、そんなことが」

 

「それから大変だったんだよ。

 そんな状態じゃ大学にも行けないし。

 それでも川崎さんや相模さん、一色ちゃん達、それに後からは雪乃ちゃんも。

 彼女達のやさしさで、すごく時間かかったけどなんとか立ち直って。

 それから徐々に恐怖心を取り除いていって、やっと人混みの中でも出られる

ようになった。

 そして最終試験がこの前の文化祭での君達との対面」

 

「・・・・・・・」

 

「今の君には三ヶ木ちゃんを苦しめることしかできない」

 

「お、俺は・・・・・・」

 

「今の君を三ヶ木ちゃんに合わせるわけにはいかない」

 

「俺はどうすれば三ヶ木に」

 

「・・・・・・わかってるはずだよ君は」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

陽乃さんの言う通りだ。

あの日、あの後にそんなことがあったなんて。

俺がちゃんと三ヶ木を追いかけていれば。

俺の所為だ。

それなのに今さらどの面下げて三ヶ木に会うって言うんだ。

三ヶ木が一番苦しいときに、俺は何もしてやれなかった。

苦しんでいることすら気が付くこともできなかった。

・・・だからやはり会うべきじゃない。

それに、それだけじゃない。

もう一つ解決しないといけないことがある。

それは

 

「あら比企谷君」

 

「え、あ、おう」

 

「こんなところで珍しいわね。

 どうしたの?」

 

「・・・・・・い、いや、なんでもない」

 

「そう」

 

「じゃあな」

 

「・・・姉さんには会えたの?」

 

「えっ」

 

「この方向から歩いてきたってことは、マンションに行ったんでしょ」

 

「・・・・・・な、なぁ、雪ノ下。

 お前、三ヶ木のこと知っていたんだよな」

 

「えっ・・・・・・

 そう、姉さんに聞いたのね。

 ええ、春休みに姉さんから知らされたわ。

 それで何度もあなたに伝えようと思ったの。

 でも言い出せなかった」

 

そうだったのか。 

雪ノ下がメールや電話で頻繁に連絡してくるのが不思議だったんだ。

そんなキャラじゃなかったからな。

それにたまに何の用事だったのかわからない時もあった。

ずっと黙り込んでたり。

そうか、そういうことだったのか。

 

「あなたはどうする気なの?」

 

「・・・・・・・・・・・・・俺は」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・俺は、俺は」

 

「・・・・・・比企谷君、ちょっといいかしら」

 

「え? あ、ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”キャ、キャ”

 

「ほらほらほら、列からはみ出したらダメだよ。

 車危ないからね。

 ちゃんと隣の子と手を繋いでね」

 

「は~い」

 

え、あれって向こうから来るの三ヶ木じゃねえか。

な、なにやってるんだ。

散歩?

子供達とどこか行ってたのか?

あ、ここって・・・保育所か。

 

「お、おい、雪ノ下」

 

「ここは外に歩いて出られるようになった三ヶ木さんが、最初に連れて行って

 ほしいって言ったとこよ。

 彼女と彼女の妹さんが通った保育所。

 ・・・・・・彼女が最初に保母さんになりたいって思ったとこ」

 

「そうなのか」

 

「これは姉さんも知らない秘密なのだけれど。

 三ヶ木さん、一人で外に出られるようになってから、いつも時間ができると

 ここに来てるのよ。

 初めは眺めていただけだけだった。

 でも今はああやってお手伝いさせてもらってるの。

 ほらあの笑顔、すごく楽しそう。

 もしかしたら、あの子供達が三ヶ木さんの心を癒してくれたのかもしれない」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・それで、あなたどうするの?

 姉さんと話をしたのなら、何があったのか全てわかったのでしょう?」

 

「お、俺は・・・・・・

 でもあいつは保母さんにはならないって。

 給料も良くないし、クレーマーさんもいるからって。

 だ、大学もお金がかかるからって。

 だとした、それは個人的な理由であって、他人の俺ができることは何もなくて・・・」

 

「保母さんにならない。

 それは彼女の本心なのかしら?

 ・・・・・・あの笑顔を見て、あなたそれが本心だと思える?」

 

”ワイワイ、キャキャ”

 

「ね、ね、お姉ちゃん、お歌、唄って~

 いつもお昼寝の時に歌ってくれるの」

 

「うんいいよ。

 じゃあさ、一緒に唄おうね」

 

”スタスタスタ”

 

三ヶ木、きっと園児達とどこか近くの公園にでも行ったのだろう。

他の保育士さん達と周りの安全を注意しながら、子供達と手を繋いで歩いてくる。

その顔にすごく幸せそうな満面の笑みを浮かべながら。

なんだよ、その笑顔。

そんな笑顔見せられて、保母さんになるのをやめるなんて信じられるわけないだろう。

きっと本当は保母さんになりたいはずなんだ。

だけど、俺の所為で三ヶ木は大学に行けなくなって。

・・・・・・俺が、俺が三ヶ木の夢を潰した。

だから

 

「俺には・・・・・・何もできない」

 

「・・・・・・比企谷君」

 

「・・・・・・すまない」

 

「ふぅ~。

 そうね、あなたが動くにはいつも何か理由が必要だったわね。

 ・・・・・・ね、比企谷君、奉仕部での勝負の約束のこと憶えてる?

 勝者であるわたしの言うことを何でも聞いてもらうという」

 

「ああ。

 だ、だがそれはもう時効 」

 

「時効はないわ、無期限。

 あなたはこれからも一生、ず~とわたしから何を言われるのかビクビクして

 過ごしなさい」

 

「お、おい」

 

「ふふ。

 いやかしら?

 だったら今、ここで解放してあげる。

 あなたは本当はわかっているはずよ、何をしたいのか、何をしないといけないのか。

 ・・・比企谷君、由比ヶ浜さんをお願い。

 彼女も本当は気付いている、それでも彼女はあなたのことが・・・・・・

 だから彼女を救ってほしい。

 それと三ヶ木さん。

 彼女は今、偽りの世界で生きていこうとしている。

 お願い、そこから連れ出してほしい。

 そんなの間違ってる。

 あなたにならできるはずよ。

 うううん、あなたにしかできない」

 

「・・・・・・」

 

「比企谷君」

 

「断る」

 

「え?」

 

「雪ノ下、俺がお前の言うことを聞くのは一つだけのはずだ。

 だから・・・それでは受けられない」

 

「まったくあなたは。

 だったら言い直すわ。

 比企谷君、わたしの親友達を救ってほしい」

 

「わかった。

 ・・・・・・すまない雪ノ下。

 ありがとう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

ふぅ~。

そうだな、まずは明日もう一回、陽乃さんと話してみよう。

やっぱり一度、三ヶ木と話がしたい。

そうだ、まずはそこからだ。

ん? あれ、なんで俺の部屋に明かりが。

いや、確かに照明は消したはずだが。

 

”ガチャ”

 

へ、カギも開いてる?

なんで?

カギもちゃんと掛けたはずなんだが。

 

「あ、ヒッキーお帰り」

 

「何してんだ由比ヶ浜。

 どうやってこの部屋に?」

 

「あ、あのさ、この前部屋に泊めてくれたじゃん。

 だからそのお礼に晩御飯でもって。

 ほらよく言うじゃん、一宿一パンの恩って。

 あ、カギは大家さんにお願いしたんだ。

 そしたらね、大家さんに彼女さんって言われちゃって、えへへへ。

 あ、もうすぐできるからちょっと待っててね」

 

「断る!

 それはお礼じゃない、罰だ。

 それにパンじゃない、飯だ、ご飯!

 一宿一飯!」

 

「いいじゃん、に、似てるから!

 それに罰ってひど!

 これでもさ、一人暮らししてちゃんと自炊してるんだからね。

 もう、いつまでも昔のあたしじゃないんだから。

 ほらほら、どこかに座って待ってて、ねっ♡」

 

「・・・・・・お、おう」

 

”トントントントン”

 

「ルンルンルン♬」

 

・・・・・・由比ヶ浜。

彼女はやさしくて、明るくて、とっても素敵な女の子だ。

俺はこのやさしさに何度も救われてきた。

そして今もきっと。

 

『・・・・・・さようなら!』

 

あの時、俺が失くしてしまったパズルのピース。

その穴埋めをしたくて、俺は違うものだと気付いていながらそれを由比ヶ浜に求めた。

そして無理やりパズルの空間に当てはめた。

それは失くしてしまったピースにとてもよく似ていたから。

でも、やっぱりそのピースは違っていて、一見、すごく似ているようでも

やっぱり微妙に違っていて。

だから完成したパズルは、初めから歪を抱えていた。

その歪は次第に大きな歪となっていって、そしてあの時に何があったのか全てを知った今、

このパズルは・・・・・・・破綻しようとしている。

全ては俺が悪い。

似て非なるものとわかっていながら、俺は目を逸らし、許容し、安堵した。

それはすごく暖かくやさしいものだったから。

だけど・・・

 

『彼女を救ってほしい』

 

そうなんだ。

こんな偽りの関係をいつまでも続けてはいけない。

レプリカのパズルはいらないんだ。

終わらせないといけない。

そしてそれは・・・・・・今なんだ。

 

「由比ヶ浜、少し話を聞いてくれないか」

 

「えっ? 

 あっ、っぅ!」

 

「ど、どうした?」

 

「う、うん、あ、あの、なんでもない」

 

「ば、ばっか、何でもないって血が出てるじゃないか。

 すまん、今声かけたから 」

 

「大げさだよ、こんなのなんでもないよヒッキー」

 

「いいから見せてみろ」

 

”ぐぃ”

 

「よかった深くない、表面切ったぐらいだ。

 ちょっと待ってろ。

 確かこの引き出しに」

 

”ガサガサ”

 

「あ、ヒ、ヒッキー、本当に大丈夫だから」

 

「あった。

 ほら絆創膏貼るから、指」

 

「えっ、あ、う、うん」

 

”ちゅ”

 

「えっ!  ヒ、ヒッキー?」

 

”ぺっ”

 

「ん、なんだ?」

 

「あ、ゆ、指・・・うううん、なんでもない」

 

「ん?

 で、次は傷口を水で良く洗ってっと」

 

”ジャー”

 

「あとは、こうやってガーゼで傷口を抑えてだな。

 はい、ばんざ~い」

 

「ばんざ~い」

 

やば、ついバンザイって。

確かに傷口は心臓より高くってことだったが。

・・・でもなんかバンザイしている由比ヶ浜、めっちゃ可愛いんだけど。

それに向き合ってこの姿勢って、顔が近くて。

 

「えへへ♡」

 

あ、い、いや、そ、そんな目をして微笑まないで。

この距離でそれは反則すぎる。

そうだ目、目をそらさないと。

・・・・・・って、何だ由比ヶ浜の指って絆創膏だらけじゃないか。

 

「な、お前これって」

 

「あ、あの、へへ、お料理作っててさ、なんかいつもよそ見しちゃって」

 

「それ危ないぞ。

 包丁を使う時は集中しろ」

 

「うん。

 ・・・・・・・・・・・・・でもさ、つい横に置てあるヒッキーの写真見ちゃうから」

 

「ば、ばっか。

 よ、よ、よし、血は止まったみたいだな。

 それじゃ絆創膏をっと。

 よしこれでいい」

 

「ヒッキー、ありがとう、ニコ♡」

 

「お、おう」

 

「でさ、話って?」

 

「あ、い、いや、ま、またあとでな」

 

「うん。

 じゃあ、もうすぐできるからもうちょっとだけ待っててね」

 

「・・・・・・ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ヒッキー、お待たせ」

 

「ま、まじか、これ全部お前が作ったのか」

 

「へへ、少しは見直したヒッキー」

 

「いや、まだだ。

 味を確かめてからだ

 お前の場合、何か変なもの入れてる可能性があるからな。

 体育祭の時とかも、お前おにぎりにチョコ入れてたろ。

 どれ、例えばこのコロッケ」

 

”パク”

 

・・・うまい。

ころもはカリカリしてて、なかはホクホクして、それでじゃが芋の

美味しさが。

さては!

 

「これ、どこで買ってきた?」

 

「ひど! ちゃんと作ったんだから。

 ヒッキーも見てたじゃん」

 

マジか。

いや、コロッケはたまたまかも。

このチキンはどうだ?

 

”パク”

 

うそ!

 

”もぐもぐ”

 

う、うめ~

このチキン、すげぇ~うまい。

皮はパリパリで、中はジューシー。

塩コショウ、ん、あとニンニクがちょうどいい加減で。

 

”ジロッ”

 

「へっ、な、なにヒッキー?

 もしかして美味しくなかった?」

 

「どこで買った?

 怒らないから正直に言え」

 

「ムー!

 だからこれもさっき作ってたじゃん!」

 

「マジか!

 すごく美味い」

 

「え、本当? 

 でへへへ、うれしい♡。

 じゃあさ、こっちのかぼちゃのスープも飲んでみて。

 あ、それとこの海老ドリアも」

 

「お、おお」

 

     ・

 

”もぐもぐ”

 

「でさ、みんながね、また早応祭のイベントでプリキラーのコス着て出てくれって。

 ヒッキーはどう思う?」

 

「お前、すげー似合ってたからな。

 お前が嫌じゃなかったらいいんじゃないのか。

 ・・・・・・実際、可愛かったし」

 

「本当?

 でへへへ、可愛いい? そ、そうかなぁ~

 ヒ、ヒッキーがさ、そう言うのならあたし出ようかなぁ。

 あ、でもさ、最近またちょっと・・・・・・

 去年のコスって結構パツパツだったから。

 今年はどうかなぁ」

 

君そこって、今見つめてるそこって・・・・・・

え、また大きくなったの?

そう言われれば何となく大きくなったような。

いつもチラ見しているから気が付かなかったが、こうやってよく見ると。

 

”ジー”

 

「はっ、ヒ、ヒッキー、どこ見てるし!」

 

「い、いや、な、なにも見てない、見てないぞ、断じて見てない」

 

「ヒッキー」

 

「・・・・・・少しだけ見てました、ごめんなさい」

 

「やっぱり見てたんだ。

 ・・・・・・ヒッキーのエッチ♡」

 

     ・

     ・

     ・

 

「し、信じられない。

 すげーうまくて気が付かないうちに全部完食してしまった」

 

「よかった、頑張った甲斐があった。

 へへ、一生懸命練習したんだ」

 

「そっか。

 努力したんだなお前」

 

「あ、あのさ・・・・・・・

 美佳っちに教えてもらったんだ。

 お料理するときにね、食べてくれる人のこと思って、それでその人に喜んで

 もらおうって思いながら作ってたら、きっと美味しくなるって。

 だからね、ずっとヒッキーのこと思いながら作ったんだ」

 

「・・・・・・・」

 

「あ、あはは。

 何言ってんだあたし。

 ・・・・・・・さ、さてっと、洗い物洗い物」

 

「あ、洗い物、俺するから」

 

「本当、ありがとう」

 

「おう、任せろ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・・ね、ヒッキー、話しがあったんだよね」

 

「あ、いや・・・」

 

 

だ、駄目だ。

言えない、俺には言えない。

由比ヶ浜の指に貼られた絆創膏。

一つや二つじゃない、きっと今日のあの美味しかった料理を作るため

一生懸命練習したのだろう。

そんな想いのこもった料理を食べた後で、その想いを拒絶するようなことを

とても言えない。

どうすればいいんだ。

どうすれば、考えろ、考えるんだ。

きっと何か解があるはずなんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くそ、何も浮かばない!

 

「・・・大丈夫だよ」

 

「えっ?」

 

「ね、あたしもさ、話あるんだ。

 先にいい?」

 

「あ、ああ」

 

「あのさ、ヒッキー・・・・・・あたし大丈夫だよ」

 

「・・・・・・」

 

「ヒッキーはやさしいから、きっとあたしを傷つけない方法を考えてるんだよね。

 でもさ、そんな方法なんてないんだ。

 あたしはヒッキーのことが大好き。

 これは誰にも譲れないあたしの本物。

 でもね、本物っていうのは人それぞれにあってさ、それは世界に唯一ひとつじゃない。

 きっと相容れないものもあるんだ。

 それでも、それでも自分の本物を手に入れたいってことはさ、きっと他の人を傷つける

 ことを覚悟しないといけない。

 そしてね、それと同じく自分も傷つく覚悟をしないといけない。

 あたしはずっと前から覚悟してた。

 それでもなんとか本物が欲しくて足掻いてた。

 もしかしたら、もしかしたらもっと頑張ればって思ったけど駄目だった。

 いくら頑張ってもヒッキーの心の中にはずっと彼女がいたんだよね。

 いつもあたしは見てもらえてなかった。

 話をしてても、心はいつもそこにはなかった。

 そんなのわかるよ」

 

「・・・由比ヶ浜」

 

「それにね、あたしヒッキーのスマホの待ち受け・・・・・・・・・見ちゃったんだ。

 やっぱりずっと想ってたんだね。

 だからさ・・・・・・今日は激励会。

 ヒッキーと・・・・・・・・・・・・あたしの。

 あのね、お料理いっぱい食べてもらえて、美味しいって言ってくれて。

 それにお喋りもいっぱいできて、あたしとっても楽しかった。

 ・・・・・・ありがとうヒッキー。

 もうあたしは大丈夫だよ。

 だから、ヒッキーは、ヒッキーは、う、ううううううう」

 

「・・・・・・由比ヶ浜」

 

「ううう、ぐす。

 は、はぁ~しっかりしないと。

 あ、あのね、ヒッキーは頑張って失くしたもの取り戻して」

 

「・・・・・・」

 

”だき”

 

「ヒ、ヒッキー」

 

「由比ヶ浜、すまない」

 

「駄目だよヒッキー。

 抱きしめられたら、あ、あたし、あたし。

 うううう、うぐ、うぐ」

 

「すまない。

 本当にすまない由比ヶ浜」

 

「ううううう、う、う、うわーん、うわーん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”タッタッタッ”

 

はぁ、はぁ、はぁ。

俺は取り戻さないといけない。

俺の失くしたものと、そして彼女達が失くしたものを。

それが、俺の彼女達への責任の取り方なんだ。

 

『ごめんねヒッキー。

 泣かないって決めてたのに。

 も、もう大丈夫だよ。

 ・・・あのね、あたしもダミープロムのことずっと考えてたんだ。

 だって美佳っちがあんなことするはずないもん。

 例えやきもち妬いたとしても。

 それでね、この前の文化祭で美佳っちに会って、顔見て、

 少しだけだけど話聞いて確信した。

 やっぱり美佳っち何か隠してるって』

 

『・・・・・・・そっかお前も』

 

『うん、だってわかるよ。

 これでもさ、あたしは美佳っちの親友だったんだよ。

 だから 』

 

『由比ヶ浜、お前は間違っている』

 

『え?』

 

『三ヶ木美佳にとってお前は、由比ヶ浜結衣は今でも大切な親友だ。

 けして、”だった”じゃない』

 

『ヒッキー』

 

『・・・今から全て話す。

 あの時、三ヶ木が何をしたのか、何を守ろうと思ったのか』

 

     ・

     ・

     ・

 

『・・・うそ』

 

『嘘じゃない。

 三ヶ木は俺の、俺達の大切にしていたものを守るためにまた馬鹿をした。

 そして、俺とお前の・・・・・・・キ、キスをみて自爆自棄になって』

 

『ヒッキー!

 あたし、美佳っちに会いたい。

 お願い、会いたい。

 会って、会って言ってやりたい・・・・・・・・・馬鹿って』

 

『・・・わかった、任せろ。

 だが、少しだけ時間が欲しい。

 きっと何とかする』

 

『うん』

 

そうなんだ。

きっとあの二人は元に戻れる、やり直せるんだ。

だから俺はあの人を、今日こそ陽乃さんを説得して・・・三ヶ木に会う!

会って・・・・・・会って・・・だけど・・俺、俺は。

 

「比企谷君」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、すまん雪ノ下。

 今、いるんだな」

 

「ええ」

 

「頼む」

 

「行きましょう」

 

     ・

 

「お待たせ。

 また来たの比企谷君。

 はは~ん、もしかしてお姉さんにも気があるのかなぁ~」

 

「それはないです、絶対に」

 

「ひど~い。

 ・・・・・・で、何の用?」

 

「陽乃さん、ちゃんと話してきました」

 

「へぇ~

 君はまた女の子を一人泣かしてきたんだ」

 

「・・・・・・」

 

「いや~本当、君って女子の天敵だね」

 

「頼む、陽乃さん。

 三ヶ木に合わせてほしい」

 

「・・・だめ」

 

「は、陽乃さん」

 

「っていうか、今ここに三ヶ木ちゃんいないの。

 ちょっと大事な用があってね。

 実はさ、うちの会社が大事なお得意様を怒らせちゃってね。

 三ヶ木ちゃん、その会長さんの自宅に謝罪に行ってるの」

 

「はぁ! いや、なんで三ヶ木が?

 三ヶ木はあんたの私設秘書だろう。

 だったら会社のことなんて三ヶ木には関係のないはずだ」

 

「いや~先方の会長さんがね、すごく三ヶ木ちゃんのこと気にいっててね。

 ものすごく怒ってらっしゃったから、ここは彼女に行ってもらうしかなかったんだよ。

 ちょうど以前から三ヶ木ちゃんお食事に誘われていたからね。

 ・・・でも食事だけですめばいいんだけど。

 あの会長さん、いつも三ヶ木ちゃんをなかなか離してくれなくて。

 もしかしてそのあと・・・

 三ヶ木ちゃん、今日は帰ってこれないかもね」

 

「あ、あ、あんた何言ってんだ」

 

「比企谷君、三ヶ木ちゃんはそういうことになるかもしれないってこと承知で行ったんだよ。

 今日は帰れないかもしれないってこと」

 

「なんで、なんで三ヶ木は」

 

「恩返しがしたいんだって。

 こんなわたしで役に立てるなら喜んでって」

 

「あんた、それでも止めるべきだろう!」

 

「三ヶ木ちゃん、言い出したら聞かないから。

 君も知ってるでしょ」

 

「・・・お、教えてください陽乃さん」

 

「なにを」

 

「三ヶ木どこに行ったんですか

 場所、教えてください」

 

「教えたらどうするのかなぁ」

 

「こんなやり方間違ってる。

 俺は、俺はこんなやり方認めない。

 三ヶ木を連れ戻す」

 

「そんなこと聞いてわたしが教えると思うの?」

 

「頼む、頼む陽乃さん。

 教えてくれ、いや教えてください。

 その代わり、俺はあんたの言うことなんでも聞く。

 だからこの通りお願いします」

 

”ペコ”

 

「姉さん、わたしからもお願いするわ。

 教えてあげて」

 

「ふ~ん。

 でもさぁ比企谷君、今から行ってももう間に合わないと思うけど。

 それでも君は行くの?

 ・・・三ヶ木ちゃんの顔、ちゃんと見てあげられるの?」

 

「お、俺は 」

 

     ・

 

「姉さん、比企谷君大丈夫かしら」

 

「さぁね。

 でもこれでダメになるんだったら、それまでだったってこと。

 その時は仕方ないじゃん」

 

「・・・」

 

”カシャカシャ”

 

「あ、わたし。

 ね、今ちょっといい?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

こ、ここでいいんだよな。

しかしなんてでかい家なんだ。

ここに三ヶ木がいるのか。

・・・三ヶ木。

陽乃さんの言う通り、もしかしたら三ヶ木はもう・・・

それでも俺は三ヶ木に会えるのか。

三ヶ木のこと、ちゃんと見てやれるのか、声かけてやれるのか。

どんな顔して会えばいいんだ。

もしかしてもっと傷つけてしまうんじゃないのか。

だったらやっぱり・・・・・・

くそ、ここまで来て何言ってるんだ俺!

ほら、さっさと行くぞ。

 

”スタスタスタ”

 

さてどこから入れるかだが、正面から行っても追い返されるだけか。

それなら裏門に廻ってみるか。

 

     ・

 

な、なんだ、こぇ~

あれって、あの裏門のとこに立ってる人、あっち関係の人じゃないのか?

すげ、ガラ悪い。

それにああやって立っていられると、中に入れない。

くそ、どうする、いなくなるまで待つか。

いやそんな時間はない。

そうだ、スマホを材木座と通話中にしておいて、いざっていう時は

警察に通報するって脅して家の中に。

あいつらも警察沙汰になるような騒ぎはおこしたくないはずだ。

よ、よし!

 

「比企谷?」

 

「え? は、葉山」

 

「どうしたんだ、こんなところで」

 

「え、あ、い、いや」

 

「さっきからあの家を見てるけど、どうかしたのか?」

 

葉山、なぜこんなところに?

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

これはチャンスだ。

葉山に頼んでおけば。

外の仲間がいつでも通報するぞって。

 

「葉山、すまん頼みがある」

 

「ん?」

 

「俺は今からあの家に行く。

 どうしても行かないといけない用事がある。

 すまん、もし何時間たっても俺が出てこなかったら警察に電話してほしい」

 

「警察?

 話がよくわからないんだが」

 

「今、詳しく話している時間がない。

 後で必ずちゃんと説明するから。

 頼む時間がないんだ」

 

「ふむ、わかった。

 君が出てこなかったら警察に電話すればいいんだな」

 

「ああ。

 頼む、じゃあ」

 

「あ、ちょっと待ってくれ

 君のスマホ貸してくれないか?」

 

「え?」

 

「すまない、俺のスマホは今バッテリーが切れててな」

 

「そ、そっか、わかった。

 それじゃすまないがこのスマホで頼む」

 

「ああ。

 気をつけてな」

 

ん!

しめたあのガラの悪い奴、どこか行きやがった。

今なら家の中に。

 

”ダー”

 

ふぅ、気付かれなかったよな。

しかし本当にでかい家だ、三ヶ木どこにいるのか見当がつかない。

どこから家の中に入れば。

 

”キョロキョロ”

 

よ、よし、あの勝手口から。

 

「おい、お前なにしてるんだ!」

 

「え、あっ」

 

「おい、ちょっとこい!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「あれから1時間か。

 もうそろそろ 」

 

「お待たせ」

 

「これ比企谷のスマホです。

 でも本当にこれって」

 

「ご苦労様。

 もう帰っていいよ」

 

「・・・・・・それじゃ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ボカ”

 

”バシッ”

 

”ドコッ”

 

「おい、もういいだろう。

 とっとと外へ捨ててこい」

 

「へい」

 

”がし”

 

「み、三ヶ木を返せ」

 

「ああん。

 この野郎足を離せ、オラッ!」

 

”ボカ”

 

「さっきから何言ってんだこいつ」

 

「み、三ヶ木を」

 

「しつけえんだよ!」

 

”ドコ、ドコ”

 

「ぐは、ごほ、ごほ。

 こ、こ、ここにいるんだろ、し、知ってるんだぞ」

 

”ぐぃ”

 

「だからさ、お前何言ってるんだ」

 

「三ヶ木、お前らの会長のとこに来てるだろうが!」

 

「会長のところ?

 ああ、雪ノ下建設の女か。

 なんだ、それがどうかしたのか」

 

「お前ら、三ヶ木に、三ヶ木に何かしてみろ。

 ただじゃおかないからな」

 

「あにき、あの女って確か今頃、会長とお楽しみ中でしたね。

 あっちをモミモミ、こっちをモミモミって。

 ぐへへへ、うらやましい」

 

「ああ、そうだ」

 

「お、お前ら!」

 

「うるせー!」

 

”ボカ”

 

     ・

 

「それでは失礼します」

 

”スタスタスタ”

 

「ふぅ~。

 結構遅くなっちゃったなぁ。

 でも明日はお休みもらったし。

 へへ、また保育所行こうっと」

 

”ガタン! ドカドカ”

 

「ん、なんか騒がしい?

 なんだろう、こっちのほうから物音が・・・

 へっ、あ、ひ、ひき」

 

”ぐっ”

 

「う、う、う~」

 

”ドタバタドタバタ”

 

「おとなしくしてなさい」

 

「う~、う~」

 

”ボカッ”

 

「ぐはぁ」

 

「さっきから三ヶ木三ヶ木って、なんだあの女、お前の女なのか?」

 

「ほら、兄貴が聞いてんださっさと答えろ」

 

”ボコ”

 

「がはっ」

 

い、いてぇ。

さっきからもう何発も殴られて蹴られてもう動けない。

そっか、三ヶ木もきっとこうだったんだよな。

きっとすげぇ怖かったよな、こんなの。

あの時、俺が追いかけていれば、三ヶ木はこんな目に合わなくて。

俺はそんなこと何も知らないで。

ごめんな三ヶ木。

 

「おい、もういい、あきた。

 ほら、これで楽にしてやれ」

 

”ガシャ”

 

「へい。

 ほら起きろよ。

 今、楽にしてやるからな。

 あとは東京湾で静かにお寝んねしてろ」

 

”ギラ”

 

ナ、ナイフ、いやあれドスっていうんだっけ。

ははは、駄目だ、逃げたくても身体動かないし。

そっか、俺もう死ぬんだあれで刺されて。

最後に、最後にもうひと目だけ会いたかった。

さよなら、三ヶ木。

 

「ん゛ー、ん゛ー」

 

”ガブ!”

 

「いたー!」

 

「ひ、比企谷君、逃げて!」

 

へ、こ、この声って。

空耳か?

な、なんであいつの声が。

え、あっ、あれって。

 

「比企谷君!」

 

「み、三ヶ木」

 

「ほらどこ見てんだよ。

 死ねや!」

 

「や、やめてー!

 比企谷君、逃げて!」

 

三ヶ木・・・・・・最後に一目会えてよかった。

ごめん、無理なんだもう身体が。

逃げようにもあっちこっち痛くて、今にも気を失いそうなんだ。

悪い、すまないってちゃんと謝れなかった。

それと、それとな・・・・・・

三ヶ木、俺は、俺はお前のことが・・・

 

「じゃあな」

 

”グサッ!”

 

「ぐはぁー」

 

「い、いやー!

 比企谷君!!

 は、離せ、このぉー!」

 

”べし!”

 

「い、いたっ」

 

”ダー”

 

「比企谷君、比企谷君、比企谷君、し、死んじゃやだー!

 死なないで、死なないで、死なないで」

 

”ゆさゆさ”

 

「ね、ね、比企谷君、お願い目を開けて。

 お願い・・・やだー!

 起きて、起きてよー」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・うそ。

 なんで目を開けてくれないの」

 

”キッ!”

 

「ぐ、ろ゛、い゛、わ゛!!

 な、なんで比企谷君を!」

 

「・・・」

 

「ゆ、ゆ、ゆるさない!」

 

”ダー”

 

「お前、それよこせ!」

 

”バシッ”

 

「お、おい、このアマ何を」

 

「許さない、許さない、許さない!!

 絶対に許さない-!!」

 

”ダー”

 

「死ねー!」

 

”グサッ”

 

「ぐはっ」

 

”ドタ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「三ヶ木ちゃん」

 

「・・・・・・」

 

「三ヶ木ちゃん!」

 

「・・・死んじゃった」

 

「ほら三ヶ木ちゃんしっかりして」

 

「・・・は、陽乃さん、ひ、比企谷君が死んじゃった。

 わ、わたしも人を、黒岩さんを殺しちゃった。

 殺しちゃった!

 うう、ううう、うわ~ん、うわ~ん」

 

「・・・・・・・ふぅ~」

 

”ポンポン”

 

「黒岩さん、いつまでやってるんですか」

 

「あ、すみません、つい」

 

”すく”

 

「へ? え゛ー!!

 な、なんで、あ、あ、あれ?」

 

「まったく、黒岩さんのり過ぎ」

 

「すみません雪ノ下さん。

 つい三ヶ木さんの迫力に」

 

「あ、あの、な、なにが?

 え、えっと~」

 

「それと」

 

”スタスタスタ”

 

「ひ・き・が・や・君

 なに死んだふりしてるのかなぁ~」

 

”ペシペシ”

 

「あ、い、いえ、その~」

 

”すく”

 

「ひ、比企谷君!」

 

”ダー”

 

「比企谷君、比企谷君、比企谷君!

 よかった、よかった、よかった、死んでない。

 比企谷君死んでない!」

 

”だき”

 

「三ヶ木」

 

「よかったよ。

 ・・・・・・・・え、でも、なんで?」

 

「三ヶ木ちゃん、ほらこのナイフ」

 

”グニャ”

 

「えっ!」

 

「そう、歯はゴム製なのこのナイフ。

 それでね、ほらここに赤インクが入っててね、ギュって押すと」

 

”プシュー”

 

「って、刃先から赤インクが出るの。

 ね、よく出来てるでしょ」

 

「え、じゃ」

 

「すまん、刺されたとき一瞬気を失って。

 気が付いたら俺死んでないし、おかしいなと思ったんだけど。

 お前なんか大変なことになってるし」

 

「馬鹿!」

 

”ベシベシベシ”

 

「馬鹿馬鹿馬鹿、ほんとに心配したんだからね!

 それで、わたし人を殺しちゃうとこだったんだからね!

 わかってんの、この大馬鹿!」

 

「いててて、そこいたい。

 殴られたの本当だから。」

 

「あ、ごめん。

 でも、陽乃さんなんでこんなことしたんですか?

 比企谷君、殴られて痣だらけじゃないですか。

 お芝居でもやり過ぎです!」

 

「・・・これでよかったんだよね。

 これで大丈夫だよね、比企谷君」

 

「え、大丈夫?

 ・・・・・・・・・・・・はっ!」

 

そ、そっか。

陽乃さんがこんなことしたのって。

もしかしてこの人最初から・・・

やっぱ敵わねえわ、この人には。

全て見透かされてるのかよ。

 

「陽乃さん、ありがとうございました」

 

「そっか。

 やっぱり君はわかってくれたみたいだね。

 はい、スマホ。

 じゃ、比企谷君、家まで送るから」

 

「いや、いいです。

 お、俺、自分で帰れます」

 

”スタスタ、フラッ”

 

「あ、比企谷君危ない」

 

”ぎゅ”

 

「ほら危ないよ、つかまって。

 一緒に帰ろ、比企谷君」

 

「ああ」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「あ、そうだ三ヶ木ちゃん、もう明日から来なくていいから。

 荷物もアパートに送っておくから」

 

「え?」

 

「君はクビ。

 さっきわたしのこと殴ったよね、それに手をガブッて噛んだし。

 あっ、痕ついてる。

 雇い主に暴力をふるうような秘書はクビ」

 

「ごめんなさい。

 謝ります、すみません。

 だから、これからも陽乃さんの秘書で」

 

「だめ。

 ・・・・・・あのね君は明日から大学に行くの」

 

「えっ、大学?」

 

「さっき、東地大の理事長さん、ここの会長さんだけど。

 三ヶ木ちゃんの大学復学のお願いしておいたから。

 だから、明日から大学に行って、いろいろこれからのこと相談してきなさい」

 

「陽乃さん。

 復学って、わ、わたし 」

 

「そ、君は今日まで休学中にしてもらってたの。

 あのね、三ヶ木ちゃん、めっちゃ出遅れてこれからいろいろ大変だけど頑張りなさい」

 

「陽乃さん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「つぅ」

 

「比企谷君、大丈夫?

 ね、でも何があったの?」

 

「え、あ、いや・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・な、なぁ三ヶ木、お前本当に何もされなかったんだよな」

 

「え、何もって?」

 

「あ、いや、ここの会長がお前のことすごく気にいってるって陽乃さんから聞いたから。

 そ、それで今日はお前帰らないかもって。

 だ、だからもしかしたら食事以外にも、あ、あんなこととか」

 

「あんなこと?」

 

「そ、その会長と・・・エ、エッチ」

 

「はっー!! 

 ば、馬鹿ー!」

 

”べし”

 

「い、いてぇー」

 

「あ、ご、ごめん。

 はぁ~、もう陽乃さんは。

 あのね、会長さんって刈宿君のおばぁちゃんだよ」

 

「へ?

 じゃ、じゃあこの家って刈宿の」

 

「うん。

 めっちゃでかいよね

 あのさ、おばぁちゃんとは2年の文化祭の時からの知り合いでさ。

 初めは刈宿君のおばぁちゃんって知らなかったけど。

 なんか、わたしのこと気にいってくれちゃっててね。

 今日はお食事の約束してたの。

 それでその後にお礼にマッサージしてあげたらすごく喜んでくれて。

 だから、本当はもっと早く帰れたんだけど、つい長居しちゃった」

 

「そ、そっか。

 いてててて。

 なんか安心したら急にあっちこっちが」

 

「大丈夫?

 もう、黒岩さんたら何もこんなに殴らなくても。

 ・・・でも、さっきさ、これでよかったって言ってたけどなんで?」

 

「ああ。

 ・・・・・・あのな陽乃さんから聞いた。

 お前、あの後・・・俺と由比ヶ浜がキスした後、道でぶつかった男に

 すげぇ殴られたんだってな。

 すまなかった。

 俺が、お前を追いかけていれば、そんなことに。

 あの時、本当はお前を追いかけたかった。

 追いかけて、お前に話聞いてもらって、俺はお前をプロムに誘いたかった。

 でも、ちょうどサブレが亡くなったって連絡があってな。

 俺は泣きじゃくる由比ヶ浜を一人にできなかった。

 もしお前を追いかけていたら、きっとお前は殴られずにすんだはずなんだ。

 それにその後、お前が恐怖症になって辛い時も俺は何も知らずに。

 だから、正直あのままお前に会えてもちゃんと話せる自信がなかった。

 でも、殴られてる時お前のことが頭に浮かんで、こんな怖い思いしてたんだって。

 お前の辛い思いを少しでもわかることができたような気がして・・・」

 

「・・・・・・比企谷君。

 もう馬鹿だよ、こんなになっちゃって。

 でも・・・・・・でもさ」

 

”だき”

 

「ほんと馬鹿だよ」

 

「だが俺のせいで、俺が追いかけなかったからお前が」

 

「うううん、そんなことがあって、もしそんな状態の結衣ちゃんを置いて追いかけてきたら、

 わたし・・・・・・」

 

「三ヶ木」

 

「わたしが思いっきり比企谷君をぶん殴ってた。

 うん、それでこそわたしの比企谷八幡だ。

 ・・・・・・・・・・・・で、でもさ、比企谷君は結衣ちゃんとキスを。

 ぶちゅ~ってさ」

 

「俺はあの時、ちゃんと由比ヶ浜と話をしようと思ったんだ。

 俺は三ヶ木をプロムに誘いたいって。

 だけど、ああなっちまって。

 すまん」

 

「うううん。

 そ、そっか、わたしをプロムに・・・えへ♡

 ね、早く帰ろ。

 絆創膏とか手当てしなくちゃ。

 あ、消毒も!

 ぐふふふ、消毒、消毒、消毒♬」

 

「い、いや消毒は自分でするから、厳密に!」

 

「え゛ー!」

 

「え゛ーじゃねえ、このS子め」

 

「ブー」

 

”スタ、スタ、スタ”

 

「るんるんるん♬」

 

「・・・あのな三ヶ木、プロムの件、清川から聞いた。

 お前がなぜダミープロムを潰そうとしたのか、なぜ急に雪ノ下の母親が

 雪ノ下と話をするってことになったのか全てわかった。

 ・・・三ヶ木」

 

”ペコ”

 

「すまなかった。

 そしてありがとう。

 俺はまたお前に」

 

「そ、そっか、清川君話しちゃったんだ。

 比企谷君、頭上げてよ。

 わたしは、わたしはね、わたしのやりたいことをやった。

 だから、比企谷君に謝られる理由はない。

 もう、だから頭上げて。

 ほらほら、うんしょっと」

 

”ちゅ”

 

「・・・・・・は、はぁー!

 お、お、お、お、お前、今いきなり何にやったんだ。

 い、い、いま、わ、わたしの、フ、ファ、ファーストキスを!

 いいかファーストだぞ、ファースト!

 わかるか、ファーストって最初ってことだぞ!」

 

「・・・俺は、俺も俺のやりたいことをやっただけだ」

 

「は、はぁー!

 いや、いや、いや。

 それとこれとは違うから、なんか絶対違うから」

 

”ぐぃ”

 

「え、な、なに?

 あ、あの、比企谷君?

 えっと~顔離して」

 

”ちゅ~”

 

「ん・・・・・・・・ん?・・・・・・ん~、ん~・・・んー」

 

”ジタバタジタバタ”

 

「ん゛ー!」

 

”ちゅぱっ”

 

「ぷはぁー!

 だから何を!

 それに長いわ!

 あやうく窒息するところだったじゃん、もう!」

 

”だき”

 

「え、比企谷君?」

 

「三ヶ木、ずっとそば・・・・・・・・・・・・違う。

 あ、あ、あ、愛してる」

 

”ぎゅ~”

 

「ひ、比企谷君。

 ・・・・・・あのね、わたしも愛してる」

 

「お前が・・・・・・・俺の本物なんだ」

 

「比企谷君♡」

 

「三ヶ木」

 

”ちゅ~”

 

「ん~・・・・・・んん・・・・・・・ん~、ん~・・・ん゛ー!」

 

”ちゅぱぁ~”

 

「ぷはぁ!

 はぁ、はぁ、はぁ。

 だ、だから長いって!

 もう・・・・・・馬鹿♡」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”カタカタカタ”

 

「よしっと、へへできた。

 うん、我ながら上出来上出来」

 

「ふぁ~あ。

 っぅ! いてててて。

 はぁ~、やっぱりまだ昨日の殴られたところが」

 

「あ、あ、あの~」

 

”もじもじ”

 

「ひ、比企・・・・・・は、八幡、おはよ♡」

 

”ぽっ”

 

「ん? なんでお前が、それに顔赤らめて・・・・・・あ゛ー!!

 ま、まぁ、その・・・・・・・・・・・おはよう・・・美佳」




最後まで、ほんとに最後までありがとうございました。
この駄作も今話で完結です。

最初に第一話を投稿してからほぼ三年。
ヒーさんさんやTriadさん、ぶーちゃん☆さん、ポテカルゴさん、
Na7shiさん、伊05さん、MISARAさん、プリエスさん、
ご感想ありがとうございました。
また、お気に入りに登録していただいた皆様、ありがとうございました。
そして、見に来て頂きました皆様、ありがとうございました。

振り返ってみると、ほんと全てがうれしくて励みになりました。
最後のほうがどんどん投稿が遅くなって、それでも完結までもってこれたのも
皆様のおかげです。
こころから感謝です。

これからは誤字訂正を含め、もう少し読みやすくなるように見直しと、
地の文を付け足していけたらと思います。

・・・・・・あ、それとこの駄作で回収できてないフラグ、
不定期になりますが回収できればと。

それでは、原作での三人の幸せな完結を願いながら、
失礼いたします。
本当に、本当にありがとうございました。 m(._.)m

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
稲村純 最後の戦い


お久しぶりです。
また見に来ていただいてありがとうございます。
番外編追加できればと言いながらやっと・・・・・・
今話は稲村編。
本編76、77話の間のお話です。
稲村編ということで八幡とか主キャラはあまり
出てきませんです。

もしそれでもよろしければ、よろしくお願いします。


もうこれで終わらせよう。

そして俺は・・・・・・

 

「着火」

 

”ヒュルルルルル~~~、パーン”

 

「「おおー」」

 

 

ーーーー それはプロム開催の決まったあの日から ーーーー

 

 

”カチャ”

 

「お待ちどう様でした、当店自慢のケーキセットです。

 どうぞごゆっくり」

 

「うわ~、美味しそう。

 あ、そうだ。

 ね、稲村君、憶えてる?

 この店ってさ、二人が初めてのデートでよったとこだよ」

 

「いや、あれってデートっていうのか?

 卒業生を送る会の準備で買い出しに来ただけだろう?」

 

「いいの。

 初めて二人っきりでお出かけしたんだから」

 

「ま、まぁ、三ヶ木がそういうのならそれでいいけどな」

 

「へへ、それでいいのだ。

 それよりさ、はい、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

”パク”

 

「稲村君、美味しい?」

 

「美味しい。

 じゃ三ヶ木も、はい、あ~ん」

 

”パク”

 

「うん、美味しい♡」

 

「な、なぁ三ヶ木」

 

「ん?」

 

「キ、キスしよう」

 

「えっ・・・・・・で、でもこんなところじゃ。

 他の人に見られるかも」

 

「大丈夫だ。

 ほらここはこの店の一番奥の席だろ。

 誰も見てない」

 

「・・・・・・う、うん」

 

「三ヶ木、ほら顔上げて」

 

”くぃ”

 

「稲村君♡」

 

「三ヶ木」

 

「稲・・・村・・・・・・せんぱ~い」

 

「・・・えっ?

 せ、先輩って三ヶ木?

 は、はぁー、蒔田!

 な、なんでお前が!」

 

「稲村先輩、ほらキス。

 もう焦らさないでください」

 

「や、やめろー!」

 

”ガバッ”

 

はぁ、はぁ、はぁ。

あれ教室、なんで俺ここに?

・・・あ、そ、そっか、入生田先生に大学合格の報告して、

そのあと教室で身の回りの片付けしてたんだっけ。

それで机の中にあった林間学校の写真、あの時生徒会のみんなで撮った写真を

みつけて眺めてたら、ついウトウトと。

・・・くそ、蒔田め!

あと少しで三ヶ木とキスだったのに。

・・・・・・・・・・・・・って、はは、俺まだふっ切れてないのか。

本当に女々しい奴。

・・・帰ろっか。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

受験、終わるまでは今は勉強だろって、自分に言い訳を作って

誤魔化してきたけど、終わったとたんこれだもんな。

はは、幻滅だわ。

だけどさ、やっぱり俺辛くて・・・

 

「うんしょ」

 

ほ、ほら幻聴まで。

 

「うんしょ、うんしょ」

 

いや、も、もういいって!

いつまでもこのままじゃダメだってわかってるから。

が、頑張るから俺。

 

「はぁ~、やっぱ指いた~い。

 一度にこんだけのごみ袋は無理だったかなぁ。

 半分に分けて運べばよかった~」

 

み、三ヶ木!

幻聴じゃなかったのか。

 

”ダー”

 

「あ、そうだ。

 どっかグラウンドに穴掘って埋めちゃおう。

 へ、へへへへ、誰も見てないよね」

 

「おい」

 

「ひゃ、う、嘘です。

 そんなことしませ・・・って稲村君じゃんか。

 驚かすなって、え?」

 

”ひょい”

 

「ほらそっちのも一つ貸せ」

 

「あ、う、うん」

 

「なんだ一人でごみ捨てか?」

 

「うん。

 会長とかゆきのんとか、みんなプロムのリハーサルで

 忙しそうだったから」

 

「そっか」

 

「へへ、ありがと稲村君」

 

「おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「で、どうなんだプロム。

 すまなかったな手伝いできなくて」

 

「あ、うん、なんとかなりそうだよ。

 いろいろあったけどさ、なんとかうまくいった」

 

「・・・・・・おい。

 うまくいったって、お前またなんか無茶やったんじゃないだろうな!」

 

「・・・・・・」

 

「まったく。

 な、もう遅いかもしれないけど、俺にできることあったら言えよ。

 俺はお前のためなら 」

 

「ごめん、また心配かけちゃった。

 でもほんともう大丈夫、ちゃんと終わったから。

 ・・・・・・うん、終わった」

 

「そうか?

 だけど三ヶ木 」

 

「わかった。

 今度何かあったら必ず相談する」

 

「そうしてくれ」

 

「ありがとね稲村君、にこ♡」

 

うっ!

なんだろう、なぜか俺この笑顔が好きなんだ。

特別可愛いってわけじゃない。

でもこの笑顔見てると、なんかこう心が満たされていくような。

はぁ~、折角頑張ろって思ったのに。

 

「稲村君?」

 

「あ、い、いや何でもない。

 それより意外だな」

 

「え、なにが?」

 

「プロムだよプロム。

 お前なら絶対プロム反対すると思ってた。

 まさか協力するとはな」

 

「わたしは・・・・・・ほんとは反対だよ。

 プロム、生徒会が主催するべきイベントじゃないと思う。

 ほんとは有志とかでやるべきだと思うんだ。

 でも・・・・・・会長とかゆきのんとか、

 生徒会のみんなの想い大事にしたいから。

 それに・・・もうわたしは生徒会じゃないから」

 

「・・・そっか。

 まぁ、料理教室とかスキー合宿の時のことがあったからな。

 お前の言いたいことわかる。

 じゃ、お前はどうするんだプロム。

 参加しないのか?」

 

「参加しない。

 いろいろ迷ったけどさ、やっぱ参加しない。

 きっと会長達、がっかりするよね。

 散々手伝っておきながら当日は参加しないなんて。

 ・・・でも、それでも、やっぱりわたし 」

 

「でもさ、比企谷お前のこと誘うんじゃないのか?」

 

「・・・・・・」

 

「三ヶ木?」

 

「・・・・・・わたしは・・・・・・いけない」

 

「そっか」

 

”スタスタスタ”

 

な、なんて顔してんだ。

またあいつと何かあったのか?

三ヶ木がこんな顔する時ってそれしかないもんな。

・・・まったく!

お前らはなんでいつもいつも。

くそ、だから俺に期待を持たせるなよ。

また、まだ俺にもチャンスがあるって思ってしまうだろうが。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「なぁ、去年の卒業生を送る会のこと憶えてるか?」

 

「え、あ、うん、憶えてる」

 

「なんかさ、すげぇ大変だったけど、めっちゃ楽しかったな」

 

「そうだね。

 書記ち・・・藤沢ちゃんなんかすごく緊張してて、

 初めのうちはどうなるかと・・・思っ・・・・・・た。

 ・・・ば、馬鹿村ー!」

 

”ボゴ”

 

「ぐはぁ~

 な、なんだいきなり。

 ごみ袋で殴るなよ」

 

「スライド、鹿ムスメ、大爆笑!」

 

「げ、ま、まだ根に持ってたのか」

 

「あったりまえだ。

 卒業式の日、大変だったんだからね。

 すれ違う人すれ違う人、わたしの顔見てクスクス笑うし。

 もう最悪だったんだから

 ・・・それにあれトナカイだし」

 

「・・・でもさ、俺はめっちゃ可愛いと思ったけどな」

 

「は、はぁ!

 こ、この馬鹿!」

 

”ボゴボゴボゴ”

 

「や、やめろ、ごみ袋破けるって」

 

「もう、ほんと馬鹿」

 

「たははは。

 だけどさ、またああいうのやりたいな、みんなで」

 

「うん、そだね。

 はぁ~、あの頃に戻れたらなぁ~」

 

・・・そういって遠くを見つめる三ヶ木。

その横顔はやっぱりどこかさみしげで。

俺は三ヶ木のこの顔をほっとけなくて。

笑顔を取り戻してやりたいってそう思った。

だって彼女には笑顔が一番似合っているんだ、絶対!

だから・・・

でも、それは多分俺じゃできない。

きっとそれができるのはあいつなんだ。

・・・でも、それでも俺は。

 

     ・

     ・

     ・

 

”シャー”

 

さっぶー

やっぱりまだこの時期は自転車だとめっちゃ寒い。

 

『わたしは・・・・・・いけない』

 

三ヶ木、本当になにかあったのかな。

・・・そうだ!

明日、部屋見に行った帰りにララポ寄ってなにかプレゼント買ってやろう。

もうすぐ、誕生日だもんな三ヶ木。

何がいいかなぁ~

やっぱあれか、うんあれだよな。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

・・・け、結構するんだなフィギュア。

財布の中、やべ~

でも三ヶ木、本当に好きなんだよな、このイレギュラーヘッドってキャラ。

やっぱりこの目がいいのか?

なんかあいつに似ているような。

こんな感じかな、死んだ魚のような・・・

 

「あのご注文は?

 ひゃっ!」

 

「はっ、あ、す、すみません、なんでもないです。

 コ、コーヒーを一つ」

 

「・・・かしこまりました。

 あ、あと当店はチーズケーキが自慢ですが、ご一緒にいかがですか?」

 

「あ、あ、あのすみません、コーヒーだけで」

 

「チッ」

 

「え?」

 

「あ、わかりました。

 少々お待ちください」

 

”スタスタスタ”

 

すみません、今日はマジやばいのでって。

・・・いやコーヒーだけでもいいだろう!

くそ、何なんだあの店員。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、なんだライン?

蒔田からっか。

 

”カシャ、カシャ”

 

『稲村先輩、どちらがお好きですか?』

 

え?

はぁ! な、なんだこの写真。

ドレス・・・・・・ああ、今度のプロムのか。

ん? でも蒔田が何でドレス?

ま、いいけど。

 

”カシャ、カシャ”

 

げ! 何だこの青いドレス。

む、胸のところがガバッて開いてて、それにこれ谷間が・・・すごっ!

 

”ごく”

 

蒔田、こんなに胸あったのか。

 

”ブ~、ブ~”

 

「は、はい、稲村」

 

「い・な・む・ら先輩、写メ見てくれました?」

 

「あ、ああ」

 

「どうですか?

 どのドレスがお好みですか稲村先輩♡」

 

「・・・・・・お、おい、お前盛ってるだろう」

 

「は? はぁ!」

 

「この胸、絶対パットだろ!

 い、いや、きっといろんなお肉寄せてるだろう、脇とか背中とか、は、腹とか!」

 

「な、なに言ってるんですか!

 じゅ、純生です、純生100%。

 い、言ってるでしょ、わたし脱いだらすごいんですって。

 こ、これ、全部本物ですし、寄せてませんから!」

 

「じゅ、純ナマだと・・・こ、これが」

 

「・・・で、どっちが好みですか?

 緑のは地味過ぎてないとして、赤それとも・・・やっぱり青い方、青い方でしょ。

 稲村先輩のスケベ」

 

「ば、ばっか。

 青い方は胸露出しすぎだ。

 ドレスコードに引っかかるだろうが。

 それに生徒会だったらもっとおとなしめのやつにしろ。

 この緑の方にしておけ。

 このすげ~地味なやつ」

 

「ぶ~」

 

ん、これ、ここに写ってるのって。

この隅に見切ってるの。

 

「な、なぁ、三ヶ木もいるのか?」

 

「え? あ、いますよ。

 えっと、きっと比企谷先輩に誘われるからって、

 強引に連れてきちゃいました」

 

「強引にって蒔田・・・

 で、三ヶ木の様子どうだ?

 三ヶ木もドレス選んでるのか?

 三ヶ木、プロムに参加するのか?

 三ヶ木、な、何か言ってないか?

 三ヶ木は 」

 

「・・・・・・うっさい」

 

「ま、蒔田?」

 

「あ゛ー!

 もう本当にうっさいです!

 な、何なんですか、三ヶ木三ヶ木三ヶ木!

 そんなに気になるんなら、ご自分で聞けばいいでしょ、この唐変木!

 もう知らない!」

 

”プー、プー、プー”

 

「・・・・・・・」

 

怒らせた・・・か。

だ、だが気になるだろうが。

だって昨日は三ヶ木プロム行かないって言ってたんだ。

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、また蒔田からライン?

 

”カシャ、カシャ”

 

『ドレス選んでくれたお礼です。

 ・・・馬鹿』

 

え、お礼?

 

”カシャ、カシャ”

 

写真、み、三ヶ木のドレス姿の写真。

白いドレス、すげ~似合ってる。

ちょっと派手目かと思うが、ウェデイングドレスみたいでなんかいい。

それにちょっとはにかんだこの笑顔。

すごく幸せそうだ。

 

『きっと比企谷先輩に誘われるからって』

 

そっか、まぁそういうことだよな。

 

”ガヤガヤ”

 

「マジか~」

 

「みたいだぜ」

 

ん、あ、あれ、あの席のやつらってうちの生徒じゃないか?

たしか見たことがある顔だ。

 

「それでお前どうすんだプロム。

 ペアでなくてもいいっていうんだろ。

 行くのか?」

 

「はぁ! あんなリア充の祭典行くわけないだろう」

 

「だよな~

 どうせまた、きゃ~葉山く~んとかだろう。

 やってらんねえって」

 

「そうそう。

 なんで俺達が引き立て役にならんといけないんだっていうの」

 

「あんなのリア充だけでやってろって言うんだ。

 まじ自由参加で良かったぜ」

 

「強制でも行かないって~の」

 

”ワイワイ”

 

・・・リア充の祭典っか。

確かにな。

プロムなんて本当に楽しめるのはリア充だけだからな。

それ以外の多くは、リア充のやつらが楽しく異性と踊ってるの

眺めてるだけだろうし。

それにドレスとか装飾品とか、男だったらタキシードだっけ?

レンタルでもそこそこするんだろ。

だったら参加しないやつ、結構いるんじゃないのか?

 

『本当は有志とかでやるべきだと思うんだ』

 

三ヶ木が反対って言うのはこういうところなんだろうな。

だからプロムには参加しないか。

だけどさっきの写真、めっちゃ嬉しそうだったじゃんか。

きっと本当は三ヶ木、あいつとプロムに・・・・・・

はぁー、しゃーない!

あいつと何があったのか知らないけど、明日プレゼント持っていった時に

あの頑固者の背中押してやるか。

はぁ~、まったく何やってんだ俺。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ピンポ~ン”

 

・・・えっと今日も誰もいないのか?

三ヶ木どうしたんだろう、ずっとラインも電話にもでないし。

あ、もしかしてプロムの準備で学校にいってるのか?

ちょっと聞いてみるか・・・って、蒔田怒らせてたんだ。

三ヶ木いるかなんて聞けないよな。

ど、どうすっかなぁ

 

     ・

     ・

     ・

 

「なぁ、一色ちょっといいか?」

 

「え、なに清川君?」

 

「ん、ああ、裏総武の書き込みチェックしてたんだがな。

 ほらこれ、結構プロム反対って意見あるんだ」

 

「はぁ?

 どれどれ。

 ・・・・・・ふ~ん、でもこんな意見ってひがみの類じゃないですか~

 そんなの相手にしてられないです」

 

「だけど、ほらこっちなんか在校生からの投稿だと思うけど、

 卒業生を送る会で先輩送りたかったっていうのもあるぞ」

 

「それは各部活とかでやってくれればいいじゃないですか。

 それにちゃんと部長会の協力も得てますし」

 

「そっか。

 まぁいいけどさ」

 

「えっと、それじゃわたし美佳先輩のところ行ってきますね。

 あとよろしくです」

 

「あ、一色、わたしも一緒に 」

 

「蒔田は音響スタッフと打ち合わせあるでしょ。

 それではです。

 あ、藤沢ちゃんにも伝えておいてね、蒔田」

 

     ・

     ・

     ・

 

「そっか、学校にも行ってないのか。

 わかった。

 ありがとう書記、いや藤沢さん」

 

どこいったんだ三ヶ木。

もう暗くなってきたし。

あ、もしかして麻緒さんのとこか?

麻緒さんの家、俺知らないしな。

三ヶ木、ラインでも電話でも出てくれればいいんだけど。

仕方ない、もうしばらくだけここで待つか。

 

”キキキー”

 

ん、えっとあれどっかで見た車。

 

”ガチャ”

 

あれって平塚先生じゃないか。

 

”ガチャ”

 

え、麻緒さん?

なんで麻緒さんと平塚先生が。

あと降りてきたのは・・・み、三ヶ木!

な、なんだ、どうしたんだ、なんで顔中絆創膏だらけなんだ

い、いったいなにが

 

”トン、トン、トン”

 

「美佳、階段、足下に気を付けてね。

 大丈夫?」

 

”コク”

 

「ほら家もうすぐだから」

 

「三ヶ木!」

 

「ヒャッ!」

 

”ブルブルブル”

 

「え? 三ヶ木どうし 」

 

「いやー!

 いや、いや、いやぁー」

 

”ぎゅ”

 

「大丈夫、大丈夫、ね、大丈夫だから美佳。

 落ち着いて」

 

”ブルブルブル”

 

「いや、いや、いや、いや、う、うううう」

 

麻緒さんの腕の中で震えながら、泣き叫ぶ三ヶ木。

な、なんだ、い、いったい何があったんだ?

なんでそんなに怯えた目で俺のことを見るんだ・・・三ヶ木。

 

「稲村君だっけ。

 ごめん、美佳怖がってるからちょっと待ってて」

 

"ガチャ"

 

「ほら美佳、家に入って」

 

「う、うううう」

 

「稲村君、そこで待っててね」

 

”バタン”

 

     ・

     ・

     ・

 

なんだったんだ三ヶ木のあの顔。

絆創膏や痣だけじゃない、すごく腫れ上がってて。

それにあの目、あんなに怯えた目をして。

・・・お、俺のこと怖がってた。

俺怖がられていた。

 

”ガチャ”

 

「ごめんね、大分待たせちゃったね。

 やっと美佳落ち着いて眠ったから」

 

「ど、どうしたんですか麻緒さん。

 いったい三ヶ木に何が」

 

「見られちゃったもんね。

 ・・・ね、誰にも言わないって約束してくれる?」

 

「・・・は、はい」

 

「昨日ね、路上で 」

 

     ・

     ・

     ・

 

「対人恐怖症!」

 

「そう、何度も何度も殴られたから。

 それでね人が、特に男の人が近寄る度、また殴られるって恐怖で怯えてね。

 さっきのような感じになるの」

 

「・・・・・・ま、麻緒さん、そいつはどんな奴でした」

 

「うん、今警察が防犯カメラをチェックしてるから、いずれわかると思うけど」

 

「・・・三ヶ木は何か言ってませんでした?

 そいつの特徴とか、なんでもいいです教えてください」

 

「・・・教えたら何をする気?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか!!

 俺がそいつを探し出してぶん殴ってやる。

 三ヶ木がやられた何倍も、いや何十倍、何百倍も!」

 

「・・・・・・絶対に教えない」

 

「麻緒さん!」

 

「稲村君、そんなの美佳が望むと思う?

 あの子が元気になってそれを知った時、君が人を殴ったって知った時、

 どう思うと思う?

 きっとすごく後悔して自分を責め立てる。

 自分が殴られたから稲村君にそんなことをさせてしまったって。

 そして今以上に傷ついて・・・」

 

「・・・・・・」

 

「君は美佳を傷つけたい?」

 

「だ、だけど、お、俺は、み、三ヶ木が!」 

 

”ぎゅ”

 

「ま、麻緒さん?」

 

「ありがとう稲村君。

 その想いだけで十分だよ。

 だから落ち着いて。

 ねっ」

 

「・・・・・・」

 

「稲村君ありがとう。

 これからも美佳のことお願いね」

 

「・・・はい」

 

麻緒さんに強く抱き締められた俺は、もう何も言えなくて。

そうなんだ、俺なんかより麻緒さんの方がもっとつらいはずなのに。

それなのにそんな麻緒さんの気持ちも考えず喚き散らすなんて・・・ガキだ。

だ、だけどさ、ガキってわかってても!

三ヶ木のあの目が、怯えた目が頭から離れないんだ。

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

『いや、いや、いやー』

 

くそ。

・・・三ヶ木。

 

”ポン!”

 

「稲村先輩」

 

「あん!」

 

「ひゃっ」

 

「あ、ご、ごめん会長」

 

「あ~びっくりした。

 どうしたんですか、そんな怖い顔して」

 

「あ、いやちょっと。

 何でもないです」

 

「まぁいいですけど。

 で、美佳先輩どうでした?」

 

「へ?」

 

「あ、ほらこの先は美佳先輩の家でしょ。

 だから美佳先輩の家に行ったのかなぁって。

 で、美佳先輩に会えました?

 

「・・・あ、あの」

 

『誰にも言わないって約束してくれる?』

 

そ、そうだ。

今、会長に言うわけにはいかない。

今はまだ。

 

「三ヶ木には会えなかった」

 

「そうですか」

 

”スタ、スタスタ”

 

「会長。

 三ヶ木に用事があったんじゃ?」

 

「美佳先輩、いないんじゃご自宅に行っても仕方ないじゃないですか~

 明日、また来てみます。

 さ、帰りましょう」

 

「え、あ、ああ」

 

”スタスタスタ”

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・で、本当は何があったんですか?」

 

「い、いや何も」

 

「稲村先輩のあんな怖い顔、今まで見たことないですよ」

 

「・・・・・・今は・・・すみません」

 

「そうですか」

 

「・・・会長、プロムどんな感じですか?

 受験の後も引っ越しとかいろいろあって手伝えなくてすみません」

 

「大丈夫ですよ。

 準備ばっちりです。

 あ~、でもなんか一部の卒業生がボイコットするって、

 ネットで騒いでいるようですけど。

 稲村先輩はばっちり楽しんでくださいね。

 蒔田も真剣にドレス選んでましたよ」

 

「・・・俺は参加しない」

 

「え? は、はぁー!

 な、なんでですか」

 

「会長、だれもプロムに参加したいやつばっかりじゃないんですよ。

 なかにはああいうの嫌な奴だっている」

 

「な、なにを。

 稲村先輩も嫌なんですか?」

 

「喜んで参加する奴なんてリア充とか、何でもいいから騒ぎたい奴

 だけじゃないですか。

 卒業生、そんなのばっかりじゃないってことですよ」

 

「そ、それなら参加してくれる人だけでいいです。

 どうせボイコットっていったって、そんなの一部の人だけですから」

 

”イラ”

 

「だったらこんなの生徒会がやるべきじゃない」

 

「稲村先輩」

 

「俺も去年までやってたような卒業生を送る会のほうがいい」

 

「な、何言ってんですか!

 わたし、わたしはわたしらしく先輩たちをちゃんと送りだしたくて」

 

”イライラ”

 

「・・・そんなの間違ってる。

 だったら、だったらそんなのは有志でやればいいだろうが!」

 

「い、稲村先輩!」

 

「・・・・・・す、すみません。

 今、俺どうかしてます。

 頭の中がおかしくなってて。

 これ以上、冷静に話できそうにもないです。

 先帰ります」

 

”ペコ”

 

「・・・・・・」

 

”ダー”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

くそ、どうしたんだ俺。

なんであんなこと言ったんだ。

会長にあたってどうする。

くそくそくそ。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”カチャ、カチャ”

 

会長の言った通りだな。

ネットでは結構反対意見多いんだな。

一部の卒業生って言ってたけど、それ以外にも下級生からの意見も載ってる。

先輩たちの卒業をちゃんと祝いたい、今までの卒業生を送る会のほうがいいっか。

彼らにしてみたら卒業生を送る会は部活の先輩を送る会でもあったんだからな。

毎年、部活ごとの出し物も結構盛り上がってたし。

その場が無くなったわけだからっか。

部長会はプロム協力の方向だし、それに一年部員が強制的に駆り出されているって

噂もあるし。

でもこのままでだとどれくらいの生徒が参加するんだろう。

否定派たち、ボイコット呼び掛けてるしな。

5、6割ぐらいか?

でもそれでいいのか。

・・・・・・三ヶ木ならどう思う。

今の状況知ったらどう思う。

ネットで繰り広げられるプロム派とプロム否定派の争い。

そして否定派のボイコット運動。

生徒会が原因のこの状況を放っておくはずがない。

三ヶ木ならきっとなにかするはずだ、いつものように。

なら俺はどうすればいい、考えろ。

三ヶ木はきっとこんなの望んでいない。

 

     ・

     ・

     ・

 

くそ、何も考えつかない。

何をどうすればいいんだ。

はぁ~、何か飲んでくるかなぁ。

 

”ちら”

 

ん、あ、この前の林間学校の時の写真か。

はは、会長も三ヶ木も泥だらけで。

そうだ、あのときみんながキャンドルやってるところに、

二人して泥だらけになって山から出てきたんだよな。

手つないで一緒に。

・・・写真の中のみんな。

本牧、藤沢さん、会長、俺、そして三ヶ木。

みんな笑ってる。

楽しそうに、いや本当に楽しかったんだ。

みんな一緒だったから。

 

『生徒会のみんなといつまでも一緒にいられますように』

 

『生徒会が終わっても、高校を卒業してもみんなとのつながりを

 もっていられる関係でいたい』

 

みんな一緒っか。

・・・・・・そうだな、三ヶ木ならきっと。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「廃油キャンドルでギネスに挑戦?

 廃油キャンドルってあの林間学校でやったやつか?」

 

「はい、卒業の思い出に卒業生とかの参加者集って、グラウンドをライトアップ

 したいんです。

 それで許可をいただきたくて」

 

「ふむ。

 で、それはいつやるつもりなんだね」

 

「はい。

 ・・・・・・卒業式の日に」

 

「おい」

 

「卒業式の日の夕方にやります」

 

「君も知っているだろう。

 その日は卒業式の後にプロムがあるんだぞ」

 

「わかってます。

 でもやります」

 

「なぜその日なんだね。

 それにもうあと3日しかないぞ。

 準備も間に合わないだろう」

 

「でもやります」

 

「・・・・・・何かあったのかね」

 

「・・・・・・」

 

「稲村、それでは許可できないな。

 第一、急すぎる。

 その日にやらなければならない理由の説明がない以上、許可するわけにはいかない。

 今から申請の書類を提出して、職員で審査してそれから許可をもらう。

 そうだな、卒業式も控えてるんだ、申請の許可は早くても卒業式が終わって

 1週間後ぐらいだろう。

 だからできるのは春休み中ということになるな」

 

「それじゃダメなんです。

 ・・・プロムの時じゃないと」

 

「稲村、無理を言うな」

 

「駄目・・・なんです」

 

「許可できん」

 

「先生、先生も知ってると思いますが、卒業生の中にはブロムに否定的なものもいます。

 なかにはボイコットを呼びかけているものも。

 それでネットでブロム賛成派と言い争いも。

 こんな状態じゃダメなんです。

 だからブロムに参加しないものにもなにか卒業の思い出になることをしたいんです。

 それに春休みになったら、県外に出ていくやつもいるから今じゃないと。

 ・・・・・・きっと、きっと三ヶ木もそう思うはずなんだ」

 

「ん、三ヶ木?

 なんで三ヶ木なんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「い、稲村、まさか君は」

 

”コク”

 

「そうか。

 知っていたのか」

 

「・・・今、三ヶ木は何もできない。

 多分卒業式にも出れない。

 このままじゃ三ヶ木にとって卒業式は辛い想い出しか残らない。

 だから俺は、少しでも俺は・・・」

 

「・・・そうか、それが君の本心か。

 稲村、キャンドルのこともうすこし詳しく説明してみたまえ。

 あ、いやちょっと待て」

 

”カシャ、カシャ”

 

「ああ、わたしだ。

 今すぐ職員室まで来い。

 なんでもいい!

 ごちゃごちゃ言わずに来い・・・・・・今度ゆっくり話聞いてやるから。

 パ、パーテーションの裏だ。

 わかってるな、すぐ来い」

 

”プー、プー”

 

「平塚先生?」

 

「広川も呼んだ。

 キャンドルの件、あいつに受け持ってもらう。

 火を使うからな、管理する大人が必要だ。

 それにあいつは今暇だろうし。

 なにしてる、早くその申請書貸したまえ」

 

「え、あ、はい」

 

「これはわたしが預かっていたことにする。

 まぁ、わたしも何かと忙しいのでな。

 いろいろ整理してたら紛れてしまってたってことにしておこう」

 

「そういえば先生、すごく机片付いてますね」

 

「ん、ああ、まあ年度末だからな。

 いろいろあるんだ大人の世界には。

 稲村、何も心配するな。

 君のやりたいようにやりたまえ。

 わたしは君のこと信用している。

 まぁそれに責任は大人がとるものってきまっているからな」

 

「先生」

 

「しっかりな」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「稲村、さっきは聞き忘れたんだが目的はなんだ」

 

「はい、プロムに参加しない卒業生にも最後に何か想い出になるものをと。

 それに卒業生を送ってやりたいって思っている在校生の想いも」

 

「・・・そうか。

 まぁいい。

 材料の方は俺が準備しよう。

 今年の林間学校用に備蓄してたのがすこしあるからな。

 だがギネスに挑戦ってことになると足りない分をどうするかか」

 

「広川先生でもそれ使ったら今年の林間学校の分が」

 

「ん、そうだ稲村にはまだ行ってなかったな。

 俺も今年の4月で教師やめるんだ。

 だから全部使ってしまっても大丈夫だ」

 

「やめる?

 広川先生、教師やめるんですか?」

 

「ああ、俺もずっと思ってたやりたいことを始めたいと思ってな。

 だから俺もお前らと同じこの学校を卒業だ。

 あ、そういえば静ちゃ・・・ごほん、平塚先生も同じか。

 今度移動って言ってたからな」

 

「移動!

 平塚先生移動なんですか」

 

「あ、やば。

 すまんこの件は内緒な」

 

「はい」

 

「まぁ、いい想い出にしような」

 

「はい」

 

「そうだ、広告はどうするんだ?

 参加者、集めないといけないんだろう?」

 

「はい。

 早速、ネットの裏総武に投稿します。

 結構プロム否定派見てるみたいですから。

 あと新聞部にあたってみます。

 確か卒業式に合わせて学校新聞出すはずだから、それに載せてもらおうかと」

 

「そうか」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なぁ蒔田。

 ちょっといいか?」

 

「なに清川」

 

「この画面ちょっと見てみろ」

 

「ん?」

 

「この稲村って先輩、お前の彼氏だろ?」

 

「はひゃ!

 か、か、彼氏。

 そ、そ、そうだけどなにか?」

 

「ほらここ見てみろ。

 その彼氏とやらがなんかやるみたいだぞプロムの時に」

 

「え?

 な、なにこれ」

 

「何も聞いてないのか?」

 

「う、うん。

 ね、これ一色は?」

 

「まだ気付いてないと思うけど」

 

「ちょっと行ってくる」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

「無理ですって」

 

「いやそこを何とか」

 

「卒業式に間に合わせるために、もう今回の新聞は出来上がってるんですよ。

 いまさら載せられませんって」

 

「ほんの少しでいいんだ、ちょっとだけで。

 日程とあと一行、キャンドルやるぞってだけでいいから」

 

「絶対無理です」

 

     ・

 

”ガラガラ”

 

「はぁ~」

 

”トボトボトボ”

 

「ん、あれって」

 

”ガラガラ”

 

「よ、お疲れさん」

 

「あ、瀬谷先輩」

 

「なぁ、今の三年の稲村だろ。

 どうしたんだ、何かあったのか?」

 

「あ、あの 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”トボトボトボ”

 

はぁ~、どうするかなぁ。

今からでもポスター作って張り出すか。

 

”ブ~、ブ~”

 

へ、蒔田?

なんだ?

 

”カシャ”、カシャ”

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないです。

 今どこにいるんですか!」

 

「え、あ、ああ、調理室に行くところだけど」

 

”ブー、ブー”

 

へ、なんだ?

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「まったく、稲村先輩は何を考えているの?

 それに調理室で何してるの?」

 

「いいか稲村」

 

え、この声って広川先生?

どれどれ、ドアに耳つけてっと。

 

”ピタ”

 

何の話してるんだろう。

 

「まずこのクレヨンを細かく砕くんだ

 それをこの濾した廃油と混ぜてだな、そして所定の長さに切ったタコ糸と

 凝固剤を入れてっと。

 あとは固まるまで待つ」

 

「砕くってこ、このクレヨン全部ですか?」

 

「ギネスに挑戦するんだろう、だったらこれでもまだ足りないんだ。

 確かさっき調べたんだが」

 

”カシャ、カシャ”

 

「ほれギネス記録は34,685個ってことだからな。

 それにしてもなんでギネスに挑戦何て言ったんだ」

 

「あ、いや、やっぱりその方が興味引いて人集まるかなぁって」

 

「はぁ~今日は徹夜だなこれは。

 学校の方には俺から話しておく。

 お前も家の方に連絡しておけ。

 必要だったら電話代わるから」

 

「はい。

 広川先生、すみません」

 

「まぁいいや。

 俺暇らしいから。

 それで、どんな風にライトアップする気なんだ?」

 

「あ、はい。

 これでいこうと思います」

 

「ん、写真?

 これって林間学校の時の」

 

「はい。

 林間学校の時、キャンドルで作ったハートが横に2つ重なっているやつ。

 先生が友情のマークって言ってたやつでいきます。

 林間学校・・・俺の生徒会の一番の思い出なんです。

 本牧と夜通し馬鹿な話したことや、会長や書記、違った藤沢さんとカレー食べたり。

 オリエンテーリングの時に、逆切れした三ヶ木に追いかけられたり、

 そしてみんなで一緒にキャンドル見たり。

 まぁ三ヶ木は、その後すぐに広川先生に連れてかれましたけど、謹慎部屋に。

 この写真はその前にみんなで撮った写真です。

 全てが楽して、楽しくて・・・・・・

 それだけじゃない。

 帰りの広川先生の車の中で、生徒会やめなきゃいけないって三ヶ木泣き出して。

 そして泣きつかれた三ヶ木が俺の胸に顔うずめて眠って」

 

「そういえば、三ヶ木の家に着くまで、お前ずっと抱き締めてたよな」

 

「げ、憶えてました?

 あの時、広川先生から三ヶ木の昔の話を聞かせてもらいましたよね。

 ・・・・・・いじめられてたことや、家でも学校でもずっと一人ぼっちだったこと、

 そして交通事故のこと。

 交通事故でお母さんや妹さんを失くして、ずっと自分のせいだって責めていること。

 三ヶ木の家に着くまでいろいろと。

 先生の話を聞いて俺わかったんですよ、三ヶ木がいつもなんであんな馬鹿な

 ことするのかって。

 きっと三ヶ木は大切なもの守りたい、もうこれ以上大事なもの何も失いたくない

 んだって。

 俺それがわかって、それで腕の中の三ヶ木の泣き顔見て思ったんです。

 三ヶ木がすごく愛しいって、こいつをずっと守ってやりたいって。

 ・・・・・・三ヶ木美佳って女の子のことが本気で好きだってこと」

 

”ドサ”

 

「・・・敵わない。

 こんなの敵うわけないじゃん。

 稲村先輩の馬鹿!」

 

”スクッ、スタスタスタ、ダー”

 

「だのに俺は・・・・・・守れなかった。

 だからせめてあいつの想いだけでも守りたい」

 

「なぁ稲村、三ヶ木何かあったのか?」

 

「えっ?」

 

「い、いやなんかお前の言ってること聞いてると、三ヶ木がどうかしたのかって

 思ってな。

 さっき守れなかったって言ってたし」

 

「・・・あ、あの」

 

「ん?」

 

「いえ、な、何でもないです。

 三ヶ木、か、風邪ひいたって言ってました。

 それで卒業式も。

 だ、だからこんな大事な時にウィルスからあいつを守れなくて」

 

「無理だろうそんなの」

 

     ・

 

”ダー”

 

「なんなのさ。

 ばっかじゃないの。

 どうせ、どうせ、稲村先輩なんか比企谷先輩に勝てないのに。

 ・・・・・・でも・・・それでも・・・好きなんだ。

 ・・・わたしと・・・同じ」

 

”ドン! ズデン”

 

「あいたー」

 

「つっ、いたー。

 ご、ごめんなさい」

 

「ピ、ピンク。

 しかもリボン付き」

 

「あ、瀬谷部長。

 え、ピンク? リボン?

 は、あ゛ー!

 な、な、何見てるんですかこのスケベ!」

 

「い、いや、ぐ、偶然だ。

 ぶつかって倒れたら偶然目の前にピンクが」

 

「う゛~」

 

「あ、それともう部長じゃないぞ。

 前部長だ。

 それより、ちょうどよかった蒔田と稲村に用事があったんだ」

 

「わたしと稲村先輩に?

 用事ってなんですか?」

 

「さっきな稲村が新聞部に来てな、キャンドルの件を学校新聞に載せてくれって」

 

「なんでそれとわたしが?

 稲村先輩が勝手にやってることじゃないですか!

 わたしには関係ありません」

 

「え、お前ら付き合ってたんじゃなかったっけ?」

 

「付き合ってなんかいません。

 あ、あんな人大嫌いです」

 

「そうなのか。

 ふ~ん」

 

「・・・あ、あの、それで載せていただけるんですか?」

 

「・・・・・・ふむ。

 いや、学校新聞の発行は明日だからな。

 もう刷り上がってるから無理なんだ」

 

「そうなんですか」

 

「それでな、でも号外って感じでよかったら卒業式の日に出せると思ってな」

 

「本当!」

 

「ああ、だけどな号外出す代わりに、蒔田に新聞部に戻ってきてほしい。

 蒔田が生徒会やめて戻ってきてくれるのなら号外出そうと思うがどうだ?」

 

「そ、そんな」

 

「・・・・・・どうする?」

 

「・・・わ、わかりました。

 わたし、生徒会やめます。

 だからお願いします」

 

「ははは、冗談だ冗談。

 な~んだやっぱりお前ら付き合ってんだろ」

 

「・・・・・・つ、付き合ってません」

 

「あのな、蒔田の部活紹介コーナー無くなってから学校新聞の関心が薄くなってな。

 配るそばからごみ箱行きだ。

 やっぱりあれ目玉コーナーだったんだよな。

 いや~まいった、まいた、蒔田」

 

「・・・・・・瀬谷先輩、そんなキャラでしたっけ?」

 

「・・・ご、ごほん。

 それで新学期からの学校新聞手伝ってくれないか?

 頼む」

 

”ペコ”

 

「し、仕方ないです。

 わたしも新聞部やめたつもりはないので」

 

「そうか、よかった~」

 

「そのかわり号外頼みますね」

 

”ブ~、ブ~”

 

「へ、あ、やば、一色!」

 

”カシャ、カシャ”

 

「は、はい、蒔田」

 

「みんなリハ待ってんですけど、蒔田が来るの」

 

「あ、ご、ごめん、今いく」

 

”ブー、ブー”

 

「すみません。

 じゃわたし行きます。

 稲村先輩ならこの先の調理室にいますので」

 

「ああ、わかった」

 

「あ、それと部活紹介コーナーの件、稲村先輩には絶対に内緒でお願いしますね」

 

「ん、なぜだ?」

 

「いいですから。

 も、もし喋ったらパンツ見たこと言いふらしますからね」

 

「わ、わかった」

 

「では失礼します」

 

”ダー”

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「う~、さむ~い。

 さすがにこれだけ早い時間だとまだ誰も登校していない。

 この学校にいる生徒はといったら・・・きっとあの人だけ」

 

”タッタッタッ”

 

「ほら、照明ついてる。

 やっぱり昨日帰らなかったんだ」

 

”ガラガラ”

 

「どれどれ、あ、寝てる。

 でも暖房効いてるみたいであったか~い。

 よかった、これなら大丈夫。

 えっと、それじゃあ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ブ~、ブ~、ブ~”

 

ん、目覚まし・・・・・・げ、しまった寝ちゃったのか。

やべ、まだこんなにあるのに。

はぁ~

あ、そうだ今日は卒業式の予行あるんだよな。

なんか寝ちゃいそうだ。

えっと、そういえば広川先生は?

 

”キョロキョロ”

 

げ、広川先生も寝てるんだ。

まじやべえな、広川先生の分もまだまだある。

これ間に合うかな。

まだ少し時間あるし、少しでも

 

”ぎゅるるる”

 

そ、その前に腹減った。

家に帰ってる時間はなさそうだしな。

なんか食べ物買ってくるか。

 

”ガラガラ”

 

ふぁ~あ、ねむ。

 

”ドン”

 

え、なんでこんなところに机出してあるんだって・・・

サンドウィッチとティーポット?

ん、それとメモ?

 

『あんまり無理しないでくださいね。

               舞♡』

 

蒔田?

あいつ来たのか?

これ、あいつが?

ふむ、見た目は美味そうだな。

どれ味はどうだ?

 

”パク”

 

う、美味い。

この卵サンド、結構いけるぞ。

ん、こっちはハムサンドか。

 

”パクパク”

 

美味!

・・・ありがとう蒔田。

 

「いっただきま~す」

 

”パクパク、もぐもぐ”

 

「んー!」

 

”どんどん”

 

の、飲み物!

え、えっとこのティーポット、何がはいってるんだ?

 

”トクトクトク”

 

紅茶っか。

 

”ゴクゴク”

 

「ぐぇー、に、にげー!」

 

な、何だこの紅茶すごく苦い。

苦過ぎだろう、薬かこれ。

 

「・・・・・・」

 

はぁ~、まったく。

 

”パクパク、もぐもぐ、ゴク、ゴクゴク、ゴクゴクゴク”

 

「ぷはぁ~、ご馳走様でした」

 

ふぅ~、目が覚めた。

 

     ・

     ・

     ・

 

「起立、礼」

 

お、終わったー。

キ、キツかったけど、何とか寝ずに過ごしたぞ。

これもあの紅茶のおかげか。

うへぇ~、まだあの苦さが口に残ってる。

さ、さて、そんなことより急いで準備に取り掛からないと。

だけど今のままだとマジ準備間に合わないぞ。

どうする。

 

”トボトボトボ”

 

ん、あ、本牧!

そ、そっだあいつに協力してもらって。

 

”ダー”

 

「お、お~い、もと」

 

「お待たせ沙和子」

 

「牧人君。

 うううん、わたしも今来たところ」

 

はっ、藤沢さん。

やっぱ、やめておくか。

きっと本牧も藤沢さんとプロムに。

・・・さ、はやく準備しないと。

 

”トボトボトボ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、牧人君、何か話があったんじゃない?」

 

「あ、明日のプロムだが、そ、その~」

 

「プロム?」

 

「・・・・・・あ、あの」

 

「・・・・・・・いいよ」

 

「えっ?」

 

「いってらっしゃい。

 稲村先輩、大変なんでしょ」

 

「すまない。

 だ、だけどプロム 」

 

”こつん”

 

「沙和子?」

 

「牧人君、わたしも前生徒会の仲間だぞ~

 わたしはね、いろはちゃんをおいていけない。

 だからわたしの分もお願い、稲村先輩助けてあげて。

 そうじゃないと、もう一発~」

 

「あ、ありがとう。

 沙和子、行ってくる」

 

「うん。

 牧人君、ガンバ」

 

”ダー

 

「行ってらっしゃい、牧人君」

 

「行ってらっしゃい、牧人君♡」

 

「え? ま、蒔田さん!」

 

「へぇ~、下の名前で呼び合ってんだ。

 いいなぁ~」

 

「あ、あの、こ、これは・・・

 そ、それより蒔田さん三ヶ木先輩のところに行ったんじゃ」

 

「ん、あ、今から行くところ。

 それじゃ・・・・・・

 沙和子、行ってくる♡」

 

「蒔田さん!」

 

     ・

     ・

     ・

 

「スー、スー」

 

”ピタ!”

 

「あっちいいー!」

 

「目覚めたか?

 ほらコーヒー」

 

「も、本牧!」

 

「まったく、何やってんだ」

 

「ほっとけ」

 

”キョロキョロ”

 

「な、一人か?」

 

「ん、ああ、広川先生、緊急の職員会議でちょっと遅くなるから」

 

「ふ~ん。

 で、なんで俺に相談しなかった」

 

「い、いやお前プロムに参加するだろう。

 だったら藤沢さんに悪いから」

 

「まったく、変な気を使うな。

 ほら、何すればいいんだ」

 

「いいのか?」

 

「ああ」

 

「すまない」

 

「気にするな」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ウトウト”

 

「はっ、わ、わりぃ。

 ちょっと顔洗ってくる」

 

「ああ」

 

 

”ガラガラ”

 

ん、比企谷?

あんなところで何やってんだ?

隠れてる・・・のか?

 

「比企谷、何やってるんだ?」

 

「しー、静かにしろ稲村。

 一色に気付かれるだろうが」

 

「会長?」

 

”パタパタ”

 

「げ、き、来たー」

 

「あ、会長、やばー!」

 

”ガタン”

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「せ、狭い」

 

「我慢しろ。

 掃除道具入れしか隠れるところなかったんだから」

 

「いや、でもなんで稲村まで」

 

「この前ちょっと会長とな。

 今は顔合わせ辛い」

 

「・・・キャンドルの件でか?

 まぁ、ネット見たけど」

 

「ああ」

 

「稲村、お前もプロム反対なのか?」

 

「・・・・・・ああ。

 それよりてっきり比企谷も反対だと思ったけどなこんな感じなの」

 

「・・・ま、まぁ、いろいろとあってな」

 

「三ヶ木、誘ったのか?」

 

「い、いや、誘っていない。

 ・・・・・・そんな資格ないから」

 

「資格?」

 

「そうだ、稲村お前が誘ってやってくれ。

 お前なら三ヶ木もきっとプロムに 」

 

”ぐぃ”

 

「おい、もう一回行ってみろ!」

 

「い、稲村、な、何するんだ」

 

「ちっ!

 くそ、この馬鹿が!」

 

”ガタン”

 

「お、おい稲村、いま出たらまだ一色に 」

 

「比企谷ー!

 こんなところで何してるんだー!」

 

「ば、馬鹿、そんな大声で」

 

「あー、先輩!」

 

「やべ、見つかった」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

”スらスタスタ”

 

あのくそ馬鹿野郎!

人の気も知らないで。

誘えるものなら誘ってる。

多分、俺なんかじゃ無理だろうけど。

やっぱりお前じゃないと・・・・・・

ちっ。

 

”ガラガラ”

 

「遅かったな」

 

「すまない、待たせた。

 さて!!

 やるぞ本牧!

 絶対ギネス更新してやる!」

 

「ん?

 お、おう」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それでは今日はこれぐらいにしましょう。

 明日はいよいよ本番です。

 みなさん、よろしくです♡」

 

”ガヤガヤ”

 

「疲れた~」

 

「なぁ、マック寄って帰らない?」

 

「それあり!」

 

”ワイワイ”

 

「ね、蒔田、美佳先輩どうだった?

 結局、先輩取り逃がしちゃって。

 あの人のステレス機能って本当凄すぎ」

 

「そうなんだ。

 あ、あのさ、三ヶ木先輩には会えなかったんだけど、

 麻緒さんに聞いたら、ただの風邪じゃなくておたふく風邪だって」

 

「そうなんだ。

 それじゃ明日来れないのかなぁ~

 ・・・・・・はぁ~、帰ろっか」

 

「ごめん一色。

 あ、あのさ、わたしこれからちょっと寄るところあるから」

 

「え、あ、そう」

 

「ごめん、じゃあ」

 

「あ、蒔田」

 

「ん?」

 

「稲村先輩にあんまり無理させないでね」

 

「・・・うん、わかった。

 ありがとう」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「げ、な、何ですかこのどんよりと重たい空間!」

 

「・・・蒔田よく来たな。

 さ、いいからここ座れ」

 

「・・・蒔田さん遠慮せず」

 

「い、いや、広川先生も本牧先輩も目が死んでるんですけど、

 ゾンビィみたいに。

 なんかわたし、身の危険感じるんですが」

 

”ゴリゴリ”

 

「あっ」

 

”スタスタスタ”

 

「稲村先輩」

 

「ん、あ、蒔田。

 わりぃ、気が付かなかった。

 サンドウィッチと紅茶、ありがとうな」

 

「あ、は、はい。

 えっと、どんな感じですか?」

 

「ん? あ、ああ。

 何とか半分できたって感じだな」

 

「半分!

 も、もう何時だと思ってるんですか?」

 

「わ、わかってる。

 何とか徹夜してでも」

 

「今日もですか」

 

「・・・・・・あ、ああ」

 

「身体壊しちゃいますよ。

 もう!」

 

”どさ”

 

「お、おい」

 

「で、何をすればいいんですか?」

 

「手伝ってくれるのか?」

 

「仕方ないじゃないですか」

 

「・・・すまない」

 

「えっと、このクレヨンを砕いていけばいいんですね。

 あ、でも」

 

「ん、でも?」

 

”くんくん”

 

「・・・稲村先輩、やっぱりなんかすごくすっぱいです」

 

「・・・・・・」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ゴリゴリ”

 

「あ~ん、もう終わらない、終わる気がしな~い。

 あとどれだけだけあるんですか稲村先輩?」

 

「あと1/3ぐらい」

 

「む~、終わらな~い」

 

「終わらないな」

 

「終わらないですね先生」

 

「・・・す、すみません」

 

「仕方ない、やるだけだ。

 文句ばっか言ってないで、ほらさっさとクレヨン砕け蒔田」

 

「む~

 ・・・もうこれ1個の量、半分にしちゃえばいいのに」

 

「「えっ」」

 

「あ、ごめんなさい。

 変なこと言っちゃいました?

 なんか1個の量少なくすればもう砕くの終わってるなぁって思って。

 どうせ火が着けばいいだけだから」

 

「「蒔田!」」

 

「ごめんなさーい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ごほん!

 ほら帰りますよ」

 

「「はい」」

 

「まったく大の男が三人にもいて。

 そんなことも気が付かないなんて信じられない」

 

「「・・・・・・」」

 

「それじゃわたしこっちですので、また明日です。

 あ、稲村先輩、今日はちゃんとお風呂入ってくださいね。

 それではです」

 

”ペコ”

 

「おう、気をつけて帰れよ」

 

「気を付けてね蒔田さん」

 

”スタスタスタ”

 

「ま、蒔田ー!」

 

”テッテッテッ”

 

「稲村先輩?」

 

「あ、あのさ・・・送ってく」

 

「えっ?

 あ、はい!」

 

”ぎゅっ”

 

「い、いや、腕に抱き着くな」

 

「だって~、ほら道くらいじゃないですか~

 だ・か・ら」

 

”ぎゅ、ぎゅ~”

 

「げっ!」

 

「な、なんですか。

 そんなに嫌なんですか?」

 

「いや。

 ・・・・・・お前、本当に胸でかいんだな」

 

「はぁー!

 ・・・・・・そ、そうですよ、じゅ、純生って言ったでしょあの写メ」

 

「・・・・・・そうだな」

 

”むにゅ”

 

「・・・・・・う」

 

「えへ♡」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”シャー”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

やっぱり、ここまでだと自転車ではちょっときつい。

それにすこし早かったかなぁ。

でもこれ、どうしても三ヶ木に渡しておきたい。

それに今日のことも。

 

”キキキー”

 

麻緒さんかお父さん、起きてるといいんだが。

 

”トントントン”

 

いつ来ても思うんだけどこの階段、急で危ないんだよな。

だれか落ちなければいいんだけど。

さてっと。

 

「スー、ハー、スー、ハー」

 

よ、よし、それじゃ呼び鈴を。

 

”ガチャ”

 

へ?

 

「それでは失礼します」

 

「ありがとう、相模ちゃん。

 階段、気をつけてね」

 

「はいそれじゃ、えっ、稲村君!」

 

「あ、ど、どうも」

 

「なんであなたがここに?

 ちょ、ちょっとあっちに」

 

「あ、いいの相模ちゃん。

 稲村君は美佳のこと知ってるから」

 

「そ、そうですか」

 

「で、どうしたの稲村君?」

 

「あ、あの麻緒さん。

 これ、この封筒、三ヶ木に渡してほしいと思って」

 

「封筒?」

 

「はい。

 それと、今日の夕方、学校のグラウンドでキャンドルやります。

 できれば三ヶ木に、三ヶ木に見に来てもらいたくて」

 

「はぁー! 何言ってるの稲村君」

 

「相模さん」

 

「あんた、三ヶ木の状態知ってるんでしょ。

 学校なんて、こんなのなんて行けるわけないじゃん。

 連れて行って症状がもっと悪くなったらどうするの。

 馬鹿じゃないの」

 

「わかってる。

 だけど俺が三ヶ木にできることってこれぐらいだから。

 三ヶ木、このままじゃ。

 きっと、来てくれたら 」

 

「あのね、いい加減に 」

 

「待って相模ちゃん」

 

「麻緒さん。

 で、でも」

 

「いいの。

 ありがとう稲村君。

 行けるかどうかわからないけど、美佳と話してみるね」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

「 それでは最後になりますが。

 卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございました。

                  在校生代表 一色いろは」

 

卒業式は滞りなく終わった。

だが、やっぱり三ヶ木の姿はここにはなかった。

この後、卒業生は体育館を出て一度それぞれの教室に戻る。

教室で卒業証書と記念品をもらって卒業。

その後はいよいよ本番だ。

 

「卒業生退場」

 

”スタスタスタ”

 

後は夕方までに完成したキャンドルを所定の位置に並べ、参加者用のキャンドルの

材料を用意しておくだけ。

幸いネットでの受けもよく、それに瀬谷たちの号外のおかげもあって

評判は上々らしい。

さて頑張らないとな。

 

”ザー”

 

「え? え? えー!」

 

体育館を出た俺の目に映っていたのは、

・・・・・・雨の降りしきるグラウンドだった。

う、嘘だろ。

 

”へなへなへな”

 

「お、おい、どうした稲村」

 

     ・

     ・

     ・

 

卒業式の時から降り続けていた雨は、夕方になってようやく止み始めた。

そして体育館では盛大に音楽が流れ始めた。

どうやらプロムが始まったようだ。

キャンドル今から準備しても・・・・・・

な、なに考えてんだ、やるしかないだろうが。

まずはキャンドルを置く位置決めから。

 

”スタスタスタ”

 

「ね、蒔田さん、あれ」

 

「ん、なに藤沢さん?

 え、あれ」

 

     ・

 

”キョロキョロ”

 

「あ、いた。

 ね、清川、あんた広報担当だったから今わりと暇でしょう。

 ちょっとお願いがあるんだ」

 

「断る!

 どうせまたなんか嫌なことだろう。

 お、俺は忙しいんだ」

 

「忙しいって、一色の写真撮ってるだけじゃん」

 

「ち、違う。

 これはプロムの記録を 」

 

”ペコ”

 

「お願い、お願い、お願い、お願い・・・・・・お願い」

 

「な、なんだどうしたんだ。

 や、やめろって。

 ほら、みんな変な顔して見てるから。

 ちっ、わかった、わかったから。

 で、何をすればいいんだ?」

 

「あのさ、ネットで流してほしい。

 キャンドルやるぞって。

 今、稲村先輩が一人で準備してるんだ。

 だから中止じゃないって流して。

 それでみんな学校に来てって」

 

「・・・・・今からじゃ人来るかわからないぞ。

 まぁやるだけやるけどその代わり、一色の生写真5枚だ。

 それで手を打つ」

 

「清川!」

 

     ・

     ・

     ・

 

はぁ~、もうこんな時間か。

やっぱり俺には三ヶ木や比企谷と違って、こんなことは無理だったんだ。

広川先生や本牧・・・それに蒔田にまで迷惑かけちゃって。

悪かったなぁ。

 

”バシッ”

 

「い、いったぁー」

 

「何やってんですか稲村先輩。

 手が止まってますよ」

 

「ま、蒔田。

 ・・・いやなにをって、もうこんな時間だし。

 そ、それよりお前の方こそプロムは?

 なんで制服?

 ド、ドレスどうしたんだ、あの地味なやつ?」

 

「どうでもいいです!

 ほらさっさと準備しますよ」

 

「で、でも時間が 」

 

「いいからほら」

 

「あ、ああ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「よいしょっと。

 稲村先輩、キャンドルの材料ここに置いておきますね。

 あとはっと」

 

”スタタタタ”

 

だめだ。

こんなの二人でやってても、どうしょうもない。

さっきから頑張ってくれてる蒔田には悪いが、もうこれぐらいで・・・

 

「すまない!

 雨やむの待ってたら、ついウトウトって。

 やばかったー」

 

「本牧!」

 

「遅くなって悪い。

 で、キャンドル並べていけばいいんだな。

 ほらさっさと置く位置、決めていってくれ」

 

「すまない、本牧」

 

”ガヤガヤ”

 

「おい、やっぱりやってるぜ」

 

「マジ?

 あ、本当だ。

 俺てっきり雨で中止かと思ってた」

 

「他のやつらにも伝えておいてやろうぜ」

 

”ゾロゾロ”

 

「稲村」

 

「あ、ああ。

 でもなんで?」

 

「チース。

 ネットでキャンドルやってるってやってたから来てみたけど、

 本当だったんだ。

 で、何すればいいんだ?」

 

「あ、ありがとう。

 あの、今から俺がキャンドル置く位置に印をつけていくので、

 そこに置いていって下さい」

 

「了解」

 

「あ、それとこっちにキャンドルの材料置いてあるんで 」

 

「わたしが作り方説明しますので、何人かこっち来てください」

 

「あ、蒔田さん!」

 

「舞ちゃんじゃん。

 俺こっちにするわ」

 

「あ、お前! お、俺も俺も」

 

「ズリィ!

 俺も舞ちゃんのほうにしようっと」

 

「あ、あのー、俺の方にも誰か・・・・・・来て」

 

     ・

     ・

     ・

 

「本牧、蒔田」

 

「ああ、準備完了だ稲村」

 

「稲村先輩、始めましょう」

 

「二人とも本当にありがとう」

 

”ペコ”

 

「みなさん、ご苦労さんでした。

 それじゃ、花火の合図とともに一斉にキャンドルへの点火お願いします」

 

「「おおっ」」 

 

「・・・蒔田、一緒に花火に火つけてくれないか?」

 

「え?

 ・・・あ、はい」

 

チャッカマンを持っている俺の手に重なる彼女の手。

すごく温かい。

・・・・・・そっか、そうだよな。

もうこれで終わらせよう。

そして俺は・・・・・・

 

「着火」

 

”ヒュルルルルル~~~、パーン”

 

「「おおー」」

 

「きれい」

 

「すげー」

 

打ち上げ花火の合図とともに一斉に点火された灯。

一本、一本のそれは小さくて弱そうだけど。

4万本もの灯はこの広いグラウンドを幻想的な情景で包み込んでいった。

三ヶ木、お前もどこかで見ていてくれてるのか。

これな、憶えてると思うけど林間学校の時のマーク、友情のマークだぞ。

お前言ってたよな。

いつまでもみんなとつながりを持っていたいって。

俺は・・・俺たちはずっといつまでもお前と一緒だぞ。

・・・三ヶ木。

 

「稲村先輩の想い、きっと三ヶ木先輩に届いてますよ」

 

「げっ、あ、あの蒔田さん、何か聞こえてました?」

 

「いいえ。

 でも稲村先輩の考えてることなんて、なんとなくわかりますよ。

 だって・・・・・・ずっと見つめてきたんですから」

 

「ま、蒔田」

 

「へへ、稲村先輩♡」

 

「・・・・・・蒔田」

 

「い、稲村先輩♡」

 

「こわっ!」

 

「はぁー!

 な、な、なんでですか!!」

 

 

 

 

ーーーー同じころ校舎の屋上でーーーー

 

 

 

 

”ブルブルブル”

 

「三ヶ木、大丈夫?

 ごめんね、屋上だったら誰もこないから大丈夫かと思ったんだけど。

 ね、やっぱりもう帰ろうか?」

 

「・・・・・・」

 

”ヒュルルルルル~ン、パーン”

 

「え、なに? 花火?

 あっ!

 ね、ね、三ヶ木、ほらグラウンド見てみて。

 ハートのマークの灯が。

 ・・・きれい」

 

「・・・・・・」

 

「本当にきれいだね」

 

「う、うううううう」

 

「三ヶ木、泣いてるの?」

 

「うううううう」

 

「・・・あ、そうだ。

 これ、この封筒さ、稲村君から預かってたの三ヶ木にって。

 ね、中、見てあげて」

 

”ぱさっ”

 

「・・・しゃ、写真?

 ・・・・・・!」

 

「三ヶ木?」

 

「う、ううう、ううううう、うわ~ん、うわ~ん」

 

「ど、どうしたの三ヶ木?

 もしかしてなんか嫌なことでも?

 い、稲村!

 ちょっと見せてその写真」

 

”サッ”

 

「え、これ前の生徒会の写真?」

 

「・・・り、林間学校の時の写真。

 みんなと一緒の、ううう」

 

「三ヶ木」

 

「・・・み、みんなに会いたい!

 会いたい、会いたい、会いたい!

 ううううううう」

 

「大丈夫、大丈夫だよ三ヶ木。

 きっとまたみんなに会えるようになる」 

 

「う、うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ね、いろはちゃん、話があるの」

 

「わかってる藤沢ちゃん」

 

”カチッ”

 

「柄沢君、清川君、聞こえてる?」

 

「聞こえてるよ一色さん」

 

「こっちも」

 

「了解、では始めます」

 

「え、えっといろはちゃん?」

 

「え~、卒業生の皆さん、今日は本当におめでとうございます。

 あ、それとプロムを手伝ってくれたみんなもありがとう。

 本当は今の曲でプロム終わりだったんですけど、ここでサプライズです。

 柄沢君、清川君」

 

「「了解」」

 

”パチッ”

 

「げ、くらー」

 

「なんで照明を?」

 

「なんにも見えな~い」

 

”ガラガラ”

 

「お、おい、体育館の扉、なんで開けるんだ」

 

「さむ~」

 

「あ!」

 

「え? 

 あ、きれい」

 

「グラウンドでこんなことしてたんだ」

 

「みなさ~ん、一緒にキャンドル楽しみましょう!」

 

”ワイワイ、ガヤガヤ”

 

「ん、なんだ?」

 

「あ、稲村先輩あれ。

 ほら体育館のところ、ブロムの人達がゾロゾロと」

 

     ・

     ・

     ・

 

グラウンドに映し出された灯。

その灯で映し出される人の影、プロムの参加者も否定派もみんなが

その灯を見ていた。

 

「遠く 私は 今 旅立ちます♬ 

 まぶた~ ♬」

 

ふと、どこからか小さな歌声が聞こえてきた。

この歌、どっかで聞いたことがある。

なんだったけ、曲名は忘れてしまったけど、いい歌だったから歌詞は憶えてる。

 

「命の美しさ」

 

「そして儚さと」

 

「人々のやさしさ」

 

「ありがとう」

 

その歌声はやがて広く広がり、いつの間にかグラウンド全体に大きく

響き渡っていた。

きっとその歌声には去り行くもの、送り出すもの、みんなの想いが

込められているに違いない。

俺の脳裏にもあの楽しかった、苦しかった生徒会の想い出が蘇って。

そしてそこにはいつも彼女がいて。

笑った顔、怒った顔・・・そして泣き顔。

俺は、俺は 

 

「「 涙輝く あの日々を忘れない♬ 」」

 

「う、ううう」

 

「稲村先輩?」

 

「あ、す、すまない。

 ちょっとな」

 

「はいハンカチ、使ってください」

 

「ありがとう。

 ・・・・・・蒔田」

 

「はい?

 なんですか?」

 

「あ、い、いやなんでもない」

 

「「さよなら、みんな

  大切なDiary♬」」

 

「「先輩、ご卒業おめでとうございます」」

 

「「ありがとう」」

 

「「また会おうね」」

 

グラウンドで繰り広げられる卒業生同士の握手、先輩と後輩達の抱擁

あれは体育会系か?

胴上げまで始まりやがった。

 

「稲村先輩」

 

「あ、ああ。

 やってよかった。

 本当にありがとうな」

 

「な、何言ってるんですか。

 わ、わ、わたしは・・・自分のやりたいことをやっただけです」

 

「蒔田」

 

「稲村先輩♡」

 

「・・・パクリだな」

 

「へっ、な、なんですかもう!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なぁ、蒔田、お前プロムの方の片付けいいのか?」

 

「へへへ、あの~、なんか一色めっちゃ怒ってるみたいで。

 だから今は一時避難です」

 

「あ、昨日のことでな。

 すまない、結局お前プロムに戻らなかったもんな。

 担当とかあったんだろ、大丈夫だったのか?」

 

「ま、まぁ、それは・・・・・・

 そんなことより、ちゃっちゃっと片付けちゃいましょう」

 

「ああ。

 ・・・・・・なぁ」

 

「はい?」

 

「・・・少しだけ時間貰えないか?」

 

「時間?」

 

「俺、ちゃんと卒業するから」

 

「げっ! 稲村先輩留年したんですか!

 ま、まぁ、蒔田的には同級生になれてうれしいですけど」

 

「ち、ちがう!

 ちゃんと昨日卒業したから」

 

「蒔田ー!」

 

「げ、一色!

 みつかったー!

 す、すみません、ちょっと一色の機嫌とってきます。

 あ、すぐに戻ってきますからね」

 

「あ、ああ」

 

”スタスタ、スタ”

 

「・・・・・・稲村先輩!」

 

「ん?」

 

「わたしはどこにもいきませんから。

 ちゃんと稲村先輩のこと待ってますから」

 

「蒔田」

 

「蒔田ー!」

 

「い、今行く!」

 

”ダー”

 

ふぅ~

溜息とともに見上げた空は雲一つない晴天だった。

昨日の雨がまるで嘘のように。

この青空のように、俺はいつか何も曇りのない心で

彼女に向かい会えるのだろうか。

 

「蒔田!」

 

「ごめんっていってるじゃん一色」

 

さてっと片付けるか。

 

「あー、やっぱり学校に来てたんだ」

 

「え、あ、相模さん」

 

「よかった。

 学校にいなかったらどうしようかと思った。

 ほら、うち稲村君のアド知らないから」

 

「えっと相模さん、何か用?」

 

「あ、うん。

 はい、これ」

 

「え、これってもしかしてラブレター」

 

「はぁー、マジキモいんだけど」

 

「・・・・・・」

 

「って冗談。

 あのねこれ三ヶ木から稲村君に渡してって」

 

「三ヶ木から?」

 

「昨日、ごめんね。

 朝、いろいろ嫌なこと言って」

 

「あ、いや、なにも気にしてない。

 相模さんも三ヶ木のこと心配して言ってくれたんだし」

 

「そう、よかった。

 それと昨日はご苦労様でした。

 ちゃんと三ヶ木見てたから。

 稲村君の想い、三ヶ木に届いたと思う」

 

「あ、ありがとう」

 

「うん、じゃあね」

 

”スタスタスタ”

 

そっか三ヶ木来てくれてたんだ。

キャンドル、見てくれたんだ。

・・・よかった。

そうだ手紙。

 

”ぱさっ”

 

『ありがと、稲村君。

 また会いたい・・・・・・みんなと』

 

・・・三ヶ木。

・・・・・・そっか。

そうだな三ヶ木。

きっとまた会おうな・・・・・・みんなで。




最後までありがとうございました。

やっと番外編1話。
本編の見直しもまだまだですが、また追加できればと。
ただ最近、月に1話が限界。
いきおいで別の連載もやってしまって不定期となりますが、
また次話でお会い出来たらありがたいです。

ではでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。