異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第118話  黒き食人鬼

大陸中央部に進出した日本は、大陸中央部玄関口に位置するケーマニス王国と国交を結び、貿易の準備が行われていた。

最初の接触以降、定期的に訪れる日本の船団から次々と荷揚げされて行く日本の工業製品の中に紛れて、多数の重機が降ろされていた。

現在の港の設備では、大型船が入港できないサイズであり、港の機能の強化を見越して、重機や建設資材を持ち込んだ日本は、領主との協議の元、大規模な港町の開発の大まかな計画を立てていた。

 

「この港町にもプレハブ小屋が増えて来たな。」

 

「大手ゼネコンやら、地質学者やらが大陸中央部に進出して来ているからな、先ずはその足掛かりと言う事だ。」

 

「大陸沿岸部は、ある程度安定してきたからこちらにも進出出来るようになったが、正直、人工衛星や空中大陸からの観測だけでは調査不十分だ情報量が足りない、やはり直接自分たちの足で調査するのが一番だろう。」

 

「今の日本に必要なのは資源だからな、最初の衝突で得た領土から齎される資源だって焼け石に水の状態だ。幾らか、ツチビトの鉱山から鉱物資源が輸入されて息を吹き返しているが、もっと広範囲に手を広げるべきだ。」

 

「正直、ケーマニス王国が好戦的な国じゃなくて助かったよ。最悪ゴルグに近い状況になるんじゃないかと、冷や冷やしていたんだぞ?」

 

「だが、この国周辺には血の気の多い連中がいるらしいじゃないか?接触を図るにも慎重にするべきだ。」

 

「あぁ、全くだ。」

 

土煙を立てながら戦闘車両が視界をよぎる。

 

「最も、アレに挑んで五体満足でいられる訳ないんだろうけど?」

 

「魔獣でも鎧虫でも返り討ちにされるだろうな。」

 

 

自衛隊は、ケーマニス王国の開拓村付近に鉱脈らしきものがあると言う情報を、王国側から提供され、地質学者を護衛しながら目的地に向かっていた。

 

「砂利で舗装されているとはいえ、この揺れはキツイな。」

 

「土がむき出しになっているよりはマシだろう?それに、こういう所は魔獣が近づかないんだ、鎧虫は割とどこでも出てくるけどな。」

 

「既に、数回ほどここら辺でも鎧虫の襲撃を受けているんだろう?小銃で十分に駆除できるサイズとは言え、気は抜けないな。」

 

「大陸沿岸部とは若干鎧虫の種類も違う様だ・・・例えば・・・?」

 

「どうした?」

 

「いや、何者かの視線を感じたんだが、気のせいか?」

 

「開けているように見えて背の高い茂みも多いからな、ガチガチに固めているとはいえ、用心するに越したことは無いだろう。」

 

 

土煙を立てながら走る戦闘車両を遠くから眺める者が居た。

繁みで隠された岩のくぼみの奥に、赤い瞳が斑模様の鎧虫らしき物を興味深そうに観察をしていた。

 

『見慣れぬものだな、鎧虫か?いや、人の気配もする・・・ほぉ、これは興味深い。』

 

 

自衛隊の車両が背の低い山に挟まれた峡谷に差し掛かった所で、開拓村へ進むための道が、木片を山積みにしたようなバリケードに塞がれていた。

 

「あれは一体?」

 

「様子が変だ、嫌な予感がするぞ?」

 

自衛隊員達に緊張が走ると同時に、轟音と共に後ろの道が落石によって塞がれ、上空から矢の雨が降り注いできた。

 

「敵襲!!」

 

無数の矢が戦闘車両に降り注ぐが、金属音を響かせて鏃を歪ませ地に落ち、バリケードを確認した時点で車両の中に身を引いていた自衛隊員は誰一人負傷していなかった。

 

『糞ッ!なんて頑丈なんだ!そんなのありかよ!!』

 

『野郎ども!奴に組付けぇぇ!!一匹ずつ魔力無しを引きずり出せえぇ!!』

 

『ハッハァァッ!!お宝は頂きだぁぁぁ!!』

 

ケーマニス王国と国交を持った日本の噂を聞きつけた盗賊団は、日本人が魔力を持たないと言う情報を耳にして与しやすい相手とみなし、交易品を奪おうと襲撃を仕掛けて来たのであった。

 

最初こそ、異形の鎧虫の姿に怯んでいたが、退路を断ち有利な地形から攻撃を加えることが出来る事で、気が大きくなり、よりによって無謀にも自衛隊に突撃を開始する。

 

『そんな図体じゃこの地形は動きにく・・・ぁぁっ!?』

 

『何がおき・・びっ!?』

 

対鎧虫用に配備されていた74式戦車の上部からM2重機関銃が機銃掃射を開始し、盗賊たちを無慈悲に吹き飛ばし、人としての原型を無くした肉片が飛び散る。

 

『に・・・逃げろおおぉぉ!化け物だぁぁ!!』

 

『あんな鎧虫を飼い慣らすとか嘘だろぉぉぉ!?』

 

ズン!と底から響くような轟音と共に道を塞いでいたバリケードが74式戦車の多目的榴弾で吹き飛ばされ、その破片を浴びたのか血まみれになった盗賊が崖の上から転げ落ちる。

 

「くっ、まさか直接襲撃を仕掛けてくるとは・・・。」

 

「大陸沿岸部に上陸したばかりの頃を思い出しますね。」

 

「向こうでは俺達を襲撃するような奴は、もう殆ど居なくなっていたが・・・ここでは前の沿岸部と大して変わらんか。」

 

「この手の輩は放置すると後々面倒なことになる、可能な限り無力化・・・っ!なっ、なんだ!?」

 

蜘蛛の子散らすように逃げ惑っていた盗賊たちが突如、青白い閃光と共に次々と切り裂かれ切断された死体が辺りに散らばる。

 

『・・・・魔力無しか、興味深い事を言っていたな?』

 

「な・・・何者だ!?」

 

いつの間にか崖の中腹の岩の上に、浅黒い肌を持つ銀髪の青年が立っていた。真紅の瞳が自衛隊員達を見つめる。

 

『なに、唯の通りすがりさ、お前達に興味があっただけだ。どうこうするつもりは無い』

 

「一体何のつもりだ?」

 

『・・・成程、確かに魔力を感じない、肉としては上質だろうが、総合的には不味そうだな?』

 

「っ!?まさかお前はっ!!」

 

自衛官が銃を構えると、ヴンッと言う音と共に視界の横を青白い閃光が通り過ぎ、ごとりと74式戦車の主砲が竹槍の様な形に切り落とされる。

 

「なっ・・・。」

 

『妙な考えを起こすな、こちらに敵意は無いと言っている。』

 

銀髪の青年は、切り落とされた主砲を信じられないと言う目で見つめる自衛官を面白そうに観察する。

 

『それに・・・・・。』

 

先ほどまで崖の中腹に立っていた青年は、いつの間にか山賊の死体を2体ほど抱えた状態で山頂付近に移動していた。

 

『その気になれば・・・俺は何時でも貴様らを殺せる・・・。』

 

「!!」

 

瞬きをする間に青年は姿を消していた。

まるで最初からそこに存在しなかったように・・・。

 

しかし、銃撃では刃物で引き裂かれたような死体が散らばることは無く、何よりも大量の火薬の爆発に耐える74式戦車の主砲が斜めに切断された状態で転がるこの光景が先ほど起きた事が現実であると嫌でも認識させられる。

 

「・・・・これは呑気に開拓だの言っている暇はなさそうだな・・・。」

 

「戦車に損傷を与えることが出来る存在がこの世界に居るなんて・・・。」

 

「これが・・・人食い族・・・。」

 

自衛隊は、開拓村まで地質学者を送ると、人食い族らしき者と遭遇した事を報告し後日、周辺地域の入念な調査を行う事が決定された。

 

『大森林の向こう側の更に海を越えた先に出現した国・・・異世界の民・・・か』

 

『イクウビト・・・興味深い。』

 

元盗賊だった肉のこびり付いた頭蓋骨を弄ぶ銀髪の青年は、山の上から港町を眺めていた。

 

『空と地上に散らばる星空か、これはこれで美しい物だな・・・。』

 

 

 

 

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損傷した74式戦車の主砲

強引に引き千切られたと言うよりも、鋭利な刃物で切り取られたようなきれいな切断面が見えており、圧力がかかった形跡すら確認されなかった。

この事から、未知の方法により切断された可能性が高く、自衛官の目撃証言から魔力によって何かしらの作用が働き、主砲の切断に至ったと推測される。


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