異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第136話  ムレビトとの交流

惑星アルクスの大陸の赤道付近に位置し、亜熱帯の気候の国トーラピリア王国。

一応領土の範囲内だが、未開拓の領域が多く、鎧虫や魔獣の生息地となっているので今まで調査が進んでいなかった。

日本とトーラピリア王国が協力する事で、危険だった領域の調査が可能となり、合同の調査部隊を派遣した結果、トーラピリア王国も把握していない未知の種族が集落を構えていた。

トーラピリア王国も直ぐには声を上げられなかったが、領土内の未確認種族達は、独立した国として扱う事にし、交流が進められていった。

 

ヘビビトはリクビトの国への使節団派遣は、集落内で審議中であり、かつて侵略国家による略奪と虐殺を受けた経験から外部との接触は慎重になっていた。

 

一方好奇心旺盛なムレビトは、あっさりと使節団の派遣を了承し、村の中でも特に頭の回転が良い若者たちと、村長本人がトーラピリア王国へ向かう事となった。

 

「ふぅ、無事に密林を抜けたな・・・。」

 

「いくら比較的安全とはいえ、開拓拠点までたどり着くには緊張するよ。」

 

「もう既に猟師が何匹も鎧虫や魔獣を射殺しているからな・・・道中は油断ならない。」

 

その一方ムレビトの使節団は、初めての森の外の遠征に盛り上がっていた。

 

『リクビト!大きな村!町?初めて!』

 

『森の外、危ない!でも、仲間!リクビト!イクウビト!友達!素敵!』

 

『ほぁほぁ、ムレビト、初めて外に出る、これは快挙!ワシ、天才!流石ペコ=ランテ!』

 

彼らは、まるで生まれて初めてピクニックに行く子供たちのように、無邪気にはしゃいでいた。

 

リクビトであるトーラピリア王国の調査団は、ムレビトを言葉を喋る奇妙な動物と言う感覚が拭えないが、遥かに自分たちよりも進んだ文明と認識している日本国・・・イクウビト達がムレビトを国賓として扱っているので、自分たちもそれに倣い、彼らを同じように儀礼を尽くして接遇する事にしている。

 

こういった部分で魔力的な優劣で判断してしまうアルクシアンの性質が現れてしまうが、トーラピリア王国は決して野蛮ではなく、理性的な国であった。

亜熱帯で密林で囲まれていたが故に、1000年前の大戦の戦火から免れていたので、彼ら独自の文明を維持できており、離れた場所から大陸沿岸部の国々が犯した過ちを冷静に分析できた数少ない国がトーラピリア王国であった。

 

『ようこそムレビトの皆さん、トーラピリア王国は貴方達と友好的な交流を望んでおります。』

 

『リクビト!イクウビト!友達!仲良くする!素晴らしい!』

 

『日本国としても貴方達と対等かつ有効的な交流を持ちたいです。また、密林の民との交流の場を設けてくれたトーラピリア王国に感謝をしております。』

 

 

ムレビト達は、森での暮らしやヘビビト達との交流、そして密林に生息する危険な魔物や鎧虫の情報を雑談を交えて日本国やトーラピリア王国に情報を齎し、これからムレビトとリクビトとイクウビトとどの様に交流するのか語り合った。

 

意外・・・と言っては失礼だが、ムレビトはかなり未来を見据えて感情的なもの以外に打算的に物事を見る目があり、それは彼ら独特のものであるが、危険生物が生息する密林で暮らす上で多くの仲間の犠牲と共に培われた冷徹な目線であった。

 

少なくともムレビトの村長ペコ=ランテは、短命な種族かつ老い先短い自分が死んだあとリクビトとイクウビトと交流する事で自分たちの集落に齎されるもの、今までの暮らしの変化を見据えて使節団として出向いていたのだ。

 

これは、彼が幼い頃、昔と変わらず原始的な生活を送っていた彼らにヘビビトと言う隣人と交流するようになって生活が良い方向に激変した経験をしたが故に、リクビトとイクウビトと言う新たな仲間に可能性を見出していたのである。

 

『ペコ=ランテ、森の外の仲間たち、どう思う?』

 

『ふむふむぅ、森の外凄く進んでいる。ヘビビトに負けていない、ワシら追いつく難しい、ペコ=ランテ驚いた。』

 

『ニホン、トーラピリア、見たことない物いっぱい!ここトーラピリア!おっきな建物、石でできている!』

 

『トーラピリア、建物、元々木造だった。石の建物、多くはニホン作った。全部ではない。』

 

『ニホン凄い?行ってみたい!』

 

『ほぁほぁ、今は此処を楽しもう、見て回ろう、ペコ=ランテ、そう思う。』

 

『でも行ってみたい、イクウビトの街、そう言えば、ゴルグガニア、ニホンの一部、近くにある?』

 

『ふがふが、この村?町?国!、見まわった後、イクウビトの街、行く!これ!決まり!』

 

『おおー!流石ペコ=ランテ!素晴らしい!』

 

『流石ワシ!ペコ=ランテ!天才!』

 

ムレビトの使節団は、トーラピリア王国にそのまま滞在するが、ごく一部はゴルグガニア・・・日本勢力圏の中心へ大型バスに乗って向かった。

 

ムレビト達は最初は大型バスに怯えていたが、日本人が自分からバスに入ると、すぐさま持ち前の好奇心をむき出しにしてバスへと乗り込んでいった。

 

大型バスの速度や、視界を流れる窓の外の世界は驚愕だった。

森の外がこれほど大きかったとは、地平線と言う新たな概念、荒れ果てて草木がまばらに生えるひび割れた大地、そして日本勢力圏に近づけば近づくほど[異質]な建築様式・・・。

ゴルグガニアに到着したムレビト達は、大きな衝撃を受けることになった。

 

子供ほどの身長の彼らにとって、4階建て以上の大型商業施設は、天空に届かんばかりの城塞に見え、そして街に広がる電灯や装飾の数々は昼夜問わず空の星々を地上に落としたものであった。

 

『すごい!すごいすごいすごい!すっごーーーい!!』

 

『これがイクウビト!ニホン!すごい!』

 

『キラキラ、いっぱい!星空落ちてきた!キラキラ!綺麗!』

 

『ムレビト、イクウビト、仲間、よかった!きっと村もキラキラ!なる!』

 

『ヘビビト、教える!イクウビト!集落、キラキラ!いっぱい!』

 

『ほ・・ほぁぁ~・・流石にワシ、ペコ=ランテ、驚いた。』

 

『ペコ=ランテ?大丈夫?おめめ、ぐるぐる?』

 

『いや!ワシ!ペコ=ランテ!ムレビトの村長!目を回してられない!それがペコ=ランテ!』

 

『おおおぉ!流石ペコ=ランテ!むらおさー!!』

 

『ペ・・ペ・・ペコ=ランテ・・・ワシ、しっかりする・・・ムレビト、ヘビビト・・仲間、伝える、ゴルグガニア凄い・・・。』

 

『む・・むらおさ?ふらふら?む・・・むらおさーー!!』

 

密林の奥深くに暮らしていた彼らにとって日本の大陸開発拠点の光景はあまりにも刺激的だったため、使節団は興奮のし過ぎや情報量の多さで頭がショートして、ホテルで早めの休息を取り後日、ゴルグガニアを回る事になったが、そのホテルでも見慣れぬ設備で日本の案内係に設備の使い方を教えてもらわなければならなかったので、ますます目を回してあまり休まらなかったのであった。

 

ムレビトの使節団は、トーラピリア王国と日本国の情報を集落に持ち帰り、その情報は彼らと協力関係にあるヘビビトにも伝えられ、好奇心を刺激され、祖先を同じとすると思われるウミビトとの接触も兼ねて、ヘビビトは使節団を派遣する事を決定する。

 

後日、ムレビトとヘビビト合同の使節団がゴルグガニアへと派遣されることになった。

 

 

しかし、ムレビトと言う見慣れぬ人種・・・と言うよりも言葉を喋る獣と認識される存在が、亜人と人間、人種の坩堝と化したゴルグガニアで目撃されたことで、亜人狩りを行う違法組織の活動が活発化したのは、また別の話。


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