大陸沿岸部の開発が進み、現在二番目に発展している日本サテラニア自治区。
日本ゴルグ自治区に比べると一歩譲るが、工業施設や商業施設が立ち並び、試験的に大型の自然公園が設けられている。
この自然公園の新たな試みは、現地の植物に魔素を含む肥料を与え、1000年前の大戦以前の土壌を再現する事である。
文献によると、大陸が荒廃する前は魔力を放出しながら青白い光を放つ草花が大地一面に咲き誇っており、幻想的な光景が広がっていたという。
日本が大陸に上陸した時点では、背の高い木はあまり多くなく、草もどこかしおれた様な植生が殆どで、トーラピリア王国周辺や大森林付近でしか植物の密集地が確認できなかった。
日本ゴルグ動植物研究所での閉鎖空間での実験調査によって、安全性が確認された植物のみを自然公園へ植えて、植物から放たれる特殊な周波数の魔力パルスが異世界人にどのような影響を与えるのか調査する目的もあった。
なお、既に有志のアルクス人の学者が自ら被験者となり植物魔力パルスの被曝実験行った結果、代謝の向上や体内魔石の成長などが確認されており、アルクス人にとって魔光浴の健康的な効果を発揮する事が認められた。
時は遡り、サテラニアの自然公園の開園日にて・・・。
『元々初代国王像が立っていた広場を掘り返していたと思ったら、荒野ではあんまり見かける事のない大きな木を持ち込んでは彼方此方に植えて、一体何をやっているんだろうか?』
『ニッパニアの考えることは良くわからんな、そんなものを植えるくらいなら畑にしてしまえば良いのに・・・・。』
『初代国王陛下の石像は水が噴き出す仕掛けのある湖の位置に移動したみたいだな、取り壊さないで大切に扱ってくれて嬉しいもんだ。』
日本サテラニア自治区の知事が、開園する大陸初の自然公園で演説を行った。
『えー・・・サテラニア自治区の皆様、こんにちは、我々日本がこの大陸に訪れてから、様々な出来事がありました。その中には残念ながら不幸な出来事も多くあり、未だにその傷跡が残る場所もあります。』
『我々日本人は、それでも前に進もうと努力をし、少しずつではありますが大陸の国々と交流を深め、我が国に誇る技術や文化を大陸に広げようと試みております。』
『この自然公園もそのうちの一つであります。魔力が失われ、ひび割れた荒野が続くこの大地に再び緑を蘇らせようではありませんか!鳥が羽を休め身を隠す葉に覆われた木々、美しい草花、澄み渡る空気、かつてこの大陸に存在した美しい大地を再現する事が、この自然公園の試みであります。』
『この自然公園は、サテラニア首都に隣接した位置に作られ、再開発された商業区からのアクセスも簡単で、ショッピング後の散歩や恋人とのデートなど憩いの場としても機能するようにベンチや雨宿り用の休憩場などが各所に設けられており、許可があれば屋台の運営も行えるようになっております。』
『それでは、長くなりましたが、いよいよサテラニア初の・・・いや、大陸初の自然公園をただ今もって開園します!!』
テープが切られ、公園の出入り口に設けられていたゲートが開かれ、日本人・サテラニア人問わず、ぞろぞろと自然公園へと入って行く
「うわぁ、本当に異世界の木は薄く光っているんだなぁ!LEDなんかじゃないぞ!」
「流石に全部の木が光る訳では無いみたいだけど、そういう種類の草木がこうも集まると壮観だなぁ・・・。」
「1000年前はもっとすごい場所だったんだろうなぁ、地平線まで荒れ地が広がっていると、何だか寂しい気分になっちゃうし、本当にここは癒されるよ。」
大陸開発のために送られてきた企業の職員たちやその家族が、地球には存在しない発光する樹木に驚きつつも、久しぶりの自然に心躍らせていた。
『ほぉー・・・これは凄いもんだ、一か所に大きな木が集まるとこうも違うものかねぇ・・・。』
『荒野では見ることが出来ない景色だな、トーラピリア王国という国の近くなら見られるらしいが、旅も命懸けだし、俺達には畑だとか店だとかがあるからなぁ・・・。』
『しかし、畑に植える作物じゃなくて見るための植物か・・・そういうのは花とか木の実とかしか思い浮かばなかったが、こういうのも悪くないというか・・あぁ、良いなこれ・・・。』
『家族や恋人と一緒に歩くのも良いという話だが・・・うむ、確かにこれはいいな、今度妻と息子を連れて来よう!』
開園前は、食料にならない植物を植えた自然公園と言うものに懐疑的な視線もあったが、開園後はサテラニア人にも受け入れられ、今や噂を聞き付けた外国人も多く訪れるようになった。
そして現在・・・。
『焼き鳥ー!焼き鳥は如何ですかー!』
『魚の塩焼きもありますよー!』
『ショーユとサトウで煮詰めた鎧虫の卵なんてどうだい!』
自然公園の広場の屋台設置が許可された場所は、場所取りの争奪戦が繰り広げられており、仕事の息抜きで訪れた者の腹を満たすようになっていた。
日本人は再開発された商業地区で働くものが多く、あえて自然公園の屋台にはあまり進出しなかった。
これは、現地人の文化の発展や彼らの職を奪わないようにするための配慮であり、衛生面の指導は行うものの、彼らの在り方にあえて口を出すようなことは控えていた。
日本人が想像しているよりも彼らのバイタリティは強く、彼ら独自の調味料で屋台の料理を調理する者もいれば、新たな味を求めて日本から醤油や砂糖などを買い込み、創作料理を振舞うものなど多様にわたる。
『畑仕事が終わった後、木陰で休みながらリョクチャを飲むのがたまらないな。』
『何となくこの人工の森で休んでいると、疲れが取れる気がするんだ、綺麗な景色だしね。』
『私は魔術師だが、何と言うかだな、研究が煮詰まったときこの森に訪れていたのだが、前よりも魔力が強くなった気がするのだ。この木々は我々に力を与えてくれるのかもしれんな。』
『わぁ!これ食べられる木の実だ!ねぇ!つんでいいの?』
『全部持っていかないなら良いみたいよ?ニッパニアは小鳥さんの為に植えたみたいだけどね?』
『開園直後よりも木が大きくなったなぁ、元から大きな木だと思っていたけどまだまだ成長するもんだな、荒野ではこんな大きさにまず育たないぞ?』
『お忍びでこの庭園に訪れてみたが、是非我が国にも作りたい、っと言いうよりも、わらわが欲しい!頭の固い父上を無理にでも連れてきて解らせてやるぞよ!!』
日本はサテラニアの自然公園開園での成功経験を生かして、造園も売りに出すようになった。
今まで如何にして農作物の収穫を増やすかに頭を悩ませていた大陸沿岸部の国々は、噂の自然公園に訪れてから、農地に向かない土地を無理に畑にするのではなく、街を飾る草花を育てる事も考え始め、見様見真似ではあるが、各地に小さな庭園が造られるようになっていった。
自分たちで試行錯誤する国もあれば、多額の開発費をかけて日本に依頼する国もあり、少しずつではあるが、ひび割れた大地に緑が戻りつつあった。
現在魔力を程よく含んだ、造園用の土は店に並び次第数時間も経たず売り切れするようになり、今までどこかに潜んでいたのか小動物たちがそれらで育てられた植物に集まり、かつて存在した紺碧の大地は再び姿を現そうとしていた。