異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第13話   少年たちの魔物退治

大陸の中心部へ向かうための玄関口に当たる大森林、かつて荒野の民と呼ばれたリクビト達が長きにわたる戦いの末、魔石を宿すほどの力を持った戦士たちの屍の山を積み上げ、やがて屍は魔力を持った土へと変貌し、荒野の植物を異常成長させた。

 

千年前に突如出現した大森林は、多くの魔獣を育み、近寄るものを貪欲に取り込み、大陸有数の魔境と化した。

 

今も時折、森から魔物が群れからはぐれ、地方の都市を襲撃する事もあり、定期的に討伐隊が組まれ、魔物の駆除が行われる。

 

 

「まったく、定期討伐の序に、新兵の試験をやる羽目になるとはなぁ・・・。」

角付きメットを被った討伐隊隊長がため息をつきながら、呟く

「ま、その分奥に進まなくて良いじゃないか?小型の鎧虫程度、倒せないようじゃ、この先やっていけんしな。」

羽飾りのついた額当てを付けた副隊長が、隊長の愚痴に付き合いつつ周囲を見渡し後ろを振り向く。

 

 

「お前たち、ここが大陸の玄関口だ、俺たちの故郷には生息していない危険な魔物がうようよしている!幸い作戦領域には比較的危険度の少ない小型種しか生息しておらん!対処を誤れば最悪死ぬかもしれんが、これが乗り切れなければ一人前の兵士とは言えん!心してかかれ!!」

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

「なぁ、ココル、この任務が終われば晴れて、正式に入隊出来るんだよな?」

「うん、ここに来るまで本当に長かったよ、夢でも見ているみたいだねコリン。」

「ばーか、お前も聞いただろ?油断していると最悪死ぬって」

「大丈夫、僕は弓兵だし、危なそうな奴には近づかないから、それよりコリンは鉈と短剣しか持っていないけど大丈夫?」

「本当は両手斧を使いたいんだけど、まだ使う年じゃないって、隊長から・・・。」

 

 

 

「おいっ!そこの!私語は慎め!」

 

 

「ひゃい!?」

 

 

 

新兵をつれた討伐隊は、よく目印に使う巨大な倒木のある広場にベースキャンプを築き、一晩過ごし、翌日本格的な討伐を行う予定をしていた。

しかし・・・・。

 

キュオオオオオオオオオオオオォォォォ!

 

「火吹きトカゲだあぁっ!!逃げろおぉぉぉ!!」

「ぎゃああああああ!!」

 

 

本来ならば、大森林の奥に生息する火吹きトカゲが、群れからはぐれたのか森の入り口付近の森の広場に突如出現、火を恐れぬ火吹きトカゲは、ベースキャンプの篝火を踏み潰し、軽装備の討伐隊を襲撃した。

 

 

「ココル!?どこだ!生きているか?」

 

「こっちだよ、コリン!早く!!」

 

 

天幕の骨組みに押しつぶされた新兵たちを、踊り食いする火吹きトカゲを横目に、友人の呼び声に答え、茨の茂みに出来た小さな穴に滑り込み、その奥に続く獣道を辿って只管走り続けた。

 

 

気が付けば空が白み始め、嘘のように青い空が惨劇の起きた森を明るく照らした。

 

「はぁ、はぁ、奴はもう居ないか?」

 

「何とかまいたみたいだね、コリン」

 

「これからどうする?正直ここが何処だかさっぱりわからないぞ?」

 

「救助が来るまで待つしかないんじゃないかな?」

 

「おいおい、まともな装備もないのにどうやって森を抜けろってんだよ、小型の鎧虫程度なら何とかなるけど、またアイツに遭遇したら・・・。」

 

「その時は、その時だよ・・・でも、何もしないまま食べられちゃうなんてまっぴら御免だね!」

 

「まったくだ、それは置いといて、本当にどうするんだ?せめて目印になる物があれば・・・。」

 

「コリン!あっち見て!あの丘の上なら森の外まで見えるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

森の木々の背を超える程度の、小さな丘を登って周囲を見渡す少年たちは、木々の間に上る煙を見つけ、自分たち以外にこの森に訪れている人間がいるのかもしれないと言う希望をもって、目印の煙を見失わないよう、草木をかき分け歩き続けた。

 

 

「これは・・・」

 

「はは・・・も・・・戻ってきちゃったみたいだね。」

 

「一晩中走り続けたと思っていたけど、こんなに近くにあったなんて」

 

「意味も無くうろついていただけだった、ってのか?」

 

「でも、でも、ここまで来れば後は来た道を戻るだけだよ!早くいこうよ!」

 

「待て!待ってくれ!・・せめて遺品だけでも・・・。」

 

「コリン・・・・。」

 

 

「みんな・・・みんな死んじまった・・・・!!っ隊長の・・・」

 

「隊長の青銅斧・・・コリン・・・皆の物を全部持ち帰るのは無理だよ、それだけでも良いから、はやく帰ろう」

 

「ココル・・・すまない、帰ろう」

 

 

悲しみに暮れる少年たちが、森を出る道へ向かおうとしたとき、背後の倒木が踏み砕かれ、赤い鱗の巨大な爬虫類が縦に割れた黄色い目をぎょろりと動かし、喉を鳴らしながら近付いてきた。

 

 

「っ野郎!!」

 

「不味いよコリン!早く逃げないと!」

 

「いや、無駄だな、追いつかれちまう」

 

「そんな!」

 

「だがな、何もしないまま食われるのは、まっぴら御免だ、そうだろ?」

 

「っ!!うん・・・」

 

火吹きトカゲが新たな獲物を見据え、その赤い鱗とは対照的に青い舌をちらつかせ、じりじりとにじり寄ってくる。

 

「俺が懐に潜り込む!牽制を頼むぞ!」

 

「うん、僕に任せて!」

 

火吹きトカゲが突進を開始すると、横にさけつつ、短剣を前脚を狙って投げつけ、鈍い音と血しぶきを上げる

 

「何処を見ているんだい!」

 

前脚を傷つけられたことに激昂した火吹きトカゲは、噛みつこうと大口を開けるが、視界から外れていたココルの矢に片目を射抜かれ悲鳴を上げつつバランスを崩し、頭から腐葉土に突っ込む。

 

「よしっ!」

 

「馬鹿!ココル!よけろ!」

 

「えっ?」

 

気が付けば、火吹きトカゲは体を捩じりこちらを向いており、開いたままの大口が赤く揺らめいた。喉元から押し出されるように

 灼熱の焔が直進し、寸前のところで回避する。

 

「ぬううううぅぅっ!!」

 

轟音と共に背後の若木が爆ぜるのを見届けた後、森の木々を盾にしつつ牽制攻撃を加えながら距離を取る。

 

 

キュオオオオオオオオオオオオォォォォ!!

 

固い鱗に守られ、浅く傷をつけるだけだったが、火吹きトカゲの怒りを高めるのには十分だった、必殺の火炎放射を避けられた事も火吹きトカゲのプライドを酷く傷つけた様で、我を忘れて森の木々をなぎ倒す勢いで突進を開始した。

 

「俺を忘れちゃ困るぜ!  うおらぁぁぁ!!!」

 

いつの間にか木の上に上っていたコリンが落下エネルギーを利用して、鉈と斧を同時に頭部に振り下ろし、鈍い音と共に土煙が上がり大量の血を吹き出しながら声にならない声を上げて火吹きトカゲが沈黙した。

 

「やった・・・のか?」

 

「やった・・・やったよ!凄いよコリン!魔法も使っていないのに勝っちゃった!」

 

「いや、よく見ろココル、奴の傷口・・・泡を吹いていないか?」

 

「ほ・・・本当だ・・・あれってもしかして・・・。」

 

「多分隊長たちが、毒を塗った武器で何度も切り付けたんだ・・・既に弱っていたから何とかなったんだよ。」

 

「隊長たちが?・・・そうか、最期の最期で僕たちを助けてくれたんだね・・・。」

 

「畜生・・・・火吹きトカゲめ・・・何でこんな浅い所まで来るんだよ・・畜生・・・。」

 

「コリン・・・。」

 

 

ゴルルルルルルルルルルッ

 

 

「「!?」」

 

そこに現れたのは、先ほど倒したばかりの火吹きトカゲよりも更に巨大で、赤黒い重厚な鱗に身を包んだ新たな火吹きトカゲだった。

更に、よく見ると、巨大な火吹きトカゲの後ろに何匹か、倒した火吹きトカゲと同じくらいの体格の個体が青い舌をちらつかせていた。

 

「む・・・群れ単位で迷い込んでいたってのかよ!?」

 

「お・・・お終いだ・・・今度こそ・・・。」

 

その時だった!!

 

『フ セ ロ !!』

 

異国語の発音と共に、どこからともなく現れた異形の羽虫が、空から強力な魔導で地上の火吹きトカゲを薙ぎ払った。

 

 

UH-1Jイロコイが側面に着けたM134ミニガンを乱射した。

M134ミニガンの圧倒的な火力に、火吹きトカゲの長の頑丈な鱗すら粉砕され、物の数秒で少年たちを取り囲んでいた火吹きトカゲの群れを殲滅したのである。

 

「「あ・・・あ・あ・あ・・・。」」

 

余りの光景に言葉を失う二人・・・・そこへ、紐の様な物を伝って降りてきた奇妙な兜をかぶった男が近づき、しゃがんで二人の頭を軽く撫でた。

 

『モー ダイジィョ ブ サー カェロー』

 

彼が何を言っているのかは、解らない・・・だが・・・二人の緊張を解くには十分だった。

 

「な~に阿呆な面してやがる!」

 

聞き覚えのある声に、思わず背後を振り返る。

 

「全員は助ける事が出来なかったが、お前たちが見つかってよかったよ、これで最後だな・・。」

 

「た・・・隊長おおおぉぉっ!!!」

 

異形の羽虫から出てきた隊長と副隊長の姿に思わず声を上げて、異国の兵士を突き飛ばす勢いで駆け寄った。

 

 

「隊長ぉ・・・僕・・・てっきり・・・じゃったかと・・・おも・・・」

 

「おいおい、泣くんじゃない、まったく・・・ひでぇ顔だな。」

 

『オォ ゲンキダナー マタック』

 

「隊長・・副隊長も?あの羽虫は何ですか?あの人たちは一体・・・。」

 

「海を越えた先にあるニッパニアの兵士様だ、空を飛ぶ乗り物があるからお前たちの捜索に手を貸してくれたんだよ。」

 

「ニッパニアってあの、隣の国を滅ぼした!?」

 

「あぁ、何でも戦いだけでなく救助の達人でもあるらしいからな、貴族の連中が息子の為に金を出して雇ったのさ」

 

「で・・・でも僕たちはただの平民で・・・。」

 

「俺もそう思ったんだが、連中は全員助けるって依頼以上の仕事をしてくれたんだよ、それも追加報酬なしでな」

 

『ア・ノー ハィヤック イコー アブナ・カラー』

 

「おい、隊長、そろそろ引き揚げるってよ、さぁ、あの羽虫に乗ろう!」

 

「「え゛ あれに?乗るの?」」

 

 

その日、討伐隊を襲った魔物の群れは一掃され、散り散りになった生存者を救助し、自衛隊は幾らかの報酬金と何か所かの農村部の土地の権利書を受け取った。

 

 

その見事な救助劇の噂を聞きつけ、多数の国や集落から自衛隊に依頼が舞い込むのはまた別の話・・・。

 

 

 

 

レディカクラウロ 通称、火吹きトカゲ 

和名:ワモンヒフキトカゲ

 

体内に発火性の粉じんを生成する器官をもった赤い鱗を持った大型爬虫類

粉じんには魔鉱石の粒子が微量含まれており、粉じんを獲物や外敵に吹き付ける時に喉元の鉱物器官で刺激を与え着火に利用する。

粉じんは吸着性が高く、一度張り付くと中々落とせないので、炎を浴びると長時間地獄の業火に苦しみ続ける。

基本的に単独で生活を送るが、繁殖期になると一時的にハーレムを形成し、雄は戦いの度に傷ついた鱗を硬質化させ、大型化して行く。

激しい生存競争と縄張り争いに勝ち続けた歴戦の雄は、鱗を赤黒く変色させ、ハーレムの規模も大きくなる。

繁殖期が終ると子育てを雌にまかせて単独生活に戻り、群れから離れる。


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