故郷の名は。 (s7uira45)
しおりを挟む

Side糸守町 かけがえのない故郷だから
1:曖昧な記憶と明瞭な指示


ども、乾電池です。調子に乗って3作目。「君の名は。」に感銘を受けて、ついに書いてしまいました…

ガイルの2作品は、結構頭をからっぽにしてかけるのですが、この作品は…何とも難しいですね。雰囲気を壊さないように…ってのもそうですが…

やはり一番は方言(飛騨弁)です。気づいたら標準語で書いているので、大変です。
一応関西に住んではいるので関西弁は使えるのですが、転勤族も多い地域なので方言としては結構薄目なんでしょう。

しかも語尾とかも似ているようで似ていないので、あるサイトを参考にしながら書きました。

小説は両方とも未読です。(売り切れでした…)そのうち読みますので…

前置きが長くなってしまいましたね。それではどうぞ!


とある山中@糸守 Side三葉

 

 全身に力を入れて、ただ強張っているのが自覚出来ていても、ただひたすら、走る、走る、走る。

 そうしないと、みんなが助かんから―――――いや違う。私がどうにかなってしまいそうやから。さっきまで確かに目の前にいて、名前を憶えたはずの男の子。

 その名前がどうしても思い出せない。た、立…やはりわからん。

 時はすでにカタワレ時を過ぎて、夕闇が街を包んどる。確か今日は秋祭りやさ。

 人がようけ集まっとるはず。ならあの男の子に教えてもろうた通りにするだけやさ。

 縁から街を見下ろしても明かりが全然点いとらんかったから、もうテッシーは変電所を爆破しとんのやろう。なら…!

 

* * *

 

 その後、すぐに克彦と合流する。

 

「なあテッシー…自転車やけど置いてきてしもうたわ…かんにな…」

 

 とりあえず、すぐに詫びておく。

 

「ん?別にええよ、それくらい。何か大事な用事やったんやろ?」

 

 発した言葉は問いかける調子のものだったが、背中から滲み出る雰囲気は「なんも言わんでええ」といった類のものであった。

 そしてそんな克彦に三葉は少しばかり安堵する。だが、そんな細かいことを気にしている場合ではない。もっと大切なこと――――宮守とその周辺地区の避難の進捗度合を尋ねる。

 

「テッシー、避難の方はどうやさ?」

 

「正直ようわからん。早耶香が放送を流してはくれとるが…皆どれだけ本気にしとるか…」

 

「ん、わかった。」

 

 あまり話しかけ過ぎても危ないので、とりあえず目的地へと向かう。途中にあった防災無線からは放送が聞こえた。

 だが皆揃いも揃って、足並みはゆっくりとしている。これには二人とも苦い表情を浮かべてしまった。

 そんな景色を横目に、バイクを走らせること暫し。秋祭り会場である、宮水神社に到着する。

 町を代表する一大イベントなだけあって、人出はかなりの数だ。が、そのことはあの男の話を吟味すると恐ろしく不味い状況ということになる。

 

 何故ならここは……

          ―――――爆心地なのだから。

 

* * *

 

Side克彦

 

 結局あの後、早耶香がやっとってくれた放送は止めさせられるわ、親父に見つかった挙句犯人やと見破られてしまうわで、たがが高校生の企みなんてここまでなんか…と落胆してしもうた。

 でも三葉は―――僅かとも動揺なんて見せんどころか……

 

「……町役場まで付き合おうて?」

 

 と…いたって毅然とした顔付きで、態度でそう言い放ったんやさ。

 有無なんて言わせんと、そんな口調やった。

 それで俺にももっかいスイッチが入ったんやさ。やから…

 

「おう、任せとき!」

 

 そうしっかり頷けたまい。

 

* * *

 

 住民の誰もが見飽きたであろう糸守町役場に、一人の少女は単身で乗り込んでいく。

 

 もし町民が役場に来るのであれば、大抵は住民課や福祉課に向かうのだろう。

 

 だが向かうのは、その少女にとって役場一敷居が高いであろう場所―――町長室である。

 

 いくら実父がその役職に就いているとはいえ、この場所を訪問することはまずないであろう。しかもその親子の間柄がいいとはお世辞にも言えない。

 

 それでもその少女は、強い決意を持って突撃を試みる。

 

 だがその少女は知らない。少女と瓜二つの別人が今朝、この場所に来ていたことを。

 

 その少女は知らない。実父という名の堅物を納得させるだけの言葉を。

 

 そして…その少女は知らない。その堅物はすでに――――――

 

 

 だが、これらの「知らないこと」はすぐに「知っていること」へと変化する。他でもない、実父の言葉で。ただ……

 

 

 

 もう一つの「知らないこと」が晴れるには、年月を必要とした。彷徨って、彷徨って、直も彷徨って―――――――――

 

 

 でも時が満ちれば、いとも簡単に霧散していく―――そんな記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       そう、その少女は――未だに理解できない。

       自らのちょっとした過去を知る術が既に……

                           ――消滅していることを。




いかがでしたでしょうか?かなり短めではあったと思いますが、この量でこまめに投稿していければ…と思います。なかなか忙しめですけどね…

今回は作業BGMを使ってみました。夢灯籠と、TOKIOのsometimesという曲です。(後者はマイナーなのであまり知ってる人はいないでしょうけど…)

ご意見、ご感想、ご評価、誤字報告など、宜しくお願いします。

また、方言でこんなところがおかしいのでは?などというものもお待ちしております。(むしろそれを校正していただきたい)

金曜までには出したいですね…それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2:完全降伏宣言

ぎりぎり間に合いましたね!(汗)500UAありがとうございます!
金曜に何とか一話出ました。こんな投稿の仕方をしたのは初めてでしょう。
それではどうぞ!

※このシリーズでは、一週間空いていなかったらあらすじは書きません。
ご了承ください。


Side 俊樹

 

 机上の、ごく一般的であろう固定電話から発せられる、無機質な着信音が部屋にけたたましく鳴り響く。

 いつもなら迷わず取るか……無視を決め込むかの二択である。そして今の役場の状態を鑑みるのなら、迷わずとるべき電話だ。

 だが……

 私の居城ともいうべきこの部屋に、()()()の親族がいることが―――

 発信元が正面玄関からだということが―――

 理屈では説明できない――――――私の勘が的中しそうだという予感が。

 

 ―――――――――私に電話を取らせることを躊躇わせている。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてついに。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――電話のベルが鳴り止むのと、部屋の扉がノックされるのは全く同じタイミングであった。

 

* * *

 

 私が返事をしなくてもこの部屋に侵入してくるのは、恐らく私の近縁者だけではないか?とふと思う。今朝もだが……それはつい十数分前と今現在で、確信に変わった。

 だからこのバカ娘が再び姿を見せた時も、あまり驚きはしない。なぜなら…

 

 今朝のことは私の記憶の中に、強く刻まれているのだから。

 まさか娘に、胸倉を掴まれるとも思ってもみなかったし……

 ――娘の身体に別の何かが宿るなんて、それこそ考えたことさえなかった。

 

 だからこそあの、娘の姿形をした、化けの皮を被った何かが。

 再び突撃してきて、またあのくだらない、本当にくだらない妄言を。

 もし、今一度繰り返してきたのなら。

 それ相応に、今度こそこっ酷く、もう二度と妄言なんぞ口にしようなんて、一時も考えさせないように。

 そんな(てい)で論破を……と。

 

 そういった算段を立てていた――――――――――――

 

 そのはずだったのに。

 

 義母(ばあさん)の所為で。

 それらは一瞬の内に、脆くも崩れ去った。

 

 我ながら何とも情けない話だ、とも思う。

 やはり宮水家の女性は強すぎる、とも思う。あの人だって…そうだった。

 どんな時でも……死に際でさえ……

 

 そしてもう一つ……ほら。あの人の血を強く受け継いだ、この娘の顔付きを。

 何かを強く決意した、鋭い表情を。

 

(こりゃばあさんがいなかったとしても危なかったかもな……)

 

 それを見ているだけで、こう感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――俺は多分、宮水の血にも、不思議な力にも。

 一生……いや、何生でも絶対に勝てないんだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 「父を必ず説き伏せる。」

 

 そんな固い決意を胸に秘め、ラスボスといざ決戦……!

 

 

 

 ……実際、ドアノブを回して部屋に押し入るまで、三葉のオーラはそういった類のものであって。それを遠目に見ていた役場の職員たちは、畏怖に近いような感情を抱いていて。確かにこれは揺るぎやしない、事実であった。

 

 だが。

 

 当然というべきであろうか……

 こちら側の計画も一瞬にして、見るも無残に、崩壊したのであった。

 

 

 ―――頓挫したタイミングが、奇しくも完全に同時とは、何という皮肉であろうか。

 

 

 そして。

 

 

 因縁を持った者同士の対面には、必ず因果があるとでもいうのだろうか……

 

* * *

 

Side 三葉

 

 ズン、ズン、ズン、と。

 自分でも勢いが良すぎるけな…と、そう感じ取れる程に。

 自分でそうのもなんやが、力強う歩けとると思いけな。

 

 やけど。

 

 その瞬間、用意しとった言葉や、何やいうもんは、ぜーんぶ吹き飛んでまったさ。

 

 

 お父さんの、あいふうな顔見てもうたら……

 誰でも毒気なんて抜かれてまうなけな!

 

 

 

 

 ……はっきりとした驚愕の後、自嘲の笑みなんて―――ダメやよ……

 

 

 

 

 ――――――笑いが止まらんくなるもんで!

 

* * *

 

 さ、仕切り直しやさ。

 

「ねぇ、お父さん。」

 

 そう切り出してみる。やが……

 

「ああ……もういい。」

 

 ……え?

 私何もそってないぜな。

 何で?

 

「……ん、言い方が悪かったか?もう何も言わなくてもいいと言っているんだ。」

 

 何も言わなくてもいい―――

 

 何も言わなくても―――――

 

 何も―――――――――――

 

 その言葉は私の中で、強く反響しとる。

 そして…それを脳が認識しはった瞬間に、とてつもない徒労感が襲ってくるさ。

 

 ……あの表情は何やったんやさ、という微かな疑問と共に。

 

 や、やけど。

 

 もういっぺん…もういっぺんだけ……

 

 そう思うた、次の瞬間に。

 

 ――――――信じられんことは、確かに起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             先ほど……

             私たちが、学校から。

             不正に発した、あの音が。

             役場の全階に。

             高校の校庭に。

             そして――――――――

 

 

 

             町全域に―――――――

             それは甘美に、鳴り響く。




2話でした!いかがでしたでしょうか?
やはり方言を使うところに差し掛かった瞬間に、筆のスピードが極端に落ちてしまいます…飛騨弁って何でこんなに難しいんでしょうか……
だから、Side俊樹は効率のいい執筆ができたのですが…Side三葉は難産を極めました。

まあとにかく頑張っていきます。

あと次回以降ですが……予定が不明瞭です。合間にポチポチとしていきますが、大幅に遅れるかもしれません。
先に謝っておきます、ごめんなさい。

それではまた!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。