FGO短編 (bobbob)
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北風(暴君)と太陽(ローマ)

思いついた短編。




 止められるはずもないと少年は思った。

目の前の光景はもはや常人が割って入れる場所ではなかった。

傍らの少女、マシュも呆然としていた。

 

 彼の眼前の荒涼とした大地には二人の男が離れて向かい合い立っていた。

1人は金色の鎧をまとう者。

1人は真紅のマントをはおり立っている。

 

 それだけならば問題はない、ただ声を掛ければいいだけの話だ。

だがそれは無謀に等しい。

金色の男の背後が歪む。

歪んだ空間から無数の何かが発射される。

 

それは名剣だ。

 

名槍だ。

 

棍棒だ。

 

魔斧だ。

 

 人が想像し、想像しうるありとあらゆる武具が凄まじい速さでマントの男に襲いかかる。

次の瞬間にも男はマントごと赤いひき肉にされる筈だ。

 しかしそれは起こらなかった。

突如として地が裂け城壁がせり上がり、槍を受け止め、もしくは弾き返した。

更にそこから無数の大樹が生え、金色の男が射出した武具を圧倒的な質量で飲み込みながら金色の男へ迫る。

が、その大樹も金色の男の圧倒的な物量を前にしては押し潰せず、二人の中間地点で拮抗していた。

 艦隊の一斉砲撃すらかくやと言う圧倒的な数の暴力と、同じく膨大なまでの質量の暴力がそこでぶつかっていた。

ぶつかり合うたびに凄まじい衝撃波と瓦礫が発生しては消されていく。

その凄まじい余波は離れた二人にも容赦なく降りかかる。

けがをする程ではないが、バランスを崩しそうになったり、吹き飛びそうになったりするほどだ。

 

「どうしてこうなったんだろうね、マシュ」

 

少年は踏ん張りながら、傍らの少女に話しかけた。

 

「……分かりません」

 

マシュと呼ばれた少女は首を振った。

 

 

 かの魔術王ソロモンにより世界の理は絶たれ、人類の未来は焼却された。

しかし唯一、誤算があった。

国連に属する魔術機関カルデアだ。

たまたま紛れ込んだ一般応募の少年が、そこで働いていた心優しき少女マシュ・キリエライトと共に理を修復するなど誰が想像しただろう。

 少年はマスターとして、過去英霊と呼ばれる偉人や人物をサーヴァントとして召喚し、ある事故から英霊と融合したマシュと共に人類史の焼却に抗ったのだ。

 

 幾つかの事件を解決した後、彼がカルデアにて休んでいた。

その時にマシュがマスターの部屋にやってきて告げた。

 

「ギルガメッシュとロムルスがいなくなった?」

 

少年はマシュに問いかける。

 

「ええドクターによると、どうもアメリカ大陸にいるようです」

 

ラフな格好をしたマシュが告げる。

 

 ギルガメッシュ、人類史における最古にして最大の英雄であり、自らを英雄王と称するはたから見れば傲岸不遜を地でいく金色の王である、しかしながら少年から見れば、深い英知も持ち合わせており、ただ傲慢なだけの王ではないことを知っている。

 

 ロムルス、人類において大きな影響を生み出し続けたローマ帝国、そのローマの始まりを築いた建国の王である。人類、世界すべてがローマであるという独自の哲学を持っており、いついかなる時も少年たちを見守る父のような王である。

 

 少年は首を傾げた、そもそも彼らに接点など無いはずだ。

例えばではあるがロムルスと同じローマの英霊である天才的な頭脳を持つ剣の英霊、シーザーことガイウス・ユリウス・カエサルであれば、時代が違ってもファラオと呼ばれるニトクリスやラムセス二世ことオジマンディアスと接点がある。

 ローマ帝国とエジプトが彼の死後アクティウムの海戦をやらかしているのは別として、彼自身は深くエジプト出身のクレオパトラを愛していたため、その縁でいくらかの関わりがあってもおかしくはない。

しかしながら、ロムルスとギルガメッシュにはそれがない。

 

同郷でもない。

同時代を生きたわけでもない。

関わりがないのだ。

 

「悩んでもいても仕方がないか」

 

マスターはそう呟くと部屋の椅子から立ち上がり、マシュと共にアメリカ大陸に飛ぶことにした。

 

そして冒頭に戻る

 

 

 

 もはやそこがなだらかな大地であったことは誰も信じないだろう。

巨大な隕石でも降ったのかと言えるほどに彼らの周りは破壊しつくされていた。

いや、現在進行形で破壊が進んでいる。

 辞めるように声を届かせたくても爆音が鳴り響き二人には届かないだろう。

ではサーヴァントのマスターである少年が持つ3回までの絶対命令権、どんなサーヴァントでも命令を聞かせることが出来る令呪なら戦いを止められるだろうか?

 

答えは否である。

 

 通常のサーヴァントなら問題ないが、この二人に限っては不可能である。

まずギルガメッシュだが、彼が使っている宝具……サーヴァントとしての武器は、ありとあらゆる財宝、及びその原点が収納されている蔵である。

一部の例外を除いて彼の蔵はサーヴァントが扱う武具、つまり人類が生み出した道具全て(正確には原点)が収納されている。

その蔵の中には当然令呪も収納されているし、その命令を無視できるような効果を持った宝具も大量に存在しているからだ。

 

 ロムルスの場合は、皇帝特権EXというスキルが問題である。

これはありとあらゆるスキルを一定時間習得し、行使できるという破格のスキルである。

その扱えるスキルのランクは特権スキルの評価によって左右される。

つまり評価規格外のEXもちのロムルスはありとあらゆるスキルを一定時間、超高精度で扱うことが可能なため、その特権を用いて、令呪を弾ける対魔力スキルを習得すればいいのだから。

 

 少年は頭を抱えながら相棒であるマシュに目を向ける。

その意図をマシュは正確に理解し、首を振った。

「私の宝具でも難しいかと……」

マシュの宝具「いまは遥か理想の城」(ロード・キャメロット)は巨大な城を顕現させ、味方に守護と加護を与えるものだ。

 確かに二人のど真ん中に顕現させ、大樹と宝具の砲撃を遮断することでの戦闘の中断は一時的には可能ではある。

しかし、そこで二人が宝具の真の力を解放した場合とんでもないことになる。

 

 ギルガメッシュの奥の手は自ら持つ世界を切り開いた剣、エアの魔力を伴った一撃「天地乖離す開闢の星」(エヌマ・エリシュ)である。

これの前にはあらゆる防御は意味をなさず、空間ごと断絶しながら相手を消滅させる技だ、マシュの作り出した城でもひとたまりもない。

 

ならロムルスの宝具はどうだろうか?

 

 これもまたキツイ、ロムルスの宝具、「すべては我が槍に通ずる」(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)は大樹が過去・現在・未来のローマを形作り、押し流し、飲み込み、潰す巨大質量兵器ローマである。

オジマンディアスより前のファラオであるクフ王のピラミッドは600~700万トンと言われているが、それと同格、もしくは上回るレベルの巨大質量が直撃するのである。

流石の城も砕けかねないだろう。

どちらか片方なら令呪による支援で耐えれるかもしれないが、二つは無理である。

 

マシュもマスターたる少年も頭を抱えた時声が聞こえた。

 

「我は貴様が気に入らぬ、建国王よ」

 

 ギルガメッシュが真剣な声音で言葉を発した。

見下のでも、憐れむのでもない、かといって嫌悪感で言ったのでもない。

普段のギルガメッシュからはあまり想像がつかない声だった。

 

「私(ローマ)もお前が気に入らぬ、原初の英雄王」

 

ロムルスもまたその声に答えるかのように言った。

 

「……であろうな建国王、そなたから見れば我もまたローマと言う世迷いごとをいうのであろうが」

 

 ギルガメッシュは真っ直ぐロムルスを見ながら言った、それはまさしく目の前の男、ロムルスを自らに並びうる存在として認識しているからだろう。

 

「そなたもまたローマだ、だが英雄王、その振る舞いを私は受け入れられない」

 

ロムルスも淡々としながら言葉を返す。

 

 

「どういうことなんでしょう?」

 

マシュは首を傾げた、二人が争っているには似つかわしくない声で会話をしているのがどうも引っかかる(その間も大樹や城壁と無数の武具が激突しているが)。

 

「………………」

 

 マスターである少年は考え込む、彼は、ロムルスとギルガメッシュが相容れない訳が言葉には出来ないがなんとなく分かった。

恐らく、二人の考え方が根本から相容れないのだろう。

ではその相容れないものはなんなのか?

彼にはそれが分からなかった。

 

「どうやら、なんとなく分かっているが答えが出てこんようだな」

 

 突如二人の後ろから声がした。

マシュが武器である盾を構えながら少年をかばおうと前に出て、そして気が付いた。

 

「イスカンダルさん!!」

 

 征服王イスカンダル、またの名をアレキサンダー大王。

蒼き狼と言われたチンギスハンに次ぐ面積を征服した偉大な王。

多くの英雄を従え、覇道を行った王であり、ライダーのクラスで召喚されたサーヴァントである。

 

「どうしてここに、ライダーには分かるの?」

 

少年はイスカンダルに問いかける。

あの争いはなんなのか、二人は何故相容れないのか。

その意味を込めて少年は尋ねた。

 

「ふむ、ここに来たのは王としての勘よ、マスターたちも来ておると踏んでな」

 

イスカンダルはどうやら二人がぶつかるのを予期してここに現れたらしい。

更にそのまま言葉を続けた。

 

「あれはいわば問答のようなものだ、時が過ぎればやがて終わる」

 

イスカンダルはどっかと腰を地面に下し、二人にも座るように促した。

 

「問答、あの戦いが問答ですか?」

 

マシュは首を傾げながら言った。

 

「その通りよ、あの二人は似ているようで相容れぬ」

 

イスカンダルはそういって少年たちを見ながら続けた。

 

「ギルガメッシュ、英雄王はな、裁定者のようなものよ」

 

「……裁定者ですか?」

 

マシュがイスカンダルに聞き返した。

 

「うむ、英雄王は余たちとは違う目線で物事をみておるのよ、人の弱さも醜さも強さも美しさも理解しながらな」

少年は依然ギルガメッシュとの会話の事を思い出していた。

 

『人に価値はない、作るものには価値がある』

 

そのようなことをギルガメッシュは言っていた。

 

「だからこそ、英雄王は人をためすのよ、自分の出す強烈な試練を乗り超えて驚かせて見せよとな」

 

 人が作り出すものは価値がある、けれどそれを生み出す人間は価値がない。

だからこそギルガメッシュは試練を与えるのだ。

それを乗り越えた時初めて人間は価値があると言えるから。

逆を言えば乗り越えられないものは価値がない凡百の物と言うことになるのだろう。

所謂ツンデレ?というやつだろうか、ただし失敗すればその時点で切り捨てられる強烈なものだが。

 自らをルールとし、そのルールの枠組みで人を見て、試練を与える。

他人とは一切違う視点から、立場から人に接する。

まさしく裁定者というにふさわしいだろう。

 

 

「だが、ロムルスは違う」

 

イスカンダルは面白そうに言う。

 

「ロムルスも、人の長所も欠点も理解しておる、理解して全てを受け入れて愛しているのさ」

 

 ロムルスにとって世界も人もすべてがローマだという。

全てを受け入れて愛しているということは、全てを認めている、価値があると肯定しているということに他ならない。

だからロムルスは人を成長させる試練は与えても試すことはしない。

その試練を超えても、超えられなくても彼には愛すべきローマたる人に変わりないのだから。

自らもローマであり、世界も他者もローマである以上ロムルスは人と共に歩み、見守り続けるのだろう。

 

裁定者たる英雄王は一介の人間とは隔絶した視点を持つ。

誰も英雄王の真意を理解することも出来なければ、共に歩むことも難しい。

嘗ていたと言う友を除いて、ギルガメッシュは一人にしか成れない、ならざるを得ない。

裁定者としてあり続けなくてはいけない。

それは「個」としての究極の1の形。

 

ロムルスのローマ、愛は受け継がれていく。

誰かの愛に触れ、薫陶し、自らの愛とローマを作り出していく。

カエサルも、カリギュラも、ネロも自らの愛とローマを生み出し引き継がせている。

その大元に真紅の神祖、偉大なる建国王としてロムルスはある。

それは「集団」としての究極の1の形。

 

 

「英雄王が、試練を乗り越えられなかった人間や堕落した人間を価値がないと断じても、建国王はそれを認めない、人間は、愛はあるだけでも尊く価値があるものだと」

 

イスカンダルは遠くを見つめるように続けた。

 

「どちらもその根底には人間賛歌があるんだろうが、過程がまるで違う以上あの二人は相容れまいよ」

 

マシュはぽつりとつぶやいた。

 

「北風と太陽の話みたいですね」

 

 確かにそうかもしれない、試練を与える北風のギルガメッシュとあるがままを受け入れる太陽のロムルス。

これでは確かにお互いが気に入らないだろう。

 

「…………じゃあ、問答のような物って?」

 

 少年はイスカンダルに問いかけた。

2人が相容れない理由は分かった。

では何故戦闘しているのだ?

 

「そりゃ、お前さんよくあるだろう?ホレ、日暮れの原っぱで自分たちが納得するまで殴り合うみたいな奴が」

 

「そんな青春ドラマ的な理由なの!?」

 

確かにお互い奥の手も使用していない、カルデアに負担がかからないのは2人が高ランクの単独行動スキルを使って戦闘しているからだろう。

 

「それならまぁ、いいんじゃないでしょうか」

 

マシュが気の抜けた表情で言う。

イスカンダルの言が正しければ、このまま待てばいずれ二人とも戦闘を辞めるだろう。

だが問題は……

 

「おぉ!!実に見ごたえがある。マスターもマシュも座って眺めたらどうだ、何分まだ当分終わらんぞ?」

 

エミヤからくすねてきたのだ、と言いながらイスカンダルは酒と肉、飲み物をマントに隠された背中から引っ張り出した。

無言でマシュと少年はジュースを受け取りながら思う。

 

((で、2人はいつ戦いを辞めるんだろう……))

 

 問答の理由も相容れない理由も分かった、しかしいつ終わるかが分からない。

となりでイスカンダルは良いものだと言いながら眺めているが、下手したらイスカンダルも余も混ぜてくれと乱入しかねない。

そうなれば最後、数万の軍勢と神牛の戦車が投げやりと雷を落とし蹂躙し、大樹が砂漠を片っ端から破壊し、宝具の雨がすべてを薙ぎ払う最悪の結果になりかねない。

 

 つまりマシュと少年はイスカンダルが乱入しないように見張りながらじーーーっと待つしかないのだ。

イスカンダルの後ろにいても襲ってくる強烈な余波に耐えながらだ。

 

((帰りたい……))

 

 結局日が暮れるまで二人はぶつかり、勝手にカルデアに帰っていった。

それからは、特に二人とも問答と言う名の対決はしていない。

けれどネロがロムルスとギルガメッシュが何も言わずに酒を飲んでいる姿をたびたび見ると教えてくれた。

たぶん二人は分かりあった訳ではないのだろう。

けれどロムルスにとってギルガメッシュももちろんローマであるし、ギルガメッシュにしてもロムルスを自身が認めるに値する英雄であると判断したのだろう。

 

北風と太陽。

 

 二人は正反対な英雄だけど、心の底では同じく人間賛歌を謳っている。

次に行くであろう特異点は人間否定の魔の神代。

そこでも彼らは曲がらずに、折れずに進み続けるだろう。

 

 

 

 

人間には価値があるのだから。

 




この二人はめっちゃくちゃ相性悪いと思います。
まぁどっちも破格の大英雄なんですが。

今何となく考えているもの。

1 オジマンディアスのライバルさんのムワタリさん。
  絶対化け物、原初の核兵器とか持ってるよ絶対。

2 星の開拓者になり損ねた人
 「ドレイクより早く世界一周したのに……」

3 エジソン、ブラヴァッキー某国民的アニメネタ
 「いつだって忘れないわよ、だってあなたは偉い人だもの」


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