異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第126話  戦慄の軍事パレード

地響きのような音を立てつつ地面を掘り返す重機類、ケーマニス王国の港町付近に展開した重機の集団は、かなりの広範囲をアスファルトで固め地ならしし、急ピッチで作業を進めていた。

 

『ニーポニスの連中、あんな何もない所を掘り返して一体何をしているんだろう?』

 

『そうさなぁ、なんか大きな道を作っているみたいだが、道の太さに対して建物も少ないし、何がしたいのやらなぁ?』

 

『きっとまた何かとんでもない事をしでかすに違いない、なんたってニーポニスだしなぁ・・・。』

 

大陸中央部に進出した日本は、港町の拡張工事の最中でまだ物資を一度に大量に降ろすことが出来ないが、大森林を空から超えて物資を空輸する為の滑走路を、ケーマニス王国から借り入れた土地に建設し、重要度の高い資材を早く持ち込めるようにした。

 

日本は、大陸中央部の情勢が想定よりも遥かに不安定だった事に焦りを覚え、地盤固めの最中であるが、日本と国交を結んだ国々と共同で記念式典を開こうと提案した。

 

『ニーポニスが沢山の兵士を集めて大掛かりな式典を開くらしいぞ?』

 

『唯でさえ目立つニーポニスが式典を?そりゃぁ・・・きっと盛大にお祭り騒ぎするんじゃないか?あの鎧虫を使って大道芸でもやるんだろう?』

 

『いいねぇ、美味い酒が飲めそうだ!今から楽しみだな!』

 

 

これは、近隣諸国にも広まる様に商人を通じて意図的に噂を流した。

日本は、軍事力と戦術の一部をパレードを通して一般公開する用意があると・・・。

 

事前に協議をしていたケーマニス王国やフーヒョニス王国は、思っていたよりも早い事に驚きつつも、現在の情勢を考えると致し方ない面もあると認識していた。

 

『ふむぅ・・・かなりの急ぎ足だが、ヒシャイン公国が怪しい動きを見せている・・・最悪の事態が想定されるだけに、致し方ない所もあるのだろうな。』

 

『ニーポニスに頼り切ってしまうと言うのは情けないが、良い牽制になれば良いが・・・。』

 

拡張主義の国々は、思わぬ所で先手を打たれ歯噛みするが、その反面これから戦うかもしれない相手の手札を読むことが出来る良い機会なので、密偵を多数派遣する事を決定するのであった。

 

 

『何故だ!今すぐにでも森辺の蛮族共を駆逐することが出来るのだぞ?何故延期するのだ!』

 

『どうにも、大森林の向こう側の未知の国、ニーポニスが大きな動きを見せているらしい、近々国交を結んだ記念式典が開かれるとの事だ。』

 

『ちっ、先手を打たれたか・・・だが、奴らの手札の一部でも見る事が出来るのは悪くはないか、情報の全くない状況で奴らと事を構えるのと、ある程度手札を読んだ上で挑むのでは大分差が出てくるだろう。』

 

『まぁ、むざむざ時間をくれてやる理由もない、奴らが戦の準備を整える口実に式典を使うのならば、途中でぶち壊してやるのも一興。』

 

『密偵に探らせて日時が伸びるようならば、開催そのものを阻止、こちらの準備が整えきれなかった場合は情報を持ち帰り、侵攻作戦を練る、これで良いだろう。』

 

パレードはケーマニス王国の港町郊外で行われる予定であり、未だ建設中の空港が見える空き地が選ばれた。

 

まだ資材も少なく、準備は万全とはいかないが、一部戦闘車両や迫撃砲などの重火器はある程度まとまった数が持ち込まれているので、軍事力の示威としては十分な効力を発揮するであろうと見込まれている。

 

会場の設営を行う自衛隊の姿を見た現地住民たちは、いよいよ軍事パレードの噂が真実味を帯びて来て、次第に近隣諸国の貴族や王族もケーマニス王国へ訪れる者が多くなって来た。

 

『アー・・・此処、工事中、危ナイ』

 

『すげぇ鎧虫だなぁ!触らせてくれよ!人を襲わないんだろう!?』

 

「アァー!!ソレ・サワッチャ・ダメ!」

 

『これなんだ?溝のある釘?色んなもんあるんだなぁ・・・』

 

「コーグ・バーコ・アサ・ラーナーデー!!」

 

誤算と言えば、会場の設営時に使用された重機やトラックなどの運搬車両を物珍しく感じた現地住民による意図しない設営妨害があった程度だが、それ以外にそれらしい問題も起こらず予定通りにパレードの開催準備は整った。

 

勢力を増す好戦的な近隣諸国がパレードを妨害してこないか細心の注意を払いつつ、資材運搬の時間を確保するために出来る限り引き延ばそうとしたが、ヒシャイン公国の動きに進軍の兆候が航空撮影で確認され、ヒシャイン公国が動く前にパレードを開催する事にした。

 

「辛うじて、と言うべきかな、何とか空港は完成したがパレード会場の設営にもう少し余裕があれば、もっと大掛かりな演出も出来たんだがなぁ・・・。」

 

「あちらさんも、そこまで待っていてくれないだろう、正直連中がケーマニス王国を飲み込む前に接触が出来て良かったくらいだ。」

 

「滑り込みセーフって所だな、これがヒシャイン公国やカクーシャ帝国だったら、ゴルグの事件と同じ展開になる事になったかもしれない。」

 

「魔力無しって言うのは、本当に厄介なもんだな、どれだけこちらが必死に交渉しても高圧的に返されてしまうんだから。」

 

「ま、俺達は所詮宇宙人さ、根っこの部分から生物として別物だから真の意味では分かり合えっこないのさ、人間同士でさえそうなんだからさ。」

 

「極論言うと、最終的に人間自分一人だけの孤独な存在だぞ?地球人だろうがアルクシアンだろうが、そこは変わらんよ。」

 

「そうさな・・・いや、辛気臭い事はここまでにしておこう、パレードの日も近づいている、今やるべき仕事をこなしてさっさと酒でも飲んで寝よう。」

 

そしてパレード当日、元々何もなかった空き地は見事な会場が設営されており、近隣諸国からも沢山来客し大きく賑わいを見せていた。

 

ケーマニス王国、フーヒョニス王国、そして自衛隊とそれぞれの軍隊が整列し、舞台の上で将校同士が握手をする。

 

開会式の挨拶をすると、それぞれの国の作法で儀礼が行われる。

槍を地面に打ち鳴らし、天に掲げ、石突を再び地面に突き立て直立する。

抜刀し、剣を正面に掲げ、胸に引き寄せ、祈りをささげるような動作。

そして、自衛隊は左手で銃の中央部を持ちながら上に引き上げて体の中央で構え、右手で銃の下部を持ち、捧げ銃を行う。

 

『相も変わらずケーマニスとフーヒョニスの練度は高いな。』

 

『しかし、ニーポニスの軍も唯者では無いな、決して我らに劣らぬ実力者と見える。』

 

『鎧虫頼みの見かけ倒しと言う訳ではないと言う事なのだな・・・。』

 

それを見ていた近隣諸国の貴族や王族は、馴染みのあるケーマニスとフーヒョニスは元より未知の国である日本の極めて規律の取れた動きに、大森林の向こう側の国が決して大陸中央部の国々に劣らぬ練度を持つことを理解したのであった。

 

そして、舞台に見慣れぬ器具を持った集団が現れ、少し離れた手前の位置に細い棒を持った兵士が立ち、観客に頭を下げる。

 

『・・・・?あれはなんだ?』

 

『他の兵とは違った意匠の服を着ているな?手に持つ金属で出来た物は一体・・・?』

 

細い棒を持った兵士が、軽く棒を動かすと、謎の器具を持った集団から大音量が放たれた。

金色に輝いていたり、美しく磨かれた木の板の様な物の正体は楽器だったのだ。

 

大陸中央部の国々は式典に音楽を演奏する習慣を持つ国は、あまり多くなく、楽器の種類も少ないので、自衛隊の音楽隊がパレードで演奏するのは新鮮に映った。

 

旧日本軍の軍歌や、民謡、そしてアニメや映画などのテーマ曲など、異世界には存在しない様々なジャンルの音楽が大音量・大迫力で流され、観衆を圧倒する。

 

『な・・・何という勇ましい・・・。』

 

『この世にこれ程の楽器が存在するとは・・・あぁ、美しい旋律だ・・・。』

 

そして、音楽のフィナーレに大砲が空砲を放ち、盛大な声援が響き渡りビリビリと大気が割れんばかりに振るわれた。

 

 

それからは、自衛隊の独壇場であった。

 

一通り儀礼が終わると、軍事演習が開始され、大陸中央部に荷揚げされた戦闘車両が土煙を上げながら空き地を走り、上空をヘリコプターが通過する。

それだけでも、観客は興奮し、近隣諸国の王族や貴族はその姿に圧倒された。

 

『なんと・・なんと力強い・・・』

 

『あの巨体であの速度が出るだと?あ・・・ありえん・・・。』

 

『あ?何かするぞ!?』

 

戦闘車両から凄まじい轟音が鳴り響き、遠くに設置された赤い円が突如破裂する。

耳を塞ぎたくなるほどの轟音の数だけ遠くの赤い円が破壊された頃で、ようやく観衆は戦闘車両があの赤い円を粉砕している事に気づき、ある種の畏怖を感じた。

 

戦闘車両の砲撃が終わると、いつの間にか観衆の前方に展開していた砲兵たちが、迫撃砲を設置しており、あえて信管をやや遅れて起爆するように調整した榴弾を次々と発射した。

 

風きり音と共に着弾した榴弾は、地面を吹き飛ばす程の爆発をし、流れ作業の様に放たれた迫撃砲は次々と少し離れた場所にクレーターを作って行く。

 

『何だ・・あれは・・何なんだあれは・・・。』

 

『あ・・あり得ん、これは現実なのか?』

 

日本の力を推し量る目的で派遣されていた密偵達は、目の前で行われる大破壊に戦慄し恐怖に犯されていた。

確かに兵士の数は、負けていない・・・しかし、これだけの少人数で放たれた破壊魔法は、この大陸中央部の国々の魔術師にはとても再現できるものでは無い。

 

儀式用と思われる黒い筒からは、魔力を全く感じないが、少なくともあれから凶悪な威力を誇る破壊魔法が放たれている事は間違いないのであった。

 

『こ・・・これでは・・・このままでは・・・。』

 

『無策で奴らとぶつかる訳には・・いや、間違っても戦を仕掛ける相手ではない!!』

 

『ば・・化け物だ・・・。』

 

自衛隊員による小銃の的当てや、戦車のスラローム射撃なども行われているが、大陸中央部の国々にとって自衛隊員の一挙一動が、恐怖の対象であった。

 

・・・・間違っても敵対してはいけない相手であると。

 

そして、最後に上空を巨大な影が通り過ぎ、砲撃とはまた違う轟音が鳴り響く。

ゴルグ近郊の飛行場から飛び立ったC-1輸送機が、大森林を飛び越えケーマニスに新設された空港を目指してパレード会場上空をフライパスしたのである。

 

異世界には存在しない人の造りし異形の巨鳥・・・・その圧倒的な存在感、迫力についに観衆は言葉を失った。

 

ケーマニス王国に派遣された密偵達は、閉会式が終わった後、お通夜ムードで帰路に就く

 

『夢だ・・夢に違いない・・・悪夢・・・そう、悪夢だ。』

 

『目を覚ませ・・・これは・・現実だ!くそっ!!』

 

顔を死人の様に青白くさせ恐怖に身を震わせる。

 

『何故・・・現れた?大森林の向こう側で満足しておけば良かっただろう?』

 

『奴らさえ、奴らさえ現れなければ今頃はっ!!』

 

彼らは圧倒的な力を前に恐怖で身を震わせていた・・しかし、彼らを震わせていたのは恐怖だけでは無かった・・・。

 

『魔力無しが、分不相応な力を持ちおって・・・。』

 

『許せない・・・魔力無しが、許せない!』

 

屈辱・・・・そう、魔力無しが出しゃばるのが我慢ならない、生物学的に魔力の優劣で高慢にふるまうと言う性質が理性で押さえる事が出来ず、怒りが暴走しているのである。

 

『殺してやりたい、滅ぼさなければ気が済まない!』

 

『だが、だが・・・どうする?あれは駄目だ、絶対に駄目だ、戦いにすらならない。』

 

『ならば力を削ぐべきだ、少しずつ、少しずつ気が付かない程度に削いで行くべきだ・・・。』

 

正面から挑んでも敗北する事が目に見えている以上、彼らに出来る事は非正規戦のみである。つまり、可能な限り嫌がらせをすると言う事であった。

 

『肌の黄色い魔力無しめ・・・。』

 

『少しずつだ、拉致など考えず一人ずつ始末して行けば奴らも迂闊に上陸させられまい・・。』

 

しかし、彼らにとって、自分達とは全く違う価値観を持つ存在であると言う事を理解していなかった。それ故に、彼らは匙加減を誤る可能性自体に気が付かなかったのであった。

 

『兎に角、早く戻って我らが主に伝えなければ・・・早まった決断を下す前に!』

 

彼らが懸念していた通り、無策で日本に挑むのは無謀である。

だが、匙加減を誤った場合、日本の怒りを買うリスクが存在する。しかし、価値観の違いが招く悲劇は何時の時代も無情な物である。




後半寝ぼけ眼で書いていたから、明らかに日本語がおかしい箇所があったので修正。
勢い有る時に書かないとなかなか進まない物ですね。

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