長門型とただ駄弁るだけ。 ( junk)
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猥談

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「なあ長門、猥談しないか」

「いいだろう。望むところだ」

 

 望むところなのか。

 試しに言ってみたら、思いの外長門がノリノリで困った。

 「女性に何を言ってるんだ!」というツッコミか、あるいは「そ、そんな事話せるわけないだろっ!」という乙女的リアクションを期待していたのだが。

 

「実は前々から気になっていたんだがな、この鎮守府は女所帯ではないか。やはり、提督はムラっとくるのか? ムラっと来たとして、性処理はどうしているんだ」

「ふむ。まあぶっちゃけた話、ムラっとは来るな。夕立とか時雨はボディ・タッチ激しいし、金剛なんかは好き好きアピールしてくるから。そもそも長門、お前も服の露出度高すぎるだろ」

「私は肌を露出する事に興奮するタチだからな。これでも譲歩してるんだぞ? むしろ、最低限の部分だけでも隠している事を褒めて貰いたいな」

 

 こいつ、度し難い変態だな。

 

「話が逸れたな。提督よ、それで性処理はどうしているのだ」

「なんだ、お前やけにグイグイ来るな」

「ビックセブンだからな」

「他のビックセブンに謝った方がいいと思うぞ」

「この長門、己の発言に恥ずべき事など一つとしてない。故に、私は謝らない」

「そうか」

 

 どうやら自覚がないらしい。

 

「話が逸れているぞ」

「そうだな。私も覚悟を決めるよ。ぶっちゃけ、鎮守府内で抜いていないな。というか、不可能だ。朝から夕方までは秘書艦の一航戦が付きっ切り。夜は軽空母や戦艦達の飲み会、もしくは駆逐艦や軽巡洋艦が突発的に遊びに来る。深夜は深海棲艦がいきなり攻め込んでくる可能性があるし、金剛や榛名が夜這いしようとするからな。隙がない」

「そのまま襲ってしまえばいいのではないか?」

「バカ。ケッコンカッコカリしていない艦娘と行為に及ぶ事は、軍規で禁止されているだろ」

「む、そうだったか……。では、結局どうやって性処理をしているのだ。店か?」

「まあ、そうなるな。後は外回りの仕事の時、トイレでチョチョっととかだな」

 

 私の言葉を聞いた長門は「ほお……」と言って目を瞑った。想像しているな、こいつ。

 

「そう言う長門はどうなんだ。陸奥と同室だろ」

「私の場合はぶっちゃけくちく──」

「真顔でなんて会話してるのよ」

 

 湯呑みと急須を持って、陸奥が話に入ってきた。

 私と長門が淹れるお茶より、陸奥が淹れたお茶の方が格段に美味しい。同じ道具とお茶っぱを使ってるのに、何故だろうか。

 陸奥が湯呑みにお茶を注ぐ。

 ふむ。陸奥のようなパッと見奇抜な女性が急須を手に持ってると、何故か魅力的に映る。

 

「ありがとう、陸奥」

「いえ、いえ」

 

 お茶を飲んだ後、コタツの上に常備されているみかんを食べる。落ち着くなー。

 

「さて、何の話をしようか」

「そうだな、この長門が抱腹絶倒でありながら泣けて、人生の教訓にもなる話をしてやろう。この間私が扶桑と買い物に行った時の事なんだがな──」

「ちょっと、ちょっと待って」

 

 長門の抱腹絶倒でありながら泣けて、人生の教訓にもなる話を陸奥が止めた。

 一体なんなんだ。

 

「さっきまで猥談していたでしょ。どうして私が入った途端、止めるのかしら?」

「そりゃあお前、なあ?」

「ああ、うむ。そうだな。その、妹よ。言い辛いんだが、お前はちょっと……生々しい」

「生々しい!?」

「長門と猥談した場合、ゴリラも性に興味あるんだな〜程度にしか思わないが、陸奥と猥談した場合、確実に催す」

「催す!?」

「おい、今私のことをゴリラ扱いしなかったか……?」

「例えば私が長門にお前性処理はどうしているんだ、と聞いたとするだろう。これは笑い話ですむ。しかし陸奥に聞いた場合、確実にセクハラかAV前のインタビューになる。R─18だ。まあそんな訳で、陸奥とそう言う話をするのは躊躇われるわけだ」

 

 長門と私の言葉を聞いた陸奥は、ぐでーとコタツに突っ伏した。

 

「私っていっつもそういう扱いなのよね……。カフェに行くのには誘われるのに、居酒屋には誘われない、とでも言えば良いのかしら。私だって安酒飲んではっちゃけたり、猥談をして盛り上がったり、火遊びがしたいのよ!」

「そう言えば確かに、陸奥はあまり軽空母主催の飲み会であんまり見ないな」

「そうなのよ。その点、ここ以外では仏頂面で堅物な提督や長門は、何故か毎回誘われてるわよね。どうしてかしら」

「仏頂面で堅物なんじゃない。コミュニケーションの必要性を感じないだけだ。なあ、ナガト・ナガト」

「おい、今私のことをゴリラ扱いしなかったか……? 私だって、乙女なんだぞっ!」

「そうか。すまなかったな、メスゴリラ」

「よし、分かった。表に出ろ」

「だってさ、陸奥」

「どう考えても提督でしょ」

 

 陸奥に呆れられた。

 そう言う大人っぽいというか、一歩引いたところが飲み会に誘われない原因だと思うぞ。

 ここで「上等だゴラァ!」とか言って長門に掴みかかってたら、きっと鎮守府の人気者になれていた。

 

「ふっと気になったんだが、長門と陸奥は、他の船だと誰と仲が良いんだ?」

「私はよく武蔵や那智と一緒に鍛錬をするな。他には球磨や多摩、二航戦なんかとお茶をしばくぞ。逆に仲が悪いのは大和だな」

「しばくぞってお前……。それに、仲悪い奴の名前とかあげるなよ。次艦隊を編成する時、頭をちらつくだろう」

 

 いや、長門と大和の仲が悪いことにはなんとなく気がついていたがな。それでも明言してほしくなかった。

 

「なあ、お前は鍛錬というか、筋トレを良くしてるが、筋肉がついて何か意味はあるのか? 腹筋とかバッキバキだけど」

「ないな。私の力は82000馬力、筋力が多少向上した所で全く意味はない。ぶっちゃけ趣味だ」

 

 趣味なのかよ。

 

「私は愛宕や高雄、翔鶴、鳳翔、赤城と仲良くさせてもらってるわね。昨日も一緒に、新しく出来たカフェに行ったわ」

「なんだ、その婦人会は」

「婦人会!? ──婦人会!?」

「二回ツッコンだな」

「一応聞くが、その婦人会ではどんな会話をするんだ? 夫の愚痴とか、子育ての大変さとか、幼稚園のママ友がギスギスしてるって話とかか?」

「だから、婦人会じゃないわよ! いえ、婦人会でそう言った話をしているのかは知らないけれど。でもそうね……その時はそのカフェの雰囲気の話をした後、鎮守府のお話をしたわね」

「へえ、どんな」

「姉妹の話や、提督のお話よ。日常会話ですもの、そんなに内容を覚えているわけではないわ」

「ふーん」

「尋ねておいて興味なし!?」

「まあ陸奥の話は置いておいてだな。提督よ、貴方は誰と仲が良いんだ?」

 

 それはなんとも、難しい質問だ。

 艦娘達とは、できるだけ平等に接するようにしている。何処から不和が出るか分からないし、その不和が戦いにどんな影響を及ぼすかわからないからだ。

 というか、そもそも答えて良いものなのだろうか。上に立つ者が特定の誰かと仲良くしている、と明言するのはダメな気がするが、しかし……

 まあいいか。この二人だし。

 

「比叡と青葉、北上、瑞鶴あたりだな」

 

 金剛や羽黒なんかにも仲良くしてもらってるが、あれはまたちょっと別な気がする。

 

「へえ。お姉さんちょっと意外かも。どんな話をするの?」

「うむ。比叡とはもっぱら、金剛についてだな。後は一緒にキャッチボールしたりする。青葉からは鎮守府内で出た不満を聞かせてもらってる、上司の私に面と向かって意見を言うのは難しいだろうからな。北上とは一緒にぐでーっとしてるだけだ。瑞鶴とは、一緒に加賀に全力でイタズラを仕掛けている。この間は加賀の歌をこっそり録音して、CD化したものを二人で勝手に売ったな。勿論、売り上げは加賀に送っておいたぞ」

「何してるのよ……」

「私もCD出そうかな」

「ちょ、長門?」

「ゴリラの鳴き声CDか。マニアに売れそうだな」

「良し、お前ちょっと表に出ろ」

「すみませんでした」

「許さん」

「あの、ホント勘弁して下さい。この後塾とかあるんで……」

「塾て。どれだけ追い詰められてるのよ」

「許さん」

「貴女も頑固ね……」

 

 会話を止め、お茶を飲む。落ち着くなー。

 今更だが、陸奥はちゃんとオシャレなクリーム色のセーターを着ているのに、どうして長門はいつも通りの高露出度ファッションなんだ。

 露出狂なのか?

 ああ、露出狂だったな。

 

「って、あー! 話が逸れてるわよ! 猥談しましょうよ、猥談!」

 

 修学旅行で夜寝る前にやたらテンションの高い男子高校生か、お前は。

 そんなに気合入れてするものではないだろう、猥談って。

 

「言い出しっぺの法則だ。陸奥から話せ」

 

 長門も随分グイグイ行くな。妹の猥談とか、聞いて大丈夫なのか?

 

「この間、愛宕と高雄と銭湯に行ったのだけど、お風呂上りの高雄を見てたら、物凄くムラムラしちゃったのよね。それで思わず揉んだのよ、尻とおっぱいを。高雄と私のスタイルってほとんど同じなのに、どうして他人の尻とおっぱいだとああまで触り心地が違うのかしらね」

「すまん。ちょっとトイレ行ってくる」

「止めろ。もう一度言う、止めろ。今のは陸奥が悪いが、それは止めろ」

 

 立ち上がろうとする私の腕を、長門が掴んで止めた。

 上官命令を使ってこの手を解かせるかどうか、人生で最も難しい問題であった。

 

「陸奥、やはりお前はちょっと生々しすぎる」

「そうだな。次はもうちょっとこう……抑えめにしてくれ」

「そうねえ。この前、提督の執務室に行ったら加賀さんが提督の椅子で──」

「止めろ! 止めろ、止めろ! はい、もうこの話終わり! 陸奥、お前ホント、今日ちょっとおかしいぞ」

「提督の言う通りだ。何があった」

「何もないわよ! 私は元々こんな性格なの! 私だって、私だって偶にはツッコミを止めて、はっちゃけたいのよ! 今日は好きなだけ火遊びするんだから! 提督、長門付き合いなさい!」

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。



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趣味

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「なあ長門。一つ聞いてもいいか」

「なんだ。何でも聞くがいい。提督の質問に答えられぬほど、器量の狭い私ではないぞ」

「武道の達人とかが、眼を見れば嘘をついてるのかどうか分かるとか、拳を交えれば相手の考えが分かる、みたいなのあるだろ。あれって本当なのか?」

 

 誰もが一度は聞いたことがあるだろう。

 こいつは嘘をついていない、眼を見ればわかる。気に入った、君の眼には何かがある。拳を通して伝わってくるぞ、お前がこれまで歩んできた道筋が。

 子供の頃の私は、何とも愛くるしい事に、それらの逸話を信じていた。しかし学校の先生は私ではなく、いじめっ子の山本君が嘘をついているという真実に、私の眼から辿り着いてはくれなかったし、殴り合っても山本君とはひたすら険悪な仲だった。

 しかし、だ。

 最近になって私は、山本君と暴力以外のコミュニケーションが取れなかったのは、私の練度が不足していたからではないか、という考えに至ったのだ。

 パッと見ただけで運動してそうかしてなさそうか、真面目そうか不真面目そうかなど、我々は見ただけで大まかな人物像を把握する事が出来る時がある。

 そこで武の道を極めてる言っても過言ではない長門ならば、拳や眼で相手の心情や言葉の真偽が分かるのではないだろか、と思ったわけだ。

 

「結論から言おう、無理だ」

 

 無理だった。

 

「まず眼を見て嘘を見抜く、という方だがな。メンタリズムというものがあるが、それに近いことなら可能だ。だがしかし、眼だけではな。不可能に近い。最低でも手や口を見たり、可能なら肌や血管を触って発汗具合や脈の早さも知りたいな」

「ふむ。だが逆に言えば、それらの条件が揃えば、相手の心を読む事が出来るのか?」

五分五分(ごぶごぶ)といったところだ。実際のカウンセラーやメンタリストは、相手を入念に調べる。趣味、嗜好、交友関係、過去、家庭事情、それらを一つ一つ前例に当てていって、初めて高いレベルのプロファイリングに成功するのだ」

「なるほど。そしてあたかも何を調べていない、という顔をして、眼の動きで嘘か誠かを言い当てましたと言い張るわけか」

「そういうことだ」

 

 武道の達人である長門が言うのなら、きっと間違いないのだろう。

 ちなみに、私も提督になる時武道を習わされた。提督に選ばれると、剣道か薙刀と柔道か空手、それぞれ一つずつ武道を納めねばならないのだ。

 剣道は中学生の時部活でやっていたから、柔道だけだったが、やはりそこでも対戦相手と心が通ったことはなかった。むしろ、殴られた時などはぶっ殺したくなった。

 

「では、拳を交えて意思疎通の方は?」

「それは全く出来ないな。強いて言うなら、ボディ・ブローが腹筋を貫いたな、と思う程度だ」

「なるほど」

「何の会話してるのよ……」

 

 湯呑みと急須を持って、陸奥が話に入ってきた。

 私と長門が淹れるお茶より、陸奥が淹れたお茶の方が格段に美味しい。同じ道具とお茶っぱを使ってるのに、何故だろうか。

 陸奥が湯呑みにお茶を注ぐ。

 ふむ。陸奥のような身体のある一部がふくよかな女性が屈んでお茶を淹れると、色々とおいしいな。

 

「時に、陸奥。長門は筋トレが趣味らしいが、陸奥は何か趣味はあるのか?」

「趣味? うふふ、お姉さんの趣味がそんなに気になるのかしら」

「気になるから質問してるんだろ。バカか?」

「ねえ、ちょっと辛辣すぎじゃない……?」

「それで、陸奥の趣味は何なんだ」

「謝罪もなしで進むのね。まあいいわ。私の趣味は──」

「待て!」

「ヒデブッ!?」

 

 長門が陸奥の喉にチョップを入れ、言葉を止めた。長門の力は82000馬力、ついでに息の根も止まりそうだ。

 

「ここは陸奥の趣味を当てゲームをしようじゃないか」

「語呂が悪いな」

「やっぱり、今日私の扱い雑じゃない?」

「では、この長門から行かせてもらおうか! ズバリ、井戸掘りだ!」

「うん。普通に不正解。なぁに、その訳のわからない趣味は。そもそも、趣味と言えるの、それ」

「よし、次は私だな。そうだな、ハーブティーを飲むこととかか?」

「残念ながら、不正解よ。……今更だけど、提督の中の私のイメージって完全に婦人よね。いえ、婦人の方がハーブティーを飲んでるのかどうかは知らないけれど」

 

 不正解だったか。だが飲んでそうじゃないか、ハーブティー。

 ちなみに、今三人で飲んでいるのはほうじ茶だ。

 

 陸奥の趣味を当てゲームだが、ヒントも何もない状態では、推理も何もあったものじゃない。

 数うちゃ当たる。長門、私、長門、私の順番でどんどん答えていく事にした。

 

「リンボー・ダンス」

「不正解」

「カフェ巡り」

「不正解」

「水芸」

「不正解」

「昼ドラ鑑賞」

「不正解」

「リンボー・ダンス」

「不正解」

「新人男アイドル掘り」

「不正解」

「西瓜割り」

「不正解」

「観葉植物の育成」

「不正解」

「リンボー・ダンス」

「不正解」

「リンボー・ダンス」

「遂に提督まで!? まって、ちょっと待──」

「リンボー・ダンス」

「待ちなさい!」

 

 陸奥が長門の肩を掴んで止めた。あんなに興奮して、一体どうしたのだろうか。

 

「先ず、長門! 貴方の答えを最初から順に言ってみなさい!」

「それはいいが……口調がおかしくなっているぞ」

「そこは今どうでもいいのよ! それに可笑しいのは、貴方の頭の中よ! もういいから、さっさと答えてちょうだい」

「うむ。リンボー・ダンス、水芸、リンボー・ダンス、西瓜割り、リンボー・ダンスだな」

「もう何処からツッコンで良いのか分からないわ……。先ず、リンボー・ダンスや水芸、西瓜割りが趣味の人ってこの世に三人も居ないわよ、きっと。それから! なんで不正解って言われたリンボー・ダンスを定期的に挟むのかしら?」

「だってよ、長門」

「提督、ドヤ顔で長門の事見下してるけど、貴方も最後乗っかってたわよね? それに、提督の答えは嫌な意味で一貫してるのよ! 全部暇を持て余した専業主婦の趣味じゃない! いえ、あくまでイメージだけど」

 

 陸奥に怒られてしまった。

 私としては割と本気で答えていたのだが。長門は知らん。

 

「ふむ。もしや陸奥、お前の趣味はエロい事なのか?」

「ごめんなさい。どうしてそういう結論に至ったのか、全く分からないのだけれど」

「この間扶桑と買い物に行った時に、全く同じ話になってな。あいつの趣味はオナ──」

「待て。待ってくれ。私の中の扶桑が壊れる。その話は止めてくれ。提督からのお願いだ。それから、直接的な単語を使うとR─18になる。これからアレのことは、そうだな……“格納庫整備”と呼ぶ事にしよう」

「ああ。“夜戦”みたいなものか」

「正にそれだ」

 

 今日一番知りたくなかった情報だ。

 あの大和撫子を体現した様な船である扶桑が“格納庫整備”に勤しんでいたとは……。

 

「それで、正解なのか?」

「えっ?」

「陸奥の趣味は“格納庫整備”なのか?」

「違うわよ!」

 

 違うらしい。

 陸奥の趣味が“格納庫整備”だった場合、私は5分ほど厠を占拠しなければならなかっただろう。

 

「もう当たらない、いえ当てる気がないみたいだから言っちゃうけど、私の趣味はパチンコよ」

「えっ?」

「うん?」

「なによ」

 

 不思議そうな顔でこっちを見てくる陸奥。不思議なのはこっちだ。ボケてるのか、マジなのか区別がつかん。

 

「言ってなかったかしら。私、艦娘になる前は無職だったのよね。バイトして、パチンコして日々を過ごしていたのよ」

「ええぇ……」

 

 艦娘は適性があった人間が艤装をつける事でなるものだ。当然艦娘になる前の人生がある。しかし、これはちょっと……

 

「写真もあるわよ。はい」

 

 貞子みたいな女が写ってた。

 黒い髪は伸びっぱなし、服は上下黒のくたびれたジャージ、靴はクロックスのパチモン、死後二週間は経過した魚の様な目をしている。

 

「これ、ホントか?」

「ホントよ。私もビックリしてるのよね。陸奥になったら、先ず容姿が変わって、性格もどんどん変わっていったのよ。今ではこんなお姉さんキャラだけど、昔の私は人の前に5秒経っていると、灰になるくらい話すのが苦手だったのよ」

「それはなんというか、大変だったな」

「そのせいで面接しか試験のない、合格率99%の専門学校に落っこちたわ」

「おおう……」

 

 それは何と言うか、筋金入りのコミュ症だな。

 

「長門にも、前世というか、昔があるのか?」

「当然だろう。私にも中の人はいる」

「中の人?」

「艦娘になる前の人格の事を、私達は中の人と呼んでいるのだ」

「ほお。それで、長門の中の人はどんなだったんだ?」

「うむ。表参道にあるネイルサロンで働いていた」

「ええぇ……」

 

 長門が写真を見せてくれた。

 髪の毛を栗色に染めた、写真慣れした笑顔を見せる女性が写っていた。

 

「ちょっと、ちょっと待ってくれ。えっ? いや……えっ?」

「私も長門になってからというもの、性格の変化が激しくてな。昔はもっとキャピキャピしていたのだが、今ではこの有様だ」

「すまん。頭が追いつかん。こらから先、お前達とどうやって接していいのか分からなくなりそうだ」

「私などマシな方だ。大井は元々男好きだったのに、段々とレズに侵食されていったらしい。瑞鶴は元々おっぱいが大きかったのに、貧乳に格下げされた。睦月などは60を過ぎたおばちゃんだったが、今では「にゃしい」とか──」

「ヤメロォ!」

 

 自分でも驚くほど、私は大きな声を出した。天使の睦月が60を過ぎたおばちゃんだった事なんて、少しも聞きたくなかった。

 

「提督はどうなのだ?」

「ん、なにが?」

「提督にも中の人はいるだろう」

「まあ、な」

「なぁに、あんまり話したくない感じなのかしら?」

「少なくとも、聞いて楽しいものではないな」

「そうか。ならば良いさ。この長門、秘密の一つや百あったところで気にするほど、器量の狭い船ではないさ」

「そうねえ。あっ、この間加賀さんに仕掛けたドッキリの話をしましょうよ」

「うむ、良いぞ。ディナーに誘ったんだ。店は驚かせたいから秘密、ただラフな格好で良いと言ってな。それで、私は真っ白なタキシード姿で、薔薇の花束を持って向かって行った。勿論、リムジンに乗ってな。加賀はジーパンにセーターだった」

「ンフッ」

「で、どの店に行ったんだ?」

「吉野家だ」

「か、加賀はどうしたの?」

「普通に特盛頼んでたぞ」

 

 陸奥がお腹を抱えて笑いだした。長門もいつもの仏頂面をほんの少し歪めている。

 

 この二人は、私が少しでも踏み込んで欲しくないところには、まったく踏み込んでこない。

 二人の優しさに甘えてると思いながらも、この空間はとても居心地が良い。ついつい甘えてしまう。

 中身のない話をすることがこんなにも楽しい事を、私は今まで知らなかった。

 ──ああ、提督になってよかった。

 この二人の笑顔を見ると、私はそう思わずにはいられない。

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。



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番外編 金剛「英国で生まれた帰国子女の金剛デース!」

 その日、金剛はその鎮守府に着任した。

 

 普通はその場で建造により産まれるか、海域で保護され所謂ドロップするのが普通なのだが、この金剛はちょっと違う。

 何故かそのあたりの砂浜に打ち上げられていたところを保護された、いわば捨て艦だったのだ。

 民間人に保護され、大本営に送られ──そこから紆余曲折あって、ここ横須賀鎮守府に着任することが決まったのである。

 提督がいる執務室の前、金剛は満面の笑みを浮かべて立っていた。

 第一声はもう決めていた。

 

「英国で生まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

 

 自分の名前と出身を言いつつ、性格も出たいい挨拶だ。

 いよいよ金剛がドアを開けようした瞬間、中から声が聞こえてきた。

 どうやら、提督と秘書艦が金剛について話しているらしい。

 一体どんな事を話しているのか……よくない事だとは思いつつも、金剛は耳をドアに当てた。アホ毛は少しの油断もなく、辺りを注視している。

 

「これが金剛か……かわいい子じゃないか」

「第一声が“かわいい子”って、どこぞの悪役か、お前は?」

 

 どうやら、事前に送っておいた金剛についての書類に目を通している様だ。なんとなく恥ずかしい。金剛は頬が赤くなった。

 

「しかし和服か。この鎮守府には和服の艦娘は鳳翔さんくらいしか居ないが、やはりこの金剛という艦娘も大和撫子なのだろうか」

「ふむ……やはりそうなんじゃないか? 摩耶や天龍、木曽といったやんちゃ娘ばかりのこの鎮守府に清涼剤が増えるのはいい事だな」

「いや、長門。お前もやんちゃ娘筆頭だから……。こないだお前がやった「ドキ☆ 艦娘だらけのガチ逃走中!」のせいで私がどれだけ始末書書いたと思ってるんだ?」

「アレは白熱したな。この長門、ビッグセブンとして恥ずかしくない逃げっぷりだったと自負している」

「ああ、そう……いやしかし、大和撫子か。それは嬉しいな」

 

 赤くなった顔が、みるみる青ざめていく。

 提督が期待しているのは、大和撫子。

 もし、もしさっきの様な挨拶をしたら───

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 金剛は勢いよく扉を開け、大声を上げて自己紹介をした。

 

「英国で生まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

「なにぃ!? 全然大和撫子じゃないじゃないかぁ! こんな艦娘要らねえよ、ファッキン! お前ら、この子にぶぶ漬け出してやりな!」

「サー・イエッサ!」

 

 ゾロゾロと艦娘達が部屋に入ってくる。

 彼女達は金剛を取り押さえ、縄で縛った。

 

「提督、待ってくだサーイ! 私、提督の為に頑張りマスカラ!」

「うるせえ! 俺は大和撫子系艦娘しか要らねえんだよ! 鳳翔さんの爪の垢をたらふく食べてから出直しな!」

「提督! 提督ゥーーー!」

 

 金剛の叫び声が虚しく響いたが、提督は見向きもしない。金剛はそのまま連れ去られ、鎮守府の外に捨てられた。

 その後の金剛の足取りを知る者はいない。人として暮らしているとも、深海棲艦となっているとも言われているが……

 どうしてこうなってしまったのだろうか?

 あの時、キチンとした自己紹介が出来ていれば、あるいは──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ───などということになりかねない。

 それならここはやはり、大和撫子系の挨拶をするのが良いだろうか。

 

「英国で生まれた金剛です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」

 

 自分の名前と出身もいいつつ、大和撫子感が出たいい挨拶だ。

 いよいよ金剛がドアを開けようとした時、中からまた声が聞こえて来た。

 

「見ろ、長門! どうやらこの子、英語が話せるみたいだぞ!」

「ほう。生まれはイギリスか。ならこの巫女服は、外人の間違った日本人感からくる、こすぷれの様なものなのかもしれないな」

「確かにな。……しかしイギリスの艦か。ウチにはまだ海外艦は居ないからな。これは楽しみだ。やっぱり、最初の自己紹介も英語なのだろうか」

「そうだろうな。な、なんと返せば良いのだ?」

「普通にハローで良いんじゃないか?」

 

 顔がみるみる青ざめていく。

 提督が期待しているのは、英国艦。

 もし、もしさっきの様な挨拶をしたら───

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 静かに扉を開け、はんなりとした声で自己紹介をした。

 

「英国で生まれた金剛です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」

「ぬわぁぁにぃ! ぜんっぜんっ! これっぽちも英国感がねーじゃねーか! 英国で生まれたんなら、英語で自己紹介しろよぉぉぉおおおお!!! こんな英国生まれの日本育ち艦娘要らねえよ! お前ら、緊急輸送の手配だ!」

「サー・イエッサ!」

 

 ゾロゾロと艦娘達が部屋に入ってくる。

 彼女達は金剛を取り押さえ、縄で縛った。

 

「お待ちください、提督! わたくし、提督の為に精一杯努めますから!」

「じゃあかわしいんじゃボケェ! 俺が欲しいのは海外感ある海外艦のみ! それ以外は不要ッッッ!!!」

「提督! 提督ーーーー!」

 

 金剛の叫び声が虚しく響いたが、提督は見向きもしない。金剛はそのまま連れ去られ、鎮守府の外に捨てられた。

 その後の金剛の足取りを知る者はいない。人として暮らしているとも、深海棲艦となっているとも言われているが……

 どうしてこうなってしまったのだろうか?

 あの時、キチンとした自己紹介が出来ていれば、あるいは──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ───などということになりかねない。

 それならここはやはり、海外艦勢の様な挨拶をするのが良いだろうか。

 

「ハロー、アドミラール! ブリティッシュでビルトされたミーこと金剛と一緒に、バーニングラァァヴゥ!」

 

 自分の出身国と名前を言いつつ、海外艦感も出したいい挨拶だ。

 いよいよ金剛が扉を開けようとした時、中からまた声が聞こえて来た。

 

「見ろ長門。この子は産まれこそイギリスだが、その後は日本で活躍しているらしい。いや海外艦だというのは、早計だったか」

「ふぅむ。すまんな提督よ、私の練度がもっと高く『長門』としての記憶を十全に引き出せたのなら、金剛の事がもっと分かったんだが」

「いやなに、分からないこそ楽しい、という所もあるだろう。未知を楽しむ程度の矜持はあるさ」

「流石は提督だ。それなら、私が提督の部屋に仕掛けた“アレ”も楽しめる事だろう」

「ああ。──いや待て、お前なにをした?」

「ふはははははは」

「笑って誤魔化すな。しかし、この子は長女でもあるみたいだな。もししっかりした性格だったら、お前の代わりに秘書艦に置くのもありか」

 

 みるみる顔が青ざめてくる。

 提督が期待しているのは、しっかりした艦娘。

 もし、さっきの様な挨拶をしたら──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ぶっ飛ばすほどの勢いで扉を開け、イントネーション良く自己紹介をした。

 

「ハロー、アドミラール! ブリティッシュでビルトされたミーこと金剛と一緒に、バーニングラァァヴゥ!」

「ファック! てめえの芸名はルー金剛か、あ゛あん? ここは日本だぞクソ外人が! 落ち着きの“お”の字も感じられねえ〜なぁ、おい! お国に帰ってフィッシュ&チップスでも揚げてな! お前ら、緊急輸送の手配だ!」

「サー・イエッサ!」

 

 ゾロゾロと艦娘達が部屋に入ってくる。

 彼女達は金剛を取り押さえ、縄で縛った。

 

「プリーズウェイト、アドミラール! コンゴウはアドミラールと一緒にファイトするから!」

「お口にチャックしな! 俺はしっかりした性格の艦娘以外要らねえんだよ、お分かり?」

「アドミラール! アドミラーーーール!!!」

 

 金剛の叫び声が虚しく響いたが、提督は見向きもしない。金剛はそのまま連れ去られ、鎮守府の外に捨てられた。

 その後の金剛の足取りを知る者はいない。人として暮らしているとも、深海棲艦となっているとも言われているが……

 どうしてこうなってしまったのだろうか?

 あの時、キチンとした自己紹介が出来ていれば、あるいは──

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ──などということになりかねない。

 それならここはやはり、しっかりとした自己紹介をするのが良いだろうか。

 

「こんにちは、提督! 私英国で建造された金剛です! どうぞよろしくお願いします! あっ、軍帽がズレてますよっ! 提督ったら、そそっかしいんだから! わかるわ」

 

 自分の出身国と名前も言いつつ、しっかりした性格を出したいい挨拶だ。

 いよいよ金剛が扉を開けようとした時、中からまた声が聞こえて来た。

 

「まあどんな艦娘でも良いが……一つだけ、こうあって欲しいというのがあるな」

「ほう、なんだ?」

「着飾らない、素直な艦娘だと嬉しい。摩耶も天龍もアホだが、真っ直ぐに生きてる。次来る娘も、そんな子がいい」

「そうだな。素直なことはいいことだ」

「……お前はもう少し、節度を持って欲しいがな」

 

 ふぅ、と息を整える。

 そして扉を勢い良く開け、大声で自己紹介をした。

 

「英国で生まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」



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フェチ

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「好きな女性の部位?」

「部位って……。もうちょっと言い方どうにかならないの? でも、そうね。フェチって言えばいいのかしら? 提督は女性のどこがお好きなの」

「一に顔、二に足だな。おっぱいはどっちでもいい。むしろ、貧乳が好みまである」

「あらあら、意外ね。提督はてっきり、巨乳が好きなのかと思ってたわ」

「何故だ?」

「だって、貴方私の事好きでしょう」

「うん?」

「あら?」

「ふむ」

「ちょ、待っ──」

「出来たぞ、二人とも。……なんだ陸奥、机に乗り出して行儀が悪いぞ」

 

 三人分のお皿をもって、長門がキッチンからやって来た。皿の中にはボロネーゼにチーズを合わせた様なパスタが乗っている。

 キャラに似合わず、長門は料理が出来る。それもかなり。逆に陸奥はキャラに似合わず料理ができない。それもかなり。

 この辺りは中の人が関係しているらしい。

 戦いの技能や性格なんかには戦艦「長門」や戦艦「陸奥」としてのアレやソレやが強く影響する。その反面、料理スキルや異性の好みの様な日常的な事については中の人に依存するとのことだ。

 

「少し待っていろ。今スープも持ってくるからな」

「ありがとう、長門」

 

 長門が厨房の方へと戻っていく。歩き方が綺麗だ。そう思っていると、肩を掴まれ、陸奥の方に無理やり向かされた。

 

「スープなんか今、どうでもいいのよ!? 提督、貴方──」

「陸奥ッッッ!!!」

「は、はい!」

「お茶淹れてくれ」

「今の大声と無駄にキリッと顔しておいて、お茶を淹れろですってえぇ!? 緑茶で良いわね?」

「ほうじ茶で頼む」

「あらあら! まったく、仕方がないわね!」

 

 怒りながらも、お茶を淹れにいく陸奥。その間にフォークとスプーンを用意しておく。

 三人席に着いた所で、揃っていただきますと言ってから、夕餉をいただく。

 

「ところで二人とも、少し聞きたいことがあるのだが」

「なんだ?」

「何かしら?」

「何か困ってることはあるか?」

 

 鎮守府のみなはよく働いてくれている。

 何か不満があったら解消してやりたいのだが、私は少々艦娘達と距離がある故、みな中々悩みを打ち明けてくれんのだ。そこで勝手知ってたるこの二人に、先ずはモデルケースとして聞くことにしたのである。

 

「なるほどな。ふむ、他ならぬ提督の頼みと言うのなら聴いてやりたいが……今は特に悩みというものはないな。いや、醤油の残りが少なかったか……」

「醤油の残りの事なんて、なんの参考にもならないでしょ……。そうね、私は昔の人間の頃の身体と艦娘としての身体のギャップに、今でも悩まされる時があるわ」

「ああ、確かにそれはあるな」

「む、それは気になるな。是非話を聞かせてくれ」

「例えば……私の運の値は「3」しかないじゃない」

 

 確かにそうだ。陸奥の幸運値は非常に低い。しかしまさか、幸運値が日常生活にも影響を及ぼすとはな。扶桑型や翔鶴のこともある、何かの参考になるかもしれない。

 

「そのせいで、全くギャンブルに勝てなくなったのよ」

 

 少しも参考にならなかった。

 相変わらず、陸奥は頼りになりそうでならない。

 やはり長門だな。長門は頼りにならなさそうで頼りになる。長門に会釈をし、会話を促す。

 

「元の私の力は、当然のことだが1馬力もない。しかし今の私の力は82000馬力。車を運転する時など、少しハンドルを捻るだけで大きく切ってしまう。他にも、鍵を開けようとしたら回し過ぎて壊してしまうことなどが良くあったな。

 ああ、それから服だ。体格が大きく変わったために、服をほとんど一新しなくてはならなかった。露出狂でほとんど服を着ず、その上高給の戦艦である私はともかく、薄給の駆逐艦の子などは厳しいのではないか?」

「なるほど。参考になった。ありがとう、長門」

 

 後で衣類とまるゆの申請をしておくか。

 

「気にするな。ビッグセブンだからな」

「ビッグセブン関係ないでしょ……」

「それに比べて陸奥は……まあ、言っても仕方がないか」

「あら、あらあらあら。何かしらその「もうこいつには何言っても無駄だから……」という感じ。最近の提督、本当に容赦ないわね」

「妹よ、姉として恥ずかしく思うぞ」

「うるさいわよ、姉さん」

 

 長門の頬っぺたをグイーッと引っ張りながら、左右に振る陸奥。長門はまったく動じていない。

 ふっと気になったんだが、長門は陸奥のことを妹と言った。しかし当然ながら、長門と陸奥の中の人は兄弟ではない。その辺りのことはどういった認識になっているのだろうか。

 

「どうと言われてもな……」

「ええ。この感覚を説明するのは難しいわね……」

「艦娘になると同時に船の──私の場合『長門』の記憶が頭の中に刷り込まれるのは知っているな?」

「当然だ」

「その『長門』の中に、『陸奥』に関する知識もある。まあなんだ……ずっと話に聞かされていたが直接はあったことのない親戚、という感じか?」

「あー、その例えは上手いわね。どんな見た目で、通ってる学校とか年齢は知ってるけど、趣味とかそういう類のことは知らない、みたいな感じよね」

「なるほど。あまり『姉妹艦』である事を強制されるわけではないということか」

「全部が全部ってわけじゃないわ。あくまで長門型はそうってだけよ。例えば大井さんは絶対北上さんを好きになるし、扶桑型は姉妹愛が強くなるもの」

「まあしかし、基本的にはそこまで縛られるものではない。そもそも、中の人の実年齢と姉妹設定が矛盾する事があるからな。例えば暁の実年齢は9歳、雷の実年齢は21といった具合だ」

「そう言われてみればそうか……。しかし姉妹に対する認識が薄いなら、姉妹の多い夕雲型なんかは大変そうだな。遠縁の親戚の集まりに出てるようなものなのだろう?」

「そう言われるとそうなのだがな……」

 

 長門と陸奥は揃って唸った。

 恐らく、艦娘にしか分からない何かがあるのだろう。それを無理に知ろうとするほど、私も愚かではない。

 陸奥にお茶を頼み、空気を変える。話題変更の合図だ。

 

「ところで提督よ」

「なんだ」

「最近、鎮守府内でよくない噂が流れている」

「ほお……」

 

 噂、というのも案外馬鹿に出来ない。そう士官学校で習った。噂によって起きた反乱は少なくないそうだ。

 私は長門と陸奥以外と日常会話をほとんどしない。そのため、鎮守府内の噂や流行といったものに疎い。そのあたり、是非聞かせてもらいたいものだ。

 

「私が快楽堕ちしそうだとか、アナルが弱いだとか、そういった噂だ」

「ああ……」

 

 立ち上がり、拳を固め、眉間にしわを寄せて語る長門。気持ちは分からんでもなかった。

 

「どうして妹の陸奥はおねショタだの純愛だのと言われ、姉である私はNTRや凌辱しかないのだ! しかもアレだ、同じタイプでも武蔵のヤツは頭が良いと言われるのに対し、私はすっかり脳筋キャラだ!」

「だって、武蔵さんはメガネ掛けてるじゃない」

「私だって(電探)をつけている!」

「何のアピールよ、それ……」

「俺は賢い方だと思うぞ。ナガトより賢いゴリラは見た事がない」

「提督ッッッ!!!」

「なんだ」

「それ以上いけない」

「はい」

 

 両肩を掴まれ、顔をグワっと近づけてきた。流石ビッグセブン、威圧感が凄まじい。

 

「──というか長門、貴女私のおねショタ属性を羨ましいみたいな言い方したけど、私からしたらトンデモナイわ」

「ん、陸奥ってショタコンじゃなかったのか?」

「えっ、提督まで? それはちょっと、本気でショックだわ……。貴方と一緒にいる私が、ショタコンなわけないでしょう?」

「……まあ何だ、私もまだまだ若いという事だよ」

「ふふ、何よそれ」

 

 若いから過ちをしてしまう、というのと若いからショタの範囲内という意味をかけてみた。その意味が伝わったのかどうかは分からないが、陸奥が笑顔を見せてくれた。

 

「話を戻していいか? 私のアナルが弱いと言われてる件だが──」

「長門、貴方もうちょっと空気を読んでくれる?」

「──実際、私の筋力なら指を入れた瞬間、膣圧で指が折れると思うんだが、どうだろうか?」

「どうだろうか? じゃないわよ。貴方が折れなさい」

「よし、試してみるか?」

「提督も、切り替えが早すぎない? さっきまでのちょっと良い雰囲気を返してよ……」

 

 陸奥が落ち込んでいた。

 それはそれとしてお茶が切れたので淹れてきてもらう。もう少し優しく出来ないのかと言われたが、私は陸奥が淹れたお茶が好きだというと、喜んで淹れてくれた。正確に言うと、美人が淹れたお茶が好きだ、だが。嘘はついていないからセーフ。

 

「そういえば、提督は何か悩みはないのか?」

「悩み……と言っていいか分からないが、ずっと気になっていることはあるな」

「ほう? なんだ、聞かせてみろ」

「角ってあるだろ、動物に生えているやつ」

「うむ。私にも生えているな」

「だから、私達のは電探でしょ……」

「角というのは基本的に攻撃する為にあると思うのだが……どうして山羊の角は後ろに向かって曲がっているんだ? アレでは攻撃出来ないではないか」

「そう言われてみるとそうだな」

「一理あるわね。だけど、この話膨らまないわよ? 私達、山羊について少しも詳しくないもの。あー、確かにね〜ていう、女子高生並の共感しか出来ないわよ」

 

 確かに。私も友人から動物の角について話題を振られても困るな。

 

「なら話を変えるか。常々疑問だったのだが、月が見えるのは太陽の光を反射しているからだそうだな」

「有名な話だな」

「なら、何万光年も離れている星が輝いて見えるのは何故だ? 全てが恒星という事もないだろうし、全ての星が太陽の光を反射してるとも思えない……」

「いや、それは確かに言われれば気になるけども……。もうちょっとこう、取っ組みやすい話の振り方出来ないの?」

「うんこ味のカレーとカレー味のうんこでは、うんこ味のカレー派だ」

「いや、とっつき易くはなったけど……」

「むう、これもダメか? じゃあお前が話を振ってくれ」

「そうね、それじゃあ好みの異性の話でも──」

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。











この話の何が難しいって、サブタイトルをつける事です。話に少しも一貫性が無いので……。


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お正月

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「年が明けたな」

「明けたわね〜」

 

 カウントダウンが終わり、年が明けた。とりあえず陸奥と頭を下げて、新年おきまりの挨拶をする。長門は我関せず、ひたすらミカンを食べていた。

 

「む、みかん取ってくれ」

「ホラ、餌だぞゴリラ」

「よし、殺してやろう……チッ、命拾いしたな。ここからでは手が届かん」

「少しはコタツから出なさいよ……」

「私をコタツから出したかったら、防空棲姫でも連れて来い」

「私が深海棲艦化するわよ」

「陸奥、お茶を淹れてくれ」

「あらあらあらあら、本当に深海棲艦化するわよ? 緑茶でいいわね」

「陸奥、ついでにミカンの段ボール持ってきてくれ」

「オマエ……ヲ……コロス……」

「む、深海棲艦だ」

 

 長門が陸奥の角を両腕でつかみ、顔面に膝蹴りを叩き入れた。陸奥が鼻血を流し、たたらを踏む。その隙を見逃さず、長門は陸奥の足を払って転ばせ、寝技を決めた。

 

「いたたたたた!」

「……」

「無言で関節技をかけてんじゃないわよ!」

 

 陸奥が長門の頭を掴み、おもいっきり吹き飛ばした。長門の頭が壁の中にめり込む。

 

「お前ら、ギャグっぽく壁を壊すな。明石が新年から仕事だと泣くぞ」

「ごめんなさい……」

「反省しろ、陸奥」

「長門、貴方もよ!」

「私は謝らない。ビッグセブンだからな」

「お前を駆逐艦の教育係から外す」

「申し訳ございませんでした!」

 

 長門が頭を擦り付けて謝ってきた。

 後頭部に足を置き、グリグリと踏みつける。

 

「ふはははははは!」

「お許し下さい、ご主人様」

「その偶に入る二人のSMプレイはなんなの?」

「「性癖だ」」

「そ、そう。なんていうか……ハイカラね」

 

 長門の特殊性癖は多い。露出狂やSMなど……多岐にわたる。最近よくそれらに付き合わされる、何だかそのうち、いけない扉を開けてしまいそうだ。

 

「しかし、提督になってからというもの、新年があまり楽しみでなくなったな。むしろ嫌いになったまである」

「それはまたどうして?」

「まず第一に、年賀状だ。海軍は基本的に縦社会。当然、目上の人と接する機会が多くなる。加えて、この鎮守府の場所は一般公開されているだろう。民間の方々が結構な数の年賀状を送ってくださる。それら全てに返事をするのは──有難いことだが──中々手間だ。提督になる前まではLINE等で済ませていたんだが……いや困った」

「あー、来るわねぇ。私も戦艦『陸奥』宛の年賀状や贈り物が結構届くわ」

「一航戦や長門型は毎年大変らしいな」

「戦死した方の遺品などは、特にどう扱っていいか分からんよ。私は艦娘『長門』であって、戦艦『長門』ではないからな」

「ふーむ……鎮守府の一部に、巨大倉庫でも作るか?」

 

 戦時中は巨大な倉庫を作り、そこに身元不明の死体や遺品を保管していたらしい。我が鎮守府でもそうした制度を採るべきか……。しかし金がなぁ。

 

「あっ、金といえばお年玉」

「なあに。お姉さんのお年玉欲しいの?」

「エロいやつか?」

「ちょっと直球すぎない? いえ、貴方が望むなら、それでもいいのだけれど……」

「冗談はさておき、お年玉を配ろうと思っていたのだが……誰に配っていいか分からん。駆逐艦でも、私より歳上の場合もあるだろうしな」

「え、冗談だったの? ──コホンッ。あー、確かに、その塩梅は難しいわね」

「歳上の駆逐艦と言えば、さっき睦月からお年玉を貰った。3千円入ってたぞ」

「ンフッ」

「これでお菓子でも買うといいにゃしい! と言われた」

「良かったじゃないか、長門。好きなだけお菓子を買うといい」

「にゃしい」

 

 長門はポチ袋から3千円を取り出し、GCの財布の中に入れた。

 

「長門ってマジックテープ式の財布じゃなかったのか……」

「当たり前だろう。私は基本的に財布はGCだ。二年おきに新作を買っている。衣服のブランド物は好かないが、コートと靴と財布とバッグとベルトと時計は別だ」

「この人、私服とか結構オシャレなのよね。ただ露出狂だから着ないだけなのよ……」

 

 逆に、正直言うと陸奥はあまりオシャレではない。冬はスウェット、夏はジャージ。これ以外の私服を見たことがない。陸奥の容姿とプロポーションだから良いが、普通の女性だったら色々とヤバいかっただろうな。

 

「話を戻しましょうよ。提督はどうして正月が嫌いになったんだったかしら?」

「ふむ。第二に、休みが無いことだな。深海棲艦に休みが無い以上、当然我々にも休みが無い。にも関わらず、周りの企業は休んでいるだろう。結果、資材の搬入搬出などが遅れる。他にも、戦闘音や警報音がうるさいなどの苦情がいつもより多く来たりと、色々大変だ。

 毎年正月明けは大淀と羽黒と榛名と一緒にご近所に謝りに行っているよ」

「面子がもう怒られること前提ねえ」

「今年からは私と武蔵のやつを連れて行け。私の凧揚げと武蔵の福笑いを見れば、たちまち苦情は無くなるだろう」

「それそう言う遊びじゃ無いから」

「それで思い出したが、今年から艦種別羽根つき大会は禁止な」

「な、何故だ!?」

「死人が出るからだ」

 

 駆逐艦達や潜水艦の羽根つきは普通の羽根つきだが、それ以上となると怪しい。

 動きが人類の域を超えてるだけな軽巡洋艦はともかく、それ以上の艦種だと普通に力が強過ぎる。特に戦艦と正規空母の力はヤバい。鳳翔さんが真顔になるレベル。

 

「──と言うわけで禁止だ」

「クソッ! 今年こそは事故に見せかけて大和の奴をぶっ殺そうと思ってたのに!」

「そこの不仲な感じやめろよ。次から運用し辛いだろうが……」

「昨日、大和さんがまったく同じ事言ってたわよ。長門を殺して吹雪さんに良いところ見せるって」

「……まあなんだ、公私は分けろよ」

「当然だ」

 

 長門は頷くと、最後のみかんを口の中に放り込んだ。

 

「そう言えば、この長門、こんな物を用意してみた」

 

 取り出したのは、バラエティー番組などでよく使われている、一部が見えなくなっているフリップボード。それが複数枚。

 

「第一回! チキチキ、鎮守府なんでもランキング!」

「お、おう」

「様々なランキングを作り、事前に艦娘達に投票してもらった。私と陸奥と提督、それと大和を除いた全艦娘の票が反映されている」

「さりげなく大和を省くな」

「姉さんて、無駄な事に途轍もない労力を注ぎ込むわよねえ。その辺は提督と一緒かしら」

「最初のランキングはこれだ!」

 

 シールを剥がすと、そこには『鎮守府最強の艦娘といえば?』と書かれていた。

 

「こんなの一択だろう」

「そうね。私もあの人だと思うわ」

「それでは第3位から発表だ。ちなみに、私も結果は知らない。アンケートを取るのは夕張、フリップボードを作るのは明石にやらせたからな」

「おい」

 

 鎮守府内で最も忙しい二人に、何をやらせてるんだこいつは。

 

「じゃじゃん! 第3位は軽空母鳳翔だぁ!」

「今更だけど、その謎のテンションの高さはなんなの? 若干ムカつくわ」

「鳳翔が3位か……」

「軽空母、正規空母勢からの圧倒的な支持を受けて、見事第3位となりました! やはり改二をキチンと使いこなしているあたりが決め手でしょうか! 改二が実装されても、その大きすぎる力を使いこなせない艦娘が多い中、彼女はしっかりと制御出来ていますからね」

「どうしよう、イラつきのあまり、また深海棲艦になりそうだわ」

「私は夕張から渡された台本を読んでるだけだぞ」

「なんだろう、夕張だと思うと全然行けるのに、長門だと異様に腹立つな」

「折檻か、なあ折檻か?」

「顔を近づけるな。折檻したらお前は逆に悦ぶだろう」

「……早く次行きましょうよ」

「む、なんだ気になるのか妹よ」

「……」

「分かった、分かったから無言で拳を握り締めるのはやめろ。流石の私でも妹に殴られて興奮はできんよ。──では、続いて第2位の発表です!」

 

 あくまで夕張の台本遵守なんだな。

 

「第2位は軽巡洋艦から神通さんです!」

「はっ? 神通が……2位?」

 

 すっかり神通が1位だと思っていた。むしろ、神通が圧倒的過ぎて他の艦娘に票が集まるのかどうか不安にさえ思っていたんだがな。

 

「この鎮守府で誰よりも早く改二に辿り着いた神通さん! ほとんどの艦娘が改二を1時間程度しか持続出来ない中、彼女の改二継続時間は規格外の8時間! もし改三というものがあるなら、一番最初に到達するのは彼女だと言われています!」

「改めて聞くと、とんでもないスペックね」

「神通とマトモに戦えるのは、同じ軽巡洋艦では北上と長良くらいのものだからな」

 

 雷巡洋艦である北上を除けば、軽巡洋艦では実質長良だけか。いや、球磨あたりが本気を出せばあるいは……。

 

「それではみなさんお待ちかね! 第1位の発表です!」

「ちょっと本格的に1位が気になってきたな」

「デデデン! 1位は不知火です!」

「……」

「えー、主な選出理由としましては、戦艦クラスの眼光。提督の表情筋を唯一動かした艦娘。ナガト・ナガトと腕相撲して勝ちそう。ピンクは淫乱、などが上げられております!」

「からかうのは止めてやれ。不知火はアレで結構目つきを気にしてる。それに不知火の中の人の年齢は14。普通に子供なんだぞ」

「言っておくが、選出理由をピックアップしたのは私じゃないし、投票もしてないからな」

「ふぅん。長門は誰に投票したの?」

「自分に入れた」

「あらあらあら……。何位だったの?」

「5位。ちなみに、陸奥は圏外だ」

「ねえ、今更だけどこれネームシップがだいぶ有利よね。性能がほとんど同じだったら、絶対ネームシップに投票するもの」

「いやなんだ、ほら、私は陸奥の事頼りにしてるぞ」

「提督、慰めるのはやめて。普通にみじめだわ」

「そう落ち込むな陸奥」

 

 長門が陸奥肩に手を乗せ、励ましていた。なんだかんだ言ってやはり姉妹なんだな、と痛感する。

 

「おねショタが似合う艦娘ランキングでは堂々の2位だ」

「それが嫌だっつってんでしょ、このゴリラ!」

「ちなみに1位が愛宕で、3位が霧島だ」

「意外性のかけらもないな」

「ちなみに私はア◯ルが弱そうな艦娘ランキングで1位を取ったぞ」

「……それは褒めるポイントなのか?」

「2位は高雄、3位は提督だ」

「いや、提督は艦娘じゃないし……」

「というか、ウチの艦娘達はそのクソの様なランキングに大真面目で答えたのか?」

「当たり前だ。みんなノリノリで書いてたぞ。隼鷹とか足柄とか」

「メンバーがもうアレね」

「後、電もだな」

「!?」

「……む、そろそろ初詣に行くか」

「自由か。もっと会話の流れを考えろよ」

「振袖を着るから、提督、手伝ってくれ」

「お前は本当、少し羞恥心というものを持て」

「て、提督。私も手伝ってもらって……良いかしら?」

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。












本当はもっと早く投稿する予定だったんですけど、年始が忙しくて遅れました。
お正月ネタが旬を通り越してしまったぜ。
というかそろそろ話のネタが切れて来ました。募集でもしようかな、と思う今日この頃。でも上手く扱えるきがしない。


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ドキドキ! 貴方の心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)

ハーメルンでもっとも内容の無い二次創作。


 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「提督、阿保。ちょっといいか?」

「なんだ?」

「……」

「阿保、お前はどうなんだ?」

「えっ、阿保って私のこと!?」

「むっ、すまん。陸奥と阿保、字面が似ているのでな……」

「字面が似ていても、お喋りには関係ないでしょ!」

「さっき図書館で、こんな物を見つけたんだがな」

「あらあらあらあらあら。お得意の無視ね。まあいいわ。聞きましょう」

 

 長門がちゃぶ台の上に置いたのは、一冊の本だった。

 ショッキングピンク色の表紙には、赤いラメラメの文字で「ドキドキ! 貴方の恋心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)」と書かれている。

 これが、鎮守府の図書館に……。

 本の仕入れを担当してるのは、確か大淀だったはずだが。査定とか、大淀の精神状態とか、大丈夫だろうか。

 

 陸奥が呆れ、私が心配する中、長門は「ドキドキ! 貴方の心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)」を開いた。

 

「第一問!」

「今回はグイグイ進むわねえ」

「貴方は自宅の玄関にいます。家に入ると、家族ではない親しい人が出迎えてくれました。それは誰でしょう?」

「自宅……この場合は鎮守府で良いのかしら」

「なんだ、陸奥。お前、鎮守府を自宅の様に思っていたのか? 勘違いも甚だしいな」

「えっ、今の言葉ちょっと心に来たわ、リアルに」

「なあ、ちょっといいだろうか」

「なんだ、提督よ」

「これ、結果があまりにも見え透いてないか? 絶対「その出迎えてくれた人が貴方の想い人です」的な事になるだろ」

「まあ、まあ。最初は定番でいいんじゃないかしら。後から徐々に凝った物に、みたいな」

「ま、そういう事だ。気楽にな、気楽に」

 

 気楽に、か。

 他の鎮守府の『長門』とは、最もかけ離れた言葉だな。

 

「ではこのフリップボードに答えを描いてくれ」

「出た、フリップボード。毎度、毎度どっから持ってくるのよ」

「経費から」

「おい」

「はははははは」

「笑って誤魔化すな」

「文句あるか?」

「凄んで誤魔化すな」

「アヒャヒャヒャ」

「狂ったふりをして誤魔化すな」

「……漫才をしてる所悪いけど、書けたわよ」

 

 何故か陸奥がちょっと不機嫌に言った。

 普段どれだけイジられても気にしない鋼鉄のメンタルを陸奥がこうなるのは、非常に良くない。私と長門は、急いでフリップボードに答えを書いた。

 

「……ていうか、長門も書くのね。今回は出題者に専念するのかと思ったわ」

「答えは問題が書いてあるページの、次のページに書いてあるからな。出題者も参加出来るよう配慮されているのだ、この本は」

 

 何故か長門はドヤ顔をした。

 

「それでは、フリップボード・オープン!」

「急にバラエティ番組の司会風になったわね」

 

 長門の声に合わせて、フリップボードを開く。

 陸奥のフリップボードには「大淀」、

 長門のフリップボードには「朝潮」とそれぞれ書かれている。

 私は「加賀」と書いた。

 私は職業柄ほとんど自宅(鎮守府)から出ないのだが、出るときは必ずお供兼ボディガードとして赤城をつける。そうなると出迎えは必然的に、もう一人の秘書官である加賀になる。

 故にこう書いたわけだが……心理テスト的には、どうにも間違った答えなきがするな。

 

 私が「加賀」と書いた理由を話すと、今度は長門が答えの理由を語り始めた。

 

「私は良く街へ買い物に行くだろう? 食材や家具を買いに。 それで帰ってくると、良くランニングをする朝潮に会うんだ」

「あら、私も同じ様な理由ね。何故か大淀によく会うのよ。

 ……ちょっと思ったんだけど、やっぱり自宅=鎮守府はちょっと無理があったわね」

「まあ、それは心理テストの結果を見てからでもいいんじゃないか。長門、答えを」

「ああ」

 

 長門がペラペラと「ドキドキ! 貴方の心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)」をめくる。

 

「えーっと、なになに──その人は貴方が無意識に信頼している人です」

「そりゃあ家で出迎えてくれる人なんだから、信頼してるでしょ」

「──続けるぞ。自宅とは即ち、自分のパーソナルスペースを指します。そこに『招待』したのではなく、『出迎え』てくれた事が重要です。普段は頼りなく思っていても、いざという時貴方はその人を頼りにするでしょう」

「ほお。そう言われると、そうかもしれんな。現に、私は結構加賀を信頼している」

「まあ確かに、大淀は頼りになるわね。普段からよくおしゃべりするかって言われたら、またちょっと違うけれど」

「朝潮か……戦力としてはともかく、誠実ではあるな。そういう意味では信頼している」

 

 なんだ、意外と的を射てるじゃないか。

 

「それではどんどん行きましょう、続いて第二問!」

「だから、そのバラエティ番組の司会風はなんなの……?」

「貴方の母親が病気で入院しました。不安な貴方は、友人に付き添いを頼むことにしました。誰に連絡をしましたか?」

「普通、恋人や妻以外親の見舞いには連れて行かないだろ……」

 

 そう言いつつも、ツラツラと答えを書いていく。

 さっきがマトモだったせいか、少し心理テストが楽しみになっていた。恐らく長門と陸奥も、同じ様な気持ちだろう。

 

「それでは、フリップボード・オープン!」

「もうツッコミ入れないわよ」

 

 再び、長門の声に合わせてフリップボードを開く。

 陸奥のフリップボードには「愛宕」、

 長門のフリップボードには「雪風」と書かれている。

 ちなみに私は「神通」と書いた。

 古くからの付き合いだし、たとえ私が取り乱したとしても、冷静に対処してくれるだろう。それに数少ない、私が気軽に話せる船だしな。

 

「私は完全に幸運値で選んだな。艦娘になってから分かったんだが、幸運値とは中々馬鹿に出来ないものだ。海の上以外でもな」

「それを私の前で言う? 愛宕を選んだ理由は、包容力からね。もし私が泣きじゃくったりしても優しく抱き締めてくれそうだし。ただ側に寄り添ってくれるだけでも、人って安らぐものよね」

「なんだ、私も黙って側に居てやれる事くらい出来るぞ、妹よ」

「貴方の場合、黙ってても変顔とかするじゃない……」

 

 長門の変顔は凄まじい。

 隼鷹が開く「鎮守府変顔コンテスト」で初回から8回連続で優勝し、殿堂入りしたほどだ。

 

「続いて第三問!」

「はい」

「深く考えず、丸を書いてください。いくつでもいいです」

「深く考えずって言われると、逆に深く考えてしまうんだよなあ」

「難儀な性格ねぇ……」

 

 迷った挙句、私はフリップボードに大きな丸を1つだけ書いた。

 陸奥は大きい丸の中に、それより少し小さい丸を。

 長門は大小沢山の丸をフリップボード一杯に書いている。

 

「その円は、貴方の縁を示しています」

「何ちょっと上手い事言ってるのよ」

「円の数が多ければ多いほど貴方の縁は多く、その円が大きければ多いほど貴方にとってその縁は大切なものでしょう」

「なるほど。長門は確かに交友関係が広いな」

「陸奥は円が二つ……提督は一つか。まあしかし、どちらも私より大きい円だな」

「……ねえ。提督は一つしか円を書かなかったわけだけど、その円は私と長門どっちなのかしら?」

「!?」

「!?」

「ねえ、どっちなの? ねえ、ねえ」

「いや、深く考えずに書いたものだからな……」

「さっき貴方「深く考えずって言われると、逆に深く考えてしまうんだよなあ」って言ってたじゃない」

「じゃあ長門。長門を思って書いた」

「じゃあって何よ、じゃあって!」

「陸奥よ」

「なによ──ブフォ!」

 

 陸奥が長門を見た瞬間、あいつは渾身の変顔をした。

 

「続いて第四問!」

「え、三問目の話題今ので終わり!?」

「今日は憧れのあの人とデートの日! うーん、ハンカチの色はなににしよう?」

「急に「ドキドキ! 貴方の心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)」ぽい質問の出し方になったな」

 

 ハンカチの色か……。

 個人的には、落ち着いた色が好みだ。ここは藍色にしておくか。

 

「フリップボード・オープン!」

 

 長門が黒、

 陸奥が赤色か。

 

「えー、これは貴方の勝負下着の色を示しています。つまりその色の下着を着けているときは、セ◯クスがしたいって事! 恋人はちゃんと気づいてあげてね!」

「……」

「……」

「……赤、か」

「く、口に出さなくていいでしょう!?」

「ふむ。陸奥、今何色の下着を履いている?」

「それはセクハラよ、提督」

「赤だ」

「なんで言っちゃうのよ! ていうか、同室とはいえなんで知ってるのよ!」

「ちょっと厠へ……」

「はいストップ!」

「まあ、今回はお前が悪いな、妹よ」

「はい、はい。この話やめやめ。次の質問行きましょう」

 

 そう言われるや否や、長門は「ドキドキ! 貴方の心を丸裸! い・け・な・い心理学(ハート)」を即座にめくり始めた。今回は本当に、テンポ重視だな……。

 

「第百二十三問!」

「5秒でバレる嘘をつかない」

「今度は四択クイズだ! 貴方は動物園にいる! 真っ先に出会ったのは次のうちどれダァ!?」

 

 そう言って長門は選択肢を出した。

 

 1、ゾウ

 2、ウマ

 3、ウサギ

 4、ネズミ

 

 ……ゾウ、かな。なんとなく。

 

「お、提督もゾウか。奇遇だな」

「貴女盲目なの? 私もゾウなんだけど。ねえ。ねえねえねえ」

「それで、結果はどうなんだ?」

「ああ、ちょっと待て──その動物の大きさが、貴方の要求不満度合いを示しています。大きければ大きいほど貴方は肉欲に飢えています。ネズミを選んだ貴方は性的要求が非常に薄く、ウサギを選んだ貴方は人並み、ウマを選んだ貴方は飢え、ゾウを選んだ貴方は非常に飢えています。ゾウを選んだ方は、もしかして今身近に気になる異性の方がいるのではないでしょうか?」

「……」

「……」

「提督よ」

「なんだ?」

「今私が履いている下着は、黒色だ」

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。












バレンタインとかエイプリルフールとか、時事ネタを書こうと思ってたのに、気がつけば過ぎ去っていた。
活動報告に「長門型とただ駄弁るだけ。に設定だけあるけど本編には一切出ない艦娘達の設定資料集」を置いておいたので、良ければ見て下さい。
あ、今話で出てきた心理テストは私がテキトーに作ったものなので、あてにしないで下さいね。


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今回の話は酷い。
何がとは言わないが、酷い。


 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「前も言ったが、私の体は固い。戦艦『長門』の装甲を継いでいるからな。車に轢かれた程度ではビクともしない」

「そうだな」

「……カニ。カニがいたんだ。巨大なカニが。岩場に張り付いていたんだ」

「なるほど」

「小さいカニに鼻を挟ませる芸があるだろう? 私なら──この『長門』なら、あれを巨大なカニで出来ると思ったんだ」

「そうか」

「これが、この間の大破撤退の経緯だ」

「馬鹿。お前、馬鹿」

 

 カニに鼻をさはまれて大破撤退……。

 報告書になんて書けばいいんだ?

 

「ねえ、ちょっといいかしら?」

「……」

「……」

「ねえ、ちょっといいかしら?」

「見ろ、長門。トイレだ」

「おっ、本当だ。侘び寂びがあるな」

「誤魔化し方が雑すぎるでしょう! ちょっと聞きなさいよ」

「音楽聴きながらでいいか?」

「イヤホンをつけないで! 真面目に聞きなさいよ」

 

 長門はクソでかい溜息をついて、私はコタツに寝っ転がった。

 

「よし、話していいぞ」

「態度悪っ!?」

「だって、なぁ?」

「ああ。陸奥話だぞ」

「私の話はどれだけランクの低い存在なのよ!」

 

 これでも昔は日本の象徴の一つだったんだけど、と騒ぐ陸奥。仕方がない、付き合ってやるか。

 

「ゴールデンウィークあったじゃない」

「私には無かったがな」

 

 そう。

 当たり前のことだが、深海棲艦にゴールデンウィークがない以上、鎮守府にもゴールデンウィークはない。

 だが艦娘達にたまの休日を与えようと思い、ローテーションを組んで大人組は二日、子供組は三日間の休みを与えた。尤も管理職である私には無かったが。

 まあ鎮守府外には家族も友達もいない私だ。休日があっても持て余してしまっただろう。

 

「私は水曜日と金曜日が休みだったのよ」

「私は木曜日と日曜日だったな」

「お前達二人ともを同時に休みにすると、鎮守府が回らなくなるからな。被らなかったのは我慢してくれ」

「いいえ、我慢出来ないわ」

「む、何故だ?」

「ゴールデンウィーク中、提督と長門が働いていたせいで、誰も話す相手が居なかったのよ……」

「……」

「……いやほら、お前は愛宕や鳳翔さんとも──あっ」

「そうよ! 私が交流ある人はみんな、全然休みが被ってなかったのよ!」

 

 そういえば、他の艦娘は前に調べた仲の良い艦娘同士で休みを取らせるようにしたが、長門と陸奥はその辺考慮していなかったな。

 

「その、ごめん」

「ぐすん……孤独だったわ」

「妹よ」

 

 長門は陸奥肩に手を置き、優しく微笑んだ。

 そして──顔を殴った。

 

「いたあっ! なんで!?」

「そういうのいいから」

「ちょ」

「それより私の改二の話をしよう」

 

 そう、長門は最近改二になった。

 主力である長門の戦力が上がる事は、みんなにとって喜ばしい事だ。

 

「この改二の衣装だが、私には一つ、どうしても我慢ならんことがある」

「何よ? その衣装かっこいいじゃない」

「布面積が多いことだ。前にも言っただろう、私は露出狂だと。前の服だってギリギリだったんだ。それが、こんな……!」

 

 長門は歯を噛み締めながら、悔しそうに拳を握った。

 

「提督」

「はい」

「改二から戻る方法はないだろうか……?」

「ない。あってもやりたくない」

 

 長門を改二にするのに、かなりの資材を注ぎ込んだ。

 潜水艦達が危うくデモを起こすほどに。

 もう二度とやりたくない。

 

「でも、いいわね。改二。私が改二になったら、どんな衣装になるのかしら?」

「長門はかっこいい系だったが……大人びたセクシー系じゃないか?」

「いや、案外バンギャ系とかになるかもしれないぞ?」

「いや、どんな方向転換よ」

「各地の提督が驚愕するだろうな。お姉さん系の陸奥が急にパンダメイクとかしだしたら」

「あらあら、が口癖だったのが急にファ◯クとか叫び出すのか。大丈夫か、我が妹よ?」

「そっくりそのままこっちのセリフよ。それ全部貴女の妄想だからね?」

「私の言葉が妄想かどうか……大本営の発表を楽しみに待つ事だな」

「なによその意味深な感じ。やめてよね。……ちょっと、本当に不安になってきたじゃない。大丈夫よね、提督?」

「大丈夫だ」

「ほっ」

「お前がバンギャになっても面倒見てやる」

「そっち!?」

 

 陸奥が「今からパンダメイクの練習しておこうかしら……」とか言い出してしまった。不器用な癖に、相変わらず変なところだけ真面目だな。

 

「そうだ提督」

「なんだ?」

「猥談をしよう」

「相変わらず会話の流れ無視か。自由か」

「提督ってイクちょっと前……体感三分前位に「そろそろイクぞ……」って言うだろ?」

「今日はまた、随分と切り込んだ話できたな」

「それで私は大体こう返すわけだ。「ああ、私もだ。いつでもいいぞ、フフ……」と」

「そんな母性溢れる返しされた覚えないが」

「一方陸奥はこう返す「ああ、ダメ! もうちょっと!」とな」

「なんで私の方だけマジ体験なのよ!」

「提督としては、どっちの返しの方が好みなのだ?」

 

 ふむ。

 考えた事もなかったが……そうだな、

 

「強いて言うなら、長門の方が好みだな」

「えぇ!?」

「ほう、何故だ。陸奥の方がS心をくすぐるのではないか?」

「いや、私はそんなにSじゃないぞ? というかそんな事関係なくだな、私が申告する時はこっちのピークな訳だ」

「まあ、イク少し前なわけだからな」

「なのに「まだ」って言われると「えっ、まだ奉仕しなくちゃいけないの? もう大分こっちは疲れてるよ?」と思ってしまうんだ」

「あー……」

「……………でも、しょうがないじゃない。まだシ足りないんだから。命を懸けて戦った後って、その、滾るのよ」

「いやいや。そうは言うがな。こっちは執務室で神経を擦り減らして指示を出してるんだ。ぶっちゃけ疲れてるんだよ」

 

 そう言うと、陸奥が心底驚いた顔をした。

 その後、少し落ち込んでトイレへ行ってしまった。なんか、罪悪感が……。

 

「疲れてるといえば、提督」

「ん?」

「疲れてて気分じゃない時、感じてる演技をしてる時があるだろ?」

「……バレてたのか?」

「貴方は『提督』としての才能には溢れているが、残念ながらAV男優としての才能はないよ」

「『提督』と『AV男優』を比べたのは有史以来お前が初めてだろうな」

「ははははは。そう褒めるな」

「いや、褒めてないから……褒めてないよな?」

「提督に言いたい事なら、私もあるわ!」

 

 トイレから帰ってきた、陸奥は何故かテンション・マックスだった。

 

「提督、貴方バックの時ずっと✳︎をガン見してるでしょ!?」

「……いや、毛の処理してるのかなぁ、と」

「してるわよ! むしろそれに気づいてからしたわよ!」

「私はしてないぞ」

「それはちゃんとしなさいよ!」

「しない! 私は見せる事に興奮するタチだからな!」

「いや、しろよ」

「む。じゃあ提督、貴方がしてくれ」

「いや、それはちょっと……」

「やめてよね、本当にするのは。ここにいる私は、それをどんな心境で見守ればいいのよ」

「あっ、姉さんのお尻ってあんな形なんだ……とか思いながら興奮してればいいんじゃないか?」

「私はまだそこまで思えないわ」

「そこだよ、陸奥。そこが私が改二になれて、お前がなれない所以だ」

「そこ!? 大本営は何を考えてるの!?」

 

 ……この会話を大本営に聞かれたら、私は果たしてどんな風に怒られるのだろうか。

 「大本営を猥談のオチに使うな?」とかだろうか。いや、大本営に限らずここの会話を聞かれるわけにはいかないが。

 

「どうでもいいが、長門」

「なんだ? 筋トレメニューなら教えてやらんぞ」

「それはどうでもいい……。いやそうじゃなくてだな。お前の中の人はゆるふわな感じだっただろ? なのにお前、艦娘になったからって露出狂になったり変態になったり、ちょっと性格変わりすぎじゃないか?」

「ふむ。長門の性格は簡単に言えば「嘘がつけない実直な性格」だ。つまり、素直になっただけだな」

「えぇ……」

「貴女、あんな“オシャレ全開”みたいな見た目しておいて、そんな事考えてたの!?」

「もちろんだ」

 

 女子って怖い。

 僕はそう思った。

 

「……そろそろ夕ご飯の時間か」

「あー、本当ね。お姉さんなんか、食べる気分じゃなくなってきちゃったわ」

「今夜はスペアリブだぞ」

「本当!?」

「ああ。私は料理のことに関しては嘘はつかない」

「どちらかと言うとお料理じゃなくて、戦場で嘘をついて欲しくないのだけど……」

「なんだ、長門。お前また海の上で下らない嘘をついたのか?」

「そうなのよ。ちょっと聞いてよ、提督」

「私は漬けてあるスペアリブをオーブンに移してくる」

「逃げたわね……。あっ、そうそう。この間長門ったら、巨大なカニにやられて大破したとかと言うのよ」

「それ本当だぞ」

「えぇ……」

 

 

 

※この後めちゃめちゃ“夜戦”した。












話 の ネ タ が 尽 き ま し た。

何かお題を頂けると嬉しいです。
それか番外編の金剛みたいな感じで、出して欲しい艦娘でも構いません。
感想欄に書くと利用規約違反になっちゃうので、活動報告の設定資料集のとこにでも書いて頂けると幸いです。
今なら抽選でニンテンドー・スイッチをプレゼント!(大嘘)


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