ToLOVEる~変わりゆく運命と恋~ (叶夢望)
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プロローグ

はじめまして叶夢望です。
文才がないのでお手柔らかに批判や感想をお願いします。


西暦20XX年、どこかにある宇宙で戦争が起こっていた。

大勢の大型宇宙船がたったの一隻の小型宇宙船を攻撃していた。

 

「撃て撃てー!奴を滅ぼせー!」

 

レーザー光線をどんどん交わしていく小型宇宙船だが、敵が大勢いるため撃墜は時間の問題である。

 

「奴を滅ぼせば私たちもあの姫に近づけるチャンスだ」

 

戦争の理由としてはどうしようもないのだが、小型宇宙船に乗っている人物が宇宙一の美貌をもつ女の娘であり、過去の戦争で伝説を作った偉業をもつ王の娘でもあった。

その彼女を手にいれようと多数の宇宙人や亜人などが襲いかかるのだったが、彼女を守る彼が邪魔でしかない。

そんな彼はとある宇宙一の殺し屋を手懐け、さらには彼女の二人の妹らが一致団結し、彼を守り続けてきた。

そんな彼が憎い、恨めしい、腹立たしいと宇宙人らはお互いに手を組み合い、彼を滅ぼさんとしていた。

それも今日でおしまいだ。

なぜなら策を練りに練って大勢の手数で何もできずにいる彼を囲んでいるのだから。

 

「やい!結城リト!今度こそぶっつぶす!」

 

小型宇宙船に乗っている筈の人物の名を叫んだ。

その人物こそが宇宙の覇者であり、宇宙一美しい姫君を妻とする彼を名を叫んだ。

すると、小型宇宙船から宇宙服を着た結城リトと呼ばれる青年が現れた。

その青年はスラリとした体型で力が強く見えなく弱そうで、頭も小さく知能も低いと見られる種族でなんの取り柄もない青年の姿に憤りを感じる宇宙人。

なぜあんな冴えない青年風情が、弱小の種族が宇宙でかなり有名な姫と結婚できたのか到底理解できないのである。

 

「俺が結城リトだ!ララ・サタリン・デビルークの夫だ」

 

青年は叫んだ。

彼もこの戦争が起こった理由を知らない訳は無いが、ララと結婚した事は後悔していないし、これからもするつもりもない。

ララと呼ばれる姫と生涯生きぬくと、ララを守り続けると、ララを愛し続けると誓ったのだから。

だけど、そのララをどうしても守りきれない事態になった。

 

「へへへ、そうか。死ぬ前に言い残す事はないか?」

 

いつの間にか増援が増え、敵戦艦が数十隻となり絶対絶命になっていた。

結城リトも自分の人生がこれまでかとあきらめていた。

目に浮かぶは両親の顔や妹の顔、高校生活で過ごした数々のトラブルめいた日常・・そして、ララとの結婚。

どれもこれもがキラキラとした宝物だった。

それもこれもララが近くにいたから楽しかったし、ララも結城リトがいたから楽しかったと思えるのだろう。

だからたったの一言。

 

「ララ!大好きだぁ!!!」

 

その一言が、どんな言葉の数よりも意味も質も大きく変わるのだから。

 

「あぁ、そうか。なら死ね」

 

ドォンと銃声と共に結城リトの肉体は木っ端みじんとなり、一つの命が失った。

それを確認した大勢の宇宙船は即座に消え失せて、小型宇宙船のみが宇宙に浮遊していた。

そんな宇宙船からもう一つの影が現れた。

 

「リト・・・リトの居ない世界なんかいらない。バイバイ・・・リト」

 

その影は手のひらサイズに収まる謎の機械のスイッチを押し、世界を構築していた。

 

「このメカは私が作ってね・・世界をやり直すの。いつまで戻るのか知らないけど・・それでも私、リトに逢いにくるから」

 

世界は謎のメカにより構築されていく。が、その影が作るメカの大半は失敗ばかりで禄に成功した試しがない。だけど、奇跡が起こった。

世界が戻っていく感じがする。

理屈じゃない。ただそうなっているんだと理解できた。

 

「えへへ。やっと成功できたよ?リト・・やっと妻らしいこと出来たのかな?」

 

その顔に涙が流れたが晴れやかな笑顔だった。

ララの笑顔が好きなリトへの贈り物だった。

だけど、そのリトは存在しない。

だけど、だけど、また逢えるのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

時は遡っていた。

世界は結城リトが死ぬ数年前まで遡っていた。

そんな結城リトは自宅の自室で気持ち良さそうに寝ていた。

 

「うぅ~ん・・」

 

結城リトは寝苦しそうに何度か寝返りをし、また気持ち良さそうに寝ていた。

そんな彼を怒った表情を浮かべていた彼の妹である結城美柑がエプロン姿でオタマを持ちながら彼を起こしていた。

 

「こぉらリト。今日から高校生でしょ?遅刻したらダメでしょ」

「うぅ~ん・・」

「まったく・・」

 

なかなか起きない兄に愛想をつかせつつ、身体をゆさゆさと揺らし、兄の覚醒を待つ。

すると、あくびを噛みしめつつ、背伸びをして美柑を眠り眼で見つめた。

 

「んぁ?あぁ、美柑か。なんか変な夢見たんだよなぁ」

「ふぅん。どうせ女の子の夢でしょ?」

「んな!そ、そんな訳ない!なんだか、こう・・なんだっけ?」

 

変な夢を見たという割には夢の内容を忘れる事は多々あるのだが、こうもどうしても忘れてはいけない重大な事を忘れてしまっている気持ちになる結城リトだが、たかだか夢だし、気にしないでいた。

 

「そんな事より、リコねぇが待っているよ?リトはまだか、って」

 

美柑から『リコねぇ』という名を聞いた結城リトは脳をフル回転した。だけどその人物は一切知らない。

 

「リコねぇ?誰だ?」

「ちょっと寝ぼけないでよ!ほら、さっさと顔洗ってご飯食べて支度する!」

 

ずいずいと美柑から背を押され、リビングへと向かう結城リトは目を疑った。

美柑が作ったであろう色とりどりの料理がズラリと並んでいた。

だが、それはいつも通りの事で結城家の常識であった。

だけど、そこに知らない美少女が我が家の飯を堪能していたのだ。

 

「やぁ、美柑ちゃん。おはよう。ごちそうになるよ。今日はごめんね」

「いえいえ、リコねぇの両親が急に仕事が忙しくなったからって一人なんでしょ?心配なんだよ?」

「ふふふ。優しいねぇ、美柑ちゃん」

 

リコねぇと呼ばれる彼女は自分と同じオレンジ色の髪のショートカットで顔立ちも非常に整っており、まさに美少女と呼べるものだ。さらに、その大きなバストに目が釘付けになってしまった。

腰もキュッとしまって、まさに出ているところは出て、引っ込む所は引っ込む、という訳だ。

 

「だ、誰だ!お前!」

 

だがそんな彼女の姿はどうでもいい。

なぜ知らない彼女がいるのだろうか?いつから美柑から信頼され『リコねぇ』などと呼ばれる筋合いがあるのだろうか?

 

「オイオイ、親友に誰だお前、だなんて寂しい事言うなよ。泣いちゃうぞ?」

 

彼女はニコニコして悲しむ表情は浮かばないが、なぜだか結城リトをバカにしているようにしか見えない。

 

「そうよ!リコねぇに謝ってよ!」

 

結城美柑も怒った表情を浮かべて結城リトに詰め寄る。

なぜ自分だけが責められるのだろうか?

だけど、これ以上妹の機嫌を損なう訳にもいかないので、素直に謝った。

 

「ふふふ。よろしい」

 

彼女はニッコリと笑って許してくれた。

その笑顔にドキッと胸の鼓動を大きく打った結城リトは顔を赤らめせてそっぽを向いた。

 

「さて、さっさと食べようか?愛しい我らが美柑ちゃんの手料理を、ね?」

「ちょ、ちょっとリコねぇってば!恥ずかしいでしょ」

「・・・」

 

仲が良い二人を見る結城リトは奇妙な違和感を残しつつ、食事を済ませ、結城リトは一足先に学校へと向かっていった。

だが、後ろからダダダッと大きな足音を鳴らし、結城リトを追い抜き『リコねぇ』と呼ばれた彼女が近寄ってきた。

 

「オイオイ、親友を置いていくなんて寂しいじゃないか」

 

誰と誰が親友かと言いそうだったが、そっと胸にしまい『リコねぇ』の情報を聞き出す事にした。

 

「・・オイオイ、目がマジじゃないか?本当にボクの事を忘れたのかい?親友で親戚じゃないか」

「えぇ!?し、親戚?!キミと俺が?!」

「・・記憶喪失なのか?病院に行った方がいいんじゃないのかな?」

 

結城リトは記憶喪失ではない。

なぜならば両親の事も妹の結城美柑の事もそして自分の事も事細かに覚えているのだから。

結城リトは昨日までの出来事を『リコねぇ』に正直に話し、それを『リコねぇ』は相槌を打ち理解していた。

 

「なるほどね。話をまとめると昨日までは結城家の近くに夕崎という親戚は居ないし、ボクの名字である『夕崎』というのも記憶が無い、と」

「あ、あぁ。そうなんだ!信じてくれ!」

 

結城リトは必死に懇願して彼女に説得していく。

そんな彼を見て深く溜息を吐き、笑顔を浮かびながら『リコねぇ』は結城リトの肩をポンと叩いた。

 

「ああ分かった。信じるよ、リト。どうやら本当らしいね。改めて名を名乗ろう、ボクの名は夕崎梨子。今まで通りにリコと読んで欲しいのだが・・頼めるかな?」

「あ、ああ、分かったよリコ。知っていると思うけど俺は結城リト。俺からだとはじめましてになるけど」

 

結城リトと夕崎梨子は固く握手し、お互いを確認した。

ーーリトとリコとの奇妙な出会いは新たなる未来への道へと導かれるのだろう、結城リトのいくつものある未来の一つがーー

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょこまかと修正すみません


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第一話

続けての投稿です


結城リトと夕崎梨子ととの出会いから数日が経ったある日、結城リトは自宅にあるアルバムや妹の結城美柑の話を聞いて夕崎梨子の正体が分かった。

どうやら夕崎梨子の話は本当のようで、結城家の親戚で小さい頃からの付きあいでいつも結城リトや結城美柑と三人で泥まみれになってでも遊びつくしていたというのだ。

しかし、だがしかし、結城リトにはそんな記憶は全くない、経験すらしていない。

だけど、だからといって彼女を突き放す訳にもいかない。

ーーだから

 

「もう一度友達になってくれ。リコ」

 

彼女との仲をやり直す。今からでも遅くはない。知らぬ存じぬでは彼女には悪いのだろう。だからケジメをつけなければならない。

 

「ああ、分かったよ。よろしく、リト」

 

彼女は彼の欲求を快く受け、固く握手を交わす。

だが、彼は顔を真っ赤にさせ、そっぽを向かせた。

 

「ご、ごごご、ごめん、なんか、急に触っちゃって!」

「ふふふ。その反応、久しぶりに見たなぁ-。」

 

実は結城リトは、女の子に非常に免疫がない。

水着アイドルの写真を見ると顔を真っ赤になるという非常にシャイでウブな男だ。

 

「ま、思春期だし、当然だけど、彼女なんか出来たら大変だと思うよ?どうにかならないのかい?」

「か、か、かかかか彼女!?」

 

結城リトの頭からボンッと煙が出た。彼の脳裏に密かの想い人、西連寺春菜と呼ばれる彼女が過ぎった。

そんな彼女に惚れた理由は自分を信用し、信頼し、頼ってくれた。ただそれだけ、否、その理由で充分と結城リトは心に決めていた。

 

「オイオイ、挙動不審だね。まさかとは思うが、リトに好きな子がいるのかい?ボクで良ければ協力するよ」

「い、いや!いないから!ホントにいないから!」

「・・ふふ。そういうことにしておくよ。今は、ね」

 

夕崎梨子は邪の笑みを浮かべ結城リトを見つめるが、結城リトはポーカーフェイスが出来ないので顔を反らすしかないのだ。

 

「それはそうと、ボクには慣れたかい?」

「う、う~ん、ま、まだかなぁ?だけど、リコはなんだか赤の他人とは思えないし、友達なんだけど、う~ん、美柑といるみたいでそこに居るのは当たり前な・・妹?みたいな・・」

「へぇ、なるほど。要するにボクはリトの妹だと?」

「へ?!いやいや!ものの例えで!」

「ふふ、リトお兄ちゃんったらシスコンなのかい?」

「おおお、おお、お兄ちゃんって言うなー!!あとシスコンも!」

 

結城リトの顔は真っ赤になり無我夢中で何処かへと消え去っていった。そんな結城リトをニコニコとした笑顔で夕崎梨子は見送った。

 

「ふふふ。からかいがあるねぇ。それこそリトだよ」

 

ポツリと独り言をこぼし、夕崎梨子は学校へと向かっていき、通学路を一人でとぼとぼと歩いていくと一人の興奮気味の男子高校生が夕崎梨子に近づいてきた。

 

「おはよーー!リコちゃん!」

「やぁ、サルくん。おはよう」

 

夕崎梨子に話しかけた男子高校生の名は猿山ケンイチで、顔が猿に似ているし名字も猿山だからと彼女は親しみを込めて『サルくん』と呼んでいた。

その猿山ケンイチは密かに夕崎梨子に片思いしているのだが、なかなか告白も出来ず友達として仲良くしている。

 

「あれ?リトは?遅刻なのか?」

「いや、リトは先程学校へと急いでいたよ」

「んだよ。リコちゃんを一人にして危ないだろ!もう」

「ふふふ。自分の身は自分で守るよ。こう見えてもそこそこ強いんだ」

「くぅー!勇ましいなぁー!リコちゃんは!その勇ましさをリトの奴に分けてくれ!」

 

他愛のない世間話が彼にとっての幸せであった。もし万が一告白でもして失恋でもしたらこの関係が崩れるかもしれない、だけど、それでも彼女をモノにしたい猿山ケンイチはその心に静かに燃える恋心が滾っていた。

今だ、誰も居ないから告白するチャンスは、と。

でも、もし断れたら、しかし、告白したいと心が揺さぶり、結局告白出来ないのである。

 

「あ、そうだリコちゃん。借りてたBlu-ray返すわ」

「無駄に発音がいいねサルくん」

「はっ、姫さまにお褒めに預かり恐縮であります」

「ふふふ。豊臣秀吉じゃあるまいし、天下獲ったらダメだよ?」

「あはは。それはどうでしょう姫さま・・はっ!このままじゃ姫が裏切られるじゃん!明智光秀となんやかんやあって!」

「へぇ、よく勉強しているね。フワフワしてるけど。というか、ボクは織田信長じゃないんだが」

 

いつの間にか勉強の話になるも全部夕崎梨子のおかげだ。猿山ケンイチはあまり頭がいいとは言えないが、夕崎梨子の存在があってたまに勉強会を催し一緒に勉強をしていたおかげでそこそこ学力が上がった。

夕崎梨子が猿山ケンイチの人生を大きく変えたと言っても過言ではないだろうーーだから

 

(俺、やっぱリコちゃんが大好きだ。本気で) 

 

尊敬と好意が胸にいっぱいにつまった。以前の彼ならば所構わずナンパのように告白するのだろうが、その程度の告白では彼女を手に入れることなんて出来ないのだろう。

 

(いつか、いつか、絶対に告白すんだ)

 

彼はキッと空を見上げ誰かに誓うように、そしてそれを成し遂げる為に、彼は今も戦い続ける。自分の大きな恋心に・・かけがえのない彼女の為にーー。

 

「ふふふ。サルくん、今何かを決心したみたいだけど、何を決心したのかい?」

「な!?なな、ななな、なんでもねーよ!」

 

猿山ケンイチは顔を真っ赤にさせ結城リトのように何処かへと消え去っていった。

 

「ふぅん。ならいいんだけどね」

 

彼を満面の笑みで見送り更に歩を進めていく夕崎梨子であった。

 

ーーーーーーーーーー

学校が始まり、とある体育の授業日。

結城リトと夕崎梨子、猿山ケンイチが同じクラスとなっており、いつもは三人とよくつるんでクラスメイトの認識では仲良し三人組として認知されていた。

そんな彼らとクラスメイトらは体操服を着てグラウンドへと向かっていった。

 

「オイオイ、このご時世にブルマとかヤバくないかい?」

 

体操服にブルマ姿の夕崎梨子はブルマをかなり意識していた。

 

「え、ええ、そうね。ちょっと恥ずかしいかな?」

 

彼女の親友であり結城リトの想い人である西連寺春菜が頬を赤らめ恥ずかしいそうに俯いていた。

そんな彼女らを遠目で見つめていた二人の狼ーー結城リトと猿山ケンイチが顔を赤らめていた。

想い人が体操服というだけで可愛く、愛しく、なんて綺麗なんだろうと思うのだろう。

それもこれもこの高校に来たからで、彼女らも入学してきたのだから奇跡としか言えないのだろう。

 

「リト、俺さ、この学校に来てホントに良かった!」

「う、うん、実は俺もそう思っていたとこ・・」

 

恋する者達は常に仲間となり敵にもなるのだが彼らは互いに好きな者が違うので彼らは仲間となっていた。

結城リトは西連寺春菜を、猿山ケンイチは夕崎梨子をと恋しているのだから。

 

「負けねぇぜリト!俺はいつか絶対にやってやる」

「お、お、俺だって!」

 

すでにやる気満々の猿山ケンイチだったが、結城リトは自分に自信がない様子だった。

確かに西連寺春菜の事が好きなのだが、彼女は自分の事をどう思っているのだろうか?実はこれっぽっちも気に留めていないのではないのだろうか?

彼女ととは同じクラスメイトではあるが挨拶程度の事をたまにするかしないかくらいの頻度で接していた。

だが、猿山ケンイチだけは違う。

夕崎梨子が言うにはどうやら猿山ケンイチととも幼なじみなので小さい頃からずっといるのだそうだ。

しかも、親戚でもなんでもないのだから、うまくいけば結婚という可能性も低くはない。

 

(俺に出来るのか?告白・・そもそもそこまでどうやって進めていくんだ?)

 

いつしか弱気になっていき、落ち込んでいた。

そんな彼を見た猿山ケンイチは結城リトの肩をポンと叩きニッコリとした笑顔を浮かべた。

 

「なにションボリしてんだよ。まだフラれてもないのにそんな顔すんなよ」

「・・猿山」

「大丈夫!なんかあれば俺も協力する!ただし、俺の方もフォローしろよな!」

 

かつてもない喜びに、ほんの少し感動してしまった結城リトは目をこすりながらキリッとした表情を浮かべ不安を取り消した。否、猿山ケンイチが取り消してくれた。

親友の言葉がこれほどにでも勇気をくれるのだろうか、元気をくれるだろうか、根性をくれるのだろうか。 

やはり持つものは親友なのだろう。

 

「ああ!もうどうとでもなれだ!」

「すっげぇ投げやりになったけど、まぁいいか」

 

そんな彼らの友情は深まった。今までよりも、親友でもあり、恋の好敵手でもあり、何よりも彼らは

 

「「やってやるぜ!」」

 

ただの恋する男子高校生なのだから。

 




誤字脱字報告お願いします


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第二話

ララ登場回です。


学校が終わり、結城リトは我が家へと帰っていた。

結城美柑が作ってくれた夕食を夕崎梨子と三人で食べ、夕崎梨子が帰ると言うので見送り、風呂へと向かっていった。

脱衣所で全ての服を脱ぎ、程良い温かさの湯を被り身体や頭を洗い湯船へとゆっくりと浸かる。

 

「ふぅぅ~」

 

オヤジくさく自然に声が出てしまうが、これはどうしようもない。

今日は猿山ケンイチの話を聞いて張り切って体育の授業で精一杯身体を動かしたからなのだ。

今まで通りでは意中の西連寺春菜は振り向かないからとせめてもの授業は頑張る事にしたが、いきなりそうはいかないので身体中がガタガタだ。

 

「う~ん・・やっぱ、少しずつ仲良くなるしかないのかなぁ?」

 

ポツリと独り言を言うのだが、誰も答えてくれない。だけど、その誰かが答えを言ったとしてもその通りにする義理もない。

 

「やっぱり俺が、この手でなんとかするんだ。猿山や他の誰かに頼らず自分自身で」

 

猿山ケンイチだって意中の相手によく雑談するような仲になれたのだから自分だってやれない事もないのだろう。

 

「その為には、いったん落ち着いて行動しよう」

 

結城リトは湯船にゆったりと身体を預け、目を閉じて全身の力を抜いていく。

結城リトは何も考えなくなり、これほどもないリラックスとなっていた。

すると、湯船からブクブクとたくさんの泡が吹き上がった。

だが、それを気づけない結城リト。

それでもなお、湯船からとんでもない泡がブクブクと吹き上がったので結城リトは何事かと驚愕した。

 

「な、なんだ!?ウチにジャクジーとかないぞ!」

 

すると泡から全裸の美少女が「脱出成功-!」と言いつつ現れたのだ。

彼女はロングヘアーで、髪の色はピンク色で瞳の色は緑色。巨乳でクビレもキュッとしまっており、身長165cm程あるのだろうか?そんな人物があり得ない所から出現したのだ。

 

「だ、だ、誰か知らないけどとりあえず出ていけー!」

「へ?うん、分かった」

 

純粋な彼女は彼の言葉を聞き素直に行動し、脱衣所へと向かっていった。

今のは一体なんだったのだろうと考えるのだが、裸をバッチリと見てしまったおかげなのか彼女の裸をすぐに思い出してしまう。

 

(ゆ、夢だ!幻覚だ!俺が女の子に免疫がないからあんな幻みたいなのを見るんだ!)

 

結城リトはあり得ない現象を幻と思い込みつつ、風呂から出て、身体をバスタオルで拭きつつ、寝間着に着替え自分の部屋へと向かっていったーーのだが

 

「なっ!!?」

 

先程の美少女がバスタオルのみを身に纏ってベッドに腰をかけていたのだ。

その姿は色っぽい・・そのまだ乾かない綺麗なピンク色のロングヘアー、バスタオルで隠れてはいるが、どうも胸のサイズが大きいからか谷間が丸見えで、剥きだしの太ももにどうやってでも目が離せないでいた。

 

「ふ、ふ、服を着ろよっ!」

「だってペケがいないし・・」

「ペケって誰だよ!って、そんな事よりも適当に服やるから着ろ!」

 

いつまでも埒があかないのでクローゼットを開けて適当な服を見つけようとしたその時、妙な白い機械がそこに座っていた。

 

「・・なんだコレ?」

 

見たこともない機械のようで人形でもありそうな白い機械だった。

 

『あなたはどちら様で?』

「しゃ、喋った!?」

 

その喋る機械はどうやら意思疎通が出来るようでいきなり喋ってきた。

最近はカタコトだが喋る機械や機能をもった携帯アプリが存在するのだが、それを上回る機械に驚きを隠せないでいた。

その喋る機械は宙を舞って、美少女に近づき、白い機械が消えたと思ったら美少女はいつの間にか服を着ていた。

 

「な、な、なんだ!?アイツはどこにいったんだ!?」

 

一つの物質があっさりと消える事なんて到底理解出来ない。結城リトはパニック状態になり、美少女に警戒していた。

 

「キミはいったい誰なんだ?」

「私?私、ララ。ララ・サタリン・デビルークだよ」

「ララ?」                

「そう、デビルーク星ていう惑星から来たんだけど」

「し、知らないよ、そんな惑星・・っていうか宇宙人?」

「そうだよ。証拠見せようか?ほら」

 

美少女のお尻付近からニョロッと悪魔のような黒く細い棒がスラリと伸び、先端にはハートのような形をした尻尾が生えていた。

結城リトはそれを見てギョッと驚き、さらにララと名乗る人物に更なる警戒を強めていく。

確かに宇宙人っぽいが、それでもなかなか理解出来ないし、なぜその自称宇宙人が自分の前に現れるのだろうか?

その宇宙人は警戒する結城リトの顔をまじまじと観察するかのように見て、首を傾げて言い放つ。

 

「ん~?あれ?キミ、私とどっかで会わなかったっけ?」

 

しかし、結城リトには全く記憶にない。

こんな自称宇宙人を見たら忘れない自信がある・・が、しかし、これで二度目だ。

一度目は夕崎梨子、二度目は自称宇宙人ララ・・なぜ自分が知らない人物が次々と現れるのだろうか?学力があっても理解する事が出来ない。

もしかして、もしかしてすると自分には記憶がないがララには出会った記憶があるのだろうか?その可能性は低くない。

 

「なら結城リトっていう名に記憶ないか?」

「・・結城リト?ん~・・何処かで聞いたような~・・聞いたこともないような~」

 

ララにはほんの少ししか記憶がない様子だが、結城リトの名を知っているかもしれないとほのめかした。

彼女も彼と同じ症状なのだろうか?しかし、妙だ。

知っているかもしれないが知らない訳でないその記憶に齟齬が発生しているようだ。

 

「でもね、私はね?家出する時になぜか急にこの地球という所に行きたいって、そこにいるある人に会いたいってすごく思っていたの」

「い、家出してきたのか!?」

「うん!それでね、話を続けると私は地球に行った事もないし、地球を最近まで知らなかったの。ある日にふっと地球っていう所が思い出すように頭を過ぎったの」

「思い出す?地球を知らなかったのに?」

「そう、不思議なんだよね~それに、リトとこうして話しているとなんだか落ち着くっていうか懐かしい気持ちになるの」

「懐かしい?俺もキミ・・ララと話すのは初めてのはずだ」

「あはは。リトも初めてのはずって事は私と会った事かがあるのかな?」

 

結城リトとララとの奇妙な出会いが更なる未来への道へと導かれる。彼と彼女ととの奇妙な運命は逃れる事が出来るのだろうか?

しばらくララと話すと宇宙の歴史や家出の理由、彼女の家族構成などを聞く事ができ、これからどうするかと思案していくと結城リトの部屋の窓から鎧を身に纏った騎士と二人のサングラスをかけた屈強な黒服のおじさんが現れ、騎士はララの前へ歩き怒ったような表情を浮かべた。

 

「ララ様!ダメです!家出なんて!」

「ちゃんとパパに言ったもん!家出するよって!」

「普通に報告したらダメだろララ・・」

 

父親に家出宣言とはなんとも純粋で素直な娘なのだろうか?しかし、たかだか勉強ばかりで嫌だからと家出するララもララなのだろう。

 

「ララ・サタリン・デビルークの名に命ずるよ!お願いだから私の言う事を聞いて!信頼して!」

「し、しかし!」

「ザスティン!お願い!お願い・・だから今回だけ・・ぐすっぐすっ。な、なんで涙が?」

 

ララはその目から大量の涙が溢れだしてきた。

ララ自身その行為に驚きを隠せないでいた。

 

(な、なんで?こんなにもこの地球から・・リトから絶対に離れたくないの?なんで?こんな気持ち初めて・・)

 

寂しい、悲しい、不安の気持ちがララの心中に渦巻いていた。

ただ地球に居たいからって、ただ結城リトから離れたくないからって、なぜこんなに・・なぜこんなに・・

 

(どうしてもリトと暮らしたいって思うようになったんだろう・・不思議)

 

出会ってまだ一日も経っていないのにこんなに結城リトを信頼したいのだろうか?こんなに自分を信頼して欲しいのだろうか?不思議で不思議で困惑してしまった。

そんな彼女の気持ちを読み取りザスティンらは膝を落とし、跪いた。

 

「・・分かりました。ただしーーただ一つだけ条件がありますララ様」

「な、なに?」

「もし、その地球人をはじめその他の地球人どもからララ様のお命及びそれに準ずる危険、それらが発生しようとした時、または発生した場合何が何でもララ様を連れて帰ります。それをお許し頂ければ私達は今すぐ帰ります」

 

ザスティンの言葉に自らの耳を疑うララ。

いつものワガママーーあれは嫌だこれも嫌だとさんざんザスティンを困らせ、頭ごなしにダメダメだと言ってきたあのザスティンが唯一許してくれたワガママだった。

 

「ーーありがとう」

 

その彼女の涙ながらでも最高の向日葵のようで美しく太陽のような眩しいくらいの笑顔が浮かんでいた。

 

「ーーありがとうザスティン」

 

 

 




この次あたりから大きく原作とかけ離れる展開や話の流れが変わる事を報告します


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第三話

ララ転入編です。
原作との流れや細かい設定は時間遡行により変化した事としてご了承ください。

この物語の主人公は結城リトでありますが、夕崎梨子の出番が次の次あたり?からやたらめったら主人公級にあります事をここに報告致します。

夕崎梨子は言うなればサブ主人公とでも言える人物なのですから(笑)多分、ヒロイン枠としては・・う~ん、扱えないのかぁ?


今日のララは最高の気持ちでベッドで寝ていた。

かつてこれほどもない気持ちでベッドで眠りについたのは初めてなのだろう。

今回のワガママーー地球に居たいというワガママが許されたのだからこれ以上の幸せはないのだろう。

しかし、だけど、でも、なんだか結城リトと同じ家に居る事が当たり前だったような気がしていた。

結城家で暮らす事は今日が初めてなのに我が家で寝ているような錯覚を覚えていた。

そこに居るのが当たり前、そこで寝るのが当たり前、そしてそこに結城リトが居る事が当たり前のような気がした。

 

(本当に落ち着く。なんでだろ?ま、いいか)

 

理由や理屈なんか必要ない。

ただそう感じられればそれだけでいい。

家族以外の人からこうも心を開く事はほとんどないのだろう。

彼女ーーララは心の底のどこからか結城リトの事を好いているのだからーー。

ーーーーーーー

「で?要するにここで住みたいってことね」

 

ララの事情をそれとなく結城美柑に話し、結城家にどうにか住む許可を頂いていた。

彼女が宇宙人という事を隠しつつ、親にも許可もらった事も踏まえ、結城美柑は少し考え、クスリと小さく笑い首を縦に振った。

 

「ララさんは外国人みたいだしホームステイってことで通せばいいんじゃないかな?」

「やったー!ありがと!美柑!」

 

ララは満面の笑みを浮かべ結城美柑に抱きつき喜びを隠せないでいた。

それもそうだろう、彼女はザスティンにも許可を貰ったし肝心の結城家居候にも許可を貰えたのだから。

これで結城リトと一緒に暮らせると思えると胸がいっぱいになってしまう。

 

「それで学校とかどうするの?ララさん。リトと一緒の学校にするの?」

「学校!?どんな所か知らないけど行く!絶対に行きたい!」

 

ララは目を爛々と輝かせて興奮気味のようで身体をピョンピョンと跳ねていた。

学校でも家でも常に結城リトの傍に居られるーーただそれだけでも幸せいっぱいになっていた。

でも、ただ一つ気かがりがあるのだ。

 

「その前に許可が下りるのか不安なんだよね」

 

ララが結城リトの通う学校に転入できるかどうかなので、学力や保護者の許可などなど必要なものがたくさん必要なのだ。

しかし、結城リトにはそんなものには頼らずララが必然的に転入できる術を知っていた。

 

「いや、あの校長なら即採用って言うだろうな」

「なんで?」

「だってリコがあの学校の面接を受けた時、校長が『可愛いから採用』と言ってたからな。だからララも行けるだろ」

「リトの高校絶対おかしいよ!!」

 

リトの通う学校の校長は無類の女好きで女ならば採用していて夕崎梨子や西連寺春菜をはじめとした美少女は片っ端から採用していた。ちなみに体操服にブルマなのは校長の好みだからだという。

 

「ま、なんとかなるって」

 

ララの転入はほぼ確定的なので楽観していた結城リト

変態校長がいる事を嘆いている結城美柑であった。

これからの生活が待ち遠しいララの三者三様の感情は渦巻き、これからトラブルめいた運命の幕が今、開かれよとしていた。

 

ーーーーーーーーーー

かつてこれほどの美少女を見た事があるのだろうか?

結城リトらが通う彩南高校の校長は今目の前にいる美少女を見ていた。

彼女が言うにはこの学校に転入したい、という頼みだ。

 

「はい!!可愛いので採用します!!」

 

考える時間は一秒も必要なかった。

これでこの学校が華やかになるーーただそう思うだけで胸がときめいてしまう。

可愛い可愛い女子高生でしかもボンッキュッボンのナイスバディでそれはもう見事な女の子だからだ。

そんな美少女をまじまじと目に焼きつけ脳裏に刻み、興奮状態になってしまう。

だけどそんな美少女は用事が済んだからなのかそそくさと帰っていこうとした。

 

「ありがとね!」

 

感謝の意を表した美少女は満面の笑みを浮かべ校長の前から消えていった。

そんな彼女を名残惜しそうに見送り、彼女の名をそっとつぶやいた。

 

「ララ・サタリン・デビルーク・・いい!すごくいい!」

 

自らのその肥満の身体を抱きしめつつ悶絶してしまう。

彼女の事を想うだけで胸がときめいたのだった。

 

ーーーーーーーーーーー

ララが転入許可を貰い、結城リトが勉強しているクラスへと転入するようだ。

彼らの担任であるヨボヨボのお爺さん・・骨川先生の引率のもとララは待ちきれないばかりか教室の扉を力強く開け

 

「やっほー!リト!私、学校に通える事になったのー!」

 

結城リトを見つけては飛びつくように抱きしめてにかかった。

 

「ちょ、ちょっとおい!ひ、ひっつくな!」

 

結城リトはいきなりのスキンシップに顔を真っ赤に染めあげ盛大に驚きを隠せないでいた。

ララにとっては至極の幸せであり、同時にどこか懐かしい気持ちになっていた。

初めてのはずなのに、それが当たり前のような錯覚ーーだけどそんな事なんかどうでもいい。

 

「私、嬉しいの!リトと一緒に勉強できるの!リトと一緒に遊べるの!だから幸せなの!」

 

そこにあるだけでの幸せが何よりの幸せであり、かけがえのない時間と経験になるのだろう。

 

「私、いっぱい頑張るからね!約束!」

 

自分との約束、彼との約束の意味を込めて真剣な目を結城リトに向けた。 

そんな彼は未だに顔を真っ赤にさせて慌てていた。

 

「ああ!分かったから!さっさと離れろよ!」

 

結城リトは抱きつくララをどうにか離し、いったん落ちつかせたのだが、彼らの先程の行動を目の当たりにしたクラスメイトらは驚いた表情を浮かべていた。

その代表者という訳か、夕崎梨子は彼らに近づいてどういった知り合いなのかと尋ねた。

 

「えーと、簡単に言うとホームステイの子で俺の家で暮らしているんだ」

 

結城リトの言葉にクラスメイトの全員は大きな声で驚愕の声をあげる。

なぜあの美少女が結城家に通っているのか、なぜあの美少女は結城リトに抱きついたのか、彼らとの関係は一体どんな関係なのかと質問攻めにあうが、特になんの関係もないただの人懐っこいホームステイの子という説明のみをしたのだが・・

 

「ふふふ。人懐っこいって、犬や猫じゃあるまいし」

「本当なんだよ!信じてくれ!リコ!」

「まぁ、そういう事にしておくよ。今は、ね」

 

やはりといったところかそんなに信じてはいない様子のクラスメイトだ。

だけど彼らがどういった知り合いなのかはどうでもいいのか夕崎梨子はララに手を伸ばし握手を交わしていた。

 

「はじめましてララちゃんボクは夕崎梨子だ。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」

「うん!はじめましてリコちゃん!仲良くしてね!」

「うん。言われなくてもそうするつもりだ」

 

夕崎梨子をはじめクラスメイトの皆は自己紹介をしていき、ララはクラスに馴染みはじめていたのだが、そんなララはとんでもない発言を投下させてしまう。

 

「あ、私リトと婚約者だからリトのこと盗らないでね!」

 

いったいいつから婚約したのだろうか?彼女は結城リトにひっついて爆弾発言を投下させた。

その爆弾の威力はなんたることか、驚愕の声が学校中に響いてしまう程の威力なのだ。

時が止まるようにシーンと静かになるまで時間がかかったのだがクラスメイトは唖然として呆けていた。

 

「お、オイオイ。ほ、本当かい?」

 

夕崎梨子は早くも正気に戻り彼と彼女に問いただすが、その顔は全くもって信じられないという顔なのだ。

それもそうだろう、彼は女の子に免疫がなく、婚約の約束どころか恋人の関係まで進ませる力なぞないのだから。

 

「ち、違うぞ!な、なに勝手に話進めているんだ!」

「え~?だって男の子と女の子が一緒に住む事を同棲って言うんでしょ?つまり結婚を前提にしたお付きあいになるんじゃないの?誰かが言ってたような気がするもの」

「ふ、ふふふ。確かに、だね」

「おい!リコ!なに面白がってんだよ!」

「オイオイ、勘違いしないでおくれよリト。ボクはキミを祝福しているんだ。おめでとう」

「だーかーらー!違うって言ってんだろー!」

 

ーーララの婚約発言はこれからの運命を変え始めてい

 

結城リトの奇妙でトラブルめいた運命が

 

ララとの婚約により彼と彼に関わる運命が

 

今、動きはじめていたーー

 




ToLOVEる設定を読みあさっているとブルマじゃなく普通の体操ズボンのようでしたねウッカリ。
ですけど、時間遡行による変化なのです!間違いない!そう、ボクのせいじゃあないんだあ!(確信)


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第四話

古手川唯登場回です!


いつの間にかララと婚約してしまった結城リトは深くため息を吐いていた。ララの護衛であるというザスティンは結城リトのもとへと訪ね、正式に結城リトとララが婚約したことを報告していた。

 

「リト殿・・いえ婿殿これからは大変な事となりましょう。あ、おかわりお願いします」

 

ザスティンは美柑が作った料理を美味しい美味しいと言いながら結城リトとこれからことを考えていく事にしていた。

 

「ララ様はデビルーク星・・いえ全宇宙中に名を知られララ様を奪おうと企む輩達がこの地球に来るはず・・いえ、来るのでしょう」

「な、なんで?」

「ララ様を手中に収められればこの地球はおろか銀河系の全てを簡単に手中に納める事が出来ます」

「そ、そんな事が・・」

「私達も常に目を光らせ警護や張り込みをしますが、彼らは地球人のフリが出来るのでその全てを我々は把握出来ないでしょう」

「ならどうやってララを守るんだ?」

「はい。それからは我らが主が答えられます」

 

ザスティンは懐から綺麗な水晶玉のような玉を取り出し、その水晶玉から光が神々しく光り、奇妙な黒影を保ちつつ現れた。

 

『よぉ、テメェが結城リトか?』

 

その声は荒々しく恐怖を感じさせるものだった。

結城リトは緊張する自分をなんとか落ち着かせようと何度か深呼吸し、ザスティンの主と対話する事にした。

 

『ケッ。オレの娘・・ララが好きな奴がいるなんて驚きでよぉ。まぁララが気に入ったならいいけどなぁ?ララを守りきらないと・・ララを連れ戻したあとで地球を破壊するぞ』

「え、ええ!?」

 

ザスティンの主・・ギド・ルシオン・デビルークは宇宙で最強の座に就いており、その気になれば惑星一つくらい造作もないくらいに強かった。そんな彼の脅迫に何が何でも応えるしかない結城リトは冷や汗を垂らしながら緊張した表情を浮かべ、ギドの要求を呑まずにはいられない。

 

『じゃ、それだけだから』

 

話を一方的に進められ対話が潰えた。たかだか地球人如きが得体の知れない宇宙人を撃退する方法などないのだから。

 

「婿殿!我々も全力でフォロー致しますので、そう落ち込まずにいてください。我々だってララ様をお守りする立場なのですから」 

「そ、そうか・・本当に頼むぞザスティン」

「はい。その代わりというか大変恐縮ではありますが、時折食事をご一緒させてくださるとありがたいです」

「それくらいいいよ。その時にまた色んな話聞きたいな」

「ええ、助かります。では後ほど」

 

ザスティンを見送った後、頭を悩ませながらリビングへと向かっていき不安そうな表情を浮かべている結城美柑がいた。それもそのはず、兄があれよあれよとSFのような世界観に引き込まれたのだから驚きよりも困惑に近いのだろう。

 

「本当にララさんって宇宙人だったんだね」

「あぁ、夢なら覚めてくれるといいんだけど・・はぁ」

「どうするの?このままじゃ宇宙戦争とか何とか巻き込まれるんじゃないの?」

「うぅ、本当に困った・・」

「なんだったらリコねぇに相談する?リコねぇならなんとか出来る・・のかな?」

「相手は宇宙だぜ?リコならともかくララに相談したほうがいいんじゃないかな?」

「とにかく色んな人に協力してもらいましょうよ」

 

ララに関する事案に次々と不安がのしかかる結城リトらはこれからの生活が一辺してしまう・・否、もう運命が変わったのだろう。たかだか娘一人を守るのに宇宙の全てを敵に回すなどとゾッとする。

結城リトは特別な力とか能力とかまるでなく、漫画のように覚醒する訳でもないし、映画のように都合良くハッピーエンドを迎えられる主人公になる器でもないただの一般の男子高校生なのだから。

 

「もうどうとでもなれー!」

 

ただひたすらに何処かにいるであろう神に祈るしかないのだから・・

 

ーーーーーーーーーーーーーー

翌日のとある登校日。結城リトらが通う彩南高校の正門前に凜とした女子高生が居た。

彼女の名は高校一年生の古手川唯である。

彼女は風紀や秩序に厳しく、非常識な騒動が横行している高校の現状を憂慮し、秩序を保つために風紀活動に取り組んでいるが、妥協を許さない姿勢から向こう見ずな行動を行う真面目な女の子である。 

そんな古手川唯は今日、抜き打ちで持ち物チェックや制服チェックを施していた。

 

「ダメ!学校に関係のない物を持ってはいけません!没収です!それもこれもぜーんぶです!」

「ちょっと!あなたスカート短いわ!ちゃんと膝が隠れるまでスカートを下げなさい!」

「髪を染めてはいけません!黒に戻しなさい!」

 

まるで生活指導部の顧問のような鬼チェックで次々と生徒に指導していた。そんな彼女にまたも不真面目な生徒達が目についた。

 

「ちょっと!結城くん!ララさん!イチャイチャしてはいけません!不純性行為よ!それと!夕崎さんと猿山くんも近寄りすぎよ!」

 

結城リトとララがくっついて登校している姿を。そして、夕崎梨子と猿山ケンイチはくっついてはいないが微笑みながら談笑している姿を注意していた。  

 

「オイオイ、リトたちを注意するのは分かるが、ボクたちはただ雑談しているだけなんだが?」

「そうだぜ!なんの他愛のない世間話してただけだ!」

 

夕崎梨子らの証言は尤もなのだが、だかしかし彼らの言い訳なんてこれまでも聞いた事があるのだ。自分なら許されるだろう、アイツはいいのに自分だけはダメなのか?などただの自己中心的な考えで不真面目な生徒なのだと古手川唯にはそれだけの理由で彼らを見下していた。

 

「異議ありよ!男の子と女の子が友達関係なんて結べるはずがないですもの!どうせ下心丸出しで近づいてきたのでしょう!」

 

彼女の証言も真面目な生徒としてならば正解に近いのだろうが、夕崎梨子はやれやれと肩を竦めながらため息を吐いた。

 

「オイオイ、それは一般論なだけであって必ずしも全員が全員そうであるとは限らないと思うけど、それはどう解釈するのかい?唯ちゃん」

「ちょ、ちょっと親しげにしないでよ!あなたなんかちっとも好きではないわ!」

「ふふふ。フラれちゃったなぁ、もう」

「いーい!?所詮は男と女なのよ!だからそうなる運命になりやすいの!分かった!?」

「はいはい。唯ちゃんが正しいね。ボクにはそれが正解だとは思わないけどね」

「なんで分からないの?あとそれとあなたは女の子らしくしなさい!なによボクだなんてキャラ作って」

 

古手川唯の発言に眉間にピクッと動かして少々イラつきを覚える夕崎梨子。最初は男女がくっついてあーだこーだと難癖つけていたのに自分の個性まで否定されなければいけないのだろうかと腹が立ってしまう。

 

「・・オイオイ、ボクはボクなんだよ?ボクが夕崎梨子であるから、という理由だけでは不服かい?決してキャラ作りでもなんでもない・・これが素なんだよ」

「ふんっ!口ではそう言えるわ!もうあなた達と構っていられない」

「ふふふ。こちらとしても願ったり叶ったりだ」

「なによ!」「なにかな?」

 

夕崎梨子と古手川唯は目でバチバチと火花を散らしていた。どうにもこの夕崎梨子や結城リトの事が本当に気に入らない。どうしてもぎゃふんと言わせたいこの夕崎梨子という女子をーー風紀委員として粛清してみせると心に誓ってその心に静かに燃え上がる闘志が沸いて出た。

それに対する夕崎梨子もなんとしてでも古手川唯に勝つという根気を見いだしていた。

一方、蚊帳の外の結城リトと猿山ケンイチはというと

 

「お、おいリト・・女同士の喧嘩って怖いな」

「あ、あぁ、すげーこえー」

 

女同士の勝負に怖じ気づいて身を震わせたのであった。

 




いかがでしたか?古手川唯と夕崎梨子の対決はオソロシイ!彼女たちの対決はずっと続きます!


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第五話

古手川唯と夕崎梨子との対決プラス西連寺春菜と夕崎梨子との出会い話回です。ごゆるりとお読みくださいな!


古手川唯を筆頭とした風紀委員の鬼チェックが今日から始まり、風紀行事が更に強まったのだが、その鉄の掟が非常に多かったのだ。

例えばーー

通学路を歩く際はダラダラしない

勉強用具や学校で必要な物以外の物を全て没収

男子と女子は必要以上にくっつかない

学校の中や学校の近くの公園や商店街のゴミ拾いの徹底

暴力行為や恐喝、その他に準ずる凶悪な犯罪の取り締まり

女子は女子らしく正しく美しく優雅であれ

男子は男子らしく学力や運動に育め

宿題の増加などなど数え切れない掟が発令された。

その掟も日に日に増し女子のスカートは膝上数センチまでよかったのがなんと足首辺りまでしか認めないという何世代前の着こなしなのかと疑問するほどの長さであった。そんな軍隊のような数々の掟に皆嫌々になっていたのだが、ただ一人にこやかに笑う少女がいた。

 

「ふふふ。まるで独裁国家だね」

 

夕崎梨子だ。

その顔は満面の笑みなのだがその顔にどこかがイラついているような気がしないでもないが、その表情を唯一読み取れる男子生徒がいた。

 

(リコちゃん怒ってる!笑っているけどすげー怒ってる!)

 

彼女を好いている猿山ケンイチ

彼は彼女とずっと傍にいたのだから些細な事でもすぐに気づけるのだ。そんな彼女を止められる事が出来るのは猿山ケンイチなのだが、あそこまで激怒しているのは初めてかもしれない。

 

「あ、あのリコちゃん?だ、大丈夫?もしかして怒ってる?」

「いーやサルくん怒ってないよ?ぜーんぜん」

 

声がどこか震えているようで怒りを我慢している様子だったのだ。

 

(やっぱ怒ってる-!)

 

内心で盛大にツッコミをいれる猿山ケンイチは慌てて物陰に隠れてしまった。そんな彼を見つけては目をギラリと輝かせニッコリと笑みを浮かべるが、その笑みが非常に恐ろしいのだ。

 

「オイオイ、サルくんボクはね、ちょーっと唯ちゃんと話がしたいなぁ、なんてしか思っていないんだよ?」

「あわあわあわあわ」

「ただ・・ただね・・ちゃーんとこのケジメつけさせようかなぁとしか思っていない訳なんだよ。手伝ってくれるよね?サルくん?」

「ひぃぃー!仰せのままにー!」

 

夕崎梨子の笑みに怯えに怯えその要求に応えなければならないと本能で悟り、二人は古手川唯が居るであろう風紀委員が集まる会議室へと向かっていき、夕崎梨子はその扉を満面の笑みで力強く開き、古手川唯と対面した。

 

「やぁ、唯ちゃんこんにちわ。ボクだよ。あとそれとサルくんね」

「親しくしないでって言ったでしょ?それで何の用かしら?」

「ヤクザの言葉で言うとカチコミ、というところかな?暴力は振るわないけど」

 

夕崎梨子の言葉にあわあわと慌てる猿山ケンイチを放っておき、前へ前へと古手川唯の前に近づいた。

 

「それでそのカチコミ、というの?いったいそれは何をする事なのかしら?私、優等生で真面目だから分かんないわ」

「なに、ただの誇張表現なのさ。ボクはキミと話したいだけに過ぎない。だから気にしなくてもいいよ」

「私はあなたと話したくはないの。忙しいからあっちにいって」

「オイオイ、キミは風紀委員なのだろう?ボクは悩みと用事があるからここに来たんだよ。そんな迷える生徒の悩みと用事を解決してくれるのだろう?」

「違うわ。ここは相談室でも占いの館でもないわ」

「おっとウッカリしてたなぁ、ボクとしたことが」

「はい、お話はお開きという事で解散ね」

 

古手川唯は自分の両手をパンッと叩き、会話の終了を促し、忙しい忙しいと小言を言いながらこれまで生徒から没収していた物を整理していた。

 

「あぁ、一つだけ注意事項・・いや、警告したいんだが・・聞いてはいないね」

 

夕崎梨子が古手川唯に話しかけても無視の一点張りで会議室をあちらこちらをウロチョロと駆け回っていた。

 

「もしキミ自身が自分を正義だと主張するならば、キミはそれ以上悪に関わるならば碌な事にはならないと宣言しておくよ」

「・・ふん」

 

古手川唯は不機嫌な顔をしてそっぽを向く。

そんな彼女に用事が済んだからか夕崎梨子は猿山ケンイチを連れて自分のクラスへと戻っていった。すると彼女の帰りを待っていたからなのか西連寺春菜が不安そうな表情を浮かべていた。

 

「あ、リコちゃんお帰り。今までどうしてたの?」

「あぁ、ちょっとね。ほんの少しばかり口喧嘩をね」

「口喧嘩?リコちゃんの口喧嘩なんて想像出来ないな」

「ふふふ。ボクだって口喧嘩くらいするよ。ただムカッとしただけ・・それを若気の至りというのかな?」

「あ、あはは・・実はリコちゃんって思ったより精神年齢が若いのかな?口調もそうなんだけど見た目も大人なのに子供っぽいっていうか・・」

「最近の子供はすぐに大人の真似をしたがるからね・・ボクの精神もその延長線にいるのだろう」

「子供だからというコンプレックスが引き起こしたからそうなった・・ということかな?」

「ふふふ。大正解だよ春菜ちゃん」

 

夕崎梨子との話が弾んで西連寺春菜はニッコリと微笑んだ。彼女となぜこんな小難しい話に花を咲かせるのだろうと不思議でたまらない。彼女は正真正銘の美少女といっても過言ではない美貌とスタイルをしているのにも関わらずなぜ同い年の女子と話している気にはならないのだろう?西連寺春菜は最初に出会った彼女の事を事細かに思い出した。最初はなんてこともない挨拶程度だった。

 

「おはよう、ボクの名は夕崎梨子だ。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」

 

その可愛い彼女の容貌から考えられない女子からぬ口調で話しかけてきて多少驚いた。色んな性格を持った人間が大勢いるから特別変わった子がいてもおかしくはなかったのだが、いざ自分の目の前に現れたとなったら対応が遅れてしまうのも無理があるというのだ。

 

「お、おはよう。私は西連寺春菜です。仲良くしようね?リコちゃん」

「あぁ、分かったよ春菜ちゃん」

 

これだけでも印象が深い出来事だというのにも関わらずあの夕崎梨子は西連寺春菜の心に入ろうとしていたのだ。

 

「やぁ、春菜ちゃん。正義の反対って何だと思う?」

 

謎の質問だった。

西連寺春菜の友人はいつもコーディネートやアイドルの話、占いの話や料理の話などがメインだったのだが初めてのジャンルの話に戸惑ってしまった。

 

「え、えっと、対義語で答えるなら不義?」

「へぇ、悪とは言わないなんて勉強出来る子みたいだね」

「そ、そんな事ないと思うけど・・」

「それでは春菜ちゃんの哲学的な答えを知りたいな」 

「え、ええ!?え、えーと」

 

いきなりの哲学に戸惑っていた西連寺春菜。

友人との話は自分の言葉でハッキリと言うタイプであまり考えは働かせる必要もない。しかし、これほどでも頭を悩ませる事がある雑談があろうものだっただろうか?

 

「う~ん、私なりの正義の反対っていうのは・・その・・ごめん待ってて」

「うんうん。ゆっくりでいいからね」

「う~ん・・また違う正義なのかなぁ、って」

「へぇ、その心はいかに?」

「う~ん・・あ、例えば正義のヒーローがいるでしょ?そのヒーローは街を暴れる怪人をやっつけて街の平和を守る・・まさに正義!なんだけど・・怪人は怪人だって街の人々を襲わないといけない何かの理由があると思うの」

「なるほど、怪人は人がいなくなる事で達成出来る何かがあるという事だね」

「そう。あんまり暴れてはいけないんだけれど・・だけど正直に街を明け渡してください、だなんて言っても許可出来ないでしょ?」

「まぁ、人々の都合もあるし色々と面倒くさいのもあるからね」

「だから怪人だって正義を持っていると思うの」

「それが街の崩壊、もしくは世界が滅んだとしても?」

「・・怪人は自分の正義を貫き通したと思う・・じゃダメなのかな?」

 

西連寺春菜は自身の言った事に違和感が残っていた。

本来の自分だったならば世界が滅んでも正義は正義と言い張る事はせず、争い事が嫌いだから皆仲良くしようと言うはずだった。だけど、彼女は聞き上手で話し上手でまんまと彼女の手の平の上で踊っていたにすぎなかった。

 

「ふふ。春菜ちゃんは怪人サイドの敵が好きなのかい?」

「う~ん・・・ほんの少しだけ、かな?」

「理由を聞いてもかまわないかい?」

「うん。うんと小さい頃ね、近くにあるデパートでね?とある戦隊物のヒーローショーをお母さんとお姉ちゃんと見てたの」

「へぇ、春菜ちゃんにお姉ちゃんがいたんだ」

「うん。それでね、怪人が現れて物語を進めるお姉さんを人質にして暴れ回ってもなかなかヒーローは来ないの」

「ヒーローは必然的に遅れてくるからね」

「うん。会場にいた子供達も、もちろん私もヒーローを呼び続けたの。それでヒーローは怪人につかまったお姉さんを解放させたのはよかったんだけど、五人のヒーローが怪人を倒そうとするの。会場のみんなは大盛り上がりだった」

「戦隊物だからそうなるだろう?」

「だけど会場に響くのは五人のヒーローの名前だけだったの。怪人はずっと一人ぼっちで戦っていたの。誰からも誰にも注目されず、期待もされず、ただ必死に五人のヒーローをたった一人で戦っていたの」

「・・・」

「私はいつの間にかその怪人の名を泣きながら叫んでいたの。がんばれ、がんばれって・・これっていけないことなのかな?」

 

西連寺春菜はその頬に涙を流していた。

意味が分からなかった。特別悲しくも寂しくもないのになぜか涙が止まらないでいた。夕崎梨子はそっとハンカチを渡し、それを受け止める西連寺春菜はただひたすらに涙を拭いていた。

 

「キミは優しい子だ。相手が悪い事をしてもそれを許すばかりか心配までして応援してくる・・そんなキミに応援された怪人はさぞ嬉しかったんだろう」

「うん。そう言ってもらえると嬉しいな」

「そんな春菜ちゃんは正真正銘の正義だと言えるかもしれないな」

「そ、そんな恐れ多いというか大層な言葉似合わないよリコちゃん」

「ふふ。欲が深くなく純粋で誰にでも優しくなれるキミになら、いつかなれるかもしれないね」

 

夕崎梨子と西連寺春菜との奇妙な出会いは彼女らにとっても忘れたくても忘れられない思い出となるのだろう。

彼女らの絆はこうして紡ぎだしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル回みたいな話は好きですか?個人的には好きです!うん!好きです!(大事なことなので二回言いました)


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第六話

古手川唯と夕崎梨子の戦いが決着!?する回です。多分
それから夕崎梨子の見た目は原作に登場した結城リトが性別を変えた姿の夕崎梨子まんまを想像していただければ幸いです。
あと、原作にもボクっ娘が登場しないのかなぁ?と思いを馳せ、やはり登場しないのを落ち込んでいます。
みんなはボクっ娘のために、ボクっ娘はみんなのために一つになればいいのに(切実)



古手川唯の独裁国家のような風紀チェックが執行され数日後のある日だった。

その日も風紀チェックするべく校舎近くを散策していると三人程の男子生徒が煙草を吸っていた。

早速注意しようと駆け寄って怒ったら突然その男子生徒らは逆ギレのように何の悪びれようもなくこちらを叱った。

 

「な、なによ!未成年の喫煙は御法度よ!警察に連れて行くわ!」

 

こちらの常套手段として警察を持ち出すのだが、男子生徒らはニヤニヤと笑っていた。

 

「確かに俺らが吸ったのをお前が見たから証人になるけどよ。それを無かった事にしたらいい」

「ど、どういう事よ」

 

男子生徒らはニヤニヤと笑いつつ古手川唯に詰め寄っていく。

こちらは三人で相手はか弱い女一人で勝つ事は確定的でその勝機を持ち合わせているので古手川唯なんてたいした事はないだろう。

 

「つまりお前を口封じしたら俺らは無実ってな訳だ」

「そ、そんな!」

 

ジリジリと詰め寄ってくる男子生徒らに恐怖のあまり立ち尽くしてしまう古手川唯。

怖い、恐ろしい、助けての三つの言葉が脳内にいくつもの数が渦巻いていた。そして微かに自分が嫌いな夕崎梨子の姿が過ぎっていたり自分に警告だと言い聞かせた言葉を思い出した。

 

『もしキミ自身が自分を正義だと主張するならば、キミがそれ以上悪に関わるならば碌な事にはならないと宣言しておくよ』

 

あの顔を思い出すだけで、あの声を聞くだけ本当に腹立たしいあの夕崎梨子の言う事をあの時ちゃんと聞くべきだったと、なぜ夕崎梨子をあれだけ嫌いになったんだろう?ほんの些細な口喧嘩でなんで嫌いになったんだろうと後悔していたのだが、今更後悔しても本当に遅い。

 

「助けてっ!誰か助けてっ!」

 

ただ必死に懇願するしかなかった。

だけど、思いもしれない人物が目の前に現れた。

 

「やぁ、通りすがりのただの女子高生が助けに来たよ」

 

夕崎梨子だった。

自分も相手もお互い嫌いなはずで助ける道理も義理もないのに現れてくれた夕崎梨子が輝いて見えた。

 

「先生呼んできたから早く逃げたら?ほらすぐそこだよ?」

「なに!?マジかよヅラかるぜ!」

 

夕崎梨子の言葉で男子生徒らは一目散に消え去り、その場には古手川唯と夕崎梨子のみとなった。

男子生徒らの恐怖から解放されたからか古手川唯は腰を落とし、涙を浮かべていた。

         

「な、なんで、なんで、なんで助けたのよ!あなた!」

 

助けてくれたのはありがたい。だけど嫌いな相手に素直に感謝の意を表したくない。だからせめて理由くらいだけは聞きたい。

 

「唯ちゃんの大好きな校則には書いてなかったんだよ。『嫌いな友人を助けてはいけない』ってね」

「はぁ!?なによそれ!」

 

理解不能だった。

古手川唯は校則が全てで風紀が一切乱れず、生徒が規則正しい生活を送る事が当たり前だと。

しかし、それらを一切無視ーー否、校則の穴を見つけ、いけしゃあしゃあとそれをやってとげる夕崎梨子の行動が理解不能であった。

 

「ふふふ。ボクの行動を校則如きで防げると思っているのかい?片腹痛いねぇ~。どんな校則があろうとも何事もなく行動するだけなのさ」

「あなた非常識だわ」

「校則やこの世の掟を常に守って普通に生きてるのが退屈なだけなのさ」

「まさかその喋り方も退屈なだけに生まれたものなの?」

「さぁ?気づいたらこうなったんだ。理屈じゃないさ」

「・・要するにあなたはバカってことね」

「オイオイ、何がどうなってそうなるのさ?これだから頭が堅い優等生は嫌いなんだ」

「私だって何を考えているのか分からないバカは嫌いなのよ」

 

こうして正面きって憎まれ口を叩き合う友人はいなかった・・いや、友人ではなく知人・・でもなく赤の他人がどうしているのだろうか?不思議で不愉快でもあるけど古手川唯にとっては、なんだか心地よい時間だった。

 

「お礼なんか言わないわよ。私、あなたの事が嫌いなんだから」

「ふふふ。そんなもの受けとったら気持ち悪くて三日三晩寝込む自信があるよ」

「ならなんか適当に渡そうかしら?うふふ」

「キミ、何気にヒドいね」

 

夕崎梨子と古手川唯の嫌い同士の奇妙な友情が芽生え、お互いに満面の笑みを浮かべてその場を離れていった。

古手川唯は周りを見回し誰も居ない事を確認し深くため息を吐いた。

 

「私、一人で勝手に突っ走っているだけの自己中心的なヤな奴なのかな?あの子以外に相談してみようかな?」

 

彼女の脳裏に嫌いな人物が過ぎり腹立たしいと同時に勇気をくれる不思議な気持ちにしてくる・・これが彼女の存在があってこそのものだろうか?

 

「全く、私としたことがとんだ悪い子と知り合いになったものね」

 

今まで知り合いになった誰よりも話が通らなく、誰よりも理解出来なく、誰よりも自分によく反発してくる人物はこれからも彼女だけなのだろう。

 

「あんなとんでもないあの子を誰が更正出来るのかしら?結城くんや猿山くんがかまっているようだけど、よくもまぁ話通じるわね。みんな非常識だわ」

 

真面目で常識人として、夕崎梨子を筆頭とした非常識をいつか更正させる為に彼女は戦い続けていく。

 

「風紀委員古手川唯の名にかけて頑張るわ!」

 

ーーーーーーーーーー

古手川唯による鬼の風紀チェックは密かに終わり、通常通りの校則へと戻っていき、学校もいつも通りでただの変哲もない普通の高校へとなっていた。

それを不思議に思った夕崎梨子は古手川唯に尋ねていた。

 

「おやおや唯ちゃん。その辺に落ちてた変なものでも食べたのかい?病院に連れて行こうか?」

「ご忠告どうも夕崎さん。私は至って元気なのよ?それよりも腕がいい精神科の病院を知ってるけど紹介しましょうか?」

「ふふふ、あぁ前向きに検討するけど、神の手を施す医者がいてもボクはボクのままになるのだろう。だからお金と時間の無駄になるよ」

 

二人は満面の笑みで毒舌を交わすのを見て唖然とする結城リトと猿山ケンイチらは互いの顔を見合わせ驚愕の表情を浮かべていた。

 

「な、なぁリコ?古手川となんかあったのか?」

 

未だに満面の笑みを浮かべる夕崎梨子に怯えながらも尋ねて、彼女はこれまで起こった事をサラリと教えた。

自分勝手に校則を増やす古手川唯とそんな彼女に個性をバカにされ怒った夕崎梨子は口喧嘩して余計に関係がこじれたとの事だ。

 

「ならリコちゃんは古手川となんでそんなに仲良さげなんだ?」

 

猿山ケンイチの質問も尤もだ。

喧嘩しているのならばいちいち突っかかる事もないのだろう。

そんな猿山ケンイチの言葉を聞き、ふふふと含み笑いをこぼし満面の笑みで夕崎梨子はこう答えた。

 

「ボクと唯ちゃんは犬猿の仲という訳でお互いの事が嫌いなんだけど、どちらかが上の立場だと分からせる必要があるからなんだよサルくん。ま、もちろんボクが上なんだがね」

 

彼女が冗談でもハッキリと毒舌を言うタイプではなかった。

いつも誰にでも優しく不思議なその口調で夕崎梨子が作り出す世界観に引き込ませ、次々と知り合いを増やすのが常識だった。

 

「あらあら夕崎さんってば何かを勘違いをしているようだけれどいつから私に勝った気になったのかしらね?」

 

古手川唯は古手川唯で夕崎梨子に敵対するかのように毒舌を交わしていた。そんな彼女らの奇妙な関係に納得しかないようだった。

そんな彼女らを心配した正義の心を持った西連寺春菜は駆け寄り、仲直りを促そうと試みた。

 

「あ、あの、喧嘩はダメだから仲直りして?リコちゃんに古手川さん」

「それはダメだよ」「嫌よ。それじゃあね」

 

だけど二人はその一言で言い放った。

古手川唯は輪から逃げるようにその場から消えていった。

その場にポツンと四人だけが取り残され、無言の時間が続き、西連寺春菜はどこか落ち着かないようにオロオロと慌てていた様子だ。

 

「え、えっと理由を聞いてもいいかな?仲直りしない理由」

「うん、ただ気に入らなくてどうしてでも貫きたい事があるからだよ春菜ちゃん」

「どういう事だ?リコ」

「ボクにはボクであると証明を示すという事さ」

「リコちゃんがリコちゃんであるって当たり前だろ?」

「その通りだよサルくん。言葉なんかじゃ説明が出来ないと言うのに、あの唯ちゃんは何でもかんでも理屈をつけないといけないらしいね・・全く困ったものだよ」

 

夕崎梨子の理由と古手川唯の理由もほとんど同じなのだろう。

互いが気に入らないからとただそれだけの理由で仲直りしない・・否、出来ないのだろう。なぜならばーー

 

「ボクにはボクの正義があり唯ちゃんには唯ちゃんの正義があるからだろう。だからこそ生じてしまう争いが起こったんだろうね」

 

彼女らは対峙し続けるのだからーー




古手川唯と夕崎梨子の嫌いは良い意味の嫌いにしたかった今回の話、いかがでしょうか?
イヤよイヤよも好きのうち、と言うことなのです(哲学)


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第七話

少しだけ天上院紗姫が登場!なんだか脇役ぽい少しだけの登場だ!


ララの人気が急上昇し、いつの間にか学校のマドンナとなっていた。

天真爛漫な可愛い美少女がいるというだけで学校中に広まるのに時間はかからなかった。

結城リトとの婚約騒ぎがあったので、彼女を恋人にする事は出来ないからとせめてもの足掻きで遠目で見ている事にしていた。

一方その頃、結城リトらの上級生の二年生である天条院紗姫は憤怒していた。

彼女は縦ロールの髪型と、「〜なんですの?」という口癖が特徴的な美少女で正真正銘のお嬢様であり目立ちだかり屋なのだ。

ララと名乗る人物が現れる前までは学校のマドンナは天条院紗姫であるという事が常識であったのだが、今では誰もがララの追っかけをしているのだというのだ。

 

「許せませんわ!私より美しいだなんて認めませんわ!」

 

美への執着と人気者になり続ける執着が彼女を後押ししていく。

そんな彼女の付き人である丸めがねをかけたいまいちぱっとしない藤崎綾と侍のような気高い雰囲気を持つ凜とした九条凜は相槌をうつかのようにうんうんと頷く。

 

「ところで紗姫様、ララと呼ばれる生徒や紗姫様よりは人気がある訳ではありませんが、一部の生徒に人気がある生徒もいるようです」

「その方はどうでもいいですが一応気になりますわね?どなたですの?綾」

「夕崎梨子、ララと同じ一年生の女子だそうですが・・」

「へぇ、それで?」

「なんでもその方は、紗姫様ほど美しくはないでしょうが美しいのに奇妙で特徴的な口調で話しているとのことです」

「それはどのような口調でありますの?凜」

「男口調ではありますが、でもどこか男口調でもないような、という曖昧な口調だそうです紗姫様」

 

天条院紗姫は二人の報告を受け腹が立った。

絶大的な人気があるララはともかく夕崎梨子に非常に不愉快な気持ちを抱いてしまう。

思春期真っ盛りの男子は可愛いさ重視で女を選ぶはずなのに性格や口調で自分の美しさより目立つなんて許せなかった。

 

「では、彼女らのクラスに突入いたしましょう。綾、凜」

「「はいっ!」」

 

これは戦争だ。美の頂点に君臨するはずの自分に対する彼女らの挑戦状だと思い込むようになり、彼女らは一目散に目の敵にしているララと夕崎梨子がいる教室へと向かっていった。

 

「ちょっとよろしくて!?」

 

教室の扉を力強く開け、ポカンとする一年生らを放ってララと夕崎梨子のもとへとかけよってきた。

 

「勝負よ!ララ!夕崎梨子!」

 

その一言を力強く、凜々しく、優雅に叫んだ。

自分の負けず嫌いは言葉の通りに負けるのが本当に嫌で許される行為ではないのだから当然なのだろう。

そんな負けず嫌いの宣戦布告に夕崎梨子はポカンとしていたが、ララは無邪気な笑みをこぼしていた。

 

「うんっ、いいよ!さぁ、かかってこい!」

 

ララは両腕を真上に真っ直ぐ伸ばし右脚を曲げ伸ばす謎のファイティングポーズをとっていた。

そのララの姿をじっくり観察した夕崎梨子は笑みをこぼして天条院紗姫をジロリと見つめた。

 

「あぁ、そういう事かい。ならばボクも相応の対応をとらなければならないということなのだろう」

 

首を傾げ両肘を折り曲げ手を開き、まさにやれやれと言いたそうなポーズをとっていた・・そんな彼女らの反応にムカついた。

勝負=喧嘩の発想している彼女らはなんて下品で野蛮なのだろう?なぜそんな下品で野蛮で貧相な彼女らに人気が集まるのだろう?

 

「ちょっと勘違いをなさっているようですけどこれは喧嘩ではありませんわ!」

「へ?そうなの?」

 

ララは謎のファイティングを直し普通に立っていたが、夕崎梨子は未だにやれやれと言いたそうなポーズをとっていた。

 

「オイオイ、今さっきキミが勝負だと宣言したじゃないのかい?だがボクらは、か弱い女の子に過ぎないがそれでも勝負したいのだろう?だから戦う覚悟を決めた人の挑戦は是が非でも受けないとね」

「勝負=喧嘩ではありませんのよ!」

「ふふふ、確かにそうだが同じでもあり同時に同じではないがそれに近いもの・・つまりは勝負≒喧嘩なんだよ。その辺はお分かりかい?」

「私達は今!数学の授業をやってないわ!勝負だと言っているのですわ!関係ないですわ」

「おっと、ついウッカリだ。ボクはなんてこうも口下手なのだろう?伝達力や相手への理解力が足りていない証拠だ」

「もういいですわ!もうあなた達とは関わりたくありません!さよならですわ!」

 

不愉快、不愉快、不愉快、なんて不愉快なのだろう?

阿呆なララはともかくあの不愉快な夕崎梨子はなぜこうも人を苛立てようとするのだろう?

早く帰って美を磨いて人気を取り戻さなければ・・

あの夕崎梨子をいつかぎゃふんと言わしてやらなければ・・

いつか、いつか、いつか学校一の美女となるべき為に、今はあの二人にはかまってはいられない。

だから今はまだ彼女らに挑戦をするにはまだ早かったのだ。

 

天条院紗姫が消え、夕崎梨子は満面の笑みを浮かべ肩を落としガッカリとした様子で落ち込んだ。

 

「また嫌われたのかな?ふふふ、ボクはなんでこうも嫌われ者になりやすいのだろうね?」

 

落ち込む夕崎梨子に古手川唯も笑みをこぼしつつ、近寄り古手川唯なりの励ましの言葉を贈った。

 

「当然ね夕崎さん。今のは私にもムカッとしたわ」

 

この言葉は夕崎梨子にトドメがさされた。

少しでも更正するようにと優しい言葉であり、夕崎梨子が少しでも女の子らしくなるようにと正しい言葉であった。

 

「ふふふ、まさか唯ちゃんにもあの言葉に嫌気が指したのかい?それでどうだい?流れ弾に当たった戦国武将の気持ちは?」

「誰が蜂屋貞次よ?まったく・・三河吉田城攻めには本当に苦労しちゃうわ」

「オイオイ、ボク如きがそんな大層な器じゃないよ?日本の城と言われては最大級の褒め言葉だろう」

「確かにね。だけど歴史や運命がそうなるとしても私は諦めたくないわ。孤立無援で絶体絶命だったとしても戦い続けるわ」

「へぇ、運命と戦い続けるタイプだったのかい?なかなか熱いね唯ちゃんは」

「当然よ、だって私が・・古手川唯が正しいんだから」

「ならばボクも・・夕崎梨子は悪くはないと宣言しておこう」

 

互いが互いの正をぶつけあう関係はそう滅多にない・・嫌いだからという理由だけでは本気でぶつかり合う事なんてないのだから。

 

「もしもあなたが女の子らしく振る舞っていたらこうならなくて済むはずだったのにね」

「もしもキミが正しくあろうと努力しなければボクたちの関係は変わっていたはずだったのに」

「私はあなたことが」

「ボクは唯ちゃんのことが」

「嫌いよ」「嫌いだよ」

 

互いな気持ちが重なる・・嫌いという気持ちが。

だけどその二人は満面の笑みだ。

もともと壊れていたその友情が更に壊れていくような気がする二人だけど、彼女らは決して混ざり合わない二人だけど

 

彼女らは唯一無二の悪友になれた

 

そんな悪友を放ってはおけない。放っておいたら何かをしでかすかもしれないし、あの口下手の夕崎梨子はまた敵を作ってしまうかもしれない。

夕崎梨子も古手川唯が正義を執行する前に警告を促さないとまた敵を作ってしまうかもしれないと互いが互いを心配していた。

嫌いなんだけど、それでもこれだけは胸を張って言えるのだから。

 

「仕方ないけど助けてあげなきゃ」

 

本当に仕方ないがない事。

口で言っても分かってくれないから行動で分からせる必要があるのだから。

彼女らの奇妙な関係はこれからもずっと続くのだろう。

 

 




しばらくしたらまた天上院紗姫は登場します!ファンの方!今しばらくお待ちを!


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第八話

レン登場回です!


ララの転入から数日後、またもこの彩南高校に転入生が現れるのだという。

その情報網をどこから入手してきたのだろうか?それよりもどんどんと転入生が来る事を不思議に思う結城リトだった。

もしかしてララの婚約者を亡き者する為の宇宙からの刺客ではないか?と

しかし、ザスティンの話によると地球へと忍び寄る不審な宇宙船を次々と検問して悪者と見なした場合それ相応の対応をするという。

でも、ザスティンらの検問をかいくぐる悪者の宇宙人が現れる可能性も低くはないし、そもそもララ一行の宇宙人らが来る前からこの地球に宇宙人がいるとするならば外部から来るという手段が必要なくなるというのだ。

そう思う結城リトはただその転入生がますます怪しいと警戒を強くしていた。

 

(俺の思い過ごしであればいいんだけど)

 

その転入生がただの人間であったのならばそれでいいが、時期が時期な為に警戒の他の文字が見当たらなかったのだ。

そんな不審な転入生が結城リトらのクラスへと転入し、その彼は自分の名を名乗った。

 

「僕はレン・エルシ・ジュエリア」

 

彼は爽やか系に分類されるイケメンでそのスラリとした体型に爽やかスマイルフェイスに一部を除き女子生徒はときめいていた。

 

「そして僕はララの婚約者でもあるのだ!」

 

レンはとんでもない爆弾発言を投下した。

ララには結城リトという婚約者がいるのにも関わらず、二人目の婚約者が現れる事によって大騒ぎになってしまった。

 

「えっと、誰だっけ?」

 

ところがそのレンの婚約者であるララは記憶にない様子だった。

ララは結城リトを好いているのでその他の男性に好意を抱くつもりもないし抱くはずもないのだろう。  

 

「幼なじみだったではないか!覚えているだろ!?泣き虫レンちゃんだよ!」

「へ?え、え~っと、ごめん、本当に忘れちゃった。ごめんなさい」

 

ララはペコリと頭を下げ謝ったのだが、その態度にはいそうですかと引き下がるレンではなかった。

 

「ならばまた一度僕と結婚を前提にお付きあいしてくれ!」

「それは無理だよ。だって、私には結城リトっていう婚約者がいるんだもん」

 

ララは近くにいた結城リトを抱きつき、仲が良い事を見せびらかすようにした。

自分が好意をもつあのララが他の男性にひっつくとは思えなかった・・けど、その男よりも自分が優れているのを見せればひよっとするとララが振り向いてくれるかもしれない。

 

「キミが結城リトか!?勝負だ!絶対に負けられない!」

 

幼い頃にララと約束した男らしくなったら結婚して欲しいというのをララは快く受けてくれたのだが、今ではどうやらララはすっかりと忘れたようだ・・という事はララは結城リトが自分よりも男らしいという事になるのだろうか?とレンは思案していく。

だから結城リトよりも男らしく強くたくましい自分になればララは自分の事を好きになるはずだろう。だから何よりも何事よりも結城リトよりも上である事を証明しなければならないのだ。 

 

「僕は結城リトよりも早く食事を済ませる事が出来るぞ!」

「僕は結城リトよりも速く走れるし、歩けるぞ!」

「僕は結城リトよりも教室から出入り出来るぞ!」

「僕は結城リトよりも何もかもも上なんだぞ!」

 

ララに結城リトよりも上な自分を見せつけたし、証明したはずだったのに

 

「え、えっと、それで?」

 

ララは認めてくれなかった。

自分が何よりも上だと言うのにララは振り向いてくれなかった・・それが悲しくなって無我夢中で屋上へと走り出していた。

するとその屋上に一人の女子生徒がいた・・それは夕崎梨子であった。

 

「やぁ、レンくん。ようこそ彩南高校の屋上へ」

 

不思議な女性だった。

レンにとってはララには劣るけど、目の前にいる夕崎梨子はどこか魅力的な女性だった。

 

「キミは一体誰なんだ?」

「あぁ、自己紹介が遅れたね。ボクの名は夕崎梨子だよ。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」

 

ーー夕崎梨子

彼女の名を知ったレンは繰り返すように呟きその名を胸に刻んだ。

ララ以外の女性にこうも心引かれるのは初めての経験であり、無条件で彼女ならばと信頼出来ると思う事が出来たのも初めてだった。

 

「少しだけ、話聞いてくれるかな?リコさん」

「あぁ、いいとも。気軽に話してごらん?」

 

不思議な彼女はこうも自分の頼みをすぐに解決しようとするのか理解に苦しんだ。だけど、恐らく彼女は誰でも優しく出来る唯一の人物であろう。

 

「男らしくなったのにララは僕を好きにならないんだ」

「ふぅん。それなりに努力したがダメだと?」

「あぁ、僕はどうしたらいいんだろう?」

「その前に一つだけ聞きたい。ララちゃんは本当に男らしい人が好きだと思っているのかい?または本人からそう聞いたのかい?」

「え?」

 

夕崎梨子の言葉にしまったと思っていた。

確かにララは男らしい人が好きとは言ってはいないが、自分がそう思っただけに過ぎなかった。

 

「ふふふ、やっと気づいたのかい?そう、レンくんは自分勝手に彼女の好みを押しつけたんだ」

「・・・」

「でも、一つだけララちゃんがキミを好きになるかもしれない方法があるんだ」

「っ!!?だ、ダメだ!それは僕が見つけるんだ!それは僕のやり方じゃない!リコさんのやり方だ!」

「分かっている。だけど、アドバイスだけは送ってあげる。自分を信じてララちゃんを信じてあげるただそれだけでおのずと道は開かれるよ」

「・・ララよりも早くリコさんに会っていたら僕はキミの事を好きになっていたかもしれないな」

「ふふふ、そればかりはどうにもならないよ。だって、過去は変えられないのだから」

「・・話は済んだ。もう帰るとするよ」

 

夕崎梨子は本当に不思議な奴だった。

だけどこの気持ちはなんなのだろう?この胸がときめいていてほんの僅かなんだけど胸が苦しくなっていた。

その感情はララに向けられるものとは違うような気がしていた。

自分は本当にララの事が好きなのだろうか?

そもそも、好きという感情はなんなのだろうか?

ララと夕崎梨子の違いが正反対でもあり別次元でもある違いが頭を悩ませた。

 

(・・まさかあの子が気になるなんて)

 

恋愛感情でもないような気がしなくもないが、どうしてでも夕崎梨子の姿が脳から離れてくれないのだ。

 

(だけど僕が抱えるあの秘密を知ったら驚く事は間違いないだろう)

 

彼にはどうやってでも解決出来ない大きな秘密があったのだ。

へっくしゅん、とレンはクシャミを行った。

するとそのレンは男から女へと性別を変えてしまった。

実は彼ーー否、彼と彼女はメモルゼ星人という宇宙人であり、特徴として、男女変換性質がある。

彼らの故郷である砂漠の星では周期ごとに入れ替わっていたが地球の環境と合わないからかクシャミをするごとに性別が変わってしまった。

 

(リコちゃん、か。本当に変わった子なんだね)

 

レンから入れ替わった女の名はルン。

爽やかイケメンのレンと打って変わり、ルンはスタイルの抜群な美少女へと変身していた。

ルンはレンの時に過ごした経験や記憶を保持したまま変わる事が出来るのだが、逆の場合はほとんどの事を忘れているようになっているという。

でも、そんな秘密だって夕崎梨子ならば受け止めてくれるかもしれない。

 

(私と友達になれるかもしれない・・ううん、リコちゃんから友達になってとか言われそう)

 

会って数時間もしないのに信頼を築けるようになった。

彼女ならばどんな秘密だってどんな弱点だって受け止めてくれそうな存在なのだから。

 

(私は逃げない。どんな過酷な道だって立ち向かえる)

 

その心に静かに闘志を燃やし、またクシャミをしてレンに戻ったのだがそれに気づかないのかレンあるいはルンは己の道を歩み続ける。

 

「結城リト、僕は絶対に諦めない」

 

結城リトに改めて宣戦布告をする。

男らしいとか誰がララに相応しいとか一切関係無い。

ただあるのは自分が自分でありその自分を極めていく事こそが最大の試練なのだから。

 

「え?いったいどういう事か知らないけど、頑張れよ」

 

結城リトは何がなんだか分からないけど真剣な眼差しをするレンに敬意を払い不敵に笑う。

どうやら彼の真剣な目を感じ取り、男と男の勝負のような気がしてならない・・結城リトとレンは恐らく恋のライバルになるのだから。

しかし、ライバルになるのはいいが、レンは迷っていた。

彼はララの事は好きだし、結婚だってしたいと思っているのだがそれ以上に夕崎梨子の事が気になってしまったけど、それでも決断するべき時があるのだろう・・それまでの間は待って欲しいと願いつつ今日も自分を磨きつつけるのだろう。

 

「僕は筋を通す」

 

自分との約束を果たす為に今日も戦い続けることを誓いながら彼は闘志を燃やし続けるのだろう。




ルン回もあります!少しだけお待ちを!


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第九話

レン回+猿山ケンイチ回です。
原作では猿山ケンイチの過去話とかなかったのでオリジナル展開として話を作りました。それではどうぞ


レン・エルシ・ジュエリアは嘆いていた。

かつてレンはララと婚約の約束をしたのにも関わらず、他の女性に恋に落ちてしまった事を。

幼い頃に男らしくなったら結婚してくれと頼んだら即日OKの返事が返ってきた為、その婚約は絶対なモノとなっていたはずだった。

しかし、レンやララの両親に一切の関与をもたずに勝手にそう決めつけたのでその婚約は本当の婚約だったのかは知る由もなかった。

もし、もしもその婚約が絶対なものではなく、そもそもまだ婚約自体が成立していなかったら?

それを考えるのは簡単で、レン自体に婚約者が居なくなるという事実が発生される。

もしそうならばレンは自由に恋人を作り、その恋人を伴侶とする事も造作もない事なのだろう。

 

(本当の恋とは・・本当の愛とはなんだ?)

 

恋と愛は似て非なるものだ。

誰かを気にしたり、誰かを好きになったり、誰かと一緒に居たいと思ったりとするのが恋と言うならば愛とは何なのだろうか?

 

(ずっと居たいのは当たり前だし、その人を好きになるのも当たり前・・なのに、それを愛とは言えないような気がする)

 

レンは再び嘆いていた。

恋の意味は充分に理解していたけど愛との違いが分からなかった。

結婚するから愛が生まれるとか子供を作る事で愛が生まれるなどのそんな話で済む訳がない。

恋するから愛が生まれるのか、その愛が生まれれば何が生まれれるのか分からなかったのだ。

でもそんな事は恋人と付き合えばおのずと分かってくるのだとどこかで理屈ではなく本能でそう理解していたけど自分が正しいのか間違っているのかは今は分からなくなっていた。

 

「僕は本当の本当にリコさんの事が好きなのか確かめてやる」

 

だから確認する事にした。

自分の恋が、自分の愛が本物なのかどうかじっくり見定めなければならない・・レンは影ながら夕崎梨子を観察していく事にしていた。

 

尾行一日目、夕崎梨子の登校を影ながら見ていた。

彼女は結城リトやララに猿山ケンイチらと一緒に登校し、彼女は向日葵のような笑顔のまま彼らと話しこんでいた。

その会話は他愛も無いもので昨日のテレビの感想や今日の予定の確認などで彼女の全容を知る事は出来なかった。

 

尾行二日目、夕崎梨子は西連寺春菜や近くに居た女子生徒たちと話しこんでいた。

今回の話題はファッションや占いなど普段の彼女がする話題とは思えないが一応は女の子なので普通といえば普通だった。

しかしその会話の中でイケメンモデルやアイドルならば誰が好きかという話題となり、彼女の好みが分かるかもしれないと真剣に耳を澄ませた。

 

「ボクは外見に囚われないので特に居ないのだが・・ま、強いて言うならばボク自身が気に入った人が好みと言えるだろう。もちろんその人の弱い所も含めて好みになるという場合もあるかもね」

 

夕崎梨子は外見よりも性格を選んだ。

なんとも彼女らしい答えだが、なんだか漠然とした答えだった。

 

尾行三日目、夕崎梨子は古手川唯と口喧嘩していた。

もうすでに学校名物となった彼女らの口喧嘩はますますヒートアップして互いが譲れられない喧嘩となっていたのだ。

怒っているようだけれど怒ってはいないあの奇妙な口喧嘩がレンを悩ませた。

 

(リコさんに天敵がいるのか?)

 

意外な彼女の大きな弱点を知ったレンはどこか安心したような気持ちを抱いた。

彼女だって怒る事もあるし気にくわない事もあるのだろうが、あそこまでムキになるのは子供みたいで可愛らしい。

 

(あのリコさんに可愛いと言っても流されそうだけど)

 

レンの考えは的中しており、夕崎梨子は褒められても素直に受け止められないし、それを回避するように回りくどい喋りで話題をすり替える事が出来るのだ。

 

(本当に素直じゃなく口下手なんだねリコさん)

 

学力もあるし運動神経も人並みにはある夕崎梨子は完璧でもあるけどどこか弱点だらけの弱い女の子にしか見えなかった。

 

(僕は守りたくなるな、あの子の事を)

 

夕崎梨子は学校内で一番脆くて弱い存在なんだ。

そうレンは思い始めた瞬間胸の鼓動が早く高らかに動いていた。

弱いから守りたいのではなく、夕崎梨子を知り尽くしたこそ・・自分にとってかけがえの無い存在だからこそ守りたいと願い始めていた。

 

(なるほど、僕は目が覚めたようだ。恋はこういう意味だったのか・・ララちゃんもあの結城リトにこういう気持ちになっているというのならば僕は・・)

 

ララの事は好きである。

だけど、そんなララの好きよりも、もっともっと大きな好きなのかもしれない。

レンはララの気持ちを理解し、自分自身の気持ちも理解して恋の行く末を自らの手で見つけ出しそれを実行するべきだと、強く、強く、そう思っていた。

 

(僕は夕崎梨子を好きになってしまった以上、誰にも負けない強い男となって彼女を守らなければならない!)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

レンの行動は迅速であり、結城リトにララを泣かせる事があれば絶対に許さないとだけ宣言した後、夕崎梨子に覚えてもらう為に色んなアプローチを仕掛けていた。

 

「やぁ、リコさん。バラだよ」

「やぁ、リコさん。荷物を持ってあげよう」

「やぁ、リコさん。今日も美しいね」

「やぁ、リコさん。僕はたくましいだろ?」

 

そんな感じで夕崎梨子に自分の存在をアピールしていたけど特に変化が訪れず、時間だけが過ぎていた。

無駄な事は一切していないはずだったのに、こうも彼女は適当にあしらっているようで本当の意味では振り向いてくれないのを嘆いていた。

 

「お、おかしい!な、なぜあんなに必死で頑張っているのに!」

 

悔しくて悔しくてたまらなかった。

夕崎梨子は自分の事を好いてはいないのだろうか?と考えが過ぎるだけで胸が苦しくなっていた。

そんなレンを心配していた猿山ケンイチは笑みを浮かべやってきた。

 

「おいお前、あんな無駄な事してもリコちゃんは絶対振り向かないぞ」

「だ、誰だ!お前」

「ん?俺?ま、お前のライバルかな」

 

レンの事をライバルと称した事で彼も夕崎梨子を好いていると豪語したも当然だ。

なぜそんな彼が自分のもとへ説得しようとするのかレンは分からなかった。

 

「多分・・いや、お前もリコちゃんの事好きだろ?」

「当然だ」

「なら仲良くなりたいなら普通に話しかければいいだろ」

「何?普通に?告白とかしなくてもいいのか?」

「告白は断じてダメだけど、話しかけるのはいいぞ」

 

猿山ケンイチはニッコリと笑いかけレンを励ましてくれた。

ライバルであるはずの猿山ケンイチがなぜこうも近寄ってくるかますます分からなくなっていった。

 

「俺な、リコちゃんに会うまでは街で歩く女の子を片っ端からナンパしてたんだ」

「・・最低だなお前」

「へへへ、だけどな、そんなナンパしていたある日の事だ。あの日にとんでもねー美少女が居たんだ」

「それがリコさんか?」

「ああ、それで早速ナンパしてリコちゃんは何の躊躇いもなくいい返事をくれたんだぜ?普段だったら渋ったり断られたりされるんだけど初めてだったんだ!」

 

猿山ケンイチは興奮気味で鼻息を荒くし顔を真っ赤にするけど、徐々にその赤みが消えていき落ち着いた。

 

「それで俺に気があるんじゃねぇか?と思ってよ遊園地とかショッピングとか連れ回していざ告白だ!と思ったんだけどな・・」

「まさか断れたのか?」

「・・そのリコちゃんは『今キミがやっていた事は何の変哲もない誰かの行動だったんだよ。キミ自身の行動じゃない』ていう発言で俺の告白を台無しにしたんだ・・いや、してくれたんだ」

「キミ自身の愚かさを否定しつつキミのフォローをしてくれたんだね」

 

猿山ケンイチは目を瞑り彼女との思い出を事細かに思い出していた。

 

『ボクはね、決してマネをするなとは言わないんだよ。マネをする事が世の中の為になるならばマネしていいんだ。ただそのマネする事が自分の為じゃなく他人の為ならどう思うかい?それは自分じゃなくその他人になるって事だろう?だから暗に自分を否定する事と同じなのだろう。ま、極論だけどね。

それでもキミがそうじゃないと思っても正解だよ。先程のナンパを例にするとキミはセオリー通りにしたし、そしてボクに告白するも玉砕する・・これも同じだし、そのセオリーを外して思い切ってサプライズ的に会う。そうする事でいくつもの展開が開かれるだろう。遊園地やショッピングもいいけど展開は一つしかないんだろう。だからキミを・・キミ自身を見たかったんだ』

 

夕崎梨子は他人ではなく猿山ケンイチ自身を見ていたようだった。猿山ケンイチはその一言を聞いて世界が変わったような気がした。いつしか街を出てナンパをしなくなり、夕崎梨子に惹かれてしまって今に至った。

 

「言っておくがよレン、リコちゃんは実は誰にも対してガードが甘々なんだよ。だから間違っても告白するなよ」

「甘々なのか?!」

「そうさ、なんてたってナンパを即OKだぜ?甘々だろ」

「くっ!でも僕は負けないぞ!」

「ああ、俺も負ける気はない」

 

レンと猿山ケンイチは火花を散らすように睨み合い、お互い負けられない戦いになり互いをライバルとしその魂に静かに燃える恋心は決して消える事なく燃え盛っていた。

 




次はルン回です。


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第十話

二話連続投稿となりました。ルン回ですが非常に短い出番となってしまった!今回の話は短くなったのでゆっくりと読んでくださいね。


ルン・エルシ・ジュエリアは覚悟していた。

 

彼女は男女両方の人格を持つメモルゼ星人という宇宙人の王族であり、男の時はレン・エルシ・ジュエリアという名となり常に一心同体という訳で生きていた。

 

(よし!早速リコちゃんとお友達になろう!)

 

女へと変わっていたルンは颯爽と夕崎梨子が居る教室へと向かい、その教室の扉を開き、無防備な夕崎梨子に飛びつくように後ろから抱きついた。

 

「んぅぅひゃあっ?!」

 

夕崎梨子は突然ルンに抱きつかれた事に驚きを隠せず、女の子のような可愛い声で叫び恥ずかしそうに俯いていた。

 

「んっ、んんっ!で、キミは誰なんだい?」

 

夕崎梨子は恥ずかしさを誤魔化すように咳払いし、始めてみたルンの姿に困惑した反応を示していた。

しかしルンは宇宙人なんです、だなんて他の生徒に聞かれては困るので小声で二人きりで大事な話したいからどこかに行こうと囁き、それを夕崎梨子は了承した。

 

「・・・ああ、分かったよ。ならば屋上で話そうか?そこならばおそらく生徒は居ないだろう・・」

「・・・うんっ、いいよ・・・」

 

二人はこそこそと話し、屋上へと向かい生徒が居ないのでそこで話し込む事にした。

 

ルンは手始めと自分が宇宙人である事を明かして、夕崎梨子は当然戸惑った。しかし、ルンは持っていたティッシュで紙縒(こよ)りを作り、自らの鼻を刺激して盛大にクシャミをした。

 

するとどうだろう、女の子だったルンが見知っている男の子のレンへと変貌していた。

 

「・・・・・・驚いたよ、まさかレンくんだったとは」

 

いつもの満面に笑みは消え去りおっかなびっくりな表情でレンを観察するようにジロジロと見ていた。

どうやらトリックか何かだと思ったらしいが、この男女逆転には仕掛けも何も無いのだから見つけられない事は無かったのだ。

 

「ごめんよリコさん、僕も宇宙人なんだよ」

「・・・?レンくんも宇宙人ということは、さっきの女の子も宇宙人、という事になるのかな?」

「ああ、そうだ。ついでに言うとアレは僕でもあり、僕はアレでもある・・つまりは同一人物なんだよ」

「・・・な、る、ほ、ど、ねぇ」

 

夕崎梨子の思考回路はショートした。

いきなりの非現実的の出来事に驚きしかなかったのだ。宇宙人を信じるとか信じないとか男女逆転がトリックとかやらせとかそういう問題ではなかった。

 

(・・・本当にそんな事があるなんて、ね)

 

夕崎梨子は変だと自負しているけど常識人でもあり、いつもの理由や理屈による一切の説明が考えられなかったのだ。

 

(でも、彼らはボクに話してくれたのは一体・・・?)

 

疑問を抱く夕崎梨子だけど、答えは見当たらなく、諦めモードになり、仕方なくその現実を受け止めるようにし、彼らの話を聞く事にした。

彼らが正体を明かした理由はただ一つ、夕崎梨子との友情の交渉であった。

ーー僕と私と友達になってくれ

その願いをしかと承った夕崎梨子は普段の満面に笑みで彼らと固く握手し、三人は友好な関係になっていた。

 

「で、レンくんにルンちゃんはーー」

「いや、僕になっている時はレンでいい。逆の場合はルンでいいんだ」

「おっと失礼、レンくんはボクと友達になったし、他の子と友達になる気はないかい?」

「友達ならいるよ、ララと・・いまいましいが結城リトと知り合いでね、多分僕の事を知っているよ」

「そうか、ならいいね」

 

夕崎梨子の通常より笑みが深くなった気がしたレンは不覚にもドキリと胸をときめかせ、顔を赤くした。

ーー可愛い

そう思えば思うほど彼女が愛しくて愛しくて胸が張り裂けそうな苦しい恋心は留まる事もなく、強く強くその恋心は動き始めていた。

 

「オイオイ、顔が赤いが風邪かい?いや、さっきルンちゃんだったからその影響なのかい?どちらにしても保健室に行った方がいいと思うよ?」

 

夕崎梨子は覗き込むようにレンの顔を近くで見た。

 

(ち、ち、ち、近いっ!と、と、と、吐息が当たるくらい近い!)

 

遠くから見たら彼らはキスをしているような構図であり、そこに彼ら以外の生徒は居ないので奇妙な噂は流れないだろう。

それよりも夕崎梨子の顔は近かった。だからレンは興奮して顔を徐々に、本当に少しずつ真っ赤になりつつあった。

 

「・・・本当に大丈夫かい?」とずいっと顔を近づけた夕崎梨子。

 

(キレイな目だっ!キレイな長いマツゲだ!吸い込まれそうだ!鼻もすっと細くてキレイだし、口もキレイなチェリー色でプルプルと震えている!そしてその不安そうな顔!か、可愛いっ!)

 

夕崎梨子の顔をずっと見ていたかった。

だけど、そうする根性も無いし、そうする気力も無い。でもレンに対してこの経験だけでも満足だった。

 

「そ、そうだね!ほ、ほ、保健室に行かなくちゃ!」

「大丈夫かい?なんなら肩を貸そうか?ほら」

 

夕崎梨子はそっと手を差しのばしてくる。

この手にレンも応じたいが、その手をとって何処かに連れ出したい、その手をとってずっと離したくないと強く思ったレン。

守りたいその手を持つ彼女を騙しても良いのだろうか?それは王族としても男としてもレンとしても決して許せられないのだ。

 

「ーーいいよ、リコさん。僕は一人で大丈夫だから気にしないで?それじゃあ!」

 

それだけ言い残し屋上から走って立ち去るレンを見送り、夕崎梨子は小さく笑い、肩をすくめる動作をした後、屋上にあるベンチに腰を掛け、軽くため息を吐いた。

 

「ふふふ、元気そうだったねぇ・・・ボクも風邪の時にあれくらいの元気があればいいのに・・・なかなかそうはいかないようだよ」

 

夕崎梨子は風邪になった際、体力が落ちて一人では何も出来ないし、頭がボーッとして頭が回らず得意な回りくどい喋りも疎かになってしまうのだ。

 

「レンくんにルンちゃん、か・・・うんっ、いい友達になりそうだっ」

 

夕崎梨子は無邪気な笑みでにぱっと笑い、空に自由に羽ばたく三匹の鳥を見上げながら、その笑みは深くなっていた。

 

「ーーーまるでボクたちみたいだね」

 

レン・エルシ・ジュエリアとルン・エルシ・ジュエリアは夕崎梨子と自由となっていたのであった。




次は体育祭回です。んで次が金色の闇回となっていますのでお待ちを~!


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第十一話

体育祭回です。ごゆるりとご堪能あれ?


空は晴れ模様となり体育祭の時期となっていた。

結城リトは想い人である西連寺春菜に良い見せ場を見せようと、そして猿山ケンイチは想い人である夕崎梨子に良い見せ場を見せようと決意していたのだ。

そんな彼らの想いは気づくのだろうか?西連寺春菜は密かに結城リトの見せ場を見ようとは思っているが、夕崎梨子の方はどうなのだろうか?

その夕崎梨子はいつも通りに満面に笑みを浮かべていて、その他の感情が出ないかと心配してしまうけど他に思い当たる感情と言えば黒い笑顔だったので、夕崎梨子のその他の感情を見る事をどこか彼女を知る者達は諦めていた。

 

一方、夕崎梨子の心境はというと・・・

 

(ふふふ、今日の弁当はママが張り切って作ったって言ったからなぁ~。今日の体育祭で精一杯動いて思い切りお腹を空かせるとしよう。うん、それがいい)

 

料理が出来ない訳では無いが、母親の手料理には勝てずにいて母親の手で作られた弁当を非常に楽しみにしていた。

ちなみに、夕崎梨子は母親の事をママと父親の事をパパと呼ぶという両親への溺愛の気持ちを持っていた事は友人には内緒だという。

 

(ママは来れないけどパパはカメラで撮影するんだって興奮してたし、パパ・・パパが撮ってくれるボクの姿をママに・・ボクの活躍を見せなければならない、という事になるだろう)

 

夕崎梨子は笑みを浮かべた。

その笑顔はいつもの笑みとは違い、まるで純粋無垢かつ無邪気で向日葵のような笑顔であった。そんな彼女は猿山ケンイチと一緒に登校していたのでその笑顔を彼は目撃してしまった。

 

「うおっ!?リコちゃん!?すっげー楽しみにしてるんだな!」

「ああ♪こんなに心躍るのは久方ぶりだ♪」

「っっ!!?」

 

猿山ケンイチはときめいた。

夕崎梨子が純粋無垢の笑みで声は甘えん坊の子供のようで艶(なま)めかしい声色であった。

 

(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い好き好き好き)

 

猿山ケンイチは顔を真っ赤にさせ夕崎梨子にメロメロとなった。いつもの小難しい夕崎梨子の口調とのギャップに萌えを感じ、彼女に恋い焦がれてしまった猿山ケンイチは好きよりも大好きという気持ちへと変化していた。

 

「ん、んんっ!すまないね、ボクとした事が随分と、はしゃぎすぎたようだね」

 

夕崎梨子は恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをして通常の夕崎梨子へと戻った。そんな彼女の変貌に、勿体ないと猿山ケンイチは感じていたけど、それでも普段の夕崎梨子が好みであった。

 

(さっきのもリコちゃんでこのリコちゃんもリコちゃん・・やっぱ俺、リコちゃんが好きなんだぁ)

 

ウットリとした目で夕崎梨子を見つめるけど、その彼女は首を傾げ疑問を抱く様子で猿山ケンイチを見ていた。

この猿山ケンイチは何を考えているのだろうか、と彼の気持ちを読み取る事は出来ず学校へと歩を進めていくのであった。

 

時は更に進み体育祭開始となり、生徒達はグラウンドに集まって入場していき、生徒達の数多くの保護者はテントで我が子達を応援し見守っている様子だ。そして体育祭開催宣言が天上院紗姫によって宣言された。

 

『宣言!この天上院紗姫他モブ生徒一同は美しく妖艶に華麗で優雅で愛に強く、そして!リコとララ!あなた達には絶対に負けないと宣言いたしますわ!』

 

数多くの生徒の保護者がいるのにも関わらずグラウンドにある朝礼台に立たれ勝負宣言をいい放たれる空気にその場に居た生徒達や保護者は驚きを隠せず、特に夕崎梨子は恥ずかしそうに俯いていた。

 

(さ、紗姫ちゃんっ!パパが入場からずっとカメラ回しているのにそんな堂々とっ!は、は、恥ずかしーじゃないかい!)

 

ララはララで無邪気に楽しそうだと、はしゃいでいて天上院紗姫の勝負を承ったのだが、夕崎梨子はそれどころではなく、ただ恥ずかしかった。それはそうと宣言が終了し、次は準備体操の時間により、準備体操考案の校長は朝礼台に上がった。

 

『校長の校長による校長の為の校長ラジオ体操ー!』

 

放送係となっていた猿山ケンイチの進行の声のもと、ラジオ体操の時に流れる音楽が始まり、準備体操が始まった。まずは腰をくの時に折り曲げ、両腕を真っ直ぐ大きく手前に振り、お尻は突き出しては引っ込める体操をしていた。

 

(くっ!な、なるほどっ!これはなかなか堪えるっ!肩や腕と腹と腰付近を同時に動かすなんて!やるな校長先生!)

 

夕崎梨子は運動の手応えを感じ、良い感じに身体をほぐしていた。次の運動は寝転がって両脚を真上に突き出し、両脚を左右に大きく開いたり閉じたりする運動だ。

 

(っ!なるほど!腹筋やあんまり動かさない股関節辺りがよくほぐされる!ただ者じゃないな!あの校長先生!)

 

夕崎梨子は真面目に体操していたが他女子生徒達は困惑していたのだ。まさかあの校長先生はエロい格好をさせたいのではないのかと疑問を抱いていて、次の運動の内容に女子生徒達は確信になったのだ。

 

両脇腹から手を押しつけ、上に上にと移動し両脇まで到達したらその両脇をグリンと両手で円を描く運動、つまりは自分の胸を揉みしだけと暗に言ったのだ。それに怒った女子生徒達は激怒し、近くにあった物を校長先生に投げつけ校長先生を無力化にしたのだが、二人の女子生徒がそれをやって遂げていた。

 

「く!やるな!校長先生!脇腹から脇まで解しつつ肩も解されるという訳か!」

「わ!リコの言う通りだ!すごく気持ちいいよ!」

 

真面目な夕崎梨子と純粋無垢のララであった。近くに居た西連寺春菜は彼女らの行動を中止させた。

 

「な、なんでそんな事をするのー!?こんな所で!」

 

西連寺春菜の言葉は尤もであった。

男子生徒は顔を赤くして自分の胸を揉みしだく彼女らの行動を見ていたのだからそれを止めさせるのは至極当然の事であった。ララは素直にごめんと謝るけど、夕崎梨子だけは反論していた。

 

「いやいや、あの校長先生の準備体操は運動さる事ながら、スタイルの向上にもいいんだよ。いやぁ、本当に何者なんだろうね?あの校長先生」

「っっっ!?だ、だからって!~っっっ知らない!」

 

西連寺春菜はスタイルに自信がなかった。

胸は高校生になっても育たず、クビレやお尻も大人のように変わらない事を嘆いていた。

 

(スタイルが良くなるって事はリコちゃんみたいになるって事かな?帰ったらやってみようかな)

 

西連寺春菜は夕崎梨子の身体をマジマジと観察した。胸は恐らく80前後の大きさでクビレも約50センチ前後程でお尻も胸と近いくらい大きかった。

 

(ーーっ!!?や、やっぱり!すんごいスタイルだー!本当に同い年なのー!?)

 

女の子なんだけど惹かれてしまうその素晴らしいスタイルは本当に羨ましい。

 

(んー・・・ホントに何を食べたらこうなるんだろう?気になるなぁ・・でもこんなスタイル持っているのにあんな勿体ない口調なんだもんなぁ・・ま、まさか小さい頃からスタイルが良くてそれを気にしてあの口調になるとしたら・・・ってあれ?腕や手で隠れてる?はっ!)

 

夕崎梨子の身体をじっくりと観察した集中力は夕崎梨子の身体に巻かれた自身の両腕の存在に気づき、恐る恐る夕崎梨子の顔を見たら、はにかむような様子で恥ずかしがっていた。

 

「・・・春菜ちゃんって、けっこうスケベなのかい?」

「ち、ち、違うよ!た、ただリコちゃんのスタイルがいいなぁと思っただけで!はわわわっ、ごめんなさいッ」

「まぁ、いいけどね、時と場所を考えて行動しないといけないよ?春菜ちゃん」

 

夕崎梨子の冷静な説教に頭が下がる西連寺春菜は、しゅんと小さく落ち込んでいた。

そんなこんなで開催式は終了し、第一種目である借り物競走は奇妙であった。普通の借り物競走ならば身近に用意出来る物でなければならないが、この彩南高校流体育祭の借り物競走はとんでもなかったのだ。

例えば、どこかにある伝説の聖剣エクスカリバーとか、初恋の想い人とか、脱ぎたての女子限定体操服とか、心の壁などなど無理な借り物競走であった。

当然、リタイア続出であり、ゴールした生徒はほんの僅かしかいなかったのだ。

 

そして夕崎梨子が出る次の種目である障害物競走も一風変わったものであり、ハードルや平均台などの障害物ではなく、夫とその愛人と出来た子との障害や夫が何かの犯罪で数十年待たなければ釈放されない障害などという本当の意味での障害物競走となっていった。

 

もちろんリタイア続出であり、唯一生き残りの者は夕崎梨子のみとなりその前に立ちはだかる障害物として出てきたのは茶道教室においてイケメンの先生が夕崎梨子を想いそれを許せないとするその茶道教室に通う女達との障害であった。

 

夕崎梨子は顎に手を添えてしばらく思考し、「・・・ふむ、なるほど。策を思いついた」と呟き、夕崎梨子流茶道を開始していた。

グラウンドに畳がおいてあり、まず茶室に入る展開からと夕崎梨子は「うおおおりゃああー!」と大きな声を出しながら茶室の襖をマウンテンバイクに乗ってぶち壊しながら入っていき、イケメン先生にマウンテンバイクに跨がったまま「お茶をくれ!間に合わなくなったらどうしてくれるんだー!」と満面に笑みでイケメン先生を脅した。

 

「は、は、は、はいっ!た、ただいま!」

 

イケメン先生は茶道の一つ一つの作業をソワソワと落ち着かない様子を見せ、挙げ句の果てには「ボクがやる!見ていられない!」とイケメン先生による茶道を邪魔し占領した。そして夕崎梨子は茶道のなんたるかを知らないのか「あーしてこーして・・・分からん!」と叫びながら茶道の道具をひっくり返し、懐を探ってある物を取り出し、それをイケメン先生に差し出した。

 

「粗茶ですが、どうぞ」

 

インスタントの味噌汁であった。

茶ではないし、飲み物としても微妙な物であったので、イケメン先生は「キミは非常識だし、嫌いだ」と泣き叫びながらその場から消え去り、障害がなくなったのだった。

 

「ふふふ、ボクが嫌われれば他の女の子達は彼に告白でもなんでも好きに出来る、と思ってああいう行動をしたんだよ」

 

そんなこんなで波乱な体育祭は終了し、結城リトが所属するクラスが優勝とし、あっけなく天上院紗姫が所属するクラスは敗北となり幕を閉じたのであった。

 




次は金色の闇です!自分でもどう書くか楽しみです。


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第十二話

金色の闇回です。次も金色の闇となります


休日、結城家の長男である結城リトは買い物へと向かっていった。

それを付き添うように夕崎梨子も付き合っていたのだ。

 

「ごめんなリコ。買い物に付き合ってもらって」

「いいんだよリト。ボクだってちょうど欲しい物があったからついでに、と思っていてね」

 

彼らは近くのデパートやスーパーへと食料などを買い進め、それが終わったので帰る途中だったのだ。  

 

「それに夕食は美柑ちゃんの手料理も食べられるし、それが報酬ならば飛びついて参加せざるを得ないんだよ」

「ははは、それが狙いか」

 

親戚で友人といえど女である夕崎梨子が隣にいる事で女に免疫がない自分の通常ならば胸の鼓動が早くなって顔が真っ赤になるはずなのに、彼女ならばなぜかそうはならなかった。

他人の女の子なのに、どうしても女の子であるという認識が出来ないような・・でも正真正銘の女の子なのに緊張が全くしない。

かつて夕崎梨子の事を妹のようだと冗談のつもりで言った事があるのだが、まさか無意識的にそう思うようになってしまったのだろうか?

だけど知り合って時間は経っていない・・ララとの出会いとほとんど同じタイミングで知り合ったというのに、ララの方はまさに女の子女の子らしくハッキリと女と認識してしまう程の反応をしてしまう。

なのに夕崎梨子は気がついたら慣れてしまった事に驚きを隠せない。

だから、もう一度だけ彼女の事を尋ねたい。

 

「なぁ、リコ。お前、本当に誰なんだ?」

 

夕崎梨子は非常に驚いた表情を浮かべ、数秒経ったのちにその顔に笑みを浮かべこう答えた。

 

「ふふふ、改めましてボクの名は夕崎梨子。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」

 

まさにいつも通りといったところか、ただその名を言うだけであってそれ以上の答えは言わない・・否、それが答えだと言わんばかりにそう答えた。

 

「そっか、そうだよな。お前はリコでリコはお前なんだな」

「オイオイ、勝手にボクを分かった気になるのかい?」

「だけどそうだろ?」

「・・ふふふ、参ったな・・こんな事は初めてだ。この口下手なボクが言い負かされただなんて」

「口下手だからこそだろ?」

「なるほど?確かにそうなんだろうけど、こんな圧倒的な敗北感は初めてだ」

「ていうか、勝った事があるのか?」

「ふふふ、ボクは常に敗北者だよ。誰よりも劣って、誰よりも口下手で、誰よりも風変わりで、誰よりも弱いんだよ」

「誰かに勝ちたいって思ったりはしないのか?」

「・・多分無いのかな?というよりも勝利とは一体何をもって勝利と言えるのだろうね?それを知らなければボクはずっと敗北者なのだろう」

「それならジャンケンとかは?あれならハッキリ勝利と敗者が決まるだろ?」

「ボクはそういうのが嫌いなんだ。ボクとしては、うやむやのまま勝負が長引く事の方が好きなんだ」

「つまり、あいこの状態が続く方が好きなのか?」

「そう。だって・・だってその方がずっとその人と戦えるからね」

 

夕崎梨子は満面の笑みを浮かべた。

これだ・・この負けず嫌いでもあるけど勝てる事にも興味が無いし、口下手で素直ではないこの奇妙な夕崎梨子の性格が結城リトに違和感無く接してくる・・この奇妙で独特な感性が分け隔てがなく接する夕崎梨子が結城リトの傍に居ても浄化してくれる。 

 

「でもね、ボクは挑戦者でもある。さすがにチャンピオン席なんかボクの柄じゃないのでね」

「それは勝利を知らないから?」

「いやいや、そうじゃないんだ。チャンピオンは挑戦が来るまで待たないといけないんだろ?ボクは待つのも嫌いなんだよ・・まるでご主人から貰えるはずの餌をいつまでも待てと躾けられる小腹空いた犬のようにね」

「なるほど、戦いに餓えていて待ちきれないという意味なのか?」

「ふふふ、大正解。ボクもユーモア溢れる言葉が言えるようになっていたようだよ」

「本当にいちいち回りくどい説明だな」

 

口下手な夕崎梨子とこんなに話込めるのは不思議ではあったが、彼女が織り成す世界観に引っ張られ、いつの間にか、もっと会話を続けたいと思うようになっていた結城リトは心の底から楽しんでいた。

友達以上の関係なんだけど、恋人の関係でもない・・まさに親友と胸を張っていえる間柄となれるのだろう。

近くにいるのは当たり前で、好きだとか嫌いだとかそんな些細な言葉では済まされない関係。

 

ーー絆ーー

 

そう、絆が芽生えたような気がしていた。

そこにいるのが当たり前、そこに恋心は存在しないが夕崎梨子ともっとずっと傍にいるべきだと感じるようになっていた。

 

「なぁ、リコ」

 

そんな彼女の名を呼ぶ事なんて何の障害なんて無い。

女の子の名だから恥ずかしいとかそんな生易しい理由や理屈なんかはいつの間にか吹き飛んでしまった。

 

「俺たちはずっと親友だ」

 

自分に言い聞かせるように、彼女に言い聞かせるように約束をした。これからも傍にいて口下手な彼女の会話が当たり前な宝物になるのだから。

 

「ああ、ボク達は親友だ」

 

互いに笑い合い絆を深めていく。

彼らが恋人関係になる心配もないし、その必要も皆無となった今は互いを信頼していたのだ。

結城リトは口下手な夕崎梨子を、夕崎梨子は親友の結城リトを信じているのだから。

二人が絆を認識した後、近くにあったたいやき屋を見つけた夕崎梨子は走るように向かいたいやきを数個買った。

 

「ふふふ、美柑ちゃんへのお土産にと思ってね」

「ありがとう、きっと喜ぶよ」

 

土産を買って喜ぶ二人を無感情な顔で見ていた少女がいた。

その少女は小柄でかつ細身で長いストレートの金髪を持った少女。瞳の色は紅色で黒い戦闘服を着た少女だった。

 

「・・・」

 

その少女はたいやきを凝視しているかのようで目が離せないでいた。

夕崎梨子はたいやきがたくさん入っている袋からたいやきを一つ取り出し、少女に渡した。

少女はたいやきを黙々と食べ、ポツリと一言呟いた。

 

「地球の食べ物は変わっていますね」

 

少女の言葉に疑問を抱いた結城リトと夕崎梨子。

普通ならば、この辺のたいやきは美味しいと言うべきなのにわざわざ地球単位で言うなんておかしい。

 

「オイオイ、まるでキミが宇宙からやって来たような口ぶりじゃないかい?」

 

夕崎梨子の言葉にドキリと結城リトは驚いた。

まだララが宇宙人だという事を皆にバラしてはいないのに、なぜこうも夕崎梨子は頭が回るのだろうと疑問を抱いた。彼女自身が宇宙人であるはずもないのに、と

 

「・・あなたの外見から思いもしれない口調も変わっていますね・・」

「ふふふ、よく言われるよ。ボクに対してその言葉は褒め言葉だということを教えておこう」

「本当に変わっていますね。何もかもが」

「ボクは変ではないんだ。ボクからしたらみんなが変に見えるんだよ」

「ワガママでもあるのですね?子供みたいです」

「ああ、ボクはまだ子供なんだよ。だから、狭い世界観に囚われずに広い世界を知りたいからこそ大人になるんだよ。そんなキミは子供なのかい?大人なのかい?それとも・・・まだ世界を知らない赤ん坊かい?」

「・・・」

 

少女は思案していた。

実はこの少女は宇宙からの刺客であり、結城リトを抹殺するべく現れたのだが、最初から出鼻を挫かれた。

こんな事は初めてであり、任務とあらば最速で標的を抹殺するだけの作業でしかなかった。

結城リトを殺すように言った依頼者の話では結城リトが最悪で災厄の人でありデビルーク星のララを捕らえる事で全ての宇宙を支配する極悪非道の人物であると。

しかし少女はその不思議な存在の少女の知り合いである結城リトを問答無用で抹殺してもよいのだろうかと初めて思ってしまった。

 

(・・だけど、依頼があった以上、結城リトを殺さないといけない)

 

プロとして仕事はキッチリと果たさなければならないのだから、どんな理由があれ結城リトを亡き者にしなければならないのだから。

だけど、今日はそんな気分がでなかった。こんな気持ちになるのもあの不思議な雰囲気の夕崎梨子のせいなのだから。

 

「あなたは結城リト、ですね?」

「えぇ?!な、なんで俺の名を!?」

「実はあなたを殺すようにと言われたのですが、少々お話があります」

「・・まさか、宇宙からの刺客とかなんとかなのか?」

「有り体に言えば、ですが。そんな事より、あなたは無理矢理プリンセスララを誘惑しデビルーク星を思いのままにしているのは本当ですか?」

「嘘だよ!そんなの!第一、こんな弱い俺がそんなヒドい事なんて出来る訳がないだろ!地球の文明じゃデビルーク星がどこにあるかなんて認知も出来ないよ!」

 

結城リトの必死の説得に二人はそれぞれの反応を起こす。

金髪の少女は、それもそうかと納得している様子で夕崎梨子は耳を疑うような怪訝した顔をしていた。

 

「・・リト、やっぱりこの子は宇宙人なのかい?何をもってそう思うのかい?」

 

夕崎梨子は宇宙人を信じてはいなかった。

漫画や映画ではよく地球に宇宙人が登場し侵略するシーンは数多くあるのだが、それはあくまでもフィクションであり、作品であった。

だけど、先ほどの少女が言っていた地球の食べ物が変わっているとかデビルーク星とか、まるで宇宙から来たかのような口ぶりで冗談のつもりだと思っていたのだが、どうやら少女は宇宙人のようだった。

 

「ああ、この子は宇宙人で確定だ。あとそれと黙っていていたけどララもあと多分だけどレンも宇宙人なんだ」

「・・・へぇ、理解するのに三秒もかかったけど、どうやら本当の事らしいね」

「宇宙人だとバラすと色々面倒くさい事があるからなかなか言えなかったんだ。ごめん、リコ」

「いやいや、大丈夫だよ。多分ボクもリトの立場だったら黙秘を続けたと思うからお互い様だよ」

 

二人は互いに微笑みあって許し合っている姿をみた少女は不思議な感覚を覚えた。

これまでの自分の生活は騙しに騙され、いつも周りは血だらけで何も感じはしなかった。

殺さなければ殺される、殺す前に殺されるかもしれない生活が日常だった。

なのに、あの関係はなんなのだろうか?許すとか許されないとかそんなレベルの話ではなかった。

 

「あなたたちは一体、なんなのですか?」

 

聞かずにはいられなかった。

彼らが織り成す関係が一体なんなのか少女は知らなかったのだ・・そんな少女はまだ大人でも子供でもないのだから。

 

「「親友」」

 

二人は同時に満面に笑みを浮かべハッキリとそう答えた。

少女は親友はおろか友達という存在は居ないし知らないでいたのだ。

少女は生まれながらにして戦いに身を投じた戦闘兵器で、宇宙中から恐れられていて敵無しの状態で恐れるという感情はどこかに消えていた金色の闇は・・彼らが眩しく見えて直視出来ないのだ。

 

「しん・・ゆう・・ですか」

 

その言葉の本当の意味は知らないけど、どこか温かい気持ちになれたのは初めての気持ちだった。

 

「私も・・なれますか?その・・しんゆうという関係に」

 

少女はまだ子供にもなれていない、言うなれば赤ん坊のままであった。

存在意義も戦う理由も今までは誰かに依頼されてそれを排除するだけだった。

その後は何も無い。ただの空白で無だったけどどこか黒色や灰色の時間だった。

だけど、彼らは虹色のような色鮮やかな関係な事には間違いないのだ。

 

「ふふふ、難しいと思うけど、なれるよ」

「ああ、リコの言う通りだ!俺たちを信じろ」

 

誰かを信じる事なんてなかった。

信じようとする気持ちもなかった。

だけど、彼らならばほんの少しだけならと信じてみる価値があると思うのだから。

 

「私は金色の闇です。どうかよろしくお願いします」

 

自分の名を告げた。

今まで使ってきたコードネームなんだけど殺し屋としての金色の闇は多分今日でお終いなのだから。

今日からは彼らの親友、金色の闇として動き出すのだと考えると、心の底のどこからか楽しいの気持ちが芽生えてきたのだからこの名を告げたのだ。

 




次回に続きます


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第十三話

金色の闇回後編です!


金色の闇と名乗る少女とかすかに友情が芽生え、互いに自己紹介をした後、奇妙な小さい緑色の地球外生命体が結城リトらの前に現れていた。

 

「おぉい!金色の闇!結城リトを殺せと言ったのに何を仲良くしてるんだ!?お金はちゃんと払ったんだもん!」

 

彼の名はラコスポであり、今回の結城リト抹殺の依頼をした張本人であった。

しかし、彼は金色の闇にありもしない情報を与え、その仕事は無効になったと金色の闇は伝え、ラコスポは怖じ気づいた。

 

「だったらもう一度契約だもん!結城リトを殺せ!」

「嫌です。消えてください」

 

金色の闇は冷たい視線でラコスポを睨み、益々怖じ気づくラコスポは懐を弄り何かを取り出そうとした瞬間、金色の闇はラコスポを蹴飛ばし、その威力はラコスポを空へ空へと吹き飛ばし宇宙へと消えていく力であった。

 

「またつまらない人を消してしまいました」

「オイオイ、どこかの泥棒一味の剣士かい?」

「・・冗談のつもりです」

 

これまでの金色の闇は冗談を言うタイプではなかったし、言う相手も居なかったけど、今日でお終いだ。

本当は彼らと一緒に居たかったけど、任務も無くなったし、宇宙へと帰らなければならないが、主も居ないから途方もない旅になるのは間違いない。

 

「・・・」

 

落ち込む金色の闇はこれからの事を考えると不安で寂しくて悲しいけど、それでも仕方がないのだから。

 

「ああ、そうだ金色の闇ちゃん、だっけ?君は殺し屋なのだろう?少しばかり話というか頼みがあるのだがいいかい?」

 

夕崎梨子の優しい声にその俯いた顔は徐々に上がっていく。

まただ、また金色の闇を利用してくる輩がいるんだと思うと悲しくなる・・だけど、彼女は殺しとかそういう依頼はこないような気がしていた。

確信はないけど、本能で分かるような気がしていた。

藁にすがるように、ゆっくりと彼女の話を進めていく。

 

「うん、ありがとう。ところで分かってはいるだろうが、リトがなぜか知らないけど命を狙われているんだ」

「はい、私の他にも多数存在するでしょう」

「なら、彼を護衛してくれないだろうか?もちろん契約を結んで、ね」

「・・護衛?ですか?」

 

初めての護衛依頼に驚きを隠せないでいた。

いつもならば誰かを排除する任務だったけど、誰かを襲うのではなく護るなんて生まれて初めてであった。

 

「・・はい、では契約をお願いします」

「ふふ、ありがとう。では、契約にあたり以下の条件を踏まえ、それを守り行動する事を誓うとする」

「さすがですね?頭が回っているようです」

「まず一つ、金色の闇はこの地球に留まり結城リトをはじめその周りにいる人物が命の危険に晒された時または危険な事に巻き込まれようとした時は金色の闇の仕事が発令され、その行動は金色の闇自信の判断に任せるとするが、場合によってはその場にいる人物等の判断も取り入れる事とする」

 

夕崎梨子の一つの条件としては、結城リトを護る事を前提としたのは当たり前の処置だろう。

 

「二つ、宇宙人を決して殺してはならず、拘束か敵戦力の無力化を約束とする。ただし、金色の闇がその場に居て、結城リトや金色の闇自身とその友人もしくは知人が命が危うい場合、それを許すとする」

 

二つ目の条件は殺しの条件であり、あまり人を殺させたくないという夕崎梨子の配慮なのだろう。更に金色の闇自身の気配りにも驚いてしまった。

 

「三つ、仕事が終わった後の報酬は次のどれか一つだけとする。一、食事への誘い。二、観光や買い物などへの同行。三つ、依頼主である夕崎梨子が出来る事があれば全てのジャンルにおいて一つのみ絶対遵守されるとする。もちろん、この報酬を溜めて一気に多数の報酬を得る事も可能とする」

 

三つ目の条件は、やはりといったところか報酬であるが、地球の事を知らない金色の闇にとってはどれもこ れもが最高の報酬でしかなかった。

 

「以上の事を踏まえ、夕崎梨子の他に依頼主を増やす事を禁じ、結城リト及びその周辺の人間関係に絶対的な平和が約束された時は契約が終わるが、契約を続けるのは金色の闇自身により続くとする」

 

契約が終わっても地球に居てもいいのだと暗に言ってくれる夕崎梨子に金色の闇は感謝していた。

 

「えっと、これで契約は済んだのかな?っていうかやりすぎたかな?少し契約内容変えようか?」

 

夕崎梨子が暗殺兵器であるはずの金色の闇に笑いかけてくれた事がなりよりの報酬なのだからそれだけで充分だった・・だから・・だから断る理由なんかない。

 

「いえ、しかと契約を承りました」

 

今までの無表情な顔が向日葵のような美しい笑顔になった事は本人でも気づかなかった。

そんな美しい笑顔を見た夕崎梨子も思わず満面に笑みをこぼした。

 

「ふふふ、ならばよろしい」

「はい、今日から契約を結んだので早速ではありますが報酬を頂きますね夕崎梨子」

「・・さっきの小さい奴の事かい?ふふ、なるほど?いいだろう。それとボクを呼ぶ時は気軽にリコちゃんと呼んでくれ」

「はい分かりましたがとりあえず、たいやきを三十個ほど買ってください」

「それならば容易い事だ。財布はスッカラカンになるけどね?とほほ」

 

金色の闇の檻を壊してどこかへと連れ出してくれたこの夕崎梨子が誰よりも輝いて見えた。

太陽よりも強く眩しく輝いている彼女を、そんな彼女が護ろうとする結城リトもついでに護ろうと心の底から思うようになっていた。

 

「私と契約したのが運の尽きです。不運でしたねリコ」

 

小悪魔のような笑みがこぼれる金色の闇はどこか無邪気な子供のようだったーー。

 

一方、金色の闇襲来前ーーザスティンは刀を振りかざし、金色の闇に挑んでいたがすぐさま秒殺で倒れていた事は誰にも知る事はないのだろう。

 

ーーーーーーーーーーーー

ここは結城家のリビング。

そのリビングには結城リトとその妹である結城蜜柑とララと夕崎梨子が居座っていた。

 

「それで一体、どういう事か説明してもらおうか?リト」

 

夕崎梨子の顔は笑っているがどこか怒っているような気がしないでもないが、少々拗ねているようだった。

なぜこうも拗ねているのかというと、やはりララが宇宙人である事を黙っていた事が気にくわなかったらしいのだ。

 

「え、えっと、ララから言った方が早いじゃないかな?」

 

だけどその当事者はいきなりやってきてバタバタしてたから言い出せなかったと前回話したのだが、それでも彼女は少々怒っていた。

 

「ボクはね、秘密を知りたい訳でもないんだよ。誰だって秘密の一つや二つはあるしそれを検索したくないんだよ」

「リコねぇも秘密あるんだ?ちょっと気になるけど知ると怖いなぁ」

「美柑ちゃんなら全てを曝け出してもいいんだけどね、ボクはそんなに口が堅くないと思っているかどうかと思うんだよ」

 

夕崎梨子の怒りは秘密を共有するとかしないとかの話ではないのだ。

彼女の怒りはどうして自分の事を信頼し、頼ってくれないかという嘆きだった。

もちろんいきなりこの人は宇宙人です、なんて言われた時は思考回路が止まって信じないのだろうけど、事情があるならばそれを信じるのが友達ではないのだろうか?レンやルンのように自分から正体を現した時は驚いたのだが彼らは信用していたから夕崎梨子に伝えた。

 

「リコ・・私からもごめんね?なかなか言い出せなくて」

「いいんだよララちゃん。ボクはもう怒っていないから気にしないでいいよ」

「うん!リコ大好きー!」

 

ララは無邪気な笑みを浮かべ夕崎梨子にガッシリと抱きつき、そんなララの頭をよしよしと撫でている夕崎梨子たちの姿はどこか女同士なのに愛を育むような雰囲気を持っている様子を真っ赤になった顔をさせた結城リトが慌てていた。

 

「ちょっとリト、今変な妄想してなかった?」

「ちちちち違ーう!決して何もこれっぽっちも!」

 

とんでもなく慌てている結城リトに結城蜜柑は冷たい目でジトリと睨むように見てくるのでそれを見ないようにそっぽを向くしかなかった。

 

しばらく雑談を交わしていくと結城家に一人の来訪者が現れた。

 

「こんにちわ。報酬を頂きにきました」

 

宇宙の殺し屋金色の闇である。

彼女は本来ならば結城リトの命を奪うはずが夕崎梨子の契約により結城リトの命を護る事となっていた。

 

「やぁ、ヤミちゃん。また不審な宇宙人でも見つけたのかい?」

「はい、やはりプリンセスララと結城リトとの婚約を快く思っていない凶悪な者が多数いましたので拘束し宇宙警察まで連行しました」

 

金色の闇を呼ぶ時にそのまま金色の闇と呼ぶのもいちいち面倒くさいのでヤミという名で通す事にしていた。

そのヤミは夕崎梨子の隣に腰をおろし正座をして今回の報酬である結城家の食事会に参加するという望みをした。

 

「美柑ちゃんやララちゃんは初めて会うだろう。こちらはヤミちゃん。ボクの友達だから仲良くしてほしい」

「うん、よろしくねヤミちゃん。私は美柑って呼んで欲しいな」

「私はララ!よろしくねー」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。美柑、プリンセス。あとついでに結城リト」

「ついでで悪かったな」

「冗談です」

 

ヤミは知人が二人出来た事が嬉しかった。

これまでは孤独で全てが敵であったし、依頼主がころころ変わり実際に会った事があるのにも関わらず我関せずとヤミを忘れてしまうようだった。

だからこそ、この地球に来て夕崎梨子と出会えた事が何よりの幸せであった。

だからこそ自分の秘密を言っても彼女ならば受け止めてくれるのだろう。

 

「私はトランス能力といって、身体の一部を武器にして戦っているんです」

 

ヤミは自らの金髪の髪を動かし、手のような拳を作り出すようにして自由自在に動かしてみた。

 

「私は武器だったのです。殺戮兵器だなんて言われた時もありました」

 

ヤミの脳内には血に溢れるこれまで始末した人々が苦しんでいる記憶を思い出していた。

当然仕事の為だったので仕方がない事だったけど、どこか空しい時間だった。

 

「そんな私でも受け入れてくれますか?」

 

そんな空しい時間は終わりで、これからはゼロからの金色の闇として動き始めるのだから。

殺し屋金色の闇ではなく護り屋ヤミとしての初仕事なのだと。

 

「「「もちろん」」」

 

三人はなんの躊躇いなく返事を返してくれた。

夕崎梨子はともかく、なぜこうも信頼出来るのだろうか?だけど、そんな事はどうでもいい

 

(地球人というものは優しくて甘い人ばかりのようですね)

 

戦意も悪意も恐怖も裏表もないただの善人が殺し屋金色の闇が護り屋ヤミにしてまったのだから

 

(私を改心させるなんて金色の闇として許しませんよ?夕崎梨子。責任はとらせて頂きますよ)

 

そのヤミは密かに笑みをこぼし、美柑が作った鍋料理に箸を突っ込み食を進めながら報酬を受け取り続けていたのだった。




次は、えっと・・・何の話にしようかなぁ、と考えている所です。お待ちを!


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第十四話

村雨静回ですけど、少ししか出ない。次は出す!


いきなりだが幽霊の存在を信じるだろうか?

ここ彩南高校の怪談にある、校舎から離れた廃校舎に幽霊が現れるという噂が流れていた。

その噂は学校中に流れ、もはや知らぬ生徒は居ない程になり、最近の会話は幽霊の話でもちきりであった。

 

「あ!リコちゃん!おはよー!幽霊の噂知っていているよな?」

 

猿山ケンイチは近くに居た夕崎梨子に話しかけ、例の幽霊話を聞くようにしていた。

そんな猿山ケンイチの思惑では噂の廃校舎へと夕崎梨子と一緒に行って幽霊を怖がるであろう夕崎梨子を颯爽と助けて彼女はメロメロという手段を考えていたが、彼女が幽霊が怖い前提の話なのでメロメロにするのは難しい事が気づいていた・・けどやるしかなかったのだ。

 

「ああそうだね、ポルターガイストとかラップ音がするという幽霊の常套手段によってボクたちを驚かせる事なのだろう?まったく困った存在なのだろうね。その辺はどう思うかい?サルくん?ええ?サルくん」

 

夕崎梨子の様子がおかしい。

いつと通りの満面に笑みの表情だったけど、どこか早口で震える声だったのだ。

 

「ふふふふふ。ボクはね、幽霊を一切信じてはいないのだが、同時に信じたいと思う訳があるのだよサルくん。だって人は霊を信じるからこそ墓参りとかするのだろう?サルくん。だから大事な人が死んだとしても会いたいという訳だよサルくん」

「え、えっと、リコちゃん?」

「だからその大事な人が浮遊霊だろうが地縛霊だろうが悪霊だろうが妖怪になろうが会いたいと思うのは当たり前だと思うのだよサルくん。だからこそ人というのはーーー」

 

夕崎梨子はペラペラと話し続けていた。

猿山ケンイチの狙いが当たっていた事に気づいてしまった・・そう、あの夕崎梨子は幽霊が苦手らしい。 

 

(ひょっとしてチャンスか?)

 

そう思う猿山ケンイチにうっすらと一筋の勝機の光が見えてきた。

だけどもし万が一に彼女が怪我をしてはいけないので周りにいた結城リトたちを巻き込もうとしていた。

 

「よぉ、リト。肝試しに興味はないか?」

「例の廃校舎に行くのか?危なくないのか?」

「危ないけど俺の運命がかかっているんだ。協力してくれるな?あの約束忘れた訳じゃないよな?よし、決定と」

「うぅ、滅茶苦茶だ」

 

半ば強引に結城リトを引き出せた。

結城リトが来るならばとララも参加の意を表し、四人で廃校舎へと向かう事に決めてしまう。

そんな彼らを心配する西連寺春菜は不安な表情を浮かべ、彼らを止めようとするが、逆に来ないかと誘われてしまった。

 

「え、えっと、学級委員的にダメかなぁ、て思うなぁ」

「いいじゃんよー西連寺。リトやリコちゃんにララちゃんも行くって言うしさぁ」

「そうだよ春菜!すごく面白そうじゃないっ!」

「そ、そんなぁ、ゆ、許してぇ~ララさぁん」

 

西連寺春菜も幽霊が大の苦手であった。

特に幼い時は夜のトイレに行く時には必ず母か姉を連れ添わなければ行けない程の恐がりで、その状態が小学生低学年まで続いたのだ。

そんな恐がりな彼女は嫌々だが、本当に嫌々だが仕方なく行かなければならない状態となった。

そんな彼女を天の助けなのか古手川唯が颯爽と現れてくれた。

古手川唯ならば絶対的に止めるだろう。

あの校則や風紀にうるさい古手川唯ならば確定的に止めるのだろう。

だけどそんな古手川唯から古手川唯らしからぬ思わない発言が西連寺春菜の耳に届いてしまった。

 

「あらいいじゃないの?夕崎さんが怖がっているし、本物の幽霊でも見たらその変な性格が変わるでしょう?許可します・・いいえ、行きなさい?命令よ」

 

まさかの公認だった。

 

(そ、そうだった!古手川さんはリコさんの事が嫌いだったんだ!)

 

西連寺春菜の目の前で二人が口喧嘩していたのを見ていた様子を思い出していた。

彼女らは嫌い同士で仲直りする事もせず、それをしようとすらしない彼女らに深く溜息を吐くしかない。

だけど、自分の事は嫌いな訳ではないだろうと古手川唯におずおずとした様子で西連寺春菜はどうにか助けて貰おうとするのだが

 

「いいえ、西連寺さんは夕崎さん一派の方なのでしょう?なので連帯責任で行ってもらいます」

「え、ええ!?リコちゃんの一派だなんてそんな事・・」

「はいダウト。夕崎さんの事をファーストネームで呼ぶ事というのは彼女と深い知り合いな訳でしょ?なので夕崎一派なのです」

「だ、だって、リコちゃんはリコちゃんって気軽に呼んでって言ったから・・」

「それはなんの拘束力もない言葉に過ぎないです。契約書とか書いた訳でもないのにそれを守る必要もないでしょ?」

 

何を言っても聞いてくれなくて肝試しに強制参加しなければならなくなってしまった西連寺春菜はガックリと肩を落とし落ち込んでしまう。

だけど、西連寺春菜は目に涙を溜めつつ古手川唯にこれだけは聞きたいと必死な表情を浮かべ

 

「古手川さん、私の事が嫌いなの?」

 

震える声で聞いてしまった。

その言葉を聞いた古手川唯はニッコリと笑っていて、いかにも好きだと言うような反応だった・・のだが

 

「嫌いじゃないのよ?西連寺さんだけの事は。だけど、夕崎さんと仲が良い西連寺さんは嫌いではないけど好きでもないわ」

 

悪魔の一言だった。

口下手な夕崎梨子がただ人に勘違いされやすいタイプなのにどうしてその彼女を分かろうとしないのだろう?

夕崎梨子も古手川唯と仲直くなろうと努力しないのだろうと思っていたのだが、夕崎梨子はかつて自分たちは犬猿の仲だと言い張ったのを思い出した西連寺春菜は誰にも悟られず深くため息を吐くしかなかったのだ。

 

「本当にこれからどうなるの~・・」

 

その言葉に対する答えは誰にも分からなかった。

ーーーーーーー

放課後、結城リトら一行は幽霊が出るという廃校舎へと向かっていった。

その廃校舎は暗くそこら中はボロボロでまともに歩ける所が少なく、たまにコウモリやネズミがちらほらと現れては大きく悲鳴をあげる西連寺春菜と、かすかに聞こえる妙な声のような音をペラペラと解説する夕崎梨子は恐怖を覚えていた。

結城リトや猿山ケンイチは二人ほどではないが怯えつつ歩を進め女子たちを守るように陣営を囲んでいた。

そんな彼らの警戒さを唯一持ち合わせていないララは恐怖の感情が一切無いらしい。

 

「幽霊さ~ん、いらっしゃいますかぁ?」

「ここですか~?あれ~?違うなぁ~?ここですか~」

 

ララはあちらこちらの部屋の扉を開き幽霊を探し続けていた。

そんなララは片っ端から扉を開き大きな声で「あー!」と大きく叫んだので皆驚いてしまった。

西連寺春菜の反応は涙を大量に流し怯えきり

夕崎梨子は早口を通り過ぎてまるでテープを早送りしたような早さで解説し

結城リトと猿山ケンイチもその場で伏せて怯えていた

そんな彼らの反応をよそに嬉しそうな表情をしたララは部屋の中に入り、見覚えのある人物を彼らの前へと現してくれた。

 

「なぜプリンセスとリコが居るのでしょうか?あとついでに結城リトも」

 

ヤミだった。

ヤミが言うにはこの廃校舎にある書物に興味を抱き、今の今まで書物を読み漁っていたのだというのだ。

そんなヤミに肝試しの概要を伝え、怪談の話に興味があるようでくい気味で話を聞いていたようだった。

 

「なるほど理解しました。だからさっきから妙な気配がするのですね?それも多数の気配が」

 

ヤミの言葉に耳を疑う結城リト一行。

まさか、まさか本当に幽霊がいるとは思わなかったので辺りをキョロキョロと見渡すが幽霊の姿が見えないでいた。

 

「そこではなくそこの下にいますよ。他は遠くにいるようですが」

 

ヤミの言葉と同時にボロボロの床から巨大なイカが現れた。

そのイカは地球のイカの数十倍の大きさがあり、巨大な目がギラリと光っていた。

 

「きゃあぁぁぁー!」

「ふふふふふふふ、あのイカを食するとするならば何人掛かりで済むのだろうね?もし一人分のイカの量をーーー」

 

そんな巨大イカを見た西連寺春菜は悲鳴をあげ、いつの間にか気絶し、夕崎梨子も思考回路がショートし挙げ句の果てには気絶したのだ。

 

「西連寺!!」「リコちゃん!!」

 

そんな気絶した西連寺春菜を結城リトが、夕崎梨子を猿山ケンイチが身を挺して守るようにした。

今の戦力としてはララとヤミのみとなり、その二人に望むしかないのだが、それでも結城リトは諦めたくなかった。

 

「ヤミ!リコの契約が発動したはずだ!今こそ俺の周りにいる人を守れ!」

 

人任せになってしまう自分が恥ずかしい。

だけど、そうするしかなかったのだ。

結城リト自身だって何かが出来ればそれをするべきだと。

でも今は西連寺春菜や夕崎梨子を守る事が最優先であり、彼女らから離れるともしかしたら他の幽霊が彼女らを傷つける可能性だってあるのだから彼の行動は正しかった。

 

「言われなくても分かっています結城リト」

「私も手伝うよ!ヤミちゃん!」

 

ヤミとララは巨大イカに突入し、攻撃を試みるもイカのニョロニョロとした動きが読めないのか攻撃が当たらなく、いつしか彼女らは巨大イカの触手に捕まってしまった。

 

「うぅ、ヌルヌルしたのはダメです・・助けてください」

「いやぁぁ、尻尾掴んだらダメぇ!尻尾が弱点なのぉ」

 

助けを求める震えた声のヤミとなぜか弱点を教えるララも情けない表情を浮かべていた。

そんな彼女らが戦闘不能になった今、正直絶対絶命の危機になっているこの状況に奇跡が起こった。

 

「「・・・」」

 

気絶していた西連寺春菜と夕崎梨子は無言で立ち上がり、巨大イカを今一度見て、西連寺春菜は結城リトの腕を掴み、夕崎梨子は猿山ケンイチの腕を掴み彼らを武器とした。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

西連寺春菜の武器は巨大イカの右半分をメッタメタに攻撃

 

「イカはイカらしくボクらの胃の中に入ればいいのだよぉぉ!」

 

夕崎梨子の武器は巨大イカの左半分をボコボコに攻撃し、二つの武器による攻撃の速さは増し続け、威力も高まり、ついには巨大イカは意識を失い戦闘不能となったのだ。

巨大イカを倒した後しばらくすると彼女らは正気に戻り、武器となったボロボロの二人の姿を心配し手厚く治療を施していた。

 

「お、おい!リト!サルくん!一体誰にやられたんだい!?このボクが倒してやる!」

 

夕崎梨子の問いに結城リトは西連寺春菜を指を指し、猿山ケンイチは夕崎梨子を指を指して犯人を示してした。

 

「証拠隠滅!」

 

被害者となっていた結城リトと猿山ケンイチの首筋をチョップし、結城リトと猿山ケンイチは意識を失った。

 

「くっ!許せない!よくもリトやサルくんを!」

「えぇ~・・今結城くんや猿山くんに手を出したのリコちゃんでしょ?」

 

夕崎梨子のボケに西連寺春菜は軽くツッコミをいれるそんな会話している二人は互いにクスリと笑みをこぼし、いつしか大笑いして気絶から覚めた猿山ケンイチもその声に便乗し、高らかに笑っていた。

一方、結城リトは未だに目を回して寝ていた事を夕崎梨子は見て見ぬフリをした事は内緒だ。

 

「あはははっ、もうリコちゃんったらダメでしょ?結城くんと猿山くんにトドメさしたら~あははは」

「おっとこれはウッカリだったね?ボクとしたことが、ふふふ」

「リコちゃんは本当に面白い子だからなぁ、あはは。あれ?リトのやつまだノビてるのか?キレイにいいもの入ったんだな」

 

その場には肝試しによる恐怖はなく、ただ楽しいという気持ちしかなかったのだ。

初めて見せた夕崎梨子のあの慌てぶりに意外な可愛い反応に笑うしかなく、西連寺春菜は夕崎梨子が口下手で素直にならないという性格を再確認出来てそんな友人に深く知り合えた事を嬉しく思っていた。

夕崎梨子の方も西連寺春菜の事をツッコミもなかなかいけるクチだと確認してこれから一体どんなボケをするべきかを思案していく内にしょうもないボケが次々と出てくるので自分がボケ役に適さない事を嘆いていた。

そしてようやく結城リトが目を覚まし、夕崎梨子に怒っていたがすぐに仲直りして、その顔に笑顔が絶えなかった。

 

「やはり甘い人ばかりですね。さっきまでここが戦場だったのに」

「それがこの地球のいい所だよヤミちゃん。本当に楽しいでしょ?」

 

いつも戦場に居たヤミはそこにある笑顔を見て自分も心の底のどこかに楽しいという気持ちが芽生え、それに戸惑いを感じながらもすぐに受け止められた自分に驚きを隠せず、ヤミ自身もその甘い人に感化されてしまった。

だけどヤミはその感情を大切にするようにと優しく撫でるように心にしまった。

 

「はい、リコやその周りの地球人は変人ばかりですけど、地球はいい所ですね」

 

いつしかヤミの無感情の顔には笑みが絶えず、夕崎梨子をはじめとした彼らとの体験はララやヤミにとって何よりの宝物になったのだからこの関係は続くのだろう。

 

 

 

『おーい、もしもーし、聞こえてますか~?幽霊のお静ですよ~?もしもーし』

 

先程から幽霊の村雨静の問いかけに気づくのは数分後になった事はまた次に語るとしよう。

 



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第十五話

村雨静回後編です!感想待ってます-!


廃校舎の幽霊騒ぎは次のような理由があって騒がれたというのだ。

宇宙から訪問したのはいいのだが、行く当ても無く廃校舎に住みついて宇宙人とバレないように廃校舎に入ってくる人間共を脅かせ続け、いつしか例の幽霊騒ぎの発端となったのだと幽霊のお静がそう語った。

宇宙人の存在を知らない西連寺春菜や猿山ケンイチにララやヤミが宇宙人である事も教えつつ、戸惑いながらも信じて話を聞いて驚いた様子だった。

この廃校舎に存在する数々の宇宙人達は人間に居場所がバレた以上またどこかに移動しなければならず、途方に暮れた宇宙人達はどうする事も出来なかったが、そんな宇宙人達を助けるべく、どこからか美女が現れた。

 

「ならいい所を教えるわよ」

 

御門涼子という彼女は彩南高校の養護教諭であり、スタイルが地球人離れに整っていて九十センチはあろうその巨乳をもち、キュッと細いクビレをもち、胸と同サイズ近くある大きなお尻が男どもを魅了していくほどだ。

そんな御門涼子も宇宙人らしく、特徴として耳が尖っている他トップクラスの医療をもっているので他の宇宙人にたまにちょっかいを受けるらしい事が悩みだそうだ。

 

そんな彼女は幽霊騒ぎになった宇宙人達を知り合いの仕事場へと紹介し宇宙人達は宇宙船に乗り廃校舎から飛び立っていくのを確認し、やれやれといった表情を浮かべヤミを見てビックリした様子だ。

 

「あら?金色の闇じゃない?プリンセスが居るのは知っていたけど驚きね」

 

御門涼子は金色の闇を知っていてその彼女の仕事も当然知っていた。

金色の闇は殺し屋であり、標的になった者はただでは済まない事も知っていた・・なのに、どうして彼らを守るように立ち尽くしているのか分からなかった。

 

「私は契約のもと、この地球に留まり任務を全うしているので」

「お仕事って訳ね?だけど誰なの?殺し屋金色の闇と契約した、その末恐ろしい契約者は」

「あの夕崎梨子という彼女です。私は彼女をリコと呼んでいますが」

 

ヤミは夕崎梨子に指を指し、御門涼子は目を見開き非常に驚いた表情を浮かべた。

夕崎梨子は完全に地球人であるはずなのに、なぜこうも金色の闇を上手く動かせる事が出来るのだろうか?

殺しの報酬として莫大なお金がかかるはずなのに、地球の文明や地球人がそんなに報酬を用意出来るはずがないのだ。

 

「ちなみにどんな契約なの?」

 

ヤミはかつて夕崎梨子から受けた契約を一言一句確かめるように伝えたが、その契約内容に御門涼子は非常に度肝を抜いてしまった。

ただ一つの契約だけだった。なのにいくつもの誓約が入ってはいるが金色の闇自身の行動を損なわないようにかつ報酬を無理の無い範囲で渡す誓約も契約の一つとして入れているのだから。

 

「あなた・・何者なの?」

 

聞かずにはいられなかった。

地球人で間違いないはずの夕崎梨子の正体を聞かずにはいられなかったのだ。

不思議な雰囲気をもつ夕崎梨子はふふふと笑って肩をすくめながら

 

「改めましてボクは夕崎梨子だよ。気軽にリコちゃんと呼んで欲しいな涼子先生」

 

ただそうとしか言わない彼女にそれもそうよねと半ば諦めるように、半ば納得するように理解するしかなかったのだ。

 

「ふぅ、先生をファーストネームで言うのはダメなんだけど、許してあげるわリコちゃん」

「ふふふ、ありがとう涼子先生。ボクは誰にでも親しみをこめてファーストネームで呼ぶのさ。サルくんは除いて」

「あら、意外と人懐っこい性格なのかしら?」

「ボクは口下手で人に勘違いされやすいからその影響下にあるのだろう」

「どこが口下手なのかしら?金色の闇相手にあんな滅茶苦茶な契約を結んでおいて?どう考えても口達者だわ」

「いやいや、ケースバイケースでそうなってしまうだけであって基本的に口下手なのさ」

 

口下手だと豪語する夕崎梨子は満面の笑みを浮かべスラスラと解説するように言い負かされる御門涼子は少しため息を吐いた。

 

(今も普通に口達者じゃないの?だけど、なんだか自分に自信が無いような口ぶりだし、褒められても素直に喜べないような性格みたい・・まさか相手にそう思われる事がリコちゃんの口下手な理由なのかしら?)

 

夕崎梨子の弱点はまさにそうだった。

人に親しみをこめるけど、いざ自分自身に褒められる事があれば喜びたいけど恥ずかしいので言い訳するように嫌な印象を相手に押しつけるその性格。

自分の正しいと思う事を言えず、相手の正しさを同調しそれを解説して親しみを込めようとするけどそれが失敗してしまう時もあるのだ。

 

「うふふ、リコちゃんのその性格は私でもどうにでも出来ないわ」

 

宇宙一である名医と言われる御門涼子でもお手上げであった。その性格を治す事も、その性格を変える事もいかなる医療をもってしても夕崎梨子は夕崎梨子となるのだ。

 

「ボクは正しくはないが、決して悪いという訳じゃないんだよ?涼子先生」

「はいはい、子供みたいな言い訳しないの」

 

この子供のようで無邪気で素直になれない患者である夕崎梨子とそれを看て匙を投げた名医は互いに微笑みあい、彼女らは奇妙な友情が芽生え始めるのを感じた。

夕崎梨子と友情を育んだ御門涼子は近くをキョロキョロと見渡し、白装束を着た奇妙な美少女の幽霊である『お静』という存在に気づいた。

 

どうやらその『お静』という幽霊は、先程の宇宙人らが長く居座った事により、なかなか自由になれずにいて困っていたようだ。

しかしその事件は終了とし、ようやく自由になれたという事で成仏を試みるが、それは果たせなかった。

 

『お静』は浮遊霊の一種であり、何かを達成しないと成仏出来ないという事なのだが、『お静』は成仏するきっかけと理由を忘れてしまったようで、そんな『お静』を御門涼子の医療の助手として引き取るようにした。

 

『よろしくお願いしますね?御門先生』

 

お静は深々とお辞儀し御門涼子と生活すると決めたのだった。

そのお静は結城リトらにも自己紹介をしていき深々と頭を下げていたが、幽霊が未だに怖い西連寺春菜と夕崎梨子は震えていた。

 

「おばけだおばけだおばけだおばけ」

「ふふふふふ、なぜこうも人の魂が視えるのだろうね?ボクとしては人の心が視えた方がーー」

 

二人は壊れてしまいそんな彼女らを面白可笑しく観察し、いつしか顔に笑みを浮かべていた。 

彼女らといる事への楽しさが成仏へと続く道とならば、幽霊として進まずにはいられないのだろう

 

(私、これからの人生が楽しみだなぁ・・あ、すでに私死んでいますけど)

 

ーーーーーーーーーーーーーー

幽霊騒ぎが落ち着いたその後日、古手川唯と夕崎梨子は互いを睨み合うように立ち尽くしていていた。

 

「あらあら夕崎さん、あなたしぶといのね?幽霊ぐらいじゃなんともなかったのかしら?」

 

古手川唯は満面の笑みを浮かべ、嫌いな夕崎梨子に毒舌を浴びせ、その嫌いな夕崎梨子も満面の笑みで古手川唯に突っかかりそうな雰囲気の様子なのである。

 

「ふふふ、確かに幽霊には驚いたけどなんともなかったみたいだね?意外にもボクの精神力は強いようだ」

「そうなの?だったら宇宙人にでも改造させてもらおうかしら?そう、そうしましょう?ね?夕崎さん」

「いやいや、もしそうなったら改造人間になって変な黒タイツの人達や怪人と戦う運命を背負ってしまうんだよ」

「別にいいんじゃないかしら?ほら、ヒーローになれるチャンスじゃないの?地球の平和を守る女の子はモテモテになるに違いないわ」

 

いつもの口喧嘩だった。

だけど、どこか心安まるような気がする二人で今更仲良くなっても気持ち悪いだけで、ずっとこのままの関係が彼女らにとっては一番いいのだろう。

 

「ボクは戦隊ヒーローや仮面を被ったヒーローよりも魔法少女の方が好みなんだよ。だから男の子向けのヒーローは向いていないと思うよ」

「へぇ?あなた、意外ね?だったら魔法少女みたいに女の子女の子らしく可愛く呪文を唱えなさいよ、ほら」

「魔法少女は戦い以外では決して人前で魔法を使わないんだよ?だから今は魔法を使えないんだよ」

「ああ言えばこう言うのね?ホントに子供ね夕崎さん」

 

彼女らの関係はクラスどころか学校中でも知っていて、彼女らが口喧嘩しているとまたやっているのかと生徒達は放っておいていた。

そんな彼女らを唯一心配している西連寺春菜はどうにかして仲直りさせようと何度も説得を試みるが、やはり失敗となっていた。

 

「あのね西連寺さん、夕崎さんが悪いのよ?先に謝るのは夕崎さんなのが筋なの。私から謝るなんて嫌だわ」

「そ、そんな、学級委員長として見過ごす訳にもいかないし」

「だけどね、結局私が謝って万が一仲良くなったとしてもすぐに喧嘩になるのでしょうね」

「そ、そうかもしれないけど、リコちゃんは口下手だし本当は古手川さんと仲良くなりたいんじゃ・・?」

 

西連寺春菜の言葉に古手川唯は高らかに笑い腹を押さえてながら目に涙がたまるほど苦しい腹筋がピクピクと動いていた。

本当に片腹痛くあの夕崎梨子と仲良くなるなんて想像も出来ないし、したくもないのだ。

 

「あはははっ!あの夕崎さんが改心してそうなったとしても気持ち悪いだけだわ!」

「改心も何も、リコちゃんは本当は優しくて・・」

「優しい?あの夕崎さんが優しいだなんてとんだ誤解よ。私は絶対に騙されないわ」

「うぅ、やっぱり人の話を聞かない・・」

 

彼女らの関係はどうあがいてもどうする事も出来ず、いつもこんな展開で友人になろうとはしなかったのである。

 

 



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第十六話

天上院紗姫回です。


天条院紗姫は憤怒していた。

かつて美の頂点に君臨していたはずの自分が転校して間もないララと奇妙な口癖をもつ夕崎梨子によって頂点の座を奪われたようだった。

天条院紗姫の付き人藤原綾と九条凜らの話によれば、学校一の美少女はララであり、その影に見え隠れする美少女である夕崎梨子も人気急上昇中だそうだ。

あのララは絶対に認めたくないが美ではある事は分からない事も無いけど、夕崎梨子の存在が目障りで仕方無いのである。

 

(私よりも目立つだなんて!まるで主人公みたいですわ!脇役の分際で!)

 

天条院紗姫は目立ちだかりであり、自分の人気が霞むなんて事があればすぐさまそれ相応の対応を取らなければならないのだ。

その対応を取るべく彼女達をぎゃふんと言わせる為に考えに考え、天条院紗姫の脳に電流が流れる。

 

(そ、そうだ!ミスコンよ!ミスコンを開催しましょう!まだ文化祭の時期じゃないですけど関係無いですわ!)

 

美を競うミスコンテストならば独壇場で天条院紗姫がトップになる事は間違いない。

そう思う瞬間その身体は動き始めていて校長のもとへ歩き出し、無類の女好きの校長は即日採用を言い渡し、ミスコンテストへの開催が決定されていた。

 

翌日、異例の時期のミスコンテストの開催の参加募集の知らせのチラシが学校中にばらまかれて大騒ぎになっていた。

そのミスコンテストでやる事は大きく二つであり、自己アピールと水着審査のみであったので男子生徒は大盛り上がりだった。

 

「ふふふ、あの紗姫ちゃんが主催か・・やってくれるね」

 

そのチラシを眺め、普段のニコニコフェイスで驚いているようだった。

そんな彼女のもとへ憤怒の表情を浮かべた天条院紗姫が現れ、指を指して宣誓した。

 

「勝負よ!夕崎梨子!ララ・サタリン・デビルーク!」

 

突然の宣戦布告に戸惑いつつ、ララは両腕を上に真っ直ぐ伸ばし右脚を曲げる謎のファイティングポーズをとり、夕崎梨子は首を傾げ両腕を左右に開き手の平を開きやれやれといったポーズをとっていた。

 

「違いますわー!っていうかデジャヴですわー!」

 

天条院紗姫のツッコミを受けてララは謎のファイティングポーズを止め、夕崎梨子は『やはりボケに向いてるかな』などとブツブツと思考している反応に腹が立った。

 

「お二人にミスコンテストへの強制参加を申しつけます!異議反論不参加ボイコットストライキは一切受けつけません以上!」

 

ララはミスコンテストの意味が分からずいいよと答えたが、夕崎梨子は顎に手を添えて考えるような仕草をしてその口がニヤリとした瞬間を見た天条院紗姫は鳥肌がたってしまった

 

「ではボクも賛成させてもらうとし、ルール改変及び勝者への報酬の約束を申し込みたい」

「ちょ、ちょっと!何を勝手に・・」 

「いやいや、今さっき言っただろう?参加以外は認めないとね?ならば参加したと同時にその約束は無くなるだろう?」

「くっ!!あなた生意気で嫌いですわ!」

「オイオイ、ボクは紗姫ちゃんの言う事をちゃんと聞いただろう?だから生意気でも何でも無いし、逆に良い子なんだよ」

 

次から次へと頭と口が回る夕崎梨子が嫌いだ。

天条院紗姫が聞いた噂では最近夕崎梨子は口下手だと聞いたはずだったのに口達者で子供みたいに挙げ足をとるのも嫌いの要因であった。

 

「・・分かりましたわ、要求を呑みましょう」

「うん、まずミスコンテストにおけるルールだが、水着審査を排除とし、制服のままで審査するとする」

「あらぁ?まさか、スタイルに自信が無いのですの?おーほっほっほ」     

「さらに追加として、ミスコンテストの参加者は授業中や普段通りの日常を送ってもらい、投票者はそれを配慮する事。さらに投票者は一人一票を原則とし、自分の名前を書き参加者自身に渡すとする。」

「なるほど?そういう事ですのね?普段からの美は明日の美になるのですから」

「ミスコンテスト参加者は他の参加者の邪魔を禁じ、投票者の票を破るまたは奪う等の行為を禁ずる事とし、投票者自身の意思のみの投票しか認めない。以上」

「そんな事心配しなくてもいいですわ。でも、あなたがそんなマネするかもしれないのでいいですね」

 

ミスコンテストのルールにしては細かいルールだが彼女らが公平な立場になるにはちょうど良いルール設定だろう。

 

「続いて勝者への報酬の件だが、投票数が一番多い者が勝者とするのは・・まぁ、当たり前だろうね」

「ええ、当然ですわ」

「まず勝者への報酬の権限をもった者がルールを破るもしくは生徒を脅すような行動した場合が無いと判断された時のみ、その勝者への報酬の権限を授与されるとする」

「勝者権限を失う場合もあるのですわね」

「勝者権限をもった者に最下位の者からの報酬または約束がされるとし、以下の条件が揃えば最下位の者はその報酬を払わなければならない」

「あなた悪徳企業の社長みたいですわね?怖いですわ」

 

悪徳企業の社長と言われてムカッと腹を立てた夕崎梨子はコホンと咳払いをして話を続ける。 

 

「一、その個人・団体において出来る事ならばその報酬を払うまたは約束をする事を宣言し実行する事。

二、勝者権限が使えるのは必ず一つまでとし、その一つの報酬または約束を永遠または半永久的に続けさせるようなものにはしないが一日それを続かせる事ならば可能とする。

三、その個人・団体において報酬を払わせる際、その者の人生に左右されない程の心の傷や身体の傷を一切つけてはならずその時点で報酬を貰えず今後このようなコンテストは開かない事を約束とする 以上」

 

夕崎梨子は西蓮寺春菜の席にあったいちごミルクを取り上げ、ちゅうちゅうと飲んでいた。

あれだけ喋れば喉が渇くのも頷ける訳なのだが・・

           

(私のいちごミルク・・・とられちゃった)

 

西蓮寺春菜は空っぽになったいちごミルクを悲しそうな目で眺めるしかなかった。

先程からのやりとりは教室で行われていたので結城リトをはじめとしたクラスメイトは唖然としていた。

だけど唯一デジャヴを感じている結城リトは、以前ヤ ミと出会った事を思い出していた・・あの長々とした契約がまた聞けるなんて思ってもいなかったのだから。

 

そんな彼女の悪徳企業のような契約を交わし、天条院紗姫は教室へと出ていった代わりに古手川唯が夕崎梨子の前へと現れた。

 

「あらあら悪徳企業の夕崎社長こんにちわ、あんな契約するなんて普段からあんな契約をなさっているのですか?クーリングオフとかしても何とかならないような気がする契約でお見事ですね」

「おやおや唯ちゃんこんにちわ。実はあの契約には穴があるんだよ?ボクは必ず勝つ為にわざと穴をあけたんだ」

「へぇ~?一般人には分からない穴なんですものね?社長しか分からない非常に小さい穴なのでしょう?いいえ、そもそも穴なんてないのでしょう?夕崎社長」

「いやいや唯ちゃん、頭を柔らかくしないと解けない知識指数を計る問題みたいなものなんだよ。だから唯ちゃんみたいな頭が堅い優等生には解けない問題なんだよ」

 

夕崎梨子には勝機がありその勝機に向けて下準備をするだけだ。

まず夕崎梨子は校長公認だというミスコンテストなの事で校長室へと向かい、小太りな校長は堂々とエロ本を呼んでいたが突然の来訪者に気づきエロ本を隠した。

 

「ご、ごほん、あーあー、大変ですなぁ、いそいそ」

 

校長のバレバレな行動に冷たい視線を送る夕崎梨子。

だけどそんな反応をする時間も無く、校長先生にとあるお願いをする事にした。

 

「校長先生にちょっとしたお願いと確認があるのだがいいかい?」

「むひょっ?!いいですともいいですともぉ!」

ーーーーーーーーーーー

ミスコンテスト当日となった。

ミスコンテストの参加者である天条院紗姫は男子生徒に媚びを売るように色目を使って生徒が所持する投票券を稼いでいた。

二人目の参加者ララはミスコンテストのなんたるかを知らないので通常通りに天真爛漫な雰囲気で登校していた。

三人目の参加者夕崎梨子は満面に笑みを浮かべてはいるがどこか小悪魔系のような雰囲気をもっていた。

 

「おーほっほっほ!そんなちんたらしてたら最下位になるわよー?いいのかしらぁー?」

 

天条院紗姫はララや夕崎梨子を挑発し、ララは元気に頑張るねと言い張るが、夕崎梨子はニタリと黒い笑みを浮かべただけだった。

 

「・・まぁいいですわ、どんどん票を集めますわ!」

 

天条院紗姫は何処かへと消えた後、ララにも男子生徒からの大量の投票券を獲得し、夕崎梨子は数票の投票券しか貰えなかった。

このままでは夕崎梨子が負けてしまうと猿山ケンイチとレンも彼女に投票券を渡していた。

 

「ありがとう、サルくんにレンくん」

「「・・・」」

 

夕崎梨子は投票券が少ないにも関わらず負ける要素は無いと言わんばかりに堂々としていた。

そんな彼女の狙いが一体なんなのだろうか?それが気になってしまい、猿山ケンイチは重い口を開いた。

 

「・・あのさ、リコちゃん。今のままじゃもう・・」

「ああ、負けるね?確実的で必然的に」

 

負けると言い張った夕崎梨子に猿山ケンイチとレンは目を見開いた。

だけど、夕崎梨子にはまだ勝機がある様子で表情は黒い笑顔のままであった。

 

「だけどね、最後の最後で逆転するのはボクだという事を宣言するよ」

 

夕崎梨子のこの発言を信じるしかない。

あの夕崎梨子が勝つと言うのならばそうなるはずだと思うしかないのだ。

 

「ボクはこれからある所に行くから、ここで失礼するよ」

 

夕崎梨子は彼らから姿を消し、とある手段を用いて大量の投票券を手に入れようと試みようとしたーー。

 

時は流れ、投票結果発表となった。

投票券掲示場所はグラウンド上とし、そこに女王が座るような煌びやかな紅いフカフカ椅子が存在していてそこに勝者が座るようにとの演出だそうだ。

 

「覚悟はいいですわね?それでは手に入れた投票券の数を言ってそれを出してくださいまし!」

 

天条院紗姫の言葉により、自身とララの投票券はその場に提示した。

天条院紗姫の投票数は50でララの投票数は70である事が証明された事を天条院紗姫はララには負けて悔しいけど同時に嬉しくなった。

男子生徒の数は確か150人程であったはずだったので無投票が無くても30そこそこな事は確定的だった。

 

「おほほ・・おーほっほっほ!!勝ちましたわ!!夕崎梨子に勝ちましたわ!」

 

コンテストの勝者にはなれなかったけど憎き夕崎梨子に勝てたと思うだけで興奮してしまった。

だけど、夕崎梨子はふふふと笑っている様子でその目は死んではいなかった。

 

「どうかなさいましたの?負けたショックでそうなったのですの?そうでしょう!」

 

夕崎梨子は徐々に笑いの声を大きくし、挙げ句の果てには満面に笑みを浮かべていつも通りの夕崎梨子になっていた。

 

「いやいや、とんでもないねぇ?まさか紗姫ちゃんがそこまでいくなんて、ね」

「当たり前ですわ!さぁ、あなたが最下位ですし罰を受けるべきですわ!」

「ふふふ、その通りにボクが負けていたら、ララちゃんの言う事を聞かなくちゃならないだろう?紗姫ちゃんじゃないよ」

「お黙り!さぁ、勝者の言う事を聞きなさい!」

「まぁまぁ、ボクはまだ提示していないよ?今からボクはそれを出す」

 

夕崎梨子は懐を探り、投票券を取り出そうとしていた事に怒りを覚えた天条院紗姫。

負けているのに、勝つはずも無いのにまだ戦おうとする夕崎梨子が本当に腹立たしかった。

 

「いい加減にしてくださいまし!もうあなたの負けですわよ!降参しなさい!」

「ふふふ、嫌だね。だってボクが勝つのだから」

「あなた算数も出来ないですの!?」

 

夕崎梨子は懐を探る動作をピタリと止め、それに怖じ気づいた様子で驚く天条院紗姫。

だけど相手の投票券も奪えないこの状況で・・もう投票券が増えないこの状況で彼女が勝つなんて不可能と思うだけですぐに強気になった・・絶対に負けるはずはないのだから

 

「甘いね、甘いよ。まるでショートケーキとチョコレートケーキを同時に食べるくらいに・・甘いよ」

 

夕崎梨子は獲得した投票券を全て天条院紗姫の前に叩きつけた。



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第十七話

天上院紗姫後編です。


ミスコンテストの投票結果は天条院紗姫が50票でララが70票であった。

残るは夕崎梨子の投票結果であったが天条院紗姫の読みでは多くても30票そこそこでビリのはずだった。

そんな彼女の票数は・・・・

 

「・・・・・は、は、は、は、80!!?」

 

あり得なかった数字に戸惑いを隠せなかった。

なぜ30票よりも多い80票を手に入られる事は不可能なはずだった。

 

「い、い、インチキですわ!そ、そうですわ!コピーとかそんな卑怯なマネをしているに違いないわ!」

 

勝負内容に投票券のコピーは不可だというルールがあるので夕崎梨子は本物の投票券を使った証明をしている。

投票券には一人一人の生徒の名前が記されてあり、誰が誰に投票しているかを示すようにと天条院紗姫と約束したはず。

天条院紗姫は夕崎梨子が掲示した投票券に目を疑った。

 

「・・・西蓮寺春菜、籾岡里沙、沢田未央ーー」

 

まさかの女子生徒による投票で度肝を抜いた。

 

「ずるいですわ!女子生徒からの投票・・だ、な、ん、て」

 

天条院紗姫は怒りをぶつけるけど、夕崎梨子の満面に笑みを見て彼女との勝負内容の事を事細かに思い出していた。

絶望的な表情を浮かべ顔から血がサァーと引いたような感じがして、そんな天条院紗姫を夕崎梨子はコクリと頷くように

 

「そう、男子生徒からのみの投票に限るだなんてないからだよ」

「ーーーっっっ!!!」

 

悔しくて悔しくて声にならない声を出す天条院紗姫の完敗であった。

 

「い、いつから、いや、あの時からこの時を待っていたのですの?」

 

天条院紗姫による強制参加のミスコンテストを伝えた瞬間、夕崎梨子は考える素振りをした後黒い笑顔をしたあの時からの考えであったのかと。

 

「なぜ、なぜ私が負けるなんて・・私が負ける理由なんかないのに・・」

「ふふふ、紗姫ちゃんが負ける理由はあの訳の分からないルールと契約のせいだよ」

「ですけど!あなただって同じ条件下にあったはずですわ!なのに!」

「ならば紗姫ちゃんはあのルールと契約をどうしようとしていたんだい?」

「・・そりゃあそのまま覚えようと必死に考えて一言一句どこかに穴があるのかと思い出していたわ」

「そこがダメなんだよ」

 

ルールや契約を覚える事は必然的だと言うのに、いけしゃあしゃあと必要無いと言い張っている夕崎梨子に腹が立った。

 

「そもそもボクたちはミスコンテストで審査を受けるんだよ?だから紗姫ちゃんは男子生徒のみが審査をするとしか思わなかったんだ」

「・・このミスコンテストが終わる前まではそう思いましてよ」

「ボクは紗姫ちゃんがするであろう行動を予測し、思考し、思案し、何通りかの手段が浮かんで一番勝率が高そうな手段を選んだよ」

「あの時の笑みはそう思っていたって事ですわね」

「そしてあのルールと契約をちらつかせて女子生徒の存在を忘れさせる・・いや消えさせる事が目的だったんだよ」

「確かに私はそれにまんまと引っかかり、私の意識には女子生徒の存在は消えていましたわ・・お見事ですわ」

 

天条院紗姫と夕崎梨子はいつの間にかミスコンテストと言うよりは頭脳戦や心理戦をしている錯覚を覚え、いつしか二人に笑みがこぼれた。

天条院紗姫は悔しくて悔しくて大声を出して叫びたいのに、どこか楽しい気持ちになり、夕崎梨子に指を指し宣言する。

 

「参りましたわ!あなたの勝利としミスコンテストは終了と致しますわ!」

 

天条院紗姫の宣言により周りにいたギャラリーは大きく拍手喝采し、盛り上がっていた。

 

「さぁ、あなたに勝者権限への報酬を与えますわ。何でも言ってくださるといいですわ」

「ふふふ、それについても考えが・・いや頼まれたものがあるんだけどそれでいいかい?」

「ええ、どうぞご自由に、ですわ」

「文化祭の時にミスコンテストを開催し、再度このボク、夕崎梨子他多数の女子を含め参加する事を認め出来る事ならば天条院紗姫も参加するとする、ではダメかい?いや、してくれるとありがたいな」

 

夕崎梨子が再び戦おうとしてくれるその挑戦に断る理由も無く、強く気高く優雅に頷いた。 

 

「ふふふ、ボクに協力してくれた女子達のお願いでね?投票されたくば先程の報酬を約束しろ、という事でね。致し方ない事だが承知したよ。ま、ボク自身紗姫ちゃんとこんな形で勝負をつけたくないからという気持ちもあるけどね」

「あなたって意外と交渉に弱いですわね?あんなルールや契約はスラスラと言うくせに」

「ボクは弱いんだよ?あの手段が無かったらボクは最下位だったよ」

「ですけど私が負けましたわ。ところで女子生徒の投票券はどこから調達してきましたの?」

「校長先生からさ。ボクは校長先生に女子生徒にも投票権を与えてくれと言ったら快く採用してくれたよ」

 

勝負をつける前から様々な下準備をしていた夕崎梨子に呆れつつ、天条院紗姫は握手を交わしその場を去った。

勝者となった夕崎梨子は思い出すようにミスコンテスト以前の行動を今一度確認したが・・恥ずかしい事に遭遇した事もあってその記憶を封印したかった。

 

ーーーー『ミスコンテスト前』

夕崎梨子の頼みを聞いてくれる校長と夕崎梨子は対面していた。

 

「ボクの頼みは女子生徒への投票権の贈与及び投票券の贈与をお願いしたいんだよ。頼めるかな?校長先生」

 

校長は『うーむ』と唸って考えていて夕崎梨子の身体中を舐め回すように見ていつしか興奮した。

 

「な、ならば条件があるっ!ぼくちゃんをメチャクチャにしてぇー!」

 

 

服を脱ぎ捨てパンツ一丁となって突進してくる校長先生に冷たい目を向ける夕崎梨子は蹴る殴る投げるなどのコンビネーション攻撃で戦闘不能とさせた。

 

「はい、メチャクチャにしてあげたよ?校長先生。頼める・・だろうね?」

「ヒィィ!ご勘弁をー!」

「よろしい、それでは投票券を後ほど渡してくれよ?」

 

校長の頼みを聞いたので報酬を貰えたという出来事があったので夕崎梨子の作戦は始まった。

投票券を女子生徒から投票されるのはいいのだが、夕崎梨子自身に投票されるとは限らないので近くに居た西蓮寺春菜や近くの女子生徒に作戦概要を話し投票させる事を約束させた。

その女子生徒の代表なのか籾岡理沙が小悪魔的な笑みを浮かべ夕崎梨子に近寄った。

 

「へぇ、見かけによらず悪魔だねぇ?そんな悪い子はお仕置きよっ!手伝って未央!」

「あいあいさー!」

 

籾岡理沙とその友人沢田未央は夕崎梨子の身体を弄り、胸やお尻を撫で回していた。

 

「ふふぅんふ、ボクはねぇぁ、あ、あ、悪魔じゃ、にゃぁあくてね、つ、つまぁっりっ!っっぁっ」

 

無防備である夕崎梨子は恥ずかしい声を出しながらも解説するもその言葉は艶やかで色っぽいので近くに居た結城リトや猿山ケンイチらの男子生徒は顔を真っ赤にさせていた。

 

「おやおや?リコちゃんてば意外と可愛い声で鳴くね」

「よし!もっとお仕置きしちゃえ!」 

 

籾岡理沙と沢田未央の目がキラリと輝いて夕崎梨子の身体を更に弄った。

耳に息を吹きかけたり、耳をハムハムと咥えられ、胸やクビレ付近にお尻も全て触られていた。

 

「お、オイオイ!そ、そんにゃところは、あひゃっ、ぼ、ボクは、す、ひゃぁん、そのスキンシップが、ひゃあ、き、嫌いな、んぅぅ、嫌いなんだょんっ」

 

二人掛かりの責めに辱めに遭う夕崎梨子は彼女らに翻弄され、その彼女らに援軍が来るように古手川唯が夕崎梨子のもとへと近寄った。

 

「あらあら夕崎さん・・いえ夕崎ちゃんってば、ようやく目が覚めたようね?ずっとそのままでいなさい?ハレンチな事は絶対許されませんけどあなただけは特例で許してあげるわ」

「んぅ、い、いやいや、ぅぅ、そ、そんな簡単なっ、んんにぃぃわっ、だ、ダメっ、ぅぅっ」

 

未だに身体を弄られるので呂律が回らない夕崎梨子を見て古手川唯はこれまでかつて見せた事が無いほどの満面の笑みを浮かべていた。

 

「あら、そうなの?もっとやって欲しいのね?いいわ特例で許してあげるわ夕崎ちゃん。籾岡さんに沢田さん!思いっきり本気でお仕置きする事を許します!」

「「あいあいさー!!」」

「んひゃぁぁっっんぁ!」

 

自主規制でこれ以上説明すると十八禁になるような仕打ちを受けた夕崎梨子は二十分程の責めを受け、床に座り込んで涙目でビクンビクンと身体を震わせていた。

 

「やっと私の勝ちね?ゆ・う・さ・きちゃ~ん」

「く、くぅっ、ひょっ、みょ、ボクと、した事が」

「ん~?いつものより口達者で頭良さそうで可愛げがあるじゃないの?」

「う、うるひゃい、にょ」

 

いつもと違う夕崎梨子の弱々しく女の子らしい反応が新鮮であり滑稽であった・・はずだけど

 

(・・・ちょっとやりすぎたかしら?今のは私自身の力じゃなくて籾岡さん達の力業だったし、夕崎さんにはどうしても口で勝ちたいわ)

 

口喧嘩していたからこそ口で勝敗をつけたかった。

あんなハレンチな行動じゃ夕崎梨子は夕崎梨子じゃなくなるからハッピーエンドになるだろうけど、それでも古手川唯の力で何とか改心させたかった事が本望だった。

 

「・・ほら、肩を貸してあげるから立ちなさい」

 

古手川唯は手を差し伸ばし夕崎梨子を助けようとしている様子にクラス一同は驚愕した。

いつもならば喧嘩ばかりしているのに、面と向かって嫌いだと言い続ける彼女らなのに助けようとしている事が古手川唯自身でも驚いているのだから。

 

「・・礼は言わないけどね、借りは返すよ唯ちゃん」

「そんなもの要らないわよ?そんなもの受け取ったら気持ち悪くて三日三晩体調を崩して学校を休まくちゃいけないもの」

「・・ふふふ、それどこかで言ったような気がするよ。あれはいつの頃だったかな?」

「さぁ?私はあなたとの会話を一々覚えていないから忘れちゃうわ。きっとこの会話も今している事も一切忘れる自信があるわ」

 

古手川唯は夕崎梨子の手をとり、彼女をなんとか立たせてた後、古手川唯は『ふんっ』と嫌いな様子をし、夕崎梨子の前から消えた。

 

「ふふふ、素直じゃない子ってなんだか親近感が湧いてしまうなぁ」

 

素直じゃない彼女らはどこか互いを信頼し、戦い続ける運命はこれからも続くのだろうか?それは彼女ら自身がお互いを友と呼ぶまでは永遠に続く事になるのだろう。

 

女子生徒らに投票券を渡す代わりにと沢田未央は夕崎梨子にある提案があると身を乗り出して言ってきたので、それを快諾したのだ。

 

「それでリコリコ!文化祭でまたこういうミスコンテストをやりましょうよ!みんなでね?」

「なるほど、了解した。紗姫ちゃんに勝ったらそう言っておくよ?ボクを除いてミスコンテストに参加資格を他の女子生徒らにも、とね」

「ううん、リコリコも絶対参加する事!じゃなきゃ私達はリコリコに投票しないよ!」

「・・・ふふふ、脅迫かい?なるほど、それならばボクはそれに応じるしかないじゃないか」

 

沢田未央に脅迫される夕崎梨子は従い、ミスコンテストにおける作戦準備が終わったのであった。

ーーーーーーーーーーー

ミスコンテスト終了後日、天条院紗姫は晴れやかな気分だった。

ミスコンテストで屈辱の最下位となったけど、最高のライバルを見つけたから負けよりも嬉しい敗者への報酬であった。

 

(夕崎梨子、ですのね?あの生意気なあの子の名前は・・仕方無いですけど、この私が唯一認めましてよ!ですから他の方々から負ける事なんて承知しませんわ!)

 

天条院紗姫は闘志を燃やし、寛容な心で夕崎梨子を認めていたのである。

 



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第十八話

結城美柑回です。原作沿いからだいぶ離れますが、ダークネス編を早くやりたいので駆け足となります。
それとそのダークネス編もおそらくですが思いっきり原作からかけ離れると思いますので、ご了承ください。


結城美柑は困惑していた。

結城家リビングでララが裸のままで兄・結城リトに抱きついている姿を本日で十回を超える程目撃した。

ララは結城リトの事が好きな様子で度が過ぎるスキンシップをして、結城リトは顔を真っ赤にさせ慌てている様子だったけど、妙に腹がたつ様子の結城美柑。

 

(リトはララさんの事が好きなのかなぁ)

 

美少女であるララから日常的にスキンシップをされては男は勘違いするはずだし、満更でもないはずだ。

しかし結城リトは本当に止めて欲しいとララに伝えているようでララとの距離をあけているようだった。

 

(・・気のせいなのかなぁ?)

 

未だに小学五年生の結城美柑は恋愛のなんたるかを知らない様子で疑問を抱く表情を浮かべるしかなかったのだ。

 

(ララさんがやってるのは非常識だけど・・どこか懐かしいな・・あの時の私も、はしゃいでいたなぁ)

 

結城美柑はまだまだ子供であり、両親がいつも仕事で家を空けていて兄とずっと一緒に暮らしていた。

そんな兄と仲良くして困った事があれば助け合う毎日が続くと幼い頃からそう思っていた。

心の底のどこかで兄を好いている気持ちを潜めていてずっと兄の傍にいて寂しくはなかったし、嬉しく思っていた。

毎日が大切な日になっていたけど、結城美柑がかつて経験した事が結城美柑の心に深く刻まれる大切な宝物のような日が結城美柑を大きく変えたのだから、ララの気持ちも分からなくもなかった。

 

(あれはクリスマスの夜でお父さんとお母さんが仕事で家に居なくてリトとサンタクロースを待っていたなぁ・・あの時は全然サンタクロースを信じてなかったけど・・でも、リコねぇのおかげで信じたいって思ったなぁ)

 

結城美柑はララと兄を放っておいてソファーに腰をかけ、深く目を瞑り夕崎梨子と遠い昔のクリスマスの夜を思いだしていた。

 

ーーーーーーーーー

現在から十数年前のとあるクリスマスの夜、結城家はクリスマスツリーを用意して飾りつけをしていた。

結城リトはロボや戦隊物のヒーロー人形などをツリーの飾りとして飾っているのを結城美柑は冷たい目線で送りながらクリスマスケーキや食事を用意していた。

 

「美柑!今日はサンタさんが来るから良い子にしてろよ!いいプレゼントが貰えるかも!」

 

結城リトは無邪気にサンタを信じている様子だったが、結城美柑はサンタを全く信じてはいなかった。

 

「・・サンタなんかいないんだもん」

「いる!いるんだって!空から来るんだよ!」

「人が空飛べる訳無いでしょ」

 

結城美柑は兄と一緒にいる事が嬉しい訳で、サンタクロースが存在するとか関係無く、プレゼントだって両親からの贈り物に過ぎなかった。

サンタクロースを信じない悪い子結城美柑がいる結城家のインターホンのチャイムがなり来訪者がいる事を示していたので結城美柑は玄関へと走っていた。

 

「メリークリスマス!美柑ちゃん!」

「り、リコねぇ!?」

 

来訪者はサンタクロースの姿をした天真爛漫の夕崎梨子だった。

小さいサンタクロースが来た事によって興奮した結城美柑はそのサンタクロースの手を引っ張りリビングへと向かっていた。

 

「へ!?さ、サンタ!?じゃ、なくてリコ?」

 

結城リトはサンタクロースの姿をした夕崎梨子に驚きを隠せず、まじまじと夕崎梨子を見つめていた。

 

「ふふふ!ボクはサンタクロースだ!」

 

胸を高らかに宣言する小さなサンタクロースは可愛くて拙いような声の子供であった。

結城家にプレゼントしようと持っていた大きな袋からプレゼント箱を結城リトや結城美柑に渡し、サンタクロースはにこやかに笑った。

 

「リコねぇ・・じゃなくてサンタさんありがとね!」

「うんっ!美柑ちゃんやリトに渡せてボクも嬉しいよ!だからいいよっ!」

 

小さなサンタクロースは、にぱっと無邪気な笑みを浮かべ、結城兄妹もそれにつられ笑みをこぼした。

 

「ねぇ、サンタさん!もっとお話しようね」

「うんっ、ボクはサンタクロースだからたくさんプレゼントしないとねっ!」

 

小さななサンタクロースはいつまでも結城兄妹に賑やかなプレゼントを与えていたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

いつの間にか寝ていた結城美柑は目を覚まして、顔を洗おうと洗面所へと向かう途中、まだララは裸のままでウロウロと結城リトを探しては抱きついている様子だった。

 

「ねぇ、ララさん?いい加減に服を着なさい!」

 

そんなララに説教するとしぶしぶと服を着て、それが終わったからか結城リトに抱きついていた。

 

(ふふっ、確かにリトに抱きついちゃダメだとは言ってないもんね・・はぁ)

 

内心諦めてしまう結城美柑はララにどう説明したって、どう説教したってララの恋心は動かないのだから仕方無いのだ。

 

(さっきはなんて言えばララさんの行動を制限出来るのだろう?リコねぇだったら・・)

 

夕崎梨子の事を姉と慕う結城美柑は彼女の事を分かりきっていた。

まだ子供の自分に難しい言葉で回りくどい説明をする夕崎梨子ならばなんと言うのだったんだろうか?結城美柑は彼女の立場となって考えてみた。

 

(・・・ふふふ、ララちゃんダメだろ?そんな恥ずかしい格好をしてはいけないよ。リトの事を考えて、ちゃんとその気持ちに応えた方がリトやララちゃんにとって良い事になるからね・・だなんて言いそうだな、きっと)

 

結城美柑は完全に夕崎梨子の思考や性格を読み取り、あっけなく得意の説教が負けたような気がした。

夕崎梨子のお姉さんぶりには勝てないけど、それでもそのお姉さんの事が大好きな結城美柑にとっては宝物なのだ。

 

(リコねぇは自分の事を口下手で不器用だって昔言っていたけど、ちゃんと相手の事考えている優しい子じゃないの?でも私は知ってるよ?リコねぇ。本当は・・本当は素直じゃない子供なんでしょ?)

 

結城美柑よりも年上なのに結城美柑より子供みたいな夕崎梨子に子供みたいだと言ったらどんな反応をするのだろうと思ったら笑いが込みあがった。

 

「クスクスっ、あのリコねぇは拗ねちゃうのかな?うふふ、どんな拗ね方するのかなぁ?あははっ」

 

結城美柑の脳内に夕崎梨子が頬を膨らませ、口を尖らせ小石をコツンと軽く蹴飛ばし『もう知らないっ!ぷんっ!』と言ってそっぽを向く映像が流れた。

そんな彼女が可愛く面白可笑しく思えてしまった。

 

「ぷっ!あはははっ!リコねぇってばそんな落ち込み姿は可愛過ぎるでしょーっ!あはははっ!お腹が苦しい!」

 

いつもの不思議な口調の夕崎梨子とのギャップを想像し、腹筋崩壊を起こしてしまう結城美柑。

姉として尊敬しているけど、妹としても可愛げがありそうな夕崎梨子が大好きでたまらなかった。

 

そんな笑い転げている結城美柑のもとに、いつの間にやら結城家を訪問していた、その夕崎梨子本人が近付いていた。しかし結城美柑はそれに気付かない。

 

 

「美柑ちゃん?」

「ぎゃっ!」

 

後ろから話しかけられた結城美柑は背筋を伸ばし驚きを隠せないでいた。

 

(き、聞かれたのかな?)

 

冷や汗を垂らし、ゆっくりゆっくりと後ろを振り向き、満面の笑みを浮かべている夕崎梨子がいた。

いつもの笑顔が絶えない夕崎梨子だけど、長年の付き合いで微かな違いを感じる事が出来る結城美柑は絶望していた。

 

(お、お、怒ってるー!拗ねるとかのレベルじゃないよこれ!)

 

なんとか許せるかもしれないと苦笑いで微笑みかけたけど、その顔の両頬を夕崎梨子によって左右に伸ばされた。

 

「み~か~んちゃ~ん?」

「いふぁいいふぁい!リコふぇ!」

「ボクは可愛いとか優しいとか褒め言葉を言われるのは一向に構わないけどね?」

「ゆ、ゆるふぇふぇ、リコふぇ!」

「ボクはバカにされたり除け者にされたりするのが嫌いでね?ちょーっとだけムカッとするんだ」

 

夕崎梨子は結城美柑の両頬を両手で左右に伸ばしたり、両頬を押し込んだりと弄っていた。

結城美柑はなんと言っているか分からない言葉を言いながら涙目になってお仕置きされていた。

 

「ボクにごめんなさいは?」

「ご、ごふぇんふぁふぁい」

「ん、よろしい」

 

ようやく夕崎梨子によるお仕置きが終わり、結城美柑は自身の両頬をさすりながら未だ涙目になっていた。

 

「うぅぅ、大人げない・・」

 

本音がつい出る結城美柑に夕崎梨子は目を光らせ更なるお仕置きを執行しようと手をわきわきと動かしていた。

 

「え?なんだって?み~か~んちゃ~ん?」

「っっっ!ご、ごめんなさい!リコねぇ!」

「ダメだね!お仕置きだ!」

 

今度は結城美柑の脇や横腹を夕崎梨子は両手の指先で擽った。

 

「あっ、うひゃひゃひやっ!ひゃ~!ゆ、ゆ、うひゃしゃ~っ!く、くぬぅ~!」

「むっ!」

 

結城美柑は擽られながらもなんとか両手で夕崎梨子が責めている同じ部分を擽りつけた。

 

「ちょ、猪口才なぁ!くっ!ふ、ふふくっ!んんぅぅん!ふぁっ!あっはっはっは!あーっはっはっ」

「ひゃっひゃっ!ま、負けないっ!くっ!うひゃっ」

 

擽りによって大笑いする結城美柑と夕崎梨子に結城リトやララが何事かと彼女らを発見し、結城リトは彼女らの行動に顔を真っ赤にさせていた。

一方ララは楽しそうと彼女らのスキンシップに混ざり、三つ巴による擽り対決へとなっていった。

三者三様の笑い声と涙目で顔が赤く染め上げられ、賑やかで色っぽくて艶やかな甘い声が思春期で女に免疫がない結城リトは顔を更に真っ赤に染め上げ興奮してしまった。

 

(うわわっ!美柑はリコとララの胸近くとか触ってて無防備!リコは美柑とララの脇腹を同時に責めているから無防備!それらをララが責めている!三人共両腕が使えないから防御出来ない!って、何解説してんだ!?俺!!)

 

結城リトはその場から逃げ出して、彼女らはしばらく擽り続けられ、夕崎梨子やララが楽しそうな笑い声を聞いた結城美柑は、いつまでもこのような楽しい時間が続くと確信していたのだった。




あと十五話くらいは初期ToLOVEるだと思います。多分


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第十九話

金色の闇回オリジナル話です。


金色の闇ことヤミは空腹だった。

ヤミは結城リトを攻撃しようとする宇宙人の刺客を次々と無力化し、金色の闇の仕事が終了したので夕崎梨子から報酬を貰う事にした。

その報酬内容として近場のケーキバイキングの店への同行したいという事で夕崎梨子と結城美柑と三人で向かい、ケーキバイキングの店へと入店し、三人は席へと座った。

 

「あそこにあるのぜーんぶ食べられる物は食べてもいいんだよ?ヤミさん」

 

ヤミはケーキバイキングの何たるかが分からないので、結城美柑からの説明を受け、数々のケーキやスイーツに目移りしていた。

 

「本当にあれ全部が一定の料金のみで食べられるのですか?結城美柑」

「うんっ!あと、私の事は美柑って呼んでね」

「はい、分かりました美柑」

 

ヤミは数々のケーキを見るがどれがいいのか分からず、結城美柑と同じ物を選び、席を確保している夕崎梨子のもとへとケーキを持ってやって来た。

 

「おやおや、そんな多くのケーキを確保出来たのかい?見るだけで胃がもたれそうだけど、ボクも頑張って食べるとするよ」

 

夕崎梨子は優雅にコーヒーを啜り、結城美柑が持ってきた大量のケーキから一つ小皿にとってフォークを差し小さな口で食べる。

 

「・・うんっ、いい味だ。このショートケーキはごく普通に見えるが、クリームが甘すぎず、かといっても甘いようでもある。スポンジの間にあるイチゴも新鮮であり、ほど良い酸味をきかせ、ケーキのなんたるかを教えてくるようだ」

 

まるでグルメリポーターのように饒舌に感想を言っているのを聞き、結城美柑とヤミも同様にケーキを食べて目を丸くしていた。

 

「お、おいしーっ!ね?ヤミさん」

「はい、おいしいです。リコが言っていた感想をスラスラと言えませんけど・・」

「あれはいいのよヤミさん。あのリコねぇがあそこまで感想を言っているって事はね、ものっすっごく!はしゃいで嬉しそうにしているの!」

「・・私にはいつも通りのリコにしか見えませんが、美柑がそう言うならそうなんですね。私にはまだリコの事が分かりません」

 

ヤミはいつもの通りの夕崎梨子と今の夕崎梨子とのギャップを観察するように顔の表情や声の抑揚などを確認するが、やはりいつも通りの夕崎梨子にしか見えなかった。

 

(やはりリコは変人、という事ですね)

 

ヤミはそう思うと理解し、夕崎梨子を見て鼻で笑い、ケーキを食べていた。

鼻で笑われた夕崎梨子はヤミがバカにしていると感じ、ヤミの両頬を左右に伸ばした。

 

「・・ふぁふぃふぉふぅんふぅえふふぁ?(なにをするのですか?)」

「今、ボクに対して何を思ったのかい?返答次第ではこの頬がどうなるか分からないよ?」

 

ヤミの両頬は夕崎梨子による拘束から解放され、ヒリヒリする両頬を擦りながら正直に答えた・・夕崎梨子は変人であると。

 

「そうか、ならばいい。けど、変人だからってバカにするのは少しばかり許せないな」

「・・すみませんリコ。リコは変人ですけど・・」

「え~?なんだって~?」

「変人ですけど、いい人ですから。そのいい人とこうやって食事する事が初めてで楽しくて思わず笑ってしまいました」

「・・それはすまなかったね。ならばやり返してもいいよ?ヤミちゃん」

「いいです、気にしないでください」

 

ヤミはとっさに出た理由が出た事に内心ホッとし、ケーキを口にする。

そのケーキの細かい味は分からないけど、美味しいとは思うこの気持ちと密かに感じる楽しいと思う感情は大切な宝物になるのだろう。

 

しばらくケーキを食べていると、西蓮寺春菜と古手川唯の二人が夕崎梨子達の前に現れ、古手川唯と夕崎梨子がバッチリと目を合わせてしまった事を西蓮寺春菜は非常に嫌な予感がしていた。

 

(わわわっー!古手川さんに誘われてこの店に行ったらリコさんが居たー!)

 

オロオロと慌てる西蓮寺春菜をよそに、夕崎梨子と古手川唯は微動だにせずに睨み合う様子をヤミと結城美柑は彼女らの反応に戸惑っていた。

 

「あらあら夕崎さん奇遇ね?こんな小洒落てて女の子が好きそうなお店に居るなんてね?まさか、そこまで乙女だなんて思ってもなかったわ」

「ふふふ、奇遇だね唯ちゃん?ボクは正真正銘の女であり乙女でもあるから仕方無い事だよ」

 

夕崎梨子と古手川唯との口喧嘩を始めて目の当たりにした結城美柑は驚きを隠せず、ヤミは我関せずとケーキを黙々と食べ、西蓮寺春菜は涙目になりながらオロオロとしていた。

 

古手川唯は夕崎梨子の席に目を移し、彼女の物であろうコーヒーカップの近くに数多くのコーヒーシロップやコーヒーシュガーの使用済み容器が拡散されているのを見て黒い笑みを浮かべていた。

 

「へぇ?夕崎さんって、かなりの甘党なのね?やっぱり女の子で・・子供なのねぇ?」

 

古手川唯の毒舌に結城美柑は戦慄した。

夕崎梨子はいつもの笑顔なんだけど、その顔の中に黒い感情が渦巻いている様子を感じ取った。

 

(ひぃぃーっ!リコねぇ怒ってるー!逃げてー!そこの人ー!)

 

結城美柑は心の底から古手川唯の事を心配していた。

かつて結城美柑は夕崎梨子を子供扱いしてバカにしてしまった事でお仕置きをくらった恐怖を思い出していた。

あのままではお仕置きされる、と思っていたけど特に手を出さなかった。

 

「ボクはまだまだ子供だよ?だけどね、甘党だから女らしいだなんてこじつけでしかないんだよ。逆に辛党なら男らしいと言うつもりでもあるのかい?」

「まぁね、言うつもりよ。だってその方が常識っぽいじゃない?」

「ふふふ、常識、常識ねぇ?唯ちゃんがそう思うのは勝手だけど、ボクの常識では唯ちゃんが非常識だという事が証明されるだろうね」

「なによ!」「なにかな?」

 

夕崎梨子と古手川唯は満面に笑みの同士で再び睨み合い、そんな彼女達の喧嘩に涙目になりながら身体を震えわせる西蓮寺春菜と結城美柑は同時に戦慄していた。

 

(古手川さんとリコさんってやっぱり似た者同士でワガママな子供みたいに、また喧嘩してるっ!)

 

(リコねぇもあの人も怖すぎるーっ!高校生になったら私もああなるのかなぁ?なりたくないなぁ・・)

 

四人が織り成す恐怖とそれに怯える空間は他の客や店員にも伝染し、我関せずと黙々と己の仕事に勤しんだ・・無視をするという仕事を。

 

一方、ヤミはすでに満腹となって、目を深く瞑り数々のケーキを食した事を堪能したので、強くこう思っていた。

 

(・・今度は静かな所で食べたいですね・・ここは賑やか過ぎですので、次は美柑だけとどこかで食事したいです)

 

ヤミはお腹を擦りながら静かに店から出て行ったのであった。

 

「・・・けっぷ。少々食べ過ぎましたね」

 

 

金色の闇ことヤミは夕崎梨子の報酬として胃袋と心が満たされていくのである。

 



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第二十話

籾岡理沙回です。もちろんオリジナル展開であります。


籾岡理沙は退屈していた。

彼女はウェーブがかったセミロングの茶髪をしていてネクタイをしない、胸元を留めない、シャツをスカートに入れない、ブレザーの前を留めないなどほぼ常に制服を着崩しており、がさつな言動が多いし、不良のような風体だった。

そんなある日の退屈な放課後の事だった。

 

(退屈だ!本当に退屈なんじゃーい!里央は風邪で休みみたいだし、春菜っちは部活があるって言うし、ララっちは結城とどっかに行ったし、古手川は風紀委員の仕事があるって言うしつまんなーい!)

 

その退屈な彼女は自分の席に座り、机に身体をベタリと預けていた。

そのままの格好で視線を泳がせ、目に映るのは帰る準備をしている男子生徒数人だった。しかし、彼らに特には用は無く、なんだかガッカリする気持ちになった。

次に女子生徒へと視線を泳がせ、とある女子に目がロックオンした。

実は籾岡理沙は、女の子に対して挨拶と称し胸やお尻を揉みしだく趣味を持ち合わせていた。

自分自身はスタイルがいいのにも関わらず、他の女子のスタイルが気になり確かめずにはいられなかったのだ。

そんな籾岡理沙はロックオンした女子生徒にソロリソロリと後ろから近づき、やがては思いっきり籾岡流挨拶を交えた。

 

「隙ありー!」

 

籾岡理沙がロックオンした女子生徒の名は夕崎梨子であり、猿山ケンイチと何やら話し込んでいた隙に夕崎梨子の胸やクビレやお尻を揉みしだいていた。

 

「ふふ、んぅわひゃあ!」

 

いきなり後ろから襲われた夕崎梨子は可愛く恥ずかしそうな喘ぎ声をあげ、猿山ケンイチは彼女らの突然の行動と声に興奮した。

 

(おおっ!これが噂に聞く百合か!いいっ!スゴクイイ!そしてリコちゃんは意外と女の子らしい所もあるのもスゴクイイ!)

 

猿山ケンイチはその光景をしっかりと目に焼きつけていた。夕崎梨子に籾岡流挨拶を交わした籾岡理沙は、ニヤリと黒い笑みを浮かべ、夕崎梨子のスタイルを再び確認出来ていた。

 

「ミスコン前でやったけど、やっぱスタイルいいわー!着やせするタイプで隠れ巨乳なんだね?ララ程じゃないけど!」

「くっ!や、やめ、んぅわひゃあぁん!」

 

籾岡理沙の言葉を聞いた猿山ケンイチは顔を真っ赤にさせ興奮した。あの夕崎梨子が、スタイルも良いという事は彼女は彼にとって完璧に好みへと変貌した。

 

「ついでだからスタイル測っちゃおうか?猿山!メジャー!メジャー持ってるー!?」

「くっ!無い!こんな時にっ!」

「なら私がじっくり・・・確かめてやるー!」

 

籾岡流挨拶は更にエスカレートしていた。

胸を揉む動作を大きくそして早く、両胸を円を描くように揉みしだき、そしてクビレを左右の脇腹から上下に擦り、お尻は胸と同様臀部を円を描くように揉みしだく行動を三セットじっくりと時間をかけて挨拶していた。

そんな挨拶を受けた夕崎梨子はーーーー果てた。

 

果てた夕崎梨子の様子は乱れた制服姿で床に寝転び、ビクンビクンと身体を震わせ顔は赤らめ、大きくはぁっはぁっと苦しそうに吐息を吐き、目はトロンと虚ろとなっていた・・籾岡理沙はそれを見て堪能したのか、教室から出ていた。

 

「だ、だ、大丈夫か?リコちゃん。俺、女に手をあげるの苦手で助ける事が無理だったんだ。だから・・」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅ~・・いいんだよサルくん。キミならばそうすると思っていたからね」

 

夕崎梨子は足腰を震わせながらもなんとか立ち上がり、机に寄り掛かり乱れた制服を直しながら腰を掛けた。

 

「一度ならず二度までもあんな挨拶されるだなんてね。いつからボクらは友達になれたんだろうね?」

「何!?さっきのは二度目だって!?くっ!(羨ましいーっ)」

「ふふふ、あれが友達の証というならばボクにもそれ相応の対応をとらなければならない、という事になるだろうね?サルくん」

 

夕崎梨子は黒い笑みをニタァと浮かべ、猿山ケンイチはそれを見てゾッと背筋が凍るような恐怖を覚えた。

 

(こ、こ、この黒い笑みは!リコちゃんが悪い事を考えて何が何でもそれを成功させようとする黒い笑みだ!)

 

黒い笑みがすぅと消え去ると同時にいつもの満面の笑みとなった夕崎梨子に更なる恐怖を覚える。

 

(そしていつも通りのリコちゃんになる、という事はもうリコちゃんは籾岡に何かするんだ・・絶対に)

 

ゴクリと喉を鳴らし恐怖を感じ続ける猿山ケンイチは籾岡理沙に起こる何かを心配しながら応援していたのだった。

 

(籾岡・・気をつけろよ・・)

 

翌日の昼休み、夕崎梨子は籾岡里沙に食事の約束をして、彼女らの教室へと呼び出し、籾岡理沙はその教室へと向かっていた。

そこには夕崎梨子はもちろん西蓮寺春菜や沢田里央が机を並べ籾岡理沙を待っていたようだった。

 

「やっほー!お待ちー!」

 

籾岡理沙の到着により食事を始めようと弁当箱を机に置いた瞬間、夕崎梨子は突然立ち上がり、籾岡理沙の後ろへと素早く移動し、そこから襲いかかり籾岡理沙の胸やお尻に夕崎流挨拶をした。

 

「こ~んにちわ~」

「うわぁひゃあぁあ!?」

 

思いもしれない挨拶に驚きを隠せないでいた。

その挨拶は優しく、時には激しく、時には焦れったく、時には耳にも息を吹きかける挨拶に籾岡理沙は驚いた。

 

「り、リコちゃん!?」と西蓮寺春菜のみ声を出した。

 

その場にいた生徒達は夕崎梨子らしからぬ行動に目を見開き、時には顔を赤らめて恥ずかしがって彼女らの行動を呆然と見ていた。

 

「おやおや、なんでビックリしてるのかい?だって理沙ちゃんが友達同士でやる挨拶なんだろう?ならばそうする権利もボクにあるんだよ」

「そ、そんなのっ、んぁっ、ひゃっんぅぅ」

 

夕崎梨子は籾岡理沙に挨拶しながら話を続けている。

 

「会話にならないから続けるけど、まさか自分には挨拶されないとは思わなかったのかい?それはダメだよ、だってボクらは友達なのだから」

「わ、わ、わかっ、うひゃぅん、た、たすけひぇっん」

「友達だから挨拶するのは当たり前であり、挨拶されないのは友達として見過ごされない、という訳だよ」

「あぁうぅ、ひゃぁあ、ああぁっ!」

「だから口下手なボクはこうしてスキンシップする事によって、お互いが友達だという事を証明し、安心してね信頼してねというような気持ちを込めるしかないのさ」

「っっ!ぅあぁぁっ、わ、わか、わか、たからぁぁん」

「止めて欲しい、だって?違うよね?理沙ちゃんだって挨拶交わしながら会話してたじゃないかい?だからこれ含め『挨拶』なのだろう?」

「っっ!ぁぁん!お、お、お願い!っっんぅぅ!」

「だからこそボクはーーーー」

 

夕崎梨子の『挨拶』は5分以上続いた後『挨拶』はようやく終わり、果てた籾岡理沙を席に座らせ、夕崎梨子も席へと座って手を合わせていた。

 

「すまないね、『挨拶』で遅くなった。それでは、いただきます」

 

夕崎梨子は、あっけらかんとした表情で弁当箱を開けて、『わぁお、今日は唐揚げだね?ラッキー』などと軽い言葉を言い放ち、唐揚げを頬張っていた。

そんな彼女の反応に困った様子で西蓮寺春菜らは身動きとれなかったのだった。

 

「んぅ?食べないのかい?ほら、食べなよ」

 

夕崎梨子はもぐもぐと租借しながら西蓮寺春菜らに言い放ち、時が流れたように生徒らも食事を始めていた。

だけど、一人だけ未だに食事がとれない生徒ーー籾岡理沙は顔を真っ赤にしたまま吐息が荒かった。

 

「おや?理沙ちゃんどうしたんだい?もしかして食事の際にやる『挨拶』もあるのかい?ならば、ボクも手伝ってやろうか?」

 

満面に笑みの夕崎梨子にゾクリと背筋が凍る感じがし、いそいそと弁当箱を広げ、ちまちまと食事を進め、強く心の底からこう思っていた。

 

(もうリコには『挨拶』出来ない!ていうかしないし!)

 

夕崎梨子に関わる事で籾岡理沙はもう退屈出来なかったのであった。

 

 



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第二十一話

村雨静と御門涼子の静かな一日です。

まず最初辺りにでてくる言葉があります。それは
艶麗(えんれい)意味は 女性の容姿がなまめかしいさま。美しくて華やかなさま。


彩南高校看護教諭の御門涼子は艶麗であった。

その地球人離れしたスタイルが生徒に惹かれるので人気者となっていた。

その助手の村雨静は幽霊ではあったが御門涼子が作ったバイオロイドと呼ばれる生物学的・有機物的人造人間を用意し、それに憑依する事によって見た目が普通の女の子となっていた。

そんな彼女達は怪我している生徒やたまにくる人間の姿をした宇宙人を治療していき、いそいそと忙しいそうに村雨静は助手として協力していた。

治療が終わると疲れがたまったのか御門涼子はため息を吐き、紅茶を啜りながら休憩していた。

 

「あら?この紅茶おいしいわね?いったいどこの紅茶なのかしら?お静ちゃん」

 

村雨静をお静ちゃんと親しみを込めて呼び、その村雨静は笑みをこぼして答えた。

 

「えーっとですね、リコさんと街でたまたま会ってお勧めのお茶があるのかと聞いた私は、あるお店にあるという紅茶のパックを買う事にしたんです。確か、そのお店の名はーーー」

 

御門涼子は村雨静の話に耳を傾け、夕崎梨子の名に反応するようにピクリと反応するように眉が密かに動いた。

 

(リコちゃんか・・不思議ね?最近その名を聞くような気がするわ・・そうだわ!あのミスコンテスト騒ぎの!)

 

御門涼子は天条院紗姫主催ミスコンテストの話を聞いた記憶があった。

なぜ夕崎梨子がそんなミスコンテストに参加したのか分からないけど、策略によって優勝した事は知っていたのでおのずとその策略家の名が耳に届いたのだろう。

 

(うふふ、本当に頭がキレる子ね?相手の考えを予想してそれをリコちゃんは普通に上回った、て事だったかしら?それにしても本当に地球人なのかしらね?あのリコちゃん)

 

地球人である夕崎梨子に疑問を抱きながらも、夕崎梨子が宇宙人ではないと納得するようにかつ考える事を諦めて紅茶を啜っていた。

 

「うふふ、本当に気になっちゃうわね?リコちゃん」

「そうですね、あのリコさんは何者なのでしょうか?不思議ですよ!あんなに可愛くて優しいのに男の子みたいな口調で話しているのは勿体ないです!」

「それもそうね?だけど、私はそんなリコちゃんも可愛いと思うけど」

「そうですか?たまに難しい事を仰られる事がありますし・・ですけど、私と同じ目線で話してくれる感じがしますので友達になれたんだな、て思っています」

「そうなの、それじゃあ話してくれるかしら?あなた達が友達関係になれた話をね」

「はい!それはその紅茶のパックを買った後の事でしたーーー」

 

村雨静は自分の胸に両手を添え、目を閉じ夕崎梨子との交流を静かに語っていく。

 

時は戻り、とある日の休日、村雨静は困惑していた。

村雨静が死んでから400年程の月日が流れていて街が一様に変わった事に戸惑いを隠せないでいた。

 

行き交う謎の速く走れる箱(車)、奇妙な出で立ちの大勢の人々(洋服やスーツを着ている人)、奇妙な箱を耳に当てて何やら独り言を喋る人々(スマートフォンで電話している人)、奇妙な縦に細長くて高々と伸びる数々の謎の箱(マンション)、動く奇妙な絵(広告動画)を目の辺りにした。

 

(ひ、ひぇぇー!何ですかここ!?何ですかこの世界!400年も経ったらこうなるのー!?)

 

いつも廃校舎にいて街の様子が確認出来ないので驚きを隠せなかったのだ。まるで昔話に登場する浦島太郎のような気分に陥るのは当然なのだ。

 

(御門先生のお土産どうしよ~!)

 

これから御門涼子のもとでお世話するので何かを買おうと街には出かけたのはいいが、村雨静は途方に暮れてオロオロと不安な様子で困惑していたがそんな村雨静に救いの手が差しのばされた。

 

「おや?キミはお静ちゃんじゃないかい?なんでここに・・いや、なんでそんなハッキリと姿が見えるのかい?まるで人間だよ」

 

買い物袋を持った夕崎梨子だった。

その夕崎梨子の登場に驚きを隠せず、目をパチクリと動かしていた。

 

「あ!あの時の!確かリコさん!」

「ふふふ、覚えて貰ってなりよりだ。ところでお静ちゃんは幽霊だったような気がするんだが・・」

「はい!そうなんですけど、御門先生がなんとかしてくれました!」

「オイオイ、魂をいったいどのように治療したら人間が出来上がるんだい?少しばかり教えて貰いたいな」

「え、えっと、難しい事はよく分かりませんけど御門先生は人間を作れるんです。その人間の身体に憑依したらこうなっちゃったんです、じゃあダメかなぁ?」

「・・・・・」

 

村雨静の説明を聞き、夕崎梨子は顎に手を添えて真剣な表情で深く考え、自分の左の手の平を右の握り拳で軽くポンと叩き、閃いた様子を示した。

 

「ふむふむ、なるほどそういう事か。その姿はバイオロイドかもしくはそれに近い物としそれを器とさせ、村雨静という魂を注いだのか・・まぁ例に例えるなら風船の中に空気を膨らませそれを閉じたイメージが今のお静ちゃんに近いだろう」

「????よく分かりませんけど、多分そうです」

「ふふふ、正解してよかったよ。ボクは思考力と洞察力が自慢でね?いつも何事にも考え、説明する事が好きなんだよ」

「へぇ~?そうなんですかぁ?リコさんはお勉強が好きなんですか?」

「ああ、ボクは勉強熱心でね?いつも予習や復習を兼ねて勉強しているんだよ。だからそのおかげでそれらの力を手にいれる事が出来たのだろうね」

 

夕崎梨子の話は故人であった村雨静には所々分からない事があったけど、それでも優しい雰囲気で説明する彼女にどこか惹かれるような村雨静は嬉しかった。

 

(リコさんは珍しい話し方なんだけど、一つ一つの言葉の後に説明をしてくれる優しさが嬉しいなぁ)

 

夕崎梨子は無意識的に説明するような会話をしていた。彼女自身の性格から出てくる優しさはもともとのモノであり、それが素でそれら全部が夕崎梨子である事が証明されるのだろう。

先程の会話の例を見ると、村雨静の身体がバイオロイドだと考察された時、『へぇ、すごいね』などと驚いた声をあげてビックリするはずだった。

しかし、夕崎梨子は風船に例えて相手に分かるように確認していた事に優しさを感じた。

この夕崎梨子の推察からの確認へと移り変わる奇妙な癖が人々の心に留まるのだろうと気づいてしまった。

 

(やっぱりリコさんは優しい人なんですね)

 

夕崎梨子の優しさを感じ、彼女と一緒に彼女のおすすめの店や食べ物などを教えて貰いながら街を散歩していく村雨静であった。

 

そして現在、村雨静の夕崎梨子との出会い話を聞いた御門涼子は楽しそうな表情を浮かべ、紅茶を啜り終えカップを置いた。

 

「なるほどね、確かに私と会った時もそういう話し方だったわね」

「やっぱり癖なのでしょうか?あの説明する癖」

「そうみたいだわ、だってあの時も自分に自信が無いような口振りだったし、あの子は素直じゃない子供みたいな性格なのよ」

「へぇ~?そうなんですか?詳しく聞かせてください」

「いいわよ?ちょっと長くなるけどいいかしら?」

「もちろんいいです!よろしくお願いします!」

「そうね、あれはーーーーー」

 

御門涼子は村雨静を発見する前の廃校舎で起こった事を事細かに思い出しながら静かに語り、夕崎梨子について話していくと

 

(リコちゃんは随分とみんなに慕われるんじゃないの?本当に人懐っこい仔犬や仔猫みたいな人ね)

 

静かにそう思い、紅茶のお替わりを欲求し、紅茶を優雅に啜りながら御門涼子は威容な夕崎梨子を褒め称えつつ、いつまでもその会話は終わる事がなかったのであった。

 

 



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第二十二話

西連寺春菜の気まずい日常回です。もちろん原作には書かれていないオリジナル回でございます。
何故オリジナル回が多いのかというと、ダークネス編を考える際筆が進まずなかなか書けないから、ちょっとだけ気分転換にと思った次第でございます。
つまりダークネス編を執筆ーーちょっと書けないな、なんかオリジナル回でも書きながらでも考えよう、それでそのオリジナル回がいつの間にか完成となりました。


西連寺春菜は気まずかった。

 

ララの婚約者であるという結城リトには隙がなく、いつもララと一緒にいる事で話しかけるタイミングを失い続けていた。

西連寺春菜は結城リトの事が好きであり、その理由としては至って簡単のような気がしてならない。

中学時の体育祭で結城リトらが所属する組が負けようとした時、リレーでしか勝利への道筋が見えなかったので結城リトはリレーのアンカーを承り、それまでリレーの順位がドベだったのにも関わらず一気にトップへとなり挙げ句の果てには結城リトのおかげで結城リトが所属していた組が勝利したのだ。

その努力した姿に一目惚れし、なんとか結城リトと仲良くなろうと試みるが、やはり楽しそうにララと一緒にいるので話しかけるのは諦めるしかなかったのだ。

 

そんなある日の朝、西連寺春菜は自分の席に座って視線を泳がせた。

 

(はぁ、猿山くんは普通に好き・・なんだと思うリコちゃんと話しているし・・)

 

西連寺春菜の視線の先には満面に笑みを浮かべて雑談を交わしている夕崎梨子と猿山ケンイチの姿があった。

西連寺春菜は猿山ケンイチの夕崎梨子への恋を感じていて、確信は無いのだけれどそれでもそうかもしれないと理屈では無い理由で感じていたのだ。

 

(リコちゃんは猿山くんの事は好きじゃないかもしれないけど・・でも、猿山くんを気に入っているのは間違いないのかな?)

 

西連寺春菜の読みは的中しており、彼らの関係はまさにそれであり、友人以上恋人未満な関係である事に間違いないのだ。

 

(って!人の恋が分かるのになんで私の恋は私が分からないのぉ~!?)

 

考察した西連寺春菜は顔を真っ赤にして顔を左右に振り回し、髪型が乱れていた。

 

「(もう、どうしたらいいの~?)はぁぁぁぁ・・」

 

大きなため息を吐いて落ち込む西連寺春菜の様子を心配するような表情を浮かべた古手川唯が現れた。

 

「西連寺さん、女の子がそんなため息を吐いたらいけません!みっともないわ!」

 

いつもならば夕崎一派だから好きではないと豪語した古手川唯の出現に驚きを隠せなかった。

以前ケーキバイキングの時は本当の偶然でたまたまケーキバイキングの割引チケットが手に入って、これまた偶然に古手川唯もたまには息抜きだと言い張って着いてきたので西連寺春菜はそれを了承しただけに過ぎなかった。

 

「え、えっと、古手川さん?私の事嫌いなんじゃあ?」

「いいえ、西連寺さんの事だけは好きって言ったでしょ?それにケーキバイキングの店に一緒に行ったじゃない?だから友人でしょ?ただ、そこに邪魔な人がいたけどねっ!気にしないけどねっ!」

 

古手川唯は最後の言葉の後満面に笑みで答えていたので、西連寺春菜は夕崎梨子の事を言っているのだろうと解釈し、苦笑いするしかなかった。

 

「ところで西連寺さんは悩みがあるのかしら?たまには私を頼ってもいいのよ?どっかの誰かさんと違って変に回りくどい事は言わないからね!」

「そ、そ、そんな事言ったらダメだよ!き、聞こえちゃう!もういい加減に仲直りして仲良しになってよぉ~っ」

「い~い?西連寺さん?私は許すとか許されないとか関係がないの。私達は敵同士で決して手を結ぶ事なんてないのよ」

「わ、わ、分かったらから!悩み言うから静かにして!」

 

西連寺春菜と古手川唯による口喧嘩のような会話は教室に響き、クラスメイトらは何事かと視線を向けていた。

彼女らが口喧嘩なんて珍しいなと興味津々な様子だったが、古手川唯の満面に笑みが向けられた視線を泳がせ、何事もないように雑談していくクラスメイトは彼女らの口喧嘩見なかった事にしたのたわ。

 

「・・・ふぅ、これじゃ私が西連寺さんをイジメているみたいじゃない?呆れちゃうわ」

「ご、ごめんね?な、なんか私のせいで」

「いいえ、私が悪いのよ。だってあの子を粛正するのは私なのにそれが出来ないの、ごめんなさい」

 

古手川唯は深々と頭を下げて許しを求め、西連寺春菜は慌てるように謝罪しながら古手川唯を励ました。

すると、古手川唯はまたニッコリと笑いかけ、西連寺春菜はそれを見てホッと安心した。

 

「それで西連寺さん、何か悩みがあるんじゃない?」

「へ!?そ、そ、そういえばそうだったね・・」

「やっぱりあるのね?」

「ぅぅっ!うぅ、そ、そ、それは・・」

 

西連寺春菜は言えなかった。

好きな結城リトとどうしても仲良くなりたいと強く思ってしまっていると言えなかった。

古手川唯ならともなく他の女子に相談する気も無いし、それに恥ずかしいからもっと言えない気持ちになるのだ。

顔を真っ赤にさせる西連寺春菜はオロオロとした様子で口もアワアワと何言っているか分からない様子を古手川唯は察した。

 

(なるほどね、好きな人がいるって訳ね?ハレンチだけど仕方ないわね?好きになってしまったなら)

 

未だにオロオロとする西連寺春菜に静かにため息を吐き、これ以上の話は出来ないから仕方ないからと悩みを聞く事は諦めた。

 

「わかったわ西連寺さん、もういいわ。それと本当に何か悩みがあったら絶対に私に、絶対に私に!言ってよね。フリじゃないわよ?私に!言ってよね」

「わ、分かったよっ、その時があればね?古手川さん」  

「そう?待っているわよ?西連寺さんが私に!悩みを持ってくるのをね・・」

 

古手川唯は満足した表情を浮かべ教室から出てしまい姿を消し、古手川唯による尋問が終わった事により西連寺春菜は安堵した。

 

(うぅぅ~怖いなぁ~もぅ・・)

 

うっすらと目に涙をためながらも、西連寺春菜は彼女らの口喧嘩に終止符が打たれる事が無いのを確信し、心はどんよりとした曇り空のように暗くなっていった。

 

(あ、ようやく結城くんはララさんから解放されて・・リコちゃんと猿山くんの輪に入って行ってる)

 

西連寺春菜の視線の先に結城リト達が楽しそうに会話をしている姿を映し、その姿を羨ましそうに見つめていた。

 

(あっ、結城くんとリコちゃんが楽しそうに話していてる・・いいなぁ羨ましいなぁ。猿山くんは結城くんたちの話に相槌をうって楽しそうにしてる)

 

西連寺春菜からの視点で夕崎梨子が何を話しているか分からないけど、人差し指を立てながら何かを説明するように会話している様子が目に映った。

 

(リコちゃんは説明とか解説を言う癖があるのかな?いつも回りくどいなぁ、とは思ったけど・・ちょっとだけ近づこうかなぁ?)

 

西連寺春菜は結城リト達の輪の近くにコッソリとバレないように近づき、聞き耳を立てていたが、本当ならその輪に入りたいけど、そのタイミングがなかなかとれないので仕方なかったのである。

 

「ーーーで、ボクとしてはそれが正しいと言えるのだろう」

「さすがリコちゃん!分かりやすい解説どうもー!」

「ふふふ、褒めすぎだよサルくん。ボクは褒められると照れてしまうんだよ?恥ずかしいんでね」

「あはははっ、今照れてるのか?普段のリコにしか見えねぇよ!分かりづらいって!あはははっ」

 

会話の終了間際のようなオチまで雑談が終わってしまい、結城リト達は近くに居た西連寺春菜に気づいてしまったのだ。

 

「あ、あれ?さ、西連寺?どうかしたのか?」

 

結城リトが西連寺春菜に声をかけ、これからどんな行動をするべきかを必死に考えるも何も浮かんでこず、とっさに西連寺春菜は焦りながら必死に言葉を紡いだ。

 

「こ、こ、こん、こんにちわっ!今日も良い天気だよね!そんな日はピクニックが一番だね!」

 

今日は暗転の曇り空であった。

結城リトと猿山ケンイチは『は?』と怪訝そうな表情を浮かべ西連寺春菜を見ていた。

 

(あわわわわわっ!何言っているの~?私のバカ~!)

 

西連寺春菜の脳内はパニック状態となり目や脳内はグルングルンとどこかに彷徨うように混乱になっていた。

そんな西連寺春菜をあざ笑うかのように夕崎梨子は普段と同じ満面に笑みを浮かべ、その口からとんでもない言葉が言い放たれた。

 

「ふふふ、春菜ちゃんって変なんだね」

 

変、変、変と変の言葉が西連寺春菜の脳内にグルグルと駆け回りショックを受けたと同時に失礼な事も感じていた。

 

(うぅぅぅー!言っちゃなんだけど、リコちゃんも変なのにぃー!うわぁぁぁー!)

 

変な夕崎梨子に変と言われては致し方ない事であり、屈辱のどん底に堕ちるような気を感じてしまったのであった。

 

西連寺春菜は気が気ではいられなかったのだ




多分次もオリジナル回だと思います。
文化祭編やセリーヌ編、ナナ・モモ編はストックにありますが色々と手直ししないといけない所があるので少々お待ちを。


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第二十三話

南島編です。これも思いっきりオリジナル展開です。原作では結城リトがララの発明品によりララ達と南島へと行ってたのですが、今回の話では結城リトは居ないです。



とある休日、近くのショッピングセンターで西連寺春菜は買い物していた。

母親や姉に貰った買い物リストが綴られたメモ帳を眺めながら買い物カゴへ次々と商品を放り入れた。

 

(えーと、あ、そうだ!福引き券が貰えるからあと何か適当な物を買おうかな?)

 

西連寺春菜は商店街で開催される福引きを思い出し、自分でも欲しい物を探し続け辺りを見渡すと買い物カゴを持った夕崎梨子の姿が見えたので、彼女に向かって近寄り、軽く挨拶すると夕崎梨子も親に頼まれたと買い物に来ていたようだった。

 

「おやおや、春菜ちゃんも福引きが狙いないのかい?ボクも福引き狙いなんだよ」

「そうみたいだね?私達気が合うね」

「ふふふ、だからボク達は友達同士なんだろうね?」

 

二人は微笑みながら買い物を済ませ、それにより福引き券を数枚貰う事が出来て、福引き開催地へと向かっていき、新井式回転抽選器と呼ばれるガラガラと抽選器を回して出た球の色によって様々な商品が貰えるという物の前に二人は立ち尽くしていた。

 

「ねぇ、このガラガラの正式名称って何かな?リコちゃん、分かる?」

 

西連寺春菜は目の前にある抽選器の名称を知らない様子で、夕崎梨子はその名称を答え、西連寺春菜は微笑みながら「よく知ってるね」と褒めたので夕崎梨子は頬を赤くした。

 

「ふふふ、どこかの新井さんという人が考えていて特許も貰っているらしいよ?スゴいと思わないかい?」

「へぇ、そうなんだ?すごいなぁ」

 

他愛の無い雑談を交わしつつ、まずはお手並み拝見といった表情を浮かべ、夕崎梨子は抽選器のハンドルを掴み、ガラガラとゆっくり回していた。

 

「へぇ?感じた所、この中にある球の数は少なくても400ほどだろうね」

「え!!?それも分かるの!?もはや超能力だよ!」

 

夕崎梨子の解説に驚きを隠せない西連寺春菜だった。もはやツッコミの才能を開花させるほどのツッコミであり、夕崎梨子はハンドルを掴んでいない手で親指をグッと立ててグッジョブといわんばかりの表情だった。

 

そんなこんなで夕崎梨子は持てる福引き券を使い果たし全部がハズレでありポケットティッシュを貰い、次は西連寺春菜の番だと彼女の背を押して、抽選器の前に立たせた。

 

「リコちゃんが結構回したけどまだまだ400そこそこかもだし、不安だなぁ、大当たりなんて当たる訳ないよね?」

「へぇ?フラグかな?フラグを立てたのかい?」

「ふ、フラグ?は、旗って何?旗を立てるって?」

「いいや、こっちの話さ。続けて」

 

西連寺春菜に分からない単語を言い放つ夕崎梨子を放っておいて抽選器をガラガラ回すが、ほとんどハズレであり、最後の一回も当たらないだろうと不安と絶望の中、抽選器を回した・・・すると、金色の球がコロコロと転がり、それを意味するのは特賞の南の島招待券であり、女性限定ではあるが十人まで招待出来る商品であった。

 

「う、う、うそ?や、やったー!特賞だー!」

 

西連寺春菜は夕崎梨子の両手を握りしめピョンピョンと飛び跳ね盛大に喜んで周りに居る人々もおめでとうと賞賛され、西連寺春菜は恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。

それはそうと、南の島へ女性限定十人招待という訳で、西連寺春菜は次々と連れて行きたい女性を誘おうかと相談する事にした。

 

「え、えっと、十人の女性だから私とリコちゃんは当然として・・・お母さんやお姉ちゃんも連れて行きたいけど最近からずっと外せない用事があるって言ってたし連れて行けないから他の人誘おうよ」

 

南の島に子供達だけでは不安なのでという事で夕崎梨子は保護者役として御門涼子を推薦し、他にララやヤミに結城美柑、古手川唯、籾岡理沙、沢田未央、村雨静を推薦しその彼女らを南の島へ招待する事にした。

 

そしてその当日、南の島へと行く為、彼女達は荷物をまとめたキャスターバックを引っ張っていき待ち合わせとしてみんなは自宅待機、みんなの自宅を教師の特権で知った御門涼子は自分の車にみんなを放り込み、とある空港へと車を走らせていた。

まずは南の島へと招待してくれた西連寺春菜に全員でお礼を言い渡して恥ずかしそうに顔を真っ赤にして「どういたしまして」とおずおずとしているのをよそに、御門涼子は夕崎梨子に興味津々なのか顔を近づけて話しかけていた。

 

「お久しぶりね、リコちゃん」

「涼子先生、お久しぶりだね。それよりも保護者役の件を快く承ってありがとう。ボク達は子供だから危ないし、何しでかすか分からないからね」

「うふふ、そうね。でも私もバカンスは楽しみよ?こちらとしても私を連れてって、と言いたいほどよ」

 

夕崎梨子と御門涼子との会話が気になるのか村雨静も乱入し、他愛の雑談を交わしていく。

そんなこんなで飛行機が飛ぶ時間となり、彼女達は一斉に飛行機の中に入り、適当な席へと座り、今か今かと飛行機の離陸を待ちわびていたのだったが、席の近くにあったディスプレイに天上院紗姫の姿が映し出され彼女達は驚いた。

実は南の島のリゾート地は天上院家が所有するプライドビーチであり、他の客が一切来れないよう厳重な警備での中、海でモニターとして存分に楽しめという事らしいので彼女達は晴れやかな笑顔でそれを了承した。

 

そして天上院家プライドビーチへと辿り着き水着姿へと変貌する彼女達は天使のように美しく輝いていた。

「海だー!」と眩しい赤い水着姿となって無邪気になって海に飛び込み、それに続き「突入ー!」と黄緑の籾岡理沙の水着姿も眩しくモノキニ水着と言われる前面はウエスト部分だったり、背中部分だったりが、大胆にカットされたパターンが目立つセクシーな水着であり、他の天使達も美しくて麗しい水着姿となっていて、海に更に突入した沢田里央も美しかった。

 

結城美柑とヤミと夕崎梨子は砂浜で遊び、古手川唯と村雨静と御門涼子はお互いにサンオイルを塗り合ったりと様々な楽しみ方をしたのである。

一方、西連寺春菜は海や砂浜で遊ぶ彼女らの胸と自分の胸を見比べ胸の格差を感じ、どんよりとした姿を見せていた。

 

(みんなスタイルいいなぁ・・・はぁ)

 

西連寺春菜の視線の先にはまだ子供のような身体をした結城美柑とヤミの胸を見た。自分の胸よりは育っていないはずとマジマジと見る為にじっくりじっくりと歩を進め、いつしか彼女達の前まで近づいてしまった。

 

「え、え、え、っと、西連寺春菜です!気軽に春菜って呼んでね!」

 

彼女達はいきなりの自己紹介に戸惑いを隠せておらず、結城美柑とヤミは軽く自己紹介し、夕崎梨子はいつもの普段の満面に笑みで笑いをこらえるように含み笑いが止まらない様子だった。

 

「ふふふふふ、まるでボクみたいな自己紹介だね。それだけボクの事が好きなのかな?春菜ちゃん」

「そ、それは好きなんだけど」

 

西連寺春菜の好きと言う言葉に反応した夕崎梨子はニタァと黒い笑みを浮かべて、西連寺春菜に近寄り、身体をベッタリとくっつかせた。その彼女の行動に結城美柑は驚きを隠せず口を手で隠し、表情を隠すような動作をした。

 

「り、リコねぇがあんなにベッタリと!ものすごい懐かれているよ!春菜さん!」

「え、ええ!?な、懐くって、リコちゃんは仔犬や仔猫みたいじゃあるまいし・・・」

 

未だに夕崎梨子は西連寺春菜の身体をベッタリとくっつかせられ、夕崎梨子の胸は西連寺春菜の左脇腹から横側からくっつかせ夕崎梨子の右脇腹が西連寺春菜の身体にピタリとくっつけ彼女達の胸が押しつけられていた。

 

「あわわわっ!すごい柔らかい!」

 

夕崎梨子の胸の弾力に恐れをなす西連寺春菜は自分の胸の無さを痛感し、巨乳の弾力を肌で感じていた。

 

「ほら、美柑ちゃんもヤミちゃんも!」

 

夕崎梨子は結城美柑とヤミにも身体をくっつかせ、女の子だらけの押しくらまんじゅうのような行動となり、男子目線で見たら美少女達がキャッキャッウフフといった百合百合しい展開に見えるのだろう。

 

「あまりベタベタしないでください」

 

ヤミは自慢の戦闘力でなんとか夕崎梨子からの拘束を逃れるが、結城美柑と西連寺春菜だけは拘束から抜け出せずにいた。そんな彼女達はヤミに救いの手を求めるけどヤミは淡々として哀れんだ表情を浮かべ彼女達に向かい彼女達にとっては信じられない事を口走った。

 

「私の契約では結城リトや他の方々の命の危険があれば助けるという訳であって、その他の行動は約束しておりません。その行動をとったら契約を破る事になるのでやれません」

 

ヤミは暗に助けたくないと言い放つので、結城美柑や西連寺春菜は心折れてスキンシップを交えざるをえなかったのである。

 

「へぇ、なるほど、ね。ボクとした事が契約を完全なモノにしなかった、という訳だね?ヤミちゃん」

「それに報酬として、今はベタベタしないでください、という報酬をもらえればベタベタするというリコの行動を防げる事もあります」

「くっ!ぬかった!ボクとした事が!て、今は?」

 

悔しそうな表情を浮かべる夕崎梨子は結城美柑に頬ずりしたり西連寺春菜の頭を撫でたりとスキンシップをしていてヤミは彼女の行動にやはり変人だと思っていた。

 

「・・・かまって欲しいときはこちらから指示します」

 

ヤミは顔を赤らめて、トランス能力で純白の翼を広げ海へと突入していたのを見た西連寺春菜をはじめとしたヤミの正体を知らない彼女達は驚いた表情を浮かべた。

もう宇宙人の事を秘密にするにも面倒だし友人としても信用出来るので宇宙人を知らない彼女達にヤミをはじめララも宇宙人だとバラしたが、それを信じた彼女達はそれがどうしたといわんばかりの表情を浮かべていた。

 

「だって、ララさんはララさんだし、ヤミさんはヤミさんでいいんじゃないの?」

 

ララやヤミの正体を知る結城美柑の言葉に他の彼女達はうんうんと頷き宇宙人でも一向に構わないので、本当の意味で友達になれたのだ。

 

「ふふふ、美柑ちゃんの言う通りだよ。だって、そんなララちゃんやヤミちゃんから見たらボク達も宇宙人じゃないかい?そんな宇宙人と仲良くなりたくないのかい?そうじゃないだろう?」

 

夕崎梨子は至極最もな説明であり、宇宙からこの地球に宇宙人が来ても、地球からどこかの宇宙に地球人が行ってもお互いの立場は宇宙人同士なのだから。

夕崎梨子の言葉に感極まったのかララは夕崎梨子に飛びついて真正面から抱きあった。お互いの胸がぎゅむぎゅむと押しつぶされる様子を籾岡理沙と沢田里央は目を光らせ目に焼きつけ、西連寺春菜はまたも胸の格差を感じ、御門涼子や村雨静は彼女らの青春に笑みをこぼし温かい目で見守っていた。

そんな彼女らをよそに、古手川唯は夕崎梨子の前に腕を組んで堂々とした立ち姿で彼女を圧倒せんと立ちはだかった。

 

「あのねぇ、さっきの言葉は良かったと思うけど最後辺りはダメでしょう?宇宙人とかそんなの関係ないから仲良くしましょう、で片がつくじゃないの?」

 

こんなリゾート地にも来て彼女達は犬猿の仲で口喧嘩をしていたけど、今回ばかりは古手川唯の正しさは合っていた。

 

「・・・ごめん、ね。ボクはそんなつもりじゃあ・・・ないんだよ?本当だよ?」

 

いつになくしょんぼりとした夕崎梨子は儚く切ない表情を浮かべ、目にほんのわずかに涙が浮かんできたので、ギョッと驚く古手川唯だけど、まだ説教は終わらせたくなかった。

 

「反省しているならいいわ。今回だけ特別に許してあげるわ!次回までにその口下手を直しなさい!ついでにその性格と口調も!」

「・・・ふふふ、そのボクはボクではないが、ま、善処するとしようか」

「よろしい!それなら海で遊びましょう!」

 

古手川唯は夕崎梨子の手を引っ張り海へと走り出した。夕崎梨子はほんの少しだけ涙を流した後、満面に笑みに変貌して優しい声で古手川唯に感謝の言葉を贈った。

 

「ーーーありがとうね?唯ちゃん」

 

まさしく女の子の声色である夕崎梨子の感謝の言葉をしっかりと耳と脳に記録した古手川唯は満面に笑みを夕崎梨子に向けてこう告げた。

 

「やれば出来るじゃないの」

 

今回だけ頑張って素直な女の子になった夕崎梨子に心の底から褒め称えた古手川唯はいつしか夕崎梨子の事を苦手だと感じなかった。その夕崎梨子を海に無理矢理飛び込ませようと古手川唯は夕崎梨子と共に海に入ろうとしたが、足が竦んでいた。何故ならば古手川唯は・・・

 

「はっ!そういえば私泳げなかった!」

 

海に身体が浮かび上がらず、沈んでいくタイプのカナヅチである。




次はオリジナル話です。


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第二十四話

学生は学生らしく勉強しろ、という事で勉強回であります。もちろんオリジナル回でございます。


結城リトは絶望していた。

何故ならば、定期テストまであと数日と迫っていたのに全然勉強出来ていなく、なかなか学力が向上しない事を嘆いていた。もともと学力が低いのに高校へと進学した事により、授業の難易度が高まっていくので、追いつく事すらままならなかった。

 

(や、やっべぇぞ!こ、このままじゃ補習授業に参加しないといけなくなる!)

 

テストを受け、ある一定の点数以下になると赤点と呼ばれ、その赤点を採れば採るほどその補習授業が長引くので、結城リトは何とか阻止したかった。

そんなある日の授業日、最も不安な国語や数学の授業となり必死に勉学をしようと試みたのだがその担任教師達が一身上の都合により休みとなって自習となっていた。

 

(な、な、なんでこんな時にぃー!!)

 

結城リトは不運を感じ、やるせない気持ちに陥り、机にうな垂れるように身体をべちゃっと寝かせて、その姿勢のまま視線を泳がせると生徒達は机を並べ、一緒にテスト対策を図り、密かな想い人西連寺春菜はララや古手川唯や籾岡理沙それに沢田未央と机をくっつかせ勉強していた。

 

(くっ!あの中に混ぜて~、だなんて言えたもんじゃない!恥ずかしいし!)

 

女の子に免疫が無い結城リトはすぐに顔を真っ赤にし、彼女達から目線を反らし、更に視線を泳がせると夕崎梨子と猿山ケンイチが机をくっつけ勉強している様子を目にした。

 

(猿山は俺と同じぐらいの成績だし頼りにならないかもしれないけど、リコならスゴく頼りになるかもな)

 

結城リトは机を持ち上げ、夕崎梨子と猿山ケンイチのもとへと歩みだし、なんとか勉強の輪に入れてもらう。

 

「よぉ、リト!お前もリコちゃんにご教授お願いしたいのか?いいぜ、入れ入れ!」

「わ、悪いな?リコ。俺、ちょっと・・いやだいぶお世話になるけど、いいかな?」

「ああいいとも。ボクとしても復習も兼ねて勉強出来るからね」

 

心優しい夕崎梨子に感謝しつつ、結城リトは分からない所を全部教えて貰おうと試みた。するとどうだろう、まさか中学三年生が勉強する所から始められる事に自分の知識の乏しさに嫌気が差していた。

 

「ーーーと、なればこの作者はそういう気持ちになっていると言えるだろうね。今回のテスト範囲で覚える漢字は今教えた範囲でかまわないと思うよ?あと熟語もね」

「っ!な、なるほど~!すっげースッキリした!」

「さすがリコちゃん!よ!説明大臣!」

「よしてくれよ二人とも。照れるじゃないか」

(・・・今のは褒め言葉なのか?リコ気づけよ)と結城リトは微笑みを浮かべてそう思った。

 

夕崎梨子は恥ずかしそうに頬を赤らめその頬を手で隠し、笑みをこぼしていた。そして国語の勉強が終わった事によって次は数学の勉強だと数学用の教科書やノートを取り出しペンを走らせたが、結城リトと猿山ケンイチは一瞬で止まらせた。

 

「リコー!助けてー!」「俺も助けてー!リコちゃん」

 

彼らは必死な表情を浮かべ、夕崎梨子に詰め寄り、分からない所を全部教えてもらう事にした。彼らは数字や図形に弱いのか今まで習った事がほとんど分からないのだそうだ。

 

「一体なんなんだよ!因数分解とか二次関数とかよー!訳分かんねーよ!」と猿山ケンイチは吠えて、結城リトはそれに大きく頷いて賛同している様子を夕崎梨子は呆れた表情で小さくため息を吐いた。

 

「まぁ、確かにね?一体いつこんなグラフとかxやyとかルートとか使うんだろう?とは思うけど・・・」

「「だろ?」」と声を揃える結城リトと猿山ケンイチ。

「だけど、だからって投げ出すだなんてボクは感心しないな」

 

夕崎梨子の説教は二人の心にグサリと刺され、深く反省を示し、彼らのその行動をクスリと笑って許す夕崎梨子の優しさに感謝していた。そんなこんなで数学を一から叩き込まれ、ゆっくりゆっくりと時間を掛け、数学を少しずつ少しずつ二人は理解しつつ、やがてはテスト範囲の勉強へとさしかかっていき、夕崎梨子による解説はよほど丁寧で分かりやすいのか、他の生徒が身を乗り出して聞き耳を立てていた。

 

「ーーであり、この場合はこの公式を使うと解けやすくなるし、グラフもこのように山なりとなり・・・おや?」

 

夕崎梨子は周りに居た生徒達に気がつき、彼女の解説が止まった事を不思議に思った二人も周りに居た生徒達に気がついた。

 

「あ、あの、混ぜてくれる?助けて欲しいんだけど」

 

生徒の一人が夕崎梨子に頼み、他の生徒も混ぜて混ぜてと言ってくるので、それを了承し夕崎梨子は結城リトや猿山ケンイチに先程の復習と称し、またゆっくりと時間を掛けて教えていた。

 

「ーーーとなり、この集合はAでかつBではないと言えるだろう。次にこの集合の場合はーー」

 

夕崎梨子の説明にどんどんと生徒は集まり、やがては見えない聞こえないとワイワイ騒ぎ始める始末であったので、夕崎梨子は仕方なく黒板を用いることにした。

 

「はい、これで見えるし大丈夫だろう?」

 

黒板には丸っこく女の子らしい可愛い字がビッシリと並び、所々「ここだいじだよ」と書いてあり星マークも記されていて、古手川唯はそれを見て思わず吹き出して笑っていた。

 

「字が可愛いっー!スゴいわあの字っ!それに星マーク!うふふふっ」

 

古手川唯も丸い字で女の子らしいけど、それ以上に夕崎梨子の字は楽しいや嬉しいの感情を感じるほどの可愛い字であった。西連寺春菜もその字に戸惑いを隠せず、自分の字を見比べ「いいなぁ、あの字」と呟き羨ましそうに見つめていた。

籾岡理沙と沢田未央も夕崎梨子の字を見て「可愛いーなぁ、どうやって書いたんだろう」とその字を見て書くも、夕崎梨子の字にはならず諦めていた。

一方、夕崎梨子は解説するのが楽しくなったか、英語や社会や理科のテスト範囲の解説を交えながら黒板に字を書き綴り、またも可愛い文字で黒板が何度も何度も埋め尽くされていくのであった。

 

「ーーーで、ありーーであると予測されーーであると言えるだろうね。次に大切なポイントとしてはーー」

 

いつしか夕崎梨子はその日ずっと解説し続け、クラスの学力はグン、と上がり定期テスト当日となり、夕崎梨子の解説を受けた生徒達は答案用紙をほとんど埋められたと喜んでいて、夕崎梨子にお礼を言い渡し、その彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめて照れていた。

 

「いいんだよ?ボクはみんなと勉強出来て楽しかったし、また定期テストの前にでも勉強会をやろうよ」

 

夕崎梨子のその言葉に嬉しさを感じた女子生徒達は、彼女に抱きつき、どさくさにボディタッチを交わしつつ、喜びを感じていたのである。

 

「ふふふ、んんぅ!だ、誰だい!ぼ、ボクの胸を触った人は!ゆ、許せないよ!ぁぁ!また!もう!」

「はーい、私らです」「柔らかいなぁ」「でかっ!」

「このー!」

 

女子生徒達はお互いにボディタッチを交わしつつ、百合百合しい雰囲気に男子生徒達は顔を真っ赤にして興奮していた。

 

「リコちゃんホントヤバいスタイルよね」

「そうよそうよ!ちょっとくらい分けてよー!」

「わ、分けれないよ!っっ!あ!また胸とお尻を!」

 

まだまだボディタッチを交わす女子生徒達に恥ずかしい気持ちを抱きながらも、賑やかなこの雰囲気は嫌いではないと夕崎梨子は強く思っていた。

 

「はー!堪能した堪能したー!ホントに何を食べればそんなに育つの?ていうか、私達とホントに同い年なの?詐欺してるんじゃないの?」

 

籾岡理沙は怪訝そうな表情を浮かべ、夕崎梨子をじっくりと観察し、とんでもないナイスバディの彼女の姿に疑問を抱いていた。その80センチ前後の大きな胸とキュッと細い約50センチ前後のクビレに胸と同サイズ近くあるそのけしからん体型に男子生徒はもちろん女子生徒にも目が引くというものだ。

 

「ぅぅぅうるさいね、そ、そ、そんなの知らないよ!し、し、知らない内に、こ、こうなっていたんだから」

 

夕崎梨子は顔を真っ赤に染め上げ、自分の身体を両腕で覆い隠すけど、右腕に隠されているつもりであろう巨乳が制服越しでもバレバレであり、左腕で隠されているつもりであろうお尻付近も隠しきれないのである。

そんな格好を見た男子生徒は顔を更に真っ赤に染め上げ、女子生徒は羨ましそうに見つめ続けているのであった。

 

そんなこんなでテスト返却日となり、結城リト達のクラス平均点はグンッと上がっていてしかも、学年一位の秀才も出るという快挙を達成させた。その人物の名は古手川唯並び同率一位の夕崎梨子だったというのである。

 

「お手柄ね?夕崎さん。あなたのおかげでみんなの学力が上がったわ。ほんのちょっぴり見直したわ」

 

古手川唯は素直には褒めず、わざとらしく貶すように振る舞った。風紀委員としてクラスが一丸となって勉学に励むのはいい事であったが、それがライバルである夕崎梨子によって行われたとなると、少しばかり対抗心が燃えてしまうのだ。

 

「いやいや、ボクはほんのちょっとだけ彼らの背中をポンッと押しただけであってね?ほら、よく言うだろ?獅子は我が子を千尋の谷に落とすってね。まさにそれと同じなのさ」

「何よそれ?要するに勉強教えてあげたからもう知らなーいって突き飛ばすって事なの?他人事だと思っているね」

「そうさ。あとは彼らの努力次第という事になり、学力向上は彼らのおかげという事になるのさ」

「・・・優しいのね?あなた」

「ふふふ、我が子を谷底に突き落とす親が優しいだなんて唯ちゃんはそう思うのかい?ボクはやり過ぎだと思うけどね」

「まーたあんたは人の挙げ足をとって・・・やっぱり夕崎さんの事は苦手だわ」

 

古手川唯の苦手という事に反応した夕崎梨子は「ボクも唯ちゃんが苦手だ」と微笑みながら言ってくるので、それに笑みを返しつつ古手川唯は仕方ないなと言いたい様子を感じさせ踵を返し、夕崎梨子の前から姿を消していった。

 

「ふふふ、苦手、か・・・嫌いよりはマシなのかな?」

 

嫌いより苦手の方が関係がいいのかを考えながら夕崎梨子は学校から出て我が家へと帰っていくのであった。

 




次は文化祭です。少々お待ちを


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第二十五話

文化祭回前編でございます。無心のままゆっくり読んでくださいね!


時は流れ、文化祭が始まろうとした時期となった。

各クラスで展示物や劇などの催し物を決めていく会議があり、その実行委員らしい古手川唯は教室の教卓の前に凜とした姿で催し物を決めていくのである。

 

「はい、と言う事でこのクラスの出し物はこの彩南学校や街の歴史か書道の展示にしたいと思っていますが、いかがでしょうか?」

 

古手川唯の意見に総ブーイングの嵐だった。

何が悲しくてそんな堅苦しい展示物を出さなければならないのかとクラス一同は声を揃えてそう言う。確かに、文化祭の催し物としては些か地味であり、その地味な展示物を一体どの層の人間が興味津々に見るのだろうか?

 

それならばと、猿山ケンイチはアニマル喫茶をやろうとクラスに言い渡し、その概要は犬や猫などの動物の格好して接客し飲食物を売ろうとするというので、そのアニマル喫茶をクラス一同はそれを快く受け、その準備を始めていくのである。

 

古手川唯はそのアニマル喫茶に興味を失い、困っていた。何故そんなコスプレのような格好をしなければならないのだろうか?何故展示物はダメだと反対するのだろうか?と次々と疑問が渦巻き悩みに悩んだ。

 

そんな悩みを持っている古手川唯はみんなにバレないようにそっと教室から出て、教室の扉近くに寄り添うように身体を預けた。

 

(何がしたいんだろう?私・・・文化祭楽しみだったのに今は何だか楽しみじゃなくなった)

 

古手川唯はまるでオモチャを取り上げられた子供のような悲しそうな表情を浮かべ、俯いていた。

一方、クラスの出し物としてアニマル喫茶を催す事に決定したのでその喫茶店のコスチュームを、西連寺春菜をはじめ数人の女子生徒達が服を作るという事になり、アニマル喫茶のウエイトレスを籾岡理沙の推薦で決めようとしていた。

 

「ウエイトレスは十人ぐらいでいいかな?って事で!ララっちは当然として、リコっちもいいよね!」

 

ララは無邪気に「やったー」と喜んでいたが、夕崎梨子は微動だにしなかったのでそんな彼女を心配した西連寺春菜が近寄り、彼女の目の前で手を振っても微動だにしなかったのだ。

 

「き、き、気絶している?」と西連寺春菜の声にクラス一同は「えーっ!」と声を揃えて驚いた様子だった。夕崎梨子は極端な恥ずかしがり屋ではないが、まさかコスプレして人前で接客するとは思わなかったのだ。

気絶から目覚めた夕崎梨子は「はっ!」と大きな声を出し、辺りをキョロキョロとして、ふっと小さな笑いをこぼした。

 

「う、うむ、そうか夢か。ボクがこんな性格だし給仕係だなんて向いていないしね」

 

どうやら夢を見ていた気がしている夕崎梨子だが、今は現実だし、夕崎梨子がウエイトレスをしなければならないという運命からは逃れなかったのだ。何故ならば、教室に残る男子生徒を外に叩き出し、女に女による女の為の女のスタイルチェックをメジャーで測る事にされるのだから。

ララは沢田未央からスタイルチェックされ、たまに「すげースタイル!」と連呼されながら、どさくさに胸や尻を触られララは満更でもない顔ではしゃいでいた。

 

「リコっち?ちょーっと、動かないでねぇ?」

 

夕崎梨子を後ろから籾岡理沙がハァハァと荒い息を出し

、ソロリソロリと近寄ってくるのでジリジリと逃げていくけど、すぐに夕崎梨子の身体が壁に当たり逃げ場が無くなってしまったのだ。

 

「お、お、オイオイ、止めてくれないかい?ほらボクってそんなに可愛くもないし、スタイルも良くないだろう?だからコスプレみたいなのは無理な気がーー」

「だまらっしゃい!可愛くない?スタイルが良くない?どの口とどの身体が言うかー!」

 

籾岡理沙は目を輝かせ、夕崎梨子に抱きつきメジャーでスタイルを測ろうとするとジタバタと抵抗するように夕崎梨子は動きまくっていた。

 

「みんな!手伝って!」の籾岡理沙の一言で、他女子生徒は夕崎梨子を拘束し、身動き出来ないようにしていた。夕崎梨子は顔を真っ赤にし、涙目で籾岡理沙を見つめて「助けてくれ」と頼むが、ニッコリした顔でダメと言われ、その後無抵抗のままスタイルを測られた。

 

「やっぱり!?ララっちと同じぐらいいいよ!これ!」

 

籾岡理沙の言葉に他女子生徒は「いいなー」と羨ましそうな声を出し、未だに拘束されている夕崎梨子の胸やクビレや尻をツンツンと突く者もいた。

 

「なーにが可愛くなくてスタイルが悪いのよ!この!この!こんなものこーしてやる!」

 

籾岡理沙は夕崎梨子の頬を左右に伸ばしたり、胸やクビレに尻を弄んだりして堪能し、恥ずかしさとかすかに感じる快感によって夕崎梨子は顔を真っ赤にして甘い吐息を吐いていた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、だ、ダメっ、許してっ」

 

本気で嫌がっていていつもの夕崎梨子らしからぬ口調によってスタイルチェックは終了し、他の女子生徒のスタイルチェックを開始していくのを横目に見た西連寺春菜は大丈夫かと心配して尋ねていたので、何度か深呼吸した後、椅子に座りなんとか普段の夕崎梨子へと戻っていた。

 

「・・・ふぅーっ、恐ろしいし怖いし、何考えているか分からないし、めんどくさいよね?女の子ってさ」

「そ、そうだね、そうだけどリコちゃんも女の子じゃないのかな?」

「ふふふ、確かにそうだね。身も心も正真正銘の女の子なんだからねボクも」

「あははは・・・(そのボクって言葉も口調も男の子が使うんじゃないの?)」

 

西連寺春菜は冷静に心の中でツッコミを入れ、夕崎梨子の隣に座り横顔を見て、綺麗な顔だと思い、先程のツッコミの事を思いだしていた。

 

(今喋ってないリコちゃんは本当に可愛いなぁ、美人って感じで。もし、その美人がそのままの意味で性格が女の子らしかったらどうなっているんだろう?多分、近寄りがたいかもしれないなぁ)

 

もしも、夕崎梨子が見た目も中身も女の子の中の女の子ならばと考え、目を閉じ頭の中のいろんな性格をもった夕崎梨子が西連寺春菜にどう語るのかと西連寺春菜は妄想した。

夕崎梨子(純粋)が「あら?西連寺さん?ごきげんよう」と麗しい性格は・・なんだか違うような気がする。ならば夕崎梨子(無邪気)が「やっほー元気ー?!私元気だよ!あははっ、うふふふ」と元気いっぱい娘・・も違う気がする。

ならば夕崎梨子(照)が「うぅぅ、わ、私、は、恥ずかしいよぅ」と普段から誰かの背に隠れて恥ずかしそうにしている姿・・も違う気がする。やはり西連寺春菜にとっての夕崎梨子は今の夕崎梨子でしかないと納得していつしか笑みをこぼしていた。

 

(やっぱりこのリコちゃんが落ち着くかもしれないかな?うん、今変になったらまた困っちゃうかもだし)

 

ただでさえ変な夕崎梨子が更に変になると西連寺春菜でも太刀打ち出来ないのだろう。彼女は夕崎梨子でありそれ以上でもそれ以下でもないのだから。

 

「あれ?古手川さんは?」と西連寺春菜は聞き出し、教室をキョロキョロと見回したが、見つからず他の性格に聞いたらションボリと落ち込んだ様子でどこかに行ったというので、夕崎梨子と西連寺春菜は古手川唯を探し続ける事にしたが、近場にはいなかった。

 

「あれ?どうしちゃったのかな?古手川さん・・・ねぇ、どこに行ったと思う?リコちゃん」

「・・・ふむ、唯ちゃんは落ち込んでいるらしいからね・・・一人になりたい、のかな?」

 

夕崎梨子の声と表情はどこか切ない様子であり、西連寺春菜は「心配なんだね」と聞くと素直じゃない夕崎梨子は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「本当は古手川さんの事が好きなのね?リコちゃん。そんな心配そうな顔しないで」

「っ!ふ、ふん、ボクはライバルが弱くなったらボクも弱くなるタイプなんだよ。ほっといてくれ」

「うふふ、そうなんだ?もー可愛いなぁリコちゃん」

 

夕崎梨子は更に顔を赤くしてそっぽを向いているけど耳まで真っ赤になっているのを見た西連寺春菜は小さく笑いをこぼした。

 

(私より年下みたいで可愛いなぁー・・・こんな事、リコちゃんに堂々と言えないけどね)

 

幼い子供のような夕崎梨子は仕方ないと西連寺春菜と学校中古手川唯を探し回り、グラウンドから屋上へと続く非常階段付近で体育座りでガックリと落ち込んでいた古手川唯を見つけた。

 

「やぁ、唯ちゃん。常識人がサボリとは見上げた根性だよ。だからボクが粛正しにきた」

 

夕崎梨子が話しかけると、弱々しい様子でそっぽを向き

更に落ち込んで座ったまま身体を丸め両膝で顔を押しつけ両腕で頭を覆い隠した。

 

「なによ、サボりぐらいいいでしょ?たまには」

「ふふふ、なるほど?傷心しているって事か」

「り、リコちゃん、助けてあげようよ、ね?」

 

西連寺春菜の心配そうな声を聞いた古手川唯は「なんで夕崎さんが」とブツブツと文句を言っていたので夕崎梨子は大声で「喝っー!」と叫び二人はビクリと身体を震わせた。

 

「あのさぁ、唯ちゃんは堅いんだよ。なんでそんなに堅いんだい?ボクみたいに柔らかくなりなよ」

「まるで悪魔の囁きだわ。あなたは柔らかくなりすぎてもはやゲル状よ、ゲル状」

「いやぁ、それほどでもぉ、ふふふふ」

「それ褒め言葉じゃないよ!リコちゃん!」

 

夕崎梨子と古手川唯の会話にガビーンとショックを感じツッコミを入れたので夕崎梨子は親指を立ててグッジョブと目を光らせ「よくやったよ!」と褒め称えた。

そんな彼女達のやりとりに古手川唯は身を震わせ、大声で笑い叫んでいた。

 

「あははははっ!何をやってんの!あんた達!私を励まそうとしてるのに勝手に盛り上がらないでよ!あははは!だから夕崎さんは変な友人を作りやすいのよ」

「え!?わ、私って変だったの!?」とまたもショックを受ける西連寺春菜。

 

「もういいわ、もう吹っ切れたわ。私が目を光らせないと私のクラスが変な喫茶店になるに違いないわ!もう手遅れのようだけど、それでも私は頑張るわ」

「まぁ、コスプレ喫茶みたいなモノだしね。変といえば変だし、そんな変なモノを思いついた思考回路しているサルくんは変の頂点に君臨するキングオブ・THE・変な人なのだろうね?ふふふ」

「猿山くんの事そう思っているの!?リコちゃん!」

 

西連寺春菜の三度のツッコミにより夕崎梨子は笑い、それにつられ古手川唯も笑い、またそれにつられ西連寺春菜も笑い、三人の笑いは大笑いへと変化して、彼女達のその顔はまるで無邪気な笑顔であった。

 

「はーっ、よく笑ったわ。やっぱり夕崎さんは苦手だわ。非常識で」と古手川唯が

「えー!?良い感じだったのにそこに振り出しなの!?」と西連寺春菜が

「同感だよ、唯ちゃん。常識とかそんなモノに囚われたくないんだよ、ボクはね」と夕崎梨子が

三人の不思議な関係は続くのだ。ずっとこれかもきっと、恐らく続くであろう。

 

「という事で面倒を掛けた唯ちゃんはケジメとしてウエイトレスをやってもらおうか?」

 

夕崎梨子は普段の満面の笑みを浮かべ古手川唯に脅しをかけると苦虫を噛むような顔を一瞬浮かべるとすぐに小さくため息を吐き了承した。

 

「もうなんとでもなれだわ。ついでだし西連寺さんもウエイトレスになりなさい」

「え!?だ、だ、だって私は衣装係だしーー」

「うるさいわ!強制よ!旅は道連れ世は情けって事で、なんと言おうと参加させるわ!」

「そ、そ、そんなぁ・・・私、旅なんかしてないよぉ、はぁっ~・・・」

 

古手川唯の脅しもあり三人でウエイトレスをやる事になり、どんよりと落ち込む西連寺春菜をよそに彼女達はクラスの手伝いに参加し、文化祭当日まで準備をする事にしたが、夕崎梨子はとある事を思いだしていた。

 

「・・・文化祭でミスコンテストに参加しなきゃダメだったよ・・・完全に忘れていた」

 

天上院紗姫主催で開催されるであろうミスコンテストへの参加しなければならないと落ち込むのであった。

 

ちなみに天上院紗姫がやるクラスは昆虫喫茶という虫のコスプレをして接客するという食品を扱う上で衛生上や接客時のウエイトレスの見た目の気持ち悪さがある最悪コンボの催し物であったというのだ。



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第二十六話

文化祭後編です


文化祭当日となり、校舎の中は様々な飾りで色鮮やかとなり生徒達は興奮気味となり賑やかになっていた。

前日まで看板や衣装作りにメニュー作りにと大忙しだったが、クラス一同の必死の努力により完成となったアニマル喫茶は大人気であり、全てのウエイトレスの露出度が高い衣装であり、しかもだいたいが犬科か猫科の動物かと思われる装いであった。

 

例えば豹のようなララは豹の耳飾りを頭に乗っけて、胸付近のみしか纏わない豹柄の布で肩や鎖骨は丸出しでありへそも丸出しであった。そしてスカートの丈は短すぎて股下ほとんどゼロ状態で太股も丸出しであった。一応スカートの中にも布を巻き付け、所謂見せパンと呼ばれる見られてもいいパンツを巻き付けていた。

ウエイトレスの全員のだいたいがそんな衣装を身に纏い、アニマル喫茶に入店する生徒達を接客していた。

 

無邪気なララや他女子生徒は楽しい楽しいと次々と接客していたのだが、夕崎梨子と西連寺春菜は顔を真っ赤にさせ裏方に隠れていた。

 

「ぅぅう、は、は、恥ずかしいっ!な、な、なんて格好なんだい!」とリスのような夕崎梨子

「わ!ウエイトレスが足りないみたい!は、早く行かないと!」と黒猫のような西連寺春菜

二人は目を瞑りながら、注文を待つ男子生徒の前に立ち、恥ずかしいなんとか目を開けると顔を真っ赤にして彼女達を見る。それもそのはず、美少女達が顔を真っ赤にして恥ずかしいコスプレしているのだから興奮するのだろう。

 

「ーーーふぅ、致し方ない」

 

緊張と恥ずかしさのあまり逆に無の感情へと変貌する夕崎梨子は無の表情となり、接客していた。

 

「ん?コーヒーセットだって?ああ、三つかい?そう、待っててくれ」

 

無となった夕崎梨子は淡々と注文をとり、彼らに注文の品を机に置き「それだけだったね?それじゃ」と愛想無く接客していた。普通ならばクビ当然の接客だったのだが、冷たくあしらわれるのが好きな男子生徒は夕崎梨子を指名し、それに応じた夕崎梨子は無となりながら接客していた。

 

それを見た西連寺春菜も頑張ろうと注文をとりにいくと、ジロジロと見られるのは恥ずかしかったが、慣れてくると楽しい気持ちになり、次々と晴れやかな表情で注文をとっていた。

 

彼女らの活躍を見た青猫に扮した古手川唯も満面の笑みを浮かべ、イヤらしい目で見てくる男子生徒らに注文をとっていくのであった。

 

(こんな格好ハレンチなんだけど、これもケジメだわ)

 

最初の時点からアニマル喫茶を認めず全然手を貸しておらず途中辺りからの参加となっていたのでその罪滅ぼしとしてせっせと働いていく。

 

そんなこんなでアニマル喫茶は大成功で終了し、教室で女子生徒はまだウエイトレス姿で打ち上げし万歳三唱をしてこれでめでたしめでたし、と終わろうとしていた時、女王蜂の格好をした天上院紗姫が教室へと飛び込むようにやって来た。

 

「ちょっと!ミスコンテストは!?どうなってんの!?いつ来るのよ!?待ってたのよ!?夕崎さん!」

 

文化祭はまだ終わってはいないらしい。

天上院紗姫は何者にも負けたくないので勝負を挑みたかったのだ。しかし、夕崎梨子は考えるように顎に手を添えてしばらく考えるポーズをとっていた。

 

「・・・・・おおっ」

 

またまた完全に忘れていた夕崎梨子は両手開きをパンッと叩き思い出した様子を見た天上院紗姫は憤怒していた。

  

「おおっ、じゃありませんわ!なんですの!おおっ、て!せめて思い出したー!ぐらいおっしゃってください!この口下手が!ですわ!」

「えぇ・・・素で出た言葉に難癖を言われてもねぇ?困った困った、ふふふ」

「またあなたはもー!これから体育館でその格好のまま来るといいですわ!あとミスコンに参加したい方はご自由にですわ!おーほっほっほ」

 

天上院紗姫は高らかに笑いながら教室から出て行ったので、これからどうした事かと夕崎梨子は考えていた。

 

(まさかこの恥ずかしい格好のまま学校の中をウロウロと徘徊しないといけないのかい?参ったな)

 

夕崎梨子は自分の姿を改めて確認する。

頭にはリス耳の頭飾りでララと同様肩や鎖骨それにお腹も丸出しであり胸付近には茶色の布で覆い隠せてているが、胸の谷間が水着のように強調され、スカートは股下ほぼゼロであるが見せパンとして茶色の布を履いている。

 

(・・・はっ!また無になってしまった!全然慣れないなこの格好は!)

 

再び無となるが頭をふるふると振るわせ覚醒し、自分の顔を両手で軽く叩き意識を保ち続けていた。

とにかく、早く体育館に行かなくてはならないので早歩きで急ぎ、その道中男子生徒達にジロジロと見られ、恥ずかしいのか顔を真っ赤にして、ようやくたどり着くと女王蜂の天上院紗姫が待っていた。

 

「ようこそミスコンテストへ、ですわ」

 

体育館にギャラリーとして生徒が集まっていて、ミスコンテストが始まるのを待ち遠しいのかソワソワとザワザワと騒がしかった。

 

「・・・って、ミスコン参加者は他に居ないのですの!?二人だけではつまらないでしょう!?」

 

前回のミスコンテストで天上院紗姫に買った報酬として夕崎梨子以外女子生徒の参加を貰っていたのだが、その女子生徒らは文化祭を思いきり楽しみすぎたので非常に疲れたと訴えるがララだけは元気いっぱいに参加の意を示した。

 

「そうですの?また同じ面子でやるのは・・・いえ、今度こそ初めて!本物の!頭脳戦じゃない!ミスコンテストがようやく!開催されますわ!おーほっほっほ!」

 

前回のミスコンテストを根に持っていたのかそのミスコンテストを無かった事にしたいらしい。天上院紗姫はようやく美を競い合う事を嬉しく思い、楽しそうに高らかに笑っていた。

 

(紗姫ちゃんのあの、おーほっほっほ、と笑うのは無理があるような笑い方だね。普通に笑えば良いのに。あと今更だけど、なんで蜂の格好なんだ?)

 

夕崎梨子は天上院紗姫の戦う意思を感じ取れず、彼女の性格を観察し、長々と思考を続けていた。

 

「早くやろうよ!紗姫ー!」とララの催促に、天上院紗姫は「気安く呼ばないで!ですわ!」と叱りつつ、正真正銘のミスコンテストが開催された。

 

「ではルールを紹介しますわ!たった一個のシンプルなルールですわ!」

 

天上院紗姫は高らかに優雅にミスコンテストの簡単なルールを告げ、そんな彼女提案のルールとは、男子生徒による一人一票の投票者の名前記入投票であり、コピーや投票の奪取及び破壊は禁止とされた。

 

「そして、投票数が一番多かった人がクイーンとなりますの!以上・・・でいいのですかしら?夕崎さんにまた頭で勝たれそうな気がいたしますわ・・・どうしましよう?不安ですわ」

 

以前のミスコンテストのトラウマなのか頭脳戦を思い出して身体をフルフルと震わせたが考えても仕方ないとミスコンテストを始める事にした。

まず、天上院紗姫からのアピールで口で自分を優雅で可憐で端麗で麗しく華やかで美の結晶だと言い放つが、蜂の格好していたからなのか男子生徒はイマイチな反応を見せ、小さく拍手を始めた。

 

次にララのアピールは天真爛漫の様子で無邪気な笑顔を浮かべその場でクルクルと身体を回転させながらその豹に扮した露出度が高い衣装は男子生徒は大喜びで発狂したのだ。

 

最後に夕崎梨子は大勢の生徒の前で恥ずかしいリスに扮した格好で出るのが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯くが、すぐにその顔は晴れやかな笑みへと変化し、いつもの夕崎梨子の表情となっていた。

 

「やぁ、ボクは夕崎梨子だ。気軽にリコちゃんとでも呼んでくれ」

 

いつものセリフで誰にでも親しくしようと、誰にでも懐く仔犬や仔猫みたいな人懐っこいその性格は生徒に親しまれてくれて、彼女は常に微笑みを浮かべてくる

 

「ボクは口下手で素直じゃなくて可愛げがないと思うけど、それでも仲良くして欲しいな」

 

夕崎梨子のアピールは生徒達の心に響き、ララ同様大きな声をあげて大きく拍手をする生徒達に彼女は深くお辞儀し、ミスコンテストのアピール審査が行われた。

男子生徒は投票紙に自分とアピールが良いと思った彼女に投票し、その投票結果は天上院紗姫の助手と思われる藤崎綾と九条凜らに託され、その投票結果を待ち遠しく天上院紗姫達は祈るように手を組んでいた。

 

その投票結果は、ララが一位で夕崎梨子が二位、天上院紗姫が最下位となり、ララは満面に笑みを浮かべ「やったー!勝ったー!」とピョンピョンと飛び跳ね喜んでいた。その大きな胸もピョンピョンと揺れて興奮する男子生徒は目に焼きつけたのは秘密だそうだ。

 

続けて夕崎梨子は「ま、それもそうか」とその結果に納得して、肩を竦める動作をして微笑んだ。彼女は自分の顔や身体に自信はないのだろうか?その綺麗に整った顔とララには及ばないがスタイルもいいのにそれを武器としないのだ。

 

最後に天上院紗姫は「普通に負けましたわー!」と泣きじゃくり悔しさを感じていた。それもそうだろう、前回のミスコンテストは頭脳戦や心理戦のようなものであり、美とは全くの無関係だったのに、今回は美そのものを審査していてその結果がこのザマであった。

そんな彼女の敗因はおそらく蜂の格好していて気持ち悪い蜂柄の露出度の低い服を着ていてほとんど肌を露出させていなく、見た目は蜂だと人目で分かるような装いをしていたからに違いないだろう。

一方、ララや夕崎梨子は露出度高い衣装であり、可愛いし何よりも性格がいいと思わせるアピールであった。ララは結城リトが好きな事や文化祭はとても楽しいものだなどと元気いっぱいな様子で語っていて自分よりも相手達に語っていた事が一位となる秘訣なのだろう。

夕崎梨子は自分を少し蔑んだ事によって票数は獲得出来なかったけど、満面に笑みで仲良くしようと言ってくれるその優しい心に胸を打たれた。特に猿山ケンイチはメロメロとなり目がハートになる勢いで彼女にときめいていた。

 

(やっぱ、可愛いなぁー!リコちゃん!)

 

猿山ケンイチはそう思いたいからこそアニマル喫茶を主催し、彼女の可愛い所を見たいが為にやったと言っても過言ではないのだ。

そんなこんなでミスコンテストは終了し、文化祭はようやく幕を閉じていくのであった。



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第二十七話

とらぶるくえすと前編です。もちろんオリジナル展開です。


夕崎梨子は困惑していた。

学校へと向かい靴を脱ぎ捨て、その靴を自分の下駄箱に入れようと下駄箱の扉を開けたらラブレターらしき手紙が入っていたのを確認した。もちろんラブレターを貰うのは今回が初めてであり、その手紙をどうしたほうが良いのかを立ちすくんで考えていた。

しかし、想いを綴ったラブレターだったとしてもそれを読まない訳にもいかず、その手紙を開いた。

その刹那、目映い光が彼女を包み、夕崎梨子はその場から消えてしまった。

 

どすん、と床にお尻から着地した夕崎梨子は周りを見渡し、見慣れない建物の中にいるという事を理解出来た。まさかヤミとの契約者である自分が何者かによってこの妙な建物に連れ出されたのではないのか?と思案していると、西連寺春菜と結城美柑がその場にいた。

彼女達も謎の手紙を読んだと思ったらこの世界に居たというのだが、夕崎梨子は疑問を抱いた。

なぜ依頼主の自分はともかく他の人物を捕獲する理由があるのか?とその問いを考えても仕方ないので、建物を散策すると奇妙な看板が立ててあった。

 

「・・・転職屋?なんだい?なんの事なのかい?」

 

木造建ての奇妙な看板の文字に頭を悩ませるが、やはり理解出来ないと建物を散策すると、どこからともなく結城リトが天井から降って彼もお尻から床に着地した。

 

「いってー!若干ケツ割れたー!」とボケる結城リト

「もともとでしょ!」とツッコミを入れる結城美柑

「結城くん!?」と驚いた表情の西連寺春菜

 

二人は結城リトを心配し、彼の話を聞くとこれまた謎の手紙を開き、なぜかここに来たという訳だ。そして、またしばらくすると古手川唯も天井から降ってきて、夕崎梨子の顔に胸から着地し、二人は絡み合うように床に伏していた。

まるで、正面から抱き合い合わせ仲睦まじい関係を想像させる彼女達の百合百合しい雰囲気であり誰もが顔を真っ赤に染め上げ興奮した。

 

「ちょ、は、離れなさいよ!もう!」

「ど、同感だ!離れよう!」

 

二人は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにそっぽを向いて素直にならない彼女達を温かい目で見守っているみんなだが、今は緊急事態でありそれどころではないのだ。

結城リトや古手川唯も同様に謎の手紙によってここに来たと言う事を聞いて、夕崎梨子は顎に手を添えて考える素振りをしたのを西連寺春菜は何か心当たりがあるのか聞いてみた。

 

「ふむ、どうやらその謎の手紙が原因なのはハッキリしてるんだよ。そしてその謎の手紙の主はどうやらボク達に用事があるみたいだね」

 

夕崎梨子の視線の先には転職屋と書かれた看板と手紙主が用がある人物が揃ったのか急に現れた同じ顔をしたバニーガールがたくさん現れた。

そのバニーガール達は彼女達を転職しないかと誘うのだが、転職しないという選択肢は無いようで、あれよあれよと転職続きが成された。

西連寺春菜は勇者で結城美柑は魔道士、古手川唯は格闘家として転職していった。

 

「え!ちょ、ゆ、勇者で何!?何なの!?」と西連寺春菜は中世騎士のような真っ白の鎧を着て片手に剣と片手に盾を持ち、黒いマントを翻しながら驚いている。

 

「魔道士かぁ、いいね!魔法少女みたいに!」と弾ける笑顔ではしゃぐ結城美柑は黒くて鍔の広い尖りの帽子をつけて全身黒色のフリルのついた可愛いドレスを身に纏い先端がグルグルと円を描いたような杖を持っていた。

 

「な、なんてハレンチな!」と恥ずかしい様子の古手川唯は茶色のチャイナドレスでスリットが大きく広がり太股が大きく露出されていて、手にはかぎ爪が装着されていた。

 

しかし、三人の職業は戦闘的にマシであった。何故ならば結城リトはなんてこともない私服姿に白いエプロン姿花屋であり、攻撃方が見当たらないのだ。そして、夕崎梨子の職業は漫画家であり趣味として漫画を読むのは多々あるが漫画を書いた事もない素人なのだ。その彼女の格好も地味で、白いTシャツに黒い半ズボンであり手にはペンを握りしめられていた。

 

そんな弱々しそうな二人に西連寺春菜や結城美柑は素直に力を貸すと助けてくれる様子だったのに対し、ツンツンした古手川唯は頬を赤らめて仕方ないから助けてやると素直じゃない様子で手を貸す事を決意した。

 

転職が終わるとバニーガールの一人がこれからやる概要を事細かに説明し、彼女の説明を簡単にまとめると魔王から連れ去られたララ姫を救い出せという筋書きだそうだ。

 

「ふむ、なるほどね?ララちゃんを取り戻せという設定だからこれはゲームだと、単なる遊びだとそう言っているのかい?・・・ふざけるなよ」

 

夕崎梨子の言葉にバニーガールは頷き、肯定の意を現した瞬間、彼女の雰囲気が一気にどす黒いものとなっていた。その顔は初めて表に出して見せる怒りであり、その顔の眉間は深く刻まれ、目はギラギラと光らせ、口はギリギリと歯ぎしりする勢いであった。

 

「なめるなよ、お前ら」

 

その声は夕崎梨子から聞こえた。間違いなく夕崎梨子であり、その場に居た全員は驚きを隠せていなかった。激怒した夕崎梨子はさらに続ける。

 

「遊びとしてくるんなら魔王に言っておくといいよ。お前だけは絶対に許さない、と。こちらは本気でいく覚悟をしておく、とね。ボク達はララちゃん事が大好きで友人なのだから」

 

その脅迫に戦慄するバニーガールをよそに、激怒した夕崎梨子は普段の夕崎梨子へとかわり満面の笑みをこぼしていた。結城美柑は恐る恐る夕崎梨子に近寄り大丈夫かと聞かれると普段通りになったからだと安心させていた。古手川唯や西連寺春菜それに結城リトも心配そうな顔をして今の普段の夕崎梨子を見て内心ホッとしていた。

 

「リコねぇ!す、すごかったよ今のアレ!」と結城美柑は大はしゃぎで興奮していた。

「ん?いいや、さすがにプッツンとキレたからね、激怒したんだよ」と普段通りに解説する夕崎梨子。

「リコ、お前キレると本当に怖いな・・・」と未だに恐怖の表情をする結城リト。

「そ、そうだよね!ララさんが誘拐されたのをゲームだなんてヒドイよね!」と西連寺春菜は夕崎梨子にフォローする。

「風紀委員としても許しがたいわ!」と凛々しい古手川唯。

 

そんな彼らは歩を進め、水分が固形になっている奇妙な生き物が出た。おそらくこれはRPGのゲームに序盤で特に出るスライムというモンスターなのだろう。

そのモンスターを西連寺春菜と結城美柑と古手川唯の三人がかりでボコボコにした。そんな彼女達は戦力になり武力でもあったので結城リトは彼女達の補佐として影ながら花屋として助力していた。

 

「花屋奥義!スコップの裏でぺーちぺち!」

 

結城リトはスコップでモンスターを攻撃するが全く効果なしで次なる攻撃は肥料によるモンスターへの目潰しを試みるも目が存在しないモンスターが居るので効果なしだった。そもそもスコップ自体に攻撃力は無いのだが。

一方、漫画家の夕崎梨子はモンスターをペンで突いたり、インクや原稿用紙であらゆる攻撃を試みるも当然効果なしであったので、彼女は顎に手を添えて考える素振りをした。

 

「・・・少しだけ試してやるかな?」

 

夕崎梨子は結城美柑達が倒したモンスターに『二つに分裂する』と書き込みモンスターは本当に二つにそのままの姿で分裂した。それを見た結城リトや他のみんなもすごいと賞賛の声が上がった。

 

「なるほど、ね。ボクは特殊能力系なのか。ひょっとしたらリトも特殊能力系だと思うけど」

「ま、マジで!?い、いや、それよりその能力でララを呼び込めないのか!?」

「うん、やってみるとするよ」

 

夕崎梨子は地面にララがここにやってくると書き込み、期待の眼差しで待つ事数分、ララはやって来ないので、夕崎梨子は顎に手を添えて考え始めた。

 

「・・・なるほど。多分、生物のみにしか書き込めないようだね?それかララちゃんが本当はここにはいないかもしれないけど」

「ええ!?そ、そうかもしれないの?リコちゃん!」

 

西連寺春菜の言葉にコクリと頷き、仮の説明を続ける。本当に生物のみにしか書き込めない能力だとしたらそれで済むはずだけが、ララはこの世界ではないどこかの世界にいるかもしれないという事。 

もしも、全ての事柄において能力が発動されるのであれば、ララはすでにどこかの世界に隠され、自分達をこの謎の世界へと閉じ込めておき、それを放っておきながらそのどこかの世界へと行っている可能性もなくはない。

 

しかし今はこの世界の魔王もしくはララ誘拐の黒幕を捕まえララを救い出すのが先決であり、夕崎梨子は三度顎に手を添えて考える素振りを見せ、黒い笑みを浮かばせ、結城リトと結城美柑は同時に身震いさせ、彼女の黒い笑みの意味を知っている彼らは勝てると確信した。あの夕崎梨子が黒い笑みを見たら最後、相手は完膚なきまでに敗北する運命なのだ。

 

「今、いい策が思いついたーー」と言いかけた夕崎梨子に興奮するように結城リトと結城美柑はうんうんと近寄ってくるので、夕崎梨子はたじろぎつつ、コホンと小さく咳払いしながら、彼らにある書き込みをいれた。

 

経験値取得一万倍とステータス上昇一万倍それに基本能力倍々増にパーティ協力ボーナス効果倍々増などなどのパッシブ効果を書き込んだ。

結城リトにはエプロンに、結城美柑には背中に書き込んで文字はすぅ、と消えていって二人の頭にハテナマークが浮かんでいた。要するに何やってんだ?と言いたげな様子だった。

 

「ふふふ、ボクは言ったよね?“生物”には能力が発動するってね」

 

夕崎梨子の言葉に全員は「あー!」と感嘆な声をあげた。彼女の言う通り冒険者も“生物”なのだから能力が発動しない訳がないのだ。ただ弱点はあり、動き回る生物相手にしっかりと書き込まないといけないのでその間は無防備だ。

 

「という事は無敵になる!とか書き込んだらいいんじゃないのかな?」

 

西連寺春菜は夕崎梨子にそう提案すると、彼女は首を左右に振っていた。彼女が言うには能力発動に制限があり、強みである言葉を書き込めるが、設定をまるごと書き換えれないというのだ。

 

「つまりはね、例えばスライムが居たとしよう。それを石ころにすると書き込むとそれは変わらないんだよ。そしてボク達は人間という設定であって無敵になるとかそれは人間じゃないんだよ。設定を書き加える、といったところかな?ボクの能力は」

「えーと、つまり設定を全部変えるような事を書き込めてもそうならない、て事か?リコ」

 

結城リトの言う通りで、すでにある設定を一から変える事が出来ず、プラスαとして書く加えるという能力発動しないが、それでもチートのようなずるい力である事には間違いないのだ。

 

「夕崎さんみたいにずる賢い人にはピッタリね」

 

古手川唯の誉め言葉に夕崎梨子は嬉し恥ずかしそうに、顔を赤らめていて、西連寺春菜は誉め言葉じゃないよとツッコミを軽くいれつつ、モンスターを倒し続けていた。

しばらく倒し続けると序盤のはじまりの草原と銘打たれるであろう見渡す限りの草原であり、そのはじまりの草原(仮)でモンスター狩りをすると、夕崎梨子の漫画家の特殊能力のおかげで彼らのレベルはカンストとなって、全員驚きを隠せなかった。

 

そんなはじまりの草原(仮)でボスらしき石で出来ていたニメートル超えの数体のゴーレムと数千体のモンスターが彼らの前に立ちはだかった。「美柑ちゃん!とんで!」と催促する夕崎梨子の声に結城美柑は「分かった!」と言ってその場で跳躍すると、魔道士の魔法を使わず上空30メートルは飛躍して、呪文を唱え杖から魔法を発動させた。

 

「ファイアーボルト!」と直径一キロは超える巨大な数々の雷に包まれた火球がゴーレムをいや、はじまりの草原(仮)の約数十キロ範囲を消滅させる程の威力をもっていた。

 

「正拳突き!」と古手川唯のただの正拳突きは空をきった、と思ったらその拳の風圧で周りに居た数千体のモンスターを吹き飛ばした。

 

「やぁぁ!勇者切り!」と西連寺春菜は一閃空を切った、と思ったら地面までもが大きく割れて、その空いた地面の大きな穴に全てのモンスターが入っていった。

 

「トドメよ!美柑ちゃん!」と古手川唯と西連寺春菜は同時に言い放ち、呪文を唱えて体長20メートルを誇る白い猫を召喚した。すると夕崎梨子はその巨大猫の腕に素早く地上から飛び乗り「猫パンチに大爆発の効果を付加する!」とペンで書き込んだ。その召喚獣は全てのモンスターが入っている割れた地面の中に向かって猫パンチを連打連打連打の攻撃で大爆発した結果は、はじまりの草原(仮)の消滅となった。

 

「みんなやりすぎだろー!」

 

みんなは大爆発をまともにくらうも何ともないが少し焦げて結城リトのツッコミは空へこだましていくのである。



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第二十八話

とらぶるくえすと後編です。



はじまりの草原(仮)を滅ぼした勇者西連寺春菜一行は街へと向かい、ララに関する事を聞き込みをいれようとするが、一人一人の住人は決まったセリフしか言わなかったのだ。

例えば「ようこそ!」や「ここはさいしょの街よ」や「わんわんっ」など魔王の魔の字も一切情報が手に入らず、とりあえず宿に泊まろうと近くの宿屋へと向かう勇者達だが、思わぬ人物が現れた。

 

「り、涼子先生?な、なんでここに・・・」

 

御門涼子の登場に全員が唖然とした表情で彼女を見る。御門涼子も謎の手紙を開き、気がついたら何故か宿屋として働いているのだという。

 

「それよりもこの世界に囚われている姫がいるみたいだけど知ってる?」

 

結城リト達は顔を見合わせララだと互いに確認し合い、この世界に絶対ララがいるという事を確信した。しかし、そのララはこの世界のどこにいるかも分からないし、身体も心も疲れていたので宿で休む事にした。

結城リトは部屋の確認と掃除を、女の子達は身体が汚れているからと風呂場へと突入して服を脱ぎ捨て、湯船へとダイブした。

 

「わぁ~、きもちぃ~!」と結城美柑が呟き

「ホントさいこ~だわ~!」と古手川唯も同意し

「ふへぇぇぇ」と夕崎梨子が間の抜けた声が

「む、胸が湯船に浮かんでる」と西連寺春菜の絶望感が

四人の声が浴槽に響き渡っていた。

 

結城美柑が「リコねぇ、胸大きいねぇ」と夕崎梨子に近づき抱きよせお互いの身体をくっつかせ成長の確認をし、古手川唯は夕崎梨子の胸と自分の胸を見比べ自分の胸が優れているのを確認し鼻高々そうな表情を浮かべ、西連寺春菜は自分の胸を浴槽の隅っこで彼女達に隠れて揉みしだくも大きくならず無念としていた。

そんな楽しい風呂時間は終了し、部屋で休もうとするが、ベッドが四つしかなく一人だけソファーで寝なければならないので、夕崎梨子はある提案をした。

 

「なんならボクか美柑ちゃんと一緒に寝るかい?添い寝ぐらいしても構わないが」

 

妹の結城美柑とならともかく夕崎梨子と一緒に寝ると思うと顔を真っ赤にさせ興奮していた。古手川唯は夕崎梨子にハレンチだなどと説教させられ、夕崎梨子はシュンと落ち込んでいた。

 

「俺は廊下でソファー持って行ってそこで寝る!それで文句ないだろ?女の子だらけの部屋で男がいるのは変だしな」

 

結城リトはそれだけ言ってソファーを一人で運び、廊下へと出て行った。夕崎梨子は毛布を持ち上げ、廊下へと出て行こうとしようとしたので、何をする気かと西連寺春菜達に聞かれた。夕崎梨子は外は寒いと思うから風邪をひかれてはいけないと純粋な気持ちで毛布を結城リトにあげようとしていた。

その彼女の行動に西連寺春菜は「結城くんの事が心配なんだね」と言ったものの同時に結城リトを好きなのではないのかと思いを馳せた。しかし、彼らの関係は親友という訳であり、恋人以上の関係は決してならないのだろう。

 

そういうわけで夕崎梨子は廊下にソファーを置き、そこに寝転がって寝ているので毛布をあげた。すると感謝されるので夕崎梨子は普段の笑みでどういたしましてと会話していく。すると、西連寺春菜も一つじゃ足りないかもしれないと毛布を持ってきたのだ。

 

「本当に嬉しい!リコ!西連寺!ありがとうな!」

 

西連寺春菜は顔を赤くして微笑み、そそくさと部屋へと戻っていた。夕崎梨子は含み笑いで壁に寄り添うように身体を預け座り込む。

 

「まだ寝たくないなら少し話いいかい?ちょっと気になる事があるんだよ」

 

結城リトはまだ眠気がないのかその提案を了承し、ソファーに座る。

 

「ん、ありがとう。それでだね、今思ったんだけど、何でボク達に戦いの術を持たさせたんだろうね?」

「あ!そ、そうだよな!一応ゲームだとはいえ、ララを誘拐してそのまま逃げたいのなら俺達にこんな戦いの武器をやりたくないよな」

「そう、まるでどうしても助けて欲しい、ともとれるんだよ。どっちが本音なんだろうね?助けるなか助けて欲しいのか」

 

夕崎梨子の説明に納得がいく結城リトは身を乗り出して、夕崎梨子に近寄りもっと説明を求めていきたい本心だったのだが、近寄り過ぎて顔と顔との距離が近くになってしまった。

結城リトの目には、夕崎梨子の可愛くて肌白くて綺麗な顔であり、顔をみるみる赤くし、そっぽを向くようにソファーに寝転がりふて寝を決めた。そんな彼の行動を肩を竦めながら、部屋へと入り仮眠する。

 

しばらく仮眠する事数時間後の事であった。

いきなり宿屋が消滅されるほどの大魔法が放たれた。そこには宿屋の塵も残されていなかったが、結城リト達はかすり傷一つつけていなく、何事もないように彼らは起きあがり辺りを見渡すといきなり宿が消し飛んだ事に気がついた。

 

(な、なんでピンピンしてんの!?まだレベルは高くても10そこそこなのに!?どうして!?)

 

大魔法を放った人物はビキニアーマーを着ていて黒いマントや黒帽子をつけていて、まるで変態の格好していた女性であった。そんな彼女は結城リト達に接触し、ララを捕まえたのは自分だと言い放ち、大きな胸の谷間から妙な水色の水晶を掲げ、彼らを魔王城の魔王の部屋の前までへと誘い、姿を消した。

 

一方、魔王城の魔王部屋前までいきなりワープした結城リト達は辺りを見渡し、目の前にある大きな扉の出現により、困惑していたが、先程の謎の女性が魔王というのであれば、突入しなくてはいけないだろう。

 

魔王部屋を勢いよく開き、部屋の奥には豪華なクイーンベッドサイズで寝ているララとその近くで魔王が椅子に座っていた。

 

「お前が結城リトだね!」

 

魔王は結城リトを指さして、その通りだと答えると、何故か急にララの事が好きかどうかという質問になっていた。それを聞いた夕崎梨子は静かに笑い、呟いた。

 

「なんだ、そういう事かい?ララちゃんがこんな事はしないだろうし、ね?」

 

夕崎梨子の言葉で全員が振り向き、彼女を見る。彼らの視線でもっと説明せよと語っているようなのでと夕崎梨子はコホンと咳払いし、説明していた。

 

「そもそも、そもそもだよ?日本が作るようなこんなゲームを作る?のがおかしいんだよ」

「え、えっと、リコねぇどういう事?」

「ララちゃんを救わせたくないのならばこの世界に永遠に閉じ込めればいい事だし、ボク達をこんなに強くするのもおかしい事なんだよ」

「ああ、昨日言ってた事か?リコ」

「ちょ、ちょっと結城くん!?昨日って何の事!?夕崎さんにちょっかいかけられたの!?」

 

古手川唯は結城リトに詰め寄り話を遮るのを放っておいて、夕崎梨子は話を続ける。

 

「そして彼女の問いのララちゃんの事が好きなのか、は黒幕がどうしても聞きたい内容だ。しかし、おそらく姿を現せないもしくは現したくないのでこのゲームを作ったんだね」

「じゃ、あの魔王もゲームキャラで黒幕がいるって事なの?リコちゃん」

「ああ、そうだよ春菜ちゃん。黒幕はおそらくララちゃんを拉致もしくは誘拐したくなかったが、そうせざるを得ない状況となった。それらが出来る悪い人物等がいたらこんな面倒な事はしないだろうからね」

 

夕崎梨子の説明にゴクリと喉をならす結城リト達で、彼女の説明はそれほど納得できて理解しやすいのだ。

それじゃあと古手川唯が「黒幕は誰?」と単刀直入に聞くのを苦笑いで首を傾げ、「さぁ?」と答えるけど、どこか目星がついているような気がするので結城リトは正直に答えてくれと頼み、仕方ないといった様子で説明を続けていく。

 

「黒幕は誰か、だなんて分かるわけがないが、あのララちゃんを簡単に誘拐できる悪者以外の近い者であり、しかもどうしても助けてもらいあの質問を聞きたい人物でかつ日本のようなゲーム世界を作るような日本に詳しい者または勉強して知ったというお人好しの者である、となれば」

 

夕崎梨子は顎に手を添えて目を閉じ、黒幕の思いしき人物を考えているようで、結城リト達はしんとして彼女の推理を待っていた。

 

「それにこんな世界を作るだなんて宇宙人しかいない、ともなればララちゃんの近くにいるもしくはララちゃんが知る者・・・そうだね、ララちゃんの家族や親戚辺りが黒幕、だと思うがいかがかな?魔王ちゃん?」

 

魔王は静かに笑い、しだいに大笑いして、その後なぜか大泣きした。

 

「うぇえええん!バレちゃったよー!もういいよ!ゲームクリアーでいいよ!」

 

魔王は泣きじゃくりながら姿を消した瞬間、ララは目覚めた。どうやら魔王を消すとララが覚醒する仕組みだったようだ。

 

「り、リトー!助けてくれてありがとー!」

 

ララは結城リトに正面から抱きついて、結城リトは顔を真っ赤にさせ恥ずかしがっていた。それからララは一人一人に抱きついて感謝の意を表していた。

しばらく喜びを分かち合うと奥から二人の少女が現れた。その少女達はララの知り合いらしく、奥で結城リトと共にこそこそと話していた。結城リトとララとの関係を聞き所謂普通の関係だと知り、満足したのか彼女達は夕崎梨子達の前へと現れララが全員の名前を教えていた。

一人はナナ・アスタ・デビルークという名でララの妹だという。見た目は長めの髪を左右で束ねてアップにした髪型で瞳の色は紫色でありツリ気味の瞳で上顎の犬歯がときおり牙のように覗く、小悪魔っぽい容姿をしている貧乳少女であった。

 

「おい!お前!さっきの推理すげぇな!褒めてやるぞ!」と夕崎梨子を指さし偉そうにしているナナ。

 

もう一人はモモ・ベリア・デビルークという名でララの妹でかつナナと双子姉妹であるというのだ。見た目は肩上までのショートのヘアスタイルで、サイドアップのようなアホ毛が左右にある特徴を持っていて、瞳の色は紫色をもち、ナナとはうってかわって見た目は優しくて良い子そうな雰囲気を出し、その胸は大きくたゆんと揺れていた。

 

「あらナナ、ダメでしょう?その方はたしか夕崎梨子さんと言うんだよ」と優しい声色のモモ

 

ナナとモモの双子のお尻からララと同じ黒くて細長い尻尾で先端にハートの形をしているのが見え隠れしていたので、夕崎梨子は「やっぱ宇宙人なのか」と確認するように確認していた。

 

「ふむ、キミ達も宇宙人なのかい?とんでもないねぇ、キミ達は地球を侵略しにきた口なのかい?」

 

魔王とのやりとりを影から見ていたとはいえ、美少女の夕崎梨子から思いもしれない口調で話しかけられたので、おっかなびっくりの表情を浮かべる双子の彼女達。

 

「うーん、やっぱお前・・・じゃなかった夕崎梨子のその話し方面白いな!」

「ふふふ、面白い話し方かい?そんな事言われたの始めてだよ」

「可愛い方なのにもったいないですよ?」

 

夕崎梨子と知り合った人は、やはり奇妙な口調が気になる運命であり弄られるのだ。

 

「オイオイ、ボクは気づいたらこうなっていたんだよ。だからボクは悪くない」

 

夕崎梨子は胸をはって高らかに宣言した。それが素で性格なのだから悪口を言われる筋合いはないのだ。ナナとモモは互いに見つめ合い仕方ないと納得したようだった。さて、ララも助けた事だしゲーム世界から脱出しようとナナやモモは携帯電話らしき物を持ち適当なボタンを押し、世界は消え去り結城リト達をもとの世界へと戻した。

戻されたのは結城家の結城リトの部屋であり、しかもベッドであったが、結城リトに幸運か不運か女の子だらけに絡まれながら転送された。

 

「わわわわわー!!!」

 

結城リトは顔を真っ赤っ赤にして興奮していた。

右腕にはララが身体を抱きつかせ、左腕には西連寺春菜の身体を抱きつかせ、左脚には古手川唯の身体を抱きつかせ右脚には結城美柑が身体を抱きつかせ結城リトの正面からナナとモモと夕崎梨子が所狭しとぎゅうぎゅうに詰め寄られつつ抱きつかせるという行為がなされた。

 

そんな美少女だらけのハーレムの主結城リトはこう叫んだのだ。

 

「いいから離れてくれー!」

 

美少女達は頬を赤らめつつそそくさと結城リトから逃げるように離れるが、ララだけは未だに抱きついたままであったという。ララの感謝はまだ終わらないのだから。

 



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第二十九話

セリーヌ植物バージョンの話です。原作と思いきり違う展開となっています。ご注意してください(←何をだ?)


結城リトはのほほんとしていた。

結城家に花壇が存在し、彼は花や植物の水やりが趣味となり、休日やヒマな時にはその花壇の世話をしているのだ。

 

(ララは用事があるってどこかに出かけたし、美柑は学校の友達と遊びに行くって言っていたし、静かな一日だ)

 

いつもは自由奔放なララにずっと抱きつかれては、なんとか拘束を解くが、やはりララは結城リトの事が好きなので愛情表現せずにはいられない。

結城美柑は結城リトには結構厳しい目で見られる事があり、兄だからちゃんとしなさいとか兄だからあれこれ手伝ってくれなどなど小学五年生とは思えないしっかりした出来た妹であり、その妹の言う通りに聞くとなんだか兄として尊厳が失われそうな気がしていた。

しかし、今の自由時間はほんの些細な自由でしかなかったのだ。突然の金色の闇ことヤミの訪問によりその自由は失われていた。

 

「結城リト、あなたの命が危ないかもしれません。ですので護衛しないといけません、不本意ですが」

 

命が狙われる。

そう耳にした結城リトは大きく大きくため息を吐いた。ララとの婚約によって望まれない宇宙人による攻撃にハラハラしない訳がない。

 

「は、ははは、不本意なのか?だとしたらごめんな?ヤミ、俺が弱いせいで・・・でもヤミが危なかったら逃げろよ?」

 

結城リトの心配はご無用と言いたいような雰囲気で、そっぽを向いた。しかし、ヤミは何かを思い出した様子で結城リトに向かい、淡々と話した。

 

「その場にいる提案も取り入れる、という契約でしたね。そうでした、そうするべきですね?」

 

どこか目を光らせるような煌やかな視線であった。その純粋無垢のようなヤミを見て思わず結城リトは笑みを浮かべていた。ヤミはまだ子供みたいだな、と。

 

「う~ん、あ、そうだ。俺もヤミを出来る範囲で守るからヤミも俺を守る、てのはどうだ?ほら、お互い手を取り合う、というか」

 

結城リトの言葉にヤミは目を見開いて驚いた表情を浮かべた。金色の闇として誰かに守られるとして絶対考えられない行為そのものであり、またはそう言われる事すら思わなかったのである。

一人で大群を相手にした時もあったし、その時は淡々とした仕事でありその始末も心を無にして戦いに投じた気がしていた。

だけど、今は護衛の任務だ。その任務は夕崎梨子の滅茶苦茶な契約内容だったけど、それでもその任務はどこか心晴れやかな気持ちになっていた。

 

助けて欲しい・・・そんな願いをしている金色の闇を信頼している甘い地球人にはどうにか出来ないだろうか?花壇を世話して楽しいのか阿呆のような顔をしている結城リトをヤミは観察するようにジロジロ見ていたが、やはりといったところか貧弱で貧相な地球人なんだけど、それでもどこか強さを感じていた。

 

(戦闘能力は低そうなのに、この強さはいったい何なんでしょうか?少し試しましょう)

 

未だに花壇の世話をしているのをよそに、ヤミはトランス能力を使い、髪型を巨大な握り拳を作り、結城リトを後ろから軽くコツンとするつもりであった。

しかし、ヤミが手加減を間違えたのかあるいは地球人である結城リトが思ったよりも貧弱なのか花壇を避けるように仰向けで倒れ込んだ。

 

「あ」とやってしまったとヤミは純粋な心でそう思いつつソロリソロリと結城リトへと近づき、大丈夫かと腹の辺りを指先一つでチョンチョンと突いて彼は気がつき身体をムクリと起き上がらせた。

 

「な、何すんだよ!本当に命の危険があったよ!ヤミによって訪れたよ!何やってんだよ、いててて・・・」

 

結城リトは頭を擦りながら目に涙を浮かべていて、その痛みがいつしか引いたのか微笑みながら、ヤミの行動を理由も聞かずに許した。しかし、空のどこからかザスティンが登場し、刀をヤミに向けて戦闘を試みるような行動をしていた。

 

「金色の闇!貴様、やはり婿殿のお命を狙っていたんだな!?やっと正体を現したか!」

 

ザスティンは怒りの表情を浮かべ、ヤミへと刀を持ちジリジリと距離を詰めるも、ヤミは微動だにせずどうしたものかと思案している様子でどこか困った表情を浮かべて、少し落ち着くと何かを思い出したような様子で、「あ」とヤミの口からそういう言葉が出ていた。

 

「私は金色の闇です、気軽にヤミちゃんと呼んでくださいね」

 

夕崎梨子の得意技の夕崎流自己紹介であり、ザスティンは金色の闇を知っているがヤミとして知らないのでと自己紹介をした。その突然の自己紹介を聞いたザスティンは自分の名を名乗り、またも勝負を申しつけて刀を向けるのでヤミも困った表情を浮かべ、また少し考えた。

 

「・・・あ、そうでした。私自身にも危害が加わろうとした時にも金色の闇として仕事が発令されますね」

 

ヤミは契約内容を思い出し、トランス能力で髪や手を刀にして戦闘態勢を整えるも、結城リトによって二人ともやめろと催促し、二人は仕方ないと戦闘態勢を解消し、二人を結城家のリビングへと誘った。

ヤミとザスティンは客なのでお茶や茶請けを適当に用意し、二人はそろってお茶を啜り、和やかな表情を浮かべるのであった。

 

「あ、ところで婿殿。ちょうど話があったんですよ。宇宙人からの刺客の事・・・あと、言ってはいけないと申しつけられた事なんですが」

 

ザスティンはお茶を置き、正座できちんと座り真面目な顔をして雰囲気をガラリと変える。彼の言う話では、やはりといったところかララや結城リトとの婚約を快く思わない宇宙人がまだまだ居る事は当然であった。

それとザスティンの話によると、ひょっとしたらひょっとするとララの父親ギド・ルシオン・デビルークが地球に来るかもしれないとの事であった。

 

「もぐもぐ・・・ギド・ルシオン・デビルークですか?聞いた事・・もぐもぐ・・があります。宇宙の覇者だとか鬼神だとか・・・もぐもぐ」

「食べながら喋るんじゃありません!ヤミ!」

 

ヤミは茶請けとして出されたたいやきを頬張りながら喋るので結城リトはちゃんと叱るも、そのたいやきが好きなのかまだまだ口に詰め込んでいた。

 

「もぐもぐ・・・ごくん、けっぷ。やはり美味しいと思います。これは兵器なのでしょうか?なんだか動きにくいような気がします・・・けっぷ」

「それは食べ過ぎてお腹いっぱいになったからでしょうが!そりゃあヤミ、たいやきを20個くらいずっと食べてれば分かる事だろ!」

 

結城リトとヤミのやりとりにザスティンはクスリと笑い、まだまだボケとツッコミが終わらない彼らの会話にザスティンは金色の闇はどういう訳か改心したのかと思いお茶を啜りながら温かい目で見守っていた。

 

「ふぅ、平和ですねぇ、金色の闇・・・いえ、ヤミさんは我々の味方となれば心強いですよ」

 

少しだけヤミを信頼しようとザスティンは心に誓い、ヤミが口に2個のたいやきをいっぺんに詰め込んでリビング辺りを逃げまわり、それを結城リトが「たいやき食いすぎだー!全部食いやがって!ザスティン一個も食ってねぇだろうが!」と叱ってヤミを追いかけていた。

 

「もぐもぐ・・・おそらくこのたいやきは私に食べられる事を受け入れてそのたいやきを私は涙を飲んで食べているのです。そう、彼らは私の為に生きているのです」

 

そのヤミの顔の口にはたいやきの残骸とニンマリとした気がする表情だ。

 

「その割にはホクホク顔だよ!ヤミの涙じゃなくたいやきの涙だよ!それにその顔は嬉しさしかないだろ!」

「私は大切な人物と別れる時は笑って見送るタイプなのです。ですのでそんな気がしているのでしょう」

「そうきたかコンチクショー!」

 

ヤミはいつしか無邪気になっていた。結城リトと他愛の無いやりとりがいつからか楽しくなり、これからもこんなやりとりをして他愛の無い事で喧嘩するのだろうと思うと心のどこかで強く思いを馳せていたヤミであった。

 

しばらくすると、ララがやって来て結城リトに奇妙な種を渡された。それはプランタス星だけに自生する超稀少種の奇怪な宇宙植物となる植物の種であり、それをプレゼントされた。

 

「ララ様?なんでそんな危ない所に?」

 

ザスティンの問いにララは今日が結城リトの誕生日であり、その誕生日プレゼントで何かいいかと考えた所、いつも花壇の世話をしているから花や植物が好きではないかと思い、奇妙な植物の種をプレゼントにしたという訳であった。

 

「あ、ヤミも来てたんだー!やっほー!」

「こんにちわ、プリンセスララ」

 

ララはヤミと最近どんな事をしているかなどと他愛の無い雑談を交わしつつ、ララは満面に笑みで、ヤミはどこか恥ずかしそうな表情を浮かべるがいつもの無表情となり、淡々と会話をする。

 

「それで婿殿、早速植え付けますか?お手伝いしましょう。あ、ララ様はヤミさんとそのままごゆっくりくつろいでください」

 

ザスティンの提案のもと、結城リトは庭へと移動し、植木鉢に種を植えようとしたが、ザスティンはその小さな植木鉢に植え付けるのは止めたほうがいいと判断をした。いくら植物の種とはいえ、地球にある普通の植物とは違うであろう宇宙の植物なのだ。どのような植物が生え、どのような大きさの植物へと変貌するのか分からないのだそうだ。

 

「怖えよ、こんな小さな種に恐怖を感じるの始めてだよ。ま、ララから貰ったから恐らく・・・多分・・・だ、大丈夫、かなぁ?」

 

結城リトは恐る恐る家から少し離れる距離の庭へとザスティンと共に土を掘り進め、種を植えつけ水を注ぎ、その場から離れようとした結城リトだが、ザスティンの突然の叫び声が聞こえた。

 

「ぎゃー!!婿殿ー!婿殿ー!」

 

結城リトは振り返るとそこに奇妙な植物が生えていた。8メートルは超える巨大な植物でありコスモスのような花が咲いているがよくみるとその花に口があった。どうやら、虫食植物の一種のようで不気味であった。

 

「成長した!?早い成長だよ!芽とか蕾とかの成長をすっとばしたよ!」

 

結城リトもおっかなびっくりの様子で叫びまくり、何事かとララとヤミも庭に集まり、その巨大で不気味な花を見て圧巻する。

 

「わー!?綺麗に咲いたー!よかったよかった!」

「美しいですね。よほどこの地球の環境がいいのでしょうか?素晴らしい花です」

 

二人の感性は地球人とはズレており、虫食植物のような花でも褒め称え、花は口があるからかとギェーと喋っていたのだ。

 

「しゃ、喋ったー!?もう滅茶苦茶だよ!植物かどうかも怪しいよ!もうこの際、お前のお世話してやんよ!コンチクショー!」

 

結城リトは考えるのを止めて、花の世話をする事を覚悟し、毎日あの巨大な花に世話をする決意をうやむやでやる事にしたのである。

一方、結城美柑は友達との用事が終わり、我が家へと行くと結城リトが謎の巨大な花に無心で世話を、ザスティンは庭に倒れ気絶し、ララやヤミは謎の巨大な花をずっと褒め称え、その謎の巨大な花はたまにギェーと喜んで喋っている彼らの行動を目の辺りにして反応に困った。

 

「なんかウチの庭がえらい事になっている」

 

途方に暮れて結城美柑もその庭のドタバタを見守るしかなかったのである。



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第三十話

今回は非常に短い話となります。ナナとモモ回です。
それとダークネス編を12~15話あたりで終わらせようかと考えています。



ララ・サタリン・デビルークはお姉さんらしく説教していた。

何故ならば結城家のリビングに家出してきたとナナとモモが正座してララが家出はダメだよと説教していて、ナナやモモはお姉様もでしょうがと軽くツッコミを入れるが、それでもララは家に帰りなさいと説得していた。

そんな彼女達のやりとりを見ていた結城リトと結城美柑それに遊びに来た夕崎梨子はナナやモモになんで家出なんかしたのかと問いかけた。

彼女達が言う理由は至ってシンプルであり、勉強や王族の嗜みなどなど非常に面倒くさくてやっていられないと言うのだ。

 

「三姉妹揃って家出だなんて、ボクはキミ達を評価しよう、いいね面白いねキミ達アグレッシブだよ」

 

夕崎梨子に満面に笑みで親指を立ててグッジョブと褒められた三人は嬉しそうに照れていて顔を赤くして三人揃って「えへへ~」と頭をポリポリと掻く仕草をした。

 

「リコねぇのさっきの言葉は褒め言葉じゃないと思うけど・・・まるで聞いてないよこの子達」

 

結城美柑は純粋無垢な彼女達の反応を見るも、その言葉が悪い事になると聞こえないフリをしていた。そんな彼女達のもとへザスティンが颯爽と登場し、彼女達に家に連れて帰ろうとするが、嫌だ嫌だと口だけで駄々をこねてザスティンを困らせた。

 

「ふふ、本当の駄々のこねかたを知らないようだね?見せてあげよう!本当の駄々っ子を!」

 

家出三姉妹は本当の駄々のこねかたを知らない様子で彼女の話が気になる様子であり、夕崎梨子は床に寝転がり両手両脚をジタバタするように動かし首も左右に振り

 

「この行為をした後!やだやだやだやだやだぁー!!!と言うんだ」

 

三姉妹は力強く頷き、三姉妹は目に涙を浮かべたフリをして夕崎梨子が言った行動をして、精一杯駄々をこねてこねてこねてザスティンはたじろんだ。

 

「くっ!うっとうしい!本当にうっとうしい!なんて子供みたいなやり方だ!」

 

三姉妹の駄々はザスティンに効果覿面であり、三姉妹は更に駄々をこねてこねてこねてこねまくった結果、ザスティンは心折れてしまった。

 

「リコさん、姫様達に変な事を教えないでくださいよぉ、もぉー・・・はぁ」

 

ザスティンは落ち込み身体をダランと気が抜けていた様子で力尽きていた。その様子を三姉妹はケラケラと無邪気に笑い、ザスティンを小馬鹿にしていた。

 

「リコの言う通りにやったら解決できるよー!」

「マジで役に立つよなー!この駄々!あはははっ」

「はしたないけどやったら面白いわ」

 

三姉妹はなんとか結城家に留まる事となり、はじゃいでいて、結城リトと結城美柑は仕方ないと家出三姉妹をお世話していく事を決意する事にした。

 

「美柑さん、あれなんとかなりませんかねぇ?」

「えぇ・・・私がワガママなあの子達をなんとでも出来ないよぉ。リコねぇのせいで」

 

結城美柑の言葉で夕崎梨子は褒められたと思い照れくさそうに微笑んで身体をクネクネと動かして、その行動を見た結城リトと結城美柑は同時に褒めてないと声を揃えてツッコミをいれた。

 

「もぅ、いけずだね。ボクはね?褒められたら伸びる子なんだよ。だからもっと褒めてくれよ!ふんっ」

「なんで少し怒ってるんだよ、リコ」

「はいはい、リコねぇはこっちに来ましょうね~」

 

結城美柑は夕崎梨子を美柑の部屋へと連れてリビングから姿を消し、騒がしい夕崎梨子が消えてたおかげか結城リトはこれからどうなるかとザスティンや三姉妹に相談した。

 

「ふむ、姫様達がこちらのお宅にお邪魔するのは我々としては拒否したかったのですが仕方ないのでしょう。しかし!ララ様でさえ他の宇宙人に狙われるというのに他の二方も加わる事で更にその危険度が高まるという覚悟はいいですね?」

 

ザスティンの言葉に恐怖を抱く結城リトだが、ララだって家族と一緒に暮らしたいはずだし、ナナやモモだって姉と一緒に暮らしたいのだろうと優しい心を持ち、その顔は強くたくましい男の覚悟の顔だった。

 

「ザスティン、そんなの簡単に答えれるぞ」

「ふむ、その心はいかに!」

「あたりまえだ!」

 

結城リトは西蓮寺春菜の事は好きだ。しかし、ララが自分の事を好きだ何だと頼ってくれるのでその恩返しとしてやらなければならない。彼女達だって地球に居たいし自分に助けて欲しいと手を差し伸ばしてくるならば男としてそれを守らなければならないのだろう。

 

「リト!ありがとー!大好きー!」

 

ララは感極まって結城リトに抱きついて好きだと大好きだという気持ちをぶつけたが、女の子に免疫がない結城リトは顔を真っ赤にして照れてしまう。

 

「お、お、俺は弱いけど!それでも!なんとかしてやるんだ!決して逃げたくない!」

「わぁ!カッコいいね!リト!」

 

ララは結城リトに抱きつき、胸や全身を彼の身体にぎゅうぎゅうとひっつかせ腕を回しその拘束はしばらく解かなかった。そんな嬉しそうなララをナナとモモは微笑みを浮かべ喜びを分かち合っていた。

 

「なんだ、アイツも。結構いいヤツじゃんか」

「そうだね。お姉様も好きになる理由も分かる気がするわ。ナナ?絶対に邪魔しないでね?」

「す、する訳ねぇだろ!?だいたい姉上の邪魔したらなんて言われるか分かんねぇよ!」

 

ナナもモモも結城リトを少しだけ信頼しょうと思うようになり、結城家の天井にテビルークの得意のメカで広くしその部屋で彼の世話を甘んじく受け入れる事としていくのであった。

 

一方、美柑の部屋にいる夕崎梨子は結城美柑に説教を受けていた。何故ナナやモモまでもこの結城家に居候させたがって余計な事を教えたのかという説教だった。

 

「だ、だって、ララちゃんは妹達と一緒に暮らしたいんだろう?だ、だから・・・」

 

小学五年生に叱られ正座をしている高校一年生の図はシュールであり、端から見たら立場逆だろうと思われる程の光景であった。

 

「それは分かってるよ?リコねぇ。だけどね、なんでリコねぇが家の主である私やリトに何の相談もなく勝手に決めるのかを怒ってるの。分かる?リコねぇ」

 

結城美柑は顔を怒りの表情を浮かべていて、その怒りが怖いのか夕崎梨子は少し目に涙を浮かべてそっぽを向いた。

そんな夕崎梨子は「だ、だって、ボクはーー」と言いかけるも、結城美柑は彼女の頬を左右に伸ばして、何を言っているのか分からない言葉で夕崎梨子は叫んでいた。

 

「もお!だまらっしゃい!」

 

結城美柑は夕崎梨子の頬を上下左右に伸ばしたり縮めたりしてお仕置きしていた。夕崎梨子は「ふぁひいふぁまぁ」と訳分からない事を叫んでいた。

 

「あのねぇ、リコねぇ!これはお仕置きよ!しばらく面白い顔になりなさい!」

 

結城美柑によるお仕置きはしばらく続き、夕崎梨子の顔が百面相の如く次々と変わっていくのであった。

 

 

 

 

 



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第三十一話

セリーヌ幼女バージョンの話です。もちろんオリジナル展開であります。
あと二話ぐらいしたらダークネス編となります。お楽しみに。


結城リトは今日もまた、結城家の庭にある花壇の世話をしていた。

その様子をアイスクリームを舐めつつ眺める結城美柑をよそに結城リトは植物や花に水を注ぎ、雑草を抜いていた。

 

「おっと、セリーヌもたくさん飲めよ?」

 

ララがくれた謎の宇宙植物の種から育った8メートルは超える巨大で不気味な虫食植物のような植物であるセリーヌと結城美柑から名付けられた植物にも世話をしていた。最初は不気味だったけど、不審者が来たらギーギーと叫んで結城リト達に知らせたり、犬や猫などの動物みたいに知能が少しあるのか結城リトの言葉に反応して嬉しそうな声を出してくれるので、なんだか可愛いと思う親バカぶりな結城リトと結城美柑は笑顔でセリーヌと会話している。

 

「セリーヌは良い子なんだよねぇ、私が風邪引いたら辞書とかで調べるの。どこに目があるか知らないけど、優しいんだよね」

 

セリーヌは結城リトはもちろん結城美柑も好きな様子で、セリーヌは心優しい植物であると二人は信頼していた。しかし、そんなセリーヌに動物のような知能があるというのは脳のような考えることが出来る脳髄があるはずだ。しかしそんな事はどうでもいいのだ。優しいセリーヌが大好きだからセリーヌに結城美柑はあるものをあげた。

 

「それにラーメンも食べるだなんてまるで人間みたいだね。これはまた食費とか掛かるけど、嬉しそうに食べるから良いんだけどね?うふふ」

 

セリーヌは口があるからとラーメンを好んで食べていた。口があっても一応は植物であるし人のような胃や腸などの消化器官がある訳が無いはずなのにセリーヌはそんなの関係ないと言いたげな仕草でラーメンを啜っていく。ちなみに食虫植物には自ら消化酵素を生産する性質があり、中には捕虫袋という人間で言うなら胃袋があるのだ。おそらくセリーヌは胃袋のような消化器官があるだろう。

そんな人間のような植物であるセリーヌの世話をする二人にララやナナにモモの三姉妹も庭に来てセリーヌの様子を見ようとした。その三姉妹も笑顔でセリーヌの事を見ていた。

 

「へぇ?そうなんだ?そう?よかったね」

 

モモはセリーヌと会話している様子でセリーヌも嬉しそうにギーギーと喋り、それに相槌を打っていた。実はモモは植物と会話する能力を持ち彼らの言葉を分かると言うのだ。その能力でセリーヌの言葉を聞いたモモが言うには、いつも自分に語りかけるように世話してくれるのがとても嬉しいとの事でその言葉を聞いた結城リト兄妹は笑顔で嬉しそうにまたセリーヌに語りかけて世話をしていた。

 

「セリーヌ!結構嬉しい事言うじゃねぇか!俺、セリーヌの事が好きだぜ!」

 

結城リトの言葉に反応したのかセリーヌは屈んで結城リトの顔まで近寄り、食虫植物には存在しないはずの舌で結城リトの顔を嬉しそうに舐めていた。その愛情表現が嬉しいのか結城リトは満面に笑みをこぼしていたのだ。

 

「あらあらリトさん?その子は女の子ですよ?告白だなんて大人ですねぇ」

 

モモの言葉に一瞬時が止まったような気がする結城リト。一応は植物であり、性別なんて一切考えておらず、普通に好きだと思い込んでいた。

 

「わぁ、いいなぁ~!ねぇ、リト!私にも好きって言ってー!」

 

ララはセリーヌに少し嫉妬しているのか結城リトに抱きつきながら自分の事を好きと言えと何度も何度もしつこく催促するも結城リトは顔を真っ赤にしてその言葉は言わなかったのである。

 

「け、ケダモノめ!姉上はともかく植物まで手を出すだなんて!なんて女性の好みのストライクゾーンがとんでもなく広いヤツなんだ!お前は!」

 

ナナは彼らの行動を見て、顔を真っ赤にして結城リトを罵る。このナナは動物と会話する能力を持つがその動物の心は読めない為、彼らの気持ちがよく分からなかったのだ。

 

「し、仕方ねぇだろ!セリーヌが女の子だなんて知らないんだよ!そもそもそんなの関係ないから俺はセリーヌや植物が好きなんだよ!」

 

結城リトにまたも嬉しそうにセリーヌは喜び、好きだという彼の顔を舐めまくった。男だからとか女だからとかそういう一切の関係を持ち込まずセリーヌそのものを好きだと言う彼を好きになっていた。

 

「ま、私も優しいセリーヌの事が好きなんだけどね」

 

結城美柑も笑顔でセリーヌに語りかけると、セリーヌは大喜びであった。セリーヌは結城リトは大好きであり、結城美柑も大好きだ。そんな彼らに好きと言われたらどんな愛情表現を持ってしてもそれは伝わりきれない愛情であった。その愛情を彼らにどうしても伝えたいが、ギーギーやギェーしか言えないこの植物としての言葉でしか伝えられないのが悔しかった。

 

そんなある日の事であった。

結城リトはいつものように花壇や庭の世話をしていたが、セリーヌの様子がおかしいのだ。そのセリーヌは発光し苦しそうにしていた。結城リトは結城美柑やデビルーク三姉妹を呼び出し、セリーヌの様子を看て貰った。

モモは植物の言葉を知る能力でセリーヌの言葉を聞き、そのセリーヌの言葉では大丈夫だ心配するなといった言葉を伝えるが、どうしても苦しそうに藻掻く微妙に光るセリーヌを見てはいられないのだ。

 

「あ、そ、そうだ!お姉様、この植物は惑星プランタスで採ったんですよね!?」

 

モモは血相を変えてララに問いかけた。もしかしら、あの症状なのではないだろうか?と疑問に抱き、少しでも可能性を信じたい。

 

「そ、そうだよ!それが何なの!?モモ!」

 

「や、やはり!そ、そうでしたか!やはりーー」と言いかけたモモに問い詰めるように結城リトは近寄り、青ざめた表情でセリーヌは大丈夫なのか?セリーヌは元気になるか?セリーヌは助かるのか?と次々と質問を浴びせた。その彼を阻止しようと結城美柑は近寄り、兄の顔を思いっきりひっぱたいた。

 

「いい加減にして!セリーヌとモモさんを信じてあげてよ!セリーヌは家族でしょ!?モモさんが何とか出来るかもでしょ!?」

 

頬がヒリヒリし、頬を擦る結城リト。そうだ、セリーヌやモモを信じなくてどうする?家族として信頼しないでどうする?育ての親が子を信頼しないでどうする?彼はそう思うと自分の愚かさに嫌気が差した。

 

「こほん、このセリーヌちゃんはもうじき枯れます」

 

モモの言葉に耳を疑う結城リト。しかし、まだ話が続くので結城美柑は暴れる結城リトを何とか抱きついて拘束して動かさないでいた。

 

「でもそれは悪い事ではありません」

 

結城リトはそのモモの言葉で暴れなくなった。植物に詳しいモモがそう言うのであればそれを信じなくてはならないのだから。

 

「だって、まだ・・・まだ成長している証しなのですから」

 

結城リト達はセリーヌをチラリと見ると、セリーヌは力弱く生きていくが徐々に徐々に生命の灯火が消えていくのを感じた。ジワリジワリと枯れていくのも目に見えるのを感じて緑の葉や茎が茶色へと変わっていくが、それに反して発光が強くなっていく。まるで何かに変身するようにセリーヌを光で包み込んでゆく。

 

「もう少しです、もう少しの辛抱です。リトさん?美柑さん?セリーヌちゃんに応援をお願いします。今、セリーヌちゃんは成長していくのをものスゴく頑張っているのです」

 

モモの言葉に涙を流しつつ結城兄妹は応援した。セリーヌ頑張れ、もう少しだ、自分達がついている、頑張れセリーヌと必死に応援した。

その結果のおかげか、セリーヌは成長した。セリーヌは頑張って頑張って成長して開花した。そのセリーヌは植物であったはずだったけど、その成長したセリーヌは幼女の姿へと変貌していた。

 

「これがセリーヌちゃんの成長した姿なのです。リトさん?美柑さん?いかがですか?」

 

モモの言葉に結城兄妹は涙を流しながらセリーヌを抱きつき、よく頑張ったな、よく成長したな、産まれてきてありがとうなどと感謝の言葉が次々と無意識に出ていた。その感動に涙が止まらない結城兄妹にデビルーク三姉妹も涙を浮かべていた。

 

「よかった!ひっくひっく、よ゛がっだよぉ゛ー!」

「私も゛これに弱いんだよぉ゛ー!」

「ぐすん、セリーヌちゃんも喜んでいるみたいです」

 

セリーヌ登場にいつまでも涙を流し続けていたのであり、そんな彼らの行動を喜びお礼の言葉をセリーヌは伝える。たった一言、たった一言でいい。どんな声でも、どんなに舌っ足らずでも、すませてあげなくてはと、伝えた。

 

「まうーまうーまー!(大好きだよ、みんな)」

 




セリーヌの言葉の通訳はこれで最初で最後です。今後はモモが通訳してくれると思いますので、安心してくださいませ。


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第三十二話

セリーヌと結城リトのほのぼのとした日常オリジナル回です。

はてさて、私の作風では話を作ろうとしても、どうしても何故かほのぼの~となりますが、それは無意識的になるものです。何故ほのぼの~となるのか?はたまた、ゆるゆるな話になるものか分からないですが、それだけ日常系に餓えているのでしょうか?自分で自分が気になります。


セリーヌ誕生から数日が経ったある休日の事。

結城リトとセリーヌを散歩しに行くと結城美柑やデビルーク三姉妹に伝え、外に出て街へと散歩していく事にした。結城美柑やデビルーク三姉妹も着いて行かせようと結城リトは彼女らを誘うが、今回は親子水入らずの散歩日和という事で彼らだけ散歩する機会を与えた。

 

「ララ達はともかく、美柑も育ての親みたいなものなのに、遠慮する事ないよな?セリーヌ」

 

河川敷近くを散歩しつつセリーヌの手を繋ぎ、他愛の無い会話を交わしつつ、セリーヌは満面の笑みで「まう!」や「まうまうまー!」と元気よく返事し、そのセリーヌの様子を微笑みながら散歩していった。

しばらく河川敷をセリーヌと共に散歩していくと、黒いブルドッグにリードを付けて散歩する西連寺春菜を見つけた。

 

「ゆ、ゆ、結城くん!?」

 

西連寺春菜は度肝を抜いた。まさかこんな散歩道で意中の結城リトと会うとは思えなかった。しかし、それ以上に結城リトが手を握りしめている頭に花を添えている二~三歳児くらいの幼女の姿に目を疑った。

一方の結城リトも意中の西連寺春菜の姿に胸をときめかせ、顔を赤くした。しかし、その西連寺春菜はセリーヌの姿をマジマジと見つめる視線で気になる様子だったので、仕方ないとセリーヌ誕生秘話を教え、今に至るというのを教え、へぇそうなんだで済む話ではないので困惑したが、納得するしかなかった。

 

「ふぅん。あ、セリーヌちゃんを抱かせてくれないかな?もし良かったら、だけど」

 

母性本能を刺激されたのか西連寺春菜は犬のリードを結城リトに手渡し、セリーヌを抱くと顔がどこからか人妻のような雰囲気を出すので、結城リトは顔を赤くした。

もし、もしもこのセリーヌが本当の自分達の娘なのならばと思うと胸がときめいていた。一方の西連寺春菜も同時にそう思い顔を赤くしセリーヌを結城リトに渡した。

 

「まうまー!」

 

セリーヌは嬉しそうに結城リトの顔にめがけて飛びついてはしゃいでいた。その光景を見た西連寺春菜は親子みたいで羨ましいものであった。二人の顔は本当に無邪気でただの親子連れでしかなかったからだ。

 

「あはははっ、セリーヌお前甘えん坊だなぁ」

「まうー!」

「うふふ、子供だから当たり前だ、みたいな言い方ね」

 

ぼのぼのとした空間が三人を優しく包み込む。三人はついでにと散歩を続け、街へと繰り出すと街いく人々達は顔を真っ赤にして三人の様子を見ていた。まだ子供なのに子供を作っているとかあの歳で結婚しているのかなどなど彼らの関係は誤解されていくのである。

しばらく歩くとファッション店の前で立ち尽くんでいた古手川唯と夕崎梨子の姿が見えていた。どうやら彼女達はまたも喧嘩しているような雰囲気であった。

 

「夕崎さんにはあのふんわり感のあるワンピースが似合うと思うんだけど、なんで頑なに拒否するの?」

「唯ちゃん、ボクはね?ボーイッシュが好きなんだよ。仕方ないだろう?ボクは純粋な乙女の格好をするのは恥ずかしいんだよ」

 

どうやら彼女達はファッションの話に夢中であったが、結城リトと西連寺春菜が我が子を連れ出して散歩をしている様子に気がついて古手川唯は「ハレンチだわ!」と顔を真っ赤にして彼らに注意していたが、夕崎梨子は一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、ニッコリと笑っていた。どうやら彼女達は思いきり勘違いしていた。

 

「ふふふ、なるほど、ね?ところで披露宴はいつだい?どこでやるんだい?そもそもキミ達はいつからそんな関係に?」

 

やはりそういった関係と思われていて、結城リトと西連寺春菜は顔を真っ赤にさせセリーヌ誕生秘話を語り、古手川唯は「非常識だわ」とそれに同情するかのように夕崎梨子も力強く頷き非常識さを肯定した。

 

「まさか唯ちゃんと同意見になるとは、ね?ボクとしては理解の天才と言われる程の理解力を持ってしてもそれを把握出来なくかつ説明もままならないだろうね」

と夕崎梨子は母性本能が目覚めたのか顔が母親化しセリーヌの頭にある花を触り、ほう頭と同化しているのかい?やれやれと呟いていた。

 

「普通に分かーんなーい、て言えばいいのに、この口下手は困った人よね?」と古手川唯も顔が母親化となり母性本能が目覚めてセリーヌを撫でて、それにつられ西連寺春菜も母親化となっていた。その顔を見た結城リトは顔を赤くしていた。

 

(う、ううう、な、なんて可愛い顔してるんだ!それに美しいような気がするし年上っぽい雰囲気もある!)

 

女の子に免疫が無い結城リトには刺激が強い雰囲気に当てられたので興奮するのも仕方ない。セリーヌのは結城リトの顔に抱きつくように飛びついてくれたので赤い顔をみんなにはバレなくて内心ホッとした。

 

「おやおや、やはりリトパパが好きなのかい?ふふふ・・・はっ!」

 

夕崎梨子のパパ発言に全員に振り返られた。夕崎梨子自身も無意識の内に父親の事をパパと呼ぶ事を暗に認めた事となっていた。その様子を古手川唯だけは黒い笑みで夕崎梨子に近寄った。

 

「ゆ~う~さ~きさ~ん?」

 

古手川唯の黒い笑みはニタリと誰かをイジメたい悪い顔であり、いつも口喧嘩している夕崎梨子がようやく弱みを見せたのだ。古手川唯の問いかけに苦笑いで何かな?と言うしかなかったが、その苦笑いはすぐに消え去る事となっていた。

 

「あなた、父親の事をパパと母親の事をママって言うんじゃないのかなぁ~?」

 

古手川唯は夕崎梨子が逃げないように両肩をガッシリと掴み、尋問していく。そんな逃げられない拘束された夕崎梨子は汗をダクダクと流し目を泳がせていた。

 

「ふふふふふ、そそそそそそ、そそんなの事、なななないよぉ?ふふふふふ」

 

夕崎梨子は盛大にガタガタと身体を動かし声もそれ同様ガタガタと震えていた。普通に分かりやすい彼女の反応に全員はそうなんだなと理解出来た。

 

「そう?そうなのね?夕崎さん・・・いえ、夕崎ちゃんはまだまだ、幼い子供、なのねぇ?」

「ちちちちち、ちが、ちがっ!」

 

夕崎梨子は顔を真っ赤にさせジタバタと動き逃げようとするも、古手川唯の一喝により西連寺春菜も犬のリードを結城リトに預け、夕崎梨子を押さえて夕崎梨子の暴走を止めようとした。

 

「は、春菜ちゃん!唯ちゃん!や、止めてくれよ!頼む!」と言う必死の言葉を出す夕崎梨子を古手川唯は黒い笑みでダメだと言われ後ろから抱きしめられ、西連寺春菜も古手川唯に脅されたから仕方なくといったところで夕崎梨子の正面から抱きついた。その様子を街の人々はもちろん、結城リトの目にも焼き付いてしまう。

 

(うわわわ!古手川唯の胸はリコの背中に押しつぶされていてリコの胸は春菜ちゃんの顔めがけてダイブしているみたいで!それでいて春菜ちゃんの胸もリコの身体にギュムギュムと押しつけられている!って、何観察してんだ俺!)

 

女の子に免疫がないウブでシャイな結城リトは顔を真っ赤にして彼女達の百合百合しい行動を脳に焼き付きてしまい興奮した。セリーヌはその行動をマネしたい様子で結城リトに抱きつくもまだまだ幼児体型なので押しつけるモノがない。

 

「まう?」

 

ならばとセリーヌは考えた。あの女の子の身体にある大きな膨らみが何なのか分からない。しかし、確かめれば何かが分かるかもしれない、と思い結城リトから飛び降りて、彼女達の大きな膨らみへとダイブした。

 

「きゃ!?せ、セリーヌちゃん!?」

 

まずは古手川唯の胸へとダイブした。この柔らかな感触を確かめるように小さな手でモミモミと揉みしだくも、その大きな膨らみは取れないが、その代わりとしてか古手川唯の喘ぎ声が出ていた。ならば、他の人物ならばどうか、といった具合で夕崎梨子の胸へとダイブした。またもセリーヌの小さな手でその大きな膨らみをモミモミと揉みしだいてみるものの、その大きな膨らみは取れず諦めたがその代わりとしてか夕崎梨子の喘ぎ声が出た。

 

それならばと彼女達よりは小さい膨らみを持つ西連寺春菜の膨らみをモミモミと揉みしだくもあえなく取れなかったのだ。もちろんその代わりとして西連寺春菜の喘ぎ声が出ただけだった。

その様子を見た結城リトは顔を真っ赤にするばかりで、子がイタズラしているのを親は黙って見ていただけに過ぎず、やがて止めろとセリーヌを引っぱがした。

 

「や、やめろ!セリーヌ!」

「まうまー!」

 

セリーヌは彼女達の大きな膨らみが何なのか分からないがフワフワと柔らかくほんのり温かい感触を堪能したのか結城リトの腕に抱きついた。そのセリーヌに胸を揉みしだかれた彼女達は顔を赤くしてフラフラとした身体を揺らしていた。

 

「うぅ、ぼ、ボクはこれで失礼するよ。喧嘩なんかする気はないよ」

「そ、そうね、私もやる気が無いわ。それじゃあね」

 

夕崎梨子と古手川唯の二人は身体をくっつかせフラフラとした足取りで結城リト達の前から消え去っていった。結城リトと西連寺春菜はお互いに見合って彼女達の心配をしつつ、散歩を続けていくのであった。

 

 

 

 




次回、結城リトやララその他多数の何気ない日常です。
また日常かよ!とツッコミたくなる話ですね。
しかしその次はようやくダークネス編へと突入します。それに突入したら普段の日常回が書けないかもしれないのでそれを無意識的に焦って書き続けたかもしれません


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第三十三話

今回で初期To LOVEる終了です。
結城リトとララ達の何気ない一時です。


結城家の日常は他の一家との日常とは大きくかけ離れていた。まず、デビルーク星から来たという宇宙人でその宇宙人の名はララ・サタリン・デビルークであり、結城リトとの婚約を果たすべく抱きついて愛情を示していた。今日も彼女は彼を抱きしめていた。

その彼は女の子に免疫が無く結城リトは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

ララの双子の妹であるナナ・アスタ・テビルークとモモ・ベリア・デビルークは彼らの行動を見て、姉はあの地球人を良くベタ惚れだなとどこか諦めていた。その三姉妹は結城家の天井裏に空間歪曲システムを作りだして部屋を作って結城家に居候していた。

不思議な植物から誕生したセリーヌという頭に花を咲かせた見た目二~三歳児の幼女も結城家の一員となり、結城家は賑やかにならない日は存在しなかった。

 

「だー!?は、裸になるなよー!」

「えー!?いいでしょー!?それくらい!」

 

裸になって結城家をウロウロしている羞恥心の無いララは結城リトによって説教されるも全くの反省を示していなかったのだ。

一方、結城家で唯一真面目で常識人であろう結城美柑は台所に立ち、遊びに来ていた姉と慕う夕崎梨子と共に料理を作っていた。彼女達の両親は共働きであり夕崎梨子は一人娘でいつも家で一人なので結城美柑は心配だと言ってくるので夕崎梨子はそれに甘んじてお世話になっていた。それの報酬として夕崎梨子は結城家の料理や洗濯に掃除もよくやっていつしかそれが趣味となっていた。

 

「リコねぇも料理出来るようになったね」

小学五年生の結城美柑からの褒め言葉に照れくさそうに高校一年生の夕崎梨子は身体をくねらせて顔を赤くして嬉しそうな顔をした。

 

「ふふふ、美柑ちゃんもしっかりしているし、いいお嫁さんになれるけど、変な男が夫になるならばお姉さんとして反対するからね?覚悟しておくといいよ」

「お、お、お嫁さん!?わ、わ、私が!?」

 

夕崎梨子のお嫁さん発言に顔を真っ赤にして恥ずかしがり盛大に照れていた。しっかりしてても小学五年生の女の子なので刺激が強すぎるのであるのだろう。

 

「ふふふ、ま、気長に待つといいよ?まだまだ子供なのだから、ね?美柑ちゃん」

「ぅぅぅ~、リコねぇだって心は子供みたいなのにぃ~」

 

そんな他愛の無い話を交わしつつ彼らは彼女達の手料理を食し、美味しい美味しいと感想を述べながら彼らは存分に腹を満たしていた。

そんなこんなで登校となり、ララは結城リトの腕を腕組みながら満面に笑みを浮かべ登校し、結城リトは顔を真っ赤にするも拘束は解かれる事もなく途方に暮れていたのを夕崎梨子は微笑みながら温かい目で見守って歩いていた。

しばらく歩くと猿山ケンイチが登場し、挨拶を交わすと早速と意中の夕崎梨子の隣に並んで他愛の無い話を交わしていた。四人の奇妙な関係は優しくて気持ちが良い雰囲気であり、誰にも砕けるモノではなかった。その彼らの様子を後から駆けつけるように走る西連寺春菜はその輪に入っていた。

 

「おはよう、みんな」

 

西連寺春菜の挨拶に全員挨拶を交わし、雑談を交わしていく。結城リトの周りには不思議に人が集まっていく、彼の人徳なのだろうか?それは分からないがそれは悪い事ではないのだろう。

五人は学校へと到着し、クラスメイトと全員に挨拶を交わしていく。もちろんクラスお馴染みとなった夕崎梨子と古手川唯による口喧嘩も交わされた。

 

「籾岡さんのこのファッション雑誌は学校に必要の無い物なのよ?夕崎さん。なのに、学業に必要のある物だと言うのね?」

 

籾岡理沙が所持したファッション雑誌を古手川唯により没収とし、風紀委員としてそれを処罰しなければなかったのだ。それを夕崎梨子の声によって口喧嘩が始まっていたのだ。

 

「ふふふ、本当にお堅いね?唯ちゃん。それに唯ちゃんほど学業が好きなのに、その穴に気づかないだなんて」

「穴?穴ですって・・・何なの?その穴は」

 

彼女達の口喧嘩にクラスは息を呑む。もちろん、籾岡理沙も自分を護ってくれという眼差しも強かった。

 

「この学校に家庭科があるから、理沙ちゃんはこのファッション雑誌で服のデザインや服の構想を考え、繕うとしているからこそ、必要となるんだよ」

 

夕崎梨子の言葉に思わずクラス一同は拍手喝采を送っていて、籾岡理沙は嬉しさのあまり夕崎梨子の身体に抱きついてどさくさに胸や尻を触り喜んでいた。一方、古手川唯はぐぬぬといった様子で悔しがってそっぽを向き踵を返した。

 

「ふふふ、また勝てなかったよ。ボクはなんて口下手なんだ。あの時は女の子だから仕方無いと言えば良かったのに」

 

夕崎梨子は口下手だった。口下手だからこそ人を傷つけてしまうし、素直じゃないので誤解されてしまう。だけど、そんな彼女を心配した西連寺春菜は近寄り微笑みかけていた。

 

「大丈夫だよ?リコちゃん。古手川さんには可哀想だけど籾岡さんを助けたのを私はちゃんと見てた。だからリコちゃんは優しい子なんだよ?私が保証する」

 

西連寺春菜の言葉に夕崎梨子は満面に笑みを浮かべて、彼女の頭を撫でて「ありがとう」の感謝の言葉で伝えられた彼女は頬に朱を染めて照れていた。

 

「もう、子供扱いしないでよ。リコちゃんの方が子供でしょう?」

 

そんな彼女達の百合百合しい光景にララも突入し、ララは二人を抱きしめ、三人の百合百合しい光景はクラスに見られていた。夕崎梨子と西連寺春菜は恥ずかしそうにしていたがララはいいからいいからと身体を密着させていた。ララは人懐っこい性格であり、その愛情表現は抱きついて喜びを分かち合うしか出来ないのだけど、どこか心安まるような気がして、三人の心は最高の気持ちへと変貌していた。

 

「えへへー!私、リトはもちろん、リコや春菜もだーい好き!」

 

ララはそれとなくリトも好きだと公表した為、クラスは一同騒然としたがどこか納得していた。前々から腕を組んだり抱きついたりとスキンシップをして愛情表現を表しているので好きではないとしないのだ。しかも、婚約者ともなればその愛情表現をリトに注げなくてはならないという訳だ。

 

「うぅ、ララのヤツ、こんな堂々と!恥ずかしいだろうが!」と顔を真っ赤にするリトは恥ずかしがっていて

「ハレンチだわ!」と古手川唯も説教し

(私も堂々と言いたいけどムリ)と西連寺春菜が思い

彼らのクラスはどの学校にも無い不思議な関係がいくつも重なり交ざわり合い一つの関係へと変貌する。その関係は絆、と言えるのだろう。その絆は決して折れる事は無く、今日も明日も紡ぐのであろう。

 

その日の昼休みの昼食。

ララは弁当箱から変な黒いモヤを出していて、それを結城リトに食べさせようとするが彼は逃げてそれをララは追いかけていたのをよそにし、夕崎梨子と西連寺春菜は猿山ケンイチは机をくっつかせ一緒に食していた。

 

「サルくん、春菜ちゃん、ボクは悪くない、と思うかい?ボクのこの性格・・・」

 

夕崎梨子は悩んでいた。自分が口下手で素直じゃないこの性格。彼女はこの性格を直したいけど一筋縄ではいかないのだ。どうしても、どうしてもみんなと仲良くなりたい、素直になりたいと強く思えば思うけどその分、空振りしてしまう自分が寂しいのだ。

彼女にとって最大な弱点であり悩みなんだけど、そんな彼女を知っている彼らは声を揃えてこう言う。

 

「大丈夫だぜ?リコちゃん。俺、いや俺達は仲間だ!友達だ!だからリコちゃんが変わる必要は無いぜ」

「そうだよ?リコちゃん。今更変わったらリコちゃんがリコちゃんじゃなくなるよ。そんなの許さないよ?」

 

二人の顔は晴れやかであった。彼女は彼女だし、彼女が変わったら彼女ではなくなり、今まで過ごしていた経験や感情が嘘になるような気がするのだから。夕崎梨子は口下手で素直じゃなくて可愛いただの女の子に過ぎないのだから。

 

「ふふふ、ありがとう。ボクはこれほどいい友人に囲まれるのは幸せだ。そんなキミ達に一言だけ伝えたいね・・・友人として好きだよ」

 

夕崎梨子は普段と同じ満面に笑みだ。しかし、その笑みの顔に赤みがあって恥ずかしがっているのだけど、少しだけ素直になった彼女によく出来ましたと褒めるように微笑んだ。しかし、彼女を慕っていた猿山ケンイチは心にキュンと恋心が動いた。

 

(リコちゃんに好きって言われた!これは大チャンスだろ!しかし、焦ったらダメだ!あくまで友人としてだ!まだまだ勝機はある!)

 

見た目も性格も弱点も全てが好みとなっている猿山ケンイチにはイチコロの笑顔であった。その夕崎梨子の笑顔と言葉は彼の、彼女を知る彼らとの支えとなっているのだから。

 

「ふふふ、ボクはまた勝てなかったよ」

 

夕崎梨子は敗北者になった。彼らの優しい心に打ち砕かれたのだから負けてしまうのも無理は無い。彼女はいつしか勝てるのだろうか?彼らに素直になれる日があるのだろうか?自分の口下手が直るのだろうか?そもそもそれは直らずにそれを武器になる日があるのだろうか?その答えはいつしか彼女自身しか分からないのだろう。

 

「改めてボクは夕崎梨子だよ。気軽にリコちゃんと呼んで欲しいな」

 

この自己紹介で幾つもの出逢いを、経験を、親しみを、知人を、友人を、この甘えん坊のような夕崎梨子という子供を導くのだろう。



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ダークネス編
ダークネス其の一


ようやくダークネス編へと突入しました!
ヤミがダークネス化になる以外思いきりオリジナル展開となります!感想お待ちいたしています!


ある日の真夜中の事、何かがおかしいと違和感を感じた

結城リトは自分のベッドに寝ていて、何かが自分の布団の中に何者かが入り込んでいるのを感じていた。

重い瞼をゆっくりゆっくりと開けるとそこには知らない人物がいた。

 

「よぉ、下僕よ。また会ったな?いや、忘れているかもしれんがな」

 

その少女は結城美柑と同じぐらい体型の小柄であり、髪は腰まで届くであろう黒いロングヘアー。肌色が褐色であったがその身体には何も着物を着ていなかった・・・つまりはその少女、全裸なのだ。

 

「~~~~っ!!?」

 

女の子に免疫が無い結城リトは顔を真っ赤にして目を見開き眠気が一気に吹き飛んでしまったのだ。しかし、その少女は身体を一切隠さず堂々と立ち振る舞い、結城リトの身体に抱きついて拘束していく。そうすると更に顔を真っ赤にした結城リトは思考回路をショートして、考えるのを止めてしまった。

 

「ふむ、やはりか。やはり失っているのか?あの能力を。それと、記憶も無くなっているな」

 

少女は結城リトの身体を自らの全身で確かめるように擦り彼を包み込む。そのいきなりの少女の行為に結城リトは無抵抗のまま動けずにいた。

 

「おっと、下僕は女に弱いんだったな。うっかりだ」

 

少女は全裸だったが、いつの間にか黒いワンピースを着ていて、髪を束ねサイドテールへと変貌していた。結城リトはようやくその少女の姿がマシな姿となったので、少女の正体を聞くことにした。

その少女の名はネメシスという名で、ヤミと同じトランス能力を所持しているそうで、つまりは宇宙人なのだという。そのネメシスが何故結城リトの元へと現れたのかというと非常に奇妙な話であった。

 

「なぁ、私を覚えているか?いや、忘れているかもしれんがな。ふん、下僕のくせに主人を忘れるだなんてお仕置きが必要になるが・・・ま、いいだろう」

 

結城リトはネメシスに会うのは初めてであったので、首を横に振るしかない。しかし、ネメシスは結城リトに会った事がある、否、知った事があるという口振りである。しかし、結城リトは考えた。何故ネメシスが自分の事を知っているのか?そして、ララだって初めて会ったのに知ったような口振りだったのか?今、目の前にいる謎の少女ネメシスに聞かずにはいられない。

 

「なぁ、俺はキミと会った事があるのか?」

「・・・ああ。しかし、何故そんなに落ち着いた様子なのだ?心当たりがあるみたいだが」

 

結城リトはまた考える。ネメシスの目を見れば嘘をついている様子は無い。更に自分の命を狙う宇宙人が居ればすぐに襲いかかるはずだが、ネメシスにはその気が無い様子だ。だから嘘をつくメリットも無いし、嘘をついたとしてもそれは警戒させるというデメリットしか生まれないからだ。

 

「・・・そうか。ネメシス、お前俺に何の用なんだ?」

 

ネメシスは目を見開き驚いた様子を見せる。何故彼は落ち着いて真っ直ぐに目と目を合わせて向かい合うように真剣に話しを聞く態度に疑問を抱いたが、ネメシスは彼を知っているのでその疑問はすぐに晴れた。何故ならば結城リトは人に優しくて否定しないからだ。

 

(ふ、やはり私の下僕はこうでなくてはな)

 

ネメシスは笑みをこぼした。彼を知っているからこそ、信頼出来て彼に頼る事も出来るし、その彼は全力で護ってくれるので心安まるのだ。ネメシスにとって彼は下僕なのだから。

 

「さて、私は下僕に対して質問をするが、ちゃんと答えてくれ。私は真剣なんだからな」

「あ、ああ、分かる事ならな」

「よし、では早速・・・お前は何度この生活を、いや人生を送ったと思うか?」

 

ネメシスの質問の意味が分からなかった結城リトは首を傾げた。普通の答えならば一度目であるのだ。何故ならば人は人生一度きりの命なのだから人生を繰り返す事なんて不可能なのだ。その答えをネメシスに言うと、やはりと言ったところか納得していた。

 

「では、知らない人物がお前を知っていると言う人物が現れたか?」

 

それならばと結城リトはララと夕崎梨子と素早く回答した。ララはあんまり記憶が無いみたいだが、夕崎梨子は結城リトを知っていたが、かつて結城リトは夕崎梨子を知らなかったのだ。

 

「・・・なに?夕崎梨子?誰だ!?そいつ!ララ姫は知っているが、そんなの初めての事象だ!あ、ありえない!なんで!?なんでなんだ!下僕!教えろ!」

 

ネメシスは驚いた表情で結城リトの両肩を両手でガタガタと前後揺らし、結城リトは目を回した。よほどネメシスの力が強いのかそれとも地球人が弱すぎるのか分からないがそれでもお構いなしに結城リトの身体を揺らし続けたが、どうにか落ち着きを取り戻したネメシスは結城リトの回復を待った。

 

「ふぅ、すまんな下僕。何せ初めてのとある可能性を見出したのでな。さて、教えてくれ。その夕崎梨子の事をな」

 

結城リトはネメシスに夕崎梨子の正体を教える。結城家の親戚であり地球人の夕崎梨子であり、その他の不思議な力や宇宙人に近い者ではないとハッキリと断言した。しかし、ネメシスは怖い顔でその話を聞いて何やら考えていた。

 

(・・・やはり教えるべきか?今回のみの事象ならば何が何でも脱出しなければならない!だって、だってこの世界はーーー)

 

ネメシスは目をキッと真剣な眼差しで結城リトを見つめ、ある本当の事を教える事にした。この世界の事を、この不思議な世界の事を・・・

 

「今から私が言うのは本当の事だ。だけど、嘘みたいな話だがそれでも信じて欲しい。たのむ、下僕。私の事を信じてくれないか?一回だけでいい」

 

ネメシスの必死の頼みに結城リトは力強く頷く。ネメシスが信頼して欲しいと言うのならば男として受け止めなければならない。それが結城リトにとって信じられない事でも、ネメシスを信じたくなった。その真剣な眼差しに嘘偽りは無いのだからだ。

 

「ーーこの世界は繰り返されているんだ。何千いや何万回くらいな」

 

ネメシスの言葉に言葉を失った結城リト。今、ネメシスはなんと言ったのだ?世界が繰り返される?しかも何千か何万か知らないがとにかく何度も何度も繰り返されているのか?そう思うとゾッとする。しかし、その記憶は結城リトも繰り返される世界を知っているネメシスにも無いのだ。ならばネメシスはどうやって知っているのか?ネメシスが言うには、記憶は無いが体感した覚えがある気がする・・つまり既視感が日に日に強くなりあげくの果てにはその日に起こる何事かが分かるようになっていたのだという。

しかし、その何事かは身に覚えも無いがそれでもした経験がネメシスに襲いかかるのだそうだ。それでついには世界が繰り返されているのにようやく気づいたのだ。

 

「そして、下僕・・お前とララ姫が中心になって何らかの方法で世界を繰り返させているのを私は知り、何度も何度も今までの行動をある程度寸分違わずお前達は繰り返していた。多分今までの私もな」

 

繰り返される世界の原因はララと自分と知り愕然とした。結城リトは地球人であり世界を戻すとか構築するとか不可能であり、それはあまりにも信じられない。けど、ネメシスは真剣な表情だし、それを何とか納得するしかなかったのだ。

 

「しかし、今回の事象は今までと違い今の私は登場する時期が早すぎると思うんだ。それも何か理由があるかもしれんが、今は何も分からん。ただそうしないと、と何故か思ってしまったんだ」

「う、う~ん、よく分からないなぁ」

「私もよく分からん。あとそれと夕崎梨子というヤツだ。ソイツだけは今回だけ現れたんだ!本来居ないはずの人間だが、どうも気になる」

 

ネメシスの話によると何度も何度も世界が繰り返される影響か知らないが、夕崎梨子が現れてその夕崎梨子だけは特異点だ。あの急に結城リトの前で現れたあの変わった少女が何かの鍵となるのだろうか?今は議論しても何も答えなんて出ないから落ち込むしかない。

 

「え~と、世界が繰り返す事もリコが本当は居ない者だという事も分かった・・けど、これからどうするんだ?その、繰り返す世界から脱出する手段は無いのか?」

「それは知らん。でも今回で何とかしないと未来が失われるかもしれん」

「未来が・・失う?どういう意味で?」

「もちろんその意味だ。例えば明日が終わればまた世界が一から繰り返されるとしよう。そしてその世界でまた繰り返される運命の日となれば・・・世界は無となる、かもしれん。確証は無いがな」

 

つまりは未来そのものの時間が切り取られその日以降の時間軸が失うので文字通りそこにあったモノがなにもかも無くなって人も惑星も宇宙も全部が無へとなる。しかし、それを阻止出来る可能性がある。それは夕崎梨子という特異点の存在であり、その人物が未来を確保出来るかもしれないのだ。

 

「で、でも、アイツは、リコは地球人だぜ?そんな大層なヤツじゃないと思うし・・・」

「それにだ、下僕に足りない能力とも呼べる難病があったはずなんだ。その難病は突発性ハレンチ症候群と呼ぶそうだが」

 

ネメシスが言う突発性ハレンチ症候群とは女性に対して胸や尻、股間などに無意識的かつ突発的に頭や手や口など身体の一部を突っ込まる難病であった。しかし、繰り返されていたかつての結城リトはそれに苦しまれたが、今はその難病を患っていないのだ。

 

「よ、良かったぁ、俺そんな病気持って無くて~」

 

女の子に免疫が無い結城リトは内心ホッとした。もしも意中の西連寺春菜にその難病で結城リトが手足を彼女の身体を弄るような事があれば普通に嫌われる事は確定的であるのだ。

 

「・・・下僕よ。また頼みがあるがいいか?」

 

ネメシスの身体がうっすらと消えていっていく。その姿を見た結城リトはギョッと目を見開き驚いた表情を浮かべる。その姿はだんだんと透明化している様子で、ネメシスという存在が消えていくような気がしていた。

 

「私は魂だけで身体はほんの一瞬しか保てないのだ。今まである少女の身体を借りていたが、下僕の身体が一番のお気に入りでな。だから憑依させろ」

 

ネメシスは結城リトにじっくりじっくりと近寄り距離を詰める。このネメシスの頼みに結城リトは力強く頷いた。女の子が自分を信頼して頼んでくれるのだから断る理由はない。

 

「ああ!女の子が助けて欲しいって言うなら俺は出来る事なら何でもする!ネメシス!お前は俺が救う!」

 

結城リトは手を差しのばした。ネメシスはうっすらと笑みをこぼし、結城リトに近寄る。

 

(ふ、やはりお人好しだな。メアには悪いがしばらく隠れさせて貰うぞ)

 

ネメシスが結城リトの前に身体を借りた人物である『メア』に謝罪しつつ、結城リトにネメシスの魂を憑依させて、結城リトは力尽きるようにベッドに倒れ込み、再び眠りについた。

 

その日の早朝。またも自分のベッドの違和感に気づいた。柔らかくて弾力があるモノと黒くてハートのようなモノが結城リトの手に取られていた。おそるおそるその正体を見ると、全裸のララであった。

 

「~~~っ!!?ララー!お前なーっ!!」

 

結城リトの叫びにララは眠り眼を擦りながら呑気におはようと挨拶するが、それはそうと服を着ろと顔を真っ赤にさせて説教する結城リトはララの全裸を目に焼き付けてしまった。

 

(はっ!これが突発性ハレンチ症候群というのか!?いや、俺からじゃなくララからの行動だから関係無いのか?)

 

結城リトの思考は正解であり、結城リトが女性をあらゆる辱めを無意識的に曝け出す行動する病気であり、女性自らが曝け出す訳ではないのだ。

 

(て、あれ?何か忘れているような気がするけど・・ま、いいか)

 

結城リトはララを追い出し、自分が何か大切な事を忘れている気がしていた。その大切な事は・・・

 

「ふむ、下僕よ。やはりその運命は変えられないようだな」

 

ネメシスだ。ネメシスの存在をすっかりと忘れてしまった。おそらく憑依したせいで記憶が曖昧となり、真夜中で起こった事を夢か何かと脳が勝手に処理していたようだ。でも、ネメシスの存在を認知した後、全てを思い出したのだ。この世界が繰り返されている事を。

 

「ふふ、お前のハレンチ症候群は完全に失ってもなお、その片鱗を見せるか。これから起こる事が非常に楽しみだ!下僕よ!」



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ダークネス其の二

黒崎芽亜登場回です。


ネメシスが結城リトの身体に憑依してまだ一日も経たなかった。そのネメシスは結城リトの身体に憑依する事で結城リトと一心同体となり、テレパシーのような超能力的な力で会話のやりとりも可能にした。

そんなこんなで結城リトは学校へと向かう途中、ネメシスに絶対に姿を見せるなと警告していた。もちろんネメシスとしても必要以上に姿を見せる訳にもいかないのでその要求は呑むが、話しかけるくらいならばいいだろうというネメシスの交渉のもと結城リトは受け入れた。

 

(ふふ、下僕よ。学校とやらは楽しいのだろうな?私は今回初めての事象だからな。つまらなかったら暴れるぞ?)

 

頭に直接語りかけるネメシスが冗談を交えつつ、結城リトはネメシスに退屈しないとハッキリと断言した。いつも自由奔放なララや意中の西連寺春菜が居るおかげで退屈しない日なんてないのだ。

 

(大丈夫だネメシス。俺が、いや俺達がお前を楽しませる事が出来るし、ネメシスが気になっているリコ・・夕崎梨子が居るんだ)

 

ネメシスは夕崎梨子の名を聞くとピクリと反応した。どうしても気になるその人物は結城リトと共に学校へと向かうのは少しばかり興味を持つ。

 

(ふむ、下僕よ。その夕崎梨子の元へ急げ。少しばかり調べたい。なに、ソイツをどうこうするつもりは無いが、直接見たい)

 

ネメシスの言葉に大きく頷き歩を進めていくと、夕崎梨子の姿が猿山ケンイチと共に登校している姿が見えて、彼らの元へ急ぎ足でかけより軽く雑談を交わしていく。

 

「やぁ、リトおはよう。セリーヌちゃんは元気かい?あの子を良く育てているかい?」

 

ネメシスは結城リトの体内に居るので、夕崎梨子を結城リトを通してまじまじと観察する事にしたが、やはり地球人である事は明らかではあったが何かがおかしいのだ。夕崎梨子は普通に女の子ではあったが、同時に男の子でもあるようだ。しかし正真正銘の地球人の女の子である事は確定的であった。

 

(至って普通だ。しかし、バレないようにヤツの身体に憑依しよう)

 

ネメシスは夕崎梨子や猿山ケンイチに姿を見られないように素早く移動し、夕崎梨子の身体へと憑依した。すると、やはり只者ではなかったのだ。何故ならば・・・

 

(下僕と同一人物のようだ!下僕とほぼ全く同じ感覚がする!あり得ない!コイツは一体・・いや、考えすぎか?・・今度メアに頼んでみるか)

 

ネメシスは夕崎梨子の身体からそっと抜け出し、結城リトの身体からへと憑依し、夕崎梨子は一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべた。

 

(・・・?今、何かがボクを観察していたような気が・・・いや、気のせいなのか?)

 

夕崎梨子は何かが体内に入って観察していた事に気づいたものの、やはり地球人で真面目なのであまり追求しなかった。

 

(・・・もし、次何かが来たら、『貴様、見ているな!』と格好良くセリフを言いたいものだよ)

 

夕崎梨子はうっすらと微笑みながら何も解決しない対抗策を練りつつ歩を進めた。その様子を見たネメシスは怪しく微笑みを浮かべる夕崎梨子を観察するように見ていた。

 

(ふむ、あの夕崎梨子はどうやら私のほんの少し気づいたみたいだが、あの様子じゃ気のせいだと思っているな。やれやれ、恐れ入るよ、あのお人好しは)

 

ネメシスの観察は続きながらも彼らは学校へと向かって行き、教室へと向かい自分の席へと向かい、近くに居た西連寺春菜や古手川唯は結城リト達の存在に気づき軽く挨拶を交わしていく。ララは遅れてやってきて教室へと向かうと一目散に結城リトの腕に抱きついて結城リトは顔を真っ赤にさせて慌てるが古手川唯はハレンチだと風紀委員としての説教するも夕崎梨子は結城リトやララをかばうように言い訳を言うが、それに反論する古手川唯は少し怒った表情を浮かべ夕崎梨子に突っかかる。それを西連寺春菜が止めにかかるという日常がネメシスを包み込んだ。

 

(ギャーギャーと喧しいが、賑やかな場所はなんだか懐かしいな。ま、既視感というヤツだなこれは)

 

ネメシスは何度も何度も世界を繰り返されているのを知っていて、なんとなくだがその繰り返された世界による記憶があるらしいのでその既視感を感じるのは無理は無い。

 

(ふふ、なるほどこれならば退屈しないだろうな)

 

ネメシスはこれからの楽しみに心躍らせ、優しくて心安まる結城リトの体内に魂だけの存在だけど身体を伸ばした。そのせいなのか結城リトもその動きに連動され両手をおもいっきり手を伸ばし、近くに居た夕崎梨子のスカートを盛大に捲り上げてしまった。

 

「ーーっ!!?きゃあ!!」

 

夕崎梨子は結城リトによってスカートを捲られた事への恥ずかしさで顔を真っ赤にさせ、女の子のような声色でスカートを素早く直し、ギロリと結城リトを睨む。

 

「リト、歯を食いしばってくれ」

 

夕崎梨子は平手打ちで全力で結城リトの頬をひっぱたいた。結城リトの意思でスカートを捲った訳では無いはずだったのに、誤解されてしまった。いや、誰がどう見たって結城リトが自分の意思でそうしたと思われても仕方ない。結城リトは顔を真っ赤にさせながらも夕崎梨子に土下座する勢いで謝ったが、なかなか許してくれなかったが、夕崎梨子は何かのお詫びとして何か奢れという頼みを引き受けなんとか許してくれた。

 

「まったく、気をつけてくれよ。ぱ、ぱ、パンツをみんなに見られるところじゃないかい」

 

夕崎梨子は顔を真っ赤にさせそっぽを向き、結城リトの前から離れていた。その様子を見たララは結城リトが下着を好むかもしれないと思い、結城リトの前へと移動し、自分でスカートをたくし上げた。すると結城リトはおろか男子生徒は顔を真っ赤にさせ興奮した。

 

「見てー!リトー!この姿が好きなのー!?」

「ば、ば、バカヤロー!早く隠せー!」

 

無邪気なララはまだスカートをたくし上げ下着を見せびらかすも、古手川唯によりその行為を禁じさせる事に成功させ、どことなくションボリと落ち込んでいたララだった。その様子をネメシスは観察してクスリと笑みをこぼした。

 

(ふ、ララ姫も相変わらずのお転婆娘だな)

 

ネメシスは初めて会うララに相変わらずといった感想が出るがやはりネメシスはぼんやりとした記憶からララの事を思いだしていた。しかし、そのララや結城リトのせいで世界が繰り返されるのだがら、気を抜くのはまだ早いかもしれない。

 

その日の放課後までネメシスは結城リトやララそれに夕崎梨子を観察し、学校の授業や昼休みが何も変哲も無い日常を送っていて、特に夕崎梨子の正体が普通の人間だと確定するしかなかった。

 

(・・・話し方が奇妙で友人がそこそこいるだけで、特に何ともないな。あの夕崎梨子とかいうヤツ)

 

夕崎梨子が不思議な人間だというのは間違いないのだ。今回の事象で現れた特異点が、これからの運命にどう影響するかネメシスは分からなかった。

 

(おい、下僕。私は少しばかり用が出来た。お前の身体から少々の時間だけ出て行く)

 

ネメシスは結城リトの身体から抜け出し、誰の目からも見られない速度で学校へと出ていき、とある場所の屋上へと移動し、前の身体に憑依した人物である『メア』という者の前へと姿を現した。

 

「あ、マスター!お帰り!今までどこに行っていたの?心配してたんだよ?」

 

ネメシスの前に居る人物の名前は黒崎芽亜という女性であり、その彼女もまたトランス能力を持っていて、赤髪のおさげが特徴の美少女であり、ヤミの妹であり、ネメシスを主と慕っていた。

 

「ああ、すまなかったな。ところでお前の精神潜入・・サイコジャックで調べて欲しい人物がいるんだが、頼めるか?」

「あれ?マスターだって精神潜入出来るんじゃないの?どうして?」

「いや、今の私は不安定な存在になっているからか、人物に憑依しか出来ない状態だ。だから精神の底まで調べれないし、それにお前の身体から普通に出られる程の弱い身体になっているしな」

 

ネメシスの身体・・いや存在が非常に不安定であり、いつも誰かの身体に憑依しなければ生きられず、誰かを器としなければネメシスはおそらく消えるのである。そんなネメシスの願いを無邪気な笑みをこぼし黒崎芽亜はそれを快く受け入れた。

 

「うん!分かったよ!」

 

時は流れ、夕方となった。

黒崎芽亜は夕崎梨子を探し、通学路を歩く夕崎梨子とララと結城リトが共に歩いている姿を見つけ、素早くそこへ移動した。

 

「やっほー!」

 

黒崎芽亜のいきなりの登場で三人は驚いた。黒崎芽亜は上空から登場したかのような現れ方であった。ララは無邪気に「やっほー」と返すが結城リトと夕崎梨子は警戒心を強めていく。

 

「あの、夕崎梨子って誰なの?マスター」

 

黒崎芽亜の探し人の夕崎梨子は更に警戒心を強めていくが、その警戒心を解く為に黒崎芽亜は戦う意思も何もしないという事を話し、夕崎梨子の警戒心を緩めていく。

 

「ふぅ、なるほどね。それでボクに何の用かな?」

「うんっ!それはねーーー」

 

黒崎芽亜はトランス能力で髪の毛を夕崎梨子の身体に素早くくっつかせ、精神潜入を試みた。その精神は至って普通の女の子であり、戦闘力や特殊な才能も一切無かった。しかしーーー

 

『貴様!見ているな!』

 

夕崎梨子の精神の中に夕崎梨子が現れて、その彼女は黒崎芽亜に指さしギロリと見つめていた。こんな事は初めてであり、精神潜入能力を素早く解いて思わず黒崎芽亜は後ろに下がった。

 

「ーーキミ、誰?」

 

聞かずにはいられなかった。普通の人間であるはずなのに、精神侵入した事がバレるはずは無かった。でも、夕崎梨子はそれを感じて、あまつさえ黒崎芽亜に語りかけたのだ。その不思議な夕崎梨子は満面の笑みを浮かべ、自分の名を語った。

 

「ボクの名前は夕崎梨子だよ。気軽にリコちゃんと呼んで欲しいな」

 

それ以上でもそれ以下でもない自己紹介であった。本当に夕崎梨子は地球人であるし、不思議な能力も持ち合わせていない。黒崎芽亜の身体にいるネメシスでさえもその情報を掴み、それ以上の情報は得られなかったのだ。

 

(やはりか。おい、メア私はまた急用が出来た。いったん出るぞ)

 

ネメシスは黒崎芽亜の身体から出て結城リトの身体へと向かおうとした瞬間、突然現れたヤミの攻撃によりその移動は出来なかった。

 

「・・・?気のせいなのでしょうか?何者かが結城リトに危害を加えようとした気がしたのですが」

 

ヤミの登場によりその場にいる者は驚きを隠せなかったがララだけは「ヤミちゃんだー!」と元気にはしゃいでいた。ヤミは黒崎芽亜をジロリと見つめ、自分と同じトランス能力を持っている事を認識し、ヤミはトランス能力を発動し戦闘態勢で黒崎芽亜を警戒していた。

 

「ヤミお姉ちゃんお久しぶりだね?」

「・・・なるほど、そういう事ですか。私と同じで造られたクローンですね」

 

ヤミはとある天才学者の細胞から造られたクローンであり、その開発データを元に造られたのが黒崎芽亜であるので彼女達は姉妹という関係なのだ。

 

「もぅ、ヤミお姉ちゃんは妹と会うのは嬉しくないの?家族でしょ?私達」

「・・・例え家族だったとしても私が護るべき人物に危害を加えようと攻撃したら私は抵抗します」

 

ヤミの言葉に耳を疑う黒崎芽亜とネメシス。以前の金色の闇ならば感情を捨てて標的を排除する兵器だと思っていたが、目の前にいる金色の闇は全然違っていた。

 

(ど、どういう事?マスター!なんかヤミお姉ちゃんがおかしいよ!)

 

黒崎芽亜は体内に潜んでいるネメシスに必死の表情で語りかけた。ネメシスが言うには、世界が何度も繰り返したせいで運命がガラリと変わったせいでその影響で金色の闇が誰かを殺すではなく、護ると宣言したから驚きを隠せなかった。

 

(メアよ、やはりヤツの何かがおかしいな。お前の精神潜入の力で金色の闇の精神を探れ)

 

ネメシスの言うとおりにトランス能力を使い、ヤミの精神を探った。すると、かつてヤミが体験した日常を観測し、その体験を黒崎芽亜も体感したような気がした。

優しい心と優しい場所、それに信頼出来る心とそこに居たいという願望が、暗い精神の心が虹色に染まって眩しい日常が毎日送っていたのだ。

 

「・・・精神への侵入ですか。私と違って優秀ですね?私の妹」

 

ヤミの言葉にハッと正気に戻る黒崎芽亜は、ヤミの顔を見て怒りを感じ震えていた。何故、宇宙一の殺し屋が甘えた日常が送れるのか、何故その殺し屋と仲睦まじい関係になれるのかが理解出来なかった。

 

「な、なんで!?なんでなの!?なんでヤミお姉ちゃんはそんなに弱くなれるの!?どうして!?」

 

黒崎芽亜はヤミの弱さを感じた。だけど、本来の戦闘力はほぼ全く感じられないが、それでも金色の闇がいや、今目の前にいる姉が風変わりしてしまったのだ。

 

「親友が出来たから、ですかね?」

 

ヤミの表情は子供のような無邪気な笑みでそう答えたのだった。



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ダークネス其の三

次の投稿は本日十二時となります

まさかの世界ループ話です。


親友が出来たと豪語したヤミに黒崎芽亜とネメシスは驚きを隠せなかった。かつてはいつも一人で戦場へと行き戦友とも呼べる者も居ないはずのあの金色の闇の口から親友という言葉が信じられなかった。

 

「し、し、親友って何!?何なの!?なんでそんなヤツらの事を信じられるの!?教えて!ヤミお姉ちゃん!」

 

黒崎芽亜とネメシスもかつては一人であった。しかし、彼女達は出会って一人ではなく、二人となったがあくまで主従関係であり、友と呼べるものではなかったのだ。

 

「私が信用してもいい人物が私を信用してくれるからです。そして互いが信用しあってから多分、それが親友だと思います」

 

ヤミはうっすらと笑みをこぼした。ヤミの脳裏に親友の姿が過ぎっていく・・結城美柑に夕崎梨子、ついでに結城リトが微笑んで手を差しのばしてくれる。彼らは戦闘力的には弱いかもしれないけど、心は誰よりも強いような気がしていたのだ。

 

「親友はいいものです。どうですか?あなたも親友を求めてはいかがでしょうか?」

 

ヤミは黒崎芽亜に手を差しのばした。まるで孤独な少女をヒーローが助けに来たような感覚に陥った。しかし、黒崎芽亜にはネメシスだけで充分であったし、それに彼女達は大きな秘密を抱えているから親友の存在を信用出来ないのでそのヤミの手を払いのける。

 

「目を覚まして!ヤミお姉ちゃん!私達は兵器だよ!?だからみんなが!みんなが!みんなが私達を怖がって、利用して後はポイッて捨てるだけだよ!?」

 

黒崎芽亜は涙を流しながら訴えかけていた。その場に居る結城リト、ララ、夕崎梨子、ヤミは黒崎芽亜に満面に笑み手を差しのばして同時に語りかけた。

ーー兵器とか関係無くキミと友達になりたい

その言葉で黒崎芽亜は涙を流した。悲しい訳ではなく、嬉しさの涙だ。兵器じゃなく一人の女の子として、一人の黒崎芽亜として受け入れてくれる優しさが黒崎芽亜を包み込んだ。

 

「俺はキミを認めるよ女の子として」と結城リトが

「そうだよ!仲良くしようよ!」とララが

「ボク達はキミを受け入れるよ」と夕崎梨子が

「私の妹だったら姉を信じて欲しいです」とヤミが

 

彼らが差し伸ばしてくれる手が、その優しさに包まれた手が黒崎芽亜を包み込んだ。友達として親友としてこれから彼らと一緒に行動出来るのだろうと思うと楽しい気分になれた。だから、彼らに自分の事を教えようと、黒崎芽亜は名乗る事にした。かつて赤毛のメアと恐れられていた名ではなく、彼らの友人ーー

 

「私は黒崎芽亜!メアって呼んでね!よろしくね、みんな!」

 

黒崎芽亜は満面の笑みを浮かべ名を名乗った。一人の女の子として彼らと仲良くする事を決意した。一方、ネメシスは黒崎芽亜の変化に戸惑いを隠せなかった。彼らが黒崎芽亜の存在を受け入れた事で心を開かせた事が何よりの驚きだ。

 

(あり得ない!やはり、結城リトと夕崎梨子に何かがある!何だ!?何がそこまで金色の闇やメアの心を変えられるんだ!)

 

ネメシスが知る果てしなく終わらない運命が今、大きく大きく良い方向に動き始めていた。その運命は最後まで良い方向へと進んでいくのだろうか?それは誰も知る由も無い。

 

(・・・今回で何とか抜け出せるかもしれんな。この繰り返される世界から・・いや、抜けるなコレは)

 

 

ネメシスはそう思うと、黒崎芽亜の身体から抜け出し、結城リト達の前へと姿を表した。結城リト以外の人物は驚いた表情を浮かびいきなり現れたネメシスに警戒心を強めていく。

 

「ならば私も貴様らを下僕と親しみを込めて呼ぼうか?おっと、名乗るのが遅くなったな。私の名はネメシスだ、よろしく」

 

ネメシスはニッコリと笑い、彼らと固い握手を交わし、友情を育んだ。こうしてネメシスと黒崎芽亜の存在も彼らにバレたがそんなのは関係無いと普通に接していた。

ネメシスは夕崎梨子に近寄り、耳打ちをした。

 

「リコちゃんとやら、私達と少しばかり話があるがいいか?」

 

夕崎梨子はララと結城リトに適当な理由を言い放ち解散して、ネメシスの言葉にコクリと頷き、黒崎芽亜とネメシスに連れられ近くのファミレスへと入店し、適当な席へと座る。

 

「さて、早速本題だが・・・お前、本当は何者なんだ?答えろ」

 

ネメシスの言葉にピクリと眉を動かしたものの何言っているんだ?コイツと言いたげな表情を浮かべる夕崎梨子だが、普通に人間であり普通の女の子である事も話した。ネメシスもその言葉を真実と捉えた。今の場面、嘘をつくメリットもないからだ。

 

「ねぇ、マスターも知っているけどこの子の精神を調べたら普通だったよ?私が調べているのバレちゃったけどね」

 

黒崎芽亜も夕崎梨子が正真正銘の普通の女の子であると断言した。しかし、本来居るはずがない謎の人物である事には間違いないのだ。

 

「ふむ、なるほど、ね?とにかくキミ達はボクの正体を知りたいが特に何の変哲もないボクに戸惑いを隠せないのかな?しかし、何故そのような事を調べるんだい?」

 

夕崎梨子の質問に正直に答える事にしたネメシス。この世界が何度も何度も繰り返している事を、それと今回だけ夕崎梨子の存在が居てしかもヤミや黒崎芽亜の心を開いたのも今回だけ起こった事象だという事もだ。

 

「・・・な、る、ほ、ど、ね?とにかく世界はループしていてどうにかそのループから脱出したい、と・・そういうことかい?」

 

夕崎梨子は困った表情でネメシスの顔を見ると、そのネメシスは真剣な表情を浮かべているので嘘じゃないという事を納得するしかない夕崎梨子は深くため息を吐いた。

 

「・・・で?ボクはイレギュラーの存在であり、今回の世界は今までと違う時間軸だと言うのかい?何故そう言い切れるんだい?ネメシスちゃん」

「私が今までの世界の事を全てとは言わないが知っているからだ。それらの記憶はないが、とにかく知っているからとしか言いきれん」

 

ネメシスの説明に夕崎梨子は顎に手を添えて目を閉じ深く考える仕草をするも理解出来ないが納得するしかない事に気づきまた深くため息を吐いた。

 

「分かった、分かったよ。それでボクはどうしたらいいんだい?まさか改造されてヤミちゃんやメアちゃんのようなトランス能力をもたされるのかい?」

「ほう?それは面白いアイデアだな。では早速、改造するか?ん?」

 

ネメシスは黒い笑みを浮かべジリジリと夕崎梨子への距離を詰め寄って顔と顔がくっつきそうな距離へと移動した。そのネメシスの行動を顔を赤くしながらも微笑みを浮かべる夕崎梨子は微動だにしなかった。

 

「ふふふ、冗談だよ。まさか本気にされるとはね?ネメシスちゃんは冗談が通じないのかい?」

「なんだ?冗談なのか?もしも本気でトランス能力が欲しいのならいつでも大歓迎だぞ?メアに妹ができるからなぁ、くくく」

「妹!?私に妹が出来るの!?なら改造しようよ!リコちゃん!」

 

ネメシスの妹発言に黒崎芽亜は大興奮し夕崎梨子の両手を掴みブンブンと上下に揺さぶった。どうやら黒崎芽亜には妹が欲しいようだった。

 

「ふふふ、考えておくよ。ま、おそらく改造はしないだろうけどね」

「え~?いいじゃん!楽しいよ?空飛べたり、何かを切ったり叩いたり出来るしさぁ~、ねぇねぇ」

 

黒崎芽亜の猫なで声に夕崎梨子は翻弄されず、適当にあしらうも、それに怒った様子の黒崎芽亜は夕崎梨子に抱きついて離れなかった。

 

「ヤミお姉ちゃんも妹が増える事が嬉しいと思うよ?お、ね、が、い!ね?」

「ふふふ、参ったな。どうする事も出来ないな・・・分かったよ、本当にトランス能力が欲しいならいつか言うと思うから離れてくれ。他の客や店員がちらちらと見ているんだ、恥ずかしいよ」

 

夕崎梨子の言葉に黒崎芽亜とネメシスは辺りを見渡して数人がちらちらと視線を送っているので、黒崎芽亜は渋々と夕崎梨子の身体から離れてキチンと座り、普通の客を演じた。

 

「こほん、話がそれたな。さてリコちゃんとやら、今話したループした世界から抜け出す方法だが、私は知らん。しかし、今回で何とか抜け出すかもしれないから、手を貸せ。それと、あまりこの事は人に言いふらすなよ?下僕・・いや、結城リトは知っているが、詳しい話を聞くとしても特に情報は得られないぞ」

 

ネメシスの頼みに大きく頷く夕崎梨子は満面の笑みを浮かべるが、ネメシスが結城リトの事を下僕と呼んだのを耳にするも気のせいかと思い、ツッコミをいれなかった。そんなこんなでネメシスの話を終えてファミレスから出た瞬間、夕崎梨子の前から黒崎芽亜の姿が消え去ってしまった。

 

「ふふふ、速いね?視界に捉えられない速さだったよ。ねぇ?ヤミちゃん」

 

ファミレスの影からヤミがスッと現れ、夕崎梨子の前に立ちすくんだ。

 

「・・・一体、何の話をしていたのですか?リコ」

 

どうしても彼女達の会話内容を聞きたいヤミはソワソワと落ち着かない様子で、仕方ないと適当な理由をつける事にする夕崎梨子。もちろん、世界がループする話を極力避ける話をだが。

 

「ああ、実はボクを是非とも改造してトランス能力をつけろとお勧めされてね?つまりはヤミちゃんやメアちゃんの妹になれ、という事だよ」

「妹、ですか・・・ならもしそうならリコは末っ子になるという訳ですね?」

「ふふふ、ヤミちゃんもそんな事言うのかい?家族が増える事は喜ばしい事だけど、ヤミちゃんの方が年下じゃないのかい?ボクは十五歳・・いやもうすぐで十六歳になるけど?」

 

夕崎梨子の言葉にヤミはニヤリと笑った。その笑みは黒い笑みであり、その笑みの意味が分からない夕崎梨子は首を傾げるしかなかった。

 

「私の歳、聞きたいですか?そうですか、そんなに聞くなら仕方ないですね」

「勝手に了承しないでもらえるかな?ま、非常に気になるけどもね」

「フロムス銀河暦で二十四歳です。つまりは私の方が大人なのです。当然のように黒崎芽亜もそれくらいの歳だと思います」

 

ヤミは胸を高らかに自分が年上だという事を宣言し、その姿はまるで『えっへん!』と言いたげな表情であり、早くも姉の威厳を見せていた。

 

「ふふふ、なるほどね?しかし、地球暦で言えば本当にその歳なのか不思議でたまらないね」

 

夕崎梨子はヤミのその身体を観察した。小柄かつ細身で、胸も小ぶりのヤミの身体ではいくらなんでも二十四歳とは思えず、黒崎芽亜の見た目も二十歳ほども無いのだ。

 

「・・・あまりジロジロ見ないでください。あなただってその歳でその身体は反則だと思います」

 

ヤミは身体を隠し、夕崎梨子の身体を観察する。その大きな胸は恐らく八十センチそこそこはあり、クビレは五十センチほどでお尻も胸と同等近くのナイスバディであった。

 

「ふふふ、反則かい?ならば何か罰を与えられるのかい?そうだ、近くの喫茶店に行こうか?メアちゃんやネメシスちゃんと話す時、何も頼んでいないから小腹が空いたよ」

「はい、では報酬として貰います」

 

夕崎梨子はヤミを連れて近くの小さな喫茶店へと向かって入店し、適当な席へと座り店員を呼び適当なスイーツとコーヒーを頼み、しばらくするとその商品が来て、その商品を口へと運ぶ。

 

「ふふふ、おいしいかい?ヤミちゃん」

「はい、まさかこんな所にたいやきがあるなんて思いもしれませんでした」

 

ヤミはたいやきを口に運びリスのように頬を膨らませもぐもぐと租借していた。

 

「たいやきか・・・そういえば、ボクがヤミちゃんにあげたのがきっかけで好物になったのかい?」

「はい、あの時のリコのせいでクセになりました」

「ふふふ、ボクのせいか・・・なるほどね?ボクはヤミちゃんを大きく変えたから責任を取らないといけないね?ならその責任はどうとればいいんだい?」

「そうですね・・・私の妹になるしか手は無いですね」

 

ヤミの妹勧誘宣言はいつまでも続き、のどかな時間がいつまでも流れていくのであった。

 

 



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ダークネス其の四

ある平日の早朝の事、結城リトは眠りから覚めて自分が寝ているベッドの違和感を感じていた。

両手に小さな膨らみが柔らかく暖かな感触があり、眠り眼を開けると全裸のネメシスが寝ていた。

 

「またお前かー!!」

 

結城リトは布団をネメシスに覆い被せ、なんとか全裸よりマシな格好にさせるも、ネメシスは布団を蹴飛ばし堂々と立ちすくんでいた。

 

「隠せ隠せー!」

 

結城リトの必死の説得により渋々と黒いワンピースを身に纏い、結城リトの身体に憑依したところでリビングへと降りていくと、結城美柑がちょうど朝食の準備をしていてそれを手伝おうとするが、セリーヌが結城リトに抱きついて遊べ遊べとはしゃいでいるようでセリーヌの相手をする事にした。

しばらくすると全裸のララが登場し、挨拶ついでに結城リトに抱きつくが、結城リトは顔を真っ赤にして慌てていた。

 

「あらあらお姉様ったら子供みたいね?」

「姉上は私達より心が子供だから仕方ないだろ?」

 

いつもの日常にモモとナナは冷たい視線を彼らに送り、結城美柑の手伝いをする事にした。その彼らの日常をネメシスは驚いた様子で観察していた。

 

(あの先端がハートの形をした黒い尻尾はデビルークの特徴・・・そうか、あいつらはララ姫の妹なのか?名前は忘れたが、確か双子だった気がする)

 

ネメシスはモモとナナをじっくり観察するようにし、結城リトの身体から抜け出さないように双子を見つめるが、何か視線を感じたかその双子は結城リトを見た。

 

「・・?リトさん?先程私達を見てませんでしたか?」

「ゲッ!マジかよ?私達まで手を出すのか・・ケダモノだな、お前」

 

冷たい視線を送る双子に結城リトは勘違いだと説得するが渋々といった様子で納得していたが、ネメシスは気配を消して結城美柑を観察した。

 

(ふむ、コイツは普通の人間だな?特に何もする事もないな・・おい、下僕よ腹が減ったぞ何か食わせろ)

 

結城リトはネメシスの願いを受け入れ美柑が作った朝食を口に運ぶも、ネメシスの胃の中には入らない。ならばと結城リトの身体から少しだけ出る事にした。

 

「わぁ!!?な、何!?い、イリュージョン!?」

 

結城美柑は突如現れたネメシスの姿に驚きを隠せなかった。しかも、結城リトの腹から上半身のみしか現れていないのだ。その姿はその場にいる全員に目撃された。

 

「おっと、悪い者ではない。私の名はネメシスだ、仲良くしてくれてもかまわんぞ」

 

いきなり現れて悪い者ではないと豪語するも、怪しすぎるそのネメシスに警戒心を強めていくララ以外の者はネメシスをマジマジと見つめていくが、セリーヌは興味津々の様子で結城リトの身体に居るネメシスにめがけて大ジャンプで抱きついた。

 

「まう~!まうまうまー!」

「ほう、お前の名前はセリーヌなのか?ふむふむ、仲良くしようね、と言っているのか?嬉しいぞ」

 

ネメシスはセリーヌの頭を撫でて仲睦まじい様子を彼らは見て、ネメシスがそんなに悪くない人物である事を認識し、素直に彼女達は自己紹介をした。

 

「ところで、何故リトさんの身体に憑依・・ですか?その・・ひっついているのですか?」

 

モモの質問にネメシスは心安らみ落ち着く場所であると正直に答えるも、冷たい視線を送るモモとナナと結城美柑は声を揃えて信用出来ないと断言した。

 

「う~ん、そんな事を言われてもな・・下僕はすぐに私を受け入れたから仕方ないのだ」

 

ネメシスの下僕宣言にその場は凍り付いた。いつから主従関係になったのか、いやそもそも結城リトが女の子を受け入れる話だって信じられなかった。結城リトは顔を真っ赤にし、誤解だと言い張るもその反応は嘘だという事は明らかであった。

 

「うぅ・・だってネメシスが消えそうになって可愛そうだったからだよ。あとそれと下僕はネメシスが勝手に言っている事だし、気にしないでくれよ」

 

結城リトの言葉にネメシスはクスリと笑った。何者か知らない奇妙な女を疑わず普通に受け入れるのは困難であるはずだが、結城リトはそんな些細な考えをせず、可愛そうだからと受け入れるのはありがたい。

 

「くくく、下僕よ嬉しいことを言うではないか?どれ、褒美として踏んでやろうか?頭か?腰か?それとも顔か?下僕よ」

「踏むな!てか褒美じゃねぇよ!」

「おや、残念だな?くくく。でも踏んで欲しいならいつでも歓迎してやるぞ」

 

結城リトとネメシスのやりとりに冷たい視線を送るララとセリーヌ以外はため息を深く吐いた。朝から踏むとか踏まないとか下品な会話に嫌気が差していた。

 

「ねぇ、リト?踏まれたら嬉しいの?」

「違うよ、ララ。絶対に踏むなよ?絶対に踏むなよ?ぜ~ったいに踏むなよ?」

「ほう?それが噂に聞くフリというヤツか?どれ、軽く踏んでやろう」

 

ララとネメシスは無邪気な笑みを浮かび、結城リトに抱きついて倒れ込ませ脚や腹を軽くグリグリと踏んでいた。

 

「だー!やめろ!そんな趣味ねぇよー!」

 

結城リトのツッコミは彼女達に響き、モモは苦笑いでナナは「ケダモノ!」と顔を真っ赤にし、結城美柑は深くため息を吐くしかなく、セリーヌは結城リトの足をララとネメシスのマネをして踏んだりとドタバタしていた日常が始まっていたのである。

 

そんなこんなでララと結城兄妹は学校へと向かい、ララは結城リトの腕に抱きつきながらの登校で何度も抱きつくのを止めろと言っても聞かないので仕方なくそのままの状態で登校するしかない結城リトであった。

しばらく歩くと、西連寺春菜と夕崎梨子の姿が見えたので駆け足でかけより、挨拶交じりで他愛の無い雑談を交わしていくが、夕崎梨子は結城リトの様子が気になったのか結城リトに近寄り耳打ちをした。

 

「リト、様子がおかしいよ?何かを隠しているのは分かるけど、その何かが分からない。ボクに出来る事ならばその相談を受けるよ」

 

長年の友人の些細な変化に気づいたからこその気遣いであり、悩みを持つのならば友人として放っておけないのだ。そんな優しい夕崎梨子に結城リトは微笑みを浮かべその提案を受け入れた。

 

「ふふふ、よろしい」と微笑み返す夕崎梨子。そんな彼らの様子を微笑みながら見つめていた西連寺春菜は晴れやかな気分になっていた。信用しあい、お互いの深い絆が目に見えるようだった。

 

「もぅ、二人でこそこそしないで?私、気になっちゃうよ」

「おっと、春菜ちゃんごめんね?この通りだから」

 

夕崎梨子は西連寺春菜の腕に抱きついて仲良くしようと試みると西連寺春菜は「人懐っこいなぁ、もう」と満更では無い表情を浮かべ微笑んでいた。

 

「ふふふ、ボクは口下手だからね?適当な理由が思いつかないから誤魔化すしかないのさ」

「はいはい、子供みたいなリコちゃんがそう言うと思ってたよ。ダメだよ?ちゃんと話なさい」

「ふふふ、まるでマ・・こほん、お母さんみたいだね」

 

夕崎梨子はママと言いかけたが誰も気づかなく、西連寺春菜は誰がお母さんなのと軽くツッコミを入れて歩を進めていくと猿山ケンイチが登場し、またも他愛の無い雑談を交わしていき学校へと向かっていた。

 

時は流れ昼休みとなり結城リトは夕崎梨子に話をしたいと昼食を共にとろうとするが猿山ケンイチが乱入し、更にはララも乱入する事になり、結局は込み入った話が出来なかった。

 

そして放課後、結城リトはララに適当な理由を言いつけて先に家に帰ってくれと伝え、夕崎梨子にどこかに寄ろうと誘いそれに頷いて結城リトと夕崎梨子は近くの喫茶店へと入店する事にし、適当な席へと座った。

 

「ふぅ、たまには抜け出すのも悪くないな」

 

ネメシスは結城リトの身体から抜け出して背伸びをし、店員に適当な飲み物を頼み、黒い笑みを浮かべていた。

夕崎梨子は結城リトの身体から出たネメシスに一瞬驚いた表情を浮かべるも、ネメシスがトランス能力を持っている事を知っているのですぐに落ち着いた。

 

「ネメシスちゃんか、なるほど。だからリトに何か違和感があったのか」

「うむ、リコちゃんは繊細なのか?だから気がつくのか?くくく、面白い」

 

夕崎梨子とネメシスはお互いに笑い合いコーヒーを啜って一息つく。しばらくすると黒崎芽亜とヤミが登場し、結城リトの近くの席へと座っていた。

 

「お待たせ!マスター!それとリコちゃん!」

「お話があると聞きましたが、何の用でしょうか?」

 

黒崎芽亜とヤミにネメシスは黒い笑みを浮かべ、ダークネスという能力を知っているかというネメシスの問いに黒崎芽亜とヤミは首を傾げていた。

 

「金色の闇・・いや今はヤミと呼ばれているのか、とにかくお前の身体に破壊をもって宇宙を混沌へと導くプログラムを意識の中に埋め込まれているんだよ」

「それがダークネス・・ですか?」

「ああ、その時のお前には記憶がないだろうがな」

 

かつて金色の闇として活動していた数年前に一度覚醒したことがあり、その時は惑星キルドを真っ二つに斬っている。それはとある人物を失い殺し屋に身を堕とし心が荒んでいたため、闘いの中で暴走しダークネスになったものだったが、不完全な覚醒だったため数秒で変身が解け、覚醒時の記憶を失ったというのだ。

 

「へえ?そのダークネスになったヤミお姉ちゃんはとても強いって事なの?マスター」

「ああ、惑星を破壊出来るんだ。戦闘力において右に出る者は居ないだろうな」

 

黒崎芽亜の問いに黒い笑みを浮かべクスクスと笑っていたが、地球人の結城リトと夕崎梨子は唖然としていて、ヤミはそれが本当なのか信じられないという表情を浮かべていた。

 

「それで、そのダークネスをどうするの?マスター」

「もちろん覚醒させたいが・・非常に危険なんだ。本当の殺戮兵器になって暴れるからな」

「え!?ヤミの意識とか無くなるのか?」

 

結城リトの驚いた声にネメシスは頷く。ヤミは無表情でネメシスの話を聞くもやはりといったところか信じてはいない様子だが、どこか心当たりがあるような気がしているらしい。

 

「・・・全然覚えていませんが、とある戦場で戦っていたのにとある病室で寝ていた気がします」

 

ヤミ自身は覚えていないが一度ダークネス化して暴れた後、御門涼子により一命を取り留めた事によりダークネス化が止まり今のヤミへと変貌したというのだ。

 

「そのダークネス化は今後の為に必要になるんだ。なので、お前達に手伝ってもらいたい。もちろん、お前達は全力で護るので心配はいらん」

 

ネメシスの頼みに安直には賛成出来ない。そもそも本当にダークネス化になる必要になるのか?もしも作戦がことごとく失敗したらヤミはどうなるのか?結城リトと夕崎梨子はそう考えるとますます賛成出来ずにいた。

 

「・・ふむ、少しいいかい?ネメシスちゃん」

 

夕崎梨子は顎に手を添えたまま考える仕草をしつつネメシスにダークネス化をなんとかヤミのモノにするのかを聞き、ネメシスはコクリと頷き肯定の意を表した。

 

「くくく、やはり頭が回るな?リコちゃんよ。そうだ、ダークネス化を発動させた後、私とメアで精神侵入しつつダークネス化となった金色の闇の魂を表に引っ張りだすが、おそらくそれだけじゃ無理だからお前達の声を聞けば金色の闇の魂は表に出やすくなる」

「ふふふ、なるほど?要はダークネス化となったヤミちゃんは別人だけどそれは関係なく、奥底にいる本当のヤミちゃんの精神を表に出すのが目的なのかい?そんな簡単に出来るのかい?ネメシスちゃん」

 

夕崎梨子の言葉に大きく頷いてヤミのダークネス化を成功させそれをヤミ自身の力にする自信があるようだ。黒崎芽亜と結城リトはネメシスの言葉を信じるしかない・・他に手段は思いつかなかったので仕方ないのだ。

 

「それじゃ、いつやるんだ?ネメシス」

「そうだな、明日辺りでもやるか?ちょうど休日だしな。その辺の広い公園でやるとするか?な、メア」

「うん!マスターがそう言うなら!」

 

こうしてヤミのダークネス化計画が立てられる事となり、不安と少しの恐怖を抱きながら明日の計画の成功に祈るしかなかった。

 

 



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ダークネス其の五

翌日の昼下がり、近くの公園に集まった結城リトと夕崎梨子とヤミと黒崎芽亜とネメシスは人通りが少なそうな場所を選び、適当な草原地帯へと到着した。

 

「さて、下僕よ。ララ姫達には適当な理由をつけてここには来ないよな?」

 

ネメシスの言葉に結城リトはコクリと頷く。デビルーク三姉妹にはヤミデビルーク化計画の全貌を知らず、もしもそれを知ったら命の危険があり危ないかもしれないので彼女達には内緒にする事にした。

 

「金色の闇、心の準備は出来ているか?ま、出来ていてもその心は一旦おかしくなるがな」

 

ネメシスの脅しに少し怯むも力強く頷くヤミは目を閉じ、ゆっくりとして落ち着いた様子で立ち尽くしていた。ネメシスは黒崎芽亜に視線を移し「いくぞ」と言ってヤミの精神へと進入しようとした。しかし、彼女達の前に思わぬ人物が現れたのだ。

 

「よぉ、なんか面白そうな事してんじゃねぇか?オイ」

 

黒髪のツンツンヘアーの黒服を身に纏った青年の姿が現れ隣にはザスティンも居た。結城リトはザスティンに隣に居る人物は誰かと聞いたら、とんでもない人物である事が明かされた。それは・・

 

「ああ、オレはギド・ルシオン・デビルークだ。オレの娘達・・ララやモモ、ナナが世話になっているなぁ、結城リト」

 

彼は戦乱の只中にあった銀河を統一した宇宙最強の男であり、デビルーク星の大王というのだ。そのギドは眉間にシワを寄せてニヤリと笑っていた。

 

「な、何の用なんだ?そ、そのオヤジさんが俺に?」

「何の用か、だと?特にお前には用は無いが、二つ用があってな?一つは今やろうとしている実験に用があるんだよ・・お前ら、そこの金色の闇のダークネスを発動させようとしてんだろ?」

 

ギドはヤミに指を差し、ギクリと緊張感と警戒心を強め、ギドは彼らを嘲笑うかのようにヤミのもとへ普通に歩いて行く。まるでいつでも攻撃してもかまわんぞ、と雰囲気で語りかけるくらいのオーラを出しながら歩を進めていた。

 

「ま、マスター!ど、どうしよう!?やっつける!?」

「くっ!ダメだ!今の私はともかくメアや金色の闇じゃ太刀打ち出来んぞ!今のヤツはベストコンディションだぞ!一瞬で私達がやられるぞ!」

 

黒崎芽亜とネメシスはトランス能力を使い、警戒心を強めて行くもギドにとっては仔犬が牙を向けて威嚇しているようだった。

 

「あ~、待て待てオレはお前らと戦いに来たんじゃねぇよ。逆にお前らの手助けをしたくてな?この繰り返される世界を救うには必要なんだろ?ダークネスってやつがな」

 

ギドの言葉に耳を疑うみんなは驚きを隠せなかった。何故ギドが繰り返される世界の事を知っているのか、しかもダークネス化を協力してくれるのかと思うと疑問が疑問を呼び頭がパニック状態へとなっていた。

 

「婿殿、私はこの世界が繰り返される事なんて到底信じられなかったのですが、信用出来るある情報屋から情報を集めたらどうやら本当のようでした」

「ザスティンやオヤジさんもその事を知っていたのか?だから手伝ってくれるって事なのか?」

 

結城リトの必死の表情をギドは見てニヤリと笑いをこぼした。ギドとザスティンの登場によりヤミが万が一大暴れしたらヤミを戦闘不能及び拘束する事を約束し、ヤミのダークネス化計画は今、始まろうとしていた。

 

「では、やるぞ。メア!精神侵入だ!」

「うん!マスター!」

 

黒崎芽亜とネメシスはヤミの精神へと侵入し、精神の奥底に眠っているダークネスを起こしていた。すると、ヤミの身体は暗黒に包まれ、ヤミは声にならない声で叫び、しばらくすると暗黒は晴れてヤミの姿が一気に変わっていた。

ヤミの頭部に二本のツノが生えており、両手の爪が鋭くなり、ヤミの格好は胸と股間だけ黒い布で覆い隠され後はその黒い布が脱げないように細い黒い紐で身体に括りつけられていた。

 

「あはははっ!あはははっ!き、気持ちぃ~!」

 

ヤミは満面の笑みを浮かべ自分の姿を見てはしゃいでいた。久方ぶりのダークネス化となり、誰でもいいから殺したくなっていた。

 

「メア!今だ!」「うん!マスター!」

 

黒崎芽亜とネメシスは精神侵入を使い、ダークネス化となっているヤミの身体を支配しようとするも、異様な力によりはじき飛ばされそうになっていた。

 

「ザスティン!」「はい!」

 

ギドとザスティンは黒崎芽亜とネメシスのバックアップに回り、ダークネス化になっているヤミを無力化しようとギドとザスティンは尻尾でヤミに電撃を浴びせ、ヤミは大ダメージを受けたので叫んだ。

 

「ヤミ!」「ヤミちゃん!」

 

苦しそうなヤミを心配する結城リトと夕崎梨子はただ見守るしかない、しかし応援ならば出来る。ヤミを知っている彼らならば、ヤミが信用している彼らならばおのずとヤミは正気に戻るのだろう。だから彼らはヤミに必死に語りかけていた。

 

「くっ!あともう少しだ!踏ん張れ!」

 

ネメシスの言葉に大きく頷く黒崎芽亜はヤミに精神侵入でヤミを表に出そうとし、ギドとザスティンは尻尾で電撃を与え無力化し、結城リトと夕崎梨子はヤミに必死に語りかけ、ついには・・・ダークネス化して性格が変化したヤミは通常のヤミとなっていた。

 

「~~っ!?えっちぃのは嫌いです!」

 

ヤミはトランス能力で結城リトの顔を髪で覆い隠し恥ずかしい格好を見せないようにしたが、今更遅い。しかし、ヤミのダークネス化は成功し、全員はホッと安心した。だけど、ギドは眉間にシワを寄せて夕崎梨子のもとへ近寄っていた。夕崎梨子は何事かと首を傾げギドを見つめていたが、ギドは夕崎梨子の首をトンッと手刀で叩き夕崎梨子を気絶させ、夕崎梨子を片腕で抱え込んだ。

 

「あともう一つ用があるのはコイツだ」

 

ギドのいきなりの発言に全員は驚きを隠せなかった。先程まで力を合わせてダークネス化計画を成功させたのに裏切られているような気分に陥られていた。

 

「り、リコに何すんだよ!!?言えよ!!」

 

結城リトの必死の言葉にギドはケッと笑いをこぼして興味が失せたような目線で気を失っている夕崎梨子を見て、少しばかり調べたい事があると言うだけでその他の言葉は言わなかった。

 

「リコの命の危険があると判断した場合、私は貴方を排除しなければなりません。今のダークネス化ならおそらく貴方を倒せるでしょう」

 

ヤミはダークネス化のまま戦闘態勢でギドにトランス能力で脅しをいれる。しかし、ギドは夕崎梨子の命を消す事はしないと言い張るが、結城リトとヤミは信用出来なかったのだ。

 

「二~三日コイツを借りるだけだ。大丈夫、改造も何もしねぇって・・だからそんな物騒なモノ向けるな。いくぞザスティン!」

「はい!婿殿、私もリコさんの身体に必ずや何一つ傷を負わせない事を約束します、それでは」

 

気絶してダランとなっている夕崎梨子を片腕で持ちながらギドはザスティンと共に結城リト達の前から消え去り、結城リト達は呆然と立ちすくんでいた。

 

「ど、どうする?マスター・・・リコちゃんが・・」

「アイツは信用出来るヤツだからな・・・ま、大丈夫だろう」

「しかし、ギド・ルシオン・デビルークはリコに何の用だったのでしょうか?気になります」

 

黒崎芽亜とネメシスとヤミは落ち着いた表情であり、淡々とした会話に腹が立ってしまう結城リト。何故夕崎梨子が連れ去られているのに、何故夕崎梨子がギドの攻撃により気絶しなければならなかったのか、何故、何故夕崎梨子が危ない目に遭うというのに自分が無力で彼女を助けられなかったのか、それが悔しくて悔しくてたまらなかったのだ。

 

「リコ・・・ごめん、俺が、俺が弱いせいで」

 

いくら相手が宇宙最強であろうと、いくら相手が敵意は無くても、それでも女の子を守れなかったのが男として、夕崎梨子の親友として情けなかった。

 

「・・・結城リト、大丈夫です。もし、本当に心配なら私達がリコを護ります」

「俺が護れねーとダメなんだ!ヤミ!・・・いや、怒鳴ってごめん、今はオヤジさんを信じるだけだ。一応はララ達の親だしな」

 

自由奔放のララの親ならば心配は要らないし、ザスティンだって夕崎梨子の身体に何もしないと約束をしてくれた。だから夕崎梨子が帰ってくるのを待つだけで、その帰ってきた夕崎梨子にお帰りと言わないといけないからしっかりと正気にならないといけない。

 

「・・・ふぅ、落ち着いた。よし、気晴らしにこのまま遊びに行くか!みんな、どこに行きたいか?あまり遠い所じゃなければどこでもいいぞ!」

 

結城リトは晴れやかな笑顔にヤミ達は微笑み、街をブラブラと歩き回り、ショッピングセンターやゲームセンター、図書館などなど有意義な時間を過ごし、彼らは羽目を外していたのであった。

 

一方、宇宙船に乗って宇宙へと飛び立ち地球から近い距離に留まっているギドとザスティンはカプセル状の大きな検査機のような機械の中にいる眠ったままの夕崎梨子を驚いた表情で見ていた。

 

「ま、まさか、こ、これは・・・この反応は・・・」

 

検査機の反応をザスティンは驚いた表情で見ていた。ギドも驚きを隠せず冷や汗を流していた。

 

「ふ、気づいたか?ザス。そうだコイツは、早く・・・永遠に眠らせるか殺すべきだ」

 

ギドの言葉にその場は凍り付き、夕崎梨子はカプセル状の検査機で眠り続けていたのであった。



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ダークネス其の六

ギドはザスティンに夕崎梨子の存在について静かに語った。

世界が何千か何万回も繰り返されるのは当然の事実であり、その原因はギドやザスティンは知らないがララと結城リトが中心になって何らかの手段を用いて世界はループしていた。

今回の世界も何の変哲も無い事象であったはずでまたもループするはずだった。しかし、夕崎梨子というイレギュラーが存在し、ガラリと一辺していた。

結城家に存在しないはずの夕崎家という親戚とその愛娘夕崎梨子の存在、そしてその夕崎梨子によって未来がどんどんと変わっていてそれが本当に言い方向なのか分からなかったし、悪い方向かもしれないという可能性も大いにある。

 

例えばヤミを改心した彼女の行為。以前の世界ならばヤミはラコスポとの一件が終わった後は結城リトの命を狙い続けていたのだ。

更に黒崎芽亜やネメシスも本来ならもっと遅く来るはずだった。しかもダークネス化を早くもヤミのモノへとなっている事も驚きであった。

 

もし、夕崎梨子が居る事で結城リトに起きる事件が早まる事ならば、もし運命そのものが早まってループする間隔が縮まって挙げ句の果てにはループする間隔が無くなってしまったら世界が無くなる恐れがある。

ならば夕崎梨子を亡き者もしくは永遠に眠らせこの世界に干渉しないようにする事でその心配は無くなるのだ。

 

「し、しかし!婿殿には傷一つつけないと約束しました!騎士として一度交わした約束は果たします!ですので殺すだなんて言わないでください!」

 

ザスティンは必死にギドを説得するが、ギドは唸るような声を出しつつ夕崎梨子をどう対処するのかを考え出した。傷一つつけずに殺さずかつ夕崎梨子を無力化する方法はないものなのか?脳や精神を弄って植物人間にする事も容易いが、そんな鬼畜な行為は子を持つ親としてもそれは出来ないものだ。

 

「はぁ、どうするか、だな・・・ま、一応まだ色々と探ってから考えとくか」

 

ギドはカプセル状の検査機の近くにあるパソコンを操作し、様々な情報を読み取ると不思議な項目が目に留まった。

 

「・・・?突発性ハレンチ症候群?なんじゃこりゃ?」

 

結城リトの難病であった突発性ハレンチ症候群の項目に眉をひそめてその項目の詳細に目を通すと、かつて結城リトが所有したものが夕崎梨子のもとへと移動したと記されていた。

 

「つまり何かがコイツを生成する時、この病気を奪って産まれた、という事なのか?身体を作る情報が足りないからって人のモノ盗るんじゃねぇよ。ま、病気だからいいんだけどよ」

 

カプセル状の検査機に気持ちよさそうに寝ている夕崎梨子に呆れ顔のギドはため息を吐いた。ザスティンは心配そうな表情でギドを見て一つ一つの行動に警戒するようにソワソワと落ち着かない様子だった。

 

「おいザス、もう殺すとか眠らせるとか言わないからそんなツラすんな」

「は、はい!了解しました!」

「さて、もう少し調べるか」

 

ギドとザスティンは夕崎梨子の情報を全て引き出し、もうこれ以上の情報は得られないというところまで情報を得て、ギドは近くにあったリクライニングの椅子にふんぞり返るように座り一息をついた。

 

「ふぅ、全部終わったな、ザス」

「はい、しかしリコさんには悪いですので、後で謝っておきます・・・ですので何か適当な物を贈りましょう」

「おう、悪いな」

 

しばらく身体を休めるとギドの宇宙船に電話のコールがなり、それを繋ぐとギドの目の前に画面いっぱいに広がる映像が流れ、その映像にはヴェールで顔が隠された女性が現れた。

 

「げ、セフィかよ・・・」

 

電話の主はセフィ・ミカエラ・デビルークであり、ギドの妻でララ、ナナ、モモの母親だ。宇宙一の美しさと称えられていて見た目はロングヘアーで、髪の色はピンク色。瞳の色は紫色だそうだがその顔を直接見てはいけなかった。何故ならば宇宙一美しい容姿と声を持つ少数民族チャーム人の最後の末裔であり、顔を見たらギド以外どんな男でも魅了するそうだ。

 

「聞きましたよ?一人の女の子を拉致して何か調べてらっしゃるなんて、いつから極悪非道の人になったんですか?」

「チッ、情報が回るのが早いな・・・そんなんじゃねぇよ。それよりも仕事はどうした?ヒマになるのは今後先と言ってただろ?」

「仕事の合間にこの電話をしていますのでお気になさらないでください。後、その子に何か怪我でもさせたら許しませんよ?」

「分かった分かった、用が済んだら無傷のまま絶対帰してやるからそんなに怒った顔するなよ」

「うふふ、顔隠しているのに分かるなんてやはり私達は夫婦ですね?だから貴方を愛しています、それでは」

 

電話を切ったセフィの愛している宣言に顔が少しだけ赤くなるギドは恥ずかしそうに「ケッ」と笑みをこぼし誤魔化している様子だったが、長年の付き合いでギドと共に戦っているザスティンは温かい目で見守っていたが、その視線が気に入らないのかギドはザスティンを睨んだ。

 

「おい、ザス!テメェ、俺をそんな目で見るんじゃねぇよ。夫婦のやりとりの観察がそんなに楽しいか?オイ」

「いえ、滅相もございません!ただ本当に仲睦まじい夫婦だな、と思っただけです。それよりも、リコさんはどうなさいますか?調べる事はもう特にございませんし・・」

 

ザスティンの言葉にギドは唸るような声を出し、目を閉じて考える仕草をしている。ザスティンや妻セフィによって約束を押しつけられたので改造も出来なくなってしまった。でも、機械で調べるのは全部が全部分かる訳では無いので、夕崎梨子と直接話す事にした。

 

「よし、コイツを起こすぞ・・ゲ、コイツよだれ垂らしてやがる!ばっちいな!」

 

カプセル状の検査機で寝ている夕崎梨子は無邪気な寝顔でよだれを垂らし、検査機を汚していたのである。その悪い寝相で気持ちよさそうに眠っている夕崎梨子を起こそうとして検査機の扉を開き、しばらくすると夕崎梨子は目をゆっくり、ゆっくりと開いていた。

 

「・・・ん?パパ?ママ?どこなの?ここ」

 

夕崎梨子は眠り眼のまま身体を起こしキョロキョロと見渡し、ジンワリと目に涙を浮かべていた。未だに寝ぼけている夕崎梨子は幼い子供のような精神らしく大好きな両親が見当たらない事と見知らない場所に居る事の不安と寂しさと恐怖が夕崎梨子に襲いかかった。

 

「ぅぅぅ、ひっく、パパぁ、ママぁ・・・」

 

夕崎梨子の感情が爆発し涙が大量に流れ泣き声が宇宙船中に響き渡りギドとザスティンは耳を塞ぎ、しばらく大泣きした夕崎梨子はようやく落ち着きを取り戻し、目を赤くしてギドとザスティンを睨んでいる。

 

「くすんっ、ぼ、ボクを一体どうしたの?何かしたの?改造か何かをしたの?」

 

涙目で上目遣いをしてギドやザスティンは夕崎梨子のその仕草に驚きつつ夕崎梨子の身体を検査した事を伝え、何も身体や脳に一切、手をつけていない事を明らかにし、夕崎梨子は心底安心した。

 

「おい、テメェに聞きたい事がーーー」

「リコちゃん、と呼んで欲しいな。テメェじゃないよ?ちゃんと名前を言ってくれ」

 

ギドは夕崎梨子の言葉に一瞬たじろぐも、コホンと咳払いし「それじゃ、リコ」と夕崎梨子の名前を言ったら、夕崎梨子は「よろしい」と微笑みを浮かべていた。

 

「チッ、貧弱な地球人のくせに偉そうな態度とりやがって・・・地球を破壊するぞ?コラ」

「ならば、キミはか弱い女の子を無理矢理襲った悪人のくせに、と言ったほうがいいのかな?それと地球は破壊させないよ?この命に変えても、ね」

「ケッ、テメェ如きが一体何が出来るんだ?戦闘力も無いし、頭も悪そうだ」

「確かにそうかもしれないね?だけど、ボクは奇跡を信じて絶対に諦めない夢見る乙女なんでね。それなりに抵抗する事になるだろうね」

 

夕崎梨子のその決意するような揺るがない目にギドは密かに笑った。宇宙最強や鬼神と言われたギドに対して恐怖も感じず堂々と立ち向かう夕崎梨子の姿に尊敬と信頼を送ってもいいも思うのはセフィを含め夕崎梨子だけであった。

 

「ケケケッ、リコお前面白いヤツだな?気に入ったぞ、もうしばらくお前と話したい。結城リトに二~三日お前を借りると言ったからそれまでの間帰らせねぇ。おい、ザス適当に茶と菓子をやれ」

 

ギドの要求にザスティンは頷き、ギドと夕崎梨子の前から消えていった。

 

「ふふふ、宇宙人にキャトルミューティレーションされた体験は滅多に無いのでね?それにここは宇宙なんだろう?宇宙飛行士になるにもスゴく大変なんだからボクとしても宇宙から地球を見たいし、無重力も楽しみたい。だから少しはここに居たい、と願ってたところだよ」

「つまりは同意の上で居る、てか?いいだろう。身体を調べさせて貰った詫びとしてそれくらいの要求は呑もう、好きにくつろげ」

 

ギドの了承を得てギドの宇宙船で世話になる事になり、ザスティンが持ってきてくれたどこかの惑星で買った茶や菓子を夕崎梨子に与え、それを観察するようにマジマジと見て、香りを嗅ぎそれを口に運んでいた。

 

「うん、不思議な味だ。今まで食べた事が無い味だけど、おいしいと思うな。この虹色のせんべいみたいな食べ物は見た目と違って繊細な味が際立っているよ。あと、澄んだ水色のこのお茶は喉にスッと通って爽やかな味わいで飲みやすいね」

「ケケケ、饒舌だな?リコ。おいザス、褒められてるぞ?良かったな」

「はい、お口に合って何よりです」

 

夕崎梨子の満面の笑みに一安心するザスティンは微笑み、夕崎梨子とギドの他愛の無い話に耳を傾け、一息をついていた。

 

「ギドくんの話は面白いね?宇宙戦争なんて日本じゃ絶対に聞けない話だよ。そもそも日本の技術力は最近よく発達しているけど、宇宙人はまだ見つけられて居ないんだよ。もちろんその手のインチキっぽい話は耳にするんだけどね」

「ああ、そうみてぇだな。地球に降りた時、どっかの店の前に細く白くて喋る奇妙な人型ロボットが居たが、あんなもんオレからすりゃガキのオモチャみてぇなモノだ」

「ふふふ、そんなオモチャでも地球がようやく辿り着けた技術力なんだよ。でもね、まだまだ地球の技術力は進化すると思うよ」

「ケッ、それも奇跡を信じる女の勘、てヤツか?イマイチそれが理解出来ねぇよ。どうなってんだ?女ってヤツはよ」

「男だろうが女だろうが関係ないよ?奇跡はきっと起こるよ。確証は無いけど確信出来るんだ」

「へぇへぇ、分かった分かった。ところで宇宙から地球を見たいだろう?なら着いてこい」

 

ギドは夕崎梨子を連れ出し、宇宙船の運転席へと移動し、そこから見える宇宙の星々と大きくて美しい青い地球が夕崎梨子の目に映っていた。

 

「ーーー綺麗だ」

 

夕崎梨子は無意識に言葉が出た。

自分が、人間達が、生物達が心地よく住める地球が宝石のように輝き、輝く青い空が、輝く黄緑色の土地が、動く白い雲が、夕崎梨子の目に釘付けとなっていた。

 

「ケケケ、本当にいい惑星だよな。オレの娘達がこの地球にずっと居たいのも分かる気がするぞ」

「ああ、そういえばギドくんはララちゃん達の親だったね?なるほど。あの三姉妹の親としては家出した彼女達にお仕置きしなくてもいいのかい?」 

「仕置きだと?面白いアイデアだな、リコよ。お前ならばどんな仕置きをするんだ?」

「う~ん、子供に一番の効果があるお仕置きとしてはお尻ペンペン百叩きの計だね。アレは痛いし、恥ずかしいし、何よりもそれを受けるともう二度とイタズラしたくないと思うからね」

「ほう?アレ、と言ってたのはお前はその仕置きを受けた事があるのか?ケケケ」

 

ギドの黒い笑みにしまったと後悔した表情を浮かべ夕崎梨子はそっぽを向いた。

 

「ま、その仕置きは追々娘達にやるとするとして、だ。何だったら太陽とか火星とか色々見て回るか?どうせヒマだろ?」

「ふふふ、光栄だよ。このボク如きが太陽系の惑星を見れるだなんて夢にも思えなかったよ。ボクはそれを甘んじて受けよう」

 

ギドは黒い笑みを深く刻み、宇宙船の操縦桿を握り、宇宙船は太陽系をウロウロし、夕崎梨子は無邪気な笑顔で目を輝かせ太陽系の惑星を見て回り堪能していった。

 

「次は無重力体験がやりたい!ギドくん!」

 

夕崎梨子は大興奮のままギドの服を掴み目を輝かせていて、その様子を見たギドは仕方ないなと渋々といった様子で夕崎梨子の願いを叶えていくのであった。

 



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ダークネス其の七

夕崎梨子がギドとザスティンにより連れ出されてからだいたい二日が経っていた。そんな日の昼休み結城リトは自分の席に座ってボォーと呆けていた。

夕崎梨子は遠い親戚の所に急用の用事で少しの間休むという出任せの理由でクラスを騙しているのだ。

夕崎梨子を好きな猿山ケンイチも呆けていて、結城リト同様席に座って呆けていた。

その様子を心配になったララと西連寺春菜は彼らに元気を分け与えようとするも猿山ケンイチだけは説得出来なかった。

 

「チクショウ!何でだ!リコちゃんが居ないってだけで俺はこんなに情けなくなるんだ!」

 

猿山ケンイチは少しの辛抱も出来なかった。いつも傍に居る夕崎梨子が微笑みかけて他愛の無い世間話をする事が日常であった。しかしその日常は崩れ去り、早く夕崎梨子に会いたいという願いが日に日に強くなっていた。

 

「大丈夫だよー!リコなら何とかして学校に戻ってくるよー!」

 

ララの無邪気な笑みでの言葉に猿山ケンイチはそれに強く頷いた。西連寺春菜もララの意見に同調するように、「リコちゃんは帰ってくるから心配しないで」と説得し、猿山ケンイチは益々元気を取り戻していた。

 

「そうだよな!リコちゃんを信じないで何が親友なんだ!だよな?リト」

「ああ、リコは親友に黙って居なくならないよ。リコはそういう冷たいヤツじゃない」

 

結城リトと猿山ケンイチは笑みをこぼし、夕崎梨子を心の底から信用していた。そんな中、夕崎梨子の天敵古手川唯が彼らの前に現れ、腕を組み胸を高らかにしていた。

 

「ふん、夕崎さんってば友達を心配させるだなんてとんだ悪い子ね?少しくらいは連絡くらいしたらいいのにね?まったく・・・」

 

古手川唯の表情はどこか心配しているような不安げな顔であり、古手川唯も夕崎梨子が心配で心配でたまらなかったのだ。それにいつもの口喧嘩をしないと調子が多いに狂っていた。

 

「あ、あの、古手川さん、リコちゃんだって急用があるし、仕方ないよ」

「そうね、それは分かる。だけど、みんなを心配させたからそのケジメをつけさせないと多分許せないわ」

「うふふ、多分なの?絶対じゃないんだ?てことは悪い事したリコちゃんを許せるんだね」

「なっ!!?何を言っているの!?西連寺さん!その口答えはまるで夕崎さんみたいだわ!クラス委員長とあろう者が悪に染まったらいけません!」

 

古手川唯は顔を真っ赤にさせ、西連寺春菜を指差し説教するも、古手川唯の赤い顔では何者にでも夕崎梨子の事が好きなんだなと思われていた。

 

「悪だなんて言わないでよ古手川さん。私は好きなんだよ?リコちゃんの事を・・・古手川さんはどう?」

「っ!!?もういいです!失礼するわ!」

 

古手川唯は耳まで赤くしてそっぽを向き踵を返し、教室から出て行き、その彼女の行動を「あらら、唯が怒っちゃったね」とララはのほほんとした声であっけらかんとしていた。

 

「もう、古手川さんったら素直じゃないね?誰に似てるんだろうね?私はその誰かの名前を言っちゃうと古手川さんが怒っちゃうよ」

「ははは、そうだな西連寺。俺もそれが誰か分かるけど、女の子が怒るのは怖いから言えないよ」

「リト、お前嫁出来たら尻に敷かれるぞ?普通の喧嘩でも負けるぞ」

 

猿山ケンイチの嫁発言に結城リトと西連寺春菜は顔を真っ赤にした。もし、もしも夫婦になれたらと彼らは同時に考え、更に些細な喧嘩でもしたらどうなるのかと思うと緊張のせいで動悸が止まらない。

結城リト(夫)が朝食の目玉焼きにはソースだと言い張るが西連寺春菜(妻)が目玉焼きには醤油が常識だという些細な喧嘩が始まるけど、いつしか料理には愛情が一番だと結論され二人の唇は近寄り、その二人の唇はじっくりと重なっていく・・・という結城リトの妄想が終わった後、結城リトは頭からボンッと煙を出し顔を真っ赤にした。

 

「私もリトのお嫁さんになっても嫌いにはならないよ?だから安心してね?私はリトの事、大好きだから」

 

ララは無邪気に笑いかけ素直に結城リトに好きだと言い張るが、結城リトはララの事は好きではあるが西連寺春菜の方が好きという気持ちが大きいので結婚はおろか恋人だって断りたい。しかし、ララが結城リトを好きだと正面きって言っている以上彼女の気持ちを尊重し、心が傷つかないようにやんわりと断らなければならないだろう。だから、ララに一言伝えないといけない。伝えなければならない。

 

「ララ、俺はお前の事を嫌いじゃない。でも、好き同士だからって必ずしも結婚出来るとは言い切れないんだ。だから、簡単に結婚出来るという考えは止めて欲しい」

 

結城リトの答えとしては唯一ララを傷つけない説得であり、ララが結城リトを想っているからこその優しい言葉であった。そんな言葉を聞いたララと西連寺春菜の頬は赤くなり、結城リトの事がますます好きになってしまった。ちゃんとララを見ていてしかもフォローも入れてくれる優しさが結城リトの強みであったのだから惚れるのは致し方ない事である。

 

「結城くんの言うとおりで私もそう思うな。もちろん結婚したい人とずっと一緒に居たい気持ちは良く分かるけど、だからって安直に結婚するのは反対だな、て思ったよ?だからララさんはもう少し結城くんの気持ちを尊重した方がいいじゃないかな?」

 

西連寺春菜は微笑んでララにアドバイスを送り、無邪気なララは分かったと微笑んで結城リトに抱きつき、ララの大きな胸は結城リトの身体にグニャリと形を変えるほど強めに抱きついたので結城リトは顔を真っ赤にさせた。

 

「だー!分かってねぇよ!くっつくな!」

「えー?だって私の事嫌いじゃないんでしょ?だったら私の事が好きって事なんじゃないの?」

「はー・・・言ってもムダなのか?リコだったらこの窮地を脱せるかもしれないのに・・・」

 

結城リトには味方が居なかった。ネメシスは黒崎芽亜に用があると結城リトの身体に居なくて、西連寺春菜はただ苦笑いするしかなく、猿山ケンイチは羨ましそうに睨んでいるし、救いのヒーローであるはずの夕崎梨子が居ないので身体にひっつくララをどうする事も出来なかったのだ。だけど結城リトはララに真剣な表情を向けて伝えなければならない事を伝えた。

 

「いいか?ララ、お前の気持ちは良く分かった。だけど俺はその気持ちに対して応じられないかもしれない。だからそんなにベタベタされると困るんだ。もちろん決してお前の事が嫌いって訳じゃないから勘違いするなよ?分かったか?ララ」

 

結城リトの真剣な言葉にララは少しだけションボリと落ち込むも、持ち前の明るい性格のララに戻り無邪気な笑みを浮かべ「それでも大好きだよ」と告白するが結城リトはクスリと微笑み「勝手に言ってろ」と言い放ちララを説得するのを諦めていた。

 

一方、とある公園にて黒崎芽亜とネメシス、ヤミはたいやきを食しながら夕崎梨子についての話題に話が弾む。ギドにより連れ出された夕崎梨子が心配で心配でたまらないヤミに対して黒崎芽亜とネメシスは親友するなと説得しているようだった。

 

「大丈夫だよヤミお姉ちゃん。リコちゃんはいつか私達の妹になるんでしょ?だからお姉ちゃんとして待っておこうよ、ね?」

「そうですね。末っ子のリコを信じなくて何が長女ですか・・・一番年上の私がしっかりしないと笑われますね。もちろん、私をバカにしたらお仕置きしますが」

「おいお前ら、何勝手にアイツを妹扱いにしてるんだ?ま、私としても同類が増える事は喜ばしい事だがな」

 

黒崎芽亜とヤミによる夕崎梨子妹化計画は進行中いや、確定中らしく既に夕崎梨子を妹扱いをしていた。

 

「ララ姫だって三姉妹でズルいでしょ?マスター。だから私達も対抗するべく三姉妹の方が燃えるでしょ?展開的に!ね?ヤミお姉ちゃんもそう思うでしょ?」

「三姉妹・・・良い響きですね?私も大いに賛成ですよ黒崎芽亜。ところでリコにトランス能力をどうやって与えるつもりなんですか?ネメシス」

「ふむ、それについて出来るであろう心当たりの人物が居るぞ。ヤミは聞いた事がある名だろうがな・・・」

 

ネメシスの黒い笑みに黒崎芽亜とヤミは首を傾げた。

 

「ソイツの名は・・・ティアーユ・ルナティークだ」

 

ヤミは目を見開き度肝を抜いて驚いた表情を浮かべていた。ヤミにとってその人物は忘れたくても忘れられない大切な人物であった。何故ならば、その人物こそがヤミの元となっている細胞の持ち主であり、親同然の女性であった。

 

「ティアが・・・いえティアーユが居るのですか!?この地球に!?」

「ああ、メアと共に色々と調べててな?下僕が通ってる彩南高校の教師になろうと頑張っているらしいぞ。ま、もちろん同僚のドクター御門の情報を掴んで一緒に教師生活をする事を目論んでいるらしいがな」

 

ティアーユは御門涼子と共に学生時代を過ごし、ティアーユは宇宙生物工学の分野で並ぶ者がいないと称され天才科学者と謳われるほどの学力を身につけていた。後にティアーユは兵器として産まれたヤミを人として育てようとするも、それを思わない輩がいた。生体兵器として育てようとする組織と対立、抹殺されそうになったため姿を消し、星々を転々として組織から逃れていたのである。

 

「ならその人はヤミお姉ちゃんのお母さん、て事だね。そのお母さんにに会わなくていいの?ヤミお姉ちゃん・・・あ!私にとってもその人がお母さんって事になるよね!?どうしよう!興奮してきた!」

 

黒崎芽亜は無邪気な笑みを浮かべ「でへへ~」とだらしない笑い声をこぼし、身体をクネクネと動かしていた。もちろん黒崎芽亜を造った人物は違うのだが、同じように兵器として産まれてきたヤミを姉と慕うからとティアーユを親と慕うのも特に理由は無いだろう。

 

「くくく、お前もしばらくしたらあの学校に通ってもらうぞ?ティアーユ・ルナティークと会えるかもしれないからな。もちろん、ヤミお前もだ」

「・・・私も、ですか?」

「何か不服か?ヤミ。アイツに会えるのだぞ?」

 

ネメシスの勧誘にヤミは深く考えた。ティアーユ・ルナティークはヤミにとって一番大好きで大切な存在であった。だけど、今まで罪も無い人々を金色の闇として抹殺していたから今更どんな顔をして会えばいいのか分からなかったのだ。

 

「私はマスターの言う事なら全部聞けるよ?だけどヤミお姉ちゃんは誰の指示も受けつけないから自由になれる。そんなヤミお姉ちゃんの好きにしたらいいんじゃないかな?」

 

黒崎芽亜の勧誘はヤミの心に響き、その勧誘を前向きに検討するというヤミの言葉は黒崎芽亜とネメシスに伝わり、三人は笑みをこぼしていた。

 

「ま、私達が立てた計画にはヤミやメア、それにティアーユとドクター御門がいる学校ならば完璧に実行される事だろうな?くくく」

「あ!リコちゃん妹化計画!そうだよ、あの天才二人がいるなら失敗なんてありえないもんね!素敵だよ!」

「そういえばそうでしたね、今学校に行くのをスゴく躊躇いましたけど一気に悩みが吹き飛んでしまいました」

 

三人は大はしゃぎで夕崎梨子妹化計画の成功への糸口が見えはじめ、夕崎梨子の了承無しで彼女達は計画を進めていくのであった。



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ダークネス其の八

結城リトがララと出会って一年が過ぎていた。

結城リト達は進級し、二年生となった今も結城家は賑やかであったのだ。いつもの全裸のララが結城リトにくっついて離れず好きだという告白し、結城リトは顔を真っ赤にして適当にあしらう。それをララの双子の妹であるナナとモモは冷たい視線を送り、我関せずといったところで放っておいていた。セリーヌは結城美柑に甘えて抱きしめていていつしか眠りについているという結城家の日常が繰り返し行われていた。

その結城家の親戚と名乗る夕崎家の愛娘である夕崎梨子は満面の笑みを浮かべ、結城家のリビングにある椅子に座り、彼らの日常を温かい目で見守っていた。

その夕崎梨子は昨日ギドによる宇宙旅行の旅を終えて宇宙船から五体満足のまま元気よく帰ってきたのを結城リトは満面の笑みの表情を浮かべ、お帰りと伝えたら夕崎梨子も満面の笑みを浮かべ、ただいまと言い彼らは再び相まみえたのだ。

 

「ギドくんは優しい人だったよ。まさか太陽系の他に地球の研究で知られていない惑星を見れた事なんて感激だったよ。ボクは非常に幸福だった」

 

夕崎梨子は無邪気な笑顔で土産話を結城家プラス居候の人物に語りかけ、その場に居る彼らは羨ましそうな表情を浮かべて、聞いていた。

 

「え!?パパに会ったの!?私達の事心配してたの!?リコ教えて!」

 

ララは無邪気な笑みを浮かべ、夕崎梨子に抱きつき興奮していた。ギドによる伝言を伝えようとし、三姉妹は無邪気な笑みを浮かべ楽しみという気持ちがはじけ飛び、デビルーク特有の黒い尻尾が犬のようにパタパタと振って喜んでいるようだ。だけど、その笑みは消えるかもしれないだろう。

 

「ああ、ギドくんが言うには家出した悪い娘達にはお尻百叩きの計らしいよ?覚悟しておくように、と言っていたよ」

 

夕崎梨子の言葉に三姉妹の顔の血がサァーと引き、絶望顔へと変貌していた。

「ギャー!父上に殺されるー!」とナナが

「嫁に入る前にお尻の原型がおかしくなる!」とモモが

「パパ怒ると怖いんだもん」とララが

三姉妹は目に涙を浮かべ恐怖を感じ身体をガタガタと震わせて、三姉妹は怒っている父親にいったいどうやって謝ろうかと考えるもどうしたらいいか分からない。しかし、今目の前に居る夕崎梨子は怖い父親の知り合いだし何とかお尻百叩きの計はどうにか免れるかもしれないと一縷の望みを託し、夕崎梨子に泣きついた。

 

「ごめんよ、ボクには人様の家庭にどう対応していいのか分からないよ。もし、何か策があってもそれは逆効果になってお尻百叩きが二百叩きになるかもしれないよ?それでもいいのなら考えてもいいんだけど」

 

夕崎梨子の考えた結果は三姉妹にとっては最悪であった。もしも本当に怖い父親のお仕置きが倍になったらと思うとゾッと恐怖を感じるしかなかった。それもお尻を叩くという拷問じみたお仕置きが彼女達に降り注ぐ未来はそう遠くは無いのかもしれないだろう。

 

「もう!リコさんは私達の先輩ですよ!?後輩が可愛くないのですか!?」

「そうだぞリコ!もっと後輩を敬え!可愛がれ!そして甘やかせ!」

 

ナナとモモは声を揃えてぶうぶうと文句を言い放つ。ナナとモモは彩南高校の新入生となり、今日から結城リトと夕崎梨子それにララの後輩となるのだ。だからその後輩は先輩でかつお姉さん的存在である夕崎梨子に怒った顔をして詰め寄っていく。その彼女達の態度に気にくわないのか夕崎梨子はナナとモモの黒い尻尾の先端部分であるハートの形をした尻尾を手に掴んだ。

 

「えっ!?リコさんーー」「待て!それはーー」

 

ナナとモモの言葉は最後まで続く事は無く、黒い笑みを浮かべた夕崎梨子は左手にはナナの尻尾の先端を、右手にはモモの尻尾の先端を盛大にかつじっくりと擽り続けた。その部分はデビルークに住む女性限定の弱点であり、掴まれたり擽りなんてされたら快楽を覚え、恥ずかしい声を出さずにはいられなかったのだ。

 

「ふふふ、ボクはキミ達にとって最悪な結果を伝えたかもしれない。だけどね?一生懸命考えたなりに伝えたんだよ?」

 

夕崎梨子の説教と共に双子のお仕置きは終わらない。双子は朝っぱらから恥ずかしくて艶やかな声を出していたが、そんな事なんてどうでもいいと思う夕崎梨子は双子の尻尾をニギニギと握ったりサスサスと器用に手を動かしていた。

 

「それをキミ達はどうだい?自分じゃ努力しない、人に謝らない、人になすりつける、人に迷惑をかけると散々な悪い事をしているのにも関わらず悪くないと言い張るのかい?だからギドくんは怒っているんじゃないかな」

 

ナナとモモは快楽を覚え、身体に力が抜け床に倒れ込み、二人は顔を真っ赤にさせ荒く甘い吐息を吐き、目は虚ろで身体をビクンビクンと震わせていた。夕崎梨子の手はようやく止まりお仕置きはお終いとなっていた。

 

「ふふふ、ボクはまた勝てなかった。ナナちゃんやモモちゃんを救いたかっただけなのに、それが出来ないだなんて、ボクはなんて情けないんだ」

 

夕崎梨子は敗北者になっていた。口下手で素直じゃない夕崎梨子が誰かに勝てるはずは無かったのだ。だけど、結城リトと結城美柑は同時に「今勝ってるだろ」と冷たい視線でツッコミを入れ、そのツッコミを夕崎梨子は親指を立ててグッジョブとツッコミをいれた彼らを褒め称えていた。

 

「今思うけど、ララちゃん達のその尻尾鍛えるとか出来ないのかな?そんな危険な弱点を曝け出すだなんて無謀にもほどがあるよ?」

「そうだよね~、昔ちょっと色々と試したけど鍛えるとか無理だったよ~」

 

ララはのほほんとした声で自分の尻尾をヒラヒラと振り、少し自分でその尻尾を触るとララの身体がビクンと震え快楽を覚え、ほらねと言わんばかりの表情で訴えかける。その様子を見た夕崎梨子は顎に手を添えて考える素振りを見せ、何か閃いたのかララ達にある提案をした。

 

「なら隠せばいいんじゃないかな?いつまでも外に放り出すのは危険すぎるから、そうだね・・・自分の腹に巻きつける、てのはどうかな?」

「どこの戦闘民族の話してんだよ!リコ!」

「お?分かったのかな?このネタを」

「どうせお前の事だ、満月を見たら何だか分からない大きなバケモノになるとか言い出すだろ?分かってるぞ」

「おお・・・ボクのセリフを奪うだなんてリトもやるようになったものだよ」

 

夕崎梨子と結城リトの会話をよそに三姉妹は自分の身体に尻尾を巻きつけ、一旦様子を見る事にして適当に動いたら・・・快楽を覚えた。

 

「何でなの!?隠しているのにそうなるの!?」

 

結城美柑の問いに小さく甘い吐息を吐く三姉妹が言うには服と自分の肌の温かさそれに動くと微かに服と肌に尻尾が擦られ続け、快楽を覚えていつしか果てるのもおかしくないそうだ。

 

「つまり、弱点は弱点のまま、て事なの?大変だね、宇宙人は・・・」

 

結城美柑は弱点を克服出来ない三姉妹を哀れむような表情で彼女達の不運を影ながら見守る事にしていくのであった。

 

時は流れ、入学式が終わり数日が経ったある日の昼休みの教室にてモモは男子生徒による絶大な人気を誇り、いつも男子生徒がモモの周りにいるのをナナは放っておき、視線を教室全体へと流すととんでもない人物を目にした。

 

「ヤミ!?それに隣にいるヤツは誰だ?」

 

かつて金色の闇と呼ばれる兵器がどうしてこんな所に居るのか分からなかったのだ。それと赤い髪で長く三つ編みを施されているヘアースタイルの謎の少女も奇妙であった。どうやらヤミとその少女は知り合いのようだった。

 

「ナナ姫ですか?私の名はヤミです、気軽にヤミちゃんと呼んでください」

「あ、ああ、どうもご丁寧に、て!そうじゃねぇよ!ていうかリコのマネすんなよ!どんだけ好きなんだよ!」

 

ヤミは夕崎梨子の事が好きなのかどことなく顔を赤らめてそっぽを向いた。素直ではないヤミだけど、今まで一人ぼっちだったのでどう対応したらいいのか分からなかったのだ。続いて赤毛の謎の少女はナナの前に立ちニッコリと微笑んだ。

 

「私は黒崎芽亜だよ?気軽にメアちゃんと呼んでほしいな!ナナちゃん!」

「お前もそれかい!どうなってんだよ!どんだけカリスマ性あるんだよ!アイツ!」

 

ナナのツッコミは勢いを知らず、次々と夕崎梨子のような自己紹介を聞くしか無かったのだ。モモはナナの異変に気づき、ヤミや黒崎芽亜の存在に気づき驚いた表情を浮かべていた。

 

「これはこれはヤミさんではありませんか?私と名前はモモ・ベリア・デビルークです。気軽にモモちゃんと呼んでくださると嬉しいです」

「結局お前もかー!」

 

モモの自己紹介も夕崎梨子のような自己紹介であり、誰もかもが同じような自己紹介をする事に幻滅し、落ち込むしかないナナであった。そのナナが元気が無く落ち込んでいるのをヤミはナナの事をみんなに紹介しようと前に立った。

 

「彼女の代わりに自己紹介は私が代弁しましょう。彼女の名はナナ・アスタ・デビルークです、気軽にナナちゃんと呼んであげてください・・・これで友達がたくさん出来ますね?良かったですナナ姫」

「ああ!良かったよ!友達が増えそうでよ!もぉ~!どいつもこいつも~!ムキー!」

 

ナナはヤミの良かれと思った自己紹介にイラつきを覚えて床を地団駄に踏んだ。

 

「あははナナちゃん面白いね?良かったら私達とお友達にならない?ヤミお姉ちゃんも友達になりたがっているし、ね?ヤミお姉ちゃん」

「わ、私がですか?そ、そうですね、友達が多い事に越したことは無いですから、貴女達がどうしてもと言うのであればーーー」

「もぉー!ヤミお姉ちゃん!ダメでしょ!?ちゃんと面と向かってお友達になろう、て言わないと!しっかりしてよ!三姉妹の長女になるんでしょ?」

「三姉妹の・・・長女っ!はい、そうですね、私がしっかりとしないと末っ子に笑われますね」

 

ヤミの目が一瞬だけ光り、やる気に満ちていた。一方、ナナとモモは二人が姉妹とは知らず尚且つもう一人妹が出来る宣言を聞いてしまったのでナナとモモは互いに顔を見合わせ一体どういう事なんだと疑問を抱いていた。

 

「でへへ~、私達はこう見えても姉妹なんだよ?血は繋がってない・・・のかな?とにかくその内に妹が出来るんだよ!」

「姉妹・・・?という事はメアさんはトランス能力をお持ちで?」

「そうだよ!こんな所じゃ発動出来ないから屋上でも行こうよ!ね?いいでしょう?マスターも紹介したいし」

 

黒崎芽亜はナナとモモとヤミを連れ出し、屋上へと向かった。そこにはチラホラと人が居るみたいだが、特に大きなトランス能力を使わないので気にしないでいた。

黒崎芽亜は髪の毛の一部を刀へと変身させ、ナナとモモにトランス能力を見せびらかせ、ヤミと姉妹だという証拠を見せていた。すると黒崎芽亜の身体から黒いモヤが出て黒いワンピースを身に纏った褐色の肌を持った少女が現れた。その人物はナナとモモが知っているネメシスであった。

 

「遅くなったね?マスター。退屈じゃなかった?何だったら結城リト・・・いやここじゃリトせんぱいて言えばいいのかな?リトせんぱいの所に行こうか?」

「いや構わん・・・いや、やはり行くとするか?下僕の顔を踏んでやらんと落ち着かんからな?くくく」

 

ネメシスはサディストであり誰か踏む喜びを感じ始めていたのだ。一方結城リトはサディストでもマゾヒストでもない一般な人であり、誰かを踏んでも踏まれても喜びを感じないのだ。閑話休題、それは置いといて、今まで繰り返されていた世界のかつてのネメシスの狙いは黒崎芽亜と組んでヤミのダークネス化を発動し、結城リトを殺させヤミをかつての生命兵器金色の闇に変貌させるのが目的であった。

しかし、もしも結城リトを殺した事により世界の運命が大きく変わりネメシスやダークネスとなったヤミでもどうする事も出来ない事態に遭遇し、その対決策に繰り返される世界の中心である結城リトが必要となる場合があるかもしれないので結城リトは殺しても殺されてもダメなのだ。

それと夕崎梨子の存在もまさにそれであり、冗談半分で始めた夕崎梨子妹化計画を実行しなければならない場合の可能性も大いにあるのだ。

 

「ま、お前らと仲良くしてもやっても良いぞ?この私自らが貴様達を調教してやろうか?くくく」

 

でもまずは小さな一歩からじっくり進まないといけない。確実に一歩ずつ、一気に駆け上がるのもいいけどそれじゃ何か予測出来ない事態が起こるかもしれない。だから、ネメシスは黒崎芽亜に兵器としてはなく、駒として動かしていた。一般論じゃどっちも同じ表現かもしれないけど、ネメシスは黒崎芽亜の気持ちも自分の気持ちも尊重出来る良い悪者であったのだ。



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ダークネス其の九

彩南高校に新しい教師がやってくるーーそんな情報は一体誰がどのように広めたのか定かではないが、その教師はとんでもなく美人でありグラマラスな女性であるというのだ。

彼女の名前はティアーユ・ルナティークという女性であり、髪は腰まで届くであろう金髪のロングヘアーであり、基本服装は黒のハイネックにタイトなジーンズだ。シンプルながらもそのグラマラスな体型を強調していた。御門涼子のようなスタイルを持っていて、おっとりとした雰囲気を持っていてしかも眼鏡を掛けているというマニア心を擽る萌え要素が男子生徒の心にときめいていた。

そのティアーユは結城リトが所属するクラスの副担任を仰せつかり、ティアーユは二年A組の教室へとその担任教師骨川先生の案内で移動し、緊張と不安の中、その教室の扉を開いた。

 

ティアーユの目にまず映ったのはララであった。黒くて先端がハート型の尻尾がフリフリと振られていて、クラスのみんなはそれが常識であると特にツッコミをいれてなかった。

 

(あの子はデビルーク星人?何でこんな所にいるのかな?私が言うのもおかしいんだけど、あんな遠い所からわざわざこの地球に来るだなんて何かあるのかな?)

 

次にキョロキョロと見渡し、一人の男子生徒がクシャミをし、煙を包み込みその彼は彼女となっていた。その様子をクラス一同は一瞬驚くも特に気にしないでいた。

 

(あ!あの子はメモルゼ星人!この学校とても宇宙人が居るみたい!私も宇宙人なんだけど、なんだか不思議な感覚ね)

 

この彩南学校に宇宙人が多数居る事への安心を感じて、ティアーユは彼らに晴れやかな笑顔のまま自己紹介をして最後にニッコリと微笑んだ。すると男子生徒はその笑顔にときめいて中には涙を流す者もいたそうだ。

 

「うふふ、よろしくね?みんな」

 

ティアーユ副担任就任祝いでクラスは大盛り上がりで、拍手喝采を交わしていた。

そんなこんなで美人で性格が良いティアーユの噂は一日もしない内に学校中に広まり、ティアーユを見たいが為にわざわざ見にくる生徒もしばしば居たのだ。

ヤミと黒崎芽亜それに黒崎芽亜の身体の中に居るネメシスは影ながら見守っていた。

 

「ティア・・・良かった、生きていた・・・たいして変わってなくて安心しました」

 

ヤミはティアーユの姿を目撃し、目に僅かな涙を浮かべていた。かつてヤミが生命兵器として産まれた時、人としての生き方を教えてくれた親であり姉でもあった。だけどある日突然とある組織の攻撃によって離れ離れになり数年間も音沙汰が無くなっていた。だけど、その人物が現れてどう接したら良いのかヤミは分からなくなっていた。

 

「ねぇヤミお姉ちゃん、何だったら私と一緒に行く?恥ずかしいから足が震えているよね?」

 

黒崎芽亜の言葉にヤミは自分の足を見た。プルプルと震え今にも倒れそうなぐらい震えていた。人としてのヤミならばすぐに駆けつけたかった。だけど兵器としての金色の闇であったヤミは何人も何人も人を殺めた罪の意識が強くてティアーユに会わせる顔が無かったのだ。でも、今は殺し屋金色の闇ではない、護り屋金色の闇である。しかし、過去の罪は拭いきれないのだ。

 

「ヤミよ、心が泣いているな?それは兵器として不必要なモノだ。そんなお前は自分の事を兵器だと言い切れるのか?」

「ーーっ!そ、それはっ!」

 

ネメシスの言葉に反論したかった。生命兵器だとしても殺戮兵器だとしてもヤミの心はあるのだ。以前交わした夕崎梨子の契約を思い出していく。初めて殺して欲しいという依頼では無く、護って欲しいという願い、そして信用とそこに居てもいいというヤミの希望がヤミの黒い心は浄化されていくのを感じていた。

 

「更に言うが、今のお前は殺し屋を廃業しているのだろう?何を戸惑っているのだ。悩む必要は無いぞ」

「そうだよ、ヤミお姉ちゃん。私は賞金稼ぎとして悪い人やっつけているけどそんなの関係無くお母さんに会いたいよ。どんな憎まれ口を叩かれようとも私はそれを受け入れる覚悟はあるよ」

 

黒崎芽亜はネメシスによって賞金稼ぎとして育てられ、トランス能力をフルに活用出来るようになり、それ以来ネメシスは黒崎芽亜の身体に憑依し長年賞金稼ぎをやり続けていた。そしてついに黒崎芽亜自身は善人となり、悪い人を見つけたら直ちに排除するまでとなり、己の正義を執行していたのだ。そんな黒崎芽亜の説得でも、なかなかうんとは言わなかったのだ。

 

「いいのか?あの計画は?アイツとドクター御門の力が無いと出来ないぞ?そもそもお前を含め私達がアイツに直接頼まないといけないから遅かれ早かれ会う事には間違いないのだぞ?」

「・・・・・・少しだけ考えさせてください」

 

ヤミは暗い表情を浮かべトランス能力を使い白くて大きな翼を生成し、空高く舞い上がった。その様子を黒崎芽亜とネメシスはただ見守っていた。

 

「ねぇ、マスター。本当に私達のお母さんと御門せんせーが手を組んでただの人間にトランス能力をつける事って出来るのかなぁ?」

「さあな。しかし是が非でもやってもらうぞ?アイツらは天才だからな?それに、それらしい理由も考えているんだ。くくく」

 

ネメシスは黒い笑みを浮かべ、黒崎芽亜の身体に憑依し姿を消した。黒崎芽亜はネメシスの思惑に期待を膨らませ屋上から姿を消していった。

それから数日後の昼休み、屋上でベンチに座りヤミは本を読んでいてその本がよほど面白いからか夢中になっていた。だんだんと近づいてくるティアーユの存在に気がつかなかったのだ。

 

「イヴ?イヴだよね?私に良く似た生徒が最近屋上に居るって聞いて確かめに来たけど・・・」

 

ヤミの本名であるイヴという名にヤミの耳に届き、夢中になって呼んでいた本をパタンと閉じ、無表情の顔でティアーユをじっくりと観察するように見つめている。

 

「違います、人違いです」

 

ヤミはティアーユが知るイヴではなかった。夕崎梨子によって与えられた護り屋ヤミという名であったので、少しだけ怒った表情を浮かべていた。そのヤミの表情を見たティアーユは唇を少しかみ締め悔しさの表情を浮かべ俯いていく。

 

「ごめんね?イヴ。あの時置いてきぼりにしちゃって・・・言い訳になるんだけど、貴女を助けようとして色んな所探してもどこにも居なくて・・・それで私一人助かるのが精一杯で置き去りにしちゃった・・・」

「・・・私はそのイヴではありませんが恐らくその彼女ならこう言うのでしょう。助かって良かったね、と」

「ふふふ、イヴが女の子であると私言ったかな?やっぱりイヴは嘘をつくのは苦手だね?」

「・・・迂闊でしたね。しかしイヴという名が男なのはあり得ないでしょう」

 

ヤミはションボリと落ち込んだ表情を浮かべ頭を垂らし、ティアーユの姿を直視したしなかった、いや出来なかったと言った方がいいだろう。何故ならばティアーユも助けられなかったヤミを直視出来ず罪の意識を感じていたからだ。

 

「イヴ・・・隣座っていい?お話したいんだけど」

「私はイヴではありませんが、どうぞご自由に」

 

ティアーユは感謝の言葉を伝え、ヤミの隣に腰を掛けた。だけど、言いたい事がなかなか言えず、ティアーユはしばらく無言となり、いつまでもヤミを受け入れないというのも親として情けないので深く深呼吸をし、だいぶ落ち着きを取り戻したティアーユはヤミの顔を直視した。

 

「あの時の事を許してくれるとは思わない。だけど、あの時からずっとイヴの事を心の底から心配して謝り続けていたの。今もそうよ?私が貴女を見捨てたからイヴは金色の闇と呼ばれる兵器になっちゃった」

「はい、その通りです。貴女と会った時の私は何色にでも染まる純粋な子供でした・・・いえ、まだ赤ん坊のままだったのでしょう」

「そう・・・あの時のイヴの色は白色だった。言うなれば白色のイヴだったけど、その色は私のせいで漆黒の暗い色の闇に包まれて、黒色の闇になっちゃった・・・」

「私はそれが正しい、それをやらないと悪になる・・・本当は殺し屋をやりたくありませんが自分が兵器だと思い込むまでになり、心は無になりました。何故なら私は何色にでも染まる赤ん坊ですから」

「ごめんね、本当に、うぅぅ、ごめんね?イヴっ」

 

ティアーユはただひたすら謝った。数年間兵器として扱われたヤミ、いやイヴを数年分謝り続けた。ティアーユは涙が枯れるほど涙を流し続け、許しをこう。だけど、泣いて謝り続けるティアーユにどんな声を掛けたらいいのかヤミは分からなかった。ヤミは育ての親に伝えなければならない事がある。最近までは生命兵器であり宇宙一の殺し屋金色の闇はある一人の少女によって宇宙一の護り屋ヤミちゃんとなっている事を伝えなければならないと・・・だって、ティアーユは人として大切な事を教えて貰ったのだから。

ーー友人を作ればヤミの世界は変わる

殺し屋金色の闇時代では友人は居なかっただけど、護り屋ヤミちゃんになってからは友人が増えていったのだ。兵器だと知ってもそれが関係無いと一人の女の子として認めてくれる友人が居る。だから、ティアーユを心配させないようにしないといけない。それがヤミにとって、かつてのイヴにとっても"親孝行"なのだから。

 

「でも私の色はまた染まりました。虹色のような色んな色が混ざり合って、それでいてその色は輝いているのです。どの色も邪魔しない色達は私を染めてくれました」

「・・・え?どういう事なの?イヴ」

「かつての私の色は純白でありました。それで漆黒の闇の色になりました・・・そしてまたその色はある人により染まって虹色の輝いた色になってかつてあった闇は晴れて光になりました」

「そう・・・つまりはお友達が出来たという事なのね?イヴ。でも、変な言い回しね?誰の影響なの?」

 

ティアーユの質問に思わず顔を赤くして俯くヤミは、脳裏に無邪気な笑顔で笑う夕崎梨子の姿が過ぎった。その夕崎梨子のおかげでヤミは赤ん坊から子供にようやくなれたような気がしていた。その成長を促した夕崎梨子に

感謝の気持ちを込めてほんの少し口角を上げてヤミさ微笑んだ。

 

「私の大切な親友です」

 

ヤミの言葉に耳を疑って目を見開き驚いた表情を浮かべたティアーユは口を両手で隠していた。かつてティアーユはヤミが幼い時友人を作れと約束したはずだった。だけど、その友人より関係が上な親友を作るなんて夢にも思えなかった。

 

「そう・・・ならその子と会わせて欲しいな?親として娘がどんな子と親友になっているのか見過ごせないわ。だからいつか教えてね?」

「だったら早く会えます。この学校に居るからいつでも会えますよ?」

「え!?この学校に居るの!?偶然ね?何年生なの?」

「二年生です。彼女が居るクラスはAだと聞きました。まだ私はそこに遊びに行っていませんが」

「私のクラスじゃないの!すぐに行きましょうイヴ!こんな所で一人寂しく本なんか読んではいけません!」

 

ティアーユは立ち上がり興奮気味でヤミの腕を引っ張りあげドタバタとした足取りでA組の教室へと向かい、教室の扉を開き、生徒達が食事をしていたが急に現れたティアーユとヤミの登場に驚きを隠せなかったのだ。

 

「誰!?誰なの!?イヴ!まさかここじゃないのかな?ねぇねぇ!」

 

ティアーユは興奮気味でヤミに問いかけるも身体が低いヤミでは人を探すのは少し困難であった。少し背伸びをして目線を泳がせると驚いた表情を浮かべている夕崎梨子の姿が見えたので、ヤミは夕崎梨子に近寄り軽い挨拶を交わしていた。

 

「ヤミちゃん?そうかこの学校に入学したんだね?おめでとう。その制服似合っているよ?」

「ありがとうございますリコ。それよりもリコを紹介させて欲しいとある人がどうしても頼むものでいきなりの訪問になりました」

 

ヤミはティアーユに手招きをし、ティアーユはパタパタとした足取りで歩き、深々と夕崎梨子に向かってお辞儀をして、自己紹介を交わしてゆく。

 

「ティアーユ先生それでボクに何の用なのかい?」

「あのイヴの親友だと聞いて直接見に行こうかと思って・・・貴女だったのね?」

「・・・?イヴ?誰の事なのかい?」

 

夕崎梨子はヤミの本名を知らないので首を傾げて分からない様子を見せた。ヤミはティアーユに耳打ちで自分の事はヤミという名で通しているのでヤミと呼んでくれと頼み、ティアーユはその要求を呑んで頭を縦に振って肯定の意を表していた。

 

「ごめんね?ヤミの事を言ってたんだ。イヴはヤミのあだ名みたいなものでね?あんまり気にしないで?」

「ああ、そういう事か。そうそう、ヤミちゃんと親友かという質問に対してはもちろんその通りだよ。ボクはヤミちゃんの事が好きで信用しているから親友だよ。ね?ヤミちゃん」

 

夕崎梨子はヤミにソッと軽く頭を撫でて、子供扱いされるのが恥ずかしいからかヤミは顔を赤くして夕崎梨子のナデナデ行為から解放したいから逃げていった。

 

「ふふふ、恥ずかしがっているね?ボクとしてはもう少しヤミちゃんの柔らかい髪質を堪能したかったのだけどね?嫌われたらボクは泣いちゃうよ」

「大丈夫ですよ?リコ。いずれ私達の末っ子になるのですから甘えん坊で泣き虫な妹になるといいのです」

 

ヤミの末っ子宣言にティアーユは驚いた表情を浮かべた。末っ子とはどういう意味なのか?そもそもヤミの他にトランス能力を持った人が居るのか知らないティアーユはただその場に立ち尽くし言葉を失っていた。

 

「い、一体どういう意味なの?イヴ」

「言葉の通りで、私には妹がいます。一人は黒崎芽亜ですが後々に紹介しましょう。そして、いつか末っ子になるリコですね」

 

ヤミは、はにかみながら夕崎梨子を末っ子だと紹介しティアーユと夕崎梨子は愕然としていたのであった。



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ダークネス其の十

ティアーユ・ルナティークは急いで御門涼子が居るであろう保健室へと直行していた。

ティアーユは御門涼子に会いたい気持ちが高まり、歩くスピードが早くなり駆け足となっていた。そして保健室の前へと到着し、緊張と駆け足による荒い呼吸となっていたので気分を落ち着かせる為に、軽く深呼吸をしての扉を力強く開いた。

 

「っ!?ティア!?どうしてここに!?」

 

白衣を着た御門涼子が驚いた表情を浮かべ、目を見開いていた。かつて学生時代で共に勉強し、数年間別々の道へと歩み出した友人がいきなり目の前に現れたので御門涼子は度肝を抜いた。

 

「やっぱり御門なのね?会えて良かった」

「そうね、ずいぶんと久しぶりに会ったけど元気そうでなりよりだわ。それよりも、私に再会する為だけに来た訳じゃないわよね?込み入った話ならこっちにおいで」

 

御門涼子はティアーユを手招きし、ティアーユを椅子に座らせ、ティアーユは静かに語った。これまでティアーユが過ごした過去の話、イヴが金色の闇と恐れられている間に星々を転々としてとある組織から逃げていて、そのとある組織はテビルーク王のギドにより壊滅され、ようやく自由になれて落ち着いたから、とある情報屋から御門涼子が地球に居てこの彩南高校の養護教授を引き受けているという話を聞き、ティアーユ自身も教師となり御門涼子と共にまた一緒に学ぼうとしたので今に至ると話した。

 

「そう・・・色々と大変そうだったけどよく頑張ったわね?そのイヴはヤミと呼ばれてみんなに好かれているわ?良かったわねティア」

「うん、あのイヴがこの学校に来ていたのもビックリしていたけどそれ以上に親友が出来たって、顔には出してないけどものスゴくはしゃいでいたよ・・本当に、本当に良かった」

「うふふ、それでその子と会ったのかしら?」

「うん、その子は女の子だけど自分の事をボクって言う不思議な女の子でね?それもどこか男の子の口調みたいで独特な話し方だったわ」

 

御門涼子はティアーユがいう人物に心当たりがあった。その人物の名は夕崎梨子であり、御門涼子自身も少し気になる女性であった。口下手で素直じゃない子供のような彼女ならば同じような子供であるヤミの心を開かせる事は動作もないのだろう。

 

「うふふ、夕崎梨子ちゃんね?その子の名前」

「え!?御門も知っているの!?顔が広いのね?あの子は宇宙人なの?」

「いいえ地球人よ?しかも限りなく地球で一番弱い子よ?素直じゃなくて口下手で人懐っこい子供なのよ」

「そ、そんな子だったらどうして兵器と恐れられていたイヴを・・・いえ金色の闇を受け入れられるの?」

「あの子は・・・リコちゃんは元から金色の闇を兵器として見ていなくただの一人の女の子として見てたんじゃない?」

 

御門涼子の報告にティアーユは心が晴れていた。イヴが金色の闇として荒れていたのに一人の女の子によってイヴがヤミが救われていたのを感じて思わず涙を流していた。

 

「うふふ、そうでしょ?リコちゃん」

 

ティアーユは振り返るとそこに夕崎梨子とヤミが立ち尽くしていた。どうやら彼女達は御門涼子に用事があるらしく保健室へとたまたま立ち寄っていたのだ。途中からだがティアーユの話を聞いてしまった彼女達はばつが悪そうに夕崎梨子は苦笑いを浮かべ、ヤミは悲しげな表情を浮かべ俯いていた。

 

「確かにね、ヤミちゃんはかつて兵器だったかもしれないよ?その過去は変えられないからね」

「リコの言う通りです、トランス能力は私が死ぬまで消える事はありませんでしょう。だから私はずっと兵器なのです」

「でもね?そのトランス能力は今、大切な友達を護る武器になったんだ。兵器と武器は使い道が同じようで違うんだ。兵器は無闇に人を傷つける物ばかりだろう。だけどね?武器は大切な何かを護る物になれるんだよ」

「なら今の私は兵器ではありませんね?だったらその大切な何かを護る剣となり盾となります。私がやれるのはそれだけですよ・・・ティア」

 

ティアーユはヤミの言葉に感動した。人として育てたがどうしても兵器として育てたくなかった。だけど、ヤミは兵器として受け入れるどころか大切な何かの為に護る武器として大事に想っている事がティアーユにとって救いの報告であったのだ。

 

「リコちゃん!私達の事もそう想ってくれたんだね?素敵だよ!リコちゃん!」

「くくく、リコちゃんよ、嬉しい事言うではないか?どれ、褒美として踏んでやろう」

 

いつからか黒崎芽亜とネメシスが保健室へと集まり二人は目に微かな涙を浮かべていた。どうやら彼女達はヤミやティアーユが保健室へと行っている話を耳にして遊びに来たようだった。

 

「貴女達・・・誰なの?一人はこの学校の生徒みたいだけど・・・」

 

ティアーユは制服を身に纏った黒崎芽亜と黒いワンピースを身に纏ったネメシスを交互に見ていた。そんな彼女達は自己紹介し、ティアーユも自己紹介しお互いに知人へとなっていた。

 

「はじめましてになるよね?お母さん!私はヤミお姉ちゃんの妹でね?つまりは私達は家族なんだよ!」

「ええ!?そ、そうなの!?でもこの学校の中ではティアーユ先生と呼んで欲しいなぁ。生徒の目もあるし」

「うん!ティアーユせんせー!」

 

黒崎芽亜は、にぱっと無邪気な笑顔を浮かべてティアーユの手を握り握手を交わしていた。ティアーユはそんな黒崎芽亜の顔を見て思わず笑みをこぼした。かつてのヤミが無邪気な笑みをずっとティアーユに見せていたのを思い出し、ティアーユはヤミがイヴだった時の事を目を閉じて思い出そうとしていた。

 

「ねぇ、ティア?どうしてひとをころしたらだめなの?わたしは兵器でしょ?なんでなの?」

 

小さくて幼いイヴは舌っ足らずでいつもティアーユに甘えて色んな事を聞いてくる。そのイヴは赤ん坊のようでいつもいろんな疑問を聞いてくるので優しい言葉を選んでイヴに兵器ではなく人として育てていた。

 

「あのね?イヴ。今の貴女は兵器なのかもしれない。だけどね?人を傷つけたらダメなの。いい?イヴが心の底から信頼出来るお友達を作りなさい。そしてそのお友達も傷つけずに優しくするのよ?分かった?」

「ん~・・・おともだち?おともだちってなあに?」 

「そうねぇ、なんと言えばいいのか・・・あ、そうだ今の私達みたいに相談したり、その相談を解決する人の事よ?出来そう?そのお友達」

「ティアだけじゃだめなの?今のわたしたちは、おともだちなの?」

「確かに今の私達はお友達よ?だけど、たくさんお友達を作ったら絶対に良い事があるから私を信じてイヴ」

「うんっ!わかった!ティアはいつもほんとーのこと言うから信じる!えへへっ」

 

小さくて幼く可愛いイヴは向日葵のような笑顔を浮かべティアーユに抱きつき約束を交わしていた。そしてその約束は果たされるどころか親友までランクアップされていて、それでいて大勢の友達を作っている事実にティアーユは感動してしまった。

 

「ところでティアーユよ、感動している最中で悪いが話がある。もちろん、ドクター御門にもだ」

 

ネメシスの話を聞く為、ティアーユはハンカチで涙を拭い、真剣な眼差しを向けてネメシスの目を直視する。御門涼子も真剣な表情を浮かべ、両手を太股に置いて話を聞く態度をとっていた。

 

「まず変な事を言うがこれは本当の事だ。だから信用して欲しいとかは言えないがとにかく事実だ。そして他人に言いふらすなよ?後々面倒くさい事になるかもしれんからな」

 

ネメシスの要求にティアーユと御門涼子は大きくコクリと頷いた。そしてネメシスは語った・・・この世界が何千か何万回ほど繰り返されている事、そしてこの世界で起こった事が今まで繰り返された世界とまるで違うらしい事を、更には夕崎梨子というイレギュラーによってまた更に大きく運命が狂われた事を事細かに語った。

 

「そして、ヤミはダークネス化を自分のモノにした」

「!!?ま、まさか!そんな!そうなの!?イヴ!あのプログラムはイヴ自身の意思が失われてあらゆる物を壊すのよ!?」

 

ネメシスの言葉に血相を変えてティアーユは叫んだ。ティアーユ自身そのプログラムをヤミに組み込んだ覚えは無いが、ティアーユを追放した今は存在しない組織エデンによりダークネスというプログラムを組み込まれた話は耳に入れた事があるのだ。

 

「だ、そうだ・・・見せてやれヤミ。今のお前が兵器ではない事を証明しろ。それがお前が大人になった証拠なのだ」

 

ネメシスの言葉にヤミは頷き、ヤミはダークネス化を発動し、身の回りに漆黒のモヤがヤミを包んだ。そして、漆黒のモヤが消え去るとヤミの頭に二本の角が生えて両手に鋭い爪を生成し、黒い布が胸と股間部分に貼りついていてそれがめくれないように細く黒い紐で全身に括りつけていた姿であった。

 

「っ!は、恥ずかしいです!なんでこんな格好になるのですか!私に変なプログラムを組んだ人はえっちぃ人ですね!」

 

ヤミは顔を真っ赤にさせ両腕で身体を巻き付け必死に隠していた。どうやらダークネスを発動するとヤミの心が正常であっても裸に近い格好のようだった。

すぐさまダークネスを解き、制服へと身に纏うヤミの顔は真っ赤になって恥ずかしがっていたのを夕崎梨子は顎に手を添えて考える素振りを見せて観察していた。

 

「ふふふ、今更思うけどヤミちゃんやメアちゃん、それにネメシスちゃんはみんな可愛くて美少女だよね?造った人はとんでもない変態じゃないのかな?」

 

夕崎梨子に全員の視線はティアーユに向けた。ティアーユは目を見開いて「違う!違うわ!」と両手と頭を左右に振って必死に誤解を解いていく。

 

「組織が私の細胞を採ってイヴを造っていたから普通に女の子が造りやすかったと思うし、私自身妹みたいな子が欲しかったけど・・・だけど違うの!」

「つまりはその組織はみんな変態なのかい?ティアーユ先生の言う事が本当ならヤミちゃんだけはその理由でも構わないのだろうね?だけど、一度成功したのなら男性のトランス能力をもった人も造れると思うんだけどどう思うのかい?」

「う、う、うわーんっ!御門~、夕崎さんがイジメる~!助けて~っ!うわーんっ!」

 

ティアーユは思わず御門涼子に泣きすがり、御門涼子はティアーユの頭を撫でて慰めるが、なかなか泣き止まなかったので、夕崎梨子は苦笑いを浮かべるしかなかった。しばらくしたらティアーユは泣き止み、すんすんと鼻を鳴らしながら頬を膨らませ夕崎梨子を涙目の上目使いで睨んでいた。

 

「もぅ、夕崎さんのいじわるっ!悪い子ね?御門から聞いてた話と全く違うじゃないの?どこが口下手なのよ御門!ちゃんと説明して!」

「興奮しないでティア、ちゃんと説明してあげるから、ね?リコちゃんは基本的に口下手なのよ。ね?リコちゃん」

「涼子先生の言う通り、ボクは基本的に口下手だよ。ボクは誤解をされやすいからね?実際にティアーユ先生に誤解されたよ。ボクはイジメている訳じゃないのに、ただの好奇心でティアーユを困らせたよ・・・ごめんね?ティアーユ先生」

 

夕崎梨子は悲しげな表情を浮かべ深々と頭を下げて謝ったのを見たティアーユは御門涼子の言葉をようやく理解した。夕崎梨子は頭や口がよく回るのかもしれない。でも、人の話をちゃんと聞かないとまだ子供の夕崎梨子には理解出来ないのだ。だから、人に確認して自分の認識が正しいかどうかが分からないのだから夕崎梨子は口下手なのだろう。

 

「いいのよ?夕崎さん。貴女の疑問は当たり前だったのよ?私はその疑問にちょっと驚いただけなのよ。だからそんな悲しい顔しないで」

「ありがとうティアーユ先生許してくれて」

 

夕崎梨子は満面の笑みを浮かべ、ティアーユもそれにつられ微笑んだ。夕崎梨子と知り合って間も無いのに安らぎを感じるティアーユはヤミの幸せを祝福した。夕崎梨子ならヤミの心をもっともっと浄化して唯一無二の関係へと変化するのだろう。親友の更に上、大親友でありつまりは家族と言っても過言ではないくらいの親しい関係へとなるのだろう。

 

(あれ?最近イヴが言ってた末っ子っていうのはそういう事なのかな?夕崎さんの事を家族当然として好きという事なのね?うふふ、妬けちゃうわ)

 

ティアーユの考えは九割当たっていた。ヤミは夕崎梨子との出逢いと付き合いで好きへと変貌し更には夕崎梨子を妹認定するようにもなっていた。だけど、まだ夕崎梨子は妹ではなかったのだ。何故ならばこれからネメシスがティアーユと御門涼子にトランス能力を夕崎梨子に与えさせようとするのだからだ。

 

「くくく、ティアーユにドクター御門よ。リコちゃんにトランス能力をつけろ」

 

これからトランス能力三人組による夕崎梨子妹化計画が始まろうとしていた。



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ダークネス其の十一

ネメシスによる夕崎梨子妹計画が彩南高校の保健室にて実行されようとしていた。

その場にいる夕崎梨子、黒崎芽亜、ヤミ、御門涼子、ティアーユは驚いた表情を浮かべていた。

 

「くくく、どうした?メアにヤミよ。リコちゃんを妹にするのではなかったか?そんな驚く顔するな」

「えへへごめんね?マスター。いきなりそんな事言っちゃうからびっくりしちゃった。ね?ヤミお姉ちゃん」

「はい、黒崎芽亜の言う通りです」

 

ネメシスから計画を教えて貰った二人は一旦落ち着くも、夕崎梨子と御門涼子それにティアーユは落ち着かずに困った表情を浮かべるしかなかったのだ。

 

「詳しく話してくれるかしら?ネメシスちゃん」

「そ、そうよ!いくらなんでもその頼みに、はいそうですかと言える訳ないでしょ!?」

 

御門涼子とティアーユは困った表情のままネメシスに問い詰めるがネメシスはニヤニヤと黒い笑みを浮かべて、二人に落ち着けと言い放ち、静かにさせた。

 

「ま、お前達の言いたい事は分かる。けどな、いずれ必要な時がある。先程話した通りにリコちゃんはイレギュラーな存在でな、私達の目を盗んでよからぬ企みをする悪者が現れてリコちゃんを連れ去られたらどうなると思うか?ドクター御門よ」

「そうね、ただじゃ済まない事は分かる。だけど、そうなる前に貴女達が退治したらいいんじゃないの?四六時中ずっと見張れとは言わないけど、リコちゃんの家に居たり、傍に居たりしたらいいじゃないの?」

「はっ!?た、確かに!マスター!御門せんせーの言う通りだよ!私達がリコちゃんの家に泊まればいいだけだよ!それでみんな家族になれるよ!」

 

黒崎芽亜は興奮気味にネメシスの身体に抱きついて夕崎梨子の家に居候しようと提案し、ヤミもその提案に納得しているようでそれはそれでいいと思うようになっていたのだ。

 

「くっ!しかし、改造するしない関係無くリコちゃんに何らかの攻撃手段を与えた方がいいと思うぞ?いくら私達が強いからって、敵がそれより弱いとは限らないぞ」

「でもイヴはダークネスを自分のモノにしたんでしょう?結構な戦力になると思うよ?」

「ティアの言う通りですよネメシス。自慢ではありませんが、ダークネスになった私が負ける気はしませんよ」

 

ヤミは胸を高らかにそしてどこか顔にやる気を感じさせるような表情を浮かべていたのだ。そんなヤミを見た夕崎梨子は微笑みを浮かべヤミの頭を撫でて「ありがとうね、ヤミちゃん」と感謝の言葉を伝え、ヤミは顔をわずかに赤くなっていた。

 

「ふぅー、ネメシスちゃん?そういう事だからリコちゃんにトランス能力は与えられないわよ?悪いわね」

「くくく、そうか。ならば万が一に備えてリコちゃんでも扱える危険ではないモノを作ってくれないか?そればかりは聞いてもらわないとな?ドクター御門にティアーユよ」

「はいはい、携帯用に小型化の何かを作ってあげるわよ。ね?ティア」

「う、う~ん、女の子がそんな危ないモノ振りましたらダメなんだけど、状況が状況だから仕方無いわねぇ」

 

ネメシスの要求に渋々呑む二人は苦笑いを浮かべながら、夕崎梨子を護る何かを作る事にしたのである。そして用事が済んだからかネメシスと黒崎芽亜とヤミは保健室から出て行くが、ヤミと夕崎梨子はどこか顔を赤くしてスカートをモジモジと弄って恥ずかしがっていたのだ。

 

「どうしたの?二人共?具合でも悪いの?」

 

御門涼子は二人の様子がおかしいので風邪なのかと診察するが、どうやら病気でも怪我でもないらしく、二人は声を揃えて御門涼子に伝えたのだ。

 

「ぱ、ぱ、パンツをくださいっ!二人分!」

 

突然の下着の要求に御門涼子とティアーユは目を丸くして驚いた表情を浮かべていた。どうやら彼女達が下着を失ったらしいのだ・・・

事の発端はとある休み時間、ヤミは夕崎梨子に会いに行こうとして二年A組の教室へと移動し、夕崎梨子の姿を目にしてヤミは少し嬉しそうな表情を浮かべ、夕崎梨子の元へと歩んでいた。

 

「やぁ、ヤミちゃん。どうしたんだい?」

「はい、昼休みか放課後を使って、地球の本の内容について聞きたい事がありまして、空いている日を確認をしたいのですが・・・」

「うん、明日の放課後でいいよ?それよりもボク達は親友じゃないか。だから気軽に誘ってくれよ?ヤミちゃん」

「はいっ、そうですね。私達は親友でしかも姉妹なのですからね。姉の言う事を聞くのは末っ子の運命なのですから仕方無いのです」

「ふふふ、本気でボクを妹にしたいようだね?まったく・・・仕方無いワガママヤミお姉ちゃんだよ」

 

ヤミと夕崎梨子の会話がとても興味津々なのか結城リトが彼女達の前に現れ、姉妹とはどういう事かとヤミに問い詰めるとヤミは言葉の通りだと伝えた。しかし、結城リトは怪訝な表情を浮かべ、全然理解出来なかった。ヤミと同じようにトランス能力をもっていないのに姉妹とはどういう意味なのか分からないのも無理はないのだろう。

 

「結城リト、これは女の子だけの秘密な話です。どうしても聞きたいのならば、私を倒してください」

「ムリだよ!返り討ちにされるのがオチだよ!」

「ふふふ、今のヤミちゃんを倒しても第二のヤミちゃん更には第三のヤミちゃんがキミを襲うのだろう」

「なんだその打ち切り漫画的設定は!売れなさそうな漫画だよ!リコお前面白がっているだろ!」

 

三人の漫才のような会話は教室に響き渡り、クラスメイトはクスクスと笑い声を堪えられない様子で彼らの様子を見ていたのである。

 

「結城リト、貴方はその打ち切り漫画の主人公かもしれませんが、何か力を秘めているのでしょう。さぁ、力を見せてください。たいした事はないでしょうが」

「くっ!腹が立つ!いつになくヤミがイキイキしているのは嬉しい事だ!ヤミの目がキラキラと輝いているのは初めて見た!ヤミはこんなにはしゃぐ事があるのか!」

「ふふふ、ヤミちゃんは黒幕役みたいだね?打ち切り漫画的に俺達の戦いはこれからだ、という幕切れで終わりそうだよ。どうする?リト」

 

話がヒートアップし、ヤミははしゃぐようにトランス能力で髪を数本の刀を生成し、自由自在に動かしていた。ヤミの正体は数日前に学校中に知られていてトランス能力を使う事はヤミの常識であると認知されていたのだ。

それはそれとして、ヤミははしゃいでいてトランス能力により生成された髪で作られた刀を振り回したら、思わぬアクシデントが起こったのだ。

 

パサリ、と二つの布が夕崎梨子とヤミのスカートの中から落ちたのだ。一つはピンク色のフリルがついた下着と一つは純白の下着であったのだ。

 

「ーーーっ!?きゃあ!!」

「ーーーっ!?えっちぃのは嫌いです!」

 

二人は顔を真っ赤にして、スカートに手で押さえ思わず座り込み、素早く切られた下着を手に取り、夕崎梨子が結城リトの左頬を、そしてヤミは結城リトの右頬を同時にひっぱたいてしまったのだ。結城リトは悪くないのだが、結城リトは落ちた下着を直視したので乙女の純情を傷つけてしまったのだ。だからやはり結城リトは悪いのだ。そして、下着を求めに保健室へと向かう事にした夕崎梨子とヤミなのであった。

 

「そう、大変ね?下着の替えはいくらでもあるのよ?だから好きなのを選びなさい」

 

御門涼子は女性用下着が多数入っている大きな箱を取り出し、下着を失った彼女達は顔を赤らめながら、内股気味に下着を適当に選び、その下着を装着する事が出来た安心からか彼女達は深いため息を吐いていた。

 

「もう、ダメでしょ?イヴ。無闇にトランス能力を使ったら」

「はい、以後気をつけます。ごめんなさいティア」

「ん、よろしい」

 

ティアーユは微笑みを浮かべヤミを我が娘のように説教し、ヤミの頭を撫でて、ヤミは気持ちよさそうに目を閉じなされるがままに頭を弄ばれた。その様子を見た夕崎梨子は小さく笑い、用も済んだし家族の団らんを邪魔したくないので保健室から出る事にした。

 

「ふふふ、さて涼子先生にティアーユ先生、色々とありがとう。それじゃあ」

 

夕崎梨子はペコリと一礼し、保健室から出てその後に続こうとヤミも御門涼子とティアーユ先生に向けて一礼し、保健室から出て行った。

 

「ふぅ、大変なお友達を作ったものね?リコちゃんは」

 

御門涼子は椅子に深く座り、苦笑いでティアーユに語りかけ、ティアーユも苦笑いを浮かべるしかなかった。ただの地球人の女の子が兵器であるヤミや黒崎芽亜それにネメシスの心を開き共に大切な友人となっていたのだ。

 

「夕崎さんは不思議な女の子ね?本当にただ者じゃない感じがするんだけど、それでもか弱い女の子で脆い子みたいだわ」

「その通りよ、ティア。あの子の周りには常に人が集まって居るわ。あの子は一人ぼっちが嫌で仕方無いみたいだわ」

「つまりは夕崎さんは寂しがり屋なのね?一人が嫌な女の子で甘えん坊なのね、うふふ子供みたいね」

「ヤミも大人になったとはいえ、ティアからしたらまだまだ子供だから子供同士気が合うのかもしれないわね」

 

ティアーユと御門涼子は夕崎梨子の友人関係の広さに関心し、その友人も夕崎梨子の事を好いているのを確認したので心温まる気持ちに胸がいっぱいになっていたのである。

 



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ダークネス其の完

夕崎家に二人の家族と一人の居候が増えた。しかしその人達は夕崎家の長女夕崎梨子とは血は繋がっておらずしかも妹扱いするという奇妙な居候が増えた。

自称夕崎家長女ヤミは夕崎家のリビングにあるソファーで本を読み、自称夕崎家次女黒崎芽亜は洗濯物を干していて、自称夕崎家によく遊びに行く近所のお姉さん的存在のネメシスはニヤニヤと黒い笑みを浮かべて夕崎梨子を観察していて、その彼女らに仕方なくといった表情で末っ子になる運命になった夕崎梨子は深くため息を吐いた。

 

「くくく、リコちゃんよ、家族が増えたのに辛気くさそうな顔をするな。私含め姉が三人も増えているんだぞ?もっと喜べ」

 

ネメシスをはじめヤミや黒崎芽亜もだいたい同じ事を言うので耳が痛くなった。確かに家族が増えるのは嬉しいのだが、夕崎家の本来の長女として後から出来た家族に妹扱いされるのは非常に悲しい事である。しかし、しばらく彼女達と暮らし始めて悪くはないかもと思い始めた夕崎梨子は先から生まれたのに姉だ妹だと言っている彼女達の言葉を深く考えるのを止めてしまった。

 

そんな些細な日常は早くも崩れ去っていた。彼女達四人はピクニックでもしようかと公園へと行く途中、思わぬ人物が現れた。彼の通称はクロであり殺し屋であった。ツンツンヘアーの黒髪で、瞳の色は金色である。精神エネルギーを弾丸に換えて撃つ黒い装飾銃ハーディスを使いこなし、その黒い装飾銃で消し去った標的は千を超え、宇宙最強の殺し屋だとヤミが伝えた。

 

「夕崎梨子ってヤツはソイツか?」

 

クロはどうやら夕崎梨子を殺す気でいるらしく、異常な殺気を放ち、夕崎梨子は恐怖を感じ身体をガタガタと震わせていた。そんな夕崎梨子を殺させまいとヤミ、黒崎芽亜、ネメシスはトランス能力を使い髪や手を刀に変化させ戦闘態勢を整えていた。

 

「夕崎梨子ってのには特に人気でな。何やら世界を滅ぼす危険なヤツだとか、世界の運命を大きく変えるほどヤバいヤツだとかそういう理由で殺しの依頼が殺到している」

「なに・・・?ならばお前を倒したとしても次々に刺客が来るのか?」

「俺より強い殺し屋は居ないからそれは無いな。しかし俺は強いぞ?それでも抗うか?楽に死なせる事も出来るぞ」

「ダメだよ!私達の妹に手を出さないで!」

「妹?トランス能力を持っているのか?その割には弱そうなヤツだ」

「弱い人だからこそ私達の妹なのですよクロ。その妹が末っ子だったら、なおさらで弱くて情けないのは当たり前ですから」

 

クロという殺し屋相手に三人は立ち向かうけど夕崎梨子には身体を震わせるしかできなかった。だけど、彼女達の友人であり、仕方なくだけどお姉さんだからそんな彼女達を信じるしかなかったのだ。

そんな彼女達が守る夕崎梨子を排除するのでクロは装飾銃ハーディスを撃つ為に精神を使い、弾を補充していく

 

「充電、完了だ」

 

クロは銃口を夕崎梨子に向けて放とうとするがヤミと黒崎芽亜によってクロの視界を防いで邪魔しつつ、トランス能力で生成した刀で斬ろうとするも、少しだけ避ける動作だけして腕や脚で二人を殴りとばして、または蹴りとばして黒崎芽亜に銃口を向けて撃つ。その弾は巨大なレーダー砲のような威力であり、黒崎芽亜は危険を感知し、とっさに逃げてその場所にレーダー砲が当たった。するとその場所の地面には大きな風穴が出来ていた。

 

「俺が一番集中力を高められるのは、コイツを持っているだけだ」

 

装飾銃ハーディスを撃つ際に精神を使うので集中力が必要となる。そんな事しった事かとヤミと黒崎芽亜とネメシスはトランス能力で対抗するもクロが強すぎて歯が立たず、三人の姿はすでにボロボロとなり、服があちらこちら破けていて下着の一部が見え隠れしていた。

 

「ならばその集中出来る銃を壊せばいいですね」

 

ヤミはダークネスへと変貌し、頭には二本の角と手には鋭い爪、胸と股間に黒い布がまかれた以外裸のまま、クロに突撃し、ヤミの刀を堅い装飾銃ハーデスでクロは受け止めた。

 

「!ダークネスか!厄介だな!不吉を届けに来やがって!」

「想定外の事にうろたえる位なら最初からこんなことするべきではありませんでしたね」

「俺の命だ、お前達には関係ない事だ」

「そうですね。ですけど、5秒あげますからここから消えてください。今なら見逃しますよ」

「それ以上俺をなめるな、承知しないぞ」

 

クロは力一杯にヤミの刀を装飾銃ハーデスで押しのけ、ヤミに銃口を向けて本気の一撃電磁光弾を発砲した。ヤミはそれに対してダークネスとして本気の実力を出し、惑星断刀というその気になれば惑星を切る技をクロの装飾銃ハーデスと電磁光弾に向けて範囲を狭め、惑星断刀の威力を上昇させると競り勝ち、装飾銃ハーデスは壊れていた。

 

「な!?このオリハルコン製のハーデスが!」

 

どんな攻撃でも耐えるはずの装飾銃ハーデスが壊れたクロをよそに、クロの首元にヤミは刀を突きつけて、すぐにダークネスを解いた。

 

「お前何故止めた?」

「私は護り屋ヤミちゃんです。殺し屋ではありませんので」

「いや、一生過去は切り捨てられるものじゃない、お前がお前でいる限り。俺だってそうさ、生きていくには過去を背負うしかない。だからお前は腐っても殺し屋だ」

「私は兵器ではありません、武器なのです。戦うのではなく、護る為の武器なのです」

「・・・そうか。ならお前の言葉を信じる」

「はい、私は大切な親友を護る武器なのですから」

「いや、お前は兵器でも武器でもない、ただの人間だ」

「もしそうなら私はいつしか人間になっていました」

 

クロは戦う術を失い帰る事にした。そして宇宙中の殺し屋に夕崎梨子の近くに居たら絶対にやられるぞと釘を刺し、宇宙を彷徨っていった。金色の闇がダークネスを使い、そのダークネスは惑星を壊すほどの力を持っているけど、その力を利用せず親友を護る為に使うのを見に持って痛感し、クロは殺し屋から足を洗うことにした。ヤミが大きく変わったから今度は自分も変わる番だと決心し、しばらく旅を続けていくのであった。

 

一方、結城リトは西連寺春菜の元に告白しようと猿山ケンイチ協力のもと学校の屋上へと西連寺春菜を呼び出した。結城リトは鼓動が早くなり顔も真っ赤になりつつ、まだか、いやもう少し待って、いや告白するんだと堂々巡りの考えをしていると屋上に西連寺春菜の姿が見えてきた。

 

「結城くん?何の用なの?猿山くんから屋上に居る結城くんが呼んでいるからって来たけど・・・」

 

西連寺春菜も胸の鼓動が早くなっていた。その場には二人きりであり、しかも呼び出しとならば意識せざるを得ない状況であり、更には西連寺春菜は結城リトを慕っているから顔をほんのり赤くして期待するように彼へと近寄り歩くスピードが速くなっていた。

 

「お、おまたせ」

 

西連寺春菜は結城リトの真っ正面へと辿り着き、彼らとの間の距離約1メートルであった。結城リトは可愛くて好きな西連寺春菜の顔を見るとやはり顔を赤くして口がカラカラと渇くように緊張して手に汗を握っていた。だけど、伝えなくてはと思い、目をギュッと閉じて叫んだ

 

 

「お、オレ!好きだ!!付き合ってくれ!!」

 

言えた。ちゃんと言えた。ハッキリと伝えた。二人きりの状態で西連寺春菜に好きだと伝える事が出来た。だけど、その答えは出なかった。いや、出されなかったのだ。ララが突然空から飛んできて結城リトの正面に現れて満面の笑みを浮かべていたのだ。

 

「ホントに!?よし!なんだったら結婚しちゃえ!」

「ら、ら、ララ!!?」

 

結城リトは混乱していた。ララは居なかったはずなのにララが出現した事に。更には西連寺春菜に誤解を生む事になっていた。結城リトはララが好きなのか?と考えるが首を横に振ってそれはないと感じた。結城リトが本気でララを好きで付き合いたいと告白したならば今目の前でイチャつかれられている結城リトの真っ赤な顔をしているが止めろと叫んでいるのはおかしい事だ。

結城リトが好きな人とスキンシップをするのが嫌なはずはない。ならば先ほどの告白は西連寺春菜に言っていたという事になる。もしそうならば、結城リトが西連寺春菜が好き、西連寺春菜は結城リトが好きという両想いが成立した瞬間になるだろう。だから伝えなくてはと、彼に想いを、そして彼の返事を、西連寺春菜の口と気持ちでちゃんと伝えないと、と西連寺春菜は必死に顔を赤めるのを我慢してみるもどんどんと赤くなっていって胸の鼓動が早くなる一方であった。しかしそんな事はどうでもいい、早く、早く、早く結城リトに想いを伝えろ。

西連寺春菜は自分を応援し、口を開いた。

 

「ゆ、ゆ、結城くん!わ、わ、わ、私も、す、す、好きです!」

 

言えた。ちゃんとハッキリと伝えた。西連寺春菜は顔を真っ赤にしてまでも伝えた。結城リトも西連寺春菜の言葉に顔を真っ赤にした。彼らは正真正銘の両想いの関係となるはずだった。しかし、ララの一言により彼らの運命は大きく変わろうとした。

 

「そうなの!?良かったね!リト!私の惑星じゃ一夫多妻制が常識なの!だから一緒に暮らそう!ね?いいでしょう!?決まり!」

 

ララは結城リトと西連寺春菜の身体をひっつかせ、更にはそれに覆い被さるようにララは抱きついた。その時、世界の運命が変わろうとしていた。これまで結城リトは西連寺春菜が好きではあったがララとの結婚をして世界はループしていた。その場には西連寺春菜が居ないし、この世界には夕崎梨子は存在しないはずだった。これらの要因で世界は繰り返されるという事実が無くなり、ララと結城リトの頭に未来は突然やって来た。かつて高校生活を送った記憶とララとの結婚、そして世界を繰り返すアイテムを使って何度も何度も何度も繰り返してはララとの結婚をしてはゼロからの関係。それらの記憶が彼らに襲いかかった。

 

「・・・っ!ら、ララ!オレはーー!」とかつてララの夫としての結城リトはララに愛の告白をしようとしたが、「ダメ!!リトは春菜のこと好きなんでしょ!?」とかつての結城リトの妻ララは叫んだ。ちゃんと想いを伝えて両想いになった結城リトと西連寺春菜の気持ちを無下にはしたくなかった。結城リトの事は大好きだけど、西連寺春菜も大好きなのだ。

 

「私はリトが好き、それは誰にも譲れない事。春菜もリトが好き、それも誰にも譲れないはずだよ。私は春菜の事好きだから傷つけたくないし、一緒に居たいの」

「・・・分かった。けどな、一つだけ言っておくぞララそれに西連寺・・・いや春菜ちゃん聞いてくれ」

「は、はいっ」

「オレは心の底からララと春菜ちゃんの事が好きだ。堂々と浮気しているような事をしてて心底イヤだろう、オレに愛想が尽きるだろう。だけど、お前達と居た時間は楽しいし、オレはもっとララと春菜ちゃんの傍に居たいが恋人になってくれとは言わない。だけど、もう一度だけ言うぞ?オレは心の底からララと春菜ちゃんが好きだ」

 

結城リトはケジメをつけた。かつてララとの結婚して愛すると誓ったのに今さっきまでは西連寺春菜の事が大好きで恋人になりたいと願っていた。ララと西連寺春菜は結城リトの想いをしっかりと受け取り、彼を許した。そして二人は声を揃えて「好きだよ」と伝えた。彼女達は結城リトの事が好きだからその彼が好きと言うのであれば返事しなければなかった。心の底から好きだよと。

 

「ありがとう、ララ、春菜ちゃん」

 

彼らは抱き合い、恋を、愛を育む事を誓った。



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エピローグ

最後までお付き合いくださりありがとうございました。
だいぶ大急ぎで終わらせました事をお詫び申し上げます。文才とストーリー構成がダメダメであるのは分かっています。しかし、書いてて楽しかったです。

次回はワンパンマンの作品です。
すぐに投稿します。


繰り返す世界が終わり数年経ったある日、地球という惑星の中の日本という国の中に小さな土地が複数あり、その土地のごくごく一部の片隅に3LDKの大きな木造建ての家がチョコンと建ててあった。その家の主の名は結城リトである。

 

彼には二人の嫁が居て、日本ならば絶対にあり得ない一夫多妻制の家庭だったが、ララ・サタリン・デビルークを正妻として迎えてデビルーク星の婿入りする事で一夫多妻制となる事が出来た。彼らはよく相談し、よく考え、決断した結果なので後悔はしていなかった。そしてセリーヌは幼女の姿から少しだけ成長し、中学生のような姿をしていた。

 

「よし、閉店の時間だ。おーいララ、春菜、セリーヌ!リコのところに遊びに行くぞー!」

 

結城リトは花屋を経営しており、彼の植物知識やキレイな花の種類が豊富となり、テレビや雑誌にでも紹介されるほど有名ブランドとなり、複数のチェーン店を日本各地に建てて、愛する三人の協力を経て何気ない日常を遅れる事になり、結城リトはありがとうと二人の妻の口に、そしてセリーヌにはほっぺにキスをして愛情を深めていく。

 

「リトー!もう一回!もう一回キスしてー!」

「ちょ、ちょっとララさん!?ダメでしょ!わ、私もキスしたいのに・・・」

「私もキスしてー!」

 

ララ、西連寺春菜、セリーヌの順に結城リトに愛情表現を交わしたくて交わしたくてたまらないようすだったので結城リトは微笑みながら二度目のキスをした。女に免疫があっても大好きな彼女達にキスしないと大好きだという彼女達に夫として示しがつかないのだ。その様子を遊びに来た結城美柑は冷たい視線を送りまたやっているよと言わんばかりの表情を浮かべていた。彼らがキスしている姿を目撃した数は数え切れないほどだし、キスしないと日常生活が送れないのかと叱った事もあるけど、彼らはそんな事気にせず、堂々とキスしていたのだ。

 

「どんだけみんなの事愛してんのよリト」

「ぅぅ、ごめん美柑。あ、そうだ近くにパーティーがあるんだろ?行こうぜ。リコが待ってるかもしれない」

「まーたあんたは誤魔化す。ま、リコねぇの顔に免じて許してあげる」

「ははは、良かった」

 

彼らは自宅を出て、しばらく歩く事二十分が経ち、彼らの目の前にはドームのようなパーティー会場があり、その会場は天条院紗姫のプライベート会場であった。彼らを待ちくたびれたと純白なドレス姿で現れた天条院紗姫は声高らかに「おーっほっほっほ」と笑っているのを冷たい目線で見る結城リト一同は天条院紗姫にパーティー会場に招いた事への感謝の言葉を伝え、早速パーティー会場に向かった。

 

そこにはかつての彩南高校で世話になった御門涼子やティアーユをはじめ結城リト達のクラスメイトの姿が全員集合していた。そして、かつてクラスの名物となっている夕崎梨子と古手川唯の口喧嘩は今でさえも行っていたのだ。彼女達はお互いに素直になれず、いつも喧嘩しているけど、顔は満面の笑みを浮かべ、楽しいし懐かしいという気持ちが読み取れるほどに彼女達は興奮していた。

 

「あらあら夕崎さん、あなた結婚しているのですってね?将来の夢はお嫁さんだったのかしら?本当に女の子の中の女の子なのね」

「ふふふ、ボクはようやく正真正銘の女の子になれたよ。口下手や素直じゃない性格は全然治らなかったけどね、ボクはそれを誇りにしているよ」

「それにしてもあなたのその口調はどうにも出来なかったのかしら?旦那さんとイチャイチャしたらその口調はどうなるのかしら?」

「ふふふ、唯ちゃんの期待に背くけどそうはならなかったよ。ただ・・・あの、け、結婚初夜は、は、激しかった、よ」

「な、な、なななな何を口走ってるの!ハレンチな!」

 

夕崎梨子と古手川唯はお互いに顔を真っ赤にして大慌てする中、パーティー会場に用意してあったスイーツを一心不乱に食べている三人の姿があった。ヤミはたいやきを口の中に突っ込み、黒崎芽亜はケーキを口に詰めたり、ネメシスはみたらし団子を口に頬張っていた。

 

「このたいやきは兵器ですね、私が処分しないと」

「うんうんっ!私達がやっつけないといけないよ!」

「くくく、私達がやられる訳がないがこのスイーツとやらやりおるからな」

 

その彼女達は夕崎梨子の家にずっと居候し続け、宇宙に帰るという考えを一切考えず、まるで地球が故郷だと言わんばかりの図々しさに結城リトは脱帽した。そんな最中、親友の猿山ケンイチが笑みを浮かべ結城リトに近づいてきた。

 

「おーい!リトー!久しぶりだなー!元気してたか?」

「ああ、結構大変だけどな」

「二人も嫁が居るのはズルいけどな」 

「う、うるせ-。オレは愛しているから仕方ないよ」

「ま、俺は嫁どころか三人の美少女に囲まれてるんだぜ?こっちは四人の美少女だ!羨ましいだろ!」

「あー・・・アイツらか。食費とか大変な事になるだろ?そっちこそ大丈夫なのか?」

「うっ!そ、そうなんだよ!助けてくれよー!アイツらとんでもねー胃袋を持ってやがる!俺の可愛くて愛くるしくてとんでもねー可愛い嫁はそれを見てニコニコするだけだよ!どうだ!参ったか!」

「可愛いをどんだけ連呼してるんだ?そして何故勝ち誇るんだ?」

 

猿山ケンイチの妻は夕崎梨子であった。猿山ケンイチは夕崎梨子に付き合ってくれと告白したら夕崎梨子はそれを二つ返事で了承し、数年の付き合いをしてそれから猿山ケンイチは夕崎梨子に結婚のプロポーズをした所、それも二つ返事で了承した。つまりは彼女になれーーうん、いいよ。妻になれーーうん、いいよと、とんとん拍子で結婚したのだ。夕崎梨子はそんな彼の事をいつしか好きになり、愛しているという気持ちへと変化していたのだ。

 

「リコー!愛しているー!俺は愛しているぞー!」

 

猿山ケンイチは会場に響くように叫び、顔を真っ赤にした夕崎梨子は猿山ケンイチの頭をポカッと軽く叩き、「ば、ば、バカッ!アホ!間抜けなサルくん!」と悪口を言って怒っていたので猿山ケンイチは土下座する勢いで謝るけど、夕崎梨子は頬を膨らませて怒っていたので猿山ケンイチは夕崎梨子の唇を自分の唇で奪った。

 

「~~~っっっ!!ぅぅぅ!は、は、恥ずかしい!」

 

夕崎梨子は顔を真っ赤にするけど、口元がニヤニヤとして非常に喜んでたようでそのニヤケ面はパーティーが終わるまで続いていた。

 

「リコ良かったな?猿山とキス出来て」

「う、う、うるさいなっ!二人も嫁にしているくせに生意気だよ!」

「うっ!気にしている事をズバッといいやがって!」

 

彼らがやいやいと騒ぎ出したので籾岡理沙や沢田未央、村雨静と御門涼子とティアーユが自然と集まり、結婚している彼らを祝福していた。

そして少し遅れてザスティンとギドとナナとモモが現れ、またもパーティー会場は大盛り上がりとなっていた。そのパーティーが終わり、結城リト宅へ結城一家とナナとモモ、夕崎夫婦とトランス能力三人組は二次会をやる事にし、結城リト宅はごった返しとなっていた。

 

二人の妻を持つ結城リトはナナやモモに二股ケダモノと呼ばれ、セリーヌは結城リトの背中にひっついて喜んでおり、ギドとザスティンは酒やつまみを用意し、結城美柑はお菓子やジュースを大量に運び出して二次会の準備をして、猿山ケンイチは夕崎梨子とイチャイチャして猿山ケンイチが告白したら夕崎梨子は顔を赤らめ、ヤミは黒崎芽亜とネメシスと共に結城家を飾り付けに勤しんでいた。

 

そして、結城美柑による大きな手作りケーキで締めくくり、真夜中になるまでどんちゃん騒ぎでいつしかみんなは眠っていたが、二人だけは起きていて、その人物は結城リトと夕崎梨子であった。寝ているみんなを起こさないようにベランダに出て、手すりに寄り添うように空に浮かぶ星空を眺めていた。

 

「あー騒いだ騒いだ。楽しかったな、リコ」

「ああ、なんだかんだ楽しんだよ、リト」

「あはは、それは良かった」

 

他愛の無い会話をしている彼らはふと高校生活を思い出していた。いきなり結城リトの前に宇宙人ララが現れ、見知らぬ夕崎梨子が現れ、金色の闇ことヤミは殺し屋から護り屋に転職し、幽霊騒ぎに首を突っ込んで、ゲーム世界に入ったり、文化祭は楽しかったから賑やかになって、植物から人間が生まれたり、世界がループしているとか有り得ない事実があったりと様々は出来事が彼らの脳裏に浮かんできた。それもこれもララや夕崎梨子が中心となっていてどれもこれもがいい思い出となり、宝物となっていた。

 

結城リトはララはもともと愛していたみたいだし、西連寺春菜も愛するようになっていた。もともと女に免疫がなかった結城リトだけど、夕崎梨子との出逢いと親友としての付き合いで少しは免疫がついたから感謝した。

夕崎梨子は猿山ケンイチと結婚し愛を育む妻となったけど、結城リトとの関係は変わることはないだろう。だけど、やはり夕崎梨子の不思議さを感じるので再び聞く事にした。

 

「なぁ、リコ。お前は本当に何者なんだ?そろそろ教えてくれよ。地球人以外の答えでも驚きはしないよ」

 

結城リトはただの好奇心で聞いてみた。夕崎梨子が実は宇宙人もしくは未来人はたまた異世界人と言っても驚きはしなかった。いや、そうだったとしても結城リトは夕崎梨子の親友だ。その親友の問いに若干戸惑った夕崎梨子は困った顔をしたけど、すぐに普段の満面の笑みを浮かべ答えてくれた。

 

「リトの親友かつサルくんと結婚した地球人の夕崎梨子だよ。いや、猿山梨子だ。気軽にリコちゃんと呼んでくれ」

 

それが当たり前だと。それが常識だと答えてくれた夕崎梨子改め猿山梨子の笑みを見て結城リトは微笑んだ。

 

「ーーああ、そうだったな、リコちゃん」

「ふふふ、初めてちゃん付けされたね?しかしボクの歳を考えるとちゃん付けはいただけないだろうね」

「何でだ?女の子は年下と思われれば嬉しいだろ?」

「確かに女の子は若く見られたい傾向かもしれないけど、子供扱いされるのは嫌いなんだよ」

「難しいな、女の子って」

「ああ、ボク自身も女の子が面倒くさいと思っているよ、やれやれ参ったな」

「あははは、また負けたな、リコ」

「ああ、ボクは常に敗北者だ。唯ちゃんに口喧嘩に負け続け、ヤミちゃんにメアちゃんにネメシスちゃんには妹扱いされるし、サルくんには心を奪われたし散々だったよ。でもね?ボクはそれを誇っているんだよ。みんなみんな大好きだからね」

 

彼らは微笑み合って、ベッドに潜り眠りについた。明日も愛する者とトラブルめいた日常もしくは何気ない日常を送る為に今日という日を大事に大事にしなければならないと彼らは心に誓い、また明日も元気に楽しい事が起こりますようにと願いながら運命と恋は動き続けていたのであった。

 

ToLOVEる~変わりゆく運命と恋~ 完



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