魔法科高校の愛溺事録 (薔薇大書館の管理人)
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プロローグ 芽生える感情

原作キャラも高校生ですからね。青春させて見たかったんですよ!!
ひとまず、色々な話を書いていこうと思うので、その第一作目を投稿していきます!!



 

 

 

 

 

 ワタシハ…、サガシテイル…。

 

 

 

 肌寒い季節の中、器を持たないそれは、自我を持ちながらずっと彷徨っていた。

 

 それの仲間達もいた。

 

 だが、仲間達はこの国の魔法師達によって、消滅した。

 

 それは、仲間と合流するために、宿主となる可能性を認めた人体(レシピエント)を探し、レシピエントに浸透しようとした。

 しかし、それは、元々他の仲間よりも情報体としては未熟で、人間で言うと半人前の状態だった。そのため、国境の内側にいる仲間達と交信しようにも、こちらからは発信する事が出来なくて、仲間からの交信だけは接続できた。一方通行の交信だけでなく、仲間の位置情報を得るのも困難であった。そして未熟なため、レシピエントに我を浸透させることができずにいた。

 

 それでも、我々が個にして全。個別の思考能力を持ちながらも意識を共有していた。だから仲間の元へむかうという欲求がそれを動かしていた。

 

 

 

 しかし、それの欲求が叶う前に、散ってしまった。

 

 

 仲間の存在が感知できなくなり、とうとう行き場を失くしてしまったそれは、途方に暮れた。

 

 

 やっと合流できると思った矢先の出来事…。

 

 人間たちの間では、仲間は『吸血鬼』『パラサイト』と呼ばれている事は、交信で知っていた。その人間に仲間が排除され、目的を見失った。

 

 これからどうするかと、残された未熟なパラサイトは、同じ情報体の仲間がいる事に気が付いた。

 そしてそのパラサイトがなぜか少しずつ感情を持つようになったのを知った。それが人間に近づいて行っているようで、驚いた。しかし、その仲間のパラサイトはとても嬉しそうで、楽しそうに思念を飛ばしてくる。

 

 このパラサイトの無意識に送られてくる思念にいつしか未熟なパラサイトも心惹かれ始めた。そして、そのパラサイトに会ってみたいとも思うようになった。

 

 

 更に、もっと会ってみたいと思った相手が感情豊かなパラサイトの主である”シバタツヤ”…。

 

 

 どんな人物なのか、知りたくなった。

 

 消えた仲間達も会話していた人間…。

 

 

 我々、パラサイトを引き付ける人間に興味を持った。

 

 

 

 ”シバタツヤ”という人間を主というパラサイトは、未熟なパラサイトの存在を感知していない。弱すぎるためもあるが、”シバタツヤ”=マスターにご執心で、気付いていないのもあった。

 

 

 未熟なパラサイトは、それを把握して、”シバタツヤ”に逢うため、情報体のまま、街並みを漂って、目的地へと進みだした。

 

 

 

 

 ワタシハ…、サガシテイル…。

 

 

 

 前は、仲間を。しかし今は、ある人間に…。

 

 

 

 ワタシハ…、アイタイ…。

 

 

 自我を持つ未熟なパラサイトは、初めに抱いた同胞との再会よりも、”シバタツヤ”に逢うという目的意識を強く持っていた。その目的意識が人間で言うところの、『恋』なのかは分からない。

 

 

 

 ただこのパラサイトの想いが後々に奇想天外な出来事をもたらす事になる…。

 

 

 




はい…、今回は、生き残りがいたパラサイトを話の冒頭に出してみました。

いまは、ただのパラサイトですが、いずれは名前がつくと思います。

時系列は、師族会議を狙ったテロが終焉を迎え、達也たちが進級前に団欒している頃です。

では、次からは、達也たち原作キャラが登場します。キャラ崩壊があるかもしれないので、ご了承くださいね。


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エピローグ~男だけの遊戯会~第一話 誘い

よし!!原作キャラを登場させるぞ!!
でも、キャラ崩壊もありうるかもなので、温かい目で読んでくださいまし。


 

 

 元大漢の生き残った魔法師である顧傑顧(グ・ジー)…。別名、ジード・ヘイグが引き起こした今回の箱根テロ事件は、首謀者の死亡により、終結した。

 

 だが、USNAの魔法師、カノープスによって殺され、死体さえも残されなかった。その所為で『顧傑がテロの首謀者』だと世間に示す事も出来ず、世間や市民にとってはテロ事件の首謀者が誰かもわからず、客観的証拠もないため、『実際には生きているのではないか?』という不安を拭う事が出来なかった。

 

 この結果に達也は、今回の任務は失敗だったと思わざる得なかった…。

 

 そして達也が危惧した思考の通り、現に、顧傑が撒いた悪意の種は、確かに花を開き、新たな魔法師への敵愾心の実を結ぼうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二〇九七年二月二十二日(金)

 

 

 テロ事件も終結したが、その事を世間はまだ知らないため、一高は今日も休校だ。

 そして達也も任務を終え、FLTに行く用事もないため、久しぶりに休日を、深雪と水波と一緒に家で寛いでいた。

 達也の代わりに、深雪の護衛として司波家へ訪れていた亜夜子と文弥は、既に帰路に就いていた。

 

 

 昨日、今回の不首尾を詫びる名目で、深雪、亜夜子、文弥を引き連れて、横浜の魔法協会関東支部に来ていた真夜に面会し、報告も兼ねた。

 その後、師族会議が控えていた真夜に深く腰を折り、応接室を後にした達也は、そのまま亜夜子と文弥を最寄駅までコミューターに一緒に乗って、二人の帰りを見送った。見送る際、二人とも達也との時間をあまり取れなかったと残念な雰囲気を醸し出しつつも、遊びで東京まで来たのではないという事を十分に理解していたため、余計な事は言わずに、達也、深雪に礼を言った後、帰っていった。

 (亜夜子は、雰囲気を出しても、表情は残念だというものではなかった。しかし、文弥の方は、憧れの達也に街を案内してもらいたかったという気持ちが捨てきれずにいたため、雰囲気だけでなく、表情や態度からも落ち込んでいるのが分かりやすかった。それを見て、達也は苦笑、深雪は微笑みをみせるのだった。)

 

 

 …そんな事で、来客もいない司波家で達也は、深雪が淹れてくれた紅茶を飲みながら、隣にぴったりとくっつく深雪と一緒に休日を満喫していた。水波は、二人のこの雰囲気に少しは慣れてきたが、いまだに葛藤する日々を送っていた。諦めはついているものの、紅茶を提供できなかったのはなんだかモヤモヤがする。

 だからか、深雪が達也といる間にとメイドの仕事を推進しようと、家事をするためリビングを離れた。

 無意識の内に、二人の甘い雰囲気に中てられるのは御免被りたいと思った言動かもしれないが。

 

 

 そんな訳で、今、深雪は達也の一人占めができ、満面の笑みを浮かべ、達也の腕に自分の腕を絡ませ、一時の幸せを噛み締めていた。

 達也も任務で、深雪に不安な気持ちをさせて、構ってあげられなかったので、深雪のしたいようにさせていた。

 

 それに、悪い感じもしない。

 

 顧傑の死亡による任務の終結に、達也も自分ではわからないが、やりきれない感情があった。しかし、任務が終わり、帰宅した時に深雪から慰められたことで、もう全てが些細な事だと思えた。だから、今日は深雪のために時間を使おうと決めていたから、深雪が甘えてくれるのは嬉しい。

 

 婚約者となってから、いささか達也との接し方に遠慮が見えていたが、今日は以前と同じように甘える深雪だった。

 

 

 

 

 「お兄様…、コーヒーを淹れましょうか?」

 

 

 「ああ…、もらおう。ちょうど深雪の淹れるコーヒーが飲みたくなったところだ。」

 

 

 「…まぁ、お兄様ったら…!」

 

 

 あっさりと達也にときめいた深雪は、照れて頬が赤くなりながら、名残惜しそうに絡ませていた腕を外し、キッチンへと向かった。

 その可愛らしい動作に達也も思わず、微笑する。

 

 

 そんな二人の甘い空気が流れているリビングに突然電話が鳴り響く。

 

 

 

 

 掃除で離れていた水波、キッチンで湯を沸かしていた深雪が同時に顔を出し、我先にとインターホンに向かう。

 しかし、二人を手で制して、達也が電話に出た。画面はお互いに顔を見る…訳ではなく、達也の方はディスプレイをブラックアウトしている。既に四葉家縁者と知られている達也にとっては、色々と見られてはまずい者もあるからだ。…例え、電話の相手が親しい友人でも。

 

 

 「…はい、司波です。」

 

 

 『おお!! 達也!! 元気だったか!?』

 

 

 「ああ、元気だな。前から気になっていた書籍を有意義に読んでいた所だ。」

 

 

 『お…、それは悪かったな。タイミングミスったか~…。』

 

 

 「いや、ちょうど一息つこうと思っていた所だ。だから、タイミングを見るなら、寧ろパーフェクトだな。……狙ってたのか?」

 

 

 まさか盗聴しているのか?とも伝わってくる達也の視線に、電話の相手…、レオは嫌な汗が背中に走るのを感じた。冗談だと分かっているのに、本気とも取れる尋問されているかのようなプレッシャーがディスプレイを通して伝わってくるようだった。

 

 

 『いや、そんなはずねぇ~だろ、達也!!? 

  俺だって、初めて達也に電話かけるのに、結構勇気出したってぇのによ!!

  そんな危ない橋を渡るほど度胸は据わってねぇ~!!』

 

 

 「…冗談だ。まさか本気で焦るとは思わなかった。」

 

 

 『本気っぽい冗談はやめろ! …ったく、達也は本当に人が悪いな。』

 

 

 「それは酷いな。俺は人が悪いではなく、悪い人だ。」

 

 

 『そっちの方が一番ひどいぜ!!達也!!』

 

 

 「……エリカと同じツッコミするんだな、レオも。」

 

 

 『あの女と一緒にするなよ!』

 

 

 「悪かった。…前振りはこれくらいにして、本題に入ろうか。用件はなんだ?」

 

 

 話が逸れかかったため、達也がレオに電話の用件を尋ねる。レオも、はっと気づき、達也に恐る恐る尋ねてきた。

 

 

 『そうだった! …あのさ、本題に入る前に確認だけどよ~。達也以外にそこに人はいるか?』

 

 

 「ああ、深雪と水波がいるが?…場所を変えた方がよさそうだな。」

 

 

 『助かるぜ、ありがとな、達也。』

 

 

 「少し待っていてくれ。」

 

 

 電話を保留にして、自室で電話を取るために、リビングを離れる。深雪は気になりながらも、大人しく待っている事にして、達也を見送った。

 レオにしては慎重な態度に達也もそれほど重要な用件なのかと考える。

 

 自室に入り、電話を取る。

 

 

 「待たせたな、レオ。」

 

 

 『いや、それほど待っていないさ! わざわざサンキューな!』

 

 

 「…で?話はなんだ?」

 

 

 達也が問いかけると、レオは息を吸い込んで、一気に用件を言った。

 

 

 『明日、一緒に街で遊ばないか!?』

 

 

 「………」

 

 

 いきなりの遊びの誘いに達也は内心驚くと同時に若干呆れるが、表面はいつも通りにポーカーフェイスを保った。

 

 

 「いきなりだな。」

 

 

 『悪い…。だけどさ、俺達ダチになって、もう2年は経つだろう?それなのに、遊びに出かけるなんてそうそうないしよ! 』

 

 

 「なるほど、そういう事か…。

  …………明日なら、一日開いてる。レオの言うとおり、街に行ってもいい。」

 

 

 達也は頭の中に、スケジュールを引っ張り出し、予定を確認する。

 

 

 『本当か!? やったぜ!! 』

 

 

 「深雪達もいい気分転換になるだろう。久しぶりにショッピングしたいと言っていたからな。」

 

 

 『……ああ!! それは止めてくれ!』

 

 

 「?どうしたんだ、レオ。」

 

 

 『明日、遊ぶのは…男だけで行こうぜ。』

 

 

 「?何故だ?」

 

 

 『いや~…、いつものメンバーももちろん、楽しっちゃあ楽しいんだけどよ?

  どうも女子たちに流れてるんだよな。』

 

 

 なんか言いにくそうに頬を搔くレオを見て、達也も察した。

 

 今まで何度か旅行に行ったりしてきたが、女子たちのペースに流されて、空回りする部分があった気がする。

 気にしてなさそうにしていたレオも、やはり男だけでの遊びに憧れを持っていたのだろう。

 

 

 「…分かった。深雪達は置いていく。」

 

 

 『悪いな、達也。恩に着るぜ!! よっしゃ!! あの女がいないと思うだけで、存分に遊べるぜ!いい機会だし、この機会を逃したら損だしな!』

 

 

 独り言を離すレオを見て、やはりかと自分の推測が当たった事に苦笑する。

 レオはエリカと言い合いして、喧嘩になるのを避けたかったらしい。

 

 

 「それで、俺の他に誰が行くんだ?」

 

 

 『そうだった! 一応、達也と俺、幹比古、そして一条だ!!』

 

 

 ここで、達也はもう一つの謎が解けた。

 

 レオが言っていた『いい機会だし』という意味が。

 一条が任務で一高に来ている今がチャンスという事だったのだ。

 

 

 「さすがだな、レオ。もう一条から返事が来たのか。」

 

 

 『いや、まだ連絡も取ってねぇ~よ? 連絡先も知らねぇ~しな。』

 

 

 「……まさかだと思うが」

 

 

 『そのまさか。達也、一条に連絡入れて、誘ってみてくれねぇ~か!?』

 

 

 「……………」

 

 

 

 

 

 この後、明日の待ち合わせの確認をして、電話を切った。最後のレオの顔は、わくわくが止まらないと言わんばかりに輝いていたが、達也は何も言わず、椅子の背もたれに身体を預ける。

 

 結局、一条に明日の件の事で、連絡を取らざるを得なくなった。

 

 少し休んでから、達也は再び階段を降り、リビングへと向かった。

 

 

 そこで達也を待つ深雪の元へ…。

 

 

 その深雪の元へ行くために、廊下を歩く達也の顔は、ほんの少しだけ楽しそうに微笑んでいた。

 

 

 




ふぅ~~!!
キャラ崩壊していないかな~!!?

ドキドキ満載!!

この一話書くのに、物凄く原作を読み返して時系列の確認したわ!

将輝の日記が特に厄介で、日記だから日にちが書いているんだけど、辻褄合わせようにも、土日開いていないし、本当は、将輝の送別会の後にしようとしたら、次の日に帰るって!!? 入る隙間がない!!

必死に時系列を確認し、こうなりました。
これが一番大変だったかも…。

でも大変でも、楽しくできたのでよかった!!


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エピローグ~男だけの遊戯会~第二話 思い込み

さて、前回はレオから達也への誘いだったけど、今度は達也から将輝への誘い。これは一難ありそうな…!!www


 

 レオとの電話を終えて、リビングに戻ってきた達也は、早速深雪の拘束に遭うのだった。もちろん、身体を縛られたり、ましてや全身を氷漬けにされた訳ではない。深雪は達也にソファに腰を下ろして待っていてくださいと言い、キッチンへと向かい、ずっと淹れるタイミングを待っていたのだろう、湯気がたっているコーヒーを二つ、盆に乗せて持ってきて、当然のように達也の隣に座っただけだ。

 しかし、深雪が醸し出す雰囲気はそんな穏やかなものではなく、レオとの話はどんな内容だったのか話してほしいというプレッシャーをかけて、腕を絡ませてきただけだ。達也を見つめる目も、『お兄様が隠し事などしませんよね?』と語っていた。

 

 …という威圧の拘束を受け、達也は思う所もあるが、まずは深雪を安心させようとこの状況を甘んじて受け入れるのだった。(妹に甘いともいえる。)

 

 しかし、そのためにはまだ足りない物があった。

 

 

 「深雪、話の前に少し時間をくれないか?」

 

 

 「…分かりました、深雪は大丈夫ですよ。」

 

 

 「ありがとう…。 水波、自分の飲み物を用意してきてくれないか?」

 

 

 「「え?」」

 

 

 達也としては、水波にも話しておかなければいけないから、そのために言った言葉だが、深雪としては、二人の空間に水波が入ってくるのは、少し抵抗があった。それに水波も突然話しかけられ、内心はかなり動揺していた。

 しかし、達也は深雪の婚約者と決まった人だ。

 水波は、あまり気乗りはしなかったが、達也を無視する事は出来る立場でもないため、お辞儀をしてからキッチンで深雪達と同じ、コーヒーを淹れて、リビングに設けられたソファに座る。

 

 水波が腰を下ろしたのを確認して、達也は深雪の淹れたコーヒーを半分ほど飲んでから、話を切りだした。

 

 

 「実はさっきの電話は、レオからだった。」

 

 

 「西城君からですか? 一体お兄様にどのような御用だったのでしょう?」

 

 

 深雪もレオから電話があったと聞き、驚くと共に、安堵で胸を撫で下ろす。

 

 今までレオから一度もこの家に電話がかかってきた事はなかったため、純粋に驚き、達也と同様に何か大事な用でもあったのかと考える。

 それと同時に、電話の相手がレオだったと、達也の口から聞かされ、安堵した。

 深雪は、電話の相手がもしや女性…、一番可能性がある響子さんではないかと思っていた。既に達也の婚約者となったが、もし達也が、気が変わって婚約を解消し、他の女性と結婚ともなれば、自分は立ち直れないと、今はまだ抱かなくていいショックを感じていた。しかし、達也があっさりと告げた事でその心配はいらないと分かり、無意識に構えていた気持ちも消え、心から達也を愛する眼差しへと変わる。

 

 そのお蔭で、リビングに張りつめていた重い空気は嘘のように消えていた。

 

 空気が和やかになるのを待っていたのかは分からないが、達也が話を切りだす。

 

 

 

 「明日、街に出掛けて遊ばないかと誘われた。レオにしては、照れていたぞ?」

 

 

 「ふふふ…、それは当然かもしれませんね。お兄様を遊びに誘おうと思うだけで、普通は気後れしますから。

  照れている西城君を見てみたかったです。」

 

 

 達也は深雪の言い草に少し疑問を覚える。

 

 達也も年頃なので、遊びに行く事は別に可笑しくはない。

 FLTの研究所に行ったり、独立魔装大隊の訓練に参加したりと何気に普通の高校生とは思えない忙しいスケジュールをこなしているため、遊びに出かけるという感覚が薄いだけだ。

 しかし、その忙しさと高校生とは思えない外見が災いして、今まで誘いたくても、達也には合わないのでは?という思考が働いて、遊びに誘われる事がなかっただけである。

 

 それを知っている深雪は、少し事実を口にしたのだった。

 この事は、達也には秘密。

 

 外見が実年齢より10歳ほど年上にみられる達也は、意外にもその事に多少のショックを受けるからだ。

 

 

 「では、明日の準備をして、今日は早く寝なければいけませんね。何を着ていこうかしら…。」

 

 

 「いや、今回は男だけで遊ぶことになったらしい。悪いが、深雪と水波は留守番になる。

  俺が留守にしている間、深雪を頼む、水波。」

 

 

 

 「は、はい…。承りました、達也様。」

 

 

 二人だけの空間を作り出していた中で、空気のように溶け込んでいた水波は突然声を掛けられ、少し動揺したが、すぐにメイドとしての自覚を思い出し、達也の命令に答える。

 

 深雪も表面上は微笑んで、達也の明日の外出を認めた。

 

 しかしやはり、一緒に休日を過ごしたいという気持ちもあった。何より、事件が解決したのは、昨日の深夜だ。落ち着いて疲れを取ってほしいと思っていたため、引き留めておきたい。

 

 でもそれを口にせず、外出を認めたのは、達也の顔がほんの少しだけ楽しそうにしているのが、理解できたからだ。おそらくそれを見分けられるのは、深雪だけだろう。

 だから、達也がレオたちと遊ぶことを楽しみにしている、まるで年頃の子供のような表情に、深雪は自分の想いを押し殺し、むしろ楽しんできてほしいと思ったのだった。

 

 それに、深雪は達也の決定を拒むことはない。

 

 

 

 「わかりました、お兄様。明日は西城君達と楽しんできてくださいね。」

 

 

 

 

 笑顔と共に、達也にそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ハァ~、疲れた…。」

 

 

 

 帰ってきて早々、溜息と共に疲労感を感じさせる表情で帰宅してきたのは、今回の箱根テロ事件で、首謀者の捕獲任務のために金沢から東京へ来ていた十師族、一条家の次期当主、一条将輝だ。

 

 その日本の魔法師達の上に君臨する十師族である彼がなぜこんなに疲労しきっているのか…。

 

 もちろん、テロ事件での疲労から来たのではない。

 

 

 今日は、同じ十師族である、七草家の令嬢、七草真由美に会いに行っていたのだ。

 

 

 金沢からわざわざ妹が遊びに来るという事で、観光名所を案内しろという兄にとってはむちゃくちゃなお願いをかなえるために、アドバイスをもらおうと七草家に出向いていた。

 

 しかし、真由美になぜかいいように遊ばれただけでなく、途中から参戦してきた双子の妹たち、香澄と泉美が値踏みするような視線で見てきた後、姉と同様にデートのシュミレーションゲームに割り込んできた。

 

 

 今まで異性にちやほやされてきてはいたが、逆に遊ばれることはなかったため、勝手がわからず、振り回された反動で、疲労を感じていたのだった。

 

 

 

 「…しかしこれで茜の要望にもこたえられるし、良かったんじゃないか…?

  うん、そう思っておこう。」

 

 

 そう言いながら、頭の中で、『あいつに借りを作らずに済んだ。』という考えがよぎる。

 無論、”あいつ”というのは、恋敵の司波達也の事だ。

 

 いや、恋敵というよりは、一方的な横恋慕だが、まだ婚約しているだけで、隙はまだある!!と考えている将輝にしては、恋敵がじっくり来るのだった。(今は…、である)

 

 

 だから恋敵である達也に、『これ以上負けたくない、今度こそいい所を見せて、司波さんを振り向かせてやる!!』と意気込む。

 

 

 

 

 

 

 プルルルルルルルルル………

 

 

 

 

 

 

 そんな野心に駆られていた将輝の耳に、電話のベルが聞こえてきた。

 

 

 すでに日は落ちているが、夕食前でもあるし、時間的には問題はないが、この別荘は、長い間空けていたから、電話をかけてくるような相手はいない。訝しく思いながらも、電話の相手が深雪だったら…と淡い期待をした。

 

 

 先ほどの達也への野心から、深雪への恋煩いへと変えて…。

 

 

 

 その思いが通じたのか…、電話の相手がまさに、将輝が一目惚れし、求婚をしているあの、『俺の女神……』である深雪からだった。

 

 

 

 

 ドキッ……!!

 

 

 

 心臓が跳ね、動揺しているのは、自分でもわかっていた。

 

 電話の相手の名が『司波』と表示されている。

 

 

 こんなに嬉しいことはない!!

 

 

 一体何の用事なのでしょう?…と口調も変えて、赤くなった顔も魔法で、普段通りの顔色に調整し、電話に出る。

 

 

 

 「…はい、一条です。 司波さん…ですか?」

 

 

 「……俺だが?」

 

 

 「!! なんだ!!司波か!!?」

 

 

 「…そんなに興奮することはないだろう。…深雪でなくて悪かったな。」

 

 

 

 『当たり前だ!! 司波さんと話しさせろ!!』…と言いそうになったところを寸止めに成功する将輝。確かに、『司波』と表示されていたが、名前は固定されていなかった。司波さんだけでなく、司波達也の可能性もあったのだ。それを淡い期待を持って電話を取った自分が思い込みをしてしまったのだ。

 気に入らないやつだが、あいつが不愉快に感じてしまうのは、避けたい。

 

 あいつに何かすれば、それが愛しい司波さんに不快感や俺に対する印象ダウンにつながるからな!!

 

 危なかったぜ…!

 

 

 「いや…、俺の方こそ悪かった…。

  で、俺に何の用だ?」

 

 

 もっとも、友好的な態度はとらないが。

 

 

 「明日空いてるか?」

 

 

 「?なんだ急に。」

 

 

 「…明日、遊びに出かけようという話になってな。せっかく一条が来ているのだし、街に繰り出すらしい。」

 

 

 「ああ…、そうか…。」

 

 

 ここで将輝が脳裏で考えたのが、『司波さんも来るのかな…♡』である。

 

 

 司波さんがどんな服を着てやってくるのか…。など想像し始める。

 

 

 「……一条?」

 

 

 妄想で現実を離脱していたことに気付き、すぐに意識を戻す。

 

 

 「聞こえている。いつものメンバーか?」

 

 

 「…レオが楽しみにしていたぞ?」

 

 

 (西城の事は今はいいんだよ…!! 司波さんはどうなんだ!!)

 

 

 将輝としては、深雪が行くかどうかが大事だった。しかし、達也が行くというなら、深雪も当然ついていくだろうと考えなおした。

 

 それに、行くに決まっている。

 

 

 電話の向こうから、愛しい司波さんの必死に押し殺しているかわいらしい笑い声が聞こえてきたからだ。

 しかも、『お兄様、楽しそうですね』…なんて話している。

 

 

 絶対に司波さんも行く!!

 

 

 なら、答えは決まっているじゃないかっ!!

 

 

 「いいぞ、明日は空いている。」

 

 

 「じゃ、明日9時に、○○駅の時計台下で。」

 

 

 「ああ、分かった。9時に、○○駅の時計台だな!!」

 

 

 「ああ…。遅れてくるなよ。」

 

 

 

 

 

 ブチ……

 

 

 

 

 

 言う事は言ったという感じで、用件を告げた達也は、電話を切る。

 

 

 

 電話が切れたあと、将輝は前にも味わったこの感覚に、苛立ちが募る。

 

 

 

 「だから、土地勘のない奴に冷たすぎるだろ~~~!!!」

 

 

 

 

 …と誰もいない別荘で、叫ぶのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お兄様、うまくいきましたね。」

 

 

 「ああ…、明日が楽しみだな。」

 

 

 

 電話を終え、任務が終わり、深雪と達也は顔を見合わせ、微笑みあうのだった。

 

 

 

 

 

 




ほほほ~~~~~!!!


将輝の思い込みすごいな~~!! でも、深雪も思い込みしていたな~~!!


さて、明日、待ち合わせに現れた将輝の表情が面白いだろうな~~!!


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エピローグ~男だけの遊戯会~第三話 妄想と女難

さてさて、将輝が深雪が来ないと知ったらどうなるやら…。


 

 二〇九七年二月二十三日(土)

 

 

 

 9時より2時間前…

 

 

 

 〇〇駅の時計台下にて……、まだ朝の冷えが感じられ、行き交う人々が防寒具をしっかり着込んでいる中で、鼻を赤くして、誰かを待つ青少年が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 その青少年は、いつもは自然とリーダーシップを取る、リーダーとして振る舞う事が自然だと思わせる風格のようなものを持っている。

 ルックスも完璧で、身長も肩幅も男らしいが、まだ少年らしさを感じる身体つきをした青少年だ。

 

 年は関係なく、女性ならお近づきになり、あわよくば付き合いたいと思っても、仕方がない。

 

 

 しかし、今日は妙にそわそわし、何度も髪形をチェックし、服装も見渡して、「おかしくないか? 張り切り過ぎてないか?」と独り言を口にし、落ち着きが見られない。

 頬も赤らめて、しきりに時計を気にし、たまにきょろきょろと辺りを見回す…という行為を繰り返している。

 

 

 こんな姿を見れば、明らかに「彼女(?)と待ち合わせしています」と言っているようなもの。通りすがりの人達は、これからの行動が予測できるほど、分かりやすい態度をする青少年を、羨望や嫉妬、好奇心を含んだ視線で余所見していく。

 

 

 そんな風に見られているこの青少年……、一条将輝は、周りが好奇な目で見守られているとは露にも思わず、…いや、これからの事を考えて、彼らの事が頭に入らないくらいに気合が入っていた。

 

 

 「まだ、時間はあるな…。 早く来てしまったか…。」

 

 

 待ち合わせの時間よりはるかに早く来てしまった将輝は、朝寒い中、白い息を吐いて、待ち人を待っていた。

 

 こんな寒い中で待たずに、近くの喫茶店かどこかで時間を潰せばいいのに、想い人が優雅に人垣を割って、こちらに向かってくる姿を想像するだけで、何時間でもいられる!!と考えているため、そこまで頭もまわっていない。

 

 

 (司波さんの私服……、きっと可愛らしいんだろうな~…。

 

  なんて声を掛けようか?

 

 

  『おはようございます、司波さん。 …その服、似合ってますね。とても司波さんらしい素敵な服です。』

 

  ……とかか?

 

  いや、もっと褒め称えるべきか?

 

  『美しい…。まさに司波さんだけにしか着られない、素敵な服です!!』

 

 

  ………ちょっと大げさすぎるか?

 

  ああああ~~~~~!!! 違うっ!!

  くそっ!!

 

  俺にもっと詩的な才能があれば!あの人……俺の女神を表すに相応しい麗句も、言葉を一生捧げるのに!!

  

  しかし、ここで挫ける俺じゃだめだ!!

 

  女神を自分だけの恋人……、将来の嫁にすれば、背徳感が堪らないじゃないか!!?

 

  しっかりしろ!! 俺!!)

 

 

 

 

 頭の中で深雪の事を考え、最初の言葉かけを慎重にシュミレーションしていく将輝。

 

 しかし、深雪は将輝を好きになる気は毛頭ないため、無駄に終わるだろう。

 

 それでも、将輝は何とか深雪を振り向かせることができると、達也と深雪の仲を詳しくは知らないため(秘密だから、当たり前である)、入り込む隙はあると勘違いしていた。

 そして、自分が考えた”将来の嫁”…というフレーズに酔いしれ、そうなった場合の妄想を始めた将輝は、自分が今、鼻の下の伸びきった状態で大いに喜び、笑みを浮かべている顔が大衆に白い目で見られて、引かれているという事に気づかなかった。

 

 

 今、この場に将輝の知り合いがいたら、きっと彼の今までの姿とのギャップに激しく動揺し、一歩距離を置くかもしれない……、そんな未来を感じさせる腑抜け顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして待ち合わせの9時………

 

 

 

 

 「こ、困った事になったな…。」

 

 

 将輝がそっと呟き、作り笑いをしている目と鼻の先には、愛しの女神…ではなく、年相応の女の子達が将輝を囲み、口説いて来ていたのだ。

 

 

 

 

 ようやく時間が近づいた事で、平常心を意識し、深呼吸して、いつも通りの姿で深雪の到着を待つ。(深雪達の、ではなく)

 

 深雪に男らしい姿を見せようと普段通りに立ち振る舞っていたら、通りすがりの少女たちが声を潜ませながら、足を止め、将輝にアタックするか相談し始めた。

 

 数時間前の将輝の腑抜け様を知らない少女たちは、ルックスのいい将輝とお近づきになりたいと考え、至る方向から将輝に接近してきた。

 

 それを将輝は、若干驚いたが、三高でも学年関係なしに女子生徒から言い寄られる事はあるため、少女たちの矢継ぎ早な質問も、律儀な応対で難なくこなす。

 

 

 (ああ…、この感じ、久しぶりだな。

 

  一高に転校してきてから、こういうのは少なかったからな。)

 

 

 一高での学校生活を思い出し、達也達と昼食を食べるようになってから、こういう女子にちやほやされるというイベントはなく、エリカや美月、ほのか、雫、そして深雪も将輝に言い寄る事はないため、この感覚が今まで普通だったな…と思っていた。

 

 しかし、いつまでも少女たちに囲まれていると、深雪に誤解されると思い、なるべく少女たちの気分を害さないように、丁寧に応対するが、これが自分の株を上げて、更に纏わりつかれてしまった。

 

 どうしようかと悩んでいると、通信機に連絡が入った音が将輝の耳に入ってきた。

 

 

 少女たちに断りを入れて、通信を取る。

 

 

 

 

 「はい、一条です。」

 

 

 『俺だ、司波だ。』

 

 

 「なんだ、司波か。 お前達、遅いぞ!! 待ち合わせ時間はとうに過ぎているじゃないか!」

 

 

 連絡がまた達也だったことで、苛立ちが募る。そして、待ち合わせの時間から10分以上は過ぎている事を知り、いまだに現れない達也達に文句を言う。予定通りに来ていたら、少女たちの群れを割って、向かってきてもいいからだ。

 少なくとも、将輝の相棒、吉祥寺真紅郎ならそうしただろう。

 

 

 『俺達なら、もう既に9時前に全員集合しているが? お前が来るのを待っているところだ。』

 

 

 「は? それはどういう意味だ?」

 

 

 『…100m先、12時の方角を見ろ。』

 

 

 達也の言われた通りにするのは癪に障ったが、真実を確かめるためには、仕方ないと言われた方向を見ると、駅の広場に設けられた花壇の前にこっちを見ている達也達が見えた。

 

 通信機を耳に当て、将輝と話している達也は無表情で少女たちに囲まれている将輝を見ているし、レオは頭の後ろに手を回してにやけているし、幹比古は将輝の置かれている状況に、チラチラと視線を送りながら、顔を赤くして、恥ずかしがってシャイな一面を覗かせている。

 

 

 達也達に観察されていたと知り、なぜか羞恥で顔が火照り、気付けば、少女たちの群れをかき分け、達也に向かって、大股で歩いていた。

 

 

 達也の正面に辿り着くと、将輝は大声で怒鳴る。

 

 

 「おい!!なんで助けてくれなかったんだ!」

 

 

 「なぜおまえを助ける必要がある? そんなこと頼まれていないが。」

 

 

 「俺が困っていたのは、知っていただろう!?」

 

 

 「俺はお前みたいに、愛想を振りまくような教育は受けてきていないからな。」

 

 

 「それとこれとは話が別だ!! せめて西城か、吉田が来てくれればこんな事には……」

 

 

 「俺だって、無理だぜ!! あの中に俺が突っ込んでいけば、間違いなく恨み買っていたって。そんな所には、俺は行きたくないな。

  …せっかくあの女がいないっていうのによ。」

 

 

 「ぼ、僕もあまりそういうのは、得意じゃないから…。」

 

 

 

 レオも幹比古もあっさりと将輝の要望を断る。

 

 

 

 「そういう事だ。一条、さっさと行くぞ。」

 

 

 

 もうこれで御終いと目的地へと行こうとする達也達に、将輝は怒りが込み上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何なんだ!!お前達~~~!!!性格悪すぎるだろ~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 将輝の叫びは、広場に響くのだった。

 

 

 

 

 




達也達に一杯食わされましたな。

そして、公共の場で爆発。

将輝のヘタレぶりが…。

そもそも、達也たちが率先して、群れの中に出向いて、将輝を助けるほど、親しいという訳ではないし、したくないから、離れた場所で傍観していたんだよ。

ああ…、将輝、深雪がいなくてよかったね…。


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エピローグ~男だけの遊戯会~第四話 勘違い

早くも将輝のキャラ崩壊していないか?
でも、原作ではヘタレだからな~…。




 

 

 

 

 

 公共の場で爆発した将輝は、自分が理性を欠いていたことに気付き、慌てて身だしなみを整え、咳払いする。

 

 達也がいるという事は、深雪が来ている=先ほどの不始末を見られてしまった…と解釈し、羞恥に浸りながら、深雪の姿を探し、せめて謝っておこうとした。

 

 

 しかし、先ほどの尋常じゃない取り乱し方をしたため、先ほどまで将輝を取り囲んでいた少女達は、「感情が高ぶりやすい、短気な男の子」と位置付けたらしく、熱烈なほどのアタックが冷たい視線で見られ、広場から散っていく。

 

 それを将輝は疎いのか、慣れているのか、少女たちの温度差の激しい気分の沈み具合をものともしていない。

 …いや、単に別の興味に気を捉えているからか。もちろんその興味がさすものは、深雪だが。

 

 

 達也は、将輝がきょろきょろと辺りを見回して探しているのは知っていたが、別に聞かれてもいないので、ほっておいた。それよりも、少女達の態度の急激な変化にある意味で感心していた。

 

 

 (まるで『氷炎地獄(インフェルノ)』だな…。

  魔法ではなく、人の感情だけでここまで真逆を表現するとは…。)

 

 

 「おい。」

 

 

 感心していたのもつかの間、すぐに興味が尽きたのと同時に、将輝から声がかけられる。

 

 

 「み、司波さんがいないが? どこかに行っているのか?」

 

 

 「ああ、そのことか。いや、今日は深雪は来ないぞ。」

 

 

 「…………は? なんだって。」

 

 

 「だから深雪は来ないと言っている。 …一条、まだ耳が完治していないのか?」

 

 

 「!! そういう意味で尋ねたわけじゃない! そもそも去年の事を穿り返すな!!」

 

 

 去年の九校戦で、三高の優勝と確信していた『モノリス・コード』の決勝戦…。

 

 その時に、達也を意識していたために、達也の作戦にまんまと嵌り、耳のすぐ傍で、振動系単一魔法の音波の増幅で、鼓膜を刺激され、三半規管が麻痺し、倒された。あの時の悔しさは今まで味わったことがないくらいだった。

 それからは、更に体力を鍛えた始めたし、相棒のジョージの助言も受け、奇策を使われた際の対応力を身に着けるようになっていた。

 

 それを今ここで穿り返されて、気分がいい訳がない。

 

 

 しかし、またこんなに人通りが多いところで、同じことを繰り返すほど落ちぶれていない。将輝は、胸に募る悔しさを仕舞う。

 

 

 「…では、司波さんは何処か具合が悪いのか?」

 

 

 話を繰り出した言葉がこれか?…と、レオと幹比古が訝しく思う。その表情を見て、自分が彼らと何かかみ合っていないことに気付く。

 

 

 「なんだ、俺はなにか間違ったことを言ったか?」

 

 

 「………今日は俺たち4人での外出だ。元から深雪が来る話はない。」

 

 

 「そんな馬鹿な!! だって…、電話でお前が…」

 

 

 「俺は一言も、深雪も行くとは言っていないが?」

 

 

 「……………」

 

 

 達也の言葉を聞きあの時の電話の事を思い起こしていく。

 

 

 

 そして達也の言うとおり、深雪が一緒に来るとは言っていなかったことを思い出した。

 

 

 (そうか…。

 

  俺は、あの時、電話の無効から美しい…、鳥の歌声のような女神の笑い声を聞いて、そう勘違いしたのか…!!

 

  俺とした事か…!!

 

  あまりにも浮かれすぎてしまって、思い込みしてしまった!!

 

  くそっ!!こいつに一杯食わされた!!)

 

 

 

 自分の失態に気付き、一気に血の気が引いていく。

 

 

 「どうやら、お前の勘違いだったという事に気付いたみたいだな。」

 

 

 「……ああ、そのようだ。すまない。」

 

 

 本当は達也に謝りたくはなかったが、ここで認めないのは、一条の人間として恥ずかしい行為だと思い、ここは自分の非を認めることにした。

 

 もし、この場に一条家当主、一条剛毅がいたなら、息子の尻を蹴って、一層強めに叱咤しただろう。「ここで男を見せろ!!」と喝入れたかもしれない。

 

 

 

 だが、こうなる事は既に昨日の段階で達也は予想…、作戦を立てていた。

 

 将輝は、普通に誘っても、何かに理由をつけて、来ないと踏んでいた。自分からかければ、なおさらだ。

 そこで、深雪に協力してもらい、電話の奥で、深雪の存在を匂わせ、明日は深雪も行く…とも取れる台詞を出してもらったのだ。

 

 おかげで、将輝を誘う事に成功した。

 

 

 達也は、深雪への褒美に何か買って帰ろうと、何をプレゼントするか、考え始めるのだった。

 

 

 学校で見せる、将輝のリーダー格を感じさせる物言いとは違い、達也にいいようにからかわれているのを見て、レオと幹比古は自分達と変わりない普通の少年に見えてきて、妙に親近感が湧いてきた。

 

 最初の出会いは、九校戦だったが、それからは今年の京都での論文コンペの会場視察、今回の一高での転校(二人はこっちの方がじっくり来るからそう言っている)で話すようになり、将輝の人となりを理解してきていた。

 しかし、やはり達也への対抗心と深雪への恋煩いを隠そうともしない様子に、一高で再会した時は、わざわざこんな場所までやってきて、友達である達也と深雪の仲を壊そうとするのかと怪訝にさえ思った。だが、達也が気にしないそぶりを見せたため、本人が気にしないのであれば、自分達がとやかく言うべきではないと納得し、昼食も一緒に食べるようになった。

 

 

 まだ打ち解けていないかもしれないが、こうして遊んで、もっと一条の誰も見た事がない素顔を見てみたいと思うレオと幹比古だった。

 

 

 ただし、ここで興味が終わらないのが、レオの性分か。

 

 

 謝ったものの、達也に物凄い対抗心という名の炎を湧き上がらせている将輝と、それを無表情で見返している達也との睨み合いを、去年の九校戦、深雪がアイス・ピラーズ・ブレイクで披露した魔法、『氷炎地獄(インフェルノ)』みたいだなと思いながら、(先程の達也と同じ考えをしていたとは知らずに。当たり前だ)二人に近づいていくレオ。

 

 

 「それじゃ、みんな揃ったわけだしよ!行こうぜ!!」

 

 

 「ああ、そうしよう。……で、どこに行くというんだ?」

 

 

 「そう言えば、俺も聞いていなかったな。まあ、レオに任せるよ。」

 

 

 「ぼ、僕も聞いていないよ。」

 

 

 「行ってみればわかるって!!

  楽しいぜ!! きっと盛り上がるに決まってるからな!!」

 

 

 「なら、問題はないな。」

 

 

 「ちょ、達也。 それってどういう意味だよ。」

 

 

 「いや、これだけ盛り上がっているレオなら、大体決まって……」

 

 

 「おい、達也!! 分かっていても言うなよ!! 」

 

 

 「………分かった。すまない。」

 

 

 「悪いな~! じゃ、行くぜ!!

  一条も今日は目いっぱい遊ぼうぜ!!」

 

 

 「あ、ああ。 此方こそよろしく頼む。」

 

 

 「そんなに固くなるなよ。 俺は一条と男の闘いをしてみたかったんだ。今からでもぞくぞくして、血が騒ぐぜ!!」

 

 

 「あまりはしゃぎ過ぎるなよ、レオ。」

 

 

 

 レオの『男の闘い』と聞いて、この近くに魔法試合ができる所でもあるのか?と訝しく思う将輝。

 裸になって、拳での戦闘にでもなる気か…!!

 

 …とズレた妄想をする。

 だが、それもまた勘違いだったと気づくのは、目的地に着いてから。

 

 

 またもや勘違いをしていたと気づいた将輝は、一回頭を強打したら元に戻るかとも考えるほど、感じなくてもいい羞恥を抱くのだった。

 

 

 

 

 




将輝、振り回されっぱなしだな。

まぁ、がんばれ!! 学校では、十師族らしくしないといけない重圧があるから、気分転換として、気遣ってくれているのさ!…たぶん。



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エピローグ~男だけの遊戯会~第五話 初めて

さて、遊ぶ前に、少し談話を…。

キャラの独自解釈が入ります~…。


 

 

 レオに連れられてきたのは、レトロなゲームセンターだった。

 

 外装は一世紀前ほどのホームシックな感じではあるが、なぜか高層ビルのように天高く伸びた一軒家風であった。

 

 そんな建物の前に横一列で見上げる達也達。

 

 

 外装に妙な違和感を感じるが、多くの人が扉を開けて入る度に中から機械的な音や盛り上がっている客の笑い声が一気に外に拡散してくる。

 そして、レオも生き生きして拳を片手に打ち込んで、早くもやる気全開だ。

 

 

 「ここか?レオが言う『男の闘い』ができる場所というのは。」

 

 

 「ああ! ここって一昔のゲームから最新までが揃っていて、スッゲー楽しいぜ! あと、スポーツもできるしな! 

  ・・・・・

  全身使って遊べるし、学校では加減もしないといけねぇーし、まともにやりあえないからな!」

 

 

 「レオらしいけど…、僕、こんなに人がいっぱいいそうなところは…」

 

 

 そして早くもノックダウンを受けそうになっている幹比古。人の気に中てられやすい体質の幹比古も想像するだけで、この調子だ。

 しかし、幹比古の具合悪そうな様子を受け流す人物が一人。

 

 

 「レオらしいな。確かにここならいろいろ遊べそうで、飽きそうにない。」

 

 

 薄笑いを浮かべる達也が、ビルを見上げながら感想を述べる。

 

 

 「……達也、せめて僕の」

 

 

 「ん? どうした幹比古。 顔色が悪いぞ?」

 

 

 「…う、うん…。大丈夫、なんでもない。」

 

 

 達也が珍しく乗り気な感じを見て、せめて自分の体調を慮ってほしいという小さな願いを口にするのを止めた。

 それよりも、達也がゲームセンターで喜ぶとは思わなかったため、意外感に駆られたのだった。 

 それは、レオも同じ。

 レオも達也のいつもの様子とどこか違うことを直感で感じ、真っ向から聞いてみた。

 

 

 「なぁ~、達也。もしかしてこういう場所って初めてだったりするか?」

 

 

 「ん?よくわかったな、レオ。実はそうだ。こういった若者が集まる場所はもちろん、一緒に遊んだことはないな。」

 

 

 「「え!!?」」

 

 

 まさかの達也の遊んだことがない宣言に驚きを隠せない二人。

 

 

 「…ってことは、達也、お前今まで友達が……いなかったのか?」

 

 

 「そんなことはないぞ? クラスメイトならいたが、全員なぜか俺と距離を取っていたからな。同級生で遊びに行くとき、いつも俺を誘うかどうかで真剣に悩んでいるのをよく見かけていた。」

 

 

 「それって、中学の時?」

 

 

 「いや、幼児のころからだ。」

 

 

 「「…………」」

 

 

 一体どうすれば、そんなことになるんだ…?と二人が言葉にならない疑問を提示している頃、一人だけ輪から外れた場所に蹲る将輝の姿があった。

 

 てっきり、魔法試合や裸の付き合い…とかレオの戦闘的な見た目からそう判断していた自分の予想が大きくかけ離れていた事に、ショックを受け、壁に頭を凭れ掛かっている。そして、なぜそれが頭に浮かんだのかと羞恥心に陥っていた。

 

 

 しかし、将輝としては幸いな事に、レオも幹比古も達也の衝撃発言に意識が集中していたため、視界に入る事はなかった。

 

 

 「……ちょっと、聞くけどいい?達也」

 

 

 「何だ、幹比古。」

 

 

 「達也はさ…、昔からそうなの?」

 

 

 「? ”昔から”とは何のことだ?」

 

 

 「あ、いや、その………」

 

 

 幹比古の問いかけに訝しく思った達也は、思わず睨んでしまう。幹比古はそれに気圧されて、聞きたい事を聞けずに固まる。しかし幹比古には、味方がいた。…というより、達也の一睨みだけで怖気付く事はないもう一人の友人が、今度はスパッと切りこむ。

 

 

 「幹比古しっかりしろよ。 達也に聞きたかったのは、昔から今みたいな性格や態度だったのかって事だろ?」

 

 

 「う、うん、そう!! そういう事!」

 

 

 「なるほど、そういう事か。そうだな…、物心ついた頃からそうだったかもしれないな。それがどうした?」

 

 

 「「納得!」」

 

 

 「は?」

 

 

 レオと幹比古が同時に問題が払拭し、すっきりしたという顔でうんうんうなずく。

 勝手に二人で納得してしまったので、達也は謎が残る。達也は自分の事には鈍感すぎるため、他人に言われなければわからないのだ。

 でも、二人が言うつもりもないのなら、気になるが、白状させて聞きたいと思うかと言われると、そこまでないと即答するだろう。

 達也もそう判断し、気にしない事にした。いまは、それよりも遊びに来たのだから。

 

 

 一方で、レオと幹比古は達也に背を向けて、何やらひそひそと話す。

 

 

 「やっぱりだな。達也が今みたいな性格なら、納得だぜ…!」

 

 

 「そうだね、みんな近寄りがたかったんだよ、きっと。

  達也って、年齢は僕たちと同じくせに、見た目や雰囲気が10歳年上………ううん、大人っぽいから。きっと気後れしたんじゃないかな?」

 

 

 「大人っぽいというよりは、もう大人な考えだからな…。見た目に反して大人な感じに振る舞っていたら、確かに誘いづれ~よ。

  『こいつを誘って、本当に大丈夫なのか?』ってな。」

 

 

 「そうそう、次元が違いすぎて、逆に自分達の遊びが達也も気に入るか分からないって思う。」

 

 

 「それに、普通にはしゃいで遊ぶ達也って想像できねぇ~!!」

 

 

 「………かなりの迫力があるね、それ。」

 

 

 こうして二人で達也の元同級生たちに同情を感じながら深く頷いていると…

 

 

 

 「………俺はそんなに、普通の遊びには向かないのか…。」

 

 

 「「達也っ!!」」

 

 

 突如として後ろから話しかけられ、ギョッとし、心臓が跳ねる二人。

 

 

 「お、驚かすなよ!達也!!」

 

 

 「そ、そうだよ!! 心臓に悪いよ…。」

 

 

 「幹比古…、俺はそんなに10歳以上年取っているように見えるのか?」

 

 

 「え?………あ、…………………ごめん、達也。」

 

 

 

 

 

 小声で話していたのに、達也に聞かれていた事に一瞬驚いたが、それ以上に達也が実年齢よりはるかに見た目が年上に見られている事に、地味にショックを受けている事の方が驚いた。

 

 いつも通りに顔にはショックを受けている感じはなく、無表情だが、達也の気迫が薄れている事は嫌でも理解できた。

 

 だからか、幹比古は居心地の悪さと罪悪感に陥り、謝るのだった。

 

 

 

 「わ、悪かったな! 達也!!

  じゃあ、達也もダチとゲームセンター来るのは、初めてなんだろう!?なら、一緒に見て回ろうぜ! 

  よし! 中に入ろうぜ!!」

 

 

 「そ、そうだよ!! 入ろう!!」

 

 

 「それに俺は嬉しいぜ? 達也と初めて遊ぶ奴が俺達だってな!」

 

 

 慰めているのか、喜んでいるのか、とにかく達也をショックから引き離そうとするレオと幹比古の温かさに触れ、達也もこういうのも悪くない…と胸の中で何か温かいものを感じながら、いよいよゲームセンターの中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、そうだったぜ。お~~~~い、一条~~!!

  何やっているんだ~~? 早く来いよ~~!!」

 

 

 いまだに壁に頭をついて、勢いよくそのまま頭を打ちつけようとしていた将輝に今気づいたと言わんばかりに声を掛ける。

 

 

 「あ、ああ! 今行く…!!」

 

 

 将輝はいつの間にかフリーズしていたが、気持ちを一身に入れ替えて、この際だから、ゲームで達也に勝ってやると意気込んで、早歩きで三人と合流するのだった。

 

 

 

 

 しかし、それは将輝に更なる敗北と悔しさを与える事になるとは、本人ももちろん、ギャラリーでさえ思わなかった…。

 

 

 

 

 

 




将輝、今回はのけ者になったな。
…というか、達也の初めての遊戯が今!!?

普通の家庭で育った幸せな子なら、きっと「えええええ~~~~~~~~!!!!」ってなるだろうね。でも、四葉だし。達也だから。


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エピローグ~男だけの遊戯会~第六話 挑戦

さてさて、何から遊ばせるかな…。


 

 レトロなゲームを扱うゲームセンターの中に入ると、達也達と同じくらいの少年少女たちが数々のゲームに夢中になり、はしゃぎまくっていた。

 

 ゲームの音量もかなり響き、混ざり合っている。

 

 そのためか、入って早々、幹比古の顔色が青白くなっていく。

 

 

 「大丈夫か?幹比古。」

 

 

 「……うん、大丈夫…。少し眩暈がしただけだから。しばらくすると慣れてくるよ…。」

 

 

 「幹比古って、気に当たりやすいんだな…。」

 

 

 「幹比古の家は”精霊魔法”を使った古式魔法があるからな。その特性が敏感なためにこういう所は辛いんだろう。………幹比古。」

 

 

 何気ない将輝の独り言に達也がどこに行っていたのか、戻ってきて幹比古にミネラルウォーターを差し出しながら、将輝に大雑把な説明をする。

 

 

 「あ、有難う、達也。」

 

 

 「ああ。」

 

 

 「それにしても、かなり昔のゲームもあるんだな。これなら……」

 

 

 ゲームセンターに入った事もなく、遊んだことがないゲームが多様にあれば、達也にも勝てる確率がある!と心の中で闘争心を募らせる。

 そこに受付カウンターで全員分のユーザー登録していたレオが戻ってきて、ICチップを搭載した時計を一人ずつ渡してきた。

 

 時計と言っても、実物ではなく、この館内でのみ使用できるものだ。まず最初にユーザー登録する。そして登録完了すると、館内のどのゲームも好き放題遊べるようになる。思う存分遊べば遊ぶほど遊戯ポイントが増えていき、ポイントで景品がゲットできるシステムもある。

 また、各ゲームことに設けられたランキングで一位になったり、ハイスコアを叩き上げたりすると、豪華賞品をもらえる!…という少年少女にとって、夢のようなサービスが充実している。

 ただし、一定期間の間に来館しなかったり、ランキング外になると、その時に得たポイントがなくなるというデメリットもある。

 

 

 

 それをレオから時計型のユーザーデータアップを受け取りながら、説明を受ける達也、幹比古、将輝。

 

 幹比古と将輝は渡されたアイテムを手首に付けながら感心する。

 その一方で、達也は…

 

 

 (まるでカジノのようだ…。)

 

 

 と子供が集まる場所で、大人な視点を考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………これはな~」

 

 

 「…………なんというか」

 

 

 レオと幹比古が引き気味で見つめる先には、目を見開き、肩で息をし、力尽きそうになっている将輝とその将輝を少し離れた正面で呆れているのを隠そうとしない目つきをした達也がいた。

 

 

 「……一条、あとワンポイント残っているぞ? やらないのか?」

 

 

 「…くっ! お、俺がいつ諦めるなんて言った!? 俺はどうやってお前を負かしてやろうかと考えていただけだ。」

 

 

 「そうか、なら早くしろ。」

 

 

 そう言って、達也は構える。視線も鋭くなって。

 

 

 「ふん、お前に指図される謂れはない!! 行くぞ! はああ~~~~!!」

 

 

 それに負けじと真剣勝負する将輝の攻撃は空しく散り、達也の完全な圧勝に終わった。

 

 

 それを傍から見学していたレオと幹比古は乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 …というのも、達也と将輝が勝負していたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エアホッケー…。

 

 

 ゲームセンターに行けば必ずあるのではないかという頻度で出現するゲームだ。しかし、達也だけでなく将輝もこのエアホッケーをした事がないというので、見本としてレオと幹比古が白熱した勝負を繰り広げていた。レオの力ある撃ち込みで点を重ねるのと対照的に、幹比古はフィールドを利用して複雑な跳ね返りを駆使していき、結果は9-8という両者ともに大健闘の末のレオの勝ちに終わった。

 

 二人の闘いを見て、火がついた将輝が達也に勝負を挑む。

 

 お互い、初のエアホッケーなら勝てると意気込んで…。

 

 

 達也VS将輝で始まったエアホッケー対決だったが、実際は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果は9-1という、レオと幹比古との対決とはかなりかけ離れた勝負になった。

 

 

 敗北した将輝は、信じられないという面持ちとまた負けたという強い敗北感に陥った。

 最初に先取点を取った1点だけで、後は達也の有り得ないテクニックで翻弄され、撃沈されたからだ。

 

 幹比古よりも高速に跳ね返らせ、そこから達也の素早い手捌きで打ちこまれ点を入れられる。

 

 

 (まるで分身するかのような反復横飛びから高速移動で突っ込んできたみたいじゃないかっ!!)

 

 

 

 …と内心で人間の動きのように例えた将輝も納得する。

 

 

 

 他にも、ゴール前を塞いだと思ったら、達也があらかじめ回転をかけていたために予想していたコースから外れてそのまま入ったり、滑らせるのではなく、転がしてみせたり、今度こそ防いだと思った瞬間、フィールドの角に当たって、宙を舞い、そのまま入るという離れ業が披露され、達也の圧勝となったのだ。

 

 

 

 それを見ていたレオと幹比古は、将輝に同情するが、初エアホッケーだったはずの達也が自分達の対決より勝った展開をした事に呆気にとられる。

 

 

 「本当に達也の頭の中は、ビックリ箱だね。 何を出してくるか分からない。」

 

 

 「だけどよ、達也なら何でもありって思えて、しっくり来るんだよな~。」

 

 

 「そうだね、達也らしいプレイだった。」

 

 

 「よし、達也にあの技、教えてもらおう!」

 

 

 …と九校戦で魅了されたような興奮を徐々に露わにするレオと幹比古だった。

 

 

 そして、それを同じく九校戦での初めての敗北を思い出し、打ちひしがれる将輝が声を押しだすようにして、達也に文句を言う。

 

 

 「……これはルール違反じゃないのか?」

 

 

 「ルールは自陣内でパックを打つ事、マレット以外での素手などでパックに触れない事だったと思うが?

  そのルールの範囲内で、俺はお前に勝った。文句を言われる筋合いはないぞ?」

 

 

 「………」

 

 

 (そうだ、確かにそうだ。

 

 確かにルール通りに奴は勝った。そして、九校戦と同じやり方であいつはルールの穴を突き、勝ちに来た。

 くそ! 知っていたはずなのに、単なるゲームと思っていた面もあって、見落としていた!)

 

 

 

 悔しくて、拳を握りしめる将輝は、次こそは絶対に達也の術?に嵌らずに、特訓してきた奇策を使われた際の対応力を見せつける事を誓った。

 

 

 しかし、その誓いは、達也達に挑戦するたびに、薄れていく結果へとつながっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんでも読み込み速くて、達也は凄いな。

しかも勝ち方が…。心理戦もついてくる上級者とも戦えるよ。将輝はもう弄られキャラが確立…かな~?


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エピローグ~男だけの遊戯会~第七話 超一級

達也の快進撃が止まらない!!


 

 

 エアホッケーでの屈辱を晴らすために、将輝も本腰を入れてきた。

 

 レオとボクシングパンチ勝負をし、将輝が相手の急所に全て狙いを定め、グリーンヒットさせていく。反対にレオは持ち味の重みが入ったパンチが炸裂し、二人ともなかなかいい勝負をする。しかし、結果は将輝が勝った。急所を確実に決めていたため、高得点を連発していたのが勝因だ。

 

 

 「くそ~!! 負けてしまったぜ~!! 一条もやるな!俺、これは結構得意分野だったんだけどな~。」

 

 

 「いや、西城もなかなか魅せてくれた。あのパンチはかなりの威力を感じたからな。あれで急所を狙われていたら、こっちが危うく持っていかれる所だった。」

 

 

 「そうか? まぁ、一条がそう言うならそうなんだろうな。よし、次はぜって~負けね!!」

 

 

 お互いに握手し、健闘を称える。

 

 

 その後は、幹比古ともゲームで勝負し、反射神経ゲームで競った。色鮮やかに流れてくる光の玉をタイミングよく指定されたボタンを押していくゲームだ。日頃から精霊魔法の訓練を積んでいる幹比古は、去年の九校戦の時から練習していた”感覚同調”を使いこなせるようになり、精霊と”同調”する事で、精霊の動きや感覚だけでなく、自らの反射神経も向上していた。

 だからか、流れてくる光の玉を取りこぼす事はほとんどなく、高得点をたたき出していた。しかし、将輝も負けていない。幹比古と同じタイミングで次々と高得点をたたき出す。

 二人の白熱した勝負の行方にレオは歓声をあげて応援している。そして、野次馬も集まり、盛り上がっていた。いつの間にか反射神経ゲームに記録された最高スコアを更新していた二人に興味が向いたからかもしれない。

 幹比古と将輝の周りに人が集まって、二人を応援する声が上がる中、一人だけ冷静に二人の行く末を観察する少年がいた。

 ……達也だ。

 

 

 (二人ともいい勝負をするな。今の所、互角と言ってもいいかもしれない。だが、集中力が切れた方がこの勝負…、負けるな。そしておそらくそれは…… )

 

 

 冷静に分析し、勝敗を予測した達也は、敗者となるであろう少年に向かって、苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~…、負けてしまった…。さすがだよ、僕もまだまだ鍛え方が足りないらしい。」

 

 

 そう言って、盛大にため息を吐いて、落ち込むのは、先程の反射神経ゲームで負けた幹比古だった。

 近くの館内売店で飲み物を買って、休憩する4人は、度々視線を向けられながらも、先程の勝負について反省会?を行っていた。

 

 

 「そんな事はない。西城との勝負もそうだったが、吉田も素晴らしい反射神経だった。もしかしたら俺の方が負けていたかもしれない。」

 

 

 「ははは、でも負けたのは事実だよ。やっぱり一条君は凄いの一言に尽きる。」

 

 

 乾いた笑いをしながら、自分の負けを認めつつも、悔しそうにしている表情を隠せていない幹比古に、将輝はどう答えていいのか分からなかった。自分が言った事は本当だし、どういう訳か、後もう少しで終了という所で幹比古がミスを連発しなかったら、僅差で負けていたのではないかと思ったほどだ。

 将輝は一高に転校(説明もめんどいので将輝は転校だと思う事にした)してから間もない初めての実習の事を思い出していた。

 

 転校して二日目にして、最初の魔法実習を受ける事になった。課題は「魔法の終了条件定義」。あれは苦汁を嘗めさせられた。深雪とペアになれたのはよかったが、深雪にアシストしてもらわなければ合格できなかったのは、かなりへこんだ。さらに追い打ちをかけるようにして、ほのかだけでなく、あの恋敵である達也が完璧に合格したというではないか!

 

 それが一番悔しくてあれから任務の間を使って、別荘でひたすら課題の克服に励んだ。その成果としてかは分からないが、時間の感覚を秒刻みで身体に刻み付ける事が出来た。魔法を使用した課題とは少し主旨は違うが、確かにその課題の下積みがあったからこそこの反射神経ゲームにもすぐに対応力を見出したのではないかと、ここでそれが改めて証明できて胸が躍った。

 あの時は、一高の課題は三高の実戦的な実習と比べて、小手先の器用さを競うだけのものだと思っていたが、今はそんな甘い考えを捨てた。

 これで俺も一歩、あの人に近づけたと自負できるんではないかとさえ思える。

 

 こうして将輝は己の中で確かな手応えを感じるのだった。

 

 

 

 「幹比古、そこまで落ち込む必要は無いと思うぞ? あれは、なかなかの勝負だった。人見知りが災いしなければ、僅差で一条に勝っていたかもしれない。」

 

 

 「え?」   「は?」

 

 

 幹比古と将輝が同時に達也に振り向く。

 

 

 「二人ともそれぞれの持ち味を出して、望んでいたが、終盤で幹比古、お前は野次馬の歓声で周りの雰囲気に圧倒され、集中力が切れた事でミスを連発したからな。

  野次馬が目に入らなければ、それこそどうなっていたかはわからない。」

 

 

 「要は、幹比古の人見知りが出てしまったって事だろ? 相変わらずそこらへんは幹比古も変わらないな!」

 

 

 達也の補足説明にレオがおかしそうに笑う。それを見て、幹比古が顔を真っ赤にして、立ち上がる。

 

 

 「た、確かに僕は人見知りだけど、あれは、誰だって驚くはずだ!!

  あんなに……、注目されていたなんて思わなかったんだ…。」

 

 

 「何をいまさら。それこそ幹比古は九校戦でさっきの野次馬以上の観客の視線を浴びてるじゃねぇ~か!」

 

 

 「だ、だけど…」

 

 

 「レオ、そこまでにしておけ。 少年は皆、シャイなんだ。」

 

 

 「…恥ずかしがっているのが普通なら、あの状況を面白がっているレオや当たり前だと弁えている達也は普通じゃないよ。」

 

 

 「ん?何か言ったか?幹比古。」

 

 

 「ううん、なんでもない!!」

 

 

 二人に対して文句を言ったが、聞こえていなかった事が幸いし、幹比古は持っていた飲み物を一気に飲み干し、次は何をやろうかと話し合っている達也とレオに駆け寄っていく。

 その姿を眺めていた将輝は、唯一幹比古の文句を聞いていて、呆然としていた。

 

 

 (そうか…。普通の少年はシャイなんだな…。)

 

 

 …とあの時の雰囲気を寧ろ注目されているのは当然と考えていた将輝は、自分が普通ではないのかという考えが脳裏に浮かび、溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、様々なゲームに挑戦した。

 

 

 しかし、自分達よりはるかに圧倒したスコアを連発する達也の超一級な離れ業にレオだけでなく、幹比古も、将輝も引いていた。

 

 だって、カーチェイスも、ガンアクションゲームも、スロットも、フリースローも、音楽ゲームも、クレーンゲームも、あらゆるゲームに対して全てハイスコアをたたき出したんだから!

 

 カーチェイスは4人対戦ができる物でやった結果、ぶっちきりでゴールするし、スロットは回して見せる度に最低でも2つはそろって、メダルを大量にゲットするし、フリースローは見事な放物線を描いてゴールに入っていく。最難関コースだとゴールが動き出すがそれを物ともしないシュートを遣るのだ! 終いには片手で軽く投げただけでブザービートを決めるほどに。音楽ゲームも流れてくる音符を指定の位置で押していくが、それを見事な手さばきでパーフェクトを記録するし、クレーンゲームではやる度に必ず商品をゲットする始末。

 一番驚いたのは、ガンアクションゲームで、達也は本来は1Pと2Pという形で二人で目の前のゾンビを倒していくというシナリオのゲームで、いつも通りの2丁拳銃スタイルで挑んだ。それだけでも凄いのに、達也が狙いを定め、見事にゾンビを倒した箇所は全て脳天だった。そこが一番のゾンビの弱点であり、高得点を狙える事を知っていたかはわからないが、そのお蔭でまたしてもパーフェクトをたたき出す。しかも、両方とも同じハイスコアで…。

 

 

 レオたちもこの達也の超一級と思わせる展開に引いていたが、レオたちよりもさらに引き、ムンクの叫びの如く、嘆いていたのはこのゲームセンターの従業員並びにセンター長だ。

 まさかの達也のハイスコア連続において、賞品が次々に持っていかれる様に、初めは拍手で迎えていたが、今では、「もうやめてくれ~~!!」という声が聞こえんばかりの落ち込み様だ。

 

 そんな従業員達の憂いを作っている当の本人の達也は、疲れた感じはあるものの、悪気は全く感じられない。寧ろ、これくらいは普通だろ?という顔をするばかりだ。

 

 

 「…なぁ~、達也。そろそろ加減してくれねぇ~か?」

 

 

 「?何を加減すればいいんだ?」

 

 

 「それは、その…。 ほら! 少しミスしてみるとか!」

 

 

 「?なぜミスする必要があるんだ? やるからにはちゃんと応えてやるのが当然だと思うが?」

 

 

 「それは人間相手にしてあげて! これは、ゲームだから! 達也が本気になると、誰も勝ち目が見れないんだよ!」

 

 

 「幹比古…、ゲームだからと言って、手加減すると後で痛い目に遭うんじゃないか?」

 

 

 「……よくわかったよ。達也……、少し休憩していてくれないかな!」

 

 

 「その方がいいな。」

 

 

 「そうだな、俺達のためにここは見学していてくれ、達也!」

 

 

 レオと幹比古だけでなく、将輝までしばらくゲームをするなと押し切ってくる様に未だ不快感があるものの、確かに疲労感があったため、3人の言葉を呑む事にした。

 

 

 (何かまずい事でもしたのか? だが、ゲームというものは全力で遊ぶためのものだと聞いていた事だし、そうしたまでなんだが…。

 

  まぁ、あいつらの勝負でも見ながら少し休憩した後で、あれをやってみるか…。)

 

 

 …と安堵のため息を吐く3人の後ろで、達也は次なる獲物を見つめて、休憩スペースの椅子に座りこんだ。

 

 

 その視線の先には………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔からの愛されゲーム…

 

 

 

 

 ”もぐらたたき”があった………。

 

 

 

 

 




達也のもぐらたたきはスゴイに尽きるだろうな!


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エピローグ~男だけの遊戯会~第八話 逃げるが勝ち

何か波乱が~~!!


 

 

 

 

 「ハァ…、ハァ…、ハァ…、…ったく、いつまで追いかけてくるんだ!?あいつらは…!!」

 

 

 「な、何で僕たちがこんな目に遭っているんだろうね!?」

 

 

 「それはもちろん、あれだろ~~~!!」

 

 

 「………悪い、俺のせいかもしれない。」

 

 

 「「「その通り(だ/だよ/だぜ)!!」」」

 

 

 見事なシンクロをしたのは、将輝、幹比古、レオ。

 

 三人のツッコミ(かなり本格的に。そして若干の怒りが入っていた)を受けたのは、達也。

 

 今四人は、ゲームセンター内を走り回っていた。

 

 

 その状況で、三人の非難を浴びた達也は、痛くもない顔をする。それどころか、一緒に走っている将輝と幹比古は既に息が上がり始めてきているのに、更に涼しそうな顔で横を走っている。…レオは山岳部の部活動に含まれる「林間走十キロ」をしてきているため、達也と同じく息は上がっていない。ノリで達也に文句は言ったものの、内心はこの状況に面白がっている。ゲーム機の間を横切ったり、飛び越えながら走る達也とレオ。日頃からの鍛錬や訓練で慣れているため、動きはかなりいい。

 

 見学者はその動きの良さに感激していた。

 

 

 

 …しかし、一体なぜ達也たちはゲームセンター内を走り回っているのか?

 

 

 それは、少し時間を遡ってみれば、分かる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また達也がハイスコア出したぜ…。」

 

 

 「ここまで来たら、神ってるなんてレベルじゃないよね…。」

 

 

 「その言葉、一昔前の言葉だぞ? …でもそう言いたいのも分かる。あいつは、一体四葉でどんな訓練を受けたんだ?」

 

 

 レオ、幹比古、将輝がまたまたハイスコアを出した達也の成績を見て、それぞれ感想を述べる。レオと幹比古は呆れ感満載だが、将輝は闘争心が折れかかっていた。どんな強者もここまで差を見せつけられれば、挫折するのだが、将輝は何とか持ちこたえていた。それは、「ここで敗北を認めれば、自分が達也より劣っていると認める事だ。そうなれば、司波さんへの恋心も諦めると言っているようなもの。俺は司波さんに…、俺の女神にまだアピールしきれていない…!これしきの事で挫けてはいけない!!この屈辱は次回の九校戦で必ず…!!」と早くも九校戦に目を向け、意義込んでいたからだ。深雪への恋煩い(横恋慕とも言える)が強いから…かもしれないが。

 

 休憩も終え、モグラ叩きした達也は、それはもう手が何本あるんだ!?というくらい、手の分身が見えるような素早い速さで、出てくるモグラを叩きまくる。終盤になると、徐々に早くなり、負けじとモグラが同時に出てきたりする。それでも達也の方が素早さでも一枚も二枚も上手で、ゲーム終了した時はパーフェクトを叩き出していた。

 

 これを見れば、三人の反応になっても不思議ではない。

 

 

 しかし、達也のゲームの腕前は実に洗練しており、一切無駄がない動きでクリアしていったため、ゲームセンターに遊びに来た同じ客からは歓声が上がる。

 達也はこの歓声に照れくさくなったのか、ハンマーを戻すと、すぐにレオたちの方へと帰ってきて、レオと幹比古の肩を掴んで、この場の離脱を図った。

 幹比古も人が集まってきた客に囲まれる状況は嫌だったので、達也の誘導に大人しく従う。

 

 

 「お、おい!? 達也! まだ俺はやりつくしていないぜ!」

 

 

 「落ち着け、レオ。昼食を食べに行くだけだ。レオがしたいゲームっていうのも分かるが、それなら余計体力は改善しておかないといけないと思うが?」

 

 

 達也が歩きながら見つめた先は、VRAG(バーチャル・リアリティ・アクション・ゲーム)。ゲーム世界を専用のマシンで演出し、体感させるアクションゲームだ。実際に動くため、ボクシングジムより練習になると、購入する上級家庭がいたりするほど人気のゲームだ。まさにレオにうってつけのものだ。しかし、ゲームに夢中になっていたため、気付けば昼を通り越して、間食でもするかという時間になっていた。だが、夕食の時間まではまだゆとりがある。今の内に昼食を取っておいた方がいいと判断した結果だった。

 

 

 「お…、そうか。俺としたことが、すっかり忘れていたぜ。」

 

 

 ぐぅ~~~…

 

 

 「「「……………」」」

 

 

 

 レオもこれには納得し、寧ろ達也に言われるまで自分達が昼食を食べていなかった事を忘れていたため、気付いた瞬間にお腹が鳴ってしまった。

 

 

 「は、ははははは。悪い…。思い出したら、鳴ってしまった…。」

 

 

 「わははははははは。西城は面白いな!! いいぜ、俺も何か食べたかったところだ。」

 

 

 「レオらしいというか、なんというか…。でも一条君の言うとおり、僕もお腹すいたし、ここらで一食しよう。」

 

 

 「なら、フードコートエリアに行くか。こっちだ。」

 

 

 四人の意識が統一したため、ゲームセンター内に設置されているフードコートに向かうため、達也が率先して誘導する。

 

 

 「お、おい?達也。 達也はここに来るのは初めてだろ? 場所知っているのかよ?」

 

 

 「問題はない。ここに入った時にこの建物の地図やゲーム配置は、案内掲示板ですべて覚えた。」

 

 

 「…相変わらずの記憶力だね。」

 

 

 「けど、あんなに回っているのに、俺達がどこにいるか分かっているのか?司波。」

 

 

 「各フロアごとにゲームの特色を決めているからな。今は……ここだな。ここから真っ直ぐに進んで、エスカレーターで二階上がって、右に曲ればいい。」

 

 

 歩きながら説明していた達也は、みんなを各フロアに設置されている案内掲示板まで連れてきて、指で現在地を示しながら、最短ルートを示す。

 

 

 「さすがだな~~!! これで達也がいれば、山で遭難してもすぐに下山できそうだぜ!」

 

 

 「レオ、いきなりスケールが大きくなったよ。でも、言いたい事は分かるよ。」

 

 

 「くっ…、司波にまた更に負けた気がするのはなぜだ…?」

 

 

 それぞれ抱える気持ちは違っているが、達也に尊敬と嫉妬を向けるのであった。達也は、首を傾げていたが。

 

 まぁ、とにかくフードコートで席を見つけ、全員なぜかレオの注文でステーキ定食を食べる事になった。レオ曰く、「同じ飯を一緒に食べれば、絆が深まるだろ!?」らしい。レオの明るい笑顔で言われ、達也も将輝も断るつもりもなく、受け入れた。元々みんな、年頃の少年であり、食べ盛りだ。ステーキ定食くらい余裕で食べられる。しかも空腹だ。レオの意見に口を挟むなんて真似はしなかった。ただし、一人だけ浮かない顔をしている。

 

 幹比古だ。 

 

 家が古式魔法の継承しゃだからか、幹比古も和食は好きだ。しかし、どちらかというと少食の方に入る食べっぷりだ。目の前に現れた肉厚がある手のひらサイズのステーキを見て、失敗したと思った。

 

 

 「幹比古は食べないのか? 美味しいぞ?」

 

 

 「確かに美味しいが、幹比古なりの食べ方ってものがあるんだ。そう急かさなくてもいいんじゃないか?」

 

 

 「急かしてはいねぇ~ぞ?でもよ、さっきからナイフが動いていないからさ。」

 

 

 「もしかして、具合が悪いのか?吉田。それならそうと言ってくれれば。別の物を用意してやる。」

 

 

 「は、良いよ! 僕、これが食べたかったんだ! ただ、このステーキ、今まで見てきたステーキより肉厚あって凄いな~って思っていただけだから。ありがたく食べるよ!」

 

 

 そう言って、幹比古はとうとうステーキにナイフを入れこみ、食べ始めた。ここで、引いたら申し訳ないという気持ちと男の意地?が幹比古を突き動かした。

 

 その結果、言うまでもなく幹比古は全て完食した後、しばらくは席から動く事も出来なかった。

 

 

 

 そしてこの今までの流れが凶と出たのか、達也たちにとってとんでもない物に巻き込まれる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幹比古の食い覚まし?の間に達也とレオ、将輝はこれまでのゲームの話をし(主に達也にゲームの攻略方法を伝授してもらったり、改善点を教えてもらったりしていた)、本格的に全ゲームのクリアを狙いに行く気で話が盛り上がっていた。そんな達也たちの元に嫌悪感や闘争心が丸出しの人達が次々と近づいてきた。

 

 

 「……何か用か?」

 

 

 将輝が彼らの気合の入った態度と視線に堂々と振る舞う。戦闘魔法を重視した三高に通っているからか、闘争心溢れる人には臆する姿勢がまったくない。

 しかし、相手が友好的ではないのは態度を見れば一目瞭然。将輝は初対面だが、普段通りの口調で問いかけた。

 

 

 「…お前たちがスコアラーだよな?」

 

 

 「何のスコアラーだ?」

 

 

 相手の言いたい事は分かっていたが、何を望みなのか、相手にしっかり言わせるつもりで更に問いかける。

 達也は、彼らが先程から自分達を敵意丸出しで見てきていたのは知っていたが、なぜ敵愾心を込めた視線を向けてくるのか分からない。ここは、将輝に任せておこうと傍観者を決め込む。

 

 

 「…お前達がプレイした全てのゲームの事だ!! お前達、俺らと勝負しろ!!」

 

 

 達也たちに喧嘩を売りに来た人たちの代表なのか、少し猫背の中年男性が指を指してきて、勝負を挑んできた。その代表の言葉を後押しするように後ろから「勝負しろ!!」と連呼してくる。

 

 

 「何で俺達があんたらと勝負するんだ? 俺達はあんた達の事は知らない。それに今は話の取り込み中なんだ。勝負したいなら、他の人としてくれないか?」

 

 

 将輝の否を告げる言葉に勝負を挑んできた集団は、苛立つ。

 

 

 「俺達は、お前たちの所為でゲームランキングのトップから外されたんだ!! ここは、ゲーマーとして譲れない俺達の誇りだった!! それを、たった一日で全てハイスコアで陥れてくれたな!!?

  ここでお前達を叩き潰してやるっ!! さぁ!! 勝負しろっ!!」

 

 

 「そうだ、そうだ!!」

 

 

 「お前たちと決着付けるために、はるばる飛行機に乗ってやってきたんだ!!」

 

 

 「俺なんて、船だぞ!! 」

 

 

 「友人、家族、同僚に自慢できる唯一だったのに~~!! お前たちの所為で俺は~~!!」

 

 

 集団が一気に恨み言を言いまくってくる。

 達也たちは、彼らの執念に似た闘争心にどうすればいいか困った。

 

 

 「出始めに、俺達に屈辱を味わらせた”タツヤ”ってプレイヤー…。俺達と勝負だ!!」

 

 

 代表が大きな声で挑戦状をたたき込んできた。

 

 彼らの登場で、幹比古は何とか復活し、四人で顔を近づけて、話し合う。

 

 

 「どうするんだ? あいつらの闘争心は軽く逝っている。断るもんなら何をするか分からないぞ?」

 

 

 「だけどよ~、俺は早くVRAGがしたいんだ! あいつら全員相手してたら、俺達の楽しみがなくなっちまうぜ!?」

 

 

 「そうだな、軽く五十人はいるからな。まだまだ増えるだろうな…。」

 

 

 「五十人!!? そんなに!? 達也、よく数えられたね。」

 

 

 「勝負を挑んできた声を数えたまでだ。別に大したことはない。」

 

 

 「……それはそれで凄いんだけどな~。ふぅ~、達也には本当にびっくりさせられっぱなしだよ…。」

 

 

 「そうか?」

 

 

 「なら、司波があいつらに付き合ってやればいいんじゃないか? あいつらは司波を指名してきている訳だし。」

 

 

 「断る。彼らの喧嘩を買う必要性も意味もない。彼らの自己満足に付き合う気にはなれない。それに、相手にしていると帰る時間が遅くなる。深雪が待ってくれているからな。」

 

 

 「何を!! う…、羨ましい…。じゃない!! お前は彼らの熱意に応えようとは思わないのか!」

 

 

 「応えようとも思わないな。俺は、厄介事は避けておきたいんだ。」

 

 

 「お前……」

 

 

 「それに怪我をするだけにとどまらないだろうな…。」

 

 

 意味深に口ずさんだ達也の言葉を将輝は正確に理解した。もし、勝負を受けて四葉の事を知られれば、例え一般人でも排除する…。そう言っていると。

 それを理解した事で、将輝はもう何も言わなかった。

 達也が危惧しているのは、彼らではない。達也に勝負を挑む彼らの中に、四葉の情報を得るために潜入してきている者が接近してくる事に警戒していたのだ。

 将輝は考え過ぎだと思いたかったが、彼らを見る達也の鋭い視線を見て、達也の案ずることの方が一理あると思った。確かに四葉は秘密主義を取っているが故に、四葉の事は魔法師ではない者にまで興味を持たれている。気にするなという方が滑稽だ。

 

 そう考えると、達也に全員を相手しろとは言えなくなった。

 

 

 「よし…、ならやる事は決まったな!幹比古、動けるか?」

 

 

 達也と将輝のやり取りを見守っていたレオがそう話を締めくくる。

 

 

 「うん、もう動けるよ。いつでも大丈夫…。」

 

 

 「ほんじゃ、やるか…!!」

 

 

 レオの合図で四人は一気に走りだした。

 

 その素早い走りにゲーマー集団は呆気にとられて見ていたが、代表が一番に我に返り、仲間に追いかけるように叫んで、達也たちを追いかける。

 

 

 「待て~~~!! 俺達と勝負しろ~~!!」

 

 

 「誰か待つか~~!! こういう時は”逃げるが勝ち”だぜ!」

 

 

 「西城がそんな言葉を言うなんてな…。」

 

 

 「おい、一条。レオを甘く見ない方がいい。レオは知識はないが、知力はあるんだ。伊達に一高生徒をしている訳じゃない。」

 

 

 「…一応、褒め言葉として受け取っておくわ。」

 

 

 「褒めてるんだが…?」

 

 

 

 賑やかに話を弾ませながら、走り回り、ゲーマー集団から逃げる達也たちだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……以上が、達也たちがゲームセンター内を走り回っている顛末である。

 

 

 

 




ゲーマーは甘く見ない方がいいよ。
達也でも対応に困るほどの人達だからね。あ、殆ど将輝に任せていたか…。

いよいよ次回でエピローグは終わるよ~!! その次からは個別にストーリーを持っていく…。手筈になってます~~!!


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エピローグ~男だけの遊戯会~第九話 立ち入り禁止

達也たちを捕まえる事が出来るかな~!!
……でもこれって、”鬼ごっこ”だよね?もうこれで勝負すればいいんじゃ?


 ゲーマー集団に因縁をつけられ、ゲームセンター内を逃げ惑う達也たちは、この終わりそうもない状況にさすがに飽き飽きしてきた。

 というのも………

 

 

 「なぁ…、達也?」

 

 

 「何だ?レオ。」

 

 

 「これさ、いつまで続くんだろうな?」

 

 

 「……俺に聞くな。あいつらに聞いてみてくれないか。」

 

 

 達也が走りながら、親指を後ろに指す。軽く死んだ目を後ろへと向けるレオの目はゲーマー集団の物凄く必死に走る姿が広がった。

 

 

 「いやいや! あれに何で聞けばいいんだよ!? 『いつまで追いかけてくる気だ!』って言えねぇ~!!」

 

 

 「だがこのままだと一向に終わらないぞ?」

 

 

 「だからって、あれが大人しく話を聞くような感じじゃないのは分かるだろ!?」

 

 

 げっそりとした顔で後ろを指差しながら、大声で達也に抗議するレオに達也も苦笑いするしかなかった。達也もレオの言いたい事が分かる。達也たちを追いかけてきているゲーマー集団は、元々ゲームに情熱を注ぐ生活をしているためか、インドア派が多い。日頃から鍛錬や訓練で鍛えている達也たちとは違って、生活する上で健康的な身体を作る程度しか運動していない彼らでは達也たちを捕まえるどころか、追いつく事も出来ない。もう彼らは虫の息状態…。既に体力が削がれ、追いかけるというよりは悲鳴を上げる足を何とか一歩踏み出すので精いっぱいという足取りを見せる。息も上がり、走りながら雄叫びを上げていたため、声も掠れている。顔も今にも死にそうにげっそりして青ざめ、苦しくて涙を流している者までいる。そしてそんな状態なのに、誰ひとり諦めようとしない、ひたすら「勝負しろ~~!!」という彼らに追いかけられて、幹比古はもちろん、猛獣とかも平気そうなレオや戦闘経験のある将輝でさえ、彼らの勢いと執念を見せる言動に背筋が凍るような戦闘での恐怖とは違った恐怖を感じていた。

 

 

 

 (((まるで、リアルなゾンビを目の当たりにして、追いかけられているみたいだ…!!)))

 

 

 だから、レオたちはゲーマー集団を見て、同じことを考えた。達也もレオたちの心を読んだ訳ではないが、まさしくこの表現がぴったり合うな…と追い掛けられる前にしたゲームの一つの展開を思い出し、無意識に頷くのだった。

 

 ゾンビ化したゲーマー集団から逃げ惑い、さすがに疲れが見えてきた達也たち。しかし一向に収まるどころか勢いづく彼らから逃れ続けなければいけない。走る速度も初盤の頃と同じで。

 

 

 「はぁ…、はぁ…、はぁ…、な、なんでまだあんなに…、追いかけてくるのかな…!」

 

 

 「……ふぅ、心なしかゾンビが増えている気がしないか?」

 

 

 苦しそうに走り続ける幹比古が息を切らしかけながら文句を言い、将輝は頭の中で考えていたゾンビの事をうっかり漏らしてしまったが、誰もそこに突っ込んだりからかったりしなかった。寧ろ当然の如く受け入れる。

 

 

 「そういえば…、そうだよな~。 元気なゾンビが先導しているみたいけど、後ろの方は走り疲れてよろよろしたゾンビが群れってるぜ…!」

 

 

 「まさか新手のゲーマーが加わったんじゃないのか!?」

 

 

 「まさか!!………と言いたいところだけど、それが答えだと思う…。はぁ…、はぁ…、もう勘弁してほしいよ…。」

 

 

 「幹比古!!しっかりしろ!! ここで今、減速なんてしたらあいつらの餌食になってしまう!!」

 

 

 「だ、だけどあれから休まずに走っているんだよ?たとえ鍛えていたとしてもこれは…、きつい…。」

 

 

 「…確かに吉田の言うとおりだ。ここは一旦、彼らの目から欺ける場所を走りながら探し出し、そこでこの事態を打開するしか俺たちの未来はないっ!!」

 

 

 「なら、あいつらを撒くか!」

 

 

 「………彼らを撒く事はできても、さらに厄介なものに狙われるだけだ。」

 

 

 「おおっ!!?」

 

 

 「うわっ!!」

 

 

 「!!」

 

 

 突然後ろから達也に声をかけられて、驚く三人。

 

 

 「達也! 今は心臓に負担かけるような事はやめてくれよ~!!」

 

 

 「そうだ!!こっちも真剣なんだ! …ん?ところで、司波…。お前はさっきまでここにいなかったか?」

 

 

 いきなり話に割り込んできた達也に尋ねる将輝。そういえば、先ほどからレオたちと話していても、達也の声を聴いていなかったのだ。

 

 

 「いや、少し外れていた。用事があったからな。」

 

 

 「「「何(だって/だと)!!!」」」

 

 

 衝撃の事実にさっきよりも驚く三人。そして走りながら達也を攻め立てる。

 

 

 「俺たちが誰のために必死に走り回っていると思っているんだ!司波!!」

 

 

 「それはないぜ!達也~!!」

 

 

 「…お陰で僕の寿命が…。」

 

 

 「悪かった。実はあいつらが勝負をどうしても申し込もうとする根源を調べるために動いていたんだ。」

 

 

 「なんだって…? いつの間に…。」

 

 

 自分が必死になって走っている間にゲーマー集団の言動の理由を調べていた達也に驚くとともに嫉妬する将輝。そこまで頭が回らなかった自分に一番腹が立ったが。

 しかし、この状況を打開できる鍵かもしれない。自分の感情は後回しにし、達也の話に集中することにした。

 

 

 「理由はこのゲームセンターを出てからだ。ここでは言えない。……レオ。」

 

 

 達也の言葉を聞こうと神経を研ぎ澄ませていた将輝に、あっさりと今はその時ではないと断り、一緒に走るレオに顔を向ける。その顔には申し訳なさそうにしていた。

 

 

 「やりたかっていたゲームはまた今度でいいか? その時は思う存分に遊んでくれていいし、代金はすべて俺が持つ。」

 

 

 「…いいぜ! 別にゲームは逃げねぇ~よ。それに奢ってもらわなくても平気だ!ただし、俺が気が済むまで思う存分付き合ってもらうからな…!!」

 

 

 「ああ…。もちろんだ。」

 

 

 ニヤッと歯を見せ、歓喜に満ちた微笑みを向けるレオに達也も優しい笑顔で返す。

 

 

 

 暖かい友情が垣間見えたところで、達也がゲームセンターからの脱出経路を導き出す。先ほど離れていた時に案内掲示板にも載っていないビルの配置図を見てきた達也は、それから導き出したルートを告げながら、ゾンビ化したゲーマー集団から逃げる。

 

 

 「……次は右だ。そして……この先にある奥の道を進めば外に出る非常階段がある!」

 

 

 「おっしゃ~~!! 」

 

 

 「やっと解放されるんだね…!」

 

 

 「……同じくだ。」

 

 

 三人は最後の踏ん張りだと、スピードを上げる。

 

 

 「あ…、三人とも待てっ!! そっちじゃない!!」

 

 

 三人の後ろを走っていた達也が間違った場所へと走っていく三人に叫んだが、時はすでに遅し。

 

 

 三人はカーテンで仕切られていた奥へと勢いよく突っ込み、達也は仕方ないと、後を追った。

 

 

 

 カーテンを通り抜けると、レオたちが固まって立ち尽くしていた。

 

 

 「……ここは。」

 

 

 「な、な、な、な、な、な、な!!!」

 

 

 「………司波。なんていう所に連れてきたんだ…?」

 

 

 「俺はここに来ようとしたつもりもない。それにそんな趣味もない。お前たちが先走って入っていったんだ。俺は止めたぞ?」

 

 

 呆れ返る達也は、顔を真っ赤にして固まる三人の思考が急激に低下しているのをみて、盛大に溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 達也たちが入り込んでしまったのは、R-18に分類されるエロゲーが完備された大人の領域だったから…。

 

 達也たちは立ち入り禁止の世界に入り込んでしまったのだ!!

 

 

 

 

 「……ぶはっ!!」

 

 

 ガタッ……

 

 

 

 あまりにも衝撃的な空間に早くも一人吐血し、倒れる…。

 

 

 

 

 




今日でエピローグ終わらせようと思ったのに!!

最後まで書き終われなかった! …でも、達也たちが…ね~!!(萌え)この後どう切り抜けるんだろう!?特に幹比古と将輝!!


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エピローグ~男だけの遊戯会~第十話 大脱出

グレーゾーンのあたりで留めておかないと…。


 「おい!!幹比古!!しっかりしろ!!」

 

 

 「う…、視界が…」

 

 

 「死ぬな~~!!」

 

 

 吐血し、倒れた幹比古を抱き起こし、声を掛け続けるレオのやり取りを無表情で見つめる達也。

 

 

 「……まったくこれくらいで動じていてはいざって時には動けないぞ?」

 

 

 「今がまさにその時だと思うが? ……そして一条、まずはお前の顔を見てから言った方がいい。」

 

 

 「何だと、司波! 俺が何か間違った事でも言ったと言いたいのか!?」

 

 

 「言ってはいないが、その顔では説得力も何もないぞ?」

 

 

 「あ、ホントだ。一条、鼻血出てるぜ?」

 

 

 「…………は?」

 

 

 レオからそう言われて、慌てて手を鼻に触れ、その手を見ると、そこには確かに見覚えのある赤い血が着いていた。

 

 

 「やっぱり一条もこういう所は興奮するんだな~!」

 

 

 「何を言うんだ!! それに西城も人の事は言えないはずだろ!? 」

 

 

 「俺も?なんでだ?」

 

 

 「西城も鼻血出しているじゃないか!!」

 

 

 「………一条君の言うとおりだよ、レオ。……鼻血どころか鼻の下伸びてる。」

 

 

 「うわあぁぁっ!!」

 

 

 何とか意識を保っている幹比古が下から覗きこむ形でレオの鼻血を確認する。二人の指摘を受け、レオは慌てて鼻血を拭き取る。

 

 

 「はぁ~…、三人ともそろそろいいか?早く先に進みたいんだが?幸いここが18歳以下は立ち入り禁止になっている場所だから、彼らも別の方へ行ったが、すぐに引き返してくるだろうし、いつまでもここに居座るのは嫌だろ?」

 

 

 「うん…、僕は達也の意見に賛成…。ここは…刺激が…強すぎる…。」

 

 

 「お、俺もいいぜ?」

 

 

 「俺も心に決めた相手がいるからな。こんなところは用はない。さっさとここから出よう。」

 

 

 「お前の告白をなぜ聞かないといけないんだ?」

 

 

 「な!! 俺は別に告白なんかしていない!!」

 

 

 「でもよ~、さっきのはどう言ったってそう聞こえるよな?幹比古?」

 

 

 「そうだね、深雪さんはもう達也と婚約している身なんだから、それを恋敵に向かっているのはちょっと…」

 

 

 「お前達まで…!」

 

 

 「二人とももういい。一条をからかうのは後にしろ。それよりも早くこのゲームセンターから抜け出す方が先だ。こうなったら、この中を通って、奥にある非常口から外に出るしかないな。」

 

 

 「え! ここから出てさっき言っていた道を行かないの?」

 

 

 「さっきの道は、彼らが既に向かって、見張りを何人かつけたようだ。もう使えない。だから、ここは戻らずに先に進むしかない。」

 

 

 「この先って…、まさかだと思うが、このエリアを抜けていくのか?」

 

 

 「他にどこを進むというんだ?入り口に集まりつつある彼らの中を飛び出して、あらぬ誤解を持たれたまま逃げるというのなら別に構わないぞ?」

 

 

 「「「いえ!! このままで結構です!!」」」

 

 

 見事なシンクロを見せたレオたちは達也の後を追って、非常口まで歩く事になった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 「ったく!!あいつら、どこに行ったんだ!!」

 

 

 「こっちに逃げてきたのは確かだ!!」

 

 

 「……という事は、後はここだけだな…。」

 

 

 達也たちを見失ったゲーマー集団はある一角を見つめる。そこは男の楽園とも言える領域のゲームが詰まった区域。相当の覚悟と引き換えにして、ようやく快楽を与えられる聖域だ。ゲーマー集団は息をのみ、互いの顔を見つめ合う。

 

 

 「……なぁ、やっぱりあそこなんじゃないのか?」

 

 

 「しかし、あそこは18禁だぞ?」

 

 

 「何を言っているんだ! たとえそうでも、男ならあそこに入りたいと思うのが普通だろ!なら、可能性はある。大体今時子供でも入っている!!」

 

 

 「……そうだな!! あいつらはあの中にいるに違いない!! あいつらを見つけ出し、恥ずかしい所を目撃してばら撒いてやる!!」

 

 

 「「「「「「「「「「おおおおおお~~~~~~~~~~!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 ……完全に目的が変わったゲーマー集団は、鼻の下を既に伸ばして楽園へと足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ねぇ、達也? まだ?」

 

 

 「まだだな。ゲーム機器が多いし、まばらに置かれているから回り込んだりしないといけない。あと、半分はあるな…。」

 

 

 「そ、そんな…!」

 

 

 「大丈夫か、幹比古?」

 

 

 「大丈夫…とは言えない。だって………」

 

 

 幹比古が顔を赤らめて口籠る。幹比古が言いたい事はみんな理解しているので、聞かないが、確かに幹比古の気持ちも一理あるから、少し歩調を早めて目的の非常口まで向かう。

 

 

 「ほら、幹比古。しっかり捕まっていろよ。」

 

 

 「あ、ありがとう。」

 

 

 幹比古はあまりにも刺激的なので、目を瞑りレオの服を掴んで歩いていた。しかし、これが更に恥ずかしいという事はみんな知らない。目を瞑っている中で、通り過ぎるゲーム機器から女の子の喘ぎ声がもろに聞こえてくるのだ。感覚が聴覚に傾いている状況でこんな目に遭えば、余計妄想してしま……いやいや考えてしまうため、一刻も早く出たいというのが幹比古の本音だった。

 

 そんな幹比古の願いが通じたのか、ゲーム機器の障害物を乗り越え、非常口まであと少しまで来た時だった。レオがあるゲームを見て、奇声を上げたのだ。

 

 

 「あああっ!!!」

 

 

 「うわっ!! 西城!いきなり声をあげないでくれ!」

 

 

 「そうだよ、心臓に悪い…。」

 

 

 「いや、だってこのゲームがこんな場所にあったとは思わなくて、驚いちまってよ~!! すげ~~~な…。」

 

 

 そしてレオが見ているゲームに達也たちも視線を向ける。そのゲームは江戸時代へとタイムスリップし、姫を救うという内容のものだった。一見してみれば問題ないように見えるが、ここがエロゲーの集いし場所であるのは明白。したがって、これも…

 

 

 『どうかわたしを御救いしてくださった殿方には、私を……差し上げます…♥』

 

 

 機械から10代後半くらいの女の子の声が聞こえてきた。

 

 

 「……レオ、何でこんなゲームを知っていたの? 場合によっては、少し考えさせて……」

 

 

 「いやいやいやいや!!! 俺はただ姉さんが買ってきた雑誌の特集にちらって載っていたのを暇つぶしで読んだ事があるだけで、やった事はないからな!!」

 

 

 「その雑誌とは何の雑誌だ? まさか………」

 

 

 「普通の雑誌だ! コンビニで売っている普通の!!」

 

 

 「二人ともそこまでにしろ。レオの事だ。姫を救いだすとかいうストーリーに惹かれたってところだろう。」

 

 

 「そういう達也はここに入ってから特に驚いたり、慌てたりしていないね。」

 

 

 「そう言えばそうだな…。おい司波!お前、まさかこういう行為に慣れて……」

 

 

 「一条、それはないぜ! 達也も本当は動揺しているに……」

 

 

 「?別に女性の裸を見たくらいで動じないだろう? 遥か昔、男も女も裸同然で暮らしていたじゃないか。」

 

 

 「「「………………」」」

 

 

 「どうした?3人とも。」

 

 

 「なぁ~…、達也は女の身体をしょっちゅう見ているのか?」

 

 

 「俺を変態みたいな言い方をするな、レオ。そしてその視線で見るのもだ。…まぁ確かにたまに女性の裸体を見る時があるな。別に気にした事はない。」

 

 

 達也は、こう答えたが、これが更なる誤解を生むのは当たり前で…。

 

 

 「達也……お前にそんな趣味があったなんて。」

 

 

 「お、俺は何も話さないから、安心しろ!」

 

 

 「し、司波さんはこんな趣味を持ったあいつが好きなのか……? そんな……馬鹿な……!」

 

 

 「……お前達、物凄く激しい勘違いしてないか? まあ、どんな勘違いしたかは後で聞かせてもらうとするか。」

 

 

 完全に目が冗談をいってない冷たい視線を向けられ、自分の寿命が縮む思いをするレオと幹比古。将輝は更に精神干渉魔法を使われているのではないかと、自分に意識を向け、相子に乱れがないことを確認できて、安堵した。

 

 

 「訓練で着替えたり、精密検査の際は全裸になる。男女関係なしにだ。羞恥心に囚われているようじゃ、やっていけない職場だからな。」

 

 

 何がとは具体的に明白にしなかったが、”訓練”や”職場”という言葉で、国防軍での話をしているとレオたちは理解した。既に達也が国防軍の特務士官であることは知っている。早とちりしてしまったと達也に謝ったレオたちは、不機嫌なオーラを放つ達也が静まったのを感じて安心する。

 

 

 「分かってくれればそれでいい。ほら、行くぞ。もう彼らがそこまで来ている。」

 

 

 達也の言葉を裏付けるように、後ろからゲーマー集団の声が徐々に大きくなってきているのを耳に入れた。そして、ここから出るために足早に非常口へと歩き出していった。

 

 

 

 

 「やった~~~!!やっと出られたぜ~~!!」

 

 

 「あのまま捕まったらどうなるかと思った…。」

 

 

 「もう疲れた…。」

 

 

 「ここに来るのは、しばらく止めておいた方がいいな。もっと普通のゲームセンターに行くとしよう。」

 

 

 「「賛成だ!!」」

 

 

 「僕はもういいっ!!」

 

 

 

 幹比古が悲痛の叫びをあげる。

 

 

 こうして、無事にゲームセンターから脱出できた達也たちは疲労困ぱいの身体を動かし、この場を離れていくのだった…。

 

 

 

 その後を物珍しそうに宙を漂って追いかける人ならざるものがいた。そのものによって、達也たちがとんでもない事に巻き込まれる事になるとは、この時は知るはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、これは……あっ!! イ、良い~~!!」

 

 

 「き、気持ち良く、ってぇ~~~~!!」

 

 

 「堪らん~~~~!! あ、あ、ああ~~~~~!!」

 

 

 ゲーマー集団はというと、もう本来の目的だけでなく、達也たちの存在も忘れてエロゲーに打ちこみ、今まで味わった事がない快感にみんな溺れていくのだった。

 

 

 




……結局何しに来たんだ!!?ゲーマー集団!!


…まぁ、それはおいといて。次回からは共通ルートで進展させていこう…。ふふふ…。


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共通ルート 騒ぎの真相と黒幕

さてやっと出られた達也たち一行は、学生らしくあそこへ…。


 

 

 

 

 

 

 

 「え~~っとだな…、よし、俺はビッグバーガーのLセット!! ドリンクはコーラで!!」

 

 

 「ボ、僕は紅茶だけでいい…かな。さすがにもうレオみたいに食べられないよ。」

 

 

 「そうだな、俺はハンバーガーセット?というものにしておくか。この後予定があるしな。」

 

 

 「達也は何にするんだ?」

 

 

 「俺は、コーヒーとバーガーだけでいい。……以上か?」

 

 

 「おう、これで全員注文し終えたぜ!」

 

 

 全員の注文を終え、達也がてきぱきと慣れた手つきで会計を払う。もちろん全員分だ。

 

 

 「ありがとよ、達也!」

 

 

 「僕の分もよかったのかな?」

 

 

 「構わないさ。レオも幹比古にもかなり走らせてしまったからな。詫びとして受け取ってくれ。」

 

 

 「そ、そんな…!!詫びだなんて!!」

 

 

 「そうだぜ! 確かにあいつらの目的は達也への挑戦がほとんどだったけどよ!?俺達にも挑んできた奴だっていたし、気にするなよ?」

 

 

 「…なら、遊びに連れ出してくれたお礼という事でならいいだろ?」

 

 

 「……まぁ、それならいいんじゃね~か?」

 

 

 「僕はまだ抵抗あるけどね…。ふぅ~、じゃあ達也、今日は御馳走になるよ。」

 

 

 これ以上は逆に失礼かと思った幹比古は、踏ん切りをつけるために深呼吸する。しかし、注文したものを持って、席に移動する中、将輝だけは悔しそうに達也を睨む。

 達也に驕られた事で、男としてのステータスでも負けている感を見せられたような錯覚を感じた将輝は、この場に深雪がいないとはいえ、あの驕り慣れしている達也の対応にムカついていた。だからか、せっかくのルックスの良さも鋭く睨みを効かせる視線で近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

 

 言い遅れていたが、達也たちは解散する前にと、駅近くのファーストフード店に入り、軽く食べる事にしたのだった。

 

 店の中は、もう夕方に近くなってきたので、利用者が多い。特に若者中心に、だ。そしてその彼らはイケメン揃いの達也たちに注目し、声を掛けようかとひそひそと話す。だが、将輝のお蔭で声を掛けられる事もない。

 さっきまで追いかけられていた身としては、有難いと、達也は心の中で思った。

 

 

 「レオ、よくそんなに食べれるね。まだ夕食も食べてないのに。」

 

 

 「だってよ~?あんだけ走ったら、腹が減るだろ?夕食までは持ちそうにないし、これくらいなら夕食も問題ないぜ!」

 

 

 「レオが羨ましいよ。僕は…、疲れすぎて喉が通らないよ。」

 

 

 「そうか?達也はどう思う?」

 

 

 「俺か?そうだな…、俺も少しは空いているから、レオに一票だな。だけど、限度は弁えておけよ、レオ。」

 

 

 「ほぉ~~!!」

 

 

 「………なぁ、司波。」

 

 

 「なんだ?一条。」

 

 

 和気あいあいと食べていた達也たちに今まで無言を貫いていた将輝が口を開く。

 

 

 「司波は言っていたな?”あいつらが勝負をどうしても申し込もうとする根源を調べるために動いていたんだ”って一時的に俺達から離れていた時、何をしていたか…。そして、その理由はここから出た後だとも…。

  なぜ、あいつらはあんなに必死に追ってきたんだ?」

 

 

 ずっと気になっていた事をついに問いただした将輝の台詞に、バーガーを咥えたままレオも話に耳を傾ける。幹比古も飲んでいた紅茶をトレーに置き、聞く態勢を作る。三人が説明を求めていると理解した達也は、一連の行動の説明を始めるのだった。

 

 

 「俺達に勝負を挑んできた彼らは一言で言えば、利用されていたんだ。俺達のゲームスコアを公開する事で、ゲーマーのプライドを煽って、俺達と勝負するように仕組んだ。」

 

 

 「利用されただって? でもよ、俺達の目から見てもあいつらは純粋に勝負を挑んできていたにしか見えなかったぜ?…厄介で迷惑しかなかったけどな。」

 

 

 「…もしかしたらそこにつけこまれたのかも。」

 

 

 「どういう事だよ?」

 

 

 「なるほど…。あのゲーマー集団は己の出したゲームスコアが頂点に高得点で決して揺らぐことはないと思っていた。そこに俺達が(ほとんど司波だけどな!!)ハイスコアを出した事で、勝負したくなった。そこに目をつけた何者かが、俺達に勝負を挑むように情報を流したってところか。」

 

 

 「仮にそうだとして、あいつらに何の得があるんだ?」

 

 

 「一番はハイスコアを出して、また頂点に咲き戻る事だろう。ただし、それだけで遠路はるばる来ることはない。それならそれで最寄りのゲームセンターでネットを介して勝負を挑めばいいだけだしな。」

 

 

 「「あ!!」」

 

 

 達也の台詞で、あそこのゲーム機器は全てネットに接続されていて、全国のプレイヤーのスコアをリアルタイムで記録してくれることを思い出したレオと幹比古。

 

 

 「行きつけのゲームセンターでもいいのに、わざわざ来た理由。それって…。」

 

 

 「いろいろあると思うが、俺達をカツアゲしようとしていたのかもしれないな。俺達を倒せば、そのゲームで手に入れた懸賞品を奪えるとでも言ったんだろう。ゲーマーたちは本来ならその商品をもらえるのは俺達だったんだからと思い込み、そしてなおかつ直接叩き潰せる機会を与えられると考え、集まったんだ。」

 

 

 「そんな屁理屈が通用してどうするよ!!納得いかねぇ~!!」

 

 

 「だが、同じ野望を持つ者同士が集まれば、力になるのは事実だ。もしあのまま勝負を受けていたとなると、何をされていたかはわからないな…。」

 

 

 「例えば、こっちが勝っていて、最後の勝負中に向こうが『イカサマだ!!』と訴えたとして、観客はどっちを信用すると思う?」

 

 

 「え?そりゃ、今まで勝っていたのは全部インチキだったのかって……。あ!!」

 

 

 「そういう事だ。たとえこっちがイカサマをしていなくて、相手の嘘でも状況をみれば、観客は洗脳心理で嘘を真実だと思ってしまう。しかも取り巻きが更に煽って騒げば、なおさらだ。」

 

 

 「その前に、俺達が逃げ出した事でそうならずに済んだんだけどな。そうか…、だからあいつらは必死に俺達を追いかけていたのか…。」

 

 

 「それもあるが、雇われたって事もある。」

 

 

 「……そう言えば、あいつらは利用されたと言っていたな、司波。誰に?」

 

 

 「一条、もうここまで来たら分かるとは思うが?ゲーマーを集めるにしても、俺達のスコアだけでなく、情報までリークしているんだ。」

 

 

 達也の呆れた顔を向けられ、一瞬怒りが込み上げたが、ここで達也にぶつけても自分が未熟者だと晒す事に繋がると頭が働いたおかげで、保つ事が出来た。

 そして、これまで情報を整理し、真実に辿り着く。

 

 

 「何で今まで気づかなかったんだ…。

  そうだ、例え俺達のスコアがネットでつながっている影響で見れたとしても、俺達の情報まで入る訳がないんだ! あいつらが俺達へ勝負を挑んだ時、他にもたくさんフードコートにいたのに、真っ先に俺達に近づいて話しかけてきた。ネット配信されるのは、それぞれのゲームのスコアとそのスコアを出したプレイヤーの名前のみ。プレイヤーの顔は一切分からないはずなのに!!迷いなく、俺達に話しかけてきた!」

 

 

 「そう言われればそうだ! 何で知っていたんだ?」

 

 

 「……俺達の情報を流した奴が黒幕。俺達はあのゲームセンターには初めて行ったんだ。」

 

 

 「俺は何回か、行った事あるけどな。確かに、俺ならともかく初の達也や幹比古、一条の事まで知るのは妙だよな?」

 

 

 「そう…、初めて訪れた俺達の情報を見る事ができ、なおかつ顔も見る事が出来る。そんな事が出来るのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………あのゲームセンターで働く従業員しかできない。」

 

 

 

 将輝は拳を握りしめ、怒りが滲んだ表情を見せる。それはレオも幹比古も同様で、達也も不快感を覚える。

 

 

 

 

 




はい…。達也たちに刺客(ゲーマー集団)を送り込んだのは、ゲームセンターの従業員でした!
なんてことをしてくれたんだ!!娯楽を地獄に変えてどうするよ!!


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共通ルート 理解不能の行動

少しキャラ崩壊があるかも?


 

 

 

 

 まさかのゲームセンターの従業員がコンプライアンズを逸脱し、情報漏えいしていた事実に憤りを感じるレオと幹比古、将輝。

 

 

 「そうか! 従業員ならそんな事は朝飯前だろうからな!」

 

 

 「職務の責任も負えない者に、信用もないな。早速調べて、相応の処遇を受けさせてやるっ!」

 

 

 「僕もそれがいいと思うよ。僕たちがどんな目に遭ったか…。同じように味わってほしい所だよ。」

 

 

 「心配ないと思うぞ?もう既に味わっているはずだからな。」

 

 

 「は?」 「え?」 「何だと?」

 

 

 レオ、幹比古、将輝は達也の台詞に疑問を覚え、同時に反応する。三人の視線を受ける達也は顔色を変えずにちらりと視線を斜め後ろへと向ける。その達也の視線に沿ってレオたちも方向転換すると、店内のモニターがあり、ニュース番組を放送していた。

 そしてそれを見た途端、レオ達は驚愕する。

 

 

 『では、次のニュースです。

  東京都でも有名なゲームセンターとしても若者に人気のこちらで、経営者による不正が先程発覚し、ゲームセンターを運営する社長と幹部らが逮捕されました。

  社長たちはゲームセンターに訪れた利用客の個人データを不正に漏えいし、更なる利用客の呼び込みに繋げて利益を得る事で、およそ10億円相当の金額を隠し持っていた事が警察の調べで明らかになったそうです。……………』

 

 

 モニターから流れてくるキャスターの言葉に愕然とする。

 

 

 「もしかして、達也が、やったのか?」

 

 

 「俺一人でできる訳がないだろ? ちょうど知り合いがいたから、頼んだ。」

 

 

 レオの問いに達也は微笑を浮かべて答える。達也の脳裏には久々の休日にショッピングでたまたま近くで買い物していた響子を発見し、お願いをした時の頬を膨らませて子供のように拗ねた響子の顔が思い浮かんだ。

 

 

 「頼んだって、もしかして…。」

 

 

 幹比古が何を思ったのかは指摘しなくても顔に書いていたので、達也は言葉になる前に封じにかかった。

 

 

 「今回は家の力は使ってない。偶然にも仕事仲間に会ったから、データを渡して、頼んだだけだ。こういう事に長けたセンスを持っているからな。」

 

 

 響子としては褒められていると受け取ってもいいだろうが、残りの休日を返上する結果になったのは不運だったと言える。だから、響子が自分の愛車に戻る際、達也に「今度埋め合わせでケーキバイキングに付き合うように!」と、ビシッという効果音が聞こえそうなほど指をさし、急ぎで達也と別れたのだった。

 

 響子が早速動いてくれたおかげで、自分が手を下す手間もかけずに終わり、深雪の作る夕食にも間に合いそうでよかったと他人事のように、達也は思っていたがそれは置いといて…。

 

 

  「いつの間に…?」

 

 

 いつの間にそんな事をしたんだ?、と将輝が顔で語ったと同時に達也の無線に連絡が入る。

 達也は誰から連絡が来たとは確認せずそのまま連絡を取った。

 

 

 「相変わらずの腕前ですね。さすがです。」

 

 

 「………最初の一言がそれって、達也君どうなの?」

 

 

 「どうとは?」

 

 

 「……はぁ~、いいわ。そのために連絡をした訳じゃないしね。」

 

 

 「何が情報収集できたから、ですよね? 」

 

 

 「あら、わかってたのね。」

 

 

 「ただの処理報告ならニュースでも見れば分かりますから。」

 

 

 「それもそうね。……本題に入るけどいいかしら?」

 

 

 「今は無理です。」

 

 

 連絡してきた理由を話そうとした響子はきっぱりと断られる。しかし、響子は不快に思う事はなく、寧ろ感心したように笑いを漏らす。達也も響子が本当にこの場で話を切りだすとは思っていないが、万が一のために言っておいた。聞こえてくる響子の声がいつもより少しトーンが高いからだ。

 達也が響子の少しの変化に気づいた通り、響子はいつもと違っていた。

 

 

 「もう…。つれないんだからぁ~~ん。 年上の女性にはもっと気遣いしなさ~~い♥」

 

 

 「はぁ~…、飲み過ぎですよ。なぜそんなに酔ってるんですか?」

 

 

 「良いじゃない~~!! 私だって飲んですっきりしたい時だってあるんだから~~!!せっかくの休みだったのに……。」

 

 

 休日返上させられた些細なお返しを一言で打ち返され、同僚としてはよくても、女性としては不満を感じる返し方だったため、響子は酔った自分に気づかれないようにして話す事を放棄した。

 

 

 「では、そのお詫びに今度、とことん付き合ってあげますから。機嫌直してください。」

 

 

 「え~~!?いいの~~!? じゃあたくっさんどこかへ連れて行ってもらおうかしら~~!!」

 

 

 「……程々にお願いします。」

 

 

 頭痛がしそうな感覚が達也を襲い、一刻も早く電話を切る方がお互いのためになると判断し、要点だけを告げる。

 

 

 「それでは詳しくは後で。 今日はありがとうございました。また埋め合わせしますので。

  ………くれぐれも飲酒運転はしないように。」

 

 

 「ぱぁ~~い♥」

 

 

 呂律が完全に逝っていた響子の返事を聞いたか聞いていないかの速さで電話を切った達也。あのまま電話すれば自分の身が危ない予感がしたからだ。

 

 

 ため息を吐いた達也はいつもと違う響子だった事に不審に思った。

 

 響子が休日返上させられたことでヤケ酒するような女性ではない事は知っている。軍に所属している以上、休日がなくなって出動や訓練に赴かなければいけなくなるのは日常茶飯事だ。それは独立魔装大隊も同じ。だから、響子がヤケ酒する別の理由がある事には分かっていたが、自分の口から聞けば、悩み相談のような展開になると思って、話を打ちきりにした。だが、やはり同僚としてでも、友人としてでも頼りになる響子であるため、達也は珍しく響子の身を心配するのだった。

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 達也のとの電話が終わり、糸が切れた操り人形のようにぐったりとハンドルに顔を埋める響子。

 

 

 「何で私…、達也君に電話したのかしら…。」

 

 

 達也に話す事があるのは事実。しかし、達也が一人じゃない事はばったりと出くわした時に知っている。無暗に連絡を取ろうとする必要もなかった。後でメールで転送すればいいだけなのだから。しかしそうしなかったのには、響子自身も驚いていた。

 

 

 響子は今回のテロ事件が終わってから、必要以上に接触はしないでいた。それは身体が条件反射のように達也を避けていると言えば適切かもしれない。

 達也を視界に入れると、声を掛けられる前にはその場を離れていた。

 

 そんな感じでいたのに、まさか街中で会うとは思わなかった。

 

 

 (私…、本当にどうしちゃったんだろう? 前みたいに達也君と話せなくなっているわ…。

  それになぜか胸が痛みだす…。)

 

 

 動悸が激しくなるのを感じ、胸に手を当てる響子は涙を流していた。

 

 

 そして酔いが回ってきた響子は、そのまま暖房が効いた愛車の中でふて寝するのだった。

 

 

 

 




響子を少し崩壊させました。しかしなぜ響子は落ち込んで…、達也を避けているのか…?


そう言えば今日はクリスマスイブですた~~!!

メリークリスマス!!


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共通ルート お土産を添えて…

いや~~!! 気が付けば今日で今年も終わり…。 早いもんだわ~~!!

みんな~~!!後数時間で今年も終わりだけど、良いお年を!


 

 

 

 

 

 

 響子との電話を終えると、物凄い威圧感を持った視線を向けてくるみんなに達也は嘘は言わずに答える。(全て答える気はないが)

 

 

 「今のは、さっき話した仕事仲間からだ。一応報告しに電話してくれたようだ。……だからそんな目で睨んできても意味ないぞ、一条。」

 

 

 「ハァ! …な、何の事だか俺には…。」

 

 

 「俺が浮気していると疑い、そうなればいいと思っている目だ。」

 

 

 「お、俺がそんな事を思っていたなんて言うのかよ!」

 

 

 「違うのか? それなら深雪と馴れ初めている想像をしていたとでもいえばいいのか?」

 

 

 「そ、それは………」

 

 

 将輝は内心非常に焦っていた。

 

 なんだって達也が言っている事は全て当たっているからだ。将輝の頭の中では『こいつ…、もしかして心を読む精神干渉魔法を使っているのか!?』と思考が廻っているほどだ。

 電話に出ている達也の口調は男性にしては相手を気遣っている節が見られ、短い付き合いであるが、男との会話では遠慮がないというか、配慮が薄い。それに対し、女性には褒め言葉を言ったり、気遣いを見せたりとする…と将輝は感じていた。

 だから、電話に話しかける達也の口調から相手が女性だと認識できた。そして電話から所々聞こえてくる女性の声で相手が深雪ではないと知り、「深雪以外と親しげに話す女性なんて愛人くらいしかいない!!」と思い込み、深雪を傷つける真似をしている目の前の達也に怒りを覚えると同時に、達也の浮気を知り、深雪が達也を幻滅し、泣いている所を優しくあの華奢で美しい身体を包み込み、抱きしめて慰めてあげたい…。そしてその後は深雪の婚約者として、未来の夫としての自分を確立させる…。という妄想を働かせていたのだった。

 それが全て達也に言い当てられたのだ。将輝はどうやって言い訳しようかと思考を回転させるが、上手く言葉が見つからずにいる。

 ちなみに、達也は将輝の心を読んでいる訳ではない。ただ今の達也と深雪、将輝に取り巻く環境を知っているからこそ考えられる推測を言ってみただけだ。だから、自分の言った事に反論できずに固まる将輝を見て、溜息を堪えずに分かりやすく吐くのだった。

 

 

 「……一条、諦めた方がいい。これはお前の為でもある。深雪の意思が相当固い。」

 

 

 遠まわしに「深雪はお前の事なぞ眼中にない。」と告げる。そしてその意味を正確に理解した将輝は、ここは言い返すのだった。

 

 

 「それはやってみなければわからないじゃないか! 俺も生半可な気持ちで彼女に告ったわけではない! まだ婚約中なのだから、アピールしまくってみせる!」

 

 

 深雪への恋心の強さを乗せて宣言する将輝だが、それを言う相手が間違っているんじゃないか?…と達也に思われているとは、将輝は熱が入り込み過ぎて気付かなかった。レオも幹比古も将輝のアピールは無謀だと思っている。深雪の達也への入れこみ様は前から凄かったが、最近は距離を保っているものの、甘さが濃くなったように感じていたので、達也と同じ思いを抱いていた。しかし、将輝の横恋慕によるアピールはさておき惚れた女性を一途に想うのは好感は持てるので、達也のようにはっきりと言う事は出来ずにただ見守るしかなかった。

 

 

 それから、将輝が男の意地を見せると言って、達也に勝負を挑み、なぜか腕相撲をする事になる。もちろん、勝負は達也の圧勝で終わったが。

 

 

 

 「そろそろ時間だな。レオ、今日は誘ってくれてありがとう。」

 

 

 「いや、俺は久々にスリルが楽しめてよかったけどよ! やっぱり達也といるとわくわくするぜ!」

 

 

 「僕は、正直程々にしてほしいけどね。…でも達也だからしょうがないかな。」

 

 

 「俺が望んでやっている訳ではないがな。」

 

 

 「まったく…、お前といると自分がまだまだだと思い知らされる…。」

 

 

 「一条、何が言ったか?」

 

 

 「いや、何も!…ごほん、じゃあ、俺はここで失礼する。そろそろ妹がやってくる頃だからな。迎えに行かないと。」

 

 

 「ああ…、確か一条君には妹さんが二人いるんだっけ?」

 

 

 「そうだ、今日は上の妹が遊びに来ることになっている。……親父も何を考えているんだか。」

 

 

 「へぇ~、一条も実はシスコンだったんだな。」

 

 

 「違う!西城!!俺は決してシスコンなんかじゃない!仕方なくだ!」

 

 

 「レオ、一条をからかうな。これでも一条は照れているんだ。」

 

 

 「照れていない!!」

 

 

 ここでは自分の味方になってくれる者がいなくて、将輝は相棒であるジョージを思い出す。ここにいてくれたら絶対に心強いのに。

 

 

 「もういい。俺は帰る。じゃあな。」

 

 

 ここはもう去った方がいいと判断したのか、将輝が踵を返し、達也たちと別れ、妹の茜を迎えに行こうとする。

 

 

 「待て、一条。」

 

 

 しかし、達也からの有無も言わせぬ威圧ある一言に足を止める。

 

 

 「だからなん………ぶっ!!」

 

 

 振り返り様に文句を言おうとした将輝は突如として飛んできた弾力があるが巨大なものを顔面で受け取った。投げつけたのは、達也だ。

 

 

 「ぶわぁ! 司波っ!! 何をする気だ!!」

 

 

 「何を、と言われてもな。プレゼントだ、やる。」

 

 

 「…………これをどう使えって言うんだ!」

 

 

 達也から乱暴に渡されたものに一瞬目を向け、怒鳴る将輝。…というのも、将輝が渡されたのは、真っ白な布で型取った等身大の人間クッションだった。

 

 

 「使い道まで俺が口出しする気はない。お前自身で決めればいいだろ?

  …レオと幹比古にはこれだ。」

 

 

 将輝を言葉で一蹴すると、レオと幹比古に向き直り、プレゼントを渡していった。レオには、ボクシングセット。幹比古には着物一式だ。

 

 

 「おい、達也!これ如何したんだよ!」

 

 

 「すべて景品だ。さすがに全部は俺も使い道がないからな。お前達に使ってもらった方がいいだろ?」

 

 

 「あ、有難う…。」

 

 

 「さ、サンキュー。」

 

 

 レオと幹比古が渡されたプレゼントを手にして、固まっている中、達也が視線を将輝に戻すと既に将輝の姿はなかった。

 

 

 「あれ?一条君はどこ?」

 

 

 「あいつ、もう行ったのか?それにしてもあれって”バーシャルドール”だよな?良いのか、達也。」

 

 

 レオが言った”バーシャルドール”とは達也が将輝に渡した人間クッションで、クッションと情報端末を有線接続し、クッションに反映させたい人のデータをインプットすると、その人の形に変化させることができる。

 レオはそれを使って、将輝が何をするのかを想像し、恐る恐る聞いてみたのだ。

 

 レオが何を言いたいのか、達也も理解していたので、問題ないとレオの心配を振り払った。

 

 

 「あれは、男性用だ。深雪を投影する事などできない。」

 

 

 「相変わらず、人が悪いな、達也は。」

 

 

 「今更だな。」

 

 

 そう言い合う達也とレオはお互いに悪戯が成功するのを楽しんでいる無邪気な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 そして、達也はレオと幹比古と別れ、無事に深雪と水波が待つ家に帰宅し、はりきって作っていた深雪の豪華な手料理を残さず全部食べ、長い一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




景品をレオ達にもあげるって太っ腹だな~、達也は!

でも、将輝への対応は相変わらずだね。


みんな!!来年もどうぞ、よろしくお願いします!!


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共通ルート メルヘンな将輝と愚昧

乙女な存在が再び…!

そして将輝のキャラ崩壊があるかも?


 

 

 

 

 

 

 「ハァ…、ハァ…、ハァ…、え~っと、ここで合っているのか?」

 

 

 息を切らしながら駅に走ってきたのは、先程まで達也たちと遊んだ将輝だった。

 

 将輝は達也たちと帰りの挨拶を軽く交わした後、急いで駅に向かってきたのだ。それは、もうすぐ東京にやってくる妹の茜を迎えに来るためだ。

 

 

 「まったく親父も勝手な事を言いやがって…。事件の後始末も俺にやらせる気満々な上に茜の東京観光の案内までしろなんて無茶を言ってきたもんだ!

  俺だって、観光名所とか知らねぇ~よ!」

 

 

 白い息を吐き出しながら、自分の父親に対して悪態着く将輝。

 

 そこには親への鬱憤もありながら、達也への溜まった鬱憤を上乗せしていた。事件の疲れがあった昨日は、休息に充てていた。そこに達也からの電話が入ったものの、愛しの深雪と逢えると思ったら、疲れなんて吹き飛んでしまうほど楽しみになった。しかし、いざ行ってみれば深雪はいないし、達也への敗北感は積る一方だし、とんだ災難にも遭うしで散々な一日だった…。

 

 

 今日の出来事を脳裏に思い浮かべた将輝は急に深雪の顔を思い出す。

 

 達也に渡されたバーシャルドールを両手で持ち、呆然と見つめる。その将輝の目には自分に微笑みを向けて慰めてくれる深雪が映っていた。

 

 

 (司波さん…、いや、深雪さん…!!ああ…!!僕の女神!!

 

  あなたを想うだけでこんなにも癒される…。それなのにあなたは既にあの男のものだ。なんて僕は儚いんだろう…。でも、僕はそれを乗り切って深雪さん!!あなたをあの男から奪ってみせます!!

  どうか…、僕にあなたと二人で逢う機会をください…!)

 

 

 若干頬を赤くし、心の中で深雪に跪いてお願いする妄想を繰り広げている将輝。一人称も”俺”から”僕”に変わっており、メルヘンチックな思考をする様は将輝の周りを通り過ぎる通行人たちにとって、少し危険(変態的な意味で)だという認識を持たれつつあった。

 

 バーチャルドールと無言で見つめ合う将輝は外の寒さもあり、目の前の深雪(バーチャルドール)と何を話そうかと照れて、そわそわしだした所に将輝に声を掛けてくる少女が現れた。

 

 

 「………何をやってるの? 気持ち悪い…。兄さんじゃなかったら声なんてかけないから…。本当に勘弁してくれない?」

 

 

 声を掛けてきたと思った最初の言葉から毒舌を放つ少女に将輝はやっと現実復帰し、覚えのあるこの流れを向けてくる少女を不愉快たっぷりの視線で答えるのだった。

 

 

 「……ああ、やっと来たか。茜…、遅いぞ。」

 

 

 「ちゃんと時間通りに来たんだけど?兄さんが遅れてきたんでしょ。待っても来ないと思ったら変なもの抱えて走って来るし、やっと来たと思ったら変なものを瞳を潤ませて見つめ合うし、本当に気持ち悪かった…。」

 

 

 「な!? 俺はそんなことしてないぞ!」

 

 

 「してた! ちゃんと証拠があるんだから!!」

 

 

 そして茜が取り出したのは、情報端末に保存していた映像だった。その映像を覗き込んで見た将輝は、絶句する。そこには本当に茜が言ったとおりの自分がいた。しかも度アップで!茜に声を掛けられなかったらバーチャルドールとキスするのではないかという距離で見つめ合っていた。

 

 

 「ほら! 公共の場で厭らしい真似しないでよね! このまま続けられていたら、一条家の恥になるところだったよ。」

 

 

 暴言が止まる事も知らずに将輝に降り注がれる。

 

 

 いつものように可愛げのない(将輝にとっては)やりとりだが、それ以上に自分が無意識に深雪を求めていて、それを愚妹に目撃された事がよほどショックだったのと羞恥で将輝は肩を落として落ち込んだ。

 

 

 (お、俺は…、そんなに…、厭らしいのか…。……もしかして深雪さんもそう思っているんじゃ…?いやいやいやいや!!あの才色兼備で俺の女神がそんな醜い感情を持つものか!!

  あの人は別格なんだ! この愚妹と一緒にするなよ、俺~~!!)

 

 

 首を激しく横に振り、思考をリセットしている将輝を茜は怪訝な視線で一定の距離を持って見つめるのだった。

 兄弟仲は更に溝が開いたと将輝が思ったその時、親しみのある声が耳に入ってきた。

 

 

 「相変わらず仲が良いね、将輝はいいお兄さんだよ。元気そうでよかった。」

 

 

 「ジョージ!!? お前も来てくれたのか!?」

 

 

 「うん、『茜ちゃんだけじゃ心配だから一緒に将輝の所へ行ってくれない?』ってみどりさんにお願いされたんだ。僕も将輝に会ってみたかったし、サプライズの意味も込めて泊りに来たよ。」

 

 

 「そうか! ありがとう! ジョージ!! 俺は今最高に幸せな気分だぜ!」

 

 

 まだ二週間も経っていないのに随分久しぶりな気がする。それは将輝だけではなかったようで、将輝が肩を組んでくるのを吉祥寺も肩を組む事で再会を喜び合った。その雰囲気に茜が随分とへそを曲げていた。仮にも兄とはいえ、自分の想い人と慣れ合っている様子を見せつけられるのはいい気分はしない。

 だが、将輝は茜がへそを曲げて睨んでくる理由を、兄弟仲より友情の方を優先した自分に対して睨んでいるのだと勘違いしていた。

 

 「不潔…。」

 

 

 「変態…。」

 

 

 そのため、茜が将輝を言葉で罵倒していくが、先程の自分の行いを忘れているのか、訳の分からない事を言っていると放っておいた。

 

 

 そしてしばらく再会を喜んだあと、外でいつまでもいる訳にはいかないし、そろそろお腹も空いてきたところだったので、一八六九年創業のすき焼きの老舗へ二人を連れて行った。

 

 愚妹とだけなら適当なレストランで済ませるつもりだったが、遠路はるばる来てくれた親友を粗末に扱うなんて真似は出来ない。

 

 

 美味しいすき焼きを食べられ、親友の喜ぶ顔も見れた。

 

 将輝はこの至福の一時を噛み締め、一条家の別荘へと二人を連れて帰った。

 

 

 二人に部屋をそれぞれ提供した後、離れていた間の事を将輝は親友に語り合った。山のように膨らんだ話はとにかく話しつくせないほどだった。

 

 

 茜も初めは話を聞いていたが、興味が尽きたのか、もう眠たくなったのか部屋へ行ってしまった。

 

 茜がいなくなった事で将輝は、大いに喜び、茜がいて言えなかった事が言えると口を開く。しかし、吉祥寺の方が一足早く話し出した。

 

 

 「ねぇ…、将輝。再会した時から気になっていたんだけど…、それ…。」

 

 

 指を指して気まずそうに尋ねる吉祥寺を見て、指の先を見つめるとそこにはバーチャルドールが置いてあった。

 

 

 「ああ…、あれはアイツに渡されたんだ。 本当に迷惑だよな…!」

 

 

 口ではそう言いつつ、二人を待っている間に深雪とのイチャイチャ妄想をしたお蔭で使い道は決まっていた。あれにこっそりと隠し取っていた深雪の写真やデータをインストールして深雪の抱き枕を作ろうと画策していた。

 

 

 (これであの人に告白する練習もできるし…、色んな事が…。)

 

 

 耳まで真っ赤になりそうになるほど妄想させた将輝はそれを知られないように魔法で体内の血液を調整し、平然を装う。そして、それを更に印象付けるために嘘の使い道を吉祥寺に話す。…しかしこれが大きな間違いだったと気づかされ、心身ともにショックを受ける事になる。

 

 

 「こうなったら、アイツのデータをインストールして、サンドバッグにしてやる!!」

 

 

 「そうなんだ、うん、それがいいよ。…というよりそのために彼が渡したのかもしれないしね。」

 

 

 「………どういう意味だ、ジョージ?」

 

 

 「え?だって、あれは男性用だよ? 男性のデータしか起動しないから、いくら女性のデータを入れても起動しないよ。依然間違って購入した人が根性で何とかなるって好きな女性のデータを入れたら、その女性が筋肉質なマッチョの男性になってしまって、そのギャップでその人…、精神病院で集中治療している最中だってニュースになったから。」

 

 

 「……そ、そんな事があったのか。…まぁ、その男は馬鹿な実験をしてみたもんだな、はは…、ははははは………。」

 

 

 危うく自分も同じ過ちをするところだったと気づかされ、もし深雪がマッチョで見るのも憚られる姿になると思ったら、多分一生立ち直れないだろうと確信した将輝は嘘の使い道を本当に使い道に変えるほかなかった。

 

 

 そして、それからは達也のデータをインストールしたバーチャルドールで高速パンチを連打するほど殴りまくった。

 

 

 その将輝の頬には、血の涙が出てきそうな勢いで憂いと悔しさが滲んだ涙が激しく流れているのだった。

 

 

 

 「おのれ~~!!! 司波~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 




将輝…、気付いていると思っていたけど…。

本当に達也の言った事を考えていた…。

将輝が達也に勝てる日って来ないんじゃ~。


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共通ルート 届けられた願いの成就

やっとここまで来たぜ…。


 

 

 

 

 

 

 

 「お兄様?」

 

 

 「…ん、どうした、深雪? 」

 

 

 「あ、いえ…、お兄様が大層お疲れのようにお見受けいたしましたので…。お声を掛けてしまい申し訳ありません。」

 

 

 腰を折り、手を添えて丁寧にお辞儀して謝る深雪に若干の驚きを見せた後、達也は目の前のモニターから目を外し、振り向く。

 いつものように深雪が用意してくれていた夕食を食べ、地下室で研究していた達也に、これまたいつも通りにコーヒーの差し入れに来た深雪が顔色を窺うような仕草をした後の先程の台詞だったので、達也は軽く訝しく思いながら、深雪の話に耳を傾けるために作業を中断したのであった。

 

 

 「別に深雪に声を掛けられたぐらいで気が散るほどミスなんてしないさ。それより俺に言いたい事があるんじゃないのか?」 

 

 

 「……はい、お兄様。今日はもうお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか? 帰宅なされた時もいつもより疲れているようでしたし、私が作りすぎてしまった夕食を残さず食べていただきましたし、お兄様の御身体が心配で…。」

 

 

 達也は深雪に言われた事をただの思い過ごしだとは言えなかった。実際にその通りなのだから。初めて、友人と遊びに出掛け、色んな事があった。足早に帰ってみると、大量の深雪の手料理が待ち構えていた。動き回ったから空腹ではあったが、さすがに全部食べきるのはきつかったほどの量だった。まだわずかに消化しきれていない具材が胃にある。

 しかし達也は自分の事は無頓着と言ってもいいほど興味を持たない。深雪に言われるまで自分が思う以上に疲れている事に気づかなかった。

 

 だから、深雪の話を聞いて、これからの予定の変更を頭の中のスケジュールで素早く行い、達也は深雪に柔らかい笑みを向けるのであった。

 

 

 「そうか…、深雪の言うとおり俺は疲れていたみたいだ。今日はもう切り上げて寝る事にするよ。ありがとう…、深雪。部屋まで送るよ。」

 

 

 「…はい!お兄様。」

 

 

 開いていたファイルを閉じ、モニターの電源をオフにして片付けする達也に深雪は部屋まで送ってくれるという短いデートを心の中で待ちわびるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 達也が自室に入り、眠げ代わりに一般教養の課題をしていた同じ時刻、他の三人は……

 

 

 レオは夜の散歩を終えると、そのままベッドに横たわり、一瞬のうちに熟睡した。

 

 

 幹比古は心身ともに疲れて、既に布団に包まって眠っていた。

 

 

 そして将輝は吉祥寺真紅郎と会話を弾ませた後、明日に備えて(愚昧に付き合う事になっているため体力を回復する算段である)ベッドで横になる。

 

 

 達也も課題を終え、眠げが襲ってきたので、ベッドに入り、規則正しい呼吸をして、すぐに眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 ”…………眠ったみたい。 ”

 

 

 

 

 四人が寝静まったのを確認する存在…。

 

 

 ずっと四人を見ていた存在は、ネットワークを通じて情報を集めた。すぐに目的の情報が集まり、ネットを介して今日の四人の行動を眺めていた。ただしその四人の中で一番興味があるのはただ一人…。でも気付かれてはいけないから関係のない周囲の人に視線を向けながら、見ていた。

 

 そしてそうするうちに、もっと知りたいと思った。

 

 もっと近くに行きたい。

 

 もっと、もっと、声を聴きたい。

 

 もっと、もっと、もっと、顔を見ていたい!

 

 

 ”あなたの全部を……知りたい…!”

 

 

 そう願わずにはいられなかった。

 

 

 でもこのままでは自分の存在を知ってもらう前に消滅させられるかもしれない…。器が欲しい…。

 

 でも、器を手に入れるだけの力はない。

 

 

 そうだ…、人間はどうしても叶えたい願いがあれば、天にお願いするという。天に住むという神様という人にお願いすれば…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”神様…、私のたった一度だけの願いを聞いてください…。”

 

 

 

 

 

 

 

 小さな存在はただ、お願いした。

 

 

 そして、その存在の願いはあるものが叶えてしまった。

 

 本来なら叶える事など不可能に近いが、あるものによって、願いは届けられた。

 

 

 その存在の願いは、達也たちを巻き込んで波乱な展開を引き起こす事になるのだった……。

 

 

 




達也たち…、これからどうなるんだろうね~。

巻き込まれた所からもうやばい展開連続になるから、そろそろダク変えも考えないといけないな~。


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共通ルート 願いで繋がる夢

謎の願いで達也たちはどうなるのか~~!!!


 

 

 

 

 

 謎の存在の強い願いが、その夜、何物かの力によって叶えられた。その願いが届き存在は大層喜ぶ。しかし、それに望まず巻き込まれる当事者にとって、繰り広げられるこの後の事は出来れば忘れたいと願わずにはいられないだろう…。

 それほどの衝撃を彼らに与える出来事がこの先に待ち受けていようとは、まだ彼らも眠っていて気付かない。それを是と捉えたのかは知らないが、存在は心躍るような面持ちで意識に入った…。

 

 

 ”さぁ…、始めますよ…!”

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 「……ん? ここは一体どこだ?」

 

 

 気が付くと、木に囲まれた場所に立っていた。

 

 辺りを見渡すと、人工的に作られた山道が見えた。まぁ、人工的と言っても登りやすいように草を切って、土を固めたまさに登山道といった類だ。

 しかし、登山に出かけた記憶もない。彼の記憶に最後に残っているのは、眠気を煽るために一般教養の課題をした後、ベッドに入り目を閉じた所で終わっている。

 

 

 (もしかして……ここは…)

 

 

 自分の覚えている記憶を探った彼は、思い当たる事があった。前にも似たような事があったからだ。

 その時と同じように達也は一高の制服を着ていた。有り得ない服装チェンジに、覚えのない場所…、ここまで来ると達也はここがどこだか理解した。

 

 

 (念のために深雪を確認しておくか。)

 

 

 ここは何処なのかという結論はついたが、もしもの場合もある。深雪とのリンクを確認する。すると深雪が近くにいる事も確認できた。それが確信へと変わり、ため息を吐く。

 

 

 「また夢の中か…。一体誰の夢なんだろうな…。」

 

 

 以前も誰かの夢の中で巻き込まれてしまった達也はまたしても巻き込まれる感覚を感じて夢の中だが、頭痛に襲われそうになった。

 

 

 それでもここでじっとしていても夢から覚める事は出来ないので、動くしかない。

 

 達也は近くの山道まで歩き、それに沿って下っていく。登っても人と交流できるとは思えなかったからだ。そして下っていくといきなり樹木が一気に消え、平らな広場が現れた。夢の中だからか、あまり詳細に背景を設定していないのは前と同じだと呑気に思いながら、広場へと進むと、聞き覚えのある声が達也を呼んでいた。

 

 

 「あ、お~~~い!!達也~~!!こっち、こっち~~!!」

 

 

 「え!? 達也も来たのかい?」

 

 

 「………司波、今日はもう会いたくなかったのにな。」

 

 

 声のする広場の中心へと意識を向けると、そこにはレオ、幹比古、将輝が待っていた。

 

 

 「レオ、幹比古、それと一条か…。まさかお前達とここで会うとはな。」

 

 

 「それはこっちの台詞だぜ~。俺、確か…、あ、そうそう、ボクサーになって後もう少しでチャンピオンになるって所で、いきなり周りが変わってこんな広場にいたって訳だ。」

 

 

 「僕も違う所にいたはずなのに気がついたら、川の中にいて、岸に上がろうと泳いたら広場に辿り着いていたんだ。」

 

 

 「俺だってな……、良い所だったのに…、渡しそこなってしまった。」

 

 

 「そうか、深雪へ告っていたのか。」

 

 

 「!!い、いや…ちが……!!」

 

 

 「一条~、ここは認めた方がいいぞ?」

 

 

 「うん、僕もそう思う。なんというか僕でさえ分かるっていうか…。」

 

 

 「そ、そうか…。はぁ~…、仕方ない。そうだお前達の想像通りだよ。あと一歩で成功するはずだったのにこの場でいつの間にか立ち尽くしていた。」

 

 

 「お前も懲りない奴だな。」

 

 

 「ふん、悪いが、司波!! 俺だって本気だ! お前に今度こそ勝って、あの人に俺の思いを伝えてみせるからな。」

 

 

 「そうか、そうなればいいがな。」

 

 

 ((一条[君]が達也に勝てる感じがしない…。))

 

 

 レオと幹比古がアイコンタクトで互いに同じ見解だという事を確かめ合ったその時、どこからか声が降ってきた。

 

 

 ”ふふふふふ…。相変わらず面白い人達です~。もっと知りたいな~。”

 

 

 女の子の声だった。

 

 

 その声にレオが問いかける。

 

 

 「誰だ~!? こそこそ隠れてないで出てこいよ~! 」

 

 

 レオが叫ぶが、辺りが静まりがえるだけ。もう一度呼びかけようかと息を吸い込むレオ。しかし、次に叫ぶ前に四人の目の前に小さな爆発が起きた。一斉にみんなが大きく後ろへジャンプして距離を取る。鋭い視線で爆発した場所を凝視するとそこには、先程までいなかった少女がいたのだった。

 

 

 「ふふふふふ…! こんにちは~!

  皆さん、私と遊んでくださいな?」

 

 

 ウィンクしながらそう言って現れた少女を見つめる達也たち。呆然とするレオや幹比古達は固まるが、将輝は少女の意図を読もうと意識を集中する。

 そして達也はおそらくこの夢を作りだしたこの少女に対し、何をさせるつもりなのかと思考を巡らせるのだった。

 

 

 




達也たちの夢がくっ付いて、またまた再会しましたね。達也たちの前に現れた少女は一体何をしようとしているんだろうか?


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共通ルート 夢から覚めるには

達也たち、夢から脱する事が出来るかな~(にやっ)

”ドリームキャスター”での話はよく知らないので、(試し読みしかできていない)独自解釈が入ってます。


 

 

 

 

 

 

 

 「君と遊んでいる時間はない。さっさとここから出してくれないか?」

 

 

 突然現れた少女に向かって、第一声を掛けたのは将輝だった。将輝はこの状況を作りだしたのは、少女だと感づいていた。達也もそれを知っていたが、将輝がまだこの夢の特性まで知らないのは明白。将輝の紳士的な振る舞いも無駄に終わると理解していた。そしてそれは予想通りのものだった。

 

 

 「ごめんなさい、私にその力はないです。 私はただ願っただけですから。」

 

 

 「それはどういう意味……」

 

 

 「君の願いを夢として具現化させ、俺達を巻き込んだのは、”ドリームキャスター”だな?」

 

 

 少女の奇妙な言い方に将輝が訝しんで問いかけようとした時、それを遮る形で達也が答える。

 

 

 「なんだ、その”ドリームキャスター”って言うのは?」

 

 

 「人間が無意識に排出する想子によって起動する聖遺物の一つの事だ。この”ドリームキャスター”の場合は、複数の人間の夢を結びつけ、架空の世界で様々な疑似体験を可能とする力がある。まさかまた掛けられるとは…。」

 

 

 「また? もしかして司波は前にも体験しているのか?」

 

 

 「ああ…、あの時は大変な目に遭った。」

 

 

 「ああ、俺達の夢とリンクしてしまったあれか!」

 

 

 「確か…、その夢を見ている本人が満足するか、時間になって起きない限り脱出できないっていう…」

 

 

 「今回もそれだとは限らないがな。あの時破壊したはずなんだが…。」

 

 

 達也がため息を吐き出すと、今までの流れを見ていた少女が感心して頷いていた。

 

 

 「さすが達也様ですね。そうです、私の願いを”ドリームキャスター”様が望みを叶えてくださったんですよ? ですが達也様が仰る方とはまた別のようですが。」

 

 

 「そ……」

 

 

 「それよりも!俺達に何をさせるつもりなんだ!」

 

 

 達也が何やら言いたそうに口を開きかけたが、レオが言葉を重ねて要求を聞こうとする。達也もそれは思ったため、耳を傾ける。

 

 

 「だから先程から言っていますよ~。私と遊んでほしいんです。夢の中でしか私は皆さんと遊ぶ事なんてできませんから。どうかわたしのほんの少しの我が儘に付き合って下さい。」

 

 

 頭を律儀に下げる少女に若干戸惑う将輝と幹比古。

 

 

 「どうする? 別に夢の中だし付き合ってあげてもいいんじゃないかな?」

 

 

 「礼儀正しく頼まれているんだし、少女をこれ以上放っておくのもな…。」

 

 

 「俺は賛成だぜ! この子に思い出を作ってやるくらい朝飯前だ!」

 

 

 レオは断然ノリ気であるのに対し、

 

 

 「………何者かもわからないのに、言う事聞くのか?」

 

 

 と鋭い視線を向けて、威圧する達也だった。

 

 

 前回の事もあり、乗りたくない感をただ漏らす達也にレオが駆け寄って、少女の元へと連れて行く。

 

 

 「何を言ってるんだよ、この子の望みを聞いてあげれば、早く目覚めるかもしれないじゃねぇ~か!」

 

 

 「お互い、利害は一致してるんだし、ここで放棄して何があるよりずっといいと思うよ。」

 

 

 「女性を労わるのは紳士の務めだ。司波、男を見せるべきところだぞ?」

 

 

 三人が一斉に達也へ罵倒?しにかかったので、達也はここは不利だと判断したのか、これ以上絡まれるのは勘弁だと思ったのか、苦い笑みを浮かべつつも、少女の望みを受け入れる事に賛成するのだった。

 

 

 「それで、君は一体何をさせたいんだ、俺達を。」

 

 

 達也がこの夢から覚める方法を尋ねる。しかし、少女から告げられた内容は信じられないものだった。

 

 

 「ふふふ…♥ 女性を口説き落としてくださいな。もちろん最後まで!」

 

 

 「「「「……………は?」」」」

 

 

 

 

 達也たちはあまりにも意外な要求に開いた口が塞がらないほどしばらく固まった。

 

 

 

 




口説き落とせだと!!
な、な、何を言ってるんだ!この子は~~!!(と言いつつも、目をハートにしてます)


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共通ルート エロゲー世界を攻略せよ!?

はい、タイトルからして、察しの通り。この先は大人の一線を上がる可能性があります。…タイトルからばらしてしまってどうするよ!
…だって、思い浮かばなかったんだもん!


 

 

 

 

 

 「く、口説き落とすって…!どう、どういう事だよ!?」

 

 

 いきなりの注文で女子からの熱烈な支持を得て、好印象を持たれている将輝でも言葉が詰まるほど慌てている。幹比古は、あまりの精神的ダメージを喰らい逆上せてしまう。幹比古の身体を支えるレオもまた、どうすればいいのか分からず、動揺している。…その顔は照れていたが。

 そして達也はというと、ポーカーフェイスは何とか保っていたが、さすがの常識的にはあり得ないお願いで内心は驚いていた。しかし、将輝達のように激しく動揺したり、照れたりといった少年らしい反応や思考はなかった。そのため冷静に少女を観察し、少女が自分達のように感覚をまだ持っていない疑似体だという事が視て分かった。

 

 

 (この少女は実体がない…? 精神だけの存在なのか…。なかなか興味深いサンプルでもあるが、まだ情報が掴めない段階で動くのは得策ではないか。)

 

 

 精神だけで人の夢に干渉する少女の存在に興味を持った達也。マッドサイエンティストのような危ない思考に入りそうになった達也は、深く深呼吸して、浮き上がった疑問や研究心を横に置き、未だに動揺し続ける将輝や幹比古に檄を入れるのだった。

 

 

 「二人とも、しっかりしろ。いつまでも先に進まないだろ。」

 

 

 「こ、これが落ち着いていられるとでも…!……いや、悪い。少々取り乱した。話を続けてくれ。」

 

 

 将輝はとっさに達也に反論しようとした。しかし、達也の言っている事は正しいと言う事はすぐに理解できた。そして自分ではなかなか話を聞き出す事は出来ないとも思ったため、達也に任せて、冷静さを志す。幹比古もレオの肩を借りつつも、気を失ってはいられないと全身に力を入れる。(すでにここは夢の中だから気を失うこと自体はないのだが)

 

 

 「それで、君は何で俺達にそんな事をさせたいんだ?」

 

 

 「え?だって、まず仲良くなるためにはスキンシップが必要だと知ったからですよ?それに、男性とのコミュニケーションを最大限に高めるには身も心も互いに与え合うのが一番だという事も情報収集済みです!」

 

 

 ドヤ顔でそう言い切った少女に、達也は「誰がそんなでたらめな情報を仕入れさせたんだ?」と嫌悪感を抱かずにはいられなかった。レオ達も少女の言葉を聞き、顔を赤らめながら、目を逸らす。余程少女の言い分が恥ずかしかったのだろう。

 

 

 「悪いが、そんなコミュニケーションの方法はやらない。もっとあっさりとしていると思うぞ?」

 

 

 「ええ~~!! …何で? どうするの?友達作るのとか?」

 

 

 「………普通に話しかければいいんじゃないか?」

 

 

 少女の問いかけに達也自身も頭を捻らせて答える。達也は自分から友達を作りに言った事もないし、話しかけた事もない。いつの間にか親しい間柄にはなっているという印象が強いのだ。だから、少女の問いかけにはどうしても当たり触りな口調になってしまう。

 

 

 「その”普通”の仕方が分からないんだもん!私…、この夢の中でしかいられないんだもん!だから…、人の体温とかもっと知りたい!!だから、私の言う事は絶対なの!だってここは私の作りだした世界なんだから!!」

 

 

 いきなり口調が荒々しくなり、ぽろぽろと涙の粒を落としながら、拗ねる少女に、達也たちはビクッと身体が跳ねる。

 

 

 「おい!司波~! 何をしてるんだ!少女を泣かせるとは見損なったぞ!」

 

 

 「俺に任せたお前にとやかく言われる覚えはない。それにこれは不可抗力だ。」

 

 

 「もう形振り構っていられなくなったって感じじゃないよね?」

 

 

 「いや~…、幹比古の言っている事は当たっているかもしれないぜ? …当たってほしくはないけどよ。」

 

 

 レオの嫌な予感は儚くも的中し、少女から発せられた突風が達也たちに降り注がれる。

 

 

 「良い? 皆にはこれから夢の世界で遊んでもらうから~! でも私自身どうなっているか分からないけど? 大丈夫、みんなも知っている世界を舞台にしておいたから、安心してね?」

 

 

 少女が笑い声を交えながら、上空に何かのPOPを表示する。それは…、

 

 

 

 「「「”花街恋うつつ”…だと~~!!!」」」

 

 

 「…………はぁ~。」

 

 

 江戸時代の花街を舞台にしたエロゲーだ。しかも、このゲームは達也たちがゲームセンターでゲーマーから逃げる際にレオが興味を示していたあのエロゲーだった。

 

 

 「西城~~!! お前の仕業か~!!」

 

 

 「俺は何もしていねぇ~よ! あれはかなりの流行ゲームだって!…俺はしてねぇ~からな。」

 

 

 「そ、そんな~! ぼ、僕はこんなところでどう……」

 

 

 「きっかけはレオにあるとして、やる事は既に決定したみたいだな。」

 

 

 達也は遠い目をする。

 

 

 達也たちが何をしなければいけないのか、理解した顔を見て、少女は満足げな笑みを浮かべて、突風を強固にする。強風レベルが暴風レベルに変わった。達也たちも踏ん張っていたが、魔法を使う事は出来ないため、自力で踏ん張っていくしかない。しかし、周りに掴める物もない。徐々に後ろへと押されていく。その先には空間が歪んでいた。

 

 

 「ふふふ♥ 楽しみですね!

  では、皆さんには色々と準備もあるでしょうし、お試しも兼て遊んでください!私もどこかで会いに行きますから!」

 

 

 「「「うわぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!」」」

 

 

 「くっ!!」

 

 

 遂に突風に身体を掬い上げられ、宙に浮いた達也たちは歪んだ空間の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 こうして、達也たちは少女の間違った解釈での願いから、なんとエロゲーの世界へと吸い込まれていき、あらゆる女性を攻略しないと夢から覚めない事態へとなってしまった。

 

 

 果たして、達也たちは無事に夢から覚める事は出来るのか~~!!

 

 

 




はい…、達也たちを何とかエロゲーの世界へとぶち込みました!

これからは、キャラごとに章を分けてやっていこうと思います!まずは…、幹比古かレオからいくか。


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第一章 幹比古ルート
飛ばされた先で…


第一章はなんと、幹比古~~!!

幹比古がフフフな展開に遭遇するとはね~…。いじめ甲斐がありそうだ…。(個人的にはエリカと気が合いそう)


 

 

 

 

 

 

 「わぁ~~~~!!!」

 

 

 時空の歪みを通り、光が差し込む出口からようやく出られた幹比古が現れた所は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中だった。

 

 

 「ちょ、何で~~!!え~~とぉ……!!」

 

 

 空中と言っても、地上3メートルとかそう言った高さではない。完全に飛行機が飛ぶくらいの高さだ。雲が薄く漂っていて、地上を見ると、緑あふれる樹木が広がっていた。川も流れているみたいで、上空から見ても分かるほど大きい。あそこならここから落ちても衝撃は和らげられる筈だ。…多分。

 しかし、幹比古が落下する真下だけはみどりは綺麗に抜き取られたようになく、地面がはっきりと見え、徐々に米粒のように見えてきたのは、民家だった。直接地面に叩きつけられれば間違いなく命はない。更に言うと、もし民家に落ちても内装がどうなっているとか、住人がいるかとか分からない状態でもしもの事があったら始まって早々に自分はみじめな最後になって、悪夢を見続け、魘される夜を当分は見る事になるだろう。それだけは何とかして避けたい。…絶対に避けたいっ!

 

 

 「そうだ!札があったはず…。」

 

 

 いつも肌身離さず携帯している特製の札を探し出す。徐々に近づいてくる地面との距離も猶予がない事を示してきている。急いで身体中に手を回してポケットを確認するが、札一枚も見つからない。寝る前にもちゃんと確認したのに…。

 

 

 ”あ、ここ、夢の中ですから札なんてないですよ~。ついでに言うと魔法は使えないから。あくまで自力で頑張ってください!では~。”

 

 

 突如として聞こえてきたあの少女の声の言葉が幹比古の顔色を青白く染める。

 

 

 「…って! それならこの状況~~!!どうすればいいんだ~~~~~!!!!」

 

 

 身が縮まるような感覚が身体に張り廻る中、必死に助かる方法を考えようとするが、地面が迫ってくる視界を目にして、そんなこと考えられるはずがないじゃないか!目を瞑る事も恐ろしい…。試しに何度も魔法を使おうとしたが、起動式を読む事も出来なかった。

 ここは夢の中。構造上の情報を夢の中で再現しただけに過ぎないこの状況で、実際に魔法を使えることは無い。精神干渉魔法なら使えそうだが。

 

 しかしあいにく幹比古にはそんな魔法を修得してもいないから、無理だ。

 

 

 …という事で、ついに民家の輪郭がはっきりと見えてくる所まで落ちてきた幹比古は、あと数分もしない内に地面に叩きつけられる事を悟った。

 

 

 「…どうせなら、こんな夢じゃなくて、もっと幸せに包まれた夢を見たかったよ。」

 

 

 そう呟いて、反動で目を瞑った。その光景には地面に顔面から突っ込むイメージが浮かんだ。

 

 

 

 

 バシャ~~~~~~ン!!!

 

 

 

 

 

 

 しかし、痛みがあるものの、幹比古の身体はなぜか水…、いやお湯の中にいた。水に突っ込んだ事で顔面が痛かったが、辛うじて生きているようなので、お湯から出ようともがく。しかし、やけに狭い所のようで、起き上がるのに時間がかかった。そしてやっとの事で水面に顔を出すと、そこには人の顔の輪郭が目に入った。

 

 

 (誰なんだろう?)

 

 

 顔に付いた水滴を手でふき取り、再び視界に入れるとそこには、見知った少女が幹比古の顔を覗き込んでいた。

 

 

 

 「あ、あの~~…? 大丈夫ですか? お怪我はありませんでしょうか?」

 

 

 その少女の顔を見て、思わず驚愕したが、口は素直なのか、一言つぶやく。

 

 

 「………柴田さん?」

 

 

 まさかの美月との対面に心底驚きを見せる幹比古だった。

 

 

 

 

 

 

 




落下して落ちたところで、美月と逢えるとはね~~。良かったね~~、幹比古~~!!ここからが男の見せ所だぞ~~?


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巨大で、豊満で…

思わぬ感じで出くわした幹比古。…ハッピーエンドまでいけるかな~。




 

 

 

 

 

 

 つい先ほど、上空から落下してきたと言うのに、目の前の見知った密かに思いを寄せている彼女と逢えるとは思っていなかった幹比古。そのせいか、思考が追い付かず、放心状態だ。

 

 

 「あの~…、聞こえていますか? …へ、返事ありません…!!もしかして頭を強く打って…!!大変!!すぐに工藤先生をお呼びしますから!!」

 

 

 一方で、突然降ってきた幹比古に対して以外にも恐怖を感じるどころか、逆に身を案じて医者を呼ぼうとする美月(仮)の方は慌ただしく動き出す。…と言っても、医者を呼ぼうとするが、やはり激しく動揺しているのか、手をパタパタさせ、オロオロと首を動かす。そして少し冷静になったところで、医者を呼びに行こうとし、床に置いていた桶に躓いて転んでしまう。

 その光景を放心していた幹比古が我を返す事になり、すぐさま湯から出て、美月(仮)へ駆け寄って体を起こしてあげる。

 

 

 「だい、大丈夫ですか? 柴田さん…!」

 

 

 「はぁい? あ…、はい、大丈夫です。それよりも貴方様の方が大変です!先ほどお返事もできないほど、強く頭を打ったみたいですし、今から医者様をお呼びしますから、お待ちください!」

 

 

 「あ、大丈夫です! 少し状況を理解するのに手間取っていただけだから。それにどこも痛くないし、医者も呼ばなくていいです。」

 

 

 「本当ですか?…確かに怪我はなさそうですね?あれ? 何でですか?」

 

 

 「…僕にもわからないかな?」

 

 

 美月(仮)が幹比古が怪我をしていないか目視で確認するために少し近づく。それに少し緊張する幹比古だったが、美月(仮)の問いかけに自分自身も疑問を感じる。

 

 

 (確かに…、柴田さんを気遣うつもりで言ったけど、良く考えたら身体中どこも痛くないのは本当だ。あんなスカイダイブして、民家の屋根から落ちてきたんだ。本当なら全身骨折して立てないどころか、歩けなくなっている。…最悪の場合は屍になっていたのは間違いないな~。

  それでも何事もなかったように動いている。自分の意思でも動かしている。

  …もしかして、ここは夢だから?)

 

 

 頭が冷えてきたからか、冷静に物事を考えられるようになった幹比古がここは夢の世界だと思い出す事が出来た。突然の出来事で現実だという事を忘れるほど衝撃的な疑似体験だったのだ。それが分かると、幹比古は夢世界では自分の意思で動く事もできるし、傷を受けても問題はない事をやっと理解した。ただし、慎重な幹比古は、致命傷の場合も無事で済むとは思えなかった。(…今体験した出来事が既に致命傷の類にはいるとは思うのだが、幹比古の頭の中では、美月(仮)と逢えた幸せで範囲外になっていた)

 やはり、なるべく人命にかかわる事は避けようと決めた。

 

 

 「…あの」

 

 

 ふと声を掛けられた幹比古は、自分が思いのほか、考え事に集中していた事に気づき、顔を上げた。そして固まる。

 美月(仮)の顔が幹比古の顔を覗き込むようにして心配そうな表情を浮かべていた。その距離は幹比古が立ち上がろうと動けば事故が起きる距離だ。(何の事故かは想像に任せる) 至近距離での美月(仮)のほっこりとした顔つきに優しげな雰囲気に幹比古は鼓動を昂らせる。

 だが、この状況にまだ気づいていない美月(仮)は幹比古の額に手を伸ばして熱を測る。

 

 

 「…熱はありませんね。 でも、顔が赤いです。」

 

 

 (そ、それは柴田さんが、可愛い顔で見つめてくれるから…!)

 

 

 心の中で想いを語る幹比古。 美月(仮)の顔を直視できずに辺りを見渡す。すると、自分が今どこにいるのかを再認識し、更に顔を真っ赤にする。

 

 二人がいる場所は、なんと風呂場だった。正確に言うと、銭湯だ。公衆の人が集まる大きな浴場が広がっており、湯気がたちこむ。

 

 幹比古が落ちた場所は、数人用の浴場だった。だから落ちた時お湯であったし、二人の近くには先ほど美月(仮)が躓いて転んだ桶があり、億には積み上げられた桶がある。

 

 

 (僕はなんてところに落ちてきたんだ~~!!)

 

 

 慌てて美月(仮)から少し距離を取って立ち上がる。美月(仮)はいきなり立ち上がった幹比古に驚き、顔を見上げて様子を窺う。

 

 

 「あ、じゃあ僕はここで失礼します!」

 

 

 一刻もここから出ようと美月(仮)に腰を折って挨拶する。すると、間近で見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美月(仮)の巨大で豊満な胸(おっぱいともいうな~)を。

 

 

 白い着物を着ていた美月(仮)は、湯気や汗で透けた胸が曝されていた。それに気づいていないため、前かがみで立ち上がろうとする。余計煩悩を刺激させる光景にとうとう幹比古の限界が到達し、顔を真っ赤にし、鼻血を出してそのまま気絶してしまう。

 

 

 

 かくして、幹比古は銭湯で鼻血を出して気絶してしまうという失態を披露した。倒れた美月(仮)は今度こそ慌てて飛び出し、医者を呼びに行くのだった。肌が透けて見える白い着物を着たままで…。

 

 

 

 

 

 




まぁ、目的はあの少女が化けている少女とイチャイチャしろってわけだから、幹比古は前途多難だったり?

これからもこういう事があると思います! 幹比古…、耐性付けていこうぜ!


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眠れる幹比古の目覚め

美月(仮)ってしていたけど、まだ美月とは断定していないからである。


 

 

 

 

 

 

 

 「う……や、やめて………こ、困る…困り…ます…! し、柴田………さん……」

 

 

 何かに魘されて汗を掻いている。

 

 熱があるのか、顔も真っ赤に染めている。

 

 こんな状態で布団の中で眠っている少年は、正しく幹比古自身だ。

 夢見が悪いのか、寝心地が悪いのか…。たまに無意識で身体を横にしたりするが、余計に顔色が青に変わっていく。その度に身体を元に戻す。その繰り返しだ。意識がない幹比古を寝かせているのは誰か…はすぐに分かるだろう。

 

 

 

 

 

 それから数時間後、やっと重く閉ざしていた瞼を開け、魘される夢から解放された幹比古は、ぼやけた視界で木材でできた天井を映し出す。(そもそもここ自体が夢であるんだけど)

 心地よい風と木の香りが眠気覚ましのように、幹比古をリラックスさせ、意識が徐々に回復していく。幹比古の家は和風屋敷でもあり、精霊使いという古式魔法を修得する一族なだけに自然の気には敏感である。そしてそれが力でもあり、幼い頃から親しんだものだ。数度寝た状態で深呼吸する。するとぼやけていた視界が完全に復活し、自分が今どんな状態なのかを首を左右に振る事で状況を理解しようとした。本当は身体を起こした方が全体を見渡せていいが、身体に力が入らない。視界は回復しても、身体の方が上に岩でも乗せられているように圧迫された感覚を覚える。更になぜか腕にも力が入らない。寝ていたはずなのにとてつもない疲労感や気怠さが幹比古の身体の自由を奪っていた。

 それに、熱いのだ…。

 

 身体中に巡る熱さで全体に汗を掻く。布団も被っているため余計熱が閉じ込められ、余計に汗を掻く。この状況で分かる事と言えば、どうやらここは風呂場ではないという事だけだった。

 

 

 (…あれ? 僕は何で風呂場ではないと知ってほっとしたんだろう?)

 

 

 ほっと息を吐き出しながら、疑問が頭の中に浮かび、自分の意識がなくなる前の記憶を呼び起こしていく。

 

 

 (え~~っと、確か空から落ちて運よく民家に落ちて…そこで、柴田さんに逢って…!!)

 

 

 順に追って思い出していた幹比古は、倒れる原因になった出来事を思い出し、赤くなっている顔を更に真っ赤にする。体温もさらに上昇する。まさか好意を寄せている少女の魅力の一つを間近で拝んでしまうとはあの時思わなかった。

 

 今でも鮮明に覚えている記憶を振り払おうと動く首を激しく振る。そこにふすまが開く音が幹比古の耳に入る。音がした方へ首を振ると、そこには今まさに思い浮かべていた美月(仮)が立っていた。

 

 

 

 「あ、お目覚めです…か?」

 

 

 「え、ええ…。あの…僕は…」

 

 

 「貴方様は極度の貧血と湯冷めしてしまった事で気絶してました。それから熱も出されたので看病させていただきました。」

 

 

 美月(仮)の説明で幹比古はようやく自分が熱を出していたんだと理解した。この気怠さも熱の所為だと思えば納得した。それにあれだけの上空からダイブさせられていたんだ。身体も冷えていたし、緊迫した状態からいきなり湯を被ってしまえば神経が驚いて急激な気の廻りを起こし貧血になっても仕方ない。

 …そう幹比古は自分に言い聞かせた。

 

 …決して美月(仮)の豊満な胸を間近で目撃して気絶したのではない、と。

 

 

 しかし敢えて言っておこう…!

 

 

 幹比古よ、それが真実なのだと。

 

 

 




ゆっくりとじわじわとフフフな展開に持っていきましょうかね?

次回は幹比古…がんばれ!ドンマイ!(鼻血)


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羞恥で語る名

弱っている幹比古を看病する美月(仮)…。なにがある?


 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの~…、食欲はまだ出ませんか? あれからずっと寝込んでいらっしゃったので、何か食べる物を…」

 

 

 「あ、え、い、良いんですか!?」

 

 

 「はいっ! も、もちろんです。 すぐに持ってきますね。」

 

 

 いきなり幹比古がテンションを上げたため、驚いた美月(仮)は、そのままそそくさと部屋を後にする。その後ろ姿に幹比古が手を伸ばし、何かを言おうとするが、良い言葉が浮かばずに、見えなくなってしまった。

 

 せっかくいい雰囲気になるかもと思った矢先に怯えさせてしまった幹比古は、自分の頭を思い切り殴る。ただし、熱と気怠さで思うように力は入らず、瘤にもならなかったが、それでも頭を揺らす効果はあり、熱で火照った脳にダメージを与えるには十分だった。

 

 

 「どうして僕はいつも……!」

 

 

 激しい後悔が自分の中で湧き上がってくるが、それよりも美月(仮)の前で醜態を曝し続ける自分に対しての羞恥心の方が勝って、自分が情けなく思えて仕方がない。

 

 もしかしたら美月(仮)の手料理が食べれるかもしれないという嬉しさが隠しきれなかったために彼女に距離を置かれてしまう結果になろうとは…。

 

 

 深い溜息を吐き出し、かなり落ち込む幹比古。

 

 相当ショックだったようだ。

 

 それでも今の状況がある程度理解できてきたためか、すぐにポジティブに物事を誇んでいく。…いつもはもっと冷静に物事を捉えて備えを蓄えるように動くが、今は熱と貧血で思考が働かないばかりか、目の前の幸運と夢にまで見た美月(仮)とのシチュエーションで、いつもの幹比古とは違って、美月(仮)と今まで以上の関係を築こうと考えているのであった。

 

 

 「これはあくまでも親睦……! 親交だ!! な、何も美月さんといい雰囲気になってむ、結ばれ……、とか、そんな大したことは考えていないから…!

 

  ただ、さっきの挽回はして、良い所を見てもらいたいっていうだけだから…!」

 

 

 幹比古以外誰もいない部屋で弁解する幹比古。もしここにエリカがいたら、「やっと美月に告白する気になったんだ~~? ふ~~~ん? ミキの事だからずっとウジウジするだけで終わっちゃうって思ってたんだよね~~!」と人の悪い含み笑いを見せながら、いつものようにからかっていただろう。

 

 

 「エリカには関係ないだろ!? それに僕の名前は幹比古だっ!」

 

 

 そしてそれは幹比古にも感じ取ったのか、脳裏にエリカの「からかっています」という笑みを隠そうともしない姿が過った幹比古がいつものように妄想のエリカに言い返す。

 

 

 「え? 誰か来てました?」

 

 

 そこへタイミングがいいのか、悪いのか、美月(仮)が入ってくる。

 

 幹比古の独り言が廊下まで響いていたらしく、襖を開けた美月が部屋に入るときょろきょろと人の姿を探す。幹比古は慌てて話を逸らしにかかる。

 

 

 「い、いえ! ちょっと……、は、発声練習していただけですので! ずっと寝込んでいたせいで、なんだか喉が詰まった感じがしていたので。」

 

 

 「そうだったんですね。 それなら食事の前にお水でもお飲みください。」

 

 

 内容まではしっかり聞こえていなかったようで、すぐに幹比古の苦しい言い訳を信じる美月(仮)。微笑みながら水をくれるその姿に一度気合を入れるために咳払いするほどときめいた幹比古は、水を飲む事で理性をコントロールする。

 

 そこで、そう言えば美月(仮)が自分の事を”吉田君”とは言わないと気づき、もしかして自分だと気づいていないのかという疑問から、お礼すると同時に名を言っておこうと口を開いた。

 

 

 「そう言えばまだお礼を言えてなかったよね?

  助けてくれてありがとう。僕の名は……」

 

 

 「あ、”幹比古”さん………ですよね? さっき廊下で『僕の名前は幹比古だっ!』って言っていらっしゃいましたものね~。 すごく貫禄があって、良かったです! 日頃から言い慣れているみたいな……。」

 

 

 「あ……、はい……、僕……、吉田幹比古……と言います。」

 

 

 にこにこと笑顔を浮かべて幹比古を見ている美月(仮)の空気を呼んでいない天然発言に幹比古は、告白する勢いで名を語るつもりがまたしても羞恥心を感じる事になり、激しく落胆する。

 

 一回り程年を取ったのではないかという落ちこみ様に、美月(仮)がおろおろとしながら「どうしました?幹比古さん? もしかして体調が悪化して…」と話しかけるのであった。

 

 

 




うんうん、美月はこういうキャラだよね~。 


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明かされる名

幹比古~、男を見せる時だぜ。


 

 

 

 

 

 

 

 「だ、大丈夫です。少し眩暈がしただけだから。しばらくしたら元に戻ります。」

 

 

 自分の背中を擦りながら気を使ってくれる美月(仮)に、嬉しさと名残惜しさを感じるが、これ以上は自分の体調が悪化する(欲望が刺激されそうで)予感がしたため、美月(仮)と一定の距離を取る。

 

 上半身に力を入れ、姿勢を正した後、改めて自分の名を告げる。先程の自己紹介はあまりにも情けないし、恥ずかしい…。

 

 

 「先程は失礼いたしました。改めまして、吉田幹比古と申します。よろしくお願いいたします。」

 

 

 ただ、緊張しまくっているので、初対面にする堅苦しいものとなってしまった。言った後で、しまったと思ったが時はすでに遅し。知り合ってかなり経っているのに、これでは不快に思うどころか、嫌われてしまう。幹比古は心の内で激しく動揺する。

 去年のバレンタインの時、実家の道場の門下生達(女子)からチョコを大量にもらった事で、珍しく美月からジト目を向けられ、精神的に一番ショックを受けたのだ。あれを思い出すと、未だにその時のショックが蘇ってしまう。だから今年のバレンタインは門下生達には申し訳ないが丁重にお断りさせてもらったほどだ。

 だから、美月から決して嫌われないように行動する事を誓っていただけに、何としても挽回したかった。

 

 

 「あ、氏は吉田様ですね。…なら、お部屋を変えた方がよろしいですよね?」

 

 

 「え、どうしてですか?」

 

 

 幹比古の苗字を聞いて、妙に慌てだす美月(仮)の様子を不思議に思いながら尋ねる。敬語が抜けてないのは、美月(仮)が恭しい態度を取り始めたため、気を抜く暇が持てないからである。

 

 

 「吉田様は武家の御出の方ですよね? そのような人がこのようなお部屋でお寛ぎされるには気を害されるかと思いまして…。」

 

 

 「いや、僕は…武士ではないです。」

 

 

 「え?…だって氏があります。それに雰囲気もどこか礼儀を重んじている方に似ていますし…。」

 

 

 美月(仮)の言葉でようやく納得できた幹比古。町民や農民には身分が低い時代ではまだ苗字は持っていなかったという事を歴史関連の書物で読んだ事があった。それに幹比古の実家は代々の古式魔法師の家系であるため、日頃から鍛錬や古風な礼儀等は叩き込まれている。それ故に今上半身を起こしていても、熱があるというのにしっかりと佇まいを直して背筋を伸ばして起き上がっている様子と凛とした自己紹介をしたお蔭で格式高い身分のものだと勘違いしたのだ。

 

 

 「違いますよ、武士ではないですけど、武芸はやっていますし、物心つき始めた時からそれなりに習い事などをしていたので、そう思ったんだと思います。

 

  …はぁ~、あの、すみませんが気楽にしてもらってもいい?なんだか君に敬われるようなことはしていない訳だし、普通に話したいんだ。」

 

 

 さすがに美月(仮)と堅苦しい話し方に限界が来た幹比古が削素話を持ち掛ける。美月はその提案をしばらく考え込んだ後、頷いて受け入れる。

 

 

 「分かりました、吉田……さん?……とお呼びすればよろしいですか?」

 

 

 「えっと……」

 

 

 少しは気楽になった美月(仮)に呼び方を聞かれ、幹比古はどうするか迷う。エリカのように『ミキ』と呼ばれる事はないと断言できる。(逆にエリカが傍にいれば、天然な美月(仮)は信用して読んでしまうかもしれないが。)だが、いつものように『吉田君』と呼ばれるのはなんだか物足りなさを感じる。

 脳裏で天使な自分が「いつもと変わらなくていいじゃないか。これから少しずつふれあって行けばいいんだから。」と、囁きかけてくるのに対し、悪魔な自分は「せっかくなんだし、ここは幹比古さんでもいいんじゃないか? 名を呼ばれたらキュンと来るのは必須。今の内に免疫力を高めておくのも悪くない。」と、語りかけてくる。

 

 

 この脳裏の囁きによって、とうとう幹比古は、『幹比古さん』と呼んでもらう選択に出たのだ。

 

 

 「それじゃ、幹比古と呼んでください。」

 

 

 「はい、分かりました。」

 

 

 「…ところで君の名を聞いていなかった。」

 

 

 「私ですか?…私の名は」

 

 

 やっと名を聞けると嬉しく思う幹比古の期待は大きかった。

 

 

 

 

 「………申し遅れました、ミツと申します。」

 

 

 

 美月(仮)がミツという美月とは違う少女だと知り、幹比古の勝手に抱いていた期待は吹き飛び、美月そっくりの目の前の少女を上から下まで首を動かして確認し、絶句するのであった。

 

 

 

 (全くの別人だった……なんて……)

 

 

 




ええ~~~!! 美月じゃなかった!!

つまり幹比古は美月ではない少女にドキドキしていたって事になる…?
まずくないか?それ。


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葛藤しまくる幹比古

美月にそっくりな少女だったなんて!
ここからどうするんだ?


 

 

 

 

 

 

 まさか目の前の少女が美月ではなく、美月にそっくりな『ミツ』という少女だったと知り、幹比古は今まで抱いていた感情が爆発しそうになる。

 美月だと思っていた分、「仕草や表情が可愛い」とか、「天然なところも柴田さんらしい」とか「そう言う所が僕が柴田さんに惹かれたんだよな…」とか考えていた。それが別人を見て、考えていたなんて思うと、美月以外の女性に好意を寄せていた自分が嫌になってくる。しかし、幹比古が美月だと思っても無理はない。見分けなんてつかないほどそっくりなのだから。

 黒髪が肩まで伸び、綺麗に整えられているし、その髪を一掬いして後ろで簪を挿して留めている。大きく開いた優しげな目も豊満な胸も……、同じだ。纏っている雰囲気もこれまでの言動も美月にそっくりだ。念入りに確認するようにミツを観察する幹比古。それはミツが異様なほど幹比古が顔を覗き込んでくるので、顔を赤らめるぐらいだ。この反応も同じだ。

 確認するたびに美月しか思えない幹比古だった。しかし、今まで美月一筋に恋心を胸の内で育んできた幹比古にとっては、例え美月そっくりな少女でも他人である限り、全くの別人なので、その別人に好意を寄せるのは、二人に失礼なのではないかと罪悪感と羞恥心、それに自分に対する怒りとも情けなさとも何とも言えない複雑な心境が沸き起こり、余計に自分を責めるのであった。

 

 

 (僕は柴田さんにも、ミツさんにもなんてことを…!

 

  人間違いして不愉快な思いをさせてしまう事をしていたなんて…。そりゃ、そっくりすぎてびっくりしたし、間違えても仕方ない…とか思っては…ない。ないから!

  ………いえ、思いました。すまない…! ほんの少し…だけだったんだ!

  でも、想いを寄せている相手のふとした変化や違いも見抜けないなんて、恥ずかしいじゃないか!? 『好きな女の事なら、何でも分かる』…とかいう格言めいた台詞を実家の道場で稽古をつけている門下生たちが話しているのを聞いた事はあるし、それが当たり前だと門下生の女子達が断言していたのも見ていた。

  それができていない僕って、このまま柴田さんを好きでいる資格ってあるのかな…?)

 

 

 頭を抱えて終いには、美月への愛が少なかったんだと思い始め、今まで美月へ向けていた恋心を最上級で、これほど強い愛情は誰にも抱かないだろうと思っていた内なる幹比古の自慢を打ち砕いた。まだまだ愛情が足りていなかったと考え、途端に美月が離れていく感覚に身体が恐怖する。考え事をする際、脳裏にジト目で見てくる美月が思い浮かび、動揺する幹比古。今の幹比古は更にその後ろでエリカにくどくどと説教を受ける幻影を見るくらい、かなり落ち込むのだった。

 

 

 こんな感じでショックを受けるくらい美月への愛を持っている幹比古。余談だが、この夢から覚める時、実はこの夢世界を作ったあの少女が、みんなの記憶から親しい人物のデータを取りだし、キャラを作り上げた事を聞かされるのだ。つまり、幹比古の記憶の中の美月のデータをこの世界におけるキャラとして登場させていたのだ。だから似ていて当然。中身は美月なのだから。ただ美月の意識が入っていないだけ。

 

 しかしこの時はそんな事とは知らない幹比古は、ただ目の前の衝撃的展開に絶句するしかなかった。

 

 

 




幹比古、恋に正解とかはないと思うよ? ここは素直に認めな。

相しないと、これからもっと落ち込んでいきそうだわ~。


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新たな下宿人

幹比古よ、羽ばたけ~~!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 美月そっくりな町娘の少女、ミツに介抱されながら過ごして早二日。

 

 すっかり崩していた体調も改善し、ようやく布団から起き上がれるようになった。まだずっと寝込んでいたせいで、若干身体の関節に痛みやだるさが残るが、これは運動しないといけないという合図だという事で、問題はない。

 だが、この後が問題だった…。

 

 

 「幹比古さん、体調はもうよろしいのですか? まだ休んでいた方が…」

 

 

 「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。それより、ミツ…さんに色々と面倒見てもらったのに、何も恩をお返しできなくて。」

 

 

 「いえ、私の方は気になさらないでください。困っている人を助けるのは当たり前ですから!」

 

 

 優しく微笑みを見せるミツに幹比古は言葉を失いそうになり、思わず自分の頬を殴る。あれからなんとかミツを美月だと思わないように、別人だと言い聞かせ、普段通り話す事が出来た。…といっても、幹比古は普段気負わずに話せるのは、達也たちや家族くらいだ。実家の道場の門下生とは、鍛錬を通してなら会話が成立するが、それ以外だと緊張してしまい、美味く話がまとまらなくなってしまう。元々人見知りだし、それも自覚しているが、達也たちと行動を共にするようになってからは改善は進んでいた。しかし、未だに初めて面識を持つ相手に対しては人見知りの部分が出て、自分から話しかける事は少ない。

 風紀委員長である幹比古が、風紀委員の定例会議でたまに噛んでしまって、風紀委員たちのちょっとした気分発散にもなっているくらいだ。

 そんな幹比古なのだが、今回はミツの外見が美月に瓜二つのため、緊張感もなく、普段通りに会話も成立していた。

 

 初めの時は、見分けがつかない自分を責めていたが、ふと美月ならかけている眼鏡をしていない事に気づき、別人だという認識を持つ事が出来た。美月は「霊子放射光過敏症」という症状を緩和するために、眼鏡(オーラ・カット・コーティング・レンズ)を常に装着している霊視能力者。幹比古のような古式魔法師から言うと、希少な才能とされる『水晶眼』の持ち主だ。並外れた霊視力のため、眼鏡がないとその波動で気絶する事もある。眼鏡をつけていない段階で気づくべきだったと今思えば、そこまで頭が回らなかった事に悔いる幹比古だった。

 

 

 「ところで、幹比古さんはこの後どうされるのですか?」

 

 

 美月の言葉で我に返った幹比古はどう答えようか戸惑う。

 

 人見知りの件や体調は問題ない。しかし、この後どこかに行く当てとかもないし、この夢の世界を脱却するための方法もまだ理解しきれていない。この夢の世界についても知らない。完全にお手上げ状態だ。

 まずは情報集めする必要があるが、いきなりここから出たとして、上手く立ち回れるのかと聞かれると、答えは無理だ。もしかしたらこの世界に達也たちも来ているかもしれないが、それを訪ね回って、いざこざに巻き込まれるかもしれないと思うと、億劫な気分になる。

 

 返事に渋っていると、助け舟が入った。

 

 

 「あら、幹比古さん。 もう起き上がっていいのですか?」

 

 

 この宿の女将が部屋に入ってきた。

 言い忘れていたが、幹比古がお世話になっていたのはこの町でも評判の下宿で、この女将はミツの母親だ。一度護衛の名目で美月を自宅まで送った際に美月の母親とも挨拶をしたが、その時の母親の姿と瓜二つだった。幹比古はもうすっかりこういうものなんだと認識している。

 

 

 「ええ、お陰様で。本当にありがとうございました、女将さん。」

 

 

 「良いんですよ、困ったときは助け合いですから。」

 

 

 ミツと同じことを言う女将に、ふと親子なんだなと思った幹比古に、女将が言葉を続ける。

 

 

 「それよりもこの後、どこかに行く当てでもあるんですか?」

 

 

 「あ、いえ…、それが…」

 

 

 「あら~…、やっぱりなのね~。」

 

 

 「…へ?」

 

 

 「お母さん、お医者様の仰られた事は正しかったのかもしれません。」

 

 

 「そうね…、このまま見送るのも心配だし…。」

 

 

 「あ、あの~、どうしたんですか?」

 

 

 親子だけで話が進んでいく様子に幹比古は問いかける。幹比古の頭の中は疑問だらけになっていた。

 

 

 「ああ、この前お医者様をお呼びした際、頭を強く打っているため、もしかしたら記憶があやふやなところがあるかもしれないと、打診を受けていたんですよ。問診の際、答えに詰まってしまう所もあったようですし、所々記憶が抜け落ちているんでしょ?名前以外分からないようですしね。」

 

 

 女将が説明してくれるが、幹比古は心の中で過振りを入れていた。

 

 

 (違います! それは答えなかったんではなく、答えられなかったんです!

  身分は?とか聞かれてもこの世界のものではないし、言えないですから!まさか問診を渋っていただけでこんな勘違いされるなんて…!)

 

 

 内心では必死に否定しているが、一方で冷静に物事を判断している自分もいて、この状況は有利だと、このまま勘違いされた方がいいと何も言わないのだ。

 

 

 「ですから、記憶が戻って、幹比古さんが家に帰られるようになるまで、この宿にいてくれていいですよ。ちょうど部屋の空きがありますし。」

 

 

 「お母さんが言っている通り、私達はここにいてもらってもいいですから!」

 

 

 「…あ、有難うございます。 では、僕も何かお手伝いします。恩返しさせてください。」

 

 

 …という事で、幹比古は命の恩人である女将とミツが経営する下宿人となり、ここで手伝いをする事になったのであった。

 

 

 




おお~~!!これって、いうならば、彼女の両親とお試し生活…と言えるのではないか!

幹比古! 頑張れよ~~!!


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父親への感謝

今回は独自設定が入っています。



 

 

 

 

 

 

 

 

 「いらっしゃいませ~!」

 

 

 「いらっしゃいませ! お二人様ですか?」

 

 

 「ああ。ちょっと長旅してきたところでね~、悪いけどしばらく泊まらせてもらうよ!」

 

 

 「くわ~~! もう足が漬物石のように重いっすわ~。もう疲れちまったっすよ~、兄貴~。」

 

 

 「それは大変ですね。ではこちらへどうぞ。お部屋に案内させていただきます。」

 

 

 ミツとミツの母親である女将が切り盛りする下宿に二人の若い男性が宿泊するためにやってきた。ここは下宿もしているが、その一方、宿屋もやっている。まぁ、どちらかというと宿屋の方が本業のようだが。

 この下宿がある地は江戸の城下町で、その中の主に江戸にはるばるやってきた商人や旅人が多く集まる区画にある。だから、その人達に宿を提供して、切り盛りするのがミツ達の生業だった。

 

 

 早速お客を部屋に案内する女将がちょうど廊下を拭き掃除していた幹比古に声を掛ける。

 

 

 「幹比古さん、ここはもう結構ですから、宿屋の前を履き掃除してくれません?」

 

 

 「あ、はい。分かりました。…いらっしゃいませ。」

 

 

 幹比古は手拭を桶の中に入れ、すぐに片付けると女将の後ろにいる二人の男性客にお辞儀する。女将は笑顔で一度頷くと、御客を連れて、奥の部屋へと向かった。

 

 ここでお世話になって、数日しか経っていないが、幹比古はあっという間にこの下宿に解け込んでいた。初めは宿中の掃除や壊れた屋根の修理(幹比古が落っこちた場所)をお願いされていたが、幹比古は隅々まで綺麗に掃除し、埃一つも見逃さずに熟した。掃除が終わった後は、新品のような家財が並び、きちんと整頓もされていた。これにはさすがに女将も驚いた。まだ幹比古が武士の家系だと内心思っていただけに、自分の力で掃除を仕切るとは信じられなかったのだ。

 

 幹比古から見れば、当然の結果だったのだが。

 

 幹比古は古式魔法師の家系。家は武家屋敷のような日本家屋であり、屋敷自体も広い。立派な屋敷である故、家屋に使われている古来の技術や建築に関しては父親からこの家を護るためにもと、兄と共に学んだのだ。…この家には神が棲んでいる。決して神の住まいを失わせてはいけないのだ、と。

 そして、精霊と共に生きる吉田家は、いついかなる時も精神を清める必要があった。その方が精霊とのリンクがしやすいだけでなく、精霊を暴走させる危険性も減り、なおかつ古式魔法師として大事な自然の賜りを肌で感じ、より感覚が鋭くなり、神に仕えられるようになると信じられていた。そのために自分の身の回りの事は自分で行うよう、幼い頃から指導を受けていた。掃除もその一環で、掃除は自分の心を掃除する事と同じだと徹底的に教え込まれていた幹比古だった。

 だから、女将が驚くほど、見事な掃除を成し遂げたのであった。

 

 しかし、ここまでされると、せっかく与えた仕事があっという間に終わってしまう。そこで女将は、宿だけでなく、庭先や宿屋前も掃除するように頼むようになったのだった。今日もそのように、幹比古にお願いしたのであった。…他にもう一つ、理由があるのだが、それはまた次で。

 

 

 「さて、次は外を掃くか。それにしてもこんなに充実した仕事ができて幸せだな~。良い精神修行になるよ。」

 

 

 一人で納得し、にわかに汗を掻いているのに、清々しい笑顔を浮かべている幹比古は、桶に入った水を捨て、片付けた後、箒を持って宿屋の前へ歩いていく。

 

 ちょうど自分の心にできた邪な恋心を清めるのに掃除ができてよかったと、女将に心の中でお礼をし、この掃除の術と心得を教えてくれた父親へ感謝を持つ幹比古は、この後ちょっとした騒ぎに巻き込まれる事になるとはこの時はまだ知らなかった。

 

 

 




理屈を述べてみた。これが自分にも言える事だとおもったな~。

…部屋が散らかっている部屋。……片付けるか。


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君は僕が守る!

おお~~!!これは幹比古が頑張ってくれる予感!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 下宿の玄関にやってきた幹比古は、玄関先でなにやらもめ事が起きている声が耳に入り、眉をひそめる。ここはいわば民宿のような場所だ。その玄関先で騒ぎなんてされたら、営業妨害になるし、今後の影響も考えると好ましくない展開だ。ここでお世話になっているのだから、お役に立たないといけない。その熱意が幹比古へもめ事の仲裁に入る決意を固める。それに幹比古は風紀委員長として、一高内の巡回でも仲裁や校則違反者の取り締まりもしているため、この状況には慣れてもいて、それが幹比古の決意を後押ししていた。

 

 草履を履き、店先に出ようとした幹比古。だが、次の瞬間不意に聞こえてきた声で足が止まり、無表情になる。

 

 

 「は、離してください!! 私はそんなつもりはありません!!」

 

 

 「そんなに怯えなくてもいいだろ? 俺達はあんたを買ってやるって言ってるんだ。金だって払ってるんだし、これから俺達に付き合ってくれりゃ~良いんだよ!」

 

 

 「そうだ。ちゃんとれっきとした商売をしたつもりだぜ? だったらお客の期待に応えるのがお前の示す”誠意”ってやつじゃないのか~?」

 

 

 「…それともこの下宿では、御客に対してぞんざいな態度を取ってもいいっていうのかよ?大した店だな~! なんなら、この辺り一帯の飯屋を巡って騒いでもいいんだぞ~。『あそこの下宿はとんでもねぇ~最悪な店だ!』ってな!」

 

 

 「そ、それは駄目です! そんなでたらめな言い分が通るとでも…」

 

 

 「通るんじゃないのか~? この町の連中にはきかねぇ~だろうが、地方の旅人はろくでもねぇ~宿屋だと思っても無理はないだろ? そうなると困るのはどっちか…、言わなくても分かるよな?」

 

 

 「……………」

 

 

 「よし、なら俺達と一緒に遊んでくれよ。ほら…!」

 

 

 「痛っ…! だから離してください!!」

 

 

 明らかにナンパにしては度を越したやり口に幹比古は怒りが込み上げてくる。しかもミツの悲痛な叫びを聞いては黙って見過ごすなんて真似、するはずもない!

 

 

 店ののれんを潜り、店先に出てみると、すぐにミツと三人組の若い男達がおり、ミツを囲んで迫っていた。…まるでミツを逃がさないようにしている雰囲気で。それが却って幹比古の怒りを煽る事になる。

 

 

 「申し訳ありません。店先ですので、争い事はご遠慮ください。」

 

 

 怒りで我を忘れそうになるほど、目の前の若い男達を成敗したい気持ちだ。最初は穏便に話しかけた方がいいと考え、話しかけたが、ミツが幹比古を見た悲痛な助けを求める目には恐怖を感じていたのだろう、涙がうっすらと浮かんでいた。幹比古はもうこの瞬間、彼らを許す気は毛頭なくなったのである。

 

 

 「争ってなんていないですよ~?ちょっと俺達この町に来たのは初めてなんでね。ちょっとお宅の娘さんに町を案内してもらいたくてお願いしていただけですよ~。」

 

 

 白々しくあくまで町案内をお願いしている風を装う彼らに幹比古は鼻で笑う。それを見て、男達の内の一人が掴みかかってきた。

 

 

 「何だてめぇ~! 何笑ってやがんだ! 俺達は町案内をしてもらうだけだと言っているだろうが! 」

 

 

 「いや、すみません。あまりにもそうは見えなかったんで。無理やり連れて行こうとする怪しい集団にしかまるで見えない方々が町案内なんて言ったので、おかしくてつい。」

 

 

 「てめぇ~…! 」

 

 

 幹比古の胸倉を掴んでいた若い男が拳を振りかぶり、幹比古の顔目掛けて殴りにかかる。ミツから悲鳴が零れ、騒ぎを聞きつけた周囲の店々から人が現れる中、それが起きる。

 

 誰もが幹比古が殴られたと思った。

 

 

 しかし、彼らが目にしたのは、地面に倒れている若い男とその傍らで悠々とした佇まいで残りの男達を見つめている幹比古の姿だった。

 

 何が起きたか分からない彼らは、自分達に近づいてくる幹比古に反応できず、ただ身体が固まっていた。そしてミツの手を優しく握り、二人から引き離すと自分の背中に匿う。

 

 

 そして背中越しにミツに声を掛けるのだった。

 

 

 「…もう大丈夫だから。ミツさんは僕が守るから…!」

 

 

 

 この時。幹比古の表情は男前で、そんな表情を肩越しで見たミツは顔を真っ赤に染めるのであった。

 

 

 




窮地を助けられたミツ~!! 颯爽と現れ、一人倒しちゃった幹比古。

これはもしや愛の為せることだったりして~!!(やはり美月を意識してしまうのはあると思うんだよ~!!)


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夢世界での再会

ここで同志と会う事に…。


 

 

 

 

 

 

 

 「な、何をしやがった! てめぇ~!!」

 

 

 「あ、おい!待て!」

 

 

 仲間の呼びとめも聞かず、もう一人の男が幹比古に殴り掛かる。先に殴ろうとした仲間が地面に倒れているのを凝視し、やっと現実に戻った彼は、仲間がやられた事に憤り、報復しに仕掛けてきた。

 幹比古は、この男が冷静さを欠いている事を悟り、これくらいなら対処は可能だと男の拳を躱す。先程も一人目の男が殴り掛かってきた時、拳を躱し、鳩尾に一発お見舞いして悶絶させた。これでもスランプを脱却するために武道にも力を入れていただけに、ある程度の力のある人間相手なら武術で打ち負かす事が出来るほどの腕前を手にする事が出来た。…と言ってもやっと形になってきたというほどの腕前であり、エリカからは

 

 「まだまだね。自分の身を護る程度までならなっているけど、それ以上の実力を身に付けたいなら今以上の努力が必要なんじゃない?」

 

 …と何年かぶりに吉田家に遊びに来た(エリカの訪問理由で言うなら)際、修行中の幹比古を見て言った言葉だった。この時、幹比古はいつものようにエリカにつっかかることは無かった。寧ろ感謝したくらいだ。何故ならエリカが真剣な眼差しで真っ直ぐに告げてきたのだから。武術に関してならエリカは他者の実力を見極める観察眼を持っている。それは幼馴染でもある幹比古も知っている。だから、エリカに武術関連のアドバイスを受けるなら心強いのである。それからはエリカの言うとおり筋トレも増やし、絶賛切磋琢磨中だ。

 

 

 話が逸れたが、要するに幹比古は相手が凄腕の剣士等でなくてよかったと安堵しているのだ。まだ真剣相手に勝てるほどの腕はないのだから。…魔法なしで。

 

 今がその状況なのだが、幹比古は決して弱みを見せない。堂々とした振る舞いを続ける。…背後にはミツがいるし、カッコ悪い所なんて見せられない。

 

 

 (僕だってカッコつけたいんだ! 女の子を護るのは男として当然だから! この調子ならいける!)

 

 

 今ので自信がついたためか、心の中で自分を鼓舞する幹比古。最後に残った若い男に声を掛ける。

 

 

 「後は君だけだ。君も彼らと同じようになるのが嫌なら、今回の事は水に流してもいいから、お仲間を連れて去ってくれないかな?」

 

 

 「……随分と御人好しだな。 」

 

 

 「まあね。でも……、見逃すのは今回だけだ。 次はない。あともう一つ。

  僕は君達を許す気はない。」

 

 

 睨みつける幹比古の視線を受け、ギョッとなる若い男。しかし、額に冷や汗を掻いているのに、にやりと笑みをこぼす。

 

 

 「そうかよ。 …わかった。………なら手土産にお前を始末してからにしてやる!」

 

 

 若い男が懐から小刀を抜き取り、幹比古に斬りかかる。咄嗟に背後に庇っていたミツを横に押し出す形で離れさせる幹比古。しかし、それだけで終わらず、地面に転がっていた最初に倒された男が復活し、幹比古の背後から羽交い絞めするために狙ってきた。背後から幹比古の動きを止め、その隙に小刀で止めを刺すという事なのだろう。

 

 (くそ…っ! 力が足りなかったのか!)

 

 鳩尾へのダメージが弱かったと、詰めの甘さを痛感した幹比古だったが、それは後の祭り。

 すぐに男達の無力化を志すが、ここは夢の世界で魔法が使えない。なんとか身を怯ませて躱すが、男達はミツにまで狙いを定めている。幹比古は二人の突進や斬撃から紙一重で躱しながらミツを護るので精いっぱいだった。

 そしてこれがそう簡単に上手くいくはずもなく、しばらくして幹比古に小刀が掠ってきて、着物の端が切れだしたり、腕や顔に赤い線が増えていく。

 

 

 (このままじゃ…! )

 

 

 対処が難しくなってきて、まずい状況に陥りそうになった幹比古。特に小刀を持つ若い男は戦いに慣れている感覚を覚える。

 

 

 「なんだ? 態度だけ強がっていたのか? そこそこ武芸に力があるからと言って調子に乗ったお前が悪いんだからな。 覚悟しろや!」

 

 

 そうして宿屋の壁に追い詰められてしまい、逃げ場所を失ってしまった。ミツは躱していく際に見物人たちの群れの中へ押入れ、匿ってもらっている。

 

 

 「幹比古さん!!」

 

 

 人垣からミツの声が耳に響く。幹比古は何か盾になる物を探すが、あいにく近くにない。ついに男が小刀を喉笛目掛けて振りかぶる。

 

 

 幹比古は奥歯を噛み締めて、悔しがる。

 

 

 (ここで僕は……!)

 

 

 油断してしまっていた自分を悔いる幹比古。もう無理かと思ったその時だった…。

 

 

 「ううおおおオオオォォォぉ~~~~~~~!!!!」

 

 

 遠くから雄叫びを唸らせて猛スピードで走ってくる人影が、小石を刀を持つ手に当てて落とさせ、小刀を持った男の傍らにいた男を飛び蹴りで吹き飛ばした。

 

 

 「くっ! 何しやがる……ぶへぇっ……!!」

 

 

 小刀を失った男はその人影に回し蹴りをするが、それを片腕一本であっさりと受け止められてしまう。全くダメージを与えられなかったので男が驚くと、人影はニヤッと笑い、もう一本の腕を振りかぶり、強烈なパンチを掛け声とともに放つ。

 

 

 「パンツァァァ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 その強烈なパンチは男を後ろへ空中突進させ、数百メートルは跳んだだろうと思える距離までいったのである。それを見て、人影が嬉しそうに話す。

 

 

 「いや~! 結構跳んだな! おもしれ~程に。」

 

 

 「………漫画的跳び方だったね。……ってそんなことよりどうしてここにいるんだ! 

 

 

  レオっ!!」

 

 

 「お! 幹比古、やっと会えたぜ!」

 

 

 軽く手を振り上げて笑顔で答えるレオと、夢の世界での再会を果たすのであった。

 

 

 




幹比古のピンチにレオが登場しました! 別々に飛ばされてたからね~。

そして登場もレオだから派手だった。


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御用人達、登場。

レオと無事に再会できた幹比古。ところでレオは今まで何をしていたのか…。それが開かされていくだろう…。おいおい?


 

 

 

 

 

 

 

 

 レオとひょんなことから再会した幹比古だったが、再会を喜んでいる時間もなく、慌てだす。

 なぜなら大勢の人間が走ってくる地響きと足音が聞こえてきて、目を向けると御用人達が列を組んで走りながら獲物を逃がさんとする眼差しで向かってくるのだ。これには幹比古も驚き、心の中で「やっぱりやり過ぎだった~~!!」…と顔を真っ青にして、後悔する。

 

 この夢の世界はどうやら江戸時代を模しているみたいだし、現代に通じる常識は通用しない。それどころか、何か正解かもよくわからない。でもとにかく内心で自分に落ち着け!!…と言い聞かせて動揺を抑え込む。だってそうしておかないと、誤解を生みそうだから。…悪い方で。

 

 そんな幹比古の心情は知らず、レオの方は豪快に蹴り飛ばされた男をズルズルと首根っこを掴んで引っ張って、同じく伸びている仲間達と一緒に懐から縄を取りだして締め上げていく。その様子を横で見ていた幹比古は、「あれ?」と思うのだった。レオが男達を縄で動きを封じている訳だが、どういう訳か、ただ身体を何重にも巻くのではなく、複雑な結び方をして、腕も手も、首も腰にまでしっかりと締め上げていた。これならそう簡単に縄を外す事は出来ないし、逃げようとしても腕を思い切り振れない分、走りが減速し、捕まってしまうだろう。………いや、この世界だと背中を見せたまま、追いつかれて刀で斬られてしまうのか?

 この独特な拘束術をレオが難なく使える事に感心した幹比古だったが、同時にこの技術をどこで見たのかが気になる。

 

 レオに聞いてみたいという衝動に駆られたが、それは後回しにするしかなかった。…というより後回しにしなければいけなかった。なんだって、レオに意識を集中してた間に御用人達がついに幹比古の前に着いたから。

 

 争い事を聞きつけ、やってきた御用人達の一番前を走っていた者……、この中では一番偉いのだろう、一番風格がある御用人が幹比古に声を掛ける。

 

 

 「ここで争い事が起きていると報告があって、来てみれば何やらおかしなことになっているな。大の男達が道に寝てやがる…。もしかしておめぇ~さんの仕業なのかぁ~。」

 

 

 幹比古を疑っている御用人は目つきを鋭くし、嘘は決して許さないと視線で言っている。幹比古は急いで弁解する。

 

 

 「い、いいえ。違います。確かに一人はなんとか動きを封じましたが、他の二人は無理でした。」

 

 

 幹比古が言ったとおり、気絶させられたのは一人だけ。他の二人は詰めが甘くて止めが刺せなかったのだから。

 

 

 「しかしこれは正当防衛です。 こっちはその刀で殺されかけたんです。身を護るためには相手の動きを封じないとやられてしまいます。」

 

 

 あくまで身を護るために防衛したまでだと伝える幹比古。しかし御用人が口にした言葉は意外だった。

 

 

 「つまり、いざこざで争ったわけなのだから、あくまで当人たちの喧嘩だという訳だな。ならここは喧嘩両成敗だから、両方とも罰を受けるんだな。」

 

 

 「………え?」

 

 

 幹比古は意味が解らなかった。だって、御用人は「なんだ、出張って損した」というような顔で急にめんどくさくなったのだ。意味が脳にまで浸透するのが遅く、しばらく考えてからようやく顔を上げ、反論する幹比古。

 

 

 「な、悪いのはあっちだ! ナンパが失敗したからって殺そうとする輩と同等の罪にされるなんておかしい!」

 

 

 幹比古は御用人達に言い寄る。その様子を見ていた野次馬は隣の人とひそひそ話合いはじめた。御用人達に刃向う人間はそうはいない。物珍しさはあったかもしれないが、幹比古が御用人達に異議を唱えた事で、御用人達の表情が硬くなっていくのであった。

 

 

 




昔は喧嘩両成敗だっていって、両方悪いって考えがあって、同じように罪を受けていたって話を聞いた事があるんだ。

これって現代にとっては、「馬鹿な!有り得ない!」っておもうだろうな~。うちも思うし。


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「ここは俺に預けてもらおうかぁ!」

台詞をタイトルにしてみたが、響きがカッコいいと思っているうち。


 

 

 

 

 

 

 

 

 キリッと目を細めた御用人が幹比古にシュッと十手を振り、十手の先が幹比古の目の先で止まる。

 

 

 「我らに刃向うというのか!? 我らはこの江戸に安寧を築くために、上様からこの任を仰せ仕っているのだぞ!! 我らに刃向うという事は、上様に刃を向ける事と同じ事っ! 死罪は免れるぞ! おいっ! こやつをしょっ引くぞ!」

 

 

 他の御用人達に合図を送って、幹比古を奉行所に連行しようとする。しかしここで黙って連行されるのは幹比古は納得できなかった。どう考えても三人組が連行されるのが道理なわけで、ただ喧嘩両成敗と言って、三人組と一緒に罰を受けるなんて受け入れる方がどうかと意見しただけで、御用人達が血相を変えて無理やり連行しようとされれば、誰だっておかしいと思うだろう?……あくまで現代人である幹比古がそう思うだけで、「江戸」…って言っていたから江戸時代の人達の主観と違うかもしれないが。

 

 

 「ちょっと待ってくださいっ! 僕は人助けをしただけです! それを言いたかっただけで、お役人さんに捕まらないといけないんですか!?」

 

 

 「ふんっ! 生意気な口を我らに叩く貴様が人助けをしたと申すかっ! 戯けたことを抜かすなっ! それならその助けた者がそなたの近くに居るはずではないか!しかし、そのような者はおらん! それどころか、怪我人が転がっていたではないか!」

 

 

 「あれは…既に事が終わった後でしたから。 …それに、彼女がいないのはここにいては危ないと避難させていただけであって………」

 

 

 「ええいっ! 言い訳は聞かぬっ! 縄を掛けよっ!!」

 

 

 聞く耳を持たず…といった言葉がまさにヒットするこの状況に幹比古は頭を抱えたくなった。何を言っても無駄だと痛感したのもあるが、それよりも御用人達に意見しただけで怒り、冷静さを欠いている彼らの対応に呆れてしまったからだ。

 御用人と言えば、現代で言うところの”警察官”だ。事件や事故が起きれば、彼らはまず事実確認や聞き込みをして、事件の概要を把握していき、捜査を開始し、事件解決へと動くものだ。しかし、この御用人達ときたら、その初めの段階で怠っている。

 まだ捜査の形式が備わっていないのかと疑いたくなる。風紀委員になった幹比古も学校内とはいえ、同じ職務を行っている。無許可の魔法使用や喧嘩の仲裁に遭遇した時もしっかりと当事者や目撃者、監視カメラ等を確認している。自分でもできる事を御用人達がしていない事が幹比古には信じられなくて、呆れていたという訳だ。もちろん怒りも覚えている訳だが。ただし、ここで感情的になれば、彼らと同じだと心は怒るが、冷静に物事を見る事を心に刻んだ。

 

 

 「人助けをした者に対し、縄をかけるというのですか? では、その者達は? 明らかに暴力を振ってきましたし、小刀で私を刺そうとしたんですが? その三人組は放置して、私は縄で捕えられなければいけないなんて、まったくの筋違いというものですよ。

  …ほら、見物人の方々に聞いてみてください。事件の一部始終を見てくれていますから。」

 

 

 まだ野次馬が様子を窺って見ていて、幹比古は自分の言っている事が正しいか確認してくださいとお願いしてみた。しかし、御用人達はまっとうな事を言われ、恥を感じたのだろう。顔を真っ赤にして眉間に皺を作り、腰に差していた刀を鞘から抜いたのだ。

 

 ………恥を感じるくらいなら、最初からしておけばよかったと思うけどね。

 

 

 「この…、一度までならず、二度も我らを愚弄するとは…! 斬り捨ててやるっ!」

 

 

 慌てて他の御用人達も止めようとするが、強い口調で止めたり、数人がかりで抑え込むと言った事はしていない。ただ止めるように声掛けすると言ったものだ。例えるなら…

 

 『よしなよ~、見物人が多くいるんだぜ~?』

 

 『そうだ、後でやってしまえばいいんだよ。』

 

 『楽しみは後に取っておくといい事あると思うぞ?』

 

 …といった軽いノリで仲裁に入っていて、彼らも同じように思っている証拠だ。

 

 

 この彼らの反応を間近に見て、幹比古はさすがに憤りを隠すことができなかった。

 

 

 (これが、御用人というなら、とんだ馬鹿げた人達だ。)

 

 

 御用人とは名ばかりとも言える彼らに落胆する幹比古に、怒り狂った御用人が刀を構えて、幹比古に斬りかかる。

 

 

 再び悲鳴が響いた。

 

 

 しかし、またもや想像を斜め上にいく出来事が目の前で起きる。

 

 

 「パンッツァァァァァ――――――――――!!!!!!」

 

 

 もう定番の掛け声なのだろう、大声で気合一杯の雄叫びと共に、幹比古に斬りかかろうとしていた御用人の頬に拳をグリーンヒットさせ、物凄い勢いを伴って飛ばされ、地面に転がっていき、土煙が舞う。

 

 ようやく身体が止まった御用人は完全にのびていた。

 

 

 「何をするんですか! 」

 

 

 他の御用人が殴った張本人…レオに詰め寄る。それを手で静まるように伝えると、息を吸い込んで、大声でこの場にいる者全員に聞こえるように宣言するのであった。

 

 

 「ここは俺に預けてもらおうかぁぁ~~!!」

 

 

 




うん、レオの存在を最後に来て思い出した人。びっくりしました?あ、次はレオの大活躍になるでしょう。…幹比古編だけどね。

それにしても、レオが殴ってくれてすっきりしたね!


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親分レオっ!!

なんだか久しぶりに時代劇見たくなったな…!


 

 

 

 

 

 

 

 「ここは俺に預けてもらおうかぁぁ~~!!」

 

 

 

 

 

 大きく腕を振りまわし、二人の間に立って仲介に入ったレオ。その本人は、カッコよく決まったと思っているのか、頬が緩んで、粋がっていた。幹比古は、レオが助けに入った事には感謝はしたが、そこまで大見得を切る必要性があったのかと冷静に突っ込む気持ちもあり、複雑な心境になる。

 尤も、相手の御用人達は幹比古以上に複雑で明らかに動揺していたが。

 

 

 「お。おい!しっかりしろ!」

 

 

 「ど、どういうつもりなんだ…、なのですか!」

 

 

 「罪人を庇いたてしようものなら、例えあなたでも捉えなければいけなくなりますぞ!」

 

 

 御用人達からレオに言葉が降り注ぐ。それを耳にして、幹比古は首を傾げる。

 

 

 (……んん? なんだ、この人達? 何でさっきからレオに敬語だったり、ペコペコ頭下げたりしているんだろう?

  レオ…、一体何をしたんだ?)

 

 

 さっきからレオに対する御用人達の様子に訝しく感じる幹比古は、自分との対応の違いに唖然とする。幹比古の場合は口出しだけで斬りかかられていたが、レオの場合は、口出しよりも完全に御用人を殴っている。(幹比古を助けるためだったので、正当防衛だけど)それなのに、激怒して、今度は総掛かりで懲らしめに掛かるのではなく、躊躇しながらも一応敬語を通しているのだ。ここまで対応が違ったら幹比古が訝しく思っても不思議ではないだろう。

 

 レオと御用人達との振る舞いから両者の関係に何かあったのかはなんとなく理解した幹比古は、事態が最悪になりそうだと判断したら動く事にして、この場はレオの言うとおりに任せてみようと思った。

 

 

 「お前ら、頭を冷やせよ。

  幹比古の言っている事は何も間違っていねぇ! 幹比古はナンパされていた美月を護ろうとしただけだぜ!? それなのに何で幹比古を斬らないといけねぇ~んだよ。」

 

 

 「な、なんぱ……ですか?」

 

 

 「おう…、えっとだな~…、女子を無理やり攫う事だ!」

 

 

 「な、なんとそのような事を一言で表現されるのか!」

 

 

 「レオ殿には勉強させられる事がたくさんでありますな~。」

 

 

 「…っということはつまり?」

 

 

 「そういうことだ。そのなんぱをしようとしていたこの連中から女子を庇っていた幹比古が喧嘩両成敗で同罪って言うのは可笑しいだろ?

  ここにいる見物人達からも聞いてみたけど、みんな口をそろえて言ってるぜ?

  『そこの兄ちゃんが宿屋の娘を助けていた』ってよ~。」

 

 

 「そうなのですか! …ならこの者達をひっ捕らえよ!」

 

 

 殴られて気絶している御用人の代わりに次に偉い御用人が仲間達に声を掛け、伸びている若者たち三人組を連れて行く。

 

 

 「さすが、レオ殿です! ご協力ありがとうございました!それではこれにて。」

 

 

 「ちょっと待てよ!」

 

 

 先に連行していく仲間達の後を追ってこの場を去ろうとした御用人をレオが呼び止める。

 

 

 「お前ら、何か忘れていないか?」

 

 

 「なにをでしょうか?」

 

 

 「お前達、幹比古に何しようとしていたのかもう忘れたってのかよ? 罪なきものを殺そうとしたんだぞ? おまけに周りの連中は誰も止めようともしなかったじゃねぇ~か。」

 

 

 「それは…」

 

 

 「さっさと幹比古に謝れよ! 幹比古は俺のダチだからな! こいつに手を出したら俺が許さねぇ~ぞ!!」

 

 

 「…………申し訳ございやせんでした。」

 

 

 頭を軽く下げ、謝った御用人はすぐさま足早に去っていった。

 

 

 ちょっとした出来事も終わり、見物人達もこの場を去っていく。いつものような日常に戻りつつある中、幹比古は久しぶりに再会する事が出来たレオと二人で話をする。

 

 

 「レオ、ありがとう。お蔭で助かったよ。」

 

 

 「悪いな、幹比古。気分悪かったよな。俺だってあれには腹が立ったぜ。」

 

 

 「いや、レオのお蔭ですっきりしたからもう大丈夫。…良いパンチだったしね。」

 

 

 「そうか? ハハハハハ…!!!それならいいぜ。 けど、あいつら、どっかの誰かに似ていないか?特に幹比古に斬りかかろうとしていた奴。」

 

 

 「う~ん、知り合いか?」

 

 

 「いや、知り合いでもないな。そこまで親しい雰囲気ではなかったと思う。」

 

 

 「そう言われても、僕には見当が…あっ!」

 

 

 「あ!」

 

 

 二人同時に頭の中で閃いたようで、顔を見合わせて、互いに指を突き出し、思い浮かんだ人の名を口出す。

 

 

 「「森(山/川)!!」」

 

 

 名前は全く違うが、互いに浮かんでいる人物はシンクロしていた。

 

 一科生であることに誇りを持ち、エリート意識を高く持つが故に二科生を見下すあの森崎を。

 

 

 




もう森崎の事は、既にモブ崎と頭の中で変換されているため、名前がなかなか出てこなかったうちです。


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近況報告

無事に荒事阻止できたし、二人で語らいましょうか!


 

 

 

 

 

 

 

 

 思いもよらず、事件に遭遇した幹比古だったが、俺のお蔭で危機を脱した。そして、二人は宿の前に置かれている茶席に座って、互いの近況報告をし始めるのであった。

 

 

 「……へぇ~、幹比古は今は、ここで宿屋の亭主をしているのか~。」

 

 

 「いや、亭主じゃないからね、レオ。ただの居候だよ。」

 

 

 「どっちでも同じじゃないのか?だってよ、幹比古の話を聞く限り、いい感じに生活しているって印象しか浮かばないんだけど?」

 

 

 「何で僕の話を聞いてそんな感想が出てくるんだよ…。」

 

 

 「おいおい、自覚ないのか? さっきからやたらとこの宿屋の美月にそっくりな看板娘との生活の事しか、俺は聞いてないぞ?」

 

 

 「ええええっ!!」

 

 

 「……マジで気づいていなかったのかよ、幹比古。」

 

 

 「…………」

 

 

 絶句している幹比古を見て、ため息を吐くレオだが、それをいい事にからかったりはしなかった。…エリカならここぞと言わんばかりに「ミキ~、早く告白すればいいのに~!」とからかってくるに違いないが。

 

 

 レオも幹比古と美月が良い雰囲気なのは知っているが、そう言うのは本人達に任せる性格のため、第三者目線で見守っている。まぁ、どうしてもこじれたりするなら、手伝ったりはするが、あくまで自分達で頑張れよ…という自由的考えを持っている。だから、「いい加減お前達、くっ付いたらいいと思うぜ。」とか、「やっぱり意識しているんじゃないか。」とかは言わない。しかし、さすがに赤面して、羞恥に浸っている幹比古を見ていたら、ほっとけなくなってきて、一言だけ語るだけにする。

 

 

 「……俺が言うのもなんだけどよ? そろそろ意識して考えてみる時かもしれないな。俺達も後数ヵ月も経ったら、三年になるからよ。」

 

 

 「…………うん、そうしてみようかな。…ありがとう、レオ。」

 

 

 背中を押した事で、何やら決心ついた幹比古を見て、ほっと安堵するレオが、今度は自分の近況報告をする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、どうしてレオはさっきの御用人達と親しくしていたんだい?」

 

 

 「ああ、それな。

  実は今、俺も居候してるんだけどよ?そこがアイツら、御用人達のいる奉行所なんだよ。」

 

 

 「………えええええ~~~~!?」

 

 

 まさか奉行所で寝どまりしているとは思っていなかった幹比古は、驚愕の面持ちでレオの話を聞く。

 

 

 続いてレオの話を聞くと、こうだ。

 

 

 レオもこの夢世界に飛ばされて、目を覚ましたら満月が出ている夜の町の路地裏で寝ていたらしい。どうやら幹比古同様、空から落下したみたいだけど、幹比古のようにクッションになるような物もなく、ガチで落ちたようで、気を失っていたんじゃないかと本人は話していた。それを聞いてみて、幹比古は「ここが夢でなかったら、気を失うどころじゃないと思うけど。そして笑い事ではなくなるよ。」…と心の中で突っ込んだ。本当は口に出して言いたかったが、レオの身体の頑丈さは桁外れであり、本人の自覚も薄いため、例え言ったとしても「そうか?」と首を捻られるだけだ。もちろん、ここに達也がいたとしても、レオと同じく首を傾げていただろう。…前にも同じことがあったから。デジャブ感を味わう事にもなるし。

 

 

 「それでよ、ここがどこかなんてわかんねぇ~から、夜道をあるいていたら、人斬りに遭遇してよ~。しかも御用人達も来て、乱闘だぜ。その乱闘中に御用人達を取りまとめる奴が斬られそうになって、俺が助けたんだ。

  その後、俺の話を聞いたそいつが助けてくれた詫びだと言って、俺を居候させてくれたって訳なんだ。」

 

 

 レオらしいといえばそうだが、凄すぎて内容を把握する頃には、淹れてきた緑茶も冷めていたのであった。

 

 

 

 




御用人達のお偉いさんと言えば、やっぱ奉行かな~?


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隠し事の漏えい

話が盛り上がりすぎて…


 

 

 

 

 

 

 

 

 レオの夢での生活が凄くて呆気にとられていた幹比古は、レオが奉行所でどんな生活をしているのか興味がわいてきていた。それを感じ取ったのかはわからないが、レオも話が弾んで、いろいろ話してくる。

 まぁ、奉行所の間取りや警備の事などは機密事項だという事は弁えているので、言わないが。

 

 

 「親分って人情とかに熱い奴でさ! 例え罪を犯した下手人でも訳あっての出来事や下手人自体が人として分かり合える奴なら手厚く接する人なんだよ。

  ああいう人は俺は好きだぜ。」

 

 

 「へぇ~、レオがそこまでいうなら、きっといい人なんだろうね。……それなのに何でだろう?」

 

 

 不意に遠くを見るような目で疑問を投げる幹比古に、レオは苦笑して、頬を指で掻く。幹比古の言わんとしている事を察したからだ。

 親分がそこまで仁義を通して、人情を持つ人柄ならその下に付く御用人達もそれなりに影響を持っていてもいいのに…という考えを抱いた。それはレオも若干思っていて、世話になっているし、友人の前で愚痴るのもどうかと思って言わなかったのだ。

 

 

 「……まぁ、まだ親分は御用人頭の任に就いてまだ日が浅いみたいだからな。仕方ないんじゃないか?」

 

 

 「そうなんだ。大変なんだね。」

 

 

 「そうかもな。」

 

 

 仲間を導くにはそれなりの人望や威厳、実力を持っていないと難しい。それは幹比古も風紀委員になってから実感した事なので、自分事のように納得した。

 そしていずれ、その親分に会ってみたいと思うのであった。

 

 

 「じゃ、親分にも都合を聞いておくからさ、幹比古も会ってみろよ!強面な顔つきしているけど、気さくで子供好きだからさ。」

 

 

 「…それってぼくが子どもだって言いたいわけじゃないよね?」

 

 

 「いいや、全然!」

 

 

 互いに笑い合って、約束する。

 

 

 それでしばらく笑った後、レオが思い出したと言って、幹比古に問い掛けてくる。

 

 

 「そう言えばよ? さっき野次馬の中に美月がいたぜ? 話聞いてみたら、美月を助けるためにあいつらへ立ち向かったんだろ? いつのまに美月と再会したんだか。」

 

 

 「い、いやいや!! 違うから! 確かに彼女を助けるためだったけど、あの子は柴田さんじゃないし!」

 

 

 「は? 美月じゃねぇ~のかよ? ますますわかんねぇ~。だってあれはどう見ても美月だったぜ? あそこまで美月にそっくりの奴がいる訳ないだろ?」

 

 

 首を傾げて不思議がるレオは、考え過ぎて頭から湯気を出す。理解不能だというのは、幹比古も理解できた。だって自分も初めは信じられなかったのだから。

 

 

 「うん、レオの言うとおりだけどね。でも彼女は柴田さんではなくて、ミツっていうこの宿の女将の娘さんで、甲板娘なんだ。」

 

 

 「…信じられねぇ~。 美月みたいに話していたのにな~。 」

 

 

 「それは激しく同意するよ。」

 

 

 「…あ、もしかして幹比古。お前、実は別人だと分かっていても、身体が本能的に美月を助けようと動いた…ってわけなのか?」

 

 

 ストレートに胸を撃ち抜くように直球の質問が入ったため、幹比古は瞬時に顔を真っ赤にする。

 

 

 「うっ…! 

 

 

 

 

  ……………多分?」

 

 

 良くは分からないが、レオの言っている事も間違っていない気がする。確かに助けようとする気持ちと一緒に絶対に誰にも穢されたくないという独占欲も働いたのだから。

 

 

 バシャンっ………!!

 

 

 

 地面に陶器が落ちて、割れる音が二人の耳に入る。その音が聞こえた方に目を向けるとそこには何かを持っていたらしき仕草で固まったミツと、地面には割れた湯呑とお盆が足元に散乱していた。

 

 

 「あ………」

 

 

 「あ……、これはやべぇ~かもな。」

 

 

 顔を真っ青にして、言葉を失くす幹比古と、幹比古を憐れむ視線を向けて、悪かったと小声で謝るレオ。

 

 

 そしてミツは、まだ身体を固まらせたまま、ショックを受ける。

 

 

 




これってリアルでは修羅場になるパターンだったりするよね?(汗)


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美月の意外な一面を知り…

現実にもこういう事ってあるからな~…。気の強い女性には特に気をつけないと!!

美月は違うけど。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「ミ、ミツさん!! こ、これはその…!!」

 

 

 長い沈黙が続く中、真っ先に口を開いたのは幹比古だった。

 

 このままでは何か誤解を生むような事態になりそうだと判断しての行動だ。…いや既に誤解というか、言い訳というか…。とにかく聞かれてしまったのは確実なのだから、正直に話そうと結論付けたのであった。しかしいざ話すとなると、何からどう話せばいいか分からず、言葉を濁すばかりだ。

 

 

 「あ~…、大丈夫だぜ。幹比古は悪い奴でもないし。ただ少しばかり照れ屋なだけだからよ。

 

  ………じゃ、俺はお邪魔者だから、もう帰るわ。団子と茶、ごちそうさまでした~!」

 

 

 空気を呼んだのか、レオが間に入って口を開いたと思ったら、この場への離脱を図った。レオにはこの空気の雰囲気が耐え難かった。重苦しいこの場から去りたかった。

 出されたおもてなしに礼をし、踵を返して、泊めてもらっている奉行所へと帰ろうとする。そんなレオの肩を後ろからがっちりと掴んで、引き留めるのは、当然幹比古だ。

 

 

 「ちょっと待って!!レオ、正気か!? この状況で僕と彼女を二人きりにさせる気なのか?」

 

 

 ミツに聞かれないように、しかしレオにはがっつりと訴えるくらいの声量で助けを求めてくる。必死にしがみついてくる様子は、この後訪れるであろう修羅場に恐怖している事が嫌でも分かるくらいだった。

 

 

 「いや、俺は正直言って何にもできないぜ。辛うじてお前の株を低下させないように口添えしたじゃないか。」

 

 

 「あのたった一言で、僕の信頼が回復するとでも思っているのなら、レオ…、君との絶交も視野に入れないといけなくなるよ。」

 

 

 「お前っ! 怖え~事言ってんじゃねぇ~よ!これは仕方ない事だろ!?それにこれはお前とミツって子の問題だぜ! 俺が入っても『部外者は黙っていてください!!』って言われるのがオチだ!!」

 

 

 「ミツさんがそんな事言うはずないじゃないか!」

 

 

 「だってミツってあの子…、外見だけでなく、性格までも美月とそっくりなんだろ?だったら、興奮したら思い切った行動に出るなんて事も考えられるぜ!」

 

 

 「あのおとなしい柴田さんが?まさか。」

 

 

 「あ、そうか。あの時まだ幹比古は俺達とつるんでいなかったもんな~。」

 

 

 「え?」

 

 

 「なんていえばいいか…、去年の入学して早々、授業見学があったその放課後に、深雪さんを巡って一科生と俺達、口論になった事があってよ~。」

 

 

 その時の事は話に聞いている。幹比古も一科生に正面からケンカ売る二科生もいるんだなと思った些細なもめ事だ。

 

 

 「一科生の連中、深雪さんと帰ろうと迫って来てさ、もちろん深雪さんは達也と一緒に帰ると言っているけど、それを認めない一科生の連中が大勢で寄りたがって来て一緒に帰ろうとしつこかったんだよ。その自分勝手で俺達には早速見下すあいつらに腹立ってよ!あの女と一緒に一科生の連中と向かい合って、喧嘩になったんだよ。その時、美月も俺達と一緒に一科生に啖呵切ってたぜ。

 

  『いい加減にしてください! 深雪さんはお兄さんと一緒に帰るって言っているではないですかっ!!』

 

  ってよ。」

 

 

 「…………」

 

 

 あの美月がそんな思いきった行動をしていたとは知らなかった幹比古は、新たな美月の意外な一面を知る。そして…

 

 

 (柴田さん……、なんて勇気ある人なんだ! 時には胸を張って意見する君のその一面を知れて僕は嬉しいよ!)

 

 

 …等というちょっとこの場で思うのは止めておいた方がいいのではないかとおもう妄想を浮かべていたのであった。

 

 

 そして心の中で思っていた”胸を張って”というキーワードから、なぜか美月の豊満な胸を思い出し、顔を真っ赤にする。

 

 それを見たレオはなぜ幹比古が真っ赤になったのか、首を傾げたが、この場を離脱するには今しかないという直観が働き、意識が覚束ない幹比古を残して、去っていったのであった。

 

 

 




友人でもこういう場は、逃げの一手に限る!

…うちも友人達の恋沙汰が激しすぎて何かと逃げたもんな~。(巻き込まれたら厄介だから)


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誤解

幹比古は果たして誤解を解く事が出来るのかな~?


 

 

 

 

 

 

 

 

 妄想が膨らんでしまい、これ以上は煩悩になってしまうと考えが浮かんだ幹比古は

我に返って、中断する。しかし、そのお蔭で目の前にいたはずのレオの姿が見当たらない事に気づく。

 

 

 「しまった…。レオを逃がしてしまった。……覚悟決めろ~、幹比古…!

  ここが僕の人生の分かれ目だ!!」

 

 

 助けになってくれるレオがいなくなってしまったが、レオの言うとおり、ここは魅せ場でもあると思い直す事にして、自分に気合を入れる。

 

 しかし言っておくことがある。

 

 …ここは夢だから。人生の分かれ目を左右するかもしれないと断言するくらいの勇気は本番まで取っておくことをお勧めする。…と言っても、幹比古には聞こえないが。

 

 

 真剣みが増した幹比古は、振り返ってミツと対面する。ミツも幹比古の顔を見つめ返す。ずっと幹比古が自分に話しかけてくるのを待っていた。何も言わずにただ幹比古の言葉を待つ。

 

 

 「ミツさん…、実は君に言っていなかった事があるんだ。

  僕には今、すごく気のいい友人達がいるんだけど、その中の一人に君に……ミツさんに瓜二つの姿をした人がいるんだ。姿だけでなく、性格も仕草も全く同じで、双子ではないかと思うくらいそっくりなんだ。初めて君に会った時はその彼女ではないかと驚いた。でも実際、君はその彼女ではなくて、別人だった。

  だから、君の前で彼女の話はしないと決めていた。瓜二つだからと言って、彼女と重ねてしまうのは君に悪いしね。

 

  ………ごめん、辛い想い、させてしまったよね?」

 

 

 「………そういう事ですか。」

 

 

 「え?」

 

 

 「時々幹比古さん、私に話しかける時に口を噤む事がありますし、私を見て挙動不審になる事もありましたから。もしかして何か記憶が思い出してきたのではないかと考えていたのですけど、勘違いだったんですね。」

 

 

 「そ、それは…」

 

 

 「よかったです。幹比古さん、記憶戻っていたんですね。先程の殿方ともお友達のようですし、”美月”…という方とも逢えるといいですね。」

 

 

 笑顔でそう語るミツの言葉の矢に幹比古は見えないダメージを浴びていく。最終的に受けるダメージも大きくなり、最後は撃沈されていた。

 笑っていても、心の中では憤りや蔑みがあるのは分かりきっている。幹比古は更なる誤解を与えてしまったのかもと感じ、なんとか誤解を解こうと口を開こうとするが…。

 

 

 「それではまだ宿の仕事も残っていますから、先に戻っていますね? 幹比古さんはそのまま店先を掃いておいてください。」

 

 

 話はこれで終いだと態度で表し、中断していた仕事を続けてくださいと頼んでから、宿屋の中へと姿を消した。宿屋の前に一人だけ取り残された幹比古は、一見突き放されたように見えるこの状況に(実際に幹比古もそう思っている)、冷や汗が止まらずかなり焦って慌てだす。

 

 

 そんな幹比古の様子をさっきの争いからずっと見下ろしていた影が観察するような目を向けていたのであった…。

 

 

 




まだミツにビンタされなかっただけでもよかったと思う事にしようよ…、幹比古。


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気まずい中で

うんうん、これは気まずいよね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~…、どうしよう…、このままずっとこの調子なのかな…。」

 

 

 庭先を箒で掃きながら、肩を落とし、ため息を吐いて呟いた幹比古は背後から見ても、落ち込んでいる事が明白な印象を与えていた。履いている箒にも力が入っておらず、なかなか落ち葉やゴミがたまらない。度々ついている溜息も重い。ため息を吐くたびにどんどん沈んで行っているような幹比古がここまで精神的に落ち込んでいるのは、先日の件が原因だ。

 

 ミツに運悪く美月と瓜二つで重ねてしまうという話をレオとしている時誤って聞かれてしまってから(場所が宿屋の前なのだから、そこで話していた二人が悪いと思うが。)、廊下や庭で遭遇すると、幹比古の顔を見るなり、慌てて小走りで通り過ぎたり、回れ右をして去っていったりとするようになったミツの態度に更に居た堪れない気持ちを抱くとともに、完全に嫌われたと思って、落胆しているという訳だ。

 

 改めてミツも大事な人だという事を伝えたいと思っている幹比古だったが、話す前に逃げられるため、いつも去っていくミツの背中に手を伸ばしてしばらく固まり、伸ばした手が空を掴むだけで、みじめになるといういつもの繰り返しが続いていた。

 

 

 「やっぱり嫌われたか…。 話すと決めた時は、覚悟決めてたのに…、いざこうなると結構きつい…。 はぁ~…、完全に失敗だったな~。」

 

 

 心が折れそうになるほどダメージを負ってしまっている幹比古。だがいつまでも落ち込んでいてはせっかく泊めてもらっているのに、仕事が捗れず迷惑をかけてしまうと思い、無心になって仕事をこなし始めていく。

 

 そんな幹比古の姿を陰からこっそりと窺って、見つめているのは、ミツだった。

 

 

 

 (どうしましょう…、幹比古さんと今度は絶対に逃げずに話をしたいと思っているのに、怖くて一歩踏み出せません…。)

 

 

 陰から様子を窺いながらミツもまた、幹比古と同じくこの気まずい雰囲気から話をする機会を持とうとし、苦戦していた。

 

 本当はもっと早くに話ししようとしても、いざ幹比古を目の前にすると、どういう顔でいればいいか分からず、咄嗟に逃げ出してしまうのだ。

 

 

 (言いたい事があるのに、全然言えないなんて…。私ってこういう性格だったでしょうか?)

 

 

 いつしか顔を真っ赤にして、考えるミツだが、勇気を振り絞って話しかける機会をずっと狙っている。だってどうしても幹比古に言っておきたい事があるから…。

 

 

 幹比古から自分とそっくりな人と重ねられていた事にショックを受けたが、それ以上にその彼女の事を話す幹比古の甘い顔が、あれから頭から離れない。その時の顔を思い出すと、どうしようもなく胸がチクチク痛みだす。

 

 

 (こんな事今までなかったのに…。 私は病気なのでしょう。それなら最後に幹比古さんに言わないといけない事が…。)

 

 

 今の自分に起きている事態が初めての事で、不安だが、それよりもこの気まずい中で幹比古とこのままでいるのはミツも嫌なので、後悔しないように今伝えたい事を言おうと、今度こそ勇気を振り絞って一歩を踏み出すミツだったのである。

 

 

 「あ、あの!! 幹比古さん!!」

 

 

 大声になってしまったが、ミツが幹比古に話しかける。

 

 そしてそのミツの声を聞いて、振り向く幹比古の表情はとても喜んでいるのが分かるくらいミツに話しかけられて嬉しかったのであった。

 

 

 




おやおや、ミツさんや。何があったのですかな?ニヤニヤ


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仲直り

今日は劇場版公開~!!やった~~!!
でも、今のうちは拗ねている。そして怒っている。

なぜなら・・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、あの!! 幹比古さん!!」

 

 

 大声で話しかけられた幹比古は、振り向く前にその人物を声で真っ先に認識し、笑顔で振り返る。まだ数日だけしか話をしていないだけなのに、久しぶりに聞く彼女の声でほっとする。

 

 

 「な、なんでしょう!! ミツさん!」

 

 

 …ただし、嬉しさのあまりに声が裏返って、緊張していることが丸わかりなのだが。

 

 

 「い、いえ! 幹比古さんに言いたいことがあって…。」

 

 

 それはミツも同じことで緊張しながらも、伝えようと深呼吸する。しかしその間が幹比古にとっては何を言われるのか、不安で仕方ない時間であった。

 そんな幹比古の不安もすぐにミツにまっすぐに目を向けられることで、霧散していった。まだ何も言ってはいないが、ミツが「出て行ってくれ!」とか、「許さない」とか言うつもりがないという事は目だけでわかった。だから幹比古も落ち着いてミツの話に耳を傾ける事が出来た。

 

 

 「私…、気にしませんから! 幹比古さんが私に隠していた理由もわかりますし、仕方なかったんだって今は思います。あの時は…、今までの優しさももしかしたらその…、私にそっくりな方に見せていたものかもしれないって思ったらなんだか悲しくなって…。気持ちが落ち着くまで幹比古さんの顔も見れなくなりました。でも!私、幹比古さんがそれだけで私と過ごしていたわけじゃないって信じてます!

  だから…、これからもよろしくお願いします!」

 

 

 勢いよく頭を下げるミツに、幹比古は頭を上げるように言う前に、自分も頭を下げて謝りだす。

 

 

 「嫌!僕の方が悪かった! 確かにそっくりだからといって、重ねてしまうのは気分が悪かったと思う! ミツさんがそう思ってしまうのもしょうがないし、そうさせたのは僕自身だ!だからミツさんが謝る必要はないよ。全部僕が悪いから、頭を上げてくれないかな?

  僕が謝るっ!」

 

 

 絵図としては二人とも向き合った状態で頭を下げ、腰が90度に曲がっている。一見遠目で見れば、何かのオブジェか?と思うくらいのきっちりとした腰の曲げ方で、互いに動きもしないものだからより一層そう見える。

 そのせいもあって、なかなか次の言葉も飛び交う事もなく、この状態が続き、二人とも相手の事が気になったため、少しだけ頭を上げて相手の顔を窺い見ようとする。それが二人とも同時だったため、窺い見ようとした視線がぶつかる。

 

 

 「…ふふふっ」

 

 

 「…ははは」

 

 

 お互いにすることが同じで、おかしくなった二人は初めは苦笑だったが、次第に楽しそうに笑い出す。一緒に頭を上げて、笑う二人。その結果、空いていた溝が埋まっていった。

 

 

 「それではこれで仲直りですね。」

 

 

 「……いいの?ミツさん。」

 

 

 「ええ、幹比古さんと仲直りする事が今の私には何よりも大事なのですよ。」

 

 

 「…ありがとう。」

 

 

 こうして無事に仲直りでき、心から胸を撫で下ろして、安堵する幹比古の頬が綻んだ。その甘いマスクを見て、ミツも幹比古とは少し違った感情で綻んだことは、この時の幹比古には気づく事はなかった。

 

 

 そんな二人んも仲睦ましい雰囲気の中、近づいていき、声をかける人物が現れる。

 

 

 「お、なんだよ、幹比古。もう仲直りできてるんじゃね~か。心配して来てみるまでもなかったな。」

 

 

 頭を掻いて登場したのは、レオだった。

 

 

 「おかげさまで、無事今、仲直りできたよ。」

 

 

 「あ、こんにちは。」

 

 

 「あ……、おっす。…じゃ、俺帰るわ。じゃな。」

 

 

 「え?もう帰るのかい?」

 

 

 「だって、俺がここにいるとお前、二人きりになれね~だろ?」

 

 

 居心地悪そうに視線をさまよわせながら幹比古の問いかけに答えるレオの様子を見て、何を言いたいのかを悟った幹比古は顔を真っ赤にする。

 

 

 「違うから! そんなつもりはないから!!」

 

 

 

 やけに幹比古が慌てだし、レオも幹比古ほどではないが同じく慌てだすのを見て、ミツは仲がいいのですねと羨ましく思いながら、笑うのだった。

 

 

 




劇場版グッズが公開されて数時間で売り切れ続出していた。そしてさっきヤフオク見たら、新品未開封で高値で売られて……。ふざけるな~~!!(泣)

もう再入荷もないって、友達から連絡受けたうちの気持ち、わかるか!?
発売当日でもう販売終了なんだぞ~!!

絶対に打ちと同じ気持ちの人がいるはずだ!! …そう思いたい。

(心が黒くなっていくうちの心の声でした。)


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道すがらの町巡り

料金は高かったけど、第二弾特典ゲットのため、二回目見に行ってきた!
相変わらずの達也様のカッコよさでわなわな震えたぜ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に仲直りできた幹比古とミツは、二人の様子が心配になって訪ねてきたレオと一緒に町の賑わいが見える場所にいた。なぜ三人がここにいるのかというと、話は少し遡る事になる。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 「いや~、別に誤解はしていないからな?ただ二人ともようやく仲直りできたみたいだからしばらくそっとしておいた方がいいと思っただけだからな?」

 

 

 「もういいよ、レオ。気持ちだけもらっておくから。ところで、何か用事があったんじゃない?わざわざ僕たちの様子を見に来たわけじゃないんだろ?」

 

 

 「え?そうだったのですか?」

 

 

 「………ダチを心配してきては駄目なのかよ。…まぁいいや、半分はそうだしな。」

 

 

 見事に脱力して、リアクションしてみせるレオだったが、二人ともこれにはスルーする。ミツはレオがわざわざ様子を見に来てくれる友達思いの人なんだと思っていたため、驚いてはいたが。

 

 

 「それで何?」

 

 

 「それがよ、幹比古。これからちょっと付いて来てほしい所があんだけど、一緒に来てくれねぇ~か?」

 

 

 「今から? どこに?」

 

 

 「行ってみればわかるって。歩きながらでも話すからよ! …あ、でも俺もまだよく分かんなかったっけか?…そうだ、美……じゃなかった、ミツって呼んでいいか?」

 

 

 「え?あ、はい、どうぞ。」

 

 

 幹比古と話していたレオに唐突に話しかけられ、呼び捨てでもいいかと尋ねられたミツは驚愕するが、すぐに笑顔を浮かべて了承する。

 

 

 (僕だってまだミツさんを呼び捨てになんてできないのに、レオはあっさりと呼ぶなんてずるいよ…。)

 

 

 その傍らで幹比古がレオに対して嫉妬の感情を向けていた事は二人とも鈍感なので気づかなかった。ただなぜミツに嫉妬を向けているのか、まだ幹比古も気づいていなかった。

 

 

 そんな心境を抱かれている事は知らずに、レオの話は続く。

 

 

 「悪いけどよ、道案内してもらってもいいか?俺、この辺りに来てまだ日が浅くてよ~。街並みも似たような場所がありすぎて覚えきれていないんだ。

  よかったら、目的地に着くまで、街の中を歩きながら教えてくれねぇ~か?」

 

 

 「そうなのですか?私は構いませんよ。困っている人を助けるのは当たり前ですから。」

 

 

 二つ返事で町案内役を了承してくれたミツにお礼を言うレオは、雄叫びを上げて喜んだ。

 

 この後、女将にも事情をざっと話し、二人を連れていく事を認めてもらったうえで、三人で町へと歩き、目的地に着くまでだが、町巡りをする事になったのであった。

 

 

 

 

 早速お腹を空かせたレオが真っ先に団子屋へ足を運んで美味しそうに頬張る姿を見て、幹比古とミツは楽しそうに笑う面々が町巡りの初めの一時を盛り上げていくのだった…。

 

 

 




眠いが、頑張るぞ~!!
次回はレオに連れられて幹比古達はどこに行くのか~~!!


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辿り着いた先に

第三弾特典もゲット。…ただしそろそろ映画も飛ばして達也様のカッコいいシーンを先に見てみたくなってきた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 団子屋でお腹を膨らませたレオは、ミツに案内されながら目的地に向かって行く。途中から幹比古もレオに誘われて団子を食べ、あまりにも美味しかったので、ミツも一緒になって食べていた。そのために町へと赴いてから少し時間が経っていた。

 

 

 「レオ、時間は大丈夫?僕たちをどこかへ連れて行きたいみたいだけど。」

 

 

 「ああ、そうなんだけどよ。鐘が鳴るまでに戻ってくればいいって言ってたし、そんなに急がなくてもいいぜ。今急いでもピリピリしているお役人達が出迎える事になるしな。」

 

 

 「……それならレオに任せる事にするよ。奉行人と顔合わせるのはまずいだろうし。」

 

 

 「あ、ああ…そうだな。ゆっくり町を回ってからで行こうぜ!!」

 

 

 若干言葉に詰まったレオの反応を見て、レオが幹比古達を連れて行こうとしている場所に心当たりがあった。そしてそこにはあまりミツを連れて行きたくないと思った。しかしレオが友人を傷つけるような真似はしないとも思っているため、今はこのまま町観光を楽しむ事にした。

 

 

 歩いていると、市場に辿り着き、異国から仕入れた商品が扱われていた。見事な細工が施されたガラス細工や食器、陶器が数多く並んでいた。これらにミツは目を輝かせて、熱心に市場で売られている異国のモノを観察し、お店のシンボルとして買うべきかどうか悩み始めた。レオと幹比古は荷物持ち…ではなくただの付添になってしまい、ミツが満足するまでこの市場から離れる事は出来ず、二人は暇を持て余す事になった。

 

 

 「こりゃしばらくかかりそうだな。」

 

 

 「彼女が納得するまで待っていようよ。」

 

 

 「別にそれに関しちゃあ、良いんだけどよ?」

 

 

 体格の良いレオの背中が若干曲がり、レオの表情も険しくなる。

 

 

 「…何?」

 

 

 「歩き回ったらお腹すいたぜ~~!!」

 

 

 「……ふ、ふふふ。レオらしいね。」

 

 

 「それはどういう意味だよ。」

 

 

 深刻そうな表情するから何があったのかと思ったら、とんだ拍子抜けを味わっただけだった。

 いつもと変わらないやりとりした幹比古は、ふと思い出した事を聞いてきた。

 

 

 「そう言えば、一条君や達也は何処にいるんだろう。この夢世界に来ているとは思うんだけど。」

 

 

 「ああ、幹比古と会えたんだし、そろそろ合流してくれてもいいんじゃね?」

 

 

 「合流するって言ったって、この夢世界は意外と範囲が大きいし、見つけるのも時間かかるよ。」

 

 

 「そうだよな…、ったくmあいつら何処にいるんだ?」

 

 

 残りはぐれて未だに姿を確認していない二人の安否について話をしていると、ミツが戻ってきた。何か買い物をしてきたのかと思ったが、何も買わなかったらしくもう大丈夫なので参りましょうと言った。

 どうやらお値段が足りなかったみたいで、断念したようだった。

 

 ミツは芸術的なツボを見つけたようで、どうしても欲しかったが、町娘が買える金額ではなかったため、諦めた。

 

 …そんな話を聞きながら、和菓子屋さんで和菓子を一杯食べると、そのままレオが連れてきたがっていた場所に辿り着いた。

 

 

 「ここだ。ありがとな、ミツ。」

 

 

 「いえ、構いませんよ。…でも驚きました。」

 

 

 「確かに…。レオ、僕たちが入って大丈夫なのかな?」

 

 

 ただ門の前で呆然と立つ二人の視線の先には木版に墨で書かれた場所の名前が書いてあった。

 

 

 ……”江戸奉行所”と。

 

 

 




レオが泊めてもらっている奉行所へ連れてきちゃった!! 本当に大丈夫なのか?


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噂の親分、登場!?

時代劇は面白いから!うちの世代はそれを理解してくれる人、少ないからこの際、きっかけを…!


 

 

 

 

 

 

 

 

 レオに連れられて辿り着いた場所は、レオが世話になっていると言っていた奉行所だった。

 

 

 「本当に大丈夫?ミツさん。無理しなくても……」

 

 

 「いえ、私は大丈夫ですから、気にしないでください。」

 

 

 門前で幹比古はミツに気遣いを見せる。ここに入るという事は先日の事件の事も蒸し返されるかもしれないし、あの時の御用人達とも出会う可能性もある。怖い思いをさせたくないと思う幹比古の思いが言葉に出た結果だった。しかしミツは心配いらないと、幹比古の申し出を断った。関わったと言っても御用人達といざこざを構えたのは幹比古の方だ。だからミツは逆に幹比古が心配だった。

 

 

 「ああ、あいつ等なら今巡回しに行ってると思うから鉢合わせはねぇ~だろうぜ?」

 

 

 「そうなのですか?」

 

 

 「それにお前らを連れてきたのは、親分直々に会いたいって言ってたからな。親分がもてなす客人に無礼な事をすれば親分が黙っていねぇ~よ。」

 

 

 笑顔でそう断言したレオの言葉に安堵したからか、ミツの表情にも笑顔が浮かぶ。そしてミツの笑顔を見て、幹比古もまた奉行所の中に入る事に覚悟を決め、レオの案内されるまま、奉行所の中へと入っていった。

 

 

 

 

 レオの後ろをついていきながら、奉行所内を歩く幹比古とミツは、客間として使われている和室に通された。用意された席に座るとすぐに、女性の奉公人がやってきて、お茶を持ってきてくれた。淹れたての御茶の味に和みつつ、呼び出したレオが世話になっている親分がやって来るまで待つ。その間、親分の話をレオから聞く事になった。

 

 

 「親分さんはどんな人なんだい、レオ?」

 

 

 「う~ん……、一言で言うなら熱血刑事…ってとこか?困っている奴はほっとけないし、部下の指導とかも熱心に自分から教えたりするんだ。」

 

 

 「私も親分様の事は噂で聞いています。この前、近所の老舗の呉服屋さんが火事になってしまった時がありました。その時、御主人と奥様が燃え上がる炎で逃げ遅れて取り残されていたのですが、親分様は自ら炎が蠢いて危険な中に突っ込んで、二人を抱えて脱出し、二人が快復するまで看病したそうです。親分様、その際に火傷を負ったそうですが、

 

 

 『民を護れたのだ。ならこの火傷なぞ、悔やむ必要は無い。もしそれが必要な時は、命を救えなかった時だ。その時俺は、この火傷を自らの戒めにするだろう…。』

 

 

 …と仰られたそうです!

 私…、この噂を聞いた時、憧れました!」

 

 

 「そ、そうなんだ…。確かにかっこいいね、親分さん。」

 

 

 目を輝かせてエキサイトしたミツを横目で様子を窺い見ている幹比古は、少しの嫉妬をまだ会った事のない親分に嫉妬する。しかし、ミツ的には憧れると言っても、異性というより古い文献に書かれた物語に登場する殿様のような印象を持っていて、こっそりと書いている趣味の執筆のネタにしているのであり、幹比古が嫉妬する様な深く考えた想いを抱いている訳ではなかった。

 

 

 そんなミツとレオが親分の話で少し盛り上がってきた頃、その本人がようやくやってきたのであった…。

 

 

 




熱血刑事ぶりを見せる親分、このままのキャラで通すか、はたまた違う一面を見せるかどっちがいいだろうか脳内検討中。


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熱血親分は……

ギャップって怖いよね~。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「すまない、遅くなってしまったな。」

 

 

 和室の一室で待たされていたレオ達の元に親分が謝罪しながら障子を開けて入ってきた。親分の謝罪を必要ないと答えようとした幹比古は、口を開いた状態で固まる。ミツも顔を真っ赤にして違う意味合いで固まった。

 

 

 「は、は、はだかですぅぅぅ~~~~!!!」

 

 

 顔を真っ赤にして、両手で顔を覆い、視界を閉ざすミツが目にしたのは、上半身が裸で、見事な筋肉質の鍛え上げられたがっちりした体だった。少女から見れば、魅力的に見えても仕方がないくらい惚れ惚れするものだった。その証拠に、両手で覆いながらも指の隙間からちらりと覗き見ているのだから。

 

 その一方で、幹比古が固まっていたのは、親分の顔を見て思わず驚いたからだった。何だって見覚えがある人物だったからだ。

 

 

 「ん?俺の顔に何かついているのか?」

 

 

 親分が幹比古に凝視されている事に気づいて、自分の顔を触ってみるが、異常は見当たらない。まぁ言うのであれば、身体全体に流れている汗だろう。

 

 

 「な、何で貴方がここに…?」

 

 

 驚きのあまりまだ意識が回復しきっていない幹比古は、親分にそう告げる。しかし問われた当の本人は、眉を吊り上げ、逆に問いだす。

 

 

 「…俺と以前にも前で会ったことがあるのか?俺は記憶が良いと自負しておるが、そなたの顔は見覚えがない。誰かの御家族か?」

 

 

 「い、いえ…、そう言う訳では……」

 

 

 「ああ、平気ですよ。こいつも知り合いに親分とそっくりな人がいるもんなんで。驚いているだけで…すから!」

 

 

 口籠った幹比古を庇って、レオがそう言う。そして幹比古に耳打ちして、本当の事を話す。

 

 

 「幹比古が驚くのも分かる。俺も初めの頃は驚いてあの人と違うっていう事は分かっていても、なかなか認識できなかったぜ。」

 

 

 「だからミツさんの事を話した時、すぐに理解してくれたんだね。」

 

 

 「まさか美月までそっくりさんが出るとは思わなかったけどな。」

 

 

 「ここは夢だから、知っている人が出てくる世界だと思う事にするよ。」

 

 

 「にしても、幹比古…、覚悟しておいた方がいいぜ。」

 

 

 「え?何を?」

 

 

 「あの人とギャップがありすぎて怖ぇ~から。」

 

 

 いつも明るい笑みをこぼすレオが苦笑するほど呟いた事に幹比古は目を見開くが、レオが嘘を言う理由がない事もあり、レオの忠告も聞きいれる事にした。

 

 

 「そうなんです。実は僕の知り合いで親分さんに似た人がいまして、ついその人と勘違いしてしまいました。申し訳ありません。」

 

 

 「何だ、そういう事か。いや、謝る必要は無い! 誰にでも勘違いはあるものだ。それよりもこの格好で来たのはまずかったな。女子もいたとは知らなかったとはいえ、こちらの落ち度だ。すまない。」

 

 

 今度は親分が頭を下げて謝罪する。それを見て、口調や話の内容は知っている人と似ている。レオが言っていたギャップが見当たらないと、幹比古が心の中でそう思っていたその時だった。

 

 

 「レオ! 女子が来ると言うならそう言っておいてくれ! おかげで大事な俺の見せ場が台無しではないか! 男を語るにはまずは身体からだと思っていたんだからな!」

 

 

 そんな言葉がレオに向かって飛んだ。それを聞いた幹比古は、今度こそ顔を引き攣って、後ずさる。ミツは言葉を意味を捉え間違いして、ポッと顔を更に真っ赤にしてはいたが。

 

 

 「……………え?」

 

 

 気が抜けたような間があいた驚きを呟く幹比古の脳内は混乱しまくりだった。

 

 

 (……有り得ない。

 

 

  十文字先輩にそっくりな見た目なのに………!!)

 

 

 …そう、心の中で叫ばずにはいられなかった幹比古だった。

 

 

 




十文字か!? 十文字ってそう言う趣味が…!

(作者自身なぜか意味を捉え間違いしている現状です!)


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漢の世界

実際にあったら、どう反応すればいいんだろうね、リアル人間であるうちは。


 

 

 

 

 

 

 

 

 十文字似の親分の発言によって、引き攣り気味の幹比古と昇天気味のミツがどう反応していいか困っていた。しかしそんなに間を空けることなく、会話が成立する。レオが間に入って、幹比古達に説明する事も兼て、十文字似の親分へ声を掛けるのだった。

 

 

 「親分、そんな言い方だと誤解しまくりですって。」

 

 

 「ん?俺のどこに誤解が生じると?」

 

 

 「そんな上半身裸で『身体で男を見せようとしたのに』って言っても、本心は伝わらないって事です。実際に連れて行った方が分かると思いますよ。」

 

 

 「そうか、なら話はあそこに連れて行ってからでいいか。君達も付いてきたまえ。」

 

 

 「え?は、はい!」

 

 

 すぐさまどこかへ行こうとする親分さんの後をついていきながら縁側沿いの廊下を歩く事になった幹比古とミツは、一緒に付いて行っているレオに小声で問いかける。

 

 

 「レオ、どういう事だよ。どこに連れて行こうとしているんだい、十文字先輩は。」

 

 

 「だから十文字さんじゃねぇ~って。…あ、まだ親分の名前言っていなかったっけか?

  親分は………」

 

 

 「俺の名は、十門克治郎(じゅうもんじかつじろう)だ。よろしく頼む。」

 

 

 「………そう言う訳だからよ。」

 

 

 「…僕の声、聞こえていたのかな?」

 

 

 「多分?そうだろうぜ。朝議の時なんか、一番後ろで世間話していた奴らの会話の内容まで聞こえていたみたいでよ?『女に飢える暇があるなら俺が鍛錬をつけてやる。』って黙らせたからな~。」

 

 

 「へぇ~、十文字先輩…じゃなかった、十門さんらしい?ね。」

 

 

 自分で言っておきながら、未だに十文字の面影を重ねてしまう幹比古をレオは仕方ねぇ~よという顔で、励ます。なかなか区別するには時間がかかりそうだと自分に喝を入れる幹比古だが、それと同時に自分達がどこに連れて行かれそうになっているのか、今の会話で少しわかった気がした。そして幹比古の予想した通りの場所だったことが目的場所に着いてから判明した。

 

 そこは、役人たちが己の剣の腕を磨くために日々鍛錬する道場だった。道着と袴を身に付けたかなりの男達が互いに稽古の相手をし、汗を掻きながら打ちこみを重ねていた。

 

 

 「ここが俺達の稽古場だ。最近は江戸も物騒になりつつある。民を守るためにも我々が強くなければいけないのだ。」

 

 

 「十門さんもここで稽古をしていたんですね?僕たちのためにわざわざ足を運んでくださりありがとうございます。」

 

 

 「俺の事は親分と呼んでくれ。皆からもそう呼ばれているのでな。それよりもレオ。そろそろいいか?」

 

 

 「俺はいつでもいいすよ。ちょうど俺も暴れたいと思ってたんで。」

 

 

 「あくまで稽古だ。…それで君の名はまだ聞いていなかったな?」

 

 

 「はい、吉田幹比古と申します。」

 

 

 「そうか、では幹比古! お前も稽古に参加しろ。お前の中の”漢”を見てやる!」

 

 

 (………やっぱりか。)

 

 

 ここに連れて来られてからそうなるのではないかとは思っていたが、実際に熱く語られながら言われると、体力を絞り取られるくらい付き合わさせられるんだろうなと考えが浮かぶ。レオもやる気だし、どうしようかと思っていると、横からミツが話しかけてきた。

 

 

 「幹比古さん、頑張ってくださいね。私、応援しています!」

 

 

 満面の笑顔でそう言われてしまうと、引けない。

 

 寧ろ頑張って、良い所を見せてやりたいという気持ちが沸き起こる。

 

 

 「うん、ありがとう。頑張るよ。」

 

 

 考えるより先、稽古に参加する事に了承してしまった幹比古だったが、本人もやる気に満ちていた。そんな幹比古を見て、レオが「上手くいった」と思ったのは、レオの心の中だけに留められる。

 

 

 こうして幹比古は、”漢の世界”とも言える熱気にあふれている道場内に一歩足を踏み入れたのであった。

 

 

 




十文字にそっくりな親分は、十門克治郎といいます。彼の性格は更に加速していく事になるでしょう。


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変わった稽古方法

サブキャラが大量発生だ~~!!


 

 

 

 

 

 

 十文字にそっくりな奉行所を仕切る”親分”こと、十門克治郎に促され、まさに稽古中の御用人達と共に県の稽古を始めた幹比古は、稽古を始めて一時間も経たないうちから御用人達から只者ではないという印象を与えていた。

 

 剣の稽古と言っても、実際に仲間を斬り捨てるわけにはいかないから、竹刀での稽古だが、幹比古は少し違った。竹刀なら実戦だと刀になる。リーチも長いから攻撃範囲も大きくなる。しかし幹比古の場合、竹刀ではなく竹刀の衝撃でも耐えうる丈夫な木の棒だった。長さなら指先から肘までの長さで、ちょうど小刀くらいの大きさだと言えば分るだろう。その小刀サイズの木の棒を使って、幹比古は稽古に参加していた。

 

 ただこれを使って稽古をしているのは幹比古しかいない。他は全員竹刀で稽古している。無論幹比古の相手をしている御用人も、そしてレオも。レオは現状魔法が使用できないため、若干不満が残るが拳での戦闘は控え、エリカに扱かれた剣術を使った技を駆使して、竹刀で闘っていた。拳での戦闘スタイルはレオの最も得意なもので、本来の闘い方だと自負している。しかしそれが可能なのは、一番得意な硬化魔法をその身に発動し、鉄の身体のようになった状態になって初めて戦えるものだ。先程も指摘したが、魔法が使用できない今の状態では、拳での戦い方は相手が剣や鉄砲での攻撃の場合、不利になる。自ら危険に突っ込んでいくようなものだからだ。無謀だと言う事はレオ自身も理解している。そこまで頭が回らないほど愚かではない。意外に思うかもしれないがレオは知力がある。ただの突っ込み馬鹿だと愚痴られるほどの単純ではない。

 だから、奉行所での稽古では、剣での打ちこみ稽古を行っているのであった。レオがしっかりとした練習用の竹刀で戦っているのに、幹比古は木の棒で戦っているのは差別的ではないかと捉えるかもしれない。

 しかし、当の本人である幹比古は、そんな不満を口にも出していないし、表情にも出していない。今浮かべている表情は真剣に相手と向き合う逞しいものだ。そう、この結果になっているのは幹比古が自分から望んだ事だからだ。

 

 古式魔法師である幹比古は、幼い頃から神童と呼ばれるだけあって、古式魔法に優れた一族の中でも卓越した存在だった。しかし、あの時の儀式以来、魔法が思うように使えなくなり、それを補うために武術にも力をこれまで以上に打ち込んできた。お蔭で身を護るためだけなら自信があると言えるくらいにはなった。古式魔法は隠密性が高い上に強い効果を与えるが、発動時間が現代魔法に比べて遅く、先に相手に魔法を行使され、敗れてしまうというデメリットがある。そのため、古式魔法師は相手の攻撃に瞬時に反応できない事が難となっている。幹比古は、これを打開するために護身術を身に付けたのだ。その際一番自分に合った武器が、小刀だった。だからこそ木の棒での稽古を自らお願いしたのだった。

 

 十門は本来ならもっとちゃんとしたもので、稽古に参加してもらいたかったが、あいにく幹比古が求める練習用の小刀がなかったため、急遽用意した木の棒を渡した。申し訳ない気もしていたが、幹比古の稽古の様子を見ているうちにそれが吹き飛んでいった。

 

 

 (こいつは面白い…。良い奴がいるな…。)

 

 

 微笑を軽く浮かべ、幹比古とレオの稽古を様子見しながら、他の稽古している者達を扱きに道場内を回りだす。

 

 

 




…と言いながら、幹比古とレオについて語っただけでここまで行ってしまった…。


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不利だとしても

一週間ってはやい。そして子供たちの間では夏休みか~。というのを仕事中に思い、懐かしさを感じる一方、長い休みを満喫している彼らになぜか羨ましさをも感じる(心の中で「その休みをくれ~!!」と叫んでいる)うちが最近身体を支配している。


 

 

 

 

 

 

 

 

 「おしっ!! お前達、休憩だ~!!しっかり体力付けておけ!」

 

 

 「「「「「はいっ!!!」」」」」

 

 

 「休憩終了次第、俺が直々に稽古の相手になってやる!まとめてかかってこい!!」

 

 

 「「「「「…はいっ!」」」」」

 

 

 一瞬の間があったが、何を思ったのかはここは彼らのためにも言わないでおこう。それよりも休憩に入った事で、各々仲間達と雑談しながら、お裾分けとして出された握り飯を奪い合いながら食べている。先程までの真剣稽古と違って、和気藹々とした道場内で、幹比古もレオに誘われる形でこの流れに参加する。レオがいてくれるおかげで知り合いのいない中で一人立往生になってしまうという悲しい状況に置かれずに済むからだ。そうなれば人見知りの幹比古にはトラウマにもなりそうなくらい恥ずかしい思いをする事になっただろう。

 

 

 「次はいよいよ親分とやれるんだな~。これは気合が入って来るぜ!」

 

 

 両手の拳をガツンと言う音を立てて、面白がっている表情を浮かべるレオに、幹比古は乾いた笑いを返した。

 

 

 「レオはいいよ、得意分野だし。でも僕はどちらかというと自分から突っ込んでいくタイプじゃないし、それは僕のやり方ではないから。さっきだって稽古では大分動けていたけど、何とか捌けているだけだった。相手がまだ本気を出していない中でこれじゃ、実戦ではあっという間に相手に反撃されてしまうよ、僕の場合は。」

 

 

 「まぁ、幹比古は姿を隠して陰から反撃するタイプだしな。それでもさっきの動きは中々だと思うぜ?前から鍛えていたとは知っていたけど、いい感じに仕上がっているしな。」

 

 

 「親分の様子を見ると、近距離戦になるのは明白だし、僕の相性的には勝つのは難しいかも。」

 

 

 幹比古は、ため息を吐きながら今淹れられた湯呑の緑茶を見つめながら考えていた。

 

 元々魔法も古式魔法を使う幹比古の場合、剣で戦う相手とは、精霊を通じて遠距離で仕留めるのが普通だ。しかし今は魔法を使う事も出来ない上、肉弾戦を仕掛けてくるかもしれない相手と正面衝突は避けたいと思う。魔法を使えないならもっとも警戒し、相手にしたくない部類だ。

 しかし、幹比古は自分が不利だと言う事が十分に理解している。それでも親分に勝ちたいという思いが湧いてくる。それは先程の言葉でも表現されていた。

 

 

 「へぇ~、”勝つ”って親分にか?」

 

 

 「面白い事を言うね、君は。さっきまでの稽古を見た限りじゃ、君の言うとおり不利な面が強い。あの筋肉質ながっちりした身体からは想像できないくらいの足の速さを見せるからな。君の闘い方だけではあっという間に間合いを詰められてしまう。」

 

 

 「そんな不利な状況にもかかわらず、勝つ気なのか?」

 

 

 幹比古の話を聞いていた役人たちが近寄ってきて、共に床に腰を下ろす。その役人たちの顔を見て、幹比古は更に驚きを隠せないくらい息をのみ、目を丸くしたのであった。

 

 

 




ここであいつらが出てきて~…、


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懐かしい団欒

団欒と言ってもいいのだろうか、これは?


 

 

 

 

 

 

 

 

 レオと二人で休息を取っていた幹比古達の元へ、役人たちが声を掛けてきて、輪の中に入ってきた。その役人たちの顔を見て、幹比古は息を呑んで驚く。

 

 

 「ん?俺の顔に何かついているのか?」

 

 

 「い、いえ何もないです!」

 

 

 「そうか?」

 

 

 「もしかして君の眼光にびっくりしたとかじゃないのか?ほら君の顔って狐みたいだし、目が細いから余計に鋭く見える。」

 

 

 「誰の顔が狐だって~?この女名が!!」

 

 

 「…それは聞き捨てならないな。俺は事実を言ったまでだ。」

 

 

 「俺だって事実を言ったまでだぜ~?お前男にしては可愛い名前だしな~?」

 

 

 「……その人を嘗めまくった顔と口を使い物にできなくしないと分からないようだな。」

 

 

 「やれるもんならやってみろよ…!」

 

 

 座ったばかりだというのに、いきなり喧嘩腰になり、腰を浮かせ、足を立て、火花を散らす二人。それを見て、レオは面白がっているが、幹比古は止めなくていいのかという気持ちになった。しかし、幹比古が止めに入る前に事態は収拾される。

 

 

 「二人とも、客人の前だ。無礼な態度を取るものではないぞ。稽古が再開すればその時に決着をつければいいだろう?」

 

 

 いや、収拾したと言ってもいいのだろうか?問題を後回しにしただけのようにも感じる。しかし仲裁に入った人物により、二人もそれもそうだなという感じであっさりと浮かしかけた腰を元に戻し、座り直す。

 

 

 「すまない、無粋なものを見せてしまったな。」

 

 

 「いえ、皆さんの変わらないところが見れてよかったです。少し和みました。服部先輩。」

 

 

 「…なぜ俺の名を知っているんだ?しかも俺はお前の先輩でもないと思うが?」

 

 

 「あ! え~っとそれは…。」

 

 

 そう、幹比古が口籠ったのも、先程驚いたのも同じ理由で、話しかけてきた三人は、なんと服部、桐原、沢木だったのだ。…と言っても、三人とも姿や性格が似ているだけの赤の他人なのだが。幹比古は三人とも本人だと錯覚してしまったのもあるし、三人の反応も本人達と同じだったため、普段通りに話してしまった。それをギャクに不審に思われてしまい、どう言葉を返せばいいのか、必死になって考える。

 

 

 「それはですね!僕の学塾の先輩にも似ている人がいまして、その人の名が服部先輩なのでつい口走ってしまったんです。」

 

 

 嘘ではない。そっくりな人がいるという点だけを除いて、他は本当だ。そのお蔭で幹比古の話は真実だと受け取った服部は、納得する。

 

 

 「そうか、では改めて俺の名は服部上総だ、ここでは十門お頭の補佐を行っている。」

 

 

 「俺は桐原武士だ。お前さっきの稽古見てたんだけどよ、良い腕してるじゃねぇ~か!後で俺と一戦やろうぜ!」

 

 

 「俺の出番を邪魔するな。…俺は沢木だ、よろしく。俺の事はくれぐれも沢木と呼んでくれ。」

 

 

 「…はい、心得てますよ、沢木先輩。」

 

 

 『くれぐれも』というフレーズで強めに忠告するあたりも沢木に似ていて、やはりこの世界でも女名のような自分の名前にコンプレックスを持っている事が分かった幹比古であった。

 

 




ちょっとした仲睦ましいものになりましたが、服部が止めなかったらどうなっていたのだろうね~。


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やはり最強剣士は・・・

そろそろ恋愛もありだけど、魔法科らしい展開にしていかないとだね。


 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩が終わり、再び稽古になった道場内で感嘆の声が響き渡る。

 

 稽古開始する五分前に道場に戻ってきた十門親方は、先程の稽古で乱れてしまっていた道場着と袴を新しい物へ着直しており、大量の汗もなかった。風呂に入って汗を流したのかもしれない。身嗜みを整えて再登場した十門親方に幹比古もレオもすっかりカッコいいと思ってしまった。

 

 そんな十文字先輩と変わらない親方を見て、二人が十門の胸を借りる気持ちで、挑むのは仕方ない事だった。結果は言わずもがな…、だったがいい経験にもなったし、全力を出したから悔いはなかった。それに自分達と同じく、十門親方に挑んで敗れた服部、桐原、沢木も休めの状態で道場の壁際に立ち、見届けてくれた。三人とも幹比古達と同じ満足げな顔をしていた。十門親方の事を心から慕っている事が窺える表情だった。

 

 

 充実した稽古もあっという間に終わり、幹比古は彼らの厚意を有難くいただき、汗を掻いた身体を水浴びで綺麗にするのであった。そこにはレオも一緒で、幹比古はがっちりとした体形をしているレオの身体とそれなりに鍛えてはいるがまだ筋肉が引き締まっていない自分の身体を見比べて『まだ僕は鍛え方が足りない…。』と更なる目標を更新するのであった。

 

 

 「それにしても、十文字先輩とこんな形で戦う事になるとは思わなかったぜ。でもいい機会だったな!」

 

 

 「いや、レオ。ここは夢の中だから、現実通りの強さだったとは言えないよ。魔法でじゃなくて、刀だったし。それに、十文字先輩じゃなくて、十門親方だから。」

 

 

 「あ、そうだった。たまに俺忘れてしまうんだよな。」

 

 

 「居候させてもらっているんだろ?そろそろ覚えておかないとまずいんじゃ…。」

 

 

 「大丈夫だって、全員とは打ち解けているからよ!ただつい滑ってしまうだけだから心配ねぇ~って。」

 

 

 (それを大丈夫って言って大丈夫なのかな?)

 

 

 不安があるものの、幹比古も経験しているだけに強くは言えない。しかし、レオなら誰とも仲良くできそうだと思ってもいるので、この話はここで御終いにする事にした。

 

 

 「…ところで、十門親方が堂々とした佇まいで俺達が仕掛けてくるのを待っている時…、なんだか懐かしさを感じたよ。」

 

 

 「ああ、それ、俺もだぜ。確か十文字先輩が一高を卒業するっていう事で、その激励の送別会も兼ねた三高とのバトルロイヤルした時のだろ?」

 

 

 「うん、あの時も服部先輩達が挑んだ後、僕たちも十文字先輩と最後闘おうとしたっけ。」

 

 

 「だけど、俺達はその前に結局達也と闘って、負けちまったから十文字先輩とは闘わなかったけどな。」

 

 

 「そう言えば、今、達也は何処にいるんだろう?」

 

 

 「そうだよな~、達也がいれば今この夢の中でどうなっているのか、分かるかもしれねぇ~のによ。」

 

 

 「早く合流できるといいね。」

 

 

 「それなら何とかなるかも…しれねぇ~…」

 

 

 「え、なんて言ったか聞こえなかった。もう一度言ってくれるかい?」

 

 

 「うほっ、あ…、悪い。俺からは言えないんだよ。まぁすぐに分かるからその後な。」

 

 

 言葉を濁し、ささっと服を着替えるレオの様子に引っ掛かりを覚えたが、もったいぶって面白がるレオではないので、幹比古もレオにならって服を着替え始めた。

 

 

 そしてそろそろ夕刻に近くなってきたので、ミツを連れて帰ろうとした幹比古を十門親方が呼び止めた。

 

 

 「悪いが、吉田。俺に付いて来てくれ。ここからが本題だ。」

 

 

 稽古の時以上に真剣な表情で語る十門親方に、幹比古は事前と首を縦に振って頷いていた…。

 

 

 




今のところ、十門親方だったね。

あ、ちょっとバトルロイヤルが出たけど、これは画集にあったプチ小説から引き出してきました。相変わらず美しい達也様のドアップ姿が拝めて感動しましたよ~。


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見極めの評価

何がなくては魔法科で在らず!!(うちの主観が入りまくってます)


 

 

 

 

 

 

 十門親分に連れられて、武家屋敷の奥の敷地へと足を運ぶ幹比古。戦闘を歩く十門親方は何も言わず、ただ幹比古を招く。それを廊下ですれ違う人たちや庭で稽古をする役人たちが驚いた表情で視線を向けてくる。視界の端でそれを確認した幹比古は、これは物珍しい事なんだと感じたのであった。

 

いままでの歓迎とは違った雰囲気に包まれた空気を感じながら、幹比古が連れて行かれた場所は、十門親分の私的な和室部屋だった。ここに入れるのは、奉行所の中でも限られた人間だけで、側近くらいだ。その証拠として十門親方と幹比古だけでなく、この場には服部、桐原、沢木もいた。そして部屋の隅にはレオが邪魔にならないように座っていた。プライベート空間にまで連れてこられたからには、それだけ秘密に、重要な話だという事は理解した。

 だから、幹比古は十門親分が話を切り出すのを静かに待つ。自分から話してもいいと言うのは野暮だと思ったし、十門親分が緊迫した面持ちでいる中に水を差す気もなかった。

 それに幹比古に気を使わせるくらいの時間、沈黙は続かなかった。なぜなら、十門親分はこれからする話に真剣に捉えてほしいと考え、幹比古に陳長官を持たせるために敢えてすぐに話を切り出さなかったのだ。ベストなタイミングで十門親方が口を動かした時には既に幹比古は十門親方の思う通りになっていた。

 

 

 「まずは、引き留めてしまって申し訳ない。何分、今からする話は込み入った話なのでな。それなりに見込みがある者にしか話す事が出来ない。それ故に君の実力を見せてもらった。」

 

 

 「はい。」

 

 

 「俺はなかなか骨があると思っている。……お前たちはどうだ?」

 

 

 「問題ないっすね。即戦力に欲しいくらいですよ。」

 

 

 「俺も彼の実力は既に僕たちほどの強さです。」

 

 

 「彼の闘い方は私達と異なっています。しかし、その強さは私達と同等ともなれば、逆に切り札ともなれる可能性だってありますし、当初の予定よりかれえらの働きをもう少し見直して取り入れるべきだと思います。」

 

 

 「…なるほど。ならお前たちからの了承も得た事だ、これからの話は腹を割って話そうではないか。吉田、良く聞いてくれないか。」

 

 

 「はい、なんでしょう。十門親方。」

 

 

 「君の腕を見込んで、頼みたい事がある。しばらく俺達と行動を共にしてもらいたい。ぜひ君の力を貸してもらいたい案件があるのだ。」

 

 

 「案件…、何か事件でしょうか?」

 

 

 「まだ事件だと断定されていない。…表ではな。」

 

 

 意味深な言い回りをした十門親方の言葉に、幹比古は一つ分かった。

 

 

 (ああ…、事件化もされていないから、こっそり調べたいんだな。だから秘密裡って事かな?)

 

 

 十門親方が私室とも言える場所に自分を招き入れた事を悟った幹比古は、背筋を伸ばし、前を見据えて口を開く。

 

 

 「よければ詳しくお話を伺えますか?」

 

 

 幹比古の堂々とした振る舞いに、十門親方は強く頷き、最後の確認もできたため、本題へと切り出すのであった。

 

 

 




今日はいい事あったな~、そしてヤバい事に巻き込まれた日でもあったわ~。
このまま健やかに朝まで寝れるといいな~。


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協力要請

何やら事件の匂いが~!!くんくん


 

 

 

 

 

 

 重い空気が蔓延る部屋で、ついに十門親方が口を開く。

 

 

 「実はここ最近江戸の至る所で窃盗が相ついているのだ。被害も多く、下手人達は捕まっていない。狙われるのは、商人や呉服店、酒店、宿屋といった金回りのいい場所で頻繁に起きている。

  根こそぎ店や屋敷にある金目の物全てを盗み出されており、我々は一刻も早い解決を求められている。

  そのためにも吉田の手を借りたいのだ。」

 

 

 威圧感を感じる身体つきの十門親分だが、今はもっと大きく見え、物凄いプレッシャーを感じる。幹比古は喉が渇き、その乾きを誤魔化すために唾を呑み込んで潤し、負けじと伸びきっている背中に更に力を入れ、これ以上ないほどの垂直の正座をするのだった。それでも額から流れ落ちる冷や汗が幹比古の頬を伝って落ちていく。

 

 幹比古はどう答えを返そうか迷っていた。

 

 ここですぐに「はい、僕にできる事ならお手伝いします。」というべきか…。

 

 しかしそれは今は違う気がした。なら断るのか?いやそれも違う。…というよりここに連れてこられた以上、逃げられない選択だと思うようになっていた。

 十門親分は頼みがあると言っていたが、自分が協力する事は既に彼の中では決定事項なのだ。その証拠に先程からプレッシャーがひしひしと感じるし、服部先輩達も退路を断ちきっているかのように縁側の襖の前に並んで座っており、唯一の入り口をふさいでいた。

 もちろん今の話を聞いてみると、人として協力したいというのはある。ただし、一般人として、だ。

 

 十門親分は言った。被害のあった中に宿屋もあると。

 なら、宿屋を営んでいるミツの家も狙われるかもしれない。そう思うと、協力するなら情報提供までが限界だと思った。彼女から離れれば、いざという時に護れない。今は特に魔法が使えないから、なおさらだ。精霊魔法が使えれば、視覚同調で離れていても見守れるし、事前に侵入されるような場所や彼女の身に何かあれば発動するトラップも配置する事が出来る。こういう時は古式魔法があれば便利だと幹比古は苦笑する。今そんな事を考えても意味はないと思い直して。

 

 それと幹比古は引っかかる事があった。十門親分が所々で言葉を濁している印象を受けたからだ。何か隠さないといけない事があると言わんばかりの言葉遣いだ。だが、幹比古はこれが十門親分が敷いた最後の決意表明なのだと。この先の事を聞けば、後戻りはできない、聞いてしまったなら最後まで協力しないといけない。危ない目にもあうだろう。そのための最後の確認だと思った。

 

 

 「どうだ、協力してくれるか?」

 

 

 「まぁお前は俺達みたいに役人ではないから、強制ではないぜ?」

 

 

 「あくまでお願いしているだけだ」

 

 

 服部たちが未だに口を開かない幹比古に問い掛ける。そんな中、幹比古はレオの顔を見る。レオも幹比古の顔を見ていて、幹比古の結論を待っていた。後頭部に両手を組んだ状態で気楽な体勢でいるが、幹比古を見る表情には薄い笑みが浮かんでいた。そして目は生き生きしていた。それを見た幹比古は、レオも既に了承済みで、レオ自身も力を入れているんだと悟った。何やら今から起きるトラブルに生き生きしているいつもの様子が目に浮かんだ幹比古は、自分もその波にいつもみたいに乗るのも悪くないと思った。

 

 

 (何を深く考えていたんだろう。この流れっていつもの事じゃないか…!)

 

 

 レオの姿とまだこの夢の世界では再会できていない友人の姿を脳裏に思い描き、幹比古も笑みがこぼれる。突然笑みをこぼした幹比古に若干服部が訝しく思い、眉を顰めたが、すぐに幹比古の表情が引き締まったので、特に注意する事は止めた。

 

 十門親分の目を直接見た幹比古は、意志が固まった事を告げる表情を見せ、十門親分の問いに答える。

 

 

 「僕もぜひ協力させていただきます。だから…、まだ隠している事を教えてもらってもいいですか?」

 

 

 




確かにトラブル遭遇して、意気揚々と参戦しているよね、レオも。幹比古も。


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大きな拳

多分本当の十文字なら即決していただろうな~。


 

 

 

 

 

 

 「そうだな、ここまでの我らの試しにも応えてくれた。俺もそれに応えるのが礼儀だろう。」

 

 

 幹比古の遠慮はいらないという決意を受け取り、十門親分は隠していた事実を告げ始める。

 

 

 「江戸中の豪商やそれなりにお金を持ち合わせている屋敷を狙い、窃盗が立て続けに起きている事は言ったな。」

 

 

 「ええ、一刻も早く捕まえたいと。しかし妙だと思いました。」

 

 

 「妙、と思ったのはなぜだ?」

 

 

 「はい、その窃盗は……下手人は狙う標的をお金を持っている所に絞り込んでいる。それなら、こちらも次に狙われそうな所を目星付けて、そこを見張ったり、直接その標的になりそうな店や屋敷に忠告するなり、何か対策を取っていれば、下手人を追いこむ事が出来るはずです。十門親分がそれを考えなかったということは無いと思います。恐らくだと思いますが、既に実行しているのではないでしょうか?」

 

 

 「……………」

 

 

 「だったら余計不思議に思ったんです。今日の稽古を見たり、稽古相手になっていただいた時、皆さんはやはりかなり強かったです。もし下手人達と遭遇したとしても捕まえる事が出来たのではないかと、今のお話を聞く限りでですがそう思いました。

  …ですが、捕まえる事が出来ていない現状の上で、一宿屋の居候である僕にお願いしてこられました。それが腑に落ちませんし、妙だと。」

 

 

 「……そうだな、江戸に住む一人の民である君に今扱っている奉行所の最重要案件を話す事はご法度であり、許される事ではない。…本来ならな。」

 

 

 十門親分の言葉に続くように服部たちがその先を話し出す。

 

 

 「しかしお前自身が罪に問われることは無い。もちろん親分もだ。」

 

 

 「ま、この部屋に入ってからの今までの話もこれからの話もここにいる者だけの公然の秘密だって事だよ。吉田。」

 

 

 「つまり裏稼業って事だな。」

 

 

 「お前達、話を進め過ぎだ。」

 

 

 「「「申し訳ありません、親分っ!!!」」」

 

 

 三人揃って頭を下げる姿勢は、息が合い過ぎていて、幹比古は笑いが込み上げてきたが、真面目な話をしている最中だという事を自分に意識させ、何とか不発で済んだ。

 十門親分の方は、順序を通り過ぎて話し過ぎてしまった部下達を制し、今度は自分で話す事に決めた。ため息を吐くが、部下達に呆れているのではなく、ズルズルと引き伸ばしていた案件の内容をついに話す決心への意気込みとしてため息を吐いたのであった。

 

 そして、威厳溢れる態度で幹比古に話しかける。

 

 

 「すまないが、吉田にはこれから過酷な頼みをする。そのためにもその理由も話すとしよう。だがその前にもう一度だけ頼む。…あの卑劣な窃盗集団を捕える事に協力してくれ。」

 

 

 大きく握りこめられた拳が畳にたたき込められる。その叩き込まれた拳がある畳は、どれだけ力を込めていたか分かるほど深くめりこんでいた。重量感あふれる拳が放つ圧迫感を感じるくらい十門親分が今回の事でどれだけの思いを抱いているかを言葉にしなくても分かるくらい、物語っていた。

 

 

 




十文字は次期当主…いやもう当主なんだからこれはまずいか?

(大丈夫だよ、だってこれは夢だから!!)

……ならいいか。♥


((いいのか、それで?))


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卑劣な窃盗団

そりゃあ、十門親分も怒るよね。


 

 

 

 十門親分が凄い人だっという事は知っていた。

 

 …というより、十文字先輩と変わらない。部下を従える雰囲気も既に高校生離れしている所とか同じ…、いや、こっちの方が年上か?

 それは横に置くとしても、人を束ねる事が当たり前な貫録を見せつける十門親分が自分に思いの丈を綴って頼んでいるのだ。ここまでされて、『やはり無理です、申し訳ありません。」と断る気は幹比古はもうなかった。

 

 

 「はい、精いっぱいお役に立てるように尽力させていただきます。…それでその江戸に起きている連続窃盗事件とは一体?」

 

 

 幹比古も決意を見せ、話に入り込む。そんな幹比古の決意を受け取った十門親分は、視線で服部たちに説明をするように促す。それを承知したと言わんばかりの頷きをした服部たちは、真剣な面持ちで幹比古に語りだす。

 

 

 「先程話した通り、最近江戸では金回りの良い豪商や屋敷が狙われ、金になる物を全部盗まれる事件が起きている。これは事実だ。しかしこれは江戸に住む者達の間で広まっている内容だ。真実のほんの一部と言ってもいい。」

 

 

 「…というのも、真実全てを江戸の民達に話してしまうと、混乱が起きてしまうぜ。特にまだ事件も解決していない今は、な。」

 

 

 「それを回避するためもあって、連続で窃盗事件が起きていて、狙われそうな商人達には警告し、巡回も強化している。しかし、事態はもっと険悪なんだ。」

 

 

 「険悪…ですか?」

 

 

 「………これまで被害を受けた商人や宿屋たち全員…、金目の物だけでなく、全て奪われている。…命も。」

 

 

 「なっ!!」

 

 

 その隠されていいた真実の一部を聞いただけで、幹比古は絶句した。慌てて声を荒げそうになった言葉を呑み込んで、服部たちに先を促す。

 

 

 「しかもその家や店の店主だけを殺して、家族や奉公人は縛っておくとかそういう事じゃねぇ。屋敷にいる者全員の皆殺しだ。更に言うなら、その屋敷に飼っていた犬までも見事の斬り口で殺されていたぜ。…俺から見ても相当な使い手だな、あれは。」

 

 

 「毎回現場を調べてみるが、やはり手口が同じなんだ。同じ窃盗団で間違いないだろう。被害者の多くにはかなり小判を蓄えている豪商もいて、一人での犯行は困難だからな。」

 

 

 「ああ、分かっているだけで、この連続窃盗事件を起こしている下手人達は、複数犯で、しかも手馴れが揃っている事と、緻密に計画を練っている点が一致している。」

 

 

 「計画を練っている、ですか?あ、すみません。」

 

 

 話の途中に割り込んだ事に幹比古が謝罪するが、十門親分は先を続けるように視線で促す。疑問をそのままにしてしまうと、いざという時に連携が取れなくなる場合があるからだ。

 

 

 「ありがとうございます。…下手人達の殺しや盗みの手口が同じだと言うなら、この一連の事件を連続窃盗事件と断定するのは分かります。ですが、計画を練ると言っても、盗みを働くために屋敷の内部を把握したり、いつ盗むかを決める…様な計画性があるという訳ではないのですか?…服部さん達の説明を聞いていると、なんだか少し違うような気がして…。」

 

 

 服部たちが話す説明を聞くうちに、徐々に声色が深刻になっていき、「緻密に計画を練っている」というフレーズで憤りと悔しさが混じった力みを感じた幹比古は、何か不審に思ったのだった。だが、その幹比古の勘は当たっていた。それを肯定したのは、今まで黙って服部たちの説明を見届けていたレオだった。

 

 

 「幹比古の言うとおりだぜ。ただ頭の回る連中で、腕も立つ窃盗団ならその賢さを利用するなりして、逆に罠にかけるっていう事もできた。まぁ、実際に初めはしていたぜ?でも、すぐにこれはお手上げになったけどな。」

 

 

 「……そんな、服部さん達だけじゃないだろ?十門親分まで動いているならお手上げになんてなるはずが。」

 

 

 どんなに頭が良くて、腕が立つと言っても、十門親分たちがいれば手馴れだろうと捕まえる事が出来るはずだ。それだけの実力があると幹比古は確信しているし、その幹比古の評価も間違ってはいない。実際に十門親分が率いる奉行所は江戸ではかなり優秀な人材がそろっている。町では彼らがいれば安寧が続くと言われているのを耳にするほどだ。だから幹比古は江戸での彼らの評価と自分が体で感じた彼らの強さと頼もしさを知った今、レオが口にした”お手上げ”という言葉をすんなり呑み込む事は出来なかった。

 そんな幹比古の心情を察したレオは、一瞬だけ十門親分を見て、幹比古の顔をじっと見つめたまま、その訳を口にした。

 

 それはレオが口にした言葉の理由としては納得できる一方、決して許せるものではないものだった…。

 

 

 「……調べているうちに判明したんだけどよ、どうやら、その窃盗団と裏で繋がっている役人がいるみたいなんだ。その所為で、手詰まり状態になっちまっている。」

 

 

 その隠された真実の一片を知り、幹比古は連続窃盗事件の根が深い所まである事を悟ったのであった。

 

 




唯の窃盗事件で終わるほど、魔法科は甘くないのだ~!!

裏に大きなものが渦巻くのは魔法科ではおなじみ~。


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