ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか (よづき)
しおりを挟む

No1

はじめまして。
処女作ですので温かく見てやってください。

W主人公スタイルをとっていきますが、基本男主目線の女主目立ちです。


文章をねり込めてはいませんが、アポロン編までの流れとオチは出来ております。


 慈悲深き女神から成る【ヘスティア・ファミリア】の団員でレベルは6の冒険者。アルト・バインは戦い方を教わったことがないという団長ベル・クラネルの現状を知るべく、相棒のノエルとベルとともにダンジョンの上層に来ていた。

 

だがどうしてこうなった。

 

ベルへある程度の基礎を叩きこんで傍観を決め込んでいるとミノタウロスに襲われており、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインとノエルに助けられ逃走。もう一人の同僚、ノエルは剣姫につかまり見つめあって硬直。

 

急に背後から殺気立った蹴りが飛んできた。反撃か、回避。

少しだけ迷ったが、この状況で戦っても負けは見えているので避けることに専念した。俺の黒く長い癖のある前髪を2,3本持って行った蹴りは、空を切り、蹴った本人____【凶狼】ベート・ローガへと戻る。

 

どうやら【ロキ・ファミリア】の遠征帰りに遭遇したようで。

 

「何してくれてんの?」

「うっせぇ、雑魚はだまってろ」

「先に仕掛けてきたのは君だよね」

「まじでうぜぇな。なんでテメェが品行方正で通ってんだか」

 

まさに一触即発。ベートとサシであれば普段は応戦するところではあるが、向こうの幹部がそろっている状況ではどう考えても分が悪い。相棒であるノエルに目線を送ってみると反応を示してくれた。白金色の髪を揺らしながら美しい声音で俺の名を口にする。

「アルト、任せた」

 

そう言って剣姫を振り払ったノエルは、一緒に逃げるのかと思いや俺を盾にして逃走した。同時にベルも脱兎のごとく出口へ走り出す。え、まって。剣姫もベートも、後ろにいる方々もあなたを見つめていますがノエルさん。

 

「久々じゃねぇか。今あの女とどういう関係だ?」

 

案の定、銀の狼は俺の胸ぐらを掴み逃がすまいと壁に押し付けた。

【ロキ・ファミリア】の首脳陣でも特に剣姫と凶狼の反応は最悪。どうして俺だけ残していったんだ。

 

「同じファミリアの同胞だ。何か問題でも?」

 

ベート一人に向けてではなく、【ロキ・ファミリア】全体に聞こえるように大声で言う。少し芝居がかってるが、そうでもなきゃこの第1級冒険者達を前にやってられるか。レベルに差がないとはいえ、向こうは首脳陣勢揃い。

ノエルが逃げたということは、あまり話したくはないタイミングなのだろう。俺が適当に話をつけて終わらせるべきだ。彼女に1つ貸しができるのも素晴らしい。

 

「・・・ファミリアに、入っているの?」

 

心底意外そうな顔で剣姫は問うてきたが、2度言うことでもないので笑顔で流す。俺が質問に答えようとしていないことが伝わったのだろう、剣姫はうつむいたままで顔を上げることもなくなった。相変わらず能面のような顔は、彼女のそれと被る。

 

いつの間にかこんな面倒くさいことに…。ベルもノエルも逃げるし、【ロキ・ファミリア】には絡まれるし。

辛気臭い雰囲気の中、ベートの腕を振り払い堂々とその場の真ん中を歩き抜け出した。

 

 

-----------------------

 

 

オラリオの一角、教会の隠し部屋の扉を開けるとファミリアの仲間である3人が一斉に俺に振り向いた。

「ただいま」

「アルトさん!お、おかえりなさいっ!?」

 

俺を放置し逃げ帰ってしまったことを申し訳なく思っているのか、それとも怒られると思っているのか。ベルは縮こまっていた。ちょこんとソファーの前で正座で。可愛い。

 

「ベル、気にしなくていいぞ。まずあの階層でミノタウロスに遭遇すること自体が驚きだったな」

 

まだ浅い階層だからと俺もノエルも油断していた。本来ならミノタウロスごときをベルに近づけずに済んだはずだ。

くしゃくしゃとベル頭をなでながら俺はヘスティアに話しかける。

 

「ヘスティア。今日の更新は二人とも終わらせたのか?」

「いや、まだだよ。ベルくんが君を待つときかなくてね」

「そんなのよかったのに。ほら、更新してこい」

 

俺やノエルは今日は何もしていないし、ステイタスも上がっていないだろうから伸びの早いベルからするべきだ。ベルを送り出すと申し訳なさそうながら、それでも数字に表れる成長を嬉しそうに見つめていた。

 

「・・・!」

 

特に会話もないまま更新が終わったが、ヘスティアの動揺した様子を俺は見逃さなかった。神様とは思えないほど抜けてるんだよなあ。俺が知ってる神はもっと、掴ませてくれないというか。その分ヘスティアのほうが読みづらい時もあるけれど。案の定、ヘスティアはわざとらしくベルに話題を振る。

 

「ベルくん、今日死にかけたというのは?」

 

そこで【剣姫】の話に移ったが、どうにもベルは剣姫に恋に落ちたらしい。

ヘスティアの気持ちに微塵も気づいていないベルは嬉しそうだが、ヘスティアは見たことなような顔をしていた。

基本無表情を貫くノエルも、今回ばかりはヘスティアに同情の顔。そりゃそうだ、あんなにわかりやすくベルに好意を示しているというのに。

「腹減った、今日はベルが用意してくれるんだったよな」

「は、はいっ!今すぐ用意しますッ!?」

不穏な空気をベルに察せられる前に話を切り上げ、ベルがご飯を作ってくれるようなのでヘスティアをとっ捕まえて座らせる。

 

「ヘスティア」

「なっ、なんだい!?」

「隠し事、しようとしてるな?ノエルは神聖文字読めるぞ」

 

ベルのステイタス____覗くぞ。女で、美人で、ベルがあこがれるノエルがベルの背中を見るんだぞ。ヘスティアのいないところで。そう脅すとどんな妄想をしたのか青い顔であっさりと白状した。

 

 

「・・・レアスキルだよ。【憧憬一途】。想いの丈により効果上昇。早熟する」

 

やっとヘスティアの不貞腐れた理由を理解した。ベルの一目惚れは小さなものではなく、スキルに出現するほどの大きな想いだとヘスティアは否が応でも悟ってしまったのだ。

 

「あー。それは…ベルには黙っていよう」

 

素直なことはいいことだ。ただベルは他人に秘密を隠すのが下手なのだ。ベル自身の秘密をベルに伝えないことがいい事もある。

 

「ノエルに傾いているんだと思ったら、剣姫ねぇ。俺の中での剣姫がでノエルにかぶることがあるんだけど。お前と剣姫ってやたらと似てないか?」

今日逃げられた恨みもこめて、横目でノエルを見る。

 

「アイズには、私が剣を教えた。それに、アイズには風があるから」

「あー…。風ねぇ。普通に忘れてたな。それにしても、ヘスティアに会うまでのお前は荒れてたから師範してたのは意外だな」

 

その言葉に反応したのはノエルではなく、ヘスティアだった。

 

「そうなのかい?君たちはとてもいい子だから意外だよ。でもまあ、ランクアップの経緯を考えると荒れていたのも納得だ。でも約束してくれ。無茶はしないでくれよ、大事な子供たちなんだ」

 

かわいく、それでいてきれいに笑うヘスティアに俺もノエルも頷いていた。

 

「それで、キミたちはステイタスの更新をするかい?」

「んー、俺は今日何もしてないから、いいや」

「ん、私も」

「そうかい。…キミたちは、どうしてボクのファミリアにーーーー…」

 

ヘスティアが何かを言いかけたところでベルが戻ってきた。どうやら夕飯の支度ができたらしい。ヘスティアも興ざめしたのか、ベルに聞かせたくないのか、それ以上は何も言わずベルに駆け寄った。

 

「…そりゃあ、気になるよな」

「アルト、ヘスティア様にはいつか言わなきゃ、」

「うん、まあでもそれは俺が決める」

 

 

それが俺の役割だから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No2

 

 

 

早朝から俺とノエルはギルドに訪れていた。どんな要件であろうと交渉役は俺。ノエルの無口さは口下手というわけではなく、人との壁であり仲のいい人を作らないようにするためであることは俺も知っているので何も言わない。

 

「再登録とランクアップ申請をお願いしたい」

「あら、アルトさん!?お久しぶりですね。3年ぶりですか?再登録と、ランクアップですね」

「ああ。この後潜りたいから急いでくれると助かる」

「かしこまりました。ファミリアはどちらに?」

「【ヘスティア・ファミリア】」

 

言った途端受付嬢の動きが止まった。

 

「!? え、はい、【ヘスティア・ファミリア】ですね…」

 

なぜ無名のファミリアに?といった思いが透けて見える。

昔からずっとお世話になっていたギルド嬢に伝えたが、思ったより進まない。まあ再登録もランクアップも同時は珍しいだろうし。俺は急いじゃいないが隣のお方はうずうずしてる。戦闘狂め。

 

「では、今はLv4の申請でよろしいですか?」

「いいや、6だ。ノエルもだよ」

「Lv6!? たった三年で何が…!」

「まあまあ」

 

なかなか進まない会話にとうとうノエルは飽きてしまったらしく、ギルド嬢に「はやくして」と目線を送った。

むかしはこのギルド嬢も気が弱く、深いところまでつついてこないから担当としてはよかったんだけど。

 

「も、もうしわけございません・・・」

「ああ、うん・・」

 

申し訳なく思いつつもギルド嬢の機嫌とノエルの機嫌を天秤で測ったらノエルのほうに傾くのは必然。

 

「お急ぎのようですので、ランクアップ経緯について後日詳細な話をおきかせ願います。こちらの用紙はランクアップ申請書とファミリア申請書になります、サインをお願いします」

「じゃあ、俺とノエルの申請よろしく~」

 

差し出された用紙にアルト・バインとノエルをなぐりがき。それ以上詮索されても困るので逃げるようにダンジョンに向かった。

 

 

現在ダンジョン中層。

 

俺もノエルも、各ファミリアにいた頃の貯金が貯まっていたので【ヘファイストス・ファミリア】の防具を1式揃えた。

 

俺は黒いロングコートに細身の黒いパンツ、黒く鈍く光る大鎌の上から銀の防具を重ねている。ウェーブのかかった漆黒の髪も相まってプレート以外真っ黒だ。

 

ノエルは動きやすさ重視のためプレートは最小限。関節などにも一切つけず、胸のあたりに一枚挟むのみ。邪魔だと無造作に結い上げられたポニーテールにショートパンツはベートの性癖に刺さりそうだと斜めから見ている。

 

三年前の俺たちを知らないやつらからすると、いきなり階層を飛ばしてぐんぐん降りていく高級装備を身にまとった新人にみえても仕方がない。死に急ぎ野郎ども、や身の程知らずの声も聞こえてくる。目まぐるしく動くオラリオで3年は大きいか。

 

加えてノエルはきらめく白金色髪美人。目立たないわけがない。

 

「ノエルといると目立つな…」

「アルトに言われたくない。充分君も目を引いてるよ」

「俺の顔がかっこいいって?」

 

にっこり笑って振り向くと苦虫を噛み潰したような顔をするノエルがいた。

 

「・・・・・」

 

見つめ合うこと3秒。

 

「冗談も大概にしといたほうがいいよ」

「・・・いえっさー。だからその刀身をしまってくれないかな?」

 

俺の首には輝く刀身。俺の冗談にはなかなか付き合ってくれない相棒である。

 

 

 

俺が30階層で立ち止まると当然のように止まるノエル。

二人でならきっともっと深くまで行けるであろうが、まずは体をレベルに釣り合わせることが先だ。

 

【ヘスティア・ファミリア】にコンバートしたと同時にレベルが上がり、現時点はLv6だ。感覚がなじんでいない。ひとまずここは体ならしだ。

 

「ノエル、勝負しよう。魔石買取の金額が高かったほうの勝ちだ」

「いいよ。まけてご飯1回奢ってね」

「いやまけないが!?」

 

俺が噛みついている間にノエルはさっさとモンスターを屠り始めた。

ええ、ずるくないか。

だが時間について何も言わなかったのも俺なので仕方なく今から本気出すぞ、と鎌を眺めに構えた。

 

 

 

 

 

 

 

2時間後、ノエルが見当たらないので探してみると2階層下、32層でみつけた。

「なんで下に行ってるんだ」

「あ・・・。ごめん。物足りなくなって、つい」

「ルール違反でお前の負けだな。よし、ホームへ帰るぞ」

 

申し訳なさそうな顔をしているのでお説教はいらないだろう。

ノエルは双剣をしまうと魔石の入ったバックパックを持ち上げようとしたので預かる。本気で戦えば腕力は彼女の方が僅差で強いであろうが、一応男の身だ。

 

ベルはどうしているだろう、なんてのんきなことを考えながら戻った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No3

 

 

 「ヘスティア?」

 

狩りを終えてホームに帰ってきたら、丁度ベルのステイタス更新中だった。

ベルのステイタスを更新するとき、いつもヘスティアは嬉しそうにするのに今日はかなり不機嫌そうなのだ。

ベルも困惑顔で、俺もヘスティアを見つめていたら「アルト。ベルのステイタスが大幅に上がってる。レアスキルの効果」とこっそり俺だけに聞こえるようノエルが教えてくれた。今の一瞬で神聖文字を読んだらしい。

 

「あー・・・」と俺。

「神様・・・?」とベル。

 

こういう時男の立場は無いんだぜ、ベル。

俺がため息をつくと同時にヘスティアがやっと口を開いた。

 

 「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる。君もたまには三人で羽を伸ばして豪華な食事でもしてくればいいさっ」

 

ばたばたと音を鳴らしながら負け惜しみのようにセリフを吐き捨てて出て行った。

ベルにはまるで訳が分からないであろうが、完全に自業自得。他から見るとヘスティアがあんまりだ。

 

「ベル、ご飯どうするの?」

「あ、あのっ、今日は豊穣の女主人に行く予定でっ!?」

そしてノエルにもこの様子である。ヘスティアがいたたまれない。

 

「ああ、あそこか。料理おいしいよな。三人で行くか」

そしてそんな様子を楽しんでいる俺はベルに何も教えないのである。

 

 

まだ土地勘のないベルを連れ、同じようなカフェテラスが並ぶ通りにやってきた。その中でもあたりで一番大きな酒場、『豊穣の女主人』にはいる。

ここって店員が美人ぞろいなんだよなぁ。なんて考えていたらすかさずノエルに足を踏まれた。なぜバレたし。

 

「ベルさんっ」

 

その中のヒューマンのかわい子ちゃん、シルちゃんがベルのもとへやってきた。相変わらず足音しがしない子だ。

 

「・・・やってきました」

「はい、いらっしゃいませ。あら?お連れ様・・・お久しぶりですね、アルトさんにノエルさん」

 

ベルと意外と親しげに話していたシルちゃんはやっとこっちに気がついた。彼女は俺らのことが苦手なはずだが微塵もその様子を見せない。できる店員さんだ。まあ、苦手意識はお互い様だし。

 

「久しぶり、シルちゃん」

「ひさしぶり」

 

前に何となく気にくわないと言っていたノエルも一応挨拶を交わす。

 

「お客様三名はいりまーす!」

ベルは酒場のすべてにおっかなびっくりの様で、百面相をしている。可愛いなあ、居酒屋自体も初めてだからな。

 

「では、こちらにどうぞ」

案内されたのはカウンター席だった。

 

その中でも一番端の曲がり角のところ。お店の隅だった。ここなら人目も気にしなくていいし、ゆっくりできるだろう。いかんせん俺らは人目をひきやすい。

 

ベルは女将のミアに絡まれて大変そうだったが、俺はノエルにベルの先ほどのステイタスの詳細を聞いていた。

 

「トータル上昇160オーバー。相当アイズに惚れたみたい」

「うーん、ヘスティアは気に食わないだろうが、成長にはいいことだよな。ただ・・・なんでアイズ・ヴァレンシュタイン。いやわかるけど、他ファミリアでロキのお気に入りだぜ?」

「ベル、可能性ほとんどない」

 

言いたい放題である。他のファミリアとの結婚はまず無理だし、あのヘスティアとロキだ。せめてタケミカヅチかミアハの子だったらとしか言えない。しかも惚れた相手はお気に入りアイズ。オマケに元ロキの側近であるノエルが今はヘスティアの眷属。あちらからすれば面白くはないだろう。

 

なんだかんだで三人で仲良く食べていたら、十数人規模の団体が入ってきた。この気配は最近感じた。【ロキ・ファミリア】だ。もちろん周囲の客もざわめき、噂を流し、酒のツマミにする。【フレイヤ・ファミリア】と並ぶ二大巨頭、【ロキ・ファミリア】はいつだって注目の的だ。

 

もしかしなくてもこれ、面倒くさいことにりそうかな。こんなことなら『見て』おけばよかった。今日は集中力がイマイチ足りない。

 

ちらりと左をみれば、完全に「帰りたい」顔のノエル。

 

右を見れば、アイズ・ヴァレンシュタインを見て固まっているベル。

 

「おーい?」

 

呼びかけてみるが二人は相当に【ロキ・ファミリア】に耳を傾けているようで、ちっとも反応してくれなかった。アルトさん寂しい。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No4

 

ちらりと左をみれば、困惑顔のノエル。

 

右を見れば、アイズ・ヴァレンシュタインを見て固まっているベル。

 

「おーい?」

 

呼びかけてみるが二人は相当に【ロキ・ファミリア】に耳を傾けているようで、ちっとも反応してくれなかった。アルトさん寂しい。

「そうだ、アイズ!お前のあの話聞かせてやれよ!」

「あの話……?」

 

べろっべろのベートがアイズに向かってそういった。

 

まさか。

 

ベルとノエルを勢いよくつかみ引っ張って出ていこうと思ったが、手遅れであった。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

間違いない。俺たちのことだ。俺はベルのことをちらりと伺うことさえできなかった。

その後もベートの口は止まらない。

 

「あの『裏切り者』もいたぜ」

「裏切り者?だれっすか?」

「あいつだよ、ノエル」

 

違う。ノエルはお前らを裏切ったんじゃない。俺等には、それしかなかったんだ。お前が一番、分かっているくせに。俺の責任なのに。

 

そして、とどめの。

 

 

「ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

 

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

 

 

ベルも、ノエルの気持ちも踏みにじる言葉。

 

ベルは椅子を蹴飛ばして立ち上がり外へ飛び出した。本来ならベルを追いかけるべきだあろう。だが俺の足は別の方向へ進む。ベートのもとへ、まっすぐに。

 

 

 

ひどく冷静であった。

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

べートも気がついたようでお互い一瞬の間目が合う。

 

 

 

 

 

ここでは殴り飛ばしたら他の人への迷惑になると判断。

 

ベートの尻尾をつかみ、外へ投げる。タダでやられるベートでもないので簡単に受身を取られた。

 

 

 

ああ、もう、こいつとは一生分かり合える気がしない。

 

 

 

殴る。

 

よけられても、反撃されても、レベル1つ分のアドバンテージを利用し殴る。

 

自分にも少しずつ傷が蓄積していくのがまるで他人事のように思えた。

 

 

 

もう自分では止められなくなってしまったその拳は、もう一度振りかざす前に、不意に誰かの手によって止まった。

 

 

 

「もう、いいよ」

 

「ありがとう」

 

「ごめんね」

 

「でも、事実だから」

 

 

 

違う。ノエルは裏切り者なんかじゃない。そうせざるを得なかったから。俺がふがいなかったから。ノエル。ごめん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベート。あの時はごめんなさい。でも私は後悔していない。アルト、帰ってて」

 

 

 

俺の腕を止めるノエルの手にほとんど力なんて入ってなくて。

従うつもりなんてさらさらなかったが「ベルが心配だから追いかけて」なんて。彼女にすごく気を使われてることが分かったから俺はその場を後にした。

 

 

 

 

ダンジョンに向かっていったと、途中すれ違った冒険者に聞いたので迷わず向かったが、4層でも5層でも見つからなかったベルは6層でみつけた。

 

この半月、6層に行ったという話は聞いていない。

 

思わず出て行って止めようかとも思ったが、それでは全くベルのためにならないと判断し、危険になったら手を出すことにした。『見えて』からでも遅くはない。ヘスティアに怒られるかもしれないがそのときはそのときだ。

 

「ベル…」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No5

 

 

 

「聖なる光よ、癒しの加護を【サンタマリア】」

 

 

短文詠唱の回復魔法をベートに向ける。瞬時回復魔法ではなく継続型回復魔法であることを初めて恨めしく思った。苦手なものは無いけれど、回復魔法は得意ではない。

 

「先に戻る」

 

外で不貞腐れたままのベートをそのままにして、とりあえず中で後味悪い思いをしているであろう【ロキ・ファミリア】のもとへ向かう。ベートもどうせ、酔っぱらっているだけだ。

それにしても、あのアルトが大人数のいる場で喧嘩を始めたのは意外だった。冷静沈着、品行方正の好青年がオラリオでの売りな彼は、自分がああやって言われていても決して切れず問題を起こさずのタイプだ。

 

 

「ミアさん、ごめん。これご飯代と迷惑料」

「仕方ないねぇ。迷惑料多すぎやしないかい?」

「いいの。ロキのとこの分も入ってるから。それ以上頼んで来たら本人たちに請求すればいいよ」

 

それにしても多い金額に困っているのがわかったが、あんな騒ぎを起こしたのはこちらだから受けってほしい。

また断られる前にロキの前に立つ。

 

「おー、ノエルやん。なんや、久しぶりやなあ。何時オラリオに戻ってきたん?」

「お久しぶりです、ロキ」

 

教える気はない、と質問には答えずさらりと返す。

 

「他人行儀はやめてぇや。元々はうちの子やろ?」

「…今はヘスティア様の眷属」

 

そういうとロキはがたんっと大きな音を立て立ち上がった。

ロキとヘスティア様は会えば喧嘩が絶えないというのは有名な話。からかうつもりでその名を口にした。

 

「なんでや!?あかん!あのチビんとこの眷属やと!?ノエル、今すぐかえってき!!」

「無理」

「のえるたーーん!!!」

 

じたばたするロキを抑えて無理やり座らせてから、古参のメンバーに振り向く。

 

「ロキ。そしてみんな。あの日はほんとにごめんなさい。悪いことをしたと思ってる、取り返しのつかないことになっていたかもしれない」

 

あの時あの場にいたメンバーが息をのむのが分かる。あの時はああするしかなかった、とノエルは思うものの、されたほうとて謝って許せることじゃないだろう。

 

 

 

 

「・・・顔上げ」

 

最初に口を開いてくれたのは、やはりロキだった。

 

「自分で決めてあの時抜け出していったんやな?」

「・・・うん」

 

それからゆっくり考えるふりをして、ロキはフィンと小さく耳打ちをした。そして私に向き直るとニマァ、とずっと変わらぬ笑顔でエール片手に立ち上がる。

 

「ノエル、神の審判や。帰ってくんのは無理でも時々は顔出し!そんで『遠征』に大丈夫な時は参加な!約束やで!!」

 

審判と言いながらも、大丈夫な時だけの参加や、約束と言うロキの寛大さに、女神にはやはり頭が上がらないものだと思った。

あれだけのことをしたというのに。

 

「わかった。日が決まったら教えて」

「それとなあ!明日バベルにお昼前に集合や!ベートとちゃんと仲直りし!」

「・・・・」

「こっちは命令やで!」

「うん」

 

仕方なくうなずき出ていこうとする私の手を、懐かしい手が引き留めた。

 

「まって」

「…アイズ」

「あの少年は、ノエルは・・・」

 

うまく言葉がまとまらない様子のアイズに、とりあえず頭をなでてみた。相変わらず私に似て表情が乏しい。さらに不器用で天然。いつまでたっても妹のよう。

 

出会って9年、共にすごしたのは6年。共通点も多く比べられることも多く、世間では勝手にライバルのような扱いを受けていたが、彼女は深く関わるつもりのなかった【ロキ・ファミリア】の中で私の大切な子だ。

 

「ええっアイズさん!?」

 

後ろからエルフの少女の声も聞こえるが、少し撫で続けてみた。ここ3年の間に入った子だろうか。いや、3年前にいても分からないかも。焦った様子だったアイズも落ち着いてきて、自分の中で何か決まったのだろう。

 

「遠征、まってる・・から」

 

その一言だけで他は何も言わなかった。

 

「フィン、騒がせてごめん。アイズ…、またね。」

「君にはいつも驚かせられるよ。次あったときは話を聞かせてくれよ?」

「うん」

 

もう一度、全員に礼をしてから外に出た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.6

 

しばらくするとノエルも様子を見に来た。

 

「べートとはどうなった?」

「…ベートとはなにも…」

「嘘つけ」

「いや…べートと、1日ダンジョンに行くことに…」

 

「デートか?」

 

俺がにやけて冷やかすとすかさずノエルに叩かれた。

でも誰だって驚くだろ。いきなりそんな急展開。

 

「ロキの命令だから。ベルは?」

 

あきらかに照れ隠しだがノエルもまだ動揺しているのだろう、流されてやる。

 

「あそこだ。防具もなしに6層まで降りてくから焦ったぞ。相当ボロボロだしヘスティアがなんて言うかだな」

「そんなこと言って…。危なくなったら助けるし、ヘスティア様にもフォローするくせに」

 

「……まあな」

 

それにもちろん、ベルが稽古をつけて欲しいと言ってくればつけたいと思っている。だがベルはLv.6の俺らに気後れしているのか、冒険の話を聞きたい以外でワガママを言ったことがない。ダンジョンにも、可愛い弟子と一緒に潜って色々教えたいのに、ベルは遠慮ばかりだ。

 

「ヘスティア様並にベルのこと気にしてるくせに」

 

過保護なヘスティアに呆れていた俺に、いつだかノエルが放った言葉である。なんでもバレているんだよな。俺が腑に落ちないと拗ねている横で、ノエルはベルに向け小さく回復用の歌を歌った。

 

 

 

 

 

結局、ベルがホームに戻ったのは朝の5時になった。

ボロボロで俺に抱きかかえられているベルに対して、ヘスティアは心配したり慌てたり怒ったりと、大変忙しそうだった。

 

「大丈夫だって。俺らもちゃんと、見張ってたし」

 

そういうと渋々ヘスティアは矛をおさめて、ベルにシャワーを勧めた。

 

「アルトさん、ありがとうございます!」

「おう」

 

助けられた、とほおを緩めるベルの頭をくしゃりとなでる。

 

「じゃあ、俺らは寝るかな」

 

普段からベッドはヘスティアに、ソファーにはベルを寝かせて俺らは適当に雑魚寝をしているし、今回は先に寝させてもらうことにした。

ダンジョンで寝るよりはずっとましなので問題ない。今日はベルとヘスティアは一緒に寝るそうなので、ソファーに無理やりノエルをおしこんだ。

 

 

 

 

「おはよう」

 

起きたらノエルのドアップだった。いつの間にか俺がソファーで寝ている。ノエル相手だと俺は本当に無力だな。入替えられたことに気づかないほど深く眠ったつもりもなかったんだが。

 

「…どうした?」

「べートと出かける、その、どうしたら」

「俺よりノエルの方が仲いいだろ、昔はずっと一緒にいたんだし。むしろ俺、いい印象持たれてなかったし」

 

孤高の代名詞のようなベートと、常にオラリオのソロ最前線にいたノエルが仲が良かったのは有名な話であった。ベートが【ロキ・ファミリア】に改宗する前からの話である。3年前のあの日までは。

 

「そう、なんだけど…べートは私のこと許してないし気まずい。出かけることになったのも、周りがはやし立てただけだし向こうも酔っていたし…」

 

しおらしいノエルは久々で、可愛いと不覚にも思いつつ、決して仲がいいとはいえない俺に相談されても困るものもある。あの男と俺の相性は、それはもう類を見ないほど最悪なのだ。

 

「ベルも見つかって同じファミリアに入れたし、抜けた理由は言えなくてもお前の好きにしていいと思うよ俺は」

「…うん、ありがとう」

 

ありきたりな言葉でも前向きになってくれたらしい。よかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.7

 

支度をしてリビングに行ってもヘスティアもベルも起きていなかった。

 

普段は4人バラバラで寝ているが、本日ベルとヘスティアは二人っきりだ。おめでとうヘスティア。赤飯を焚いてやろうか。ベルは相当疲れたんだろうなあ。寝たのは朝6時だし、今は10時だしふたりが起きるかどうかも怪しい。ヘスティアは俺らに何も言いはしなかったけど、ベルのあれは止めて欲しかったんだろうな。

 

昨日のことを考えているとキッチンからノエルが顔を出した。我らが料理班である。

 

「私はそろそろ行くけど…アルトはどうするの?」

「うーん、寝てる2人を放っておくのもなあ。ベルが起きたらちょっと戦い方でも教えたいし、待ってようかな」

「ふぅん…。誘えるといいね」

 

俺が何日たってもベルをダンジョンに誘えないことを知っているノエルは、今回も誘えるとは思ってなさそうだ。悔しい。誘ってやる。

中々誘えないのは、スパルタに教えすぎて嫌われたらという想いが働いている。アスフィという特殊例だけは訓練を泣いて喜んでいたが、【ヘルメス・ファミリア】でもおれとの特訓は罰ゲームにされることすらあった。

それをノエルに一度言ったところ、「それでベルがモンスターにボコボコにされて成長しなかったら意味無いよ」とまでざっくり切り捨てられている。ちなみにノエルの戦闘は感覚が大部分を閉めているので教える側には向いていない。一体どうやって剣姫に教えていたと言うのか。

 

本当にそろそろベルにもちゃんと指導したいところだ。モンスターに対しての知識はアドバイザーにみっちり指導してもらってるみたいだし、戦い方を教えたい。無謀にも6層までじゃんじゃん進んでいるとこを見ていたら心配にもなる。

しかもソロだ。俺らとダンジョンに行くとしてもレベルの差がありすぎて下層でベルがサポーターになる、もしくは上層で俺とノエルを認識したモンスターが逃走するかだ。現実的ではない。ヘルメスに頼んで低いパーティにいれてもらうか?

 

俺が使ってる武器メインに大鎌、サブに投げナイフと折りたたみ式槍というメジャーではない武器が多いので役に立てるかは不安ではあるが、投げナイフについては本気で仕込みたい。

ベルの獲物がナイフでリーチが短いので少しでも長距離攻撃を教えておきたいのだ。

多分、そういう意味では双剣スタイルのノエルの方が適任だと思うがやっぱり可愛い初めての弟子。俺が、教えたい。やっぱり俺、ヘスティアの想い並にベルが可愛い。 

 

「じゃあ、行ってくる。ご飯作っておいたから食べて」

 

振り向くと綺麗に並べられたサンドウィッチがあった。そしてノエルの右手には可愛いかごバッグが握られている。へぇ~、べートと食べるんだあ、へぇー。

ニヤニヤしていたら尻尾をふまれた。俺は獣人のハーフである。しかもウェアウルフ、狼人だ。べートと気が合わない理由の一つでもある。俺は数少ない黒い狼人であり、ハーフの異端児である。他の理由をあげるならもちろんノエルだ。単独行動の多いノエルが他のファミリアの団長である俺と一緒にいたのが気に食わなかったらしい。今は剣姫にご執心のようだけど。。

 

俺には感情を隠さないノエルなので、あきらか嬉しそうにホームを出ていった。べートにノエルは勿体ない…なんて言ったらダメなんだろうな。俺とノエルは、お互いに依存しすぎている節がある。そして俺は、これからもずっとお互い依存していくのだと、そう思ってた。けどノエルは離れていく。

 

……あー、これ結構きついかも。俺がノエルに抱く感情は恋とかそういうのじゃなくて。俺の記憶の範囲全てにノエルがいて、同じ目的を持つ同士で、そばに居るのが当たり前な存在だ。

 

溜息をつきながらサンドウィッチをつまんでいると「おはようございます」と後ろから声がかかった。

 

「おう、ベルおはよう」

「あ、あの、ノエルさんはっ?」

「今日は用があるって出かけたよ」

 

特に理由があって聞いたわけでもなかったらしく、ベルは少し驚いただけでそれ以上は聞かなかった。

 

「俺らが別行動は意外か?」

「は、はい、正直。ファミリアに入る前から一緒だったと聞いていたので」

 

ベルはにもそう思われているかあ。

やっぱり少し寂しくなっているとまたベルから声がかかった。いつも緊張して話しかけるのは俺からなのに珍しいな。ノエルが居ないから緊張半減してんのかな。

 

「あ、あのっ、戦い方、教えてもらえませんか!?」

 

……涙でそう。

 

「もちろんだ。ヘスティアが起きたら行こうか」

 

心のうちの感想を沈め、ノエル愛でだったら「気持ち悪い」といわれそうな笑顔でベルに振り向く。

そう返すとベルもたちまち笑顔になって、今日の予定は決まった。ただ俺から申し出たのではなくベルから誘ってくれたことがノエルにバレたら馬鹿にされそうだ。全力で回避しよう。

 

「あの、アルトさんとノエルさんはどれくらいから一緒に居るんですか…?」

 

今日は本当に珍しい。ヘスティアもベルもいつもは俺らの関係について聞かないのに。

 

「さあな?気がついたら隣にいた。俺の記憶全てにノエルはいるよ。ずっと二人で生きてきた」

 

笑いながらベルの口にノエル特製のサンドウィッチを詰め込む。まだ教えるタイミングではない。

 

「むぐっ、、、美味しいっ!」

 

もぐもぐ口いっぱいに詰めたベルを見ながら俺も一口コーヒーをすすった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.8

 

「おはよう」

 

「ちっ」

 

ロキとティオナに指定された待ち合わせ場所に行けば、やけに落ち込んで機嫌の悪いべートがいた。先に来てくれてただけで嬉しい。けど返事は舌打ちだけ。しかも後ろからロキとティオナの気配もバッチリする。

不機嫌なのはアルトか私か、、アイズか。

 

「…ダンジョン、行こうか」

 

私がそう言えば返事もなしに前を歩くべート。こういっては何だけど、すぐに帰りたい。3年前の関係に戻れるとは思っていなかったが事情を知る彼にここまで露骨に嫌がられるのはつらい。

 

近い距離でも普段の倍以上の時間に感じる。やっとの事でバベルにつき、掲示板の前を通りすぎる前にべートに話しかけられた。

 

「おいてめぇ」

「何」

「…Lv.6になったのか」

 

掲示板をふと見上げてみれば、私とアルトの似顔絵と公式レベルが書かれていた。べートは私がLv.3の時しか知らないし、相当驚かせたんだろう。

 

「…うん」

「3年で3もレベルアップしたのか?」

「正確には、ちがうよ…」

「…どういうことだ?」

 

 

 

 

 

「正確には違うってどういうこと?」

 

【ロキ・ファミリア】の美人双子の妹、ティオナ・ヒリュテは、尾行相手のノエルが発した言葉の意味を振り返ってロキに問うた。

「…うーん、まあ、終わったしええか。ノエルなあ、ウチの眷族になった時には既にLv.3やったんよ。そんで11年くらいか。ウチんとこにおったけどランクアップ出来るようなってから1回もステイタス更新に来てないんや」

 

「…え?」

「その後もじゃんじゃんダンジョンに潜っとったし、アイズたんの『風』にも匹敵する魔法を持ってるからノエルはLv.3でもファミリアの前線で戦っとったし。【経験値】はごっそり持ってっとったやろ」

 

それはティオナにとっては衝撃の真実だった。

自分がファミリアに入った時は、独特の雰囲気をもつ人だと、どれほど強いのかと期待した。

最初は同じLv.3だし興味を持っていたものの彼女のそばには金の光を持つアイズがいた。

 

二人共寡黙で滅多に笑わないがアイズの光が太陽のような眩しい光だとしたら、ノエルは月のように冷たく光っているようで。どんどん強くなるアイズに前線を奪われて、強いのにいつまでもLv.3に甘んじていると、ティオネと話したことがある。

 

まさか、ステイタスの更新をしていなかったなんて。それでレベルアップしていく【ロキ・ファミリア】の前線に立ち続けたというのか。

 

「でもなんで、ノエルはステイタスを更新しなくなったの?」

「さあなあ。ま、あの黒い少年が関係しているんやろうな。フィンかノエルに聞いてみ」

 

ロキもそれ以上話すつもりはないようで、なんだか尾行するのも申し訳なく感じて2人でホームに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ロキのことろにいる間はステイタス更新しなかったから」

 

「はぁ?なんでだよ」

 

ダンジョンの下層へ段々降りていきながらの会話だ。

 

「…私が呪詛を発現したのはロキに恩恵を刻まれた時」

 

事情を知るべートは段々目を開き、話終わったあとも何も言わず、一時して小さい声で「腹減った」とだけ言った。

特別な言葉はいらない。何も言わないでくれるのが、昔に戻った気がして嬉しかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.9

 

 

 

ベルと早速、ダンジョンで立ち会ってみた。なんというか、本当に先に教えればよかったと色々後悔している。

 

「ベル、もっと腰をおろせ。モンスターだって自我がある。そんなんじゃ隙を見られるぞ」

「は、はいっ」

 

ギルド支給の安物ナイフをぎこちなく振り回している姿に、ナイフくらい買ってやればよかったと思いつつ、かと言って背伸びして慢心させてもいけないこの微妙な気持ちよ。

 

「アルトさんっ、よろしくお願いします」

 

構えに隙がなくなったので、まずは投げナイフから仕込む。これは動く敵に投げるので実践あるのみだ。安いナイフをそこそこ常にストックしてるのでベルにコツを教えながら投げる。

 

「敵は動いてるし自分だって動いているから当てづらいとは思うが、敵の動きに気をつければ確実に当たる。視線を重視しながら最初はゴブリンでいい、当ててみろ」

「はいっ」

 

対人戦ももちろん教えたいのだが、俺の戦い方になると速さ重視の肉弾戦になるから理想の戦いを体現してるのはノエルなのだ。必死にナイフの扱いを覚えるベルを見つつ、ノエルにも話をしよう。

それに対人戦となれば俺とノエルがでる。今のベルに必要ない。

 

 

「だいぶ当たるようになったな。投げナイフはとりあえず終わろうか」

「はい、あ、あの、体術って…教えてもらえませんか?」

 

なんだこの可愛いやつは。

まだまだ不器用なナイフを身につけてからでもいいと思っていたが、こんな可愛いオネダリされて誰が断る。

 

「もちろんだ。ただ、実戦で使えるようにするには頭より感覚で覚えるしかないしな。ダンジョン出てからでもいいが…俺と戦いながらモンスターに気を使うのもいい練習だ、ここでしよう。好きなタイミングでこい」

 

そう言うとスグにベルはラビットダッシュで迫ってきた。

俺も速さ重視だし気持ちはわかるが、ベルの長所であり弱点はこのラビットダッシュだ。防御を捨てすぎというか…。『痛み』から逃げてる節があるしな。

 

相当手加減して反撃してやろうと思ったが、ミノタウロスからトラウマになっている『痛み』。それから逃げさせはしない。左足を使った回し蹴りでベルのナイフを落とす。そのままもう半回転し宙に浮いていた右脚の踵を使いミノタウロスのLv.2の力を確実に上回る威力で反撃。

 

「がはっ!?」

 

防御を捨てていたベルにクリティカルヒットし、壁にぶつかる。その横からモンスターが生まれる。痛みを抱えたままそれでもベルはナイフを持ち直そうとモンスターに向き直ったが、甘い。

 

 

 

俺も、警戒しないと。だろ?ベル。

 

ベルが倒そうとしていたモンスターの頭を踏みつぶし、モンスターに突撃しようとしていたベルにもう1度蹴りを入れる。ベルはいきなりのカウンターに驚きつつ急停止して周りの状況を確認。

 

モンスターがいないことを確認すると、『痛み』と戦い俺にまた挑む。ベルのナイフを吹っ飛ばした後でお互い武器なんて持ってないし、自分の脚と腕での勝負だ。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

途中からヤケになったような声を出しつつ、ちゃん吸収して動きがよくなる弟子に嬉しい気持ちが溢れた。内緒で俺も少しずつ攻撃の威力を強く、速くして慣れさせない。

 

 

 

「っあー」

時間もわからないくらい2人で向き合っていたが、俺のお腹が空いたという理由で今日の訓練は終わった。

 

「ベル、ちょっと周り見てみろ。お前俺と戦いながらもちゃんとモンスターの気配感じれてたぞ」

 

俺は一切手をつけてないモンスターの魔石たち。俺と稽古しながらもちゃんと周りの状況を判断してモンスターを倒せるようになってたのだ。

これでちょっとは大勢相手や奇襲に対応出来てくると思う。

ただベルは無我夢中で覚えていないのか、周りの魔石を見て相当驚いていた。

 

「アルトさんっ、ぼく、武器なしでモンスターを!?」

 

「おう。階層が浅いこともあるが…相当成長したな。おめでとう」

 

ウサ耳があったらひょこんって立ちそうだな。そんな可愛い弟子とダンジョンを出て歩いていたら、前方にきらめく白金と銀髪を見つけた。

 

「うわ、」

「アルトさん?あ、ノエルさんと【ロキ・ファミリア】の…」

 

ベルにとっても苦い思い出だし、何より俺が見たくない映像だ。回避しよう、そんな思いも虚しく急にノエルが振り返り、ベートを放って俺らのところに歩いてきた。チート女め、空気を読め。

 

「ベル、今日はアルトとダンジョンに行ったの?」

「は、はい、あの投げナイフと体術を教わって…」

「ふーん」

 

俺を見てはニヤニヤするノエル。人前でもこれだけ表情を出すとは…べートといい話ができたんだろうな。相当ご機嫌だ。

そして何を思ったのか、右手で抜刀し急にベルに斬りかかった。

 

「おいばか!」

 

焦った俺が投げナイフを取り出す前に『見えた』ので動きをやめると、ベルがノエルに体術をしかけた。もちろんノエルはあっさりかわすがご満悦のようだ。

 

「昨日までと動きが違う…。いいね」

 

どうやら今日の成果を確認したかっただけのようだが心臓に悪いのでやめて欲しい。どうして考えるより即行動なんだ。ほらみろ、ベルなんて何が起こったのかわからないって顔してるじゃないか。可愛いだろ。男二人と女一人のファミリアで何故お前が1番好戦的なのか。

 

「ノエル、あっちの狼そのまんまで大丈夫なの?」

「…いい。」

 

ノエルがベートに軽く目配せをするとベートもその場から立ち去った。

通じ合うな!と思わず心の中でつっこんでしまう。

 

「へえ、晩御飯くらい行ってくれば良かったのに」

「……アルト、君、焼かれたいの?」

 

怖い。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.10

 

 

 

 

本日のステイタス更新でヘスティアは悩んでいた。自分の眷属達はどうも神友に聞いていた話と違うのだ。子どもの成長はもっと遅く、そしてこんなデタラメなスキルを持ってはいけないのだ。自分が知らないうちに神の力アルカナムを使用したのかと疑ってしまうほどに。もう一度、【ヘスティア・ファミリア】に入れてくれと直談判してきた2人のステイタスが書かれた羊皮紙をのぞく。

 

アルト・バイン

Lv6

力:I 2

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

 

発展アビリティ

・耐異常:C

・神秘:F

・魔導:H

・賢者:D

・索敵:I

 

スキル

【全知】

・物事の本質を見抜く

・情報収集時に超高補正

・集中の度合いにより効果上昇

 

【月下狼哮】

・月下条件達成時のみ発動

・獣化。全アビリティ能力超高補正。

・異常無効

 

【鉄壁】

・耐久に高補正

・守りたい願いにより効果上昇

・条件達成時のみ発動

 

【未来予知】

・24時間以内の先読み

・同じ時間軸で2度にわたる先読みは不可

 

 

魔法

【咆哮】

詠唱『火竜の王よ、』

『水竜の王よ、』

『荒ぶる力を我が身に宿せ』

・2属性魔法

・中範囲

・魔力量により効果依存

・詠唱により効果変化

 

【】

 

 

 

 

 

 

 

ノエル

 

Lv6

力:I 2

耐久:I 3

器用:I 10

敏捷:I 5

魔力:I 1

 

発展アビリティ

・耐異常:E

・魔導:E

・拳打:F

・双剣:G

・精癒:I

 

スキル

【全能】

・全ての動作に高補正

・集中度合いにより効果上昇

・器用の数値に依存する

 

 

【鉄壁】

・耐久に高補正

・想いの丈により効果上昇

・条件達成時のみ発動

 

【豪剣】

・剣装備時に全アビリティ能力中補正

・双剣時、高補正

・その他装備時全アビリティマイナス補正

 

 

魔法

【神々の詩ヴァル・ローレライ】

詠唱『我が身に全能の一端を』

・月光の付与魔法

 

【アステリズム】

詠唱『アストライアに告ぐ』

『輝く無数の星々 、荒れ狂う人々の切望』

『時は来た、終焉の予言は今詠われる』

『地を穿てーーー アステリズム』

・制約魔法。条件達成時のみ発動可能

・星群魔法

 

【サンタマリア】

 

詠唱『聖なる光よ、癒しの加護を』

・回復魔法

・効果継続型

 

 

呪詛

 

【アムネシア】

・対象者の神の力の無効化

・代償 解呪後、一週間自身神の力の封印

 

 

馬鹿げてるとしか言い様がない。アルトの全知はウラノスにも及ぶし、ノエルの全能が全ての動作に補正をかけるなどデタラメにも程がある。まるで神の手がかかっているようなステイタス。

 

アルトのスキルは全知以外に制約や条件を設けることでそれ相応の強さを引き出している。スキルは本人の人格なども反映される。彼の全知から見るに、わざと制約をかけている気がしなくもない。神の勘は当たるのだ。

 

それにヘスティアの眷属になった際に、2人は既に『Lv5』だったのだ。ヘスティアがLv5の最終ステイタスを更新し、既に資格を持っていたLv6へランクアップさせたに過ぎない。

しかもノエルの方は【ロキ・ファミリア】脱退前はLv3だったと言う。

 

アルトは伏せていただけで【ヘルメス・ファミリア】の元団長としてLv5まで上げたと言うので頷けるが、ノエルの後ろがわからない。

ロキ以外にステイタスを更新させていたというのか。

どうやって?ロキのところでLv4も資格を手に入れてたとして、3年でステイタスを更新しLv5まで持っていき、更にLv6の資格を手に入れて自分の元へ来たというのか、あの白金に輝く少女は。

 

Lv3時点のステイタスはどのくらいだったのだ、ロキはどこまで知っている?

もっと危険なのは少女に隠れる少年の方。

全能ゆえノエルが目立つがあの二人の頭はアルトだ。神を見下しているような気がすると思っていたが、違う、対等な存在として見ているのだ。

 

あの少年が子ども達に優しいのはただの優しさじゃない、弱いものに対する慈悲。神を見下しているように見えるのは対等に扱ってる故。

 

彼の全知の性能か、彼の嘘を神は見抜けない。神の力アルカナムはほとんど通じない。その状態じゃ少年が神を対等に見ていてもおかしくはないのだ。

圧倒的な異端。英雄ではない、あの二人は異端だ。ヘスティアの本能がはっきり告げている、彼らはおかしいと。特にアルトの方は確実に神の領域の入口に足を踏み入れている。

 

 それでもヘスティアは、危険だとも思わないし愛おしいのだ。あの2人が。あんなに危険だと思うのに、ベルを見守るあの二人を見ていると安心する。しかもノエルが「アルトは、ベルを本当の弟のように思ってる」と零したことがある。彼女の言葉に嘘はなかった。だからボクも信じてみようと思う、彼と彼女がベルくんに賭けた、【眷属の物語】を。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.11

 

 

 

【ロキ・ファミリア】のLv1のパーティは、本日の当番である朝食の片付けをしながら、漆黒と白金のコンビについて噂していた。

 

「あの人たちって何者なんだろう?」

 

ロキの意向で全員で食べるための食卓はかなり広い。片付けも簡単ではなく時間もかかるので、普段はパーティ会議に近い会話をしている時間だが今日は違った。

 

「ん?豊穣の女主人でベートさんと戦ってた人?」

 

キャットピープルの少女の質問に対しヒューマンの少女が反応する。

 

「そうそう、ベートさん相手に互角以上に戦ってたでしょ。でもそれで無名って変だなーって。外から来たっていう噂もないし」

「確かに…女の人の方は元々うちのファミリアにいたみたいだし。何か聞いたことある?」

「ううん…だけど、ベートさんと仲いい人がいたとか、アイズさんには姉的な存在がいたとかは聞いたことあるかも。あの人のことかなあ」

 

【ロキ・ファミリア】という大手派閥である以上、下位の団員でもオラリオについては出来るだけ知っておくようにしている。にもかかわらず、知らない実力者がいるのは問題なのだ。

 

「すげぇ、綺麗な人だったよな…」

「あんたはそればっかりね!」

 

ロキの趣味で【ロキ・ファミリア】の面々は総じて顔がいいのだが、ヒューマンの少年が思わずそう思うのも頷けるほどあの二人は顔がよかった。すると食堂から顔を出した少女も会話に加わる。

 

「そういえば、ベートさんとアイズさんの反応がわからなくて言えなかったけど、朝買い出しに行った時にバベルの掲示板に乗ってたよ。今頃超ウワサになってるって。あの二人、Lv3からLv6で再登録した冒険者だって!」

「はぁ!?Lv3からLv6ぅ!?しかも再登録って…何年前にいたわけ?」

 

 

 

「3年前だよ。」

 

パーティメンバーではなく頭上から聞こえてきた声に、一同はいっせいに上を向いた。2階へ続く階段の手すりに腰掛けていたのは、Lv3の第二級冒険者カナ。【ロキ・ファミリア】で単独行動が目立つ、問題児の1人だが実力は本物でLv3の団員の中ではレフィーヤ・ウィリディスに次ぐ到達階層を誇る。

 

普段団員とさえ距離を置く彼女が、珍しく反応した。

 

「3年前、ノエルは遠征途中に突如として前線から消えた。タイミングはサイアクの深層到達後。もちろんダンチョー達は強いからどうにかなったけど、普段の遠征より深い層には行けなかったし、下位冒険者の被害は凄かったよ。ノエルは守りの要だったから」

 

一段一段階段を降りながら、うっとり当時のことを話すカナは、まるでダンジョンの中にいる時のような殺気を纏っていた。

 

「…詳しいんですね…その場にいたんですか?」

「もちろん!あの人は私の憧れだ。だが【ロキ・ファミリア】の守りの要であり第一線で戦い続けた彼女はオラリオのアンタッチャブルになった。彼女の名前を言おうものならベートに潰され、前線を急に去った彼女を悪くいえば剣姫の逆鱗に触れる。ここ3年で入った奴らが知らないのは当然だね」

 

「3年前…3年の間で、Lv6になったと言うんですか…?」

 

自分たちがファミリアに入団して2年。まだLv1で足踏みをしてると言うのに、ただでさえ上がりにくいレベルを3つもあげたなど信じられるはずもなかった。

 

「あの人ならやるね。あの人は選ばれし人間。私も追いついた気になっていたけど…まだ足りないか」

 

紡がれる言葉は悔しそうなのに、声の響きは喜びを隠しきれていない。これではまるで崇拝だ、あの白金は一体何者だというのだ。

 

「出生不明で年齢も不明、消えた先も不明であの人は人の記憶から消えるはずだった。だがあの人は帰ってきた、馬鹿げたレベルアップと共に!やはりあの人は、オラリオの頂点に立つべき人!」

 

オラリオの頂点ーーーーそれは【猛者】オッタル。

 

【ロキ・ファミリア】の首脳陣が一度にかかっても勝てない相手を越えるとこの人は言うのか。

 

「隣のあの男も、認めたくはないがその領域の男。元【ヘルメス・ファミリア】の団長にしてあのペルセウスが憧れている男だ」

 

ノエルについて語っている時とはうって変わり、次は嫌そうに顔を歪めた。

 

「あの2人は別のファミリアに所属していながら、対ラキア戦でコンビを組み完璧なコンビネーションをみせた。あの二人は双璧だと、そろってたら勝てる人はいないと言われたね」

 

私がその隣にたちたかったと、カナはそう零す。だが受け入れられようか。そこまでの人が本当にベートとアイズという存在でアンタッチャブルまでになるというのか。他にも「何が」があるはず。そう思わずにはいられなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.12

 

 

「あ、あのノエルさんっっ」

 

ベートと分かれ、3人でのホームへの帰り道、相変わらずノエルに緊張しっぱなしのベルが急に口を開いた。

 

「…ベル?」

 

ノエルの方が背は少し高いので屈んでベルの顔を覗き込むようにすると、あっという間にベルの顔はゆでダコのように赤く染まった。

 

「あ、あ、あのっ、明日からシルさんにお弁当を作って頂くことになったので…その…」

 

これまでは朝昼のご飯はノエルの担当で、夜はローテーションか空いている人間の仕事だった。そこに昼食を毎日渡させてくれという少女が現れたのでノエルに報告する必要があるのだ。

 

「シル…わかった」

 

ノエルはベルへの返事をしつつ、ちらりとアルトに目配せをする。アルトも言わんとしてることは分かっているので瞬きで謝罪。

ノエルだって俺に何も言えないくらい過保護だっての。アルトがそう思うのも至極真っ当である。

 

「ああ、そういえば、ヘスティアはしばらくホームを空けるってよ」

「…ヘスティア様が?」

「ガネーシャ主催の神の宴に行くとかなんとか。とりあえずパーティ用のドレスとか一式揃えるよう金渡したけど」

「えっ、ぼく、何も…」

 

 はーベル可愛い。こういうのは金持ってるやつが出して当然とかの考えがないんだもんな。Lv1の駆け出しとLv6じゃそもそもの稼ぎが違うんだし。

 

「いいんだよ、俺が可愛くおしゃれしたヘスティアを見たいだけだから」

 

どれだけ表面上綺麗な言葉を並べようと、見目がよかろうとアルトの本質が残念なことは変わりない。ノエルも分かっているのでこういう事を言うと普段はヒールで踏むところだが、ノエル、ベル、アルトの順で並んでいるのでそれはかなわなかった。

 

 

 

一方、【ガネーシャ・ファミリア】のホームでは徐々に神たちが集まりはじめていた。その中でもまず目をひいたのは、貧乏でファミリアも持たず、今まで一切のパーティーに出席しなかったヘスティアの存在だ。

 

ヘスティアと言えば上記の通り、眷属無しの貧乏神だと言われ続けていたが、神々が忘れもしないバケモノ2人を眷属にしたと今では時の人である。しかもヘスティアの手でLv6に引き上げたというのだ、一気に中堅にくい込んだ彼女に興味のない神などいなかった。

 

「ヘスティア〜、【新星ノヴァ】と【英明インテリジェンス】を眷属にしたって〜??」

「あの2人今までどこに居たか聞いてるか??」

「私に黒い子ちょうだいよ」

 

旧知の仲の神々に休む間もなく話しかけられ、ヘスティアは困っていたが【新星】と【英明】は聞いたことがなく聞き返した。

 

「それが2人の二つ名なのかい??」

「それも知らずに眷属にしたの〜?まあ二人とも11年レベル上がらなかったから完全に二つ名間違ったのつけちゃったと思ってたけど。ふふっ、まさかLv6で再登録なんて、やっぱり面白い子達ね。ヘスティアどこで拾ったの〜??」

 

自身にに負けず劣らずの双丘を押し付けてくる女神たちを振り払い、ヘスティアはようやくお目当ての神物、ヘファイストスと顔を合わせた。

 

「ヘファイストス!」

「ヘスティア……貴方、見ない間にとんでもないことになってるわね…」

「君までそれを言うのかい?…正直、ボクはあの二人のことをよく知らないんだ。君はなにか知ってるかい?」

「そうねぇ…そういえばロキが、「ファイたん!ドチビ!」噂をすればロキだわ」

 

振り向けば天敵ロキがいるが、ヘスティアはこの女神に聞くのは何となく癪だった。だがヘルメスとロキ、アルトとノエル、安全そうなのはロキとノエル。聞くのはこちらか。

 

「ロキ、ノエルくんについて聞きたいことがある」

「…うちからノエルたんについて話せることは多くないで」

「それでも構わないさ。ロキの所にいた時のステイタスが知りたい」

 

ヘスティアの質問に対しロキは軽く考え込む素振りを見せた。

 

「…その質問は、呪詛のことか?」

 

「ああ。ノエルくんとアルトくんのステイタスはおかしい。アルトくんはもうこちら側に立ってる。ノエルくんだって、あの呪詛の力はもうこちら側に足を突っ込んだようなものだと僕は考えてる。君の意見が知りたい」

 

ロキは誰にも言うつもりのなかった事実を口にした。あの呪詛をなんの気なく発現させたことに責任を感じていたのだ。絵空事に近かった彼女の当時の目標に現実性を持たせてしまったから。

 

「…ひとつ間違っとるでドチビ。あの黒い少年の方はうちも分からん。でもな、ノエルたんはうちと出会った時に『こちら側』に入ったで。あの子は既に子どもの範疇を超えている」

「それはどういう」

 

 

ヘスティアが話を続けようとしたがロキが阻んだ。

 

「フレイヤ?」

 

フレイヤが現れてからというものの、その後ロキはノエルの話にすらさせなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.13

「ヘスティア様の居場所を探って」

 

ヘスティアがガネーシャ主催のパーティに出かけてから2日、音沙汰がなく帰ってこないことにノエルとベルは不安を覚えていた。同じファミリアとは言えど、ステイタスを教えている訳では無いのでベルにはこの発言がどういうことかは分かっていない。

アルトの能力でベルとノエルのステイタスは全て筒抜けではいる。

 

 

「索敵はオプションみたいなものであって、得意ではないんだけどなあ」

 

そもそもアルトの勘はノエルの勘とは別にほぼ100%当たるものなので大体分かっているのだが、仕方がないと探ってみる。

目を瞑り集中することにより、全知はその能力をフルで使用できるのだが実際問題使いにくいスキルでもある。ノエルも同様に、無意識下で微補正がかかるくらいの使用はLvの恩恵もあり負担も少ないが、フルで使うと反動が大きいのだ。主に疲労が。オマケにダンジョンでは使えない。

 

一度ノエルとの『とある事件』で呪詛をかけられたことがあるが、解呪されるまでの間は視力の大幅の低下に加え人並みの力も出なかった。

恐らく神の恩恵とLvで誤魔化しているが、恩恵のない状態でフルに使用すればあっという間に体を蝕まれるのだろう。

リバウンドで一週間神の恩恵を失ったノエルのほうはもっとすごかった。全知より全能のほうが使い勝手がいいだけにアルトよりよほど施行している。そのため五感がほぼ使えず衰弱し、恩恵が戻るまでの一週間、生きていられるのかもわからない状態だった。

 

アルトとノエルのそれぞれの能力はLv2の時に授かったものなので、呪詛をかけられるまで気が付かなかったのだ。

それを誰よりも理解している彼は、全知ではなく未来予知で先を知り今を知る方法をとった。

 

「わかった、よく分からんがヘファイストスの所にいる。しかも土下座中だ」

「…土下座?」

「ああ」

 

詳しく教えろと言わんばかりのノエルの視線をベルに誘導する。それだけで相方はベルに言えないことだと分かってくれるだろう。これはアルトからベルに伝えるべきではない。そう彼は判断したのだ。

 

「まあ、ヘスティアとヘファイストスは仲のいいことで有名だしヘスティアは大丈夫だ」

 

 ベルはその言葉に安心したようで、ダンジョンに向かう準備を始めた。そんなベルを見つめながら己の能力について、アルトはレベルを上げたことで反動が少なくなってることを感じていた。レベルが1つ違うだけでこうも違う。分かっていたことだが改めて実感させられる。

 

 そして、そのレベル差を易々と飛び越えてしまう真っ白の少年を見つめる。アルトはちょっとした先読みと神の如きスキルによってオラリオの中でも既にトップクラスの戦闘力を誇っているが、成長速度は至って普通。

ヘルメス・ファミリアに所属していた頃、そのファミリアの特殊さ故にレベルを偽っていたが、11年かけてLv3の初期ステイタスからLv5のステイタスの頭打ちまで伸ばしあの事件を経てLv6へ至った。英雄の資格を持たないはずのベルは「約束の時代」を担う英雄に憧憬を抱いた。本物の英雄にはなれない。

それは彼と同じはずだったのに。

 




基本アルトさんはノエルさんにコンプレックスを抱いていますが、ノエルさんもアルトさんに対し強烈なコンプレックスを抱いています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.14

 

 

ヘスティアがホームを開けて三日目の朝、狭い教会の隠し部屋にベルの「行ってきます」という元気な声が響く。

 

「行ってらっしゃい」

「おー、頑張ってこーい」

 

レベルの差の問題で相変わらず別行動が多いのはいつも通りだが、本日はアルトが異様な二日酔いで珍しくベルが先にホームを出た。

 

「昨日は急にいなくなったっきり遅くまで帰ってこないし二日酔い…何かあったの…?」

 

朝食の片付けをしながらキッチンからノエルが顔を出す。アルトはソファでぐったりしながら目線だけノエルに向けたが答えしなかった。

彼のプライドが許さなかった。ノエルと2人でなら神とさえ渡り歩けると思ってたが、1人では英雄さえ目標に出来ないなど、ベルを羨んだなど言えるはずもない。

 

 

「聖なる光よ、癒しの加護を」

「【サンタマリア】」

 

アルトが問いに答えないことに若干の不満があるのか、彼女は不機嫌そうにその短い詠唱を唄った。

 

 彼女の回復魔法の恩恵を受けながらさらに彼は落ち込んだ。ノエルのステイタス表記は曖昧な表現が多い。「全ての動作に補正」や「対峙する相手」や「想像力」に依存する力。そして今の「何に対しての効果」があるのか表記されない回復魔法。裏を返せば何に対しても効果があるのだ。相変わらず規格外の女。この詠唱の短さでこれを成し遂げられたらたまったもんじゃない。

 

「昨日見た限りじゃ、ベルとヘスティアは今日フィリア祭デートだけど俺らはどうすっかなー」

「…ヘスティア様のこと昨日口止めしたね。ベルになにか関係あるの?」

「んー。昨日はヘスティアはヘファイストスに頼み込んで、ベルの武器を作ってもらってた。それで2人が今日祭りで合流する所まで見えたから、サプライズはサプライズのままにしてやろうとと思って」

 

「そう…。じゃあ邪魔は出来ないね」

 

この様子だと、ヘスティアのこともベルのことも好きなノエルだ。一緒に行きたかったのだろう。俺もノエルの回復魔法で徐々に二日酔いが抜けてきてるし、ここ3年は荒れていたしいい機会かもしれないと思いノエルを祭りに誘った。

 

「俺らも行こうか?2人も何か食べて帰ってくるだろうし、俺らも食べに行こうぜ」

素直じゃない彼女のために軽い口実をのせる。

「…うん。行く」

 

そういうや否や部屋着から着替えるために脱衣所へ向かった彼女を見て俺も着替える。

 

ヘスティアに出会うまでノエルが休息を取るなど滅多になかった。あの女神はあの人らが信頼してるだけある。出会えて良かったと思いつつ支度が整い外に出た。

 

 

 

「じゃが丸くん食べたい」

「朝食で食べたろ」

「さっきは塩…次はバター醤油…」

 

祭りで何をするか話しながらメインストリートまで歩くと、ノエルがふと立ち止まった。

 

「ノエル?」

「…アルト、昨日はヘスティア様の未来じゃなくて、ベルの未来を見た?」

「…そうだ。目の前にベルがいたからその方が見えやすいし。不味かったか?」

 

アルトの問いに小さく頷く。常人の何倍も五感が働く彼女は、幼女神と美の神の会話を捉えた。美の神がベルの話になった途端、明らかに態度を変えたのを察知するのも容易かった。 

 

「…フレイヤがベルに目をつけた。あの女…」

「…」

 

武器もほぼ持たず普段着では、オッタルが護衛し魅了を駆使するフレイヤに近づくことも出来ない。ノエルはいつだって綺麗なその顔を思いっきり歪めた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.15

 

ノエルに方角だけ教わりそこから2人を探知する。厄介な相手に目をつけられてしまったベル。これはどうしようもない。これからどう動くかだ。

 

「俺がフレイヤ見ておくから、ノエルはヘスティアを追え」

「…それって」

「フレイヤの動向を見ておくだけで、近づかないさ。流石に簡易式の槍一本であの女神の美に対抗出来る気がしないしな」

 

彼らとっては毒でしかないあの魅了。あの女神の美は逃げるにも逃げられない、理不尽な毒。全能をほこるノエルでさえ本調子でなければ自由が効かなくなるという。

 

「…私がいないところで、あの女神に近づかないで」

 

ノエルの長いまつ毛がその柔らかい肌に影を落とす。あの女神までとは言わないがこちらも少々蠱惑的ではとアルトは思わずにいられなかった。だがノエルがいればあの女神の美から逃れられるのも事実。もとよりアルトは近づく気もないのだが。ノエルの言い方が悪い。

 

「わかったから。ほら、行ってこい」

 

ノエルの背を軽く押してやると、彼女は小さく頷き気配を消した。アルトもあの女神の魅了が効かない距離を保ちながら追う。ベルに今日なにかするとは限らない。だが彼の勘が告げる。あの女神は執着した男を決して逃したりはしない。早めに手を打ち始めるのは間違いないと。折りたたんである槍をいつでも組み立てられるよう常に手をかけ、一定の距離を保つことで気配を察知されるのを防ぐ。それを繰り返しているとガネーシャ・ファミリアの領域にたどり着いた。

 

 (ガネーシャ・ファミリア?ここは、モンスターを檻に…)

 

女神に悟られぬよう距離をとり、ガネーシャ・ファミリアの未来を見る。未来予知の唯一の制限は、同じ時間軸が見れないという点だ。昨日はベルとヘスティアが合流する時間までを見たので、次に使えるのは2人が合流した後の未来。恐らく既に合流しただろう時間なのでここからはあの女神の未来を見る。

 

そこにはあの女神がモンスターを放つ最悪の光景が広がっていた。止めようにも、あの女神の魅了を振り切って事態を集約させる術を今の彼は持たない。ノエルと追跡する相手を逆にすべきだったかと思うが、彼女は未来を見ることは出来ないので回避はもとより出来なかったのだ。

 

迷った挙句、モンスターを離したフレイヤに近づいた。

 

「ひさしぶりだな、フレイヤ」

「あら、お久しぶりね。どうかしたの?」

「神とあろうものが知らない振りがお粗末すぎるんじゃ?」

「…あなた一人で私のもとへ来るなんて珍しいわね」

 

全くかみ合わない会話。ノエルほどまではいかなくても、上級冒険者のアルトもある程度【魅了】に抵抗できる。

正直ギリギリだな、と思いながらも会話は終わらない。

 

「ベルに目を付けただろ、何がしたい」

 

いつも微笑を浮かべているアルトの顔に今そんなものはない。

 

「警戒のしすぎじゃなくて?」

「どこがだよ、お前が一番オラリオで厄介な女だろ」

「身に染みてるのね」

 

 

 

あぁ______××××。

 

冷静でいられそうもない。

 

この女を今追いつめても仕方ないと判断し、ベルの気配を追う。ノエルは気配を消していて観測できないがベルの近くに必ずいる。

 

「ベルがほしいなら、俺とノエルがいること忘れるなよ」

「わかっているわ」

 

この女に今攻撃しても仕方がないと、屋根へ飛び、人混みに邪魔をされないオラリオの空を走る。Lv6の足で屋根を走る様は祭りで浮かれた冒険者と思われるだけだろう。ヘスティアとベルが合流する場所は昨日見た。その場所を目がけて彼はメインストリートまで最短距離を走った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.16

 

 

「…ノエル、2人はどの方向に居る?」

「南」

 

建物を壊さない程度に急いで少しすると、のオラリオでは珍しい真っ白の髪とルベライトの瞳を持つ少年を見つけ、さらにその少年の死角を辿ると白金の少女がいた。

 

「ノエル!」

「…!」

 

彼女の前に飛び出すと薄紫色の瞳が大きく開かれる。彼女が理解するより先に、ガネーシャ・ファミリアの方角から甲高い悲鳴が響いた。

 

「くそ、思ったより早いな…!」

「何、何があったの」

 

悲鳴が聞こえる方角を見ながら彼女が問いかける。

 

「あの女神、ガネーシャ・ファミリアがテイムしていたモンスターを放しやがった。テイムされたモンスターの強さはさほどでもないが、ステイタスを持たない市民や駆け出しの冒険者にあれが倒せるかよ」

「…ベルに、倒させる、ため?」

 

嫌な予感。当たってくれるなよ、とも読める顔でノエルが確認するように問うた。

 

「…恐らくな。あの女神には悪いが、先に全部潰す」

 

だから行くぞ、と声のするほうへ体を向けるが相棒はそうではなかった。

 

「……私は、ベルを守れればいい」

 

言外に、ベルのそばを離れる気は無いと、その他の市民は自分が守らなくてもいいのではないかと返される。昔から、ノエルは力を持たない人の気持ちが、自分ではどうしようも無いことがあるというのを理解できないのは分かっていた。それがここで発揮されるのかとアルトは頭を抱える。

 

全能が故の、できない人間への無慈悲な対応。慈悲深き女神の眷属でありながら誰よりも冷たいのがノエル。

だから、あの時ノエルが【ロキ・ファミリア】に入団した。

 

「…お前、これで被害が大きくなってみろ、俺らみたいな育ち方する子供が出てきていいのかよ」

「…」

「確かにな、俺らを捨てたオラリオを助ける義理はない。だがそれでいいのかお前。俺は行く」

 

より強いモンスターの気配がする方角を探った瞬間、自分の足元から強大な気配を感じノエルを突き飛ばしながら自分もバックステップで下がる。

つい先程まで自分たちが立っていた所から触手のようなものが顔を出し、地面を割って這い出てくる。

 

「…何、このモンスター」

 

アルトが突き飛ばしたにも関わらず、綺麗な受け身で触手を回避しながらノエルが問う。深層まで行った彼らの知らない極彩色のモンスター。

 

「っ!」

 

だがLv6の冒険者が手間取るほどの攻撃速度でもない。ある程度攻撃を見切ったノエルが反撃に出る。腰に吊るしていた片手剣を右手で掴み、軽いステップでかわしつつ剣を盾に迫る。そこでノエルは右手にかかる重さが急に軽くなったことに違和感を覚えた。

 

「剣が、溶けてる…アルト!」

「分かってる!」

 

目を一瞬合わせ、ノエルは丸腰のままモンスターに突っ込む。打撃で攻撃するがあまり効果はない。それでもアルトが一瞬でも集中し全知でこの未知なるモンスターを調べればどうにかなるとノエルは確信し、下段で繰り出した蹴りに反応したモンスターをあざ笑うかのように上段で蹴りを5連打。そのまま重力などないようにモンスターの頭上に飛び出ると踵落しで怯ませた。

 

【全知】

対象 :極彩色のモンスター

発生場所 :Error

特徴 :すべてを溶かす酸が体液。敗戦時爆発する習性。魔力に反応する。

 

「…!ノエル、そいつの体液はなんでも溶かす酸だ!しかも倒すと爆発しやがる!」

 

言われるが否や、ノエルは強烈な蹴りを叩き込みモンスターから間合いをとる。

 

「打撃も効かないし剣は溶ける。面倒」

 

今のノエルは丸腰だ。剣は溶かされノエルの魔法は夜、もしくは暗い場所で真価を発揮するもの。しかも彼女は剣を携えることでステイタスに補正がかかり、剣以外で戦おうものならマイナス補正がかかるスキルもち。真昼で剣がなく、また敵が1体のこの状況は彼女が1番弱体化するタイミングだ。

 

「こいつ魔力にも反応しやがる。ノエル、お前あの星の魔法撃て」

「明るい場所だと効果半減だけど」

「いい。並行詠唱してろ。気を引け」

「…」

 

それでどうするつもり、と視線を寄こす。

 

「俺がその後魔法撃つ。俺のはショボイが近距離で魔石に撃てりゃマシだ。ショボくてもレベル6の魔法を2発もくらって耐えきるほどの耐久力はない。ノエルもできるだけ核にあてろ」

 

俺がそう伝えるとノエルは黙って頷く。こういう時に純粋に信じてくれる彼女に安心する。

 

「輝く無数の星々 、荒れ狂う人々の切望」

 

今まで幾度となく口にしてきた詠唱が紡がれる。マイナス補正でレベル5程度の動きしかできないノエルの動きはぎこちないが、モンスターから吐き出される酸を避け、アルトから視線を逸らす。

 

「時は来た、終焉の予言は今詠われる 」

 

アルトの詠唱が近距離で完了したことを確認し自身も詠唱を終わらせる。

 

「地を穿てーーー アステリズム」

 

本来の輝きからは程遠い鈍い光がモンスターを襲い、その体を刺す。ダンジョン内や夜であれば四肢を舐め溶かす程の広範囲殲滅魔法と考えればノエルの舌打ちも仕方ない。だが、おかげで魔石が丸見えだ。

 

「咆哮」

 

ノエルがつくったモンスターの隙を逃すことなく、選択式2重魔法という無茶苦茶な魔法でモンスターの体を焼き尽くす。

直後極彩色のモンスターが爆発し、軽いジャンプで被爆から逃れたノエルが険しい顔をする。

 

「…アルト、他にわかったことは?」

「特性以外は分からない。…恐らくだが、神が関わってる。そういう見えなさだ」

「フレイヤ?」

「どちらとも言えないな。めんどくせぇな…、ベルを守るので精いっぱいだぞこっちは」

 

それを聞くとノエルはうんざりした様子で答えた。

 

「武器を使うにしても燃費悪い。アルトはコレと戦える?」

「アスフィとマジックアイテム考えるかデュランダルの武器を使うかだな」

 

アスフィ・アル・アンドロメダ。現ヘルメス・ファミリア団長でアルトを巡ってはノエルといがみ合う神ごとき才能を持つ女。

 

「アンドロメダの手を借りる…」

「アスフィはひとまず忘れろ。ここまでの騒ぎになっちゃあ各地の冒険者が倒し尽くしてそうだが…」

 

アルトが何となしに空を見上げると、風を使って空を飛ぶアイズ・ヴァレンシュタインを見た。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.17

 

 

 

都市最強のファミリアの女神にして美を司るフレイヤにとって、ベル・クラネルという透明の魂をもつ少年は特別だ。

 

だから冒険者として成長するきっかけを作るために、モンスターを放ちベルに襲わせるという行動をとった。

ただしこの作戦には一つだけ問題がある。15年前のある日、オラリオに突如として現れ消えた、2人組の冒険者である。

 

15年前現れるや否や、片方は【ヘルメス・ファミリア】の団長となり、当人の柔らかい物腰で恩恵を持たない子どもや駆け出しの冒険者、第二級冒険者に絶大な人気を誇った。

それでいて徹底した中立の立場で、彼を敵に回すと何処から反撃を食らうか分からないと言わしめた存在感のある青年だ。

 

もう1人は【ロキ・ファミリア】の幹部になるものの、遠征を除いて12年間ソロを貫き、Lv3にして前線で戦い続けた、ジャイアント・キリングを体現する人であった。それでいてレベルは1度も上がることなく、不自然なくらい大人しかった2人だ。

大方ヘルメスが中立を守る為に黒い方そうさせたのであろうが、ロキの方は少し不思議だった。あの女が、Lv3で収まる器でもないであろうに。

 

それなのに今頃ベル・クラネルの前に現れ、3年前の大人しさは見受けられない。オラリオのど真ん中で堂々と暴れている。

 

思えば彼らは現れた時から脅威だった。

いつからオラリオにいたのか。

誰の元でLv3まで到達したのか。

なぜ、神である自分の目を持ってして魂の色が見えないのか。

 

自分が気づいているのだから、ヘルメスやロキもとっくに気づいてるであろう。

 

あれらは人間ではない。

否、人間と何かが混ざったものだ。

 

そんな2人が、オラリオでは無名のベル・クラネルという少年を護るように動くのだ。邪魔でしかない。

 

黒い方は会話をしていても、まるでヘルメスのように笑ってその真意を悟らせてはくれない。読めないのだ。

白金の方は考えは割とわかりやすい。だが『魅力』に抗えてしまう。神に、抗えてしまう。

 

今回の作戦もいかに2人の足止めをできるかが、ベルに干渉するための問題であった。

心配は杞憂であったようだが。

 

これから先、ベル・クラネルという少年の行く末にあんな禍々しいものは要らない。

そう結論づけると、フレイヤはギルドにアポをとるべく己の眷属を呼びつける。

 

「お待たせ致しました」

「お願いがあるの」

「フレイヤ様の願いでしたら、なんなりと」

「ふふ、頼もしいのね。ギルドに話があるわ。この戦いが終わり次第向かうから、約束を取りつけてちょうだい」

「かしこまりました。失礼致します」

 

突如現れた青年がお願いを叶えるために立ち去ったのをみて、1つため息をつく。

 

「あの2人を動かすのだから、中途半端じゃダメね。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.18

 

「【剣姫】が討伐にあたってるのか…」

 

ノエルより少し黄みが強い黄金の髪色を見上げる。

 

「アイズが動いてるなら、ロキが動いてる」

 

だから自分たちがモンスターの討伐に当たる必要は無いだろう。

そう言い切ると、ノエルはベルとヘスティアが走っていった方角へ屋根をつたいながら走り出した。方角はダイダロス通り。ダンジョン並に入り組んだ街である。

 

いくら彼女でもあの入り組んだ街で小さな少年と女神を見つけるのには苦労するだろう。アルトも彼女に追いつくべく最速スピードでオラリオを走る。

 

「ノエル、俺の見える範囲じゃベルは助けを必要としてない」

 

彼女を追い抜かし、ベルとヘスティアがいる方向へ誘導しつつ、全知を使用しわかったことを伝える。

 

「…ヘスティア様の安全を保証できるの」

 

神の1柱とはいえ、下界では恩恵を受けていない人間とそう変わらない。そのヘスティアの安全はどうなのかと問われる。

 

「出来ねぇ。だから、行く道にいるモンスターを倒すんだろ」

 

彼女に向かい投げナイフを放る。

 

「…ありがとう」

 

投げるためのナイフだから軽く斬撃力も無に等しいナイフでも、彼女が持っていれば最強の矛となる。あらゆる剣に精通した剣豪なのだ。

ナイフで2.3回素振りすると彼女は行く先に蔓延るモンスターを次々に葬りだす。

 

「助けを必要としてないって…、2人はどこかに身を潜めてるの?」

「…いや、ベルはシルバーバックと戦ってる」

 

12階層で出現するレベルのモンスターの名を口にすると、ノエルは形のいい眉を顰める。

 

「今までのベルじゃ、勝てないよ」

「そうだな。でもヘスティアがいる。言っただろ、ヘスティアはベルのために土下座をしてたんだ」

「それだけじゃわからない」

 

詳しく教えろと促される。

 

「察しはついているだろが、ヘファイストスがベル専用の武器をつくった。実際に見ないと詳細はわからないが相当強力だ。あれなら大丈夫だ。それに」

 

「それに?」

 

「ヘスティアとベルは面白いな、戦闘中にステイタスを更新したみたいだ。俺と戦ったときの経験値もたんまり溜まってるよ。ベルなら大丈夫だ」

 

アルトは端正な顔立ちにニヒルな笑みを浮かべる。

 

「さいっこうだよあの二人。なぁノエル。3年前、1度目の俺らの企みは失敗した」

 

アルトの斜め後ろで走るノエルはその話に返事こそしなかったが、自分のせいで叶わなかった願いを笑い飛ばす相棒を見つめた。

 

「今回は絶対叶えるぞ。俺らはベルのためにヘスティアに近づいたが、あの女神が好きだ。俺はあの二人のいるファミリアを守りたい」

 

3年前のアルトからは考えられないセリフにノエルは目を見開く。

失敗こそしたが、1度目の願いは『神殺し』だったのだから。

そして、あの時ノエルが口に出来なかった言葉だったから。

 

「…変わったね」

「そうだなぁ。ヘルメス様もビックリだろうよ」

「お爺もね」

「違いねぇな」

 

そこでアルトは急にノエルの腕をつかみ、走るのを辞めさせた。

急にとめられたことで少し不満そうな表情を浮かべたが彼女も察知したようで不意に微笑む。

 

「な、守りたいだろ?」

「そうだね。簡単には守らせてくれなさそうだけど」

「お前らといる日常のためなら頑張れるよ」

 

アルトも珍しく、ふ、と嘘のない本物の笑みを浮かべた。

その直後に白い物体が先の角を曲がって突っ込んでくる。

 

「頑張ったな、ベル」

「お疲れ様」

 

ヘスティアをお姫様抱っこの状態で駆け抜けてきた少年に話しかける。

 

「アルトさん!?ノエルさん!?」

「ボロボロだなあ。ヘスティアは気絶か?」

「はい、急に倒れて…」

「過度の緊張かな…帰ったら回復魔法かけるね」

 

ヘスティアを抱いたベルを挟むようにアルトとノエルが並び、【ヘスティア・ファミリア】の面々はホームへと戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.19

 

 

「ノエルたーーーん!」

 

ガネーシャ・ファミリア調教していたモンスターと謎の極彩色のモンスター暴れた数日後、オラリオはすっかり以前の様子を取り戻していた。

そんな朝に、天界きってのトリックスターの声が響く。

 

「ロキ…」

 

飛びついてくる女神をかわし、自然と向き直る彼女にロキは3年で変わったと思った。前であれば自分に向き直って会話をすることなどなくそこらに捨て置いてどこかへ行ってしまっていた。

 

「何してるんやー?」

「剣の新調に…この間の騒動の時にモンスターに溶かされて」

 

「…なぁ、ノエル。それを今うちらが探っとる言うたら遠征についてくるか?」

「今は無理」

 

絶対食いついてくると思っていたロキには予想外の返答。

 

「なんでやー」

「強制依頼。ファミリアのランクが上がったから」

 

そう答えつつも、少し腑に落ちない顔をするノエルに、再度ロキは問いかける。

 

「どうしたんや」

「…早すぎる」

 

2人がギルドに申請を出して間もない。本来であれば、強制依頼が出るのは精々1ヶ月後。ファミリアの体制が整ってからだ。

 

「心当たりはあるんか」

「…2つある」

「そーか。ノエル、今はもうウチの眷属ではないけどな、大事な子どもや。いつでも頼ってええねんで」

「ありがとう」

「えーよ。で、何回層まで行く予定なん?遠征ついでじゃあかんのか?」

 

にひっと表情を変えるロキに、気まずそうにノエルは答える。

 

「アルトが【ロキ・ファミリア】と行動するのは無理…。予定では42階層」

「2人でか!?あかん、いくらノエルたちでも無理や!」

 

レベル6が2人いようと、サポーターや魔導士なしに前衛タイプ2人では無茶である。

 

「それに自分、あの反則スキル、ダンジョンでは使えへんやろ!」

 

そういえばこの女神にはステイタスが割れていたな、と思い出す。

 

「大声で人のステイタス喋らないで」

 

使えないこともないが、咄嗟にでも施行すればさらにピンチを招く類のスキルである。

故に、18階層などダンジョン内の明るい場所でレベル6以上に襲われれば勝率が下がる。

 

それを現在知っているのはロキ、フィン、ガレス、リヴェリア、ベート、そしてアルトのみである。迂闊にバラされては適わない。

 

「す、すまん。で、ちゃんと帰って来れるんか?」

「…まだ、死ねないよ」

 

素直ではない言い方に変わってないところもあるんだと懐かしむ。

 

「それから帰ってきたら、遠征、行くよ」

「ほんまか!アイズたんやベート、あとカナも喜ぶなあ」

「カナ?遠征に、あの子が行くの?」

 

単独行動を繰り返す自分を見つけては、剣を教えろ、並行詠唱を教えろとついてまわったLv2の少女を思い出す。

 

「今はLv3やで。ノエルたんに追いつきたかったみたいやなぁ。退団後はソロで中層と下層を動き回っとる。まぁ、ノエルたんほどステイタスはソロに特化している訳でもないから心配やで」

 

ロキはノエルのステイタスを悲しいと評したことがある。

ファミリアに所属しながら、周りを頼ることなく1人で生き抜くことに特化した恩恵たち。

 

「…そう。じゃあ、ますます帰ってこなきゃだね」

 

目の前で裏切ったベート、置き去りにしたアイズ、目を向けてやれなかったカナ。それぞれに口下手な自分だが、自分を決して1人にしようとしなかった3人に向きなおろうと、そのためには強制依頼から無事に帰ることを目標に彼女はロキに微笑んだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.20

 

 

「おかえり。椿に怒られたか?」

 

ホームのドアを微妙な顔で開けた相方に問いかける。

 

「…いや、ロキにあった」

「何か言われたのか?」

「何も」

 

これは意地でも言わないつもりだと察すると深くは追求しなかった。

大事なことは打ち明けてくれるだろうし。

あまり全知の能力が好きではないアルトは、緊急時以外は特に使おうとはしない。

 

それでも彼の好奇心が膨らむと情報収集能力に補正がかかり、街を歩けば知りたい話の噂が聴こえてきたりしてしまうから厄介だ。

それゆえ、彼はダンジョンが好きだ。

強制的に全知を封じてくれるから。

 

神々とダンジョン、それに自分についてはその目で見るしかない。

 

「ならいいけどな」

「あ。あの巨人花のモンスターだけど」

「ん?」

「ロキも探ってるらしい。強制依頼が終わったら、遠征に参加してきてもいい?」

 

俺がダメだと言ったら、彼女は行かないのだろうか。

 

「…俺はいいけど。ヘスティアとベルにも聞いておけよ」

 

割と偉そうにしている俺だが、主神はヘスティアであり団長はベルだ。一般役職である。

 

「うん。…ベルは?」

「ダンジョンに行ったよ」

「ついて行かなかったの?」

「強制依頼に向けて準備してたからな。ノエル、テントはどうする?」

「要らない。ダンジョンで寝るくらい、平気」

「りょーかい。いつも通り交代で寝るだろうからしっかり休んでおけよ。アイテム類は俺に任せろ」

「…私も持っていくよ?」

 

携帯食に回復ポーション、持っていくものは沢山あるのに、1人だけに任せるのは…と荷物を持ち上げようとしたノエルを制止する。

 

「さっきアスフィの工房に乗り込んでマジックアイテムつくった」

 

ノエルに向かってポーチを見せる。

今回は入れることさえできれば無限に収納出来るポーチだ。

つまり大きさがポーチの口以上であれば入らないが、それでもだいぶ楽になるだろう。

 

「また、アンドロメダ…」

 

稀代のアイテムメーカー、アスフィ・アル・アンドロメダ。

彼女が盲信するアルトのために、彼が【神秘】を発現させるまで全力を尽くした女である。

そして、良くも悪くも人と関わらないノエルが唯一敵意を表す人間である。名前が出ただけでしかめっ面だ。

 

「なんでお前、アスフィと仲悪いんだよ」

「知らない。あっちが突っかかってくるだけ」

 

しれっと言ってのけるが、タラリアを数回ぶっ壊しているノエルにも問題がある。ただ女の戦いに口を出すのは野暮だ。言わない。

 

「じゃあ、ベルとヘスティアが帰ってきたら挨拶だけして出るぞ」

「分かった。上層は新しい剣の試し斬りをさせて欲しい」

「あー、そうだな。じゃあ18階層辺りまでは頼む。17階層のゴライアスはどうする?丁度インターバル終わっただろ」

「2人でなら通りぬけられる。ホームにベルとヘスティア様2人は心許ない、時間は巻こう」

「問題はウオダイオスか。勝率はギリギリだな。パーティ揃えるレベルの敵だろ」

「あれは、多分フィン達が倒すよ」

 

さらりと言ってのけたノエルに向き直る。

 

「あいつらいるのか?」

「幹部クラスでお金稼ぎに行ったってロキが言ってた」

「…行きたくねぇ」

 

ぷいっと顔を背ける俺にノエルは言葉を続ける。

 

「ベートはロキとお留守番だよ」

 

先にそれを言わないあたり、ノエルにからかわれたのだろう。すこし癪だ。

 

「ならいい」

 

不貞腐れたままそう告げると、ふ、と息が漏れる。

 

「お前、何笑ってんの」

「…笑って、ない」

「嘘つけ!? 」

 

笑ってるだろ!とノエルの頬を掴むと「不純だあああああああ!」と割って入る、バイト神ヘスティア。

 

「おいヘスティア、なんだ不純て」

「き、君たちはそういう仲だったのかい!?」

「ちげぇよ!見りゃわかるだろ!」

 

次はヘスティアの脇腹を容赦なくくすぐり始めたアルト。ノエルに仕返しするはずの分も己が神に向ける。

 

「あはははははははははは!やめてくれ!アルトくん!あははは!」

「ヘスティア〜くだらねぇこと言うと晩飯味のないじゃが丸くんにするぞ!」

 

笑い転げるヘスティアと悪い顔をしてるアルト、それを見て微笑むノエルというカオスはベルが帰ってくるまで続いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.21

 

 

現在16階層。下級冒険者や第三級冒険者であればサラマンダーウールを必要とする中層ではあるものの、レベル6の耐久からすれば特に警戒することも無い階層である。

 

「ノエル。俺らが遊んでる間、ベルと何か話してなかったか?」

 

モンスターの動きを見ずにメインウェポンである大鎌でモンスターをなぎ倒しながら会話を進める様は、モンスターからすれば悪夢だ。

 

「あぁ…フリーのサポーターに声かけられて、今日組んでたみたいだよ」

 

上層と中層で立ち位置をスイッチし、現在はアルトがモンスターを屠るターン。ノエルの言葉で先程まで余裕だった彼に隙ができる。

 

「はぁ!?」

「ベルが実感できるほど戦闘の場を整えたらしい」

「おいノエル、わざと黙ってたなっ!?」

 

隙だらけなのに、その隙をつこうと襲いかかるモンスターは彼に傷一つつけられない。大鎌のリーチ内では斬られ、懐に入ろうが容赦なく柄で打撃を食らう。

 

「あんな初心者丸出しで純粋なんだ、絶対罠だろ!」

「可愛くて小さい女の子らしい」

「疑われずらい容姿で気の利くサポーター、そんなのがフリーでたまたまベルに声かけるか?」

 

正直なところ、ノエルの見解もアルトと同じであった。そんな子がいるのなら今頃どこかの稼ぐパーティに入ってる。

高い確率でワケありだというのが2人の共通認識だ。

 

「なんで黙ってた」

「…アルトは、ベルにずっと綺麗な道だけを歩かせるつもり?」

 

地味に過保護をこじらせたノエルに、それを指摘されるのは予想外だった。

 

「…」

「あの場で言ったら、スキルを使って調べあげて、ベルに忠告するでしょ」

 

答えないアルトにノエルは続ける。

 

「アルトが言えば聞いてくれると思う…。けど、今回避けれても、私たちは常に一緒に居られないし…また、同じことになるよ」

「確かにな。だがその時でいいだろ、回避出来るならした方がマシだ」

「そうだね。…でも、今回見逃してあげたのはステイタスもベルに到底及ばない、非力のサポーターだからだよ。ソロで誰にも頼れない非力なサポーターがベルに出来ることなんて、精々お金をだまし取るくらい。命に関わることはそうそうないと思う…そうじゃなかったら、今頃潰してる」

 

ここでアルトはようやく悟った。

害と判定した者には冷たいノエルは、「ベルの社会勉強の相手にさせてやるから騙しに騙していい夢見てろ。だが最後は潰す」をその身に隠しているだけである。

つまり、嬉しそうに他人と冒険したと報告するベルを騙した相手に、アルト以上にキレていた。

 

「お前…こえーよ。あークソ。出る前にベルの未来全部見とけばよかったか」

「全知も未来予知も使えない状態だったら足でまとい…」

「それを言うなよ。マジムカつくから速攻で終わらすぞ。このクソみたいな強制依頼はフレイヤがギルドの職員に手を回してやがった。本来なら【フレイヤ・ファミリア】に回る案件だ」

「…そう」

 

通りで深過ぎる階層での依頼だと納得した。アルトとノエルがフレイヤを異常に嫌うと同じで、昔からフレイヤも2人に対しいい顔をしない。それに加え目をつけたベル。ベルの周りにいるのであれば今後も容赦なく邪魔するという圧である。

 

「ギルドの線も考えたけど、違ったの」

「や、ほぼ共謀だ。俺らがランクアップ経緯も言わず振り切ってるからなあ。あいつらまともな資料書けねぇよってブチギレてるし」

「…ギルドは嫌い」

「知ってる。つーか俺もだ。誰があいつらにあの話をしなきゃいけねぇんだよ」

 

共犯者はノエル。事実を知っているのはヘルメス。神殺しの話など、その2人さえ知っていればそれでいい。

これから先も、ずっとそれでいい。そうやって今まで生きてきたのだから。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.22

 

 

 

コートの裾を引かれる感覚に、反射的に立ち止まると相棒がこちらをなんとも言えない顔で見つめていた。

 

「どーした」

「…誰かいる」

 

薄紫色の瞳は俺ではなくこれから続く階段に向いていた。

 

「18階層の入口に1人か。こっちに背を向けてやがるな」

 

入口にいるなら安全階層の方ではなくモンスターが出現する17階層側を見ている方が自然である。

だがその人物は18階層側に体を向け動かない。

 

「…誰も出ていかないようにしてるみたい」

 

なんのために。18階層で何かある、それだけが分かっても仕方がない。

 

「引き返すか?」

「…気絶、させる?」

 

同時に放った言葉は全く別の意味を込めており、ノエルの言葉を理解したアルトの顔が歪む。

 

「お前さ、…や、もういい」

「…」

 

育ての親の元から逃げ出し、長い間共に生きていたがどこで育てかたを間違えたのだろう。

思えば、出会った時から彼女は〝 こう〟だったし、

 

もうほとんど記憶にない・・・・・・・・彼女の父親はさらに物騒な人だった気がする。

 

「気絶はさせねぇ、行くぞ」

 

安全階層とはいえ、モンスターが出現する危険のある場所で気絶させるなんて論外。

やられた方が悪い、という冒険者らしい考えも分からなくもない。

実をいえば【ヘルメス・ファミリア】の団長時代はそちらよりの考えであったし、相棒との戦争さえなければ変わらなかったように思う。

 

「いいの?」

 

2人の力関係は微妙で、アルトの意見を優先することが多い。それなのにどうして、と言いたげだ。

 

「まぁ、面倒事だと決まったわけじゃないしな」

「…」

「俺、お前と約束してたけど、ベルとヘスティアにあの話するつもりなかったんだ」

 

虚をつかれたノエルに笑ってみせる。

 

「あの時、俺を騙したこと負い目に感じてんだろ?俺もお前をずっと騙してたよ」

 

だから、

 

「遠慮なんかしてんじゃねぇ」

 

あれほどお互いの意見通すために全力を出したのに今更だろ。

 

「…」

 

小さく頷いたのを確認して18階層に続く階段を下る。

 

 

 

やはり、入口に立つ人物は俺らを認識しても意識は18階層に向いていた。

 

「やぁ。下の階に急いでるんだ、通してくれる?」

「…今、中に人は通せねぇんだ」

 

相棒以外の前では善人面で人当たりの良い人間を演じているし、オラリオの禁句になっていても昔の俺の印象で通れると思っていたが。18階層に住み着いてるヤツらなんて、3年で変わるようなたまじゃないだろうし。

 

「ね、お願い。君ってここで鍛冶屋してる子でしょ?いい素材見つけたら優先的に回すからさ〜」

 

ドサッと青年に寄りかかりさらに畳み掛ける。

 

「ついでに何が起こってるのか教えて?」

 

思惑通り、金を握らせればあっさりと口を開いてくれた。

 

「殺人だよ。【ガネーシャ・ファミリア】のLv4が殺された。犯人がわからねぇから18階層を封鎖してる。行っても疑われるだけでいい事ねぇぞ」

「ありがとう。ちなみに主導者は?」

「【勇者】フィン・ディムナ率いる【ロキ・ファミリア】の首脳陣だ」

 

予想はしていたものの、違って欲しかったというのが本音である。

 

 




地味にしおりが増えていて感謝です。
アルトさんとノエルさんは一度戦争レベルの喧嘩をしたことがあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.23

 

 

爆発音。

 

入口に立っていた青年に通してもらい、リヴィエラの街を避け遠回りする形で19階層を目指していると階層内に戦闘音が響いた。

 

「…リヴェリアの魔法」

 

オラリオ最高の魔道士リヴェリア・リヨス・アールヴ。

彼女の魔法が轟音とともに連続して昇る。

 

ロキから聞いたパーティでダンジョンにいるのなら、この階層で彼女の魔法が放たれるのは普通のことではない。

 

「話が違ぇな。モンスターがいるぞ」

「……!」

 

極彩色のモンスターが爆ぜていく視界を、突如黄金が切り裂く。

 

「はぁ!?」

 

どこからか降ってきた、アイズ・ヴァレンシュタインをアルトが抱きとめる。かなりの速度で降ってきた割に手にかかる衝撃は軽く、少し驚きながらもゆっくりと屈む。

 

「アイズ…!」

 

レベル5の彼女が飛ばされ、都市最強の魔導師リヴェリアが魔法を放つ18階層とは。

 

「…おいノエル。剣姫の傷、あのモンスターにつけられたもんじゃねぇぞ」

「…」

 

極彩色のモンスターの性質は溶かす酸だ。だが彼女のに残る傷は打撲痕や切り傷。対人で付けられたようなものばかりだ。

 

「アイズ、一体何と戦ってるの」

「…ノエル?……わからない」

「わからない?」

「風を見て私のこと、アリアって」

 

脈絡のない話だったが、アリアの名を聞いてアルトもノエルも動きが止まる。

次の言葉に迷っていると、再度火柱が昇った。

目を細めて先を見つめるノエルから言葉が紡がれる。

 

「行ってくる。アルト、アイズをみてて」

「はぁ?俺もいくぞ」

「…戦ってるのが【ロキ・ファミリア】なら、私の方が適任。アイズは多分アマゾネスの双子が迎えに来るから」

「おい、まて!」

 

アルトとアイズに1度も視線を寄越すことなく最速で最短距離を走り出した彼女にアルトや手負いのアイズでは追いつけない。

 

「あのバカ…。急がば回れか?」

 

割と考え無しな、遠ざかる彼女の背中を見つめてひとつため息をこぼした。

 

「あの、ありがとう、ございます」

 

腕の中にいたアイズが起き上がろうとするので、背中を支えつつ質問を飛ばす。

 

「聞いてもいいか。何があった」

「…新種のモンスターを操る女性が。途中まで押してたけど、急に勝てなくなって、飛ばされました」

 

分かりずらい表情に一瞬陰りが見える。そういえば、強さに固執した少女だったということを思い出す。

励まそうかとも考えたが自分が言うのは違うような気がした。

 

「…そうか。勇者は勝てそうか?」

「はい、」

「なら大丈夫だろ。あいつも行ったし」

 

【ロキ・ファミリア】の首脳陣に今のノエルが加われば過剰戦力なくらいだ。相手が可哀想だなと軽く同情する。

アルトが呑気にそんなことを考えていると、未だ腕の中にいる剣姫から質問が飛ぶ。

 

「…ノエルは、どうやってレベル6になりましたか」

 

他のファミリアの人間の上に首都最強ファミリアの幹部。簡単に教えるわけにはいかないと笑って誤魔化そうとしたが、真っ直ぐな視線に少し心が揺れて、この少女には秘密を明かしてもいいかと考えた。

 

「…俺とノエルさ、オラリオを出て初めて喧嘩して1年半殺し合いしてたんだよ」

「!?」

 

アイズの知るアルトとノエルというのは、別ファミリアの幹部と団長でありながらほぼ一緒にいたのだ。それはアイズがロキの元へ来た時から、ノエルが出ていくまでずっと。

ファミリアの人間誰一人として、「アルトに用事」と言って出ていく彼女を引き止めることさえできなかったのに。その2人が殺し合いをするほどの喧嘩とは。それも、1年半。

 

「頭おかしいだろ。一番大事な相方だけど、譲れる話でもなかったからな。マジで何も無い荒野で生きるか死ぬかの戦いだった。地形は変えたし街に入っても油断は出来なかったしな。馬鹿みたいに遠くまで行って、一種の旅だった」

 

かなりぶっとんだ話を笑いながら美しい男が語るもんだから、アイズの頭の容量が足りなくなる。

 

「ダンジョンでも生死を分ける戦いをした時、レベル上がりやすくなるだろ。ちょいちょい神の元へ足を運んでステイタス更新してもらって、仲直りの頃にはレベル6へランクアップ可能だった。正直、レベル7も遠くない。なにせ1年半、ずっと気を抜かずにいたからな。ダンジョンよりしんどかった」

 

へらっとアイズに笑いかけて彼は続ける。

 

「でもこれは辞めておけよ。大切な人を手にかけようとした自分に今でも腹が立つ。俺らはどうにかなったけど、本来なら絶縁だからな」

 

あまり関わりはなかったが、優しい人当たりのいい人というイメージが少し変わる。

へらっと笑っている時は、いつも今みたいに自己嫌悪しているときなのだろうか。

今まであまり意識していなかった彼に、アイズは初めて興味を示した。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.24

「リヴェリア」

 

 

 

比喩ではなく、最短距離を走ってきた彼女は普通の人では選択しない崖を飛び降り、リヴェリアの魔法を上手く避け戦地までたどり着いた。

 

 

 

「ノエル、どこから…」

 

 

 

「アイズが飛ばされてきたから、代わりに。どういう状況」

 

 

 

「……あぁ。フィンと戦ってる赤毛の女がいるだろう。あやつは極彩色のモンスターを操ってるようでな。倒して話を聞かねばならん。

 

 

 

それに、あの子をアリアと呼んだ」

 

 

 

「それは、本気でアリアと勘違いしてたの」

 

 

 

「娘だとは思いもせんだろうな」

 

 

 

それだけ確認すると来た道を振り返る。てっきり参戦しにきたのかと思っていたリヴェリアは質問をなげかけた。

 

 

 

「そのためだけに来たのか?」

 

 

 

ノエルは少し間をあけ、つぶやくように答えた。

 

 

 

「アイズが苦戦したみたいだから、どんな相手かと思ったけど、」

 

 

 

「けど?」

 

 

 

「フィンに勝てないような相手には興味が無い。もっと強い相手かと期待した」

 

 

 

昔のくせで、暗に現在のアイズにも興味がないと、そう告げる。

 

 

 

「そう言うな。お前のように軽々とレベル差を埋めるやつの方が珍しい。あの子はレベル5だ」

 

 

 

「そう。どうでもいい」

 

 

 

リヴェリアの目に映る彼女は、3年前よりいっそう冷たく、まるでファミリアに来た頃のようだった。

 

 

 

「お前…」

 

 

 

冷酷な少女が生来の優しさを初めて見せたのは、アイズが入団して半年ほどすぎた頃だった。アイズいわく、入団してからずっと「そう」だったらしいが、他の団員、特に古参や幹部相手には決して見せてはくれない優しさだった。

 

 

 

そこからノエルの半ストーカーと化していた人嫌いのカナや、今以上に尖っていた一匹狼のベート、そして誰より構い倒したロキのお陰ですっかりその角は取れたと思っていた。

 

 

 

表面上言葉では突き放しても、端々に相手を思う気持ちが見えていたのだ。11年を経て彼女は確かに【ロキ・ファミリア】を愛していた。

 

 

 

だから3年前、最後に彼女に会ったベートが怒り狂っていたのも、ロキがそれを放置していたのも、アイズに何も言わず姿を消したのも理解ができなかった。

 

 

 

そして現在。どうして入団した時のように、突き放すような言い方。

 

 

 

 

 

「お前、なぜ急に居なくなった」

 

 

 

「…ベートから聞いてるでしょ」

 

 

 

「あやつはあの時冷静ではなかった。お前がロキに刃を向けたなど、ファミリアごと潰そうとしていたなど信じられん」

 

 

 

高潔なエルフはその美貌に珍しく焦りをうかべる。

 

 

 

いつだって私の上から物を語る彼女も、あれはトラウマか。そんな彼女を目にして胸を痛める自分が、ノエルは嫌だった。

 

 

 

未だ消えない惨劇と、ロキのいるファミリアを愛してしまった事実、どちらかを消してしまいたかった。

 

 

 

「…フィン、は、気がついてるよ」

 

 

 

ふ、と息をこぼし答えにならない答え口にする。

 

 

 

「フィンは教えなかったでしょう」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

リヴェリアもその線を考えたことがなかった訳では無い。ベートも知らない事実を知る者がいるとすれば、ロキとフィン、アルト、そして酷く嫌っていたフレイヤだと確信していた。

 

 

 

アルトとは会話をしたことはあれど、いつもにこやかな笑顔で撒かれていたしノエルと同時に姿を消したので聞けなかったし、フレイヤは論外だ。

 

 

 

そしてロキとフィンが口にしないのなら、本人に聞くしかないのだ。

 

 

 

「だからお前に聞いている」

 

 

 

「…そうだね。でもフィンはリヴェリアには聞かせたくないと思うけど」

 

 

 

「私?」

 

 

 

「そう、高潔なエルフ様には聞かせられない。プライドが高くて面倒で、汚いものが嫌いな、生まれながらに高貴なエルフ様には」

 

 

 

アルトが人を怒らせる時にする表情を真似、彼女は己の口角をゆっくりと上げる。

 

 

 

その美貌に浮かべる冷たい笑顔と言葉は、隣にいたレフィーヤを怒らせるには充分すぎた。

 

 

 

「あなたっ!?リヴェリア様になんてことっ!エルフをバカにしてるんですか!?」

 

 

 

胸ぐらを掴み憤慨するエルフの少女の手を上から掴む。魔力特化のレベル3が、オールラウンダーのレベル6に勝つ道理はない。

 

 

 

「そうやって、すぐに逆上する頭の足りないエルフに教えることはないよ」

 

 

 

「よせレフィーヤ!ノエルもやめろ!お前はどうしてそうわざと怒らせようとするのだ」

 

 

 

事実、リヴェリアには言えないことだった。理由は彼女が気高く高潔なエルフであるから。

 

 

 

本当のことを言えばリヴェリアは自身を酷く責めるだろう。そんなことになるくらいなら自分がヒールになる方がずっといい。

 

 

 

裏切ったのは事実。本当のことなんて、なくていい。

 

 

 

「その言い方は感心しないな、ノエル」

 

 

 

「フィン」

 

 

 

振り向くとあまり機嫌が良くなさそうなフィンがいた。少し不自然な手の動きーーーーー指を折ったか。

 

 

 

「リヴェリア、済まない。逃がした」

 

 

 

「…そうか」

 

 

 

「で?ノエル、君はどうしてここに?」

 

 

 

「あとでリヴェリアに聞いて」

 

 

 

「わかったよ。君の口は、今もそうしなければいけないのかい?」

 

 

 

「口?」

 

 

 

「まるで入団した時のようだよ」

 

 

 

腕を組み仕方がないなと笑う彼に、1度も勝てたことがなかったなと思い出す。いつか自分の手で膝をつけてやりたい。

 

 

 

「…別に。ただ、あの事を探るなら容赦はしない」

 

 

 

良くも悪くも、表情が乏しい故に美しい顔でも無機質さを感じさせる彼女が、その顔を凄ませると普段を知っているだけに恐ろしい印象をいだく。

 

 

 

「らしいよ、リヴェリア?」

 

 

 

「仕方ないな。レフィーヤ、ノエルから離れろ」

 

 

 

「でも!リヴェリア様をあんなふうに!」

 

 

 

「逆上すれば思うツボだ。昔より上手くなったな」

 

 

 

前はこれくらい言えば逆上していたのに、と月日の流れを感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

NO.25

ロキ・ファミリア幹部との補足関係です。ストーリーで深く掘るつもりがない裏話的なところです。

ノエル→フィン
人としては尊敬しているが、それを口に出来ないだけの強烈な憎しみが勝つのでいつか絶対に膝をつかせる。入団してから5.6年はどう暗殺するか本気で考えていた。今はそのつもりなし。

フィン→ノエル
問題を起こさない問題児。歳もそれなりに離れているので軽くあしらっている。恨まれてることも知っているので自分から深く関わるつもりもない。恨まれてる原因ついては悪いとは思ってない。


ノエル→リヴェリア
フィン同様、恨んでいる対象だが徐々に薄れている。薄れるのが怖くて近づきたくなかった相手。今でも事実を明かすには人がよすぎると思っている。


リヴェリア→ノエル
アイズより先に入団したので後の祭りではあるものの、アイズの時のように初めからもっと向き合っていればよかったと後悔している。なぜファミリアから、オラリオから消えたのか知りたい。


 

レフィーヤ・ウィリディスは目の前の人物にこれ以上ないくらい怒りを覚えていた。

 

「(なんなんですか、この人!?)」

 

急に現れ、アイズをバカにしたどころかリヴェリア様に不敬を働くとは。

元団員といえど、いや、元団員だからこそ、それがどういうことであるかわからないはずもないのに。到底受け入れられるものではなかった。

 

「アイズ」

 

自分の後ろを見ながら彼女が、憧れの人の名を口にする。

振り返れば少し傷を負ったアイズと、いつかベートを飛ばした黒い男、ティオネ、ティオナが親しげーーーーー楽しそうーーーーーにこちらに向かって歩いてきた。

 

「(そんなわけないっ!)」

 

レフィーヤが動揺してる間にノエルが4人の元へ歩いていく。

 

「傷は?」

「すぐに治りそう…」

「そう」

 

あれだけアイズに興味が無いと素っ気なく話していたのに、彼女はアイズの容体を確認すると手を取り治癒魔法を唱える。

 

「ありがとう」

「しょぼい魔法だから、時間もかかるし効果も薄いけど…」

「なーにいってんの。アイズがどれだけノエルのこの魔法に助けられたと思ってんのよ」

「…」

 

昔の話を始めそうなティオネに、ノエルは少し顔をしかめる。やはり【ロキ・ファミリア】を好きではなさそうだとレフィーヤは考える。

 

「アイズに過保護だから、深層突入前とかは絶対に魔法をかけてからじゃないと行かせなかったでしょ」

 

しれっとノエルからすれば恥ずかしい部分を盛大に語るティオネと、知らなかった事実にくくくと笑うアルト。先程までの空気がうそのように和む。

 

「お前、すごい意外なんだけど」

「それ以上笑うとベルにアルトの昔の女の話を暴露する」

「おいやめろ」

 

ついていけず呆けるレフィーヤしか聞こえないように、リヴェリアから声が掛かる。

 

「ノエルは大事なものほどああいう態度をとるんだ。本当にどうでもいいものには興味すら示さない。ここに来たのも、アイズがやられたから我々が心配だったんだろう。全く、素直じゃない」

 

納得のできないレフィーヤに言葉が続く。

 

「あの言い方ももう少しマシな時期もあったんだがな」

 

細い腕を組み、ふぅ、と息をつくだけでも美しい王族のエルフはとても機嫌が良さそうだ。

 

「ノエル、そろそろ行かねぇと」

「ごめん。急ごうか」

「?ダンジョンに急ぎの用があるのかい?」

「強制依頼で、40階層辺りまで」

「…分かってるのかい?あの階層は第1級冒険者がパーティを組んでようやく安全を確保できるような階だよ?」

「2人が最大戦力」

 

「ええーじゃあ一緒に行こうよ!」

「ティオナ…リヴィラの問題、請け負ったのはあなた達」

 

アルトとは生まれながらの付き合いのため、会話がなくとも連携は取れる。もと団員同士とはいえ、2年程の付き合いしかないティオナが加わるのは得策とは思えなかった。

 

「そうだね。ティオナ。まだ伝えていなかったけど、次の遠征にノエルは参加する予定だ。その時でいいだろう?とはいえ、40階層に2人は…」

「いい。2人だと勝手がわかってて楽」

「そうかい」

 

仕方がない、と息をつくフィンと、少しジト目になるアイズ。

ノエルとアイズの付き合いはもうかれこれ9年だ。空白の期間はあれど、アイズにとっては古い付き合いの1人。アルトにはあっさり背中を預けるのに、特に仲の良かったベートやアイズにさえ一切頼ってくれなかったことを思い出す。

 

「ノエル、遠征では私と組んでほしい」

「アイズ…?」

「…だめ?」

「…わかった」

 

幼い頃よく2人でしてたように、おずおずと出されたアイズの小指をノエルは小指で握った。

 




リリと出会ったベルがノエルにうれしそうに報告するだけの、まったりした日常回をボツにしています。

挟むタイミングがなかったのですがお気に入りの話なので消せずに眠ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.26

「フィン!そういえば、ノエルがうちにいた時ずっとステイタス更新してなかった理由って知ってる?」

 

アルトとノエルと別れた後、ひとまず地上に戻るために準備を始めた【ロキ・ファミリア】の首脳陣の中で、今日も元気にティオナが口を開いた。

 

「…大方予想はついている」

 

はっきりしない答えにティオナは追求しようとしたが、それを遮ったの意外なことにアイズだった。

 

「どういうこと?ステイタス更新してない…?」

 

「この間ベートとノエルのデートの跡をロキとつけてたんだよね!そしたら、ロキはLv4のランクアップが可能になった瞬間から1回もステイタス更新に来なかったって言ってたの」

 

変な話だよねー、あれでずっと前線にいたの凄すぎるよね、と呑気に笑うティオナに、アイズは小さく首を振った。

 

「それはありえない」

 

次はアイズの言葉に古参組が反応した。

 

「アイズ、ありえないって?」

 

珍しく眉を下げたままのアイズが、小さな口をおずおずと開く。

 

「4年前にノエルはLv5だった」

 

その告げられた事実に、古参組が否定を入れる。

 

「なにかの間違いじゃないか?4年前は確実に【ロキ・ファミリア】の団員だった」

 

「ううん、間違いじゃない。あれは【ペルセウス】がなにかしてて、ノエルはステイタスのためにヘルメス様のところに通ってた」

 

確信を持って言い切るアイズに、全員が顔をしかめる。

 

「動き自体はずっとLv3の範疇だったぞ」

 

「…1度、ソロで下層に行って、気絶したことがある…」

「え!?」

「それをノエルが助けに来てくれた。あの時の動きは確実にレベル5。私が気絶し続けてると思ってああやって動いたんだと思う」

 

ベート、カナ、アイズ。ノエルが【ロキ・ファミリア】で懐に入れたのはたったの3人。その内の一人が確信を持ってそういうのだから、ヒュリテ姉妹やレフィーヤは信じられないとは思いつつ納得した。

 

それを聞いてなお信じられないのは古参組のフィンやリヴェリア。

 

「…そこまでしてか」

 

頭を抑え目を瞑るフィンに注目が集まる。

 

「フィン。ノエルはお前なら事実にたどり着いてると言っていた。憶測でいい、あの子がファミリアに心を寄せず、あのように振舞っていた理由を教えてくれないか?」

 

リヴェリアが珍しく縋るように尋ねるのを見て、口止めもされていないのに長らく口にできなかったそれを口にした。

 

 

 

 

「…あの子は恐らく、【ゼウス・ファミリア】か【ヘラ・ファミリア】にいた英雄の娘だ。相棒のアルトもそうなんだろう」

 

 

 

 

リヴェリアもどこかではそう思っていた。それでもなお、わざと理由の候補から外していたそれに衝撃を受ける。

 

「あの子にとって、私たちは仇か…」

 

目を瞑り動かなくなったリヴェリアをそっとレフィーヤが支える。

 

「…ノエルが」

 

アイズにとってもそれは衝撃だったようで、剣の柄を深く握るのをフィンは目の端で捉えた。

 

「てことは、ベートやアイズに優しかったのは、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】を落とした時に所属してなかったから?」

 

「恐らくな。神フレイヤへの態度もそれなら理由が着く」

 

「それだったらどうしてロキの所へ来たんでしょう…。あの人はどうやってロキと出会ったんですか?」

 

誰も聞けなかった問いを、代弁するようにレフィーヤが声に出した。

 

「ロキの一目惚れだよ。どこのファミリアにも寄り付かなかったノエルを追いかけ回して無理やり頷かせてた。あの時のロキは今より好戦的だったからね。

でもロキは、ノエルを拾ってすぐに危うさに気がついた。それからは自分のそばに置いて、【ロキ・ファミリア】を好きになれるよう、何でもしていた」

 

「…そこまでして、ファミリアを恨んでるノエルさんを…。ロキのお気に入りだったんですか?」

 

それに対して、一拍おいていてできるだけ感情を載せないようにフィンは答える。

 

「お気に

入りではあったが、理由はもっと別の所だろう。例えば、ノエルに殺されないためとかね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.27

19階層へ続く階段を降りている途中、ノエルが不意に振り返った。

 

「ノエル?」

 

「…ごめん」

 

どうしたのだろう、とおもって振り返っただけだったが、謝罪という予想外の返答に少し顔をしかめる。

 

「【ロキ・ファミリア】が恋しいか?」

 

先程も遠征に参加すると、改めてアイズに約束していた。それにノエルはロキを、あのファミリアを口にはしないが大事にしている。そうなってもおかしくは無い、とそう思った問だった。

 

「難しい。けど、帰る場所はいつでもアルトの隣だと、そう思う」

 

考えたのではなく、すっと返ってきた答えに酷く安堵する。

 

「そうか。なら謝るな」

 

言葉通り、ずっと二人で生きてきた。覚えてる最初の記憶さえ同じだろう。色恋云々ではなく、ずっと隣にいた存在を簡単に手放せるほどアルトは淡白ではない。

 

近くにいるのに中々触れ合うことも無いノエルの頭をくしゃりと撫でる。

 

「なに」

「たまにはいいだろ」

 

ふ、と笑うアルトに振り払う気も起きず、太もものホルスターからピックを取りだしアルトの横腹ギリギリを描くカーブで投擲する。

 

ザシュッ、と音がしアルトに襲いかかろうとしていたモンスターが灰になって消える。

 

「ナイス」

「わざと避け無かったでしょ、、、」

 

当然、と言わんばかりに口の端で笑うアルトにご機嫌だなと首を振る。

 

「目標は42階層のドロップアイテムだけど…その前の階層主はフィンたちが倒す算段だったから少し急ごう」

 

ベルが心配、と2人はできるだけモンスターを無視し下層へ最短ルートを走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し休もう」

 

27層へ降りる直前でアルトが立ち止まった。

 

「…アンフィス・バエナ?」

「…討伐されてたと思ってたよ」

 

以前2人で下に潜ったときは討伐されており安全に通過できた階層だが、いるとなるとまた話が変わる。

 

「水上に移動されたら厄介。水辺は私が引き受ける。アルト側に何回か飛ばすかも」

 

「分かった」

 

役割を簡単に決め、念の為ポーションを飲むと一気に駆け下り階層主がいる場所まで向かった。

途中のモンスターはノエルが先頭で屠り、後ろからくる振り解けなかったモンスターはリーチの長い武器を使うアルトが屠る。いつものフォーメーションで連携に問題がないことを確認しながらの移動だった。

 

 

「アルト!」

 

五感がアルトより鋭いノエルが声を荒らげる。

 

「どうした」

「面倒、すでに水上にいる…。ぶっ飛ばすからちゃんと受け取れ!」

 

どこでスイッチが入ったのか、アルトと喧嘩した時以来の口調に動揺した瞬間、ノエルのスピードに置いていかれる。

 

「アイツ…!」

 

 

「アストライアに告ぐ」

「輝く無数の星々 、荒れ狂う人々の切望」

「時は来た、終焉の予言は今詠われる」

 

 

走りながらだとなんの問題もない、と言わんばかりに詠唱を始め、珍しく詠唱失敗するのではないかという乱れの中高速で言葉を紡ぐ。

 

そしてアンフィス・バエナの頭上を飛び、アルトとアンフィス・バエナを挟む状態になった空中で最後の一文を唄いあげる。

 

「地を穿てーーー アステリズム」

 

それは星群魔法。

いくつもの光がモンスターの体を舐め溶かすように貫き、避けることが許されない魔法。

 

穴だらけになり水上で動かなくなったアンフィス・バエナに隙をみ、ノエルが着地と同時に突撃。

 

「馬鹿野郎!」

 

周りが見えなくなっているか、その真っ直ぐな蹴りは興奮状態のモンスターに余波をうみつつ捕まえられ、アルトの横までぶっ飛ばされる。

 

アルトも全力で走りノエルを受け止める。

 

「お前どうした、おかしいぞ!落ち着け!?」

「…ごめん」

 

急ぎたい焦りか、久々の強敵だからか、今まで見た事ない動きにさすがに止めに入った。

 

「…ごめん。だけど、私はLv6じゃあ足りない…」

 

昔見た、記憶に残るLv8やLv9の英雄たち。オラリオに帰ってきてその記憶がさらに強くなったのか。

 

「先に行く」

 

「我が身に全能の一端を」

 

すぐさま魔法を切りかえて月光をその身に纏うと、真っ直ぐに走り出す相方に舌打ちをする。

 

「そう思うなら、あの時はどうしたんだよ」

 

言っても仕方の無いこととは思いつつ、過去のノエルを思い出し目を瞑る。

 

そして【未来予知】を施行し、その先を0.1に定めるとアルトも突撃を始めた。

未来予知は日常でも戦闘でも効果を発揮する超レアスキル。単純な戦闘ステイタスで基本ノエルに劣るアルトが、ノエルと肩を並べるほど強い理由の1つ。

 

アンフィス・バエナの行動を瞬間単位で先読みすることで最悪の事態の回避、適切な一撃を繰り出す。

 

 

大鎌を一閃、スパァンッと横に振りかざすとと大きく産まれる隙にモンスターは飛びつく。

 

「グッ…!ノエル!」

 

それを利用し、高速で飛んでくる腕を柄で両手で上に弾き、上で構えていたノエルが双剣でそれを切り刻む。

 

どちらに集中していても全方向から飛んでくる攻撃に、考える暇を与えないのがアルトとノエルの連携。スタッと正面に着地したノエルと頷きをかわすと、移動するアンフィス・バエナをさらに追いかけた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No.28

それは突然だった。

 

 

ノエルに変なスイッチが入っている時点で戦闘をやめ、アンフィス・バエナを振り切ってさらに下層へ進むのが最善だった。

 

大人数の足でまといがいるパーティならともかく、レベル6が2人もいればそれは容易だったのに。

アルトに頼らないスタイルで、まるでソロのように振る舞うノエルはどうやってもおかしかったのに。

 

いつものようにアルトが誘導し、誘導された不意打ちでノエルが攻撃を行うよう誘導している最中、連携が乱れノエルの月光がアルトの視界を奪った。

 

「!?」

 

即座に未来予知で先を見ると攻撃が当たらないようアンフィス・バエナから距離を取る。体勢を立て直している最中連携ミスに動揺したノエルがぶっとばされ水流に飲まれていくのが見えた。

 

「ノエル!!!!!!!!!」

 

助けに行くにも目の前のモンスターに阻まれいけない。

 

目の前のモンスターにも、自分を頼らないノエルにも腹が立つ。

冷静さを欠くことを嫌うアルトも今回ばかりは機嫌が悪い。

 

あの相棒なら最悪の事態にはならないだろうが、そもそもこの事態になることすらなかったはずなのに。

 

「邪魔なんだよ」

 

先程のノエルから喰らった月光で、アルトは獣化していた。らしくないイラつきもあとから考えれば獣化が影響していた気もする。

 

この獣化も長くは続かないだろうが、そんなことは問題ない。目の前のモンスターを今すぐ屠れば良いだけ。

 

先程までとは様子も速さも、攻撃の重みすら違うアルトに怯えたのはモンスターの方だった。

 

横一閃。歳ほどと同じように繰り出された一閃に、もう一度モンスターも腕をふりかざす。

 

「ノエルが居なければあの斬撃もないと思ったか?」

 

大鎌をくるりと半回転させ、柄ではなく釜の部分で腕を斬る。

動揺する隙すら与えない。

 

 

 

とんでもない重量の大鎌を片手、ある時は指先で踊らすアルトの姿はまるで死神。

 

大きなダメージではないが確実に溜まっていくダメージの蓄積にモンスターの動きが少しずつ鈍くなる。

そしてアルトがモンスターの動きを捉えきれなくなった時、トンっとモンスターの頭に何かが乗る。それを認識した途端、アンフィス・バエナには意識が向かった次の瞬間には、もう灰と化していた。

 

「…」

 

首を一閃しそのまま胴体ごと魔石近くまで斬ったアルトは、ポーションを飲む必要もなくドロップアイテムをしまうとすぐに下層へかけだした。

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

確実に私のミスだ。

 

目が覚めた先はもう恐らく40階層を突破している。

というよりは、まるで、50階層に近いような……。

 

高速で頭をめぐらせ、上下どちらに進むか考える。現在地が48以上であれば上に行くのが良い。だが49階層にはバロールがいる。ふぅ、とひとつため息を吐くと周りに湧いたモンスターを一振で両断した。

 

「…こっちはもうダメか」

 

剣にこだわった事がなく双剣は同じものを使っているが、片方はアンフィス・バエナのダイブを真下で受け止めたことで消耗していた。アルトがいれば鍛冶師の真似事もできたが道具すらない。消耗している方を左手に持ちかえる。咄嗟に攻撃を繰り出すのは右に癖が偏っているので右に切れ味を求めた方が良いだろう。

 

とりあえず階段を探そう、と並のモンスターでは追いつけない速度で走る。こういう時ばかりはパーティよりソロの方が良い。

 

だが咆哮などを繰り出すモンスターはまた話しが違った。

左からとんできた炎を回避し着地で追撃を行おうとしたが、着地地点にもモンスター。

 

「…クッ」

 

無理やり体をひねり地面と平行になる体勢で回転斬りを決め着地。息を着く暇もなく2回目の咆哮。アルトがいれば、こんなことには…!

 

自分の単独行動が身から出た錆となり、相棒の凄さを実感する。

こういう時であれば、彼は先回りして2回目の咆哮などさせないのに。

 

それと同時に自分は弱くなったとも思った。【ロキ・ファミリア】にいた頃であれば、自分のレベルに見合わない階層にソロで潜ることなんてしょっちゅうだった。ここ3年ほどは対人戦に重みを置いていたとはいえ、今の自分は不甲斐ない。これでは到底、願いには届かない。

 

「ムカつくなあ」

 

突如冷静になると目の前のモンスターを踏み潰す。グシャッと潰れ消えたモンスターを見下ろすノエルは、アルトが見ればヘスティアと出会う前の顔と表現しただろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。