恵美「みんなはプロデューサーのことどれくらい好きなの?」 (りおんP)
しおりを挟む

1話

 秋の足音も近づく頃。地方のライブイベントにお呼ばれした私たち765プロは、6人のアイドル……このみさん、恵美ちゃん、瑞希ちゃん、茜ちゃん、星梨花ちゃん、そして私こと天海春香、このメンバーでやってきました。

 プロデューサーさんのはからいもあって、6人全員で前日の朝から来ることが出来たので、今日は一日観光三昧! 徐々に日が沈み始めた午後の5時、ホテルに戻る前にちょっと休憩しながらお話しよう、と恵美ちゃんの提案により、今はホテル近くのファミリーレストランでのんびり。本当に恵美ちゃんはファミレスが好きだね。

「いやーここのドリンクバーは素晴らしいねぇ! お茶もジュースも色んな種類があって、どれを混ぜようか悩んじゃうなー! ……で、このみはなんで店に入ったときからずっと落ち込んでるワケ?」

 席に着くなりテーブルに突っ伏したままのこのみさんである。

「……だって、こんなアダルティなお姉さんがいたら、一応『お煙草は吸われますか?』って聞くでしょ!?」

 ゆっくりと顔を上げて、お怒りと悲しみを混ぜた表情で語るこのみさん。でも、確かこのお店は。

「えーと、このみん? ここ全席禁煙だよ?」

「え、そうなの? ……なーんだそうだったの! そりゃあ聞かれないわよね! このみお姉さんのアダルティな魅力に気付かなかったわけではないのね! よかった!」

 茜ちゃんが代弁してくれた。それを聞いて表情に明るさが戻る。良かった良かった。

「多分たばこが吸えるお店でも聞かれないって思いますけど……」

「……箱崎さん、それは言っちゃダメです」

 両隣の会話は聞かなかったことにしよう。うん。

 

「そういえばさー」

 恵美ちゃんが、ふと思いついたというような感じで。

「みんなはプロデューサーのことどれくらい好きなの?」

 唐突に爆弾を投げ込んだ。茜ちゃんはちょうど次のひとくちを掬おうとしていたプリンに盛大にスプーンを突き刺し、このみさんはドリアを口にしたタイミングだったのでけほけほと咳き込み、瑞希ちゃんも良く見ると目が泳いでいる。かくいう私もガムシロップを入れたアイスティーをかき混ぜる手を止めてしまいました。ただ一人、星梨花ちゃんだけがにこにこ笑顔で私と同じアイスティーを飲んでいる。

「め、めぐみんいきなり何言い出すのさ!?」

「え? いや気になってさー。仕事とはいえ一緒に過ごす時間も多いじゃん? そこんとこみんなどうなのかなーって。どーなのさ茜?」

「ええ!? あ、茜ちゃんは……そうだなー……そうだなー! ほら茜ちゃんカワイイからなぁー! まあ茜ちゃんがって言うか、プロちゃんが茜ちゃんのこと大好きだから! 茜ちゃんとしてはその気持ちに答えてないと仕方ないよね!? ね!?」

「ふむふむにゃるほどー。茜はプロデューサーが大好き、と」

「ちょっ!? そうじゃなくてプロちゃんが……」

「瑞希はー?」

 何か言いたそうな茜ちゃんを華麗にスルーして瑞希ちゃんに話を振る恵美ちゃん。もしかしてこれ全員に聞いていくのかな?

「私は………………プロデューサーにはすごく感謝していますし、プロデューサーとお話している時は笑顔が多いそうですし。プロデューサーのこと、結構好き、かも。……なんだか顔が熱くなってきました。こういうこと言うの、照れますね。どきどき」

 瑞希ちゃんが両手を頬にあててふるふる頭を振っている。瑞希ちゃん、劇場に入った時からすると本当に感情の出し方が豊かになったなー。同性の私から見ても、瑞希ちゃんは可愛い。これもプロデューサーさんの力、なのかな。

「ほーう? 瑞希は可愛いなぁー、よしよし。このみはどうなのー? お酒呑みに行ったりするんでしょ? お酒呑んだ後に襲われたりしないのー?」

「ぶっ!!!」

 ちょうどアイスコーヒーを口にしていたこのみさんが盛大に噴き出す。

「おおー、マンガみたいなことするねーこのみ」

「誰のせいよっ! ……ごめんね星梨花ちゃん、茜ちゃん。大丈夫? コーヒー掛かってない?」

「茜ちゃんの方にはあんまり飛んでないから大丈夫だよー」

「わたしも大丈夫です!」

 恵美ちゃんに文句を言いつつも、さっとナプキンをとって隣と向かいの子を気遣いながらテーブルを拭くこのみさん。

「で、このみはどうなのさ?」

「んー、まあ仕事も出来るし、付き合いもいいし、酔いつぶれた莉緒ちゃんの介抱も手伝ってくれるし……。好きか嫌いかで言ったら、好きな方かしら?」

「ほほーう、大人の余裕を感じますな、このみん」

「お酒を呑めるようになったら、私も皆さんと行ってみたいです。わくわく」

「私もです! お酒って、呑んだらどんな気分になるんでしょう?」

「いつか、50人全員お酒が呑めるようになったら楽しそうだね!」

「50人全員で、か。楽しそうね! ……あれ? その時私は一体何歳に……いや、考えない、考えないでおこう……!」

 何やらこのみさんがぶつぶつと呟きながら考え込んでしまった。このみさんならみんな成人した頃でもきっと今と変わらないですよ、って言おうかと思ったけど止めておこう。

「にゃはは……春香はどうなの? ウチらよりもプロデューサーとの付き合いは長いけど」

 お、遂に私の番が回ってきちゃった。

「長いって言っても、ちょっとだけだけどね? 私はこの事務所に一番最初に入ったけど、その頃はプロデューサーさんも、社長にスカウトされてプロデューサーになったばっかりで、私たち二人とも何をやったらいいのか全然わからなくって、とりあえず社長と小鳥さんに言われるがまま走り回って。大変だったけど、楽しくって、それでまあ、それだけ濃密な時間を過ごしてたら、好きとか嫌いって言うより、プロデューサーさんのことは心の底から信頼してる、って感じかな?」

 とりあえず思いつくままに言ってみたけれど。……なんで、みんな黙って私を見てるのかな?

「流石765プロの看板アイドル、言う事が違うわね」

「何だかかっこいいです。……ちょっとだけ、妬けちゃうぞ」

「流石の茜ちゃんもこれは入り込めないかなー! 悔しいなー!」

 え? え? どうしてこうなったの!?

「つまり春香さんはプロデューサーさんの事が大好きなんですね!」

「うんうんそうだねー、星梨花は賢いなー」

「ちょ、ちょっと待ってー!? そうじゃなくって……」

「え? じゃあ春香はプロデューサー嫌いなの?」

「いやそんなことない! 私もプロデューサーは好きだよ!?」

「はい春香はプロデューサーが好き、頂きましたー!」

 5人みんながぱちぱちと拍手。もー! いつの間にこんな事にー!?

「めーぐーみちゃーん!?」

「あはは、ゴメン、ゴメンってば! じゃあ星梨花! 星梨花はどう?」

 笑いながら星梨花ちゃんに話を振る恵美ちゃん。ぐぬぬー、最後は恵美ちゃんの番なんだからね!

「私ですか? 私はプロデューサーさんのこと大好きですよ!」

「「「せ、星梨花ちゃん!?」」」

 満面の笑みで断言する星梨花ちゃん。強い……。

「箱崎さん大胆です。スゴイです。どきどき」

「あらー……若いっていいわね……」

「へ、へー! そうなんだー! まあ茜ちゃんもー、まあそのー……」

 各自三者三様な反応。ん? 一番反応しそうな恵美ちゃんが静かだぞぅ?

「星梨花はプロデューサーのどんなとこが好きなの?」

「アイドルについて色々教えてくれますし、頼りになるし、パパと同じくらい大好きです!」

 ……あ、なるほど、そういうことかー。

「恵美さんはどうですか? プロデューサーさんのこと好きですか?」

「うんうん、アタシも星梨花と同じようにプロデューサーは好きだよー」

 あ、ずるい!

「恵美ちゃん? 人を散々煽っておいてそれは許されないんじゃないかしらー?」

「めぐみん? もっと自分に正直になろう? ほらほらー、プロちゃんのことどう思ってるのかはっきり言えー!」

「所さん。もっとちゃんとお話が聞きたいです。プロデューサーのどんな所が好きなのですか。お話をどうぞ。わくわく」

「恵美ちゃん? ちょーっとやり過ぎたかな? ちゃんとお話するまで、みんな恵美ちゃんを逃がさないよー?」

 星梨花ちゃんを除く4人による包囲網。ふふふ、逃がさないぞー。団結ですよ、団結!

「え、えーっと、そのー、ほらそろそろホテルに戻らないと……? あ、ほらプロデューサーが迎えに来たよ! このお話はおしまいっ!」

 そんなのにごまかされるほど私たちは甘くない……って、あ、ほんとだ。プロデューサーさんが出入り口できょろきょろと店内を見回してる。

「さあさあ、お会計してホテル帰るよー」

「何だか煙に撒かれた気がするけれど……ま、仕方ないわね。ほらみんな帰りましょ、忘れ物しないようにね」

 このみさんに促されて、みんな席を立つ。茜ちゃんとアイコンタクト。……うん、後でじっくりと、ね? ふふふ。

 

「いやー、なかなか良いファミレスだったなー。……え? 何の話してたのか、って? みーんな、プロデューサーのことが大好き、って話だよー! モテモテだねーこのこのー! ……ま、アタシもだけど。ん、何でもない! ……信頼してるからね、プロデューサー?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。