異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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年明け前に投稿するつもりが、時間が足らず。
ではでは、今年もよろしくお願いしますねー!


第127話  萌葱色の魔石

大陸沿岸部と中央部を分断する山脈と大森林、中央部側の大森林よりの峡谷奥地にかつて、大陸中を巻き込んだ大戦でその勢力を二分した人食い族と英雄双方の血を受け継ぐトガビトの隠れ里が存在した。

 

トガビトは、かつての悲劇を繰り返さない様に外との接触を断ち、細々と慎ましく生活をしていた。

時折、外部から迷い込んだ者とも結ばれる事もあるので、完全に鎖国をしている訳では無いが、悪意を持つものに隠れ里の位置を知られる訳には行かないので、異国の密偵などは排除していた。

 

日本と国交を結んだことで、幾らか里の閉鎖的な空気は和らいだが、日本との取り決めで他国に隠れ里の位置は知らせておらず、またトガビトと国交を開いた事は秘密にしてある。

未だあの大戦の影響は残っており、まだ黄昏の荒野の民は人食い族の末裔と接触するには早すぎるのだ。

 

 

『ドーリス・・・ここに居たのか』

 

『ダリウス?』

 

『もうあれから随分と経つな・・・。』

 

『・・・・・。』

 

『ニーポニスと・・・イクウビトと国交を結んだ事に不満があるのだな。』

 

『私は・・・私はまだ、里の外の者を信用できないでいる。』

 

『・・・・そうだろうな。』

 

『私が・・・私が外の世界に憧れたから、父上と母上は・・・。』

 

『お前が欠かさず墓参りをしているから、お前の両親の魂も安息を得られるのだ。そう思い悩むな。』

 

『トガビトの歴史は血の歴史だ。だからリクビトに恨まれるのも理解している、しかし、全てが全て我らが咎を負わなければならないのか?追い詰められて追い詰められて、その果てに全ての責任を負い、末代まで責め苦を受けなければならぬのか?』

 

『さぁな、だが、少なくとも大地を不毛の地にしてしまったその責は負わなければならない。』

 

『・・・分かっているさ、だが・・・何故、リクビトを誰一人として殺した事のない父上と母上が魔石を引き抜かれ殺されねばならぬのだ。』

 

ドーリスの瞳から涙がこぼれ落ちる。

ダリウスは無言で、ドーリスの背中をさすり、ドーリスの両親の眠る墓を拝んだ。

 

『・・・大地を汚した咎は負わねばならぬ、しかし・・・俺とて奴らの行いは許してはいない。』

 

怒りと悲しみの入り混じった、そしてどこか虚しさを感じる表情で、曇り空を眺める。

 

『人食い族を滅ぼさなければならない使命感・・・あれはそんな物では無かった。』

 

トガビトの膨大な魔力をため込み、それを制御する萌葱色の魔石

魔術の触媒に用いれば、空間切断などの高度な魔法を使わなくとも単純に炸裂魔法だけで城塞の外壁を粉々に粉砕する事が可能な至高の宝玉。

 

トガビトは、親族の葬儀の時に、その血肉を身に取り込む他に、その体内魔石をその一生涯の中で常に肌身離さず着用する宝飾品に加工するのだ。

 

それを・・・リクビトに奪われた・・・ドーリスの両親は死ぬ最期の瞬間まで、その尊厳を冒されたのだ。

 

 

 

 

・・・・・・トガビトの集落から遠く離れた地、カクーシャ帝国

 

国土の大部分を峡谷に囲まれた入り組んだ地の国であり、僅かな平地が穀倉地帯となっている。

帝国の首都は、峡谷に広がる天然洞窟を利用した強固な城塞都市であり、大陸中央部の物ならば手に入らぬ物は無いとされる巨大な市場が開かれている。

 

そう、人間由来の魔石すらも・・・である。

 

『ほぅ、中々質の良い魔石だな?』

 

『あぁ、中立を気取る都市国家が落ちたのは知っているだろう?その蛮族の兵士から引き抜いた魔石さ、蛮族の癖に良い物食っている。』

 

『成程、あの目障りな小国の魔石か・・・ふむ、形も良い。』

 

『リクビトの魔石は、魔獣や鎧虫の魔石に比べて質が良いのさ、大きさではかなわないがな。』

 

『魔獣や鎧虫の魔石は、大きいが用途が限られる。亜人の魔石はリクビトに比べてそれぞれの用途専門に特化しているが、汎用性は高くない、やはり襲うならばリクビトの国が良いな。』

 

『何でも、最近大森林の向こう側の国が海を経由してケーマニスに上陸しているそうだが、そいつらは魔力と魔石を宿していないそうだ。』

 

『ふむ?そんな亜人が存在するのか?何とも奇妙な種族だな?』

 

『だが、変わった技術を多数保有しているそうだ。何か良い戦利品が得られそうではあるな。』

 

『不死の秘宝と噂されるウミビトの魔石や人食い族の魔石でも手に入れば良いが・・・。』

 

『魔力無しがその様な物を持っている訳が無かろう、だが、人食い族の魔石はどうやら我が帝国の軍が保有しているそうだ。』

 

 

カクーシャ帝国王城

 

『蛮族の貿易都市を陥落させてきました。』

 

『うむ、大儀であった。』

 

『陛下、やはり人食い族の魔石で作られた魔道具は強力です。あれが無ければ兵を多く失っていた事でしょう。』

 

『ふむ、蛮族の集落とはいえ、あの魔道具が無ければ損害は避けられぬか・・・。』

 

『はっ、通常の兵力であればそれなりに苦戦すると思われますが、アレさえあれば平地を占拠する蛮族たちなぞ鎧袖一触です。』

 

『頼もしい限りだ。しかし、人食い族の生き残りがこの大地にまだ存在していたとは・・・。』

 

『えぇ、かの者たちは危険です。奴らの集落を発見し次第、総力を挙げて絶滅させなければ1000年前の悲劇を再現することになるでしょう。』

 

『人食い族の根絶は、紺碧の大地に生きる民の悲願、それを達成できるのはわが帝国以外に他ならない。』

 

『そうです、我らこそが英雄にふさわしい絶対なる存在。』

 

『人食い族の魔石によってかの者たちを滅ぼす・・・素晴らしいではないか、奴らの魔石は全てわが帝国の永久の繁栄を約束する宝具へと生まれ変わらせるべきだ。』

 

『滅びと災厄の象徴である存在が繁栄の礎へと変わるのですね。それこそかの者たちが唯一行える贖罪です。』

 

『だが、まずは奴らの集落を探すために障害となる存在を取り払わなければならぬな?』

 

『ニーポニス・・・いやニポポ族で良いな・・・大森林の向こう側から態々我らの糧になるために現れるとは・・・。』

 

『不快にも蛮族同士結束し、我らの崇高なる悲願を邪魔立てする愚か者どもを抹殺するべきだ。だが、まずは放った間諜が戻るのを待ってから動くべきだろう。』

 

遠くから駆け足でこちらに近寄ってくる音が聞こえてくる。

 

『噂をすれば、戻ってきたか・・・さて、奴らはどう動く?』

 

 

その後、日本が主導で開催された演習の内容が帝国に齎され大きな衝撃と憤慨をもって帝国は、平地の国々への戦術を練り直すことになった。

 

 

 

 

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・・・・・大森林付近のトガビトの隠れ里

 

 

『もういいのか?ドーリス。』

 

『あぁ、両親もこのような顔は望まないはずだ。』

 

『そうか、だが無理はするなよ?』

 

『あぁ・・・。』

 

 

ドーリスは両親を失ったあの日を思い出していた・・・。

 

 

・・・・・リス

 

 

 

・・・・・-リス

 

 

・・・・・・ドーリス

 

 

 

『ドーリス、里の外に出ようとするのはやめなさいと何度言ったら解るの!?』

 

『だって母上!里の中ばかりでなく、外の世界も見てみたいです!』

 

『ドーリス、リクビトは大森林の魔物よりも恐ろしい存在よ?大人になるまで里の外に出ることはできません!』

 

『リクビトは我らよりも魔力が少ないと聞きます!ならば、こうやって力の差を見せつけてやればいいのです!』

 

ドーリスが腕を振るうと岩肌に亀裂が走り、岩が砕ける乾いた音が響いた。

これくらいの魔法ならば訓練をかなり積んだリクビトの魔術師にも可能であるが、幼いドーリスがこれほどの威力を持つ衝撃波を発生させられるのはトガビトが如何に桁外れの魔力を保有しているかの証拠であり、事実、完全武装をしたリクビトの戦士が各地で暗躍するトガビトの戦士に何名も返り討ちにあっている。

 

『・・・・いい?ドーリス、そうやって力を無秩序に振り回した結果、1000年前の咎を負ったのよ?それに、その程度の魔術では到底彼らと渡り合う事自体不可能でしょうね。』

 

『大丈夫です母上!私が大人になったらもっと強くなっています!』

 

『そういう事を言いたいわけじゃないんだけど・・・困ったわねぇ。』

 

 

・・・・・・・その夜、隠れ里は一人の少女が姿を消したことで大きな騒ぎになった。

 

 

『いたか!?』

 

『駄目だ、何所にも居ない!』

 

『いったいどこに行ったんだ?まさか・・・里の外に?』

 

『っ!!俺は大森林の方面を探してみる!あの馬鹿娘何所に行ったんだ!?』

 

(ドーリス・・・無事でいて・・・。)

 

 

大森林近くの峡谷を抜けて少し離れた場所に、ドーリスはリクビトが利用していると思われる石で舗装された道を高台から見つけ、草むらに身をひそめながら時折道を歩く旅人を観察していた。

 

『あれがリクビト・・・本当に角がないのね。』

 

大人の目を盗んで村から抜け出したドーリスは、人生で初めてトガビト以外の民を見て胸を高鳴らせていた。

 

(リクビトの魔力は私達よりも弱いと聞いていたけど、こんなに弱いとは思っていなかったわ、どうして大人の人達はリクビトをあんなに警戒しているんだろう?)

 

 

『・・・君・・。』

 

(あれは何だろう?村で使われている荷台よりもかなり大きい・・・?)

 

『あー・・・聞こえているかい?』

 

『ぬわぁ!?な・・・何者だ!?』

 

いつの間にか背後にリクビトらしき旅人が立っており、村の外の民の観察に夢中になっていたドーリスは大いに狼狽えた。

 

『あぁ、別に怪しいものじゃないんだけど、こんな草むらで前かがみになっていて何やっているんだろうと思ってさ?』

 

『い・・いや、これは・・・。』

 

『君はここら辺に住んでいる人?あぁ、亜人だからと言って私は変な目で見たりはしないよ。』

 

『そ・・そうか、それよりも私に何か用か?』

 

『なに、ちょっと飲み水の配分を間違えて困っていてさ、近くに川か泉はないかな?仲間と手分けして探している最中なんだけど・・・。』

 

『んー・・・あまり村の外のことは知らないが、そう言えばここに来る途中に小さな沢をいくつか見かけたな?良ければ案内するぞ?』

 

『そうかい?それは助かるな!』

 

(なんだ、リクビトも普通に話ができるじゃないか、そんなに恐ろしいものでもない気がするが・・・。)

 

 

ドーリスは、記憶をたどりながらリクビトの旅人を沢まで案内する。

覇気のない平凡な顔立ちのリクビトの男はそれほど怖くもないし、襲い掛かられても魔法で追い払えばよいと考えていたが、それは甘い考えだったと思い知らされる事になる。

 

リクビトの旅人から容器を受け取り、沢の水を汲もうと視線を旅人から外した瞬間、死角から石礫が飛来し側頭部に命中し、一瞬意識が遠のく

 

『あぐっ!?』

 

よろめくドーリスにすかさず迫り、首をつかまれ、沢に顔を沈められる

 

『はははははっ!仲間がいると言っただろう?最初から近くに潜んでいたのさ!』

 

『おう、中々の大物だな?人食い族の目撃証言が多い地域を回っていたが、まさかガキが捕まるとはな!!』

 

『ごほっ・・・がっ・・は・・離せ・・。』

 

『やりすぎて殺すなよ?死んでも高く売れるだろうが、生け捕りにすればどれだけの儲けが出るかわからん。』

 

『そんなヘマはしないさ、わが帝国には人食い族の魔石だけでなく他の部位も価値を見出す優れた魔道具職人が大勢いてね、鮮度が高い素材が必要なのさ!』

 

『カクーシャ帝国もなかなかえげつないねぇ、てっきり奴隷にして見世物にでもするかと思っていたぜ?』

 

『勿論使えるものには使うつもりさ、それが終わったらわが帝国の繁栄の礎になって貰うが・・・。』

 

 

『ドーリス!!』

 

叫び声と共に、地面がせり出して硬質化した土の塊が柱状になり、旅人に扮した襲撃者を突き飛ばす。

 

『うぁ・・・は・・ははうえ・・・?』

 

『私の娘に手を出すな!!』

 

『勝手に村の外に出おって、この馬鹿娘!』

 

血を流して倒れるドーリスに男女二人が駆け付ける。

 

『ははうえ・・・ちちうえも・・・ご・・ごめんなさい。』

 

『いいから、じっとしていて!』

 

『さて、俺の娘に手を出すとはどう言った了見だ?リクビトよ!』

 

土の柱を打ち付けられた襲撃者は、胸を押さえながらドーリスの両親に殺意の籠った視線を向ける。

 

『ぐぅぅぅ・・・やってくれたな!』

 

『野郎ども!やっちまえ!!』

 

草むらから武装をした集団が現れ、トガビトの親子を取り囲む

 

『くっ・・・これは?』

 

『これだけの人数・・・つまり最初から俺たちを見つけるために、この周辺を調べまわっていたって事か?』

 

『その通りだ!ノコノコと姿を現したのが間違いだったな?』

 

『ガキ一匹でも十分だったが、まさか三匹に増えるとはついているぜ!』

 

『さぁ、死ぬ覚悟はできたか?くたばりやがれ!』

 

トガビト親子を取り囲む武装集団は、石礫や投げ槍などを投げつけ、刀剣を振り回し、応戦するドーリスの両親を追い詰めて行く。

 

全てのトガビトが優れた戦士と言うわけでなく、どちらかと言えば狩人や農民であったドーリスの両親は数に押されて弱って行った。

 

隙を突かれて胸を槍で貫かれたドーリスの父親の姿に動揺した母親が背中を蛮刀で切り裂かれ、戦いは終わった。

 

『ち・・父上ーー!母上ーー!!』

 

泣き崩れるドーリスを取り押さえる襲撃者たちは、ドーリスを拘束具で縛り付け、攫おうとする。

 

『や・・やめろぉ!やだ!やだ!やだぁ!やめでぇぇ!!』

 

『恨むんなら、中途半端に戦ったお前の両親を恨むんだな?』

 

『この期に及んで、無力化狙いで挑まれるとはな、なめ腐った真似をしてくれる・・・。』

 

『よし、魔石は回収したな?死体も一応回収しておけ、何かに使えるかもしれん。』

 

突如、青白く光る刃が飛来し、襲撃者たちを切り裂きドーリスが地面に投げ出される

 

『な・・・何者だ!?』

 

『トガビトの戦士長にして魔術長、ダリウスだ。』

 

『せ・・戦士長だぁ?』

 

『よくも、我らが民を殺めてくれたな?その娘を返してもらおうか!』

 

ダリウスの腕に青白い光が集まる

 

『く・・くそ!やっちまぇぇ!!』

 

意識が薄れゆくドーリスは、一人の青年が武装集団を圧倒する姿を目にしながら、意識を手放した。

 

『・・・・目を覚ましたか?』

 

『だ・・・ダリウス?』

 

『済まない、何人か奴らを取り逃した・・・そして、よりにもよってお前の両親の魔石を奪われるとは・・・。』

 

『はっ!父上!?母上!?』

 

『魔石は奪われたが・・・遺体だけは取り戻した・・・ドーリス、済まなかった。』

 

『ダリウス・・・いや、違うの私が村の外に出たから・・・。』

 

『族長に顔合わせができぬ、お前の父親を・・・族長の息子を死なせてしまったのだから・・・。』

 

『違う・・・私・・わたし・・が・・・あ・・あぁぁぁっ!!』

 

 

ドーリスの両親は、トガビトの流儀で解体され、その肉は塩漬けに保存され、骨のみを火葬する。ドーリスが形見として身に着ける筈だった魔石は遺体には存在せず、魔石を抜き取られた遺体を埋葬する事しかできなかった。

 

 

それから、ドーリスはトガビトの戦士長にして魔術長ダリウスの元で修業を積み、戦士見習いとして村周辺の警備の任についている。

 

『・・・・・忘れはしない、あの日の事は・・・。』

 

外の世界・・・リクビトはもちろん、イクウビト・・彼らもまだ信用はできない。

 

・・・・でも

 

ドーリスの首から下げられている青白く光るペンダントを握りしめ、俯く

 

『ダリウスの命を救ってくれて、我々の正体を知ったうえで交流を持とうとしてくれたその意思には答えたい。』

 

 

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ドーリスが墓参りに行く少し前、イクウビトとトガビトの交流会があり、村の若者たちとイクウビトの若手の外交官が互いに自分たちの文化を紹介し合っていた。

 

『自然に満ち溢れた国でありながら、この世界で一番栄えた都市を持つなんて凄い国なのねぇ!』

 

『いえいえ、甲獣を始めとする危険生物を涼しい顔で追い払って、糧とするトガビトの生き方も凄いと思いますよ。』

 

『簡単にあしらえる相手ではないのよ?でも、トガビトの民はあらゆる苦難を撥ね退ける力を持っているの、自然は恵みをもたらす一方で牙を剥く事もあるけど、それでも私たちはその中で共存していかなければならないの。』

 

『ほほぅ、なるほど?その部分はわが国にも通じるものがありますな。』

 

和気あいあいと交流する集団から離れて、一人ドーリスは果物の搾り汁を飲んでいた。

 

(余所者とよくあそこまで話ができるな・・・・。)

 

『ん?ドーリスか?こんなところで一人何やっているんだ?』

 

『ダリウスか・・・。』

 

『あれには混ざらんのか?』

 

ダリウスが異界の民と交流するトガビトの若者たちを指差す。

 

『いや、使節団に魔法を撃とうとした手前、気まずくてな。』

 

『それを言ったら俺の方こそ色々不味い事やらかしているぞ?なおの事、彼らの元へ行かなければならないのではないか?』

 

『・・・わ・・わかった。』

 

『何か不満気だな?』

 

(不信感があるのは間違いないけど、ダリウスが最近構ってくれないから・・・折角話しかけてくれたのに何で交流会なんぞに・・・)

 

『ドーリス?聞いているのか?』

 

『う・・うるさいな!今行く!』

 

最初こそは不満気だったドーリスだが、渋々参加した交流会の中で、彼らの持ち込んだ映像装置に目が釘付けになり、抑え込まれていた外の世界の好奇心を刺激され、気が付けば胸の高鳴りが抑え込めなくなっていた。

 

『そう言えば、君は族長さんの孫娘さんだったね?』

 

『あ・・あぁ、そうだ!とは言え、まだまだ修行中の身でな、未熟者と言われておるよ。』

 

『その年で戦士を目指しているなんて凄いね、この村で君ぐらいの娘を結構見かけるけど、なんか普通の女の子って感じですし』

 

『外の世界ではどうだか知らんが、トガビトの全てが戦士を目指しているわけでもないのだ、農民の娘たちは武具よりも服や装飾品に関心を持つだろうな?』

 

『あー・・・そうですか・・・ドーリスさんは装飾品には興味はありますか?』

 

『えっ?あ・・あぁ、その・・・人並みには・・・。』

 

イクウビトの若者は、どこかほっとしたような表情で鞄から小さな箱を取り出して、蓋を開ける。

 

『これは、日本近海で採掘される魔鉱石を生成する時に生じる副産物の魔力を帯びた粉末を人工オパールで固めた首飾りなんですが、大森林の向こう側の国々でも人気の一品なのです。』

 

表面を樹脂でコーティングされた美しい光沢の人工オパールのペンダントは、混ぜられた魔石粉の影響で内側から青白い光と共に微弱な魔力を放っており、装飾品そのものの美しさだけではなくアルクスシアンの本能に干渉し、安心感を与える効果があった。

 

『我が国との交流を結んでくれた、その感謝とお近づきの印に、この首飾りを受け取ってくれませんか?』

 

『いいのっ!?・・・あっ・・・いや、いいのか?』

 

『えぇ、きっと似合うと思いますよ?』

 

(今のは普通の女の子みたいな反応だったな・・・色んな亜人を見てきたけど、何処の子供も自然な笑顔は良いな。)

 

『わぁ・・綺麗・・・。』

 

(血の歴史を持つトガビト達だが、いつかその枷から解き放たれる日が来れば良いな・・・。)

 

丸い形のペンダントを太陽に透かして見つめる少女を微笑ましい目で見守る日本の外交官はトガビトの未来に想いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・そのころ、ヒシャイン公国が怪しい動きをみせていた・・・・不穏な気配が大陸中央部に進出した日本に忍び寄ろうとしていた。




うむむ、ちょっと色々と予想外の事が起きて予定通りに動けませんでしたね。
年明け前に投稿するには少しばかり時間が足りなかったようです。

改めて、今年もよろしくお願いします。

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