異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第125話  異界の品

大陸中央部に進出した日本は、ケーマニス王国やフーヒョニス王国などを通じて、大量の交易品を輸出していた。

 

今まで見た事も無い高品質な加工物は、大陸中央部の商人が誰しも憧れ、競う様に購入され、ケーマニス王国を中心に、放射状に広がっていった。

 

『すごい!なんて切れ味なんだ!触れるだけで魚の肉が裂けて行く!』

 

『おおっ、これは何だ?遠くまで光が届く!?火でも無い、もしや魔石の照明か!?』

 

『わぁ、綺麗・・・回すと筒の中の宝石が花みたいな模様になる・・・。』

 

『まてぇぃ!それは俺が狙っていた奴だ!!』

 

今や、ケーマニス王国に近い小さな村や、都市国家群でも日本製のステンレス包丁などが出回っており、今まで価値を見出せなかった鉱石類が、日本の手によって便利な品々に加工されて戻って来る好循環が形成されつつあった。

 

そして、現在交渉を進めているフーヒョニス王国にも将来的に貿易拠点を設けられる予定なので、大陸中央部に進出した日本は何としてでも地盤固めをしたかった。

 

『ケーマニスの紹介で驚異の超大国と聞いていたが、まさかこれ程とは・・・冗談でもなく世界一の実力を持つ国家に間違いないだろう。』

 

『しかし、日本の魔道具・・・映像装置とやらに映し出された物が、本当ならば、我が国は世界一の軍事国家と国交を結んだことになる。』

 

フーヒョニス王国の貴族は、首都の防壁の周囲に展開されていた日本の鎧虫・・・それも純粋な技術のみで作り出されたと言う人工の怪物が、角から火を噴き、丈夫な防壁を砂壁を突き崩すが如く粉々に粉砕する力を持っていると言う事実に、当時戦慄した事を思い出す。

 

『その気になれば、あの人造の怪物が我が国をそのまま攻め滅ぼすことも出来た筈・・・しかし、彼らはその力を無秩序に振り回すことは無かった・・・。』

 

『大森林の向こう側も此処と同じく、戦乱の世だったらしいが、それが一通り落ち着いた事でこちら側にやってきたと言う事だが・・・・。』

 

『・・・・無謀にもニーポニスに挑み、あの力を直接振るわれた国に心底同情する。』

 

フーヒョニス王国の上層部は、日本との国交を結んだことで出来た仕事の山に追われているが、現在のケーマニス王国の発展度から、期待に満ち溢れ、書類との格闘に身が入っていた。

 

日本は、大陸沿岸部で散々経験した悲劇を回避するために、異世界の悪意を跳ね除け排除するために、日本の国威を天から降り注ぐ太陽光の如く広める必要があった。

 

相も変わらずケーマニス王国の港町には、タンカーやコンテナ船がその姿を堂々と見せ、膨大な資材を荷揚げし、港町の発展を進め、大手ゼネコンの職員とその家族を守るために日本人が住む住宅街周辺をパトロールする自衛隊ヘリは視覚的な威嚇効果が十分に見込まれた。

 

 

『くっ・・・またあの羽虫か!?』

 

『今回は狩り目的じゃないぞ?くそっ、忌々しい・・・。』

 

『あの羽虫・・・街道付近に現れた鎧虫の群れを、一方的に焼き殺す力があるそうじゃないか、まともに相手にしたくない化け物だ。』

 

『大森林の向こう側からの来訪者・・・これ程とは!!』

 

 

今まで堂々と行われていた日本人拉致(全て未遂)も散発的になり、近隣諸国の密偵はより確実に情報を持ち帰るために、穏当な手段で情報収集する方法に切り替えつつあった。

 

ケーマスニス王国と敵対する好戦的な近隣諸国にも商人を通じて、日本の品が少しずつ出回り始め、彼らは日本の力を我が物に出来ないか企図するが、日本人の拉致を失敗し続けて、迂闊に密偵に攫わせる事も出来なくなって来たので、使節を送り出して直接交渉をしようと動き始める国もあったが、既に密偵との関係を見抜かれていた国は門前払いを受けた。

 

『・・・ですので、貴国との国交を謝罪なしで結ぶ事は出来ません。』

 

『証拠はあるのか!証拠は!これ以上は侮辱と受け取るぞ!!』

 

『既にケーマニス王国に潜伏していた数名は事情聴取の後に、自白しております。貴国の紋章入りの物品もいくつか所持しておりましたが?』

 

『ぐ・・・捏造だ!それに、我が国の強大さが理解できんのか?魔力を持たない民である貴国が、我が国と国交を結べる最大の機会をむざむざ失う事になるのだぞ!!』

 

『我々は、我が国民を守る義務があります。暴力行為により他者を無理やり従わせようと言う主義主張は、我が国では野蛮に映ります。』

 

『蛮族が我らを野蛮だと申すか!?』

 

『えぇ、その通りです。お引き取り下さいませ』

 

 

日本と友好を結んだ国や集落は、インフラが整備され、日本産の日用品も手に入りやすく、危険な原生生物から保護される一方で、高圧的な態度で日本に接触してきた国は、明らかに日本の品が手に入りにくくなった。

 

これは、日本が販売ルートに規制を入れた事もあるが、商人たちが日本の機嫌を損ねなないように自発的に対象国に日本製品の転売を自粛した事もあり、圧力を持って従わせようとする傲慢な国々は目の前で発展を続けるケーマニス王国やフーヒョニス王国を指をくわえてみる事しか出来なかった。

 

『美しい光沢だ、模様も良い・・・。』

 

『しかし・・・だ・・・・。』

 

『何故・・・何故、ニーポニスなのだ!あのような蛮族が分不相応にもこのような刀剣を何故生み出すのだ!』

 

『くそっ、守銭奴の商人どもめ・・・ニーポニスとの関係悪化を恐れて、我が国にはかの国の品を卸さなくなりおったな!忌々しい!』

 

『魔力無しの蛮族共めぇぇぇっ!!』

 

・・・自分たちが傲慢な態度で日本と交渉しようと持ち掛けた事を棚に上げて、好戦的な近隣諸国は大陸沿岸部からやって来た日本に対して不満を募らせていった。

彼らは、大陸中央部の外からやって来た者は余所者として毛嫌いする気質もあり、元々魔力の優劣で相手を見下すアルクシアンの生物学的な性質も相まって、不満は次第に憎悪へと変質しつつあった。

 

 

『何故・・・なぜ我が国がこんな事に・・・・我々はニーポニスとはまだ国交を結んでいないのに・・・。』

 

街道外れの小高い丘の上から、激しく燃え上がる交易都市を呆然とした表情で眺め、立ち尽くす商人。

 

『ついこの間までは、何の問題もなく交易が出来ていた筈・・・それなのに、何故・・・?』

 

『中立を保つことで対立関係のある国同士の繋がりを持つ、仲介の立場と交易の中継拠点の筈だった我が国が・・・何故燃やされなければならぬのだ・・・。』

 

 

日本と直接国交を開いていないが、商人を通じて日本の品々が流通し始めた小さな都市国家が襲撃を受け、略奪されつくされ壊滅したのはそれから間もなくであった。

今まで中立を貫いていた都市国家の陥落は、その周辺国に衝撃を与えた。

ケーマニス王国にもヒシャイン公国にも貿易をしていた都市国家が[日本製品を扱い始めたのが気に食わない]ただそれだけの理由で滅ぼされたのである。

 

 

日本との直接的な交戦は回避しつつ、力の無い物から日本の品を奪う、これは大陸沿岸部でもよく見られた光景であるが、日本はそれに日本人が巻き込まれないか細心の注意を払っていた。

 

 

現在進行形で行われている拡張主義国家の侵略行為は、ケーマニス王国やフーヒョニス王国に及ぶのは時間の問題であった。

 

ヒシャイン公国やカクーシャ帝国は、日本の影響力が大陸中央部に広がる前に叩きたいが、日本は戦争そのものを回避するために現代兵器の火力や戦術の一部を軍事パレードと言う形で誇示して牽制したい。

大陸中央部は様々な国の思想によって、情勢は不安定になり混沌と化していった。

 

 

地盤固めの最中であったがしびれを切らした日本は、計画を前倒しして大陸中央部の国々と国交を結んだことを記念する共同のパレードを提案したのであった。


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