紅魔館マッサージ (yourphone)
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紅魔館マッサージ

いつも通りの博麗神社。

風の音と時折聞こえてくる妖怪のうなり声が静寂を際立たせている。

 

いつもの様に縁側でお茶をすする霊夢。

茶柱は立っていない。これも、いつも通り。

 

いつもみたくやって来る魔理沙。

しかしその顔は何時もより輝いている(かもしれない)

 

「おーい、霊夢!」

「何よ、魔理沙」

「面白いもんがあるんだ、一緒に来てくれないか?」

「あんたの『面白い』は場合によっては危険なんだけど?」

「そんなわけ無いぜ。ほら!」

「わっちょっ! たく」

 

魔理沙に連れられ、向かう先は紅魔館。

飛ぶこと数十分。霧の湖に辿り着く。が、いつもと比べるとかなり騒がしかった。

 

「あ?何であんなに人間が居るのよ。しかも紅魔館に向かう人と、紅魔館から来る人とか居るし」

「にっひっひ。まあ見てみろよ、あれ」

「どれよ」

 

魔理沙が指差す先。ぽつねんと看板が立っている。

少女たちはふわりと降り立つ。

 

「どれどれ?『マッサージ始めました。ご用の方は門番のメイド妖精に声を掛けて下さい』 何これ?」

「一回行ったけど、なかなかのもんだったぜ!」

「もう行ったの?てゆうか、別に肩が凝ってたりはしないけど」

「お前殆ど動かない癖に何時も忙しい忙しいってぼやいてるだろ?」

「それはあんたらが宴会の後片付けをしないのが悪いじゃない。 んー。ま、たまには良いかしらね」

 

しかし、一体誰がマッサージをするのだろうか。霊夢はふと考える。が、すぐに答えが出る。

ま、当然あのメイドでしょうね。金が無くなったのかしら?

 

「あ、博麗の巫女さん!」

「巫女さんも来たんですか?」

「あ?あーまあね」

 

霊夢に気付く村人Yと村人I。

 

霊夢は意外と人里へ寄るが、如何せん金がない。よって立ち止まる事が少なくなり、無意識に発する一般人には近寄りがたい雰囲気も合わさり、村人に話し掛けられる事は滅多に無い。

そんな巫女さん相手に話し掛けてきたのは、もしかしたらマッサージの効用の一つかもな、と魔理沙は考える。

 

「それじゃ、失礼します」

「たまには参拝に来なさいよ?」

「あ、あはは。考えておきます」

 

ささっと帰る村人たち。その後ろ姿を眺めながら、霊夢は呟く。

 

「何よあの態度」

「神社の建ってる場所が悪いと思うぜ?」

「それ、私じゃどうにも出来ないじゃない」

「私にもどうにも出来ないな」

 

くだらない事を喋りながら歩く二人の少女。

飛んだ方が速いが、降りたのにいちいち飛ぶのも面倒だという霊夢の意思だ。

 

「あ~~、ようやく着いたぜ」

「やっぱり飛んでばかりいると歩いたときに疲れるわね。ま、今から疲れを癒してもらうわけだけど」

「ピピッ!?ミコダ!」

 

霊夢と魔理沙を見たメイド妖精が騒ぐ。と、あちこちから他のメイド妖精が現れる。

 

「ミコカ!」

「ミコダ!ミコガキタ!」

「ミコナノカー!」

「随分と仰々しいお出迎えね?」

「おいおい霊夢、今日はマッサージされに来ただけだろう?何で戦闘体制になるんだよ」

「う。つ、釣られてよ。別に私が戦闘狂って訳じゃ無いわ」

 

霊夢が言い訳していると、紅魔館の奥から人影が。

 

「あら、魔理沙。霊夢を連れてきてくれたのね?」

「おうよ!これで良いんだろ?」

「  あ、何?私を罠に掛けようって腹積もり?魔理沙を利用してまで?」

「罠だなんて、そんな事御座いませんわ」

「私はマッサージの代金を霊夢で払っただけだぜ!」

「ふーん?取り合えず魔理沙は潰す。そうね、一般人が居るかも知れないし、神霊『夢想封印 集』!」

「うぎゃあ!」

 

〰>〰∀〰<〰

 

「ふぅ。スッキリしたわ」

「ボロボロだぜ」

「では霊夢さん、お嬢様………ではなく、妹様がお待ちになっております」

「 え、レミリアじゃなくてあっちが用事なの?マジで?何の用よ」

「来れば分かります」

「たく、分かったわよ。あ、私を騙そうとしたらそこの白黒みたいになるからね」

「心得ておりますわ」

 

スタスタと歩く咲夜。その背中を見ながら、霊夢は思う。

いつもと態度違くない……?と。

 

「こちらです」

 

案内されたのは紅魔館のとある一室。

 

「てっきり地下だと思ってたけど。そう言えば、あんたは良いの?」

「はい? 何がですか?」

「マッサージの奴。あんたがやってるんでしょ?」

「あら、霊夢が勘違いするなんて珍しい」

「は?」

「中に入れば分かるわ」

 

混乱しつつも、扉を開けて中へ。

部屋にはベッドが一つ。悪魔の妹が一人。窓はなく、奥に扉がある。

 

「あ、霊夢来たのね!」

「いやまぁ、フランが居るのは分かるわ。けど、何その格好」

「ふふん、これがマッサージ師の制服なのです!」

「ふーん。で、美鈴はどこ?」

「え、なんで美鈴?」

「咲夜じゃないって事はマッサージ出来そうなのは美鈴ぐらいでしょ?」

「私だよ?」

「冗談もそんくらいにしたら?」

 

実は霊夢は分かっていた。部屋の中を見たとき、既に。しかし、認めたく無かったのだ。

フランがマッサージをすると言う現実に。

って言うか普通に怖い。狂気を持った悪魔に背中を預けるのは躊躇って当然でしょ?

 

「うぅー。 もう良いよ、霊夢、そこに寝そべって」

「・・・」

 

言われた通り寝そべる。

別に心を許した訳じゃ無い。無いが、以前なら爆発している場面で自分を抑えられた。この事が霊夢に言うことを聞くという事を選択させた。

それに殺されそうになったら『夢想天生』使えば良いだろう、という保険有ってこその選択だが。

 

「それじゃあやらせて貰いますね、お客さま」

 

フランが馴れた手つきで背中に手を置き、ぐっぐっと押していく。

 

「あっふぁっはっ」

「ねぇ、霊夢」

「あっ、なっにっよっ」

「別に私が押すのに合わせて声を出さなくても良いんだよ?」

「勝っ手っにっ、でてっくっるっのよっ」

「ふーん?」

 

その後は黙々と霊夢の背中を押していくフラン。

部屋には霊夢の声だけが響いている。

 

「んー、そろそろリラックス出来たかな?」

「あ~~?」

「良いみたいだね」

 

フランが霊夢の背中から手を放す。

 

「ん、終わり?」

「ううん、むしろこれからが本番。それじゃあ、キュ~~~~」

 

フランがその右手を霊夢に向け、ゆっくりゆっくり握っていく。

 

「は?あぁあぁあぁあぁ」

「むぅ、お客さま凝ってますねぇ」

 

霊夢にとって初めての感覚。それは、まるで体の固まった部分が壊れていくような…

 

「って、まさか!」

「あ、気付いたの?そう、これは私にしか出来ない技だよ!」

「ちょっ!体の凝りを『壊してる』って言うわけ!?」

「そうだよ」

 

フランが話し始める。

 

「そもそもの始まりはね、お姉様とか咲夜の『目』が大きくなっていたのに気付いた事なの」

「はぁん?」

「吸血鬼は物事を長い目で見ることが出来るから、気付けたの。それで、その大きくなっていく『目』を壊したの。そしたら」

「…そしたら?」

「爆発したわ」

「えちょ」

 

霊夢にとっては一大事である。何故なら、今現在その『目』を握られているのだから。

 

「あ、大丈夫だよ。今はそんなことは無いから」

「そ、そうなの?」

「うん。パチュリーとか美鈴とかと沢山練習したし。で、どこまで話したっけ?」

「レミリアが爆発したところよ」

「そうそう!」

 

フランが右手を握り締める。開き、また握り始める。

 

「あがががが」

「うわ、かったーい。それでね、えぇと、咲夜に相談したら色々教えてくれてね、ゆっくり壊していくと凝りが直るみたいで」

「いででででで」

「難しいんだよ、これ。力加減を間違えたら壊しちゃうし」

「あ~が~が~」

「商売にしよう!って言ったのはお姉様だから、力加減の練習はお姉様を試験体にしたわ。お姉様ったら、直しても直してもすぐに『目』が出来るし、間違って壊しちゃってもなんとかなるしね」

「あーーー、あ、痛くなくなった?」

「凄いでしょ。っていうか聞いてた?」

「一応ね」

 

レミリアが不憫とは思わないがよくやったぐらいには考える。何故なら、レミリアの尊い犠牲のお陰で私や村人たちは安全にマッサージを受けられるから。

 

「あとどんぐらい掛かるの?」

「霊夢の『目』が後四個ぐらいだから、後ちょっとだよ」

「うぃ」

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

「あ~~」

「はい、おっけぃ。まだ少し待っててね」

「うぃ~~」

 

フランの手によって霊夢は完全に軟体動物のごとくぐだっている。

 

「はいはい私の番ですね、フラン様」

「うん、いつも通りお願い」

「あ~~?みりん?」

「私は調味料じゃないですよ。ほっ!」

「あ?あーあーあー。あつっ!?」

 

美鈴が霊夢の『ツボをつく』。

霊夢の血流が良くなり、汗が吹き出す。

 

「あつっあつい!」

「それじゃあ失礼しますよ~」

 

チクッ

と霊夢の首に痛みが走る。

 

「いたっ」

「はい、おぅけぃです。フラン様」

「うん、ちゃんと押さえてるよ」

「何したの?」

「霊夢さんから代金を頂きました。どうせお金は持ってないんでしょう?」

「余計なお世話よ」

 

霊夢が言い返すが、力が無い。それだけリラックスしきっているのだ。

 

「吸血鬼が頂くのは人間の血ですからね」

「ウフフ、お姉様が喜ぶかもね」

「あふぅ。そろそろ良いかしら?流石にもう終わりでしょ?」

「あ、はい。お帰りはあちらです」

 

美鈴が部屋の奥の扉を指差す。

霊夢はフラフラと浮かび上がり、扉から出ていく。

 

「これなら、営業停止させる必要は無いわね」

 

これからも利用させてもらおうと心を決める霊夢であった。

 




紅魔館のマッサージ店は人妖問わず大衆に受けた。
惜しむらくは、人里からの行き来がしづらい点と、フランの能力だよりなのでチェーン店が作れない点か。

皆さんも幻想入りしたら、一度寄ってみてはいかが?


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藍の場合

ある日、紫様に呼ばれた。

 

「藍、今人里で流行っている噂、知ってる?」

「はい。なにやらあの吸血鬼がマッサージの店を開いたとか」

「そ。だから、調査してきてくれる?」

「分かりました」

 

式にとって、主の命令は絶対。そして、拒否する理由もない。

しかし。

 

「紫様」

「なぁに?」

「紫様ならば、私に頼まなくともあの店の調査は簡単でしょう。なぜ私に?」

「それはね、そのぅ」

 

紫様が次の言葉を躊躇う。

な、紫様が躊躇うなど、一体どんな深い理由が

 

「私があの店に行ったら、BBAって言われちゃうからよ!霊夢に『ぎっくり腰大丈夫?』なんて言われたら、ゆかりん傷付いちゃう!」

「それでは行ってきます」

 

しょうもなかった。と て も、しょうもなかった。

 

 

まあ、それは置いておこう。

紫様の家から走ること数時間。ようやく人里に着いた。

真っ先に紅魔館へ向かっても良かったが、人里での評判を聞いてからでも良いだろうという判断だ。

 

得意の変化で尻尾と耳を隠す。

たまたま目についた人間に話し掛ける。

 

「紅魔館のマッサージ店について?」

「あぁ。今すぐ行っても良いのだが、どうやら吸血鬼の住みかでやっているらしいじゃないか。」

「まあ、そうなんだけどな」

 

村人は頭を掻く。

 

「あー、なんだ。可愛らしかったし、とてもじゃないが危害を加えてくる様にも見えなかったぞ?」

「 フム。成る程」

 

その後も複数の人々に聞いて回ったが、実に見事に魅了(チャーム)に掛かっていた。

 

曰く、マッサージ師は可愛らしい吸血鬼の女の子。

曰く、マッサージ自体は物凄く効果がある。

曰く、代金はお金か少量の血で良いらしい。

 

「かくも人間は愚かなのか」

 

いやまぁ、責めるのはお門違いか。吸血鬼の魅了はなかなかに強い能力だ。一般人に耐えられないのも仕方の無いこと。

 

「しかし、あの吸血鬼も上手いこと考えたものだ。

 村人はマッサージしてもらう。

 吸血鬼は血や食材を買うお金を貰う。

 まさにwin-winというやつでは無いか」

 

さて、そろそろ紅魔館へ向かうか。

 

 

紅魔館に着いた。が、すぐには入れなそうだ。人間が大量に並んでいる。

 

「しかし、並んでいる私が言うのもあれだが。ここで妖怪に襲われる可能性を考えていないのだろうか」

「ダイジョウブ デスヨー」

「む?」

 

メイドの格好をした妖精が一匹やってくる。

 

「大丈夫、とは?」

「ソレハデスネー」

 

妖精の言うことを簡潔にまとめると、ここいら一帯は既にレミリアの領地。故に、紅魔館の客を襲う妖怪は存在しないとのこと。

 

「それはなかなか大変だったろうに」

「タイセツナ イモウトサマノ タメデスシー」

「……成る程。そういうことか」

 

一を聞いて十を知る。成る程成る程。

 

「ではゆるりと待つとしよう」

「オマチクダサイー」

 

 

一刻ほど後。ようやく紅魔館のとある部屋へと通される。

 

「やっと私の番か」

「はいはい、おまたせしました!胸の大きいお姉さん、そこのベッドに寝っ転がって!」

「む?」

 

特徴的な帽子、金髪、マッサージ師の服装、そして服を突き破り生えている宝石の付いた羽。

まさか『悪魔の妹』がマッサージをするのか?

 

「ほら、速く!」

「あ、あぁ、すまない」

 

寝転がる。

 

「リラックスしてくださいね~」

 

吸血鬼は、その小さな手で私の背中を軽く揉んでいく。

 

ふむ、私相手には少々力が弱いが…普通の人間相手ならこのくらいが丁度良い、か。

 

「うわぁ、お姉さん凄く硬い!何の仕事してるの!?」

 

聞きつつ、込める力を増してくる。

おお!上手だ。気持ちいい。

 

「そこそこ我が儘な主の、従者をしている」

「ふーん。やっぱり我が儘の相手は疲れるよね。私もお姉様の相手をしてると凄く疲れるの。そう言うときは、自分で自分にマッサージしてるの」

「ほう?どうやって?」

「分身すれば簡単だよー?」

 

うぅむ、分身か。分身かー。

 

「流石に私には出来そうに無いな」

「そりゃあ、フランにしか出来ないマッサージだもん」

 

そう言うと、背中を揉む手を止める。

 

「リラックスしてる?」

「うん?あぁ、勿論」

「んーーー。駄目だよ」

「は?」

「お姉さん、少し考えすぎ。もっと楽にしてくれないと」

「う、むぅ」

 

なんだ、こちらの正体に気付いた訳では無いのか。

しかし、リラックスか。

 

 

 

うん、たまには良いか。

 

 

 

 

「すまない、主の言葉が頭に残っていてな。・・・ふうぅぅぅ」

「うんうん。そんな感じ。さて、キュ~~~~~~」

 

肩。右肩が、右肩の凝りが、『壊れていく』。

 

「これは、一体?」

「ふふふ、これ、フランの能力なの。凄いでしょ?」

「あ、あぁ」

 

右肩が『壊れる』。しかし、それは『使い物にならなくなる』訳ではなく、むしろ『生まれ変わった』様に感じる。

 

「次行くよ?」

 

左肩。そして、右腕。左腕。下がって、背骨あたり。

 

『壊れていく』

 

無意識の内に僅かに残っていた緊張と、使命感が『壊される』。

 

「ふぅ。次は…あれ?変なところに『目』があるよ?」

 

そう言いながら、フランドールは私の腰の辺りをさする。

 

「あぁ、すまない。それは私が」

 

待て待て待て。危うく正体をばらすところだった。

 

「私が?」

「あー、いや。何でもないんだ。気にしないでくれ」

「うぅん?でも、間違って壊しちゃうかも知れないよ?」

 

それは困るな。

私は、自らの九本の尻尾の手入れは欠かさず行っている。私を私たらしめるアイデンティティだ。

壊されるのは遠慮したい。

 

「コンコン」

「え?うわっ!」

 

変化を解除する。私からいきなり耳と尻尾が生えたので、驚かせてしまったか。

 

「すまないな。お忍びのつもりだったんだが…よろしく頼む」

「うわぁ、狐さんだー。スゴイスゴイ、初めて見た!」

 

パチパチと手を叩くフランドール。

 

「よぉし!じゃあ私、頑張っちゃうよぉ!」

 

フランドールがスペカを取り出す。

 

禁忌『フォーオブアカインド』

 

「お姉さんの『目』」

「私たちが」

「まとめて全部」

「ほぐしてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ」

 

こんなにのんびり出来たのは初めてだ。身体中に力が入らない。

今なら、人里の子供でも私を捕まえられるだろう。

 

「美鈴、仕上げはお願い」

「分かりました」

 

ぐぐっと体のツボを突かれる。

 

「あ?体が暑くなってきたな……(チクッ)ああ、成る程」

 

血流を良くして、血を摂取しやすくするためか。

普段なら絶対に怒っていただろうが、まあ、今回は良いだろう。

労働に対する当然の報酬だ。

 

「紅魔の」

「何でしょうか?」

「私の血、自由に使え。それと・・・また、ここに来させて貰おう」

「えぇ、何時でもお待ちしております」

「また来てね、狐さん!」

 

 

 

「・・・と、言ったところです」

「えぇと、幾つか質問があるわ」

「なんなりと」

 

こめかみを押さえながら紫様が質問する。

 

「正体ばらしちゃ駄目じゃない?」

「そうでもしないと、その先を見せてはくれなかったでしょう。私も、この尻尾が大事ですし」

「主の命令よりも?」

「はい」

 

はあぁぁ~~。深い深いため息をつく。

 

「次。狐の血って吸血鬼が飲めるの?」

「さあ?そこまでは分かりません」

「っていうか、ね?」

 

紫様が私の顔に触れる。

 

「貴女まで吸血鬼の魅了に掛かっているじゃない」

「そんなこと……いや、そうかも知れませんね」

「開き直るし。まったく、八雲の名が泣くわよ?」

「まあ!紫様が泣いてしまうのですか?」

「貴女が言うことを聞かないからねぇ」

 

軽口を交え、最後に結論を言う。

 

 

「あれは安全です。紫様も一度、行ってみたらどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、藍に言われて来たはものの。流石に恥ずかしいわねぇ」

 

紅魔館の全体が見える場所で紫は呟く。

 

「そもそも、あのカラスやらに見られたら今後三年間はネタにされちゃうわ。あの吸血鬼の姉の方にばれたくもないし」

 

だが、その体はそわそわと動いている。

紫も、本当は行きたいのだ。噂のマッサージがどれだけの効果を発揮するかは藍がその身をはって証明してくれた。

どれだけの物か、分かりやすく例えると。

 

 

 

『月の賢者』の薬要らず

 

 

 

心なしか毛づやが良くなり、笑顔が増え、立ち姿が綺麗に矯正されている。

藍が、マッサージによって自らの真の美しさを呼び起こしたかのようだ。

どれだけ考えても、どんな手を尽くしても、自分の手では再現出来なかった藍の『美しさ』。それを、いとも容易く復活させるなんて。

 

だが、紫は行かない。

僅かな嫉妬と、好奇心。そして、期待と体裁が紫の行動を縛ってしまっている。

 

要するに。

 

恥ずかしいのだ。霊夢を奪おうとする吸血鬼の、妹に、頭を下げるのは。

 

 

紫は今日もマッサージをしてもらわない。

きっと、明日もマッサージをしてもらわない。

 

でも、これで良いのかもしれない。

紫がフランドールの魔の手に堕ちてしまったら、幻想郷を守る者が居なくなってしまうのだから。

 

例え、そのつもりがフランドール自身には無かったとしても、だ。

 




紅魔館マッサージ。
あなたの疲れを癒します。
お代はお金か、あなたの血のどちらかで構いません。
お電話は無いですが、いつでもいらしてください。
安全は保証します。

急遽募集!
人里から紅魔館へと至る道。その舗装、或いは警護をしてくれる方。紅魔館へ連絡して下さい。


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変なTシャツヤローの場合

「昔々、あるところに」とはよく言うものの、では現在の事や未来の事はどう表せば良いのだろうか。

 

ま、これは過去の事だから「ついさっき」で良いですかね!

 

ついさっき私の家、守矢神社で

 

「あ、貴女は変なTシャツヤローじゃないですか」

「あら? そんな事言われたのは初めてね」

「あれ?」

 

そんなやりとりがあったとか。

 

『あらん? この間貴女も会ったでしょう?』

「知らないよ? ・・・あ、いや、あの時か。夢の中で弾幕ごっことやらをしたときの」

『そうそう。その子は私の服のセンスが分からないようなのよ』

「安心して? 私自身にも分からないから」

『酷い』

『何時も通りだねー』

 

「えぇと?」

「あらごめんなさい。ほら、私って体が三つある上にそれぞれが意識を持っているじゃない? だからたまに、こういう事が起きるのよ。私は地球のヘカーティアよ、宜しく」

「は、はぁ」

 

この神様は、相変わらず、いえ、服装の通りブッ飛んでますね。

 

「それで何の用ですか? 神様に信仰されても嬉しく無いんですけど」

「んーとねぇ。私の部下の、クラウンピースって知ってるわよね?」

「あー、あの鬼畜妖精ですか。あいつが何か?」

「居なくなったのよ」

「はい?」

「だから、居なくなったの。跡形も残さず」

「はぁ」

 

それで探している途中、と。うちに来たのは偶然ですかね。

 

「どうして居なくなったとか、何とか、心当たりは?」

「んー。それが異界の私が教えてくれないのよ。渡されたのはこれだけ」

「手紙? どれどれ」

 

そこには、下のように書いてあった。

 

『ご主人様へ。私、クラウンピースにはご主人様と友人様の相手を同時にするのは手に余ります。ですので、ちょっとの間休暇を頂きます。存分に、体を休ませて頂きます。ご容赦を。』

 

「えーと、これでどうしろと?」

「貴女、クラウンピースを見なかった?」

「見てませんね」

 

と言うか、もう会いたくない。

 

「どうしよぅ、このままだと異界の私に怒られちゃうわ」

「まぁ、少しは手伝いますよ。昨日の敵は今日の餌って感じで」

「餌!?」

 

大幣をバッサバッサと振る。

奇跡~奇跡~奇跡が~おこーる。

 

「はっ! 閃きました」

「え、どうなの!?」

「はい! 英国気違い、もといクラウンピースは恐らく、紅魔館に居ます!」

「な、なんだってー!    で、えっと、紅魔館って何?」

「ズコーッ!」

 

古きから伝わる必殺のずっこけ。まさか使う時が来るとは。

 

「こ、こほん。紅魔館はレミリアさんとか、咲夜さんとか、まあ、言ってしまえば吸血鬼の館ですね」

「吸血鬼。吸血鬼かぁ。クラウンピースは妖精だから、まさか血を吸われたりは無いと思うけどねぇ」

「多分、マッサージされに行ったんだと思いますよ」

「マッサージ?」

「はい」

 

分かりやすく説明する。

 

曰く、マッサージ師は可愛らしい吸血鬼の女の子(つまりフランちゃんウフフ)。

 

曰く、マッサージ自体は物凄く効果がある。

 

曰く、代金はお金か少量の血で良いらしい。

 

 

「私も一度行きましたけど、何故か門前払いくらったんですよねー。何ででしょう?」

「さ、さぁ? とにかく、クラウンピースはそこに居るのね?」

「恐らくですけど」

「ありがとう! また来るわ!」

 

そして飛び立つ変なTシャツヤローのパンちらを見ながら、呟く。

 

「そっち、方向違います」

 

 

 

 

 

 

永遠亭にて。

 

「え、ここ紅魔館じゃないの!?」

「ええ。うどんげに送らせますから、帰ってください」

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで。やっとこさ紅魔館に着いたよ、私」

『遅い。速くして』

「ちょっと! 元々は私が悪いんでしょ! 私が尻拭いするのは、本来おかしいんだから!」

『まぁまぁ、落ち着いてよ地球の私』

『本当は月の私に行かせたかったんだけどね。地球の私が一番近かったから仕方無く選んだのよ?』

「何で今それを言ったの!?」

 

話ながら紅魔館の中へ。

 

喧嘩してるように見えて、実はただのお喋りなのよね。

自分同士で喧嘩することほど詰まんない事は無いわよん?

 

「すみませんお客様」

「うわっと」

 

急に目の前にメイドさんが出てきたわ。

面白そうな能力ねぇ。ま、今はそれどころじゃ無いんだけどね。

 

「今日の営業は終了しました。また次回、来てください」

「あら、違うのよ。私はね、部下のクラウンピースを探しているの」

「クラウンピース、ですか」

「そうよ。ピエロみたいな格好の地獄の妖精よ」

「ピエロ、ですか」

 

『怪しいね。月の私がビビッと来たよ』

『そうなの?』

「じゃあ問い詰めてみるわよん」

 

「ねぇ貴女」

「何でしょうか?」

「クラウンピースの居場所、知らない?」

「すみません。存じておりません」

「そう? でも」

 

すっ と右手の人差し指でメイドの鼻を押さえる。

 

「貴女の目は、知ってるって言ってるわよ?」

「……気のせいでしょう」

「私はこんなんでも神様よ? 嘘を見抜くなんてちょちょいのちょいよ」

 

嘘よん。まぁ、そういう魔法を使えば良いだけだけども。

 

「成る程。仕方ありませんね。こちらへどうぞ」

 

メイドが紅魔館の中へ入っていく。

私も、それに続く。

 

「クラウンピース~! 居るんでしょ~!」

「お客様。お静かに」

「あらん? そんなに睨まないでよ。分かったから」

 

スタスタと歩いていく。

 

「こちらです」

 

案内されたのはとある扉。

 

『中には強敵がいる気がする…』

「しないわよん?」

『入りますか? はい いいえ』

『はい一択ね。ほら、地球の私、さっさと入りなさい』

「命令しないで欲しいわ」

 

中へ。

 

 

 

そこには

 

「はぁ~~~~~~癒される~~~~」

 

今まで聴いたことの無い、『気持ちいい時に発する』声を出しているクラウンピースと、

 

「あれ? 咲夜、この妖精で終わりじゃ無かったの?」

 

クラウンピースに跨がっている吸血鬼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラウンピース、何やってるのかしらん?」

「ご主人様!? どうしてここに!?」

「勝手に出ていっちゃうんですもの、逃げた部下を探すのは主人の役目でしょう?」

 

ヘカーティアがクラウンピースに詰め寄っていく。

しかし、咲夜に止められる。

 

「お客様。少々お待ちを」

「あら、危ないわよ? 私に刃を向けるなんて」

 

咲夜の持つ銀のナイフは、ヘカーティアの首元に押し付けられ、鈍く光っている。咲夜が少しでも動けば、ヘカーティアの首からレミリアの食料が吹き出るだろう。

 

「妹様。こちらは気にせず、マッサージをお続けください」

「う、うん。はい、お客さん。もうちょっとだからリラックスしてね?」

 

フランドールは、どうしていいか分からずオロオロしているクラウンピースを改めてベッドに寝かせる。

 

「私たちは外に出ましょうか、お客様?」

「ふーん? 私と弾幕ごっこでもしたいのかしらん?」

「どう受け取ってもらっても結構。あの妖精の所在が分かったんですから、ここに留まる必要はないでしょう?」

 

目で牽制しあいながら部屋を出る二人。

 

外から聴こえてくる弾幕ごっこの音をBGMに、フランドールはクラウンピースの『目』を握る。

 

「ご主人様、大丈夫かなぁ」

「大丈夫だよ。咲夜は強いし、万が一怪我をしちゃってもマッサージ出来るしね!」

 

盲目的に咲夜を信じるような声を出すフランドール。

『目』を握る力加減は常に一定だ。

 

もはや、他の事を考えながらでも的確な力で『目』を握る事が出来る領域――プロの領域にまで、フランドールは到達していた。

だからこそ、フランドールは気を緩めない。

 

咲夜に言われた事が頭に残っているから。

 

『妹様。他の事を考えながらマッサージするのは危険ですし、何よりお客様に失礼です。疲れてしまうでしょうが、マッサージするときは気を緩めないようにしてください』

 

「気持ちいいですか?」

「う、ん。気持ちいいよ、お姉さん」

 

クラウンピースから見たらフランドールは『お姉さん』なのか。『悪魔の妹』であるフランドールにとって、『お姉さん』と呼ばれるのはなかなか無い。

あまりに嬉しくて、つい数日間引き留めてしまったが…潮時なのだろう。

 

「ねぇ、クラちゃん」

「何? お姉さん」

「ずっと引き留めちゃってごめんね」

 

少し悲しそうな声で話しかけるフランドール。

その声を聞いて、クラウンピースは

 

「良いんだよ、お姉さん! あたいは楽しかったよ?」

 

笑顔で返す。

 

「何、また来るさ。今度はご主人様と友人様も連れてくるよ」

「そうなの? また、来てくれるの?」

「うん!」

 

 

 

 

数分後、フランドールはクラウンピースのマッサージを終える。そして、弾幕ごっこに僅差で負けたヘカーティアのマッサージを始めるのだった。

 




紅魔館マッサージに、常連客が一人増えました。

人間、妖怪、神様。
種族問わずマッサージする妹様は天使なのでしょうか。
いいえ、悪魔です。


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フランの場合

「ふぅ~。やっと終わったぁ~」

「フラン様、お疲れさまです」

 

今日は何人ぐらいをマッサージしたかな? 大体200くらいかな?

 

部屋を出て紅魔館の自分の部屋へ向かう。

 

「あ、お姉様」

「あらフラン。マッサージお疲れ様。咲夜!」

「はい、何時ものでございます」

 

熱々の血が入った紅茶を飲む。

 

「それで今日は大丈夫だった? 変な奴に絡まれなかった? 力加減失敗しなかった?」

「私に変な事するようなのは美鈴が追っ払ってるし。せめて門番ぐらいは信頼してあげなよ。で、失敗は無し。ま、慣れだよね」

「そう、なら良かったわ」

 

お姉様は咲夜を連れて去っていく。何処に行くのやら。

 

「……流石に咲夜にはバレてるか」

 

紅茶の入っていたカップの底には『お身体は大切に』のメッセージが。

 

「それで大切にするの?」

「する訳無いよね」

「今日は誰が?」

「じゃんけん。は決着がつかないからサイコロの目が一番大きい私が」

 

「「「「生け贄だね」」」」

 

 

 

 

そもそも

 

フランドール・スカーレットの能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』である。

つまり、マッサージするようにゆっくり『ほぐしていく』のは本来の能力の使い方ではない。

 

靴を左右逆に履いたらどう感じるか。

押し扉だと思ったら引き戸だったらどう感じるか。

 

当然。ストレスが溜まる。

 

では人間ならストレス発散にどうするか?

 

人によるだろうが、取り合えず元の使い方をしてスッキリするのが一般的だろうか。

 

靴を履き直し。

扉をスライドさせ。

 

悪魔の妹も、それにならった。

 

 

 

グチャッ

 

「ふぅ。まずは一人」

「う~ん。あんまり泣かなかったね、私」

「仕方無いよ。あんまりにも一瞬だもん」

 

 

悪魔の一人遊び。およそ人間には理解出来ないだろう。

だが、誰にも迷惑を掛けない。悪魔は悪魔なりに考えているのだ。

 

 

グチャッグチャッ

 

「ウフフ、ウフ、ウフフフフフフ」

「アハハ、アハ、アハハハハハハ」

 

 

思い切り、思い切り能力を使う。

一切合切一辺の情け容赦無く静かに確かに確実に力強くその手を握る。

 

 

ゴキッグチャッ

 

「ハア、ハア、ハア……でもまだ足りない。()()()()()()()()()

 

 

グチャッ

 

「……まだ」

 

グチャッグチャッ

 

「…………」

 

グチャッガキッゴキッグチャッバキッメキッ

 

 

夜はふける。

フランドール・スカーレットのマッサージ。

フランのフランによるフランの為の、マッサージ。

 

「お嬢様。今夜もまた」

「……はぁ。まあ、フランのお陰で紅魔館がもってるのも事実。あの遊びでフランがミスをしなくなるのなら……見逃すのも、悪いことでは、無いわ、よね?」

「……はい」

 

瀟洒なメイドは口には出さない。ただそっと、主人の口元から流れる血を(ぬぐ)うのであった。

 





マッサージ師フラン。彼女は何人もの相手をマッサージしてくれている。ではしかし、彼女をマッサージしてくれる相手は居るのだろうか。どうやら、彼女は四人に分身することが出来るようだが…………。
真相は闇の中。誰にも分からない。


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カリスマ(笑)の場合

何故か分からないけど『()()()()』。

な、何が起きたのか全く分からなかった。

いえ、()()起きたのかは分かったけど()()起きたのかは理解不能だった。

より正確に言うと、()()やったのかは明白だから、()()やったのかが問題なのよ。

 

「フラン…………不意討ちで姉を始末しようとするとは……流石、私の、いも、う、ガハッ」

「おね~さま~~~!?」

 

 

フランの声を聞きつけた咲夜が私を助けてくれた。具体的に言うと……いえ、あまり詳しく言うのは駄目ね。こういうの何て言うんだっけ、咲夜。

 

「R18ですわ、お嬢様」

「ふーん。ま、そんなのはどうでもいいわ。フラン?」

 

声をかけると、顔を俯かせたままビクッと体を震わせた。我が妹ながら可愛らしい。虐めたくなってくる。

 

「私は、怒って、無いわ。ど~してこんなことしたのか・し・ら?」

「ヒイッ」

「なぁに? 私は理由を聞いてるのよ?」

 

「怒るお嬢様も可愛いですわ……」

 

なんか聴こえた。なんか少し不穏な言葉が聴こえたわ!?

 

「咲夜?」

「なんでしょうか」

 

あ、あれは確かに咲夜の声だったわ……。だけどどうだ。咲夜は澄ました顔をしている。聞き間違い? その方が良いのだけど……。

 

「……」ジーッ

「…………?」

「お姉様、ごめんなさい!」

 

あ、忘れてた。

 

「だからー、私は怒って無いのよ。なんでって理由を聞いてるのよ」

「それは、その、お姉様の『目』がいつもより大きくなってたから……」

「―――ちょっと待って? 色々突っ込みどころがあるんだけど、取り合えず、『目』が大きく?」

 

フランは他人の弱点をピンポイントで握り潰すことで『あらゆるものを壊す』ことが出来る。フランはその弱点の事を『目』と呼んでいる。

 

「うん」

「つまり、私の弱点が大きくなってたって事?」

「多分」

「……それは、懸念事項ね」

 

私にだって弱点はある。が、だからと言って増えていい訳じゃない。

 

「じゃあ次。なんで大きくなったって分かったの?」

「だって、毎日見てるから」

「…………そう」

 

これがあるからフランは怖いのよ。見た目は私に似て可愛いのにねぇ。

 

「最後に。だからってどうして握ったのかしら?」

「ううん、握ってないよ」

「え?」

「間違って落っことしちゃったの」

 

…………え?

 

「『目』って、落とせるの?」

「みたいだね」

「『目』って、割れるの?」

「硝子みたいにパリーンッて」

「私って可愛い?」

「カリスマ(笑)」

「オーケー有罪よ」

「お嬢様お待、お待ちを!」

 

何よ咲夜。変換で『さくや』って入れても『咲夜』って出てこない癖に。

 

「だからって『さくよる』は酷い……じゃなくて! 妹様、お嬢様の『目』はどれだけの大きさになったのですか!?」

「これっくらいの」

 

庶民一般が使いそうな大きさの弁当箱ぐらい? それは無駄に大きいわね。

 

「さーらに、5倍」

 

…………。

 

「そんっくらいっじゃすーまなくてさーらに、2倍」

「待て待て待て待て待て待て!」

 

面積の倍は線の倍よりえげつなく広がってくのよっ! わざわざ『フォーオブアカインド』使ってまで倍にしなくても良いのよ!?

 

「冗談だよ。せいぜい一抱えあるくらいだったから安心して、お姉様」

「…………いやそれでも十分大きいわよ。何それ、そりゃあ落っことすわよ」

 

――――パテェ~~、助けて~~。

 

 

「私はパテェなんて人知らないわよ」

「あらそう。ならパチェで良いわ。~かくかくしかじか~なんでどうにか出来そうな本無い?」

「無い?」

「あらフラン、いらっしゃい。走り回ったら『プリンセスウンディネ』ね」

「はーい」

「パーチェー!」

「人の名前を間違えるからよ」

 

だって『チ』と『テ』って似てるじゃない。おんなじタ行だし形も似てるし。

 

「はぁ。…………なら、マッサージしてもらえば? フランに」

「「 え? 」」

 

 

 

 

 

パチェ曰く、『そんなに大きな目はもはや誰かがどうこう出来るレベルを越えている。だからフランに小さくしてもらうしかないと思う』だそうだ。

 

「間違って握らないでね、フラン」

「わ、わ、わ、わかかかか、わかっててててて!」

「ほらほら、妹様。リラーックスリラーックス」

「う、うん、すーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、すーーーーーーーーっっ!」

「深呼吸するならせめて吐きなさいフラン!」

「がふーーーーーーーーーーーっ。…………行くよ」

「あ、うん」

 

ドカーン

 

地獄の日々が始まった。





レミリアの受難は三ヶ月もの間続き、そこから更に美輪が参入し三ヶ月。合計六ヶ月のレミリアの尊い犠牲のおかげで、今の紅魔館マッサージがあるのです。

あるいは、一番の立役者がレミリアなのかもしれません。


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