[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです (型破 優位)
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転生の間にて

はい、新たな話です。

これでもう決定します。

HUNTER×HUNTERは[3]として出させて頂きます。


「おかえり、佑馬。」

 

「おう、ただいま、爺さん。」

 

「お邪魔します。」

 

ノーゲーム・ノーライフの世界を終えて、転生の間に再びやってきた佑馬とジブリール。

 

「最初の世界はどうだったかの?」

 

「ああ、最高に楽しかったよ。」

 

「それは良かったのじゃ。」

 

そう言って、笑い合う二人。

 

「もうあの世界には行けないのか?」

 

そこで、少しだけトーンを落とし真面目に質問する佑馬。

 

「うむ、行けるには行けるのじゃが・・・そこに定住となってしまうが、いいかの?」

 

「そうか・・・ジブリール、本当に良かったのか?」

 

「勿論でございます。」

 

ジブリールを心配しての一言だったが、

 

「佑馬と一緒なら寂しいことはありません。」

 

少し目を輝かせながら言うジブリールには、どうやら杞憂だったようだ。

 

「そっか、ならよかったよ。んで、次の世界は何処なんだ?」

 

「おお、そうじゃったな。」

 

そこで、クジを出した神。

 

「んーと、これは?」

 

「次の世界の行き先じゃ。」

 

そこには、10本のクジがあった。

 

「おお、1,2,3・・・10本てことは、あと10回で終わりってことか?」

 

「いや、どんどん追加されるからそこは心配する必要はないの。」

 

「そっか、ジブリール。」

 

「なんでございましょうか?」

 

いきなり現れたクジと話の内容を聞いて、少し目を輝かせながら聞くジブリール。

 

「クジ、引いてみたくないか?」

 

「・・・よろしいので?」

 

「ああ。」

 

「それでは、お言葉に甘えて!」

 

なんでこんなにウキウキなのか佑馬にはわからなかったが、楽しそうにしてるジブリールを見て思わずニヤけてしまった。

 

「では、いきます!」

 

クジの前に立ち、その一言とともにクジを引くジブリール。

 

クジに書かれていたのは

 

「『魔法科高校の劣等生』か・・・面白い。」

 

「私にはさっぱりですが、佑馬が面白いと言うのならやっぱり面白いところなんでしょうか!?」

 

「ああ、そして、ジブリールに朗報だ。この世界には、いや、これからいく世界には"十の盟約"がない。この意味、わかるよな?」

 

その言葉に、声を大にして叫びそうな勢いで

 

「殺りたい放題ってことでございますね!?」

 

「その通りー!」

 

ピョンピョンと跳ねるジブリールと、楽しそうに笑う佑馬。

 

「・・・青春しとるのぉ。」

 

その姿を羨ましそうに見つめる神であった。

 

閑話休題

 

「さて、その世界に行くにあたって、少し力をいじらないといけないの。」

 

「ああ、でもどんな感じにするんだ?」

 

「とりあえず、魔法演算領域はつけておいたのじゃ。他の特典は、その魔法演算領域を侵食しないから、そこは安心しておいてほしい。」

 

「ふむふむ。使える量はどれくらいかわかるか?」

 

「前の世界の精霊の量と同じくらいかの?」

 

「ありがとう、いいチートです。」

 

つまり、面積で表すと日本をすっぽり覆うくらいの量を保持しているというわけだ。

 

「ジブリールも同じ扱いか?」

 

「そうじゃ。」

 

「どういうことかわかりませんが、その世界にも『魔法』が存在するのでございますか?」

 

話の焦点をあてられたジブリールは、会話の内容から要点らしき部分を抜いて、そう質問する。

 

「ああ、あと種族は人類種だけだぞ。」

 

「なんと!それでは、佑馬達の世界とほぼ同じということでございますか!?」

 

「厳密に言えば、俺たちのいた世界よりさらに80年くらい進んでいる世界かな。」

 

「ということは、また別の本がたくさんあるということですね!?また知識の山が手に入るなんて・・・」

 

「ジブリール、ちょっと落ち着こう。」

 

少し変なスイッチが入ったジブリールに、一応待ったをかけておく。

 

「それじゃあ、転生させるからの。」

 

「ああ。」

 

そこで、少し考えるようにして

 

「なぁ、爺さん。」

 

「どうかしたかの?」

 

「沖縄に飛ばしてくれないか?」

 

と、言った。

 

その意図をしっかりと汲み取った神は

 

「なるほど、よかろう。ではいくぞい。」

 

「ありがとう。」

 

そう言って佑馬は満足そうに笑い、転生した。




最初は少なめ、追憶編からのスタートです。

これからよろしくお願いします。


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追憶編
図書館巡り


張り切っていきます。

魔法科高校は書けるとこまで行きますね。

原作が増えたらこちらも増えていくという感じです。


沖縄のあるビーチに二つの白い光が突如として現れ、人の姿となった。

 

「ここが魔法科高校の世界か。」

 

その一つは佑馬。

 

「ここが、佑馬達の世界からさらに80年後の世界でございますか!」

 

もう一つはジブリール。

 

「とりあえず着いたはいいけど、いつだ・・・ん、これ何だ?」

 

今は何日なのか気になって周りを見渡したとき、白い手紙が一つ落ちていた。

 

そこには

 

「・・・住所と通帳かな?」

 

おそらく、神が用意してくれたのだろう、と結論付けた佑馬。

 

通帳の桁がおかしいことにはあえて触れない。

 

「あー、そっか。ディスボードなら適当に金とればなんとかなるけど、ここはそーもいかねーからな。」

 

当たり前といえば当たり前のことだった。

 

と、その時、背後から不意に寒気がして佑馬がバッ!と振り向いたとき、

 

「えへへー、本当に力が使えますね!」

 

空に向かって天撃を放とうとしているジブリールがいた。

 

「・・・ほどほどにな。」

 

前の佑馬なら全力で止めに行ったのだが、今は見た目は10代後半、しかし精神年齢は100近いので、それくらいには動じなくなっていた。

 

「よし、ジブリール。図書館いくか。」

 

「図書館でございますか!?行きたいです!!」

 

新しい世界に相当興奮しているジブリールは、ピョンピョン跳ねながら賛成する。

 

「よし、じゃあいきますか。」

 

そして、とりあえず街のある方へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いた後、図書館らしき場所に到着。

 

そこで、今が2092年8月4日だと言うことがわかった。

 

「ふむ、11日が戦争だから、あと1週間はあるわけか・・・魔法の勉強しよ。」

 

図書館には、前の時代よりもさらに文化が進んでいるであろう本が存在していた。

 

魔法のこと、CADのこと、サイオンやイデアのことなど。

 

「ふーむ、なるほど。そういうことか。」

 

一方通行のおかげで、しっかり理解することが出来た佑馬は、自分の身体を見てみる。

 

写輪眼の範囲を知るためなのだが・・・

 

「これさ、この本に載っている『魔眼』の最上位に位置するんじゃね?」

 

その性能は、やはりとてつもないものだった。

 

サイオンは読み取れるし、恐らく魔法式も読み取れるだろう。

 

さらに、フラッシュ・キャストも可能ときた。

 

「なら、今回も楽しみますか。」

 

そう言って口を吊り上げる佑馬。

 

ジブリールはずっと本を読み耽っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここが新居か・・・。」

 

「そうみたいですね。」

 

8月5日、図書館でだいたいの知識を吸収した佑馬とジブリールは、家を見ることに決め、転移した。

 

そこにあったのは、立派な豪邸。

 

「・・・あの爺さんさ、やっぱりいい人だよな。」

 

「そうでございますね・・・」

 

染々とあの神の人の良さを実感する佑馬とジブリール。

 

とりあえず入ろうと、中に入ると。

 

「うっわぁ・・・」

 

「これは・・・すごいですね。」

 

中は高級ホテルさながらの素晴らしい装飾や家具で埋め尽くされていた。

 

「食材はあるし・・・リビングにキッチン、特大風呂、トイレもある。」

 

正直言って、快適だ。

 

そして寝室を見たとき

 

「・・・ダブル・・・だと!?」

 

特大のベッドが一つだけあった。

 

「この世界でも佑馬と寝られるわけでございますね♪」

 

無駄に気を効かせる神様だった。

 

 

 

 

 

あらかた見終わったあと、最後の一つの部屋に向かった。

 

ドアノブを開くと・・・

 

「なんじゃこれ。」

 

「・・・何もございませんね。」

 

何もないが、この家の大きさとは明らかに違うとてつもない広さを持つ部屋だった。

 

(その部屋はの)

 

「うわぁ!」

 

「頭の中から・・・声が?」

 

(そういえばジブリールは初めてじゃの。わしはこうやって頭の中で会話することができるのじゃ。)

 

「そういうことでございますか。」

 

(頭の中で話しかければちゃんと聞こえるから、声に出さなくてもいいぞい。)

 

(わかりました。)

 

(で、この部屋の説明を頼む。)

 

(その部屋は、本当にただの広い部屋じゃが、その家とは空間が遮断されている。)

 

(空間が遮断・・・つまり?)

 

(ジブリールの言葉を借りるなら、殺りたい放題出来る、というわけじゃよ。)

 

その言葉を聞いた瞬間部屋に入り込むジブリール。

 

「なら、さっそく!!」

 

そう言った瞬間、手に魔法式が組み立てられた。

 

「なるほど、この世界にちゃんと順応したものになるのか・・・。」

 

つまり、今目に見えているのは『サイオンの塊』ということだろう。

 

「では、まずは20%で行かせていただきます!」

 

そして、手を凪ぎ払うように振るジブリール。

 

凄まじい轟音とともに、『天撃』が放たれるが。

 

バッキイイイイィィィン!

 

と、音がなっただけで、特に傷などは見当たらなかった。

 

(まぁ、そういうわけじゃ。)

 

(なぁ、神様。)

 

(おお、佑馬が神様と言うのは珍しいの。)

 

そこで、佑馬が少し笑いながら。

 

(俺は本当にあんたに感謝してるよ。)

 

そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月6日

 

あれから白い部屋で散々暴れまわった二人は、風呂に入ってそのままベッドで寝た。

 

この日行うのは、全国の図書館巡り。

 

いろんな図書館に行って、いつでも転移出来るようにするのが、今回の目的だ。

 

「じゃあ、行こうか!」

 

「はい!」

 

それと同時に、二人は虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが第一高校か?」

 

佑馬が今いるのは、魔法科高校。

 

原作にとことん介入することにきめた佑馬は、高校もここに入ることに決めたのだ。

 

戸籍は、ジブリールとともに、とある家族の養子となっていて、その家族は海外旅行中に魔法の事故にあって亡くなったことになっている。

 

「さて、もう少し図書館探すか。」

 

また虚空に消える佑馬。

 

二人の図書館巡りは、9日まで続いた。




追憶編開始です。


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天使と神の戦い

とりあえず3話走り書き。

少しだけ戦闘シーン入ります。


8月10日

 

6日から9日にかけて視認した図書館を兎に角転移して回りまくる佑馬とジブリール。

 

ネットで幽霊騒ぎが起きたことは、当然知る由もない。

 

そしてその日の夕方。

 

「なぁ、ジブリール。」

 

「なんでございましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と少し戦ってみないか?」

 

「ッ!?」

 

それは佑馬にとって、ほんの出来心だった。

 

あの部屋があるから、どうせならやってみようという。

 

しかしジブリールからしたら、

 

「勿論でございます!私は佑馬と戦える日をずっと待ち望んでいました!」

 

長年の夢が叶う瞬間だった。

 

「よし、やるからには全力でこいよ?』

 

「佑馬こそ、全力で来て下さいね?」

 

お互いニヤッと笑いながら、家へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これでいいか。」

 

例の部屋に入り、扉を閉めた佑馬とジブリール。

 

佑馬は家にあったTシャツとジャージを、

 

ジブリールは神が好意でやったであろう、天翼種の服を纏っている。

 

「最初から本気でいくぜ?ジブリール。」

 

「私も最初から本気でいかせていただきます!」

 

両者そう言った瞬間、

 

佑馬には須佐之乎に黒い翼が生えた形態。

 

ジブリールは、天撃を槍状に留めたものを両手に構えた。

 

「じゃあ、行くぜ?」

 

ジブリールはその言葉を聞いた瞬間

 

「なッ!?」

 

壁に打ち付けられていた。

 

「さぁ、本気でこい、ジブリール。死なない程度に全力で相手しよう。」

 

そこにいたのは、圧倒的なまでの強者。

 

昔の主すらも上回るほどの力を持つ者。

 

「私だって、あの時よりもさらに力をつけました・・・そう簡単には行かせません!」

 

その言葉と同時に転移して槍を突き刺し、反射される寸前でそれを引いた。

 

「さすがジブリール。そのタイミングを一発で掴むとはな。」

 

反射膜に当たった瞬間引かれたそれは、そのまま佑馬へと向かっていくが、届かない。

 

「だが、甘い。」

 

須佐之乎の絶対防御とも言えるほどの強さ。

 

しかし、今回は・・・

 

「甘いのは佑馬でございますよ?」

 

ジブリールの方が、しっかりと先を見据えていた。

 

須佐之乎に当たったままの槍がそのまま収束し、もう一つの槍も霧散。

 

「抜かったッ!」

 

佑馬がその意図に気づいたときには時既に遅し。

 

「全力の天撃、参ります!」

 

そして、当たりは轟音とともに、真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の一撃、さすがに俺も死ぬかと思ったわ。」

 

あの天撃を喰らいながらも無傷の部屋と、

 

その部屋と同じく無傷の佑馬。

 

「あれを避けられたのでは・・・どうしようもありません。」

 

そして、ほぼ全てのサイオンを使い果たし、なんとか姿は保っているが、力なく座るジブリール。

 

結果は一目瞭然。

 

「たく、少しつったのに、死ぬような一撃打ってんじゃねーよ。」

 

そう言って苦笑している、佑馬の勝利だ。

 

「全力で、と言われたのでつい。しかし、あれをどうやって避けたのでございますか?」

 

そう、間違いなく当たっていた距離、身体はそこにあったのに、避けられた。

 

「ああ、それは『神威』って言って、いろんなものを異空間に飛ばすことが出来るんだよ。今回はそこに、身体を飛ばしただけさ。」

 

ただそれだけと言う佑馬に。

 

「なるほど・・・いつも私のことをチートとか言っている佑馬も佑馬で大概でございますよね。」

 

思わず苦笑するジブリール。

 

「はは、違いねぇ。」

 

その後、食事を取って、風呂に入って寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月11日

 

今日は原作でいう、戦争の日だ。

 

その事をジブリールに伝えると

 

「そんなことがあるんですか!?是非行きます!」

 

と、はしゃいでいた。

 

一応ジブリールの姿はいろいろと不味いので、家にあったローブを被せておいた。

 

一人じゃ可哀想ということで、佑馬も着ているが。

 

そうして、沖縄へ転移する。

 

「うっわ、火薬くさ。」

 

「本当に戦争が起きるんでございますね!楽しみでございます!」

 

転移した瞬間、銃火器と火薬の匂いが一気にしたが、ジブリールはその様子を楽しんでいた。

 

「ジブリール、楽しみか?」

 

「はい!とても楽しみでございます!」

 

そこで、サプライズをするような顔で

 

「その戦争、俺らも参加するんだぜ?」

 

そう言った。

 

「・・・よろしいのですかッ!?」

 

うずうずと、だが一応確認をとるジブリール。

 

「ああ、一応日本側につくことにするから、日本の軍人は殺るなよ?後は好きなだけいいから。」

 

「わかりました!!」

 

と、その時、警報の音が島全体に響いた。

 

「よし、来たっぽいな。敵か味方か判断できるなら、好きなだけ殺ってきていいぞ。」

 

「ありがとうございます!では、いってきます!」

 

それと同時に転移するジブリール。

 

少し日本兵が心配だが、まぁ仕方ない。

 

「んじゃあ、俺も行きますか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司波達也達の元へ。」

 

そして、佑馬もまた、虚空へ消えていった。

 

辺りには銃声と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数多の悲鳴、そして一つの笑い声が響き渡っていた。




力関係
ジブリールく佑馬

次回で追憶編は終了です。

短いけど、勘弁してください・・・。

文字数は入学編から増やします。


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戦略級魔法師

もう既にUA1000越えていることにビックリw

追憶編、最後です。


「そーいえば、何処だったっけなー。」

 

空間転移をしたはいいのだが、よくよく考えたら司波家の家を知らない佑馬。

 

ぶらぶら歩いていると、

 

「ん、あれは・・・」

 

中学生くらいの少年、

 

司波達也がいた。

 

「確か外の確認させられてたんだよな・・・ついていくか。」

 

とりあえず着いていけば着くだろう、という結論に至り、着いていくことに決めた佑馬。

 

その時、何の前兆もなく達也が全速力で戻っていった。

 

「ふむ、中学生にしては速いとかそういうレベルじゃねーよな、この速さ。」

 

陸上選手並みのスピードで疾走していく達也を気配を消しながら追いかける佑馬。

 

そしてすぐに一つの家が見え、そこから銃声が鳴り響く。

 

「火薬の臭いが強いなぁ。これは深雪達が打たれたときのやつかな?」

 

達也が中に入ると同時に、凄まじい量のサイオンを眼が拾った。

 

「この量はすごいな、本当に。」

 

一応家に上がり込んだ。

 

達也は母、司波深夜とそのガーディアン桜井穂波に左手のCADを操作して、『再生』を使った。

 

「ふむ・・・これが魔法式か・・・なんとかいけそうだけど、俺も無駄遣いを気にするレベルでサイオンが減るな。」

 

固有魔法とそうでないけど使える者。

 

得意な人と普通に出来る人の効率のよさが違うように、サイオンの量も変わる。

 

つまり、使うとしたら限りなく近い完成形は使えるが、完成はしていないし、サイオンも達也のよりも大きくなる。

 

「これは・・・信じられない・・・ッ!?誰ですか!?」

 

そこで眼を覚ました桜井穂波に存在がバレた。

 

「おや、バレちゃった?いやいや、怪しいものだけど敵ではないよ。」

 

そんなこと言っても当然警戒が薄れるはずもなく、怪しいものと認めた時点で警戒を怠るなと言ってるようなもので、それぞれがCADを構えている。

 

「じゃあ、俺は帰るか。」

 

そう言って戻ろうとしたとき、

 

「逃がすとでも?」

 

司波達也が扉の前に立ち塞がっていた。

 

「困ったねー。あ、それとさ。」

 

そこで、司波達也をジッ見ながら

 

「桜井穂波さん、俺に魔法を打つのは得策じゃないから、その操作しているCAD、やめようか。」

 

その言葉に、一同が驚愕する。

 

桜井穂波を知っていること。

 

見てもいないのにCADを操作しているに気づいていたこと。

 

そして、

 

「まぁ、扉から出る必要がないんだけど?」

 

そう言って虚空に溶けるように消えるその男に。

 

ただ呆然と立ち尽くすしかない達也、深雪、穂波だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、出来れば『分解』も見たいんだよなー。」

 

とりあえず転移して外に出た佑馬、少し遠くのほうで悲鳴が聞こえるってことは、そこにジブリールがいるのだろう。

 

「はぁー、向かうか。」

 

少しハメを外しすぎてないか確認するために、ジブリールの元へ向かった。

 

「・・・まぁ、こうなるわな・・・。」

 

結果は予想通り、見事に全滅。

 

「あ、佑馬!佑馬も殺りますか?」

 

「ジブリール、少し落ち着け。殺りすぎだ。」

 

いくらなんでも殺りすぎだった。

 

「はぁ、まぁいい。そろそろ艦隊が来るから、それまで少し図書館にでもいこうか。」

 

「そうでございますね。」

 

「まずその血落としてからな。」

 

そうして、一旦家に戻って、その後図書館に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約1時間ほど。

 

「・・・そろそろだな。」

 

読んでいた本を閉じて立ち上がる佑馬。

 

「そろそろ来るんですか?」

 

「ああ。」

 

それに続いて本を閉じるジブリール。

 

「よし、とりあえず行こう。」

 

「了解でございます。」

 

そして、再び沖縄へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄についたとき、回りは戦艦に囲まれていた。

 

「あれ、確か原作だと6,7隻くらいだったと思うんだけど・・・これ20はおるよね・・・こいつのせいか。」

 

原作と比べて明らかに多い数なのだが、ジブリールが変に暴れまわったせいと決めて、一応達也達を探す。

 

案の定近くにいた。

 

「誰だ貴様!」

 

近くにいた軍人・・・柳だったかな。

 

が、CADを向けながら近づいてくるので

 

「そんな物騒なものは取り上げな、話を聞けよ。」

 

とりあえず、CADを取り上げた。

 

「なッ!?いつの間に・・・返せ!」

 

「だから話聞けって、返すから。」

 

「話とはなんだね?」

 

そこでもう一人の軍人、風間・・・この頃は大尉か。

 

「俺とここにいる連れであの艦隊、沈めてきましょうか?」

 

「・・・そんなことができるのか?」

 

「余裕です。そちらは任せてもよろしいですよね?」

 

「わかった。協力して貰えるのなら是非頼みたい。」

 

なんとか許可を貰えた。

 

「じゃあ、やってきますか。」

 

そして、そこを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジブリールは南を頼む。俺は北をやる。」

 

「了解しました。」

 

そしてそっちに向かおうとしたジブリールに。

 

「・・・全力の天撃打ってもいいからな?」

 

と、言った。

 

「ありがとうございます。」

 

一言、お礼を言って虚空に消えるジブリール。

 

「さて、俺も今回は派手にやりますか。」

 

とりあえず、北へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、南ではジブリールが手に力を収束させていた。

 

「さて・・・せっかく許可も出たことですし、使えるときに使っておかなければ勿体のうございますが・・・加減はしないとですね。」

 

そのまま艦隊を見据えて、

 

「それでは、30%の天撃、参ります。」

 

そのまま降り下ろした。

 

辺りが白く光、大爆発とともに轟音が鳴り響く。

 

爆発が収まったころに海を見てみると。

 

蒸発。

 

戦艦は全滅、海というものはそこになく、地面が半径1kmに渡って広がっていた。

 

「やっぱり力が使えるっていいですね。」

 

そう言い残して、佑馬の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして佑馬。

 

須佐之乎に黒い翼の格好をし、弓を射る構えしていた。

 

「これが俺の現在の最強の技だ。」

 

そのまま、戦艦に向かって放つが、

 

それは戦艦の上で止まり、

 

「バーン。」

 

黒い物体が辺りのあらゆるものを吸収していく。

 

所謂、ブラックホール。

 

戦艦も、海も、その下の地面も、次々と吸収されていく。

 

「ここいらで止めるか。」

 

再び弓を射る構えをして、放つ。

 

その矢はブラックホールの中心に向かっていき、それを砕いた。

 

その砕かれたブラックホールは何かに引きずられるように空気に消えていき、何も残ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、3つの戦略魔法と、三人の戦略魔法師が誕生した。

 

一つは「質量分解(マテリアル・バースト)」

 

もう一つは「天空粉砕(スカイ・バースト)」 通称「天撃」

 

そしてもう一つが「永遠漆黒(エターナル・インフィニティ)」 通称「ブラックホール」




最後厨2入りました。

命名は適当ですので、通称の方を基本的に使っていきます。

次から入学編です。


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入学編
二科生


今日ノーゲーム・ノーライフもだします。

入学編入ります。


沖縄に戦争を仕掛けた国、大亜連合は今回の戦争で甚大な被害が出た。

 

その中でも、戦略魔法師を失ったことが大きいだろう。

 

そして、新たな戦略魔法師が三人も出現したこと。

 

特に、その三人のうち、二人は『加重系魔法の技術的三大難問』である『常駐型重力制御による飛行魔法』と『超加重型重力制御によるブラックホール生成』の二つを使えるという事実は、世界に衝撃を与えた。

 

名前はどれも明かされていないが、その中の二人がフード姿で突如として現れ、敵を殲滅する姿から、『神の使者』と名付けられた。

 

「というわけだが、なんか安直だよな、名前が。」

 

「そうでございますね。」

 

その『神の使者』である二人、佑馬とジブリールは現在、都内の図書館にいる。

 

「これからどうするのでございますか?」

 

ジブリールは、この後の予定を聞いてない。

 

当然と言えば当然の質問だ。

 

「んー、三年後に魔法科高校入りたいから、勉強しよう。」

 

「魔法科高校・・・でございますか?」

 

「そ、高校。ディスボードでいう、アカデミーに魔法を教える機能がついたようなとこ。」

 

「なるほど・・・しかし、何故そのようなところへ?」

 

まず、入る必要もないのはジブリールも承知の上。

 

しかし、その質問に笑う佑馬。

 

「ははは、確かに俺らには必要ないけど、入った方が絶対に面白いからだよ。」

 

口を吊り上げ、これから起こることを見据える佑馬に、

 

「ならば、私もその面白いことに参加させて頂きましょう。」

 

ふふ、と笑ってこれから起こることを予想するジブリール。

 

傍らから見れば、本を見てる途中にいきなり向かい合って笑い合うというバカップルのような画なのだが、そんなことを気にするような二人ではない。

 

「あ、2科生に入りたいから、筆記テストは全力でやって、魔法テストは全力で手を抜いてくれ。」

 

「難しいですね・・・頑張ります。」

 

「まぁ、そのためにも、とりあえず本を読みまくるか。」

 

「はい!」

 

案外、佑馬も本が好きな方なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一校試験当日、家にあった中学のであろう制服を着て、一校に向かう佑馬とジブリール。

 

ちなみに、ジブリールは翼を制服の中に隠し、天輪は『生命』という分類上、消すことが可能らしい。

 

というよりも、翼以外は人間と同じに出来るとのことらしい。

 

「うーん、なんか、いいね。」

 

制服姿のジブリールを見て、一言、そう呟く佑馬。

 

「そう・・・でございますか?しかし、ちょっと苦しいですね・・・特に胸の部分が。」

 

「うん、かなり強調されていていい感じだね。」

 

少し前の佑馬なら眼を逸らすなどのアクションをするだろうが、今の佑馬はそんなことで動じるほど若くもなかった。

 

「でも、高校のはもう少し大きめのやつにしよっか。」

 

「そうして貰いましょう。」

 

「じゃあ、最後に確認。今回は筆記テストは全力でやって、魔法テストは全力で手加減する。オーケー?」

 

「了解でございます。」

 

最後に確認し、試験会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式の日、二人分の弁当を作る佑馬。

 

「うん、いい感じだ。」

 

ちなみに、ジブリールは例の部屋で魔法を使って暴れている。

 

三年が経ち、これも習慣化している。

 

「おーいジブリール。そろそろ行くぞー。」

 

「すぐ向かいます!」

 

部屋に入ると、とてつもない量のサイオンが視えた。

 

「ふむ、かなりサイオン量増えてるね。」

 

「そうでございますか?」

 

「うん、俺よりも多いんじゃね?」

 

「それはないと思いますが。」

 

なんだかんだで佑馬も三年前よりもサイオン量は増えている。

 

現日本の領域を軽く覆えるくらいの量にまでは。

 

「それじゃあ、入学式に向かいますか。」

 

「はい。」

 

そこで肩に何も書いてない制服、二科生の制服に着替えて一校へと向かった。

 

転移で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移で一校についた佑馬とジブリール。

 

その姿を見られないよう、校内体育館の裏に飛んだ。

 

「うん、入学式1時間前、中庭に行きたいからいいかな?」

 

「勿論です。」

 

「さて、二度目の高校生活を楽しみますか。」

 

中庭に向かうと、三人掛けのベンチに一人の男子学生、司波達也がいた。

 

「お、いたいた。」

 

「あの方は・・・不思議な感じでございますね。」

 

目当ての人物を見つけた佑馬と、達也から何かを感じ取ったジブリール。

 

気配を消しながら歩いていき、

 

「隣、いいか?」

 

いきなり声を掛けた。

 

「ッ!?ああ、構わない。」

 

バッ!とこっちを見て、警戒しながらも了承する達也。

 

「ああ、悪い悪い。驚かすつもりはあったし悪気もあったけど悪いとは思ってるから、たぶん。」

 

「たぶんなのか。」

 

冗談を言ったら呆れられたが、警戒を少しだけ解いた達也。

 

まだかなり警戒をしているが。

 

「あ、俺は中田佑馬。同じ二科生だ。で、こっちが」

 

「中田ジブリールです。」

 

一応中田家の養子となっている二人は、中田の姓を名乗っている。

 

「俺は司波達也だ。」

 

「よろしくな、達也。」

 

「ああ、よろしく。」

 

そこで達也はスクリーン型の携帯で読書を始め、ジブリールと佑馬は高校について話をしていた。

 

と、そこに一人の少女がこちらに近づいてきた。

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ。」

 

「分かりました。いくぞジブリール。」

 

「はい。」

 

「ありがとうございます。すぐに行きます。」

 

その少女の言葉に入学式に向かう佑馬とジブリール。

 

達也はその少女の制服やCADを見ていた。

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね。」

 

七草、十師族の一つの家だ。

 

「俺は中田佑馬です。」

 

「中田ジブリールと申します。」

 

「俺・・・いえ、自分は司波達也です。」

 

「そう、貴方達があの司波君と中田君、中田さんね。」

 

目を丸くした後、意味ありげに頷く真由美。

 

「最後言いにくかったよね。名前でいいよ。」

 

「・・・そうさせてもらうわ。それより、先生方の間では、貴方達の噂で持ちきりよ。」

 

そこで、達也は何故かこっちを見てくる。

 

「司波君は入学試験、7教科平均96点で、魔法理論と魔法工学は100点。佑馬君とジブリールさんは全教科100点どちらも前代未聞の高得点だって。」

 

佑馬とジブリールはあれから図書館の本を全部制覇するという偉業にして異業なことを成し遂げたため、世界でも有数の博識というレベルにまでなっていた。

 

真由美の言葉に達也はこっちを見て驚いている。

 

「ただの筆記だからね。んじゃあ、俺らはこの辺で。」

 

軽くあしらって入学式に向かう佑馬とジブリール。

 

達也が恨めしそうな眼を向けてきていたが、あえて無視した。




中田ジブリールってすごい違和感だね。


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秘密と秘密

劣等生の人気の高さを実感しています。


あそこで話しても意味がないと判断した佑馬は、入学式会場に向かった。

 

そして、そこで目にしたのは、

 

「これはこれで、ある意味すごいよなー。」

 

上が二科生で下が一科生となっていたのだ。

 

「まぁ、まだ変に目立つつもりはないし、出口が近いから後ろでいいや。」

 

めんどくさい、という理由で一番後ろに座る佑馬。

 

ジブリールも、後に続く。

 

席に座ったとき、誰かがこちらに向かってきた。

 

「おい、置いていくなんて酷いじゃないか。」

 

「おう、おかえり。」

 

先程見捨てた達也だ。

 

「まぁいい。隣に座っていいか?」

 

「勿論。」

 

ちなみに、ジブリールはスクリーン型の本を読んでいる。

 

マナー違反ではあるが、咎める者はいなかった。

 

そこで佑馬も端末を広げようとしたとき、隣のほうで

 

「あの、お隣空いていますか?」

 

という言葉が聞こえ、達也がこちらを見ていた。

 

構わない、という頷きをすると、

 

「どうぞ」

 

と、達也は言った。

 

ふむ、女子生徒四人だが、その内二人は知っていた。

 

(柴田美月と千葉エリカか。)

 

原作キャラだが、それ以上の興味は無くなった。

 

「ねぇ、そこの君たちは?」

 

そこで赤髪の少女、千葉エリカが話しかけてきた。

 

「ん、俺は中田佑馬、こっちにいるのは中田ジブリールだ。」

 

「・・・そ、そう、よろしくね、佑馬君、ジブリールさん。」

 

いきなり名前呼びだが、まぁ同姓だから仕方ないだろう、と区切りを付けた。

 

・・・ジブリールの紹介のときに少し顔をひきつらせたのは見間違いではないだろう。

 

「佑馬君とジブリールさんって、兄妹?」

 

「いや、俺たちは婚約者だな。」

 

「そうでございますね。」

 

「「「「「・・・え?」」」」」

 

みんなの目が驚愕に染まった。

 

何故かわからなかったが、その答えはすぐ知ることとなる。

 

「名字が同じなのは・・・偶然?」

 

「ああ。いや、同じ家の養子に取られたからだよ。」

 

「なるほどね・・・」

 

微妙な空気が流れ、そこで会話は終わってしまった。

 

入学式が始まり、新入生総代、司波深雪の答辞が始まった。

 

その答辞には、「皆等しく」とか「一丸となって」とか「魔法以外にも」とか「総合的に」などの際どいフレーズが多く組み込まれていたが、それを上手く建前で包んでいた。

 

「達也の妹の答辞、絶対に達也のこと気にかけての言葉だよな。」

 

その問いに、警戒を高める達也。

 

「・・・何故俺と深雪が兄妹だってわかった?」

 

「え、そうなの?じゃあ、双子?」

 

「よく訊かれるけど、双子じゃないよ。俺が四月生まれで、妹が三月生まれ。と、いうより、佑馬はなんでわかったんだ?似てもないし、司波という苗字も珍しくないのに。」

 

「いや、結構珍しいけどな。なんでわかったかねぇ。」

 

波風立たないようにするのも可能だが、それでは詰まらない。

 

ならば、

 

「姿勢が二人ともいいし、答辞の時に少し反応が豊かになったこと、後はオーラかなぁ。」

 

あえて、警戒させた方が面白いに決まっている。

 

「そういうことか。よく見ているんだな。」

 

達也の警戒度がMAXになったところで、入学式は終わり、IDカードを受け取りに行く一同。

 

「司波君達は何組?」

 

「E組だ。」

 

「俺たちもE組だな。」

 

その答えに

 

「やたっ!同じクラスね。」

 

跳び跳ねて喜ぶエリカ。

 

「私も同じクラスです。」

 

美月も同じような顔をしていた。

 

「あたし、F組。」

 

「あたしはG組だぁ。」

 

他の二人は違うクラスだが、なんの問題もなかった。

 

同じクラスになったあたり、神がなんかしたのだろう、と思う佑馬だが、そこらへんはありがたく感謝しておく。

 

「よし、じゃあ俺らは帰るわ、また明日。」

 

「りょーかい、また明日ー。」

 

その言葉を最後に、佑馬とジブリールはその場を離れた。

 

少し寄る場所があるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校からの帰りに、佑馬とジブリールはある寺によった。

 

(木陰に数人、その内一人は注意しないと気づかないぐらいだな。)

 

そう、その寺は、あの忍術使い、九重八雲がいる寺だ。

 

「あのー、そこにいる数人の方達と、坊主頭の人、出てきて欲しいのですが?」

 

「おや、それで隠れていたつもりなのでしょうか。私には姿を見られたくないけど存在はアピールしたい、照れ隠しかと思っていたのですが。」

 

どうやらジブリールも気づいていたようだ。

 

「・・・結構本気で隠れていたんだけど、君たちは一体何者だい?」

 

木陰から出てきた数人のうち、坊主頭の男、九重八雲が前に出てきた。

 

「俺は中田佑馬、こっちはジブリールだ。」

 

「その制服は一校のだね。本当に何者だい?」

 

表面上は穏やかに笑っているが、警戒は怠っていない八雲。

 

「いやー、一つ忠告をしようと思ってさ、ちょっと来てくれない?」

 

その言葉に、訝しげな表情を浮かべて、近寄ろうとはしない。

 

当然のことだが、

 

「・・・司波達也について。」

 

「ッ!?」

 

その言葉に、さらに警戒度を上げながらも近づいてきた。

 

「うん、ありがとう。それじゃあ忠告、というよりも交換条件だ。」

 

そこでトーンを落として、

 

「司波達也、司波深雪の内事情、四葉のことは黙ってやるから、こちらのことを調べたりするようことはするなよ?この情報は達也と深雪にのみ、話してもいい。」

 

「ッ!?・・・わかった。」

 

そして、また声のトーンを戻して口を吊り上げながら、

 

「じゃあ、今度は稽古でもしてもらいにこようかな。」

 

と、言いながら去っていった。

 

その姿を最後まで見ながら、

 

「彼らは一体、何者なんだ・・・。」

 

とりあえず、稽古をしてあげる、というよりも、してもらう、という風になりそうなことと、完全なまでの力の差を感じ取った八雲。

 

「こりゃ、参ったねぇ。」

 

そう呟きながら、寺へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから家に戻った佑馬とジブリールは、新しい魔法を開発していた。

 

「魔法は全系統使いこなせることはわかったから、後は俺らの専用魔法を作らないとなー。」

 

「そうでございますねぇ。」

 

今この世界で佑馬とジブリールしか使えない魔法はいくつもあるが、さらに増やそう、と考えているのだ。

 

現在、二人だけしか使えない魔法は

 

『空間転移』

 

『天撃』

 

『飛行魔法』

 

の三つで、

 

佑馬だけが使える魔法が

 

『ブラックホール』のみ。

 

他にも『天照』とかはあるのだが、魔法ではないので数には入れない。

 

「三年前に『再生』は見たから、後は『分解』も見たいんだけど・・・失敗したよなぁ。」

 

そう、佑馬は再生が使える。

 

簡単に言えば、フラッシュ・キャストだ。

 

「んー、再生と俺の能力で出来るのとねぇ。」

 

身体能力は、細胞が常に活性化を繰り返しているため、寿命で死ぬことはなくなっている。

 

一方通行は万華鏡写輪眼を使えば黒い翼を出せるし、須佐之乎に合わせることも出来る。

 

眼の方は、写輪眼の能力は全て使える。

 

サイオンは日本を軽く覆うレベルだ。

 

「でも、サイオンは一応限りがある・・・なら、回復させればいいのか?」

 

サイオンの回復。

 

通常は時間が経てば回復するのだが、それを即刻回復させる魔法。

 

「うん・・・面白い。」

 

「なるほど・・・それなら確かに永遠に魔法を使えますからね。」

 

ジブリールも、サイオンの保有量はとてつもなく大きいので、それを回復しながら強力な魔法を連発することが出来るこの魔法なら、ほぼ死角はない。

 

「よし、じゃあ作ってみますか!」

 

それから、徹夜で試行錯誤が繰り返された。




達也達の警戒度をMAXまであげていくスタイル。

そして、新たな新魔法完成=チート化


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一科生と二科生

一話タイトルズレタ(´・ω・`)
前回のタイトルですが、この話のタイトルでした。


次の日、いつものように朝食を取ってから転移で学校へ登校した。

 

昨日と違うことがあるとすれば、二人ともヘアバンドをつけていることだろう。

 

それを事務室に預けてそのままE組に向かったが、少し早いのに何処の教室でもそこかしこで雑談の小集団ができていた。

 

とりあえず教室に入り、席に座る。

 

当然だが、佑馬の前はジブリールの席だ。

 

席についてキーボードでジブリールの分も含めて受講登録を一気に済ました後、達也が登校してきたが。

 

「佑馬、放課後時間あるか?」

 

入ってきて早々、真剣な眼差しでそう質問してきた。

 

恐らく、昨日のことだろう。

 

「ああ、問題ない。」

 

そう口を吊り上げながら答えると、

 

「あ、司波君、佑馬君、ジブリールさんオハヨー。」

 

「おはようございます。」

 

エリカと美月が近づいてきた。

 

随分打ち解けた笑みを浮かべているあたり、社交性の高さが伺える。

 

「ああ、おはよう、二人とも。」

 

「おはようございます。」

 

そう返事する佑馬とジブリール。

 

ジブリールにはこの三年で、ある程度の社会性を教え、この世界にもなれさせたので、前のように未知を見つけたら涎を垂らすことは・・・なくなりはしないが、ここらへんの技術はあらかた見せたので、見る機会も減った。

 

今回の挨拶も、その成果と言えるだろう。

 

ちなみに、達也の席は美月の右横、ジブリールの左横だったりする。

 

「また隣だね、よろしくな。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

達也の言葉に、美月が笑顔で返す。

 

そこで、こちらに振り返り、

 

「ジブリールさんも、よろしく。」

 

「こちらこそ、よろしくお願い致します。」

 

若干警戒しながらも、表面上は棘がないようにそう挨拶する達也。

 

(さて、時間まで暇だし、寝るか。)

 

昨日徹夜した佑馬は、やることもないので必要はないのだがしないよりマシな睡眠を取ることにした。

 

ジブリールはまた本を読みはじめる。

 

そして、そのまま意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予鈴がなり、佑馬の意識は覚醒した。

 

前を見てみると、スクリーンにメッセージが映し出されていた。

 

『5分後にオリエンテーションを始めますので、自席で待機してください。IDカードを端末にセットしていない生徒は、速やかにセットしてください。』

 

全く関係のないことだったので、もう少しだけ寝ようとした佑馬だが、ある程度ウトウトしてきたとき、本鈴と同時に前側のドアが開いたのだ。

 

「はい、欠席者はいないようですね。それでは皆さん、入学、おめでとうございます。」

 

ああ、八雲の弟子か、と思い出す佑馬だが、それ以上の興味は無かった。

 

「はじめまして。私はこの学校で総合カウンセラーを務めている小野遥です。皆さんの相談相手となり・・・」

 

オリエンテーションをしてるのだから当たり前だが、オリエンテーションを行う小野遥。

 

それを軽く左耳から入れて右耳へ流す作業を繰り返すと

 

「既に履修登録を終了した人は、退室しても構いません。ただし、ガイダンス開始後の退室は認められませんので、希望者は今の内に退室してください。その際、IDカードを忘れないでくださいね。」

 

という言葉が聞こえてきた。

 

そこで、他の場所でガタッ、と椅子がなって、一人の男子生徒が退出していった。

 

そこで佑馬も席を立ち、

 

「ジブリール、お前の分はやったから、行くぞ。」

 

と、オリエンテーション中なのにずっと本を読んでいたジブリールに声をかけて、教室から出ていった。

 

そしてそのまま図書館へと向かう。

 

「ジブリール、読みたいならここで読もうぜ?」

 

「私のために・・・わざわざありがとうございます。」

 

ペコリ、と頭を下げて、また本に没頭するジブリール。

 

それを横目に、佑馬も本を探すと、

 

(加重系魔法の技術的三大難問についてか・・・)

 

加重系魔法の技術的三大難問についての本を見つけた。

 

ここ三年で、この三つの内二つは魔法は解明されたと言われているが、実際はまだされていない。

 

佑馬とジブリールが使えるだけだ。

 

それをそのまま持っていき、ジブリールの横に座る。

 

そしてそのまま何も食べずに下校時刻まで読みふけった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰る途中に事務室に寄って、ヘアバンドを受け取って帰ろうとした時、ある集団が見えた。

 

何か騒いでいるようだが、邪魔なので無視してそのど真ん中を堂々と突っ切ると、

 

「おい、待て!そこのお前!雑草(ウィード)の癖に僕達花冠(ブルーム)の前を横切るな!」

 

と、言ってきた。

 

「おー、達也達じゃん、何してるの?」

 

「おい、聞け!」

 

「さっさと帰ろーぜ?」

 

その言葉を軽く無視しながら達也達に話しかける佑馬に

 

「おいっ!」

 

ガッ!と肩を捕まえて振り向かそうとしたその男子生徒に、

 

「・・・貴方様は一体誰にものを言って、誰の肩を掴んでいるのでございますか?」

 

「「「・・・ッ!?」」」

 

ジブリールから放たれる殺気と、その嘲笑の笑みにその一科生の男は震えながら下がる。

 

「はい、ジブリール、ストップ。」

 

一応このままだといろいろと不味いので止めておくが、

 

「申し訳ございません。弱者がいきがっていて、あろうことか佑馬に喧嘩を売ってきたので、つい。」

 

申し訳なさそうに言いながらも、さっきの男子生徒に笑みを向けているあたり、許してはなさそうだ。

 

「ウ、ウィードのくせに、生意気な!」

 

それがブルームとしてのプライドに触ったのか、いきなりCADを操作し始める男子生徒のそのCADを、

 

「お前、なに操作してるの?」

 

身体能力で盗って、手で見せながら言う。

 

「なっ!いつの間に・・・返せ!」

 

「ほらよ。」

 

そしてそのまま返して、

 

「舐めるな!」

 

また魔法を発動しようとする男子生徒。

 

阻止しようと動こうとしているエリカとレオを手で制し、そのまま発動させる佑馬。

 

「喰らえ!」

 

無駄の無い動きでそのまま攻撃性の高い魔法が発動し、魔法が佑馬に向かっていくが、

 

「おいおい、それがブルームの実力か?」

 

その魔法を直接受けながら、無傷で嘲笑する佑馬。

 

「な・・・なんで・・・。」

 

その姿を見た男子生徒は、恐怖の眼差しで佑馬を見る。

 

「この程度でよく上から目線でモノを言えたもんだな。」

 

ゆっくりと歩みよる佑馬に、畏怖の表情を浮かべながら下がる一科生達。

 

「はぁ・・・ジブリール、帰るか。」

 

「はい。」

 

それをつまらなそうに見ながら、そこを後にしようとすると、

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反であると以前に、犯罪行為ですよ!」

 

後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。

 

「貴方たち、1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます、ついてきなさい。」

 

生徒会長の七草真由美だ。

 

その言葉に達也が前に出てきて答える。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました。」

 

「悪ふざけ?」

 

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のためにも見せてもらうだけのつもりだったのですかが・・・」

 

ああ、こいつそういえば森崎って名前だったなー、と思い出した佑馬だが、

 

達也が視線を向けているのに気づき、その意図を汲み取って、

 

「たまたま通りかかった俺が、喧嘩だと思って魔法を使おうとしていたそこの一科生に手を出しちゃっただけです。」

 

と、言った。

 

「それに、彼が使ったのは、攻撃性の無い魔法です。」

 

達也のその言葉に一同は、特に魔法を打った男子生徒は少し驚いた。

 

実際は攻撃性の高い魔法だからだ。

 

「ほぅ・・・どうやら君は、展開された起動式を読み取ることができるらしいな。」

 

そこで出てきたのは、真由美と一緒にきていた風紀委員長、渡辺摩利だ。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意ですから。」

 

「・・・誤魔化すのも得意なようだ。」

 

値踏みするような、睨み付けるような、その中間の眼差し。

 

「摩利、もういいじゃない。達也君、本当にただの見学だったのよね?」

 

そこで、真由美が達也を庇うように出てきた。

 

「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の内に授業で教わる内容です。魔法の行動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね。」

 

「・・・会長がこう仰られていることであるし、今回は不問にします。以後このようなことがないように。」

 

会長が綺麗に纏めてしまったため、摩利もそれ以上言うことが出来ずにそう言って踵を返した。

 

が、すぐに足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。

 

「君の名前は?」

 

首だけ振り向いたその目は、達也に向けられている。

 

「1年E組、司波達也です。」

 

「わかった、そこの君は?」

 

そして今度は、佑馬の方に目を向けてきた。

 

「1年E組、中田佑馬。」

 

めんどくさそーにそう答えると、

 

「覚えておこう」

 

と、言って、そのまま校舎に戻っていった。

 

「さて、ちょっと用事があるから先に帰らせて貰うわ。達也、駅で。」

 

とりあえず早く帰りたかったので、そう言ってジブリールと一緒にそのまま校門を出ていき、ある程度行ったところで転移した。




あえて魔法を喰らっていくスタイル。

佑馬はジブリールの天撃を受けているので、並大抵の攻撃ではかすり傷すら出来ません。

ヘアバンド、これは何かはもうお分かりですよね?


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明かされる秘密

ノゲノラ止まりそう・・・2,3話はなんとか出せるんですけど、[ ]とのゲームが難しすぎる。


「あの時のことも言うのでございますか?」

 

家について開口一番、ジブリールはそう聞いた。

 

心配事があるとかそういうのではなく、ただの興味だ。

 

「まぁ、言ってもいいかなーって感じかな。ジブリールのことはそんなに言うつもりないけど。」

 

そう言いながら家に入っていく佑馬、ジブリールも後に続いて、それぞれの部屋に入る。

 

二人とも私服に着替え、そのまま家を出る。

 

今回も転移をしようとするジブリールだが、

 

「キャビネットの方が不自然じゃない。」

 

という理由で却下、駅へと転移し、そこから高校最寄りの駅までキャビネットで移動した。

 

駅から降りると、司波兄妹が入り口で待っていた。

 

「よ、待たせたな。」

 

「いや、ついさっき解散したとこだから、そこまで待ってないよ。あ、妹の深雪だ。」

 

「1-A組、司波深雪と申します。先程は助けていただき、ありがとうございます。」

 

達也に促され、挨拶をする深雪。

 

「俺は中田佑馬だ、そしてこっちがジブリール。よろしくな。」

 

「よろしくお願い致します。」

 

初対面、ではないが、初めて話すのでしっかりと挨拶は返す佑馬とジブリール。

 

「じゃあ、俺達の家に行くけど、いいか?」

 

分かりきってるとはいえ、確認を取る達也に、

 

「わざわざ律儀だな。勿論。」

 

口を吊り上げながら返事をする佑馬。

 

そこから達也達の家まで走って向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、司波家についた。

 

中に入るよう促され、そこからリビングへと案内される。

 

着替えてくる、と二人はリビングを出ていったので、とりあえずソファーに座って部屋の中を見回して暇を潰すことにした。

 

しばらくして達也と深雪が戻ってきて、深雪は紅茶を出して、対面のソファーに座った。

 

少し沈黙が訪れて、最初に声を発したのは、

 

「さて、何のつもりだ?」

 

達也だった。

 

その声には少し怒気みたいなものが含まれていたが、

 

「何のつもりって?」

 

それを軽く流し、首を傾げてわざとらしく惚けた。

 

「昨日師匠に言ったことだ。」

 

「ああー、何て言ったっけ。」

 

またわざとらしく首を傾げる佑馬。

 

「俺達が四葉の人間だって何故知っている。」

 

だんだんと表情が険しくなってくるが、

 

「ネットにあった。」

 

「・・・ッ!?」

 

その言葉に急いでパソコンを起動しようとし、

 

「冗談だよ。」

 

笑って答えると、あたりがだんだんと冷えてくる。

 

「・・・いい加減に真面目に話して頂けませんか?」

 

深雪だ。

 

怒りにより、魔法が暴走しだしたのだが、

 

パチン!

 

と佑馬が指を鳴らした瞬間に

 

「「ッ!?」」

 

司波家を包むように佑馬から膨大な量のサイオンが発せられた。

 

それこそ、達也がCADを抜くレベルまでには。

 

「わかったよ、ちゃんと話すから落ち着け。達也も。」

 

コクン、と頷く深雪と無言でCADを下げる達也を見て、サイオンを収める。

 

所謂、領域干渉魔法を展開したのだ。

 

「よし、今度こそ真面目にやろう、まず聞きたいことはなんだ?」

 

今度こそ真面目な雰囲気を作って言う佑馬。

 

「・・・何故俺達が四葉の人間だと知っている。」

 

「俺たちも沖縄にいたから。」

 

「・・・それで?」

 

少しだけピクッと深雪が動いたが、達也は動じずに質問を重ねる。

 

「"桜"シリーズの桜井穂波、司波深夜と言えばいいか?」

 

「ッ!?」

 

その言葉に大きく驚く深雪と少し眉を潜める達也。

 

「・・・何処でその情報を手に入れたのかわからんが、一応保留だ。」

 

また後で質問する、と間接的に言って、次の質問へと移る。

 

「じゃあ次だ。お前達は一体何者だ?」

 

「神の使者。」

 

その質問に即答で答える佑馬だが、

 

「・・・まさか・・・そんな。」

 

深雪はその答えを聞いて口を手で覆い、

 

「・・・なるほどな。」

 

達也は少し考えてから、何かを理解したかのように少し頷く。

 

「それなら技術者としても聞きたいことがあるのだが、それはまた今度にさせてもらう。」

 

恐らく、『ブラックホール』と『空間転移』のことだろう、と結論付けたところで、

 

「次だ。お前達は俺たちの敵か?」

 

そう質問する。

 

その答えに、佑馬は口を吊り上げながら、

 

「そうだな、達也達が敵対するような行動をすれば最悪の敵になるし、達也達が今まで通りにするなら最高の友としている。つまりは、君たち次第だ。」

 

その答えに、

 

「わかった。なら今まで通りよろしく頼みたいのだが、もしも敵対するようなことがあれば、俺は全力でお前達を消す。」

 

達也も、そう返した。

 

それを微笑みながら見て、

 

パン!

 

と、手を叩き、

 

「さて、今までの話の対価として、こちらからも少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

そう質問する佑馬。

 

「・・・可能な限りならな。」

 

答えられないとのは答えないと言った達也だが、

 

「はは、君たち二人のことはよく知ってるし、答えられないものではないよ。」

 

そこで、少しだけ背筋を伸ばして、

 

「達也、お前の『分解』を見せてくれ。」

 

「・・・なんだと?」

 

その質問に、怪訝な表情を浮かべる達也。

 

何故知っているかというのではなく、何故見せろと言ってくるのかに。

 

「消すものはここにあるチョコで頼む。」

 

そう言いながら出すのは、家から持ってきた板チョコ。

 

「・・・一回だけだ。」

 

少し間をあけ、そう言いながら手のひらをチョコに向ける達也。

 

そして、魔法式が展開され、チョコはきれいに消えた。

 

否、分子レベルまでに分解されていた。

 

「ありがと、まぁ、これでわかったよ。」

 

そう口を吊り上げながら感謝する佑馬に、

 

「何がだ?」

 

と、質問する達也だが、答えは返ってこなかった。

 

「そろそろ帰るわ。まぁ、そちらが敵対しなければこちらも今まで通り普通に接するから、明日からもよろしくな。司波さんも。」

 

と、言って出ようとすると、

 

「ああ、最後に二つだけ。」

 

そう呼び止められて、

 

「ジブリールさんの、その背中の翼みたいなのは何だ?」

 

と、質問してきた。

 

その言葉にジブリールは驚くが、

 

「ただの魔法とでも思っておいてくれ。」

 

あくまで教えるつもりはない、と言外につけながらいう佑馬。

 

「そして最後に、あの時は助かった、ありがとう。」

 

最後は意外にも感謝の言葉で、深雪も

 

「ありがとうございました。」

 

と、頭を下げている。

 

それを横目に、

 

「そういう気分だったんだよ。」

 

と、言って、手を振りながら司波家を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャビネットに乗り込み、さっきの『分解』について考える。

 

魔法式は頭にあるからもう使えるが、問題は喰らったときだ。

 

それを考えてると、ジブリールから声がかかる。

 

「何故達也さんは私の翼に気づいたのでございましょう。」

 

帰り際にきた質問、何故ジブリールは翼をつけているのか。

 

これは完璧に隠していたつもりのジブリールも、予想外のことだったらしい。

 

「あいつも少し特殊な眼をしてるからだよ。」

 

その答えにジブリールは驚くが、すぐに納得した。

 

理由は目の前にいる佑馬だ。

 

しばらくして、駅についたのでキャビネットから降りて、家へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑馬が最後に『分解』を使うように頼んだのには、二つわけがある。

 

一つは佑馬が使えるようにするため。

 

魔法式は頭に入っているため、いつでも使える。

 

そしてもう一つは、万が一敵対したときの『分解』の対処法。

 

だが、それも心配いらなかった。

 

(反射膜に当たれば、相殺しあい、反射膜の張り直しの方が早い。俺の反射膜は危険が近づいたら自動的に作動するから、不意打ちもきかない。体術も俺の方が上。問題なしか。)

 

とりあえず、深雪の紅茶が美味しかったので何処の茶葉なのか質問することを決め、ジブリールと風呂に入りにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑馬とジブリールが帰ったあと、達也と深雪はコーヒーを飲みながら、まだリビングにいた。

 

「なんとなくわかってはいたんだが、まさか本当に佑馬とジブリールさんが『神の使者』とは・・・」

 

達也はさっきのことを思い出しながら、苦渋の顔を浮かべる。

 

「あの領域干渉の強さ、私ですら魔法を発動出来ませんでした・・・なんで二科生にいるのでしょうか。」

 

「少なくとも、考えはあってのことだろう。それに、俺はあいつらの魔法も気になる。」

 

達也が気にしているのは、佑馬が思っていた通り、『ブラックホール』と『空間転移』のことだ。

 

「飛行魔法はもうすぐ出来そうなのだが、あいつらは三年前からもう飛行魔法を完成させていて、しかも佑馬に限っては『瞬間移動』も『ブラックホール』も出来る。もしかしたらジブリールさんも出来るかもしれない。」

 

「公表すれば、世界が180°変わるほどの魔法ばかりですね・・・。」

 

全くだ、と頷きながらも、達也は別の事を考えていた。

 

(今日、帰り際にヘアバンドをつけていた。教室にいたときは無かったことから、CADだと思うんだが、あれが何なのか、是非とも知りたいな。)

 

「あの・・・お兄様?」

 

考え込んでいたところで、深雪に声をかけられる。

 

ああ、考え込みすぎたな、と思いながら、

 

「悪い、考えてた。」

 

と、言ってコーヒーをまた一口飲んだ。

 

「まぁ、なんにせよ、あの二人は根は優しい奴等みたいだし、いろいろ気になることもあるから、これからも仲良くしていこう・・・俺たちのためにも。」

 

「そうですね・・・。」

 

そこで、司波家には沈黙が訪れた。




こんな感じでどうでしょうか。
感想お待ちしております。


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風紀委員と生徒会

口の中が血の海地獄。
病院では医者や看護師に引かれるレベル。
何をしたかは察してください。


翌朝、佑馬とジブリールは天撃で遊んでから転移して登校した。

 

ヘアバンドを事務室に預けてE組につき、席についてまた別の新魔法について考えていると、

 

「佑馬、昼休みに生徒会室にこいと七草会長が言ってたぞ。ジブリールさんも一緒でいいそうだ。」

 

達也が話しかけてきた。

 

「うーん、暇だし行くか。ジブリールもいいよな?」

 

「勿論でございます。」

 

二人とも行く意思を見せたのを確認して、

 

「わかった、なら一緒に行こうか。俺と深雪も呼ばれているんだ。」

 

と、少し嫌そうに言った。

 

達也の雰囲気からして、行きたくないんだな、と察した佑馬は、

 

「ああ、すげぇ楽しみだな、生徒会室。」

 

口を吊り上げながらそう言った。

 

「・・・お前、意地悪だな。」

 

そう達也がポツリと溢したが、誰も反応しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休み。

 

佑馬、達也、ジブリール、深雪の四人で四階にある生徒会室に向かった。

 

深雪が入室の許可を請うと、インターホンから歓迎の辞が返されて、ロックが外れた。

 

達也が取っ手に手をかけて開けると、

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って。」

 

と、正面の机から声が掛けられた。

 

その言葉に従い、入室する一同。

 

そのときに深雪が礼儀作法のお手本のようなお辞儀を見せて、真由美と摩利、他にも同席している二人がいるが、みんながその雰囲気に呑まれていた。

 

佑馬とジブリールも軽く会釈をして入室する。

 

「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう。お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

「精進で。」

 

「私も同じものを。」

 

達也と深雪はそう頼み、

 

「俺とジブリールは弁当があるからいいですよ。」

 

佑馬は弁当を出しながらそう言った。

 

「その弁当は中田さんが?」

 

と、摩利がジブリールに質問するが、

 

「いえ、弁当は毎日佑馬が作ってくれるんですよ♪」

 

と、いう返しに、一同は驚く。

 

「あら、佑馬君料理も出来るのかしら?」

 

一同を代弁するように、真由美がそう聞くと

 

「人並みには。」

 

「世界で一番です♪」

 

佑馬はめんどくさそうに、ジブリールは佑馬の弁当が楽しみなのか、顔を綻ばせながら言った。

 

ダイニングサーバーを操作し終えた二年生の小動物みたいな人が席についたところで真由美が話を切り出した。

 

「近いうちに食べてみたいわね。さて、入学式のときに紹介しましたけど、念のため、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん。」

 

「・・・私のことをそう呼ぶのは会長だけです。」

 

「うん、この人をリンちゃんとかネーミングセンスないね会長も。」

 

鈴音が断った後に、追撃を喰らわす佑馬。

 

さすがにこれには堪えたようで、

 

「・・・うっ、き、気を取り直して、その隣、風紀委員長の渡辺摩利。」

 

この人にはさすがの真由美もあだ名は付けてない。

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん。」

 

「会長・・・お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場と言うものがあるんです。」

 

「ごめん、前言撤回。ネーミングセンスあるね。これはあーちゃんだわ。」

 

「ほら!さっそく呼ばれちゃったじゃないですか!」

 

小柄で小動物みたいな二年生は、確かにあーちゃんでしっくりとくる容姿と態度をしている。

 

その様子に生徒会メンバーと佑馬、ジブリールが笑い始め、涙目になるあずさ。

 

「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です。」

 

「私は違うがな。」

 

そこで、ダイニングサーバーのパネルが開き、5つ分のトレーが出てきた。

 

そして摩利はおもむろに弁当箱を取り出した。

 

そこからは他愛もない会話が始まるのだが、

 

「そのお弁当は、渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

 

と、深雪が質問をした。

 

他意はなく、会話を円滑にするためのセリフなのだが、

 

「そうだ。・・・意外か?」

 

と、摩利は意地悪い口調で答えにくい質問を返したが、

 

「いえ、少しも。」

 

その質問に間髪いれずに達也が答えた。

 

その視線の先には、摩利の指があった。

 

「なんだ、達也。指フェチなのか?」

 

その視線を理解した佑馬は、あえて違う意味で質問した。

 

「・・・そんなわけないだろ。」

 

軽く睨みながらそう答えてきたが、それを佑馬が口を吊り上げて笑うと呆れながら、また料理を食べ始めた。

 

「わたしたちも、明日から弁当に致しましょうか。」

 

佑馬、摩利と弁当の話題が出たからか、深雪がそう提案する。

 

「深雪の弁当はとても魅力的だが、食べる場所がね・・・。」

 

「あっ、そうですね・・・まずそれを探さなければ・・・。」

 

二人の会話はどうみても恋人同士の会話なのだが、それに気づいていない達也と深雪。

 

それは当然だが他の人も感じていたようで、

 

「・・・まるで恋人同士の会話ですね。」

 

みんなの意見を代弁するかのように、鈴音が無表情で爆弾を投下したが、

 

「そうですか?血のつながりが無ければ恋人にしたい、と考えたことはありますが。」

 

それは、誤爆に終わった。

 

「・・・もちろん冗談ですよ?」

 

本気で赤面しているあずさと深雪に、達也も無表情で淡々と告げた。

 

「面白くない男だな、君は。」

 

つまらなさそうに評する摩利に

 

「自覚しています。」

 

棒読みで即答する達也。

 

このままでは埒があかないと思ったのか、真由美が割ってはいる。

 

「はいはい、もう止めようね。摩利。口惜しいのは分かるけど、どうやら達也君は一筋縄じゃ行かないようよ?」

 

「・・・そうだな。前言撤回。君は面白い男だよ、達也君。」

 

そうニヤッと男前の笑みを向ける摩利。

 

「そういえば、佑馬君とジブリールさんも恋人みたいですよね。」

 

ふと、真由美が佑馬とジブリールの方を見るが、

 

「ああ、こっちは正真正銘の婚約者ですよ。」

 

と、何か問題でも?とでも言いたげに言う佑馬に、

 

「「「・・・え?」」」

 

今度は声に出す程驚く生徒会役員達。

 

「しかし、名字が同じなのは偶然でしょうか?」

 

そこで、鈴音が聞くが、

 

「いや、俺たちは孤児院から中田家の養子として向かい入れられた二人だからだよ。」

 

表向きはそうなっているため、そう答える佑馬。

 

「・・・そういうことなのね。」

 

真由美は何か苦虫を潰したような顔をするが、話を切り替えることも兼ねて、

 

「それでは、そろそろ本題に入りましょうか。」

 

と、切り出した。

 

昼休みなので、そんなに時間に余裕があるわけでもなく、昼食も食べ終わっていたので、達也と深雪、佑馬、ジブリールは肯定の頷きをした。

 

「当校は生徒の自治を重視しており、生徒会は学内で大きな権限を与えられています。これは当校だけでなく、公立高校では一般的な傾向です。当校の生徒会は伝統的に、生徒会長に権限が集められています。大統領型、一極集中型と言ってもいいかもしれません。」

 

「会長に権限が集められているって、大丈夫なんですか?」

 

その佑馬の一言に、

 

「・・・どういう意味かしら?」

 

ちょっとムッとした風に答える真由美。

 

「だって、職権とか乱用してそうじゃん。入試の結果だってそうだし。」

 

「ははは、言い方は失礼だけど、痛いとこ突かれたな、真由美。」

 

「もう・・・。」

 

頬を少しだけプクッと膨らませながら、話を進める真由美。

 

「これは毎年恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。趣旨としては後継者育成ですね。深雪さん、私は、貴女が生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」

 

そこで、深雪は達也の方へ向き、達也は小さく頷いた。

 

が、深雪は思い詰めた表情をしていた。

 

「会長は、兄の入試の成績をご存じですか?」

 

「っ?」

 

深雪の一言に、動揺する達也。

 

「ええ、知っていますよ。すごいですよねぇ・・・正直に言いますと、先生にこっそり答案を見せて貰ったときは、自信を無くしました。」

 

「ほら、乱用してるじゃん。」

 

「その話はもういいでしょ・・・。」

 

佑馬の揚げ足を取るような言葉に、拗ねる真由美だが、

 

「成績優秀者、有能な人材を生徒会に迎え入れるなら、わたしよりも兄の方が相応しいと思います。」

 

深雪は尚も思い詰めたような表情で言う。

 

「それは無理だぞ、深雪。」

 

だが、否定の言葉は会長ではなく、佑馬から出てきた。

 

「それは何故でございましょうか。」

 

「一科生しかなれないからだよ。二科生でもなれるといえばなれるが、全校生徒が参加する生徒総会で在校生徒の3分の2の票が必要なのに、一科生と二科生は半分ずつ。ここまで言えばわかるよな?」

 

その言葉に、深雪は諦めきれないという表情を見せながらも、

 

「・・・申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください。」

 

そう素直に謝り、頭を深く下げた。

 

当然、深雪を咎めるものは誰もいない。

 

「ええと、それでは、深雪さんには書記として、今期の生徒会に加わっていただくということでよろしいですね?」

 

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します。」

 

もう一度、今度は軽く頭を下げた深雪に、真由美は満面の笑みで頷いた。

 

「具体的な仕事内容はあーちゃんに聞いてくださいね。」

 

「ですから・・・あーちゃんはやめてくださいと・・・」

 

「もし差し支えなければ、今日の放課後から来ていただいてもいいですか?」

 

そこで、深雪は達也に何か言おうとしたが、達也によってそれは止められ、

 

「分かりました。放課後はこちらにうかがいましたらよろしいでしょうか?」

 

と、肯定することにした。

 

「ところで、なんで俺は呼ばれたんだ?」

 

そこで、佑馬は気になっていたことを切り出すと、

 

「ああ、君と達也君には風紀委員に入って貰う。」

 

「はぁ?」

 

「断る。」

 

その言葉に、達也は間抜けな声を、佑馬は拒否した。

 

「是非とも佑馬君には風紀委員に入って欲しいんだよ。昨日の件を見たときに、適任だと思ったんだ。」

 

「断ります。めんどくさいので、ジブリールと一緒でも嫌です。」

 

「そこまで断られるとかなり傷つくのだが・・・まぁいい、達也君は会長推薦で決定だがな。」

 

指名した張本人の真由美はウンウン、と頷きながらそれを聞いているが、

 

「ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする委員なのかも説明を受けていませんが。」

 

「ジブリール。」

 

「なんでございましょう。」

 

達也も入りたくないのか、必死に言い訳しているところで、佑馬はジブリールに声をかける。

 

「特に面白いこともないし、教室に戻ろう。」

 

「わかりました。」

 

そして、佑馬とジブリールは虚空に溶けるように消えていった。

 

「あのですね!俺は、実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」

 

達也は未だに弁解している。

 

「構わんよ。」

 

「何がですっ?」

 

「力比べなら私がいる・・・っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいの・・・だ・・・が・・・佑馬君と中田さんは何処だ?」

 

気がついたらいなくなっている二人に、一同は疑問を覚える。

 

「誰か扉を開けた音とか聞いた?」

 

「いえ、気がついたらいなくなっていました。」

 

ちなみに、達也と深雪はなんで消えたのかわかっていたが、この場で口にすることは出来ず、そのまま解散となった。

 

そして放課後に達也は佑馬を道連れにしようとしたが、転移でいつの間にか消えていたため、深雪とともに足取り重く、生徒会室へと向かった。




昼休みを昼放課と書きかけた自分は悪くないはず。

方言なんです。
すみません。

方言なのに、中学校まで方言と知らなかったレベルの方言。

というか、話が進まないなぁ。


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部活動勧誘期間

何処に入れましょうか。

あのヘアバンド型CADがやっと使われます。


風紀委員になることを断ったが、あれからも執拗に勧誘してくる摩利と厄介事を押し付けようとする達也に追いかけられながらも、ジブリールとの学校生活を満喫している佑馬。

 

そんな日々が過ぎ、部活動勧誘期間となった。

 

この時期になるとCADの携帯も許可されており、学校は無法地帯となる。

 

佑馬とジブリールはなんだかんだで、美男美女という組み合わせだ。

 

ということはつまり、

 

「・・・こういうことになるんだろうなぁ・・・」

 

佑馬とジブリールの周りには二人の腕を引く生徒や頭を触ったりする生徒で溢れている。

 

佑馬もジブリールも嫌そうにしながらも、だが魔法を使うわけにはいかず強行突破しようかと考えていたその矢先に、

 

・・・一人の男子生徒の手が意識的にジブリールの胸へと向かっていった。

 

囲われているだけならまだマシだったが、さすがにジブリールの胸を他の男に触られるということを佑馬が許すわけもなく、

 

「・・・おい、これ以上は見逃さねぇよ。」

 

「ヒィ!」

 

それだけで人を殺せるのではないか、というくらいの殺気をばらまきながら、その男子生徒の手を掴み、睨む。

 

「黙って見とけば、調子乗ってんじゃねーよ。」

 

その眼に怯えてガクガクと震える男子生徒。

 

どうしてやろうか、と考えていると肩に手をおかれた。

 

「そこまでだ。」

 

「なんだ・・・ああ、達也か。」

 

そこにいたのは、風紀委員として動いている達也だった。

 

「こんな殺気立ってどうしたんだよ。」

 

「いや、この男がどさくさに紛れてジブリールの胸を触ろうとしたから、どうしてやろうか考えていたんだよ。」

 

「そういうことか。」

 

ジブリールにゾッコンの佑馬の前でジブリールの胸を触ったのなら納得できる、というか深雪がやられそうだったら達也もこうなる自信があった。

 

「んー・・・そうだ、達也にこいつ任せるわ。」

 

「・・・そうしてくれるとありがたい。」

 

だんだんめんどくさくなったのか、達也に丸投げした佑馬だが、達也もそっちの方が都合が良いということで震えている男子生徒を部活連本部へと連れていった。

 

「さて・・・これはやりすぎたかな。」

 

「さすがにあの殺気は私でも身構えるものでございましたから・・・。」

 

あんなに殺気を出していたため、みんな怯えて近づくことができず、また怖くて離れることも出来なくなっていため、とる行動は一つしかなかった。

 

「・・・帰るか。」

 

「そうでございますね。」

 

校門に向かって歩みを進め、人気が無くなったところで転移をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佑馬・・・今日は少し相手をしてくれませんか?」

 

帰って早々、ジブリールがそんなことを言った。

 

「勿論、じゃあ行くか。」

 

佑馬ももう慣れたように例の部屋へと向かい、ジブリールもそれにならって付いていく。

 

「さて、今日は何をするんだ?また戦闘か?」

 

最近は魔法での闘いばかりなので、そろそろ飽きも来そうな感じだったのだが、今回は違った。

 

「いえ・・・新しく試してみたいものがございますので。」

 

「ほぅ・・・面白そうだな。」

 

新しいことへの実験。

 

それは、この新しいヘアバンド型CADを作ってから、本格的にやることが出来るようになった。

 

「それでは、行かせていただきます。」

 

肯定の頷きをする佑馬を見て、空中へと上がるジブリール。

 

ヘアバンド型CADに手をかけて、少しだけサイオンを送り、手を上へと翳したジブリール。

 

その手の上からみるみる内に光を放ち始める。

 

(天撃か・・・?)

 

天撃、戦略級魔法で世界で二人しか使えない技。

 

しかし、それは既成の魔法。

 

「ここからがこの魔法の新しいとこでございます。」

 

「・・・何?」

 

だが、今回の天撃は違った。

 

本気の力を使えば、体が縮む代わりに圧倒的な疲労感が襲うようになったジブリール。

 

当然、何回か見たことある佑馬は、その限界値を知っている。

 

しかし、今回の天撃は、はるかにそれを上回る量へとなって、正しくそれは、

 

「・・・『神撃』か・・・。」

 

「その通りでございます。このCADのお陰で、サイオンが枯渇することはないので、『神撃』レベルまで上げることが出来たのでございます。」

 

そう、このヘアバンド型CADには『再生』の魔法式が埋め込まれている。

 

仕組みとしては、

自分のサイオンをCADに流す→CADがそのサイオンからエイドスを読み取り、CAD内にイデアを作る→そのエイドスの持ち主のサイオンが減ったと同時に再生してもとに戻す、身体の損傷も同様に。

と、なっている。

 

「・・・実際に打ってみてくれ。」

 

「はい!」

 

遥か遠くのほうを指差して言う佑馬に、頷き1つ。

 

翳していた腕をそのまま振りかざした。

 

その瞬間。

 

一つの光と凄まじい轟音が辺りを包む。

 

(くっ!まさかここまでとはな・・・。)

 

佑馬ですら立っているのがやっとなほどの爆風が吹き荒れ、だんだんと明瞭になっていく視界に入ったのは・・・

 

この部屋の床が抉れている光景。

 

それはつまり、この部屋の許容量を越えたということ。

 

大陸一つは余裕で消し去るほどの威力の魔法ですらもこの部屋の床に傷をつけたことはない。

 

「地球を余裕でぶっ壊すな、この魔法・・・。」

 

戦略級と括っていいのか、てほどの威力。

 

「はぁ・・・スッキリいたしました。今日はストレスが溜まりに溜まったので、どうしても一発デカイのを打ちたかったのでございます。」

 

「うん、素晴らしいね・・・俺も使ってみるか。」

 

そうして、とにかく『神撃』を打ちまくった佑馬とジブリールは、部屋を穴ぼこにして満足した後に、ジブリールの、

 

「汗ばんできましたし、お風呂入りましょう。」

 

という一言により、風呂に一緒に入る。

 

初めて一緒に入ったときは、赤面してジブリールを満足に見ることが出来なかったが、あれから数十年とたち、見ても赤面することはなくなった。

 

しかし、

 

「私と子作りする気にはなりましたか?」

 

「・・・もう少したったらな・・・。」

 

そっちに関してはかなり奥手の佑馬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から出て、着替えを済ませた後は特にすることもなく、たまには外にでも出掛けよう、ということで出掛けることにした。

 

まずはデパートへ行き、お茶の販売店を探す。

 

ジブリールも佑馬もお茶は好きで、好みの茶葉を見つけるために、図書館同様に茶葉巡りをしていた。

 

「ここからここまでの茶葉を一箱ずつ下さい。」

 

「か、畏まりました・・・」

 

店に売っている茶葉を全て一箱ずつ買いながら、デパートを回る佑馬とジブリール。

 

荷物は邪魔なので、神威で一時的に異次元へと飛ばしている。

 

次に、服を買いに服屋に寄った。

 

あの神が用意した服しかないため、そろそろこの世界の服を持つのもいいかもしれないという判断のためなのだが、

 

「・・・何故にそのチョイス?」

 

「普段の服装にとても似ているからでございます。」

 

ジブリールが持っていたのは全て水着。

 

カラフルだが、それを私服とするのはさすがに出来ない佑馬は、

 

「店員呼ぶか・・・」

 

店員にアドバイスを求めることにした。

 

「あのーすみません。彼女に似合う服を選んで欲しいのですけど・・・」

 

「わかりました・・・こんなのはどうでしょうか?」

 

結局ジブリールは店員と何故か集まってきた女性客の着せ替え人形となり、一時間もかけて漸く服を買ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるカフェで、男女五人構成の高校生集団が、会話に花を咲かせていた。

 

「その桐原って二年生、殺傷性ランクBの魔法を使ってたんだろ?よく怪我しなかったよなぁ。」

 

「致死性がある、と言っても、高周波ブレードは有効範囲の狭い魔法だからな。刃に触れられない、という点を除けば、良く切れる刀と変わらない。それほど対処が難しい魔法じゃないさ。」

 

二人の男子高校生、西城レオンハルトと司波達也。

 

「でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じってことでしょう?危なくなかったんですか?」

 

「大丈夫よ、美月。お兄様なら、心配要らないわ。」

 

「随分余裕ね、深雪?」

 

三人の女子高生、柴田美月、司波深雪、千葉エリカ。

 

今の会話は、今日の部活動勧誘で起きた剣術部と達也についてだ。

 

「確かに、十人以上の乱戦をさばいた達也君の技は見事としか言えないものだったけど、桐原先輩の腕も決してなまくらじゃなかったよ。むしろ、あそこにいた人たちの中では頭一つ抜け出してた。深雪、本当に心配じゃないの?」

 

「ええ。お兄様に勝てる者など佑馬さんとジブリールさんくらいですもん。」

 

その言葉に、一同は、特に剣術部との騒動を見ていたエリカは特に驚きの表情を見せた。

 

「え、何。佑馬君やジブちゃんってそんなに強いの!?」

 

「ええ、日本でも勝てる人は片手あれば足りそうね。」

 

「ああ、あの二人に勝てるやつなんて、本当に片手で数えるだけだろうな。」

 

エリカの質問に、淡々と答える深雪と達也。

 

「達也がそこまで言うのなら、本当に強いんだな・・・そういえば、今日、一部の生徒がしばらく震えが止まらなかったり、泣きじゃくってたことがあったって話を聞いたんだけど、そのことについて達也は何か知っているのか?」

 

「ああ・・・佑馬の殺気にやられた人達だな。」

 

「佑馬君の殺気に?」

 

「ああ、実はな・・・」

 

今日起きたセクハラ未遂の事を話す達也に、一同はまた驚きを示す。

 

「え、殺気だけでそこまで怯えさせるって、本当に佑馬君は人間?」

 

「正直なところ、桐原先輩の高周波ブレードよりも佑馬の殺気の方が危ない・・・というか殺傷ランクAにした方がいいかもしれないな。」

 

真面目な顔でそういう達也に、一同が複雑な顔をしていると、

 

「よぉ、何を殺傷ランクAにするって?」

 

「ッ!?」

 

気配もなしにいきなり話しかけられた達也はバッ!と振り向き、異様な光景を眼にした。

 

「お、深雪にエリカに美月にレオじゃん。こんちゃ。」

 

「「「「・・・」」」」

 

挨拶をしたのに呆然としている他の四人を見て、頭にハテナを浮かべる佑馬。

 

「どうしたの?」

 

「佑馬・・・自分の姿を見てみろ。」

 

そう言って、自分の下半身を見ると、

 

なかった。

 

「ああ、悪い悪い。」

 

そう言いながら、ヨイショ、と出てくる佑馬。

 

「これでよし・・・まだ何かあるのか?」

 

一同がまだ唖然としているなか、

 

「この世界で転移を使えば、不思議がられるのも仕方のないことでございます。」

 

別の空間から現れたジブリールがそう言った。

 

「・・・確かにこれは納得できるわ。」

 

「・・・てか、人間か?」

 

「・・・すごい人たちですね。」

 

「・・・お兄様、今のはわかりましたか?」

 

「・・・いや、原理もわからないし、検討もつかない。」

 

それぞれがそれぞれの感想を溢し、

 

「あ、そういえばそうだったな。まぁ気にすんな。」

 

「そうでございますね。」

 

佑馬はすっかり忘れてた、と言いながらも特に気にすることもなく五人の席へと座り、ジブリールもそれに続いた。

 

「佑馬、また今度家に寄ってくれないか?ジブリールさんも同じでいいから。」

 

「おう!その代わりにあの時のお茶の茶葉が何処に売っているのか教えてくれたらな!」

 

「勿論。」

 

そこでジブリールとハイタッチをする佑馬。

 

そこからは、さっきの転移の話や佑馬、ジブリールの魔法について質問が飛ぶが、教えられる部分だけ教えて後は秘密にした。




というわけで、CADにエイドスを読み取らせ、イデアを作るって直接再生の魔法式を脳に送り、、サイオンを常に再生させる魔法でした。

つまり、佑馬もジブリールもサイオンが一生切れることはありません。

チートでしたかね。


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佑馬の能力

活動報告にて、オリジナル小説のアンケートを行っております。
是非ともご意見を。

追記
諸事情により、大変勝手ながら中止となりました。
意見をくださった方、誠に申し訳ございません。


それから一週間。

 

初日のことがあってから誰も佑馬とジブリールを勧誘しなくなった、否、勧誘したくても出来なかった。

 

佑馬とジブリールにはそれは有り難いことで、いつも通りのんびりと過ごし、部活動勧誘期間は終了した。

 

そして現在、佑馬とジブリールは司波家のソファーに座っている。

 

「さて、今日は佑馬とジブリールさんに技術者として聞きたいことがある。」

 

対面しているのは、当たり前だが達也と深雪だ。

 

「いいけど、先にこの茶葉を教えてくれ!」

 

花より団子ならぬ、花よりお茶と言っても過言ではないほどお茶にハマっている佑馬。

 

「この茶葉はこの店のものですよ。」

 

「おお、こんなとこに店があったのか!ジブリール!」

 

「了解でございます!」

 

深雪から貰った地図を見て、佑馬がジブリールを呼んだ瞬間に、転移していくジブリール。

 

その光景を見て、驚く達也。

 

「・・・一体何をしにいったんだ?」

 

「その店に向かわせた。茶葉買って家に持って帰ったら戻ってくると思うよ・・・と、それで、内容は予想つくけど何が聞きたい?」

 

「聞きたいことなんだが、まず、今ジブリールさんが使った転移魔法の仕組みと飛べる範囲を教えてほしい。」

 

「そうだな、まず飛べる範囲だが、視界内なら何処へでも、一度行った場所なら何度でも無制限に行けるぞ。」

 

「「・・・え?」」

 

その、あまりにも規格外に凄まじいほどの性能を誇る魔法に、驚きを隠せない達也と深雪。

 

「仕組みについてだが・・・達也、今のやつ何処まで見えた?」

 

「・・・見えた?」

 

今度は深雪だけが疑問の表情を浮かべる。

 

「ああ、凄まじいサイオンと空間に何か穴のようなものが空いたのを確認した。」

 

「そこまで見えていればいいな。これは、サイオンで空間に直接干渉して穴を開ける。後は行きたい場所の風景を思い浮かべるだけで俺とジブリールは飛べるんだが、それを達也や深雪が出来るか、と言われれば、否、だろうな。」

 

「そうか・・・なるほど、佑馬は三年前よりも沖縄に行っていたから沖縄にくることが・・・」

 

「それは違うぞ。」

 

あの時すぐ沖縄に飛べた理由に納得しかけた達也に、否定の言葉がかかる。

 

「俺のサイオン保持量はまさに規格外でな。日本全土を覆うことは出来るんだよ。」

 

「「・・・え?」」

 

そして、またしても驚きの声が。

 

「まぁ、俺のサイオンが及ぶ範囲には俺は一度も行ったことがなくても飛べるんだよ。」

 

「・・・佑馬、一つ言っていいか?」

 

「私からも一つだけ・・・。」

 

二人からの言葉に疑問を持ちながらも肯定の頷きを返すと、

 

「「お前達(貴方達)は人間か(ですか)?」」

 

全く同じ内容の言葉が返ってきた。

 

その言葉に佑馬は

 

「安心しろ。人間だ。」

 

と、口を吊り上げながら答えた。

 

「・・・それは置いておこう、次だ。」

 

「あ、ちょい待ち。」

 

次に進もうとしたときに、待ったがかかる。

 

「どうかしたか?」

 

「いや、もうすぐ・・・」

 

「今戻りました。」

 

「ジブリールが戻るって言おうとしたんだけど、もう戻ってきたから続きをどうぞ。」

 

もう帰って来たジブリールだが、そろそろ慣れてきたのか達也もそのまま続ける。

 

「今着けているヘアバンドなんだが、学校で着けてなくて帰りだけ着けているってことは、CADだよな?どんなCADなのか出来れば見せてもらいたいのだが。」

 

「ああ、これね。まぁ、見てみなよ。」

 

頭から外し、達也にヘアバンド型CADを渡す。

 

「・・・少し崩してもいいか?」

 

「問題ないよ。」

 

許可を貰ったことで、分解を始めるが、しばらくすると驚きの表情に変わる。

 

「これは・・・まさか・・・いや、そんなはずは・・・。」

 

「お兄様、どうかされましたか?」

 

達也の今までに見たことがないような驚きように、深雪が心配そうに見つめる。

 

「・・・『再生』の魔法式が埋め込まれている。しかも、俺と全く同じ奴のだ。」

 

「それは本当ですか!?」

 

達也の答えは、深雪を立ち上がらせるほど驚く内容だった。

 

「佑馬、これはどういうことだ?」

 

「俺さ、一回沖縄で達也が桜井穂波に使った『再生』を見てるじゃん?あれをそのまま埋め込んだだけ。」

 

「・・・あの時か、いや、でもどうやってその魔法式を確認したんだ?」

 

「俺にも特殊な眼があってね。それは置いといて、『再生』は固有魔法だから、俺にはサイオンの無駄遣いが激しいんだよね。だがら、別のものを『再生』することにした。」

 

「その、別のこととはなんでしょうか?」

 

「サイオンを『再生』することでございますよ。」

 

ジブリールの言った言葉に、達也と深雪は本日何度目かの驚きの表情を見せる。

 

「そのCADな、脳に直接干渉するCADなんだよ。百聞は一見にしかず、使ってみなよ。」

 

「それはありがたいが、どうやるんだ?」

 

「まず、頭につけたそのCADにサイオンを少しだけ流す。」

 

その指示通り、サイオンを流し込む達也。

 

「あとは勝手にCADがやってくれるから。そうだな、この石に分解使えばわかると思うよ。」

 

「・・・あまり見せていいものではないのだがな・・・。」

 

いつの間にか持ってきた石を見ながら、渋々だが、何処か期待を抑えられないような表情で手を翳す達也。

 

手から魔法式が展開され、石が消えたと同時に、

 

「これは・・・!本当にサイオンが回復している。」

 

本当にサイオンが回復していることに、声を上げる達也。

 

「まぁ、仕組みは達也ならわかっただろ?」

 

「ああ、分かったは分かったが・・・佑馬。これ以上このCADを作らない方がいい。」

 

サイオンが回復したときはビックリした表情だったが、今は複雑な表情をしている。

 

「これが出回ったら、この世界がどうなるのかもわからない。」

 

「分かってる、俺とジブリールしか使わないよ。」

 

「・・・少しだけ俺もその技術を使わせてくれないか?変なことには使わない。」

 

「ははは、勿論だ。」

 

分かってはいても、このCADの技術の高さを見てこう言った達也は、やはり技術者だった。

 

「じゃあ、最後に。佑馬の眼の能力はなんだ?」

 

「俺の眼は、サイオンや精霊、プシオンが見えて、固有魔法も使えるが・・・魔法については後のお楽しみということで。一つ言えるのは、この眼のおかげでフラッシュキャストも使えるということだ。」

 

「とてつもないんだが、なんとか理解した。俺からは以上だ。」

 

「なら、私からジブリールさんに。」

 

「私でございますか?」

 

深雪からの突然の指名に、ハテナを浮かべるジブリール。

 

「ジブリールさん、貴女のことを呼び捨てしてもよろしいですか?」

 

「よろしゅうございますよ。勿論、達也さんも。」

 

「ありがとう、ジブリール。」

 

「ありがとう・・・というか、エリカは『ジブちゃん』とか呼んでたような気がするんだが。」

 

その達也の一言に、ジブリールはピクッと反応して、佑馬は微かに笑っていた。

 

「何か変なこと言ったか?」

 

「いえ、私の姉もそのような呼び方をしていたものでございますから。」

 

「姉?お姉さんがいるんですか?」

 

「ああ、まぁ、いたが正しいけどね。」

 

間違ってはいない。

 

この世界にジブリールの姉、アズリールはいない。

 

この世界では、家族は事故死になっているらしいが。

 

「あ・・・すみません。」

 

「気にすんなって。」

 

「謝るほどのことでもございません。」

 

察したのか、深雪が慌てて謝るも、別に気にする必要もない佑馬とジブリールは笑って答える。

 

「終わったならここいらで解散か?」

 

「そうだな・・・ご飯はどうするんだ?」

 

ふと外を見ていると、もう既に暗闇が辺りを覆っていた。

 

「帰ってから作ろうかなーと思っている。」

 

「それなら食べていかないか?」

 

「それはありがたいんだが・・・深雪はいいのか?」

 

「勿論です。」

 

「ジブリールもそれでいいか?」

 

「佑馬がいいなら。」

 

「なら、よろしく頼む。俺も何か手伝わせてくれ。」

 

「じゃあ、お願いしますね。」

 

そのまま台所へと向かっていく深雪と佑馬。

 

達也とジブリールはソファーに座ってお茶を飲んで出来るのを待っていた。

 

その後、食べ終わったときにそのまま泊まって行かないか?という話になり、寝具と着替えを家から持ってきた佑馬とジブリールは、そのまま司波家に泊まった。

 

ジブリールは深雪の部屋で共に所謂ガールズトークを、佑馬は達也の部屋で現在製作中だという飛行魔法のデバイスを見せて貰い、いろいろと試行錯誤しながら、夜を過ごした。




空間転移の理論は独自解釈とご都合主義です。

よく確認してみると、最強ではないにしろチートですね。


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魔法実習

遅くなって申し訳ありません。
今日からまた更新速度は戻させていただきます。


部活動勧誘期間も終わり、佑馬たちのクラスでもいよいよ魔法の実習が本格化した。

 

魔法実習自体は初めての佑馬とジブリールだが、いまさらそれくらいで躓くわけもなく、実戦でも使いこなせているため、授業内容分はすぐクリアしてしまう。

 

そのため……

 

「佑馬、今度はどうやってみたらいい?」

 

「もう少し背筋を伸ばせ。」

 

「わかった!」

 

「ジブリールさん、今みたいな感じでいいかしら?」

 

「そうでございますね。後はその形に慣れれば自ずと出来ると思います。」

 

先生のいない二科生にとって、先生の代役として重宝されていた。

 

今回の課題は単一系統、単一工程の魔法を高速化支援の機能が全く無い、ある意味原点なCADを使って、コンパイルというものを高速化を練習することだ。

 

男子は佑馬、女子はジブリールと集まっていくなか、別の場所ではある四人組がいた。

 

「940ms(ミリ秒)。達也さん、クリアです!」

 

「やれやれ……三回目でようやくクリアか。」

 

達也と美月のペア。

 

そして、エリカとレオのペアだ。

 

そこから少しして、授業は終わったのだが。

 

「なぁ、もっと早くやるやり方を教えてくれ!」

 

「ジブリールさん、もうちょっと早く出来そうかな!?」

 

「あ、ちょーっといいかな。君たちよりも出来なさそうな二人があそこにいるからいってくる。」

 

昼休みになっても、クリアしてからもっと早くしたいという気持ちからか、一向に人数が減らないためジブリールと視線で合図して、エリカとレオの方に教えにいった(逃げた)。

 

「よぉ、レオとエリカ……ってどうした?」

 

「「……どうせ俺ら(私たち)は出来る目星もない落ちこぼれですよ……。」」

 

「それ、自分で言ってて悲しくない?」

 

「「とても悲しいです……。」」

 

今度は、妙に意気があっている二人と、達也、美月をいれた六人でやることになった。

 

「ふむ……1060msか……達也、どう思う?」

 

「そうだな。照準の設定に時間を掛けすぎていると思う。こういうのはピンポイントに座標を絞る必要はないからな。」

 

「分かっちゃいるんだけどよ……」

 

さっきの言動から、弱音を隠すことが無くなったレオに、達也は同情しながら頷いた。

 

「まぁ、そうだろうけどな……。仕方がない。裏技になるが、先に標準を」

 

「待った、達也。」

 

裏技をレオに教えようとしたところで、佑馬からストップがかかる。

 

「それだと応用がきかないし、今回の目的を達成したことにはならない。」

 

「それはそうだが……。」

 

「と、いうわけで!」

 

そのままレオの背中に手を当てる佑馬。

 

「ん……どうしたんだ?」

 

「まぁ見てろって。」

 

そのまま手を背中に当てて目を瞑る佑馬。

 

その様子にレオと達也、ジブリールと美月とエリカまで見守っている。

 

その目が、カッ!と、見開いた瞬間。

 

「うぉ!なんだこれ!」

 

「……何?」

 

「……そんな……。」

 

その不可解な現象に、レオは驚き、達也と美月は目を疑った。

 

「え、何、どうしたの?」

 

唯一何が起きたか分からないエリカに、達也が説明をする。

 

「……レオのサイオンがさっきよりも増えているんだ……。」

 

「え!何それ!」

 

「いや、増えているだけじゃないぜ!今なら簡単に発動出来る気がするんだよ!」

 

「まぁ、そうなるようにしたからな。」

 

レオはその勢いのまま、CADに両手をかざしてサイオンを流し込んだ。

 

「……438ms……。」

 

「「……え?」」

 

単一系統、単一工程の魔法であれば、500ms以内が魔法師として一人前と呼べる目安となっている。

 

つまり、今回の結果は。

 

「……一科生レベルだな。佑馬、何をしたんだ?」

 

達也の声に、レオをそこまでのレベルに上げた張本人、佑馬に視線が集まる。

 

「何って、簡単なことだよ。俺のサイオンをレオにとって一番使いやすいサイオンに変換して流し込んだ。後はそのサイオンに影響されてレオのサイオンが勝手に使いやすいものになるってだけだよ。」

 

「いや、サイオンを変換するってこと自体がおかしいから。」

 

「まぁ、百聞は一見にしかず。レオ、もっかいやってみな。」

 

「ああ、わかった。」

 

再びCADに両手をかざして、サイオンを流し込むレオ。

 

「937msだ。」

 

「と、いうわけだ。」

 

二回目の結果であっという間に二科生レベルに下がったが、レオは不思議そうな表情をしている。

 

「今のも佑馬のサイオンを使ったのか?」

 

「いや?今のはレオのサイオンのみだよ。一回やり方さえわかれば、レオもこうやって出来るってこと。頭では覚えてるってやつだよ。」

 

「……なるほど、そういうことか。」

 

行われた目の前の現象に、目を疑うしかない美月とエリカ。

 

達也とレオは納得したような表情をしている。

 

「え、じゃあさ!私もそれでやってよ!」

 

「そうだな……ジブリールは今の出来ないから、俺がやることになるんだが……問題ないか?」

 

エリカは女子、佑馬は男子、そこらへんの気遣いはちゃんと出来ている佑馬だが、

 

「そんなの気にしないから!早く早く!」

 

エリカに限って、そんなことは必要なかった。

 

「おっけー、じゃあちょいまってろ。」

 

再び背中に手を当てて、目を閉じる佑馬。

 

「……あれ?」

 

美月が何かに気がついたように佑馬を見た。

 

そして、カッ!と目を見開いた佑馬に連動するかのように、

 

「わ!何これ!すごい!」

 

エリカが驚きの声を上げる。

 

「佑馬さん、今の眼はいったい……。」

 

「お、美月は気づいたか。」

 

佑馬の眼の異常性に気がついた美月に、レオはと達也は佑馬の方へ気を向けるが、エリカはCADに手をかざしてサイオンを流し始めた。

 

「……409ms……。」

 

一端その話はおかれ、エリカの記録が読まれる。

 

「やた!こいつに勝った!」

 

嬉しそうにはしゃぐエリカに、グッと悔しそうな表情をするレオ。

 

「よし、エリカ。もう一回やってみろ。」

 

「うん!」

 

佑馬の言葉に、ウキウキと再びCADにサイオンを流すエリカ。

 

「あれ?984ms。早くはなったけど……。」

 

「え!こいつに負けたの!?」

 

「はっはー!残念だったな!」

 

二回目の結果でレオに負けたことにかなりのショックを受けるエリカ、さっきとは対照的な画になったが、援護は別の場所からとんできた。

 

「エリカ。起動式を読み込むとき、パネルの上で右手と左手を重ねてみてくれないか?」

 

「えっ?」

 

それは、達也からだった。

 

その言葉に、エリカはポカンとした表情をしている。

 

「いや、なんとなくだ。確信があるわけじゃないが、上手くいったら説明するよ。」

 

「う、うん……やってみる。」

 

どういうことかわからない表情で、言われた通りに手を翳してサイオンを流し込む。

 

「892ms!すごい!」

 

100ms近く縮めたという事実に、美月は驚きを隠せず、エリカとレオもビックリしている中、遠慮がちの声がかけられた。

 

「なにやら盛り上がっているようですが……お兄様、お邪魔してもよろしいですか?」

 

声の主は深雪。

 

だが、足音は一つだけではなく。

 

「深雪、……と、光井さんと北山さんだっけ?」

 

深雪のクラスメイト、光井ほのかと北山雫が入ってきた。

 

「二人とも、お疲れ様。お兄様、ご注文のとおり揃えて参りましたが……足りないのではないでしょうか?」

 

エリカとレオを労ってから、そう問いかけた深雪に、達也は首を横に振った。

 

「いや、もうあまり時間も無いことだし、これくらいが適量だろう。深雪、ご苦労様。光井さんと北山さんもありがとう。手伝わせて悪かったね。」

 

「いえ、この程度のこと、何でもないです!」

 

「大丈夫。私はこれでも力持ち。」

 

達也の労いの言葉に、ほのかは変に意気込んで、雫は本気か冗談かわからない答えをした。

 

達也はもう一度礼を言ってから、深雪を含めた三人からビニール袋を受け取った。

 

「ほら。」

 

そして、そのままエリカとレオに差し出す。

 

「なぁに?」

 

「サンドイッチ……か?」

 

袋の中身は購買で売っているサンドイッチと飲み物だった。

 

「食堂で食べてると午後の授業に間に合わなくなるかもしれないからな。」

 

そう言いながら、達也は深雪から弁当箱を受け取っていた。

 

「ジブリール。俺たちもご飯にするか。」

 

「はい♪」

 

何処から出したのか、佑馬はいつの間にか弁当箱を二つ持っていた。

 

「ありがとー。もうお腹がペコペコだったのよ!」

 

「達也、お前って最高だぜ!」

 

そして、始まった昼食タイム。

 

「何これ!すごい美味しい!これ全部佑馬くんが作ったの!?」

 

「ああ、中々だろ?」

 

「中々っていうより、プロだぜこれは!」

 

サンドイッチだけでは、と佑馬がおかずを分けたのだが、それが予想以上に好評だった。

 

深雪たち差入組も、飲み物だけ持って、その輪に加わった。

 

「佑馬さんは本当に料理が上手ですからね。」

 

「へぇ、そうなんだ。あ、私は北山雫。こっちが光井ほのか。よろしく。」

 

「おう、俺は中田 佑馬。こっちがジブリールだ。よろしくな。」

 

そこから暫くは雑談が続くが、そういえば、とエリカから声があがった。

 

「さっきの種明かしを聞いてないんだけど、何で手を重ねて置いただけで、あんなにタイムが上がったの?」

 

「なに、単純なことだ。エリカは片手で握るスタイルのCADに慣れている。だから」

 

そこからはさっきの種明かし。

 

エリカは普段片手でCADを使うから、手を翳して片手にサイオンを集中させた結果、早くなったというもの。

 

「それで両手を重ねて、接点を片手にしたんですね……」

 

美月が感嘆を漏らしたが、同じような表情を浮かべているのは彼女だけではなかった。

 

「あ、そうだ。A組の授業でも、これと同じCAD を使ってるんでしょ?」

 

「ええ。」

 

頷きながらも、嫌悪感を隠そうとしない深雪に、エリカは好奇心をかき立てられた。

 

「ねぇ、参考までに、どのくらいのタイムかやってみてくれない?」

 

「えっ、わたしが?」

 

自分を指差し、目を丸くする深雪に、エリカはわざとらしく、大きく、頷いた。

 

達也に目で問いかける深雪。

 

「いいんじゃないか?」

 

「お兄様がそう仰るのでしたら……。」

 

達也から許可も出たので、深雪は躊躇いがちながら、承諾の応えを返した。

 

機械の一番近くにいた美月が、計測器をセットする。

 

深雪はピアノを弾くときのように、パネルに指を置いた。

 

計測、開始。

 

サイオンが閃き、美月の顔が強張る。

 

いつまで経っても結果を告げない友人に焦れたのか、エリカが結果発表を催促した。

 

「……235ms……。」

 

「えっ……?」

 

「すげ……。」

 

そして、その強張りが伝搬していく。

 

「何回聞いてもすごい数値よね……。」

 

「深雪の処理能力は、人間の反応速度の限界に迫っている……っと、人間といえば佑馬とジブリールさんはどうなんだ?」

 

「なんで人間といえば俺達になるのかわからんが、気になるか?」

 

「そういえば、列が出来てるのは見たけど、実際の数値は見てないね。」

 

達也からの理不尽なパスに、エリカとレオも頷く。

 

「あ、私も気になります。」

 

深雪も気になるらしいので、やることになった。

 

「わかった。まずジブリールからね。」

 

「私からですか?」

 

「そ、ジブリールから。」

 

「わかりました。本気でやらせていただきます。」

 

そう言って、パネルの前にたつジブリール。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、部屋全体をサイオンが覆った。

 

「……84ms……。」

 

「は……?」

 

「マジで……?」

 

「ここまで行きますか……。」

 

言われた数値に、ほぼ全員が固まる。

 

「やっぱり人間じゃないな。」

 

「俺まだやってないのに人外認定は大変失礼だな。」

 

「いや、既にわかっていることだろ。」

 

達也と佑馬、深雪以外の全員が。

 

「それじゃあ、俺もやりますかねぇ。」

 

そして、佑馬もパネルの前に立った。

 

グーッと背伸びをして、

 

「さて、やりますか。」

 

と、一言呟いた瞬間に、また部屋全体をサイオンが覆った。

 

「……59ms……」

 

「……」

 

ここまでくると、もはや全員が無言。

 

呆れるしかないほどの記録を叩き出した佑馬。

 

「なんで佑馬さんとジブリールさんは二科生なんでしょうか。」

 

ほのかが当然のことを達也に聞いた。

 

「二科生の方が楽しいからだそうだよ。」

 

が、返ってきたのは当然じゃない答え。

 

「むぅ……佑馬に負けてしまいましたか。」

 

「はっはっは。前までならジブリールの方が上だったけど、今は俺の方が上になったというだけだよ。」

 

「次は必ず勝たせていただきます。」

 

「おう、勝ってみな。」

 

二人の楽しそうな会話を聞きながら、ここにいた一同は全員思った。

 

((この二人、本当に人間なのか?)))




佑馬君は先生としても優秀なようです。

タイム=強さというわけではありません。

空間転移の処理速度のラインを100msと設定しています。


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有志同盟

一言だけ。
すみませんでした。


それからしばらくは教師代わりとしてクラス全員を教えるはめになった佑馬とジブリール。

 

二科生に教員はいないのだが、ある意味では教員よりも優秀な二人なので、みんな熱心に二人の授業を聞いている。

 

「なんかさ、佑馬達ってなんで高校にいるのか分からなくなるよな。」

 

「ああ、全くの同感だ。」

 

二人の授業を聞きながら小声で会話をするレオと達也。

 

「まぁ、俺としてはここまでわかりやすい授業をしてくれるとは思ってなかったし、こんな授業受けれるとも思ってなかったから、とても有りがたいんだけどな。」

 

「ああ、どうやったらあそこまで知識をつけられるのかわからんが、わかりやすい授業をしてもらえるのはこっちとしても助かる。」

 

「はいそこ!私語はほどほどに!」

 

レオと達也の会話を聞いて、佑馬が注意をする。

 

「いや、耳良すぎだろ。」

 

そして、思わずでたレオのぼやきに対しても。

 

「……いや、今のも聞こえているのかよ。」

 

グッ!と親指を建ててサムズアップする佑馬に、レオは思わずため息を吐いたのだった。

 

◆◆◆

 

それから数日。

 

一年生の間で佑馬とジブリールの授業が話題となり、教員までもが見学に来るようになっていた。

 

そのため、一科生の授業で教員がいないことも少なくなくなり、一科生の不満は溜まるばかりだが。

 

「よし、今日はここまで!解散!」

 

そんなことも露知らず、佑馬とジブリールは今日も授業をしていた。

 

二科生全員と教員に。

 

「ここまでくるとさ、呆れるしかないよねー。」

 

「本当ですね……佑馬さんもジブリールさんも、本当にすごいです。」

 

皆がそれぞれの場所に戻っていくなか、エリカと美月、レオ、達也はある一角に集まって話していた。

 

「でも、教員が来るのも納得できるほど素晴らしい授業だからな。」

 

「なんか、次のテストは良い点数取れる気がしてきたぜ!」

 

達也は眼を瞑りながら、レオはその達也の言葉に頷く形で言ったが。

 

「アンタじゃ無理よ。頭より筋肉でしょ?」

 

「何を!」

 

結局いつも通りの戯れを始めるエリカとレオ。

 

その楽しくも賑やかな空間に。

 

「おうおう、楽しそうだな。」

 

佑馬とジブリールがきた。

 

「あ、佑馬君!今日もお疲れ!」

 

「お疲れさまです。」

 

「おう、正直ここまで反響を呼ぶとは思ってなかったぜ。」

 

エリカと美月の労いの言葉を受け止め、やれやれと言いたそうなポーズで言う佑馬。

 

「でも、楽しいではございませんか。教えると言うのもまた、私たちの知識としてしっかりと蓄えられるものでございますよ?」

 

「まぁ、そうだな。」

 

佑馬は、横でジブリールが笑みを浮かべながらそう言ったのを見て、口元を緩めながらそう言った。

 

「さて、あと少し頑張りますか。」

 

◆◆◆

 

それから数日後、佑馬とジブリールは職員室にいた。

 

授業を早めに切り上げて自習にし、二人は一年生の教員達と話し合いをしている。

 

「さて、今日ここに呼んだ理由はわかりますか?」

 

女の先生が、そう質問してくる。

 

「あー、はい。一科生二科生のことと、自分達のことですよね。」

 

「わかってるなら話が早いですね。」

 

安定とも言える読心術でさらりと答えを導きだした佑馬。

 

「わかっていると思いますし、こちらに非があることなのですが、貴方達の授業を見たくて教師が度々抜けることがあるために、一科生の不満が募っています。」

 

「それで?」

 

「放課後、貴方達の授業を私たちにもお願いします。」

 

「……は?」

 

「ですから、放課後に貴方達の授業を私たちにもお願いします。」

 

聞かされたのは、非常識で、驚きに満ちたもので、ジブリールもそうだったようで。

 

「説明を求めてもよろしいでしょうか?」

 

と、質問した。

 

「貴方達の授業は、誰から見ても私たちが行うものよりも遥かに質が良く、私たちですら学ぶことがあるものです。教師という立場で新しい切り口を見つけられず、ただ教えているだけの人にとってこれほど魅力のある授業はありません。しかし、一科生の授業もしなくてはいけない。というわけで、放課後に私たちにも授業をしてくれれば、というわけです。」

 

「なるほど。私は構いませんよ。」

 

「俺もいいよ。」

 

「ありがとうございます。それで、残りのしつも」

 

その時、その声は大音量で突然学校に響いた。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

「うわ、うるさっ。」

 

あまりの大きさに思わずそう溢した佑馬。

 

ジブリールは顔をしかめてスピーカーをみている。

 

職員室の全員が一斉にスピーカーを見ていた。

 

『失礼しました。全校生徒の皆さん!』

 

今度はちゃんと音量調整をして、少し決まりの悪げに、同じセリフが流れた。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。』

 

「おい!この放送を早く止めろ!」

 

職員室内は、今の現状を把握して一人の男性教師が叫んでから、だんだんと騒がしくなっていくなか。

 

「失礼します。三年の七草です。」

 

生徒会長の真由美が職員室へとやってきた。

 

「あら、佑馬くん、ジブリールさん。こんにちは。」

 

「あ、どうも。」

 

「こんにちは。」

 

職員室に入って辺りを見回して、佑馬とジブリールを見つけてよっていく真由美。

 

「本当は少し話したいことがあるんだけど、それはまた今度、ゆっくりと。」

 

「……時間さえあれば。」

 

よし、と頷いてから先生達に向かって、こう言った。

 

「今回のこの件は、私たち生徒会に預からせて貰えないでしょうか。」

 

「……わかった。頼んだよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

ある一人の先生が許可を出すと、そのままお辞儀をして職員室を出ようとして。

 

「あ、佑馬くん、ジブリールさん。今度生徒会室に寄ってね。」

 

ウインクをして、出ていった。

 

「……どうする?ジブリール。」

 

「そうでございますね。私としては是非とも何をしているのか知りたいのですが……」

 

「だよなー。よし、行くか!」

 

「はい♪」

 

そのまま職員室を後にして、放送室へと向かったが既に事後で、これから生徒会室で話し合いが行われるということ以外は確認することができなかった。

 

◆◆◆

 

翌日、学校に登校したら、明日有志同盟と討論会を行うことがわかったが、だからといって何かするということもなく、いつも通り授業を始めた。

 

そのまま放課後となり、職員室へと向かう。

 

「失礼します。1-E中田 佑馬です。」

 

「中田 ジブリールです。」

 

「よくきたね。それじゃあさっそく、お願いしようか。」

 

入って早々、職員室の一角にできたスペースに連れていかれて、そこには数十人の教員が座っていた。

 

「それじゃ、授業を始めます。」

 

その一言により、生徒が教員に教えるという異例の授業が始まった。

 

◆◆◆

 

授業も滞りなく終わり、参加した教員全員からお礼の言葉を貰って職員室を後にしようとしたとき、その人達は現れた。

 

「佑馬君、ジブリールさん、授業お疲れ様。」

 

「いえ……それで、どうしたんですか?七草先輩、渡辺先輩。」

 

そこにいたのは、生徒会長の七草 真由美と風紀委員長の渡辺 摩利だった。

 

「いや、明日の討論会でちょっと気になることがあってな……それにあたって佑馬君達の協力を仰ぎたくって待たせてもらっていたのだが。」

 

「討論会ね……気になることとはブランシュのことですか。」

 

「貴方といい達也君といい、今年の一年生は本当に何者なのかしら……」

 

ブランシュ、という言葉に摩利は驚いた顔をして、真由美は困ったような表情を浮かべながら呟いた。

 

「わかっているなら話は早い。頼めるか?」

 

「自分はいいですが……ジブリールはどうしたい?」

 

そこで、隣でずっと話を聞いているジブリールに話題を振る。

 

「そうでございますね……」

 

話題を振られても何をどうする、とまでは言われていないため、判断を迷っているジブリール。

 

そこで、佑馬はそっと耳に口を近づけて。

 

(明日、討論会は荒れるよ?)

 

と、言った。

 

その言葉に、ニヤっとした表情を浮かべ。

 

「わかりました。お受け致します。」

 

と、答えた。

 

「なんか魅せつけられたような気分ね……でも、ありがとう。」

 

「助かる。詳しい話は明日するから、出来ればアドレスを教えて欲しいのだが……。」

 

真由美はまた別の意味で困ったように、摩利はフッと笑みを浮かべながらそう言った。

 

「ああ、それなら……ちょっと背中に手を当ててもいいですか?渡辺先輩。」

 

「え?あ、別に構わないが……何をするんだ?」

 

許可も降りたことで、摩利の背中に手を当てる佑馬。

 

佑馬の身体からサイオンが光り、摩利の周りを包み込み、そして摩利の身体の中へと消えていった。

 

「今のは一体……。」

 

「自分のサイオンを流し込みました。心のなかで何か言ってみてください。」

 

「ああ……わかった。」

 

何がなんだかわからないまま、言われた通りに心の中で言ってみることにした。

 

(右手を上げて左手を腰に。)

 

そう心の中で言うと、佑馬はその通りに動いた。

 

まさかとは思ったが、少し意地悪をしようとニヤッと笑みを浮かべながら、摩利は再び心の中で言った。

 

(ジブリールさんにキスしなさい。)

 

そういうと、躊躇いもなく、ジブリールの口にキスをする佑馬。

 

真由美はその光景に顔を赤くして両手で顔を覆いながらも手の間からその光景を見ていて、ジブリールは最初は驚きながらも、それを受け入れた。

 

「……これはどういう原理だ?」

 

「そうですね、自分のサイオンを渡辺先輩の身体に流し込んで、その心をサイオンづてに伝達してくれる……じゃ、分かりづらいですよね。」

 

口付けをやめて、摩利の質問に困ったように答える佑馬。

 

「ああ、分かりづらいな。」

 

「なんと言えばいいですかね……渡辺先輩の心の中に自分の分身を送り込んだ……みたいな感じでしょうか。」

 

「なるほど……。」

 

つまりは、心のなかで呼べばいつでも話しかけることが出来るということだ。

 

(しかし、理論も出来てこんな魔法も使えるのに何故二科生なのかがよくわからんな。)

 

「そこらへんはまた後日。」

 

「……盗み聞きはよくないな。」

 

「聞こえてしまうものでして……少し調整します。」

 

そう言ってまた摩利の背中に手を当てる佑馬。

 

「で、今度は何をしたんだ?」

 

「自分の名前を呼んでからその後の一文のみを自分に届くようにしました。」

 

「佑馬君……貴方って本当に何者?」

 

「さぁ……人間なのは確かです。」

 

真由美の質問に含みのある笑みを浮かべながら答えた佑馬に、諦めたような表情を浮かべ、その場を後にした真由美と摩利。

 

「よし、帰るか。」

 

「わかりました。」

 

その夜、摩利からイタズラ電話ならぬイタズラ心話をされ、仕返しとして摩利の彼氏を公表すると言ったらすごい勢いで謝られたのは別の話。




久しぶりに使う中田 ジブリール。
違和感はしっかりとログインしていますね。

ジブリールって、基本隣で静かに話を聞いていますよね。


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ブランシュ襲撃

みなさん、リゼロにジブリール来て欲しいんですね……。

ヒロインいないのは確かにきついものもあるし……。

プロット練り直すか……。

一応活動でアンケート取りますね。


(佑馬君、講堂の舞台袖に来てくれないか。)

 

「と、呼ばれたので来てみました。」

 

「はやっ!?」

 

公開討論当日、心話によって呼び出された佑馬はジブリールとともに転移で摩利の後ろに移動してきた。

 

「いつからいた……と聞いても良いかな?」

 

「呼ばれたときです。」

 

「どうやってきたんだ?まさか瞬間移動とかいわな」

 

「瞬間移動であってます。」

 

そのまさかを即答で答えた佑馬に。

 

「……うん、もう慣れたよ……。」

 

諦め気味にそういう摩利。

 

切り替えるように、今度は風紀委員長として切り出す。

 

「さて、今回呼び出したのは校内の巡回をしてもらうためだが、討論会を見たいと思っていたりするのか?」

 

「ありません。」

 

一応討論会に興味があるかどうかを確認して、やっぱりな、という表情をして、佑馬とジブリールに指示を出す。

 

「ならば校内の巡回を頼む。この討論会の裏で何をやっているのかわからないからな。」

 

「わかりました。」

 

「それでは頼む。連絡はいつも通り心から言うが……そっちからも話せるなら最初から言ってくれても良かったじゃないか……お陰で酷い目にあいかけたぞ。」

 

そういえば、と思い出したように、そして、嫌なことを思い出すように言う摩利に。

 

「聞かれなかったので。でも、自分があの時確認を取らずにバラしていたら、既に酷い目にあってますよ。」

 

「はは……否定できないな……。」

 

確認をしなかったほうが悪い、とバッサリ切られ、さらに善意で言わなかった、とまで言われた摩利にもはや言う言葉はなく。

 

「気を取り直して、頼んだぞ。」

 

「了解。」

 

その言葉とともに、二人は虚空に溶けるように消えた。

 

「……本当に出来るんだな……。」

 

◆◆◆

 

「さて、確実に襲撃は来るんだけど、出来るだけ捕獲魔法を使おうと思う。」

 

「襲撃がくるのですか!わかりました……が、出来るだけでございますよね?」

 

「ああ、出来るだけだが、生徒は絶対だ。」

 

校内をブラブラと歩きながら、襲撃されることを知っている佑馬はジブリールと計画を立てる。

 

気持ち、というか明らかに楽しそうな表情を浮かべたジブリールを微笑を浮かべながら見て、しっかりと確認を取る。

 

「今回、生徒はどちらかといえば被害者側だ。捕獲魔法だけで十分だ。後は出来るだけと言ったが、任せる。」

 

「わかりました♪」

 

話すことも終わったので、のんびりと校内を巡回するも、さすがにまだ動きを見せない襲撃犯。

 

「まぁ、視えてるんだけどね。」

 

だが、佑馬は実技棟にいる怪しい人影を見据え、口を吊り上げて時が来るのを待った。

 

……巡回をしてるのにそれを見逃す佑馬を職務怠慢で訴えるものは誰もいない。

 

◆◆◆

 

校内を巡回という名目でブラブラしている佑馬とジブリールだが、実技棟から爆発音が鳴り響いた。

 

「よーし、ジブリール手加減してこいよ?」

 

「勿論でございます。」

 

軽く一礼して何処かに転移していったジブリール。

 

「さて、実技棟に向かいますか。確かレオとエリカがいたっけ。」

 

さっき眼で確認していた佑馬はレオとエリカがいたのを視ていた。

 

そして現在、応戦しているのも視えている。

 

すぐ転移をして、作業員のような格好をしているテロリス三人に囲まれているレオの前にとんだ。

 

「何もないとこからこんにちはーっと。よ、レオ。」

 

「よ、じゃなくて、これは一体なんなんだ?」

 

「テロ。」

 

と、一言だけ言って作業員らしき服を着ている、佑馬の突然の登場に戸惑っていたテロリストの眼を一通り見る。

 

その瞬間、テロリスト達は力なく崩れ落ちた。

 

「え、今何したんだ?」

 

「幻術かけた。」

 

「どうやったのか聞いてもいいか?」

 

「それはまた後日。」

 

この場で説明するのも面倒なので、適当に流してレオとは反対側を視る。

 

「さすがというべきか、向こうは教師が制圧してるな。」

 

最高レベルの魔法科高校と目されている第一高校ともなれば、教師陣も一流の魔法師ばかりでテロリストをあっという間に制圧していく。

 

「レオ、ホウキ!って援軍が到着していたか。」

 

「これは佑馬がやったのか?」

 

教師達がいたほうからエリカが、別の場所から達也と深雪がやってきた。

 

「めんどいから眠らせた。俺が解くまで起きないから、文字通り永眠させることも出来るぜ?生きてるけど。」

 

「どんな幻術かけてんだよ!」

 

「鎮圧し終わったら解いてやれよ。」

 

「佑馬さんは言わないと本当に放置しそうですからね。」

 

佑馬のあまりにやりすぎな幻術にレオは思わず大声を、達也と深雪は冷静にそう言った。

 

「わかったって。さて、図書館に今から行くんだが、皆来る?」

 

「実験棟と悩んでいるたんだが、なんで図書館なんだ?」

 

佑馬の言葉に、待ったともとれる意味で達也が問うが。

 

「それは……。」

 

一瞬間を開けて、虚空に消えた瞬間。

 

「この人に後で聞こうか。」

 

達也達の後ろから、カウンセラーの小野遥を連れて現れた。

 

「……いつから気づいていたのかしら?」

 

「俺から隠れるなら、八雲よりも気配を隠すのを上手くならなきゃ話にならないぜ?」

 

少し警戒の色を見せながら問う遥は、佑馬の言葉を聞いて目を見開かせ、黙ってしまった。

 

「さて、達也、どうする?」

 

「……わかった。図書館にいこう。」

 

「んじゃ、とびまーす。」

 

佑馬は、達也がそう言った瞬間、転移で達也とレオ、エリカを図書館に飛ばした。

 

「うお、これが瞬間移動か!?」

 

「すごぉい!」

 

「お兄様、何かわかりましたか?」

 

「……分からん……。」

 

感動とも呼べる声を上げるレオとエリカに対し、技術者の顔で思案顔をする達也に問う深雪。

 

その目の前では、三年生が応戦していた。

 

「さて、こんなとこで時間食ってる暇はないし、すぐ終わらせよう。」

 

そう言った瞬間、一筋の光があたりを包み。

 

「はい、終わりっと。」

 

佑馬の目の前に、光の縄で縛られ気絶しているテロリスト達がいた。

 

「「「「……え?」」」」

 

その場にいる全員が、その光景に目を疑うも、それを行った本人は何も気にする様子はなく、図書館に入っていく。

 

「何が起きたかわかりませんが……お兄様、今のは視えましたか?」

 

「悪い深雪。俺も全く視えなかった。」

 

今起きたことに戸惑いを隠せないまま、図書館に向かう一同。

 

三年生は今の光景を見て、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

◆◆◆

 

図書館内は静寂に包まれていた。

 

つまりは、ここにいた職員達は無力化されたということになる。

 

常に『眼』を使っている佑馬は、既に二階の特別閲覧室に四人、階段の上り口に二人、階段の上に二人いるのを知っていたが、それを知っていたのは佑馬だけではなく。

 

「二階特別閲覧室に四人、階段の上り口に二人、階段を上り切ったところに二人……だな。」

 

「すごいね。達也君がいれば、待ち伏せの意味が無くなっちゃう。実戦では絶対、敵に回したくない相手だね。」

 

「敵に回した瞬間死ぬぜきっと。」

 

「それを言うのなら佑馬もなんだが……。」

 

「え、佑馬君も気づいていたの?」

 

「まぁそうだね……というか、エリカとレオはさっきから遊びたそうだね。」

 

いろいろ言いたいことがあるように言う達也だが、佑馬は特にそこには触れず、先程からうずうずしているエリカに向かってそう聞いた。

 

「え、わかっちゃった?」

 

「おー怖え。好戦的な女だな。」

 

「あんただってさっきから落ち着きないじゃない。」

 

「あー、わかったって。いってらっしゃい。」

 

「待ってました!」

 

「佑馬サンキュー!」

 

佑馬が許可をだした瞬間に飛び出すレオとエリカ。

 

「パンツァァー!」

 

レオは雄叫びを放ち、エリカは警棒を持って突撃していった。

 

「音声認識とはまあレアな物を……」

 

「お兄様、今、展開と構成が同時進行していませんでしたか?」

 

「ああ、逐次展開だ。十年前に流行った技術だな。」

 

「はい、話はそこまで。特別閲覧室に飛ぶよ。」

 

そのレオみて兄妹が話を進めるが、それを遮るように佑馬が口を挟む。

 

「ああ悪かった。頼む。」

 

その言葉を確認してからエリカとレオを残して特別閲覧室の前に飛んでいった。

 

◆◆◆

 

閲覧室には四人のテロリストがいた。

 

ハッキング用の携帯端末を閲覧用端末に接続している途中だ。

 

そして、その場所に静かにある三人が現れる。

 

そのうちの一人とそこに現れたうちの一人は見覚えがあった。

 

「司波君……。」

 

その女子生徒、壬生紗耶香は達也に声をかけるも達也は無言のまま。

 

――他の三人が操作していた装置を全て分解した。

 

「「「なっ……!」」」

 

「これでお前達の企みは潰えた。」

 

銀色の拳銃型CADを右手に構え、淡々とした口調で終わりを告げる達也。

 

「ここは達也と深雪に任せた。俺はちょっとジブリールのとこ言ってくるわ。」

 

「ああ、任せろ。」

 

佑馬は紗耶香と達也が知り合いと言うこともあり、少しジブリールがやりすぎてないか気になったため、転移でその場をはなれた。

 

◆◆◆

 

「さて、ジブリールは何処だ?」

 

とりあえず1-Eにとんだが、ジブリールがいる気配がない。

 

ここにではなく、学校に。

 

まさかと思い、念のためサイオンを学校の半径50kmまで広げて探知をすると。

 

「あ、これはやばい。」

 

その光景を見て、佑馬はすぐに飛んだ。

 

ジブリールが工場で大虐殺を行っているのを見て。

 

転移して見たのは赤い血の海と怯える一人の男、そしてジブリール。

 

「さて、貴方はしっかりと楽しませてくれるのでございますよね?」

 

「ヒィ!来るな!」

 

曇りのない綺麗な笑顔が一層と男の恐怖心を煽り、涙すら流している。

 

「……ジブリール、いくらなんでもやりすぎだ。」

 

「あたぁ!?」

 

脳天に軽くチョップを入れて、ジブリールが頭を抑えながら軽く涙目になって顔を上げる。

 

「佑馬……任せるって言われたので、途中でめんどくさくなって……。」

 

「まぁいい、とりあえずこの男は殺す必要はない。」

 

男を見ながらそう言うと、ジブリールも渋々といった感じで従った。

 

「さて、命を助けられたわけだが、一応対処はさせてもらう。……十師族の人に手回ししてもらうから、ジブリールはそいつ見ていてくれ。」

 

男に向かって一言言ってから、ジブリールに向かってそう言うと、眼を瞑って摩利に連絡を取る佑馬。

 

「ここだぁ!」

 

その瞬間、その男の両目が妖しく光、ジブリールの顔から表情が消える。

 

そして……

 

「な!?」

 

ジブリールは佑馬に襲いかかった。

 

「は、はは。ハハハ!こいつはもう我々の仲間だ!」

 

そこで、再びジブリールは佑馬に襲いかかった。

 

◆◆◆

 

「いいぞ!もっとやれ!やってしまえ!」

 

一人頭が狂ったように叫ぶ男を横目に、ジブリールと佑馬は第一高校生の到着を待っていた。

 

「あの……あの方は何をやっておられるので?」

 

「ああ、幻術をかけていてな。恐らく自分の都合が良いように物事が動いている夢を見ているんだろ。」

 

男のいきなり始まった不審な言動の理由を佑馬に聞くジブリールだが、答えを聞いた瞬間に可哀想なものを見る目でその男を眺めた。

 

「さて、これは本当にやりすぎだな……。」

 

「申し訳ございません……。」

 

辺り一面に広がる血の海を見て、ため息をつく佑馬と申し訳なさそうに謝るジブリール。

 

「仕方ない、分解しておくか……ジブリール、ちょっとその男を担いで飛んでくれ。」

 

「わかりました。」

 

佑馬の指示に従い、恍惚な表情をしている男を担いで飛ぶジブリール。

 

それを確認すると同時に佑馬も空を飛び、右手を床に翳す。

 

右手から魔法式が展開され、それが発動した瞬間。

 

床に広がる血が一滴残らず綺麗さっぱり無くなった。

 

「えーっと……分解でございますか?」

 

「そそ。これで証拠はなしっと。」

 

「その……本当に申し訳ありません。」

 

再び頭を下げるジブリールに、佑馬は笑いながら近づき、頭を撫でながら、

 

「次気を付けろよ。」

 

と、一言だけ言った。

 

「……はい。」

 

ジブリールはその言葉に目を瞑って頭を撫でられながら、頷いた。

 

その後、佑馬の報告を受けて十文字克人が車を用意し、男は連行。

 

佑馬とジブリールは克人が乗ってきた車に乗り込み、中で事情を聞かれながら高校へと帰っていった。




次から九校戦編。

気がついたら決着がついちゃった奴です。

紗耶香と桐原はこれが無くてもくっつくと思うので、しっかりとくっつけておきます。

リゼロはアンケート取ってノゲノラが終盤にかかったら書こうかなと。


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九校戦編
九校戦


リゼロについての活動報告、ジブリールが欲しいという意見が多数。

このシリーズがもはや
ジブリールから始まる異世界生活
になってしまっているような。

一から……いいえ、ジブリールから!

戯言はここまでにして、九校戦編いきます。


十文字に目を付けられる、その後も誰かに監視をされるというめんどくさいことにはなったが、その後の処理は迅速に行われ、今回参加した生徒に罪はなく、むしろ被害者ということで精神のケアがされている。

 

そしてそこからは平凡にして非凡な日々を送る二人。

 

途中、定期テストという前世ではとてつもなく嫌な思い出があるが、素晴らしい特典とジブリールと共に、本気で一位を取りに言った。

 

テストも終わって一週間たったころ、達也が生徒指導室に呼び出され、レオとエリカに誘われたため、途中で会ったほのかと雫とともに、生徒指導室の前で待っている。

 

「なぁ、なんで達也は指導室に呼び出されたんだ?」

 

レオの疑問はもっともだろう。

 

達也は褒められはすれど、指導を受けるようなことはしていない。

 

しかし、その疑問に佑馬が答える。

 

「たぶん定期テストの結果だろ。」

 

「定期テスト?」

 

そう、それは今回の定期テストに問題があった。

 

それは文字通り、根本的に。

 

魔法科高校の定期試験は魔法理論の記述式テストと魔法の実技テストにより行われる。

 

その一方、語学や数学、科学、社会学等の一般学科は、普段の提出課題によって評価される。(佑馬とジブリールは先生やクラスに授業をしているということもあり、評価は最高点。)

 

記述テストが行われる魔法理論は、必修である基礎魔法学と魔法工学、選択科目の魔法幾何学、魔法言語学、魔法薬学、魔法構造学から二科目、魔法史学、魔法系統学のうち一科目の合計五科目。

 

魔法実技は魔法式を構築する速度、構築し得る魔法式の規模、魔法式が『事象に付随する情報体』を書き換える強さ、この三つを合わせた総合的な魔法力を見るものの四種類。

 

成績優秀者は学内ネットで氏名を公表される。

 

一年生の成績も無論、公表済みだが、今回はそこに問題、というより、前代未聞のことが起きていた。

 

総合点

 

同率一位 E組 中田 ジブリール

 

同率一位 E組 中田 佑馬

 

三位 A組 司波 深雪

 

四位 A組 光井 ほのか

 

五位 A組 北山 雫

 

つまり、二科生が総合一位を取っているのだ。

 

しかも、二人、満点で。

 

そしてさらに理論。

 

同率一位 E組 中田 ジブリール

 

同率一位 E組 中田 佑馬

 

三位 E組 司波 達也

 

四位 A組 司波 深雪

 

五位 E組 吉田 幹比古

 

トップファイブうち、四人までもが二科生となっている。

 

そして更に、一位は満点、二位と三位との差は平均点が10点以上離れているという事態にまで。

 

そして、指導室から達也が出てきた。

 

「達也。」

 

「レオ……どうしたんだ、皆揃って。」

 

出てきた瞬間、レオが話しかけ、達也は何故皆揃っているのか分かってないような表情を浮かべる。

 

「どうした、ってのはこっちのセリフだぜ……指導室に呼ばれるなんて、一体どうしたんだよ?」

 

そして、その質問になるほど、という表情に変わった。

 

「実技試験のことで訊問を受けていた。」

 

「……訊問とは穏やかじゃねぇな。何を訊かれた?」

 

「要約すると、手を抜いていたんじゃないか、って疑われていたようだな。」

 

「おい、そのことを聞いた教師はまだこの部屋にいるか?」

 

予想通り、定期テストのことだったが、佑馬はそんなことは気にせず、教師がいるかどうかを聞き、

 

「あ、ああ。まだいると思うが。」

 

と、いう達也の言葉を聞いた瞬間。

 

「失礼します。1-E 中田 佑馬です。」

 

部屋に入った言った。

 

「……ジブリール、佑馬は何をしにいったのかわかるか?」

 

ここ数ヵ月でようやく呼び捨てで呼ぶ仲になったジブリールと達也たち。

 

ジブリールは佑馬以外はしっかりと敬称をつけているが、そこに関しては誰も何も言わなかった。

 

「恐らく、脅しですね。」

 

「脅し……?」

 

エリカが首を傾げた瞬間。

 

ガチャ、っと扉が開いた。

 

そしてそこから見えたものは。

 

……土下座をしている教師だった。

 

「本当にすみませんでした。もうしませんのでどうか、どうか授業は受けさせてください。」

 

「……今回は情けをかけてやる。次はないからな。」

 

その言葉を聞いた瞬間、

 

「ありがとうございます!」

 

と、教師が言ったのを確認して生徒指導室から出てきた佑馬。

 

「教師を土下座させるって、一体何言ったんだよ……。」

 

呆れ顔でレオに聞かれたが、

 

「生徒の気持ちも考えずにそんなこと言ってるやつに、勉強を教えてやる義理は無いって言っただけだ。」

 

と、何か問題か?という感じで答えた佑馬。

 

「え、ちょっと待って。授業しないってだけで土下座までしていたの?あの教師。」

 

「え、うん。それだけだよ。」

 

エリカの驚いたような質問に、それだけ、と答えた佑馬だが。

 

「教師が土下座までして受けたい授業って何だよ……。」

 

「佑馬、今度家に来てその授業を俺たちにもしてくれないか?」

 

レオはまた呆れ顔で、達也は結構真面目な雰囲気でそう言った。

 

「おう、またCADについても話したいことがあるしな。」

 

「そういえば、もうすぐ九校戦の時期じゃね?」

 

達也の要望を受け入れたとき、CADで連想したのか、そういったレオに達也は頷きながら、

 

「深雪がぼやいていたよ。作業者とか工具とかユニフォームとか、準備するものが多いって。」

 

「深雪さん、ご自身も出場なされるんでしょう?大変ですよね。」

 

美月が見せかけではなく深雪を案じる言葉を口にすると、

 

「深雪なら新人戦なんて楽勝っぽいけどね。むしろ準備の方が大変そう。」

 

エリカが半分反論、半分同調するセリフを返した。

 

「油断はできない。今年は三高に一条の御曹司が入ったらしいから。」

 

これまで静かに静観していた雫は、そこで会話に参加した。

 

「へぇ……」

 

「一条って、十師族の一条か?」

 

エリカもレオも自分達の年次に十師族の直系がいるのは初耳だったらしく、結構本気で驚いている。

 

「そりゃ強敵かも。それにしても雫、ずいぶん詳しいのね?」

 

「雫はモノリス・コードのフリークなのよ。だから九校戦も毎回見に行っているのよね?」

 

エリカの疑問に答えたのは、これまで会話に参加したくても参加できなかったほのかだった。

 

「……うん、まぁ。」

 

ほのかによって代弁された答えに、相変わらずの無表情のなかにも、若干照れくさそうに頷いた。

 

「確かカーディナル・ジョージもいたなー。」

 

「そう、カーディナル・ジョージと一条の御曹司のコンビは、無敵と言ってもいいほどの組み合わせ。」

 

佑馬の一言に即座に反応した雫。

 

その反応をみて、佑馬は少し口を吊り上げながら。

 

「……雫。その二人、俺が倒してやろうか?」

 

と、言った。

 

笑ってはいるが、目は真剣に。

 

「……出来るの?」

 

「出来るっていうより、余裕かな。」

 

雫の疑問にも、目は相変わらず真剣に答える。

 

「十師族だろうが天才カーディナル・ジョージだろうが関係ない。俺は誰にも負けないからな。」

 

その言葉を聞いて、雫は一回、小さく頷いて。

 

「わかった。楽しみにしてる。」

 

と、言った。

 

「十師族というか、戦略級魔法師でも佑馬君たちには勝てないんじゃないの?」

 

一連のやり取りが終わったあと、恐らく冗談で言ったであろうエリカの言葉に反応したのは、ジブリール。

 

「佑馬が負けることはありえないことでございますね。佑馬を倒すなら、それこそ地球を破壊出来るレベルではないと。」

 

「……冗談で言ってるよね?」

 

ジブリールがちょっと危険なラインまで真面目に言ってしまったために、エリカが半信半疑で聞いてきた。

 

(ジブリール。今はまだ早い。冗談で済ませておけ。)

 

(申し訳ございません。佑馬のことを自慢したくなったのでつい。)

 

脳内で会話をした後、ジブリールが満面の笑みで。

 

「勿論、冗談でございますよ?」

 

と、言ったことにより、和やかなままその場は収まった。

 

達也はその言葉を無表情で聞いていたが。

 

◆◆◆

 

ほとんどが佑馬とジブリールで授業を行っているなか、体育は専用の教師がついているため、しっかり生徒として授業を受けている。

 

今日の授業はレッグボール。

 

フットサルから派生した競技で、無数の小さな穴の開いた透明な箱でフィールドをすっぽりと覆ったフットサルで、選手は頭部保護のヘッドギアを着け、ヘディングはハンドと同じ扱いで禁止となっている。

 

魔法を併用した競技として行われることもあるが、通常は魔法を使わないルールで試合が行われており、今回の授業もそのルールで行われている。

 

レッグボールでは、反発力を極端に高めた軽量ボールを使用しており、フィールドを囲う壁と天井にもスプリング効果を持たせてある。

 

競技内容からわかる通り、かなり派手な競技のため、観るスポーツとしても人気が高い。

 

今も休憩中の一年E組と一年F組の女子生徒が、自分達の授業はそっちのけで声援を送っている。

 

佑馬は何か言われるまで参加しないで、その場の情勢をただ見ており、E組はレオ、達也、吉田幹比古の三人を主体に戦っている。

 

「佑馬!そろそろお前も参加しろ!四対五はさすがにきつい!」

 

「ういっす。」

 

突進しているレオから呼び出されたため、佑馬はコートの真ん中に入った。

 

レッグボールで使用されるボールは反発力が極端に高いため、サッカーやフットサルのようなドリブルは難しい。

 

「佑馬、パスだ!」

 

だが、それは普通の場合だ。

 

「ほい、どうも。」

 

高反発のボールを胸でトラップして、天井にぶつけて足で受け止め、佑馬はそのままドリブルして相手を全員抜き去る。

 

「まぁ、こんなもんか。」

 

そして、そのままゴールを決め、女子生徒から歓声が上がる。

 

「……えっぐ。」

 

そのプレイをみて、レオは驚き、

 

「やっぱり人間じゃないな。」

 

達也はある意味妥当な評価を与えていた。

 

試合も終わり、達也は幹比古の元へ、佑馬は観戦していたジブリールの元へと向かった。

 

「佑馬、お疲れ様。」

 

「おう……って、一ついい……?」

 

そして、微妙な違和感を佑馬は覚えた。

 

「なんでございましょうか?」

 

「ジブリールってもっとくびれていたと思うんだけど、なんで腹と肩幅がそんなに変わらないの?」

 

「あ、これはですね……やっと、私たちの間にも……。」

 

そう、スタイル抜群のジブリールのくびれがなく、腹のあたりが妙に膨らんでいたのだ。

 

そして、妙に照れながら言うジブリールだが、

 

「……そういう面白い冗談はいいから、本当のことを言おうか。」

 

「翼を巻いているからでございます。」

 

あっさりと白状したジブリールにため息一つ。

 

「……認識偽装魔法かけるから、背中から翼出そっか。」

 

「なら、お願いします。」

 

佑馬は認識偽装の魔法をジブリールにかけて、外側からはいつものスタイル抜群なジブリールが見えるようにして、実際は背中からしっかりと翼を出しているという状況が出来た。

 

だが、特殊な眼があればそれは見えてしまうため、

 

「あー、達也には完璧に気づかれたな。」

 

「そのようでございますね。」

 

達也がこちらをずっと見ていたため、今度家で伝えることをジェスチャーでしたら頷いて再びレオと幹比古との会話に戻った。




佑馬はクラウド・ボールとモノリス・コード

ジブリールはアイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボール
に出場させる予定です(ミラージ・バットからクラウド・ボールに変更しました。)

クラウド・ボール、モノリス・コード無双は待ったなしですね。

ちなみにですが、霊子放射光過敏症では偽装は見破れません。

活動報告のアンケートの方もお願いします。


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競技決定

ノゲノラはこれからどういう展開が一番面白いのか考えているので、もう少しお待ちを。


現在、昼食の時間。

 

佑馬とジブリールは生徒会室へと向かっていた。

 

「失礼します。中田 佑馬とジブリールです。」

 

「いらっしゃい。やっと来てくれたわね。」

 

出迎えてくれたのは真由美。

 

ただ、そこにいたのは恐らく、いつもの面子であろう真由美を含めて六人。

 

生徒会メンバー+摩利+達也だ。

 

「まぁ、座って座って!とりあえずお昼にしましょ?」

 

佑馬に身長の差と本人の意識によって上目遣いでそう言う真由美。

 

本来の高校生なら一発で落とされるであろうコンボを仕掛けた真由美だったが、

 

「会長……貴女は今のジブリールを見てもそれが出来ますかね。」

 

佑馬の、俺は知らないぞ、という言外での意味を汲み取った真由美は、首を傾げながらもジブリールを見てみる。

 

「……どうかしましたか?七草会長。」

 

そこにあったのは満面の笑み、まさに天使を思い浮かばせるような笑みを見せたジブリールだが、それは真由美やそれを見ていた司波兄妹を除くメンバーに恐怖心を覚えさせるものだった。

 

……目が笑っておらず、とても冷たかったのだ。

 

「……い、いえ、なんでもないわ……そ、それより!ご飯!ご飯食べましょ!」

 

そして、自分がやってはいけないことをやってしまったのだと自覚した真由美は、逃げるように席に戻った。

 

そして始まった昼食タイム。

 

前来たときと違うのは、全員が弁当を持参しているということだろうか。

 

最初はさっきのこともあり重い雰囲気が漂うなか、それを打破したのは佑馬。

 

「それで、この前の職員室の時の件で来たのですが、どういった用件だったのですか?」

 

「え?あ、あれね。そうそう、二人とは風紀委員に誘ってからゆっくりと話す機会がなかったから、その機会が欲しいなぁーって思ってたのよ。」

 

「それで、用件は?」

 

「……。」

 

そこで押し黙る真由美。

 

話を聞いていた全員が真由美に注目するなか、困ったような表情を浮かべて真由美が聞いた。

 

「ここにいる全員は佑馬君たちのことをある程度知っているっていう認識でいいのよね?」

 

「まぁ、市原先輩とあーちゃんはそこまでだとは思いますけど、そこを気にしているのであれば、気にせずに言っても構いませんよ。」

 

「そう、じゃあ、質問させてもらうわね。」

 

少しの間があく。

 

そして、真由美が佑馬の顔を、目を見たその表情は、いつもとは違う真面目なものだった。

 

「貴方達は一体何者?」

 

前にも聞いたような質問、だが、今回は本気で聞きにきている。

 

「襲撃事件が起きたとき、貴方達は瞬間移動で来たわ。その時はBS魔法師なのかなって思ってたの。」

 

BS魔法師とは、簡単にいえば超能力者のこと。

 

万能な普通の魔法師と違い、ある魔法に特化したようなものだ。

 

「でも、違った。貴方達は二人ともが定期テストで満点を取った。つまり、BS魔法師ではなくなる。でも、瞬間移動が出来る。そして心の中で会話することも……。」

 

そこでまた黙ってしまう真由美。

 

真由美が見ていたのはジブリール。

 

その目は、微かに怯えている様にも見える。

 

「……なるほど。会長はテロの時、自分達を視てましたね?」

 

そこで、だいたい言いたいことを理解した佑馬は、あえてある部分には触れずにそう言った。

 

視ていたのなら、わかったはずだろう。

 

佑馬が他にと特殊な魔法が使えること、瞬間移動すること、そして、ジブリールが人を殺めることに一切の躊躇いもないことを。

 

「ええ……答えられないのなら別にいいけど、これは十師族の者として注意しておくわ。」

 

真剣な眼差しは崩さず、しっかりと佑馬を見据える。

 

「貴方たち、このままだと危ないわよ?」

 

瞬間移動が出来る魔法師、これを十師族が無視するとは思えない。

 

「何者も何も、人間としか答えられようがないんだけど……ね?ジブリール。」

 

「……まぁ、人間でございますね。」

 

佑馬の目で余計なことは言うなと伝えられたジブリールは、しっかりと意味を汲み取ってそう言った。

 

「それより、本当にこんな話がしたくてあのとき声をかけたのですか?」

 

「そんなわけないじゃない……本当にゆっくりと話してみたかったのよ……でも、それもまたの機会になりそうね。」

 

時間を確認しながらそう言う真由美。

 

「そうね……今度こそゆっくり話したいから、放課後もきてくれないかしら?」

 

そして、いつもの雰囲気で話しかけてくる真由美を見て、微笑みを浮かべながら、

 

「ええ、もちろん。」

 

了承した。

 

◆◆◆

 

そして放課後。

 

いつも通り授業を終わらせてから生徒会室へと向かう佑馬とジブリール。

 

九校戦が近いため、生徒会は遅くまで居残って準備をしている。

 

「あ、佑馬君、ジブリールさん。いいところに来てくれたわ。」

 

部屋に入って早々、真由美に手招きをされたため、近くに行く。

 

途中で男子の副会長に睨まれたが、そんな睨まれるようなことをした覚えもないため、スルーすることする。

 

「どうかしましたか?」

 

「貴方達の九校戦の競技、何がいい?」

 

そして出てきたのは、九校戦の話。

 

「ああ、成る程……選べるんですか?」

 

「貴方達はどれも出来ちゃうから、それならそっちが得意な物を選んでもらった方が手っ取り早いでしょ?」

 

「まぁ、そうですね……なら、全部やらせて貰えませんか?」

 

そして、佑馬が取ったのは、全部やってから決める、という選択肢だった。

 

◆◆◆

 

まず、スピード・シューティングから。

 

打ち落とすのは真由美のドライアイス。

 

しかし……

 

「あれ?佑馬君、CADは?」

 

そう、佑馬はヘアバンド型のCAD以外持っていないのだ。

 

「いらない、というより、ない。」

 

「そ、そう。」

 

とても微妙な顔をされたが、佑馬にはなんの問題もない。

 

そして、ブザーがなった。

 

真由美がドライアイスを発動する……と。

 

「……えっ?」

 

発動した瞬間に別の場所から、佑馬のところからドライアイスが飛んできて、すぐさま破壊された。

 

「さぁ、何処にでも、何個でも出してきてください。」

 

結局、マルチスコープを駆使してまで難易度を上げたスピード・シューティングは、パーフェクトで終わった。

 

◆◆◆

 

次はクラウド・ボール。

 

これは学校の備品を借りて行った。

 

相手は再び真由美。

 

真由美は拳銃型のCADを構えており、佑馬はラケットを持っている。

 

「次はこれよ。やり方は大丈夫よね?」

 

「ええ、テニスに似てますからね……本気でお願いします。」

 

「……勿論よ。」

 

そして、練習だというのに、両者には火花が散る。

 

完全な本気モード。

 

開始のブザーとともに、ボールが真由美の方へ発射され、それを真由美は直ぐに魔法で打ち返す。

 

それを思いっきり撃ち込んで玉は……

 

「あ、やっべ。」

 

ネットにかかって、そこに穴を開けた。

 

(だけど、これでだいたいはわかった。)

 

佑馬の強み、それはやはり特典だろう。

 

そのなかにある、一方通行。

 

今の玉の弾道、ラケットの降る早さ、強さ、全てを演算によって理論値に持っていく。

 

そして、次の玉が放たれた。

 

今度はどのように打てばいいのか手に取るようにわかる。

 

「暴れ玉!」

 

そして、フレームで玉を打った。

 

「っ!?」

 

佑馬から返ってきたボールは、何個にも分身して見え、真由美のコートに落ちた。

 

「うん、これはいいね。」

 

取れるスピードではない。

 

さらに玉が分身するときたら、どうしようもない。

 

今度は真由美の方にボールが出される。

 

マルチスコープを使用して、そのままコースを狙う。

 

攻めから防御へと移るその早さは見事なもので、佑馬も甘いボールを打ってしまい、それを真由美に決められた。

 

と、思ったら、それは佑馬のコートギリギリを水平に移動し、佑馬の回りをクルクルと回り始めた。

 

「手塚ゾーン。」

 

真由美は、目の前の光景を疑う。

 

今まで、クラウド・ボールやスピード・シューティングでは誰にも負けたことがなかった。

 

それが今、崩されようとしている。

 

目の前にいる好敵手によって。

 

「大ハブ!」

 

(スポーツって、こんなに楽しいものなのね……)

 

あり得ないぐらいグネグネとあちこち行く玉の筋を見極めながらも、真由美は思っていた。

 

とても楽しいと。

 

◆◆◆

 

「やっぱり全部やるのめんどくさいし、クラウド・ボールとモノリス・コードでいいよ。」

 

何故こうなったか、それはスピード・シューティングとクラウド・ボールが終わって直ぐに、

 

『出るの決めた。』

 

と、佑馬が言ったためだ。

 

「えーと、理由は?」

 

「クラウド・ボールは楽しかったから。モノリス・コードは一番俺にあってそうだったから。」

 

そしてジブリール。何処でもいいということでアイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボールに出ることになった。

 

「モノリスといえば、やっぱり十文字あたりがいい練習相手かな。」

 

そして、そこから本格的に練習が始まった。




眠りながら書いたからかなり間違ってるかも……
指摘を待ってます。←絶対ある

競技についてですが、追記書いてあるとか言っておきながら消していたのでちゃんと書きます。

物語上、一位と二位を全く同じ競技に出場させるのはありえないので、一種目は違うのに変更しました。

ミラージ・パッドだとジブリール無双なので、アイス・ピラーズ・ブレイクで深雪と対決していただきます。


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未知の存在

レッツ、シェア、ポッキー!!←一日遅い。


結局ゆっくりと話すことも出来ず、これからお昼は生徒会室で食べることを約束して、その場は解散となった。

 

そして現在、司波家にお邪魔している。

 

「よし、今日は飛行魔法のことについて話すぞ。」

 

「ほう……それは興味深いな。」

 

この前、教師を土下座させたときに授業を受けさせるという約束していたのだ。

 

「まぁ、なんでこれを話すかと言うと、ちょうど達也もこれについて何かしらしていると思ったからなんだが、どうだ?」

 

そして、佑馬が今回、飛行魔法をわざと選択したとわかった達也はため息混じりに言った。

 

「その情報をどうやって引き出したのかは知らないが、正解だ。」

 

「それはよかった。じゃあ、今度そのCAD見せてくれよ?」

 

「勿論だ。」

 

そうして授業が始まった。

 

◆◆◆

 

佑馬の授業が始まった頃、深雪の部屋にジブリールもきていた。

 

「ジブリールは出る競技とか決まったのですか?」

 

「決まりましたね。新人戦のミラージ・バットとアイス・ピラーズ・ブレイクでございます。」

 

「……被ってるわね。」

 

そう、今回の九校戦、ジブリールは深雪と完全に被ってしまっている。

 

「深雪さんなら楽しめそうでございますね。楽しみにしておりますね。」

 

そして、深雪はこれを嬉しく思っていた。

 

自分よりも実力が上であろう者に挑める。

 

中々にないことだ。

 

深雪にとって、ジブリールという存在はとても大きかった。

 

魔法力も上、体術も上、サイオン量も上。

 

そして、『神の使者』の一人であり、兄と同じ戦略級魔法師でもある。

 

ここまで格上の敵、誰がワクワクしないでいられるのだろうか。

 

「私も、全力でお相手させていただきます。」

 

「こちらこそ、よろしくお願い致します。」

 

そこで手を差し伸べるのはジブリール。

 

これは、しっかりと自分の敵に値すると判断したために敬意を払っての行動。

 

それに深雪も答える。

 

「さぁ、今日はゆっくりとお話を聞かせてもらいますね?」

 

「話せることでよければ、なんでもお聞きくださいませ。」

 

そこからは完璧なる女子トーク。

 

深雪からは主にジブリールと佑馬との関係について。

 

風呂に一緒に入っている、一緒に寝ているとジブリールが答えた時はかなり顔が赤くなっていたが、さすがは婚約者という関係を保っている。

 

そしてジブリールの質問。

 

やはりというべきか、達也と深雪との関係を聞いたジブリールだったが、

 

「私とお兄様は兄妹で、それ以上も以下もないわよ?」

 

という答えが返ってきた。

 

しかし、ここで引くジブリールではない。

 

「では、兄妹でなければどうなのでございましょうか。」

 

「そうね……兄妹じゃなければいいかもしれないわ。」

 

見事に顔を赤くさせながら答える深雪。

 

女子トークは夜が更けるまでしばらく続いた。

 

◆◆◆

 

「……と、言うわけだが、わかったか?」

 

「助かった。これで飛行魔法の完成のメドはたったよ。」

 

「それは良かった。」

 

達也に出された紅茶を飲みながら、ソファーで寛ぐ二人。

 

そして、達也が思い出したように言った。

 

「ジブリールの背中の翼、あれはなんだ?」

 

「あ、やっぱり気づいてた?」

 

「ああ、サイオンの光がかなり強かった印象がある。」

 

「そうだな……達也にはいいかな。」

 

改まったように、ソファーに座り直す佑馬。

 

達也も真剣に耳を傾ける。

 

「前にも言っ通り、あれはジブリールの魔法だ。」

 

嘘は言っていない。

 

ジブリールは存在そのものが一種の魔法なのだから。

 

「……何のだ?」

 

「飛行魔法。」

 

そして、これも嘘ではない。

 

「それだけではないし、まぁ、俺もあるぜ?俺は黒、ジブリールは白。外見からすれば悪魔と天使だな。」

 

今回言っていることは全部本当。

 

ただ、大事なことを言っていないだけで。

 

「なるほど……で、普段は偽装魔法をかけているわけだな?」

 

「そういうこと。」

 

そこで紅茶を一気に飲み干す佑馬。

 

そして達也に促されて、達也の部屋に向かう。

 

そして、一つのCADを見せてきた。

 

「……これが例のCADか。」

 

ベッドに腰をかけながら、そのCADをじっくりと眺める。

 

「ああ、さっき佑馬に教えてもらえたことで、やっと進めることが出来た。ありがとう。」

 

「まぁ、俺らは飛べるからあまり関係ないんだけどね。」

 

「……ずっと気になってたが、佑馬とジブリールはBS魔法師か?」

 

当然の疑問だろう。

 

BS魔法師、さらにその中で突然変異したものが佑馬達とするなら、魔法師社会の状況も変わってくる。

 

「それは俺らもわからんな。普通の魔法師ではないし、BS魔法師でもない。ジブリールの言葉を借りて言うなら、『未知』かな。」

 

未だ知らず、と書いて、未知。

 

まだ前例のない二人、それが佑馬とジブリール。

 

そして、ここにも未知の存在が一人。

 

「なるほど……それはとても興味深いな。」

 

口角を上げて笑う、司波達也。

 

彼もまた、前例のない、未知の存在。

 

「それで、佑馬はクラウド・ボールとモノリス・コードに出るんだよな?」

 

「ああ、そうだな。」

 

「モノリス・コードはともかく、クラウド・ボールは何か作戦とか立ててるのか?」

 

「最高に素晴らしいパフォーマンスを見せてあげるから、期待していいぜ?」

 

その言葉を聞いて、待ってた、とばかりに笑う達也。

 

「楽しみに待たせてもらうよ。」

 

「さて、そろそろ帰ろうかな。」

 

ベッドから腰を上げて、帰ろうとドアを開けたところで、達也から待ったがかかる。

 

「こんな時間だし、今日は泊まっていったらどうだ?」

 

「いや、でも深雪は大丈夫なのか?」

 

「問題ないですよ。」

 

佑馬の問いに答えたのは、ドアの外から現れた深雪。

 

隣にはジブリールもいる。

 

「こちらもジブリールに泊まって行くか聞いたら、佑馬さんに聞いてからって話になったのでここに来たのですが……問題なさそうですね。」

 

微笑みながら佑馬の顔を見つめる深雪に、佑馬も頷く。

 

そうして、司波家のお泊まりが決まった。

 

◆◆◆

 

次の日、深雪とともに弁当を作って、九重八雲の元へと向かった。

 

「師匠、今日は稽古やらないのですか?」

 

「さすがにお客さんがいるときに奇襲ってのはねぇ?」

 

「ほぅ、俺らをお客さんって呼ぶとは、だいぶ警戒心を解いてくれたものだな。」

 

現れたのは八雲ただ一人。

 

奥の方で弟子が見守っている。

 

「そりゃ、達也君からいろいろ話は聞いているしねぇ。」

 

「俺らを調べてること、俺らに気づかれてないと未だに思ってたりするとか?」

 

「……まさかとは思ってたけど、気づかれていたんだね。敵わないなぁ。」

 

苦笑いする八雲。

 

以前訪れたときに『調べるな』と言われたが、そう言われると調べたくなるのが人の心理。

 

ましてや忍びならなおさらそうだろう。

 

「それで、何か見つかった?」

 

「ごく一般家庭のごく普通な資料を見つけただけだよ……僕にここまで尻尾を掴みさせないなんて、一体何者なんだい?」

 

「あれ、達也言ってなかったの?」

 

そこで、佑馬がビックリしたように達也にきいた。

 

「いや、普通は言っては行けないものだと思っていたから、誰にも言わなかったのだが、言っても良かったのか?」

 

「この人には絶対に言うと思ってたんだが……まぁいいか。」

 

頭をかきながら八雲に近づいていく佑馬。

 

八雲は警戒を強めたが、達也の表情を見てそれを解いた。

 

そして、二歩ほどの距離までつめた佑馬は八雲に正体を明かした。

 

「俺たち、『神の使者』なんだけど、そこんとこ大丈夫?」

 

 

「……。」

 

無言で達也の方を向く八雲。

 

達也は、首を縦に振ってそれに答えた。

 

「君たちがあの『神の使者』ねぇ……ならば僕の隠密行動を見破ったのも納得できる……いやはや、あの『神の使者』がこんな近くにいたとは思っても見なかったよ。」

 

何処か吹っ切ったように笑って、少し真面目な表情に戻ってから再び話始めた。

 

「これも因果というものなのかねぇ。達也君の近くに『神の使者』がいる……何かの前触れかな?」

 

「人を災厄みたいに扱わないでほしいな?」

 

「あはは、悪かったよ。でも、一つ忠告しておくよ。」

 

「なんとなくわかるけど、何?」

 

八雲はさっきの雰囲気を完全に消し、真面目な表情で言った。

 

「君たちの力は、十師族も黙って見過ごせないほどだ。今も君たちの捜索は行われている……九校戦は気を付けたまえ。」

 

「ああ、肝に銘じておくよ。」

 

佑馬も真面目な表情でそれに答える。

 

そして、フッと笑いながら、

 

「あ、この前のあれは冗談だから、気にしてたらごめんね?あんた使えそうだし。」

 

「こき使われそうな言い方が気になるけど、正直安心したよ。僕は過去を引きずるような思考はしてないから大丈夫だよ。」

 

「話も済んだことですし、稽古をお願いします、師匠。」

 

「了解。佑馬君もやる?」

 

「是非、やらせてもらうよ。」

 

「私もやらせていただきます。」

 

そして、その稽古は達也が疲れ果てるまで続いた。




次はノゲノラ更新します。

そして、こちらは本格的に九校戦に入ります。


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エンジニア

劣等生の方が明らかに書きやすい。


次の日、生徒会室で昼食を取っていた佑馬とジブリール。

 

九校戦の準備は生徒会が主体となって行うものなので、話も必然的に九校戦の話になっていく。

 

そして現在、

 

「選手は十文字君が手伝ってくれたからなんとか決まったんだけど、問題はエンジニアよ……。」

 

絶賛、真由美の愚痴タイムだった。

 

生徒会が主体という性質上、会長の仕事量が普段よりも増えることは自明の理。

 

愚痴の一つや二つ言いたくなるの仕方のないことだろう。

 

「まだ数が揃わないのか?」

 

摩利の問い掛けに、真由美は力なく頷いた。

 

「ウチは魔法師の志望者が多いから、どうしても実技方面に優秀な人材が偏っちゃってて……。今年の三年生は、特に、そう。魔法工学関係の人材不足は危機的状況よ。二年生はあーちゃんとか五十里君とか、それなりに人材がいるんだけど、まだまだ頭数が足りないわ……。」

 

真由美が頭を抱えているのは、エンジニア。

 

今年の九校戦は

 

――今年に限ったことではないのだが。

 

エンジニアが圧倒的に不足しているのだ。

 

「私と十文字君がカバーするっていっても限度があるしなぁ……。」

 

「お前達は主力選手じゃないか。他人のCADの面倒を見ていて、自分の試合が疎かになるようでは笑えないぞ。」

 

「……せめて摩利が自分のCADくらい自分で調整出来るようになってくれれば楽なんだけど。」

 

「……いや、本当に深刻な事態だな。」

 

……摩利はやはりというべきか、こういった方面は苦手なようだった。

 

「佑馬君達は……って、佑馬君、CAD使ってなかったわね……。」

 

「いえ、佑馬は日常ではCADを常に着けていますし、それもオリジナルなのでそこは問題ないと思いますよ。」

 

その言葉にバッ!と顔を上げる真由美。

 

それを言ったのは、達也だ。

 

「それ本当なの!?佑馬君!」

 

「本当ですけど、自分が見れるのは自分とジブリールのCADのみです。他の人のなんて一度もやったことがありませんから。」

 

考えてもいなかった方面からのまさかの希望の手に語尾を強めて問う真由美だが、佑馬から出たのは『否定』。

 

その言葉を聞いてしゅんとなっていくが、

 

「それに、CADなら達也の方がいいですよ?風紀委員とかのやつも全部達也がメンテナンスしたらしいですし、選手じゃないですしね。」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いてまた顔をバッ!っとあげた真由美……っと、達也。

 

本当に、いろんな意味で忙しい二人だ。

 

「そういえばそうでしたね。深雪さんのCADも司波君が調整しているそうですし、一度見せて貰いましたが、一流のメーカーのクラフトマンに勝るとも劣らない仕上がりでした。」

 

そして、援護射撃はあずさから。

 

達也はしまった!という表情をしている。

 

佑馬をエンジニアに推して早くこの場から離れたい、という思いでのさっきの発言だったが、逆に自分にスポットライトが当たる結果となってしまった。

 

だが、ここで従うほど達也も大人しくない。

 

「一年生のエンジニアは過去に例が無いのでは?」

 

「なんでも最初は初めてよ。」

 

「前例は覆す為にあるんだ。」

 

「諦めろ、お前が深雪から逃れられるはずがないだろう。」

 

間髪入れず、真由美と摩利から過激な反論と、佑馬から一番痛いとこを突かれた達也は、ゆっくりと横に顔を向けると。

 

――ニコニコととてもいい笑顔で達也を見つめていた。

 

「わたしは九校戦でと、お兄様にCADを調整していただきたいのですが……ダメでしょうか?」

 

「そうよね!やっぱり、いつも調整を任せている、信頼できるエンジニアがいると、選手としても心強いわよね、深雪さん!」

 

かくして、達也のエンジニア入りが内定した。

 

◆◆◆

 

放課後、佑馬とジブリールは再び生徒室にやってきた。

 

中に入ると、準備に翻弄されている生徒会役員共。

 

「あ、佑馬君とジブリールさん、いらっしゃい……ついでに、場所変えよっか。」

 

出迎えてくれたのは、真由美。

 

彼女も忙しそうだったが、その仕事をやめて佑馬の方へと近づき、図書館を指差した。

 

断る理由もないため、了承の意を表すと、顔を綻ばせながら生徒会室を出た。

 

これからするのは、なんでもない、本当にただの雑談。

 

ゆっくりと話す機会がなかったため、こうやって無理矢理作ったのだ。

 

「もう、本当に大変なのよ。」

 

「本当ですね。入試で手を抜いて良かったです。」

 

「そこには私も同意でございますね。佑馬といられる時間が減りますし。」

 

「……貴方達って、いつも一緒なの?」

 

ジブリールの発言と、今までの行動を照らし合わせてなんとなく気になった真由美はそう聞いたが、そこはもう地雷を踏みかけているところまで差し掛かっていた。

 

「はい、家でもずっと一緒でございます。」

 

「外に行くときも?」

 

「一緒でございます。」

 

「ご飯食べるときも?」

 

「一緒でございます。」

 

「お風呂入るときも?」

 

「一緒でございます。」

 

そして、踏んでしまった。

 

「………。」

 

ジブリールを見つめる真由美。

 

恐らく、ノリで言ってしまったのだと思っているのだろうが、実際に風呂は一緒に入っている。

 

ジブリールも訂正しないため、真由美はみるみるうちに顔を赤くしていく。

 

「え……お風呂も一緒……なの?」

 

「はい。もっといえば、寝るときもでございますね。」

 

「…………。」

 

真由美は既に顔を真っ赤にして俯いている。

 

「まぁ、確かにずっと一緒だけど……寝るときと風呂の時に誘ってくるのだけはやめて欲しいな。」

 

「なっ……!?」

 

「いいではございませんか。むしろ、佑馬こそ何故乗ってきてくれないのでございますか。」

 

二人から聞こえるのは、もはや夫婦の会話だった。

 

いつもはお姉さんという立ち位置で振る舞っている真由美。

 

しかし、実際こういうところを目撃すると、やはり純情な一人の少女に戻ってしまっていた。

 

「……ジブリール、会長がいろいろやばそうだからそろそろやめようか。」

 

「本当でございますね。」

 

「……もう、よくそういう話をこんなところで出来るわね。」

 

現在、佑馬達が向かっているのは、図書館。

 

そう、まだ向かっているのだ。

 

つまり、この会話は普通のボリュームで、廊下でされたもので、現在は放課後。

 

当然そこには他の生徒もいるわけで……。

 

後ろを見てみると、数人ほど顔を赤くしていた。

 

「あれま……まぁ、気にしないけど。」

 

「気にしないのね……。」

 

聞いていると恥ずかしい。

 

しかし、真由美は不意に、いいな、と思ってしまった。

 

二人とも愛し合っていて、いつも一緒で、美男美女。

 

自分もこんな恋が出来るようになりたいと、こんな風にバカップルをやってみたいと。

 

自分の立場では到底出来そうにないことをやっている二人に、憧れ、羨望し、嫉妬してしまった。

 

図書館で話したのは、本当に雑談のみ。

 

探りあいなど一切ない(というより、詮索していたのは真由美だけなのだが)純粋なもの。

 

普段の授業、趣味、友達関係、魔法、九校戦など、話題は多種多様。

 

そして、真由美がこの日、二人に受けた印象は『大人』だった。

 

姿形は高校生なのに、中身は何歳も上のような貫禄を感じるときがあったのだ。

 

実際は佑馬は100歳近く、ジブリールも6000歳を越えているのだが、そんなことを知る由もない真由美は、自分が子供なのかもしれない、というなんともいえない不安感に駆られていたのだった。

 

◆◆◆

 

「それでは、九校戦メンバー選定会議を開始します。」

 

真由美の声でそれは始まった。

 

その場にいるのは、既に選手、エンジニアの内定通知を受けている二、三年生のメンバーと、実施競技各部部長、生徒会役員、部活連執行部のメンバーだ。

 

佑馬、ジブリール、達也は内定メンバーと同じオブザーバー席にいるのだが、議論は達也が、一年生の二科生が何故この場にいるのか、という部分から始まった。

 

そして、飛び火という形で佑馬とジブリールにも、テストで不正したのではないか、という反論が出ている。

 

しかも、それが感情的な部分からの反論なため、いつまでも結論が出ない状態になっていた。

 

「要するに。」

 

不意に、重々しい声が議場を圧した。

 

然程大きい声ではなかったが、その場の誰もが発言者である、十文字 克人に視線を向けた。

 

「司波の技能がどの程度のものか分からない点、中田の魔法技能の点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば、実際に確かめてみるのが一番だろう。」

 

広い室内が静まり返った。

 

それは単純で効果的で、誰も文句のつけようがない結果が明らかになる反面、少なからぬリスクを伴うが故に、誰も言い出さなかった解決策だった。

 

「……もっともな意見だが、具体的にはどうする?」

 

「司波には今から実際に調整を、中田には実際に競技をやらせてみればいい。」

 

摩利の問い掛けにたいしても、また単純明瞭なもの。

 

「なんなら俺が実験台になるが。」

 

「いえ、彼を推薦したのは私ですから、その役目は私がやります。」

 

克人が実験台になると言った瞬間、真由美が代役を申し出たが、

 

「いえ、その役目、俺にやらせてください。」

 

それに続いて、春の一件で達也と揉めた、剣術部の桐原が名乗りを上げたのだった。

 

◆◆◆

 

目の前で見せられた高度な技術を理解出来た者は少なかった。

 

しかし、見るものが見れば、正しく達人芸。

 

高校生レベルに収まるとは思えないほど、高度なものだった。

 

当然、達也はエンジニア入りを果たし、誰もその技量に文句をつけるものはいなかった。

 

そして、次は佑馬とジブリール。

 

「さて、次だが、中田佑馬はクラウド・ボールとモノリス・コード。中田ジブリールはクラウド・ボールとアイス・ピラーズ・ブレイクだったな。」

 

「ええ、そうよ。」

 

「それなら、まずクラウド・ボールの実力から見せて貰いたいのだが、誰かやる奴はいないか?」

 

克人が佑馬の相手役をやりたい人を問いかけると、上級生数人の手が挙げる。

 

「……何?」

 

そして、その中には、

 

「私にやらせてくれないかしら。」

 

克人の横で手を挙げる、真由美の姿があった。

 

「リベンジも含めて……ね。」

 

「……何?」

 

そして、真由美の言葉に、同じ聞き返しを、ただ、別の意味で言った。

 

現時点で男子も含めてトップクラスの真由美が、リベンジと言った時点で、克人には佑馬の実力の高さを理解した。

 

「よかろう。それでは、場所を移動するぞ。」

 

◆◆◆

 

九校戦メンバーが透明の箱を囲うようにして、中で向かい合っている二人を見守る。

 

片方はラケット、そしてもう片方は拳銃型のCAD。

 

ラケットは佑馬、CADは真由美だ。

 

「実は、前回の黒星が私の初めての黒星なのよ。」

 

「そうなんですね。じゃあこれで二つ目だ。」

 

「今日は勝たせて貰うわ。」

 

二人の間で火花が散る。

 

コートに立ち、合図を待つ二人。

 

試合開始の合図とともに圧縮空気で射出されたボールは、真由美の方へと飛んで行った。

 

それはネット約10cmのところで、倍の速度となって佑馬のコートに向かっていく。

 

見守っていた生徒はほとんどがこれが決まったと思った。

 

だが、現実は違う。

 

いつの間にか落下点でラケットをテイクバックして打つ体型に入っていた佑馬。

 

そこから打たれた球に、見ていた九校戦メンバーは絶句する。

 

人間が打ったとは思えないほどの凄まじい速さ。

 

真由美はなんとかそれを魔法で倍の速度にして返すが、

 

「さぁ、始めようか。」

 

佑馬のその一言と共に放たれた球に、見ていたメンバーは再び絶句した。

 

佑馬が打ったのは、フレームショット。

 

それはとてつもない速さで何個も分裂して真由美のコートへと向かっていく。

 

しかし、今回はそれが決まることはなかった。

 

真由美はその分裂してい球全てに魔法を放ち、その球は佑馬のコートに落ちた。

 

時間にして、10秒にも満たない時間。

 

「前回よりは強くなったじゃん。」

 

二球に増えた球を打ち続けながら、真由美に話しかける。

 

「私だって、本当に悔しかったんだからね?だから、今日は勝たせて貰うわ!」

 

二球同時に返した真由美。

 

二つとも逆サイドに向かって飛んで行き、どちらか一つは確実に入ると一目見ればわかる状態。

 

「これくらいが点になると思わない方がいいですよ?」

 

しかし、それは一瞬にして返された。

 

消えたのだ。

 

観客の誰一人として、そのスピードは見えなかった、否、見えるはずがなかった。

 

走ったのではなく、空間を移動したのだから。

 

球は人ではあり得ないスピードを出して真由美のコートに迫るも、それを魔法で倍の速度にして返す真由美。

 

前回よりと明らかに強くなっていた。

 

「いいね、すごい面白いよ。」

 

そして、球が三球に増えたころ、現在得点は真由美に一点入っただけ。

 

そこで、佑馬が動いた。

 

「それじゃあ、ちょっと本気でやらせていただきます!」

 

そして、そのまま三球を打った。

 

誰が見てもさっきとは何も変化したところはない速い球。

 

しかし、それは真由美のコートに入る前に起きた。

 

「……え?」

 

ネットを超える前に球がいきなり消えた。

 

(上!!)

 

マルチスコープによって、それが上にポップアップしたものだと見切った真由美は、そこに魔法を放つ。

 

「お、神隠しまで見切るとはさすが。」

 

そして、佑馬がラケットを振った、いや、初めて振り抜いた瞬間。

 

目視することも出来ずに三球の球が真由美のコートに落ちた。

 

「……え?」

 

その言葉は、真由美や観客を含めた全員から漏れた。

 

マルチスコープですら残像を捉えるのがやっとのスピード。

 

ベクトル操作と全力の力で振り抜いた球はその場にいたほとんどの、いや、三人を除いた全員が見えなかった。

 

見えた者は真由美と達也、そしてジブリール。

 

ジブリールははっきりと、真由美と達也は残像で。

 

そこからは7球が出るまでの間、二人の差は127対5となっていた。

 

前者が佑馬、後者が真由美。

 

「さて、そろそろこれも疲れたし、一球増えるごとに楽させてもらうよ。」

 

なんとか食らい付いていっている真由美に対して、再び声をかける佑馬。

 

返球を対処しながら、それを警戒する真由美。

 

8球目が出てきて、それを佑馬が打った。

 

そして、真由美からの返球を含む球は8球全て、文字通りその場から消え、気がついたら真由美のコートに全て落ちていた。

 

「……そんな……いつの間に……。」

 

そう、完全に消えた。

 

達也の眼をもってしても、ジブリールですら見えなかった。

 

それもそのはず。

 

佑馬が使ったのは神威。

 

全ての球を異空間へ移動させ、真由美のコートに全て落とした。

 

種がわかるはずもない真由美はただ集中力を高めて見極めることしか出来ない。

 

そして、9球目が出てきてころ。

 

脈炉も何もなく、佑馬のコートに入る直前で球は様々な場所へ凄まじいスピードで返された。

 

反射膜をコート全域に展開し、コートに入ることすらを拒むこの技。

 

この試合は佑馬の勝利となった。




実は昨日がこの小説が始まって2ヶ月だったりする。

2ヶ月で18話か。

少ないなぁ。

というわけで、今回は増量+チートターンにしてみました。

次回、クラウド・ボール、ジブリールのターン。


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恋人兼ライバル

題名でどういう展開かわかるかと思います。


その場で声を出す者は誰一人としていない。

 

男子を含めたクラウド・ボール本選メンバー最強の真由美が大差で負けた。

 

その圧倒的な実力。

 

箱から真由美と佑馬が出てきた。

 

真由美は息を整えながら、佑馬は汗もかいてない様子で、二人とも何かを話しながら。

 

「さて、中田佑馬の方のクラウド・ボールの実力はこれで証明された。次に中田ジブリールの方だが、相手は誰がやる?」

 

「それ、自分がやってもいいでしょうか。」

 

克人の問い掛けに名乗りを挙げたのは、佑馬。

 

「別に構わないが、大丈夫か?」

 

克人は、二つの意味でそう聞いた。

 

今の試合で疲れていないのか、というのが一つ。

 

佑馬が相手で実力がわかるのか、というのが一つだ。

 

それを的確に汲み取った佑馬は、

 

「問題ありません。」

 

と、だけ答えて、ジブリールと共に再び透明な箱に入っていった。

 

◆◆◆

 

「お疲れ。」

 

二人が箱に入っていくのを見ながら、摩利は真由美を労った。

 

「ありがとう、摩利。でも……また負けちゃったなぁ。」

 

その真由美は、とても悔しそうな表情をしている。

 

「佑馬君が相手ではそれも仕方のないことだろう。だが……あそこまでとはな。」

 

「しかも、あれでまだ本気じゃないっていうのだから嫌になっちゃうわ。」

 

その言葉に、摩利は少なからず驚いた。

 

「……それは本人からの情報か?」

 

「ええ……ジブリールさんの時に本気を出すことになるって言ってたわ。」

 

それはつまり、間接的にジブリールよりも劣っていると言われたようなもの。

 

悔しくないはずがない。

 

「つまり、本番はここからというわけか……達也君といい、三人とも本当に高校生なのか疑問に思うところだな。」

 

「全くよ。」

 

二人が会話している中、箱の中では佑馬とジブリールが向かい合っていた。

 

◆◆◆

 

「さて、こうやって対戦することになったが、まさかさっきのが本気だとは思ってないよな?」

 

「逆にあれぐらいが本気だったらこっちが困ります。」

 

ネットを挟んで軽口を言い合う二人。

 

だが、遠目でもわかるほどの威圧感。

 

「まぁいい。俺が勝つだけだからな。」

 

「おやおや、もう勝った気でおられるのですか?それは油断に繋がりますよ。」

 

「前ならともかく、今の俺が油断すると思ってるのか?」

 

「それもそうでしたね。」

 

そこで、二人とも位置につく。

 

佑馬、ジブリール、共にラケット。

 

合図がなると同時に、球は佑馬の方へ飛んでいった。

 

それを佑馬は打ち返すが、その球は真由美のときとは比べ物にならないほど、速い。

 

ベクトルを操作し、なおかつ自己加速術式まで使ったその球は、ソニックブームを伴ってジブリールコートに向かうが、

 

「遅いですね。」

 

その呟いた一言とともにジブリールが打った球は、佑馬の非ではないほど、速い。

 

実際、単純な運動神経なら、ジブリールの方が上だ。

 

そこに能力が加わることにより、佑馬はジブリールを超えるほどのスピードを出せている。

 

しかし、それがジブリールも使えるとしたら、どうだろうか。

 

佑馬のベクトルの方向を全て加速にあてた球を、ジブリールがベクトルの向きを魔法で反転させつつ、その球を打つ。

 

その結果、必然的にラリーのスピードは上がっていく。

 

観客には、二人の残像しか見えていない。

 

ポイントはまだどっちも取っておらず、一球目からこのレベルの高さ、いや、もう次元が違っていた。

 

20秒が経ち、二球目が出てきたとき、佑馬が動いた。

 

佑馬が打った二球は、いきなりその姿を消した。

 

「……ッ!!」

 

ある一点から気配を感じたジブリールは、そこに向かって全力で走るも、間に合わない。

 

神威。

 

佑馬に二点が入る。

 

そしてさらに、佑馬は反射膜をコート全体に張り、ジブリールの球を問答無用で返す。

 

「これをどうにかしなきゃ、俺に勝つなんて夢のまた夢だぜ?」

 

そう言って口を吊り上げ、三球、四球と増えていく球を一球も落とさずに打ち続けるジブリールを観客みたいに見ている佑馬。

 

そして、それが油断だった。

 

ジブリールが打った四球は、反射膜に触れる直前で姿を消した。

 

反射膜でコートを覆っているとはいえ、箱の隅には当然覆いきれない小さな隙間が存在する。

 

そして、箱の隅に二球、ボールが落ちていた。

 

◆◆◆

 

「……何あれ。」

 

真由美が言っているのは、試合展開のことではない。

 

今の魔法のことでもない。

 

二球は確かに転移して、箱の隅に落ちた。

 

しかし、後の二球の行方を見て、その場の全員が思っていることを真由美が溢した。

 

佑馬のコートの空間に亀裂が入っており、二球とも粉々に砕かれていたのだ。

 

「達也くん、あれが何かわかる?」

 

真由美は達也に話をふる。

 

この中で一番この状況を理解できている人、と判断した結果だが、

 

「……いえ、わかりません。佑馬の反射させる魔法と空間転移の魔法が何かしらの現象を引き起こしたのかと思われますが……。」

 

「空間転移だと?」

 

達也の説明に反応を示したのは、克人。

 

「はい。佑馬とジブリールは空間転移魔法を使うことができます。」

 

「あの二人はBS魔法師なのか?」

 

「本人達は違うと言っていましたし、BS魔法師が苦手とする実技も満点でしたので、それは違うと思います。二人の固有魔法というのが一番現実的な考えですね。」

 

「そうか。」

 

それを聞いた克人は再び箱の中の現状を見る。

 

佑馬のコートの空間に亀裂があるまま、二人は三球に減った球を打ち合っており、点数は現在二点ずつ。

 

この二人に何か危ないものを感じた克人は、それが杞憂であることを願いながらその試合を観戦した。

 

◆◆◆

 

「おお、やるじゃん。」

 

佑馬が、さっきのジブリールの攻撃に対して感嘆の声をもらした。

 

それは、反射膜をコートに広げたときの完璧なる弱点。

 

佑馬を中心として広がるそれは確かにほぼ全域を覆っている。

 

そこで、ジブリールはある仮説を立てた。

 

佑馬はその場から動くことが出来なくなり、隙間を狙った転移による攻撃を対処することが出来ないかもしれないという。

 

ジブリールが反射膜内に二球入れたのは、自分の仮定とは別の突破口を見出だせるかどうかを試したもの。

 

結果、反射膜内には亀裂が入り、佑馬のコートの隅にはボールが落ちた。

 

ジブリールの仮定が確定となり、それが唯一の突破口となった瞬間。

 

その結果、佑馬は反射膜を解かざるを得なくなり、また最初と同じ打ち合いになっている。

 

砕けた二球を含めて六球が出た頃、佑馬とジブリール、両者に疲れの色が見え始める。

 

ベクトル操作を重点的に使って出来るだけ体力を使わずに対処していた佑馬と、自己加速術式と加速を使って対処しているジブリール。

 

佑馬は二試合連続と超スピードの魔法使用によるもので、ジブリールは超スピードでの魔法のマルチキャストによるもの。

 

佑馬が神威で飛ばしても、空間転移で現れた場所に飛び、現れた瞬間を打ち返し、ジブリールの空間転移で飛ばした球も、同じく空間転移で現れた瞬間に打っている佑馬。

 

両者一歩も引かずに試合は続き、ブザーがなった。

 

結果は、引き分け。

 

二人とも息を切らしてネット越しに近寄る。

 

「まさか反射膜のあの弱点を突いてくるとは思っても見なかった。さすがだなジブリール。」

 

「いえ、佑馬と会長さんとの試合を観てなければ見つけることも出来ませんでした。」

 

ジブリールが今回の弱点を見つけられたのは、真由美との試合にあった。

 

最後の二十秒しか使っていなかったが、その反射される場所が全部均一ではなかった。

 

端になればなるほどネットを越えてほんの少し、コンマ数秒単位での遅れで反射していたのをジブリールは見逃さなかった。

 

後は試合の中で空間を把握して、そこにピンポイントで球を飛ばすだけ。

 

ジブリールの動体視力と空間把握能力の結果だった。

 

「引き分けは初めてじゃないか?」

 

「そうでございますね……やっとでございますよ。」

 

佑馬は勝ったわけではないのに、とても嬉しそうに、ジブリールもまた、困った表情をしながらも何処と無く嬉しそうだった。

 

「……さぁ、行こうか。」

 

「はい。」

 

空間の亀裂を直してから、透明な箱を出て克人の元へと向かう二人。

 

誰も二人の実力に文句を言うこともできず、そのままメンバー入りが決定となった。

 

◆◆◆

 

「それで、どうだったのですか?お兄様。」

 

今回、生徒会室で留守番をしていた深雪は、家についたときに佑馬達のことを噂で聞いたため、気になって達也に聞いた。

 

「……すごいというレベルではなかった。あれは日本どころか、世界でもトップクラスの実力だ。」

 

「そこまでですか?」

 

達也が嘘を言う人ではないことを知っている深雪は、二人の実力を知っているとはいえ少なからず驚いた。

 

「佑馬のCAD無しの自己加速術式と加速術式、それを悟らせない認識偽装の術式のマルチキャストに音速並みで動く身体能力、ジブリールもCAD無しで自己加速の術式と加速術式のマルチキャストにこちらも音速で動く身体能力、そして二人ともその中での空間転移の使用。どれもこれも高校生、というより、一流の魔法師ですら不可能だろう。」

 

達也から聞かされた内容は、あまりにも現実離れしており、思わず息を呑む。

 

――ジブリールのはともかく、佑馬は全く違うのだが。

 

「ジブリールはピラーズ・ブレイクはやったのですか?」

 

その質問は、自分もアイス・ピラーズ・ブレイク(棒倒しやピラーズ・ブレイクと略すこともある)に出るため、対戦したときのために少しでも情報を集めようという魂胆があった。

 

「いや、ピラーズ・ブレイクはやってないが……俺も全力で調整するけど、深雪も苦戦は免れないだろうね。」

 

そして、時は少し遡って、放課後の生徒会室。

 

そこには二人の姿があった。

 

「十文字君、どう思う?」

 

七草真由美と、十文字克人。

 

「中田佑馬と中田ジブリールのことか?」

 

「そう……危険だとは思わない?」

 

そう、真由美達は危惧していた。

 

父親達が、十師族があの二人を狙うことに。

 

「ああ、確かにあの二人は危ない。師族会議では少し覚悟を持った方がいいかも知れないな。」

 

「やっぱりね……。」

 

真由美が、十師族が負けたというのは、とても重大な事件だ。

 

日本最強であるはずの十師族がただの魔法師に負けた、となれば、十師族の実力が疑われてしまう。

 

「だが、あの二人が与えた影響力は、我が校にとって大きいものだぞ。」

 

「それも否定できないのよね……。」

 

そう、あの二人の試合を見たあと、各部活動が躍起になって練習している。

 

九校戦メンバーは特に素晴らしい気合いの入れようなのだ。

 

そして、実際に真由美も影響を受けた一人。

 

「あれを見せられて頑張るなと言われる方が無理でしょ。」

 

佑馬とジブリールが一高にもたらした九校戦へのモチベーションアップは、予想以上に効果が大きかった。




モノリス・コードとアイス・ピラーズ・ブレイクはやりません。
実力はこれで証明されちゃってるので。

クラウドは、加速の術式で物質を反射出来るという原理で佑馬と対等=敵なし状態にしました。

魔法は無理です。


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旅団

更新を頑張ってみる。

HUNTER×HUNTERについての活動記録を更新しました。
確認をお願いします。

最近感想の方が鋭い。

自分のプロット実は読んでます?


司波家では、現在夕食を食べ終えて深雪は食事の後片付けを、達也は自分の部屋へと向かっていた。

 

そして、部屋に入った丁度その時、電話が鳴る。

 

その相手は……

 

「お久し振りです。……狙ったんですか?」

 

『……いや、何のことだか分からんが……久し振りたまな、特尉。』

 

画面に写ったのは不得要領な顔をした、旧知の人物、陸軍一○一旅団・独立魔装大隊隊長・風間玄信少佐。

 

一○一旅団の読み方は、イチマルイチ旅団だ。

 

「リアルタイムで話をするのは二ヶ月ぶりです。しかし……その呼び方を使うということは、秘匿回線ですか、これは。よくもまあ、毎回毎回一般家庭用のラインに割り込めるものですね。」

 

『簡単ではなかったがな。特尉、一般家庭にしては、君の家はセキュリティが厳し過ぎるのではないか?』

 

「最近のハッカーは見境がないですから。家のサーバーには、色々と見られてはまずいものもありますので。」

 

(どうりでカウンター機能が素晴らしいわけだ。)

 

そして、その屋根の上には、佑馬がいた。

 

何故かといえば、CADについてだったのだが、軍との連絡ということで形式上、達也のためにも、入るに入れない状態にある。

 

そのため、佑馬も回線に忍び込んで電話の内容を盗み聞き(面白そうだったため)しようとしたのだが、返り討ちを喰らいかけたのだ。

 

『そのようだな。今も危うく、カウンターでクラッキングを喰らいそうに……。』

 

そのとき、軍の関連者であろう者が風間に耳打ちをした。

 

その瞬間、風間の目付きが鋭くなる。

 

 

『……達也、この回線近くで盗聴されているぞ。』

 

「……ッ!?」

 

(うぉい、バレるの早すぎるやん。)

 

そして、見事にバレた。

 

さっきの話からカウンターを喰らいかけたらしいのだが、そのハッカーも中々の腕のようだ。

 

達也が知覚魔法、"精霊の眼"でこちらを視ているので、仕方がなく達也の部屋へと移動する。

 

「やぁ、達也。盗み聞きする気はなかったんだが。」

 

「……今度は何が目的だ?さすがにここまで干渉されると俺も黙っておくわけにはいかないのだが。」

 

普段もある程度されているのだが、より一層、最初のころのような警戒心を剥き出しにして問う達也。

 

後ろでは風間がこちらを睨んでいる。

 

「いや、本当に盗み聞きする気はなかったんだけど。」

 

「では、何故屋根の上で、わざわざ盗聴する必要がある?」

 

「……。」

 

面白そうだから、と言って許される雰囲気でもなく、一番の悪手である沈黙を取ってしまう。

 

佑馬自身もここで達也と争うのは不本意であり、また意味もない。

 

ただ、達也はさらに警戒の色を濃くしながら別の質問をする。

 

「そういえば、前に何故"桜"シリーズのことを知っているのかという質問に答えてもらっていなかったな。」

 

正直言って、ここまで面倒なことになるとは思っても見なかった。

 

「悪いな、盗聴したのは本当に何でもない出来心だ。"桜"シリーズについて何故知っているのか、という質問には答えられない。」

 

答えたらこれからさらに面倒なことになるため、それはどうしても答えられることではなかった。

 

「特尉、彼は?」

 

そこで、ずっと黙っていた風間が耐えかねたのか、誰なのかを聞いてきた。

 

「中田佑馬。同じクラスメイトで、神の使者の一人です。」

 

「ふむ、君が中田佑馬君か。」

 

神の使者の一人、と聞いても驚かないところを見ると、ある程度のことは知っているようだ。

 

「そうです。神の使者の一人、中田佑馬です。あの時はどうも。」

 

さて、ここまで素性がバレていて、盗聴をしていた、となれば、向こうからの評価はひとつ。

 

怪しい。

 

「こちらの言い分はCADのことで達也に聞きにきた時に電話してるのが聞こえたから終わるまで待つついでに、興味で盗聴していただけなんだけどね。それに、争うとしても達也にとっては不利益なことしかないと思うんだけど。」

 

争う気もないので本当のことを言う佑馬だが、興味で盗聴、争うとしても、とは最早本当に争う気がないのか疑問に思ってくるところなのだが。

 

だが、あえて煽るようにして言う佑馬。

 

「それに、達也の分解では俺は倒せない。それが例え、『マテリアル・バースト』だとしても。そして、俺はお前を倒せる術を持っている。これでもまだ争う気を起こすっていうのなら、相手になるけどな。」

 

ここまで言えば、常人ならキレる。

 

だが、客観的に物事を見れる達也にとっては、これが一番効果的なものだ。

 

「俺の『マテリアル・バースト』が効かないというのはともかく、お互いに不利益なのは確かだし、俺も争う気は無い。だが、今回の行動はさすがにタダで見過ごせることではないな。」

 

そして、今回の達也の意図が読めた。

 

つまり、ここまで誘導されていたのだ。

 

「俺も『分解』『再成』を取られているんだ。何か一つ、そちらも提供してもらうことにしよう。」

 

佑馬の技を手に入れるために。

 

「……はぁ……今回は見事にしてやられた。やっぱり性格悪いよな、達也。」

 

「さぁ、なんのことなのか俺にはさっぱりだな。」

 

そう言いながらも、達也の口は笑っていた。

 

「まぁ、今回のことは俺も悪かったと思ってるし、一つぐらいなら見せて……いや、ちゃんと教えてやるよ。」

 

そこで、今まで話したくても話し出せなかった風間が残念そうに言った。

 

『すまない、特尉。どうやら警察に尻尾をつかまれたようだ。近いうちにまた連絡をする。』

 

「その必要はない。」

 

そこに否定を入れたのは、佑馬。

 

佑馬はテレビ電話のモニターに手を翳す。

 

少しして、風間の目付きがまた鋭くなった。

 

『……今、一体何をした。警察が消えたのだが。』

 

「なに、ちょっと手をいれただけだ。しばらくはこれないよ。」

 

一瞬で警察から逃げた佑馬に驚きを隠せない風間。

 

これがハッカー目的でやってきたら、どんなセキュリティを張ろうと無駄だということがすぐに分かる。

 

「さて、俺はここにいても問題ないだろ?ここで言って終わりにするか、ここで追い出して軍の連絡網に入り込まれたいか、選択肢は二つね。ちなみに、『エレクトロン・ソーサリス』だっけ?その人呼んでも無駄だからよろしく。」

 

さっき達也にハメられたことをまだ根に持っている佑馬は、とりあえず風間に当たることにした。

 

「……仕方がない、しかし、ただで教えるわけにはいかない。君も戦略級魔法師の一人だ。つまり、国を守る義務がある。君が我々の隊に緊急の場合のみ入るという条件付きでなら、教えよう。これ以上はこちらも譲れない。」

 

風間もただでは引けないため、軍に入ったら、という条件を提示する。

 

しかし、先ほど佑馬が言ったのは、

 

ここで言って終わりにするか、追い出してハッキングされるか、の二つ。

 

つまり、交渉か対立かなのだが。

 

「嫌だね。それなら軍に入らないでハッキングした方がこちらの自由も確保出来るし、緊急の時に軍として動かなければならないのは面倒だから。」

 

交渉ですらない、こちらに不利益なことしかないことに、佑馬が乗るわけない。

 

情報を知りたいなら、ハッキングすればいい。

 

争うのもこちらの素晴らしい伴侶が喜んで参加するだろう。

 

「……わかった、軍に所属しているという形だけでいい。指示も何も聞かなくていい。ただ、我が隊に所有権のみを貰いたい。そちらにとってもメリットだとは思うぞ?」

 

「その理由は?」

 

だが、どうやら違ったようだ。

 

既に交渉は始まっていた。

 

さすがは達也の上司というべきだろうか。

 

「メリットは、十師族からの勧誘を防げることだ。」

 

確かに、これはメリットだった。

 

軍隊に所属しているなら、所有権は軍隊にある。

 

つまり、十師族が関与してくる可能性が減るのだ。

 

ジブリールは襲われたら嬉々として反撃するだろうが、もし家が壊されては堪ったものではない。

 

「軍に所属するだけ、後は何もしなくてもいい、何も聞かなくてもいい、本当に所属するだけ。これだけですね?」

 

確認は怠らない。

 

これは前の世界で学んだことだ。

 

多少の確認ミスが、大きな隙を生むことに繋がる。

 

「ああ、構わない。入ってくれるか?」

 

「了解。『神の使者』として、入らせて貰います。いいですね?」

 

「了承した。では、これから頼むぞ、特尉。」

 

よって、佑馬とジブリールの軍隊入り(形だけ)が決定し、九校戦で怪しい動きがあるという情報だけを落として、風間は電話を切った。

 

「……さて、さっそく佑馬の技を見させてもらおうか?」

 

「性格悪いやつめ。まぁ、一つぐらいならな……深雪も呼んできてくれ。後、寝巻きだな。」

 

「ここで見せてくれればいいのだが。」

 

「泊まり込みで教えるんだよ。深雪一人でここに居させるわけにもいかないだろ?達也の立場的にも。」

 

「……わかった、少し待ってろ。」

 

達也は下で片付けをしている深雪を呼びに言ったため、佑馬はとりあえずソファーで寛ぐことにした。

 

◆◆◆

 

「……大きいですね……。」

 

「ああ、無駄に大きいな。」

 

「ほっとけ、さっさと入るぞ。」

 

あれから達也と深雪は寝巻きなど身辺の物をあらかた持ってきて現れた。

 

そして現在、転移で家の前にいる。

 

二人暮らしにしては異常に大きい家に、佑馬に急かされたため、急ぎ足で玄関に向かい、入る。

 

「すごい綺麗ですね。」

 

「まぁ、いい知り合いを持ってね。」

 

いい知り合い、つまりは神だが、そのおかげで暮らしには満足している。

 

「おかえりなさい。あら、達也に深雪?」

 

「ジブリール、お邪魔する……わね。」

 

ジブリールが奥から姿を現すが、その格好に、達也も深雪も固まった。

 

天翼種特有の私服、露出の高い服装だ。

 

しかし、それを知らない人がこれを見ればどう思うだろうか。

 

家の中、しかも二人きりの家で、男女だけの家で、こういう格好をしていれば、当然ことだが、

 

「……その……すごいわね。」

 

顔を赤くしながら佑馬とジブリールを交互に見る深雪。

 

まぁ、そう見られても仕方がないだろう。

 

「まぁ、これはいつものことだから気にするな。とりあえず、付いてこい。」

 

そして、例の部屋。

 

あの真っ白な部屋に、達也と深雪を入れた。

 

「……これはどういう魔法だ?」

 

「企業秘密。でも、ここを使って教えるよ。ここは外の空間とは隔離された空間だから、魔法をどんなに打っても問題はない。」

 

達也と深雪はこの時、佑馬とジブリールが何故あんなに魔法を使いなれている理由がわかった気がした。

 

「それじゃあ、さっそく見せるか。ジブリール、『天撃』よろしく。」

 

「了解でございます。」

 

「……何?」

 

達也の驚いたような声を無視して、ジブリールは空中へと飛んだ。

 

そして、手を翳す。

 

その瞬間、辺りをサイオンの嵐が襲う。

 

「これは……!」

 

「サイオンが……光ってる……!?」

 

そして、手を見た達也と深雪は、驚きを隠せない。

 

ジブリールの手には、可視出来るほどの凄まじいサイオンが凝縮されていた。

 

そして、手を振りかざす。

 

凄まじい轟音とともに、辺りに衝撃波がとぶ。

 

達也は反射的に深雪の前に立ち、佑馬はジブリールと達也、深雪を含む全員に反射膜を張った。

 

そして、部屋が見えてくると……

 

「……え?」

 

無傷の部屋に、深雪は声をもらした。

 

達也も驚いている。

 

「さて、これが達也に教える魔法『天撃』、別名『スカイ・バースト』だ。」

 

「……ッ!!」

 

そして、その驚きの表情はさらに強くなった。

 

スカイ・バースト。

 

それは、三年前に使われた、戦略級魔法だ。

 

それを、教えると。

 

「対価として不満か?」

 

「……逆にいいのか?」

 

言外に、十分すぎる、と言っている達也に、満足げに頷く佑馬。

 

「さて、じゃあ、使う系統から説明するぜ?」

 

そして、天撃を教える佑馬とジブリール。

 

CADに入れるための魔法式の効率化に時間がかかっているため、深雪は寝かせ、達也と佑馬、ジブリールで夜通し作業した。




さぁ、展開を先読みしてみてください!
(当たったときの対応が困る。)

次回、やっと、本当の九校戦が始まります。

天撃って、収束と放出だけでいけるような気がするのは自分だけだろうか。
力に物を言わせる魔法。


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秘密兵器

ノゲノラですが、現在7巻を全力で理解しようとしています。

7巻異常に難しいんですよね。

ちなみにですが、ゲームはもう出来ています。

自分にしては中々の出来に仕上がってますね。

もう既に伏線を出してるので、それも含めて、展開を予想してみてください!

では、本文です。


達也に天撃の魔法式を教えたが、この状態では達也には扱えないということで達也がなんとか調整するという形でその日は終わった。

 

そしてそれからというもの、メンバー入りの時のクラウド・ボールがとても面白かったため、学校をほったらかしてジブリールとずっと試合をした。

 

それから数日後、夕方に司波兄妹が家にやってきた。

 

その手には、何かを包んだ袋が握られている。

 

「学校サボって何をしているんだ?」

 

「ジブリールとクラウド・ボール。」

 

「九校戦の練習をしているのはいいが、学校にも来てくれよ。教員を含めた皆が授業が受けられないと泣き喚いていたぞ。」

 

「あ、いっけね。」

 

放課後教員に授業をすることをすっかりと忘れていた佑馬だが、今は達也の握っている袋に興味がいく。

 

「ところで、その袋は?」

 

「ああ、明日行われる発足式のための制服だ。ジブリールの分もある。」

 

「大きさは?」

 

「入学式のときの発注履歴を元にしたらしいからあっているとは思うが……。」

 

その言葉を聞くと、少し考えるようにして、

 

「俺はいいがジブリールはちょっときついかもな。」

 

と、言った。

 

「どうしてだ?」

 

そして、達也は何故か地雷を踏んだような気がした。

 

いや、既に踏んでいた。

 

「最近ジブリールまた胸が大きくなったからさ。」

 

「そういえば、最近制服が少しキツく感じますね。」

 

「だよな。最近見てて思ったんだよ。」

 

その会話を無言で、達也は自分でふっておきながら顔を背け、深雪は顔を赤くして俯いて聞いてた。

 

「届けてくれてありがとう。調整はこっちでやっとくから問題ない。」

 

「……そ、そうか。それじゃあ、明日は絶対に来いよ?」

 

「了解。」

 

そうして、達也はくるっと向き直って、深雪はお辞儀をしてから二人は帰っていった。

 

「さて、採寸するか。」

 

「了解です♪」

 

こころ無しか楽しそうだが、そこは地雷のような気がしたので触れなかった。

 

さすがの佑馬も自分に不利な地雷は踏もうとはしない。

 

◆◆◆

 

サイズバッチリの制服でしっかりと発足式に出た佑馬とジブリール。

 

二科生ということで多少目立ったが、特に何も起こることなく発足式は終わった。

 

発足式が終わったあと、メンバーは九校戦の練習を本格的に始めるが、佑馬とジブリールはというと。

 

「はい、では最近解明された飛行術式について、どのような魔法式を展開すれば出来ると思うのか、まずはそれについて考えてみてください。」

 

教員に授業をしていた。

 

クラウド・ボールはともかく、佑馬はモノリス、ジブリールはピラーズ・ブレイクの練習をしないのか、と言われれば、否だ。

 

しかし、佑馬は何故か森崎に一緒に練習することを断られ、ずっとディフェンスをすることになっている。

 

ジブリールは家で練習出来るのでそこは問題ない。

 

というわけで、現在教員に授業をしているわけだ。

 

最初は少し遠慮されてたが、ならこれからもやらない、と言った瞬間手のひら返しで迎え入れられのだ。

 

あちこちでイギリスの実験の話や意見交換が行われ、結論は、魔法を書き消す術式と加速・加重の術式をCAに埋め込んで随時発動する、というものだ。

 

「なるほど、確かに悪くはない。しかし、それだと術式が余分になってしまうな。では、読みといていこう。」

 

そして、この授業が終わった時には、飛行魔法を理解できたことによる感動で何人か震えている者がいた。

 

◆◆◆

 

八月一日。

 

いよいよ九校戦へ出発する日となった。

 

そして、達也と佑馬、ジブリールはバスの外で立っていた。

 

「佑馬とジブリールは選手なんだから、バスで休んだ方がいいんじゃないか?」

 

「気にすんな。俺は此処にいたいからいるんだよ。……話もあるしな。」

 

現在、真由美が家の事情で遅れているため、バスは待機しており、真夏の太陽が三人を照らすが、佑馬が熱を反射させているため、快適に過ごせている。

 

「……そんなに大切なことなのか?」

 

「今日、バスに車が一台突っ込んでくる。」

 

「……何処の情報だ。」

 

「独自の情報網だが、確実だ。その時、お前は手を出すな。正体はまだバラしたくないだろ?」

 

口を吊り上げて笑いながら言う佑馬を見て、はぁ、とため息をつきながらも、

 

「助かる。」

 

そう一言だけ言って、再び真由美を待った。

 

その一時間半後、真由美が来たため佑馬とジブリールは中へ入る。

 

外で真由美と達也が何かやっているのを横目に見ながら、席に座った。

 

◆◆◆

 

全員が乗り込んだバスでは、現在前の方で服部が真由美と鈴音に弄られているのと、二年生の千代田花音が摩利と騒いでいること、深雪が不機嫌なこと以外は特に平凡だった。

 

そして、時を待つ。

 

ジブリールには既に何が起きるのかを話してあるため、準備は出来ている。

 

ある程度バスが進んだとき、花音が叫んだ。

 

「危ない!」

 

対向車線で車が傾いており、路面に火花を散らしていたのだ。

 

しかし、それは対向車線の話。

 

誰も危機感など持たない。

 

その車が、こちらの方へ向かってくるまでは。

 

急ブレーキがかかり、全員が一斉につんのめる。

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

「ジブリール、今だ!」

 

瞬間的に魔法を発動させた雫、森崎、花音だが、その起動式は、途中で霧散した。

 

ジブリールの領域干渉魔法によって。

 

「なんでっ!?」

 

「落ち着いてください、千代田先輩。ジブリールの干渉魔法です。」

 

魔法が発動しなかったことに悲鳴じみた声で花音が叫ぶが、佑馬が簡易に説明して深雪と克人に声をかける。

 

「深雪は火を、十文字先輩は防壁の魔法をお願いします。領域干渉は深雪と十文字先輩、市原先輩のところにはかかっていませんので。」

 

佑馬はジブリールの干渉魔法を反射膜で現在魔法を使っている鈴音、これから使う深雪と克人にかけて影響下から外している。

 

そして、深雪と克人により、車の暴走は止まった。

 

「みんな、大丈夫?」

 

追走していた作業車から現場記録や事故の処理をするため数人が降りるなか、真由美はバスの中にいる人に声をかける。

 

結論として、深雪と克人が車を止めた形になったが、克人はジブリールの領域干渉魔法で自分も魔法式を起動することが出来なかったことに、若干の焦りを覚えていた。

 

克人もA級ライセンスレベルの優秀な魔法師だ。

 

その克人が、魔法を発動出来なかった、その中で佑馬は魔法を発動し、その干渉魔法から特定の部分だけを守るという荒業を見せた。

 

それ即ち、克人よりも佑馬とジブリールの方が魔法師としての実力が上と言うことになる。

 

外では事故の処理が行われているなか、克人はじっと佑馬とジブリールを見ていた。

 

◆◆◆

 

その後、30分ほどロスをしてバスはホテルについた。

 

佑馬とジブリールは荷物をさっと下ろして、部屋にすぐ持っていき、家に戻った。

 

ちなみに、佑馬のルームメイトは達也、ジブリールのルームメイトは深雪だ。

 

そして、佑馬とジブリールは現在、CADの最終調整をしていた。

 

「後少しで完成だな!これで出場する全種目は優勝いただきだ!」

 

「使うのがとても楽しみです!」

 

そして、それを首に掛けて、いつも通り例の部屋に行って、使用感を確認、特に問題はなかった。

 

「よし。でも、これは最終兵器として使えよ。もし対策が練られたら困るからな。」

 

「勿論、油断はいたしません。」

 

ある程度使って安全性を確認し後、二人とも別々の部屋に戻り、既にそこにいた達也と深雪とともに、夕方に行われるパーティーへと向かった。

 

「佑馬は何してたんだ?」

 

「いや、君たちに万が一でも負けないようにちょっと家でCADの調整をしていた。」

 

「ほう、それは気になるものだな。今から見せろとは言わないが、深雪との試合が終わったら是非見せてくれないか?」

 

「ああ、構わないぜ。それで、そっちはどうだ?」

 

「なんとか物になったが……あんな魔法よく何も無しで使えるな。さすがにサイオン保有量は伊達じゃないってことか。」

 

「まぁな。実は『天撃』の上位魔法はもう出来上がってるんだが、さすがにそれは使えなさそうだな。」

 

「あ、『神撃』でございますか?」

 

「……一応聞くが、威力はどのくらいだ?」

 

「星が砕けるレベルだな。」

 

「それくらいでございますね。」

 

「……ごめん、聞いた俺が悪かった。」

 

深雪もはぁ、とため息をついていた。

 

達也と深雪はこの二人についてはもう諦めることにしたようだ。




新しいCADです!

効果はお楽しみを!


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九校戦前夜

九校戦は劣等生でも一番盛り上がるところだから、やっぱり長くなると思う。

活動報告にて、今後の方針と来週の更新について書きました。

確認をお願いします。


「だから本当は出たくないのよね、これ……。」

 

現在、懇親会が行われており、それに参加している。

 

これから勝敗を競う相手と一同に会するため、プレ開会式の性格が大きく、和やかさより緊張感の方が目につく。

 

生徒会長の真由美はその堅苦しさが好きではないようで、生徒会長としてあるまじき事を言った。

 

九校戦の参加者は三百六十名。

 

裏方を含めると、四百名を超える。

 

佑馬とジブリールは端の方でその光景を眺めていた。

 

「うん、暇だ。」

 

「暇でございますね。」

 

特別話したいと思う人もおらず、他校に知り合いがいるのかといったらいるわけもない。

 

唯一暇が潰せそうな達也は深雪とウエイトレスの格好をしたエリカと喋っている。

 

しばらく見ていると、雫とほのかが達也と深雪のところへ近づいていき、途中でほのかが一高の一年を指差し、達也が呆れたような表情をしているのが見えた。

 

「まぁ、あれは明らかに番犬だよな。」

 

「かなり優秀な番犬ですね。」

 

そして、また別の、

 

今度は二年生のカップルがその輪に近づいていった。

 

花音と五十里だ。

 

そして、達也に手を振って別の一年生のところへ向かった一年女子の三人を見て、佑馬は達也の近くへ行く。

 

「よ、モテ男。」

 

「そんなつもり向こうにはないと思うのだが……。」

 

「千代田先輩と五十里先輩は相変わらずですね。」

 

達也に声だけかけてもらした言葉には触れず、そのまま二年生カップルに話しかけた。

 

「貴方達も変わらないでしょ?」

 

「というより、佑馬君たちの方こそ相変わらずだね。」

 

「まぁ、いつも通りです。」

 

九校戦メンバーということや許嫁がいるという接点で顔は見知っており、佑馬とジブリールが同じ名字とはいえ下の名前で呼ぶほどには親しい。

 

「そういえば、ジブリールさんは棒倒し大丈夫?クラウドは見ていたけど、棒倒しをやってるとこ一度も見たことないよ?」

 

花音がジブリールを見て思い出したように、そう聞く。

 

「ジブリールなら問題ないですよ。CADの調整も既に終わっています。」

 

「へぇ。まぁ、あのクラウド見せられたら、嫌でも実力があるのはわかっちゃうんだけどね。」

 

佑馬とジブリールのクラウドの試合を思い出し、苦笑いしながら言う花音。

 

「そのCADは、佑馬君が調整したの?」

 

「あ、はい。そうです。」

 

「調整、というよりは、製造が正しゅうございますね。」

 

「え!?佑馬君ってCADも作れるの!?」

 

「はい♪性能は保証しますよ♪」

 

花音は、佑馬が完全な魔法師型だと思っていたらしく、CADを作れることに驚きを隠せなかった。

 

そして、当の佑馬は苦笑いしながら達也の方へ向いた。

 

「まぁ、そのCADは深雪対策のようなものなんだけどね。」

 

「ほう……佑馬達に対策されているというのは喜ぶべきことなのか?」

 

「さぁ、どっちだろうね。」

 

達也の困った表情を見て満足してたら、五十里が佑馬に話しかけてきた。

 

「ちょっと相談なんだけど、いいかな?」

 

「あ、はい。なんでしょうか。」

 

「僕たちエンジニアはなんとか数は揃ったけど、それでも足りないと言ってもいい状態なんだ。出来れば、エンジニアの方も手伝って欲しいんだけど……。」

 

それは、お願いだった。

 

エンジニアも兼任してくれということだった。

 

「わかりました。会長に聞いて許可が出たら、是非やらせていただきます。」

 

「助かるよ。」

 

現在、真由美は三校に向かっているため、今の話を忘れないようにするためにも、今三高の役員と話す前に聞いておかなければいけない。

 

少し小走りで真由美の方へ向かって、肩をトントン、っと叩いた。

 

「ん?」

 

「どうも。」

 

「ああ、佑馬君ね。どうしたの?ジブリールさんほったらかしてナンパ?」

 

この人も懲りないな、と思いながらもそこには触れずに用件だけ話す。

 

「五十里先輩と話してきたのですが、やっぱりエンジニアが少し足りてないんですよね?」

 

「軽く無視しちゃうのね……そうよ。なんとか回せるってくらいにしかいないわね。」

 

「というわけで、自分も空いているときにエンジニアとして入ってもいいでしょうか?」

 

「佑馬君がいいなら、是非そうしてくれると有り難いわ。それよりも……。」

 

「どうしました?」

 

変な間が空いたことに不思議に思ったため、聞き返すと

 

「佑馬君、最初会ったときはタメ口だったのに、今じゃ敬語になっちゃったなーって思ってさ。」

 

と、少し残念そうに言った。

 

「敬いは大切だと思ったので。敬語が必要ないなら、タメ口に戻しますが?」

 

「そうしてくれると有り難いわ。ちょっと堅い感じがしてあまり好きじゃないのよ。」

 

「了解。でも、ジブリールは元がこれだからそこは勘弁してね。」

 

「うん、やっぱりこっちの方がしっくりくるわ。」

 

満足げに頷きながら、三高の方へ歩いていく真由美。

 

そのさらに奥から視線を感じたが、来賓挨拶が始まったため、ジブリールと共に再び達也のところへ戻る。

 

達也は一人だった。

 

「よ、ボッチ。」

 

「佑馬か、もう話はいいのか?」

 

「さすがにこの中で目立つようなことはしたくないな。」

 

「そうか。」

 

そして、再び壇上に目を戻す達也。

 

「誰か知り合いでも来てるのか?」

 

「いや、顔を知っている程度だな。」

 

しばらく魔法界の名士と呼ばれる人たちの話を聞いて、暇を潰した。

 

そして、最後の来賓の挨拶。

 

『老師』と呼ばれる十師族の長老、九島 烈。

 

この二十一世紀の日本に十師族という序列を確立した人物であり、二十年ほど前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた人物だ。

 

最強のまま第一線を退いたのだが、何故か九校戦にだけは毎年顔を出すことで知られている。

 

司会者がその名を告げ、会場の高校生全員が、息を呑んで、九島老人の登壇を待つ。

 

そして現れた人物に、会場がざわめいた。

 

壇上にいたのは、金髪の若い女性。

 

だが、佑馬とジブリール、達也はすぐに魔法の気配を察知、後ろに老人が立っているのを見た。

 

その老人がこちらを見て、ニヤリと笑った。

 

それは正に悪戯を成功させた少年のような、無邪気なものだ。

 

今回使ったのは、とても弱い『精神干渉魔法』。

 

しかし、それを工夫して、この会場のほとんどの人を騙した。

 

魔法は力だけではなく、使い方、というのを実践した上で、その工夫を期待している、という言葉を残して、烈は去っていった。

 

達也は無表情だが、何処と無く楽しそうな雰囲気を出していたため、烈のことを気に入ったのだろう。

 

九島 烈。

 

佑馬はこの時思った。

 

ジブリールと同等の強敵だと。

 

◆◆◆

 

懇親会が終わった次の日、準備期間として休日になっているが、佑馬はエンジニアとの兼任が認められたため、何処のサポートに入るのかを決めていたが、技術が分からない、ということで一番親しい達也の補佐、という形になった。

 

そのため、部屋でしっかりと日程を組んでいる。

 

そして、ジブリール。

 

深雪と同室というためか、ほのかと雫が遊びに来た。

 

知らない仲ではない、というより、深雪とは比較的よく、ほのかと雫とも関係はいいため、そこまで居心地は悪くはなかった。

 

ガールズトークをしているうちに、気がつけば夜の十時。

 

そこで、扉がノックされた。

 

「あっ、私が出るよ。」

 

全員立ち上がったが、一番近かったほのかが扉を開けた。

 

「こんばんは~。」

 

「あれっ、エイミィ。他の皆もどうしたの?」

 

そこにいたのは、紅い髪が印象的な小柄な少女。

 

チームメイトの明智英美だ。

 

そして、背後には四人の同級生。

 

ここには、第一高新人戦女子チームのメンバーがほとんど揃っているのだ。

 

「うん、あのね、ここって温泉があるのよ。」

 

「……ゴメン、もう少し分かりやすく言って?」

 

「温泉に入ろうってことではございませんか?」

 

英美の言いたいことを代わりに言ったのは、ジブリールだった。

 

「そうそう!さすがジブリールさん!」

 

「……入れるの?」

 

「試しに頼んでみたら、許可くれたよ。十一時までだったら良いって。」

 

「さすがはエイミィ。」

 

ほのかが漏らした呆れ声混じりの呟きも、

 

「言ってみるものよね。」

 

むしろ得意気にしている英美には効果がないようだ。

 

地下にある大浴場は一高一年女子の貸しきりだった。

 

着替えを持ってくるため、少し遅れた深雪とジブリールだったが、それほど遅れてはいない。

 

それほど遅れてはいないはずなのに、中は既に騒がしかった。

 

「一体何を騒いでいるのかしら。」

 

「大人数でお風呂に入るなんて、久しぶりでございますね。」

 

二人ともシャワーブースで身体を洗ってから、中は水着、または湯着着用ということで、深雪は湯着、ジブリールは腹部が紐で編まれたワンピースに大きめのストールをパレオのように巻いた、前の世界の水着を着た。

 

深雪は長い髪纏めて、ジブリールはそのままにして浴室に移動した。

 

その瞬間、湯船に浸かっていたチームメイトの視線が、一斉に深雪とジブリールに向く。

 

「な、なに?」

 

深雪は思わずたじろぐが、ジブリールは気にせず湯船に入った。

 

「いやぁ、ゴメンゴメン。つい見とれてしまったよ。」

 

一番端の縁に腰掛けていたD組の里見スバルという少女に、少年っぽいというか随分ハンサムな口調でそう言われた深雪とジブリール。

 

「チョ……女の子同士で何を言ってるの?」

 

深雪は焦った声を出しながら、内腿あたりに手をやって隠すような仕草をする。

 

そして、ジブリールはというと。

 

(本当に、裸の付き合いは無くなってしまったのでございますね……。)

 

日本の伝統文化、『裸の付き合い』が無くなっていることに、少し残念な気持ちになっていた。

 

◆◆◆

 

しばらくは深雪とジブリールに見とれていた少女だったが、やっといつものようになった。

 

ジブリールは聞いているだけだが、やはり女子が集まれば恋愛話系列になるのは必然らしい。

 

「そういえば、三高に一条の跡取りがいたよね?」

 

「あっ、見た見た。結構いい男だったよね。」

 

「うん。男は外見だけじゃないけどさ、外見も良ければ言うことないよね。」

 

……という具合である。

 

「そういえば、ジブリールって中田君と付き合ってるのよね?」

 

「……あ、はい。そうですが?」

 

いきなり話題を振られて少し戸惑いながらも、肯定の意を返すと、一気に話しかけられた。

 

「ねぇ!何処までいったの?」

 

「一緒に住んでるって本当!?」

 

「実は十師族って話が出てるんだけど、そこんとこはどうなの?」

 

「あ、えーっと。少し落ち着いてくださいませんか?」

 

いくらジブリールでも、さすがにこれには困ったような表現を浮かべた。

 

「えーっと、まず私たちの関係ですが、所謂許嫁っていうやつでございますね。一緒に家に住んでいますが、十師族とは全く無関係ですね。」

 

「佑馬君、カッコいいよねー。ジブリールがいなかったら皆狙ってたんだよ?」

 

「佑馬がカッコいいのは当然でございます。誰にも譲る気はありませんよ?」

 

「ハイハイ、御馳走様。それで、何処までいったの?」

 

惚けたジブリールに笑顔でそう言いながら、さらに深くまで聞くエイミィ。

 

「ちょっとエイミィ!?」

 

「何処までとは?」

 

「いやぁ、一緒に住んでいるんでしょ?男の跡の一つや二つ、あるんじゃないかと思って。」

 

かなり深くまで聞いたエイミィだが、それくらいで恥ずかしがるジブリールでもない。

 

「いえ、誘っても全く反応してくれないんですよ。ベッドで寝てるときも身体を密着させるんですけど……どうしたらいいのでしょうか……って、皆さん、どうかしましたか?」

 

ジブリールが真剣に悩んでいるなか、ふと顔をあげると全員が顔を真っ赤にしていた。

 

「……その……すごいね。中田君もジブリールも。」

 

「勝てる気しないわ……。」

 

「ジブリールはよくそんなこと言えるわよね……佑馬君も前それで困ってたじゃない。」

 

その時、ここにいるほぼ全員が思った。

 

佑馬の理性がよく持っているな、と。




前夜と書きましたが、それが一番雰囲気としてあってるかなっと思いつけたものです。

本当の前夜は休日ですからね。


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九校戦開幕

なんだかんだで更新していくスタイル。


九校戦は直接の観客だけでも、十日間で延べ十万人。

 

交通の便が悪いところで行われているにも拘わらず、一日平均一万人のギャラリーが競技を見に来る。

 

有線放送の視聴者は、少なくともその百倍以上になるだろう。

 

開会式は華やかさよりも、規律強く印象付けるものだった。

 

魔法競技自体派手なものだから、セレモニーを華美にする必要は無いのである。

 

来賓挨拶もなく、九校の校歌が順に演奏された後、すぐに競技に入った。

 

一日目の競技はスピード・シューティングの決勝までと、バトル・ボードの予選。

 

「お兄様、会長の試技が始まります。」

 

「第一試合から真打登場か。佑馬、観に行くぞ。」

 

「お、そうか。ジブリールは……いるな。よし、行こう。」

 

「了解。」

 

達也を呼びに来た深雪と、そこにいたジブリールと共に真由美の観戦をすべく、スピード・シューティングの競技場へ向かった。

 

左から、雫、ほのか、達也、深雪、ジブリール、佑馬の順番で、会場内の一般用の席に座る。

 

スピード・シューティングは、三十メートルの先の空中に投射されるクレーの標的を魔法で破壊する競技で、制限時間内に破壊したクレーの個数を競う。

 

いかに素早く正確に魔法を発射できるかを競う。

 

これがスピード・シューティングという競技名の由来。

 

試合は二形式。

 

予選は五分の制限時間内に破壊した標的の数を競うスコア型。

 

準々決勝以降は対戦型。

 

紅白の標的が百個ずつ用意され、自分の色の標的を破壊した数を競う。

 

隣では達也と愉快な仲間たちが雑談しており、前列では青少年、少女が真由美の姿を見ようと押し掛けていた。

 

「スポーツ観戦をするのは初めてだな。」

 

「そうでございますね。あの世界ではスポーツというよりゲームでしたし。」

 

「懐かしいな。盟約とか十六種族とか。」

 

「本当でございますね……試合が始まりそうですね。」

 

ジブリールがそう言ってしばらくすると、観客席は静まり返った。

 

開始のシグナルが点った。

 

軽快な射出音と共に、クレーが空中をかけ抜ける。

 

「速い……!」

 

一番左に座っている雫から声が漏れる。

 

真由美は真っ直ぐ立ってCADを構えているだけ。

 

クレーが次々と、不規則な間隔で撃ち出されるなか、それを一個の取りこぼしもなく、個々に撃ち砕いていき、五分の試技時間は、あっという間に終了した。

 

「……パーフェクトとはね。」

 

身に付けていたゴーグルとヘッドセットを外して、客席の拍手に笑顔で応える真由美を見ながら、達也は呆れ声で呟いた。

 

「しかも、『マルチスコープ』を使ってなかった……。」

 

「それって、肉眼だけであの射撃を行っていたということですか?」

 

「そういうことになるね。」

 

達也と深雪の会話を聞きながら、佑馬は真由美の方を見る。

 

未だ観客の拍手に応えているが、ふと、此方を見つけると、

 

「……あれは佑馬に向かってやってるな。」

 

「……だろうね。」

 

こちらに手で銃を作って、バン、と撃つ仕草をした。

 

回りから痛い視線が集まるが、何故真由美がそんなことをするのか、それは……

 

「佑馬はたぶん、会長のライバルとして目を付けられたんじゃないか?」

 

「……思い当たる節がありすぎて否定できないな。」

 

真由美が佑馬をライバル視していることだろう。

 

九校戦競技を決める際、スピード・シューティングのクレーの代用で真由美のドライアイスの亜音速弾を使っていたが、それを軽々撃ち砕く佑馬を見て真由美がだんだん本気になっていき、最後は『マルチスコープ』まで使ったのに、結果はパーフェクト。

 

クラウド・ボールも真由美が大差で負けたことは既に知れ渡っている。

 

佑馬は真由美が退場をしていくのを見ながら、

 

「負けてられないな。」

 

と、呟いた。

 

◆◆◆

 

黄色い歓声が飛ぶなか、バトル・ボードは行われていた。

 

開幕の他校の自爆戦術を唯一喰らわなかった摩利は、一周目を終えて既に独走状態だった。

 

バトル・ボードは人口水路を、長さ百六十五センチ、幅五十一センチの紡錘形(ぼうすいけい)ボートに乗って走破する競争競技だ。

 

ボードに動力はついていないため、選手は魔法を使ってゴールする必要がある。

 

選手の身体やボードに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはルールの範囲内だ。

 

コースは男女別に作られているが、難易度に大差はない。

 

予選は一レース四人で六レース、準決勝を一レースで三人で二レース、三位決定戦を四人で、決定レースを一対一で競う。

 

「硬化魔法の応用と移動魔法に振動魔法、加速魔法……すごいな、常時三から四種類の魔法をマルチキャストしているのか。」

 

達也からは称賛の声がもれた。

 

一つ一つの魔法自体はそれほど強力なものではない。

 

ただ、組み合わせは絶妙だった。

 

佑馬はこの摩利のレースをみて、九島烈の言葉を思い出す。

 

「工夫を楽しみにしている……か。確かに、これは面白いな。」

 

「なら、強力な魔法を工夫して使えば、どうなるのでしょうか。」

 

佑馬の呟きにジブリールが反応する。

 

「強力な魔法を工夫するねぇ。やっぱり、強力な魔法は派手だからフェイント効果は高いんじゃないか?」

 

「フェイントですか……なるほど。」

 

珍しく何か深く考えているジブリール。

 

ウーンウーン言いながら考える姿は可愛いのでほっておくが、何をそんなに悩んでいるのか分からなかった。

 

バトル・ボードは摩利の断然トップで終わった。

 

◆◆◆

 

昼食が終わったあと、達也は秘密裏に旅団の人たちと会っているため、このスピード・シューティングの場にはいない。

 

幹比古も熱気に当てられたらしく、部屋で寝ると言ってホテルに戻っていった。

 

「達也くん、こっちこっち!」

 

エリカの陽気な声が向けられたのは、会場に入ってきた達也。

 

「準々決勝からすごい人気だな。」

 

「会長が出場されるからですよ。他の試合は、これほど混んでいません。」

 

達也の独り言に近い感想を律儀に答えたのは、美月。

 

「……達也、なんか言ってた?」

 

佑馬が気にしているのは、旅団のこと。

 

佑馬もジブリールも旅団に所属しているため、達也も情報を共有する必要はある。

 

「いや、顔を見てみたいから挨拶はしてほしい的なことは言ってたが、それ以外は特になかったぞ。」

 

「了解。今日の夜挨拶に行くからそれを伝えておいてくれ。」

 

「分かった…ほのか、観辛くないか?」

 

話が終わったところで、声のボリュームを戻して後ろにいるほのかを気にかけるが、ほのかは笑顔で顔を横に振った。

 

ここからは紅白のそれぞれ百個の標的から、自分の色の標的を選び破壊した数を競う対戦型になる。

 

開始の合図は、縦に並んだ五つのライトが全部点いたとき。

 

最初のライトが光、下から一つずつ光源が増えていく。

 

光が最上段に到達した瞬間、クレーが空中を飛び交う。

 

真由美が撃ち落とすべき標的は赤。

 

赤く塗られたクレーは、有効エリアに飛び込んできた瞬間、ほぼ同時に撃ち砕かれていく。

 

「『魔弾の射手』……去年より更に速くなっています。」

 

魔弾の射手。

 

遠隔弾丸生成・射出の魔法。

 

スピード・シューティングにおいて、相手の魔法を使用している領域外から死角をついて攻撃出来るため、お互いの魔法が干渉しあうこと起きる。

 

そうすることにより、一人で魔法を使っているのと同じ状況が生まれる。

 

無論、それは相手も同じこと。

 

そうなれば、純粋にスピードと照準の精確さが勝負となるのだが、真由美の魔法力は世界的に見ても卓越した水準にある。

 

高校生のレベルでは、勝負にすらならなかった。

 

◆◆◆

 

一日目の競技は、スピード・シューティングは男女ともに一高の優勝。

 

バトル・ボードも男女共に予選は通過したが、予想よりも男子は苦戦した。

 

そして現在、佑馬とジブリールは旅団の人に挨拶をするために、大佐クラスが使う広い客室に向かった。

 

「こうして会うのは三年前ぶりか。まあ、掛けろ。」

 

中には円卓の上にディナーが人数分準備されており、既に何人か座っていた。

 

「それでは、失礼します。」

 

礼儀上の挨拶を言って、ジブリールと共に座る。

 

「さて、まずは紹介からだな。」

 

風間も対面に座ってから、旅団側の自己紹介が始まる。

 

「それでは、自分から。真田 繁留(さなだ しげる)だ。階級は大尉、よろしく頼む。」

 

柳 連(やなぎ むらじ)だ。階級は大尉、三年前に顔を会わせているのだが、覚えているかな?」

 

「ええ。CADを奪い取りましたから。」

 

「ああ、そこは覚えてなくていいんだよ……。」

 

まずは佑馬から向かって右側の二人、真田と柳が自己紹介をする。

 

藤林 響子(ふじばやし きょうこ)、階級は少尉よ。よろしくね、中田佑馬くん、ジブリールさん。」

 

山中 幸典(やまなか こうすけ)だ。階級は少佐で軍医をやらせてもらっている。」

 

そして、向かって左側の女性、藤林と山中が自己紹介をする。

 

「そして、既に知っていると思うが、私がこの旅団の隊長、風間 玄信(かざま はるのぶ)だ。階級は少佐、これからよろしく頼むぞ。」

 

そして、最後に対面にいる風間が自己紹介をした。

 

「それでは、自分から。『神の使者』の一人、中田 佑馬です。これからよろしくお願いします。」

 

「『神の使者』の一人、中田 ジブリールでございます。争いごとが起きたらすぐに呼んでくださいませ♪」

 

佑馬は普通の、ジブリールはいかにも戦闘狂の言う自己紹介をした。

 

「では、冷めては勿体ないから先に頂くとしよう。」

 

風間の促しで、会食を始める。

 

最初は佑馬たちの魔法についてや軍についてなど事務的なものが大半だったが、話は次第に九校戦へと向く。

 

「佑馬君とジブリールさんは、何か出場されるんですか?」

 

「はい。自分はクラウド・ボールとモノリス・コード。ジブリールがアイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボールに出ます。」

 

藤林の質問に、佑馬は答える。

 

年齢が近いこともあって、この二人は既に打ち解けていた。

 

「ほう。佑馬は一条と、ジブリールは達也の妹と戦うことになるのか。どうだ、勝算はあるのか?」

 

「必ず勝ちます。自分の出るモノリス・コードは油断や過信ではなく、必勝です。ジブリールは達也の作るCAD次第ですが、ジブリールが負けることはまずないでしょう。」

 

風間の質問に、佑馬が丁寧に答える。

 

「そこまで自信があるのか。それは、是非とも見てみたいものだ。」

 

「是非見に来てください。楽しませてあげますよ?」

 

その日の初めての会食は、いい雰囲気のまま終わった。




真由美強化。
ルビこれから使っていきます。


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リベンジマッチ

最初のころノゲノラの更新すごかったなぁ……。
書き方が雑だったとはいえ(今も雑だけど)、今じゃ1日に4話とか絶対に無理ですよ……。

それと、クロスの要望が何件かあったのでここで言わせてもらいますが、自分はクロスはしません。

作者は面白くても、読み手は全く話についてこれなく場合が多いし、何より更新が遅れますので。

誘ってくださった方、この場でも謝罪させていただきます。

申し訳ありませんでした。

それでは本文です。


九校戦二日目。

 

佑馬は達也から借りた技術スタッフ用ユニフォームのブルゾンを着て、競技エリアに設けられた第一高の天幕にいた。

 

理由は簡単。

 

昨日の会食が終わって部屋に戻ると、そこには深雪がおり、クラウド・ボール女子のエンジニアを達也に頼みにきた、と言っていたのだが、

 

「兼任の許可貰えたけど仕事全くないから、俺でよければ入るよ?」

 

ということで、真由美達と話し合った結果、達也は新人戦で頑張ってもらおう、ということになり、佑馬がやることになった。

 

そして、現在に至る。

 

佑馬のエンジニアとしての技量は、達也ほどではない、というだけでかなり優秀な部類に入る。

 

その強みとなっているのが、『写輪眼』と『一方通行』を使って、その場でサイオン特性を把握、何の機材もなしにで調整出来るところにある。

 

「それで、データはもう大丈夫なの?」

 

つまり、その時、その場でサイオン特性や心理状態を把握できるため、既存のデータを見る必要もないのだ。

 

「ええ、大丈夫ですよ。」

 

「そう……そろそろ時間ね。行きましょうか。」

 

何か言いたげなだったが、無駄だと思ったのかそのままコートへ向かった。

 

本当はコートまで行く必要はないのだが、断る必要もないため付いていく。

 

コート脇についたが、それから二人に会話はない。

 

その長い沈黙はさすがに不味いと思った佑馬は、気持ちを上げるためにも声をかける。

 

「……何処まで強くなったのか、見させてもらいますね。」

 

「……そうね。でも、ここじゃ本気は出せないかなぁ。」

 

「それは、出せなくても勝てちゃうって意味で?」

 

「それもあるんだけど……。」

 

そこで少し間を置いて、佑馬を見上げる真由美。

 

「また近いうちに戦うかもしれない人に、手の内を晒すわけにはいかないでしょ?」

 

その見上げた目には、純粋な闘志が、そして顔には、いつもの小悪魔的な笑みではなく、少女らしい笑みが浮かんでいた。

 

「そりゃそうだ。」

 

その顔を見て、佑馬も口を吊り上げる。

 

「さて、行きますか。」

 

真由美はその一言と一緒に冷却機能のついたクーラージャンパーを脱ぎ、テニスウェア姿になった。

 

「何か一言、コメントとかないの?」

 

「それじゃあ、一言だけ。」

 

いつも通りの小悪魔的な笑みを浮かべた真由美が言って欲しかったのは、自分の格好についてだったのだろう。

 

しかし、佑馬は表面上のそれを言わなかった。

 

「このクラウド・ボール、優勝したらもう一回だけ勝負してあげるよ……ライバルとして。」

 

「……っ!?」

 

佑馬が言ったのは、真由美を自分のライバルとして見るという宣言。

 

自分を完全に負かした相手からライバル、と認められる。

 

それこそ、

 

「……勿論よ、私は佑馬君のライバルなんだから。」

 

心の中から言ってほしい言葉だろう。

 

その真由美が他の高校生に負けるはずもなく、女子クラウド・ボールは全試合一セット、無失点のストレート勝ちで手の内を見せることもなく優勝を飾った。

 

◆◆◆

 

真由美の試合が終わった後、ピラーズ・ブレイクで花音が出ているなか、佑馬は再び風間の元へと向かっていた。

 

「どうしたんだ?君が頼みごととは。」

 

「本日の試合の行程が終わった後、クラウド・ボールの競技場を一つ貸して貰いたいのですが、なんとか出来ますか?」

 

「それはまた急なことだな……練習か?」

 

「練習みたいなことになってしまうのですが、七草家の令嬢とクラウド・ボールをやらせていただきたいのです。」

 

頼みごと、それはクラウド・ボールの再戦をするために競技場を一つ借りること。

 

風間は軍の中では少佐という階級だが、実際の権力は階級以上のものを持っている。

 

そのための頼みごと。

 

「それは厳しいな……ここは軍の施設だが今は九校戦の会場だ。私的なことで使っていいものではない。」

 

「勿論、タダでとは言いません。ジブリールのピラーズ・ブレイクが終わってからですが、自分のオリジナルのCADと魔法をそちらに提供します。威力は殺傷ランクA相当。どうでしょうか。」

 

新しいCADと殺傷ランクAの魔法、それは軍としても見逃せないものだ。

 

「……ピラーズ・ブレイクが終わってからというのは、そこで使うと言うことなのだな?」

 

「ええ、相手はあの深雪と達也のコンビですから、それなりの魔法を使わないといくらジブリールとはいえ厳しいものがありますから。」

 

「そのCADを今見ることは出来るか?」

 

「勿論。持ってきましょうか?」

 

「頼む。私は真田を呼んでくる。」

 

そして、それぞれの役目のために一時解散となった。

 

◆◆◆

 

「これは……起動式はいくつ入ってるんだ?」

 

「一つです。」

 

その特化型CADの形状を見て、驚きながらもその内容を問う真田。

 

「その魔法を教えてくれないか?」

 

「まだ秘密なので、真田大尉にだけ。」

 

そうして口を耳に近づけ何か説明している佑馬に、

 

「なんだって!?」

 

大声で叫んでしまった。

 

「真田、どうなのだ?」

 

真田は戦慄した。

 

その魔法の威力、CADの形状は勿論、その起動のしやすさに。

 

「はっ、先程伺ったものの対価として、破格なものだと思われます。」

 

真田から出た評価は破格。

 

つまり、競技場を一つ貸すだけでこれが手には入るなら安いということだ。

 

「了解した。軍のため、今回はこちらで手配しよう。」

 

「ありがとうございます。」

 

あくまで軍のため、という口実で許可を貰い、CADを受け取って一礼し、部屋に戻っていく佑馬。

 

それを見ながら風間は真田に問う。

 

「あんな形状のものは見たことないが、どういうものなのだ?」

 

「系統はおそらく収束、ですが……」

 

そこで黙る真田に風間は訝しげな目を向けるが、真田の顔には冷や汗が流れていた。

 

「彼は殺傷ランクA相当と言ってましたが、これは間違いなく、戦略級です。」

 

それは確かに、競技場一つ貸すだけで手に入るなら破格だ、と頷きながらも、風間の表情には冷や汗が流れていた。

 

◆◆◆

 

その夜、真由美と佑馬はクラウド・ボールのコート脇に立っていた。

 

「勝手に使っても大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ、許可もらってる。」

 

「どうやって?」

 

その質問には答えなかった佑馬に疑うような半目になる真由美だが、

 

「許可は間違いなく取ってるから大丈夫。」

 

それだけ言ってコートに向かった。

 

観客席には、摩利、十文字の三巨頭と鈴音、あずさ、深雪、服部の生徒会役員、達也とジブリール、そして噂を聞いて見に来た数人の九校戦メンバーが静かに見守っている。

 

「さすがに三回も負けるわけにはいかないわね……。」

 

「確かに今回は俺もやばそうだな……まさか『マルチスコープ』を使わずに出場競技を優勝するとは思っても見なかったよ。」

 

「私だって、二回も負けてなにもしないほど鈍感じゃないのよ?」

 

「手加減はしない……が、正直なところ、本当の本気も出せないな。」

 

その言葉に観客席の前列にいたものはざわめき、後ろの観客席が何事かとだんだん騒がしくなる。

 

「……嘘じゃないのね……本当に嫌になっちゃうわ。あれでまだ本気じゃないなんて。」

 

「試合用の力では本気さ。ただ……テストと同じで、それだけじゃ計測できないものもあるだろ?」

 

「それもそうね……。」

 

そして、真由美もコートに立つ。

 

その瞬間、観客席から緊張が走る。

 

そこで、開始のブザーが鳴った。

 

球は佑馬の方へとぶ。

 

その球を打ってから、真ん中へ移動する佑馬。

 

(来た!)

 

その瞬間、真由美は二つ目のCADを出し、球を魔法で打ち返して佑馬のコートの右端を狙う。

 

そして、ネットを越えようとした瞬間に、真由美側のコートのネット際から魔法陣が出現、ネットを越えた瞬間にドライアイスが放たれ、佑馬のコートに落ちた。

 

「ほう……すごいな。」

 

佑馬は素直に称賛した。

 

これが、真由美の反射膜の対策。

 

その性質上、佑馬は真ん中に立っていなくてはいけない。

 

つまり、真ん中に立った時がその時となる。

 

左右の端にはカバーしきれはない空間があるため、そこを狙うためのCAD二機操作にし、上から叩き落とすことにより、反射膜に触れる前に佑馬のコートに入れた。

 

そして、そのCADは達也によって調整されたもの。

 

真由美はどうだ、といわんばかりの表情をしている。

 

そこからのラリーは、全くの互角。

 

『マルチスコープ』によってコート全域をカバーしている真由美に、空間転移の球も『魔弾の射手』によって現れた瞬間に返され、ベクトルの力の向きを使った球も減速させることにより真由美も対応している。

 

そして、前よりも上がったその反射神経、これはスピード・シューティングで既に周知の事実。

 

追加でCADの二機操作により、佑馬のボールにも対応している。

 

これが、真由美が今まで佑馬に勝つためにした努力の結晶。

 

佑馬も点をとられはしないが、取れない。

 

(反射膜を破るどころか、点を入れさせないか……本当にすごいな。)

 

ここまで魅せられて、逆に本気にならない方が失礼だろう。

 

現在百二十秒、つまり、二分秒が経過し、球は現在六球。

 

残り一分。

 

そこで、佑馬は止まった。

 

その間に真由美に五点入り、真由美は訝しげな目を向けながらも勝機と追い討ちをかける。

 

皆スタミナ切れだと思うだろうか。

 

断じて否、ジブリールとの試合を見ているメンバーにはこれだけでスタミナが切れると思っていない。

 

だが、何かしようとしているこの隙を狙うしか真由美に勝機はない。

 

追加で三十点が入る。

 

時間にして約六秒。

 

一秒に五点というとてつもなく速いスピードで畳み掛ける。

 

そして、追加で五点が入った瞬間、佑馬の背中に異変が起きる。

 

◆◆◆

 

「何だ……あれ……。」

 

その場の誰もが思っていることを摩利が代弁した。

 

佑馬の背中には、漆黒の翼が生えている。

 

「ジブリール、何か知らないか?」

 

達也は近くにいたジブリールに声をかけた。

 

達也ですら、この現象は知らない。

 

「佑馬の本気の片鱗でございますが……この競技なら、本当の本気と言っても過言ではないです。」

 

「あれが、佑馬の本気?」

 

そして目を向けた達也たちの目に入った光景とジブリールの言葉に、近くに居たものは全員驚く。

 

「あの姿になった佑馬は私ですら勝てません。」

 

「……そうか、あれが佑馬の翼か……。」

 

そこには、佑馬のスコアに表示される五点とコートに立ち尽くす真由美の姿があった。

 

◆◆◆

 

見えなかった。

 

ネットを越してコンマ数秒もかからずに返したはずのボールは気がついたらコートに入っていた。

 

視認は出来なかった。

 

そして、対面にいるのは黒い翼を生やしたライバルにして目標の人。

 

とりあえず見えなければどうしようもないため、ネットに魔法を張り巡らせる。

 

体力の消耗は気になるが、そうも言ってられないため、減速してなんとか気力で持ちこたえるつもりだった。

 

しかし、

 

「……え?」

 

何の冗談だろうか。

 

夢でも見ているのだろうか。

 

確かに減速はした。

 

だが、ボールはこちらのコートにある。

 

つまりは、こういうことだろうか。

 

「……物理的に……壊した?魔法を?」

 

残り四十秒、減速魔法では持ちこたえられないと、ただ耐えるだけの防壁魔法で七球をなんとか防いでいるが、一球ずつ、防壁魔法は破られてそのままコートに入っていく。

 

現在十八対三十六。

 

点数の開きは倍あるが、全く安心できるレベルではなく、既にジリ貧。

 

観客が黙って見守るなか、佑馬の猛攻は続く。

 

十九、二十と入っていくのを見ながらも、サイオンが枯渇しているのを感じながらも、それでも気力で耐える。

 

残り二十秒、二十七対三十六。

 

とにかく防壁魔法を張り続けるしかなかった。

 

サイオンはもうほとんど底をついているが、負けたくない、勝ちたい、という執念だけが今の真由美を動かしている。

 

だが、それでも少しずつ点は入れられる。

 

残り十秒、三十二対三十六。

 

四点差にまで迫られている……いや……抑えている。

 

ジブリールですら勝てないと言わしめたその猛攻を、真由美は抑えているのだ。

 

意識が朦朧とするなか、魔法だけは打ち続ける。

 

(負けたくない……勝ちたい!!)

 

残り五秒、三十四対三十六。

 

最後の力を振り絞って、とにかく耐える。

 

残り四秒、サイオンはもう既にない、しかし、気力だけが真由美に魔法を打たせる原動力となっている。

 

残り三秒、一点が入った。

 

残り一点差。

 

残り二秒、感覚的に、いや、女の感というやつだろうか。

 

防壁魔法を展開すると同時に、コートのある一ヶ所に反射の魔法を展開した。

 

残り一秒、その展開した場所にボールがきて、それを上へと反射、後のボールは一球も侵入していない。

 

後ろでボールが落ちていくのを感じるが、魔法はもう打てない。

 

そして、ブザーが鳴り響くなか、真由美の意識は暗転した。




真由美ちゃん、よく頑張った。

そして、今頃気づく。

クラウド・ボールとピラーズ・ブレイクの日程って同じなんじゃ……ジブリールだからいっか。


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甘え

ルートには入りませんよ?


試合は終わった。

 

しかし、その凄まじさに、誰も声を出すことはない。

 

佑馬は翼を霧散させ、真由美に近づいた。

 

そして、そのまま真由美をお姫様抱っこし、透明な箱から出てくるのを見ている観客と、機械の操縦室から見ている者がいた。

 

「あれが『神の使者』の実力ですか……あれほどの激しい試合だったにも関わらず、息が乱れているだけのようですね。」

 

「ああ、これは予想以上だったが……七草の令嬢もよく耐えたな……意地というやつか?」

 

ブザーやボールを出す機械を操作していた藤林と、その隣にいた風間だ。

 

「最後の転移させたボールに反応したのは、恐らく無意識にでしょう。あれがなければ、引き分けてましたね。」

 

そう、それがなければ引き分け。

 

つまり、佑馬は負けたのだ。

 

コート脇に移動してそこで膝枕をしてジブリールを手招きする佑馬に、ジブリールはすぐに向かった。

 

何か聞いたと同時にその場から消えた。

 

「これだけ転移を見せられれば転移魔法も本当だと思わざるを得ないな。……あの時のは幻惑だと思っていたが……。」

 

何かを持ってすぐに戻ってきたジブリールを横目に、風間と藤林はその場を後にした。

 

◆◆◆

 

摩利と十文字、達也が向かってくるなか、佑馬はジブリールから貰ったCADを真由美につけ、自分のサイオンを真由美のサイオンに変換してCADへと送った。

 

その瞬間、真由美のサイオンは戻る。

 

「よし、ジブリール、助かった。俺は起きるまで見ておくから、ジブリールは先に戻ってていいよ。」

 

「わかりました……が、変なことはしちゃダメですよ?」

 

「ジブリールがいるのに手を出すわけないよ。」

 

ジブリールは真由美を見ながら、今日だけですよ、という言葉を視線で送って消えた。

 

「おい!真由美は大丈夫か!」

 

「はい、やり方は秘密ですが、サイオンは平常時に戻しました。」

 

そこで摩利が、かなり焦った様子で近寄るも、佑馬は安全を伝えて摩利を安心させる。

 

「真っ正面から破ろうとしたのですが、予想以上に耐えてきまして……負けるのは嫌だったので、最後の転移魔法でせめて引き分けにしようとしたのですが、まさかあそこに魔法を張るとは思っても見ませんでした。完敗ですよ。」

 

「それにしても、凄かった。あの黒い翼はなんだ?あれが出てきた瞬間に球が全く見えなくなったんだが……。」

 

「秘密です……が、あれはこの競技で出せる俺の本気で間違いありません。本当は使いたくなかったのですが……。」

 

そこで寝ている真由美を見ながら、

 

「本気で努力した人には、それに見合った礼儀を示すべきだと思いましてね。」

 

と、いうか、と付け加えて、

 

「あの防壁魔法を真っ正面から破れなくて転移魔法を使った時点で俺の負けは確定していました。ジブリールにすら負けなかったのに……さすがに悔しいな。」

 

そこにいた摩利、十文字、達也は見た。

 

悔しいと言っておきながらも、口元は笑っていたのを。

 

「……七草はお前に任せても大丈夫か?」

 

「大丈夫です。もう魔法で保護してあるから、後は起きるのを待つだけだし……少し話したいこともあるから、先に帰ってていいです。」

 

「分かった。後は頼んだぞ?」

 

摩利はニヤニヤしながら、そのまま十文字と帰っていった。

 

「達也、あれがこの競技での俺の本気だ。その眼で何か分かったか?」

 

「いや、全くだ。その話は後でじっくり聞かせてもらうぞ。」

 

「九校戦が終わってからにしてくれ。それじゃあ俺はしばらくしたら帰るから、先に部屋に戻っててくれ。」

 

「わかった。」

 

そう言って達也は帰っていった。

 

それを見ながら、佑馬も真由美を抱えて転移する。

 

自分達の家に。

 

◆◆◆

 

知らない天井だ。

 

それがまず真由美の頭に浮かんだ言葉だった。

 

病院でもない家みたいなところ。

 

「……って!ここ何処!?」

 

ガバッ!っと真由美はベッドから起きる。

 

「あ、起きたね。ここは俺とジブリールの家だよ。」

 

「え、あ、え?佑馬君の家?」

 

頭が混乱しているのか、周りを忙しなく見ている真由美。

 

「俺が転移でここまで連れてきました。現在は日付が変わったところです。」

 

「そ、そう……。」

 

それでも男子の部屋だからか、何処と無く落ち着きのない真由美。

 

いつもは小悪魔的なお姉さんキャラだが、こういうところは本当に純情なんだな、と苦笑する佑馬。

 

「……あ!試合!試合はどうなったの?」

 

そして、思い出したように問い詰める真由美。

 

「落ちついて……結果から言うと、負けたよ。」

 

主語を言わずに、負けた、とだけ言う。

 

「……俺が。」

 

そして、その言葉を聞いた瞬間、真由美は口を手で覆った。

 

「……私……勝ったの?……本当に……本当に佑馬くんに……勝ったの?」

 

「ああ、完敗だよ。」

 

その瞬間、真由美は布団を顔に手繰り寄せ、そのまま泣いた。

 

厚いと思っていた壁を、高いと思っていた壁を、真由美は乗り越えたのだ。

 

今は佑馬も何も言わずに、真由美の頭を撫でることにした。

 

佑馬は今回、この世界にきて初めて負けた。

 

ジブリールにすら負けなかった佑馬は負けたのだ。

 

それが実際は本当に悔しかった。

 

しかし、自分を目標にして、それを越えるものがいる。

 

それもまた、一興だな、と笑いながら、真由美が泣き止むまで頭を撫で続けた。

 

◆◆◆

 

「……。」

 

「……あの、そろそろいいですか?」

 

「……。」

 

真由美は拗ねていた。

 

年下の男の子に泣いているのを見られ、あまつさえ頭を撫でられ慰められたのだ。

 

つまり、これは恥ずかしさの裏返しなのだが、

 

「……どうしたら許してくれますかね……?」

 

佑馬にとっては困ったの一言でしかない。

 

だが、佑馬はやらかしたとすぐに後悔する。

 

どうしたら許してくれるか、というのは、つまり、それをするから許してくれ、ということだ。

 

案の定、真由美もいつの間にか小悪魔的な笑みで佑馬を見ていて……

 

「そうね……今だけは隣に居てくれるかしら。」

 

「……さすがにジブリールと達也から許可が降りたらでいいでしょうか。」

 

「勿論、だけど達也君はなんで?」

 

「部屋が同じだからですよ。」

 

ポン!っと手をついて納得する真由美に苦笑しながら、目を閉じる。

 

(ジブリール。)

 

(なんでございましょう?)

 

念話だ。

 

(――という理由で会長が隣に居て欲しいと言われたんだが、大丈夫か?)

 

(なるほど……それなら仕方がありませんね。)

 

(そうか、ありが)

 

(でも。)

 

そこで、佑馬は嫌な予感がした。

 

不吉なこと、ではないのだろうが、嫌な予感だ。

 

(明日は常に私の相手をしてくださいませ♪昨日今日と少ししか相手して貰えなかったので♪)

 

(まぁ、それくらいでいいなら、いくらでもするよ。)

 

(本当ですね?)

 

(勿論だ。)

 

(それでは許可します。)

 

(ありがとう。あ、それと、達也にも伝えてくれ。)

 

(了解でございます。)

 

目を開けると、目の前にはこちらを覗く真由美の顔があった。

 

「許可は貰いましたが……どうかしました?」

 

「え?いや、いきなり目を閉じちゃったからどうしたのかなー、って思っただけよ?」

 

「はぁ……もう一度言いますが、ジブリールから許可は貰えたので、隣に居ると言っても何をすればいいのか教えて貰えませんかね。」

 

「ふふふ……私はもう寝るから、一緒に寝ましょ?」

 

「……は?」

 

これには佑馬にも予想外。

 

隣にいて、と言われただけなのに、何故寝ることになるのだろうか。

 

しかも、自分の家のベッドで。

 

「いや……それは急にですね。」

 

「私だって、そりゃ……急にだとは思うし、恥ずかしいけど……私だってたまには甘えたいの!」

 

顔を赤くして布団にくるまりながら言う真由美は、やはり年相応の純情少女と言ったところだろうか。

 

「まぁ、会長がいいなら今回だけですが……風呂空いてますけど寝る前に入らないのですか?」

 

「え……まさか……。」

 

布団を身を守るようにして身体に寄せて、顔を赤くする真由美に珍しく佑馬は頭が痛くなるのを感じた。

 

「あんなに汗かいたんですから、当然でしょう。服は洗濯していいならしますが、しなくていいなら自己管理お願いします。」

 

「……服はさすがに自分でやるわ……恥ずかしいし。」

 

何故寝るのはいいのかわからないが、そこはもうきかないようにした。

 

真由美はお風呂に入って、佑馬はとりあえず寝巻きをホテルから拝借し、持ち帰るための袋とともにそれを風呂の前に置いて、自分は魔法で身体を洗ってから飲み物を二人分用意し、ヘアバンド型CADの調整をする。

 

「随分用意がいいのね……それはCADかしら?」

 

お風呂から出た真由美が話しかける。

 

「ええ、あんなにサイオンを使ったのに、何故回復しているのか気になりませんでしたか?」

 

「そういえば……それがそのCADの魔法だって言うの?」

 

「そうです。しかし、これは俺とジブリールの世界で二機しか存在しない貴重なものなので、この効果のこともあり、あまり人前で見せられるものではないのですが、まぁ、今回は例外ですかね。」

 

飲み物を真由美に渡しながらそう言った佑馬。

 

達也か深雪がいればそんなものを学校に持っていくなと言いたくなるのだろうが、それは別の話。

 

「それじゃあ寝ますか。」

 

そう言ってベッドに入る佑馬。

 

真由美は最初顔を赤くして入ろうとしなかったが、何か意を決したような顔をしてから入ってきて、背中を合わせる形で寝る。

 

「それじゃあ、おやすみ。」

 

「え、ええ……おやすみなさい。」

 

おやすみ、と言ったものの、真由美全く寝付けなかった。

 

男の子と一緒に寝ることはないし、同じベッドで寝ることなんて皆無だ。

 

佑馬は女の子と寝るのは初めてではないのだが、妙な緊張感があった。

 

しばらく時がたっただろうか。

 

ふと、佑馬は真由美からチョンチョンと背中をつつかれ始めた。

 

「……どうかしました?」

 

「起きてたのね……こっち向いてくれるかしら。」

 

「は、はぁ……。」

 

言われたので真由美の方を見ると、真由美も顔を赤くしながらこちらを見ていた。

 

「ジブリールさんにしているようなこと、私にもしてくれないかな……今だけ、甘えさせてほしいの。」

 

とりあえず頭を撫でるが、意図は全く掴めない。

 

「……私、十師族だからさ。」

 

その話は急に始まった。

 

「お嬢様ということで男は皆近づいてこないの。勿論、好意を受けているのは気づいているわ。でも、皆特別扱いするのよ……ワガママかも知れないけど、私は達也君や佑馬君みたいに普通に接してくれる男の人が一番気楽に話せるのよね。前に図書館でジブリールさんと佑馬君の話を聞いてから、妙に人肌が恋しくなったというか……甘えたくなったの。佑馬君、いや、達也君もだけど、たまにすごい大人びているときがあるじゃない?それで、私も甘えてみようかなって思ったから、今こうやってお願いしているの。本当はしないのよ?恥ずかしいし。」

 

「……なるほど、そういうことですか。」

 

つまりは、いつも溜まっていたものを発散しているわけだ、と納得した佑馬は、それならと真由美に背中を向けるよう指示。

 

首を傾げながらも背中を向けた真由美に、佑馬は後ろから抱きついた。

 

「ひゃぁ!?」

 

「今だけですから。こんなこと、ジブリールにも滅多に……いや、ジブリールは常にこっちを向くから出来ないだけか……ですが、普段はこんなこと絶対しないので。」

 

真由美は何をされたのかわからずに、ただオロオロしている。

 

「俺は知ってます。会長がいつも元気に振る舞っているのを。」

 

ただ、佑馬の言葉に、急に動きを止めた。

 

「俺は知ってます。会長が皆を思っていることを。俺は知ってます。会長が俺に勝つためにこれまで以上に努力してきたのを。そして、俺は今知りました。会長は寂しがり屋だと言うことを。」

 

真由美は、動かなかった。

 

「今だけは、甘えてもいいですよ。ただ、この時間が終われば、またいつもの会長に戻ってください。」

 

その瞬間、真由美はこちらに身体をむけて、佑馬の胸に顔を埋めた。

 

「……ありがとう……本当に、ありがとう。」

 

その姿を確認して、頭を撫でた。

 

佑馬はその作業を、真由美が寝るまで続けた。




なんか、レムみたいなセリフ……というか、これ口説いてるように見える……。

しかし、大事なことなのでもう一度言います。

ルートには入りませんよ?

次はまた九校戦に戻りますが、今週はお休みです。


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佑馬の失態

HUNTER×HUNTER書き始めました。
そちらもよろしくお願いします。

一話目からいきなり評価一、しかも名前が表示されてないから何処が悪かったのかわからないままなのですが……これはどうしたらいいのでしょうか。

はい、本文いきます。


真由美が寝ているため動けないが、佑馬はあまり寝るということをしなくなっていた。

 

回復能力が高すぎるのに加えて、回復を脳が勝手に効率化してしまうため、必要がないのである。

 

そして現在、自分の胸の中でスヤスヤと寝ている真由美に腕枕しながら、今日行われるバトルボードについて考える。

 

(確か、摩利を潰しにくるんだっけか。うろ覚えになってるけどそんな描写があった気がする。)

 

そう、次のバトルボードでは第三者が介入してくるため、その対策を考えている。

 

(術者を捕らえるより、術式を解除した方が早いが、それなら七高のCADを改竄させなければいいだけのこと。でも、その行動は事の成り行きを知ってると言ってるようなものだから、逆に怪しまれる。)

 

結論は一人でなんとかするだが、正直難しい。

 

精霊魔法は見える、が、観客席からどうやって解除をするのかが思い付かない。

 

思案に耽っているうちに、夏ということもあり外が明るくなっていく。

 

まだ日が昇ってないとはいえ、本当はホテルにいないといけない二人。

 

起こすために真由美のほっぺを引っ張ったりプニプニと押したりして遊びながら起こす。

 

「……ん……んぁ……ん、ん?佑馬君?なんで此処に?」

 

「はい、おはようございます。寝ぼけているところ悪いですが、ホテルに戻りますよ。」

 

「え?あ……それもそうね。それじゃあ戻りましょ?楽しみだわ、転移魔法がどんなものなのか。」

 

「そうですか?楽しめる時間があれば、是非楽しんでください。」

 

そして、指をパチン!とならした瞬間、

 

「楽しめました?」

 

「……え?」

 

ホテルの真由美の部屋の前にいた。

 

「さ、早くしないとすぐ乙女の思考をして頭でお花畑を展開してしまう人に何言われるかわかりませんから。」

 

「……摩利のことかしら……すごい言われようね。」

 

あはは、と苦笑しながらも、部屋に入っていく真由美。

 

入って扉を閉める前に、クルッと向き直って、

 

「……ありがとね、佑馬くん。」

 

満面の笑みでそう言ってから扉を閉めた。

 

………。

 

「……ジブリールがいなかったら今ので確実に堕ちてたな。」

 

妙に輝いていた笑顔を思い出して苦笑し、そう呟きながら佑馬も部屋へと戻っていった。

 

◆◆◆

 

九校戦三日目。

 

昨日のことは当然秘密だ。

 

秘密と言うことは、皆が知っているということになる。

 

いや、これだと語弊があるだろう。

 

秘密と言うことは、皆が真由美と佑馬が一緒にいたという事実の部分だけが独り歩きして、皆に知れ渡っている。

 

当然、人気の高い真由美にはファンもいるわけで……。

 

「あーこの視線どうにかならねぇかな。」

 

現在、摩利のバトルボードの試合を観戦にしに来ているのだが、二つの意味で絶賛敵視を喰らっている。

 

一つめは当然、真由美とのこと。

 

そして、二つ目が……。

 

「そりゃ、そんなことされてたら誰だって嫉妬するって……。」

 

エリカも呆れるその行為。

 

それは……

 

ジブリールが佑馬にベッタリとくっついていることだ。

 

これが二つ目の理由でもある。

 

「ん?これはまだ常識の範疇だよ。」

 

「♪」

 

常識の範疇には明らかに見えないが、数ヶ月、数年ではなく、数十年と一緒にいればそれも常識として変換されてしまうだろう。

 

ジブリールも昨日の真由美のことを聞いて、今まで以上にスキンシップが激しいのだが、久しぶりにベッタリと出来て上機嫌でもあった。

 

隣からはため息が聞こえてくるが、佑馬の心ではあまり気にしている余裕はなかった。

 

摩利はこの後、怪我をする。

 

それを未然に助けられるのは自分だけ。

 

何も気にしなければ(・・・・・・・・・)魔法を迷わず使って止めればいい。

 

だが、そうもいかないのだ。

 

発動する前に魔法を書き消してしまったら、外部からの干渉として摩利が失格になるのはほぼ確実。

 

そして現在、その場所は分かっていても無闇に魔法を打てない。

 

神威で飛ばそうにしても、魔法式が展開されている物体ならともかく、魔法式だけを飛ばせるのかは実際試したことがない。

 

バレたら摩利は失格。

 

七高のCADには既に細工がされており、直接触らない限りはそれを取り除くことも出来ない。

 

「……どうかしました?」

 

ジブリールが珍しく心配そうな顔でこちらを見る。

 

佑馬は、歯噛みをしていた。

 

知っているのに、本当は対策出来たのに、今現在何も出来ない自分に苛立ちもした。

 

(なんでもっと前に思い出さなかったんだよ!いくらでも手の打ち用はあっただろ!)

 

夜通し考えても、摩利に支障が出ないように出来る魔法は現在持ち合わせてなかった。

 

「……あ。」

 

「……?」

 

「あ、こっちの話。後で言うから。」

 

ジブリールが首を傾げていたのでそれに当たり障りのない答えを返して、考える。

 

バレたら終わり。

 

つまり、バレなきゃいい(・・・・・・・)

 

急いで脳で魔法式を組み立てる。

 

(あの工作自体は俺ならサイオンを当てるだけでも解除出来る。後は認識阻害を何重にしてかける。)

 

よく考えれば簡単だった。

 

何も既存の魔法で対策することはないのだ。

 

そして、その工作がしてある場所に手をかざす。

 

「佑馬?」

 

「どうしたんだ、佑馬?」

 

「佑馬くん、何してるの?」

 

ジブリール、達也、エリカから疑問の声がかかるが、まずは安全の方から。

 

認識阻害を何重にもかけて、そこからサイオンを打ち出す。

 

そして、その魔法式を水路を揺らさず、誰にも悟らせずに破壊した。

 

「……いや、ちょっとした不安要素を取り除いただけ。もう取ったからいいよ。」

 

「……何かあったのか?」

 

達也は既に九校戦が狙われているという情報を掴んでいるため、警戒を強めながら聞いてきた。

 

「ああ、水路に魔法式があったから、それを吹っ飛ばしただけだ。」

 

「……魔法式?」

 

「ああ。そして、七高のCADには細工が施されている。七高の選手を使った一高への妨害だけど、足元の式が展開されなければ問題はない。」

 

まだ達也が何か聞いてこようとしたが、そこでスタートの用意を意味するブザーがなったため、何も聞かずに試合の方に目を向けた。

 

そして、二回目のブザーとともに、スタートが告げられる。

 

先頭に出たのは摩利、だが、予選とは違って二番手が背後にピッタリとついている。

 

激しく波立つ水面は、二人が魔法を撃ち合っている証だ。

 

そして、例の工作があった鋭角のコーナーに差し掛かる。

 

そこで、七高の選手が大きく体勢を崩してオーバースピードを起こしていた。

 

その直線上にいたのは摩利。

 

背後からの異変に気がついたのか、百八十度回転して、七高の選手を受け止めるべく、新たに二つの魔法をマルチキャスト。

 

突っ込んでくるボードを弾き飛ばす為の移動魔法と、相手を受け止めた衝撃で自分がフェンスへ飛ばされないようにする為の加重系・慣性中和魔法。

 

そして、摩利は見事に七高の選手を受け止め、試合は中断。

 

そうなるはずだった。

 

外部からのサイオン波が来るまでは。

 

「……ッ!?」

 

佑馬は水路と摩利達を注視していたため、そのサイオン波に反応するのが遅れた。

 

そしてそれは摩利のボードに直撃し、七高の選手と共にフェンスへと衝突し、会場は一時騒然となって、レース中断の旗がいくつも振られた。

 

佑馬と達也は急いで摩利と七高の選手に近づき、応急処置を行う。

 

無免許の医療行為は出来ないため、応急処置をしてから医療班が病院へと連れていったのを確認して、佑馬はそのまま会場を出ていく。

 

その犯人が何処にいるのか、マーキングをつけているため既に分かっている。

 

犯人は男。

 

自己加速術式で逃走しているが、何も関係ない。

 

人目のないところで空間転移を使い、犯人の横を並走する。

 

「よぉ、よくもやってくれたなお前。」

 

「ッ!?」

 

いきなり横に現れた佑馬に驚きを隠せず、そのまま佑馬に蹴り飛ばされて転倒する。

 

「――ガハッ!」

 

自己加速術式を使っていたため、そのスピードはとてつもないものであり、そこからさらに佑馬の蹴りを喰らったため、防壁魔法を張ったにも関わらずダメージは大きく血を吐いた。

 

「……俺には嫌いなことがいくつかある。」

 

佑馬は男に近づきながら低い声で言った。

 

「努力をバカにするやつ。何も出来ない癖にプライドだけは高いやつ。力に溺れていつも上からなやつ。そして……」

 

「ヒィッ!」

 

男に手を翳して、男が悲鳴を上げるなかさらに低い声で言った。

 

「人の努力を無為にするやつだ。」

 

魔法を構築する。

 

CADがないため、コンマ数秒遅いが、それでも高校生にしては、いや、世界的に見ても早いスピードで魔法式が構築されてく。

 

そして、佑馬のはるか上空に魔法式が出現した。

 

そして一筋の光が男を穿ち、その男は消滅する。

 

軍に渡した収束系で、『極東の魔王』『夜の女王』の異名を持つ四葉真夜の魔法、『流星群(ミーティアライン)』の亜種にして真逆の性質を持つ魔法、『光の弾丸(ライジングメテオ)

 

それを確認して、背を向け、一言呟いた。

 

「そして何より、それが前の俺のしてきたことというのが、一番腹立たしい。」




皆さんもある物事を成し遂げたときの、その一瞬の油断が命取りになるかもしれませんよ。

というわけで、新魔法です。

活動記録の方もよろしくお願いします。


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新人戦、開幕

ジブリールいるから、急遽優等生を全巻買い揃えました。

一色愛梨や十七夜栞をどう戦わせましょうか。


現在アイス・ピラーズ・ブレイクが行われているなか、佑馬とジブリールの姿はそこにはなかった。

 

今佑馬とジブリールがいるのは家。

 

新人戦で使う競技用CADの作成とピラーズ・ブレイクの衣装を考えているのだが……。

 

「……なぁ、ジブリール。本当にこれで行くのか?」

 

「ええ。普段着に近いですし、動きやすいので」

 

本人の希望だから仕方のないことだが、何処ぞの博麗の巫女だというような服、つまり、巫女服だった。

 

「……深雪も巫女の服だったと思うんだが……まぁ、ジブリールのとは素材も見た目も全く違うから問題ないか」

 

そして、CADの作成を続ける。

 

「まぁ、今まで通りやれば例外を除いてジブリールが負けることは万に一つもない。ただ、その例外、深雪には気を付けないとな」

 

「承知してございます。こちらもその対策はしてあるではありませんか」

 

「まぁ、そうだな。とりあえず、二日目はかなりハードスケジュールだ。クラウドとピラーズを交互に、休み時間があまりないからな」

 

大会委員がなんとか調整してくれてはいるが、それでもジブリールのスケジュールは常人ではこなせないハードなもの。

 

それに頷くジブリールを見て、笑みを浮かべながら佑馬は言った。

 

「だが、時間に縛られずに存分に楽しもうか」

 

その一言にジブリールもニヤッという顔をしながら、

 

「ええ、勿論でございます」

 

そう答えた。

 

◆◆◆

 

九校戦四日目。

 

本戦は一旦休みとなり、今日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。

 

ここまでの成績は一位が第一高校で三百二十ポイント、二位が第三高校で二百五十ポイント、三位以下は団子状態の混線模様となっている。

 

競技の順番は本選と同じ。

 

今日はスピード・シューティングの予選と決勝、バトルボードの予選だ。

 

そして現在、スピード・シューティング女子の予選、雫の試合が始まろうとしている。

 

そして、一年のエリカや深雪、ほのか達の集団を前に見ながら、佑馬とジブリールは現在、三年生徒会と風紀委員長のトリオに捕まっていた。

 

「それで、一昨日の夜は何してたんだ?」

 

「特に何もありませんでしたよ」

 

「そんなわけないだろ、佑馬君のことをきいたら毎回真由美が顔を赤くしているのだから」

 

摩利はニヤニヤとしながら聞いており、真由美はまた顔を赤くしている。

 

「それはどういうことですか?」

 

ジブリールもニコニコしながら聞いてくるが、さっきまでニヤニヤしていた摩利もジブリールの表情をみて口をひきつらせている。

 

目だけが笑ってなかった。

 

「ジブリール、会長はただ今までの枷が少し外れただけで、本当に何もなかったよ。ジブリールに嘘を言うはずないだろ」

 

枷が外れた、という部分に摩利が少し反応したが、これ以上言うと自分に危険が降りかかると思ってなんとか踏みとどまった。

 

「それより、渡辺先輩はもういいのですか?」

 

「ああ、病気じゃないんだ。暴れなければ問題ない。それより真由美はテントに詰めてなくてもいいのか?」

 

「大丈夫よ。何かあったら知らせてくれるし、離れていても佑馬君やジブリールさんがいるからね」

 

「いや、他人だよりですか」

 

佑馬から摩利へ、摩利から真由美へ、真由美から佑馬へと会話が繋がっていき、今度は摩利が鈴音に質問を投げ掛けた。

 

「しかし、真由美ならともかく市原まで一緒に席を外すのはどうかと思うが」

 

「問題ありません。今日の私は強制オフみたいなものです」

 

「……お前の冗談は相変わらず分かりにくいぞ、市原」

 

いつものおふざけな雰囲気が漂うが、競技に近づくにつれ、話の内容も競技よりのものになっていく。

 

「それで佑馬君。中田さんの明日のスケジュールはかなりハードだが、本当に良かったのか?」

 

「勿論、何も問題はありません」

 

「一応中田さんは、クラウドは準優勝、アイス・ピラーズ・ブレイクは前データがないので何も言えませんが、司波さんとともに優勝、準優勝の予定です」

 

摩利の質問に答えた佑馬だが、鈴音の言葉に眉を潜める。

 

「……クラウドが準優勝なのは何故でしょうか」

 

「今大会、第三高の一色愛梨、通称『エクレール(稲妻の)・アイリ』がいるからです。それと、中田君も中田さんも、こちらとしては最低でも(・・・・)これくらいは取れると計算しています」

 

「なるほど、それで準優勝ね。じゃあ自分の場合はクラウド準優勝のモノリス準優勝見たいな感じですか」

 

納得した佑馬の言葉に、だが鈴音は首を振りながら

 

「いえ、中田君はクラウドは優勝、モノリスは準優勝で計算しています。ただ、モノリスはいくら中田君といえど苦戦は強いられるでしょう」

 

「あー、『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』のコンビですか」

 

「ええ、こちらの一年生、森崎君と十三束(とみつか)君も優秀ですが、三高の二人には少し見劣るというのがこちらの見解です」

 

「なるほど……あ、試合始まりますね」

 

一通り話の区切りがついたと同時に、スピード・シューティングの開始のランプが点ってていく。

 

そして、全て点った瞬間、クレーが空中に飛び出した。

 

得点有効エリアに入った瞬間、それは、粉々に粉砕された。

 

「振動魔法か。一辺十五メートルに設定されているエリアに十メートルの立方体を設定して、頂点と中心の九つが震源になるようポイント、それを番号指定されていて、CADの照準補助システムによって実質ボタンを押すだけで半径六メートルの球状破砕空間が出来るわけか。達也のオリジナルだな」

 

「……そういえば、佑馬君も魔法式を視ることが出来るんだったな……他の印象が強すぎてすっかり忘れていたよ」

 

そして、雫はパーフェクトを取った。

 

「へぇ、さすがだな」

 

「魔法の固有名称は『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』、中田君の言った通り、司波君のオリジナルだそうです。まぁ、北山さんの処理能力があってこその魔法ですね」

 

「……真由美の魔法とは発想がちょうど逆だな」

 

「……よくもこんな術式を考え付くわね」

 

真由美の声は、感嘆より呆れているようだった。

 

「しかし、面白いな」

 

だが、摩利は興味の方が勝っていた。

 

「実戦では自分と攻撃対象の相対位置が常に同じということはあり得ないから、射撃魔法として見れば実戦的ではない、が……空中に仮想立方体を設定するのではなく、自分を中心にした円を設定して、その円周上に震源を設置すれば全方位に有効なアクティブ・シールドとして使えないかな」

 

「持続時間が問題ね。短すぎるとタイミングが難しいし、長すぎると自分が巻き込まれる可能性が出てくるわよ?」

 

真由美の提示した問題点も、摩利の興味を殺ぐには及ばなかった。

 

「そこは術者の腕次第だ。お前の言うとおり、タイミングを見極めることが出来れば持続時間は短くできる……よし、早速今晩にでもアイツをつかまえて、あたしのCADにインストールさせよう」

 

「……試合の邪魔にならないようにね」

 

今度の真由美は完全な呆れ声で応えた。

 

「あ、次の試合始まりますね」

 

「ええ、次は三高の優勝候補『十七夜(かのう)(しおり)。ピラーズ・ブレイクでは中田さんと当たりますよ」

 

「へぇ……お手並み拝見といきますか」

 

そしてランプが全て点って、クレーが空中に飛び出した。

 

そして破壊したクレーの破片が、そのまま別のクレーを破壊し、さらにその破壊したクレーの破片で破壊するという連鎖が起きた。

 

「クレーが……次々に?」

 

摩利が驚きの声を上げる。

 

「へぇ、面白いな。数学か」

 

「数学?」

 

佑馬の呟きに反応したのは真由美。

 

「ええ。破壊したクレーの破片を移動魔法で移動させながら位置を把握して、計算した場所に飛ばしています」

 

「……なんて演算能力の高さなの……」

 

真由美はその事実に驚嘆するが、佑馬とジブリールにとってはこれくらいの演算速度、特別早いわけでもない。

 

「まぁ、ジブリールもあれくらいなら出来るし、俺も出来る。負ける要素はないな」

 

「佑馬君もジブリールさんもあれが出来るっていうの?」

 

真由美はその事実に驚きを隠せないでいる。

 

「まぁ、あれくらい出来なきゃ未来を数学で導きだす

人と勝負なんて出来ませんから」

 

「……?」

 

そして、その応えを分かるものはジブリール以外いなかった。

 

「……確かに、あの方達に比べたら見劣りしてしまいますね」

 

「まぁ、この連鎖は面白いな。機会があったら使ってみるか」

 

二人して笑いながら席を外すのを、ただ唖然として見つめる三年生トリオだった。

 

◆◆◆

 

現在、三高では会議室に主要メンバーが集まっていた。

 

「ここまでの結果だが……予想以上に一高が得点を伸ばしている」

 

会話を進行させているのは、一条 将輝。

 

「さすがにスピード・シューティング女子の一位から三位独占は予想できなかった……優勝確実な十七夜が四位で敗退したのは痛かったな」

 

その場には、あまり良くない雰囲気が流れていた。

 

「いや、でもあれは個人技能によるものではない……確かに、優勝した北山って子の魔法力は卓越していた。あれなら優勝するのも納得できる。だが、他の二人は、それほど飛び抜けているとは思えなかったし、十七夜が普通の状態でやれば苦もせず勝てる相手だった」

 

三高のスピード・シューティングのエースの栞は、雫との対戦で惜敗したのを気に、一気に集中力が切れたように簡単なミスをして四位となった。

 

「バトル・ボードは今のところうちが優位なんだし、一高のレベルが今年の一年だけ特に高いとは思えないし、将輝に吉祥寺、一色さんに四十九院(つくしいん)|さん、十七夜さもいるこちらの方が総合的には高いと思うんだが……」

 

「最初は俺もそう思っていたが、どうやら一高と三高の一年の差はほぼないと言ってもいい」

 

その言葉に、場がざわつく。

 

「新人戦から本戦に移動した司波深雪、スピード・シューティングに優勝した北山さん、そして何より気になるのが、一高一年のエース、クラウドとモノリスに出る中田 佑馬とクラウドとピラーズ・ブレイクに出る中田 ジブリールだ」

 

「司波さんはともかく、例え他の二人が優秀だとしても男子のモノリスなら将輝と吉祥寺が、女子のクラウドなら一色さん、ピラーズ・ブレイクなら十七夜さんがいるからそこまで遅れを取るとは思えないんだが……」

 

男子生徒の質問に、将輝は首を振りながら応える。

 

「モノリスは俺とジョージが必ずものにするとして、クラウドとピラーズ・ブレイクは厳しいだろうな。ピラーズ・ブレイクで頼みの十七夜は不調のようだし、司波 深雪、北山、そして中田 ジブリールが出る。そしてクラウドに至っては、二人とも三高の七草 真由美を上回る実力だと聞いている」

 

「な、なんだって!?」

 

「今大会で失点をしなかったあの七草さんが!?」

 

正直、これには将輝も吉祥寺も驚きを隠せなかった。

 

「だが、一色。お前なら行けるな?」

 

「当たり前よ。私は絶対に勝つわ。ジブリールって子がそこまでの実力があるのに、今まで一度も名前を聞いたことが無いというのは不全だわ。それにクラウドとピラーズ・ブレイクは競技が被ってる。疲弊した状態の相手に万に一つの負けもないわ」

 

その言葉に将輝は頷く。

 

「しかし……差がそんなにないとしたら、なんでこんなに引き離されているんだ?」

 

向かい側にいる男子生徒の素朴な疑問に、将輝と吉祥寺は顔を見合わせて、

 

「エンジニア、だと思う」

 

回答は吉祥寺から告げられた。

 

「一高には、CADの性能を二世代から三世代引き上げる化け物のような技術者がいる」

 

「将輝、お前がそこまで言う相手かよ……」

 

「一人のエンジニアが全ての競技を担当することは物理的に不可能だけど……」

 

「そいつが担当する競技は、今後も苦戦を免れないだろ」

 

吉祥寺の推測を引き継いだ将輝の不吉な予言は、チームメイトの間に重苦しい沈黙を招いた。




優等生キャラでは四十九院が好きです。


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二人の新人戦

いきなりですが、来年は愛知駅伝出ようかと思います。

やっぱり自分の住んでる町に少しでも貢献したいですからね。

ということで、更新が遅れるかもしれません。

私用で申し訳ないです。


 午後に行われた女子バトルボードは、達也の策により二人が予選を通過した。

 

 そしてジブリールは深雪や雫、ほのかといった一高女子メンバーと祝勝会をやっており、佑馬とは別行動をしている。

 

 そしてその佑馬は、現在少し遅めの夕食を取っていた。

 理由はたまには一人でゆっくりと食事をしたかったから、というものだが、食堂は他校が使っており、部屋で食べるのも新鮮味が無いとロビーのソファーで外を見ながら食べていた。

 

 そして、今現在こちらに近づいてくる複数の足音が聞こえたため、その正体を確認した。

 

 その正体にふっと笑いながらその近づいてきた人達に声をかける。

 

「これはこれは、三高の選手が自分に何の用でしょう」

 

「中田 佑馬だな。俺は第三高校一年、一条 将輝だ」

 

「同じく第三高校一年の、吉祥寺 真紅郎です」

 

 佑馬の問いに応えたのは、三高のエースにして十師族、『クリムゾン・プリンス』の異名を持つ一条 将輝と『カーディナル・コード』を発見した『カーディナル・ジョージ』持つ、吉祥寺 真紅郎だった。

 

「そこのプリンスが言った通り、第一高校一年の中田 佑馬だが、もっかい聞くぞ。何のようだ」

 

 語気は強めていない、どちらかといえば煽るような口調、用件は知っているけど、という言葉が付くような言い方に、将輝は若干苛立ちながらも質問を続ける。

 

「いや、ただの偵察だ。相手がどのようなやつかを知るのは常識だろう」

 

「まぁ、そうだな。でも、なんで女子がいるんだ?」

 

 そう、その場にいるのは将輝や吉祥寺だけではなかった。

 そこには、女子二人の姿があった。

 

 視線を向けると、二人とも一歩前に出て、自己紹介をした。

 

「私は第三高校一年、一色愛梨。隣が同じく、四十九院(つくしいん)沓子(とうこ)よ。私たちは中田 ジブリールさんに用があるのだけど」

 

「ああ。ジブリールは今一年の女子と今日の祝勝会をやってるよ。悪いね」

 

「あらそう。まだ新人戦一日目だというのに、随分と気楽なものね」

 

「余裕と言ってほしいなぁ」

 

 佑馬の言葉にムッとしたのは、将輝と愛梨。

 

「……まぁ、明日二競技もやってまともな試合が出来るとは思わないけど、せいぜい頑張ることね」

 

「あれー?君たちなんか二競技こなしても余裕で勝てる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)って遠回しに言われているの、わからないのかなー?」

 

 本当は一高側のミスなのだが、確かにそうとも取れる行動に愛梨は歯噛みする。

 

「舐めたことを後悔させてやるわ!!行くわよ!沓子!」

 

 佑馬はその様子に苦笑しながらも、こちらをじっと見つめている存在に気付いて視線を向ける。

 

「行かないんですか?……えーと、四十九院さん」

 

「すぐ行かないと怒られそうじゃな……しかし、気になることがあってな」

 

「どうぞ」

 

 聞いてもいいか、という眼で問われたので応えるように促したが、その質問に佑馬は目を細めることになった。

 

「おぬし、本当に高校生か?」

 

「……見ての通りだが、どうしてだ?」

 

 実際のところ、佑馬は高校生ではない。

 年齢でいえば高齢もいいとこで、高校生もこれで二度目、その質問は佑馬の事情を射ているために、佑馬も少しは警戒しなければならなかった。

 

「根拠はわしの直感じゃ」

 

「そうか。まぁ、見ての通りだ。それより、早く行かなくてもいいのか?」

 

「おお、そうじゃな。ではのー」

 

 女の勘もここまで鋭くなったら笑えなくなるな、と思いつつ、奥でこちらを睨んでいる愛梨を見ながら沓子に行くよう促すと、スタタタと走っていった。

 

「さて、待たせたな。君たちの本題は?」

 

「中田 佑馬、俺たちは明後日のモノリス・コードに出場する。そのための宣戦布告だと思ってくれてもいい」

 

「ふーん。勝負は見えてるけど、せいぜい頑張ってくれ」

 

「貴方がいくら優秀と言えど、僕たちの勝ちは揺らぎません」

 

「おいおい、モノリスは三人でやる競技だぜ?残りの二人も十分優秀だから安心して負けてくれ」

 

「……勝つのは俺たちだ。時間を取らせたな」

 

 そしてそのままロビーを離れていく二人を見ながら、結局なんだったんだ、と思いつつ、再び景色を見ながら夕食を摘まみ始めた。

 

◆◆◆

 

 新人戦二日目、今日はクラウドの予選と決勝、ピラーズ・ブレイクの予選が行われる。

 

 佑馬は自分で、ジブリールは佑馬にCADを調整して貰うのだが、どうしても時間が合わない場合のみ、ピラーズ・ブレイクを達也、クラウドを五十里に担当してもらうことになっている。

 

 そして、早速佑馬とジブリールは一回戦目にそれぞれクラウドとピラーズに入っていた。

 

 ジブリールが使うCADは既に調整してあるため、そのまま使用できる。

 

 控え室につくと、五十里が既に待機してた。

 

「やぁ、やっと佑馬君の出番が来たね」

 

「そうですね。まぁ、すぐ終わらせます」

 

「あはは……佑馬君が言うと説得力しかないね」

 

『それでは、新人戦クラウド・ボール第一試合は、第一高校、中田 佑馬選手と第八高校、新田 翼選手です!』

 

 アナウンスも入ったことにより、佑馬はコートに向かう。

 相手は既にコートに入っており、待機していた。

 

『双方ともにラケットスタイル同士!前評判の高い第一高校の中田 佑馬選手はどのようなプレイをするのでしょうか!』

 

 ラケットを構えている相手を見ながら、佑馬はラケットを片手に持って、コートの真ん中に立ってスタートを待つ。

 

 そして、ランプが点り、打ち出された球を相手が天井に向かって打ち、天井から反射した球が佑馬のコートの端に向かう。

 

「……まぁ、こんなもんだよなぁ」

 

 しかし、遅い。

 今まで闘った真由美やジブリールと比べると、音と亀ほどの差はあるだろうか。

 

 到達点に走っていき、コートに落ちるより前についてそのまま打ち込む。

 

 相手も九校戦に出るというだけあり、身体能力だけの佑馬のスピードについてきている。

 

 そして、そのままどちらにも点は入らずに七球目が打ち出された。

 

『ここまで双方一点も落としておらず、白熱した闘いが繰り広げられています!コート内を目も止まらぬ速さで球が飛び交っています!』

 

 実況を聞きながら、ボールが増えてきたために作戦を実行する。

 

 佑馬は今こっちに飛んで来ている三球と相手コートに向かっている四球を見て、二球を全力で打ち、残りの一球を移動魔法をかけながら、回転をかけて打った。

 

 その全力で打った二球は相手は反応できずにそのまま点となり、そしてその残りの一球は他の球とぶつかり、そのぶつかった球は別の球にぶつかり、そしてそのぶつかった球が……というように、連鎖が起きた。

 

『おーっと!いきなりの高速リターンには驚かされましたが、今起きているこの現象はスピード・シューティングで第三高の十七夜選手が使っていた『数学的連鎖(アリスマティックチェイン)』と酷似しています!これはどういうことか!』

 

 相手が打った球は、佑馬のコートに届く前に他の球とぶつかって相手のコートに落ち、あらゆる方向から飛んで来る球に対処するもその全てが球によって打ち落とされ、佑馬はただ立っているだけとなった。

 

 その様子に観客はどよめき、一高のテントではあるトリオが、まさか本当に使うとは、と驚いていたが、何よりも驚きが大きいのは控えにいた一色 愛梨だった。

 

「あれはどうみても栞の『数学的連鎖』よ!あれは一回や二回見た程度で真似出来るほど簡単なものでもないわ!」

 

 誰よりも栞の努力を知っている愛梨には、目の前で起きている現象に目を疑った。

 しかも、栞のよりも精度が高いのだ。

 

 機械が打ち出した無機物のクレーを打って破片で連鎖を起こす難しさと、ボールで相手が打ってくる球を全て読みきって連鎖を起こす難しさとを比べれば、一目瞭然だった。

 

 結果、佑馬は後半はただ立っているだけで勝手に点数が入っていき、無失点で勝利した。

 

◆◆◆

 

 佑馬のクラウドと時を同じくして、ジブリールは衣装を着て控え室にいた。

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクは相手陣内にある合計十二本の氷柱を先に全て倒した方が勝者となる。

 

 そして、達也はジブリールとともに控え室にいた。

 

「ジブリール……それが衣装か?」

 

 しかし、ジブリールの衣装は突っ込まずにはいられず、思わず突っ込んでしまった。

 

「はい、何かおかしいでしょうか」

 

「……いや、なんというか、よく似合ってる」

 

 ジブリールの衣装は巫女……にしてはかなり開放的な雰囲気のある服装だったのだ。

 巫女と言われれば、という感じだ。

 

「それならよかったでございます……あ、佑馬勝ちましたね」

 

「まぁ佑馬なら当然だが……ジブリールは大丈夫か?この試合が終わったらすぐクラウドだろ?」

 

「すぐ転移で移動するので問題ありませんよ」

 

『大会五日目、新人戦二日目のアイス・ピラーズ・ブレイク、一回戦はさっそく注目選手!前評判では新人ながらミラージ・バットの本戦に抜擢された司波 深雪選手を上回ると称されている中田 ジブリール選手の登場です!』

 

「では、行って参ります」

 

「いってらっしゃい」

 

 達也はジブリールが入場準備に向かったのを見て、モニターに目を向けた。

 

『両選手入場です!』

 

 アナウンスと共に入場する選手二人。

 その姿に、会場は魅了された。

 

 全員が、相手選手までもがジブリールに釘付けになる。

 

 巫女の服を纏い、琥珀色の髪が太陽の光を乱反射させ、圧倒的な存在感を纏っている。

 

 正に、天使だった。

 

 そして、ランプが点り、試合が開始。

 相手がCADを操作するなか、ジブリールは特化型を取り出して、銃口を向けた。

 

 その瞬間、会場の観客はジブリールから溢れるサイオンの量に息を呑んだ。

 

 その圧倒的なサイオンを使って展開された魔法式は、ジブリールの頭上に展開され、十二個の光が相手陣地の氷を穿ち、全て破壊した。

 

『これはなんという魔法なのでしょうか!頭上に現れた魔法式から十二本のレーザーが氷柱を穿ち、何かをする間も与えずに試合終了!第一高校 中田 ジブリール!相手に一切の動きを取らせずに完勝です!』

 

 歓声を送ってくれている観客を見て、観客席にはさっきまで試合をしていた佑馬がいるのをみつけ、ブイサインを送ってジブリールは会場を後にして、佑馬とともにクラウドの会場へと向かった。

 

◆◆◆

 

 今回使われた魔法とCADを見て、達也は素直に驚いた。

 

 ジブリールのサイオン量はさることながら、今回展開されていたのは、『天撃』の威力を抑えたもの。

 

 威力は維持しつつ、正確にその場に飛ばす技量とCADの性能には、驚嘆するしかない。

 

「だが、佑馬たちが対策を立てているように、こちらも対策はある。『神の使者』がどのような所にいるのか、何処まで食らい付いていけるのか、見させてもらうぞ」

 

 そう言って、達也は深雪の元へと向かった。




他校のキャラ名と高校は適当なのでルビも無しですが、よくある名前なので読めるかと。


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快進撃

次はノゲノラ更新します。


 ジブリールのピラーズ・ブレイクの二回戦目は午後の最終のため、ジブリールはクラウドのテニスウェア見たいなユニフォームに着替えて佑馬と控え室にいる。

 

 ここからはクラウドに集中出来るため、二競技といってもジブリールの体力なら一競技と変わらないのだが、昨日の三高の女子が言っていたように、他校から見ればやはり無謀だと思えるのだろう。

 

 ラケットのため、CADの調整は必要なく、一応付いている五十里もただいるだけのようなものだ。

 

 近くで見れるから、という理由で控え室に残っているが、佑馬の機転で花音を呼んでいる。

 

「そういえば、ジブリールさんの魔法、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないって打診が来てるらしいよ?」

 

 そこで、花音がこちらに話を振ってくる。

 インデックスとは、簡単にいえば魔法の大百科辞典である。

 

「そうなんですか?なら、佑馬の名前で載せましょう」

 

 CADにして汎用出来るようにした、という点で佑馬の名前を載せようと提案するジブリールだが、そこは佑馬が許さない。

 

「いや、ジブリールだ。あの魔法は元はといえば天翼種(おまえたち)の魔法だろ。あれは開発者名を載せるものだぜ?俺は開発してないからな」

 

 それならジブリールも開発したわけではない、と言いたいところだが、ここまで言ったら佑馬は頑として動くことはない。

 

「わかりました。私の名前でお願いします……しかし、術式は非公開でお願いします、とお伝えください」

 

「わかったわ。あとで会長に言っておくわ。それより、ジブリールさんはそろそろ試合じゃない?」

 

「あ、そうですね……では、行ってきます」

 

「おう、気楽にやれよー……?」

 

 エールを送って見送った佑馬だが、いきなり戻ってきたジブリールに首を傾げた。

 

「……忘れ物か?」

 

「…………」

 

 目を閉じて唇だけを差し出すジブリールに、ジブリールが何してほしいか気付いて、五十里と花音を見る。

 

「……ここでか?」

 

「今更でございます。それに、私はあの日(・・・)から寝ていないので、佑馬は従う義務があるのですよ?」

 

「……それもそうだな」

 

 五十里は困ったように、花音はニヤニヤとしながらその様子を見つめ、佑馬はジブリールの顎を持って、そっと口付けをした。

 

 五十里と花音がいるため、軽いものだったが、それでもジブリールは満足したようで、ウキウキのままコートへと向かっていった。

 

「……花音さん、そんなに面白かったですか?」

 

「いやー?ちょーっと年下ぽくない後輩の貴重な姿が見れただけで、何も思ってませんよー?」

 

「でも、佑馬君もよくやったね……僕じゃ人前でキスなんて恥ずかしくて出来ないよ」

 

「啓が無理でも私が強引にするけどね!」

 

「花音ならしかねないから笑えないなぁ……」

 

 こちらはこちらで二人の空間を作り始めたので、佑馬も次の試合の準備をする。

 

『それでは大注目の一戦!第一高校 中田 ジブリー選手と第七高校 工藤 凛選手の入場です!先程のアイス・ピラーズ・ブレイクで相手を秒殺したジブリール選手!そしてなんと!その時に使用された魔法がインデックスに正式採用されることが決まったようです!それではまもなく、注目の一戦の試合開始です!』

 

 アナウンスが入ったことにより、佑馬は自分の準備をやめてモニターに目を移す。

 

 相手は拳銃型CADを構えてコートに立っており、ジブリールはラケットを片手に目を閉じて始まる時を待っていた。

 

 そして、ランプが点り、ブザーが鳴る。

 相手が球を魔法で打ったことにより、天井や壁のあちこちを不規則にバウンドしてコートに落ちてきた。

 

 それが落ちて相手の点になろうとした瞬間、相手選手の隣を爆音をあげて何かが通りすぎた。

 

 そして、それに反応する間もなく跳ね返った球を再び連続で入れていく。

 

『これはなんというスピードなのでしょうか!まだ一球だというのに次々とポイントが入っていきます!工藤選手はこのスピードに手も足も出ません!』

 

 まだ一球目が出てから十秒だというのに、既に十点がジブリールに入っていた。

 

 そして、ジブリールは相手の棄権により、一セット無失点で勝利した。

 

◆◆◆

 

 ジブリールの試合が終わって、そのコートに試合が入った佑馬は圧勝してきたジブリールを労う。

 

「お疲れさん。余裕だったね」

 

「そうでございますね。このままいけば、あれ(・・)を使わずに行けると思います」

 

「確かに行けると思うが、念のためだ。油断だけはするなよ?」

 

「私が油断するわけないじゃないですか。佑馬こそ、相手で遊びすぎて負けるなんてヘマしないでくださいよ?」

 

 その佑馬の言葉に心外だとばかりに反論してくるジブリール。

 それに苦笑しながら頭をポンポンと優しく手を置いた。

 

「知ってるよ。念のため、だ。それじゃあ俺は行ってくる」

 

「いってらっしゃいませ」

 

 その言葉を聞いて控え室を出る佑馬。

 そしてそのまは出ようとした瞬間、佑馬は強制的に振り向かされた。

 

「忘れ物ですよ?」

 

 ジブリールがニッコリと笑いながら佑馬の唇を強引に奪い、今度はねぶるような濃厚な口付けをする。

 

「……ん……んむ……はぁ」

 

「……はぁ……全く……困った嫁さんだ」

 

「全て佑馬のせいですけどね」

 

 佑馬はジブリールの言葉に、違いない、と苦笑しながらコートへと向かう。

 ジブリールはモニターで試合を観戦するためにソファーに座った。

 

 その後も、佑馬とジブリールが負けるはずもなく、全て無失点で決勝戦まで勝ち進んだ。

 

 この事に分かってはいながらも佑馬とジブリールの決勝戦進出、さらに女子のクラウドのもう一人の選手、里見スバルも三高の一色 愛梨に敗北を喫したはいえ、三位入賞を果たしたため、一高テント内はかなり良い雰囲気が漂っていた。

 

「さすがは佑馬君とジブリールさんだわ!このまま二人とも無失点で優勝しちゃうかもね♪」

 

「そうですね。まさかここまであっさり行くとは思ってもいませんでした」

 

「いやでも、佑馬君はそのまま行けると思うが、中田さんはちょっとキツくないか?相手はあの一色だぞ?」

 

 真由美はもう既に上機嫌、鈴音も頬は緩んでおり、摩利も無失点はキツイ(・・・・・・・)と言っているだけで、佑馬とジブリールの勝利は疑っておらず、むしろ確信していた。

 

 それは当然佑馬とジブリールの耳にも届き、同時に相手の三高も知るとことなった。

 

 当然、三高の選手が怒らないわけもなく、今現在、佑馬はコートを挟んで睨まれていた。

 

「……いや、俺を睨んでも何も出ないし、睨まれるようなことを少なくとも俺はしてないんだけどなぁ……」

 

 そして、さらに当然のことながら、三高の応援にきている人にもそれは広がっており、客先からも所々で敵意を剥き出しにされているため、佑馬にとっては迷惑でしかない。

 

『クラウド・ボール決勝戦はやはりこの組み合わせ!一高中田選手と三高吉岡選手です!中田選手はこれまで多種多様な技で相手を翻弄し、無失点で決勝戦まで勝ち進んできました!対して、三高の吉岡選手も圧倒的なスピードにより、これまた無失点で決勝戦まで勝ち進んでおります!それでは注目の決勝戦、まもなく試合開始です!』

 

 アナウンスを左から右に聞き流して、佑馬はストレッチをする。

 ここにくるまで他人の技を真似して勝ってきたが、そろそろ実力を出さなければ負けそうな相手なため、一応ストレッチはやっておく。

 

 そして、ランプが点り、試合は始まった。

 

 佑馬の方に球が打ち出され、さっそく攻めに入る。

 ラケットの片面を無駄なく使ってスピードを捨てる代わりに回転に全力を注ぎ、それを打ち出す。

 

 そのスピードは、目視出来るどころか人の歩くスピード並みの早さ。

 

『おおっと!中田選手、これは打ち損じか?ふわっと打ち上がりました!これはチャンスボールです!』

 

 実況の言葉とともに、観客席からブーイングが飛ぶ。

 

 しかし、そのブーイングはすぐに消えた。

 この決勝戦一度も失点をしていない三高の選手の打った球は、ネットを越えずにそのまま自分のコートを転がった。

 

 その後も何度もその球を打とうとしても、全てがネットにかかる。

 

『なんと!チャンスボールに見えて実は中田選手の決め球、打っても打ってもネットにかかる不思議な打球に吉岡選手は苦戦しています!』

 

 『百腕巨人(ヘカトンケイル)の門番』

 スピードを捨てラケット全面を使って超回転をかけ、相手の打球をネットに越させない技。

 

 最初のうちは余裕があるため、それで攻めていく佑馬。

 相手はその技に必至に食らいつくが、どうしてとネットを越えない。

 

 そして、三球を越えたころ。

 佑馬は急に普通のペースで球を打ち始めた。

 

 回転をかける時間がなくなったからだ。

 

 それを好機とばかりに三高の選手もラリーをする。

 スピードは確かに高速と言えるものだが、佑馬にとってはやはり遅い。

 

 最初は嬉々としてラリーをしていた三高の選手だが、段々と焦りを見せていく。

 

『先程の一方的な試合とは一転!今度は両者一歩も引かぬ超スピードでの乱打戦となりました!』

 

 佑馬はただ合わせているだけだが、相手は本気でずっと打ちつづけなければいけなくなり、疲労の色が見え始めた。

 

 球は七球まで増えたころ、佑馬が仕掛ける。

 

 球に少しの回転と移動魔法をかけ、相手の打球に当て、それが壁に反射して佑馬が今打った球に当たり、さらにその当たった球は一番最初に打った球に当たり、という連鎖が起きた。

 

『出ました!クラウド・ボール版の『数学的連鎖』!!完全に計算しつくされた球の軌道は、正に球が生きているかのように打球を妨げます!そして何より、今回は中田選手の打球もその連鎖の一つとして加わっているようです!なんというコントロールと空間把握能力でしょうか!』

 

 実況は既に佑馬の技の解説しか仕事がなくなり、結果的に佑馬を褒めることしか出来なくなっていた。

 今回のこれは佑馬の打った打球も計算した位置に行かなければ行かないため、何もしなかった一回戦より難易度は高い。

 

 三高の選手はある程度対策をしたのか、移動魔法で壁などを使ってこちらに打ってくるが、それも全て連鎖の一部となって相手のコートに襲いかかる。

 

 そして最後の九球が出て試合終了まで残り五秒となったとき、佑馬は相手のラケットに向かって、ストロークを打った。

 

「……っ!?」

 

 それは相手のグリップに当たり、ラケットを吹き飛ばした。

 

「これで終わり。『破滅への輪舞曲(はめつへのロンド)』」

 

 そのまま返ってきた球をスマッシュで相手のコートに入れ、それにより連鎖も終了。

 

 その後の二セットは気合いで出場してきたが、佑馬の相手になるはずもなく、その後の二高の選手は一セットで終わり、佑馬の優勝が決まった。




ヘカトンケイルは両面使いますが、佑馬君のやり方が上手いということで。


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クラウド・ボール女子決勝

ジブリール回。


 佑馬が優勝を決めたそのコートで、ジブリールと一色 愛梨との試合が始まろうとしていた。

 

 先の試合で、その場のボルテージは最高潮に達していた。

 そして、さらにジブリールと愛梨がコートに出てきたことにより、歓声がさらに上がる。

 

 その様子をモニターで見ている佑馬と五十里。

 

「佑馬君的に、この試合はどう思う?」

 

「百パーセント勝てますね」

 

「さすが佑馬君だね。そこは揺るがないか」

 

「当たり前です」

 

 会場のボルテージが例のごとく行われている実況の効果もあって、さらに上がっていく。

 

 試合はもう、始まろうとしていた。

 

◆◆◆

 

 コートに立つ、二人の少女。

 二人ともラケットスタイルだが、ジブリールはラケットをコート脇に二つ用意してある。

 

『先程の男子の決勝戦からそのまま連続する形で行われる女子クラウド・ボール決勝リーグの注目の一戦!第一高校 中田 ジブリールと第三高校 一色 愛梨!先程と同じく、両者ともに無失点でここまで勝ち進んでおります!男子では第一高校が優勝しましたが、今度はどちらがこの戦いを制するのか!注目の一戦が今始まります!』

 

 前評判で優勝はこの二人のどちらかで確実と言われており、三人目の七高の選手のことは誰も記憶に残っていなかった。

 

 そして、会場は段々と静かになる。

 

 ランプが全部点り、ブザーと共に試合が始まった。

 球が打ち出させると同時に、凄まじい乱打戦が始まる。

 

『これは先程の男子の試合を彷彿とさせる試合展開となっております!コート内を目にも止まらない速さでボールが飛び交っております!』

 

 その凄まじい乱打戦は、球が四球に増えるまで続いたが、五球に増えようとしたとき、愛梨が動き始めた。

 

 愛梨の胸元にあるネックレス……いや、ネックレス型のCADがサイオンの光で一瞬だけ光り、ボールのスピードが一気に上昇する。

 

 (なるほど、これが『エクレール・アイリ』の由来でございますか……確かにこれは優勝出来ますね。私がいなければでございますが)

 

 だが、佑馬と本気で打ち合えるジブリールにとって、球が少し速くなって打ちやすくなった程度のことでしかない。

 

 CADでスピードを上げ、壁や天井を使ってジブリールのコートにボールを落とそうとする愛梨に対し、ジブリールは全て直接コートに狙って打っている。

 

 そのため、球のスピードに追い付けなくなってきた愛梨は一点、また一点と失点を重ねる。

 

 ジブリールには、いや、佑馬にも言えることだが、この壁や天井を使うということに疑問を持っていた。

 

 ――何故、直接コートに入れないのか。

 

 壁や天井に当てて、不規則にバウンドさせているつもりなのだろうが、よく見れば入射角と反射角は比例しており、弾道は簡単に読める。

 

 魔法で壁や天井をバウンドさせる人もいるが、それも一定の規則があるため、簡単に読める。

 

 つまり、何が言いたいかというと……

 

 ――そんな無駄なことをして何故私に勝てると思ったのか。

 

 これだった。

 

 普通の人なら確かにこれで失点するのだろう。

 だが、そのスピードに悠々とついていけ、尚且つ自分と同等かそれよりも早いスピードで打ってくる相手には全くの無意味。

 

 直接コートに打ち込んで逆サイドに打ったり、緩急をつけたりした方が余程利口だろう。

 

 (あの魔法は使う必要ありませんでしたか……少し使って見たかったのですが、相手がこれなら仕方がありませんね)

 

 愛梨の球を軽々と打ち返し、八球が打ち出された時点でジブリールのスコアは三十四、愛梨のスコアゼロだった。

 

 ジブリールが圧倒している。

 

 その様子に、観客は盛り上がるどころか、静まり返っていた。

 数々の華やかな経歴を持ち、『エクレール・アイリ』としても有名な愛梨が、無名の選手に一ポイントも取れずに一セットが終わろうとしているのだ。

 

 ここまでの実力差に、ただただ唖然とするしかなかった。

 

 そして、ブザーが鳴り、第一セットが終了した。

 スコアは圧倒的、ジブリールが五十六で愛梨がゼロ。

 

 少しの休憩を挟むため、コート脇に移動したジブリールに、目の端で悔しがってこちらを睨む愛梨が映った。

 

 その様子を見て、少し考える仕草をし、佑馬の元へと向かう。

 

「お疲れ、ジブリール。やっぱり余裕だな」

 

「そうでございますが……少し相談があります」

 

 相談、という単語に首を傾げる佑馬。

 

「次の試合のことなのですが――」

 

◆◆◆

 

 第二セットが始まった。

 

 愛梨は最初からCADを起動し、ジブリールを睨む。

 

(ここで私が負けるわけにはいかない!こんな無名な人に私が負けるわけにはいかない!)

 

 今まで負けたことがない愛梨にとって、第一セットは屈辱的な結果だった。

 

 愛梨自身、まだ本気を出し切っていないとはいえ、八割以上は出している。

 

 そこまで出していて、無失点で抑えられているのだ。

 

 第二セット開始の合図がなり、打ち出された球をコートに打ち込んだ。

 

 愛梨もこれが入るとは思っていない。

 そのためにジブリールの動向を冷静に分析し、返球にいつでも対応出来るように構えていた。

 

 しかし、ジブリールはいつまで経っても動く気配は無く、そのままコートにボールが落ちる。

 

(……?)

 

 愛梨はその事実を訝しげに見て、ジブリールを見る。

 

 そして、愛梨はジブリールから放たれた言葉を聞いた瞬間、意識が無くなった。

 

「貴女様に一セットの猶予を与えます。第三セットで私を楽しませてくれるように、この時間で手段を考えてくださいませ」

 

 ――侮辱されたことによる激しい怒りによって。

 

◆◆◆

 

「次の試合のことなのですが、一セット相手に差し上げてもよろしいでしょうか?」

 

 ジブリールは、そんなことを質問した。

 その言葉に佑馬は意味がわからない、という表情をしながらも少し考えて、

 

「……第三セットであいつの本気を見るため……か?」

 

 ジブリールなら言いそうな言葉を答えた。

 

「はい、彼女はまだ本気を出していませんので、煽って本気を出させようかと思います」

 

 ジブリールの言葉を聞いて、再び考える仕草をしたあと、今度は何故か呆れたような表情をした佑馬。

 

「……ジブリール。もしかして、本当はあの魔法が使いたいだけか?」

 

「……はい」

 

 ジブリールはコートの上でさっきした佑馬の会話を思い出しながら、怒りで我を忘れたかのように打ち込んでくる愛梨を見て、笑った。

 

(いい球が打てるではございませんか……これなら、あれを使ういい機会になれそうでございます)

 

 先程とは明らかに違うスピードで、鬼の形相で打ち込んでくる愛梨に、観客からは声援が送られる。

 

 そのまま第二セット目はジブリールゼロ、愛梨が二百四十八点で終了した。

 

 そして、休憩を挟んで第三セット。

 先程よりもかなり目付きが鋭くなった愛梨と、ラケットを自分の足元に二つ置いて、手に一つラケットを持つジブリール。

 

 合図とともに球が打ち出させるが、今度のスピードはさらに凄まじいものだった。

 

 ジブリールもここまでとは思ってもいないほど、超スピードの乱打。

 しかも、今度はコートを直接狙ってくるボールのため、打たれてからの時間の猶予がない。

 

 両者点は入らず、二球、三球と増えていった。

 

 そして、次に起きたジブリールの行動に、観客からは声が漏れる。

 

 ――ジブリールはいきなり立ち止まって、俯いたのだ。

 

 その間に次々と点が入るが、それでも動かないジブリール。

 

「体力切れか?」

 

「疲れたのかな」

 

 その様子に観客がざわつき始めるが、愛梨は攻撃をやめない。

 止められなかった。

 

 怒りで我を忘れながらも、俯いている顔から見えた表情に、背中に今まで感じたことのない悪寒が走った。

 

 ――あれはヤバイ。

 

 何をするのかも分からないが、本能的にわかった。

 

 十点をとったあたりで、ジブリールが顔を上げて笑顔で愛梨に話しかける。

 

「ありがとうございます。これで、やっと私も楽しむことが出来ます」

 

 軽く一礼し、感謝を述べられるが、今の愛梨には火に油だった。

 さらに目付きが鋭くなって、球のスピードもまた上がる。

 

「そんな貴女様に敬意を払って、私もやらせていただきます」

 

 ニヤッとした顔を浮かべながらそれを言った瞬間に、ジブリールからサイオンの光が暴走しだす。

 

 周りはさらにざわつきを増すが、愛梨は何かされるまでに本能的に打ち続けていた。

 

 そして、その光が、背中のジブリールの翼がある辺りへと収束されていき……

 

 「……ッ!?そんなバカな!?」

 

 誰かが叫んだ。

 

 愛梨もその光景に、一瞬だけ足を止めた。

 

 ジブリールの背中に、光る腕が二本作られており、その手にはラケットが握られていた。

 

「それでは、私も本気でやらせていただきましょう」

 

 そして、愛梨に三十点が入り、もうすぐ四球目が出される、というところでジブリールが動いた。

 

 ……否、ジブリールの背中に入る光る腕が動いた。

 

 そして、愛梨が打った球をその腕が意思があるかのように、ゆっくりしたスイングで、しかし、そのスイングの速さでどのようにしたらそこまでスピードが出るのかと思うスピードで打ち出された球に、愛梨は追い付けなかった。

 

 観客の誰も、その球は見えなかったが、愛梨には見え、後少しのところまで追い付けた。

 

 その事実にジブリールはさらに口を吊り上げて光る腕を動かし、自分のところにきた球は自分の手で直接打ち返した。

 

 愛梨もなんとか喰いついていくも、次々と失点を重ねていく。

 

 結果、ジブリールの三桁得点でその試合は終了、ジブリールはそのまま優勝を飾り、愛梨はサイオンを使い果たしたため、七高の選手に負けて三位となった。




遅れて申し訳ありませんでした。
次回もジブリール回です。

光る腕ですが、天撃と似ています。

ここで説明しますと、天撃はノゲノラにて、精霊が見えない空と白ですら視ることが出来るほどの精霊が濃縮されたものを撃ち放つ魔法ですが、それをさらに濃縮させ、物を掴めるレベルまでにしたのが今回の腕です。

操作は翼によって行っています。


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救う者と報われる者

お久し振りです。
投稿サボって練習した結果、3000Mを9分20秒で走れるようになりました。
このペースを5000Mで出せるように頑張ります。

活動報告追加したので、確認お願いします。


 佑馬と嬉しがる間も無くアイス・ピラーズ・ブレイクの会場に向かって巫女服を着るジブリール。

 

 達也によってCADの最終メンテナンス(達也のCADに対する好奇心)が行われるなか、そこに佑馬の姿はない。

 

 佑馬は現在、クラウド・ボール会場三高の控え室に侵入し、一色 愛梨の元へと向かっていく。

 慰めるというわけではないが、行かなくてはいけないと思ったのだ。

 

 佑馬はジブリールと愛梨の試合を見て思った。

 

 ――申し訳ない、と。

 

 愛梨の実力は、ジブリールがいなければ間違いなく優勝出来るレベルにまであり、しかもそれが努力によって身に付いた実力だ。

 事実、他を圧倒していた里見 スバルを完封して見せている。

 

 三つある『一』の家のうちの一つ、一色家。

 毎回師補十八家に選ばれる有力な家だが、同じ『一』の一条家の影に隠れてしまっている。

 だが、愛梨はそこで諦めずに努力を続け、今の実力が身に付いたのだと容易に想像できる。

 

 それなのに、もし今回ジブリールに惨敗したことにより、努力を辞めてしまったら。

 それを佑馬は見逃すことは出来ない。

 

 本来なら努力が報われなければいけない。

 しかし、結果はジブリールと闘い、そこで力を使い果たして三位。

 

 つまるところ、佑馬は心配だったのだ。

 

 努力をせずとも力があったが、努力によって自分よりも上の力を持った者に情けを喰らって努力をした佑馬だからこそ、努力の大切さとそれが大事なときに報われなかった時の絶望感がわかる。

 

 物言いは上からだが、努力によって裏付けされた力に自信があるだけで、慢心しているわけではなく、寧ろ貪欲に上を目指す努力家。

 

 少なくとも、ここで落ちていい人ではない。

 

 扉まで歩き、控え室の中に愛梨一人だけいるのを確認し、転移で中に入った。

 

「ちょーっとお邪魔するよ?」

 

「……っ!?一体何処から入ったのよ」

 

 いきなり声がかけられてビックリしたような声を上げて、顔を下げながらもこちらを睨む愛梨。

 やはり、相当落ち込んでいるようだった。

 

「まぁいいわ……私をからかいにきたのでしょう?あんなに大口叩いていたのだから、当然よね」

 

「そんなことするために俺がここに来るわけないだろう……てか、俺そんな風に思われてたんだ。結構ショックだな」

 

「でも、私が無様に惨敗したのは事実よ。栞には偉そうに説教したくせに、本人がこれじゃあ面目がたたないわね」

 

 自嘲気味にそういう愛梨。

 

「そんなことはないぞ」

 

 だが、それを断じる佑馬。

 

「努力をしたんだろ?なら、その努力をした自分を褒めて認めてやれよ。そうじゃないと、自分が救われない。でも、それと同時に自分がどれだけ下らない人間なのかを知ることも大事だ。そしたら、少しは楽になるだろ?」

 

「……私を慰めてくれているのかしら?」

 

「慰めているんじゃない。ただ、勿体ないと思っただけだ」

 

「……勿体ない?」

 

 何が勿体ないのか分からない、といった顔で佑馬を見上げた愛梨。

 その顔には涙が浮かんでいた。

 

「ああ、勿体ない。ここまで努力してきたんだろ?『一』の家で一番になるために、そこまでの力を手に入れても、まだ努力を怠っていないんだろ?それだけのことをしているのに、唯一回の負けで終わらせるのは勿体ない。あの試合だって、百点は出せなくても全力は出せてたと思うぜ?」

 

「……貴方って、実はいい人なのかしら?」

 

「そういう君はかなり乙女だよね。いつもは上からなのにこういうときは一人で泣いちゃって。ファンや一部の人からしたら堪らないんじゃない?」

 

「前言撤回。やっぱり嫌な奴だわ」

 

 そして少しの間が空き、愛梨が笑いだした。

 

「フフフ……いきなり現れたと思ったら格好付けた台詞を口にして、いい印象持ったらバカにして……面白い人ね」

 

「よく言われる」

 

 そして、愛梨は立ち上がり、佑馬と向き合った。

 

「礼を言うわ、中田 佑馬。でも、この借りは必ず返すわ。相手から貰いっぱなしってのは癪に触るのよね。それと、私は負けたからって努力を辞めるようなことはしないわ。元から壁は高いのくらい知っていたんだから」

 

「そうか、それはよかった。ジブリールが認めた奴が簡単に終わってしまったら、ジブリールの目ききが疑われるからな」

 

 笑いながら部屋を出ていこうとする佑馬に、目だけ睨むように、ただ口は笑いながら愛梨が言う。

 

「またそうやって……そういえば、貴方達って双子なのかしら?全く似ていないのだけれど」

 

「いや?俺たちは婚約者だよ」

 

「……え?なら、何故苗字が同じなのかしら?」

 

 ずっと兄妹、双子だと思っていたらしく、婚約者という事実に驚いた声をあげる愛梨。

 

「それは深い事情があるんだよ。どんな事情かは、想像に任せる」

 

 そして、部屋の鍵を開けて出ていく佑馬。

 その後ろ姿を見ながら、愛梨は呟いた。

 

「……ありがと、中田 佑馬」

 

◆◆◆

 

 佑馬と愛梨が会っている中、ジブリールが出場するアイス・ピラーズ・ブレイク二回戦が始まろうとしていた。

 

 しかし、今回佑馬が見に来ないのは知っていたため、いつもよりテンションは低い。

 

「あー、佑馬見てくれないとやっぱりやる気が出ないでございますね。ただ、それで負けたら佑馬になんと言われるか……またねだっちゃいましょうか」

 

 とりあえず、このなんとも言えない感覚を佑馬に丸投げすることに決めたジブリールは、実況を聞き流しながら、相手の選手の力量を見てやる気を出そうとしてみる……が、すぐに萎えてしまった。

 

「やっぱり、深雪と雫、十七夜という方以外は楽しめそうにないでございますね……」

 

 アイス・ピラーズ・ブレイク二回戦はジブリールの見立て通り、ジブリールの勝利であっという間に終わり、その日の日程は全て終了した。

 

 そして、ジブリールと佑馬は現在、一高の面子と夕食をとっている。

 みんなが集まるということは、その日の戦績に喜びと悔しさを分かち合う時間となる。

 

 そして、今晩は見事に明暗が分かれた。

 

 暗は、達也と佑馬を除く一年生男子選手の集団。

 明は、達也と佑馬と一年生女子選手の集団。

 

 そして、達也が女子に囲まれているのを片目に、佑馬とジブリールは料理を食べていた。

 

「はい、佑馬。あーん」

 

「……あーん」

 

 公開恥辱プレイをしながら。

 男子からは嫉妬の目を、三年生トリオはニヤニヤしながらコソコソとこちらを見て話しており、他の人達もチラチラと見てくる、というのが今の現状だ。

 

「ジブリール。あーん」

 

「あーん」

 

「……そろそろいいか?周りの視線が痛いし、正直恥ずかしい」

 

「仕方がありませんね……まぁ、許しましょう」

 

 ジブリールが許してくれたため、スプーンをおいてグーッと背筋を伸ばした。

 そして、まだ何人かの女子がこちらを、主にジブリールを見ているのに気が付いたため、佑馬はジブリールに行くよう促し、ジブリールは少し機嫌が直ったのか、嫌な顔をせずに向かった。

 

 そして、佑馬は三年生の集団へと向かう。

 

「そこのお三方、そんなに面白かったですか?」

 

「いや?またやってるなって思っただけだ」

 

「佑馬君って周りの目線を気にせずにイチャイチャしちゃってるんだから、当然見てるこっちもニヤニヤしちゃうわよ」

 

 摩利と真由美がニヤニヤしながら言ってくるのが何か癪に触ったため、即反撃に出る佑馬。

 

「いやー、何処かの誰かさんみたいに心の中でおちょくって仕返しされたらすぐ赤面するような女々しい人や、男の家に行っただけでオドオドするような初々しい人に比べたら、堂々としているとは思うけどなー?」

 

「――なッ!?」

 

「――そ、それはッ!!」

 

 二人それぞれ、その時の事を思い出してすぐ赤面し、鈴音はほぉ、と笑いもせずに摩利と真由美を見た。

 

「中田君、その時のことを詳しく教えていただけますか?」

 

「勿論ですとも市原先輩。まずは渡辺先輩か」

 

「あーあーあー!悪かったって!」

 

「そう、じゃあ会長の方からはな」

 

「きゃー!やめて!お願いだから!」

 

 赤面しながらギャーギャー騒ぐ二人を満足げに笑って、心の中で市原先輩にバッチリ話しといた佑馬は、後はよろしく、と目で言って、先程から女子に囲まれて質問攻めにあっている達也に困ったような目線を受けているため、助けに行こうかと思ったその時。

 

「不愉快だ!俺は帰る!!」

 

「おい、森崎」

 

「どうしたんだ、急に」

 

 森崎が部屋から出ていったため、佑馬は男子のグループで比較的こちらの近くにいて、しかも話しかけられる唯一の一科生に声をかけた。

 

「十三束、どうしたんだ?」

 

「ああ、佑馬か。いや、二科生が、というより、司波が女子からあんなに持て囃されているのが気に入らなかったんだろ」

 

「まだ一科至高主義持ってるのか」

 

「まあね。そういえば佑馬、クラウド・ボール優勝おめでとう」

 

「おう、ありがとう。この調子でモノリスも、と言いたいところだが、そちらの調子はどうだ?確か俺はディフェンスなんだろ?」

 

「調子はいいけど……森崎は佑馬をいないものと見なしていたから、結局ディフェンスは僕になったんだよね……」

 

 その時の森崎の事を思い出したのだろう、苦笑しながら言う十三束に、佑馬も同じく苦笑する。

 つまり、三高にも二人で勝とうしていたということになるのだ。

 

「なるほど、じゃあ俺は遊撃手でもやらせていただきますか」

 

「そうしてくれると助かるよ。まぁ、森崎も佑馬の実力は認めていると思うから、それなりに意識して上手く行動してくれるとは思うよ」

 

「まぁ、技量は確かにあるからな……もう夕食の時間は終わりだな。明後日よろしく頼むぞ」

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

 佑馬は十三束と別れ、先に出ようとしていた達也と深雪、ジブリールの元へと向かう。

 追い付いたときに、達也から恨めしげな目で見られたが、それをジブリールと話すことにより回避した。

 

 そして会場を出てしばらくたった頃、前方から集団がこちらに向かってくるのが見えた。

 そして、先頭にはその集団の中では見馴れた五人がいるのも見えた。

 

「三高……!」

 

「あら、一高の皆さんこんにちは。ご夕食でした?」

 

 愛梨の言葉に答えたのは、深雪。

 

「ええ、お先にいただきました。皆様はこれから?」

 

「ええ、そうです。入れ違いで残念でしたわ……でも、ここでお会いできてよかった。司波 深雪さん、あなたにお詫びしたいことがあります。私は以前あなたを侮った発言をしました」

 

 愛梨の言葉に、へぇ、そうなんこともあったんだー、と他人事のように呟いたが、ふと愛梨がこちらを見てニコッと笑ったような気がしたため、再び会話に耳を傾ける。

 

「しかし、私の認識が間違っていたことをはっきりと悟りました。あなたは私たちの世代でトップクラスの魔法師、だからこそ、私は貴方に勝利するために全力を尽くし、この九校戦を第三高の優勝で飾って見せるわ」

 

 堂々と言い切った愛梨。

 それに答えるように、深雪は手を差し出しながら対抗するように答えた。

 

「ええ、そうですね。もちろん私もあなたに負ける気はありませんので、お互い全力を尽くして戦いましょう」

 

「いい戦いをしましょう」

 

 その差し出された手を握って、しっかりと宣戦布告を果たした愛梨は、今度はジブリールに話しかけた。

 

「貴女もよ、中田 ジブリールさん。今度勝負するときは、私が必ず勝たせていただくわ」

 

「いつでも相手させていただきます。しかし、何度やっても勝つのは私でございましょうけど」

 

「さすが中田 佑馬の恋人ね……性格も本当に似てるわ」

 

「恐縮でございます」

 

 言葉だけみたら少し関係が悪いのか、と思うが、表情は二人とも笑っているため、その場の雰囲気はどちらかといえば良い方だ。

 

「完全復活したんだな、一色 愛梨」

 

「ええ、貴方のおかげで早く立ち直ることが出来たわ。でも、それを必ず後悔させてやるから、覚悟しなさい」

 

「うんうん、いい答えだね。あ、それとそこの十七夜さんだっけ?勝手に魔法を真似して悪かった。見てたら使いたくなったからつい真似しちゃった」

 

「使いたくなったから、という理由で『数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)』は真似出来るようなものじゃないのだけど、真似出来ちゃったものは仕方ないわ」

 

 佑馬に謝られた栞だが、正直、自分が苦労して身につけた魔法をあんなに簡単に真似してしまった佑馬の力量を認めざるを得ないため、諦めた様子だった。

 

「まぁ、新人戦、九校戦ともに一高が優勝するから、お祝いの品でも用意して待っていてくれ」

 

「残念だが、優勝するのは俺たち三高だ」

 

「少なくとも、モノリスで僕たちに勝てるとは思わないでください。いくら身体能力や演算能力が高いとはいえ、魔法の腕はこちらが優位なことに変わりはありませんから」

 

 先の試合で、身体能力と演算能力、加速魔法しか見せていない佑馬は、本気の片鱗すら見せていないのだが、どうやらクラウド・ボールの試合を見て勝てると思われたらしく、それがとても滑稽に思えた。

 

「まぁ、それはモノリスで対戦すればわかるよ……それじゃあそろそろいいか?」

 

「ああ、邪魔したな」

 

 そうして、一高はそれぞれの部屋へ、三高は食事会場へと入っていった。




ifルートで真由美や愛梨を作るのもよさそうですね。
……愛梨はジブリールがいないと無理か……いや、深雪がいるから問題ないかな……。

というか、一高一年はただでさえ優秀なのに、佑馬とジブリールが入ったら他の高校涙目になりますよね。
現時点で新人戦優勝ほぼ確定しているし……。


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嫉妬の天使

ふと思い付いたので書いてみました。
少なめです。


「佑馬さん、いつの間にあんなに仲良くなったのですか?」

 

「さぁ、どうだろうね。俺の行動読めるのはジブリールくらいだよ」

 

「当然でございます。伊達に何十年も恋人を……」

 

 深雪の何気ない問いから始まったものだが、見事にジブリールは口を滑らせてしまい、あっといった表情で固まった。

 

「……何十年も?」

 

 その言葉に反応したのは達也。

 めんどくさいやつに聞かれた、と嫌な表情を顔には出さなかったが、このまま放置してしまうと肯定していることになるので、差し支えないように返すことにした。

 

「いや、たぶん何十年も一緒に居たというのは言葉の綾で、それくらい長くいるんだから、ってことだろ」

 

「さ、さすがは佑馬です。私のこともちゃんとお見通しでございますね」

 

 佑馬のいつもと変わらない口調で言った解釈にジブリールがのったことで、年齢がバレることはなかったが、達也が訝しげに見ているために下手に会話をすることが出来なくなった。

 

「まぁ、ジブリールは今日二競技やったんだし、いくらお前とはいえさすがに少しは疲れただろ。どうせここ最近寝てないんだろ?」

 

「ええ、確か夏休みに入ってからは寝ていませんね」

 

「……え?」

 

「だよな。だから、今日くらいは寝ておけ」

 

「え、ちょーっと待ってくれる?」

 

 周りの反応を代弁するかのように英美が声をかけるが、声をかけられた二人は、何か変なこと言った?みたいな感じで英美を見る。

 

「どうした?明智さん」

 

「いや、聞き間違いだと思うんだけどね……ジブリールが夏休みから寝てないって聞いたんだけど……」

 

「いや、聞き間違いじゃないよ。俺もなんだかんだで夏休み入ってから寝てないし」

 

「……」

 

 辺りを静寂が支配する。

 そこで声をかけたのは、意外にも後ろの方からついてきていた真由美だった。

 

「え?でも一昨日一緒に寝たわよね?」

 

「七草会長。それは中田君に腕枕をしてもらったってやつですか?」

 

「え!?リンちゃんなんでそれを知ってるの!?」

 

 そして、見事に地雷を踏んでいった。

 鈴音はさっきの夕食会のときは何も言わなかったらしく、何故鈴音が知っているのかを驚く真由美。

 

 そして、佑馬は佑馬で冷や汗を流した。

 

「……佑馬」

 

「……ナンデショウカジブリールサン……」

 

「今日、やってくれますよね?」

 

「モチロンデス」

 

 近くで真由美が顔を真っ赤にして鈴音に問い詰めているなか、この場にいる全員が、貴重な姿を目撃する。

 あの佑馬が、冷や汗を流しながら九十度腰を曲げて頭を下げており、その対象のジブリールは、笑顔だった。

 

 ――ドス黒いオーラを漂わせ、目だけが笑っていないが。

 

 あの日、ジブリールに真由美と一緒にいることは言ったが、腕枕をしたことは言っておらず、しかもジブリールは腕枕を今まで一度もやってもらったことがない。

 

 つまり、ジブリールは嫉妬しているわけだが……

 

「……お兄様、ジブリールの後ろに般若が見える気がするのですが……」

 

「深雪、俺にも見えるよ」

 

 女の方が強いというのは、どうやらどの世界でも共通の認識のようだった。

 

◆◆◆

 

 そして夜になり、佑馬とジブリールは家にいた。

 

 二人とも同室者がおり、それが司波兄妹だから部屋を交換してもいいのだが、達也と深雪が同室だと深雪がオーバーヒートを起こしそうなので、家へと帰ったのだ。

 

 そして、風呂に入った後、すぐにベッドへと向かい……

 

「さぁ、佑馬。会長さんにしたことを私にもしてくださいませ」

 

「お、おう……」

 

 素晴らしくいい笑顔で言われたので、それを拒否することもなく言われた通りに、真由美にした通りにする。

 

「……私にはやってくれなかったのに会長さんにこんなことしていたなんて……」

 

「……どうかした?」

 

「いえ、何でもございませんよ?」

 

 実践する度に何かぶつぶつ聞こえてくるが、知らぬが仏という言葉があるため聞かないふりをした。

 しかし、真由美のやった通りにジブリールにやる度にジブリールが不機嫌になっていくために、佑馬の気が休まる時間ではなかった。

 

「――これで一通り終わったけど……」

 

 全て終わり、腕枕をしながらベッドの中で対面する形となっている佑馬とジブリール。

 

「そうでございますか……中々楽しんでいたご様子ですね」

 

「いや、そんなにやったことはないぞ?」

 

 佑馬にとっては何気ない言葉だったが、その言葉を聞いたジブリールはプイッと背を向けてしまった。

 

「……もしかして、拗ねてる?」

 

「拗ねてません」

 

 少し顔を覗いてみたが、若干頬が膨らんでいるようにも見える。

 ジブリールもこんな表情が出来るようになったんだ……と感慨深い気持ちになった佑馬だが、とりあえずジブリールの機嫌を直すことにした。

 

「ははは、拗ねてるジブリールも可愛いな」

 

「……そんなこと言っても無駄でございますよ?」

 

 とは言いつつも、少し顔を赤らめながら頬を膨らませる自分の恋人を見て、思わず顔が緩んでしまう。

 

「ほら、ほっぺた膨らませてないで、顔をこちらに埋めてきてもいいんだよ?」

 

「……からかっているのでございますか?」

 

 佑馬の言葉にさらに頬を膨らませたが、ゆっくりとこちらに顔を向けて、佑馬の胸に顔を赤くしながら沈めるジブリール。

 それに合わせるように、佑馬はジブリールを抱き寄せた。

 

「なんだかんだでジブリールって甘えん坊だよね」

 

「……そんなことはないのでございます」

 

「でも、そこも含めて好きだよ」

 

 ジブリールの髪をすきながら、久し振りのゆっくりとした時間をジブリールと過ごす佑馬。

 

「……そんなこと言ったって許しませんよ?」

 

「なら、これならどう?」

 

 ジブリールの頬はただ赤いだけでもう既に拗ねてる様子はないのだが、それでも拗ねてますアピールをするジブリール。

 佑馬はそのままジブリールに覆い被さり、抱き締めてからその勢いでジブリールの唇を、奪った。

 

「ん!?……んっ……む……」

 

「む……んん……んはぁ……これでもダメか?」

 

「……一つ、お願いしてもいいですか?」

 

「どうした?」

 

 覆い被さって抱き締めたまま、顔だけあげてジブリールを見る佑馬。

 顔と顔の距離はとてつもなく近く、吐息が当たるほどだ。

 

「私たちは付き合い始めてからもう百年が経とうとしています……そろそろ、進展があっても宜しいのではないのでしょうか……」

 

「……!」

 

「……私はその……いつでも準備は出来てございますよ?」

 

 抱き締めていた佑馬の手を掴み、自分の大きな双丘の一つへと持っていき、もう一つの手を自分の下腹部へと持っていくジブリール。

 

「……そこまで言うなら俺も覚悟を決めないとな……」

 

 そして、二人は濃厚なキスと共に身体を重ねた。

 

◆◆◆

 

「……とうとうやってしまったな……」

 

 朝起きた佑馬は、隣で珍しく寝ているジブリールを見ながら呟いた。

 ただ、後悔はしていない。

 

 時間には朝日が昇る前で余裕があるため、そのままジブリールの寝顔を見て時間を過ごす。

 

「……だいぶ待たせてしまって悪かったよ……俺、ホントそこらへんはヘタレだからさ……」

 

 何処の世界に百年も彼女を、というか、ほぼ妻なのだが、待たせる人がいるのだろうか。

 恐らく、ここにいる一人だけだろう。

 

「こんな俺だけど、これからもよろしくな、ジブリール」

 

 佑馬はジブリールの髪をすきながら、優しい笑顔でそう呟いた。




目が笑ってない笑顔にドス黒いオーラがついたジブリールってなんか簡単に想像がつく。
後、頬を膨らませて顔を少し赤くしながら拗ねるジブリール……いいですね。

というか、本来はアイス・ピラーズ・ブレイクを書く予定でした。

これが自分の限界です。
これ以上は無理です。
恐らく、かなりギリギリのところをつきました。


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激闘の開幕

新年、明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い申し上げます。

昨年始まったこの小説も、とうとう新年を迎えることが出来ました。

ここまでモチベーションを維持できたのは、皆様のおかげです。

これからも、末永くよろしくお願いします。

ちなみに、栞との試合はさらっといきます。


九校戦六日目、新人戦三日目。

 今日はバトルボード、アイス・ピラーズ・ブレイク共に決勝が行われる日だ。

 

 ジブリールと佑馬は控え室で既に待機している。

 朝起きてからジブリールがずっと上機嫌で、今現在も鼻唄を歌うかのように楽しそうにしながら着替えをしている。

 

 そこに、真由美と摩利がやってきた。

 

「おやおや、これはお邪魔だったかな?」

 

「そうみたいねぇ~。お邪魔な私たちは帰りましょうか~」

 

 そして、入って早々、一言がこれだった。

 

「何処をどうみたらそうやって見えるんでしょうかねぇ?」

 

「いやー、だって……ねぇ?女の子が着替えているのにその場にいるだなんて、それはもう……」

 

「あんなことやこんなことしちゃってもおかしくないわよね。普通なら……でも佑馬君だからなぁ」

 

 そして、見事に昨夜の事を思い出させるような言葉を聞き、ジブリールは更に笑顔になりながら真由美と摩利の方へ、佑馬は珍しく顔を赤くしながら俯いた。

 

「そうなんですよ!とうとう佑馬が一歩踏み出してきてくれたのでございます!こんな嬉しいことがあるでございましょうか!いいえ、ないのでございます!」

 

 普段の静かなジブリールとは正反対の、反語まで使って嬉しさを強調するジブリールに真由美と摩利は戸惑うしかない。

 

「え、えーと、ジブリールさん……?」

 

「……佑馬君、一体何したんだ?」

 

 そのジブリールの雰囲気から察して、かなり嬉しいことをされたのは容易に想像出来るが、ここまで上機嫌にさせられるようなことがなんなのかに興味が言った二人は佑馬からの答えを待つ。

 

「……別段変わったことはしていません。普通に恋人同士でやるようなことをやったまでです」

 

 だが、佑馬から返ってきた答えは曖昧なものだった。

 

「まぁ、これなら競技は問題なさそうだな」

 

「ええ、そうね。最強のエンジニアに最強のテンションアッパーがいるものね」

 

 二人して笑いながら部屋を出ていく様子に、佑馬は何とか誤魔化せたと一息つき、ジブリールの方に向く。

 

「……それじゃあ、今からの試合相手の作戦を考えるぞ」

 

「はい♪」

 

 なんとか昨夜のことを頭から離して、今からの試合に視点を当てる。

 

「まず、次の相手の十七夜だけど、たぶん今までの天撃を九つに分けて打つ戦法じゃ無理。CADの性能に合わせた天撃をさらに九つに分けてるんだから、一発の威力が弱すぎる」

 

「ええ、承知の上でございます。あれは普通の天撃のゼロコンマ一%未満ほどの力しかございませんからね」

 

「ああ。だから、魔法の制御力とサイオン保持量がある程度あれば止められてしまう。というわけで、丁度いい相手だ。だから、最初は遊んでもいいが、決めるときは『あれ』を使って決める」

 

「……なるほど。了解でございます」

 

「よし、それじゃあ楽しんでこい」

 

「ええ、勿論楽しんできますが、さらに楽しむのは夜からでござい」

 

「だあああ!早く行け!」

 

 普通に見送ったはずなのに、何故か夜を楽しみにすると言われ、しかも夜のお誘いまでされた佑馬は続きを言わせないように声を張り上げて行くように促した。

 

「ふふ……このネタもうしばらくは使えそうでございますね?」

 

「くそぉ……なんでヤっちまったんだ俺」

 

 そして、その一言に反応したのは、ジブリール。

 顔を俯かせて、少し声を小さく、悲しそうに、泣きそうな声で佑馬に言った。

 

「……佑馬は私とヤったことを後悔しているのでございますか……?」

 

「――っ!いや!そんなことは!」

 

 そして、再びやってしまった佑馬。

 

「なら、夜楽しみにしていますね♪」

 

 そのまま答えを聞かずに会場に向かったジブリール。

 ついに頭を抱えてしまう佑馬だが、なんだかんだで『昨夜はお楽しみでしたね』の言葉が正に似合う様子だったため、完全に拒否することも出来なかった。

 

 そのことについて思考の大半が埋まるが、片隅では別のことを考えていた。

 

(初めて会った時は主従愛と好奇心しかなかったジブリールが、とうとうあそこまで完全に感情をコントロール出来るようになったんだな……)

 

 ジブリールに人間らしい、いや、完全に人間の感情が生まれたということは、佑馬としても嬉しいことだ。

 

 そのとき、告白した時の情景が頭に過る。

 

『俺は、初めて会ったときから、一目惚れしてしまったんだ。天翼種に主従愛はあれど、普通に愛するという感情はないことを知っている。でも、だからと言って諦められない!なら、その感情をしっかりと理解させるだけだ!呼び捨てを頼んだり、対等な立場を要求したのも、俺の過去を話したのも、全部そのためだ。だから……だから、ジブリール。俺と付き合ってくれないか?』

 

 佑馬はエルキア城の風呂場で、そう告白した。

 

『私でよければ、喜んで……確かに私達天翼種には、恋愛感情はありません。でも、今ここで大切にされている、そして、愛されているという感情はしっかりと読み取れました。佑馬は既知をも覆す人。そんな人と対等に一緒にいられる。これほど嬉しいことはございません!』

 

 その時ジブリールが涙を流しながらそう答えたことも、数十年前経った今でも鮮明に覚えている。

 

「全く……今の俺ですら勿体ないくらい嬉しいことをあの時の俺に言ってくれたんだよな……ジブリールが居たことで、俺がどれだけ救われたか」

 

 そこで、モニターに映るジブリールを見る。

 

「……今、この世界には俺たちの戸籍が存在している……年齢が十六歳ってことになっているけど、実年齢的には余裕でセーフだし、ジブリールがしたいのなら式を高校出てからでも……いや、退学すればいいのか?いやでも、それだとつまらないし……」

 

 ジブリールとの将来をあれこれ考えているうちに、一つの結論が出た。

 

「そうだ、モノリス優勝したらプロポーズしよう」

 

 そこで、ジブリールのこの試合が終わったら指輪を買ってくると決めた佑馬は、やっと試合の観戦を始めたのだった。

 

◆◆◆

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクの予選三回戦目、ジブリールと栞が対決する会場の観客席は、人で全て埋まっていた。

 

「いよいよジブリールさんの出番ですね」

 

「今度もまたあのレーザーみたいなやつでサッと終わらせちゃうのかな?」

 

「いや、それは無理だと思うよエリカ。僕が見た限り、それなりの実力があればあれは簡単に防げてしまう。それをあの二人が理解していないわけがない」

 

「それじゃあミキは他に何か作戦があると考えているのね?」

 

 そして、一高の応援席には、いつもの面子が揃って座っていた。

 

「ミキじゃない!僕は幹比古だ!……どんな作戦かはわからないけど、何か仕掛けるのは間違いないと思うよ」

 

 そして、全員が入場ゲートから入ってきた両者を称える声で試合の方に意識を向ける……が、そこでジブリールから一つの違和感を感じる。

 

 それに気がついた観客は、みるみるうちにざわついていく。

 

「……CADをつけてない……?」

 

「おいおい、これも作戦っていうんじゃないだろうな」

 

「さすがにこれは僕も予想出来なかったよ……それだと、いくら中田さんとはいえ魔法のスピードが追い付かないと思うんだけど、何か作戦でもあるのかな」

 

 幹比古の言葉を最後に、全員が試合の観戦を始める。

 もうすぐ、スタートだ。

 

◆◆◆

 

 辺りが静寂に包まれた。

 

 試合開始のランプが一つずつ、点っていく。

 

 そして、全て点った瞬間、フィールドの氷柱が一つ崩れ落ちた。

 

 ――ジブリールのだ。

 

 ジブリールはフィールドに手を向けたまま、ずっと目を閉じており、栞は牽制のつもりで打った攻撃がすんなり通ったのを見て、すかさず追撃に入った。

 

 振動の波の合成によって破壊されていく氷柱。

 

 四本、五本と壊れていく氷柱を、栞は訝しげに見ながらも攻撃を続ける。

 

(どういうことかしら。まさか諦めたわけじゃないわよね)

 

 観客がざわざわと騒がしくなるが、それを気にせず追撃を続ける。

 

 そして八本目を崩そうとしたとき、それは起こった。

 

「――え?魔法が……発動しない?」

 

 何度CADを動かしても、魔法が発動する気配がない。

 ふと、ジブリールの表情を見た栞。

 

 ――そして、悪寒が走る。

 

 ジブリールのニヤッとした笑顔を見た瞬間、何とも言えない寒気が栞を襲ったのだ。

 

 会場では、何が起きているのか分からないため議論が行われているのか、さらにざわめきが大きくなっていく。

 

「今やったのは自陣の氷柱の周囲一メートルに結界を張り、中を真空状態にし、氷柱に情報強化をかけて氷を壊さないよう囲ったというわけでございます。それ故、貴女様の振動波の合成は出来ませんよ?」

 

 ジブリールから声が聞こえてきた。

 信じがたい事実と共に。

 

(真空状態を作った?CADもなしに、あんな短時間で?)

 

 実際に振動波が出来ないということは、氷柱の周囲一メートルに確かに真空状態が出来ているということ。

 

 そして、氷に真空状態の膨張にすら耐える情報強化が張ってあるため、普通の魔法も通らない。

 

 まさに、難攻不落の陣。

 

「それでは、私の攻撃に耐えて見せてくださいませ?」

 

 そこからは攻守が逆転。

 

 ジブリールから放たれる簡単な魔法式で作られた威力抜群の魔法に、何とか情報強化で耐えながら反撃を試みるものの、自分の攻撃は全く通らず、このままではジリ貧となるのは確実だった。

 

(攻撃は捨てないとダメね。何も全て壊さなくても相手より多く氷柱を残せば勝ち!)

 

 そこからの栞は早かった。

 

 すぐに防衛に周り、ジブリールの攻撃を完全に抑える。

 そこで、またジブリールから声がかけられた。

 

「なるほど。攻撃を捨てましたか。ならもうこれ以上私も時間をかける必要がありませんね」

 

 その言葉に疑念が生まれて顔をジブリールに向ける栞。

 

 その瞬間、ジブリールから後光が挿した。

 

 フィールド全体を覆う、強い光。

 それはまるで、ジブリールの後ろに太陽があるかのようだった。

 

 そして、ジブリールがこちらに向かって喋った瞬間。

 

 ――光が栞の氷柱全てを撃ち抜いて壊した。

 

「『光の弾丸(ライジング・メテオ)』でございます」




これで完全なR15はしばらく出ないと思います。
佑馬君、結婚宣言。

……R18 とか書ける気がしないというのが本音です...


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最強の片割れ

番外編としてテニスの王子様書いてます。
興味がある方はどうぞ。

それでは本編です。


 一高の女子がアイス・ピラーズ・ブレイクを独占して勢いにのるなか、男子の不振は更に悪化するだけだった。

 

 それもあり、天幕はそこまで盛り上がることも出来ず、気まずい雰囲気になっている。

 

 そして現在、ジブリールと雫、深雪と担当エンジニアの佑馬、達也はホテルのミーティングルームに呼ばれていた。

 呼んだのは真由美で、アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝メンバーを、ジブリール、雫、深雪の三人で独占したことによる今後の方針についてだ。

 

「時間に余裕があるわけじゃありませんから、手短に言います。決勝リーグを同一校で独占するのは今回が始めてです。司波さん、北山さん、中田さん、本当によくやってくれました」

 

 深雪とジブリールは丁寧に、雫は静かにお辞儀して、真由美の賛辞に応えた。

 

「この初の快挙に対して、大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず、学校に与えられるポイントの合計は同じですから、決勝リーグを行わずに三人を同率優勝としてはどうか、と」

 

 つまり、大会本部は楽したいと言っているのがよくわかった。

 だが、そうは問屋がおろさない。

 

「達也君、貴方の意見はどうかしら?佑馬君はともかく、二人も戦うとなれば貴方もやりにくくなると思うんだけど」

 

 どうやら真由美も同率優勝で落ち着かせたいようだった。

 これは、個人としての意見ではなく、チームリーダーとしてもっとも望ましい決着だからなのだろう。

 

「それは本人達が決めることです。コンディションは二人とも問題有りませんから」

 

「なるほど……佑馬君はどうかしら」

 

「ジブリールに任せます」

 

 二人がこういったため、真由美は女子三人に視線を向ける。

 

「私は……」

 

 先に口を開いたのは雫だった。

 

「戦いたい、と思います」

 

 強い意志が込められた瞳で、真由美の目を真っ直ぐ見返して。

 

「深雪とジブリールと本気で競うことの出来る機会なんて、この先何回、あるか……。私は、このチャンスを逃したくない、です」

 

「そうですか……」

 

 真由美は視線を床に落として一つ息をついた。

 

「深雪さんはどうしたいのですか?」

 

「北山さんがわたしとの試合を望むのであれば、わたしの方にそれをお断りする理由はありません。そして、わたしもジブリールに挑んでみたいです」

 

 実は極めて気が強い性格の深雪であれば、こう答える事は真由美にも分かり切っていたことだった。

 

 そんな深雪が兄以外で自分を完全に下に置くとは思ってなかっため、ジブリールに挑む、というのには驚いたが。

 

「なるほど。では、ジブリールさんはどうしますか?」

 

「勿論、お二方の申し込みはお受けいたします」

 

「分かりました……では、決勝リーグを行うことにすると大会委員に伝えておきます。決勝は午後一番になるでしょうから、試合の準備を始めた方がいいでしょうね」

 

 真由美の言葉に、真っ先に一礼したのは達也。

 

 ミーティングルームを出て行く彼の背中に、すかさず真由美へお辞儀した深雪と雫が続いた。

 

「……貴方達は行かなくてもいいのかしら?」

 

 ただ、佑馬とジブリールはその場に残っているが。

 

「一応三人の意志を尊重して決勝リーグをしてくれたけどさ、実際のとこは?」

 

「本音を言うと、同率決勝が望ましかったわね……ただ、自分よりも強い人に挑みたいという気持ちもよくわかるから、仕方ないわね」

 

 困ったように笑いながら言う真由美に佑馬は感謝と申し訳ない気持ちを込めて一礼しミーティングルームを出いき、ジブリールもそれに続いた。

 

「……私ももう一度勝負したいのよ?佑馬君」

 

 何か呟いたようだが、それは誰にも聞こえることはなかった。

 

◆◆◆

 

 観客席は、超満員だった。

 新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグは、午後一番、他の競技とわざわざ時間をずらして行われることになった。

 

 一般席だけでなく、関係者用の観戦席も満員。

 

 そこには真由美と摩利に挟まれた達也の姿があった。

 

「佑馬君はやっぱり、ジブリールさんの方についてるの?」

 

「いや、佑馬は……あそこにいます」

 

 達也が指した場所に、確かに佑馬はいた。

 いたのだが……

 

「……なんであんなところにいるのかしら?」

 

「ジブリールを真っ正面から見たいのと、人混みは嫌だって言ってました」

 

 電光掲示板の上にいた。

 

「というか、あいつはどうやってあそこまで……瞬間移動出来るんだったな……」

 

 はぁ―……っと両隣から溜め息が聞こえるが、それもすぐになくなった。

 

 二人の選手がステージに上がってきたからだ。

 

 フィールドを挟んで対峙する二人の少女。

 

 片や、目に清冽(せいれつ)な白の単衣に緋の袴。

 

 片や、目に涼しい水色の振袖。

 

 前者が深雪で後者が雫だ。

 

 始まりを予告するライトが点った。

 そして、開戦を告げる狼煙となった瞬間、同時に魔法が撃ち出された。

 

 雫の陣地を熱波が襲う。

 深雪の『氷炎地獄(インフェルノ)』だ。

 

 しかし、雫の氷柱は倒れることなく持ちこたえている。

 

 『氷炎地獄』の熱波を、氷柱の温度改変を阻止する『情報強化』が退けているのだ。

 

 深雪の陣地を地鳴りが襲う。

 だが、その震動は、共振を呼ぶ前に鎮圧された。

 

 普通の人には両者一進一退に見える互角の攻防。

 しかし、それは全く違う。

 

 雫の『共振破壊』は完全にブロックされているのに対し、『氷炎地獄』の熱波は雫の陣地を覆っている。

 

 不利な状況を脱退しようと、雫が動き出す。

 

 CADをはめた左腕を、右の袖口に突っ込んだ。

 

 そこから出てきたのは、拳銃形態の特化型CAD。

 それは、達也が持たせた雫の切り札だった。

 

 CADの同時操作という技術を前に、深雪に一瞬の動揺が生じる。

 そこに撃ち出された魔法は、『フォノンメーザー』

 

 振動系の魔法で、超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法。

 

 今大会、始めて深雪の氷柱にダメージが通る……が、その程度しかダメージを与えられなかった。

 

 そこで、深雪も魔法を切り替えた。

 

 深雪の陣地から白い霧が立ち込め、雫の陣地へと押し寄せる。

 雫はそれを融解を妨げる『情報強化』で対応するが、この霧は、『冷気』

 

 この攻撃には意味をなさなかった。

 

 『ニブルヘイム』

 

 広域冷却魔法で、今回の霧は液体窒素によるもの。

 そして、その威力は今、最大レベルに上げられていた。

 

 液体窒素が通りすぎ、深雪側の面に液体窒素の滴がびっしりと付着、そこで深雪は『ニブルヘイム』を解除し、再び『氷炎地獄』を発動した。

 

 気化熱による冷却効果を上回る急激な加熱によって、液体窒素は約七百倍の膨張率で一気に気化。

 

 轟音を立てて雫の氷柱が一斉に倒れ、深雪の勝利が決した。

 

◆◆◆

 

 それからバトルボードの決勝を挟んで再びアイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグ。

 

 今度は雫とジブリールだ。

 

 雫は既にCADの同時操作の構えをとっており、ジブリールは拳銃形態の特化型CADを持っている。

 

 長い静寂、そして、ライトが点る。

 

 開始と同時に、再び同時に魔法が撃ち出された。

 

 雫から出たのは『フォノンメーザー』

 それをジブリールは情報強化により、無傷で(・・・)対応。

 CADから『天撃』を放つ。

 

 雫は九つに別れた『天撃』を『情報強化』で対応し、『共振破壊』をジブリールの氷柱へと仕掛けた。

 

 だが。

 

「作戦が(あも)うございますよ」

 

 ジブリールが手をかざしただけで、それはキャンセルされた。

 

 そして、ジブリールはクラウド・ボールで見せた『手』を両翼から顕現させた。

 

 何をされるか分からないが、雫はその間に特攻を仕掛ける。

 

 ジブリールは防御に徹しながら、その『手』を天に向けて『何か』をしていた。

 そこで雫は、『共振破壊』をキャンセルされた瞬間に、『フォノンメーザー』を撃った。

 

 そして、直撃した氷柱にヒビが入る。

 

 ジブリールの操作する『手』には、強大な力を持つ代わりに弱点がある。

 

 集中力を切らしてはいけないため、本人は防御に徹することしか出来ず、その防御も甘くなる。

 

 それを『手』で補えば問題ないのだが、『何か』をするために『手』を使っているジブリールは、連続で攻められた時の対処が遅れる。

 

 その弱点を見つけた雫は、猛攻を仕掛けた。

 

 ジブリールはなんとか捌くがいくつかの氷柱はヒビが入り、二個が崩れ落ちた。

 

 だが、その瞬間、空が暗くなり始める。

 

 空には、真っ黒な雲が会場を覆っていた。

 

 そして、ジブリールの『手』から光が空へと昇っていく。

 

「少しヒヤッとしましたが、なんとか間に合いました。これにて、終了でございます」

 

 その言葉と同時に、ジブリールは『手』を振り下ろした瞬間、会場を凄まじい音を立てて強烈な光の筋がフィールドを襲う。

 

 雫の氷柱は跡形もなく、消え去っており、フィールドにはその威力を物語るかのようにぽっかりと底が見えぬ大きな穴が空いていた。

 

私の固有魔法(・・・・・・)、『雷撃』でございます」

 

 そして、それを見ていた佑馬は冷や汗を流しながら呟いた。

 

「……俺、こんな魔法知らねぇぞ」




ジブリール、深雪、雫だとさすがに雫を助け出すことは出来ませんでした……ファンの皆様、自分の力がないせいで申し訳ありません。

次回は深雪とジブリールの一騎討ちです。



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常軌を逸したもの

遅れてすみません。
熱でダウンしてました。

皆様のおかげでこちらの小説もお気に入りが千件行きました!
本当にありがとうございます。

でも、やっぱり小説は難しいですね……
皆様の評価、身に染みております。

もっといい小説が書けるよう努力していきますので、これからもよろしくお願いします。


 観客は今目の前で起こった試合展開に、フィールドの状況に、ただただ黙って見ることしかできなかった、

 

 未知の魔法から繰り出される、競技場全てを覆う光を放ち、轟音を鳴り響かせて撃たれたフィールドに底が見えないほどの穴を空ける強力な魔法。

 

 空は未だに黒い雲に覆われ、そこから雷の筋がいくつも光って見える。

 

 ジブリールは一礼して退場し、雫も競技場を後にした。

 

「今のは不正じゃないのか!!」

 

 観客の一人が、声を上げた。

 

「あんな魔法CAD無しで、いや、CADがあったとしても使えるわけがない!何人かで裏から工作してるんだ!!」

 

 一人が言えば、後は芋づる式だ。

 次々とジブリールに対しての批難が殺到、さらに飛び火して、大会委員にも批難が飛ぶ。

 

 大会委員はフィールドに向かい、穴の状況を確認したり空を見て雲の様子を確認したりと忙しそうに動いていた。

 

「すごいわね……九校戦でここまで荒れるなんて始めてよ」

 

「まぁ、私もさすがにあんなのを見せられるとは思っても見なかったからな……もしかしなくてもA級ライセンス以上の魔法だ」

 

「でも、そんな魔法いくらジブリールさんといえど、CADも無しで使えるようなものじゃないと思うのだけれど……」

 

 観客席で試合を観戦していた真由美と摩利も、さっきの魔法について議論をし始めた。

 

「……達也くんは今の魔法の原理は分かった?」

 

 そして、一番結論が出せそうな達也へと振る。

 

「……まず一つ言えることは、あの魔法はジブリールが一人で行ったものです」

 

「CADは使ってたのか?」

 

「いえ、恐らくですが、背中から出ていた手がCADの役割を担っていたのだと思います。しかし、原理は全くと言っていいほど分かりませんね」

 

「そう……達也くんでも無理なら、後はジブリールさんか佑馬くんぐらいしか分からないだろうし……」

 

 そこで全員黙り混んでしまい、観客が罵詈雑言を飛ばすなか、三人にはその声が気にならないほどまでに、さっきの魔法についての仮説をたてるために考え込んだ。

 

◆◆◆

 

「それで、さっきのあれはどうやったんだ?いくら遠かったとはいえ、俺でも魔法式を確認することしか出来なかったぞ」

 

 佑馬とジブリールは試合後、控え室のソファーに座って、こちらもまたさっきの魔法について話し合っていた。

 

「それは、当然で、ございます。いくら、佑馬の眼があるとは、いっても、現在の時間軸(・・・・・・)から見ては、その構造を知ることは、出来ませんので……」

 

「現在の時間軸……その技の根元は龍精種(ドラゴニア)か?」

 

「さすがは佑馬。正解でございます」

 

「……そんなに力を使うものなのか?」

 

 そして、ジブリールは息も絶え絶えといった感じだった。

 

「正直、この姿を維持、するのが、やっとでございます」

 

「分かった。ちょい待ってろ」

 

 その言葉を残して佑馬は転移し、すぐに戻ってきた。

 ヘアバンド型のCADを持って。

 

「これつけとけ」

 

「ありがとう、ございます……ふぅ……やっぱりこれは無理がありましたか……」

 

 ヘアバンド型CADが既に記録されているジブリールの平常時の情報をもとにサイオンを『再成』し、みるみるうちにジブリールのサイオンが戻っていく。

 

「それで、どうやってやったんだ?今までで見たことも聞いたこともないぞ」

 

 ジブリールから出た今回の『雷撃』の内容。

 それは佑馬をして常軌を逸しているの一言につきるものだった。

 

「現在を中心に、過去・未来の時間上にあるこの場所で起こる複数の時間内にある雷雲から起こった雷の力を反響させ、現在に収束してその視力を何十倍、何百倍にもして撃ち込んだだけでございます」

 

 つまり、この付近で起こった過去の雷、そして、未来でこの付近に起こるだろう雷の力を反響させて、現在に収束させて撃ち込んだ。

 それ即ち、時空間を複数ねじ曲げ、合わせたことになる。

 

「空間転移が出来るなら、この時空間転移も出来るのではないかと思いましたので……翼の『手』は云わば精霊、この世界でのサイオンの集合体でございますが、それを天撃以上に濃縮する必要がありますが、そうなると維持が難しくなります。よって、その力を一秒後の未来とその力を反響させて(・・・・・・・・・・・・・・・・)、その力を維持し留めてあるものでございます。つまり、この力は時空間に『点』ではなく、『面』として接しているわけでございます。そして佑馬との試合の時に空間転移した時、ベクトル膜に触れて空間にヒビが入りましたよね?何故でしょうか」

 

「転移された物が異次元からベクトル膜に当たった瞬間、異次元からこの次元に戻るためのベクトルが反射される。しかし、その異次元は既に閉鎖されている。よって、居場所がなくなったボールは粉々になり、異次元とこの次元との間で何かしらの現象が起きてヒビが入った……というのが俺の考えだが」

 

 ジブリールが言っているのは、九校戦前の佑馬とのクラウド・ボールの試合で起きた、転移とベクトル膜が反応しあって起きたことだった。

 

「言い方を変えましょう。何故、空間にヒビが入りつづけた(・・・・)のでしょうか」

 

「……なるほど……言いたいことはわかった」

 

 何かしらの現象が起きてヒビが入った。

 それなら何故、その空間は閉まることなくずっとヒビが入り続けたのか。

 確かに、不自然な点はいくつもある。

 

「私はそれをこう仮定しました。転移は時間にも直接影響するもの。それが反射されたとき、その力がその場で反響していたとしたら、と」

 

「反響させているからその力はずっとその場に残って、ヒビが入り続けるということか」

 

「そういうことでございます。なので、空間転移を連続的に行えば同じ状況が出来るのでは、と思い、前々から一応試してはいたのでございます」

 

「なるほどな……それで、その内容は?」

 

 確かに、筋はそれで通る。

 連続的に空間転移を行えば、その場所にはずっとこの次元と異次元と繋がることになる。

 

「『手』は先程も言ったように、時空間に『面』としています。つまり、それを転移によって過去と未来に伸ばしました。私たちは『点』である以上、現在にしか転移出来ませんが、『面』によって反響させている『手』ならば、過去や未来にも作用することが出来ます。後はその力を現在へと持ってこれば終わりございます」

 

「雫の攻撃を捌けなかったのはそれが原因か」

 

「はい……ですから、深雪との試合では使うことができません」

 

 そこまで話したとき、急にアナウンスで呼び出しがかかった。

 

『大会本部より呼び出しを致します。第一高校の中田ジブリールさん。直ちに大会本部まで来なさい』

 

「呼び出しだな」

 

「……面倒ごとでございますよね」

 

「間違いなく面倒ごとだな」

 

 はぁ……とため息をついてとてもめんどくさそうに部屋を出ようとするジブリール。

 それを佑馬は苦笑しながら見て、

 

「俺も言ってあげるから、早く終わらせるぞ」

 

 一緒に部屋を出た。

 

◆◆◆

 

 大会本部のテントに入ると、そこには真由美と克人がいた。

 

「いらっしゃい、佑馬くん、ジブリールさん」

 

「どうも、会長さん。どういったご用件で?」

 

 用件はだいたい知っているのだが、社交辞令とも言える言葉で次を促す。

 

「さっきの魔法についてだが、あれは本当に中田ジブリールが一人でやったものなのか?」

 

「はい。見たとおりでございますが」

 

「それを証明する術はあるか?」

 

「あるといえばありますが……よろしいので?」

 

「なにがだ?」

 

 さっき言ったことを証明しろ。

 それはつまり、間接的にここらへん一帯を破壊しろと言っているようなものだった。

 

「ここらへん消し飛びますよ?」

 

「……そういえばそうだったな」

 

 そして、佑馬は前立てた仮説が事実ではないのかと思い始めた。

 『十文字 克人は天然説』だ。

 

「なら、どうやったら不正ではないことを証明するつもりだ」

 

「簡単です。まず控え室にて、CADが服にないかを確認、使うCADはそこで審査すればいい。そして、次の試合でその力を証明するだけのことをやれば、全員納得するしかないでしょう?」

 

 これが、このめんどくさい呼び出しを早く終わらせるために考えた案。

 試合での証明なら、いくらでもやりようがあるし、百聞は一見にしかずというものだ。

 

 克人が大会委員のとこへ向かって、さっき佑馬が言ったことを伝えているなか、真由美がこちらへと寄ってきた。

 

「どうかされました?」

 

「うん。あの魔法のことなんだけど、どうやったのかなって。達也くんですら原理もわからないって言ってたから気になっちゃって」

 

「あー……正直に言うと、ぶっとんでました」

 

「ん?佑馬くんも知らなかったの?」

 

「そうですね。あれは完全にジブリール専用の魔法ですよ」

 

「ジブリールさん、マナー違反ではあるとは思うけど、教えてくれない?」

 

 どうしても気になるのだろう。

 マナー違反ではあるけどと遠慮を見せながら、全く退く様子を見せない。

 それを感じ取ったジブリールは、ただ一言。

 

「九校戦終わったらお教えします」

 

 今はめんどくさいと言って断った。

 

 決勝戦はさっき佑馬が言ったことに付属して、さっきの魔法を証明するに足る力を見せることが出来なければ三位となることが決定し、ジブリールもそれを承諾。

 

 いよいよ深雪とジブリールとの試合が始まりを迎える。




自分でもたまに書いてて混乱します。
特に時空間のこととか。
全く話が進まない…
そろそろ九校戦編終わらせないといけないのに。

次回はvs深雪です


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ジブリールvs深雪

 本日、28日土曜日の22時からキャスを行います。
雑談なんでも凸待ちで、普通にキャスもしますし、小説の方の質問、要望も受け付けていますので、是非どうぞ。

というか、来て下さい(´・ω・`)

この告知のためにこんな早くに出しましたから……ハイ


 大会委員がフィールドを直そうと奮闘しているも、そんな短時間で直るはずもなく、競技場を変えて決勝戦が行われることになった。

 

 当然観客からの不満は出てくるが、それでも皆決勝戦が見たいのか、全員が競技場を移動した。

 

 数十分ほどの遅れが生じているが、本日最後の競技場にして、最大のメーンイベントということもあり、競技場の外にまで人が溢れかえっていた。

 

 その中には当然のことながら、研究員らしき黒いスーツを着ている人もいるのだが、観客席の一部が真っ黒に染まるほどまで集まっている、と言えば、この試合の注目度が分かるだろう。

 

 雫とジブリールの試合が終わってから約二時間後。

 アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝戦の準備が整ったことがアナウンスにより知らされて、そこから再びルールの説明が入った。

 

 それも終わり、いよいよ選手入場の時間となった。

 ジブリールと深雪の登場に沸く観客。

 罵声や怒号も飛び交うなか、フィールド上の二人は静かに闘志を燃やしながら、お互いを見詰めあっている。

 

 そこから発せられる二人の気迫に、観客も次第に静かになっていた。

 

 大会委員も試合が始められる状況になったのを確認し、スタートのランプを点し始めた。

 

 一つ、二つと点いていくランプとともに、緊張感が高まっていく。

 三つ目が点いたとき、ジブリールは手をフィールドへと翳して、深雪はCADを持ってる手を前に出し、もう片方の手を添えた。

 

 開始のブザーが鳴った瞬間、二つの魔法が同時に展開された。

 

「「おお!!」」

 

 観客からは驚きの声が上がる。

 

 二人ともが『氷炎地獄』を展開し、それぞれに発生した熱気と冷気が相殺しあって、水蒸気が競技場を覆った。

 

 それにより両者とも魔法をキャンセル、すぐさま深雪はCADの長所でもある魔法式の切り替えの早さを利用し、別の魔法を展開した。

 

 深雪の陣地から、液体窒素が流れ込んでくる。

 

 『ニブルヘイム』だ。

 

 その冷気は深雪の陣地を覆って強固なシールドを張り、大気中にあった水蒸気を再び凝固点まで下げてそれらが(あられ)となって競技場に降り注ぐ。

 

 その冷気がジブリールの陣地へと差し掛かったとき。

 

 突如、そこの空間に上下の穴があいた。

 

 そして、『ニブルヘイム』は下の穴へと吸い込まれるように入っていき、上の穴から深雪の陣地へと流れ込んだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 空間と空間に穴を開けてその部分を繋げ、魔法を跳ね返したのだ。

 

 それを深雪は冷静に対処、魔法の発動をキャンセルして次の魔法を発動……しようとしたところで、即座に『情報強化』の魔法を展開するも、縦一列の氷柱がレーザーによって撃ち抜かれた。

 

 そして、そのレーザーは深雪から見て手前の氷柱の前に出来た空間に吸い込まれ、空へと消え去っていった。

 

 魔法のキャンセルを行った一瞬の隙を狙った、不可避の一撃。

 CADが有った状態なら確実に九本持っていかれていただろうと理解した深雪は、一筋の汗を流した。

 

 CAD無しで『氷炎地獄』を展開し、さらに『ニブルヘイム』を空間に穴を二つ開けて、空間どうしを繋げることで魔法を跳ね返し、そこで生じるであろう一瞬の隙を狙ったジブリールの技量は、自分との圧倒的な差を表していた。

 

 深雪は自惚れでも過大評価でもなく、同世代で兄以外の人から遅れを取っているとは思ってなかった。

 

 事実、そうだ。

 

 あの二人に会うまでは。

 

 その二人はふと現れて、自分達を引っ掻き回した挙げ句、命を助けられた。

 その二人は兄の本質を見抜いており、その片割れの彼女をいつの間にか目標にしている自分がいた。

 

 しかし、その後ろ姿は一向に見える気がしないのだ。

 

 (もや)がかかっているかと思えば、すぐに霧散してしまう。

 少し迷ったとき、気がついたら後ろから支えている。

 

 やり方は雑だったり、嫌気が差すような言い方をするけど、それでも正しい方向へと持っていった。

 

 深雪にとって、その二人は、ジブリールはそんな存在だった。

 

(だからこそジブリール。私と貴女との差が今どのくらいまで空いているのか、見させて貰うわ。そのためにまずは貴女に勝って見せましょう。お兄様と一緒にね?(・・・・・・・・・))

 

 その瞬間、深雪の雰囲気が変わった。

 その様子にジブリールも気がつき、臨戦態勢に入る。

 

 深雪はCADを持ってない手で裾に手を入れて、もう一つのCADを取り出した。

 

「……おや?深雪は確か二機同時に扱えなかった気がしますが……何をするのか楽しみでございます」

 

 尚も臨戦態勢のまま、深雪の行動に最大限の警戒をして観察するジブリール。

 

 取り出したのは拳銃スタイルの特化型。

 

 それをこちらの氷柱へと向け、魔法陣を展開する。

 

「――ッ!?まさか!!」

 

 その瞬間、ジブリールは即座に『情報強化』の魔法を展開した。

 

 発動と同時に放たれたのは、『天撃』

 

 それも範囲は最小限に、威力は『トーラス・シルバー』が可能な限り強くしたものなのだろう。

 

 普通の天翼種並みの『天撃』が繰り出された。

 

 全てを破壊する一撃が氷柱に飛来し、衝突する……も、全ての氷柱は無傷で残った。

 

 驚かされはしたが、なんとか防いで内心ホッとしたジブリール。

 それがジブリールの『隙』だった。

 

 ジブリールが深雪を見た瞬間、深雪から後光が挿した。

 

 フィールド全体を覆う、強い光。

 

 これもまた、ジブリールが知ってるものだった。

 

 無数の光の筋が、ジブリールの氷柱に飛来する。

 

(まさか、『光の弾丸』まで使ってくるとは……達也も末恐ろしい方でございます)

 

 この光の筋は『情報強化』で防ぐことは出来ない。

 光の早さで飛来するこの魔法に、この距離で二つの空間に穴を開くことは出来ない。

 

 ジブリールはその時、練習中に佑馬に言われたことを思い出す。

 

『ジブリールは相手の力量を見るために必要以上に待ってしまうことがある。そこで初見殺しが来たら恥もいいところだぞ』

 

(それが正にこの状況でございますか)

 

 ここで負けては、佑馬の面目が潰れてしまうかもしれない。

 可能性が低いからといって、ジブリールにはそれだけは絶対に避けなくてはいけない事だ。

 

(佑馬……また迷惑をかけてしまいますね)

 

 しかし、その刹那の時間でジブリールは考えるより前に動いていた。

 いや、主にジブリールの背中の部分がだ。

 

 『手』が権限し、掌をフィールドへと向けた。

 

 それと同時に、『光の弾丸』がジブリールの陣地を襲った。

 

◆◆◆

 

 競技場は砂ぼこりに覆われ、何も見えない状態となっていた。

 

「結果は……結果はどうなったの?」

 

「分からんな……ただ、何が起きていても不思議ではない」

 

 観客席から見ていた真由美と摩利は上がっている砂ぼこりをうっとおしそうに払い除けようと手を払っており、達也はジッとフィールドを見詰めている。

 

「仕方がないわ…………えっ?」

 

「どうした?真由美」

 

 マルチスコープを使った真由美は、フィールドを見て唖然とした。

 

「……氷柱が一本だけ残ってるわ……後、すごい光ってる」

 

 いろいろと聞きたいことがある摩利だが、フィールドが次第に晴れてきたため自分の眼で確認することにした。

 

 ある程度晴れてきて見えたのは、ジブリール側が光っていること。

 

 そして、氷柱は……ジブリールの方に一本立っていた。

 

「本当に何が起こったんだ?あの状況から逆転できるようには思えなかったのだが」

 

「……深雪の攻撃は確かにジブリールの氷柱を襲いましたが、一つだけ誤算があったようですね。ただ、さすがにこれは規格外すぎて自分では説明が出来ません」

 

「また達也君でも説明出来ないことか……今年の九校戦は本当に人間がやってるのか?」

 

 ジブリールの勝利宣告がされて観客は沸き、両者一礼してその場を離れていくのを見ながら真由美は困ったように呟いた。

 

「……あの二人はねぇ……」

 

◆◆◆

 

「大丈夫か?ジブリール」

 

「なんと、か……」

 

 光を纏いながら控え室に戻ったジブリールは、佑馬の指示によってソファーで安静している。

 

 そして、ジブリールは幼女化した。

 光っていたのは、佑馬が精霊を送ってなんとか姿を維持していたからだ。

 

「全く……前にも言ったのにどうしようもないな……まぁ、でもあの状況からよく勝ったな。あれは意識してやったのか?」

 

「…………」

 

「……寝ちゃったかな?」

 

 そして、そのままソファーで寝始めたジブリールの頭にヘアバンド型のCADをつけて、さっきの試合を思い返す。

 

 間違いなく、深雪の『光の弾丸』はジブリールの陣地を襲った。

 ただ、それをジブリールは一番近い柱のみに絞って、それに降り注ぐ光を『手』で時空間をねじ曲げ、その現象ごと受け止めた。

 

 そこから『光の弾丸』を六発、深雪の陣地へ。

 

 『手』を高速で発動し、光の弾丸まで発動したのだ。

 

 いくら精霊の保有量が常人の数百倍、数千倍あるとはいえ無理があったのだ。

 

「しかし……よくあの攻撃を耐えたな……俺じゃ無理だったぞ。お前はやっぱり、すごい奴だ」

 

 確かに自分の欠点を晒してはいたが、それを乗り越えて勝利したのだ。

 それ以上攻めることではないし、今は休ませるべきなのだろう。

 

 佑馬はジブリールが寝ているソファーの横に座り、ジブリールの頭を撫で続けた。




空間と空間の部分はどこでもドアを思い浮かべて頂ければ。

そこぉ!『光の弾丸』のときの回想の時既に氷柱に届いているだろとか言わない!
ご都合主義なんだから!←

キャスで会いましょう!


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開幕、モノリス・コード

遅れて申し訳ないです。

ツイキャスやりすぎました。

また普通に更新しますね。


 大会七日目、新人戦四日目。

 今日は九校戦のメイン競技とも呼べるモノリス・コードの新人戦予選リーグが行われる日だ。

 

 同じく、ミラージ・バットの競技もあり、男子生徒は本能的にそちらへ向かうらしいのだが、今回はモノリス・コードの会場にも男子生徒の姿が観客席のあちこちで見える。

 

 同学年、同性のトップクラスの実力者、佑馬と将輝の試合を観るためだ。

 

 一高の初戦は七高で、三高は九高だ。

 

 試合時間も別れており、一高対七高が先に行われる。

 

 ステージは『岩場』で、あちこちに隆起した岩が障害物となっているステージだ。

 

 一高はオフェンスが森崎、ディフェンスが十三束、遊撃手が佑馬だ。

 

「森崎と十三束は二人で攻め方とか決めていたんだよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「了解。なら俺は邪魔しないように、遊撃手やっておくわ」

 

「僕の邪魔だけはするなよ。中田」

 

 開始直前のモノリス付近での最後の作戦会議で、ある程度の確認をした三人は、それぞれ位置につく。

 

 遠目で見た限り、七高はディフェンス一人のオフェンス二人の攻めよりの陣形なため、遊撃手の佑馬の動きが大事になっていく場面でもある。

 

 そして、開始のブザーがフィールド全体に鳴り響いた。

 

 七高のオフェンス二人と森崎は自己加速術式で岩場に隠れながら高速で接近、あっという間に三人の距離はなくなった。

 

 森崎の家はボディーガードをしているということもあり、戦闘慣れした動きを見せているが、七高の選手の動きには無駄が多く、経験が無いことがハッキリとわかる。

 

 遊撃手はオフェンスとディフェンスをバランスよくこなす必要があるため、正直いらないとは思うが、相手の隠れている岩を魔法で消し飛ばして森崎の魔法が当たるようにアシストする。

 

 その結果、森崎の魔法によってオフェンスはダウン、ディフェンスも森崎家のクイックドロウに成す術無くやられ、一高の勝利が決定した。

 

◆◆◆

 

 第二試合は『市街地』のフィールド。

 原作であの事件が起こることを佑馬は知っているため、策というか、そのための準備はある。

 

 相手は現在九校戦最下位の四高。

 室内にあるモノリスで再び作戦会議を開く三人。

 

「前の試合と同じで、十三束はディフェンスを頼むぞ」

 

「了解」

 

「はぁ……俺は適当に遊んでろってことね。了解」

 

 未だに佑馬に対して冷たい態度を取る森崎に、苦笑する十三束という日常になってきた光景を再び広げる三人。

 もうすぐブザーも鳴るころのため、準備に入ろうとしたその時。

 

 佑馬達のモノリスの天井に魔法陣が出現した。

 

 室内で人がいる場合に使った場合、殺傷性ランクAとなる『破城槌(はじょうつい)』だ。

 

「「なっ……!?」」

 

 森崎と十三束はいきなりのことに驚きの表情で上を見上げるだけだった。

 スクリーンや観客側から見れば、絶体絶命の状況なのは間違いない。

 

 一応大会スタッフが軽重の魔法をかけてはいるようだが、このプロテクターと合わせても常人にとっては気休め程度の効果しかない。

 

 だが、このことを知っている佑馬にとって、対処することは苦ではなかった。

 いや、例え知らなかったとしても問題はなかったのだが。

 

 そして、瓦礫は容赦なく三人を襲った。

 

◆◆◆

 

 観客からはあちこちから悲鳴が上がり、競技は一時中断となった。

 

「佑馬君!」

 

 一高テントで見ていた真由美は、思わず声を上げてしまった。

 あの佑馬といえど、不意打ちでの『破城槌』の対処は難しいし、佑馬だけならともかく、他に二人もいるために、あの短時間で反射の膜を使うことも出来ない。

 

 事実、瓦礫は反射されることなく佑馬たちの上へと落ち、建物は崩れて瓦礫の山となっているのだ。

 

 大会のスタッフが加速魔法で次々と瓦礫の山へと近づき、救出作業をしていると、ふと瓦礫の山全体が揺れた。

 

 その揺れはだんだんと激しくなり、大会スタッフは一時その場を離れた。

 すると、瓦礫の山の真ん中から巨大で真っ赤な右手が一つ出てきた。

 

 まるで骸骨のようなその手が出てきた場所から、左手、頭と次第に人型の何かが出てきた。

 

 さらに、瓦礫の山が再び揺れはじめ、空中に一つ、二つと浮遊しだした。

 瓦礫の山が少しずつ崩れていくにつれて見えるの中の色は、真っ赤。

 

 大会スタッフも唖然とするなか、その真っ赤な人型のナニかはゆっくりと動き始め、首、肩と姿を表していく。

 

 そして胸までいったとき、マルチスコープを使っていた真由美は、そこに誰かがいることを確認した。

 

「……佑馬君……?」

 

 胸にいたのは、佑馬だった。

 さらに体を瓦礫の中から出していく赤い人型のナニか。

 その中にいる佑馬の足元を見ると、無傷の森崎と十三束の姿も確認できた。

 

 つまり、全員無事なのだ。

 

 そのことに内心ホッとした真由美だが、ここで新たな疑問が浮上した。

 

(……あの赤い人型のナニかは魔法なのかしら……)

 

 佑馬の化身のようにして現れたそれは、今までに見たことがないものだった。

 大きさは五階建てのマンションほどだろうか。

 真っ赤で骸骨みたいな格好をしている。

 

 そして何より、そこから漂ってくる雰囲気には自分との力の差をハッキリと意識させるほどの存在感があった。

 

 とりあえず、今は一高テント内の動揺を抑えなければいけないため、会長としての責務を果たさなければいけなかった。

 

「皆落ち着いて!落ち着かなければ出来ることも出来ないわ!……まず、選手は佑馬君の魔法によって全員無事です。これから私は大会本部へと向かいますので「いや、俺が行こう」……十文字君?」

 

 真由美の言葉に口を挟んだのは、十文字克人だった。

 

「七草はここで指揮をとってくれ。俺が行った方が何かと都合がいい」

 

「でも……わかったわ。よろしくね、十文字君」

 

「ああ」

 

 どちらが大会本部へ行くのかが決まったとき、モニターから凄まじい音が鳴り響いた。

 

「今度はどうしたの!?」

 

「いえ、ただ佑馬が瓦礫を退かしただけです」

 

 砂煙が立つモニターを、ジブリールに言われて砂煙が収まるのを待ってからよく確認してみると、先程まであった瓦礫が全てなくなっているのがわかる。

 

「丁度良かったわ。ジブリールさん。あれが何かわかりますか?」

 

 今更ながらジブリールがいたことを思い出した真由美は、ジブリールはあの人型のナニかについて知っているのではないか、と考えたのだ。

 

「勿論でございます」

 

 答えも、是。

 

「あれは『須佐之乎』と言いまして、佑馬専用の魔法と言ってもいいものでございます。そうでございますね……単純に強さが十倍くらいになると考えればいいかと」

 

「……聞いていいのか分からないけど、それとジブリールさんの本気とはどちらが強いのかしら?」

 

「ベクトル操作の有無で変わりますが、有るとしたら、今の私ならなんとか勝てるくらいでしょうか……ただ、これに『黒い翼』が生えた状態になったら、勝つ望みは原子レベルの大きさでしょうか」

 

 それを聞いた真由美は、絶句する。

 自分が闘っても確実に勝てないジブリールが、勝つことはほぼ不可能と断言したのだ。

 それがどれほどの力か、少なくともこの世界を滅ぼすことぐらいは容易に可能だろう。

 

「さらに、佑馬曰く『白い翼』なるものが存在するらしいのですが、佑馬も出し方が分からないと言っております。ただ、『黒い翼』とは比べ物にならないほど強くなるとも言っておりました」

 

 そして、更に強くなる余地があるという。

 佑馬とジブリール、この二つの力を十師族が知ったらどうなるのだろうか、これも容易に想像出来る。

 

 全員が手中に収めようとする。

 それを断れば総力を持って消しにかかるだろう。

 

 しかも、これは日本だけの話ではない。

 

 近頃、USNAの『スターズ』が『神の使者』捜索を日本で秘密裏に行っていることも、九校戦の会場の近くに潜伏していることも父親からの情報で知っている。

 その過程でもし、この二人のことがばれたらそれこそ世界規模での戦争が起こりかねない。

 

 その時、真由美の頭に二つの仮説が出た。

 

 一つは、『神の使者』ではなく、既にこの二人か目的だとしたら。

 それなら九校戦の近くに潜伏していることも頷ける。

 

 そしてもう一つは、彼等自身が『神の使者』だということ。

 

◆◆◆

 

「この赤いのは一体……」

 

「おい中田……何をしたんだ?」

 

 『破城槌』で壊れた建物を下に見下ろしながら、森崎と十三束は驚きの表情でこちらを見つめている。

 

「君達を守った。それだけだよ」

 

 何をした、と聞かれても、この状況からはそう答えることしか出来ないだろう。

 

「質問を変える……これは何だ?」

 

「魔法だよ」

 

 何だ、と聞かれても、この世界ではそう答えるしか信じてもらえないだろう。

 

「十三束はともかく、なんで俺まで助けた……お前は俺を毛嫌いにしているんじゃなかったのか?」

 

「……あのなぁ。好き嫌い言って人を見殺しにするほど俺も腐ってないんだわ。過度なプライドを持つのはあまりいいことではないけど、プライドを持つことは重要なことだ。一科生は魔法の部分では二科生より優れていることにかわりはないことだし、その中でも上位の森崎がそこに拘るのもわかる。森崎、君は確かに優秀なのだから。それに、モノリスに対する気持ちややる気は十三束から聞いていたし、見ればわかる。それで、なんで助けたって質問だけどさ……」

 

 一気に森崎に言葉を投げたあと、少し間を空けて、佑馬は一言言った。

 

仲間全員で勝ちたい(・・・・・・・・・)と思うのは、誰だって同じだろ?」

 

「……そうだな」

 

 それを顔を下げながら肯定する森崎。

 隣の十三束も笑顔だ。

 

「まぁ、俺が勝ちたいと思ってる理由は別にあるんだけどね」

 

「おい、さっきまでお前に心を開きかけた俺を返せ」

 

 そこで、皆が吹き出した。

 森崎も十三束も佑馬も、みんなが笑顔になっている。

 

「中田、俺の足を引っ張るなよ?」

 

「それは俺のセリフだ。森崎」

 

 結局、試合は第四高の失格となり、佑馬達は二勝。

 その後の二高、八高にも圧倒的な力を見せて勝利し、四勝。

 同率一位で予選を通過した。




ハーメルン書く前は、事故をスルーしてオリ主と達也で無双しようと考えていたけど、書き始めたら気持ちが変わりました。

森崎君はなんだかんだで努力家の良い子です。


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知らぬ間の優勝

まぁ、ポイント的にそうなりますよね……

森崎君は小説では良い子です。
少なくとも人を助けるくらいには。


 夕食会、そこではある事情を知ってる人が見れば驚愕するであろう光景が広がっていた。

 

「いやぁ、森崎のクイックドロウって本当に早いよな。動きに無駄がない」

 

「いくら発動が早くたって中田には敵わないって。CAD無しであの発動速度を可能にしてるとは恐れ入ったよ」

 

 あの森崎が、二科生の佑馬と談笑しているのだ。

 一科生であることに誇りを持ち、二科生を見下していたあの森崎がだ。

 

「ねぇ、どうしよう摩利。朗報を教えに行くだけなのにすごく行きにくいんだけど」

 

「それは私だって同じだ」

 

 春の一件でそのことを知っている摩利と真由美も、その光景にはかなり驚いた。

 雰囲気もかなり良いため、伝えたいことがあるのに間に入ることが出来ず、二人が話終わるまで待たなくてはいけないという状況に陥っている。

 

 朗報を伝えるだけなのにそこまで気を使うことに、若干のもどかしさを感じているが、森崎が佑馬にした質問を聞いてその感情も吹き飛んだ。

 

「中田って、どうやってそんなに強くなったんだ?」

 

 いや、これは摩利や真由美に限ったことではない。

 一高や、今回この九校戦に参加している、観戦している人全員が気になる質問だろう。

 

 周りが一気に静かになったことに戸惑う森崎だが、佑馬は敢えてそれを無視して答えた。

 

「最初から恵まれた力を持っていたというか、貰った(・・・)というのはあるけど、やっぱり一番大きいのは強くなりたいって気持ちだと思う。そして、その気持ちを大きくしてくれるのは、俺からしたらジブリールや会長みたいな『ライバル』の存在だと思うんだ。『ライバル』がいることによって互いに高めあうことが出来るからね。森崎にも確かに強くなりたいって気持ちはあるけど、他の人を見下す傾向があるから、ライバルと思える人を見つけることが出来ないと思うんだよ。……俺にしてはかなり真面目に答えたんだけど、納得したかな?」

 

 「……かなりマトモな答えが返ってきたことにビックリしてはいるが……なるほどな。中田や中田さんがずば抜けて強い理由はわかったよ」

 

 上手くおさまったため、ジブリールの強さの根本的な部分については言う必要もないだろう。

 現在も二人で互いに高めあっているのだから。

 

「そのことについてもう少し知りたいところだが、少しいいかな」

 

 話の区切りを見たのか、摩利が二人に話しかけた。

 摩利が話しかけてきたのは、摩利が風紀委員長のため、風紀委員である森崎とも接点があるからだろう。

 

「風紀委員長!?」

 

「どうぞー」

 

 案の定、森崎はピンッ!と背筋を伸ばしたが、佑馬は何も気にしていないかのように、いや、気にしていないのだろう。

 友達感覚で続きを促した。

 

「まず一つ。君たちは気づいているかい?」

 

「「何をでしょうか」」

 

 摩利の質問に森崎と佑馬は意図が掴めず、それを見た摩利はため息を付きながら真由美に視線を送り、真由美はそれに頷いてから佑馬達の前に出た。

 

「それではお伝えします。佑馬君、森崎君。新人戦優勝おめでとうございます」

 

「……え?」

 

「あー、そういえばそうだったな」

 

 そう。

 原作ではモノリス・コードに優勝したら新人戦優勝なのだが、男女のクラウド・ボールで優勝しているため、早くも優勝が決まってしまったのだ。

 

 森崎はモノリスに意識が行き過ぎたため、佑馬はそもそも新人戦優勝には興味がなかったため、すっかりと忘れていたのだ。

 

「さらに付け加えると、総合優勝も目前なんだがな」

 

「へぇー」

 

「佑馬君は全く興味がなさそうね……それより!お姉さんのことライバルって思ってくれてたのね!」

 

「うん。これ以上伸びしろがないと判断したら即撤回するけどね」

 

「ひどい!……けど、頑張るわよ」

 

「何回も言うけど、負けたままにするのは癪に触るから、また近いうちにリベンジはさせてもらうよ。勿論、全力で」

 

「……どう頑張っても全力で弄ばれてやられそうな気がするのだけれど……」

 

「……なぁ、森崎」

 

「……風紀委員長、言いたいことは分かります」

 

 気がついたら森崎と摩利は蚊帳の外にされて佑馬と真由美が勝手に盛り上がっているが、ふと思い出したように佑馬が森崎に一言言った。

 

「あ、森崎。三高の一条 将輝と吉祥寺 真紅郎の相手はお前がしてみろ。俺はアシストするだけにする」

 

「なっ!?あの二人を相手に俺が主軸で!?」

 

「そうだ。俺もやられない程度に力は貸さないようにする」

 

「いや、それだと僕一人とあまり変わらないじゃないか!」

 

「自分の限界(・・)、試してみないか?」

 

 その言葉に、森崎は止まった。

 同じ学年でも、日本でも有名な二人と全力で戦える日など、一度あるかないかだろう。

 

「……中田はどれくらい力を貸してくれる?」

 

「お前に飛んでくる魔法ぐらい全部弾いてやるよ。だから、攻撃に専念しろ」

 

 つまり、防衛面は全くの無問題。

 あの佑馬が全力でバックアップしてくれるのだ。

 これ以上の好条件、二度と来ないだろう。

 

「感謝するよ、中田」

 

「思いっきり楽しめよ」

 

「ああ!」

 

 二つ返事で答えた森崎の目には、やる気に満ち溢れていた。

 

◆◆◆

 

 決勝リーグは

 第一試合、三高vs八高

 第二試合、一高vs九高

 となった。

 

 そして現在、三高vs八高の試合中である。

 試合展開は一方的、将輝のワンマン舞台だ。

 まるで、力を誇示するかのように。

 

「ほら、森崎。喧嘩売られてるぞ」

 

「いや、どう考えてもお前だろ」

 

 それをしっかりと読み取った佑馬と森崎だが、今回それに答えることはない。

 

「でも、こちらがのる義理はない。もう優勝決まってるんだし、こちらがやりたいようにやれば向こうもそれにあわせるしかない」

 

「何か作戦でもあるのか?」

 

「ああ、任せろ」

 

◆◆◆

 

 一高vs九高の試合場所は『渓谷』ステージ。

 視界が悪いため、普通なら突然の遭遇戦でいかに早く、冷静に魔法を撃てるのかが鍵になる。

 

 そう、普通(・・)なら。

 

『森崎、百メートル先の岩陰から敵が来ている。遊撃手と連携していて、お前の場所はばれているから、目を瞑って五秒たったら前方に魔法を撃て』

 

「了解」

 

 指示通り、森崎は目を瞑る。

 その間に魔法を構築し、すぐに撃てるよう準備。

 三秒まで数えた頃、自分の左後方から魔法の着弾とともに、人が倒れる音がした。

 

 佑馬がやられるわけもなく、十三束がここにいるわけもない。

 よって、相手の遊撃手あたりがやられたのだろうと検討をつけ、言われた通りそのまま目を瞑る。

 

 そして五秒後、指示通りに前方へと魔法を撃った。

 

「ぐはぁ!!」

 

 直後、前方から着弾音とともに人が倒れる音がした。

 目を開けてみると、目の前には九高の選手が倒れており、いつの間にか自分のいた場所が変わっていた。

 

 驚いて固まっているうちに遠くの方で叫び声が上がり、それからまもなくブザーが鳴って一高の勝利となった。

 

◆◆◆

 

「おい!あの森崎(・・)という選手の情報はまだか!!」

 

「ボディーガードの家の者で、クイックドロウという技術を取得していることしかまだ分かっていません!」

 

「早くしろ!」

 

 三高のテントでは、怒号が飛び交っていた。

 理由は簡単。

 

 森崎が(・・・)瞬間移動をしたからだ。

 

「……ジョージ。今のはどう見る?」

 

「遊撃手とディフェンスを倒したのは間違いなく中田 佑馬だよ。何をしたのかは検討もつかないけどね。そして、森崎って子のあの瞬間移動は、もしかしたら幻術かも知れない。幻術なら出てきたと同時に魔法が発動されたことにも納得出来る」

 

「幻術か……めんどうだな」

 

「それに、消える直前に光に包まれていたのも気になるね……いつ発動されたかも分からないし、トリガーらしきものも見つからない……やっかいだね」

 

「中田 佑馬さえ気を付けていればなんとかなると思っていたが……くそ、こんな隠し球を持っていたなんてな」

 

「作戦変更だね。先にあの森崎って子を倒そう」

 

「ああ、そうした方が良いかもしれん」

 

 三高vs一高の試合の時間は、刻一刻と近づいてくる。

 全てが佑馬のシナリオ通り(・・・・・・・・・・・・)とも知らずに。




さぁ、次はいよいよ三高ですよ!
勝てば例のあれです……


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三高vs一高

すみません。
熱+諸事情+やる気の問題でかなり遅れました。


 決戦ステージは『草原』ステージに決まった。

 

 そのことにより、三高テント内は多少盛り上がりを見せた。

 

「よし、これで幻術対策がしやすくなる。攻撃し続けておけばまず後ろを取られることはない」

 

「そうだね。森崎って子と実際に正面から渡り合って将輝が負ける道理はない」

 

 そう、『渓谷』や『岩場』ステージみたいに視界を遮る物が多いところでは、いつ幻術にかかるかわからないため対処が難しくなるが、『草原』なら視界を遮る物がなく、術者に付け入る隙を与えなければ何も問題ない。

 

「これで後は中田 佑馬だけだな」

 

「うん。これといって特別なことを見たわけではないけど、超遠距離から魔法を当てる技術と、あの赤い巨人みたいな魔法は脅威だね」

 

「だが、森崎ならジョージ一人でも勝てる。だから俺は中田 佑馬と一対一でやりあう」

 

「今までの傾向からしても、森崎がオフェンスで中田 佑馬が遊撃手なのは間違いないからね。ニ対一で不意を突かれるよりはそっちの方がいいかもしれない」

 

「ああ、それじゃあいくぞ。ジョージ」

 

 そうして、三高のモノリスメンバーは競技会場へと向かった。

 

◆◆◆

 

「今、一条達は森崎が(・・・)幻術を使えると思っている。そして、『草原』ステージということで、攻め続ければかけられる心配もない、と考えてるだろうね。そして、俺の遠距離攻撃を必ず見てるだろうから、不意討ちを避けるためにも各個撃破でくるはずだ。森崎が吉祥寺で俺に一条かな。だから何度もいうけど、敢えて森崎は一人で突撃する。相手の攻撃が集中するだろうけど、それは俺が全部捌く。そこは絶対の信頼を置いて貰ってもいい」

 

「ああ……ってか、そこまで考えてのさっきの試合だったのか?」

 

「まぁね」

 

 一方、一高でも同じような内容が話されていた。

 これまでの三高の一連の流れは、全て佑馬が仕組んだものと言っても過言ではないほど、首尾よくいっている。

 

「森崎のクイックドロウさえあれば、相手も苦戦は免れない。自分の完全特攻の時の実力を存分に試してこい」

 

「ああ」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 そして、話の区切りをつけて競技会場へと向かった。

 

◆◆◆

 

 新人戦、モノリス・コード決勝。

 選手の登場に、客席は大いに沸いた。

 

 いよいよ、始まるのだ。

 今年度の一年生トップクラスの実力者が揃う試合が。

 

 そして、しばらくして客席がざわつき始めた。

 本部席の近くがざわめいた理由、それは思いがけない来賓がいたからだ。

 

「あれは……九島か?」

 

 佑馬は、来賓席に登場した人物を、はっきりと視た。

 あの若々しい老人は、九島 烈で間違いない。

 

「んー、目つけられたかなぁ……知っていたことではあったけど、めんどくさいことになった」

 

「おい中田。何一人でボソボソと言ってるんだ?」

 

 試合前、緊張感が高まっている時に佑馬がボソボソ何か言っているため、どうしても気になったのだろう、森崎が聞いてきた。

 

「いや、来賓席で九島 烈が観戦してるんだよ」

 

「それは本当か!?……それはさらに無様な姿は見せることが出来なくなったな」

 

 結果、森崎の士気向上に繋がったため、結果オーライというやつだろう。

 闘志が湧き出ている今の森崎なら、何も問題はない。

 

 試合開始の合図と共に、森崎は三高モノリスへと突撃。

 三高から砲撃が始まった。

 

 そして、観客はざわついた。

 なんの脈路もなく、唐突に三高側から飛んできた魔法が消えたたことに。

 

 森崎は自己加速でさらにスピードをあげ突っ込んでくる。

 

「将輝……どうやら森崎一人だけのようだね」

 

「ああ、それなら好都合。アイツが来る前に倒せばいいだけのことだ」

 

 作戦とは別のことが起きているが、何も問題はない。

 寧ろ、一人で突っ込んでくれるのは好都合だ。

 

 森崎に照準を向け、いくつもの魔法を同時に打つ。

 

 誰もが、一高のチームメイトさえ、森崎は倒されたと思った。

 しかし、その魔法は森崎に当たる直前で消えた。

 

「な……消えただと?」

 

 そう、しかも魔法は途中で霧散したのではなく、本当の意味で消え去ったのだ。

 なおも森崎はスピードを上げ、その距離は三百メートルをきった。

 

 だが、誰がやったのかはわかる。

 一高モノリスの隣で手をこちらに翳している佑馬だ。

 

「仕方ない……ジョージ、原理はわからんが数で押しきるぞ」

 

「了解」

 

 既に森崎と三高モノリスとの距離は百メートル。

 森崎は魔法を構築し、将輝達に照準を合わせる。

 

 高速で組み上げられた魔法は、正確に将輝達の元へ飛んでいくも、将輝が前に出て情報強化魔法を展開、それにより森崎の魔法は打ち消された。

 

 同時に吉祥寺が後ろから魔法式を展開し、魔法を放つ。

 

 『不可視の弾丸』

 

 『基本コード』の一つである「加重系統プラスコード』を利用した加重系の系統魔法であり、対象のエイドスを改変無しに直接圧力そのものを書き加える魔法で、情報強化で防げない魔法。

 

 効果自体は「対象物を圧力がかかった状態」に改変する破城槌に似ているが、こちらは「圧力のみ」を改変するため魔法式が小さい。

 

 その魔法が森崎を襲う。

 しかし、その魔法もまた、何の脈路もなく消えた。

 

(……まさか、これも中田 佑馬か?)

 

 その瞬間、吉祥寺は中田 佑馬を見る。

 そして、その瞬間に背筋に悪寒が走った。

 

 せめて半分の位置にはいるだろうと思っていた中田 佑馬は、なんと一高のモノリスの近くにいるのだ。

 

 直線距離にして、約六百メートル。

 

 その距離から、一条や吉祥寺の魔法を打ち消しているのだ。

 

 観客は、そこで広げられている攻防に魅了されていた。

 いくつもの魔法が高速で展開され、絶え間なく双方から打ち続けられるこの状況。

 

そして、ディスプレイにはしっかりと映されていた。

 三高側が魔法を撃った瞬間から、別の『想子(サイオン)』によって包まれていることを。

 

 だが、それと同時に『想子』を視覚的に見えるもの達は、一様に首を傾げた。

 普通なら視える『想子』だが、三高側の魔法を包んでいる『想子』だけはどうしても視えないのだ。

 

 尚も激しい魔法の撃ち合いは続くが、どちらが優勢なのかは明らかだった。

 三高は森崎の攻撃特化のクイックドロウによって発動される魔法に追い付かなくなり、攻撃を捨て防御に専念、森崎は防御を捨て、とにかく攻撃に専念していた。

 

 これは、正に番狂わせだった。

 

 森崎一人で、三高の最強コンビを封じているのだ。

 そしてさらに、防御に徹した将輝と吉祥寺は、幻術も警戒している。

 

 よって、防御も少しずつ、遅れていく。

 森崎の攻撃スピードも、若干遅くなりつつあるが、それでも普通の魔法師のそれよりは早い。

 

 しかし、その魔法の撃ち合いも、徐々に激しさがなくなっていった。

 森崎の『想子』が尽きてきたのだ。

 

 それと同時に、再び将輝と吉祥寺は攻撃を再開する。

 

 そして、とうとう森崎の足が止まった。

 好機と魔法を撃ち込む将輝と吉祥寺だが、同時に、しまったと後悔する。

 

 森崎の周りが光に包まれていたのだ。

 よって、将輝は吉祥寺の、吉祥寺は将輝の方にCADを向けどちらに来てもいいように構えた。

 

 しかし、それは来なかった。

 

 それと同時に、客席が再びざわつく。

 さっきまで三高モノリスの近くにいた森崎が、一高モノリスの横で座り込んでいるのだ。

 

「……幻術にいつかかったかわかるか?ジョージ」

 

「ごめん、全くわからなかった」

 

 その状況に驚きながらも、二人の頭は冷静に試合を見ていた。

 『想子』が切れたことにより戦闘不能になった森崎。

 それにより、三対二と試合展開は変わる。

 

 反撃開始とばかりに一高モノリスへと向かおうとした二人に、その瞬間悪寒が走った。

 

 一高モノリスから、佑馬から発せられる何かに。

 

◆◆◆

 

 疲れきった森崎を空間転移で、しっかりと光の演出をしながら戻した佑馬は、モノリスの横に座らせる。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「はぁ、はぁ……吉祥寺なら、一人でも、なんとか、いけそうだった……けど……一条は無理だ」

 

「ふむ……俺も同じ考えだ。だが、二人を相手に小一時間防御に専念させたのも事実だからな」

 

「ああ、ありがとう……いい経験をさせて貰ったよ」

 

 息も絶え絶えに言う森崎に労いの言葉をかけ、再び三高側に目を向ける佑馬。

 

「よし、じゃあこの試合の幕引きをしてくる。お前はここで見てな」

 

「頼んだ……!?」

 

 その瞬間、佑馬に恐怖した。

 佑馬から発せられる恐ろしい何かが、全身をベットリと覆ったのだ。

 

 それは、殺気。

 

 こちらに向かおうとしてきた将輝と吉祥寺も、それにより足を止めていた。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 その言葉と同時に歩みを進める佑馬。

 自分に向けられているものではないとわかってはいても、恐怖するしかなかったあの殺気。

 殺気だけでも、自分では敵わないと認識させられた。

 それと同時に、佑馬に勝ちたいというライバル心も。

 

「……やっぱり凄い奴だよ。佑馬」

 

 ゆっくりと歩いて三高モノリスへ向かう友人(・・)を見ながら、森崎はそう呟いた。




こんな感じでどうでしょうか。

やっと九校戦の終わりが見えましたね。

……あれ、十三束空気。


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決着

ノゲノラは明日、遅くても今週中に。
テニスの王子様も同じくらいに出します。
テニスの王子様は早く終わらせたいなぁ。


 時は少し遡り、森崎が将輝と吉祥寺に奮戦しているとき、一高テントでは議論が交わされていた。

 

「達也君、これはどういう原理なのかわかる?」

 

 真由美が聞いているのは、前触れもなくいきなり魔法が消えてることについてだ。

 

「おそらくですが、『空間転移』の応用です。魔法が何の脈路もなく、痕跡もなく消えることはありえません。魔法が発動しているその空間ごと、移動させているのではないかと」

 

「やっぱりそうよね……ところで、なんで佑馬君は攻めに行かないのかしら」

 

「何か意図があってのことですが、魔法は全て佑馬が消して、森崎が攻撃に専念するといった戦法ですね。これにより、三高は防御に徹するしかなくなります」

 

「つまり、森崎君のクイックドロウで防御される前に倒すといった感じなのかな?」

 

 確かに、今の話から推測するならば、真由美の作戦が一番的確なものと言えるだろう。

 しかし、それは相手が同格以下の話だ。

 

「いえ、いくら森崎家のクイックドロウといえど、あの一条家の御曹司ととカーディナル・ジョージを倒すには至らないでしょう」

 

「え、だったらなんでなの?」

 

「それはわかりません。だからこそ、見てて飽きない」

 

 そういう達也の口元は、楽しそうに笑っていた。

 試合展開は、達也の予想通り三高が防衛に専念しており、客観的にみれば、一高が有利だ。

 

 だが、違う。

 守りに専念している三高の二人には余裕があるが、森崎の動きが少しずつ鈍ってきているのが、モニター越しでも分かる。

 

「……ここまでだな」

 

「え?」

 

 達也の呟きに真由美が何がここまでなのか聞こうとした瞬間、その答えがモニターに見えた。

 

 森崎が『想子』切れにより膝から崩れ落ちたのだ。

 いくら佑馬といえど、完全なゼロ距離から撃たれた魔法を対象することは難しい。

 

 その後の結果が容易に想像出来、誰もが固唾をのんで見守るなか、突如森崎が光に包まれ消えた。

 

 それと同時に、将輝と吉祥寺がCADを向け合う。

 

「……なるほど、考えたな」

 

「え……どういうことなの?」

 

 その光景に、一高テント内はざわついた。

 その中で唯一その意図が分かった達也に、真由美が質問する。

 

「九高との試合を思い出してください」

 

「ええ……同じように森崎君が光に包まれてから、佑馬君の『空間転移』で移動したわよね」

 

「俺たちからすればそう考えられますが、何も知らない、例えば、佑馬が『空間転移』を使えることを知らない人からすれば、それはどう見えるでしょうか」

 

 その言葉にハッとする真由美。

 

「なるほどね。確かにそれを知らなければ、森崎君が何かしたと考えるのが普通ね」

 

「そうです。相手は恐らく『幻術』だと思っているでしょう」

 

「根拠を聞かせてもらってもいいかしら」

 

「ええ。森崎が光に包まれて消えたとき、二人は相方の後ろ(・・)にCADを向けました。これは、九高と戦ったときに森崎が後ろから現れた瞬間に攻撃したことによる対処法だと思われます。自分で守れないなら相手に守らせばいいという考えです」

 

 確かに筋は通っている。

 だが、一瞬で移動させることが出来る佑馬にそんなことをする必要があるのか思案していると、達也が追加でこう言った。

 

「佑馬があんなことをしたのは、森崎を戻すときに安全に戻すためだと思いますよ。人を移動させるときのリスクをしっかりと考慮したのでしょう」

 

「……変なところが優しいのね、佑馬君は」

 

「それは会長もよくご存知なのでは」

 

「それもそうね」

 

 モニター越しでゆっくりと歩みを進める佑馬を見ながら、真由美は佑馬なら絶対に勝てるというどこからか沸いてきた安心感に身を任せ、頬を緩ませながら試合観戦を再開した。

 

◆◆◆

 

「ジョージ、大丈夫か?」

 

「……ごめん、足が動かないんだ……!」

 

 佑馬の将輝ですら今までに感じたことがない殺気を向けられて、吉祥寺は汗を流して膝に手をついていた。

 

 あまりの殺気に、足がすくんでしまったのだ。

 

「そうか……ジョージ、お前はここにいろ。俺は中田 佑馬と戦ってくる」

 

「待って!僕もすぐいくから!」

 

「いや、ダメだ。ジョージは足がしっかりと動くまでそこで待ってろ」

 

 吉祥寺の言葉を聞いて、歩みを進めながら言う将輝。

 それに対して、吉祥寺は悔しそうな表情をしながら見るが、少しして、将輝が歩みを止めた。

 

「……必ず追い付いてくるのを待ってるからな。ジョージがいるからこそ、俺は闘える」

 

「……ああ!絶対に行く……!」

 

 それは、何よりも嬉しい言葉。

 今一番勇気が出る言葉だった。

 その勇気が、吉祥寺の足を動かした。

 

「ジョージ、いくぞ」

 

「そうだね、将輝」

 

 そうして、二人もまた、前へと歩みを進める。

 三人の距離が三百メートルにさしかかったころ、将輝がCADを向けた。

 

 消されるとわかっている、ただの牽制だ。

 

 魔法式が展開され、魔法を構築。

 空気圧縮弾が佑馬の方へ飛翔し、佑馬に後少しで当たる、というところで、魔法が反射され、将輝達の元へ戻ってきた。

 

 それを間一髪で交わす二人。

 

「バカな!!」

 

「魔法を反射させるなんてありえない!!」

 

 その光景に、将輝や吉祥寺は勿論、観客も驚きを隠せないでいる。

 当然それは両高のテント、九校参加者全員もだ。

 

 何もなかったかのように歩く佑馬に、次々と魔法を撃つも、全て反射され、将輝達の方へ戻ってくる。

 どこから攻撃しても、何回重ねても、全て跳ね返される。

 

 吉祥寺の『不可視の弾丸』でさえ、反射されるのだ。

 

 しかも、魔法が跳ね返ってくるため、消されるよりも質が悪い。

 

「どうするジョージ!このままだとジリ貧だ!」

 

「そうだけど、原理が全くわからない!魔法を反射させる魔法なんて聞いたこともないよ!」

 

 三人の距離は三百メートルを保ったままだが、それは少しずつ将輝と吉祥寺が下がっているからだ。

 

 このままだと、佑馬がモノリスに辿り着くのも時間の問題。

 反射されるので、あまり近くから撃ちすぎると魔法を避けられなくなるし、今はしてきてないが、近すぎると向こうから攻撃してくる可能性も出てくる。

 

 正に八方塞がりだ。

 

 なんとか打開策を、と思考を巡らせている二人に、佑馬が喋りかけた。

 

「これを破れないみたいだから、使わないでおくよ。ただ、魔法は使わせて貰うからね」

 

 それは、反射を使わないでやる、というハンデ。

 将輝と吉祥寺は、『お前たち弱いからハンデをあげる(・・・・・・・・・・・・・・・)』と受け取ったらしく、眉をひそめる。

 

 しかし、打開策が無いのもまた事実ため、それを了承するしかない。

 

「無言は肯定。それじゃあ、行くよー」

 

 その言葉の瞬間、佑馬は軽く足元を蹴った。

 

「なっ!?」

 

 そして、蹴られた場所からなんの脈路もなく岩が隆起していき、将輝達の方へと襲いかかる。

 

 それを二人とも横に転がって回避するが、顔をあげて見た佑馬の頭上には、雷の塊が出来ていた。

 

「これは原子から作った雷だ。当たったら少し気を失うから気を付けろ~~よっと!」

 

 その雷の塊を地面に叩きつけた瞬間、比喩でもなんでもなくフィールド全体に雷が走った。

 

 将輝は装甲魔法により、吉祥寺は浮遊魔法で回避、森崎と十三束は何かの光によって守られているが、

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

 三高のディフェンスはそれを喰らい、気絶した。

 範囲は広いが、威力はないため、レギュレーション違反にはならない。

 

「原子から作るって、どんな魔法だ……」

 

「彼には常識というのがないらしいよ……科学者の僕としては困った存在だ」

 

「十師族の俺としても困った存在だな」

 

 将輝と吉祥寺も魔法を撃っているが、それを全て打ち落とされて佑馬の反撃にあっている。

 

 つまり、攻めても守っても、何も変わらないのだ。

 しかも、使う魔法は全てが理解の範疇を越えている。

 

 それに対して、二人とも苦笑した。

 

「さて、そろそろこの試合も終わらせようか」

 

 佑馬が歩くのをやめて終わりを宣言。

 それに二人ともまた眉を潜める。

 

「この試合が終わるのは、俺たちが勝つときだけだ」

 

「いやでも、終わりだよ。だって、後ろ」

 

 後ろを指差す佑馬に、二人揃って後ろを見た瞬間、二人ともが倒れた。

 

「まさか俺たちにトドメをさせるなんて思わなかったよ」

 

「やっと僕の出番がきたと思ったら、もう終わりか」

 

 そこにいたのは、森崎と十三束。

 喋ってる間に転移させて、後ろからの空気圧縮弾で意識を刈り取ったのだ。

 

「よし、まぁとりあえず優勝だ」

 

 一高の勝利宣言がされ、盛り上がる観客席。

 それに合わせるように手を振る三人。

 

 惜しみ無い拍手が送られながら、三人は退場した。

 

◆◆◆

 

 控え室に戻ると、そこにはジブリールがいた。

 

「佑馬、優勝おめでとうございます」

 

「ありがとう、ジブリール」

 

 森崎と十三束はそれを見てそそくさと控え室から出ていき、部屋にいるのは佑馬とジブリールだけとなった。

 

「あの方達はどうでしたか?」

 

「普通の一年生だったら、一高で勝てるのは達也ぐらいかな」

 

 将輝と吉祥寺は、決して弱いわけではないし、寧ろ一年の中でもトップクラスの実力を持つ。

 ただ、佑馬が異常なだけなのだ。

 

「そうでございますか。確かに彼なら勝てそうですね」

 

「ああ」

 

 そこで、会話が途切れた。

 いや、敢えて佑馬が途切れさせた。

 

 ジブリールも何かを感じ取ったのか、黙って佑馬を見つめる。

 

「なぁ、ジブリール」

 

「なんでございましょうか」

 

「俺たち、付き合い始めてからかなり経つと思うんだ」

 

「そうでございますねぇ……約八十年ほどでしょうか」

 

 そう、他の人たちが聞けば驚く、または信じないだろうが、佑馬は既に三桁にいっており、ジブリールに至っては四桁の後半なのだ。

 

「そろそろ、大きな進展があってもいいと思うんだ」

 

「それならこの前あったじゃないですか♪」

 

 キャッ!と言いながらその時のことを思い出して楽しそうに言うジブリールに、微笑む佑馬。

 

「ジブリール、俺が告白したとき、なんて言ったか覚えているか?」

 

「勿論でございます。『俺は、初めて会ったときから、一目惚れしてしまったんだ。天翼種に主従愛はあれど、普通に愛するという感情はないことを知っている。でも、だからと言って諦められない!なら、その感情をしっかりと理解させるだけだ!呼び捨てを頼んだり、対等な立場を要求したのも、俺の過去を話したのも、全部そのためだ。だから……だから、ジブリール。俺と付き合ってくれないか?』でしたね……ふふ、今でもしっかりと覚えております」

 

 その時のことを思い出しているのか、嬉しそうに微笑むジブリール。

 

「そうか……やっぱり恥ずかしいこと言ってるな」

 

「でも、佑馬のおかげで感情というものを理解出来ました。主従愛ではなく、しっかりとした恋愛もすることが出来ています」

 

「この世界に俺と来て、本当に良かったか?」

 

「佑馬とじゃないと、嫌ですよ?」

 

 恥じることなく、堂々と言い切ったジブリール。

 

「やっぱりジブリールは俺には勿体ないくらいの人だよ」

 

「そんな、佑馬がいなければ、今の私は何も出来ませんよ」

 

 今度は焦ったように両手を振りながら、佑馬の言ってることを否定するジブリールに、佑馬は意を決して言った。

 

「そうか……なら、ジブリール。俺と結婚してくれないか?」

 

「……え?」

 

 ジブリールの前に差し出されたのは、いつの間にか持っていた、綺麗に装飾された小箱。

 受け取って開けると、そこには指輪が入っていた。

 

「私で……いいのでしょうか?」

 

「ジブリールじゃなきゃ、ダメだ」

 

 指輪を取りだし、ジブリールの左手薬指に付けながら言う佑馬。

 

「……喜んでッ!」

 

 ジブリールは泣きながらも満面の笑みでそう答え、二人とも何十秒もの間、熱い口付けをした。




決着は呆気ないものでした。

最後は約束通り少し佑馬×ジブリールを入れてみました。
どうでしょうか。

つまり、この作品で結婚式とかが……ゲフンゲフン


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九校戦 閉幕

一ヶ月ぶりの投稿
モチベ上がってますので、最低一日一回するという更新ラッシュいきますよー!

九校戦も終わりのため、短めです。


 大会九日目

 新人戦が終わり、再び本戦が始まった。

 

 だが、佑馬もジブリールも出場競技は全て終わったため、応援をするために競技場に向かっている。

 

 優勝は一高に決定しているため、各高は二位争いに転じた。

 ただ、二位も三高が取ったも同然のポイントとなっている。

 

 また、一高の優勝が決まってしまったため、原作で起きるはずのミラージ・バットのCAD検査で不正行為をするという優勝阻止行動もなくなった。

 

 ミラージ・バットは当然のように深雪が一位、二位は一色 愛梨となった。

 また、モノリス・コードも克人が力を誇示するようなスタイルで勝ち進み、見事優勝を飾って今回の九校戦は幕を閉じた。

 

 また、達也が軍からの指令で、今回九校戦にちょっかいを出してきた第三勢力の『無頭竜(ノーヘッドドラゴン)』を殲滅をしたのだが、佑馬に殲滅命令が行かなかったのは、軍としても佑馬を話したくないという意思表示なのだろう。

 

 九校戦が終わり、後夜祭が開かれているホールでは、二週間前の前夜祭とは打って変わって、和やかな雰囲気に包まれていた。

 

 佑馬は他校の女子に、ジブリールは他校の男子に、達也はスーツ姿の人に話しかけられていた。

 

 ただ、佑馬とジブリールは絶え間なく喋りかけられており、達也はたまにくらいで、現在は摩利にちょっかいをかけられている。

 

 それを横目に、佑馬とジブリールは他校の人たちをそれぞれ対応、なんとか達也のいる壁際まで逃げることができた。

 

「佑馬くん、ジブリールさんもすっかり有名人だな」

 

「いや、こちらとしては迷惑以外のなにものでもないのですが……」

 

「こちらも同じでございます……」

 

 摩利のニヤニヤと人の悪い笑みで言った言葉に、佑馬とジブリールは揃ってため息混じりに答える。

 

 その光景は見事にシンクロしているため、さらに摩利のニヤニヤが止まらない。

 

「まぁ、そう言うな。もうすぐダンスの時間だ。そうなればあとは学生の時間だけだからな」

 

 摩利はそう言いながら飲み物のテーブルに向かって歩きだし、一度後ろを振り返りって手を振ってから歩み去った。

 

 管弦の音がソフトに流れ始めた。

 どうやら主催者は生演奏を用意した主催者の熱意に、少年たちはすぐ応えた。

 

 ここまで懸命に話術を駆使して親交を深めることに成功した少女の手を取って、ホールの中央へと進む。

 

「お、ダンスが始まったな……ジブリール。やるか?」

 

「こちらこそお願い致します」

 

 そっと差し出した佑馬の右手に、ジブリールは左手を被せてそれに応え、二人とも中央へと歩み寄った。

 

◆◆◆

 

 誰もがある一組のダンスに見惚れていた。

 今回大会でもっとも目立った二人、そして、一番有名なカップル、佑馬とジブリールだ。

 

 長年生きてきた二人、そして、前の世界で何度も一緒に踊ってきた二人は、ダンスに慣れているのもあるのたが、何よりも二人とも相手に見惚れさせる何かを持っているのだ。

 

 音楽もプロがその二人に合わせて音色を奏でるため、さらに二人のダンスが強調される。

 

 曲も終わり、ダンスが終わったころには拍手喝采となっており、二人は若干の居心地の悪さを感じ、しっかりと社交辞令として手を振りながら飲み物をウエイトレスに貰い、庭に出た。

 

 そこから再び優雅な音楽が奏でられて、学生たちは踊り始める。

 

「んー、失敗したか?」

 

「ダンスは成功しましたが、いろいろ失敗しましたね」

 

「ここなら音楽も聞けるし、祝賀会まではここにいよっか」

 

「そうでございますね」

 

 ノンアルコールビールのグラスを持ちながら、二人は夏の夜空を見上げる。

 

「こんな風に二人で夜空を見て時間を過ごすのは、意外と久しぶりでございますね」

 

「あー、確かにな」

 

 夏の夜風当たりながら、二人静な時間を過ごす。

 二人は無駄に喋ることもなく、ただこうやって静かに時を過ごすという年配者的考えを持っているのだ。

 

 実際は年配者もいいところなのだが。

 

 その後、克人と達也が二人して庭に出て来たため、二人してこの世界では達也ですら認識されない、前の世界の精霊を使った認識阻害で隠れて二人の様子見守り、克人と達也が何かを喋った後、克人はホールへと戻っていき後から達也を追いかけてきた深雪がニコニコと笑いながら達也と会話を始め、二人して静な夜空の下、二人のダンスと優雅な音楽を、ジブリールと佑馬はグラスを片手に鑑賞した。




これで九校戦編終了です。

今回少なめですが、こっから文字数戻して、投稿頑張りマッスル!


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夏休みのとある過ごし方1

明日は二話出したい。


「佑馬、海へ行かないか?」

 

「…………」

 

 ピンポーンとチャイムが鳴って出た瞬間にかけられた言葉に、佑馬は無言でドアを閉めた。

 

 再びピンポーンと鳴る。

 

「どうしたんだ?達也」

 

「佑馬、海へ行かないか?」

 

 再びドアを閉めようとした佑馬だが、今度は達也の足がドアの間に挟まって閉まらなかった。

 

「おい、どういうつもりだ?」

 

「それはこちらのセリフだ。雫から海へ行かないかと誘われたんだ。佑馬とジブリールも誘ってほしいって」

 

「ああ……なんか変な意味かと思ったよ」

 

「いや、わかってただろ」

 

「勿論」

 

 素直に達也を家の中へと上げた。

 

「この家に上がるのは二回目だけど、相変わらず無駄に広いな。二人だと広くないか?」

 

「かなり広いよ」

 

 達也をリビングにあげて、お茶を注いで達也に差し出す。

 

「ジブリールは?」

 

「ああ、いつもの部屋で遊んでるよ」

 

「ああ、なるほど……美味しいなこれ。何処のやつだ?」

 

「あ、それね。この前深雪に教えて貰った店長と仲良くなったら、特製茶葉をくれたんだよ」

 

「本当か?」

 

「ちょっとした技術を提供させて貰ったお礼だね」

 

 それからデバイスや魔法について話し合ったあと、部屋のドアが開いてジブリールが入ってきた。

 

「あら、珍しいですね」

 

「お疲れジブリール。ジブリールも来たし、話を戻そうか」

 

「なんのことでございましょうか?」

 

「まぁ、座りな」

 

 なんのことかわからないジブリールは、とりあえず佑馬に促された通りに横に座り、達也の話を待つ。

 

「話を戻すが、雫が来週の金曜日から日曜日にかけて別荘のある海に行かないかって誘いがきているんだが、来るか?」

 

「ということだ。どうする?」

 

「海ですか……また髪にいろいろ絡まりそうでございますね……」

 

 何度か海へは行っているのだが、やはり潮風が嫌らしい。

 だが、それを佑馬が無視しておくはずもなく。

 

「俺がケアするよ」

 

 しっかりと対策を考えていた。

 

「それならば是非行かさせて貰います。」

 

 結果、手のひら返しで了承したジブリール。

 

「それはよかった。佑馬とジブリールの予定が一番わからなかったから少し心配だったんだ」

 

 それの答えに何処かホッとした様子で言う達也。

 あの達也からここまで表情が読み取れるとなると、深雪がなにかを言ったのだろう。

 

「それじゃあ、来週な」

 

「ああ」

 

 達也が立ち上がり帰ろうとしたため、茶葉を少し別けてから店長に言えば貰えるということを言って、見送った。

 

◆◆◆

 

 旅行当日、雫の家のクルーザーで別荘のある小笠原に向かった。

 

「ねぇー!私も乗せてよーー!」

 

「だそうだジブリール」

 

「仕方がないですね……」

 

 しかし、佑馬とジブリールは空を飛んでいる。

 佑馬のケアによってジブリールの髪は精霊によって保護されており、それが余程嬉しかったのか飛んでいくといい始め、今に至る。

 

 エリカは前からどうしても空を飛んで見たかったらしく、いつもより目を輝かせながら頼み込んできたのだ。

 

「それでは、私の右手を掴んでくだ「こうすればいいの?」……それではいきます」

 

  ジブリールの差し出した右手にすぐ様反応した飛び付いたエリカ。

 その様子にクルーザーに乗っている達也達は苦笑している。

 同じくジブリールも苦笑しながら、エリカの旅へと誘った。

 

「わあぁ!!気持ちいいーーー!」

 

「それでは、こんなのはどうでしょうか?」

 

 初めての空を飛ぶという行為をしたエリカは、子供のようにはしゃいで、それを見たジブリールはニヤッとしながらエリカの手を離した

 

「え!?……って、あれ?」

 

「なっ!?……え?」

 

 いきなりのことで誰もが固まるなか、エリカは落ちることもなくそのまま空を飛んでいた。

 

「後四分ほどなら私の魔法でこうやって飛ばすことも可能でございます。手を握っていて貰ったのは私の『想子』を渡すためだけですので」

 

「わぁー!すごい!」

 

「……四分?あのジブリールが?」

 

 そのことに対してエリカを含むほぼ全員が感嘆の声を漏らし、エリカを羨望の眼差しで見ているなか、達也だけは違和感を感じ取った。

 

「よく気がついたね。そうだよ。俺みたいにハッキリと『想子』の種類が見えないジブリールは、感覚だけであそこまで人の『想子』を再現することが出来るようになったんだ。でも、それも限界があって、絶対に安全な飛行を提供できる時間が四分だけってこと」

 

「なるほど、だから手を繋いだときの『想子』がエリカのに似ていたのか。ちなみに、佑馬だとどれくらい行けるんだ?」

 

 その達也の声にさすがは達也といった表情で原理を説明する佑馬。

 この説明で納得してしまうあたり、達也もかなり毒されていることがわかる。

 

「俺か?んー、一時間くらい?」

 

「聞かなかったことにしておくよ」

 

 結局皆を飛ばす羽目になったのは言うまでもない。

 

◆◆◆

 

「遊びすぎだ。いくら俺らの『想子』があるからって、その『想子』はお前たちの『想子』を誘導しているに過ぎない。使っている『想子』自体はお前らのものだぞ。ほら、大丈夫か」

 

「……面目ないぜ」

 

「……あまりにも楽しすぎてつい」

 

「……だから後悔はしてない」

 

 結局、達也と深雪以外の全員が空中散歩を体験し、『想子』を使い果たして別荘のある小笠原群島の媒島(なこうどじま)へと着いた瞬間にグッタリとしていた。

 

 その様子に佑馬は呆れながら声をかけるも、返ってきた言葉は仕組んでいたかのように揃ったものだった。

 

「仕方ない。ジブリール、アレを持ってこよう」

 

「わかりました」

 

 アレと言われて達也と深雪以外の全員が首を傾げるなか、アレと言われたものを取りに転移したジブリールはすぐに戻ってきた。

 

「皆様、お一人ずつこちらを頭に被ってください」

 

 ジブリールが持ってきたのはヘアバンド型CADだ。

 

「お、なんだこれは?」

 

「まぁ、着けてみろよレオ」

 

「お、おう……!これは……すげぇなこれ!」

 

 頭を傾げながら着けてみたレオは、着けた瞬間に『想子』の回復を感じて驚愕する。

 

「え、僕も着けていいかな?」

 

「ああ、勿論。『想子』使い果たしたやつ全員これ着けとけよ」

 

 佑馬に言われて、男子は佑馬のを、女子はジブリールのを着け、それぞれが同じように驚愕する。

 達也はそのCADを前見せたときと同じように興味深そうな目で、深雪はそんな達也を見てニコニコとしていた。

 

◆◆◆

 

「いい景色だな、達也」

 

「俺もそう思うよ」

 

 『想子』を回復した一同は、到着も早々にビーチへと来ていた。

 全員が海へと行くなか、達也と佑馬はパラソルの下でその光景を見ているのだ。

 

「達也くーん、佑馬くーん、泳がないのー?」

 

「お兄様に佑馬さん、冷たくて気持ちいいですよー」

 

「佑馬、久し振りの海なのですから、たまにははしゃぐのもいいかと思いますよ」

 

 エリカと深雪が波打ち際から呼び掛けてきて、ジブリールは上半身だけ転移させて佑馬の横で言った。

 

 そこに女性陣が集まってくる。

 

「うん、そろそろ俺も行くとするよ。達也は?」

 

「そうだな。泳ぐか」

 

 そう言って来ていたパーカーを脱ぎ捨てる二人。

 佑馬も達也も体は引き締まっており、腹筋も胸筋もその年代にしてはかなり鍛え上げられているものだ。

 

 だが、二人には一ヶ所だけ違いがある。

 

「達也くん、それって……」

 

 佑馬の身体には傷一つない綺麗な身体だが、達也が脱いだ瞬間に出来た緊張に、達也からはしまったという表情が読み取れた。

 エリカの言葉から読み取れる通り、達也の身体にはいくつもの傷跡が皮膚に印されていたのだ。

 

「すまない、見ていて気持ちの良いものじゃないよな……ん?」

 

 そう言って達也は脱ぎ捨てたパーカーを拾おうとするも、その場所にパーカーはなかった。

 チラッと佑馬を見ると、ニヤニヤしながらある一点を指指している。

 

 今度はその方向を見てみると、いつの間にか深雪がパーカーを持っていたのだ。

 その後、いつもの通り恋人紛いの行動をしたのは言うまでもないが、佑馬が意外だと思ったのはほのかの行動だった。

 

 あのほのかが積極的に達也にアタックしていたのだ。

 そこからは気を取り直して、全員が再びビーチへと駆り出した。




この話は、テニスの王子様以降の話です。
また、佑馬はここの部分はアニメでやっていないため
原作知識はありません。


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夏休みのとある過ごし方2

お久しぶりです。
重大発表があります。


 シャリシャリシャリ……聴覚的にも涼しい音が鳴り響くビーチでは、現実的にも涼しく快適な気温になっていた。

 今この場にはエリカ、美月、雫、深雪、佑馬、ジブリールがいる。

 そこに遊泳から帰ってきたレオが加わり、首を傾げる。

 

 

「あれ、達也と……光井はどうしたんだ?」

 

「向こうで、ボートに、乗っているよ」

 

 

 それに答えたのは同じく遊泳から帰ってきて疲弊している幹比古。言われて見ると、確かに遠洋へ向かうボートが一つ。達也とほのかのシルエットが見えていたが、それは中々に奇妙な光景だった。

 その二人の間に現れる人物が一人。

 

 

「なあ二人とも、あれ見てどう思う?」

 

「ちょっと佑馬君っ!」

 

「いい雰囲気だと思うぜ」

 

「そうだね」

 

 

 その瞬間、二人の背筋に寒気が走った。

 嫌な予感がしたのもそうだが、単純に気温が下がったのだ。

 そして聞こえる、聴覚的には涼しい、だがあまり良い気がしない音。エリカはもうどうなでもなれと言った風に、佑馬は思い通りの事をしてくれたレオと幹比古に口を吊り上げ、その二人はお互いに隣へと視線を向けた。

 

 

「吉田君、よく冷えたオレンジは如何かしら?」

 

 愛想よく話しかけられて、幹比古はカクカクと頷きながら深雪から冷え過ぎたオレンジを受け取った。

 計ったようなタイミングで、黒沢からスプーンが差し出され、佑馬がヘタの周辺を取り除いて掬いやすい形へとカット。

 シャーベット用のスプーンを手に取る幹比古に、深雪は新たなフルーツを手にして再び生シャーベットを製造、今度はレオへと渡した。

 

 

「西城君もお一つどうぞ」

 

「あ、どうも……」

 

 

 そして再び計ったようなタイミングで渡されるスプーンに、視線が移ったタイミングで食べやすいようにカットされるヘタ。あっという間に生シャーベットの完成だ。

 深雪はまだ八つ当たりが足りないのかフルーツに目を向けたが、どうやらフルーツへの八つ当たりはもう飽きたらしく視線を外し、そしてまた視線を向けた。

 声をかけられたからだ。

 

 

「深雪、俺はリンゴでお願い」

 

「それでは私は桃でお願いします」

 

「二人とも私をなんだと思っているのですか?」

 

「なんか作り足りなさそうだからついでにってさ」

 

「佑馬の分のついでですね」

 

「答えになっていないのだけど……まぁいいわ」

 

 

 今の深雪の状態を知っている者はこの行動には唖然とするばかり。

 深雪は現在、仕方がないとはいえほのかに嫉妬丸出しの状態なのだ。こうなった原因は一時間ほど前に遡り、佑馬とジブリールが遠洋で遊んでいた時の荒波が深雪達の乗っていたボードを直撃。達也が助けに入りほのかをボードへと上げた際、デザイン重視のだった水着が取れてしまっていたために見てしまったのだ。

 その償いが、今のほのかと達也の状況。

 つまりは佑馬とジブリールが悪いわけなのだが、そんなことを御構い無しにこの対応なのである。

 それは唖然もするだろう。

 

 再びシャリシャリという音ともにリンゴでシャーベットを作った深雪はそれを佑馬に渡し、そのタイミングで黒沢がスプーンを差し出そうとするも、それを制止。魔法式を発動してそれを溶かし、何処から取り出したのかストローを刺して飲み始めた。

 果汁百パーセントジュースである。

 ジブリールもまた同じようにジュースにして飲み始めた。

 この二人、本当に自由である。

 

 

「やっぱり夏は冷えたジュースだよなー。反射してるから別に暑くないけど」

 

「そうですね。私も全く暑くありませんが」

 

「佑馬君もジブリールも、もうわざとやってるよね?」

 

「当たり前だろ」

 

「勿論です」

 

「うわぁ……」

 

 

 深雪が嫉妬に向いているのを良い事に好き放題やる二人にはさすがのエリカも引き気味だ。レオと幹比古はもう知らないフリをして夕焼けを見ながらシャーベットを食べている。雫はぼーっと、美月はずっとオロオロしているためこの二人はある意味平常運転と言えるだろう。

 そして再びフルーツの山に目を向けた深雪だが、今度こそ飽きたようで視線を外して立ち上がった。

 

「雫、悪いけどわたし、少し疲れてしまったみたい。お部屋で休ませてもらえないかしら?」

 

「良いよ、気にしないで。黒沢さん?」

 

「はい。深雪お嬢様、ご案内致します」

 

 黒沢に続いて、深雪が別荘の中に姿を消した。

 今まで縮こまっていた美月がホッとした顔になり、エリカも佑馬達のせいでいらない気苦労を強いられてため息をついた。

 

◆◆◆

 

 夕食は、バーベキューだ。

 黒沢と佑馬、ジブリール―――佑馬とジブリールが遊び―――で取ってきた海の幸を主に、準備してある食材を次々とコンロで焼いていく。

 深雪も一休みして落ち着きを取り戻したのかほのかが甲斐甲斐しく達也の世話を焼いている姿を前にしても、気にせずエリカや雫と楽しげにおしゃべりしている。

 

 美月は昼のティータイムが軽いトラウマになったのか、深雪たちと少し離れた席で幹比古と遠慮がちな会話を交わしている。

 レオは専もっぱら食べる方に口を使っており、黒沢はほとんどレオ専属の給仕係と化し、ジブリールは佑馬の隣へ、佑馬が基本的に全体の焼き係を担当していた。

 

 無論、はっきりとしたグループ分けがされているわけでもなく、時に、ほのかは深雪たちの輪へ加わり、達也はレオとフードファイトを繰り広げたりした。

 しかし全員が感じていた。

 いつにも比べて、空気がぎこちないことを。

 

◆◆◆

 

「少し外にでない?」

 

「……いいわよ」

 

 夕食後、レオはふらっと出ていって、女性陣はカードゲームを、達也と佑馬が将棋をするなか、美月の負けで決着してすぐ、雫が深雪を誘ったのだ。

 一瞬戸惑った深雪だが、すぐにニコッと笑って頷いた。

 

「……えっと、お散歩ですか? じゃあ、私も」

 

「美月はダメよ。罰ゲーム、あるんだから」

 

 深雪の後を追って立ち上がりかけた美月だが、そのシャツをエリカが掴んで引き止めた。

 

 

「えぇ!?聞いてないよー」

 

「敗者に罰ゲームはつきものなの。じゃ、そういうことで、二人とも気を付けて」

 

 

 エリカは、気づいていた。

 雫と深雪の間に漂う、張り詰めた空気に。

 それはレオも同じで、ふらっと出ていったのはこの空気の兆候を嗅ぎとったからだろう。

 もちろん、佑馬も気がついていたが、今はそれどころではない。達也との将棋はかなり白熱したものとなっていた。盤面を制しているのは当然佑馬だ。

 あの二人で一人の最強のゲーマーと互角にやり合ってきた彼がゲーム勝負において遅れを取ることなどあり得ない。それが例え達也であっても、だ。

 

「王手」

 

 そして八十二手目、佑馬が王手をかけた。

 最早、誰がみても明らかな達也の劣勢。観戦している幹比古も固唾を呑んで勝負の行方を見守っている。

 逃げの一手を打った達也。

 完全に打たされたものだ。

 

 

「王手」

 

 

 再び、佑馬が王手をかける。

 だが、それは一つ前に出た歩によって防がれた。

 そこで、達也と幹比古が同じタイミングで気づく。

 いつのまにか、佑馬の陣形が変化しており、難攻不落準備のものとなっていることに。

 恐らく達也はここで勝負が合った事を察しただろう。それから更に数十手。予感の通り、その勝負が終わりを告げる。

 

「王手っと。詰みだぜ達也」

 

「……参った。さすがに強いな、佑馬」

 

 

 佑馬の圧勝だ。

 しかし一手でも失敗したら流れが変わるという白熱具合に、幹比古も含め三人はかなり清々しい様子だ。

 

 

「やっぱりゲームはいいもんだ。久しぶりに楽しかったぜ?」

 

「ああ、俺もここまで強いやつは初めて見た」

 

「だろうな。俺よりも確実に強いと言い切れる奴を俺は一人だけ知っているからな」

 

「ジブリールか?」

 

「いえ、私ではございませんよ?」

 

 

 佑馬達の会話が聞こえてきたのか罰ゲームをしている美月を横目にスッと現れたジブリールは即答した。ある程度は理解しているが、恐らくジブリールもとてつもなく強いだろう。

 

 

「ちなみにジブリールも強いぞ?」

 

「なんとなく分かってはいたよ」

 

「まぁ達也ならもしかしたら勝てるかもしれんけどな」

 

「おやおや、それはさすがに聞き捨てなりませんよ佑馬? 帰ったら私と決着を付けましょうか」

 

「望むところだ」

 

「あ、あの達也さん!」

 

 何故かばちばちと火花を散らせる二人に、だが若干大きめのボリュームでいきなり放たれた声に、彼らは視線を声のする方へと向けた。

 

 

「どうした、ほのか?」

 

「えっと……外に出ませんか?」

 

 

 チラッ、と三人を見る達也。

 それに頷き返す三人。

 

 

「いいよ」

 

 

 そのままほのかと達也は外へ出ていき、この場には佑馬とジブリール、幹比古しかいなくなってしまった。

 

 

「ジブリール、今ここで勝負だ」

 

「勿論そのつもりでございますよ?」

 

◆◆◆

 

 

 次の日、何故か朝から熱い熱い闘いが繰り広げられていた。

 

「お兄様、お背中を。日焼け止めを塗りますので」

 

「達也さん、ジュース、飲みませんか?」

 

 

 深雪と、ほのかだ。

 

「雫がジェットスキーを貸してくれるそうです。乗せていただけませんか?」

 

「少し沖に出るとダイビングスポットがあるそうですよ?」

 

 

 昨日、達也とほのかの間で何があったのか、深雪と雫の間で何があったのか佑馬たちにはわからないのだが、何かがあったのは間違いない。

 

 達也は深雪とほのかのリクエストを順番に、時にため息をつきながらさばいていく。

 そんな達也だったが、何処か楽しげに、いつもよりはリラックスしているかのように佑馬の目には映った。




なんと私の師匠(勝手に言ってるだけ)のオウカシリーズで有名なあのこいしさんの一次小説が商品化することとなりました!
それに伴い私もこちらを更新しました!
本当におめでとうございます!

更新遅れてしまい、申し訳ございません!
次回から恐らく横浜騒乱編になるかなー?って思ってます。


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