並行世界から来た空戦魔導士 (白銀マーク)
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0話 プロローグ

 前置きです。
 これがあっての本編になります。
 主の初投稿SSになります。温かい目で見てくれれば幸いです。


 僕には記憶がありません。覚えているのは名前、この世界の現状、そして魔甲蟲の存在。これくらいです。

 魔甲虫と一度だけ、やむおえずの形で、戦闘したことがあります。その時に自分の記憶の断面を見ました。僕は 自分のことが知りたい、記憶を取り戻したい。この学園絵の入学はその近道だと思いました。

 

 

 アキラ・サルージェ    途中入学動機面接より抜粋

           試験 とても優秀な成績です。

           実技 とても優秀な成績です。

 

 

 「彼が今回の問題児ね」

 「はい」

 「〈ウィザード〉でありながら記憶がない子なんかはじめてよ」

 「私もですよ」

 「一応空戦魔導士科(ガーディアン)希望なのね?」

 「はい」

 「分かりました。少し考えておきます」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 記憶喪失で入学したアキラ・サルージェ。

 彼が入学したのは、浮遊学園都市≪ミストガン≫。人々は≪魔甲蟲≫によって空中での生活を余儀なくされた。

 しかし、彼らの学園は普通の学園ではない。

 浮遊学園都市≪ミストガン≫は、対魔甲蟲専用の学園だった。

 今、浮遊学園に新たな物語が始まる。

 

 

 

 

 「ここが≪ミストガン≫……。大きな浮遊都市だ……」

 感嘆を漏らすのが、途中入学してきたアキラ・サルージェだ。

 彼は途中入学動機面接のときに述べていたように記憶がない。ふつう、〈ウィザード〉は、ほかの人間と違い、記憶がなくなることがない。正確に言えば、【魔甲蟲】との戦闘で亡くなった人のことを忘れない。逆に〈ナチュラル〉と呼ばれる人間は、何かによって記憶がなくなってしまうのだ。

 アキラは、学生服を着ており、今日から寮で生活することになっている。

 「なぜか懐かしい感じがする……。僕は知ってるのかな?学園というものを」

 独り言をつぶやき、学園内にある空戦魔導士科執務室に向かった。

 空戦魔導士科執務室のドアをノックする。

 「入りなさい」

 「失礼します」

 アキラはゆっくりとドアを開け入室する。

 「君がアキラ・サルージェくんね。」

 「はい」

 「人前でサングラスというのもいささか失礼ではありませんか?」

 「申し訳ございません。なぜかわからないのですが、サングラスを外出時にはしないといけない理由があったようで。してないと落ち着かないのです」

 そういってサングラスを外す。

 美しい白銀の髪に澄んだ青い瞳、きれいな貌つき。まさに絵にかいたような男性が、新入生アキラ・サルージェである。

 「では本日来ていただいたわけは、この学園に関することと、君の優遇についてです」

 「はい」

 「君には、私からの特例で、E601小隊に入ってもらいます。身元の関係で一番下の小隊になってしまったけど、しっかり活躍して頂戴」

 「はい」

 「あと、アルテミア寮の部屋ですが……こちらとしても不本意なのですが、カナタ・エイジと同室してもらいます。うまくやってください」

 「分かりました」

 「最後に、君の魔装錬金武装なのですが……」

 「では、小太刀くらいの長さの片刃魔装錬金武装を二本……いや、ダガーを一本と細身の魔砲剣を一本お願いします」

 「分かりました。明日には届くと思います。一応目安は、昼間ぐらいと思っておいてください」

 「了解しました」

 「話は以上です。あとあなたがサングラスをかけないといけない理由……少しだけわかった気がします」

 「いえ。……失礼しました」

 空戦魔導士科執務室を出て、記憶した学園内の地図を頼りに、アルテミア男子寮へと足を運んだ。

 「ここか……」

 「何か用か?」

 一人の男性が声をかけてきた。服装は、空戦魔導士科本科の学生服を着ている。

 「今日この学園に入学したばかりで……この部屋でカナタ・エイジって人と同室になったのですが……」

 「同室か……よろしくな」

 「ではあなたがカナタ・エイジさんですね?よろしくお願いします、カナタさん」

とりあえず部屋に入るとゴミだらけだった。

 「……なんというか……ひどい有様ですね……」

 「人が来るなんて聞いてなかったもんでな。それに同室者なんていねえから、何しても大丈夫だったんだ」

 「さきにかたずけですね……やっちゃっていいですか?」

 「今からできるのか?」

 「余裕です」

 アキラは荷物をベットの上に置くと、ものの三十分でかたずけた。

 「このくらいなら余裕です。もっとも、ゴミだけだからですけど」

 「すげーな……」

 「まっ、こんなものです」

 「あ、敬語じゃなくていいぞ・同じ仲間だ、仲良くしようぜ」

 「よろしくね、カナタ」

 「いいねー。飲み込みよくて助かる」

 「ん?消灯時間まであと少しだ。ベットどうにかしてしまって寝るぞ」

 「分かった」

 その日は同じ部屋を使う共有者と眠りについた。



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1話 新しいFランク隊

 本編に入っていきます!
 返信も0話の時点でいただけました。ホンットにうれしい限りです。
 ……ごほん、ちょっと興奮しすぎました。それでは、本編に入っていきましょう。



 午後の授業―――実習訓練―――。

 アキラは自分の隊である、E601小隊の小隊室に足を運んでいた。カナタとともに。

 「にしても意外だったなー。お前がFランク小隊のメンバーだなんて」

 「ちょっといろいろあってね。まあ仕方ないといえば仕方ないんだけど」

 「ふーん」

 お互いに歩調をそろえながら、校舎とは別に作られた小隊棟のE601小隊の小隊室向かう。

 「ここだ」

 「Fランク小隊なんて呼ばれてるから結構ひどいと思ってたけど……」

 「んなわけねーよ。さ、入るぞ」

 ドアを開けた。とたん聞こえてきたのは、

 「な、何であんたがここに来るわけっっっ!」

 「……カナタさん、なにしたの?」

 「いや……いろいろあってな」

 「はあ……」

 ほかの学生が都市運営や生産的な活動に力をそそぐ中で、空戦魔導士科(ガーディアン)はそのサポートを受けながら唯一訓練に専念する。

 万融錬金科(アルケミスト)が二五のルーン文字による羅列により魔術的術式を施す魔装錬金武装を製造するのも、製造生産科(インダストリアル)の学生がより高い効果的な食料を生み出すのもすべては空戦魔導士科のためだ。

 空戦魔導士科というのはそれだけ重要であるとともに期待されているのだ。

 学生として笑顔をこぼしたり、雑談したりしているが、彼らに求められているのは、容赦なく人類のと敵と戦うためのスキルである。

 そういうのが、空戦魔導士科の現状である。

 その空戦魔導士科の生徒を育てるために来ているらしいのだが、変態扱いされているらしい。こちらとしては苦笑いもできない。

 「俺はカナタ・エイジ。教官として今日から赴任した。空戦魔導士科本科二年十七歳だ。よろしくな」

 「こ、股間に苺ジャム塗りたくったヘンタイのあんたが何で教官なのよっ!」

 「ふっ、違うぞ。この男は苺ジャムを塗りたくってはいなかった。わたしを襲おうと水飲みだべズボンを脱ぎ、今まさに変態獣形体(ビーストモード)になろうとしていた」

 「あ、あのぅ……、わ、私がお会いした時は、女子トイレでそのぅ……」

 「第一印象最悪な感じじゃない?」

 「否定できんな。ま、そんな細かいこと気にすんなって。そんなことよりとっとと自己紹介して話を先に進めようぜ」

 「何が話を先に進めるのよっ! あんたって本当にあたしたち指導するつもりがあるわけっ!どうせあたしたちの資料に対してロクに目を通さずスケベ心丸出しで教官に志願しただけなんでしょっ!」

 「ひどい言われようだね」

 カナタにかみついているのは、艶やか赤い髪の少女。その少女に対し資料を一切目を通さずに相手の貌を見据えていった。

 「苺シャムのお前は確か……ミソラ・ホイットテールだろ。空戦魔導士科予科二年、十四歳。資料にはざっと目を通したけど、考課表の昨年度末の座学の成績は評価D。実技試験の成績はE。前衛試験の総評には、自主退学推奨ってあったな……。お前ってちゃんと訓練してんのか?この程度の成績で、小隊長も兼任してるって……本当(マジ)かよ?」

 「それはひどいな……」

 「うぅ……、う、うっさいわねっ!あたしの真の実力は、実技試験なんかじゃ測れないのよっ!ほ、ホントよ……ホントだって言ってんでしょっ!ちょっと、疑いのまなざしで見ないでちょうだい。――うぅ、み、見ないでって言ってるでしょっ!」

 じーっとカナタとアキラに見据えられて、心外そうに、でもやはりどこか恥ずかしそうに貌を赤らめながら俯き加減で睨み返そうとして……できなかった。

 




 続きは次回に……。
 僕が力尽きました。
 


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2話 Fランク隊の現状

はい、2話です。
コメントありがとうございます!
いやー、書いてるとホントきついところあるんですが、応援してくれたり、誤字指摘してくれたりは、精神的にほんと助かります。
では、本編です。どうぞ!



 実技試験で評価E判定をとるとは、これでは小型の魔甲蟲一体と互角に戦うのがせいぜいだ。

 なぜその程度の実力なのか、カナタがもう少し深く追求しようとしたところ、見るものを虜にする完璧な美しさを持った少女が会話に割って入る。

 「ふっ、ミソラは雑魚だから、所詮その程度の実力だろう。女神なわたしとは住む世界が違い過ぎるからな。野外露出プレイのヘンタイに沈黙させられるとは情けなさすぎる。念のため言っておくがわたしの名前は……」

 「知ってるよ。ってかリコ・フラメルって名前は一度会ったら絶対忘れねーよミソラと同じ魔導士科予科二年。十四歳。座学の成績はオールA、いや……宿題未提出機特別減点扱いになって、全部Aマイナスになってたな。実技試験の成績はFマイナスだったろ。そういや、Fマイナスってどういう意味だ?一三四連敗でも一応E判定だけど……」

 「そういやそうだね……なにしたの?」

 「Fマイナス?……ああ、実技試験のことか」

 ふっと鼻で笑った後リコは貴公女のようなしぐさで髪を掻き上げる。 

 「その日は朝から髪型が決まらなくて受けてないんだ。もっとも、たかが凡人ごとき人間が評価する実技試験で女神なわたしの実力を把握するなど不可能だがな」

 苦笑しながら爆弾発言をぶっこんできた本人を見る。

 ミソラと違い恥ずかしがってはいない様子だ。……いや、そうでもなさそうだ。

 「……ちょっとリコ、あんたもこいつの知り合いなの?」

 「まあな。ミソラたちと同様あまり親しい仲じゃないし、親しくなりたくないな。この男は、早朝から人前で下半身を露出する男だぞ」

 目を閉じミソラを見ることもなく、腕を組み無愛想に答える。 

 空中分解した隊の寄せ集めらしいので、あまり仲が良いわけではないらしい。

 最後に今か今かと恥ずかしそうにしている少女を見た。

 「きみは、レクティ・アイゼナッハさんだね?同じ双剣使いとして少し知らべさせてもらったよ。調べたといっても双剣の使い方と流派くらいのものだけど……」

 「成績は……ひどいな。座学の成績はミソラと同等、実技試験は同じ相手に勝ったり負けたりしてあんてーしてねーし。唯一まともなのは、志望動機だけじゃないか」

 「いえ、その、調子が上がらなくて……そのぅご、ごめんなさい」

 視線を合わせることなく、オオカミにおびえる羊のようにおっかなびっくりといった調子でぺこりとお辞儀をするレクティ。しかも勢いよく頭を下げたものだから、机に額を打ちつけ、痛そうにぶつけた個所をてで抑えながら、今にも泣きだしそうな様子。 

 「で、最後にアキラ・サルージェ。座学、実技試験ともにSランク……お前くらいの実力なら特務にいてもいいんじゃないか?」

 「いろいろとあったんだよ。面接でね」

 「お、オールS……そんな頭のいい人が、うちにいていいの?」

 「空戦魔導士科長直々の命だから」

 「さて、自己紹介も終わったことだし、とっとと空に上がって実技訓練を……」

 「――待ちなさいよっ!」

 ミソラが不満そうにびしっとカナタに言い放つ。

 「ヘンタイのあんたがあたしたちの教官なんて認めないわよっ!」

 「お前らの資料暗記してたじゃねーか」

 「ああ、あ、あたしたちの体に興味があったから、必死でそれを覚えたんでしょっ!」

 「残念ながら、カナタはそんなことしてなかったよ。寮にいるときも体目当てで覚えている気配なかったよ」

 「言っちゃ悪いが、子供の体に興味はねーよ。ってかあんたじゃなくて教官もしくは名前で呼べよ。俺にはカナタ・エイジって名前があるんだからな」

 「~~~~~!」

 ミソラが口をとがらせて追い払おうとするが、うまく言葉が出ない。ムカッっとしてミソラが何か言い返そうとしてふと脳裏に引っかかる言葉があることに気付く。

 「……そういえば、カナタ・エイジどっかで聞いた名前ね」

 そのあと何度かカナタの名前を口に出していたミソラだったが、突然がたっと椅子を倒す勢いで立ち上がり、

 「―――あんた、もしかして裏切り者のカナタ・エイジっ!」

 「そのぅ、お知り合いなんですかミソラさん?」

 リコは何やら気づいた様子だが、レクティとアキラは、きょとんと首をかしげる。

 「知り合いなんてもんじゃないわよっ!S128特殊部隊(ロイヤルガード)のエースじゃないの。≪黒の剣聖(クロノス)≫なんて称号もらいながら、特殊任務とかすべてサボってるっ!」

 「ふむ、Sランクへの昇進がかかったランキング戦をさぼったといううわさや、特務でありながら任務や訓練に参加してないという噂なら私も聞いたことがあるな。なんでも任務中に事故にあって以来、臆病風吹かれたとか」

 「いろいろとあったんだね。カナタも」

 「まあな」

 「それで、そんな裏切り者のあんたが、いまさらなんであたしたちの教官なんかするのよっ!」

 びしっと容赦なく指をさし言い放つ。本来ならあってはならないこと、教官として毅然と対応して上下関係を示すところなのだが、

 「文句は空戦魔導士科長に言えよ。俺はお前らを指導するように頼まれただけだからな」

 しれっと口にされ、ぐぬぬっとカナタをかみ殺さんばかりの勢いでミソラが睨みつける。

 「結構無責任なセリフだよ、それ」

 「一応事実だし、それに、お前らにも興味あるからな」

 「やっぱりそういう目で見てたんじゃないの。このヘンタイっ!」

 「子供の体に興味はないって」

 「その子供にヘンタイ紛いのしたのはどこの誰よっ!」

 ミソラのセリフをあっさり流して、何やら真剣なまなざしで、生徒たちと向き合う。 

 「お前らEランク小隊ランキング戦で勝ったことないだろ。これまでの成績十戦中十敗。スゲーひどい成績だけど、お前ら悔しくねーの?」

 「ば、馬鹿にしないでっ!」

 あからさまな挑発がわかるほどの、したたかさを持ち合わせていないようで、貌をしかめながら、ミソラたちが、カナタを見る。

 「別に馬鹿になんかしてねーよ」

 「ははは……」

 確かに馬鹿にはしてないんだが、結構きわどい挑発なんだけど……。

 そう心の中で思いつつ、カナタを見やる。

 「ただ悔しくねーのかって聞いてるだけじゃんか。ちゃんと努力してんかよ?」

 「悔しいに決まってるでしょ。あたしははやく空戦魔導士になりたくて、うずうずしてるってのに……何よその言いぐさ1あたしたちが努力していないみたいじゃないのっ!」

 「うむ、君の発言は不適切だ。わたしはこれでも女神の生まれ変わりと幼きころから嘔合われていた存在だ。凡人がするという努力が必要なほど、実力は不足してないぞ」

 「わ、わたしも……。努力を怠っているつもりなんかあ、ありません」

 以外っていうのは失礼だけどやる気はあるんだ……。

 アキラは三人を見やる。

 そこにカナタがみんなに告げる。

 「なあお前らってさ、今の自分で満足しなくてもっともっと強くなりてーだろ。そのためにどんな努力するって覚悟あるか?」

 「あるに決まってるわよ。あたしが目指すのは空戦魔導士――浮遊都市の守護者なのよ。人の命を守るのが役割なんだから、守れる強さを手に入れるために最善を尽くすべきでしょ」

 「そっか。ならちょうどよかった」

 不意にカナタのほうが吊り上り、不敵にほほ笑んだ。睨みつけていたミソラが一瞬ひるむ。

 「な、何がいいのよっ?」

 「やる気のあるお前らに俺が指導を施すってことだよ。ま、想像してみろよ。お前らが自分たちより強い敵を打ち破り、魔甲虫相手に活躍する姿をさ」




力尽きました。
次回をお楽しみにっ!!!


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3話 訓練うけますか?

 3話です。
 忙しかったのでちょっと遅れました……すいませんですぅ。
 でも、それなりに濃いいかな~(ないようが)と思っています。
 それでは、3話 訓練うけますか? をご覧ください。


 「そうなれば、もうFランク隊なんて呼ばれないね。いい考えじゃないかな?」

 確かにいい考えなのだ。成長「する」か「しないか」を判断するには、一度試さなくてはならない。

 「でも、裏切り者のあんたの指導なんか……」

 「裏切り者でも別にいいだろ。それともお前らって、指導者が裏切り者だから強くなれないっていう失敗したときの予防線でもはっときてーのかよ?」

 「そんなわけないでしょ。指導者が誰であれ強くなるには、その人の強くなりたいって意志が一番大事なのよ。あんたの指導なんかに一切期待なんかしてないわっ!」

 「でも、ミソラは現役だった頃の俺の動き知ってるわけだろ?」

 「そりゃあんたの動きぐらいなら見たことは何回もあるけど……、それがどうかしたの?」

 「だったらさ、当時の俺の同じ強さ手に入れるために、俺の訓練受けてみるつもりはねーのか?俺の実力は知ってんだろ」

 「う、うそっ!あたしが裏切り者とはいえ≪黒き剣聖(クロノス)≫と互角に実力をっ! ……いやうそうそうそっ! そんな甘い言葉に釣られないわよっ!どうせ成果には個人差がありますとか言うんでしょっ!」

 「いや、むしろ個人差のない訓練のほうがおかしいよ……でも、いい好機(チャンス)だと思うけど。もしかして、受けたくないの?」

 「そ、そんなことっ!」

 「じゃあ決まりだな」

 「だ、誰も受けるなんて言ってないわよっ!」

 「え、じゃあ受けないの? 僕なら絶対受けるよ。一時の恥で強くなれるのなら……そうは思わないの?」

 「い、一度なら、受けてやってもいいわよっ!」

 「ミソラはいいだろうが、わたしは反対だ」

 リコが、反対意見を提示してきた。

 「ち、ちょっと! 何で小隊長であるあたしの意見に反対するのよっ!」

 「リコだね? どうしてか聞かせてもらえる?」

 「ふっ、考えてみてくれ。凡人のミソラはともかく、もとより女神であるわたしがなぜ汗を掻かなければならないんだ? 汗を流すような訓練などといったかったるいことを、わたしがするわけないだろう? 疲労で肌が荒れるではないか」

 「リ、リコぉ~~っ! あ、あんたいい加減にしなさいよっ! あんたがそんな態度だから、いつまでも経っても結果を出せないんでしょ!」

 「ふっ、結果を出せてないのは、キミとレクティだけだ。わたしに狙撃技術の高さ知っているだろう。正直遠距離からのサポート役としては完璧にこなしていると思うが」

 「気が向いたとき少しだけ援護射撃加えるだけでどこが完璧よっ? 遠距離からのサポートするだけじゃなくて、敵を撃墜するようになってからもの語りなさいよ」

 「やれやれ、前衛がしっかりしてないのに、後衛が遠距離から命中弾の狙撃など繰り出せるわけないだろう」

 「むきゃーーーっ! あんたちょっと廊下に出なさいよっ!」

 「ほら、ちょっとだけ出てやったぞ」

 気取ったしぐさで椅子から立ち上がり、廊下へと半歩だけちょこんと足を出す。小馬鹿にされたミソラが、かっとなって何やら喚き立てるが、リコはクールに澄ましたままだ。

 取っ組み合いの雰囲気、一触即発の雰囲気。こういうときはどうするのかと、レクティに目をやると、おどおどしながらあたふたと様子を見守る……だけ。決定的に度胸が足りないらしい。

 「リコって実技Fマイナスなんだよね」

 「だからどうしたんだ? 実技試験などというものは、わたしには不要なのだから当然の結果だろう」

 既に自分を女神としているリコのことをわざと驚いた調子で、訓練にさそう。

 「えっ、そうなの? でも、そんなとこ一度も見てないから、このままだと、ミソラ以下として認識しちゃうけど……。実技も受けてないなら未数値ってごまかせるし、実は大したことないんじゃないの?」

 「わたしがこれ以下というのか……」

 脳内でエコーしているらしく、

 「甚だ心外だ。わたしはこの美貌にふさわしい実力の持ち主だぞ」

 「じゃあ、カナタの訓練で証明してみせてよ」

 アキラの険しい双眸に捉えられ、若干戸惑っていたが、

 「ふむ。不本意だが……、一度だけわたしのこの類いまれなる才能を披露してやろう」

と、カナタの訓練で証明してくれると宣言したリコ。

 「レクティはどうすんの?」

 「あのぅ……訓練に参加するかしないかって言う話ですよね?」

 「そうだよ。どうするの?」

 今度は急にレクティが貌を赤らめてうつむき始めながらもじもじと告げる。

 「こら、レクティ。ちゃんと話すときにはもっと大きな声で相手の目を見て話しなさいっていつもいってるでしょ!」

 「……そのぅ、ご、ごめんなさいっ!(ごちんっ!)」

 ミソラに咎められ、あたふたとあわててお辞儀をし勢い余って額を机にぶつける。額を赤く腫らしたレクティはその目に涙すら浮かべていた。

 「訓練うけないの?」

 「ち、違いますっ! あ、あのぅ、さっき言ったごめんなさいはアキラさんとカナタさんにじゃなくて、ミソラさんに言ったごめんなさいで……」

 やはり視線を合わせようとはせず、レクティはすぐにうつむきながらもじもじとしてしまう。

 「ほら、言いたいことあったらはっきり言う。やるのかやらないのかどっちなの?」

 ミソラが生真面目にフォロー。規律とか規則とかそういうのをきちっとするタイプらしい。

 「……や、やりますっ! ぜ、ぜひカナタさんの訓練に参加させてくださいっ!」

 こうして、四人の訓練を受けることとなった。




 はい、次回は……お楽しみです。
 次回もよろしくお願いします


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4話 鬼ごっこ

 ちょっと感覚開きましたが4話目です。
 結構長ったらしいですが、ゆっくりしていってください。
 それではどうぞ!



 学園浮遊都市≪ミストガン≫の飛行高度はおよそ3000メートル。その高度よりも高く飛こうすることは、動力炉に甚大な影響を及ぼすため禁止されている。

 そんな≪ミストガン≫のさらに上空――――高度4000メートルの第三訓練空域にミソラたちの姿があった。地に足がついた状態でもなければ、何かしらの道具の力を借りているわけでもない。四人それぞれが防護服(プロテクター)を纏い、滞空しているのだ。空戦魔導士科(ガーディアン)の必須スキルである飛行魔術を駆使することで。一人は違うようだが……。

 そんな彼らの周囲に広がる光景は、どこまでも続くかのように見える蒼穹(あおぞら)と端々に見える雲海に加えて、隣接する空域でこれでこれまた連携飛行の訓練に励む学生たちも姿と、眼下に広がるのは、先ほどまで自分たちがいた≪ミストガン≫。豆粒ほどではないがすごく小さく見える。

 「なんであんたらは<ホウキ>を使ってるの?」

 防護服を纏ったミソラが首をかしげながら尋ねた。宙空を浮遊する五人の中で、アキラとカナタは、サーフボードのようなものを使用していた。

 <ホウキ>と呼ばれる飛行補助道具は、新入生の飛行魔術の訓練に使われたりする。実際は長距離移動する際に使用する際に使用するのだが、

 「ん? ああ、俺はこれに慣れてんだよ」

 「僕はまだうまく飛べなくて。今回だけ使わせてもらうよ」

 「アキラは仕方ないか。今日入学したばっかりだもんね」

 「一応昨日なんだけど。少しだけ練習したけど、どうしても理想の形まで行かなくてね」

 「それはいいけど、何であんたが<ホウキ>使うのよ? まさか飛行魔術なんか使う必要ないって意味?」

 「深い意味はねーけど。まあ、このくらいのことでなら使わずに勝てるけども」

 「ぐぬぬ」

 どうにか怒りをこらえて、本題を聞き出す。 

 「で、どんな訓練するのよっ!」

 「言ってなかったな。今日の訓練は鬼ごっこだ」

 それから初の実習がはじまった。

 

 

 「……この魔装錬金(ミスリル)武装で、殴っていいって条件で四対一って……なんでかわからないけど……なんか腑に落ちないな」

 アキラのモヤモヤ。武器を使って四対一で相手を攻め落とすこの条件が、アキラの胸にモヤモヤを落としていた。

 その間に、カナタとミソラ、レクティ、リコが訓練している。

 ミソラはまるで丸太でも振り回すように白い魔砲剣を振り回している。豪快な風圧で大剣が、カナタの頬を撫でる。

 しかし、その剣劇は見切っているかのように首を軽くひねり、カナタは避ける。

 『ぶんぶん振り回すんじゃなくて、もっと鋭く振ったりでねーのか?』

 『うっさいわねっ! とっとと落ちなさよっ! この裏切り者がっ!』

 正直、剣技はお粗末すぎて目も当てられない。しかし、剣技よりも光るものがある。アキラとカナタはそう判断した。

 カナタが<ホウキ>のギアをトップギアにあげ一気に間合いを取る。カナタは近接封じ(クロスペイント)で、相手と同じ方向に加速し相対速度をゼロにすることで相対距離縮めさせない戦術――つまりミソラはカナタに近づけないはずだった。いくら腕のいい剣士でも距離を詰めれなければ近接武器を使う者、手も足も出ないはずだった。

 しかし、ミソラは一気に距離を詰めた。

 「なにっ! 一気に詰めるなんて、そんなことを間隔でやってのけたのかっ! ……反応速度、風の操り方が感覚的に判断して加速、一気に距離を詰めたのか……」

 実際にやってみると難しい物なのだ。風向き、抵抗、風速がわからないとうまく加速できない。

 カナタの口の端が不敵に吊り上る。

 「とっとと落ちろって言ってんでしょっ!」

 連続する剣戟をかわしながらながら相手の力量を図ってるらしい。次の行動はアキラも度肝を抜かれた。

 「ここまで高い飛行技術を持っていてこんな簡単なフェイントに引っかかるのか! ……いや、無理もないか」

 あそこまではやい速度での小回りはアキラもカナタもできない。いや、普通に考えてできる技じゃない。

 フェイントに引っかかったミソラは放置して、カナタはレクティと向き合った。

 「おぉ、二刀流……いや僕のスタイルとは違うな。武器が両刃だから手数が多い。女性向けの戦い方かな」

 アキラの観察続く。

 カナタがタガーを一本展開して応戦する。

 「アイゼナッハ流か。資料見といてよかった。この流派の動き方を知ってる……のか?武器は違うはずなのに……。なんなんだ? この感覚……僕は、あの流派のなんなんだ?」

 気にしたら頭が痛くなってきた。考えるのはよそう。

 アキラはそう考え今のところ何もしていないリコに目をやった。

 魔銃を構えて狙いを定めている。

 と次の瞬間、カナタと刃を交わらせているレクティに、魔弾を放った。

 「……!? 直撃コース!? くっ!」

 アキラは腕の筋力に魔力付与(エンチャント)して、魔砲剣を一線。腕を高速でふりだし、制限(リミット)スキル、白閃(はくせん)を放った。

 白い高速の刃は、リコの放った魔弾を容易く破る。

 「何考えてる! レクティの動きが少しでも予測経路を外れたら直撃だぞ!」

 『レクティの動きは洗礼された動きだ。それを読んで狙撃するのは容易い。ゆえに外すなんてありえない』

 『今の動き、打合せしてたか?』

 『……は、はいっ! す、すごくこわかったですっ!』

 「もう少し隊の仲間を信じなよ。連携の欠片もないじゃないか」

 『文句ばっか言ってないで、アキラも参加してよっ!』

 「ごめん。今いけない。あと少しなんだ」

 『なにがよっ!』

 「理想の飛行ができそうなんだ。……よし、今いく」

 言い訳に過ぎない。実際は三人の実力を遠くから図っていた。

 <ホウキ>から降りて、三人のところに急行した。 

 「なに軽くあしらわれてるの……」

 「うるさいわねっ! あんたもやってみなさいよっ!」 

 「分かった」

 魔砲剣を何もない空間からさもあったかのように出す。

 「……しっくりこない……。言い訳してもしょうがないから、行くよカナタっ!」

 「おう」

 できるだけ小さく、それであって最大限に相手を攻める剣技。戦技とは違う、その流派の特徴のような動き。

 「アキラ、お前……っ!」

 「おもい……。特にしっくりこないし重い武器だとなおさら」

 砲撃しながら全力で追いかける。アキラの使い方に違和感がありさらに行動が一定していないということもあり、カナタ側もいろいろと考えあぐねているようだ。

 そこで、アキラが重さに耐えられなくなった。

 「あーもう重いっ!」

 ダガーを二本展開する。長さは……短い。刃渡りが手一広分しかない。その間に、魔砲剣はかたずけた様だ。

 「こっち使うよ。さすがに体重のない僕にはウェイト代わりになるものがないとうまく使えない」

 「いいぜ。来いよ」

 そこからはカナタは防戦一方だった。ゆっくり動いているように見えて実はとても速く動いている。そう見えるのは残像のせいだ。その残像も必ずに方向ある。

 「なんでお前がFランク小隊にいるんだ?」

 「資料見たと思うんだけど。それ見たらたぶんわかると思う」

 その間も剣戟を紡ぐ。まるでダガーのみが舞っているようだ。

 『みたよ、お前の資料。でもな、お前に関することは入学動機説明のしかないんだ』

 「そういうこと。僕自身が僕を知らない。あと、個々のいる理由はその説明でわかると思う」

 「で、そろそろやめね? 俺疲れたわ」

 「いいよ。僕もこんなところで長期戦やる気はないよ」

 ダガーが舞うのをやめた。

 『今日の訓練はしゅーりょー。着替えて解散な』

 『ちょっと、何でやめるのよっ! あたしはまだ元気なんだから、捕まえるまで訓練するのよっ!』

 『もう俺疲れたんだけど……』

 そこからミソラの満足いくまで訓練が続いた。



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5話 訓練後の談話

 結構時間開きましたが、最新刊です!!
 次回にはアキラの本質というか、性格がとてもよくわかるようになると思います。
 
 にしても、作者にもわからないキャラになってしまいそうです。


 訓練終了後の女子更衣室。シャワーを浴びて汗を流した後、ミソラたちはそれぞれ下着姿になって着替えをしていた。

 「あーもうムカつくっ! 何で三人もいてあいつを捕まえることができないのよっ!」

 苛立ちのあまり背中のホックをなかなか散れることができないミソラ。ブラジャーをうまく身に着けることができないでいる。そんな空気を敏感に感じ取ったレクティは隣でちょうど下着をつけ終えたらしく、ふとミソラのほうに貌を向け、

 「そ、そのぅ……ミ、ミソラさんっ! わ、わたしの力が及ばず、ご、ごめんなさいっ!」

 ぺこりとお辞儀をして見せた。きょとんとしていたミソラがはっと気づき、

 「それとあのぅ……後ろのホック、止めましょうか?」

 「あ、ありがとっ。そのさっきの件だけど、レ、レクティのせいじゃないわよっ! 今考えてみると、あたしも周りが見えてないことがあったし、そういえばレクティに指示し忘れてたかも」

 粛々と自分の過失を認め謝る。そうだ。これこそ小隊長としてのあるべき態度なんだと、ミソラが落ち着きを取り戻そうとしていたとき、

 「ふむ。確かにミソラの言うとおり、小隊長としての全体把握は不十分だったな」

 冷や水を浴びせられ、ミソラがムッとリコを睨みつける。そんなリコはまだ着替え中というか、先ほどから自分の美貌に見とれている始末だった。

 「ふっ、美しいという言葉は―――私のためにある」

 何やら感慨そうに口にする。ただのナルシストで仕方ないのだが……。

 「アキラってこの身体能力。すごくなかった?」

 思い出したようにミソラが口にする。

 「あれは相当の実戦経歴を持っているはずだ。でなければそうやすやすとできるものではないからな」

 そう、アキラの身体能力は異常なものであり、相当量の実戦経験が必要な動きであり、いっかいの空士でもそうそうできたものではない。それをいとも簡単にやってのけたアキラはおかしいの一言なのである。

 「魔砲剣術……にしてはぎこちないし」

 「ま、魔双剣術はおかしなくらい洗礼されてました」

 「ダガーではあったが……魔双剣を使っていたらすごいことになりそうだったな。あやつ、何を考えているんだ?」

 「さあ……でも使ってない、もしくは使わない理由があるんじゃないの?」

 会話をしているうちに着替えて、更衣室を後にしていた。

 

 同時刻、男子更衣室。

 アキラとカナタがシャワーを浴び、着替えていた。

 「アキラ、お前スゲーな」

 「何が?」

 「初めて手合せしたけど、魔砲剣をあんな使い方するやつ初めて見たし、ダガーで相手の急所をとろうとする戦い方。まるでアサシンのような動きだったしな。……その動き、どこで覚えた?」

 飄々とした態度で聞いてくるが、明らかな警戒心を肌で感じたアキラは、記憶のない人に聞くこともあるんだと内心思いながら答えた。

 「それはぼくが知りたいよ……」

 呆れ顔でそう答える。こういう回答しかできない。 

 「……だよな~。俺もいろいろやってみるからさ……って、その胸の古傷はなにしたんだ?」

 胸を指さしながらカナタは尋ねる。

 「これ……? えっと……お、もい、だせ、うぅ」

 急に頭を抱えてアキラがもだえ苦しみだした。

 「ど、どうした!?」

 「あ、たまが、い、たい……」

 思い出せそうで思い出せない。まるで鎖でつながれているように記憶の断片にすら触れない。そんなもどかしさとは裏腹に激しい頭痛がアキラを襲う。

 「う……く……うぁぁ……」

 気を失ったアキラは失い際に謎の言葉を発した。

 「な、んで、それを……」

 その言葉を最後に気を失ったアキラに服を着せ、自分も着替え、担いで更衣室を後にした。



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 投稿について、の謝罪と方針

 投稿が遅れてきており、申し訳ないと感じる日々です。私も粛々としています。

 さて、現時点で連載中の「並行世界の空戦魔導士」ですが、私の都合もあり、第六話目の投稿が、少々遅れることのなりそうです。

 書いてはいるものの、第六話の構成と現実(リアル)生活の都合上投稿が遅れていくことが判明しました。

 つきましては、投稿の時間が大きく左右することがありますが、その所を議指摘していただかないよう、ご理解申し上げます。

 

 このような事態になってしまい、深く反省しております。

 なにとぞご理解のほどをよろしくお願いします。

 

 第六話投稿の時にはこの記事は消させていただくか、この記事と前話の間に挿入していきますので、この先もよろしくお願いします。

 

 罪滅ぼしとは、なんですがここで「アキラのプロフィール」を紹介したいと思います。

 記憶につながるところや、詳しいことは言えないのですが、大まかなキャラ設定が理解していただけたらと思います。

 

 アキラ・サルージェ———記憶喪失の少年、空戦魔導士科予科二年。

            魔装錬金武装――魔砲剣「クリシュナ」

                   魔短剣(ダガー)

                   のちに出てくる武器

                   神器「灰双炎(はいそうえん)」

 

          神器「灰双炎(はいそうえん)」について

          右に白神炎(はくじんえん)、左に黒魔                     炎(こくまえん)という形で使う二本で対                     の日本刀。神器というだけあり白神炎、黒                     魔炎にそれぞれ一匹ずつ神が封じられてい                     る。白神炎側には天神「カラロ」、黒魔炎                     側には堕天神「セレスト」が封じられてい                     る。二神は二人で一人の神、悲愛の双神と                     呼ばれている。本編が時系列二巻になった                     時に登場予定。  

         

 

 いかがでしょうか。

 一応もっと細かく設定してはいるのですが、記憶が戻ってからじゃないと明かせないところまでは説明できたと思います。

 もっとも、モチーフキャラがいてそれを原型がなくなるまでいじり倒した結果、オリジナルキャラの領域に達したキャラなので、とっても細かな設定で運営したいます。

 

 

 次回予告は、えっと・・・・・・。

 体調を崩したアキラ、体調が崩れたのには記憶が関係している!?

 しかも、個人特訓も始まっていろんな人のカバーに回らなきゃいけなくなったアキラの体は!?

 次回! 空戦魔導士の特訓! こうご期待ください!

 

 

 

 こんな感じです。次回を楽しみに待ってくれているお気に入り登録者の方々、感想をくれる方々、とっても感謝してます!

 感謝してもしきれないです。

 これからもがんばって書いていくので、次回もまたよろしくお願いします。



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6話 空戦魔導士の特訓!

 はい、大変お待たせしました。
 第六話投稿です。
 一応次回はミソラ回、そのあとはレクティ回の予定です(個人訓練の内容)。
 それではゆっくりご覧ください。


 あの時の頭痛できを失って以来、たびたび頭痛がするようになった。

 「ぐぅ・・・・・・」

 「大丈夫!?」

 ミソラが心配してくれてるようだ。レクティとリコも心配してくれてるらしい。

 「うん……。大丈夫……」

 扉が開き、カナタが入室する。

 「お、もう集まってるみたい……大丈夫か?」

 「うん。もう平気だよ」

 平然を装って挨拶する。

 (なんなんださっきから。あの頭痛は)

 アキラのことを悩ませる頭痛。風邪をひいてるわけじゃない。

 「大丈夫なら話しするぜ。今日の特訓は個人。俺がお前らに課題だすから、それこなしてくれ。期限は一週間」

 「何ですることになってんのよっ!」

 「しないなら弱いまだよ。結構いいところついて訓練してるみたいだから、カナタ」 

 「お前はわかってたんだな」

 「あのくらいわからなかったら僕は自分の戦い方(スタイル)を理解してないことになるじゃないか、それだけはごめんだよ。あと、リコもつかめてたみたいだよ」

 「あのくらいわからなくてどうする」

 「結構きついとこ言うね」

 「話を戻すぞ。「私は訓練などにつきあう気はないぞ」それでもいいけどな」

 リコに向きなおってカナタが告げる。

 「たしかに要らないかもしれないが。前の訓練でに二発目打たなかったのは力量の差を認めたからだろ?」

 リコの貌があからさまにゆがんだ。

 「私は基準以上の能力を身に着けている。よって訓練を受ける資格はない」

 そういうと席を立ち、小隊室から出て行ってしまった。

 「じゃあ続きを……「ちょっと、リコは訓練を受けなくていいのっ?」「ああ、それは……」……」

 カナタが説明しようとしたのをアキラが遮って説明する。

 「リコを鍛えるより君たちを鍛えるほうが先決ってことだよ。まさか人の心配することのできる実力をお持ちとか言わないよね。あの剣術で」

 「うっ!」

 「そういうことだ。じゃあ始めるぜ! っと、アキラは今回副監督として手伝ってもらうぜ」

 「いいよ、内容は後で説明してね。……まぁ、大体予想はつくんだけど……」

 「分かった。じゃ、アキラはちょっとこっちに来てくれ」

 アキラはカナタから個人訓練の内容を聞かされ、レクティを担当することになった。

 

 

 「あ、アキラさん……こ、こんなことで私、つ、強くなれるんですかっ!?」

 カナタから内容を聞かされたあとレクティと一緒に何件かブティックを回って服を買い集めていた……もちろん小隊費で。いまは

 「……レクティってスタイルいいんだね……。もうちょっと考えて選んだほうがよかったかな?」

 レクティは、メイド服姿で簡易更衣室から貌をのぞかせていた。

 「あ、あの……」

 「うん、よく似合ってるよ。レクティ、ちょっと派手な気もするけどこんな服でよかったかな?」

 「そ、それはダイジョブですけどっ……」

 先ほどの強くなれるかの質問にはあえて触れない。

 「じゃあ、次にも行くとこあるし。行こうか」

 「は、はい」

 

 

 アキラはカナタからこんな話を聞いていた。

 「アキラ、レクティとミソラの訓練は……」

 「予想だけど言わせてもらっていい?」

 「あぁ」

 「レクティはパっと昨日の模擬試験だとあがり症。ミソラは小隊長であるというのに仲間と連携できてない。そこからレクティには上がり症の克服、ミソラには小隊の仲間を知る必要がある……そういうことだと思ったけど、違った?」

 「いや、あってる」

 「だったら大体わかるよ」

 「わかった。任せるぞ」

 「任されたっ! それじゃあ、またあとで」

 

 そんな会話があって、レクティに服を着せて回り、学園内の女子更衣室前に来たわけだ。

 「じゃあ、この服の中からどれか気に入ったのを着て学園都市内を歩き回ってきてよ」

 「ええっ!」

 「じゃあね、僕はこのあともう少しすることあるから先に帰るよ。自分で選んだ服を一週間続けてきて街を出歩けば大丈夫だから」

 「あの、こ、こんなことでいいんでしょうかっ!」

 「うん。君の剣術、あれは相当いいスキルになるはずだったのに、歯車があってないようにぎくしゃくしていたり、逆になめらかだったりするんだ。何か自分で原因分かる?」

 「そ、その、わ、わたし、あ、あがり症なんですっ!」

 「そのあがり症を克服する気があるのなら、この訓練を受けるべきだよ。ま、あくまでもアドバイスでしかないけど……」 

 「わ、わかりました」

 「うん、じゃあね」

 そういってアキラは次の場所に向かった。

 レクティはというと、

 「で、でも、やっぱり、は、恥ずかしいんですけどっ!」

 アキラの立ち去った後で一人つぶやいていた。

 

 アキラは、レクティにどうするか任せて、ミソラのもとに向かった。

 「遅れてごめんね」

 「大丈夫よっ! まったく、あのヘンタイは何でアキラに任せてほっぽり投げてるのよっ」

 「まぁまぁ、僕もいやいや引き受けてるわけじゃないし。」

 「な、ならいいけど……」

 「じゃあ、ミソラの個人訓練は……お、きたきた」

 アキラの視線の先にはリコの姿があった。リコを指さして、

 「ミソラの個人特訓はリコの尾行!」

 「なっ!あんたまで何言ってんのっ! もしかしてあのヘンタイっ!」

 「そんなに深く考えずにさ、気楽にお願いね。……君、リコの”弱み”握ってきなよ」

 「あいつはいけ好かないやつだけど、そんな弱み握ってまで……」

 「だから、そんなに深く考えない。……まぁ、頑張ってみなよ」

 そういうと足早に去って行った。

 「あんたはどうすんのよっ!」

 不意に立ち止まってこう答えた。

 「ゴーグルの調整しにね。ずっとこのままだと困るから」

 アキラは自分がいつも身に着けているゴーグルを少し動かして見せてまた足早に去っていた。

 「なんなのよ、もう」

 ミソラはリコの尾行を開始した。



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7話 空戦魔導士の特訓!【ミソラ編】

 結構長いこと開けましたが、なかなかイメージが膨らまないブランクもすぎ、来ました!
 というわけで、ここからまた再開です!皆さんどうかよろしくお願いします!



 「もう、なんなのよあいつらっ!」

 ミソラはアキラとカナタの行動にきれていた。

 「何でリコの尾行なんかしなきゃならないのよっ!」

 リコにバレないようにぶつぶつとつぶやきながらあとをつける。リコを尾行する必要性を考えながら。

 (にしてもなんで尾行なんか……。あのヘンタイ教官ならなんとなく理解できるけど、アキラまで……ハッ、もしかしてアキラもヘンタイなの? も、もしそれがほんとなら、私たち大変なんじゃ……)

 「ミソラ、何をしてるんだ?」

 いつの間にか尾行するはずのリコを追い抜いていたようだ。

 「べ、別に。び、尾行なんかじゃないわよっ!」

 自分でいってしまった。

 「尾行だったんだな……。それで、私に何か用か?」

 「リコ、暇してる?」

 ミソラにしては随分と積極的だ、とでも思ったのだろうか。リコの貌が少し驚いたような表情をしている。

 「あいにく君と違って多忙のみでな。これから買い物に行かねばならん。とっとと帰れ」

 「あのさ、その買い物、あたしも付き合っていい?」

 またリコの貌が少し驚いたような表情をした。

 「君はほんとにミソラか?」

 リコがミソラの頬をつねる。

 「痛っ!な、何すんのよ!」

 つねられた頬を抑えて少しウル目でリコを睨むような視線を向ける。

 「いや、君の仮面をかぶった違う人間かと思ってな。少なくとも君がわたしの私生活に興味を持つことなどなかったからな」

 (あ、あたしって、そんな風にみられてたんだ……)

 「まぁ、かまわん。女神な私についてくるがよい」

 その光景を遠くから眺めているアキラ。

 「へぇ……そう来るか……これはこれでいい結果が出せるかも」

 そう一人こぼし、カナタのもとに向かった。

  

 「あ、あんた、そんな面白くないもの見るのっ!?」

 「ふっ、真理を追求することの面白さが理解できないとは、ミソラもまだまだ子供だな」

 ミソラは訓練が終わってないため、リコの買い物に付き合っている。その一環として、図書店に立ち寄り、本を買っている。

 リコは、ミソラのお頭(つむ)では理解できないような哲学書を、数冊購入。そのことでなぜか機嫌がよくなる。

 次に、ブティックによりミソラが体系的に着こなせない上質なドレスを試着するリコ。

 「ちょっとあんた、そんな服着こなせるわけ……」

 「ミソラの言うとおりだ。どんな服も私の美貌には見劣りする、だがな、着ないわけにはいかないだろう」

 試着し終えるとお世辞ではなく本音で褒められる事態の遭遇。その後、店内にある姿鏡に映る自分の姿に

 「ふっ、美しいだろう」

 というかのごとく髪を掻き上げる。

 なぜこんなことをしているかというと、ミソラがまだ何にもリコの弱みを握れていないため、少しでもと思いこういう結果になった。

 「うわー、これみてっ!?すごくかわいいっ!!」

 「ふむ、これはなんというか愛らしい、もとい学術的に興味深いな」

 最後に立ち寄った人形の専門店では、学術的に興味深いともっともらしい理由をつけ、女性向けを考えてデザインされた有翼竜(ワイバーン)のマスコットを購入。かわいい物が好きなのはミソラも同じなのだが、リコは学術的に興味深いと言い張っていた。

 やたらクールを装っているようだが、どこか眼だけはキラキラしていたのを覚えている。

 (これでもう終わりなのかな、弱み、一つも握れてないのに)

 そうミソラが不安そうにしていると、

 「メガネは嫌いだ」

 そういって、メガネの専門店の看板を蹴り上げる。

 「えっ?」

 「なんでもない……」

 「あんた、もしかしてメガネが嫌いなの?」

 「なんでもないと言っているだろう。完璧なわたしに弱点などない」

 (まぁ、リコが言いたくないのならどうでもいいよね。でもなんでメガネ?)

 その時のリコの発言は、どちらかと言えば愚痴に近い物だった。

 「はぁ……、いまさらだけど、あんたって本当によくわかんないやつね」

 「当たり前だ。ミソラのごときレベルの低い人間に女神なわたしのことを理解できるわけがないだろう……。キミはわたしを馬鹿にしているのか?」

 「うんうん、馬鹿にしてるんじゃなくて反省しているの。あたしって全然あんたのこと知ろうとしなかったんだなって……」

 「なんだかわからないが、わたしはこの辺で失礼する。時間は有限だ。効率的に活用しなければあっという間に過ぎ去って行ってしまうからな」

 何やら警句めいたセリフを残して、足早に去って行った



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8話 空戦魔導士の特訓!【レクティ編】

 はい、今回はレクティ編です。オリジナルに無い内容になってるかと思います。まぁ、内容は個人的見解で書いている物なので、少なからず違うところはあると思います。
 では、お楽しみください。


 (あうあう……ど、どうしよう……)

 アキラにおいて行かれて後、着る服を選ぶため、更衣室に入っていた。

 (それにしても、アキラさんから言われた……)

 『そのあがり症を克服する気があるのなら、この訓練を受けるべきだよ。ま、あくまでもアドバイスでしかないけど……』

 そう、アキラはレクティが泣きそうな顔でしょんぼり八の字眉を浮かべているときにうっかり口を滑らせてしまった。その時のセリフがレクティの頭の中をぐるぐるとまわる。

 (うぅ……こ、こんな恰好を人前で……)

 結局メイド服に決めたわけだがいざ着てみると、外に出て歩くのが恥ずかしくなってくる。

 しかし、外に出ないことには始まらない。そこで思い切って外に出てみて……。

 

 「うぅ……、ミソラざぁ~ん」

 教室の隅に置かれた掃除用具入れの、影に隠れるように泣いていたレクティは、ミソラに声をかけられた途端、彼女に抱き着きそこからえんえんと泣きはじめる。

 人目に付きづらい場所だったため、探すのに手間取ってしまったようだ。

 「あのさレクティ、泣いているところもそうだけど……、なんだかすごく目立ってるっていうか……何でメイド服きてるの?」

 「こ、これが……と、特訓なんですっ!」

 「?メイド服着ることの何が特訓なのよ?」

 「ち、違いますっ!メイド服を着ることが特訓じゃなくてメイド服を着て廊下を歩き回ることが特訓なんですっ!」

 そういう風にアキラは伝えた。確かに伝えたのはコスプレをして構内を歩き回ることなのだが……。

 「?だからそれの何が特訓なのよ?」

 (……)

 尋ねられ思い出したのだが、レクティには辛すぎたため……。

 「うぅ……、ミソラざぁ~ん」

 と、泣きじゃくってしまい答えることができない。

 詳しい事情の分からないミソラだが、とりあえず優しく頭を撫でてやる。

 「ほらほらレクティ。元気出しなさい。誰も見ていないから」

 それからレクティが泣きやむまで、ミソラはあやし続けた。

 今まであまり付き添ってもらうことのなかったレクティだが、遠慮無くミソラに抱き着いている。そして落ち着き出したところで、

 「ほら少しは落ち着いた。何があったか知らないけど、あたしに手伝えることがあるなら言いなさいよ」

 レクティが反応する。

 「うぅ、ミソラさん……(ぐずん)、ほ、本当に手伝ってくれるんですか?」

 「まぁ、あたしにできる範囲のことだけど……」

 (これで少しは楽になる)

 と、考えたレクティは、パンパンに膨らんだ紙袋の中からおもむろに清潔感漂う純白の衣装を取り出すと、

 「……こ、これを着て、一緒に廊下を歩き回ってくださいっ!」

 「これって――何よ?もしかしてバニーの衣装(こんなもの)を着て、あ、あたしに歩き回れっていうのっ!?」

 咎めるかのようなミソラの声にレクティは、こくりとうなずいた。

 破れかぶれのお願い、普段のおどおどしている彼女ではなかった。

 「まぁ、レクティが苦しんでいるようだからしょうがないわね。今回だけ特別よ、あたしもこれ来て手伝ったげる」

 レクティはミソラを仲間にすることに成功した。

 

 

 ちらちらちらちら。廊下を歩く生徒の視線がレクティを突き刺す。中にはじっとぶしつけな視線を送るものもこちらに指を向けひそひそ話す声も。

 何度逃げようと思ったことか。しかしレクティは一緒に歩いてくれているミソラの姿を見て、どうにか思いとどまっている。

 「あの、ミソラさんっ!、ひ、一人にしないでく、くださいねっ!」

 レクティは穢れのない瞳をうるうるさせながらミソラに懇願する。

 生徒たちから奇異と好意のまなざしを向けられること30分。そろそろミソラが飽き始めてきたころにアキラが姿を現した。

 「ちょっとあんた、いったいあいつからレクティにどんな訓練伝えられたのよっ!なんだか知らないけど、レクティ教室の端で泣いてたのよっ!」

 「う……、そこまでなのか」

 「ほら、こんなに苦しんでるじゃないのっ!」

 「ねぇ、レクティ。そんなに苦しいならやめる?ここで止めてもだれにも迷惑かからないし」

 何度辞めたいと思ったことか。レクティが首を縦に振ろうとしたとき、

 「でもさ、そんなにかわいい格好してるんだからさ、別に恥ずかしがる必要はないんじゃないかな?」

 レクティの動きが止まる。

 (い、いま、かわいいって言ってもらえた)

 「ちょっと、あたしの格好についてはスルーなわけっ!?」

 「……ノーコメント、とでも言っておくよ」

 アキラは180度体の向きを変えて、

 「ミソラ、あとをよろしくね」

 そういって立ち去って行った。

 「ち、ちょっと、あんたがレクティをこんな状態にさせたんでしょっ!?ならちゃんと自分で責任取りなさいよっ!……行っちゃったし」

 「ほ、ほら、レクティ。いつまでもめそめそしていないで、元気出しなさいよ。それと一体どうして制服じゃなくて、そんなにかわいい格好してるのよ?」

 (か、かわいい……)

 可愛いという単語に反応を示すレクティ、その単語のおかげで少しは気持ちが楽になったらしい。涙で真っ赤に目元を腫らしたまま、弱弱しくだがはっきりと言葉を口にする。

 「うぅ……、ち、違いますっ!これは……特訓、ですっ!特訓なんですっ!」

 「?さっきからよくわかんないけど、そんなに恥ずかしいならやめたら?あたしからあいつらにはなしをとうしてもいいわよ」

 「……ま、まだ、続けてみます。アキラさんだけじゃなくて、ミソラさんにも可愛いって言ってもらえましたし。それにアキラさん、強くなれるって言ってましたから」

 そういってめそめそしながらも、ミソラという名のカーテンから姿を現し、自ら衆目の的となる。そして羞恥心とはずかしさで、貌を真っ赤にし、膝を震わせながら、どうにか我慢してみせる。

 「だからいったいどこが訓練なのよ……」

 ミソラが眉を寄せながらつぶやいた。



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9話 空戦魔導士の特訓!【結果】

 またまた時間かかりましたが、続きです。
 時系列一巻が一番つらいかも……。


 「で、どうだったよミソラ。今日の訓練の結果は」

 「悔しいけど、大失敗よ……。あたし、二人のこと全然知らないんだなって思い知らされちゃった……」

 下校がてら今日の訓練の成果を訪ねるカナタ。ミソラは寮生活ではないらしく、途中までしか一緒じゃない。

 (へぇ、人によってはあるんだな)

 アキラはまだこの学園のことに疎く、どうしてもわからないところが出てくる。

 ちなみにあの特訓受けたレクティは、精神的なダメージが大きく、一休みしてから帰るらしい。

 「リコは、哲学書好きなのに、案外かわいいもの好きだったり……、レクティは、なんにでもまじめで一生懸命なのに、どうしてあんなに恥ずかしがり屋なのか全くわからないし……」

 しょんぼりと足元に視線を落としながらミソラが歩く。

 そんな時、アキラとカナタの目には商店街に人気のあるアイスクリーム屋台が映っていた。彼方から話は聞いていた。

 (確か、アイスクリームの屋台なのにソフトクリームがおいしいんだっけ?さらに、シュークリームは数個限定ですごくおいしいって話だったよね?)

 カナタからその情報を聞いていたアキラは、何も考えずふらふらとそのアイスクリーム屋台に立ちより、気づけばソフトクリームを三つ買っていた。そのあとに、二人の元に戻る。

 「あのね……、あたしは全然わかんなかったって言ったのよっ!ちっともよくないのにいいせいかとか、あんたあたしに喧嘩売って……ひゃうん!」

 「そんなにつんつんしないの」

 買ったソフトクリームをミソラの口にねじ込む。少しはおとなしくなったようだ。

 「カナタも、少しは考えていってあげなよ。僕や特殊小隊(ロイヤルガード)と違ってあんまり遠まわしすぎるとわかんないんだから」

 「わりー」

 「まぁ、そのアイスは頑張ったご褒美としておごってあげる。おいしい?」

 そう、ミソラに尋ねる。

 「おいしいかおいしくないかって言われるとそりゃこのソフトクリームはおいしいけど、でもそうじゃなくて…」

 どこかしゅんとした調子のミソラが答える。

 「全然結果出せてないのに、言い分けないでしょ。リコとレクティのことホントよく知らなかったんだなって反省してるぐらいなんだから」

 「へぇ、いい結果じゃないか…どこに不満があるのさ?」

 「だってあたしは……小隊の仲間のこと何にも知らなかったのに……」

 「いや、いい結果だよ。少なくとも僕は見ず知らずの人に背中を預けたくないね。特に何があるかわからない空の上ではさ」

 ミソラの視線に気づきながらも夕空を見上げながら、そう口にするアキラ。

 (へぇ、いいこというじゃんか)

 少なからずアキラに関心を覚えるカナタと、

 「ちょっと! それってどういう意味よっ!」

 と、憤った声を発するミソラ。

 「自分でわかってるから切れてるんじゃないの? だから怒ってるんじゃないの?」

 「うぅ」と言葉が詰まるミソラ。アキラの言うことごもっとも、ミソラ自身もわかっているからこそ怒ったのだ。

 (何かあったときに背中を任せることができるのは小隊の仲間ってことぐらい、知ってるわよ)

 お互いを認めることができないから打ち解けられない。

 「そ、そりゃあ今まで仲間のことを知ろうとしなかった自分が情けないとは思うけどさ」

 それ以上言葉を紡ぐことができず、うつむいてしまうミソラ。

 と、ここでカナタが自信に満ちた不敵な笑みを浮かべながらこう告げる。

 「だったらさ、これからは昼飯一緒に食べるようにして、もっとみんなと仲良くしていけばいいじゃねーか?」

 「えっ!」と顔を上げるミソラにそっけなく言い放つ。

 「なら今日の特訓、お前は合格」

 「そうなると、明日から本格的な訓練だね。あ、今日の訓練の感覚、忘れちゃだめだよ? いざというとき頼りになるのは同じ小隊の仲間なんだから」

 「ちょ、ちょっと、ホントの特訓ってどういう意味よっ!?」

 「あれ?聞いてなかったの? これは小隊長としての訓練、明日からは個人訓練だって」

 「き、きいてないわよっ!」

 「そっか、まぁ、予定変更はないから、じゃあね~」 

 アルテミア寮の分かれ道、あっけにとられているミソラをそのままに、二人は寮に帰っていった。

 

 教官就任、そして入隊してから二日目を終える。

 アキラとカナタが夜遅くにアルテミア寮の自室で膨大な量の資料に目を通す。すべてミソラたちのものだ。

 「カナタの彼女さんかな? 結構堂々と入ってくるあたり」

 「おまえさ、気軽に入ってくんなよ。ここ男子寮なんだぞ」

 アキラの発言はスルーのようだ。

 「うーん、窓から入れば寮監には見つからないし。それにカナタの部屋に来るのって私とロイドくらいでしょ。ほかのみんなからは嫌われちゃってるし」

 「だからってなー、俺は嫌だぞ。男子寮に女子連れ込んでるなんてうわさされるのは。しかも、もう同居者もいるんだぜ?」

 散らかり切っていたはずの部屋がきれいに掃除されている。どうやらアキラの仕業のようだ。しかも面白いことに、同じ小隊の仲間は同じ寮に集まりやすい。

 「僕は別にいいよ、なんか違和感ないし。あ、でも違和感ないっていうのも変か」

 「アキラもかよ」

 「まぁまぁ、同じ小隊の仲間じゃないの」

 やんわりとした笑顔でなだめてくるクロエと、少しまじめに考えているアキラのツーコンボ。これはいくらカナタでも黙って認めるしかない。

 「それで、その小隊長の女の子にはどんな特訓施すつもりなの? その加速力の原因って何かわかったりしたの?」

 「うーん、実はさ、あいつの魔力値、Aランク越えてるんだよたぶんそれが関係してんだろーな」

 「ふーん、すごい才能のある子なんだ。……でもそれでなんでFランクなの?」

 クロエが抱いていたクッションを危うく取り落としそうになる。魔力値は生まれに大きく依存する。ミソラの場合は天賦の才能といても過言ではない。そういうものなのだ。

 「魔砲剣士みたいなんだけど、どうも魔剣術の才能がからっきし見たいでね。それでカナタと考えたのは、魔砲剣士から、魔砲士にコンバートさせようかなって思ってるんだけど……ってとこ」

 「アキラ君、どうかしたの?」

 「実は、彼女の資料に目を通すと、魔砲剣士に異様なこだわりが見て取れたんだ」

 「それで? 二人は本当にコンバートさせたいの?それともさせたくないの?」

 「それがね……」

 どういう風にするかをクロエに伝える。

 「なるほどね、でもその子から嫌われちゃうかもしれないよ? 裏切者は裏切り者だって、しかもアキラ君はまだ全然小隊活動してないのに、これから先つらいかもよ?」

 「いや、アキラは大丈夫だ、こいつの武術の才能はすごいものがある。しかももう完全に染みついている感じでな、一連の動作を無駄のないシャープな動きでやってのけるんだ」

 「カナタの評価はそうなってたんだ。でも、ほんとにそうかはわからないよ? 僕に関する資料は全くなくく、しかも僕も何も覚えてない状況だからね。まぁ、手放しでほめられて悪い気分じゃないけども」

 そして、カナタのように不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 「僕が嫌われることで彼女が死ななくて済むのなら、全然大したことじゃないよ」

 「そうだぜ? 俺が嫌われることによってあいつらが強くなれるのなら、そんなのぜんぜん、大したことねーよ」

 そう言って翌日に備えるのだった。



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10話 私、魔砲士になります!?

やっと、かけましたぁ。
も、もっと頑張ります。


 カナタとアキラが特訓を施した翌日の昼休み。ミソラは小隊長としてある決断をしていた。

 この日空戦魔導士科予科二年C組の教室には、ミソラが招待した三人の姿があった。四つの机を互い違いにくっつけ、それぞれの昼食と共に、席についていた。

 「うん、みんな今日は集まってくれてありがとう」

 満面の笑みを浮かべてミソラが言う。朝早く登校して二人の机の中に「一緒にお昼を食べよう」と手紙を入れていたのだ。

 「ふん、私は孤高の女神だから、群れることは好まないぞ。単にミソラが私のことを崇めたいとたたえる内容があったからわざわざ赴いてやっただけだ」

 「うん、わざわざご苦労様」

リコが驚いたように目を見開く。

 「そのぅ……ミソラさん。私も先日はお世話になりました。ミソラさんのおかげでどうにか特訓初日を耐えることができました。今後ともよろしくお願いします」

 「む、昨日とは何だ?」

 「そのぅ……ミソラさんがバニーさんの格好をして一緒に廊下を歩き回ってくれたんです。わたしはメイドさんの格好をしていて、ものすごく恥ずかしかったんですけど」

 「……ふむ、ミソラがそんな恰好をしていたのか」

 「ちょ、ちょっとリコっ!あんたなんであたしだけをじーっと見るのよっ!?」

 アキラはおなかを抱えてクスクス笑っている。さもおかしいものを見るように。

 「ち、違うわよっ! あ、あれは少し込み入った事情があって……」

 「少し込み入った事情でか。常人の考えることは理解に苦しむ」

 「あ、あのねーっ! いくらなんでもあたしが好き好んでそんなコスプレみたいな恰好するわけ————」

 アキラはまだ笑っている。助ける気は毛頭ないようだ。ミソラの助けを求める視線を軽く受け流している。

 「ふっ、冗談だ。ミソラとレクティがそろってそんな恰好をするなど、通常では考えられないことだと察しが付くだろう?」

 「え? そうだったんだ……」

 そう言って戸惑うミソラと、ちょっと驚いたような顔をするアキラ、ふっと鼻で笑うリコ、そしてきょとんと首をかしげるレクティ。

 (この二人とこんなにのほほんとした会話、初めてかも)

 (へぇ、いい仲間じゃない。これなら小隊内の人間関係は一応心配ないかな、なんてしらふでそんなことを考える当たり、そういう経験があったのかな?)

 記憶の手がかりというか、引っかかりを見つけたアキラと、意外と不思議な空気にちょっと戸惑うミソラ。まだうまく容量はつかめてなさそうだが、なかなか悪いものでもないようだ。

 だが、お互いがお互いを知らないがために、そこからの会話が続かない。静かな食事っていうのも悪いものではないのだが、それでは本末転倒。何か話題を探す。

 「みんなはさ、なんで空戦魔導士を目指してるの?」

 助け舟をアキラは渡す。

 「なんだ、そんなことか」

 ふっと鼻で飛ばし笑いながら、

 「女神なわたしの存在の証明として、自らの手で倒さねばならない相手がいるのだ。≪ミストガン≫の頂点を極めし者の一人として胡坐をかいているあの女だけは絶対許さん」

 何やら復讐心をあらわにしたリコがそう告げる。

 (っ! なんだろう、今復讐の感情を感じた時に少し頭痛がした)

 いろいろとこの会話だけで、記憶のカギの断片を少しずつ拾えそうな雰囲気を醸し出す会話を少し神経質になって聞き始めた。

 「わ、わたしは……あのぅ、自分の習った魔双剣術で……浮遊都市に住む人々を守るために目指したいと思ったんです」

 おどおどしているが、明確な意思を持ってレクティが告げる。

 「ミソラは?」

 「あたしはね…忘れられない人がいるの。その人のことを忘れないために空戦魔導士を、その中でも魔砲剣士を目指してるのよ」

 何やら遠い目をし、どこかはかなげに答える。

 「魔砲剣士だと? 確かあの男もランキング戦では魔砲剣の使い手という噂だったが……」

 裏切り元の元エースとミソラノ胸の中に浮かぶあの人とを見比べる。思わず苦笑してしまった。

 「あいつと話全然違うわよ。あいつよりもっと責任感が強くて、あたしがこの世界で一番尊敬できて、一番感謝してて、そして絶対に忘れちゃいけない人なの」

 とても分かりやすい意思表示をしたミソラは、アキラにも聞く。

 「アキラはどうして?」

 「僕は……」

 記憶がないことを伏せていたいアキラはちょっと答えに窮した後、

 「自分を見つけるため…かな。いろいろ混ざりすぎて、うまく言葉にできないや」

 ちょっと苦笑しながら、我ながら悪い出来だと、自負するしかなかった。

 

 午後の実習訓練。訓練グラウンドの片隅に呼び出されたミソラは手持ち無沙汰な様子で、訓練に励むほかの学生に目を向けていた。

 魔剣や魔槍、魔戦斧などの武器を握りしめた学生たちが戦闘訓練を行っていた。

 金属と金属がぶつかり合う音。巻き上がる土埃。裂帛の掛け声。

 こんな光景が空戦魔導士科では毎日のように繰り広げられている。

 「ごめんね。遅れちゃった」

 そう言ってアキラがミソラに近づく。

 「遅いっ! あんた何してたのよっ!」

 「これを取りに行ってたんだ」

 灰銀色のシリンダーが四つしかない魔砲剣状のものと、どの学生も最初に使う魔砲杖(まほうじょう)だった。

 「な、なによこれ」

 「えっとね。君がなんで魔砲剣士目指してるかは聞いたんだけど、死んでしまったら元も子もないから」

 そう言って魔砲杖を目の前に差し出す。

 「今日から魔砲士になってもらいたいんだ」

 「えっ!?」

 ミソラも驚きの声を上げる。

 「君が魔砲剣士を目指す気持ちは痛いほどわかるんだけど、僕はだれにも死んでほしくない。だからこれは僕のエゴでしかないけど、今日から魔砲士になってもらいたいんだ」

 「嫌っ! 絶対に嫌っ!」

 「じゃあ、なんで嫌なの? どうしてそこまで魔砲剣士にこだわるの? 実技試験なんて134連敗じゃないか、そこまで負ければいくらなりたいからって才能がないのはわかるよね?」

 「それでも…それでも魔砲剣士になりたいのっ! 努力するっ! 努力して結果を出すからっ!」

 「じゃあ今までは努力してなかったの?」

(努力してない?)

 今までの努力を…何も知らないくせに……っ!

 「あんたはあたしの努力を何にも知らないくせに調子に乗らないでっ! あたし帰るっ!」

 大股でそれでいながらうつむいて、時節目元をぬぐいながら去っていく。

 「アキラ、お前、なんかやったのか?」

 いつの間にか来ていたカナタがアキラをとがめる。

 「まぁ、ちょっとやりすぎちゃったかな」

 そう考えるしかない。そう考えるしかないのだ。

 (なんで、あそこまで攻めるような言い方をしたんだろ?)

 その答えは今のアキラにもたらされることはなかった。

 



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11話 過去と思い

書けましたですはい。
どうぞお読みくださいwww。……はぁ


 『いつかだれにも負けないくらい立派な魔砲剣士になる。お母さんと同じくらいの魔砲剣士になる。この世界のすべてを守り切れる存在になる。』以上、ミソラ・ホイットテールの手記より抜粋。

 

 カナタとアキラがE601小隊室で資料を読みあさっている。しかし、この小隊の連日の不穏な空気は、こんなものじゃ隠しきれるものではなかった。たった一人、ポツンと席についているレクティがしびれを切らしたように尋ねに来た。何しろもう三日もこの空気のままだ。

 「あのぉ……アキラさん」

 「ん?」

 「そのぅ、どうかしたと言えばどうかしたと思うんですけど……」

 そう言ってミソラの席を見る。本来ならミソラとリコもこの小隊室にいるはずなのだが、リコはさぼり。もうわかり切っている話である。しかし、ミソラのほうは……。

 「ミソラは今日も休みなんだ。かれこれ三日だね」

 「あのぅ、それってただ事じゃないと思うんですけど……なんというかそのぅ……」

 おどおどしながらアキラに進言する。

 「ここ最近、わたしミソラさんたちと一緒にご飯を食べてるんですけど」

 (これはこの空気をどうにかするチャンスなのでは?)

 思いとともに言葉を紡ぐ。

 「ミソラさん、お昼休みが終わりに近づくと不機嫌になってしまってどこかに行ってしまうんです」

 「そっかぁ、やっぱりかぁ」

 あっさりと聞き流すような回答。ほんとにこの人たちの指示に従っていていいものか、そう疑いたくなる中に、疑問を残す発言があったことで振り返る。

 「………っ! やっぱりというと…な、何か心当たりがあったりするんですか!?」

 「心当たりではないかな」

 「そ、そうですか……」

 せっかく解決しそうだったが、そうでなかったことに落胆するレクティ。しかし、アキラから思わぬ言葉が流れてくる。

 「心当たりじゃなくて確信に近いかな。ミソラが怒ったのって絶対に僕の責任だし」

 「………そ、それってアキラさんが悪いじゃないですかっ!」

 彼女にしては珍しく大きな声で突っ込んでくる。

 (へぇ……結構初めのほうから優しい子だとは思ってたけど、ここまで真剣に考えてるのか。彼女、相当いい魔双剣士になれそうだ)

 「あのぅ、アキラさんは本当にやる気があるんですよねっ!? 今やってる特訓を続ければ強くなれるんですよねっ!?」

 「それは何とも言えないね。本人の努力次第かな」

 「あ、アキラさんっ! な、なんて無責任な言い方するんですかっ!」

 涙目になりかけレクティとどうしてそうなったか疑問のアキラ。

 「アキラ、俺もやりそうな言い回しだが、それが伝わるのは相当頭の切れるやつだけだからな」

 「あ、そっか」

 レクティが涙目の原因をわかったところで補足を入れる。

 「レクティ、そんな顔しないで聞いて。カナタができるのは教官として君たちに強くなる”キッカケ”を与えること。で、僕は君たちがそれを理解して、なおかつ強くなるためにより大きな”キッカケ”を与えることなんだ」

 「”キッカケ”……ですか?」

 「そう。だから僕は結果を示さないし示せない。それはカナタも同じ。結果を残すのは君たちの”努力”。それをより早く形にするのが僕らの”キッカケ”。君たちが努力して報われなかったときは僕やカナタに責任があるってこと。………で、レクティはどうするの? このまま続ける?」

 あのわけのわからない訓練。最低一週間続けるように言われている。しかし信じていいものかわからない。返答に窮してしまうレクティはこの後の回答次第で続けるか続けないか判断しようと。

 「アキラさんたちは、どうするんですか?」

 「僕はちょっと彼女の家に行ってみるよ。風邪でも引いてたら大変だしね」

 「俺はもう少し資料に目を通すからここにいていいぜ」

 (やる気あるのかなぁ)

摩訶不思議なアキラの発言に困り果てながらも、このまま続けるか、真剣に考えるのだった。

 

 

 

 「ここ……だね」

 基本的に空戦魔導士科の学生は寮生活を強いられているため、こういう捜索まがいの行為はしなくても済むのだが、たまに実家通いやマンション、アパートを借りて登校してくる生徒もいるようで、ミソラとてその例外ではないのだ。

 シックな色調で統一された店内に入るためにドアを押すと、「カランカラン」とベルの音が出迎えてくれた。

 「いらっしゃい」

 バーを連想させるカウンターの奥から店内のアキラに声がかかった。音源はスキンヘッドで強面の中年男性からだった。

 「すいません、ご飯食べに来たわけではなくて……」

 カウンター席に移動しながらその男性に事情を話そうとする。

 だが、お冷を運んできたウェイトレス姿で店を切り盛りしている少女が素っ頓狂な声を上げる。

 「な、なんであんたがここにいるのよっ!」

 そう、ミソラからすれば「なんで」なのだ。前回あれだけひどいことを言ってのけた奴が目の前に座っているのだから。ミソラはキッと鋭い目つきでにらみつける。

 「こらミソラ、最近珍しく学校から早く帰ってきて店手伝っているっていうのに、客に対してその扱いはねえだろう」

 カウンター奥の中年男性から声がかかる。

 「うっさいっ! お父さんは何も事情を知らないから黙っといてよっ!」

 二度もいるようなまなざしでにらまれながらも、アキラは平然とうそぶく。

 「やぁ、元気そうで何よりだよ。ケガとか病気でもしてるわけでもなさそうだしね」

 「あんたね、このタイミングでそんなこと言うっ! もっと他に言いたいこととかあるんじゃないのっ!」

 「今一番言いたかったことはこれかな。君の身に何かあったら困るからね」

 「……………~~~~(ピキッ)!」

 しかし、彼のほうはどこか安堵した様子だ。彼女が無事だったことを確認したアキラは、内心しっかりした小隊員として、副教官として本当に安堵していた。

 「君のほうからは何も言いたいこととかないのかい?」

 全力で怒鳴りつけようとしたミソラの顔は歪みに歪みまくり、思いつく限りの罵詈雑言を口にしてやろうとしたが、第三者にそれはさえぎられてしまった。

 「なんだお客さん、ミソラの知り合いだったのか」

 「え? もしかしてミソラさんのお義父さんですか? これは失礼しました。……つかぬ事を申すようなのですが、あまりミソラさんと似ていらっしゃらないのですが?」

 「がっはっはっはっ! うちの娘は母親似なんだよ」

 母親に。豪快に笑う店主が口にした、アキラの心にもなにかよくわからない傷をつけたその言葉を聞いた途端、ミソラの顔に陰りが刺した。

 「……あたし着替えてくる。今日はもう上がることにしたから」

 意気消沈したようすで奥へと消えていった。

 「すまねえな。どうも親子仲っつうものがうまくいってなくてな」

 そう言って後頭部を掻く。

 とアキラは目ざとくも店内を見守るように立てかけられている写真の入っている写真立てを見つけた。幼いミソラと思わしき幼女と、その両親が映っていた。

 「お義父さんの奥さん、おきれいですね。確かにミソラは母親にだね」

 自分で母親にとつぶやくことに胸の奥に鈍い痛みを覚えながら店主に尋ねる。

 「あぁ、その写真のことか」

 ミソラの父親はしそれを眺めつつ告げる。

 「確かにあいつはいたよ。思い出はこの写真ぐらいしかねぇけどな」

 どこか暗澹たる表情。

 「もしかして、ナチュラルと呼ばれる……」

 「まぁな。娘はウィザードで、俺はナチュラル。ンで嫁さんは……空戦魔導士だったからな。……あぁ、余計な話をしちまったな」

 ウィザードとナチュラル。魔力を持つ者、持たざる者。

 魔甲蟲に殺された者を覚えていられる者、覚えていられない者。

 ≪ミストガン≫は総人口の九割をウィザードが占めるウィザードの都市だ。通常の都市とは異なる。この件はおそらくミソラの事情に関係している。そう結論を出したとき、ミソラの父親が洗い終えたコップの水滴をふき取りながら、鋭く切り込んできた。

 「ミソラはいつもバカみたいの遅くまで訓練しているから、いつもは帰りが遅いんだが。ここ最近の早帰りは珍しくてな。学校で何かあったと思うんだが、お客さん、なんか知ってるか?」

 珍しく何でもない風にして質問に質問で返す様子を見せる。

 「うーん、その前にミソラのこともっとよく教えてくれませんか? 彼女がなんで魔砲剣にこだわるのかも、全部含めて」

 コップを吹く手が止まる。

 「その前にお客さん、一つ聞いておきたいんだが。お前はうちの娘の何なんだ?」

 「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 不敵な笑みをこぼしながら告げる。

 「僕はミソラの所属する部隊の仲間で副教官務めてます。ミソラが強くなる”キッカケ”を与えるのが僕の仕事です」

 



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12話 紅の決意と灰銀の決意と

さて、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。というわけです12話、どうぞっ!


 場所は喫茶店裏の再開発地域。近くには50メートル抗呪素材(アンチカーズ)製のドーム壁がある。

 鉄骨がむき出しになっていたり、崩壊しかけの建物がある殺風景な場所。

 「なんで、あたしが勝てないのよっ!」

 屈辱と怒りをごちゃまぜにしたような感情とともに白銀の魔砲剣を振り下ろす防護服(プロテクター)姿のミソラ。しかし、それは虚しく宙を切っているかのようだ。

 汗で細く濡れ細った髪が防護服にまとわりつく。

 「なんで、あたしが勝てないのよっ!」

 (もう何回、この剣を振りぬいたかな? ……いや、考えるだけ無駄ね。よそう。努力した分だけ、必ず報られるから)

 しかし、それでも…。

 「なんで、あたしが勝てないのよっ!」

 雑念は振り払えず、振れば振るほど雑念は募る。

 (落ち着け、落ち着け)

 自分にそう念じるしかない。これまでに繰り返した数えきれないほどの素振りの数。努力だけなら、ほかの生徒の何倍もしていると自負している。連敗も、模擬戦闘も関係ない。ただひたすら努力するのみ。

 「……あたしは諦めないっ!」

 自分に才能がないだの、まったく勝てないだの、そんなのは努力を知らない奴のセリフだ。たとえ才能がなくても、まったく勝てなくても、努力しなければ上達しないし、勝つこともできない。

 「……こんなに努力しているのに、どうして報われないのよ」

 それでも漏れてしまう本音。今にも泣きだしそうになる衝動を必死にこらえ、下唇をかみしめながら鍛錬に励む。必死に抗い続ける意思を示すそれを、わかるものが見れば切なくなるだろう。

 「どれだけ頑張っても……ね。今のままじゃダメなんだよ、ミソラ」

 アキラも切なく感じることのできる部類の人間だが、その光景を見ながらイライラするというか、虚しくなるというか、何とも言えない怒りや嫉妬、恨みや妬みなどの感情が少しづつ、表に出てくるのがわかる。それはまるで「狂気」とでも言うかのように。

 ミソラには致命的に剣術センスがない。皆無に等しい。とにかく大剣を振り回すにはそれを制御するだけの身長が足りない、それでいて反射神経のほうも秀でているとは言えない。身長はアキラの知る振り方で対応できるかもしれないが、反射神経は別だ。毎日、何年続けてもあまり伸びを感じない。言わば先天性の才能である。それが欠如してしまっている。けれど、

 (彼女には、生き残れるだけの強さを身に着けてほしい)

とも感じてしまう。

 「くっ!」

 ミソラがうめき声をあげ魔砲剣を取り落としそうになる。手のマメがつぶれたのだ。その痛みをも消し去るように唇をきつく結び歯を食いしばる。

 「あたしは、お母さんの分も負けないっ!」

 再び魔砲剣を上段に構え直し、精いっぱい振り下ろす。

 (お母さん…かぁ)

 ミソラの事情をあらかたミソラの父親から引き出していたアキラは、ミソラが魔砲剣に固執する理由も、気概も、思いも、何もかもを理解している。

 

 「ミソラが魔砲剣士を目指すのは、母親を忘れたくない一心からなんだよ」

 ミソラの母親は昔住んでいた浮遊都市では空戦魔導士をしていたそうで、地元では有名な空戦魔導士だったらしい。しかし、ある日出撃したまま帰ってこなくなった。おそらくミソラの母親が殉職した時点で、ウィザードでないミソラの父親は記憶から彼女との思い出や存在したという記憶そのものなくなっていただろうからミソラもうすうす悟って入るだろうと、ミソラの父親は話してくれた。彼女の仲間の空士が送ってくれたのは白銀の魔砲剣。なにを想ってそれをミソラに託したかは知らないが、最後に託したのは魔砲剣。

 まだ幼い、自分のことを尊敬している子に渡せば否が応でも空戦魔導士を目指すのはわかり切っているはずだ。 しかし、それでも何かを残そうとした母親の気持ちはアキラにはわからない。

 「惨いことをするなぁ」

 アキラは思いを外に小さくこぼした。

 ……ミソラの母親の墓所は、希望の丘(ホープオブヒル)に設けられているそうだ。

 「だがな、誰も覚えちゃいない。本質的に父親の俺でさえ、覚えていられなくなった母親の姿を、空戦魔導士を目指すことで、魔砲剣士を目指すことでミソラは追い求めているんだよ」

 

 追い求めるもの、目標、努力、それを理解してもなお、アキラは、いやアキラたちはミソラに魔砲士を進めたことを後悔はしない。けれど、ミソラの想いもよく分かった。

 だからミソラはその想いの丈をアキラにぶつけなければならない。そうしなければずっと、今のままで、Fランク小隊のレッテルを貼られたまま、いずれは……。

 「やあ、ミソラ」

 「な、なんであんたがここに……っ!」

 「ちょっとこっちに来てくれないかい?」

 嫌々ついて来てくれるミソラとともに、場所を移した。



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13話 アキラ、嫌われもの……?

大変長い期間が空きましたが、並行世界から来た空戦魔導士、続編ですっ!


 なだらかな緑の丘一面に広がるのは、都市を守るために殉職した学生たちを供養するための白銀の十字架。学生たちの間では、ここは希望の丘(ホープ・オブ・ヒル)と呼ばれていた。

 「君、毎日ここに通っているらしいね……」

 そこにはアキラとミソラの姿があった。そして、ミソラの母親が眠る十字架の前まで歩いていく。おおよその場所はミソラの父親の話から導き出していた。

 「だから何よっ! っいうか、お父さんから勝手に人のこと聞いたのっ!」

 アキラの隣を歩くミソラは、今まで黙っていたことを知られ、自分の秘密に土足で踏み込まれたようで、腹の虫がおさまらなかった。アキラはもちろん、勝手に秘密を教えたミソラの父親も同罪だ。

 (悪いやつだと思ってなかったのに……)

 ミソラは心底軽蔑していた。

 「ねぇ、ミソラ。強さって…なんだと思う?」

 アキラにとって軽蔑されようがされまいが関係ない。

 「何よっ!」

 「回答になってないよ、ミソラ。僕は君が思う強さについて聞いてるんだ」

 例のごとくケロッとした様子ではなく、とても真剣な顔をしている。

 「そんなの、あんたに話してやる理由なんてないわっ!」

 しかし、怒りに身を焦がしているミソラには届かない。

 「まぁ、そんなことだろうと思ったよ…。やっぱり君は魔砲剣士をするべきじゃない。ここで魔砲士になることを君の母親に……」

 そんな無神経な発言に対してミソラは…。

 バシンッ!

 ミソラの右手がアキラの頬を強く打った。

 「……」

 「あんたに、あんたにあたしの何がわかるのよっ!」

 ハァーハァーと肩で息をするミソラと、叩かれて当然という顔をしているアキラ。

 「実の父親ですら、いなくなった母親のことを覚えてないのよっ! その苦しみが、悲しみがあんたにわかるっ!? 魔砲剣士として必死になって戦った母親の形見の魔砲剣、それがあたしにとってどれだけの勝ちがあるかあんたにわかるっ!?」

 「それがミソラにとっての強さか…」

 「だったら何よっ!」

 「ミソラにはさ、魔剣術の才能がないんだよ。それはわかってるよね?」

 「だから何なのよっ! あたしはそれでも魔砲剣士に――――――」

 「でもね、努力をしてる人にしか見えない景色ってあるんだよ」

 かたくなに否定されると思っていた。だからこそ、その言葉にミソラ困惑する。

 だから、アキラにもカナタにも思いの丈を伝えることはなかった。一度も…一度も……。

 「ねぇ、ここって希望の丘(ホープ・オブ・ヒル)なんて言われてるけど、本当の希望って、ここで眠ってる人たちにとっての希望ってなんだと思う?」

 「それは都市に住む人々を守りたいってことでしょ?」

 そういって辺り一面の十字架を見渡す。

 「そう。忘れてほしくないっていうのもあるかもしれないけど、それ以上に都市に住む仲間を守りたいって。そう思ったから戦えたんだ。それはミソラの母親にも言えること。彼女は魔砲剣士になりたくて空戦魔導士(ガーディアン)になったんじゃなくて、都市に住む人を守る手段として選んだはずだよ。そのことについてはどう考えてるの?」

 空士になるか、魔砲剣士なるか。間違いなく母親は前者を選んだだろう。空士になるための手段として魔砲剣士になったにすぎないのだ。それでも

 「それでも――どちらか片方なんて、そんなの選べない。甘いって、そうみんなに笑われるかもしれないけど、それでもあたしはどっちも欲しい」

 それが、ミソラがアキラに示せる覚悟。夢を求めるという、修羅の道を進む覚悟だ。

 「だから、あたしはみんなの覚えてないお母さんの分も、その思いも、そして、お母さんのことを忘れないためにも、あたしは魔砲剣士を目指すのっ!」

 例えこの言葉がアキラに届かなくても、この想いおがアキラに届かなくてもミソラは決してこの想いを曲げることはないと誓う。それが……

 (これがあたしの…ミソラ・ホイットテールの覚悟よっ!)

 想いの丈を受け取ったアキラ。大切なものを忘れたくないという、悲痛な叫びと、忘れないために続けるという覚悟を受け取った。

 (……彼女の覚悟に、今の僕ができることは……)

 「…わかった。だったら、僕とカナタで君が強くなるきっかけをあげる。だから、その想いを貫くと、必死で己を磨くと、今ここで誓ってほしい」

 アキラの言葉はミソラの予想に反したものだったようだ。呆けた顔を浮かべるミソラの先には己の意思を示したアキラの横顔が映っていた。

 「え…でも、いいの? あんたは、あたしを魔砲士にコンバートさせたかったんじゃ……」

 困惑するだろう。秋ほどまであれだけ否定され続けて、急に肯定されたのだ。だが、アキラとしては端からこうなる可能性を見出していた。アキラが打たれてまで試したかったのは、ミソラ自身の口から、己の覚悟について語ってもらうことだ。生半可な覚悟で続けるというのなら無理やりにでもやめさせる気でいた。

 (けど、ここまでの覚悟を秘めた想いに気づいたんだ。だったらその想いを尊重するよ)

 アキラはミソラにはっきりと面と向かって言葉をぶつける。

 「僕は何も努力のベクトルに関しては何も言ってないよ。ただ、今と同じままの努力じゃ足りない(・・・・・・・・・・・・・・・)って言ったはずだよ? まぁ、君は怒って帰っちゃった訳だけども」

 そう言われ、ミソラの肩身は狭くなる。

 「ま、君は母親からのウィザードとしての適性も受け継いでいるから、魔砲剣士として強くなれないわけじゃないよ」

 その言葉に表情を明るくするミソラ。しかし、アキラの言葉にはまだ続きがあった。

 「けど、それは魔砲士よりもずっと険しい道を進むことになるんだ」

 「険しい…道…」

 「そ。僕らが君に魔砲士を進めたのは君の魔力量と飛行速度を生かして中衛で活躍できるから。魔剣術の才能のない君が剣を握るのは無駄以外の何でもないからね。だから魔砲士を進めたんだ。それはわかるかな?」

 「うん。わかる。言いたいことはわかるよ」

 普段からは見られない真剣なまなざしに、どうにか肯定の意を示すミソラ。その一言で、アキラは優しい表情を浮かべた。

 「だったら、ただ誓うんじゃなくて、君の母親に誓うんだ。母親より、ずっと強い空士になるって。そう誓うんだ。都市の人を死なせないために。自分が死なないために」

 「自分が死なないため?」

 「そう。君が魔砲剣士を選択するってことは任務中に殉職する可能性が上がるってこと。ほんとなら、死にやすい道を選んでほしくないんだけど。でも、君の魔砲剣に対する想いもよく分かった。だから、僕は君が死なないように、君が一人前の空士になれるように。そしたら僕も君を死なせないことをここで誓うよ。君の重りは半分僕がもらう。だから…自由に飛び立って、そして強くなれ。その想いを捻じ曲げなくていいように、誰にも負けないくらい強くなれ、ミソラ」

 アキラは本気だ。そんなの目を見なくても、まとっている雰囲気だけでわかる。

 「……あ、あ、あ、あのねっ!」

 興奮冷めぬミソラはアキラを見やり、

 「――あ、ありがとうっ!」

 そう言いながら照れくさそうな笑みを浮かべるミソラは、今までで一番晴れ渡った表情をしていた。



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14話 記憶の断片

 アキラはミソラの覚悟を聞いた後に一人、街を出歩いていた。別に何かあるわけじゃないが、それでもどうしても街を歩かずにはいられなかった。

(母親…父親…)

 その言葉がアキラの頭の中を反芻する。それが何を意味するのかは、今のアキラにはわからない。しかし、その言葉が頭の中で反芻することをやめない。まるでそれが呪縛のように、鎖のようにアキラの心を締め付ける。

 アキラが街に出ている理由は日課の記憶の欠片探しだ。しかし、今のアキラに記憶探しなんてできるはずもない。

 何も考えれず、ただ淡々と時間が過ぎていく。記憶を思い出せないことに焦りこそすれど怒りは沸いてこなかった。そんななか、アキラはふとあるものを見つけた。

「月と太陽のペンダント……」

 そのペンダントは何か魔性の魅力があるわけではないのにアキラを引き付けた。まるで失っている”何か”を象徴するようなそれはアキラの手を呼びつける。アキラは迷うことなく店の中に入り、そのペンダントを購入した。

 そのままアキラはアルテミア寮に戻ることにした。

 後に知ることになるが、そのペンダントを売っていた店の中に、そのペンダントの対とされるペンダントが置いてあった。そのペンダントは宇宙のように深く青黒い星の散りばめられたようなシャトル型のペンダントで、中に思い出の写真の切り出しを保存できるようになっているものだ。

 

 

 

 アキラがアルテミア寮に戻った翌日、カナタが談話室を独占している光景が目に入った。階段を昇り右が男子、左が女子寮へとつながる共用スペース。五階まで吹き抜けで三人掛けのソファーを占領し、机に資料をぶちまけていた。

「やぁ、何してるの?」 

 アキラはカナタが裏切者とさげすまれているのを知りながら悠々と会話を持ち掛けた。

「ん? いやな…。それより、ミソラはどうだった?」 

「残念ながら僕が折れたよ。今後も、ミソラは魔砲剣で中衛の魔砲士と同じ働きをしてもらうよ」

「そっか。やっぱりお前が折れたか」

 カナタも大体察していた。ミソラが魔砲剣士をやめないことぐらい誰でも察しが付く。

「で、認めたってことはお前が担当するんだろ?」 

「冗談きついよ。僕は小隊の隊員なんだ。それは教官である君の仕事でしょ?」

「ま、そうなんだけどな」

 二人で今後についての語り合いを始めた。そんな時だった。

「いくらみんなから嫌われているからってば所を選ぶべきですよ。ここではみんなの迷惑になります」

 ロイド・オールウィンがその状況に対して遅れて注意をしてきた。

「んっ、みんなが距離置いてくれてるんだからいいじゃんか」

「カナタのそういう姿勢には脱帽ですね」

「? なんで脱帽するんだよ?」

「えっと…確か特務小隊(ロイヤルガード)の…ロイドさんでしたよね?」

「編入して間もないのに覚えていただけており光栄ですね」

「有名じゃないですか特務小隊(ロイヤルガード)って。実際に相当腕の立つような人の集まりですし」

「そういってもらえると嬉しい限りですね」

 アキラはロイドに軽口をたたけるぐらいあまり立場を気にしない、それに腹をたてないロイドもかなりの器らしい。ふと、ロイドはアキラを見て、言葉をこぼした。

「それにしても、あなたは面白い方ですね」

「? なぜですか?」

「それは……」

 少し言葉を選んでこう告げられた。

「あなたがいると、カナタがいい顔をするんですよ」

 その顔は過ごした昔のことを思い出すように優しい顔をしていた。

「なんと言うか、戦友…ですかね。あなたとカナタからただならぬ類似感を感じます」

「そう‥‥ですか……」

「そういえば、あなたはそのゴーグルをなぜつけて活動しているのですか?」

 ロイドはアキラが普段からずっと肌身離さず身に着けているゴーグルについて、疑問を投げかけた。

「えっと、まぁ、付けてないといけないんですよ」

 言葉を濁しながらそう伝える。

「そうですか」

 ロイドもそれ以上踏み込まなかった。

「で、話を戻しますが。カナタ、そこ以外のところで資料に目を通す気はありませんか?」

「なんでだ?」

「いくら避けられているからと言っても、ここは公共の場ですっ!」

 新たな声が混じる。

「ユーリじゃん」

「そういえば、先輩が‥「すいません、彼を罵るのはあとにしてもらえないでしょうか?」‥‥え?」

 アキラが初めて声に怒りを纏わせた。大気をも凍り付くような、一瞬でその場の空気を変えるだけの力をその静かな怒りを込めた一声で沈めた。

「僕もですね。カナタが悪いとは思うけど、真剣にやってるとこに水差されるのはいい気がしないですし」

 そう一度区切ってから、相手に同意を求めるように視線を向ける。

「それに、今は僕ら個人向けのことをやってるんじゃないんですよ。特務小隊(ロイヤルガード)に所属しているんだから、このぐらい、聞き分けられるでしょ?」

 声から怒気は消え失せ、相手を諭すように言葉を並べた。

「その‥‥、申し訳「僕ではなく、彼に‥‥ですよ」‥‥‥っ!」

 ユーリの唇に人差し指を当て、言葉の続きを制する。

「僕自身に言われていることならここまで言いません。ただ、真面目に事をこなしている相手を貶す、などという行為に口を挟んだだけですから」

 アキラの口元の口角が上がる。ゴーグルのせいで、はっきりとはわからないが、その仮面の下でほほ笑んでいる気がした。

「じゃあ、あとは頑張ってね。僕は疲れたから散歩でもしてくるよ」

 その場から逃げるように離れる。些細なことに怒りを持った自分から逃げるように。

 あの後、いくら考えてもあそこまでの言葉を浴びせる理由がわからなかった。

「これが‥‥、僕の体に染みついている、意識に住み着いている記憶の断片‥‥‥」

 あんなのを記憶の断片として、過去の自分を見つける術として、記憶の隅に置いておかなければならないなんて。

「まったく、とんだ馬鹿だな。僕は」

 その言葉は青いキャンバスに吸い込まれて、誰にも届くことなく、スッと、溶けていった。




 読んでくれている皆様、長らく時間がたってしまい、申し訳ありません。
 スランプってやつで、筆が乗らないと。いやぁ、久しぶりに書けるぐらいまでスランプから脱却できて、ようやっと書き始めることができましたぁ。
 こんな調子ですが、気長に待ってくださった方には、ホントに頭が上がりません。
 今後とも、よろしくお願いしますっ!


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15話 勝利をつかむために

 訓練グラウンドの一角に距離100m先のレールの上を走る疑似標的。それを狙うものが一人、魔宝剣を腰だめに構え、その標的に向かって撃ち出された魔砲は、それよりもはるか手前の岩塊に直撃する。

「だから無理だって言ったでしょ?」

 そう言って別の人物が一人、魔砲を放った人物よりもさらに後ろの射撃ラインで腕を伸ばした状態で魔砲剣を片手で構え、先の人が外した目標に狙いを絞り、発砲。放った魔砲は目標に吸い込まれた。

「当たりそうな気がしたんだもん」

 少しすねた声で答えたのはミソラ。射撃を外したのも当然ミソラだ。

「初心者が偏差射撃なんてのは無理。まぁ、センスの問題もあるけども」

 そう言い放ち、着弾点となる岩塊に視線を飛ばすのはアキラだ。

 なにがあったかというと、訓練を始めたまではよかったのだが、ミソラが偏差射撃をする言いだし、アキラの制止を振り切り、現在、20発目外したとこなのである。大きく空回りをして、結果として空想と現実の差にうなだれているのだ。

 ミソラへの個人レッスン一日目は座学。まったくのお門違いのところへコンバートさせたのだから、それなりの知識を叩き込まなければならない。アキラとのマンツーマンレッスンで、かなり嚙み砕いて、それこそ子供でも分かるくらいにはして教えたのだが、ミソラにはチンプンカンプン、挙句の果てに疲れか居眠りを始める始末。居眠りするたびにムッとしたミソラが見栄を張ったが、アキラの鋭い質問に答えることができず、結果、沈黙してしまう。

「ね、ねぇ‥‥‥、あたしがこのまま魔法権を使い続けて強くなれるって、本気で思ってるの?」

「そんなに心配しなくても大丈夫」

 標的の設定を変え、固定目標にする。

「僕やカナタが付いてるし、練習は裏切らない」

「あんたは当ててるじゃない」

 ミソラは素質があるのではないか、そう伝えたいのだ。

「努力もなしに当たるのは才能か計算。で、僕の場合は後者だよ」

 そういいながらミソラに標的を狙うよう指示する。

「僕も、何の計算もなしにこの武器を使ってはいないよ。最初は重さ、長さ、弾速、その他もろもろ。調べたし、実践して、計算して。そうやって魔砲剣を使ってるんだ」

 ミソラが発砲している間、独り言のように話しかける。

「けど、僕みたいな人は少ないよ。ある意味変態染みた性質だからね」

 標的を直したりしながら、話を続ける。

「普通は練習。おんなじことの繰り返し。当たること、外すことに一喜一憂しながら、射撃系の人たちは頑張るんだよ」

 初めて、アキラが自分のことを話してくれた。

 普段、アキラは己を語らない。それは自分の記憶がないから。けど、体に染み付いている癖は記憶がなくても忘れたりはしない。それはつまり、体は覚えているということ。だから、これだけは明確にアキラの持っている記憶となる。

「さて、ミソラ。これ、付けてみて」

 アキラはミソラに、照準器(サイト)を手渡した。

「なんでこんなオモチャ?「一発も当たってないのに文句言うんじゃありません」うぅっ‥‥‥」

「さ、狙いをつけて」

 そう言われ、固定目標に照準を合わせる。

「ちゃんとできるわよ?」

「そりゃできなきゃ困るよ。照準器(サイト)覗いてるんだから」

アキラはミソラのすぐ後ろに回りながら答える。

「まぁ、動く的になれば変わるんだけど。んで、そこからさらに手振れとかの補正を加えることになるから」

 あたりに、ミソラとアキラ以外に学生はいない。

「そのまま前に」

 二人は射撃ブースを乗り越え、射撃練習場の中に。

「はいストップ。もう一回照準器(サイト)、覗いてごらん」

「うーん、大きくて、全体入らなくなったわよ?」

「それでいいの。その距離が基本的な距離ね。その距離で引き金を引くようにするんだよ」

 あと、と付け加える。

「相手の背中、まぁ、後ろだね。相手の後ろをとるっていうことは覚えてほしいかな」

「こんなこと、射撃系の人たちはみんなできるんじゃないの?」

「みんなかどうかは分からないけど、できるんじゃないかな?」

「なら「でも、ミソラはできてないから。だからスタートはここから。偏差射撃とか、最初からしようとするのが間違いなんだよ」・・・偏差射撃って?」

「・・・昨日説明したでしょ?」

「だから、それに付いては誤ったでしょっ! 居眠りしててごめんなさいってっ!」

「あれは逆切れだった気がするけど、まぁいいや」

 もう一回説明するよ、と前置きを置いたうえで

「偏差射撃っていうのはね、発射から着弾までのタイムラグの間に目標がどう動くかを予測して、その予想位置を狙って射撃する事。まぁ、動いてる相手に球を当てる技法のことだよ」

 今のミソラじゃ無理だけどね。追い打ちはしっかりと。

「で、でも、あたしがそれできないと次のランキング戦、怪しいんでしょ?」

「そうなんだよねぇ」

「ひ、他人事みたいに言わないでよっ!」

「そんな不安そうな顔しない。僕とカナタで勝てる手段はしっかり用意してるからさ」

 (まぁ、ミソラの戦闘面での成長が必須なんだよねぇ。身体能力は高いのになぁ)

「でも、やっぱりミソラが偏差射撃できるってのが条件として挙がってくるから、今日から四日間、みっちり砲撃練習に当ててもらうからね」

「い、一応頑張ってるじゃないのっ!」

「知ってる。でも、魔剣術の練習、あれは当分しなくていいから、しっかり砲撃練習に当ててね。なるべくそばにいるようにはするけど、臨時的に教官の補佐だから。レクティのとこにも顔を出さないとね」

「リコはどうするんのよ?」

「彼女は・・・試合に出るよう、説得するところから、かな」

 ちょっと思案するような仕草をとった後。

「小隊の長として、仲間を気にかけるのはいいことだけど。今は君が勝利のカギを握ることになるんだ。秘策の一つぐらい覚えてもらわないとね」

 ポッと出の全然知らない、裏切者を信じる人間。信用はできない。しかし、秘策という言葉に目を輝かせて、何度も、何度もどんな内容なのか尋ねてくる。

 そんな時だった。全校放送のスピーカーから響き渡る。

『S128特務小隊(ロイヤルガード)空戦魔導士科(ガーディアン)本科二年クロエ・セヴェニー。放送が聞こえていたら直ちに空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)の執務室に来なさい。繰り返します・・・・・・』

 この放送が、のちに不幸を呼び込むことになることを、今の《ミストガン》にいる人は誰も知らない。




 いやぁ、APEXって楽しいですねぇ。おかげでサボっ・・・・・・ゲフンゲフン、筆が載らなくて。
 なかなかに期間を開けましたが15話目です。早く続きが見たいと思った方は催促コメント、よろしくお願いします。


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