異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第128話  開拓の進む大陸中央部

大陸中央部の国ケーマニス王国と国交を開いて以来、次々と日本企業が進出し、日本は大陸中央部への影響力を強めていった。

 

大量に運び込まれた資材を使って、中規模ながら工業施設が建設され、港町は更なる発展をしていた。

大型船の入港ドッグはだいぶ形になってきており、ドッグの完成はまだ時間がかかるが確実に完成に近づいていた。

 

「今までは仮設拠点と言った感じだったが、いよいよ本格的にゼネコンが動き出したな。」

 

「そうだな、そこまで大きくないとは言え、工業施設も多く建設されて現地で必要な資材を作れるようになってきている。」

 

「食品工場も現地人を雇用している様だが、衛生面では問題ないのか?」

 

「あぁ、元貧民街の住民の事か?彼らも生きるのに必死だから衛生指導はかなりまじめに聞いていたぞ?」

 

「マジか?ケーマニスと国交をもって間もない頃だったが、正直連中カビたミカンが腐って液化したみたいな臭いがしていたんだが・・・。」

 

「王命で半ば無理やりとは言え、貧民街改装の際に自衛隊の仮設銭湯に入れられて新品の服を支給されてから体臭を気にするようになったらしくてな、元の生活に戻りたくないそうだ。」

 

「・・・なるほど、まぁ連中も好き好んでスラムで生活しているわけじゃないだろうから、一度まともな生活を経験したら元には戻れないか。」

 

「プレハブ建築の仮設住宅みたいなところで生活しているみたいだが、概ね好評の様だ。まぁ、日本人でも普通に暮らす分には不便しない施設だから悪くはないな。」

 

 

日本が早い段階で貧民街に支援を出しておいたお陰で、治安はだいぶ安定しており、現地住民からは衣食住が充実して日本に対する好感度は良好である。

 

 

ケーマニス王国郊外・・・。

 

 

『ニーポニスの持ち込んだジャガイモとやらは、凄い勢いで成長する作物なんだなぁ・・・。』

 

『連作はできないという話だけど、保存がきくらしいから冬の間は何とか食つなぐことが出来るかもしれねぇなぁ。』

 

『毎年毎年餓死する奴が出てくる、それは当たり前なんだが豊作で一人も餓死者が出なかった年が時々あると、誰も飢えないで暮らせないか考えちまうんだ。』

 

『そう言えば隣村では、サツマイモとやらが持ち込まれて育てられているらしい・・・ジャガイモと同じくイモと名前が付くからには根菜の一種なんだろうな。』

 

『ニーポニスの作物は驚くほどよく育つ、もしかしたらこの国は誰も腹を空かさない国に生まれ変わるのかもしれねぇなぁ。』

 

『そうだ、村長の家の次男がニーポニスからニワトリと言う鳥を買ってきて小屋で育てているらしいけど、そいつが毎日卵を産んでいるらしい。1つ貰ったが、あれは美味いぞ!お前も卵を1個貰ってきたらどうだ?』

 

『毎日卵を産む鳥だって?ニーポニスにはそんな家畜も居るのか?上手く増やせれば卵だけじゃなくて肉にもありつけるかもしれないな!後で行ってみよう、ありがとな!』

 

 

日本が持ち込んだ家畜や農産物は、少しずつ広まって行き、現時点でケーマニス王国に近い集落に限るが、比較的貧しい村でも時々鳥の肉や卵が食べられるようになっていた。

 

治水工事も行われ、水源が確保されたおかげで慢性的な水不足や水害が減り始め、日本の影響圏の集落の生活は改善されていった。

 

 

「鎧虫だ!不味いぞ作業中断だ!退避しろ!!」

 

「車両に乗り込め!」

 

「でかいし早い、間違っても車で体当たりなんて考えるなよ!後は彼らに任せるんだ!」

 

巨大なムカデの様な鎧虫が突如工事現場に現れ、作業員を襲う。

発見が早かったので人的被害がなかったのは奇跡だが、それでも鎧虫が居座られては工事を進めることはできない、猟師にも手に余る鎧虫の駆除は自衛隊が行っていた。

 

「対鎧虫用砲弾装填完了!」

 

「撃てぇ!!」

 

鈍い音と共に発射された殺虫剤が詰め込まれた砲弾が鎧虫の外殻に着弾し、大量の薬剤がまき散らされる。

 

ムカデの様な鎧虫は、金切り声をあげると体を丸めて痙攣し、やがて動かなくなる。

 

 

惑星アルクスに生息する鎧虫対策に開発された投擲銃は、かなり多くの種類の鎧虫に対応しており、それで駆除できなくても大幅に弱らせることが出来るので最後は小銃などの小火器で止めが刺される。

 

稀に薬液に耐性を持つ鎧虫も居るが、その場合でも火砲で駆除されるので今の所大した問題は発生していない。

 

 

「また鎧虫の襲撃か・・・幸い人的被害がなかったものの、一部の資材が破壊されてしまった様だな。」

 

「この川はこいつらにとっても重要な水源だ、だから野生動物に遭遇することも珍しくないんだが、治水工事が中断されるのはどうにかしたいもんだな。」

 

「度々氾濫して広範囲に被害が広がる川だ、人間も動物も関係なくすべて流しつくす水害は正しく自然の驚異と言えるだろう。」

 

「乾季で水量が少ない今のうちに工事を終わらせたい、現場検証が終わったらすぐに作業を再開したいところだ。」

 

 

人間の領域と自然の領域の線引きが曖昧な世界のために、度々集落を襲撃する鎧虫や魔獣などの危険生物が巡回する自衛隊に駆除され、今まで難航していたのが嘘のように開拓が進んでいる。

 

 

『すげぇなぁ、あいつは人食いで恐れられていた鎧虫じゃないか?』

 

『ニーポニスの魔導兵さん達は、鎧虫退治の毒を扱っているって聞いたぞ?』

 

『ほぇ~・・・それさえあれば、鎧虫も怖くねぇなぁ?』

 

『でも、そんな便利なものがあっても俺らじゃ毒を浴びせる距離に居ちゃぁ使う前に食われちまうだろうなぁ・・・。』

 

『せめて、毒液壺が鎧虫の腹の中さ割れて、道連れにするのが限界だろうなぁ、ニーポニス様様だでよ。』

 

『それもそうだ。』

 

 

開拓民からの日本の評価は概ね上々であり、民間交流も盛んに行われている。

 

 

しかし、地球でもしばしば起きたように開拓が原因で絶滅の危機に瀕する生物もいるので、生態系が崩れないように細心の注意を払い、無秩序な開拓が行われないように監視を続けている。

 

 

 

ケーマニス王国日本大使館・・・。

 

『ぜひ我が国とも国交を結んでほしい!』

 

『ニーポニスは奴隷を使わないと聞くが、そうなると我が国は何を差し出せばよいのか・・・。』

 

『ニーポニスの武器を是非我が国にも導入したい。我が国と国交を結べば銀の鉱山の採掘権を約束する。』

 

『ニーポニスと国交を結びたい・・・いや、我々は国と呼べるほどの規模ではないが、せめて武力による侵略だけはしないでほしい・・・。』

 

 

ケーマニス王国・フーヒョニス王国・日本国の3国合同軍事演習の後に、近隣諸国は競うように日本大使館に向けて使者を送り、正式に国交を結ぶための打診を行った。

 

自国の開拓に協力してもらい資源を売るために、軍事的対立を避けるために、日本を利用して他国との交渉の材料にするために、様々な理由で大陸中央部の国々は日本との交流を求めたのだ。

 

 

『どういう事だ?我が公国の鋼材はもういらないだと!?』

 

『えぇ、つい最近国交を結んだニーポニスに我が国の鉄鉱石を製錬してもらい、大量の鋼材が手に入るようになったのです。』

 

『くっ・・・我が公国への鉄鉱石の輸出を減らした理由はそれか!貴様らは自分が何をしているのか理解しているのか!?』

 

『えぇ、もちろん理解していますとも、あぁそうでした、我が国には近いうちに鉄を運ぶための大きな蛇が来るそうですよ?それに乗ってニーポニスの兵も我が国に多く訪れる事でしょうねぇ?』

 

『っっ!!くそ・・・覚えていろ!後悔させてやるからな!!』

 

 

そして、日本と正式に国交を結んだ国の中で、カクーシャ帝国やヒシャイン公国に手のひらを反して日本にすり寄る国も出てきたのであった。

 

 

『・・・ニーポニス、ニーポニスッ!、ニーポニスッッ!!』

 

『奴らが現れてから全てが狂い始めた!だが、だがしかしどうする?密偵の報告が確かならば正面から挑むには無謀すぎる・・・どうすれば良い?』

 

『・・・・最悪土地は使えなくなるが、奴らの水源に毒を流すべきか・・・いや、それすらも有効とは言えないかもしれない。何か手を打たねば・・・。』

 

 

カクーシャ帝国とヒシャイン公国の他、ごく一部の好戦的国家の不満はエスカレートして行き、直接的・間接的問わず、様々な工作を行うのであった。

 

それによって、日本の影響圏から離れた日本と国交を打診した国の幾つかは本格的な交流が始まる前に、襲撃を受け亡国となった。

 

惑星アルクスは、戦乱の時代の真っ只中であり、日本国も決して油断できる世界ではない、不安定な情勢はいつ牙を剥くかわからないのである。


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