異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第113話  平和な領域

日本が異次元の惑星アルクス転移してから暫く経ち、大陸の情勢は大きく変化していた。

ファーストコンタクト時に発生した戦争により幾つかの国が終焉を迎えたが、一時荒れていた戦地周辺は、戦争前よりも治安が良くなり、かつてそこが戦場だったと言うのが嘘のようにのどかな風景が広がっていた。

 

『やぁ、精が出ますねぇ。』

 

『いやぁ、そろそろ休憩しようと思っていた所でさぁ!』

 

農作業をする中年の男性が日本製のタオルを首に巻き、汗をぬぐう。

 

『ニーポニアが魔獣や鎧虫を追い払ってくれるお蔭で、畑が広げられるようになったのは本当に感謝、感謝ですな。』

 

『そうだなぁ・・・前の王様の時は、親戚が飯を食わせられなくなった娘っ子をお城に売って家族を養っていたが、ニーポニアに国盗りされてから食える飯が多くなって、誰も売らなくて良くなった。』

 

『海の向こうの島国と言う話だが、どんなところなんだろうなぁ、瞬く間に農地を広げちまうなんて、すんげぇ力を持っているんさぁ。』

 

『トラクターだったか、あの鎧虫が固い地面を掘り返すお蔭で、今までの苦労が嘘のように畑を広げることが出来る。まぁ、その分手間もかかるが食える飯が増えるなら些細な事さね。』

 

『ニーポニアは人が沢山いるから飯を沢山作らねばならねぇー、だからどんどん作ってたっぷり稼がせて貰うんだぁ!』

 

井戸に冷やしていたペットボトル飲料を引き上げると、切り株を椅子代わりにし、雑談をしながらジュースを煽る農夫たち。

 

彼らは遠くに聳える灰色の城壁を眺め、時折横穴から這い出る巨大な鉄の蛇を指さし、談笑するのであった。

 

 

 

日本の領域は平和そのものであった。かつて日本と敵対していた国の民は、轟音と共に吹き飛ばされ風穴の開いた防壁に絶望していたが、占領後、日本人は彼らに暴力を振るう事も無く、住む場所と仕事を与えてくれた。

 

更に、日本が新たに建設した防壁は、今までの様に石を積み上げたものでは無く、灰色でのっぺりとした質感を持った不思議な材質で作られており、恐ろしい程の強度を持っていた。

 

何時しか、そこに住まう民は防壁の鉄壁さと、自衛隊の軍事力に頼もしさを覚えるようになり、噂を聞きつけ次第に日本の領域に人が集まり発展速度もそれに伴い上がっていった。

 

『・・・でさぁ、ようやく金が集まったと思ったら、欲しい物がまた増えちまって、本当に困った困った。』

 

『あぁ、全く今まで飯が食えて酒が飲めれば満足だったのに本当に困ったなぁ、こりゃもっと汗水流さなきゃいけねぇ!』

 

『商人たちの城・・・確か、ショッピングモールだったか?金が無くてもあそこを歩くだけで夢心地になれるが、欲しい物が増えるのが難点だわなぁ!がっはっは!』

 

 

日本ゴルグ自治区の大通りを背の低い小さな亜人がほろ酔い気分で、飲み仲間と談笑しながら歩いている。

 

その光景をベンチに座る二人組の男がつまらなそうに眺め、ため息を付く。

 

『ちっ、亜人風情が堂々と大通りを歩きおって・・・。』

 

『一番気に食わないのは外見が我らリクビトとあまり変わらないイクウビトだ。』

 

二人組の男達は、周辺国から派遣されたと思われる間諜であった。

 

『それで、ニッパ族の駐屯地には侵入出来たのか?』

 

『あれは無理だな、虫一匹入る隙間すら無い。既に別の国の無理やり突破しようとした奴らが取り押さえられている。』

 

『そうか、無理か・・・忌々しい。』

 

『魔力無しの癖に何故こうも歯が立たない、あの力の源泉は一体何だと言うのだ?』

 

ブザー音が鳴り響き、鉄の門が開くと、駐屯地から異形の鎧虫が姿を現し、兵士が誘導しながら大通りを走り、防壁の門を潜り街の外へと出て行く。

 

『未知の金属に覆われた鎧虫・・・あの化け物たちのせいで・・・くそっ!虚無の民がっ!』

 

 

異世界の大陸に進出した日本はその軍事力を広く知らしめていた、当然ながら日本に工作を仕掛けようと送り出された間諜や、その周辺で活動する盗賊たちは面白くなかった。

 

散発的ながら、日本に実力行使する勢力も開拓初期の頃は存在したが、いずれも撃破・無力化され、その生き残りたちは息をひそめてその姿に怯えるしかなかった。

 

「ここら辺か?はぐれ鎧虫が目撃されたのって?」

 

「えぇ、現地住民に土鋏ディプス・クネラと呼ばれ恐れられる大型危険生物が徘徊しているとの事です。」

 

日本の支配領域とは言え、時折現地住民の手に負えない危険生物が出没する事があり、戦車や装甲車が駆除に当たる。

 

「肉食性で非常に狂暴で、餌を求めて徘徊するのですが、安定的に獲物を狩れる狩場を見つけるとそこに巣をつくり、繁殖を行うそうです。」

 

「ひぇー、おっかねぇなぁ。」

 

「どうにも、その鎧虫がこの周辺に巣を作ったそうなのです。街道近くなので人が襲われているのか、他の野生動物を捕食しているのか・・・・。」

 

「何にせよ、そんな危険な虫はさっさと駆除だ駆除!俺はコオロギやゴキブリが苦手なんだよ。」

 

 

危険生物の駆除をする為に街を発った装甲車の中で自衛官たちが、目撃証言の在った鎧虫の情報の書かれた資料を眺めながら打ち合わせをする。

 

 

少し離れた位置で土煙を上げながら走る装甲車を、草の茂みから観察する者たちが居た。

 

『ちぃ、ニッパニア軍の偵察部隊か・・・思ったよりも早く嗅ぎ付けられたな。』

 

『もう少し狩りが出来ると思っていたが、上手くはいかんもんだ。』

 

革鎧を身にまとった明らかにならず者と言った風貌の男たちが、忌々しそうに自衛隊の装甲車を睨みつける。

 

『使い終わった死体は片付けたんだろうな?』

 

『あぁ、商人の女は埋めたし、男の方は首を切り落として川に流した。気付かれてはいない筈だ。』

 

『ニッパニアは神経質に過ぎる、商人の一人二人行方不明になるなんて当たり前だというのに・・・特に同族に対しては異常なまでの執着をみせるらしいじゃねぇか?』

 

『だからイクウビトには手を出していないんだ。俺が前居た所では、馬鹿がニッパニアの女を捕まえて来ちまって、拠点があっという間に見つかって全員黒焦げにされちまった。偶々俺は、近くの村に買い出しに出ていたから無事だったが、もうおっかなくて手が出せねぇよ。』

 

『商品としては破格でも、取り扱いが危険過ぎるか・・・ちっ、割に合わねぇな。』

 

『仕方ねぇ、そろそろずらかるぞ・・・?なんだこの揺れは?』

 

突如地面が弾けると、黒光りする巨大な鋏が隣の男を両断し、巨大な鎧虫の頭部が現れ、即死した男を貪り始めた。

 

『ひっ・・ぎ・・・ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!』

 

分厚いキチン質の外殻を持つ、黒光りする鎧虫が盗賊団を襲撃し、狂乱状態に陥った盗賊団は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、反撃を試みた無謀な蛮勇や逃げ遅れた者達は容赦なく殺された。尻尾の鋏で突き刺し・切り裂き・押しつぶし・叩きつける。

 

動きこそ鈍重な物の、重機を彷彿させる怪力で盗賊団は瞬く間に壊滅してしまった。

 

盗賊団が殺した旅人や商人の遺体を漁り、この地に定着してしまった鎧虫は、餌の供給源である盗賊たちを襲い始めた。皮肉にも自分から厄災を持ち込んでしまった盗賊団はその命を持って代償を支払う事になってしまったのである。

 

『くそっ!来るな!来るなぁぁァ!!』

 

岩壁に追いつめられてしまった盗賊団の残党は、手近な石を土鋏に投げつけるが、乾いた音が響くだけで、全く意に介してい様だ。

 

土鋏の尻尾がゆっくりと持ち上がり、尻尾の鋏を振り下ろそうとしたその時、閃光と共に鎧虫の腹部が破裂する。

 

鈍い音を立てて吹き飛んだ分厚い鋏が地面に突き刺さり、泣き別れした下半身を無機質ながらも信じられないと言った顔でのぞき込む土鋏は、次の瞬間破裂音と共に無数の穴が穿たれ、白濁とした体液をまき散らしながら原型を失った。

 

『危なかったな?アンタら?大丈夫か?』

 

カールグスタフを直撃させた後に、機銃で止めを刺した自衛隊は、鎧虫に襲われていた男たちに駆け寄った。

 

『あ・・・あぁ・・。』

 

絶望の権化と思われた土鋏を、一方的に屠った自衛隊の火力に盗賊団は言葉を失っていた。

 

『見た所、彼方此方を旅する冒険家って奴だろう?ここら辺は、割と治安が良い方なんだけど、時々こういう危険生物が出没する事があるんだ。にしても大物だったが・・・。』

 

『・・・・・。』

 

『まぁ、何にせよ早くここを離れた方が良い。こいつの仲間が近くに潜んでいないとも限らない、我々は暫く引き続き調査を行うが鎧虫を見かけても決して近づくなよ?』

 

 

『わ・・・わかった・・・。』

 

体中泥まみれ土まみれに汚した盗賊団は、一方的に鎧虫を撃破した圧倒的な火力に戦意を砕かれ、恐怖や畏怖に染まっていた。

 

そして彼らは、日本の領域から手を引くと心に誓うのであった。

 

『冗談じゃねぇぞ・・・間違ってもイクウビトに手を出すもんか・・・あれが・・・あれが俺達に向けられたら・・・・。』

 

 

彼等だけでなく、日本に悪意を持つ者達は、度々行われる魔獣や鎧虫の討伐に日本の軍事力を目撃し、次第に共通の結論に至る。

 

[日本に手を出すと、逆に身を滅ぼす。]と・・・。

 

多くの侵略者たちは、日本の領域から手を引くのであった・・・中には諦めの悪い者も存在したが、それすらも何れ姿を消すことになるであろう・・・。

 

 

 

 




今回は此処まで、色々と書きたいものがありますが、体に無理をさせない程度に進めて行きたいと思います。

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