異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第10話   彷徨う空中大陸

「今日もいい天気ね、気流も乱れていないし飛ぶには最高の日だわ!」

「お嬢様、また散歩ですか?また下層部まで行かれては困りますよ?」

「大丈夫、リクビトなんてこの高さまで登ってこれるわけないんだから」

「それに・・・。」

「お嬢様?」

「もうそろそろ大陸の端っこだもん、暫く海の上だから眺めていても、つまんないよ」

 

 

 

異世界に転移した日本は、転移した事で化石燃料の入手手段を失い、少しでも延命させようと、既存の海上油田をフルに稼働させた。

そして、油田の探索の為、大規模な調査団を結成し、大陸各地に派遣するのであった。

また、未知の資源、「魔鉱石」にも注目が集まっているが、利用するにも実験室レベルの研究しか進んでおらず、これが化石燃料にかわる日はまだまだ遠い。

 

調査団を派遣する過程で、大陸のとある勢力と遭遇し、これと交戦、なし崩し的に戦争になり、自衛隊の圧勝で幕を閉じた。

向こうの自業自得とは言え、心臓部である城塞都市を一夜で滅ぼされ、王族や士族は一部を除き処刑されてしまったので、治安は一時最悪の状態になっていた。

しかし、異世界の軍勢が、代わりに統治する事で治安は回復、更に彼らは、城塞都市の整備や農地の改良まで着手するというのだ。

国民のほとんどが農地の開拓に駆り出される事になってしまったが、通常戦いに敗れるという事は、国民すべてが奴隷となり、

草木一本残さず略奪される事なのだ、その事を考えれば、まるで騙されているのではないかと思わんばかりの好待遇だろう。

 

「おんや、ニッパニアの兵士様、今日も町の見回りで?」

「えぇ、最近空き巣が増えているらしいので、数回この辺りを見回りしているのです、貴方も気を付けてくださいね。」

「もったいなきお言葉有難うございます、兵隊様にここまでお気遣いをして頂いたのは初めてです。」

「はは、いえいえ、どういたしまし・・・・な・・なんだ!?」

 

ふと辺りが暗くなったと思うと、町の上空に巨大な岩の塊・・・いや、浮島が通り過ぎた。

 

「な・・・な・・・な・・・。」

「あぁ、もうこんな時期で・・あれの進行ルートではない場所の人たちは、あの浮島を見ると驚くのですよ」

「島が空を!?一体あれは何なのです!?」

「さぁ・・・でも、噂によると空の民と言う種族が住んでいるとか・・・」

「空の・・・・民?」

 

 

ソラビト・・・元々は手先が器用な魔鉱石の豊富な土地に住むリクビトであったが、その高い技術力と莫大な埋蔵量の魔鉱石の鉱脈を狙って他種族に攻められる事が多かった。

そして、彼らは他種族からの襲撃から逃れるため、地下に眠る巨大な魔鉱石の結晶に細工を加え、地表を削り取り、丸ごと空に浮かせたのだ。

彼らは自ら手先の器用さを捨てて、己の肉体を魔鉱石の光で変質させ、有翼の民となった。

それから・・・謎の浮島の存在が当たり前になり、ソラビトの存在が忘れられかけた頃、大陸近くの海域に変化があった。

 

 

「レーダーに反応、巨大な飛行物体が日本本土に接近中」

「馬鹿な?なんだこの大きさは?」

「既にF-15がスクランブル発進しました、アンノン進行ルート変更せず。」

「一体何が起こっている?」

 

 

当てのない放浪の旅を続ける浮島・・・その地に住む生物は争いとは無縁の平和な毎日を過ごしていた。

かつては高度な文明を築いていたソラビトはかつて、自分たちがリクビトだった頃に建造した遺跡群を補修しながら生活しており、

大地と切り離されているがゆえに、資源が限られてはいるものの、公平にこれを再分配する事で安定した生活を送っていた。

 

「はぁ、もう海に出ちゃったのかぁ・・・数か月間は同じ光景が続くのね、つまんないなぁ・・。」

「また下層部に行っていたのですか、良くも飽きずに続けられますなぁ・・・」

「だって、私たちの以外の種族の集落が沢山見えるんだよ?ヘンテコな形のしかないけども、通り過ぎるたびに少しずつ形が変わって面白いんだもん。」

「我々空の民は、先人たちの作り上げた街を維持はするものの、新しく増やしたり、取り壊したりはしませんからなぁ・・。」

「そうそう、ご先祖様は手先が器用だったみたいだけど、争いを避けるために腕を翼にしたらしいじゃない?あぁ、両手が器用ってどんな感じなのかしら?」

「リクビト達は、我々の翼を羨むらしいですぞ?あれ程の器用な手先を持ちながら・・・私は理解に苦しみますが」

「本当にもったいない話よね、でも、私は空を飛ぶのが大好きだから今のままでも良いかも、はぁ、リクビトと友達になれないかなぁ・・・。」

「・・・・・ん・・・・・?」

 

 

ふと、雲を眺めていると小さな違和感を感じた。

最初は気のせいかと思ったが、少し目を凝らすと小さな点が2つこちらに向かってくるのが見え、それは少しずつ大きくなっていき最終的には異形の姿の何かとなって真上を通り過ぎた。

 

「きゃああああぁぁっ!!?」

 

灰色の翼を持つ、得体の知れない物体は、浮島の表面を衝撃波で叩き付け、旋回しながら周囲を監視するようにまとわりついた。

 

「ひっ・・・なに・・・?何なの?」

「ば・・・化け物っ!!」

「あれはおとぎ話の人食い怪鳥よ!きっとそうだわ、本当に存在するなんて!」

「お父様に早く伝えないと!」

「お嬢様、今は危険です、隠れながら向かいましょう!」

「飛ばないと何時間もかかる道なのよ!?危険が何だってのよ!」

 

 

 

「クーガー2、飛行物体を確認、これは・・・まるで空中大陸だ。」

「空中大陸だと?」

「巨大な島の様な物が浮いている、その上に集落らしきものを確認した。」

「クーガー1、現在空中大陸上空を旋回中、指示を待つ。」

「管制塔より指示を待て」

 

 

空の民は、平穏を破り上空を旋回する謎の物体にパニックを起こしていた。

「お父様!!」

「ミーティア!無事だったか!」

「お父様、大変なの!」

「わかっておる、化け物が空の民の領域に姿を現したとは・・・」

「領主様、大変です!陸地が下に現れました、見たこともない場所です!」

「何だと!?暫く海が続く筈だぞ!?」

「恐らく、未確認の陸地から上空の化け物が飛来したのかと・・・・」

「ぐぐぐっ・・・・何たることだ!」

「お父様・・・。」

「報告です!化け物は、未知の大陸と思われる場所に飛んでいったそうです。」

「そ・・・そうか、ひとまず安心だな・・・だが、また奴らが飛んでくるかもしれん、警戒を怠るな」

「はっ!」

「未知の大陸?・・・私たちの知らない陸地があるなんて・・・。」

「進行ルートが逸れただけなのかもしれないが、いずれ調査が必要になりそうだな」

「リクビトの土地なのかしら?それとも、おとぎ話の魔獣島?」

「ミーティア、変な考えは起こさないでおくれよ」

「っ・・・・わかりました。(知りたい・・・下界を見てみたい・・・。」


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