アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity- (銀塩)
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1章 始まりと目的
まさかの依頼とまさかの結末


処女作です.よろしくお願いします.

<>は基本的に通信,「」は会話になります.


<AP残り10%! 早く戦闘領域から離脱しろ!>

 

 パートナーであるオペレーター,セレン・ヘイズの声が耳元で聞こえる.その声を聴きながら、愛機ストレイドの中でなんでこうなったのかを頭の片隅でぼんやりと思い出した。

 

----------------

 

<雇い主はいつものGA。目標はカラードランク28、セレブリティ・アッシュの撃破だ>

 

 いつもの回線で連絡してきたGA代理人からの依頼内容。いくら企業連の通達を無視した結果、無償でいくつか依頼をこなすことを決められていても、明らかに関わるような依頼ではない。

 

 世界に反旗を翻したORCA旅団。それを鎮圧せしめた英雄。名前もなきリンクス、通称首輪付きは、過去にカラードランク最高位のリンクスと政治的影響を抜きにすればカラードランク最高位に匹敵するリンクスの戦闘に参戦しただ一人生き残った彼は、現在カラードランク1、現時点での最強のリンクスである。それを利用するというのは、よほど危険な依頼であるということになる。それなのに、目標はカラードランクは下の下。他目標もないと来れば、明らかに怪しい依頼と言えよう。

 

「おい、たかがカラードランク28の格下にカラード最高位のコイツを使うとはどういう了見だ」

 

 GA代理人に食いかかる女性。それこそが首輪付きのパートナーでオペレーターのセレン・ヘイズだ。首輪付きのリンクスとしての素質を見極め、その戦場に迎え入れた女性でもある。

 

<流石に俺もおかしいとは思って調べたんだが一切の情報が出てこなかった。GAに聞いてもなんの回答もなし。ただ、僚機としてメリーゲートとレイテルパラッシュを連れて行けと言われている>

 

「なに?」

 

 ますます怪しい内容だ。というより、その僚機だけで十二分に対処可能だろう。

 

<すまないが、おれはこれ以上調べられない。ただ、十分すぎる戦力だ、費用はGA持ちだそうだから、そちらへの損失はない。まぁ、こんなところか>

 

「お前はどうする、この依頼」

 

 セレンが振り返り、そのキツ目のまなざしでこちらを見る。

 

「……受ける。それしかあるまい」

 

 なのでこちらもその目をしっかりと見て答える。

 

「それしかない、か」

 

<そうか、それではそのように伝えておこう>

 

 セレンのあきらめたような表情を最後に、代理人は通信を切った。

 

――――――――

 

 そこからの展開はあっという間だった。

 

 作戦開始時刻、現場にあらわれたレイテルパラッシュとメリーゲートが突如として離反、こちらを攻撃してきたのだ。

 

<すまないが、これも私たちの願望なのだ>

 

<ごめんなさいね、あなたを悪いようにはしないから>

 

 重量二脚と軽量二脚。一瞬でも油断すれば撃墜されかねない攻撃を紙一重で回避し続ける。

 しかし、いつまでも回避できるかというとそういうわけではない。時々回避し損ねた弾がプライマルアーマー、通称PAを削り、装甲をかすめる。

 

<くそっ、GAはいったいなにを企んでいる!>

 

 有効な手を探しているセレンが毒を吐く。実のことを言うと首輪付きは一切発砲していない。なぜ襲われているのに発砲をしないのか。簡単だ、火器管制システム(FCS)が機能せず、レイテルパラッシュとメリーゲートを敵と認識できず、安全装置が外れないためだ。右腕には07-MOONLIGHTが装備されてはいるものの、迂闊に飛び込めば一瞬で蜂の巣にされてしまうだろう。そのため一切の手出しができず、超高機動戦闘によってなんとか回避しているという始末なのだ。

 

<だめだ、いったん戦闘領域を離脱しろ! FCSが正常に動作していない以上、これ以上の戦闘は危険だ!>

 

 耳に入る情報。打開策なしという絶望的な状況に応じたセレンの判断を忠実にこなすため、一瞬で二機から距離を開ける。

 

「……了解、これよりオーバードブーストでっ!?」

 

 その瞬間、脳裏をよぎる悪寒。それに逆らうことなくクイックブースト(QB)で右に避ける。と、その一瞬前にいた場所をレーザーが射抜く。

 

<流石、カラードランク1の英雄ですね。今のを避けるとは>

 

 続いて入る通信。その凛とした声は、

 

<まさか、アンビエントまで?!>

 

 カラードランク2、アンビエントのリンクス、リリウム・ウォルコットだった。

 

<くそっ、いったいなにがどうなっているというんだ!>

 

 混沌とした戦場。それでも一瞬でも気を抜けばメリーゲート、レイテルパラッシュ、アンビエントの集中砲火により藻屑となる。

 

<ランク1のあなたをだまし討ちするようなことになってしまい、申し訳ありません。ですが、彼女たちとはすでに取引を済ませていますので>

 

 さらなる事実。彼女たちが結託しているのは明らかだったが、他のリンクスまで関与していることが判明した。

 

 そうこうしている間に、もう何度目か分からない被弾が発生する。

 

<AP残り10%! 早く戦闘領域から離脱しろ!>

 

 ふと思い出す依頼の受領。しかし、そこからやり直すことなどできない以上、現状を切り抜けるしかない。

 

「…仕方ない」

 

<ゆるせっ!>

<ごめんなさい>

<お覚悟を>

 

 一気に接近する三機。そしてそれに呼応するかのように緑色に発光するストレイド。

 

<まさかっ!>

 

 起死回生の一手。しかし、それは機体を覆うPAがはがれてしまうという致命的な弱点を持つ一手。

 

「アサルトアーマー……!」

 

 そして、四機は閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 次第に閃光が収まり、いつもの風景が戻る。

 

 しかしそこには、四機の存在はなかった。




2017/03/05 句読点を直しました。


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離反の理由

「……」

 

 頬を何かが触れる。柔らかく、温かい何か。それは安堵と安らぎを与えてくれる。

 

「起きろ!」

 

 というわけでもなかった。割と雑に頬を叩かれる。

 

「……っ?!」

 

 突然の痛みに目が覚める。とはいえ目覚めたばかり。すこし頭が回っていない。

 

「おい、なにをしている。早く起きろ!」

 

 覗き込むようにして向けられた顔。キツい目に、薄い唇。キリッとした眉は意志の強さをうかがえる。髪は金だが一房だけ白い髪が混じる。それが彼女の苦労を表している。

 

 徐々に覚醒する意識。そして女性が、セレン・ヘイズがいることの異様さに驚く。

 

 はっきりした意識で周りを見回すと、今いる場所がアーマードコア、自分(首輪付き)の愛機であるストレイドのコックピットであることがわかる。

 

 ACのコックピットは基本的に一人乗りが前提なので、ものすごく狭い。そのため、ほぼセレンの顔が今にもキスできそうなほど近いのは無理もなかった。

 

「……ここは?」

 

 コックピット内部のモニターに映る景色を見て疑問を口にする。そこに映るは、果てなき青。いわゆる海と呼ばれる場所だった。

 

「わからん。お前がAAを使ったあと、なぜか離れた場所にいたはずのこちらまで閃光が届いたと思うと、ここに来ていた」

 

 簡単な説明。要はここがどこなのか分からないということ。首輪付きはすぐさま環境検査プログラムを起動する。数秒後、モニター中央に結果が表示された。

 

[コジマ粒子濃度0% 他汚染物質検出されず]

 

「なに……?」

 

 セレンが訝しむ。当然だ。世界はコジマ粒子を見つけた時からコジマ粒子の利用による汚染が始まっていたし、なによりACはコジマ粒子を用いて動く。よって、コジマ粒子濃度0%はありえないのだ。

 

「プライマルアーマー残量を調べろ!」

 

 セレンの指示に即座に反応し、機体ステータスを表示させる。

 

[AP残量2% PA残量0% OB使用不可]

 

「どういうことなんだこれは……」

 

 コジマ粒子完全消失を裏付ける、決定的な証拠。ACの絶対的な優位性の一つであるPAを利用したモノが使えなくなったということ。

 首輪付きはしばらく画面を眺めていたが、すぐにコックピット内に置いていた個人携行火器の一つのアサルトライフルを取り出し、コックピットハッチを開けようとした。

 

「ま、待て。なにをする気だ」

 

 突然の行動に戸惑いを隠せないセレン。コジマ粒子消失と謎の異変という異常についていけていないのか、普段なら見せない焦りの表情を浮かべていた。

 

「……ここにとどまるだけでは無意味。周辺が清浄な空気であるなら、いったん降りて調べてみるべき」

 

 言葉少なに理由を語ると、セレンもすぐに納得した。AC後部にあるハッチが開く空気の抜ける音が聞こえる。

 

「では先に」

 

「申し訳ありませんが、そこで動かないでください」

 

セレンの声を遮るようにかぶせられた声。その声はやはり、

 

「リリウム・ウォルコット……!」

 

 憎々しげにつぶやかれた声に特に反応を見せず、女性、リリウムはアサルトライフルを構える。銀の長髪は太陽の光を浴びて輝き、たおやかな雰囲気な小柄な女性。リリウムは再び勧告する。

 

「武器も捨ててください。ああ、ご安心を。危害を加えるつもりはありませんので」

 

 その勧告に舌打ちしつつ。アサルトライフルを投げ捨てるセレン。首輪付きも同様に手にしていたアサルトライフルを捨て、両手をあげて降伏の意思表示をする。

 

「流石、BFFの女帝だ」

 

 金の短髪で目つきが鋭く、長身の女性。その少し低い声は、カラードランク3のウィン・D・ファンション。リリウムをほめるも、その視線はセレンと首輪付きを捕えて離さない。

 

「ずいぶん遅かったですね」

 

「なに、機体状況を確認していただけだ」

 

 軽口をたたきあうも、その銃口は決してそらさない。

 

「すいません、遅れました」

 

 そういいつつこちらもアサルトライフルを携えて走ってきたのは、緑の髪の女性。前者二名と違って豊満な体つきの女性は、メイ・グリンフィールド。スマイリーという愛称で知られるその女性は、その愛称に違わず笑顔でセレンと首輪付きに銃を突きつける。

 

「問題ありません。先ほど確保したばかりですから」

 

「ああ。それに最後には私たちがそろっている必要があるからな」

 

 少し遅れたことに、リリウムをウィンは特に気にしていないことを伝える。

 

「貴様ら……いったい何が目的で離反した!」

 

 負け犬の遠吠えと一蹴されそうな糾弾。しかし、当然ともいえる叫びだった。

 

「私たちはある取引をしました」

 

「取引……?」

 

「そうだ。我々リンクスのみならず、世界のすべての人々は次にいつ死ぬかもわからない刹那的な世界を必死で生きている」

 

「わたしたちは死ぬ瞬間を決められない。次の依頼で死ぬかもしれない、それともまったく別の平時に死ぬかもしれない」

 

「まぁ。ただ死ぬ事自体はよいのです。我々は傭兵。戦地に赴くということはそれすなわち死地を目指すことに他ならないのですから」

 

「だが、ただ死ぬのは許せない。何かを残したい。そう願った」

 

 次々と明かされていく離反の背景。確かに、ある一定数のリンクスなら思っていそうな言葉だった。だが、次の瞬間、それが勘違いであったことがわかる。

 

「何かを愛することは簡単にできます。敬愛、博愛。さまざまな形で」

 

「ですが、愛されることは困難です。我々リンクスは、死の象徴とも言えるのですから」

 

「だから、我々を恐れず、かつ強く、問題にならないカラードランク1のお前なら、というわけだ」

 

「……え?」

 

 無口なはずの首輪付きすら絶句するほどの発想。

 

「そっそんな理由で離反したのか?!」

 

「いえ、もともとあれは偽の依頼でした。怪しいとは思わなかったのですか?」

 

 理解不能な斜め上の理由で離反したのかと問えば、開き直られ、むしろこちらの管理体制を危ぶまれる。

 

「……こちらには企業連からの依頼をいくつか無償で請け負うという通達がなされていた。ウィン・Dもそれは知っているはず」

 

「ああ、知っていた。だからこそ、利用した」

 

 同じ通達を受けたはずのウィンを見つめれば、しれっと言い返す。言えることがあるとすれば、セレンと首輪付きが罠にはめられたということくらいか。

 

「だが、他にも強者と言える者はいるだろう!」

 

「残念ですが、ORCA旅団との戦闘によって、主だった男性リンクスは死亡、もしくは行方不明となりました。そこはご承知かと思っていたのですが?」

 

 そう、現在、カラードランクは調整されたもののORCA旅団との戦闘によって、以前の強者と呼ばれる男性リンクスは軒並み姿を消していた。ある者は討たれ、ある者は行方をくらまして。結果、最強のリンクスである首輪付き以外、彼女たちよりも強いと言えるリンクスはいなくなったのである。

 

「ああ、ご安心を。なにもただ、愛されてみたいというだけの理由ではございませんから」

 

「なんだと?」

 

 リリウムの発言に、眉をひそめる。そして、ウィンが一歩前に出る。

 

「私たちは、多少なりとも、首輪付きに好意を抱いている」

 

「なっ?!」

 

 突然の宣告に、たまらず言葉を詰まらせるセレン。当の首輪付きすら目を見張っている。

 

「通信を介して伝えても、その前にオペレーターであるセレン・ヘイズが許さない。だけど、個人的に会うにはいろいろなリクスが高すぎる」

 

「だから、偽の依頼を出してあなたを誘い出し、三人で攻め落として、認めさせる。それが作戦」

 

「一歩間違えれば死んでいたんだぞ?!」

 

「ランク1がそう簡単に死ぬわけがない。実力だけでなく、運すら味方にする首輪付きならなおのことだ」

 

 事も無げに言うウィンに三度絶句する。

 

「ですが生き残りました。結果論ですが、それがすべてです」

 

「なので、こちらにサインしてください」

 

 そう言ってメイが差し出すのは、一枚の紙切れとペン。嫌な予感、というよりは確信をもって受け取り、首輪付きとセレンはそれを見る。

 

「これ実際に使える婚姻届じゃないか!」

 

 そう、企業連が公式に発行している婚姻届だった。しかもわざわざ女性名を書く項目を三つに増やして個々の名前と他必要事項を記入してあるという悪い冗談も込みでだ。

 

「当然でしょう。王大人の人脈も使ってぬかりなくやりましたので」

 

「こんなことにそんな人脈を使うんじゃない!」

 

 ある意味正しく、ある意味間違った人脈の使い方で、ぬかりないものを作ったリリウム。

 

「必要事項と住居なんかは私とメイの二人で用意した」

 

「ええ、しっかりと準備しました」

 

 無駄に胸を張るウィンとメイ。胸部装甲の差が痛々しいのは触れてはいけないだろう。

 

「さぁ」

 

「早く」

 

「記入してください」

 

 詰め寄る三人。だが、ここでセレンは思いつく。彼女らが一切想定していないであろう、驚愕の事実を。

 

「フフフ……貴様ら、間違いを犯したな?」

 

 突然笑い出すセレンに、得体のしれないものを見るような視線を投げる三人。首輪付きは書類を見て若干だけ苦笑を浮かべる。

 

「その書類が効力を発揮するのは、各企業がデータベースに認知した人間にのみ。だが、こいつは各企業に名前こそ知られど、データベースには載っていない」

 

「どういうことでしょうか」

 

「つまり、首輪付きには戸籍が存在していないということだ!」

 

 勝ち誇るセレン。そう、首輪付きがなぜその本名で呼ばれないのかというと。彼には名前が、そもそも戸籍が存在せず、誰もその点を知らないからである。

 

「そんなことが……」

 

「バカな、ありえん……」

 

「では、今までの苦労は……」

 

「水泡に帰す、だな」

 

 衝撃を受ける三人に対し、勝ち誇った笑みを投げつけるセレン。と、首輪付きが突然身を低くして鋭い視線を送る。三人ではなく、セレンでもなく、また別の方向に。

 

「……何者だ」




長くなったかもしれないです.

2017/03/05 句読点を変更


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天災との邂逅

今回短いです。


 鋭い眼光を持って睨む首輪付き。他四人もすぐさま臨戦態勢を取るが、なんと、その方向には人影が一切なかった。

 

「……」

 

 場は一瞬で緊張に包まれる。小動物くらいなら軽く殺せるような気配を放ち続ける。すると、軽い笑い声が聞こえる。

 

「何者だ!」

 

 ウィンが一歩前に出る。

 

「フフ……。いや~、ごめんね~。私が隠れてる島に突然巨大質量の物体が四つも現れたからなにがあったか見に来たんだよねぇ」

 

 間延びしたような不思議なしゃべり方。ただ、よく聞けばわかる、相手に掴ませないためのしゃべり方。歴戦の強者たちは警戒を高める中、一人だけ臨戦態勢を解いた。

 

「おや、まさか臨戦態勢を解くなんてねぇ。不用心なのかな?」

 

 臨戦態勢を解いたのは首輪付き。そんな彼の行動に、声は疑問を投げる。

 

「……殺すつもりならすぐにできたはず。なのにわざわざ気配を漏らした。敵対するのは得策じゃないと判断した」

 

 首輪付きの判断に、四人は逡巡を見せつつも従った。

 

「うんうん、賢い子は好きだよ~」

 

 と、目の前の空間がゆがんでいく。その歪みはどんどんと大きくなり、やがて人間大になったとき、一人の女性が現れる。

 

「はい、これでおあいこかな」

 

 某童話のアリスをイメージするような、水色と白の服と、なぜかつけている機械式のウサギの耳。どことなく柔和な雰囲気を醸し出すも、気配の一端には狂気もうかがえる。

 

「攻撃しようとしてすまない。私はセレン・ヘイズだ」

 

 セレンは四人を代表して女性に声をかける。

 

「見た所軍人、というより傭兵さんかな? だったら仕方ないよね~」

 

 女性は軽く笑いながら答える。

 

「私はウィン・D・ファンション。驚かせてすまない」

 

「リリウム・ウォルコットです。大変申し訳ありません」

 

「メイ・グリンフィールドです。申し訳ありませんでした」

 

 ウィンたちも銃を下す。女性は気にしてないと流す。

 

「さて、わたしがいる島だとわかっての狼藉かなー?」

 

 途端に加わる圧倒的な威圧。数々の修羅場をくぐったリンクスをしてここまで威圧するのは、並大抵なことではない。しかし、首輪付きは彼女を見据えて伝える。

 

「……こちらとしても異常事態であり、ついては情報の交換を行いたいと考える」

 

 またしても突然、威圧が止む。見れば、女性は顎に手を当てて考えていた。

 

「ふーん……まぁ、別にいいか。とりあえず近くに基地があるからおいでー」

 

 そうして、踵を返す女性。と、思い出したかのように振り返る。

 

「あ、そうそう、私は篠ノ之束。みんな大好き束さんだよ~」

 

 天災と呼ばれる女性との、邂逅である。




2017/03/05 句読点を変更、一部表現を変更


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身体検査

 適当なジョークが不発したために若干不機嫌な篠ノ之博士が案内したのは、彼女の住処となっている特殊な基地だった。警備などの問題は大丈夫なのか、と言いたくなるが、BFFとGA専属のリンクスをして要塞と言わしめるだけの警備なので問題はないだろう。

 

「さて、ここがオペレータールームだよー!」

 

 何枚かの扉を潜り抜けた先にあったのは、おそらく個人で扱うには世界最高(ただしその個人も最高峰の人間)ともいえる規模のモニターやサーバが置いてある部屋だった。

 

「これほどのものが……」

 

 五人の中で唯一のオペレーターであるセレン・ヘイズが絶句する。リンクスたちはいまいち理解できていないのか、反応が薄い。

 

「お、わかるー? この基地の素晴らしさが!」

 

 セレンの反応に気をよくしたのか、篠ノ之博士はセレンに機材の説明をする。セレンもそれを聞き入るため、リンクスたちは手持無沙汰になっていた。仕方なく、周囲にある機材を眺めていたのだが、メイがある写真立てを見つける。

 

「この写真は……?」

 

 幼い少年と二人の少女の写真。よく見れば、片方の少女には篠ノ之博士の面影がある。

 

「あの、博士。説明を切ってすいませんが、この写真はなんでしょうか」

 

「んー?」

 

 せっかくなので、思い切って本人に聞くことにしたメイ。説明を中断してメイの方を見やる篠ノ之博士は、その写真を見て笑みを浮かべた。

 

「昔の写真だよー。昔の、ほんとに昔の」

 

 と、リリウムが口を開く。

 

「すいませんが博士、一つお聞きしたいことが」

 

「はーい、なにかなー?」

 

「我々のACはどうすればよいのでしょうか」

 

 ある意味当然の質問。いろいろあって失念していたが、ここにきてやっと思い出したのだ。

 

「AC?」

 

「はい。我々の乗っていた人型兵器で、正式名称はアーマードコア。他の兵器との差別化のため、次世代兵器という意味のネクスト、などと呼ばれることもあります」

 

「ほうほう……面白そうだね!」

 

 興味を持ったのか、セレンに説明していた時の数倍のテンションで応じる篠ノ之博士。

 

「動かすことはできるのですが、ACの絶対的優位性を保つ要素の一つに問題が生じているため、戦闘になればかなりの損失を被るため、できればどこかに隠すことができればよいのですが」

 

「うーん……とりあえず、この基地まで運んじゃおっか。そしたら検査も修理もできるし」

 

 ということで、AC四機の移動が決まった。

 

――――――――

 

「誘導は博士がしてくれるそうなので、早いところ動かしてしまいましょう」

 

 場所は先ほどの場所、博士と出会った場所だ。あの時はさほど気にしてはいなかったが、どうやら砂浜らしく、ストレイドのコックピットから見えていたのは正真正銘の海のようである。

 

「ほんとに、綺麗な海だな……」

 

「そうですね。見ることができるとは思いませんでした」

 

 ウィンとメイのうっとりとした言葉。そう、本来であるならば、海も陸地同様にコジマ粒子によって汚染され、とても遊泳などできるようなものではないのだ。それが今や、目の前にまったく汚染されていない海が広がっているのだ。その心境たるや、推して知るべしである。

 

 リリウムのアンビエント、ウィンのレイテルパラッシュ、メイのメリーゲートが特に不自由なく立ち上がるなか、首輪付きのストレイドだけが、立ち上がるのに苦労していた。

 

「やはり、やりすぎましたか」

 

「だが、こんな事態は想定外だったからな」

 

「仕方ないと思います」

 

 そう、ストレイドは彼女らとの戦闘でほぼ大破しており、外装はぼろぼろ、内部装置もかなり損傷を受けていて、歩くことはおろか、満足に立ち上がることもできない。

 

<おい、大丈夫か>

 

 ストレイドのコックピットへ、無線が入る。篠ノ之博士の案内の手伝いとして各機のオペレートをしているセレンからだ。

 

「……さすがに動けない。誰かに牽引してもらうことを願う」

 

<了解した。ではメリーゲート、ストレイドを引っ張ってやってくれ>

 

<メリーゲート、了解しました。これよりストレイドを牽引して予定ポイントまで運びます>

 

 通信と同時にストレイドにかかる特殊鋼製ワイヤー。その頑強さは篠ノ之博士特製というのだからお墨付きだろう。そしてそのままずるずると引きずられていった。

 

――――――――

 

「はい、お疲れ様」

 

 ACを所定の位置に運んだあと、篠ノ之博士がさっそく精密検査のための機械群を起動させる。そのさまはまるで機械の母とでも言うかのようだった。

 

「さて、これでしばらく待ってれば検査結果も出てくるから、君たちはこっちで身体検査しようか」

 

 そう言って通されたのは、MRIをはじめとする精密検査機器の置いてある部屋だった。

 

「さーて、誰から行く?」

 

――――――――

 

 精密検査が終わったあとの男性更衣室。その中で首輪付きは立てかけてある鏡を見つめていた。

 

 赤銅の髪に金色の瞳、幼さを感じさせる顔立ちは、右頬の顎からこめかみにかけて走る大きな傷によって荒々しさを演じている。上背は高く190cmを超え、身体は鍛えてあるゆえに筋肉質で、かつそこらじゅうに傷がある。数多の戦場を潜り抜けた英雄に違わぬ姿、とでも評される姿。

 

 その一つ一つの傷をなぞる。感慨深い傷跡たち。そして首輪付きは再び衣装を羽織った。

 

――――――――

 

「さて、検査結果が出たよ」

 

 全員の身体検査が終わって約数分。莫大な検査項目からすると、どこの大病院でもこれほど短時間で検査結果など出ないだろう。

 

「まず、大前提として、脊髄や脳に特殊なネットワークができていること、全身に人工的な強化措置が施されていることなんかがあるけど、これは大丈夫?」

 

 博士の口から出された言葉、それはACに関わるものにとって、常識の域を出ないものだった。端的に言えばAMS、Allegory-Manipulate-SystemというACを操縦するにあたって必要な技術によってもたらされたものだ。このAMSがなくても操縦こそ可能だが、ACを高速かつ精密に制御したければ必須となる。これがないACなどただの的だ、などと評する者もいるほどの技術だ。また、その高速で精密な操縦に肉体が耐えられるように神経や身体機能にも強化を施される。いまさらな事実なので、これには特に否定も肯定もない。そのことに博士はうなずき、全員に個人の検査結果の書かれた紙を渡した。そこに書かれていたのは、

 

[至って健康体。留意すべき点なし]

 

という文字だった。

 

「おい待て。この結果はありえない!」

 

 ウィンが博士に問う。セレン、メイ、リリウムも同様に博士を見ていた。

 

「私たちはコジマ粒子をその身に浴びている。あれだけ人体に有害な粒子を浴びていて、汚染していない? ありえないだろう!」

 

 そう、ACはコジマ粒子を扱う機体。ゆえに、そのパイロットであるリンクスたちも汚染され、いつ死ぬのかという恐怖があるのだ。

 

「検査結果に偽りなし。だけど、どれだけ調べても異常な箇所は見つからなかったよ」

 

 そう断言する博士。戸惑いを隠せないリンクスたち。そして、その場を収めるべく、セレンが声を上げる。

 

「とりあえず、身体検査の結果、異状がないことはわかった。博士、次は情報の交換を願いたいがよろしいか?」




2017/03/06 句読点を変更


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情報交換

短いですがどうぞ


「んー……とりあえず、君たちのことを教えてくれないかな?」

 

 博士の提案に、おそらく一番情報を持つリリウムがうなずく。そう、彼女はリンクスであるが、本来は王小龍(ワンショウロン)の補佐、本人の言葉を借りれば【陰謀屋】である特異な人物だ。

 

「まず、我々はリンクスであり、ウィン・D・ファンションとメイ・グリンフィールドと共謀してランク1の首輪付きを偽りの依頼で誘い出し攻撃。そのさなかで首輪付きがアサルトアーマーを使用したところ、突然ここへ飛ばされた、というわけです」

 

 簡潔で要点をまとめた説明は、彼女らしい。その言葉に博士はうなずき、そして口を開く。

 

 

 

「うん、今の説明でわからなかったのは、リンクス、アサルトアーマーの二つだね」

 

 

 

 部屋を支配する沈黙。常識ともいえるリンクスという言葉の指すものを知らないという彼女の告白。彼女の高い技術力から当然知っていて、かつネクストに関連する人物と想定していたが、それは全くの大外れであることになる。

 

「えっと……ほんとうにご存じありませんか?」

 

「うん、全く知らないね。ついでに言うとあの巨大な人型兵器、ネクストっていうのも全く知らない」

 

 メイの疑問に胸を張る博士。次いで動いたのはウィンだった。

 

「い、いや、これだけの要塞を築くことのできるような技術者を企業が放っておくわけがない。他言はするような真似はしないと約束するので、どこの所属か教えてもらえないだろうか」

 

 ウィンの一言。それに対して博士は首をかしげた。

 

「所属? 私はどこの企業にも就職してない、というか逃亡の身だよ?」

 

「そんな……」

 

 ウィンが額を抑える。リリウムは眉ひとつ動かしていないものの、自身のデータベースを根こそぎ洗っているようだ。

 

「……博士、いくつかお聞きしたいことが」

 

 そんなとき、首輪付きが手を挙げる。

 

「……BFF、GA、オーメル、インテリオル、テクノクラート、レイレナード、有澤重工、アルゼブラ。これらの名前に聞き覚えは?」

 

 口にした名前は、特に名前の知られているネクスト関連の企業。リンクスのみならずネクスト関係者なら知らないものはないだろう。

 

「んー……全部聞いたことないなぁ。なにかの企業?」

 

 しかし、彼女はそれを知らなかった。

 

「……」

 

 その答えに顎に手を当てて考える首輪付き。そして、一通り思案して、再び口を開く。

 

「……では博士、あなたのことをお教え願えませんか」

 

 その言葉に驚く博士。

 

「えっと、ほんとに? 篠ノ之束って名乗ったよね?」

 

「ええ、そうですね。ですが、我々にはその名前に心当たりはありません」

 

「そう……」

 

 今度は博士が悩む番だった。

 

「まず、君たちは主力兵器がなにか知っているかな?」

 

 その言葉に顔を見合わせるリンクスたち。

 

「まず、我々の扱うネクストですね」

 

「次点で言えば、AF(アームズフォート)だな」

 

「我々にかなわないにしも、出回ってる兵器としてはノーマルACでしょうか」

 

「……自律兵器や航空機なんかもある」

 

 彼らが例に出すのは、やはり各企業が用意している通常兵器と大型兵器だった。

 

「ふむ……」

 

 再び思案する博士。そして,すぐに顔を上げる。

 

「今君たちが口にした兵器、航空機は別にしても、ネクスト、AF、ノーマルACなんかはこの世界には一つとして存在していない兵器だよ」

 

「なに……?」

 

 その言葉を疑う一同。

 

「あれだけの大きさの人型兵器を動かすだけの技術を持つ企業や国は、残念ながら一つとして存在していないんだ。そして、この世界の主力兵器は戦車、航空機はもちろんなんだけど、それ以外に一つあるんだ」

 

 博士がコンソールを開いて見せる。そこに映ったのは、

 

「そう、この世界に君臨する絶対兵器はこれ。女性のみの扱える兵器、インフィニット・ストラトスだ」

 

 果てなき大空の名前のついた、小型人型兵器だった。




2017/03/06 句読点を変更、表現や内容を一部修正

2017/11/28 企業名としてラインアークを挙げていたので、アルゼブラ社に変更


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設立

「インフィニット・ストラトス……?」

 

 聞き覚えのない名称。そのつぶやきに、博士は鷹揚にうなずいた。

 

「そう! 〝果てなき大空〟と名付けたこれは、宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツなのだ! ちなみに開発者は私なんだけど、発表後にちょっとした手違いで日本が射程距離内にある全ミサイルが発射されちゃってねー、その時に最初の機体に処理してもらって、それを捕獲しに来た戦闘機やらも排除しちゃったりして、今じゃ核に代わる世界の抑止力として認識されてる飛行型パワードだよー」

 

 いろいろと明かされる秘密。それに絶句する一同。

 

「いや、博士、それは……」

 

「悪質なマッチポンプですね……」

 

 セレンとリリウムの戦慄の言葉がすべてを表している。しかし、その言葉にニッと不敵な笑みを浮かべる博士。

 

「やだなー、なにかの偶然だよ、偶然。それに、ISの中核パーツのコアは467個を配って以降作ってないからねぇ」

 

「まぁ、それはそれでなかなかなことなんですが……」

 

「とりあえず、これでわかったことがあるよね」

 

 メイの言葉を遮り、博士は浮かべていた笑みを消し、顔を引き締める。それに合わせ、首輪付きの顔も険しくなる。

 

「……ありえない話、というより昔からあるSFチックな話だが、おそらく、それが正しい」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「君たちは、まったくの異世界に飛んできたんだよ」

 

 

 

――――――――

 

 そのあと、それを更に裏付ける証拠を探すのに奔走した。

 まず、各地の地名だ。これには多くが一致していて、似たような世界であることが分かった。次は国だ。首輪付きたちの世界――以後はAC世界と呼称する――は、昔起きた国家解体戦争によってすべての国という枠組みがなくなり、代わりに企業というものが国家の様相を成していた。なので、まったく国がないAC世界とこちらの世界では、国というものがある時点で大きく違う。そしてその企業すらも存在しない。唯一有澤重工はあったが、IS部品の下請け程度の会社なので、想定している企業とは全く違う。調べれば調べるほど裏付けされる差異。それが、この上ない決定打だった。

 

「では、どうしたものか……」

 

 世界地図を眺め、考えるウィン。博士は意気揚々と世界を飛ぶ際に必要なエネルギーと現象を調べていた。

 

「元の世界からの救援は困難でしょうね。どんな偶然でここに来られるのか、全くわかりませんから」

 

「かといってこの世界でどう生きる? 国家という枠組みがある以上、戸籍なども管理しているようだ。我々は無戸籍となってしまう」

 

 だが、立ち直るのは早い。原因不明の状況が突拍子のない事実などが知らされ困惑していたものの、戦場を駆け回っていた都合上、すぐに頭を切り替えることができる。

 

「……流石に、戸籍改竄は無理だろうな」

 

「国家が管理しているサーバですから、企業ほどではないとはいえ、そのプロテクトは強固なものでしょうね」

 

「色々と前途多難だな…」

 

 セレンの嘆息。そう、頭を切り替えた所で、どうにもならない問題なのだ。

 

「ん? それくらいなら私がどうにかするよ?」

 

 そう、彼らだけなら。

 

「なに? そんなことができるのか?」

 

「まぁねー。これでもISの開発者だから、どこの政府も私とコンタクトしたがるからこれくらいなら要求飲ませられるし、ハッキングして気づかれないようにっていうのも可能だよー」

 

 驚くセレンにさらっとすさまじいことを言ってのける博士。

 

「なるほど……だが、さすがにそこまでしてもらうのはな」

 

「そう? 私は構わないんだけど」

 

 躊躇するセレン。と、首輪付きが彼女に向き合う。

 

「……では博士。我々を雇うつもりはないか」

 

 首輪付きの提案。それは、傭兵らしいものだった。

 

「ふーん? どういうこと?」

 

「……我々はこの世界で動く足掛かりがほしい。なので、その足掛かりを作ることができる博士に依頼したいが、金銭的、物的対価が出せない。なので、我々リンクスという力を取引材料として提示したい」

 

「へぇ……」

 

 まっすぐ見つめる首輪付きに、こちらもまっすぐ見つめる博士。しばしにらみ合いが続くと、博士がにっこりと笑った。

 

「うん、いいね。君たちを雇って、存分にその力を発揮してもらおう!」

 

 首輪付きは、ぺこりと頭を下げる。

 

「じゃぁ、まずは会社設立だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 後日、その会社が世界を揺るがすのだが、それを知るのは、今は誰もいない。




2016/03/06 句読点を変更、一部内容を加筆修正


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鎧と空

「さてさてさーって、機体の検査結果だよ」

 

 意気揚々と紙束を持ってくる博士。そう、ACの検査結果が出たのだ。首輪付きたちはそれを受け取ると、その内容に目を走らせる。とはいえ、フリーランスのリンクスであるセレンと首輪付き以外は、さほど専門的なことはわからないのだが。

 

「ふむ、レイテルパラッシュは小破、といったところか。それでも装甲を換装すればどうにかなる」

 

「メリーゲートは損傷軽微ですね。とはいえ、残弾数が心もとないですが」

 

「同じくアンビエントも損傷軽微です」

 

「やはり、ストレイドは大破。各パーツの交換が必要か。内燃系が無事なのは救いだな」

 

 各自のACの被害状況は想定内というところ。しかし、その想定内の中でも最悪の事態が記されていた。

 

「想定していた最悪の事態だな」

 

「ええ、コジマ粒子貯蔵量がゼロ、ですか」

 

「これではOBどころかPAすら張れませんね」

 

 そう、コジマ粒子の残量がゼロなのだ。これはネクストのNEXTたる所以の一つがつぶされたことに他ならない。とはいえ、通常兵器に比べても圧倒的な優位性を誇るのもまた事実なのだが。

 

「博士、本当にコジマ粒子はこの世界にて発見されていないのでしょうか」

 

「そうだねぇ、それらしいものと言えば毒性なんかで言うとウランとかそういう核物質なんだけど、燃料としての効率、そもそもの運用方法からすると絶対に違うんだよねぇ」

 

 博士の言葉通り、コジマ粒子やそれに類する物質は現状発見されていない。もし発見されていれば博士はそれを研究して無害化したのちにISのエネルギー源としただろうし、各企業も発電方法の一つとしてそれを利用しただろう。

 

「まぁ、ないものは仕方あるまい。幸い、通常兵器に比べれば装甲は厚いし機動性も高い。火力も十分だ」

 

 博士への武力提供については問題はないだろう。そう提言するウィンに、博士は笑みを浮かべる。

 

「あ、ACについてはちょっと思いついたことがあるから、一週間ほど待っててね」

 

 そう、さわやかなほどの笑み。その中に見出せるのが悪戯を思いついたかのような少年の色でなければ、リンクスたちも安心できただろうが。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 数日が過ぎた。現状、迂闊に動くわけにもいかない彼らはインターネットを介して各国の情勢などの政治的な情報から、家庭で簡単に作れるお菓子といった他愛のない情報まで,様々にそして思いのまま情報を得ていた。

 

<さて、みんな、第二倉庫に来てくれるかな>

 

 博士が館内に設置した通信装置で、ACを運び込んでから占有された倉庫の代わりに増設された第二倉庫へ来るように伝える。

 その声に従って第二倉庫へ向かい、そこに入るが、中の照明はすべて落とされ、暗闇だけがそこにあった。

 

「博士、我々になにを見せるつもりだ?」

 

<ふっふーん、さぁて、扉を閉めてね!>

 

 得意げな博士の指示に従い、扉を閉める。

 

<さぁ! 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 全世界初公開!>

 

 と,照明が光る。そのまぶしさに目を細め、そして慣れたころに目を見開く。

 

<ネクスト技術とIS技術の融合! どこの誰にもマネできない世界最強の人型兵器だ!>

 

 そこにあったのは、四つの人型。それぞれの機体色とそれぞれのパーツ、武装。そしてエンブレム。そう、それこそ。

 

「アーマード、コア……」

 

 リリウムのアンビエントが。ウィンのレイテルパラッシュが。メイのメリーゲートが。首輪付きのストレイドが。主を待つ騎士のごときに佇んでいた。

 

「博士、これはいったい?」

 

<君たちのACの検査と並行して行った解析で得られた技術をISに転用して作った機体だよ! いわば、この世界におけるNEXTだね!>

 

 差異があるとすれば、その全長。ACが巨大人型兵器なのに対し、これは人型兵器であることは同じとしても、その大きさが人より少し大きい程度になっていた。博士の言葉通り、これは博士の開発したISに、ネクストの技術をつぎ込んだからである。

 

<各パーツはそれぞれ別のパーツに換装が可能で、武装も自由! 既存ISのものから、これから開発していくACの再現武装まで! 内燃系は全部ISのものにネクストの技術を組み込んで高出力高効率高容量! 今現在開発されてるどのISよりも強いこと間違いなし!>

 

 興奮した様子の博士が一息に話す。

 

<さぁ、鎧と空の合作! さっそくミッションブリーフィングだよ!>




博士の口調を改定(某のほほんさんと混じってた)。

なお、首輪付きのストレイドについて描写が一切ないのは仕様ですのであしからず。

2017/03/06 句読点を変更、一部内容を加筆修正


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始動

 強い風とともに舞い落ちる白い欠片。ここはフランスの山間部。毎年多くの雪が積もり、女性の体が埋まってしまうことも珍しくない。そんな厳しい冬の丘の上に、一つの影があった。女性というよりも少女らしい背格好で、髪は金、普段なら快活な彼女も、さすがにこの寒さの中ではなりを潜めていた。

 

「ここで、待ち合わせのはずなんだけど……」

 

 彼女はジャケットの中に隠れていた腕時計を見つつ、周囲を見回す。しかし、周囲には人影の一つどころか、小動物の一匹も見えず、ただただ白い帳が下りていた。

 

「ほんとにここでいいのかなぁ……」

 

 そして思い返すのは、数日前のことだった。

 

 

――――――――

 

 

 ある日、とある理由から家にいても閉塞感を感じているだけなので、その息抜きのために家から出たときに偶然見た、数台の大型トラック。近くに住んでいる人々はフランスにある世界第三位のIS開発企業であるデュノア社のものだとして気にしていなかったが、彼女はそれが違うのではないかと感じていた。本来ならドラックの車体のどこかに必ず書いてあるデュノア社のロゴマークが一切なく、車体自体も真っ黒な塗装がなされているだけだったからだ。なぜそこまでわかったかというと、彼女もここ、フランスにてISに従事するものだからだ。ゆえに、自国の量産型ISを生産、整備している数少ない会社のトラックを見間違えることなどないのだ。

 少女は気づかれないように車列をある程度まで尾行し、その行先を調べて家に戻って自室にこもった。そしてその付近に工場やそれに類するものを探した。衛星写真から公式情報に至るすべてを使って。そして、それに類するものが公式的に存在しないことを確認すると、ただちに文書を作成、したところで一通のメールが入る。

 

<ハロハロー。今君が調べていたことについて、少し知りたいことがあるからちょーっと教えてくれないかなー?>

 

 全く知らないアドレスからのメール。しかし、その内容は偶然にしてはできすぎている内容だ。一瞬だけ、自分が知らないうちに何者かに監視されているのかと思って周囲を見回すも、それらしいものは一つも発見できない

 

<ああ、安心して。別に君のことを監視してたわけじゃなくて、ただ妙な事を調べてる動きがあったから連絡しただけだから>

 

 再びのメール。そして、少女は意を決したかのように返信する。

 

<一体なんのことでしょうか? 特に不思議なことはしていないつもりですが>

 

<とぼけなくても大丈夫。なにかあったっていうのはわかるから。私はそれについて教えてほしいだけ>

 

 何が起きたかまではわからないにしても、何かが起こっていることは確実につかんでいるであろう相手。そして、少し考え、その情報の裏付けとして、多少情報を流すことにしたのだった。

 

 

――――――――

 

 

 そんなメールの相手が指定してきた日時と場所まで、あと数分。向かうという4人の姿は見えない。と思われていた時、後ろから声がかかる。

 

「君が、情報をくれた人物でいいのかな」

 

 振り返れば、そこにいるのは長身の女性とみられる人物が三人、同じくかなり長身の男性が一人の四人だった。全員が大きなリュックを背負っている。

 

「あ、はい……」

 

「私たちは例のメールの者から派遣されたものだ」

 

 話しかけた女性からの握手に応じる。よく見れば、この四人は防寒着が同じ意匠で、異なる点は色と、つけられているなにかしらのロゴだろうか。目の前の女性は真鍮色をメインとしてロゴは西洋剣、別の女性は若干蛍光色系の緑をメインとしてロゴは緑色のスマイリーマーク、もう一人の女性は白をメインとして白百合だった。

 

「私はレイテルパラッシュだ」

 

「私はアンビエントです。どうぞよろしく」

 

「わたしはメリーゲートです。よろしく」

 

 そして、男性と向き合う。上背は高く、体も身体も防寒着から見てわかるほどにがっしりとしている。黒を基調とした防寒着が男性をより大きく強調する。それだけでなく、男性の胸についたロゴが鬼のようなものなのもより強調する原因か。

 

「……ストレイドだ。よろしく」

 

 元来無口なのだろう、言葉少なに語る男性と握手を交わし、さっそく案内する。四人もそれについていき、数分後、問題の場所にたどり着く。

 

「ここが、例のトラックが向かった場所です」

 

 案内された場所で、さっそく何かを懐から出すアンビエント。なにかの検査器具なのは確かなのだが、見たこともない道具なので、少女にはなんなのかは判別がつかない。

 

「……わかりました。反応はありませんでした」

 

「なるほど、ではタイヤ痕を調べよう」

 

 そう言いつつ、レイテルパラッシュも先ほどとは違う器具を出し、地面を見始める。

 

「……ふむ、なんとか残ってたみたいだな。これで追えるぞ」

 

 そして、器具をしまったかと思えば、次に取り出したのは自動小銃だった。

 

「えっ?!」

 

 さすがにこの展開は予想していなかった少女は、驚きを口にする。

 

「さて、あなたはここまでで大丈夫なので、帰宅して構いません」

 

「むしろ、我々としては帰宅することを勧めるな」

 

 口々に帰宅を、というよりは避難を勧められる。それだけで、なにをしでかすかが容易に想像できた。

 

「あ、あなたたち、テロリストですか?!」

 

 すぐに数歩飛びのいて距離を取る。四人の一挙手一投足を見逃さないように。その様子に、四人は顔を見合わせ、やがて男性が口を開く。

 

「……明日知らされる情報を元に、自分で考えるといい」

 

 すなわち、止めても無駄だと。そして、四人は自動小銃を構えたまま、タイヤ痕を追って行った。

 

――――――――

 

 すっかり姿が見えなくなってしまった一向を茫然と見送る少女。すでにあれから十数分が経過している。

 いったい何者なのか、何が目的なのか、メールの主は誰なのか。そういった疑問が浮かんでは消え、そして。

 

 

     ッドォォオォォォオォォォン!!!!!

 

 突如、眼前にて発生した大爆発にかき消された。

 

「ッ?!」

 

 少女はハッと我に返ると、すぐに状況を調べた。分かったのは、目の前にあった山の裾野が目視にて半径約1000mほど消し飛び、山崩れを引き起こしていたことだった。この時幸いだったのが、その近くに町や住居が一切なかったことだろう。すぐさま、事態を通報せんと携帯を手に取って山を見やり、再び絶句する。

 爆煙を斬り裂き、上空へと駆け上がる流星が四つ。その大きさやシルエットから推測される答えは、

 

「IS……?」

 

 そう、IS。しかし、少女は思案する。ISのコアは全部で467個しかなく、それも各国で厳重に管理されている。自国のISが攻撃するメリットがなく、そもそも演習場所でもなく、かといって他国の攻撃と仮定すると、国際的な規定に違反するためありえない。

 と、四つの流星が急激にその進路を変えた。向かう先はそう、少女のいる位置。

 

「なっ」

 

 少女もすぐさま通報のため、携帯をプッシュするも、次の瞬間には、周囲を囲まれていた。

 

「……」

 

 緊張が走る。少女は身じろぎすらできず、取り囲むISも身動き一つしない。そんな沈黙を破ったのは、真後ろにいた機体だった。

 

<我々はカラード>

 

「ッ!」

 

 すぐさま、そちらに向き直る。

 

<我々は傭兵であり、ある意によって動く>

 

<君が口にしてよいことは、我々がカラードであること>

 

<そして、強大な戦力であること>

 

 その声はマシンボイスだったが、そこで少女は気づく。胸部パーツに、鬼のようなエンブレムがついているのを。それに気付くと、すぐに周囲を囲む残りの三機を確かめる。そして、それぞれに先ほどの四人のエンブレムがついているのを確認する。

 

<我々はカラード。ある意によって動く傭兵なり>

 

 言い終わると、急速上昇し、すぐに見えなくなる。

 

「カラード……」

 

 あとに残されたのは、少女、シャルロット・ブロンだけだった。




現状でも、あくまでストレイドに対する描写は伏せます。

エンブレムだけですが、発覚しました。

P.S. ブロン姓はオリジナルです

2017/03/06 句読点を変更、一部内容を加筆修正


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委員会

 その日、国際IS委員会の緊急招集が行われた。議題は先日発生したフランス山間部の大規模崩落である。ただの大規模災害ならそもそもISを管轄する国際IS委員会など招集されない。が、その大規模災害に際するフランスからの報告が問題となっていた。曰く、

 

「居合わせた我が国の候補生がそこから飛び去る四機のISを思しき高速飛行体を観測しています」

 

 とのこと。また、

 

「その候補生がそれらと接触し、彼らがカラードと呼ばれる傭兵であること、何者かに雇われているらしい、ということが分かっています」

 

 その報告に議会は大きくざわめいた。まず、ISコアは計467個、すべてが各国で厳重に管理されていること。次に、国際的な協定として定められたアラスカ条約によって、軍事利用は禁止されている。すなわち、他国への攻撃にこれを用いることができないのだ。それだけでなく、同条約によってISコアの取引は禁止されているため、配分されたコア以上にコアを保有することはあり得ない。以上のことを加味し、またすべての国がその事態を知らないということは、第三者がISコアの製造に成功したことを意味する。

 そう、今回の問題の本質。それは『第三者が』ISコアの製造に成功した、ということだ。これは致命的なまでに軍事バランスを崩壊させる。ISコアを世に広めた篠ノ之束博士がどこかに行方をくらましている以上、その人物はすべての国が喉から手が出るほど欲する人材である。他国よりも多くのISが所有できる機会なのだ、当然とも言えよう。

 

「我々、国際IS委員会は、アラスカ条約に反するすべての行いを断固として許さない。フランス代表、今の報告の裏付けはどの程度進んでいるかね」

 

 議長の発言に、フランスの代表は手元の資料に目を落とす。

 

「まず、大規模災害が発生したのは確実であり、その際に爆発音のようなものを多数の近隣都市のの住民が聞いています。また、その際に災害現場から北西方向に飛び立つ影が四つほどあったと目撃情報も複数あります。なお、災害現場の解析から地下で爆発があった痕跡が確認されていますが、その近辺に爆発物関連の工場などは公式には存在しませんでした。また、接触した候補生からの情報によれば、機体のカラーは緑、真鍮、白、そして黒の四色だそうです」

 

 沈黙が議場を支配する。

 

「……以後、この会議に関する情報を接触的に収集し、カラードなる傭兵と彼女らにISを提供した者の捜索を行うこととする」

 

 その議長の提案を拒否するものはなく、その日の会議は表向き終了した。

 

――――――――

 

 「まったく、新しいISコアの開発だと? いったいどこの誰がそんな迷惑なことを……」

 

 議会が終わって各代表が自国に帰るその一つに、日本代表、正確にはIS学園の実質的な会長の轡木十蔵がいた。ISコアの配分を巡った大騒動が再び繰り広げられるのかと思うと、非常に憂鬱な気分になる。そう漏らしつつ、議会で配られた資料に再度目を通していた。

 

「カラード、傭兵、大規模災害を引き起こすほどの爆発。わからないことだらけだが、少なくとも純軍事用ISと考えるべき性能だな」

 

 本当に頭が痛くなる案件であった。一応、軍事利用しないことを決められていて、そのカモフラージュとしてISの競技用にレールガンだのアサルトライフルだのを開発されているものの、あくまでそれは競技用で、威力はさほど高くはない(とはいえ、生身の人間はもちろん、既存兵器を撃墜できるだけの威力はある)。しかし、純軍事用となれば別だ。競技用という枷を外すれば世界最強の威力そのままに開発された兵器を、それこそ核兵器でさえ運用ができる。

 

(とにかく、これから忙しくなる。IS学園に入る生徒も先ほどの会議を念頭に置いた活動をするだろうし、学園を襲撃される可能性もある)

 

 これからのことを思うと気が重い轡木十蔵だった。




2017/03/07 句読点を変更


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彼の名

SHRのルビの振り方を間違えていましたので訂正です。


 青年は焦っていた。とはいえ、彼がなにか失敗したわけでもなく、彼がなにか奇抜な特徴を有していたわけではない。いや、現状においてある意味特徴的ともいえる要素は持っているが。

 

「全員揃ってますねー。それじゃぁSHR(ショートホームルーム)始めますよー」

 

 その緊張感の中に入ってきたのは一人の女性。女性というには少し幼い感じもするものの、彼女はれっきとした学校の教師なのである。その背格好から、背伸びをした少女のようなほほえましさを感じるのだが、今はそれどころではないだろう。

 

「それではみなさん、一年間よろしくお願いしますね」

「…………」

 

 本来なら、ここで元気のいい返事が響くだろう。それがふつうだ。だが、今のこの状況はふつうではなかった。悲しいことに。

 

「じゃ、じゃぁ、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 この緊張感によってもたらせる沈黙にうろたえるその教師が少しかわいいなどと思ったりする余裕なんてない。あるはずがない。

 

 なぜなら、このクラスはほとんど全員が女生徒だからだ。

 

 そう、彼以外のすべてが女性。教師は数名ほど男性がいるものの。純粋な生徒はすべてが女性。右を見ても、左を見ても女性。上を見ても下を見ても女性。それだけならまだいい。なぜこれほどの緊張感があるのかというと、その全員が彼を、織斑一夏を。

 

「……くん。織斑一夏くんっ」

 

 他のことを考えて、いや、正確には周りを気にしすぎて、自身を呼ぶ声に気付かなかった。

 

「あ、あの、お、大きな声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、自己紹介ね、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

 気づけば、目の前で女教師、副担任の山田真耶先生が頭をぺこぺこと下げつつ、一気にしゃべっていた。

 

(いきなりやっちまった)

 

 それが、彼、織斑一夏の偽らざる思いであろう。

 

―――――――

 

 ここでもまた、緊張感が教室を支配していた。とはいえ、その緊張感の矛先となっている人物は、いたって平気そうな顔をしているのだが。

 

「ハーイ! みなさーん、私がこのクラスの担任、エドワース・フランシィですよぉ!」

 

 まぁ、担任もそれを気にしていないのか意図的に無視しているのか、ものすごく明るく振舞っているのだが。

 

「趣味は盆栽でー、彼氏は募集中でーす! ジャパンのカルチャーは面白いですね!」

 

 多少英語の混じった妙な日本語で元気よくしゃべるフランシィ。

 

「さて、次はみなさんの自己紹介の番でーす! 出席番号順でいきましょー」

 

 奇妙な緊張感のなか、進む自己紹介。そして、渦中の人物の番になった。

 

「ハーイ、次はアルバート・ティーアくんだよー」

 

 一斉に視線が向く。そう、アルバートから察することができるに、彼も男性なのである。

 

「……アルバート・ティーア。趣味その他は特にない。よろしく」

 

 そう少しだけ答えて、席に座る。と、一斉に椅子から滑り落ちた。

 

「それだけー? ティーアくん、もう少しないのー?」

 

 少し不満そうなフランシィ。ティーアは少し考え、やはり特にないので首を振る。

 

「……とくにはない」

 

 その様子に少し落胆するも、すぐに次に振る。

 

「じゃぁ、次はリリウム・ウォルコットさーん」

 

 そう、リリウムだ。一同はアルバートに注目していたが、一番の問題は彼女だったのだ。

 

「リリウム・ウォルコットです。趣味は紅茶で、現在はアルバート様と婚約させていただいている一人です」

 

 静まり返る教室。緊張感などなく、理解不能な言葉を投げられたが故の沈黙だった。その言葉にアルバートは額に手を当てていた。

 

「待て、リリウム! 抜け駆けはずるいぞ!」

 

「そうです! 私たちだっています!」

 

「ですから、婚約させていただいている一人、という言葉にさせていただきました」

 

 そんなリリウムに食って掛かるは、ウィン・D・ファンションとメイ・グリンフィールド。そう、彼女たちもここ、IS学園に入学していたのだった。

 

「ワーオ! アルバートくんったらハーレムですねぇ!」

 

 そんな生徒たちを尻目に、一人だけはしゃぐフランシィ。

 

「私はウィン・D・ファンション! リリウムと同じくアルバートの婚約者だ!」

 

「私はメイ・グリンフィールド! 同じくアルバートの婚約者です!」

 

 そう口早に宣言すると、にらみ合う三人。と、突然クラスが沸いた。

 

「ほ、本当に三人は婚約してるんですか?!」「誰が一番最初に言い出したんですか?!」「アルバートくんはどう思ってるですか?!」

 

 などなど。

 やはり、ここに来るのは早まったかと、思わず嘆息してしまうアルバートだった。




というわけで、首輪付きくんの名前はアルバート・ティーアに決定です。

名前には特に意味はないですね、はい。

今後は首輪付き、ではなくアルバートもしくはアルで表記していくのでよろしくお願いします。

2017/03/07 句読点を変更、一部修正


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不安な理由と邂逅

お待たせいたしました。続きをどうぞ。

P.S.(01012016)
後部に追加を載せました。


 「……であって、ここの詳細な意味は……」

 

 黒板に書かれていく解説を読み流しつつ、()()()()()()()()()()()の書かれた教本を、これまた流し読む。いわば、ISに触れたばかりの初級者向けの教本は、彼の知識を再確認させる程度の意味しかない。そして感じる視線。彼を観察する視線にアルは嘆息しながら、事の始まりを思い出していた。

 

――――――――

 

 「おおーっ、これはまた!」

 

 基地に声が響く。それは喜色に満ちていた。そんな声を上げた彼女、篠ノ之束に、興味を示した。

 

「ほう、あなたが声を上げるとは。いったいどんなニュースやら」

 

 動いたのはセレンだった。彼女は首輪付きに張り付いていた左腕を放すと、束に近づく。実は今、セレンをはじめとするACチームは首輪付きの体に密着している。セレンは左腕を、リリウムは右腕を彼に絡め、ウィンは彼の背中に自身の背中をくっつけ、メイは首輪付きの胡坐の上に座っている。

 

「いやー、これは流石に予想外だよねぇ……」

 

 そう言って彼女が見せたのは、『衝撃! 世界初の男性IS操縦者現る!』という見出しのニュースだった。

 

「……なに?」

 

 セレンが訝しむのも無理はないだろう。なぜなら、

 

「ISは女性しか扱えないのという話ではないのか?」

 

 そう、ISは女性にしか扱えない。それは開発者本人いわく、開発中に発現した特性で、原因は不明であるとのこと。ゆえに、このニュース自体も意味不明であった。

 

「女性のみが扱えるはずなのに、男性が、しかもまさかいっくんがねぇ……」

 

 いっくん、と呼んだニュースに使われている画像の人物は、青少年と言うべき背格好で、こういった取材には不慣れなのか、照れたような笑いを浮かべていた。

 

「博士、知り合いか?」

 

「んー……ISを発表してから会ってないんだけど、私の大好きな人たちの一人だよ」

 

 セレンの問いに、頬を緩ませて答える。

 

「そっかー……元気にしてるんだー……」

 

 そうして、ちらりと首輪付きを見る。

 

「首輪付きくん、ちょっと思いついたことがあるんだけど、いいかな?」

 

「……なんだ、博士」

 

 首輪付きはウィン、リリウム、メイを張り付かせたまま、束を見やる、

 

「君もIS学園に入っちゃおっか」

 

「……は?」

 

 突然の提案。一切話を聞いていなかった彼らにしてみれば、唐突でかつ突拍子もない提案だった。

 

「いやいやいやいや、ちょっと待て! 我々は秘匿されるべき存在だろう?! なぜそうなるんだ!」

 

「ええ、現状で言えば戸籍を偽装しているというだけでなく、姿をくらませた篠ノ之束という世界最強の兵器の生みの親の護衛です。ここで正体を明かすのは得策ではないかと」

 

「そうですよ、それは危険です」

 

 口ぐちの反論に束は胸を張る。

 

「そこは大丈夫だよ!」

 

 そこはかとない不安を、五人は覚えたという。

 

――――――

 

「ハーイ、アル君」

 

 自分を呼ぶ声に、アルは意識を回想から戻した。

 

「……なんでしょう」

 

 声の主は担任のエドワース。おそらく授業に意識が向いていないのを察したのだろう。

 

「どこかわからない所はありますかー?」

 

「……いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 そうして再び教科書に目を落とす、いつかの不安を再び思い出しながら。

 

 

 

――――――

 

 

 

「次も教室か」

 

「まぁ、いわゆる初心者に向ける授業ですし、仕方ないですよ」

 

 次の授業の用意をしつつ交わされる雑談を耳にしつつ、アルは立ち上がる。

 

「どうされましたか?」

 

 突然立ち上がったアルに、リリウムは問う。

 

「……少し、手洗いに」

 

 まぁ、ある意味当然の答えである。

 

 

―――――――――

 

「……」

 

 その性質上、完全な女子高ゆえに新しく作られた位置の遠い男子トイレまで足早に移動したアルは、その帰りにふと気づいた。

 

「あ、いたいた」

 

 目の前にいる、彼を除けばIS学園唯一の生徒に。

 

「えっと、君がもう一人の男子だよね? おれは織斑一夏。よろしく!」

 

 彼、織斑一夏はそう言って右手を差し出した。それに対し、アルはそれをじっと見つめる。

 

「……」

 

「……」

 

 奇妙な沈黙。それを破ったのは気まずそうな顔をした一夏だった。

 

「えっと、握手したかったんだけど、迷惑だった?」

 

 その言葉に、ハッと我に返るアル。

 

「……いや、大丈夫だ。俺はアルバート・ティーア。よろしく頼む」

 

 そして一夏の手を握る。

 

「そ、そうか! おれのことは一夏って呼んでくれ!」

 

「……おれもアルで構わない」

 

「ああ!」

 

「……それじゃ、次の授業があるから」

 

「ああ、がんばれ!」

 

 お前も、と返して、アルは再び教室へと戻った。




2017/03/07 句読点を変更、一部表現を変更


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お手並み、拝見

ずいぶんしばらくぶりの更新です。

よろしくお願いします。


 休みのあとの授業もつつがなく進んだが、そのあと、昼休憩になってから、一つの話題が舞い込んできた。

 

「聞いた?! 一組の織斑君が模擬戦するんだって!」

 

 その声に、すぐにざわつく四組。事の顛末を詳細に語る少女曰く、クラス代表を決める際にイギリスの代表候補生と一悶着あったらしく、そこから模擬戦によって決着をつける、とのことだった。

 

「なんともまぁ、低俗な……」

 

 ウィンが珍しく小さく嘆息する。ネクストという兵器を扱う彼らからすれば、その争いも理由も、幼稚極まりない。

 

「……これが、俺たちとこの世界における認知の差だな」

 

 そういいつつ、四人は席を立ち、食堂へ移動した。

 

――――――――

 

「ふむ、私はAセットをもらおう」

 

「それならわたしはBにしますねー」

 

 手慣れた様子で券売機から食券を買うウィンとメイ。続くリリウムとアルバートは慣れないのか、少し手間取っていた。

 

「こんなものがあったとは……」

 

「……そもそも料理は自前だから使う機会もない」

 

 ここらへんも、やはり所属の組織、階級などで分かれるのだろう。そして各々が料理を受け取ると、ともに席に着く。

 

「……うむ、うまいな」

 

「どんなものかと思いましたが、これには驚きですね」

 

 その純粋な賞賛の声が届いたのか否か、調理のおばちゃんたちに微笑みが宿る。

 

「それで、どうしますか?」

 

 食後、口を開いたのはメイだった。

 

「どう、とは?」

 

「先ほどクラスで話題になっていた模擬戦の話です。観戦しますか?」

 

「ああ……。そうだな、見ておくのもいいだろうな」

 

「……代表候補生とやらの戦いだ、そこから今の国家代表の実力もうかがえるだろう」

 

「その結果次第ではいろいろ考える必要もあるからな」

 

 そして、再び教室へと戻った。

 

――――――――

 

 それから約一週間が経った。アルたちは様々な情報の収集にいそしみつつ、普段通りの生活を送り、たまに一夏と顔を合わせるアルは彼をはげましつつ、その時を待つ。

 そして、その時はやってきた。

 

「さて、とうとうこの日がやってきたか」

 

 ISの実技授業にも使われるアリーナ、その観客席の一角に、彼らは陣取っていた。

 

『……!』

 

 放送にてなにがしかのことが伝えられているが、その内容は頭から追いやられている。

 

「……俺たちが今後、どのように活動するかを決めるための一種の分水嶺だ」

 

 二機のISが、アリーナ中央まで飛んでくる。青を基調とした機体と、白で包まれた機体。それぞれ、遠距離兵装とみられる砲と、近接武器の刀のようなブレードを握った、およそ正反対の兵装を身に着けている。

 

 それを見やり、アルバートはつぶやく。

 

「……お手並み、拝見と行こうか」



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しょせん

大変長らくお待たせしました。


 青い閃光が走る。それをなんとか避ける白い機体。そして

 

「「「「おおっ」」」」

 

 避けるたびにあがるどよめき。学年始まっていきなりの試合に、一年生は感嘆を、上級生は驚嘆の声をあげる。

 

「ふむ……。粗製ではないな」

 

 それを後目に、アルたちは論評していた。

 

「……流石にあれと比べたらだめだろう」

 

「しかし、学年を考えるとそこらがいいところだと思ったのだ」

 

「少なくとも、あのセシリア・オルコットという女子生徒はそれなりの腕ですね」

 

「それに、一夏さんもなかなかの動きです」

 

 その間にも、閃光は走る。

 

「……いくら自分のほうが上手だろうが、遊ぶのは良くないな」

 

「こんなことしていたら、報酬が著しく目減りするからな……」

 

「そもそも、こんな悪趣味なことをしたいとも思いませんし」

 

 その後も続く歓声。

 

「というか、なぜ彼は攻撃しないのでしょうか」

 

「見たところ、武器も今持っているエネルギーソードのみのようですね」

 

「なぜそんなピーキーな装備を……。ORCAの真改じゃないんだぞ……」

 

 防戦一方の一夏を見て、そのおかしさに気づいた。

 

「む、当たったか」

 

「……いや待て、なにか様子がおかしい」

 

 そして、一夏が光に包まれる。

 

「ほう……。これは……」

 

 光が収まったとき、そこにいたのは姿の変わったISをまとった一夏だった。

 

「ISの形態変化……? いわゆる第二形態(セカンドシフト)でしょうか」

 

「それにしては機体形状が多少変化しただけのようだが」

 

「いや、武器も変化しているような……」

 

「……だが、飛び道具が増えたような様子もない」

 

「なるほど……。相変わらずジリ貧か」

 

 と、その時、突如として飛び出す!

 

「……なるほど、長所と短所を把握したか?」

 

 そして

 

 

 盛大なブザーとともに決まった勝敗に、ため息をついた4人だった。

 

 

――――――――

 

 「……よう」

 

 試合後、アルはこってり絞られた一夏に会いに来ていた。

 

「ああ、アルか。初戦からこんなことになっちゃったよ」

 

 失敗したことに対する苦笑が、少し口の端ににじんでいた。

 

「……初戦なんだ、誰にでもミスはあるさ。……そして、初戦は所詮、初戦だ。命があるんだ、次に活かせばいい」

 

「ああ、そうだな……今度は、絶対に負けないよ」

 

 そうつぶやく一夏の顔は、晴れ晴れとしていた。

 

 

 

「……ところでなんだが」

 

「なんだ?」

 

「……一夏、お前が扱っていたISだが、調べても出てこなかった。……新しい専用機か?」

 

「ああ、そうらしい。白式。これがこいつの名前だ」

 

「……なるほど、いいじゃないか」

 

――――――――

 

 「ねぇねぇ! 1組の代表、一夏君がやるんだって!」

 

 クラスに一人はいる、噂好きの少女。その少女がもたらしたのは、予想外の言葉だった。

 

「確か、勝ったほうが代表をやるんじゃなかったか?」

 

「ええ、そのような勝負だと聞きましたが……」

 

「勝ったけど、座を譲ったとか?」

 

「……ならなぜわざわざ戦ったんだ」

 

 こめかみを抑えるアルたち。

 

「ということは、学園始まってから初めての代表男子!」

 

「ここはわたしたちも乗り遅れるわけにはいかない!」

 

 と、いっせいにアルの方を向くクラスメイトたち。

 

「……前にも言ったが、おれにはほかに用事があるから無理だ」

 

 すぐさま否定するが、全員から不満の声が上がる。アルは、それに苦笑しつつ、肩をすくめた。

 

 

 

 

 こうして、IS学園に入学して最初の騒動が幕を閉じた。




めちゃくちゃ遅れました。

そして戦闘描写まるっと飛ばしました。

ゴメンナサイ

まだまだ続きますので、よろしくお願いします。


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?????????

2017/06/27 少し誤字や体裁を整えました。


 「さて、今年もこの世界に新しく携わる若者たちが入ったわけだ」

 

 薄暗い部屋。その中に浮かぶモノリスが声を上げる。

 

「今年は特に不可思議な年となるのぉ」

 

「すべてを狂わせた大天災の妹、世界の特異点となった最強の弟」

 

「そして、ギリギリになって発見された第2の特異点」

 

 順繰りに口を開くモノリス。

 

「結局、調査のほうはどうなったんだ」

 

「だめねぇ、ぜんぜん足取りが追えないわ。まるでその瞬間に出現したかのように過去の経歴がないのよ」

 

「監視カメラはもちろん、各公式記録にも一切の足跡がない……」

 

「ふぅむ……。とりあえずそのまま調査を続けてもらいたい」

 

「りょうかいよー」

 

「承知した……」

 

 そして、再び少し沈黙が降りる。

 

「ああ、聞くところによれば、なにやらいきなり模擬戦闘があったとか?」

 

「そうそう。なんか英国の代表候補生のご令嬢と例の最強の弟とねー」

 

「原因はただの口論から始まったようだ」

 

「なるほど……。これだから若造どもは……」

 

「ほっほっほ、血の気が多くて良いではないか」

 

 嘆息する声に、それを愉快そうに笑う声。

 

「はぁ……、まぁいい。どのみちただの模擬戦だ、どうでもいい。それより、もう一人のほうはどうした」

 

「もう一人はほとんど動きがないな。ただ普通の生徒程度の活動がせいぜいだ」

 

「ふむ、動きがない、か」

 

「ほんとにまったく動きがないんじゃな? 校外まで出かけるとかの動きも?」

 

「ああ、そうだ。校外まで出かけた様子もない。寮の自室にこもっているか、学内にいる程度だ」

 

「あれだけ完璧な経歴抹消ができるんだ、必ずバックボーンがある。そこと連絡するときを掴んで正体を確かめろ」

 

「大天災の妹と最強の弟は?」

 

「大天災と連絡を取った形跡なし、弟は最強が教官なんだ、無駄だろう」

 

「監視だけにとどめておこう」

 

「ああ、それでいい」

 

 モノリスが淡く発光する。

 

「今年は忙しくなるはずだ。大天災の妹、最強の弟、そして特異点。三つもの異常の坩堝が一堂に会している。誰だって注目せざるを得ない事態だ。われわれはなんとしてでもこれを操り、すべてを進める」

 

「世界はすべて、われらの手に」

 

 すべてのモノリスが、消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふ、ふふ、ふふふはははははははは

 そう、そうそう、そうやって過去の栄光に縋っているといい

 世界はもう、お前らの手にはない

 すべてはもう、終わっている

 盾も剣もないから隠れていたけど、それももう終わり

 震えて斬首台で待つといい

 新たな世界は、もうすぐそこにある

 世界を蝕む害虫の居場所は、そこにはない

 ああ、大空よ、私たちを抱き、今なお謎めいたものよ

 私はいずれ、そこにたどり着く



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そして来たる波乱の前兆

長らくお待たせしました。


 あの騒動のあと、いろいろと大変だった。具体的には織斑一夏とアルバート・ティーア、ならびにその周辺が。

 

 たとえば、食堂で。

 

「織斑くん! クラス代表がんばって!」

 

「ISでわからないところがあればなんでも言ってね、教えるから! 手取り足取り!」

 

「ちょ、ずるーい! 私も! 私も教えるから!」

 

 エトセトラエトセトラ。

 

 たとえば、訓練施設で。

 

「見て、一夏君がやるみたいだよ!」

 

「相手は・・・・・・英国代表候補生とタバネ博士の妹?」

 

「二対一ってすっごぉい・・・・・・」

 

 エトセトラエトセトラ(アルは煽ったので同罪)。

 

 たとえば、教室で。

 

「ねぇ、アルバートくん、一夏君もクラス代表になったんだし、世界で二人しかいない男性操縦者として、クラス代表にならない?」

 

「ほら、もったいないじゃない? こんなにも話題性があるのに」

 

「だからさ、やってみようよ!」

 

 エトセトラエトセトラ。

 

 まぁ、彼らの日常であるとも言えるのだが。ともかく、彼らの周囲はにわかに活気付き、そしてより騒がしく楽しくなっていたのだった。そして、

 

 

「ここが、IS学園ね」

 

 

 また別の波乱の前兆が迫ってきているのを、彼らは知る由もなかった。

 

 

 

 

――――――――

 

 「ほら、一夏、さっさと立て!」

 

「一夏さん、まだ終わってませんわよ!」

 

 訓練施設にて、いつも通りの光景が繰り広げられていた。

 

「ちょ、さすがにきついって・・・・・・」

 

 息も絶え絶えな様子で必死に攻撃をよける一夏に、篠ノ之箒とセシリア・オルコットは猛追を加え続ける。

 

「・・・・・・がんばって避けないとあとがキツいぞ」

 

 と、それを見つつ適当に言ってのけるのが、アルバート・ティーアだった。

 

「アルが煽るから・・・・・・!」

 

「・・・・・・面白いものが見れるし、お前の腕もあがる。いいこと尽くしじゃないか」

 

「俺には良くない!」

 

 などと掛け合いをするくらいには成長?できている一夏だったが。

 

「「そこっ!」」

 

 あえなく惨敗を喫するのであった。

 

 

 

 

 

 「・・・・・・お疲れさん」

 

 ロッカールームでぜぇはぁと肩で息をしている一夏に、アルがスポーツドリンクを差し入れていた。

 

「ありがとう。そしてあいつらを煽らないでほしいんだけど」

 

「・・・・・・面白いからこれからもたまにやるよ」

 

 アルの受け答えにさらに肩を落とす一夏。ふふふ、と楽しげに笑うアルを実に恨めしそうに見ている。

 

「・・・・・・ISの習熟度はどれくらいだ? そろそろ腕にはなじんでいるだろう?」

 

 アルの言葉に、一夏は腕に目を落とす。その右腕にはめられた、白いガントレット。

 

「たぶん、大丈夫だ。さすがにちふ、織斑教官ほどではないけど」

 

「・・・・・・当たり前だ、世界最強だろう、あの人」

 

 一夏の言葉にあきれながら、少し笑みを浮かべるアル。

 

「そういえば、アルの方は専用機は来ないのか? 世界で二人しかいない男性操縦者なんだがら、来ると思うんだけど」

 

「・・・・・・俺のほうは諸事情あって遅れている。もちろんあとで送られてくる手はずだ」

 

 一夏の疑問に、少しニヤリとしながら答えるアル。そんなやり取りをしつつ、身支度をした一夏を待ち、帰路に着いたのだった。

 

 

 波乱まで、あと少し。




遅れましたが更新です。


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波乱の酢豚(仮)

仮題のまま投稿です。ので、のちのち題名変えるかもしれないことはご容赦ください。

あと、なんかリンちゃんのルビが変なことになってるのもご容赦ください。


 「おはよー」 「おっはー」 「昨日のテレビ見たー?」

 

 そんなごく普通の朝の光景の中に、アルはぼーっと黒板を見つめていた。単純に眠いだけである。

 

「どうした、眠そうじゃないか」

 

 そんな彼の後ろで教科書やらを準備していたウィンが声をかける。

 

「・・・・・・少し眠いだけだ、問題ない」

 

 それに答えつつあくびをするアル。

 

「早めに寝たほうがいいですよ? あまり遅くまでおきているのは、いくらさほど若くないといえど関心はしないです」

 

 そしてアルを諌めるメイ。リリウムもそれに同意するようにうんうんとうなずいている。

 

「・・・・・・今度から、気をつけるとしよう」

 

 適当にのたまうアルにあきれたような視線を送る三人から目をそらすアル。そして始業のベルが鳴るのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「大ニュース大ニュース! なんと2組に転入生だよ!」

 

 昼ごろにあわてた様子で駆け込んできた、例のうわさ好きの少女の声に、一同が一斉にざわめいた。

 

「そ、それってどんな人?!」

 

「見に行ったけど、なんか中国からの転入生らしいよ! めったにない転入生だから優秀なのは間違いないね!」

 

「もしかして、専用機持ち?」

 

「まだ確認してないけど、そうみたい!」

 

 まだまだ少数でしかない情報をもとに、推測が推測を呼んでいく。

 

「転入なんてものがあるのか。この特殊な学校だからそういうものは一切ないものだと思っていた」

 

「おそらく、例外措置ではないでしょうか。そもそもそういった自体は想定されていませんでしたが、優秀なことと、国家からの推薦もあってねじ込まれたものかと」

 

「・・・・・・後ろ盾が国という大きなものであることも重要だが、優秀でなければそもそも入ることは無理だろう」

 

「なんにせよ、この学園でのライバルが増えた、ということになりますね」

 

 それを見つつ、冷静に分析する4人。そして、おそらく近いうちになんらかの接触があることも想像していた。

 

「・・・・・・少なくとも、俺と一夏には接触するだろう」

 

「前例のない男性操縦者二人ですからねぇ」

 

「接触しないはずがありませんね」

 

「まぁ、接触してきてから考えればいいだろう。向こうが何をするかはよくわかっていないのだからな」

 

 

――――――――

 

 

 「よう、アル」

 

 授業が終わった帰り道、アルが廊下を歩いていると、後ろから一夏が声をかけた。

 

「・・・・・・ああ、一夏か。どうだった、例の転入生とやらは」

 

 彼に接触しているであろうことを見抜いて、アルはたずねると、一夏はすこし驚いた顔をして、

 

「あれ、あいつと会ったこと知ってたのか?」

 

 とたずねてきた。それにアルは苦笑し、

 

「・・・・・・前代未聞の転入生だ、そうじゃなくても世界で二人しかいない男性操縦者の俺とお前に接触しないはずがないだろう」

 

 と答えた。それに一夏は納得の表情を浮かべた。

 

「・・・・・・それで、どうだった?」

 

「あー・・・・・・、実は、その転入生、知ってる子だったんだよ」

 

 一夏の告白に、アルは怪訝な表情を浮かべた。

 

「・・・・・・お前、中国にいたことがあるのか?」

 

「いや、逆。向こうが日本にいたことがあるんだよ。そんで、小学生から中学生まで一緒にすごしてたセカンド幼馴染」

 

「・・・・・・セカンド?」

 

「ああ、セカンド。ファースト幼馴染は箒だよ。ほら、束さんの妹の」

 

「・・・・・・ああ、なるほど。そういうことだったのか」

 

 その説明に納得の表情をするアル。と、前方に人影が飛び出してくる。

 

「あなたが、二人目の男性操縦者?」

 

 そう、まさに話題になっている少女、

 

「アタシは(ファン) 鈴音(リンイン)。よろしく」

 

「・・・・・・そうか。俺はアルバート・ティーア。よろしく」

 

 短い挨拶のあと、隣にいる一夏に声をかける。

 

「一夏、ここにいたのね」

 

「え、ああ、うん。そうだけど」

 

「アンタ、これから暇? なんだったらISの訓練つけてあげる」

 

「あ、ならお願いしてもらっていいか? まだまだ足りないと思っててね」

 

 そんなやり取りに、アルは面白いものを聞いたと口の端をわずかに動かす。

 

「・・・・・・がんばれよ、一夏」

 

「え、あ、おう」

 

 その言葉にこめられた真の意味に、気づかない一夏だった。

 

 

 

 

 

 こうして、波乱が幕を開けていく。



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それぞれの目的

久しぶりの投稿です。


 「頑張れってそういうことかよぉ!!!」

 

 必死に白式を揺さぶりながら、まるで雹のごとく降り注ぐレーザーやら銃弾やらを避け続ける一夏。そして、

 

「「逃げるな!」」

 

 などと鬼畜なことをのたまう青と黒。そう、セシリアの駆るブルーティアーズと鳳鈴音の操る専用機、甲龍である。ブルーティアーズは得意のレーザー砲を、甲龍はその手に持ったブルパップガンを各々連射している。

 

「無理だろ! 避けなきゃ死んじまう!」

 

「ならば止めてみせる!」

 

 そう言い返す一夏の懐へ飛び込むのは、銀灰色の機体、打鉄を纏った箒だ。得意の剣術で一気呵成に一夏へと連撃を叩き込む。

 

「ま、待ってくれって!」

 

「待たん! もう我慢ならん!」

 

 振り回されるブレードに明らかな殺気が含まれているのは一夏の気のせいではあるまい。

 

「……ふふふ」

 

「あなたも懲りない人ですね……」

 

 それを傍から見て楽しむアルと、それをあきれた様子で見るリリウム、ウィン、メイ。

 

「……あいつは見てて飽きないが、こうやってハッパかけるとより面白い」

 

「お前の趣味はよく分からん……」

 

 ウィンはやれやれと頭を振る。

 

『うらむぞアルぅぅぅぅ!』

 

 オープンチャンネルで聞こえた声に、アルは知らぬふりをした。

 

 

――――――――

 

 

 「なに? クラス対抗戦?」

 

 ウィンの耳に入った、クラス対抗戦なるものの情報。

 

「そうですよ、クラスの代表がそれぞれ戦って、その学年のトップを決めようっていう試合ですね」

 

「ほう……それは面白そうだな。観戦は可能なのか?」

 

「もちろん! その学年の最強を決める試合ですからね!」

 

 ふふん、と胸を張る情報通の女子生徒。

 

「良いことを聞いた。では楽しみにするとしよう」

 

 その生徒に笑みを返すと、いえいえー、とその生徒も席を離れた。

 

「と、いうわけらしいぞ」

 

「クラス対抗戦ですか……。どうしましょうか」

 

「他の専用機ならびに量産機の使い手を見るいい機会ではありますが」

 

「まぁ、例の青い淑女のおかげでおおよそは推測できたが、サンプルは大いに越したことはないからな」

 

「……録画できればいいんだが、まぁ、そこは期待しないでおこう」

 

 アルたち4人も、どうするか相談し合う。とはいえ、ある程度決まった話ではあるのだが。

 

「となると、1組はあの織斑という少年だったな」

 

「……ああ、あれだけいろいろやったんだ、少しは腕が上がっているだろう」

 

「なるほど、それを確認するのにも最適、ですか」

 

「では、それを楽しみにしていましょう」

 

 そうそうに話は決まり、普段通りに授業前の時間を過ごすことにした。

 

 

――――――――

 

 

 「一夏っ!」

 

 放課後、織斑一夏はいつも通り部屋へ戻る階段の前で、大声で呼びかけられた。

 

「あれ、鈴じゃないか。どうした?」

 

 普段通りに応える一夏。しかし、なにやら鈴はなにか思いつめたような顔をしている。

 

「その、さ、昔、約束したこと覚えてる?」

 

「昔の約束?」

 

「ほら、アタシがあっちに行く前にした約束」

 

「……ああ、あれか、確か、えーっと、毎日酢豚を……」

 

 鈴の顔が輝き、

 

「おごってくれるってやつ」

 

 一気に憤怒の形相になった。

 

「……この」

 

「あれ、鈴? どうした?」

 

 ぷるぷると震える鈴に気づく一夏。

 

「唐変木っ!」

 

「ぐあっ!」

 

 そして全力で一夏の頬をひっぱたく鈴。

 

「な、なんだ一体!」

 

「うるさい! アンタなんか犬に噛まれて死ねっ!」

 

 鈴は足早に帰って行ったのだった。

 

 

――――――――

 

「あんな大事な約束を忘れるなんて、絶対許さない……」

 

 憤懣やるかたない鈴。その足音は怒気を十分に含んでいた。

 

「絶対、絶対に許さないんだから……」

 

 そして、大きく息を吸う。

 

「絶対に思い出させてやるんだから、覚悟してなさい!」

 

 鈴の意志は、固まったのだった。

 

 

 一方、織斑一夏。彼は彼で、

 

「馬に蹴られて死ね」

 

「はうっ?!」

 

 篠ノ之箒にトドメを刺されていた。

 

 

 

 

 

 こうして、奇しくもそれぞれの理由で、戦うことになるのだった。



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激戦の幕

鈴のセリフはこうじゃないかなと書き出したものなので、原作とだいぶ違うかもしれませんが、ご了承願います。


2017/08/11 タイトルを変更


 騒がしいほどのざわめき、収容人数ギリギリに詰め込まれた観客席、異様な熱気に包まれたドーム。そう、今日は件のクラス対抗戦当日である。普段なら、熱気こそあれど、ここまでのものではない。しかし、今年の、特に一年生のクラス対抗戦ともなれば、話は別である。

 

「・・・・・・一夏、とりあえず冷静になれればどうにかなる」

 

「それアドバイスって言わないからな・・・・・・」

 

 事も無げに言うアルバートに、一夏は肩を落とす。

 

「・・・・・・今まで散々訓練しただろう?」

 

「あれは訓練じゃなくてリンチだろ?!」

 

「・・・・・・立派な訓練」

 

「しかもお前が誘発してたよな?!」

 

 言い返す一夏に、アルは、ふっと笑った。

 

「・・・・・・安心しろ、わざとだ」

 

「やめろよ! どんだけ大変だったと!」

 

 そして、アルはふたたび笑う。

 

「・・・・・・それで、どうだ。緊張はなくなったか?」

 

「え、あ・・・・・・おう」

 

 一夏はハッとしてうなずいた。

 

「・・・・・・ならいい。忘れるなよ、常に冷静に、だ」

 

 そうして、アルは自分の観客席へと戻っていく。一夏は、その背を見て、大きくうなずいた。

 

 

――――――――

 

 

 「どうでした?」

 

 自身の席に戻ったアルに、さっそくメイが話しかける。特に何をするとも言っていないのに確信を持った問い方をしているあたり、アルを良く理解している証拠なのかもしれない。

 

「・・・・・・緊張していたみたいだから、少しからかっただけだよ」

 

「なるほど、新兵が陥りがちな視野狭窄とかを起こしてろくに戦えずに負け、はさすがにかわいそうでもあるものな」

 

「とはいえ、変なハイ状態になっていないのはまだマシでしたね」

 

 やはり、彼女らにも覚えがあるようだ。

 

「・・・・・・あいつにも頑張ってもらわないとな」

 

 そう、アルはつぶやいた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「よく逃げずに来たわね」

 

 辛辣な言葉をかけるのは、先にフィールドで待機していた凰鈴音。

 

「逃げ帰ると思ったわ」

 

 不敵に振り返るその様子に、一夏は言い返す。

 

「なんで理不尽に怒られたのか、結局わかってないからな」

 

「だからそれはアンタが悪いって言ってるでしょ!」

 

「それがわかんないって言ってるんだろ!」

 

 怒鳴り合い、そして、域を落ち着かせる。

 

「絶対に、アンタに謝らせるから。ぼっこぼこにして!」

 

「とにかく理由を教えるまでは謝らない!」

 

 開始のブザーがなる。

 

 

――――――――

 

 

 中国の開発した第三世代IS、甲龍。その設計は燃費と安定性を第一とされている。カラーは赤みがかかった黒。その手には大型の実体剣、双天牙月を持つ。一方、対峙する白色のIS、白式は、雪片弐型というエネルギーソード一本である。必然、激しい剣戟が繰り広げられる。

 

「一夏! 思ってた以上にやるじゃない!」

 

「これでもしっかり訓練させられてきたからな!」

 

 剣戟の腕は互角。多少過去に剣道を習っていた一夏が優勢といったところだろう。それはおそらく、一夏も鈴もわかっていることだ。

 

「なら、これはどう?!」

 

 一瞬の隙をついて、距離を引き離す鈴。一夏はそれを追って突進し、

 

「ぐあっ!」

 

 突如衝撃を受けて揺さぶられた。

 

「な、なんだ・・・・・・?」

 

「ほらほら、休んでる暇はないわよっ」

 

 一瞬だけ動きを止めた一夏を、再び襲うなにか。一夏は急いでISを動かし、それを免れる。

 

「くそ、いったいなんなんだ!」

 

 

――――――――

 

 

 「ほう、なるほど」

 

 観客席、ではなく、IS学園職員が集まるアリーナ司令室の中で、ぼそりとセレン・ヘイズはつぶやく。

 

「どうかしたのか?」

 

 そのつぶやきを拾ったのであろう、織斑千冬が声をかける。

 

「いやなに、ずいぶんと珍しい技術を使っているな、と思ってね」

 

「これは・・・・・・中国の甲龍か。なるほど、確かにこれに類する技術を見たことはないな」

 

 測定を行う画面を見つめる美女二人。そのまま、頭の中で戦力解析を行う。

 

「これをどうにか見破らなければ、一夏に勝ち目はないな」

 

「ほう? 弟ならば、と言うと思ったのだが」

 

「まさか。弟だからこそ厳しくせねばなるまいよ」

 

「なるほど、手厳しいことだな」

 

 セレンはくっくっくと肩を震わせ笑う。それを見咎めた千冬は、

 

「だが、やれないとは言っていないがな」

 

 と眉を曲げた。

 

 

――――――――

 

 

 (くそ、なにが起きてるのかぜんぜんわからない・・・・・・!)

 

 一方、アリーナ。そこでは相変わらず一夏が得体の知れない攻撃にさらされていた。

 

(というか、いったいどこから!)

 

 なんとか避けることこそできているものの、このままではジリ貧である。一夏はまず、甲龍の装甲に着目することにした。

 

(装甲、は特に変わったところはない。あの武器にも、特に変わったところは見られない)

 

 冷静にひとつずつ確認しているところは、やはり日常的なリンチ、ではなく、訓練の賜物か。

 

(鈴から離れてても攻撃がくる。ということは射撃系の武器に間違いはないけど、手には何も持ってない・・・・・・)

 

 そこで、ひとつ気づいた。そのまま稼動するには、不合理な装甲の形状に。

 

(肩のあれはなんだ? 球を覆ってたなにかが、少し開いて・・・・・・そうか、まさか!)

 

 確信を得て、一夏は、突貫する。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「バカね、血迷ったの?」

 

 鈴はそれを冷静に狙い、そして消えた一夏に驚いた。

 

「な、消えたっ?!」

 

「もらったぁっ!」

 

 一撃。一夏はその手ごたえを期待し、次いで襲ってくる衝撃に吹き飛ばされた。

 

「どうやら、見破ったようね。でも、おあいにくさま、この龍砲はね、どんな角度にだって撃てるのよ」

 

 得意げに告げる鈴に、その衝撃を受けた一夏は少し顔が強張っている。

 

「そこまでは、わからなかったけど、あとは少し気をつければ俺の勝ちだ」

 

「へぇ? でも、そんなことはさせないけどね」

 

 軽い掛け合いのもと、さらなる攻撃をしようと、身をかがめ。

 

「「なっ?!」」

 

 突如発生した爆発に、気をとられた。




いつも最後まで閲覧いただきありがとうございます。

着々とUAやお気に入り数、評価が上がってきております。

みなさんのおかげです。

些細なことでも、どんどん感想へ書き込んじゃってください。

私が狂喜乱舞します。


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Intruder Alpha

前話のタイトルを変更、今話をIntruder Alphaにしました。


 もうもうと立ち込める煙と、鳴り響く警報。会場を守るシールドは、レギュレーション内の攻撃をすべてガードすることができる。すなわち、

 

「こいつの攻撃はレギュレーションを超える・・・・・・?」

 

 呆然とつぶやく一夏。そして、少しずつ晴れていく煙の中に、ひとつの影が見えた。その姿は、

 

「あ、ISですって・・・・・・?」

 

 そう、IS。しかも、フルスキンとよばれる、一切肌の露出がないタイプのようだ。

 

「IS? でも、ISは各国が厳重に管理してるんじゃ・・・・・・」

 

「でももなにも、目の前のがわからないの?」

 

「だけど・・・・・・」

 

 瞬間、銃撃される。なんとかそれを上空へ避ける。

 

「おい、いきなり撃ってきたぞ?!」

 

「シールドも破ってきたし、明らかに軍事用ね」

 

「軍事用? だけど軍事転用は禁止されてるはずじゃ・・・・・・」

 

「じゃぁ目の前のはなんて説明するのよ!」

 

 再びの銃火。猛然と巻き上がる煙は、明らかにその威力が桁外れであることを示している。

 

「くそ、当たったらひとたまりもないぞ!」

 

「とにかく避けなさい! あたしたちでどうにかするしかないのよ!」

 

 と、耳に入る通信。

 

<おい、織斑と凰! はやく逃げろ!>

 

 焦りを多分に含んだ声。織斑千冬である。

 

<いまそちらはどうなってますか?>

 

<何者かがこちらをハッキングしていて、すべての隔壁を封鎖されている。おそらく、目の前のそいつの仲間だろう>

 

<千冬姉、あいつはどこの所属?>

 

<一切の識別信号を検出できん。完全なアンノウンだ>

 

<救援は期待できますか>

 

<教員も隔離されていて、今もセキュリティを突破しようとしているが、時間がかかる>

 

<でしたら、アタシたちで抑えます。戦えるのは、アタシたちだけみたいですし>

 

<・・・・・・すまない、すぐにそちらを救援できるよう迅速に行動する>

 

 一瞬の溜め。それだけで、彼女の無念さが痛いほど伝わる。

 

「と、いうわけだけど、やる?」

 

「というより、やってやるさ」

 

 そう挑発する鈴に、一夏は好戦的に答える。

 

――――――――

 

 吹き荒れるレーザーの嵐を避けていく。 右に左に、上に下に。白式も甲龍も何度も攻撃をしかけているが、避ける、それを上回る量の攻撃をされるなどでなかなか有効な一打を与えられない。

 

「くそ、このままじゃラチがあかない!」

 

「何度攻撃してもダメね」

 

 そうして、ふと、気付く。

 

「なぁ、なんであいつは話しているときに攻撃してこないんだ?」

 

「は? あんたなに言って・・・・・・」

 

「いや、だってさっきから話しているときは攻撃が来ないぞ」

 

「・・・・・・そういえば、確かにそうね」

 

「じゃぁ、あれは少なくとも人間じゃないのかもしれない」

 

 と、言い切ったところで、また銃火が始まる。

 

「だとしても、状況は変わらないわよ!」

 

「どうにかこれを切り抜けられれば・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

「んふー、これはあれだね、すごくイラつくね」

 

「確かに、あれはあなたの成果を侮辱するものですから」

 

「いかがしますか」

 

「あんな不細工なものに、手加減なんて無用だね。私があげたあれで徹底的にすりつぶして」

 

「お望みのままに」

 

 すっくと、男性のひざの上にいた女性が立ち上がる。

 

「さぁ、私の傭兵たち、我が意のままに敵を破壊しなさい」

 

「・・・・・・心得た」

 

 最強が、立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あと、膝の上で立たれると尻が顔に当たるんですが」

 

「当ててんのよ~」

 

「「「ぐぬぬ」」」




読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想もどうぞ。私がめちゃくちゃ喜びます。


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LINX AND NEXT

ついに登場

2017/08/22 内容を一部変更


 ひたすら続く銃火に、織斑一夏と凰鈴音はそれを回避する以外の手段を講じられずにいた。

 

「いくら機械っていったって!」

 

「そうとは思えないくらい動くわね!」

 

 敵のレーザー兵器は、一撃受ければシールドが一気に削られてしまうだろう。強すぎるそれを警戒して、二人は避け続けているのだ。

 

「それで! なにか方法は思い浮かんだ?」

 

「まだだ! だけどとりあえず教員が電子ロックを解除するまでどうにか持たせないと!」

 

打開策はいまだなし。時間だけが過ぎていく。

 

<先生! まだですか!>

 

<すまん、まだだ。もう少し持たせられるか>

 

<やってみます>

 

 そして、応援もいまだめどが立たず。

 

「・・・・・・鈴! ひとつだけ、勝てるかもしれない策は思いついた!」

 

「いったいどんなのよ!」

 

「俺の背中にその良くわからないの撃ってくれ!」

 

「え? なんでそんな無茶なことを!」

 

「いいから早く!」

 

「もう、痛くても知らないわよ!」

 

 一夏の捨て身の策。それを実行しようと鈴が動き、

 

「「えっ?!」」

 

 轟音とともに再び破られたシールドに動きを止めた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

<システム起動・・・・・・完了>

 

<各部チェック・・・・・・異常なし>

 

<FCS作動確認・・・・・・正常に起動>

 

<武器起動チェック・・・・・・正常に起動>

 

<全システム、正常に起動>

 

「・・・・・・世界に存在を知らしめる時が来た」

 

<せっかくだ、派手にやるといい>

 

「「「「了解」」」」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 四条の閃光が、シールドを破った。それは明らかに目の前のISなどよりも威力が高い。三度立ち込める砂煙から、4つの影が現れた。それは、四色の全身鎧だった。ひとつは真鍮の騎士。ひとつは緑の重騎士。ひとつはモノクロの軽騎士。そして、漆黒と金の騎士王。

 

「はは、マジかよ・・・・・・」

 

 そのつぶやきが、一夏と鈴の心境を物語っている。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 敵対していたISも、ターゲットを下げてそちらを見ている。そして、四つの影は日の下に現れる。

 真鍮の騎士。緑の重戦車。モノクロの狙撃主。漆黒と金の王。

 

<貴様は、私たちの雇い主の名誉を汚す存在だ>

 

<故に、その存在は許されるものではありません>

 

<ですので、その全力を持って排除させてもらいます>

 

<覚悟しろ、アンノウン>

 

<・・・・・・我らはリンクス。我らが駆るのはネクスト。我らはカラード>

 

 いっせいに銃口を向ける。

 

<雇い主の意向の下、死んでもらう>

 

 砲火。その危険性を一瞬で認識したのか、すぐさまそれを避けるアンノウン。しかし、すぐさま偏差射撃を駆使してそれを追い立てていく。

 

<逃げ切れると思うなよ>

 

<私がミサイルで援護します>

 

<では軌道修正はわたしが>

 

<・・・・・・では行こう>

 

 いつもどおりに役割を決め、そして追い立てる。

 

「いったい、どういうことだよ・・・・・・」

 

「すくなくとも、あのISの敵なのは、間違いないわね」

 

 呆然とつぶやく一夏に答える鈴。

 

<よし、予定コースに入った>

 

<最後、よろしくおねがいしますね>

 

<・・・・・・心得た>

 

 騎士王の前まで誘い出されたアンノウン。そして、騎士王の四つ眼が光る。

 

<・・・・・・一閃>

 

 煌く二対の紫の光刃が、一瞬でアンノウンを切り裂いた。

 

「うそだろ・・・・・・」

 

 そう思わずつぶやいた一夏に、そのうちの一機が、漆黒と金の王が振り返る。一夏と鈴はすぐに武器を構えるが、王はそれを意に介さずゆっくりと近寄っていく。

 

<・・・・・・よくがんばったが、身を挺するのはどうかと思うぞ>

 

「は?」

 

 突然掛けられた言葉に、一夏は唖然とし、王はにやりと笑った雰囲気を出した。




読んでいただきありがとうございます。

今回、かなりいろいろ考えてしまったので、たぶん大幅に書き直すかもしれないです。


いつもどおり、感想その他、お待ちしております。


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天災、再臨

前話を一部変更しています。


 騎士たちの鎧が淡く光ると、その後にいたのは四人。そう、アルバート・ティーア、ウィン・D・ファンション、リリウム・ウォルコット、メイ・グリンフィールドである。

 

「な、なんでアルが・・・・・・」

 

 思わず駆け寄る一夏に、アルは、ふっと笑う。

 

「・・・・・・それが雇い主の意向だったからな」

 

「雇い主? それは誰なんだ?」

 

「・・・・・・まぁ、少し待て。すぐに分かる」

 

 そこに、首につけた黒いチョーカーに手を当てたウィンがやってくる。

 

「アル。準備ができたそうだ」

 

「・・・・・・了解。一夏、メインスクリーンを良く見ておけ」

 

「え、ちょっと待ってくれよ」

 

 そう告げたまま、すぐに歩き去るアルを見送ってしまう一夏。直後、メインスクリーンに光が灯る。

 

『やっほー! みんなのアイドル、束さんだぞー!』

 

 そこに現れたのは、この世界を一変させた張本人で、今の今まで一切の連絡がつかなかった、天災の姿だった。

 

 

――――――――

 

 

 「な、なんでアイツがここに・・・・・・」

 

 すべての音が途絶えたアリーナ管理室で、織斑千冬はそうつぶやいた。

 

「あの、Dr.シノノノは、行方知れず、ですよね?」

 

 同じく管理室にいるエドワースが、呆然とつぶやく。

 

「ああ、ISコア467個を置いて姿を隠していた」

 

「では、なぜ今になって・・・・・・」

 

「簡単だ、姿を見せるときだと、彼女が判断したからだ」

 

 エドワースと千冬の会話をさえぎった声。そちらのほうへ、顔を向けると、そこにいたのは、新任のセレン・ヘイズがいた。

 

「それはどういう意味だ」

 

「言葉通りの意味だ。束がその姿を見せるときだと、判断したのさ」

 

 その親しげな呼び名に、千冬の眉がつりあがる。

 

「貴様、どういうつもりだ」

 

「どういう、とは?」

 

「とぼけるな。貴様は束となんらかの関わりがあるのはよく理解した。その上でIS学園に来たのは、ここを貴様らの遊び場とするためか」

 

 低く警戒心顕わな声色に、セレンはククク、と笑う。

 

「遊び場ときたか。残念ながら、それは違うぞ」

 

「じゃぁ、いったい何をたくらんでいる!」

 

 セレンは、すっと表情を消す。

 

「見ていれば分かる。そのうちにな」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 『やー、久々に表に顔を出したよー。何年ぶりかなー?』

 

 無邪気に笑っている束を尻目に、各所は大騒ぎとなっていた。 いったいなんの目的で表舞台に出てきたのか。いや、そもそも今まで行方知れずだったのが、何故今になって出てきたのか。またしても世界が変わりそうな事態に、右往左往しているのである。

 

『でねー、今まで隠れてたのに出てきた理由はね、いくつか紹介したいことがあるからなんだ』

 

 そして、いままで無邪気に笑っていたのが嘘のように、瞳からのみ、笑いが消える。

 

『だから、ちょっとどこかで記者会見みたいなの用意して、招待状も送るから、そこに来てくれないかな』

 

 

 

――――――――

 

 

 

 数日後、予告どおりに記者会見の場が開かれ、世界各国のメディアが招かれた。世界を一変させ姿をくらませた本人の会見とあって、メディアは大いに沸き、その熱気は入念に機材を調整している姿から見て取れる。そして、時間が来た。

 

「どもどもー」

 

 そう言いつつ歩いてやってきた彼女は、姿をくらませる前とほとんど同じであり、そして、

 

「おい、誰だあの五人組」

 

 見慣れない、似たようなデザインの衣装を身に着けた男女だった。白を基調とし、縁を黒と赤のラインで覆っており、威容を感じるデザイン。共通するのは、首下の黒いチョーカーと黒いフルフェイスバイザーだろうか。そこからは一切の表情が読み取れない。

 

「ではー、記者会見やっちゃおっかー」

 

 こうして、奇妙な五人組も含めた記者会見が始まった。




いつもご愛読ありがとうございます。

よろしければ感想などもどうぞ。


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傭兵派遣私設軍事企業カラード

 用意された席に座ったままニコニコとする篠ノ之束を前に、しばらく無言が続いた。気まずい雰囲気のなか、束が声を上げる。

 

「あれ、誰も質問しないの?」

 

 ずるっと肩を落とした音がした。すかさず、後ろに並んでいた五人のうちの一人が声を掛ける。

 

「いや、お前がまず話をしないと意味がないぞ」

 

 ハッと反応した。

 

「そ、そうなの? じゃぁ、とりあえず話をしようか」

 

 そして、すっと立ち上がった。

 

「私がこうして、表舞台に出てきたのは、ちょっとめんどくさい事情があるのがひとつ。それと、彼らを紹介したいからなんだ」

 

 その言葉とともに、一歩前に出てきた五人。

 

「彼らは私の護衛役。その力を持って守ってくれる人たちだよ」

 

「あの、なぜ彼らは顔を隠しているのでしょうか」

 

「メディアに出るときは一応隠してもらうことにしたんだ。普段は隠してるわけじゃないんだけど、一応ね」

 

 その言葉に少し納得した様子でメモを取る記者。

 

「あと、それ以外にももうひとつ、発表したいことがあるんだ」

 

 パチン、と指を鳴らす束。同時に、後ろに控えていた五人のうち四人が光り、そして、

 

「あ、IS・・・・・・?!」

 

 四機のISが展開されていた。

 

「ま、まさか、博士がおつくりになったんですか?!」

 

「もちろん。私の護衛だもの、これくらいは当然」

 

 さらっと流す束に、記者が絶句する。

 

「それで、これなんだけど、これはインフィニット・ストラトスとは少し違うんだよねー」

 

「ち、違う? それはどういう意味で?」

 

「これは、基礎フレームを展開して、様々な形状の外部装甲を常時切り替えができるようにしたんだ。たとえば、こんなのとか」

 

 そういって一機が再び輝くと、そこには板を組み合わせたような薄い機体がいた。

 

「これはX-SOBREROっていう高機動を最重要視したやつだね。その最高速度は時速4000kmを越えることもあるよ」

 

 再びパチンと鳴らすと、今度は薄い機体から、いろいろ張り合わせたような超重量の機体になった。

 

「これはARGYROS。とにかく重装甲であることを目指した機体。こんな風に、操縦者の操作ひとつでいろいろな装甲に換装が可能で、それは各部位でいろいろ組み合わせることが可能だよ」

 

 そして、機体を待機状態に戻した。

 

「この機体はアーマード・ストラトス、通称は次世代を意味するネクスト。そして、それを駆る彼らはリンクス。所属は傭兵派遣私設軍事企業カラードだよ」

 

 その立派な胸を張って宣言する束。

 

「彼らは、私がじきじきに武装を渡した世界最強。私の邪魔をするならず者たちを、残らず殲滅するよ」




いつもご愛読ありがとうございます。

随時感想をお待ちしております。


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私たちの目的

 会見のあと、専用に用意した外見は普通の車を使ってIS学園まで帰ってきたカラードの面々。その彼らを待ち受けていたのは、織斑千冬をはじめとするIS学園教職員上層部だった。

 

「お前には、いろいろと聞きたいことがある」

 

「もちろん、説明するよ。こっちにもいろいろと事情があるからね」

 

 にこやかな束と対照的に硬い表情の千冬だった。

 

 

――――――――

 

 

 「それで、いったいなにが目的だ」

 

 盗聴対策がされた部屋で、開口一番千冬は束に聞き出した。

 

「んー、まずは、彼らが私の護衛であることの周知かな」

 

 束は横に並んで座るカラードを見つつ告げた。

 

「護衛であることの周知?」

 

「そうそう。私のお気に入りだからね、どこかにちょっかい出されたらいやだし、そうなったら我慢しないし」

 

「なるほど。では、彼らの出自は? 申し訳ないが、こちらで調べても一切情報が出なかった」

 

 一応は納得の表情を見せた千冬に、束はその豊かな胸を張る。

 

「それは見つかるはずがないよ。だって、彼らはこの世界の住人じゃないもの」

 

 静まり返る部屋。さすがに荒唐無稽なことすぎて、理解が追いつかないのだろう。

 

「お前・・・・・・嘘を吐くならもっとマシな嘘にしろ。雲隠れしている間にそこまで忘れたか?」

 

「ちょっと! そこまでひどくないし、れっきとした事実だよ!」

 

 あきれた表情の千冬の言葉に、束は心外だと憤慨する。

 

「彼らはほんとに異世界の人たちで、私に協力してくれてるの!」

 

 その言葉にうなずくカラード。

 

「といわれてもな・・・・・・。そんな荒唐無稽な話、誰も信じないぞ」

 

「そういわれても事実は事実だよ。だからいくら洗っても足跡は見つからないし、後ろ暗いこともないの」

 

「では、彼らはなぜISを扱えるのでしょうか。適正があると言われればそれまでですが、明らかに腕前が新入生の平均を大きく超えています」

 

 部屋の中で唯一IS学園の制服を着た女子生徒が手を、というより電子機器で作られた扇子を挙げる。

 

「お前は?」

 

 カラードの、特に学生としてIS学園に入っている四人の中でウィンが眉を傾けて問う。その問いが予想外だったのか、ピシリと音が鳴るかのように固まった女子生徒。

 

「えっと・・・・・・一応わたしはIS学園の生徒会長なんだけど、ほんとに知らないのかしら」

 

「・・・・・・特に興味もない」

 

「同じく」

 

「ただの生徒会長ですからねぇ」

 

「所詮はただの学生ですから」

 

 学生組の言葉はにべもない。その言葉に頬をひくつかせるが、こほんとひとつ咳払いして仕切りなおす。

 

「わたしは更識(さらしき) 楯無(たてなし)。このIS学園の生徒会長で、全生徒最強のIS使い。ロシアの代表操縦者よ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 自己紹介にいかにも興味なさそうなアルバートの返事が、およそ彼らの関心の総意だろう。再び楯無の口がひくついた。

 

「まぁ、それはあとででいい。彼らはなぜISを扱える?」

 

「それはねー」

 

「・・・・・・それは俺たちがAMS移植手術を受けているからだ」

 

 千冬の総括に答えようとする束の言葉をさえぎるアルバート。

 

「AMS? それはなんだ?」

 

「AMSとはAllegory-Maniqulate-Systemの略で、脊髄や延髄を介して脳で直接データをやりとりし機体を制御する技術だ」

 

 セレンの言葉に絶句する一同。

 

「これは脳に多大な負荷がかかるが、高度な機体制御が可能となる技術だ」

 

「これによってわたしたちをはじめとする傭兵は戦地にて絶大な威力を誇りました」

 

「そ、そんな危険な手術をどうして・・・・・・」

 

「まぁ、そこは人によって異なりますから」

 

 事も無げなカラード。それがより彼らにとって普通のことであるのを強調する。

 

「・・・・・・どうやら、この世界の人間でないことは事実で、ISを扱えるのはAMSとやらのおかげということか。では、本質を聞こうか。お前たちはなにをしようとしている?」

 

 その言葉に、束はニコリと微笑む。

 

「私の本来の目的を果たそうと思って」

 

「果て無き空を見る、それを諦めてはいない、か」

 

 幼き日に語られた夢を思い出した千冬を見て、束はうなずく。

 

「だから、彼らを保護して、その上で協力してもらって武装を施してるんだ。私らしい武装をね」

 

 はぁ、とため息を吐く千冬。

 

「なるほど、これから荒れるということか」

 

「そういうことかな」




いつもご愛読ありがとうございます。

感想お待ちしております。


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2人と6人

 細かいことは日を改めて、ということになり、カラードの面々は彼らの今住んでいる寮まで歩いていた。

 

「やー、どんなところに住んでるか確かめないとね」

 

 とは、着いてきた束の言。と、その道中で、

 

「アル、か」

 

「……一夏か」

 

 織斑一夏、篠ノ之箒と出会った。

 

「隠してたのは、なにか理由があるんだよな」

 

「・・・・・・もちろんだ。いずれは、話す予定ではあったが」

 

「そうか」

 

 一夏の問いに答えるアル。そして、その横で不安げな表情を浮かべる箒。

 

「お久しぶりです、姉さん」

 

「ハロハロー、箒ちゃん」

 

「姉さんも、話してくれますか」

 

「もちろん。箒ちゃんにも、もちろんいっくんにも関係してくるからね」

 

 そうして、彼らは無言でカラードの部屋へと歩いていった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「長い話になるから、これを渡しておこう」

 

 カラードの、アルバートの部屋に集まった中で、セレンが一夏と箒、鈴音にペットボトルを渡す。

 

「それで、なにが聞きたい?」

 

 部屋の主かのごとく振舞う束が、足を組みつつ問う。

 

「あの、シリアスが台無しになるからそこから降りません?」

 

 アルバートの胡坐の上から。さすがに雰囲気がぶち壊しになりかねないと、メイが声をかける。

 

「私の指定席だからいいの。それよりほら、聞きたいんでしょ?」

 

 梃子でも動かないとばかりにアルの膝を掴んだ束は、なおも一夏たちに促す。一夏たちは目を見合わせ、箒がおずおずと切り出す。

 

「今まで、どこにいたんでしょうか」

 

「んー、発表したあとは各地を転々としてたねー。つかまるわけには行かないから、どうしてもね。だから、連絡もできなかったの。箒ちゃんには、迷惑かけたな、って思ってる」

 

 その言葉に、箒は少し安堵の表情を浮かべた。

 

「えっと、じゃぁ、俺から。俺がISを動かせたのは、束さんがなにかしたからなのか?」

 

「それは本当に不明だね。そういう報道があったからいろいろ手を尽くして調べてみたけど、ぜんぜん分からなかった。これからも調べるけど、結果がどうなるかはまったく分からない」

 

「すぐに何かがあるわけじゃない?」

 

「それは保障するよ」

 

 一夏は納得の表情を浮かべる。

 

「正直、いろいろ束さんには言いたいことがあったけど、とりあえずは無事でよかった」

 

 一夏は大きく背を伸ばす。

 

「気になるのは、どこでアルたちと会ったかかな」

 

 少しだけ、アルは笑う。

 

「・・・・・・それは、今は秘密さ」

 

 肩をすくめる一夏に束が微笑む。

 

「これから、よろしくね」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「さぁ、これからどうするか」

 

 一夏と箒が退出したあとの部屋で、ウィンが切り出す。

 

「博士はこれから本来のISの運用を目指すんですよね?」

 

「そうだね。君たちの世界の技術を使えば妨害工作への対策ができるし」

 

 ふふふー、と笑う束。

 

「では、我々はそれまでしばらく待機ということか」

 

「そうなるねー。いくら資料があるとは言っても、まずは実際に設計とかしないとね」

 

「・・・・・・動かなくてはならないときまで、やることをやるか」

 

 そのアルの呟きに、同意するように全員がうなずいた。




感想を随時お待ちしております。


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四人と四人

 翌日。一夏はいつもどおりの一日を過ごしていた。いつもどおりに授業を受け、いつもどおりにクラスメイトと話す。が、その日の放課後は、少し違っていた。

 

「・・・・・・織斑一夏、篠ノ之箒、セシリア・オルコットはいるか」

 

 放課後、教室の入り口で一夏と箒とセシリアを呼ぶのは、アルバートだった。

 

「俺たちはここにいるけど、なにか用なのか?」

 

 アルはゆっくりうなずいた。

 

「・・・・・・もちろんだ。アリーナに行くぞ」

 

 突然の言葉に、三人は顔を見合わせた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「ああ、来たな」

 

 気配に気付いて振り返ったのは、ISスーツに身を包んだウィンだった。

 

「・・・・・・待たせた」

 

「かまわん。さぁ、二人とも早く着替えてこい」

 

 その声に、再び顔を見合わせる一夏と箒とセシリア。

 

「あの、いったいなにをするのでしょうか」

 

 その問いに、アルバートはニヤリと笑った。

 

「・・・・・・あとでの楽しみだ」

 

 結局、特に説明を受けることなく着替えさせられた三人は、同じく着替えていたウィン、メイ、リリウムと向き合った。

 

「着替えたからおおよそ予想はつくだろうが、お前たちにはこれから私たちと操縦訓練を受けてもらう」

 

 簡潔なウィンの説明に、代表候補生のセシリアが異を唱えた。

 

「ま、待ってください。わたくしはこれでも代表候補生なのですが」

 

「全くと言っていいほど足りません。あなたはそれで満足すると?」

 

「そ、れは・・・・・・」

 

「あなたたちはまだ若いんです。これから腕を磨けばいいんですよ」

 

 ばっさりと切り捨てるリリウムと、それをフォローするメイ。

 

「ほら、アンタたちなにぼさっとしてるのよ」

 

 後ろからかけられた声に振り返ると、そこにはすでにISスーツに着替えた鈴がいた。

 

「さっさとアリーナに行って、さっさとやりましょ。今話題のカラードの実力、実際に触れる良い機会よ」

 

 その好戦的な物言いに、箒はあきらめて一夏を促し、セシリアはそれに追随する。なお、鈴のその言葉に特に反応を示さないカラードたちだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「・・・・・・今回、お前たちを呼んだのはひとつ理由がある」

 

 着替えを終えた4人を前に、制服のままたたずむアルバートが告げる。

 

「つい先日、国家代表候補生の試合を見る機会があってな」

 

「我々も実際に手を合わせてみたいと思ったのですよ」

 

「先ほどの凰鈴音と同様、あなた方が私たちと手を合わせるというメリットもあります。いかがでしょう」

 

 その言葉に、すぐさまうなずく一同を見て、アルバートが立ち上がる。

 

「・・・・・・お前たち四人と、ウィン、メイ、リリウムの三人が相手だ」

 

「あれ、アルはやらないのか?」

 

 一夏の言葉に、本当になんでもないように答えるアルバート。

 

「・・・・・・俺を相手にするには、技量が足りんよ」

 

 その言葉に、食って掛かろうとする鈴の前に、三人がISを展開した。

 

<さぁ、さっさと展開しろ>

 

<私たちと戦う機会はそうないですよ>

 

<時間の無駄は嫌いです>

 

 非公式な戦闘が、始まる。




2017/09/14 誤字および微修正


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非公式模擬戦

長らくお待たせしました。


 「一夏はアタシと白黒と緑! セシリアと箒は真鍮のを!」

 

 鈴の号令に従い、三人とも飛び出す。

 

<なるほど、距離を補い合って万能な陣形を、ということですか>

 

<そちらは大丈夫ですか?>

 

<ああ、距離さえ取らせなければいい>

 

 三機とも短く通信を取ると、距離をとる。それを見ているアルバートは、やはり顔色を変えない。

 

――――――――

 

 「さっさと落とす!」

 

 そう言って双天牙月で突撃する鈴から一夏へ通信が入る。

 

<白黒のは機動戦闘が得意なはず。それに比べて緑は明らかに機動戦闘はできないタイプ。そっちを重点的に攻めるわよ!>

 

 確かに、白黒のは見れば細めの機動戦に向いたシルエットである。対して、緑のは太く装甲を売りにしたようなシルエット。ISは基本的に機動戦闘を行うため、動けないというだけでいい的になる。

 

「いきなり行くわよ!」

 

 双天牙月の一閃と龍砲による砲撃の三連撃。いきなりこれを浴びせられるのはかなりの痛手だろう。

 

<まだまだ甘いですね>

 

 しかし、メイはそれをいともたやすく避けた。リンクスにとっては常識で、IS乗りにとっては高等技術にあたる技術、すなわち、ネクストのクイックブーストもしくはISのイグニッション・ブーストで。

 

「嘘だろ?!」

 

 次いで突っかけようとしていた一夏があわててブーストを抑える。

 

<この程度、ただの基本でしょう>

 

 そう言って一夏の上空からレーザーライフルとアサルトライフルを叩き込む。一夏はイグニッション・ブーストを退避に使いことを余儀なくされる。

 

<ビンゴ>

 

 そして、突如襲った衝撃に相当のシールドエネルギーを持っていかれる。すぐさま目をやれば、そこには鈴を無視して一夏に銃口を向けたメリーゲートがいた。

 

「無視してんじゃないわよっ!」

 

<こちらも二人ですので>

 

 突っかける鈴に、アンビエントのライフルが向けられた。

 

 

 

「くそっ、なんて速い!」

 

 何度タイミングを合わせて切りかかっても、すぐさまそれを避けるレイテルパラッシュに業を煮やす箒。

 

<速さだけではないのだがな>

 

 回避と同時にパルスマシンガンPC01-GEMMAをばら撒き、箒を牽制する。セシリアはその牽制を中断させるべくスターライトmkⅢでレイテルパラッシュを狙う。

 

<ほう、思っていた以上によく狙う>

 

「どうして、当たりませんの・・・・・・!」

 

 しかし、それでもただの一回も当たらない。それどころか掠めることすらもない。

 

「セシリア! 包囲攻撃!」

 

 端的な箒の叫びをいち早く理解したセシリアはスターライトmkⅢの狙撃を中断、意識を集中させて遠隔無線誘導兵器ブルー・ティアーズを操る。そして箒は再びレイテルパラッシュに切りかかる。

 

<ふむ?>

 

 箒の剣戟の合間を縫って死角から放たれるレーザーをかろうじて避けながらそれを観察する。ほかへ一切の意識を向けさせない濃密多彩な箒の剣戟、そして剣戟に合わせ的確に死角からレーザーを撃ち込むセシリアのブルー・ティアーズ。およそ十代前半と言えないほどの技量にウィンは感心していた。

 

<なるほど、なかなかやる>

 

 ウィンは箒の剣戟をLB-ELTANINで受け止めてはじき返すと、一息に距離をとる。レーザーの残滓がきらめき、消える。

 

<では、次はこちらの番だな>

 

 

 

 

 

 「・・・・・・ふむ」

 

 

 ところ変わってアリーナ観客席。その中でも一番よく見える場所に陣取ったアルバートは、カラードたちと専用機持ちたちの戦闘を眺め、それをいろいろと評価していた。

 まず、カラードの面々の動き。ネクストとは大きく異なり、実際に身体を動かして操るISだと言うのに、その動きはネクストとほぼ変わりない。いつもどおりの彼女らの得意な距離を、得意な戦法を駆使して専用機持ちを翻弄している。次に、専用機持ちたち。数度にわたって彼女らの動きは観戦していたが、やはり十代前半とは思えないほどの錬度を持つ操縦術には感服する。とはいえ、それは十代前半にしては、でしかない。カラードの腕には程遠く、彼女らが手加減しているにもかかわらず、全く追いついていない。アルバートは懐から携帯端末を取り出して少々打ち込むと、再び懐にしまって観戦を再開する。どうやら、終局に向かっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 「なんで、どうして!」

 

 一切当たらない攻撃にいらだちながら叫ぶ鈴。一夏は叫ぶ余力さえないのか、苦しげな表情のまま鈴と入れ替わり立ち代りメリーゲートを攻撃している。対するメリーゲートは攻撃のすべてをクイックブーストで避けつつ、エネルギーが少なくなるとアンビエントが牽制してその回復に努める、というサイクルで危なげなく立ち回っていた。それが、さらに鈴のいらだちと一夏の焦燥を誘う。

 

<まだまだ未熟ですね>

 

<こうやって誘われるくらいですから>

 

 そして、一瞬メリーゲートが見せた隙に誘われて飛び出した一夏を蹴り飛ばして、鈴にぶつける。

 

「っく!」

 

「しまった・・・・・・!」

 

 結果、鈴と一夏が動けなくなる。そこへアンビエントの高追尾ミサイル063ANPMとレーザーライフル067ANLR、メリーゲートのライフルGAN01-NSS-WRと多連装ミサイルWHEELING03、連動ミサイルMUSKINGUM02の過激な火力が叩き込まれ、一瞬でシールドエネルギーを削り取られてしまう。

 

<これでこちらは終わりですね>

 

<実力はしっかり見極めることができました>

 

 たたずむアンビエントとメリーゲートと、ISを解除されてISスーツのまま横たわる一夏と鈴になった。

 

 

 

 

 <さて、あちらも終わったことだし、こちらも終わらせようか>

 

 もう一方が終わったことを確認したウィンが、わざわざそう呟く。それを聞いた箒が一瞬詰め寄るのをためらったが、それが悪手となった。その隙に再び距離をとったウィンはハイレーザーキャノンHLC09-ACRUXを展開し、チャージ完了後すぐに箒に向けて射出。その弾速に反応しきれず、たった一撃で意識を刈り取られる箒。その光景にやはり一瞬気をとられたセシリアは、見事にウィンを見失ってしまう。

 

「しまっ・・・・・・!」

 

<残念ながら、いまだ未熟だ>

 

 容赦なく振り下ろされるレーザーブレードLB-ELTANINに、叩き落されるセシリア。踏ん張る暇もなくこれまた意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 「・・・・・・さて、怪我はないな?」

 

 その後、気絶した専用機持ちを全員ピットへと運び診察したのちに適当に横たえたカラードは彼らが起きるのをゆっくりと待っていた。そして彼らが全員起き上がるのを確認して、アルバートが口を開く。

 

「・・・・・・怪我がないようならこのまま話を続けよう。まず、各自よく戦った。それぞれ上には上がいることを、そしてまだ自分が未熟であることを理解してもらえたと思う」

 

 その言葉は労をねぎらうものでありながら、多少なりとも腕に覚えのある二名にとっては屈辱の、そしていまだ触れた期間の短い二名にとっては再確認となるものだった。

 

「・・・・・・勘違いしないでほしいのは、今日の目的はお前たちをただ叩きのめすためでも、ただ腕を確認するためだけでもないということだ」

 

 アルバートのセリフに不思議そうに顔を上げる専用機持ちたち。その中で一夏が口を開く。

 

「なら、いったいなんのためにこんなことをしたんだよ?」

 

「・・・・・・お前たちの現在の腕を確認するとともに、お前たちに提案があってな」

 

「提案、ですか?」

 

「・・・・・・ああ、提案だ。お前たち、これからの放課後、俺たちに鍛え上げられるというのは嫌か?」

 

 セシリアの疑問に、突然の提案を返す。専用機持ちたちが絶句するには充分すぎる提案だった。

 

「ほ、ほんとにそんなことしてくれるの・・・・・・?」

 

 おずおずと聞き返す鈴に、鷹揚にうなずくアルバートとカラードたち。それに顔を見合わせる専用機持ちたち。そして再びセシリアが口を開く。

 

「でしたら、お願いできるでしょうか」

 

「・・・・・・分かった。今後はアリーナが確保できればアリーナを貸しきって、そうでない場合はハンガーにあるシミュレータを介して訓練を行う」

 

「なぁ、アルバート、いったい何をするんだ?」

 

「・・・・・・無数の条件下における対処とそれに伴う戦略眼の育成だ」

 

「あの、それはいったいどのような・・・・・・?」

 

 一夏の確認に応えるアルバート。そして箒がいまいち合点がいかないのか、聞き返す。

 

「要は、お前たちがいくつか設定された条件に基づいて作戦を行う、ということだ」

 

「たとえば、敵の殲滅、拠点制圧、敵地からの退避です」

 

「それ以外には、味方だった部隊の裏切り、情報と異なる状況などが挙げられますね」

 

 ウィンが少し詳しく答え、リリウムとメイが例を挙げる。その例に再び絶句する専用機持ちたち。

 

「・・・・・・ISとは兵器であり、ISが出撃する局面において敗北は絶対に許されない。まだ実戦に立つことのない身だからこそ、それを叩き込む」

 

 アルバートが告げた言葉に、目を見開く。そして、一夏が口を開く。

 

「アルが俺たちを鍛えようとしてくれてるのは分かった。けど、いったいどうして? なんのメリットもないだろう?」

 

 その言葉に、アルバートはふっと笑う。

 

「・・・・・・今は、まだな。ただし、将来的にこれはメリットになる」

 

 アルバートの思惑は、今はまだ専用機持ちたちには理解できなかった。




なんか久しぶりにえらく長くなりました。

感想や評価、お待ちしてます。


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『彼』 が やってくる

お待たせしました。

"He" is coming.


 その日、織斑一夏は驚きのあまりその思考を停止せざるを得なかった。教壇に立つ副担任の山田真耶すら、その表情には苦笑が含まれている。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 問題は、隣に立つ転校生だ。短い金髪に、紫の瞳、そして中性的な顔立ち。およそ美形と評するに足る容姿でいわゆる貴公子と表現するのが一番であろうが、そんなことはどうでもいいほどの衝撃。それは、

 

「三人目の、男性操縦者・・・・・・?」

 

 そう、シャルル・デュノアが、男性であるということだ。

 

 

 

 「なんだ、やけに騒がしいな」

 

 同刻、少し離れた教室で静かに授業を受けていたウィンが、突如揺れるほどの叫び声を感じて眉を寄せる。同じくそれを聞いたメイも眉を寄せ、リリウムは表情こそ変えてはいないが身内に分かる程度にはいらだちを見せていた。しかし、アルバートは教壇に立つ女性、スコール・ミューゼルが愉快そうに口の端をゆがめたのを目ざとく見つけていた。

 

「・・・・・・妙なことになりそうだ」

 

 そう呟いた言葉にリリウムが反応する。

 

「なにか心当たりが?」

 

「・・・・・・いや、なにも。博士からも連絡はない。が、ミューゼル教官がニヤついている」

 

「・・・・・・確かに、変なことになりそうですね」

 

 メイの言葉が彼らの中でのスコールの評価を的確に表しているだろう。なお、この評価はこのクラスではほぼ周知の事実と言ってもいいくらいみんなが共通して持っている評価だ。ここでは特に言及こそしていなかったが、実は彼女、事ある毎に面白おかしくしようと画策しているのだ。まるで、快楽主義者とでも言うかのように。ゆえに、スコールが口の端をゆがめたときに、いち早くろくなことじゃないと察知したのだ。

 

「まぁ、今は何も情報はないんだ、待つしかあるまい」

 

「それと、何が起きても大丈夫なように覚悟することも重要ですね」

 

「あの叫びも、無関係ではないでしょうから」

 

 はぁ、とため息をつき、これからのことを思うと気が重くなる一同だった。

 

 

――――――――

 

 

 そして昼休憩。案の定、例のうわさ好きの少女が情報を仕入れてくる。

 

「1組に男の子が転入してきたよ!」

 

 その言葉に騒然となる4組。転入生自体は2組の凰鈴音がいるが、男となれば話は別だ。当然、騒ぎになる。

 

「どんな子!?」

 

「顔は中世的かなー。髪は金色で、紫色の瞳の貴公子って感じの男の子!」

 

「うっそ、なにそれ絶対見に行かないと!」

 

 その騒ぎを見つつ、カラードの面々は顔を見合わせる。

 

<博士からなにか聞いてないのか?>

 

<・・・・・・特に連絡はない>

 

<さすがにこんな異常事態ともなれば連絡くらいありそうですが・・・・・・>

 

<とりあえずは静観しましょう。なにがどうなるか分かりません>

 

<・・・・・・だが、そう遠くないうちに接触があるのは確実だな>

 

 アルバートの言葉にうなずく一同。こうして、とりあえずの行動方針を決めたのだった。

 

 あの訓練を始めてから、一週間も経たないことの出来事である。

 

 

――――――――

 

 

 その日の放課後、アルバートたちが寮の廊下を歩いていると肩を落としてとぼとぼと歩く一夏がいた。

 

「・・・・・・どうした、一夏」

 

 その声に一夏は振り返り、その頬に張り付いた真っ赤な紅葉にアルバートたちは驚いた。

 

「ああ、アルか。ちょっと、箒を怒らせちゃってね」

 

「・・・・・・またなにかうかつな発言でもしたのか?」

 

「いや、俺としては気を利かせたつもりなんだけど、なんか箒を怒らせちゃったみたいで」

 

 アルバートの言葉に苦笑しつつ、頭を掻く一夏。

 

「・・・・・・それで、なにが原因だ?」

 

「あー、実は、転入生が来たんだけど、その子がおれの同居人になって。箒もいままで異性のおれと一緒だから息が詰まって仕方なかっただろうし、これでのびのびできるなって言ったら」

 

「・・・・・・その頬になった、と」

 

 一夏がうなずき、アルバートはひとつため息をつく。

 

「まぁ、君の言ってることも正しいのだけど、な」

 

「なんというか、箒さんが少しあわれですね」

 

「言っていることが正しい分、さらにどうしようもない、というところが余計につらいですね」

 

 ウィンたちもため息をついたのに、一夏は目を見開いた。

 

「え、まずかった?」

 

「・・・・・・お前は正しいことを言ってるが、心の機微に鈍感なのが問題だ」

 

「えぇぇ・・・・・・」

 

 一夏が大きく肩を落とす。アルバートはひとつその肩をたたいて笑った。

 

「・・・・・・まぁ、これから身に着ければ良いさ」

 

「・・・・・がんばるよ」

 

 そううなだれる一夏を見送って、アルバートたちも部屋へ向かう。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その日早朝、ある部屋の前で緊張気味に立つ人物がいた。部屋はアルバート・ティーアの部屋で、その前に立つのは、金の短髪で紫の瞳で貴公子然とした雰囲気の少年、例の転入生であるシャルル・デュノアだった。

 

(えっと、確かここが、あのカラードの、『天災』ドクターシノノノの護衛、アルバートくんの部屋・・・・・・)

 

 同じ男性として声を掛けて仲良くしたいだけなのだから問題はない、と言い聞かせて、何度も言い聞かせて、ドアをノックする。と、すぐに誰かが扉に近づく気配がする。おそらく、部屋主のアルバートだろう、と予想をつけたシャルルは気付いてもらえたことにほっと胸をなでおろし、

 

「どなたでしょうか」

 

 そして扉の先に現れた少女というには年齢を経た女性を見て固まった。

 

「ああ、なるほど、あなたが転入生のシャルル・デュノアさんでしたか。なにか御用でしょうか」

 

 だが、ただ単に女性が彼の部屋から出てきただけならシャルルもそこまで驚かない。むしろ、(本来はダメであろうが)彼の部屋に遊びに来たのか、と納得できる。しかし、このときの彼女、リリウム・ウォルコットの服装は、一枚男物のワイシャツを羽織っただけという、なんとも扇情的な服装だったのだ。いきなり出鼻をくじかれたとかなんで彼女が、なんて疑問すら全部吹っ飛んでしまうほどの衝撃が、シャルルを襲っていた。

 

「もしかして、アルバートさんへ会いにきた、ということでしたら、中へ入ってお待ちください。いまはシャワーを浴びられていますので」

 

 そしてリリウムが手を引いて部屋の中へ連れて行ったときになってやっと、シャルルの意識が戻る。

 

(えっ、ちょっと待って、いまシャワー浴びてるって言ってなかった?!)

 

 なぜかまったくリリウムの手をまったく振りほどけないまま、部屋の中に案内され、

 

「む、客か?」

 

「あら、見ない顔、ということはつい最近お話があった転入生、ということですか」

 

 ほぼ同じ服装をした女性二人、ウィン・D・ファンションとメイ・グリンフィールドに再び衝撃を受けていた。

 

(なんでなんでなんで?! なんでこんな格好で男性の部屋にいるの?!)

 

「なにやら、彼とお話があるそうで」

 

「ふむ? なるほど、そういうことならここで待ってもらったほうがいいな」

 

「まぁ、そういうことですね」

 

 衝撃でふたたびフリーズしてしまったシャルルを座らせ、おのおの好きなように座る三人。シャルルにとってはものすごく気まずい空気のなか、シャワールームの扉が開く。

 

「・・・・・・む? 誰か来ていたのか」

 

 それはシャワーを浴びてほかほかと湯気をまとう、鍛え上げられた上半身がまぶしいアルバートだった。

 

(うそうそうそうそうそ?!)

 

 その肉体美に見とれることも半分、しっかり着込まないで出てきたことへの驚きも半分で、シャルルをさらに困惑させた。

 

「・・・・・・ああ、そういえば、一夏が言っていたな。はじめまして、アルバート・ティーアだ」

 

「私はウィン・D・ファンションだ」

 

「私はリリウム・ウォルコットです」

 

「わたしはメイ・グリンフィールドです」

 

「えっと、その、僕は、シャルル・デュノアです。よろしく」

 

 アルバートたちの自己紹介に応えるシャルル。アルバートはシャルルの前に座り、そしてその目を見据える。

 

「・・・・・・それで、あのときの少女が俺たちに何の用かな」

 

 シャルルの目が、大きく開かれた。




読んでいただきありがとうございます。

感想、評価等々お待ちしております。


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露見

お待たせしました。

随時感想をお待ちしております。

2017/12/12 内容を一部修正加筆。


 このとき、すぐになんでもないように表情を元に戻したのが彼女の彼女たる所以だろう。しかし、その内心は多大な驚愕で溢れていたが。

 

「いったいなんのこと? あの時って言われても僕たち初対面だし、それに、僕男の子だよ?」

 

 アルバートは少しだけ片眉を上げた。

 

「・・・・・・ふむ。まぁ、そういうことならそれでもかまわん。それで、いったいなんの用だ?」

 

「いや、僕も男の子だし、せっかくだから数少ない男性操縦者の君とも仲良くしたいなって」

 

「その後、隙を見て我々のNEXTのデータを入手し本国、正確にはデュノア社へ送信する、というわけですね」

 

 シャルルの言葉に即座に言葉を重ねるウィンに、シャルルが苦笑いをしながら振り返った。

 

「いやいや、そんなことするわけないじゃないですか。わざわざ仲良くしようって人にそんなことするわけないでしょう?」

 

「ちなみに、証拠は今朝方行った通信を傍受して私たちがそれぞれ保存している」

 

「言い逃れができない程度には個人が特定できる情報がありますので、あきらめてください」

 

 再び重ねられた言葉に、思わず口ごもってしまったシャルル。それが決定打となり、アルバートが再び口を開く。

 

「・・・・・・あのときも、入念に君の情報は洗っていた。公的機関の記録はもちろん、噂程度の話にいたるまで、その全部を調べていた」

 

「・・・・・・最初から、知っていたんですね」

 

「・・・・・・気付いたのは昨日だ。雇い主から一切の情報がない男性操縦者の存在、当然ながら警戒して当然の存在だ。その警戒策のひとつ、通信の傍受という策によってたまたま今朝の通信を傍受できて確信に至ったというわけだ。」

 

 アルバートの言葉に、深くうなだれるシャルル。

 

「僕を、どうしますか」

 

 下心を持って近づいた相手を許すほど、カラードは甘くはない。そう思ったからこそ、シャルルは死刑宣告を待つ被告のような覚悟を持って聞いた。

 

「・・・・・・別に、どうにもしないが」

 

 しかし、そんな悲痛な決意は、あっさりとどこかへ放り投げられた。

 

「え・・・・・・?」

 

「・・・・・・貴重な男性操縦者である以上、ハニートラップやその他の謀略など最初から想定済みだ。さらに言えば、その対処についても」

 

「とはいえ、さすがにこんな方法を取るとは予想だにしませんでしたが」

 

 リリウムの言葉にうなずく一同を見て、少し苦笑いを浮かべるシャルル。男であることを偽るなど、確かに無謀を通り越してもはや愚かとしか言えないのは彼女も承知済みだからだ。なら、なぜそんなシャルルはそんなことをしたのだろうか。その答えは簡単だ。つまり、

 

「デュノア社の社長夫人、エレノール・デュノアの独断による工作、か。ずいぶんとお粗末な手を考えたものだ」

 

 身を固くするシャルルによく見えるようにレコーダーを出すメイ。そのまま再生ボタンを押す。

 

『問題なく聞こえてるわね』

 

『あの、いったいなんでしょうか』

 

『決まっているでしょう? いつになったら情報を手に入れるのかを聞いておこうと思って』

 

『あの、まだここに入って二日目なんですが……』

 

『まだ手に入れてないの? 相手は男でしょう、体でも見せつけてやればすぐになびくわよ。泥棒猫の娘だというのに、そんなこともできないのかしら』

 

『わかり、ました』

 

 今朝の、エレノール夫人とシャルルの通信。もちろん、一般で使われるようなオープンな回線ではなく秘匿回線と呼ばれるものでの通信だが、技術畑の出ではない夫人は、秘匿回線のすべてが安全であると勘違いして、よりにもよって一番レベルの低い回線での通信を行ってきたのであった。それはバックに天災がいて、そしてなにより彼ら自身もある程度の技術を持ち合わせているカラードからすればうかつ以外の何物でもない。

 

「これが、その証拠ですね。おそらく夫人は一般人なのでしょう。迂闊としか言えない秘匿レベルでの通信なんてことをしてますし、おそらく自分の想像通りにならなかったことなど、そうないのではないでしょうか」

 

 想像ですけどね、と付け加えるメイからレコーダーを受け取ったアルバートは、それを片手間にいじる。

 

「シャルル・デュノア。いえ、シャルロット・ブロン。あなたは学園の規則をすべてお読みになりましたか」

 

 リリウムの声に顔を上げるシャルル改めシャルロット。

 

「IS学園特記事項第21項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 そう、IS学園とはあらゆる権力が及ばない場所である。それが意味するところ、それは、

 

「僕は、こんなことをしなくても大丈夫……?」

 

 思わず漏れたつぶやきに、アルバートたちは深くうなずく。それに呆然とし、次いでほろほろと涙を流すシャルロット。

 

「よしよし、つらかったな」

 

 涙を流すシャルロットを抱きしめるウィン。その温かさに決壊したかのように泣き崩れるシャルロットの背中をメイがさする。

 

「ごめんなさい、ありがとうございます」

 

 泣き止んだシャルロットは、リリウムが差し出したティッシュで涙をぬぐう。そのシャルロットに、アルバートが声をかける。

 

「……シャルロット・ブロン。君にはいくつかの選択肢がある」

 

 ひとつのターニングポイントとなる、選択肢。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 白い壁に落ち着いた色合いの木材の家具が多く置かれた重厚な執務室にて、男性が頭を抱えていた。壮年期も終わりを迎えようとしているほどの年齢の男性は、その金の髪を押さえ眉間にいくつものしわを刻んでいる。

 

「いったい、どこへ行ったと言うんだ……」

 

 ことの顛末は簡単だ。ある少女が突然行方不明になったのである。その少女はある田舎に住んでおり、田舎に住んでいながらISのパイロット候補生で、そして諸事情により公的には認めてはいないものの最愛の娘であった。判明したのは二週間ほど前。いつも受けている、愛娘が無事に過ごしているかどうか張り付かせているいわゆる密偵からの報告で数日前から姿を見なくなったと知らされた。その報に驚愕し、すぐさま拉致の可能性も含めて調査させた。しかしながらいっさいその様子がないと知らされ困惑した。拉致でもないのに突然姿が見えなくなる。家の様子は荒らされているわけでも妙に荷物が減っているわけでもないから家出の可能性も薄い。まったくの足取りがつかめなくなり、彼、シャルロ・デュノアは彼女、シャルロット・ブロンの安否を案じる以外に手段がなくなっていた。すると、机の上の電話が鳴る。

 

「・・・・・・なにかね」

 

<・・・・・・デュノア社の代表取締役、シャルロ・デュノアだな?>

 

 聞いたことのない男性の声。内線をよこす役職に関する人事は行っておらず、現在のその役割の従業員たちの中にこんな声の人物はいない。そう一瞬で判断し、そして内線すらハッキングされていることに驚きながらもそのことをおくびにも出さず、応答する。

 

「いかにも、私がその代表取締役だ」

 

<・・・・・・俺はカラードの一人、ストレイドだ>

 

 思わず、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がってしまう。このタイミングで篠ノ之束お抱えの部隊からの連絡。娘の失踪になにか関連があるのは明らかだ。

 

「まさか、Dr.シノノノ麾下の一人から電話をいただけるとは思いませんでした。それで、なにか御用でしょうか」

 

<・・・・・・シャルロット・ブロン、というのはあなたの一人娘だな?>

 

「そう、ですね。そこまで知られているのだから、いまさら隠すのは無駄でしょう。シャルロット・ブロンはいかにも、私の娘です。諸事情あって、私のもとに迎えることができていませんが」

 

 素直に認めるシャルロ。ブロン姓でかつ一切接触していないにもかかわらず、シャルロットが彼の娘であると聞いてきたのだ、情報の世界に強い篠ノ之博士の後ろ盾も考慮すればすべてが筒抜けになっていると考えて相違ないと判断された。

 

<・・・・・・ひとつ、取引をしないか。先に言っておくが、俺たちが拉致したとかではない>

 

 取引を持ちかけられ、付け加えられた言葉を多分に疑いながら応じる。

 

「・・・・・・こんな、まさか、冗談だろう?」

 

<・・・・・・こちらにもメリットがあり、そちらにもメリットがある。それでは不満か?>

 

 取引の内容を聞かされたあと、意識せず言葉が漏れた。

 

「本来であれば、役員会議を招集すべきでしょうがなのでしょうが、私の一存ですべてを受けます。あなたがおっしゃるようにこちらにもメリットがあり、あなた方にももちろんメリットがある。こちらこそ、よろしくお願いしたい」

 

<・・・・・・では、さっそく動くとしよう。それでは>

 

「ええ、それでは」

 

 電話が切れると、シャルロはそのまま椅子に崩れるようにして座り込む。深く吐いたため息は、安堵を含んでいた。

 

 

――――――――

 

 

 その日、ある女性にとって最悪の日となった。これまで順調に進んでいたはずの人生の路が突如として断たれたのである。具体的には、先ほどから流れているニュースが示している。

 

『驚愕のリーク! デュノア社夫人の悪辣な計略とは?!』

 

 ゴシップにしては異様に詳しく、そしてそのどれもが正確に報道されている。曰く、デュノア社夫人は社内で傍若無人に振る舞い圧政を強いている。曰く、夫人はデュノア社の前身の企業時代にその資金力に当時の社長を追い詰めて当時恋仲で子供を身ごもっていた彼の恋人を放逐した。曰く、デュノア社が行き詰ると社長の元恋人の少女を利用してIS学園に潜入させカラードの情報を盗もうとした。それ以外にも隠し財産の場所や脱税贈収賄、違法な脅迫恫喝その他もろもろの全てが報道されている。

 

「お、奥様! いかがなさいましょう!」

 

 そう叫ぶのは彼女の側近。その後ろにはデュノア社の中でも彼女の手下と言える人物たちがいた。

 

「・・・・・・さっさと荷物をまとめて不要なものは焼き捨てなさい! そうすればまだ時間がっ」

 

 しかし、時すでに遅し。そう叫び終わる前に警察が乗り込んでくる。

 

「動くな! デュノア社の夫人と、その一味だな?!」

 

 その中の一人が、一枚の紙を見せ付ける。

 

「お前たちには贈収賄ならびに恐喝などの罪に問われている! 黙秘権をはじめとする権利は保障する!」

 

 色めき立つ取り巻きたちを尻目に、夫人は呆然と崩れ落ちた。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 「・・・・・・というのが、今回の顛末だ」

 

 数日後の朝、シャルロットを部屋に呼んだアルバートがニュースを流しつつ全ての流れを説明する。

 

「要は、シャルロット・ブロンという少女を許すだけでなくデュノア社に巣食う病巣そのものを退治した、ということだな」

 

 呆然とするシャルロットの肩をポンとたたくアルバート。

 

「・・・・・・これで、お前は自由の身だ」

 

 その言葉にゆっくりと振り向き、そしてこみ上げた涙を我慢することなく流し大声で泣きながらアルバートに抱きつくシャルロット。それをやさしく抱きとめるアルバートに、思わずジトッとした目線を送るウィン、メイ、リリウム。その三人の様子にこれまた思わず苦笑しながらシャルロットの頭を撫でるアルバート。

 

 こうして、第三の男性操縦者という騒動は、デュノア社の内部清掃という結末で終わるのだった。



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裏側の終息

 デュノア社の内部一斉掃除が世界を騒がせた日から数日、当のデュノア社の社長室の応接用のソファには社長シャルロ・デュノアはもちろんのこと、彼の対面には黒い長髪を靡かせた少女が不敵な笑みを浮かべて座っていた。

 

「ええと、一応改めてお尋ねするが、あなたがかのDr.シノノノの使いということですか?」

 

 不敵な笑みを浮かべる少女はひとつうなずく。

 

「そのとおりだ。わたしは篠ノ之束の使いとしてデュノア社、ひいてはシャルロット・ブロンの親であるシャルロ・デュノアに提案をしにきた」

 

「あの日、カラードのストレイドと取引をいたしましたがそれとは別口、ということですかな?」

 

「いや、ある意味でその延長だな。彼女の今後について提案したい事項ができたもんでね」

 

「提案、ですか。それはいったいどのような提案でしょうか」

 

「ああ、それはな・・・・・・」

 

 

 

――――――――

 

 

 

 話は二日ほど前にさかのぼる。あのあとシャルル・デュノアが退学しシャルロット・ブロンとして入学してきたというある意味一大事があったのだが、都合よく大浴場が男子にも開放されたわけでもないので、アルバートたちにとってはさほど騒ぐようなことではなかった。そして現在、そのシャルロットとカラード組はというと、彼の寮部屋に組み立てていたIS用シミュレータの前に集まっていた。

 

「えっと、とりあえず呼ばれたから来てみたんだけど、これIS用シミュレータだよね?」

 

 本来なら部屋には存在しない機材が置かれているのには、さしものシャルロットとて驚いてしまった。

 

「・・・・・・お前の腕前を見せてほしくてな。今回は多少秘密にしたくてここに来てもらった」

 

「それはぜんぜんかまわないんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・設定はこちらで行う。お前には設定された目標をクリアしてもらう。手段、武装は問わない」

 

「まぁ、わかったよ。とりあえず繋いじゃうね」

 

 そう言って彼女の専用機、デュノア社のラファール・リヴァイヴを改修したラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開、シミュレータのコードを繋ぎ、ヘッドバイザーを装着する。

 

「・・・・・・準備は良いな?」

 

「もちろん」

 

「・・・・・・では、スタート」

 

 そうして、試金石の選別が始まった。

 

「それで、いったい何が目的だ?」

 

 シャルロットがシミュレータを開始したのを確認すると、カラードの面々は彼女から少し離れてかつ声を潜めてアルバートに確認する。

 

「・・・・・・デュノア社に非公式に介入した結果、俺たちはあそこに対する無視できないほどの影響力を獲得した。今後の計画に関していくつか修正ができる」

 

「その絡みで、彼女を組み込もうと?」

 

「・・・・・・実力次第では、な」

 

「そういうことでしたか」

 

 納得がいった様子でシャルロットを見る彼女たち。そこに遅れて登場するはセレン・ヘイズ。

 

「すまない、遅れた」

 

「・・・・・・大丈夫、今はじめたばかりだ」

 

「今ちょうどブリーフィング中ですね。たしか、アルが受けた依頼のひとつだと聞きましたけど」

 

「確かに細部が多少変わっているとはいえ、これはあのときの依頼だな。それにしてもこれを選ぶとはお前も存外甘い男だな」

 

「・・・・・・あり得る可能性のなかで、一番分かりやすいものを選んだだけだ。この世界の最強兵器の従事者には、その意識が低い」

 

「ほんとにこれを達成したのか? お前という男はほんとに・・・・・・」

 

「王大人の言うとおりですね・・・・・・」

 

 アルバートがあらかじめ用意していたディスプレイに表示されている内容を見て、彼らは口々につぶやいていた。

 

 

 

 (いやいや、ありえないでしょこの巨大兵器)

 

 ブリーフィングを受けているシャルロットの頭の中は、それで埋め尽くされていた。おそらく依頼者と見られる音声の提示した資料の中に表示されたのは、現実的にありえないほどの巨大兵器。場所は水平線すら見えるほどの大海原のど真ん中で、巨大兵器は言うなれば武装を施した巨大ボートだが、その全長は戦艦の優に2倍。全体で言えば優に8倍を超える。それはスティグロと呼ばれているようで、その姿は異様の一言だった。作戦自体は簡単で、ある程度広範囲に布陣する艦隊に対する強襲兼スティグロの試験運用で、その後詰とのこと。

 

(友軍ではないけど、試験運用の後詰だけだし、たぶん大丈夫)

 

 海上という場所なので補給がないと厳しいが、おそらく巨大兵器の性能を考えればすぐに任務は終わる。そのあとに巨大兵器に運んでもらえば大丈夫だろう。そう、判断した。判断してしまった。軍で味方に囲まれて行動しているという経験が、企業に雇われた傭兵という性質を忘れさせてしまった。

 

<それではミッションを開始する。目標はAFスティグロの試験運用支援ならびに敵艦隊の殲滅だ。今回の報酬は殲滅数で変わる。スティグロは味方というよりライバルだな>

 

 シャルロットはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの55口径アサルトライフル《ヴェント》を装備し、周辺をすばやく索敵。そしていくつか艦艇が固まっている場所を確認すると、スティグロの現在地を確認してガルムを牽制に使いつつ、61口径アサルトカノン《ガルム》を艦橋やエンジン部分に叩き込む。ISの国家代表操縦者候補というだけあって、その動きには躊躇がない。ISにかかわった時点で人命を奪うという覚悟は決めているのだろう。だからこそ次々と戦艦やイージス駆逐艦のミサイルやマシンガンを避けつつ目標を沈めていき、

 

 突如として背後から襲ったミサイル群を避けられなかった。

 

「え、なん、なにがっ?!」

 

 突然の衝撃に意識を持っていかれそうになるもすぐに持ち直し、ふたたび襲ってきたミサイル群を間一髪避ける。そしてミサイルの噴煙を目で追えば、そこにいたのはAFスティグロだった。

 

「こっちは友軍でしょ?!」

 

<クソッ、見境なしか・・・・・・。やつを味方だと思うな!>

 

 同じくしてオペレータの声が入り、すぐさまFCSがスティグロを敵だと判定する。シャルロットは迫りくるミサイル群をヴェントで迎撃しながら後退、しかしスティグロはそれ以上の速さを持って距離をつめてくる。

 

「相手のが速い・・・・・・。だったら!」

 

 それを確認すると、今度はスティグロの挙動が直線的なことを利用して立体機動で攻撃を回避、周囲の艦艇の行動をうまく誘導してスティグロに対する牽制とする。しかし全長がはるかに差がある艦艇の攻撃をあざ笑うようにスティグロは装甲表面ですべてを防いでいく。

 

「これも効果がないの?!」

 

 一瞬だけ歯噛みしたシャルロット。今度は距離を離そうとはせず、逆に急速に距離を詰めていく。スティグロも突撃をかけ両者が交差する瞬間、

 

「はぁっ!」

 

 シャルロットの奥の手、単純な攻撃力ならIS第二世代最強と言われたリボルバー機構による炸薬式69口径パイルバンカー、盾殺し(シールド・ピアース)こと灰色の鱗殻(グレー・スケール)がスティグロの装甲を破壊した。しかもそれだけではない。シャルロットが穿った箇所はスティグロの司令室であるため一切の機器が沈黙、浮力を得られなくなり沈んでいった。

 

<スティグロの撃破を確認。残敵を掃討して、終わりにしよう>

 

 オペレータの伝達に一息だけ安堵の吐息をつくと、ふたたび艦艇のほうへとラファールを駆った。

 

 

 

 「・・・・・・お疲れさま」

 

 シミュレータが終了しバイザーをはずすシャルロットに声を掛けるアルバート。いつの間にかじっとりと掻いていた汗をメイに差し出されたタオルでぬぐうシャルロットが、疑問を呈する。

 

「それで、結局あのミッションはなんなの?」

 

「・・・・・・いくつか考えている将来予測の中で、お前がどうなるのかを確認しておきたかったのがひとつ」

 

「ひとつ?」

 

「・・・・・・もうひとつは、俺たちが考えている未来を勝ち取れたとき、お前を組み込んで大丈夫かを見てみたかった」

 

「つまり、Dr.シノノノの計画に僕がどれだけ深く関わることができるかを見てくれたってこと?」

 

「・・・・・・まぁ、ありていに言えばそうなるな」

 

 ふーん、と声を出すシャルロットを尻目に、アルバートはセレンへ目配せをする。セレンはそれにひとつうなずき、手元にある端末を操作する。そして、ディスプレイに写されたのは、

 

<やっほー! みんなのアイドル、束さんだぞー!>

 

 そう、彼らの飼い主、篠ノ之束だった。

 

「つい先ほどテストをしてみたが、なかなか面白い逸材だと思うぞ」

 

<ほうほう、セレンが言うんだったら間違いないねー。具体的にどんな感じ?>

 

「そうですね、私の所見ですが彼女は視野が広く、腕はもちろんのこと状況把握や臨機応変な対応が得意なタイプだと思われます」

 

「同じくだな。前線で指揮を取る者の中でも優秀な部類だろう」

 

「それ以外にも、仕掛けるときには躊躇わない胆力も備わっていますね」

 

「・・・・・・必要な素養はもちろん、一個抜けた才覚があると思うぞ」

 

<なるほどねー。ふんふん>

 

 何度かうなずきながらあごに手をやる束。そんな彼女を前に姿勢を正すシャルロットに少し苦笑いしつつ、アルバートが口を開く。

 

「・・・・・・引き入れても大丈夫だと思うが」

 

<んー・・・・・・まぁ、そうだね。ちょっとだけ向こうとやり取りして、そのあとでどうするか決めるよ>

 

 と、束の目がシャルロットに向く。

 

<というわけで、しばらく待っててね>

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「まぁ、あれだ、お前の娘、シャルロット・ブロンをうちの預かりとしたいんだ」

 

「・・・・・・は?」

 

「今回、計らずもカラード(うち)デュノア社(そっち)に対する大きな影響力を持っちまったわけだが、カラードとしてはデュノア社と協力したいんだよ。最強の戦力を有するとはいえ、うちは少数精鋭だ。人数という量的実力は有していない。そこをあんたらと協力して埋めたいのさ」

 

「それは、Dr.シノノノの総意でしょうか」

 

「もちろん。そして束の意思であるということは、当然だが俺たちも動く」

 

「・・・・・・なるほど。あなた方だけでは足りず、私たちだけでも届かない。そういったものを、ですか」

 

「察しが早くて助かる。まぁ、まだ机上の空論でしかないけどな。とりあえず、そこらも合わせて考えてほしくて話を通しに来た。いろいろ考える必要もあるだろうし、今日は話だけのつもりだ。あとはそっちで会議なり娘との相談なりをしてくれ」

 

「いえ、大丈夫です。その提案、お受けいたします」

 

「うん? そんなに即決していいのか?」

 

「以前、そちらのストレイド殿にも同じ言い回しをしましたが、本来であれば役員会議などを招集するべきでしょうが、私の一存でお受けいたします」

 

「なるほど、フランス第一のIS関連企業の社長の椅子に座るだけあって勝負どころの勘は鋭い、か」

 

「まぁ、そういうことですな」

 

「ふ、そういうことなら了解した。しっかり伝えておこう」

 

「いえいえ、私たちはあなた方に多大な恩があります。それを少しでも返すことができるならいくらでも身を砕き骨を折りましょう」

 

 そうして退出する黒髪の少女に、シャルロ・デュノアは厳かに礼をして見送った。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 <はい、というわけで君はカラード預かりということになったから、よろしく>

 

 数日後、再び召集されたシャルロットは、なんの前置きもなく通告された事実に、少し呆けていた。

 

「・・・・・・え、いや、え、ホントですか?」

 

<もっちろーん。あ、代表候補生っていうの自体はそのままになると思うよ。今回の決定自体非公式だし>

 

「あの、それは許されるんですか?」

 

<普通なら許されないよねー。だけど、うちに移籍させるにはまだ少し足りないから、それ待ちかな>

 

「まぁ、正式にはまだ先だ。これからこちらで行っている訓練に参加する程度だな」

 

 セレンの言葉に、首をかしげるシャルロット。今現在行っている一夏、箒、セシリア、鈴の四人による訓練のことを伝えると、

 

「そんなこともやってたんですね・・・・・・」

 

<いろいろ考えたらそれが一番だからねー。そこに君も入るんだよ>

 

「期待に添えるよう、鋭意努力します」

 

<うん、がんばってねー>

 

 軽い束と対照的に気合を入れるシャルロット。こうして、さらに裏で起きていた取引も含めて、すべての事態が終息したのだった。




おそらく2017年最後の更新です。

みなさんよいお年を。

そして感想、評価随時お待ちしております。


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訓練

あけましておめでとうございます。

今回からシャルロットの専用機ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡをRRCⅡと略させていただきます。

なにとぞご容赦のほどを。


 「今日はアルに少し用事があっていないが、一夏たちがやっている訓練を見せたいと思っている」

 

 翌日、朝の寮の廊下で出くわしたカラードとシャルロット。その食堂への道中、ウィンがそう切り出した。

 

「分かりました。どこに行けば良いですか?」

 

「食堂で一夏たちにも会うだろうからそのときにも伝えるが、放課後に彼らと一緒についてくれば大丈夫だ」

 

「なるほど。ということは今日は放課後になるまで授業に身が入らないかもしれないですよ」

 

「であれば、その分だけ訓練でがんばってもらいましょう」

 

「まぁまぁ、とりあえず今日は少し慣らしてもらうだけですから」

 

 軽口を叩き合いながらそれぞれ朝食を取り、先に座っていた一夏たちと合流する。実は一夏、箒、鈴、セシリアの四人と、カラードとシャルロットの部屋は少し離れていて、食堂は一夏たちのほうが近いため、いつも彼らが場所を確保しているのだ。

 

「おはようございます、みなさん」

 

「おはよう、リリウムさん、ウィンさん、メイさん、シャルル」

 

 挨拶もそこそこに朝食にかかるグループ。注目の専用機持ち、そして名だたるカラードの集団ということもあるからか周囲からものすごく注目されているのだが、これはいつもどおりなのら彼らももはや気にも留めない。

 

「一夏さんたち、今日はシャルルさんも連れてきていただけますか?」

 

「え、いや、大丈夫なのか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「なら、了解した」

 

 箒がひとつうなずく。そのまま他愛のない雑談をしつつ、朝食を進めるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ところ変わって、公海上某所。そこには数人の男女が話し合っていた。

 

「これでおそらく、ある程度は生産能力をカバーできそうだ」

 

「ということは、面倒な生産設備やらでここを圧迫されずに済むってわけだ」

 

「・・・・・・そこまで多数ってわけでもないが、いくらかは作ることにはなるがな」

 

「それでもウチの人数なら充分なスペースとってなお余る程度には収まるんだろ? なら万々歳だ」

 

 茶の長髪の女性が口悪く言いながら笑い、黒の長髪の少女が同意するように何度もうなずく。

 

「そもそも、デュノア社が第三世代の開発に難航してるのは運用形態と要求スペックのつりあいが取れていないことに起因しますから。要求仕様にもう少し理解を織り交ぜれば今の時点で十二分に達成できます」

 

「そこが凡人たちの凡人たる由縁だよねー。突き抜けた変態がいるのならまだしもたかが凡人の集まりじゃ達成できないもん」

 

「その理論だとお前は変態ということになるな」

 

「ちがいますー! 私は天才ですー!」

 

「はいはい」

 

 銀髪の少女の言葉に紫の女性が答える。そして、赤銅の髪の青年が何度か手をたたく。

 

「・・・・・・さて、そろそろしっかりと始めよう。いくつか修正しなくてはならない要素が出てきている以上、早く終わらせよう」

 

 手元にあるコンソールを操作し、立体投影ディスプレイにいくつかの項目をまとめる。

 

「まずはわたしだな。外部協力者としてデュノア社を誘い入れることができた。これで生産能力を大幅に引き上げることができるから、時間の短縮にはなるだろう。どこまでを製造させるか、どこの部分を共同で行うかについてはまだ未定だ」

 

 黒髪の少女がコンソールを操作し、いくつかの項目を訂正する。

 

「よし、次は俺だ。残党のおおよその拠点をほぼ掴んだ。正確な位置までは現地を見てないから言えないが、半径3kmほどまでに絞り込んである。ほかの邪魔になりそうなやつらについても6割がた把握してる。ただ、例の侵入者の所属がつかめてない。いろいろ探ってみたが噂の断片すら出てこない以上、こっちで調査できる限界を超えたところまでもぐっている可能性がある」

 

 茶髪の女性も同じくコンソールを操作し、こちらはいくつかの項目を付け加える。

 

「・・・・・・部隊編成についても変更ができた。デュノア社の絡みでひとり部隊に加えることになった。見たところ技巧派で適応能力も高い。おそらくミスティックスと組むこともあるだろう。使用機体の詳細なスペックはあとで閲覧しておいてくれ」

 

 赤銅の髪の青年がコンソールを操作し、一人の少女についての調査資料を表示させる。

 

「最後は私かな。送受信設備の機能定義とかは終わって、今は設計段階。提供データの解析は終わってるからそれも含めてタイプAの全体進捗は2割かな。タイプBからFについてはデータの改修も終わって、あとはタイプA待ち。アークに関してはまだ手をつけてないよ」

 

 紫髪の女性が報告する。

 

「かつて私が夢見て、でも問題の多さから生きてるうちにできないかも、なんて思ってたことが、君たちのおかげで何倍も早く計画を進められたよ。ほんとうにありがとう」

 

 女性の言葉に一同はただ耳を傾ける。

 

「これからもっと忙しくなる。もっと大変になる。もっと危険な目に合う。打破すべき敵もいる。まだ壁も多いけど、君たちがいれば大丈夫だと思う。だから、これからも私に力を貸して」

 

「・・・・・・言われるまでもない。俺たちは博士のために働く。それぞれが、それぞれの理由で」

 

 青年の言葉に、ひとつ、しかし深くうなずく女性。

 

「ありがとう。だからこそ、私はがんばることができる。この夢を最後まで追い続けることができる」

 

 小さく、しかし多大な熱量の炎を瞳に宿す女性。

 

「だから、これからもよろしく」

 

「「「「まかせろ」」」」

 

 彼らの答えはひとつだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「じゃ、行こうか」

 

 放課後、一夏に声を掛けられたシャルロットは手早く荷物をまとめるとすぐさま彼らについていった。

 

「一夏くんたちが訓練を始めたのっていつから?」

 

「まだ一ヶ月は経ってないかな」

 

「とはいえ、すごく厳しいから身にはなる」

 

「自分で考えることの大事さってのが身に染みるわよねぇ」

 

「教科書では絶対に理解し得ないものですわ」

 

 口々の言葉に少々不安になってしまうシャルロット。そのまま少し雑談しながら歩みを進めると、件の場所に到着する。

 

「来たか」

 

 そこには5つのシミュレータといくつかのディスプレイが並べられており、その前で端末をいじっているウィンたちがいた。

 

「さて、今回はいつもどおりの内容ではなく一対一の勝ち抜け戦とする。諸条件を設けた上で制限時間内に相手を落とす、もしくは相手よりエネルギーが多いほうを勝利とする」

 

 お互いの力量を把握するためともいえる内容に、シャルロットはひとつだけ疑問を持った。

 

「あの、それだと操縦時間が長い候補生が有利なのでは・・・・・・」

 

「確かに、一般的に言えばそうでしょう。機体の操縦時間それすなわちパイロットの腕前ですから。しかし曲がりなりにも私たちの訓練を受けているのです。そんな無様をさらすことは許されません」

 

 リリウムの言葉を受けて必死で目をそらす日本人約二名の姿に思わず噴出してしまうが、リリウムの言葉通りなら油断がならないということでもある。

 

「でははじめましょう。まずは一夏さんとシャルロットさんです」

 

 

 

 正直に言おう。侮っていた。いくら彼女らの訓練があったとはいえISを、専用機を与えられて一ヶ月と少し、彼女らの訓練は一ヶ月にも満たないくらいしか受けていない。確かに同期間候補生として操縦訓練を受けた場合と比べてうまく扱えるのは事実だがそれでも自分の足元にも及ばない、そう考えていた。そしてその考えは、

 

「ここぉっ!」

 

 あっという間に覆された。いまだ拙いとはいえかつて見た試合の映像をはるかに超える機動力で『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』を使っているシャルロットを追い回す一夏。腕前が及ばないのを理解している一夏は最初から被弾覚悟でRRCⅡを追い回す。しかし被弾覚悟でありながらも決定的な一打は受けていない。つまり、牽制目的の銃弾こそ腕や脚部の装甲で受け止めるが本命の一発は一切被弾させないのだ。しかも受け止める牽制の銃弾も装甲を斜めにするなどして少しでもダメージを軽減させている。それは明らかにISの操縦時間が短いパイロットができる芸当ではない。すなわち、一夏はありえないほどの速度でその技量を上昇させているのだ。

 

「ほんっと、強い!」

 

「これくらいはできないと、な!」

 

 リロードの瞬間を突いて適格に一撃を振りぬく一夏。操縦技術だけじゃない、勝負どころの勘とも呼べる長年の経験で培うはずのものすらどんどん習熟していく。結果、シャルロットはヴェント一丁を犠牲に距離を取ることになった。

 

「っく、さすがに届かないな!」

 

「まだまだ僕も負けてられないからね!」

 

 そのまま攻防を続ける一夏とシャルロット。いきなりの激戦は一夏のエネルギー切れによるシャルロットの辛勝に終わった。

 

 

 

 「さて、どうだったかな、一夏の腕前は」

 

 一息ついたシャルロットに聞くウィン。彼女は端的に、

 

「正直、見誤ってました。あそこまで強くなってるなんて思いももしなかったです」

 

 と答えた。それにひとつ満足そうに笑うとウィンは彼女の顔を見据え、

 

「君も彼のように訓練を受け、その技術を磨くことになる」

 

 と誇らしげに伝えるのだった。

 

「さぁ、次々やっていきますよー!」

 

 なぜかものすごくテンションがあがっているメイに促されてシミュレータに入っていく。こうやって各自の実力を確認して今日は終わるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その日の夜、いつものとおりにアルバートの部屋に集合していたカラードの面々は、思い思いにくつろぎながら今日の成果を教えていた。

 

「・・・・・・なるほど。あいつにそれぞれの実力を見せ付けた上で、向上心を引き出せたか」

 

「もともとかなり向上心があるほうみたいだからな。どこまで腕を上げるか楽しみだ」

 

「おそらく指揮官としてはひとかどの人物になるでしょう」

 

「女傑だなんて憧れますよねぇ」

 

「・・・・・・ウィンはブラス・メイデン、リリウムはBFFの女王だけどな」

 

「かく言うあなたは世界に名を轟かせる首輪付きです」

 

「名で言えば一番高名なのはお前だな」

 

「わたしなら持て余しそうですよ」

 

 口々の言葉に頬を掻くアルバート。

 

「・・・・・・明日も早い。そろそろ寝よう」

 

 逃げの一手なのはご愛嬌だろう。

 

 こうしてシャルロットの訓練初参加は、彼女の意識改革という初回最大の成果を持って無事に終わったのだった。



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She Is Coming!

超お久しぶりです。


 何度目だろうか。その日、1年1組の教室は静寂が支配していた。いつもなら姦しい少女たちが、みな一様に沈黙しているのである。

 

「えっと、も、もうひとり転校生を紹介しまーす、なんて……」

 

 いつも明るい山田真耶すら貼り付けた笑顔に多分に困惑と怯えを含んでいた。それだけ、壇上の少女、眼帯をつけた銀の髪を持つ少女ラウラ・ボーデヴィッヒの雰囲気は鋭いものだった。

 

「ボーデヴィッヒ、お前は挨拶もまともにできんのか」

 

 助け舟を出すように促す織斑千冬の言葉に目を輝かせるかのように反応するラウラ。

 

「織斑教官!」

 

「ここでは先生と呼べ」

 

 必殺の出席簿攻撃にはさすがにひるんだラウラは、再び前を向くと一言、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 とだけ告げた。

 

「えっと、それだけ……ですか?」

 

「以上だ」

 

「で、では空いている席に……」

 

 山田先生が言い終わる前に、

 

「貴様は……!」

 

 眦をあげて足音を踏み鳴らしながら歩み寄るラウラ。その先には、一組唯一の男性である織斑一夏が。

 

「貴様のせいで、教官は……!」

 

 いい音を鳴らしスナップを利かせたビンタが一夏の頬を捉える。呆然とする一夏が見上げたのは、怒りをその瞳に焼き付けた少女の憤怒の表情だった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 「……それで頬が少し赤いのか」

 

 昼、いつもどおりに集合した一年専用機組、特に一組ではない鳳鈴音、アルバート・ティーア、ウィン・D・ファンション、リリウム・ウォルコット、メイ・グリーンフィールドがその頬に残っていた紅葉におどろき、食事をしながら一夏が経緯を説明していた。

 

「ふむ、きみに彼女との面識はないのか?」

 

「一切ないですね。千冬姉もほとんどISにかかわることは話してくれたことはないので」

 

「となると、ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏さんを一方的に知っており、彼女の口ぶりから察するに千冬さんのことに関連してあなたになんらかの恨みがある、ですか」

 

「ただの逆恨みですから、気にするようなことではないでしょう」

 

 リリウムがばっさりと切り捨てたのに一夏が苦笑し、鈴音が声を上げる。

 

「あ、そういえば千冬さんってドイツに行ってたことなかったっけ?」

 

「あー、確かにしばらく行ってたな。ということはそのころに千冬姉と知り合った感じか」

 

「織斑教官がドイツに行かれたのは、たしか第二回モンドグロッソのあと、でしたわね」

 

「なるほど、そういうことだな」

 

 次々と繋がっていく。一応の納得を得られ、そのまま解散となった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 「・・・・・・さて、どうしたものかな」

 

 その後何事もなく一日が終わり、今はアルバートの部屋。部屋の主であるアルバートは薄型の携帯端末でさまざまな情報を見ながら思わず漏らした。

 

「どうなさいましたか」

 

 優雅に紅茶を飲んでいたリリウムがその言葉を拾う。

 

「・・・・・・例の転校生をな、どう扱うか、と」

 

「邪魔、ということであれば排除いたしまか?」

 

「・・・・・・いや、それはしなくていい。それよりも以後一夏とその周辺に事ある毎に絡むのは確実だからな、どのように扱えば、と」

 

「ふむ。であれば当て馬にするのか?」

 

「でも当て馬にしたところで実力が未知数じゃないですか。それになにか悪い影響があっても困りません?」

 

「むぅ、たしかに・・・・・・」

 

 ウィンの発言にメイが言葉を返す。

 

「・・・・・・調べてみたが、ある程度の実力はありそうだ。見てみろ」

 

 アルバートは携帯端末を操作し、壁一面に備え付けられたディスプレイの一つに携帯端末の画面を表示する。

 

「えーっと、ドイツ軍のIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長、ですね」

 

「部隊章がかわいいな。眼帯をした黒ウサギか」

 

「通称黒ウサギ隊。ドイツの保有する10機のISのうち、3機を割り当てられた名実共にドイツ最強の特殊部隊、ですか」

 

「・・・・・・だから、腕はある程度は持っているのだろう。問題はそのある程度がどれくらいなのか、感情面が最適とはいえないため当て馬にした場合の影響がわからない、という二点だ」

 

 うーむ、と唸る一行。そこへ遅れてセレンが入ってくる。

 

「すまないな、少し遅れた」

 

「・・・・・・風呂ならもう沸いているぞ、先に入るといい」

 

「では、そうしよう。ところで」

 

 セレンがディスプレイを見る。

 

「これはいったい? 見たところあのラウラだかいう転校生のものみたいだが」

 

「・・・・・・今後どのように扱うか悩んでいてな。生徒である俺たちとは違う情報が入る教師のセレンもなにかアイデアをくれ」

 

「と言われてもな。教師と言えどほとんど情報はないぞ? まぁ、いまは織斑一夏への恨みから態度が悪い、というくらいか」

 

「そうなんですか? では、その恨みを取り除いてあげれば大丈夫そうですね」

 

「あくまで私の見立てでは、だ。保証はせんよ」

 

 そう言って浴室に入るセレン。彼女の言葉がきっかけとなりラウラ・ボーデヴィッヒは現状関わることはない、という結論に落ち着いたのだった。




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Rampage

長らくお待たせしました。


その日、彼女は苛立ちを隠せなかった。自らが纏うものに対するあまりにも腑抜けた周囲の認識に、

彼女の焦がれる畏敬の存在が持つ汚点の不甲斐なさに。

 

だからこそ彼女らを見つけたとき、悪意が鎌首をもたげた。彼らの指導を受ける彼女らの拙さをもって、

彼らの至らなさを証明するために。

 

―――――――――

 

「まぁ、なんてーの? 最近はずっとシミュレータだったからさすがに甲龍を動かしてあげないとねって」

 

珍しくアルバートが自主訓練をするようにと一年専用機組に伝えた放課後、これまた珍しく鳳鈴音とセシリア・オルコットがアリーナで遭遇した。

 

「たしかに、ずっとシミュレータを使っていますが、やはりどうしても実際に動かすのとはワケが違いますものね」

 

アルバートが使っているシミュレータはほぼ100%、機体の性能や挙動を再現できるが、それはあくまでも「ほぼ」であって完全ではない。だからこそたまには動かす必要があったのだ。アルバートがどう思っているかはともかくだが。

 

「ねぇ、ちょっと付き合ってよ。あたしは近接向けで、セシリアは遠距離特化。お互いにちょうどいい訓練になると思うんだけど」

 

「あら、いいですわね。ぜひそうしましょう」

 

「じゃ、負けたほうが明日の学食おごりでどう?」

 

「あらあら、ではいまのうちになにを選ぶか決めておかないとですわね」

 

鳳のちょっとした挑発に、これまた軽く乗るセシリア。

準備運動がてらにISを動かす。瞬間。

 

 Lock-On Alert !

 

直感に従いすぐさま飛びのく2機。一瞬遅れてなにかが、いや、弾丸が彼女らのいた場所を貫いた。

そして、わざわざロックオンを仕掛けた機体を、シュヴァルツェア・レーゲンを見上げる。

 

「いきなり撃ってくるなんてずいぶんじゃない。わざわざ喧嘩吹っ掛けに来たってわけ?」

 

「ふん、知れたこと。NEXTの教練を受けているお前たちの実力がどんなものかと思っただけだ」

 

「あらあら、ドイツのウサギさんはずいぶんと粗野で粗雑なようですね。淑女たる振る舞いを知らないとお見受けいたしますわ」

 

売り言葉に買い言葉。はっきりわかるほどに空気の温度が低下していき緊張が高まる中、巻き添えを恐れた生徒が少しずつ離れていく。

 

「……そこまでにしておけ、未熟者ども」

 

ただし、その緊張が爆発することはなかった。なぜなら、より巨大かつ強固な圧力で蓋をされたからである。

 

「……貴様らに最初に叩き込んだことを、貴様らはどうやら忘れているようだな」

 

そこにいたのはアルバート・ティーア。件の教練を課している人物。彼のドスの聞いた声にかろうじて震えださないだけの気力をなんとか維持していた鳳とセシリアの肩が、まるで怒鳴られた子供のごとくビクリとはねる。

 

「……ちょうどいい。一夏、シャルル、篠ノ之もあわせて2時間後に校門に集まるように言っておけ。……どうやら、まだまだ甘かったらしいからな」

 

そして、こちらを凝視するラウラへ目を向ける。

 

「……貴様もついてこい。身の程を教えてやる」

 

しかし、気丈にもラウラは挑発する。知らないがゆえに。

 

「ふん、ならいまここで披露するがいいだろう。それとも、怖いのか?」

 

「……校則を知らんようだな。ISでの私闘は禁じられている。だからこそ貴様を招待している」

 

「校則がどうした。見つからなければ問題ないだろう」

 

「……粋がるなよ、小娘。ISを与えられ特殊部隊を率いた程度で一流のつもりか」

 

明確な侮辱。普段は温厚なアルバートとは思えない物言いにあっけにとられる鳳とセシリア。

 

「貴様、言わせておけば!」

 

「……喧しい。身の程知らずが粋がるな。……その身の丈を教えてやる」

 

そしてそのまま立ち去るアルバート。思わず追いかけそうになったラウラだが、続いて聞こえた織斑千冬の声に足を止めざるを得なかった。

 

―――――――――

 

「それで? どこに行くんだ?」

 

ラウラの不機嫌極まりない沈黙とセシリアと鳳の張りつめた表情につられて沈黙していた一同だったが、アルバートがそこに合流するとまず一夏が声をかける。

 

「……カラードの倉庫のひとつだ」

 

「え、そんなところに行っていいの?」

 

驚きの声を出すシャルロット。

 

カラード。アルバート・ティーアを社長として設立された傭兵派遣私設軍事企業。篠ノ之束の護衛としてIS業界では知らぬもののない企業で、天災の呼び声高い篠ノ之束らしく一切の情報が秘匿されその全容を知るもののない企業。そんな企業が倉庫とはいえ保有する施設に他者を呼び込むのだ、各国政府はおろか企業人すらその情報をなんとしてでも手に入れようとするだろう。

 

「あくまでも倉庫の一つだ。備蓄物資は置いてあるが重要な施設はないからな」

 

「それでもいままで秘匿していた施設の一つをほぼ公にさらすのはまずいんじゃ……」

 

「大丈夫ですよ、問題ありません」

 

どうしようと迷っているシャルロットに胸を張るメイ。それを尻目にリリウムは手元にある携帯端末に目を落とす。

 

「そろそろ到着いたします」

 

「……了解」

 

振り返るアルバート。その目に感情は浮かばない。

 

「……さぁ、行くぞ」




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