土煙を上げながらひび割れた荒野の大地を走り続ける輸送トラック。
ザーコリアとの戦闘を終えた自衛隊は、観戦武官を乗せて日本ゴルグ自治区へと帰路に就くのであった。
『・・・・ニーポニアは・・・本当に一体何者なのだろうか?』
『あれ程の威力の魔法を操りつつ、その身に魔力を宿さない民・・・。』
『この鎧虫といい、あの羽虫といい、彼らの持ち込むものは何もかもこの世界の理から外れた物ばかりだ。』
トラックの荷台に乗り、ザーコリア戦を観戦していた彼らは日本の戦い方と彼らの兵装の考察をしているが、彼らの常識とあまりにもかけ離れた戦闘を見せられ、混乱し過ぎて正確な評価が出来なくなっていた。
『そもそもあれは本当に魔法だったのだろうか?』
『!!』
一人の観戦武官が呟くと、周囲がざわめく
『い・・・いや、確かに魔力は感じなかったが、あのような現象は魔法以外に考えられないぞ?』
『考えても見ろ、ニーポニアはこの大陸に訪れた時、魔石や魔道具の存在すら知らなかったのだ。そうなると、魔法以外の何かの力であれらを動かしているとしか思えん。』
『では、一体なんだと言うのだ?』
若い武官が問いかける。
『わからん、だが彼らの持つ装備の数々が無数の細かい部品の集合体と言うのは間違いないだろう。』
『つまり、どういう事だ?』
『縄引きの城門や投石器などの魔素を使わない、からくりの類なのだろう、それも我々の想像もできない次元に昇華された加工物だ・・・。』
観戦武官たちは唸り、魔法関係の技術ではない未知の技術に思考を巡らせる。
『投石器は確かに魔素を使わないが、それでもあれ程の攻撃力は無い、そもそも儀式級の魔法でもあれ程の火柱を上げる事は出来ないだろう。』
『問題は儀式と言う手順を踏んで引き起こす現象よりも更に強力な力を飛翔体に詰め込み、投石器よりも遥か彼方へ投射する技術だ、これに関して我々は構想すら練られていない。』
『油に浸した布に包み火をつけて投射する岩石弾の様な物ならば、既に配備されておりますが、敵の施設を炎上させることは出来ても、粉々に破壊すると言うのは流石に・・・。』
『爆散するように印を刻んだ魔石を投射する物もあるぞ?最も実戦に使用できるような大きさの魔石は魔術師部隊に回される事が殆どだがな。』
『どの道、あれ程の力を見せつけられては、ニーポニアを敵に回すなど愚かな考えに至る者は居ないだろうな・・・。』
彼らの考察は、日が明けるまで続いた。サスペンションが効いているとはいえ、余り整備が進んでいない凸凹道で車体が大きく揺れるのも関係しているが、日本とザーコリアの戦いの光景が目に焼き付いており、その余韻と興奮が彼らの睡眠を妨げる一番の原因であった。
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一方、未だに煙を上げ燻り続けるザーコリアの首都にて
『ぐっ・・・何という事だ、これがニッパニアの力だと言うのかっ!?』
『化け物どもめ・・・。』
日本の出方を伺う為に城門付近に潜んでいた間諜は、盛大に砲撃の余波に巻き込まれ、多くの人員を失っていた。
『そもそもあれ程分厚い城門を簡単に瓦礫の山に変えてしまう破壊力は一体何だと言うのだ!?』
『・・・城門の外から監視していた者によると、火を噴く鎧虫の火炎弾がほぼ同時に城門に着弾し、あれ程の被害をもたらしたそうです。』
『・・・一撃では無かったという事か、しかし音が一つしか聞こえなかったところを見ると、そんじょそこらの魔術師部隊よりも訓練が行き届いているな。』
『厄介な連中が現れたものだ、もし連中がこの周辺まで手を伸ばして来たら一たまりも無いぞ?』
『ニッパニアに攻め込まれては、我が国の戦力では抗いようもない。見ろこの光景を、あれはもはや戦闘と呼べるものでは無い。』
木造の建物は元より、丈夫な石造りの建物も木っ端みじんに吹き飛ばされており、大火災の後には原型をほとんど残さない黒焦げの枠組みと瓦礫の山が残されていた。
『火を噴く鎧虫、鎧すらも穴だらけにする魔法の杖、上空から兵士を降ろし自らも熱線を吐く羽虫、そして崩落の流星・・・。』
『どれ一つ取っても国が滅びかねない脅威だ・・・一体どうすれば・・・。』
間諜達は日本の一方的な虐殺に等しい戦闘に恐怖を覚えていた。
『いや、連中が最初から武力で訴える事は無いだろう、ルーザニアに潜んでいた奴らによると、何度か文章による抗議するをするだけで、ルーザニアを攻撃したのはルーザニアが本格的に戦争準備を始めた辺りからだと言う話だ。』
『成程、思ったよりも理性的な国なのだな。あれ程の力があると言うのに不思議なものだ。』
『いや、まだまだ安心は出来ないぞ?彼らと友好を結んだ国は大きく発展してはいるが、彼らの影響力が大きすぎて主要な道の整備などは殆どニッパニアが行うほどになっているらしい。』
『何だと?・・・それは・・・それでは、武力を使わない侵略そのものではないか?』
『友好的に装いつつ、気が付けば取り返しのつかない状況になっていた・・・か。』
『ニッパニアに依存した経済・ニッパニアの力なしにはいられない形に国を作り替えられてしまうという事か、これは脅威だな。』
深刻な表情で俯く間諜達、しかし比較的若い者が声を上げる。
『待て待て、あまりにも悲観的に過ぎるぞ?確かに脅威的ではあるが、上手く付き合えば我らは大きく発展できるかもしれないのだぞ?警戒はしなければならないが、確たる証拠もなく危険視するのは早急だ。』
『・・・そうだな、何にせよニッパニアに関する情報を集めなければ。』
『恐ろしい国だ、付き合い方を間違えれば国ごと業火に焼かれるか、気づかぬうちに骨の髄までしゃぶりつくされるか・・・。』
『どの道我らが出来る事はたかが知れている。だが、抗うだけ抗うさ』
異世界から現れた未知の国日本、その勢力がゴルグから遠く離れたザーコリアにまで及び、一方的に首都ごと叩き潰される。この出来事はザーコリア周辺国を色めき立たせるのに十分な衝撃をもたらしたのだ。
そして、彼らは日本の実力を正確に測るために、日本と蜜月の関係を築くために、日本の弱点・弱みを知るために、それぞれの目的を持って日本ゴルグ自治区を目指すのであった。