異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第107話  亜人たちのゴルグ見学

日本が異世界大陸に進出する為の拠点として発展を続ける日本ゴルグ自治区は、国交を持つ近隣諸国から大量の資源を輸入し、それらを加工する為の巨大な工業施設と、商談や観光目的で訪れた者が過ごすための大規模ショッピングモールが建設されていた。

 

噂が噂を呼び、この大陸の広範囲を支配するリクビトだけでなく、外見的特徴が目立つ所謂亜人と呼ばれるリクビト以外の民も多く訪れている。

 

最初こそは、迫害の経験のある一部の亜人達は、日本が人間も亜人も分け隔てなく接し受け入れる国だと言う噂を聞き半信半疑で、日本ゴルグ自治区に訪れていたが、交流を重ねるにつれ次第に親密になり、大陸であまり見かけない希少民族も集まるようになっていた。

 

そして、あるトワビトの外交官が日本本土に訪れる通り道に寄った日本ゴルグ自治区でリクビトと亜人達が何の違和感もなく自然と交流する様子に驚き、閉鎖的な森の集落の現状に疑問を抱き、それが切っ掛けで後日、日本・海の民・森の民の三国同盟の会議で題材として取り上げられる事になった。

 

『えー・・・続きましては、日本ゴルグ自治区の視察及び交流会の案ですね。』

 

『私は反対だ。そもそも、遥か昔に陸の民とは決別したはずだぞ?』

 

『我々も一部の者が賛成しているものの、大森林の有力者の中で支持する者は多くは無い。』

 

『待て待て、陸の民との交流を断ち長き時を経た今、彼等にも大きく変化があったと聞く、何も見ずに判断するのは性急ではないか?』

 

『ふむ・・・異空の民ニーポニアよ、そちらはどうなのだ?』

 

『我々としては、リクビトの国々との交流を持つことは悪い事だとは思いません。懸念がある事は分かりますが、これからも交流を避け続けるのは難しいかと。』

 

『ほう?それは何故か?』

 

『1000年前に起きた大災厄と呼ばれる大戦以降、大陸諸国は壊滅的な損害を被りましたが、現在は復興を終えてその勢力圏を急速に拡大しつつあります。』

 

『ふむ・・・。』

 

『そして各勢力同士がぶつかり、互いに食み合い、やがてその勢いは魔境とされている大森林に及び、更に航行技術の発達により海にも進出する可能性があります。』

 

『何と・・・。』

 

『我が国日本もそうやって未開の土地を切り開き、発展してきました。膨大な時間を必要としますが、彼らも恐らくそうするでしょう。この世界の民の中でリクビトほど開拓精神のある民はそう多くありません。』

 

『その話が本当ならば、確かに何時までも森の中に籠っている訳にも行かぬかもしれぬな、大森林は海にも負けぬ深さがあると思うが、森の外はそれよりも更に広大だ。それら全てがリクビトに開拓されるとなると残るは大陸中心部への道を阻む大森林だ。』

 

『どうせいずれ彼らと接触を持たざるを経なくなるならば、他の亜人と交流出来ている今のうちにやってしまおうという事か。』

 

『一度、リクビト達とニホンがどのように交流しているのか実際に見てみる事にしようかね。』

 

 

そして、詳細に予定を決めて後日、森の民と海の民の有力者を筆頭に一部学生を含む日本ゴルグ自治区の視察・見学会が開かれる事になった。

 

『ほぉぇ~~・・・見てよお姉ちゃん!ウミウロコビトみたいな姿だけどヒレが無い人が居るよ!』

 

『こら!ウルスラ!指をささないのっ!彼らはウロコビトね。海に住む前はあのような姿をしていると聞いた事があるけど、実際見ると似ているけど体格がまるで違うわね。』

 

ふと気配を感じて空を見ると小さな人影が降りてくるのが見えた。

 

『んん?あれは・・・。』

 

『ミーティア!?』

 

翼を伝わる魔力の力場の光が徐々に薄くなり、やがて消失すると緩やかに降下し、羽が落ちる様に着陸すると、小走りでソラビトの少女がウミビトの姉妹の元に駆け寄って来る。

 

『あら?プリシラにウルスラちゃんじゃない!これまた珍しい所で会うわね!』

 

『ミーティアお姉ちゃん?何でここに?』

 

『あと数週間くらいで私の故郷がこの街の上を通るのよ、だから里帰りの準備しているの。』

 

翼と一体化した指の中で自由に動かせる三本指を上に立ててジェスチャーをするミーティア

 

『里帰りか・・・ミーティアとは暫く会えなくなるわね。』

 

『あはは、大丈夫よ!ああ見えて空中大陸は結構早いから世界を回るのはあっという間よ!』

 

『ミーティアお姉ちゃん・・・』

 

『そんな寂しそうな顔しないのっ!・・・所で、ウミビトご一行は何しにゴルグガニアに?見慣れない人達も一緒みたいだけど?』

 

『あの人たちは、トワビトっていう人達で、魔物がいっぱいいる大森林って言うところに住んでいるの。』

 

『だ・・・大森林!?あんな所に人が住んでいたの!?』

 

『大昔、私達海の民と親交のあった人達の子孫が大森林に移り住んでトワビトになったらしいよ?』

 

『それは少し違うな、大森林を生み出したのは我らの祖先だ。』

 

少し離れた所から、話を聞いていたローブを着込んだ銀髪の女性が割り込んでくる。

 

『あ、アドルさん!』

 

『ふむ、貴殿がプリシラ殿の言っていたミーティア殿か、お初にお目にかかる。私は魔術師部隊魔術長のアドルだ。』

 

『あ・・あぁ・・えっと・・・はっ!これは失礼しました。私は空の民の領主の娘、ミーティアと申します。大森林の民の魔術長様とお会いできて光栄に思います。』

 

『うむ、空の民が異空の民と交流を持っているのは知っていたが、実際に言葉を交わすのはこれが初めてだな、あの浮島に空の民が暮らしているのは昔から知っていたぞ?』

 

『えっ!?そ・・そうなんですか?』

 

『我らの文献には貴殿らがリクビトだった頃の様子が描かれている物が残っているのでな、もしかしたら遠い昔、祖先同士で交流があったのかも知れんな。』

 

『そう言えば、私たちがリクビトだった頃に、多くの友と交流を持っていたと学術院で学んだことがあります。』

 

『フフ・・・貴殿とは良い話が出来そうだ・・・。』

 

ウミビトの姉妹は、ミーティアとアドルが談笑を始めたのを見ると互いに顔を見合わせた。

 

『うーん・・・アドルさん、あの状態になると話が長くなるんだよね。』

 

『お姉ちゃん・・・もう、他の子たち自由行動であっち行っちゃったよ?』

 

『私は此処に残るから、お父様の所に行きなさい、護衛のジエイカンの方が居るから安心して楽しんできなさい。』

 

『はーい。』

 

車椅子を回してウミビトが集まってる場所へ行くと、父親の車椅子を遠目から確認し声を掛けながら手を振る。

 

『おとーさん!』

 

『おや、ウルスラ、プリシラとは一緒じゃなかったのかい?それと、こういう場所ではお父様と呼びなさい。』

 

『はい、おとーさま。お姉ちゃ・・さまは、ミーティアお姉ちゃんと一緒だよ?』

 

『あれ?彼女もこの街に居るのかい?偶然だね。』

 

『空の島がこの街の上を通るらしいです。里帰りするんだって!』

 

『そうかい、寂しくなるね。さて、お買い物にでも行こうか、私がついているよ。』

 

『はーい。』

 

海の民の親子は、他のグループから離れすぎない様に街の広場を後にした。

場所は変わって、日本ゴルグ自治区最大規模のショッピングモールにて・・・。

 

 

『見てみて!コリン!これがニッパニア伝統の弓なんだって!おっきいね!』

 

『このスポーツ用品店って、何が置いてあるのか分からなかったけど、玉とか変な手袋とか売っているのを見ると競技か儀式の道具を売っている店なのかな?』

 

『ニッパニアは志願した人しか兵隊にならないから、農民や商人は武術を学ばないと思っていたけどスポーツだっけ?体を激しく動かす競技や儀式にそう言う技術が民間にも広まっているんだよ!たぶん!』

 

甲獣捕獲作戦に協力していた彼らの国に、情報報酬が支払われ、その幾らかがボーナスと言う形で少年たちにも渡っていたので、長期休暇を利用して日本ゴルグ自治区へ観光に訪れていた。

 

『なんつーか、デカすぎて取り回しが悪そうじゃねー?上下非対称で変な形しているしさ?』

 

『んんー・・・僕の身長じゃまだ扱えないかな?・・・あれ?あの弓は!』

 

とてとてと跳ねる様にショーケースに走り寄ると、目を輝かせて中に展示されている弓を見る。

 

『見て見て!この弓!車輪がついている!!』

 

『な・・・なんじゃこりゃぁ!?本当に矢を放てるのかこれ!?』

 

ショーケースに展示されていたのは、子供用サイズのコンパウンドボウであった。弓兵見習いのココルは、昔から水車や荷車などを眺めるのが好きであり、自衛隊の車両や装備にも惹かれる傾向があったのだ・・・つまり、からくりや機械類に目がないのである。

 

『えっと・・・こんぴゃ・・・コンパン?どぼーん?』

 

『コンパード・ボーじゃないか?』

 

『うーん、ちょっと発音難いから取りあえず車輪の弓でいいかな?ほえぇぇ・・・かっこいいなぁ、どうなっているんだろう?この突起は何に使うんだろう?』

 

『さっきの奴に比べて小さくて取り回しが良さそうだからこっちでいいんじゃないか?店員に使い方を聞けば教えてくれるだろうし・・・。』

 

『えぇと・・・ニッパニアの数字の読み方はえっと・・・はわぁぁっ!買える!何とかギリギリ買えるよぉ!!』

 

『おう、良かったな金の使い道が出来て・・・俺は工具店でも回ろうかな・・・・?ココル?どした?』

 

『もしかして・・・あれは、ウミビト?』

 

『は?ウミビトって・・・あのウミビトかっ!?』

 

車椅子で移動するのでエレベーターを使ってショッピングモールの階を上がる彼らは、その特徴的な姿から多くの人々の目を引いていた。

 

『おとーさま、みんな私たちを見ているね。』

 

『危ないから私の傍から離れないようにしなさい、一応護身用具の携帯は許可されているから対応できるし、護衛の方もこの建物にいるらしいしね。』

 

『はーい。』

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・。

 

・・・?

 

ふと、ウルスラが視線を感じ振り向くと、スポーツ用品店の中にいる少年が目に入った。

 

(・・・・リクビトの男の子?)

 

『・・・・・。』

 

(可愛い・・・。)

 

淡いブロンズヘアーの髪を束ねた少年と目が合うと、少年は体を硬直させる。

 

『ふふっ・・・。』

 

『ウルスラ?どうしたのかい?』

 

『何でもないよー、あっそうだ!向こうに装飾品店があるって書いてあったよ!いこーよ!』

 

海の民の親子の姿が人混みの奥へ消えると、我に返った片方の少年が相方の方を向く。

 

『おいっ、すげーな!あのおっさん体バッキバキだったな!やっぱり海を泳いでると体も鍛えられるんだろうな?・・・ココル?』

 

『笑った・・・・。』

 

『ココル大丈夫か?』

 

『コリン・・・ウミビトって凄く可愛いね。』

 

『お前、あのちっこいのに・・・。』

 

『あっ・・・えっ!?そうじゃなくて、可愛いなってあぁぁっ・・ち・・・違うんだよぉ!!』

 

 

 

 

1000年前の大災厄によって決別し、バラバラになっていた各種族たちは、異世界国家・日本と言うイレギュラーによって、再び接点を持とうとしていた。

 

それが歴史的な和解に繋がるのか、それとも・・・・。

いずれにせよ、ゴルグに訪れた海の民と森の民は次第に今まで目を背けていた大陸の国々に興味を示し始め目を向けることになるだろう。

 

 

『あいたっ!このエスカレーターって言うの降りる感覚が慣れないねー。』

 

『おうペトラ、初めてのニポン観光だ、気ぃー付けろよ!』

 

勢い余ってエスカレーターの終点で足を踏み外し、前転する形で尻餅をついたツチビトの少女の手を取り父親が立ち上がらせると、工具店へ消えていった。

 

 

『うわぁ、もじゃもじゃだったね。凄くちっちゃかったけどあの人は大人だよね?・・・・コリン・・・。』

 

『す・・・透け・・透け・・・黒・・紐・・。』

 

『・・・・・・・コリン?』

 

ツチビトの少女が転んだときにポンチョの中身をまともに見てしまった為、顔を赤面させて硬直しぶつぶつと何かを呟いている。

 

『コリン・・・君さぁ・・・。』

 

 

先ほど、散々からかわれれたばかりなので、ココルは黒い笑みを張り付けたままコリンの肩を叩くのであった・・・。




年上 ウルスラ>コリン≧ココル>ペトラ 年下
という感じです。

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