ピープルストーリー (まなぶおじさん)
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前編

 

 夏休みへ入って、青春に一区切りがついた。

 だから湖で泳いでストレスを発散したり、山へ登って自然に浸ったり、或いはデートをして

自分が世界で一番の幸せ者だと増長する――白井はあくびをして、それらを流す。

 何の下心も抱かないまま、特別何かの目標も持たないまま、白井は何となく、自分が通う

継続高校前まで来てしまった。

 悪い場所ではないと思う。教師は大らかだし、理不尽なイジメを食らっているわけでもない。

入学当初からそれなりに友達は出来たし、定期的に親からの心配の電話もかかってくる。

 高校一年にもなれば、十六年も生きていれば、人生に対してそれなりの判断はつく。

 部活に入っていないのも、何かに熱心になれないのも、夢を見い出せないのも、これといって

趣味が無いのも、全部自分のせいなのだと。

 そんな白井のことを、周りは「良い子」と評価している。

 ため息をつく。

 そんなんじゃないんだけどな、まあいいか。

 休みの間に寮へ引きこもるのももったいなかったから、何か有意義なことがしたくて外へ

出てみたものの、やはり何の一文無しでは外すら出迎えてはくれないらしい。

 またあくびが出る。

 ここまで来て引き下がるのも、それはそれで何となくもったいない。夏休みは無限では

無いのだ。

 セミが所狭しと鳴き続け、白井の背後で車が通りすぎる。遠くから「不要なものを

回収致します。電話番号は~」と宣伝する録音データが響く。

 白井は、せめてもとばかりに継続高校へ足を踏み入れる。

 

 夏休みには入ったばかりなので、懐かしさは感じない。

 ただ、目立った気配が感じられない継続高校というものは割と新鮮だったし、生徒も

教師も戦車も無いグラウンドを前にして、「静かだな……」と漏らす程度の感慨はあった。

 ここに来て、少しは収穫があったと思う。

 もう少し散歩をして、何か食ってから寮へ帰ろうかな――白井が振り向き、継続高校の

世界から抜け出そうとして、

 

 楽器から発せられたらしい静かな音が、グラウンド前から響き渡った。

 

 再び、継続高校へ視界を戻す。

 最初は部活か何かかと思ったが、それにしてはいくらなんでも静かすぎる。これと

いった人の集団も見かけなかったし、もしかして秘密特訓か何かだろうか。

 邪魔をしてはいけないと思ったが、見るだけなら問題はないだろう――そんな浅はかな

建前とともに、白井は音につられるがままグラウンド前を歩き回る。

 ――いた。

 

 グラウンド前にある草むらへ腰を下ろし、ハープらしき楽器を太ももの上に置きながら、

それを思うがままに演奏している女性の姿を。

 

 たぶん、見逃せない何かを感じたのだと思う。

 たぶん、直情的に心惹かれたのだと思う。

 たぶん、出会うべき存在と出会ったのかもしれない。

 それほどまでに、白井は演奏に――女性に目を奪われていた。

 誰、だっけ。この綺麗な人。

 継続高校の生徒であることは間違いない。水色のジャージに特徴的なハット、入学して

何度も見た。

 継続高校はそれなりの生徒数だ。だから同級生の顔はそれなりに覚えている。

 それなのに目立った記憶が無いということは、上級生なのだろうか。

 いやでも、どこかで見たような。もう少し顔を覗えれば、横顔ではなく真正面から

こちらを見つめてくれれば、脳ミソから大事な情報を引き出せるというのに。

 ――演奏が止まった。

 はっと、反射的に意識が現実へ戻される。

 気づけば、女性が白井をにこりと見つめていた。

「誰かな?」

「あ! ……えっと、継続高校の白井っていいます。一年です」

 上級生という可能性を考慮して、敬語で話す。女性は「ああ」と声を漏らし、

「一年か。いいね、私にもそんな時期があったっけ」

 ということは二年か三年か。中々決定的な情報を閃けない。

「君は、どうしてここにいるんだい? ――ああ、そんなところで突っ立ってないで

こっちへ来て座るといい」

 手のひらで、こいこいと動かす。白井はたまらなく緊張しながらも、「は、はい」と

返事をし、「失礼します」と女性の隣へ腰を下ろす。

 よく見えるようになる。何物も把握しそうな鋭い目つきに、自然と流れている長髪。

それらの要素に継続高校のジャージが組み合わされば、思考の片隅から何の違和感もなく

戦車がかっ飛んできた。

「あ、あなたは……あ、あの、ミカ先輩!?」

 大声になってしまった。

 けれど、ミカは動じない。ただ、関心を持たれて「ああ」と返事をするだけだ。

「そうだね。いつの間にか、ミカ、と定着されていたミカ先輩だよ」

 はて、と白井は首をかしげる。

「まあ、私が適当にそう呼んでくれと友人に言ったのだけれどね」

 どういうことなのだろう。

 ニックネームにしては、それらしさが無い。本名は別にあるが、あまり好きでは

ないのかもしれない。

「あ、会えて……光栄です。ミカ先輩のお陰で、ウチが特集されて……」

「ああ、大学選抜との時の。気にしないで欲しい、私は風に流されるがままに戦っただけさ」

 風って凄いなあと白井は思う。

 自分も、風に従えば何がしかの熱意を持てるようになるのだろうか。

「もう俺らの間でも話題になってましたよ。すげーすげー、ウチの戦車道すげーって、

ミカ先輩素敵だったって」

 ミカは、両目をつぶりながら「そうか」と、だけ。

「私はともかく、ここの戦車道が評価されるのは嬉しいね。称賛があれば、憧れを

抱き、戦車道を歩む生徒も多くなるだろう」

 楽器を鳴らす。透き通った音だった。

「戦車道は女性のものですけど、やっぱり、格好良いものは良いですね」

「そうだね。ただ、あれらはたまたま結果が出ただけさ。大抵は地味な失敗続き、

私だって例外じゃない」

 まるで、良い思い出でも語るかのように微笑んでいる。

「失敗ばかりして、それすらも仲間と語り合う。それでも憤りが収まらない時は、何も

しないのがいい。戦車道は、そういうことも教えてくれる」

 戦車道のことは、テレビでちらりと目にするだけで詳しくは知らない。

 ただ、戦車道のことを流暢に、心から愛でながら話すミカの顔が、目が、手振りが、

今の白井にとっての全てだった。

 ――この人は。

「もし許されるなら、私はずっと戦車道を続け、戦車道から色々と学んでいきたいね」

「いいですね。そこまで、夢を語れるなんて」

 この人は、自分が未だ見つけられていない夢や熱を持っていて。

「語るだけならタダだからね。だが、実現させるとなるといつだって困難だらけさ」

「……まあ、そうですけどね」

「まあ、戦車道は行う事だけが全てじゃあない。見て、何かを感じ、学ぶこともまた

戦車道だ」

 この人は、譲れない大切が何なのかを自分で分かっている。

「おっと、すまない。語りすぎたね。男に戦車道の話……退屈だったろう?」

 こんな風にものを言っているはずなのに、目はきらきらとしていた。

 この人は、とても素敵な女性だ――

 白井は、あっという間にミカの雰囲気に、声に、顔に、熱意に惹かれた。

 一目惚れだった。

「そんなことないです、まだまだ聞きたいです。ミカ先輩の、戦車道への想いを」

 今日初めて、白井に下心が生じた瞬間である。

「そうかい? ……けれど、今度は君のことを話してほしいかな」

「えっ!? 俺ですか!? ……困ったな」

 ミカが、楽器を軽く鳴らす。

「生きているだけで、人は語れる何かを得ているものさ」

「そ、そうかもしれませんけど……なんというか、何もないんですよね」

「まさか」

「そのまさかなんですよ」

 あはは、と苦笑する。

 指を草むらに置き、何度も軽く叩く。

「俺はミカ先輩と違って、夢中になれるものも、将来も、これといった趣味も

何もないんです。まあ、外面は良いんで悪い扱いをされたことはないんですが……

まあ、それだけです」

 教師に言われれば可能な限り従ったし、目立った悪さもしでかしてはいない。

 漫画やテレビは普通に読んだり見る方だが、涙を流したり、心が熱くなった、

なんてことはまるで無い。モロに影響されて、真似事を始めたケースも

恐らくは無い。

 この何もなさを受け入れていたつもりだが、今となってとても後悔した。

 ミカが戦車道について語ってくれたのに、自分がこれではてんで対価にならない。

つまらない男と思われても、仕方がないと思う。自分だってそう認識する。

 じっと見つめてくるミカに対し、白井はたまらなくなって目を逸らす。何か

面白い話をしてくれるのだろうかとばかりに、ミカの目の輝きは未だ消えては

いなかったから。

「そうか」

 白井が、諦めたように鼻息をつく。

「なら、これから何かを見つければいいだけじゃないかな?」

 白井が「え」と、ミカに視線を向ける。

「これからね、私は夏休みを利用して旅行へ出かけようと思うんだ。といっても

学園艦巡りだけれどね――私的な旅行は初めてだから、一人で歩いては退屈かなと

思ってみれば、君が流されてきた」

 ミカが、片目をつぶる。

「私は、将来のことを考えて旅行慣れしておきたい。君は、そうだね、

自分探しの旅なんかどうかな?」

 来るかい? とミカが手のひらを作る。

「い、いいんですか? ミカ先輩の、大事な旅行に付き合って」

「無意味な出会いなんて存在しない。こうして出来た人の縁を大切にしておけば、

私にとっても、何かが得られそうな気がしてね」

 白井は、

「分かりました、同行させてください!」

 全力で頭を下げたと思う。

 旅行という浪漫溢れる響きが、他の学園艦という好奇心が、ミカと一緒に

いられるという欲望が、白井の中でごちゃごちゃと旋回していた。

「いい返事だ。じゃあ、荷物をもってここへ集合しよう」

「分かりました。――あ、ちょっと待ってください」

 白井はポケットから携帯を引っこ抜き、アドレス帳から実家の番号を選択する。

「もしもし、あ、母さん。夏休みさ、ごめん! 帰省は難しいかも……実は

友人と旅行へ出かけることになってさ――ちょっと、何大袈裟に喜んでんだよ。

ああはいはい、車には気を付けるから。お金も振り込まなくていいから!

全くもう……じゃ、切るよ。元気でね」

 通話を切り、納刀するように携帯をポケットへ入れる。

 そのままくるりと振り向けば、憧れのミカが待ってくれていた。

「お待たせしました。それじゃあ、後で合流しましょうッ!」

 

「……へえ」

 

―――

 

 こうして何の予定も道順も無い旅行が始まって、はや数時間が経過する。

 道筋が整えられた登山コースを雑談交じりで歩み、山頂に到達して

「あれを叫ぶんですかー?」と白井が言えば、ミカが「やっほー!」と叫ぶ。

 透き通った女性の声が空気を震わせ、白井の耳の中で強く残響する。ミカは

何でもなかったような顔をしながら「さあ、次は君の番だ」と無言で促し、白井は

他でもないミカの指示に従うように、「やっほーッ!」と叫ぶ。

 ミカの後なので、何だかめちゃくちゃ恥ずかしい。こういう場合は先に言って

おいた方が良かったか。

 

 その後は何の未練も無く下山し、山とくれば湖だろという発想のもと、白井と

ミカは、この学園艦では数多く存在する湖エリアへ足を踏み入れる。

 水着は持ってきてなかったから、釣りをしたりボートを漕いだり、そこで

ミカの演奏に耳を傾けたりした。思うと、ボートに乗ったのなんて家族旅行以来な

気がする。

 多少不慣れながらもボートを泳がせている間、ミカはそんな白井を信用している

かのように、ただただ湖の真ん中で楽器――カンテレというらしい、それを

好きなように奏でていた。

 湖は空を映し出し、周りにはいくつかのボートが目的も無くさまよっている。

夏休みを利用して、湖へ遊びに来た家族やカップルだろう。いつか自分も、ミカと

恋人関係になったり、結婚して家族関係になるのだろうか。

 

 ――そうなったらいいな、と思う。二人きりが望まれる人間関係になって、ボートで

白井とミカが向き合い、背筋が伸びた白井が「あの日を思い出すね」なんてほざいて、

ミカは「そうだね。人の縁とは、わからないものだね」といつもの調子で

返答してくれて。

 相変わらず風のように生きるミカだが、薬指には指輪が光っていて――

 

 くすりと笑ってしまう。ミカはちらりと眺め、呼応するように口元を曲げる。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。

 

 この後は、この学園艦名物のサウナに入って一休みだ。

 ミカはバスタオルを巻いて相変わらずの微笑、白井も腰に巻いて腕を組んでいる。

「学園艦巡りって、『ウチ』も入ってたんですね」

「そりゃあそうさ。まずは地元から慣らす、当然だろう?」

 まあ確かに。

 サウナ特有の熱らしい匂いが、鼻をつく。

「だが、けして無駄じゃあなかった。地元にはこんなにも歩きがいのあるスポットが

数多く存在する。誇らしいね」

 白井は、小さく頷く。

「君は、この一日をもって何かを得られたかな?」

 そうだなあと、白井は顎に手を当てる。

 見上げれば木目の天井が目に入り、なんとなく「遠いところなんだな、ここ」と、

どこか懐かしい感じが心を覆った。

「……正直、」

 諦めたように、天井から床へ視線を移す。

 ミカは、たぶん嘘が嫌いだと思う。

「なんというのか、楽しかった、というだけで、これといって何も」

「そうか」

 ミカが頷き、

「それは決して無意味じゃない。行動して、何も得られなかったとすれば、それも

立派な収穫さ」

 サウナ特有の高温の中で、ミカは涼しげな調子で白井の意見を肯定した。

「そう、なんですかね」

「ああ。だから、次の学園艦へ行ってみる、という動機にも繋がるだろう?」

 確かに。

 やはり、自分は馴染みきった地元から離れてみないと、新しいものなど何も

得られない男なのかもしれない。

 この先どうなるか少し不安になったが、サウナが余計な感情を洗い流し、精神を

清めてくれる。サウナ施設は継続学園艦では頻繁に見受けられる施設で、男は

勿論、女性の利用者も数多い。

 なのでバスタオル姿の女性は見慣れたつもりであるし、露骨な反応を示す勇気も

白井には無い。

 だが、ミカのバスタオル姿は――

 首を左右に振るう。煩悩を燃やし尽くすよう、サウナに身も心も捧げる。

「どうしたのかな?」

「あ、いえ――それより、次の学園艦は何処へ?」

「そうだね」

 これから楽しいことが起こる。そんな風にミカは笑いながら、天井を見上げ、

「風の吹く方向で決めよう」

 

―――

 

 風に導かれるがままに、白井とミカは黒森峰学園艦の地を踏んだ。

 黒森峰学園艦のデカさは前々から耳にしていたし、その都会っぷりも

クラスメートから時折聞かされてはいた。

 前に一度来たことがあるらしいクラスメートは、「あそこで一生暮らしてえ」と

評価していて、大袈裟だなあと思っていたが、

「すげえ」

 無慈悲に高層ビルが立ち並び、今もこの瞬間も人という人が白井とミカを

横切っていく。信号が赤になれば、車の行列が出来るのは当たり前であり、誰も

「渋滞が起こった」なんて口にもしない。

 この地に住もうものなら、たぶん白井の頭では整理が追い付かないと思う。

 住んだところで、継続学園艦の程よい寂しさが恋しくなると思う。

 それほどまでに、黒森峰の世界は大きすぎた。

 ――そんな強大な場所でも、観光客として来客すれば話は別だ。黒森峰学園艦の

現実を知ることなく、ただただ良い場面を探せばいい。

 大きい分だけ楽しいことも、そうじゃないところもある。世界とはそんな感じで

出来ている。

 心が躍る、黒森峰学園艦で踊りたくなる。

「大きいねえ」

「そうっすね」

 高層ビルを眺めているのか、単に空を見つめているのか。ミカは斜め上に視線を

傾けたままで、簡素な感想を述べる。

 白井は今か今かと観光したい気分で、ミカはそれを察してか「よし、行こう」と

行動のきっかけを作ってくれた。

 

 買い物のしすぎは今後の行動に関わる為、最低限の食料と飲料を購入する。

 後は様々な場所へ足を運び、目で見て思い出を作ればいい。都会という新しい

世界の中で何かを見い出せれば、白井の目的は達成される。

 ――黒森峰学園艦は何でも揃いすぎているから、逆に何をしていいのか迷いに

迷った。ミカも「どうしたものかな」と観光ガイドを眺めているが、

「あ」

 ここで閃けたのは、まさに自画自賛モノだと思う。

「ミカ先輩」

「なんだい?」

「……風の吹く方向へ、歩んでみましょう」

 一瞬、ミカが言葉を無くす。

 だが、ミカは「ふっ」と声に出して笑うのだ。

「馴染んできたね」

「ええ」

 あとは自然の成り行きで、白井とミカは黒森峰学園艦を脈絡無く歩んでいく。

 風の導き先が映画館だったので、一緒に戦車道映画を見て「戦車道はいいものだね」

とミカが感想を漏らしたり、今度は水族館へふらりと立ち寄り、「この個性的なタコの

色は、意味を求めた結果なんだろう。深いね」とミカが称賛したり。

 

 ――その後は、夕暮れも近くなったということで夕飯を取ることにした。

 何処で何を食うのか、それはもちろん、すぐに目についた店でだ。

「いらっしゃいませ」

 店員に出迎えられ、レストランの一席によいせと座る。勿論向かい合わせ。

 かれこれ数時間は座っていない気がする。どこにも寄らず、ただただ歩くだけの

時間を長くとってしまった。

 以前の自分とほぼ変わらない行為であるはずなのに、それがひどく楽しい。理由は

一人じゃないからだ。隣にミカがいるからだ。

 話しかければ、ストレートな物言いではないものの、きちんと答えを返してくれる。

 言葉の意味を多少考える必要があるものの、ミカの言い回しそのものが白井は

好きだった。惚れた弱みと言いたければ言うがいい、男なんてそんなものだ。

「さて、メニューだが、今夜は……」

 ミカがじっとメニュー表を眺めるものの、白井は分かっていた。

 レストラン前に展示されているある食品サンプルを、ミカが物欲しそうに眺めて

いたという事実に。

 そしてそれは、結構いい値段がするという現実に。

「ミカ先輩」

「何だい」

「特盛りチキンカツカレー、注文しましょうか? 二人分」

 ミカの眉が、ぴくりと動く。

「……自分だけならまだしも、どうして二人分なんだい? 押しつけは良くない」

「いえいえ、ちゃんと見てましたから」

 事実を指摘され、ミカが黙る。

「カレー、好きなんですか?」

「食べられるものなら何でも好きだ」

 食うことが好きなんだなと、白井は察した。一見すると小食そうに見えるが、

特盛サイズしか見ていなかったあたり、腹いっぱいに食うことがミカの幸せに

繋がるのかもしれない。

 ならば、

「はい」

 注文ボタンを押し、すぐさま店員が駆け付けてきた。ご注文は何にしますかと

言われれば、

「特盛チキンカツカレー二人分でお願いします」

「かしこまりました」

 店員が引き下がっていく。ミカが「うーん」と声を出し、

「決意を促してくれたことはありがたいが、特盛は決してただじゃない。

思い付きで注文するのはよくないと私は思うな」

「俺が二人分払いますから」

「――その選択は、君にとって何の意味も成さないんじゃないかな」

「いえいえ」

 あるのだ。またとない意味が。

「男ってのは、女性の役に立てるとめっちゃ嬉しいんです。ここは一つ、俺の

見栄を立てるつもりで」

 ぽかんと、ミカが口を開く。

 たぶん、こういった経験をしたことはないのだろう。嬉しさも苦難も浪費も

仲間たちと半々で分け合っていたに違いない。

 余計なことをしたかな、と思う。

 やりたいことが出来た、と思う。

「……こう見えて貸しを作るのは苦手でね。いつか、お金は返す」

「すぐじゃなくてもいいですからね」

 あはは、と白井は笑い、ミカはしかたないなあと苦笑していた。

 最高の気分だった。

 さて、後は夕飯を待つだけだ。雑談でもしてようかなと白井が思い立った

その時、

 

「おや、そこにいるのは……継続高校のミカさん、かな?」

 

 ミカ以外の女性の声が耳に通り、白井がはっと目を横にやる。

 ショートヘアの、鋭い目つきをした女性が、いつの間にか白井とミカの真横に

立っていた。

「おや、あなたは……」

「この前の試合では、大いに助かりました。黒森峰女学園の代表として、心より

お礼をさせてください」

 頭を下げる。

 知っている。

 戦車道に疎い自分でも、この人は知っている。

「あなたは……西住まほさんですね? ど、どうも」

 まず、まほをまとっている空気だの存在感だのが、白井とは段違いだった。

 「あの」西住流の後継者として名高い、西住まほが自分の目ん玉の内に

入っているとなると、もはや蛇に睨まれた蛙でしかなくなってしまう。

「君は……」

「ああ、彼は私の旅行の付添い人だよ」

「継続高校一年、白井といいます」

 まほが「ほう」と頷き、

「恋人同士かと思いました」

 白井とミカが、

「違うんですよねえ」

「ただの同行者さ」

 その通りだが、「まだ」ミカの域には達していないんだなあと白井は

痛感する。メシを奢るだけでは、まだまだということか。

「なるほど――では、同席させてもらってもよろしいですか?」

「構わないよ。食事は多い方がおいしくなる」

 白井も、同意するように頷く。まほは「失礼します」とミカの隣の席に

腰を下ろす。

 服装は黒いカジュアルジャケットにデニム、とても似合っている。

「それにしても、旅行ですか。とても羨ましい」

「やろうとすれば、あっさり出来るものだよ。最悪な結果には、意外と

転ばないものさ」

 なるほど、とまほは頷く。そして注文ボタンを押して店員を呼び、

「特盛チキンカツカレーで」

「かしこまりました」

 白井とミカが、「え」とまほに目をやる。まほは「え、何」といった

調子で目を泳がせている。

 

 三人分の注文が届くまで待機し(まほが羨ましそうにミカのカレーを

見つめていた為)、最後にまほのカレーが到着すれば、白井とミカとまほが手を合わせて

「いただきます」と宣言する。

 その後はカレーを食いながら黒森峰学園艦の凄さを述べたり、ミカが相手を

選ばない言い回しで映画の感想を喋ったりと、西住流の後継者相手とは

思えない雑談っぷりを繰り広げていた。

 ――だが結局は、戦車道の話に軟着陸する。ミカとまほは生粋の戦車道

履修者であって、心の底から戦車道を信じ、愛している同志のような

ものだ。

 ここはひとつ、ガールズトークに付き合おうといった感じで、白井が

ミカとまほの話をほうほうと聞いている。

 継続高校の強さは何か、黒森峰女学園の戦力が羨ましい、ミカの

戦い方は是非見習いたい、黒森峰女学園の戦車を貸して欲しい、今度また

継続高校と練習試合したい、黒森峰女学園の戦車に今度乗せて欲しい――

 互いが互いを肯定し、称えあい、決して否定しない。

 戦車道とは武であり、礼であり、争う為の手段ではない。だからこそ

ミカとまほはライバル同士でありながら楽しく語り合い、知識を

拝聴したがっている。

 西住流とか、信念とか、色々な動機があるだろうが、結局は

「好き」だから戦車道を歩めるのだろう。仕方がないという気分のままで

火をつけても、風が吹けばあっさりと消えてしまうはずだ。

 ミカとまほの言葉に頷きながら、黙ってカレーを食っている白井を

察したのだろう。まほが「す、すまない」と焦るように謝罪する。

「ああいえいえ、俺のことは気にせず」

「いやいや、旅行の同行者をそっちのけで話すなんて……」

 そんなそんなと、白井はなんともない顔をして手のひらをつくる。

「白井君は、学校では何を?」

「えげっ……そ、それは、」

 妙な声が出る。戦車道一筋の人から、一番苦手な質問が飛んでくる。

「ああ。彼は、それを見つける為に旅行をしているのさ」

「ほう」

「彼はまだ十六、どうやって生きるかを考える年頃さ。だが彼は空虚に

生きることなく、何かを見つけようと、こうして両足を

動かしている――それは、とても立派なことじゃないかな?」

 まほが、「確かに」と頷く。カレーを食う。

「ミカ先輩はこうしてフォローしてくれていますが、実際は単なる

暇な奴なんです。最低限、失礼が無いように生きるだけの無趣味

野郎です」

 言い切り、誤魔化すように水を飲む。しかしまほは、そんな

白井のことを決して否定したりはせず、

「……いや、それはとても立派な生き方じゃないかな?」

「そ、そすか?」

 褒められて、思わず口調が砕けてしまった。

 いかんいかんと、首を振るう。

「礼儀を忘れない、それは誠実さや恥を知っているからこその

生き方だ」

「――単に、怒られるのが嫌なだけですよ」

「それも大事な感覚だ。――あと、無趣味といったな? それも大丈夫、

私も『遊び』に目覚めるまで大分時間がかかった」

 白井が「へえ」と軽く返事をする。

「目が覚めれば勉強、そして戦車道。休暇といえばジョギングに

戦車道の予習と……まあ、戦車道向けの人生をしていたわけだ」

 そこで、まほが使用済みの映画のチケットを取り出した。

「全国大会も終わって、大学選抜チームとの試合も勝利して……

なんだろうな、少し気が抜けてな。しばらくは戦車道はいいかなと

思って、何か遊んでみようと考えたわけだ」

 それで映画を見たのか。白井は納得するように、うんうんと首を

振るう。

「他にも音楽を聴いたりしている。そうだな、ジャズとかかな?

音楽はあまり知らないから、なかなかいい気分転換になる」

 なるほどなあと、白井は水を飲む。ミカは「それもいいね」と同意している。

「白井君、君はまだ十六だ。今はまだ何も見いだせなくても、いつか必ず、何かが

したくてしたくてたまらなくなる時期が来る。戦車道のことしか考えられなかった

私も、緊張の糸が切れたというキッカケで、音楽や映画に目覚めたわけだしな」

 なぜ、西住まほが、強豪黒森峰女学園の戦車隊隊長を務められるのかが分かった

気がする。

「君は、それを見つけ出そうと行動にまで移している。若いのに立派じゃないか。

そうした人間には、必ず報いが来る――私が保障しよう」

 この人は、誰かを納得させられる言葉を口にすることが出来る。誰かを安心させられる

顔を表に出せる。

 まるでミカ先輩みたいだ、と思った。

「西住、さん」

 うん、とまほが頷く。

「ありがとうございます。俺、もっともっと人生を歩いてみます」

「そうか」

 まほは、まるで自分のことのようにほっとしてくれた。

 

 ――その後は、特に面倒くさい話題は口にしなかった。特盛カレーを食べあって、ミカが

「少しくれないかい?」とまほにねだり、まほが「ダメだ」と火花を散らす。

 戦車隊隊長とは思えない等身大のやりとりに、白井は心から笑う。

 

 完食後にまほと別れ、「旅行といったらこれだろ」的なノリでキャンプ場に赴き、

テントを張って、カンテレの音を聴いて寝た。



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後編

「あれ、ここは何処でしたっけ」

 バックパックを背負い、カンテレを片手に、白井は首をかしげながらミカに助けを求める。
 そんな白井に対し、ミカは特に呆れた様子も見せず、一言言うようにカンテレを奏で、

「ここは――そうだね、本土の北の方だね。大分寒くなってきたんじゃないかな」

 ああ、そうか。
 そういえば、そうだった。ミカの言葉を聞いて、不自然なくらい状況を把握する。

「そこまで歩いたんですね。どうなるのかな、俺達」
「さてね。風は無意味な場所へは運ばないが、命までは保障してはくれない」

 まるで、他人事のように語る。

「だが、私たちは暑くても寒くてもそうじゃなくても、流されるがままに歩み、そこで何かを
見つけてきた――今回も、そうなるんじゃないかな」

 その通りだと、白井は頷く。
 何だかんだいって本物の危険地帯は避けてきたつもりだし、多少の困難は技量や力押しで
どうにかしてきたつもりだ。
 ミカが困れば白井が助けて、白井が諦めかければミカが手を差し出して――そんなことを
数年間繰り返してきた。
 相変わらず、あてのない旅を続けている。実家には時折連絡を入れるが、そんな馬鹿息子に
対しても、実家は「あらそう。体に気を付けるのよ? 車には気を付けてね?」と、相変わらず
子ども扱いするのだ。
 家族がいなかったら、旅なんて出来なかったと思う。
 ミカがいなかったら、自分はこうして気持ちよく生きられなかっただろう。

「ミカ先輩」
「……君は、風になる為にすべてを捨ててきたんだろう?」

 白井が、ハテナマーク丸出しの顔をする。

「なら、上下関係なんて無意味だということを、知っているはずだ」

 ああ、そうか。
 白井は、出来る限り笑う。

「ミカ!」
「なんだい?」

 くすりと、これまで通りのミステリアスな笑みを返してくれる。

「これからもよろしく」
「ああ」

 手を取り合う。
 白井の指とミカの指には、白井がプレゼントした安い指輪がはめられていて――

「それじゃあ、歩いていこう。次は何が待ってくれているのだろうね?」



 夢から目を覚ます。

 ミカと出会ってばかりだというのに、随分と都合の良いものを見た。それだけミカのことが

好きで好きで仕方が無くて、こうして気分が良いのは、そうなって欲しいと願っているから

だろう。

 いつかは叶えたいものだ――外から聞こえてくるカンテレの音に導かれるがまま、白井は

テントから這い出る。

 

「起きたのかい? 見てごらん、今日も良い朝だ」

 

 ミカの周りには、カンテレの音に耳を傾けている老若男女の姿があった。

 朝のキャンプ場に、静かな曲調はすこぶる相性が良いのだろう。観客はいいものを聴かせて

貰ったとばかりに、小銭をミカの前に置いていく。

 ミカは、満足そうに「ありがとう」と礼を言い、横顔を白井に向ける。

 

「さて、今日はどの学園艦へ向かおうか」

 

―――

 

 思うに、ミカは直感的な何かが人一倍優れているのだと思う。

 だから、何の脈絡も無く新しい学園艦へ到着しても、ミカと「同じ道」を志す女性と顔を

合わす。

 例えばここ、古き良き日本を限りなく再現した、知波単学園艦の茶屋で団子を食っている際に、

 

「あ、あなたはミカ殿ではありませんか!」

「君は――すまない、誰だったかな?」

 

 眼鏡をかけた女性が、背筋をきりっと伸ばす。こんな綺麗な直立は、久々に見た気がする。

 

「失礼致しましたッ! 私は知波単学園戦車隊の戦車長を務めております、福田といいますッ!」

 

 礼儀正しい敬礼が決まり、黄色く染まった田んぼが風に揺れる。

 身長が小さめでも、その堂々っぷりは白井のふぬけた精神をわし掴みにした。

 

「なるほど。その熱意はとても羨ましい。あまり熱すぎると失敗を招くが、それが無ければ何も

成しえないからね」

 

 ここで手が空いていたらカンテレを奏でていただろうが、残念ながら今のミカは団子を食うのに

忙しいのである。

 黒森峰学園艦での件といい、ミカは食う事がよほど好きなようだ。料理の一つでも

覚えておいた方が良いかもしれない。

 

「ありがとうございますッ! ――おや、その男性の方は……恋人でありますか?」

 

 ミカが「いいや」と首を横に振るい、白井が「残念ながら」と返答する。福田は不思議そうな顔で「そうなのでありますかー」とコメントを残し、

 

「そういえば、ミカ殿は何故ここに?」

「旅行さ」

 

 ミカが緑茶を飲み、皿の上に手を伸ばす。

 しかし何事も有限があるもので、団子はとっくの昔に全て平らげられていた。

 

「……一つ質問、いいかな?」

「なんでありましょう」

 

 ミカが、ちらりと白井を横目で見つめる。

 

「君は、どうして戦車道を学ぶんだい?」

 

 福田はミカを見つめていて、白井は福田をじっと覗っている。

 再び、田んぼが風に揺れる。この茶屋に訪れるまで、歴史ドラマに出てくるような建物を数多く目にした。

 何となく知っている程度の、古いタイプの車やバイクと何度かすれ違ったりもした。

 けして派手ではない雰囲気は、自分がよく知りもしない過去をかなり再現していると思う。

 けして喧騒など期待出来ないこの場所は、風とあまりに馴染み過ぎた。

 

「……そう、ですね。この福田、恥ずかしながら、戦車道を通して理想の自分になろうと考えて

いるのであります」

「ほう」

「凛々しく、強く、堂々と主張が出来る――強い女性を、目指しているのであります」

 

 福田の言葉に、白井が息をつく。

 

「これは秘密にしておいてほしいのでありますが……将来は、戦車道で生計を立てたいと思っております」

 

 つまり、プロになるということだ。

 白井は、福田を心の中で称賛しながらも、地に目を逃す。

 

「なるほどね。君は、私などよりもよほど先を見通しているようだ」

「そ、そんなことは!」

 

 いやいやと、ミカは首を動かす。

 

「私は、流されるがままに生きているに過ぎないからね。――心の底から、君のことを

応援するよ」

 

 間。

 福田は思い切って敬礼をして、

 

「ありがとうございますッ!」

 

 知波単学園艦が、震える。

 

 

 その後、福田は「それでは」と、笑顔とともに去っていく。

 素晴らしい人を見たと、心の底から思う。罪悪感を抱くように、白井は大いにうつむく。

 きっと、ひどい顔をしているに違いない。

 俺は何をやっているんだろう、福田とは大して年の差など無いはずなのに。

 なんて羨ましい、絶対に届きようが無い。あそこまでの熱意なんて俺は抱けない、一つの事柄に

向けて突撃をする福田はあまりに輝きすぎていて、どうしたらあんな風になれるのか俺には

わからない。

 カンテレの音が鳴る。今の俺なんて、ミカには見せられるはずもない。

 

「それでいい」

 

 けれど、ミカは自分の姿を肯定した。

 

「悩む、それは前進への前振りだ。きっと、良いことが起こるよ」 

 

―――

 

「お」

「おや」

 

 大洗学園艦に設けられた公園のベンチに二人揃って腰を下ろし、ミカが弾くカンテレに身を寄せていれば、

じと目の女性がミカにゆらりと近寄ってきた。

 白井は少しビビってしまうが、ミカはなんでもないようにカンテレを奏で続けている。

 

「君は、あのあんこうチームの操縦手」

「おお、そこまで有名になっていたか」

 

 言葉とは裏腹に、ロングヘアーの少女は嬉しさもこれっぽっちも見せない。表情に出さない

タイプなのか、

或いは外野からの評価などどうでも良いと考えるタイプなのだろう。

 

「で、継続高校の隊長がどうした。偵察か、それともデートか?」

「いいや」

「残念ながら」

 

 事実を口にする時ほど、辛いものはない。

 しかし嘘をつけば、ミカに余計な迷惑をかけてしまう。人生とはままならないものだ。

 

「じゃあ偵察なのか。これはいけないな」

「安心したまえ、今回は旅行さ」

「分かった。次回は警戒しておこう」

 

 お互い露骨に表情を出さないタイプだからか、互角に競り合っているように見える。

 操縦手――ということは、戦車道に関わる人物なのだろう。やはりミカは、戦車道にまつわる

ものなら好きなように引き寄せてしまうらしい。

 

「しかし、旅行か。そんなの数年も行っていないな」

「なら、してみるといい。足を動かせば、何かを得られることもあるし、何も見つけられなかったという

結果も受け止めることが出来る」

 

 何も見つけられなかった、という単語に白井がどきりとする。

 そんな心中を読まれたのかは定かではないが、じと目の女性と白井の目が合う。

 

「……ま、いいさ。この大洗を好きに楽しむがいい」

 

 もう興味はないとばかりに、堂々とミカに背を向け、

 

「待った。一つ、質問していいかい?」

「何だ」

 

 女性は振り向かない。

 

「なぜ、君は戦車道を歩むのかな?」

 

 ミカが、一瞬だけ白井を見た。

 女性が、面倒くさそうに「そうだなあ」とぼやく。

 そうして数秒もしないうちにミカへ振り返り、相変わらずの無表情を露わにしたままで、

 

「まあ、最初はあれだ。個人的な失敗を取り消してもらうために、戦車道履修者となった」

 

 何それ、とは聞けなかった。

 この女性、身なりは無気力そうに見えるのだが、ミカの言葉を平然と受け止め、

ミカの目を平気な顔して射抜いている。

 間違いなく、この女性は戦車道を望んで歩んでいる。

 

「後は……そうだな。あれだな」

 

 ため息をつく。

 

「何だかんだいって、友人と一緒に、何かに必死になるのは楽しいからかな」

 

 言い終えて、ばつが悪そうに顔を歪める。

 

「今の、誰にも言うなよ」

「もちろん」

 

 カンテレの音が鳴る。そこに、意図は読めない。

 

「絶対に言うなよ。ああ恥ずかしい、なんでこんなこと言ったんだか……」

 

 そのまま、女性はとぼとぼと姿を消していった。

 後悔はしていたが、言葉そのものを否定はしなかった。

 

「友情を育む為、か。それはいいものだね」

 

 にこりと、ミカが白井に笑いかける。

 ――自分にも友人はいるが、あくまで雑談をしたり、食ったり飲んだりする関係に過ぎない。

 ここまで生きておいて、一生懸命になったことなど一度も無い事実を前に、白井は舌打ちする。

 

「焦る必要はないさ。君は、きっかけがあれば動けるような男だ」

 

 けれども、ミカは白井の歪みなど気にもしていない様子で、

 

「何も無い分だけ、懐は広いものさ」

 

 

―――

 

 ミカの言葉は信じるが、その説得力が自分自身に存在しない。

 たった十六年の人生経験から、白井は未だ「きっかけ」を掴めずにいた。そのはず、だった。

 

「ここは……」

「聖グロリアーナ女学院学園艦さ。どうかな?」

 

 黒森峰の大都会を前にしても、知波単学園の風情を目の当たりにしても、大洗ののどかさを

実感しても、白井は何がしかの躓きが拭えなかった。

 

「ここは……本当に、本当に日本なんですか?」

「ああ」

 

 化け物に囲まれたかのように、白井はうろたえる。理想郷を描いた絵からそのまま飛び出して

きたような街並みを前にして、白井は男としての興奮が収まらない。

 色とりどりのバスが道路を走り、それに交じって戦車が、聖グロリアーナ女学院学園艦の一部が、白井を横切った。

 路地裏なんて目にしようものなら、もう目の逃げ場は無い。洋風の建物と建物が、一筋の道を

挟んで整列しきっている。たぶん、そこに歩もうものなら二度と学園艦からは出られなく

なるだろう。

 テレビで、海外の街並みなど何度も目にしたはずなのに。

 ここは日本であって、あくまで外国風であるはずなのに。

 白井は、新しいテーマパークに足を踏み入れた子供になっていた。

 

「喜んでいるようだね」

「あ! い、いや、その」

「別にいい。この街並みは、完成されているからね」

 

 はしゃぐ子供を見守る母のように、ミカの口元が曲がっていた。

 

「そう思います。すげえ、こんな世界があるなんて……」

「世界は広いからね」

 

 見上げる。

 継続学園艦では見受けられなかった非現実感が、強すぎる好奇心が、白井の中で膨張する。

 

「ここは見るものが多い。博物館、劇場、可能な限り再現された城……さあ、好きなように

歩むといい。ここには、君にとってのキッカケがあるはずだ」

「わ、分かりました!」

 

 そうして、目についた観光所は次々と訪問した。劇場で聖グロリアーナオリジナルの劇を

目で追いかけ、拍手喝采。博物館で伝説の選手が使ったとされる戦車や、歴代の戦車道履修者が

愛用したとされるカップ、懐中時計、精巧に再現された選手の蝋人形――ぶっちゃけ、一日で

コンプリート出来る量ではない。

 戦車道の強豪校というだけであって、伝統や過去は強固に守られているらしい。戦車道には

詳しくはない身であるが、あの博物館には強すぎるくらい心を揺さぶられた。

 

 ただ歩いている時間でも、白井はけして調和を崩さない建物の波に飲まれていた。

 ――何となく、思う。

 自分が考えた建物が、あの中に混ざったらどんなに嬉しいだろうかと。どれほどまでの優越感が芽生えるのだろうかと。

 博物館だってそうだ。伝説の時を停める為に建築された、あの宮殿めいたデザインには心底

盛り上がった。

 それを、自分が担当したら。それを完成させたら――たぶん、感情がめちゃくちゃになって、爆発してこの世から消えてしまうと思う。

 何か巨大なものを作る。それは男としての根源的欲望であり、夢であり、情熱であり、自分の

求めていた道であることを、聖グロリアーナ女学院学園艦の何処かで、自覚していた。

 

「白井君」

 

 はっと、夢から現実へ引き戻される。ミカがいなかったら、きっと聖グロリアーナの世界へ

さらわれていただろう。

 

「凄く、良い目をしているね」

「そ、そうですか?」

「ああ。今まで見た中で、一番だ」

 

 やったね。ミカは、笑顔でそう答えた。

 

「ミカ先輩……」

「いいものを見させてもらったよ。旅行に同行させたかいがあったというものさ」

 

 ミカからの称賛に、白井は照れが隠せない。

 ごまかすように、周囲をくるくると見渡す。

 

「……ずっと思っていたんですが」

「なんだい?」

「ココって、お化け屋敷が多いですね」

 

 ミカの口元が、への字に曲がった。

 

「そうだね。ま、それはそれでいいことさ」

「入ってみません? お化け屋敷なんて数年ぶりですし」

 

 腰を下ろすまでは決して弾かなかったカンテレを、ミカは突っ立ったままで流した。

 

「まるで意味の感じられない選択だね」

「えっ。でもテーマがあって良い感じですよ、聖グロリアーナにまつわる都市伝説を

再現していたり」

「都市伝説なんて興味がないね」

 

 またカンテレが主張する。観光客らしい家族連れが、ミカを注目する。

 ああ、これはもしかして。

 白井は自分の手をつねる。笑いをこらえる為だ。

 

「――怖いんですか?」

「いいや」

「じゃあ、入りませんか? 夏休みフェアということで、入場料も安いですし」

「君の、自分探しの旅とはまるであてはまらない判断だ」

「自分ばっかり見つめても疲れるだけですよ。今は非現実を楽しみましょう」

 

 何だかんだでお化け屋敷の入り口前まで接近するが、ミカはそこで氷漬けになったままで

動こうとはしない。

 

「どうしたんですか?」

「ここで待つよ」

「そうですか……残念です。ミカ先輩と、都市伝説を楽しみたかったのに」

 

 ミカは、ここまで導いてくれた「優しい」先輩だ。

 だから、あえて大げさに落ち込んでみせた。

 

「白井君」

「はい」

「ここからは、風が感じられない」

「そうなんですか……」

 

 密閉空間だから仕方がない。

 

「だから、もしかしたら『君が』道を違えてしまうかもしれない」

「それはいけませんね……」

「だから、私が君の手をつないでおいてやろう。こうすれば、意味の無い消失を迎えることは

無い」

 

 捕まれた。ここまで力強く握られては、拉致と表現しても過言ではない。

 けれど抗議したりはしなかった。他でもないミカとのスキンシップなのだ。喜びすぎて本当に消えてしまいそうだった。

 

「ミカ先輩」

「なんだい」

「俺を守ってくださいね」

「当たり前さ。私は、先輩だからね」

 

 そして、ミカは絶叫することなくお化け屋敷を突破した。頼もしいミカの加護は、白井の左手を真っ赤に変色させる程の力強さがあったことを、ここに書いておく。

 

 

 

「君には失望した」

「そんなこと言わないでくださいよー」

 

 ほら、とジュースを差し出す。ミカはあくまで微笑を浮かばせたままで、ジュースを手早くぶんどってごくごくと飲み干していく。

 

「君の表情を窺わせてもらったが、普通に驚いたり、声を出すだけだったじゃないか」

「普通でしょう、それが」

「泣きそうになったりはしなかったのかい? 君は軍人になった方がいい」

 

 じゃあミカは泣きそうになったのだろうか。

 それを口にすると人間関係が破綻しそうになるので、絶対に言わないでおく。

 

「まあまあ、機嫌を直して。おいしいものでも食べましょうよ」

「……扱いが上手くなったね」

 

 時間が経てば、大抵の怒りや恐怖などは笑い話に成り果てるものだ。

 ミカは、しょうもない後輩を眺めるような感じで、苦笑してくれた。

 

「――あら、そこにいるのは……あの高名なミカ様ではありませんか」

 

 白井が「え」と声に出し、ミカが「うん?」と、声がした方へ目をやる。

 

「ごきげんよう。――デートのお邪魔をしてしまいましたか?」

 

 日本人にはまるで見えない、どこかあどけない雰囲気を醸し出している金髪の女性が、すたすたとミカと白井へ近寄ってきた。

 

「これはデートじゃあないんだ」

「残念ながら」

 

 ミカが余裕そうに、白井が無念そうに。

 

「まあ、そうでしたか……失礼、私はオレンジペコと申します。継続高校出身者である、あなたの名前はしかと耳にしております」

「へえ、私も有名になってしまったものだね。何もしていないのに、おかしなことだ」

「ご謙遜を。大学選抜チームとの試合の際には、見事なご活躍を成されたではありませんか」

「たまたまさ」

 

 やはり、あの奮闘ぶりは、戦車道履修者にとっては見逃せない出来事であったらしい。

 自分もあの技量を手にしたい、あの腕前の持ち主に勝ってみたい――そんな思いが

込められているからこそ、ミカのことが忘れられない者が多いのだろう。

 

「戦車道は実力が如実に表れる、極めて現実的な武芸です。偶然はアテには出来ません」

「そうだったのかい? 知らなかったな」

 

 オレンジペコがふふふと笑い、ミカがくすりと微笑む。

 恐ろしい、口も開けない。

 

「いつか、一緒に試合がしたいものです」

「待っているよ」

 

 お互い、笑みという牙城を絶対に崩さない。自分はといえば、両軍の間に挟まれ、哀れにも

巻き込まれるがままの民草そのものだった。

 

「――ああ、そうだ。試合ついでに、一つ質問をしていいかな」

「どうぞ」

 

 瞬間、白井の表情がぐっと引き締まる。

 また、ミカが自分のことを導いてくれる。

 

「オレンジペコさんは、どうして戦車道を選んだのかな?」

 

 間。

 

「――強く、そして凛々しい女性になりたかった、と言えばどうでしょう」

「良いんじゃないかな。それもまた、戦車道だ」

 

 この言葉に聞き覚えがある。

 知波単学園の、福田という戦車道履修者が言っていた。

 

「けれど、それだけではありません」

 

 白井がまばたきをする。

 

「強い女性らしさを、武を通して学び――強い殿方に、選ばれるに相応しい女性となりたい」

 

 オレンジペコの頬が、少し赤くなる。

 

「愛される資格を持つ、女性になりたいのです」

 

 白井は思った。

 すごくかわいい。

 

「なるほど」

 

 ミカは、納得したように小さく頷いた。

 

「君は、立派な戦車道履修者だね。実に女性らしい」

「ありがとうございます。何故だか、あなたにはここまで話せてしまいますね」

 

 言えて良かったように、オレンジペコが笑顔になる。

 

「――それでは、今度は試合でお会いしましょう。楽しみにしていますよ」

「こちらこそ」

 

 スカートの端をつまみ、頭を下げ、そのまま軽やかにオレンジペコは去っていった。

 ――今日一日のことは、絶対に忘れられないだろう。あまりにも、色々なことがありすぎた。

 

「白井君」

「はい」

「――今日は、とても良い日だと思わないかい?」

 

 心の底から笑えただろう。

 

「はい」

 

―――

 

 何だかんだで、夏休みは終わりを迎えていく。それほどまで、学園艦巡りは長くてあっという間

だった。

 たぶん、人生の中で最高ランクに位置する経験をしてきたと思う。

 何もなかった自分に理想の世界が訪れ、巨大な夢を抱き、そしてミカという女性と出会えた。

 ミカの言う通り、自分は早すぎただけだったのかもしれない。たかが十六しか生きていない若者の分際で、何を悟ったフリをしていたのだろう。

 これからすべてが始まるのだ。

 自分がデザインした家に自分とミカが住み込み、「これが君の夢かい? 上出来じゃないか」とか評価されて。

 建築家として、お疲れの日々を過ごしながらも帰宅すれば、「おかえり」とカンテレの音が迎えてくれる。ミカの幸せは、俺と俺の家が守る。

 学ぼう、働こう。

 実現させる為にはそれしかない。建築家になるなんて間違いなくハードルが高いだろうから、色々と勉強するしかない。

 たぶん、おそらく、絶対に挫けそうになる日が来る。けれども、ミカを幸せにするという野望を

忘れなければ、何とかなってくれるはずだ。

 なぜなら、自分がここまで来れたのも、全てはミカがきっかけだったから。

 ミカがいなければ何も始まらなかったからこそ、自分はミカを中心にモノを考えられる。

 だから――

 

 

「一日バイト、お疲れ様」

「いやー、きつかったっす」

 

 くたくたになりながらも、ミカが座る公園のベンチへ腰を不時着させる。

 ――サンダース大学付属高校学園艦に立ち寄って、最初に言い出したことといえば、

 「一日バイト、していいですか? 社会体験がしたくなって……」だった。

あんまりにも過ぎる唐突な頼みごとに対し、ミカは歓迎するような表情で「意味のある

判断だと思うよ」と許可してくれた。

 

「いやー、ライブ会場建設もラクじゃないですね」

「良い汗をかいたね」

 

 たははと、白井が笑う。一日バイトにしては良い給料を貰えたし、これならプレゼントの一個も

買えるだろう。

 

「おお、そこにいたんだな、白井君」

「ああ、ナオミ先輩」

 

 あっという間にバイト仲間となったナオミが、白井のもとへ駆け寄ってくる。

 

「お……あんたは確か」

 

 この反応も慣れてきた。やっぱりミカは、見逃せない人なんだなと誇らしく思う。

 

「どうも、継続高校の通称ミカだよ」

「初めまして。サンダース大学付属高校のナオミだ」

 

 互いに頭を下げ、歓迎するようにミカがカンテレを鳴らす。

 

「こいつとはさっき知り合ったばかりだが、なかなか良い男じゃないか。継続高校とは

魅力的な人物が多いのかい?」

「その通りさ」

 

 ミカが、にやりと笑う。

 

「俺はそんな、大したタマじゃないですよ」

「そうかな? さっきまで、バイト仲間とアドレスを交換していたじゃないか」

「ココがフレンドリーだからですって」

 

 この学園艦特有の空気なのか、別モノの学園艦出身の白井に対し、「お! 継続高校から

とは珍しいな! あいつらは力強いって聞いたが本当かい!?」と、男どもが歓迎してくれた。

 女性のバイト仲間も、「真面目だねえ! ウチに来なよ! ここの男どもったらさ!」とか

何とか言って肩をばしばし。

 仕事がひと段落済むと、バイト仲間からアドレスを交換しろ今度遊びに行くぜと、好き勝手に

もみくちゃにされた。なるほど、何故金持ち校なのか何となく分かった気がする。

 

「また、手伝ってくれると助かる。君のような人はいつでも歓迎する」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げる。

 そこで、ナオミが「おっと」と声を漏らし、

 

「すまない……お邪魔だったかな?」

「そういうのではないんだ」

「残念ながら」

 

 ナオミが、「へえ」と半笑いで頷く。

 

「学園艦を巡って旅行中でね。ここで最後、後は帰るだけさ」

 

 その言葉を聞いて、残念なような、寂しいような、けれど納得するように、白井は

深呼吸した。

 

「そうか。どうだった?」

「もう、未練はないよ」

「同じく」

 

 ナオミが、「それは良かったな」と親指を立てた。

 

「また休みにでも入ったら、ここに来てくれ」

「ああ」

 

 ミカが、カンテレを鳴らす。

 そして――

 

「私のことを知っていた――ということは、戦車道履修者と考えても?」

「ああ」

「では、一つ質問をさせて欲しい」

 

 さて、

 

「君は、どうして戦車道を志したのかな?」

 

 どんな答えを出してくれるのだろう。

 

「そうか、そうだな……まあ、あれだ。自分の気質に合っていたから、かな?」

「ほう」

「練習すればするだけ、結果が表れる。それも派手な形にね。地味なのはどうも苦手でさ」

 

 確かに、戦車は主砲をぶっ放すわ機銃を連射するわ轟音とともに前進するわで、派手が鉄に

包まれたような乗り物だ。

 それに惹かれて戦車道を始めたとしても、何ら不思議な話ではない。

 

「なるほど。しかし、君はあくまで戦車道履修者として気質を通している、そうだろう?」

「ああ。戦車道は争いの手段ではなく、武と礼を通すための勉学だ」

 

 ミカが、同意するようにカンテレを鳴らす。

 

「いい言葉だね」

「同じ意見だろう?」

「ああ」

 

 やはり、戦車道は全てを教えてくれるのだろう。

 これまで沢山の戦車道履修者と出会ったが、誰もが自分の夢を追い求め、誠実に戦っている。

 きっと、今日もこの世界のどこかで戦車と戦車がぶつかりあっているのだろう。個人的な信念と

譲れない信念が、視線の代わりに主砲を向けて、撃つ――今なら言える。戦車道は素晴らしい。

 そして、それを愛するミカのことが、愛おしい。

 

「――さて、こんな時間か……また会えるといいな」

「ああ。その機会に恵まれるよう、心から祈ろう」

 

 ナオミが「またな」と手を振って立ち去っていく。

 白井も、また会えたらいいなと、ナオミの背を見届ける。

 

「白井君」

「はい」

「人の数だけ、それぞれの戦車道がある。そして、それらはすべて正しい」

「はい」

「だけれど、どうしても正しい道を見いだせない人だっている。そんな時は――迷うといい。

時間をかければかけるほど、道を見つけた時、この道しかないと信じられるようになる。

――君は、その足で自分の答えを探し出そうとして、聖グロリアーナ女学院学園艦で何かを

見つけた。そうだろう?」

「はい」

 

 白井の顔を覗い、小さく頷き、ミカは――小さく微笑んだ。

 

「――いい男になったね、君は」

「ミカ先輩のお陰です」

「そうかい? 私はただ、風に流されるがまま観光しただけさ」

 

 カンテレの音が、夕暮れの空に寄り添う。

 

―――

 

 翌日を迎え、サンダースの大都会っぷりを一通り堪能した後は、待ちに待った昼飯だ。

どうしても出てくる豪勢な食事を前にして、白井とミカはうまいうまいと口にする。

 普段の生活をしていれば、たぶん食えなかったと思う。旅をしていると、食べ物に対しての欲求や飢えが人一倍強くなる。

 歩けば腹が減る、生きているだけで金がかかる。そんな当たり前のことが脳裏に強く焼き付いている今だからこそ、白井とミカは貪欲に、心からうまそうにエネルギッシュな食事を

堪能していた。

 

「まだ食うんですか」

「食事は、無条件に愛しても良いものなのさ」

「愛って金がかかりますよね」

 

 学園艦巡りも、明日で終わる。

 これで旅はおしまい。夏休みが終了し、新学期が始まる。

 それまでは、サンダース特有の陽気さで遊ぶことにした。

 

―――

 

「……あっという間に、継続高校に着いちゃいましたね」

 

 夕日が差し掛かる頃、白井とミカは、グラウンド前で継続高校を懐かしがるように

見つめていた。

 継続高校は、旅行前と何も変わってはいない。出来ればこれからも相変わらずでいて欲しい。

 色々な場所を見てきたつもりだが、やはり、この継続高校こそが自分の母校だった。

 

 風が吹く。思うとここからすべてが始まった気がする。

 あくびをしながら散歩をし、理由もなく継続高校を眺めに行って、そこからカンテレの音に

惹かれてミカと出会った。

 十六も生きてきた男が、たった十六しか歩んでいない若造へ成り代わった瞬間だった。

 ――ミカの横顔を見る。そこに居るのはミステリアスな女性ではなく、清々しく、明るく

微笑する素敵な先輩だった。

 

「先輩」

「ああ」

「長旅だった気がします。実際は、半月ちょいでしたけれど」

「十分さ」

 

 ミカは、まだまだ継続高校を眺めている。

 自分の姿など、これっぽっちも目に映していない。今だけは、それがとてつもなく魅力的に

見える。

 尊敬する先輩が、同じ学校に通っていた現実がたまらない。

 

「――先輩」

 

 感慨深そうなミカの邪魔はしたくはなかったが、ここで動かなければもうチャンスは

無い気がした。

 だから白井は、ポケットから飾り気のない銀色のブレスレットをミカに手渡すのだ。

 

「これ、」

「受け取ってください。一日バイトで稼いだ金だけで買った、あなたへのお礼です」

 

 初めて働き、自分の力で手にしたお金は、力強い魔力すら感じられた。

 初めてという体験は、もう二度と取り戻せない。だからこのお金は、他でもないミカの為

使おうと決心していたのだ。

 

「これは……とても素敵なものだ。これぐらいが、私には似合う」

 

 ミカは、本当に嬉しそうに笑いながら、ブレスレットを腕につけてくれた。

 白井は「それは良かった」と落ちつきぶって、心の中ではプラス的な感情が噴火中だった。

 

「ありがとう。君は――最高の友人だ」

 

 友人。

 その言葉を聞き、心に冷や水がかかる。

 確かに、憧れの人物と交友関係になれたことは、とてつもなく喜ばしい。

 だが、白井個人のゴールは、そこではない。

 

「――ミカ先輩」

「なんだい?」

 

 ごくりと、唾を飲む。ミカもただならぬ気配を察したのか、笑みを沈ませ、白井の顔を

真正面から受け止めていた。

 風が吹く。

 風が応援してくれた。

 だから言う。

 

「ミカ先輩――俺は、俺は、ミカ先輩のことが好きです」

「……ああ」

 

 ミカが、ふたたび口元を緩める。

 

「私も、君という人が好きだよ」

 

 違う。

 

「俺は、ミカ先輩のことが、女性として好きなんです。愛しているんです」

「……え」

 

 初めて、ミカの狼狽する顔というものを見た気がする。

 あれほど恐ろしかったお化け屋敷の中でも、ミカは平然を装っていた。

 ――たぶん、こういうことを言われたことが無いのだろう。

 それは、何となく分かる。ミカは捉えどころがなくて、小手先の言葉など難なく受け流して

自然と周りの人を惹き寄せてしまう。

 そんな人を、愛で独占しようなどと、身の程知らずにも程がある。

 

「俺のことを導いてくれたミカ先輩のことが、優しい言葉を投げかけてくれたミカ先輩のことが、

一緒に旅行をしてくれたミカ先輩のことが、大好きなんです。これからも、一緒に居てください」

 

 何もない頃の自分だったら、口が裂けても言えなかった。

 だが、今なら何を恐れることもなく告白出来る。夢を見つけ、熱意が誕生し、ミカのことを

追いかけてきた自分なら、何の後悔も遠慮も不安も抱くことなく、言える。

 

「……そうか……」

 

 うつむく。自然と調和するように微笑むミカは、そこにはいない。

 

「白井君」

「はい」

 

 白井が、静かに息を吸う。

 

「一つ、質問させて欲しい」

「はい」

「君は、聖グロリアーナで何を見つけたのかな?」

 

 白井が頷く。

 

「はい。俺は、あの学園艦の街並みを見て、その光景に一目惚れしました。――あんな建物を、自分も作ってみたいと、博物館のようなデカい輝きを生み出したいと、そう思いました」

「……そうか。君は、確固たる夢を、自分の力で掴めたんだね」

「ミカ先輩のお陰です」

 

 ミカが、左右に首を振るう。

 

「夢を決めるのは、いつだって自分自身さ。君は、何もないからこそ大きな

目標を見いだせたんだ」

「ありがとうございます」

 

 ミカが優しげに、表情を明るくする。

 白井も、応える為に笑う。

 

「――だからこそ、君の想いには応えられない」

 

 え、

 

「君は、確かに夢を胸に抱いた。その夢は、困難であると知っておきながら」

 

 白井がまたたく。

 

「白井君。私はね、継続高校を卒業したら、旅に出ようと思うんだ」

「旅行、ですか?」

 

 ミカは、否定するように首を横に動かす。

 

「本当の旅さ。学園艦を巡ったり、或いは本土へ歩むかもしれない。高望みするなら、

海外もかな」

 

 ミカはけして笑わない。

 心を射抜くような鋭い目が、白井の全身を貫いている。

 

「いわゆる、世捨て人になろうと思っている。正直、現実世界は少し性に合わなくてね」

 

 声が、やっと出る。

 

「どういう、ことですか」

「なに。情けない話だが、昔、ちょっと『色々な事』があってね。それ以来、人に従ったり、従えたりするのが、心の底から嫌になってしまったんだ」

 

 ミカは、あくまで笑わない。

 

「だから、現実世界で頑張ろうとする君の想いには、応えられない」

「そ、そんな……待ってください。俺は、その、」

 

 ロクな言葉を発せない。そんな白井を見て、ミカは息をつき、

 

「私はね、望まれて継続高校へ入学したわけじゃないんだ」

 

 声を失う。

 

「私は、ちょっと良い家にたまたま生まれてね。それで学習能力も普通にあったから、俗にいう

お嬢様学校へ通わされて」

 

 ミカが、銀のブレスレットをちらりと見る。

 

「そこで、上下関係というものを叩きこまれてね。――それはもう全く楽しくなかったよ。

しかも、高校まで勝手に決められそうになった。ここで初めて反発した」

 

 ブレスレットを、左手で撫でる。

 

「親は凄く驚いてね、その顔は今でも思い出せるよ。で、抗議の結果、晴れて継続高校へ入学

出来た、というわけさ。ここは大らかと聞いたからね」

 

 なんでもないことを語った後のように、ミカはふっと苦笑した。

 

「で、しばらくして勘当を宣言された。まあ両親も真面目な人だから、高校生活を卒業するまでは

お金を出してやる、とか言ってくれてね」

 

 ひどい寒気がする、ミカの言葉全てが脳に突き刺さる。

 

「高校生活も、あと少しで終わる。その時が、旅立ちの始まりさ」

 

 口が間抜けに開いていたと思う、呼吸をしていたと思う。

 

「ま、待って、待ってください……」

「こればかりは変えられない。私は、そういう風にしか生きられない」

「せ、戦車道は、」

 

 ミカが「ああ」と優しげに言い、

 

「継続高校のみんなは、こんな私のことを仲間として受け入れてくれた。戦車道だってそうさ。

困難や喜びを皆で分かち合い、負けたり勝ったりする――本当に、最高だった」

 

 知らなかった。

 

「戦車道は、私に友情というものを教えてくれた。あの狭い戦車の中こそが、私の居場所だった」

 

 ミカはいつだって自分の隣にいたはずなのに、ミカのことをまったく学べていなかった。

 

「そして、みんなは私のことをミカとして受け入れてくれた。それは、思い付きで決めた名前で

あるはずなのにね。……本名なんて、もうこりごりさ」

 

 教えてはくれなかった。

 ミカの、本当の姿を。

 

「この旅行は、本当に楽しかったよ。可能性を見つけ出した君の姿は、とてつもなく輝いている。

こればかりは断言する」

「……ミカ先輩」

 

 歯を食いしばる。

 

「ミカ先輩、お願いします。消えて、いなくならないでください。俺が、俺がなんとかします!

ミカ先輩は俺と一緒に居てください、お金なら何とかします。いつものように、少し遠回りした

言い回しで俺を困らせてください。仕事でクタクタになった俺のことを、カンテレで出迎えて

ください」

 

 感情が滝のように暴発する、プロポーズめいた言葉が勝手に沸いて出てくる。

 

「ミカ先輩は、俺にとって必要な人です。お願いします、いなくならないでください。俺はミカ先輩がいないと、何もできない……」

 

 ミカは、首を横に振った。

 

「君だけ必死に現実と戦って、それに甘える。それは――不義理な話だね」

「じゃ、じゃあ、俺もミカ先輩と旅をしますッ! それでも構いません、ミカ先輩がいれば、」

「意味のないことは、言うものじゃないよ」

 

 白井のわめきが、遮断される。

 

「君の夢は、そう簡単に捨てられるようなものなのかい?」

「そ、それは……ミカ先輩と、比べれば……」

 

 たぶん、心の底から言えたと思う。

 白井の中で、これまでのミカの姿が、大きく膨らんでいく。

 

「いいや、あの目の輝きは本物だった。野望とすら言ってもいい。君は、間違いなく男だよ」

「い、いいえ、ミカ先輩と一緒にいることが、俺の夢です」

 

 そうか、とミカは返事をする。

 

「じゃあ、最後に一つ、質問をしよう」

「は、はい」

 

 青白くなった感情のまま、白井はミカの言葉を待って、

 

「君は、家族を切り捨てられるのかな?」

 

 ――、

 

「旅行は良い、許されるだろう。けれど、何年も旅をするとなると話は全く違う。本当の意味で

自由になるには、過去など切り離さなければならない」

 

 ミカの目は、決して白井を見逃さない。嘘など全て破壊してやると、白井を凝視している。

 

「私はそれでいい、家族なんて今更だ。けれど君はどうだ? 君の家族関係は?」

 

 友人と一緒に旅行をすると報告した時、母は自分のことのように大喜びした。

 喜びすぎだようるさいなあと思っている時、母は車に気を付けてねと、息子の身を案じた。

 適当に返事をしているというのに、母は、息子が旅行先で困らないように、お金を振り込んで

くれた。

 

「悪い、とは言わせないよ」

 

 ――死んだ。

 

「君は、風にはなれない普通の人だ。私も、君のようにはなれない」

 

 銀のブレスレットを、するりと外した。

 

「君は、幸せになりなさい。これは本心からの言葉だよ」

 

 ブレスレットを手渡されそうになった時、白井は無意識か、本能か、それを手で抑えた。

 ――ミカは察してくれたのだろう。再びそれを腕にはめ、白井に背を向ける。

 

「卑怯なことを、一つ言わせてほしい」

 

 返事は出なかった。

 

「君のことは、忘れない」

 

―――

 

 新学期が始まり、白井は未練がましくミカを探し回った。

 ミカの後ろ姿すら見つけられないくせに、周囲の生徒はこう言うのだ。

 

「ああ、ミカ先輩ならあっちへ行ったよ」

「ミカ先輩? グラウンドじゃないかな」

「ミカなら外に出てったよ」

 

 こう、言うのだ。

 結局、ミカとは二度と出会えなかった。卒業式の日ですら、ミカを発見出来なかった。

 最初は、夢なんてどうでも良くなった。ミカはあまりにも大きすぎて、最高に好きになった人だったから。

 このまま逆戻りになっても、それはそれで仕方がないと考えていた。ミカのいない自分など、

何もないに等しいと決めつけていたからだ。

 ――そう、思いたかったのだ。

 このまま夢を追い求めては、ミカを好きになった自分が消えてしまいそうで、ミカとの出会いが思い出になってしまいそうで。

 心の中でミカに縋らなければ、ミカがいなくても大丈夫と思ってしまいそうで。

 

 二年生になったある日、ボロボロになった戦車が継続高校のグラウンドへ帰ってきた。

生徒曰く、

「また負けちゃったか」と。

 戦車を見て、ミカの顔が眼にちらつく。逃げるようにして、戦車から目を逸らし、

 

「十分な戦力があれば、優勝を狙えるのにね。ま、ウチは金がないし」

 

 何気ない同級生の一言が、白井の頭の中に衝撃を食らわせた。

 金があれば、戦力が整えられる。戦力があれば、ミカが成しえなかった優勝を掴める

かもしれない。

 金が無くても、どこも十分に戦えるようになれば、ミカの愛した戦車道がもっともっと世界へ

広まるかもしれない。

 

 ――放課後、白井は書店へ走った。そこで、戦車道に関する書籍を買い漁った。

 

―――

 

 数年後が経過して、背筋が伸びた白井は、今日も「戦車道を広めるには、公平な援助こそ必要」と、日本戦車道連盟の委員相手に堂々と訴えていく。

 もちろん上手く反論する奴もいたし、出来るならやっていると主張する者もいた。そうした意見に対し、白井は「こうすればいい」だの「ああすればいい」だの「その主張に意味はあるの

ですか?」だのと、あくまで自分の意見を貫いていく。

 時折、わざとらしく「意味があるとは思えない」とか言うものだから、多少は顔を覚えられて

しまった。

 ――生まれて初めての、誰かの真似事だ。

 

 今は、継続高校も優勝を狙えるようになった。強豪校は今もなお強豪校として君臨しているが、少なくとも資金不足という悪循環からは多少、抜け出せるようになっている。

 これも、共感してくれる委員が数多く居てくれたからだ。元弱小校出身者が多く、一緒になって援助の必要性を主張した。

 

 ――難しい問題もあったが、白井達の意見は何とか通っている。今となっては戦車道履修者が

増加し、プロリーグも活性化しているのだという。

 

 「もしかしたら」の可能性が広まれば広まるほど、戦車道をやってみたいと、優勝したいと

夢見る若者は多くなる。

 それはとても素晴らしい世界であり、過去の自分が学んだ道でもある。

 建築家になる夢は諦めたが、後悔はしていない。日本戦車道連盟の一員として、白井は今日も熱意をもって意見する。

 

 ――しかし、あくまで仕事人間として生きているつもりでも、

 

「あ、あの、今度、一緒に食事へ行きませんか?」

 

 こうした出来事には、めぐり合うものらしい。

 女性の同僚なのだが、その目はとても鋭く、けして飾らない流れるような長髪をしていて――

 白井は、誘いを流す。

 あの人に似ているが、決して違う。あの人は、こんな風にストレートな表現をしたりはしない。

 

 仕事の渦に飲まれそうになっても、あの人のことは忘れたことはない。

 あの人は、人それぞれの戦車道を教えてくれた。あの人は、自分が歩むべき道を示してくれた。あの人は、これからも戦車道を愛し続けていく。

 だから、自分も戦車道を学んだ。女性の武芸であろうとも、だからこそ、その姿は美しい。

 

 ある者は、誇りの為に、受け継ぐ為に戦車道を歩んだ。

 ある者は、理想の自分になろうとして戦車道を歩んだ。

 ある者は、これからも友情を育もうと戦車道を歩んだ。

 ある者は、愛される資格を得るために戦車道を歩んだ。

 ある者は、自分らしさを表現する為に戦車道を歩んだ。

 あの人は、戦車道を愛しているから、戦車道を歩んだ。

 

 そして、自分は未練とともに戦車道を学んだ。

 夢なんてそれでいいと思う。未練が無くては、夢なんて途方もないものを追いかけることは

できない。

 出会えなくても、語り合えなくとも、戦車道を続ける限り、あの人の世界を守ることが出来る。

 

―――

 

 カンテレを片手に、白井は継続高校のグラウンド前に突っ立っていた。

 相変わらず趣味の幅は狭かったが、カンテレだけはしっかりと習った。疲れた時は、自分で弾いて心を落ち着かせている。

 既に夜遅く、グラウンドには人の気配など全くない。

 久々に休暇を取り、疑似的な夏休みを絶賛満喫中だ。夏休みなんて懐かしいなあと、寂しそうに思う。

 

 さて。

 

 グラウンド前の草むらで、腰を下ろす。時間こそ違うものの、「あの日」には間に合った。

 まだ、自分の気持ちは未練がましいと思う。けれども、それを悪い事とは考えていない。

 これは、失ってはいけない大切な思い出だ――

 だから、夏のこの日で、この場所で、カンテレを弾く。有名な民謡だ。

 最初はぎこちなかったし、失敗を重ねまくったが、今となっては最低限レベルで演奏出来る。

 腕が上達していったと実感した時、自分は大した男だと自画自賛したっけ。

 

 グラウンド前で、かつて何度も耳にした音が体に染みわたる。

 継続高校へ届けるように、音楽を奏でていく。

 

 ――そして、白井の音に、もう一つの音が寄り添った。

 

 白井の表情がぴくりと動くが、演奏は続く。

 白井の音を彩り、時には失敗を無かったことにしてくれた。この継続高校で、かつての母校で、全ての始まりの場所で、音と音が抱き合い、踊る。

 演奏は続く。けれどもいつか、演奏には終わりが訪れる。

 ――でも、それを認めなくちゃ。

 背中の向こう側にいるあの人も、それを心から望んでいるはずだから。

 

 ……静寂が訪れる。継続高校の世界が、元通りになる。

 白井はゆっくりと、ゆっくりと振り向くが、そこには誰もいない。

 けれども、背中は確かに温まっていた。背中越しで、あの人が一緒になって演奏をしてくれた。

 

 気のせいかもしれない。

 だけれど、草むらに目をやってみれば、白井の不安などは泡となって消えるのだ。

 

「……来てくれたんですね」

 

 かつて、あの人にプレゼントしたものと同じデザインをした、金のブレスレット。

 特盛チキンカツカレー分、と書かれた封筒。

 あの人は、本当に、貸しを作るのが嫌いなんだなあと思う。

 金のブレスレットを腕にはめ、封筒を懐にしまい、カンテレを片手によいしょと立ち上がる。

 

「……ミカ先輩」

 

 誰もいない。けれども、あの人は確かに居る、見てくれている。

 だから、これからも現実世界で生き抜いて、普通に恋をして、普通に幸せになろう。

 だから、今日は風呂に入って、飯を食って、泣いて寝よう。

 

「あなたと出会えて、本当に良かったです」

 

 愛情に育まれ、夢に飢えた自分は、所詮は普通の人だった。

 風の付添い人には、なれなかったのだ。

 ――けれど、

 ――けれど、今でもミカ先輩のことが、

 

「今まで、本当にありがとうございました!」

 

 

 大好きです。

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
こうした話を書いて、あとがきってどう書けば良いのだろうと、本気で悩んでいます。

幸せな話を書いて、今度は失恋が描きたくなって、それにミカが合いすぎました。
最初はどうしようかと思いましたが、こうして文章にさせていただきました。

ご意見、ご感想、いつでもお待ちしています。

最後に、
ガルパンはいいぞ。
ミカは素敵だぞ。


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