ヘスティア・ファミリアに入ったのは間違っているだろうか (言寺速人)
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第1話

「さあベル君! もうすぐうちのホームが見えてくるよ! ああ、新しい家族が増えるなんてうれしいなあ!」

 

目の前で何度も嬉しそうに振り返りながら歩く可愛らしい少女、のようで実は神様だというヘスティアを見て思わず少年、ベル・クラネルは微笑む。

うれしいのはこちらも同じです、とは気恥ずかしくて言えず代わりに彼女が示した先にある建物を見て思わず感嘆をつく。

 

「わあ、教会、ですか」

「うん、元々は結構ボロボロだったんだけど僕の子たちが頑張って少しずつ直していってくれたんだよ!」

 

ヘスティアの言う通りよく見れば補修したように一部の造りが真新しくなっているのが見て取れる。

それでも教会という厳かな雰囲気が損なわれることはなく、むしろ神が住まう地を人が整えているという一種の信仰のように思えた。

立ち止まりながら教会を見上げるベルを置いて玄関まで先に歩いたヘスティアは改めてベルに手を伸ばす。

 

「ようこそ、ヘスティアファミリアへ。僕は君を歓迎するよ。新たな冒険者、ベル・クラネル君」

 

 

 

ベル・クラネルは冒険者だ。

いや、正確には冒険者志望の少年だった。

故郷より冒険者になるべく此処、迷宮都市オラリオに勇んで出向いたはいいもののまず第一歩で躓いていた。

冒険者になるためにはどこかの神のファミリアに所属しその神の眷属にならなければならない。

だが好きなファミリアに自由に入れるかと言えばそうでもない。

遊びや道楽ではない、言ってみれば一つの会社や組織に近いファミリアに入るには当然条件や審査が付きまとった。

特に後ろ盾も紹介もない、おまけに優れた技能を持つわけでもないベルは中々ファミリアに入ることができず途方に暮れていた。

 

そんなとき、一人の少女がベルに声をかけた。

 

「君、冒険者になりたいのかい? ならうちのファミリアに入らないかい?」

 

烏の濡れ羽色の黒髪を二つに分けて結び背格好に見合わないほどに胸部が発達しているその少女は所謂「ロリ巨乳」というジャンルに該当するのだがそんなことを知らぬベルにも彼女がとても可愛らしい美少女であることは分かった。

 

だがそんなものはどうでもよかった。

優しげに微笑むその顔が

導くように伸ばされたその手が

福音のように語られたその言葉が

全てがベルには祝福のように思えたのだ。

 

こうしてベルは彼女のファミリアに入ることを決めた。

道中話を聞けばヘスティアファミリアは団員4人の小規模なファミリアらしいのだが団員の腕がよいらしくそこそこ稼いでいるらしい。

楽しそうに語るその様子から随分と慕い慕われているのが伺えた。

所謂少数精鋭、というやつなんだろうか?

そんなところに自分が加わる、という喜びと少しばかりの不安を胸にベルは玄関にいるヘスティアの横にたち、そして彼女に促され扉を開ける。

 

これから始まる自分の冒険譚に胸を弾ませながら―――

 

 

 

 

 

 

「アウトォーーーー!」

「セーフッーーーー!」

「「よよいの!!」」

 

 

 

 

ベルは開いた扉を閉めた。

 

「ふうー」

 

一旦深呼吸をして落ち着く。

なんだろう今の光景は?

自分の目が確かなら厳かな教会の真ん中でむくつけき男たち4人が半裸だったり全裸だったりしながらなぜかジャンケンをしていたような?

いや、そんなはずはない。そもそも意味が分からない。なんだその光景?

隣をちらりと見やれば「あれ? 入らないの?」と小首をかしげこちらを伺う神ヘスティアの姿が。

そうだ、こんな可愛い神様がいる教会に先ほどの光景は似つかわしくない。

きっとあれは自分の緊張が生み出した目の錯覚だろう。そうに違いない。

さあ、もう一度扉を開こう。

 

今度こそ、自分の冒険譚が始まる―――

 

 

 

 

 

「しゃあああ! どうですか先輩! 後輩にパンツ奪われてすっぽんぽんにされた気分は!?」

「やるなあ伊織!」

「あと一枚でねばるなおい」

「ふっ、なら次は俺の番か」

 

 

全裸が一人増えていた。

 

「なにこれえ!」

 

思わず四つん這いになって絶叫する。

違う、こうじゃない。自分の描いていた新生活とこの光景は180度違う。

 

「あれ? どうしたのベル君? もしかしておなか痛いのかい?」

 

打ちひしがれるベルをよそに後ろから入ってきたヘスティアは筋肉質な男たちが目に入っていないのか平然としている。

 

「いや、どちらかというと頭が痛いというか、というよりアレは何ですか!?」

「え?」

 

指さした先では今度は先ほど勝ち誇っていた黒髪の青年がパンツを脱いで局部をモロに出していた。

全裸がまた一人増えた。

それをじっと見やっていたヘスティアは小首をかしげて一言。

 

「いつものことだけどアレがどうかしたのかい?」

「ファミリア入団の件なかったことにしてください!」

 

返答を聞いた瞬間ダッシュで教会を出た。

もう出会った時に抱いた感謝の念とかどこかに吹き飛んでいた。

ともかく一刻も早くこの異常な空間から逃げようとベルは走り抜けていった。

 

 

「……うーん、もしかしていざ冒険者になるってことで不安になっちゃったのかな?」

「あれ? ヘスティア様、今誰かいました?」

「うん、新しい冒険者の子を勧誘したんだけどやっぱり命を懸ける仕事だから怖くなっちゃったかな?」

 

名残惜しそうにベルが去った方向を見やるヘスティアをよそに話しかけた男とジャンケンをしていた長髪の男が顔を見合わせる。

 

「と、いうことは耕平」

「ああ北原」

「「後輩ができるチャンス!」」

 

全裸と半裸の男の目が輝いた。

 

 

一方、全力ダッシュしたものの息が続かず呼吸を整えていたベルは先ほどの混乱から回復し少し冷静になった。

 

「せっかく神様が勧誘してくれたのに悪いことしちゃったな。それに、よく考えたら冒険者の先輩達だとしたらもしかしてあそこで装備に着替えてたのかも。だとしたら別に裸になっててもおかしくなかったのかな?」

 

ベル・クラネルは基本善人である。

先ほどの光景にもちゃんと意味があったのではないか? それも知らずに逃げ出してしまった、とだんだん罪悪感が胸を占めていったときにふと、何やら後ろの方から騒がしい声が聞こえてくる。

なんだろう? と振り返ってみれば

 

 

「待てや新人―!!」

「後輩確保ーー!!」

 

 

全裸と半裸が追いかけてきた。

公共の道を。

当然のように。

局部を揺らしながら。

 

「やっぱり変なとこだったーーーー!」

 

再びダッシュで逃走を図るベルだったが彼はまだ知らない。

冒険者となり神の眷属になった者はそれだけで普通の者とは身体能力が違うと。

ステータスが向上している冒険者と素人ではどちらが勝つのか。

そんなものはここオラリオでは子供でも分かる問題だった。

 

 

「あ、おかえり」

「ただいま帰りましたヘスティア様」

「ちゃんと新人君も確保してきました」

 

教会にて椅子に座りながら足をぶらぶらさせていたヘスティアは帰宅した自分の眷属たちを迎え入れる。

眷属二人もそれを見て自然に挨拶を返す。

これだけなら特に違和感のない光景だろう。

その男二人が全裸と半裸で小脇に白髪の少年を抱えていなければ。

 

「あ、ベル君もおかえり。不安は解消された?」

「まあ気持ちはわかるぞ。俺も冒険者になるときは不安でいっぱいだったからな」

「だがその不安を乗り越えて一歩踏み出さなければ何も始まらないぞ少年」

「あの、なんで僕が悪いみたいになってるんですか?」

 

うんうん、と自己完結して頷いている男たちに対し納得がいかないとベルは問いただす。

 

「あれ? 違うのか?」

「違いますよ。教会に入ったら裸になってる皆さんを見てびっくりしたんですよ」

「……ん? 裸を見るのが珍しいのか?」

「むしろ珍しくない方がおかしいと思うんですけど」

 

先ほど追いかけてきた二人とは別のガタイのいい金髪の全裸がそれを聞いてズイ、と身を乗り出してくる。

 

「まあ聞け新人君。別に俺たちだって好き好んで裸になってるわけじゃない」

「え? 違うんですか?」

「「「「否定はしない」」」」

 

男たち全員からの変態発言に再びダッシュで逃げようとしたが今度は逃走すらできず腕をつかまれる。

 

「だから聞けって。実は昨日まで俺たちダンジョンに潜ってて今朝がた戻ってきてな」

「はあ」

「それで集めた魔石を換金しに行こうと思って誰が行くかをジャンケンで決めようという話になったんだ」

「なるほど、それで?」

「ん?」

「いえ、それでどうして裸になってたんですか?」

「何をいう。じゃんけんをする時は野球拳をして服を脱ぐに決まっているだろう?」

 

野球拳。じゃんけんに負けた方が来ている服を一枚ずつ脱いでいくちょっと嫌らしいゲーム。

昔祖父が言っていた。

女の子との野球拳は最高だ、と。

同時に言っていた。

男同士でやっても何にも面白くない。と。

気が遠くなるような感覚の中でベルは祖父のセリフを数年がかりで理解した。

 

「ああ、自己紹介が遅れたな。ヘスティア・ファミリア団長の信二・時田だ」

「副団長の竜次郎・寿だ。よろしくな新人君」

「で、俺が伊織・北原。ちなみにこいつと俺は同期な」

「耕平・今村。好きな神様はららこたん」

 

まっちょな全裸と金髪の全裸と黒髪の全裸と長髪の半裸が順に自己紹介を始めだした。

既に先ほどまでの裸云々については彼らの中で終わっているらしい。

とりあえず

 

「どうも、ベル・クラネルと言います。あの、一つお願いが」

「お、早速なんかあるのか?」

「遠慮なんかしなくていいぞ。これからは家族になるんだからな」

「それじゃあまず服を着てください」

 

話に全く集中できない。

 

 

 

 

 

 

「さて、改めてベル・クラネル。うちのファミリアに入りたいということはうちの眷属になりたいということでいいんだな」

「は、はい。そのつもりでした」

 

服を着てくれたことでやっとまともになったところで団長、時田による審議が始まる。

それに伴いベルに緊張が走る。

神様は自分を勧誘してくれた。でも他の団員は認めてくれるだろうか?

いや、正直なことを言えば本当にこのファミリアに入っていろんな意味で大丈夫なんだろうか? という不安はあるが元々自分を受け入れてくれるファミリアは他になかった。

ここが駄目なら本当に冒険者への道は潰えてしまう。

冷えてきた頭がそう警告を促し背中に嫌な汗が流れる。

そんなベルの心境を知ってか知らずか時田はガハハと朗らかに笑う。

 

「なに、別にテストだのなんのはしないさ。冒険者になりたい理由があるなら拒否なんかしないぞ」

「そうそう。それが大した理由じゃなくてもな。因みに俺と時田は酒代のためだ」

「俺は従姉妹の薦めだったな」

「俺は俺を中心としたケモ耳妹ハーレムを作るためだな」

 

何やら一人おかしい気もしたけれど総じて高尚なものではなく割と親しみを持てそうな内容だった。

それならば、とベルは冒険者を志望した理由を告げる。

 

「ダンジョンでかわいい女の子と出会うためです!」

「はい採用ー」

「おっと、この子可愛らしい顔して結構うち向きだぞ」

「ヘスティア様の見る目は確かだったな」

 

あれ? 何やら完全に仲間認定されている?

疑問符を浮かべるベルをよそに他メンバーは早速歓迎会の準備を始めだした。

何はともあれこれがベル・クラネルの冒険譚の始まり。

ヘスティアファミリア。別名変態ファミリアへの入団を果たした瞬間だった。

 



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第2話

続いちゃいました


ヘスティア・ファミリア

団員4名の小規模なファミリアだが団員全員が上級冒険者という規模に対しランクとしては上位に食い込むファミリアである。

そのようなファミリアならば入団希望者が持っといてもおかしくはないのだがその魅力を打ち消すどころかマイナスにもっていくほど彼らの評価は低い。

 

いわく

あそこは冒険者をストリッパーと勘違いしてないか?

二度とうちの店に来るんじゃねえ

一緒に行動して知り合いだと思われるのが恥ずかしい

真面目に行動すればもっと皆に認められるのに惜しいファミリア

あそこにだけは関わりたくない。絶対に関わりたくない。特に時田と寿には絶対に関わりたくない

【ピー】ね

 

と、少し聞いて回るだけでここまで評判が悪い。

かといって別に悪行を働いているわけでもないのでペナルティを受けてはいない。

そういう意味もあってオラリオではある意味一番有名なファミリアは長らく4人で活動していたのだがその日、新たな団員が加わったことはまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

早朝、ベル・クラネルは不快感を覚えながら目を覚ました。

嫌に胸の奥がむかむかするし頭の中では鐘が鳴り響いている。

 

身に覚えのない症状に風邪だろうか?と思いつつそういえば自分はいつの間に寝たんだろう、と疑問を抱き、ふと、周りを見渡す。

全裸がいた。

正確には全裸と全裸と少女と全裸と全裸が同じベッドで寝ていた。

 

「うおわああああああああ!」

 

はっきり言ってものすごく目に毒な光景に思わず悲鳴を上げる。

かなりの声量だったがそれで起き上がったのは全裸達の中に埋まるようにして寝ていた少女だけだった。

ううん、と目をこすりながら体を起こし軽く欠伸をしつつ両腕を真上に伸ばす。

その際に平均を軽く上回る胸部が強調されるという思春期の男の子なら前かがみ待ったなしの光景だったが周囲の全裸で台無しだった。

ようやく眠気が覚めたのか少女、ヘスティアはあんぐりとしてるベルが自分の方を見ていると気づきにっこりと笑う。

 

「あ、おはよベル君。調子はどうだい? お酒は初めてだったみたいだけど二日酔いになってないかな?」

「いやあのなんでそんな平然としてるんですか?」

「え? なにがだい?」

「いえ、あの、その周りの人たちですけど」

「んん? ああ全く駄目じゃないか君たち。新人のベル君が先に起きて先輩の君たちがそれじゃ立つ瀬がないよ」

 

ほらほら起きた、と全裸であることや一緒に寝ていたことなど歯牙にもかけず男たちをペチペチと叩いたり揺り動かして起こそうとするヘスティア。

ベルはそんな少女が自分が所属することになったファミリアの主神なのだと今更再認識し先ほどまでとは別の意味で頭が痛くなった。

 

ベル・クラネルがヘスティア・ファミリアを訪れた翌日、つまりは今日だがどうもここのファミリアの面子は全員この教会で寝泊まりをしているらしい。

昨日の歓迎会の記憶がベルは完全に飛んでいるのだが、どうやら相当飲んだらしく酔いつぶれそのまま他の団員とお泊りとなったそうだ。

そしておそらくそれ以上に飲んでいるであろう先輩たちは平然としていた。これが冒険者のなせる業なのだろうか? ベルはちっとも尊敬できなかった。

 

「よおし、昨日は歓迎会の酒宴で酔いつぶれて終わってしまったが改めてベル、これから冒険者となるお前にまずは指導をしていこうと思う」

 

数刻後、朝食を全員で食べ終えた後、ヘスティアを除いた団員たちが就寝に使っていた教会の地下から1階の礼拝堂に上がると団長の時田が先ほどまでの痴態とは打って変わって真面目な顔をしていた。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

だらけていた空気がピンと張り詰めたような気がして身を正す。

そうだ、僕はいよいよ冒険者になったんだ。これから僕は祖父が言っていた冒険譚の英雄のようになってそして可愛い女の子達と仲良くなるんだ!

意気込んでいるベルを見て団長時田は鷹揚にうなづいた。

 

「うむ、ではまず服を脱げ」

「いきなり何言ってるんですか?」

 

冒険者としての指導を行うと言われた直後に脱衣を命じられる。

意味が分からない。

 

「なんだベル? まさか意味もなく服を脱がせようとしてるとでも思っているのか?」

「昨日の今日でよくそんな台詞言えますね」

「なんか段々ベルの遠慮がなくなってきたな」

「ファミリアに馴染んできたということでは?」

「いいことだな」

 

時田に対しての突っ込みを聞いた他団員の寿、伊織、耕平が何か言っているが意図的に無視する。

 

「まあ真面目な話だ。ベル、冒険者になるために一番大事なのは冒険者登録することでもどこかのファミリアに入ることでもない。神の『恩恵』を受けることだ」

「『恩恵』、ですか?」

 

どうやら本当に真面目な話らしく時田の話に耳を傾ける。

 

いわく、大量の魔物が跋扈するダンジョンへ生身の人間が潜るのは自殺行為。

だがそれを可能にするのが『神の恩恵』つまり【ステイタス】だ。

神達の使う神聖文字を神血を媒介に刻印することで対象の力を引き上げる。

さらに【経験値】という文字通りの経験、例えば魔物を倒した、修行した、などの軌跡を成長の糧として能力を向上させていく。

そうすることでさらに強くなり、より強い魔物とも戦えるようになっていくのだ。

レベルの高い冒険者によっては身の丈を大きく超す巨人であっても身一つで倒すことが可能だという。

 

話を聞いているうちにベルは自分の身が震えるのを抑えられなかった。

恐怖からではない。これは歓喜、所謂武者震いだ。

 

祖父から聴いていた冒険譚の英雄。一国の姫をさらった邪竜を剣をもって退治する英雄のような御伽話が現実になる。

これこそがベルが求めていた英雄、冒険者だ!

 

「わかりました! じゃあ僕脱ぎます!」

 

そう言って元気よく来ていた服を脱ぎ始める。

インナー、レギンズ、下着、靴下。

多少恥ずかしさはあったものの『恩恵』を受けるためならこのくらいなんだ!

そうしてついには生まれたままのベル・クラネルになった時に地下からヘスティアがひょっこりと顔を出す。

 

「おーい、『恩恵』の準備できたよー、ってあれ? なんでベル君裸になってるんだい?」

「ちょっとお!?」

 

ベルは激怒した。

さんざん真面目に話していたと思ったら脱ぐ必要がないとはこれ如何に。

眦を上げるベルに対しぽりぽりと時田は頬を掻きつつ

 

「いや服を脱げとは言ったが上だけでよかったんだが」

「てっきり露出狂の気があるのかと驚いだぞ」

「勘違いしたのは確かですけど少なくともあなた方には言われたくないです」

 

確かによくよく考えれば全裸になった彼らの背中にしか刻印は見えなかったのだから上だけ裸になればいいと推察は出来たのだがここでベルを責めるのは酷だろう。

なにせベルの記憶の中で彼らが服を着ていた時間と全裸であった時間の割合は圧倒的に後者が上なのだから。

 

顔を真っ赤にしながら急いで下を履きヘスティアのいる地下へと降りる。

ヘスティアの方は気にしてないのか「はい、じゃあここに横になって」とベッドを指し示す始末だ。

 

何とも言えない気持ちになりながらうつぶせになった背中に指から血を流したヘスティアがゆっくりとなぞるように文字を刻む。

少々こそばゆい感触だったが無事『恩恵』を受けることができたらしくヘスティアが共通語に書き換えた【ステイタス】を用紙に映してくれた。

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

 

力 :I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

【】

 

「これ、どういう意味だろ?」

 

1階にあがりつつ【ステイタス】の内容を吟味していると待っていた先輩たちが詳細を説明してくれた。

 

 

「まずは基本アビリティからだな。下に5項目書かれているのが基本アビリティと言って内訳は読んで字の通りだ。横の記号がその強さを示していて一番下がIで一番上がSの十項目」

「その横の数値が熟練度で0から999まで。熟練度が上昇するほど評価も高くなるけどその分上げるのが難しくなる」

「Lvというのはおおまかなランクの段階だと思ってくれ。わかりやすく言うとこのレベルが一個上がるだけでめちゃくちゃ強くなる。ただしこちらは簡単には上がらない。劇的な心身の進化、試練を乗り越えることで上がったりする」

「《魔法》というのはある意味『恩恵』の最大の魅力だな。特定の種族にしかできなかった魔法がだれにでも使えるようになったわけだ」

「もっとも、実際に発現するかは当人次第。知識にかかわる【経験値】を積むことで反映されるから欲しかったら本とかを読むといい。因みに最低で1つ。最高で3つだ」

「《スキル》は【ステイタス】の数値とは別の特殊効果や作用を肉体にもたらす能力だな。これも経験などから発現する」

「つまり僕の【ステイタス】は最低も最低ということですか」

 

分かってはいたことだが少しへこむ。

そりゃあ自分が他者より優れているだなんてうぬぼれてはいないが少しぐらい夢を見ていたのは事実だ。

特に《魔法》や《スキル》という分かりやすい特異能力を示されてはなおさらだ。

ため息をついたベルだったがそれを見て他の団員たちは声を上げて笑いだした。

 

「安心しろベル。最初は皆そんなもんだ」

「むしろ最初から《魔法》や《スキル》を持っている奴なんてめったにいないぞ?」

「え? そうなんですか?」

 

てっきり屈強な体であるため最初から強いのだろうと思い込んでいた時田や寿のセリフに思わず目を見開く。

さらにベルの頭をくしゃくしゃと撫でた伊織が励ましの言葉を告げる。

 

「俺や耕平なんか全然冒険者に向いてないって言われてたけど今じゃこうして上級冒険者になってるんだ。ベルだってすぐに強くなるさ」

「あ、はい! 頑張ります!」

 

ニッと笑う伊織を見てベルも微笑む。

ここの人たちは常識をどこか捨てているけれど人柄は温かい。

自分もこのファミリアで頑張っていけばこの人たちみたいに強い冒険者になれるのだろうか?

いや、なれるかじゃない、なるんだ!

そう意気込んでいたベルを見てさらに寿が驚きの事実を告げてくれた。

 

「ついでに言うとなベル。うちのファミリアは実は全員Lv.1の時点でスキルを発言出来ているんだ。しかも全員が同じスキル、さらに言えば他のファミリアにはない内だけのオリジナルだ」

「本当ですか!? それってすごいことじゃ!?」

「ああ、俺たちもこのスキルのおかげで助かっている」

「それって僕でも会得できますか?」

「勿論、俺たちと行動を共にしていればすぐにな」

「わあ、楽しみです! ところでどんなスキルなんですか?」

「ああ、これだ」

 

そういって差し出された用紙には彼の【ステイタス】が載っていた。

 

ベルははやる気持ちを抑えながら項目の一番下のスキルを見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【酒池肉林】

・酒に対する耐性急上昇

・服を脱ぐことに対する羞恥心減少

 

【紳士迷彩】

・全裸の時ステイタス急上昇

・全裸の時ステイタス大補正

・たいせつなものはめにみえない

 

 

 

ベルは絶対このスキルだけは身に着けまいと誓った。

 

 

 

 

 

 

 




【紳士迷彩】の読みはたぶんゴッドモザイク


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