仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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お久しぶりです。本当に長い間、お待たせしてしまいました。

ゆっくり、自分の体調と相談して、また更新を続けていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

2020年の仮面ライダー最初の放送に間に合ってよかったです。


海上の激闘

 

 

「はははははっ! ま、こんなもんか。前菜としちゃあ楽しめたぜ!」

 

「ぐ、ふっ……」

 

 散々に櫂に痛ぶられた謙哉は、壁に背を付けてぐったりと倒れ込んでいる。全身の痛みを堪え、立ち上がろうとする彼であったが、体のダメージは予想以上に大きく、自由に動くことはままならなかった。

 そんな謙哉へと近づいた玲は、辛そうな表情のまま彼をそっと抱き締める。涙ぐんでいる彼女に対し、謙哉は裏切りには何か理由があることを察しているのか、決して恨む様な素振りは見せなかったのだが、それがまた玲の罪悪感を刺激していた。

 

「ごめんなさい、謙哉……でも、今はこうするしかないの……」

 

 謙哉を抱き締める腕に力を籠め、彼の頭に胸を押し付ける様にしている玲。そんな彼女を横目にしながら、櫂は謙哉のドライバーのカードホルスターを確認し、そこにある『サガ』のカードを確認してほくそ笑んでいた。

 

(これが王の器を有するカードか……! こいつを破っちまえば、その資格は消えるのか?)

 

 『創世騎士王 サガ』のカードを手にして、邪な想いを抱く櫂。しかし、そんな考えを脳裏に浮かべた途端、彼の手に鋭い痛みが走った。

 

「ぐっ!? な、なんだ……!?」

 

 突然の衝撃に驚き、櫂はカードを落としてしまう。床に落ちたカードを見つめ、今の痛みが『サガ』による物であることを感じ取った櫂は、忌々しいとばかりに荒く鼻息を吐くと、恨み節を口にする。

 

「ケッ! そう簡単にはいかないってことか……。まあ良い。どの道、俺が優位であることは変わらないんだからな」

 

 カードを拾い、謙哉を抱き締める玲へと視線を送った櫂は、無言で彼女にこの場を立ち去ることを伝えた。水着姿の玲は謙哉のことを後ろ髪惹かれる思いで見つめていたが、諦めた様に腕を離すと小さな呟きを残す。

 

「……本当にごめんなさい、謙哉。後でどんな我儘だって聞いてあげるから、今は許して……」

 

 謙哉から離れ、櫂の手から彼のドライバーをひったくる様に奪い、憎しみを込めて睨みつけた後、玲は着替えのために部屋の中へ消えて行った。既に謙哉の持つ『サガ』のカードがホルスター内に仕舞われていることを確認していた櫂は、特に惜しむこともなく玲の自由にさせてやる。

 

「後で、ねえ……お前たちに後でなんかねえよ。このままここで、俺にやられる運命なんだからなぁ……!」

 

 扉の先へと消えた玲とぐったりと倒れる謙哉を交互に見つめた後、櫂は愉快気に喉を鳴らして不気味な呟きを口にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

「ぐッ!? くぁぁっ!!」

 

 同じ頃、勇と光牙もまた、謙哉同様ピンチに陥っていた。

 強烈な攻撃に吹き飛ばされ、豪華な絨毯の上をごろごろと転がった2人は、頭を振りながら立ち上がり、困惑しながらも状況の把握に努める。

 そうはいっても、彼らは難解な問題に悩まされているわけではない。それとは真逆に至ってシンプルな危機だからこそ、彼らも困惑しているのだ。

 

「クッソ! どうしたってんだよ、葉月!? 片桐!?」

 

 震える手でディスティニーソードを構えながら、勇は動揺を隠せていない叫びをあげる。視線の先にいるのは、自分たちに攻撃を仕掛けてきているのは、これまで苦しい戦いを共にくぐり抜けてきた信頼出来る仲間……葉月とやよいだった。

 勇と光牙の不意を打つようにして変身した2人は、有無を言わさぬ勢いで攻撃を繰り出してきている。その理由も語らず、ただ淡々と自分たちを襲って来る2人の行動に、勇も光牙も困惑して、手出しが出来ないでいた。

 

「がはっ!? ぐっっ!!」

 

「光牙っ! 大丈夫か!?」

 

「ああ、大したことはない……だが、どうして2人はこんなことを? まさか、洗脳でもされているんじゃ……!?」

 

 やよいが放った光弾を受け、その場に崩れ落ちた光牙が仮面の下で苦し気な表情を浮かべながらそう呟く。

 味方である自分たちを襲うという、あまりにも不可解な彼女たちの行動に対して、葉月たちが正気を失っているのではないかという疑問を抱いた彼であったが、その耳に大きく野太い笑い声が届いた。

 

「はははははっ! おめでたい奴だぜ、お前はよぉ!! そいつらは、自分たちの意思でお前らを潰すことを選んだんだよ、光牙ぁ!!」

 

「っっ!? 櫂っ!! それに、水無月さん!? いったい、どうして……?」

 

 戦場と化していた船内ホールに姿を現したのは、この船をハイジャックした櫂だ。彼に従うようにして隣を歩む玲の姿に驚き、困惑する光牙に対して、苦々し気な声色で勇が呟く。

 

「乗客たちだ、光牙。畜生、さっきからおかしいと思ってたんだよ……!」

 

「えっ……? ああっ!!」

 

 勇の呟きを聞いた光牙もまた、彼が何を言いたいのかを理解した。そして、どうしてディーヴァの3人が自分たちを襲い、櫂に従っているのかという理由も同時に悟る。

 この客船は元々、ディーヴァのイベントのために貸し切られたものだったはずだ。今を煌く大人気アイドル ディーヴァのイベントならば、軽く100名を超えるだけのファンが集まっていてもおかしくはない。実際、この船ならば確実にそれくらいの人数は余裕で乗せられるだろう。

 だが、これまで光牙たちが探索した中で、そういった船の乗客たちの姿は影も形も見つけられていなかった。それはつまり、彼らが意図的に光牙たちが見つけられない場所に閉じ込められている可能性が高いということであり、それらの状況証拠を踏まえた結果、出て来る答えといえば――

 

「ひ、人質を取っているのか!? この船の乗客たちを!!」

 

「はははっ! 大正解! お前も少しはマシに頭を使えるようになったなぁ! ま、龍堂の方が先に答えに辿り着いた辺り、お前がまだまだお馬鹿ちゃんだってことがわかるけどよ!」

 

「……ごめん、白峯、勇っち……! でも、アタシたちにはこうするしかないんだ……」

 

「私たちが櫂さんに逆らえば、この船に集まってくれたファンの皆を殺すって……! 私たちには、皆を見捨てることなんて出来ない。だから、だからっ……!!」

 

 嬉しくって堪らないとばかりに笑う櫂と、彼とは対照的に苦しく辛そうに呟きを漏らす葉月とやよい。彼女たちがこの行動を心の底から嫌がっていることは、その様子からも察することが出来る。だが、今の彼女たちには、櫂に従う以外の選択肢がないのだ。

 ディーヴァの3人を救出することに手いっぱいで、まず最初に考えねばならなかった人質の存在という部分を完全に失念していたことを光牙は悔やむ。その隣に立つ勇は、今度は櫂の横に立つ玲へと声をかけた。

 

「水無月、お前がそうして無事でいるってことは、謙哉がお前を助けに来たってことだよな? あいつは、どうしてるんだ?」

 

「………」

 

「み、水無月さん……? まさかっ!?」

 

「答えられねえよなぁ! 自分を助けに来てくれた虎牙を裏切って、ドライバーもカードも奪っちまったなんてよぉ!! こいつが後生大事に抱えてるのは、虎牙の奴のゲームギアさ。必死になって自分を助けてくれた奴を裏切る気分ってのはどうなんだよ、水無月?」

 

「くっ……!!」

 

 挑発的な櫂からの言葉に表情を顰め、苦し気な呻きを漏らす玲。見慣れた薔薇園学園の制服を纏う彼女は、櫂の言う通りに腕の中にゲームギアとドライバーをしっかりと抱えこんでいた。

 

「虎牙の奴なら、廊下でおねんねしてるところさ。徹底的にボコしてやったから、多少はスカッとしたが……まだ、この怒りは晴れねえ。お前たちを苦しめ、叩きのめし、ぶっ潰すまで、俺の憤怒は治まらねえんだよぉっ!!」

 

「ぐッ!? ぐああぁっ!!」

 

「がぁあっっ!!」

 

 表情を怒り一色に染め、船を揺らすほどの激しい叫びを上げる櫂。その叫びに気を取られていた勇と光牙の体に、葉月たちが放った一撃が直撃する。

 強烈な一発をまともに食らった2人は、悲鳴を上げて大きく吹き飛んでしまう。変身も解除され、生身の状態に戻ってしまった勇たちの姿を見た葉月は、戦いの手を止めると今度は櫂へと詰め寄った。

 

「これで良いんでしょ!? 早く皆を解放して!」

 

「ああ、上出来だ。少し待て……」

 

 勇たちを倒した葉月のことを手で制した櫂は、そのまま右手を頭上へと掲げた。そうすれば、空中に四角いスクリーンが浮かび上がってくる。

 船内の何処かと思わしき室内に集められた、大量の人、人、人……老若男女が不安気に膝を抱え、自分たちを見張るエネミーたちに怯え切っている。どうやら、彼らが人質であるこの船の乗客、乗員のようだ。

 

 人質を見張るエネミーの1体が櫂からの視線に気が付き、こちらへと振り向く。言葉を発さずに主からの命令を待つその怪物に対して、口の端を歪ませて笑みを作った櫂が、指示を送った。

 

「お前ら、もうそいつらは用済みだ。1人残らず、始末しろ」

 

「なっ!? そんなっ! 約束が違うじゃんっ!」

 

「クハハハハハッ!! まさか、俺がそんな口約束を本気で守ると思ってたのか? 龍堂たちを動けなくしたら、あんな雑魚どもに用はねえ。邪魔者は消す、当然のことだろう?」

 

「やめて……! やめてくださいっ! お願いします、櫂さんっ!!」

 

 阿鼻叫喚、そう表現するに相応しい、絶望の叫びが人質たちの口から発せられている。じりじりと自分たちに詰め寄る、異形の怪物たちへの恐怖を越えにして叫ぶ彼らの姿に愉悦を感じる櫂は、自分に懇願してくるやよいをちらりと見ると、これまた嬉しそうに笑みを浮かべてこう言った。

 

「いい気味だぜ。俺はな、お前らが苦しんで苦しんで、絶望に浸る姿が見たかったんだ。自分たちの手で仲間を叩きのめして、それなのに何も守れなくて……今、どんな気持ちだ? 苦しい! 辛い! そんな思いに縛られるお前らの顔を見るためにこんな手間のかかることをしたんだ、やめるわけねーだろうがよっ!!」

 

「お願い、します……! 今は魔人柱でも、元は仲間だったじゃないですか……! あなたにはまだ、人の心が残っているはずです。だから、どうか……!」

 

「知らねえな、そんなもん。さあ、目を開けてよ~く見ておけ。お前たちのせいで、お前たちのファンが無残に嬲り殺される様をなぁ」

 

 無慈悲にも、やよいの懇願を切り捨てた櫂は、彼女の顔を掴むとスクリーンから顔を背けることを許さないとばかりに強い力でそれを固定してしまう。やよいの目には、泣き叫ぶ乗客たちの悲痛な姿がはっきりと映っている。

 

 今、まさに、1体のエネミーが腕を振り上げ、間近にいた少女へと襲い掛かろうとしていた。恐怖に怯え、身が竦んでいる彼女は、涙を浮かべながら自分の辿る末路を想像し、きゅっと目を閉じてその時を待つ。

 

「やめて、やめてっ!! だめーーっ!!」

 

 届かないと知っていながらも、やよいはそう叫ばずにはいられなかった。だが、やはりその叫びで何かが変わることもなく、エネミーは振り上げた腕を少女の頭上へと振り下ろし、攻撃を仕掛け――

 

『ぎゃふんっ!?』

 

「……は?」

 

 ――何者かに蹴り飛ばされ、情けない悲鳴を上げて背後へと倒れてしまった。

 

 突然の乱入者に驚き、素っ頓狂な悲鳴を上げるエネミー。そんな彼の姿を目の当たりにして、櫂もまた間抜けな表情を浮かべてポカンとしている。

 やよいも、葉月も、勇も光牙も、何が起きているのか分からないとばかりに唖然としている中、たった1人だけこの状況で安堵の息を吐き、ほっとしている人間がいた。

 

「よかった、間に合ったのね。ホント、ギリギリじゃない……」

 

「水無月……? テメェ、何か知ってやがるのか!?」

 

 意味深な言葉を発した玲へと詰め寄ろうとした櫂であったが、それよりも早くに後ろへと飛び退いた彼女は大きく距離を取り、その手から逃れる。

 そうやって、己の身の安全を確保した玲が、自分の手にしているゲームギアを軽く左右に振ってみせると……

 

『……もしもし、水無月さん? 人質にされてる船の乗客たちを見つけたよ!』

 

「上出来よ。でも、もう少し早く出来なかったの? 心臓に悪いじゃない」

 

『ごめん、これでも急いだんだけど……』

 

「その声……! 虎牙か!? あの傷で、どうして動ける!?」

 

「あんたが謙哉のカードに夢中になってる間に、私が回復(ヒール)のカードを使ったからよ。ついでに状況も説明して、人質の奪還にも協力してもらってたの。葉月たちが龍堂たちを倒したら、あんたが人質を始末するってことは予想が出来た。そうなる前に手を打ったまでの話よ」

 

「ちっ……! 抜け目のない女だぜ。だが、虎牙の奴がたった1人で駆け付けたからってなんになる? あいつのドライバーはお前が持ってる! カードだって1枚も持ってねえ! 変身どころか、まともに戦うことも出来ない奴に、何が出来るっていうんだ!?」

 

 突然の謙哉の乱入に驚き、ペースを乱された櫂であったが、まだ自分の方が優位に立っていることを再確認すると、余裕の表情で玲へとそう尋ねてみせた。

 今の謙哉には、変身に必要なドライバーもカードも無い。生身の状態で、10体以上のエネミーを蹴散らすことなど出来るはずがない。そんな確信を持つ櫂であったが、玲もまたそんなことは予想していたとばかりに涼しい表情を浮かべると、彼に向けてこう返した。

 

「私からも2つほど質問があるのだけれど、答えてくれる? 1つ目、謙哉のドライバーは確かにここにあるわ。じゃあ、私のドライバーは何処にあると思う?」

 

「なに……?」

 

「一応言っておくけど、私のドライバーはあんたたちの変身者認証システムが備わってない量産型よ。つまり、使おうと思えば誰だって使えるってわけ」

 

「テメェ、まさか……!!」

 

 玲からの指摘を受けた櫂は、得意気にそう語る彼女の顔から人質たちを閉じ込めている部屋を映すスクリーンへと目を向ける。そこには、懐からドライバーを取り出して、腰に装着する謙哉の姿があった。

 そう、櫂が謙哉を嬲り終え、『創世騎士王 サガ』のカードに意識を傾けていたあの時、玲は謙哉に抱き着き、彼の治療を行うと共に自身のドライバーも預けていたのだ。そして、自分がドライバーを所持していないことを櫂に悟られぬよう振舞っていたのである。

 

 変身者認証システムがオミットされている玲のドライバーなら、謙哉でも変身出来る。後は、そのために必要なカードだけだが……

 

「で、2つ目の質問よ。あなた、謙哉のカードホルダーは見たのよね? その時、何か足りないカードはなかったかしら?」

 

「ぐっ……!!」

 

 玲の言葉を受けた櫂は、今度はすぐにその答えに気が付く。

 あの時、自分はイージスの基本フォームへの変身に使う『護国の騎士 サガ』のカードや王の器を持っている『創世騎士王 サガ』のカードにばかり気を取られていたから気が付かなかったが……今思い返せば、あのカードを見てはいなかった。

 

「いつの間にそんなことを……? 虎牙のドライバーは、俺がずっと持ってたはずなのに……!」

 

「あなたに渡す前に、ドライバーの中からそのカードだけを抜いて、ずっと隠し持ってたのよ。私のドライバーを預けるタイミングで、そのカードも一緒に渡したってわけ」

 

「隠し持ってただぁ!? お前はあの時、何も持ってなかった! 水着姿だったから、他に隠せるような場所なんて――」

 

「ああ、そうね。隠し持ってたって言うより、()()()()って言う方が正解ね。カード1枚くらいなら、()()に隠せるもの。やよいには無理かもしれないけどね」

 

 悪戯っぽく微笑みながら、自分の胸をとんとんと叩く玲。男である櫂には思いつかない、女性の武器を用いて敵の眼を欺いた彼女が持つゲームギアから、謙哉の声が響く。

 

『水無月さん、改めて確認しておくけどさ……どんな我儘だって聞いてくれるんだよね?』

 

「ええ、そのつもりよ。ただし、5分だけだからね」

 

『それだけあれば十分さ。その5分だけ……無茶させてもらうよ!』

 

 櫂、勇、光牙、ディーヴァの3人、そして人質である船の乗客たちが見守る中、謙哉が1枚のカードを取り出す。それをドライバーへと通した彼の周囲には雷光が煌き、それに撃たれたエネミーたちの悲鳴と共に、電子音声が高らかに鳴り響いた。

 

<RISE UP! ALL DRAGON!>

 

『せぇぇやぁあぁぁあぁっっ!!』

 

 暴風、閃光、衝撃。稲光と竜巻で荒れ狂う船室に、雷龍の力を身に纏った戦士が降り立つ。

 その爪でエネミーを斬り裂き、その牙でエネミーを噛み砕き、弱き者を脅かす敵の前に立ちはだかる守護者と化した謙哉は、今2体のエネミーを消滅させながら、仲間たちに向かって叫んだ。

 

『こっちは僕に任せて! 水無月さんたちは、櫂くんを頼んだっ!!』

 

「ええ、任せてちょうだい。と言っても、私はドライバーがないからなにも出来ないんだけどね」

 

 人質の安全を確保した謙哉にそう返しつつ、玲は頼りになる仲間たちの顔を見やる。葉月とやよいはぱぁっと表情を輝かせ、飛び跳ねながら彼女のことを褒め称えた。

 

「れ~い~!! ナイスっ! ナーイスッ! あの状況でよくそこまでやってくれたよ~っ! 謙哉っちも同じくナイス! 流石、蒼色夫婦!」

 

「あとは私たちに任せて! 玲ちゃんと謙哉さんが頑張ってくれた分、私たちも頑張らなきゃ!」

 

「ちょ~っと待てよ、おい。俺たちだって、まだやれるぜ?」

 

 盛り上がる葉月とやよいに待ったをかけたのは、先ほどまで蹲っていた勇だ。多少の疲れを見せながらも、光牙同様にまだまだ戦えると戦意を見せている。

 

「勇っち、大丈夫なの!?」

 

「あんなもん屁でもねえよ。櫂の野郎を締め上げなきゃ、安心して気も失えねえしな」

 

「櫂を止めるのは、俺の役目だ。この体に鞭を打ったって、俺は俺の使命を果たす!」

 

 傷ついた状態でありながらも、2人は衰えぬ戦意を以て櫂を睨む。勇はディスティニーホイールを呼び出してそれを腕に装着し、光牙はホルダーから『勝利の栄光』のカードを取り出して、同時に叫んだ。

 

「「変身っっ!!」」

 

《ディスティニー! チョイス・ザ・ディスティニー!》

 

《ビクトリー! 勝利の栄光を、君に!》

 

 セレクトフォームとビクトリーブレイバー。自身が持つ、最強の力と武器を解放した2人は、葉月たちの横に並び立つと戦いの構えを取った。

 人質を奪還され、予定を大幅に狂わされた櫂もまた、怒り狂った様子でドライバーを装着すると、苛立ちを吐き捨てるようにして大声で叫ぶ。

 

「変……身ッッ!!」

 

《アグニ! 業炎! 業炎! GO END!!!》

 

 爆発と熱風、絨毯やテーブルクロスを焦がす熱を発した櫂もまた、アグニへと変身して4人を睨む。イフリートアクスを手に、荒い呼吸を繰り返して、怒りの咆哮を上げる。

 

「殺す! お前らは、1人残らず俺が潰してやる! 焼き尽くして、叩きのめして、跡形も無く消し飛ばしてやるっ!!」

 

「櫂……! お前を救うには、お前を倒すしかないというのなら、俺は……もう、迷わない! 今度こそ、お前を倒してみせる!」

 

「ふざけろ、光牙ぁっ!! この間のようにはいかねえ! 俺は、俺はぁぁぁぁっっ!!」

 

 野獣のように吠え、怒りの炎を燃え上がらせながら駆け出す櫂。一歩ごとに炎の足跡を残し、仮面の下で鬼気迫る表情を浮かべながら、かつての仲間たちへと挑みかかっていく。

 そんな櫂を迎え撃つのは、4人の戦士たち。この戦いが、憤怒の魔人との最終決戦になることを感じている彼らは、各々が自身の武器を握り締めると、かつての仲間を解放すべく、彼の怒りを受け止める戦いへと身を投じるのであった。

 

 


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