ワンサマー・イン・スリープ・シグマ (シグマファン)
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倉庫に蠢く蟻(前編)

 これはインフィニットストラトスと仮面ライダーアマゾンズのクロスオーバー作品です。


 深夜一時、ここは東京のとある場所にある廃れた倉庫。そこは数年前に人々から見捨てられ、今現在までの数年間、人々から忘れ去られる形でそのままにされていた。

 倉庫内には、この倉庫の持ち主が置いていったであろう鉄パイプや鉄の板等が無造作に投げ捨てられ、中には埃を被った布やブルーシート等に覆い隠される様に被られている鉄の板が重なるように置かれているのを見受けられる。

 辺りには空気の入れ換えが悪いのか、カビ臭い臭いと倉庫内にある金属独特の臭いと混ざりあっており、どんな臭いになっているのかは判らない。

 強いて言うなら、汚いと言うよりも悪影響かつあまり嗅ぎたくもなく、吐き気を催す。それだけではなく、天井には蜘蛛の巣が幾つも見受けられる

 しかし、ここは廃れた倉庫なのか、巷では心霊スポットと囁かれ、ネットでも話題になっている。否ーーそれは噂に過ぎないのと、それが人々が寄り付かない理由にもなっていた。

 逆に言えば、この廃れた倉庫は倉庫自体の持ち主に見放され、噂により恐れられる存在にしか過ぎない。言わば廃れた倉庫自体が被害者であるのと、それを気にとめる者達はいないのも事実。

 この廃れた倉庫は永遠に心霊スポットとして有名になるのか、それともそのまま誰にも必要とされないまま、自然に崩れ落ちるのを待つだけなのかは、誰にも判らない。

 

「シヤアァァァ…………ッ」

 

 しかし、倉庫には人の気配がない訳ではなかった。倉庫には人ではない何かがいた。それは異様な姿であり、二本の触角や紫色の瞳、硬質の表皮が特徴的な蟻の化け物。

 蟻の化け物は人目に付かないようにこの倉庫に隠れ住んでいた。人前に姿を晒せば何かをされるのも目に見えていた。それは一匹だけであるが近くには男性の死体が転がっていた。

 男性は既に事切れているが内蔵等の臓器等があまり見受けられない。何故なら、その臓器は蟻の化け物に喰い千切られているからであった。

 蟻の化け物はそれを美味しそうに貪っている。が、骨を噛み砕く音や人肉を喰いちぎる音が辺りに微かに木霊していた。それだけでなく、血の海も出来ており、倉庫内に恐怖を与え、この倉庫に入ったら生きて帰れない事をも意味している。

 そして、蟻の化け物は男性の死体を喰っているが誰も、蟻の化け物の邪魔をする者は居ないーーこの倉庫が原因だろうがそれも蟻の化け物から見れば都合のいい場所にしかなかった。

 蟻の化け物は此処で一生を過ごすつもりなのだろうかーー嫌、それは儚い夢に終わった。刹那、蟻の化け物は両手に持ってる肉片を食べるのを止め、顔を上げ、とある方角を見る。

 そこは窓だった。窓は、この倉庫自体長年放置されているのか酷く汚れていて、窓の外の景色はよく見えない。が、蟻の化け物は何かに反応していた。

 

「シャァァ……!」

 

 蟻の化け物は肉片を落とすと、立ち上がり、窓の方へと歩み寄る。昆虫独特の危惧か、この住処を脅かす存在なのかと警戒していた。

 後者の方が強いだろうが蟻の化け物は窓の前に立つと、顔を窓の方へと近付ける。気配は感じるーー蟻の化け物は威嚇する。

 蟻の化け物は、この倉庫に忍び込んでくるであろう侵入者を許さなかった。蟻特有の縄張り意識を駆り立てていた。

 

 

 蟻の化け物は、この事態に落ち着きながらも、倉庫の外にいる何者かに警戒し続けていた。

 

 一方、倉庫の外では一台のバイクが停まっており、近くには二人の二十歳にも満たない十代後半の青年達がいた。片方はさっぱりとした黒い髪に黒い瞳、童顔が特徴的な青年。もう片方は年下でありながらも大人びており、さっぱりとした黒い髪に黒い瞳が特徴的かつ、左目の方には眼帯を着けている。

 服は上下が焦げ茶色かつ軍服に良く似ている。が、青年達は軍服を身に纏っているだけではない。童顔が特徴的な青年は兎も角、年下の青年は腰に、とあるベルトを巻いている。そのベルトは全身が黒く、中央には何かの生き物の顔を模しており、紫色の瞳にその下には、左右には白銀色のグリップがあった。

 しかし、二人の青年は何故、こんな夜遅くまで起きているのだろうか。警官に見付かれば職務質問されるだろう。それに、この二人は倉庫に用があるが生憎、彼等はサバイバルゲームをしに来た訳ではない。

 何故なら、この二人の目的は倉庫の中にいる蟻の化け物を駆逐しに来たからである……。

 

「倉庫にはアマゾンが一体だけだね、一夏」

 

 童顔の青年は隣にいる、年下の青年に訊くと、年下の青年、一夏は無言で倉庫を睨みながら頷いたーー左手を腰に着けているベルトにあるグリップへと当てていた。

 そして、このベルトは一夏青年にとって、多くの障害を生み出すと共に、一夏青年が成長する為に必要な存在。

 そして今宵、倉庫内に血の雨が降り注ぐ。それは惨劇か、或いは悲劇なのかは、一夏や童顔の青年には知る由もなかった。知るとすれば、片方は普通の人間、もう片方は人間の姿をした化け物であり、それを知ってるのは一部の人間だけであった……。



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倉庫に蠢く蟻(中編)

「「…………」」

 

 一夏と童顔の青年は今、目の前にある廃れた倉庫の前で無言のまま待機していた。二人は単に倉庫を眺めている訳ではないーー二人は倉庫の中にいる蟻の化け物を駆逐する為に、自分達が所属かつ家族と言える存在のチームの面々を待っていた。

 彼等と一緒なら、どんな困難にも立ち向かい、彼等との絆に亀裂を入れる訳にもいかないのと、チームの輪を乱す訳にもいかないからである。しかし、童顔の青年が待機し続けている事に疲れたのか思わず、一夏に訊ねる。

 

「皆遅いね一夏……何か遭ったのかな?」

 

 童顔の青年は心配の表情で言葉を述べると、一夏は童顔の青年を見て首を傾げる。

 

「それは俺にも判らないよマモル兄ちゃん、だけど義父さんや竜介さん達の事だから、少し遅れているんじゃない?」

「そうかな? でも、心配だな……」

 

 童顔の青年はーーマモルは今も心配の表情を浮かべながら言葉を続け、一夏は再び倉庫を睨む。片方は心配、もう片方は冷静だった。マモルは仲間達が来ない事に不安を隠せない一方で、一夏は冷静を保ちながらも倉庫内にいる蟻の化け物が何をしているのかを警戒していた。

 化け物は何をしているのか、化け物は人を喰ってる最中か、それとも逃げたのか、一夏は色んな事を考えていた。一夏はマモルとは違い、警戒を緩めていない。

 何が彼を駆り立てているか判らないが彼が化け物に強い憎しみを抱いている事は確かである。その証拠に、彼の右目は廃れた倉庫を捉えている。

 

 刹那、一夏の穿いてるズボンから音が漏れるように聴こえ、一夏は自身の、近くにいたマモルは一夏のズボンを見やる。音だけではないーー振動もする。一夏はズボンに手を入れると、すぐに取り出すーーある物も掴んでいた。

 一夏はある物を見るーー小型の無線機だった。一夏は無言で無線機のボタンを押す。

 

『此方は志藤ーー、一夏、マモル』

「義父さん!!」

「志藤さん!」

 

 無線機から男の渋い声が聴こえ、一夏は無言で見据え、マモルは表情を晴らす。二人の表情は正反対だった。

 一夏は驚きはしなかったものの、マモルはさっきまでの不安が嘘のように、子供のように明るくなっていた。勿論、そんなのは志藤には関係なく、志藤は無線機から二人の居場所を訊く。

 因みに彼等は今、車で移動しており、無線機の向こうからは僅かだが車の走る音やクーラーの音が微かに聴こえる。それに二人が倉庫の外で待機していたのも彼等を待ってるのと、自分達は先にバイクで、この倉庫の外まで来たのである。

 

『お前達、今何処にいる?』

「倉庫の前ですーーそれに……」

「三崎くんや前原くんも一緒にいるの!?」

 

 一夏が言い終わる前に、マモルが子供の様に横槍を入れてくる。

 

「ま、マモル兄ちゃん?」

 

 マモルの行動に一夏は戸惑うも、マモルは無線機の向こう側にいる志藤に訊ねていた。

 

『おいおいマモル? 今は一夏に訊いてんだ? 何故邪魔をする?』

「それは別に良いでしょ!? 三崎くんやフクさんは一緒にいないの!?」

『いるよマモちゃ〜〜ん』

 

 無線機の向こう側から、中年男性の声がし、それを聴いたマモルは目を見開き直ぐに喜ぶ。

 

「三崎くん、三崎くんなの!?」

『そうだよマモちゃ〜〜ん、三崎くんだよ〜〜マモちゃん、寂しかったのかな?』

「寂しいよ!! それよりもどうして来ないの!? 倉庫にいるかも知れないアマゾンが逃げちゃうじゃん!」

『悪い悪い、実は此方は其方に着くのに少し掛かるみたいーー仕方ないけど、マモちゃんと一夏の二人で駆逐し』

「嫌だ!! 僕はチームの皆と戦う方が良い!!」

 三崎の言葉を否定するかのようにマモルは叫び、間近にいた一夏はたじろぐがマモルはその訳を話す。

 

「僕はチームの皆と戦う方が良い! チームの皆となら困難を乗り越える事も出来るから!」

 

 マモルは自分の気持ちを三崎や志藤に言う。マモルは皆と戦う方が好きだった。マモルは一夏よりも年上だが精神年齢は一夏よりも下であり、小学生のように無邪気な性格である。

 しかし、彼にとって三崎や志藤、近くにいる一夏はチームであり家族でもあるからだ。それに彼は何故、一夏と一緒にいるのかは、マモル自身、好奇心に駆られたのか、一夏が乗ってるバイクに乗りたいと言い出したからである。

 二人の近くにあるバイクは一夏の物であり、一夏は免許も取得している為、問題はなかった。マモルから見れば一夏がバイクに跨がって、バイクを走らせる姿はかっこよかったのかもしれない。

 だが今は、マモルは我が儘を言ってる事に変わりはない。すると、無線機から声が変わる。

 

『マモル、お前の気持ちは解る、だがな俺は今、お前ではなく一夏に話があるんだ』

「一夏君に?」

『ああ、一夏に代わってくれないか?』

「あっ、うん……一夏君」

 

 マモルは一夏を見ると、一夏は無言で頷き、一夏は無線機の向こうにいる志藤に訊ねる。

 

「何かな義父さん?」

『一夏ーーお前には悪いが、倉庫にいるアマゾンはお前一人で倒せ』

「ええっ!?」

 

 志藤の言葉にマモルは驚き、再び横槍を入れる。

 

「何でなの志藤さん!? 一夏君一人で行かせるなんて危険過ぎるよ!? それに皆で行った方がずっと良いよ!」

 

 マモルは困惑するも、一夏はマモルを宥める。

 

「落ち着いてマモル兄ちゃん、義父さんが何故俺を一人に行かせるのかを聞こうよ?」

「何言ってるの一夏君!? 一夏君一人だと危ないよ! 相手は危険なアマゾンかも知れないんだよ!?」

 

 マモルは一夏を心配し志藤を責める。一方で一夏はマモルを宥めるも、無線機から溜め息が聴こえた。志藤の物だったが志藤は冷静に一夏とマモルに言う。

 

『一夏、マモル、二人に言いたい事がある』

「あっ、ま、マモル兄ちゃん、義父さんが何かを言うみたいだから落ち着いて」

「でも一夏君一人じゃ危ないよ! それに」

「マモル兄ちゃん!!」

 

 一夏はマモルに怒り、マモルは一瞬だけビクッとするがマモルは一夏を見る。一夏は哀しい目をしているがマモルを心配していた。

 一夏はマモルの気持ちは理解していた。逆に言えば、マモルが多々ごねていたら何も始まらず、何も変わらないからである。

 一夏はそれを知りつつも、マモルに言った。

 

「マモル兄ちゃん、今は義父さんの話を聞こうよーー義父さんなりの考えもあるかもしれないけど、義父さんが困るような事だけはやめて」

「でも一!」

「俺は大丈夫だから」

 

 一夏はマモルが言い終わる前に言う。効果があったのか、マモルは何も言えなくなる。一夏はマモルを見た後、軽く頷いた後、志藤に訊いた。

 

「義父さん、本題に入ってよ」

『ああ、大滝によれば、敵はアリアマゾン、ランクはD、お前達二人だけでも勝てる相手だーーだが今回は一夏、お前一人で行け』

「俺一人で行くの? 何でなの?」

『本来ならマモルも一緒の方が良いかも知れないが、お前はマモルとは違い、一人でも闘えるーーお前はもう半人前じゃない、お前はもう、アマゾンを狩る人間だ』

「アマゾンを狩る、人間?」

『ああ、お前はもう立派に成長した、お前は三年前とは違うーー俺達の駆除班に無くてはならない存在だーーだからこそ、お前に全てを委ねる』

「義父、さん……」

 

 志藤の言葉に一夏は呟く。志藤の言葉は一夏にとって嬉しい物だった。三年前のあの日……嫌、今はそれは置いといた方が良いだろう。

 一夏は今、志藤の言葉に少し泣きそうになる。彼にとって、青年にとって駆除班は家族である。父のように慕う志藤や、志藤と一緒にいるであろう三崎や、近くにいるマモルは兄のように慕っている。

 一夏から見れば、義理だが家族の温もりを感じさせるには充分だった。すると、無線機から志藤の声が聴こえるが、一夏は答えた。

 

「義父さん……俺は行くよ、志藤一夏として、シグマとして、アマゾンを狩るよ!」

 

 一夏は答えた。それは一夏自身の決意の表れだったが、マモルは目を見開いている。しかし、二人は知らないかも知れないが、無線機の向こうにいる志藤は少しほくそ笑んでおり、三崎や他の面々も一夏の言葉に少し笑っていたのは言うまでもない。

 




 この話では一夏は、駆除班のリーダーである志藤の義理の息子です。その理由は後々の話で明かされます。


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倉庫に蠢く蟻(後編)

「取り敢えず、俺が倉庫の中に入ってアマゾンを索敵するから、マモル兄ちゃんは此処で待ってて」

 

 一夏とマモルは今、倉庫の中を出入り出来る扉の前にいた。扉は一夏やマモルよりも一回り大きく、開けるのも一苦労するくらいである。

 一夏は優しい表情で扉に手を掛けながら、近くにいるマモルに言う。一方、マモルは心配そうに見据えていた。一夏はマモルに心配を掛けられている事に気付きながらも、扉を開けようとした。

 

「待って! やっぱりチームの皆を待とうよ!?」

 

 マモルは我慢出来ず、一夏の肩を掴む。

 

「ま、マモル兄ちゃん、俺は大丈夫だから」

「大丈夫じゃないよ!! 一夏が一人だと危ないし、一夏は志藤さんに言われても、僕は心配だよ!」

 

 マモルは自分の気持ちを一夏に言う。マモルから見れば一夏は家族であり、弟のような存在。一夏が一人で行く事を許さないでいた。それもその筈、マモルはさっきまで、一夏を一人で行かせるのには反対していた。

 チームの皆を待とう、チームの皆となら怖くない、と。しかし、志藤の言う事は絶対であり、志藤は駆除班のリーダーであると同時に駆除班全員の命を背負っている。

 一夏を一人で行かせるのも一夏が巣立ち出来る意味であるのと、彼が如何なる時でも自分で対処出来るかどうかを試している。

 志藤の、義父の思いを無駄にしたくない。義父の強い気持ちを自分は応えてやりたい。一夏はそう思い、マモルにある事を言う。

 

「マモル兄ちゃん、俺はマモル兄ちゃんの気持ちは解るよ?」

「だったら……!」

「でも、それは義父さんは喜ばないよ?」

 

 マモルが何かを言うも一夏は言葉を続ける意味で遮る。それを聞いたマモルは少し驚くも、一夏は言葉を続けていた。

 

「マモル兄ちゃん、俺は義父さんの気持ちに応えてやりたいんだーーそれに今すぐにでもアマゾンを倒さなきゃ、犠牲者は増える。それだけは避けたい」

「一夏……」

「マモル兄ちゃん、俺だって怖いよ、死ぬのは怖いーーでもアマゾンを倒さない限り、人々は怯えるーー犠牲者は後を絶たなくなる……それに俺は生きて帰ってくるーー俺は一人じゃない、マモル兄ちゃんや駆除班の皆もいるーーそれに」

 

 一夏は腰に巻いてるバックルを愛しそうに手を触れる。

 

「こいつもいる……こいつはバックルだけど兵器……だけど兵器でありながらも俺の相棒」

 

 一夏はバックルを、シグマを相棒と言う。シグマは一夏にとって相棒であり友達でもある。シグマはISを凌駕する兵器だが一夏はそれを兵器として悪用するつもりはなかった。

 彼はシグマを人々を守る為に使おうとしていた。一夏なりの正義か、一夏なりの我が儘かは判らない。だが一夏は正義の味方になるつもりもない。

 

「シグマは俺にとって、俺の大切な相棒だーーシグマが一緒なら俺は怖くないーー負ける気もしない」

 

 一夏は目を閉じると一夏は直ぐに目を開け、自分の気持ちをマモルに言った。

 

「シグマが一緒なら俺は大丈夫、それにマモル兄ちゃん、はい」

 

 一夏は右手をマモルに突き出すーー小指だけを立たせていた。

 

「それは……」

「うん、指切りげんまんーー俺が生きて帰ってくる事を約束する為だよ? これならマモル兄ちゃんも納得するでしょう?」

「あっ……で、でも……う」

 

 マモルは何も言えなくなると、人差し指だけを立たせた左手を突き出す。すると、一夏は右手の小指を、マモルは左手の小指を絡ませ合う。刹那、一夏は右手を、マモルは左手を軽く動かす。

 

「「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本呑ーーます」」

 

 一夏とマモルは約束しあう。それは二人にとってそれぞれの願いが込められていた。

 一夏は生きて帰ってくる事を約束し、マモルは一夏が死なない事を約束する為でもあった。そして、二人はお互いに手を離れさせると、一夏はマモルに背を向け、力一杯扉を開ける。

 扉は錆び付いていたのか開けるのも一苦労する。そんな一夏にマモルは手伝う形で手を貸すと、二人は力を合わせ扉を開けた。

 錆び付いたような音が二人の耳に響く。しかし、扉が開いた事に変わりはない。二人は人一人分が入れるくらいにまで開ける。

 

「うあっ!?」

「うっ!?」

 

 二人は鼻を押さえる。何故なら、倉庫内から酷い臭いが充満していたのである。それは二人の鼻にまで届き、溶け込む。

 二人から見れば悪臭しか感じられないだろう。否ーーそれは倉庫自体が年月という時間により廃れた為に錆び付いたのか、或いはアリアマゾンが人々を喰らい尽くした為にも関わらず、微かに一部だけ人肉が残っておりそれが腐ったのが原因かは判らない。

 だが倉庫内が悪臭で充満している事に変わりはない。二人は倉庫内を窺うも、倉庫内はとても暗く、中にアリアマゾンが何処で待ち伏せしているかは判らない。

 二人は倉庫内を見て生唾を呑む。それは恐怖か、アリアマゾンを狩る為の生理現象かは判らない。嫌、前者や後者のどちらもそうとしか言えない。

 

「……良し、俺入るねーーマモル兄ちゃんは俺が義父さん達が来るまで、停めて置いたバイクの所で待っててね」

 

 一夏はマモルにそう言うと、倉庫内に入る。倉庫内は臭いが一夏は我慢していた。

 

「一夏君……っ」

 

 マモルは一夏を見て何も言えなくなり哀しそうに下唇を噛むと、扉を閉める。一人ではきつかったがマモルは何とか閉める。

 本当はマモルも一緒に行きたかった。だが一夏が、一夏自身が義父と慕う志藤の思いを無駄にしたくないと言ったのである。マモルから見れば辛かったかも知れないがマモルは一夏を弟として見ていて、一夏に色んな事をも教えてもらった。

 それに今はマモル自身は一夏の無事を祈る事しか出来なかった。そして、扉は完全に閉まり、その場にはマモルにしか居なかった。

 

「一夏君……絶対に狩ってね」

 

 マモルは倉庫内にいる一夏を心配してそう言うが、それはとても小さく、倉庫内にいる一夏には聴こえなかった。が、マモルは志藤達が来るまでの間、一夏が停めて置いたバイクの方へと歩くーーそれはとても寂しい物だった……。




 『アマゾン!』次回、一夏、変身!


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蟻を狩る蜥蜴(前編)

「うっぷ……気持ち悪い」

 

 一夏は倉庫内を警戒しているにも関わらず、吐き気を堪える意味で口元を押さえていた。一夏の表情は良くない物だった、一夏の気持ちは、悪臭が充満している倉庫から早く出ていきたい我が儘と、この倉庫に隠れているアリアマゾンを狩らなければならない使命の間で悩んでいる。

 強いていうなら、一夏は前者や後者の両方を取るだろう。それに一夏は懐からある物を取り出すーー小型の懐中電灯だった。一夏は懐中電灯のスイッチを押すーー灯りが点いた。それは薄暗い倉庫に一筋の光を射し込み、一夏に僅かながらの安心感を与えてくれる。

 

「足場も悪い……辺りも暗い、滑降の心霊スポットだな」

 

 逆効果だった。一筋の光は一夏に不安を与えていた。懐中電灯から発せられる光は倉庫内の極僅かしか照らしてくれない。しかし、無いよりはましだろう。

 

「辺りには金属や鉄パイプ、鉄の板も散乱している……余計に不気味だな」

 

 一夏は感想を述べる。悪い意味での感想であり、一人で行くのは嫌だ、と言う別の意味での感想でもあった。マモルと一緒に行けば良かったが志藤の思いを無駄にする訳にもいかず、犠牲者を増やす訳にもいかない。

 一夏は自分にそう言い聞かせると、歩き出した。足場は悪く、歩く度に微かに埃が舞う。空気も悪く、不気味である。

 この倉庫自体が外からの侵入者を拒んでいるのか、それとも勇気を試しているのだろうか。それは誰にも判らない。

 

「此処にアリアマゾンがいる事は義父さんが前原さんに聞いて判明したーーなのに、うん?」

 

 一夏は三年前の事を思い出す前に、遠くに気配を感じ、懐中電灯の光を奥へと向ける。光が射し込まれた方向には一人の男性の屍が仰向けに転がっていた。

 

「あっ……っ、うっぷ」

 

 一夏は吐き気を押さえながら歩み寄る。その男性は腹を抉られ臓器が剥き出しになっていた。臓器は足りなく、食い散らかされている。

 一夏はその男性から目を逸らすと、懐中電灯を持っていない方の手で懐からある小型の無線機を取り出し、ボタンを押すと、口元に近付ける。

 

「此方一夏、義父さん、男性の死体を見付けた」

『此方志藤、そうか……それよりも一夏、虫の気配を感じないか?』

 

 志藤が訊き返すと、一夏は懐中電灯の光を頼りに辺りを見渡す。

 

「辺りはとても暗い、虫が何処にいるか判らないーーだけど、近くには何かの気配を感じた」

『……判った、だが辺りが暗いのは仕方ないが、辺りには何処に潜んでいるのかは判らない、それよりも一夏、男の身元が判るような物はあるか?』

 

「身元が判るような物……ちょっと待ってて」

 

 一夏は男の屍の近くに屈むと、懐中電灯を床に置き、ズボンのポケット等を探る。そして、ある物を取り出し、それを無線機の向こう側にいる志藤に言った。

 

「財布だよ義父さん、財布には……」

 

 刹那。ガタン! と言う音が辺りに木霊し、一夏は音がした方を見る。

 

『どうした? それに何だ今の音は!?』

 

 その音は志藤にも聴こえていた。が、一夏は音がした方を見ながら、志藤に答える。

 

「判らない、でも恐らく、アマゾンかもしれない」

『そうかもな……だが気を付けろ、相手はDとは言え人間を喰らう虫だ、人間であるお前は獲物だーーそこだけは覚えとけ』

「了解、義父さん」

 

 一夏はそう言うと無線機を懐に戻し、懐中電灯を手に取り、光を音がした方へと照らしながら近付く。

 忍び足だったが一夏が警戒している事の表れであるのと、一夏自身が近くにアマゾンがいる事での恐怖の表れでもあった。

 辺りには鉄パイプや金属や鉄の板が散乱しているが一夏には関係ない事だった。

 

「…………あれ?」

 

 刹那、一夏はある事に気付き、立ち止まり辺りを見渡す。辺りは暗かったが何かの気配を感じたと共にある不信感を積もらせる。

 ーー敵は何故、自分を襲わないのか? ーー。それは一夏にとって、敵への疑問を抱かせている。そう考えたのも無理はない。一夏は初めて此処に来たのである。

 敵がどう動くのかも、敵がどうやって人を襲っているのかも判らない。ならば、さっきの屍は何だったのだろうか? あの屍の男はどうやってこの倉庫へと来たのだろうか? 

 一夏は疑問を募らせていく。此処は心霊スポットであり、ネットで囁かれているが、それ自体には信憑性が伺う。

 ならば、この倉庫がネットで心霊スポットとして囁かれる意味で噂され、それ自体が、この人を寄せているとしたらーー刹那、一夏は歯を食い縛りながら「くそっ!!」とやるせない気持ちを堪えきれなかった。

 一夏は気づいたのだ。あの男が此処へ来たのも、それには理由があった。刹那、今度は別の方角から音が聴こえ、一夏は音がした方を見ながら懐中電灯の光を照らす。

 そして、音がした方には一匹の蟻ーーその蟻は人間のように二本脚で立ち、何故か元気が無いかのように俯いている。

 逆にそれが不気味さを立てており、増さしている。が、あれは誰から見ても蟻の化け物である。そして、蟻の化け物、アリアマゾンはゆっくりと顔を上げ、小走りで一夏に迫る

 

「あ、アマゾン!?」

 

 一夏はその化け物を見るや否や、懐中電灯を持っていない方のバックルの中央にある顔の近くにある左グリップを捻る。

 ーーシグマ! ーー。刹那、バックルから声が流れ、同時に一夏から爆風に近い煙が発生し、それはアリアマゾンを吹っ飛ばし、辺りに散乱している鉄パイプや金属品が吹っ飛び、埃も舞う。

 それは直ぐだったが一夏の体が紫色の炎に包まれ、炎は直ぐに消えた。しかし、そこにいたのは一夏ではなかった。

 そこにいたのは、オオトカゲに良く似た顔付きに紫色の両瞳に、先端が紫色である一本の触角。

 身体は白銀に輝いていたがそれは鉄よりも硬く、骨格も剥き出しになっているかのように禍々しい。

 そこにいたのは一夏では無いが一夏である。一夏は姿を変えたのだーー腰に着けているバックルの力で……シグマの力で。

 

「ウガアァーーーーッ!!」

 

 一夏は空を仰ぎながら叫ぶーー嫌、オオトカゲの化け物は天井を仰ぎながら叫んだ。叫び声は倉庫内に木霊するが咆哮と言い換えれば言いかもしれない。

 が、オオトカゲの化け物は、叫ばずには居られなかった。まるで、一夏自身の怒りと葛藤を意味するかのように……。そして、懐中電灯は一夏が姿を変えた後に砕け散った……。



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蟻を狩る蜥蜴(後編)

「ウガアァァァッ!!」

 

 一夏もとい蜥蜴の化け物は咆哮を上げ続けていた。それは一夏の怒り、哀しみ、悩む意味での雄叫びでもあった。

 一夏は男の死んだ理由や、アリアマゾンがいる理由が、人間が引き起こした事による物だと気付いたのである。

 しかし、今はそれを怒りを覚える前に、哀しみに浸る前にやらなければいけない事があった。ーーアリアマゾンを狩るーー今はそれをやらなければならなかった。

 周りには数年間もほったらかしにした事により溜まった、不潔の象徴とも言える埃が辺りを舞い続けており、鉄パイプや金属品等は一夏が別の何かへと変化した際に発生した爆風の影響で、元あった場所からかなり離れた場所へと吹っ飛ばそれていた。

 

 そして、アリアマゾンもまた、爆風により吹っ飛ばされ、少し離れた場所で仰向けに倒れていた。

 

「ギイィ……」

 

 アリアマゾンは力無い声で起き上がり、一方で蜥蜴の化け物はアリアマゾンに対し、身構えた。

 

「行くぞシグマァッ!!」

 

 蜥蜴の化け物、嫌、蜥蜴の化け物へと姿を変えた一夏がシグマと叫ぶ。そう、それは一夏がバックルの影響により姿を変えた蜥蜴の化け物の名である。

 彼の名はアマゾンシグマ……とある組織が対アマゾン用として極秘に試作段階として開発された、ISを遥かに凌駕する人間兵器。

 そのシグマに姿を変える事が出来るバックルの正装着者は志藤一夏ーーとある大企業の傘下である駆除班を纏める人物、志藤真の義理の息子にして駆除班の一人。

 彼が何故、駆除班にいるかは後程明かされるが今はそれを教える場合ではない。蜥蜴の化け物ーーシグマはアリアマゾンを狩るべく走り出す。

 刹那、シグマの紫色の両目が光る。それは敵が何処にいるのかや、周りが暗闇で包まれた場合での闘いの際の敵が何処にいるのかを知る為の赤外線代わりにもなっている。

 シグマは走りながら右手を拳に変えながら右腕を振り上げ、アリアマゾンの近くにまで来ると右腕を振り下ろす。

 

 右拳はアリアマゾンの左頬を捉え、アリアマゾンの左頬を殴る。同時に微かな音が辺りに木霊するも、シグマは左拳でアリアマゾンの腹を殴り、更にすかさず右拳で下からアリアマゾンの顎を殴る。

 アリアマゾンは下から顎を殴られたせいか倉庫の天井を仰ぐも、シグマはアリアマゾンの腹に回し蹴りした。

 アリアマゾンは吹っ飛ばされるも、シグマとは少し離れた場所で転がる。

 

「ウガアァァァ!!」

 

 シグマは咆哮を上げながら、転がっているアリアマゾン目掛けて走ろとした。刹那、シグマの近くの壁が突然破壊され、同時に壁の破壊される音が辺りに木霊する。

 ーー!? ーー。シグマは音がした方を見ると、壁の破壊された所には煙が微かに立ち込み、煙か外か暗いかは判らないが一つの人影が見え、足元には破れた衣服が落ちている。

 しかし、壁が破壊されたせいか倉庫内に充満していた悪臭が、壁近くだけの悪臭が外に出ていくかのように吸い込まれていく。

 代わりに僅かだが新鮮な空気が倉庫内へと入ってくるも悪臭の方がまだ強かった。

 

「あ、あんたは!?」

 

 シグマは破壊された壁の近くに立っている人影に何かを言おうとした。が、人影は獣のような叫び声を上げると、シグマ目掛けて走る。

 シグマは身構えなかった。嫌、シグマはその人影の正体である人物を敵として認識していなかった。

 証拠に、その人物はシグマの直ぐ近くに来た直後、跳んだ。その人物はシグマの頭上を軽く飛び越え、シグマは人物が跳んだのを見ている事しか出来なかった。

 そして、その人物は人ではなく、土竜の化け物だった。顔は複雑だが緑色の眼にドリル状の鼻、身体は鉄よりも硬く、禍々しい表皮に両手は太く、五本の太い爪が特徴的かつ、右腕には顔を模したかのような白い腕輪を着けている土竜の化け物だった。

 

「マモル兄ちゃん!?」

 

 シグマ(一夏)は土竜の化け物の正体を知っていた。そう、土竜の化け物ことモグラアマゾンの正体はマモル。

 マモルは倉庫の外で待っていたが一夏を心配しており、そして二つの大きな音と、そして一夏の叫び声により、我慢出来ず、服を破く形で脱ぎながら叫び声を上げ、姿を変えたのである。

 

「一夏に手を出すな!」

 

 モグラアマゾンはアリアマゾン目掛けて走る。その間にアリアマゾンは何とか立ち上がっていたがモグラアマゾンはアリアマゾンの近くまで来ると、左手でアリアマゾンを叩く。

 アリアマゾンは悲鳴を上げる前や怯む前に、モグラアマゾンは両手の太い爪でアリアマゾンの身体を叩き、斬りつける。

 

「ああ~~っ……」

 

 モグラアマゾンがアリアマゾンに猛攻する中、シグマは何も言えず困る。志藤に、義父さんに何て言い訳すれば良いのかで困ってしまった。

 嫌、それはいいとしてシグマはモグラアマゾンに助勢すべく、走る。

 

「ガァァァッ!!」

 

 モグラアマゾンは右手でアリアマゾンの左頬を殴ると、アリアマゾンは後退りするがシグマがモグラアマゾンの横から現れ、アリアマゾンの腹を横蹴りした。

 

「ガァァッ!!」

 

 アリアマゾンは吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられるが辺りには鉄パイプや鉄品等が無造作に転がっていた為、アリアマゾンが仰向けに地面に叩き付けられたと同時にアリアマゾンの周りに転がっていた鉄パイプは転がり、鉄粉等は軽く宙を舞い、埃も舞う。

 しかし、アリアマゾンはその場を動けず小さな悲痛の声を上げる。

 

「一夏、後は君が止めをさして!!」

「あっ、ああ!」

 

 モグラアマゾンはシグマを促すと、シグマは身構えながら走り出すと、アリアマゾンの近くで跳躍し、右腕を振り上げる。

 アリアマゾンはシグマは見て何かを言い掛けるも、シグマは右手をアリアマゾンの胸を捉える。刹那、シグマは片膝を突く形で地面に着地し、シグマの右手はアリアマゾンの胸を刺し貫いていた。

 アリアマゾンの胸から血が微かに吹き出るがシグマの身体に付着していた。

 一方、アリアマゾンはシグマに対し、何かを訴えかけていた。

 だが、シグマはアリアマゾンが何を訴えかけている事に気付いていない。そして、アリアマゾンの身体に変化が起きる。

 アリアマゾンの身体が溶け初め、黒いヘドロの塊と化した……これはせめてものなのか、アリアマゾンが右腕に着けていた腕輪が残っていた……。

 しかし、一夏(シグマ)は知らなかったーーアリアマゾンもまた、ネットによる被害者である事に……。



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仲間達との絆(前編)

「……駆使完了」

 

 アリアマゾンがペドロと化した後、シグマは微かに呟いた。それはシグマと、少し離れた場所にいるモグラアマゾンの勝利を宣言し、アリアマゾンの敗北をも宣言している。

 直ぐ決着ついたとは言え、ニ対一と言う圧倒的有利かつ圧倒的不利な闘いを制したのは、シグマこと一夏とモグラアマゾンことマモルの二人である。

 刹那、シグマの身体が黒い煙に包まれ、近くにいたモグラアマゾンの身体が白い煙に包まれる。煙が消えると、シグマは一夏へと戻る意味で変わり、モグラアマゾンはマモルに戻るがマモルは上半身裸であり、左腕には腕輪を着けている。

 

「…………」

 

 一夏は姿を変えた後、黒い液体と化したアリアマゾンの形見である腕輪を拾う。一見、何の変鉄もない腕輪ーー目の色は赤かった。

 アリアマゾンは人を喰う化け物と化した。それ以前に化け物であったかもしれないが人前に姿を現さなかっただけでもましかも知れない。

 一夏はそう思いながらも腕輪を見つめていた。

 

「一夏、一夏?」

 

 一夏が腕輪を見て物思いに更けている間に、マモルが一夏に近付き声を掛ける。一夏はマモルの言葉で我に返ると、マモルを見る。

 

「どうしたのマモル兄ちゃん?」

「どうしたの何か考えていたの?」

 

 マモルが訊ねると、一夏は微笑みながら首を左右に振る。

 

「何でもないよ、それよりも……」

 

 一夏がマモルに何かを訊ねようとした。刹那、倉庫の外から車の音が聴こえ、一夏とマモルは音に気付き振り返ると、マモルは「皆だ!」と喜び、自分がモグラアマゾンになった時に破壊したであろう壁の方へと走り、一夏は腕輪を手にしながら立ち上がり、マモルの後を追い掛ける。

 

 一方、マモルは倉庫の外を出ると、音がした方を見る。音は離れた場所から聴こえるが二つの光が見受けられる。

 それだけではない、二つの光は徐々に大きくなっている意味で近付き、音も大きくなっていく。

 そして、周りが少しの暗闇と不気味に包まれている中、白銀色のバンがマモルや後から来た一夏の方へと近付く。音の正体は走る音であり、光の正体はヘッドライトであった。

 バンの前方の窓の向こうにある運転席や助手席には二人の人影が見えた。マモルは手を振ると、バンは二人の少し離れた場所に停車し、エンジン音が止まり、バンの運転席や助手席の方に扉が開くと、運転席や助手席に座っていた二人の人物が降りてきた。

 どちらも中年男性だがどちらも一夏とマモル(上半身裸だが)が着ている服と全く同じであるが重装備であった。助手席から降りてきた男はゴーグルや小型ライトの付いてるヘルメットを被り、もう一人は帽子を被っているが眼鏡を掛けている。

 どちらも風格や危険な雰囲気を醸し出している。それだけではないーーバンの後ろの扉が開き、数人が降りてきた。

 数人と言っても四人だが歳は全く違うのと一人は女性。しかし、共通点はあった。四人もまた、一夏や、運転席や助手席から降りてきた二人の男性が身に纏っているのと全く同じであり、重装備だが武器も持っている。

 

「志藤さん! 福田君に前原君! 大滝君に三崎君!」

 

 マモルは一人を除いて、仲間であろう者達の名字を呼ぶ。が、一人を除いた、その一人が二十代前半であり長い黒髪と頬に傷跡がある女性がマモルの呼ぶ声に少し怒る。

 

「おいマモルてめえ! 何で私の名を呼ばねぇんだよ!?」

 

 女性はマモルに怒る。彼女の名は高井(たかい) (のぞみ)、二十二歳。チームの紅一点であり体術を駆使して闘う。

 

「まあまあノンちゃん、マモちゃんは単に忘れてしまっただけだと思うよ?」

 

 マモルに怒る望をからかいながらも宥める男がいた。その男は三十代半ばで口髭を蓄えており、手にはショットガンを持っている。

 彼の名は三崎(みさき) 一也(かずや)、三十五歳。チームのムードメーカーであり、チーム内で唯一の野次馬担当。

 

「そうだぜ高井? マモルは多分、なあ」

 

 一也同様、望に対し呆れながらも宥める青年がいた。彼は二十代の精悍な顔つきが特徴的な青年であった。

 彼の名は前原(まえはら) (じゅん)、二十歳。チーム内での一番とも言える頭脳明晰でありチェスが趣味かつ、一夏の一番の兄的存在であり、一夏に慕われている。

 

「そうだぞ望? マモルは単に……フフッ」

「何笑ってんだよ大滝!? ぶっ飛ばすぞてめえ!?」

 

 一也や淳同様、望を落ち着かせるが少し笑ってしまい、それが望の逆鱗に触れてしまったタブレットを持っている三十代前半の男。

 彼の名は大滝(おおたき) 竜介(りゅうすけ)、三十一歳。チーム内では珍しい熱血な性格で、チーム内では信頼を寄せられており、淳からは兄貴として慕われている。

 望はマモルに怒り詰め寄る中、一也が望の前に出て望を落ち着かせ、淳と竜介は呆れながら落ち着かせ、マモルに至っては彼等が喧嘩しているのではと思い、少し戸惑っている。

 

「ハハッ」

 

 そんな彼等を見た一夏は頬を緩ます。一夏から見れば彼等のやり取りは日常的に見えていた。

 彼等は一夏にとって、仲間であり家族の存在であった。本来なら自分はに元いた家族が居るが今は彼等の元に居たかった。

 それには理由があるが今はそれを言わなかった。何故なら、一夏はシグマと言うISを凌駕する力を手にしており、逆にそれが一夏を葛藤させている。

 一夏は気付いていた。シグマが如何に強力なのと、自分はその力を悪用するのではないのか。

 そうなれば、チームの皆と戦う事になり、チームの皆を哀しませてしまうのではないのかと、自信を恐れていた。

 人は力を手に入れたら、どのように使うのだろう。正義の為か、悪の為か、それは誰も判らないーー力を手にしている者の自由だ。

 

「一夏、虫は殺ったか?」

 

 一夏がマモル達のやり取りを見ていると、助手席から降りてきた男性が一夏に訊ねてきた。

 彼の名は志藤(しどう) (まこと)、四十一歳。元警視庁特殊部隊員であり、チームのリーダーであり、一夏の義父。

 隣にいる、眼鏡を掛けた男性は福田(ふくだ) 耕太(こうた)、三十五歳。運転や狙撃等、後方支援を担当し、無口だが仲間思いであり、志藤とは警視庁時代では部下であった。

 そして、真に訊ねられた青年は志藤一夏、十五歳の青年であり、チームの最年少であり、志藤の義理の息子であり、シグマの変身者。

 

 そして彼等のチーム名は、ノザマペストンサービス。とある大企業の傘下であり、アマゾンと言われている虫を狩るのを生業としている。

 彼等はチームでありながらも家族のような絆を持っている。

 

「何かな、父さん?」

 

 一夏は真の真剣な表情に少したじろぐ。と言うよりも、真の表情が一夏に対し何かに怒っている。

 義理とはいえ、父子の間柄。父は息子に対し、怒っているのだろう。

 一夏は真が、父が何かを言うのを気にしていた。そして、真は怒っているであろう理由を口にした。

 

「一夏、何故一人で闘わず、マモルと闘った?」

 

 真は一夏に問う。そしてそれが、真の怒っている理由だった。



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仲間達との絆(後編)

 久しぶりの投稿です。


「あっ……っ」

 

 真の言葉に一夏は少し何も言えなくなる。何故なら、真は一夏がマモルと闘った事を指摘していた。真は一夏に一人で闘えと言ったがマモルと共に闘えとは言っていない。

 現にマモルは上半身裸であり、それがマモルがモグラアマゾンに姿を変えた事を物語り、真やチームの面々から見れば、一夏とマモルは一緒に闘った事に気付く。

 

「答えろ一夏? お前は何故一人で闘わず、マモルと闘った?」

「そ、それは……」

「僕が悪いんだよ!!」

 

 真が指摘し、一夏がどう答えればいいのかが判らず戸惑う中、マモルが叫ぶ。周りが一斉にマモルを見やると、マモルは身体を振るわせながら少し哀しそうに言葉を続ける。

 

「志藤さん、僕が悪いんだよ……一夏に怒らないで! 僕が一夏一人で心配だと思ったから、僕は変身したんだ!」

「……どういう事だ?」

 

 真は真剣な表情と鋭い眼差をマモルへと向けながら問うと、マモルは訳を話始めた。

「僕は一夏を一人で闘わせせたくなかった……皆で闘う方がよかったーーなのに志藤さんは一夏に一人で闘えと言っても、僕は嫌だった! 僕は一夏を弟みたいに可愛がってるし、一夏が負けて死ぬのを見たくなかったんだよ!」

 

 マモルは訳を述べる。が、その言葉の一つ一つはマモルの気持ちと一夏への思いの表れを感じさせている。

 マモルは一夏を一人で闘わせたくない、出来るなら、二人で闘った方が効率が良いと思ったのだろう。

 反面、マモルの話は小学生みたく幼稚な物だったがマモルの一夏を思う気持ちは誰にも負けていない。

 そんなマモルを見た一也は少し笑いながら、マモルの頭をクシャクシャと掻く。

 

「そんなのは気にするなってマモちゃん、マコさんはチカちゃんに怒らないよ?」

「ほ、本当に?」

 

 一也の言葉に、マモルは恐る恐る訊くと、一也はニコッと笑う。

 

「そうだよ~~マコさんは鬼のように怖いけど、チカちゃんの前では父親みたいに優しくなるから」

「っ、バ~~カ! 大体この馬鹿が乱入しなきゃ、一夏は怒られなかっただろうが? ったく、この馬鹿っ!」

 

 一也がマモルを宥めるのと反対に、望は呆れを通りして怒りを覚えながら、マモルの尻を膝蹴りする。

 ーー痛いっ!! ーー。マモルは悲鳴を上げるが竜介が呆れながら、望を止める。

 

「止めろって望、マモルは別に悪い事した訳じゃないだろ?」

「何言ってんだ大滝? 元はと言えばコイツのせいで一夏が怒られてんだろうが? コイツには少し痛い目見せなきゃ解らないからな?」

 

 望はマモルを蹴ろうとしたが一也がマモルを背中に隠しながら、望を止める。勿論、竜介や淳も望を宥めるが望の怒りは収まらない。

 しかし、望の言い分は正しいかも知れないが一也、竜介、淳の三人はマモルを護っている為、どちらが悪者かは判らない。

 最も、原因はマモルにある為、何とも言えない。そんな彼等のやり取りを一夏はオロオロし、耕太は無言で見据える。

 

「ハア……」

 

 チームのやり取りを見た真は頭を抱え呆れる。嫌、本当の事を言えば一夏を怒るべきなのに、マモルが乱入したのと、こんな事にはならなかっただろう。

 しかし、自分が言い出した事である為、何とも言えないし、何より一夏を怒る気力が失せた。

 一夏を怒ればマモルが自分を責め、泣いてしまうし。マモルを責めれば一夏は自分を責めるだろう。

 真は頭を抱えながらも視線を耕太へと向ける。耕太は真の視線に気付くも何も言わず首を左右に振る。

 

「ったく……」

 

 真は溜め息を吐くと、軽く手を叩きながら訊く。

 

「お前ら、此方見ろ」

 

 真の言葉に耕太と一夏を除いた一也達が真を見やる。

 

「なんすかマコさん?」

 

 一也が訊ねると、真はマモルに言った。

 

「マモル、仕方ないが一夏を責めない」

「えっ、ほ、本当に!?」

 

 真の言葉にマモルは目を見開き訊ねると、真は再び頭を抱えながら頷く。

 

「ああ……一夏には怒らないし、マモルにも怒らない、それで良いか?」

 

 真の言葉にマモルは「やったあぁぁ!」と嬉しそうに声を上げる。マモルから見れば嬉しいのと、一夏が真に責められない事も嬉しいのだろう。

 そんなマモルを一也は「良かったねマモちゃん!」と共に喜び、望はマモルに呆れ舌打ちし、竜介と淳も一也同様、マモルと共に喜びを分かち合う。

 耕太は無愛想だったが内心、嬉しそうであるがそれを表には出さなかった。

 

「あっ、義父さん、それで良いの?」

 

 マモル達が喜ぶ中、一夏は真の言葉に納得してはいなかった。嫌、一夏は自分自身は罰を受けなければならないと思っていた。

 が、それがチャラになった事に納得していないのと、それを義父である真に訊ねると、真は一夏に対し逆に指摘した。

 

「馬鹿が、別にお前が悪い訳じゃないーー何よりマモルが悪いがマモルの事を良く知りながらもそれを見落とした俺にも責任がある。何より、お前とマモルは兄弟のように仲が良いーーそれにお前とマモルは俺達チームには必要な戦力だ」

「必要な、戦力?」

「ああ、お前とマモルはアマゾンを狩るのには必要な戦力であるからだ」

「そうだよチカ」

 

 真の言葉に納得したと言わんばかりか、一也が横槍を入れてくる。

 

「一也さん?」

 

 一夏は視線を一也の方へと見ると、一也は一夏の元へと歩み寄り、一夏の肩に手を回す。

 

「チカちゃん、俺達はチームだし、マコさんはチカちゃんの義理のパパ、マコさんから見ればチカちゃんは義理とは言え、大切な息子が死ぬのは見たくないし、チカちゃんに怒ったのもマモちゃんと一緒に闘った事だけど、マモちゃんは自分が悪いと認識したし、マコさんもそれが解ったからチカちゃんが気に病む事じゃないんだよ?」

 

 一也は一夏の肩に回している手で一夏の肩を叩く。一夏は「はぁ……」と戸惑う中、一也は真を見る。

 

「それで良いでしょマコさん? 悪いのはマモちゃんかも知れないけど、マモちゃんも反省しているからさ?」

「馬~~鹿っ、誰から見てもコイツが悪いだろ!」

 

 望が再びマモルに蹴りを入れようとしたが竜介と淳がマモルを護り、望を落ち着かせる。

 それを見た一也は「マモちゃん此方!」とマモルに此方に来るように促す。

 マモルも望が怖いのか一也の元へと駆け寄ると怯えながら、一也と一夏の背中に隠れる。

 

「ったく……おいお前等、何時まで遊んでる! さっさと帰るぞ!」

 

 真は彼等を見て怒りを覚えると彼等に命令する。一也は「ハ~イ」とからかい、望は舌打ちし、竜介は「ハイ」と言いながら頷き、淳と耕太は無言で頷き、マモルは「うん!」と頷く。

 一方、一夏は頷きながらも視線を、手に持ってる腕輪へと向けていたが一夏の表情は何処か腑に落ちないように哀しい。

 

「どうした一夏?」

 

 真は一夏の様子に気付き訊ねる。真だけではない、チームの面々も一夏の様子に気付く。

 誰一人、一夏の様子を気にする中、マモルが訊ねる。

 

「どうしたの一夏? 腹が痛いの?」

 

「嫌違うよ……ただ」

 

 一夏は哀しい笑みをマモルへと向けると、再び、手に持ってる腕輪を悲しそうに見つめる。

 しかし、それは外からであり、一夏は内心、やるせない気持ちで一杯だった。

 そしてそれは、一夏が手に持ってる腕輪が全てを明かす為の証拠でもあった。



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