艦これ~横須賀攻略鎮守府日誌~ (春宮 祭典)
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春宮提督からの注意事項
注意
・この小説の元ネタは「艦隊これくしょん~艦これ~」ですが、システムはPSvita版ソフト「艦これ改」と原作艦これを複合し、解釈したものです。ついては、艦これ改を動画やwiki、公式サイトなどで前情報を入れていただくとより楽しめるかと思います。
・シリアスからほのぼの日常系、さらにはちょっとエッチな描写(R18にはなりません)があります。
・この二次創作は作者が「艦これ改を実際にプレイ」して、それを元に書いているため、史実とはほとんど関係ありません。
・一部、オリジナルの設定が入ります。
・本文の前に、その話に出てくる艦娘、レベルなどを書き込みます。
続いては主要登場人物紹介です。
浅宮提督(22歳/男)
横須賀攻略鎮守府にコネと経験で、少佐として着任した提督。本名浅宮弘也(あさみやこうや)。過去の関係から、嫁艦は金剛だが、複数の艦娘とケッコンカッコカリするジュウコンカッコカリを試験的に進めている。本人は満更でもないらしい。
朱星提督(28歳/男)
呉攻略鎮守府に着任した提督。階級は中佐。浅宮の先輩であり、命の恩人。嫁艦は叢雲でレベル150を目指し邁進中。本名朱星航(あけぼしわたる)。
鈴鹿提督(19歳/男)
トラック泊地に史上最年少で着任した提督。階級は少佐。浅宮を先輩と呼んで尊敬している。初期艦であり秘書艦である吹雪の事が好きで、レベル99になったら指輪を渡そうと密かに任務に励む日々。本名鈴鹿善成(すずかよしなり)
艦娘紹介()内は初登場から現在最新のレベルまでを指す。更新あり
金剛(Lv1~132)
浅宮提督の嫁艦であり提督LOVE。浅宮の初建造で出た艦娘であり、横須賀初期メンバーの1人。主兵装は35.6cm連装砲改四。
叢雲(Lv100~150)
朱星提督の嫁艦。ツンデレ可愛い。浅宮とも交流があり、よく飲みに行っては朱星の愚痴やノロケ話を聞かせる。主兵装は12.7cm連装高角砲(後期)改四。
吹雪(Lv1~87)
鈴鹿提督が好き。真面目で一途が故に想いがつたわらないことが多々あるが、それをバネに努力し、日本の現役駆逐艦で十指(ケッコン前の艦娘としては初)に入るほどの実力を持つ。主兵装は10cm連装高角砲改四。
電(Lv1~94)
浅宮提督の初期艦。浅宮からその被弾数の少なさから絶大な信用を受けている。最初はおどおどはわわしていたが、最近はしっかりしてくるようになった。横須賀初期メンバーの1人。主兵装は63cm四連装酸素魚雷改四。
川内(Lv1~80)
横須賀所属の夜戦ジャンキー。彼女が夜戦に出れば勝利確定と言われるほどの夜戦好き。横須賀初期メンバーの1人。主兵装は夜間偵察機。
利根(Lv1~117)
横須賀所属の索敵モンスター。被弾数は多めだが、火力と索敵を両立させ、活躍している。ちなみに穿いていない。横須賀初期メンバーの1人。主兵装は瑞雲(六三四空)。
夕立(Lv1~96)
横須賀所属の悪魔犬。ぽいぽい付いてくる可愛いやつだが、戦場では狂犬と化す。主兵装は12.7cm連装砲B型改二。
北上(Lv1~128)
北上様、スーパー北上様。重雷装巡洋艦最強。四十門は伊達じゃない。主兵装は63cm五連装酸素魚雷。
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終話~金剛、回想す~
この話の登場人物
金剛(Lv150)
比叡(Lv118)
榛名(Lv129)
霧島(Lv121)
浅宮提督
横須賀攻略鎮守府。数年前深海棲艦の大侵攻により壊滅したその土地に建てられた本土最前線であり、日本艦隊の主力が集まった、いや、集まっていた。
今や深海棲艦はほとんど駆逐され、一部の深海棲艦とは和解したり、降伏を受け入れたりしている。ここだけでなく、各地の鎮守府でも艦隊解散の動きが進んでいる。
かつてこの鎮守府で、旗艦として第一線で戦っていた戦艦金剛、今となっては元金剛も大きめのキャリーバッグを引いて海を眺めていた。
「ようやく、ようやくデース。この海にも平和が戻りましたネ。でも、少し寂しい気もしマース」
「お姉さまー!」
「おおう?この声は……」
手を振りながらこちらへ駆けてくる艦娘。金剛から受け継いだ主兵装、35.6cm連装砲改四を構えた艤装をつけ走ってくるは、戦艦比叡。金剛の妹艦である。
「比叡。見送りに来てくれたんデスか?」
「はい!お姉さまの門出とあらば、私はすぐに駆けつけます!」
「比叡は……ここに残りマスか?」
「……はい。私は横須賀に残って近海に出没する深海棲艦の掃討に向かいます。お姉さまは、もう艤装解体したんですね」
比叡の言葉に金剛は穏やかに頷く。艤装を解体すれば、軍属ではなくなり、相応の理由がない限りもう鎮守府に来ることは出来ないのだ。
「またすぐに会えマスよ。なんたって、ワタシはテートクの妻なんデスから」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
「榛名と霧島はどうするんデスか?」
榛名と霧島も金剛の妹艦であり、比叡を含めて四人で金剛四姉妹と呼ばれることが多い。
「榛名と霧島は……っと、噂をすれば、ですね」
「「金剛お姉さま!」」
榛名は比叡と同じく艤装をつけているが、霧島は金剛と同じく私服姿でキャリーバッグを引いている。
「榛名と霧島はこの後どうしマスか?」
「榛名は、AL海域に行きます。反攻作戦が起こるとしたら、ALか西方か、ですから」
「私は、艤装を解体してきました。これから士官学校へ行って、提督を目指そうかと」
「榛名と霧島とは長い別れになりそうですデスネ……」
士官学校は通常4年で卒業、ALの掃討作戦もいつ終わるかは分からない。艦娘ではない金剛四姉妹が揃うのはまだまだ先になりそうだ。
この他にも横須賀攻略鎮守府に所属していたメンバーのほとんどが艤装を解体して、普通の生活に戻っている。
「そう言えば、提督も……」
「そうネ。提督もあと何年かで辞めるそうデース。そうなったら、みんなとは会えなくなりそうデスネ……」
寂しそうな表情をする金剛。
「大丈夫です!何があっても、必ず私はお姉さまの元へ会いに行きます!だって、私はお姉さまの妹ですから!」
「例え、離れ離れになる時間が長くても、榛名は大丈夫です!」
「私も、出来るだけ早く士官になって鎮守府に戻って来ます。そのための準備は怠りません。備えあれば憂いなしですね」
「比叡……榛名……霧島……みんな、みんな大好きデースッ!」
ギューッと力一杯妹たちを抱きしめる金剛。どれほどそうしていたかは分からないが、やがて離れて、
「それでは私は出撃の時間なので、ここでお別れです。絶対に私は沈みませんからね!気合い!入れて!行きます!」
猛然とダッシュしていく比叡の視線の先には艤装を解体せず、鎮守府に残ることを決意した仲間達がいた。
「……それでは榛名も、行きますね。また会いましょう、お姉さま!」
涙でぐちゃぐちゃになった表情を無理に笑わせて立ち去る榛名。もう1度会う、その決意をもって榛名は1度も振り返ることは無かった。
「じゃあ、私も。そろそろ迎えの車が来るので」
「いってらっしゃいデース。霧島」
「金剛お姉さまも、お幸せに」
立ち去る霧島を見送りながら、金剛は左手を上げる。その薬指には、二つの指輪。一つは、ケッコンカッコカリ、そして、もう一つは━━━
「金剛!すまない遅れた!」
「もう!テートク遅いデース!まあ、最後にお別れ出来たのでそれは良かったデスけど」
金剛が振り返ると白い軍服に、海軍士官として異質な日本刀を携えた、金剛の元提督である浅宮弘也がそこに居た。先日、婚姻届を金剛と共に提出して、本当の夫婦となった男。
「そうか。もう金剛じゃないんだな。なら、俺もテートクじゃなくて名前で呼んでくれよ」
「それもそうデスネ。なら……浅宮サン」
「お前も同じ苗字になるだけどな」
「そ、そうデシター!」
仕切り直し。だが、よくよく考えてみると、今までテートクとばかり呼んでいた為か、いざ名前を言うとなると気恥しい。
「じゃ、じゃあ、エート……こ、弘也、サン……」
顔を真っ赤に、視線を泳がせながら自分の名前を呼ばれた浅宮は、その場で硬直した。
(うちの嫁、可愛すぎるッ!?)
その後も金剛がテレテレして、浅宮が硬直するを繰り返した為、しばらく話が前に進まない。
「……とりあえず、帰るか」
「エ?お仕事はどうするんデスか?」
「終わらせてきた」
「さ、流石デース」
相変わらず仕事の出来る浅宮に畏敬の念を抱く金剛。
「そう言えば、他のみんな……特に初期メンバーはどうしてマスか?」
「ああ。確か初期メンバーで現役続行は川内と比叡と利根だな。他の……電、夕立なんかは艤装解体して普通の生活に戻ってるよ」
川内は榛名と共にAL方面へ出発。過去の因縁に決着をつけておきたいのだろうか。そんな考えが浅宮によぎった。利根は大本営が編成中の残党殲滅空母機動部隊に組み込まれる予定。比叡は先ほど聞いてのとおりだ。
電は艤装解体後、養子に入って中学に進学し、現在は普通の生活を送っている。
夕立は各鎮守府から異動の誘いが来たがそれを断って時雨と共に暮らしているという。
「雪風は中国に支援に行って、ヴェールヌイ……響はロシアへ。海外艦もほとんどが帰国して復興支援に当たっているらしい」
「そうなんデースか。ワタシも艤装解体して普通の女の子になれたんデスネー。やっと本当のワタシになれた気がしマース」
「少なくとも、艦娘として建造された時点で普通じゃないけどな」
艦娘は主に死体から建造される。その際、体の構成物質に燃料や鋼材などの資材が入る為か、普通の人間よりも老いにくく、死ににくい体になっているのだ。
「それは弘也サンも同じデース」
「そうだな」
浅宮も死んでこそいないものの、艦娘と似たような物質構成になる施術を受けているので、やはり、老いにくく、死ににくい体なのだ。
「弘也サンと長く一緒にいれるのは嬉しいデスが、やっぱり、子供が出来ないのは少し残念デース」
「まあな。だが、普通に子供を作れるようになる技術が大本営の方で発表されたんだと。開発者はまあ、予想は出来ると思うが、ウチの明石だ」
「まあ、今現役の提督はほとんどが弘也サンみたいな体デスカラネー」
かつて艦娘が前線に立つ前、浅宮の他に総合で1000人近くいた海岸防衛部隊。今となっては訓練生も含め生き残りは僅か14人。その多くが退役していた人だが、現役で生き残った浅宮を含めた数人は深海棲艦の事をよく知っているとして士官学校に行かせられ、低い階級で提督になった。
「でも、その技術を使っても、生まれてくる子はワタシ達と同じような体なんデスよね。そう考えると……」
「とりあえず戦争は終わってるんだし、駆り出されるようなことは早々ないだろ。それに、子供の事はゆっくり考えよう。焦ることは無いさ」
「弘也サン……」
浅宮を見つめる金剛に笑いかけてから浅宮は空を見上げる。
「あれから、2年か」
「そうデスネ。弘也サンが鎮守府に着任してから、2年デース」
「今となっては全部、昨日のことのように思い出せるよ。全部、な」
2人が見上げる空はどこまでも青く澄みきっていた。
快晴。瑞雲が飛んでいる。
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壱話~浅宮少佐、着任~
電Lv1
某年、12月8日。
陸海軍合同海岸防衛特殊部隊所属、一尉浅宮弘也を海軍少佐に昇格し、新設された横須賀攻略鎮守府の司令官に任命す。ついては━━━━
「来てみたはいい、酷い有様だな。たかが6年じゃ完全に、とはいかないもんだな」
横須賀の海岸には既に堤防や港など必要設備は整っているらしいのだが、内陸のこの有様を見ると、若干不安になってくる。
この街は6年前、5日間に渡る、後に「横須賀大侵攻」と呼ばれる深海棲艦の大侵攻の戦場だった場所。浅宮もその戦闘に参加し、多く戦果を上げて多くの仲間を失った。その戦闘を経験した者も今となっては数人しか生き残っていない。
「あら、随分と遅い到着じゃない。久しぶりのお墓参りに感慨深くなってるのかしら?」
「やめてくださいよ。こんな所で墓参りしてたらキリがないです。迎えは叢雲さんだけですか?」
キョロキョロ辺りを見回す浅宮に艤装を付けてない制服状態の叢雲は苦笑する。
「こんな時までアイツの事なのね。……全く、あんなのの何処がいいんだか」
「ケッコンしてる叢雲さんがそれ言いますか?」
「……ッ、冗談よ。アイツのいい所は私が一番よく分かって……る、つもり……」
言ってる途中で恥ずかしくなったのか、真っ赤になりながら俯く叢雲。
「絶ッ対に、アイツには言わないでね!?」
「わかってますって言いませんよ。それで、鎮守府へ向かうんですよね。もう人員は揃ってますか?」
「ええ。初期艦、工蔽班、事務班に初期設備。とりあえず鎮守府運営に支障は出ないはずよ」
叢雲に渡された資料を浅宮は捲った。中には、鎮守府の見取り図、設備や周辺地理が記されており、浅宮は数回見た後に資料を閉じてバッグに直す。
「もう質問はない?じゃあ、行くわよ。車に乗り込みなさい」
ジープの後部座席に乗り込み、叢雲が隣に乗る。程なくしてジープは出発し、整備された場所と荒地とを交互に走り始める。
「航さんは……やっぱり忙しいですか?」
「今まで唯一の攻略鎮守府である呉でずっと前線にいたのよ。貴方が緩和してくれると信じてるわ」
朱星航。呉攻略鎮守府の司令官であり、浅宮の先輩。叢雲が言う「アイツ」で、会話から分かる通り叢雲とケッコンカッコカリをしている。ちなみに叢雲と浅宮は面識があり、浅宮の士官学校時代に何度か顔を併せて意気投合し、飲みに行く仲。ちなみに仲良くなってから朱星の部下であることを知ったらしい。
「叢雲さん今レベルは?」
「……102」
「愛されてますねぇ~」
「からかわないで」
ぷい、と顔を背ける叢雲を見て、朱星が叢雲に惚れた理由がわかる気がした浅宮だった。
「着いたわ。ここが横須賀攻略鎮守府よ」
「……おおー」
予想していたのとは違い、しっかりした設備と、レンガ造りの建物があった。コンクリートを敷いただけの更地もあるが、造設予定地だろう。
「それじゃあ、私は大本営に報告をしてくるわ。今日はこっちに泊まるから夜は鳳翔さんとこね。すっぽかしたら雷撃するわよ」
酒を煽る動作をしてからジープに乗り込み、去っていく叢雲を見送りつつ、改めて鎮守府を見回す。
「とりあえず執務室にみんな待ってるらしいから行くか……あれ?どこだったかな」
資料を見直し、執務室の位置を確認して、歩き出す。執務室はレンガ造りの建物の、3階にあった。
「今日から俺も提督……ねえ。実感湧かないな」
いや、いつも通りだ。刀をペンに持ち替えただけで戦うことは同じだ。と思い直し、ドアノブを捻る。
「はわわわわわっ!?」
「へっ?」
かくして、浅宮提督の着任初日は小、中学生位の女の子にバケツの水(使用済み雑巾入り)をぶっかけられる所から始まるのだった。
「………」
「ご、ごめんなさいなのです~!!」
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弐話~着任、建造、再会~
明石Lv1
金剛Lv1
「本当にっ、ごめんなさいなのです~!」
「気にするな。着替え程度持ってきてる……って、大丈夫かおい」
目の前でヘッドバンギングのように頭を上げ下げして謝る少女は電。やりすぎてだんだん血色がおかしくなってきているので浅宮は慌てて止める。
「と、とりあえず自己紹介ですね。私は工作艦明石。工敝班所属です。事務班には軽巡洋艦の大淀がいますけど、基本的に大本営所属で、繁忙期などにこちらに配属される形です」
「わ、私は駆逐艦電なのです。司令官さん、どうぞよろしくお願いします、なのです」
「浅宮弘也だ。階級は少佐。今日からこの鎮守府で指揮を執る。よろしく」
以上4名で横須賀攻略鎮守府全員である。
「とりあえず、人員不足が顕著過ぎるな」
明石と電を眺めつつ浅宮が零した。続いて「なのです」と電が苦笑いする。
「あ、それなら建造ですね」
「まあ、そうなるな。とりあえず荷物整理したら工敝ドックへ行くわ」
明石は「分かりました、準備をしておくので工敝ドックまで来てくださいね」と残して部屋を出る。
「司令官さん、お手伝いするのです」
「おお、ありがとな」
キャリーバッグを開けててきぱきと荷物の仕分けをする電。まだ来たばかりでここの内装やインテリアに明るくない浅宮は特に見られて困るものも無いため自分に出来ることをやる。
ふと気づくと、電が物珍しそうに呆けた顔でこちらを見ている。
「司令官さん、その腰のは……」
「やっぱり海軍士官が日本刀を差してるのは珍しいのか?」
「はい。海軍士官は基本的にマントに短刀ですから」
「ま、これから使うこともないだろうし、形見みたいなもんだな、これは」
浅宮は刀を外し、持ってきた刀立てを組み立てて、刀をそこに置く。
海軍士官の基本的な服装は白の軍服に短刀を所持したもの。若い士官の間ではマントを羽織るのが流行らしいが、浅宮はそういうことには疎いのだった。
「とりあえず、執務室に置いておく物は整理したのです。後は自室や司令仮眠室に」
「ありがとな」
ぽふぽふと電の頭を撫でる。直後は「はわわわっ」と驚いた電だったが、そのうち目を細めてされるがままになる。
(可愛いなおい)
心の中に感想を閉まって、「明石をあんまり待たせるのも行けないし、工敝に行くか」と執務室から出た。電もそれに続く。
レンガ造りの建物から徒歩数十秒。工敝ドックに到着した。コンクリート製&トタン屋根で如何にも重工業、という感じが醸し出されていた。
中には艤装を作成する作業台や、諸々の機械、そして完成した艤装を組み立てたりテストしたりする鎖が垂れ下がった区画や、建造の為のスペースなどがあった。
「えっと、艦娘が死体から建造される事は知っていますよね?」
寝袋らしきもので全身を包まれた何かを見て明石が言う。
艦娘は死亡した小学生~20代の女性を元に建造される。理由など士官の下っ端である浅宮は知る由もないが、戦場で嫌というほど死んだ仲間を見てきた浅宮にとっては日常そのものだった。
ちなみに、艦娘は死亡時の年齢に関わらず、成年扱いとされる。浅宮も叢雲と会った当初、酒飲める年齢なのか?と疑っていた時期がある。
「確か、これ相当揉めたんだっけな」
「ええ、主に人権問題で。でも、そんな悠長にしてたら日本が滅ぶって上の英断で艦娘が造られました」
現在工敝ドックがあるのは日本では呉、舞鶴、佐世保、そして横須賀など限られた地域のみ。泊地に工敝ドックを建てようという意見もあったようだが、今のところそれは行われていない。
「とりあえず、建造の準備は出来ているのでそこのパネルで投入資材を選択して建造開始すれば後は待つだけですね」
「そうか。なら……」
迷いなくパネルを操作し、建造開始のボタンをタップする。
「資材はどのくらい入れたのです?」
「ほれ」
電に着脱式のパネルを見せた。内容は燃料400、鋼材600、弾薬100、ボーキサイト30。つまりは戦艦が出やすいレシピである。
「はわわっ!?」
「最初から戦艦レシピを回すなんて……」
明石がそう零すのも無理はない。そもそも、資材が3000ずつしか備蓄されていない稼働初期の鎮守府で戦艦レシピを回すなど自殺行為に等しいのだ。
さらに、確実に戦艦が出る訳では無い。重巡などが出ることもあり、戦艦を狙うのはハイリスクなのだ。
(作者注※決して、重巡がハズレという訳では無いのだが、戦艦レシピを回して戦艦が出なかった時の精神的、資材的ダメージは言葉では言い表せない程でかい。主に資材的ダメージ)
「建造が開始したらパネルに時間が表示されます。艦種や艦娘によって時間が変動するのでここである程度の予想が建てられますね」
「ええっと、待ち時間は……あっ」
「ん?どうした?」
固まった電を見て浅宮も少なからず不安になる。平然と大胆な行動に出た浅宮だったが、やはり不安はあるのだ。電に続き明石も
「むむむ……提督さん運がいいですね。この待ち時間……確実に戦艦が出ますよ」
「本当か、すげえな」
「すごいのです……」
ほわー、とした顔でパネルを見つめる2人をよそに浅宮は消火器のような何か(高速建造剤)を取り出す。それを見て明石は首を横にひねる。
「……あれ?高速建造剤は私が管理してたはずですけど……」
「あー、大丈夫大丈夫。これ大本営の備蓄庫からくすねてきたやつだから」
平然と言い放つ浅宮だが、現場の空気は凍りつく。
「………イヤイヤイヤ、何やってんですか!?」
「どっ、ドロボウ、泥棒がここにいるのですっ!?」
「なんだよ人聞き悪いな。大丈夫だって。横須賀大侵攻の時、上のヤツらに一生かかっても返せないような借りを作っといたからさ。ちょっと頼み込んだら直ぐに渡してくれたぜ?」
「きょ、恐喝なのです……」
「さて、艦娘とご対面だな」
まだ人聞きの悪いことを言っている電を華麗にスルーし、高速建造剤をその寝袋らしきものにぶっかける。
「……やってから言うのもアレだがこの方法であってるよな?」
「……一応」
「なら良かった。これであいつらにもう1本頼むこともない訳だ」
「失敗してたらまだやってたのです!?」
パネルの残り時間がみるみる減少し、遂に0になる。が、未だに寝袋らしきものに動きはない。
「これって自分で開けて出てくるのか?」
「その筈ですが……」
その時、ジーッとチャックの開く音が静かな工撇へ響く。そして、全里のわずか3分の1程度の所で、
「引っかかってますね」
「引っかかってるな」
「引っかかってるのです」
寝袋らしきものの中からは「あ、あれ?急に開かなく……」などと随分と不安な言葉が発せられている。が、しばらくしてそれが完全に開き、人影が立ち上がる。
「………」
「司令官さん?どうしたのです?」
「……お前……金剛か?」
くるりと振り向いたその人影。特殊な髪型に随分と露出の多いハッピのようにも見える和装。浅宮の記憶に未だ残る巡洋戦艦金剛型一番艦、金剛の姿だった。
金剛と呼ばれた彼女は向日葵の様な大輪の笑顔を咲かせる。
「私の名前……知っているんデスカ?……ふふっ、テートクぅー!」
「……えっ?」
かくして、浅宮の初建造は戦艦金剛の建造、そして、その金剛からボディプレスかと思う程のジャンピングホールドをくらい、顔をそのたわわな胸に埋め尽くされながらコンクリートの床に後頭部を強かに打ち付け、気絶するという幕引きとなった。
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参話~第一次戦力増強建造~
金剛Lv10
明石Lv1
大淀Lv1
川内Lv1
北上Lv1
利根Lv1
浅宮が横須賀攻略鎮守府へ着任してから早くも1週間。現在は鎮守府をこれから動かしていくための事務作業に追われている。
ちなみに、初日はあの後叢雲の待つ居酒屋「鳳翔」で酔いつぶれるまで惚気話を聞かされたらしい。翌日二日酔いモードで呉へ帰った叢雲の顔は写真に撮りたかった程面白かった。
「提督、失礼します」
「ん」
ドアを開けて入ってきたのは大本営所属で、繁忙期のみここへ派遣される軽巡洋艦大淀。手に書類を持っている辺り、大本営からの司令書あたりだろう。
「その書類は?」
「一昨日通達があった『第1次戦力増強建造』の計画書です。軽巡洋艦又は高性能駆逐艦、そして重巡洋艦の3隻の建造計画ですね」
「了解。じゃあ電が戻ってきたら工蔽へ向かうか」
執務室でしばらく事務をしていると、遠慮がちなノック。
「入っていいぞ」
「失礼します、なのです。演習、終わりました」
「金剛は?」
「工蔽で艤装の調整中なのです」
「丁度いいな。電、工蔽へ行くぞ。大淀、戻るまで頼む」
「いえ、構いませんよ」
工蔽へ辿り着くと、既に明石が建造の準備をしていた。
「資材の投入量はどうしますか?」
「燃料250、鋼材200、弾薬30、ボーキサイト30で2回、その後鋼材を250に、弾薬を100にして1回だ」
「はいはーい、分かりましたよっ、と」
パネルを操作すると、天井から吊るされたクレーンで資材が次々と投入されていく。投入が終わると、パネルに残り時間が表示された。
「とりあえずはこれで2回分ですね」
「時間的にはどちらも軽巡でしょうか」
「待てばわかるさ」
しばらく暇な時間を過ごす為、電から演習の報告を受ける。
「という訳で、練度は10になったのです」
「と、なると改装まで後10レベルか」
「なのです」
「ヘーイテートクぅー!調整終わったネー」
「おう、どんな感じだ?」
「Nn~、特に問題はナイヨ。ケド、対空値がまだ微妙ネー」
「まだ練度が低いからな。対空機銃の装備カードを増やすか?スロットは余ってるだろ?」
「出来れば三式弾がいいデース」
「オーケー。後でレシピ調べとく。電は?その装甲板の使い心地とか」
「良好なのです。上手く使えば砲弾の衝撃を軽減できるのは良いですね」
基本的に艦娘は艤装と呼ばれる武器兼移動手段を用いて戦う。基本的には艤装以上の性能を出すことは出来ないのだが、艤装には決められた数のスロットが存在し、それに資材を使用した開発で作成した装備カードを入れることによって、艤装の性能を上げることが出来るのだ。
カードとカードや、艤装とカードの組み合わせによって様々な恩恵が得られるのだが、稼働初期にして資材不足の横須賀攻略鎮守府にはまだ先の話。
「あ、司令官さん、もうすぐ建造が終わるのです」
「お、そうだな。さて、誰が出てくるかな……」
「ああっ、提督そんなに近づいては危な━━」
「夜戦ッ!!」
勢いよくチャックを開け(破壊し)て、飛び出してきた頭が浅宮のアゴにクリティカルヒット。
「ぐッ!?」
「テートクぅー!?」
倒れる浅宮と飛びだして来た艦娘。電と明石はどちらに目を向けるべきか迷ってとりあえず新しい艦娘に目を向けた。
「夜戦!夜戦しよう!」
「あのぅ……貴方が川内さん、なのですか?」
川内、と呼ばれたその艦娘は電をゆっくりと見下ろす。そして、ニコッと笑ってから、
「おっと、自己紹介がまだだったね。私は軽巡洋艦川内型一番艦、川内!得意なことは、夜戦ですっ!」
「夜戦しよう!」というオーラを全身から放ちながらキョロキョロと辺りを見回す。
「ねぇ川内、多分貴方が探しているのは下で伸びてるわよ……」
「んん?あっ、提督だ!ねぇ、夜戦しようよ、夜戦!」
「ううん……」
がくんがくんと襟を掴まれ振り回され、浅宮は2度目の気絶をした。
ちなみに、今回の建造で出たのは
軽巡洋艦川内型一番艦川内
軽巡洋艦球磨型三番艦北上
重巡洋艦利根型一番艦利根
だった。
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